NEON GENESIS EVANGELION RETROGRESSION (ASNE)
しおりを挟む

After the end of EVANGELION1

新劇場版シリーズ完結編が楽しみすぎて、過去のエヴァ小説を読み漁っていたら、過去に温めていたアイデアをもとに書きたくなったので初投稿です。ベースはTV版新世紀エヴァンゲリオン。


ある老人たちが画策した、人を群体から単体へと戻し、行われようとした人の心の補完。それは、思わぬ形で成ることはなかった。人類の母たるリリスはその形を失い、地球からもっとも栄えた生物であるリリン―人類は赤き海と化し、浜辺にたった一組の少年少女が残された。この世界の形を変えたサードインパクトの引き金を引いた少女と、その依り代となった少年。彼らは自らの過ちを呪い、嘆き、そして決意した……。

 

 

 

 

 

 

 

 

ある少年は願う。失った暖かい拠り所を、家族を取り戻したい。己の心をさらけ出して、見知らぬ人と、世界と触れ合ってみたい。

 

 

 

 

ある少女は願う。己が過去に捨て去った全てを拾い上げたい。自らが見ようとしなかったものを、見て回りたい。

 

 

 

 

ある少年は願う。ヒトとして、生きてみたい。たとえ己の創造主の意に反していたとしても、己の願いに殉じたい。

 

 

 

 

ある少女は願う。知りたい。心とは、感情とは一体何なのか。ヒトが生きる意味は、何なのか。たとえ、どれほど長い時をかけたとしても、その答えを見つけたい。

 

 

 

 

 

彼らの願いを受け、新たな巨人が目覚める。天上人たちに、その牙を剥くために……。

 

 

 

 

 

碇シンジ。国連直属の特務機関NERVの司令、碇ゲンドウの実の息子であり、それと同時に汎用人型決戦兵器 人造人間エヴァンゲリオンの試作機、エヴァンゲリオン初号機の適格者、サードチルドレンであった。

彼は紆余曲折あってその心を摩耗させ、大切な人たちを全て失い、その心は欠けた。それを待っていたゼーレは初号機とロンギヌスの槍、九機の量産型エヴァンゲリオンを用いてサードインパクトを起こし、人類の心を補完しようと試みた。

―だがその試みは、また人と触れ合うことを望んだシンジが母に別れを告げたことで完全に破綻。L.C.Lに人が溶けたものの完全な補完は為されず、彼ともう一人だけが人としての形を取り戻した。そのもう一人とは、惣流・アスカ・ラングレーである。

彼はサードインパクト中の全てを覚えているわけではないが、彼女と触れ合ったことは覚えていた。心と心を触れ合わせ、しかし一つになることは拒絶された。その触れ合いを覚えているか定かではないが、シンジは赤い波が打ち寄せる砂浜で目覚め、その隣に横たわる少女を見て激しく混乱し、心中に彼女に対する様々な感情が溢れ出す。彼女への愛、もう一度会えたことに対する喜び、拒絶されたことへの怒りや悲しみ、彼女ともう一度触れ合うことへの不安、恐れ。ごちゃ混ぜになった感情が無意識に彼を突き動かし、シンジはアスカの首を絞めてしまう。

(アスカ、アスカ、アスカ!僕は、僕は……)

そうしていること少し。アスカが彼の頬に手を触れた。

シンジの心は決壊し、手を離して泣き崩れた。

 

惣流・アスカ・ラングレー。ドイツが誇る天才であり、ネルフのエヴァの適格者の中ではもっとも高い能力を誇るセカンドチルドレン。

しかし、その実は彼女の心は脆く、エヴァが彼女にとって全てで、依存していた。そんな彼女のプライドは、粉々に打ち砕かれた。砕く原因となったのは、同じエヴァパイロットの冴えない少年、碇シンジ。己が敵わなかった使徒を三体も単独で連続撃破し、そんな彼に彼女は嫉妬した。彼に近づいていた心は完全に離れ、憎しみさえ抱いてしまう。使徒に心を覗かれたことで、彼女の心は完全に崩壊。

戦自侵攻の折求めていた母の存在に触れたアスカは仮初の復活を果たすものの、九体の量産型エヴァに蹂躙され、食い荒らされて生死不明となる。その惨状を目撃したシンジの慟哭をトリガーとし、サードインパクトが発動。その最中、アスカはシンジの心に触れた。その心の内を知ったアスカは、己の奥底に眠っていた感情に気付かされる。―彼への思慕、独占欲。彼女は混乱し、彼と一つになることを拒む。

「アンタと一つになるなんて、死んでも嫌」

そして人として形を取り戻した彼女が最初に目にしたのは、己の首を絞めるシンジの姿。その姿からアスカは何かを察し、手をシンジの頬に触れさせた。

(……もういい。アンタを、赦す)

シンジは次の瞬間手を離して泣きじゃくる。シンジを見つめるアスカ。彼女の中に生まれた、おそらく再構成されたばかりの肉体からの生理的反応。彼女は、無意識にポツリと言った。

「……気持ち悪い」




この小説の主人公は碇シンジ、そしてヒロイン兼もう一人の主人公は惣流・アスカ・ラングレー。つまりカップリングはLAS。アスカ以外にヒロインキャラを登場させる予定は一切ありませんので、ご了承ください。では、また次回で。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

After the end of EVANGELION2

今回は、シンジとアスカの関係の修復。歪みに歪み切ってしまった関係を、好転させることは果たして出来るのだろうか?


泣き出したシンジは、やがて泣くのに疲れてしまったのか体育座りをして顔をそっと膝に着け、頭を抱えて物言わぬ石像になった。

「……」

 

対照的にアスカは立ち上がる体力がようやく回復し、ゆっくりと立ち上がり、ふらついて両手を後ろについて倒れこむ。

(体力が……。そっか。アタシ何週間か寝たきりだったもんね……)

その思考が引き金となり、自身の心がバラバラになるまでの出来事がフラッシュバックする。度重なる敗北により自信を喪失していき、手柄をかっさらっていったシンジに嫉妬し、憎む自分。使徒に心を覗かれ、トラウマを呼び起こさせられる自分。母の宿るエヴァを道具扱いし、拒絶され、自ら心の壁を作り出す自分。

(無様ね、アタシ。今思えば、くだらないプライドだったわね……。大事なものに気付きもしないで、周りに当たって拒絶した。ガキかアタシは……)

サードインパクトまでの自分の愚かさに対し、自己嫌悪に陥るアスカ。その顔には、かつての自信たっぷりな明るさはない。

「だけど、気づけた。今更遅いかもしれないけど……」

サードインパクトを通じて、本当の自分に目を向けることが出来た。自信がなく、他人に認めてほしい寂しがり屋なただのアスカ。そして……。

(シンジを独占したいほどに愛してる自分、か。ホント、つくづく馬鹿ね。アタシ……)

アスカは再び立ち上がると、シンジの隣に腰を下ろした。

 

 

 

 

(何をしているんだ、僕は……)

シンジは、ぐりぐりと顔を膝に押し付けた。気が付けば、隣に横たわっていたアスカ。……僕が、会いたいと思ったヒト。僕が、救えなかったヒト。僕を、拒絶したヒト。サードインパクトの時の記憶とそれ以前の彼女とのつらい記憶を思い出し、錯乱してしまったシンジはアスカの首を反射的に絞めてしまった。また拒絶されるのではないか、という恐怖が反射的に沸き上がったことで。そして、首を絞める自分に添えられた、アスカの暖かい掌。その温もりを感じた瞬間、シンジは我に返って手を放し、泣き出してしまった。そして、泣き疲れた今はただ、自分のしでかしたことの愚かさを呪い、ぐるぐると己の中で負のループが起こってしまっていた。そんな彼の隣に、アスカが座り込む。

(アス、カ……?)

「シンジ、起きてる?寝てないわよね?」

「……」

シンジはアスカに怒られるのが怖く、返事が出来なかった。

「返事ぐらいしなさいよ。別にアンタを取って食おうなんて思っちゃいないからさ」

シンジは伏せていた顔を少し上げ、ちらりと右隣りに座った少女の顔を見やる。右目に白い眼帯を付け、右腕にも包帯が巻かれた痛々しい姿の少女。彼女の瞳は、シンジの予想に反して憎しみや怒りを宿していなかった。

「ね、シンジ。教えてよ、何が起きたのか。大体の所は分かってるけど、肝心なことは分かってないからさ」

一回は皆と一つになってL.C.Lに溶けた影響からか、何故かアスカの中には自分が知らないはずの記憶があった。おそらくは、他の人と混ざり合った影響だろう。リリスと一つになる綾波レイ。巨大な綾波レイの出現、拡大してゆくアンチA.T.フィールド。溶けてゆく人々。

シンジはアスカに促され、ぽつぽつと語りだす。戦う気力を失っていた自分を庇い、叱咤激励した後に死んだミサト。乗り込んだ初号機から見えた、量産機に無残な姿にされた弐号機。磔にされる初号機。巨大な綾波レイの姿に、第十七使徒であった渚カヲルの姿が重なる。一つに溶けあうココロ。……そして、補完を拒絶し、母と綾波に別れを告げて、自分は還ってきた。

アスカは、黙って聞いていた。

シンジが話し終えた後、アスカは一つため息を吐いてシンジに告げた。

「……一つ言っとくけどね。アタシはアンタを責める気はないから」

「どうしてさ!だって、僕は君を見殺しにして、それに、それに……」

「アタシをおかずにして、エッチなことしてたって?」

「な、なんでそれを!?」

(アスカ、あの時意識なかったんじゃないのか!?)

「夢遊病みたいな感じではあったけど、意識はあったわよ」

「……」

まさかアスカに気付かれていたとは思わず、また負のループに入りかけるシンジ。その鬱屈さを、アスカの言葉が溶かしてゆく。

「責める気はないって言ったでしょ。確かに気持ち悪いとは思ったけど……アタシが一方的にアンタを責める資格はないから。アタシはアンタに勝手に嫉妬して、憎んで、ストレスの捌け口にしてた。お互い様よ、アタシらは。お互いに歪んだ感情をぶつけ合って、さ。……だから、もういいの。アタシは、アンタを赦すって決めたから。このままずるずる引きずってたってなーんもいいことないし」

「……でも……」

俯くシンジ。次の瞬間、彼のネガティブさを吹き飛ばすようにアスカは言った。

「でももだってもない!ったく、いつまで経ってもアンタはバカシンジなんだから……ま、そんなトコもイイんだけど♪」

「……へ?」

アスカに似つかわしくないセリフに、シンジの目が点になる。アスカは、笑っていた。清々しいぐらい、爽やかに。

「なーんかもう、アタシ、吹っ切れちゃった。だって、もうエヴァもないし、アタシをパイロットって言う道具として扱う馬鹿もいない。アタシを縛るものは何にもない。だから、全部言っちゃうことにしたの」

「は、はあ……」

何だかついていけてないシンジ。そんな彼の正面に仁王立ちしたアスカは、シンジをビシッと指さした。

「いい?今からアタシが言うことを、耳かっぽじってよく聞きなさい。―アタシは、シンジが好き!

「はいィ!?」

思わず素っ頓狂な声を上げるシンジ。そんな彼にお構いなく、アスカは己の想いを告げる。

「アタシは、加持さんが好きだと思い込んでた。ずうっとね。けど、ミサトと加持さんがより戻して、アンタと距離が縮まって。で、今までのことを思い返せば、アタシは加持さんに憧れてただけなんだと思う。それに、理想の父親を見てたのかもしれない。ホントにアタシが好きなのは、シンジ。冴えなくても、オドオドしてても。優しい、アンタが好き。イイとこも悪いとこも、ぜーんぶひっくるめて好きよ。独占したいって、思うほどにね」

「……そう言ってくれるのは嬉しいけど、僕は……」

「どぅあから!どーしてアンタはそう卑屈なのよ、もう!」

「い、いひゃい。いひゃいよ、アスカ……」

シンジに顔を近づけ、もちもちな両頬をぐいぐい引っ張るアスカ。

「アンタ、は!もっと、自分に自信を持ちなさい、よ!」

「あいたあ!?」

アスカは勢いよく頬を放し、シンジは少し赤くなった頬をさする。手は放したものの、至近距離でじーっとシンジをアスカは見つめた。

「で、アンタはどうなのよ。まっさか、アタシに告らせといて何もないってことはないわよね……?」

「うっ……」

シンジは、アスカに出会ってからの幸せな記憶を思い出す。太平洋上の甲板での最悪の出会い。プラグスーツのペアルック。ユニゾンの訓練での急接近。プールでの思い出。一緒に戦い、絆を深める日々。……そして、甘く、ちょっぴり苦いファーストキス。それらの思い出の中のアスカは、いつも太陽のように輝いていた。そして、いつしか彼女の傍に居ることに心地よさを感じていた。

(これって、僕はアスカのことが、好き、なのか……?)

「……多分、僕もアスカのことが、好き、なんだと思う。僕はまだ、『愛』が何なのか分からない。でも、キミが赦してくれるのなら、キミの傍で見つけてみたい。まだ他の人と居るのは怖いけど……それでも、アスカと一緒に居たい」

「……バカシンジ。だから、さっきから赦すっつってんじゃない。バカ……」

キスできそうな距離にあった二人の顔が更に近づき、ついに一つに重なる。一度目のキスは冷たかった。でも……今回のキスは暖かかった。

 




シンジとアスカの関係。これは、見る人にとって解釈が異なると思います。
わたしにとって二人の関係は、棘が抜けきらないヤマアラシが寄り添おうとして寄り切れない、そんな関係。サードインパクトを経て棘が抜けた二人が、ついに結ばれる。そんな形の関係を、わたしは描きたいと思い筆を取った次第です。
勿論受け入れられない方も居ると思いますから、その方たちは無理せずブラウザバックしていただけると幸いです。
では、また次回で。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

After the end of EVANGELION3

今回でひとまずプロローグは決着。ここから再び、長きに渡る戦いが始まる。


やっと、想いを通じ合わせた二人。触れ合わせていた唇をそっと離し、照れくさそうに笑う。

「……上手くなったじゃない。アンタ、アタシ以外とキスしてないわよね?」

「へっ!?ままま、まさかァ!」

実は心当たりがあるため、分かりやすく動揺するシンジ。そんな彼を目を猫のように細めてジロリと横目で睨むアスカ。

「……何よ、誰としたの?ほーら、怒らないから言ってみなさいシンちゃん」

(お、怒ってるじゃないか!?トホホ、逃げたい……)

言葉とは裏腹に、無表情で『アタシは怒ってます』アピールをしているアスカ。シンジはビクつきながら、アスカに事実をありのままに伝えた。

「……ミサトさんに、キスされたんだ、最期に。『大人のキスよ』って」

「ミサトが……」

瞬時にシンジの脳内にフラッシュバックする、ミサトの最期の姿。閉まってゆくシャッターの後に消えてゆく、ミサトの姿。

「ミサトさん……僕が、不甲斐ないばっかりにッ……」

「シンジ……」

己の不甲斐なさを悔やみ、嗚咽をもらすシンジ。アスカも、その様子から姉代わりのミサトが本当に逝ったことを察し、涙を流す。

「アタシ、ミサトに何も言えてない。ごめんなさいって、言いたかったのにィ……!加持さんもッ、アタシたちに何も言わずに逝っちゃってッ……」

ミサトと同じく、逝ってしまった加持。彼のことも連鎖的に思い出し、崩れ落ちるアスカ。シンジもまた、別のひとたちのことを思い出し、慟哭する。

「トウジ、ケンスケ、委員長……皆、消えてしまった。僕のせいでッ……」

嘆き悲しむ二人。そんな二人に、声をかけるものがあった。

『泣かないで、二人とも。希望は、まだ残っているよ』

『あなたたちこそが、希望……』

彼らの前に、二人の少年少女が現れる。二人共神秘的とも言える美しさを持ち、男の子は銀髪、女の子は青髪。共通しているのは、赤い瞳。―渚カヲルと、綾波レイである。その姿は、まるで実態がないかのように透けている。

「カヲル君!?」

「ファースト!?」

『やあ、久しぶりシンジ君。それから、初めまして惣流・アスカ・ラングレーさん』

「アンタが、渚カヲル……。第十七の使徒タブリスにしてアダムの魂……」

『そう。でも今のボクは、ただの渚カヲルだ。全ての役割が、もう終わったからね』

「カヲル君、僕は……」

何かを言おうとするシンジを、カヲルがそっと押しとどめる。

『キミは、何も言わなくていい。あれは、ボクの選択だ。キミたちリリンに生きて欲しいと、そう願ったんだが……。SEELEのご老人たちの思惑通りになってしまった』

「「SEELE……」」

『人類補完計画を、裏から操っていた黒幕だよ。この結末を導くために、今までのあらゆる出来事を操ってきた。……僕たち、運命を仕組まれた子供たちを生贄として』

「……じゃあ何?アタシらこーんなひどい目に遭ったのも、心が欠けたのも、ぜーんぶソイツラのせいだって?……ふっざけんじゃないわよッ!

両ひざを砂浜につけ、拳を地面に叩きつけるアスカ。その瞳に、危険な炎が灯り始める。

「……父さんは、こんな結末望んでなかったんだよね、綾波」

砂浜に視線を向け、膝をついて俯いたままのシンジがぼそりと尋ねる。今まで沈黙を保っていたレイが、シンジの問いに答える。

『……ええ。あのヒトが望んだのは、私のオリジナル、碇ユイに会うこと。それだけだったもの』

「……そっか」

なんとなく、その場の空気が重くなる。そんな空気を引き裂くように、アスカが吠える。

「……認めない。こんな結末、認めてたまるもんですかッ!」

アスカは顔を上げると、シンジに問いかける。

「アンタ、このままで終わっていいの!?得体のしれない連中のせいで、アタシらの大事なものみーんなぶっ壊された。こんな世界で、アンタは終わっていいの?」

……いい訳ないだろ!僕が逃げてばかりだから、こんなことになったんだ。このままじゃ、終われないよ!」

シンジもまた、怒りで吠える。ヒトの運命を弄んだ、ZEELEへの怒り。逃げてばかりだった、己への怒り。シンジもアスカも、この感情を共有し、怒りに燃える。

『……二人が望むなら、やり直せるわ』

「「え?」」

レイに視線を向ける二人。レイは、静かに微笑んだ。

『今のあなたたちには、その力がある。この世界を終わらせ、やり直す力が……』

『聖書のアダムとイヴを知っているかい?最初に生まれ落ちた人間。神から作られしモノ……。今の君たちは、同じ状況にある。だから、こんなことが出来る』

レイと、説明を引き継いだカヲルが、それぞれアスカとシンジにその実体のない手を触れさせると、二人に思いがけない変化が起こる。シンジの黒髪は銀、アスカの真紅の髪は青く変わる。そしてその瞳は、赤く染まる。……まるで、カヲルとレイのように。

「これは……」

「アタシたちの、髪が……」

『キミたちにはそれぞれ、アダムとリリスの力が目覚めた。……とは言っても、あくまで力だけだ。使徒のものよりは確実に劣るし、力を消耗すれば……』

カヲルがそう言って指をパチンと鳴らすと、二人の容姿が元に戻った。

『元通りだ。……この力と僕らの力を合わせて、世界を巻き戻す。まあ、精々第三の使徒、サキエルが襲来するぐらいまでだけどね。……さあ二人共、どうするんだい?』

「決まってるでしょ?」

「やるよ、僕たちは失ったものを取り戻す。もう誰も奪わせはしない」

シンジとアスカは、決意を漲らせて立ち上がる。その決意は、固い。

『では、始めるとしようか』

『二人共、こっちへ』

レイに促され、四人は円になる。そして、それぞれ右手を上げた。

『力を重ねるんだ。四人の力を集中させる。世界を再構築するんだ、僕たち四人の力を使って』

『イメージして、戻りたい世界を』

「うん。……今度は死なせない。綾波も、カヲル君も。……二度と、君の介錯はしないからな。カヲル君」

「アンタたちも、アタシらと同じ。アンタたちも、幸せになってほしい。……今までゴメン、レイ」

『シンジ君……』

『弐号機パ……アスカ……』

四人は顔を見合わせて笑うと、手を一つに重ねた。シンジとアスカの髪色と瞳が、再び変わる。

『……行くよ。一つ言っておくけど、戻ったらしばらくは力の回復に時間がかかる。その辺は、注意してくれ』

「うん」

「わかった」

『ええ』

四人は目を閉じ、力を一点に集めると、一気に解き放った。その力は世界全体に広がってゆき、そして……。

 

 

 

 

 

シンジは気が付くと、受話器を公衆電話に置いていた。

「ここは……!」

シンジが辺りを見回すと、広がるのは赤い海ではなく見慣れた街の光景だ。

「……戻ってきた」

シンジは右こぶしを見つめてぎゅっと握り締めた後、後ろを振り返らずに走り出した。

 

 

 

 

 

NEON GENESIS EVANGELION RETROGRESSION 1.02 You can redo?




世界のリセット。この力の使われ方は、貞本版漫画版エヴァのサードインパクトの後のようなもの。それでありながら、TV版新世紀エヴァンゲリオン第一話への回帰となります。
シンジとアスカが使徒の力に目覚めたのは、私自身の解釈に拠るもの。新劇場版では、エヴァパイロット全員がリリンではない『エヴァの呪縛』を受けた存在となっていました。それと似た解釈で、TV版新世紀エヴァンゲリオンならば第十八の使徒リリンでありながら、サードインパクトのトリガーとなり、唯一帰還した二人にアダムとリリスの力が目覚めてもおかしくはないんじゃないか、と考えました。この解釈は賛否両論あると思いますが、本作ではこうなります。ごめんなさい。
そして、この後の物語では主人公格のシンジ、アスカだけでなくレイやカヲルにも幸せを掴んでもらいます。この四人が記憶と力を保持しています(現在九割以上使徒の力を消耗していますが)。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

1.02 You can redo?-Angel War-
Refrain(前編)


今回から、第一部の始まり始まり。本作は、全四部構成で、第一部がTV版第一話~旧劇場版の最後までの時間軸となります。よろしくお願いいたします。


アスカが気が付くと、プラグスーツ姿でエントリープラグの席に座り、操縦桿を握っていた。

(弐号機の中……そっか、あの時はシンクロテストしてたんだっけ)

映し出されているモニターの中に、ドイツ支部の研究員たちと―加持リョウジの姿があった。

(加持さん……あ、いけないいけない)

日本語でそこまで考えてしまっていたアスカは、慌ててエラーが出る前にドイツ語に思考言語を切り替えた。

『パルスの乱れが見られた。セカンド、何か問題が?』

「いえ、大丈夫です。続けます」

アスカは心中では舌打ちしつつも、表面上は平静を保つ。

(ほんっと、ドイツの連中はアタシを道具としか見ていないわね。……加持さんは違うと思うけど)

アスカは首を振ると、外のことは思考から締め出し、エヴァとのシンクロに集中した。暖かいものに包まれる感覚を覚えるアスカ。

(ママを感じる……ママ、ありがとう。またよろしくね。……でも、アタシが弐号機を覚醒させられることを悟られるわけにはいかない。明確に味方なのは加持さんだけ……ドイツ支部にゼーレの息がかかっていることは明白。戦自侵攻前のハッキングにここのMAGIも参加してただろうし、あの忌まわしい量産型エヴァの何体かもここで建造されるはず。ボロは出せない、か)

アスカは上手く感覚を調整し直し、シンクロ率を以前の最高率に合わせてゆく。その姿に違和感を覚えた者は一人もいなかった。……ただ一人を除いては。

(あれは、アスカじゃない。……いや、以前までのアスカとは違う、と言った方が正しいか。あの笑み……一体何があった?)

加持だけは、アスカが無意識に少し笑みを口元に浮かべていたのに気づいていた。その笑みを見て、直観的に彼女に起きた変化に気付いたのだ。

一人思考の渦に沈む加持を残し、実験は順調に執り行われていった。

 

 

 

 

 

シンジは駆ける。もう、後ろは振り返らない。一刻も早く、ミサトと合流する必要があった。頭上では既にUNの飛行機が第三の使徒と交戦を開始し、銃撃や爆撃が降り注ぐ。走るシンジの前にヘリが墜落し、シンジは慌てて立ち止まる。

「うわッ!」

目の前でそのヘリが潰され、爆発が起きる。その爆発からシンジを守るように一台の車―青いルノーが滑り込んで来る。そのドアが開き、黒髪の女性が反対側の運転席から顔を出す。

「ごっめーん、お待たせ!」

(ミサトさん……!)

葛城ミサト。NERVの作戦部長であり、自分たちの姉代わりだった女性。セカンドインパクトのトラウマから使徒に復讐するためにチルドレンとエヴァを駒とし、一方で割り切れず苦しんだ優しい女性。……自分が、守ることの出来なかった大切な人だ。

「ミ……葛城さんですか!?」

「ええ、そうよ。今は時間がないの、早く乗って!」

「は、はい!」

慌ててルノーに乗り込むシンジ。彼を載せ、ルノーはネルフ本部に向けて爆走する。

(やっとだ、やっと始まる。……今度こそ、僕たちが皆を守るんだ!)

