理性の足りないアークナイツ (蟹ノ鋏)
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おっぱい

アークナイツ知らない人向け用語解説

ロドス:ロドスアイランド。製薬会社で鉱石病の研究と治療薬の開発を行う。また鉱石病患者の保護も行っている。私軍をもちドンパチも行う組織。ゲームの主人公であるドクターやこの小説のオリ主が所属する主要組織。この小説はだいたいロドスでわちゃわちゃする。
エフイーター:パンダがイメージのえっちなお姉さん。中華系。
ドクター:ゲームの主人公。理性が足りていない。この小説では女性。
マガツ:この小説の主人公。モケケピロピロを召喚する補助オペレーター。
アーミヤ:ドクターの記憶がないことをいいことにドクターとの既成事実を目論む。ゲームのヒロイン。
ケルシ―:ケルシ―医師または先生。ベータ版では実装されていたらしい。
レユニオン:鉱石病というアークナイツ特有の病気にかかり差別されたことによって暴徒化した人々の組織。統制の取れたパリピ。
でっかいたれうさ:人が入れるくらいには大きい。


 休憩室でコーヒー缶片手にぼんやりとしていたところである。

 

「ちぇりおー!!」

 

 おっぱいが飛び込んできた。

 …………。

 いや、正確にはエフイーターとエフイーターに蹴り飛ばされたドクターが飛び込んできた。

 

「――触られて減るものではないけど、触られたら商品価値が下がるものでも有るんだよ!!安い女にはならないよ!!」

 銀色の髪、黒い丸耳。

 透き通るような白い肌に鍛えられ引き締まった肉体美。

 彼女のために用意された黄色の衣装(ブルース・リーのあのカンフー服に近い)をこれ以上無いほど着崩して、黒いスポーツブラのような服というよりは水着や下着に近い衣服を着て肌を惜しげもなく晒す。恥部さえ隠せばいい、といった豪胆というか人目を気にしないというか、一般的な男性の目に毒……目の薬になる格好だ。

 彼女はエフイーター。ロドスのオペレーターの一人である。

 

「……せめて、太ももだけでも!!」

 エフイーターの飛び蹴りによって吹き飛ばされたにかかわらず、エフイーターの足元に這いずり太ももに頬擦ろうとしている黒いフード付きコートに全身を包んだ奴は変態(ドクター)。このロドスアイランドの実質スリートップの一人で、古参の一人でありながら記憶を失ってしまっている。代表であるアーミヤや医療部門の総責任者のケルシーなどの信頼も厚く、記憶を失っているのにも関わらず戦闘指揮や運営管理等の仕事を難なくこなしていくドクターは、オペレーター全体からの評価も高い。

 

 ただし、変態である。

 声の高さや動きの所作から女性だということが分かる。顔は常にマスクの下だが。

 女性同士のじゃれ合いに男が関与するべきではないと最初は思っていたがそうではないようで。

 美女がいれば抱き着く。少女がいれば可愛がる。少年がいれば匂いを嗅ぎ、イケメンの胸板に顔をうずめる。ダンディなおっさんの絵をかいて喜んでいたこともある。

 

 つーかただのオタク女子なのでは?

 

 しかしまあ、記憶を失った後のドクターとしか俺は交流がないので詳しいことは分からない。記憶を失う前からそうなのか、それとも記憶を失ったときにおかしくなったのか。単純に過労という説もあるが。

 

「せいっ!!」

 

「ぎゃふん!!」

 

 ドクターが投げ飛ばされて宙を舞い、休憩室のでっかいたれうさクッションに頭から突っ込む。

 

 パワパフガールズをなんとなく想起する。

 

「いくらドクターでもこれ以上セクハラするのは許さないからね!!」

 

「……しゅ、しゅいましぇん」

 

「ドクター、執務室に戻りましょうね」

 

「なっ、アーミヤ!?なんでたれうさの中からアーミヤが!?」

 

「はい、お薬ブスリ」

 

「あひっ!あ~、理性が回復するんじゃー」

 

「皆さん休憩中にお騒がしてすみません。では」

 

 一連の事態が終了して、部屋は静寂に元通りする。

 俺は缶コーヒーを一口飲んで考える。

 

 エフイーターのおっぱいってデカいよなあ。

 ロドスでもおっぱい四天王の一人には入るよな。

 ロドスおっぱい四天王。

 エフイーター以外は誰がいるだろう?

 シージとか、ホシグマとか?あとはマトイマルにオーキッド、教官も大きいからなあ。

 あ、おっぱいで思い出したけどシージから貰ったロリポップ美味しかったな。

 あとでお礼を言っておこう。

 

「ん?あれ、マガツじゃん!!こんなところで何してんのー?」

 おっぱいに思いを巡らせていた。

「任務が終わったから休憩してただけ。訓練する気も起きなくてね」

 と、真実を告げたら彼女が鍛え上げた功夫でアゴをかち割られる恐れがあるため本音は隠す。

 

「つーか、よく俺のことなんて覚えてたな。一度か二度顔を合わせたくらいじゃねーか?」

「まー、ロドスって女ばっかりだしねえ。男はおじいちゃんか少年しかいないからねえ。物珍しくて覚えてたよー!!」

 

 ……実際のところオペレーターは確かに女性の方が多いが、一般職員は五分五分位の割合の男女比である。世界の男女比が若干女性側に傾いている気はするが、それでもロドスは女性が多い。代表が女性だからってこともあるのかもしれない。女性だから舐められるわけでもないのであまりジェンダーは関係ない。それよりも感染者であるかどうかが差別の対象になるわけなのだが。

 

「映画女優に覚えられるとは光栄だね」

「あれれ、あたしが映画女優だったって知ってるんだ。もしかして、あたしのファンだったり?」

「申し訳ないが、ロドスに入るまでは映画どころかテレビすら見れない生活だったもんでね。雑誌とか広告で多少見かけたくらいだよ」

「ありゃりゃ、それは残念。うーん、映画を見る機会でもあればぜひ見てほしいよ」

 

 エフイーターは屈託なく笑う。

 

 彼女は鉱石病(オリパシー)によって仕事を止めざるを得なかった一人である。

 そんな人はこの世界ではたくさんいるのだが、彼女ほど明るく前向きな人もいないだろう。

 鉱石病患者に対する風当たりは冷たく、それに鉱石病患者は皆どことなく暗い。

 治療法の見つかっていない不治の病かつ伝染病でもある。

 ロドスへくる連中はまだまともな連中が多いが、鉱石病にかかった人間のいくつかは自暴自棄になったり犯罪行為に手を染めるものもいる。

 レユニオンはその暴徒が最悪な形で組織化したみたいなもんだ。レユニオンの連中をいくら潰したところでそもそも鉱石病患者を受け入れる環境ができていないと、第二第三のレユニオンができただけで終わってしまう。ロドスは企業だから患者の受け入れには限界がある。治療法の開発はともかく、患者の受け入れ先を増やす策をとらねばならないだろう。

 ま、それはケルシー先生辺りがしっかりと考えてくれるだろう。

 俺は命令に従うまでだ。

 

「――もったいないなあ、こんな美人で功夫の達人が主演の映画が作られないなんてなあ。俺なら10万龍門払ってもチケットを買いに行くのに」

「はは、それは嬉しいけど仕方ないよ。皆に鉱石病を移すわけにもいかない。あたしは鉱石病にかかってしまったことは残念だと思うけど、ロドスに来たことはよかったと思ってるよ。人を助けて人を笑顔にするなんて、本当にヒーローみたいじゃん!!」

「…………。」

 

 本当に明るく笑うお姉さんだこと。

 それに良く揺れるおっぱいだ。

 なんでこんなにおっぱいデカいんだろ?

 功夫の達人でもあるのに。

 ウルサスという種族柄だろうか。

 ビーハンターもデカかったし。

 種族で人を判断してはいけないとは思うが、種族による体格の差は出るものだろう。

 出るところは出るのだ。

 

 個人的に気になるのは巨乳ではなく美肌の方でもあったりする。

 あれだけ激しい動きもするし、屋外での依頼もあるというのにエフイーターは肌がきれいで生傷もほとんどない。

 やっぱり元映画女優ということだけあって美白とかには気を使っているのだろうか。

 

 

「ねーねー、一つ気になることがあるんだけどさー」

「うん?」

「マガツって、彼女いるの?」

「!?」

 

 え?

 あ、これ、え?

 何?口説かれようとしてる?興味を持たれてる?

 あのエフイーターさんから?あのエフイーターさんから!?

 マジで!?

 

 いや、落ち着け。

 まさか女優だった彼女が俺みたいなやつに目を付けたりしないだろう。

 きっと弄んでいるに違いない。

 そうだ、ここは適当に――

 

「ハハッ!!そんなに動揺しなくてもいいのに。最近、グラスゴーの獅子さんたちと仲いいみたいだし、もしかして付き合ってるのかなーって思っただけだよ。ま、仲良くなってるのはその飴の包み紙で分かるけどね」

 

「ぐ……」

 

 包み紙しまっておけばよかった。

 いや、捨ててしまえば……。

 

「反応見て安心したよ。ロドスは出会いが少ないから狙ってる女の子も少なくない数いるから気を付けなよ。そ、れ、と」

 

 エフイーターは俺の額に人差し指を突き付けて笑顔を浮かべる。

 

「いくらおっぱいが魅力的だからって、見過ぎるのはよくないぞー。見られて無くなるものじゃないけど、見つめられると恥ずかしいものなんだから」

 

 ツンッ、と指で俺の額を押し、エフイーターは休憩室を去っていった。

 

 …………。

 

 いや、恥ずかしいならちゃんと服を着てください。




意味のない用語解説
パワパフガールズ:作者の世代に偶に流れていたアニメ。絵がアメリカン的でコミカル。
ロドスおっぱい四天王:誰がランクインされるのだろうか。それはドクターの皆が心の中でランキングしてほしい。
シージのロリポップ:舐めたい。
10万龍門:作者はレベル上げに費やした。
エフイーターの衣装:これ着ているのではなく脱いでいるだけだろ。


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真理

アークナイツ知らない人向け用語辞典

休憩室:全部で四部屋ある。
スペクター:修道服を着た綺麗なお姉さん。
フィリオプシス:無表情系の少女。冗談を偶にいう。
クルース:ここだよ姉貴。
ライン生命:ロドスのように鉱石病の治療や研究をしている機関。ロドスとは協力関係にある。


 休憩室にてコーヒー缶を片手に長椅子に座り一休みしていた時のことだった。

 

「天にまします我らが慈悲深き天使たちよ……願わくば我が眠りに忍び寄る忌まわしき者から、我が心を守りたまえ……」

「ディープスリープモード継続中……Zzzzz……電源管理の設定を、更新しています……Zzzzz……」

『こーこーだーよ~』

 

 ちょっとよくわからない状況になっている。

 まず俺の右隣に座る黒の修道服を着た銀髪赤目の女性、ロドスのオペレーターの一人であるスペクターが祈りを捧げるように何かを呟きだした。祈りなのかもしれない。元々スペクターは修道女であったと聞く。いまも別に修道女であることを止めたわけではないのだから、純粋な祈りを捧げているのかもしれない。

 しかしまあ、敬虔であるというか、俺が部屋に入って30分以上同じような言葉をずっとループ再生するかのように呟き続けているのである。

 スペクターがオペレーターの中でも特殊であることは聞いていた。何でもロドスに来る前に心神喪失状態にあったのだとか。鉱石病の影響かそれともそれ以前に何かあったのか、精神疾患を患うスペクターの経歴は依然として不明のままらしい。

 ロドスで経歴がしっかりしている人間の方が少ないかもしれないが。

 ロドスに集まる人々は皆ままならない理由でロドスに頼るしかなくなったというケースが多い。

 着の身着のまま逃げてきたような人もいる。

 五体満足でロドスに来たスペクターはこの世界の中では幸せな方なのかもしれない。

 それはそれとして、スペクターは修道服とも相まって大人っぽい理知的な美人である。にも拘わらず俺が休憩室に入ると何故か右隣に近寄ってきて、碌な会話をすることもなく祈り続けているのだ。

 スペクターの神秘的な美しさも合わさって儀式めいた一種の狂気を感じる。

 はっきりと言えば怖い。

 美女に対して怖いなどという言葉は使うべきではないが、それでも怖いものは怖い。

 具体的にはサイレントヒルのような超常的恐怖がある。バブルヘッドナースが何故か思い浮かんだ。

 或いはブラッドボーンか。啓蒙が開きそうだ。

 スペクターが右隣りで何故か俺の右手を両手で握りながら祈るせいでコーヒーが全く飲めない。偶に離してくれるときにちょっとずつ飲むのだが、飲み終わった瞬間に直ぐつかまれるという状況でだんだんと右腕が痺れてきている。

 誰か助けて。

 

「Zzzzz……」

 

 そして俺の左隣に凭れ掛かるようにして寝ている、銀髪のフクロウじみた髪形をしている少女はフィリオプシス。灰色のコートに白いワンピース、胸元にはオレンジの色付きグラスのゴーグル、近くの椅子に三日月のような杖が置かれており、ライン生命の腕章が右腕につけられている。

 フィリオプシスはロドスと契約しているライン生命という医療機関(或いは研究機関か)の元社員であり、彼女も鉱石病にかかりライン生命の方でも治療や研究をされていた。特に彼女は過眠のきらいがあるらしく、会話中でも睡魔に襲われると寝てしまうほどらしい。というか今の現状がその症状が現れた結果だった。

 フィリオプシスの過眠の話自体は聞いていたし、ドクターやケルシーから目の前で眠ったときは休憩室に運んでくれと言われていたりもする。鉱石病によりさまざまな症状を抱えている人がロドスには多数在籍しているが、フィリオプシスほど制御の効かない症状はそう多くない。

 フィリオプシスも医療オペレーターとして作戦に加わることもあるため、ある程度の睡眠の我慢はできるみたいだが、完ぺきではないから病気であり、彼女を襲う睡魔はロドス内部で突然フィリオプシス本人を倒れさせるほどには強力なものであるらしい。

 そのあたりのことはドクターからよく言われた。倒れた前例があるから注意してほしいと。前に睡魔に負けて頭を強く打った時があるらしく、それ以来ロドス内部で警戒されているようだ。

 三大欲求の睡眠にまで影響を与える鉱石病は恐ろしさすら覚える。食欲減衰や味覚障害、或いは生殖機能の低下などよりはマシなのか。……それは発症している本人の捉え方によるか。俺が言えるのは飯は美味い方がいい。それだけ。

 フィリオプシスは俺がスペクターに絡まれているときに休憩室に入ってきた。俺とスペクターを見てあの独特な機械のような喋り方で話しかけてきた直後、倒れるようにこちらに凭れ掛かってきた。どうやら突発的に睡魔に襲われたらしい。突然だったので倒れないようにスペクターに絡まれていない左腕で抱きかかえようとしたところ、その左腕にしがみつかれてそのまま寝てしまった。

 何とか長椅子には座らせることができ、そのまま凭れ掛からせたが先ほどから一瞬意識を取り戻したかと思えば、目を見開き機械的に何かを喋り、すぐにまた睡眠に移行する。

 流石に容体が心配だし誰かを呼びたいのだが、現在両腕がふさがれているため動くに動けない。

 せめてスペクターさんが放してくれれば携帯端末を取り出せるのだが、

 

「…………ウフフフ……アハハハ……ハハハハハハ……」

 

 何故かこちらを見て嗤うスペクターさん。

 ……やヴぁい。

 こっちの精神が持たない。

 

「……治療モード、適用します」

 

「(ビクッ!!)」

 

 いきなりフィリオプシスがカッとフクロウのような金色の瞳を見開いて話、またすぐに目を瞑り睡眠に抗する。

 心臓に悪い。

 なまじ二人とも美人であるから特に心臓に悪い。

 

 

『うんうん。聴いてるよ~』

 

 そして先ほどから目の前で行動予備隊A1の狙撃手クルースを模しているぬいぐるみ型の目覚まし時計が、クルースの録音ボイスを流し続けている。

 なんだかんだでこれが一番精神に来る。

 両手に花形の爆弾を抱えながら目の前で気の抜けた妖精にささやかれているようなものだ。

 

 ほんわかしているイメージではない。

 放送中止になったSIRENのCMのような狂気がある。

 

「……お聴きなさい、深淵から響く、万物の主の、ささやきを……」

「……警告。システムは重篤なエラーから回復しました」

『はいは~い。クルースですよぉ~』

 

「…………。」

 

 きっっっつ!!

 タイプの違う精神攻撃を味わっている気がする。

 変な扉を開きそうになるほどには状況が狂気である。

 

 こんなことならばいつも使わない最下層の休憩室に行くべきだった。

 あそこは快適とはいいがたいが、利用する人が少なくて最低限の自販機があるので、独りでいたいときにはもってこいの場所だった。

 

 ロドスの可愛い女性オペレーターに出会えないかなとか考えてこの部屋に入ったのは間違いだった。

 ガッデム。

 いや、神なんて信仰してないけど。

 

「ウフッ、なぜ私と目を合わせてくださらないの?そんなことしても無駄ですわ。あなたが何を欲しているのか……私にはすべて分かっておりますもの」

 

「スペクターさんは俺に何をしたいのですか?」

 

「ウフフフフ」

 

 意味深な笑顔で返された。

 

『ここにいたのねぇ』

 

 やめろ。意味深な言葉をつなげるな。

 宇宙の心は彼になりそうだからやめろ。

 

 くそっ!!

 

 誰か助けてくれ。

 誰かこの状況を打破してくれ!!

 誰でもいい、誰か、俺に救いを……!!

 

「待たせたな!!」

 

 俺の視界に映る休憩室の天井があるはずもない星空を映し出した時、

 

 バアン!!

 と休憩室の扉を勢いよく開いて黒いフード付きのコートを着たやつが現れた。

 ていうか、ドクター(変態)だった。

 

 いつもなら苦い顔をしているところだが、ここでは地獄に蜘蛛の糸ようなありがたさがあった。

 俺は希望を見つけたような目でドクターのことを見ていたことだろう。

 ドクターは俺を見つめるとまるで聖母のような眼差し(マスクで隠れて見えていないので幻覚である)で口を開く。

 

「この世の真理とはO、P、P、A、I――すなわちおっぱい。小さいも大きいもない、そこに胸があることが何よりも大切だ。――そして、ビーグルの胸は意外と大きい」

 

「狙って~!」

「亡霊だってお前を救えないさ」

「緊急治療を!」

「ごめんなさい…ごめんなさい……」

「あなたの考えは、お見通しですよ」

 

 何やら騒がしい音とともに、ドクターはどこからともなく発射されたクロスボウの矢とアーツ弾によって打ちのめされ床に突っ伏した。

 

 その後、精神的な疲労ゆえか、いつの間にか俺も休憩室で倒れたらしい。

 たまたまその場にいたハイビスカスが俺やドクターのことを介抱してくれた。

 

 それにしても最近部屋の天井に見えないはずの星空と、深海が見えるようになった。

 鉱石病の症状だろうか。

 あとでケルシー先生にでも見てもらうことにしよう。




意味のない用語解説

バブルヘッドナース:静岡のクリーチャーの一体。クリーチャーとしての完成度が素晴らしい。
ブラッドボーン:Bloodborne。宇宙は空にある。
SIRENのCM:お母さん、開けてよ。ねえ、お母さん!!
宇宙の心は彼:カトる。
行動予備隊A1:愉快な仲間が多い。
クルースのぬいぐるみ型の目覚まし時計:ほしい。ほしくない?
ドクター(変態):今日も理性が足りない。でも真理は見つけた。


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ドカベニスト

夜中にフットサルして全身筋肉痛になりました。投稿どころか執筆もできなくなるので皆は気を付けよう。

アークナイツ知らない人向け用語辞典

クオーラ:やきうのお姉さん。元気。
ヴィグナ:ギターを弾ける。
ミッドナイト:ホスト。マジ恋系。
スポット:モフモフ
カタパルト:巨乳。
ドーベルマン:教官。鞭の扱いに長けている。


 ロドス屋外にてコーヒー缶を片手に空を見上げていた時のことである。

 

 グワラゴワガキーン!!

 

 おおー、見事なホームラン。

 一番サード、クオーラのプレイボールホームランが青空に豪快な音を響き渡らせる。

 ピッチャーのジェシカが涙目になっている。

 初球から悪球を投げるから……。

 

 ロドスの屋外には広場があり、こうして野球やサッカーなどで遊ぶものがいる。

 訓練や仕事ばかりでは息がつまるのでケルシ―も特に何か言うことはない。

 クオーラは無類の野球好きで、よく一人で壁当てしたり、誰かを誘ってキャッチボールなんかをしている。

 今回はそれなりに人数が集まったようで試合をすることができたようだ。

 ジェシカ、マトイマル、ショウ、スポットにミッドナイト、カタパルトなどなど。

 人数が少し足りていないところはランセット-2やキャッスル-3が守備についたりしている。

 

 お、二番打者はヴィグナか。

 どうやらヘルメットはショウがいつも被っている龍門消防局のヘルメットをみんなで使っているようだ。

 あ、夜叉の構え。

 爪先立ち、からの回りだした。

 あれは、秘打『白鳥の湖』!!

 

 ガキィ!!

 と鈍い音を立ててボールはふらふらと飛んでいく。

 ヴィグナも目を回したのかフラフラと千鳥足で一塁に進み途中で倒れる。

 

 平和だな。

 最近安定しているというか、穏やかだ。

 暫く慌ただしかった反動のように、静かな日々が続いている。

 

 今朝、髭をそるときに頬に違和感を覚えた。

 よく確認すると結晶が生えていた。

 鉱石病の症状である。

 なので今日の仕事はキャンセルしてケルシ―先生の所へ行ってメディカルチェックを受けてきた。

 今はその診断待ちで、暇だからこうしてプラプラと出歩いている。

 

 俺の鉱石病の浸食率は高い。

 まあ、もともとスラムで泥水をすするような生活をしていたので仕方ないことだ。

 それに俺の使うアーツが鉱石病を悪化させやすいらしい。

 アーツを使うと病状が悪化していくことは知っていたが俺のアーツは特に顕著だそうだ。

 

 ケルシ―先生からは暫くアーツを使わないようにと厳命された。

 前線に行くのも減らして基地の仕事をするようにと。

 逆らう気はないので大人しくしていよう。

 これだけ平和ならば前線に出る必要もないだろう。

 

 この世界に生まれ落ちてから生きているのか死んでいるのかよく分からない生活をしてきた。

 死んだと思ったことは何度もあるし、死ぬことについての恐怖はあんまりない。

 しかし、こうして平和だと死にたくなくなる。

 もうちっとこの平和を満喫していたくなる。

 コーヒー缶片手にぼんやりする日々が続けばいいのにと思える。

 オペレーターとしてロドスに席を置いている以上、死は隣りあわせだ。

 気が付いたら死んでいるなんてことはよくあることだ。

 自分も或いは他人も。

 どうせ二度目の命なので、自分以外の誰かのために使いたいものだけど。

 

 パリーン。

 ブァッカモーン!!

