色の少年 (火の車)
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プロローグ

 世界は色で満ちている

 

 それは当たり前にあるもので、

 

 誰も、それを特別意識することはない

 

 色は空気と同じようなものなのかも知れない

 

 でも、もし、

 

 色を特別にとらえる人間がいたら

 

 その人間が見る世界とは、

 

 一体、どういうものなのだろうか

__________________

 

 朝、ごく普通の住宅街の一軒家

 

 その一室で僕は目を覚ました

 

楓「__朝......だよね。」

 

 僕は衛宮楓

 

 今日から月ノ森学園に通う、

 

 別にお金持ちでもなんでもない、

 

 普通の一般家庭の生まれの男です

 

楓(今日から、高校生なんだ。)

 

 僕の目には新しい制服が写ってる

 

 月ノ森は裕福、もしくは優秀な人が集まる

 

 本来なら、僕なんかが踏み入れる事はない

 

 そのはずだったんだけど......

 

楓(校舎、綺麗だったなぁ......)

 

 風景画みたいに綺麗な校舎だった

 

 偶々、近くを通りかかって、一目惚れだった

 

 どうせ3年間も通うなら、あんな所で過ごしたい

 

 その思いで先生の反対を押し切って受験した

 

 でも、頑張った甲斐あったなぁ......

 

楓「って、今何時だろ__へ?」

 

 時計に目を向けた瞬間、僕は絶句した

 

 僕の目がおかしくないなら。

 

 時計の針は8時10分を指している

 

 今日の集合は8時30分のはず......

 

楓「う、うわぁぁぁあ!!!」

 

 僕はベッドから飛び降り

 

 急いで制服に着替えて

 

 階段を駆け下りた

__________________

 

楓「__お、おはよう、母さん!」

夏葉「あら、起きたのね?」

 

 リビングに来ると、

 

 母さんがエプロンをつけ

 

 いつも通りの緩い声で話しかけて来た

 

 そして、首を傾げた

 

夏葉「どうしたの?制服なんて着て?」

楓「今日、入学式だよ!」

夏葉「......え?」

 

 僕がそう言うと、母さんは目を丸くした

 

 そして、横のカレンダーを確認し

 

 段々と顔が青くなっていった

 

夏葉「ひゃぁぁぁあ!!!」

楓「忘れてたの!?」

夏葉「あ、明日だと思ってたわ!」

楓「もう流石、僕の母さんだよ!」

夏葉「と、取り合えず、急いで準備するわ!」

 

 母さんは急いでリビングを出て行き

 

 ドタドタと階段を駆け上がる音がした

 

 その後、またリビングのドアが開いた

 

一勇「おーう、楓ー。」

楓「あ、おはよう、父さん。」

一勇「どうしたよ?高校の制服なんて着て?」

楓「今日、入学式。」

一勇「......え?」

 

 父さんは母さんと同じようにカレンダーを見て

 

 段々と顔を青くした

 

 本当に、似たもの夫婦というか......

 

一勇「わ、忘れてたぁぁぁあ!!!」

楓「もう、流石だよ!」

一勇「い、急いで準備してくる!!」

楓「まぁ、保護者はまだ時間あるから......」

一勇「おう!......っと。」

楓「?」

 

 リビングを出ようとした父さんは

 

 急に足を止めて、僕の方を向いた

 

 そして、財布からお札を出した

 

一勇「父さんからの入学祝だ。」

楓「え?」

一勇「高校生活、ガンバレよ。」

 

 父さんは僕の肩に手を置いた

 

 別に、無理してお小遣い渡さなくてもいいのに

 

楓「父さん......」

一勇「ふっ。」

楓「一つ、言いたいことあるんだけど。」

一勇「なんだ?」

楓「そのパジャマのズボン、破れてるよ。」

一勇「......なに!?」

 

 父さんは自分のズボンを確認した

 

 父さんがリビングに来た時から気付いてた

 

 かなりひどい破れ方してるけど、

 

 まぁ、母さんの仕業だろうなぁ......

 

一勇「だ、だからお隣さんが笑ってたのか!」

楓「ま、まぁ、そうだろうね。」

一勇「かっこつかねぇなー!ははは!」

楓「それが父さんだよ。」

一勇「ひどいな。まぁ、いいだろう!着替えてくる!」

 

 父さんはリビングを出て行った

 

 僕はリビングにある時計を確認した

 

楓「......あっ。」

 

 遅刻ギリギリって事忘れてた

 

 時計は8時17分

 

 これは......

 

楓「は、走らないと!!」

 

 僕は慌てて家を出て

 

 桜並木を眺める余裕のないまま

 

 月ノ森まで急ぐことになった

__________________

 

 そこそこ長い道のりを速くない足で走り

 

 なんとか、時間内に月ノ森についた

 

 まだ結構、登校中の人もいる

 

 せ、セーフ......

 

楓(僕のクラスは......うっ。)

 

 クラスの表の前には結構な人がいる

 

 これは少しだけしんどいな......

 

 でも、クラスを確認しないと

 

楓(え、えっと、クラス......)

?「__そこのあなた、大丈夫?」

楓「え?ぼ、僕ですか?」

?「えぇ。顔色が悪いようだけれど。」

 

 クラスを確認しようとしてると

 

 僕と背が変わらない女子生徒が話しかけて来た

 

 すごく綺麗な人だ

 

 こんなきれいな人もいるんだ

 

楓「す、すみません。人混みが苦手で......」

?「そう。」

楓「......」

?「あなたの名前は何かしら?」

楓「衛宮楓、です。」

?「そう。」

 

 女子生徒は僕を少し見た後

 

 クラス表が貼ってある方を見た

 

 そして、再度、僕の方を見た

 

?「あなたはB組よ。衛宮楓君。」

楓「は、はい。ありがとうございます。」

?「体調が悪いなら無理はしない事ね。」

 

 女子生徒はそう言うと、

 

 どこかへ歩いて行った

 

 すごく、綺麗な人だった

 

 少しだけ体調が良くなった気がする

 

楓「あれ?」

 

 足元を見ると、

 

 緑色のハンカチが落ちていた

 

 これは、さっきの人のだ

 

楓(どうしよう。今から届けに行く、のは厳しいし。)

 

 何とか空いた時間に私に行けるかな

 

 見つけるのは出来るし

 

 僕はそう考えて、急いで教室に向かった

__________________

 

 教室に来ると、想像より賑やかだった

 

 イメージでは、もっとピシッとしてると思ってた

 

 けど、意外と普通の高校っぽい部分もあるんだ

 

 そう思うと、少しだけ安心した

 

楓(ぎりぎりだった......)

 

 僕が席に着くと8時25分

 

 もう少しで遅刻する所だった......

 

楓(取り合えず、一旦目を閉じよう。)

 

 教室の中くらいの人数なら大丈夫

 

 流石に慣れてるから

 

 でも、過度な人混みは頭が痛くなる

 

 僕の持ってる難点の1つだ

 

楓(さっきの人、綺麗だったな。)

 

 綺麗な水色の人

 

 目が大きくて、姿勢も良くて

 

 歩き方も綺麗で、モデルみたいだった

 

 あれがお嬢様か......

 

楓(雲の上の存在言って、ああいう人の事を言うんだな。)

?「ねぇ~?」

楓「うん?」

 

 誰かが話しかけて来たので

 

 僕はゆっくり目を開けた

 

?「もう移動だよ~?大丈夫~?」

楓「あ、す、すみません。すぐ行きます!」

 

 僕は席から立ち上がり

 

 急いで廊下に出て移動を始めた

 

?(せわしない子だな~。)

__________________

 

 月ノ森の入学式ってすごい緊張する

 

 なんか、どこかで見たことがあるような人もいるし

 

 見るからにお金持ちそうな人もいるし

 

 胃に穴が開きそうだ

 

司会『__新入生代表の挨拶。』

楓(代表?どんな人だろ。)

?「はい。」

楓「!」

 

 新入生代表として呼ばれたのは、

 

 さっき見た、綺麗な水色の人だった

 

 この人、やっぱりただモノじゃなかったんだ

 

 水色の人は悠然と真ん中を歩いて、壇上に上がった

 

瑠唯『新入生代表の八潮瑠唯です。』

楓(八潮瑠唯かぁ......)

 

 すごくオーラがある

 

 堂々と挨拶をする姿も様になってるし

 

 相当すごい人なんだな

 

楓(それにしても、綺麗だなぁ。)

?「すごく見てるね~。」

楓「え?あ、さっきの。」

七深「私は広町七深だよ~。同じクラスの~。」

楓「衛宮楓です。」

 

 僕は広町さんに頭を下げた

 

 普通に喋っちゃってるけど、大丈夫なのかな

 

 駄目だろうけど

 

七深「かえ君って呼ぶことにするよ~。」

楓「え、まぁ、どうぞ。」

七深「それでさー、かえ君てるいる......じゃなくて、八潮さんが気になるの~?」

楓「え?気になると言うか、綺麗な人だなーと。」

七深「ふむふむ~。」

 

 広町さんはニヤニヤしながら僕を見てる

 

 なんなんだろうか

 

七深「分かるよ~。可愛いもんね~。」

楓「まぁ、そうですね。」

七深「気持ちは分かるよ~。」

 

 何の気持ちだろう

 

 ていうか、さっきからにやけ過ぎだし

 

 変わった子なのだろうか

 

七深「頑張りなよ~。」

楓「???」

 

 広町さんと話してるうちに

 

 入学式は終わり、

 

 僕は教室に戻った

__________________

 

 教室に戻った後は担任の先生の紹介

 

 後は事前に出てた課題の提出をして

 

 その日は下校することになった

 

 僕はすぐに教室を出て、廊下を歩いてる

 

楓「あ、いた。や、八潮さん!」

瑠唯「はい?って、あなたは今朝の。」

楓「はい。今朝はありがとうございました。」

瑠唯「別にいいわ。それで、何か用かしら。」

楓「えっと、これ、落としてましたよ。」

瑠唯「あら。」

 

 僕は八潮さんにハンカチを渡した

 

 八潮さんはそれを受け取りポケットに入れた

 

瑠唯「ありがとう。助かったわ。」

楓「いえいえ。八潮さん、綺麗な水色で見つけやすかったです。」

瑠唯「っ!?」

楓「じゃあ、僕は失礼します。」

 

 僕はそう言って

 

 下駄箱に向かって歩きだした

 

 今日はなんだか、すごく満足だ

 

 ”瑠唯”

 

瑠唯(な、なぜ......!?///)

 

 私は困惑していた

 

 同時に激しい羞恥心を感じていた

 

 だって、今、彼は水色と言った

 

 それは......

 

瑠唯(なぜ、私の下着の色が......!?///)

 

 まさか、見られていた?

 

 でも、そんなはずは......

 

 しかも、彼がそんな人には見えない

 

 どういうこと......?

 

七深「あ、るいるいだ~。」

瑠唯「広町さん。」

七深「どうしたの~?」

瑠唯「......なんでもないわ。」

七深「?」

瑠唯「失礼するわ。」

 

 私は迷いを晴らすように歩いた

 

 取り合えず、この件は忘れましょう

 

 考えても自分を追い込むだけよ

 

七深(どうしたんだろう~?)

 

 

 これが、色の少年こと衛宮楓と

 

 月ノ森の才媛、八潮瑠唯の出会い

 

 そして、高校生活の始まりだった

 

 

 



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拗らせ

 入学式から一夜明けた

 

 僕は昨日の反省を生かし、

 

 すごく早起きをして、登校した

 

 朝早く行くのは僕にも得が多い

 

 残留してる色も少なくなってるから

 

 頭が痛くなったり、気持ち悪くなったりしない

 

 これはこれでいいのかもしれない

 

楓(__やっぱり、この校舎綺麗だなぁ。)

 

 綺麗なものを見ると心が落ち着く

 

 誰かこの風景を絵にしてくれないかな

 

 是非とも部屋に飾りたい

 

瑠唯「あなたは。」

楓「あ、や、八潮さん!」

瑠唯「今日は早いわね。」

 

 僕が校舎を眺めてると、

 

 向こうから八潮さんが歩いてきた

 

 よくよく見てみれば、水色の痕跡が残ってる

 

 早くに来てるんだ

 

楓「昨日の反省を活かして、早く登校しようかと。」

瑠唯「いい心がけね。それで、何をしていたの?」

楓「校舎を眺めてました。すごく綺麗なので。」

 

 僕がそういうと、

 

 八潮さんが首を傾げた

 

瑠唯「そうかしら。普通だと思うけれど。」

 

 八潮さんは不思議そうにそう言った

 

 でも、少しだけ色がおかしい

 

 少し疑念を持ってる色をしてる

 

瑠唯「まぁ、いいわ。早く教室に行く事ね。」

楓「はい。失礼します!」

 

 僕は八潮さんに頭を下げ

 

 自分の教室に歩いて行った

 

 "瑠唯"

 

 昨日の件があったから、

 

 探りを入れるために少し話しかけてみた

 

 それで、思った事がある

 

瑠唯(やはり、違うのかしら。)

 

 話してみた感じ、

 

 彼は人の下着を盗み見る人ではない

 

 むしろ、見てしまった日には、

 

 凄い勢いで謝ってきそうだ

 

 私にはそういう風に映った

 

瑠唯(1人のことを考えるのは終わり。図書室に行って本でも読みましょう。)

 

 私はそう考えて、図書室に向かった

 

 この時の私は深く考えていなかった

 

 水色と言う言葉の真意を

__________________

 

 教室に来ると、当たり前だけど誰もいない

 

 1人の早朝の教室って、

 

 いると少しだけ優越感に浸れる

 

 別にそれが好きとかではないけど

 

楓(この教室の風景もいいなぁ。)

 

 お金持ちな学校って感じで

 

 あえて近代に近づけすぎない感じ

 

 この教室は1人ならすごく落ち着ける

 

 折角だし、この空気を大きく吸ってみよう

 

 そう思い、僕は大きく息を吸った

 

七深「__何してるのー?」

楓「〜!!!ごほっ!ごほっ!!!」

七深「あ、だ、大丈夫〜?」

楓「お、おはよう、広町さん。」

 

 その瞬間に広町さんに話しかけられ、

 

 僕は途中で息が乱れて

 

 思いっきりむせてしまった

 

七深「ごきげんよう〜。それで、何してたの〜?」

楓「人が来ないうちにこの空気を吸い込んでおこうと思って。」

七深「?」

 

 広町さんはやっぱり不思議そうな顔をしてる

 

 いや、当たり前のことなんだけど

 

 だって、普通に変なことしてるし

 

七深「かえ君ってやっぱり面白いね〜!」

楓「あ、あはは、そうかな......」

七深「うん〜、変だよ〜!」

楓「あはは.....」

 

 僕とて高校生男子

 

 美少女に変と言われれば、

 

 少しは心にダメージを受ける

 

 多分、今すごく顔が引きつってると思う

 

七深「あ、そう言えば、かえ君は知ってるかな〜?」

楓「え?何を?」

七深「1年生のオリエンテーション合宿のこと〜。」

楓「へぇ、そんなのあるんだ。」

 

 流石、お金持ち学校

 

 こんな所にもお金をかけるのか

 

 一般人の感覚じゃ考えられない

 

楓「ちなみに行先ってどこなの?」

七深「沖縄だよ〜。」

楓「......え?修学旅行?」

七深「オリエンテーションだよ〜?」

顔「う、うん、分かってる。」

 

 だからこそ驚いてるんだよ?

 

 オリエンテーションで沖縄って、

 

 ほとんどそんな学校ないでしょ

 

 修学旅行とかどうなるんだ......

 

七深「飛行機、隣座ろうね〜。」

楓「あ、うん。僕も広町さんしか友達いないから、それはいいよ。」

七深「私もかえ君しか友達いないよ〜。お揃いだね〜!」

 

 い、嫌なお揃いだな

 

 でも、外部生の僕と違って、

 

 広町さんって小さい時からいたんだよね

 

 なんで、友達がいないんだ?

 

七深「沖縄の海開きは3月末だし、海も入れるよ〜!楽しみだね〜!」

楓「あ、そ、そうなんだ。」

七深「うん〜?」

楓「ひ、広町さんは泳ぎは得意?」

七深「え?普通かな〜?」

 

 正直、海はあんまり好きじゃない

 

 その理由はほぼ一つだけど

 

 その一つが致命的だったりする

 

 まぁ、今は考えないでおこうかな

 

楓「さてと、そろそろ他の生徒が来る時間だね。」

七深「あ、そうだね〜。じゃあ、席で話そっか〜。この前見たホラー映画の話とか〜!」

楓「へぇ、広町さんそういうの好きなんだ。」

 

 それから、僕と広町さんは、

 

 席で雑談をしたりした

__________________

 

 今日は1日目と言うこともあって、

 

 午前中で学校が終わる

 

 何をするかと言うと、

 

 外部生の自己紹介だ

 

教師「衛宮さん、お願いします。」

楓「は、はい!」

 

 僕の番が来た

 

 僕は朝から立ち上がり、

 

 全員の方に体を向けた

 

楓「衛宮楓です!好きな物は風景画で、それで......」

七深「かえ君?」

楓(は、話すことがない......!)

 

 僕について話すことなんてないに等しい

 

 何か話せることってあるかな

 

 あ、特技(?)でいいや

 

楓「えっと、色を見るのが得意です?」

七深(色?)

教師「はい、ありがとうございました。座ってもいいですよ。」

楓「あ、はい。」

 

 僕はそう言われ席につき

 

 緊張から解き放たれて、

 

 すごいだけ息を吐いた

 

七深(色を見る、か〜。少しだけ引っかかる言い方をしてたような〜?)

 

 そもそも、色を見るって意味わからないな

 

 確実に変な人だって思われてる......

 

 もう少し言い方あったなぁ......

 

七深「ね〜、かえ君〜?」

楓「どうしたの?」

七深「私って何色〜?」

楓「え?オレンジだよ?すごく綺麗な。」

七深「なるほど〜。」

楓「?」

 

 僕には多少だけど分かってる

 

 広町さんは只者じゃないって

 

 色の感じで、その人の凄さも分かる

 

 広町さんは八潮さんみたいに、

 

 すごく綺麗な色をしてる

 

七深「やっぱり、かえ君は面白いね〜。」

楓「え?」

七深「あ、ううん。なんでもないよ〜?」

楓「?」

 

 僕は広町さんの態度を見て、

 

 少しだけ疑問があった

 

 けど、詮索も良くないし

 

 その場は押し黙ることにした

__________________

 

 あれから色々な作業をして、

 

 一年生は放課後になった

 

 と言っても、

 

 僕は部活動に入るわけではないし

 

 後は帰るだけなんだけだけど

 

七深「かーえ君。」

楓「あ、広町さん。」

七深「一緒に帰ろ〜!」

楓「うん、いいよ。」

 

 僕と広町さんは下駄箱が近いらしい

 

 僕たちは靴を履き替えて、校舎を出た

 

楓「あっ。」

七深「どうしたの〜?って、なるほど〜。」

楓(八潮さんだ。)

 

 校舎を出ると、八潮さんが前を歩いてた

 

 やっぱり、綺麗な歩き方をしてる

 

 遠くから見ても気品が伝わってくる

 

 やっぱり、すごいなぁ......

 

七深「本当に、八潮さんが好きだね〜。」

楓「え?そう?」

七深「すごく見てたよ〜?」

楓「うーん、好きって言うか、憧れなんだ。」

七深「憧れ?」

 

 僕がそう言うと、

 

 広町さんは首を傾げた

 

 僕は続けて話した

 

楓「うん。なんと言うか、すごく綺麗でカッコよくて。僕もあんな風になりたいなーって。」

七深「じゃあ、恋愛的に好きとかではないんだ〜?」

楓「え!?いやいや、とんでもないよ!おこがましいよ!」

七深「う、うん〜。そっか〜。」

 

 全く、何を言い出すんだろう

 

 僕なんかに思われても八潮さんは迷惑だ

 

 あくまでただの憧れ、目標

 

 それだけだ

 

七深(かえ君、拗らせてるな〜。)

楓(僕もあんなふうになれるように頑張ろう!)

 

 僕はそう心の中で意気込んだ

 

 横では広町さんがやれやれと言った顔をしてた

 

 何を考えていたんだろう?

 

 

 

 



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オリエンテーション

 月ノ森はやっぱり普通とは違う

 

 中学の時は僕もそこそこ勉強は出来る方だった

 

 けど、ここでは平凡そのもの

 

 やっぱり、レベルが違い過ぎる

 

楓(__つ、ついて行くのがやっとか......)

 

 たいして運動神経がいいわけでもない

 

 なのに、勉強までこれ......

 

 僕はこれからどうなるんだ

 

七深「難しい顔してるね~。」

楓「あ、広町さん。」

七深「どうかしたの~?」

楓「周りとの能力の差に打ちのめされてる......」

七深「あ~......」

 

 いかに月ノ森と言っても、

 

 同じ人間でここまで能力差があるなんて

 

 色が目立たない人ですらあのレベル

 

 八潮さんはどんなレベルだって言うんだ

 

七深「で、でも、今週が終われば合宿だよ~!そこでなら、悩みもパーッと晴れるよ~!」

楓「そ、そうかな?」

七深「沖縄の海はきれいだよ~!」

楓「......綺麗、か。」

七深「?」

楓「あ、なんでもないよ。」

 

 僕は笑いながら軽く手を振った

 

 広町さんは首をかしげている

 

 そして、色も疑念を表してる

 

楓「それにしてもさ......」

七深「?」

楓「すごいお弁当だね。」

七深「そうかな~?」

 

 広町さんのお弁当は、

 

 おおよそ一般人じゃ分からないものが入ってる

 

 こういう部分でも、生粋の月ノ森生との違いを感じた

__________________

 

 あれから数日が経ち

 

 沖縄に旅立つ日になった

 

 飛行機なんて、乗るのは久しぶりだ

 

 まぁ、こんなに高い飛行機に乗るのは、

 

 勿論、人生初なんだけど

 

楓(__飛ぶ前から酔いそう。)

七深「すごい顔してるね~。」

楓「まぁ、こんな大きい飛行機に乗るのは初めてだからね。」

 

 月ノ森のスケールの大きさを感じる

 

 いやぁ、すごいなぁ......(遠い目)

 

七深「あ、そろそろ出発だね~。」

楓「うん、言うのが遅いね。もう、飛び始めてるよ。」

七深「あれ~?」

 

 広町さんは偶に変なことを言う

 

 凡人には分からないだけかもしれないけど

 

七深「いや~、飛行機は楽しいね~!」

楓「まぁ、そうだね。」

 

 空は綺麗だし、座り心地はいいし

 

 なんだか、ワンランク上の人になった気分だ

 

 実際にそんな事はあり得ないんだけど

 

 でも、そう言う風に錯覚する

 

楓(少し、眠たいな。)

 

 座り心地が良すぎて眠たくなってきた

 

 どうしよう

 

七深「ね~、かえ君~?」

楓「ん?どうしたの?__!?」

七深「あっ。」

 

 広町さんの方を見ると、

 

 彼女の顔が近くにあった

 

 僕は驚いて窓に頭をぶつけてしまった

 

七深「ご、ごめん~。」

楓「だ、大丈夫。それで、どうしたの?」

七深「眠たそうにしてたから、寝たいのかな~って。」

楓「気付いてたんだ。」

七深「分かりやすいからね~。」

 

 広町さんは少し笑いながらそう言った

 

 よく人の事見てるんだな

 

七深「まだまだ時間あるし、寝てた方がいいよ~。」

楓「うん、じゃあ、そうするよ。」

七深「おやすみ~。」

楓「うん、おやすみ......」

 

 僕はゆっくり目を閉じた

 

 それからは早くて、

 

 すぐに眠りについた

 

 ”七深”

 

七深(早かったね~。)

 

 かえ君が眠ってから20分くらい経った

 

 余程眠たかったのか、本当にすぐに寝た

 

 かえ君の寝顔は輪にかけて子供っぽい

 

 すごく和むな~

 

楓「......んっ。」

七深「!」

 

 しばらくかえ君を見てると、

 

 こっちにもたれかかってきた

 

 少しだけ驚いたけど、

 

 なんだか可愛く思った

 

七深「ふふっ♪」

 

 こんな風に出来る友達も久し振りだな~

 

 かえ君って、女の子みたいだし

 

 付き合いやすいお友達だね~

 

楓「綺麗......だ......」

七深「え?」

楓「......zzz」

 

 今、一瞬だけ目が開いてた

 

 でも、起きた気配もなかった

 

 寝たまま目が空いたみたい

 

 どうなってるんだろう?

 

七深(そう言えば、かえ君って私の事を綺麗なオレンジ色って言うよね?)

 

 色を見えるっていう発言もあるし

 

 やっぱり、かえ君は普通じゃないのかも

 

 世界が他の人とは違うように見えてる、とか

 

七深(もしかして、かえ君ってすごいんじゃ?)

 

 ちょっとだけ気になってきた

 

 かえ君にはどんな風に世界が写ってるのか

 

 綺麗なのか、それとも......

 

 私は沖縄に着くまでそんな事を考えていた

__________________

 

 ”楓”

 

 僕が目を覚ますと、沖縄についてた

 

 起きた時に広町さんに寄りかかってて、

 

 かなり驚いてまた頭をぶつけた

 

 広町さんは別にいいよって言ってくれた

 

 優しいんだなぁって思った

 

七深「かえ君~、移動するよ~。」

楓「あ、うん。今行くよ。」

 

 確か、1日目はホテルに行ってから海に行くんだっけ

 

 それからは自由時間、と

 

七深「さ~、海だよ、海~!」

楓「楽しそうだね。」

七深「海には中々行かないからね~!」

 

 そ、そうだったんだ

 

 結構な頻度で海とか言ってるイメージだった

 

七深「かえ君は海はよく来るの~?」

楓「一回しかないよ。来る機会もなかったし。」

七深「そうなんだ~。」

 

 まぁ、母さんと父さんが避けてくれてたんだけど

 

 僕があんまり海が好きじゃないから

 

七深「まぁ、行こっか~。」

楓「そうだね。他の生徒も移動していってるし。」

 

 僕と広町さんは宿泊するホテルに向かった

 

 さて、このオリエンテーション

 

 僕はどんな風に過ごすんだろうか

 

 

 

 



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臆病者

楓「__ひ、広い。」

 

 ホテルの部屋に入って最初

 

 僕から出た感想がこれだった

 

 しかも、1人部屋という事で

 

 月ノ森凄いって思う

 

楓「おっと、この後すぐ海に行くんだっけ?」

 

 僕はスケジュール表を確認した

 

 今日はもう、基本は海で過ごすらしい

 

 むしろ、自由な時間の割合が大きい

 

楓「ともかく、準備して行こうかな。」

 

 僕はそう呟いた後、

 

 荷物をまとめてから海に移動した

__________________

 

 僕は海が好きじゃない、むしろ嫌いだ

 

 色々な理由はあるけど、一番は......

 

楓(__き、気持ち悪い......)

 

 沖縄はもう、海開き済みだ

 

 だから、一般の人たちだっている

 

 人には1人1人、別々の色がある

 

 それが多く混ざり合う、海と砂浜

 

 ここは僕と相性最悪だ

 

七深「か、かえ君、大丈夫~?」

楓「だ、大丈夫だよ。」

七深「すごく顔色悪いよ?」

 

 絵の具を何色も混ぜた時

 

 すごく汚い黒色になるのは知ってると思う

 

 今、僕が見てるのはそう言う景色だ

 

 見てるだけで頭が痛くなる

 

七深「かえ君って今、どういう景色が見えてるの~?」

楓「汚い黒色。」

七深(つまり、絵の具をぐちゃぐちゃに混ぜた感じかな?)

楓「海が好きになれない理由はこれだよ......」

七深「何か抜け道とかないの~?」

楓「抜け道?」

七深「そうそう~。」

楓「ある、と言えばあるかな。」

 

 でも、これはほとんど使えない

 

 下手をしたら不審者になっちゃうし

 

七深「それってどんなの~?」

楓「僕が見てるのは生きてる人の色なんだけど、それは厳密には混ざってるわけじゃなくて重なってる状態なんだ。だから、近くにある一人の1人の人に集中してればマシにはなる、かな。」

七深「なるほど~。じゃあ、私の事見てる~?」

楓「え?」

七深「気にしないから見てたらいいよ~」

 

 広町さんは僕の前に座った

 

 目の前には綺麗なオレンジ色だけが見える

 

 心休まる優しい色だ

 

七深「あ、顔色良くなったね~。」

楓「すごく助かるんだけど、こんなに見られて嫌じゃない?」

七深「大丈夫大丈夫~。」

教師「__そこの2人。」

楓、七深「はい?」

教師「海に来たんだから何かしなさい。最低、一回は入る事。」

楓(な、何だろうその制度。)

七深「はい~。」

 

 広町さんがそう答えると、

 

 教師は歩いてどこかに行った

 

七深「仕方ないから行こっか~。かえ君は大丈夫?」

楓「広町さんを見てれば、なんとか。」

七深「じゃあ、海にレッツゴ~。」

 

 僕と広町さんは海の方に行った

__________________

 

 海に入ったのは2回目だけど

 

 普通に冷たい

 

七深「ほら~、広町の水着だよ~。」

 

 広町さんは羽織ってた服?を脱ぎ

 

 水着姿になった

 

楓「よく似合ってるね。」

七深「あはは~、普通だよ~。」

楓(普通よりは可愛いと思うんだけどな。)

 

 それにしても、海に来て何をするんだろう

 

 別に泳ぎが出来るわけでもないし

 

 遊ぶネタがないね

 

七深「海まで来たけど、何か話そっか~。」

楓「そうだね。岸にいても何か言われるし。」

七深「じゃあ、かえ君の好きなもの教えてよ~。」

楓「僕は風景画が好きだよ。」

七深「お~。」

 

 広町さんは頷きながらこっちを見てる

 

 そして、こう言ってきた

 

七深「渋いね~。」

楓「え?そうかな。」

七深「広町は好きだよ~、そう言うの~。」

楓「広町さんはホラー映画とかが好きなんだよね。」

七深「うん~!すごく面白いんだ~!」

 

 広町さんは嬉しそうな顔をしてる

 

 僕もホラーが苦手というわけではないし

 

 夏はよく1人で見たりもする

 

楓「今年の夏に何か面白そうなの始まるらしいけど。」

七深「あ、見に行くよ~!かえ君も行こうよ~!」

楓「いいよ。まぁ、予定合わせたりが__」

男子「__お、おい、誰か溺れてないか?」

楓、七深「?」

 

 僕たちが話をしてる途中、

 

 どこからかそんな声が聞こえて来た

 

 僕と広町さんは指さされてる方を見た

 

七深「ほ、ほんとだ!だ、誰だろう?」

楓「あ、あれ......」

七深「かえ君?」

楓「や、八潮さん。」

七深「え?」

 

 少し遠くだけど、僕にはわかる

 

 見たことのある綺麗な水色

 

 でも、色が弱弱しい

 

楓「い、行かないと!」

七深「あ、危ないよ~!助けを呼んぼうよ!」

 

 僕が八潮さんの所に行こうとすると

 

 広町さんは僕の腕を引っ張ってきた

 

楓「は、放して!」

七深「ダメ、ここは管理の人を呼んだ方が......」

楓「もう、色が弱くなっていってる!管理員さんが来る気配もない!周りの誰も、助けに行く気配もないんだ!」

七深「でも、かえ君が言っても何もできないよ~!泳ぎ苦手って言ってたじゃん!」

楓「......それでも。」

七深「っ!」

 

 僕は広町さんの手を振り払って

 

 目に全神経を集中させた

 

 八潮さんの色が良く見える

 

楓「僕は、臆病者だから。」

七深「かえ君......?」

楓「目の前で人を見捨てるのが、怖くて仕方ない!」

七深「!」

 

 僕はそう叫んで、八潮さんの方に向かった

 

 早く、向かわないと......!

__________________

 

 ”瑠唯side”

 

 岸から遠く離れた海

 

 その中に沈みゆく一つの影がある

 

瑠唯(ここは、どこ......?)

 

 溺れ始めてから、かなり時間が経った

 

 体は冷え切り、体の感覚が鈍くなってる

 

瑠唯(思えば、教師に海に入れと言われ、準備運動を怠ってしまった。その結果が、これね。)

 

 瑠唯は両足が攣り動かすことができない

 

 ただ、体の力を抜き目を閉じている

 

瑠唯(あの教師、死んでも恨み続けましょうか......)

 

 瑠唯は諦めたような顔をした

 

 今の状況で助かる確率はない

 

 その事は瑠唯本人が1番理解してる

 

瑠唯(碌な人生じゃなかったわ。結果だけを優先して、家の体裁を守って。)

 

 瑠唯から体の感覚が消えた

 

 本格的に死が近づいて来たのだろう

 

 意識は段々と薄くなり、

 

 視界は暗くなっていく

 

瑠唯(もう__)

楓「や、しお、さん......!!!」

瑠唯(誰、かしら......もう、眠りそうなのに......)

 

 瑠唯は謎の声と光を感じながら

 

 意識を失った

 

 ”楓”

 

 追いつけた

 

 少し波に流されたけど、色を追えた

 

 僕の目も、捨てたものじゃない

 

楓(よ、よし!掴んだ!)

 

 僕は八潮さんの腕を掴み、

 

 何とか、顔を海面に出せた

 

 海に入ってるから、分かりづらいけど

 

 かなり冷たくなってる気がする

 

 早く、暖かい場所に運ばないと

 

楓「待ってて!今、助けるから!」

瑠唯「......」

楓(気を失ってる、か。)

 

 でも、まだ色は失われてない

 

 まだ、助けられる

 

 僕は八潮さんを背負い、泳ぎだした

 

楓(八潮さんだけは、沈ませちゃいけない!)

 

 と言っても、僕にはこの状態で泳ぐ力はない

 

 でも、足掻いてもがくことは出来る

 

 泳ぎは出来なくても、前進する力さえあれば

 

楓「ぜぇ、ぜぇ......!!」

 

 岸が、遠い

 

 でも、少しずつ近づいてる

 

楓(死ぬ気で動かせ、死んでも動かせ!必死に!)

 

 息が荒くなって口や鼻から水が入ってくる

 

 まずい、僕も息が出来ない......!

 

 はやく、はやくついてくれ!

 

 僕は必死に手足を動かした

 

 八潮さんから手を離さないように

 

 その時、不思議な感覚がした

 

楓(__これは、砂......!)

 

 砂に、触れた!

 

 そして、見えた、岸が

 

 僕は力を振り絞り、八潮さんを岸にあげた

__________________

 

楓「__ぜぇ、ぜぇ......はぁ、はぁ......!」

 

 なんとか、なった......

 

 いや、終わりじゃない

 

 僕は無理やり体を起こし、

 

 八潮さんの方に体を引きずった

 

楓「八潮さん!大丈夫!」

瑠唯「......」

楓「だ、駄目だ!病院かどこかに、運ばないと!__っ!」

 

 僕が立ち上がろうとすると、

 

 目の前が激しく揺れ動いた

 

 あまりにも色を追い過ぎたのと、

 

 海の中で無理をし過ぎた代償が来た

 

楓(動け、動いてくれ!今はそんな事してる場合じゃない!)

七深「__こ、こっちです~!」

救急隊員「いたぞ!倒れてる!」

楓「広町、さん......?」

七深「2人とも、大丈夫!?」

 

 僕が動こうと葛藤してるうちに

 

 広町さんが誰かを連れてきてくれた

 

 広町さんは僕の方に駆け寄ってきた

 

七深「かえ君!」

楓「あ、あはは、助けた、よ。」

七深「す、すごすぎるよ!かえ君!」

楓「でも、限界......」

七深「かえ君!?」

 

 僕は疲れか何なのか

 

 すっと意識が抜けていった

__________________

 

 ”瑠唯”

 

瑠唯「__ん......ここは......?」

 

 私は医務室らしき部屋のベッドで目を覚ました

 

 妙に暖房器具が周りに置かれてる

 

 そして、気を失う前の記憶が蘇ってきた

 

瑠唯(あれは、一体......)

 

 気を失う直前

 

 私に手を伸ばして来た何か

 

 あれは、人のようにも光のようにも見えたわ

 

救急隊員「目が覚めましたか。」

瑠唯「はい。ご迷惑おかけしました。」

救急隊員「こちらこそ、救助が遅れて申し訳ない。危うく、命を失うところでした。」

 

 救急隊員はハキハキと話してる

 

 助けてくれたのはこの人なのかしら

 

救急隊員「横の彼がいなければ、どうなっていたことか。」

瑠唯「横の彼?__っ!?」

楓「すぅ......すぅ......」

救急隊員「あの場でただ一人、あなたを助けに行った男の子です。本当に勇敢な子です。」

 

 横にいるのは衛宮楓君

 

 私は心底驚いた

 

 印象では気弱でか弱そうな男の子

 

 でも、私を助けたのが、彼?

 

救急隊員「おっと、私は目覚めたと報告に行かなければならないので、失礼します。」

瑠唯「え、えぇ。」

 

 救急隊員は部屋から出て行った

 

 この部屋には私と衛宮楓君の2人が残された

 

 私は彼の方を見た

 

楓「zzz......」

 

 彼は穏やかな顔で眠っている

 

 少し幼さが残る表情を見ると

 

 間違えても勇敢、なんて言葉は出てこない

 

 でも、今助かっていると言うことは

 

 さっきの話は全て事実という事

 

瑠唯「......っ。」

 

 今、不思議な鼓動を感じた

 

 心拍数が激しく上昇してる

 

 これは、なんだというの?

 

瑠唯「衛宮楓君、あなたは、一体......///」

 

 私は静かにそう呟いた

 

 医務室にいる間、

 

 私は不思議な鼓動と顔の熱さを感じていた

 

 

 



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幸せの鐘

 オリエンテーション2日目

 

 僕は食堂で広町さんと朝食を摂ってる

 

 昨日から察してたけど、すごく豪華だ

 

楓「__美味しい。」

七深「わ~、すごく食べてるね~。」

楓「こんな物、滅多に食べられないし。食べられるうちに食べておこうかなって。」

 

 何を食べてるかは一切わからないけど

 

 詰め込めるだけ詰め込んでる

 

 美味しいものだから味わっておこう

 

七深「それにしても、昨日の今日なのに元気だね~。」

楓「しっかり寝たから、もう大丈夫だよ。」

七深「すごいね~。」

楓「それにしても、どうやって作ってるんだろ。何か特別な材料とか使ってるのかな?」

 

 僕はホットサンドを口に入れた

 

 いくらでも食べられそうなくらい美味しい

 

瑠唯「__それは普通のホットサンドよ。」

楓「~!ごほっ!ごほっ!」

七深「か、かえ君、大丈夫~!?」

 

 僕が口いっぱいにサンドイッチを頬張ってると

 

 八潮さんがどこからか現れた

 

 僕は驚きで喉を詰まらせた

 

瑠唯「これを飲みなさい。」

 

 八潮さんは表情を変えることなく、

 

 僕に水を渡して来た

 

 僕はその水で詰まったものを流しこみ

 

 ほっと一息ついた

 

瑠唯「全く、何をしているのかしら。」

七深「るいる......じゃなくて、八潮さん、何か用~?」

瑠唯「......特に、何もないわ。」

楓「?」

 

 八潮さんはそう言いながら、

 

 僕の方をじっと見てる

 

 どうしたんだろう、何か変なのかな

 

楓「あの、なにか?」

瑠唯「口元にソースが付いているわ。」

楓「え?__!?」

七深「えぇ!?」

 

 八潮さんは僕の口元をハンカチで拭った

 

 あまりに突然の出来事で、

 

 僕と広町さんは唖然とした

 

瑠唯「たくさん食べるのはいいけれど、気を付ける事ね。」

楓「は、はい。」

瑠唯「それでは、ごきげんよう。」

 

 八潮さんはそう言って離れていった

 

 僕をポカンと口を開けたまま、

 

 八潮さんを見送った

 

楓「ひ、広町さん?さっきの、なに?」

七深「い、いや~、広町にも分からないよ~。」

楓「そ、そうだよね。」

 

 僕と広町さんはしばらく唖然としてた

 

 あれは、一体なんだったんだろう

__________________

 

 ”瑠唯”

 

 自分の事が分からない

 

 何故か、彼に話かけてしまった

 

 別に、何の用もないと言うのに

 

瑠唯(......何なのかしら。)

 

 昨日から、彼が気になって仕方ない

 

 さっき、話しかける前も目で追ってた

 

 それは、なぜ?

 

瑠唯「......分からないわ。」

 

 この妙な胸の高鳴り、顔の熱さ

 

 でも、それに嫌悪感はない

 

瑠唯(......今は、考えても無駄ね。)

 

 私は迷いを払うように首を振り、

 

 次のスケジュールに移る準備をしに部屋に戻った

__________________

 

 ”楓”

 

 今日は沖縄の街を散策するらしい

 

 僕は案の定、広町さんといる

 

楓、七深「__おぉ~。」

 

 沖縄の家って、初めて生で見たけど

 

 教科書で見るのとはイメージが違う

 

 中々、面白い

 

楓「ここの街並み、綺麗だね。」

七深「うん~。都会とは違った感じだね~」

 

 僕と広町さんは感性が似てるのか、

 

 他の生徒がアウトレットとかに行く中

 

 古き良き町を観察して楽しんでる

 

七深「折角だし、スケッチでもして行こうかな~?」

楓「絵とか得意なの?」

七深「普通だよ~。」

 

 広町さんはそう言って、

 

 鞄からノートとペンを出し

 

 風景のスケッチを始めた

 

七深「~♪」

 

 鼻歌を歌いながらだけど、

 

 物凄い速さで絵をかいてる

 

 しかも、とんでもなく上手だ

 

楓「広町さん、絵、上手だね。」

七深「そうかな~?」

楓「うん。僕はこの絵、すごく好きだよ。」

七深「あはは~、ありがとね~。」

 

 それから広町さんはすぐに下書きを終えた

 

 完成したら僕にくれるって約束した

 

 風景が好きだから、すごく嬉しかった

__________________

 

 僕と広町さんは徒歩で移動して

 

 海が綺麗に見えるっていうタワーに来た

 

 有名な観光名所らしい

 

七深「__わー、綺麗~!」

 

 頂上まで階段で登ると、

 

 広町さんは透明なガラスの柵に手を付き

 

 楽しそうに景色を眺めている

 

七深「ここなら、かえ君が見てる色も遠くて見えずらいんじゃないかな~?」

楓「確かに、かなりマシだけど、広町さんはここでいいの?」

七深「いいんだよ~!特にしたいことないし~。」

楓「そ、そうなんだ。」

 

 普通なら、沖縄なんて滅多に来ないし

 

 したい事はいくらでも出てきそうだけど

 

 やっぱり、広町さんって変わってるのかな

 

七深「それと、かえ君とお話ししたかったんだ~。」

楓「お話?」

七深「まぁ、こっちにおいでよ~。」

楓「うん。」

 

 僕は広町さんの隣に行った

 

 お話って一体、なんだろうか

 

 月ノ森に来て、結構話したと思うけど

 

七深「それにしても、本当に綺麗だね~。」

楓「うん。こんなきれいな海、生まれて初めて見た。」

 

 海が青いって事すら、知らなかった

 

 今まで、ただの汚い色の塊

 

 それ以外に見えたのは、初めてだ

 

七深「うんうん、かえ君が嬉しそうでよかったよ~。」

楓「あ、お話があるんだったよね。それって?」

七深「そうそう~......少し気になることが出来てね。」

楓「っ!」

 

 突然、広町さんの雰囲気が変わった

 

 いつもの緩い雰囲気が一変して、

 

 鋭い刃物のような、冷たい雰囲気だ

 

七深「昨日の八潮さんの一件。なんで、あそこまで必死になってたの?」

楓「それは、昨日言ったとおり__」

七深「本当に、それだけ?」

楓「え?」

 

 僕の言葉を遮って、

 

 広町さんはそう聞いてきた

 

 質問の意図が読み取れない

 

七深「何か、特別な理由があったんじゃないの?例えば、八潮さんが好きとか。」

楓「......?」

七深「仮にそうだとしても、異常な行動だけど。それなら、まだ納得は行くよ。」

 

 広町さんは何を言ってるんだろう

 

 僕が八潮さんを好き?

 

 そんなこと......

 

 ”七深”

 

楓「ありえないよ。」

 

 かえ君はあっさりそう答えた

 

 少しだけ笑みを浮かべながら、

 

 子供の冗談を相手にするような顔をしてる

 

七深「でも、じゃあ、なんで?あんな危険を犯してまで?」

楓「人を見捨てるのが怖い、それじゃあ、理由として不十分かな?」

七深「不十分だよ。そんな事を怖がる人間、普通いないよ。」

楓「あはは、そうなのかな。」

 

 かえ君は笑ってる

 

 だから、余計に嘘をついてるように見える

 

 私は、かえ君の方を見つめた

 

七深「真面目に取り合う気はないみたいだね。」

楓「十分真面目だよ?理由の大部分はこれだから。」

七深「大部分って事は、違う理由もあるってこと?」

楓「おっと。」

 

 かえ君の表情が変わった

 

 これは、ダウトかも

 

 もうちょっと、踏み込んでみよう

 

七深「折角だし、教えてよ~。違う理由も~。」

楓「い、いや~、それは......」

七深「やっぱり、八潮さんが好きなの~?だったら、そう言えばいいのに~。」

楓「それは違うよ。」

 

 やっぱり、これは否定する

 

 じゃあ、これ以外なんだ

 

楓「うーん、恥ずかしいからあんまり言いたくないんだけど......」

七深「恥ずかしい?」

楓「仕方ないし、話すよ......」

 

 かえ君は観念したようにそう言った

 

 相当嫌そうにしてるけど、どんな理由なんだろう

 

楓「僕は小さいとき、よく本を読んだんだ。」

七深「本?」

楓「色んな話を見るうちに、お姫様を助ける英雄っていうものに憧れてね。僕もそれになりたいって思ったんだ。」

七深「え?」

 

 私はつい、驚いた声を上げてしまった

 

 あまりにも、子供過ぎる理由

 

 でも、嘘をついてる様子がない

 

 だから、余計に驚いた

 

楓「八潮さんみたいな特別な人を助けられれば、そう言う風になれるかもって思ったけど。あんなにかっこよくは出来ないね......物語に出て来る英雄達は凄いよ。あはは。」

 

 かえ君は照れくさそうに頭を掻いた

 

 私はその話を聞いて、こういった

 

七深「かえ君は八潮さんの英雄になれてるよ~!あと、昨日のかえ君はかっこよかったよ?」

楓「いや、そんなことないよ。だってさ......」

七深「?」

楓「英雄は誰でも、強い人だったからね。僕は強くないから。」

七深「......?」

 

 少し、引っかかる言い方だ

 

 強い、の意味が上手く伝わってこない

 

楓「僕がもし、八潮さんみたいな人だったら、胸を張って英雄になれてたかもね。」

七深「!」

楓「いやー、やっぱり憧れるよ。僕も八潮さんみたいになりたい。」

 

 謙虚にもほどがある

 

 仮にも命を救った人間の態度じゃない

 

 しかも、助けた相手に憧れてるなんて

 

七深「ねぇ、かえ君?」

楓「どうしたの?」

七深「聞きたいんだけど__きゃあ!!」

楓「広町さん!?」

 

 私が話してる途中、

 

 顔の前を何かが通過していった

 

 私はそれに驚いて、足を踏み外し

 

 妙な浮遊感と一緒に私は地面に倒れて行った

 

七深「__っ!......って、あれ?」

楓「だ、大丈夫?」

 

 転んで痛いかと思ったら、そんな事なくて

 

 私は一瞬だけ戸惑った

 

 気づいたら近くにかえ君の顔があった

 

七深「!?///」

楓「ご、ごめん。頭はきっちり守れたけど、体は威力を殺すのがやっとだった......」

七深「だ、大丈夫、大丈夫~!///ありがとうね~///」

 

 なんだか、心臓がうるさい

 

 転んでびっくりしたのかな

 

 すごく、ドキドキしてる

 

楓「あ、すぐに離れるね?(あ、紐ある。)」

七深「た、助かったよ~。」

 

 私とかえ君は垂れ下がってる紐を掴んだ

 

 あれ、そう言えば、なんで紐があるんだろ?

 

楓、七深「な、なに!?」

 

 その紐を引くと

 

 カーンカーンと教会で聞いたことがある

 

 鐘の音が鳴った

 

楓「あ、あー、これにつながってる紐だったんだ。」

七深「びっくりしたー。なんでこんな所にあるの~?」

楓「さ、さぁ?__っ!!」

七深「かえ君!?」

 

 話してる途中、

 

 かえ君が苦悶の表情を浮かべた

 

七深「もしかして、手を痛めた?」

楓「あ、あはは、大丈夫大丈夫。」

七深「ごめんね......」

 

 冷静に考えれば、

 

 私と地面の間に手を入れたわけだし

 

 かなり強打しててもおかしくない

 

 もしかしたら、捻挫とかしてるかも

 

七深「すぐに手当しよ。ホテルに戻れば医務室あるから。」

楓「え?いや、その__」

七深「早く行こ__(って、あれは?)」

楓「?」

 

 私はあるものが目に入って足を止めた

 

 それには、幸せの鐘と書かれていて

 

 下には何かの文章が書いてある

 

七深「~!///」

 

 その文章を読んで、私の顔は熱くなった

 

 だって、その文章の内容が

 

 この鐘を一緒に鳴らした男女は一生を添い遂げる、だったから

 

七深(あ、あれ?///さっき、私とかえ君、一緒に紐を引いて、鳴らしたよね?///)

楓「あの、広町さん?」

七深「あ、ご、ごめん~!///早く戻ろっか~!///」

楓「え?あ、うん。」

 

 私はかえ君と一緒にホテルに戻った

 

 その道のりの途中、

 

 私の顔はずっと、熱いままだった

 

 

 



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合宿の終わり

 2日目の夜

 

 僕は何故か1人で夕食を食べてる

 

楓(__一体どうしたんだろう?)

 

 ホテルに帰ってきてから、

 

 広町さんは一切、目を合わせてくれない

 

 近づいたら顔を赤くして逃げちゃうし

 

楓(うーん、僕、何かしたかな?)

瑠唯「__ここ、空いてるかしら?」

楓「え?」

瑠唯「......」

 

 僕が考え事をしてると、

 

 八潮さんがお盆を持ちながら話しかけて来た

 

 いつも通り、凛々しい表情をしてる

 

楓「空いてますよ。」

瑠唯「それでは、失礼するわ。」

 

 八潮さんはそう言って僕の前に座った

 

 僕はその様子を確認した後、食事を再開した

 

楓、瑠唯「......」

 

 けど、この状況は中々に気まずい

 

 話したことはあるけど、親しいわけじゃない

 

 八潮さんは話すタイプじゃないだろうし

 

 かなりシンととしてる

 

瑠唯「......少し、話さないかしら。」

楓「え?はい。(話しかけて来た?)」

 

 かなり驚いた

 

 まさか、八潮さんが話しかけてくるなんて

 

瑠唯「遅れてしまったけれど、昨日の事、感謝してるわ。」

楓「え?......あ、いえいえ、気にしないでください。」

 

 八潮さんは僕にそう言ってきた

 

 それを聞いて、僕は首を横に振った

 

楓「僕は所詮、その場に居合わせただけですから。」

瑠唯「聞いたわ。あの場で私を助けに動いたのはあなただけだったっと。」

楓「何も、特別なことではないですよ。」

 

 僕はそう言って水を飲んだ

 

 八潮さんはこっちを見てる

 

楓「どうぞ、お気になさらないでください。」

 

 僕は料理を食べ終え、席を立ち

 

 空になった食器が乗ってるお盆を持った

 

楓「では、失礼しますね。」

瑠唯「ち、ちょっと、待って。」

楓「はい?」

瑠唯「......いえ、やっぱり、なんでもないわ。」

楓「じゃあ、ごゆっくり。」

 

 僕は八潮さんに一礼した後、

 

 食器を返却して部屋に戻った

 

 ”瑠唯”

 

瑠唯(......少し、遅かったわ......)

 

 話しかけるのを躊躇しすぎたわ

 

 何故か、彼に話しかけようとすると、

 

 足踏みをしてしまって話しかけられない

 

瑠唯(なんなのかしら、この感じは。)

 

 何故か、ショックを感じてる

 

 それは、彼が先に戻ってしまったこと

 

 それも理由の1つではある

 

 でも、何よりも......

 

瑠唯(広町さんといる方が、楽しそうね......)

 

 自分が不愛想なのは自覚してるし、

 

 ああいう態度を取られるのは珍しくない

 

 でも、何故か彼だけショックを感じる

 

瑠唯「もう少し、いてくれても良かったと言うのに......」

 

 私はそう呟き

 

 憂鬱な気分のまま食事を進めた

__________________

 

 ”楓”

 

 お風呂などを済ませて、

 

 僕は自分の部屋の椅子に座っている

 

楓(あっという間だったなー。)

 

 明日にはもうここを去る

 

 オリエンテーションの目的も

 

 広町さんと仲良くなったし(?)

 

 達してると思う

 

楓「これが終わってもまだ始まったばっかりだし、また頑張ろう__」

 

 コンコン、と部屋の戸を叩くとがした

 

 僕は教師の見回りか何かかと思い、

 

 ゆっくりドアを開けた

 

楓「はい、誰ですか?」

七深「やっほ~、かえ君~。」

楓「ひ、広町さ__むぐっ!」

七深「シー、静かに~。部屋、入っていい?」

 

 広町さんがそう聞いて来たので、

 

 僕はとりあえず、首を縦に振った

 

 すると、広町さんは部屋に入ってきた

__________________

 

 広町さんを部屋に招き入れ

 

 僕たちは椅子に座った

 

楓「それで、何か用かな?」

七深「いや~、私が目を合わせなかった事、かえ君が気にしてるかなと思って~。」

楓「あー、なるほど。」

 

 それにしても、どうしたんだろう

 

 昼は普通だったし、

 

 おかしくなったのは、タワーくらいから?

 

七深「ごめんね~、ちゃんと整理してきたから、もう大丈夫だよ~。」

楓「そう。(整理?)」

 

 言ってる意味がよく分からない

 

 けど、何か色々あったんだろう

 

楓「まぁ、元に戻ってよかったよ。」

七深「......元通り、なのかな~?」

楓「え?」

七深「なんでもないよ~。」

 

 広町さんは笑いながらそう言い

 

 そして、ある物を机に置いた

 

楓「トランプ?」

七深「うん~!折角だし、遊ぼうよ~!」

楓「うん、いいよ。でも、僕、ババ抜きしか出来ないよ?」

七深「じゃあ、ババ抜きにしよっか~。」

 

 広町さんはそう言って山札をシャッフルし

 

 すごい速さでカードを配った

 

 手際良いんだなぁ

 

七深「ほら~、引いても良いよ~。」

楓「じゃあ、引こうかな。」

 

 僕は広町さんの手札に手を伸ばした

 

 僕の手札にはジョーカーがない

 

 つまり、広町さんが持ってる

 

楓(気を付けて引かないと__!!)

七深(あっ。)

 

 引いたカードを確認した瞬間、

 

 僕はかなり動揺してしまった

 

 まさか、初手でジョーカーを引くなんて

 

 ”七深”

 

七深(か、可愛い......///)

 

 ジョーカーを引いたかえ君は、

 

 分かりやすく表情に出てる

 

 ポーカーフェイスなんてものはない

 

 子供みたいに唸ってるのが、可愛い

 

楓「ど、どうぞ。」

七深「うん~、引くね~?」

 

 私はかえ君の手札に手を伸ばした

 

楓「!」

七深(......ん~?)

 

 最初に引こうとしたカードに触ると、

 

 かえ君の表情が明るくなった

 

 これを見て、もうわかった

 

七深(これ、ジョーカーだね~。)

 

 こんなにすぐ表情に出ちゃうなんて

 

 かえ君って本当に......

 

七深(可愛い~!///)

 

 私はたまらず、そのジョーカーを引いてしまった

 

 これは仕方ないよ

 

 だって、可愛いんだもん

 

七深「次、かえ君だよ~。」

楓「うん、引くね。」

 

 それから、ババ抜きは進んで行った

 

 かえ君は本当に表情に出やすくて、

 

 ジョーカーのある場所がすぐに分かって

 

 私はかえ君のジョーカーを全部引いた

 

七深「__これで、最後だね~。」

楓「う、うん。」

 

 残りの手札は、

 

 私は1枚、かえ君は2枚

 

 さてさて~、どうしよう

 

七深「ねぇ、かえ君~。」

楓「どうしたの?」

七深「負けた方に罰ゲーム付けようよ~。」

楓「え?罰ゲーム?どんな?」

七深「そうだね~。」

 

 私は少しだけ考えて

 

 浮かんできたアイディアを口にした

 

七深「負けた方は勝った方の命令を一つ聞くで~。」

楓「うーん、まぁ、いいかな。」

七深「じゃあ、決まりね~。」

楓「!?」

 

 私は迷いなくかえ君の手札を引いた

 

 引いたのはハートの2

 

 私はそろったカードを捨てた

 

七深「私の勝ち~。」

楓「はやっ!?」

 

 かえ君のジョーカーの位置は把握してたし

 

 勝つくらいはいつでも出来たんだよね~

 

 でも、罰ゲームを受け入れてくれるなんて、

 

 ラッキーだったよ~

 

七深「じゃあ、罰ゲームだね~。」

楓「仕方ないね。」

 

 かえ君は笑いながらそう言った

 

 さーて、なにしよっかな~

 

 と、私が考えてると

 

楓、七深「!」

 

 突然、部屋の電気が消えた

 

 どうやら、消灯時間みたい

 

七深「もうそんな時間なんだ~。」

楓「そうだね。もう、寝ないと。」

七深「うん~。」

 

 かえ君はそう言って、

 

 ベッドの方に歩いた

 

楓(さてと......)

七深「寝よっか~。」

楓「そうだね__って、何してるの?」

七深「いや~、一緒に寝ようと思って~。」

 

 そんな事を言う私を見て、

 

 かえ君は目に見えて困惑してる

 

楓「い、いや、それはまずくない?」

七深「大丈夫大丈夫~。見回りなんて来ないし~。」

楓(そう言う問題なのかな?)

 

 かえ君は少しだけ考える仕草を取って

 

 それから、こういった

 

楓「まぁ、広町さんがいいなら。」

七深「やった~。じゃあ、寝よっか~。」

 

 かえ君はそう言うと目を閉じた

 

 私はその顔を眺めてる

 

七深(あ~......///)

 

 すごく可愛い

 

 周りよりも幼さを残した顔

 

 いつもの癖なのか、サービスなのか

 

 私の方を向いて寝てくれてる

 

楓「......すぅ......」

七深(え、はやっ......)

 

 かえ君はベッドに入るとすぐに眠った

 

 なんだか、子供っぽいな~

 

七深(これを見てると、あの時の表情が嘘みたいだね~。)

 

 かえ君はきっと、心の強さがある

 

 いざとなれば、自分を顧みない

 

 絶対に他人を優先する、お人よし

 

 現代において、珍しい人間

 

七深(......だからこそ、利用されるかもしれない。)

 

 月ノ森にはお金持ちな生徒が揃ってる

 

 人によるのは当たり前だけど

 

 性格の悪い生徒がいるのも確かで

 

 もし、その生徒がかえ君に気付けば

 

 何かに利用されるかもしれない

 

七深「でも、大丈夫だよ、かえ君。」

 

 私はそう呟いて、かえ君の頭を撫でた

 

 なんだか、嬉しそうにしてる気がする

 

七深「広町が、何があっても守ってあげるからね~。」

 

 私はかえ君を抱き寄せた

 

 すごく胸がドキドキしてる

 

 胸らへんに顔あるし、かえ君に聞こえてないかな?

 

七深(好きだよ、かえ君......///)

 

 私は心の中でそう呟いて、瞳を閉じ

 

 ゆっくり眠りについた

__________________

 

 ”楓”

 

 今朝はかなり驚いた

 

 起きたら、広町さんに抱きしめられてて

 

 中々、離れられなかった

 

七深「~♪」

楓「どうしたの?」

 

 そんな事があったけど、

 

 僕たちは帰りの飛行機に乗り込んだ

 

 それで、さっきから広町さんの機嫌がいい

 

七深「なんでもないよ~♪」

楓「そう?」

七深「うん~♪」

 

 まぁ、嬉しそうにしてるしいいかな

 

 何かいいことがあったって事にしておこう

 

七深(これからの高校生活、楽しみだね~♪)

 

 こうして、僕の最初の行事

 

 オリエンテーションが終わった

 

 まだまだ、高校生活は始まったばかり

 

 取り合えず、頑張ろう

 

 

 



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バンド結成

 オリエンテーションから少し経った

 

 広町さんと仲良しだし、毎日が楽しい

 

 そんな中、僕は......

 

楓、七深「じーーーーー。」

 

 僕は茂みから、

 

 広町さんと女子3人組を見てる

 

 いや、何をしてるんだろう?

 

透子「あれ?何してんの?広町に......衛宮だっけ?」

楓「あ、気付いてくれたみたいだよ。」

七深「これぞ、目力だね~。」

 

 僕たちはそんな会話をしつつ、

 

 女子3人組の方に歩いて行った

 

ましろ「え?透子ちゃんのお友達?」

透子「同じクラスの広町と衛宮。よく一緒にいる2人だよ。」

七深「そんな~!おしどり夫婦なんて~!」

透子「え?いや、言ってないんだけど?」

楓「大丈夫だよ。広町さん、いつもこういう冗談言うから。」

 

 僕は笑いながらそう説明した

 

 確か、この人は桐ケ谷透子さん

 

 いつもクラスの中心にいる、

 

 すごくカリスマ性を感じる人だ

 

 後ろの2人は誰だろう

 

七深「むぅ~。」

つくし「それで、2人は何か用なの?」

楓「広町さんが面白そうな話してるって。何の話してたの?」

透子「バンドの話!実は、この2人とバンド結成したんだ!この間ライブ行ったら、自分でもしたくなってさー!」

七深「そう言えば、SNSにライブのこと投稿してたっけ?」

楓「そうなんだ。」

 

 僕はSNSとかしてないし

 

 全然知らなかった

 

透子「折角だし、2人も入る?まだメンバー揃ってないし!」

七深「えっ、いいの?」

つくし「もちろんだよ!ベースしてくれる人探してるんだけど、楽器の経験とかある?」

七深「ううん、ないよ。でも、私でよければベースやるよ!面白そう!」

 

 広町さんは嬉しそうに話してる

 

 僕以外と話すことがなかったし、

 

 相当嬉しいんだろうな

 

透子「それで、衛宮も入る?」

楓「いえ、僕は遠慮しておきます。バンドが出来るほどの体力がないので。」

 

 バンドとかしたら倒れちゃいそうだ

 

 かなり激しいイメージがあるし

 

 体力がない僕は出来ない

 

七深「え、かえ君は入らないの?」

楓「うん。ちょっと、僕には難しいかなと思って。」

七深「そっか~......残念。」

ましろ(この2人、本当にただのお友達......?)

透子「そうと決まれば、今日、楽器屋行こ!ギターみたい!」

つくし「あ、私も楽器見たい!」

七深「広町も~。かえ君も行こ~。」

楓「うん、いいよ。」

 

 この会話の後、それぞれ教室に戻り

 

 放課後は5人で楽器屋に行った

__________________

 

 放課後の空き教室

 

 僕たちはそこに集まっている

 

透子「__ふふん!どうよ!」

楓「わぁ、上手だね。」

 

 バンド練習が始まって4日ほど

 

 僕は広町さんの付き添いでここに来てる

 

 みんな、上達が早い

 

楓「前に弾けなかったフレーズが出来るようになってるし、すごいよ。」

透子「でしょでしょー!」

つくし「もうっ、すぐに調子に乗るんだから......」

ましろ「ま、まぁ、上達はしてるし。」

つくし「あんまり透子ちゃんを甘やかしちゃダメだよ!衛宮君!」

楓「え?うん?」

 

 僕は首をかしげながらそう言った

 

 別に甘やかしてるつもりはないんだけど

 

 気をつけよう

 

七深「かえ君、広町はどう~?」

楓「何と言うか、すごくて僕が言えることがないね。」

七深「え~!?」

ましろ「広町さん、すぐに出来るようになるもんね。」

楓「広町さんは凄い色を持ってるから、これくらいはできるよ。」

 

 広町さんはどんなフレーズでもすぐにマスターする

 

 器用さが段違いにすごい

 

 流石にあの色を持ってるだけある

 

つくし「そう言えば、衛宮君の色って何のことなの?」

楓「え?」

透子「そう言えば、色を見るのが得意って言ってたよね?」

ましろ「色を、見る......?」

 

 3人は不思議そうに首をかしげてる

 

 そう言えば、広町さん以外は知らないんだった

 

楓「僕は人の特有の色が見えるんだ。それで、体調とか分かったり、痕跡として色を追えたり、複数人いれば人間関係の度合いが分かったりするんだよ。」

透子「へぇ!そんなすごかったんだ!ちなみにさ、あたしはどんな色してるの?」

楓「桐ケ谷さんは、キラキラした黄色だよ。すごく派手。」

透子「やっぱりねー!」

 

 倉田さんは藍色、二葉さんは濃いピンク

 

 それぞれ、とても澄んだ色をしてる

 

 心が純粋な証拠だ

 

 桐ケ谷さんは明るい性格の人に多い

 

 少し砂のような感じに見える

 

楓「月ノ森の生徒は皆、色が輝いてるから、目が疲れちゃうよ。」

透子「あー、だから偶に目を閉じたりしてるんだ。」

七深「すごいでしょ~!」

つくし「いや、すごいんだけど、なんで広町さんが誇らしげなの?」

ましろ「さ、さぁ......?」

 

 倉田さんと二葉さんが首をかしげてる

 

 桐ケ谷さんは携帯を開いて、

 

 広町さんは嬉しそうに笑ってる

 

 楽しくていいなぁ

 

透子「今日はここまでにしよっか!」

つくし「そうだね!結構練習出来たし!」

楓「じゃあ、僕がカギを返してくるよ。」

 

 それから、4人は帰る用意をし、

 

 僕は教室の鍵を閉め

 

 職員室に返しに行った

__________________

 

 ”中庭”

 

 練習を終えた4人は楓を待っている

 

 その間、4人は会話に花を咲かせていた

 

透子「__そう言えばさ、広町って衛宮の事好きなの?」

 

 会話の途中、透子はそう七深に尋ねた

 

 すると、七深の顔は一気に紅潮した

 

七深「えぇ!?///なんでわかったの!?///」

つくし「え?逆にバレてないと思ってたの?」

ましろ「流石に、分かりやす過ぎるからね......」

 

 つくしとましろは少しため息をついた

 

 七深の態度を見て気付かない人間は、

 

 楓を除けばほとんどいないだろう

 

透子「ほんと、いっつも一緒にいるし。偶に見つめ合ってるし。」

つくし「えぇ!?それって......」

七深「ち、違うよ~!///まだそんな関係じゃないって~!///」

ましろ(まだ、なんだ。)

七深「見つめ合ってるのは、かえ君がいろんな色を見すぎると疲れちゃうから、その対策だよ~。」

 

 七深がそう言うと、透子は頷き

 

 七深の肩に手を置いた

 

透子「頑張りなよー。たった一回の青春なんだから。」

七深「あ、あはは~///」

瑠唯「__あなた達。」

透子、ましろ、つくし、七深「!?」

 

 会話の途中、瑠唯が歩いてこっちに来て

 

 いつも通りの無表情で話しかけて来た

 

 4人は驚いて、全員肩が跳ねた

 

瑠唯「さっきの演奏はあなた達?」

透子「そうだけど......?」

瑠唯「桐ケ谷さん......そう、あなたが関わってるなら納得ね。」

 

 瑠唯は溜息を付きながらそう言った

 

 そして、口を開いた

 

瑠唯「最近、生徒会に騒音がすると苦情が来ているわ。」

ましろ「もしかして、バンド練習の音......?」

瑠唯「あれは曲だったの?」

 

 瑠唯は驚いたような顔をしてる

 

 だが、すぐに呆れたような顔になった

 

瑠唯「音楽は調和でしょう。教室から聞こえたのは調和してるとは言えないような音だったわ。」

透子「まだ、練習始めたばっかりだし......」

瑠唯「いつ始めようと、今、ここにあるものが全てよ。これ以上の迷惑な活動は生徒会の一員として容認しかねるわ。」

 

 瑠唯は淡々とそう言って

 

 つくしの方に目を向けた

 

瑠唯「この申請書を書いたのはあなたね。不備だらけよ。誤字脱字が三か所あるわ。」

つくし「え......?」

 

 瑠唯は申請書を見せながらそう言った

 

 透子はあちゃーと言った顔をして

 

 ましろと七深は顔が引きつっている

 

瑠唯「ともかく、教室の使用許可は__」

楓「__あれ?八潮さん?」

瑠唯「っ!?」

 

 ”楓”

 

 4人の所に来たら、

 

 八潮さんが話していました

 

 何か、深刻そうな雰囲気だけど

 

 入ってよかったのかな?

 

楓「どうしたんですか?」

透子「いやー、八潮の奴がさ__」

瑠唯「教室の使用許可は継続よ。」

ましろ、つくし、透子、七深「え?」

楓「?(使用許可?)」

 

 何の話をしてるんだろ

 

 そう言えば、八潮さん何かの書類持ってる

 

 あれは、使用許可書?

 

瑠唯「これは、書き直してあげるわ。」

透子「え?いや、何の心変わり?」

瑠唯「......なんでもないわ。」

 

 八潮さんは目をそらしながらそう言った

 

 よく見ると、誤字脱字が酷い書類だ

 

 八潮さん、これを書き直してくれるのか

 

 良い人なんだ

 

瑠唯「......彼は。」

つくし「?」

瑠唯「彼は、バンドのメンバーなのかしら。」

ましろ「い、いえ、広町さんの付き添いで毎回来てます......」

瑠唯「そう......」

楓「?」

 

 八潮さんが何かを考えてる

 

 そして、少しすると顔を上げ

 

 ゆっくり口を開いた

 

瑠唯「あなた達に音楽を教えてあげるわ。」

ましろ「え......?」

瑠唯「この使用許可書の書き直しの見返りとして、あなたたちのバンドに入れて頂戴。」

七深「えぇ!?」

つくし(え、ど、どういうこと!?)

楓「八潮さんもバンドに入るの?楽器の経験は?」

瑠唯「バイオリンなら弾けるわ。」

 

 バイオリンかー

 

 何と言うか、絵になりそう

 

 すごく綺麗な人だし

 

楓「よかったね!これで、メンバーもそろうよ!」

透子「お、おー、そうだね!(?)」

つくし「八潮さんのバイオリン素敵だし!うん、大歓迎だよ!(?)」

瑠唯「よろしくおねがいするわ。それでは、ごきげんよう。」

 

 八潮さんはそう言って

 

 僕たちに背中を向け、歩きだした

 

楓「練習、明日あるから来てね!また、明日!」

瑠唯「!......えぇ、また明日。」

 

 八潮さんは門の方に向かって歩いて行った

 

 少し笑ってた気もするけど、

 

 夕日が眩しくてよく見えなかった

 

透子「え、どういうこと?」

楓「どうしたの?」

つくし「い、いや、助かったからいいんだけど......」

ましろ(八潮さん、衛宮君に甘い......?)

七深(もしかして......)

楓「??」

 

 こうして、バンドメンバーが集まった

 

 4人が不思議そうな顔をしてたけど、

 

 何かおかしなことがあったのかな?

 

 

 

 



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練習

 翌日の放課後

 

 僕たちはいつも通り、空き教室に集まった

 

楓「__あっ。」

 

 教室に来てすぐ、静かに扉が開いた

 

 僕はそっちの方に目を向けた

 

楓「こんにちは、八潮さん!」

瑠唯「えぇ、ごきげんよう。衛宮君。」

透子(あたしらは無視か!)

 

 八潮さんはいつもの凛とした表情をしてる

 

 立ってる姿にすら品があって、

 

 まるで、芸術品のようだ

 

七深「それが、バイオリン~?」

瑠唯「そうよ。」

つくし(あれ、いつもの八潮さん?)

ましろ(衛宮君と話してる時と雰囲気が違う?)

 

 すごく高そうなケースだ

 

 一体、あれはいくらするんだろう

 

 ......いや、考えるのはやめておこう

 

楓「バイオリンってどうやって弾くんですか?」

瑠唯「気になるなら見せるわ。自分のレベルを伝えると言う意味でも。」

 

 八潮さんはそう言って、

 

 ケースの中からバイオリンを出した

 

 黒色の綺麗なバイオリン

 

 なんだろう、すごく映える

 

瑠唯「それでは、始めるわよ。」

楓「頑張ってください!」

瑠唯「!......えぇ。」

 

 八潮さんはバイオリンを弾き始めた

 

 最近は弾いてないって聞いたけど、

 

 ブランクを感じないすごい演奏だ

 

 八潮さんの綺麗な色も相まって、

 

 幻想的な風景が見えてくる

 

楓(すごいなぁ!)

瑠唯(目が輝いているわ。)

 

 少しして、八潮さんの演奏が終わった

 

 やっぱり、すごい人だ

 

 あの色を持っているのも納得できる

 

七深「流石だね~。」

楓「うん、流石の演奏だと思う。色の輝きも強くて、周りの景色にすら影響を与えてたよ。」

ましろ「つまり、場を支配する演奏だったってこと......?」

楓「その解釈で間違いないよ。」

 

 音で場を支配できるなんて、

 

 普通の人じゃ絶対に出来ない

 

つくし「このバイオリンがあれば、いいバンドになれるよ!」

瑠唯「それでは、始めましょうか。」

透子「え?何を?」

瑠唯「練習よ。あの演奏では全く駄目だもの。」

楓「頑張ってね、5人とも。」

七深「うん!」

瑠唯「えぇ。」

ましろ、つくし、透子(やっぱり、この2人、衛宮(君)には甘い。)

 

 そうして、5人の練習が集まった

 

 八潮さんの音楽は超理詰めで

 

 倉田さん、二葉さん、桐ケ谷さんは苦労してた

 

 広町さんは当たり前のようについて行ってた

 

瑠唯「__こんなものね。」

透子「き、きっつ......」

ましろ「頭パンクしそう......」

つくし「八潮さん、厳しい......」

楓「お疲れ様。すごかったね、八潮さん。」

瑠唯「まだまだよ。もっとレベルを上げるわ。」

 

 八潮さんは涼しい顔でバイオリンを片付けてる

 

 やっぱり、この人はレベルが違う

 

 でも、驚くことはしない

 

 僕はもうわかり切ってるから

 

七深「かえ君もありがとうね~。飲み物買ってきてくれたり~。」

楓「出来る事がないからね。」

瑠唯「いえ、あなたの献身的なサポートはとても重要な要素だわ。もっと自分に自信を持ちなさい。」

七深「そうだよ~!かえ君は偉いんだよ~!」

 

 八潮さんと広町さんはそう言ってきた

 

 何故か、すごく褒められてる

 

 これと言って何かしたわけじゃないんだけど

 

透子(なにこの扱いの差!?)

つくし(八潮さんの表情、少しだけ緩んでる......?)

ましろ(気持ちは分かるかも......)

 

 それから、僕たちは教室を出て

 

 鍵を返してから、校舎から出た

__________________

 

 校舎を出て僕達は門に向かって歩いてる

 

 外はもう夕方だ、綺麗な夕日が見える

 

透子「__あー!疲れたー!虹行こ!虹!」

つくし「全然元気じゃない!」

ましろ「た、体力あるね......」

七深「私は良いよ~。」

瑠唯「私は遠慮しておくわ。」

 

 八潮さんは予想通りかな

 

 あまりこういうのに行くイメージがないし

 

 家に帰って読書とか、勉強とかするのかな

 

瑠唯「衛宮君。」

楓「はい?」

瑠唯「この後、私とお茶でもどうかしら。」

七深「!?」

楓「え?」

 

 僕は驚いて変な声を出してしまった

 

 偶に、イメージと違う行動をしてくるな

 

透子「時間あるんじゃん、八潮!」

瑠唯「時間がないとは言ってないわ。」

透子「あ、確かに......」

つくし(え?それで納得するの?)

楓(うーん。)

 

 どうしよう

 

 折角のお誘いだけど......

 

楓「僕は、遠慮しておきます。」

瑠唯「......そう。」

楓「折角ですし、5人で行ってみてはどうでしょうか?コミュニケーションは必要でしょうし。」

 

 僕はそう言って、断った

 

 出来れば、4人と仲良くして欲しいし

 

 あんまり、僕が邪魔をしちゃいけない

 

透子「そう言う意味なら、衛宮も来ないとでしょ!」

楓「え?」

透子「え?って、衛宮も仲間じゃん!一緒に行こ!」

つくし「そうだね!」

ましろ「うん、そうだよね。」

楓「そう言ってもらえるなら......」

瑠唯「それなら私も行くわ。」

透子(だから扱いの差!)

 

 僕たちはそうして、

 

 桐ケ谷さんの言う、虹(?)を飲みに行った

__________________

 

楓「__う、うわぁ。」

 

 虹を飲むの時点で飲み物とは分かってたけど

 

 まさか、そのまま虹とは思わなかった

 

 いや、これ、飲めるの?

 

瑠唯「......これは飲み物なの?」

透子「当り前じゃん!」

ましろ「確かに、最初は戸惑うよね。でも、味は普通だよ。」

楓「そ、そうなんだ。」

 

 僕は恐る恐るそれに口をつけた

 

 口の中に入ってきたのは普通のカフェラテだ

 

 なんで、こんな色に......?

 

楓「ふ、普通だ。」

瑠唯「驚いたわ。」

ましろ「色が、これだもんね......」

つくし「倉田さんも、最初は飲めなかったもんね!」

七深「そうだね~。」

 

 何と言うか、倉田さんにシンパシーを感じる

 

 そう言えば倉田さんも外部生だったような

 

 あ、だからか

 

楓「そう言えば、気になったんだけど。」

つくし「どうしたの?」

楓「いつも、練習してる曲があるけど、何か独自の曲を作ったりしないのかなって。」

透子「......それ。」

楓「!」

 

 桐ケ谷さんが低い声を出した

 

 え?何かまずいこと言っちゃったのかな

 

透子「めっちゃいいじゃん!ナイスアイディア!」

楓「!?」

つくし「月ノ森音楽祭もあるし、確かに欲しいよね!」

七深「でも、誰が作るの~?」

瑠唯「......作曲なら出来るわ。」

 

 八潮さんが静かな声でそう言った

 

 その声に皆反応した

 

楓「作曲も出来るんだ!すごいですね!」

瑠唯「任せなさい。」

つくし「じゃあ、後は歌詞だね!」

七深「折角だし~、皆で考えて案を持ちよるのはどう~?」

楓「いいと思うよ。面白そうだし。」

瑠唯「異論ないわ。」

透子「じゃあ、決まり!一週間後に歌詞発表ね!」

 

 そうして、オリジナル曲作りが始まった

 

 八潮さんの作曲にどんな歌詞が入るんだろう

 

 僕はすごく楽しみに思った

 

 

 



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歌詞

 いつも通りの学校のお昼休み

 

 でも、いつも通りじゃない事がある

 

 広町さんが職員室に呼びだされていない

 

 つまり、僕は今、1人だ

 

楓(__やっぱり、綺麗だなぁ。)

 

 暇になった僕は中庭を歩いてる

 

 やっぱり、この学校は綺麗だ

 

 校内で散歩が出来てしまう

 

楓(綺麗な花が咲いてるなー。)

ましろ「__うーん、歌詞かぁ......」

楓「ん?倉田さん?」

ましろ「あ、衛宮君......」

 

 中庭を歩いてると、

 

 困った表情の倉田さんを見かけた

 

 物凄く唸ってる

 

楓「どうしたの?」

ましろ「いや、その、歌詞のことで困ってて......」

楓「話だけでも聞くよ。」

 

 僕はそう言って倉田さんの横に座った

 

 そして、倉田さんの方に目を向けた

 

楓「何で困ってるの?」

ましろ「歌詞の案が全然浮かばなくて......」

 

 倉田さんは下を向きながらそう言った

 

 桐ケ谷さんも少し困ってたし、

 

 やっぱり、みんな苦戦してるんだ

 

ましろ「私、練習で足を引っ張ってるから、歌詞だけでも頑張らないと......」

楓(うーん、そんな事ないと思うけど。)

 

 練習は一生懸命がんばってるし

 

 歌も上手になって行ってる

 

 足を引っ張ってると言う事は決してない

 

 僕はそう思った

 

ましろ「何か、ヒントになるものでもあれば......」

楓「ヒントかぁ......うーん。」

ましろ(すごく、考えてくれてる?)

 

 ヒントか

 

 作詞してる人たちは何を考えてるんだろ

 

 何をきっかけとして歌詞を考えるんだろう

 

楓「あっ、あれなんてどう?」

ましろ「どれ?」

楓「あの石碑に書いてる月ノ森の校訓。」

 

 僕は石碑に書いてる文字を指さした

 

 倉田さんはそっちに目を向けた

 

ましろ「『あなたの輝きが道を照らす。』......どういう意味だったかな......?」

楓「僕も分からないけど、何か素敵じゃない?」

ましろ「確かに、素敵な光景かも......」

 

 倉田さんが妄想に浸ってるときの顔をしてる

 

 一体、どんな世界を見てるんだろう

 

ましろ「なんだか、出来る気がしてきた。」

楓「良かった。」

ましろ「ありがとう、衛宮君。」

楓「いいよ。」

 

 僕は花壇を見ながらそう答えた

 

 どうやら、役に立てたみたいだ

 

 迷いが少しだけ晴れた顔をしてる

 

楓「今の倉田さん、すごくいい色をしてる。きっと、いい歌詞が書けるよ。」

ましろ「うん!あ、今から書くから少し見てくれないかな......?」

楓「うん、いいよ。」

 

 倉田さんはノートに歌詞を書き始めた

 

 ずっと、浸った顔で文章を書いてて、

 

 大丈夫かな?と思ったりもしたけど

 

 ちゃんと書けてるみたいで、安心した

 

 そして、しばらくして、倉田さんの顔が上がった

 

ましろ「ど、どうぞ......」

楓「うん、見せてもらうよ。」

 

 僕は倉田さんからノートを受け取り、

 

 書いてある文章に目を通した

 

楓「__!」

ましろ「!?」

楓(これは......)

 

 ただただ驚いた

 

 この短時間で歌詞を書いたこともだけど

 

 内容の濃さというか、世界観と言うか

 

 倉田さんの姿がはっきりと見えた

 

 すごい表現力だ

 

楓「......すごい。」

ましろ「え?」

楓「すごいよ。今、僕にも倉田さんの世界が見えた。」

 

 これは、もしかしなくても

 

 そうなる未来が見えて来た

 

 本当に楽しみになる

 

楓「僕、好きだよ。」

ましろ「え......!?///」

楓「この歌詞、すごく好き。」

ましろ「あ、そ、そっちか......///」

楓「ん?」

 

 なんだろう、倉田さんの顔が赤いな

 

 色も少しだけ揺れてるし

 

 動揺してるのが見て取れる、のは僕だけかな?

 

楓「どうかした?」

ましろ「な、なんでもないよ......///」

楓「そう?」

ましろ「うん......///」

 

 なんでもないなら、ないのかな

 

 僕はそう思って、歌詞に目を戻した

 

ましろ(な、なんで、こんなにドキドキしてるんだろ......?///)

楓(これは、決まりかな。)

 

 僕は小さく笑いながら

 

 しばらく歌詞を眺めていた

__________________

 

 2日後の放課後

 

 今日は八潮さんの曲と歌詞を決める日

 

 僕は教室の椅子に座って様子を見てる

 

瑠唯「__これが曲よ、衛宮君。」

透子「いや、一番に衛宮なのか。」

楓「な、何かごめんね?」

透子「いや、いーよ。衛宮は気にしなくて。」

楓「う、うん。」

 

 僕は八潮さんが持ってきた曲を見た

 

 なんというか、すごい

 

 僕には全くできる気がしない

 

楓「やっぱりすごいや。流石です。」

瑠唯「当然よ。」

つくし(すごく嬉しそうだね、八潮さん。)

七深「それで、次は歌詞だね~。」

ましろ「!」

 

 広町さんがそう言うと、

 

 倉田さんの表情が変わった

 

 かなり緊張した面持ちだ

 

楓「あの。」

七深「どうしたの~?」

楓「倉田さんの歌詞、見て欲しいんだ。」

瑠唯「倉田さんの?」

透子「これは、なーんかあるみたいだね。見してみ!」

ましろ「う、うん......」

 

 倉田さんは鞄から歌詞を出した

 

 そして、それを桐ケ谷さんに渡した

 

透子「__おぉ。」

七深「お~......」

つくし「!」

瑠唯(......なるほど。)

ましろ「やっぱり、よくないかな......」

楓「そんなことはないよ。」

ましろ「え?」

 

 僕がそう言うと、倉田さんは首を傾げた

 

 その瞬間、3人の声が上がった

 

つくし「すごい!」

透子「いいよ!これいいよ!」

ましろ「え?え?」

 

 倉田さんが凄く慌ててる

 

 自分に自信がないからこその反応だ

 

七深「私も、しろちゃんの歌詞、好きだよ。」

瑠唯「悪くない完成度だわ。」

楓「でしょ!本当にいいんだよ!何と言うか、倉田さんが見てる世界が見えてくるんだよ!」

七深、瑠唯(必死に説明してる、可愛い(わ)。)

 

 やっぱり、倉田さんの歌詞は好評だと思った

 

 不思議と心に響いてくるんだ

 

瑠唯「決定ね。歌詞は倉田さんに決定よ。」

ましろ「え?」

透子「異論なし!って感じ~!」

つくし「私も!」

七深「私も賛成~!」

ましろ「ほ、本当に......?」

楓「うん、本当だよ!」

 

 倉田さんは信じられないと言う顔をしてる

 

 その様子を見て、僕は見た

 

ましろ「えへへ、そっか......!」

 

 平凡と言われた少女が、今

 

 地から離れ、飛び立って行った

 

 まるで、蝶のように

 

ましろ「やった、やったよ!衛宮君!///」

楓「うん、よかったね、倉田さん!」

七深(......あれ?)

瑠唯「......」

 

 ん?なんだろう

 

 何かすごい視線を感じる

 

 気のせいかな?

 

七深(しろちゃんの匂いが......)

瑠唯(......被ってる気がするわ。)

ましろ「衛宮君......///」

楓「く、倉田さん?(何か、すごく近い気が......)」

 

 気のせい、かな?

 

 僕はそんな疑問を残しつつ、

 

 その日の5人の練習を見てた

 

 あのオリジナル曲、どんな風になるんだろう

 

 

 



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練習場所

 オリジナルの曲が完成して

 

 5人の練習に更に活気が出て来た

 

 八潮さん加入の効果もあって

 

 成長の幅が想像よりも大きい

 

 色の調和もだんだん良くなってる

 

瑠唯「__今日はここまでね。」

つくし「お、終わった......」

透子「し、死にそ......」

楓「お疲れ様。」

 

 僕はぐったりしてる2人に飲み物を渡した

 

 色もヨレヨレになってるし、

 

 疲れの度合いは大体だけど分かる

 

透子「さんきゅ、衛宮。」

つくし「ありがとう。」

楓「いえいえ。」

 

 演奏から出る色の調和

 

 最近、これがはっきり分かるようになった

 

 混ざるのとは少し違う、調和

 

 本来なら黒になるはずだけど、そうならない

 

瑠唯「まだまだね。」

楓「!」

瑠唯「全然、クオリティが足りてないわ。」

ましろ「き、きびしいね......」

瑠唯「でも、衛宮君はよくわかっていると思うわ。」

ましろ「え?」

七深「そうなの~?」

 

 全員が僕の方を見てる

 

 八潮さん、まさか、分かってたのか

 

 流石の頭脳だな......

 

楓「普通の人たちなら、今くらい出来れば十分だと思うけど。月ノ森として外に出るなら、話が変わってくるよ。」

ましろ「あっ......」

楓「求められてる色はもっと輝いてて、調和してないといけない。」

つくし「な、なるほど......」

透子「衛宮は日ごろ優しいし、こういうのは響くわ~。」

瑠唯「何か、練習について気になることはあるかしら?」

楓「えっと......」

 

 演奏技術は練習量に比例してくる

 

 八潮さんがいれば、それは問題ない

 

 だからこそ......

 

楓「練習場所が、不十分。」

ましろ「そうなの......?」

楓「うん。ここでは苦情があるから思い切り演奏が出来ないんだ。だから、実際のライブに出た時のギャップが大きい可能性がある、かも。」

七深「なるほど~。」

楓「所詮、素人の憶測だから。確信があるのは、八潮さんの言う通りのクオリティだと思う。」

 

 ここまでが僕の考えだ

 

 素人だから、こんな事しか言えない

 

瑠唯「いい意見だわ。確かに、ここでは100%で演奏が出来ないわ。それに、時間も限られてしまう。」

透子「どっか、いい場所とか無いのかなー?」

瑠唯「スタジオを借りるのが理想ね。」

透子「あ、ダメダメ!今、ほんと予約取れないから!」

ましろ「うーん......」

七深「......あんまり気は進まないんだけど。」

楓「?」

 

 全員が唸ってると、

 

 広町さんが口を開いた

 

七深「そう言う場所、知ってるかも。」

透子「いいじゃん!今から行こうよ!」

七深「あー、うん、いいよ......」

楓(色が、歪んでる?)