 

 

 

少し時間は進み、シンジはN2地雷の爆風によって吹き飛ばされて横転したルノーの中から這い出ていた。

(まったく、N2兵器では使徒には少ししかダメージが入らないってのに……。いい迷惑だよ、まったく……)

「ダイジョーブだった?」

「え、ええ、口の中がまだシャリシャリしますけど……」

「そいつは結構。じゃあ、いっくわよォ!せーのっ!」

シンジはミサトと共にルノーに背を当てて力を込める。どうやら使徒の力を発現した影響からか身体能力が少し上がっていたらしく、前史よりも早くルノーを戻すことが出来た。

「しゃあっ!どうもありがとう。意外と力あるのね」

「いや、そんなことはないですよミ……葛城さん」

こちらに向き直り、サングラスを外したミサトを前の癖で名前呼びしかけて慌てて苗字に戻すシンジ。ミサトは苦笑し、優しくシンジに告げた。

「ミサト、でいいわよ。無理して苗字で呼ばなくてもいいわ、シンジ君」

「それじゃあ……ありがとうございます、ミサトさん」

「ええ、こちらこそ。……さあて、急がなくっちゃ。とはいえ、ここまでボロボロになるとは……」

(トホホ、まだローン残ってるのに……)

ミサトはがっくりとなりながらも愛車の修理を始め、シンジはそれを手伝った。

 

 

ルノーの修理を終えたミサト達は、貨物列車に乗ってジオフロントへと向かっていた。シンジは今後の流れを頭の中でシミュレーションすることに集中するあまり、黙り込んでしまっている。

(サキエルを倒す前にトウジの妹を捜さないと……今回は怪我させちゃダメだ、絶対に。問題はその後だ。S2機関をここで取り込んでしまうか、それともゼルエルまで待つか。……ここで取り込むか。どうせ戦いの後に父さんたちに話して説得するつもりだったし。なら戦い方は……)

考えに没頭するあまり、ミサトが怪訝そうにシンジに呼び掛けているのに気づきもしない。

「……くーん。シンジ君!」

「あ、は、はい!何でしょうか、ミサトさん!」

「何でしょうかって……あなた、さっきから黙り込んだまんまよ。やっぱり、さっきのN2でどっか痛めたりした?」

「あ、すみません。ちょっと考え事してたんで……もうすぐ着くんですか、父さんのところに?」

「ええ、そうよ。はいこれ」

ミサトが手渡してきたのは、前にもジオフロントに入る前に見たパンフレット。……その中身は、民間広報誌レベルで機密のことは一切入っていないが。

「ようこそNERV江?」

「そ。NERVは、国連直属の非公開組織。こ―見えてもあたしは国家公務員ってこと」

「父の居るところですね」

「そうね。そうなるわね。あ、お父さんからID貰ってない?」

「ちょっと待ってください。……はい、どうぞ」

持っていたカバンの中から「来い」とだけかかれた手紙に付属するIDを取り、ミサトに手渡す。そしてシンジは、少々乱雑な字に簡潔に書かれた父の不器用さに苦笑した。

(本当に父さんは……僕と同じで不器用なんだな)

「ありがと。……何も聞かないのね」

「え?……父が何の用もないのに、僕を呼ぶはずありませんから」

「……そっか、苦手なのね、お父さんが。……あたしと同じね」

「ミサトさん……」

シンジは両腕を後ろで組むミサトに目線を向ける。……あの時はその言葉の意味がよくわからなかったが、今ならよく分かる。研究ばかりに打ち込んで、家族を顧みなかった父。そんな父に、最後は助けられた。……ミサトは似ていたのだ、自分と。……父に対して複雑な感情を抱いていた自分と。

そうこうしているうちに、貨物列車はジオフロントに突入し、一気に明るくなる。何度も見た光景とはいえ、その美しい景色には目を見張るものがある。

「わあ……これがジオフロントですか?」

窓に手を当て、昔を懐かしむシンジ。

「そうよ、私たちの秘密基地、NERV本部。世界再建の要、人類の砦となるところよ」

(本当は違うんだよな……黒き月。サードインパクトのグラウンドゼロ……)

少々苦いものがこみ上げてくるシンジ。いい思い出もあるが、嫌な思い出もたくさんある自分たちの活動拠点だ。

 

目的地に到着し、車から降りた前史と同じく方向音痴のミサトのせいでぐるぐる回っていた。……見慣れた光景だったので、あまり驚いた反応を見せることが出来ず、ミサトに少し怪しまれている気がするが。

(ちょっと驚かなさすぎたな……まあ、大丈夫かな。多分、すぐにミサトさんたちには打ち明けるから)

「おっかしーな……確かこの道のはずよね……」

もらった地図を見ながら、自動通路を進むミサトとシンジ。ミサトは表の態度とは裏腹に、心のなかでは別のことを考えていた。

(シンジ君、報告書とは大分性格が違う……。やけに落ち着いているし、オドオドして内気だとは思えない。……報告書が全てじゃない、ってとこかしら)

言った瞬間自動ドアが開き、ミサトはどこか取り繕うように言った。

「これだからスカート履きづらいのよね、ここ……。しっかし、リツコはどーこ行っちゃったのかしら……。ごめんね、まだ慣れてなくって」

シンジはパンフレットを読むポーズをしつつも、ミサトに前と同じ返事を返した。

「さっき通りましたよ、ここ」

「……でも、大丈夫。システムは利用するためにあるものね」

その後、何処かに電話したミサトの要請でアナウンスが流れる。……迷子の案内アナウンスのようだと、シンジは不覚にも思ってしまった。

『技術局一課、E計画担当の赤木リツコ博士、赤木リツコ博士。至急、作戦部第一課、葛城ミサト一尉までご連絡下さい』

(何か、迷子のアナウンスみたいだ……)

アナウンスを聞いていると、なんだか自分まで迷子になった気分を味わって気恥ずかしくなったシンジであった。

 

 

何とかエレベーターにまでたどり着いたシンジたち。階層を示す数字が8-28を示した時、エレベーターが止まってドアが開き、一人の女性が入ってきた。金髪に白衣を着た、ミサトと同年代の女性。……父ゲンドウとの愛憎入り混じった関係により、身を破滅させてしまった悲しき女性だ。

「あ、あら、リツコ」

「何やってたの、葛城一尉。人手も無ければ、時間もないのよ」

「えへ、ごめん!」

名前呼びでなく苗字と階級呼びなところに、リツコの怒ってますよアピールを感じるシンジ。懐かしきやり取りに、シンジは内心くすりと笑う。そんなシンジに、リツコが視線を向ける。パンフレットを閉じて手持無沙汰にしていたシンジは、思わず姿勢を正した。

「……例の男の子ね」

「そ。マルドゥックの報告書による、サードチルドレン」

「よろしくね」

「は、はい」

ボロを出さないよう、簡潔に答えるシンジ。リツコはミサト以上に鋭いため、自分の変化がばれるんじゃないかとひやひやするシンジであった。

 

 

 

『繰り返す。総員、第一種戦闘配置。対地迎撃戦、用意』

(来た……)

サキエルの活動再開を察したシンジは、緊張で顔を強張らせた。

「ですって」

「これは一大事ね」

「……で、初号機はどうなの?」

「現在B型装備のまま、冷却中」

「それ、本当に動くの?今まで一度も動いたことないんでしょう?」

「起動確率は、0.0000000001パーセント。オーナインシステムとは、よく言ったものだわ」

(そりゃそうだ、僕が乗らなきゃ動かないんだもの。母さんが僕以外受け入れるわけないし)

「それって、動かないってことォ?」

「あら、失礼ね。ゼロではなくってよ」

「数字の上ではね。……ま、どのみち動きませんでした、ではすまされないわ」

やがて、エレベーターが最下層に降りると、彼らはゴムボートに乗って目的地に向かう。……母が中で眠る初号機のケージへと。

 

彼らは、初号機のケージへと続くドアをくぐる。ケージは、真っ暗だ。

「あの、真っ暗ですよ?」

自分が何も言わないと先に進まないため、取り敢えず指摘するシンジ。その言葉が合図だったのか、照明が点き、目の前に紫色の巨大ロボットが現れる。……エヴァンゲリオン、初号機だ。

(ただいま、母さん)

「これは、巨大ロボット……?」

「そう。ヒトの造り出した、究極のヒト型決戦兵器。人造人間エヴァンゲリオン、その初号機。建造は、極秘裏に行われた」

「……これも父の仕事ですか?」

「そうだ」

シンジが声のした上を見上げると、ケージを直接モニターできる部屋に、父ゲンドウが立っていた。

「久しぶりだな、シンジ」

シンジは返事をしようとしたが、突然過去の映像がフラッシュバックする。補完の折、父を噛み殺す初号機。

『すまなかったな、シンジ』

(何だ、これ……父さんの補完なのか、これが……)

シンジは思わずこみ上げてきた強烈な吐き気に耐えられず、体を九の字に折って膝を着く。

「が、あ……」

「シンジ君、大丈夫!?」

ミサトが駆け寄り、悶え苦しむシンジの背中をさする。ゲンドウはそんなシンジを見ても意にも介さず、ただ一言告げた。

「……出撃」

「出撃!?零号機は凍結中でしょう!?……!まさか、初号機を使うつもりなの!?」

シンジを介抱しながら、声を荒げるミサト。リツコは、ミサトに淡々と告げる。

「他に道はないわ」

「ちょっと、レイはまだ動かせないでしょう!?パイロットがいないわよ!」

「さっき届いたわ」

ミサトははっとし、苦しむシンジに目を向ける。

「……マジなの」

「碇シンジ君、あなたが乗るのよ」

「正気!?今シンジ君は、戦える状態じゃないのよ!?それに、レイでさえエヴァとのシンクロに七か月もかかったのよ?前提からして無理よ!」

「座っていればいいわ。それ以上は望みません」

「リツコ、アンタねえ……!」

ミサトは思わず立ち上がり、リツコの胸倉をつかみ上げる。その時だった。

「……大丈夫ですよ、ミサトさん。僕が乗りますから。ご心配をおかけして、すみません」

シンジが両ひざに手をついて、立ち上がる。その瞳には、固い決意が宿っている。ミサトとリツコは、シンジの方に目線を向けた。ゲンドウも、普通の人には分からないがサングラスの奥で目を見開いていた。

「シンジ君、大丈夫なの?」

「はい、何とか。もう大丈夫です」

「いや、それはいいんだけど……本当に、これに乗るの?」

リツコの胸倉から手を放したミサトが、初号機を指さす。シンジはミサトに頷き返した。

「はい。……確かに、乗るのは怖いです。でも、それ以上に……後悔だけはしたくない。したくないんです」

(これには嫌な思い出もたくさんある。……でも、その嫌な思い出を無くせるのも、エヴァなんだ。僕らはそのために……戻ってきたのだから)

「シンジ君……」

「リツコさん、説明と準備をお願いします」

「……え、ええ。こっちよ」

あっけにとられていたリツコが、足早にドアに向かう。シンジはその後に続こうとして……振り向いた。その視線の先に居るのは……ゲンドウ。

「……父さん、終わったら話がある。大事な話なんだ……母さんについて」

「!?……分かった」

ゲンドウは再度目を見開き、何かを感じたのか頷いた。

 

NEON GENESIS EVANGELION RETROGRESSION

EPISODE1 Repeat

 

 

 




この小説は主人公のシンジ、アスカ視点を中心に描いてゆきますが、次回からは他の主要人物の視点からも描く予定です。
シンジは過去を乗り越えようとしますが、早々乗り越えられるものではありません。それはアスカも同じです。過去のトラウマに、苦しめられることになります。それらを乗り越える過程を、この小説では描いていきます。
では、また次回で。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Refrain(後編)

出撃。


シンクロテストを何とか怪しまれずに切り抜けたアスカは、更衣室で私服に着替えると軽く何か食べようと食堂に向かっていた。その途中の通路で壁に寄りかかって待ち構えるのは、加持リョウジ。

(加持さん?……もしかして、気づかれた?)

内心若干冷や汗を掻きながら、加持に駆け寄るアスカ。

『あ、加持さん!どうしたの?』

『いや、大したことじゃないんだが……』

昔の自分のように加持に腕を絡め、小首を傾げるアスカ。

(やっぱ、全然嬉しくない。……ホントに好きじゃなかったんだ、アタシ)

『どうして、さっき笑ってたんだ?』

『!』

アスカはばっと腕を放し、加持と距離を取る。加持の瞳は、飄々としている普段とは打って変わって真剣なもの。……真実を探る、男の目だ。

「……笑ってた、アタシ?」

(さっすが加持さん。アタシの無意識の笑みで感づくとは……やはり只者じゃないわね)

「!ああ。口元にほんの少しだけだがな」

(日本語!?可笑しい。アスカはまだそこまで流ちょうに話せないはず。こりゃ、本気できな臭くなってきたぞ……)

「……流石加持さん、鋭いわね。……今は、まだ話せない。ここでは、目が多すぎるから。()()()()()してる加持さんなら、分かるでしょ?」

「!どうしてそのことを……」

アスカは加持の言葉を遮るようにして、彼の耳に背伸びして口を寄せる。

……人類補完計画

「!」

もうちょっとしたらアタシたちの知る秘密を全て、教えてあげる。だから、今は我慢して

アスカは囁くのを止めて、加持の手を取って走り出す。

「お、おいアスカ!?」

『ほら、行こ?』

アスカはまるで何事もなかったようにドイツ語に戻すと、加持を引っ張って食堂に走り出した。

 

 

 

レイが目覚めたのは、自分の病室であった。全身の痛み。朧げに記憶にある零号機の起動実験失敗による後遺症だと、レイは理解した。

(そう……戻ってきたのね、私は。……でも、私は覚えていない。……三人目だから)

時間遡行の成功を理解すると同時に、自分が三人目の綾波レイであることを自覚させられてしまう。

(私は、何がしたいの?)

自問自答するレイ。今まで(二人目の記憶というか、記録のような感覚)、命令に従うのみで自分の意思で何かしよう、と思ったのはサードインパクトを起こした時のみ。その未来を変えるために、そしてヒトとして自分は何がしたいのか。レイには、まだわからない。レイはゆっくり首を振り、意識を切り替えた。

(この後は、確か碇君が拒絶して私が呼び出されるはず)

無表情ながらも、若干そわそわしながら呼び出されるのを待つレイ。……だが、いつまで経っても自分をケージへと運び出す人間が来ない。

(……どうして、来ないのかしら)

そのままただ待ち続けるレイ。そして脈絡もなく、あることを思い出した。

(碇君も、戻ってきているから……私は呼び出されない?)

ヒトとして生きている時間が短いためか、何処か天然なレイであった。

 

 

 

シンジは前回と同じく軽くエヴァの操縦について説明を受けた後、前回と同じくインターフェイスのみを付けてエントリープラグに入る。操縦席のシートに座り、目をつぶって深呼吸する。

「ふうー……」

(落ち着いていこう、シンジ。キミなら出来る)

自分に言い聞かせるように、心の中でつぶやくシンジ。そうして操縦桿を握ると、嫌な思い出が蘇る。虚数空間の中で感じた死の恐怖。ダミーシステムの手によって、握りつぶされるトウジの乗るエントリープラグ。使徒に侵され、自爆して果てる零号機。……そして、今と同じようにヘッドセットを付けて出撃し……目にした弐号機の無残な姿。……思い出すだけで、操縦桿を握る手が小刻みに震える。

(ああ……逃げたい。……でも、逃げたら駄目だ。逃げ続けた果てが、サードインパクトなんだ。逃げちゃ駄目だっ!

シンジが思考の中に没入する間も、初号機の起動準備は着々と進む。エントリープラグがエヴァに挿入され、L.C.Lが注入されていく。思考に没入していたシンジは、無意識に受け入れていた。

その様子は、発令所でもモニターされていた。

「彼、驚いてないわねえ」

「そうね、不自然なほど落ち着いている。彼は、何かを知っている……」

「……いえ、センパイ。シンジ君、落ち着いている訳じゃなさそうです」

「マヤ?」

指摘したのは、意外にもリツコを先輩と慕うメインオペレーターの一人、伊吹マヤだ。彼女が指さす先にあるのは……小刻みに震える手元。

「落ち着かせているんだと思います。怖いんです、シンジ君」

「……そうよね、初めて乗るロボットでいきなり戦えって言われたんだもの。そりゃ怖いか」

「L.C.Lに反応を示さなかったのは、落ち着かせるのに集中しすぎて反応できなかったからかしら」

少し張りつめていた空気が弛緩し、マヤはほっと息を吐いた。だが、またすぐに彼らの疑念は沸くことになる。

「主電源接続!」

「全回路、動力伝達!」

「了解」

アンビリカルケーブルが背部に接続され、初号機との神経接続の準備が整う。

「第二次コンタクトに入ります」

シンジは流石にこれには反応して思考を中断し、エヴァとのシンクロの準備に入る。

(行くよ……母さん)

「A10神経接続、異常なし」

「思考形態は、日本語を基礎言語としてフィックス。初期コンタクト、全て問題なし」

そして、驚くべき数字がマヤから告げられる。

「双方向回線、開きます。シンクロ率……!?」

数字を目にした瞬間、言葉に詰まるマヤ。何かあったと察したリツコが、マヤに声をかける。

「どうしたの、マヤ」

「シンクロ率……75.62パーセント。ハーモニクスは全て正常。暴走、ありません」

「「!?」」

前史よりも高いシンクロ率。実はシンジはこれでも抑えている方なのだが、アスカ程訓練を受けていないためここまでしか下がらなかったのだ。

「あのアスカですらプラグスーツの補助ありで80パーセント付近だってのに、スーツ無しでそのアスカに迫るシンクロ率なんて……」

「正に、エヴァに乗るために生まれてきた子供、ということね」

素人のはずなのに、高いシンクロ率を叩き出したシンジ。ミサトとリツコの中に、かすかだが疑念が生まれる。ゲンドウもピクリ、と反応していた。

だが、その疑念にも構っていられず、粛々と発進準備が進行する。

「発進、準備!」

「発進準備!」

『第一ロックボルト外せぇ!』

『解除確認!』

『アンビリカルブリッジ、移動開始!』

『第二ロックボルト外せぇ!』

『第一拘束具を、除去。同じく第二拘束具を、除去』

『一番から十五番までの安全装置を解除!』

『内部電源、充電完了!』

『外部電源用コンセント、異常なし』

「了解。エヴァ初号機、射出口へ」

初号機が射出口へ移動してゆく振動を感じ、どこか懐かしさを感じるシンジ。

(いよいよだ。……今度は、ちゃんと戦わないとな)

前回は、まともに戦えず初号機が暴走し、その結果トウジの妹に大けがを負わせてしまった。……その過ちを、二度も犯してはならない。

「進路クリアー、オールグリーン!」

「発進準備、完了」

マヤとリツコの声を受けて、ミサトは上の席に座るゲンドウと冬月副司令に向き直る。

「了解。……構いませんね」

「勿論だ。使徒を倒さぬ限り、我々に未来はない」

「碇、本当にこれでいいんだな」

冬月が確かめるように、ゲンドウに尋ねる。ゲンドウはお馴染みのポーズの下でニヤリと笑った。

「発進!」

初号機が高速でシャフトに射出され、使徒と会敵する場所に出現する。

(行くぞ……!)

 

To be continued......

 




今回は前半アスカ、真ん中レイ、後半シンジら、と視点分けをしました。今後は、第三新東京市とドイツ支部という二つの場所からの視点で、物語は進んでゆきます。
シナリオ通りは、今回まで。次回から既存のシナリオが破壊され、新たなシナリオが始まります。

早すぎる覚醒を遂げるエヴァ初号機、即時殲滅される第三の使徒。戸惑い、焦るゲンドウにシンジが告げることとは?
次回、NEON GENESIS EVANGELION RETROGRESSION
「courage」
さあて、次回もサービスサービスゥ!


PIXIVとの同時投稿を始めてみました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

courage(前編)

吠えよ、初号機。


前回と同じように、使徒の真正面に射出されたエヴァ初号機。シンジの思考が戦闘モードに切り替わり、操縦桿をきつく握りしめる。

(さあ、行こう。エヴァ初号機……母さん。心のままに)

『いいわね、シンジ君』

「はい!」

シンジは前とは違い、力強く返事を返した。

『最終安全装置、解除。エヴァンゲリオン初号機、リフトオフ!』

『シ……「すみませんリツコさん、こっちで勝手にやります!」ちょっと、シンジ君!?』

リツコの指示を待たず、シンジは初号機を走らせてジャンプさせた。

辺りを上から見渡し、トウジの妹―鈴原サクラを捜す。

(サクラちゃん……どこだ!?)

素早く周囲を見渡し、シンジはビルを二つ行った先の角を右に曲がり、三つビルを先のビルに小さな女の子が隠れているのを見つけた。

(居た、今すぐ何とかするッ!)

「おおおッ!」

着地と同時にサキエルをA.T.フィールドで覆った右拳でサキエルのフィールドごとぶん殴り、都合ビル五つ分以上真っ直ぐ奥に吹き飛ばす。サキエルはフィールドを展開する間もなく吹き飛ばされ、突き当りのビルにめり込んだ。初号機のツインアイが眩しく輝く。

「ミサトさん、ビルの影に女の子が!使徒を僕が引き付けているうちに、早く!」

『何ですって!?日向君、急いで保安部に保護させて!』

『はい!』

シンジが初号機で指さした先に女の子の姿を確認したミサトが、大慌てでオペレーターの日向に指示を出す。シンジは使徒に向き直り、その動きを観察する。

(さあ、どこからでも来いッ!)

次の瞬間、体を起き上がらせながら光の槍を伸ばしてくるサキエル。頭部の右側を狙ってきたその一撃を、間一髪で体をスライドさせて避ける初号機。

(こいつ、学習してる!?)

前史にはない攻撃パターン。初号機の強力な一撃に呼応して、使徒も進化したのだ。

(まずい、長期戦は避けないと……ミサトさん、まだか!?)

シンジはサキエルが続けて放った光線を避けながら、市街を駆け回ってサクラから引き離す。

そして、何発目かを避けた時。ミサトから、待望の知らせが届いた。

『シンジ君、女の子は無事よ!今こっちで保護したわ!』

「……了解!」

その言葉は、シンジにとって全力解放の合図。初号機のアンビリカルケーブルをパージし、その力を解き放つ。

「行くよ、母さん!」

「ルオオオオオオォォォッ!」

初号機が歓喜の雄たけびを上げ、サキエルに飛び掛かると地面に引きずり倒す。コアの前の肋骨のようなものを外に開いてへし折り、剥き出しになったコアを捕食する。

シンジはシンクロ率を400パーセント手前で止まるように初号機―ユイをなだめすかしながら捕食音をBGMとし、必死に制御した。

(僕が溶けちゃうからこらえてくれ……母さん……)

意識が飛びそうになりながらも、S2機関の取り込みを何とか終えたシンジはシンクロ率を元に戻した。初号機の口元は血に塗れ、まるで悪鬼のようであった。だがその瞳は従来の機械的なツインアイであり、シンクロ率400パーセントまで至っていないことが分かる。

(ふう……ちょっと疲れたな……)

何やらミサト達が呼び掛けているが、そんなことは疲れ果てたシンジには何の意味もなさない。インテリアに寄り掛かると、目を閉じて回収されるのを待つのであった。

 

 

 

少し時は戻り、NERVの第一発令所。初号機が使徒の前に姿を現した。

「いいわね、シンジ君」

『はい!』

ミサトはシンジの力強い返事にその決意を感じ取り、頷いた。

「最終安全装置、解除!エヴァンゲリオン初号機、リフトオフ!」

最終安全装置が解除され、初号機が自由になる。リツコがまず歩くようにと指示をした瞬間、初号機が走って助走をつけ、ジャンプした。

「シ……『すみませんリツコさん、こっちで勝手にやります!』ちょっと、シンジ君!?」

「シンジ君ったら……でも動いたわね、初号機」

ミサトが感心した声を上げ、無視されてピクついていたリツコもそれには頷いた。

「ええ。ここまで動かせるとは……シンジ君には何かあるわね」

発令所に詰めるスタッフたちも、驚きや感動の声を上げている。そして若干発令所の集中が緩んだ瞬間、シンジが雄たけびを上げる。

『おおおッ!』

初号機が着地と同時に使徒をぶん殴り、思いっ切り吹き飛ばす。その拳には、A.T.フィールドが纏われていた。

「おお……!」

「エヴァ初号機から、A.T.フィールドの発生を確認!」

「A.T.フィールド……やはりエヴァにも使えたのね」

やはり、と頷くリツコ。そこに、シンジの切羽詰まった声が届く。

『ミサトさん、ビルの影に女の子が!使徒を僕が引き付けているうちに、早く!』

「何ですって!?日向君、急いで保安部に保護させて!」

「はい!」

ミサトの指示に心得ていた日向は、保安部に指示を出して救助に向かわせる。画面の向こうでは、初号機が間一髪で使徒の攻撃を避けていた。

「槍が伸びた!?」

「あそこまでは、槍は伸ばせなかったはずなのに……まさか学習しているの!?」

 

上段では、ゲンドウと冬月がこそこそ言葉を交わす。

「おい碇、不味くないか?」

「……問題ない。いざとなれば、初号機が暴走するはずだ」

 

「日向君、まだなの!?」

「あともう少しです!」

画面の向こうでは、初号機が何度目かの使徒の眼からの光線を回避し、街の一部が爆発で吹き飛ぶ。今は余裕があるから大丈夫だが、いつ直撃するか分からない。本来はミサトたちが指示をしてやるべきだが、使徒と戦闘するのが初めてなのと、初めて稼働する初号機など、初めて尽くしで指示を出す余裕はなく、見守ることしか出来ないでいた。そんな彼らに、朗報が届く。

「女の子、無事に収容しました!」

日向の言葉を聞いたミサトが、すかさずシンジに伝える。

「シンジ君、女の子は無事よ!今こっちで保護したわ!」

『……了解!』

シンジの力強い返事。それと同時に、初号機がアンビリカルケーブルをパージした。

「エヴァ初号機、アンビリカルケーブルをパージ!内部電源に切り替わります!」

青葉が叫ぶ。それと同時に、シンクロ率をモニターしていたマヤからも悲鳴のような報告が上がる。

「シンクロ率、急速に上昇!80、90……100パーセントを突破しました!上昇、止まりません!」

「何が起こっているの!?」

「まさか……」

混乱する発令所。その中で真実を知る三人はあることに思い至る。……そして、シンジから決定的な一言が告げられる。

『行くよ、母さん!』

『ルオオオオオオォォォッ!』

「「「!?」」」

「下顎部装甲、損壊!」

(まさか、もう目覚めたというの、彼女が……)

「碇、これはいかんぞ……初号機は既に……」

「……も、問題ない。この件は、暴走として処理する」

(母さん、だと?シンジ、お前は何を……)

リツコ、ゲンドウ、冬月は起きたことを悟り、険しい表情を浮かべた。

初号機は吠え、使徒を引きずり倒すとコアを剥き出しにしてそれを捕食する。その様子を見たマヤや一部の女性職員が、口元を抑える。モニターに映るシンジは、何かを懸命にこらえていた。

「使徒を、喰ってる……」

「S2機関を、取り込んでいるんだわ……」

 

口元を抑えながらシンクロ率をモニターしていたマヤが、あることに気付く。

「シ、シンクロ率安定しました。399.99パーセントです……」

(身体崩壊の一歩手前、か。やはりシンジ君は、エヴァとお母さんのことを……)

一同が見守る中で初号機は捕食を終え、立ち上がると元の状態に戻る。シンクロ率も、それに合わせて元の数値に戻った。シンジは脱力し、インテリアに頭を預けて目を閉じた。

「シンジ君、ちょっと、シンジ君!初号機の回収、急いで!」

『は、はい!』

使徒殲滅は為されたものの、その内容は波乱に満ちていた……。

 

 

 

NEON GENESIS EVANGELION RETROGRESSION

EPISODE2 RE-BIRTH




トウジの妹の名前ですが、TV版では明かされていないため新劇場版の「サクラ」を使わせていただきました。
初号機の早すぎる覚醒、そして使徒の強化。シンジたちはエヴァの力をフルに使えますが、それに対抗して使徒も学習し、強化されてゆきます。その結果がどのようになるかは、今後のお楽しみに。
では、また次回で。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

courage(後編)

……た、大変驚いております。
2020/8/21、日間総合ランキング52位、二次44位、ありがとうございます。
これからも皆さんのご期待に添えるよう、全力で頑張ります!