 

 あ、ヴィグナの打った球がロドスの建物の窓を割ってしまった。

 ヴィグナはそれを見て顔を青くして、クオーラやジェシカは慌てふためいている。

 やっちまったなあ、という苦笑をミッドナイトとスポットが浮かべる。

 

 少しもせずにドーベルマン教官がやってきて、それを見たカタパルトが一目散逃げ出すがドーベルマン教官が振るった鞭がその足に絡みつき転ばされる。ほどなくしてカタパルトは捕まり、亀甲縛りによってその場に転がされる。

 カタパルトは仕事サボって遊んでたみたいだな。

 ミッドナイトやスポットは有休をとっていたのか、地面で悶え――藻掻くカタパルトを見てやれやれって顔をしている。

 

 ヴィグナとクオーラ等野球をしていたメンバーが教官に謝っている。

 教官は怒ってはないようだがなにやら指示を出している。

 割れた窓ガラスの片づけと、新しい窓ガラスをはめるようにでも言っているのだろう。

 

 野球は一時中断となり、皆は基地内に入っていく。

 カタパルトは教官が連れて行った。

 

 ……教官は何処であんな縛り方を覚えたのだろうか。

 趣味かな。

 触れないでおこう。

 

 『わーお!ジェェェットコースターーー!』、とポケット内の端末が鳴る。

 どうやら健診の結果が出たみたいだ。

 鬼が出るか蛇が出るか。

 出るのどうせ鉱石だろうけど。

 前世は大した病気にも罹らずぬくぬくと過ごしていたわけだが、闘病生活というものはしんどいものだ。

 飯や運動は制限がかかるし、医者に定期的にいかねばならんし。

 薬の量が増える程度で済めばいいが、どうなることやら。

 

 しばらく入院とかになったら嫌だなあ。

 コーヒー飲めなくなるだろうし。

 ドクターが泣きそうな顔で謝ってきそうだし、アーミヤがまた病んじゃいそうだし、ケルシ―も寂しそうな顔をすることだろう。

 このロドスは優しすぎるんだよなあ。もう少し下っ端の命は軽く扱えばいいのにさ。前世の企業は下っ端のことなんて考えてなかったぜ。

 ロドスもブラックだが、トップがあれだけ頑張っているんじゃあ下っ端も付き従うしかねえよなあ。

 

 ま、給料は悪くないから踏ん張りますかね。

 

 コーヒーを飲み干して、一息つく。

 思ったよりも軽々しい自分の溜息に驚きもしない。

 

 コーヒー飲めなくなるのかねえ。

 そう考えるともう一缶飲んでおこうかと欲が出てくる。

 遅れたらケルシ―先生に怒られるんだろうけど。

 ……止めとこう。

 あの(ひと)おっかねえからなあ。

 具体的にはあの脊髄にいったい何を飼っているのやら。

 

 ……まあ、体に何かを飼っているのは俺も同じか。

 

 冷静に考えればこの曲者ぞろいのロドスを纏められるのは怪物じみてなきゃおかしいからなあ。

 

 はあ。

 

 …………。

 怖え。

 

 歯医者にかかることを嫌がる子供の様な気分だ。

 死ぬことの恐怖はないけど、死にたいわけじゃあない。

 いや、死ぬことはどうでもいいんだが、どうせ死ぬならスパッと死にたいもんだ。

 

 鉱石病で死んだ人間は何人も見てきた。

 自分もいつかはそうなるだろうと思ってはいたけど。

 

 はあ。

 せめてハイビスカスの飯だけは勘弁してもらうようにケルシ―先生にお願いしておこう。

 

 

「およ、マガツじゃん」

「……ドクター」

「どしたん。カルテを全焼させたことをケルシ―先生に謝りに行くかどうかで悩み抜いて執務室でソファに泣きわめきながらかじりつくイフリータみたいな顔して」

「そんなことがあったのか」

「うん。ソファと私のお気に入りのティーセットもついでに全焼した。解せぬ」

 

 ゆっくりと屍人のように歩いてきたドクターに話しかけられる。

 遠い目をして足元もおぼつかない。

 また理性が飛んでいる。

 

 正直ドクターの仕事量は狂気の沙汰である。

 作戦指示や人事、基地内の管理にオペレーターのメンタルケア(恐らくケルシ―先生が苦手としているためドクターに一任という名の押し付けをしている)までしている。

 ロドス謹製の気力回復材と数名の医療オペレーターが看護しているからといっても、過労であることには間違いない。

 

「……ドクターの方がFXで有り金全部溶かした人のような顔をしているが?」

「大丈夫。私は給料こそ出ないけど女の子のオペレーターと合法的に触れ合えるという報酬があるから。イフリータの太ももは最高でした」

「駄目だコイツ」

「マガツでもイけるから安心して私に身をゆだねて」

「誰かいい転職先を知りませんか!?」

 

 ワキワキと手を動かしながら変態(ドクター)が近づいてくる。

 やめろこっちくんなさわるなずぼんをおろそうとするなはないきあらげるな――

 

 と、俺のズボンが半脱げ状態まで下ろされたあたりでドクターの動きが止まる。

 こちらの顔をじっと見つめている。

 先ほどの気の抜けた様相はそこになく、真剣な表情で見てくる。 

 

「石、顔にも表れたんだ」

「…………。」

「いつから?」

「今朝だ」

「診断は?」

「受けている最中。これから結果を聞きに行く」

「そう……諦めないでね」

「諦めるって、何を?」

「うーん、色々。生きる事とか、或いは笑うこととか、或いは楽しむこと。こんな世界だけど、こんな世界だからこそ諦めちゃ駄目だよ」

 

 ……ドクターは偶にこうして俺を見透かしたかのようなことを言ってくる。

 流石はオペレーターをカウンセリングしているだけのことはある。

 俺以上に俺のことをよくわかっているんじゃないかと思えてくる。

 

「わかった。……ドクターがそう言うなら従うよ。雇用主には従うさ」

「はあ、マガツはそう言って関係を深めないようにしてくるよね。ま、そのうち深い関係になるからそんな心の障壁は意味ないけど」

「真面目な顔でパンツを脱がそうとするな」

 

 結局、セクハラをするドクターともみくちゃしていると、俺が来るの待ちかねたケルシ―先生がよくわからない鎮静剤らしきものを俺とドクターに注入して連行された。

 

 一週間コーヒーは禁止された。

 解せぬ。




筋肉痛なうえに二日酔い。陰キャがパリピの真似をしては駄目ですね。

意味のない用語解説

グワラゴワガキーン!:悪球打ち。ど真ん中を打つとキーンという音がする。
秘打『白鳥の湖』:実際の野球でやると反則。
亀甲縛り:菱縄縛りという亀甲縛りに似た縛り方がある。教官はどちらもこなせる。
イフリータ:お迎えできてない。
ケルシ―先生:ケルシ―先生が実は裸エプロンに近い格好をしていると知って電流が走った。
ドクター:バイ。まあ、結婚するなら男にするだろうけど。
マガツ:カフェイン中毒。


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しち

の名をとばして。
遅れました。サボってただけなので弁明はしません。すみませんでした。

※シリアス回。残虐な描写があるので注意

アークナイツ知らない人向け用語解説

オペレーターの職種:先鋒、前衛、重装、狙撃、術師、医療、補助、特殊といくつかあり、それぞれ役割が異なる。先鋒、前衛、重装が主に近接戦闘。狙撃、術師、医療、補助は主に遠距離からの援護になる。
マトイマル:鬼のお姉さん。極東出身で豪快。
ガヴィル:アダグリスという人間に鰐の尻尾が付いている種族のお姉さん。医者なのに豪快。
ヘイズ:フェリーンという猫系獣人の魔女っぽい少女。なぜか手錠をしている。
ドーベルマン:教官。巨乳で鞭の扱いが上手い。長ズボンが似合うクールな女性。
サベージ:コータスという兎系獣人の女の子。重要なこと知っているはずなのに出番が少ない。
ジェシカ:黒猫の獣人の女の子。ミリタリー好き。
オリジニウム:鉱石病の原因でもある、アークナイツ世界固有の鉱石資源。石炭みたいなもの(かなり違う)。
レユニオン:ロドスにゲリラ的奇襲を仕掛けるのが得意。


 コーヒーなんて飲んでいる暇はなかった。

 

 ロドスの一部隊が急襲を受けて救難信号を出してきた。

 やむを得ない事態のためケルシ―先生から休養を言い渡されていた俺も救出作戦に参加することになった。

 とにかく早急に駆け付ける必要がある。

 後から他の部隊も駆けつけるよう仕事中のオペレーターに連絡を取っているが、すぐさま動けるのは俺を含めて八名のオペレーターのみ。

 

 休暇は返上である。

 俺はヘリに乗り込んで直ぐに現場へ直行した。

 

 

 

 ヘリの中には俺を除き八人。

 クオーラ、マトイマル、ガヴィル、ヘイズ、ドーベルマン、サベージ、ジェシカ、そして名前も知らないヘリの操縦士。

 ヘリの操縦士はくっそダンディなフェリーンのおっさんで、今回のことについて頼むと何も言わずサムズアップだけ返して運転席に乗り込んでいった。ハードボイルドだなあ。

 

「この八人で作戦行動を行うのは初めてね」

 

 頭頂部に生えた長い耳が特徴的なコータスの前衛オペレーター、サベージが俺たちを見渡して言う。

 彼女はアーミヤと同じ種族で綺麗な銀髪がよく目立つ。アーミヤ、ドクターと旧知の中で同郷らしい。ドクターは記憶を失ってサベージのことを覚えてないようだが。

 前衛ということもあり、長いハンマーを振り回す豪快な戦いをする。盾も鎧もまとめて叩き潰す。ロドスに来る前はレム・ビリトンで鉱業会社に勤めていたらしい。オリジムシでも叩き潰しまくっていたんだろうな。

 

「そーだなあ、確かに中々顔を合わせない面子だなあ」

 

 同じ前衛オペレーターのマトイマルが頷きながら言う。

 頭の上から大きな角が二本、額から小ぶりな角が二本。計四本の角を生やすマトイマルの種族は鬼。

 灰汁色の長髪を腰より長く伸ばす彼女の戦いぶりは種族通りの鬼だ。

 背丈よりも長い薙刀を豪快に振り回しバッタバッタとなぎ倒すさまは悪鬼の様である。

 サッカーが好き。華道もたしなむので割と良家のお嬢様っぽい。

 

「そーだね!!みんないつもバラバラだもんね!!」

 

 明るい笑顔が眩しい薄茶色の髪を三つ編み(?)に束ねた少女はクオーラ。

 重装オペレーターで防御系のアーツを使う。背負う甲羅型のリュックサックは盾としても機能し、クオーラのアーツと組み合わさると銃弾ですらものともしなくなる防御力がある。

 ロドスに来る前に記憶を失っているようで、覚えているのは野球のことぐらいらしい。

 武器もバットで、打ち飛ばすという豪快な少女だ。

 

「問題ないさ。多少怪我してもアタシがまとめて治してやる!!」

 

 緑色の長髪。金の瞳に長く伸びる鱗が付いた爬虫類のような尻尾を持つ彼女はガヴィル。

 アダクリスである彼女は医療オペレーターであり、元傭兵という経歴を持つためある程度戦える後衛だ。

 錫杖のような黒い杖を使い治療アーツを飛ばし継続的に味方の傷を治す医者である。軍医というべきか。

 片っ端から豪快に味方を治し、戦闘継続時間と生存率を増幅させる彼女は今回の任務にはうってつけだろう。後衛も戦闘に巻き込まれる可能性がある今回の様な任務では尚更。

 

「皆さんと組むのはこの作戦が初めてですが、あの、えっと、……頑張りましょう!!」

 

 この癖のあるオペレーターの中でもさらに灰汁の強いメンバーを抽出した面々に圧倒されているジェシカが、ヘリの隅であわあわしながら言う。深い紺色の髪を後ろで束ね、BSWのジャケットを着て、耳につけるタイプの無線機を装備し、右足に膝当て、グロッグをホルスターに備える。

 BSW(Black Steel Worldwide)という警備会社のような組織のオペレーターで今は相互交流という形でロドスに所属している。

 狙撃オペレーターでベテラン顔負けの正確な狙撃を行う。性格以外の実力はドーベルマン教官も評価するほどに高いが、如何せん自信がなくオドオドしているところがある。戦場において狙撃の腕が鈍ることはないが、今回のような非常事態には向いていないかもしれない。

 

「そんな気張ること無いよー。いつも通り適当にやればいい」

 

 張り詰めたジェシカとは対照的にリラックスした様子を見せるのはヘイズだ。白い毛並みのフェリーンの女性で、三角帽子に黒いコート、魔導書のような本を常備するまるで魔女のような風貌をしている。術師オペレーターで、アーツ弾を発射する。

 脱獄経験があるアウトローのようで、戦闘経験が短い割には荒事になれている。

 アーミヤなどの術師がみな出払っていたので、彼女がいて助かった。物理攻撃と違いアーツを直接ぶつけると物理防御は無意味になる。盾持ちだろうと銃弾を防ぐ防具を着ていようと貫通する術師は、敵の情報がなく混戦が予想される今回のようなケースでは一人は欲しい。

 

「……撤退戦が予想されるが、重装が一人ではさばききれるかどうか」

 

 最後にドーベルマン教官で今回のメンバーは完成。ドーベルマン教官は本来オペレーターとして戦場に出ることは滅多になく、新人オペレーターの教育が主な仕事なのだが、今回の件でオペレーターが不足していたため駆り出された。

 艶やかな黒髪と丸い眉が特徴的なペッローの女性で、鞭を操る前衛オペレーターだ。

 あまり前線に出ることはないが、訓練は人一倍しているだろうし、何よりもドクターの指揮がない今回の戦場では頼りになる指揮官だ。

 

「そこは俺がカバーに入ります。多少は時間を稼げるかと」

「……マガツ、お前は補助オペレーターだ。サベージや私が担当するのが常道だろう」

「サベージほどの殲滅力はありませんが遅滞戦闘なら俺の方が分があります。教官には現場での指揮を行って欲しいです。クオーラと俺で敵を受け止め、マトイマルとサベージが横合いから撃退し、ジェシカとヘイズが援護、ガヴィルが後方支援、ドーベルマン教官が指揮と全体のサポートが今回のメンバーでは最適解かと」

「……そういえば、お前は割とやれる奴だったな――いいだろう、それでいこう。ただし、マガツはサベージとペアで組め、マガツが抜かれたらすぐに交代できるようにしろ。マトイマルはクオーラの方だ。他の穴は私がカバーする」

「了解」

「それと、今は作戦行動中だ。教官ではなく一オペレーターとしてここにいる。敬語も教官呼びも不要だ」

「……了解、ドーベルマン」

 

 

 機内アナウンスがちょっともしないうちに流れる。残り五分もしないで救難信号付近に到着らしい。

 ひりつくような戦場の雰囲気が機内にも流れてきているように感じた。

 

 

 

 

 

 

 ――戦場は廃墟となった街の近くだった。

 オリジニウムの採掘場を中心に発展した街だったらしいが、枯渇して廃墟となり、人が住まなくなったゴーストタウン。

 地質学的調査を行っていたロドスの職員が急襲されたらしい。

 廃墟の街中に拠点を設置しており、そこを襲われたとか。

 急襲してきた勢力は不明だがおそらくはレユニオンであるだろうとのこと。

 

「ぶっ倒す!」

 

 マトイマルが大薙刀を襲い掛かってきた暴漢に向かって振り下ろす。

 ガードしようとした警棒らしき武器ごと左袈裟切りに切り払われ、暴徒は倒れ伏す。

 

 救難信号を発信していたロドスの職員とは直ぐに合流できた。 

 しかし、撤退時を狙っていたのか直ぐに顔を隠した暴徒たちの集団に囲まれることになり乱戦にもつれ込む。

 廃墟の市街地にはすぐさま血の匂いが漂った。

 

 戦場に来ると、血の匂いを嗅ぐと、動揺するより冷静になる。

 種族柄か、それとも俺の頭がおかしいのか、或いは鉱石病の影響か。

 そのどれかは分からないが、生存率を上げているので助かっている。

 前世の俺だったら卒倒しているようなスプラッタでも正気を保てるのだから。

 

「手加減はしませんよ!」

 

 ジェシカが敵の足元を打ち抜き、無力化していく。

 見晴らしのいい高台から狙っているとはいえ、よく足をピンポイントに撃ち抜けるもんだ。

 

 人数の差で負けている俺たちは市街地に逃げ込んで敵の侵入経路を制限した。二方向のみに経路を限定しそこで救援が来るまでの、或いは退避が終わるまでの殿(しんがり)を行うことになった。

 廃墟を高台として使いジェシカとヘイズはそこで援護を、俺とクオーラで敵を防ぎながらマトイマルとサベージが遊撃し敵を撃滅する。

 

 概ね作戦通りことは進んでいるが、如何せん数が多いことと救援がだいぶ遅くなりそうで持久戦の体をなしていた。

 

かしこみ、かしこみ申し上げる。(給料はやるから、出てこい穀潰しども)汝らの力を示し給え(給料分の仕事をこなせ)

 

 力が抜けていく感覚とともに、黒い靄のような浮遊する物体が俺の周囲に現れる。

 俺のアーツはアーツでできている靄のような疑似生命を召喚する。

 モケケピロピロと俺が呼称するその疑似生命は、俺の命令に従って敵にまとわりつく。

 モケケピロピロに纏わりつかれると生命力を吸い上げられ、一時的に体を硬直させる。

 疑似生命であるためか、長いこと存在できず雲散霧消してしまうし、消費も激しいから召喚できる数も限りがある。

 それでも足止め役は十分に果たしてくれるし、一度命令すれば消えるまで従ってくれるのでこちらもフリーに動ける。

 ただまあ、こいつらを召喚すること以外のアーツを俺は使えないので、補助オペレーターなのに俺は近接戦闘をしなければならない。

 

 頭が熱い。ムズムズする。

 アーツを使うといつもは隠れているものが出てきそうになる。

 別に隠しているわけじゃないけど、出ても利点がないので引っ込んでほしい。

 

「救援はどれくらい?」

 

 サベージがハンマー担ぎながら尋ねる。

 

「早くても30分はかかるそうだ」

 

 ドーベルマンが抜けてきた敵を鞭を使って捕縛しながら、サベージに返す。

 ひゅるん、という音ともに鞭が一人の暴漢の首に絡みつきギリギリと音を立て締め上げる。

 数秒して敵の動きが止まりだらんと地面に倒れ伏す。

 

 えげつねー。

 

「そんなんじゃ、持たない、わよっ!!」

 

 サベージが複数の敵を纏めてハンマーで打ちのめす。

 数が多い。

 装備はボロイが偶発的な遭遇のように感じられない。

 組織だって計画されたような様相がある。

 

 ガウッ、と一匹犬が抜けてきて跳びかかってくる。

 咄嗟に左手を間に入れると、そのまま噛みついてきた。

 

 犬とは言え感染生物。油断していると痛い目に遭う。

 レユニオンがよく使う感染した野犬に機械を引っ付けて制御しているのと酷似している。

 

「マークこそないが、レユニオンの襲撃でほぼ確定、かっ!!」

 

 受け止めた左手の籠手に牙が食い込むが、その程度では突き破れないだろう。

 アーツの制御が下手な俺のためにロドスが貸し出した自動的にアーツでの保護膜を張る籠手だ。

 むしろ、犬の牙が抜けなくなり動きが止まって好都合。

 右手に持った鉈型の武器で犬の首を刎ねる。

 ズガッ、という鈍い音ともに綺麗に首は跳んでいく。

 流石は呪われているという曰く付きの鉈である。

 さっさと手放したいが、こういった斬った張ったがある仕事場では頼りになるからいかんともしがたい。

 

「っ!!ゴメン!!仕留め損ねたっ!」

 

 サベージが俺の様子に気が付いて謝ってくるが、手を振って無事を伝える。

 モケケピロピロが消えていることに気が付き、再びアーツを発動させる。

 

かしこみ、かしこみ申し上げる。(働け馬鹿ども)

 

 さて、この余裕のない均衡がどこまでもつか。

 少なくとも30分は持たないだろうなと、密に俺は覚悟を決めていた。

 

 

 

 

 

 ――事態が急変したのは10分程度経ったくらいのこと。

 

「マズい!重装兵が一体突っ込んでくるぞ!!」

 

 高台にいるガヴィルが声を荒げる。

 

「クオーラ、受け止めろ!!ヘイズとマトイマルは援護に迎え!!」

 

 ドーベルマンの指示が飛ぶ。

 あの重装兵は見たことがある。

 ロードローラーとか呼ばれてた奴で、銃弾ものともせず障害物をふっとばすような勢いて突進してくる。

 重装オペレーターでもないとあの突進を受けきれまい。

 クオーラがソイツ一体にかかりきりになり、慌ててマトイマルがフォローに回る。

 向こうの余裕が消えた。

 ここでもう一発来られたら――

 

「もう一体来ます!!」

 

 ジェシカの悲鳴のような声が響く。

 俺とサベージがいる経路の真正面からクオーラの方へ来た重装兵と同じ格好の敵が突っ込んでくる。

 

「きゃっ!!」

 

 サベージがハンマーを振り下ろす前に吹き飛ばされ俺の方へと一直線に向かってくる。

 

「チッ」

 

 ここが正念場か。

 やるしかないか。

 悪いが覚悟は決まってる。

 

「マガツ!!くそっ。邪魔だ!!」

 

 ドーベルマンがこちらに駆け寄るがクオーラの方から抜けてきた敵に妨害される。

 こっちに来るな。

 人数がいてどうにかできる相手じゃない。

 

 俺はポーチから錠剤の入ったケースを取り出して、一番大きいものを三つ飲み込む。

 鈍痛剤。

 多少は痛みに鈍くなる。

 即効性が強いが副作用もキツい劇薬だ。

 

 継戦で頬についた切り傷から血を拭って両手を合わせ、アーツを発動する。

 

かしこみ、かしこみ申し上げる。(起きろ寝坊助)大神の力をもって、我が敵を討ち払い給え(遊び相手は用意した、存分に暴れてこい)

 

 体中の血が抜けていくような感覚。

 それは錯覚であって錯覚ではない。

 俺の手の平から零れていく血が、地面に落ちると黒く濁りだす。

 ダバダバとあからさまにおかしい量の黒い液体が掌から溢れ出し、足元に水溜まりを作り出す。

 その水溜まりは大きくなって蠢きだし、徐々に十四尺を超えるような巨大な人型へと変貌する。

 

 頭の皮膚を破って、俺の鬼としての種族的特徴である角が飛び出てくるのが分かる。

 たらりと血が流れてきて、口元まで伝う。

 鬱陶しい。 

 

「行け、マガツカミ」

 

 ■■■■■!!

 と、声にならない声を上げてその異形は動き出す。

 突っ込んできたロードローラーを受け止め、押しつぶさんとする。

 ロードローラーも力には自信があるのだろう。

 しかし、それは祟り障る穢れだ。

 蝕むように生気を吸い取っていく。

 へたり込むようにロードローラーは地面に膝をつく。

 人間に勝てるような存在ではない。

 

 そして同時に俺も膝をつく。

 こいつは容易に出していい存在ではない。

 魂ごと全てを持っていかれるような強烈な虚脱感と、全身の血管が破裂するような耐え難い痛みに襲われる。

 痛みは薬で鈍くしているが、虚脱感は直ぐに回復できるものではない。

 というか、指一本動かすのも困難だ。

 

「せいあー!!」

 

 サベージがハンマーをロードローラーに叩きつける。

 鈍く人体が破壊される音が響く。

 

「大丈夫?」

 

 にっこりと、サベージが笑ってこちらを向く。

 

 一先ずの危機は過ぎ去ったか。

 俺はアーツを解除してサベージにサムズアップを送る。

 さて、これで終わるといいんだが。

 

「今治療してやる!!」

 

 ガヴィルが高台から声を上げる。

 頼む、と振り返ろうとするときにチラリと視界に光が見える。

 

 それは反射の光。

 日光が鏡や金属によって跳ね返った光。

 虚空で光は反射しない。

 その反射の場所はサベージの真後ろ。

 それがなんだか分かる前に俺はサベージを突き飛ばす。

 

「へっ?」

 

 サベージを庇う俺の背中に鋭い痛みが走る。

 同時に焼き付くような熱も。

 

 虚空に現れたのはナイフを装備した兵士。

 仮面をつけフードを被るのは他の暴漢と似ているが、やけにゴツイ機械を背負っている。

 ステルス兵。

 アーツを使い完全に接近するまでその存在に気づけない、レユニオンの兵士の一つ。

 

「……か、かしこみ、かしこみ、申し上げる(起きろ寝坊助)っ!!」

 

 二度もマガツカミを使って大丈夫とは思わない。

 けれどそれ以外に延命できる方法もない。

 

 ケルシ―先生にはそもそもマガツカミを使うなとも言われているが。

 ま、女の子庇えたなら十分か。

 

 力が奪われる感覚。

 現れる巨体の異形。

 

 グチャリとステルス兵が潰された音を聞いてから、俺は地面に倒れ伏した。

 誰かが近寄ってくる足音。

 揺さぶるのはやめてくれと、意識が遠く。

 音が聞こえなくなった、と思ったころには俺の意識は暗転した。




偶にはこういうシリアス回も面白いかなって。

アークナイツだし多少はね。

ていうか、何故か日刊ランキングにいてびっくり。
あとハーメルンの集計早過ぎない?