 

 僕は広町さんの様子を伺いつつ、

 

 みんなで広町さんの言う練習場所に行った

__________________

 

 しばらく歩いて辿り着いたのは、

 

 広町さんの家だった

 

 物凄い豪邸で開いた口が塞がらない

 

 倉田さんも同じみたいだ

 

七深「さぁ、入って入って~。」

つくし、瑠唯「お邪魔します。」

透子「お邪魔しまーす!」

 

 4人は何の躊躇もなくアトリエに入って行った

 

 そうだ、あの4人、全員お嬢様なんだ

 

 つまり、いつもと変わらないサイズの家

 

楓「ね、ねぇ、倉田さん?」

ましろ「ど、どうしたの......?」

楓「何と言うか、すごいね......」

ましろ「う、うん、お腹痛くなってきた......」

七深「どうしたの、2人とも~?」

楓、ましろ「な、なんでもないよ!」

 

 僕たちは引きつった顔のまま、

 

 4人の後についてアトリエに入った

__________________

 

 アトリエの中も分かってたけど広い

 

 アトリエが家にある時点でおかしいんだけど

 

 それに、更に広いと来たわけで

 

 庶民感覚じゃ頭がどうにかなる

 

楓「__あっ。」

 

 アトリエの中には色んな絵がある

 

 画材もたくさんあるし、

 

 広町さん、絵とかよく描くのかな

 

楓(す、すごく上手......!)

七深「それ気になる~?」

楓「あ、ご、ごめん!」

七深「いいんだよ~。かえ君、絵とか好きだもんね~!」

瑠唯「そうなの?知らなかったわ。」

ましろ(衛宮君の好きなもの......!)

楓「??」

 

 なんだろう、2人の色が変わった?

 

 なにかあったのかな?

 

透子(あー、もう察した。)

つくし(倉田さんまでかぁ......)

 

 なんでだろう

 

 桐ケ谷さんと二葉さんが疲れてる?

 

 今日はめまぐるしく色が変わっていくな

 

瑠唯「衛宮君はどんな絵が好きなのかしら。」

楓「え?うーん、風景画なら何でも好きだよ。」

瑠唯「分かったわ。(誕生日に送るのも考えましょう。)」

ましろ(ふ、風景画......ちょっと調べてみよう。)

 

 それから、色々質問されたりして

 

 疑問に思いつつ答えてた

 

 八潮さんまで乗り気だったのが驚いた

 

 好きな食べ物とか、気になるのかな?

 

瑠唯(中々、情報を得られたわ。)

ましろ(衛宮君の事、たくさん知れた......!)

七深(広町は知ってたけどね~。)

透子「......なぁ、二葉。」

つくし「......どうしたの?」

透子「あたしら、何を見せられてるの?」

つくし「......分からない。」

楓(うーん、今日は何しに来たんだろう?)

 

 しばらくすると、練習が始まった

 

 八潮さんのスパルタ度が上がったけど

 

 練習はかなり充実してた

__________________

 

 しばらくして練習が終わり

 

 皆が荷物をまとめて、帰る準備をしてる

 

 その途中、八潮さんが口を開いた

 

瑠唯「__定期テストがあるけれど、勉強はしてるのかしら?」

透子「あっ。」

七深「とーこちゃんはしてないねー。」

楓「......」

ましろ「衛宮君?」

楓「あ、なんでもないよ。」

 

 僕は倉田さんにそう言って、

 

 自分の学校鞄を持った

 

楓「僕、帰って勉強するよ。」

ましろ「え、うん......?」

つくし「真面目だね。桐ケ谷さんも見習ってよね!」

透子「あ、あははー!」

七深(なんだか......)

瑠唯(様子がおかしいわね。)

楓「そ、それじゃあ、さようなら。」

 

 僕は軽く頭を下げてアトリエを出た

 

 それから、急いで家に帰った

 

 

 



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寝不足

 ”七深”

 

 バンドのメンバーが揃って、

 

 本格的に活動がスタート~

 

 ......の、はずだったんだけど

 

楓「......」

七深「か、かえ君、大丈夫~......?」

透子「なんか、すっごい気分悪そうだけど?」

楓「だ、大丈夫だよ。気にしないで。」

 

 最近、かえ君の調子が悪い

 

 目の下にクマが出来てるし、

 

 若干、顔が白くなってる気がする

 

 目に見えて疲労が溜まってる

 

つくし「そのクマ、ちゃんと寝れてるの?」

楓「あー......ちょっとだけ寝れてないかも。テスト勉強にかかりっきりで。」

ましろ「テスト勉強......?」

楓「うん。月ノ森は内容が難しいから......」

 

 かえ君は笑みを浮かべてる

 

 でも、少しだけそれは引きつってて

 

 どこか脆さを感じる

 

瑠唯「......無理は良くないわ。」

楓「!」

瑠唯「徹夜での勉強は逆効果よ。しっかりと睡眠をとって、効率よくするべきよ。」

楓「それは、分かっています。」

瑠唯「そう。」

 

 るいるいはそう言って、

 

 置いてあるバイオリンを手に取った

 

 そして、私達の方を向いた

 

瑠唯「なら、練習を再開しましょう。」

つくし「そ、そうだね!(またリーダーっぽいこと言われた!)」

楓「じゃあ、僕はいつも通りにしてるね。」

七深「がんばろ~!」

 

 私達はいつも通りの配置に付いた

 

 そして、楽器を構えた

 

瑠唯「さっきの続きから。失敗した部分を意識して。」

透子「オッケー!」

ましろ「が、頑張ります。」

瑠唯「それじゃあ__」

楓「__っ......!」

 

 るいるいのスタートの合図

 

 それが口から出る前に、

 

 どこからかバタっという音が鳴った

 

 私達は音がした方向に顔を向けた

 

七深「か、かえ君!!」

ましろ「衛宮君!?」

瑠唯「......っ!!!」

 

 そこでは、かえ君が倒れていた

 

 私は頭が真っ白になった

 

 気づけば、かえ君に駆け寄っていた

__________________

 

 ”瑠唯”

 

 彼が倒れてすぐに広町さんは家の方に行った

 

 他の3人も近くのドラッグストアに何かを買いに向かって行き、その結果、私は眠っている衛宮君と2人になった

 

瑠唯「......」

 

 症状なんて睡眠不足だとすぐに分かる

 

 少ない期間ではあるけれど、

 

 彼の体力が人並み以下だと分かってる

 

 そんな彼が寝不足になればすぐに倒れる

 

 そんなこと、火を見るより明らか

 

瑠唯(何を、そんなに気負う事があるの?)

 

 テスト勉強、彼はそう言った

 

 たかが、学校での定期テスト

 

 なのに、彼はここまで無理をする

 

瑠唯(あなたは、何だと言うの?)

 

 やはり、彼の事は理解できない

 

 やるべきことやる、その意識は良い

 

 でも、ここまで必死になる事でもない

 

 前の事も同じことが言える

 

 私を助けるのに必死になる意味もない

 

瑠唯「......教えて、衛宮君。あなたは何者で、何があなたをそうしてるのか。」

楓「......僕は、弱者です......」

瑠唯「っ!起きていたの。」

楓「眠りが浅いので......あはは。」

 

 彼は少し笑いながらそう言った

 

 でも、まだ無理をしている

 

 心配をかけないように無理やり笑ってる

 

瑠唯「それで、弱者とはどういう事かしら?」

楓「そのままの意味ですよ、八潮さん。」

瑠唯「......」

楓「僕には色を見る以外取柄がありません。その取柄すら、現代社会じゃ使えません。」

 

 彼はあざ笑うような声でそう言った

 

 それを見て、私は少し胸が痛んだ

 

 そんな事はない、そう言いたい

 

 けれど、今の彼を前にそんな言葉は易々と出せない

 

楓「それに対して、八潮さんは凄いです。」

瑠唯「!」

楓「なんでも出来て、かっこよくて......本当に憧れます。」

瑠唯(......そんな事はないわ。)

楓「出来れば、僕も八潮さんみたいになりたい......」

瑠唯(......眠った?)

 

 衛宮君はゆっくり寝息を立て始めた

 

 やはり、眠たかったのかしら

 

 なんとも可愛い寝顔で穏やかに寝てる

 

瑠唯「......衛宮君。」

 

 私は静かに彼の前髪に触れた

 

 少しだけあげてみると、

 

 彼の顔がハッキリと見える

 

瑠唯「私にも、出来ない事はあるわ。」

楓「......」

瑠唯(私は器用に人に優しくすることが出来ないわ。)

 

 衛宮君は細かな人の変化に気付く

 

 バンドのマネージャーの作業

 

 あれは彼だからこそ出来る仕事

 

 私は偶然、彼よりできる事が多かっただけ

 

瑠唯「あなたは、私の様になってはいけないわ。」

 

 彼にある、人間味

 

 私にはそれが欠落してる

 

 何でもできるとは空虚であると

 

 私はそう思う

 

瑠唯「あなたはそのまま、優しい心を持って__」

透子「__衛宮ー!取り合えず、栄養ドリンクとか買ってきたよ!」

七深「私も!なんか色々持ってきたよ!」

瑠唯「!」

 

 私は彼から急いで手を離し、

 

 平静を装いながら彼女たちの方を見た

 

瑠唯「彼は眠っているわよ。」

ましろ「そ、そっか、よかった。」

つくし「それにしても、びっくりしたね。」

透子「ほんと、そんなに大変なら休めばいいのにさー。」

つくし「責任感が強いというか、何と言うか......」

 

 4人は少し安心した様だ

 

 私もきっと、安心している

 

 彼の体調は恐らく大丈夫、

 

 起きたころにはきっと元気になってる

 

瑠唯(今は眠りなさい。)

 

 私は目を閉じ

 

 次の演奏のイメージトレーニングに入った

__________________

 

 ”楓”

 

楓「__う、ん......?」

 

 景色がぼんやりと見えてくる

 

 ここは、広町さんのアトリエだ

 

 僕はゆっくり、光に鳴らすように目を開けた

 

ましろ「あ、起きた......?」

楓「倉田さん......?」

ましろ「大丈夫?気持ち悪かったりしない?」

楓「うん、大丈夫。ごめんね。」

ましろ「ううん、全然!」

 

 記憶が断片的にしかない

 

 でも、なんだか八潮さんの顔を思い出す

 

 それと、前髪に触れられた感覚がある

 

七深「かえ君~!!」

楓「うわっ!ひ、広町さん!?」

ましろ、瑠唯「!!」

 

 意識がはっきりした瞬間、

 

 広町さんが抱き着いてきた

 

 寝て起きて、女の子に抱き着かれる

 

 うーん、夢かな?

 

七深「心配したよ~!」

楓「あ、ご、ごめんね?でも、もう元気だから。」

透子「いやー、マジで焦ったよ。急に倒れるんだもん。」

つくし「勉強が大変なら、無理に来なくてもいいよ?」

瑠唯「いえ、それでは駄目よ。」

楓「八潮さん?」

 

 八潮さんは落ち着いた声でそう言った

 

 周りの4人も首をかしげてる

 

瑠唯「元は1人で勉強してこうなったのでしょう?だったら、同じ轍を踏むことなんてないわ。」

ましろ「で、でも、お勉強はしないと......」

瑠唯「誰がするなと言ったの?」

つくし「どういう事?」

瑠唯「簡単なことよ。」

 

 八潮さんは少し息を吐いた

 

 そして、鋭い目で僕の方を見た

 

 あまりに鋭くて、少し背筋が伸びた

 

瑠唯「私が教えるわ。」

楓「え?」

瑠唯「それなら、寝不足になんてならないわ。いいでしょう?」

楓「い、いや、僕にはとてもいいはないですけど、八潮さんがいいんですか?」

瑠唯「構わないわ。人に教えることで理解を深められるもの。」

 

 ......やっぱり、八潮さんは凄い

 

 全身から自信があるって事を感じる

 

楓「それでは、あの、よろしくお願いします。」

瑠唯「えぇ。」

透子(あー、出たよ出たよ。)

つくし(八潮さんの衛宮君にだけは甘々病が。)

ましろ(私も、混ぜてもらえないかな?)

七深(......負けないよ。)

楓「?」

 

 なんだろ、倉田さんと広町さん

 

 こっちを見てる?どうしたんだろ?

 

 なにか変な所とかあったのかな?

 

楓(折角、八潮さんが教えてくれるし、頑張ろう!)

瑠唯「今日は家に帰ってしっかり睡眠をとりなさい。分かったわね?」

楓「はい!八潮さん!」

瑠唯「......いい返事ね。」

七深、ましろ(かえ君(衛宮君)可愛い。)

透子(あー、これはー)

つくし(また面倒なことに......)

 

 それから僕は八潮さんに言われた通り家に帰った

 

 そして、その晩はゆっくり眠って

 

 明日に来る勉強にキッチリ備えた

 

 

 



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勉強会

 昨日の出来事があって

 

 僕は八潮さんに勉強を教わることになり

 

 今は図書館に向かってる

 

七深「かえ君~!」

楓「広町さん?どうしたの?」

七深「私も一緒にお勉強しようと思って~。」

楓「そうなの?」

 

 そんな話は聞いてなかったけど

 

 あの後、急に決まったのかな?

 

楓「じゃあ、一緒に行こっか。」

七深「うん!」

 

 広町さんがそう返事した後

 

 僕たちは図書館に移動した

__________________

 

 八潮さんに呼ばれた図書館は凄い

 

 外国の宮殿みたいな内装で

 

 今日は人も少なくて色も少ない

 

 なんだか空気が澄んでる気がする

 

楓「お待たせしました、八潮さん。」

瑠唯「時間通りね__広町さん?」

七深「やっほ~。」

楓「......?(なんだろ?)」

 

 八潮さんの色がおかしくなった

 

 いや、色を見るまでもなく怒ってる?

 

 ちょっとだけ眉間にしわが寄ってるし

 

 広町さんの方をジッと見てる

 

瑠唯「......なんで、広町さんがいるのかしら?」

楓「え?一緒にお勉強するんじゃ?」

七深「そうだよ~、約束したよね~?」

瑠唯「......そういうこと。」

楓「?」

 

 今、何が起きてるんだろう

 

 八潮さんは何かを理解した感じだし

 

 広町さんはいつも通りニコニコしてる

 

ましろ「__あ、え、衛宮君......!」

瑠唯、七深「!」

楓「あれ、倉田さん?あと、桐ケ谷さんと二葉さんも?」

透子「どもー。」

つくし「こんな所でお勉強会するんだね?」

 

 2人の様子を伺ってると倉田さんたちが現れた

 

 色が残留してない事から、この建物に入ったのは僕達より後だと分かる

 

 3人は僕たちの方に歩み寄ってきた

 

ましろ「ぐ、偶然だね。」

楓「そうだね。倉田さんたちもお勉強?」

ましろ「うん、あ、折角だし私達も一緒にしていいかな?」

楓「僕は良いけど。」

七深「広町も大歓迎~。」

瑠唯「......勝手にしたらいいわ。」

 

 2人も了承してくれて

 

 僕たちはそれぞれ席に着いた

 

 だけど......

 

瑠唯「始めるわよ。」

楓「あの、近くないですか?広町さんも。」

七深「そんなことないよ~。」

瑠唯「教えるのに適切な距離よ。」

ましろ(うぅ、出遅れちゃった......)

楓(教えるのに適切な距離って何だろう?)

 

 僕は少しの疑問を抱えながら

 

 中間テストの勉強を開始した

__________________

 

 ”つくし”

 

 勉強会が始まって1時間ほど

 

 流れはもう想像通り

 

 八潮さんは衛宮君に構いっぱなし

 

 広町さんもほぼ同じ

 

 倉田さんはさっきから衛宮君ばかり見てる

 

瑠唯「ここの計算はこの公式を使うのよ。」

楓「こうですか?」

七深「こっちを使ってもいいと思うよ~。」

瑠唯「......」

楓「あ、ほんとだ。」

ましろ(衛宮君......)

つくし、透子(なんだこれ。)

 

 折角、衛宮君を追いかけて来たのに倉田さんは見てるだけ

 

 教えるなんてあの2人で充分だし

 

 正直、入る余地がない

 

透子「ちょ、なんでこの状況で衛宮は平然としてるの?」

つくし「ま、真面目な子だから勉強に集中してるんだよ。いや、それにしても異常だけど。」

 

 と言うか、衛宮君って色見えるんだし

 

 それの変化で分かったりしないのかな?

 

 なんでこんなに鈍感なの?

 

楓(難しいけど、2人のお陰で分かってきた。1人でするよりずっと良い!)

つくし(なんで嬉しそうにしてるの!?)

 

 衛宮君は笑みを浮かべてる

 

 ちょっとは私達の疲れを察しって欲しい

 

 鈍感にもほどがある

 

瑠唯「呑み込みが早いわね。」

楓「え?そうですか?」

瑠唯「えぇ、教えるほうも気持ちがいいわ。」

透子(いつものだね。)

七深「いっつも真面目に授業受けてるもんね~。」

 

 もうこの2人のこれは慣れた

 

 衛宮君にだけは異常に甘いんだよ

 

 いや、気持ちは分からない事もない

 

 衛宮君は末っ子みたいな雰囲気があるし

 

 妹がいる身としては甘やかす気持ちもわかる

 

 いや、分かってもあれなんだけど

 

 ”ましろ”

 

 全く衛宮君と話せない

 

 勉強会だし、話すのが本題じゃないけど

 

 でも、話せないのは寂しい......

 

ましろ(あの2人がライバルなんて......)

 

 美人で、生粋の月ノ森生

 

 神様は不公平だよ

 

 この2人が持ってるものを1つくらい私にくれてもいいのに......

 

 私は地味で可愛くないし、頭も良くない

 

ましろ(どうせ、私なんて......)

楓「あ、倉田さん、この問題で来たんだ。」

ましろ「え?」

楓「この問題、何故かできないんだよ。良ければ教えてくれないかな?」

ましろ「え、あ、えっと、これはね。」

 

 私は内心驚きながら

 

 衛宮君に言われた部分を教えた

 

 衛宮君、私より賢いのに

 

 なんだか、不思議な感覚になってきた

 

楓「なるほど、そうすればよかったんだ。」

ましろ「う、うん。」

楓「ありがとう、倉田さん。助かったよ。」

ましろ「!///」

 

 衛宮君が私に笑顔を向けてくれた

 

 嬉しい、可愛い、胸がドキドキする

 

つくし(倉田さんが復活した!もう、何と言うか、よかったね!)

ましろ「そ、そんな、私なんて......///」

楓「倉田さんは凄いよ。」

七深(む~、これはしろちゃんも強敵だな~。)

瑠唯(......伏兵ね。)

 

 それからは何だか流れに乗って

 

 私は衛宮君とかなり話せた

 

 とても楽しい時間を過ごせた

__________________

 

 ”楓”

 

 勉強会は3時間ほどで終わり

 

 僕たちはそろって図書館の外に出た

 

 もう夕方で日が傾いて来てる

 

透子「じゃあ、あたしこっちだからー、」

つくし「私もここでお別れかな?」

瑠唯「私はこっちね。」

七深「私も~。」

楓「じゃあ、ここまでだね。」

ましろ「また明日。」

 

 倉田さん以外の4人は別々の方向に歩いて行った

 

 僕と同じ方向なのは倉田さんだけみたいで

 

 僕たちは2人で帰ることになった

 

ましろ「そう言えば、衛宮君も外部生だったね?」

楓「うん、ごく一般的な家庭だよ。」

ましろ「じゃあ、私と一緒だね。」

楓「あはは、そうだね。」

 

 倉田さんとは分かち合える部分が多い

 

 月ノ森内で似たような立ち位置だからか

 

 共感できることが本当に多い

 

ましろ「衛宮君のお家ってどのあたり?」

楓「えーっと、もう少し行けば着くよ?」

ましろ「え?(私ももう少しなんだけど?」

 

 話をしながら歩いてる内に

 

 向こうで僕の家が見えて来た

 

 僕は倉田さんの方を見た

 

楓「__ここが僕の家だよ。」

ましろ「え?」

楓「どうかした?」

ましろ「い、いや、その......」

 

 倉田さんは困惑した表情のまま

 

 ゆっくりと歩を進め

 

 数歩歩いて隣の家の前に足を止めた

 

ましろ「ここ、私の家......」

楓「え!?」

ましろ「え、衛宮君、ここに住んでたの!?」

楓「う、うん、倉田さんこそそこに住んでたの!?」

 

 かなり驚いた

 

 なんで今の今まで気づかなかったんだろう

 

楓(家を出る時間が全く違ったし、僕は外出が少ないから気付かなかったのかな?)

ましろ(すごい偶然///)

楓「えーっと、倉田さん?」

ましろ「ど、どうしたの?///」

 

 何を言えばいいか分からないけど

 

 取り合えず僕は倉田さんの方を見て

 

 次の言葉を口にした

 

楓「えっと、お隣としてもよろしくお願いします。」

ましろ「あ、こ、こちらこそ。」

楓、ましろ(あれ?)

 

 僕たちはそんな不思議な会話をし

 

 お互いに首を傾げ

 

 各々自分の家に入って行った

 

 

 

 



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お隣の特権?

 勉強会が始まって4日が経った

 

 テストももう目前となった

 

 ここ最近は勉強ばかりしてたけど

 

 私生活の方にも変化が出て来た

 

ましろ「__お、おはよう、衛宮君......!」

楓「おはよう、倉田さん。」

 

 家が隣だと判明してから

 

 僕と倉田さんは一緒に登校するようになった

 

 いや、倉田さんが来るようになったのかな

 

 こんな早い時間に登校しようと思うなんて

 

 倉田さんは真面目だなって思う

 

楓「行こっか。」

ましろ「うん!」

 

 倉田さんが元気に頷くと

 

 僕はいつも通り学校に向かって行った

__________________

 

 気温が段々と上がってきて

 

 桜は段々と緑が目立つようになった

 

 まだ少しだけ遠いけど夏の気配を感じる

 

 そんな事を考えながら歩いてると

 

 横を歩いてる倉田さんが話しかけて来た

 

ましろ「ずっと気になってたんだけど。」

楓「うん?」

ましろ「衛宮君の言う色って、どういう風に見えてるの?」

楓「色?うーん、そうだなぁ......」

 

 僕は少しだけ考えた

 

 色は人によって全く違うし

 

 中には現存するもので言い表せないのもある

 

 例を挙げるとすれば桐ケ谷さんとか

 

 だから、少しだけ迷う

 

楓「倉田さんに限って言うと、藍色の絵の具みたいに見えてるよ。」

ましろ「私に限って?」

楓「人によって全く見え方が違うし、桐ケ谷さんに関しては現存する色で例えられないから。」

ましろ「な、なるほど(?)」

 

 倉田さんは首をかしげてる

 

 あんまりよく伝わってない

 

 でも、あれが精一杯だと思う

 

楓「あと、自分自身の色は見えないんだよね。」

ましろ「そうなの?」

楓「うん。」

 

 これの理由はよく分からない

 

 システム的にそう言う風になってるのか

 

 それとも他の理由があるのか......

 

楓「まぁ、話はこのくらいにして学校に行こうか。」

ましろ「う、うん!」

 

 それから僕たちは話をやめ

 

 歩いて学校に向かって行った

__________________

 

 学校に来た後は倉田さんと別れ

 

 僕は教室に自分の席に座った

 

 周りはテストを明日に控えてるのもあって

 

 少しだけピリピリしてる

 

七深「__やっほ~、かえ君~。」

楓「おはよう、広町さん。」

 

 そんな空気の中

 

 広町さんは柔らかい空気を纏ってる

 

 これはもう流石だ

 

 広町さんの色は月ノ森でも特出してる

 

 テストなんて余裕なんだろうなぁ......

 

七深「テスト明日だけど大丈夫そう~?」

楓「うん、2人のお陰で不安はかなり拭えたよ。」

七深「そっかそっか~、よかったよ~。」

 

 広町さんは笑顔でそう言って

 

 指を一本立てた

 

七深「お礼はお弁当のおかず1つで良いよ~。」

楓「対価があまりに安すぎると思うんだけど?」

七深「かえ君が食べさせてくれてもいいよ~?」

楓「え?」

 

 僕は広町さんの言葉に首を傾げた

 

 突拍子もないから少し戸惑ってる

 

 広町さん、偶に変なこと言うんだよね

 

七深「なんて、冗だ__」

楓「別にいいけど、それでいいの?」

七深「えぇ!?///」

楓「!?」

 

 広町さんが驚きの声を上げた

 

 なんで自分で言って驚いてるんだろう

 

 そんな事を考えてると

 

 広町さんが僕の方に乗り出して来た

 

七深「じゃ、じゃあ!今日のお昼がいい!///」

楓「う、うん、いいよ?」

七深(やったー!///)

 

 広町さん、すごく嬉しそうにしてる

 

 色からそれが顕著に表れてる

 

 何がそんなに嬉しいのか分からないけど

 

 まぁ、喜んでるしいいかな

__________________

 

 そんな事が朝にあってのお昼休み

 

 僕は中庭で5人とお昼ご飯を食べる

 

 気温もちょうどよくて気持ちがいい

 

透子「__おー!倉田と衛宮のお弁当、すっごい美味しそう!」

ましろ「そうかな?」

楓「普通だと思うけど?」

 

 桐ケ谷さんに大きな声でそう言われ

 

 僕と倉田さんは首を傾げた

 

 僕たちのお弁当はオーソドックスな感じで

 

 一般家庭育ちの僕には安心感がある

 

つくし「だって、ウィンナーがタコ型だよ!」

透子「こんなの中々見ないって!」

楓、ましろ(お、お金持ちの感覚だ......)

瑠唯「これは興味深いわね。」

楓、ましろ(八潮さんまで!?)

 

 八潮さんまでこの反応なんて

 

 ウィンナーをタコ型にするのは異端なのかな

 

 いや、中学の時は珍しくなかったはず

 

七深「かえ君かえ君~。」

楓「あ、そうだったね。」

瑠唯「?」

 

 さっき話題に上がったウィンナーを摘まみ

 

 僕は広町さんの方にそれを差し出した

 

瑠唯、ましろ、透子、つくし「!?」

楓「どうぞ。」

七深「あーん♪」

 

 広町さんは嬉しそうにそれを食べた

 

 物凄くいい笑顔で食べてる

 

 美少女のその表情は流石に可愛い

 

七深「おいひい~♪」

楓「いたって普通のものなんだけど。」

瑠唯「......今のは何なんのかしら。」

楓「?」

 

 嬉しそうな広町さんの横から

 

 八潮さんの声が聞こえて来た

 

 いつも通りクールでかっこいいなぁ

 

楓「朝、お勉強を教えてくれたお礼に食べさせてと言われて。」

七深「そうだよ~。」

瑠唯、ましろ「......」

透子(八潮こわっ!)

つくし(倉田さんはなんかすごく落ち込んでる!?)

楓「?」

 

 八潮さんと倉田さんの色が乱れてる?

 

 さっきまで普通だったのに

 

 どうしたんだろう?

 

楓(......あっ!)

 

 そうだ、お礼なら八潮さんにもしないと

 

 根気良く付き合ってくれたし

 

 でも、広町さんと同じで良いのかな?

 

楓「八潮さんも何か食べますか?」

瑠唯「え?」

透子、つくし、ましろ「!?」

七深(気付いちゃったか~。まぁ、そうだよね~かえ君だし~)

 

 僕はさっきと同じようにウィンナーを摘まみ

 

 それを八潮さんの前に出した

 

 流石に失礼だったかもしれない......

 

瑠唯「......いただくわ///」

楓「!」

 

 八潮さんはウィンナーを食べた

 

 よかった、怒られないみたいだ

 

 普通に食べてくれてる

 

ましろ(そうだよね、これはお礼だもんね、私なにもしてないもんね......)

透子「て、てかさ、衛宮ってこういうのに抵抗ないんだ!」

楓「うん、特にないよ。減るものでもないし。」

つくし(そう言う問題なの?)

七深(流石かえ君だね~。)

 

 僕はおかずを1つとって食べた

 

 母さんのお弁当はいつも通り美味しい

 

 何年も食べてるから安心感がある

 

七深「か、かえ君!?///」

楓「どうしたの?」

瑠唯(か、完全に忘れてたわ......///)

 

 なんだろ、広町さんが慌ててる

 

 八潮さんも少しだけ動揺してる

 

透子(ふ、普通に間接キスいった。)

つくし(ためらいなさすぎじゃない......?)

ましろ(衛宮君......)

楓(何が起きてるんだろ。)

 

 僕はそんな事を考えながら食事を進め

 

 横眼で5人の様子を見てる

 

 なんだかみんな慌ててる

 

七深(頼んだの私だけど、恥ずかしいよ~!///)

瑠唯(彼は、何なのかしら......///)

楓(今日の夕飯は何だろう。)

 

 それからも僕はお弁当を食べてた

 

 お昼休みが終わってから広町さんが目を合わせてくれなかったけど

 

 一体、なにがあったんだろう

__________________

 

 ”ましろ”

 

 学校が終わって家に帰ってきた

 

 暗い部屋でベッドに寝転ぶと

 

 今日のお昼休みの事を思い出す

 

ましろ(羨ましかったな......)

 

 2人だけ衛宮君に食べさせてもらって

 

 しかも、間接キスまでしてた

 

 いや、あれは衛宮君がしてたんだけど

 

 でも、羨ましい......

 

ましろ「......あの2人、可愛いもんね。」

 

 広町さんは可愛らしくて、人懐っこくて

 

 八潮さんは美人でクール

 

 それに加えて2人ともスタイルもいい

 

 不公平なくらいのハイスペック

 

 本当に少しくらいくれてもいいのに......

 

ましろ(そう言えば、作曲するんだった......)

 

 私はベッドから体を起こし

 

 アイディアを書いてるノートを出した

 

 そう言えば、私がこうなったの

 

 衛宮君が歌詞を褒めてくれたから

 

 と言うか、意味を勘違いしたからだっけ

 

ましろ(会いたいな......)

 

 私はそんな事を考えながらカーテンを開けた

 

 これを開けたら衛宮君がいたりして

 

 なんて、そんな都合のいい事が起きるわけ__

 

楓『__zzz......』

ましろ「!!??///」

 

 あった、あってしまった

 

 予想外の出来事で顔が熱くなる

 

 私の部屋と衛宮君の部屋は近くて

 

 入ろうと思えば入れる距離にある

 

 疲れからか、ぐっすり眠ってる

 

ましろ(え、衛宮君......///)

 

 背は私よりずっと高いのに

 

 顔はすごく子供っぽくて、可愛い

 

 まだまだ中学生の雰囲気が残ってる

 

 そんな姿を見て、私にある欲望が生まれた

 

ましろ(写真、撮ったらダメかな......?)

 

 もちろん、ダメなことだって分かってる

 

 普通に盗撮だし、バレたら軽蔑される

 

 でも、このチャンスを逃すのは惜しい

 

ましろ「......(パシャ)」

 

 私は携帯のカメラで写真を撮った

 

 欲望に逆らう事が出来なかった

 

 写真フォルダに衛宮君の写真がある

 

 しかも、こんなに可愛い寝顔の......

 

楓『ん......っ?』

ましろ「!?」

 

 携帯を見てると

 

 衛宮君の目が少しだけ開いたのが見えた

 

 私は慌てて窓を閉め、身を隠した

 

楓『あっ、寝ちゃってた!明日の教科の復習しないと!』

ましろ「......(ば、バレてない?)

 

 私は胸をなでおろした

 

 横の家からは衛宮君の声が聞こえてくる

 

 バレてないって分かっててもドキドキする

 

ましろ「......衛宮君......///」

 

 写真を見ると、顔が熱くなる

 

 盗撮になるのは分かってる

 

 けど、絶対にこれは消せない

 

ましろ「衛宮君のせいだもん......あんなに無防備に寝てるから......///」

 

 私はそう呟いてから立ち上がり

 

 アイディアが書かれてるノートを開いた

 

 今なら、良い歌詞が書けそうな気がする

 

 だって、今、すごく気分がいいから

 

 私は張り切って作詞に取り掛かった

 

 

 



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予定

 中間テストが終わった

 

 僕は2人のお陰でいい感じで終れて

 

 順位的にも中位くらいにはなれた

 

 本当にあの2人には感謝しかない

 

七深「__かえ君~。」

楓「あ、広町さん。」

七深「テストの順位の確認かな~?」

楓「うん、なんとか中位くらいになれたよ。本当にありがとう。」

七深「いいんだよ~!いつでも頼ってね!」

 

 広町さんは笑顔を浮かべながらそう言った

 

 其れと同時に気になったことがあった

 

 それは、広町さんの順位だ

 

楓「広町さんはどのくらいだった?」

七深「え?あ、それは__」

楓「やっぱり、上位にいるの?」

七深「か、かえ君~?私の事なんていいんじゃないかな~?」

楓「気になるし、探してみようよ。」

 

 僕は順位表に目を向けた

 

 それと同時に不思議なことがあった

 

 上位の方に広町さんの名前がない

 

楓(あれ?)

 

 段々と目線を動かしていき

 

 僕の少し下に広町さんの名前があった

 

 僕は首を傾げた

 

 広町さんがこんな順位なんてありえない

 

 教えてもらってた感じ

 

 1,2に名前があってもおかしくない

 

楓「体調が悪かったの?」

七深「広町はこんなものだよ~、あはは~。」

楓「でも......」

 

 八潮さんは勿論学年1位

 

 広町さんも同種の色を持ってる

 

 なのにこんな差が出来る......

 

 僕の経験の中ではなかった

 

七深「さぁ、今日も頑張ろ~!」

楓「え、あ、うん......」

 

 僕は困惑したまま教室に戻った

 

 広町さんは一体、何者なんだろう

__________________

 

 今日は5人のバンド練習だ

 

 放課後、皆とアトリエまで来ると

 

 それぞれ楽器の準備を始めた

 

 僕はその様子を見てる

 

瑠唯「倉田さん。」

ましろ「ど、どうしたの?」

瑠唯「この歌詞の事なのだけれど。」

楓「?」

 

 八潮さんはバイオリンの準備を終えると

 

 歌詞が書かれた紙を持って

 

 倉田さんに近づいて行った

 

瑠唯「なぜ、眠りや罪という単語がこんなに多いのかしら?」

つくし「確かに、少し多いね?」

ましろ「な、なんでもないよ。ただ、思いついただけで......」

楓「?」

 

 倉田さん、今こっちを見た?

 

 僕は少しだけ考えて

 

 歌詞を見に集まった5人の方に行った

 

透子「衛宮はこの歌詞どう思う?」

楓「えっと......」

 

 僕は歌詞に目を通した

 

 確かに眠りとか罪という言葉が多い

 

 でも、何か明確な物語が見えて

 

 読むだけでもすごく面白い

 

楓「僕はすごく好きだよ。」

ましろ「!///」

楓「倉田さんの歌詞はやっぱり、読んでて倉田さんの物語が見えてくるんだ。やっぱり、すごい。」

透子「おー、べた褒めだねー!」

七深「私もシロちゃんの歌詞、すきだよ~。」

ましろ「あ、ありがとう......(衛宮君に褒められると、罪悪感が......!)」

 

 僕は歌詞を倉田さんに返し

 

 近くにある椅子に腰を下ろした

 

 それと同時に八潮さんが口を開いた

 

瑠唯「それじゃあ、練習を始めましょうか。」

透子「げっ!出た、八潮のスパルタレッスン!」

瑠唯「何を言っているの?練習はこれからよ?」

つくし「え?」

 

 桐ケ谷さんと二葉さんの表情が凍り付いた

 

 色からも強張ってるのが見て取れる

 

 そんな事を思ってると

 

 桐ケ谷さんがこっちを向いた

 

透子「た、助けて衛宮!マジで死ぬって!」

楓「え、えっと......頑張って、桐ケ谷さん!」

透子「そのスマイル今はきついって~!!」

瑠唯「始めるわよ、桐ケ谷さん。」

つくし(腕、大丈夫かな......?)

 

 桐ケ谷さんの断末魔からすぐ

 

 練習が始まった

 

 僕はそれからはいつも通り

 

 5人のサポートに回ることにした

__________________

 

 あれから時間が経ち、練習が終わった

 

 練習はこれからというだけあって

 

 今までで一番ハードな練習だった

 

 その結果としては......

 

透子(チーン)

楓「き、桐ケ谷さん、大丈夫?」

 

 桐ケ谷さんは生気を失った顔をしてる

 

 他にも、倉田さんがダウン

 

 二葉さんが腕が上がらなくなって

 

 広町さんも少し汗ばんでる

 

透子「もう衛宮が癒しに感じるよ......」

楓「と、取り合えず水分補給しよ?」

透子「さんきゅー......」

 

 桐ケ谷さんは元気のないまま水を飲んだ

 

 僕はそれを確認した後

 

 その場で立ち上がった

 

瑠唯「まだまだこれからね。完成度が足りてないわ。」

ましろ「ま、まだまだ......」

瑠唯「課題は山積みね。」

 

 八潮さんはこんな時も冷静だ

 

 次の練習の事ももう考えてる

 

 やっぱり、かっこいいなぁ......

 

七深「ねぇ~、かえ君~。」

楓「どうしたの?」

七深「もうすぐゴールデンウィークだけど、何か予定ある~?」

楓「特にないけど......どうしたの?」

瑠唯、ましろ「!」

 

 僕は首をかしげながらそう答えた

 

 て言うか、完全に忘れてた

 

 休日なんて気にしてる余裕なかったし

 

七深「じゃあ遊びに行こうよ~。」

楓「遊びに?」

ましろ「わ、私も遊びたい......!」

瑠唯「私も、時間はあるわ。」

楓「え?」

 

 何故か、すごく遊びに誘われてる

 

 今まであんまりそういう事がなかったから

 

 僕は少しだけ戸惑ってる

 

瑠唯「絵画展でもどうかしら?」

ましろ「私は......あんまり良い所には行けないけど......」

七深「私はかえ君の行きたい所どこでも行くよ~。」

楓「え、えっと......」

つくし(また始まった。)

透子(仕方ない、助け舟出してやるかー。)

 

 すごく困った

 

 今まで友達少なかったし

 

 こういう時にどうすればいいか分からない

 

透子「ちょーっと待ったー!」

瑠唯「うるさいわよ。」

ましろ「び、びっくりした......」

透子「ゴールデンウィークはさ、折角バンド結成したんだし何かしたい!」

七深「何か~?」

つくし「何をするの?」

 

 皆、首をかしげてる

 

 バンドを結成してしたい事ってなんだろ?

 

 ライブとかかな?

 

透子「折角の休みだし、メンバーのきずな深めるって事で、お泊り会しようよ!」

楓「お泊り会?」

透子「そうそう!」

 

 桐ケ谷さんは元気に頷いた

 

 確かにチームの結束を高めるのにいいかも

 

 まだまだ距離を測りかねてる所があるし

 

 今後を考えれば、する価値はある

 

七深「なんか普通っぽいし、私はいいよ~。」

つくし「私も大丈夫だけど......」

ましろ「や、八潮さんはどう......?」

瑠唯「......」

 

 みんな、八潮さんの顔色を窺ってる

 

 なんでだろう?

 

 合理性を考えるなら悪くない考えだし

 八潮さんも断ることはないだろうけど

 

瑠唯「衛宮君はどう思うかしら?」

透子(いや、ここでも衛宮か!)

楓「僕としては今後を考えればいい提案だと思います。メンバーの事を知れる機会になりますし、時間をかけて技術的な話もする時間も設けられますし。」

つくし(真面目!?)

瑠唯「......そう。」

 

 八潮さんは少し考え

 

 桐ケ谷さんの方を向いた

 

 桐ケ谷さんの表情が少し強張る

 

瑠唯「あなたの案に賛同するわ。」

透子「う、うん(え、衛宮やば。)」

瑠唯「ただ、場所はどうするの?」

透子「......あっ。」

 

 桐ケ谷さんがハッとした顔をした

 

 考えてなかったんだ......

 

 いや、確かに前もって計画した感じではなかったけど

 

透子「アトリエもいいけど、折角だし誰かの家とか集まりたいよねー。」

瑠唯「言っておくけれど、家は無理よ。」

つくし「私も妹たちがいるから......」

透子「家はおばあさまが......ということは。」

ましろ「......え、私?」

 

 倉田さんがそう言うと

 

 桐ケ谷さんはすぐに頷いた

 

透子「シロも無理系?」

ましろ「い、いや、そんな事はないけど......」

透子「じゃあ、決定!」

ましろ「えぇ!?」

七深「シロちゃんのお家か~、楽しみだな~!」

つくし「私も行ってみたかったし!」

瑠唯「異論はないわ。」

 

 話が勝手に進んで行く

 

 倉田さん、目がグルグルしてる

 

 でも、倉田さんの家なら面白そうだ

 

透子「じゃあ、お泊り会はシロの家で決定!」

楓「倉田さんがいいならいいと思うよ。僕、家が隣だから何かあったら相談してね。」

ましろ「!!」

七深、瑠唯、透子、つくし「え?」

楓「?」

 

 僕は喋った後、4人は首を傾げた

 

 何かおかしなこと言ったかな?

 

 別に普通の事しか言ってないと思うけど

 

瑠唯「......お泊りの日程は?」

七深「シロちゃんの家が大丈夫な日だね。」

ましろ「......うん。(衛宮君、何で言っちゃうの......)」

透子(......あたし、もしかして地雷踏んだ?)

つくし(あー、またこれかー。)

楓「??」

 

 何か変な空気が流れてる

 

 僕はそれを不思議に思いつつ

 

 それからはすぐに家に帰った

 

 

 今年のゴールデンウィーク......

 

 今までで一番楽しく過ごせそうだ

 

 

 



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お泊り会、開始

 ”ましろ達”

 

 4月に比べ少し気温が上がった5月

 

 太陽の勢力が増した雲一つない青空の下

 

 とある住宅街に5人が集まっていた

 

七深「__お~!ここがシロちゃんのお家なんだ~!」

ましろ「えっと、いらっしゃい。」

瑠唯「今日はお世話になるわ。」

透子(あたし、言っといてなんだけど.....)

つくし(とうとう、この日が来ちゃった......)

 

 七深は楽しそうにあたりを見回し

 

 瑠唯はどこかソワソワしている

 

 そんな2人に対して

 

 透子とつくしは憂鬱な表情を浮かべている

 

瑠唯「衛宮君はいないのかしら?」

ましろ「さっき声は聞こえたけど......」

七深「じゃあいるんだね~!おーい!かえ君~!」

透子、つくし「......」

 

 大声で楓を呼ぶ七深を

 

 透子とつくしはボーっと眺めていた

 

 これから起きる出来事に備え

 

 体力を温存しようとしてるようだ

 

楓「__あ、もう集まってたんだ。おはよう。」

七深「おはよ~!私服も似合ってるね~!」

楓「ごく普通の服なんだけどね。」

瑠唯「いえ、あなたの容姿を生かすのに効率的な素晴らしい服だわ。」

楓「そ、そうですか(?)」

ましろ(私は何回か見てるもん......っ!)

透子(いつもの。)

つくし(だよね......)

 

 透子とつくしはため息をついた

 

 慣れ親しんだ光景であっても疲れる

 

 そんな空気を身に纏っている

 

楓「今日は是非バンドの親睦を深めてくださいね。」

瑠唯「えぇ、分かっているわ。」

七深「もっともーっと仲良くなるよ~!」

ましろ「うん、頑張るね......!」

透子(もうこれ衛宮の信者じゃね?)

つくし(まぁ、衛宮君絡みじゃなければまともなんだよね......衛宮君絡みじゃなければ。)

 

 5人に向けた話した後

 

 楓は自分の家の方を向いた

 

楓「僕は基本的に家にいるので、もしも用があれば言ってください。」

七深「うん~!呼びまくるよ~!」

楓「そんなに僕は必要ないと思うよ?まぁ、いいや。」

 

 楓はそう言って家に入って行き

 

 その後、5人もましろの家に入って行った

 

つくし「......桐ケ谷さんのせいだからね。」

透子「......マジごめん。」

__________________

 

 ”楓”

 

 今日、僕はやることがない

 

 基本的にインドア派で趣味もない

 

 そんな風に生きてるとこんな日もある

 

楓(ふーむ......)

 

 さっき見たみんなの私服姿

 

 全員、すごく似合ってたなぁとか

 

 ちょっと男子高校生っぽい事を考えてみた

 

 今まで女子とは学校でしか会わなかったし

 

 仲良くなるのがすごく新鮮だ

 

楓(それにしても、八潮さん、かっこいよかったなぁ。)

 

 とても僕と同い年とは思えない

 

 纏う雰囲気が大人の女性って感じで

 

 凛々しいという日本語が似合う

 

楓(僕もあんな風になれたら......)

 

 そんな事を考えても

 

 あの雰囲気を纏うことはとてもできない

 

 どうやったらあんなに大人びるんだろう

 

 やっぱり、お家が厳しかったりするのかな

 

 それとも、本人の努力かな

 

楓「......って、今日は少し暑いな。窓開けよ。」

 

 僕はそう言ってベッドから立ち上がり

 

 近くにある窓を開けた

__________________

 

 ”ましろ達”

 

 4人は両親に挨拶を済ませた後

 

 ましろの自室に案内された

 

 今は部屋にある机を5人で囲み

 

 バンドについての話をしていた

 

瑠唯「__これが現状の課題と言ったところね。」

透子「......頭割れそう。」

 

 話が始まってからは瑠唯の独壇場で

 

 膨大な量の反省点や今後のスケジュールなど

 

 1時間ほぼ休むことなく喋り切った

 

 ましろ、透子、つくしは机に顔を伏せ

 

 七深は鼻歌を歌いながらジュースを飲んでいる

 

瑠唯「つい話し込んでしまったわ。」

七深「ちょっと暑いね~、窓開けよっか~。」

ましろ「あっ。」

 

 七深は近くにある窓を開け

 

 熱が籠った部屋に涼しい風が入り

 

 瑠唯の表情が少しだけ緩んだ

 

楓「__あれ、広町さん?」

七深「え?かえ君!?」

透子、つくし「!?」

 

 ”楓”

 

 窓を開けると広町さんと目が合った

 

 部屋が暑かったのか少しだけ顔赤く

 

 服は少しだけ着崩して

 

 驚いてるのか僕の方を凝視してる

 

七深「か、かえ君の部屋ってそこだったの~!?///」

楓「う、うん。て言うか、倉田さんの部屋ってそこだったんだ。」

七深(い、今の私の格好はまずいよ~!///)

 

 広町さんは隠れるようにしゃがみこみ

 

 僕の視界から一瞬で消えた

 

 人間って、あんなに速く動けるんだ

 

瑠唯「驚いたわ。まさか、衛宮君のお部屋がそんなに近いだなんて。」

楓「僕も驚いてます。今初めて知ったので。」

ましろ「わ、私も驚いたなぁ......(これもバレちゃった......)」

 

透子「......なぁ、二葉。」

つくし「うん、絶対に倉田さんは知ってたね。」

 

 あんまり女子の部屋を見るのは良くないけど

 

 チラッと見ると桐ケ谷さんと二葉さんの2人が疲れたような顔と色をしてる

 

 どうしたんだろう?

 

楓「調子はどうですか?皆と仲良くなれそうですか?」

七深「るいるいの独壇場だよ~。」

楓「じゃあ、大丈夫ですね。」

透子(大丈夫じゃないっての!)

瑠唯「中々に有意義な時間を過ごせているわ。」

 

 八潮さんは静かに頷いてる

 

 きっと、練習の反省とか

 

 そう言った話をしてたんだろう

 

 八潮さんは少しだけ汗ばんでいて

 

 ずっと話していたのが分かる

 

楓「......(綺麗だなぁ。こういう姿もやっぱり普通の人とは比較にならない。)」

七深(むぅ~、るいるいばっかり見てる。)

ましろ(衛宮君、八潮さんばっかり見てる......)

瑠唯「どうかしたの?」

楓「!」

 

 八潮さんに見惚れてると

 

 突然、声をかけられ

 

 僕はかなり驚いた

 

楓「す、すいません。何でもないです。」

瑠唯「謝らなくてもいいわ。怒ってるわけではないもの。」

七深「かえ君~!」

ましろ「衛宮君!」

楓「は、はい!」

 

 八潮さんと話してると

 

 広町さんと倉田さんに呼ばれた

 

 少しだけ怒ってるように見える

 

 僕、何かしたのかな?

 

七深「かえ君、るいるいの事見すぎだよ!」

ましろ「そ、そうだよ!」

楓「す、すいません......(なんで2人が?)」

七深(さっき、私の下着見てもノーリアクションだったのに~!!///)

ましろ(八潮さんが綺麗なのはわかるけど、私も少しくらい見て欲しい......)

 

 なんで、2人は怒ってるんだろう

 

 僕には全く分からない

 

 八潮さんの代わりに怒ってるのかな(不正解)

 

七深「こうなったら......かえ君の部屋に侵入~!」

楓「なんで!?」

ましろ「私も......!(してみたかったし......!)」

楓「倉田さんまで!?」

瑠唯「私も少し興味があるわ。」

楓「っ!?」

 

 3人が窓から僕の部屋に入ってきた

 

 広町さんと八潮さんに関しては

 

 運動能力の高さが見受けられるようだった

 

 この2人、やっぱり規格外だ

 

七深「さぁ~!かえ君の部屋を散策するぞ~!」

瑠唯「本が多いのね。」

ましろ(お、男の子のお部屋......///)

楓(う、うーん、困ったなぁ......)

 

透子「あーもう、知ってた。」

つくし「どうせ、こうなると思ったよ。」

 

 3人が僕の部屋に入ってきてから

 

 結局、桐ケ谷さんと二葉さんも来て

 

 6人でババ抜きをしたりして遊んだ

 

 本当は5人の親睦を深めてほしかったけど

 

 まぁ、楽しそうだったしいいかな

 

 

 



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お泊り会の夜

 かなりの時間が過ぎて日も落ちて

 

 八潮さんたちは倉田さんの家の方に戻って行った

 

 これから夕飯を食べたりお風呂に入ったりするらしく

 

 僕も夕飯を食べたりした

 

 それで今はお風呂を入り終えベッドで寝転んでる

 

楓(__あの5人は大丈夫かな。)

 

 昼はみんな楽しそうに遊んでた

 

 けど、ずっとあの空気が続くかな?

 

 女の人だけだと空気が変わることもあるって母さんが言ってた

 

 ちょっと心配だけど......

 

楓(まぁでも、4人はお嬢様で倉田さんも常識あるし、大丈夫だね。)

 

 僕はそんなことを考えて

 

 ベッドから立ち上がって読んでる途中の本を読むことにした

__________________

 

 ”ましろの部屋”

 

 ましろ達は入浴などを終え

 

 今は部屋で1つのテーブルを囲んでいる

 

透子「__折角だし、はっきりさせときたいことあるんだけど。」

ましろ「どうしたの?」

 

 全員が部屋に集まってすぐ

 

 透子は瑠唯、ましろ、七深の方を見た

 

 3人は首を傾げている

 

 透子はそんな3人に次の事を言った

 

透子「広町は分かるけど、そこの倉田と八潮!」

瑠唯「なによ。」

ましろ「?」

透子「お前ら、衛宮のことどう思ってるわけ?」

瑠唯、ましろ「っ!///」

 

 透子がそう尋ねると2人は一気に顔を紅潮させた

 

 そして、まずはましろが声を上げた

 

ましろ「な、なななんで!?///」

透子「いや、バレてないと思ってたの?」

瑠唯「あ、あなたの判断基準を理解しかねるわ///evidenceを出しなさい///」

透子「じゃあ、その真っ赤な顔は何だよ。ていうか、あの態度はあからさま過ぎだし。」

瑠唯「......っ///」

つくし(や、八潮さんがあの桐ケ谷さんに何も言えなくなってる!?)

 

 これにはつくしも驚嘆した

 

 瑠唯と透子の頭脳の差は歴然

 

 だが、今は透子に黙らされてる

 

 この状況はつくしにとってあまりに衝撃的だった

 

透子「それで、実際の所どーなん?」

ましろ「私は......好きだよ......?///」

つくし(か、かわいい。)

七深(まー、そうだよね~。)

透子「じゃあ、八潮は?」

 

 透子が瑠唯の名前を呼ぶと

 

 他の3人も瑠唯の方を見た

 

 瑠唯は珍しく肩をすぼめて恥ずかしそうにしてる

 

瑠唯「......そうね、私は確かに彼に好意を持ってると言えるわ///」

つくし「お、おぉ......」

透子「倉田と広町は何となくわかるけどさ、八潮は結構意外じゃね?」

 

 透子はそんな疑問を口にした

 

 その疑問はもっともと言える

 

 月ノ森生の瑠唯へのイメージでは

 

 瑠唯が人を好きになるどころか人に興味を持つことすら意外だ

 

透子「八潮は何キッカケで衛宮を?」

瑠唯「あれは、オリエンテーション1日目。私が海で溺れた時のことよ。」

透子(溺れた!?)

瑠唯「その時......」

 

 瑠唯は目を閉じた

 

 その様子を4人はじっと見つめている

 

 一体、何を考えているのか

 

 数秒の静寂の後、瑠唯はゆっくり口を開いた

 

瑠唯「ただ1人、立場も何も関係なく私も助けてくれた。(必死に手をのばしてくれた。)」

つくし「そう言えば誰かが溺れたって聞いたけど、あれ八潮さんだったんだ。」

七深「かえ君、本当になんの見返りも要求しなかったもんね~。」

透子「八潮相手に?そりゃ、何と言うか変だね。」

つくし「八潮家の人の命を救ったってなったら、ものすごい金額のお金とか貰えそうだけど。」

瑠唯「それは、彼自身が拒否したわ。」

透子、つくし「え!?」

 

 瑠唯の言葉に透子とつくしはまた驚きの声を上げた

 

 小さい時から生粋のお嬢様である2人にこの行動は理解できない

 

 そう言った様子で瑠唯の方を見てる

 

瑠唯「お父様とお母様直々にお話に行かれたのだけれど__」

透子「いや、親公認かよ!?」

瑠唯「え?えぇ、この前に会われてたいそう気に入っていたわ。」

つくし(え、衛宮君。自分のこと才能ないって言ってたけど......)

ましろ(この誰かに認められる才能、十分ズルいと思う。)

七深(む~、これは、私も同じ条件にしないと苦しいかも。)

 

 ”瑠唯”

 

 最初は理解できなかった

 

 もしかしたら、他の目的がある

 

 そんな可能性も少し考えた

 

瑠唯(でも......)

 

 衛宮君は今まで関わった人間とは違う

 

 打算的な考えは一切ない

 

 金銭も名声も欲しない、純粋な正義感

 

 人はそれをお人よしと言うのは間違いない

 

 でも、なぜか私はそれに惹かれてしまう

 

透子「じゃあ、まぁ、そこの3人は衛宮のことが好きってことでいいんだね?」

七深「広町はオッケ~!」

ましろ「わ、私も......!」

瑠唯「私もそれで構わないわ。」

 

 迷いなくこう言える

 

 度々機械みたいと言われた私に人の心が芽生えたのかしら

 

 それとも、彼に人の心を目覚めさせられたのか

 

 どっちにしても、私は変わったわね

 

七深(さぁ、取り合いだね~。)

ましろ(絶対に、これだけは負けない......!)

瑠唯(今は彼といられれば、それで......)

 

 今はそれでいい

 

 彼の事を知りたい

 

 ただただ、そう思ってしまう

 

瑠唯「少し、窓を開けるわ。」

ましろ「あ、そうだね。少しだけ暑いし。」

 

 私はそう言って立ち上がり

 

 空気を入れ替えるために窓を開けた

 

瑠唯(まぁ、彼がいるなんてありえな__)

楓「あれ、八潮さん?」

瑠唯「衛宮、君?」

ましろ、七深「衛宮君(かえ君)!?」

楓「わっ。」

 

 窓を開けてすぐ

 

 後ろから倉田さんと広町さんが近づいて来た

 

 これにはさすがに驚いてる

 

 なんで、こんなタイミングで彼が?

 

瑠唯「なぜ、衛宮君が?」

楓「この時期にエアコンをつけるのももったいないので窓を開けてたんですよ。」

七深「かえ君~!広町のパジャマ姿だよ~!」

楓「うん、似合ってるね。」

ましろ「え、衛宮君......!」

 

 広町さんと倉田さんは嬉しそうにしてる

 

 勿論、私も嬉しく思っている

 

 でも、さっきの話の手前、少し羞恥心もある

 

楓(なんだろ、この色?少しふやけてる?)

透子「ねぇ衛宮ー、さっきあたしらの話聞こえたー?」

楓「え?楽しそうとは思いましたけど、内容までは分からないですね。」

つくし(まぁ、窓も挟んでるしね。)

透子(もういっそ聞こえてたらよかったのに。)

 

 ひとまず、聞こえていなくてよかった

 

 あれが聞こえていたら私はどうにかなるわ

 

 2人も少し安心した様子を見せてる

 

七深「折角かえ君も来たし話そうよ~!」

楓「え?」

透子「ま、そうだね!これからそれぞれの呼び方とか決めようと思ってたし!」

つくし「え、そうなの?」

ましろ「それは今初めて聞いた。」

透子「まぁ、いいからいいから!」

楓(あー、僕も巻き込まれるんだ。別にいいんだけどね。)

 

 それからは衛宮君も巻き込んで

 

 それぞれの呼び方を決めたり

 

 これからの活動方針などの話をした

 

 

 



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誘い

 朝、僕はいつも通りの時間に目を覚まして階段を下りてる

 

 それにしても、昨晩はすごかったなぁ

 

 主に桐ケ谷さんのマシンガントークだけど

 

 なんであの人あんなに言葉が出て来るんだろう

 

楓(これも、コミュニケーション経験の差かな?)

 

 別に人と話すのは苦手じゃない

 

 けど話す機会がほとんどなかった

 

 本格的に人と話すようになったのは高校からだし

 

 僕はそんな事を考えながらリビングのドアを開けた

 

楓(まぁ、これから経験を積む時間はあるし、頑張ろう!)

七深「__おはよう、かえ君~。」

楓「うん、おはよう。」

ましろ「朝ごはん、出来てるよ?」

瑠唯「休日でも生活リズムを崩さないのは関心ね。」

楓「うん......うん?」

 

 待って、今、僕は誰と話してた?

 

 母さんにしては声が若い

 

 いや、声で判断するまでもない

 

 だって、残留してるんだもん、色

 

楓「なんでここに!?」

夏葉「いや実はね?さっきそこで偶々会って、楓のお友達って言うから招待したら朝ごはんのお手伝いまでしてくれて!」

楓「息子の同級生に何やらせてるの!?」

夏葉「だって、この3人がした方が美味しそうだし。」

楓「割り切りすぎだよ!」

 

 どうしよう、ツッコミが尽きない

 

 母さん、なんでこんなに自然体なの?

 

 もう少しお客さんに気を使ってほしいよ

 

七深「食べないの~?」

ましろ「冷めちゃうよ?」

楓「あ、はい、いただきます。」

瑠唯「えぇ、どうぞ。」

 

 僕は取り合えず頭を整理するため席に着いた

 

 家の朝ごはんはパン派で

 

 大体はパン、目玉焼きと言うメニュー

 

 3人が作ったのもそれだった

 

楓(取り合えず落ち着こう。もうこの際3人がいるのはよくないけどいい。それにしても、なんでこの3人がわざわざ__!!)

 

 俺はそんな事を考えながらパンを口に入れた

 

 美味しい、いや、美味しすぎる

 

 え、なんで?素材は変わらないのに

 

七深「いやー、ジャムの配分って大切だよねー。」

瑠唯「最も理想的とされる配分はリサーチ済みよ。」

ましろ「目玉焼き、頑張って作ったんだけど......どうかな?」

楓「う、うん。美味しいよ。」

 

 目玉焼きを食べてからそう答えた

 

 僕の食べ物の判断基準は香りとか味もあるけど

 

 見た目だけは少しだけ普通じゃない

 

 食べ物にだって触れれば色が残る

 

 つまり、作った本人が文字通り見えるという事

 

楓(こ、これが美女の付加価値ってことか。)

 

 想像してみてほしい

 

 筋骨隆々な男と美女が作った卵焼きがあるとしよう

 

 その姿が完全に見えたまま食べたとしたらどっちが美味しく感じる?

 

 絶対に美女でしょ?

 

一勇「美女が作った朝ごはんは美味しい......そんな顔をしてるな、息子よ。」

七深「お義父さんはお上手ですね~。」

楓「何言ってるの?あと、ズボン破れてるよ?」

一勇「なに!?」

楓「嘘だよ。」

 

 なんで父さんは僕の心を読み取れるんだ

 

 流石に少し焦ったよ

 

 まぁ、父さんだから助かった

 

夏葉「それにしても、こんなに可愛い子達が楓を......」

楓「何を浸ってるの?」

夏葉「楓、この中で誰が1番タイプなの?」

瑠唯、七深、ましろ「!」

楓「......え?」

 

 母さんがそう言った瞬間、思考が停止した

 

 聞こえたけど聞かなかったことにしたい

 

 なんで本人たちの前で聞くの?

 

夏葉「それで、どうなのよ?」

七深「それは広町、気になるな~。」

ましろ「わ、私も......!」

瑠唯「そうね、衛宮君からの評価は価値があるわ。」

楓「僕ってどういう存在なんですか!?」

 

 ていうか、タイプって何?

 

 しかもなんで興味津々なの?

 

 そんなの聞いても絶対に仕方ないのに

 

七深「で、誰なの~?」

楓「えっと、そう言われても。広町さんは友達、倉田さんも友達、八潮さんは尊敬の念が強いから......」

一勇「攻めろー楓ー。」

夏葉「煮え切らないのは面白くないわよー。」

楓「そこの似たもの夫婦はちょっと黙って。」

 

 難しいにもほどがある

 

 そもそも女の人の好みなんてないし

 

楓「ぼ、僕にそう言うのはよく分からないかな。」

七深「え~!」

瑠唯「そう。(......よかった。)」

ましろ「衛宮君が言うなら、仕方ないね。」

 

 へ、ヘタレだ

 

 自分ですらそう思うんだもん

 

 これは筋金入りなのでは......?

 

夏葉「じゃあ、誰をお嫁さんにするの?」

瑠唯、七深、ましろ「っ!?///」

楓「もう出て行って!!」

夏葉「まぁ!」

一勇「そうか......成長したなぁ......!」

楓「殴るよ?非力だけど。」

 

 それから僕は朝食を終え

 

 疲れたくないので部屋に戻ることにした

__________________

 

 なんだか朝から疲れた

 

 主にあの両親のせいなんだけど

 

 余計な事をする割合が多いよ......いい両親なんだけど

 

楓(そう言えば、桐ケ谷さんと二葉さんどうしたんだろ。)

 

 あの3人、さっきリビングにいたけど

 

 あの2人を放置してきたのかな

 

 まぁ、しっかりしてるから大丈夫だろうけど

 

楓(まぁ、3人ともこの後は帰るだろうし__)

七深「僕は画集でも見ようかな~。」

楓「そうそう。この画集の草原の絵はすごくて__ん?」

七深「おぉ、確かにいい絵だね~。」

楓「......なんでいるの?」

七深「え~?ずっといたよ~。」

 

 この隠密性能......

 

 やっぱり広町さんってすごい

 

 常識がまるで通用しない

 

七深「かえ君がリビングを出てから後ろついて来たんだ~。」

楓「いやすごいね、全く気付かなかった。」

七深「ふっふっふ~、これが広町流隠密術~。」

楓「広町さんって忍びの家の人じゃないよね......?」

 

 月ノ森でも忍びの家の人っているのかな?

 

 いや、絶対にいないと思う

 

 そんな人、流石に見たことも聞いたこともないし

 

七深「そう言えば~。」

楓「?」

七深「かえ君ってえっちな本とか持ってないんだね~。」

楓「ぶふっ!!」

 

 僕はそう言われ思い切り吹き出してしまった

 

 もちろん、そんなの持ってないし

 

 手に取ったこともない

 

楓「な、ないよ。そう言うのには興味ないし......」

七深「じゃあまさか、かえ君は男の人n__」

楓「それは断じてないよっ!!」

七深(じゃあ、一応興味あるんだ......私には何の反応もなしだけど~!)

楓「痛い!」

 

 何故か広町さんにつねられてる

 

 なんで?

 

 僕、何もしてないのに(※なにもしないから)

 

楓「な、なんで......?」

七深「ふーんだ、自分の胸に聞いてみれば~?」

楓「えーっと、うーん......?」

 

 どうしよう、心当たりがない

 

 そもそも、広町さんとは良好な関係を築いてたし

 

 何か争いの種になることはしてない......はず

 

楓「???」

七深「はぁ~、これで分からないのがかえ君だよね~......」

楓「え?」

 

 広町さんがため息をついた

 

 なんでだろう?

 

七深「かえ君は鈍感さんだもんね~。」

楓「そうかな?色が見える分感覚は敏感だと思うけど。」

七深「そうじゃなくてね?人の気持ちとか__」

ましろ「__な、ななみちゃん!なにしてるの!」

瑠唯「......抜け駆けには制裁よ?」

七深「なーんだ、もう気付いたんだ。」

楓(抜け駆け?)

 

 広町さんと話してると

 

 部屋のドアを開けて倉田さんと八潮さんが入ってきた

 

 なんだか少し怒ってる気がする

 

 それと、抜け駆けってなんだろ

 

七深「抜け駆けなんてしてないよ~。ただお話してただけ。」

瑠唯「隠れてを忘れてるわ。」

ましろ「ず、ずるい......!」

七深「じゃあ、平等にしよっか~。」

楓、瑠唯、ましろ「平等?」

 

 広町さんは笑みを浮かべている

 

 そして、その顔のまま僕の方を見てきた

 

 この顔は何か思いついた時の顔だ

 

 なんとなくこの顔も見慣れたなぁ

 

七深「かえ君、今日は予定ないよね~?お義母さんに聞いたよ~?」

楓「うん、特にないから家でゆっくりしようと思ってたかな?」

七深「そっかそっか~。」

楓「ど、どうしたの、広町さん?」

七深「これからさ~、私達とでかけない~?」

瑠唯、ましろ「!」

楓「え?」

 

 出かける、広町さんは確かにそう言った

 

 え、この4人で?

 

 男が僕1人になっちゃうんだけど......

 

瑠唯「いいわね。私もスケジュールは空いているし。」

ましろ「わ、私も行きたい......!」

楓(あー......)

 

 これは断れない

 

 八潮さんも倉田さんも色が輝いてる

 

 これは何かを楽しみにしてる時の感じだ

 

 八潮さんに関しては色見えなきゃ分からなそう

 

楓「せ、折角だしいいかもね?」

七深「じゃあ、決まり~!」

ましろ「やった!じゃあ、服とか着替えてくる!」

瑠唯「私は衣類に関しては問題ないわ......ただ、少し身だしなみを整えて来るわ。」

七深「広町も~。」

楓「僕も準備しておくよ。」

 

 こうして、僕は広町さんたちと出かけることになった

 

 もうこの際、男女の比率については良い

 

 けど、桐ケ谷さんと二葉さんはどうするんだろ?

 

 僕はそんな疑問を持ちながら3人と出かける準備をした

 

 

 



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迷子

 服を着替えて僕は家の前に出た

 

 それにしても、今日はどこに行くんだろう

 

 あんまり想像が付かない

 

 もしかして、とんでもない所だったりして

 

 八潮さんと広町さん、お嬢様だし......

 

七深「__やっほー!かえ君~!」

瑠唯「待たせたわね。」

ましろ「少し準備に手間取っちゃって......」

楓「そんなに待ってないよ。」

 

 僕が家を出て5分ほどして3人は出て来た

 

 意外と早かった

 

 予想ではもう少しかかると思ってたんだけど

 

七深「じゃあ、メンバーもそろったし行こっか~!」

楓「どこに行くの?」

七深「そうだなぁ~......この辺りだとショッピングモール?あ、でも、かえ君は人が多いところ苦手なんだよね。」

 

 広町さんはそう言った

 

 まあ、確かに人が多い所は苦手だ

 

 でも、それじゃ行けるところがないし

 

楓「大丈夫だよ。いつも通り広町さんを見てればいいんだし。」

瑠唯「無理はいけないわよ?」

ましろ「そうだよ、衛宮君が楽しくないと......」

楓「無理はしないです。ショッピングモールくらいなら、なんとか。」

 

 僕は笑いながらそう言った

 

 別に初めて行くわけでもないしね

 

 そんなに極端じゃない限りは大丈夫

 

七深「じゃあ、ショッピングモールにしゅっぱーつ!」

楓(あれ、そう言えば、桐ケ谷さんと二葉さんは?)

 

 僕はそんな疑問を抱きつつ

 

 歩きだした3人について行った

 

 あの2人、どうなったんだろ......?

__________________

 

 ショッピングモールに着いた

 

 やはりと言うべきか、結構人が多い

 

 でも、海に比べればまだまだマシかな

 

 海は色が流されてグチャグチャになるし

 

七深「__かえ君、大丈夫そう?」

楓「うん、大丈夫。予想より多かったけど、大丈夫そう。」

瑠唯「そう。(......なんなのかしら。)」

ましろ「よかった。(ななみちゃんばっかり見てると、なんだか悔しい......)」

 

 それにしても、ショッピングモールってこんなに人気なんだ

 

 まぁ、遊ぶところと言えばここだし

 

 当り前と言えば当り前なのかな?

 

七深「さぁ、どこに行こっか~。」

瑠唯「本屋はどうかしら。」

ましろ「お人形あるお店とか......」

七深「しろちゃんはともかく、るいるいのは楽しいの~?」

楓「僕は良いと思うよ?__あれは。」

 

 周りを見渡してると、視界にあるものが移った

 

 様々な色が混在する中で1つのおかしい色

 

 あれは、泣いてる時の色だ

 

「うぅ......」

楓「あの、どうしたの?」

「え......?お兄ちゃん、誰......?」

楓「僕は衛宮楓。泣いてるのが見えたから話しかけたんだけど、どうしたの?」

「お母さんに置いて行かれたの......」

楓「お母さんに?」

 

 こんな所に子供を置いて行く?

 

 まだまだ、この子は小さな子供

 

 なのに、なんて無責任な親なんだ

 

七深「かえ君~、どうかした~?」

楓「この子、お母さんに置いて行かれたらしいんだ。」

瑠唯「そうなの?」

ましろ「可哀想だね。」

楓「この子のお母さんを探してもいいかな?と言っても、色を辿るだけだけど。」

七深「そう言う事は仕方ないよ。探してあげないと可哀想だし。」

楓「ありがとう。」

 

 僕はそう言って子供の方を見た

 

 この子の色は薄紅色

 

 でも、この子にはそれ以外の色がない

 

楓「お母さんにはいつ置いて行かれたの?」

「えっと、たくさん......?」

楓「手を繋いだりはしたかな?」

「えっと、ここに来るときだけ......」

楓(と言う事は、2時間は経ってるのか。)

 

 色が消えるのは2時間ほど

 

 つまり、この子は2時間は放置されてるってこと

 

 それにしても、困った

 

 色がないんじゃ、探すのは難しい

 

ましろ「衛宮君?」

楓「ダメだ、色がもう消えてる。これじゃ、探せない。」

七深「えぇ!?」

瑠唯「確か、ある程度の時間が経つと消えるのよね。つまり、この子はかなりの時間放置されてる。」

楓「はい。」

 

 どうしよう

 

 色を辿れない僕なんて何の役に立たない

 

 でも、色を見る方法なんて......

 

ましろ「色が自分の意識で見られればいいのにね。」

楓「え?」

ましろ「だったら、人を探すときに便利だなって。」

楓「色を、意識する......?」

瑠唯「?」

 

 そう言えば、色を意識して見たことなんて無かった

 

 いつから見えたかは覚えてないけど

 

 いつの間にか見えるようになってて当たり前になってた

 

 じゃあ、意識して色を見ようとしたらどうなるんだろ?

 

楓「......試す価値はあるかも。」

七深「かえ君?」

楓「色を意識して見てみる。」

 

 僕は床に残留してる色に集中した

 

 今見えてる色をまず意識

 

 そして、もっと詳しく__

 

楓「ぐっ......!!」

七深「か、かえ君!?」

楓(そ、そっか、色を意識するとこうなるんだ。)

 

 今、一瞬だけ無数の色が見えた

 

 今まで通った全員の人の色

 

 過去に消えたと思ってた色が見えた

 

 でも、これは少し厳しい

 

 一瞬だけだったのにこの頭痛

 

 あの量の色を見るのは正直......

 

楓(いや、厳しいなんて言ってられない!僕にできることはこれだけなんだから。)

 

 僕は自分に喝を入れながら立ち上がった

 

 こんな小さな子が2時間以上待ったんだ

 

 高校生の僕がほんの数分我慢できないなんて

 

 そんなのはあったらダメだ

 

「大丈夫......?お兄ちゃん......」

楓「大丈夫だよ。すぐに見つけるから__!!」

 

 僕は色に意識を向けながら子供の手を見た

 

 色は古いものから重なっていくらしい

 

 だから、一番新しい色の紅色

 

 これを辿って行けばいいんだ

 

楓「い、行こう。この子のお母さん、エスカレーターを使って上の階に行ってる。」

瑠唯「......そうね。」

七深「あんまり、無理しないでね?」

ましろ「辛かったら言ってね......?」

楓「うん、その時はお願い。」

 

 僕はそう言って

 

 この子のお母さんの色を辿っていった

__________________

 

 色を辿ってエスカレータに乗り3階に来た

 

 ここは飲食店が立ち並ぶコーナーだ

 

 ただでさえ気分が良くないのににおいまで色々混ざられると苦しい

 

 けど、もう近い

 

楓「ここ。」

 

 僕が足を止めたのはカフェの前

 

 この店の中の赤にあの紅色が続いてる

 

 それに加えて、出た形跡もない

 

 2時間もこの店にいるんだ

 

七深「じゃあ、入って早くこの子をお母さんの所に返してあげよ~!」

楓「うん、そうだね__っ......」

瑠唯「衛宮君!」

 

 色から意識を外すと僕は少しふらついた

 

 すごい疲労感だ

 

 頭がなにか硬いもので叩かれてるように痛い

 

 そして、乗り物酔いをした時のような感じもする

 

ましろ「か、顔色悪いよ!?」

楓「あ、あはは、大丈夫だよ。早く行こう、目的はすぐそこだから。」

 

 僕はそう言って店の扉を開けた

 

 今はコーヒーの匂いですら辛い

 

 けど、ここまで来て泣き言は言えない

 

楓「お母さんはいる?」

「えっと......あっ、お母さん!」

ましろ「あ、お店の中は走っちゃダメだよ。」

 

 子供はあるテーブルの方に走って行った

 

 走って行ったテーブルには3人の女の人が座ってて

 

 その中にさっきまで追ってた紅色もある

 

 僕たち子供の後ろについてテーブルの方に歩いた

 

「げっ、なんであんたがいるのよ!待ってなさいって言ったでしょ!」

「だ、だって、お母さん帰ってこないから......」

「え、なんでこの子が?」

「確か、家だって......」

「今、友達とお茶してるの!邪魔しないでよ!」

楓「あの。」

 

 僕は子供に怒鳴ってる人に声をかけた

 

 今の言い方的にわざと置いて行ったんだ

 

 いや、分かっていたことだけど

 

「あんたね!そいつ連れて来たの!」

楓「泣いていたので、連れてきた方がいいと思って。」

「余計なことしないでくれる!?やーっと子守りから解放されたのに!」

瑠唯「その言い草は何かしら。こんな子供を放置するなんて、常識を疑うわ。」

「うるさい!あなた達に親の苦労なんて分からないでしょ!!子供のくせに!!」

 

 この人、色が濁ってる

 

 自分の欲望にだけを優先して

 

 心の豊かさを失ったときの汚らし色だ

 

「こっちはバカ亭主に休日に子供を家に置くなって言われて仕方なく連れ出したのに。ほんと、友達とゆっくりお茶できないなら子供なんて生むんじゃなかった。」

楓「......!!」

 

 その言葉を聞いて僕は歯を食いしばった

 

 子供が言われて、絶対に一番つらい言葉

 

 僕の母さんなら絶対にあんなこと言わない

 

 だから、言われた気持ちなんて分からない

 

 けど、絶対にそうだ

 

「ほんと、勘弁してほしいわ。」

楓「......子供だって、望んであなたの所になんて生まれてないんですよ。」

「は?」

ましろ「え、衛宮君......?」

楓「もし、子供が親を選べるなら、少なくとも僕は死んでもあなたなんて選ばない。」

「子供が偉そうに言ってるんじゃないわよ!!親の気持ちなんて分からないくせに!!」

楓「っ!」

七深「かえ君!」

 

 パシンと言う音が店の中に響いた

 

 子供の母親が僕の頬をぶったんだ

 

 人にぶたれるなんて生まれて初めてだ

 

 でも、驚くほどなにも響かない

 

楓「......親の気持ち?そんなの分かるわけない。だって、僕は親じゃないから。でも、分かることだってある。」

 

 僕は怒気を含んだ声を出した

 

 優しい両親しか知らない僕はこの人を許せない

 

 こんな人間を許しちゃいけない

 

楓「ここには子供を預かってくれる場所がある。そこに預ける選択肢だってあったはず。」

「はぁ?そこ有料でしょ?そんな金ないし。」

楓「......」

ましろ「さ、最低......!」

瑠唯「......ダメね。」

七深「これは~、引くね~。」

「うっさい!!ほんと失れ__」

楓「最低限の責任を果たせないなら、親なんてやめてしまえ!!!」

瑠唯、七深、ましろ「っ!?」

 

 僕は子供の母親に向けてそう叫んだ

 

 そして、ドンっとテーブルを叩いた

 

楓「その子は貴女がいなくて泣いてた、つまりその子にとって貴女は大切な母親なんだ......そんな風に思ってるその子を邪魔としか思えないなら、貴女の犠牲者を出す前に子の親なんてやめればいい!!」

「は、はぁ?何言って......」

楓「......もう、貴女に言える事は何もないです。後の身の振り方は自分で考えてください。」

 

 僕はそう言ってテーブルから離れた

 

 お店に迷惑をかけちゃった

 

 大声出したこと、謝らないと

 

 ”別視点”

 

「な、何なのあいつ?」

瑠唯「......彼が言ってるのは至極まともな事ですよ。」

ましろ「子供が可哀想......」

七深「言いたくないけど、運が悪かったね。」

 

 3人は静かな声でそう言い

 

 楓が歩いて行った方に行った

 

 その後、同じテーブルに座ってる2人の女性も席を立った

 

「私らも帰るよ。子供放置とかありえない。」

「ちょっと、付き合い方考える。」

「え、ちょ、は?」

 

 そういいお金だけ置いて女性2人も席を離れ

 

 テーブルには放置されていた子供とその親だけが残された

__________________

 

 ”楓”

 

七深「かえ君~!」

 

 店を出た後、広町さんが駆け寄った

 

 それに続き八潮さんと倉田さんも来て

 

 僕の横に並んだ

 

楓「少し、冷静じゃなかったね。外に出てやっと落ち着けたよ。」

ましろ「い、いや、あれは怒っても仕方ないよ。」

瑠唯「そうね。衛宮君の怒りはもっともだわ。」

楓「初対面の相手にあんな物言いは良くないです......」

 

 僕は控えめにそう言った

 

 流石に言葉が過ぎた

 

 親をやめろなんて、それこそ僕が無責任だ

 

楓「じゃあ、遊ぼうか。折角来たんだし。」

七深「そうだね~!服屋でかえ君に服でも選んでもらおうかな~!」

ましろ「お人形......!」

瑠唯「意見がバラバラね。」

 

 八潮さんは呆れたようにそう言った

 

 まぁ、趣味は人それぞれだし

 

楓「時間もあるし、全員が行きたい場所に行けばいいんじゃないかな?」

瑠唯「それでもいいと思うわ。」

七深「じゃあ、今からは服屋でファッションショーでも~!」

楓「それは大丈夫なのかな__っ......!!」

ましろ「え......?」

 

 3人と話してると、体に違和感が起きた

 

 いきなり、体が言う事を聞かなくなった

 

 そして、息苦しくて、頭が痛い

 

楓「はぁ......はぁ......はぁ......!」

 

 勝手に呼吸が荒くなる

 

 熱いか寒いか分からない

 

 視界にボヤがかかって声が遠くに聞こえる

 

七深「ど、どうしたの!?って、すごい熱だよ~!」

ましろ「ほ、ほんとだ!きゅ、救急車呼ばないと!」

瑠唯「い、今すぐかけるわ!倉田さんと広町さんは衛宮君を運んで!」

ましろ「は、はい!」

七深「う、うん!」

楓(何が、起きてるの......?)

 

 朦朧とする意識の中

 

 僕は遠くに3人の声を感じた

 

 けど、指一本たりとも動かせず

 

 気づけば、僕は意識を失っていた

 

 

 



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帰り

楓「__ん......っ?」

 

 目を覚ますと白色の天井が見えた

 

 薬品のにおいもするし、ここは病院?

 

 なんで、僕はこんな所にいるんだ?

 

 確か、あの迷子の子を届けて、それから......

 

瑠唯「起きたわね。」

楓「八潮さん?」

瑠唯「体に異常はないかしら。急に倒れたけれど。」

楓「え?倒れた?」

 

 そうか、だから記憶が抜け落ちてたんだ

 

 でも、僕は何で倒れたんだろう?

 

 今朝は体調に問題はなかったはずなのに

 

楓「す、すいません、迷惑かけて......」

瑠唯「別に気にしなくても良いわ。でも、どうしたというの?」

楓「分かりません。記憶があまり残ってなくて......」

 

 店を出た後からの記憶があまりない

 

 覚えてるのは3人の慌てた声だけ

 

楓(色を無理に見たから?それとも......)

瑠唯「それでもいいわ。あなたが元気になったのなら何よりよ。」

楓「っ!......あ、ありがとうございます。」

瑠唯「どうかしたの?」

 

 今の八潮さん、すごく優しい表情をしてた

 

 かっこいいって印象を持ってるのに、可愛いって思った

 

 なんだろう、この胸の苦しさ

 

楓「な、なんでもないですよ?少し、寝ぼけてるだけです。」

瑠唯(それは自覚できるものなのかしら?)

楓「あの、そう言えば、広町さんと倉田さんは__」

七深「__あー!かえ君起きてるー!」

ましろ「な、ななみちゃん、ここ病院だから......」

楓「あ、噂をすれば。」

 

 八潮さんに2人の事を尋ねようとした瞬間

 

 広町さんと倉田さんが病室に入ってきた

 

 部屋の中に2人の色もあったから疑問に思ってたけど

 

 どこかに行ってたのかな?

 

ましろ「大丈夫?衛宮君。」

楓「うん、もう大丈夫だよ。体調も良くなったし。」

七深「よかったよ~!丸1日も寝てたから心配だったよ~!」

楓「え__って、うわ!?」

瑠唯、ましろ「!?」

 

 広町さんが突然抱き着いてきた

 

 女の子ってなんでこんなにい匂いがするんだろう

 

 しかも、すごく柔らかい......

 

 じゃなくて!広町さん、今なんて言った?

 

楓「ひ、広町さん?丸一日ってどういう事?」

七深「かえ君、昨日倒れてからずっと寝てたんだよ......しかも、すごく苦しそうに。」

楓「そ、そんな事になってたんだ。」

 

 驚いた

 

 まさかそんなに寝てるだなんて

 

 あの短時間でそこまで調子が崩れるのか

 

 これは、余程のことがない限りあれはしない方がいいかな

 

ましろ「ず、ずるい......!」

楓「え?」

ましろ「ななみちゃんばっかり衛宮君に抱き着いて、ずるいよ......!」

楓「い、いや、そんなずるいだなんて__」

瑠唯「そうよ。あなたが衛宮君に抱き着く必要はないわ。」

楓(八潮さんまで!?)

 

 ど、どうなってるんだ?

 

 別に僕にそんな価値はないんだけど......

 

七深「先手必勝だよ~。そもそも、この距離間にいるのは広町だけだし~。」

瑠唯「っ......(こんなに差があるというの?)」

ましろ(わ、私だって......衛宮君と......!)

楓「倉田さん?」

ましろ「出来るもん......っ!///」

楓「!?」

 

 今度は倉田さんが抱き着いてきた

 

 左右から美少女に抱き着かれるって......

 

 あれ、これは僕なのかな(?)

 

楓(や、柔らかい、良い匂いする。)

 

 女性経験が0に等しい僕には刺激が強い

 

 2人とも可愛いし、スタイルいいし

 

 ていうか、なんでこうなったの?

 

瑠唯「......」

七深「ほら~、両手に花だよ~。」

ましろ「は、花だなんて......///」

楓「ま、まぁ、それは間違いないんだけど......ここ、病院だよ?」

 

 こんなの他の男の人に見られたら嫉妬で殴られるよ

 

 この絵面じゃまるで僕がすごくモテる人に見えるよ(その通り)

 

 僕はそんな人間じゃないんだけどね(鈍感)

 

七深「まぁまぁ~、細かいことは気にしないで~。」

楓「細かくないよ!?」

ましろ「私達に引っ付かれてると、嫌かな......」

楓「あ、いや、そうじゃなくて......その、常識的な事を考えてね?」

一勇「__おーい、楓ー?大丈夫か......って。」

夏葉「迎えに来たわよ......って。」

楓「あっ。」

 

 広町さんと倉田さんにくっつかれてる途中

 

 病室に父さんと母さんが入ってきた

 

 2人はまるで時間が止まったように動かず、僕の方を凝視してる

 

 いや、これはマズいんじゃ......

 

一勇「あー、その......嫁は1人に絞れよ?」

楓「とんでもない誤解しないで!?」

夏葉「楓にやっと春が来たわね......楓なのに。」

楓「それ、上手いこと言ったつもり?」

一勇、夏葉「まぁ、ごゆっくり~。」

 

 そう言って、2人は病室を出て行った

 

 それを見て、僕はため息をついた

 

 これ、完全に誤解されてる......

 

楓「はぁ......全くあの2人は......」

七深「いいじゃん~、あながち間違いでもないし~。」

楓「いやいや、僕たちはそう言うのじゃないし。広町さんたちもその気ないでしょ__って痛い!」

 

 僕が喋ってると左右から二の腕を摘ままれた

 

 広町さんは前にしてきたけど、なんで倉田さんまで?

 

 僕、何もしてないのに......

 

七深「本当にかえ君は~。」

ましろ「そうゆう所も可愛いけど、言われると複雑だよ......!」

楓「な、なんのこと......?」

瑠唯「......あなた達、いつまでそうしてるつもりなの?」

楓「す、すいません(って、なんで八潮さんの機嫌も悪いの?)」

 

 八潮さんは目に見えて機嫌が悪い

 

 え、な、なんで?

 

 まずい、何をしたか本当に心当たりがない

 

楓「さっきの2人の言い方的にもう帰れそうだし、その、一回離れよ?」

七深「も~、仕方ないな~。」

ましろ「そうだね......」

楓(なんで僕が悪いみたいになってるんだろ。別にいいけど。)

 

 2人が離れた後、僕はそう思いながらベッドを降りた

 

 立ち上がると少しばかりダルさを感じる

 

 本当に僕は1日も寝てたんだ

 

瑠唯「送っておくわ。私達は出ておくから、早く着替えなさい。」

楓「はい。」

 

 それから僕は3人が部屋を出て行った後、服を着替え

 

 急ぎ足でお世話になった病室を出て行った

__________________

 

 病院を出て、僕は3人と家に帰ってる

 

 時間の感覚がなかったけど

 

 もう、外は陽が沈んできて綺麗な夕日が見える

 

 いや、流石に寝すぎでしょ

 

ましろ「あっ。」

楓「?」

七深「そうしたの?シロちゃん?」

ましろ「そう言えば、家につくしちゃんが忘れ物してて、届けに行かないといけないんだった......」

 

 歩いてる途中、突然倉田さんはそう言った

 

 二葉さん、しっかりしてそうなのに意外と抜けてるのかな?

 

 この間も広町さんの家にスティック忘れてたし

 

七深「あっ、私も親から用事があるから帰ってきてって......」

楓「じゃあ、2人はここで分かれるね?」

七深「残念だな~......これは、かえ君にお別れのナデナデを!」

楓「あ、うん、いいけど。嬉しい?」

七深「!!///」

 

 僕はそう言いながら広町さんの頭を撫でた

 

 なんだろ、色もだけど広町さん自体もキラキラしてる

 

 なんでこんなに嬉しそうなんだろ?

 

七深「これで広町は今日に悔いはないよ~!じゃあ、またね~!」

楓「う、うん、またね?」

ましろ「わ、私も......///」

楓「あ、はい。」

ましろ(や、やった......!///)

 

 続いて倉田さんの頭を撫でた

 

 女の子の髪ってサラサラだよね

 

 手入れの差なのかな?

 

ましろ「も、もう死んでもいい......!///」

楓「やめて!?いやほんと、こんな事で死なないで!?」

ましろ「じゃ、じゃあ、つくしちゃんのところ行ってくるね///バイバイ、衛宮君......///」

楓(ど、どうしよう。この状況で放置するのが不安過ぎる。)

 

 僕がそう考えてるうちに倉田さんはどこかへ歩いて行ってしまった

 

 ま、まぁ、大丈夫だよね?多分

 

 流石にあれを本気で言ってるわけないし......多分

 

楓「だ、大丈夫かな......?」

瑠唯「大丈夫よ。向こうには二葉さんがいるもの。」

楓「そ、そうですよね。(どうしよう、余計心配なんて言えない。)」

 

 取り合えず、倉田さんに何もない事を祈っておこう

 

 いやほんとに事故に遭いましたとかは笑えないからね?