アスカは加持を伴い、食堂で軽めの食事を取っていた。シンジの食事が恋しくて、好物のハンバーグを思わず頼んでしまう。が……。

(確かに悪くはないんだけど……やっぱシンジの作ってくれた方が美味しいわね)

そんなことを考えてながら、ハンバーグをもぐもぐしているアスカの横から彼女の顔を覗き込むのは、ドリングバーで頼んだ飲み物を呷っている加持だ。

(確実に変わったな、アスカ。前までは自信たっぷりに見せちゃいたが、あれは虚勢みたいなもんだった。脆い本来の自分を押し殺すための、な。だが……今の彼女は違う。己の弱さを受け入れ、それでも前に進む覚悟を持った人間の目だ。それに、俺との距離も取ろうとしている気がする……)

加持はドリンクを空にし、空のコップの底を見つめる。

(人類補完計画……その存在と内容を知るのは碇司令や冬月副司令、それからゼーレの委員会メンバーのはずだ。俺も、その概要までしか掴めていない。だが……アスカはそれを知っていると言った、そのすべてを。何も知らず、エヴァのパイロットとしての訓練に打ち込んでいただけの彼女が、どうやってそれを知った?俺が知る限りじゃ、上層部がアスカに接触した形跡は微塵もなかった。一体何が……)

その視線に気づいているアスカは、気取られないよう苦笑する。

(見られてる見られてる。ま、アタシ変わりすぎだしね。それに、加持さんが何よりも知りたい真実をアタシは、アタシたちは知っている。何故か、って思うだろうし)

視線を感じながらも、まったり食事してくつろぐアスカ。その最中、食堂に何名か駆け込んできて休憩中の職員に何かを慌てて伝える。休憩中の職員は、それを聞いて慌ててぞろぞろ出て行く。彼らの会話の断片から、アスカは察する。

(NERV本部、第三新東京市、初号機。……早速おっぱじめたわね、シンジ)

加持が何が起きたのか確認しようと腰を浮かせかけたので、アスカは引き留めるように日本語で声を掛けた。

「聞くだけ時間の無駄だと思うわ、加持さん。どうせ碇司令がすぐに箝口令を敷くでしょうから」

「……また知っているのか?」

「ええ。初号機の覚醒。シンジの仕業ね」

「シンジ……サードチルドレンか?アスカ、彼の何を……」

「だって、彼も知ってるもの。全てを」

「!?」

(彼も全てを知っているだと!?それに、いつ彼と接触したんだアスカ!?)

珍しく驚愕の表情を浮かべる加持。アスカはクスクス笑い、不意にその笑いを収める。

「ふふ。そんな顔しないでよ、加持さん。……アタシたち運命を仕組まれた子供たちは、そのくそったれな運命をぶち壊す。それだけ」

アスカの瞳に宿るのは……怒りの炎。加持は、何も言えなかった。

 

二人は少しの間黙ったまま、その場に留まる。そして、ハンバーグを食べ終えたアスカはトレイを持って立ち上がり、返却口に返すとさっさと食堂を出てゆく。加持は慌てて、彼女の後を追う。

「アスカ、どこに行くんだ!?」

「だって、ここに居ても意味ないし。どうせごたごたで午後の訓練はなしになるから、外に出て用事を済ませようかなって」

「用事?」

「……パパとママに会いに。けじめ、つけないと」

そう加持に告げたアスカは、何か強い決意を抱いている様子だった。

 

 

 

 

シンクロ率の制御に力を使い、疲れ果てたシンジ。彼は微睡の中で、ある人と出会う。その人物は―碇ユイ。

「シンジ……」

(その声は、母さん……?)

「ごめんなさい、シンジ。貴方の記憶を見たわ。私たちは、あなたたちに重くて辛いものを、背負わせてしまった……」

(いいんだ、母さん。確かに辛いことも沢山あったし、何度も逃げ出した。―でも……みんなと会えた)

シンジは、姿がぼやけてよく見えない母に笑いかける。ユイは、それに驚いたように見える。

「……あの人に伝えて。私の居場所は、ここしかない。私はもう……外に出るつもりはない。私という過去の亡霊に縛られる必要はない。シンジたちを、頼みます。……愛しているわ、あなたって」

(……分かった。伝えるよ)

「じゃあね、シンジ」

(うん、また何処かで)

シンジが目を開けると、ちょうど初号機がケージの中に収容されたところだった。

「……ありがとう、母さん」

 

 

 

 

アスカは加持の車に乗せてもらってドイツ支部から抜け出し、家族の住む家の前まで送ってもらった。車が停車するとアスカは助手席のドアを開け、外から運転席の加持に声をかける。

「少し、ここで待っててくれる?」

「ああ。俺が居ても野暮なだけだからな。気が済むまで話すといい」

『……ありがとう、加持さん』

アスカは玄関のドア前に立ち、自身の姿を見下ろす。アスカは、以前のような露出度が高いワンピースは着ていない。以前までの自分は、露出度の高い服を着ることで自身の魅力をアピールすると共に、加持に媚びていた節があった。今思えば……己の脆弱さの表れだったのかもしれない。手段を問わず、何としてでも己を認めて欲しかったのだろう。……もう、夢から覚めた。誰かに媚びる必要は……もうない。自分のことを心から理解してくれている者は、もう居る。―碇シンジ。お互いに己の内面まで曝け出しあった、アスカのパートナー。彼と共に、困難を乗り越えてゆく。これは、その第一歩だ。

アスカは深く深呼吸をし、インターホンを押した。

『はーい!』

バタバタと足音がし、ガチャリと音がして玄関のドアが開く。……出てきたのは、己の継母であった。

『アスカちゃん……』

アスカは、彼女に深々と頭を下げた。

『ど、どうしたの!?』

『……今まで、ごめんなさい。アタシは、ママを避けてた。ママも、キョウコママと同じようにアタシのことを愛してくれていたはずなのに……。パパにも、酷いことをしてしまった。キョウコママを失って辛かったのはパパも同じだったのに……。アタシは、何てひどいことを……』

頭を下げたままのアスカの瞳から、ポタリ、ポタリと涙が垂れる。懸命に言葉を繋ごうとするが、感情の高ぶりのせいで声は震え、途切れ途切れになる。

『アタシの心が、よ、弱いばかりに……。アタシは、周りを見てなかった……見れて、なかった……』

『ア、アスカちゃん……』

『……もういい、アスカ』

途方に暮れるアスカの継母の後ろから、アスカの父が姿を現す。そのまま、泣き崩れてしまった娘をそっと抱きしめた。

『パパこそすまない。大事なママを失ってどれだけアスカの心が辛かったのか、慮ってやれなかった。アスカの気持ちをよく考えず、再婚を決めてしまった。……ごめんな、アスカ』

『パパ、パパ……!』

アスカの継母も、父の上からそっとアスカを抱きしめる。

『ママも、ごめんなさい。アスカちゃん……アスカがどれだけ苦しんでいたのか、察して上げられなかった。ママ失格ね……』

『ママ、パパ……!アタシを、赦してくれる……?』

『『勿論』』

二人は優しい笑顔を浮かべて、アスカに頷きかけた。アスカはそれを聞いて、心を縛り付けていたものが軽くなったのを感じ、より一層激しく泣きじゃくる。アスカの涙が枯れるまで、二人はアスカを優しく抱きしめ続けた。

 

 

 

 

 

シンジはエントリープラグから出た後、整備員たちの手荒い歓迎をそこそこに、更衣室のシャワーを借りてL.C.Lの血の匂いを洗い流していた。

「……血の匂い、か」

シャワーを浴び続けながら、シンジは手のひらを見やる。フラッシュバックするのは、エヴァの手で大切な人たちを握りつぶした、嫌な記憶だ。

「あんなこと、もう二度とするもんか」

シンジは開いていた右手を閉じ、きつく握りしめる。

 

 

 

シンジは更衣室横にある自販機からスポーツ飲料を買い、長椅子に座ってストローから啜る。そんな彼に近づいてくる人があった。―赤木リツコだ。

「あ、リツコさん。ミサトさんたちは?」

「後片付けに大忙しよ」

「あはは、すみません……」

「いいのよ。貴方が上手く戦ってくれたおかげで、想定よりも被害の規模は少なくてすんだし、使徒の実物をほぼきれいな形で手に入れることが出来た。……コアは手に入らなかったけど」

リツコは目を細め、シンジをじっと見つめる。シンジは苦笑いするしかなかった。

「……碇司令が呼んでいるわ」

「……でしょうね。行きますよ」

「……逃げないのね」

「……逃げてばかりだと、何にもいいことありませんから」

シンジは飲み物を空にすると、ごみ箱に放り込んで立ち上がる。

 

 

そうしてリツコに先導され、シンジは薄暗い父の部屋に足を踏み入れた。いつものポーズをとって父が座り、冬月が左後ろに控える。リツコは空いている右隣りに立つ。

「……来たか」

「うん、来たよ。……もう、僕は逃げない」

しかしその言葉とは裏腹に、シンジは心の中で逃げたい気持ちが沸き上がっていた。

(父さんは、受け入れてくれるのかな。もし信じてくれなかったら、どうしよう……)

自分の話を信じてくれる確証がない。『サードインパクトが起きた未来から還ってきました』などいう自分たちの身の上が、荒唐無稽だということは分かっている。信じてもらえず、拒絶されるのがものすごく怖い。

(けど、信じたい。父さんたちのまごころを)

「……お前は、誰だ」

「シンジだよ。けど、ちょっと違う。色々と知ってる」

「何を知っているの?」

「人類補完計画、アダム、ヘブンズドア、リリス、ロンギヌスの槍、ゼーレ、ダミーシステム、綾波レイ……」

シンジが最重要機密の単語を話す度に、三人の表情がどんどん険しくなる。

「……何故それを」

「サードインパクト」

「「「!?」」」

「実は、一度起きたんだ。ゼーレのサードインパクトが。僕と初号機を依り代として」

「……何だと?」

「父さんの望み通りには、ならなかった。このまま行くと、後一年ぐらいでその未来が訪れる」

「……お前は、何を言っている」

ゲンドウは一見すると分からないが、信じられない、という表情を浮かべている。他二人も同様だ。

「実際に見てもらった方が、早いかな」

シンジは目を閉じると、左手を前に突き出した。小さな赤い光球が三つ出現し、目にもとまらぬ速さで三人の頭に入り込む。

「ぐうッ……」

「うっ……」

「きゃあああッ!」

三人の脳裏に、戦自侵攻からサードインパクト発動までの記憶が怒涛のように流れこむ。これは、自分が皆と一つになっている時に皆から得た記憶の断片を搔き集めたものだ。

 

しばらく記憶が流れ込んだ負荷で三人は苦しみ続け、シンジはそれを見守り続ける。しばらくして記憶の再生が終わり、三人は脂汗を浮かべながらも顔を上げた。

「ア、アハハ。私は結局母さんには勝てなかった。アハハハハハ!」

「これでは、何もかも無駄ではないか。ユイ君、私たちは一体何処で間違えたのか……」

「ユイ、私が何もかも捨てても、お前には届かないのか……」

リツコは狂ったように笑い、ゲンドウと冬月は絶望で嘆く。

「今見てもらったのが……証拠です。僕たちは何もかも失った。全ては、ゼーレの目論見通り。欠けた僕たちの心が、サードインパクトを引き起こした。父さん、こんなことを母さんは望んでいたの?NERVの全てを利用し、僕ら運命の仕組まれた子供たちの心を犠牲にした結果、人類を滅ぼすなんてことを……」

シンジは三人の様子に辛そうに顔をしかめながら、ゲンドウに問いかける。冬月とリツコは何とか平静を取り戻し、ゲンドウを見やる。

「……ユイは、何か言っていたか?」

数十秒ほど沈黙を保った後、ゲンドウは絞り出すようにシンジに尋ねた。

「『私の居場所は、ここしかない。私はもう……外に出るつもりはない。私という過去の亡霊に縛られる必要はない。シンジたちを、頼みます。……愛しているわ、あなた』……そう言ってたよ」

「そうか……」

「母さんは自分はもう死んだものとして欲しいんだと思う。……リツコさんと一緒になって欲しいんじゃないかな。そんな気がする。……未来を見て、生きようよ。父さん……」

シンジの懇願。リツコは複雑な心境に戸惑い、黙ったままだ。冬月が、ゲンドウを促すような目線で見る。その腹は、もう決まっているらしい。

「碇……」

「……分かった」

「え?」

「人類補完計画は、現時刻をもって破棄。……すまなかったな、シンジ」

「父さん、ありがとう……」

(ああ、良かった……)

ゲンドウの纏っていた重苦しい雰囲気が霧散し、柔らかくなる。これで、大きな困難が一つ終わったことにシンジは安堵する。

「……リツコ君」

「は、はい」

ゲンドウはリツコの方に振り向き、リツコはピクリと反応する。

「後で、話し合おう。我々の、未来について」

「……」

リツコは無言で、コクリと頷いた。その頬は、心なしか赤く染まっている。シンジは見たことのないリツコの表情に驚きながらも、微笑んだ。

(良かった……リツコさん)

ゲンドウはシンジの方に向き直り、シンジに問いかける。

「お前がサードインパクトの起きた未来から還ってきたのは分かった。しかし、どうやって?」

「……驚かないでよ?」

シンジは一瞬だけ、瞳を赤く染めた。

「その瞳は……」

「補完を拒絶したのは、僕とアスカだけだった。聖書のアダムとイヴのようにたった二人だけのヒトになった僕たちは、使徒としての力を目覚めさせた。僕がアダム、アスカがリリス。そして、魂だけの状態で僕たちの前に現れた綾波とカヲル君……最後のシ者タブリスの力を借りて力の大半を使い、世界の状態を巻き戻したんだ。今日この日まで」

「……そうか」

ゲンドウは、シンジの告白を黙って聞き届けた。シンジの、酷く申し訳なさそうな顔を見つめながら。

「ごめん、父さん。僕は、純粋なヒトじゃ……」

「だからどうした」

「!」

「私の大事な息子であることに変わりはないのだろう?……無論、レイも」

ゲンドウの不器用ながらも優しい言葉に、涙を浮かべたシンジ。ゲンドウは、何か憑き物が取れたような表情をし、椅子から立ち上がる。

「……冬月、少し頼む」

「どうした、碇」

「レイの所に行く。……シンジ、ついてきてくれ」

「う、うん!」

「わ、私も……」

リツコも慌てて続こうとしたが、ゲンドウがそっと押しとどめる。

「無理はするな。……まだ整理がついていないのだろう?」

「!」

図星、という風にリツコの体が硬直する。

「また後で、レイとゆっくり話をしてやってくれ。……我々には、時間がたっぷりあるのだから」

「……はい、ありがとうございます」

「行くぞ、シンジ」

シンジはゲンドウに頷き返すと、部屋を出てゆく彼に続いていった。その背中を、冬月とリツコは黙って見送った。

 

 

 

 

 

 

ゲンドウはレイの病室の前まで辿り着くと、ボタンに手をかけようとしてその動きを止めた。

「父さん、どうしたの?」

「……レイとどのように接すればいいのか、分からん」

シンジは父の不安を察し、ボタンにかけられた手に自分の手を重ねた。

「大丈夫。父さんが思っていることをちゃんと伝えればいいと思うよ」

「……そうだな」

ゲンドウは意を決して、ボタンを押してドアを開ける。ちょうどベッドの上で体を起こしていたレイは、無表情ながらもゲンドウの姿を認めて目を見開いた。

「……碇司令」

ゲンドウはゆっくりレイに歩み寄ると……その細い体を優しく抱きしめる。

「あ……」

「すまない。本当にすまなかった、レイ。―私の、大事な娘よ……」

「お、とうさん……」

シンジは抱き合って静かに涙を流す父子を、出入り口のドアから見つめ、優しく微笑む。

 

 

 

 

 

To be continued......




今回のタイトル、「courage」。これが示すのは、シンジが真実を打ち明ける勇気。アスカの、両親と和解しようとする勇気。そしてゲンドウの、レイを娘として接したいという勇気。人々の心の再生の物語。サブタイトルの「RE-BIRTH」はこれと、今後生まれ変わるであろうNERVを表しています。



父と子の和解はなった。次に為されるのは……「家族」の再生の物語。
次回、NEON GENESIS EVANGELION RETROGRESSION
「reunion」
さあて、次回もサービスサービスゥ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

reunion(前編)

平穏、しかし世界は大きく動き始める。


父ゲンドウたちとの和解を果たしたシンジ。ゲンドウとレイの仲直りを見守っていた彼は、ふとあることを思い出した。

(そう言えば、ダミープラグはどうするんだろう?)

いいタイミングで二人が離れたので、シンジは早速尋ねてみることにした。

「父さん、綾波関連なんだけど……ダミープラグは、どうするの?」

ゲンドウは下にずれていたサングラスをぐいっと上げ、元に戻す。一瞬、目尻の下に涙が見えた気がした。

「私としても破棄したいところなのだが……ゼーレの老人たちに我々の反逆を悟られる訳にはいかん。ダミーの開発はしばらくは予定通りに続ける。……すまんな、レイ」

「……いえ」

レイは首を横に振り、ゲンドウに優しく微笑む。

「我々は、変わらなければならない。シンジ、他に必要なことはあるか?出来る限りのことは、我々大人がしよう」

シンジは少し悩む素振りを見せた後、『家族』二人について頼むことに決めた。

「……二つあるんだけど」

「聞こう」

ゲンドウはシンジに向き直る。レイは嬉し涙で泣き疲れたのか、横になって眠った。

「まずは、加持さんのことなんだけど……」

「……加持リョウジ一尉、か」

「父さん、加持さんの裏の顔知ってるよね?」

「日本政府内務省調査部と、ゼーレの秘密工作員だな」

「……加持さんを、こっちに引き込もうと思っているんだ。加持さんは、ミサトさんのために全ての真実を知ろうとして……前の世界で死んだ。ミサトさん……泣いて悲しんでた。僕もアスカも勿論、悲しかった。……父さん、お願い。加持さんを助けてほしい」

シンジは加持との思い出と、泣き崩れるミサト……悲しむアスカを思い出す。……絶対に、死なせる訳にはいかない。

「……分かった。彼への対応は、シンジたちに一任しよう」

「ありがとう……。あ、後……」

口ごもるシンジ。ゲンドウはシンジのその様子を見て、ニヤリと笑う。

「セカンドチルドレン……アスカ君だな?」

シンジはかあッ……と顔を真っ赤に染め上げる。……こういう所は、まだまだ以前と変わらない。

「うん……」

「やはり、そうか」

シンジは照れ隠しでゲンドウから顔を逸らしながら、己の望みを伝えた。

「アスカだけでも、こっちに呼んでおきたいんだ。アスカは頭がいいから僕には思いつかないことを考え付けるだろうし、今のアスカならきっと僕と一緒にシンクロ出来る。それに……ア、アスカと一緒に居たい」

「……」

ゲンドウは黙って、続きを促す。

「アスカは確かに、勝気で自信たっぷりの女の子だ。……でも、本当は違う。寂しがり屋で、甘えん坊なんだ。きっと、寂しがってる。それに……ドイツ支部にはゼーレの息がかかっているかもしれないんだ。そんな所に、アスカを居させたくない」

シンジが見せる、男としての顔。ゲンドウはそんなシンジを見て、心なしか嬉しそうだ。

「……男らしくなったな、シンジ。分かった、何とかしよう」

ゲンドウは座っていた丸椅子から立ち上がり、スース―と寝息を立てるレイの頭を一撫ですると病室から出た。シンジは慌てて父の背中を追い、病室から出る。シンジが病室から出ると、ゲンドウが何処かに電話をしているところだった。シンジが聞いても理解出来ない言語でゲンドウが誰かと言葉を交わし、何かを確認していた。直前までの会話から察するに、ゲンドウはドイツ語でドイツ支部の司令と言葉を交わしているのだろう。少し会話をした後、父は電話を切り、シンジに向き直る。

「ど、どうだった?」

「少し渋ったが、彼女の優秀さを引き合いに出してドイツ支部を持ち上げれば何とかなった。もっとも、本人は今基地に居ないらしいが」

「え?アスカは、何処に?」

「所在は把握している。彼女の、両親が住むところだ。加持一尉が同行しているから、問題ないだろう」

「あ……」

シンジは前史で、アスカが継母と話すのを見ていた。あまり仲がいいとは言えず、距離を取っている状態。……きっと、関係を修復するために行ったのだろう。

(アスカも、前に進んでいるんだね)

「加持一尉に連絡を取るか?」

「……うん、一応。でも、アスカの邪魔はしたくないな」

「分かった」

ゲンドウは今度は、別の携帯を取り出して電話をかけ始めた。電話を変えたのは、安全のためだろう。

 

 

 

 

アスカはしばらく両親に抱いてもらった後にようやく泣き止み、顔を上げて立ち上がった。

『ありがとう、パパ、ママ。……アタシ、もうすぐ日本に行かなきゃいけない。エヴァのパイロットとして、この世界を守るために。多分……当分こっちには戻って来れないと思う。でも……ここはアタシの家だから。たまに帰ってきても、いい?』

『構わないよ。遠慮することはない。いつでも好きな時に、帰っておいで』

『そうよ、アスカ。あなたはこの家の子供なんだから』

アスカはまた泣きそうになってしまい、瞼をごしごし擦る。そして、とびっきりの笑顔を浮かべた。

『ありがとう!』

 

(アスカは今頃、両親とどんな話をしているのだろうか)

加持は乗ってきた車に寄り掛かり、煙草をふかしながらアスカが戻るのを待っていた。

(アスカは確実に、変わった。虚勢を張るのを止め、心の弱さを受け入れた感じがする。それに俺からも距離を取った……恐らくサードチルドレン、碇シンジ君が関係しているのだろうが。強くなった、のだろうな。理由は分からないが。……それに比べて俺は……)

思考がどんどんネガティブな方向に進んでゆき、加持が過去の回想に入ろうとした瞬間……玄関のドアが開いてアスカが出てきた。二言三言両親と和やかに、そして嬉しそうに会話をした後、車に戻ってくるアスカ。彼女は泣きはらして目を真っ赤にしているものの、とても晴れ晴れとした笑顔を浮かべていた。どうやら……上手くいったらしい。

「お待たせ、加持さん。行こっか」

「もういいのかい?」

「うん。ちゃんと思いは伝わったから」

「……そうか。なら、行こうか」

加持が運転席のドアを開けた瞬間、加持の携帯が鳴り出す。

(誰だ?)

「ごめんな、アスカ」

加持は開いた携帯の画面に表示されている名前を確認し、表情が険しくなる。

(碇司令……!?)

全てを知る、謎多き司令。アスカの件もあり、いつになく真剣な表情をして電話に出る。

「はい、こちらNERV特殊監査部、加持リョウジ一尉」

『私だ』

「碇司令、本日はどのような趣で?先日仰せつかったことは、まだ大分先ですが……」

『その件はまた改めて命じる。先程、君とセカンドチルドレンに本部への転属命令を出した。すぐに荷物を纏めてこちらに来たまえ』

ゲンドウからの思わぬ辞令に、加持の勘が告げる。これは、アスカの変化と関係があると。

「!?随分とまた性急な……理由を伺っても?」

『大したことではない。セカンドチルドレンには、こちらでサードチルドレンにその戦闘技術を叩きこんでもらう。君には彼女の護衛と……こちらでの極秘任務を頼みたい。指示は君が到着し次第……また改めて話す』

 

 

アスカもまた、真剣な表情を浮かべながら加持の横でゲンドウと彼の会話を聞いていた。

(碇司令の言葉……柔らかくなってる。シンジ……説得できたのね。アタシと加持さんの転属命令……もう日本に行ける。シンジに会える!)