意味のない用語解説

しちの名をとばして:知ってる人は知っている。知ってる人とは作者は友達になれそう。今回の話とは無関係。
ロードローラー:人に投げてはいけない。吸血鬼がよく使う。
マガツカミ:本物ではない。本物を呼び出したら更地になる程度では済まない。
マガツ:補助オペレーターだが近接戦闘もできる。スラムとスラムを抜けた後の荒んだ生活のせいで戦闘経験は豊富。人の言いつけを守らない節がある。


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ナースのお仕事

アークナイツ知らない人向け用語解説

アンセル:アンセル医師。ゲームでは見習いなのか医者なのかよくわからない形で書かれている。この小説ではちゃんと医者ということで。
クロージャ:購買部のお姉さん。
プラチナ:暗殺者のお姉さん。体重のデータは紛失したらしい。
ハイビスカス:疲れている人がぐっすり休めるような食事を作る少女。姉妹であり姉の方。
ガヴィル:看護師ではなく治療のプロ。看護師ではなく治療のプロ。大切なことなので二回言いました。


「コーヒーが飲みたい」

 

「駄目ですよ。コーヒーは刺激物ですから。消化器官が治るまでは刺激の少ない胃に優しいものを口にしてください」

 

「はーい」

 

 コーヒーの飲めない日々を送っていた。

 別に毎日飲みたいほどコーヒーは好きじゃないが、好きなときに飲めないと辛いものがある。

 つらみである。

 ツライさんになりそう。

 

「マガツさんはカフェイン中毒のきらいがありますからね。人の嗜好にまでとやかく言うつもりありませんが、過剰摂取は体に有害ですしましてや一昨日まで固形物を食べられなかったマガツさんに飲む許可は出せません」

 

 白い手袋を嵌めた細い手を伸ばし人差し指を立てて、メッとでも言いそうなポーズをとるこの医者はアンセル。

 ロドスの医療オペレーターの一人で、行動予備隊A4のメンバー。桃色の髪をしたコータスであり、同じコータスのアーミヤと違って長い耳は下方向に垂れ下がっている。

 いつもはオペレーターらしい丈夫な医療服を着ているが、今日は医者ということで白衣を着てカルテを抱えている。

 赤い目に白い肌、コータスらしい容姿をしていて、体つきも華奢で儚い印象がある。

 ナース服を着せれば立派な看護婦の完成だろう。

 看護婦の姿となったアンセルに見とれる人も少なくないだろうという程には可憐である。

 

「だが、男だ」

「がっかりして、ため息を吐かないでください。ケルシ―先生がつきっきりで診る予定だったらしいんですが、龍門の上役との会合が急遽決まったようで暫くロドスを留守にするらしいです。あの人も忙しいですからね。マガツさんの容態は安定してきたとはいえ予断を許さない状況だったので、幾人もの医療オペレーターが配属する手はずになりました。ただ、基本的に同じ男性でストレスも少ないだろうとのことで私が担当することになりました。私の時間が空いてないときにはまた別の――サイレンスさんとかが担当すると思いますよ」

「はあ、できれば見た目麗しいナースに看護されたかったけどねえ」

 

 ロドスの女性比率は高いのだが、アンセルは男である。

 見た目も和やかでかわいらしい。

 だが男だ。

 所作も上品で丁寧である。

 だが男だ。

 声変りがなかったのか声も高い。

 だが男だ。

 ていうかロドスにいる多くの女性オペレーターより立ち振る舞いが女の子らしい。

 だが男だ。

 たまには女装をしてほしい。

 だが男だ。

 そろそろお腹が減ってきた。

 だが男だ。

 包帯が蒸れて痒い。

 だが男だ。

 

 俺は倒れてから、一週間ほど意識不明だったそうだ。

 怪我自体は作戦行動中に一緒にいたガヴィルによって治療され一命はとりとめたが、多量の出血とアーツの使い過ぎによる鉱石病の症状の悪化で生死の間を彷徨ったらしい。

 刺された部位が内臓に刺さっており、ロドスに運び込まれた後ケルシ―先生などによる緊急手術が施された。医療オペレーターが何人も動員されててんやわんやの俺の手術は7時間くらいかかり、それでも俺の体力が持つかどうか、五分五分の状況だったとか。三回は心臓が止まったって。よく生きてたな俺。

 目が覚めたときにはいろんな奴に泣きつかれたものだ。

 庇ったサベージやその場にいたクオーラ、ジェシカ。ヘイズやマトイマルも隈を作りながら病室に待機していた。ドーベルマン教官はお見舞いの花を買ってきてくれたりした。

 ドクターやアーミヤも心配そうな顔で駆けつけてきてくれたし、ケルシ―先生は寂しそうな顔をして病室の端で見守っていた。

 他にもいろんなオペレーターやクロージャなどのロドス職員、ランセットなどのロボットたちまで来るのだから大分賑やかだった。

 病室で泣きじゃくったり、元気づけようと笑い話をしたり、病室なのに騒ぐなと言いたいけど、ロドスらしくて楽しかった。

 

 漸く体も回復してきて食事もちゃんとしたものになってきた。

 運動ができないことや、出歩くのも誰かと付き添いでなければならないという不自由さがあるのを除けば、病室も悪くない。暫くはのんびりさせてもらおう。働きづめはよくないってばっちゃが言ってた。

 ばっちゃは今世では物心つく前に他界しているが。

 

「なあ、アンセル。男のお前に頼みがあるんだが」

「はい、何でしょうか?」

「下種な話で申し訳ないんだが、性欲処理ってどうしたらいい?」

「……は、い?」

 

 アンセルは一瞬表情を失った。

 ぱちくりと瞬きをして、言葉の意味を考えるような素振りをしてから元に戻る。

 

「ああ、そうですね。戦場に行って帰ってくると本能が働くのか、そうなる人が多いとは聞きます。マガツさんの場合は生死の間を彷徨いましたし、決しておかしいことではありませんね。けれど体に負担がかかるので自慰行為は止めてください。夢精した場合は私にそれとなく言っていただければ下着を交換しますので」

「ええ……」

「大丈夫です。マガツさんが意識を失っている間に何度か交換しましたから」

「…………。」

 

 おむつを交換すること自体は入院中では普通にあることで、これもそれとさして変わらないことなのだろうが、精神的に来るダメージが数倍うえだ。

 

 エリック上田ではない。

 

 いや、くだらないことしか考えられないのか俺の頭は。

 

 何ていうか、親戚の綺麗なお姉さんに隠していたエロ本を熟読されるくらいショックがでかい。

 そんな経験も親戚の綺麗なお姉さんもなかったが。

 

「――話は聞かせてもらった!!」

 

 隣のベッドと視界を遮るカーテンが突然開き、黒いフード付きパーカーを着た病人が姿を現した。

 

「ドクター!?」

「……ドクターか」

 

「ならば私がその性欲処理をしてあげようではないか!!」

 

 変態(ドクター)だった。

 

「ドクター、何故ここに!?」

「過労と睡眠不足による事故でプラチナのお尻を触ったらここにいた。よく覚えてないけどエッチな話が聞こえたから復活できた」

「今日は休め」

 

 プラチナもかわいそうに。

 これでもロドスのトップだからぶっ倒れたまま執務室に放置しておくわけにもいかないだろうからなあ。

 

「で、今から長い入院生活でムラムラしてアンセルくんに今にも襲い掛かりそうなマガツを私の百戦錬磨(自称)のテクニックで癒してあげようかと。エロ同人みたいに!!エロ同人みたいに!!」

「止めてください」

「あ、もしかして初々しい感じの方がよかった?……私、その、こういうこと初めてだから……上手にできるかわからないけど」

「幼馴染に怪我をさせてしまった責任をとるようなシチュエーションは止めろ」

 嫌いじゃないけど。

 

「あ、あのドクター。ここは病室なのでそういったことは……。それにマガツさんはまだ安静にしていなきゃいけない患者さんなので、負担になるようなことは控えてもらいたいのですが」

 見かねたアンセルが止めに入る。

 

「大丈夫、マガツには一切負荷を掛けないかつ、マガツが思わずピースをしてしまうくらいの快感を与える絶技かつ、私も気持ちよくなれてみんなが幸せなたった一つのさえたやり方をするから!!」

 

「ちょ、ドクター!?」

 

 凄まじい速度で迫りくるドクターは医療オペレーターであるアンセルには止めきれるものではなかったのだろう。

 いつの間にかアンセルは包帯で両手を拘束されて、ボールギャグをかまされて床に転がる。

 俺は布団をめくられ、病院服を点滴の針が抜けないような絶妙な加減で(はだ)けさせられ、ドクターが馬乗りになる。

 

「大丈夫、天井のシミを数えてればすぐに終わるから」

「んん~!!」

「ドクターお前本当に過労でぶっ倒れたのか!?」

 

 ドクターがパーカーを脱ぎ始める。

 止めろ、反応するな息子よ!!

 いくら何でもここはヤバい。

 ロドス人生終わる!!

 

 

「マガツさーん、健康食作ってきました、よ……?」

「今回はハイビスだけじゃなくアタシもちゃんと監修したから、味も問題な、い……?」

 

 運よく、いや運悪く、ガラガラと料理を載せた台車を運ぶハイビスカスとガヴィルが現れる。

 彼女たちはこの頃よく看護してくれるオペレーターで、正直料理を任せるには不安だが、この場では関係のないことだった。

 二人は俺とドクターと床に転がるアンセルの様子を見て一瞬固まった。

 先ほどのアンセルと同じように表情が消える。

 ポクポクポクチーン。

 スッと二人の瞳からハイライトが消える。

 

「せっかく、マガツさんの体が早く良くなるようにって料理を作ったのに……」

「アタシがどんな思いでお前を看護していたか……。それなのに怪我も治ってない体でお前は――」

 

 それ以上何も言うことなく二人は静かに注射器を取り出す。

 睡眠薬は果たして病人にうっていいものだったろうか。

 アンセルに後で聞きたいところだが、彼も彼で二人の女医の迫力にあてられて床でガクブルと震えている。

 

 あとで酒でもおごってあげよう。

 

 俺は穏やかな表情をしてそう思った。

 

 その日はそれ以降記憶がない。




意味のない用語解説

ナースのお仕事:作者の世代ではない。
ツライさん:カープの危機なのだー!!
だが男だ:跳べよぉぉぉぉっ!!!
ばっちゃ:実はアークナイツの世界では伝説と呼ばれている人物だったが出てくることはない。
エリック上田:ソーマ「エリック!上だ!」
今日は休め:だめよ、7時半に空手の稽古があるの!付き合えないわ
エロ同人みたいに!!:このセリフが書かれているものは大抵R18ではない。
ドクター:寝不足には理由がある。


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自室

アークナイツ知らない人向け用語解説

ハイビスカス:ポイズンクッキング。いや、ドーピングコンソメスープの方が近いかも。
アンセル:マガツと一緒に二回ほどドクターに襲撃されている。
龍門:スラム街があり、感染者も多数いる。当然犯罪者も多い。
ロープ:泥棒兎っ娘。魔女コスもある。
ヘイズ:泥棒猫。
レッド:狼っ娘。モフモフの尻尾を追いかけている。
S.W.E.E.P:ケルシ―先生直属の部隊。暗殺者とかがいる。だから黒幕って呼ばれるんだよなあ。


ネタがなくなってきた。
助けて。


 コーヒー生活……解禁!!

 

 やったぜ!!

 ついに入院生活は終わりを迎え、コーヒー毎日飲んでも怒られることのない日々に戻ってきた。

 

 やったぜコンチクショウ!!

 

 ハイビスカスの薬なのか食事なのかわからない料理ともおさらば。

 ガヴィルの治療なのか暴力なのかわからない看護ともおさらば。

 アンセルは頑張れ。

 サイレンスの診察なのか実験なのか分からない診療ともおさらば。

 フィリオプシスが点滴打っているときに突然の睡魔に襲われる恐怖ともおさらば。

 

 因みに使徒のメンバーは皆仕事に行ってて入院中は殆ど合わなかった。

 特別仲がいいわけではないので気にしてないが。

 

 ケルシ―先生はいくつかの重要な仕事を終えた後ロドスに帰投し、俺のところへ来てひどく長い説教をし始めた。

 それはそれは長い説教だった。

 二回くらい日が沈み、二回くらい日の出を見た。

 そして三日目の晩に俺とケルシ―先生はほとんど同時にぶっ倒れた。

 医者の不養生ってやつだ。

 

 ば~~~~~っかじゃねえの!?

 

 あの人インテリ派のように見えて脳筋なところがあるからなあ。

 体育会系というか、俺が倒れるまで倒れないという妙な負けん気を出してしまったのが問題だ。

 俺は俺で命の恩人に本気で心配してもらい本気で説教を受けているのだから途中で気絶するわけにもいかず。

 

 ば~~~~~っかじゃないの!?(二人とも)

 

 頭のいい馬鹿と馬鹿な馬鹿が二人密室にいるとこうなるということだ。

 おかげで入院期間が三日ほど伸びた。

 

 さてと、

 

「この部屋に戻るのも久しぶりだな」

 

 家、というよりはロドスで借りている寮である。

 ロドスは患者を扱う医療機関だ。

 基本的に雑魚寝は許容できない。

 故に個室を与えられている。

 とはいえ、大したものではない。

 ワンルームの簡素なもので、寝具とトイレとシンクが一つ。

 キッチンはなく、ビジネスホテルのような造りになっている。

 食堂は別にあるしね。

 

 借りてはいるが家具とかは勝手に搬入してもいいことになっているので、オペレーターは各自好きなように模様替えしているだろう。

 俺は手つかずのままホテルのように使っている。 

 精々部屋の隅にコーヒー缶を冷やすための小さなリーチインがあるだけだ。

 我ながら無機質な部屋である。

 

「何もない部屋ねー」

「ぼくが盗むものすらないなんて、びっくりだよ」

「お前らは……」

 

 この前の作戦で一緒だった白猫の魔女ことヘイズと黒兎の鉤縄使いロープが俺の部屋にいた。

 ロープとはコータスの少女でもともと龍門のスラムで暮らしていたところをしょっ引かれ、その後ロドスと龍門の協力関係の締結の後にロドスに引き渡された。スラム街で生き抜くために盗みをしていたとか。犯罪者だがロドスではよくあることで、まだスリ程度なら可愛いものだ。中には殺し屋とか普通にいるし、横にいるヘイズだって脱獄犯である。俺も人に言えたもんじゃない経歴があるし。

 何でヘイズと一緒にいるのかと思ったけど泥棒繋がりか。案外気が合うのかもしれない。お互い世の中を斜に見ている者であり、気を張り詰め過ぎないマイペースなところとかも似ている。

 

 ……二人で並ぶとプリキュアみたいだな。

 白と黒だし。

 

「どうやって入った?鍵は閉めていたはずだけど」

 

 すると、ロープがこれ見よがしにカード状のものをかかげる。

 

「前に君のIDカードを盗んだ時に複製しておいたんだぁ」

「ドクターにお願いすればこれぐらいは簡単にできるんだよぉ」

「あの変態(ドクター)の手引きか!!」

 

 とうとう、人のプライベート空間を憚ることなく侵食してきやがった。

 最近のことといい、いくらなんでも――いくらなんでも、いくらなんでも……。いや、いつもこんな感じな気がする。

 まだ、直接ドクターが入ってきていないだけましか。

 ……ん?

 おかしい、変態(ドクター)なら自分から乗り込んでくるはずだ。

 なぜわざわざ――

 

「なぜわざわざドクターがぼくたちにこんなことをさせたのか、疑問に思っている顔をしているね」

「これは私たちやドクターだけの問題じゃない。ロドス全体の問題なんだよねー――レッド」

 

「うん、レッドもケルシ―先生に言われた」

 

「なっ!!」

 

 振り向くとそこには赤いフード付きのコートを着た銀髪の少女が立っている。

 狼のような特徴を持つ種族であるループスらしい耳とふさふさとした尻尾をもつこの少女は、S.W.E.E.Pと呼ばれるケルシ―先生の直属の私軍であるロドスの裏方を担うオペレーターの一人だ。

 暗殺者だの殺し屋だのはロドスのオペレーターにたくさんいるがレッドもそのうちの一人であり、とある事情からロドス内でも恐れられている。

 いつの間に入って来たのか。

 一切気配を感じなかった。

 潜伏と暗殺の技能はロドスの中でもトップレベルであるレッドはこの程度の隠形はお茶の子さいさいといったところだろう。

 うっすらと背筋に寒気を感じる。

 殺意や悪意なんてこの少女にはないだろうが、容易に人の背後をとれる卓越した技能には恐怖を禁じ得ない。

 冷や冷やする。

 

「ケルシ―先生が言っていたって、どういうことだ?」

「ケルシ―先生も直接言えばいいのに。いや、言わなかったからドクターがぼくたちを寄こしたのかな?」

「ドクターはケルシ―先生以上にお節介焼きでお人よし。にゃは、真面目なときは恥ずかしがり屋になっちゃうからね」

「ドクターは優しい。レッドもそう思う」

 

 ドクターとケルシ―先生が絡んでいる。

 ということはアーミヤも知っているのか?

 

「あはは、何にも知らないのはマガツだけ。退院するまでドクターが黙っておくように厳命してたからねぇ」

「マガツが動揺するような人じゃないことぐらい分かってるだろうに」

 

 ロープとヘイズが近寄ってくる。

 妙な威圧感から思わず一歩下がるが背後にはレッドがいる。

 なんで俺は包囲されてるんだ?

 デスゾーンか?

 

「マガツも疲れてる。だからだと、思う」

「入院しているときに話す話ではないけどね」

「言わない方が逆効果だよぉ」

 

「……いったい何が起きている?」

 

 何やらろくでもないことが起きているようで。

 自分の中の不幸センサーがビンビンしている。

 

「君はレユニオンにターゲットにされたんだ」

「心当たりがあるんじゃないかなあ」

 

「…………。」

 

 心当たりしかない。

 ていうか、心に当たらない場所がないのだけれども。

 

「アーミヤ、ドクター、ケルシ―先生の次の次くらいには君も危険視されてる」

「危険視されるほど俺は大物じゃないけどなあ」

 

 ロドスにはもっと危険視すべきやばい奴がいるだろうに。

 イェラグのシルバーアッシュ、龍門のチェンとホシグマ、ペンギン急便のメンツに使徒の連中、シージのようなストリートギャングもいる。個人でもスカジ、へラグのおっさん、ファイヤーウォッチ、イーサンもいろんなところから恨みを買っているだろう。あとエンカクとかエンカクとかエンカクとか。

 

「マガツはいろんな組織を転々としてきたから、恨みを買い過ぎてるんだよぉ」

「えっと――マガツは死なない、レッドたちが守る、もの」

 

 何故に片言?

 ドクターに吹き込まれたな。

 

「というわけで、暫くは誰かが護衛につくことになるだろうからよ、ろ、し、く♪」

「この前の作戦の件もあるしー、サービスしてあげる」

「レッドにお任せ」

 

 そんなことを言って彼女たちは部屋を出ていった。

 後に残るのは狐につままれたような俺と何やら乱れたベッド、そして種族特有の毛が数本。

 

「……ラノベみてえな展開だな」

 

 あ、コーヒー缶がきっちり三本盗られてる。

 ちゃっかりしているなあアイツら。

 

 俺もリーチインからコーヒー缶を一本取りだす。

 カシュ。

 

「……苦い」

 

 偶には微糖でも買ってみるか。

 

 

 

 

 

 ……リハビリするかあ。

 

 

 




意味のない用語解説

ば~~~~っかじゃねぇの!?:ハルパゴス。ヒストリエを知らなくてもこのセリフを知っている人は多い。
ば~~~~っかじゃないの!?:木下林檎。漫画の再現度は凄い。
プリキュア:初代が好き。というか初代以外は知らない。白黒がよい。
デスゾーン:あまり使われない。
マガツは死なない:あたしが守るもの。レッドに綾波役はむりだろうなあ。
ケルシ―:達観している大人のように見えて不器用でコミ障。大切なことを言わないせいで回りが混乱する。
ドクター:変態じゃないときはかなり真面目。乙女の裏返しで変態にフォルムチェンジする。
エンカク:マガツに個人的な恨みを持たれている。


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おっぱい2

アークナイツ知らない人向け用語解説

シージ:ライオン系のギャングのお姉さん。巨乳。
スカジ:いつもは騎士の格好をしているお姉さん。ロドスに来る前は賞金稼ぎみたいなことをしていた。巨乳。
グラニ:騎馬警官の少女。ぐう聖人。アークナイツでも例を見ないほどの善人。主人公が卑屈になるので多分でない。
インドラ:シージのギャング仲間。作者は持ってないので暫くは出ない。
エンカク:戦闘狂。マガツは目を付けられたことがある。
トレーニングルーム:ロドスには訓練室があり、筋トレとかできる。


 麦茶うめー。やっぱり運動後は麦茶だよねー。コーヒーとかありえなーい。きもーい。(運動後だと)飲みにくーい。コーヒーが許されるのは小学生までだよね~。俺小学生でいいや。

 

「歌え」

「面倒だな」

 

 おっぱいが舞っている。

 

 トレーニングルームでリハビリがてら筋トレしたり、ルームランナーで走ったりしてちょっと休憩しているときのことだった。

 シージとスカジが手合わせを始めた。

 

 シージはブロンドヘアのアスランの女性でまるで獅子――いやどこぞの騎士……よりは大きいので獅子王ほどの凛とした佇まいと覇気を備える。グラスゴーのストリートギャングをまとめ上げていただけはある。そのカリスマ性はロドスに来てからも健在だし、何よりもギャングたちをねじ伏せていた腕っぷしが彼女らしさともいえるだろう。

 そしておっぱいがでかい。

 

 灰銀の艶やかな髪を腰より長く伸ばすスカジはかつてバウンティハンターとして生きており、今はロドスに所属しているオペレーターである。ロドスに来る前グラニなどを巻き込んで一悶着起こしていたが(原因はレユニオンの離反者にあるので彼女に非があるわけじゃない)、ロドスは彼女の戦闘能力の高さを評価して勧誘した。スカジはあまり人とつるまない方で強すぎるゆえに他のオペレーターとも組むことは滅多にない。孤高というか孤独というか。まあ、ロドスを嫌っていないようなのでそのうちほだされてくるんじゃないのだろうか。 

 やっぱりおっぱいがでかい。

 

 トレーニングルームには武道場のようなスペースがあり、武器の鍛錬とか組み手とかもできるようになっている。壁や床に武器を叩きつけても穴は開かない程度頑丈にできていて、存分に長物も振るえるというわけだ。

 

「すげぇ」

 

 デカァァァァァいッ説明不要!!

 揺れる揺れる。

 トレーニング用の運動着を着ているからか体のラインがしっかりと見える。

 

 エフイーターにしろ手合わせをする二人にしろロドスにいる女性方はこうも見せつけるような衣装ばかり着ているのか。傭兵の女性だってもう少し男性の目を憚るのに。ガヴィルだって太ももと尻尾以外はしっかり隠す。

 ……戦場で露出って怖くねえのかなあ?ちょっとした怪我で化膿するのが嫌だからできるだけ肌を隠すようにしてるんだけどなあ。

 医療系アーツがあるからと言って変な病気にかかりたくないけどなあ。

 

 ガギン、とスカジの剣(鞘付き)とシージのウォーピックがぶつかり鈍い金属音を響かせる。

 若干風圧が離れている俺のところまで届き前髪に風が当たる。

 

 スカジとシージはロドスきっての武闘派で、近接戦闘での実力はロドス内で1、2を争うほど。

 ――と聞いたことがある。

 インドラを始めとしたシージの取り巻きたちが勝手にスカジとシージを比べていたのを聞いただけだが。

 

 さて、なぜこのようにして二人が組み手をしているかというと大した理由はない。

 シージが筋トレしているところにスカジがトレーニングルームに入ってきて、シージがそれをみて『やるか』と一言呟くと、スカジは『分かった』とだけ答えて二人して武器を手に取り、少しして手合わせを始めた。

 ――つまり、俺に分かるような理由は何一つなかった。

 

「ここまでか」

 

「ふむ」

 

 何度目かの鍔迫り合いの後、距離をとり合いシージが呟いて武器を降ろすとそれを見たスカジも同じく臨戦態勢を解いた。何かを確認するようにシージが手を開いたり握ったりしている。

 

「もう一回、やるの?」

 

「いいや、止めておこう。これ以上は手合わせの域を超える。訓練で怪我をしたくはないからな」

 

 どうやら手合わせは終わったらしい。よくわからんが決着がついたのだろう。

 俺は戦闘経験こそ積んでいるが武術を習ったことはないし、観察眼が鋭いわけでもない。

 なのでどちらが勝者かなんてわからない。どっちが優勢だったかもよく分からない。

 

 シージやスカジは強い。

 人を見る目があるわけではないが強いか弱いかぐらいはわかる。なんとなく。

 シージとスカジどっちが強いのかはわからん。

 ウォーピックなどという重量のある長物を軽々しく扱いながら軽い身のこなしで敵を翻弄しながら殲滅するシージの方が強いのか。

 自身の身長ほどもある長剣を振り回し一太刀のもと敵を両断していく豪快で人外じみた戦い方をするスカジの方が強いのか。

 一つ言えることはどちらも仲間なので彼女らと命の取り合いをしなくて済むということだ。エンカクみたいなくそったれじゃなければ仲間と命の取り合いをしてくるようなことはしないだろう。

 アイツほんとに許さねえからな。

 

「……ねえ、マガツ。暇をしているなら私とやらない?」

「え?」

 

 ぼおっとおっぱいを見ているとスカジから声を掛けられた。

 やる?