 

瑠唯「行きましょう。あなたは安静にしないといけないわ。」

楓「あ、はい。」

瑠唯「ほら、もう少し端に寄りなさい。危ないわ。」

 

 八潮さんはそう言って僕の手を引いた

 

 なんだろう、手を握られて嬉しいと思う

 

 けど、なんだろ、簡単にこうされるって最早犬か何かと思われてるんじゃ......

 

瑠唯「っ......///」

楓「八潮さん?」

瑠唯「な、なんでもないわ。家まで送るわ。」

楓「あ、はい?(手は繋いだままなんだ?)」

 

 僕はそんな疑問を抱きつつ

 

 八潮さんと手を繋いだまま家に帰ることになった

__________________

 

 病院から家までは結構な距離がある

 

 でも、その間、八潮さんと僕に会話はなかった

 

 あまりの気まずさに変な汗が流れて来た

 

 八潮さんが何を考えてるのか分からない

 

 色は安定してないけど、表情は変わってない

 

瑠唯(......どうしましょう。衛宮君の手を握っていると動悸が激しくなって上手く頭が働かない。)

楓(ど、どうしよう。話す内容考えたけど、うまく話せない......)

 

 八潮さんと話したいことはたくさんある

 

 けど、なんでだろ、緊張して口が開かない

 

 いつもは普通に喋れるのに......

 

楓(何の緊張だろ、これ。)

瑠唯「......着いたわね。」

楓「え?あ、本当だ。」

 

 気づけば、もう家についていた

 

 まさか、無言のままここまで来るなんて

 

 そんな事あるの?

 

楓「じゃ、じゃあ、今日はもう帰って休みますね?」

瑠唯「えぇ......」

 

 八潮さんの声が沈んでる気がする

 

 どうしよう、全く理由が分からない

 

 て言うか、こういう八潮さんは珍しいな

 

楓「あの、八潮さん。」

瑠唯「どうしたの?」

楓「えっと、その......八潮さんと手を繋げて、すごく嬉しかったです。」

瑠唯「っ......!///」

楓「その、道路側に行かせない気づかいとか、見習うべき部分が多くて、いつか僕も八潮さんみたいになれたらって思いました!」

瑠唯「そ、そう///(あ、愛らしいわ......///)」

 

 いつか、八潮さんをエスコート......

 

 そんなかっこいい人間になりたい

 

 いや、出来るかな......

 

楓「だから、その、また手を繋ぎたいです!(あれ?)」

瑠唯「っ!?///......時間があれば、してもいいわ///」

楓「あ、ありがとうございます!(?)」

 

 なんだろ、言おうとしてた事からずれた

 

 完全に勢い余ったって感じだ

 

 まぁ、いいかな

 

 八潮さんの色も元気な色になったし

 

 表情も柔らかくなってるし

 

瑠唯「今日はここでお暇するわ。あなたはゆっくり休みなさい。」

楓「はい。」

 

 八潮さんはそう言って僕に背中を向け歩きだし

 

 数歩だけ歩いて、八潮さんはこっちに振り返った

 

楓「?」

瑠唯「また学校で会いましょう、衛宮君。」

楓「っ!!」

瑠唯「ごきげんよう。」

 

 八潮さんは優しく微笑みを浮かべそう言ってから歩いて行った

 

 それを見て、心臓は大きく跳ねた

 

 動悸がおさまらない......

 

 僕は咄嗟に自分の胸を抑えた

 

楓(な、なんだろ、これ......?体調不良......?)

 

 僕はそう思いながら家に入って

 

 体を休めるためにすぐに自室に向かった

 

 でも、八潮さんのあの表情を思い出すと何度もあの症状が起きて

 

 中々、落ち着いて休むことが出来なかった

 

 

 



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意識

 ゴールデンウィークが明けまして

 

 僕は久しぶりか久し振りじゃないか微妙な学校に来た

 

 今年は今までにないことが起きてるなぁ

 

 お友達が出来て、遊んで、それと倒れたりして

 

 これが高校デビューと言うものなのかな?

 

七深「__あ~、ごきげんよ~かえ君~。」

楓「うん、おはよう。」

七深「体調は良くなったみたいだね~。」

楓「うん、おかげさまで......で、そこで何してるの?」

 

 教室に入ると広町さんが声をかけて来た

 

 僕の体を気遣ってくれる辺り、すごく優しい

 

 けど、問題はいる場所なんだよ......

 

 だって、今、広町さんがいるの僕の席だもん......

 

七深「かえ君を感じてるんだよ~。」

楓「またそんなこと言って......」

七深「なんだか、かえ君の匂いがするよ~。」

楓「それはきっと机の素材の木の匂いだよ。」

 

 僕は苦笑いを浮かべながらそう言った

 

 広町さん、偶にこういう事してるんだよね

 

 なんだかおもしろいよね、変で

 

七深「あっ、どかないとね~。ごめんね~。」

楓「うん、別にいいよ。」

 

 広町さんは僕の席を立って自分の席に座り

 

 僕は自分の席に座った

 

 椅子に広町さんの体温が残ってる

 

 冬とか毎日座ってほしいな、暖かい

 

七深「そう言えば、あの日はるいるいと一緒に帰ってたけど、何かあった~?」

楓「えぇ!?な、なにも、なかったよ......?」

七深(......これは、何かあったね~。)

 

 広町さんなんてことを聞いてくるんだ

 

 ていうか、なんでこう勘がいいんだだろう

 

 これが特別な色を持ってる人なのか

 

瑠唯「__衛宮君はいるかしら。」

楓「っ!?」

七深「あっ、るいるいだ~。(噂をすれば~。)」

瑠唯「あら、そこにいたのね。」

 

 広町さんと話してると八潮さんが教室に入ってきて、こっちに歩いてきた

 

 な、なんてタイミングで来ちゃんだ

 

 噂をすれば何とやらって言うけど......

 

瑠唯「ごきげんよう、衛宮君、広町さん。」

七深「ごきげんよう~。」

楓「お、おはようございます。」

瑠唯「......?」

 

 どうしよう、目を合わせられない

 

 八潮さんを見たら動悸が激しくなる

 

 あの日からずっとこうだ

 

瑠唯「衛宮君の様子を見に来たのだけれど、大丈夫そうね。」

楓「は、はい。お陰様ですっかり元気で、こう......元気、ひゃ、100倍って感じです!(?)」

瑠唯「ふふっ、元気そうで良かったわ。」

七深(かえ君、すごくテンパってるね~。何があったのかな~。)

 

 八潮さん、笑ってる

 

 綺麗だし......すごく可愛い

 

 直視できない

 

瑠唯「顔が赤いけれど、どうかしたの?」

楓「な、ナンデモナイデス......」

瑠唯「そう(?)なら、私は生徒会があるから行くわ。」

楓「は、はい。」

瑠唯「えぇ。」

 

 八潮さんは僕に微笑みかけた後、教室から出て行った

 

 僕はそれを見送って、少し息をついた

 

 動悸がおさまらない、顔も熱い

 

 本当に何なんだろ、これ......

 

 ”七深”

 

七深(......これは~。)

 

 まさか、本気でヤバい?

 

 かえ君、完全にるいるいを意識してるよ

 

 マズいよ、猛烈にマズいよ

 

 このままじゃ、るいるいにかえ君を取られちゃう......

 

七深(......いや。)

 

 かえ君は絶対にまだ自覚してない

 

 だって、そんな顔してるもん

 

 だったら、今のうちに対策しないと

 

七深(よし、そうと決まれば......!)

 

 私は鞄から携帯を出し

 

 るいるい以外のバンドメンバーにメッセージを送って

 

 お昼休みに2人に隠れて集まることにした

__________________

 

 ”透子”

 

 午前の授業が終わった昼休み

 

 あたしはななみに呼ばれて空き教室に来た

 

 4つの机をくっ付けてて、なんか会議のみたいな雰囲気を出してる

 

透子「__で、なんであたしら呼ばれたわけ?」

つくし「衛宮君とるいさんいないけど、それが関係してるの?」

七深「そうだよ、その2人が大問題なんだよ!」

ましろ「ど、どうしたの......?」

七深「......かえ君が、るいるいをすごく意識してる。」

ましろ「っ!?」

透子「なにっ!?」

つくし「あの衛宮君が!?純粋で鈍感な衛宮君が!?」

 

 あたしはつい驚いた声を出した

 

 衛宮って異常なほど鈍感だし

 

 いや、でもさ......

 

透子「驚いたけど、別に良くね?」

七深「よくないよ!」

透子「えぇ......(困惑)」

七深「このままじゃ、かえ君が取られちゃうよ~!」

ましろ「そ、そうだよ!」

つくし「ましろちゃんまで......」

 

 シロまでなんか言い出したし......

 

 いや、どれくらい衛宮が好きかは知ってるけどさ

 

透子「冷静に考えてさ、あの2人、フラグ立ちまくってるじゃん。」

つくし「フラグ......?」

透子「......あっ」

七深、ましろ「?」

 

 自分の発言を思い出して気付いた

 

 フラグはルイ限定じゃないんだ

 

 なんでかって?それは......

 

透子(そうだ、ななみは幸せの鐘、シロは困った時に近くにいて、あの歌詞を書くキッカケになった......八潮に関しては命救うとか、衛宮......)

つくし(衛宮君......)

透子、つくし(なんでそんなにフラグ乱立させてるの?)

 

 あたしは頭を抱えた

 

 あいつ、無意識でそこまでするんだ

 

 主人公かよ......※主人公です

 

ましろ「な、何とかしないと......!」

七深「少しでもこっちに意識を向けられれば......」

透子「色仕掛けでもすればいいんじゃね?(思考放棄)」

七深、ましろ「!!///」

つくし「透子ちゃん!?」

 

 もう何か面倒になって適当に言っちゃった

 

 まぁでも、一番早いじゃん?

 

 衛宮は初心な奴だし、嫌でも反応するっしょ

 

七深「そ、そんなことしたら、はしたない子って思われそうだし......///」

ましろ「そんな風に思われたら......(い、色仕掛け?つまり、私の恥ずかしい姿を衛宮君に......///)」

透子「いや、そこは節操あるのか。」

つくし「当り前だよ!」

透子「名案だと思ったんだけどな~(適当だけど)」

 

 こいつら面倒くさいな

 

 日頃はあんなアピールするくせに意味わかんない所で奥手だし

 

 ほんと、衛宮は大変だよね

 

 まぁ、種まいたのあいつだけど

 

つくし「じゃ、じゃあ、いつもと少し違う姿を見せるのはどうかな!?髪型変えたり、ちょっとした小物付けてみたり!」

七深「お~!いいねそれ!」

ましろ「衛宮君、気付くかな......」

つくし「それは分からないけど、まぁ、何とかなるよ!(投げやり)」

透子「まぁ、これで気付かれなかったら好き以前に2人に興味ないって事じゃね?」

七深、ましろ「え......?」

つくし「と、透子ちゃん!」

透子「あ、ごめんごめん!冗談だって!」

 

 とは言っても、衛宮だったバカじゃないし

 

 明らかな変化があれば気付くと思う

 

 いやでも、あの鈍感さは筋金入りだしな......

 

七深「ま、まぁ、つーちゃんの案で行ってみよう。小物は私が作れるし。」

つくし「髪型は私が手伝うよ!」

ましろ「わ、私は......」

透子(って、ななみいないとき、衛宮どうしてんだろ?)

七深「とーこちゃん?どうしたの~?」

透子「いや、少し気になることがあってさ。」

七深、ましろ、つくし「?」

 

 3人は話しをやめてあたしの方を見てる

 

 そんな視線を感じて、あたしは気になったことを口に出した

 

透子「衛宮、今何してんだろって。」

七深「かえ君は中にはでお弁当食べるって出て行ったよ~?綺麗な景色を見ながら食べたいんだって!」

つくし「衛宮君も好きだよね~。」

透子「じゃあさ、そこの窓から見えたりするんじゃね?」

ましろ「そ、そうかも!(衛宮君!)」

七深「これは......(撮影用意)」

つくし「はやっ!?」

 

 ななみとシロは窓の方に駆け寄った

 

 あいつら衛宮ガチ勢すぎだろ

 

 あたしらにはよくわかんないな

 

七深、ましろ「っ!!?」

透子「ん?」

つくし「ど、どうしたの?」

ましろ「あ、あう、あああそこ......!」

七深「......あれ、なに......?」

透子「いやなんだよ。」

 

 あたしはそう言いながら窓の方に歩いた

 

 シロどころかななみまで動揺してる

 

 それほどのものがあるのかn__

 

透子「なにっ!?」

つくし「えぇ!?」

 

瑠唯『......』

楓『zzz......』

 

 窓の外を見るとそこには、ルイの肩に頭を乗せて穏やかな顔で寝てる衛宮の姿があった

 

 いや、何してんの?

 

 ルイはなんかすごい優しい表情してるし

 

 衛宮も安心しきって寝てるし

 

 いや、付き合ってんの?あいつら

 

透子「あ、あ~......まぁ、そう言う事もあるよね?」

つくし「ないよ!って、なにあれ、すごく可愛い!」

七深「......しろちゃん。」

ましろ「......うん。」

透子「?」

 

 衛宮たちの方を見てると、ななみがシロのことを呼んだ

 

 シロも何かを察した様に返事して

 

 ななみとめを見合わせてる

 

七深「明日、作戦決行だよ。」

ましろ「うん、早く何とかしないとね。」

七深「放課後、アトリエ行こ。色々準備するから。つーちゃんととーこちゃんもね。」

つくし「う、うん。」

透子「お、オッケー。」

 

 あたしはななみの圧に押され

 

 別にあの2人がくっ付いてもいいと思ってるのに

 

 それを許さない2人の手伝いをすることになった

__________________

 

 ”楓”

 

楓「ん、ん......?」

瑠唯「起きたわね。」

楓「あ、おはようございます。」

 

 目を覚ますと僕は八潮さんの肩に頭を乗せていた

 

 一瞬だけ状況が掴めなかったけど

 

 少しして、八潮さんとお喋りしてる途中、僕がウトウトしてたから八潮さんに寝るように言われた事を思い出した

 

楓「すいません、こんな時間まで。」

瑠唯「構わないわ。こんな陽気だもの。」

楓「!」

 

 八潮さんはまた、優しい笑顔を浮かべてる

 

 また、心臓が激しく動いてる

 

 これは、本当になんなんだ?

 

 もっと八潮さんを見たいのに目が勝手に逸れる

 

瑠唯「もうこんな時間ね。そろそろ教室に戻りましょう。」

楓「は、はい。」

 

 八潮さんはそう言いながらベンチから立ち上がった

 

 僕もそれに続いて立ち上がり、横に置いてあるお弁当箱を持った

 

 その時、僕はある事に気が付いた

 

楓「八潮さん?」

瑠唯「どうしたの?」

楓「少し、ジッとしていてください。」

瑠唯「っ......!///」

 

 僕は八潮さんの方辺りに手を伸ばし

 

 さっき気付いた、肩の後ろについてるあるものを取った

 

 これは、木の葉っぱかな?

 

楓「これが付いてたので。」

瑠唯「そ、そう///」

楓「どうかしましたか?」

瑠唯「な、なんでもないわ///」

 

 八潮さんはそう言って僕に背中を向けた

 

 そして、少しだけこっちを振り返り

 

 僕に話しかけて来た

 

瑠唯「楽しかったわ、衛宮君......///」

楓「!!」

瑠唯「そ、それじゃあ、また会いましょう///」

 

 八潮さんはそれだけ言って歩いて行った

 

 その時、僕の胸はさらに高鳴った

 

 あの表情にあの言葉......

 

 すごく、可愛い

 

楓(八潮さんは、かっこいい人なのに......)

 

 僕はそう思いながらその場を離れた

 

 教室に戻っても、授業を受けていても、

 

 僕の頭からは八潮さんのあの表情が離れなかった

 

 一体、僕はどうしたって言うんだ......?

 

 

 



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新しい見方

 朝、僕はいつも通り学校に来た

 

 けど、なんだか昨日今日とおかしい気がする

 

 まず、倉田さんが僕よりずっと早く家を出てた

 

 それと、毎晩10時くらいに来る広町さんからのチャットもなかった

 

楓(何かあったのかな。)

 

 昨日は別に何もなかったはずだけど

 

 もしかして、自主練習かな?

 

 空き教室はいつでも借りられるらしいし

 

楓「あれ?」

 

 2人の色に沿って歩いて行くと、B組に着いた

 

 真っ直ぐこの教室に来てるって事は自主練習じゃない

 

 けど、なんでこの教室に?

 

楓(まぁ、入ってみよう。)

 

 色々と疑問は残るけど

 

 迷っても仕方ないので僕は教室に入ることにした

__________________

 

七深「__あ、かえ君~。」

楓「ど、どうしたの?」

 

 教室に入ると広町さんが歩み寄ってきた

 

 いつも違って髪を下ろして、いつもより制服が着崩れてる

 

 それに、お化粧?もしてるのか唇がいつもより赤い気がして

 

 何と言うか、大人っぽい

 

七深「ふふっ、今日の広町はどうかな~?」

楓「制服ちゃんと着ないと八潮さんに怒られるよ?」

七深(そこっ!?さ、流石かえ君......今日は我ながら結構いけると思ったのに~!)

楓「?」

 

 広町さんがうなだれ始めた

 

 な、なんなんだろう?

 

 髪型弄ったり、お化粧したり

 

 うーん......わかんない

 

 まぁ、とりあえず鞄を席に__

 

楓「......?」

ましろ「......」

楓「あの。」

 

 自分の席に方に目を向けると、何故か倉田さんが机で突っ伏していた

 

 僕は試されているのだろうか?

 

 こういう時にどう反応するか......みたいな

 

楓「く、倉田さん?どうしたの?」

ましろ「......んっ。」

楓「?」

ましろ「......別に。」

 

 倉田さんは体を起こすとボソッと何かを呟いた

 

 そして、いつもより鋭い瞳を向けてきた

 

ましろ「べ、別に衛宮君の机で寝たいわけじゃないんだからね!///」

楓「え?」

ましろ「偶々、ここが衛宮君の席だっただけだもん!///別に、衛宮君を感じたいとか考えてないんだからね!///」

楓「うん、そうだよね?」

 

 倉田さん、なんで当り前のことを叫んでるんだろ?

 

 と言うより、机から感じるのは木の匂いだけだと思う

 

 でも、他の人の席じゃなくてよかった

 

 僕なら別に迷惑でもなんでもないし

 

楓「でも、寝るなら僕の席でよかったね?他の人の席だったら何を言われるか分からないし。」

ましろ「え、い、いや、そうじゃなくて......」

楓「疲れてるならもう少し寝てても良いよ?僕は立ってるから。」

ましろ「......(そうじゃ、ないのに......)」

楓「?」

 

 今度は倉田さんがうなだれてる

 

 この短時間で何かあったのかな?

 

 まぁ、多分、大丈夫だよね?

 

七深(ま、まさか、何の効果もないなんて。)

ましろ(が、頑張ったのに......衛宮君のバカ......)

楓「2人とも大丈夫?今日はなんだかおかしいけど、何かあった?」

ましろ(お、おかしい......)

七深(これは、失敗......)

楓「??」

 

 なんだろう、2人が落ち込んでる気がする

 

 本当にどうしたんだろうか

 

 女の人の気持ちはやっぱり分からないな

 

楓(あっ、そうだ。あの2人に聞いてみよう。)

 

 女の人の事は女の人に聞く

 

 僕はある2人にチャットを送り

 

 取り合えず、お昼休みに集まることにした

__________________

 

 お昼休みになり

 

 八潮さんに許可をもらった空き教室に桐ケ谷さんと二葉さんを呼んだ

 

 この2人なら話を聞きやすいし

 

楓「__と言う事なんだけど、何かわからないかな?」

透子、つくし「......」

 

 僕は2人に朝の事を話した

 

 すると、2人は無言のままうつむき

 

 少しばかり難しい顔をしてる

 

透子(あ、あいつら、恋愛下手か?)

つくし(そんな、どこかの漫画で見たようなことするなんて......)

楓「2人は何か悩んでるのかな?」

透子「まぁ......」

つくし「そう言えなくもないかもね。」

楓「やっぱり。」

 

 2人は何かを悩んでたんだ

 

 だから、朝みたいなことを

 

楓「どうしたのかな?そんなに思い悩んでるなら、何か力になれないかな?」

透子(お前のせいだよ!......とか、言えないよね。)

つくし(なんであんなにあからさまなのに気づかないの?)

 

 悩み、か

 

 僕にもないことはないけど

 

 女の人の悩みは複雑だって聞くし

 

透子「まぁ、あいつらの悩みに心当たりはあるな。」

楓「そうなんですか?」

透子「まぁ、さっきの話を聞いた予想なんだけどねー。」

つくし(ま、まさか、透子ちゃん!)

 

 桐ケ谷さんは何かを知ってるみたいだ

 

 流行りなどに敏感な人だし、きっと信頼度の高い情報だ

 

 これはしっかり聞かないといけn__

 

透子「__2人とも、衛宮のこと好きなんじゃね?」

楓「......え?」

つくし(い、言ったー!)

透子「だってそうじゃね?朝の事も、衛宮に構ってほしかっただけだと思うし。」

楓「え、え?いや、そんな事は......」

つくし(き、効いてる!?)

 

 あの2人が僕を?

 

 いや、ありえない

 

 だって、そんな素振り無いし(※あります)

 

 そもそも、あんな可愛い人たちが......

 

楓「ぼ、僕なんて何の取柄もないし、2人みたいな人がそんなのありえないよ!」

透子「いやいや、優しさも取柄っしょ。八潮みたいな血も涙もない奴もいるんだし。」

楓「八潮さんは優しいよ?今日だって、この教室の使用許可は八潮さんが出してくれたし。」

つくし(それは衛宮君限定だよ!他の生徒にはこれでもかってくらい冷たいよ!?)

透子「まぁ、それはいいんだって。それで、どうなの?あの2人。」

 

 桐ケ谷さんは僕にそう言ってきた

 

 どうなのって言われても......

 

 あの2人は友達だし、僕を好きだって言うのは早計過ぎる

 

 でも、桐ケ谷さんの言う事だし......

 

透子「シロとななみ、可愛いっしょ?」

楓「ま、まぁ。」

透子「衛宮はそんな2人が近くにいて何にも思わないわけ?」

つくし(せ、攻めるね、透子ちゃん。)

楓「可愛いとは思うよ?でも、それはきっと誰だってそう思うし......」

 

 あの2人が可愛いのは一般論だと思うし

 

 僕がそう思うのも当然......それに

 

楓「可愛いって意味では、桐ケ谷さんも二葉さんも当てはまるし......」

透子、つくし「!」

楓「?」

 

 僕がそう言うと2人は喋らなくなった

 

 あれ、どうしたんだろう?

 

透子(じゅ、純粋さが眩しい......!!)

つくし(一番かわいいのは衛宮君だよ!!......弟にしたい。)

透子「ま、まぁ、衛宮がどう思うかは勝手だけどさ。」

楓「?」

透子「ちょっと、あの2人のこと意識して見れば?」

楓「意識......」

 

 僕はそう小さく呟いた

 

 今の所、手がかりはそれだけ

 

 だったら、試してみるしかない

 

 この話し合いの結論はこう落ち着き

 

 お昼休みの時間は過ぎていった

__________________

 

 放課後、今日はアトリエでバンド練習の日だ

 

 一応、マネージャー的な立ち位置の僕もアトリエに来てる

 

 けど......

 

七深「__かーえ君♪」

楓「!!」

ましろ「あ、朝はごめんね......?」

楓「い、いいよ。」

 

 いざ、桐ケ谷さんが言うように意識してみると

 

 本当に好きなんじゃないかって勘違いしてしまう

 

 2人とも、すごく距離が近いし

 

 なんだか他の人と態度が違う気がする

 

七深「どうしたの~?」

楓「い、いや、なんでもないよ。」

瑠唯「そうかしら?なんだか汗の量が凄いけれど。」

ましろ「だ、大丈夫......?」

 

 な、なんでだろう

 

 今までと2人の見え方が違う

 

 なんだか、八潮さんと似た感じ

 

 だけど、少しだけ違う感じもする

 

七深「ほ、ほら~!買っておいた桃缶だよ~!」

ましろ「ね、寝た方がいいんじゃ......」

楓「だ、大丈夫だよ。」

瑠唯「無理はいけないわ。」

楓「っ!!」

 

 八潮さんは僕の額に手を置いた

 

 これは、熱を測ってるんだ

 

 だって、ここに体温計ないもんね?

 

 分かってる、分かってるんだ......

 

楓(なのに、なんで動悸がおさまらないんだ......)

 

透子(なんか、面白くなったな。)

つくし(なんだろう、このニヤニヤしながら見守りたくなる気持ち......)

 

瑠唯「す、すごい熱だわ。早く寝なさい。車を出すわ。」

七深「わ、私!濡れタオル持って来る!」

ましろ「ほ、ほら、そこのソファに!」

楓「だ、大丈夫だから、少し落ち着かせてっ!」

 

 意識してみると確かに見え方は変わった

 

 なんだか、今まで以上に可愛く見えるし桐ケ谷さんが言った通りにも見える

 

 けど、まだ勘違いの可能性は捨てられない

 

 これは、経過観察が必要だと思う

 

楓(でも......)

瑠唯「?」

 

 やっぱり、八潮さんだけ見え方が違う

 

 2人への意識が足りないのだろうか?

 

 これは、僕には全く分からない

 

 

 



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風邪

 5月の下旬は少し苦手だ

 

 僕は気候の変化にあまり強くなくて

 

 季節の変わり目には体調を崩すことも多い

 

楓「__こほ......こほ......っ」

 

 それは今年も例外ではなく

 

 僕はさっそく熱を出してしまった

 

 毎年こうなんだよね......

 

 5月くらいになって風邪をひいて

 

 それで僕が休んでる間に人間関係が完成する

 

 これが僕に友達が出来ない理由の1つだった

 

楓(う、うーん......今日は流石にお休みかな......)

 

 正直、学校を休むのは嫌だけど

 

 無理に言って移してもだし

 

 今日は、大人しく寝よう

 

 僕はそんな事を思い

 

 母さんに学校に連絡してもらった後

 

 布団に入って眠った

__________________

 

 ”月ノ森学園”

 

 月ノ森学園の中庭

 

 そこにある1つのベンチに七深達5人が集まっていた

 

 だが、その空気は決して良いものではなく

 

 むしろ、どこか重苦しい空気が流れていた

 

七深「__かえ君が、風邪ひいた......」

 

 七深は低い声でそう言った

 

 それを聞いて、まずは透子が反応した

 

透子「衛宮が風邪ひくのって、割と珍しくなくね?」

つくし「確かに、あんまり体が強いイメージはないね?」

七深「そう言う事じゃないよ~!」

ましろ「そうだよ!大変なことだよ!」

透子「風邪だろ?そんな大げさに......」

瑠唯「風邪は万病のもとよ。桐ケ谷さん、あなた、衛宮君を軽んじてるわね?」

透子「いや、そんな事ないんだけど......」

 

 透子は瑠唯のあまりの圧にたじろいだ

 

 横にいるつくしも怖がってる辺り

 

 今の瑠唯はかなり怖かったようだ

 

七深「これは、お見舞いに行くしかないよ!」

瑠唯「最高級の桃缶を用意しましょう。水分も必要ね。それと、熱が下がった時用の画集も。」

ましろ「私も、何か体にいいもの持っていく!」

 

 3人はそう言いながら立ち上がり

 

 今までにないほど気合を入れていた

 

 そんな姿を見て、残りの2人はため息をついた

 

透子(ゆっくり寝かせてやれよ......)

つくし(衛宮君、優しいから何も言わないと思うけど、普通に迷惑なんじゃ......)

七深「そうと決まれば授業なんてどうでもいいよ!今すぐ準備を__」

透子「いや、授業はちゃんと受けろし!!」

 

 透子はどこかに行こうとする3人に向かってそう叫び

 

 引き留めた後、教室に強制連行した

__________________

 

 ”楓”

 

 目を覚ますと、僕は机に突っ伏して眠っていた

 

 あれ、ベッドで寝てたはずなのに

 

 なんで、僕はこんな所で寝てるんだろう?

 

「__衛宮様?お時間ですよ。」

楓「......ん?」

 

 顔を上げると

 

 そこにはスーツを着た女性が立っていた

 

 誰だろう、この人

 

楓「あの、時間って......?」

「何って、本日は奥様との結婚式ではないですか。」

楓「......え?結婚式?」

「はい?」

 

 それを聞いて、僕は大きく目を見開いた

 

 あれ、僕って高校1年生じゃなかったっけ?

 

 いつの間に結婚できる年齢になったの?

 

楓(ど、どういう事だ?まさか、寝てる間に少なくとも3年以上経ったの?)

 

 って、そんなわけないか

 

 そもそも寝てる場所が違うんだし

 

 じゃあ、これは......夢?

 

楓(いや、絶対に夢だ。)

「?」

 

 なぜ、こう言い切れるのかと言うと

 

 今、目の前にいる人の色開見えないから

 

 夢じゃ、基本的に知らない人の色は見えない

 

 一度でも面識があれば見えるんだけどね

 

楓(じゃあ、流れに従うのが吉かな?)

「あの、衛宮様?」

楓「あ、はい。今行きます。」

 

 僕はそう言って椅子から立ち上がり

 

 なんとなく、夢の流れに沿って部屋を出た

__________________

 

 この建物は凄く豪華だった

 

 まるで昔、画集で見た教会......と言うか、教会そのものだ

 

 こういう景色も良い

 

 何と言うか、神秘的な感じがして

 

楓(このドアかな?)

 

 暫く建物の中を歩くと大きな扉の前にたどり着いた

 

 木目が綺麗な、どこか高級感のある扉

 

 昔、親戚の結婚式に行った時もこんなのあったっけ?

 

 確か、この夢は結婚式らしいし

 

楓(そう言えば、相手は誰なんだろう?)

 

 結婚って事は、勿論相手がいる

 

 うーん......誰なんだろう?

 

 心当たりのある人がいない(※います)

 

楓(僕の身近な人だと、あの5人の誰かかな?)

 

 僕はそんな事を考えながら扉に手を置いた

 

 ちょっとした好奇心

 

 単純に相手が気になってきた

 

楓(誰がいるかな__)

 

 僕は勢いよく扉を押した

 

 扉は音を立てながらゆっくり開き

 

 少し開いた隙間から白い光が差し込んできて

 

 僕は目を細めた

 

楓「だ、誰......?」

?「__楓君。」

楓「!!(こんな時に!)」

 

 扉を開けた瞬間、周りの景色が白くなっていった

 

 こんな時に、目が覚めて来た

 

 これが、夢は良い所で覚めるって事か......

 

楓(何色なんだ、あれは?いろんな色が混ざってて、判別が出来な__)

 

 僕は謎の浮遊感を感じつつ

 

 周りの景色は白く染まって行き

 

 最後にはすべて真っ白になった

__________________

 

楓「__ん......っ?」

 

 目を覚ますと、今度こそ僕の部屋だった

 

 窓の方を見ると、もう外が赤い

 

 少なくとも8時間以上寝たのか......

 

透子「あ、起きた?」

楓「え?桐ケ谷さん?」

透子「よっ、衛宮。」

 

 なんで、桐ケ谷さんがここに?

 

 最近、すごく人が来るようになったね

 

 まぁ、異性であることは多少問題だけど......

 

楓「な、なんでここに?」

透子「見舞いだよ......3バカの代わりに。」

楓「お見舞?(3バカ?)」

 

 なんだか、色々と気になる単語が出た

 

 3バカって何なんだろう?

 

 基本的にみんな賢いんだけど(そうじゃない)

 

透子「熱下がった?お母さん、ずっと寝てるって言ってたし、お腹すいてたりとかしない?」

楓「熱は下がってる、かな?食欲はまだあんまりないけど......」

透子「そっか。でも、何か腹に入れた方がいいよ?」

楓「?」

 

 桐ケ谷さんはそう言って持ってる袋を漁り

 

 その中からモモの絵がプリントされた感を出した

 

 あれ、桃缶かな?

 

透子「これはルイから。」

楓「八潮さんからですか?」

透子「うん、少しくらい食べな。」

 

 桐ケ谷さんはそう言って缶を開け

 

 フォークと一緒にそれを渡して来た

 

 まぁ、食べないのは申し訳ないし、食べよう

 

 僕はそう思い、桃を一つ口に入れた

 

楓「あ、美味しい。」

透子「そっか、よかったね。」

楓「また、お礼しないと。」

 

 僕は桃を食べ進めた

 

 本当に美味しい

 

 桃缶なんて、何年ぶりに食べるだろう

 

 多分、小学生の時以来かな?

 

 僕はそんな事を考えながら桃を無心で食べた

 

 ”透子”

 

 少し、気になってることがある

 

 短い間だけど、衛宮とは結構一緒にいた

 

 それで思ったことがある

 

透子「衛宮ってさ、結構体調崩したりするよね?」

楓「まぁ、体が強いほうではないので。」

透子「じゃあ、なんであんなに無理するの?」

 

 あたしは衛宮にそう尋ねた

 

 だって、自分でも強いほうじゃないって言ってるのに、徹夜したりするんだよ?

 

 どう考えても変じゃん?

 

楓「それは、後悔のないように生きたいからです。」

透子「後悔?」

楓「その時その時に全力を尽くせない人間は、いつまで経っても何もできない......僕はそう思ってるんです。だから、何も出来なくならないように、全力で生きたいんです。」

透子「......ふーん。」

 

 衛宮は、決してたくましいとは言えない

 

 けど、意思の強さは誰よりもすごい

 

 こんな風に生きるのって難しいのに

 

 衛宮にはこれが普通なんだ

 

楓「でも、それで体を壊したら元も子もないですよね。アハハ......」

透子「いーや、いいんじゃね?」

楓「?」

透子「身体が健康で意志が弱い人間なんていくらでもいるし、そんなのに比べたら、衛宮は十分立派だよ。」

 

 勿論、この言葉は本心

 

 いくら月ノ森って言っても衛宮みたいなのはいない

 

 むしろ、異端まである

 

楓「でも、男なら強い体には憧れますよ。体が強くて損することなんて無いので。」

透子「まっ、体調崩しまくるのは嫌だよね!」

楓「全くです......」

 

 衛宮はそう言いながら肩を落とした

 

 ほんと、男なのに可愛いわ~

 

 何と言うか、年が離れた弟みたい

 

透子「じゃあ、そろそろ帰るわ!早く元気になれよ!ルイにシロにななみ、ついでにあたしとふーすけも待ってるからさ!」

楓「はい、ありがとうございました。」

透子「うん!お大事にー!」

 

 桐ケ谷さんは元気に部屋を出て行った

 

 今日は寝てばっかりだったし、楽しかった

 

 桐ケ谷さんと話すのはやっぱり楽しいな

 

 これが、話すのが上手い人、なのかな

 

 僕はそんな事を考えながら枕もとの携帯を見た

 

楓「わっ!広町さんたちからチャット来てる!返さないと!」

 

 僕はそう言って携帯を持ってチャットを返した

 

 その後はもう少しだけ眠って

 

 夜の8時くらいには熱が下がった

 

 これが、夏風邪を引いた日の1日だった

 

 

 



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二人のお昼休み

 熱が引いて、今日は学校に復帰だ

 

 1日休んじゃったのはかなり痛い

 

 けど、何より楽しい日々がまた始まるんだ

 

 今の僕はそっちを楽しいと思う気持ちが強い

 

 なんだか、不思議な感覚だ

 

楓(皆、元気かな?1日だけど。)

 

 広町さんはチャットの数が凄かったし

 

 倉田さんは画面越しに哀愁漂ってたし

 

 八潮さんは体温とか状態を聞かれた

 

 こうして考えると、すごく元気そうだね

 

 僕はそんな事を考えながら教室のドアを開けた

 

七深「__かえ君~!!」

楓「わっ!ひ、広町さん!?」

七深「心配したよ~!」

ましろ「な、ななみちゃん!ずるい!」

楓「ど、どうしたの?」

 

 教室に入った瞬間

 

 広町さんが飛びついてきた

 

 僕が転ばない程度に加減してる辺り、この行動が理性的なことが分かる

 

 でも、なんで?

 

七深「心配が行動に出てるんだよ~!」

ましろ「わ、私も......!}

楓「ま、待って、僕じゃ2人も支えられないよ!」

 

 復帰早々、騒がしい

 

 けど、元気そうで何よりだ

 

 女の子に抱き着かれるのも、悪い気はしないし

 

 でも2人は無理かな

 

 僕にそんな筋力は備わってないし

 

透子「朝から何やってんの?たくっ。」

楓「あ、桐ケ谷さん!昨日はありがとう!」

透子「あー、いいっていいって。あたしは桃缶持っていっただけだし。」

ましろ「と、透子ちゃん!」

七深「なんでかえ君のポイント稼いでるの~!」

透子「言いがかりにもほどがあるでしょ!」

 

 桐ケ谷さんは溜息を付きながらそう言った

 

 って、ポイント?そんなのあるの?

 

 いつからそんな制度が......

 

ましろ「ほんとに......?」

透子「ほんともほんとだって。な、衛宮?」

楓「そうですね。」

 

 桐ケ谷さんが面倒くさそうな顔でそう聞いてきたので、僕はそれに頷いた

 

 なんで、2人とも焦ってるんだろう?

 

 色を見た感じ、財布を落とした時くらい焦ってる

 

ましろ「え、衛宮君がそう言うなら......」

七深「かえ君が言うならほんとみたいだね~。」 

透子(あたしへの信頼、無さすぎじゃね?)

楓「そう言えば、八潮さんと二葉さんは?」

透子「八潮は生徒会で、二葉は寝坊。」

楓「二葉さん、大丈夫なんですか?」

 

 二葉さんが寝坊って珍しい

 

 疲れちゃってるのかな?

 

 バンドのリーダーもしてるし、負担があるのかな?

 

 だとしたら、手伝えることは手伝って行かないと

 

透子「まぁ、大丈夫っしょ。(ただドジってるだけだし。)」

楓「そうですか?」

七深「そうそう~。かえ君は広町に構ってたらいいんだよ~。」

ましろ「ず、ずるい!私も!」

楓「あ、あの、普通にお喋りじゃ駄目なのかな?」

 

 その後、僕はなんとか席に着き

 

 しばらく広町さんたちとお喋りをしたりしてた

 

 1日しか間が空いてなかったけど

 

 やっぱり、広町さんや倉田さんと話すのは楽しく感じた

__________________

 

 午前の授業を終えて、お昼休み

 

 今日、僕は1人で中庭でご飯だ

 

 広町さんは先生に呼ばれて職員室

 

 倉田さんと二葉さんはお手伝い

 

 桐ケ谷さんはクラスの人たちと食べてる

 

楓(うーん。)

 

 ほとんど誰かとお昼ご飯を食べてたし

 

 1人と言うのは結構寂しく感じる

 

 そう言えば、今日、八潮さんに会ってない

 

 本来は僕なんかが関われない高嶺の花のような人なんだけど

 

 会いたいって......そう思う

 

楓(八潮さんが来てくれたりしないかな?前みたいに。)

瑠唯「__あら、衛宮君。」

楓「あ、八潮さん!」

瑠唯「体調はいいみたいね。安心したわ。」

楓「はい!お陰様で、もう元気です!」

 

 八潮さんの事を考えてたら、来た

 

 なんだろう、すごく嬉しい

 

 そして、心臓が破裂しそうなくらい動いてる

 

瑠唯「広町さんと一緒ではないのね。」

楓「はい、先生に呼ばれて。」

瑠唯「そう。なら、一緒に食べましょうか。」

 

 八潮さんはそう言って僕の横に座った

 

 風邪で靡いた髪から爽やかな良い匂いがする

 

 女の人って、皆良い匂いがする

 

 高校生になって、初めて気づいた

 

楓、瑠唯「......」

 

 一緒にお昼ご飯を食べるのは良い

 

 でも、僕たちの間には会話が少ない

 

 八潮さんは元から口数が多い人じゃないし

 

 僕も、なんだか緊張して話せない

 

 けど、それも少し心地いいと思ってしまう

 

 僕は、少し変なんだろうか?

 

 ”瑠唯”

 

瑠唯(......何を話せばいいのかしら。)

 

 衛宮君の横に座って5分

 

 私はずっと、そのことを考えている

 

 共通の話題が少ない、私自身が不愛想

 

 そんな要素が重なって、一向に口を開けない

 

 今までの自分の行いを呪いたいわ......

 

瑠唯(彼は......)

楓「~♪」

瑠唯(......今日も可愛いらしわ///)

 

 会話はない

 

 だけれど、横を見れば彼がいる

 

 嬉しそうに鼻歌を歌う姿は愛らしい以外の言葉では言い表せない

 

瑠唯「それは、私達が練習している曲ね。」

楓「あ、分かりましたか?何回も聞いて頭に残っちゃって。」

瑠唯「素晴らしい鼻歌だったわ。才能があるんじゃないかしら?」

楓「あはは、ないですよ。」

瑠唯(......そうかしら。)

 

 歌を歌う衛宮君を想像する

 

 きっと、プロのような洗礼された動きは出来ない

 

 けれど、必死に頑張る、健気な姿を見せてくれるはず

 

 それはきっと、多くに人を引き付けると私は思う

 

楓「僕は、バンドみたいな激しいことは出来ないので。」

瑠唯「そう。(......?)」

楓「なので、八潮さんたちが演奏してるのを見るので満足です。」

 

 なにかしら、この違和感は

 

 バンドをする性格じゃない

 

 そう捉える言葉のはずなのに......どこか、違和感がある

 

瑠唯「......じゃあ、私はあなたの期待に答える演奏をしないといけないわね。」

楓「今でも、八潮さんのバイオリンは素敵ですよ。かっこいいし、綺麗です。」

瑠唯「......そうっ///」

楓「過去に月ノ森音楽祭で演奏したと聞いたことがあるので、いつか聴いてみたいです。」

 

 彼の頼みは断れない

 

 恋愛において、先に好きになった方が負け

 

 そう言う事を言ってる人がいた気がする

 

 けど、今はまさにそう思う

 

 だって、自分自身がその状況なんだもの

 

瑠唯「いつでも聴かせるわ。2人なら。」

楓「そうですか?じゃあ、楽しみにしてます!」

瑠唯「......っ///(ま、眩しいわ......///)」

 

 本当に敵わない

 

 私が私じゃなくなっていく

 

 けれど、不思議と不快に感じない

 

 むしろ、変えられるのが悪くないとすら思ってしまう

 

瑠唯「......衛宮君。」

楓「はい?」

瑠唯「その......あなたが交際する女性に求める条件、と言うものはあるのかしら?」

楓「え?」

瑠唯「......」

 

 なんてことを聞いてしまったんだろう

 

 こんな事を言うなんて、暗にあなたが好きですと伝えるのと同義

 

 これでは......

 

楓「相手に求める条件......」

瑠唯「......(そうだったわ。)」

 

 彼は、鈍感とよく言われている

 

 その事を今思い出した

 

 助かったわ

 

楓「その、この人だ、って思わせてくれることでしょうか。」

瑠唯「?」

楓「この人じゃないといけないって、思える人といるのが、1番幸せなんだと思います。」

 

 彼は迷いのない目でそう言う

 

 少し、分かる気がする

 

 私も、彼に対して似た感情を抱いてる

 

 彼でなければ、受け入れられる気がしないもの

 

楓「あ、で、でも、僕がその人に釣り合わない可能性の方がはるかに高いので、努力しないとですね!」

瑠唯「そうかしら。あなたは十分__」

楓「?」

瑠唯「なんでもないわ。」

 

 あなたは十分、素敵な人間よ

 

 そんな言葉、とても口には出せない

 

 口に出せば、私はどうにかなってしまう

 

 羞恥心とは、厄介なものね

 

楓「八潮さんはどうなんですか?」

瑠唯「どう、とはどういう事かしら?」

楓「その、相手に求める条件とかです!」

瑠唯「私の、相手に求める条件......」

 

 衛宮君の質問の後、少し考える

 

 なぜ、私は彼に好意を抱いているのか

 

 助けられたことが理由なのは分かっているけれど

 

 それをあえて言語化するなら......

 

瑠唯「......あなたのように、強く優しい心を持った、愛嬌のある男性、かしら。」

楓「え......?」

瑠唯「っ!///ご、ごめんなさい、そういうつもりでは......///」

楓「わ、わわ分かってます!!(び、ビックリした......)」

 

 無意識のうちに言葉が出てしまった

 

 彼も焦っている

 

 いつもならこんなことはないというのに

 

楓「ぼ、僕は教室に戻りますね!!あの、そろそろお昼休みも終わりなので!!」

瑠唯「あっ......」

 

 彼は早口でそう言い

 

 走って教室の方に行ってしまった

 

 真っ赤な顔をした彼はやはり愛らしかった

 

 けれど......今の私と大差ないわね

 

瑠唯「......教室に戻らないと。彼の言う通り、もう時間だわ。」

 

 どうしましょう

 

 今の顔の紅潮と激しい動悸......

 

 これらは教室に戻るまでに収まるかしら?

 

 戻ってくれないと困るわ、だって

 

 ......こんな姿、他には見せられないもの

 

 

 



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相合傘

 今日は雨だ

 

 と言っても、ゲリラ豪雨で

 

 朝は快晴そのものだった

 

 だから、結構、傘を持ってない人がいる

 

楓(それにしても、風も雨も強いなー。)

 

 僕は雨に濡れたりできない

 

 だから、この時期は毎日傘を持ち歩いてる

 

 けど、風が強すぎて傘が飛ばされそうだ

 

 僕、筋力が絶望的にないし

 

楓「ん?」

ましろ「ど、どうしよう......」

 

 下駄箱で靴を履き替えると

 

 困ったような顔をしてる倉田さんがいた

 

 あんなところでどうしたんだろう?

 

楓「倉田さん?」

ましろ「あ、衛宮君......」

楓「どうしたの?困ってるみたいだけど。」

ましろ「帰れそうにないから困ってて......」

楓「あー、朝は晴れてたし、傘を持ってないとか?」

ましろ「ううん、違うの。」

 

 倉田さんは首を横に振った

 

 じゃあ、どうしたんだろう?

 

ましろ「その、持ってた折り畳み傘が......」

楓「え?」

ましろ「風で思いキリ折れちゃって......」

楓(あ、圧倒的不幸体質......!)

 

 もう、悲しいにもほどがある

 

 なんであんな無残な壊れ方をするんだ......

 

 誰かが仕組んでるとしか思えない

 

楓(この風じゃ、傘はどうやっても壊れちゃいそうだし......)

 

 今日の練習は天候的になしになって

 

 広町さんも八潮さんもさっきから見当たらない

 

 もう車を呼んで帰っちゃったのかな?

 

楓「あ、そうだ。」

ましろ「?」

楓「風が収まって来るまで、少し話さない?」

ましろ「え......!?///」

楓「僕、非力だからこの風の中で傘をさせないし。」

ましろ(卑屈な衛宮君、可愛い......///)

 

 風さえ収まれば僕の傘を使えるし

 

 倉田さんとは話せることも多いし

 

 暇をつぶすならちょうどいいかな

 

 ”ましろ”

 

 衛宮君が、一緒にいてくれる

 

 な、何の話をしよう

 

 折角だし、話したいことなんてたくさんあるし

 

 気になる事、いっぱいあるんだもん

 

楓「何の話しようか?」

ましろ「え、えっと......」

 

 好きな人とか聞きたいな

 

 いや、いないと思うけど

 

 どうせ、『今関わってくれる皆が好き』とか言うし

 

ましろ「衛宮君って、好きな人とかいないの?」

楓「え?」

 

 でも、聞いちゃうんだよね

 

 いやだって、気になるもん

 

 これでもしいて、私なら......

 

楓「好き?」

ましろ「こう、恋愛的に、彼女にしたいなとか、この子が可愛いなとか!」

楓「うーん......」

ましろ(......あれ?)

 

 衛宮君、真剣に考えてる?

 

 まさか、本当にいるの!?

 

 冗談だったのに!?

 

ましろ「えええ衛宮君、好きな人いるの!?」

楓「え?いないよ?」

ましろ(え?じゃあ何をそんなに悩んで......?)

 

 いなかったことは良かったような悪かったようなだけど

 

 何を考えてたのか気になる

 

楓「でも、少し、考えたことがあって。」

ましろ「?」

楓「倉田さんに質問していい?」

ましろ「うん、いいよ?」

 

 私は軽く頷いた

 

 真剣な表情の衛宮君

 

 こういう表情、初めてかも

 

楓「好きな人がいて、もし、明日死ぬって言われたら、倉田さんは好きな人に思いを伝える?」

ましろ「え?」

 

 私はポカンと口を開けてしまった

 

 冗談とか、そんな感じじゃない

 

 本当にそれは自分であるかのように言ってる

 

 これは、真剣に答えないと

 

ましろ「私なら、伝えたいって思う、かな。その人に少しでも覚えててもらいたいし......明日死ぬなら、悪口言われても気にならないし。」

楓「あはは、倉田さんらしい答えだね。」

 

 衛宮君はそう言って笑ってる

 

 正直、私は笑えない

 

 もし、衛宮君の事なら、私......

 

ましろ「え、衛宮君は病気だったりしない......?」

楓「え?」

ましろ「だ、だから、そんな質問......」

楓「ち、違うよ?昨日、広町さんに呼んでって言われた恋愛小説でそう言う描写があったから、興味本位で。」

ましろ「__え?」

 

 ななみちゃん何してるの......

 

 今、私、死んじゃうくらい焦ったんだけど

 

 もう......

 

楓「?」

ましろ「あ、な、なんでもないよ......」

楓「うん?」

 

 衛宮君、ななみちゃんを信じすぎだよ

 

 そう言う所も可愛いんだけど

 

楓「あ、風が少しだけましになってきたね。」

ましろ「あ、ほんとだ。」

楓「今のうちに帰ろう。」

ましろ「え、そう言えば、どうやって?」

楓「一緒に入るんだよ?家も隣だし。」

ましろ「!?///」

 

 え、え、嘘......?

 

 つまり、これって、あの

 

 所謂、相合傘って事!?

 

楓「行こ、倉田さん!」

ましろ「あ、う、うん......///」

楓「?(どうしたんだろ?)」

 

 正直、すごく恥ずかしい

 

 けど、これは千載一遇のチャンス

 

 2人に負けないために、ここでアピールしないと

__________________

 

 ”楓”

 

 僕と倉田さんは一緒に下校してる

 

 雨も風もほどほどにおさまってきて

 

 帰るなら、このタイミング以外ない

 

楓「倉田さん、こっちに行って。」

ましろ「え、うん?」

 

 僕は倉田さんを歩道側にした

 

 この間、八潮さんが僕にしてくれたこと

 

 カッコよかったから真似をしてみたけど

 

 あの、自然さは出せない

 

ましろ(そ、そっか、こんな感じのことどこかで見たような///)

楓(うーん、八潮さん、なんであんなにかっこいいんだろう。)

 

 紳士......いや、淑女?

 

 ああいう風にするのは難しい

 

 こう、身に沁みついた仕草って言うのかな?

 

ましろ「__!」

楓「どうしたの?」

ましろ(え、衛宮君、体半分出てる!)

 

 倉田さんは慌てたような顔をしてる

 

 割といつも通りな事だけど

 

 なんで、この状況で?

 

ましろ「(こ、これしかない!///)え、衛宮君!///」

楓「どうしたの__!?」

ましろ「えっと、これなら、衛宮君も全部入れるし......///」

 

 倉田さんは僕に抱き着いてきた

 

 確かに、これなら全部入れる

 

 そう、なんだけど......

 

楓(や、柔らかい、ほわほわ......)

 

 その、倉田さんの......あれが当たってる

 

 まずい、非常にマズい

 

 倉田さんは善意でしてくれてるのに

 

 僕がこんな邪な事を考えたらダメだ

 

楓「そ、そそそうだね!これで行こう!うん!ありがとうね倉田さん!」

ましろ「う、うん///(意識してる......のかな?///)

 

 それから、僕と倉田さんはしばらく歩いた

 

 その間、色んな事に気を取られて

 

 もう、本当に邪念を振り払うのが大変だった

 

 でも、なんとか、頑張って、家までこぎつけた

 

楓、ましろ(__や、やっと、ここまで来た。)

 

 倉田さんも恥ずかしがってる

 

 あと少し

 

 ここで僕が態度に出したら駄目だ

 

 倉田さんに恥を掻かせるなんて許されない

 

 親切には誠意で貸せないと

 

楓「つ、着いたね。」

ましろ「う、うん......///」

楓「きょ、今日はお疲れ様。」

 

 僕は倉田さんをドアの前まで送り届け

 

 そう声をかけ家に戻ろうと後ろを向いた

 

 今日はもう、すぐに寝よう

 

 煩悩を払わないと

 

ましろ「え、衛宮君!///」

楓「ど、どうしたの?」

ましろ「あの、また、相合傘しようね......?///」

楓「っ!......き、機会があれば、是非。」

ましろ「~!///」

楓「じゃあ、また明日!」

 

 僕はそう言って軽く手を振り家に帰った

 

 と、取り合えず、今日の事はお互いのために忘れよう

 

 そうしないと、明日、倉田さんと目を合わせられない

 

 

 



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面倒くさい

 6月に入って1週間ほど経った

 

 梅雨も本気を出してきて

 

 ここのところは毎日が雨

 

 八潮さんも楽器を持ち歩きたくないと言ってた

 

 やっぱり、楽器を持ってる人って大変なんだ

 

透子「__えーみやっ!なーに見てんの!」

楓「広町さんに読んでって言われた雑誌を読んでるんだ。」

ましろ「!(また、この流れ?今回は何だろう?)」

瑠唯「随分、華やかな表紙だけれど?」

つくし「なんて雑誌?」

楓「えっと、これです!」

ましろ、瑠唯、透子、つくし「!?」

楓「?」

 

 僕が呼んでる雑誌を見せると

 

 何故か、八潮さんたちが硬直した

 

 どうしたんだろう?

 

 確かに、よく分からない内容の雑誌だけど

 

つくし(ゼ、ゼ〇シィ!?)

透子(ななみ、そこまでするか......)

瑠唯「......広町さん?」

ましろ「......ななみちゃん?」

七深「いや~、流石に分かると思ったけど、まさか素直に読むなんてね~。」

透子(う、うーん、一概にななみが悪いって言えない。)

つくし(これは流石に......)

楓「?」

 

 なんだろう、すごく見られてる

 

 この本、そんなにおかしいのかな?

 

 ウィディングドレスを着た女の人だったり

 

 はたまた、結婚式場の情報が多いけど

 

 6月だし、みんな読むんじゃないの?

 

楓「広町さんが、『高校生はみんな読むんだよ~。だって6月だもん!』って言ってたけど、何かおかしいの?」

透子「あ、ごめん。やっぱおかしいの衛宮じゃないわ。」

つくし(もう衛宮君のこの感じが普通で若干認識が歪んでる。)

瑠唯「衛宮君、それは学生の読むものじゃないわ。それもっと、後々に読むものよ。」

楓「そうなんですか?」

ましろ「うんうん。」

つくし「そもそも、その雑誌の何を見てたの?」

楓「え?」

 

 何を見てたか......

 

 僕は何を見ていたんだ?

 

 うーん......

 

楓「この写真のウィディングドレスと背景の色の対比がいいなぁ、とかかな?」

七深「そこ~!?」

楓「うん、内容も目を通したけど、そっちの印象が強いかな。」

瑠唯(流石ね、衛宮君。)

つくし(あまりに予想外な行動でななみちゃんを翻弄してる。)

透子(最強か?)

ましろ(これは何と言うか......不憫。)

 

 写真の人に関してはあまり気にならない

 

 周りにレベルの高い美人が多いし

 

 どの人も八潮さんほど綺麗でも可愛くもない

 

楓(八潮さんのドレス姿......)

 

 人並みの妄想にふけってみる

 

 綺麗な黒髪と白いドレス

 

 一体、どれほどの綺麗なんだろう

 

 きっと、絵になるんだろうなぁ......

 

楓(じゃあ、相手は誰なんだろう......)

瑠唯「衛宮君?」

楓「あ、なんでもないです。」

透子「なんか、ちょっと表情険しくね?」

つくし「もしかして、また体調不良?」

楓「だ、大丈夫だよ。元気。」

ましろ「じゃあ、どうしたの?」

楓「......??」

 

 どうしたんだろう

 

 八潮さんの相手を考えたらモヤっとした

 

 うーん......なんだろう

 

 よく分からない

 

瑠唯「そろそろ練習を再開しましょう。」

透子「そうだね!」

七深「癒されたし、頑張れそ~!」

つくし(うーん、分かる。)

ましろ(頑張ろう......!)

 

 そうして、5人の練習が始まった

 

 みんな、演奏のレベルも上がってるし

 

 色も段々とすごいレベルになって行ってる

 

 まだ始まって2か月なのに、すごい

 

楓(......八潮さん。)

瑠唯「~♪」

楓「......」

 

 八潮さんは綺麗だ

 

 バイオリンを弾く姿も勿論、美しい

 

 練習中の魅せる動きも汗を流す姿も

 

 なにもかも、芸術作品みたいだ

 

楓(かっこいい......けど、あの時......)

 

 病院から一緒に帰った日

 

 あの日はなんだか顔が赤くて

 

 優しい表情をしてて、すごく可愛いと思った

 

楓「......って、ボーっとしてちゃダメだ。何かしないと。」

 

 僕はそう呟いて立ち上がった

 

 休憩用の飲み物とか準備しないと

 

 後はタオルとか、色々......

 

楓(よしっ、僕は僕の仕事をしよう。)

 

 自分の事を考えるのは後でいい

 

 今は、頑張ってる皆のために動かないと

 

 そう考えて

 

 僕は外に飲み物を買いに行った

__________________

 

 2時間ほどして、今日の練習が終わった

 

 僕はいつも通り、疲れ果ててる皆に飲み物を配って

 

 復活して話してる皆を眺めてる

 

 この光景にも慣れて来た

 

瑠唯「__衛宮君。」

楓「はい?どうしましたか?」

瑠唯「練習中、私のとこを見ていたようだけれど、何か用があったのかしら?」

楓「!?(バ、バレてた!?)」

 

 結構、あからさまに見ちゃったからか

 

 これは、どうしよう

 

 八潮さんの事を考えたらつい、とか

 

 そんな事とても言えない

 

楓「え、えっと、その......」

瑠唯「?」

楓「演奏全体を見て、バイオリンの音が目立ってたので......」

 

 嘘じゃないけど嘘みたいに感じる

 

 きっと、目も泳いでるだろうし

 

 バレる、かな

 

瑠唯「確かに、1つの音が強調され過ぎるのは課題ね。」

楓「印象はかなりいいと思います。ですが......」

瑠唯「最初はいいかもしれないけれど、続けるとなると......と言う事ね?」

楓「はい。」

瑠唯「なるほど。」

 

 八潮さんは真剣に考えこんでる

 

 所詮、素人の感想

 

 八潮さんの方が絶対にいい意見を持ってる

 

 けど、それでも、ちゃんと考えてくれる

 

 やっぱり、すごくいい人だ

 

 ”透子”

 

七深「ねぇねぇ、とーこちゃん。」

透子「ん?どうしたー?」

 

 練習が終わってソファでダラダラしてると

 

 七深とシロが近寄って来た

 

 嫌な予感がする

 

 ふーすけも察してちょっと逃げてるし!

 

七深「かえ君が恋する乙女みたいになってるよ。」

透子「いや、あいつ男だろ。」

ましろ「でも、なんだか乙女って感じだよ。」

透子「お前ら、衛宮の前で絶対にそれ言うなよ?」

 

 あたしは溜息を付きながらそう言った

 

 けど確かに、今の衛宮はそんな感じに見える

 

 あたしが見ても衛宮は普通に可愛いし

 

 しかも、ルイと話してるときは特に

 

透子「てか、もうあれ、ルイが好きって事でよくね?」

ましろ「だ、ダメ!」

七深「そうだよ!」

透子「なんでだよ。お前らもさ、衛宮の幸せ祈るくらいしてやれよ。」

七深「それは広町でも出来るよ!一生養うし!」

ましろ「私は、出来ないかもだけど......でも......」

 

 あー、こいつらマジ面倒くせぇ

 

 正直、あたしは誰とでも付き合ってくれていい

 

 それで残り2人が諦めれば......

 

透子(って、待てよ......)

 

 仮にあの3人のうちだれかと付き合うとして

 

 本当に、残り2人は諦めるのか?

 

 ルイの場合は諦めよさそうだけど、衛宮の事になるとおかしいから分からないし

 

 ななみとシロは本気で面倒になりそう

 

 あの2人、平気で付き合った後の衛宮に何かしそう

 

 もしそうなったら、雰囲気悪くなって

 

 バンド解散なんて事も......

 

透子「しゃーない、この場はあたしが止めてくる。」

ましろ「透子ちゃん......!」

七深「よっ!月ノ森のカリスマ!」

透子「お前ら、ほんとーに良い性格してんな。」

 

 そう言いながら、あたしは2人の方に近づいた

 

 はぁ......なんでこうなった

 

 最近、こんな役回りばっかだし

 

 いつか呪ってやろ

 

透子「衛宮ー。」

楓「はい?」

透子「そろそろ皆帰るけど、送ってやろうかー?」

楓「だ、大丈夫ですよ......一応、これでも男なので。」

透子「あはは!冗談だって!シロと帰るんだろ?」

楓「はい。」

 

 ほんとこいつ、弟みたい

 

 ついつい弄っちゃうんだよね

 

 可愛いし

 

透子「八潮もすぐ帰るっしょ?」

瑠唯「えぇ。課題についても十分話せたわ。ありがとう、衛宮君。」

楓「いえ、僕なんかが役に立ててよかったです。」

瑠唯「十分、あなたは役に立っているわよ。自信を持ちなさい。」

透子「そうだって!相変わらず卑屈だねー!」

 

 ルイの言う事はもっとも

 

 だって、衛宮いなかったら練習乗り切れてない

 

 てゆうか、そもそもルイがいない

 

 思えば、衛宮にはかなり助けられてる

 

楓「あはは、ありがとうございます。」

透子「いいっていいって!ほら、さっさと帰んな!」

楓「はい。さようなら、八潮さん、桐ケ谷さん。」

瑠唯「えぇ、また明日。」

透子「じゃーね!」

 

 衛宮は元気に頭を下げ

 

 シロとななみがいる方に歩いて行った

 

瑠唯「......それで、なぜ邪魔をしに来たのかしら。」

透子「(バレてた。)あのバカ2人の頼み。それと、ちょっとした考え。」

瑠唯「考え?おかしなことを言うのね。あなたに理性的な行動が出来たなんて。」

 

 ルイは珍しく驚いたようにそう言った

 

 こいつ、ぶん殴ってやろうか

 

 誰のためにこんな事してると思ってんだ

 

楓「倉田さん、帰ろうか。」

ましろ「うん!」

七深「かえ君~!また明日ね~!」

楓「うん、また明日!」

 

透子「あれ、可愛いじゃん?」

瑠唯「そうね。」

透子「そーいうこと。」

瑠唯「......意図が理解出来ないわ。」

 

 こいつ、意外と理解力ないな

 

 まっ、分からないならお知ればいいだけだし

 

 いいでしょ!

 

透子「もうちょい、今の感じでやって行きたい。だから、衛宮を誰にも偏らせない方がいいかなって、今思った。」

瑠唯「そう。」

透子「なに?怒ってんの?」

瑠唯「別に。」

 

 ルイは短くそう答えた

 

 まっ、怒ってたら睨みつけて来るし

 

 本当にそうじゃないみたい

 

 機嫌悪そうなのはいつもだし

 

瑠唯「不本意だけれど、あなたの意見に賛成よ。出来たばかりのバンドの雰囲気を悪くするのは得策ではないもの。」

透子「分かってんじゃん。じゃ、これ以上話すこともないね。」

瑠唯「元から、あなたと議論する事なんて何もないわ。」

透子「言ってろ。」

 

 あたしが乱暴にそう答えた後

 

 ルイは自分の荷物が置いてる方に歩いて行った

 

 ほんっとに分かんない奴

 

透子「......これは、しばらく大変だな。」

七深「どうしたの~?」

透子「ん?お前ら全員面倒だなーって。」

七深「え~!?ひどいよ~!」

透子「冗談だって。まっ、頑張りなよ、恋する乙女。」

七深「?(本当にどうしたんだろ?)」

透子(さっさとかーえろ。)

 

 七深と話した後、あたしは荷物を持ってアトリエを出て行った

 

 いやー、あたしのバンド

 

 楽しくて面白くてチョーいい感じだけど

 

 かなり、面倒くさいわ

 

 

 



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隠し事

 最近、僕はおかしい気がする

 

 高校生になって、人生がガラッと変わった

 

 今までにない事が起こってる

 

 お友達が出来たのも初めてだし

 

 あんな感情を抱くのも初めて

 

七深「__かえくーん!」

楓「どうしたの?」

七深「実はね、良いものが手に入ったんだ~!」

楓「いいもの?」

七深「これだよ!」

 

 広町さんはバンッ!と何かを出した

 

 見た感じ、何かのチケットかな?

 

 何を手に入れたんだろう?

 

楓「えっと......あ、ホラー映画のチケットだ。」

七深「そうそう!オリエンテーションの時に話してたやつ~!」

楓「良かったね。楽しみにしてたんでしょ?」

七深「かえ君も行こうよ~!2枚あるし~!」

楓「うん、いいよ。折角の機会だし。」

 

 情報だけつい見ちゃうから知ってるけど

 

 映画館、1,2回くらいしか行った事ないっけ?

 

七深「かえ君ってホラーとか大丈夫?」

楓「家で借りたのを偶にね。怖いもの、嫌いじゃないから。」

七深「意外だね~。もっと、可愛い犬の映画とか見てると思ってた~。」

楓「見るよ。風景が綺麗な映画も見るし、この前も海の中の映像をずっと垂れ流す映画も見たから。」

七深「それは面白かった~?」

楓「綺麗さは100点だったよ。」

 

 あの映画の海、綺麗だったなー

 

 色んな海洋生物も出てきて勉強になったし

 

 うん、風景としては本当に良かった

 

 映画としての評価は酷かったけど

 

七深「でも、この映画は期待できるよ~!監督が有名な人でね~!」

楓「パンフレット持ってるんだ。」

七深「予習は大事だし!」

楓「僕も読んでいい?」

七深「うん!一緒に見ようよ!」

 

 僕と広町さんは見に行くホラー映画のパンフレットを二人で見た

 

 パンフレットを見た感じ、面白そうで

 

 かなり期待できると思う

 

 広町さんとのお出かけだし、楽しみだな

__________________

 

 ”七深”

 

 かえ君とデートに行くことになった

 

 4月くらいは2人でいる事が多かった

 

 けど、最近はバンドの皆といて2人きりになれてない

 

 だから、本当に楽しみ

 

七深(__ど、どんな服着て行こう。)

 

 折角だから、可愛いって言われたい

 

 けど、変に着飾っても迷惑になるし

 

 そもそも、かえ君の好みから外れそう

 

七深(そもそも、かえ君の好みってなんだろ?)

 

 るいるい?シロちゃん?もしかして私?

 

 いや、一番可能性があるのはるいるい?

 

 かえ君、絶対に意識してるし

 

七深(だったら、クール系がいいかな?いや......)

 

 違う

 

 それじゃ、私じゃなくてるいるいになる

 

 二番煎じはどこまで行っても二番煎じ

 

 私は私を好きになってほしい

 

 だったら......

 

七深「......決まった。これで行こう。」

 

 私はそう呟いて

 

 明日着る服をハンガーにかけた

 

 緊張するけど、今日は寝よう

 

 そう思いながら、私はベッドの方に歩いた

__________________

 

 ”楓”

 

 今日は広町さんと映画を見に行く

 

 そもそも、僕はあまり映画館に言った記憶がない

 

 映画館は人がたくさん来るし、色の残留が酷い

 

 だから、安心して映画を見るなら家しかなかった

 

楓(僕は大丈夫なんだろうか?)

 

 今はお昼過ぎ

 

 映画館にはたくさんの人が出入りした

 

 前の色が消えるのは大体2~3時間

 

 流石に上映中に消えることはない

 

 頭、痛くならないと良いな

 

楓(待ち合わせより早く来たけど、20分はどうなんだろう?)

 

 女の子とお出かけするときは先に行け

 

 母さんと父さんにそう言われたけど

 

 なんだか妙に緊張する

 

 今日の格好、変じゃないかな?

 

 広町さんはお嬢様

 

 横にみすぼらしい男が歩いてたらなんて思われるか......

 

楓(こう、背筋を伸ばして、空気を入れて胸を張る感じ__)

七深「__おはよ~、かえ君~。」

楓「ゴホッ!ゴホッ!!」

七深「だ、大丈夫~!?」

楓「だ、大丈夫......」

 

 こ、こんなこと前もなかった......?

 

 前も驚いて空気でむせてた事あるよね

 

 そう言う運命なの?

 

楓「も、もう来てたんだね。」

七深「う、うん///(言えない......楽しみで1時間前に来てたなんて言えない......)」

楓(いつも通りだ、広町さん。)

 

 広町さんはいつもの服を着てる

 

 4人で出かけたときはいつもと違ったけど

 

 今日はよく見る私服

 

 いつも通り、普通に可愛い

 

七深「こっちの方が落ち着くでしょ~?」

楓「え?あ、うん、そうかも。」

七深「今日は映画を楽しみたいからね~。変なオシャレはいらないよ~。」

楓「確かに。」

 

 やっぱり、変に意識してるのは僕だけだ

 

 友達同士で遊びに行くだけなのに

 

 やっぱり、僕って駄目だなぁ......

 

七深「行こうよ!」

楓「うん、行こっか。」

 

 そんな会話の後、僕達はその場を離れ

 

 今日、映画を見る予定の映画館に向かった

__________________

 

 映画館と言えばポップコーンにコーラ

 

 広町さんはそう言ってた

 

 けど、僕はお菓子も炭酸も苦手だ

 

 なので、オレンジジュースを購入した

 

 炭酸、飲めた方がいいかな?

 

七深「__かえ君ってお菓子食べないんだ。」

楓「うん。クッキーとかチョコは大丈夫なんだけど、スナック菓子はどうしても胃が受け付けなくて。」

七深「......ちょっと待ってね。」

楓「?」

七深(つまり、かえ君は間食をあまりしない。加えて少食だから......)

 

 広町さんは何かを考えてるみたいだ

 

 そんなに重要な問題が発生したのかな?

 

七深「かえ君って、体重は何㎏?」

楓「え?この前の身体測定では確か、45㎏くらいだったかな?」

七深(広町より軽い!?)

楓「思ったように体重が増えなくて、こんなだからすぐに体調崩すんだよね。」

七深「そ、そんな事ないと思うよ~?少しやせ過ぎとは思うけど~。(こ、これは、女子の沽券にかかわる......)」

 

 やっぱり痩せすぎなんだ

 

 でも、どうやって体重増やせばいいんだろ?

 

 よく食べて筋トレは......食べられないから無理

 

 普通の人はどういう風にしてるんだろうか

 

楓「僕もなりたいなぁ......力強い人。」

七深「例えば~?」

楓「例えば......そう、ボディビルダーみたいに。」

七深「ぶふっ......!!!」

楓「広町さん!?」

七深(か、かえ君がボディビルダー......?)

 

 広町さんがいきなり飲み物を吹き出した

 

 だ、大丈夫かな?

 

 結構、何と言うか、すごい顔してるし

 

七深(に、似合わない......それなら女子の尊厳丸つぶしの今の方がいいよ!なんとか、私が阻止しないと!)

楓(な、何が起きてるんだ?)

七深「かえ君?かえ君は今のままで良いんだよ?」

楓「え?」

七深「ほ、ほら?やっぱり今は細い男子の方が受けがいいよ~(きっと)」

楓「そ、そうなんだ(?)」

 

 広町さん、色が震えてる

 

 これは怖がってると言うより焦ってる時だ

 

 まぁ、今は色を見るまでもないと思うけど

 

七深「そ、そろそろ映画始まりそうだね~。」

楓「そうだね?静かにしてよっか。」

七深「う、うん~。」

 

 広町さんが頷いた後、僕は目をスクリーンに向けた

 

 色の残留は結構あるけど

 

 まぁ、スクリーンに被ってるのは少ないし

 

 きっと大丈夫だと思う

 

 ”七深”

 

 少しして、映画が始まった

 

 いくつかの予告にカメラの人の注意喚起

 

 これも映画館の醍醐味と言えば醍醐味だと思う

 

楓(こんなのあったなー。けど、昔からちょっと変わったかな?)

七深(あ、始まる。)

 

 注意喚起が終わって、本編開始

 

 最初は主人公が電車に乗ってる風景が移った

 

 普通に比べて少し暗めな映像

 

 そして、BGMはなく、電車の音だけが響いてる

 

楓(確か、主人公は田舎に引っ越すんだっけ。)

七深(ふむふむ。)

 

 この映画はホラーの中では王道

 

 だからこそ、純粋に楽しめると思う

 

 面白いかは全く分からないけど

 

『__ワン!ワン!』

『ど、どうしたんだ?』

楓(おぉ、王道だ。)

七深(よく見るね~。)

 

 段々、雰囲気が変わってきた

 

 映像の暗さが増して、盛り上がってきた

 

 ここから、この映画のテイストが分かってくる

 

 この映画の場合のキーワードは......

 

『な、何なんですか!?あなた達は!』

『山は怒っている。』

『外より来るものを殺せと。』

楓(なるほど。)

七深(これはこれは~。)

 

 なるほど

 

 キーワードは村そのものなんだ

 

 村八分......とはまた違うけど

 

 謎の風習に追い詰められる主人公と愛犬

 

 夜の森ににて逃げ惑い、狂気に満ちた表情で追いかける村人

 

 暗い森に松明の火はよく映えてる

 

『__山神様のために死んでもらおう。』

『だ、誰が......!』

『く、くぅぅん......』

 

 とうとう追い詰められた主人公と愛犬

 

 台に縛られ、脚は骨折

 

 目の前には何百人もの狂った村人

 

『浄化。』

『__ぎゃぁぁぁぁぁ!!!』

楓(バッドエンドなんだ。)

七深(結構グロい。)

 

 最終的に主人公は斬首され終了

 

 エンドロールがスラスラ流れていく

 

 いや~、中々面白い内容だったね

 

 おばけとかじゃなく、人間

 

 人間の恐ろしさを押し出した内容だった

 

七深「結構、面白かったね~。」

楓「うん。終始雰囲気も良かったし、村人の人の演技がすごくよかった。」

七深「だよね~!目とか完全に据わってたし!」

楓「欲を言えば、もう少しだけ何もない時間が欲しかったかもね。メリハリがあった方がいいし。あと、主人公の人がまだちょっと不慣れなのかなって。良くも悪くも主人公過ぎたかな。」

七深(す、すごくちゃんと見てる。)

 

 かえ君、ちゃんと評価してる

 

 しかも、私がちょっと思ってたこと

 

 やっぱり、波長が合うのかなー?

 

楓「出よっか。」

七深「うん~。そうだね。」

 

 そう答えた後

 

 私とかえ君は飲み物のゴミを持って

 

 その席から離れた

__________________

 

 ”楓”

 

 映画館を出た後、僕と広町さんは駅前に来た

 

 映画だけ見て帰るのもだし

 

 折角だからクレープ食べようよってなった

 

 クレープかー、あんまり食べたことないかも

 

七深「__激辛地獄クレープくださーい。」

楓「え?えっと、僕は苺と生クリームで。」

 

 激辛地獄......?

 

 こんなのあるんだ

 

 クレープって甘いものってイメージだったけど

 

 案外、そうでもないのかな?

 

 焼きそばクレープなんてものもあるし

 

楓(匂いが辛いけど......美味しいのかな?)

 

 そんな事を思いながらクレープを受け取り

 

 近くにある椅子に座った

 

 広町さんは僕の向かいに座って

 

 何か赤黒いオーラが見えるクレープを食べてる

 

七深「美味しい~!」

楓(お、美味しいんだ。)

七深「かえ君も食べて見なよ~。」

楓「え、遠慮しておくよ。(辛い物は嫌いじゃないけど、限度はあるし......)」

 

 僕の苦手なものなんて脂っこい物くらいかな

 

 後は極端じゃなければ大丈夫だと思う

 

 けど、激辛地獄はちょっと無理だと思う

 

七深「夕日の下で食べるクレープも乙だよね~。」

楓「うーん、メニュー的には風流も何もないと思うけど。」

七深「でも、青春って感じしない?」

楓「それは、そうかもしれないね。」

 

 友達と屋台で買ったものを食べる

 

 こういうのも、学生らしいのかな

 

楓(広町さんか。)

七深(あれ、見られてる......?///)

 

 出会ってから今まで約2か月

 

 広町さんとは1番長い時間一緒にいた

 

 気づかないうちに一緒になる事も多い

 

 けど、彼女はまだ見せてくれてないんだ

 

楓「.....ねぇ、広町さん。」

七深「ど、どうしたの?」

楓「1つ、聞きたいことがあるんだ。」

七深「?」

 

 広町七深という人間の本質

 

 彼女は本当の自分を見せてない

 

楓「広町さんはなんで、ずっと隠し事をしてるの?」

七深「え......?そ、そんなことないよ~......」

 

 僕が見える色は思考も反映される

 

 だから、隠し事をすれば分かるし

 

 動揺しているならそれも現れる

 

七深「わ、私は普通の女の子だよ~?」

楓「......あのね。」

七深「っ!(悲しい声......!?)」

楓「広町さんが凄い事は色を見ればわかるんだ。あんな綺麗な色を持ってる人は中々いないから。」

七深「う、うん......」

楓「けど、広町さんがそこまで隠すって事はきっと、何か理由があるんだと思う。」

 

 正直、見当もつかない

 

 すごい人の悩みは僕なんかが踏み入るものじゃないのかもしれない

 

 けど、もしも

 

 広町さんが後悔するような生き方に繋がるとしたら

 

 それなら、見過ごせない

 

楓「教えて欲しいんだ。なんで、そこまで自分を隠すのか。」

七深「......かえ君は、色で分かっちゃうんだよね。」

楓「うん。最初から、分かってた。」

七深「......そう、だよね。」

 

 広町さんはうつ向いてる

 

 ど、どうしよう

 

 いきなりこんなこと言って、気を悪くしたかな

 

七深「かえ君、これから時間あるかな......?」

楓「う、うん。全然、大丈夫。」

七深「じゃあ、アトリエに行こ。人前じゃ、ちょっと......」

楓「分かった、行こう。」

 

 僕は頷いて、椅子から立ち上がった

 

 広町さん、悲しい顔をしてた

 

 本当にこうするべきだったのかは分からない

 

 それは、話を聞けばわかるんだ

 

 僕はどうなっても、広町さんと向き合う

 

 だって、人生で初めてのお友達だから

 

 

 

 



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暴露

 日が落ちて、段々と外は暗くなってきた

 

 街灯もポツポツと点き始めて

 

 もう、夜になろうとしてる

 

 そんな中、僕は広町さんのアトリエにいる

 

楓、七深「......」

 

 さっきからずっと、重い空気が流れてる

 

 アトリエに来てから30分、僕たちは無言のまま

 

 心臓がバクバクして何を言えばいいか分からない

 

 ど、どうしよう......

 

七深「......かえ君。」

楓「う、うん。」

七深「私達、友達だよね......?」

楓「それは、もちろん。」

 

 僕は小さく頷いた

 

 広町さんがあえて普通を演じる理由

 

 それを知っても、変わる気はない

 

 だって、そうしたら......

 

七深「じゃあ、話すよ......」

 

 広町さんは静かにそう言い

 

 少しだけ息を整えた

 

 僕もその様子を見て固唾を飲んだ

 

 こんなに辛そうな広町さん、初めて見た

 

 その事にかなり動揺した

 

七深「昔、私は周りに特別だって言われてきたんだ......と言っても、ただ成績が学年トップで芸術の分野で注目されただけなんだけど。」

楓(なるほど、だから、こんなアトリエまで持ってたんだ。)

七深「学年一番の有望株って、勝手に言われてた。」

 

 ちょっと納得した

 

 月ノ森と言っても一高校生

 

 そんな子がアトリエを持ってるのは不自然だった

 

 けど、そういう事情があったんだ

 

七深「最初は良かったんだ。みんな、なんでも出来るんだって認めてくれて、私の周りにはたくさんの友達がいた......けど、いつの日か、全部無くなった。」

楓「!」

七深「テストで満点を取っても、コンクールで賞をとっても、あっそうとか、嫌みだとか......一緒のコンクールに出てた子には嫌がらせとかされて。それで段々、私の周りからは人が消えていった......」

楓「......っ」

 

 胸が苦しい

 

 広町さんは、どんなに辛かっただろう

 

 彼女はただ、普通に生きてただけ

 

 それでも、周りから見ればそれは異質なもので

 

 知らない内に距離を取られてしまう

 

 そんなの、残酷以外の何物でもない......

 

七深「だから、普通になろうって思った。そうすれば、変な期待も嫉妬もない、ただの学生として生きてられる。友達だって、それから少し出来るようになった。」

楓(広町さん......)

 

 大体、事情は分かった

 

 広町さんはただ、友達が欲しかっただけなんだ

 

 そのために自分なりに考えて、結論を出した

 

 広町さんは自分を曝け出せない苦しみより、友達がいない苦しみを拒んだ

 

 けど、それじゃあ......

 

楓(広町さんは結局、苦しいままじゃないか......!!)

 

 そんなの許されていいわけがない

 

 広町さんはいい人だ

 

 こんな僕と一緒にいてくれて、笑ってくれる

 

 困ったときはいつも助けてくれる

 

 弱い僕を肯定してくれる

 

 僕はそんな広町さんを見捨てるなんてできない

 

楓(そんな事をしたら、僕に生きる価値なんてない......!!!)

七深「かえ君......?」

楓「......広町さん。紙とペンとカッター貸して。」

七深「え、い、いいけど......」

 

 広町さんは首を傾げながら立ち上がり

 

 テーブルの上にさっき言った物を準備してくれた

 

楓「広町さん。これから僕がすることを絶対に止めないで。」

七深「え?」

 

 広町さんの心は言葉なんかじゃ救えない

 

 いや、今この場で全てを解消することは出来ない

 

 だからまず、少なくとも僕の前だけでも、本当の広町さんでいてもらう

 

 必要なのは、誠意を示すこと

 

 正直、色々と怖い

 

 けど、これくらいの事をしないと

 

 あとは僕の覚悟一つのみ

 

 僕は紙にある事を書きなぐった

 

七深「こ、これは......?」

楓「契約書って言うのかな?よく分からないけど、そんな感じの物。」

七深「!(こ、これ......!)」

 

 契約書に書いたことはいくつかあるけど

 

 分かりやすく言うと『僕は広町さんを裏切らない。』

 

 ただ、それだけ

 

楓「きっと僕は広町さんを遠ざけた人たちよりもさらに平凡だと思う。出来る事なんてほとんどない、無能って呼ばれる人間であることは間違いない。」

七深「そ、そんなこと......!」

楓「でも1つ、違う事がある。」

七深「......?」

楓「それは、僕が広町七深っていう人間を好きだってことだ!!」

七深「!?///」

 

 僕は思い切りそう叫んだ

 

 友達として、広町さんが好きだ

 

 だからこそ、彼女には本心でいて欲しい

 

 そのためなら、なんだってする

 

楓「こんな事で揺らぐほど、広町さんの心の傷は浅くないと思う......だから......!!」

七深「何してるの!?」

楓「......っ!!!(~!!!痛い痛い痛い!!!)」

 

 カッターで自分の指を切った

 

 こんなに痛いのは初めてだ

 

 正直もう泣きそう......

 

 けど、泣き言なんて言ってられない

 

 僕は契約書に拇印をつけた

 

楓「僕は僕の全力を持って、広町さんと向き合う!!」

七深「かえ君......(なんで、そこまで......)」

楓「ただ、大好きな友達と一緒にいたい!友達に辛い思いをして欲しくない!本当はバンドの皆の前でもだけど、難しいなら、僕の前だけでもいい、本当の広町七深を曝け出してほしい!!」

七深「本当の、私......?」

楓「うん。きっと、そう出来るのが、本当の友達だと思うから。」

 

 なんとか、言い切れた

 

 息切れして目の前がチカチカしてる

 

 けど、これでいい

 

 それだけ全力を出せたんだ

 

 きっと、僕の気持ちは伝わってくれたはず

 

七深「......バカだよ。」

楓「っ!」

七深「そんな事のために、そんなことまでしちゃうなんて......かえ君は相変わらず、大馬鹿だよ......」

 

 広町さんはそう言いながら僕の手を握った

 

 その声は酷く震えていて

 

 綺麗なソファに水滴がポタポタと零れてる

 

七深「ずっと、辛かった......自分が、好きになれなくて......」

楓「じゃあ、広町さんが自分を好きになれるまで付き合うよ。」

七深「うぅ、グス......かえ君......!」

楓「大丈夫。僕は勿論、バンドの皆だって、広町さんを受け入れてくれるよ。だから、いつか、自分を好きになれる日が来る。勇気をもって。」

 

 今まで、たくさんの色を見て来た

 

 その中で、感情で色の様子が変わるのも見た

 

 けど......

 

楓(こんなに綺麗な喜びの色、初めて見た。)

 

 きっと、広町さんは欲しかったんだ

 

 ただ、自分を好きでいてくれる友達を

 

 才能とか、能力とか

 

 そう言う浅い部分じゃなくて、もっと深い

 

 心で通じ合える友達が

 

楓「死んでも裏切らないよ。それしか、僕には出来ることがないから。」

七深「ううん......十分だよ......!」

楓「なら、よかった。」

 

 そう言って、僕は広町さんに笑いかけた

 

 よかった

 

 もう、広町さんは大丈夫だ

 

 色を見ればわかる

 

 この色はそう簡単には乱れない

 

楓(よかった、一歩、進めた......)

七深「か、かえ君......」

楓「どうしたの?」

七深「かえ君は私を友達として好きなの......?///」

楓「うん、友達として好きだよ?それがどうかしたの?」

七深「......やだ///」

楓「え?」

 

 広町さんが何かを呟いた

 

 やだって聞こえたけど

 

 どうしたんだろう?

 

楓「えっと、何が?」

七深「ただの友達じゃ、やだ......///」

楓「......?(どういう事だろう?)」

 

 ただの友達じゃ、やだ

 

 つまり、普通じゃなく

 

 何か特別である必要がある

 

 じゃあ......

 

七深「だから、その、私と///__」

楓「と言うことは、親友の方がいいって事?」

七深「__え?」

楓「ただの友達じゃない友達、つまり親友って事だよね!いいよ!広町さんとなら、それも楽しそう!」

七深「......あ、うん、そうだね~!親友だよ~!」

楓「親友......なんだかいい響きだね!」

 

 友達だけじゃなく親友まで......

 

 こんなの生まれて初めてだ!

 

 いいなぁ、親友......

 

七深(かえ君の鈍感さは筋金入りだね~......)

楓「親友かぁ、親友......!」

七深(でも、かえ君が嬉しそうだし......まぁ、いいかな~!)

楓「広町さん?」

七深「どうしたの~?」

楓「そろそろ時間も遅いし、帰ろうかなって。」

七深「え?」

 

 広町さんが一気に悲しそうな顔をした

 

 え、ど、どうしたの?

 

 何か変なことでもあったの?

 

七深「......今日は帰らないで?」

楓「え?でも、明日は学校だし。」

七深「大丈夫。車で送るから......お願い、今日はかえ君と一緒にいたいの......」

 

 広町さんが腕に抱き着いてきた

 

 こ、困ったな

 

 固まったみたいに腕が動かせない

 

 広町さん、力強くない?

 

楓「じゃ、じゃあ、家に連絡してくれるなら。」

七深「わ~い!やった~!」

楓「あ、あはは、嬉しそうだね。」

七深「もちろん、すっごく嬉しいよ~!」

 

 これだけでこんなに喜んでくれるなら

 

 まぁ、僕の事情くらいどうにかしよう

 

 折角、前向きになってくれたところだし

 

七深「かーえ君!」

楓「今度はどうしたの?」

七深「大好きだよ~!///」

楓「っ!!(」

七深「~♪(お洋服の用意とかしないと~♪)」

楓(......?)

 

 広町さんは僕から離れ、どこかに電話をかけ始めた

 

 なんだろ、今の感じ

 

 心臓が飛び跳ねた?

 

 そして、今も激しく動き続けてる

 

楓(また、これだ。)

 

 あの日と同じ現象

 

 一体、なんなんだ?

 

 全く分からない、けど、なんでなってるかは分かる

 

楓(さっきの広町さん、可愛かった。)

 

 広町さんの容姿がいいのは見たらわかる

 

 今までも普通に可愛いと思ってた

 

 けど、それは普通にって事で

 

 他の皆にも同じように思ってる

 

楓(だけど、今のは......)

 

 少し赤味がかった、綺麗な笑顔

 

 それは今までの普通に可愛いじゃなく

 

 まるであの日の八潮さんみたいで

 

 特別、可愛かった

 

 

 



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天才

 ”七深”

 

 朝、目を覚ますと、かえ君が隣にいた

 

 泊ってって言ったのは私だし

 

 隣で寝ることにしたのも私

 

 だから、いること自体に驚いたとか無かった

 

楓「すぅ......すぅ......」

七深(あ~!好き好き好き!///)

 

 驚かなかったけど

 

 ただ、かえ君が存在することが嬉しかった

 

 私の好きな人で親友

 

 そんなかえ君が横で穏やかな表情で眠ってる

 

 その事実で胸が暖かくなる

 

七深(昨日のかえ君、かっこよかったなぁ......///)

 

 あの余裕のない表情

 

 ストレートに思いをぶつける言葉

 

 私のために体まで張ってくれた

 

 元々、かえ君の事は好きだった

 

 けど、昨日のことで更に......