真剣ながらも、嬉しさで内心ニヤニヤしているのを懸命に悟られないようにするアスカ。そんな彼女に、携帯が差し出される。

「加持さん?」

「碇司令からだ。君と話がしたいそうだよ」

アスカは携帯を受け取り、耳に当てた。

「お電話変わりました。セカンドチルドレン、惣流・アスカ・ラングレーです」

『……こうして直接話すのは、初めてになるか』

「はい、そうだと思います。碇司令」

『……話は全て、シンジから聞いた。すまなかったな、アスカ君』

電話の向こうで頭を下げる気配がしたので、アスカは慌てて声をかけた。

「あ、頭を上げて下さい!もう、済んだ話ですから。……それに、エヴァのパイロットになれなかったら、私はシンジたちに出会えていないので。感謝してます、そのことについては』

『……ありがとう。息子を、よろしく頼む。シンジに変わる』

少しして聞こえてきたのは、この世界では初めて聞く、されどとても懐かしい声だ。

『……アスカ?』

「シンジ?」

『……』

「……」

二人は少しの間無言で、お互いの存在を確かめ合った。少しした後、沈黙を破ったのはアスカだ。

「……聞いてた?アタシ、もうすぐそっちに行けるから。ちゃーんと、アタシの部屋、準備して待ってなさいよ!」

『……もちろん。アスカの大好きなもの、作って待ってるから』

「……ありがと、シンジ。……愛してる」

『……ぼ、僕も愛してるよ。アスカ』

 

 

 

NEON GENESIS EVANGELION RETROGRESSION

EPISODE3 True Love




ぎこちないながらも、親子関係の再構築を始めるゲンドウとシンジ。加持の心の動き。両親との絆を取り戻したアスカと、義父として初めて接するゲンドウ。そして……待望の主人公カップルの電話越しの再会。次回は、早くも来日が決まったアスカ、シンジ、ミサト、加持にスポットが当たります。お楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

reunion(後編)

アスカの早期来日。これかなり珍しいのでは?
今回、一部残酷な描写があります。お気を付けて。


愛の言葉をお互いに囁きあった二人は、まだ慣れておらず、また恥ずかしいため顔を真っ赤にしてしまう。

「……」

『……』

無言で頬を赤らめ、俯く二人。しばらく沈黙した後、シンジはぎこちなくアスカに話かけた。

「じ、じゃあ……待ってるから」

『う……うん。じゃあ、なるべく早くそっちに行くから。じゃあね』

アスカが電話を切る音がしたので、シンジは耳から電話を離し、父に返そうと彼の方を向いた。ゲンドウは……はたから見ると分からないが、実はニヤニヤしている。

「……は、はい。ありがとう、父さん」

一瞬そんな父に何か言おうかと迷ったシンジであったが、結局何も言わず携帯を返した。

「ああ。……そう言えば、住む所はどうする?」

住む所。そう言われてシンジの脳裏にフラッシュバックしたのはコンフォート17での偽りの、それでも暖かい『家族』との暮らしだった。

「……僕は、ミサトさんとアスカと一緒に住みたい。あの頃の暮らしは、確かに歪で本物じゃなかったかもしれない。……でも、それでも僕らにとっては『家族』の生活だった。僕とアスカが壊してしまった生活を、取り戻したい。……『本物』になりたいんだ」

己の固い決意を、父ゲンドウに伝えるシンジ。ゲンドウは、その思いを汲み取ることにした。

「……分かった。そのように手配しておく」

「ありがとう、父さん。……本当は、父さんとも一緒に暮らしたいんだけど……これから忙しくなるでしょ?」

「……ああ。別に、シンジが気にすることではない。全てが終わった後……ゆっくり考えるとしよう」

「……うん」

「では、私は仕事に戻る。シンジ……今日はゆっくり休め」

ゲンドウはそう言ってシンジに背を向けると、その場を去っていった。シンジはゲンドウを黙って見送ると、彼も病院を去って行った。

 

 

 

三日後。ゲンドウは人類補完委員会からの招集を受け、リモートで会議に参加していた。

『使徒再来か。あまりに唐突だな』

『十五年前と同じだよ。災いは何の前触れもなく訪れるものだ』

『幸いとは言える。我々の先行投資が無駄にならなかった点ではな』

『そいつはまだ分からんよ。役に立たなければ、無駄と同じだ』

『左様。今や衆知の事実となってしまった使徒の処置。情報操作。NERVの運用は全て、適切かつ迅速に処理してもらわんと困るよ』

「……その件に関しては、既に対処済みです。ご安心を」

その後からの委員会のメンバー四人からの言葉は、叱責に近いものに変わった。

『しかし碇君。NERVとEVA、もう少し上手く使えんのかね?』

『実戦配備され、初陣の初号機の原因不明の暴走。本当に信頼の足る代物なのかね?』

『聞けばあのおもちゃは、君の息子に与えたそうではないか』

『それに加えて、弐号機パイロットの勝手な転属。君には、もう少し自覚を持ってもらわねばな』

『左様。君の仕事は、これだけではあるまい』

モニターに映し出されたのは……『人類補完計画』と書かれた文書。

『人類補完計画。これこそが君の急務だ』

『左様。この計画こそが、絶望的状況下の唯一の希望なのだ。我々のね』

それに続いたのは、バイザーを付けた老人。―ゼーレの実質的な支配者であり、全ての黒幕でもあるキール・ローレンツだ。

『いずれにせよ、使徒再来による計画スケジュールの遅延は認められん。予算については、一考しよう』

『では、後は委員会の仕事だ』

『碇君、ご苦労だったな』

キール以外の四人の映像が切れ、姿が消える。

『碇、後戻りはできんぞ』

キールもそう言い残し、通信を切った。

「……勝手に後戻りの出来ない、袋小路の破滅の道に進むがいい、ゼーレ。我々はいずれ、貴様らを滅ぼす」

ゲンドウにはもう、ゼーレに対する信頼は置いていない。……いずれ、NERVとゼーレは、雌雄を決するのだから。

 

 

 

同時刻、三日間昼夜を徹した第三の使徒の解体作業がようやく終了し、その陣頭指揮を執っていたミサト、リツコ、マヤはNERV本部に帰着することが出来た。

「ふー。やーっと解放されたわ……」

「本当、お疲れさまでした。葛城さん」

「……そー言えばリツコ、シンジ君は?」

「……相変わらず抜けてるわね、ミサト」

「ぬわーんですって!?」

廊下を歩きながら、隣を歩くリツコに噛みつくミサト。一歩後ろを歩くマヤは、アハハと苦笑していた。

「シンジ君は、本部に寝泊まりしながら先の戦闘についてのレポートを提出。その後は、レイのお見舞いに行ったり、本部内を散策して自由に過ごしているわ」

「……そ。メンタル面の問題は?」

「先の暴走に近い状態の影響は、ほぼ見られないそうよ。精神汚染の可能性は、ほぼゼロと言っていいわ」

「ならいいんだけど……」

このように一見普段通りの会話をこなしているように見られたミサトであったが、内心は違っていた。

(あの戦闘の後、シンジ君は碇司令に呼び出された。確かにシンジ君は何かを知っている。……あの後、リツコたちの雰囲気が変わった。柔らかくなって、棘が取れた気がする。この三日間後始末に忙殺されてたからシンジ君に会えてないのよね……会って確認しないと)

 

 

 

 

 

一方その頃、アスカはというと、ゲンドウの手配したNERVのプライベートジェットに乗り、日本に向かう道中にあった。その中でここ数日の疲れからか、うとうとするアスカ。彼女は、夢を見ていた。

 

 

 

アスカが気が付くと、彼女はいつの間にか再び二号機に乗り、あの悪魔の如き量産型シリーズと対峙していた。

「またこいつらと戦えって?……やってやろうじゃない」

アスカは足元のペダルを踏みこみ、再び量産型エヴァに挑もうとした。その瞬間、アスカの周りのものが全て消滅し、生身で真っ暗闇の中に囚われる。

「なにこれ、どうなってんの!?」

辺りをキョロキョロし、戸惑うアスカ。その瞬間、人間サイズになった量産型エヴァがアスカの右腕に噛みついた。

「え!?」

そのままアスカに量産型エヴァが群がり、再びアスカを捕食してゆく。

「嫌、いや、イヤ!」

アスカは自分が食い荒らされ、臓物や血液がまき散らされる激痛に襲われ、恐慌状態となる。その時だった。

「……スカ。アスカ。アスカ!」

自らが揺さぶられる感覚を覚え、飛び起きるアスカ。その隣には、彼女の肩に手を置いて心配そうにしている加持の姿があった。

「はあ、はあ、はあッ……。ゆ、夢……?」

「大丈夫か、アスカ?ひどく魘されていたぞ」

「え、ええ……。ちょっと、悪夢をね」

(ひっどい夢だったわ……。……やっぱまだ乗り越えられてない、か……)

アスカがトラウマを乗り越えるには、いましばらく時がかかるようだ。

 

 

 

 

 

「……よろしいのですか?」

「ああ。息子は君に預けよう、葛城一尉。……レイの怪我が癒えれば、彼女も君に預けるつもりだ」

ゲンドウの部屋にシンジと話す前に呼び出されたミサトは、ゲンドウから思わぬ指示を受けていた。シンジが来る前までは、何処か冷酷でNERVの下の人間とは距離を置いているように感じられた碇司令。その壁が今は……感じられない。

(一体、何があったの……?)

「さらに、これは極秘情報だが……加持リョウジ一尉とセカンドチルドレン、惣流・アスカ・ラングレーが本日到着予定だ。彼らも、君に任せる」

「!何故、彼らを?」

「必要だから呼んだまでだ。……以上だ。もう下がりたまえ」

「了解、しました……」

ミサトは納得は出来なかったが……彼女もまた一組織の人間だ。上からの指示には……従わざるをえない。踵を返し、出口へ向かうミサト。出口のドアに差し掛かったところで、ゲンドウが呼び止めた。

「葛城君」

「……何でしょう?」

「息子の、フィアンセを頼む」

「!?」

ミサトは驚きで振り返ろうとしたが、無情にも自動ドアが閉まる。ゲンドウがそれを見て密かにニヤリとしていると、後ろに控えていた冬月がぼそりと言った。

「……意地が悪いぞ、碇」

 

 

碇司令から最後に爆弾発言を投げつけられた後。ミサトは自分の部屋でデスクワークに打ち込んではいたが、その実全く集中できていなかった。

(アスカがシンジ君のフィアンセって……一体何があったのかしら……。アスカは確か、加持君にご執心だったはずだけど……)

ミサトがこのように思考に耽っていると、コンコンとドアを叩く音がして人が入ってきた。入ってきたのは、自分が今一番話したいと思っていた少年、シンジ君だ。

「ミサトさん、加持さんとア……惣流さんが到着したそうです」

「そ、そう……。それにしてもシンジ君、よくここが分かったわね」

「オペレーターの日向さんに教えてもらいました。後、父さんからほぼすべての場所へのアクセス許可は貰いましたし」

その一言で、ミサトの表情が険しいものに変わる。

「……シンジ君、一体何をしたの?あなたが司令の部屋に呼び出された後、明らかに碇司令と冬月副司令、それにリツコの雰囲気が変わったわ。何を知っているの、あなたは?」

ミサトのデスクの前に立つシンジは、苦笑しながら答える。

「……ちょっと話をしただけですよ。大丈夫、ミサトさんにも話しますよ。……二人が到着したら、すぐにね」

シンジは明らかに、アスカと関係があると言外に言っている。何としても……確かめなければ。

 

 

 

 

 

シンジはミサトと連れ立って、NERV本部の出入り口へと向かう。その道中、ミサトの張り詰めた空気のためか二人は終始無言だった。

(やっぱ疑われてるな……流石ミサトさん)

ミサトたちはオンボロのルノーに乗り、貨物列車を使ってこの前とは反対に、ジオフロントから地上に出る。地上の出入り口につくと、そこには二人の人影があった。その二人は、長髪のダンディーな男性と、赤がかった金髪の、美しい少女。

シンジはルノーが停まるとすぐにドアを開けて走り出す。彼の姿を認めた少女―アスカも走り出した。二人は同時に腕を広げると、相手を抱きとめ、お互いに腕の中に包み込む。時間を遡る前は、一度もしなかった行為だ。お互いの体の柔らかさと暖かさを感じる二人は、今まで感じたことのない安らぎを覚えていた。

(アスカの匂いがする……。それに、暖かい。ヒトと抱き合うって、こんなに暖かいんだ……)

(シンジの匂いがする。いい匂い……それに、抱き合うのってこんなに心地いいんだ……)

二人は安らかな笑顔を浮かべ、お互いの肩に顔を埋める。ミサトと加持は、その様子を呆然として見ていた。

しばらくした後、ソフトなバードキスをし、照れくさそうに小さく笑うシンジとアスカ。二人は体を少し離し、ミサトと加持に堂々と笑顔で告げた。

「「僕(アタシ)たち、恋人なんです(なの)」」

「「はあ!?」」

 

所変わって、コンフォート17のミサトの部屋。アスカとシンジは隣り合って座り、反対側に同じく並んで座る加持、ミサトと正面から向き合っていた。二人の表情は硬く、対照的にシンジとアスカはリラックス気味だ。

「……ま、二人共気になってるだろうし単刀直入に言うわ。……アタシたち、未来から戻ってきたの。―サードインパクトが起きた、未来から。バカバカしい話だと思うけど、ホントだから」

「「!?」」

驚愕半分、訝しさ半分だ。……無理もないが。

「……証拠は?」

加持が冷静さを取り戻して尋ねてきたので、シンジとアスカは両目を赤く染めると、ゲンドウたちにしたように二人にサードインパクトが起きる直前付近の記憶をインストールした。……加持の死の記憶のおまけ付きだが。

「「ぐうッ!」」

流石軍人とスパイ、といったところだろうか。前回よりも二人は早く、立ち直る。

「……どうして、加持君が死ななきゃいけないの?」

ミサトの声は涙に濡れ、震えてしまっている。俯き、目尻から涙が伝う。

「……ミサト……」

加持も己とミサトの死に動揺してしまったのか、ミサトの呼び方が恋人時代のものに戻ってしまっている……それ程の衝撃だったのだろう。アスカとシンジも、表情を曇らせている。

「……加持さん、真実を知りたいって。自分たちを変えてしまった、全ての真相を知りたい。そのためにトリプルスパイなんて危険なことまでして……最期にはミサトさんに全ての真実を送って……殺されました」

シンジは途切れ途切れに、二人に真実を告げた。シンジもアスカも、その顔色は暗い。

「……その真実ってのが、人類補完計画のほぼ全て。セカンドインパクトに端を発した、使徒のお話よ。……人類、第十八の使徒リリンが群体生物から、ここに襲来してくる使徒と同じ単体生物への人工進化。それが、サードインパクト」

アスカがシンジから説明を引き継ぎ、人類補完計画の核心、その概要に触れた。

「人間が……使徒!?」

「そ。アタシとシンジは、群体でS2機関を持たない人間から使徒の力を覚醒させた、言わば新人類、”ニュータイプ”ってとこね」

「アスカを贄とし、僕と初号機を依り代にしたゼーレのサードインパクトは失敗に終わり、ヒトの形を取り戻せたのは僕とアスカだけ。その結果この力に覚醒して、その力の大半を使ってこの世界を再構築したんです」

「……その口ぶりだと他にもあるように聞こえるんだが……」

加持の指摘に、シンジは嫌悪感を滲ませながらその答えを告げた。

「……サードインパクトは二つありました。父さんは、ゼーレの思い通りにするつもりはなかったんです。父さんの目的は、母さんにもう一度会うこと。そのために、第一の使徒アダムを取り込んで、心をほとんどなくした綾波と融合させて一つになろうとしたんです」

「……どうして、レイと?」

ミサトに応えたのは、やるせない表情をしているアスカ。

「……あの子は、ヒトじゃない。さっきアタシたち、目が赤くなっていたでしょ?赤い目は、使徒の力を持つ証。碇司令たちがシンジのママ、碇ユイ博士を初号機からサルベージしようとして失敗し、今のレイの『素体』が生み出された。その肉体に、NERV本部の地下に封印されている第二の使徒、リリスの魂を入れた。―それが、『綾波レイ』よ。レイは例え肉体が滅びたとしても、増産された素体に魂を移し替えることが出来る。その素体は、初号機のダミープラグに使われているわ。……胸糞悪い話よ。あの子は、レイは人形じゃないってのにッ……」

アスカは拳をテーブルに叩きつけ、怒りで歯を剥き出しにして食いしばる。シンジはアスカをなだめるようにそっと手を置いた。ミサトと加持は、次々と明らかにされる衝撃の真実に呆然としている。

「ちょ、ちょっと待って。……えっと、つ、つまり、レイは人間じゃなくてクローンみたいなもので、それがダミープラグに使われてて、シンジ君のお母さんがエヴァに入ってて、えっと、えっと……」

ミサトは頭がパンクしてしまい、何が言いたいのか分からなくなってしまっていた。シンジは苦笑し、ミサトを落ち着かせようと言葉をかける。

「落ち着いて下さい、ミサトさん。……要は全部父さんたちが全て仕組んでいたことだったんです。僕たちを選出したマルドゥック機関は、ダミーです。何故なら、エヴァ初号機と弐号機には僕らの母親の魂が封じられていて、僕ら以外にはシンクロ出来る人間はいないから。初めから僕らの運命は定められていた。―エヴァに乗り、その心を壊して、サードインパクトの生贄に捧げられる運命が」

「そんな、そんなことって……私は、何てことを……」

「……」

ミサトはあまりにも過酷すぎるシンジたちの運命に言葉が詰まる。それと同時に、自分がエヴァを使って使徒に復讐しようとしたことが、シンジたちの心を壊し、サードインパクトを引き起こしてしまった、ということに自己嫌悪の感情が沸いてしまう。

一方加持は、己の知りたかった真実があまりにも残酷すぎたため、言葉が出ない。

「ミサト、あんまり自分を責めないで。アンタも、被害者だってことは分かってる。……サードインパクトも、セカンドインパクトも全てゼーレっていう組織が仕組んだことだった」

「ゼーレ?」

ゼーレの名前がはっきり出た瞬間、加持の顔色が一瞬変わる。

「加持さんが、情報を探るためにNERVと日本政府と、掛け持ちしてトリプルスパイをしていた所です。今言ったことの大半は、ミサトさんが戦自侵攻の時に、加持さんが送ってきた情報を元に話してくれました。……本当に、ミサトさんを愛してたんですね。加持さん」

「シンジ君、それは……」

加持は慌ててシンジに手を伸ばしたが、その手をミサトが掴む。

「加持君、本当?」

「あ「そうよ、ミサト。加持さんはアンタのために、命を賭けてまで真実を追い求めた。……ミサトが己を振った本当の理由を、明らかにするためにね」……おい、アスカ……」

己のセリフをアスカに思いっ切り遮られてしまい、加持はアスカを責めるように見る。アスカは舌を出し、誤魔化すように言った。

「てへへ。でも、ホントのことでしょ?」

「……まあ、そうだがな……」

加持は一つ溜息を吐くと、隣に座るミサトに向き直り、右手を取った。

「あ……」

「ミサト、愛してる。俺と……結婚してくれないか?」

「私で、いいの?」

「君が、いいんだ」

「……リョウジ……」

「ミサト……」

二人の唇が触れ合い、情熱的なキスを交わす。アスカとシンジは顔を見合わせ、クスリと笑う。

 

 

二人がそっと唇を離すと、アスカがパンパンと手を叩いて加持とミサトの意識を引き戻した。

「ほらほら、話はまだ終わってないわよ」

「あ、ゴメン、二人共……」

「すまん、つい熱くなった」

二人は少しやりすぎたと反省し、頭を軽く下げる。アスカは若干あきれ顔になりながら、話を本題に戻した。

「ま、いいけどさ……。さて、と。アタシとシンジは、平穏な日常を送りたい。けど、襲ってくる使徒とゼーレを倒すには力がとても足りない。……力を、貸してくれる?」

「僕からも、お願いします」

今度はアスカとシンジが、頭を下げる。加持とミサトはお互いに頷きあった。

「勿論だ。微力ながら、お手伝いさせてもらうよ」

「ええ。私たちで、良ければ」

こうして四人は、手を取り合い、共に歩むことになるのであった……。

 

 

 

 




加持とミサトに真実を明かし、力を貸してもらえることと相成りました。彼らはこれから、存分に対使徒、ゼーレ戦においてその力を発揮してくれるでしょう。



シンジたちは来るべき戦いのため、対策を練り始める。
その一方でシンジとアスカは、二度目の転校を果たすのであった。
次回、NEON GENESIS EVANGELION RETROGREESION
「Second contact」
さあて、次回もサービスサービスゥ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Second contact(前編)

―お待たせ。待った?


シンジとアスカは自分たちの秘密をミサトと加持に打ち明け、共に歩むことになった。しかしながら話したのは概要のみであったため、詳しい話を夕食を食べながらすることに(長くなりそうだったため)。

「実は、まだ色々と話したいことがあるのですが……」

シンジが申し訳なさそうに言うと、本来ならシンジと同じ立ち位置のはずのアスカが少しイヤそうに顔をしかめる。

「えー!?シンジ、また今度にしない?アタシら全員結構疲れてると思うし……。リツコも交えて詳しい所はまた明日話そうよ。アタシ、シンジのご飯食べてゆっくりしたいな……」

シンジはアスカの言葉にそれもそうかと頷くと、立ち上がってエプロンを付ける。

「そうだね。真面目な話はこれで終わり。明日の朝、リツコさんに会って話そう」

「?どゆこと?」

「あ、すみません。実は父さんたちにはもう話してて、味方になってくれました。様子が変わったのは、そのせいですよ」

「ということは、上層部の主要な幹部は全員シンジ君の味方か?」

シンジは先程マンションに着く前に立ち寄ったスーパーで買った食材を冷蔵庫から取り出しながら、苦笑しつつ加持の問いに答えた。

「マヤさんたちオペレーター陣にはまだ秘密ですけどね」

 

その後は実務的な会話はせず、シンジがテキパキと夕食の準備をこなし、アスカが甲斐甲斐しくその手伝いをする。ミサトと加持は優しく見守りながら二人を茶化し、二人は顔を真っ赤にして反応する。そんな前史になかった穏やかな時間が流れる。そうしてシンジがアスカと作った夕食をつつきながら、四人は和やかな夕食の時間を過ごしていた。

「そういえば加持さん、住む場所どうするんですか?僕たちに協力してアルバイト辞めるってことは、ゼーレからも狙われる可能性が……」

そうシンジに言われた加持は、箸を置いてううむと考え込んだ。

「確かにそうだな……よりセキュリティが高い所に引っ越すのが無難かな……」

「―だったら、ここはどう?」

そう何とはなしに提案したのは、ミサトだ。

「ここはアタシが住んでるし、この子たちが住むことになるからさらにセキュリティレベルが上がるわ。碇司令が味方だから、その辺はきっちりしてくれると思うし。……そ、それに……」

加持をチラチラ見ながら、顔を赤らめて俯くミサト。珍しいものを見た、とシンジとアスカがおおーッとなった。

「ま、また一緒に暮らしたいなって……」

加持はミサトの顔を見て珍しく顔を赤らめると、頷いた。

「……そうだな。そうするか。明日の朝、三人を送ったら荷物を取りに行ってくるよ」

この日の真面目な話はここで終わり。その後四人はのんびり過ごし、布団をリビングに敷いて雑魚寝で眠った。

 

 

 

翌朝。シンジの作った朝食を四人で頂いた後、加持はミサトのオンボロルノーを運転してNERV本部のゲート前まで送り届けた。

「じゃあ、俺は荷物を取りに行ってくる。三人とも、リっちゃんによろしく」

「はい。加持さんも、お気を付けて」

「ありがとう。じゃあな、夜にまた会おう」

そう言うと颯爽と車を発進させ、去ってゆく加持。……車がオンボロでなければ完璧だったと言うのは、言わぬが吉である。

「さあて、アタシらはリツコに会いに行かないとねん♪」

ミサトに先導され、リツコの研究室に入った三人。リツコは椅子に座って何かのレポートを読んでいた。

「リツコ、今だいじょーぶかしら?」

「……あら、ミサト。それに、シンジ君に……アスカね」

ミサトに声を掛けられて顔を上げ、初めて三人が居たことに気付いた素振りを見せたリツコ。彼女はアスカに目を向け、眼鏡の奥で軽く目を見張った。

―何故なら、彼女の頭から髪飾りとなっていたインターフェイスがなくなり、髪も下ろしていたからだ。

 

 

 

 

昨晩、アスカはお風呂に入るために服を脱ぎ、洗面所の鏡に映る自分の姿を見つめた。

(……インターフェイス、か)

彼女のトレードマークの一つであった、髪飾り代わりのインターフェイス。これは以前までの自分が、エヴァにどれだけ執心だったか示すものでもあった。

しばらく己の姿を見つめていたアスカは、そっとインターフェイスを置いて風呂に入った。

そしてインターフェイスを付けずに風呂から上がったアスカは、インターフェイスをつまんで持ち上げながらミサトにあることを尋ねた。

「ねえミサト、これ入れる箱みたいなのない?」

「それって、インターフェイスじゃない。アスカあんなに気に入ってたのに……」

「……そうね。でもこれは、アタシがエヴァに依存しきっていた象徴なの。アタシはもう……エヴァに依存するつもりはない。乗る必要がなくなれば、何の抵抗もなくそれに応じれる。……これをするのは、エヴァに乗る時だけ」

「アスカ……」

心配そうに己を見つめるシンジに、アスカは満面の笑みで笑いかけた。

「そんな顔しないでよ、シンジ。……アタシは、前に進みたい。これは、そのための第一歩よ」

 

 

 

「何?」

「いえ……見違えたな、と思っただけよ」

時は戻り、現在。リツコの言葉に、アスカはフン、と鼻を鳴らした。

「別に、そんなに変わってないわよ。……ただ、認めただけ」

「認めた、ね」

アスカの変化を、興味深そうに見つめるリツコ。シンジは苦笑すると、早速本題に入った。

「リツコさん、相談があるんですけど……」

「……内容によるわ。今ちょっと手が離せないから」

「……何を、しているんですか?」

シンジの質問の答えは、少し意外なものであった。

「S2機関よ」

「ああ……確かあの時使徒のコアを喰ってたわよね……」

そう言って身震いするミサト。そのことについて知らされていなかったアスカは、じろりとシンジを睨んだ。

「……アンタ、何やらかしてんの?」

「……す、すいません……」

アスカの感情の籠っていない声に、思わず委縮してしまうシンジ。……時間が巻き戻ってもなお、アスカの尻に敷かれるシンジであった。

「……ま、アタシも弐号機の初陣で取り込むつもりだったからヒトのこと言えないケド。……で、リツコはS2機関で何やってるの?」

呆れた顔をした後、リツコに視線を戻したアスカはリツコに続きを促した。リツコは目を細めながらまたレポートに目を通しつつアスカに説明を始めた。

「……本当に面白いわね、あなたたち。……ま、いいわ。S2機関を獲得したことで初号機は活動時間が無限になった。けれど、委員会に逆らっていることを悟られてはならないからその存在を隠匿しなければならないのよ。だから、S2機関の稼働をアンビリカルケーブルをパージ後にするようにもう一つ電力の伝達回路をエヴァに搭載しなくてはならない。そのための案を、今組み立てているところ」

「……それ、いつまでかかる?」

「おおよそ後二、三週間だけど……」

「……二週間で終わらせて」

リツコの答えを聞いた瞬間、アスカと復活したシンジの顔色がさっと変わる。

「……どうして?」

「……あと三週間弱で、次の使徒が来ます」

「!それ、ほんと?」

「ええ、ミサトさん。だから、それまでに改修を終わらせてほしいんです」

「一回は乗っとかないと、感覚が鈍るしね」

「……分かったわ、なるべく早く仕上げてみせる」

 

 

 

 

翌日、第3新東京市立第壱中学校の二年A組に、二人の転校生が入ってきた。

一人は中性的な、優しそうな少年碇シンジ。そしてもう一人は―”ポニーテール”の赤みがかった茶髪の美少女、惣流・アスカ・ラングレーだ。

二人は名前を書くと、微笑んだ。

「「みんな、よろしく」」

 

 

 

 

NEON GENNESIS EVANGELION RETROGRESSION

EPISODE4 Not the same




加持が引っ越してくることに!コンフォート17のどこに住むのかは、次回以降をお楽しみに。
その他にも、初号機の偽装改造やアスカのポニーテールなど変更点が盛りだくさん。
……だれかポニーテールバージョンのプラグスーツアスカを書いてはくれんじゃろうか……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Second contact(後編)

難産だった……。


その日の2-Aは、朝から大盛り上がりであった。風の噂で転校生が、しかも二人入ってくると言うのだ。男女ペアで、どちらも美形だというのである。

「聞いた聞いた?」

「転校生でしょ?楽しみだよね~!」

「美形って聞いたけど、カッコいい系かなあ?」

女子たちと同様に、男子たちも浮足立っていた。

「女子も居るってよ!」

「噂によると、すっげー美人なんだってさ!」

「ワンチャンデートとかも……!」

そうしてはしゃぐ男子たち。しかし、そういうのに喰いつくはずの少年、相田ケンスケは何故かむすっとしていた。彼らしからぬ行動に怪訝そうに思った親友、鈴原トウジは彼に声をかけた。

「何や、不満そうやなケンスケ」

「……別に」

そう言ってそっぽを向いたケンスケ。こりゃ駄目だ、とトウジは委員長に話しかけに行った。

(どうして情報が何もないんだ……!)