 何を?

 ナニですか?

 

「そうか、なら私は見学しているとしよう」

 

 シージはそう言ってトレーニングルームの壁にもたれかかる。

 スカジは剣を構える。

 あ、これ俺が戦う流れか。

 別に断る理由も特にない。

 熱が入ったからって殺しに来ることもないだろう。

 トレーニングルームに立てかけてある模擬戦用の適当な武器をとる。

 剣でいいかな。

 誰かにならったわけではないし、武器は重すぎなければいい。

 

 

「病み上がりなんだ、手加減してくれよ」

「うん、善処する」

 

 善処という言葉に一抹の不安を覚えるのは前世のせいか。

 そもそもスカジが手加減できるような器用な奴に見えないからか。 

 いずれにせよ自分が怪我をしないように気を付けなければなるまい。

 スカジの方が年下な気はするが、ここは胸を借りるような気持ちで挑ませてもらおう。

 いや、エロい意味じゃないよ。

 

 いざスカジの前で構えてみると彼女の隙の無さがよくわかる。

 どこから斬りかかっても返されそうだ。

 

「……へえ、あなたとこうして向かい合うのことは初めてだけど、ただ逃げ回ってきたわけじゃないってのはよく分かるわ。一切遊びがない、死地を何度も潜り抜けてきたかのような荒々しいけど堂に入った構え。武術を習ったわけじゃないんでしょ?」

「スラムで生きる術はならったけどね」

「ただ生きているだけじゃそうはならない。……ずっと戦ってきたのね」

「人を戦闘狂みたいに言わないでくれ。男には戦わなきゃいけないときがあるんだ。鉱石病を発症してからはその頻度が増えたしね」

「……ごめんなさい。別に貶すつもりはなかったのよ。あなたがよく誰かを庇って怪我をしているということはドクターから聞いていたわ。いつも怪我ばっかりしているって、心配していたのよ」

「……へえ、ドクターがねえ」

 

 中身は優しい女の子だからなあ。

 年齢知らないけど。

 

「ボロボロになる前にフラグを立てて攻略してやるとも言ってたわ。よく意味が分からなかったけれど」

「残念ながら俺のルートは用意されていませんとドクターに言っておいてくれ」

「童貞は必ず奪うって言ってたわ」

「ど、童貞ちゃうわ!?」

「えっ?」

「えっ?」

「え?」

 

 なんでみんな驚くんですかねえ?

 いや、別に童貞捨ててもおかしくないでしょ?

 ほら、スラム育ちだからそういう機会があったってことで。

 戦場暮らしもしていたし、多少はね?

 

「それは、本当なのか?」

 

 何故かシージが尋ねてくる。

 何故か動揺しながら。

 

「……昔色々あったし」

「……そうか、そういうこともあるか」

 

 何故か気落ちしたようにシージは答え、何かを考えるように顎に手を当て視線を床に落とす。

 どうしたんだろう。

 

「……そうね、別におかしなことじゃないわね。あなたの経歴からすればよくあることね」

 

 スカジはそれだけ言うと、しっかりと剣を構える。

 それは先ほどまでとは違い如何にも攻めに特化したような鋭い構えだった。

 

「いくわ――」

 

 言葉を言うや否や、スカジの姿が消えた。

 いや、消えたのではない、もの凄く速く踏み込んできただけだ。

 ヤバいと本能的に理解して、模擬戦用の剣を直感で盾にするように構える。

 ガツン、と鈍い音が聞こえ俺はトレーニングルームの壁に叩きつけられた。

 

 やっぱり手加減できねーじゃねーか……がくっ。

 




意味のない用語解説

許されるのは小学生までだよね~:元ネタはR18なので調べるときは注意。
獅子王:中の人繋がり。この世界に聖剣なんてものがあるのかは知らない。
マガツ:童貞かどうかは分からない。真相は藪の中。


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幕間 マガツプロファイル

はい。
お久しぶりですね。
全然毎日投稿できなくてしんどいです。

ネタがない。
てなわけ今回は趣向を変えてみました。
いつもより短いのでごめんなさい。

あと今回の用語解説はお休みします。


 補助オペレーターマガツについて情報をまとめたのでここに記す。

 機密情報も含まれるため外部への流出は固く禁ずる。

 

 

 

 基礎情報

 

 【コードネーム】 マガツ

 【性別】男

 【戦闘経験】 四年

 【出身地】 極東

 【誕生日】 不明(恐らく五月とのこと)

 【種族】 鬼

 【身長】 174cm

 【鉱石病感染状況】

 体表に源石結晶の分布を確認。メディカルチェックの結果、感染者に認定。

 

 能力測定

 

 【物理強度】標準

 【戦場機動】標準

 【生理的耐性】優秀

 【戦術立案】優秀

 【戦闘技術】優秀

 【アーツ適正】優秀

 

 個人経歴

 

 極東生まれのフリー傭兵というのが彼の自称であるがその経歴は多岐にわたる。金で何でもする人間として一部では有名だったようだが、同時に様々な組織と衝突を起こしていたことでも名が知られている。感染者を蔑ろにする人々との折り合いが悪く、ウルサス帝国、ライン生命、龍門と揉めていたようで、個人的なものを含めると相当数な人々の恨みを買っているようだ。同時に感染者の保護も行っていたようで感染者の中では一部英雄的な意味で名前が知れ渡っている。

 

 健康診断

 

 造影検査の結果、臓器の輪郭は不明瞭で異常陰影も認められる。循環器系源石顆粒検査の結果においても、同じく鉱石病の兆候が認められる。以上の結果から、鉱石病感染者と判定。

 

 【源石融合率】20%

 感染レベルがとても高く、顔面や胸部に結晶が見受けられる。

 

 【血液中源石密度】0.25u/L

 感染レベルに反して血液中の源石密度が低い。原因は不明だが恐らくは彼の使う独特なアーツが関わっていると思われる。予期しない悪影響を与えている可能性もあるため定期的な観察が必要であるだろう。

 ――ケルシ―

 

 第一資料

 

 様々な組織と敵対関係にあったがロドスに対しては協力的でオペレーターとして非凡なる能力を発揮している。

 オペレーターとの仲も概ね良好だが避けているような節も見られる。人付き合いがあまり得意ではないようだ。

 

 マガツは戦場においてサポートに徹した戦い方をする。突出したり単独で戦うようなことは決してせず、数的有利や状況的な有利を作り出す。彼と組んだオペレーターは戦いやすさと安定感に驚くことになる。戦場慣れした冷静さと状況判断能力は戦闘経験の年数以上の実力というものを実感させてくれるだろう。

 

 第二資料

 

 マガツは自分の経歴を隠したりはしない。幼いころに鉱石病に罹りスラムへと辿り着き、そこで育った後にスラムを追い出され、その後フリーの傭兵として戦地を転々と歩いたことは皆が知っている。

 

 しかし、何があったかなどの詳しいことを自分から話すことは無い様で誰も彼が何をした人物なのか知らない。ただ、皆噂は耳にしているようで彼が多くの戦場を渡り歩き、様々な組織から恨まれることをしたとは知れ渡っている。一種の畏怖と尊敬が他のオペレーターから集められている。

 

 また、一部の近接オペレーターは彼の近接戦闘技術を認めており、ときたま訓練室で手合わせを行っている様子も見受けられる。

 ビーハンターとステゴロで殴り合ったなどという根も葉もない噂があるが、あくまで噂である。

 

 第三資料

 

 マガツがロドスに来た理由は自身が保護し続けている戦えない感染者の保護と治療である。世界各地を転々と歩きながら感染者を保護する活動を行っていたようだが、ついにロドスに参入することを決意した。

 マガツ曰く「もはや自分一人じゃどうにもならない」とのこと。

 実際、マガツの導きによってロドスで保護された感染者は百人近くおり、中には十歳にも満たない子供も多くいた。保護された感染者の殆どはひどい迫害を過去にされており、命の恩人であるとマガツを慕っている者ばかりである。どうやってこれほどの感染者を保護したのかについてマガツは、「詳細は語れないが、弱い者には弱い者のつながりがある」とだけ言っていた。

 

 マガツは自己犠牲を当たり前のように行う異常者であることを皆理解しなければならない。救世主でも聖人君子でも善人でもなく、彼は自分よりも救われなければならない命があるはずだという卑屈さで保護活動をしているに過ぎない。それは美徳ではなく悪癖であり、少なくともマガツ一人に背負わせる責ではない。自分の命を省みない自己犠牲は優しさではないことを馬鹿にどうやって理解させるかが我々の課題だ。

 ――ケルシー

 

 信頼度上昇で解放

 

 昇進Ⅱで解放

 

 

 

 おまけ

 

 マガツが時折口にしていることから分かるように、エンカクとは傭兵時代浅からぬ因縁があるようだ。

 マガツがエンカクのことを嫌っているようで自主的に会うことを避けている。

 

 マガツとエンカクを同じチームに所属させてはならない。エンカクは嬉々としてマガツに斬りかかるし、マガツも普段の穏やかさが嘘のようにエンカクと交戦を始める。

 マガツ自身が気が付いてないようだが、彼にも少々戦闘狂のきらいがある。本人は全力で否定するだろうが。

 

 マガツの趣味はコーヒ―と読書である。コーヒーは殆どコーヒー缶を飲んでおり自分で淹れたり、カフェに行くことはないようだ。読書に関しては乱読家で小説、論文、雑誌、漫画、新聞などなどおおよそ書物と呼ばれるものならば何でも読む。電子媒体の書籍はあまり好まないようで、マガツ曰く「書物として保管するのがよい」とのこと。彼はロドスの倉庫の一角を借りて書物を保管しており、オペレーターに自由に貸し出している。ロドスの資料室においてないようなゴシップ誌や娯楽書籍があるため多くのオペレーターに好評だが、性的な表現や残酷な表現を含む書物もあるため一部のオペレーターには貸し出しの制限がある。

 マガツ曰く、「本に貴賤はない」とのこと。

 

 風の噂だが、どこかの地域ではマガツを崇める集団があるとのこと。

 彼がスペクターやスカジ、使徒のメンバーなどを避けている理由はそこにあるのかもしれない。




アンケートの件ですが、あくまで目安なのでご了承ください。

まあ、できるだけ反映していきたいと思います。
それにしてもペンギン急便のメンツは人気ですね。

(……ペンギン急便のメンバーを一人も持っていないとは言えない)


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スペクター回

スペクター昇進Ⅱ記念。
活動報告にうちのロドスのID載せました。
戦友足りてないので申請していただけるとありがたいです。

アークナイツ知らない人向け用語解説

スペクター:修道女服を着たお姉さん。チェーンソーが武器。よく嗤う。自己再生できる。モチーフはサメ。
医療スタッフ:ロドスは製薬会社で鉱石病の治療を行っているため、戦場に行かない一般的な医者や科学者がいる。
グラニ:ボーイッシュで小柄な女の子。勇気と折れない心が真の武器のイケメン。槍を巧みに使いこなす。
ヴィクトリア:ヴィクトリア王国のこと。イギリスが元ネタのアークナイツにある一つの国。シージもここ出身。
クランタ:馬っぽい特徴を持つ獣人。馬っぽいのは耳と尻尾ぐらいだけど。




 コーヒーを自販機に買いに行ったらエッチでマジェスティックな修道女のお姉さんに絡まれた。

 

どういったかたちで絡まれたかと言えば壁ドンされた。

俺とスペクターでは頭一つくらいの身長差があるのだが、そんなことお構いなしに、俺を押し倒すような勢いで体勢を崩された後に見事な壁ドンをかまされた。

 

「ウフフフフフ」

「……はは」

 

鼻先がふれあいそうなほどにスペクターの顔が近づき、見開いたスペクターの赤い瞳がこちらを見透かす。

こえーよ、このおねーさん。

下手なホラーよりもホラーだよ。

サイレントヒルにでも出てきそうなくらいにはホラーだもん。

 

「今日は私が護衛です」

「そ、そうなんだー」

「ウフフ、安心してください。あなたは私が命に代えても守りますもの」

「…………。」

 

え、そんなに覚悟決まってるの?

なんかもっとこう、緩い感じの護衛だと思ってたんだけど。

重い。

いや、重い女性が嫌いなわけではないけど。

 

「……あなたは運命を断ち切り、死を乗り越えました。今なら聞こえるでしょう……深海からの声が」

「聞こえないです」

 

 どこぞの一神教の救世主みたいな扱いされてるなこれ。

 スペクターの目が前は哀れな子羊を見るような目だったのに今や崇拝という名の狂気がうかがえる。

 正直すごく怖い。

 宗教についてあーだこーだ語る気はないが、祭り上げられる側が果たして喜んでいるかというとそうではないこともあると俺は思う。

 少なくとも上に立つ器量がない俺は困惑を超えて怖気づいてしまう。

 何よりも素晴らしい功績や奇跡を打ち立てたわけではないから、申し訳なさすら感じてしまう。

 止まった心臓が動き出したことは運がよかったし奇跡と呼んでも過言ではないが、どちらかというとそれは俺の起こした奇跡ではなくケルシ―先生を含めロドスの医療スタッフが起こした奇跡である。

 強いて言うならば俺は死に損なっただけだ。

 称えられるようなことではない。ケルシ―先生には怒られたし。

 

「俺は俺の力で死を乗り越えたわけじゃない。皆に助けられて漸く一命をとりとめただけだ。運命を断ち切ったのは俺ではなくケルシ―先生とかのおかげだよ。――それに俺みたいに瀕死の状態から生還した人はたくさんいるよ。別に俺は特別な何かじゃない」

 

 そう言った俺を見て、スペクターは一瞬無表情になり、瞼を閉じる。

 少しして、妖艶な笑みを浮かべながら目を開いたスペクターは脚を俺の脚に絡めながらゆったりと語りだす。

 

「……死は誰にでも平等ですが、生は平等ではありません。生を勝ち取れるのは運命を超えていけるものだけ。死に触れたものは多かれ少なかれ近づいていきます。生と死の境界線が曖昧になって、徐々に深淵に近づいていきます。回帰する場所、戻るべき場所。……しかしあなたは、他の誰よりも死に近い。まるで一度死を経験しているかのように」

「……なんだい、それじゃあ俺は亡霊みたいじゃないか。死に損なったという意味では、確かに幽霊と言われても納得できるけどさ」

「ウフフ、亡霊はどちらかと言えば私の方ですわ。あなたは生と死の境界線に立ち、ふらふらと此岸と彼岸を行き来する。案内人のように、門番のように、あなたはずっとそこにいる」

「…………。」

 

 ドキッとする。

 それは別にスペクターの顔が近いから――だけではなく、彼女は俺のことをしっかりと捉えているからだ。

 俺はスペクターに転生者で前世のことを覚えているという話をしたことはない。

 だけど彼女は直感的に物事を見て、俺の本質を感覚で理解している。

 

 怖い。

 肉体の奥底、心の更に深く、魂からみられているような感覚。

 彼女の深海から除くような赤い瞳はいったい何を映しているのだろう。

 

「――スペクター、一体どうしたの? いきなり走り出したりして……えっ!!ちょっ、何してるの!!」

 

 通路の奥から銀髪ポニーテイルのクランタである小柄な少女が姿を現す。

 鉄板のついているバイザーを頭につけ、騎馬警官の腕章を撒いた紺色のコートを纏うこの少女はグラニ。

 ヴィクトリアの騎馬警官で今はロドスと契約し、各隊の支援援助をしている。

 

 ……それにしても、ロドスは銀髪や白髪などの色が薄い髪色のオペレーターが多いなあ。

 種族柄、そういった毛並みが多いのだろうけど。

 俺の平凡な白髪(しらが)交じりの黒髪も綺麗に白一色にならないだろうか。

 前世も黒髪だったから憧れるんだよね。

 覚醒した金木君みたいにならんかね。

 

 ――って、そんな現実逃避をしている場合じゃなかった。

 淑女然とした見た目(見た目だけは)のスペクターに壁ドンされ足が絡み合いながら、鼻先が触れ合いそうなほどに顔が接近している構図。

 うーん、ギルティ。

 せめてもの救いはそれを見たのが変態(ドクター)じゃないことか。

 アイツにみられるとあること無いことロドス中に広められるに違いない。

 

「ごめんなさい、つい衝動に駆られてしまって」

 

 スペクターがグラニにそう謝罪するが、誤解されそうな言い方である。

 

「いや、あの、これはその……スペクターとはそういう関係じゃなくてだな」

 

 俺の言い訳もまた誤解されそうなものになってしまった。

 ていうか、前世も含めてこんな状況に陥ったのは初めてだ。

 一体なんだよ、修道服を着たお姉さんに絡まれているところをポニーテイルの騎馬警官の少女に目撃され、誤解をされないように取り繕わなければならない状況って。

 文字に起こせば起こすほど混沌としている。

 

「その……個人間のことについてとやかく言う気はないけど、エッチなのはいけないと思います!!」

 

 良くも悪くも清純であるグラニは顔を赤らめてそう言った。

 語尾がおかしなことになっている。

 

 

「ウフフ、別に逢引きをしていたわけではありませんわ。私が今日の護衛であることを伝えて、少し大切なお話をしていただけですわ」

「今日のマガツの護衛はあたしと一緒に着くって説明したでしょ、もう!!それにこんな往来の場所でそんなことしちゃ駄目!!ほら、離れて離れて」

 

 グラニによって引き離され、スペクターの拘束から解き放たれた。

 正直助かった。

 助けが欲しいときに現れるグラニはやっぱりどっかの世界線の主人公じゃないかと錯覚するほどにはヒロイックである。

 

 ただ、必ず決定的なシーンに現れるということでもある。

 今後、というか少なくとも今日一日中は誤解されたままだろう。

 下手に人に噂されなければいいけど。

 女性の間の噂話は男性には歯止めを掛けられないのはこの世界でも一緒である。

 ボーイッシュでサバサバとした性格であるグラニが色恋の話を好むとは思わないけれど、弁明できるのならば弁明しておこう。

 英雄だって噂話で死ぬことがあるのだから。

 

 いや、俺がどこの誰と付き合った程度の噂話では精々暇つぶしの雑談程度にしかならないだろうけど。

 誰かに恨まれたりもめごとの火種となるようなことはないだろう。

 

 

「マガツもマガツだよ!!きみはかっこよくて優しいからいろんな女の子の注目の的なんだから迂闊なことしたら大騒ぎになっちゃうよ!!通りかかったのがあたしだからよかったものの……」

 

「グラニ、お世辞でも褒めてくれるのは嬉しいけど俺はそんな女の子の興味を引くような魅力的な男じゃないよ」

 

「仲間のために命を張れるような男の子が魅力的じゃないことなんてあるもんか!!そうやっていっつもきみは自分のことを卑下する。もっと自分のことを誇りなよ。マガツは強くてかっこよくて優しい、ロドスの素晴らしいオペレーターなんだから!!」

 

「…………。」

 

 ……なんだこの子、天使か?(そうだよ)

 スカジもグラニのことをやたら褒めていたが、なるほど。

 素直に人のことを褒めることができ、正しき心と勇気を持つ少女。

 ロドスに来たのは正解だった。

 なんせこんなにも頼もしい少女が笑顔で過ごせる組織なのだ。

 

「……ウフフ、よき少女。その輝きを曇らせてはなりませんよ」

 

「ちょっ、スペクター!?頭を撫でないでよっ!!」

 

「スペクター、お前……」

 

 グラニの頭を撫でるスペクターの瞳からは狂気が抜け落ち、まるで本物の聖母のような優しいまなざしに変貌していた。

 それは穏やかで全てを受け入れる海のような――

 

「お二人にも、深海よりの声が届くことを願っております。……ウフフ」

 

 その瞳はまた、一瞬のうちに狂気を孕む修道女の瞳に戻る。

 あれがもしかしたら、本来あるべきスペクターの姿なのかもしれない。

 俺はあの瞳の灯火を忘れることはないだろう――

 

 




新イベ始まりましたね。
景気よく10連したらナイチンゲールでした。潜在が2になりました。
今までピックアップ当てたことがないんだよなあ。

イベントの公式PVはフィリオプシス主体でテンション爆上がりです。
毎回神秘的なPVで感動してます。

意味のない用語解説

マジェスティック:厳かな、威厳のあるという英単語。Bloodborne的には啓蒙高いという意味合いもあると思う。OH,Majestic!
壁ドン:許されるのはイケメンと美女。
重い女性:体重という意味ではない。かわいい。ハーメルンはそういった趣味(というよりは性癖かも)の読者(執筆者も)多いよね。
一神教の救世主:アークナイツは中国系だから仏教の要素が多いような気がする。宗教には詳しくないので深く言及はしない。
覚醒した金木君:この世の全ての不利益は当人の能力不足で説明がつく
ギルティ:がきデカが思い浮かんだ自分の年齢を疑う。少なくとも20代に分かるネタではない。
そうだよ:理性の足りないドクター「当たり前だよなぁ?」



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午後の逸話~サイドエピソード~

皆さんイベントは読み終えましたか?
私はあまりにもストーリーの後半二つが重くて受け止め切れてないです。
闇深すぎ。
それをサラッと話すから余計に闇が深い。しかも、割とよくある話らしい。

イベントステージは強襲以外は終わりました。
今回はギミックが面白かったですね。ただ低レアでやっているとスキルのタイミングがシビア過ぎて発狂しました。

アークナイツ知らない人向け用語解説

ケオベ:ペッローという犬耳獣人の少女。術師なのに物理ダメージもとばす。ナイフも斧も槍もとばす。AUOかな?
エンカク:単独で敵組織のレユニオンの幹部と斬り合っていたヤバい奴。男。戦闘狂。
ミッドナイト:東夜の魔王。元ホスト。過去が重い。
スポット:毒舌且つ、容赦がない。モフモフしている。
ポプカル:チェーンソーを持つ幼女。過去が重い。
カタパルト:午後の逸話ではぶられていた。乳が重い。
オーキッド:ロドスで一番ファッションセンスが高い女性。ママ。行動予備隊A6の隊長。
テラ:アークナイツ世界の総称。地球みたいな感じ。


 PM.20:27

 

  皆が夕食を食い終えた時間の晩のことである。

 

「ドクター、大変だよ!!陰鬱なお兄ちゃんと頭のおかしいお兄ちゃんが喧嘩してる!!」

 

「え?マガツとエンカクが喧嘩?また!?」

 

 夜でも消えることのない明かりが灯り続けるロドスの執務室に一人のオペレーターの少女が飛び込んでくる。

 

 彼女の名前はケオベ。

 無造作に伸ばされた癖のある小麦のようなきれいな色の茶髪と薄い赤色の瞳、ペッロー特有の犬のような尻尾と耳、しかしそれらの印象が全て霞むほど大量の武器を武蔵坊弁慶の如く背負う術師のオペレーターである。