 

 いや、少しだけ違う感情になった

 

七深(かえ君は私を好きでいてくれる。受け入れてくれる。味方でいてくれる。)

 

 今まではまだ純粋だった

 

 普通の恋愛対象として好きだった

 

 だけど、今は少し違う

 

 純粋じゃない執着

 

 かえ君が欲しいって思っちゃってる

 

楓「......ん......?朝......」

七深「あっ、おはよう!」

 

 しばらく眺めてると、かえ君が目を覚ました

 

 まだ眠たそうに瞼を擦ってる

 

 かえ君の一挙一動が愛おしい

 

 可愛い

 

楓「おはよう、って今何時?」

七深「えっとね~、いつも通り起きたはずだから6時くらい__!?」

楓「どうしたの、って、え?」

 

 私は自分の目を疑った

 

 いつも、私は6時くらいには起きる

 

 けど、時計の針は8時を指してる

 

 あ、あれ~?壊れてるのかな~?(現実逃避)

 

楓「ね、ねぇ、これ、もしかしなくてもマズいんじゃ?」

七深「い、一応、かえ君の荷物は持って来てもらってるから......」

楓(いつの間に!?)

七深「と、とりあえず急がないと!着替えよ!」

楓「ちょっと脱ぐのは待って!?」

 

 かえ君は慌てて部屋を出て行った

 

 って、かえ君いつ着替えるんだろ?

 

 いや、私が早く着替えないといけないんだよ

 

七深(今日は車出してもらわないと。かえ君を遅刻させるわけにはいかないし。)

 

 そんな事を考えなら制服に着替え

 

 かえ君が着替えてる間に車の手配をし

 

 急いで2人で家を出た

__________________

 

 ”楓”

 

 朝は本当に焦った

 

 けど、広町さんが車を呼んでくれて

 

 それに乗って何とか間に合った

 

 登校だけで車なんてっていつもなら言うけど

 

 走ってたらどうなってたか分からない

 

 本当に助かった

 

透子「__よー!2人ともー!」

楓「あ、おはよう、桐ケ谷さん。」

七深「おっはよ~。」

透子「......ん?」

楓、七深「?」

 

 いつも通り元気な桐ケ谷さんに挨拶をすると

 

 なぜか、首を傾げた

 

 どうしたんだろう?

 

透子(あれ、この2人、同じ匂いする......?)

楓「どうしたんですか?」

透子「お、お前ら、もしかして......ヤッたか?」

七深「!?///」

楓「?(やった?なにをだろう?)」

 

 何のことを言ってるんだろう

 

 動作を表してる事は間違いない

 

 けど、抽象的すぎて分からない

 

七深「そ、そんな事してないよ~!///」

透子「いや、だって、昨日デートだって言ってたし......衛宮は?」

楓「えっと、何の話をしてるんですか?何らかの行動を表してるのは分かるんですが、どういう内容なんですか?」

七深、透子「!?」

楓「?」

 

 2人が驚いた顔をしてる

 

 僕、何か変なこと......って、まさか

 

 あれは何かの隠語で僕だけ理解出来てない

 

 だから、こんな顔をされるのか

 

透子「え、衛宮ってさ、中学のときとかに性教育とか受けたことある?なかった?」

楓「(理科の)授業でなら。」

透子(って事は、単純に下ネタ通じない奴か......衛宮ならコウノトリが運んでくるくらい言いそうだけど。いや、それは困るからやめて欲しいけど。)

七深(高校生にしてはピュアだな~。天使すぎる。)

 

 急にどうしたんだろ?

 

 流石にさっき聞かれたことくらいは分かる

 

 だって、分からないと理科のテストがダメだし

 

 優性の法則とかならちゃんと答えられる

 

透子「その、衛宮とななみから同じ匂いするんだけどさ。」

楓「あ、広町さんの家に泊まったからですね。」

透子「そこは誤解じゃねぇのかよ!」

楓「色々あって。」

透子(......あれ?衛宮、指怪我してね?)

 

 そろそろホームルームだ

 

 席に着いておかないと

 

透子「え、衛宮?その指は?」

七深「!(あ、気付かれた!)」

楓「これは......」

 

 どうしよ、なんて答えよう

 

 自分で切ったなんて言ったら変な奴だし

 

 かといって出来る言い訳が少ない

 

 えっと、えっと......

 

七深「それは、私のためにしてくれたの。」

透子「!?(え、やば。)」

七深「今日の練習を見て、その後で判断して欲しいな。」

透子「ど、どういう事?(なんかあったの?いやでも、衛宮が理由もなくあんな事するわけないし......取り合えず、言う通りにしとくのがいいや。)」

楓「あの、先生来ましたよ?」

七深「席に行こっか~。」

透子「そ、そうだね。」

 

 それから、僕たちは席に着き

 

 いつも通りホームルームを受けた

 

 ずっと桐ケ谷さんからの視線があったけど

 

 やっぱり、あれが尾を引いてるのかな?

__________________

 

 ”瑠唯”

 

 天才と呼ばれた人間が成長し平凡になる

 

 これはそこまで珍しい話でもない

 

 どんな天才だって壁にぶつかり、挫折する

 

 月ノ森が誇った天才もいつの日からか普通になった

 

 ......はずだった

 

七深「__こんな、感じだよ。」

楓「す、すごい。」

透子「え、こんな演奏できたの!?」

つくし「練習した......って感じではないね。」

ましろ「え、ど、どういう事......?」

瑠唯「......」

 

 その天才はいきなり目覚めた

 

 6人しかいないアトリエの中

 

 ベースを始めて2か月の天才が

 

 熟練者をあざ笑うような高度な演奏を披露した

 

 私も含めて、全員、その才能に息を呑んだ

 

瑠唯「......隠すのはやめたのね。」

七深「かえ君がいるから。もう、怖がらなくていいから。」

瑠唯「......そう。」

 

 天才を目覚めさせたのは、彼だった

 

 きっと、彼女の苦しみを察したに違いない

 

 彼にはそれが出来る目があるもの

 

楓「これが広町さんの本当の姿なんです。その、すごく出来る人って感じで。」

透子「そ、そういう事か。これのために。」

つくし「でも、すごい戦力じゃない!?」

ましろ「う、うん!心強いよね......!」

瑠唯「......そうね。」

 

 広町七深が普通になった時

 

 誰も異変を感じず、注目しなくなった

 

 平凡になった、ただそれだけと言い「

 

 遠回しに、彼女を見捨てたとも取れる

 

 けど、彼は違った

 

 人の感情をもとらえる事の出来る目を持ち

 

 天才を復活......それどころか、更に歩ませた

 

七深「か、かえ君......!」

楓「ね?言ったでしょ?皆は受け入れてくれるって!」

七深「うん!」

透子「隠してるなんて水臭いじゃーん!」

つくし「そうだよ!リーダーの私にまで隠してるなんて!」

ましろ「すごいね?ななみちゃん。」

楓「すごいんだよ!広町さんは凄い色を持ってるから!」

 

 彼の指の怪我

 

 あれは最後に会った時には無かった

 

 つまり、土日の間に負った傷

 

 そして、この急激な広町さんの変化

 

 これらを総合して考えて、あの指は彼女を目覚めさせる代償と考えるのが妥当

 

瑠唯(なぜ......)

楓「?(見られてる?)」

瑠唯「衛宮君、指の傷を見せてくれるかしら。」

楓「え、あまり見ても気持ちのいいものじゃありませんが。」

 

 彼はそう言って指の絆創膏を外した

 

 かなり大きめの絆創膏だけれど

 

 どんな傷が......

 

瑠唯「っ!?」

 

 彼の指にはかなり深い切り傷があった

 

 一体何をしたのかは分からない

 

 けど、こんな傷を負ってまで、彼女を解放したの?

 

 彼の事だから、バンドのレベルを上げる為とか、そんな打算的な考えではない

 

 ただ、彼女を苦しみから解放する

 

 それだけのためにあそこまでした

 

 なぜ?

 

瑠唯「衛宮君。」

楓「はい?」

瑠唯「あなたの指の怪我、原因は広町さんなのよね?」

ましろ、つくし「!?」

楓「......はい。」

瑠唯「なぜ、そこまでしたというの?彼女を苦しみから解放するため?」

 

 私はそう問いかけた

 

 彼は少し答えずらそうな顔をし

 

 少しして、口を開いた

 

楓「それもあります。これくらいの事を出来ないなら、僕に生きてる価値なんてありませんから。」

瑠唯「も、と言う事は、それ以外にもあるのね。」

楓「もう一つは......ただの自分の事情です。」

瑠唯(自分の事情?)

楓「人生で初めての広町さんには、自分を曝け出してほしくて。」

瑠唯(......!?)

 

 ただ、それだけの理由で?

 

 その為だけに、あんな傷を負えるの?

 

 ......狂ってる、普通なんかでは断じてない

 

瑠唯「......もう少し、自分を大切にしなさい。」

楓「!」

瑠唯「倉田さんを見なさい?泣きそうな顔をしてるわよ?」

楓「え!?」

ましろ「え、衛宮君がケガしてる......だ、大丈夫?痛くない?」

楓「だ、大丈夫だよ?血もすぐに止まったし。」

つくし「いや、そういう問題じゃないよ!?」

 

 異常、狂気

 

 彼の正義は常にそれらを孕んでいる

 

 己を顧みないなんて、とても私には出来ない

 

瑠唯「衛宮君、あなたはなぜ、人を助けるの?」

楓「え?」

瑠唯「っ!い、いえ、今のは。(口に出てしまったわ。)」

 

 私は焦って口を閉じた

 

 こんなこと、聞くものじゃない

 

 彼が不快に思うかもしれない

 

楓「手を伸ばして届くなら、誰でも助けたいと思ってるからです。物語の英雄たちはどんなに不可能と言われても、そうして誰かを助けていたので。」

瑠唯「!!」

ましろ(か、かっこいい......///)

七深(かえ君......///)

 

 やはり、彼と出会ってからおかしい

 

 彼がおかしいのは明らか

 

 アンケートでも取れば99%、そう答える

 

 けれど、私はやはりそれに惹かれる

 

 その狂気的な優しさに魅力を感じてしまう

 

瑠唯「素晴らしい、信念だと思うわ......///」

楓「ありがとうございます!」

瑠唯「でも、体は大切にしなさい......心配してしまうわ///」

楓「えっと、それは気をつけますね、あはは......」

 

 控えめに笑う彼が愛おしい

 

 出来る事なら、もっと彼と早く出会っていたかった

 

 そんな妄想ともいえる思いを抱きつつ

 

 私は今日の練習に臨んだ

 

 

 



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 ”空港”

 

 6月も下旬に入り、梅雨も明けてきたころ

 

 とある空港に一気の飛行機が着陸した

 

 機内から出て来る乗客

 

 全員、どこか疲れた様子を見せている

 

?「__うぉー!日本だー!」

 

 だが、その中に1人、紅葉の様な赤色のセミロングくらいの長さを1つにまとめた髪

 

 頭にはゴーグルを装着し、金色の目を輝かせた男がいた

 

 年齢は20代前半と言ったところだろうか

 

?「日本では6月で、そろそろ梅雨が明けたころかな!この空気、日本の匂いがするなぁ......」

 

 その男は大きく深呼吸をした

 

 それはまるで本当に空気を味わっているよう

 

?「楓、元気にしてるかな?」

 

 その男は小さくそう呟き

 

 大荷物を受け取った後

 

 空港から軽い足取りで出て行った

__________________

 

 ”楓”

 

 土曜日のお昼

 

 今日は朝からアトリエでバンド練習だった

 

 僕も少し勉強したり、練習のお手伝いをしたり

 

 いつもすることがない休日を有意義に過ごせてる

 

 今は、休憩中でお昼ご飯を食べてる

 

透子「__いやー、ななみすごすぎ。」

七深「あはは~、それほどでも~。」

瑠唯「目覚めさせたのは衛宮君よ。お手柄だわ。」

楓「いえ、そんな。あれは僕のためでもあるので......」

ましろ(謙遜してる。可愛い。)

つくし(ずっと思ってるけど、何したんだろ。)

透子「そー言えばさー。」

楓「?」

 

 話の途中、桐ケ谷さんが僕の方を見た

 

 何か気になる事でもあるのかな?

 

 そう思い、僕も桐ケ谷さんの方を向いた

 

透子「衛宮ってそいつのすごさみたいなのも分かるんでしょ?」

楓「はい、分かりますよ。だから、ずっと広町さんをすごい人だって思ってたんです。」

透子「だったらさ、こんなすごい奴の色見て驚いたりしなかったの?てゆうか、なんで判断できんの?」

楓「あー......」

ましろ(あれ、珍しく複雑そうな顔してる?)

瑠唯(彼のこんな表情は珍しいわね。)

 

 桐ケ谷さん、すごい所に気付くね

 

 確かに、八潮さんや広町さんみたいな色を初めて見ていれば、僕は間違いなく腰を抜かしてる

 

 けど、僕は特に驚かず受け入れられた

 

 それには、理由がある

 

楓「実は、色が見えるようになって初めて見た色が、八潮さんや広町さんと同じ種類のものだったんです。」

透子「はぁ!?」

つくし「そんなにすごい人が身近にいたの!?」

楓「えっと、身近と言うか......兄です。」

ましろ、七深、瑠唯「!?」

 

 そう言えば、兄がいるって言ってなかったっけ

 

 だから、こんなに驚いた色をしてるんだ

 

 別に隠してたわけではないんだけどな

 

つくし「お、お兄さんがいたんだ。」

楓「うん。」

透子「どんな人?衛宮の兄貴だし、似てたり?」

楓「いえ、兄は僕とは真逆です。色んな才能に恵まれて、体も強くて、容姿も綺麗でカッコいい。」

ましろ「そ、そんな人が......お隣なのに知らなかった。」

楓「いつも僕に構ってくれてたし、高校からは海外に行っちゃったからね。大学も確か向こうで入って、もう卒業してるはずだけど。」

七深(かえ君のお兄さん、是非ともご挨拶を......!)

 

 そう言えば、日本に帰ってこないのかな?

 

 卒業したら帰って来るって言ってたけど

 

 何だかんだで連絡はないし......

 

七深「すごさは分かったけど、性格はどうなの~?」

透子「そうだ。衛宮の真逆じゃ、相当悪いんじゃないの?」

楓「いえ、普通に優しくて気さくですよ?少し変ですけど。」

透子「そりゃ、別の意味で真逆だ。」

ましろ(衛宮君が変って言うのって、相当なんじゃ......)

瑠唯(彼が尊敬してる辺り、かなり優れた人間のようね。)

 

 皆、お兄ちゃんにすごく興味があるんだなぁ

 

 折角、初めてお友達が出来たし、会ってもらいたいな

 

 けど、今どこにいるかもわからないし

 

 難しいかなぁ

 

楓(今、何してるんだろ。)

 

 それから僕はお昼ご飯を食べて

 

 皆の練習が始まると同時に勉強を始めた

__________________

 

 練習は3時になった所で終った

 

 桐ケ谷さんはいつも通りダウンして

 

 倉田さんと二葉さんも疲れた色をしてる

 

 やっぱり、八潮さんの練習はハードだ

 

 でも、皆のレベルも着々と上がってるし

 

 効果は確かにあると感じられる

 

透子「衛宮ー......」

楓「はい、水ですよね?」

透子「飲ませてよー。」

楓「零れますよ?」

瑠唯「......桐ケ谷さん?」

透子「げっ」

 

 桐ケ谷さんと話してると八潮さんが近づいて来た

 

 すると、桐ケ谷さんは体を起こし

 

 少し、後ずさって行った

 

瑠唯「あの練習では満足できないようね。」

透子「い、いや、ちょっとした冗談じゃん?何もそんな怒んなくても......」

七深「え?激辛ソースで元気になりたい?」

ましろ「......」

透子「おい、マジでやめろ!謝るから!ななみはそれしまって、シロは今までにないくらい冷たい目やめて......」

 

 桐ケ谷さんは本気で怯えてる

 

 広町さんのソースは確かに怖いけど

 

 あんなになるかな?

 

七深「も~、そういう冗談はやめなよ~?......間違えて色々しちゃいそうだし~。」

透子(こ、こわっ。ななみ、なんかヤバくなってね?)

ましろ「私は怒ってないよ?」

透子(怒ってはないだろうな。だって、軽蔑した目してたし......)

瑠唯「桐ケ谷さん、次の練習からあなたに特別なメニューを与えるわ。」

透子「お前はまだ怒ってんのかよ!?」

 

 た、大変そうだ

 

 もっと、労わってあげないといけないかな?(逆効果)

 

 カップ焼きそばとか用意する方がいいかな?

 

つくし「折角、練習も早く終わったし、何か食べに行かない?」

七深「お、いいね~。」

瑠唯「時間もあるし、断る理由もないわ。衛宮君は?」

楓「僕も大丈夫ですよ。」

ましろ「私も。」

透子「じゃ、クレープ食べに行こうよ!そばクレ美味しいんだよね~!」

楓、七深(クレープかぁ、最近食べたなぁ。まぁ、いいけど。)

透子「よっしゃー!レッツゴー!」

楓、七深「おー。」

つくし(透子ちゃん、若干ヤケになってる。)

 

 それから、僕たちは皆でアトリエを出て

 

 この前行った駅前のクレープ屋さんに向かった

 

 ......そばクレって何なんだろう?

__________________

 

 駅前まで来た

 

 暑いからか、テーブル席はまだ空いてるし

 

 ここで食べるのには特に問題はない

 

 今はみんなで注文をしてる

 

透子「__あたしはそばクレだけど、皆はどうする?」

七深「広町は激辛地獄クレープ~。」

ましろ「いちごが入ってるのがいい。」

楓「あ、僕も。」

瑠唯「......生クリームとチョコだけでいいわ。」

つくし「カスタードと生クリーム!」

 

 そばクレ......ちょっと重すぎる

 

 気になってたけど、完食できる気がしない

 

 そもそも、炭水化物に炭水化物は......

 

 その、ちょっとカロリーが高いんじゃ......

 

瑠唯「ここは私が代表として出すわ。」

透子「おぉ!太っ腹ー!」

瑠唯「後で返すのよ。衛宮君以外。」

透子(お前は衛宮に甘くないと死ぬのか?)

楓「い、いえ、キッチリ返します。すいません。」

 

 流石に奢られるのはちょっと......

 

 申し訳なさ過ぎて逆に喉を通らなそうだ

 

 相手が八潮さんだったら尚更

 

瑠唯「そう......」

七深「かえ君はこういう子だから~。」

ましろ「良いって言っても聞かなそうだもんね。」

透子「じゃあ、あたしはクレープ持って行ってるから!八潮、よろしく!」

つくし「衛宮君も行くよ。」

楓「はい。(3人は何を話してたんだろ?)」

 

 そんな疑問を抱きつつ、僕はテーブル席に移動した

 

 最近、すごく甘い物食べてるなー

 

 それにしては体重は増えないけど......

 

 なんで太らないんだろう?

 

透子「__いただきまーす!」

瑠唯「うるさいわよ。」

つくし「ま、まぁまぁ、盛り上がって食べるものだし!」

ましろ「美味しい......」

 

 皆、八潮さんにお金を返して

 

 それぞれのタイミングでクレープを食べ始めた

 

 前のと同じだけど、美味しい

 

七深「かえ君はまた苺なんだね~。」

楓「うん。苺が好きっていう訳ではないんだけど。」

ましろ(衛宮君とおそろい♪)

瑠唯(......味が濃いわ。)

楓「?」

 

 八潮さん、クレープ苦手なのかな?

 

 ちょっとだけ、顔をしかめてる気がする

 

 確か味の濃いものは苦手って言ってたし

 

 かなり無理して付き合ってくれてるんじゃ

 

楓「八潮さん、大丈夫ですか?味が濃いものは苦手なんじゃ。」

瑠唯「大丈夫よ。」

透子「ルイー!顔が怖いぞー!」

瑠唯「いつも通りよ。」

ましろ、つくし(確かに。)

瑠唯「......表情がいつも通りと言っただけで、いつも怖いとは言ってないわよ?」

ましろ、つくし(ば、バレてる!?)

楓(怖い事なんてあったかな?)

 

 ずっと優しいと思うけど

 

 話すときは軽く微笑んでくれるし

 

 しかも、可愛いし

 

「__でー。」

 

透子「ん?」

楓「どうしました?」

透子「いや、今、衛宮が呼ばれてたような気がして。」

つくし「そう?」

ましろ「聞こえなかったけど。」

 

 僕も特に何も聞こえなかった

 

 そもそも、人も結構いるし、聞き間違いもある

 

 しかも、僕なんかを呼ぶ人間なんていない

 

「__えでー。」

 

透子「いや、やっぱり聞こえてるって!」

瑠唯「今のは、私も少し聞こえたわ。」

楓「本当ですか?」

ましろ「あれ......?」

つくし「あの人、こっちに走って来てない?あの荷物持ってる人。」

楓「え?」

 

 僕は二葉さんが指さした方を見た

 

 その方向には、こっちに走ってくる影が一つ

 

 すごい荷物があるのにすごいスピードだ

 

 って、あれ......

 

?「__楓ー!」

透子「やっぱりいたじゃん!って、誰?」

つくし(女......いや、男の人だ!綺麗な人だなぁ)

?「久しぶり楓ー!」

 

 え、なんでここに?

 

 か、海外にいるんじゃないの?

 

楓「お、お兄ちゃん!?」

ましろ、七深、透子、つくし「お兄ちゃん!?」

瑠唯(この人が?)

 

 皆、驚いた顔と色をしてる

 

 でも、多分、僕が一番驚いてる

 

 さっき話をしたばっかりなのに!

 

 なんでこんなにタイミングがいいんだ......

 

?「わぁ!楓に一杯友達がいる!しかも、みんな可愛い!」

楓「な、なんで帰ってきてるの!?」

?「勿論、楓に会いたくなって帰ってきたんだよ!大学も卒業したし!」

 

 お兄ちゃんは変わらず元気に話してる

 

 理由はまぁ、本気と冗談が半々くらいかな

 

 昔からこんな感じだし

 

楓「お兄ちゃん。自己紹介して。皆が困惑してるから。」

凪沙「あ、そっか。じゃあ、僕は衛宮凪沙!好きなもの楓、趣味も楓!」

透子(いきなりぶち込んできやがった!!)

つくし(超ブラコン!?)

七深「流石お義兄さん。」

ましろ「すごく分かります!」

瑠唯「素晴らしいご趣味だと思います。」

楓「3人とも!?こ、これは冗談ですから!」

 

 お兄ちゃん、昔からこれ言うよね......

 

 別に僕は嫌じゃないし良いんだけど

 

 お兄ちゃんのイメージを損なうからやめて欲しい

 

 ていうか、広町さんの言い方おかしくなかった?

 

凪沙「いい子達だね、楓!」

楓「と、取り合えず、家に帰っててよ。僕ももうすぐ帰るから......」

七深(こんなかえ君も珍しい~。)

凪沙「そうだねぇ。荷物も置きたいし、父さんと母さんにも会いたいしね!」

 

 お兄ちゃんはそう言って僕に背中を向けた

 

 こんな大荷物、よく持てるよね

 

 僕なら絶対に潰されてる

 

凪沙「じゃあ、僕は先に帰ってるね!それじゃあ、楓の友達の皆もまた!」

つくし「は、はい(また?)」

 

 嵐のように去って行った

 

 流石、お兄ちゃんだ......

 

 相変わらず、一瞬での勢いもすごい

 

 そして、この喧騒の中でも色が異様に目立つ

 

楓「え、えっと、あれが僕のお兄ちゃんです......」

透子「確かに、真逆だったわ。」

つくし「似てる所もない事もないけど、真逆だね。」

七深「お義兄さんとは話せることが多そうだね~。」

ましろ「うん、すごく語り合えそう。」

瑠唯「素晴らしい趣向を持っている方だったわ。」

 

 僕は溜息を付き、一口クレープを食べた

 

 お兄ちゃんが帰ってきたのは嬉しいけど

 

 本当に、なんで帰ってきたんだろう?

 

 昔から謎が多いし、よく分からない

 

 

 



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お兄ちゃんのお仕事

 皆と別れ、僕は家に帰ってきた

 

 家の中にはお兄ちゃんがいる

 

 さっきは驚いたけど、帰ってきたことは嬉しい

 

 ずっと離れて暮らしてたし

 

 家が賑やかになってくれるのもいい事だと思う

 

凪沙「__あ、おかえり!楓!」

楓「ただいま、お兄ちゃん。」

夏葉「おかえり、楓。」

勇一「帰ったか!」

 

 リビングには父さんと母さんとお兄ちゃんがいた

 

 多分、3人で話してたんだと思う

 

凪沙「お友達はみんな帰ったのかい?」

楓「うん。」

勇一「なんだ、楓の友達に会ってたのか!」

夏葉「みんな可愛かったでしょ?」

凪沙「そうだね、みんな可愛かったよ。楓の次に!」

楓「冗談はやめてよ......」

 

 僕は溜息をつきながらそう言った

 

 周りの人、皆こう言うんだよね

 

 男に可愛いって褒めてるのかな......?

 

楓「それで、お兄ちゃんはなんで帰ってきたの?」

凪沙「楓に会いたくなって、そのついでに日本で仕事が見つかってね。」

楓(逆だよ、普通......)

夏葉「あら、仕事するの?お金は十分あるんでしょ?」

凪沙「家族みんなが遊んで暮らせるくらいは向こうで稼いできたけど、やっぱり、仕事ってしたいしね!しかも、今回は本当にやってみたかった仕事なんだ!」

楓(お兄ちゃんがしたい仕事?)

 

 全然、見当がつかない

 

 でも、普通の仕事じゃないのは分かる

 

 宇宙飛行士とか、そういうのじゃないかな?

 

勇一「お前にそんなしたいことなんてあったんだな?」

凪沙「もう明日から出勤なんだー!楽しみー!」

勇一「お、おう。(出勤が嬉しいか......真似できねぇ。)」

夏葉「凪沙がそんなに嬉しそうなのは楓関係くらいじゃないの?」

楓「いや、もっと他にあるでしょ......」

凪沙「あはは、それは秘密だよ!」

 

 お兄ちゃんは明日から仕事かー

 

 でも、日本でって言ってたし、家にはいるんだ

 

 勉強とか教えてもらえる

 

 月ノ森に入れたのも、お兄ちゃんのお陰だし

 

凪沙「あと、楓にお土産があるんだー!取り合えず、絵を買ってきた!」

夏葉「まぁ、綺麗な絵。」

勇一「か、絵画って高いんじゃないのか?」

 

 お兄ちゃんは鞄から綺麗な絵を出した

 

 母さんの言う通り、すごく綺麗な絵だ

 

 こんな絵があったんだ

 

凪沙「これ、友達が書いたやつなんだよねー!だから、実質タダ!」

楓「こんないいものを!?」

凪沙「たしか、売れば億は超えるってディーラーが言ってたっけ?」

勇一、夏葉「ぶふっ!!」

凪沙「どうしたの?」

 

 また、お兄ちゃんの癖が出た

 

 昔から、無自覚にとんでもない事を言う

 

 億を超えるって

 

 下手したら普通の人の生涯年収と変わらないんじゃ......

 

凪沙「ほらほら!部屋に飾って!」

楓「う、うん。(気にしないでおこう。飾ってれば、綺麗な絵だし。)」

凪沙「それが終わったら一緒にお風呂__」

楓「それは嫌だよ、流石に......」

凪沙「じゃあ、一緒に寝よう!」

楓「......」

 

 お兄ちゃん、僕を何歳を思ってるんだろう

 

 幼稚園のときとかは一緒に寝てたけど

 

 高校生になってそれは......

 

凪沙「父さん、母さん?楓は反抗期になっちゃったの?」

勇一「いや、普通に考えて、高校生で兄と一緒のベッドで寝たいと思わないだろ。」

凪沙「えー、そうかなー?」

楓「そうだよ......」

凪沙「じゃあ、仕方ないかー。」

 

 お兄ちゃんには困ったものだよ

 

 いつまでもこんな冗談言うし

 

 いや、別に慣れてるしいいんだけど

 

夏葉「じゃあ、お夕飯にしましょうか。」

凪沙「わぁ!久しぶりの日本食ー!これは、楓にあーんってしてもらわないと!」

勇一(こいつも懲りないな......俺そっくりだ!)

楓「まぁ、そのくらいなら。」

勇一「いや、いいのか!?」

夏葉(楓の判断基準も相当謎よね。いいのだけれど。)

 

 取り合えず、鞄を置いてこよう

 

 そう思い、僕はリビングから出ようとした

 

 その時......

 

凪沙「あ、楓!」

楓「どうしたの?」

凪沙「月曜日、楽しみにしててね!」

楓「?(どういうこと?)」

 

 僕は心底疑問に思ったけど

 

 考えてもわかるわけがないので

 

 軽く頷いてからリビングを出た

__________________

 

 月曜日

 

 今日も僕は早めに登校だ

 

 でも、お兄ちゃんは僕よりも早く家を出たらしく

 

 僕が家を出る時にはもういなかった

 

 お仕事に行ったのかな?

 

七深「__かえくーん!」

楓「おはよう、広町さん。」

七深「うん!おはよう!」

 

 教室に入ると、いつも通り広町さんがいた

 

 元気に挨拶してくれて、気持ちがいい

 

 ちょっと距離が近すぎる気もするけど

 

楓「ち、近すぎない?」

七深「いいじゃん~///私とかえ君の仲だし~///」

楓(友達の距離感なのかな?)

七深「死んでも裏切らないでくれるんでしょ~?///」

楓「うん、もちろん(?)」

七深「だから、これが正解なんだよ~///」

 

 そ、そうなんだ

 

 だったら、いいかな

 

 広町さんが安心出来てるなら

 

七深(かえ君の匂い~///大好き......///)

楓「他の人が来たら離れるんだよ?誤解を招いちゃうし。」

七深(誤解してくれてもいいんだけど......誤解じゃないようにするし!///)

 

 それからしばらく、僕は広町さんにくっつかれていた

 

 広町さんの息が荒くなってたけど

 

 もう夏だし、暑かったのかな?

 

 

 それから10分ほどして

 

 教室のドアが開かれた

 

透子「あ、衛宮に広町!」

楓「おはよう、桐ケ谷さん。」

透子「おはよ!って、何してたの?」

楓「何もないよ?」

七深「そうだよ~。」

 

 桐ケ谷さん、やっぱり勘がいいな

 

 別にバレても問題がない人なんだけど

 

透子「そう言えば、知ってる?今日、緊急集会だって。」

楓「え、そうなの?」

透子「そうそう。」

七深「急だね~?」

 

 緊急で集会って事は重要なことかな?

 

 しかも月ノ森だし

 

 うーん、ちょっと怖いな

 

透子「てかさ、一昨日の兄ちゃんとはどうなったの?」

楓「普通ですよ?日曜日もお勉強を教えてもらって。」

七深「かえ君は真面目だね~。」

透子「まっ、テストも近いしねー。あたしもそろそろヤバい。」

七深「とーこちゃん、前も赤点ギリギリだったもんね~。」

透子「あはは、そうなんだよ......」

 

 桐ケ谷さんは肩を落としながらそう言った

 

 今回のテストは何とかなりそうだし

 

 八潮さんや広町さんに前ほど苦労をかけないで済むかな

 

透子「あ、聞いてよ!この前SNSで面白い画像が流れてきてさ!」

七深「どんなの~?」

透子「スイカが爆発してるんだ!」

楓(どういう事?)

 

 それからは3人で談笑し

 

 先生が来た後、朝礼のため講堂に移動した

 

 今日の朝礼、何の話をするんだろう?

__________________

 

 夏でも講堂の中はそこまで暑くない

 

 だから、暑さで倒れることはない

 

 けど......

 

楓(わ、忘れてた......)

 

 講堂の中には全校生徒が集まる

 

 つまり、色んな色が集まる

 

 そうなれば僕の弱点が出て来る

 

楓(き、気持ち悪い......)

 

 僕の周りには汚い黒が広がってる

 

 相変わらず、この色には慣れない

 

 こんなに色が密集すると、いつもの校舎の比じゃない

 

七深「かえ君かえ君。」

楓「広町さん?」

 

 前の広町さんが僕の服の裾を引っ張ってきた

 

 周りに聞こえないくらい小さな声

 

 何か用があるのかな?

 

七深「私だけ、見てて......?///」

楓「え?」

七深「かえ君、ここじゃ目がきついでしょ?だから......///」

楓「あ、ありがとう。」

 

 僕は視線を広町さんに集中させた

 

 危なかった

 

 もう少しで朝ごはんが逆流して来る所だった

 

七深(かえ君が私だけを見てくれてる///嬉しいなぁ......///)

楓(この色、落ち着く。)

 

 このオレンジ色は落ち着く

 

 綺麗で優しくて、広町さんを感じて

 

 落ち着く......はずなんだけど

 

楓(なんでだろ......ドキドキする。)

 

 あの日以来、こうなることがある

 

 八潮さんのと一緒......いや、少し違う

 

 似てるけど、違う気がする

 

 けど、これが何なのか分からない

 

透子(あいつら、付き合ってんのか?)

つくし(衛宮君はるいさん以外反応しないと思ってた。)

ましろ(ず、ずるい......!)

瑠唯(広町さん......!)

 

 そろそろ、始まるかな

 

 そんなに長い時間じゃないし

 

 この調子なら十分耐えられる

 

理事長『__本日は、今日からこの学校で教鞭をとる、過去に類を見ない優秀な人物を紹介しようと思う。』

 

透子(新しい先生?)

七深(へぇ、そんな人が~。)

楓(......ん?)

 

理事長『衛宮凪沙くん、こちらへ。』

凪沙「はーい。」

 

楓、七深「!?」

 

 理事長に呼ばれたのは、お兄ちゃんだった

 

 僕は目を見開いて、広町さんはこっちに目配せしてきた

 

 え、な、なんで!?

 

 ま、まさか、仕事って......

 

凪沙『初めまして!衛宮凪沙です!』

 

 お兄ちゃんは全員へ向けた挨拶を始めた

 

 流石、堂々としてる

 

 僕だったら緊張と汚い色で絶対に吐いてる

 

凪沙『この度、理事長からのオファーを受け、この学園で教師をする......これは僕にとってsensationalな出来事です!』

理事長『彼はハー〇ー〇大学を首席で卒業した逸材だ。全世界の研究所などからオファーがある中、この学園を選んでくれた。』

 

楓(だ、大学そこだったの!?)

七深(そうだ、あの人、天才なんだった。)

 

 お兄ちゃんの向こうでの生活を知らなかった

 

 けど、そんなすごいことになってたなんて

 

 いやでも、なんで教師を?

 

凪沙『この学園に来た理由の1つは、日本の教育における固定観念をブチ壊すことです!まぁ、今言っても分からないだろうし、これから行動で示すとして......』

 

 お兄ちゃんはスラスラと喋ってる

 

 あんなに大きなこと言うのも、らしい

 

 とても僕には真似出来ない

 

凪沙『一番大切なここに来た理由は__』

楓(あ、目が合った。)

凪沙『僕が愛してやまない、世界一可愛い弟の楓を見に来ました!楓ー!お兄ちゃんだよー!』

楓「」

 

 お兄ちゃんは舞台の上からこっちに手を振ってる

 

 素直にやめて欲しい

 

 全員こっち見てるし......

 

凪沙『じゃあ、僕の挨拶はここまで!楓!僕は家庭科準備室にいるからいつでもおいでー!』

楓「......」

七深「か、かえ君!?」

 

 僕は膝から崩れ落ちた

 

 お兄ちゃん、なんで嵐を起こすの......?

 

 色んな色が混在してるのと視線がつらい

 

 そのせいか分からないけど

 

 気付いたら僕は舞台の方に向かい、叫んでいた

 

楓「__もうっ!!お兄ちゃん!!」

七深「っ!?(か、可愛い!///)」

ましろ(はうっ!///)

瑠唯(......彼の苦労は分かるけれど......なんて、愛らしいのかしら///)

 

 お父さん、お母さん

 

 お兄ちゃんは月ノ森で先生になりました

 

 そして、いつも通り、破天荒です

 

 僕、今まで見たいに平和に過ごせる気がしません

 

 

 



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悪感情?

 僕は今、頭を抱えてる

 

 お兄ちゃんが教師になって、僕の事を公言

 

 別にお兄ちゃんが普通なら全く問題はなかった

 

 けど、現実は容姿端麗、能力は折り紙付き

 

 そして、ここはお金持ちの生徒が集まる月ノ森学園

 

「__あなたのお兄様をぜひ紹介してください!」

「いえ、私に!」

「家なら、親族全員、裕福な生活をさせられますわよ!?」

楓(はぁ......)

 

 そんな条件が揃えば、こうなってしまう

 

 皆、優秀なお兄ちゃんが欲しい

 

 もしくは外見にひきつけられた人もいる

 

 人って難しいよね

 

 興味もなかった人間とこんな理由で話さないといけないんだから

 

楓(疲れた......)

 

 今までお兄ちゃんと学校が被らなかった

 

 けど、一度でも同じ学校になっていればこうなってたんだと思う

 

 日本にいる時は女の人がよく家の前にいたし

 

透子「みんな、衛宮が困ってるだろ!詰め寄るのは止めとけって!」

「桐ケ谷さん。」

「まぁ、そうですわね。彼の気分を害することはしたくありませんし。」

「今日は引きましょう。」

 

 桐ケ谷さんの一声で周りにいた人たちが離れていった

 

 か、かっこいい

 

 女性だけどイケメンだ

 

七深「かえ君、大丈夫?あれだけ集まったら色が混ざってるんじゃない?」

楓「それはまだ大丈夫だよ。これくらいなら。」

透子「それにしても現金な奴らだよなー。眼中にもなかったくせにわざわざ隣のクラスから来てるのもいたじゃん。」

楓「お兄ちゃんは完璧だから、仕方ないよ。」

 

 お兄ちゃんは実際に凄い

 

 あんなすごい大学を首席で卒業して

 

 こんな大勢の人に注目されてる

 

 弟としてこれ以上に誇らしいことはない

 

透子「まっ、カタログスペック通りなら完璧だよね。(ブラコン以外は。)」

七深「普通の女の子なら誰でも、ってレベルじゃないかな~?」

透子「引く手あまただろうねー。」

楓「そう......なんだよね。」

 

 昔から、お兄ちゃんは期待されてきた

 

 父さんと母さんは自由に生きろって言ってたけど

 

 学校の先生や他の周りの大人は違った

 

 それは100点なんて優しいものじゃない

 

 勉強、運動、その全てで120点を求めらる

 

 なのにお兄ちゃんはそれすらも軽々飛び越えて来た

 

透子「弟としては複雑な感じ?あんなに凄くて、モテる兄って。」

楓「いえ、お兄ちゃんのことは尊敬してるので......」

透子「そーなんだ。(だったら、その顔は何だっての。)」

七深(かえ君、やっぱりちょっと様子がおかしいんだよね。)

 

 2人は僕の方をジッと見てる

 

 ちょっとだけ疲れたかも......

 

 今日は朝だけでも色々あったし

 

七深「ねぇ、かえ君__」

凪沙「楓ー!」

楓「お、お兄ちゃん!?」

凪沙「家庭科準備室にいたけど女の子しか来ないし、僕から来たよ!」

 

 うん、それはそうだよね

 

 だって、自分で居場所言ってるんだもん

 

楓「お兄ちゃん、朝のあれはなに?」

凪沙「いやー、楓への愛が爆発しちゃって、つい。」

楓「僕、すごく恥ずかしかったよ?」

凪沙「可愛かったよ!」

楓「......」

透子(カレカノにしか見えねぇ。)

 

 だから、可愛いは止めて

 

 もしかして、お兄ちゃん、僕の性別忘れてる?

 

 そんなに男っぽくない?

 

 いや、確かに昔はよく間違えられたけど

 

透子「せ、先生って衛宮......弟のこと好きすぎないですか?」

凪沙「勿論!楓が女の子なら、とっくに僕がお嫁さんにしてるよ!」

楓「出来ないよ......(出来てもしないけど......)」

凪沙「まぁ、それは流石に冗談だよ。楓は恋愛対象ではないからね。ただ、世界一大切なだけ!」

透子(ただとか、そうゆうレベルじゃないんだよなー。)

 

 お兄ちゃんに恥じらいはないのだろうか

 

 いや、無いと思う

 

 恥ずかしがる姿なんて見たことないし

 

楓(はぁ......)

凪沙「じゃあ、僕は授業の準備をしないといけないから行くよ!楓をよろしく!」

七深「はい!」

透子「は、はいー。(嵐みたいな人だなー。)」

 

 お兄ちゃんは教室から出て行った

 

 なんでだろう、どっと疲れた

 

 嫌いとか、そういう感情はあり得ないけど

 

 もう少し、配慮して欲しい......

 

透子「お疲れだね、衛宮。」

楓「はい......」

 

 僕は小さな声で返事した

 

 周りからの視線で余計に疲れた

 

 恥ずかしいし

 

七深「でも、いいお兄さんだよね~。弟の様子を見に来るなんて。」

楓「......うん、いいお兄ちゃんだよ。」

七深(うーん......)

透子(やっぱ変なんだよな。)

楓「少し、席を外しますね。」

 

 僕はそう言って席を立って

 

 教室を出た

 

 そして、戻ってきたのはお昼休みが終わる直前だった

__________________

 

 ”透子”

 

 衛宮の様子がおかしい

 

 あの兄に振り回されてるから、とも思ってた

 

 けど、あの人が帰って来る前から衛宮はあんな感じだった

 

 嫌いってわけじゃないだろうけど

 

 なんだかなー

 

透子(__うーん。)

 

 放課後、あたしはまだ教室にいて

 

 衛宮もまだ、帰る準備をしてる

 

 まぁ、あいつには世話になってるし?

 

 こんな時くらい、な?

 

透子「おーい、衛宮ー。」

楓「はい?」

透子「放課後、時間ある?」

楓「ありますが、どうしましたか?」

透子「遊びに行くよ!」

楓「え?」

 

 衛宮は驚いた顔をしてる

 

 こいつはストレス解消の仕方を知らない

 

 いや、正確にはストレスを感じないようにしてる

 

 人に悪感情を抱くのを嫌がってる、かな

 

 そんな感じがする

 

楓「あの、僕、お勉強が__」

透子「いいから!」

楓「あの、ちょっと!?」

 

 あたしは無理やり衛宮を引っ張った

 

 どこ行くかはまーったく決めてないけど

 

 まっ、どうにかなるっしょ!

__________________

 

 と、いう訳で

 

 取り合えず、静かな公園に来た

 

 いやね、いつもならそこらへんで遊ぶけど

 

 衛宮は人混みとか騒がしいのが苦手

 

 だから、そんな場所言ったら本末転倒じゃん?

 

 だから、日陰多くて静かで落ち着けるここ!

 

 我ながら模範解答でしょ!

 

楓「__すごい。ここ、2時間以内には誰も通ってない。」

透子「そうでしょー!あたしはここを通ってる人なんて見たことない!」

楓「それは、大丈夫なんですか?」

 

 さて、衛宮の話を聞くのは良いけど

 

 最初からそれじゃ疲れるよねー

 

 だから、なんか違う話から入ろ!

 

透子「衛宮ってさー。」

楓「はい?」

透子「好きなやつとかいないのー?」

楓「!?」

 

 あたしがそんな質問をすると

 

 衛宮の顔は一瞬で真っ赤になった

 

 なんか、女子みたいな反応だな

 

 まぁ、それがまかり通るのが衛宮なんだけど

 

楓「え、えと、それは......分かりません。」

透子(ありえませんとは言わないんだ。)

楓「最近、自分が分からないことが多くて......」

透子(......え、重い話?)

 

 まさか、マジな話?

 

 なんか冗談半分で聞こうと思ってたのに

 

 あたし、まさか話題間違えた?

 

楓「元々、かっこいいって尊敬してた八潮さんを可愛いと思ったり、最近は壁が無くなった広町さんにも同じようことを思ったり......」

透子「な、なるほど。」

 

 マジじゃん

 

 いやでも、それはちょっとあたし的にマズい

 

 それじゃ、シロが報われなさすぎる

 

 これはまたどうにかしないと

 

透子「じゃ、じゃあ、衛宮は2人が好きなの?」

楓「そうだとしたら......自分が不誠実すぎて死にたくなりますね......」

透子「い、いやいや。」

 

 こ、こいつ、真面目すぎだろ

 

 2人と付き合うのとかはそりゃ不誠実だけどさ

 

 高校男子だしさ、好きになるくらいはあるんじゃない?

 

透子「それくらいはいいじゃん?付き合うときに相手が1人ならいいだけだし?」

楓「いえ、2人とも僕よりも遥に上の次元の人なので......僕なんかにこう思われたら迷惑でしょうし。」

透子(なわけないだろ!多分、告られたら泣いて喜ぶだろうし!)

 

 こいつ、鈍感って言うか卑屈すぎだろ

 

 自己肯定感があまりにも低すぎだし

 

 てか、あそこまであからさまなのになんで気づかないんだよ

 

透子「衛宮は自分のこと好きになる女子とか考えたことある?」

楓「ありません。いるわけないので。」

透子「(いるんだよな。)じゃあ、今考えよ。」

楓「......?」

 

 衛宮は困惑してる

 

 こいつ、マジでヤバいんじゃ......

 

 ルイはまだともかくとして、ななみは気づけよ

 

 すごいアピールされてんじゃん

 

透子「仮に衛宮を好きな奴がいて、告白してきたとする。相手はまぁ、ルイとかななみとかシロを想像してみ?」

楓「はい。」

透子「衛宮はそのうちだれかに告白されたら、どう答える?」

楓「......」

透子「!」

 

 衛宮の雰囲気が暗い

 

 真剣に考えてるって感じもする

 

 けど、それだけじゃない気がする

 

 ただ事じゃないよ、これ

 

 いつもの優しい雰囲気なんてないもん

 

楓「......全員、断ると思います。」

透子「!?」

楓「僕に、その資格はないです。お兄ちゃんとは違うので......」

透子(ど、どういう事?)

 

 待って、訳わかんない

 

 衛宮なら、絶対に受け入れると思ってた

 

 でも、その答えは待った逆で

 

 しかも、理由に関しては全くの謎

 

 資格がないって、一体......

 

透子「衛宮はさ、妙に卑屈だよね。」

楓「そうかもしれないですね。」

透子「そうなってる理由、聞かせてよ。」

楓「......」

 

 衛宮はうつ向いてる

 

 ちょっと踏み込み過ぎたかな

 

 自分の事を進んで話すタイプでもないし

 

透子「あの兄も、関係あるんじゃないの?」

楓「......お兄ちゃんだけではありません。むしろ、周りは何も悪くなくて、僕が悪いんです。」

透子「!」

楓「......お話しします。出来れば、他言はしないようにしてください。」

 

 衛宮はいつもより低い声でそう言い

 

 少しだけ押し黙った後

 

 ゆっくり、口を開いて行った

 

 

 



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放っとけない

 天才の弟

 

 ずっと、僕は身内の間でそう言われてきた

 

 天才の弟も天才で間違いない

 

 そんな期待を背負って生まれた僕

 

 けど実際、蓋を開けてみれば......

 

楓「僕は、病気だったんです。」

透子「!?」

 

 生まれた時から心臓の病気と言い渡され

 

 それを知った身内は誰も僕を相手にしなかった

 

 だって、病気持ちを可愛がる理由がなかったから

 

楓「皆、お兄ちゃんだけを優遇しました。心臓に爆弾を抱えた僕より、将来有望なお兄ちゃんの方が良かったので当たり前なんですが。」

透子「い、いや、そんなのおかしいじゃん!」

楓「なにもおかしくありませんよ。」

 

 そう、なにもおかしくない

 

 周りはごく自然な反応をしただけ

 

楓「1度、大きな物......例えば大金を手に入れ、その生活に慣れると、人は簡単に生活水準を落とすことが出来なくなると思うんです。」

透子「っ!(そ、そうかも......)」

楓「それと一緒で、一度あのお兄ちゃんを見れば、僕なんてゴミ同然ですから。だから、誰も決して悪くはないんです。」

透子「い、いや、そんな事......」

 

 桐ケ谷さんは優しい

 

 僕なんかに気を使ってくれてる

 

 本当に......

 

 ”透子”

 

 言葉に詰まった

 

 生まれた時から呉服屋の娘として生まれて

 

 今まで何の不自由もなく生きて来た

 

 お小遣いは衛宮から見れば大分多いし

 

 欲しいものが手に入らない事もほぼなかった

 

 そんなあたしが、衛宮に何か言うなんて

 

 そんなの、おこがましいにも程がある......

 

楓「でも、両親やお兄ちゃんは僕に優しかったんです。」

透子「!」

楓「毎日お見舞いに来てくれて、外のお話を聞かせてくれて、本などもたくさん与えてくれました。」

透子「そ、そっか。」

 

 衛宮は両親と兄に愛されてた

 

 暖かい家族、そんな印象だった

 

 けど、そんな背景があったんだ

 

楓「......だからこそ、辛かったんです。」

透子「え?」

楓「両親は僕にかかりっきりで、お兄ちゃんに使える時間が少なくなったんです......」

透子「......!」

 

 悲しそうな声で、衛宮はそう言った

 

 そっか、入院して毎日お見舞い

 

 そりゃ、時間も無くなる

 

楓「極めつけは、お兄ちゃんが小学校5年生の運動会の時です......僕の体調がいきなり悪くなって、運動会の途中に両親は学校を離れてしまったんです......」

透子「!」

楓「勿論、心配してくれたことは嬉しかったんです。けど、そういう時くらい、お兄ちゃんを優先して欲しいと思ったんです.....体調だって、その日の夜には回復しましたし......」

 

 こいつ、異常だろ

 

 あたしが親でも確実にそうする

 

 もしかしたら、それが命にかかわることかもしれない

 

 けど、それでも、兄を優先してって言う

 

 やっぱり、こいつはおかしい

 

楓「でも、お兄ちゃんは僕を責めなかった......それどころか、『楓が無事でよかった。』って言ってくれたんです......それが一番、辛かった。」

透子「......」

 

 もっと、自分の事心配しろよ

 

 そう思うけど、こいつは絶対にしない

 

 てか、この異常さは生まれつき持ってるものなのか

 

楓「だから、僕は誰より、人に優しくないといけないんです。そう出来ないなら、僕に生きる意味はない。」

透子「......そんな事ないって。」

楓「?」

透子「衛宮はもっと自分の事考えても良いって。そうやって誰かのために生きるのはさ、大人になって、結婚とかした時でいいじゃん。今は、別に普通に病気とか治ってるんでしょ?」

楓「......」

透子「え?」

 

 衛宮は、首を横に振った

 

 え、ちょ、待って?

 

 この反応って事は、まさか......

 

透子「ま、待てよ......」

楓「......僕の病気は、厳密に言えば治っていないです。」

透子「っ!!」

 

 やっぱり、そうだった

 

 なんなんだよ、こいつ

 

 ルイとかななみとかシロ、どうする気なんだよ

 

 なんで、あんなに優しくすんだよ

 

楓「だから、後悔したくない。」

透子「後悔......?」

楓「僕は死んじゃう時、あの人を助けられなかった、あの時にもっと頑張ればよかった、もっとやれることはあった、そんな後悔をしたくないんです。」

 

 その結果がこいつの行動ってわけか

 

 人より人生が短いからこその志

 

 その時その時に全力でいられる理由か

 

透子「衛宮は、それでいいのかよ......」

楓「いいんですよ。誰かのために全力で何かできるなら、僕は僕の人生に満足できます。」

透子「自分は、どうでもいいのかよ。もっと、他人じゃなくて自分のために......」

楓「いえ、これが僕のためでもあるんです。」

透子「!」

 

 衛宮はそう言ってベンチから立ち上がった

 

 そして、笑顔でこっちを向いた

 

 クリーム色の髪が太陽の光で照らされ

 

 キラキラと輝いている

 

楓「後悔しないで死ねるなら、それ以上に幸せなことってないと思うんですよ。だから僕は、朽ち果てるまで誰かのために頑張りたい。」

 

 こいつの目には迷いがない

 

 これ以上ないくらい澄み切ってる

 

 あるものをあるまま受け入れる

 

 そんな目だ

 

透子「......そっか。」

楓「話せることは多分、これだけです。」

 

 ......分からない

 

 衛宮は死ぬの時に後悔したくない

 

 だから、あんだけ人に優しいし、頑張る

 

 その優しさには、あたしだって救われた

 

透子(どうしたいんだ?あたしは......)

 

 衛宮は弟みたいに思ってた

 

 けど、あいつはあたしよりしっかりしてるし

 

 練習でぶっ倒れた時にはいつも助けてくれる

 

 大切な、仲間......

 

楓「僕は帰りますね。また明日__」

透子「ちょっと待て。」

楓「はい?」

透子(あーもう!分かんない!!)

 

 わかんない、わかんないけど

 

 なんか、このままじゃ駄目な気がする

 

 てか、あたしがそれを拒否ってる

 

透子「今週日曜、駅前に集合!!」

楓「え?」

 

 衛宮は首を傾げた

 

 ほんとーに分かんない

 

 けど、なんでかこいつを放っておけない

 

 いや、放っておきたくない

 

楓「僕は構いませんが。」

透子「きっちりオシャレして来いよ!分かったな!」

楓「は、はい?」

 

 あたしはそれだけ言って家に方に歩きだした

 

 あーもう、分かんない

 

 なんで......こんなに胸が痛いんだろ

 

 ”楓”

 

 なぜか、桐ケ谷さんに遊びに誘われた

 

 どうしたんだろうか

 

 そういう気分だったのかな?

 

 桐ケ谷さん、そういう感じの人だし

 

楓(お友達とお出かけかぁ......桐ケ谷さんとだし、きっと楽しいよね!)

 

 折角、誘ってくれたし

 

 何を頑張ればいいか分からないけど、頑張ろう

 

 オシャレしろって言われたし

 

 今日は家で着ていく服でも選ぼうかな?

 

 そんな事を考えながら、僕は家に帰って行った

 

 

 



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新鋭

 ”透子”

 

 マジで分かんない

 

 衛宮と話してからすっごいモヤモヤしてる

 

 頭悪いなりに色々考えた

 

 心臓の病気なんてもちろんなったことないし

 

 あいつの気持ちなんて分かんないけど......

 

透子(......なんだよ、これ。)

 

 弱弱しくて、けど変に度胸があって、優しい衛宮

 

 そんなあいつに死んで欲しくないと思ってる

 

 けど、あいつは死んだほうが幸せになれる気がして

 

 それをあたしが壊すのは無粋な気がする

 

透子「......クソッ」

 

 畳の寝転がって、天井を見上げる

 

 ムカつく

 

 自分が何をしたいのか分かんない

 

 ウジウジするなんて、あたしじゃないし......

 

透子「あーもう!ムカつくー!」

 

 あたしはそう声を上げた

 

 もう、後は日曜に丸投げする

 

 めっちゃ強引だったけど、デートの約束したし

 

 その間に全部答えだす

 

 あたしは自分にそう言い聞かせ、お風呂に入りに行った

_________________

 

 ”楓”

 

 日曜日、僕は駅前に来てる

 

 桐ケ谷さんにいきなり誘われたけど

 

 今日は一体、どこにいくんだろうか

 

 行く場所なんていくらでも見つけてそうだど

 

 やっぱり、すごく華やかな場所なのかな?

 

透子「__衛宮ー!」

楓「あ、桐ケ谷......さん?」

 

 僕は桐ケ谷さんに目を奪われた

 

 と言うか、インパクトでビックリした

 

透子「待ち合わせより前に来るなんて、意識高いじゃん!」

楓「あ、はい、どうも。」

 

 桐ケ谷さんはやっぱり、すごくオシャレだ

 

 見たこともないような服を着てる

 

 ......でも、この服、肩とか出し過ぎなんじゃ

 

 さっきからこっちを見てる男の人たくさんいるし

 

透子「どうしたの?」

楓「え、えっと、その......服が凄く派手と言うか、肩が......」

透子「なに~?まさか、意識しちゃってんの?」

 

 意地悪そうにそう尋ねてくる

 

 いや、僕は別にそうでもない

 

 ただ、周りの目がどうかと思うだけで

 

楓「い、いえ!そういう訳ではないです!」

透子「......(それはそれで、複雑なんだよな。)」

 

 多分、桐ケ谷さんみたいな人の中では普通の服装なんだ

 

 僕がただ、過剰に反応してるだけ

 

 そうだ、今、僕は失礼なことをしてるんだ

 

 ここは毅然とした態度でいないと

 

透子(てか、こいつ、こういうの気にするんだ。)

楓「き、桐ケ谷さん?今日はどこに行くんですか?」

透子「え?言ってなかったっけ?」

楓「誘ってそれきりじゃないですか......」

透子「あはは!ごめん!忘れてた!」

 

 桐ケ谷さんは大笑いしてる

 

 やっぱり、こういうところあるよね

 

 いや、僕は全然いいんだけど

 

 考えてもらってる立場なんだし

 

透子「今日は普通にデートするよ!」

楓「普通に?(デート?)」

透子「ショッピングとか、色々!」

 

 これ、デートだったんだ

 

 だから、母さんたちが盛り上がってたわけか

 

 今やっと理解出来た

 

透子「色は1人だけ見てれば大丈夫なんだろ?だったら、あたしだけ見てろ!」

楓「は、はい。(か、かっこいい。)」

透子「ほら、行くよ!」

 

 僕は桐ケ谷さんに手を握られ一瞬、ドキッとした

 

 けど、それを忘れるくらい

 

 桐ケ谷さんは激しく僕を引っ張っていった

__________________

 

 ”透子”

 

 最初に来たのはショッピングモールの中にあるアパレルショップ

 

 やっぱ、男女のデートと言えば

 

 彼女がいくつか服選んで『どっちがいい?』みたいな面倒くさい質問するのに限るっしょ!

 

 そう思って、いくつか服を見繕って試着室に入った

 

 けど......

 

透子(__か、彼女じゃないし!!///)

 

 なんか、デートとか彼女とか

 

 そんな言葉が頭に浮かんで来てたけど

 

 あたしと衛宮はそんなのじゃないし

 

 てゆうか、衛宮をそんな風に思って......

 

透子「......(ない、とも言えない。)」

 

 否定しようとしたけど、頭がそれを拒否してる

 

 別に、タイプってわけでもないし

 

 あたしは、どっちかと言うとかっこいい系の方が......

 

透子(そもそも、衛宮に感想聞いても、どっちも似合うとかしか言わないし。そんな気負わないでいいじゃん......)

 

 あたしは持ってきた服を着た

 

 見立て通り、良いコーディネート

 

 そんな自画自賛をして

 

 あたしは試着室のカーテンを開けた

 

透子「衛宮ー!」

楓「あ、着替え終わりましたか。」

透子「どう?あたし的にチョーいいんだけど!」

楓「そうですね。とてもお似合いです。」

 

 やっぱり、衛宮はそう言った

 

 まっ、そうだよね

 

 こいつ、こうゆうのに詳しくないだろうし

 

楓「あ、でも。」

透子「!」

楓「桐ケ谷さんがさっき見てた服の方が良かったかなって。」

透子「え、どれ?」

楓「ちょっと待っててくださいね!」

 

 衛宮はそう言って

 

 あたしがさっき見てた棚に走って行った

 

 あいつ、意見とか出せたんだ

 

 普通にびっくしりた

 

 そんな事を考えてると、衛宮が帰ってきた

 

楓「これです!」

透子「あー、それ?良いと思うけど、ちょっとデザインが大人しくない?」

楓「だからいいんです!」

透子「どーゆーこと?」

楓「桐ケ谷さんはキラキラしてて綺麗なので、少し大人しめのデザインも似合うと思ったんです!むしろ、そっちの方が桐ケ谷さんのルックスが目立って良いかと!」

透子「っ......!///」

 

 無意識だって分かってるんだけどさ

 

 こいつ、実はタラシなんじゃねって思う

 

 なんで、こんなこと平気で言えるんだよ

 

 そうやってあの3人も落としたの?

 

透子「じゃ、じゃあ、着てみるわー///(なんで、こんな照れてんだろ......///)」

楓「はい!」

 

 あたしはそう言ってカーテンを閉めた

 

 さっき、2択で迷ってたトップス

 

 あいつ、ちゃんとあたしのこと見てんじゃん

 

 てゆうかさ......

 

透子(あの顔ズルいだろ!///)

 

 あの3人の気持ちが分かってみた

 

 純粋に澄んだ笑顔

 

 しかも、メチャクチャ可愛いし

 

透子(......だから余計、キツイよな。)

 

 舞い上がってる中、そんな事を考えた

 

 あんなに笑える奴が病気なんてさ

 

 世の中不公平にもほどがあるだろ

 

 なんで、あいつが人生諦めんだよ

 

 ......いや

 

透子(今の境遇だから、あいつはああなのかもしれない。)

 

 元の性格もあるだろうけど

 

 限りがあるから、優しくなれる

 

 病気すら、あいつを作ってるものの1つなのかもしれない

 

透子「......」

 

 応援、してやるべきなのか?

 

 あいつが死んでも後悔しないように

 

 そうするのがきっと、あいつのため

 

 だけど、それと同じくらい、死んで欲しくない

 

透子(分かんな......)

楓『桐ケ谷さん?大丈夫ですか?』

透子「あ、大丈夫大丈夫!すーぐ見せてやるよ!」

 

 あたしは急いで衛宮が持ってきた服を着た

 

 それで気付いた

 

 こっちの方がいい

 

 あたしは困惑しつつ、カーテンを開けた

 

楓「わぁ!やっぱり、すごく似合いますね!」

透子「驚いた。衛宮ってセンスあるんだな。」

楓「いえ、僕は桐ケ谷さんが見てたものを持ってきただけなので。」

透子「これいい感じだし、買おっと!」

楓「そうですか?」

透子「じゃ、着替えるな!」

 

 あたしはそう言ってカーテンを閉じ

 

 元の服に着替えた後

 

 衛宮が選んだ服を買ってきて

 

 次の場所に向かった

__________________

 

透子「__さぁ、次はこれ!」

楓「これは?」

 

 次に来たのはゲームセンター

 

 てゆうか、プリクラ

 

 やっぱ、デートっぽいのってこれじゃん?

 

透子「プリクラ!この機械の中で撮るんだよ!」

楓「証明写真みたいなものですか?」

透子「それは違う。」

楓「そうなんですか?」

 

 まぁ、知らないとは思った

 

 プリクラとか、こいつは無縁だよな

 

 それでも証明写真はないけど

 

透子「ほら、撮るよ!」

楓「はい。(ど、どんなだろう。)」

 

 あたし達は機体の中に入った

 

 今まで結構撮ったけど、男子とは初めてだ

 

 てか、意識したら恥ずかしくなってきたんだけど

 

透子「ほ、ほら、衛宮!なんかポーズ!///」

楓「え?」

透子「なんでもいいから!」

楓「じゃ、じゃあ。」

 

 衛宮は小さくピースをした

 

 絶対にやると思った

 

 けど、これはこれでありなんじゃないかな

 

 普通に可愛いし

 

楓(ち、近い。)

透子「撮られるよ!」

 

 そう言うと同時にシャッター音が響いた

 

 一枚目は2人ともピースしてるだけ

 

 てか、絶対にあたしの顔赤いんだけど......

 

楓「次はどうしますか?」

透子「えっとー......じゃあ、大人しくしろよ衛宮!」

楓「え__!?」

 

 あたしは後ろから衛宮にもたれ掛かった

 

 もう完全に勢いだけど

 

 衛宮、どう思ってるかな

 

楓(あ、あた、って......いやいや、ダメだって!)

透子(衛宮の頭、胸に当たってるし......っ///)

 

 自分からしといてだけど、恥ずかしい

 

 流石の衛宮も動揺してるし

 

 てか、あたし痴女じゃん!

 

楓(き、桐ケ谷さんはきっと気にしてない。そうだ、気にしてないんだ!)

透子(やばいやばいやばい!///)

 

 あたしがテンパってる間にシャッター音がした

 

 今、この写真が取られたわけだ

 

 それはもう、カップルみたいな写真になってる

 

 ......あの3人に見られたら終わりだな

 

透子「え、衛宮?出よっか?///」

楓「そ、そうですね。」

 

 そんな会話の後

 

 あたしと衛宮は機内から出て

 

 外で文字書いたりとかしてた

__________________

 

 ショッピングモールの外に出た

 

 衛宮に疲れが見えてきたし、静かな公園に来た

 

 落ち着いたところに来て、ちょっと冷静になる

 

 あたし、何してんだろ

 

 なんかいつも以上にバカみたいじゃん

 

透子「......はぁ///」

楓「飲み物、どうぞ。」

透子「ありがと///」

 

 あたしは衛宮から買ってきてくれた飲み物を受け取って

 

 それを口に含んだ

 

 冷たい飲み物でまた頭が冷える

 

透子(なーんでだろ......///)

 

 衛宮は、

 

 顔はかっこいい系ってよりは可愛い系だし

 

 下手したら女子より弱弱しい

 

 あたしの好みとは全然違う

 

 なのに、なにのさ......

 

透子(あたし、なんで落とされてんだよ......///)

 

 もういい、認める

 

 あたしは衛宮が好き

 

 好きになる人と好みの人は違うって言うし

 

 今の気持ちは絶対にそうだし

 

 これは否定したくなって思ってる

 

楓「すいません、桐ケ谷さん。」

透子「え?」

楓「僕が疲れてしまって......」

透子「いや、いいって!あたしもちょうど風に当たりたかったし!」

 

 これは本当

 

 マジで、あたしおかしくなってた

 

 普通、プリクラであれはあり得ないっしょ

 

 端から見ればあんなのただのバカのカップルじゃん

 

 いや、バカはあたしだけど

 

透子「に、にしても、荷物持ってくれてありがとね!」

楓「女性とお出かけするときはこうするんだよって昨日に教えられて。」

透子(十中八九、あの両親だな。)

 

 普通、荷物持ちなんて嫌なんだけどな

 

 別に彼女でもない奴なんて特に

 

 でも、衛宮はそんな様子も見せないでずっと持ってた

 

 ほんと、性格いいよな

 

楓「それで、あの、今日は何で誘ってくれたんですか?」

 

 ふと、衛宮がそう尋ねて来た

 

 誘ったのは勢い、とは言えないし

 

 なんか、それっぽい理由着けとこ

 

透子「何となく、衛宮と出かけたかっただけ。」

楓「?」

 

 衛宮はあたしの言葉に首を傾げてる

 

 まぁ、今日は目標も達成したし

 

 あたし的には満足......いや、まだだった

 

 あと1つ、聞きたいことあった

 

透子「ねぇ、衛宮?」

楓「はい?」

透子「そのさ、この前の話をしてて、気になったことあるんだ。」

楓「気になったこと?」

透子「そうそう。」

 

 あたしは軽く頷いた

 

 自分の気持ちは分かったし

 

 後は、衛宮の気持ち的なのも知りたい

 

透子「衛宮は、死ぬのが怖くないの?」

 

 あたしはそう尋ねた

 

 あたしならすごい怖い

 

 明日死にますとか言われたら泣くと思う

 

楓「え?」

透子「死ぬのって誰でも怖いじゃん?衛宮も......」

楓「考えたことないですね。」

 

 あたしの問いかけに衛宮はそう答えた

 

 あんまりにもあっさりとした口調

 

 それにあたしはちょっとびっくりした

 

楓「でも、種類によると思いますよ。」

透子「種類?」

楓「心残りがあるまま死ぬなら怖いです、けど、僕の目標はそうならない事なので。」

透子「......そうだった。」

 

 後悔なく死ぬ

 

 それは簡単なことじゃない

 

 絶対に気付かないうちに後悔なんてする

 

 それをゼロなんて難しいとか、そういう話じゃない

 

透子「......後悔なく、死ねると良いね。」

楓「そうですね?」

 

 衛宮は不思議そうにそう答える

 

 あたし、何言ってんだろ

 

 死んで欲しくないって思ってるのに

 

 なぜか、衛宮がいいならそれでいいって思ってきた

 

楓「!」

 

 あたしは衛宮の手を握った

 

 衛宮は少し驚いてたけど

 

 何か言うわけでもなく、受け入れてくれた

 

透子(......好きだよ、衛宮///)

楓「?(どうしたんだろう?)」

 

 好き、好きだから応援する

 

 衛宮が後悔なく死ねるように

 

 その中で、衛宮の大切な人になる

 

 

 



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品性下劣

 学校に来てお兄ちゃんと別れ

 朝、僕はいつも通り学校に来た

 

 広町さんの色もあるし、教室にいるだろう

 

 そんな事を考えながら、廊下を歩いてる

 

楓(そろそろテストだ。終われば夏休みだし、早いなぁ......)

透子「__えーみや!」

楓「わわっ!」

透子「おはよ!今日も早いね!」

 

 廊下を歩いて教室の近くまで来ると

 

 後ろから桐ケ谷さんが走ってきて飛びつかれた

 

 一瞬、転びそうになっちゃった

 

 我がことながら情けない......

 

楓「桐ケ谷さんも早いですね?いつもはもう少し遅いのに。」

透子「あたし、いつも5時起きだし!来ようと思えば来れるよ!」

楓「へぇ、すごく健康的ですね。」

 

 いつも5時起きなんだ

 

 こう言うのは失礼だけど、意外だなぁ

 

 お嬢様だし、お家が厳しいのかな?

 

 確か、呉服屋って言ってたし

 

透子「ほら!ボーっとしてないで教室行くよ!」

楓「あの、このままでですか?」

透子「うん!いいじゃん!」

 

 これは、いいのかな?

 

 誰かに見られたらあらぬ誤解を招きそうだけど

 

 いや、教室には広町さんしかいないだろうし、大丈夫かな?

 

楓「まぁ、広町さんしかいないでしょうし、大丈夫ですね。行きましょうか。」

透子(それが1番大丈夫じゃないけど、まっ、いっか!......衛宮と、くっついてられるし///)

 

 僕は桐ケ谷さんとくっついたまま教室に向かった

 

 なんだか、いつもと桐ケ谷さんの様子が違うな

 

 距離感が近い人なのは間違いない

 

 けど、くっついたりはしない人だった

 

 何かあったのかな?流行りとか?

 

透子「~♪」

楓(僕が考えても、分からないよね......)

 

 そんな事を考えてるうちに教室に着いた

 

 僕はドアをゆっくり開け

 

 広町さんがいるであろう教室に入った

 

楓「おはよう、広町さん。」

七深「あ、おはよう!かえ......君?」

透子「よっ!ななみ!」

七深「え、な、なにしてるの......?」

楓「えっと、見ての通り、だよ?」

 

 僕も理解出来てない

 

 広町さんも困惑したような表情、色をしてる

 

 やっぱり、よく分からないんだ

 

七深「とーこちゃん?何してるのかな~?」

透子「見たまんまじゃね?衛宮にくっついてる。」

七深「なんで?」

透子「それはねー。」

楓「?」

 

 桐ケ谷さんは僕から離れて

 

 今度は広町さんの方に近づいて行って

 

 そして、耳元に口元を近づけた

 

透子「あたしも、衛宮が好きになった。」

七深「!?」

透子「だから、これからアピールしていくし、譲る気もない。ななみにもシロにも、ルイにも。」

七深「......そう。」

 

楓「?(何を話してるんだろう。)」

 

 全然聞き取れない

 

 けど、広町さんと桐ケ谷さんの色がおかしい

 

 あまり見ない色だ

 

七深「今日からライバルだね~。」

透子「あはは、上等じゃん!」

楓「あの、お話はまとまりましたか?」

七深「大丈夫だよ~。」

透子「そんなにややこしい話でもないし!」

楓「!!」

 

 広町さんと桐ケ谷さんは話しを終えた後

 

 こっちを向いたと思ったら近づいて来て、2人に左右から抱き着かれた

 

 朝からいろいろとおかしい

 

 なんでこんな状況になるんだろう?

 

 広町さんはいつも通りだけど、なんで桐ケ谷さんまで?

 

楓「あの、どうかしましたか?」

透子「なんもないよ!ただ、あたしがこうしたいだけ!」

七深「そうだよ~!

楓「そ、そうですか(?)」

 

 わ、分からない

 

 この2人は何がしたいんだろう

 

 別に僕が困ることはないけど

 

 2人は誤解されたりで大変なんじゃ......

 

透子「ほら衛宮!昨日のデートの話してやろうよ!」

七深「!!」

透子「たーっぷり聞かせてやるよ。七深♪」

七深(むぅ~!むぅ~!!)

 

 それから、桐ケ谷さんは広町さんに昨日の話をして

 

 僕はそれの補足をしたりして朝の時間を過ごした

__________________

 

 お昼休み

 

 今日も中庭でみんなと集まってる

 

 お弁当を食べたり、お話しするのは楽しい

 

 楽しい、けど......

 

透子「ほら、衛宮!男ならもっと食えって!」

七深「ほら~、こっちもあるよ~?」

ましろ「ハンバーグ、食べる......?」

楓「き、桐ケ谷さんはどこからそれを出したの?」

 

 僕は大量のお弁当のおかずを差し出され

 

 それを食べることに追われてる

 

 桐ケ谷さんはなぜかお弁当箱を2つ持ってるし、謎だ

 

透子「細かいことは気にすんな!」

楓「それは細かいんですか?」

七深「あはは~。」

ましろ「卵焼きなら、どう......?」

つくし「......」

楓「?」

 

 3人と話してる途中

 

 僕は二葉さんの色がいつもと違う事に気付いた

 

 中学生の時に見たような色だ

 

 浮かれてると言うか、心ここにあらずと言うか

 

 そんな感じの色だ

 

楓「二葉さん?」

つくし「え、ど、どうしたの!?」

楓「何かあったの?浮かれてるみたいだけど。(声大きいなー。)」

 

 僕が話しかけると、二葉さんは大きな声で返事してきた

 

 見るからに焦ってる

 

 本当に何かあったみたいだ

 

楓「何か悩みでもあるのかな?」

つくし「な、悩みとかじゃないんだけど......」

楓「?(どうしたんだろ。)」

透子「なになに!ふーすけ、何かあったのー?」

つくし「!?」

 

 皆の視線が二葉さんに集まる

 

 マズい、絶対に僕、地雷を踏み抜いた

 

 二葉さん、見るからに困っちゃってるし

 

七深「話してみなよ~。」

つくし「い、いや、人に話すようなことでもないから......」

透子「水臭いじゃん!教えてよ!」

つくし「でも......」

楓「それって......あっ。」

ましろ「衛宮君?」

透子「もしかして、何か分かった感じ?」

 

 どうしよう、気付いちゃった

 

 しかも、桐ケ谷さんが食いついちゃったし

 

 僕、二葉さんに恨まれそう......

 

七深「何が見えたの~?」

楓「え、えっと......それは......」

つくし「もうっ、これだよ。」

透子「なにこれ?手紙?」

 

 二葉さんが取り出したのは綺麗な手紙だった

 

 桐ケ谷さんはそれを奪い取って

 

 その中身を見始めた

 

透子「__おぉ!」

七深「ラブレターだ~!」

ましろ「『あなたをお慕いしています。』かぁ......」

瑠唯「こう言うものもあるのね。」

楓(なるほど......)

つくし「だから知られたくなかったのに......」

 

 二葉さんは頭を抱えてる

 

 これは、所謂ラブレターと言う物か

 

 生まれて初めて見たかもしれない

 

 しかも、これには色が残ってるし

 

 2時間以内に送り主が手に持ってたことになる

 

透子「それで、なんでそんなに悩んでんの?」

つくし「それは、断ろうと思ってるから。」

七深「えぇ!?なんで!?」

つくし「だって、男子とあまり喋ったことないからどんな人か分からないし......まだまだ、頑張らないといけないことだって向こうもあるだろうし、それの邪魔にもなりたくない、かな。」

楓「なるほど。」

 

 二葉さん、真面目だなぁ

 

 でも、言ってることはもっともだ

 

 まだまだ高校生になったばっかりだし

 

 お付き合いとかそう言うのは難しいかもしれない

 

七深「うーん、それが正解かもね~。」

ましろ「知らない人、怖いもんね。」

透子「そーだなー。」

瑠唯「二葉さんなら、そうするべきかもしれないわね。」

 

 僕も正直賛成だ

 

 でも、倉田さんの言う通り、少し怖い

 

 どんな人か、気になって来たかも

 

楓「あの、少しお手洗いに行ってきます。」

七深「ついて行こっか~?」

楓「そ、それは勘弁してほしいね。」

透子「行ってら~。」

ましろ「行ってらっしゃい。」

瑠唯「気を付けるのよ。」

楓「はい。」

 

 僕はそう返事してその場を離れ

 

 色が繋がっている方に歩いて行った

__________________

 

 手紙の色は上品な......

 

 例えるなら、高級なチョコのような茶色

 

 けど、この色、少しだけおかしい

 

楓(__ここ?)

 

 色を辿ってついた場所はテニス部の部室だった

 

 つまり、送り主はテニス部の誰か、なのかな?

 

 いくつかの色がここに通じてるし

 

 多分、この中には何人かいると思う

 

楓(取り合えず、聞き耳を立ててみよう。)

 

 僕は扉に耳を近づけた

 

 幸いにも防音の設備はない

 

 これなら、中の声も聞ける

 

『__いやぁ、あれは傑作だった!』

『だよなぁ、あのチビ委員長!』

『あの手紙見て、いっちょ前にこまってやんの!』

楓(......?)

 

 中から聞こえるのは3人の男性生徒の声

 

 でも、話しの内容が妙だ

 

 色々と気になる単語が出てきてる

 

『で、これからどうする?』

『あ?無視して帰るに決まってるだろ。あのチビ委員長がいつまで待ってるか見れないのは残念だがな。』

楓(!?)

『脅すのもありなんじゃないか?』

『いやいや、あんなのじゃ何にも使えないって。』

『あはは!そりゃそっか!』

 

 下品な会話だ

 

 品性なんてかなぐり捨ててるとすら思える

 

 中にいるのは本当に月ノ森の生徒なのか?

 

 本当は不法侵入者なのかもしれない

 

 けど、二葉さんが学級委員長だと知ってるし、それに、個人的に二葉さんを嫌ってるような言葉もある

 

 つまり、壁の向こうにいるのは、A組の生徒?

 

楓「......っ。(そうか......)」

 

 今、感じてた違和感の正体に気付いた

 

 そうだ、この色には輝きがないんだ

 

 品性とか、そういうことを表す輝きが

 

 この色はただ、恵まれた環境で育っただけで

 

 精神的な品は備わってない色なんだ

 

楓(マズい、どうする......)

 

 このままじゃ、二葉さんが悲しいだけにある

 

 真剣に断ろうとしてるのに、それを無下にされる

 

 そんなの、ダメだ

 

 いい人が損する事なんて、あっちゃいけない

 

 でも、僕にできる事は......

 

楓「......そうだ。」

 

 そう呟いてそっと立ち上がり

 

 そして、ゆっくり歩きだした

 

楓(そうだ、簡単なことだ。分かってるなら、第3人である僕が動けばいい。)

 

 決行は今日の放課後

 

 どうにか、二葉さんが傷つかないように

 

 それだけを考えて動かないといけない

 

 僕はそう静かに意気込んだ

 

 

 



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僕じゃない俺

 ”つくし”

 

 今日、私はラブレターを貰ってしまった

 

 嬉しいか嬉しくないかなら、もちろん嬉しい

 

 けど、お互いの事を考えたら断らないといけない

 

 まだまだ、私達は高校1年生だし

 

 正直、何をしたらいいかもわからない

 

 だから、断るために手紙に書かれてた校舎裏に来た

 

つくし(ど、どんな人が来るんだろう。)

 

 断ろうとは思ってる

 

 けど、私だって全く興味がない訳じゃない

 

 この状況に若干喜んでるのも事実なわけで......

 

 今、少しだけ複雑な気持ちでもある

 

?「__お、お待たせしました。」

つくし「あっ。」

?「遅くなってすみません......」

 

 校舎裏で10分くらい待ってると

 

 青い髪で身長は男子の中では程々くらい

 

 声は低いけど、優しいそうで腰が低い男子生徒だった

 

 誰だろう、この人?

 

?「ぼ......俺は、秋宮紅羽です。」

つくし「秋宮、君?」

紅羽「よ、よろしくお願いします。」

 

 秋宮君はそう言って深く頭を下げた

 

 緊張してるのか、喋り方がぎこちない

 

 こんな初心な人も中々いなさそう

 

 けど、なんだか、初めて会った気がしないような......

 

つくし「あの、秋宮君って、どこかで会った事ある?」

紅羽「えぇ!?そ、そんな事はないんじゃないかな!?ぼ、俺もずっと遠くから二葉さんを見てただけだし!」

つくし「そう?」

 

 なんだか、変な子だなぁ

 

 こんな子も月ノ森にいるんだー

 

 珍しいって言うか、おかしいとすら思える

 

 私はそんな秋宮君をジッと見ていた

 

紅羽(な、なんとかなる......?)

 

 ”紅羽”

 

 はい、ここまでで分かると思いますが

 

 秋宮紅羽の正体は僕、衛宮楓です

 

 なんで髪が青いのとか、声が低いのとか、二葉さんに顔がバレてないのか

 

 その辺りはお兄ちゃんに変装を手伝ってもらった

 

 髪はウィッグ

 

 声は気合でどうにかして

 

 顔は特殊メイクでどうにかしました

 

紅羽(ば、バレてないなら、良い感じに断って貰おう。)

つくし「えっと、今日はあのお手紙ありがとうね?」

紅羽「い、いえ、こちらこそ、わざわざ。」

つくし「それで、返事なんだけど......」

 

 二葉さんが話しを進めてくれてる

 

 これなら手早く終わらせられそう

 

紅羽(いや、でも、大丈夫なのかな......?)

 

 あのテニス部の人

 

 かなり二葉さんを嫌ってるように見えた

 

 ここで断られて全部終わるのかな?

 

 いや、終わるだろう

 

 そんなに暇な人じゃないはず、きっと

 

つくし「ごめんなさい。秋宮君の事は嫌いじゃないけど、告白は断らせて欲しいの。」

紅羽「は、はい、こちらも申し訳ありませんでした。今日は、ありがとう。」

つくし「うん、またね、秋宮君。」

紅羽「は、はい。」

 

 二葉さんはそれだけ言って歩いて行った

 

 その背中を見送り、僕はホッと息をついた

 

 よかった......胃袋吐き出しそうだ

 

 こんなに緊張するんだね......

 

紅羽(今日は帰って、勉強しないと......)

 

 僕はそんな事を考えながらその場を離れ

 

 家庭科準備室に向かった

 

 変装して人を騙すなんて、二度とごめんだ

__________________

 

 ”楓”

 

 翌日も僕はいつも通り学校だ

 

 テストも近いので授業も真面目に受けて

 

 休み時間もテスト対策で

 

 お昼休みは空き教室を借りて、皆でお弁当を食べてる

 

透子「__それで、ふーすけは昨日のどうなったの?」

楓「!」

 

 お弁当を半分食べ進めたころ

 

 桐ケ谷さんが二葉さんにそう話題を振った

 

 一瞬体が硬直したけど、僕はあくまで平静を装った

 

つくし「断ったよ。すごくいい人そうだったけど。」

ましろ「どんな人だったの?」

つくし「優しくて腰が低くて、青髪で顔は可愛い系、声は結構低かったかな?」

七深「名前は~?」

つくし「名前は、秋宮紅羽君だったよ。」

瑠唯「......?」

七深「あー......(察し)」

 

 僕、あの土壇場でよく名前思いついたよねー

 

 元の名前が秋関連だから適当に付けたんだけど

 

 うーん、中々いいセンスかもしれない

 

瑠唯「......衛宮君?」

楓「はい?」

瑠唯「二葉さんが言ってる秋宮君って、まさか......」

楓「い、いえ?僕じゃないですよ?髪だって青くないですし?」

瑠唯「誰もあなたとは言ってないわよ?」

楓「!?」

 

 マズい、完全にバレてる

 

 多分だけど広町さんも気づいてる

 

 この2人は流石に察しがいい

 

七深「かえ君~、やるね~。」

楓「あ、あはは......」

瑠唯(変装した衛宮君......悪くないわね///)

 

 ま、まぁ、本人に気付かれなければいいや

 

 なんだか変な汗が出て来た......

 

つくし「あ、ちょっとお花摘みに行ってくるね?」

透子「花摘み?なら中庭にもあるよ?」

つくし「そういう意味じゃないよ!///もう!///」

 

 二葉さんはそう叫びながら出て行った

 

 桐ケ谷さん......鈍感すぎるんじゃ

 

 流石の僕でも分かる事だったのに

 

楓「......?」

ましろ「衛宮君、どうしたの?」

楓「いや......(あの色は......?)」

 

 二葉さんが出て行った後

 

 窓の外で見覚えのある色が動いた

 

楓「す、すいません、僕もお手洗いに行ってきます。」

透子「ん?もって、行くのは衛宮だけじゃね?」

瑠唯「あなたはもう少し教養を身に付けなさい。」

七深「行ってらっしゃ~い。」

ましろ「早く戻ってきてね?」

 

 僕はそう言われ那から席を立ち

 

 教室を出て、取り合えず、お兄ちゃんの所に向かった

 

 ちょっと、マズいかもしれない

__________________

 

 ”つくし”

 

つくし「__ふぅ......」

 

 お花摘みを済ませ、私は廊下を歩いてる

 

 ほんと、透子ちゃんには困ったものだよ

 

 皆の前で言うなんて恥ずかしいのに

 

1「おい、二葉。」

つくし「はい?」

2「なんで、昨日すぐに帰ってたんだよ?」

3「お高く留まってんじゃねぇぞ?」

つくし「え?」

 

 いきなり男子生徒に口々にそう言われ

 

 私は一瞬、何が起きたのか理解できなかった

 

 なんで、この3人が怒ってるのか分からない

 

 昨日って、なんのこと?

 

つくし「あなた達って、A組だよね?何の用?」

1「だから、昨日の手紙だよ。見たんだろ?」

つくし「え、手紙?それは、人が来て断ったけど。」

1「は?適当なこと言ってんじゃねぇよ!」

 

 なんで怒鳴られてるの?

 

 え、私何もしてないよね?

 

2「お前が日頃から注意ばっかしてうるさいから呼び出して放置して笑ってやろうと思ってたのによぉ。さっさと帰りやがって。」

3「最低だな。このことは言いふらしてやる。」

つくし「どういうこと?昨日、書いてあった通りに校舎裏に行ったけど......」

1「言い訳はいらないんだよ!」

つくし「きゃ!!」

 

 私は1人の男子に腕を掴まれた

 

 運動部でガタイも良くて、力も強い

 

 逃げようとしても逃げられない

 

つくし「は、放して......!!」

2「いっつもムカつくんだよ。しっかりしてるか何だか知らないが小言ばっか言いやがって。このチビ。」

3「お前の事は言いふらしてやるよ。告白の現場に来なかったクソ女ってな!」

つくし「来なかったも何もちゃんと行ったもん......」

 

 目に涙が溢れて来た

 

 私は、委員長として役割を果たしてた

 

 なのに、それを否定されて悲しくなった

 

 他の皆も、こんな風に思ってるのかな......

 

 そんな後ろ向きな思考をしてしまう

 

1「お前を委員用の座から降ろしてやるよ。覚悟しろよ。」

紅羽「__いい加減にしたらどうなんだい?そこの人たち。」

つくし「あ、秋宮君......?」

1「あ?なんだお前。このチビの味方か?」

紅羽「そうだよ。昨日、二葉さんに手紙を渡したのは俺だ。」

2,3「は?」

 

 秋宮君はそう言ってこっちに近づいてきて

 

 男子生徒から私を引きはがし

 

 優しく抱き寄せてくれた

 

つくし「!」

紅羽「君たちの今の行動と言動は全て撮影させてもらった。これを学校に報告されたくなければ、もうこんな事は止めるんだ。」

1「なっ!いつのまに......!」

2「さ、流石にヤバいぞ。」

3「お、俺は何もしてない!」

 

 男子3人はそう言って少しずつ距離をあけ

 

 秋宮君から逃げるように後ずさった

 

 あの剣幕だった男子達が一瞬で落ち着いた......

 

つくし(秋宮君、すごい......)

紅羽「もう、二葉さんに手出しするんじゃないよ?その時にはこれを学校に報告するからね。」

1「......チッ、行くぞ。」

2,3「あ、あぁ。」

 

 秋宮君の言葉の後、男子達は去って行った

 

 この出来事の間、秋宮君の腕の中で小さくなって

 

 いつの間にか、制服を掴んでしまっていた

 

 そんな私に、秋宮君は優しく声をかけて来た

 

紅羽「大丈夫?二葉さん。」

つくし「う、うん。ありがとう......」

紅羽「礼には及ばないよ。俺が二葉さんを助けたかっただけだから。」

 

 優しく頭を撫でてくれる

 

 いつもなら子供扱いしないでって言う

 

 でも、今は恐怖心からか、すごく落ち着いてる

 

 暖かくて、ほっとする......