この少年、相田ケンスケは実は父がNERVに勤めており、先日噂になったパイロットについて勝手にハッキングして情報を得ようとしていたのである。……しかし、彼はパイロットが同世代、ということ以外何の情報も得ることが出来なかった。

それもそのはず。エヴァンゲリオンの関連情報、そのすべてのアクセス権限が一気に引き上げられ、ケンスケの父のアクセス権限では閲覧不能になってしまったのである。この措置は、シンジたちチルドレンの身に万が一があってはならないとゲンドウの指示によって行われた。

 

そして教室内がざわざわしていると、教室の前のドアが開いて担任の老教師が入ってきた。ぴたっと教室内の会話が止まり、生徒たちはしゅばばばと自分の席についた。

「……よし、綾波以外全員居るな。さて、もう知っているとは思うが転校生が二人今日から君たちの仲間になる。入って来なさい」

開いたドアから二人の真新しい制服を着た生徒が入ってきた。一人目は中性的で華奢な、優しそうな美少年。二人目は豊かな長い茶髪を赤いリボンでポニーテールに纏めた美少女。二人は教室に入るとすぐに自分の名前を書き、クラスメートたちに向き直ると微笑んだ。

「「みんな、よろしく」」

次の瞬間、クラス中が男女共にどっと騒ぎ出す。予想以上の歓声に、シンジとアスカも若干引いていた。

(「シンジ、うちのクラスってこんなに居たっけ?」)

(「多分、僕が短時間であっさり使徒を倒したから、被害が少なくて疎開する人も少なかったんじゃないかな?その影響で前よりも人数が減ってないんだと思う」)

こしょこしょと話をした後、二人は老教師にある提案をした。

「あの、先生。これ、一時間目自習にした方がいいんじゃないでしょうか……?」

「アタ……私もそう思いました。一人ならともかく二人だから収集が付かないと思いますし……」

若干呆れ顔の二人の提案に、老教師も一つ頷くと生徒たちに指示を出した。

「……では、一時間目は自習とする。出席は二時間目に改めてとるのでそのつもりで。二人の席はそことそこだ。洞木、後は任せる」

「は、はい!」

二人の席を指さした後、老教師は出席簿を抱えて教室のドアをガラリと開けて出て行った。彼が出て行ったのを確認すると、アスカは一つ咳払いをしてクラスメートたちに向かって話し始めた。

「コホン。……さて、色々聞きたいことがあると思うけどまずは簡単に自己紹介から。アタシの名前は、惣流・アスカ・ラングレー。名前から分かると思うけど、アタシは純粋な日本人じゃなくて日本人とドイツ人のクオーター。四分の一だけ日本人の血が入ってるってこと。ママがハーフだったからね。で、この度一身上の都合により日本に来日してこのクラスに転入してきました。ここまでで、何か質問は?」

すると、複数人が一気に話し始めてまたうるさくなり始めたため、ヒカリが一喝した。

「こら、アナタたち!二人が困ってるでしょう!?」

『……』

怒ると怖いと分かっているため、生徒たちは一斉に口を噤んだ。

「これでいい、惣流さん?」

ヒカリの名前の呼び方に一瞬寂しそうな笑みを浮かべた後、アスカは静かに微笑んだ。

「アスカでいいわ。……質問がある人が居れば、手を上げてね。はい、そこの貴方」

間髪入れず上がった手の中から一人を選び、その質問を受けた。

「えっと、趣味は?」

「趣味、ねえ……。特にないかな。まあ、ショッピングとかカフェとかは好きだけど。次」

「ドイツに居たってことは、ドイツ語ペラペラ?」

「そうよ、日本語も話せるけどまだまだ勉強中」

「彼氏は?」

三回目の質問で割とガチなものが来たため、アスカはシンジと顔を見合わせた。

「……その質問は、割と時間かかるから”シンジ”の自己紹介の後でいいかしら?」

「あ、はい……」

『……!』

アスカがシンジを呼び捨てにしたため騒ぎ出し、その関係について察する者も出てきた。

「……じゃあ、”アスカ”からバトンを受けたので自己紹介させてもらいますね。僕の名前は、碇シンジ。父の仕事の都合で十年ほど親戚に預けられたのですが、この度この街で働く父に呼び出されて転校して来ました。では、質問をどうぞ」

今回もまた次々手が上がる。先程は男子の方が多かったが、今回は逆に女子が多い。

「スポーツは得意なの?」

「いや、全然。どっちかっていうと部屋でまったり過ごしたい派かな」

「じゃあ、何をするのが好きなの?」

「家事全般かな。あ、後、習ってたからチェロが弾けるよ」

「……惣流さんとの関係は?」

その質問をしたのは……ケンスケだった。どうやら彼は今回も、アスカに憧れの感情を抱いているらしい。

(ケンスケを傷つけたくはないけど……ここで宣言しておいた方が今後のためになるかな)

シンジはアスカを左手で抱き寄せ、アスカはシンジの狙いに気付いたのかノリノリでシンジの頬にキスをした。

『ああーッ!?』

「……こ、こーゆーことよ。アタシとシンジは恋人で……婚約者」

『婚約者ァ!?』

無理もない。彼らはまだ、十三歳か十四歳の幼い子供なのだ。この歳で婚約者が居るということが、あまりにも異常なのだ。

「そ。言っとくけど、別に親が決めた訳じゃないから。アタシら自身の意思で、お互いを一生愛すると決めた」

「外見だけじゃない。僕たちはお互いの内面を知りつくした上で、相手をパートナーとして選んだ。……ごめん、これだけは譲れないんだ」

「アタシらには、他の人を愛することは出来ないのよ。……本当に、ごめんなさい」

二人は大変申し訳なさそうに、頭を下げた。息を呑むクラスメートたち。言外に理解したのだ。……自分たちに入ることの出来る隙はないし、入ることなどもっての外だと。

「い、いいよ!気にしないで!」

「そ、そうだよ!気にすんなって!」

口々に申し訳なさそうにしている二人に対してフォローを入れるクラスメートたち。頭を上げてほっとした様子のシンジとアスカは、これからの学校生活に思いを馳せるのであった。

 

 

 

 

二、三、四時間目と授業をこなしたシンジとアスカ。シンジは知っている内容だったので普通についていけていたが、アスカは前史ではまだ来日していなかったため悪戦苦闘しながらも地頭の良さで何とかついていった。そして、昼休み。シンジはアスカと二人で昼食を食べようとしたところ、トウジに声を掛けられた。

「転校生、ちょお面貸せや」

「アタシも?」

「……そうや」

「りょーかい」

「あ、ならお弁当持ってってもいい?ついでだから一緒に食べようよ」

「か、かまへんけど……」

と、いうことで屋上のドアを開けると、既に二人ほど待っていた。

「ケ……相田君?」

「ヒ……洞木さん?」

「悪いね。俺も聞きたいことがあったからさ……」

「ご、ごめんなさい。ちょっと聞きたいことがあって……」

二人共少し気まずそうにして謝ってきたため、シンジとアスカは二人を宥め、用件を聞くことにした。

「別に謝らなくていいんだけど、取り敢えず鈴原クンのから聞きましょうか」

「あ、それだったら俺も一緒に。内容ほぼ一緒だから」

「そうなんだ……じゃあ話って何かな?」

シンジは後ろに居たトウジに向き直り、彼の瞳を真正面から見据えた。

「さっきは上手く誤魔化しとったが……おのれがあの紫色のロボットのパイロットやろ?」

トウジはシンジの瞳を真っ直ぐ見返し、単刀直入に言った。

「!よく分かったね」

「ケンスケが言うとったんじゃ。パイロットは同じ学年じゃと。さっきおまんらが”一身上の都合により”って言うた時、確信に変わったわ」

「そっか……でもなんでそれを?」

お互いの目を見て真剣に話す二人を、他三人が見守る。アスカは腕組みして背中を敷居に預け、微笑んでいた。

「妹を、サクラを助けてもろうて、ほんまにありがとう!」

勢いよく頭を下げるトウジ。シンジは困ったように笑い、トウジに頭を上げるように言った。

「……頭、上げてよ。あれはたまたま僕が気付いただけだし、保護したのは保安部の人たちだから。……もし僕が気付いてなかったら、巻き込んじゃってたと思うから、お礼は受け取れない」

「け、けんどな……」

「……シンジの言う通りよ」

なおも言いつのろうとするトウジを止めたのは、腕組みして目を閉じたままのアスカだった。

「アタシらが守らなければならないのは、この街に居る人たちだけじゃない。この世界そのものよ。アタシらNERVが負けたら―世界が滅ぶ」

『!?』

アスカの言葉に三人の顔が引きつり、シンジはアスカの言葉に頷いた。

「今回は運よく気づけたからよかったけど、敵も段々強さを増すだろうし、その分余裕も無くなる。―見に行こうなんて思わないでよ。特に、そこのメガネ」

アスカは目を開くと、ケンスケを指さしてジロリと睨みつけた。

「アンタ、NERVにハッキング仕掛けたでしょ?今回は見逃したけど、次やったらアンタら親子共々重い罰が下されるから」

「な、なんで……」

「NERV舐めんな。アタシらは、お遊びでやってる訳じゃないから。ゲームと現実は違うのよ」

十四歳とは思えない殺気をケンスケに叩きつけるアスカ。ケンスケは怯え切ってしまい、シンジは苦笑しながらアスカの両肩をポンポンと叩いた。

「アスカ、落ち着いて」

「……ごめん、言いすぎた。でも、命を守るためにも気軽にパイロットに志願したり、見に行こうなんて思わないでほしい」

「二人もお願い。僕らのせいで、誰かを傷つけたくないんだ」

二人の顔は歪み、言葉は悲痛に満ちていた。三人は思わず息を呑む。

「……分かった。もう二度としないよ」

「わしもや。……もしこいつがやらかしそうになったら、わしが体張って止めるさかい」

「わ、わたしも……二人が無茶しないようにちゃんと見張っておくから!」

アスカは後ろを向き、両手を肩に置くシンジの顔を見た。シンジは微笑み、静かに頷いた。

「……ありがと」

「じゃあ、お昼食べようか。―トウジ、ケンスケ、委員長。僕は、シンジでいいよ」

『!』

 

 

 

屋上に座り込み、和やかにとりとめのない話をする五人。その中でふと、アスカはヒカリの話したいことを聞いていないことを思い出した。

「そういえばヒカリ、アタシたちに聞きたいことがあるんじゃなかった?」

ヒカリはあ、という顔をすると一旦箸を置いた。

「昨日の午後……二人デートしてなかった?」

「「え?」」

 

 

昨日の午後、ヒカリは学校帰りにその日の夕飯の食材を買おうとスーパーに向かっていたのだが……その道中で一組の若いカップルとすれ違った。同年代であったため、思わず振り返るヒカリ。

二人は腕を組み、楽しそうに会話をしていた。

(あれ、あんな子たちうちの学校に居たっけ……)

 

 

「あー……すれ違ってたのか。あれね、アタシらこのリボンとかを買いに行ってたの」

後ろに手を伸ばし、自分の髪を纏めるリボンをつまむアスカ。

 

 

 

午前中にリツコやミサトと話した後、昼食後に二人はショッピングに繰り出していた。腕を組んだまま、今日のショッピングについて話す二人。

「リボン?」

「そ。髪型、ポニーテールにしようかと思ってさ。纏める用に欲しいなって」

「……いいんじゃない?」

「それと、シンジの服も見繕わないとね♪」

「ええ!?」

てっきりアスカの買い物だと思っていたシンジは、自分に飛び火させられたため驚愕した。

「だぁって、シンジ顔はいいんだから……もっとオシャレしないとね♪」

「え~……」

自分に拒否権がないことを悟ったシンジはガックシとなり、アスカは隣でクスクス笑う。ちょうどその時、二人はヒカリとすれ違っていたのだ。

その後二人はお互いに服を選んで着せ替えをし、シンジはアスカに赤のリボンをプレゼントして喜ばれたのは余談である。

 

 

 

 

それから二週間程は、平穏な毎日が続いた。シンジ・アスカが学校に通い始めてから一週間後には傷が完治していないもののレイが学校に復帰し、レイを加えた六人で一緒に行動するようになった。レイは五人と一緒に過ごす中で少しずつ失ってしまった感情を取り戻してゆく。

 

 

とはいえ、シンジたちチルドレンは何もしなかったわけではない。放課後、二日に一回はNERV本部に行って訓練を受けた。その訓練は―銃を使った生身の戦闘訓練であった。

おそらくほぼすべての使徒を殲滅した後、NERV本部はゼーレとの決戦の場になるだろう。戦自が動くかどうかはまだ定かではないが、本部の直接占拠を狙って戦闘部隊を送り込んでくるはずだ。それに加え、敵対する組織や世界の覇権を狙う組織がチルドレンの身柄を狙ってくる可能性は、決して低くはない。ミサトが己を庇って銃撃戦を行い、負傷して命を落としたことを知るシンジは自ら志願し、アスカも同調して志願した。ミサト達は逡巡したものの、その覚悟を汲んだ加持が教官役を引き受け、スパイの洗い出しの合間を縫って二人に訓練を施した。飲み込みの早いシンジと、長く訓練を受けたアスカは銃の扱いの基礎をこの二週間でものにし、今では密かに帯銃を許可されている。

 

 

 

お弁当を食べた後、シンジは屋上に寝転んでS-DATの音楽を聴き、アスカはその片方のイヤホンを借りて隣に寝転ぶ。レイも真似をしてアスカの反対側に寝転び、穏やかな時間が流れていた。

―だが。

「「「ピリリリ!」」」

その三人の電話が同時に鳴り、雑談をしていたトウジたちは中断して三人に目線を向けた。

シンジたちは飛び起きると、急いで身支度をして屋上から出るべく立ち上がる。

「センセ、もしかして……」

「……うん、来たみたいだ。三人はシェルターに」

「くれぐれも、出てこないでよ!」

「……じゃあ、また」

三人は足早に屋上のドアを開けて出てゆく。トウジたちは彼らを見送った後、急いで教室に戻るべく立ち上がった。

「ほんなら、行こか。……ケンスケ、分かっとるとは思うが……」

「行かないよ。―碇たちが真剣に命がけで戦ってるんだ。邪魔は出来ないよ」

そう言うケンスケは、何か憑き物が落ちたような表情をしていた。トウジとヒカリは微笑んだ。

「じゃ、二人共。避難しようか!」

「おう!」

「ああ!」

 

 

「……税金の無駄遣いだな」

使徒襲来とはいえ、すぐにエヴァンゲリオンが出撃出来るわけではない。国連軍にも面子があり、威嚇射撃が間断なく撃ち込まれている。……A.T.フィールドに阻まれているため、何の意味もないのだが。

「委員会より再び、エヴァンゲリオンの出撃要請が出ています」

青葉がそう報告すると、ミサトは不機嫌そうに愚痴をこぼす。

「うるさいやつらね……言われなくても出撃させるわよ。初号機に繋いで」

エヴァ初号機との通信回線が開かれ、モニターに”二人”のパイロットの姿が映し出された。操縦席に座るのは……なんとアスカ。後ろに仮で増設されたシートに、シンジが座る。

「いい、アスカ、シンジ君。手はず通りにお願い」

『分かってるわよ。そっちこそ、へましないでよ?』

『アスカ……すみません、こっちは大丈夫です』

「日向君、例の物は?」

「既に、ポイント208にスタンバイしてます」

「タイミングはこちらで測ります。誘導お願い」

『『了解!』』

 

何故アスカがシンジと共に初号機に搭乗しているのか。そして、彼らの作戦とは一体?

 

To be continued......

 

 

 

 




トウジたちとのファーストコンタクト(二度目)は何とか穏便に終わりました。
チルドレンに帯銃させたのは、この章の終盤から次章にかけて対人、対組織がメインになるので自分の身が危険に晒される機会が多くなるためです。より戦いが、現実味を帯びていきます。
そして、エヴァ初号機に乗るアスカ。この謎の答え合わせは、次回まで持ち越し。




何とかシャムシエルを撃退するも、心の不安定な部分が垣間見えるシンジ。
一方レイは、肉体と魂の在り方に、疑問を抱く。
次回、NEON GENESIS EVANGELION RETROGRESSION
「Mind and body」
さあて、次回もサービスサービスゥ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Mind and body(前編)

―心の傷は、未だ癒えず。


時を遡り、日を改めて対シャムシエル戦の作戦立案を葛城家で行っていたのだが……(加持は裏の洗い出しのために不在)。

「え?アスカが乗るの?」

意識の外にあった提案に驚くミサト。アスカはコクリと頷くと、詳しい説明を始めた。

「正確にはアタシとシンジが、だけど。いわゆるタンデムシンクロね」

「……それは、何故?シンジ君とレイはパーソナルデータが近いから互換性があるけど、あなたとシンジ君じゃあ……」

リツコが抱いた疑問はもっともである。前史でアスカが相互互換の試験実験を行わなかったのはアスカが拒否したから、ということもあったが、実はアスカのパーソナルデータではシンクロできる確率は低いと考えられていたからだ。

「ま、確かに”以前までの”アタシだったら無理だと思うわ。でも今のアタシは……リリスの力に覚醒したからレイと同じリリスの遺伝子が組み込まれている。その点では、レイのパーソナルデータに近づいたはずよ」

「「!」」

先日シンジとアスカの話を聞いた時、彼らが使徒の力を覚醒させ、ヒトの域を超えたことは既に聞いていた。その副次的な効果が、アスカの遺伝子に現れていたのである。

「確かにシンクロ率の扱いで言えば、僕の方が上です。でも……戦闘技術の方は幼い頃から訓練を受けていたアスカの方が圧倒的に上なんです」

シンジはそう言うと、リビングのテーブルの上にこの間書いた使徒に関するレポートのシャムシエルのページを取り出した。詳細な資料を見ようと、大人二人がが身を乗り出して覗き込む。

「今回の使徒の武器は光の一対の鞭のみ……のはずです。学習進化で新しい力を手に入れている可能性もありますが……とにかくこの鞭は厄介ですよ。僕の反射神経じゃとらえきれないスピードで飛んでくるし、パレットガンは効果なしなので……突撃してプログレッシブナイフで攻撃を喰らいつつ仕留めなければ倒せませんでした。……これはどの使徒にも言えることですが……確実に仕留めるにはナイフか格闘戦で近距離から攻撃を浴びせるしかありません。または……超火力の遠距離攻撃しか効きませんでした。なので技術部の方たちには、強力な近接武器を用意してほしいんです」

「確かにそうね。射撃はほぼ牽制にしか使えないだろうし……シャムシエルには取り回しの良い拳銃だけ用意してくれればいいわ。後は……奴の動きを封じれるものが欲しいわね」

二人が腕組みして指を顎に添えながら言うと、ミサトが何か思いついたようだ。

「確か使徒捕獲用のネット、あったわよね。リツコ」

「ええ、あるけど……」

「それを上手く使えば鞭を封じれるかもしれない。次の使徒の武器って鞭だけなのよね?」

「はい、多分」

「だったらアスカの操縦で使徒を指定のポイントに誘導して、そこに用意したネットで動きを封じ、無防備な所に射撃かナイフを叩きこんで撃破。これがベストね」

「「「おお~」」」

ミサトの立てた見事な作戦に思わず拍手をする三人。こうして対シャムシエルの作戦が立案され、実行されることとなったのである。

 

 

 

 

 

時は戻り、アスカとシンジは初号機のエントリープラグ内で出撃を待っていた。初号機のパーソナルデータは既にアスカに切り替えられており、シンクロ率が若干下がったものの問題なく起動していた。

(シャムシエルと戦うのアタシ初めてだからなァ……ちょっと緊張するかも……)

前史ではアスカは未経験だったため、少々緊張気味であった。

「ねえ、シンジはどう……」

振り向いて尋ねようとしたアスカは、シンジの表情を見て思わず硬直してしまった。……シンジの顔色が、分かりやすく悪い。

(もしかして、シャムシエル戦はシンジの鬼門の一つ?)

アスカは前史の時、トウジとケンスケが勝手に抜け出して迷惑を掛けたとしか聞いていない。だが……流石に察することが出来た。

(シンジ……あのバカ二人組を巻き込みかけたのね……)

「……あんまり神経質にならない方がいいわよ。前の時みたいなことは、きっと起こらないわ。大丈夫、落ち着いていきましょ」

アスカがシンジを励まし、心を安定させるように声をかけると、シンジの顔色は幾分よくなった。

「……そうだよね。アスカ、心配かけてごめん」

「ううん。ミサト達にも念押ししておいたから、大丈夫」

 

 

二人は精神統一をして、出撃の合図を待つ。数分後、通信回線が開かれた。

『いい、アスカ、シンジ君。手はず通りにお願い』

「分かってるわよ。そっちこそ、へましないでよ?」

「アスカ……すみません、こっちは大丈夫です」

『日向君、例の物は?』

『既に、ポイント208にスタンバイしてます』

『タイミングはこちらで測ります。誘導お願い』

「「了解!」」

最後の作戦の確認が行われた後、ミサトは出撃を命じた。

『では、発進!』

「「エヴァンゲリオン初号機、起動!」」

初号機の目が開くと同時にシャフトが開放され、高速でシャムシエルの正面に射出された。肉眼で確認できたシャムシエルは、今の所違いは見られない。

「シンジ、行くわよ」

「了解、スタンバイしておくよ」

兵装ビルの武器コンテナから拳銃を取り出し、初号機は上に跳んだ。

「まずは、挨拶代わりッ!」

空中から数発シャムシエルに銃弾をお見舞いするが……聞き覚えのある音と共にA.T.フィールドが展開されてあっさり弾かれた。

「ちッ、やっぱ弾かれるか!」

「アスカ、来るよ!」

「分かってる!」

空中から降下し、地上に着地する隙をシャムシエルが見逃すはずもなく鞭を飛ばしてくる。

(思ってたよりも早い……!というか弐号機と違うから反応が鈍いッ!)

着地と同時に空いている左手をアスカが伸ばし、シンジが念じてフィールドを展開し、攻撃を防ぐ。

「このまま目標ポイントまで誘導するッ!」

アスカは初号機をバク宙させて何度も回転しながら後ろに下がり、左方向に移動してシャムシエルの鞭が届かないところまで移動してゆく。勿論その間も射撃を繰り返し、シャムシエルを挑発する。

シャムシエルも今の場所では初号機を仕留められないと悟ったのかその場から移動を開始し、初号機を追撃した。

そして、シャムシエルが浮遊しながら目標ポイントに近づくのを確認したミサトは、オペレーター陣に指示を出した。

「対使徒捕獲用ネットスタンバイ!」

「了解。ポイント208の捕獲用ネットを起動!」

「全て問題なく作動可能です!」

「葛城さん!」

日向に頷き返したミサトは、初号機に通信を入れた。

「二人共、使徒が目標ポイントに到着するわ」

『オッケー、こっちもスタンバイするわ』

初号機は鞭が届くギリギリの距離で足を止め、拳銃を構えて待機する。

そして目標ポイントにシャムシエルが到達し、うねうね動く鞭が本体寄りになった瞬間、ミサトの指示が飛ぶ。

「作動させて!」

「「「はいッ!」」」

シャムシエルの左右のビルから設置された捕獲用ネットが飛び出し、左右から使徒の体を絡めとって動きを封じる。さらに使徒の後ろにニブロック開けた所から新たなビルが出現し、捕獲用ネットを射出して後ろに引きずり倒した。

「アスカ!」

「わかってるっちゅーの!」

拳銃を左手に持ち変えると、プログレッシブナイフを抜き放って逆手持ちし、ジャンプしてそのまま上に剥き出しになったコアを狙う。

「「いっけーッッッ!」」

A.T.フィールドを応用してナイフに纏わせ、鋭さとリーチを強化するシンジ。編み出されたA.T.フィールドの応用の一つである。

そのままシャムシエルを仕留めようとしたが……悪寒が二人を襲った。

……その悪寒は的中し、絶えず動いていたシャムシエルの肋骨のようなものが射出され、ネットの隙間から鋭い矢のように初号機に襲い掛かった。

「「『『なッ!?』』」」

思わぬ攻撃手段に驚愕する、前史を知る四人。何とか体を捻って方向転換し骨を躱したものの、ネットが一部切り裂かれて自由になった鞭がアンビリカルケーブルを切断した。

「ケーブルが……!」

『アンビリカルケーブル、断線!』

『エヴァ初号機、活動限界まで後五分!』

何故活動限界が五分ということになっているかというと、ゼーレに対する偽装である。モニターには五分と表示されてはいるがその実うっすらと∞のマークが表示されており、記録上も偽装するためにあと五分とマヤが偽って発言したのだ。

 

 

その時、またシンジの頭の中で過去の映像がフラッシュバックする。

(またか……!)

射撃が通じず、恐怖のあまり使徒に背を向けて切断されるアンビリカルケーブル。鞭で投げ飛ばされた先に居た、トウジとケンスケ。彼らをプラグの中に入れた後、撤退命令を無視して『逃げちゃ駄目だ』という強迫観念に囚われ、特攻した。

「くッ……」

「シンジ!?」

頭を押さえ、俯くシンジ。アスカは心配そうに一瞬後ろに目線を向けたが、攻撃を回避して二子山まで後退した。

「……大丈夫?」

「……うん、もう大丈夫だ」

振り返って、シンジの様子を確かめるアスカ。シンジは一度目を瞑った後、かっと目を見開いた。彼の表情から、迷いは消え失せていた。

「僕がフィールドで攻撃を防ぐ。アスカ、プログレッシブナイフで止めを」

「了解!」

拳銃を投げ捨て、右手で力強くナイフを握り締めて跳躍する初号機。

シャムシエルはその場から動けないものの、先程発射した肋骨を再生して再び発射し、鞭を振り回して貫こうとする。

「アスカ、そのまま行って!」

……が、シンジが左右に分けて作った強固なA.T.フィールドに阻まれて攻撃は通らなかった。

「ありがと!……どぅおりゃあああああああ!」

アスカは自分で出したA.T.フィールドでプログレッシブナイフを強化し、高速で縦方向に回転しながらシャムシエルに叩きつける。

「こんのぉ……さっさと倒れなさいッ!」

「アスカ!」

シャムシエルもただでは倒れまいとA.T.フィールドを張って抵抗してきた。アスカは貫こうとさらに力を込め、シンジが力を貸した。

「「いっけえええええッ!」」

シャムシエルのA.T.フィールドに段々と罅が入り……次の瞬間、砕け散ってシャムシエルのコアを一撃で貫通した。

 

 

NEON GENESIS EVANGELION RETROGRESSION

EPISODE5 Scratch of heart




アスカはレイと同じリリスの遺伝子を得、さらにシンジの母の存在を知り彼女に認められているために初号機とシンクロ可能になりました。……実の母ではないため、シンジには劣りますが。
シャムシエルの進化。新たな攻撃手段が追加され、A.T.フィールドが強化されました。……初号機を追い詰めるには至りませんでしたが。ここから使徒の進化は徐々に加速していきます。
シンジの心の傷は癒えてはおらず、実はこれはアスカにも言える話です。

では、また次回で。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

シンエヴァ公開決定記念未来編予告

これまでのあらすじ。自分が引き金となってしまったサードインパクトによる惨状を修復するために渚カヲルと共にエヴァンゲリオン第13号機に乗り込み、ロンギヌスとカシウスの槍を用いて世界を修復しようとする少年、碇シンジ。

―しかし、それは碇ゲンドウが仕込んだ罠であった。搭乗者の制御を離れ、フォースインパクトを発動させて世界を終わりへと導こうとする第13号機。その発動を何としてでも阻止しようとするヴィレのヴンダーに襲い掛かる、アダムスの器の力を解放したMark.09。それに相対するのは本来コード777を発動した改2号機だが、この世界ではあるエヴァが出現し、世界を救うために動き出す……。

 

 

 

「うっわー……こりゃあ、しっちゃかめっちゃかな状況ね……」

先程まで戦闘を繰り広げていたセントラルドグマの奥深くから地上に這い出てきた改2号機:式波・アスカ・ラングレーと8号機:真希波・マリ・イラストリアス。式波アスカは心の中で舌打ちしつつ、マリに指示を飛ばそうとした。

(何やってんのよ、バカシンジ……!)