 各地を放浪していた野生児だが、リターニア地域にてロドスのオペレーターに襲い掛かり交戦状態となり、空腹によって倒れたところを保護された。

 感染者であり、空腹のためオペレーターと交戦状態になっただけで、襲われたオペレーターとも和解しており、ロドスの方で保護する流れとなった。高い素質と潜在能力を買われ、色々と問題はあったが結果として術師オペレーターとなった。

 

 ロドスのスリートップの一人であるドクターはケオベからの報告を聞いて直ぐに二人の男性オペレーターに思い至った。

 マガツとエンカク。

 彼らは優秀な傭兵上がりのオペレーターであるが、同時に因縁深い二人でもある。

 傭兵時代に何かあったようで、マガツが一方的にエンカクのことを嫌っており、しかしエンカクは仲を改善しようとすることもせず、むしろ煽るような言いぶりでマガツとしょっちゅう喧嘩をしている。

 喧嘩と言えば嫌よ嫌よも好きのうちといった感じで寧ろ仲がいいのではないかと思えるが、その様子は喧嘩と呼べるものではない。真剣勝負、刃引きをしてない戦場で振るう武器を用いてアーツも問答無用で撃ち合う殺し合いに近い模擬戦を行う。

 既に数度止められており、何度も厳重注意を受けていた。

 

 ケオベの頭をひとしきり撫でた後、ドクターはだらだらと眺めてサボっていないふりをしていた書類を直ぐに片づけ、ケオベとともに執務室を後にする。

 こういった揉め事はロドス内部では割とよく起きていた。ロドスの優秀であれば経歴は一切不問とする性質故に、今までまともな教育を受けてこなかったり、社会や組織の鼻つまみ者にされたりしてロドスに流れたりなど、様々な問題児が集まるのだ。衝突が起きないわけがなく、また下手になだめるよりはいっそ対立し喧嘩させてしまった方がのちのちしこりにならずに済むという考えもある。ただ行き過ぎはよくない。ロドスのオペレーターは軍隊にも劣らぬほど強力なものばかりである。武器や施設が壊れるくらいならともかく、再起不能の怪我を負ってしまっては流石にまずい。そういった状況に陥る前に仲裁に入るのはメンタルケアも請け負っているドクターの仕事だった。

 要するにドクターは仲裁という仕事をすることで執務室に缶詰というストレスフルな状況から合法的にぬけだせるというわけだ。

 

「ついでにケオベの頭も撫でられるし、マガツやエンカクの体を撫でまわせるチャーンス!!一石二鳥どころか三鳥四鳥だわさ!!」

 

「……ド、ドクター?いきなり叫んでどうしたの?」

 

 ケオベが頭おかしいんじゃないのコイツといった様子でドクターのことを見ていた。

 

「――おっといけない、内なるドクターが出てしまった。今は理性が足りてるから完全で完璧なドクターでなければならないというのに。……しっかし、マガツとエンカクもよくよくやり合うもんだね。私にBLのけはないが、あの二人の肉体美を見ると来るものがある。そそるぜこれは……じゅるり、おっとよだれが」

 

「ドクター……」

 

 ケオベがだめだコイツ早く何とかしないと、と思いながら歩いていると訓練室へと到着した。

 

 そこには少なくないギャラリーが集まっていた。

 

 よくよく夜に訓練をしているミッドナイトとそれに良く付き合っているスポット、そのお目付け役のオーキッドにいつもミッドナイトとスポットの喧嘩を仲裁(物理)しているポプカル、そして今日もサボって夜に訓練(意味深ではない)をする羽目になっているカタパルトと、行動予備隊A6のメンツが全員揃って訓練室の様子を外からうかがっている。

 補修で訓練室を使うと言っていたビーグルやクルース、それらを監督していたとみられるドーベルマンもいる。

 

「――あれ? ドーベルマン教官がいるならすぐに止められるでしょ?なんでみんなそんなにお揃いで見守ってるの?」

 

 ドクターは率直に疑問を述べる。

 

「……止めはしたんだが、二人とも止まる気配がない。どうやら今回は今までのじゃれあいとは違って、本気でケリをつけるらしい。――それに、今回は立会人がいる」

 

 ドーベルマンが視線を向ける方には、訓練室の中でスカジが長剣を抜剣した状態で入り口を塞ぐように佇んでいる。訓練室で戦う二人を黙って見据えており、同時に邪魔を許さないというのが戦闘オペレーターではないドクターにもよくわかった。

 

「なるほど、スカジちゃんに通せんぼされたら生半可な人じゃあ入れないもんね」

 

「――ドクター!?仕事中では」

 

「……何故ここにいる。まだ書類を片付け終わってないはずだろう」

 

 パタパタと響いてくる足音に気が付いたドクターが目を向けると、通路奥からアーミヤとケルシーがこちらに向かってきていた。その二人の後ろからはラヴァとハイビスカスの姉妹と行動予備隊A1隊長であるフェンが歩いてきている。恐らく、行動予備隊A4のメンバーが訓練室を使おうとしたところでマガツとエンカクの決闘に出くわしたのだろうとドクターは思った。

 

「――っ、ケオベ。ドクターを連れ出してきたのか!?」

 

 ラヴァが驚いている。

 ケオベは偶然遭遇したのだろう。

 そしてラヴァはケオベに待機するように命じた。 

 けれども、ケオベは心配になってドクターを呼びに行った。

 

 この一連のやり取りでドクターは大体の事情は察した。

 

 

 キィイイイイイイン

 

 

 ざわつくギャラリーの耳元に金属がぶつかり合ったような音が訓練室の方から鳴り響く。

 

 マガツとエンカクは互いの剣の間合いで対峙していた。

 

 先ほどまで激しい戦いが繰り広げられていたのか、訓練室は所々窪み抉れ焦げている。マガツとエンカクは小さな傷がいくつもあり、血も多少流れていた。

 

 ドクターが一目見た限りではマガツの方が不利だった。

 補助オペレーターであるマガツは普段武器を使わない。

 主にアーツを使った戦闘を得意とする彼は真っ向勝負の近接戦闘など行わないからだ。

 けれども、マガツは近接戦闘もできるオペレーターであり、近接戦闘の訓練も欠かさない。本人曰く、スラムで身に着けた我流の武技であるとのことだが、前衛オペレーターも一目置く程度には優れている。

 やはり、経験の差や得意の差が出ているのかマガツは剣を片手に持ちながら、肩で息をして立っている。

 

 対峙するエンカクはまだ余裕がありそうだった。元傭兵のサルカズの剣士。長身の体躯を持つ彼は二刀流の剣士にして、多くの敵を屠ってきたロドスでも指折りの実力者。戦闘経験はマガツの倍はあり、近接戦闘のセンスもマガツを上回っている。

 彼も無傷でなく多少の損耗が見受けられるが、マガツよりは余裕そうな表情で立っていた。

 

 二人は睨み合ったままピクリとも動かない。

 その状況を見てギャラリーの誰も何も言うことはなかった。

 静寂は嵐の前触れ。

 これから起こるであろうぶつかり合いが、テラでもまれにみる最高峰の剣戟であることは容易に想像できた。

 

 誰もが固唾を呑んで動けない。

 ロドス代表のアーミヤも、医療チームトップのケルシーもその迫力に飲まれていた。

 

 マガツが少し体勢を低くした。

 いかにも飛びかかろうとしている体勢である。

 ただそれだけでは終わらない。

 マガツの体を包むように黒い靄のようなものが発生する。

 マガツのアーツ。

 敵の行動を阻害し、生命力を奪い取るそれを彼は操り体に纏う。

 

 エンカクはそれを見て薄っすら笑みを浮かべると、二刀を構え直し、紅いオーラのようなものを纏う。

 彼が刃鬼と呼ばれるその所以たるその紅いオーラは、彼の身体能力を向上させ鬼のような力を発揮させる。

 エンカクの黒い刃は敵の血を啜り、自身の血肉とする。

 敵を一刀両断で切り伏せながら、しかし敵の血肉で自身の力を回復し戦場に立ち続ける。

 エンカクが戦場で長く生き残ってきたことにはそれなりのわけがある。

 

 一触即発。

 止めなければいけないと分かっていても、誰も動けない。

 できるのは勝負の行方を見守ることのみ―― 

 

 

「――はい、ドクターストップ」

 

 だが、変態(ドクター)にはそんなことは関係なかった。

 いつの間にか訓練室に入りこんでいたドクターはマガツの背後に回り込み、体を包み込んでいるマガツの黒いアーツをものともせずマガツの首筋に注射器をブッ刺した。

 

 ブスリ

 

「アッーーーーーーーー!!!」

 

 マガツは情けない叫び声をあげた後痙攣しながら地面に倒れ伏した。

 

「ドクター?どうやってここに……」

 

 怪訝な顔をするエンカクが疑問に思って訓練室の扉を見てみると、そこには同じように痙攣しながら倒れ伏すスカジの姿があった。

 

「……ふっ、次はお前が相手をしてくれるのか?」

 

「理性が足りている人に理性剤を打つのはよろしくないから、鎮静剤で勘弁してあげるよ。私はもう忘れてしまったけど、エンカクは覚えているんでしょ? ――だったらまあ、耐えてみなよ」

 

 マガツが落とした剣を拾いながらドクターは対峙する。

 

 理性ある鬼と理性の足りない獣の戦いが、今幕を開ける!!

 

『ドクターたちの戦いはこれからだ!!』




午後の逸話を読んでいたらヴァルカンが欲しくなりました。
重装で公開求人を回していたら上級エリートが来ました。
サリアが当たりました。
ヴァルカンどこ?
あとインドラもどこ?
(小説的にはサリアじゃなくてエクシアを狙えばよかったかも)

意味のない用語解説


ラヴァ:ケオベを拾った張本人。ケオベになつかれている。ツンデレ。
陰鬱なお兄ちゃん:マガツ。
頭のおかしいお兄ちゃん:エンカク。
内なるドクター:しゃーんなろー!!
そそるぜこれは!!:ファンタジーに科学で勝ってやんぞ
だめだコイツ早く何とかしないと:新世界の神。粉バナナ!!
ビーグル、クルース、ハイビスカス:不合格
フェン、ラヴァ:合格
ドーベルマン:もっとドックタグは丁寧に保管してあげなよ。
スカジ:実は通せんぼしてたわけじゃなく、ただ眺めていただけ。とばっちり。この後ドクターに回収された。
マガツ:この後スカジと一緒にドクターに回収された。
エンカク:ドクターとは引き分け。
ドクター:あのシルバーアッシュに盟友と認められた人物。理性が足りているときはただものではない。理性が足りてないときもただものではない()。
『○○の戦いはこれからだ!!』:アクタージュはどうなるんでしょうね。


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宴も酣

お久しぶりです。気が付いたら冬ですね。

アークナイツ知らない人向け用語解説

ウタゲ:ケモミミギャル。
アー:ア。これで名前である。闇医者。
イーサン:カメレオンな少年。潜入が得意。
ウン:アとウン。二人で一組だけどウンの影が薄い気がする。
医療オペレーター:ロドスアイランドは製薬会社なので医療従事者が多いがその中でも戦場の医師として活躍するのが医療オペレーター。
カランド貿易:雪国イェラグの流通を司る企業。トップがイケメン。構成員もイケメン。



「ウタゲのおっぱいってどのぐらい重いの?」

 

「マガツ先輩、ナチュラルにセクハラ発言しないでください」

 

 今日はコーヒーじゃなくて酒を飲んでいた。

 最初はアーやイーサンに誘われてこじんまりとした飲み会になるはずが、どこから話を聞きつけたのやらブレイズやニェンが集まり、料理役ということでマッターホルンとクーリエが拉致され、二日酔いを楽にするという理由で医療オペレーターのガヴィルとフォリニックが呼ばれ、ワイワイしている途中からウタゲやフロストリーフが参加し、遅れてドクターとウンがやって来た。バーを貸し切って本格的な飲み会が始まり、色々とうるさいフォリニックが秒で潰されドクターのセクハラ要員となり、アーやイーサンは元傭兵どもの馬鹿みたいな高速ペースによって半刻でぶっ倒れドクターのセクハラ要員その二が出来上がり、ウンが一時間ぐらいで顔面蒼白になってアーを連れて帰り、そのあたりでクーリエとマッターホルンも絡まれ始めてフロストリーフが饒舌になってきた時点でマッターホルンがウォッカ一気飲みで撃沈し、クーリエがつまみとカクテルを作ることに専念して逃げ出した辺りでニェンが服を脱ぎだしほぼ全裸になり、ドクターがフロストリーフと野球拳を行いドクターがフード付きコート一枚から大逆転を遂げた。

 前半戦が終わり、まさに宴も酣といったところである。

 

 今俺の右隣でファジーネーブル的な何かを飲んでいるのはウタゲ。極東出身の女性オペレーターで丸い耳とヘビっぽい尻尾が特徴的。ネイルアートやヘアピンに興味を持つ元学生である。因みにファッション雑誌愛読者でもある。

 ウタゲとは昔に極東で出会っていて、紆余曲折在り先輩と呼ばれるような仲になった。ロドスには確かに俺の方が早くに加入したが、昔から先輩と呼ばれていたので別にロドスの先輩という意味ではないようだ。

 

 え?元学生に酒を飲ませて大丈夫かだって?法律が違うんだよ日本とは。

 

 

「量ったことはないですけど~、肩が凝るくらいには重いですよ」

 

「ああ、やっぱり巨乳は肩こりしやすいのか」

 

「先輩ってホントにおっぱい好きですよね~。うりゃ、押し付けちゃる~」

 

 柔らけぇ。

 

「先輩凄い顔真っ赤、かわいい!!」

 

「酒のせいだよ」

 

「え~、先輩が酔ったとこなんて見たことありませんよ」

 

 この体は酒に強いからね。ウォッカ一気でも潰れない。

 

「場に酔ったんだよ」

 

「酔ったのは色香の方でしょ」

 

 まあ、視界内に全裸の女性3人が映り、ギャル系女子(学生)が隣で豊満な胸を押し付けてきたらそうなるよね。健全な男子なら絶対に。

 

「マガツ先輩、小耳にはさんだんですけど童貞じゃないってホントですか?」

 

「…………。」

 

「うわっ、凄いしかめっ面してる。面白ーい!」

 

 いや、流石に女子の前で話したいことじゃないだろ。

 あけすけすぎる。

 

「誰から聞いたんだその話?」

 

「女子の間ではもっぱらの噂になってますよ。童貞っぽいけど実はヤルことヤってる草食系の皮を被った肉食系男子だって。先輩が被ってるのは包茎だと思ってました」

 

「やかましい、包茎ちゃうわ。被ってるのはどっちかって言うとお前の猫だろ」

 

「えー、ウタゲちゃん猫なんて被ってないよー。ホントダヨー。ワタシウソツカナイ」

 

「年齢誤魔化してキャバクラ入って来たくせに」

 

「あっはっはっは、そんなこともありましたねー。懐かしー」

 

 俺が傭兵時代に雇い主と会うときにキャバクラ行ったのを嗅ぎつけて乱入してきたのだ。

 学生の癖にとんでもない行動力だ。

 彼女はフェリーンでもないのに好奇心旺盛だ。

 

「でー、実際ホントに童貞じゃないんですか?」

 

「まあね。経験はあるよ、少ないけど」

 

「うっそ、マジ?デリヘル呼んだとか?」

 

「呼んでねえよ。傭兵仲間だよ」

 

「えー、ガヴィルさんとか?」

 

「誰がこんな陰鬱じみた奴とヤるか!!戦場のときならまだしも、腑抜けた顔で缶コーヒー飲んで呆けている奴なんてお断りだね!!」

 

「止めろガヴィル、酒瓶を投げるな。あと、イーサンにアーツ掛けて回復してやれ。あの顔だとそろそろ吐くぞ」

 

「大体、何だ最近は。とっかえひっかえ色んな女子とイチャ付きやがって!!」

 

「イチャついてない、護衛だよ」

 

「お前に護衛なんて必要ねーだろーが!!むしろ必要なのは主治医だろ!!」

 

「ええ、先輩色んな女子をとっかえひっかえ手を出してるんですか。最低~」

 

「誤解を招くような言い方は止めろ」

 

 ああ、会話がよくない方向に流れていく。

 なぜこうもロドスの女性オペレーターはストレートな物言いをする奴ばかりなのか。

 もう少し、恥じらいを持って欲しい。

 それとも酒のせいでこういった話をしているのか?

 いや、一升瓶五つ開けてもケロリとしているウタゲや、自分のアーツで酔いを調整できるガヴィルはまだまだ平気だろ。

 

 

「ヴィクトリー!!」

 

 と、ドクターの上機嫌な声が聞こえてくる。

 見やると勝利のコロンビアをキメてコート一枚で勝鬨を上げるドクターの姿があった。

 足元には裸にひん剥かれてシクシクと体を隠して泣いているクーリエの姿がある。

 

「ヨシ!!あとはお山の大将を呼びつけてひん剥けばイェラグ男性制覇!!」

 

 何もよくない。

 つーか、シルバーアッシュをお山の大将と呼ぶのは止めろ。カランド貿易のトップやぞ。

 

「アハハハハ、男たちは情けないわねえ!!もう、マガツ一人だけ。ドクター、マガツ潰して3タテしましょう!!」

 

 ブレイズが左手に焼酎、右手にテキーラの酒瓶をもってドクターを煽る。

 あーあ、ブレイズは完全にスイッチ入ったな。

 こうなると記憶とばすまで飲み続けて明日一日中二日酔いで死んでるぞ。

 

「……酒、ブレイズ、閃いた!!次の作品はアルコールを大量摂取したサメが巨大化してトルネードに飛ばされて街を襲撃し、それをチェーンソー担いだフェリーンがバッタバッタなぎ倒していく。コイツぁは大ヒット間違いなしだ!!」

 

 口元で火を燻ぶらせながらニェンがどぶろく片手に何かを閃く。

 それはZ級映画確定だぞ。

 ニェンは全裸だが彼女のアーツの影響か蜃気楼の如く風景が歪み局部が見えなくなっていた。

 何だアレ、便利そうだな。

 

「さて、マガツ。小便は済ませたか? 神様にお祈りは? 部屋の隅でガタガタ寒さに震えて全裸を晒す心の準備はOK?」

 

「Wrong!」

 

 手をわきわきさせながらドクターが近づいてくる(コートの下は全裸)。

 床を濡らすな、発情すんな、お前酔ったふりして公然のセクハラチャンスを狙ってたな!!

 

「やったー、先輩の全裸だ!!」

 

 ウタゲよ、何故喜ぶ?

 男子の先輩の全裸とか見る価値がないだろ。

 

「マガツのひょろい体なんて見てもしょうがないけど、もう男はマガツしか残ってないからね。恨むなら先に散っていった男どもを恨むんだ」

 

 ブレイズがニヤニヤしながら酒を呷る。

 

「大丈夫だよ。例えマガツのマガツが悲しいくらい短小であっても私はいける口だから。寧ろご飯三杯はいける!!」

 

 ドクターが鼻息を荒げながら近づく。

 

「誰が短小だって? ……久しぶりにキレちまったよ」

 

 俺が怒らないとでも思ってるのか?

 

「わーい、先輩がキレた!!」

 

 ウタゲよ、何故喜ぶ?

 俺はお前の琴線が分からん。

 

「以子之矛、陥子之盾、何如。」

 

 おい、ニェン、どういう意味でそれを呟いた。

 剥ぐぞ?

 

「いくよ、マガツ!! やーきゅーうーするのならー!」

 

「こーいう具合にしやしゃんせ」

 

「「アウト!!」」

 

「「セーフ!!」」

 

「「よよいのよい!!」」

 

 結果はウタゲにでも聞いてくれ。

 暫く禁酒しよう。




投稿頻度落ちてすいません。
これからはゲリラ的に書くと思います。

意味のない用語解説

宴も酣:酣とかいてたけなわと読むらしい。宴の盛り上がりが少し過ぎたぐらいのことを指す。
フォリニック:被害者その一。真面目な医者。下戸。飲み過ぎは駄目です!!なんていうから真っ先に標的にされた。
アー:被害者その二。弱くはないけど強くもない。傭兵のペースに合わせていたら潰れた。
イーサン:被害者その三。酔うと赤くなる。マガツは酒に弱いと思っていた。見通しが甘い。
ウン:アーの保護者。数杯だけ付き合って逃げた。
マッターホルン:被害者その四。雪国育ちなので強い、がウォッカを水のように飲む傭兵たちには勝てない。
クーリエ:被害者その五。飲まされてないけど脱がされた。
フロストリーフ:酒豪。酔うと饒舌になる。あと一枚までドクターを追い詰めた。
ガヴィル:酒豪。リジェネ系のアーツを持っているので基本酔わない。
ブレイズ:酒豪。でも二日酔いはひどいタイプ。よくストロングゼロを片手に持ってる(イメージ)。
ニェン:酒豪。酔っても酔わなくてもヤバい奴。火のアーツを使う関係上薄着。酔うと脱ぐタイプ。
ドクター:酒豪。業務用アルコールとか飲んじゃうタイプ。セクハラの機会を常に狙っている。
マガツ:酒豪。静かに飲んでいるタイプ。よく見るととんでもない量を飲んでいる。セクハラに耐性はないが、無表情を装っている(と、本人は思っている)。短小ではない(本人談)。
ウタゲ:酒豪。ファジーネーブルとかをたのむタイプ。極東出身は酒に強い(偏見)。虎視眈々と狙っている。

コロンビア:正解は?
ヨシ!!:何を見てヨシ!!と言ったんですか?
部屋の隅でガタガタ――:ヤンが言い放った台詞。ウォルターはオウム返ししただけ。そこがいい。
OK?:OK!(ズドン)は吹き替え版。字幕はwrong!
野球拳:今の若者が知っているとは思えない。


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戦闘技術”卓越”

 今回のイベントで面白いっすね。
 W欲しくなるし、ロリアーミヤ出てくるし、読み応えたっぷりでした。
 あと、ドクターの過去も出てきてドクターの人物像が分かってきましたね。
 シデロカの参入でおっぱい四天王の戦いも苛烈になってきました。

 ……グラニの衣装可愛いい。可愛くない?