 

 けど、それ以上に今は心が重たい 

 

つくし「......秋宮君......」

紅羽「どうしたの?」

つくし「私って、うざいのかな......?」

紅羽「え?」

 

 そんな面倒な質問をしてしまった

 

 自然と、この言葉が漏れ出てしまった

 

 秋宮君は困惑した様子で首を傾げてる

 

 うぅ、申し訳ない......

 

紅羽「......そんなことないよ。」

つくし「......?」

 

 数秒間の静寂の後、秋宮君は優しくそう言った

 

 私が顔を上げて秋宮君の顔を見ると

 

 彼は優しくこっちに笑いかけていた

 

紅羽「二葉さんは、委員会も先生のお手伝いも頑張ってるじゃないか。」

つくし「......そう、なのかな。」

紅羽「うん。そんな健気な姿を見たから、俺はあの手紙を送ったんだ。だから、二葉さんは自分を卑下するんじゃなくて、自分を褒めてあげて欲しいんだ。」

つくし「......っ!」

 

 その言葉を聞いて、私の鼓動が早くなった

 

 優しい笑顔が眩しくて

 

 体温を感じると、段々と顔が熱くなってくる

 

 なんだろう、これ......?

 

紅羽「自信をもって、二葉さん。俺はずっと応援してるし、味方だから。」

つくし「あっ......」

 

 秋宮君はゆっくりと私を引きはがした

 

 その時、私は胸にぽっかり穴が空いたような感覚に襲われた

 

 寂しい、もう少し、そんな感情が溢れてくる

 

 あれ、まさか、私......

 

紅羽「俺は行くよ。じゃあね、二葉さ__」

つくし「ちょ、ちょっと待って!」

紅羽「ど、どうしたの?(バレた!?)」

つくし「その......///」

紅羽(バレては、ない?)

 

 顔が熱くなって、次の言葉が出ない

 

 心臓が動き過ぎて苦しい

 

 これって、そういう事なんだよね?

 

つくし「また、会いたいな......///」

紅羽「え?」

 

 私はなんとかそう言葉を絞り出した

 

 駄目だ、昨日フッたのに

 

 お互いのために良くないって思ってたのに

 

 逆に私が、秋宮君を......

 

紅羽「......きっと、また会えますよ。」

つくし「......?///」

紅羽「またどこかで。二葉さん。」

つくし「っ!///」

 

 秋宮君はそう言って微笑んで

 

 駆け足でどこかに行った

 

 追いかけたいと思った

 

 けど、あの微笑みに完全に見惚れてしまった私はその場で立ち尽くして、彼を追いかける事が出来なかった

 

 その後、私が正気に戻ったのは

 

 心配した透子ちゃんが迎えに来て、声をかけられた時だった

 

 

 秋宮君......また、すぐに会えるよね?

 

 

 

 



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奇妙な関係

 今日はアトリエでバンド練習の日だ

 

 八潮さんの指導やソファに倒れる桐ケ谷さん

 

 この構図はもはや定番になりつつある

 

 僕はそんな桐ケ谷さんを介抱してるんだけど......

 

つくし「......///」

七深「つーちゃん?どうしたの~?」

つくし「な、なんでもないよ!?///」

楓「?」

 

 二葉さんの様子が見るからにおかしい

 

 心ここににあらずと言った感じで

 

 顔がうっすら赤いままボーっとしてて

 

 返事する様子もどこか落ち着きがない

 

瑠唯「いえ、今日のあなたは集中力が欠如しているわ。何があったというの?」

つくし「あ、いや、その......///」

楓「色もおかしいよ?なんだか、ふやけてる感じで。」

つくし「色ってそんな事も分かるの!?///」

楓「まぁ。」

 

 色は相手の細かい状態までわかる

 

 見分け方は何となく、長年の経験で覚えた

 

ましろ「何があったの?昨日の授業中もずっとそんな感じだったし。」

七深「それで、何があったの~?」

つくし「え、えっと......///」

透子「......もしかして。」

 

 桐ケ谷さんがそう言うと皆の視線が集まった

 

 すると、桐ケ谷さんは二葉さんの方を見て

 

 元気を取り戻した様子でこういった

 

透子「好きな人でも出来た?」

つくし「!?///」

ましろ「えぇ!?」

七深「わぁ。(図星だ。)

楓(あっ、当たってる。)

瑠唯(なぜこう言う事には鈍感ではないのかしら。)

 

 桐ケ谷さん、よく当てられるなぁ

 

 僕なんて色が見えても分からなかったのに

 

 まぁ、デリカシー的なことは置いておくとして

 

透子「で、誰なの?ふーすけを落とした相手って!」

つくし「......秋宮君///」

楓、七深、瑠唯「!?」

ましろ「その人って、つくしちゃんに告白したって言う?」

楓(え、どういうこと!?)

 

 僕は焦ったし、耳を疑った

 

 秋宮紅羽って言うのは言うまでもなく僕

 

 しかも、一応フラれたことになってる

 

 けど、二葉さんはその人物を好きだと言った

 

 どうしよう、全く分からない

 

七深「な、なんでなんで~?つーちゃんってその人フッたんだよね~?」

つくし「そう、なんだけど......///」

透子「なんか訳アリって感じ?」

つくし「うん///あのね、一昨日のお昼休み、私の事が嫌いな男子生徒に絡まれたときに秋宮君が助けてくれて......それに、落ち込んでた私を優しく慰めてくれて、それで......///」

ましろ「それは、すごくかっこいい人だね!」

七深(あー......)

瑠唯(衛宮君、変装してまで人助けなのね......)

 

 あ、あれか!

 

 嫌な色が見えて追いかけたら案の定で

 

 それで写真を撮って止めに入ったけど......

 

 別に大したことはしてないよね......?

 

つくし「『きっと、また会えますよ。』って言ってくれて......///あの時の微笑みがずっと頭から離れなくて......///」

楓「へ、へぇ~、そうなんだぁ......」

七深「そんな人がいるんだ~。」

瑠唯「月ノ森に相応しい......紳士的な生徒ね。」

楓「あの、2人とも、少しいいですか?」

瑠唯、七深「!」

 

 僕は小声で2人を呼び

 

 二葉さんから離れたところに集まった

 

楓「__あれって、もしかしなくても僕、なんですよね......?」

七深「そうだね~。」

瑠唯「そうね。」

 

 2人とも深く頷いた

 

 これは困った

 

 二葉さんに好かれてる事というか

 

 騙してる状態で好かれているのが問題なんだ

 

楓「これ、二葉さんが気づいたらどうなるんでしょうか......」

七深「そ、それは~(まぁ......)」

瑠唯「......どうなるかは分かりかねるわ。」

楓「ですよね......」

 

 二葉さんが騙されてるなんて気づいたら......

 

 あの時に折れかけた心が今度は壊れるかもしれない

 

 しかも、好きな相手がこんな男なんて、一生のトラウマになる

 

楓「正体を明かすのも、それはそれで問題が......」

瑠唯「諦めてもらうのが理想ね。」

七深「かえ君がまた紅羽君になって離れるのが1番、かもね。」

 

 諦めてもらう、か

 

 結局、それが1番いいんだろうなぁ

 

 でも、どうすればいいのか......

 

七深「そんなかえ君にいい漫画があるよ!」

楓「え?」

七深「これこれ!」

瑠唯(どこから出したの?)

 

 広町さんはどこからか漫画を出し

 

 それページをめくり、僕と八潮さんに見せて来た

 

 そこには、主人公とヒロイン

 

 どうやら、主人公が遠くに引っ越すことになったことをヒロインに告げるシーンだ

 

七深「いっそ、『秋宮紅羽は遠くに引っ越す、だから告白した』って事にしちゃえばいいんじゃない?」

楓「な、なるほど。」

瑠唯「まぁ、まだ現実的ではあるわね。」

楓「確かに、これなら諦めがつく......(のかな?)」

 

 いや、つくだろう、きっと

 

 僕とさえバレなければいいわけだし

 

 うん、大丈夫かもしれない

 

つくし「3人とも?どうしたの?」

七深「ちょっとね~。秋宮君について~。」

楓、瑠唯「!」

 

 そう話しながら広町さんがアイコンタクトを送ってきた

 

 僕も八潮さんもそれに従って

 

 取り合えず、皆が集まってるソファの方に行った

 

七深「ねぇねぇ~、つーちゃんってその秋宮君の連絡先とか知ってるの~?」

つくし「え、し、知らないけど。」

透子「なんだー、知らないんだ。あたしが調べてやろうか?」

瑠唯「黙りなさい、桐ケ谷さん。」

透子「え!?なんで!?」

楓(桐ケ谷さんには悪いけど、ナイスです、八潮さん。)

 

 だって、調べても僕に行きつくだけだもん

 

 そうなったら大問題だし、助かった

 

 桐ケ谷さんには本当に申し訳ないけど

 

ましろ「でも、そうだったらまた会うのって難しいんじゃない?学校にいるって言ってもクラスとか分からないし......」

七深「そのことなんだけど~。」

つくし、ましろ、透子「?」

七深「もしかしたら、かえ君、秋宮君と会ったことあるかもしれないんだよね~。」

つくし「えぇ!?」

楓(えぇ!?)

 

 僕は二葉さんと同じ反応をしてしまった

 

 突然そんな事を言うものだから驚いた

 

 まさか、そんな設定をこの場で作るなんて......

 

つくし「そ、そうなの!?衛宮君!?」

七深(かえ君!)

楓「え、あ、まぁ......会ったことはあるかも(?)」

 

 僕はしどろもどろでそう答えた

 

 会ったも何も、本人です

 

 もう引き返せないところまで来ちゃった

 

 これで、僕がどうにかするしかなくなった

 

つくし「ど、どこにいるの......?///」

楓「え、えーっと、どう言えばいいのか......」

つくし「......!///」

楓(うっ、色が輝いてる......)

 

 二葉さんの期待する目と色が眩しい

 

 これは、辛い役回りだなぁ......

 

 いや、僕が撒いた種だし、責任を果たさないと

 

楓「お、教えるのは難しいけど......お出かけに誘うなら、僕がお願いしてみてもいいかな?なんて......」

つくし「ほんとに!?///」

楓「う、うん、本当だよ。(自分だから)話したことないけど、頼んでみるよ。」

つくし「お願いね!///」

楓「はいぃ......」

 

 僕は力なくそう返事した

 

 二葉さん、本当にごめんなさい

 

 期待してる相手が僕なんかでごめんなさい

 

つくし「楽しみだな~......///」

楓「き、きっと、OKしてくれるよ......あはは......」

七深(う、うわぁ......大変そ~。)

瑠唯(......本当に、衛宮君は大変ね。)

ましろ(あれ、これってもしかして......)

透子(ふーすけの好きな奴ってどんなだろ。)

 

 取り合えず、決行はテスト後かな......

 

 僕はなぜか痛くなる頭を押さえ

 

 嬉しそうにしてる二葉さんの姿を眺めていた

 

 本当、とんだ奇妙な関係になった......

 

 

 



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責任?

 作戦が決まった翌日の日曜日

 

 今日は二葉さんを抜いたバンドの皆と集まってる

 

 ......秋宮紅羽として

 

透子「__うわぁ、マジで別人みたいじゃん。」

ましろ「こ、これはこれで(良い!)」

七深「いつもの可愛い系と違ってかっこいい系だね~。(いつか、このかえ君も......///)」

瑠唯「1度フラれたのが不思議なほどね。」

紅羽「勘弁......してください......」

 

 僕は頭を抱えながら項垂れた

 

 こんなつもりじゃなかったんだ

 

 本当なら、今頃全部終わってるはずだったんだ

 

 なんで、こうなったんだろうか......

 

透子(てか、結構イケメンじゃん///衛宮の性格でこの外見なら、もっと早く落ちてたかも///)

七深「それで、方針は前に考えた通りだけど、出来るの?かえ......紅羽君。」

紅羽「なんで言い換えたの?(いいんだけど。)」

七深「偶々つーちゃんが来ちゃったらやばいじゃーん。」

ましろ「つくしちゃん、今日はお家の用事で他県にいるよ......」

 

 この際、呼び方は良いや

 

 問題はなんて言ったって二葉さん

 

 広町さんの作戦通りに行けば、諦めてもらえる

 

 けど、もし仮に傷つけたりしたら......

 

瑠唯「作戦自体は悪くないわ。後は、えみ......秋宮君が上手くやるだけね。」

紅羽「そうですね。僕なんかで大丈夫でしょうか......」

 

 僕の演技力で大丈夫だろうか

 

 正直、今までもボロが出そうになってたし

 

 一人称とか気を抜いたら間違えそうになるし

 

ましろ「きっと大丈夫だよ!だって、すごくかっこいいもん!」

紅羽「そ、そうなんだ......ははっ......」

瑠唯(彼、過労で倒れるんじゃないかしら。)

紅羽「ま、まぁ、決行はテストが終わってお休みになるので、そこにします......」

 

 テストに関してはお兄ちゃんがいるから大丈夫

 

 勉強を教えるの上手だし

 

 今回は倒れる必要はなさそうかな

 

透子「まっ、頑張んな!夏休みは楽しいこと考えてるからさ!」

紅羽「え、何かするんですか?」

透子「それはお楽しみって奴じゃん!」

七深(聞いてないよ~?)

瑠唯(......聞いてないわ。)

ましろ(聞いてない......)

 

 あ、桐ケ谷さん、今初めて言ったね

 

 皆がそんな顔してる、色を見るまでもない

 

紅羽「まぁ、皆に合わせますよ。でも、取り合えず、二葉さんの事を僕......いや、俺が解決しないと......」

ましろ、透子、七深、瑠唯「っ!?///」

紅羽「えぇ!?」

 

 僕が意気込んでると、4人は机に頭を叩きつけた

 

 なんで、こうなったの?

 

 てゆうか、何もなかったよね?

 

ましろ(俺、俺って言った......///)

透子(ちょっとオラッた感じの衛宮もいいじゃん///)

七深(可愛いとカッコいい......うぅ~!揺れる~!///)

瑠唯(......ただの一人称だと言うのに、なぜ......?///)

 

 な、何だかよく分からない

 

 けど、嬉しそうだし、いいかのな?

 

 その場ではそう思う事にして

 

 テスト終了後のお出かけについて考えた

__________________

 

 ”つくし”

 

 テスト1日目の前日

 

 衛宮君から秋宮君の話を聞いた

 

 どうやら、お出かけの話、OKしてくれたみたい

 

 それを聞いてから私はかなり浮足立ってて

 

 家に帰るまでの事は全然覚えてない

 

つくし「......///」

 

 ベッドに突っ伏して、ボーっとしてる

 

 嬉しくて、顔が熱くて、ドキドキして

 

 思いっきり叫びたい気分だけど、妹たちがいる手前出来ない

 

つくし(夢、じゃないんだよね///本当に、テストが終わったらまた会えるんだよね?///)

 

 私は手足をバタバタさせた

 

 夢じゃない、本当にまた会えるんだ

 

 しかも、一緒に1日お出かけできるんだ

 

紅羽『......きっと、また会えますよ。』

つくし「きゃー!///」

 

 楽しみ過ぎる

 

 全くテストに集中できる気がしない

 

 少しでも集中したら秋宮君の姿が浮かんできちゃう......

 

つくし(も、もしかしたら......///)

 

紅羽『俺、やっぱり二葉さんの事が好きだよ。』

 

つくし(なーんて......///)

 

 また告白されたりするのかなぁ......

 

 されたら絶対に断れない

 

 そうなったら、2人で登校したり、お弁当食べたりしたりして......

 

つくし(本当に、楽しみだな......///)

つくし妹「__お姉ちゃん何してるの?」

つくし「な、なんでもないよ!?///」

 

 突然の妹の来訪に驚き

 

 赤くなった顔のまま妹に弁明した

 

 今でこの調子じゃ、1週間も持たないよ......

__________________

 

 ”紅羽”

 

 期末テストが終わった翌日

 

 今日は試験休みで学校がない

 

 そんな日に僕はウィッグにメイクを身に着け、公園の噴水前のベンチに座ってる

 

「__あの人、結構イケメンじゃない?」

「声かけてみる?1人だし。」

紅羽(二葉さん、早く来てぇ......)

 

 待ち合わせ時間までもう少しの頃

 

 周りには若い女の人がたくさんいて

 

 なんだかすごくヒソヒソされている

 

 お兄ちゃんのメイク、すごすぎるよ

 

 平凡な僕がこうなるんだもん......

 

つくし「__あ、秋宮君!!」

紅羽「あ、ふ、二葉さん!」

つくし「ご、ごめんなさい!!」

 

 二葉さんは慌てた様子で走ってきた

 

 もう夏なのにこんなに走って

 

 汗もダラダラかいてて、肩で息をしてる

 

紅羽「ど、どうしたの?あ、ハンカチだけど、これ使って!」

つくし「あ、ありがとう......///」

 

 そう言って、二葉さんは渡したハンカチで汗を拭い始めた

 

 こんなに焦って、どうしたんだろう?

 

 しかも、待ち合わせギリギリなんて言うのも考え難い

 

紅羽「何かあったの?そんなに焦った様子で。」

つくし「そ、それが、今日が楽しみで寝坊しちゃって......///」

紅羽「え?」

つくし「目覚まし時計も3個くらい用意したのに、全部セットし忘れて......」

紅羽「あっ(察し)」

 

 二葉さんのいつもの様子から考え、全てを察した

 

 普通ならありえないと思うけど、そう思えない

 

 本当に、しっかりしてるのに、おっちょこちょいだ

 

紅羽「あはは、二葉さんは面白いね。」

つくし「うぅ......///」

紅羽「少し休んでから行きましょうか。ほら、座ってください。」

 

 僕はそう言いながらベンチを指さした

 

 季節はもう夏

 

 熱中症とかも怖いし、ゆっくりした方がいい

 

紅羽「はい、スポーツドリンク、あと塩飴もあるよ。」

つくし「な、なんでこんな物まで準備してるの?」

紅羽「夏だからね。熱中症対策はしてて損はないよ。」

つくし(すごくしっかりしてる......///)

 

 まぁ、自分にも必要なものだけどね

 

 体が弱いから、夏ならすぐに倒れちゃうし

 

 塩分、水分の補給は必須だ

 

紅羽(さて、ここからどうしようか。)

 

 一応、今日の計画は考えてある

 

 出来るだけ、二葉さんには楽しんでもらわないといけない

 

 最後には、秋宮紅羽はいなくなるんだし

 

つくし「今日は、これからどこに行くの?」

紅羽「うーん、そうだなぁ......」

 

 二葉さんの要望

 

 それはまるで、漫画のようなデート

 

 だから、今日の待ち合わせはここなんだ

 

紅羽「この公園、色々出来る事があるんだ。」

つくし「そうなの?」

紅羽「うん、だからボートとかに乗ってみるのもいいかもね。」

つくし「!」

紅羽「衛宮君から聞いてるよ。そう言ってたって。」

 

 ごめんなさい、二葉さんから聞きました

 

 自分の事を名字で呼ぶのは変な感じだなぁ

 

 そして、騙すたびに心が痛くなってくる

 

つくし「い、行きたい!」

紅羽「よかった。じゃあ、そろそろ行こうか。」

つくし「うん!」

 

 それから、僕と二葉さんは立ち上がり

 

 公園の中にある湖に向かった

__________________

 

 この公園の中の湖はとても広くて

 

 ボートのレンタルもしてる

 

 休日、ここは有名なデートスポットらしい

 

 けど、今日は平日で結構すいてるみたいだ

 

つくし「__わぁ!すごい!」

紅羽「は、ははっ、そうだね!」

 

 僕は今、二葉さんと一緒にボートに乗ってる

 

 けど、ここで大問題が起きた

 

 そう、水の中に入ったオールが重すぎるんだ

 

 非力どころの話じゃない僕はもう、腕がはちきれそうだ

 

紅羽(くっ......筋力が足りない......!)

つくし「水の上って、なんだか涼しく感じる!」

紅羽「そうだね。空気もいい。」

 

 ボートに乗ったのは初めてかもしれない

 

 景色は良いし、風邪も気持ちい

 

 しかも、二葉さんが嬉しそうにしてる

 

 これなら、オールを漕ぐのがきつくてもおつりがくる

 

つくし「本当に漫画みたい!」

紅羽「衛宮君に聞いたからね。期待に答えられたようでよかったよ。」

 

 僕は笑いながらそう答えた

 

 二葉さんもやっぱり、普通の女の子だ

 

 漫画の世界に憧れて、それが現実になって嬉しそうで

 

つくし「秋宮君!今度はあっち行きたい!」

紅羽「が、頑張るよ。(腕、崩れ去るかも......)」

 

 そう苦笑いを浮かべつつ、僕はオールを漕ぐのを再開した

 

 あっちこっち湖の中を漂って

 

 偶に雑談しつつ、水の上で1時間ほど過ごした

__________________

 

紅羽(__なんとかなった!!)

 

 湖から出て、僕は心の中でそう叫んだ

 

 腕が本当にはち切れるかと思った

 

 けど、やりきったんだ

 

 腕に亀裂が入ったような感覚があるけど、二葉さんが嬉しそうで満足だ

 

つくし「次、どこいこっか!」

紅羽「そ、そうだなぁ......」

「うぅ......どうしよう......」

紅羽、つくし「?」

 

 次に行く場所を思い出そうとしてると、近くで子供が1人で泣いてる姿が見えた

 

 僕と二葉さんはそっちの方を向き

 

 少しして、お互いに顔を見合わせた

 

紅羽「どうしたんだろう?迷子?」

つくし「なのかな?放っておけないし、声かけてみる?」

紅羽「そうだね。」

 

 僕はそう言って女の子の方に走った

 

 色がおかしい

 

 悲しみの色が以上に濃い

 

 まるで、大切な人が亡くなった時みたいな......

 

つくし「どうしたの?なんで泣いてるの?」

女の子「え、お姉ちゃん、誰......?」

つくし「お姉ちゃんたちはあなたの味方だよ。何かあったの?」

紅羽(この色は、何だろう......?)

 

 異常だ、この色は

 

 今までこんな色は見たことがない

 

女の子「お母さんの......指輪......」

紅羽「え?」

女の子「死んじゃった、お母さんの指輪......投げ捨てられちゃった......!」

紅羽、つくし「なっ!!」

 

 俺も二葉さんも絶句した

 

 この子は今、母親の形見を捨てられたと言った

 

 それをちゃんと飲み込んでからは怒りがわいてきた

 

 誰だ、そんな惨いことをしたのは......?

 

紅羽「......誰が、やったの?」

女の子「そこにいる......男の子......」

 

 女の子が指さした方には小太りの意地悪そうな男の子がいる

 

 その近くには親と思われる女性

 

 その2人はノウノウと楽しそうに遊んでる

 

紅羽「......」

つくし「あ、秋宮君......?」

紅羽「......ごめん、少し目を閉じてて。」

 

 僕は小さな声でそう言い、2人の方に近づいた

 

 ......醜い

 

 こんなに醜い色も今まで見たことがない

 

 許せない

 

 ただの自己満足かもしれない、誰も望まないかもしれない

 

 けど、これを放ってたら、僕に生きる価値はない

 

紅羽「ねぇ、君。」

男の子「あ?なんだよ!」

紅羽「君さ、あの女の子の大切な指輪、投げたよね?」

男の子「へ!そうだけど?なんだ?仲間に入りたいのか!」

紅羽「......」

 

 可哀想な子供だ

 

 持つべき罪の意識を持ててない

 

 僕ならそんな事をしたら死にたくなるのに

 

 本当に......

 

男の子「__へぶっ!!!」

紅羽「......」

母親「ちょ、ちょっと!?何してるの!?」

 

 僕は男の子の頬をぶった

 

 母親が文句を言ってきてるけど、気にしない

 

 あの子の痛みはこの程度じゃない

 

紅羽「今、あなた達が1番大切なものを持ってこい!!!」

男の子、母親「ひえ......っ」

紅羽「全部どこかに投げ捨ててやる!!!あなた達がしたことはそう言う事だ!!!なのに、なのに......!!!」

 

 怒りが止まらない

 

 こんなの、恐喝もいい所だ

 

 でも、僕がどうなったっていい

 

 この2人を、どうにかできるなら

 

紅羽「今から僕があの湖に突き落としてやる!!!ついて来い!!!」

つくし「!!」

男の子「は、放して!!!いやだ、いやだ!!」

母親「きゃああ!!はなして!!息子をどうする気ですか!!」

紅羽「あなたも突き落とす!!」

 

 僕はない力で男の子を引きずる

 

 後ろからは鳴き声と喚き声が聞こえる

 

 けど、まったく気にしない

 

 この2人は許さない、絶対に

 

母親「あんな指輪と息子の命が平等な訳ない!!!放しなさい!!」

紅羽「......は?」

母親「あっ......」

男の子「うわっ!」

 

 母親の言葉を聞いて僕は男の子から手を放した

 

 今、なんて言った?

 

 亡くなった母親の形見

 

 あの子にとっては命と同じくらい大切なはずだ

 

 それを、平等じゃない?

 

紅羽「......もういいですよ、消えてください。」

母親「な、何の権利があって......」

紅羽「......譲歩、しましたよ。」

母親「っ!な、何なのよ!顔がちょっといいだけの癖に!」

男の子「ま、ママ~!!」

 

 あの親子はそう言って逃げていった

 

 僕としたことが、少し大人げなかった

 

 結局、何の生産性のない怒声を出しただけだ

 

 もっと、出来る事はあったのに

 

 そんな事を思いながら、二葉さんの方に戻った

 

女の子「お、お兄ちゃん......」

紅羽「ごめん、怖がらせちゃったね。」

つくし「う、ううん、そんな事ないよ!」

 

 正直、僕にできることは少ない

 

 しかも、これをするとバレてしまうかもしれない

 

 でも、そんな事言ってられない

 

紅羽「君の指輪は、死んでも見つける。」

つくし「でも、どうやって......?」

紅羽「大丈夫、出来るよ。」

つくし「え......?」

 

 もう2時間以上たってるんだろうか、色はない

 

 けど、僕にはある

 

 無くなった色を見る方法が

 

紅羽「__うぐっ......!!」

つくし「秋宮君!?」

紅羽(......見えた!)

 

 女の子の手から、色が伸びて行ってる

 

 幸い、湖の中には落ちてない

 

 木々の中に紛れ込んでるみたいだ

 

紅羽「ちょっと、行ってくる。」

つくし「だ、大丈夫!?フラフラしてるよ!?」

女の子「お兄ちゃん......!?」

紅羽(頭、痛いな......)

 

 いや、弱音はダメだ

 

 指輪を見つけるんだ

 

 その一心で僕は無理やり見てる色を辿った

 

 木々の間を通って、草をかき分けて

 

 伸び続ける色に向かって行く

 

紅羽「__ここに......あった!」

つくし「見つかったの!?うそっ!」

 

 僕の手の中には銀色の綺麗な指輪

 

 派手さは少ないけど、淡い色をしてる

 

紅羽「あっ......」

 

 そして、その指輪にある色を見て、視界が潤んだ

 

 あの男の子の色なんかどうでもいい

 

 それ以外の2つの色

 

 色はあの女の子の色、そしてもう1つ

 

 女の子に似てる、少しだけ濃い色

 

 これは......

 

紅羽「お母さんの、色か......」

女の子「お兄ちゃん......?」

紅羽「良い、お母さんなんだね......!この指輪、大切にするんだよ......!」

 

 僕は女の子に指輪をはめた

 

 まだ指が小さくて、親指にはめるのがやっとだ

 

 けど、これでいい

 

 お母さんは、いつもこの子を守ってる

 

 それくらい、お母さんが色濃く残ってる

 

女の子「ありがとう、お兄ちゃん!」

紅羽「もういいから、今日は家にお帰り。」

女の子「うん!またね!またお礼する!」

 

 女の子はそう言って元気に走って行った

 

 よかった、役に立てて

 

つくし「あ、秋宮君......」

紅羽「二葉さん、ごめんね。お出かけの続き、しよ__っ!」

つくし「!?」

紅羽(あれっ......?)

 

 体に力が入らない

 

 そうか、色を無理やり見た代償が来たんだ

 

 しまった......

 

紅羽「ご、ごめん。すぐに立つよ。」

つくし「いいよ、分かってるから。」

紅羽「っ!」

つくし「もうっ、やっぱり......」

楓「な、なんで......?」

 

 二葉さんはため息をついてからこっちに近づいて来て、僕のウィッグを外してしまった

 

 なんでバレちゃったんだ!?

 

 ボロはほとんど出てないはずなのに......

 

楓「あっ......!」

つくし「衛宮君!?」

 

 僕は地面に膝をついた

 

 目の前がふらふらする

 

 しかも、眼球の奥が焼けるように痛い

 

つくし「もう、仕方ないんだから......」

楓「!」

つくし「......これで、ゆっくりできる?///」

 

 二葉さんに、膝枕をされた

 

 後頭部に柔らかい感触がある

 

 上を見上げると、紅潮した二葉さんの顔が見える

 

 あれ、どうなってるんだろう?

 

楓「なんで、気付いたの......?」

つくし「最初はあの親子に怒鳴ってるときだよ。僕って言ってたから。」

楓「え?」

つくし「それで、あの指輪を見つけた時の動きで確信した。」

 

 ボロ、出まくりだったね

 

 指輪を探したことは仕方ないけど

 

 怒ってるときに一人称が変わるのは僕の落ち度だね

 

 全く僕は......

 

つくし「ほんと、衛宮君の無理する癖って治らないんだね。」

楓「いつでも、こうなわけじゃないと思うけど。」

つくし「偶にでも、心配な人は心配なの......私も。」

楓「?」

 

 二葉さんは沈んだ声でそう言った

 

 まぁ、流石に今日はちょっと無理したかもだけど

 

 でも、それであの子の笑顔を守れたんだ、悔いはない

 

つくし「秋宮君って、衛宮君だったんだね。」

楓「え、あ、ま、まぁ......」

つくし「じゃあ、あの男子生徒が言ってたのは本当だったんだね。」

楓「そうとも......言えなくもないかな?」

 

 全部バレちゃったか......

 

 二葉さんを傷つけないためだったのに

 

 結局、自己満足で全部台無しだ

 

楓「ごめんね、騙してて......」

つくし「別にいいよ?」

楓「え?」

つくし「助けてくれたのは確かだし、すごく楽しかったし......それに......///」

楓「?(あれ、色が......)」

 

 二葉さんの色が妖しく輝いた

 

 顔は紅潮してて、笑みを浮かべたまま僕の顔を覗き込んでる

 

 そして、しばらくして、ゆっくり口を開いた

 

つくし「秋宮君は、衛宮君だから......///」

楓「ま、まぁ......(そうだね。)」

つくし「そう、だから__ちゅ///」

楓「!?」

 

 その瞬間、僕の世界は止まった

 

 頬にはやわらかい感触

 

 そして、二葉さんの顔が視界にいっぱいに広がってる

 

 数秒して、二葉さんは離れていった

 

つくし「責任、とってよね///」

楓「へ......?」

 

 二葉さんは舌なめずりをしてからそう言い、僕はそんな素っ頓な声を出した

 

 何についてかは分からないけど......

 

 けど、その時の二葉さんの表情はすごく綺麗で

 

 いつもと様子が違う......と言う事は分かった

 

 ......責任って、なんなんだろう?

 

 

 



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夏休み、開始

 二葉さんに関する問題が解決してから数日

 

 僕は終業式を終えて、夏休みに突入した

 

 夏休みでもバンドの練習はあって

 

 今日も、皆でアトリエに集まってる

 

透子「__皆で出かけよ!」

瑠唯「突然、何を言っているのかしら。」

 

 練習が終わって休憩してると

 

 桐ケ谷さんはいきなり大声でそんな事を言った

 

 皆、首を傾げながら桐ケ谷さんの方に注目してる

 

透子「折角のバンド組んで初めての夏休みだよ!どっかで合宿みたいなことしたいじゃん!」

つくし「まぁ、それは良いと思うけど、ましろちゃんはどう?」

ましろ「え?私も、いいと思うよ......?」

七深「私もさんせ~い。かえ君は~?」

楓「僕もいいと思うよ。皆、最近はたくさん練習してたし、リフレッシュした方がいいかも。」

瑠唯「なるほど。そっちの方が効率が上がりそうね。」

 

 最近、少し疲れが見える事もあった

 

 倉田さんはそれが色に顕著に出てたかな

 

瑠唯「でも、どこに行くというの?」

透子「え、そうだなぁー......」

つくし「決めてないんだね......」

透子「いやいや、今決めるって!」

楓、ましろ(今考えるんだ......)

 

 桐ケ谷さんはムムムッといった感じで行先を考えてる

 

 今この場で考えるなんて僕には出来そうにない

 

 桐ケ谷さん、頭の回転早いなぁ

 

透子「そうだ、山だ!コテージ借りて、皆で泊まろうよ!」

七深「おぉ~いいね~。」

透子「もちろん、衛宮も参加ね!」

楓「え?いいの?」

透子「いや、むしろ衛宮が来ないと大変なことになるよ。」

楓「......?」

ましろ、瑠唯、七深、つくし(それは否定できない。)

 

 な、何が大変なんだろう?

 

 男手が必要って意味なら僕はあり得ない

 

 力ならみんな僕よりも強いし

 

 その他にも役立つことなんて無いと思うけど

 

透子「山では川遊びとかもするし、あたし達の水着が見れるよ!役得じゃん!」

楓「う、うーん、それが目的で行くのは不誠実な気がするんですが......」

透子「いやいや、それくらいの方が良いって!」

七深「うんうん、かえ君は真面目過ぎるんだよ~。」

楓「そうでもないと思うけど......」

 

 確かに、皆の水着はきっと可愛らしいだろうし

 

 僕なんかには過ぎた特権だと思う

 

 けど、皆をそんな目で見るのは申し訳ないと言うか

 

 そうしてると信頼関係が壊れそうで......嫌だな

 

楓「まぁ、参加していいなら、僕も参加しますよ。折角の機会ですし。」

透子「よし!」

ましろ「楽しみ......!」

つくし(水着......大丈夫かな......い、いや、衛宮君はそんな事気にしないよね。だって、衛宮君だもん!)

 

 山かぁ......

 

 今まで絵でしか見たことないなぁ

 

 実際にはどんな場所なんだろう

 

瑠唯「日程はどうするの?」

透子「3日後!」

楓、ましろ、つくし「......え?」

七深「急だね~。」

瑠唯「計画性という言葉を知らないようね。」

 

 皆、どこか呆れた様子だ

 

 まぁ確かに、急すぎるね

 

 てゆうか、予約とかとれるのかな?

 

透子「でも、楽しい事は早くしたいじゃん!」

瑠唯「はぁ、何を言っても無駄の様ね。」

ましろ「準備、早くしないと。」

つくし「全く、透子ちゃんは......」

七深「あはは、広町は別にいいよ~。」

楓「僕も、あまり準備するものもないので。」

透子「よっしゃ来た!」

 

 桐ケ谷さんはそう言って携帯を触りだした

 

 すごい手つきで画面をスワイプしてる

 

 流石に手慣れてるなぁ

 

 そんな事を思いながらしばらく眺めてると

 

 桐ケ谷さんは手を止め、パァっと笑顔になった

 

透子「2泊3日で、場所はここね!よし、あたし準備するからこれでー!」

つくし「ちょ、透子ちゃん!?」

七深「速いね~。」

 

 桐ケ谷さんは凄い速さでアトリエを出て行った

 

 場所決めから期間決めまで早いなぁ

 

 あの判断力は見守らないと

 

瑠唯「......私達も、準備をしましょうか。」

ましろ「そ、そうだね。」

つくし「そうだね。」

七深「じゃあ、今日の所は解散で~。」

楓「そうだね。」

 

 それから、僕たちは解散し

 

 それぞれ帰路についた

 

 それにしても、山かぁ......

 

 初めてだし、楽しみだなぁ

__________________

 

 夜、僕は自分の部屋で山に行く準備をしてる

 

 今更だけど女性の中に僕1人いるのっていいのかな?

 

 別に何もやましい事はないけど

 

 やっぱり、僕には分からない事は多いしなぁ

 

凪沙「__楓ー!って、何してるの?」

楓「桐ケ谷さんたちと山にお泊りに行くから、その準備だよ。」

凪沙「うんうん♪楓が楽しそうで何より♪(そうなんだー。)」

楓「お兄ちゃん、多分だけど、反対になってるよ。」

 

 って、そうじゃなくて

 

 なんでお兄ちゃんは部屋に来たんだろう

 

 いやそれより、ノック位して欲しいな......

 

凪沙「それにしても、山かー。いいねぇ、楽しそうで。」

楓「初めて行くから、色んな景色を見たいな。」

凪沙「山なら、場所によるけど色も少ないだろうし、良いものが見れるかもね。」

楓「あ、そっか。」

 

 もしかして、桐ケ谷さんって僕に気を遣ってくれたのかな

 

 シレっとそういう事できそうな人だもんね

 

 それとなく聞いて、お礼言わないと

 

楓「お兄ちゃんは夏休み、どうするの?」

凪沙「いやー、僕はもう教師だからね。休み中も学校に行かないといけないんだよ。」

楓「あ、そうだった。大変そうだね。」

凪沙「楓のイメージのためにもなるし、ちゃんと仕事をしてたら学校にも恩を売れるしね!」

楓(恩?)

 

 まぁ、真面目に仕事してるし、いっか

 

 それにしても、あのお兄ちゃんが仕事かぁ

 

 なんだか、時の流れを感じるなぁ

 

凪沙「まぁ、そんなことはいいんだ。楽しんできてね、楓!」

楓「うん、ありがとう、お兄ちゃん。」

凪沙「あ、お土産は楓の写真がいい!」

楓「それは、あればね。」

凪沙「あはは!ありがと!」

 

 お兄ちゃんはそう言って部屋から出て行った

 

 帰ってきてから1日一回来てるけど

 

 何と言うか、嵐のように去って行く

 

 まぁ、話すのは楽しいからいいんだけど

 

楓「っと、準備はこれで良いかな?」

 

 僕は鞄のチャックを閉めた

 

 荷物が少ないと早いね

 

 楽でいいや

 

楓(さて、後はノルマ分の課題をしよっと。)

 

 その後、僕は少しだけ課題をして

 

 皆と少しメッセージでやり取りをした

 

 人生初めての友達とのお泊り

 

 すごく、楽しみだ



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出発

 ”瑠唯”

 

 2泊3日、彼と同じ屋根の下で過ごすことになった

 

 少し前の倉田さんの家に行った時とはわけが違う

 

 本当に、同じ建物の中に彼がずっといる

 

 今、私はその事実のせいで落ち着かない気持ちになってる

 

瑠唯(ど、どうしましょう......///)

 

 私自身、彼への好意は自覚してるし

 

 性に関する知識も持ち合わせてる

 

 そんな状況では、嫌でも意識してしまう

 

 万が一、彼に迫られたりしたら......

 

瑠唯(......ありえないわ。衛宮君よ......?///)

 

 万が一はあり得ない

 

 彼は誰よりも真面目で、下心とは無縁

 

 間違いなんて起きるわけがない

 

 そう、頭では分かってる、分かってるのに......

 

瑠唯(少し、くらいなら......///)

 

 今まで、私にそういう目的で近づいて来たであろう人物は少なからずいたし

 

 それらは全て粉砕してきた

 

 なのに、そんな私が今はこの様

 

 下心を持って、彼と接してしまっている

 

瑠唯(......寝ましょう。これ以上考えたら、頭がどうにかなるわ......///)

 

 私はそう考え、一旦思考を停止させ

 

 もう寝てしまおうとした

 

 けれど、何故かその日は眠れなくなって

 

 最終的に、私が眠れたのは3時間後だった

__________________

 

 ”楓”

 

 今日は旅行に出発する日だ

 

 この3日間はずっとワクワクしてて

 

 課題ももう9割くらい終わらせてしまった

 

 あんまり早く終わらせ過ぎるのは良くないんだけどね

 

ましろ「__衛宮君!」

楓「あ、倉田さん!おはよう!」

ましろ「おはよう!」

 

 家の前に出ると、同時に倉田さんも家から出て来た

 

 夏らしい涼し気な服装で、手には大きなカバンを持ってる

 

 女の子の荷物ってやっぱり多いんだなぁ

 

 僕の2倍くらいあるんじゃないかな?

 

楓「すごい荷物だね?」

ましろ「え?そうかな?これくらいなら普通だと思うけど。」

楓「こ、これが普通なんだ。」

ましろ「うん、衛宮君は逆に少ないね?」

楓「まぁ、必要なものが少ないからね。」

 

 普通、こう言う時って『荷物持つよ。』みたいな感じで荷物持ち位するんだろうけど......

 

 僕は倉田さんよりも力が弱い

 

 腕相撲でも全員に盛大に負けたしね

 

 ......我ながら情けない話だね

 

楓(はぁ......僕も筋力欲しいなぁ......ボディビルダーとまでは言わないから、せめて平均くらい......)

ましろ「どうしたの?」

楓「いや、なんでもないよ......あはは......」

ましろ(すごくダメージ受けてる。なんで?)

 

 これについては、もう考えないでおこう

 

 考えてもダメージを受けるだけだし

 

楓「そう言えば、僕たちはここにいていいんだよね?」

ましろ「うん、お迎えが来るらしいよ?」

楓「さ、流石、お嬢様だね......」

ましろ「そうだね。きっと、すごく高そうな車で来るんだよ。黒塗りのやつ。」

楓「あー。」

 

 すごく想像できた

 

 テレビとかでよく見るよねぇ

 

 すごく高そうなリムジン、みたいな

 

 けど、まぁ、言ってもテレビで見ただけ

 

 流石に高校生のお迎えなんかにそんな車、来るわけないよ

 

ましろ「あっ、透子ちゃんから連絡来た。もう着くって。」

楓「じゃあ、もう車とか見えるんじゃな......い?」

ましろ「どうしたの、衛宮......くん?」

透子「__おーい!衛宮ー!シロー!」

楓、ましろ(なにあれ?)

 

 桐ケ谷さんから連絡が来てすぐ

 

 向こうから見たことも無いような車が走ってきた

 

 その車の色は想像通りの黒色だけど

 

 サイズが完全に予想外だった

 

 どうやってこの住宅街を走って来たのか疑問に思うほど長くて

 

 テレビで見たリムジンの2倍くらいある

 

楓、ましろ「」

七深「おまたせ~、2人とも~!」

透子「なんて顔してんの?ウケるんだけど!」

楓(あぁ、そうだ......)

ましろ(皆って、学生である前にお嬢様だった......)

 

 僕と倉田さんは唖然としてる

 

 だってさ、一般人は乗用車くらいしか見ないんだよ?

 

 なのに、来たのは想像の斜め上を行くサイズのリムジンで

 

 ビックリすると言うか、思考が停止した

 

透子「いや~、ルイが車用意してくれたんだよね~!」

楓「そ、そう、ですか。」

 

 八潮さんのお家かぁ......

 

 オリエンテーションの後に一回来たけど

 

 こんな車には乗ってなかったような......

 

運転手「__どうぞ、衛宮様、倉田様。」

楓「あ、ありがとうございます。」

ましろ「お、お邪魔します(?)」

 

 そう言って、僕と倉田さんは車に乗り込んだ

 

 桐ケ谷さんはずッと笑ってたけど

 

 僕達にとっては笑い事じゃないんだよ

 

 なんて、ずっとそんな事を思っていた

__________________

 

楓「......」

ましろ「わ、わぁ......」

 

 車の中も、僕たちの想像以上だった

 

 やろうと思えば、この中でも生活できそうだ

 

 うーん、色々とおかしいなぁ

 

瑠唯「おはよう、衛宮君。どうぞ、おかけになって。」

楓「は、はい。失礼しま__」

透子「おーいおい、ルイ?抜け駆けはさせないよ?」

瑠唯「......何のことかしら?」

楓(抜け駆け?)

 

 って、何の事だろう

 

 何かを競ってるのかな?

 

 この状況で競うってよく分からないけど......

 

七深「ほら~、広町の横においで~。」

つくし「いや、私の方においでよ!」

ましろ「私の方が、落ち着くと思うよ......?」

透子「いや、あたしの膝の上乗りなよ!」

楓「き、桐ケ谷さんのはおかしくないかな?」

 

 流石にそれは嫌だね

 

 男以前に同年代として扱われてないし......

 

透子「いや、どうせ衛宮、あたし達より体重軽いじゃん。あ、ふーすけ以外か。」

つくし「それって小さいって事!?」

透子「衛宮が軽すぎるって事だよ。」

七深(そ、それを言われるとダメージが......)

ましろ(女子としての何かが傷ついてる......)

瑠唯(......)

楓(え、え?何だろ、この空気。)

 

 なんだか、みんなが沈んでる気がする

 

 この一瞬で何があったんだろう

 

 僕の体重の話になったら、いつもこうなる

 

 なんでだろう

 

透子「瑠唯と背も変わんないのに、すごいよねぇ。」

七深「とーこちゃん、それ以上は止めよう。私達の立場無くなるから。」

ましろ「うん......」

透子「な、なんかごめん。」

瑠唯(......私はベスト体重よ。健康上、何の問題ないわ。)

 

 それにしても、どこに座ればいいんだろう

 

 車酔いする方だし、端の方がいいなぁ

 

瑠唯「衛宮君は車酔いしそうだし、窓際に座りなさい。」

楓「え、あ、ありがとうございます。」

七深「じゃあ......かえ君の隣はジャンケンで。」

楓「え?」

ましろ、透子、つくし「いいよ......!」

 

 皆の色が強張ってる

 

 ジャンケンって、こんな感じだったっけ?

 

 いや、流石に違うよね

 

七深「いくよ~......!」

 

 広町さんの掛け声の後

 

 皆一斉に手を出した

 

 その結果は......

 

瑠唯「私の勝ちね。」

七深「うぅ......」

ましろ「負けちゃった......」

つくし「強い......」

透子「さ、3回勝負!」

瑠唯「往生際が悪いわね。」

楓「え、えっとぉ......」

 

 なんで僕の隣なんて取り合ってるんだろう?

 

 別に何の得もないのに

 

楓「僕の隣なんてなんの意味もないですよ?やっぱり、女性は女性同士でいた方が楽しいでしょうし!」

七深(そうじゃないよ~......かえ君~......)

ましろ(衛宮君、気遣いでダメージ与えないで......)

透子(こいつ、鈍感極めすぎだろ......)

つくし(折角だから、膝枕してもらおうと思ってたのに......)

 

 よし、これで解決かな?(※違います)

 

 皆、今日は様子がおかしいな

 

 わざわざ、こんな事で争うなんて

 

楓「それじゃあ、八潮さん、失礼しますね?」

瑠唯「え、えぇ......///」

 

 僕は八潮さんの隣に座った

 

 近くに座ると、すごくいい匂いがする

 

 なんて言うんだろ、花の匂いとかじゃない

 

 八潮さんを表すような透き通った香りだ

 

楓(すごく、落ち着くなぁ......)

瑠唯(何を、話せばいいのかしら。)

透子(お前らは付き合いたてのカップルか!)

 

 こうしてるだけで何時間でもいられそう

 

 目を閉じたらすごく安心する

 

 そう......まるで小川の流れる草原みたいに

 

瑠唯「......っ」

楓「?(今、肩が当たった?)」

瑠唯「ごめんなさい、少し寝不足で。」

楓「そうなんですか?」

 

 珍しいな

 

 八潮さんはいつも規則正しい生活をしてるのに

 

 何か問題があったのかな?

 

 色的に体調に問題があるようには見えないけど

 

楓「でしたら、眠った方がいいんじゃないですか?到着まで結構時間があるんですよね?桐ケ谷さん?」

透子「うん、結構あるかな?」

瑠唯「そう......なら、お言葉に甘えるわ......」

楓「じゃあ、どうぞ!」

瑠唯「え?」

楓「短い時間ならいいですが、長時間座ったまま寝るのは体に悪いでしょうし、膝位お貸ししますよ?」

ましろ、七深、つくし、透子「んん!?」

楓「?」

 

 どうしたのかな?

 

 僕、何かおかしなこと行ったかな?

 

 うーん......

 

楓「あ、もしかして、この車、何か睡眠用の機能ありますか?」

瑠唯「いえ、特にないわ......だから、ありがたく、使わせてもらうわ。」

楓「はい!」

 

 八潮さんはそう言って寝転び

 

 僕の太もも辺りに頭を乗せた

 

 前に広町さんにしてもらったことがあるけど、寝やすい人は凄く寝やすい

 

 何より、寝転んだ方が疲れも取れるしね

 

瑠唯(......彼を、近くに感じる。)

楓「おやすみなさい、八潮さん。」

瑠唯「......えぇ。」

 

 八潮さんは軽く頷い手から目を閉じた

 

 目を閉じてもすごく綺麗でかっこいい

 

 ......けど、可愛らしくも見える

 

 僕はしばらく、そんな姿を眺めていた

 

ましろ、七深、つくし、透子(な、なんとか挽回しないと!!)

 

 

 



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雑談と恋バナ

 車が出発してから30分ほど経った

 

 八潮さんは眠っているけど

 

 他の4人と雑談したりして盛り上がってる

 

透子「__この前さー、変な男子に話しかけられたんだよねー。」

七深「へぇ、それって所謂、ナンパってやつ~?」

透子「お茶がどうのこうの言ってたし、そうなんじゃね~?まっ、速攻で断ったけど。」

楓「流石、桐ケ谷さん。色んな人に話しかけられて凄いです。」

つくし「う、うーん、ちょっとズレてる気がするなー?」

楓「え?」

 

 何か違うのかな?

 

 桐ケ谷さんはいつもクラスの中心にいるし

 

 何と言うか、人を引き付ける力がある

 

 カリスマ性って言うのかな?

 

ましろ「衛宮君だからね。」

つくし「あ、そっか。」

楓(え?何故か納得された......)

透子「衛宮もナンパの1回や2回、したこと無いの?」

楓「え?」

 

 桐ケ谷さんの質問に、僕は首を傾げた

 

 僕みたいなのがする事じゃないと思うけどなぁ

 

 やっぱり、外見とか、そう言うのが大切だそうだし

 

楓「僕じゃ出来ないですよ。そう言うのは、外見がいい人だからしていい事ですし。」

透子「いやいや、衛宮は別に見た目悪くないよ?男!って感じはしないけど。」

楓「それって男らしくないって事ですよね......あはは......」

 

 まぁ、男らしい見た目じゃないよね

 

 同年代の中では圧倒的に細いし

 

 肌も白すぎるって程に白いし......

 

七深「かえ君のそういう部分はいざって時にしか出ないからね~。(まぁ、日頃は可愛いから、広町的には最高なんだけど~!)」

つくし「いざって時の衛宮君は最高にかっこいいよ!(誰かのために怒れるところとか......///)」

ましろ「自分の信念を持ってて、すごくかっこいいよ!何でも頑張ってる所とか!」

楓「え、あ、ありがとうございます(?)」

 

 き、急に褒められた?

 

 過大評価な気がしてならないけど

 

 でも、褒められるのは、嬉しいよね

 

透子「てか、衛宮はナンパされる側じゃね?」

楓「え?」

七深、ましろ、つくし「!!」

楓「い、いや、ないですよ!?桐ケ谷さん何言ってるんですか!?ね?3人とも。」

七深、ましろ、つくし(あ、あり得る......)

楓「......あれ?」

 

 3人の方を見ると、皆、首を縦に振っていた

 

 え、いや、ないですよ?

 

ましろ「衛宮君、男女関係なくナンパされるかも......」

楓「ないよ!?」

つくし「そういう油断が命取りだよ?」

楓「だから、あの__」

七深「大丈夫大丈夫~。かえ君がナンパされるなんてありえないよ~。」

楓「!」

 

 広町さん、珍しく本当のこと言ってくれた

 

 そうだよ、だって、僕だよ?

 

 平凡を極めたような僕がそんな、ありえないよね

 

楓「そうだよn__」

七深「かえ君にそんな事するゴミ、広町が未然に消すから~♪」

楓「なんか思ってたのと違う。」

透子、つくし「あっ。」

楓「あの、その手があったかって顔しないで......」

ましろ「誰かが付いてれば、牽制できるかな......」

 

 皆、僕のイメージを間違えてない?

 

 月ノ森に来てから、お兄ちゃん目当ての人以外なら、ほとんど皆以外と喋ってないのに

 

 なんなら、お兄ちゃんがいないと誰にも話しかけられないのに

 

楓「そもそも、僕はあまり人と話すのも得意じゃないですし......」

透子「余計に危ない!」

楓「えぇ!?」

七深「それ、ナンパ男に言いようにされる女の子の典型だよ!」

楓「あの、男です......」

 

 あれ、性別間違えられた?

 

 広町さんより力が弱いから男認定されてない?

 

楓「......筋トレ、しようかな......」

透子「あはは、そんなに落ち込むなって!衛宮は衛宮だからさ!」

七深「そうそう~!男らしさなんて人それぞれだから~!」

つくし(ダメージ与えた現況が何か言ってる。)

ましろ(励ましてるけど、この2人の所為なんじゃ......)

 

 それからしばらく

 

 僕は広町さんと桐ケ谷さんにいじられた

 

 神様、どうか僕に力をください

 

 せめて、桐ケ谷さんに腕相撲勝てるくらいの......

__________________

 

 雑談が始まって1時間ほど

 

 かなりのペースで話してたからか、話すペースがゆっくりになってきた

 

 桐ケ谷さん、すごく楽しそうだったから

 

 いつも以上に話題が尽きるの、早かったのかな

 

透子「__じゃ、場も温まって来たしあれ、行こっか。」

楓「え?」

 

 そう思ってたんだけど、まだあるみたいだ

 

 す、すごいな

 

 僕は桐ケ谷さんの半分も喋れないのに

 

透子「恋バナしようよ!恋バナ!」

七深「おぉ~、いいね~」

楓「恋バナと言うと、広町さんが借りた漫画では修学旅行の夜にしてたのですね。」

つくし「いや、どんな漫画借りてるの!?」

楓「ちなみに、その漫画では、ヒロインが友達と同じ主人公が好きで、重たい空気になってましたね。」

透子「いや、マジでどんな漫画貸してんだよ!?」

 

 初めて読んだけど、普通に面白かった

 

 なんであの漫画を貸してくれたのかは分からないけどね

 

七深「かえ君にお勉強してもらおうと思って~。夏休み中にまだ計画してるのもあるし~。」

楓「あれは教科書なんですか?」

七深「人生の教科書だよ~。」

つくし「いや、シレっと嘘ついてるし。」

ましろ「衛宮君になに教えてるの......」

 

 あれって教科書だったんだ

 

 だったら、もっと読み込んでおくんだった

 

 今後、何かの役に立つかもしれないんだし

 

透子「まぁ、もうそれは良いや。恋バナだよ、恋バナ!」

楓「と言っても、そういう話、ありますか?僕はもちろん、桐ケ谷さんたちにもそういう話があるイメージがないんですが。」

七深(さ、流石かえ君。)

ましろ「鈍感......」

つくし(これって、もはや才能なんじゃないの?)

 

 好きな人とか、考えたことないなぁ

 

 恋愛なんて無縁な人生だしね

 

透子「そうは言うけど、衛宮は気になる女の子とかいないのー?」

楓「気になる、ですか?」

透子「そうそう!この子は可愛いな~とか好みだな~とか!」

楓「うーん......」

 

 可愛い、好み......

 

 そう言われると、なんでだろうか

 

 自分の太ももに頭を乗せてる八潮さんに目が行く

 

七深(あ、あれ~?なんでるいるいをガン見してるの~?)

楓「かっこよくて、可愛い人かな。」

透子「あ、そ、そっか。(ルイの事だよね、これ。)」

ましろ(だ、大丈夫。まだチャンスはあるから。好きな人と好みの人は違うって言うし。)

つくし(るいさんだったら、私の真逆......いや、衛宮君だし、何となくで言ったんだ!だって、衛宮君だもん!)

 

 まぁ、何となくなんだけど

 

 これが一番しっくり来た気がする

 

楓「でも、結局はこの人じゃないといけないって思う人が1番だから。」

ましろ「それは、衛宮君らしいね。」

七深「その人にはきっと出会ってると思うよ~!灯台下暗しって言うし~!」

楓「灯台下暗し?」

七深「そうそう!身近な人とか、案外目が行かないものだよ~!」

 

 身近な人かぁ

 

 そう言われても、家族かバンドの皆しかいないし

 

 うーん、広町さんの勘違いじゃないkな

 

楓「うーん、心当たりがない、かな。」

ましろ、つくし、七深、透子(ガーン!)

楓「そもそも、みんなは凄く可愛いと思うし、僕なんかがそう思うなんておこがましいよ。」

ましろ、つくし、七深、透子「っ!///」

 

 全く、広町さんは僕をからかいすぎだよね

 

 最近は流石に慣れて来たけど

 

 慣れてないと本当に変な勘違いするよ

 

ましろ(え、衛宮君が可愛いって......///)

つくし(ほ、褒められちゃった......///)

七深(ふ、不意打ちはズルいよ~///)

透子(こ、この天然タラシ......///)

 

 なんだか、皆の色がおかしいな?

 

 今の一瞬で何があったんだろうか

 

 まぁ、悪い感じでもないし、大丈夫だろうけど

 

透子「な、なんか別の話しよっか!///」

楓「え?」

七深「そ、そうだね!それがいいよ~!///」

ましろ「う、うん......!///」

つくし「趣味の話とか、学校の話とかもあるし!///ね!?衛宮君!?///」

楓「そ、そうだね?」

ましろ、つくし、七深、透子(これ以上不意打ち来たら耐えられない......///)

 

 皆、なんでこんなに慌ててるんだろう

 

 そう疑問に思ったけど

 

 特に追求せず、別の話をしたり、ゲームをしたりしてるうちに車はかなりの距離を走ってて

 

 いつの間にか、外は全く知らない景色になっていた

 

 

 



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到着

楓「__わぁ......!」

 

 綺麗な景色を見ると、感動すると思う

 

 今、僕は正にその状態だ

 

 鬱蒼とした木々、その間から差し込む日光

 

 そして、ゆったりと流れる川にその音

 

 まるで絵に描いたような景色だ

 

楓「すごい......」

 

 そんな景色の素晴らしい所はもう1つあって

 

 全く、色がないんだ

 

 つまり、頻繁に人が来るわけじゃないって事で

 

 都会では絶対にありえない

 

 なんて、目に優しい空間なんだろう

 

七深「嬉しそうだね~、かえ君~!」

楓「うん、全く色がなくて、綺麗な景色だから。」

透子「だって、あんまり人が来ないとこ選んだんだもん!衛宮は人が多いとこ、苦手だしね!」

楓「桐ケ谷さん......」

 

 やっぱり、気を遣ってくれてたんだ

 

 優しいなぁ......

 

 僕もこういうところを見習って行かないと

 

七深「『桐ケ谷さんの優しさを見習わないと。』って顔してるね~。」

楓「え、なんでわかったの!?」

七深「分かりやすいからね~。」

ましろ(衛宮君がこれ以上優しくなったら、人間くらいなら溶かせそう。)

つくし(むしろ、るいさんを見習って厳しくなるべきなんじゃ......)

楓「?」

 

 なんでだろ、皆に見られてる

 

 え、何かおかしなことあったかな?

 

 いや、何もないよね?

 

透子「じゃあ、まずはコテージに入ろ!それから荷物置いて、川で遊ぼ!」

七深「そうだね~。」

楓「八潮さん、寝起きですけど、大丈夫ですか?」

瑠唯「えぇ、大丈夫よ。ありがとう、衛宮君。」

楓「いえ、気にしないでください。」

透子「ほら、行くよ!」

 

 桐ケ谷さんにそう言われ、僕たちはこれから泊るコテージに移動した

 

 結構な山奥だと思うけど、どんな場所なのかな?

__________________

 

 桐ケ谷さんに案内されたのは、新しくはないけど綺麗なコテージだった

 

 明るい色の木造建築で大きさは普通の一軒家くらい

 

 バルコニーもあって、すごくいい建物だ

 

つくし「結構、綺麗だね。」

透子「当り前じゃん!流石に汚い所に泊まりたくないし!」

瑠唯「そうね。」

 

 内装も綺麗で

 

 吹き抜けのある開放的な空間

 

 一階はテーブルにソファ、大きなテレビ

 

 そして、お金持ちの家によくあるような気がする鹿の頭の飾りがある

 

 2階はまだ見えないけど、多分いくつかの部屋があるんだろう

 

透子「じゃあ、どの部屋使うか決めよ!」

ましろ「でも、どこも一緒じゃないの?」

つくし「まぁ、そうだよね。」

楓「僕も、どこでもいいかな。」

 

 二葉さんの言う通り、どこでも一緒だし

 

 極端に汚い部屋なんてないだろうし

 

七深「もう右から、シロちゃん、とーこちゃん、私、つーちゃん、るいるい、かえ君でいいんじゃないかな~?」

瑠唯「異論ないわ。(車での隣はあんなに争ったのに、部屋は良いのね。)」

透子「この後は、それぞれ部屋で着替えて、川で遊ぼ!」

つくし「うん!」

ましろ「じゃあ、部屋に行くね!」

透子「よし!部屋行こー!」

 

 皆は荷物を持って階段を上がって行った

 

 さて、僕はどうしよう

 

楓(皆は着替えるから、時間もかかるだろうし......あ、川で遊ぶ準備をしよう。)

 

 僕はそう考えて

 

 皆より一足早く、川の方に行くことにした

 

 まぁ準備って言っても、そんなにないんだけどね

__________________

 

 川岸に着くと、僕は準備を始めた

 

 取り合えず、シートを敷いて、パラソルを立てて

 

 後は椅子、テーブル、クーラーボックスを置いた

 

 準備ってこれだけなんだよね

 

楓(空気が美味しいなぁ......)

 

 気持ちが落ち着く、自然の匂い

 

 車の音とか、騒がしい色や声もない

 

 いいなぁ、こんな場所に住んでみたい

 

 椅子に座りながらそんな事を考えた

 

楓(それにしても、クーラーボックスって重いんだなぁ。あれを軽々持ってたあのお手伝いさんって何者なのかな?)

 

 僕はここまで何回も休憩を挟んだし

 

 クーラーボックスを持っただけで腕も痛い

 

 本当に、なんでこんなにひ弱なんだろう

 

七深「__かえ君~!」

楓「あ、広町さん。」

 

 しばらく椅子に座ってると、コテージの方向から広町さんが走ってきた

 

 水着は、オリエンテーションの時のだ

 

 オレンジ色の水玉模様のビキニ

 

 元の容姿の良さもあって、相変わらず似合ってる

 

七深「あれ?着替えてないの?」

楓「うん、準備を先にしようと思って。」

七深「お~!ありがとう、かえ君!」

楓「これくらいはしないとだしね。(う、うーん......)」

七深「?」

 

 広町さんは距離が近い

 

 しかも、身長差的に、話すときは目線を下に落とさないといけない

 

 そうすると、見ちゃいけないものが目に入って

 

 何と言うか、罪悪感で死にそうになる

 

楓(出来るだけ、見ないようにしないと。)

七深「かえ君~?どこ見てるの~?」

楓「えっと、自然、かな。」

七深(さっき、体チラチラ見てたけど......興味持ってくれてるんだ......///)

 

 は、早く他の皆も来ないかな

 

 桐ケ谷さん辺りが来てくれると安心だ

 

 いい意味で空気の読めない人だし

 

透子「__ななみ~!はやいよー!」

つくし「抜け駆け禁止って言ったじゃん!!」

ましろ「ず、ずるい......!」

楓「あ、来た(抜け駆け?)」

 

 広町さんが来て1分ほどで他の皆も来た

 

 けど、何だか慌ててる気がする

 

 抜け駆けって何のことだろう?

 

七深「何もしてないよ~。」

透子「ほんとにー?」

つくし「ななみちゃん、平気な顔で嘘つくし。」

七深「えぇ~!?」

楓(広町さん、嘘なんて吐くかな?)

 

 あんまりそう言ったイメージはないな

 

 僕は特に嘘をつかれたこともないし

 

透子「まぁ、いいや。衛宮!」

楓「は、はい。(び、ビックリした。)」

透子「ほら、あたし達の水着だぞ~!目に焼き付けとけよ~!」

楓「え?」

ましろ、つくし「......///」

 

 みんなそれぞれ違う水着を着てる

 

 桐ケ谷さんの説明を聞く限り、

 

 桐ケ谷さんがオフショルダービキニ

 

 倉田さんがコルセット

 

 二葉さんがワンピース、らしい

 

 こんな種類あるんだね

 

 全然知らなかった

 

透子「ほらほら!同級生の女の子の水着だよ~!」

楓「ちょ、桐ケ谷さん!?」

つくし「透子ちゃん!!」

ましろ「な、何してるの......!?」

七深「広町も突撃~♪」

楓「広町さん!?」

 

 左右から、桐ケ谷さんと広町さんに抱き着かれる

 

 二の腕当たりに異常に柔らかい物があたってる

 

 てゆうか、この状況は何!?

 

透子(や、やったはいいけど、恥ずかしっ///)

七深(かえ君の肌の感触......///)

つくし「ふ、2人とも!///」

ましろ「あ、あわわ......///(い、いけない事してるみたい......///)」

 

 どうしよう

 

 周りに知らない人がいないのが幸いだけど

 

 このままの状態でいるのもどうかと思う

 

楓「あ、あの、2人とも、離れt__」

瑠唯「__何をしているのかしら、あなた達は。」

楓「あっ、八潮......さ、ん......?」

瑠唯「......大変そうね、衛宮君。」

楓「え、は、はい。」

瑠唯「?」

 

 歩いてきた八潮さんを見て、僕は言葉を失った

 

 オリエンテーションの時は必死で、水着なんて見てる余裕はなかった

 

 だから、全く八潮さんの水着姿は知らなかった

 

楓(な、なんでだ?目が離れない......)

ましろ(え、衛宮君の視線がるいさんに集中してる。)

七深(むぅ~!)

透子「衛宮!ルイをジロジロ見すぎだって!」

楓「は、はい!ごめんなさい!!」

瑠唯「!///」

 

 って、謝っちゃったよ

 

 ここで謝ったら暗に八潮さんを見てたのを認めることになる

 

 やっちゃった......

 

楓「ち、違うんです!えっと、何が違うのかは分かりませんけど!」

瑠唯「い、いえ、構わないわ///」

 

 今日の僕はどうかしてる

 

 いつもはこんな事ないのに

 

 おかしい......

 

透子「もう!今から遊ぶぞ!衛宮も着替えて!」

楓「は、はい、分かりました。」

透子「行くぞー!シロ、ふーすけ、ななみ、ルイ!!」

七深「お~!」

ましろ(透子ちゃん......)

つくし(『もうやけだ!』って顔してる。)

瑠唯「騒がしいわね。」

 

 桐ケ谷さんの言葉の後、5人は川の方に行って

 

 僕は着替えるためにコッテージに向かった

 

 



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川遊び

 ”瑠唯”

 

 私は今、少しソワソワしてる

 

 その理由は、衛宮君が水着を着て来るから

 

 でも、決して下心だけだというわけではない

 

 何とも言えない思い入れがあるから

 

楓「__お、お待たせしましたー。」

七深「あ、かえ君~!」

透子「やーっと来たね!」

楓「そ、そんなに遅かったですか?」

瑠唯「__!///」

 

 歩いてくる衛宮君の視認して、目が離せなくなった

 

 そう、私はこの姿に強い思い入れがある

 

 なぜなら、彼に好意を持つようになった時がこの姿で

 

 私を助けてくれた時も、この姿だったから

 

ましろ「るいさん?」

つくし「大丈夫?ボーっとしてるけど。」

瑠唯「な、なんでもないわ。」

楓「?」

 

 2人との会話を聞いて、彼はこっちを見てる

 

 いけないわね

 

 このままでは、下心があると思われてしまう

 

 なんとか、目をそらさないと

 

つくし「衛宮君!こっちで一緒に遊ぼうよ!」

透子「行くぞ、衛宮ー!」

楓「あ、あの、ちょっと__」

ましろ「え、衛宮君......!」

七深「広町もレッツゴ~!」

瑠唯(騒がしいわね。)

 

 彼は桐ケ谷さんたちに川の中に連れていかれた

 

 正直、私は水にいい思い出がないし勘弁ね

 

 あまり入りたいと思わないわ

 

透子「衛宮~、シロをいやらしい目で見るな~!」

ましろ「えぇ!?///」

楓「見てませんよ!?本当に、全然!」

ましろ「むぅ~!///」

楓「い、痛い!なんで二の腕を抓るの!?」

七深「あはは~、流石かえ君だね~。」

 

 全員、楽しそうに遊んでる

 

 彼の鈍感さは筋金入りね

 

 人一倍、感情を読みとる能力はあるはずなのに

 

 なぜ、あそこまで人の神経を逆なでできるのかしら

 

瑠唯(......不思議ね。)

 

 最初は3人だったというのに

 

 いつの間にかバンドを組んだ全員が彼を好きになった

 

 別に俳優のような外見であるわけでもない

 

 かといって、優れた能力があるわけでもない

 

 その辺りの物は全て兄の方に持っていかれている

 

 けれど、彼には優しさと言う人としての魅力がある

 

 だから、こうなったのかしら

 

楓「__はぁ、はぁ......み、皆、元気過ぎる......」

瑠唯「お疲れね。」

 

 疲れた様子で岸に上がってきた彼に私はそう言った

 

 この短時間でここまで疲労するなんて

 

 どんなにハードな遊びをしていたのかしら

 

楓「あ、あまり体を動かさないので......」

瑠唯「ちょうど椅子も空いている事だし、休むと良いわ。」

楓「し、失礼します......」

 

 彼は机を挟んである椅子に腰を下ろし

 

 軽く息をついた

 

楓、瑠唯「......」

 

 近くにいるけれど、会話の流れは生まれない

 

 ただ、静かに遊んでる4人を眺めている

 

 相変わらず、自分のコミュニケーション能力の無さは嫌になる

 

楓「八潮さん、疲れてますか?」

瑠唯「え?」

 

 しばらく無言でいると、衛宮君が口を開いた

 

 けど、それはあまりの突拍子もない内容で

 

 思わず私は首を傾げてしまった

 

楓「疲れている色をしているので。」

瑠唯「そうね、少し疲れている部分もあるかもしれないわ。」

楓「八潮さんは多忙ですもんね。学業に生徒会、バンド、家の事もあるだろうし。」

瑠唯「昔からこうだけれど、いくら慣れても疲れは感じるわね。」

 

 最近、するべきことも増えているし

 

 少し、疲れが溜まってるのも否定できない

 

 まぁ、その分の充実感もあるのだけれど

 

楓「やっぱり、八潮さんは凄いですね。」

瑠唯「そうかしら?」

楓「はい。周りの期待も大きいはずなのに、それにキッチリ答えていて、僕には決して真似できないです。」

瑠唯「そう。」

 

 確かに、彼の能力を考えれば難しいと思う

 

 人柄で判断されないのが私のいる環境

 

 完全実力主義なら、彼は潰されるのは目に見えてる

 

瑠唯「けれど、あなたも十分立派よ。あなたの様な人柄の人間、中々いないもの。」

楓「そうですか?結構いると思いますけど。」

瑠唯「そうはいないわよ。」

 

 身を挺して溺れた人を助ける人が一体、何人いるのかしら

 

 もしかしたらいるのかもしれないけれど

 

 そう簡単に見つかるわけないのは分かる

 

楓「お褒めにあずかり、光栄です。」

瑠唯「当然の評価よ。」

 

 淡白に答えてしまった

 

 もっと広町さんのように愛想を振りまければ......

 

 そう思って、頭を抱えたくなる

 

楓「僕、少し体力が戻ったので戻ります。」

瑠唯「そう......」

 

 まぁ、そうなるわよね

 

 彼は人の輪を大切にするタイプだもの

 

 私1人に構う時間なんて__

 

楓「一緒に行きましょう。」

瑠唯「!」

楓「八潮さんと一緒の方が、楽しいです!」

 

 彼は手を差し伸べながらそう言ってきて

 

 私は驚いて、目を見開いてしまった

 

 そう、彼はこういう人だった

 

瑠唯「えぇ、そうね__っ!」

楓「わわっ!!」

 

 彼の手を取って立ち上がろうといた瞬間

 

 何故か私は足を滑らせてしまい

 

 彼をこっちに引っ張って、そのまま後ろに倒れてしまった

 

 幸いなことにビーチチェアのお陰で怪我はないけれど......

 

楓「__す、すみません。僕が踏ん張れれば......」

瑠唯「い、いえ、私が足を__っ!!///」

 

 今の自分の状態を自覚し、顔が熱くなった

 

 彼の顔が目の前にあって

 

 結果として、押し倒された形になっている

 

瑠唯「......っ///」

楓(あ、あれ?八潮さんのこの表情......)

透子「あー!衛宮とルイがやらしい事してるー!」

楓、瑠唯「!?」

七深「かえ君~!!私と言う者がありながら~!」

つくし「ふ、不健全だよ!///」

ましろ「ず、ズルい......!!」

 

 あまりの出来事に硬直してると

 

 他の4人が気づいてこっちに駆け寄ってきた

 

 桐ケ谷さんの言いようは誤解を招きそうで嫌だけれど

 

 もうこの際なんでもいい

 

楓「ご、誤解だよ!ちょっと、足を滑らせちゃって!」

瑠唯「そ、そうよ。こんな外でやましい事なんてありえないわ......///」

 

 私達は一気に距離を離し、言い訳を開始した

 

 決してやましい事はないし、良い訳かも微妙

 

 だけれど、この状況では何を言っても言い訳がましくなってしまう

 

透子「お前らは......(気付かないうちにコロッと行きそうだから怖いんだよ。)」

ましろ「る、るいさん......!」

瑠唯「わ、悪かったわ。」

七深「全く~、心臓が捻り潰されるかと思ったよ~。」

楓「だ、大丈夫なの?」

 

 やっぱり、僕の落ち度だ......

 

 もっと逞しい人なら、こんな事にならなかった

 

 僕のせいで、あらぬ誤解を......

 

楓(強く、なりたい......)

ましろ「衛宮君、大丈夫......?」

楓「うん......大丈夫だよ......」

つくし(何故か拗ねてる!?)

 

 駄目だ駄目だ

 

 自分で考えてダメージを受けてるようじゃ

 

 体は気持ちについてくるんだから

 

 まずはポジティブにならないと

 

楓「じゃ、じゃあ、遊ぼっか!何をしたらいいか分からないけど!」

つくし「そうだね!」

七深「私、色々持って来てるよ~。水鉄砲とか~。」

楓「あ、いいね!それとかで遊ぼ__かっ!?」

七深「え?」

瑠唯「!」

 

 広町さんに近づこうとした時

 

 彼の体が前のめりになった

 

 これは、転ぶ

 

 しかも、その先には......

 

楓「わぷっ!」

七深「ひゃ!///」

つくし「あっ!」

透子「あちゃー。」

 

 私の予想通り、彼は前のめりになって転び

 

 その先には広町さんがいて

 

 結果として、彼は彼女の胸に顔を埋める形になった

 

 ま、まさか、立て続けにこんなことが起きるなんて

 

 呪いの類ではないかと疑ってしまうわね

 

楓「ご、ごめんなさい!!」

七深「も、もう~///そういうことは大歓迎だけど、前もって言ってからして欲しいな~///」

楓「?(前もって?)」

透子「おい!そこの変態!」

ましろ「ななみちゃん!」

つくし「も、もう!皆行くよ!ほら、衛宮君!」

楓「は、はい。」

瑠唯「......全く、騒がしいわね。」

 

 それから、私達は全員で川で遊んだ

 

 色々あったけれど、最終的には空気も良くなって

 

 コテージに戻る頃には、いつもの雰囲気に戻っていた

 

 

 

 



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クジ引き

 夜まで遊んで、コテージに戻って来た

 

 みんなはそれぞれの部屋に着替えに行って

 

 僕は着替えに時間もかからず、リビングにいる

 

楓(何をしよう。)

 

 これから夜ご飯だけど、僕に用意なんて出来ない

 

 かといって掃除をしようと思っても、必要な場所がない

 

 と、こんな状況で僕は完全に戦力外となってる

 

 貧弱かつ不器用って......

 

楓「......(眠たい。)」

 

 暫くボーっとしてたら、眠たくなってきた

 

 今日は朝から車で、着いたらすぐに遊んだし

 

 やっぱり、気付かないうちに疲労が蓄積してるみたいだ

 

楓「ん......」

 

 これはダメだ、確実に寝てしまう

 

 体力の、問題か......

 

楓(少しだけ、寝よう......)

 

 僕はそう思って目を閉じて

 

 意識を落とそうとすると

 

 電気がパチっと消えるように眠りについた

__________________

 

 ”七深”

 

七深「ふんふ~ん♪」

 

 着替えが終わって、リビングに降りて来た

 

 今日のお夕飯は私達が作って

 

 誰をお嫁さんにしたいか~って流れをするし

 

 一足早く準備でもしようかな~と思ってたけど......

 

七深「あれ?」

楓「すぅ......すぅ......」

七深「......」

 

 なんと、可愛い顔で眠っているかえ君がいるではありませんか

 

 遊び疲れちゃったのかな?

 

 ソファに座ったまま穏やかな寝息を立ててる

 

 その姿はもう正に、可愛い

 

七深(んふふ~///これはこれは///)

 

 私はかえ君の隣に座り、顔を覗き込んだ

 

 近くで見たらなお可愛い

 

 どうしよう......

 

七深(キスとか、してみたいな~......////)

楓「んん......」

 

 そう思って、かえ君に顔を近づけていく

 

 今のかえ君からすれば、私はただの友達

 

 その関係性が嫌なわけじゃない

 

 けど、キスしちゃったら、普通の友達には戻れない

 

七深「普通じゃなくて、いいんだよね......?///かえ君なら、こんな私も、受け入れてくれるよね......?///」

楓「......」

七深「大好きだよ、かえ君__」

つくし「す、ストップー!!」

七深「わぁ!!」

楓「っ!!ど、どうしたの!?って、広町さん!?」

七深「お、おはよ~///」

 

 もう少しだったのに......

 

 やっぱり、降りてきちゃったか~

 

 かえ君も起きちゃったし、残念だな~

 

楓「今、二葉さんの声が聞こえたんだけど、どうしたの?」

つくし「な、なんでもないよ!今からお夕飯の用意だから、ななみちゃんを呼びに来たんだよ!」

楓「あ、そうなんだ。じゃあ、僕も何かお手伝いを__」

つくし「衛宮君は待ってて!美味しいもの食べさせてあげるから!」

楓「え、あの......」

つくし「行くよ、ななみちゃん。」

七深「は、は~い。(つ、つーちゃん、怖い......)」

 

 こんな感じで、私はつーちゃんに連行された

 

 かなり怒ってるから、怖い

 

つくし「ななみちゃん、抜け駆け厳禁だよ。」

七深「ごめんなさい......」

つくし「あと。」

七深「?」

 

 少しの注意の後、雰囲気が変わった

 

 なんだか、つーちゃんの顔が赤くなってる気がする

 

 その様子に私は『え?』ってなった

 

つくし「衛宮君は、私を騙してこんな風にした責任を取ってもらうから///」

七深「え~!?それとこれとは話が違うよ~!」

つくし「衛宮君のお嫁さんは私だもん~♪」

 

楓(何の話してるんだろう?)

 

つくし「ほら、衛宮君に美味しいもの食べさせるよ!ななみちゃん!」

七深「あ~!会話から逃げた~!」

 

 私はそう文句を言いながらキッチンに移動し

 

 それから、降りてきた3人と一緒にお夕飯の用意を始めた

 

 どんなものを作ってもかえ君は嫌な顔しないだろうけど、頑張って作らないとね!

__________________

 

 ”楓”

 

 あれから1時間が経った

 

 僕は皆が用意してくれたお夕飯を食べて

 

 今は洗い物をしてる

 

 これくらいしないと罪悪感で死ぬよ......

 

楓(それにしても、みんな器用だな~。)

 

 5人が協力して夜ご飯を用意してたけど

 

 どれもすごく美味しかった

 

 何故かお嫁さんどうのこうのって話してたけど

 

 全員、すごくいいお嫁さんになるという結論で終った

 

 みんな不満そうだったけど、なんでかな?

 

楓(ま、まさか、もっと詳しく分析した意見を言うべきだったのかな!?僕、感覚だけで答えちゃったし、気を悪くしちゃったのかな!?)

ましろ「......衛宮君、今考えてること、多分間違えてるよ。」

楓「え、そうなの?」

ましろ「うん、絶対に違うって分かる。」

 

 違うのか~......

 

 じゃあ、なんだったんだろうか

 

 女の人の心って、難しい

 

ましろ「洗い物、手伝うよ?」

楓「いや、いいよ。皆はご飯作ってくれたし、これくらい。」

ましろ「じゃ、じゃあ、食器拭くだけでも。」

楓「(すごく食い下がってくる。)うーん、倉田さんが良いなら。」

ましろ「うん!」

 

 倉田さんはそう返事すると

 

 僕の横に並んで食器を拭き始めた

 

 やっぱり、僕1人じゃ頼りなかったのかな

 

 洗い物位ならちゃんと出来るはずなんだけど

 

ましろ(な、なんだか夫婦みたい......///)

楓(僕、やっぱり信用されてないのかな......)

 

 それからは手早く洗い物を終わらせた

 

 やっぱり、倉田さんの方が手際がいい

 

 だって、ここまで結構時間がかかってたのに、すぐに終わったんだもん

 

 敵わないな......

 

透子「__衛宮、シロー、洗い物終わったー?」

楓「あ、終わりましたよ!」

ましろ「どうしたの?」

透子「今から肝試し行くよ!肝試し!」

ましろ「っ!?」

楓「あぁ、あの漫画でもあったのですか。」

 

 あの漫画では学校行事の中でしてたっけ

 

 主人公のお友達が驚かしたりしてた気がする

 

 なぜか男女のペアが多かったけど

 

 それは漫画の趣旨的に仕方ないのかな

 

透子「2人もこっち来て!ペア決めるから!」

楓「うん、分かった。」

ましろ「うん。」

 

 僕達はリビングの方に移動した

 

 そこでは広町さんがくじを用意していて

 

 ......何故か、重い空気が流れていた

 

楓(こ、この空気、なんだろ。)

 

 空気だけじゃない、色も尖ってる

 

 な、何があったんだ?

 

七深「......勝負の時だね。」

つくし「悪いけど、これだけは負けられない。」

瑠唯「......確率よ。」

 

透子「こいつら、さっきからこの調子なんだよね~。」

楓「えぇ......(ほ、本当に何が?)」

ましろ(衛宮君のペアになりたいんだろうなぁ......)

 

 どうしよう

 

 全く持って状況が掴めない

 

 何がどうなってるんだろう

 

透子「お前らー、くじ引きするよー!」

楓「2人で1ペアだよね?楽しみ!」

ましろ、七深、瑠唯、透子、つくし(可愛い......!)

楓「?」

 

 なぜか皆、目元を抑えてる

 

 顔も赤いし、色もふやけてる感じがする

 

 本当に何が起きてるんだろう?

 

楓(今まで肝試しなんてしたことないし、楽しみだなぁ。)

透子「よし、クジ引こっか!」

七深「当てるよ~!」

瑠唯(確率は5分の1程度......でも、悲観するほどの確率でもないわ。)

 

 流石に色が見れても、クジの番号は分からない

 

 だから、誰となるかは完全なランダム

 

 でも、誰となっても絶対に楽しいだろうし

 

 ハズレがないクジって感じかな

 

透子「一斉に行くぞ!せーの!」

 

 桐ケ谷さんの掛け声と共にみんな一斉にクジを引いた

 

 皆、引いたクジを確認してる

 

 僕は誰が来ても困らないし、いい意味で誰でもいい

 

楓「僕は、3番だ。」

ましろ「!///(や、やった......!///)」

透子「あちゃー、外れたかー。」

七深「確率操作は、出来ないよ......」

つくし「私のペア......るいさん?」

瑠唯「えぇ、そうね。(所詮確率、所詮確率。)」

楓「?」

 

 倉田さんは異様に喜んでるな

 

 でも、他の4人はちょっと落ち込んでる?

 

 何でかはわからないけど

 

透子「あー!!こうなったら、肝試し楽しむぞ!!」

七深「お~!!」

つくし(やけになってる!)

瑠唯(......やけ、と言うのも悪くないわね。)

ましろ「よ、よろしくね、衛宮君!///」

楓「うん、こちらこそ。(うーん、前々から思ってたけど、この色の状態は何なんだろう?)」

 

 僕はそんな疑問を抱きつつ、皆と外に出た

 

 さて、肝試しか~

 

 本物のおばけとか、出てこないかな?

 

 それを考えると、少し楽しみだ

 

 

 



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肝試し

透子「__じゃあ、一番、行くぞー!」

 

 桐ケ谷さんは大きな声でそう言った

 

 近所迷惑と思ったけど

 

 ここは山奥だから近所の人なんていない

 

 その分、野生動物が大丈夫か心配になるけど

 

七深「私ととーこちゃんだね~。」

透子「よし!行ってくるね~!」

楓「行ってらっしゃい!2人とも!」

瑠唯「精々、迷わない事ね。」

透子「分かってるって~!」

 

 2人は暗い森の中に入って行った

 

 光源が懐中電灯だけなのは大丈夫かな?

 

 足元照らせなくて転んだり

 

 道を間違えて迷ったりしないかな?

 

 見つけられはするけど、心配になってきた

 

楓「2人とも、大丈夫ですかね。」

瑠唯「桐ケ谷さんがいるから安心はできないけれど、もしも遭難なんて事になってもあなたの目なら見つけられるわ。」

楓「はい、そうなれば死んでも見つけます。」

瑠唯「......流石に、早々そんな機会はないわよ。」

楓「あはは、ですよね。」

 

 そんな会話をして、僕は笑った

 

 僕じゃないんだから、2人がそんなヘマをするわけがない

 

 心配し過ぎだね

 

瑠唯「......それで、そこの2人はいつまでそうしてるの?」

ましろ、つくし「だ、だってぇ......!」

楓「あ、あはは。」

 

 コテージの灯りが届くギリギリの場所

 

 そこには、ガクガクと震えた倉田さんと二葉さんがいる

 

 どうやら、この2人は怖がりらしく

 

 肝試しくらい大したことないと思ってたけど、森が意外と暗くて怖気づいたらしい

 

ましろ「こ、こんなに暗いと思わなかったもん......!」

瑠唯「山奥なんだから当たり前でしょう。街灯なんてないもの。」

つくし「うぅ、行きたくない......」

 

 2人は今にも泣きだしそうだ

 

 その様子をみて、八潮さんは溜息をついた

 

 別に、怖いなら無理することもないと思うけど

 

 僕は怖くないから1人でも大丈夫だし

 

楓「じゃあ、倉田さんはここにいるといいよ。」

ましろ「え......?」

楓「今回の肝試しは少し行った所にある大樹まで行くだけだからさ、僕だけでさっさと行ってくるよ?」

ましろ「うっ......」

つくし(え、衛宮君が追い詰めてる。)

瑠唯(鬼ね。彼は親切心で言ってるんでしょうけど。)

 

 そろそろ、二葉さんと八潮さんが出発する時間だ

 

 二葉さんはどうするんだろう?

 

瑠唯「そろそろ時間ね。二葉さんは行くの?行かないの?」

つくし「い、行きます......」

瑠唯「そう。なら、行くわよ。」

つくし「はぃ......」

楓「あ、二葉さん!」

つくし「......?」

 

 僕は森の方に歩いて行く二葉さんに駆け寄って

 

 少ししゃがんで目線を合わせた

 

楓「怖いなら、八潮さんの近くにいたらいいよ!優しいから、きっと守ってくれる!」

瑠唯「!?」

つくし「そ、そうだよね?(その優しさ、ほぼ衛宮君限定だけど!?)」

楓「きっと大丈夫だよ!」

瑠唯「......えぇ、問題ないわ。」

つくし(あ、衛宮君に言われて引き下がれなくなってる。)

 

 こんな会話の後、2人も森に入って行った

 

 二葉さんが八潮さんにくっついてて

 

 何と言うか、仲のいい島に見えて微笑ましかった

 

 やっぱり、八潮さんって優しい人だなぁ

 

楓「えっと、倉田さんはどうする?」

ましろ「私は......」

楓「怖いなら無理する必要はないと思うよ?」

ましろ「うぅ......」

 

 倉田さんが泣きそうになってる

 

 そんなに怖いのかな?

 

 ......いや、待てよ?

 

楓(ここに1人でいる方が怖いんじゃないかな?昼ならともかく、今は夜だし。残ったら心細いんじゃ?)

ましろ「......?」

楓「倉田さん、やっぱり一緒に行こっか?」

ましろ「え......?」

楓「ちょっとお散歩するくらいの感覚でさ。倉田さんと一緒なら、きっと楽しいと思うんだ。」

ましろ「!///」

 

 倉田さんを連れて行くならまず、怖いって所から意識をそらさないといけない

 

 そこで、お散歩という

 

 お散歩なら、そんなに怖くない気がするし

 

楓「僕は先に行ったみんなの色を辿るだけだから、スムーズだよ。」

ましろ「あ、そっか!そうだよね!」

楓「うん、だから、大丈夫。安心して。」

ましろ「うん......///」

 

 よかった、これで大丈夫そうだ

 

 色もそれを表してる

 

 そんな事を考えながら、僕は携帯の画面を見た

 

楓「僕達の出る時間だ。行こうか。」

ましろ「うん!///」

 

 倉田さんが頷いた後、僕たちは歩きだし

 

 真っ暗な森の中に入って行った

__________________

 

 ”ましろ”

 

 森の中は、暗くてで静か

 

 周りの景色は木々に遮られていて

 

 私と隣にいる衛宮君だけの世界みたいに感じる

 

楓「空気が美味しいね。」

ましろ「?」

 

 しばらく歩いてると、衛宮君がポツリとそう言った

 

 空気が美味しい

 

 何となく意味は分かるけど

 

 実際、空気に味なんてないからよく分からない

 

ましろ「美味しいの?空気って。」

楓「美味しいよ。すっごく。」

ましろ「そうなんだ。」

 

 少し、返事が素っ気なかったかな?