「コネメガネはガキのエヴァを!ヴンダーは改2で助け……!」

「どしたの姫……!」

アスカは指示の途中で言葉を詰まらせ、相方の異変に気付いたマリもアスカが見たものに気付いて言葉を詰まらせる。

赤く染まり、ガフの扉が幾重にも広がる空。そこに、十二枚のA.T.フィールドの長大な翼が広がる。

「A.T.フィールドの……」

「翼……?」

その根元に存在するのは、見知らぬ一機の赤紫色のエヴァンゲリオン。そのエヴァは式波アスカたちの方をちらりと見た後、翼をはためかせて猛スピードでヴンダーの前に躍り出ると、アダムスの器の光線攻撃を強力なA.T.フィールドで防ぐ。そして間髪入れずに謎のエヴァはアダムスの器に猛然と襲い掛かり、交戦を開始した。

「あのエヴァ、味方なの……?」

式波アスカには、正体不明のエヴァが敵とは思えなかった。それどころか、何故か懐かしさすら感じていた。

「姫、私たちはワンコ君を!あのエヴァが敵か味方か分からないけど、アダムスの器は任せてフォースを止めるよ!」

「りょ、了解!」

マリの言葉で現実に引き戻された式波アスカは、改2号機を操って未だガフの扉を開き続ける第13号機を止めるべくマリの乗る8号機と共にその場から移動していった。

 

 

「行った?」

「みたい。インパクトのトリガーになってるエヴァはあっちに任せて僕たちはこのエヴァを……!」

「オッケー、行くわよ!」

突如出現したエヴァのエントリープラグ。通常ならエヴァ一機につきパイロットは一人のはずだが、このエヴァにはエントリープラグが二本あり、パイロットは男女ペアであった。そのインテリア付近の空間は繋がり、パイロット二人はヘルメットを被ったまま顔を見合わせ、頷きあうと操縦桿をきつく握りしめる。そしてそのエヴァは、一刻も早くアダムスの器を止めるべく行動を開始した。




シン・エヴァンゲリオン劇場版、2021年1月23日公開決定!
ということで興奮冷めやらぬまま書いた次章予告。EOEまでやった後、二章の高校生編の前に新劇場版シリーズとのクロスオーバーを行います!時期はニアフォースインパクト発動時の決戦に介入し、犠牲者ゼロでフォースインパクトを阻止します!
登場した謎のエヴァは、今後の本編で登場します!お楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Mind and body(後編)

UA30000、お気に入り登録800突破、誠にありがとうございます。今後ともよろしくお願いいたします。


シャムシエル撃破から数日後、シンジはアスカと共に第三新東京市内の病院を受診した。シャムシエル戦時にシンジに起きたフラッシュバックと、アスカがたまに見るようになってしまった悪夢。自分でも自分は正常な状態ではないと分かっていた二人は、迷わず病院の診察を受診。その病院の精神科の先生から受けた診断はというと……。

「PTSDと悪夢障害!?」

そこは、シンジたちが暮らすコンフォート17の部屋。来日してすぐ越してきた加持は角のミサトの部屋のすぐ傍に一部屋借りて壁を取り払い、シンジを自分の部屋の側に引き取った。そしてさらにもう一部屋その隣に借りてレイを住まわせ、そことの壁も取り払ってもらった。そして基本的に朝食と夕食はミサトの部屋で五人一緒にとることにしており、その夕食の席でシンジとアスカは病院で診断された自らの疾患を報告していた。

「みたいです。……やっぱり心の傷って、そう簡単に癒えるものではないですね」

「……で、お医者さんの診断は?」

加持が心配そうに向かい側に座る二人に尋ねる。シンジたちは気丈に振舞ってはいたが、その心の内は決して穏やかではない。

「一か月に一回のカウンセリング。アタシはそれに加えて悪夢を見た時用の睡眠導入剤」

アスカは、取り出した薬の入った袋をゆらゆらさせながら見せた。

「……ま、分かってたわよ。アタシらが心に受けた傷は、早々に癒えるもんじゃない。少しずつ癒していくしか、道はないのよ」

アスカの言葉が意味することは、心に傷を抱えた状態でシンジとアスカは使徒と戦い続けるということ。

「……それで、本当にいいの?」

子供たちから前史で彼らが辿った運命を知るミサトは、心配そうに確認を取る。一度は心がボロボロになってしまった少年少女を再び戦いに送り込むことになってしまうために、ミサトの心の内は罪悪感で一杯であった。それは加持も同様である。

「いいも何も……それ以外に僕たちが生き残る道はありませんから。……今度こそ、皆で生き残るんです」

 

 

 

 

 

ラミエル襲来までも、束の間の平穏。その穏やかな日々を謳歌する中、綾波レイの心は少しずつ変化していた。彼女はかつて前史で、第十六の使徒アルミサエルに乗機を侵食され、エヴァ初号機―シンジを守るために自爆。三人目となってしまったためその記憶の大部分を消失してしまった。それに付随して学んできた感情の大半も喪失してしまい、今のレイはかつての彼女のようにまっさらな心を埋めていっている状態であった。

 

 

 

(どうしてあの二人は、いつも通りに振舞えるの?)

この前保護者である葛城一尉や加持一尉と共に、シンジとアスカが心に負っているダメージのことを聞いたレイ。そのダメージが生易しいものではないことは、感情が未だ乏しいレイでも分かる。だからこそ、それでもいつも通りに振舞えるシンジとアスカの姿を見てそう疑問に思ってしまうのだ。

 

 

 

 

放課後、掃除当番であるシンジたち三バカを残してレイとアスカは帰宅の途についていた(ヒカリは途中で夕飯の買い物のため別れた)。

「……聞いてもいい?」

「ん~?」

レイはいい機会だと思い、ここ最近疑問に思っていたことを聞くことにした(退院して一緒に暮らすようになってから、アスカによく面倒を見てもらっていたレイは前史よりも彼女との距離が縮まっている……気がしていたため、アスカを選んだ)。前を歩いていたアスカは歩くスピードを緩め、レイの隣に並んだ。

「どしたの?」

「……どうしてあなたたちは、そこまで平静で居られるの?」

「……ああ、そのことか」

アスカは静かに微笑み、空を見上げた。

「心の傷を癒せるのはね、自分自身の明るい気持ちなのよ。アタシもシンジも、前は送れなかった楽しい日常を満喫することで少しずつ前に進んでる。……ま、シンジの場合はトラウマの一つが傍に居るから何とも言えないけど」

「……鈴原クン」

「そ」

アスカはそこで立ち止まると、すぐそこにあったたい焼き屋さんに駆け寄って二つ購入し、戻ってくるとレイに一つに手渡した。

「今回は上層部が完全に味方だから、多分大丈夫だと思うけどね。……レイのことも、多分トラウマの一つだけど」

「私?」

二人はたい焼きを食べ歩きしながら、会話を続けた。アスカはたい焼きを頬張りながら、レイに向かって笑いかけた。

「目の前でアンタが自爆しちゃったから。……アンタには代わりが居るからなんて、絶対に思わないでよ?レイはレイしかいないんだから、一人の人間として、生き抜いて欲しい。これは、アタシとシンジ両方の願いよ」

「……。まだ私は、自分の心すらも理解出来ていない未熟な存在。それでも、生きていていいの?」

「あったり前でしょ!アタシだって、まだまだ子供だもの。自分の心を理解しきれてないのは、アタシらみんな同じ。だから、レイが気にする必要はないわ」

レイはぱくりと一口たい焼きを齧り、ポツリと言った。

「……そう。もっと生きていたいのね、私は」

 

一方シンジは、トウジやケンスケたちと一緒に教室の床を箒で掃いたり、雑巾で窓を拭いたりしていた。シンジが窓を雑巾で拭いていると、箒と雑巾を使って野球の真似事をしていたトウジが話しかけてきた。

「なあ、シンジ」

「ん?」

「なんかたまーになんやけど、ワシの方を見てビクついとらんかったか?」

「!」

シンジは思わず雑巾を動かす手を止めてしまう。トウジはケンスケが投げた丸まった雑巾を箒でポンと打ち返しながら、話を続けた。

「センセが何か抱えとるっていうのは、ワシらも薄々察しとる」

「……ごめん、トウジ。別に大したことでもないんだけど……まだ僕の中で整理が付いてないんだ。……いつか話すと思うから、それまで待っててほしい」

「……ほうか」

 

その後は、彼らは表面上は普段通りの会話をしたものの、シンジの心にはさざ波が立っていた。

 

 

 




シンジとアスカが抱える心の傷。それらを負わせた出来事をどう乗り越えていくのかが、今後の課題となります。そして心と言えば、最大の敵となる使徒が一体……。
本作においてレイの記憶は自爆の影響で虫食い状態になってしまっており、心もまた一から育て直しています。シンジや、前史でレイとの関係が最悪だったアスカは特にレイの面倒を見ており、まるで姉妹のよう。レイもシンジやアスカを兄・姉のように慕っています。



まだ幼いながらも、恋人として甘い時間を過ごすシンジとアスカ。
だがしかし、使徒は待ってはくれない。
襲来した第六の使徒ラミエルは、前史よりも強大な力を振るい、NERV本部に迫る。
次回、NEON GENESIS EVANGELION RETROGRESSION
「Climax Point One」
さぁーて、次回もサービスサービスゥ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Climax Point One(前編)

シャムシエル襲来から、幾分か経過した日の放課後。シンジとアスカは、何回目かになるデートに繰り出していた。シンジは女性と『デート』なるものをするのはアスカが最初で最後だし、アスカは前史ではヒカリに頼まれてデートを何回かこなしたもののどれもつまらず、楽しめたとは言い難い。―だから、初めてなのだ。心行くまで楽しめる、本物の『デート』というものは。

「んー、おいしい!」

「ホントいい店見つけたよね、アスカ」

「ふふん、もっと褒めてくれてもいいのよ?」

カフェのテラス席で向かい合ってパフェを頬張りながら、シンジは微笑みかけ、アスカは得意げに笑う。その頬は若干赤く染まり、アスカが照れているのが分かる。

「……や、やっぱり違うわね。気持ちが通じているかいないかってのはさ」

「ん?」

「シンジも知ってるでしょ?アタシがヒカリに頼まれて、デートしてたの」

「うん」

シンジはスプーンでパフェを一口すくって口に運んだ後、コクリと頷いた。

「あの時は全然楽しくなかった……前の時のシンジの墓参りの日も、そうだったでしょ?」

「あー……確かにつまんないって言ってたね」

「ヒカリに頼まれて渋々だったしね。てかそれも、ヒカリのお姉さんのコダマさんの差し金だったってぽいし」

「……それ、お金もらってデート斡旋ってやつ?」

「あれ、知ってたんだ」

「噂になってたしね」

パフェを味わいながら、会話を途切れることなく続ける二人。

「ま、もうそんなことする気はないし、それはヒカリも分かってると思う。―アタシの心には、シンジしかいないって」

「……アスカ……」

「シンジ……」

二人は体を乗り出して顔を近づけ、キスをしようとした正にその時。二人の携帯が、同時に鳴った。

「「ッ!」」

彼らは慌てて姿勢を戻すと、慌てて荷物を纏めて会計を済ませ、店を出て行った。

……ちなみに、シンジとアスカの周りの席に居た人々は甘い空気に当てられて赤面していた。

 

 

 

 

シンジとアスカがNERV本部に駆け付けると、レイは既に本部指令室に到着しており、モニターには巨大な正八面体の青き使徒、ラミエルの姿が。前史とは異なり、その表面にはいくつもの穴があった。

「何だろう、あの穴?」

「レイ、分かる?」

「……分からない」

チルドレン三人が首を傾げる中、ミサト主導により威力偵察が行われようとしていた。

「使徒はあそこから動かない、か」

「はい、第三新東京市に出現時から一度も動いていません」

「……先の二体と比べても近距離用の攻撃手段はなし、おそらく遠距離タイプね」

隣に立つリツコに頷くと、ミサトはゲンドウたちの方に向き直った。

「これより威力偵察を行いますが……よろしいですね?」

「……構わん。我々は既に君たちに全権を委任している身だ。口を挟むつもりはない」

ゲンドウの後ろ左右で控えている冬月と加持は、黙って頷いた。

「では、偵察開始!」

「「「はい!」」」

オペレーター陣がカタカタとキーボートを叩くと使徒から少し距離が離れた所のゲートが開き、初号機のダミーバルーンを上に載せた自走砲が出現し、ラミエルに向かって直進し始めた。

「自走砲とダミーバルーン……なるほど、考えたわね」

本部の面々が見守る中、自走砲がラミエルから一定の距離に到達。その直後、その表皮に無数にある穴から、青き光が噴出し、網目状になった光がダミーバルーンと自走砲を消し飛ばした。

『は?』

思わず指令所の面々の言葉がはもった。前史であのような攻撃手段は存在しなかったし、その威力もパワーアップしている。

「さらに進化したのか……」

シンジはモニターを見つめたまま、両拳を握り締めた。アスカとレイはそっと己の手でその拳を包み、シンジの心を落ち着かせる。

「大丈夫よ。アタシらは一人じゃない。みんな一緒よ」

「……私も居る」

「……そうだね」

シンジは両隣に立つ二人の顔を見ると、そっと微笑んだ。

 

「やはり遠距離タイプ……おそらく今のは自動迎撃機構のようなものね。ミサト、どうするの?」

「……関係各所に通達、日本全国の電力を接収しそれを用いて超大火力による砲撃で奴を仕留めるわ。戦自研から買い取ったポジトロンライフルを使います。作戦開始、以降の作戦行動は『ヤシマ作戦』と呼称。エヴァパイロット各員は直ちにプラグスーツに着替え、第一種戦闘待機。いいわね!」

『はいッ!』

指令所の人間が慌ただしく動き出し、シンジたち三人は急いで更衣室へ。ゲンドウの後ろに控えていた加持も何事か耳打ちし、ゲンドウが頷くと姿を消した。―『ヤシマ作戦』、開始。

 

 

 

時を遡り、シャムシエル襲来から幾日か経った頃。後始末が完了してすぐに零号機の凍結が解除され、再起動実験を履行。滞りなく実験は終わり、その後直ぐに技術課・作戦課の面々が集められた。

「―さて。皆に集まってもらったのは他でもないわ。今後の対使徒戦略を立てるためよ」

「先の二体の使徒襲来において露呈されたのは、明らかなエヴァの使用兵器の火力不足。正式拳銃では牽制しか出来ず、プログレッシブナイフもパイロット二人がA.T,フィールドで強化した状態でなければ使徒に致命傷を与えることは叶わなかった……。これは明らかにこちらの落ち度よ。私たち大人の役割は、パイロットである子供たちになるべく負担を掛けずに使徒を倒せる環境を作ること。そのために零号機の凍結解除と起動実験を大幅に繰り上げたわ」

ミサトとリツコは周囲の面々の顔を見回しながら、真剣な表情で告げた。それを見たオペレーター陣や他のメンバーの表情もきゅっと引き締まる。

「パイロット二人から提言されたのは、遠距離からの超火力と刀等の近接武器の作製。二体の使徒のどちらもが近接攻撃で仕留められている以上、近接武器が有効なのは確か。それに加えて求められているのは、使徒の有効射程外からA.T.フィールドを打ち抜くだけの火力も必要とされてくるわ」

そう言ってリツコが取り出したのは、戦自研、正式名称『戦略自衛隊つくば技術研究所』の極秘資料だ。

「今碇司令が日本政府の許可を取って、ここの試作陽電子砲、『ポジトロンライフル』を買い取りに向かっているわ」

「え、碇司令が……?」

そう言ったマヤの顔には、『意外だ』という表情が。彼女以外にも、同様の表情を浮かべている者が複数名。……当然の反応である。碇司令と冬月副司令には秘密主義な所が多々あり、対使徒の作戦行動には例外を除いて干渉してこないため溝が出来てしまっているのは確かだ。

「……確かに司令は今まで、私たちと距離を取っていたわ。でもね、あの人もあの人なりに歩み寄ろうとしてくれているのは確かよ。……不器用な人なのよ」

「先輩……」

他の人たちも何かを察したが、何も言わずにその後は迎撃システムの運用や二体に増えたエヴァの運用について話を進めていった。

 

 

 

同時刻、ゲンドウは冬月や加持、護衛のSPを連れて戦略自衛隊つくば技術研究所を訪れていた。

「碇司令、まさか自ら足をお運びになられるとは……」

慌てて駆けつけてきた所長ら職員に案内され、ゲンドウたちは陽電子砲の実物の前に到着した。

「……これをNERVに買い取らせてもらいたい」

「……買い取り、ですか?接収ではなく?」

てっきり有無を言わさず持っていかれると思っていた所長たちは怪訝そうな表情を浮かべた。

「……ああ。NERVには、兵器開発のノウハウはまだない。だから、これからも貴官らの力添えが必要なのだ。……頼む」

ゲンドウは所長たちに向き直ると、静かに頭を下げた。ゲンドウの後ろに控えていた冬月や加持らも、続いて頭を下げる。その姿勢からは、彼らが真剣に頼んできているということが窺えた。

「……どうして、そこまでなさるのですか?」

「……守りたいものが、あるからだ。頭を下げることでこの世界を守ることが出来る手段が手に入るのならば、いくらでもこの頭を下げよう」

そう言って真剣な表情するゲンドウのメガネの奥に浮かぶのは、どこまでも明るい光。彼が本気でこの世界のことを憂いている証拠であった。

「……分かりました。そこまでされて応じないのは、国を守る者としての名折れ。くつろげる部屋にご案内いたしますので、具体的内容を詰めていきましょうか」

 

 

 

こうして、戦自研の協力を取り付けることに成功したNERVはポジトロンライフルの試作型を手に入れ、エヴァ二機の整備と同時並行で改装と使用準備を進めてきた。そして今日早速、使用する機会が訪れたのである。

 

 

 

 

NEON GENESIS EVANGELION RETROGRESSION

EPISODE6 Pull the trigger, REI!

 

 

 




と、いうことで次回はいよいよラミエル戦!NERVはシンジたちからもたらされた情報を元に色々と事前に準備を進めてきました。事前に準備を進めておくのとそうでないのでは、大きな違いがありますからね。
加持さんはヤシマ作戦のための根回し担当。トリプルスパイをやっていた頃のコネを生かして色々裏で立ち回ってます。
陽電子砲を買い取ったのは、少しでも戦自との関係を良くするため(その予算は、余ったエヴァの修理費から出てます)。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Climax Point One(後編)

ヤシマ作戦開始、四時間前。エヴァ二機及び専属・予備パイロット三名、現場指揮の本部職員らとと共に作戦実行地区に到着。本番前最後のブリーフィングが行われる。

「では改めて、本作戦における各担当を伝達します」

ミサトとリツコは眼前に直立不動の姿勢で立つ三人の若き戦士たちに、それぞれの役割を伝える。

「まずは砲手担当、零号機。レイよ」

「はい」

レイはコクリと頷いて返事を返す。今の彼女には、確かに彼女自身の感情が息づいていた。

「この配置は、貴女の射撃適性の高さ。それから……遺憾ながらまだ実戦配備用の改修がされていないため、使徒の攻撃に耐えうる状態にないことからこの配置となりました」

リツコはそう言うと申し訳なさそうに視線を下げた。このような表情は前史では見られなかったことからも、今のNERVがいかにまともになっているのかが分かる。……もしかすると、ディープな人間関係のためかもしれないが。

「そして防御担当、初号機。シンジ君、アスカ。あなた達に、盾を託します」

「「了解」」

二人は不敵に笑う。この二人ならば、どんな攻撃にも負けないはずだ。

「ヤシマ作戦の第一段階は、戦自・国連軍・NERV合同の間髪入れない全方位飽和射撃。目標の自動迎撃システムを誘発させ、エネルギーを出来る限り消費させ注意を逸らします。その後に第二段階に移行。零号機の陽電子砲による超火力遠距離射撃により目標のコアを撃ち抜き撃破。可能性は低いけど、相手側からの反撃があった場合は初号機が全力で防御。いいわね!」

「「「はい!」」」

三人の返事の何処にも不安は感じ取れない。……これからも彼らは、いいチームとしてやっていけるだろう。

「時間よ。三人共着替えて」

 

 

 

用意された仮設の更衣テントに入り、各々のプラグスーツに着替えた三人。

(どうして二人は、またエヴァに乗ることを決意したのだろう?)

ふと疑問に思うレイ。レイは前史で二人がどれだけ傷つき、心を壊されてしまったのかを知っている。だからこそ、未来を変えるためとはいえ数多くの痛みを味合わせたエヴァに再び乗ることを決意させた、その心の根底にある理由を知りたいのだ。

「……どうして二人は、エヴァに乗るの?あれだけ貴方たちを傷つけた、エヴァに……」

エヴァ二機を固定している仮設デッキに座り込み、作戦開始を待つ三人。それぞれ乗機の前に座って運命の瞬間を待つ中、レイは二人にそう尋ねた。シンジはそれを聞いてクスリと笑い、アスカはそれを見てきょとんというような顔をした。

「どうしたの?」

「いやあ、前は僕が聞く側だったからさ。今回は逆だなって」

「あら、そうなの?」

 

アスカにそう聞かれたので、レイはコクリと頷いた。

「そうなんだ。……アタシは、未来が欲しい」

アスカは数十秒ほど沈黙した後、静かな口調で語り出した。

「アタシは前、エヴァのパイロットになるために色々なものを切り捨ててきた。両親とも疎遠だったし、飛び級したからまともな学生生活を送ることもなく友人もほとんどいなかった。……アタシが大学に通ったのはステータスのためであって友人なんていらないって思ってたからね。……でも、間違いだった。アタシが切り捨ててきたものはヒトが生きるために必要なものばかり。アタシは自分で自分を追い込んでたのよ。だから、アタシは『普通の生活』を手に入れるためにもう一度エヴァに乗ると決めた」

アスカはそう言って立ち上がり振り返ると、瞳に強い決意の光を宿しながら初号機を見つめた。

「……アスカらしいな。……僕はもっと皆と触れ合いたい。僕らは、不完全だ。何処か欠けていて、その心には穴がある。その穴は、皆が埋めてくれるんだ。前の僕は心に壁を作ってしまったから、サードインパクトのトリガーとなりえてしまった。……まだ怖いけど、でも僕はもっと皆を知りたいと思う」

シンジはそう言いながら立ち上がり、アスカの隣に並ぶ。アスカは微笑むと、シンジの肩に頭を乗せてそっと寄り添った。

「……私は、もっと『ヒト』を知りたい。私にはまだ、自分の心すら何か分かっていないけど……それでももっと知りたい。ヒトとして、生きていたい」

レイも立ち上がり、己の乗機を見上げた。

しばらく三人はそうしたまま黙って立ち続けたが、やがてシンジが時計を見て時を告げた。

「時間だ。行こう」

「そうね」

「ええ」

三人はエントリープラグの挿入口へと歩き出す。その中でアスカは一度振り返り、レイに告げた。

「安心して。レイは、何があってもアタシたちが守るから」

―その言葉はこの後すぐ、現実となる。

 

 

そして、カウントダウンがゼロとなり、ヤシマ作戦が遂に始まる。

「時間です」

現場指揮のためのNERVの特殊指揮車に乗り込んだミサトたちが、シンジたちに作戦開始を告げる。

「作戦開始よ。……すまないわね、貴方たちに世界の運命を背負わせて」

その表情に影を落とすミサトに対し、その影を吹き飛ばすようにアスカが不敵に笑う。

『気にしないで、ミサト。いっつも背負ってるんだから、その大小は関係ないわよ』

『僕らなら大丈夫です。行きましょう』

『……頑張る』

三人の反応を確認したミサトは、気分を切り替えると毅然として指示を飛ばす。

「ヤシマ作戦発動、戦自・国連軍に連絡。無人機・自動砲台による全方位飽和攻撃を開始。陽電子砲の接続状況は!?」

「現在、第三次接続を完了。第四次接続を既に開始しています!」

マコトがキーボートをものすごいスピードで叩きながら返答する。他のオペレーターも最大効率で作業を進めていた。

 

一方、NERVからの連絡を受けた戦自・国連軍はラミエルへの攻撃を開始していた。

「NERVからのゴーサインを確認!」

「よし。各砲座砲撃開始!無人攻撃機も急速発進!ゴ―ゴーゴー!」

全方位から物凄い物量の砲撃が開始され、ラミエルは表面の穴から無数のレーザーを網目状に発射。ミサイルや砲弾を次々迎撃し、砲台や無人機を破壊してゆく。

「無人攻撃機第一陣、壊滅!」

「第三第五対地攻撃システム、蒸発!」

「悟られるわよ、間髪入れないで!次!」

使徒の攻撃による被害は拡大する一方ではあったが、ヒトがその手を緩めることは無かった。―すべては、人類の未来(明日)のために。彼らの心は、その言葉の下で戦い続けた。

 

 

 

 

そしてついに、使徒を葬り去る一発の準備が整う。

「第四次接続、完了!」

「陽電子砲に供給する電力システム、接続完了!異常ありません!」

オペレーターたちの準備完了を知らせる言葉を聞いたミサトは、作戦を最終段階に移行させた。

「最終安全装置、解除!」

「撃鉄起こせ!」」

「射撃用最終所元、入力開始!」

陽電子砲の安全装置が解除され、ヒューズが装填される。うつぶせとなって狙撃位置に付いた零号機のエントリープラグ内でレイが狙撃用スコープを覗きこんで狙撃位置の最終調整を行っている。その頬は心無しか紅潮し、息も荒くなっていた。

(碇君とアスカが託してくれたこの一撃、外す訳には……!)