 今回はついにペンギン急便のメンバーが登場します。
 漸く引けた(二名だけ)。

アークナイツ知らない人向け用語解説

戦闘技術:ロドスはオペレーターを迎えるときの入社テストとしていくつかの項目を評価対象にしている。戦闘技術は分かりやすく戦闘力を測っており四段階くらいに分かれている。卓越は現段階での最高評価。
龍門:中国っぽい場所。近衛局という戦闘部隊がありロドスと一応協力関係を結んでいる。
ラップランド:ループスと呼ばれる狼っぽい特徴を持つ種族の前衛オペレーター。戦闘狂。貧乳。※昇進2の画像ではちゃんと胸があるので貧乳ではないみたいです。適当なことを書いて申し訳ありませんでした。
テキサス:同じくループスの先鋒オペレーター。ラップランドに付きまとわれている。ペンギン急便という宅配会社に勤めている。ロドスとペンギン急便は協力関係にある。



「やあ、君が噂のマガツかい?初めまして」

 

「……どちらさまで?」

 

「ボク?今はラップランドって呼ばれているよ」

 

「はあ、で見たところ近接系オペレーターみたいだけど補助オペレーターの俺に何の用だ?」

 

「何の用って、そんなこと言われなくても分かってるんじゃないかなあ?凄腕の傭兵なんだろ、一手指南たのむよ!」

 

「いや、見て分かる通り、今日はもう引き上げるところなんだけど。ていうか、もう今日だけで十一連戦してるんだけど。誰だよコーヒー一缶でいつでも模擬戦引き受けるなんて噂流した奴」

 

「んーと、ボクはドクターから聞いたよ」

 

「アイツいつかブッコロシマス」

 

「うわー、コワい顔。デーモンみたいだね。色んな女の子を粉をかけているって聞いたけど、強ち間違いじゃなさそうだ」

 

「はぁ!?なんだその根も葉もない噂誰から聞いた!?」

 

「ドクターでしょ、アビサルのバウンティハンターにグラスゴーのギャングの頭領とその右腕、カランド貿易のトップとその巫女、龍門の頭でっかちと真面目な重装の鬼のねーちゃん、医療チームのナース全員、工房にちょくちょく出入りしているほぼ全裸の盾持ちとあとケオベ!!」

 

「まってまってまって!!なにそれ、どんだけ俺女性に嫌われてんの!?それにケオベも!?俺何かしたっけ?何かしたの俺!?」

 

「あ、あとドクターからこんなメモを預かってきたんだけど」

 

「ん?なんだって?ええと

 『ラップランドがこの前の仕事の報酬として強い人と戦いって嘆願してきたけど、彼女は戦闘技術"卓越"でとても強いため生半可なオペレーターだと報酬にならないためマガツに任せます。断った場合や手を抜いた場合はこの前の飲み会で起きたあることないことをロドス中にバラします。byドクター ラップランドさんは可愛いけれど浮気はゆるさないっちゃ!!byウタゲ』あのセクハラ変態上司め!!誰が浮気するか!!……いや、そもそも結婚どころか彼女もいねーよ!!つーか、お前そんな喋り方しねーだろ!!」

 

「細かいことは置いておいてさ、やるの?やらないの?」

 

「これ断ったら俺のロドスでの社会的地位がなくなるんだけど」

 

「で、結論は?」

 

「……やります」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロドスにおける能力測定で、戦闘技術を卓越とみなされる者はかなり少ない。

 テキサスが知る中では四人、ラップランドもその一人である。

 ラップランドとテキサスは腐れ縁である。テキサスにとっては面倒な相手でしかなく、ラップランドの方からよく突っかかってくる。しかし、テキサスは付き合いの長さからその強さはよく知っていた。

 戦闘狂、そしてその戦闘センス。

 敵のアーツを妨害するアーツも獣の如き身のこなしも全て戦闘のためにあるかのような。

 闘争本能が人型を作っている、それがテキサスのイメージするラップランドである。

 

「――か、はっ……!!」

 

 そのラップランドが地に伏せていた。

 訓練室の壁に寄りかかりながらテキサスはマガツとラップランドの戦いの様子を眺めていた。

 終始攻めていたのはラップランドであった。マガツは有効な反撃もできずに徐々に追い詰められているように傍から見ていたテキサスには思えた。ラップランドは隙らしい隙も見せていなかったし、その猛攻をしのぎ切るのにマガツは手いっぱいだったはずだった。

 だが、結果は血に倒れ伏しているのがラップランドでそれを見下しているのがマガツである。気管がつまったのか咽ているラップランドの胸元を右足で踏みつけて、マガツは動きを封じていた。

 

「……まあ、なんだ。言わなくてもわかるだろうけど、才能に頼りすぎだし戦闘を楽しみすぎだよ。多分、戦場であったら俺が死んでいたろうけど。こんな狡い戦い方で申し訳ないけど、これが俺なりの格上との戦い方なんだわ。消化不良だろうけど、これ以上は求められても困る」

 

マガツは努めて冷静な表情でそう告げた。そこには普段の腑抜けた顔つきはない。

 冷徹な、目に映る物事をただ情報としか認識していないような無機質な相貌。

 テキサスはマガツのことはよく知らない。しかし、その戦果や逸話はよく耳にしている。

 撤退戦の名手にして、彼の出る戦場においては死傷者はマガツ本人のみという嘘みたいな噂がある。確かにそれは盛られた話ではあるが彼の戦闘記録を見る限り、彼の部隊が怪我を負うこと自体が稀であり重傷もこの前の庇ったときと、彼一人のみが殿の残ったとある戦場のみである。

 マガツは部隊を率いる指揮官でもなければ、作戦を練る司令官でもない。彼は補助オペレーターでしかなく、サポートが主な役目である。

 テキサスも何回か彼が出た戦場の戦闘記録を目にしたことがある。それを見て思った感情は『特筆することは特にない』である。淡々と自分に与えられたことをこなして、サポートに徹するその姿は補助オペレーターの鑑なのかもしれない。先鋒オペレーターのテキサスからすれば立ち回りや求められる役割が違い過ぎて、戦闘記録としてはいまいち参考にならなかったというのもある。強いて言うならそつがなかった、としか言いようがない。

 テキサスはそれらの事情を踏まえて、マガツはサポーターとしての能力が突出しておりまた指揮官や司令官と言った役回りもこなすことのできるオペレーターだと認識していた。

 そのテキサスの認識は正しかったし、覆るような出来事も特に起きていなかった――つい先日の、マガツが前衛オペレーターを庇い死にかけたという戦場の戦闘記録を入手するまでは。

 本来、レユニオンのステルス兵の脅威を知り、撤退戦に対する見識を深めるために閲覧を許可されたその戦闘記録はテキサスに違和感を覚えさせた。緊急招集ということもあり普段あまり組まないメンバーでの臨時小隊で人員的にも足りていない、その上でマガツは自分の役割以上のこと――近接戦闘員としての立ち回りもこなさなければならなかった。マガツはミスを犯さなかった。連携の齟齬も、作戦の稚拙さも、メンバーの失態も、全てカバーしていた。結局、最後のあのステルス兵以外は余裕を持って戦っていたようにテキサスには見えた。

 マガツは一流の戦闘員であり、遠近両刀のオールラウンダーで尚且つ不測の事態に対応が上手い。

 マガツは侮れない。

 

 エンカクならば、『器用貧乏、しかし戦場の中においては無類の猛者』と評する。

 へラグならば、『武は一流に劣るが、戦争においては一流をも下す才能を持つ』と評する。

 チェンならば、『軟弱だが倒れず、いかなる敵相手でも互角以上の勝負に持っていく厄介者』と評する。

 ドクターならば、『弱い、脆い、陰鬱、でも誰よりも頼りになるしロドスで最も使い勝手のいい駒』と評する。

 

 

 テキサスの認識が変わってから、彼女はマガツの情報を調べ始めた。

 すると、とめどなく様々なマガツの戦歴が上がってくる。それは傭兵時代のものであり、一部からは英雄視されているマガツの行動の数々。

 

 ウルサスの軍団を単独で出し抜き、サルカズの傭兵を100人敵に回して逃げ切り、龍門近衛局の半数を壊滅させて一時的に機能停止に追い込み、ライン生命の軍事ラボを三つ破壊した。

 コイツ、なんで死ななかったんだ?

 そうテキサスが思うほどには荒唐無稽な戦歴で、人づてに聞いたそれはどこまで尾ひれがついているかはテキサスには判断しかねる。

 しかし、エンペラーから『何を知りたいのかは知らないが、あの疫病神の元傭兵とは仲良くしておけ。酷い目に遭うぜ』などと釘を刺され、その戦歴は現実味を帯びる。

 そこでテキサスはラップランドをぶつけることにした。

 腐ってもラップランドはプロの戦闘員であり、実力を測るにはこれ以上ない。

 

 面倒なラップランドを押し付けられて一石二鳥、というがテキサスの紛れもない本心であるが。

 

「……アハハハハハ!!こんなにあっけなく、やられちゃうとはね――ッ!?」

 

 見下ろされるその状態をしっかりと認識したのか、ラップランドは降参と呟いて嗤った。

 どこかを痛めたのか、すぐに顔をしかめ、言葉を止めることなったが。

 

「あー、あんまり喋らない方がいい。感触から言ってアバラにひびが入ってると思うぞ。ちょっと、本気になり過ぎた、悪い」

 

 マガツはそれを見てすぐに踏みつけていた足をどかし、立ち上がらせる。

 ラップランドとマガツの戦闘技術の差は歴然であり、マガツには一切の余裕がなかった。手加減などできないし、殺す気ではないにしても怪我をさせるぐらいの認識で斬り合っていた。

 

「これはボクの油断の結果だからね。負うべきして負ったものさ。キミが負い目を感じる必要はない。それに、ボロボロなのはボクよりキミだろ?その左腕、籠手かなんかでボクの剣戟を防いでたみたいだけど、折れてるよね?何なら最後ボクに止めを刺すために相当無茶な動きをしてるから筋肉も断裂してるでしょ?」

 

「……いやあ、まあ、もう少し模擬戦なんだから手を抜いてくれるとありがたかったんだけどなあ」

 

「アハハ、それは無理だよ。ボクはそんな生半可な闘争じゃ満足しない。命を削るギリギリの闘争じゃないとね。キミの最後の一撃は思わず昂っちゃった。正直、濡れるッ!!」

 

「…………。」

 

 テキサスはマガツのラップランドを見る目つきが養豚場の豚を見るような目に変化したのを見逃さなかった。

 

「満足できないって、まだ足りないって、そういった隙を突かれるとはねえ。いや、隙というよりは意識の誘導によって盲点を作り出した、そんなところかな?」

 

「……別に、そんな凄いことをしたわけじゃない。ただ、戦闘狂は何度も相手してるから戦い方は分かってるってだけさ。相手を物足りなくさせれば、勝手に手加減してくれる。それだけ」

 

「アハハ、そんな困ったやつを相手にするみたいな扱いをされたら笑うしかないね。実際やられたからぐうの音も出ないんだけどさ」

 

 凄いことはしていない。

 それを戦闘技術を卓越と評価されたものを下したというのに嘯けるのはやはりマガツも一流に入りかけている証拠なのだろうと、テキサスは秘かに思う。

 ラップランドをあしらう。

 言葉だけで言えばそれだけだが、それをできるものがロドスに――いや、世界中にどれだけいるというのか。

 

 マガツは強い。

 若く、テキサスとあまり変わらない年齢だろう。

 つまり戦闘経験の年数もそこまで長くはないだろう。

 だけれども、あそこまでの戦闘能力を身に着けている。

 傭兵の経験があるというだけではない、彼にもまた才能と呼ばれるものがある証左だ。

 

 何よりも、あの変貌。

 勝負を決めに行くとき、それまで被っていた格下のオーラを一瞬で消し飛ばす威圧。

 彼の中で渦巻く力の片鱗を見たときテキサスは――

 

「――おーい、テキサス。どうしたんだい?」

 

 いつの間にか、近寄ってきていたラップランドが腹部を抑えながらテキサスを呼んでいた。

 マガツは遠くで籠手御外して、赤黒く腫れた左腕を確認し、

 『ヤバいよこれ、ヒビじゃないよ砕かれてるよ。さっきから左手先の感覚がないもん。痛みでマヒしてるもん。一発防いだだけなのにこれかよ。どんな腕力してんだよ、あの細腕で』などとのたまっている。

 

「――すまない、ぼうっとしていた」

 

「へえ、ふうん、なんか珍しく笑ってるけど、何かいいことでもあったの?思い出し笑い?」

 

「笑ってる?」

 

 誰が、とは問わずにテキサスは自分の口元に手を当てた。

 確かに口角が釣り合っていることを確認し、何を見て笑ったのかを自問自答し始めて、漸く気が付く。

 

「……どうかしたのかい?なんか変だよ?」

 

「……いや、別に、何でもない」

 

 何でもない。

 今はまだ。

 今はまだ何もするべきではない。

 

 標的を定めたばかりで先走っては狩りは成功しない。

 ゆっくり追い詰め、疲弊させ、はぐれたところを狙う。

 それまでは牙は隠し、静かに追い回す。

 

 それが狼の狩り。

 (ループス)の血を引くテキサスはそう、自分に言い聞かせた。

 

 

 

※その後、マガツは数時間の説教とともに医療チーム全員の会議の結果、模擬戦を一ヶ月禁止になりました。 

 




意味のない用語解説

ゆるさないっちゃ!!:ラム。……と聞いて分かりますかね?うる星やつらってどの年代まで伝わるんですかね?

マガツの戦歴:色々やらかしてる。ロドスに逃げ込んだから皆手が出せないだけで、嫌われている。

濡れるッ!!:学園黙示録。人を斬りながら興奮するときに使う。

エンペラー:実は皇帝ペンギンの姿をしていない。

ケオベ:「陰鬱なおにーちゃんと術比べしたら一発で吹っ飛ばせたよ!!」(ガチャで当たった。やったね)

今回の話で戦闘技術“卓越”と聞いて直ぐに五名の名前を想い浮かべられた人はアークナイツ博士(自称)を名乗ってもいいと思います。
※戦闘技術卓越は五名ではなく四名でした。適当なこと言ってすいません。


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疲れて眠る夜も

今年最後間に合った。
書けば出るって聞いたから書いた。
場合によってはアークナイツ無課金のタグを外す羽目になるかも。
お願い、出てくれー!!

アークナイツ知らない人向け用語解説

サルカズ:悪魔と呼ばれるような頭に角を持つ特徴がある種族。傭兵をしているものが多く、いろんなところに忌み嫌われている。
ケオべ:かわいい。前回マガツをふっとばした。
ラヴァ:苦労人。姉よりは闇医者のほうがマシということで


 支給品のコーヒーは泥と大差ない味がした。

 

 それでも、口の中のどうしようもない血の味と胃液の酸味を忘れるには丁度良かった。

 

「……うぷっ!!」

 

 急にせり上がってくる吐き気を何とかこらえる。

 内臓をやられていた。早目に治療を受けた方がいいのだが、衛生兵は先程の戦闘で再起不能となっている。息はあるが復活は無理だ。恐らく、明日の朝には亡くなってるだろう。

 別段ベースキャンプでもないこの野営地で吐いても支障はないのだが、ただでさえズタボロにやられて傷を負い呻いてる同僚が転がってるここで吐くのは、衛生的にも気分的にも憚られた。

 俺の傷はまだマシな方で、四肢欠損や失明、意識不明、酷いやつだと下半身失ってるやつもいる。ここにいる三割は明日は目覚めないだろう。

 傭兵部隊は半壊、正規兵たちもほぼ壊滅という負け戦。生き残るだけ生き延びて、何とか降参しなければならない。そんな悲惨な局面。

 

「なんでこんなことやってんだろうなあ……」

 

 死ねば良かった。

 ここまでくるなど全く考えていない。

 今まで出会った皆と同じように、さっさとくたばってしまえば良かった。

 

 死に場所を探していた。

 正確にいえば看取ってくれる誰かを求めていた。

 多くの死に出会ってきた。

 大抵は感染者でどうにもならない死にかたをする奴ばかりだった。

 そいつらの最後の希望は生への渇望とかあるいは過去へ戻りたいといった願望ではなく、自分の亡骸を託しここで誰かに看取ってもらうという死に際の切望であった。

 死の恐怖に誰もが打ち勝てるわけではなく、打ち勝てたとしても恐怖がなくなるわけではない。

生きていれば死ぬという当たり前で単純なことが誰にも耐え難いものだ。

 いろんなものを託された。遺書も遺品も抱えきれないほど渡された。遺言なんて覚えきれないほど。それでも、死に顔だけは忘れられない。

 

 死ぬのが遅すぎたと思うようになったのはいつだったか。

 俺を庇った仲間が目の前で死んだときか。

助けようとした少女の感染者が既に手遅れの侵食状況だったときか。

 次の日死んだ女性を抱いたときか。

 気がついたときにはもう、生きる理由を見失っていた。

 

 自分で看取った亡骸が優しく俺を誘ってくる。

 死は怖いものだけど受け入れられないものではない。

 あとはせめて、自分が死ぬときに自分の亡骸を――

 

――パララッ

 

「……銃声」

 

 意識を戻す。コーヒーの残りを地面にくれてやり、立て掛けていた小銃を引き寄せる。

 周りを見渡し、動けそうなものに状況を伝え臨戦態勢へと移行する。

 

 撤退戦はこれで五度目。

 味方の本丸が襲撃を受けているようで、いつまで逃げればいいのか、何処まで逃げればいいのかわからない。

 もう、さっさと降参してしまった方がいいのかもしれない。

 どうせ自分達の責任じゃない。死ぬよりは裏切り者と罵られた方がマシなはず。

 

 そう思いながら、いや、誰もが思いながら銃を構えて銃声の方へと歩き出す。

 

 誰もが死にたくないし、逃げ帰りたいし、生き延びられるならば降参して無様な生をつかみたいものだ。

 なのに、こいつらはどうしてここに残っているのか?何故銃を手に取るのか?

 分かりたくないがなんとなく分かる。

 半分以上感染者が占めるこの部隊に生きる理由を求めて参加したものなどいないということだ。

 

 ようは同じ穴の狢。

 

 足跡は三人か。

 アーツを使っている様子はない。

 銃声も止んでいる。

 全員に待ち伏せするように指示を出す。

 階級的には俺も他の奴らとたいして変わらないがこの状況では、誰もが指揮なんてする気力はないだろう。

 

「ふーっ、と。さてと、死ぬか」

 

 躊躇いは一瞬。その一瞬が死への恐怖とか生への渇望じゃないことは明らかだった。でも、何かが躊躇わせる。

 けれど、振りきるのは容易だった。そういったものは、何度も何度も見ないふりをしてきているのだから。

 

「動くな、手を上げろ。何処の所属だ?」

 

 死角から近づき銃を突きつける。

 これはただの虚仮脅しで、効力なんてないしなんなら銃弾も十発も残ってない。

 ノコノコと近づいてきたこの三人組がまさか俺等に気がついていないとも思えない。

 しかし、先手を取る意味はある。

 こちらにもまだ戦う意思も意地もあるぞという表明にはなるからだ。

 

「……こちらに、交戦の意思はない。君たちを回収しに来た、雇われだ」

 

 それなりに歳をくっている壮年のサルカズの男性が告げる。

 

「完全な味方ではないけれど、少なくともあなたたち感染者の部隊に手を出す気はないわ」

 

 妙齢のサルカズの黒髪の女性が両手を挙げながら言う。

 

 この二人はサルカズのクセに大人しい。

 一先ず俺を組み伏せてから話をしてくると思ったが、理性的なようだ。

 

「アハハ!随分とこっ酷くやられたわね!噂の英雄がいるから足を運んでみたけど、期待違いだったかしら?」

 

 成程。

 こいつを理性的な二人で抑えているわけか。

 赤い目白い髪白い肌。

 濃厚な血の匂いと溢れる殺気。

 ただそこにいるだけ人を殺すのではないかと錯覚させる澄んだ闘気。

 生粋の傭兵なのだろう。軍隊式の儀礼などはなく、あるがままに振る舞う性格を犬歯をむき出しにしながら嗤う姿が表している。

 

「……そうか、俺は」

 

「疫病神、だろう?話は聞いている。唐突で悪いが助かりたければ私たちの旗下に入ってくれ。質問は受け付けない」

 

 疫病神、俺についた二つ名。

 感染者で厄介者でよく人の死を看取っていて、それで一部じゃあ英雄視されてるからついた。皮肉と嘲笑とほんの少しの神聖視が混ざるこの二つ名を俺は心底嫌っている。

 誰だよ最初に疫病神と呼んだやつは。

 

「一つだけ、質問に答えろ。じゃなきゃ、引き金を引く」

 

「あなた、この状況で交渉できると思ってるの?」

 

「お前らが軍に雇われてないのはすぐに分かる。まあ、そこはどうでもいい。お前らがなんだろうと、俺らはどうせ死に体だ。お前らに殺されなくとも勝手に死ぬやつしかいないからな。ただ、死に目に会えた人の名前くらい、呼び名くらい教えてくれよ。明日には仏になってるかもしれないからさ」

 

「……へドリーだ」

 

 男が他の二人に促す。

 

「イネスよ」

 

 黒髪の女性が返す。

 

「え?あたしも名乗るの?……Wよ。ま、忘れていいわよ。どうせ死人が覚えていても仕方ないことだもの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 知らない天井だ。

 

「起きます」

 

 なんつー夢を見ていたのか。うろ覚えであった当時の内容をしかりと思い出させる。それがいいことかどうかはともかく、夢見は悪かった。

 

「また、ぶっ倒れたのか……」

 

 病室で目を覚ます。最後の記憶は近距離の訓練室を出禁にされたので、術師オペレーターの訓練室でケオべと術比べしていたら、ケオべのゲート・オブ・ケオべによる十七連撃をくらって地面に叩きつけられた。

 痛え。

 思い出すと、体のいたる所がズキズキと痛みを発する。

 

 ヤムチャしやがっての状態にて訓練室で倒れていた俺は、ケオべがすぐにラヴァを呼び、ラヴァは姉を呼ぶか迷ったところでたまたま通りかかったアーに助けを求め、アーはいつものことかとウンに俺を運ばせて、病室まで連れてきた。らしい。

 この一連の流れを俺が知るのはまた三時間後のこと。

 

 コツリ、コツリと 病室の外から足音が聞こえてくる。

 反射的に俺は近くの机の上に飾られている花瓶から花を抜いて、花瓶を右手に隠し持つ。いつでも投擲できるように。いつでも、逃げられるように。

 ……何やってんだろう。どうも冷静ではない。変な夢を見たからか。或いは、こんだけ疲労しているからか。どちらにせよまともじゃない。

 

 ガララとドアが開く。

 目線だけをそちらに向ける。

 

「――アハ。久方ぶりに顔を見に来てみれば病室って、だいぶあなたも衰えたわね。疫病神さん?」

 

 赤い瞳、白い髪、白い肌。

 しかし殺気は少し和らいだ。

 サルカズのその少女は昔よりは背が伸びたか。

 片手にリンゴを持っている。

 

「W……お前――」

 

「あら、予期せぬ再会に二の句が告げないのかしら?それとも頭までやられて忘れてしまったの?」

 

「すげぇ、可愛くなったな!!」

 

 リンゴを投げつけられました。




はい、ぐだぐだなこの小説も今年の終わりまでやってこれました。来年はどうなるかわかりませんが、皆さんの暇つぶしになると幸いです。ここまで読んで下さった皆様に感謝。それでは良いお年を。

意味のない用語解説

ゲート・オブ・ケオべ:ケオべの必殺技。ドクター考案、マガツ命名。ゲート・オブ・バビロンのオマージュ。雑種が!!
十七連撃:死徒十七分割。コノメニウー
ヤムチャしやがって:マガツは死ぬ
アー:マガツの扱いに慣れている。
ウン:担架代わりに慣れている。


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神様、仏様、■■■

W引いたぜ。無課金じゃなくなったぜ。可愛いぜ。まさか課金することになるとは思ってなかったぜ。途中でエリジウムの潜在が10くらいになってふざけんなって思った。

あけおめ

アークナイツ知らない人向け用語解説

W:草でも笑いでもない。真っ白い肌に紅い目をしたサルカズの傭兵。3以外の数を知らない。※瞳の色は赤ではなく、琥珀色だそうです。不確かなことを書いてしまい申し訳ないです。
Scout:ちょくちょく回想に出てくる人。故人。



 数年ぶりに支給品のコーヒーを飲んだが、昔飲んだものよりも味はかなり良かった。

 ロドスは何かと金回りがいい様で備品や消耗品、嗜好品等の質が高く直ぐに補給される。

 携帯食料とかも味にこだわっているようで、七種類ぐらい味に区別があってそこそこまともに食える。何でもロドス独自で開発している栄養携帯食料であるとのことで、オペレーターから要望を受けつけて改善しているとのこと。

 現場の人間としては嬉しい限りだがこんなところに金をかけていていいのだろうかと思わないわけでもない。

 文句はないが心配はある。製薬会社として本分の方、鉱石病の特効薬の開発の方にこそ力を注いでもらいたい。……まあ、娯楽に全力を尽くす余裕がないような奴らが素晴らしい発明をできるとも思えないが。

 

「で、どうしてアンタとこんな辺鄙な場所に来ることになってるのかしら?」

 

「お前が他のオペレーターに信用されてないからだよ」

 

 俺はWと共にとある荒野に赴いていた。

 久方ぶりのオペレーターとしての作戦行動であり、久方ぶりのWとの共同作戦でもあった。

 ドクターに『W連れて交渉してきてね。メンバーは適当に見繕ってね』と指令を受けて座標で示された何もない荒野に俺とWは立っている。

 

「アハハ、みーんなビビっちゃってるってわけ?意気地ないのねえ、ロドスのオペレーターは」

 

「皆お前が嫌いなんだよ」

 

 Wの左足が背後から俺の太ももを狙って振り抜かれたので、跳躍して避ける。

 

《跳躍》50→24成功

 

《回避》60→59成功

 

 掠るようなかたちでWの蹴りを避ける。

 あぶねえー。

 成長した分、リーチが長くなってやがる。

 ったく、相も変わらず手が早い――いや、この場合は足が早い、足癖が悪いとでも言っておくか。

 

 Wの拳!!