 

 そう思ったけど、衛宮君は気にしてる様子がない

 

 ただ、まっすぐ前を見て

 

 偶にこっちに微笑みかけてながら歩いてる

 

楓「今まで、外に出て活動するって事が中々できなかったからね、空気の味に敏感なのかも。」

ましろ「そんなことあるの?」

楓「うーん、あるんじゃないかな?きっと。」

 

 困ったような、楽しんでるような返事

 

 私の下らない質問をしっかり考えて、尚且つ楽しそうに返してくれる

 

 多分、るいさん辺りなら『どうでもいいわ。』で流される

 

 いや、るいさん以外でもそうかも

 

楓「都会の空気も嫌いじゃないけど、排気ガスが多いのはね。」

ましろ「......考えたことないかも。」

楓「あはは、だと思うよ。案の辺りで育てば、それが普通なんだから。」

ましろ「でも、衛宮君もあのあたりで育ってるよね?」

楓「僕は小学校2年生まで、ほぼ家にいなかったから。」

ましろ「?」

 

 少し、引っかかった

 

 なんで、家にいなかったんだろうって

 

 でも、私はそれを問い詰めなかった

 

 何かの家庭の事情かも知れないし

 

 余計な詮索をされると、面倒くさいだろうから

 

ましろ「そうだったんだ。だから、今までお隣さんだって気付かなかったのかな?」

楓「あはは、そうかもね。」

 

 なんで今まで気づかなかったんだろう

 

 昔から衛宮君と一緒にいれば、幼馴染になって

 

 今頃、恋人になれてたかもしれないのに

 

 そう思うと、すごく勿体ない事をした気になってくる

 

楓「でも、3年生になったくらいからは家に戻れたし、もしかしたらどこかで会ってるかも。」

ましろ「そうだったらいいな......」

楓「まぁ、そんな事は早々ないと思うけどね。小学3年くらいなら、覚えてると思うし。」

ましろ「だよね......」

 

 私も衛宮君に会った記憶ないもん

 

 流石に、そんなに都合のいいことはない

 

 もしそんな事があるなら、運命だよ

 

ましろ「それにしても、結構長いね?」

楓「うん、見た感じはそこまで距離はないのに。」

ましろ「色は?」

楓「続いてるよ。」

 

 色が見える衛宮君は凄く頼りになる

 

 だって、こんなに暗い森なのにガイドがあるんだよ?

 

 遭難の心配なんてないから、安心する

 

楓「多分、もう少しで着くよ。」

ましろ「そんな事も分かるの?」

楓「時間ごとで色の濃さも変わるからね。長年見てたら、慣れたんだ。」

ましろ「な、なるほど。」

 

 どの程度の変化かは分からないけど

 

 絶対に普通の人じゃわからないと思う

 

楓「......?」

ましろ「どうしたの?」

楓「いや、なんでもないよ。早く行こう。」

ましろ「うん?」

 

 それから、衛宮君は少し歩くペースを上げて

 

 目的地である大樹に向かって行った

__________________

 

 目的地に着いた

 

 大樹の周りは少し開けた空間になってて

 

 空を見上げると、吸い込まれそうな満天の星空が広がってる

 

ましろ「わぁ......!」

 

 出発前はあんなに怖かったのに

 

 今はこうして感動してるから、私はチョロいと思う

 

 何より、衛宮君と一緒にこの景色を見られるのが嬉しい

 

楓「これは、向こうじゃ中々見られないね。」

ましろ「うん、そうだよね!」

楓「色で言えば、桐ケ谷さんの色が似たような感じかな。」

 

 そうなんだ

 

 やっぱり、色って個人差があるんだね

 

 私は藍色の絵の具みたいって言ってたし

 

ましろ(でもその分、混ざった時は......)

 

 考えたくもない

 

 でも、私なら発狂するほど酷い光景になるのは分かる

 

 衛宮君だって、人混みにいたら辛そうだし

 

 色を無理やり見たって言うときは倒れてた

 

 やっぱり、すごく負担があるのかな......

 

楓「どうしたの?」

ましろ「いや、その......衛宮君の色って、やっぱり負担が凄いのかなって。」

楓「え?」

 

 そう言うと、衛宮君が首を傾げた

 

 それはそうだよ

 

 だって、急に私なんかに心配されるんだもん

 

ましろ「たくさんの種類の色があって、それが混ざったりして、辛いかなって。」

楓「うーん、確かに、これのせいで人混みに行きづらかったりすることもあるかな。」

ましろ(やっぱり......)

楓「でも、その分の利点はあるよ。」

ましろ「?」

 

 衛宮君は笑いながらそう言った

 

 色が見える利点ってなんだろ

 

 ありそうではあるけど、私にはよくわからない

 

楓「物を探したりするときには便利だよ!あと、人の色々な状態もわかる!」

ましろ「確かに、それは便利かも。(よく物失くして慌てるし......)」

楓「人混みが無理って言う事を差し引いても、十分な利点だよ!」

 

 それは、どうなんだろう?

 

 ここみたいな人の少ない場所ならともかく

 

 都会なら、悪い事の方が多いんじゃ......

 

楓「何より、僕が色を見れる事で八潮さんを助けられた。」

ましろ「!」

楓「女の子の形見の指輪も見つけられた。それに......」

ましろ「?」

 

 衛宮君は話の途中で口を閉じた

 

 その表情はどこか楽しそうに見える

 

 どうしたんだろう?

 

ましろ「どうしたの?」

楓「なんでもないよ。」

ましろ「えぇ、教えてよ。」

楓「聞いても仕方のない事だよ。気にしないで。」

 

 完全にはぐらかされちゃった

 

 衛宮君がはぐらかすのって、意外と珍しい?

 

 かなり素直な子だから、隠し事なんて初めてかも

 

楓「それにしても、この木、すごいね。」

ましろ「確かに、すごく大きいよね。」

楓「樹齢、何歳くらいなんだろ。」

 

 感心したように衛宮君はそう言う

 

 この木は本当に大きい

 

 何年前からここにあるんだろう

 

 私達の何倍生きてるんだろう

 

 そんな事を考えてしまう

 

楓「きっと昔、この木の近くには色んな人がいたと思う。」

ましろ「?」

楓「森で遊ぶ子供、仕事をしてた人、愛し合った夫婦か恋人......色んな人がこの木の近くに来たんじゃないかな。」

ましろ「色で見えたの?」

楓「少し。頭痛くなるのは嫌だから、そんなに見てないよ。」

 

 衛宮君の目、何年前の色まで見えてるの?

 

 色々とおかしいけど

 

 元からスピリチュアルな出来事が起きてるし、気にしなくても良いや

 

楓「......そろそろ戻ろうか。」

ましろ「そうだね。ちょっと時間かかりすぎかな?」

楓「大丈夫だよ。」

ましろ「そっか__っ!!」

楓「え?」

 

 振り向こうとした時、妙な浮遊感に襲われた

 

 それに気づいた時には衛宮君の方に倒れて行って__

 

楓、ましろ「ん!?」

 

 そのまま衛宮君を押し倒して

 

 唇には柔らかい感触があった

 

 息苦しい、でも嬉しい

 

 そんな不思議な感覚に襲われた

 

ましろ「え、あ、う......///」

楓「え、えっとぉ......」

 

 き、気まずい、やっちゃった......

 

 ど、どうしよう......

 

楓「ご、ごめん、倉田さん!!」

ましろ「ふぇ......?」

楓「僕がちゃんと受け止められたらこんな事にならなかったのに、こんなことになって......」

 

 衛宮君はそう謝ってきた

 

 それを見て、私は首を傾げた

 

 なんで、衛宮君が謝ってるの?

 

 私が転んだからこうなったのに......

 

楓「倉田さんみたいな可愛い人の......その、あれの相手が僕なんかになっちゃって、本当に申し訳ない。ごめん......」

ましろ「っ!///(か、可愛い......!?///)」

 

 って、そうじゃない

 

 衛宮君、色々と誤解しちゃってるよ

 

 ほ、本当に収拾がつかなくなる

 

ましろ「わ、私は、全然いいよ......むしろ、嬉しいって言うか......///」

楓「え?」

ましろ「だから、衛宮君は気にしないで、戻ろう......?///」

楓「!」

 

 私はそう言って衛宮君の手を握った

 

 テンパってて自分でも何をしてるかよくわからないけど

 

 なんとなく、大丈夫な気がしてる

 

楓(ど、どういう事なんだろう?)

ましろ(え、衛宮君と、キスしちゃった......!///まともに顔見れないよ~!!///)

 

 それから、私は衛宮君と目を合わせないようにしながら、歩いて帰った

 

 このことは、絶対に皆には言えない

 

 もしバレちゃったら、どうしよう......

 

 私は嬉しい反面、そんな事を心配していた

 

 

 

 



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1日目の夜

 ”ましろ”

 

 衛宮君とキスをしてしまった

 

 頭がフワフワして、現実感がなくて

 

 逃げたくなるくらい、恥ずかしかった

 

 けど、それと同じくらい離れたくなくて

 

 帰りには、指先だけだけど、手を繋いだ

 

ましろ(ど、どど、どうしよう......///)

 

 こう言うのって、どうすればいいんだろ

 

 衛宮君、気にしてる雰囲気じゃなかったけど

 

 本当は結構気にしてたりしないかな......

 

ましろ(気にしてるのは、私の方なんだけど......///)

七深「シロちゃーん?どうしたの~?」

ましろ「!///な、何でもないよ!?///」

瑠唯「うるさいわよ、倉田さん。」

 

 お風呂の中で考え事をしてると

 

 ななみちゃんとるいさんに声をかけられた

 

 驚いて変な声出しちゃった

 

透子「この感じ、衛宮と何かあったでしょ?」

ましろ「!?///」

透子「図星だな~!」

ましろ「な、なんで、分かったの......?///」

つくし「あんな絶好のシチュエーションがあって、衛宮君が何もやらかさないわけないからね~。」

 

 衛宮君へのイメージ、酷いね

 

 今日のお昼のことを考えたらそうなるけど

 

 いつもはまとも......だと思う

 

透子「で、何があったの?」

ましろ「えっと、手を繋いで、森を歩いたり......///」

七深「それだけ~?」

ましろ「目的地の大樹の所で、躓いて転んで......キス、しちゃって......///」

七深、透子、つくし、瑠唯「なっ......!?」

 

 4人とも、大きく目を見開いた

 

 皆、元の顔がいいから、ちょっと怖い

 

透子「ま、まさか、衛宮のやらかし体質がそこまでとは......」

つくし「ましろちゃんに、先越された......」

七深「......今、シロちゃんとキスしたら間接キスになるんじゃ。」

瑠唯「虚しくなるだけよ、やめておきなさい。」

ましろ「わ、私も流石に勘弁かな......」

 

 お友達とのキスは嫌だな......

 

 私にそんな趣味はないし

 

 ここは海外でもないし

 

七深「はぁ~、シロちゃんに初めて取られちゃったか~。」

透子「まぁ、これは仕方ないんじゃね?あたしは、最後さえ貰えればいいし。その間に衛宮が何しようが何も言わないよ!」

つくし「私もかな。」

七深「キスは付き合ってからたくさんすればいいしね~!」

瑠唯「そうね。」

 

 皆、すごい自信......

 

 って、それはそうだよね

 

 皆かわいくて、お金持ちだし

 

 断る男の人なんて、相当鈍感な......

 

ましろ(あ、衛宮君は鈍感だった。)

透子「とーにーかーく!まだ負けてないからな!」

ましろ「え、いや、別に勝ち負けを争うものじゃないし......」

七深「キスした人は余裕が違うね~。ちなみに、どんな感じだった?かえ君の唇って、どんな感触でどんな味だった?」

ましろ「えぇ!?///そ、そんな事言われても......///」

つくし「私も気になるな。」

 

 そんな質問をされて、顔が熱くなった

 

 てゆうか、突然すぎて詳しくは言えないし

 

 そもそも口に出すのも恥ずかしいし......

 

透子「教えてよ!減るものでもないし!」

ましろ「え、えっと......柔らかくて、頭がフワフワして......///」

つくし「な、なるほど///」

ましろ「それで......秋みたいな、味がした///」

七深「秋......かぁ。」

透子「想像つかないな。」

 

 だって、私も何となくだもん

 

 あー、顔が熱いよ......

 

 このままお風呂に入ってたら茹で蛸になっちゃう

 

ましろ「も、もう私出るから!///(恥ずかしい恥ずかしい!///)」

透子「あはは、シロ、真っ赤じゃーん!」

七深「初ね~、シロちゃん~♪」

ましろ「もう、もう!///」

 

 私は叫びながらお風呂場を出た

 

 後ろからはからかってくる声が聞こえたけど

 

 無視した

__________________

 

 ”楓”

 

楓(__はぁ......気持ちよかった~。)

 

 僕はお風呂を出て、今は部屋でのんびりしてる

 

 お昼に川で遊んで、夜は肝試しで森で歩いて

 

 結構な量の汗もかいてたし、すごく気持ちよかった

 

 コテージで男湯女湯が分かれてるのは驚いたけど

 

 まぁ、もう気にしないことにした

 

楓「さて、これから何をしようかな。」

 

 特に遊ぶものは持ってきてないし

 

 夜も遅いから寝た方がいいかな

 

 明日もあるし

 

楓(寝ようかな__)

 

 そう思った瞬間、コンコンと部屋のドアが叩かれた

 

 僕は首を傾げながらドアの方を向いて、返事をした

 

楓「はーい、誰ですか?」

瑠初『私よ、衛宮君。』

楓「八潮さん?」

 

 結構、意外かもしれない

 

 あんまり人の部屋に行くイメージはなかったな

 

 いや、来てくれたのはすごく嬉しいんだけど

 

楓「あ、どうぞ、入ってください。」

瑠唯「えぇ、お邪魔するわ。」

 

 八潮さんは静かにドアを開け、部屋に入ってきた

 

 服装は紺色のパジャマで、あまりにも似合いすぎてる

 

 てゆうか、着こなし的にパジャマには見えない

 

楓「えっと、どうかしましたか?」

瑠唯「少し、あなたと話したかっただけよ。」

楓「そうなんですか?じゃあ、どうぞ。飲み物はお茶でいいですか?」

瑠唯「そんなに気しなくてもいいわよ。」

 

 そう言われても気になるし

 

 八潮さんには椅子に座って貰って

 

 それから、部屋に備え付けてあったお茶を淹れた

 

楓「どうぞ、八潮さん。」

瑠唯「ありがとう。いただくわ。」

楓「部屋に備えてあった物なので、大したものではないんですけどね。」

 

 僕は苦笑いをしながら八潮さんの向かいに座った

 

 それにしても、何のお話をするんだろう

 

 バンドの事かな?それとも学校のこと?

 

 どれにしても、八潮さんと話すのは楽しいと思う

 

瑠唯「急に来てしまって悪いわね。」

楓「いえいえ、僕も八潮さんが来てくれて嬉しいですから。」

瑠唯「......そう///」

楓「?」

 

 八潮さんの色がふやけた

 

 喜んでる色も見える

 

 どうしたんだろ?

 

瑠唯(不意打ちでこんな事を言われたら、敵わないわね......///)

楓「八潮さん?」

瑠唯「い、いえ、なんでもないわ///」

楓「そうですか?」

 

 今日の八潮さん、落ち着きがない気がする

 

 どこか顔も赤いし

 

 目もちゃんと合ってない

 

 僕はそんな疑問を持ちながら、目の前の八潮さんを見ていた

 

 ”瑠唯”

 

 彼の部屋に来たけれど、緊張で上手く話せない

 

 思い切って来てみたのは良かった

 

 けれど、夜の密室で2人きり

 

 しかも、目の前には好意を持ってる衛宮君

 

 こんな状況では、いつもの様にいる事なんてできない

 

楓「それにしても、八潮さんは凄いですね。」

瑠唯「え?」

楓「だって、どんな服装でもかっこよくて、本当にすごいですよ!」

瑠唯「そ、そうかしら......?///」

 

 彼はいきなり何を言うのかしら

 

 別に私はそう言うのではないのだけれど

 

 でも、彼に褒められるのは、悪い気はしないわね

 

楓「はい!僕には決して真似できません!」

瑠唯「ただ、身長が高いから、そう見えるだけじゃないかしら?」

楓「そう言えば、確かに背が高いですよね?僕と1㎝しか変わらないですし。」

瑠唯「......」

 

 今まで言われた褒めの決まり文句を詰めたけれど

 

 彼はそんな事を関係なく褒めてる

 

 全く、変な人ね

 

楓「僕も、八潮さんみたいにカッコいい人間になりたいです!」

瑠唯「カッコいいの定義を何にするかは分からないけれど、女性に好意をもたれるという意味では十分じゃないかしら。」

楓「え?そうですか?別にそんな事はないと思いますけど。」

 

 彼は一体、どこまで鈍感なのかしら

 

 広町さん辺りは気づいてもいいと思うのだけれど

 

 まぁ、彼にそれを求めるのは、難しいわね

 

瑠唯「......いえ、十分、その条件なら満たしてるわよ。」

楓「え__!?」

瑠唯「......///」

 

 私は彼の目の前に移動し

 

 そのまま、ゆっくり彼に抱きついた

 

 動悸が激しくて、心臓が破裂してしまいそう

 

 こんなの、初めて

 

楓「や、八潮さん!?」

瑠唯「......倉田さんとキ......接吻をしたのでしょう?」

楓「え、なんでそれを!?」

 

 隠し事が下手ね

 

 それだけ信用出来るという事だけれど

 

 少し、心配になるわね

 

瑠唯「それで、彼女はそれを嫌がった様子は無かった......はずよね?」

楓「えっと、目は合いませんでしたけど、手は繋いでましたね?」

瑠唯「そう言う事よ。」

楓(ど、どういう事だ?)

 

 彼は理解できないと言った表情をしてる

 

 ここまでしても分からないのね......

 

瑠唯「あなたに好意を持つ女性は、案外多い、と言う事よ......///」

楓「え?」

瑠唯「......私も、あなたなら......///」

楓「あ、あの、どういう......?」

 

 止まれない

 

 もうここで彼と一緒になれば......

 

 そんな事を考えてしまう

 

 駄目だと分かってる

 

 けれど、それでもいいと思ってしまう

 

瑠唯「衛宮君、よければ、私と__」

透子「__ちょーっと待ったー!!」

楓、瑠唯「!?」

透子「お前ら、何してんの!?」

楓「き、桐ケ谷さん!?皆も、どうしたの!?」

 

 流石にバレていたようね

 

 残念ね

 

 もう少しだったのに......なんて、流石に思わない

 

 正直、止めてくれてよかったかもしれない

 

瑠唯「......ただ、話してただけよ。」

七深「ただ話してただけでそうなるわけないよね~?」

瑠唯「......」

つくし「何してたか、説明してくれるよね?」

ましろ「そ、そうだよ......!」

 

 皆、攻めるような目で私を見てる

 

 どうしようかしら

 

楓「えっと、長旅疲れを癒すための措置だよ?」

瑠唯「!?」

透子、七深、ましろ、つくし「え?」

楓「前にネット記事でハグは疲れを癒すのにいいって書いてるのを見て、それを実践してたんだよ!」

 

 私は驚いて目を見開いた

 

 なぜ、彼は私を庇っているの?

 

 彼には何のメリットもないというのに

 

楓「偶々、八潮さんとその話になって、試してたんだよ!」

透子(ど、どうしよ、盗み聞きしてたから全部知ってるって言いずらい......)

七深(かえ君がいい子過ぎて自分の汚さが......)

つくし(胸が痛い......)

ましろ「えっと、ごめんなさい......」

 

 多分、彼女たちは盗み聞きでもしてたでしょう

 

 でも、彼の訴えで何も言えなくなってるわ

 

 なんて影響力なのかしら

 

楓「あ、折角だし、皆もしますか?(?)」

透子、七深、つくし、ましろ「!?///」

楓「(あれ、何かおかしいな?)あ、やっぱり__」

透子「仕方ないなー、あたしがしてやるよー!///」

つくし「いいよ!私、委員長だから(?)///」

七深「親友だからね~、やっぱりハグくらいするよね~///」

ましろ「わ、私も......///」

楓(え、な、何故......!?八潮さんへの敵意の色は収まったけど......何が起こったんだ?)

 

瑠唯(......た、大変ね。)

 

 それから、彼は全員とハグをしていった

 

 私のせいでこうなったのだけれど

 

 かなりいい思いも出来たし......

 

 戦果とすれば、十分ではないかしら

 

 

 



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人影

 昨晩は色々と大変だった

 

 5人の女性に順番にハグしていくなんて状況

 

 そんなの、普通に生きていればまずないと思う

 

 けど、僕はそんな事を体験してしまった

 

楓「ふぁ~ぁ......」

 

 そんな時間から一晩明けて

 

 僕は割り当てられた部屋のベッドで目を覚ました

 

 この辺りは人通りがなくて、よく眠れた

 

楓(色が下の階に向かってる。皆、もう起きてるんだ。)

 

 いや、当たり前か

 

 八潮さんと桐ケ谷さんは凄く早起きだし

 

 広町さんと二葉さんも普通に早起き

 

 倉田さんは......日によるかな?

 

七深「__あ、おはよう、かえ君~!」

楓「おはよう、って、もう朝ごはんの準備終っちゃってる?」

透子「うん!皆このために早起きしたしねー1」

つくし「うんうん!さっ、席に着いて!」

楓「あ、うん。」

 

 昨日もお夕飯の用意丸投げだったし、手伝いたかったな

 

 ぎ、ギリギリ、簡単なことは出来るし......

 

瑠唯「今日の朝ごはんはトーストにベーコンエッグ、シーザーサラダ、飲み物は好きなものを選んでいいわよ。」

楓「す、すみません、何から何まで。」

ましろ「気にしないで。皆、したくてしてるから、ね?」

七深「早起きして朝ごはんの準備をするのは、妻の務めだからね~!」

楓「妻?」

つくし「ななみちゃん!!」

 

 へぇ、そんな務めがあるんだ

 

 でも、なんでこの状況でこんな事を?

 

 まさか......

 

透子「え、衛宮?さっきのは気に__」

楓「すごいですね、広町さん!」

七深、ましろ、つくし、透子、瑠唯「え?」

楓「将来の事を考えて、親元を離れたこの状況で備えてるんだね!広町さん、ただでさえ美人なのにそんな事までするなんて......その意識の高さと努力には頭が下がるよ!将来、広町さんの旦那さんになる人が羨ましいね!」

ましろ、透子、つくし(違う、そうじゃない。)

瑠唯(さ、流石ね......)

七深「だ、誰でもいい訳じゃないんだけどな~......?」

 

 結婚とか、僕には縁遠い話だ

 

 多分、する事はないんだろうなぁ

 

 まっ、それは別にいいんだけど

 

透子「あはは、まぁ、取り合えず食べよっか!」

つくし「ちょーっと待って?」

七深「なんでシレっとかえ君の隣、座ろうとしてるのかな~?」

楓「?」

 

 なぜか、皆が不穏な色になった

 

 え、なんで?

 

 今の一瞬で何が起きたの?

 

透子「ちぇー、行けると思ったのになー。」

ましろ「ここは、公平にジャンケン......!」

瑠唯「そうね。それが一番合理的だわ。」

つくし「負けないよ!」

七深「私にジャンケンで勝てると思わない事だよ~?」

 

 昨日のクジ引きもこんな感じだったなぁ

 

 皆、好きなのかな?ジャンケンとかクジ引きとか

 

 そんな事を思いながらボーっと眺めてると

 

 すごい気合いでジャンケンをし始めた

 

 5人だからかなりあいこが続いて

 

 7回ほどでやっと決着がついた

 

透子「__よっしゃ!あたしの勝ちぃ!」

七深「ま、負けた......?(手の動きの先読みを優先しすぎちゃった......)」

ましろ(まぁ、私は昨日勝ったし。)

つくし「2連敗......」

瑠唯(......運がないわね。)

 

 というわけで、桐ケ谷さんが隣になるらしい

 

 なんで勝った人が隣なのかは疑問だけど

 

 まぁ、いっか

 

透子「ほらほら、こっちおいで♪」

楓「はい。(すごく嬉しそうだなぁ。)」

 

 僕は桐ケ谷さんお隣に座った

 

 朝ごはん、美味しそうだなぁ

 

 とか、そんな呑気な事を考えてる

 

楓「いただきます。」

透子「どんどん食べな!おかわりもあるし!」

楓「あはは、そんなに食べられないよ。」

 

 僕はそう言った後、トーストを口に運んだ

 

 それを見て、皆もご飯を食べ始めて

 

 食事の時間が始まった

 

ましろ「今日は、山登りするんだっけ?」

透子「うんうん!景色見ながら、のんびり歩こうって!」

楓「いいですね。ここは、とても綺麗ですし。」

七深「嬉しそうだね~♪」

楓「うん、綺麗な風景がたくさん見れそうだから。」

 

 軽くそう答えてから、僕は食事を進めた

 

 ベーコンエッグにサラダ、と

 

 どれをとっても超絶品だ

 

七深「そう言えば~、昨日の夜、ファーストキスの話になったんだけど~。」

楓「~っ!!?ゲホッ!!ゴホッ!!」

透子「衛宮!?大丈夫!?」

 

 広町さんからふと出た一言

 

 それに反応して、飲み物が変な所に入ってむせてしまった

 

 図星を突かれたときって、人ってこうなるんだ

 

七深「話の続きだけど、かえ君は経験ある~?」

楓「な、ないよ!?そんなのあるわけないよ~!!だって、僕だよ!?」

透子(嘘下手!?)

瑠唯「落ち着きなさい。(面白いわね。)」

つくし(こんな嘘下手な人初めて見た。)

ましろ(......ど、どうしよう、昨日の子と思い出しちゃった///)

 

 僕が恥ずかしいだけならいいんだけど

 

 倉田さんが恥ずかしいだろうし

 

 ここは上手く隠さないと(手遅れ)

 

瑠唯(『倉田さんのためにも隠さないと。』という声が聞こえてくるわ。)

ましろ(え、衛宮君......///)

七深「あはは~、そうだよね~。(可愛い。)」

透子「分かってるって~(抱きしめたい。)」

つくし「天使。」

楓「二葉さん?」

 

 何言ってるんだろう?

 

 いや、バレてないみたいだしいいや

 

 上手く行ったみたいだ(行ってない)

 

透子「はいはーい、さっさと食べて行こーねー。」

楓「そうだね。」

七深「もうむせちゃダメだよ~。」

楓「わ、分かってるよ」

 

 そう返事した後、僕は残ってる料理を食べて

 

 その後、洗い物だけでもさせてもらう事にし

 

 みんな位は準備をしに部屋に戻ってもらった

__________________

 

 洗い物を進めて行き

 

 大体、9割くらいが終わった

 

 白いお皿を綺麗にするのは楽しいなぁ

 

楓「ふんふ~ん♪って、あ。」

 

 お皿を洗い終えて

 

 次は食器だ

 

 これは皆が口に入れたものなわけで

 

 変な触り方をすると、皆の気分を害するかもしれない

 

 慎重にしないと

 

楓(小学生の時とかに多様な話聞こえたな~。)

 

 あの時はリコーダーだったかな?

 

 男の子の誰かが女の子のを間違えて使って

 

 それで女の子が大泣きしてたような気がする

 

 僕は図書室でその話を聞いてたっけ

 

楓(まっ、あの男の子の気持ちは分からなかったなぁ。)

 

 あの男の子は女の子が好きだったのか

 

 それとも、嫌がらせだったのか

 

 それともただ欲求を満たしたかったのか

 

 ......うん、やっぱりわからないや

 

楓「っと、終わりかな?後は、ここにならべt__」

???『__!』

楓「!?(な、なにあれ!?)」

 

 洗い物が終わって

 

 食器を並べようとした瞬間

 

 キッチンにある裏口のドアのガラスに、人影が写った

 

 けど、何だか変だ、おかしい

 

楓「だ、誰ですか!って、あれ......?」

 

 慌てて外に出てみると

 

 そこには誰もいなかった

 

 走って行った様子もないの消えた

 

 いや、それだけだったらまだいい

 

 だって、どうにか説明できるから

 

 けど......

 

七深「__かえ君~?外に出てどうしたの~?」

楓「!!」

七深「?」

 

 外に出てすぐ、広町さんが扉から顔を出した

 

 僕が少しびっくりして振り向くと

 

 広町さんは不思議そうに首を傾げた

 

楓「いや、なんでもないよ。」

七深「そう?なら、洗い物も終わってるみたいだし、かえ君も準備してきなよ~!」

楓「う、うん。」

 

 僕は軽く頷き、コテージの中に入った

 

 けど、あの謎の人物が引っ掛かる

 

 いや、あれは人間なの?

 

 そんな疑問で頭がいっぱいになる

 

 だって......

 

楓(色が、のこってない。それに、透き通ってないとはいえ、ガラス越しでも色が見えなかった?)

七深(どうしたんだろう?)

 

 僕はあの謎の人物?について考えながら自分の部屋に行き、山登りの準備を始めた

 

 今まで色が見えてるのが当たり前だったから

 

 なんだか、すごく不安と言うか、嫌な感じがする

 

 本当に、あれはいったい何だったんだろう......?

 

 

 



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謎の少女

 色が見えない人間(?)

 

 いや、人間じゃないかもしれないんだけど

 

 でも、あのシルエットは人間のそれで

 

 動きもかなり人間じみてた

 

 それに、どんなものでも人が触れれば色が残る

 

 だから、人型で色がないなんて

 

 動物が罠を作るくらいしかありえない

 

楓(あれは、一体......)

透子「衛宮~、なーに考え事してんの~?」

楓「うわっ!桐ケ谷さん!?」

 

 そんな事を考えてると

 

 突然、桐ケ谷さんが後ろから抱き着いてきた

 

 女の人って、すごくいい匂いするなぁ......

 

七深「朝から様子おかしいよね~?どうかしたの~?」

楓「いや、なんでもないよ。」

つくし「?」

 

 この話はあんまり他の人にはしたくない

 

 特に倉田さんと二葉さん

 

 2人は肝試しでも怖がってたし

 

 こういう事は知らない方がいいに決まってる

 

ましろ「疲れちゃったとか?」

瑠唯「もうかなり歩いたものね。」

楓「い、いえ、大丈夫です。今日は凄く元気なので。」

 

 こっちに害はないだろうけど

 

 なぜかすごく気になるんだよね

 

透子「もう目的地は近いぞ~!元気に行くよ~!」

七深、つくし「お~!」

楓、ましろ「お、お~(?)」

瑠唯(本当に元気なようね。)

 

 皆、楽しそうに話しながら歩いてる

 

 僕との体力の差はあるけど

 

 なんとか後ろの方でついて行った

__________________

 

 あれからしばらく歩いて

 

 僕達は目的地にたどり着いた

 

 ここは開けた場所で、すごい景色が見える

 

 広大な森を上から見たのは初めてだなー

 

楓「__すごい。」

 

 絵とはまた違う綺麗な景色

 

 吹き抜けていく、気持ちのいい風

 

 こんな感覚、生まれて初めてだ

 

七深「かえ君~、目が輝いてるね~!」

楓「あ、広町さん。」

七深「何か面白いもの見つけた~?」

楓「見えるもの全部、面白いよ。」

 

 風邪で揺れてる木々、流れる川

 

 自然は見てるだけでも発見があって面白い

 

 目が良い方なのが功を奏してる、かな

 

楓「あそこの木、何かの実がなってる。」

七深「え~?見えないよ~?」

楓「あ、そっか。」

七深「かえ君、目良すぎない~?」

 

 広町さんは首を傾げながらそう言った

 

 まぁ、そんなに視力は悪くない

 

 と言うか、視力まで悪かったらいよいよマズいよね

 

 いいとこなしになっちゃうよ

 

楓「昔はよく窓から外を眺めてたから、鍛えられたのかも。」

七深「なるほど~。」

 

 そんな会話をしつつ、ボーっと景色を眺めてる

 

 特に会話はないけど、広町さんの放ってる空気は心地よくて

 

 なんだかすごく癒される

 

 それにしても......

 

楓「......広町さんとの景色、3つ目。」

七深「え?」

楓「沖縄で2つ、一緒に新しい景色を見て、ここで3つ目。広町さんと見る景色はいつも綺麗だね。」

七深「!///」

 

 そう言うと、広町さんの色が一気にふやけた

 

 それに顔も赤くなってる

 

 どうしたんだろう?

 

七深(か、かえ君に口説かれてる~!?///)

楓「??」

七深「も、も~、かえ君って平気でそんな事言うよね~///」

楓「え?」

 

 何かおかしなこと言ったかな?

 

 僕なりにちゃんと考えて言葉にしたんだけど

 

七深「きっと、もっと増えるよ~///」

楓「そっか。次はどこかな。」

七深「んふふ~///それはもう、綺麗な所だよ~......教会とか///」

楓「教会?あ、確かに綺麗だよね!ステンドグラスとか!」

七深(若干ズレてるけど、もう今はそれでいい~!///)

楓(あっ。)

 

 教会と言えば、5月くらいに夢で見たなぁ

 

 あの時はなぜか結婚してたけど

 

 まぁ、僕にはありえないかな

 

楓「教会と言えば......結婚式。」

七深「!!??///」

楓「って、高校に入ってから夢で見たことがあってね。何故か僕が新郎で、変な夢だったよ。」

七深「あ、相手は......?///」

楓「相手?あー、見えなかったんだよね。でも、色はあったから僕が知ってる人だと思うんだけど。」

七深(と言う事は、私の可能性も......!///)

 

 なんだか、今になって気になってきた

 

 あれって誰だったのかなぁ

 

 現実にありえないと言ってもいい夢だったし

 

透子「2人とも!なーにイチャついてんの!」

七深「かえ君が結婚式の夢見たらしいよ~!」

つくし「えぇ!?相手は!?」

ましろ「だ、だれ!?」

瑠唯「......(だ、誰なのかしら。)」

七深「相手は分からないらしいよ~。」

透子「なんだ~。(ま、誰でも一緒だけど。)」

ましろ、つくし(わ、私......!)

瑠唯(安心したわ。)

 

 皆、僕の夢の話をしてる

 

 まぁ、話のネタとしては面白い、のかな?

 

 人によるだろうけど

 

つくし「ね、ねぇ、衛宮君は結婚相手は誰がいい?」

楓「え?いや、分からな__!!」

ましろ「衛宮君!?」

 

 二葉さんの方を向いたその時

 

 後ろの森に何か、人影のようなものが見えた

 

 身長は二葉さんくらいでジーッとこっちを見てる

 

 けど、ここからじゃ姿を確認できないし

 

 それに......やっぱり色がない

 

楓「__あの、そこの人!なんで僕たちをつけてるんですか!」

「__!」

楓「あ、待ってください!」

透子「衛宮!?そっちには何も__」

 

 僕は人影を追いかけるため、森の中に入った

 

 その時、後ろからは皆が追いかけてきてるのを感じた

__________________

 

楓「__はぁ、はぁ......」

 

 先にいる人影を必死に追いかける

 

 足はそんなに速くないみたいで

 

 まだ、ギリギリ姿を捉えられてる

 

つくし「え、衛宮君!どこ行くの!?」

楓「朝、コテージの裏口辺りにいた人を追いかけてる!」

透子「人ぉ!?(え?)」

楓「......(おかしい。)」

 

 この時点で、影にしか見えない

 

 髪の長さとか服の色とか

 

 そう言った情報を読み取れない

 

 ただ、影が前を走ってる

 

 そうとしか認識できない

 

七深「か、かえ君、どうしちゃったの!?(前には......)」

瑠唯(人なんていない、はずよ......?)

楓(動きが変だ。)

 

 影は複雑に道を変えてる

 

 けど、僕達を撒こうとしてるわけでもなく

 

 走る速さは僕とそこまで変わらない

 

楓(あれは、なに?なぜか、気になる......)

 

透子「ちょ!」

ましろ「え、衛宮君!?」

 

 僕はそのまま必死に走り

 

 前にいる影を追いかけていき

 

 後ろから聞こえる皆の声がいつしか遠くになって行った

__________________

 

 しばらく走って、影と僕は小さな洞窟に入った

 

 洞窟の中はしばらく一本道で

 

 ジメジメして不気味な雰囲気が漂ってる

 

 そんな洞窟を真っすぐ走り続けてると__

 

楓「__こ、ここ、は......?」

 

 辿り着いたのは、不思議な空間

 

 上に空いてる穴から光が差し込んでいて

 

 その下には一本の木

 

 そして、一際異彩を放つ、かなり古い鳥居

 

楓(なんだろ、この空間......?)

 

 僕はゆっくり鳥居に近づく

 

 ボロボロで木が若干だけど腐ってる

 

 触れればすぐにでも崩れそうだ

 

楓「すごい......」

 

 鳥居の前に立ってから、周りを見渡す

 

 自然で人工的な、矛盾した空間

 

 壁に張り巡らせられたコケ、天井から垂れ下がった蔓

 

 そして、一際存在感を放つ、真ん中に聳え立つ大樹

 

 それらが天井から差し込む光に照らされて

 

 神秘的な雰囲気を醸し出してる

 

楓(こんな風景、初めて見た。)

?「__よく、ここまで来たね。」

楓「っ!?」

?「そんなに驚かなくてもいいのに。」

 

 そんな風景を眺めてると

 

 背後の大樹の方から、幼い子の様な声が聞こえ

 

 声の方を向くと、そこには大樹の陰にちょこんと座ってる少女いた

 

?「あなたは......そう、そういう事。」

楓「......?」

 

 少女から目を放せない

 

 この空間において圧倒的な存在感を放ってる

 

 いや、それにしても......

 

楓(だ、誰?)

 

 腰まで伸びた水色の髪にサファイヤのような碧眼を持つ

 

 白のワンピースだけを身に纏った、神秘的な少女だ

 

 年齢は......小学生くらい?

 

 にしては、大人っぽい雰囲気を身に纏ってる

 

?「私のことが見える子は、100年ぶりかな?久しぶりに人と話した。」

楓「100年!?」

 

 冗談......じゃない

 

 普通なら冗談だと思う話のはずなのに

 

 目の前の少女を見ると何故かそう思えない

 

 けど、そう思う理由はすぐに分かった

 

楓(こ、この子......)

?「少し、話し相手になってよ。」

楓「え、う、うん、いいよ?」

?「ふふっ、じゃあ、話しよっか。」

 

 この子の持つ違和感

 

 それは神秘的な外見でも、圧倒的な存在感でも、外見年齢不相応な雰囲気でもない

 

 それは、僕にしか分からない違和感

 

 この子には......色がないんだ

 

 

 



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友達

磐長姫「私は磐長姫(いわながひめ)。長寿を司る神。」

 

 目の前の少女はそう名乗った

 

 僕は詳しくないから知らないけど

 

 雰囲気的にそうなんだろうなぁ

 

楓「へぇ、神様なんだ。すごいね。」

磐長姫「......反応薄くない?」

楓「驚いても仕方ないし、そんなに悪い人にも見えないからね。」

磐長姫「神様だって。」

楓「あ、そうだった。」

 

 磐長姫さんにそうツッコまれた

 

 いやぁ、つい間違えちゃうね

 

 見た目は完全に小さな女の子だもん

 

磐長姫「あなた、鈍感ってよく言われない?」

楓「え?僕、色が見えるからむしろ敏感な方だと思ってるけど。」

磐長姫「あ、うん。(絶対に鈍感だね、この子。)」

楓「?」

 

 なんだか、じーっと見られてる

 

 どこか変なところあるのかな?

 

 もしかして、寝癖とか残ってる?

 

楓「いわさんって神様なんだよね?」

磐長姫「いわさんって......まぁ、いいけど。神様だから、なに?」

 

 あ、これでいいんだ

 

 神様って意外と優しいんだなぁ

 

楓「神様って、僕の色が見える目の事とか分かるの?」

磐長姫「色が見える......あぁ、そういう事。」

楓「?」

磐長姫「分かるよ。と言うより、前にここに来れた子も、同じような事を言ってた。」

楓「え、そうなの!?」

 

 昔にも僕と同じような人っていたんだ

 

 別に自分の専売特許とは思ってないけど

 

 驚いたな

 

磐長姫「ちょっと確認させて。」

楓「え__!!」

磐長姫「......」

 

 いわさんは僕の頭に手を置いた

 

 て言うより、いわさん、宙に浮いてるんだけど

 

 いや、神様だから当たり前なのかな?

 

磐長姫「......なるほど。」

楓「?」

磐長姫「あなたのこと、大体わかった。」

 

 いわさんはそう言って、木の下に腰掛けた

 

 僕はそんないわさんの方をジッと見て

 

 次の言葉を待ってる

 

磐長姫「あなた、呪われてるね。」

楓「え?」

磐長姫「あなたは直接関係はないけど、先祖がかなり神を怒らせたみたいだね。」

 

 先祖が神を怒らせた?

 

 そんな話、初めて聞いた

 

 一体、何したんだろ?

 

磐長姫「『十六の呪い』って名付けようか。十六の誕生日を迎えたその日にあなたの命は尽きる。」

楓「っ......!」

磐長姫「前の子もそうだった。あの子も......」

楓「......」

 

 いわさんが暗い顔をしてる

 

 やっぱり、話せる人が少ないし

 

 前の人と仲良かったのかな?

 

楓「前の人は何て名前だったの?」

磐長姫「その前に、あなたの名前は?」

楓「衛宮楓だけど。」

磐長姫「......衛宮?」

楓「?」

 

 今度は表情が強張った

 

 色が見えないから感情が分からないけど

 

 怒ってるようにも驚いてるようにも見える

 

磐長姫「なるほど......善人は死ぬわけね。」

楓「?」

磐長姫「いいよ、教えてあげる。前の子の名前。」

 

 いわさんは僕の目を真っすぐ見て

 

 少しの沈黙の後、ゆっくり口を開いた

 

磐長姫「......衛宮織衣(おりえ)。それが、前に来た子の名前。」

楓「え、衛宮!?(僕と同じ!?)」

 

 衛宮織衣......

 

 聞いたことない名前だ

 

 いや、当たり前か、ご先祖様だし

 

磐長姫「理不尽だよね。善人だけ呪われるんだから。」

楓「......善人、なのかな?」

磐長姫「?」

 

 僕はふとそんな疑問を口にした

 

 この疑問は度々感じてたんだ

 

楓「僕は小さい時から人より早くに死んじゃうって言われて、今は死ぬときに後悔したくないというエゴを持って生きてる。最近、人に感謝されたりすることは多いけど、結局、全部自分のため。そんな僕が善人なんて......おこがましいよ。」

磐長姫「っ......!(この人間......!)」

 

 そう、全部自分のため

 

 何もかも、誰かのためとか考えてない

 

 生きる意味のため......そう、それだけだった

 

磐長姫「......あなた、長生きしたい?」

楓「え?」

 

 いわさんの問いかけに僕は首を傾げた

 

 けど、すぐ答えが出て

 

 それを口に出した

 

楓「いや、別に。」

磐長姫「なら......」

楓「?」

磐長姫「......神にならない?」

楓「えっ?」

 

 また、いわさんに驚かされた

 

 神様?僕が?なんで?

 

磐長姫「あなたとは仲良く出来そう。」

楓「そんな縁故採用みたいなこと言われても。」

磐長姫「なりたくないの?何でもできるよ?」

 

 えぇ......神様ってそう言うものなの?

 

 いや、違うよね?

 

 神様がどういう事をしてるのかは分からないけど

 

楓「まぁ、死んでから考えるよ。」

磐長姫「なんだ、死ぬのが怖くないんだ。意外と冷めてるね。」

楓「物心ついた時から短い命って言われてきたからね。」

磐長姫(それは......冷めるわけか。)

 

 まぁ、今さら気にするほどでもないね

 

 死ぬことなんて全く怖くない

 

 そんなことは所詮、早いか遅いかでしかないんだから

 

磐長姫「やっぱり、あなたは神に向いてる。」

楓「!(いわさん!?)」

 

 何かを呟いた後、いわさんが顔を近づけて来た

 

 綺麗な青い瞳に僕の顔が映ってる

 

 実に情けない表情をしてるけど

 

 そんな事を気にしてる場合じゃない

 

磐長姫(この瞳、鏡みたい。)

楓「......綺麗。」

磐長姫「!!」

楓「あれ、いわさん?」

 

 僕が呟くと、いわさんが目の前から消えた

 

 少しだけ周りを見渡すと

 

 また木の下で座っていた

 

 瞬間移動?

 

磐長姫「な、何言ってるの......?」

楓「え?何が?」

磐長姫「き、綺麗とか。」

楓「感想だけど?」

 

 驚いてる様子のいわさんに僕はそう答えた

 

 なんであんな風になってるんだろ?

 

 まずかったのかな?

 

楓「いわさん、髪は綺麗で、目も宝石みたいだし、顔だちも絶世の美少女って感じですごく綺麗だよ?」

磐長姫「......っ///」

楓「いわさん?」

磐長姫「......タラシだね///」

楓「え?」

 

 急にタラシって言われた

 

 え、僕そんなことしてないよね?

 

 なんで?

 

磐長姫(私の過去、本当に知らないんだ。)

楓(な、なんなんだろう?)

磐長姫「......神までタラシ込むなんて、本当に///」

楓「ん、ん~......?」

 

 なんだか広町さんみたいだ

 

 顔赤いし、モジモジしてるし

 

 この一瞬で何があったのかな?

 

磐長姫「......決めた。」

楓「?」

磐長姫「友達になろう。楓が生きる手伝いをしてあげる。」

楓「え、それっていいの?」

 

 神様って1人に肩入れしちゃダメなんじゃないの?

 

 いや、規則を知ってるわけじゃないけど

 

 イメージ的にダメだよね?

 

磐長姫「今の神はあくまで象徴。直接手を下すことは出来ないけど、アドバイスくらいはできる。」

楓「!」

磐長姫「楓に、幸あれ__んっ///」

楓(いわさん!?)

 

 唇に柔らかい感触

 

 これ、昨晩にも感じたのだ......

 

楓「__い、いいいわさん!?」

磐長姫「少しだけ加護を上げるよ。ふふっ///」

楓「か、加護って__っ......!」

磐長姫「そろそろ、帰る時間だね。」

楓「い、わ、さ__」

磐長姫「友達が心配するだろうし、あの建物に戻す。大丈夫、またすぐに会えるから。」

楓「__!」

 

 いわさんのそんな声の後

 

 僕の目の前は真っ暗になった

 

 その直前のいわさんの顔は紅くて

 

 優しく微笑んでるように見えた

 

 

 

 



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帰還

楓「__んっ、んん......」

透子「衛宮!?」

 

 目を覚ますと、そこはベッドの上だった

 

 横に顔を向けると、皆が心配そうな表情を浮かべてる

 

 あれ、いつの間に......

 

ましろ「い、いつの間にかコテージの前で寝てたけど、大丈夫......?」

楓「うん、変なところは特にないよ?」

 

 むしろ、かなり調子がいい

 

 寝起きなのに体は怠くないし

 

 頭もなんだかスッキリしてる

 

七深「ねぇねぇ、かえ君は何を追いかけてたの~?」

楓「え?」

つくし「私達には何にも見えなかったけど......」

楓(......どうしよ。)

 

 流石に神様を追いかけてたとは言えない

 

 なんて説明しようか......

 

瑠唯「質問攻めはやめておきなさい。彼、困ってるわよ。」

七深「そうだね~。」

透子「じゃ、お昼ご飯用意するから、落ち着いたら降りて来なよ!」

楓「は、はい。(た、助かった......)」

つくし「じゃあ、また後でね!」

ましろ「ゆっくりしてね?」

 

 皆はそう言って部屋から出て行った

 

 なんだか、良い感じに話題が逸れて助かった

 

楓(それにしても、不思議な体験だった__)

磐長姫「やっと行ったね。」

楓「__~っ!?い、いわさん!?」

磐長姫「驚き過ぎじゃない?」

 

 いわさんは溜息を付きながらそう言った

 

 いや、驚くのも当たり前だよね?

 

 だって、起きたら横でいわさんが寝ころんでるんだよ?

 

楓「な、なんでここにいるの?」

磐長姫「楓に取り憑いたから。」

楓「そんな幽霊みたいなこと言われても。」

磐長姫「神様だから何でもできるの。」

 

 神様ってすごい(素直)

 

 て言うか、なんで僕は取り憑かれてるの?

 

楓「なんで僕に取り憑いたの?」

磐長姫「楓のことが好きになったから。」

楓「え?」

磐長姫「あ、間違えた......気に入ったから///」

楓「うん?」

 

 いわさん、変わってるなぁ

 

 神様なのに僕なんかを気に入るなんて

 

楓「まぁ、いいや。」

磐長姫(そんなあっさり流すの?)

楓「いわさんって、あそこから離れてもいいの?」

磐長姫「それは問題ない。別に土着神じゃないから。」

 

 じゃあ、なんであそこにいたんだろう?

 

 静かだから過ごしやすかったのかな

 

 この辺り、すごくいい場所だし

 

磐長姫「楓。」

楓「どうしたの?」

磐長姫「お腹すいた。」

楓「......」

 

 神様ってお腹すくんだ

 

 いや、偏見は良くないよね

 

 神様だって、お腹はすくよね

 

楓「でも、どうやってご飯食べるの?」

磐長姫「そこは楓との感覚共有がある。私は楓で楓は私。」

楓「便利だね。」

磐長姫「これでも神様だから。」

 

 まぁ、取り合えず大丈夫みたいだ

 

 どういう感じなのかは分からないけど

 

磐長姫「ご飯、あるって言ってたよ。早く行こう。」

楓「あ、はい。(なんだか、子供みたい。)」

磐長姫「......私、これでも楓の何倍も生きてるんだよ。」

楓「!?(心読まれてる!?)」

磐長姫「私達の思考は共有できる。行くよ。」

楓「は、はい。」

 

 僕はそう言ってベッドから出て

 

 皆が待ってるリビングに向かった

__________________

 

 リビングではすごくいい匂いがする

 

 僕がどのくらい寝てたから分からないけど

 

 探してからご飯を作れる時間があったみたいだ

 

透子「お!もう大丈夫な感じ?」

楓「はい、ご心配おかけしました。」

つくし「ほんとだよ!暴走したら全然止まらないんだから!」

 

 二葉さんはすごく怒ってる

 

 まぁ、皆からしたら見えない何かを追いかけてたもんね

 

 暴走......してるようには見えるね

 

ましろ「あんまり心配させないでね......?本当に、怖かったから......」

七深「かえ君が行方不明とか笑えないからね~。」

楓「あ、あはは、ごめん。」

磐長姫『やっぱり、楓はタラシ。』

楓「?」

 

 皆と話してると、いわさんの声が聞こえて来た

 

 後ろに立ってるから分かるけど、口が動いてない

 

 頭の中に直接声が届いてる?

 

磐長姫『モテるんだね。』

楓「いやいや、それはないでしょ。」

瑠唯「どうかしたの?」

楓「あ、いやなんでも。」

磐長姫『頭の中で喋ればいいのに。』

 

 そう言う説明は先にして欲しい

 

 変な男みたいになっちゃったよ......

 

楓(それで、なんだっけ?)

磐長姫『楓、モテるんだって思って。』

楓(いやいや、それはないでしょ。そんな感じないでしょ?)

磐長姫『えぇ......』

楓「?」

瑠唯(どうしたのかしら。)

 

 いわさんは呆れたような声を出した

 

 え、今、呆れる要素あった?

 

 何もなかったよね?

 

透子「衛宮、なんか様子変じゃね?」

楓「!」

透子「あたし達が見えない何かが見えてたりして!」

楓「!?(なんでわかるの!?)」

ましろ「や、やめてよぉ......」

つくし「な、何も見えてないよね......?ね......?」

楓「う、うん、何もないよ?」

 

 き、桐ケ谷さん、すごい勘だ

 

 なんで何も言ってないのに分かるんだろう

 

七深「かえ君なら見えてても不思議じゃないけどね~。」

ましろ、つくし「も、もう!ななみちゃん!」

七深「あはは~、冗談だって~。」

楓「あ、あ、はは、そんな非科学的な事あるわけないよ。」

瑠唯「色の時点で非科学的だと思うけれど。」

磐長姫『それ。』

 

 そうだった、見えるのが普通で忘れてた

 

 これって非科学的なんだ(今さら)

 

 いやでも、いわさんのことはバレてない

 

 そもそも、バレて困ることなのかな

 

透子「まっ、衛宮が非科学的な話は置いといて!」

楓「僕が非科学的な話って何ですか?」

透子「ほら、ご飯食べるよ!」

 

 桐ケ谷さんはそう言ってドンと丼を置いた

 

 中には海老の天ぷらが大量にのったうどん

 

 すごく美味しそうだ

 

透子「ほら!たーんと食べな!」

楓「あ、はい。いただきます。」

磐長姫『早く早く。』

 

 いわさんがすごく食べるのを急かしてくる

 

 そんなにお腹すいてるんだ

 

 感覚共有の分、空腹も2倍なのかな?

 

楓、磐長姫「__!」

 

 うどんを口に入れて、驚いた

 

 これ、すごく美味しい

 

 お店で食べるのよりも美味しいかも

 

磐長姫『料理はここまで進化してたんだ。』

楓(最後に食べたのいつなの?)

磐長姫『100年前、織衣が持ってきた桜餅。』

楓(あー、それはお腹もすくよね。)

 

 むしろ、100年も耐えられるんだ

 

 いや、取り憑いてないから空腹とか無いのかな?

 

 よく分からないや

 

磐長姫『楓について行けば、美味しい物がたくさん食べられる。』

楓(まぁ、そうかもね。って、家まで付いてくるの!?)

磐長姫『当然、楓みたいな特殊な人間の生末、見守らないわけがない。』

楓(特殊って......僕は普通だよ。)

 

 僕なんて色が見えるくらいだし......

 

 それ以外は特に特徴はない

 

 何も誇るものもないただの男なのに

 

七深「どう~?美味しい~?」

楓「うん、美味しいよ。」

七深「よかった~!高級な海老、取り寄せた甲斐あったな~!お小遣い吹っ飛んだんだよね~!」

楓「それはちょっとマズくない!?」

七深「大丈夫大丈夫~!何も問題ないよ~!口座から引き落とせばおっけ~!」

楓「え、えぇ......?」

磐長姫『貢がれてるね。』

 

 貢がれてる......

 

 確かに、そんな気がしてきた

 

 僕、ここに来るまでそんなにお金出してない......

 

 え、マズいんじゃない、これ?

 

 男と言うか人間として

 

楓「......(ズーン......)」

つくし「衛宮君、どうしたの!?」

楓「いや......僕ってダメだなって......」

つくし「いきなり!?ど、どうしたの!?」

七深「あー。(なるほど。)」

 

 これは、何かしないと......

 

 けど、僕のお小遣いはそこまで多くないし

 

 ど、どうしよう

 

楓「えっと、何かして欲しい事ありませんか......?」

ましろ「え?(結婚)」

透子「は?(結婚か子作り)」

七深「え~?(自主規制)」

つくし「してほしいこと?(結婚)」

瑠唯「いきなり、ね。(少し進んだ関係に......)」

磐長姫『こんなに欲望が見えやすい人間たち、初めて見た。』

 

 なんだか、色が凄い事になってる

 

 え、そんなにマズい提案だったの!?

 

 まさか、僕程度に出来る事はないってこと!?

 

七深「かえ君、そういうことは簡単に言っちゃダメだよ~。女の子は獣だからね~。(危ない危ない。)」

楓「え?」

透子「そうだぞ~。そう言うこと言うのは1人だけにしときなー。(あ、あっぶな。衛宮がこう言う奴だって何故か頭から抜けてた。)」

 

 え、どういうこと?

 

 獣?1人だけ?

 

 全く意味が分からない

 

 何かそう言うルールがあるのか?

 

ましろ(い、今、教会で誓いのキスする所まで見えた......///)

つくし「はぁ~......危ない所だったよ。」

楓「え、今の一瞬で何があったの?」

瑠唯「何もないわよ。問題ないわ。」

楓「え、えぇっと......?」

磐長姫『......』

 

 皆の言ってる意味が分からない......

 

 色も何だかおかしいし

 

 このコテージの中で何が起きてるの?

 

磐長姫『楓......』

楓(どうしたの?もしかして、いわさん、今何が起きてるのか分かるの?)

磐長姫『いや、楓以外誰でも分かるよ。』

楓「え?」

磐長姫『楓の周りにいる女の子って、大変だね......』

楓(え、え......?なんで......?)

 

 いわさんにまた呆れたようにそう言われて

 

 僕はさらに頭を悩ませることになった

 

 

 それからは取り合えずうどんを食べ進めて

 

 みんなと一緒に遊びに行く準備をした

 

 

 



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旅行の終わり

 お昼ご飯を食べてから僕達はまた川で遊んだ

 

 相変わらず皆に全然ついていけなかったけど

 

 まぁ、楽しかったから良かった

 

楓(ここで寝るのも今日で最後かー。)

 

 ベッドに寝ころんでそんな事を考える

 

 この旅行、色々あったなぁ

 

 一番記憶に残ってるのは......倉田さんかな?

 

 あれは本当に申し訳なかったな......

 

磐長姫『楓、この本の続きないの?』

楓「あ、家に置いてきちゃった。ごめんね。」

磐長姫『別にいいよ。後の楽しみに取っておくから。』

楓「そっか__って、今とんでもない事言わなかった?」

磐長姫『?』

 

 いわさん、家まで付いてくるの?

 

 いや、別にいいんだけど

 

 困ることは特にないし

 

楓「ねぇ、いわさん?」

磐長姫『どうしたの?』

楓「僕の前に来た織衣さんってどんな人だったの?」

 

 僕はふとそんな事を尋ねた

 

 僕と同じ目を持ってた人で

 

 いわさんと同じように出会った人

 

 どんな人だったのか、少し気になる

 

磐長姫『そう言うのは......記憶共有して方が早いかな。』

楓「?」

磐長姫『あんまり見せすぎてもだから、人柄が分かりそうな部分だけ見せるね。』

楓「__!」

 

 いわさんがそう言うと

 

 何かの映像が頭の中に流れ込んできた

 

 ここは、いわさんに初めて会った場所だ

 

『__神様ー!お供え物持ってきましたよー!』

『私、目に見えてる色、嫌いじゃないんです。』

『もし......私みたいな子がまた産まれたら......もっと、綺麗な色を......見て欲しいな......』

 

 色んな映像が断片的に流れてくる

 

 織衣さんは黒髪の着物の女性で

 

 身なりは綺麗とは言えないけど、美人な人だ

 

 雰囲気からしてすごく優しそうで

 

 最後のシーンではすごく若いうちに髪が全部白くなって、息を引き取った

 

磐長姫『弟たちのために望まない結婚をして、どんなに辛くても笑顔で、誰かのために行動し続け22年の生涯を全うした。正しく、善人だった。』

楓「......そっか。」

磐長姫『楓?』

 

 この人は本物の善人だ

 

 自分のエゴのために行動する僕とは違う

 

 あの人は本物の善人だった

 

楓「あはは、ありがとう。よく分かったよ。」

磐長姫『......(自己肯定感、低いね。)』

 

 織衣さんは戦前に生きていた人

 

 だから、時代も価値観も変わった

 

 ......なんて、そんな言い訳はしない

 

 僕があの人みたいに心が綺麗じゃないだけだ

 

 あの人こそ、人格者なんだ

 

楓「世界にはああいう人もいたんだね。」

磐長姫『あれは流石に異常だったけどね。あんな人間、どの時代探したって数えるくらいしかいない。」

楓「確かに、あれほど優しい人は中々いないよね。」

磐長姫『だから、神にも向かなかったんだけどね。』

楓「え?」

 

 いわさんは低い声でそう言い

 

 僕はその様子に首を傾げた

 

 えっと、どういう意味だろう

 

 優しいなら神様とか向いてそうだけど

 

磐長姫『優しいだけの人物は神に向かない。神は加護を与えるだけでなく、罰を与えることも必要。』

楓「えぇ?じゃあ、なんで僕を勧誘したの?その理由で行くなら、僕も向いてないと思うけど。」

磐長姫『楓は義理人情で動きそうな性格な割にはどこか冷めてる。優しさも大事だけど、それだけじゃ駄目。人間もそうなんじゃないかな。』

楓「そうなんだ。僕は、加護を与える神様と罰を与える神様で分かれてると思ってた。」

磐長姫『まぁ、罰専門の神って言うはいるけど、加護専門となると......私の知ってる中ではいないね。』

楓「そ、そうなんだ。」

 

 そう言う感じなんだ

 

 じゃあ、いわさんも罰とか与えるのかな?

 

 ちょっと怖いから怒らせないようにしよう

 

磐長姫『私が罰を与えるのは相当稀だから、そんなに気にしなくていいよ。』

楓「ねぇ、心読めるのは分かるんだけど、四六時中それは勘弁して?」

磐長姫『大丈夫。楓の心ずっと読んでたら胸焼けするから偶にしかしてない。』

楓「え、僕の心って糖分でも含んでる?」

 

 僕は冗談めいた口調でそう言った

 

 こんな風に会話をしてるうちに時間も11時

 

 そろそろ寝ようかな

 

瑠唯『__衛宮君?起きてるかしら。』

楓「八潮さん?どうかしましたか?」

 

 そんな事を思ってると

 

 ドアの外から八潮さんの声が聞こえた

 

 こんな時間にどうしたんだろう?

 

磐長姫『あ、私邪魔そうだから散歩してくるね。』

楓「え?」

磐長姫『じゃあ、終わったら念じてね。戻って来るから。』

 

 いわさんはそう言って壁をすり抜けていった

 

 えぇ......邪魔ってどういう事?

 

 別に何もないと思うけど

 

瑠唯『衛宮君?』

楓「あ、はい。どうかしましたか?」

瑠唯『少しお話ししたいのだけれど、入ってもいいかしら?』

楓「どうぞ。」

 

 そう答えると、部屋のドアがゆっくり開き

 

 パジャマ姿の八潮さんが入って来た

 

瑠唯「もう寝るところだったかしら?なら、ごめんなさい。」

楓「いえ、大丈夫ですよ。寝ようと思ってただけですから。」

瑠唯「そう。」

楓「あ、座ってください。飲み物は__」

瑠唯「そんなに気にしなくてもいいわ。そんなに長く話す気はないもの。」

 

 八潮さんはそう言いながら椅子に座り

 

 僕もその向かいに座った

 

 昨晩もこんな感じの事があった気がする

 

楓「それで、何のお話を?」

瑠唯「少し聞きたいことがあるのよ。」

楓「聞きたいこと?」

瑠唯「......あの時、あなたは何を追いかけていたの?」

楓「!」

 

 真剣な声だ

 

 それに疑念の色も濃い

 

楓「それは......」

瑠唯「......」

 

 どうしよう

 

 いわさんの事、正直に言っていいの?

 

 いや、ダメだよね、普通に

 

楓「よく、覚えてなくて。」

瑠唯「......そうなの?」

楓「人影が見えて追いかけてるうちにいつの間にか霧がかかって来て、気を失ったらいつの間にかベッドの上にいました。」

 

 この前読んだホラー小説に書いてた内容です

 

 シチュエーションが違うけど

 

 まぁ、山だし、大丈夫でしょ

 

瑠唯「そんな事があったのね。」

楓「え、信じてくれるんですか?」

瑠唯「あなたの目自体が非科学的だもの。何が起きても不思議ではないでしょう?それに、あなたは嘘を吐くような人ではないわ。」

楓「そ、そうですか。」

 

 こ、心が痛い......

 

 今、絶賛嘘ついちゃってます......

 

 ごめんなさい、許してください

 

瑠唯「やはり、あなたの目には私達に見えない何かが見えているのね。」

楓「まぁ、そう言う目になっちゃってるので。」

 

 色なんて普通に考えて見えないし

 

 いわさんなんてもっと見れない

 

 そう思うと、僕の目って便利?なのかな

 

瑠唯「......けれど、1人でいなくなるのは勘弁してほしいわ。」

楓「うっ、す、すいません。」

瑠唯「心配に、なるもの......」

楓「え?__!!」

 

 八潮さんの心配の色が濃くなった

 

 それに、少しだけ涙目になってる気がする

 

 それを見て僕は激しく狼狽した

 

楓「え、や、八潮さん!?」

瑠唯「あなたが遭難したりしたらと思うと、怖くて、震えが止まらなかったわ......」

楓「ほ、本当にごめんなさい!」

 

 まさか、ここまで心配されるなんて思ってなかった

 

 女の人泣かせるのはどう考えでもダメだ

 

 ど、どうしよう......

 

瑠唯「もう、無茶しないで......お願い......」

楓「わ、分かりました。その、申し訳ないです......」

瑠唯「......えぇ。」

 

 八潮さんはやっぱり優しい

 

 僕の事なんかをこんなに心配してくれて

 

 なんて友達思いで、心が綺麗な人なんだろう

 

 僕もこんな風にならないといけないなって思う

 

瑠唯「取り乱してしまったわね。」

楓「いえ、悪いのは僕です。こういうのもあれなんですけど、八潮さんに心配してもらって、すごく嬉しかったです。」

瑠唯「っ!///」

楓(あれ?)

 

 またあのふやけた色だ

 

 この色、相変わらず何かわからない

 

 一体、何を表してるんだろうか

 

瑠唯「当然でしょう///あなたは命の恩人で、私の......///」

楓「っ!」

 

 八潮さんに手を握られた

 

 柔らかくて、ひんやりしてる

 

 それに、こうされると心臓が激しく動く

 

瑠唯「......友達、だもの///(好きな人なんて、恥ずかしくてとても言えないわ///)」

楓「あ、えと、そうですか!すごく嬉しいです。」

瑠唯「......///」

 

 そんな会話の後、今度は無言になった

 

 すごく気まずい雰囲気だ

 

 これは、僕から話を振った方がいいのかな?

 

瑠唯「......私、部屋に戻るわね///」

楓「は、はい。(もう、か。)」

瑠唯「また明日......///」

楓「っ......はい。」

瑠唯(これ以上ここにいたら、どうにかなってしまうわ///)

 

 八潮さんはそう言ってから部屋を出て行った

 

 ずっと色がふやけてたし、顔も赤かった

 

 何があったんだろう

 

楓「......?」

 

 1人になった部屋に八潮さんの色が残ってる

 

 綺麗な輝きのある水色

 

 その色を見てると、また心臓の動きが激しくなる

 

 なんだろう、これは

 

 わからない

 

楓(......いわさん、戻って来て良いよ。もう寝るから。)

磐長姫(分かった。)

 

 その後、いわさんは壁をすり抜けて入って来て

 

 僕はすぐにベッドに入った

 

 いわさんも同じベッドに入って来たけど

 

 神様だから大丈夫らしい(?)

__________________

 

 翌朝、僕たちは朝ごはんを食べて

 

 各自荷物をまとめてコテージの前に出た

 

 コテージの前には3日前に見たリムジンが止まってるんだけど......

 

七深、透子、つくし「あいこでしょ!!」

ましろ(ま、またあいこ......?)

瑠唯(これで、24度目よ......?)

 

 こんな感じでずっとじゃんけんをしてる

 

 なんでこんなに気合入れてジャンケンしてるの?

 

 しかも、なんで勝った人が僕の隣なの?

 

 普通は負けた人の罰ゲームじゃない?

 

つくし「__勝ったー!!初勝利ー!!」

七深「私......全敗......?」

透子「あはは!ドンマイ!ななみ!」

七深「あぁ~!悔し~!」

楓「だ、大丈夫?広町さん?」

 

 す、すごく悔しがってる

 

 なにに負けてるのかは知らないけど

 

 僕にはわからない女の人の事情があるのかな

 

透子「じゃ、帰ろっか!次は何しよっかな~!」

七深「そうだ、夏休みはこれからだよ~!かえ君~!」

楓「え、うん、そうだね?」

七深(かえ君用のとっておきの遊びを考えてるんだからね~!)

楓「?」

つくし「衛宮君!帰りは私が隣だからね!早く乗ろ!」

楓「うん、よろしくね?」

 

磐長姫『さてと、私は楓の体の中に入るね。』

楓(そんな事も出来るの!?)

 

 いわさんが僕の体に入った後

 

 荷物を積んでから車に乗り込んだ

 

 帰りの車では二葉さんにずっと抱き着かれて

 

 色がずっとふやけてたのが印象的だった

 

 

 この色んなことがあった旅行は終わったけど

 

 まだまだ、夏休みに日数はあるし

 

 また皆と遊べるの楽しみだなぁ

 

 

 



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楓、ゲームをする1

 旅行から帰ってきた翌日

 

 僕は机に向かって夏休みの宿題を消化している

 

 夏休みと言っても勉強しないだし

 

 あとに残していい事なんてないしね

 

凪沙「__かーえーでー!」

楓「っ!?って、お、お兄ちゃんか......ビックリした......」

凪沙「写真ちょうだい!写真!」

磐長姫『すごい、欲望が見え見えとかの次元じゃない。』

 

 どうやら、お兄ちゃんは今日お休みらしい

 

 なのになぜか白衣を着てる

 

 気に入ってるのかな?

 

 ていうか、いわさんドン引きしてる

 

楓「写真って言われても、皆で撮った集合の自撮り写真?しかないけど。」

凪沙「ちょうだい!(迫真)」

楓「あ、うん。」

 

 そう言われ、僕は携帯を手に取り

 

 桐ケ谷さんから送られてきた写真をお兄ちゃんに送った

 

凪沙「あぁ~!楓はやっぱりかわいいね~!」

楓「全くもう......」

磐長姫『え、この人間、楓の兄なの?ほんとに?』

楓(実の兄だよ。)

磐長姫『えぇ......(困惑)』

 

 扱いが完全に女の子なんだけど

 

 僕、男子高校生なんだけどなぁ

 

 いや、今さらか......

 

凪沙「これで楓コレクションも1500枚を突破かぁ。感慨深いなぁ......」

楓「そんなにあるの!?」

凪沙「勿論!父さんと母さんにも送ってもらってたからね!」

楓「敵は身内にあり!?」

凪沙「これからは僕が直接撮れる......!日本に帰ってきてよかったー!」

 

 う、うわぁ、気が重い

 

 これから行事の度に写真撮られるのか......

 

 お兄ちゃんが教師になったから、逃げられないし(諦め)

 

凪沙「っと、楓は宿題してるの?」

楓「うん。もうほとんど終わったけど。」

凪沙「そっかー。楓は偉いねー!」

楓「普通の事だと思うけど?」

 

 全く、宿題なんて皆してる事なのに

 

 お兄ちゃんはすぐに褒めようとする

 

 これに甘えるように育たなくてよかった

 

凪沙「お友達と予定はないの?」

楓「えっと、今日は特になかったと思う__」

『ピンポーン』

 

 お兄ちゃんと話してる途中

 

 家のインターフォンが鳴り響いて

 

 その音に反応して僕は立ちあがった

 

楓「誰だろう?宅配便かな?」

凪沙「うーん、特に何かを頼んだ記憶ないんだけど。」

楓「父さんと母さんも何も言ってないしね。」

 

 取り合えず出ないと

 

 あんまり待たせるのも悪いし

 

楓「僕、出て来るよ。」

凪沙「そう?僕が行くよ?」

楓「女の人だったら面倒なことになるからいいよ。」

凪沙「そんなことあるかな?」

 

 僕は無自覚なお兄ちゃんに溜息を吐き

 

 訪ねて来た人を対応するため

 

 玄関の方に歩いて行った

__________________

 

 玄関辺りはかなり暑い

 

 流石に玄関までの廊下にはエアコンはないしね

 

 けど、家の前で待ってる人はもっと暑いし

 

 早く開けないと

 

楓「はーい、どなたですかー?」

七深「私で~す!」

楓「広町さん?」

 

 ドアを開けると、そこには広町さんがいた

 

 よく見る私服に手には鞄と紙袋を持ってる

 

 どうしたんだろう?

 

七深「遊ぼうよ~。良いもの持ってきたから~!」

楓「別にいいよ。あ、入って。暑いでしょ?」

七深「うん~、お邪魔しま~す!」

 

 広町さんはそう言って家に入って来て

 

 取り合えず、僕の部屋に行ってもらい

 

 僕は飲み物を取りに一旦リビングに向かった

__________________

 

 飲み物を持って、部屋に戻って来た

 

 廊下の熱さがエアコンから出る空気で浄化される

 

 エアコンって偉大な発明だなぁと感心した

 

楓「はい、飲み物どうぞ。」

七深「ありがと~!あ、これ新発売のだね~!」

楓「うん、母さんが面白そうだからって買ってきて。あ、これについてたおまけ、いる?」

七深「お~!ありがと~!いつか集めようと思ってたんだよね~!」

 

 広町さんは嬉しそうにそれを受け取った

 

 良かった、取っておいて

 

楓「それで、今日は何をして遊ぶの?」

七深「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれたね~!」

楓「!」

 

 広町さんは大きな声でそう言った

 

 ちょっとびっくりしたけど

 

 さっきのお兄ちゃんよりはマシだね

 

七深「今日遊ぶのは......これ!」

楓「?(なんだろ、これ?)」

磐長姫『なにこれ?』

楓(わ、分からない。)

 

 僕もいわさんも困惑してる

 

 だって、広町さんが出したのは色んな女の人が描かれた箱で

 

 なんだか、よく分からない

 

楓「えっと、それは?」

七深「これは恋愛シミュレーションゲームと言う物だよ~!」

楓「恋愛シミュレーションゲーム?」

 

 って、なに?

 

 いや、意味は何となく分かるけど

 

 こんなの初めて見た

 

七深「これは恋愛を勉強しつつ遊べる、素晴らしいゲームなんだよ~!」

楓「恋愛を勉強?僕には無縁だと思うけど。」

七深「うぐぅ(大ダメージ)い、いや~、そんな事はないんじゃないかな~?(被害甚大)」

楓「?」

磐長姫(む、惨い。)

 

 でも、ゲームなんて初めてだし

 

 楽しそうだとは思う

 

 どういうのかは分からないけど

 

七深「と、ともかくしようよ~!」

楓「うん、いいよ。」

七深「やった~!じゃあ、準備するね~!」

ましろ『__衛宮君?』

楓「ん?倉田さん?」

 

 広町さんがテレビに持ってきたゲーム機を繋げ

 

 その中にCDを入れた時

 

 隣の家の方から倉田さんの声が聞こえて来た

 

 あー、広町さんの声が大きいから気付いたのかな?

 

 そんな事を考えながら、僕は窓を開けた

 

ましろ「ななみちゃんの声が聞こえたんだけど、いるの?」

楓「いるよ。今からゲームするんだけど、倉田さんも来る?」

ましろ「え、いいの?」

七深「いいよ~。シロちゃんもおいでよ~。」

ましろ「じゃあ、お邪魔します。」

 

 倉田さんはそう言い

 

 窓から僕の部屋に入って来た

 

 あれ、窓から入って来るの?

 

 まぁ、いいや

 

ましろ「それで、今日はどんなゲームするの?」

七深「これだよ~!」

ましろ「えっと?『お嬢様は全員僕のもの』......って、これ恋愛シミュレーションゲーム!?」

七深「そうだよ~。かえ君に恋愛を学んでもらうために似た境遇で主人公の一人称が同じゲームを探して来たんだよ!」

ましろ「む、無駄に凄い努力してる......」

 

楓(今思ったけど、すごいタイトルだね。)

磐長姫『楓の今の環境と同じだよ。』

楓(いや、違うでしょ。)

磐長姫『鈍感。』

楓(なんで?)

 

 そんな会話をしてるうちに

 

 広町さんがゲームの準備を終えた

 

 テレビ画面にはこの絵と同じ映像が映し出される

 

 でも、なんだろ?

 

 このゲームの女の人、広町さん達に似てる気が......

 

七深「さぁ!始めよっか!」

楓「これは、どういうゲームなの?」

七深「えーっと、簡単に言うと選択肢から主人公のセリフや行動を選んで、ヒロインの好感度を上げるんだよ~!」

楓「なるほど。」

ましろ(これ、衛宮君に一番向いてないゲームじゃないの?)

 

 初心者向けの簡単なゲームみたいだ

 

 これなら僕にも出来そう

 

磐長姫『結構面白そうだね。私も見てよ。』

楓(そうだね。)

七深「じゃあ、早速始める?」

楓「あ、その前にキャラクターの設定みたい。」

七深「かえ君、説明書先に読むタイプだったね。」

 

 僕がそう言うと広町さんは冊子を渡して来た

 

 それを開くとゲーム内の登場人物と主人公の設定が載ってる

 

楓「ふむふむ。」

 

 主人公は勉強も運動も平均の男

 

 ヒロインは5人で

 

 気弱でネガティブな女の子、元気で活発なギャル、真面目で頑張り屋な学級委員長、美術部のミステリアスな女の子、高嶺の花の学園一の美人、と

 

 個性的な面々になってる

 

楓「よし、大体わかったよ。」

ましろ(この子、ちょっとだけななみちゃんに似てる?)

七深(今気づいたけど、バンドの皆に似てない?)

 

 僕はコントローラーを手に持ち

 

 最初の画面にある『はじめから』を押し

 

 ゲームを始めた

 

七深「ねぇねぇ、かえ君~?」

楓「どうしたの?」

七深「このヒロインの中で誰が一番好み~?」

ましろ「!」

楓「好み?そうだなぁ......」

 

 もう一度、冊子を見る

 

 好みって言ってもまだゲームをしてないし

 

 正直、大まかな性格しか分からない

 

 見た目で選べばいいのかな?

 

楓「うーん。」

ましろ「き、気弱でネガティブな子は?」

七深「美術部でミステリアスな子も結構かわいいよ~?」

楓「見た目で行くと、高嶺の花の人かな?」

ましろ、七深「」

磐長姫(始まる前にトドメ刺した。)

楓(あ、ローディング終わった。ってあれ、広町さんと倉田さん、どうしたんだろ?)

 

 そんな事を考えてるうちにゲームが始まった

 

 人生で初めてゲームするけど

 

 楽しみだなぁ

 

 

 



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楓、ゲームをする2

 ゲームの冒頭シーンは舞台の紹介だった

 

 主人公が通う学校の名前は『日野森高校』

 

 伝統的なお嬢様学校で

 

 主人公である仰木冬弥が入学する前年から共学化したらしい

 

楓「なるほど、こういう世界観なんだ。」

七深「中々すごい設定だよね~。」

ましろ「実際にあったら男子の居心地悪そうだね......」

 

 倉田さんの言う通りだ

 

 僕なら気を遣いすぎて胃に穴開きそう

 

楓「じゃあ、進めていくね。」

 

 取り合えず、ボタンを押して行く

 

 学校にありがちな入学式や自己紹介

 

 1人、親友って呼ばれてる人が出て来た

 

 名前は佐藤祐司らしい

 

『__あの、仰木君......よろしくね?』

楓「あっ。」

 

 冬弥が自己紹介を終えると

 

 隣の席の女子生徒が話しかけて来た

 

 この子はヒロインの1人、内倉しろなだ

 

しろな『えっと、私は内倉しろなです......よろしくお願いします......』

 

 そんな自己紹介の後

 

 しろなと冬弥が会話をしてる

 

 人見知りって設定があったと思うけど

 

 よく喋るなぁ

 

『そこ!私語は慎んで!』

冬弥、しろな『!』

七深(あ、つーちゃんだ。)

ましろ(つくしちゃんだ。)

 

 次に出て来たのは四葉なつ

 

 ツインテールで小柄で真面目な委員長

 

 この人、誰かに似てるような......

 

しろな『ご、ごめんなさい。』

冬弥『す、すいません。』

なつ『もう!日野森生の自覚を持ってよね!』

しろな、冬弥『(この人が一番煩い......)』

 

 こんな感じで会話が続いて

 

 シーンがどんどん進んで行く

 

 そして、最初の選択肢が出て来た

 

『1.少しだけ内倉さんと話してみよう。』

『2.四葉さんに学校の事を質問してみよう。』

『3.今日はもう帰ろうかな。』

 

七深「おぉ~、選択肢来たね~。」

ましろ「衛宮君?どうする?」

楓「え、これは流石に一択じゃないかな?」

 

 僕はそう言ってゲームを操作し

 

 3番を選択した

 

七深、ましろ「え?」

楓「初日から喋りかけ過ぎるのも良くないし。この2人の性格を考えると、今日の所は帰るべきだと思うんだ。」

七深(正論!だけど違う!)

ましろ(これ、ゲームだよ......)

楓「?」

 

 多分、これであってると思う

 

 ゲームであっても誠実でいないと

 

 男として最低だよね

 

七深「まぁ、ここで3を選んでもヒロインと出会うだけだろうし。いいんじゃないかな?」

ましろ「そうかも。」

『__あ~、男子がいる~。』

楓「!」

 

 次に出て来たのは3人目のヒロイン

 

 ミステリアスな雰囲気を身に纏った女の子

 

 名前は、夕霧深奈(みな)

 

 2年生らしい

 

深奈『さっそくボッチ下校~?』

冬弥『よ、余計なお世話ですよ。』

 

楓「二言目にボッチって言われてるけど、大丈夫なのかな?」

ましろ「大丈夫だよ。私なんてもっと長い間ボッチだったもん。」

七深(何が大丈夫なのかな~?)

 

 倉田さんの話には触れないようにしよう

 

 なんだか、色が少しだけ暗くなってる気がする

 

 この色は多分、相当落ち込んでる時の色だ

 

『__おーい、深奈ー!新入生に絡んでんのー?』

深奈『あ~、郁実ちゃん~。』

郁実『よっ!新入生君!あたしは及川郁美!よっろしくぅ!』

 

 この人が4人目のヒロインか

 

 どことなく桐ケ谷さんっぽい

 

 初対面でも気さくな所とか

 

郁実『あれ?暗いね~、新入生君!こりゃ深奈が絡みたくなる気持ちもわかるわ~!』

深奈『そうでしょ~?』

冬弥『あの......』

 

楓「あ、来た。」

 

 次の選択肢が表示された

 

 さて、次は......

 

『1.あの、もう帰っていいですか?と言う』

『2.黙って帰る。』

『3.激流のごとき勢いで挨拶をして帰る。』

 

楓「いや、3番目おかしくない?」

ましろ「激流のごとき勢いって......?」

七深「超すごい挨拶なんじゃない~?」

 

 き、気になる

 

 一体、どんな挨拶なんだろう

 

 けどなぁ......

 

楓「初対面の人にそんな挨拶をしたら引かれるよね、普通に。」

七深「そうだね~。」

楓「じゃあ、無難に1かな。」

ましろ「私もそれがいいと思う。」

 

 というわけで、1を選択した

 

 まぁ、常識的にね

 

 これはまた機会があればってことにしよう

 

郁実『え~、もう帰んの?』

深奈『もしかして、意外と忙しかった~?』

冬弥『ま、まぁ。』

 

 そんな会話の後、冬弥は学校を出て行った

 

 そして場面がどんどん切り替わって行き

 

 ある場面で動きが止まった

 

冬弥『(__あの人は。)』

『......』

 

楓「!」

 

 その止まったシーンに現れる立ち絵

 

 最後のヒロイン

 

 端麗な容姿にきめ細かい黒髪、見る者を射抜き魅了するような鋭い瞳を持つ女性

 

 夏目瑠亜だ

 

 その人を見つけた時、選択肢が現れた

 

『1.話しかけてみる。』

『2.もう少し見てる。』

『3.黙って立ち去る。それが男だ。』

 

楓「やっぱり最後おかしくない?不具合なんじゃないかな?」

七深「ちょっと私も疑わしく思ってきた。」

ましろ「私も。」

 

 さて、これはどうしようか

 

 普段の僕なら3番一択だけど

 

 今回は2にしてみよう

 

冬弥『(あまりジッと見すぎても失礼だ。帰ろう。)』

 

楓「選択肢の意味なくない?」

ましろ(え、衛宮君が真顔になってる。)

 

 これだったら3番と何ら変わらないんじゃ

 

 うーん、なんだか釈然としない

 

瑠亜『......彼は。』

 

七深「お~?」

ましろ「反応、あったね。」

楓「この時点じゃ正解か不正解か分からないね。」

 

 声が見た目通り静かで感情の判断が難しい

 

 ゲームの中だから色も見えないし

 

 うーん、難しい

 

楓「これで、取り合えず1日目終了かな?」

七深「そうだね~。(よかった~、1日目からやらかさなくて。)」

ましろ「まだ序盤って感じだけど、良い感じなんじゃないかな?(こ、これからが本番かぁ......)」

 

 これから2日目

 

 物語的に動くのはまだ早いと思うけど

 

 ゲームだからその辺りの勝手がわからない

 

楓「まぁ、進めて行こうか。」

七深「そうだね~。」

ましろ「衛宮君?これはゲームだからね?」

楓「え、分かってるよ?」

 

 倉田さん、なんで確認したんだろう?

 

 そんな事を考えつつ、僕はボタンを押し

 

 ゲームを再開した

__________________

 

 “七深”

 

 あれから1時間、かえ君はゲームを進めていった

 

 ゲーム内ではいろんなイベントがあって

 

 日常の些細な場面やお祭りとかの季節イベント

 

 その中でかえ君は選択肢を選んでいって

 

 何だかんだでヒロインの好感度は上げていった

 

 けどー......

 

深奈『__ずっと一緒って、言ってたのに......』

冬弥『うわぁぁぁぁあ!!!』

 

楓、ましろ、七深「......」

 

 何だかんだでバッドエンドを回収した

 

 バッドエンドってヒロインにそれぞれ1通りしかないんだけどなー?

 

 一番確率低いのに、なんで......?

 

ましろ「なんだか、ななみちゃんが主人公を殺したみたいだね。」

七深「言わないで!何となく私も思ったから!」

楓(うーん、ゲームって難しい。)

 

 かえ君は理解出来ないって感じで首を傾げてる

 

 うん、だよね

 

 私だって理解できないもん

 

 途中までは結構良い感じだと思ってたのに

 

 なぜかバッドエンドのルートに入ったもん

 

楓「な、何がいけなかったんだろう。」

ましろ「選択肢じゃないかな......それしかないし......」

楓「うーん、自分ならどうするかって言うのを選んだんだけど......僕がおかしいの?」

七深「そんな事はないよ~?ゲームのシステムと思考があってないだけで~。」

 

 人間ですら理解出来ない事を機械が理解できるわけないよね

 

 これはもう仕方ないよ

 

 理解できるものならしたいし

 

楓「今まで、いかに自分が色に頼ってたかを思い知ったよ。」

七深「いや~、そこまで頼ってないんじゃないかな~?」

ましろ(鈍感だもん。)

七深(色に頼ってたらあそこまで鈍感にはならないよね~。)

 

 いやほんと、なんでそんなに鈍感なの?

 

 そろそろ私の気持ち位なら気付いて良いと思うけど

 

 て言うか......そろそろ気付いてよー!!

 

楓「よし、リベンジだ!今度こそバッドエンドにならないように頑張るぞー!」

ましろ(志が低い......!)

七深「頑張ろー!」

 

 そうして、かえ君はまたはじめからゲームを始めた

 

 はてさて、バッドエンドに行かずにクリアするのに後何時間かかるかな~?

 

 これは広町にも分からないよ~

 

 

 

 



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楓、ゲームをする3

 あれから、かえ君はゲームを続けた

 

 大方のストーリーは頭に入ったから

 

 2周目からは共通ルートのストーリーは飛ばして

 

 初めて見る個別ルートのストーリーは見る

 

 そんな作業を4回は続けた、けど......

 

しろな『もう無理なの......ごめんね、冬弥君......さようなら......』

 

なつ『(結局、迎えに来てくれなかったね......)』

 

郁実『ごめん、あたしこの人が好きだからさ。他の子行きな?』

 

瑠亜『......あなたなら、変えてくれると思っていたのに......』

 

楓、七深、ましろ「......」

 

 バッドエンド全回収を達成した

 

 なんと、バッドエンド率100%!

 

 いや、笑い事じゃないんだけどね?

 

 どうやったらこうなるの?

 

ましろ「衛宮君、実は狙ってたりする?」

楓「狙ってないよ!?真剣だよ!」

ましろ「う、うん、そうだよね。(衛宮君だし。)」

 

磐長姫『楓、このゲームの才能あるんじゃない?』

楓(絶対にないよね?どう考えても。)

 

 ま、まぁ、バッドエンドは全部回収したし

 

 ここからはもう大丈夫(なはず。)

 

 本当の戦いはこれからだよ!(?)

 

七深「バッドエンドになる選択肢はちゃんとメモしてるから、もう一回しよう~。」

楓「広町さん天才!」

ましろ「流石ななみちゃん......!」

七深「普通な事だと思うけど~?」

 

 もうバッドエンドでメンタル削られたくない

 

 このゲーム、バッドエンド結構エグイんだよね

 

 個人的には郁実ちゃんが一番メンタル削られた

 

七深「さぁ、かえ君!ここからは勝ち戦だよ~!頑張ろう~!」

楓「うん!今度こそバッドエンド回避するよ!」

ましろ(相変わらず志低い......)

楓「じゃあ、スタートするね。」

 

 かえ君はそう言って

 

 また、はじめからを押した

 

 まぁ、これなら流石に行けるでしょ?