感情というものを獲得していたレイ。その影響が思っていた以上に、彼女の在り方に影響を与えていた……。

「第五次最終接続!」

零号機が最終調整を完了させたのを確認したミサトは、陽電子砲と電力供給システムの連結を開始させた。

「全エネルギー、超高圧放電システムへ!」

「システムと陽電子砲との接続、完了しました!」

「カウントダウンを開始する!10、9、8……」

ミサトのカウントダウンを聞きながら、レイはスコープを覗いて未だ迎撃を続けるラミエルのコアに狙いを定める。

その一方、後方で盾を持って控えている初号機のエントリープラグ内。シンジとアスカは顔を見合わせると、静かに頷きあった。

「……1、0。レイ、撃って!」

「……ッ!」

ミサトの合図と同時にレイが引き金を引き、発射されたエネルギーの奔流と化した電力の弾がラミエルを貫く。ラミエルは悲鳴のような甲高い音を上げて迎撃を止め、血しぶきのように体液を吹き出す。

「やったの!?」

……リツコのその言葉とは裏腹に、ラミエルは一瞬体を傾かせかけたものの立て直して反撃の一撃を放った。

「外した!?このタイミングで!?」

「きゃあッ!」

「「レイ!」」

初号機が瞬時に動けない零号機の前に飛び出して盾を構えるが、幸い砲撃は逸れて背後の二子山に直撃し―蒸発させた。

「「「!?」」」

前史と比較するとその破壊力は向上しており、パイロット三名は思わず目を見開いた。それでも倒さなければならない彼らは、体勢が崩れた乗機を定位置まで再び動かす。

指揮車の方も幸い無事であり、転倒していたミサトたちも体勢を立て直して立ち上がった。

「まだいけるわね!?」

「はい!幸いエヴァ二機と陽電子砲、給電システムは無事です。第二射、いけます!」

「よし!レイ、聞こえてたわね!もう一発、次で仕留めて!」

『はい……!』

所定の狙撃位置に戻った零号機は狙撃用の装備をパージし、自分の手で決着を付けるべくスコープを覗き込んだ。

「零号機、G型装備をパージ。以後の射撃最終システムの操作は、パイロットのマニュアル操作になります!」

「ヒューズ交換、砲身冷却終了!」

「目標、本部直上ゼロ地点に到達!」

ラミエルが出現直後からドリルで掘り進めていた装甲版が全て破壊され、NERV本部に迫る。ゲンドウたちはただ子供たちを信じて、その場を動かなかった。

「……レイ、頼んだわよ!」

ミサトへの返事の代わりに無言で小さく頷きながら、レイは射撃の最終調整を始めた。

「……覚悟はいいかい?」

「……いつでも」

シンジとアスカも覚悟を決め、初号機は盾をしっかりと構え直した。―次の瞬間、今度こそ止めを刺さんと先程よりも威力・正確さの格段に上がった一撃がラミエルから放たれた。

「目標内部に、再び高エネルギー反応ッ!」

「やばいッ!」

レイは思わず目を瞑りかけるが、使徒から放たれた必殺の一撃は目の前に立ちはだかった一機のエヴァによってせき止められた。

「初号機……!」

『『ぐううううッ!』』

『初号機のシンクロ率、急速に上昇!このままでは……』

手に持って前に構えられた特殊な盾により攻撃を防いでいた初号機だったが、数秒で盾は原型をとどめることなく融解していき、その熱が機体とパイロット二人を炙ってゆく。その悲鳴は指揮車と零号機の通信回線にも響き渡り、レイは焦りの表情を浮かべて狙撃の操作をしながら声を荒げてミサト達に尋ねる。

「まだなんですか!?」

『あと二十秒!』

『盾が保たない!』

そんな中遂に盾が完全に融解して消滅し、初号機は両手を突き出してA.T.フィールドを張り、零号機を守る。

『ああああああああッ!』

「碇君!?」

『僕のことは、気に、するな……!撃て、綾波……!』

「碇、君……」

レイは思わず手を止めかけたが、シンジの叱咤するような声で再び視線を前に向け直した。

 

フィールドを懸命に張り続けるシンジであったが、ラミエルの高火力に耐え切れずフィールドも徐々にひび割れてゆく。その隙間から伝わる熱が初号機とパイロットを焼いていき、どちらにも傷が増えてゆく。

(まずい、このままじゃ……!)

それでも意志の力で懸命に踏ん張り続けたが、遂にフィールドが割れかけ……もう一枚のフィールドがその前に現れた。

「!?」

シンジは驚いた表情をして後ろを振り向くと、アスカが歯を食いしばって両手を前に突き出していた。

「アタシも居るの……忘れちゃった?」

「アスカ……」

「……レイ!アタシらには構うなッ!使徒を撃て!」

『アスカ……!』

―次の瞬間チャージが完了し、スコープのセンターにコアが重なったその瞬間、レイはトリガーを引いた。銃口から放たれたエネルギーがコアを貫き、ラミエルは硬直して悲鳴を上げた。その体に空いた穴からは大量の血を吹き出し、ラミエルは己の血の海に沈んでいった。

 

「碇君、アスカ……ッ!」

レイは崩壊したラミエルに目もくれず、ボロボロになって倒れこんだ初号機に向けて零号機を走らせた。そして初号機の下に辿り着いた零号機はその体を抱き上げた。……初号機の全身の装甲はほとんど黒色に変色してボロボロに崩れ、素体にまでダメージが及んでいた。ダメージの影響からか緊急射出システムが作動しなかったためプログレッシブナイフを取り出し、無理矢理初号機のエントリープラグを引きずり出した。

「二人共……!」

地上にエントリープラグをそっと置いた後、零号機のエントリープラグから飛び出したレイは焼かれて高温になったハッチを躊躇うことなく回し、ハッチを解放した。

「大丈夫!?」

レイが中に飛び込むと、シンジとアスカは体を寄せ合って席に横たわっていた。彼らの顔には火傷による痛々しい傷があり、恐らく彼らのプラグスーツの下にも痛ましい傷があるだろう。レイは二人に駆け寄り、その体を揺さぶる。

「二人共、大丈夫!?ねえ、二人共……!」

「……そんなに、揺らさないでよ……生きてるからさ……」

そう言いながらアスカは閉じていた目をそっと開けた。シンジも同時に目を開け、そっと微笑む。

「……どうして、こんなになるまで……」

「……感情、出せるじゃない……」

「!?」

アスカの指摘にレイはさっと硬直した。……その反応は、もう普通の人間と変わりない。

「……大丈夫、君はもう立派な人間だよ、レイ……」

「……そう、ね……」

シンジとアスカは再びそっと目を瞑り、微笑みながら眠りについた。レイは救助隊が来るまで、涙を流しながらそっと寄り添い続けた。

 

 

 




原作とは反転した役割、大ダメージを負った初号機。そして負傷してしまったシンジとアスカ……次回から果たしてどうなる!?
次回、NEON GENESIS EVANGELION RETROGRESSION
「Prepare for the next stage」
さあて、次回もサービスサービスゥ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Prepare for the next stage(前編)

「酷い有様ね……」

リツコはNERV本部の格納庫でそう言ってため息を吐いた。彼女の視線の先にあるのは、先のラミエルで中破して見るも無残な姿になった初号機。現在破損した全身の装甲の撤去作業が進められているところだ。内部の素体にもダメージが及んでいるため、新しく装甲を取り付けるには素体の修復を待たなければならない。見積もりでは、少なくとも二か月は出撃不能である。

「あら、ここに居たのね」

リツコが振り返ると、リツコと同じように作業着とヘルメットを着用したミサトが近づいてきていた。

「ええ……シンジ君とアスカは?」

ミサトは一瞬顔を曇らせた後、その質問に答えた。

「大丈夫、先程容体が安定したと連絡が入ったわ。……情けないわね、ホント……」

シンジとアスカは救護班が到着した後直ぐにNERV専属の病院に搬送され、怪我の治療が直ちに行われた。……どうやら彼らの傷は思った以上に重傷であり、一時容体が悪化しかけたが医師たちの必死の治療の甲斐あって容体は今は安定し、静かに病院のベッドで眠りについている。

「それは私も同じよ。……後始末はもう終わったの?」

「まだよ。今は報告のために一時帰還しただけ。もう碇司令に報告は終わったから、現場に戻る前に顔見せとうこうと思ってねん」

「なるほど。……レイ、大丈夫だといいけど……」

 

 

 

 

リツコが案じていたレイはというとヤシマ作戦終了後からずっと二人に付きっきりであり、昨日からほとんど一睡もせずに二人の傍に付いていた。シンジとアスカは同じ病室に入れられ、レイはその病室の丸椅子に座って襲い来る眠気と戦ってうつらうつらしながらも彼らの目覚めを待っていた(勿論性別に配慮してカーテンで仕切られてはいるが)。そして遂に眠気に負けてしまい、首をがくりと下げてレイは夢の世界に旅立ってしまった。レイが眠っていると、病室のドアが開いて一人の男性がそっと入ってきた。

「こりゃまたぐっすりと……一日中二人の傍に居たはずだからな。気が張り詰めすぎて疲れるのも当然だ。寝かしておくか」

男性―加持はそう言うと果物が入ったバスケットを備え付けのテーブルに置き、煙草を取り出そうとして止めた。

(いかんいかん。病室で煙草はまずいな)

代わりにバスケットの中に入っていたリンゴを一つ手に取ると、一緒に持ってきた果物ナイフを使ってシャリシャリ皮を丁寧に剥き始めた。その音を聞いてレイが目を覚まし、ゆっくり顔を上げた。

「う、ううん……」

「起こしちゃったか?こりゃ失敬」

「加持、さん……?」

「おはよう、レイ」

「……あれ、私……」

レイは何が何だかという風に頭をキョロキョロと振り、眠気を段々と覚ましてゆく。

「……寝たのかしら、私?」

「そりゃあ気持ち良さそうに。ほとんど一睡もせず付き添ってたんだろ?無理もないさ」

レイは寝顔を加持に見られたことを悟り、ほんのり赤面した。その後はしばらく皮が剥ける音だけが病室に響いた。

「……自分を責めてるのかい?」

加持がそう言って沈黙を破った。彼の瞳は穏やかに凪いでおり、レイを優しく見つめていた。

「……二人は、私を守るためにこんな傷を。私が一射目を外さなければ、こんなことには」

その言葉の端々に、悔恨を滲ませるレイ。……彼女が人形に戻ることは、二度とあるまい。そう確信した加持は、彼女の背中を押してやることにした。

「シンジ君とアスカは、己の役割を果たしただけさ。君を守る、という役割をね。レイも上手く自分の役割を果たしたと俺は思うぞ。じゃなきゃ俺たちは今こうして話せていない。君が、俺たちみんなの命を救ったんだ。シンジ君とアスカを含めてね。誇っていいことだ」

「……でも……」

「君がそうやって自分を責め続けていると、二人が目覚めた時に悲しむと思うぞ。―前を向いて、笑って生きるんだ。それこそが、我々人間のあるべき姿だと俺は思う」

「前を向いて、笑う……」

「まあしかし、今のその顔じゃ映えんな。……少し寝てきたらどうだい?仮眠室があるだろうからね。ゆっくり考えるといい」

レイはしばらく何かを考える素振りを見せた後、椅子から立ち上がって加持に一礼して出て行った。

「……ありがとうございます」

加持は暫くレイが出て行った方を見つめていたが……。

「……これでよかったのか?」

「……結果的にね」

加持がベッドに目を向けると、シンジとアスカが目を開けていた。

「自分で伝えても良かったんじゃないのか?」

「……アタシが言ったら逆効果だと思うけど」

アスカは上半身をベッドから起こすと加持が差し出してきたリンゴ一切れをつまみ、口の中に放り込んだ。

「どちらにしろ僕らに出来るのは背中を押すことだけですよ。レイの生き方は、彼女自身が決めるべきだ」

シンジもそう言ってリンゴを掴み、齧って会話を続けた。

「……それはさておき。スパイの洗い出し、どれぐらい終わりました?」

加持はその言葉を聞くと本職としての顔つきに変わり、腕を組んで報告を始めた。

「八割がたの洗い出しと人員の入れ替えは終わった。……が、残り二割はまだ尻尾すら掴ませて貰えない。よほどの手練れが送り込まれたんだろうな」

「……流石ね。日本政府と戦自の方は?」

「政府に動きは今の所はないが……戦自には不穏な動きが見られる」

そう言って加持が取り出したのは、彼が入手したらしき戦自の極秘ファイル。二人はそのファイルを受け取るとその中身に目を通し……顔をしかめた。

「「トライデント……」」

そう、そのファイルの内容は前史で彼らにとってほろ苦い思い出となった少女『霧島マナ』が深く関わる戦自が極秘で開発していたロボット『トライデント』に関するものだった。

「……やらせておけばいいわ。どうせエヴァには遠く及ばないポンコツだし」

「アスカ、言い方。……おそらく同年代のスパイが接触してくると思います。彼らは犠牲者だ。僕は……救いたい」

「……分かった。もし不自然な転校生が現れたら動きを探るよ」

 

 

 

 

 

NEON GENESIS EVANGELION RETROGRESSIONN

EPISODE7 Wisdom




今話から第一章第二部開始。前回までが第一部、新劇場版で言うと序に当たるパート。
第二部は基本的にレイを中心に動いていきます。
初号機はマグマダイバー、サンダルフォンまで戦線離脱。その理由はと言いますと、次の次の使徒、分裂するイスラフェル君を初号機と弐号機が相手にした場合前史からのコンビネーションで瞬殺してしまうのは明白。これだとレイがあまり成長出来ず、シンジやアスカと交流を深められないので一旦初号機を外しました。
そして、今後に繋がるフラグを投下。トライデント、即ち鋼鉄のガールフレンドのシナリオを何処かでやります。
次回はジェットアローン回。お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Prepare for the next stage(後編)

シンジとアスカが退屈な入院生活を送っていたある日、トウジ、ケンスケ、ヒカリの三人組がレイと共に病室に見舞いにやってきた。他のクラスメイトたちも二人が入院したと聞いてお見舞いに行きたかったのだが、如何せん二人がNERVの中でも幹部クラス並に重要人物であるため大勢に今の居所を知られる訳にもいかず代表して三人がレイと共に見舞いに訪れた次第である。

「センセ、ホンマに大丈夫なんか?」

「あー……うん。見た目ほどは酷くないよ。九月には学校に戻れると思う」

「それは良かった。ここには来れなかったけど、クラスの皆すごく心配してたぜ」

「そっか……それは申し訳ないな」

「はいこれ、二人の分のプリント。毎週ここに持ってくるから」

「ヒカリ、ありがと~。レイ、一緒にやりましょ?」

「うん、アスカ」

病院に居るため、声のトーンを抑えながらわいわいするシンジたち。

「そういやセンセたちの怪我の位置、一緒なんやな」

トウジにそう指摘された二人は、思わず顔を見合わせた。

「そりゃそうでしょ。乗ってる機体にアタシら二人共シンクロしてんだから」

そうトウジに呆れ顔で言うアスカとシンジの体には、全く同じ箇所に傷があった。右頬、両腕、左足。体の見える箇所ほとんどが包帯やガーゼで覆われ、見るに痛ましい姿となっている。……もっとも、本人たちは使徒の遺伝子の影響で回復は常人よりも早いためあまり気にしていないのだが。

「怖くないの?」

ヒカリにそう尋ねられたシンジはそっと微笑んだ。

「怖いよ。……本音を言えば、もう乗りたくない」

「なら……どうして乗るんだ?」

「簡単な話だよ、ケンスケ。……僕らが戦わなければ、世界が滅ぶから」

「「「!?」」」

シンジの返し硬直する三人。チルドレン三人は、ひどく真剣な表情で固まってしまった大切な友人たちを見つめていた。

 

 

 

九月になった。ラミエルの解体作業と初号機の修復作業、第三新東京市の復旧作業が同時並行で進んでおり、NERVの面々はてんてこ舞いであった。そんな最中、とある招待状がNERVに届いた。宛先は、『日本重化学工業共同体』。……ジェットアローンである。

「あー……あのポンコツロボか。確か時田って人とリツコさんが揉めたって聞いたけど……」

夕飯の食卓で頗る不機嫌そうなミサトから見せられた封筒を見たシンジは、それを見てああ、という風に得心がいった表情を浮かべた。シンジからその招待状を受け取ったアスカは、自分が日本に居なかった時の出来事のために興味深そうにその招待状をレイと共に眺める。

「で、前はどうだったの?」

「原子炉が暴走して僕とミサトさんで止めたんだけど……実はそれリツコさんが父さんの指示で意図的に暴走させたはず」

「なるほど……で、どうなの、リツコ」

ミサトが御呼ばれしていたリツコに話を振ると、リツコはお茶をすすった後楽しそうに話し始めた。

「司令が言うにはそういう小細工はしないそうよ。単純な力比べで終わらせるって」

「力比べ?……そういうことか」

シンジは少しの間考えたが、すぐに得心して笑った。

「零号機とジェットアローンの力比べ……あんたの出番よ、レイ」

「頑張る」

 

 

そして、ジェットアローンのお披露目会当日。ミサトとリツコの他に、パイロット三人も同行していた。全員がドレスコードに則った服装をしているのだが、シンジとアスカは包帯がまだ外せていない状態で強引に退院したため包帯姿が目立ち、ただでさえNERVから来た人間のためかなり目立ってしまっている。

「ありゃま、目立っちゃってるわね」

「別に他の人たちがどう思おうが関係ないわよ、ミサト」

「アスカ、怪我が治りきってないのに来た僕たちも悪いんだから……」

 

式典が始まり、団体の沿革やジェットアローンについての動画が流されたがNERVの面々は冷めた目つきで見ていた。

「つまんない……」

「アタシも……」

「二人共、我慢なさい」

所在なさげにゆらゆらさせる少女たちに我慢するように言うリツコ。……そして遂に、リツコと時田の質疑応答が始まった。

「発言、よろしくて?」

「……これは高名な赤木リツコ博士。お越しいただき光栄の至りです」

「質問よろしいでしょうか?」

「はい、どうぞどうぞ」

「先の説明によりますと内燃機関を内蔵とありますが」

「ええ、本機の大きな特徴です。150日間の連続作戦行動も保証されております」

「しかし、格闘戦を前提とする陸戦兵器にリアクターを内蔵するのは安全性にリスクが大きすぎるかと思われますが」

「5分も動かない決戦兵器よりは役に立つと思います」

「遠隔操縦では緊急対処に問題を残します」

段々とリツコの表情が硬くなり、彼女がイラついているのが分かる。見守るミサト達にも段々と怒りが溜まり始めた。

「パイロットに負荷をかけ、精神汚染をする兵器よりは人道的だと思います」

「……そのパイロットは、そのリスクを承知で戦ってるんだけど?」

時田に反論したのは、リツコではなく見守っていたアスカだった。アスカはリツコからマイクを受け取り、時田に向けて啖呵を切り始めた。その表情は驚くほど冷たく、静かな怒りに満ちている。

「貴方は?」

「件のエヴァのパイロットの一人よ。惣流・アスカ・ラングレー」

「なるほど……貴方のような少女だったとは……」

「別に同情してもらわなくても結構よ。アタシらは、それを承知で乗ってるんだから」

アスカの発言に、会場内が大きくどよめく。アスカはそれを全く意に介さず、時田は対照的に動揺していた。

「そ、そのような大怪我をしてでも乗ると?まだ成人してもいない少年少女を乗せて戦わせ、怪我をさせる兵器に何故乗れるんだ!?」

「……勘違いしているようだけど、あれは兵器ではないわ。世界を守るための希望。それが、人造人間エヴァンゲリオン。私たち人類が使徒に対抗することの出来る、唯一の切り札」

「……だ、だが、あれは武器を持っていたじゃないか!」

時田が大慌てで機器を操作し、モニターに映し出されたのは先日のシャムシエル戦の時の記録映像。初号機が銃を持って立ち回る様が映され、会場からは感心したような声が上がった。

「……機密をまあよくもぬけぬけと。武器を持っていたから何?あれはヒトを傷つけるためのものではなく、人類の未来を守るためのものよ」

「し、しかしだな……」

「じゃあ聞くけど、アンタらは使徒の秘密は解明できたの?どうやって使徒をあの歩く原子炉で倒すのか、説明してもらいましょうか」

「そ、それはこれから……」

「……はあ。呆れた、そんな体たらくで使徒を倒そうだなんて。アンタらに任せていたら、人類滅亡まっしぐらじゃない」

「ぐうッ……」

とうとう言葉に詰まって何も言えなくなる時田。アスカはそんな彼に、決定的な一言を突きつけた。

「アンタはただ、自分の玩具をひけらかしたいだけの子供大人。そんなアンタに、アタシらのために寝食を削ってまで全力で戦ってくれているリツコたちNERVのカッコいい大人たちを馬鹿にする資格はない!」

「な、な……」

「アスカ……」

アスカの一言に時田は怒りで顔を紅潮させ、リツコは目尻に涙を浮かべて両手で口を覆った。

「い、言わせておけば……」

「悔しい?だったら、証明してみせなさいよ。アンタらのジェットアローンは、まともに動けるってことを」

「何……?」

「勝負しましょう?NERVの零号機と、そっちのジェットアローンで。どうする?乗るかしら」

「……後悔するなよ」

 

こうして急遽予定を変更してエヴァとジェットアローンの勝負と相成り、レイ以外の客は制御室に移動して観戦することに。怒りで冷静さを失う時田は当初自信満々であったが、結果は明白。零号機に足の関節を破壊され、力なく倒れ零号機に支えられる様子を見て、無言で崩れ落ちた。

「……」

「確かにジェットアローンは優れているわ。……でも、アタシらのエヴァの方が上だったわね」

アスカはそう言い残してシンジたちと共に去ってゆく。膝をついて己の最高傑作の哀れな姿を見つめる時田に、リツコが隣に立って声を掛けた。

「誰かに認めてもらうには、まず貴方から歩み寄らなくてはダメよ。かつての私も、あの子たちもそうだった」

「……貴方に、何が……」

「エヴァを生み出したのは、私の母よ。私は彼女を超えようとしたけど、いつの間にか彼女になろうとしていた。……それではダメなのよ。確固たる自分を見つけなければならない。……私たちと一緒に、見つけてみない?」

「……」

何も言わぬ時田。しかし、答えは決まっている。

 

 

 

 

先に出口へ向かったアスカたち。シンジはアスカに、先程感じた疑問をぶつけてみた。

「どうして、あそこまでしたんだい?」

「……時田は、昔の私よ。誰かに認められたがった、昔の私。鏡を見ているようで、つい熱くなっちゃった」

「そうだと思った。今はどうなの?」

アスカはシンジの腕に抱きつくことで、返事とした。

「ちょ、アスカ!?」

「……知ってるでしょ?私の旦那様」

 

 

 




シンエヴァの本予告、見ました。あれには、エヴァの全てが詰まっている。座して待ちます。



次の舞台は、大海原!シンジとアスカはドイツに渡り、その帰りに襲い来る使徒ガギエル!
次回、NEON GENESIS EVANGELION RETROGRESSION
「The Voyage」
さあて、次回もサービスサービスゥ!