 

《こぶし》70→11成功

 

「は!?」

 

 1d3+1d4=7

 

「やばっ!!」

 

 咄嗟に右手を盾にする。

 

《こぶし》

《受け流し》50→51失敗

 

 鳩尾(みぞおち)に鋭い一撃が入り込んだ。

 

 マガツHP12→HP5

 ショックロール

 CON対抗60→33成功

 

「ぐ、はっ!!」

「あらあら、か弱い女の子の拳で悶絶するなんて鈍ったんじゃないの?」

「……か、か弱い女の子は、拳の一撃で、意識をとばしかけるほどの威力は出さねえよ!!」

 

 女性から体力の半分以上を失うかのような破壊力に溢れた拳をくらったのはこれで生まれて二度目だった。

 因みに一度目はスカジによるものである。そのときは抗う暇もなく気絶した。

 

「ていうか、なんでアンタと二人だけなの?他の人員は?」

「一時間遅れで来る」

「はあ?ロドスのオペレーターは時間も厳守できないわけ!?」

「まあ、俺がお前に一時間早い集合時刻を教えたからな」

 

 Wの蹴り!!

 

《マーシャルアーツ》70→44成功

《キック》80→10成功

 

1d6+1d6+1d4=16

 

「ちょっ、まて!!」

 

 マガツは止めようとした。

 

《説得》77→50成功

しかし、Wは聞く耳を持たない。

 

 マガツは咄嗟に横へ跳んだ。

 

《回避》60→22成功

 

 Wの蹴りが空を切り、風切り音がマガツの耳元に響く。

 

「お前本気で蹴りにきたな!?悶えて地面に這いつくばる人間を!!しかも、顔面狙って!!」

「虚偽の情報を伝えるアンタが悪い。アタシからすればアンタが消えれば悩みの種が一つ消えて好都合。世の中の多くの人がアナタが死んで喜ぶし、善行と言っても差し支えないわ。ほら、極東でも一日一善とかって言うじゃない?今日の分はコレにしようかと」

「ゴミ拾い感覚で人を殺そうとするなよ。世の中にはお前が思うよりは俺が死ぬと困る奴がいるから、善行であるとは言い切れねえぞ」

「……それはアンタに利用価値があるから困るってことでしょう?」

「やめろ。養豚場の豚を見るかのような目をするな」

 

 確かに、ライン生命の奴らとかロドスの医療チームとか、アーとかワルファリンとかケルシー先生とかその辺りは実験動物を見るかのような目で見てくることもあるし、ドクターは性的な目と駒を見るかのような目で見てくるし、他の俺の知り合いは……やめよ、思い出すと心が苦しくなってくる。

 

「で、なんでわざわざアタシに一時間ズレた時間を告げたわけ?まさか逢引きでもしたかったの?童貞さん」

「童貞ちゃうわ」

「え!?」

「ガチで驚くな。このくだり何度目だと思ってんだ。俺が童貞じゃないことがそんなに驚愕かよ。――いや、別にお前と逢引きしたくて呼んだわけじゃない。ここなら監視もなく立場もなく話せるからな丁度いいと思って呼び出しただけだ。お前にはいくつか聞きたいことがあるし」

 

 「聞きたいこと?」と訝しげな目線を向けてくるWはまるで心当たりなんてありませんよ、とでも言いたげな顔をしている。

 いやあるに決まってんだろ。お前はやらかし過ぎなんだよ。

 

「じゃあ、単刀直入に聞く。Scoutの死はケルシーの判断か?」

 

「…………。」

 

 Wは意外そうな顔をして、笑みが消えた。

 言葉に迷ってるのか、或いは言葉にするのを迷っているのか。お喋りなWにしては珍しい沈黙。昔みたいな見栄をはらねばならないかのようなお喋りを止めたのかもしれない。

 やっぱり、変わった。昔よりもずっと考えるようになった。考えることが増えたのか、深く考えることを覚えたのか。

 いい変化なのか、悪い変化なのか俺には分からない。

 けれど、俺はコイツを殺すことを嫌だと思う。

 

 昔の俺ならば、昔のwならば躊躇なく殺せた。

 何処にも所属せず、所属をできず、根無し草で死に場所を求めていた俺はコイツを殺せた。

 俺も俺で変わった。少なくとも、躊躇するくらいには。嫌だと思うくらいには。

 

 今でも、殺せない訳じゃない。

 例えば、対象がエンカクならば殺せる。

 チェンも殺せる。

 ホシグマ、スワイヤーも。

 

 ペンギン急便の連中も。

 ライン生命の奴らも。

 使徒の善人たちも。

 

 ウルサスの子供たちはどうだろう?

 見逃しそうだな。

 グラスゴーのギャングは?

 あれはシージの選択次第か。

 アビサルの深海組は?

 スペクターにしろスカジにしろ殺しきれる自信がないな。

 

「アンタ、アイツと知り合いだったの?」

 

「一、二回顔を合わせたくらいさ。それもロドスに入る前だからな。Scoutは俺のことなんて覚えてなかったろうさ」

 

 俺もScoutのことは殆ど知らない。

 せいぜい、Scoutが戦っている作戦記録を見た程度のことしか知らない。

 簡単に死ぬようなやつではないと思っていた。

 そういった奴ほど簡単に死ぬということも経験的に分かっていたが。

 

「まあいいわ、アンタの人間関係なんて至極どうでもいいし、もっと言えばScoutのことだってアタシには関係ない。別にScoutの死は誰かの思惑によるものではないわ。アイツの判断とアタシの利益ただそれだけの契約だったわ」

 

「お前が律儀に契約を守るとはね。破るような奴ではないけど、適当に済ますと思ってたんだがな。ロドスに肩入れしているわけでもないだろうに」

 

「適当に済ませたわよ。面倒な殲滅をしなくてラッキーだったわ。爆薬も節約できたことだし」

 

 嘘かホントか。

 Wの表情からそれを読み取ることは難しい。

 

「俺はロドスに賭けることに決めた。だからお前みたいなヤバい奴をどうするか決めあぐねてたんだけど――お前は巻き込むことに決めた」

 

「は?巻き込むって、何に?アタシにはアンタに付き合ってやる義理もなければ時間もないんだけ――」

 

「今日の任務は俺の知り合いがやってくる。お前は知ってるかもしれないけど、俺がロドスに来るまでにつるんでた連中で、ロドスが俺を引き入れた理由でもある組織の重要人物だ」

 

「組織?ああ、あのアンタを神様のように崇め奉っているっていう狂信者の連中のことね」

 

「そんなやべー組織じゃねえよ。親や身寄りがない感染者の保護をする組織だよ。少なくともそんなカルト教団のような組織じゃない」

 

「どうだか。レユニオンにもアンタを信奉している奴がいて気持ち悪かったわ。逆にタルラを含めた幹部の連中の幾人かは親の仇のようにアンタを嫌っていて不気味だったけど。何かしたの?」

 

「レユニオンは、まあ。一度勧誘されて、蹴った。そんときに色々とあってタルラをぶんなぐったらガチギレされた」

 

「…………」

 

 おー、すげえ表情。

 このお喋りな傭兵の二の句が継げない状況を作り出すなんて我ながら天才だな。

 Wでも口を半開きにして固まるなんてことあるんだな。

 

クソガキ(ファウスト)とかにはマジで憎まれたからなあ。別にリーダーぶん殴ったぐらいでそんなにキレんなよって思ったけど」

 

「……アンタが英雄扱いされている理由の一つが分かったわ。よく生きてレユニオンから抜け出せたわね」

 

「敵地から逃げるのは慣れてんだよ。それに見逃してもらったしな。レユニオンもタルラの下に纏まっている一枚岩の組織ってわけではないってこともあったけどさ。俺を好意的な目で見ている奴らがレユニオンで疎外されてないのは、俺みたいな考え方の奴もいるってことだしな」

 

「さらっとレユニオン内部に不和の種をまいてるわよね。アタシもいつ死ぬかわからないような生き方をしてきた自覚はあるけど、アンタほど死に急いではないと断言できるわ」

 

「よせやい、照れる」

 

「褒めてねえよ」

 

 荒野の遠くに砂埃が見え始めた。

 交渉相手のキャラバンだろう。

 ロドス所属のトランスポーターが護衛についているらしい。

 予定時刻より30分は到着が早い。

 同時に無線に通信が入る。

 

「はいよ、こちらマガツ」

 

『こちらフォリニック。マガツ、貴方一体どういうつもり!?小隊の他のオペレーターを置いて先に向かうなんて!!』

 

「悪い悪い、時間間違えて早く来すぎちゃっただけさ」

 

『下手な嘘をつかないで!わざわざケオベに足止めするように頼んだくせに!!――って、ケーちゃん私の医療道具で何をしてるの!?それは貴方の武器のように投げて使う物じゃあ、ああ!!止めて!!アスベストスさんも笑ってないで止めてください!!あれ?ウタゲさんどうしてあなたがここに?え?ドクターに頼んでカッターさんと代わってもらった?そんな話私は聞いてませんよ!?』

 

「大変そうだね」

 

『誰のせいでこうなってると思ってるんですか!!!』

 

「俺に小隊のリーダーを任せ、人員の選考も任せたドクター」

 

『責任転嫁をしないでください!!』

 

「まあ、とにかくお相手さんとトランスポーターたちはもう見えてるから、できるだけ早く来てね」

 

『――っ、皆さん急ぎますよ!!マガツ、作戦が終わったら覚えてなさい!!』

 

「ごめん、ごめん。後で酒奢るから」

 

『貴方とは二度とお酒をご一緒しませんからねっ!!』

 

 忙しない無線通信が途切れ、気が付けばキャラバンはもうすぐ近くまで迫っている。

 

 さてと、久方ぶりの再会となるわけだけどどうなることか。

 

 キャラバンの窓から身を乗り出して手を振る後輩系ヴォルケーノ術師オペレーターを視界に収めながら、俺は支給品のコーヒーを飲み干した。




長くなってぶった切った。
次回はこの続きでマガツの知り合いたちの話。
ていうか、タイトルが回収できなかった。

因みに150連ぐらいでした。シルバーアッシュが二回来たときは思わず叫んだ。
違う、そうじゃない

意味のない用語解説

W:個人的な推しキャラ。無課金タグを外させた女。
《跳躍》:TRPG、特にCoCの技能ロール。1d3は三面ダイスを一度振るという意味。
ショックロール:HPが半分以下になると気絶ロールが入る。ダイスを振って失敗すると気絶する。
養豚場の豚を見る目:でもタバコは咥えていない。
フォリニック:マガツが信用できるメンバーを集めていたら問題児ばかり集まったので急遽まとめ役として抜擢された。二度とマガツたちと酒を飲まないと心に決めた。
組織:マガツがロドスに保護してもらった感染者の組織のこと。基本的には戦闘はできない人ばかりだが、数人フロストノヴァのようなレベルのアーツを持つ人員がおり、ロドスとしては無視できない。
ウタゲ:ドクターにおっぱいでお願いした。
ドクター:おっぱいには勝てなかった。勝つ気もなかった。
カッター:ウタゲのおっぱいに負けたことに勝手にされた。まあ、ウタゲに勝つにはシデロカレベルじゃないと無理だよね。マガツとは旧知の仲。
アスベストス:持ってない。でも可愛い。ギザ歯が好き。というか組織に所属していないような重装オペレーターが殊の外少なくてアスベストスくらいしか適任がいなかった。
マガツ:敵が多すぎてロドスオペレーターでも信用できない者が多い。特にライン生命、龍門、ウルサス人、エンカクは関わりづらい。


マガツの武勇伝其の一
タルラを素手でぶん殴り、その後レユニオンから逃げきった。


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ロドスオペレーターVSマガツ狂信者VSダークライ

この話にダークライはでません(ネタバレ)。
前回の続き。遅れました。

ヤンデレVSお姉ちゃんVSダークライという動画をみたらこうなった。
つまりはそういうこと。

そういえば公式Twitterでアークナイツの公式漫画が始まってましたね。
アーミヤが可愛いけどやっぱりアーミヤで安心した。

オリキャラ多数登場なので注意。

アークナイツ知らない人向け用語解説
トランスポーター:所謂運び屋。アークナイツ世界は移動都市という特殊な都市形態であるため流通系の仕事が儲かるっぽい。
エイヤフィヤトラ:後輩系ヴォルケーノ術師オペレーター。羊がモチーフの女子。鉱石病で目と耳に障害をきたしている。つよい。
ヴァ―ミル:ヴァルポと呼ばれる狐系の特徴を持つ種族のハンター。弓矢を使う。左手が義手。
オリパシー:鉱石病のこと。正確には鉱石病と書いてオリパシーと読む。
アスベストス:サラマンダー系の探検家の女性。有害物質ではない。
ビューティア※:ヘビっぽい特徴を持つ種族。日本版ではまだいない種族。
リーベリ:鳥っぽい特徴を持つ種族。
ザラック:げっ歯類系の特徴を持つ種族。


 交渉の席では紅茶を出された。

 ここにいるメンバーが大体紅茶派だったのが問題だ。

 かなしいね。

 

「正直に言って、君がここに来れるとは思っていなかったよ。ロドスは意図的に私たちとの接触を避けてるんだと予測してたんだけど、考え過ぎだったかな?」

 

 黒髪黒目、東洋人らしい顔立ちの白い防寒着を着た女が俺たちロドスのメンバーの目の前に座っていた。

 荒野のど真ん中に用意した交渉の席は空き箱とか携帯椅子とか簡易テーブルを引っ張りだしてのピックニックのような粗雑なものだが、トランスポーターとして各地を回っている目の前の女に不快感を感じさせるようなものではなかった。

 

「それだけ俺もロドス内で信用されてきたってことさ。それに、変に拘束していますってアピールになるようなことをしたくないんだろ。何度か外部への派遣もあったし、手紙を出すことなんかは許可されてたし。流石に直接的な接触には許可が必要だったけど」

 

「あのーマガツ先輩、話の腰を折って非常に恐縮なんですけどこちらの方は一体どなたなんですか?」

 

 ウタゲが俺の隣に座ってそう聞いてくる。

 まあ、ウタゲは急遽参加したこともあってなんら話をしていなかったから説明が必要か。

 

「そうだな、目の前のコイツはトガタ。昔からの知り合いで、今回の交渉相手――『オノコロ』の重役、第……第何隊長だっけ?」

 

 忘れた。

 一年は戻ってないからなあ。

 

「参」

 

 目の前の黒髪女性、トガタが補足する。

 

「第参隊長。まあ、『オノコロ』なんだろ?区分的には企業?民間軍事組織?ロドスに近いけどそこまで組織的じゃないしなあ」

 

「一応、非営利組織だよ。感染者、非感染者問わず身寄りもなく生きる能力もないそんな弱者の保護を目的とした団体ってことになってるね。まあ、それはお題目でやってることは今にも死にそうな奴に食事と生きる目的を与えて楽しくつるもうっていう組織」

 

 トガタはのどを潤すように一回言葉を切って紅茶を一口飲む。

 ウタゲの方を向いて説明しだす。

 

「緩くやってるから入るも抜けるも自由。元々はアラガ――ああ、えっと、そこのマガツが集めてしまった人々の生活支援する集まりだったんだけど、もっと精力的にやろうって言いだす奴がいてね。そんでまあ、賛同した連中とか、感染者に協力的な企業とか、レユニオンや傭兵なんかから抜け出してきた輩とかをまとめたんだ。迫害から身を守り、レユニオンから身を守り、災害のせいでにっちもさっちもいかない連中を支援する、そんな感じ。ロドスみたいに大きな企業とかってわけじゃないから――資本とかないし、こじんまりとやってる。人畜無害な矮小な組織さ」

 

「改めて聞くと胡散臭いな」

 

「先輩、それ自分で言っちゃう?ていうか、今サラッと先輩の本名らしきものが――」

 

「ねえ、ホントにこの女がトガタなの?不死身って噂のトランスポーターの?」

 

 交渉には興味なさそうにしていたWが話に入ってくる。

 トガタの名前に聞き覚えがあったのか珍しく興味を示している。

 人の名前をよく覚えている奴でもないのにな。

 

 名前を覚えられないのは自分にも言えることだが。

 

「不死身ではないけど、トランスポーターのトガタはあっているよ。トガタなんて名前、極東にでも行けばたくさんいるけどね」

 

 トガタは白々しく答える。

 九割九分不死身みたいなもんだけどね。

 不老でもあるし。

 いくらアーツというぶっ飛んだ力があるとはいえ、体の九割以上消え去っても再生できるような能力はいき過ぎてるとは思うが。

 九割消失して再生した人間が果たして元の人間と同一人物なのかは甚だ疑問だけど。

 記憶とかなくなっていそうではある。

 

「再生能力を持つトランスポーターの女性は間違いなく世界にトガタさん一人しかいないと思いますけどね。黒髪黒目というのも珍しいですし」

 

 と、同じくトランスポーターのエイヤフィヤトラがお茶請けのプレーンクッキーにマーマレードを塗りながら口をはさむ。隣でケオベが眼をらんらんと輝かせながら待機し、ヴァ―ミルが何とも言えない顔で紅茶を啜っている。

 この三人にはコーヒーより紅茶の方がいいか。特にケオベがコーヒーを好むとも思えないし。

 

 因みにトガタのキャラバン護衛にはエイヤフィヤトラの他にアーススピリットとプロヴァンスがいたのだが、二人は先にロドスへの報告を行いに向かった。エイヤフィヤトラが残った理由には護衛中の報告と引き継ぎに一応一人は残る必要があることと、彼女自身がトガタ自身に興味を持っているからだ。

 

 トガタは長年トランスポーターを、それこそ俺と出会うずっと前からやっていたので話の種は尽きない。

 天災やオリパシーについて興味はないが長年生きている分の知識はあるのでかなり詳しいし。

 凄い奴であることは間違いないし、かなり自分本位なことを除けばいい奴でもある。

 

「黒髪黒目が珍しい、ねえ」

 

「ロドス内でも少ないからなあ」

 

 トガタが俺の方を向いて笑いかけるのに対して、俺は肩を竦めて返す。

 黒髪単体、黒目単体はそれなりにいるのだが黒髪黒目はとてもレアだ。

 トガタと俺が一緒にいるこの状況はテラにおいて中々に希少なことなのだろう。

 

 黒髪黒目は珍しいことではあるがそれを理由に虐められるようなことはなかったし、逆に貴重な者扱いされることもなかったけどね。

 見た目の差異による周囲の迫害が殊の外少ないのはこの世界の特徴なのかもしれない。

 代わりに鉱石病と種族に対する迫害が酷いが。

 前世の黒人差別や公害による病の差別を鑑みればごくごく当たり前のことなのかもしれないが。

 

「……ていうか、トガタさんはマガツ先輩とどういう関係?彼女?」

 

 そんなのんびりとした雑談にウタゲは臆することなくストレートど真ん中160キロの剛速球を投げ込んできた。

 

 俺はもちろん絶句して固まり、余計な小言を挟みそうだから静かにしておくわと気遣いを見せてくれていたフォリニックですらティーカップを持つ手が静止し、退屈そうにしていたアスベストスがオイオイ、死ぬわコイツといった驚愕の表情を見せ、ヴァ―ミルは野生の本能かスッと身構え、エイヤフィヤトラはクッキーを手落とし、ケオベはそのクッキーが地面に落ちる前に口でキャッチし、Wのみ興味なさそうにしていたが傭兵の勘が働いたのか手元の銃を引き寄せ一歩引いていた。

 流石はウタゲである。俺の後輩を自称するだけあってたった一言で状況を一変させた。恐ろしい子!

 

 トガタはその言葉を聞いて一瞬呆けた顔をした後、ニヤニヤとした顔をして俺のことを見てきた。

 絶対に悪いことを考えている顔である。

 

「ええー、それ聞いちゃう?なんて答えよっかなー、まあ親友以上の仲って言うかー、恥ずかしいところを全て見せた仲っていうかー」

 

「――トガタさんとイブ――いえ、マガツ様は恋仲ではありませんし過去に恋仲であったこともありませんよ」

 

 適当なことを言い始めたトガタの背後から一人の白装束を着た女性がよく通る透き通った声でトガタの証言を否定した。

 白髪に赤目。典型的なアルビノの容姿(アルビノに典型的という形容詞を付けるのもおかしな話だが)。

 白装束は着物にフードを付けたような服装で、イメージとしては白いローブを和服っぽくしたようなものだ。

 種族的特徴としてその装束からはみ出るように爬虫類っぽい見た目の鱗のついた白い尻尾がはみ出ている。

 

「お前は、スワか」

 

「……お久しぶりでございます、マガツ様。お会いしとうございました。一日千秋の思いでこの日を待ち望んでおりました」

 

 そう言って、スワは深々と頭を下げる。

 ……しばらくぶりに会った友人に対する態度というよりは、なんというかもっとこう憧れを超えた何かのような仰々しい態度を見せる。

 あっれー、昔は物腰丁寧ながらも同年代として落ち着いた友人っぽい雰囲気だったんだけどなあ。

 

「アカメちゃん、君たちとの時間はまた別でとるって言ったのにもう我慢できなくなっちゃったの?」

 

「申し訳ありません。しかしながら、あまりにも聞き捨てならない会話でしたので。あらぬ誤解を生んでイ――マガツ様がお困りになるのは看過できませんから。ただでさえ誤解を解くのが苦手な方ですもの」

 

 トガタとスワの会話ぶりからすると、スワは交渉自体に参加する気はなかったようだ。

 じゃあ、なんでついてきたんだよという話はしない方がいいかな。

 流石にそこまで言うほど無神経な人間には成りたくない。

 というか、スワさんさっきサラッと毒吐きましたね。

 

「はあ、まあ、もういっか。別にもったいぶるつもりはなかったし、どうせ紹介するし、アカメちゃんたち皆ロドスの方々に自己紹介しちゃおうか」

 

「かしこまりました」

 

 そういって、アカメを筆頭にトガタに着いてきていた『オノコロ』の三人が自己紹介を始める。

 

「極東出身のビューティアのアカメと申します。『オノコロ』には決まった所属などはないのですが、トランスポーターのお手伝いとしてよくトガタさんと共に行動をしています。義務教育を受けていない身なのでこれといった専攻はありませんが、炊事や裁縫・掃除などの家事全般。帳簿つけるような金銭管理、武器や食料といった消耗品の在庫管理などの事務仕事。戦闘は得意ではありませんが呪いをかけたりするのは得意です」

 

 最後の一文いるだろうか。凄い物騒な一文が加えられたものだ。

 スワはトガタと仕事をしているときに拾った極東の名家の生まれの元お嬢さんだ。

 鉱石病に罹ったときに家から追放され、まともに職に就けずに餓死寸前までいって廃屋でぶっ倒れていたのをトガタと見つけた。

 おまけにアーツも暴走気味で触れる人々の体調を片っ端から悪くしていくので、その訓練に付き合ったりと何かと大変だったお嬢様だ。トガタや俺より家事が得意で、特に和風料理の腕は素晴らしく共同生活中は色々と助かったときもあるが。感情が高ぶると未だにアーツが暴走するので危険人物の一人である。

 

「どーも、カルラです。種族はリーベリで『オノコロ』では情報屋として働いてます。火のアーツを多少使います。育ちはスラムなので学はあんまりないです。よろしくお願いします」

 

 次に名乗ったのはカルラだ。

 短い黒髪に黄色い瞳、黒の羽毛を持つ少女。

 龍門にいたときに詐欺を働いたのがばれて捕まりそうになったのを匿ってやったのが出会いである。

 聞き上手でポーカーフェイスであるカルラは人から情報を集めるのが得意だが、龍門に流れ着きよそ者扱いされギャングに嵌められて路頭に迷う羽目になっていた。その頃俺は龍門で何でも屋みたいなことをやっていたのでカルラの情報をちょくちょく買ったりもしたものだ。

 

「ハツカ。ザラック、運び屋。土塊(つちくれ)遣い。ドンパチより逃げる方が得意。よろしく、いえーい、ぴーす」

 

 ニコリともしない笑顔と一切の抑揚のない挨拶に横ピースを合わせてきたのはハツカ。

 独特な白と黒の二色入り混じったボブカットに褐色の瞳をもつ女性。

 背は低いが俺より三つは年上なはず。

 元々は娼婦かマフィアかの二択でマフィアに入り、伝達係のような仕事をしていたが麻薬等の危険なものを取り扱い始め、終いにはやらないと明言していた枕仕事をやらされかけたところで俺の何でも屋に駆け込んできた女性である。おかげで、マフィアと抗争状態みたいな状況になるし事務所を引っ越さなきゃなったしで相当な割を食ったものだ。

 武闘派ではあるがアーツは術師向きの癖にノーコンなので、もっぱら攪乱させるような戦い方をする。

 生活力皆無な女性なためよく龍門にいたころはスワの料理をたかりに来ていた。

 

 あの頃は闇医者やってたアーとかその保護者のウンと付き添いのワイフ―とかが龍門じゃあ珍しい極東の家庭料理を食いに集まったりしたもんだ。

 まさかロドスに来るとは思ってもみなかったが。

 

「ていうか、なんでこんな問題児の人選にしたの?もっと落ち着いた奴にすればよかったじゃん。イヌガミギョウブとかさ。後なんで三人とも同じ白装束なの?制服?見たこと無いんだけど」

 

「志願してきた仕事的に連れてって問題ない奴らの中で、私の独断による血も涙もない厳正なるじゃんけんで決めたぞ。アーツの飛び交うじゃんけんなんてそうそうお目にかかれない貴重なものだったな」

 

「やっぱりトガタって、本当に……バカだよね~」

 

 アーツは禁止にしろよ。下手な刃物よりも危険なんだからな。特にスワのアーツは。

 

「アカメちゃんはアーツ的に皆が勝ちを譲って、現状の実力的なトップツーの二人が順当に勝ち上がった感じかな。白装束は半年前くらいから一部のメンバーが着始めたけど詳しいことは私も知らん」

 

「この装束は特定の条件を満たしたメンバーに配られる仕事着です。トガタさんは申請すればすぐにでももらえますよ」

 

「いらね。邪魔くさい」

 

 白装束の説明はトガタからスワが補足したが、トガタはにべもなく返す。

 なんとも宗教染みた仕事着だこと。

 覆面被ったらKKKのあの服だな。

 

「……まあ、トガタさんが先輩の彼女じゃないって言うことは分かった。何故か全員が女性であることについては先輩に小一時間は問い詰めたいところだけど、これ以上話遮るのはアレだし止めとく」

 

 ホント女性ばかりだよな。

 ロドスのメンバーだって連れていける範囲から適当に選んだらこうなった。

 ウンはアーがいるから連れて行けないし(アーを連れて行くという選択肢はない)、行動予備隊とかの連中は軒並仕事入ってたし、イーサンは見つからなかったし。

 ジェイとかに頼みにいけばよかったかなー。でも厨房仕事で忙しそうだしなー。

 

「――おっぱい妖怪、逆に問う」

 

 と、抑揚のないハスキーボイスのハツカが少しだけできた会話の間に割り込む。

 ハスキーボイスな割に聞き取りやすいのは下手に声に抑揚をつけていないからなのかもしれない。

 ウタゲの方を見ながら話しているのでおっぱい妖怪とはウタゲのことなのだろうが、その呼び方はいかがなものだろう。

 まあでも、ウタゲはギャルで虎耳で蛇の尻尾でおっぱいがでかいという属性過多なのでおっぱい妖怪ぐらいが的を得ているのかもしれない。

 ……心の中でウタゲの呼び名が決まった瞬間である。

 

「お前、マガツの何?」

 

 いてつくはどう(本日二回目)。

 

 え?終わった流れじゃん?