 

 あー、やっとバッドエンド以外見れる~

__________________

 

深奈『__ずっと一緒って、言ってたのに......』

冬弥『うわぁぁぁぁあ!!!』

 

楓、ましろ「なんで?」

 

 と、思ってた時期が私にもありました

 

 いやー、まさかバッドエンドになる選択肢が一通りじゃないなんてね

 

 しかも、それをかえ君が引くなんてね

 

 笑えて来たよ

 

七深「あの、天才の方ですか?」

楓「凡人の方です。」

 

 いや、かえ君ゲーム芸人の才能あるよ?

 

 もうなんか面白いもん

 

 私似のキャラのバッドエンドも笑えるもん

 

七深「初心者向けって書いてたんだけどね~。」

楓「つまり、僕は初心者という領域にも達してないって事だね!(自虐)」

七深「むしろ上級者なんじゃないかな~?」

楓「え?」

ましろ「今調べた感じ、バッドエンドになるの相当難しいらしいよ?バッドエンド回収が本番とか書いてるし。」

楓「そんな事ある?」

 

 これは困った事態になった

 

 このゲームを通して恋愛を学んでもらう気だったのに

 

 まさか、ノーマルエンドすらいけないなんて......

 

楓「僕、思ったことがあるんだ。」

七深「何を~?」

楓「ゲームって、難しい。」

 

 マズい、かえ君があきらめムードだ

 

 このままじゃ、バッドエンドの印象しか残らない

 

 なんとかしないと

 

七深「も、もう一回だけしよう!次ダメなら、まぁ、降参って事で。」

ましろ(もうやめるとかの領域じゃないんだ、降参なんだ。)

 

磐長姫『信託を授ける。』

楓(いわさん?)

磐長姫『意外とありえないと思う選択肢が功を奏す。人間とは、難解な存在。』

楓(な、なるほど?よく分からないけど、なんだか出来る気がしてきた!)

磐長姫『そう、よかった。』

 

七深「かえ君、ラストゲームだよ。」

楓「うん、任せて。さっきより20%くらいはマシなはずだから。」

ましろ「それって大丈夫?」

七深「さ、さぁ?」

楓「ここまでたくさんの経験を積んだんだ、もうバッドエンドなんてない!」

 

 かえ君はそう意気込んでからコントローラーを持った

 

 今までにない気迫を感じる......!

 

 けど、何故かすごく不安になってきた......!

 

楓「もう失敗しない。行くよ......!」

 

 そう言ってかえ君は初めからを押し

 

 最後のゲームを始めた

__________________

 

 ゲームを始めて10分くらい

 

 最初の方は安定してそれぞれ好感度を上げて

 

 ヒロインの個別ルートに入って行く

 

瑠亜『__あなたは、不思議な人ね。』

冬弥『え?』

瑠亜『なぜ、公園で座ってるだけに私に構ってくれるの?』

冬弥『それは......』

 

七深(流れ、変わった......!?)

楓「新しい選択肢だ。」

 

 ストーリー序盤の中の最後

 

 ここで新しい選択肢が出て来た

 

 まさか、これが正規ルート?

 

『1.気になっちゃって。』

『2.なんだか、放っておけなくて。』

『3.可愛い女の子がいれば、声をかけるのは当然さ☆』

 

楓「やっぱりちょっとふざけてるよね?」

七深「ま、まぁまぁ、落ち着いて。」

ましろ(珍しく衛宮君が怒ってる。)

 

 まぁ、この選択肢は簡単かな

 

 かえ君の性格を考えれば

 

楓「2でしょ。」

ましろ「うん、それでいいと思う。」

七深「3が正解だったら会社訴えるよ~。」

 

 そんな会話をしつつ

 

 当然の如く、2番を選んだ

 

瑠亜『......そう。』

冬弥『夏目さん。』

瑠亜『あなたは本当に不思議で、変な人ね。』

冬弥『えぇ?』

瑠亜『(放っておけない......私を?)』

 

 これは、瑠亜ちゃんルート入ったかも?

 

 い、いやいや、まだ序盤だし、油断できないよね

 

 どこでバッドエンドが来るか分からないし

 

七深(で、でも、良い流れになってきた。)

 

 いい感じにストーリーは進んで行く

 

 どのイベントにも瑠亜ちゃんが出て来て

 

 距離を縮めて、段々と良い雰囲気になってる

 

瑠亜『あなたの元には行けない......私の人生は、私のものではないもの。』

冬弥『そんな事はないよ。』

瑠亜『......えっ。』

 

楓、七深、ましろ(おぉ......)

 

 ストーリーは進んで行って中盤に差し掛かり

 

 瑠亜ちゃんの境遇が明らかになって行く

 

 瑠亜ちゃんは圧力をかけられて無理矢理結婚させられそうで

 

 父親も母親も不本意ながら従ってる状況らしい

 

冬弥『僕が何とかして、瑠亜さんを引っ張るから。だからもう、君の人生は君のものになるんだ!』

瑠亜『......!』

冬弥『この手を掴んで。絶対に、後悔させない。幸せにする。』

瑠亜『冬弥くん......っ!』

 

 瑠亜ちゃんが冬弥君に抱き着いた

 

 けど、冬弥君の顔は強張ってて

 

 確かな覚悟を感じる

 

七深、ましろ(こ、これ、どうなっちゃうの?)

磐長姫『おー......』

楓「......」

 

 それからシーンが進んで

 

 瑠亜ちゃんの家で止まった

 

 そこで、少しのセリフを挟んで

 

 冬弥君と瑠亜ちゃんが手を繋いで、叫んでる様子のイラストが出て来た

 

冬弥『娘1人守れない意気地なしなんて、瑠亜さんには必要ない!!僕が瑠亜さんを守る!!』

 

 そう瑠亜ちゃんの家族と圧力をかけてた家族の前で啖呵を切る

 

 最初の方よりも逞しくなった背中がかっこいい

 

『瑠亜!こっちに戻れ!お前は俺の嫁になる女だろ!』

瑠亜『私は、彼と共に歩くと決めました。』

『なっ......!?』

瑠亜『誰であろうと、私達を引き裂けはしない!私はこの人と......冬弥と結婚します!』

 

 瑠亜ちゃんの力強い言葉と共に画面が白くなっていき

 

 セリフだけが流れていく

 

 その時点で、私の目には涙が浮かんできた

 

 あぁ、やっと、やっと......!

 

瑠亜『__私、今、本当に幸せよ。あなた。』

 

楓、七深、ましろ「き、来たぁぁぁぁぁあ!!!」

 

 ハッピーエンドだ!

 

 間違いなくハッピーエンドだ!

 

 瑠亜ちゃんと冬弥君が仲良く手を繋いでる!

 

七深「やった、やったね~!かえ君~!」

楓「うん!やっとバッドエンド以外が見れたよ!」

ましろ「志は相変わらず低いけど、よかったね!」

 

 苦節5時間

 

 バッドエンドとかバッドエンドがあったけど

 

 ついにハッピーエンドを見られた

 

 この達成感、普通にクリアする何倍なんだろ

 

磐長姫『感動した。良い物語だった。』

楓(うん、良く出来てたね。)

七深「いや~、お腹すいたね~。」

ましろ「あはは、確かに。お昼ご飯も食べてないもんね。」

凪沙「__その言葉を待ってたよ☆」

楓(ビクッ!)

 

 しばらくすると、お義兄さんが部屋に入って来た

 

 ピンクのエプロンを着けて

 

 何故かおたまを持ってる

 

 無駄に似合ってるな~

 

凪沙「今日は僕が腕によりをかけてお夕飯を作ったんだ!2人も食べて行くと良いよ!」

七深「わ~!ありがとうございます~!」

ましろ「いただきます、先生!」

凪沙「うんうん!じゃあ、リビングにおいで!」

 

 お義兄さんはそう言って先に部屋を出て

 

 その後に私達も立ち上がった

 

 体が凝り固まってるな~

 

七深「あ、かえ君!」

楓「どうしたの?」

七深「恋愛について、何か学べた~?」

ましろ「!」

 

 私はかえ君にそう尋ねた

 

 そう言えば、こんな趣旨でゲーム始めたんだ

 

楓「......ふふっ。」

七深「かえ君?(え、何その笑い方?可愛い。)」

ましろ「どうしたの?(珍しい笑い方だ。可愛い)」

 

 かえ君は笑って

 

 少しだけ考えるような仕草をし

 

 数秒の間を置いて、ゆっくり口を開いた

 

楓「すっかり、忘れてた。」

七深「えぇ~!?」

ましろ(まぁ、衛宮君ならそうだよね......)

楓「ご、ごめんね。」

磐長姫『やれやれだね。』

 

 この後、私達はリビングに行き

 

 お義兄さん特性のお夕飯をいただいて

 

 車で家に送ってもらう事になった

 

 

 ゲームを始めた当初の目標は達成できなかったけど

 

 かえ君やシロちゃんと遊べて楽しかったし

 

 良しとしようかな~

 

 

 

 



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お昼時

 今年の夏休みは長い

 

 そう、僕は感じてる

 

 ずっと部屋か病院にいたからか

 

 今までの夏休みは一瞬で過ぎ去って行ってた

 

 けど、今年はお友達と遊んだりして充実してる

 

楓(本当に、長いなぁ。)

 

 今日は8月14日

 

 僕の今までの体感時間的にはもう夏休み終了直前くらい

 

 だけどまだ結構日数が残ってる

 

 いやぁ、時間の密度って大事なんだね

 

透子「えーみや!なーにニヤケてんのー?」

楓「え?にやけてたかな?」

透子「そりゃあもう、面白いくらいね!」

楓「あはは、ちょっと恥ずかしいな。」

つくし(え、何その反応?尊い。)

 

 今日はバンドの練習でアトリエに集まってる、ちなみにいわさんは家でお留守番

 

 なんだか、ここに来るのも恒例になってるね

 

 お友達の家に来る機会なんて一切なかったのに

 

 ......あれ、今年、何か変革が起きてる?

 

透子「で、どーしたの?」

楓「えっと、今年の夏休みは長いなーって。」

ましろ「そうかな?いつもと変わらないと思うけど......」

楓「僕個人の感覚だから。今年は、特別楽しいんだ。」

ましろ、透子、七深、つくし、瑠唯「!///」

楓(す、すごく恥ずかしい事言ったかも......)

 

 ま、まぁ、本当の事だし仕方ないか

 

 多少恥ずかしいのは耐えよう

 

 皆も何でか何も言ってこないし

 

ましろ(か、可愛すぎる......!///)

透子(な、撫でまわして死ぬほど甘やかしたい!///)

七深(神に感謝......)

つくし(尊いっ!!///)

瑠唯(彼は、本当に......///)

 

 って、あれ?皆どうしたんだろう?

 

 なんだか悶えてるけど......

 

 まさか、どこか痛めた!?(見当違い)

 

楓「だ、大丈夫......?」

つくし「大丈夫、尊さが爆発しただけだから。」

楓「え?」

瑠唯「何も問題ないわ。ただ、綺麗な空気を吸い過ぎただけよ。」

七深「うんうん~!」

楓「そ、そうですか(?)」

 

 だ、大丈夫みたいだ、よく分からないけど

 

 偶にこういう変な現象起きるけど

 

 の、呪われてたりするのかな?

 

 一度いわさんに見て貰おうかな

 

楓「って、練習はもう終わりなんですか?」

透子「うん!中々仕上がってきてるし、衛宮から見てもいい色になって来たんじゃね?」

楓「確かに、最初に比べたらすごくいい色になってたね。」

透子「でしょ?だったらあんまり無理しない方がいいかなって。なんだかんだで2時間はしてるしね。」

 

 桐ケ谷さん、ちゃんとそう言うの考えてるんだ

 

 常に全力!って感じの人と思ってたけど

 

 やっぱり、月ノ森の人だし賢いんだ

 

瑠唯「衛宮君、桐ケ谷さんは賢くはないわ。成績で言えばあなたが上よ。」

楓「え?」

透子「ちょっと、なんであたしバカにされてんの?」

瑠唯「バカだからよ。」

透子「ルイー!」

 

 この2人、仲良しだなー

 

 八潮さんも言葉とは裏腹に楽しそうな色をしてるし

 

 桐ケ谷さんも面白がってる色をしてる

 

 意外と相性良いのかな?

 

楓「ふふっ。」

七深「かえ君~、楽しそうだね~。」

楓「うん、楽しいよ。八潮さんと桐ケ谷さんも楽しそうだし。」

透子「別に楽しくないし!」

瑠唯「そうよ、彼女と話すくらいなら素麺をゆでてる方がマシよ。」

楓「美味しいですよね、そうめん。」

つくし「比較対象おかしくない?それに、なんで衛宮君は普通に会話続けてるの?」

 

 なんで......と言われても

 

 そうめんって聞いたら思い浮かんだから?

 

 あー、なんだかそうめん食べたくなってきた

 

 まだ今年は食べてないんだよね

 

七深「そろそろお腹すいたよね~?」

楓「確かに。もうお昼だからね。」

ましろ「何か食べに行く?」

 

 お昼ご飯か

 

 この辺りだとファミレスになるのかな?

 

 近いし、値段もお手頃......

 

 いや、そう考えるのは僕と倉田さんくらいか

 

つくし「ふふんっ!」

七深「どうしたの、つーちゃん?」

つくし「私のお父さんはね、色んな食べ物屋さんを経営してるんだ!」

ましろ「あっ、そう言えば。」

透子「完全に忘れてたわ。」

つくし「忘れないで!?私的に結構大切な要素だから!」

 

 へぇ、二葉さんの家てそうだったんだ

 

 全然知らなかった

 

 やっぱり、スケールが違うなー......

 

つくし「ま、まぁ、この辺りのお店なら結構詳しいから、食べたいものがあればお店紹介できるよ!」

七深「お~、流石つーちゃん~!」

つくし「と言うわけで衛宮君!何食べたい?」

楓「え?」

透子「やっぱ衛宮限定かい。」

瑠唯「いつもの事よ(慣れ)」

 

 食べたい物?

 

 あ、さっき思い浮かべてたや

 

楓「そうめん。」

つくし「そうめん!?」

透子「あー、さっきの会話の流れか。」

楓「なんだか食べたくなって。」

つくし「ちょ、ちょーっと待ってね。」

 

 二葉さんはそう言って頭を抱えた

 

 そうめんを食べられるお店、ないのかな?

 

 個人的に、あんまりお店にあるイメージ無いけど

 

つくし「......あっ!思い出した!」

透子「おっ、ある感じ?」

つくし「うん!ここからそんなに遠くない所にあるよ!すごく美味しいお店!あと、座敷もあったはず!」

七深「いいね~。」

瑠唯「なら、そこにしましょうか。」

 

 流れるようにお店決まった

 

 今日のお昼はそうめんかー

 

 やったね

 

七深「じゃあ、行こっか~。」

楓「うん。」

 

 それから、皆はそれぞれ楽器を片付けて

 

 アトリエを出て、二葉さんの言ってたお店に向かった

__________________

 

 広町さんの家のアトリエから歩いて10分

 

 大通りにある綺麗なお店

 

 暖簾にそうめんって書いてある

 

 こんなお店あったんだ

 

つくし「__ごめんくださーい。」

店主「いらっしゃい。何名様......て、お嬢様?」

つくし「ごきげんよう。」

透子「おー、ふーすけがお嬢様してるよ。」

つくし「ちゃんとお嬢様だよ!?」

楓「あはは。」

 

 すごく雰囲気の良いお店だなぁ

 

 由緒正しいと言うか

 

 木造でカウンター席があって店主は白い調理服を着てる

 

店主「今日はどう言った御用で?」

つくし「そうめんを食べたくて来ました!6人で座れる席、空いてますか?」

店主「それなら、3番の個室にどうぞ。」

つくし「ありがとうございます!皆、行こ!」

瑠唯「そうね。」

 

 店主さんに案内された個室に向かう

 

 個室は6室くらいあって、僕たちは3番......

 

楓「あれ?」

透子「ん?どーしたの?」

楓「ここ、色がある。」

 

 3番のはずなんだけど

 

 この部屋、結構新しめの色がある

 

 大体、10分前くらいについた色だ

 

七深「じゃあ、誰か入ってるの~?」

楓「多分......?」

透子「まっ、店主に案内されたんだから大丈夫っしょ!仮に誰かいてもあたしらのミスじゃないし!」

瑠唯「今、あなたの下では死んでも働きたくないと思ったわ。」

ましろ「私も......(言いたいことは分かるけど......)」

 

 まぁ、あの店主さんは精錬された色をしてた

 

 そんな人が個室に案内したお客さんを忘れるとは考えにくい

 

 何か特別な意図があっての事だと思う

 

透子「と言うわけで、失礼しまーす!」

?「え?どなた?」

「あ!お姉ちゃん!」

「お姉ちゃんだー!」

つくし「え......?」

楓「?(お姉ちゃん?)」

 

 個室の戸を開けて見たものは

 

 見るからに気品のある女性とお姉ちゃんと連呼する元気な女の子2人

 

 全員綺麗な黒髪で女の子2人は可愛らしい顔をしてる

 

つくし「お、お母さん!?」

母「つくし?あなたも来てたのね?」

つくし「うん、お昼ご飯にそうめん食べようって事になって......じゃなくて、なんでここにいるの!?」

母「2人がそうめんを食べたいって言うから連れて来たのよ。」

つくし「私達と同じような流れ......!?」

 

 す、すごい偶然......

 

 こんな被り方ってどれくらいの確率なんだろ

 

母「まぁ、折角会ったんだし一緒に食べましょ?お友達も一緒に。」

七深「はい~。」

瑠唯「失礼します。」

楓「し、失礼します。」

ましろ「え、えっと......」

透子「ほら、行くよ!シロ!」

 

 こんな感じで二葉さんのお母さんと妹さんと相席することになった

 

 僕は安定の端っこの席で

 

 取り合えず、静かに座っておく

 

 だって、友達の家族とどう接したらいいか分からないし

 

母「......あなた。」

楓「は、はい。」

 

 席に着いてすぐ

 

 僕が二葉さんのお母さんに声をかけられた

 

 え、なに?怖い

 

 見るからに大人の女性だから見られると怖いよぉ

 

七深(怯えてるかえ君かわいい~!///)

母「あなた、可愛い顔してるわね。」

楓「へ?」

つくし「お母さん!?」

透子「分かる。」

ましろ「分かります......!」

瑠唯「解釈の一致です。」

つくし「皆!?」

 

 か、可愛い、なんだ......

 

 男に可愛いってどうなの?

 

 褒められてるとは思えないんだけど

 

 て言うか、なんで皆まで......?

 

「ねぇねぇ、お兄ちゃんは何て名前なのー?」

楓「えっと、衛宮楓です。」

「衛宮?」

「楓......?」

母「その名前、どこかで......」

楓「え?」

 

 え、知ってるの?

 

 いつの間にか有名人になってた?

 

 いや、そんな訳ないでしょ

 

「あー!」

「思い出した!」

楓「?」

 

 暫くムムッとした顔をした後

 

 妹さん2人が声を上げた

 

 どうやら、思い出したみたいだ

 

「お姉ちゃんのお部屋に写真があった!」

「お姉ちゃんが夜にたくさんお名前呼んでた人!」

母「私も夜中に起きた時に聞いたわね。」

つくし「っ!?///」

ましろ、透子、七深、瑠唯「あっ(察し)」

楓「??(写真?名前を呼んでた?)

 

 どういうこと?

 

 一体、二葉さんに何が起きてたんだろう?

 

 色的には特に何もないけど......

 

「お姉ちゃん、何してたのかな?」

楓「さ、さぁ?なんか、変だね?」

ましろ、透子、七深、つくし、瑠唯(グサッ!)

「すっごく苦しそうだったんだ。大丈夫かな?」

楓「うーん、そんな雰囲気ないんだけどね......」

 

 改めて二葉さんを見ている

 

 病気とかなら絶対に色が患部に現れるし

 

 見えるはずなんだけど、そんなものはない

 

 特に何も異常はないのかな?

 

楓「ふ、二葉さん?悩みがあるなら相談してね......?」

つくし「やめて!///大丈夫だから、勘弁して!///」

楓「大丈夫なの?ならよかった!」

透子(ふーすけ......///)

瑠唯(あなたに同情するわ......助けられない私達を許して......///)

ましろ(む、惨い......)

七深(つーちゃん、ドンマイ......)

 

 あっ、注文どうしよう

 

 色んなそうめんあるなぁ

 

母「それ、おすすめよ。」

楓「あっ、そうなんですか?」

母「世界に誇れる品であることは保証するわ。」

楓「そうなんですか!じゃあ、これにします!」

母「ふふっ、素直な子ね。」

 

 二葉さんのお母さんは小さく笑った

 

 すごく綺麗な笑い方だ

 

 色みたいに気品がある

 

母「今日は私がご馳走するわ。」

楓「えぇ!?そ、それは申し訳ないです!」

母「折角のつくしのお友達だもの。何もしないなんて母親の名折れよ。それに......」

楓「?」

 

 僕の方をジッと見ている

 

 なんだろう?何かついてるのかな?

 

 もしかして、そうめんではしゃいでるのバレた!?

 

母「将来、自分の息子になるかもしれない子のことを知っておきたいし。」

ましろ、透子、七深「なっ!?」

瑠唯「......!」

つくし「!?///」

楓「息子?弟さん、生まれるんですか?」

 

 二葉さんの弟さんかぁ

 

 きっと、すごくかっこいい子なんだろうなぁ

 

 二葉さんもすごく可愛いし

 

ましろ(お、親公認になっちゃった......!)

透子(チッ!あたしも仕掛けないと!)

七深(親に紹介......いや、いっそ既成事実......でもかえ君を汚すのも......)

瑠唯(私も実質は親公認だもの。条件はタイよ。)

母「面白いわね、あなた。」

楓「え?」

 

 え、何かおかしいこと言いました?

 

 なぜか笑われてるんだけど......

 

 あれ......?

 

母「つくし、頑張りなさいね。」

つくし「もー!///お母さん!///」

母「あと、もう少し声抑えてなさいね。本当に丸聞こえだから。」

つくし「うわぁぁぁああ!!!///」

ましろ、透子、七深、瑠唯(ご愁傷様......)

 

「お兄ちゃん!お膝乗せてー!」

「私もー!」

楓「うん、いいよ。(お兄ちゃんって呼ばれるの新鮮だなぁ。)」

 

 その後、お冷を持ってきた店員さんに注文をし

 

 僕は妹さん2人と話をしてた

 

 その時、二葉さんのお母さんに「娘をよろしくね。」って言われて、何故かすごくニヤニヤしてたけど......

 

 あれは、何を表してたのかな?

 

 

 

 



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楓、デートに誘う(強制)

 次の日も、僕は皆とアトリエに集まってる

 

 そろそろ2学期も始まるし、月ノ森音楽祭もある

 

 その前段階のライブの手配も済んでる、らしい

 

 らしいって言うのは、いつの間にか済んでたから僕は知らなかった

 

透子「__いやー!ライブがあると思うと気合入るよねー!」

七深「そうだね~!」

つくし「あっち側はそうでもないみたいだけど......」

楓「!」

 

 そう言う二葉さんは少し離れた場所を指さした

 

 そこにいるのは倉田さんと八潮さんだ

 

ましろ「ライブ......大勢の人の前で......」

瑠唯「そこそこレベルは上がったし、いつも通りの演奏が出来れば問題ないわ。」

 

 と、倉田さんはガチガチに緊張してて

 

 八潮さんはいつも通り落ち着いてる

 

 まぁ、2人のリアクションはイメージ通りかな?

 

 どんな状況でも動じない八潮さんはすごいなぁ

 

つくし「衛宮君的にはどう?ライブ、大丈夫そうかな?」

楓「うん、大丈夫だと思う。皆、すごくいい色になってるから、多くの人の心に残る演奏ができると思う。」

透子「おぉー!衛宮のお墨付きじゃん!こりゃ行けるね!」

楓「か、過信はしないでくださいね......?」

 

 色はその時の体調や環境次第で変わる

 

 過度に緊張したりすると少し色が暗くなるし

 

 慢心したりすると輝きが失われる

 

 色と言うのは山の天気位、簡単に変わる

 

透子「で、衛宮!」

楓「は、はい。」

透子「ライブは夏休み最後の日じゃん?そこでさ、ちょーっとシロの緊張解してほしいんだ!」

楓「え?」

 

 桐ケ谷さんにそう言われ、僕は首を傾げた

 

 倉田さんの緊張を解す?僕が?

 

楓「僕でいいんですか?そう言うのは同性の方が......」

透子「シロは衛宮の方が喜ぶからね!」

七深「えぇ~!ズルい~!」

透子「ななみは別に大丈夫っしょ?」

七深「そんな事ないよ~!あ~!緊張してきたな~!」

 

 広町さんが大きな声で騒いでる

 

 どうしたんだろ?

 

七深「かえ君~!広町の緊張も解して~!」

楓「広町さんは大丈夫でしょ?良い色してるし。」

七深「そうじゃない~!」

つくし(さ、流石は衛宮君。一切、ななみちゃんの意図を汲まない。)

 

 と、今は倉田さんか......

 

 うーん、僕は器用な方じゃないし

 

 人の緊張を解すなんて、向いてないと思うけど......

 

透子「ってなわけで、衛宮は明日シロとデートね!」

楓「明日!?」

透子「よし、シロを誘ってこい!」

楓「え、ちょ、急過ぎ__わっ!」

 

 桐ケ谷さんに背中を押され

 

 ソファに座ってる倉田さんの前に行かされた

 

 え、ほんとに今から誘って明日行くの?

 

 それに、これってデートなの?

 

楓(桐ケ谷さん??)

透子(ガンバ!)

楓「」

 

 桐ケ谷さんが親指を立ててる

 

 もう、行くしかないみたいだ

 

楓「ね、ねぇ、倉田さん。」

ましろ「衛宮君......?」

楓「ぼ、僕と、デートに行きませんか......?」

ましろ「!?///」

瑠唯「!?」

 

 倉田さんは目を丸くしてる

 

 色もかなり驚いてる

 

 こ、これでいいのかな?

 

 自分から誘った事ないから不安だな......

 

ましろ「え、えっと、デートって......あの、デート?///」

楓「た、多分、そのデートだと思うよ?(ほかにどのデートがあるんだろう?)」

ましろ(え、嘘!?///あの衛宮君が、デート!?///なんでなんで!?///)

楓(ど、どうしよう。)

 

 倉田さんが固まっちゃった

 

 僕はどうすれば......?

 

 ていうか、断られたらどうしたらいいの!?

 

ましろ「わ、私でよければ......///」

楓「ほ、本当に!?よかったぁ......(失敗してたら桐ケ谷さんになんて言われるか......)」

ましろ(す、すごくホッとしてる......!///衛宮君、そんなに私と......///)

 

 ひとまず、デートには誘えた

 

 緊張を解すとかは難しいけど

 

 まぁ、頑張ろう!折角の初ライブだし!

 

楓「じゃあ、明日行こう!」

ましろ「明日!?」

楓「うん。(僕と同じ反応だ。)」

 

 まぁ、急すぎるよね

 

 でも、ライブまで時間もないし

 

 やっぱり、明日が正解なのかな?

 

楓「えっと、そういう事で!」

ましろ「え、衛宮君!?///」

楓(き、緊張した......)

瑠唯(......大体察したわ。桐ケ谷さんの差し金ね。)

 

 明日は倉田さんとデートか

 

 僕が何をしてあげられるか分からないけど

 

 出来る限り、頑張ろう

__________________

 

 “ましろ”

 

ましろ「__お、お母さん!///」

ましろ母「あ、おかえり、ましろちゃん。」

 

 家に帰ってすぐ、私はリビングにいるお母さんに駆け寄った

 

 お母さんはソファに座ってテレビを見てて

 

 私に気付くとフワッとした笑みを浮かべた

 

母「どうしたの?そんなに慌てて。」

ましろ「え、えっと、衛宮君にデートに誘われたの!///」

母「まぁ。」

 

 私がそう言うと、お母さんは口元を抑えた

 

 すごくニヤニヤしてる

 

 いや、いいんだけど

 

母「ずっと好きって言ってたものね~。」

ましろ「う、うん///」

母「それにしても、もう日本に帰って来てたのね~。どんな大人になってるのかしら~。」

ましろ「え?」

母「え?」

 

 日本に帰ってきた......?

 

 なんで、お兄さんの話?

 

母「あれ?凪沙君の方じゃないの?」

ましろ「ち、違うよ。私が好きなのは弟の楓君だけど......」

母「弟の......楓君?」

 

 お母さんは困惑したような表情をしてる

 

 今まで衛宮君としか言ってなかったし、お兄さんの方だと勘違いしたのはまだ分かるけど

 

 なんで、こんな反応なんだろ

 

母「一応、弟君がいる事は知ってたけど......姿を見たことはないわね。」

ましろ「それはお母さんと外に出る時間が被るのが少ないだけじゃ......」

母「いや、そうじゃないのよ。」

ましろ「?」

 

 冗談半分で話してたけど

 

 お母さんが本気で困惑してるのに気づいた

 

 まるで、ありえないことが起きて驚いてる、みたいな

 

 そんな表情をしてる

 

母「お隣さんの下の子は体が弱くて、家どころか病院からも出られないような子だったはずだけど......」

ましろ「え?」

 

 私はその言葉を聞いて、かなり驚いた

 

 確かに、衛宮君はひ弱な所はあると思ってた

 

 けど、昔はそんなに体が弱かったんだ

 

ましろ「い、今は元気だよ?普通に学校に通ってるし。」

母「......そう。良かった。」

ましろ「って、この話は止めよ!お母さんには明日着ていく服とか一緒に考えて欲しいの!」

母「ふふっ、分かったわ。(あれ......?)」

 

 私はお母さんの横に座って

 

 明日のデートの相談を始めた

 

母(噂では、現代の医療じゃ治らないって聞いたけど......尾ひれでもついてたのかしら?)

ましろ「お母さん?」

母「なんでもないわよ~。それで、最初は何の相談かしら~?」

ましろ「明日着ていく服!何がいいかな?」

母「そうねぇ、色々来て考えましょ。」

ましろ「うん!」

 

 そんな会話の後、私はお母さんと部屋に行って

 

 着ていく服を一緒に考えてもらった

 

 衛宮君、可愛いって褒めてくれるかな?

 

 あの鈍感さは天才的すぎるから不安だけど

 

 明日のデート、楽しみだなぁ......

 

 

 



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暴露

 朝、僕は家の前で倉田さんを待ってる

 

 昨日の夜に待ち合わせは家の前って決めたけど

 

 こういう風に待ち合わせできるのって便利だなー

 

ましろ「__え、衛宮君!お待たせ!///」

楓「あ、倉田さん!おはよう!」

ましろ「お、おはよう......///」

 

 今日の倉田さんはすごくオシャレだ

 

 服は青色がメインで肩が出てて桐ケ谷さん感があって

 

 髪は片方だけを編み込んでて、花の髪飾りをつけてる

 

 いつもと違う雰囲気で、何と言うか......

 

楓「......可愛い。」

ましろ「ふぇ!?///」

楓「あ、ごめんね。つい。」

ましろ(つい言っちゃうくらい、可愛いって思ってくれたんだ......///)

 

 今さらだけど、倉田さんって可愛いんだ

 

 いつもは暗いオーラを纏ってるけど

 

 髪は雪みたいに白くて綺麗で、目は氷のように透き通って輝いてる

 

 勿論、顔だちも整ってるし......

 

 なんで、あんなにネガティブなんだろう?

 

ましろ(す、すごく見られてる......///)

楓「倉田さんは、もっと自分に自信を持っていいと思うよ?」

ましろ「いきなり!?///」

楓「きっと、倉田さんの事を好きになる男はたくさんいるよ。間違いなく。」

 

 月ノ森が多少特殊なだけで

 

 普通の高校に行けばすごくモテると思う

 

 それこそ、広町さんに借りた漫画みたいな感じで

 

ましろ「そ、それって......衛宮君も......?///」

楓「え?僕は別にだけど。倉田さんはお友達だし。」

ましろ「......だよね......」

楓「?」

 

 倉田さんは大きく肩を落としてる

 

 色的に落ち込んでるのは分かるけど......

 

 なんで落ち込んでるんだろ?

 

ましろ「......衛宮君のバカ、鈍感、女たらし。」

楓「なんで!?」

ましろ「......ふん、バーカ。」

 

 さ、早速怒らせちゃった

 

 どうしよう、桐ケ谷さん

 

 僕、ダメかもしれない

 

ましろ「はぁ、これが衛宮君だもんね......もう慣れたよ......」

楓「?」

ましろ「今日、デートだよね?じゃあさ......///」

楓「!」

 

 倉田さんは僕の腕に抱き着いてきた

 

 柔らかくて、爽やかな良い匂いがする

 

 同じ人間なのかな?僕と全然違うや

 

ましろ「今日だけ、彼女みたいに扱ってね......?///そうしてくれたら、許すから......///」

楓「う、うん、それでいいなら(?)」

ましろ「じゃあ、行こ......///」

楓「うん。」

 

 僕は訳の分からないままそう答え

 

 桐ケ谷さんにアドバイスされた場所に向かう事にした

__________________

 

 “ましろ”

 

 私達が来たのは、少し遠くにある公園だった

 

 ここには大きな広場があって

 

 舞台では頻繁にいろんなイベントをしてるらしい

 

 昔、私も両親と来た記憶がある

 

ましろ「あ、何かのイベントしてる。」

楓「あれが今回の目当てだよ。」

ましろ「そうなの?」

楓「うん。そろそろ始まるから、舞台の方に行こう。」

 

 衛宮君にそう言われ、舞台の方に歩く

 

 舞台の前には家族連れで来てる人が多い

 

 その中には見覚えのある人もいる

 

『こんにちは~。』

ましろ「あっ!」

『ミッシェルだよ~。』

 

 私達が舞台の前に着くのと同時にミッシェルさんが舞台袖から出て来た

 

 こ、これって......

 

ましろ「衛宮君、私がミッシェルさん好きなこと覚えててくれたの!?」

楓「え、あ、うん、勿論?(本当は桐ケ谷さんに昨日教えてもらったんだけど、こう言えって言われたし従っておこう。)」

ましろ「わぁ~!可愛い~!」

 

 ミッシェルさんが舞台の上で手を振ってる

 

 すごくモフモフしてる、可愛い

 

ミッシェル『今日は~この公園に入ってるミッシェルを見つけてね~。一番に見つけた人には~この特大ミッシェル人形をプレゼント~。』

ましろ「特大ミッシェルさん人形!?すごい!」

楓「う、うん、すごいね。(あ、あんなのどこに置くんだろう。)」

 

 舞台に現れたお人形を見ると、嫌でも興奮する

 

 このサイズなら、私位ならミッシェルさんの包まれて眠れそう

 

 正直、すごく欲しい......!

 

ましろ「衛宮君、衛宮君!私、あれ欲しい!」

楓「うん。色がそう言ってるね。(すごくキラキラしてる。)」

ましろ「頑張って探そう......!」

 

 絶対に一番早く見つける!

 

 それで、ミッシェルさん人形をゲットするぞ!

 

ミッシェル『それじゃあ~、スタート~!』

ましろ「行こ!衛宮君!」

楓「うーん、ちょっと待ってね。」

ましろ「?」

 

 衛宮君は周りの人達が歩いて行くのを見送って

 

 その後すぐに係員の人たちを観察し始めた

 

 あ、そうだ、衛宮君って......

 

楓「......うん、どこにあるか分かった。」

ましろ「え、もう!?」

楓「あはは、色が繋がってるから分かりやすいね。」

 

 こんなの、分かるのは衛宮君だけだよね

 

 普通の人はほとんど衛宮君と反対の方向を見てるし

 

 やっぱり、物探すのに関しては最強だなぁ......

 

楓「ついて来て。すぐそこっぽいから。」

ましろ「う、うん。」

 

 そう言って、衛宮君は歩きだした

 

 それを見て私も歩いて後ろをついて行った

__________________

 

 私達が歩いてきたのは木がたくさんある場所

 

 あんまり人気がなくて静かで

 

 この公園内の他の場所とは全然雰囲気が違う

 

楓「こっちに色が続いてる。多分、そこに......あった。」

 

 少しだけ孤立した場所にある木

 

 そこにミッシェルさんのお人形が吊るされていた

 

 これはこれで可愛いから欲しいかも

 

 確か、期間限定で発売してたのだと思う

 

ましろ「やった!これで特大ミッシェルさんゲット!」

楓「あはは、そうだね。でも、ちょっと早すぎたかな。」

 

 衛宮君はそう言って苦笑いを浮かべてる

 

 確かに、開始5分で終っちゃったら

 

 イベントを企画してる人が困っちゃうよね

 

楓「少しゆっくり戻ろうか。」

ましろ「うん、そうだね。」

 

 そんな会話の後、私達は歩き出す

 

 ここは木が多くて、空気が澄んでる気がする

 

 ここなら、衛宮君も色を気にしなくていいと思う

 

ましろ「ここ、良い場所だね。」

楓「うん、そうだね。人も全然来てないから、色も少ないし。」

ましろ「やっぱり。」

 

 衛宮君、さっきより力が抜けてる

 

 色が多いと、少し体が強張るんだ

 

 多過ぎたら体調崩すくらいだし、見え過ぎると辛いのかな?

 

楓「ある程度は慣れたけど、見すぎると疲れるからね。」

ましろ「そんなに疲れるの?」

楓「まぁ、イメージ的には点滅する無数の色を見続けるようなものだからね。」

ましろ「それは、しんどいね。かなり。」

 

 昔、赤と青の点滅だけで色んな人が倒れた事件があったらしいし

 

 それが何色にもなったら大変だね

 

 普通の人なら死んじゃうんじゃ......

 

ましろ(......しんどい、か。)

 

 そのワードから、昨日の話を思い出す

 

 衛宮君は、今は凄く元気だ

 

 偶に体調を崩すけど、こうしてデートも出来るし

 

ましろ(......あれ、そう言えば......)

 

 梅雨位の時、それらしい話しなかったっけ......

 

 確か、明日死ぬって言われて好きな人がいたら、思いを伝えるか......だったはず

 

 その話を思い出して、一気に不安に襲われる

 

楓「いやー、なんで僕って色が見えるんだろうね。全く不思議で仕方な__」

ましろ「ね、ねぇ、衛宮君。」

楓「ん?どうしたの?」

ましろ「な、なんでもないよ。」

 

 聞こうと思ったけど、無理だった

 

 そんな根性、私にはないよ

 

 聞けるわけないよ、『病気持ってるの?』なんて......

 

楓「あはは、そっか。」

ましろ「う、うん。」

 

 私は軽く頷いて

 

 衛宮君から目をそらした

 

 “楓”

 

楓「?(不安の色が濃くなってる?)」

 

 さっきから倉田さんの不安の色が凄い

 

 やっぱり、ライブの事で緊張してるのかな

 

 こんな何でもない日でもこうなっちゃうなんて......(超解釈)

 

楓「ねぇ、倉田さん。」

ましろ「どうしたの?」

楓「その、何か不安に思ってる事、あるよね?」

ましろ「!」

 

 倉田さんに動揺の色が加わった

 

 あれ、緊張してるのバレてないと思ってたのかな?

 

 色が見えなくても簡単に分かるのに

 

楓「相談、乗るよ?あ、女の子しか分からない悩みは無理だけど。」

ましろ「い、いや、そう言うのじゃないよ......」

楓(まぁ、ライブの緊張してる事だもんね。)

 

 どんな相談をされるんだろう

 

 こんなの初めてだから、想像が付かない

 

 緊張の解し方?それも、もっと他の?

 

ましろ「その、直感で答えて欲しいんだけど。」

楓「うん?」

ましろ「もし、衛宮君に好きな人がいるとして、その人が病気かもしれないって言われたら、どうする......?」

楓「なんだか、梅雨位に話した話題に似てるね?」

 

 そんな事を言いながら、考えてみる

 

 僕に好きな人がいて、その人が病気かもしれない

 

 うーん......難しいな

 

楓「難しいけど、僕なら本人に聞いて確かめるかな?もしその相手が隠そうとしても、色で分かるし。」

ましろ「本人に!?(衛宮君って、意外と大胆......)」

楓「ずっと1人で悩むより、本人に答えを聞いて、もしそれが本当なら自分に出来る事を探してみる。それが一番だよ。」

ましろ「そ、そっか......(やっぱり、衛宮君は凄いな......)」

 

 1人だけで悩む時間なんて無駄だしね

 

 もし金銭的な問題があるなら、協力できるかもしれないし

 

 そうでなくても、知ってる方がいい事の方が多いと思う

 

 急にいなくなられたら、寂しいだろうし

 

ましろ(私は、その答えをすぐに出せなかった......心の中ではもしかしてって思ってたけど、怖くて、大丈夫なはずって。衛宮君なら、いつもみたいに笑いながら否定するに決まってるって、勝手に決めつけてた......)

楓(どうしたんだろ?)

ましろ「......衛宮君。」

楓「!」

 

 下を向いてた倉田さんが、顔を上げた

 

 その表情はいつものそれとは違って

 

 険しく、悲しそうだ

 

 この表情は、なんだろう......?

 

ましろ「正直に、誤魔化さないで教えて欲しいの。」

楓「な、何を?」

 

 倉田さんの大きな瞳に僕の姿が映る

 

 あまりにいつもと違う雰囲気に気圧されて

 

 頬を生暖かい汗が伝っていく

 

ましろ「衛宮君......病気を持ってたり、する......?」

楓「っ......!」

 

 その言葉を聞いて、固唾を飲んだ

 

 桐ケ谷さんが話した?

 

 いや、それはありえない

 

 もし話すとしても全員に話すだろうし

 

ましろ「ど、どうなの......?」

楓「......持ってるよ。心臓に。」

ましろ「っ!!」

 

 倉田さんの体が強張った

 

 まぁ、そうだよね

 

 最近はこれまでにないくらい元気だったし

 

楓「生まれつきでね。先生には、完全に治ることはないって言われてる。」

ましろ「そ、そんな......」

 

 倉田さんの顔が真っ青になる

 

 色も黒みを増して、絶望の色になった

 

ましろ「ど、どうして、そんな......」

楓「運命なんじゃないかな。僕はそう言う星のもとに生まれたんだから、仕方ないよ。」

ましろ「......死んじゃうの?」

楓「分からないかな。」

 

 本当は分かってる

 

 僕の命が16歳で尽きる

 

 いわさんにそう言われたから

 

楓「まぁ、そんなに急を要する話でもないし。別にそんなに気にすることはな__」

ましろ「気にするに、決まってるよ......!」

楓「っ!倉田さん!?」

 

 僕が軽い口調で話してると、倉田さんが抱き着いてきた

 

 あまりの突然でかなりふらついてしまったけど

 

 何とか、転ばずに済んだ

 

ましろ「なんで、なんで衛宮君なの......!」

楓「......!」

ましろ「衛宮君は、いい人なのに......神様はなんで......」

楓「な、泣いてるの......?」

 

 胸元にジンワリと水気を感じる

 

 なんで、泣いてるんだろう

 

ましろ「嫌だ、嫌だよぉ......!えみやくん、死なないでぇ......!」

楓「し、死なないよ?今は普通に元気だし。」

 

 えっと、これはどうしよう......?

 

 倉田さんは離れる気配がないし、泣いてるし

 

 僕は、どうすればいいんだ......?

 

ましろ「本当に......?いなくならない......?」

楓「大丈夫だよ。」

ましろ「そっか......そうだよね。大丈夫、だよね......」

楓「う、うん。」

 

 これは、本当のこと言えないかな......

 

 まぁ、今すぐ死んじゃうことはないし

 

 嘘は言ってないと思うけど

 

楓「ごめんね。心配かけちゃったみたいで。」

ましろ「ううん......私も、お母さんに聞いて不安になっただけだから......」

楓「そっか。」

ましろ、楓「......」

 

 そんな会話の後に訪れる無言

 

 僕はどうすればいいか分からないから動けないんだけど

 

 倉田さんはどうなんだろう......?

 

 色的にはさっきと違ってふやけてる謎の状態だけど

 

ましろ「......ねぇ、衛宮君......?///」

楓「ど、どうしたの?」

ましろ「その......ライブの事なんだけど......///」

楓「!」

ましろ「ステージに上がる前に、頭撫でて欲しいな......///」

楓「え?」

 

 倉田さんは胸元に顔を埋めたままそう言った

 

 えっと、撫でる?

 

楓「それくらいならいいけど、それでいいの?」

ましろ「う、うん......///そうしてくれたら、緊張も大丈夫な気がするから///あ、終わった後も、撫でて欲しい......///」

楓「い、いいよ?倉田さんが良いなら。」

 

 えっと、これって、成功なのかな?

 

 本人は大丈夫な気がするって言ってるし

 

ましろ「......早く、戻ろ?///ミッシェルさんが待ってるだろうし///」

楓「うん、そうだね。行こっか。」

 

 それから、僕達はステージの方に戻り

 

 特大ミッシェル人形を受け取ってから

 

 多くの人が見てる中で記念撮影をした

 

 

 その間、倉田さんは僕から一切離れなくなって

 

 色んな人から視線を感じた

 

 倉田さんはどうしたんだろうか......

 

 

 



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対面

 倉田さんとデートをしてから2日が経った

 

 皆は今日も熱心に練習をしてる

 

 ライブも近いし、気合十分みたいだ

 

ましろ「__衛宮君!どうだった?」

楓「すごく良い感じだよ。色も、充実したいい色してる」

ましろ「やった!」

 

 倉田さんも元気に練習してる

 

 今までで一番いい声が出てるし

 

 あのデートも、意味があったのかな?

 

透子「衛宮、どんな魔法使ったわけ?」

楓「え?」

つくし「ましろちゃん、もうなんか別人になってるんだけど!?」

瑠唯「替え玉?」

七深「精神操作の能力に目覚めた~?」

楓「そ、そんな訳ないじゃないですか。」

 

 

 確かに、ちょっと別人みたいになってるけど

 

 倉田さんは倉田さん、だよ?

 

 本当にちょっとだけ(?)明るくなっただけで

 

透子「い、いやー、衛宮ならシロを元気づけられると思ってたけど、ここまでとは思わなかったわー。」

瑠唯「流石は衛宮君ね。」

楓「そ、そんな。偶然ですよ。」

 

 いや、本当に

 

 なんでこうなったか僕にも分からない

 

 突然、色が変わったし

 

つくし「まぁ、何はともあれましろちゃんも元気になったし、これでライブは大丈夫そうだね!」

七深「そうだね~。」

楓「なんとかなってよかったよ。」

 

 倉田さん、最近ずっと嬉しそうにしてる

 

 このままいけばライブもきっと成功する

 

 色を見れば、それが分かる

 

楓「......こほっ。」

七深「かえ君?」

楓「あ、ごめ__こほっ、こほっ。」

ましろ、透子「!」

 

 なんでだろう、咳が止まらない

 

 最近はこんなことは無かったのに

 

ましろ「だ、大丈夫!?衛宮君!?」

楓「けほっ......だ、大丈夫。」

透子「そりゃないでしょ!」

楓「ちょっと、何かが気管に入っただけです。(なんでだ?)」

 

 この感じ、久し振りだ

 

 理由はないけど止まらない咳

 

 相変わらず、気持ち悪いな

 

楓「す、すみません。もう大丈夫。」

つくし「そ、そう?」

楓「あはは、どうしたんだろうね。」

ましろ(ま、まさか、病気が......)

透子(......いや、まだ大丈夫なはず。衛宮の顔色、そんなに悪くないし。)

 

 少しして、咳が収まった

 

 無意識のうちに疲れが溜まってたのかな?

 

 まぁ、なんでもいいや

 

瑠唯(......あの咳、様子がおかしいわね。)

つくし(あれは......)

七深「かえ君~飲み物いる~?」

楓「うん、ありがとう。」

 

 広町さんに貰った飲み物を口に含む

 

 慣れ親しんだ味のスポーツドリンクだ

 

 小さいときは1日に1本ペースで飲んでた

 

つくし「じゃあ、練習再開しよっか!」

瑠唯「そうね。衛宮君は座ってなさい。」

楓「は、はい。」

透子「よーっし!見てろよ衛宮!」

七深「頑張るね~!」

ましろ「行ってくるね!」

 

 そう言って、皆は練習を再開した

 

 僕は八潮さんに言われた通り座ってた

 

 ライブまでもう少し

 

 皆は、どんなライブをするんだろう

__________________

 

 今日の練習が終わって、僕は家に帰ってきた

 

 部屋に入って、荷物を置いて

 

 それから......

 

楓「いわさん。新しい本だよ。」

磐長姫『ありがとう、楓。』

 

 いわさんに本を渡す

 

 これが最近の僕の日課になってる

 

 いわさん、僕の部屋にある本全部読むんだもん

 

磐長姫『今日はどうだった?』

楓「楽しかったよ。皆、ドンドン上手くなってるし、色も綺麗になってる。」

磐長姫『本当に楓の目は人間離れしてるね。』

楓「そうかな?」

 

 まぁ、落とし物を探すのには便利だけど

 

 別にそれ以外に取柄はないし

 

 そんなに超人的なものじゃないと思うけど

 

磐長姫『楓の目は神が持ってるはずものだよ?』

楓「へー、そうなんだ。神様って、みんなこんな思いしてるんだ。」

磐長姫『いや、普通の目と切り替えられるけど。』

楓「何それ欲しい。」

 

 流石は神様

 

 僕とはレベルが違うな

 

磐長姫『まぁ、切り替えができないとはいえ、神の能力を持ってる楓は__!?』

楓「いわさん?」

磐長姫(楓の、死の気配が強くなってる......!?なぜ......!?)

 

 いわさん、急に固まったな

 

 どうしたんだろ?

 

 ちょっと驚いた顔してるし

 

磐長姫『......なんでもないよ。』

楓「そう?」

磐長姫『楓はもう少し大人しくしておいて。ほら。』

楓「あ、ちょ!念力で動かさないで!」

磐長姫『ほら、寝なさい。』

 

 僕はいわさんに念力で動かされ

 

 そのままベッドに寝かされた

 

 神様って何でもありだよね

 

 もうなんか、念力使っても受け入れちゃったもん

 

楓「あのー、なんで僕は寝かされてるのかな?」

磐長姫『楓は寝るべきだと予言した。』

楓「そ、そうなの?」

 

 じゃあ、従っておこうかな

 

 ご飯まではもう少し時間あるし

 

 少しだけ寝ちゃおうかな

 

楓「じゃあ、寝るよ。おやすみー。」

磐長姫『うん、おやすみ。』

 

 いわさんはそう言うと念力で僕に布団を被せた

 

 僕はそのまま目を閉じ

 

 1、2時間くらい眠ることにした

__________________

 

 あれから5日が過ぎ、ライブの日になった

 

 あの日以降、変な咳が出たりはしなかった

 

 やっぱりあれは偶然だったみたいだ

 

透子「いやー!ついにこの日が来たねー!」

七深「やっとだよ~!たのしみだね~!」

 

 2人は楽しそうにそんな会話をしてる

 

 まぁ、緊張してなさそうなのはこの2人と八潮さんくらいかな

 

 まぁ、二葉さんと倉田さんは......

 

ましろ「だ、大丈夫、大丈夫。ちゃんと練習したもん。」

つくし「ふ、ふんっ!私はリーダーだから大丈夫だもん!」

透子「いや、リーダー関係なくね?」

楓「あ、あはは。」

 

 流石に緊張してるみたいだ

 

 まぁ、4月に結成して、4か月間練習したし

 

 やっぱり、すごくプレッシャーがかかってるんだろう

 

楓「って、僕ってここにいて良いんですか?」

瑠唯「勿論よ。あなたは私達のマネージャーだもの。いない方が不自然よ。」

楓「な、なるほど。」

 

 僕ってマネージャーだったんだ

 

 そっか、マネージャーかぁ

 

楓「えへへ、そっか。」

 

 何と言うか、嬉しいな

 

 僕は演奏とか、そう言う激しいことは出来ないから

 

 そう言う形でメンバーって言ってもらえるのは嬉しい

 

ましろ(衛宮君、嬉しそう!)

透子(え、可愛い。)

七深(え、可愛すぎ。男の子なのに少女みたいな可憐さがあって、あの儚げな雰囲気は例えるなら、そう、冬になる直前、木から舞い落ちていく紅葉みたいで......取り合えず、天使。)

つくし(なんで女子より女子してるの?)

瑠唯(......ダメ。今一瞬、本気で結婚したいと思ってしまったわ。)

楓「?」

 

 どうしたんだろう?

 

 なぜか、皆がこの間のいわさんみたいに固まってる

 

 流行ってるのかな?

 

楓「そう言えば、なんでこの待合室って僕達しかいないんでしょうか?」

七深「そう言えばそうだね~。」

透子「他は何バンドかでまとまってるのにね。」

 

 妙だな

 

 偶々、この部屋は1バンドだけだった?

 

 いや、それはない

 

 部屋はAからEまであって、出番の順番で部屋は割り振られる

 

 つまり、一番手の皆はこのAの部屋で

 

 次のバンドの人達がいるはず

 

 なのに、ここには僕達しかいない

 

 うーん......

 

楓(なんでだろ。この資料に間違いが__あっ。)

瑠唯「衛宮君?」

楓「あの、これ__」

「__お待たせしました。」

「ほんとに待たせすぎなんですけど。私達まで遅れたみたいになったじゃないですか。」

「......(入ってればよかったんじゃないかしら?)」

ましろ「__えっ。」

 

 皆と話してると、2人の女の人が入って来た

 

 長い銀髪のクールそうな人と短い黒髪に赤いメッシュを入れた気の強そうな人

 

 その2人に続き、色んな人がゾロゾロと入って来た

 

楓「っ!(こ、この色は......)

透子「あ、あの人たちって!」

つくし「ろ、RoseliaにAfterglow!?」

 

 二葉さんが言った2バンド

 

 この人たちの色を見て、僕は愕然とした

 

楓(何だ、この色は。)

 

 ただ並んで歩いているだけ

 

 それだけで5人の色が調和してる

 

 つまり、それだけ信頼関係があるってことだ

 

楓「......すごい。」

瑠唯「やはり、そうなのね。」

楓「色が、他のバンドとは違います。特に、銀髪の人。この人は格が違います。」

透子「ボーカルの湊友希那さんか。」

 

 他の人もすごい色をしてるけど

 

 流石にこの人だけは格が違う

 

 例えるなら、プロのスポーツ選手みたいな

 

 そう言う、集団の中にいても際立つ存在感のようなものを感じる

 

友希那「私の顔に何かついてるかしら?」

楓「っ!」

友希那「?」

 

 銀髪の人、湊さんに声をかけられた

 

 近くに来るとなお凄い

 

 お兄ちゃんや広町さん、八潮さんとは別ベクトルで

 

リサ「友希那に見惚れちゃったのかなー?」

楓「い、いえ、そういう事では。(この人も)」

 

 この人の色は、柔らかい

 

 まるで、春の陽だまりみたいだ

 

ひまり「って、あれ?男の子?ここってガールズバンドしか集まらないはずだけど......」

モカ「マネージャーでしょー。多分。」

楓「そ、そうです。」

 

 こっちの人たちは、なんだろう

 

 1人1人の色はRoseliaの人たちには劣る

 

 けど、5人で集まった時の色は全然負けてない

 

 まるで、5人でいるための色みたいだ

 

蘭「てゆうか、出て行って欲しいんだけど。」

楓「え?__あ、す、すいません!男がいたら目障りですよね!」

蘭「え、いや、そうじゃなくて......着替えるから。」

楓「~!すいません!廊下で正座して反省してきますっ!!」

 

 僕はそう叫んで部屋を出て行った

 

 やっぱり、まだまだ気遣いが足りてない

 

 なんで、察せなかったんだ......!

 

巴「あ、慌ただしいな。」

あこ「そーだね。別にそんなに焦らなくてもいいのに。」

燐子「き、気を遣ってくれたんじゃないかな......?」

 

リサ「いやー、なんだか可愛い子だね。」

ましろ「はい。」

透子「それはもう。」

七深「私達の天使です。」

つくし「一番かわいいです。」

瑠唯「間違いなく。」

リサ「あ、うん。」

紗夜(え、えぇ......?)

つぐみ(い、息ピッタリ......)

 

 それから、僕は着替え終わって呼ばれるまで

 

 取り合えず、廊下で正座してた

 

 これ、部屋に戻るの、気まずいなぁ......

 

 

 

 



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疑念

 廊下で十数分くらい正座して

 

 僕は控室に戻ることが出来た

 

 正直、さっきまでここで着替えしてたんだと思うと、すごく気まずい

 

 けど、気にしないようにしてる

 

モカ「お~、ほんとに可愛い~。」

リサ「なんか、男子と女子の間みたいだね~!」

巴「あはは!そうですね!」

楓(お、男なんだけどなぁ......)

 

 最近、こんな感じのこと言われるの多くないかな?

 

 一応、れっきとした男なんですけど

 

 ......生物学上は

 

あこ「なんでマネージャーとかしてるのー?」

楓「えっと、最初は広町さんについて行って、そのまま成り行きで。」

あこ「へー!そうなんだー!」

ひまり「男の子がマネージャーって珍しいね?自分はバンドしたりしないの?」

楓「あまり激しい活動は出来ないし、マネージャーが楽しいので。」

紗夜「確かに、こういうのも失礼かもしれませんが、細いですよね。」

 

 す、すごくジロジロ見られてる

 

 やっぱり、端から見ればそうだよね

 

 情けない......

 

リサ「ちなみに、体重はどのくらい?」

楓「よ、45㎏くらいですね。」

リサ、ひまり「よ、よよ、45㎏!?」

あこ「軽っ!?」

 

 まぁ、普通はあり得ないよね......

 

 相当な減量してもキツイだろうし

 

ひまり「......私より、余裕で......」

リサ「そんな事ある......?あたしより身長あるのに......」

友希那「2人とも、どうしたの?」

紗夜「色々あるんですよ。」

蘭「まぁ、ひまりはよく食べるから。」

ひまり「蘭~!言わないで~!」

蘭「ご、ごめん。謝るから泣かないで。」

 

 な、なんか、ごめんなさい

 

 申し訳ないけど、この話はスルーしよう

 

 僕には荷が重すぎる

 

楓「そ、そういえば、皆さんは最初に演奏されるんですよね?それってお手本......みたいな感じですよね?」

友希那「名目上はそうなってるわね。」

透子「流石はこの辺りを代表するガールズバンド!」

楓(やっぱり、有名なんだ。)

 

 僕は最近バンドに触れるようになったし

 

 あんまりバンドのこと知らないんだよね

 

 まぁ、色を見ればどれだけすごいかはわかるけど

 

楓「あの、湊さん?ですよね?」

友希那「えぇ。どうかしたの?」

楓「湊さんは、プロの方ですか?」

友希那「どうしてそう思うの?」

楓「すごい色をしていらっしゃるので。言葉にするのは難しいんですけど、まるで粉雪が降ってる日の夜空みたいな、そんな色をしてるんです。しかも、すごくはっきりと見える。」

友希那(色......?)

 

 湊さんが首を傾げた

 

 あ、そっか

 

 皆さんは初対面だから色のこと知らないんだ

 

 ど、どうしよう、僕、変な男になっちゃう!?

 

友希那「褒めてくれるのは嬉しいけれど、私はまだプロではないわ。」

楓「そ、そうなんですか。」

 

 よかった、あまり気にしてないみたいだ!(※してる)

 

 ここは、何食わぬ顔で会話を続けよう!

 

友希那「けれど、いずれはプロの世界に行くわ。Roseliaはそこに行ける力はある。」

楓「......はい。僕もそう思います。」

友希那「あら、初めて会うのにかなり高評価のようね。」

楓「見ればわかりますから。皆さんがどれだけすごいかは。」

 

 色は嘘をつかない

 

 重ねた努力も過ごした時間も

 

 何もかも、正直に教えてくれる

 

 Roseliaの色は綺麗で、重厚感がある

 

 ただ5人で過ごしただけじゃ、あんな色にはならない

 

友希那「委縮させてしまったかしら?あなたのバンドの子たち、表には出していないけれど、緊張しているわ。今も、それを紛らわせるように気丈にふるまってる。」

楓「はい、そうですね。皆、やっと初めてのライブですから。どうしても緊張はすると思います。」

 

 緊張の色が少ないのは、広町さんと八潮さんかな

 

 この2人はいい緊張感を持ってる

 

 けど、他の3人は内心ガチガチだ

 

 倉田さんと二葉さんはわかるけど、桐ケ谷さんは少しだけ面白く感じてしまう

 

 だって、いつもと色が全然違うんだもん

 

友希那「それにしては、あなたは余裕そうね。」

楓「はい。むしろ、少し安心しました。」

友希那「安心?」

 

 湊さんがそう聞き返してきた

 

 そう、僕は今、すごく安心してる

 

 具体的には、Roseliaを見てから、安心したかな

 

楓「練習を始めてから4か月。僕は知識も何もないまま、八潮さんと色に頼って練習のアドバイスなどをしていたので、この方向性が高いのかって、不安だったんです。けど、よかった。」

友希那「......どういうこと?」

楓「皆が目指していた方向は間違ってなかったみたいです。」

友希那「!」

 

 僕がそういうと、湊さんは目を見開いた

 

 それを見て僕は立ち上がり

 

 座ってる湊さんに軽く頭を下げた

 

楓「ありがとうございました。出来れば、皆のこと、少し見てあげてください。きっと、楽しめると思います。」

友希那「えぇ、期待しておくわ。あなたにも。」

楓「僕はマネージャーなので......」

 

 そういいながら、僕は皆のほうに歩いた

 

 そろそろ、3人の緊張ほぐさないと

 

 うーん、ちょっと大変そう......

 

 “友希那”

 

友希那(彼は、何者なのかしら?)

 

 向こうに歩いていく彼を見て、疑問に思った

 

 一見すれば可愛い感じの男子高校生

 

 けれど、かなり違和感がある

 

 妙に推測を確信したような態度で言うところとか

 

 あとは......

 

友希那(色......とは、何なのかしら?)

 

 彼が所々出す、色というワード

 

 私のことを粉雪が降る日の夜空と言っていた

 

 空想と切り捨てることは簡単だけれど

 

 彼にはそうさせない違和感がある

 

リサ「ゆーきな☆」

友希那「リサ?どうかしたの?」

リサ「いやー、友希那が後輩君と楽しそうに話してたからさ!何の話してるのかなと思って!」

友希那「バンドの話よ。」

 

 彼には一体なにが見えているのか

 

 何を見て、バンドに繋げているのか

 

 少し、興味があるわね

 

リサ「あの子、不思議ちゃんな感じするよねー。」

友希那「そうね。」

リサ「まっ、可愛いと思うけどね!他のバンドメンバーの子も、可愛い後輩だよ!」

友希那「そうね。」

 

 彼がいるあのバンド

 

 確か、ツキノモリ(仮)だったわね

 

 今年結成されたバンドらしいけど......

 

友希那「リサ。」

リサ「ん?どーしたの?」

友希那「今日、ライブが終わったら帰ろうと思ってたけれど、あの子たちは見ていきましょう。」

リサ「えぇ!?急にどうしたの!?」

友希那「単純に興味があるのよ。」

 

 彼女たちの演奏を見れば、わかる気がする

 

 彼が彼女たちにどのくらい影響を及ぼしているのか

 

 彼女たちのとって、それほど大きな存在なのか

 

友希那「今日はAfterglowが先ね。美竹さん、せいぜい場をしらけさせないようにすることね。」

蘭「はぁ?むしろ、空気にのまれないように気合い入れてほしいんですけど。」

ひまり「もー、相変わらずだねー。」

モカ「すいませんねー、うちの蘭がー。」

リサ「いやいやー、いつものことだしね。」

 

 ......いつも、こんな感じかしら?

 

 あまり覚えてないわね

 

 まぁ、いいわ(切り替え)

 

巴「じゃあ、行くかー。」

あこ「頑張ってね!おねーちゃん!」

巴「おう!」

紗夜「羽沢さんも頑張ってください。」

つぐみ「はい!もちろんです!」

 

モカ「行くよー蘭ー」

蘭「う、うん。」

ひまり「今日も頑張ろうー!えいえいおー!」

Afterglow「......」

 

ひまり「__もー!なんでー!!」

 

 そんなやり取りをしてから

 

 Afterglowは控室から出て行った

 

 それを見送って、私はふぅと1つ息をついた

 

楓「最後の打ち合わせですが、まずは__」

友希那(さぁ。)

 

 正直、今日はライブをしてすぐに帰るつもりだったけれど

 

 もしかしたら、来た甲斐があったと思えるかもしれないわ

 

 まぁ、それも、彼女たちのライブ次第だけれど

 

 

 



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デビュー

楓「えーっと、あっ、ここだ。」

 

 僕は控室から出て、舞台袖まで来た

 

 皆は控室で待機しておかないといけないし

 

 僕だけでも今後の参考にRoseliaのライブを見ておかないと

 

 なんでRoseliaかって言うと、色の種類が似てるから

 

友希那「あら、来たのね。」

楓「あ、湊さん。」

 

 そこにはもうすぐ出番を控えたRoseliaの皆さんがいた

 

 黒と紫を基調としたドレスのような衣装で

 

 花と羽を合わせたような髪飾りを着けてる

 

 すごい衣装だ、桐ケ谷さん風の言葉を使うなら、かっこかわいい?かな

 

リサ「なになに~偵察~?可愛い顔して結構やるじゃん!」

楓「いえ、まだ偵察という段階ではないです。今日はすごいバンドの演奏を見てみたくて。」

友希那(まだ、なのね。)

 

 皆の色はまだRoseliaには及ばない

 

 今は目標として、Roseliaを見る

 

 目指す方向としては一番近いから

 

友希那「なら、見ていなさい。あまり、驚きすぎないように。」

楓「!」

リサ「あはは~。行こう!みんな!」

紗夜「はい。」

あこ「頑張りましょ~!」

燐子「はい......!」

 

 湊さんがそう言い、今井さんが他の人に声をかけ

 

 Roseliaは光り輝くステージに上がっていった

 

 その表情は自信に満ち溢れていて

 

 皆さんの色が、段々と合わさっていくのを感じた

_____________________

 

 “瑠唯”

 

 彼が出て行って、控室の空気が重たくなった

 

 まぁ、それはそうね

 

 私たちの精神的支柱は間違いなく彼だもの

 

透子「うっわー、Roseliaの次にライブってマジー......?」

つくし「失敗しちゃったら、場の空気白けさせちゃうかも......」

ましろ「ああ、ううう、ああううぅう......」

七深「し、しろちゃん~?ゾンビみたいになってるよ~?」

瑠唯「......」

 

 それにしても、ひどい状況ね

 

 私にはどうしようもないことないのだけれど

 

 早く帰ってきて欲しいけれど

 

 そうも言ってられないわね

 

瑠唯(彼は今、何かを得に行ってる。)

 

 きっと、彼も学ぼうとしてる

 

 私から見ても、あの人たちは本物だった

 

 学ぶことだって多いはず

 

 私も出来ることなら見に行っておきたいくらいだもの

 

 けれど、彼が行ってくれてよかった

 

瑠唯(......今、彼はどんな表情をしているのかしら。)

 

 楽しそうなのか、はたまた感動しているのか

 

 それとも......

_____________________

 

 “楓”

 

 圧巻だった

 

 ライブ中、湊さんの青薔薇の様になった色がハッキリ見えて

 

 他の人の色がそれを支えるリボンのようになって

 

 さながら、5人で作り上げた青薔薇のブーケの様だった

 

楓(これが、Roselia。)

 

 分かってたけど、レベルが違う

 

 圧倒的な練習量からくる演奏技術はもちろん

 

 それ以外のところ

 

 例えば、メンバーと一緒に過ごした時間から来る信頼関係

 

 それも色となって現れてるから、更にすごいんだ

 

楓「......心臓、すごく動いてる。逆に止まっちゃうんじゃないかな。」

 

 これは、圧倒されたとかじゃない

 

 すごく、ワクワクしてるんだ

 

 だって......

 

楓「......皆もいずれは、あの高みまで。」

 

 きっと、いける

 

 少しだけ、色が想像できたから

 

 皆も、いずれは......

 

友希那「__どうだったかしら?」

楓「!」

 

 しばらく余韻に浸ってると、Roseliaの皆さんが舞台袖に戻ってきた

 

 喜びの色が強い

 

 すごく、いい色をしてる

 

楓「すごかったです。あんなすごい色、初めて見ました。」

友希那「そう。ご期待に添えたようでよかったわ。」

リサ(また色って言ってる。なんで友希那、この子と会話成立するんだろ。)

 

 今、皆さんの色を見て、改めて思う

 

 この後に出来たばかりのバンドがライブをするプレッシャーは計り知れない

 

 順番決めた人、誰なんだろ......

 

友希那「大丈夫なの?この後、あなたのお友達がライブなんでしょう?」

楓「さぁ、どうでしょうか。本当にすごいライブだったので、皆もプレッシャーは感じてると思います。けど......」

友希那「?」

楓「皆の色だって、全部が全部負けてるわけではありませんから。」

友希那「!」

 

 僕がそういうと、湊さんは驚いたような表情を浮かべた

 

 そう、何もかも負けてるわけじゃない

 

 皆の色だって、すごく綺麗だから

 

楓「見ていてください。」

友希那(意地を張ってるわけではなさそうね。)

 

透子「衛宮ー!」

七深「かえ君ー!」

楓「あっ、来たね。」

 

 向こうから皆が歩いてきた

 

 まぁ、もうすぐ出番だから当たり前か

 

つくし「え、ええ衛宮君!?緊張しちゃだめだよ!?私がついてるんだからね!?」

七深「緊張してるのつーちゃんじゃんー。」

瑠唯「何をうろたえているのかしら。」

透子「逆に2人はなんでそんな冷静なわけ!?初めてのライブだよ!?シロを見ろよ!」

ましろ「あばばばばば......!」

透子「......やっぱ、見なくていい。」

 

 き、緊張してるなー

 

 仕方のないことだけど

 

 倉田さんは壊れたラジオみたいだよ?

 

ましろ「え、衛宮君......」

楓「あ、うん。約束だね?」

ましろ「う、うん......///」

楓「いくよ?」

ましろ「ん......///」

透子、七深、つくし、瑠唯「!?」

Roselia「え?」

 

 僕は倉田さんの頭に手を乗せ

 

 そのまま、ゆっくり撫でた

 

 サラサラしてて、触り心地がいい

 

 結構好きなタイプの触り心地かも

 

楓「どう?緊張、解れてきた?」

ましろ「うん、気持ちい......///」

透子「ちょっと!?」

つくし「何してるの!?」

楓「えっと、ライブ前に頭を撫でてと頼まれたので、それを......」

七深「ずるい!」

つくし「私もしてほしい!!」

透子「あたしも!」

楓「え?」

 

 もしかして、頭撫でられるの流行ってる?(見当違い)

 

 まぁ、僕は別にいいんだけど

 

 時間は大丈夫かな?

 

楓「じゃあ、二葉さんから。」

つくし「あぅ......///」

 

 二葉さんも触り心地言いなぁ

 

 やっぱり、女の人って手入れとかしっかりしてるんだなぁ

 

楓「頑張ってくださいね。リーダーとして、皆を引っ張ってあげてください。」

つくし「うん......///」

楓「えっと、桐ケ谷さん。」

透子「お、おう!かかってこ__はぅ///」

 

 桐ケ谷さんの髪は柔らかい

 

 モフモフしてて、なんだろう

 

 愛玩動物を撫でてる気分になる

 

 ......失礼かな?ごめんなさい

 

楓「桐ケ谷さんのギター、かっこいいですよ。」

透子「そ、そう......?///」

楓「はい。桐ケ谷さんはかっこいいです。」

透子「......あたし乗せるの、上手くなってんじゃん///」

楓「あはは......じゃあ、次は広町さん。」

七深「ふっふっふ~///かえ君に撫でられるのはあの日の夜以来だね~///」

 

 あれ、そうだったっけ?

 

 そう思いながら、広町さんの頭を撫でた

 

 広町さんは、毛並みの言い猫みたいだ

 

 なんだか口元も猫っぽくなってるし

 

楓「広町さんがライブすると思うと、すごくドキドキする。」

七深「っ!?///そ、それってもしかして__」

楓「人生で初めてのお友達で、親友だから。そんな人があのステージに上がってライブすると思ったら、すごくドキドキする。」

七深「......あー、うん。かえ君はそうだよね~。」

楓「?」

 

 あれ?何か間違えたかな?

 

 僕の素直な気持ちなんだけど

 

七深「かえ君お期待に答えられるように頑張るよ~!ちゃんと見ててね!」

楓「うん。見てるよ。」

透子「じゃあ後は......」

瑠唯「......」

透子「ルイな!」

楓「え?」

透子「ん?」

 

 や、八潮さんも?

 

 いや、絶対に嫌がるでしょ?

 

 僕なんかに撫でられるなんて......

 

瑠唯「......///」

ましろ(プルプル震えてる......)

つくし(撫でてほしいんだね!わかるよ、その気持ち!)

楓「えっと、しますか?」

瑠唯「......お願いしても、いいかしら?///」

楓「っ!」

 

 今、心臓が飛び跳ねた......?

 

 あと、八潮さんから目が離せない

 

 なんだ、これは......?

 

楓「じ、じゃあ、撫でますね?」

瑠唯「......えぇ///」

楓(わっ、サラサラだ。)

瑠唯「......ふっ、ん///」

 

リサ「ねぇ、あれなにヤってんの?」

紗夜「さ、さぁ?」

燐子「驚きすぎて、茫然としちゃいました......」

 

 可愛いと思ってしまう

 

 八潮さんはかっこいい人なのに

 

 僕なんかがそう思ってはいけない人なのに

 

楓「え、えっと、頑張ってください、八潮さん。」

瑠唯「も、もちろんよ////あなたとの練習の日々を証明して見せるわ///」

楓「は、はい。」

 

 僕はそう頷いて、手を離した

 

 すごく緊張した......

 

 心臓止まっちゃいそうだ......

 

「ツキノモリ(仮)さーん!準備お願いしまーす!」

つくし「は、はい!今行きます!」

透子「というわけで、行ってくる!」

七深「終わったらまた撫でてね~!」

ましろ「わ、私も......///」

瑠唯「......行ってくるわ///」

 

 そういって、皆はステージのほうに歩いて行った

 

 すごく、いい表情をしてる

 

 よかった......緊張はもう大丈夫そうだ

 

友希那「ねぇ、あなたたち、いつもあんな感じなの?」

楓「え?うーん、八潮さん以外はこんな感じです。僕なんかに撫でられたいなんて、不思議ですよね。」

リサ「えぇ......?(困惑)」

楓「頭撫でられるのって流行ってるんですかね?」

紗夜、燐子、あこ「えぇ......?(困惑)」

リサ(マジで言ってんの!?あんなに好き好きオーラ全開なのに!?)

友希那(......すごい子なのかしら?)

楓「?(あっ、もう始まる。)」

 

 それから、僕は皆のライブを見るため

 

 ステージの近くに行った

 

 そこから見える皆の姿はいつも以上に凛々しくて

 

 蛹から羽化するような気配を感じた

 

 

 



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スカウト

透子『__こんにちはー!あたしたち、ツキノモリ(仮)です!』

 

 ステージに上がって

 

 桐ケ谷さんがマイクを持って話し始めた

 

 ハッキリとよく通る声だ

 

透子『今年、月ノ森で出来たバンドなんだけど。今日が初めてのライブなんだ!先輩バンドの後でちょーっと緊張してるけど、精一杯頑張るから、応援してねっ!』

 

「おぉー!」

「あれTOKOじゃん!」

「他のメンバーも可愛いー!」

 

 やっぱり、皆ってハイレベルなんだなぁ

 

 男女問わず、称賛の声が聞こえる

 

 色は重なりすぎて判断しずらいけど

 

透子『じゃあ、聞いてください!あたしたちのオリジナルの曲!Daylight -デイライト-!』

 

 桐ケ谷さんがそう高らかに宣言すると

 

 八潮さんのバイオリンの音が聞こえてきた

 

ましろ(衛宮君、ちゃんと見ててね......!)

 

楓「__!」

 

 倉田さんが声を出したその時、皆の色が変化して

 

 五つの色が、一つに集まって行ったように見えた

_____________________

 

透子『__ありがとう!皆!』

『わぁぁぁぁあ!!!』

 

楓「......!」

 

 飛び立っていった

 

 皆のライブを見て、そう感じた

 

 蛹から羽化した青色の蝶が、観衆の上を華麗に飛び回るような

 

 そんな幻想的な色が、僕の目には見えた

 

友希那「......これは。」

リサ「マジかー。」

 

楓(......良かった。)

 

 皆、今出せる力を出し切った

 

 この4か月間、本当に頑張ってた

 

 ほぼ毎日、暗くなるまで練習してて

 

 倉田さんも1からボーカルになるために頑張って

 

 二葉さんも練習中に手にまめができてた

 

 弦楽器を使う桐ケ谷さんと広町さんは爪がボロボロになってたりもしてたし

 

 八潮さんもストイックに演奏技術を追求してた

 

 そんな努力が実ってくれて、本当に良かった

 

透子「衛宮ー!」

楓「き、桐ケ谷さ__むぅ!?」

透子「やったよ!あたし達やったよ!」

 

 僕の顔が柔らかい感触で包まれた

 

 暖かい、というよりも暑い

 

 桐ケ谷さんの熱気が直に伝わってくる

 

楓「むぐぐぐ......!」

七深「とーこちゃん~!かえ君が苦しそうだよ~!」

透子「おっと。」

 

 広町さんが止めに入ってくれて

 

 なんとか、僕は解放された

 

 といっても、抱き着かれてるままだけど

 

 呼吸しずらかったから、助かった......

 

ましろ「衛宮君!私、どうだった?」

楓「練習の成果が出てて、よかったよ。」

つくし「私も頑張ったよ!」

七深「私も~!」

楓「あの、ちょっと、4人に抱き着かれると__わぁ!!」

 

 僕はそのまま、4人に押し倒された

 

 全員、受け止められたらいいんだけどね

 

 僕なんかでは出来ません!(諦めの境地)

 

瑠唯「あなたのお陰で、デビューはいい形で終えられたわ。」

楓「いえいえ、そんな僕なんて。皆さんの努力のたまものですよ。」

瑠唯「謙虚ね。あなたがいなければ、ここまでは出来なかったわ。」

楓「そう、でしょうか?」

 

 八潮さんがいれば大丈夫だったと思うけど

 

 まぁ、褒めてくれるのは素直に嬉しい

 

 特に、八潮さんだし

 

友希那「なるほど。これがあなたの力なのね。」

楓「あ、湊さん。」

リサ「いやー、ビックリしたよー!スーパールーキー登場って感じ!」

 

 僕は2人が近づいてきたのを見て立ち上がった

 

 えっと、今、僕の力って言ったのかな?

 

 全くそんなことはないんだけど......

 

友希那「あの演奏は普通のバンドが4か月練習した程度で出来るものじゃないわ。」

楓「えへへ、そうですか?」

友希那「嬉しそうね。」

楓「はい、皆が褒められるのはすごく嬉しいです!」

リサ(マジで嬉しそうじゃん。ほんとにいい子なんだなー。)

 

 よかった、湊さんも認めてくれたみたいで

 

 努力が実ってくれて、よかった

 

 これは、月ノ森音楽祭に弾みがつく

 

友希那「あなたの見えている色というのは、本当のことのようね。」

楓「はい。色は見えてますよ。それだけですが......」

友希那「けれどそれで、バンドのレベルを叩き上げたのでしょう?」

楓「い、いえ、そんな大層なものでは__」

瑠唯「それで間違いありません。彼なしではここまでの成果は得られなかったと、私たちも自覚しています。」

楓「!?」

 

 八潮さんの言葉に皆もうなずいてる

 

 そんなことないはずなのに......

 

 過大評価すぎるよ......

 

友希那「そう......なら。」

楓「?」

友希那「衛宮楓君。少し、相談があるのだけれど。」

楓「はい?」

 

 湊さんが真っ直ぐ僕の目を見据える

 

 少しだけ、緊張しちゃうな

 

 美人な人だから特に

 

友希那「あなた、Roseliaに来る気はないかしら?」

楓「......え?」

ましろ、透子、七深、つくし、瑠唯、リサ「!?」

 

 湊さんの言葉で時間が止まったように感じた

 

 えっと、聞き間違いじゃないよね?

 

 僕がRoseliaにって、なんで?

 

友希那「私たちはバンドで頂点を目指す。そのためには......あなたの力が必要よ。」

楓「っ......!」

 

 上手く、息ができない

 

 圧倒的な意志の強さを持った湊さんの前に

 

 僕は、頭が真っ白になった

 

 “瑠唯”

 

友希那「あなたがいれば、私たちはもっと上に行ける。だから、Roseliaのマネージャーとして、その力を使ってほしい。」

 

 湊さんが静かな、だけれど強い意志を持った声で、衛宮君に語り掛けている

 

 横を見れば、桐ケ谷さんが止めに入ろうとしてる

 

 けれど、動けない

 

 それくらい、この場の空気を彼女が支配している

 

友希那「どうかしら?決して、悪い話にするつもりはないわ。」

楓「......」

 

瑠唯「......っ。(衛宮君......っ。)」

 

 彼が奪われる、止めたい

 

 けれど、なんと言ったらいいか分からない

 

 それは、湊さんのせいではない

 

 私が、衛宮君に拒絶されることを恐れているから

 

 もし、Roseliaに行くと言われたら、私はどうなるのか

 

 それを考えたら怖くてたまらない

 

ましろ(衛宮君、嫌だよ......)

透子(どうすんだよ、衛宮......?)

七深(かえ君だもん、絶対に......)

つくし(Roseliaに、衛宮君が......)

瑠唯(......衛宮君。)

 

 彼がどんな選択をしても、非難することは許されない

 

 彼の人生は、彼のものだから

 

 選ばれなくても、私たちには何も言えない

 

 ......そう、頭では理解してる

 

 けれど、選んでほしい、離れたくない

 

 彼と離れるなんて、私には......

 

楓「......僕のことをそこまで評価していただいて、すごく光栄です。Roseliaのボーカルである湊さんからなら、なおさら。」

瑠唯「っ......!」

友希那「なら__」

楓「でも、ごめんなさい。その申し出は、お断りさせてください。」

友希那「!」

瑠唯「!!」

 

 衛宮君の言葉を聞いて、私は目を見開いた

 

 横にいる他の4人も、同じような表情をしてる

 

友希那「......理由を聞いてもいいかしら?」

 

 低い声で、湊さんがそう尋ねる

 

 怒っているというわけではない

 

 どちらかというと、残念そうに見える

 

楓「このバンドの皆のことを、おこがましいかもしれませんが、僕はお友達と思っています。きっと、この縁は、僕の人生で最初で最後の、大切なものなんです。そんな皆の役に立てるようになりたいんです。」

ましろ、透子「......!」

 

 彼は優しく微笑みながらそう話し

 

 湊さんの前で深く頭を下げた

 

楓「だから、ごめんなさい。僕はここで、最後まで出来る限り、皆のために頑張りたいです。」

友希那「......そう。」

 

 湊さんは小さな声でそう呟くと

 

 静かに後ろの出口の方を向き

 

 横にいる今井さんに合図を出した

 

友希那「いい覚悟ね。その覚悟に免じて、この話は諦めるわ。」

楓「本当に、すみません。」

友希那「構わないわよ。それにしても......」

瑠唯「!」

 

 申し訳なさそうにしてる彼を制し

 

 湊さんは私たちの方に目を向け

 

 優しい笑みを浮かべた

 

友希那「いいメンバーを持ったわね。」

ましろ「はい!」

透子「最高のメンバーです!」

つくし「私たちの副リーダーですから!」

七深「大好きで一番大切なお友達です~!」

瑠唯「いつも助けられています。」

友希那(好かれてるのね、彼は。)

リサ(いい仲間だね~!)

 

 湊さんは笑みを浮かべたまま歩き出し

 

 他のメンバーの方たちも着いて行った

 

 その背中には気高さや誇りを感じ

 

 Roseliaの力量を実感させられた

 

楓「はぁ......き、緊張したぁ......」

透子「衛宮ー!」

楓「うわぁ!桐ケ谷さん!?」

透子「なんだよあれー!あたし達のこと大好きかよー!」

 

 Roseliaの皆さんが去ってすぐ

 

 桐ケ谷さんが彼に抱き着き

 

 それに続いて、他の3人も衛宮君と密着した

 

 倉田さんと二葉さんまでとは、珍しいわね

 

七深「もう~!広町は嬉しすぎて叫んじゃいそうだったよ~!」

ましろ「嬉しかった......衛宮君が、私たちを選んでくれて......///」

つくし「え、衛宮君は副リーダーだから当たり前だけどね!......でも、よかった///」

楓「え、えっと、副リーダーは初耳だけど、そうですね......」

ましろ、透子、七深、つくし、瑠唯「?」

 

 彼の歯切れが悪くなった

 

 少しだけ、顔が赤い気がする

 

 そんな彼を見てると、小さく口を開いた

 

楓「......大好きです、皆のこと。」

ましろ、透子、つくし、七深「はうっ!///」

瑠唯「......っ!///」

楓「えぇ!?皆、ど、どうしたんですか!?」

 

 私たちは全員、彼から目をそらし、悶え始めた

 

 彼は慌てた様子で私たちを心配してるけど

 

 どうしたも何もない

 

 あんなに可愛らしくあんなことを言われてしまったら

 

 そんなの、私たちはこうなってしまうに決まってるわ

 

ましろ「これ、無理ぃ......///」

透子「可愛すぎだろ......///」

七深「もう、付き合うことを前提に結婚したい~......///」

つくし「天使......///」

瑠唯(本当に、彼は......///)

楓「だ、大丈夫ですか!?ライブで疲れすぎちゃいましたか!?」

 

 それからしばらく、私たちは悶え続け

 

 それが終わった後は控室に戻り

 

 彼のことを4人が褒め倒し、彼が慌てながら照れるという、何とも微笑ましい光景を見ることができた

 

 

 



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ライブ終了後

 ライブが終わって、僕は家に帰ってきた

 

 桐ケ谷さんは打ち上げをしようと言ってたけど

 

 皆に疲れの色が見えたので、止めて

 

 打ち上げは後日ということで、今日は解散した

 

楓「ただいまー、いわさーん。」

磐長姫『おかえり、楓。どうだった?』

楓「ライブは大成功だったよ。本当に良かった。』

磐長姫『楓が嬉しそうで良かった。』

 

 いわさんは優しく微笑んだ

 

 そんなに僕、態度に出てるのかな?

 

 そうだと、ちょっと恥ずかしいんだけど

 

楓「まぁ、嬉しいよ。ずっと頑張ってた皆を見てたからね。」

磐長姫『そっか。』

楓「ん?」

 

 いわさんと話してると

 

 ポケットに入れてある携帯が鳴った

 

 メッセージが来てたのは、バンドのグループだ

 

楓「あっ、桐ケ谷さんだ。これは......」

磐長姫『写真だね。』

楓「......!」

 

 画面に表示されているのは、ステージから見る観客席の景色だった

 

 写真だからグチャグチャの色は見えない

 

 キラキラした、ステージからの景色が写ってる

 

透子『衛宮にもこの景色を見てほしくてさ!撮らせてもらったんだ!』

七深『これで気分だけでも私たちとステージに立ってね~!』

つくし『衛宮君も、大切なメンバーだよ!』

ましろ『今日までありがとう!これからも一緒に頑張ろうね!』

瑠唯『今日はお疲れ様。今日の成功はあなたの的確なアドバイスがあってこそよ。』

楓「みんな......」

 

 僕は感極まるのをこらえ、『ありがとう』とメッセージを送った

 

 皆、僕のこと持ち上げすぎだよ......

 

 本当に、何もしてないのに

 

楓「皆の役に立てて、良かった......」

 

 助けてもらってばかりの人生で

 

 初めて、誰かの役に立つことができた

 

 本当に、良かった......

 

磐長姫『よかったね、楓。』

楓「うん。すごく嬉しい__っ!!!」

磐長姫『楓!?』

楓「げほっ!ごほっ、ごほっ!!!」

 

 その時、僕の体に異変が起きた

 

 心臓が何かに握りつぶされるような感覚に襲われ

 

 咳が止まらなくなった

 

 息もうまくできなくて

 

 たまらず、僕は床に膝をついた

 

楓「な、なん__ごほっ!!」

磐長姫(血!?馬鹿な、なんで......!?)

楓「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ......っ!!!」

 

 何が何だかわからない

 

 なんか、手に赤いものがついてる

 

 口の中が鉄の味がする

 

 なんだ、なんなんだ、これは......?

 

磐長姫(仕方ない!衛宮凪沙に念力を送って!!)

 

凪沙「__楓!?どうしたの__っ!?」

楓「おにい、ちゃん......?」

凪沙(吐血!?そんな馬鹿な!?まさか病気の再発!?いや、慌ててる場合じゃない。救急車だ、救急車を呼ばないと!)

 

 お兄ちゃんの色が見える

 

 なんでだろ......?

 

 気づいてくれたのかな......?

 

凪沙「楓!気を確かに持つんだよ!すぐに救急車が来るから!」

楓(ダメ、だ......も、う、いきし、が......)

 

 お兄ちゃんの声がだんだんと遠くに聞こえる

 

 でも、もう、限界だ......