追記
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=252405&uid=139107
この活動報告を見て、返信か感想に書いていただけるとありがたいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

The Voyage(前編)

ジェットアローンの一件後、時田はNERVの協力者になることを承諾し、秘密保持契約と引き換えに本部への出入りを許された。今はマヤと張り合いつつもリツコの直属の部下として元気に初号機の修復や零号機の実戦仕様への改修作業に取り組んでいる。リツコは彼らと共に激務に励む毎日を送っていた。そんな中、リツコは休憩がてら職員に開放されたスペースでマヤと共に昼食を食べていた。

「ごちそうさまでした……!」

「早いですね、センパイ。……シンジ君のお弁当、やっぱり美味しいんですか?」

「勿論。……エヴァパイロットじゃなかったら、料理の道を志しても可笑しくないわ」

「……そう、ですよね」

「まだ怪我が完治してないのに強引に退院して学校に復帰してるのよ、アスカ共々。……ホント、あの子たちには迷惑かけてるわ」

そう言ってため息を吐くリツコ。マヤも薄々察してはいたのか、表情を暗くさせた。と、そこに男性二人組が現れた。日向と青葉だ。

「どうかしました?お二人共、深刻そうな顔してますけど」

「……もしかして、シンジ君たちのことですか?」

二人の真向かいに座った日向と青葉に、リツコは頷いた。

「そうよ。……二人から見て、パイロットたちはどう?……特に、シンジ君とアスカ」

日向と青葉は顔を見合わせた後、真剣な表情をして話し始めた。

「優しい子たちですけど……何処かずれてる感じがします」

「極めて高いシンクロ率、手慣れたようなエヴァの操縦。異常なまでの銃や格闘訓練など対人戦闘訓練に対する意欲。……なんか、頼もしいのに危なっかしいというか……」

「やっぱり二人もそう感じたのね」

そう言いながら二人に差し出したのは、二人の担当医からもらったシンジとアスカのカルテ。それを見た男性陣は眉をひそめた。そのカルテによれば、二人は本来ならば精神崩壊しても可笑しくないと書かれていた。

「……これは……」

「あの二人は本来戦ってはいけないほどの精神的なダメージを負っているの。……けれど、替えがいないし何よりも本人たちが戦うことを望んでいる。担当医も、戦っていた方が本人たちのためになると判断したそうよ」

「……私たちも、頑張らないといけませんね。センパイ」

リツコとマヤは頷きあい、決意を新たにした。日向と青葉も何も言わないが、頷きあって同じく頑張ろうと誓う。

(あの子たちの為にも、早くこれに取り掛からないと)

リツコが右手を突っ込んでいる白衣のポケットの中には一本のUSBメモリーが。そのラベルには、こう書かれていた。―『NEO-E計画』と。

 

 

 

 

 

そして数日が経った後、シンジ、アスカ、加持の三人は空港に居た。一旦ドイツ支部に帰還し、アダムと弐号機を受領するためである(そのついでに、シンジはアスカの両親に挨拶を済ませる算段であった)。見送りには、ミサト、リツコ、レイが来ている。

「それじゃあミサトさん、行ってきます」

「はぁい、こっちはまっかせて」

「司令達から伝言よ。『気を付けてな。アスカ君の両親によろしく』」

「は、ハア!?」

「父さん……」

明らかに二人を揶揄っている(義)父たちからの伝言にアスカは赤面し、シンジは顔を赤くしながら苦笑した。

「一本取られたな、シンジ君。……二人共、大丈夫だと思うがレイや君たちの安全には気を付けて。いつ新たな鈴が送られてくるか分からんからな」

「……」

レイはコクリと頷いた。

そう、加持は日本政府とは関係をきっちり切ることは出来たもののゼーレに関しては口封じを警戒してまだ『鈴』としての役割は表向き継続中だ。だが、いつ造反が気付かれるか分からないため警戒は最大限継続中である。

「……ま、まあいいわ。レイ、悪いけどこっちのことよろしくね」

「任せて、アスカ。三人共、気を付けて」

「ありがとう。……それじゃあ、また一週間後」

三人は見送りに手を振りながら、出国者ゲートの方に消えてゆく。九月十三日のことであった。

 

 

 

NEON GENESIS EVANGELION RETOGRESSION

EPISODE8 PREDATOR

 




皆さん、大変お待たせ致しました!RETROGRESSION、一か月ぶりの更新!
……ごめんなさい他の小説にかまけてました!こっちも更新再開します!
シンジ君とアスカの精神状態ですが、今の所は大丈夫。……空から来る『奴』が来るまでは。
そして、リツコさんが持っているUSBメモリーに書かれた『NEO-E』についてですが、実は前の『予告』と題した話にヒント、というか答えが出てます。
次回は海上決戦!お楽しみに。



https://syosetu.org/novel/244694/
こっちもよろしくお願いします。今一番力を入れている二次小説です。
進撃の巨人原作、主人公は『アニ・レオンハート』。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

The Voyage(後編)

日本を出たシンジたちの飛行機がドイツに着くと、日本では午後だがこちらでは朝。日本とは八時間の時差がある。空港で入国手続きをした後、三人がまず向かったのはアスカの実家。ドイツに滞在する間、シンジとアスカはここに滞在することにしているのだ。加持が運転する車の後部座席では、緊張でシンジがカチンコチンになっており、隣に座るアスカは苦笑してその横顔を眺める。

「緊張してる?」

「……うん。だって、それはそうだろ?初対面だし、しかも大切な人の両親だ。む、娘さんを僕に下さいって言わなきゃ……」

「それはまだ気が早いでしょ。アタシらが結婚する時でいいんじゃない?……そんなに心配しなくても大丈夫よ」

「でも……」

「アスカ、こういうのは男の方が緊張しまくるものなのさ。娘の両親からすれば大事に育てた娘を、赤の他人である男が掻っ攫うんだからな」

「そっか……」

顔を少し後ろに向けて振り返りながら楽し気に言った加持の言葉に、ふうんといった感じの表情を浮かべるアスカ。

 

 

 

そして加持の車がアスカの両親の家の前に停車し、シンジは緊張で心臓がバクバクしながらもアスカに背中を押されて車から降り、恐る恐る玄関のインターホンを押した。

『はーい!』

バタバタと足音がして、ガチャリとドアを開けて現れたのはアスカの継母。

『どちらさま?』

ドアを開けた先に固まっている少年、シンジの顔を見たアスカの継母は一瞬驚いた後満面の笑みを浮かべた。

「……シンジクンネ?」

たどたどしいながらも日本語で話しかけてきたアスカの継母に、シンジは慌てて挨拶をした。

「は、はい!い、碇シンジです!」

『どうぞ、入って』

アスカはニコリとほほ笑んだ後、三人を中に案内した。中にはスーツ姿で、今から仕事に出かけようというアスカの父が。

『ん?……君が、碇シンジ君か」

「はい、はじめまして」

彼は仕事カバンを持つとシンジとすれ違いざまに、頭をポンと叩いた。

「娘を頼む」

「……はいッ!」

アスカの父は微笑むと玄関のドアから出て行った。

『良かったわね、アスカちゃん』

『……うん、ありがとう。お父さん』

『いいお父さんだな、アスカ』

「……ありがとうございます。必ず、アスカは幸せにします」

 

 

荷物を置いてNERVのドイツ支部に来た三人が向かったのは、弐号機の格納庫だ。そこに立つ弐号機は―シンジたちが知るものよりもごつくなっていた。

「これが、弐号機の水中戦用装備……」

「へえ、悪くないじゃない」

「リッちゃんの趣味全開って感じだな」

弐号機の全身に水圧に耐えられる強度を持った強化装甲が装着され、背部には水流ジェットエンジンと思しき推進機関が。両腕には三対のクロ―、腰部マウントラッチには水中仕様にカスタマイズされたショットガンがマウントされている。この装備は使徒全ての資料を渡されていたリツコが一か月弱で設計し、ドイツ支部に丸投げされて七月から突貫で完成させたものである。整備員たちの顔色は疲労が色濃く、隈も出来ていた。

 

 

 

 

数日後、久しぶりの弐号機の起動実験である。アスカがプラグスーツに着替えて改修された弐号機W型装備とシンクロする中、シンジと加持はとある一室を訪れていた。

「アダム……」

「これが、胎児の状態のアダムか」

シンジと加持の真正面の壁のど真ん中に、化石の展示のように硬化ベークライトで固められたアダムが置かれており、少し離れたところにあるのは最終手段の小型のN2爆弾だろう。

加持が壁からアダムを取り外し、トランクケースの中に放り込んだ。

「これで目的は達成、ですね」

「ああ。こいつを日本に持ち帰れば、任務完了だな」

 

 

 

三人が日本に帰国する前日。シンジとアスカの二人は朝から出かけていた。花屋で花束を買った二人が向かったのは……アスカの母、惣流・キョウコ・ツェッペリンの墓だった。母の魂は未だ弐号機の中にあるため、肉体のみが入っている墓に行くのは少々ん?とはなるが気持ち的に行っておきたかったのだ。花束を墓に備えた二人は手を合わせた。

「ママ……ありがとう、守ってくれて」

「キョウコさん……ありがとうございました。僕は、碇シンジ。……娘さんは、僕と共に前に進みます」

「アタシたちが、絶対世界を守ってみせる。見てて……ママ」

 

 

 

そして、帰国する当日。荷物をまとめ、出発する二人をアスカの両親が見送る。

「一週間、本当にありがとうございました!……必ず、結婚報告をしにまた来ます」

「!?」

シンジの予期せぬ発言にアスカの頬がぽっと赤くなり、アスカの父は眉はピクリと動かし、アスカの継母はアラアラと頬を抑えた。

「ちょ、シンジ!?と、兎に角全部終わったら又帰ってくるから!それじゃあね!」

「お世話になりました!」

二人は加持の車に乗り込み、艦隊の停泊している港に出発していった。彼らに向けて手を振って見送るアスカの両親。

『いい男を見つけたな、アスカ。……頼んだぞ、シンジ君』

『必ず、帰ってきてちょうだーい!』

 

 

 

そして、前史のようにヘリからミサトが降り立った。違うのが、シンジが空母に居ることと、加持が出迎えに出ていることだ。

「ミサトさん、ただいま!」

「戻ったわよ、ミサト!」

「ただいま、葛城」

「はいはいおかえり。こっちではなーんにもなかったわ」

 

 

そして、艦橋に入ったミサトは艦長に弐号機の非常用ソケットの仕様書を手渡した。……その艦長の機嫌はかなり悪いが。

「こちらは、非常用ソケットの仕様書になります」

「海の上であの人形を動かす要請など聞いとらんが」

「万が一ということ……いえ、十中八九使徒はエヴァに向けて襲い掛かってきます。その時唯一対抗できるエヴァの起動が出来なければ、我々は船と命運を共にするでしょう」

「……我々では役不足だと?」

「いえ……そうではありません。普通の脅威ならばこの艦隊で十分です。……しかし、使徒ははっきり言って常軌を逸しています。皆さんの命を、無為に失わせる訳には参りません。……どうか、よろしくお願いいたします」

ミサトはそう言ってがばりと頭を下げた。それに面食らう艦長たち。

「艦長、どうか聞き届けちゃくれませんか?エヴァが直ぐに動ければ、この艦隊の損害も軽微で済みます。ご一考を」

加持もそう言って、ミサトの隣で頭を下げた。

「……分かった。好きにしたまえ」

艦長はミサトから書類をひったくると内容に目を通し、サインをして突き返した。

「「ご配慮いただき、感謝いたします」」

 

 

 

 

シンジたちはプラグスーツに着替え、エントリープラグに入って使徒襲来を待つ。……そして、遠くの方から水中衝撃波の音が。

「アスカ!」

「分かってる!エヴァンゲリオン弐号機、起動!」

日本語で立ち上げられた弐号機のシステム。立ち上がった弐号機は背部スラスターから白煙を噴出しながら上空に飛翔した。

「「エヴァ弐号機、着艦しまーす!」」

「切り替え終了ッ!」

周囲の空母に配慮しながら、空母『オーバー・ザ・レインボウ』に衝撃を起こさず着艦した弐号機はソケットを接続すると、海面から弐号機に噛みつかんと巨大な口を開いて弐号機に襲い掛かる。

「舐めんなッ!」

弐号機は両手に構えた二丁のショットガンをその開いた口に叩き込み、ガギエルは口内から真っ赤な体液を噴出し、悲鳴を上げて海に飛び込んだ。

「アスカ!」

「逃がすかってーのッ!」

弐号機もすかさず使徒を追って海に没し、使徒を探す。

「落ちたぞ、大丈夫なのか!?」

「問題ありません!あの弐号機は水中戦用装備ですので!」

「それよりも艦長、脱出した船員の救助を!」

「わかっておる!各フリゲートには救助作業を急がせい!」

『はッ!』

一方その頃、太平洋の海の中では弐号機とガギエルが激しい水中戦を繰り広げていた。

「こいつ、ちょこまかとッ!」

「アスカ、来るよ!左三時方向!」

「こなくそッ!」

ガギエルは前史よりも増したスピードで海中を動き回り、なんと水流のブレスを放ってきたのだ。そのため弐号機はスラスターで回避行動を取ってからショットガンを撃っており、どちらもヒットアンドアウェイで攻撃を仕掛けていた。弐号機の攻撃は何発か命中しているもののガギエルの勢いは衰えず、血を所々から垂れ流しながらも弐号機に襲い掛かってくる。今回も命中したものの……体表を抉るのみだった。そして……

「アスカ、残弾ゼロだ!」

「やっぱ中から行くしかないか……」

アスカは弾の無くなったショットガンを投げ捨て、両腕の手の甲に装着されたクロ―を構えた。水流ブレスを放ちながら突撃してくるガギエルのそのブレスの中心、所謂台風の目に向かって、弐号機は体表にA.T.フィールドを纏いながら突撃していく。

「「はああああああッ!」」

緑の四ツ目を光らせながら突撃する弐号機。ガギエルも危険を察知したのか口を閉じようとするが、A.T.フィールドで強化されたクロ―に口を引き裂かれ、口内に侵入を許した。

「ぐうッ!」

「アスカ、装甲が……!」

ガギエルもただでは転ばず、酸を分泌してコアへの到達を阻もうとする。弐号機はその酸に増加装甲を溶かされながら、何とかコアに辿り着いた。

「もういらないわよね。装甲パージ!」

追加装備を排除した弐号機。アスカは弐号機の真の力を解放し、コアに喰らいついた。

「ガアアアアアアアアッ!」

顎部装甲を損壊させ、ガギエルのS2機関を捕食していく弐号機。

「これで、終わりッ!」

「行け、アスカ!」

LCLに溶けないようシンクロ率を必死に制御しながらも、アスカは弐号機に最後の一口をかぶりつかせた。完全にS2機関を取り込んだ弐号機は雄叫びを上げながらガギエルの中から脱出。こうして第七の使徒ガギエルは殲滅され、弐号機はオーバー・ザ・レインボウに回収され、日本に帰り着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 




襲来するイスラフェル。未だ修理の完了しない初号機に代わり、零号機と弐号機が対処することに。
次回、NEON GENESIS EVANGELION RETROGRESSION
「Sun and Moon」
さあて、次回もサービスサービスゥ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Sun and Moon(前編)

今回は、タイトルの通りシンエヴァのネタバレ有りの感想を含みます。


ガギエル殲滅後、シンジ、アスカ、レイは再び普通の学校生活を送り始めた。前で味わうことの出来なかった何気ない日常。シンジとアスカは心の奥底に痛みを抱えながらも、学校生活を続けていた。

「センセたちは宿題は大丈夫なんか?一週間ぐらいドイツに行っとったさかい」

「うん、その辺は問題ないよ。先に出してもらってたし、向こうでもやってたしね」

「そっか。……少し雰囲気が変わったな、碇」

「え、そうかな」

登校するシンジたちは男子組と女子組に分かれ、談笑する。

「……ヒカリ、今度また料理教えてほしい」

「あ、アタシもアタシも!」

「碇君じゃなくていいの?」

「知らぬ間に上達して驚かせたいのよ」

 

彼らが日常を謳歌する中、関係ないとばかりに使徒はやって来る。

「巡洋艦はるなより入電、紀伊半島沖に潜行する巨大な影を確認!」

「パターン青、使徒です!」

「非常事態宣言の発令、及び関係各所への伝達完了しました!」

「了解、第三新東京市の機能復旧は未だ完了していないため沿岸部で迎撃します。指揮車両の用意を。エヴァ零号機、弐号機共にB型装備でスタンバイ。……加持君、ここはお願い」

「お任せを、葛城作戦本部長」

 

 

使徒迎撃のため、使徒が上陸すると思われる沿岸部に到着した指揮車両。登場機体である初号機の修復が未だ完了していないため、シンジも指揮車両に同乗している。

「いい二人とも、けっして無理はしないで。倒せないと分かったら一旦引きます」

『分かってるわよ、ミサト』

『了解』

「では、攻撃開始ッ!」

ミサトの命令と同時に完成した新型武器、ソニックグレイブで使徒イスラフェルに切りかかる弐号機。

『チェストォォォォ!』

ソニックグレイブの刃がイスラフェルを頭から一刀両断にする。この流れは前と一緒だ。

(さて、どうなるんだ……)

前でどうなったか知るシンジが見守る中、事態は推移してゆく。

 

 

「さって、どうなるかしら……」

ソニックグレイブでイスラフェルを一刀両断した後、油断せず弐号機に距離を取らせるアスカ。すると、イスラフェルは予測通りに分裂して二体に増殖した。

『分裂した!?』

『ぬわんてインチキ!』

「やっぱ分裂するか……レイ!」

『任せて』

二号機が飛びのくと同時に零号機がパレットガンで交互にほぼ間髪入れずに二体のコアを射撃するも、撃破することは叶わず瞬時に再生してしまう。それに加え、パレットガンの攻撃が効果が無くなってしまった。

指揮車両に同乗していたリツコは、冷静にその能力を分析する。

「やはり、同時に攻撃しなければ倒せないようね。しかも、一回受けた攻撃は意味をなさないから新しい攻撃手段を使わなければいけない」

リツコがそう言ってミサトに目配せし、既に察していたミサトはすぐに決断した。

「これ以上攻撃を続行しても無駄よ。現時刻を持ってNERVの作戦指揮権を一時放棄、国連軍に一時譲渡します。二人とも、急いでそこから離れてちょうだい。N2が来るわよ」

『りょーかい』

『了解しました』

弐号機はソニックグレイブをぶん回して二体に分裂した使徒を弾き飛ばすと、零号機の援護射撃を受けながら沿岸まで後退してゆく。それでも近づこうとしたイスラフェルをA.T.フィールドで強化したソニックグレイブを投げつけて沖合まで後退させ、そこに国連軍が間髪入れずに新型N2爆弾で爆撃した。体表が焼けこげ、機能停止する二体のイスラフェル。NERVはそれを見届けながら、本部に引き上げてゆく。

この日、NERVは事実上初の敗北を喫した。

 

 

 

 

NERV本部に帰着すると、発令所の面々が集まり早速対策を立て始めた。

「厄介だな」

「はい、冬月副司令。あの使徒を倒すには、二体のエヴァの同時荷重攻撃でコンマ数秒の誤差で仕留める必要があります。日向君、目標が活動再開するまで後何日かかるかしら」

ミサトの意を受けた日向がキーボードに指を走らせ、再侵攻までの時間を計算した。

「このペースだと、おそらく六日後には活動再開するかと」

「六日か……時間がないな。リッちゃん、それまでに第三新東京市の復旧は終わるか?」

「正直、厳しいところね。どこか誘いこむポイントを決めるしかないわ」

「それよりも、アスカとレイの息を出来る限り合わせないと……加持君、ちょっと手を貸してくれる?」

「ああ。シンジ君にも協力してもらおう」

 

ミサトと加持は急いで帰宅し、先んじて帰宅していた三人を集めた。

「シンジ君とアスカは覚えていると思うけど、今回の使徒は二体同時の荷重攻撃で仕留めなければならないわ」

「二人は一回経験しているが、残念ながら初号機の修復は間に合いそうもない。だから、アスカとレイにやってもらう」

加持が取り出したのは、今回のプログラムが入ったカセットテープだ。

「俺たちは邪魔になるから本部に戻って第三新東京市の復旧に全力を注ぐ。シンジ君は、二人の健康管理の面からサポートを頼む」

「はい、食事の献立は二人に合ったものに合わせます」

「すまんが頼む。俺たちはすぐに本部に戻る。必要な機器は後で届けさせるから、それまで出来ることを始めててくれ」

「「「はい!」」」

「お願いね、二人とも。シンジ君、後はヨロシク」

「わかりました。ミサトさん、加持さんも頑張ってください」

ミサトと加持は山積みになった書類仕事を片付けるためNERV本部にトンボがえりしていった。そしてアスカとレイは、シンジのサポート下で学校を休み、ユニゾンの訓練を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

アスカとレイのユニゾン訓練は、思った以上にスムーズに進んで行った。もともと同居しており、一緒に居ることの多い二人である。特にアスカはレイを妹のように大切にしていたため、心を通わせるのに支障はなかったと言えるだろう。二人は一緒に歯磨きやお風呂、シンジから借りたS-DATで聴く音楽、食事、洗濯物干し、ツイスターゲームなどで呼吸を合わせていった。

 

そんな三日目の夜のこと、二人はリビングに布団を敷いて横になっていた。

「レイ、まだ起きてる?」

「……うん」

「ごめんね、眠いのに。ちょっと話したいことがあってさ」

アスカはレイをベランダに誘い、冷蔵庫からレイに渡すジュースと……自分が飲む用のビールの缶を取り出した。

「いいの?碇君に怒られない?」

「こんぐらいへーきよ。……それに、飲まなきゃ話せそうにないし」

二人はベランダに出ると、夜空に浮かぶ月を見上げながら缶を開け、飲み物をすする。しばらくの間、二人は黙って夜空を見上げた。その沈黙を破り、アスカは静かに語りだした。

「……今だから言える話だけどね」

「?」

「……レイは覚えてないかもしれないけど、アタシは前の時はレイのことが嫌いだった。お人形さんみたいだったし、アタシと違って碇司令に曲がりなりにも大事にされてたしね」

「……」

「今思えば、アタシがレイのことを嫌いだったのは自己嫌悪だったんだと思う。自分の姿が重なって見えてしまって……。すっごく後悔してる。レイは何も悪くなかったわ。真っ当なヒトとしての生き方を知らなかったんだから……。だから決めたの。レイに居場所を見つけてあげたい、真っ当なヒトとして生きさせてあげたいって」

アスカはレイの顔の方を向くと、そっと微笑んだ。ビールを飲んだ影響でその頬は紅潮している。……ビールだけのせいとは限らないが。

「レイは、必ず私が守る。……約束、する……」

アスカは言い切ることなく、突如レイの肩に寄りかかって眠ってしまった。酔いが回ったのもあるし、これまでに溜まっていた疲れもあったのだろう。レイは驚き慌てたが、アスカをそっと支えた。

「……ありがとう、お姉ちゃん」

「……まったく、お酒は飲んじゃダメって言ったのに」

「碇君?」

シンジがベランダに現れ、優しくアスカを抱き上げた。どうやら影から見守っていたらしい。

「アスカは引き取るよ。お休み、レイ」

シンジはアスカをお姫様抱っこするとベランダから引き揚げてゆく。レイの視界から消える直前、シンジはぼそりと呟いた。

「……お兄ちゃん、って呼んでくれると嬉しいかな」

レイにはそれがしっかり聞こえていたらしく、赤面した。

「……もうちょっと待ってほしい」

 

NEON GENESIS EVANGELION RETROGRESSION

EPISODE9 BROTHER, SISTER

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

チルドレン設定集(第二十一話まで)

今回は予定変更してチルドレンの設定集になります。


碇シンジ(CV:緒方恵美)

本作の主人公。EOEの出来事を経て、人と触れ合ってみようと決意した少年。サードインパクトを通してアスカの心の奥底に触れて彼女と和解し、強い絆で結ばれた。

やり直す機会を与えられ、第三使徒戦からもう一度初号機に乗って戦い始めた。性格面においては、オドオドすることはほとんどなくなり、いつも穏やかにニコニコ笑っているが、トウジやカヲルの件がトラウマになって尾を引いている。相変わらず料理が好きで、たまに家でチェロを弾いている。

アスカとの関係は良好だが、心の奥底ではアスカを救えず、オカズにしてしまったことを今でも後悔しており、自分を許せていない節がある。

戦闘面においては、戦闘技術はアスカには劣るがA.T.フィールドの扱いには長けている。銃の扱いや格闘訓練も行い、自分の身は自分の身で守れるようになっている。最後の人類の一組になったため、アダムの力に覚醒した。現在は乗機が大破して修復中のため、待機か弐号機に同乗する。

 

惣流・アスカ・ラングレー(CV:宮村優子)

本作のもう一人の主人公にしてメインヒロイン。EOEを経て、シンジに対する劣等感や憎しみを捨て、ありのままの自分で居ることを選んだ少女。加持への依存から脱却し、男に過度に媚びる服装は控えるようになった。ヒカリに頼まれて見知らぬ男とデートしていた件については、『アタシは本当に軽率だった』として黒歴史認定しており、シンジを最初で最後のパートナーとしている。苛烈なまでの攻撃性は鳴りを潜め、基本的には明るく穏やかな性格に。さぼっていた家事も進んでこなすようになり、現在修行中。父や継母と和解し、家族ともう一度向き合い始めた。

シンジとの関係は良好だが、子供のようにシンジに嫉妬して辛く当たり、シンジの心を傷つけてしまったことを心の奥底で酷く後悔している。

エヴァに対する依存からも脱却し、髪飾りとして使っていたインターフェイスは外して、シンジからプレゼントされた赤いリボンを使って髪型をポニーテールに変更した。

戦闘面においては、今居るパイロットの中では一番戦闘スキルが高く、特に格闘戦を得意とする。弐号機が日本に輸送される前は初号機のサブパイロットとして同乗し、ラミエル戦ではシンジと同じ場所に火傷を負った。現在は弐号機専属パイロットとして奮闘している。シンジの相方としてリリスの力に覚醒している。

 

 

 

 

綾波レイ(CV:林原めぐみ)

零号機専属パイロット。アルミサエル戦で失われてしまった記憶はなく、断片的にしか覚えていない。そのため感情の大部分も失ってしまっており、現在再学習中。シンジとアスカは彼女にたどらせてしまった悲惨な運命や、酷く当たってしまったことを後悔しており、レイを実の妹のように大切にされ、可愛がられている。本人もまんざらでもない様子。人間とは何かを意欲的に学ぶ、子供のような感じ。

戦闘面においては、射撃戦に長ける。

 

 

渚カヲル/第17の使徒タブリス(CV:石田彰)

シンジたちにやり直すことを提案した、心優しき使徒の少年。まだ本編では未登場だが、本作ではフィフスでではなくフォースチルドレンとして登場する。人間世界に興味深々。シンジの『親友』。

 

 

?????(CV:????)

本編で今後登場予定のフィフスチルドレン。原作の登場人物の中の、同年代の誰かがなる予定。

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編―Another myself

アスカが酒を飲んでレイに本音を漏らし、寝落ちした夜。アスカは、不思議な夢を見た。

 

 

夢の中に居たはずのアスカ。気が付くと、第壱中の制服を纏って駅のホームに立っていた。

「……?」

ぼんやりと見渡すと、少し離れたベンチに座る私服姿の自分が。

「「!?」」

アスカ(以下、惣流アスカ)の瞳が驚愕に染まる。もう一人のアスカ(以下、式波アスカ)も不機嫌そうにスマホをいじっていたが、視線に気づいて顔を上げ、同じく驚愕の表情に変わる。

二人ともそれぞれ何かを察し、惣流アスカは式波アスカの隣に座った。式波アスカもスマホを仕舞い、ちらりともう一人の自分にチラリと視線を向けた。

「……誰を待ってたの?いえ……聞くまでもないわね」

不自然に空いていた式波アスカの隣の席。惣流アスカは自分と重ね合わせ、そこに座るべき人物が誰かを察したのだった。

「……ふん。それより、アンタは……」

「アタシは貴方よ。存在する無数の可能性……アタシも、貴方、もその一つよ」

「そう。……アンタは、幸せ?」

「だと思う。……じゃあ、アタシは行くわ。お幸せに」

惣流アスカは立ち上がって式波アスカに微笑みかけると、颯爽と立ち去っていった。

 

 

 

 

シンジはマリに手を引かれ、宇部新川駅の改札を出て外に出た。そのまま走りだそうとすると、二人を呼び止める声が。

「そのまま行くの?」

「「!」」

二人が立ち止まると、壱中の制服を着たその少年―碇シンジは微笑んだ。

「駅で待ってるよ、彼女」

「彼女……?」

「……君はもう、分かっているはずだ」

「「!」」

シンジとマリは顔を見合わせ、誰かを察した。

「……想いを伝えただけじゃ、伝わらないこともある。行動で、示さないと」

「……君なら、どうする?」

「行って、抱きしめるよ。……僕は、二度と手放すつもりはない。彼女を独りぼっちにしたくないんだ。……彼女と、幸せにね」

シンジ(28歳)は、何らかの決意を固めた表情を浮かべてマリを見やった。マリは全て分かったように、頷いた。

「行こう、ワンコ君。姫が待ってる」

「……ありがとう、マリさん。君も」

二人は引き返し、駅の改札に向かう。すれ違う時、マリが囁いた。

「ありがとね、もう一人のワンコ君」

 

 

 

 

 

式波アスカは、駅のホームで待ち続ける。ふと顔を上げると、そこには一人の少年が立っていた。

「……あ」

「ただいま、アスカ」

 

 

二人は翌朝、夢から覚める。彼らの戦いは、まだまだ続くだろう。……それでもきっと、未来は彼らを待っているはずだ。




こっちではお久しぶりです。これは、夢のような話。
近日中に、式波ヴンダーの方にもアフターシンの別ベクトルのお話を投稿します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。