 もういいやって感じだったじゃん。

 ていうか、なんで俺の女性関係調べようとしてるの?

 重要?

 そもそも恋だの愛だの考えるよりも生き延びること(あるいは死んで終わること)ばかりを考えてきた甘酸っぱいどころか血反吐の味がした青春を過ごしてきた俺の女性関係を調べて何が楽しいの?

 

 落ち着き始めたウタゲ以外のロドスメンバーがまた警戒態勢に入っちゃったじゃん。

 ケオベがいつの間にかお茶請けのクッキー全部平らげているの気が付いてヴァ―ミルの尻尾もしょげてるじゃん。

 

「う~ん、先輩後輩であり、背中を任せ合う関係であり、一晩をともに過ごしたこと(お酒飲むという行為だけで夜が明けた)もある仲かな?」

 

「…………。」

「…………。」

「…………。」

 

 沈黙という名前の稲妻が轟く。

 

「なにこれ。おもろ」

 

 トガタの茶化すような一言が合図だった。

 

 チンッ、と鯉口を斬る音。

 

 空気が圧迫感を持ち、同時にブワリと背筋に悪寒が走る。

 

 俺の動体視力が捉えたのは赤い炎と黒い靄が線を引くように目の前に現れ、間髪入れずに紫の剣閃がそれをかき消すさま。

 

 気が付いたときにはウタゲの持つ名刀獅子王が切り上げられた状態で抜刀されており、一拍遅れてウタゲの背後の荒野でボフンと砂埃が舞った。

 

 ツーとウタゲの隣にいた俺の頬から何かが掠ったような傷から血が遅れて流れる。

 

「へえ、なかなかどうして」

 

「……危ないなあ、先輩に当たったらどうするつもりだったの?」

 

「少し火傷する程度ですよ。それに、ここには優秀なロドスの医者とトガタさんがいるから問題はありません」

 

 

 睨み合い。

 龍虎相まみえるというよりは妖怪大戦争のように俺には見えた。

 君らやってることが禍々しすぎている。

 

「――はいはい、そこまで。面白いけど交渉の席をぶち壊しかねないからそれ以上は止めてね」

 

 パンパンと手をはたいてトガタが場を収める。

 スワたち三人は直ぐに剣呑な目つきを潜め引き下がり、ウタゲは獰猛な笑みを消して太刀を納刀する。

 

「じゃあ、邪魔が入る前にさっさとお話進めちゃうか――といっても、もう報告だけだけど。ロドスからの物資の支援のお返しにうちの『オノコロ』からこの三人をロドスオペレーター(仮)として引き渡すことになったから。よろしく面倒を見てあげてね」

 

 は?

 俺、それ、聞いてない。




はあ、疲れた。長くなりすぎた。

というわけで、かなりオリキャラが登場する回でした。
あんまりアークナイツキャラを改変したくないのでマガツの過去に関わる話はオリキャラが増えます。
今回の話は色々と賛否あると思うのでちょっと皆さんの意見が欲しかったりします。
具体的にはオリキャラの出しゃばり具合についてですね。
場合によってはアンケートをとります。

……自分の性癖を出し過ぎてごめんなさい。

オリキャラ解説

スワ:本名スワアカメ。アーツに触れた人の抵抗力を弱くするアーツを使う。つまるところ病気的な意味で体を弱体化させる。かなりヤバいアーツ遣い。フロストノヴァレベルでヤバい感じの暴走をしていた。モチーフは白蛇。狂信者その一

カルラ:モチーフは烏。火のアーツを使う。アーツ制御が異常に上手く、燃え方、燃やす時間、火柱の規模などを思いのままに調節できる。放火を自然発火に見せかけるなんてことも易々とこなす。狂信者その二。

ハツカ:モチーフは鼠。土塊を操り壁を作ったり砂塵を起こしたりできる。証拠隠滅に便利なアーツ。狂信者その三。

トガタ:とある漫画のキャラが元ネタ。とはいえ、元ネタの性格五割と作者の妄想五割のオリキャラ。アーツはスペクターのような再生能力。再生能力が高すぎるため疑似的な不老不死。マガツの幼少期を支えた人物。多分一番やべー奴。

意味のない用語解説

オノコロ:マガツの組織の名前。構成員100名足らず。マガツたちが保護した人物は200名ぐらいおりそのうちの半分はロドスの庇護下に入っている。マガツがロドスに入ったことで一応ロドスと協力関係。マガツのあずかり知らぬところでロドスと取引している。
オイオイ死ぬわ:ほう、炭酸抜きコーラですか…。たいしたものですね
恐ろしい子:漫画版だと画風が変わります。
白装束:白無垢。巫女とかって神に仕える職業だしね。
いえーい、ぴーす:僕はキメ顔でそう言った
イヌガミギョウブ:恐らく今後も登場しないオリキャラ。心に心心してみよ。
本当に……バカだよね~:フクナガ
KKK: Ku Klux Klan。アメリカの秘密結社。恐らくバカテスのFFF団の元ネタ。
いてつくはどう:なにゆえ もがき 生きるのか?
名刀獅子王:ウタゲの太刀。描写されてないがウタゲはお茶請けなどが置かれている簡易テーブルの下から抜刀し、相手のアーツのみを断ち切っている。


※スワの種族をビューティアのところ誤ってサルゴンと書いていました。サルゴンは地名でビューティアの方が蛇っぽい種族を表す名称でした。誤情報を載せてしまいすいませんでした。


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休日に出くわすと気まずい

メンテ中の暇つぶしにでもどうぞ。

七章のストーリーを読んだ人には分かるかもしれない要素があります。
ネタバレって程じゃないですけど。

あと、ペンギン急便のメンバー出せていなくてすいません。
七章を進めていたら早めに書くべきだと思って今回の話を書きました。
アンケートの結果を無視する形になって申し訳ないです。

アークナイツ知らない人向け用語解説
ジェイ:死んだ魚の目をした青年。料理人。魚を捌く。白熊。
ホシグマ:鬼の女性。背が高い。姉御肌。公私はしっかりと分けるタイプ。
スワイヤー:お嬢様。金持ち。たいがーって感じ。
チェン:龍の女性。アークナイツの中でも上位の怪物。詳しく話せば話すほどネタバレになる人物。体育会系。
赤霄:刀。とある人物が使うとヤバい威力を発揮する。ちょくちょく抜けない。


 飲み干したコーヒー缶を捨てて次の一缶を冷蔵庫に取りにいく。

 

「積んでいた本も読み終えたし、やることねえ」

 

 再び謹慎をくらっていた。

 今回の謹慎の理由は悪いことをしたからではなく、新しくロドスに来た『オノコロ』の三人娘と一週間ほど滞在するらしいトガタがメディカルチェックを受けるため、彼女らの面倒を見てほしいとのことで。いつもの基地での仕事や戦闘訓練がなくなりメディカルチェックが終わるまで自室待機となった。

 表向きは検査による彼女たちのメンタルをケアしやすいようにするための気遣い。

 裏の意図は主にトガタと他三人の経歴やアーツを調査するにあたって俺に妙な動きをさせないため。

 

「…………。」

 

 視界の端の部屋の隅、レッドが自然体でこちらを向いている。

 監視役であり、ケルシ―先生の直轄であるレッドを持ってくるあたりかなり警戒されているのだろう。

 他にいつもの護衛役という名目で誰かを付けていないあたり本気なんだろうということがうかがえる。

 状況によってはレッドを使って俺を処刑することも辞さない。

 そのために他のオペレーターがいると厄介であるとの判断だろうな。

 

「レッドもコーヒーとかいるか?」

 

「いらない。レッドはコーヒーが苦手」

 

「さよか」

 

 用意した椅子に座ることもなく、壁に背を預けることもなく、腕組みすらしないでかれこれ一時間程度はじっと見つめてくるレッドは流石一流の暗殺者である。

 飼い主に言いつけられたことは絶対遵守するよくしつけられた猟犬だと感心する。ループスは狼だが。

 テキサスしかり、ラップランドしかり、ループスの連中はおっかない連中ばかりである。

 

 プロヴァンスは除く。

 オリパシーによる突然変異は性格を優しくさせる効果でもあるのかな?

 エステルもいい子だしな。

 

 ……いや、元からの性格か。

 感染してグレてしまった連中の方が多数派だしな。

 

 監視が付くことに対して俺は不満はない。

 問題はあの三人とトガタがロドスにどういった感情を抱くかである。

 彼女ら全員が全員今までの経験からか或いは処世術なのか知らないが本心を隠すことが上手い。笑ってるようで怒り心頭だったり、楽しんでいるようで悲哀に沈んでいたりする。特にトガタは一番生きている年月が長いこともあってか表情と言動と行動と心境が一致しないことが多い。

 そんなことしていたら疲れそうなものだけど。

 感染者が人を信用しない、心中を顕わにしない、喋らない表情を出さない、というのはよくあることだし、ロドスはその手の感染者に対しても経験を積んでいる方なので大丈夫だとは思う。

 

 けどなあ、トガタは落ち着いてるからいいとしてもあの三人は極端だからなあ。

 性格もアーツも。

 

「不安だ……」

 

「?」

 

 レッドが首を傾げるのを見て、俺は何でもないよと手を振って返す。

 微糖の缶コーヒーを選んで部屋の椅子へと戻る。暇つぶしに読んでいた感染生物図鑑へんないきもの編を読むことを再開する。

 あ、ポンペイだ。この前ジェイが捌いていたな。あのウルサスの魚捌きの青年はなぜ感染生物の捌き方も知っているのか?捌いたのか?

 

『rock’n roll!時刻、ヒトヨンマルマルになったことをお知らせします!!』

 

 購買部の福引で当たった某暑苦しいレイジアン工業のロボットの見た目をした目覚まし時計が時間を告げる。

 アラームが爆発音というやかましいことこの上ない目覚まし時計だが、ほぼ確実に目覚めさせてくれる優れものでもある。

 何気に赤外線センサーで熱源感知し、人がいるときにのみ音を発する仕組みになっている高性能な目覚まし時計だ。

 あの購買部の主はこういうことには本気出すよな。

 

 声がうるさいので(いい声だが暑苦しい)レッドが耳をピクリと動かしている。

 作りはいいがうるさい。

 目覚ましとしては適しているが鳩時計としては他のロボットの声の方が適しているなと、購買部の皆様からの声をお聞かせくださいの紙に評価を書くことを決めながら図鑑を閉じて、部屋を出る用意をする。

 

 14時にはメディカルチェックが終わると言われているので、医務室の方へ向かうことにする。

 部屋を出ると無言でレッドが後ろからついてくる。

 宿舎の廊下は今が仕事真っ最中の時間帯であることもあってか人気は少ない。

 ……ロドスの廊下は監獄を彷彿とさせるような閉塞感があるよな。人気がないとちょっとしたホラースポット感が出る。社畜の幽霊が出そうだな。

 

 

 

 そんなCEOに怒られそうなことを考えながら(いやロドスのCEOはそこまで狭量ではないが。……ホントダヨ)、廊下を歩いていると目の前から人影が複数近づいてくるのが分かる。

 

「薄暗くて人っ気のねぇ場所ですね……牢屋みてえだ」

 

「ここは宿舎だ。ロドスのオペレーターは主にここに寝泊まりしている。今は外客用の施設を使っているがジェイもここに移ることになるだろう」

 

「……本当にここに皆が寝泊まりしているの?龍門近衛局の独房よりはマシだけどあまりにも殺風景が過ぎるわ。後で観葉植物でも買ってこようかしら?」

 

「無駄なものがなくていいと思うがな。陰気くさいとも言えなくはないが」

 

 ……お、おおう。

 龍門の皆様のお通りだ。

 

 灰色の外套にダメージの入ったズボン。白い丸耳に死んだ魚のような目をした青年はジェイ。この龍門面子の中では唯一知り合いで、何度か食事をごちそうしてもらったこともある料理人。ロドスに加入したのは最近でホシグマの紹介とは言ってたな。

 そのホシグマはジェイに宿舎のことを説明している大柄の女性。緑色のストレートヘアーに額から伸びる一本角が印象的。俺と同じ極東出身の鬼の女性であり、龍門近衛局と呼ばれる龍門の治安維持組織に所属する役人さん。元マフィアの出身で荒くれ物の一面もあるが仕事には真面目。龍門近衛局に入る前からの顔見知りだが別に交流はなかった。ジェイの姉貴分的存在だが紹介される前にホシグマは近衛局に行き俺は傭兵としてあちらこちらに行くことになりすれ違った感じだ。ロドスと近衛局の協力体制は知っていたが気まずくて顔は合わせなかったからなあ。

 

 そして、残りの二人はスワイヤーとチェン。

 スワイヤーは高そうな黒に裏地が橙の外套を羽織り、おしゃれな帽子と三角虎耳、お嬢様っぽい金髪縦ロールが特徴的な女性。実家は龍門の豪商で本当にお嬢様。だが、何故か近衛局に所属している。近衛局の地位もかなり高いと聞く。面識は一度見たかどうか。俺は思い出せたが向かうは覚えているかどうか怪しい程度の面識である。

 最後にチェン。龍の女。青髪に東洋の龍を思わせる二本の角。ロドスのジャケットに短パンブーツの服装。近衛局のトップ。俺が龍門で大立ち回りをした時に最終的に殺し合うことになった人間。達人レベルの剣術と一撃必殺のアーツを放つ怪物。龍だしな。お互い死んでもおかしくない程度には殺し合ったのでいざこうやってロドスのオペレーターとして顔を合わせると気まずい。龍門近衛局で一番合いたくない人物。龍門で嫌いな人物第四位でもある。嫌いというよりもトラウマなだけなのは秘密。鉄筋コンクリートを剣でぶった切る女。

 

「む。」

「あら?」

「おや」

「……どうも」

 

 向こうもこちらに気が付いたようで四者がそれぞれの反応を返す。

 チェンはまゆを顰め、スワイヤーは何処かで見たことあるか思い出しているような感じ、ホシグマは珍しいものでも見るかのような反応で、ジェイは会釈をしてきた。

 

「……お久しぶり、ですかね?」

 

 何て声をかけるかわからなくて疑問形になる。ジェイはともかく他の面子はほぼ初対面みたいなものだ。それに気まずい龍門では問題を起こしてしまったので役人――とくに龍門近衛局とは顔を合わせづらい。龍門にいたころはまさか仲間として再会するなどとは思っていなかったので、啖呵きって挑発して殺し合って逃げた。死人は出てないが恨まれていそうだ。

 

「ロドスにいるとは聞いていたが、こんな形で出くわすとはな」

 チェンが一番最初に反応する。

「もしかして、彼があの疫病神さん? チェンのアーツを真正面から受けても生きてたって言う」

 スワイヤーは確証はなかったようだが俺の疫病神という昔の呼ばれ方は知っていたみたいだ。

「昔よりも幾分か柔和な顔つきになってるな。疫病神も変わったということか」

 そう言ったのはホシグマで何故か感心しているかのような表情だ。

「皆さん、疫病神は好んでいる名前じゃねぇですから、ここではマガツって呼んだ方がいいと思いますぜ。……お久しぶりですね、ジェイです。覚えていやすか?」

 最後にジェイがそう補足してから俺に話しかける。

 

「ああ、覚えているとも。顔こそ合わせてなかったがロドスに加入していたことは話で聞いてたよ。何でもポンペイとかいう巨大な感染生物の相手を初陣でやらされたとかなんとかって聞かされたが、本当か?」

 

「ああー、事実っすね。あんな巨大な生物を捌くのは初体験やしたけど」

 

「全く、ドクターも新人に無茶させるなあ。各々の特性を最大限生かしているともいえるけれど、もっと楽な任務からでもよかっただろうに」

 

「信頼してもらえる、新人でも仕事を回してもらえると思えば悪かねぇですけどね」

 

 ジェイからはあまり気負っている様子や不安な様子は見受けられない。オドオドするような奴でもないがロドス雰囲気に馴染めないということもなさそうで知り合いとしては安心する。

 

「…………。」

 

 そんな俺とジェイのやり取りをじっと見つめている奴がいる。

 

「チェン、どうかしたの? そこの彼と何かあったの?」

 

 スワイヤーが視線を行き来しながら言うくらいには彼女は凝視している。

 その眼差しに敵意や憎悪はなさそうだが、なんとも居心地が悪くなる。

 ヘびにらみかな?

 龍だった。

 

「――変わった、か。確かに、変わったな――比べ物にならない程に」

 

 チェンはやがて俺に向けてそう言った。

 そんなに変わったか?

 精々三、四年前程度のことだけど。

 背は伸びたし、身なりもよくはなったが。

 

「……どうやら上官には因縁があるようですね」

 ホシグマが肩を竦めて言う。

「えっと、マガツさん。なんかやらかしたんですか?」

 ジェイがチェンを窺いながら俺に聞く。

 

 周りの奴らは知らないのか。

 龍門で流血沙汰になった事件だから事件自体は有名だと思うが、個人的な事情までは知らないのかもしれない。 

 

「やらかしたのは俺だけど、恨み言言いたいのも俺なんだけどなあ」

 

 一方的にやられたし。

 今更、同じロドスに所属することになって言うことでもないけど。

 未だに恨んでいるわけでもないからなあ。

 

「……唯一だ。唯一、抜刀した赤霄の一振りを受け止めた。後にも先にも真っ向から受け止めたのはお前ぐらいなものだ」

 

「ああ、ね。ほら、鉈ってコンクリよりもしなやかだし、あれもあれで曰くつきだしね?」

 

 チェンの言葉にそんなこともあったなあと思いながら返す。

 コンクリの柱を気にせずに抜刀し柱は真っ二つ、俺はどうにか鉈を差し込んで受け止めた。

 完全に受けきれなくて吹っ飛んだけど。

 あの剣、赤霄とか言う銘がついているのか。

 アーツ兵器っぽいし、何やら特殊な刀なのだろうとは思ってたけど。

 俺の普段使いしている鉈にも何かしらの銘をつけてやろうかな。

 

 『神絶(かんだち)』とかどうだろうか?

 

 ……止めておこう。ただでさえ呪われているとの噂なのだから。

 

「それは、それは……また、とんでもないことする方だ。疫病神という名前も不吉さよりも底知れなさを表してつけられたのかもしれませんね」

 

 ホシグマが感心したように言う。

 スワイヤーもありえないと思っているかのような驚愕した表情を見せる。

 

「不吉か……。当時のお前に疫病神などという通り名があったとは知らなかったが、あのときのお前は不吉というよりは禍々しかった。赤霄を抜くのに躊躇わなかったほどには異常な奴で、異形だった。……腑抜けたな、随分と」

 

 チェンは少し騒めく周りを気にせず俺のことを評した。

 

「腑抜けたねえ。ロドスじゃあ張り詰める必要もなくなったからなあ。飯は上手いし、雨風は吹き込まないし、何よりも医者にかかれるからなあ」

 

 俺は努めて気楽にそう言った。

 周りが少し静かになった。

 チェンと俺は数秒目が合う。

 どっかで見たことあるような鋭いまなざしが喉をひりつかせる。

 おっかないお役人さんだ、と思いつつ俺は目を逸らし歩くのを再開する。

 「用事があるんで」と、言って龍門の皆様方をすれ違う。

 チェン以外は困ったような顔をして俺を見送り、チェンはすれ違いざまにこう言った。

 

「――任務にあたるときは、よろしく頼む」

 

 …………。

 育ちがいいね。

 どっかの誰かにも見習ってほしいほどには。




七章をゆっくり攻略しているのですが、これは書くしかないと思うほどにはいろんな情報が満載です。
四、五章から一切休む暇なく話が続いているのでどこにどの情報があったのかわからなくなりそうです。
ただでさえストーリ把握が困難だというのに。

龍門近衛局のメンバーを先に出すことになってしまって済みません。旬を逃したくなかったというのと、後回しにするにはマガツとの関係性が深すぎると思ったからここいらで登場することになりました。
この二次創作の設定とかプロットが色々滅茶苦茶になりつつあります。
これも全部設定が多すぎる女性オペレーター『C』とレユニオンの『T』っていう女性のせいなんだ。
ペンギン急便の面子もちょくちょく出そうとは思います。
ウルサスの学生たちとかライン生命オペレーターとかの話も書きたいんですけどね。
イベントとかキャラ追加とかがあるとついそっちに流れてしまう。

意味のない用語解説

某暑苦しいレイジアン工業のロボット型目覚まし時計:CV緑川光。自爆できる。
ロドスのCEO:かわいい。やさしい。くろうさぎ。
ポンペイ:まさか一人の料理人の手によって解体されるとは……
へびにらみ:おなかの もようで おびえさせて あいてを まひの じょうたいに する。
『神絶』:かんだちは神立、雷のこと。上達部ではない。四話(しち)でマガツが使っていた鉈型の武器。棄てても戻ってくる。
コンクリ:素手でコンクリぶち抜くジャンプの主人公がいますね(現在形)。


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