 

 心臓が痛む感覚と水の中にいるような息苦しさを感じながら

 

 僕は微かに残っていた意識を手放した

_____________________

 

 “瑠唯”

 

 ライブの翌日の今日は学校の始業式

 

 2学期という最も長い学期が始まる日

 

 けれど、私には別に気怠さはない

 

 私は今まで通り、学校生活を送るだけ

 

 そして何より、今は衛宮君がいるもの

 

 彼を一目見れば、どんな疲れも吹き飛ぶわ

 

透子「__ルイ!ルイっ!!」

瑠唯「......桐ケ谷さん?」

 

 こんな朝に騒々しいと思いながら

 

 私は教室に入ってきた桐ケ谷さんの方を見た

 

 朝から何なのかしら......

 

瑠唯「何かあったの?」

透子「なにかあったのじゃないって!衛宮が倒れた!!」

瑠唯「え......?」

 

 その言葉を聞いて、頭の中が真っ白になった

 

 彼が、倒れた?

 

 昨日はあんなに元気そうだったのに?

 

透子「さっき、衛宮先生からあたしに連絡入ってさ、病院に運ばれたって!!」

瑠唯(い、いったい彼に何が......それよりも、容体は......)

透子「あたし達、今からお見舞い言ってくるけど、ルイは!?」

瑠唯「......私も、行くわ。」

透子「!」

 

 私は生徒会

 

 今日は仕事がある

 

 けれど、彼が大変な状況の中で仕事はできない

 

透子「じゃあ、行くぞ!タクシーは呼んでるから!」

瑠唯「えぇ......!」

 

 私は大きく頷き

 

 自分の鞄をもって教室を出た

_____________________

 

 “楓”

 

 体と頭と目の奥が痛い

 

 目を覚まして始めに感じたのはそれだった

 

 僕には慣れ親しんだ感覚だけど

 

 少しだけ、久しぶりに感じる

 

楓(懐かしな、この感じ......)

 

 オキシメーターの音に人工呼吸器

 

 腕に刺さってる点滴

 

 この感じ、なんて言うんだろ

 

 実家のような安心感(?)

 

凪沙「__あっ!起きたんだね、楓!」

楓(お兄ちゃんだ。)

ナース「呼吸器外しますねー。」

 

 しばらくボーっとしてると

 

 お兄ちゃんとナースさんが部屋に入ってきた

 

 ナースさんは慣れた手つきで呼吸器を外してくれて

 

 やっと、喋りやすくなった

 

凪沙「いやー!無事でよかったー!」

楓「わわっ!お兄ちゃん、急に抱き着かないでよ!」

凪沙「あはは!楓は本当にかわいいねー!」

 

 く、苦しい......

 

 ちょっと、抱き着く力が強いよ......

 

 いや、別にいいんだけどね......?

 

凪沙「っと、楓を堪能するのも程々にしないとね。」

楓「あれ、そういえば今日って始業式じゃなかった?」

凪沙「そうだけど。まぁ、僕が楓以上に優先することなんてないよね!」

楓「お仕事してよ......もうっ。」

凪沙(......やっぱり、ツッコミのキレがいつもよりないか。)

楓「?」

 

 お兄ちゃんに不安の色が見える

 

 かなり珍しい

 

 いつもはずっと楽しそうな色をしてるのに

 

凪沙「取り合えず、楓は3日は入院ってことになったから。本とかいっぱい持ってきたよ。」

楓「そんなに必要かな?もう大丈夫だと思うけど。」

凪沙「大事をとってね。あんな風になってたのは久しぶりだし。」

楓「うーん、そっかぁ......」

 

 新学期早々、3日もお休み......

 

 先が思いやられるなぁ......

 

楓「あ、夏休みの課題提出しておいてほしいな。」

凪沙「楓は真面目だね。僕は課題なんて一度も出したことないよ。」

楓「出すのが普通なんだけどね......」

 

 お兄ちゃんが普通だったことはないか

 

 テストはいつも100点だったし

 

 僕にはちょっと真似できないなぁ......

 

楓「お兄ちゃん、今日もお仕事でしょ?」

凪沙「え?別に休んでもいいけど。」

楓「駄目だよ。他の先生の迷惑になっちゃうし。」

凪沙「ふーむ......そうだなぁ。あんまり勝手なことすると楓の印象にもかかわってくるし、仕方ないか。」

 

 そういう問題じゃないんだけどね

 

 いや、お兄ちゃんはいつもこんな感じか

 

 もう少し、落ち着いてほしい......

 

 可愛がってくれるのは嬉しいけど......

 

凪沙「楓の課題出すついでに行ってこようか。でも、不安だなぁ。誰か見てくる人がいればいいんだけど。」

透子『__衛宮?起きてる?』

凪沙「おぉっ。」

楓「えっと、桐ケ谷さん?」

透子「おっ!起きてる~!良かった~!」

ましろ「だ、大丈夫......?」

つくし「よかったぁ、生きてて......」

七深「かえくん~!」

瑠唯「......無事で、何よりよ。」

 

 えっと、なんで?

 

 なんで、皆がここに?

 

 今日って始業式だよね?

 

 まだ終わってる時間じゃないよね?

 

楓「なんでここに?」

透子「なんでも何もないだろ!心配だから来たんだよ!」

楓「あの、学校は......」

ましろ、透子、七深、つくし「早退した!」

瑠唯「......右に同じよ。」

楓「わ、わざわざ、すみません......」

 

 心配、してくれたんだ......

 

 これは初めてだな

 

 お友達がお見舞いに来てくれるなんて

 

つくし「今はどういう状態なの?」

楓「一応、3日は入院することになってるかな。僕はもう大丈夫だと思うんだけど。」

ましろ「ほ、本当に大丈夫......?」

楓「うん、大丈夫。息苦しさももうないし。」

 

 昨日が嘘みたいに健康だ

 

 いつもと何も変わらない

 

 強いて言うなら、少し体力がない位で

 

凪沙「皆に楓のことは任せてよさそうだね。」

瑠唯「はい。責任をもって、衛宮君のことを見ておきます。」

凪沙「じゃあ、お願いするよ。楓をよろしくね。」

楓「またね、お兄ちゃん。」

凪沙「うん!楓のために頑張ってくるよ!じゃあねー!」

 

 そう言って、お兄ちゃんは病室から出て行った

 

 できれば、自分のために頑張ってほしいけど

 

 仕方ないか、お兄ちゃんだし

 

つくし「衛宮君、リンゴ食べる?」

ましろ「本の読み聞かせ、する......?」

七深「広町が添い寝してあげるよ~!」

透子「いやいや!あたしとSNS見よ!」

瑠唯「......静かにするという選択肢はないのかしら。」

楓「あ、あはは......」

 

 それから、皆は長い時間病室にいて

 

 面会時間が終わるまで、交代で僕の話し相手になってくれたりした

 

 今まで、退屈だと思ってた入院だったけど

 

 今日は、すごく楽しいと思えた

 

 

 




クリスマスネタ書こうと思ってるので、見たいシリーズと組み合わせとかあれば教えてください。


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宣戦布告

 なんだかんだで入院3日目に突入した

 

 一応、今日の夜に退院することになってるから

 

 明日から学校に行ける

 

(コンコン)

楓「ん?はーい。」

?「失礼するよ。楓君。」

楓「あ、先生!」

 

 この人は藤朱音先生

 

 小さい頃からお世話になってる人で

 

 忙しいのに、僕のことをずっと気にかけてくれてる

 

 すごく優しい人だ

 

楓「どうしたんですか?」

朱音「少し話しておきたいことがあってね。座るよ?」

楓「はい、どうぞ?」

 

 どうしたんだろ?

 

 いつもの健康調査はもう終わったし

 

 何の話かな?

 

朱音「さて、楓君。私の言いたいことがわかるかな?」

楓「???」

朱音「......君は相変わらず、流石だね。」

 

 先生は大きな溜息をついた

 

 え、僕、何かしちゃったの?

 

朱音「楓君。君は無理をし過ぎだ。」

楓「え?そうですか?」

朱音「そうだよ。本来なら、君にはずっとベッドの上にいて欲しい位なんだから。」

楓「あ、そ、それはー......」

 

 今まで何回も言われた

 

 けど、僕はもう元気になったし

 

 健康診断でも、少し問題はあるにしても、小さい時ほど酷くはないし

 

朱音「君だって少しでも長生きしたいだろう?なら、大人しくしていた方が__。」

楓「いえ、別に長生きに興味はありません。」

朱音「......!」

 

 僕がそういうと、先生は目を見開いた

 

 本気で驚いてるみたいだ

 

 こんな先生、初めて見たかも

 

楓「きっと、ベッドの上で大人しくしていれば、長く生きられるかもしれません。けど。」

朱音「分かるよ。それじゃあ意味がない、だろ?」

楓「はい。」

 

 僕は深く頷いた

 

 先生は家族の次によく一緒にいた人だ

 

 だから、僕のこともよく理解してくれてる

 

楓「ベッドの上で大人しくして1年生きるより、誰かのために頑張って1日生きる方が、価値があると思うんです。」

朱音「全く、君の思考は正義のヒーローのそれだな......」

楓「そうですか?そんなにかっこいいものじゃないと思いますけど。」

朱音「かっこいいよ、君は。」

 

 先生はそう言って、フッと笑った

 

 ちょっと照れるなぁ

 

 かっこいいって全然言われないし

 

朱音「私は君の担当医であると同時に、ファンなんだ。ここまで自分の意志を貫こうとする人間は初めて見たからね。」

楓「あはは、そんなことはないと思いますけど。」

朱音「君は究極の頑固者だよ。普通の人間なら今頃、ずっとベッドの上にいるか、命を落としてる。」

楓「頑固者ですかね?僕?」

 

 結構素直な方だと思ってたんだけど......

 

 先生から見れば頑固者なんだ

 

 いや、いい意味でってことにしておこう、うん

 

朱音「でもね、楓君。これだけはハッキリ言っておくよ。」

楓「?」

 

 先生の色が暗くなった

 

 目も、さっきよりも鋭くなってる

 

 それを見て、僕は息をのんだ

 

朱音「私にもはっきりとは分からないが......君はもう、長くない。」

楓「っ......!」

朱音「1年かもしれないし、2年かもしれない。もしかしたら、半年かもしれない。けれど、これだけは確信を持って言える。君の命は、もう......」

楓「......そうですか。」

 

 特段、驚くこともなかった

 

 小さい時から言われてたことだし

 

 昔から当たり前にあるものとして受け入れてる

 

 言ってしまえば、今更、かな?

 

楓「なら、もっと頑張らないといけないですね!」

朱音「......ん?」

楓「僕には今、素敵なお友達がいるんです!その子たちのバンドのために、今は全力を尽くそうと思います!」

朱音「全く君は......」

 

 「脳にも何かあるんじゃないか?」

 

 そう言って、大笑いする先生

 

 バカが病気なのかは微妙な所だけど......

 

朱音「君の愚直さはもはや尊敬の域だよ。」

 

 先生はそう言って立ち上がった

 

 今日はよく笑うなぁ

 

 こんな日は十数年間で初めてかも

 

朱音「そろそろ失礼するよ。」

楓「あ、はい!さようなら!」

朱音「あぁ。また、何かあったら呼んでくれ。」

 

 先生は手を振りながら病室から出て行った

 

 僕はそれを見送って

 

 特にやることもないので、まだ読んでない本を読むことにした

_____________________

 

 “瑠唯”

 

 彼が入院し始めて3日目

 

 明日から、登校してくることになっている

 

 何度かお見舞いに行ったけれど、元気そうで良かった

 

透子「ルイー!練習行くよ!」

瑠唯「えぇ。」

七深「るいるい~、今日はどこから練習する~?」

瑠唯「そうね。昨日の時点でまだ粗い部分があったから、そこからね。」

つくし「き、厳しいね。」

ましろ「で、でも、衛宮君が戻ってくるまで、頑張ろう......!」

 

 彼がいないまま練習していると、彼の存在の大きさを感じる

 

 練習の効率が明らかに下がるし

 

 何より、モチベーションに天と地ほどの差がある

 

?「あらあら、これはこれは。」

瑠唯「?」

 

 5人集まって廊下を歩いていると

 

 前から長い金髪の女子生徒が歩いてきた

 

 彼女は、確か......

 

瑠唯(......白鳥穂希さん?)

 

 確か、そうだったはず

 

 名家である白鳥家の長女で

 

 1年ながら時期生徒会長候補に名前が挙がってる

 

 けど、珍しいわね

 

 彼女が話しかけてくるなんて

 

穂希「最近、学外で話題になっている月ノ森で結成されたバンドらしいですわね。」

透子「まぁね~!あたしが作ったんだから!」

つくし「もうっ、すぐに調子乗るんだから......」

透子「いいじゃん!」

穂希「そうですよ?結果を残したんでるから、少しくらい喜んでもいいと思います。」

透子「だよね~!」

 

 桐ケ谷さんは目に見えて調子に乗ってる

 

 あとで締めておかないといけないわね

 

穂希「ですが......」

ましろ「?」

瑠唯(倉田さん?)

 

 白鳥さんは倉田さんの方をちらっと見て

 

 口角を少しだけあげ

 

 ゆっくり、口を開いた

 

穂希「ボーカルのあなた、少し微妙すぎではありませんこと?」

ましろ「え......?」

透子、七深、つくし、瑠唯「!」

穂希「歌唱力は並以下、ビジュアルも地味。正直、八潮さんに救われている部分も多いのではなくて?」

 

 あからさまに倉田さんを見下している

 

 それが態度でよくわかる

 

七深「......何が言いたいの~?勿体ぶらずに本題言えば~?」

 

 広町さんが敵意むき出しで白鳥さんに詰め寄った

 

 その声を聴いて、背筋が寒くなった

 

 怒ってる、あの温和な彼女が

 

穂希「単刀直入に言いますと、彼女を脱退させて、私をボーカルにしてほしいのです。」

透子「......は?」

穂希「私は学外のコーラスコンクールで結果も残していますし、ビジュアルも見ての通り。月ノ森ブランドを守るには、十分な人材だと思います。それに比べて彼女は、すべてが三流。私が劣っている部分なんて、微塵たりともありませんわ。」

瑠唯「......」

 

 彼女の狙いは大体わかった

 

 学外で話題になった私たちのバンドに入り

 

 地位と名声の向上を狙う

 

 そんな欲望が透けて見える

 

穂希「彼女は所詮は外部生。月ノ森ブランドには相応しくありません。まぁ?雑用としてなら残っても構いませんが。」

ましろ「うぅ......っ。」

透子「お前、ふざけ__」

穂希「リーダーは二葉さんの様ですわね?どうですか?新ボーカルに私は?」

つくし「え、えっと......」

 

 二葉さんは白鳥さんの雰囲気に押されてる

 

 まるで、蛇に睨まれた蛙のようだわ

 

 怒りを感じていても、口には出せない

 

 そんな風に見える

 

 このままでは、倉田さんの立場は......

 

瑠唯「......」

 

 少し、考える

 

 倉田さんは確かに、地味な生徒といえる

 

 けれど、彼女は誰よりも練習に熱心に取り組んでいた

 

 悩んで、試行錯誤して、やっとの思いで形になった

 

 今のバンドの色というのは、彼女がいてこそだと

 

 私は勝手に解釈している

 

 そんな彼女がいなくなれば、バンドのバランスが崩れる

 

 そして、なにより......彼の居場所を奪うわけにはいかない

 

瑠唯「あなたは何もわかっていないわね。」

穂希「?」

瑠唯「私たちには、今のレベルまで来れた要因である人物がいるのよ。その彼を差し置いてメンバーを変えるなんて失礼、私には考えられないわ。」

透子、七深、つくし「!!」

ましろ「る、瑠唯さん......」

 

 私が口を開くと、全員の視線が集まった

 

 この状況を打開するための方法

 

 それはまず、時間稼ぎをすること

 

 そのために、この場は乗り切らないといけない

 

瑠唯「彼はこのバンドの副リーダー。どちらにしろ、彼の承認は必要不可欠よ。」

穂希「そうなのですね?その方は一体どなたで?」

瑠唯「衛宮楓君。彼こそ、私たちのレベルを飛躍的に上げた敏腕マネージャーよ。」

穂希「衛宮楓......まさか、あの衛宮先生の弟さんですか。」

 

 彼女はそう呟くとバッと後ろを振り返り

 

 私たちに背中を向けた

 

穂希「流石に、相手が相手ですわね。仕方がありません。後日、衛宮さんにご挨拶いたしましょう。」

 

 そう言って白鳥さんは歩き出した

 

 その刹那、彼女は口が小さく動いた

 

穂希「......衛宮さんも分かってくれるでしょう。私の方がボーカルにふさわしいと。」

 

 そんな捨て台詞を残し

 

 彼女は去って行った

 

 それと同時に4人の緊張が解かれた

 

透子「ルイがシロを守るって、珍しいじゃん。」

瑠唯「......彼のためよ。退院してきたらメンバーが変わってるなんて、彼に顔向けできないもの。」

ましろ「る、るいさん、ありがとう......!」

瑠唯「お礼を言ってる暇はないわ。このことを彼に報告するわよ。」

七深「うん、そうだね~!」

つくし「じゃあ、病院に行こ?お手伝いも必要かもしれないし!」

 

 この後、私たちは彼のいる病院に向かった

 

 正直、この先の展開は予想ができない

 

 けれど、私にできることはしていこうと思う

 

 彼の居場所を守るためにも

 

 

 



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宣戦布告返し

 “瑠唯”

 

 放課後、私達は彼のいる病室に来た

 

 そこで彼に今日あったことを報告し

 

 そして、現在に至る

 

楓「......なるほど。」

 

 彼は下を向いて、考え込んでいる

 

 表情も感情も読み取れない

 

 ただ、無表情で思考している

 

楓「......」

瑠唯「......っ!」

 

 その時、彼の目が一瞬だけ見えた

 

 それと同時に、私の背筋が凍った

 

 ひどく冷たい目をしていた

 

 いつもは優しい目をしているあの彼が

 

楓「分かりました......取り合えず、話をしましょう。あちらの話を聞かないと、筋が通らないので。」

ましろ、透子、七深、つくし「......!」

 

 完全に、怒っている

 

 声を聞いて、確信に変わった

 

 初めて見たかもしれない、こんな彼は

 

楓「明日から僕も登校出来るので、取り合えず、その人の話を聞きます。」

 

 そう言って、彼は自分の荷物を持った

 

 もう、退院の準備は出来ているらしい

 

楓「皆、ありがとうございました。毎日お見舞いに来てくれて、嬉しかったです。」

透子「あ、当たり前じゃん!」

七深「ほんとはつきっきりで看病したかったくらいだよ~!」

つくし「気にしなくてもいいよ!」

楓「あと、倉田さん。」

 

 彼は倉田さんの方を向いた

 

 その表情はいつも通り、優しく笑っていて

 

 ホッと心が温かくなる

 

楓「大丈夫だから、安心して。」

ましろ「衛宮君......」

楓「悠然と飛ぶ蝶の羽は、誰にも汚せはしないから。」

 

 彼はそういった後、病室を出ていき

 

 私たちも着いて行った

 

 最後の言葉......

 

 彼にしては珍しく、自信に満ち溢れていて

 

 少しだけ、胸騒ぎがした

_____________________

 

 “楓”

 

 この感情は何だろうか

 

 怒り、と言うには落ち着きすぎているし

 

 怒ってないと言われれば、それも違う

 

 こんな感情を抱いたのは、初めてだ

 

楓(......)

 

 僕ごときに何ができるか分からない

 

 きっと、今から来るのは、僕なんかよりすごい人だ

 

 そんな人をどうこうできるわけがない

 

 けれど、それでも、引き下がれない

 

透子「__連れてきたよ、衛宮。」

楓「!」

穂希「お久しぶりですわね、衛宮さん♪」

楓「え?(話したこと、あったっけ?)」

 

 お、覚えてない

 

 どこだ?どこで話した?

 

 バンドの皆以外とはほとんど話してないのに

 

穂希「あら?覚えておられませんか?お兄様のことで教室に伺ったのですが。」

楓「......あっ。」

 

 あの時か

 

 確かに、あの時は人も多かったし

 

 1人1人をちゃんと覚えてるわけがない

 

瑠唯「世間話もいいけれど、さっさと本題に入った方がいいのではないかしら?」

楓「そ、そうですね。(会話に困ってたから助かったぁ......)」

穂希「そうですわね。」

 

 そう言って、白鳥さんは僕の前に座った

 

 話を聞いた段階で、自分に自信がある人だと思ったけど

 

 直接見たらさらにわかる

 

 この人の色は、自信に満ち溢れている

 

楓「大体のお話は聞いています。」

穂希「でしたら話は早いですわね。あなた達のバンドのボーカル交代を要求しますわ。」

楓「......!」

 

 迷いなく言ってきた

 

 これは、早く話を進めたいいんだ

 

 自分が断られるわけがないと思ってるんだ

 

穂希「歌唱力、ビジュアル、経験値。その全てを兼ね備えた私ならば、月ノ森ブランドを背負うのに相応しいでしょう?」

楓「......」

穂希「あなたの人を見る目は確かだと聞いております。そんなあなたなら、真に正しい決断を下していただけると信じていますわ。」

 

 絶対的な自信だ

 

 勝ちを確信した時の色をしてる

 

 普通なら、この人の誘いを断ることはない

 

 そう、普通の、寄せ集めのバンドなら

 

楓「悪いですけど。あなたの色じゃ、皆とかみ合いませんよ?」

穂希「......はい?」

楓「あなたがコーラスコンクールで結果を残しているのは聞いています。そして、八潮さんに過去の映像を見せてもらいました。」

 

 確かに、すごいと思った

 

 綺麗で良く通る声で

 

 体の使い方だって、レベルが違った

 

 けれど、それでも、僕は確信できた

 

 彼女では、皆のバンドには嚙み合わないと

 

楓「あなたの色では、皆の演奏をくすませてしまう。そもそも、あなたでは倉田さんが書いた歌詞は歌えない。」

穂希「何を根拠にそういうのですか?」

楓「あなたが倉田さんじゃないことです。」

穂希「......は?」

 

 僕の言葉に白鳥さんが首をかしげる

 

 ちょっとおかしいことを言ってるかもしれない

 

 けど、事実だからこう言うしかないんだ

 

楓「倉田さんの書く歌詞は、倉田さんの世界なんです。真に理解できるのは本人だけで、他の人間では真の深みには到達出来はしない。」

穂希「それでも、歌唱力の差は明白ではなくて?いくら歌詞の意味を汲み取れても、お客様は歌の巧拙でしか評価しません。」

楓「本当にそうでしょうか?」

 

 白鳥さんのカウンターにひるまず

 

 すかさず反撃する

 

楓「心というものは伝わります。上手い下手を超えた心を表現するのが、バンドです。白鳥さんはありませんか?」

穂希「何をでしょうか?」

楓「......自分の思いの丈を込めて、歌ったことはありませんか?」

穂希「......っ!」

 

 白鳥さんの色が乱れた

 

 見るからに動揺してる

 

 やっぱり、僕の予想通りだ

 

穂希「そ、そんなことに、意味は......」

楓「だからあなたは、結果しか残せない。」

穂希「なっ......!?」

楓「コンクールで優勝して、あなたは何を感じましたか?」

穂希「......っ。」

 

 色がどんどん曇っていく

 

 これは、あまり見ない変化だ

 

 色から今の心境が読み取りづらくなった

 

楓「当たり前と思って喜びや達成感を感じられなかったなら、あなたはバンドには向いていません。」

穂希「......ですか。」

楓「......?」

穂希「それが何だというのですか!?」

楓「!」

 

 キーンと甲高い声が耳に響いた

 

 すごい声だ

 

 耳を通り越して頭蓋骨まで割れるかと思った

 

穂希「私は、あの程度では月ノ森の名に傷がつくと言ってるのですよ!」

楓「そもそも、それが勘違い、ですよ。」

穂希「はぁ......?」

楓「このバンドは、月ノ森で出来たバンドというだけで、月ノ森のバンドではありません。」

穂希「......!!!」

 

 これはもう、屁理屈という他ない

 

 けど、結構もっともらしいでしょ?

 

穂希「......そう来ますか。ならばこちらも、容赦しません。私を認めないなんて、許されません。」

楓「......?」

穂希「私は1年生にして、次の生徒会長候補筆頭と言われているんですよ?」

楓「!(まさか......!)」

 

 白鳥さんの色がくすみ切った

 

 完全に汚れた

 

 もう、今の彼女に気高さなんてものはない

 

穂希「私が生徒会長になった暁には、生徒会が公認しない課外活動を禁止することとします!」

楓「......!(しまった......!)」

透子(やっばいじゃん!)

つくし(もしも、本当にあの子が生徒会長になったら......)

瑠唯(本当にやりかねないわね。)

 

 どうすればいいんだ......!?

 

 彼女の色は本気だ

 

 正直、話し合いが通じるとは今の様子を見たら思えないし

 

 どうすれば......

 

穂希「私を愚弄したこと、後悔させてあげますわ!」

楓「......そ、それは、どうでしょうか?」

穂希「まだ何かあるんですの?」

楓「あなたが生徒会長になれば、僕たちは終わりです。なら、やることは一つですよね?」

七深(ま、まさか......!)

ましろ(......??)

 

 正直、出来る自信はない

 

 けど、倉田さんを侮辱されて、僕だって怒ってるんだ

 

 この人には、やり返さないと気が済まない

 

楓「僕が、次の生徒会長になります......っ!」

穂希「!?」

楓「そうなれば、バンドは存続できますよね?」

穂希「......出来るものなら、やってみなさい。」

 

 白鳥さんはそう言って、席を立った

 

 そして、すごい目つきで僕を睨みつけた

 

穂希「教えてあげますよ。あなたの言葉が、いかに愚かなのかを。」

楓「そう言われて引き下がれるほど、僕は賢くないので。」

穂希「......ふんっ。」

 

 白鳥さんはそっぽを向いて教室を出て行った

 

 ......さて、後先考えずにすごい大口叩いちゃったけど

 

 この状況、どうしよう......

 

 

 




今年のクリスマスはましろの話を2本投稿します。(一つは外伝の方で)


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突破口

 “瑠唯”

 

 無謀だと思った

 

 100年にもなる月ノ森の歴史の中で

 

 外部生で生徒会長になった人物はいない

 

 そもそも、1年生で生徒会長になること自体難しい

 

 そんなことを達成できたとしたら

 

 間違いなく、月ノ森の歴史に名を残すことになる

 

楓「__失礼しました!」

瑠唯「!」

 

 そんなことを考えてるうちに彼が職員室から出てきた

 

 生徒会長への立候補をもう終えたらしい

 

楓「い、いやー、緊張しますね。あはは。」

 

 出て来てすぐに、苦笑いを浮かべる彼

 

 気持ちは分かる

 

 端から見れば、無謀な挑戦だもの

 

つくし「それで、勝算とかあるの?」

楓「え?今から考えるけど。」

ましろ「えぇ!?」

楓「完全に見切り発車だし、やれることをやるしかないね!」

瑠唯「......」

 

 彼らしいわね

 

 考えるよりも先に行動するところが

 

 あの時も、そうだったもの......

 

七深「でも実際、相当厳しいね~......」

透子「いや、もしかしたら、意外とそうでもないかも。」

ましろ、つくし、七深「え?」

瑠唯「どういうことなの?」

透子「まぁ、明日になればわかるんじゃね?」

楓、瑠唯「......?」

 

 桐ケ谷さんの自信ありげな様子を疑問に思いつつも

 

 その日は、解散することにした

 

 明日から選挙活動が始まるけれど

 

 出来る協力はすることにしましょう

_____________________

 

 “楓”

 

楓(が、頑張るぞー!)

 

 次の日の早朝

 

 僕は校門の前に立ってる

 

 応援してもらえるように挨拶したりするらしい

 

 けど、僕なんて相手にされるのかなぁ......

 

楓(い、いやいや、気づいてくれるように挨拶することが大事だよね。)

 

 今まで病院か図書室にいたし

 

 コミュニケーションとるのは下手だけど!

 

 まぁ、元気に挨拶すれば1人くらいは覚えてくれる!

 

 ......かもしれない!

 

楓「(あっ、来た!挨拶してみよう!)お、おはようございま__」

「おー!君、衛宮楓君だろ?」

楓「え?」

「噂は聞いてるよ!生徒会長に立候補したんだってね」

「期待してるよ。」

楓「あ、ありがとうございます!(ん?)」

 

 あれ?なんで僕のこと知ってるんだ?

 

 しかも、結構応援されてるし

 

 どういうこと?

 

「あっ!衛宮君!」

「頑張ってねー!」

楓「あ、ありがとうございます!」

 

 その後に来た人たちも、僕を応援してくれてる

 

 一体、何が起きてるんだ?

 

 ど、ドッキリでは......?

 

 い、いや、そんな色はしてない

 

 取り合えず挨拶は続けないと

 

 僕はそう思い、来た人に挨拶をしていった

 

 

 “瑠唯”

 

瑠唯「これは、どういうこと?」

透子「ん?」

 

 心配で中庭から彼の様子を見ていると

 

 信じがたい光景が見られた

 

 来る人のほとんどが彼に好意的な反応を示してる

 

透子「まぁ、衛宮のこと嫌いな奴なんて性格悪いやつ以外いないんだけどさ。一番の理由はこれかな?」

ましろ「こ、これは?」

透子「所謂、裏サイトってやつ。結構な人数が見てるんだよ?」

七深「へぇ~。でも、それとかえ君にどんな関係があるの~?」

透子「これ、見てみ?」

 

 桐ケ谷さんはそういい、携帯画面を見せてきた

 

 そこには何枚かの衛宮君の写真と称賛するような文章が載っている

 

 これは、一体......?

 

透子「衛宮、月ノ森に来てから色々してるからね~。実は隠れて評価してるのがいるみたい。」

七深「えぇ!?そうなの~!?」

透子「そりゃそうでしょ。ルイ助けたところもいろんな生徒に見られてるし、それに、一番効果あったのは、これかな?」

ましろ、つくし、七深、瑠唯「?」

 

 画面に映されるのは体育館の動画

 

 端にある日付は始業式の日のもの

 

 この時は、確か......

 

楓『__もうっ!!お兄ちゃん!!』

ましろ、つくし、七深、瑠唯「!?///」

透子「これで、月ノ森中の上級生がみんな、お姉ちゃんやお兄ちゃんなった。」

ましろ、つくし、七深(わかる......っ!///)

瑠唯(か、可愛らしすぎるわよっ///)

 

 納得した

 

 むしろ、なるべくしてなったというべきね

 

 だって、こんなに真面目で可愛らしいんだもの

 

透子「それに加えて、白鳥は胡坐かいてる頃だろうし......」

つくし「確かに、可能性はゼロじゃない。」

瑠唯「......見ものね。」

ましろ「るいさん......?」

瑠唯「これがあるとしても、彼が勝つことは厳しいと思うわ。」

 

 仮に今から下馬評を作ったとすれば

 

 流石にまだ、白鳥さんが優勢となるはず

 

 1年生から注目される彼女という壁は、厚い

 

七深「......順当を壊すのが、かえ君だからね~。」

透子「ななみ?」

七深「あの目、懐かしいよ。」

 

 広町さんが、優しい目で彼を見ている

 

 彼女と彼の間に何があったかは分からない

 

 あの指の傷の意味も私は知らない......

 

七深「かえ君は本気だよ。あの時と同じ目をしてるから。」

瑠唯「......!」

 

 彼女の目にも自信めいたものがあった

 

 私も、彼に感じるものはある

 

 けれど、未だに確信が持てない

 

 果たして、どんな結末を迎えるのか

 

 私には、想像ができない

_____________________

 

 “楓”

 

 あれから3日間、僕は校門に立って挨拶し続けた

 

 取り合えず、いろんな人に親しみの色を持ってもらえてる

 

 けど、分かってる、まだ足りないって

 

 僕ではまだ、勝てないって

 

楓(えーっと、こうかなー?)

 

 放課後、僕は演説の原稿を作ってる

 

 間違いなく、これは最後のチャンス

 

 ここで心をつかめないと、終わりだ

 

瑠唯「頑張ってるわね。」

楓「あ!八潮さん!」

 

 しばらく1人でうなってると

 

 八潮さんがドアを開けて教室に入ってきた

 

 どうしたのかな?

 

楓「座りますか?」

瑠唯「えぇ。お邪魔するわ。」

楓「邪魔だなんてそんな!1人じゃ心細かったので良かったです!」

 

 僕がそう言うと、八潮さんは僕の前の椅子に座った

 

 それを確認して

 

 原稿の作成を再開した

 

楓「......」

瑠唯「......」

 

 沈黙が流れる

 

 聞こえるのは僕が文字を書くときに出るペンの音だけだ

 

 でも、それがいい

 

 八潮さんの纏う空気が心地いいから

 

瑠唯「......あなたは。」

楓「?」

瑠唯「どうして、そこまで必死になるの?」

 

 しばらくすると、八潮さんはそう口を開いた

 

 やっぱり、バレちゃってるのかな?

 

 バンドを存続させること以外の理由があること

 

楓「......僕、倉田さんに憧れているんです。」

瑠唯「!!」

 

 僕の言葉に八潮さんは驚いた色をした

 

 あれ?そんなに意外かな?

 

瑠唯「な、なぜ?」

楓「倉田さんと僕の立場は似ているんです。高校から月ノ森に来て、周りとの才能差に打ちのめされてる所とか。」

瑠唯「......なるほど。」

楓「そんな人がステージに立って、歌って、色んな人に歓声を浴びてるんです。やっぱり、すごく憧れます。」

 

 あのライブの日は嬉しかった

 

 倉田さんが緊張しながらも楽しそうで

 

 努力の成果が出ていて

 

楓「だから、僕はまだ、倉田さんが飛ぶ姿をみたい。」

瑠唯「......そうね。」

楓「倉田さんが飛ぶ限り、バンドも成長する。そうして、いつか、もっと大きな舞台へ行ければ......」

 

 例えば、Roseliaの立つような大きな舞台

 

 そこに立って、皆が輝いてくれるようなことがあれば

 

 その時に、皆が笑顔なら......

 

楓「......僕の人生に、意味があったと思えると思うんです。」

瑠唯「......っ!」

楓「だからこそ。」

 

 僕は前に座ってる八潮さんを見て

 

 そして、小さく笑った

 

楓「勝ちます。死んでも。」

瑠唯「衛宮君......」

 

 僕は、拳を握りしめた

 

 そう、勝つしかないんだ

 

 命でもなんでもかけるんだ

 

 大切で大好きな、お友達のために

 

瑠唯(あなたは、懸けすぎよ。どうして、そこまで......)

楓「ありがとうございました、八潮さん。」

瑠唯「え?」

 

 八潮さんに頭を下げた

 

 今、改めて口に出して、分かった

 

楓「八潮さんのお陰で、自分のやるべきことがわかりました!」

瑠唯「やるべき、こと......?」

楓「はい!硬くなってた頭が解れたというか、見失ってた自分を取り戻せました!」

 

 僕はそう言って原稿用紙を鞄に直し

 

 そして、鞄を肩にかけた

 

 やることが決まれば、行動あるのみだ

 

楓「今日は帰りますね!」

瑠唯「え、えぇ。」

楓「さようなら!八潮さん!」

 

 そう挨拶をし、教室を出た

 

 見えた、僕にできることが

 

 白鳥さんには出来なくて、僕にできること

 

 それは......!

 

 

 



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番外編:勘違いクリスマス

 “ましろ”

 

 あの日から、色々あった

 

 衛宮君に助けられて、更に好きになって

 

 告白しようと思ってってたら、あの事件が起きて

 

 いろんな苦難があったけど、私たちは全部乗り越えて

 

 私は今、衛宮君とお付き合いしています

 

ましろ「__うぅ......どうしよう......」

透子「し、シロー?どうしたー?」

 

 そんな私ですが、たった今、危機を迎えています

 

 終業式までの数日間、衛宮君と一緒に帰ってないんです

 

 メッセージの返信も遅くなってるし

 

 これは......

 

ましろ「衛宮君が、浮気してるかも......」

透子「ない。」

七深「ありえないね~。」

つくし「絶対に勘違いだよ。」

瑠唯「ないわね。」

ましろ「!?」

 

 皆にほぼ同じタイミングで否定されました

 

 いや、まぁ、そうだよね......

 

つくし「衛宮君がそんな器用なわけないじゃん。」

透子「それな。」

七深「浮気するにしてもこの4人以外にいないしね~。」

瑠唯「彼は誠実な人よ。そんなことはまずありえないわ。」

 

 うん、知ってた

 

 でも確かに、衛宮君が浮気って考え難いよね

 

 仮に本当にしてるとしても、ななみちゃんの言う通り、この中の誰かだろうし

 

ましろ「やっぱり、勘違いなのかなー......?」

瑠唯「100%そうよ。」

 

 衛宮君を信じたい気持ちはあるけど

 

 やっぱり、ちょっと不安になる

 

 こうも今までと違うことが起きると、ね......?

 

透子「にしても、あの衛宮が浮気ねー。」

ましろ「最近、メッセージの返信も10分以上かかってて......」

透子「......ん?」

ましろ「あ、お風呂の時とかは別だよ?でも、それ以外だったら5分以内には返信してくれてたのに......」

透子「いや、そうじゃなくてさ......うん?」

 

 もしかして、何かに巻き込まれてるんじゃ......

 

 浮気をしてないとしたら......

 

 もしかして、何らかの事件に巻き込まれてる!?

 

つくし「ね、ねぇ、他には?何かあるの?浮気したって思う理由。」

ましろ「えっとね、放課後、すぐに帰っちゃうの。」

つくし(あ、それっぽいの来た。)

ましろ「朝は毎日一緒なんだけど、帰りは私のクラスまで来て声をかけるだけで......」

つくし「......へ?」

 

 放課後、人気の少ない道で抱き着くのが楽しみだったのに......!

 

 偶に買い食いとかしてたのに

 

七深「し、しろちゃん~......?」

ましろ「それだけじゃなくて、最近はそわそわしてるし、携帯をよく見るし......やっぱり、浮気なんだぁ......」

瑠唯(......これは。)

透子、七深、つくし(ばっ、バカバカしい......!!)

 

 衛宮君が他の人を好きになったら......

 

 どうしよう、余裕で死ぬ自信ある......

 

透子(メッセージの返信とか、1時間空くとかザラにあるし。)

七深(かえ君、忙しくなったから、本来は一緒に帰れない日の方が多いはずなんだけど......)

つくし(最近ソワソワしてるのは、あれだからじゃ......)

瑠唯(携帯は......そういえば、前に......)

 

 こ、これは、そうだ......!

 

 浮気調査をしよう......!(思い切り〇)

 

 もし浮気してたら......すっごく怒るっ!(可愛さ〇)

 

ましろ「私、行くよ......!」

つくし「どこに!?」

ましろ「行ってきます......!」

 

 私は皆にそう言い残して、アトリエを出た

 

 すごく怖いけど......

 

 浮気調査、しよう......!

_____________________

 

 というわけで今、衛宮君を尾行しています

 

 今日は用事で学校に行ってた衛宮君

 

 今のところは学校を出て

 

 いつも通らない道を歩いています

 

ましろ(ど、どこに行くんだろう。)

 

透子(何してんだよ。)←心配でついてきた

つくし(大丈夫かなぁ......)←同じ

七深(面白そ~。)←面白そうだから来た

瑠唯(何をしてるのかしら。)←何となくついて来た

 

 衛宮君は大通りに行き

 

 その中にあるお店に入っていきました

 

 これはまさか、浮気相手と待ち合わせ!?

 

透子(買い物だろ。)

ましろ(と、とりあえず、私も行こう。)

 

 私は衛宮君の後ろをついて行った

 

 ここは、お人形屋さん?

 

 ま、まさか、ここに......!

 

楓「__あのー、今日予約していた衛宮です。」

お姉さん「はーい!準備できてますよー!」

楓「あっ、プレゼント用にラッピングってできますか?」

お姉さん「はーい♪彼女さんへのプレゼントですか~?」

楓「あ、あはは、まぁ、そんな感じです。」

 

ましろ(楽しそうに話してる......あれが浮気相手!?)

つくし(店員さんっ!!)

 

 あっ、商品貰ったらお店出て行った

 

 あの人は店員さんだ!(当たり前)

 

 じゃあ、浮気相手は他にいる!?

 

ましろ(と、とりあえず、着いていこう!)

 

透子(なんで気づかない......)

七深(これ、あれだよね~。)

つくし(ましろちゃん......)

瑠唯(何を遊んでいるのかしら。)

 

 この調子で、衛宮君を尾行しよう

 

 浮気相手見つけたらどうするか分からないけど......

_____________________

 

 あれから、衛宮君を尾行して色々な所に行った

 

 お花屋さんに行って造花を買ったり

 

 いつも通り、困ってるおばあさんを助けたり

 

 その他にもマフラーとか、手袋とか、スノードームとか買ってた

 

ましろ(う、うう浮気相手への貢ぎ物!?)

 

 こんなにたくさん買うなんて

 

 浮気相手は、すごく欲張りな人!?

 

 衛宮君に貢がせるなんて......!許せない......!

 

透子(ねぇ、ななみ。これさ。)

七深(うん、間違いないね。)

つくし(衛宮君......)

瑠唯(全く......)

 

 えっと、次は公園......?

 

 なんで、ここに?

 

楓「えっと......なんでみんな、つけてるんですか?」

ましろ、透子、七深、つくし、瑠唯「!?」

 

 衛宮君に声をかけられて、肩が跳ねた

 

 って、皆?

 

 え、なんで、いるの?

 

透子「あちゃー、バレてたかー。」

七深「いつから気づいてたの~?」

楓「お人形屋さん出たくらいから、かな?」

ましろ(そんなに前から!?)

楓「声をかけようと思ってたけど、倉田さんが頑張ってる色をしてたから、触れない方がいいのかなって。」

 

 は、恥ずかしい......っ

 

 私、気づかれてるのに尾行してたの!?

 

 声、かけてよぉ......

 

楓「それで、皆は何で僕をつけてたんですか?」

透子「いやー、シロが衛宮が浮気したーって言うから。」

瑠唯「尾行する倉田さんを尾行してたのよ。」

楓「えぇ!?浮気!?」

 

 衛宮君は驚いたような声を上げた

 

 あれ、この反応......

 

 まさか......

 

楓「そ、そんなことしてませんよ!?」

つくし「うん、知ってた。」

七深「だよね~。」

ましろ「皆気づいてたの!?」

透子「言ったじゃん!?」

 

 あ、そういえばそうだった

 

 私、また妄想で......?

 

楓「えっと、なんでそんな話に?」

透子「メッセージの返信が(ry」

つくし「放課後一緒に(ry」

七深「ソワソワ(ry」

瑠唯「......という理由よ。」

楓「あー......」

 

 衛宮君は納得したようにうなずいて

 

 そして、小さく笑った

 

楓「なるほど、そういうことかー。心配しないで、そういうことは全くないから。」

ましろ「じ、じゃあ、なんで?」

楓「えっと、理由はこれかな?」

 

 衛宮君はそう言い

 

 マフラー、エプロン、造花、スノードームを取り出した

 

 さっき買ったのだ

 

楓「これ、皆さんへのクリスマスプレゼントです!」

透子「おっ!さんきゅー!」

七深「ありがと~!」

つくし「綺麗だねー!ありがとう!」

瑠唯「ありがたく使わせてもらうわ。」

 

 衛宮君は、透子ちゃんにマフラー、つくしちゃんにスノードーム、ななみちゃんに造花、るいさんに手袋を渡した

 

 あー、クリスマスプレゼントかー......

 

 ......もしかして私、すごく恥ずかしい勘違いしちゃってた!?

 

ましろ「あ、あう......///」

つくし(ましろちゃん、恥ずかしすぎて、声出せなくなってる。)

楓「あはは、倉田さん。」

ましろ「は、はいっ///」

楓「この後、2人きりになれないかな?」

ましろ「い、いいよ///うん///」

 

 は、恥ずかしさで顔が見れない

 

 ど、どうしよう

 

 私、なんて言えばいいんだろう......

 

楓「じゃあ、僕たちは行きますね。」

透子「おう!」

つくし「頑張ってね!」

七深「また、面白いお話聞かせてね~。」

瑠唯「お幸せに。」

楓「じゃあ、行こうか。」

ましろ「う、うん......///」

 

 4人はそう言って笑いながら向こうに歩いていき

 

 私は衛宮君に手を取られ

 

 ゆっくり歩きだした

_____________________

 

 “楓”

 

 少しだけ歩き、公園の中にあるベンチに座った

 

 ここなら人通りも少ないし

 

 大丈夫、かな?

 

楓「えっと、まず、誤解を解いておくね?」

ましろ「う、うん///」

楓「まず、メッセージと放課後の件は、今日のために短期のバイトをしてたんだ。ケーキ屋さんで。」

ましろ「そ、そうだったんだ///それで......///」

 

 隠してた理由はサプライズしたかったからだけど

 

 やっぱり言った方がよかったかな?

 

 倉田さんに心配かけちゃったし

 

楓「心配かけちゃったみたいで、ごめんね。」

ましろ「わ、私こと、勘違いしちゃって、ごめんね......」

楓「それはまぁ、倉田さんの癖だからね。」

 

 空想に浸る癖は相変わらずだし

 

 僕はもう慣れたかな?

 

楓「まぁ、それで、倉田さんへのプレゼントだけど。」

ましろ「ひゃ、ひゃい!///」

楓「これ。」

 

 僕は倉田さんにプレゼントを渡した

 

ましろ「あ、開けていい?」

楓「うん。」

ましろ「__こ、これ......!///」

 

 倉田さんが袋を開けると

 

 バンドの衣装を着たミッシェル人形が出てきた

 

 これが、僕から倉田さんへのプレゼントだ

 

楓「あのお人形屋さん、オリジナルのお人形を作ってくれるんだ。それで、世界で一つの特別なものを渡そうと思って、先月くらいから準備してたんだ。」

ましろ「か、可愛い......!///衛宮君、ありがとう......!///」

楓「喜んでくれたみたいでよかった。」

 

 倉田さんから喜びの色が見える

 

 色々頑張った甲斐があった

 

 本当によかった

 

ましろ「ずっと大切にするねっ///」

楓「っ!......うん。」

 

 倉田さんは人形を胸元でギュッと抱きしめた

 

 その姿があまりにも可愛らしくて

 

 心臓が激しく動き出した

 

ましろ「......あっ。」

楓「ど、どうしたの?」

ましろ「わ、私、衛宮君へのプレゼント、用意するの忘れてた......」

楓「あ、あぁ、そういう。別に気にしなくていいよ?」

ましろ「だ、ダメだよ!それじゃあ、なんだか恋人っぽくない!」

楓「そ、そう、なの?」

 

 倉田さんは困ったような表情をしてる

 

 別に気にしなくてもいいんだけど......

 

ましろ「......ねぇ、衛宮君?///」

楓「?」

ましろ「その、私たち、お付き合いしてどのくらいかな......?///」

楓「えっと、1年と一か月くらいかな?」

 

 去年の11月28日から付き合い始めたし

 

 大体あってるね

 

 そっかぁ、もうそんなに経つんだぁ

 

ましろ「そっか、もう、1年......///」

楓「?」

ましろ「......じゃあ、そろそろ、時期なのかな?///」

楓「!」

 

 倉田さんの頭が僕の肩に乗った

 

 服越しにほんのり、彼女の体温を感じる

 

 すごく、温かい

 

ましろ「衛宮君......///」

楓「な、なに?」

 

 いつもよりねっとりとした、甘えるような声

 

 それが僕の耳元で発せられ

 

 心臓がさらに激しく動き始める

 

 倉田さんは何を言う気なんだ......?

 

ましろ「......今年のクリスマスプレゼントは......私、なんてどうかな......?///」

楓「え?__っ!!」

ましろ「んっ......♡」

 

 驚いて振り向いた瞬間

 

 視界が倉田さんで一杯になった

 

 唇には驚くほど柔らかい感触があって

 

 数秒して、キスされたということを理解した

 

ましろ「はぁ、はぁ......///」

楓「く、倉田さん......」

 

 倉田さんの頬が真っ赤に染まってる

 

 色も、今までに見たことがない感じだ

 

 ふやけてて、少しいつもよりも紅い

 

ましろ「......今日、お母さんとお父さん、家にいないんだ///」

楓「え、そ、そうなの?」

ましろ「だから、その......私のこと、貰って///」

楓「え、えっと、それは。」

ましろ「はいっ♡」

楓「!?」

 

 倉田さんの胸元に手を誘導された

 

 ドクンドクンと心臓が動いてるのを感じる

 

楓「あの、倉田さん......」

ましろ「......この気持ちは、勘違いじゃないからね♡」

楓「!!」

ましろ「行こ......?♡」

楓「......うん。」

 

 僕と倉田さんはベンチから立ち上がり

 

 そのまま、倉田さんの家に向かった

 

 その間、僕と倉田さんの間に会話はなかった

 

 けど、その分、手を繋いでいて

 

 すごく、幸せを感じた

 

 

 

 



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開戦

 “ましろ”

 

 あれから一週間がたった

 

 今日は生徒会選挙の日

 

 今日で、次の生徒会長とバンドの存続が決まる

 

 そんな、運命の日......

 

ましろ(え、衛宮君は......)

楓「__おはようございます!」

「おはよう!今日も元気だね!」

「応援してるよ!」

 

 本番はもうすぐなのに、元気に挨拶をしてる

 

 緊張、してないのかな......?

 

 いや、してるに決まってる

 

 してるけど、頑張ってるんだ

 

 私のために......

 

ましろ(それに比べて、私は......)

 

 何もできなかった......

 

 衛宮君の力になれなかった

 

 透子ちゃんみたいに他の人に声をかけられなかった

 

 つくしちゃんやななみちゃんみたいに励ませなかった

 

 るいさんみたいに応援演説も出来ない

 

楓「__あっ!倉田さん!おはよう!」

ましろ「あ、え、衛宮君......」

楓「どうしたの?」

 

 首をかしげて、私を心配そうに見てる

 

 だ、ダメだ、こういう時に周りが不安そうにしちゃ

 

 笑って、衛宮君を安心させないと

 

 笑って......

 

ましろ「......ご、ごめんねっ。」

楓「え?」

ましろ「私のせいでっ、衛宮君に迷惑かけて、ごめんね......っ!」

楓「っ!!」

 

 笑わないといけなかった

 

 なのに、私は反対に涙を流して

 

 その場にうずくまってしまった

 

ましろ「私のせいなのに、何もできなかった......っ!私なんて、私なんて......っ!」

楓「......」

ましろ「ごめんねっ、ごめんね......」

楓「......大丈夫。」

ましろ「......!」

 

 ふわっと秋の香りがした

 

 私の目の前には、男子用の制服がいっぱいに広がっていて

 

 数秒して、衛宮君に抱きしめられてるって理解した

 

楓「僕が倉田さんの歌を聞きたいから、こうしたんだ。」

ましろ「衛宮、くん......」

楓「あのライブの日、みたんだ。」

 

 衛宮君の抱きしめる力が強くなる

 

 けど、そこまで強くない

 

 ただただ、安心する

 

楓「倉田さんが皆と、もっと大きなステージに立つ風景が。」

ましろ「......っ!」

楓「だから、こんなところで終わらせはしない。死んでも勝つよ。」

 

 そう言って、ゆっくりと離れて行った

 

 その時には自然に涙が止まってて

 

 体の震えも、治まっていた

 

楓「任せて。絶対に大丈夫だから。」

ましろ(あっ......///)

 

 衛宮君は優しい笑みを浮かべ

 

 私に手を差し伸べてくれた

 

 そうだ、この感じだ

 

 衛宮君を意識した時と同じ感覚だ

 

楓「じゃあ、僕はそろそろ行かないといけないから、またね!」

ましろ「う、うん///......頑張ってね、衛宮君......///」

楓「......任せて。」

 

 そう言って、衛宮君は校舎の方に歩いて行った

 

 その時に一瞬だけ

 

 衛宮君の表情が変わった気がした

 

 気のせい......かな

_____________________

 

 “楓”

 

 覚悟は決まった

 

 準備はもう、全部整った

 

 後は、本番だけだ

 

穂希「__あらあら、衛宮さん。」

楓「......白鳥さん。」

穂希「毎日毎日、挨拶運動ご苦労様です。あんなことをしないといけないなんて、大変ですわね。」

 

 白鳥さんはあざ笑うようにそう言ってきた

 

 そういえば、彼女は一回も来てなかったっけ

 

 気にしてなかったから、今思い出した

 

楓「白鳥さんは、自信があるみたいですね。」

穂希「もちろん!あなたとは積み重ねてきた結果が違いますもの!」

楓「そうですか。」

穂希「兄が優れているだけのあなたとは格が違いますの!楽しみですわ!あなたが悔しそうな顔をするのが!」

楓「そうですか。」

 

 この人に何を言われても気にならない

 

 こんな汚い色をした人の言葉なんて

 

 僕じゃなくても、誰の心にも届きはしない

 

楓「自信の上にはいつも傲りがあります。」

穂希「は?」

楓「今の白鳥さんは、本当に白鳥さんですか?」

穂希「......どういう意味ですの?」

楓「そのままです。」

 

 僕はそう言い、ふぅと息をついた

 

 今の彼女にはどんな言葉も届かないだろう

 

 だから、何も言わない

 

楓「それでは、また後ほど。」

穂希「......後悔させてあげますわ。」

 

 僕は何も言わず、その場から立ち去った

 

 僕ごときが何を言っても無駄だ

 

 自分がやるべきことをしよう

_____________________

 

 “瑠唯”

 

 朝の朝礼と1時間目のロングホームルーム

 

 その時間を使って、演説と投票を行う

 

 それで今は講堂も舞台袖に待機している

 

穂希『私が生徒会長になった暁には、月ノ森の伝統を守り、学内の風紀をよりよくすることを確約いたします。具体的な取り組みとしましては__』

 

 舞台ではもう、白鳥さんが演説を始めている

 

 流石に人前で話すことに慣れてるわね

 

 それに、言ってることは全部もっともらしく聞こえる

 

楓「あの、八潮さん。」

瑠唯「どうしたの?」

 

 その途中に、彼が話しかけてきた

 

 緊張でもしてるのかしら?

 

楓「こんなことに付き合わせてしまってすみません。」

瑠唯「別に構わないわ。あなたの力になれるなら。」

楓「あはは、そうですか。」

瑠唯「......?」

 

 少し、違和感があった

 

 何か隠してるような雰囲気がある

 

 いつもと違う

 

瑠唯「今日はハッキリしないわね。緊張しているの?」

楓「え?......あー、そういうことではないんですが。」

瑠唯「?」

楓「その、生徒会役員って、指名制じゃないですか?」

瑠唯「そうね?」

 

 私もそれで選ばれたし、もちろん知ってる

 

 それがどうしたのかしら?

 

楓「あのですね、もし、僕が生徒会長になれたら、副会長になってほしいんです。」

瑠唯「私が?」

楓「はい。」

瑠唯「それは別に構わないけれど、私でいいの?」

楓「八潮さんじゃないとダメなんです。」

瑠唯「っ!///」

 

 その言葉に少しドキっとする

 

 彼は、簡単にこういうことを言うんだもの

 

 こちらの身にもなってほしいわね......

 

楓「僕にできることなんて限られてるので、助けていただければ。」

瑠唯「......わかったわ///」

楓「お願いします。」

 

 彼は深く頭を下げた

 

 本当に、彼には困る

 

 あんな告白紛いな言動をしておいて

 

 本人はいたって真剣なんだもの

 

瑠唯「けれど、勝てるの?」

楓「分かりません。勝負は終わってみるまでは分かりませんから。」

瑠唯「それもそうね。」

楓「......でも。」

瑠唯「!」

 

 彼は少し低い声をだして

 

 それに驚いて、少し私の肩が跳ねた

 

 彼のこんな声、滅多なことでは聞けないわね

 

楓「ちゃんと、準備はしました。」

瑠唯「準備......?」

楓「はい。そんなに大層なものではありませんが、僕なりの準備はきっちり。」

 

 ......どういう意味かしら?

 

 彼の自信のある口調と表情

 

 これらがハッタリとは思えない

 

穂希「__あらあら、仲良くお話ですか?」

楓「白鳥さん。」

穂希「見ての通り、私の演説は完璧ですわ!これで、勝利は確実なものとなりました!」

楓「......それはどうでしょうか?」

穂希「は?」

瑠唯「!」

 

 彼はそう言い、ゆっくりと立ち上がり

 

 白鳥さんの方をじっと見た

 

 その表情はいつもと違い、能面のように無表情になってる

 

楓「さっきも八潮さん言いましたが、勝負は終わってみるまで分かりません。」

穂希「そんなもの、ただの根性論でしょう?」

楓「根性論......確かにそうかもしれませんね。」

穂希「そんなもの、何の意味もありませんわ。一番大切なのは実力です。」

楓「けど、知ってますか?根性がない人は何も出来ないんですよ?」

 

 彼は無表情のままそう言うと

 

 白鳥さんの眉がぴくっとした

 

 これは......

 

瑠唯(色を見て、彼女が嫌がる言葉を選んでいるのね......彼女に、これ以上ない敗北を味合わせるために。)

穂希「け、結果を残さなければ、所詮は戯言。ゴミ同然ですわよ!」

楓「ははっ、そうかもですね。なら、結果を残せるように頑張ります。」

穂希「......!!」

 

 色が見れる能力

 

 やはり、侮りがたいわね

 

 心理戦において、こんなに強力なんて

 

楓「それでは、行きましょう、八潮さん。」

瑠唯「......えぇ。」

 

 彼にそう言われ、私も席を立った

 

 さて、私は私の仕事をこなしましょうか

 

 彼の役に立てるように

 

 

 

 



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演説

 “ましろ”

 

 すごかった

 

 るいさんも注目されてるって言ってただけあって

 

 白鳥さんの演説はしっかりしてた

 

 あんなの、勝てるのかな......

 

ましろ「......!」

 

 そう思ってると、舞台袖から衛宮君が出てきた

 

 いつも以上にキッチリ着られた制服

 

 キリッ引き締まった表情

 

 この衛宮君もいい

 

『生徒会長候補、衛宮楓さんの応援演説です。』

瑠唯「はい。」

 

 まずはるいさんだ

 

 全然、動じてる様子がない

 

 流石すぎる......

 

瑠唯『衛宮君の応援演説を担当いたします。1年生Ⅽ組、八潮瑠唯です。』

 

 凛とした落ち着いた声

 

 やっぱり、ちゃんと落ち着いてる

 

 これなら安心だ

 

瑠唯『私が彼を生徒会長に推薦する理由は、その人柄にあります。彼は、誰よりも強い正義感を持っています。この中にも、彼の行いを知っている方がいるのではないでしょうか。』

 

 周りの人たちが少し頷いてるのを感じる

 

 これは、あの裏サイトの効果だ

 

 こんなに多くの人が知ってるんだ

 

瑠唯『私も、彼に救われた人間の1人です。だからこそ、彼の素質は分かります。彼ならば、月ノ森をさらに先に進めることができると。』

 

「おぉ......!!」

 

 会場中がどよめく

 

 るいさんの言葉に力強さもだけど

 

 内容の方で驚いてる人が多いと思う

 

瑠唯『彼は100年の月ノ森の歴史を変える人物になるでしょう。そんな予感を感じさせてくれます。』 

 

 るいさんは読み終えたのか原稿を置き

 

 少し顔を上げて、全校生徒の方を見渡した

 

 すごい、あんなに堂々として......

 

瑠唯『以上で、私の応援演説を終わります。ご清聴、ありがとうございました。』

 

ましろ、つくし「!」

 

 るいさんがそう言って頭を下げると

 

 後ろから拍手の音が聞こえてきた

 

 あれ、さっきよりも音が大きいような......

 

 気のせい、かな......?

 

ましろ「ど、どう、かな......?」

つくし「い、良い感じだと思う。」

 

 そう、思った以上にいい感じだから、驚いてる

 

 るいさんは不利って言ってたのに

 

 裏サイトがあるにしても、ちょっとおかしい

 

 どうゆうこと......?

 

 “楓”

 

 流石は八潮さんだ

 

 ちゃんと、良い演説をしてくれた

 

 実際の僕はあんなに大層な人間じゃないんだけど

 

 でも、今日のところはいいかな

 

 ......後々プレッシャーになるけど

 

『次に、衛宮楓さんの演説です。』

楓「はい。」

 

 僕は返事をして、ゆっくり前へ歩く

 

 ここだ、ここしかない

 

 色も、雰囲気も、八潮さんのお陰で申し分ない

 

楓『この度、生徒会長に立候補しました、衛宮楓です。これから、演説をしたいと思います。ですが......』

瑠唯「......?」

 

ましろ(え......?)

 

 僕は演説を始める前に、原稿用紙を折り

 

 それをそのまま、演説台に叩きつけた

 

 ここまでが、僕の作戦だ

 

 後やることは、ありったけをぶつけるだけだ

 

楓『僕には、前もって作った原稿なんて必要ない。この場で、僕自身の言葉を聞いてください!』

瑠唯「!!」

 

透子(はぁ!?)

七深(まさか、ここで~!?)

つくし(お、思い切りすぎだよ!!)

ましろ(そ、そんな......!)

穂希(馬鹿な......!?)

 

 会場中が驚きの色で染まる

 

 いいタイミングだった

 

 後は、やりきるだけだ!

 

楓『皆さんは、頑張ってる人についてどう思いますか?』

 

ましろ「......!」

 

 僕はそう言って周りを見渡した

 

 結構、考え込んでる人が多いな

 

 流石は月ノ森生

 

楓『何かを頑張ってる人は例外なく、色が綺麗になるんです。僕の中で、頑張ってる人というのは、こういう意味です。』

 

 だから僕は、5人の色が好きだ

 

 見ていると、胸の奥が温かくなって

 

 活力がもらえるから

 

楓『月ノ森はそういう人が多いです。誰もが一流と呼ばれ、そこに行きつくまでに努力をしている。それは決して当たり前ではなく、その頑張りはすごく尊いものです。』

 

 月ノ森は毎日、部活動がある

 

 そこで頑張ってる人たちのことは見たことがある

 

 その光景も僕は好きだ

 

楓『......けど、そうじゃない人だって、こんなに生徒がいればいます。』

 

 色が変わった

 

 今度は緊張の色だ

 

楓『また質問します。一流とはなんですか?』

 

 一流とは、何か

 

 その質問の答えはこの学校なら三者三様だ

 

 一流の解釈なんて、一定じゃないんだから

 

楓『凡人の僕が夢見る一流は、己に厳しく他に優しい。能力はもちろんのこと、頑張ってる人がいれば認められる人です。』

 

 所詮は夢、幻想

 

 そうなれない人間は現実を語れない

 

 けど、僕は見たんだ

 

 そういう、一流を

 

楓『......そんな理想を持つ僕だからこそ、頑張ってる人を認めることはあっても、貶すことなんて、許せないんですよ......』

 

ましろ「......っ!」

全校生徒「!?」

 

 自然と拳に力が入る

 

 あの人を顔を思い出すと、怒りが湧いてくる

 

 こんな気持ち、初めてだ

 

楓『頑張ってる人を馬鹿にするなんて、どんな人にも許されない!!!それで泣いてる人がいるなら、僕は断固として戦うっ!!!それが大切な人のためなら、なおさらだっ!!!』

 

 “ましろ”

 

ましろ「!__あっ。」

 

 衛宮君の言葉を聞いて、涙が流れた

 

 こんなに、怒ってくれてたんだ

 

 私のために......

 

楓『この間まで、僕は別に生徒会長の立場になんて興味はなかった......けど、ある出来事から、変えたいと思ったんです......今、夢中になってバンドを頑張ってる、大切な人のために。』

 

ましろ「......!///」

 

 衛宮君はそう言って、私を見た

 

 大切な人......そう言われて、嬉しい

 

 私がそう思ってるのをよそに

 

 衛宮君は大きく空気を吸い込んで

 

 おいてあるマイクをつかんだ

 

楓『だから!僕はこの学校を変える!!!良くできるかは分かりません......けど、誰かを不幸にするつもりも毛頭ありませんっ!!!』

 

 衛宮君は言い切ったのかマイクを置き

 

 演説台の横に立って

 

 深く頭を下げた

 

楓「お願いします!!!頼りないかもしれませんが、僕に力を貸してくださいっ!!!絶対に後悔はさせませんっ!!!」

 

ましろ、透子、七深、つくし、瑠唯「!!」

 

 会場がシンと静まり返る

 

 私たちも、動けない

 

ましろ(ど、どうなるの......?)

透子(なんだ、この空気。)

七深(せ、成功?失敗?)

つくし(お願い......っ!)

瑠唯(......これは。)

 

 その時、パチパチと拍手の音が聞こえてきた

 

 この空間の中でそれはあまりにも目立って

 

 皆、その方向に目を向けた

 

凪沙「あははっ!いいじゃないか、楓!」

楓「!」

凪沙「いいねぇ!さすが僕の弟だ!」

 

 衛宮先生が後ろから舞台の方に歩いていく

 

 その姿に皆が注目して

 

 誰も、喋ろうとも動こうともしない

 

 周りにいる、先生たちまでも

 

凪沙「立派になったね、楓。」

楓「お兄、ちゃん......」

 

ましろ「!」

 

 衛宮先生が舞台に着いて、笑顔でそう言った瞬間

 

 周りから一斉に拍手が起きた

 

ましろ「!(や、やった......!)」

透子「いいぞー!衛宮ー!」

七深「かえ君~!かっこいいよ~!」

つくし「すごい!すごいよ!衛宮君!」

 

 鼓膜が破れちゃいそうなくらい大きな音がしてる

 

 これ全部が衛宮君に向けられてるんだ

 

 す、すごい......!

 

「素晴らしい、素晴らしい演説だった!」

「気持ちが伝わってきたよ!」

「私は衛宮君の味方です!」

「彼こそ、生徒会長に相応しい!」

「大切な人のために戦うなんて......私、感動しましたわ!」

 

 そんな声も出始め

 

 全員が席から立ち上がった

 

 スタンディングオベーションだ

 

 まるで、ライブみたい

 

『これから、投票を行います。手元にある用紙に生徒会長に相応しいと思った候補者の欄に丸を付け、担任の先生に提出してください。』

 

 盛り上がりも冷めない中、投票開始のアナウンスがされ

 

 全員が一度席に座り、用紙に記入を始めた

 

 私も、もちろん衛宮君の欄に丸をつけて

 

 心の中で祈りつつ、先生に用紙を提出した

 

 “楓”

 

楓「はぁ、はぁ......」

 

 声を出しすぎて、疲れた

 

 頭がフラフラする

 

 血が上っちゃったのかな......

 

瑠唯「お疲れ様、衛宮君。」

楓「は、はい......八潮さんも、ありがとうございました。」

瑠唯「いいえ、気にしないで。いい演説だったわ。」

 

 八潮さんは笑みを浮かべながら、そう言ってくれた

 

 よかった......

 

 正直、一か八かというか

 

 下手をすれば失敗するかもしれなかったから

 

瑠唯「これから、投票用紙の回収と開票作業があるわ。それまでは待機よ。」

楓「は、はい。」

 

 取り合えず、下がった方がいいのかな

 

 そう思って、僕は舞台袖の方に行こうとした

 

 その時......

 

穂希「__こ、こんなの、み、認めませんわっ!!!」

 

 舞台袖から白鳥さんが出て来て

 

 僕の方に向かってそう叫んだ

 

 まだ、終わりじゃないみたいだ

 

 そう思い、僕は狂った色をした白鳥さんと向き合った

 

 

 

 



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どんな立場になっても......

 目の前には恐ろしい色をした白鳥さんがいる

 

 色が見えなくても怒ってるのが分かるだろうから

 

 色が見える分、足がすくみそうなほど怖い

 

穂希「なぜ!あなたごときがあのような称賛を浴びるんですの!?」

楓「......僕ごとき、だからですよ。」

穂希「は?」

 

 僕は体の震えを抑え

 

 白鳥さんに向けてそう言った

 

 そう、今回の作戦はここから始まったんだ

 

楓「僕ごときだから、慢心しなかったんです。」

瑠唯「!」

穂希「それは、どういうことですの!?」

 

 そんなに難しい話じゃない

 

 僕がしたのはただ1つのことだけだ

 

楓「僕は白鳥さんの行動を見て、全く逆の行動をとったんです。」

穂希「!?」

楓「代表例はあの挨拶です。その他には白鳥さんがゴミを拾わなければ拾ったりだとか、人に辛く当たれば僕は優しく接したんです。」

瑠唯(それは、いつもの事じゃないかしら?)

 

 これが僕が考えた作戦

 

 ただ、白鳥さんと逆の行動をするだけ

 

 例えそれが良いことでも悪いことでも

 

 まぁ、悪いことをする必要はなかったんだけど

 

穂希「それだけで、私が負けるわけが......」

楓「......まだ、勝負はついてませんよ。」

穂希「っ......!」

楓「でも、一つ、言えることがあります。」

 

 僕はそう言い、白鳥さんをジッと見た

 

 普通なら、僕が言えることなんてない

 

 けど、今なら、ある

 

楓「白鳥さんは、捨ててはいけないものを捨てたんです。」

穂希「捨ててはいけない、もの......?」

楓「それは......」

 

 輝きを失った人が失ってるものは色々ある

 

 けど、色の種類によってある程度は絞れる

 

 今の白鳥さんの場合は......

 

楓「心です。」

穂希「!!」

 

 白鳥さんの顔と色が歪んだ

 

 思い当たる節がある......わけじゃない

 

 まだ、本人の意識の外だ

 

楓「僕は白鳥さんをよく知りません。けど、今のあなたが心を失ってることは分かります。」

穂希「......色、ですか。」

楓「はい。」

穂希「......」

 

 僕にはわかる

 

 実際、この人はそんなに悪い人じゃない

 

 ただ、歪んでいってるだけなんだ

 

楓「きっと、生徒会長候補と言われ始めた時のあなたは、こんな風じゃなかったはずです。」

穂希「っ......!」

楓「何か、苦しいことがあったんだと思います。あなたの色、泣いてますから。」

穂希「......っ」

瑠唯(泣いてる......?)

 

 僕がそう言うと、白鳥さんはペタリとへたり込んだ

 

 もう、色は落ち着いてる

 

 怒りは収まったみたいだ

 

穂希「......なぜっ。」

楓「?」

穂希「なぜっ、敵である私を責めないのですか......あんなに、怒っていたというのに......」

 

 白鳥さんは震えた声でそう聞いて来た

 

 それに僕は少しだけ笑みを浮かべて

 

 ゆっくり口を開いた

 

楓「敵であろうと何であろうと、泣いてる人がいたら助けませんか?それとこれとは話が別ですし。」

穂希「......」

楓「?」

 

 どうしたんだろ?

 

 白鳥さん、固まっちゃった

 

 えっと、まだ何かあるのかな?

 

穂希「......はぁ。」

楓「白鳥さん。」

穂希「本来、立候補者に投票義務はありませんが......」

 

 ブツブツと何か言いながら

 

 白鳥さんは渡されてた投票用紙に記入し始め

 

 それを開票作業をしてる人たちに渡した

 

穂希「仕方ありませんわね......」

『__開票結果を発表します。』

楓「!」

 

 アナウンスの人が話し始めた

 

 結果、出たんだ

 

『今回、生徒会長に就任する立候補者は......』

穂希(......完敗、ですわね。)

『月ノ森で史上初の生徒票、教師票ともに満票を獲得した、衛宮楓さんとなります!』

 

全校生徒『おぉぉぉぉ!!』

ましろ「や、やった......!」

つくし「す、すごい!満票だよ!?」

 

透子「ま、マジ!?」

七深「かえ君が、生徒会長だ~!」

 

 ほ、本当に勝っちゃった......

 

 ていうか、月ノ森史上初って聞こえたんだけど

 

 気のせい、じゃないよね......?

 

穂希「負けましたわ。選挙でも、人としても。」

楓「白鳥さん......」

穂希「何を沈んだ顔をされてるんですか?私は別に、そこまで落ち込んでませんの。」

 

 白鳥さんはそう言い

 

 晴れやかな笑顔を浮かべた

 

 色が変わってる

 

 まだ完全じゃないけど、綺麗な色になってる

 

穂希「これは転機です。自分自身と人生を振り返り、さらなるステップへ歩を進めるための。」

楓「!」

穂希「胸を張りなさい。今日からあなたは生徒会長......そして、私のライバルですわ。」

 

 そう言って、白鳥さんは舞台袖の方に歩いて行った

 

 その姿は堂々としていて

 

 勝者のような風格すらあった

 

楓(僕、あんな人によく勝てたなぁ......)

瑠唯「お疲れ様、衛宮君。」

楓「八潮さん?」

 

 白鳥さんが去っていくと

 

 今度は八潮さんが話しかけてきた

 

 少しだけ、困ったような色をしてる

 

 どうしたんだろう?

 

瑠唯「待ってるわよ、彼女が。」

楓「あー......」

 

 八潮さんはそう言って、ある方向を指さし

 

 そこを見ると、目から大粒の涙を流す1人の女の子がいた

 

楓「い、行ってきます。」

瑠唯「えぇ、行ってあげなさい。きっと喜ぶわ。」

 

 僕は少し苦笑いを浮かべて、その子の方に歩いた

 

瑠唯(今日だけは譲ってあげるわ。)

 

 “ましろ”

 

 衛宮君が、勝った......

 

 本当に、生徒会長になっちゃった

 

楓「倉田さん。」

ましろ「え、衛宮君......」

 

 衛宮君が舞台の方から歩いて来た

 

 え、なんで?

 

 舞台から降りてもいいの......?

 

楓「今日はよく泣くね?」

 

 困ったような口調でそう言う衛宮君

 

 だって、仕方ないよ

 

 色んなことがあったんだもん......

 

ましろ「だって、だってぇ......!」

楓「あはは、ハンカチ使う?」

ましろ「......うん。」

 

 そう頷くと、衛宮君はハンカチを貸してくれた

 

 秋の香りがする......

 

 朝と、同じだ

 

楓「ねぇ、倉田さん?」

ましろ「......?」

楓「ねっ?大丈夫だったでしょ?」

ましろ「......っ!!」

 

 笑顔でそう言われ

 

 私の目から、また涙が流れてきた

 

 よかったっ

 

 バンド、やめることにならなくてよかったっ

 

 そんな思いで、胸がいっぱいになって

 

 安心して、涙が止まらなくなる

 

楓「えぇ!?ど、どうしたの!?」

ましろ「だいじょうぶっ、嬉し涙だから......!」

楓「そ、そう?」

 

 衛宮君は心配そうに私を見てる

 

 本当に、優しい

 

 私のためにここまでしてくれて

 

 全力で、大きな相手に立ち向かって

 

 本当に、私を助けてくれた

 

ましろ「ありがとうっ、衛宮君っ!///」

 

 思いが溢れる

 

 胸の高鳴りが治まらない

 

 私を助けてくれた、ヒーローのような男の子への

 

 私が恋する男の子への思いが止まらない

 

ましろ「大好きだよ、衛宮君っ!///」

つくし、透子、七深、瑠唯「!?(なっ!?)」

 

 気づけば、そんな言葉が出ていた

 

 周りの目なんてどうでもよかった

 

 ただただ、この思いを伝えたかった

 

 いつも優しくて、私を助けてくれる

 

 そんな衛宮君が、私は大好きだって

 

 今まで以上に、そう思えたから

 

 

 

_____________________

 

 翌日、私は学校に来た

 

 大きな問題も解決して

 

 私の平和な日常が......

 

ましろ(あああああ~!!!////)

 

 帰ってきたと思ったら、新しい問題が発生しました

 

 完全に自業自得なんだけど

 

 昨日のあれがあったから、衛宮君と顔を合わせるのが恥ずかしい

 

 どうしよう......

 

透子「__よー、公開告白したシロー。」

ましろ「!?///」

七深「情熱的な告白だったね~。」

つくし「ここぞとばかりにねー。」

瑠唯「......あなたに羞恥心はないのかしら。」

ましろ「ご、ごめんなさい......///」

 

 皆はそれはもう怒ってます

 

 だって、完全に抜け駆けしちゃったし

 

 仕方いよね、これは......

 

透子「まっ、いーけどね。」

ましろ「え?」

透子「これで、シロが最初に脱落する可能性も出てきたわけだし!」

ましろ「あっ......」

 

 透子ちゃんの一言で血の気が引いた

 

 そうだ、これでフラれたら、初恋が終わるんだ......

 

 どうしよう、怖い......

 

七深「も~、意地悪いっちゃだめだよ~?」

透子「あはは!ごめんごめん!」

つくし「もう......ましろちゃん、泣きそうになってるよ?」

ましろ「うぅぅ......」

楓「__あれ?皆、こんなところで何してるんですか?」

ましろ、透子、つくし、七深、瑠唯「!!」

 

 え、衛宮君来ちゃった!?

 

 わざわざ空き教室借りたのに__

 

 ......って、衛宮君には意味ないよ!(今更)

 

楓「バンドの会議ですか?」

透子(......ん?)

七深(あれ~?)

つくし(え?)

瑠唯(......?)

 

 ......あれ?

 

 衛宮君、いつも通りだ

 

 照れてる様子も気まずそうな様子もない

 

 いつも通り、可愛い衛宮君だ

 

楓「どうかしましたか?」

七深「い、いや~......」

透子「えっと、し、シロ?」

 

 え、ここで振るの?

 

 いや、こういう事は自分で聞かないとだめだよね

 

ましろ「衛宮君、その......昨日のことだけど......///」

楓「昨日?」

ましろ「あの、私、大好きって......///」

楓「あー、あれのこと?」

 

 よ、良かった、忘れてたわけじゃないみたい

 

 忘れられてたら心折れてたよ

 

ましろ「へ、返事とか、ないかなって///」

楓「僕も大好きだよ?」

ましろ「え......っ!?///」

透子、つくし、七深、瑠唯「......っ!?」

 

 衛宮君はあっさりとそう答えた

 

 え?これって両想い!?

 

 まさか、お付き合いとか......!

 

楓「お友達として!」

ましろ「__え?」

透子、つくし、七深、瑠唯「えっ?」

楓「僕、演説中に大切な人とか言っちゃったから、倉田さんも困ってるかなって思ったんだけど......同じように思ってくれてて、嬉しかったよ!」

 

 その場にいる全員が呆気にとられた

 

 まさか、これって

 

 衛宮君は友達として私を大切な人って言ってたから

 

 私の大好きも友達に向けるものと思ってる?(大正解)

 

ましろ「......」

楓「えっと、どうしたの?」

透子(ま、マジか......)

七深(かえ君......)

つくし(さっきはちょっと怒ってるついでにいじってたけど......)

瑠唯(これは流石に不憫ね。)

 

 あー、うん

 

 何となく、こんなこともある気はしてたよ?

 

 でも、今回は流石に大丈夫だと思ってた

 

 あんなに最高のシチュエーションだったし

 

 今度こそ、気持ち、伝わったと思ったのに......

 

ましろ「......衛宮君の......」

楓「?」

ましろ「衛宮君のバカー!!うわーん!!」

楓「えぇ!?」

 

 私は恥ずかしさでまた泣いてしまった

 

 衛宮君はそんな私を見てオロオロしてる

 

 なんで、こんなに鈍感なの......?

 

 気づいてくれてもいいよね?

 

 私、頑張ったよね......?

 

透子、七深、つくし、瑠唯(......ご愁傷様。)

楓「ご、ごめんなさい!何か分からないけど、ごめんなさい!」

ましろ「わかってよーっ!ばかーっ!」

 

 衛宮君はこうして、生徒会長になった

 

 月ノ森で初めての、外部生からの生徒会長

 

 本当にすごいと思う......けど

 

 衛宮君は、どんな立場になっても衛宮君みたいです

 

 

 

 



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嫌な予感

 あの出来事から一週間が経った

 

 僕はまだ、夢見心地だ

 

 ここ数日、自分が自分じゃないような感覚だった

 

 まぁ、それも最近は落ち着いて来て

 

 ほとんど、いつもの日常に戻った

 

ましろ「衛宮君!今の歌、どうだった?」

楓「すごく良くなってると思うよ。最近は調子がいいね?」

ましろ「うん!衛宮君に喜んでほしいから!」

 

 倉田さんは最近絶好調だ

 

 声もよく通ってるし、色もいい

 

ましろ「あのね、衛宮君......///」

楓「どうしたの?」

ましろ「その、練習たくさん頑張ったから、なでなでしてほしいな......?///」

楓「ん?いいよ?」

 

 そう言って、倉田さんの頭に手を乗せた

 

 サラサラしてて、触り心地が良い

 

 なんで撫でて欲しいかは分からないけど

 

透子「おーい、そこの2人ー。イチャついてないでこっち来いよー。」

ましろ「い、イチャついてないよ......!///補給だから......(?)///」

七深「むぅ~......(2人、あのビッグイベントから進展してる~......!)」

 

楓「あっち行こうか。」

ましろ「あっ......」

楓「?」

ましろ「あ、なんでもないよ!行こ!」

 

 倉田さんはそう言い、皆が座ってるソファの方に行き

 

 僕もそれについて行った

 

楓「それで、皆さんはどんな話をしてたんですか?」

つくし「そうそう!もうすぐ体育祭だよ!」

透子「あっ!もうそんな時期かー!」

楓「生徒会でもそれについての会議しましたよ。」

つくし「え、そうなの!?」

 

 これは昨日の話で

 

 昨年のアンケートの結果を確認して

 

 今年の企画の案を出し合ったりした

 

瑠唯「まだまだアイデアを出し合ってる段階よ。」

楓「昨年までよりも良くしたいので、色々と考えてます!」

七深「そっか~!偉いね~!」

楓「?」

 

 広町さんはそう言いながら僕の頭を撫でた

 

 な、なんで撫でられてるんだろう?

 

 いや、別にいいんだけど

 

つくし「あ!ず、ずるい!」

透子「あたしらにも撫でさせろー!」

楓「え、あの__」

透子「す、すごい!」

つくし「わんちゃんみたい!」

ましろ「わっ......///」

 

 な、なぜか増えた

 

 なんで......?

 

瑠唯(......可愛いわ。)

楓(八潮さんまで!?)

透子「よし、そろそろやめるか。」

 

 桐ケ谷さんがそう言うと、4人も離れていった

 

 なんだか、変な時間だったなぁ

 

 まぁ、いいんだけどね?

 

透子「でさ、皆は競技何出る予定?」

つくし「私は走るのがいいな~。」

ましろ「私は余ったので......」

七深「なんでも~。」

瑠唯「私も特にこだわりはないわ。」

 

 皆はあんまり拘りない感じなんだ

 

 まぁ、皆はすごいからなぁ

 

 なんでも出来ちゃうんだ

 

つくし「衛宮君はどうするの?」

楓「あー......」

ましろ、透子、七深、つくし、瑠唯「?」

 

 皆の視線が集まってる

 

 そうだ、この事はまだ皆に言ってないんだ

 

 忘れてた

 

楓「僕、競技には出られないんだよね。」

七深「えぇ!?」

瑠唯「なにかあったの?」

楓「ドクターストップがかかってて。この前も先生に怒られまして......」

 

 先生、怒ると怖いんだよ......

 

 母さんが全く怒らない人だから

 

 先生に怒られた思い出の方が多いくらいだ

 

七深「そうなんだ~。残念~......」

ましろ「だ、大丈夫、なの?」

楓「大丈夫。一応だから。」

 

 出来るって言ったんだけど......

 

 まぁ、怒られたよね

 

 『君はたった50mを全力疾走するだけでも危険なんだよ?』

 

 って、すごいトーンで言われた

 

瑠唯「......」

ましろ「あんまり無理しないでね......?」

楓「う、うん。大丈夫だよ。」

透子「じゃ、衛宮は当日は実況な~。盛り上げてくれよ~?」

楓「えぇ!?いや、やる予定ですけど。」

透子、ましろ、つくし(やるんだ。)

 

 まぁ、出来ることがないからね

 

 自分なりの方法で参加しないと

 

 何もしないのはダメだからね

 

楓「あ、そろそろ練習再開じゃないかな?」

透子「お、そうだね!練習しよ!」

ましろ「うん......!」

七深「やろっか~。」

つくし「残りも頑張ろ!」

 

 “瑠唯”

 

瑠唯「......」

 

 最近、彼に違和感を感じている

 

 最初は、彼が入院した日

 

 彼はあれを軽い体調不良と言っていた

 

 けれど、あれはそういうレベルのものじゃない

 

 ただの体調不良であんなに大量の点滴は打たないはず

 

 それに、あの機械の数もすごかった

 

瑠唯(それに......)

 

 あの生徒会選挙

 

 あれも少し焦ってるように見えた

 

 いつもの彼らしくなかった

 

瑠唯(それらに加えて、今回のドクターストップ......まさか......)

 

 ......いえ、これは邪推ね

 

 彼が体調を崩しがちなのは分かってる

 

 私達とは体調不良の価値観が違う可能性は高い

 

 そう、思うけれど......

 

瑠唯(何なの、この寒気は......?)

 

 ちらっと向こうにいる彼を見る

 

 少しだけ、彼は周りに比べて色が薄い

 

 それで余計に不安になる

 

 彼に残された時間は少ないのか

 

 そもそも本当に生きているのか

 

 そんな邪推が頭の中を駆け巡る

 

楓「八潮さん?」

瑠唯「っ!ど、どうかしたのかしら。」

楓「いえ、ボーっとしてたみたいなので、大丈夫ですか?」

瑠唯「え、えぇ。」

楓「そうですか?なら、練習が始まるので行きましょう!」

瑠唯「!」

楓「わわっ!」

 

 向こうに歩いていく彼を抱きしめてしまった

 

 いや、抱き留めたというべきかもしれない

 

 どこかに消えてしまいそうな不安

 

 今の彼はそんな風に思わせる雰囲気を身に纏っているから

 

楓「ど、どうしたんですか?」

瑠唯「......いえ、なんでも。」

 

 大丈夫

 

 彼の心臓は少し早いけれど、正常に動いてる

 

 こうして触れることは出来る

 

瑠唯「ごめんなさい。何でもないわ。」

楓「そうですか?」

瑠唯「えぇ。」

楓「じ、じゃあ、いきましょう!(び、ビックリしたぁ。)」

 

 彼はそう言って、他の4人がいる方へ歩いていく

 

 今日の私はおかしいわね

 

 変なことばかり考えていないで、練習をしないと

 

瑠唯(すべて杞憂よ。そうに決まってるわ。)

 

 そう考えながら、私はバイオリンを手に取り

 

 自身の配置についた

 

 その後はいつも通り練習をこなし

 

 夜7時ごろに終了し、この日は解散した

 

 

 



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新生生徒会

 生徒会での最初のお仕事

 

 それは、体育祭の企画だ

 

 新しい生徒会のメンバーで話し合う

 

 そんな経験、もちろん僕にはないので、すごく楽しい

 

楓「それでは、第4回目の会議を始めます!前回の会議では前年のデータを基にして、改良案を出すというところまで進みましたので、今回はどの案を採用していくかを話し合えればと思います!」

凪沙「よっ!」

 

 僕の言葉に最初に反応するのはお兄ちゃんだ

 

 なんでここにいるのかって言うと

 

 校長先生にお願いして、生徒会の顧問になったらしい

 

 やっぱり、特別扱いされてるんだなぁ

 

瑠唯「衛宮君、前回の会議で出た案をまとめておいたわ。」

楓「ありがとうございます!」

?「私は過去のデータを分析したものをご用意いたしました!」

??「一応、予算の改良案も考えてきましたが、お役に立てば。」

楓「すごいですね!助かります!」

 

 ちなみに、新生徒会の皆はすごく優秀です

 

 八潮さんはもちろん

 

 2年生の工藤一樹さんと中村真樹さんもすごい

 

 そして......

 

穂希「生徒会長。それらのデータは私がまとめますので、さっさと寄越してくださいまし。」

楓「はい!ありがとうございます!」

穂希「......早くしてください。」

 

 新生徒会のもう1人の書記、白鳥穂希さん

 

 最初こそ、周りには驚かれた

 

 けど、僕は白鳥さんの色を見て、良いなと思ったし

 

 この人がいると、雰囲気が締まるというか

 

 自分にも他人にも厳しい人だから、いて欲しいと思った

 

穂希「本当にあなたは......もっと生徒会長のとしての自覚を持ちなさいな。生徒会の会議とはもっと粛々と進めるべきで、その雰囲気を作るのはトップである生徒会長なのですよ?」

楓「あはは、すみません。」

 

 こんな感じでよくお説教されます

 

 まぁ、僕が悪いのは間違いなんだけどね!

 

 そういう雰囲気づくりは僕に向いてないから......

 

穂希「全くあなたは......それで生徒会長なんてやっていけるのですか?」

楓「が、頑張ります。」

穂希「あなたは雰囲気が緩すぎるんですよ。そもそも__」

 

 白鳥さんはお説教をしながらもホワイトボートに前回出た案を書いていってる

 

 やっぱり、この人はすごいなぁ

 

 僕にはこんな風にできない

 

穂希(まぁ、この雰囲気を作れるからこそ、あれだけ人望があるのでしょうね。)

楓「白鳥さん?」

穂希「あなたはさっさと会議を進めなさい!」

楓「は、はい!」

凪沙(うんうん!中々いいコンビじゃないか!)

 

 と言うわけで、僕は会議を進めることにした

 

 取り合えず、最初は去年の分を確認して

 

 今日中に決められるところまでは決めたいな

 

楓「えっとですね、白鳥さんが書いてくれたこの中から絞っていきましょう。」

 

 去年の予算のデータを見てみる

 

 まぁ、月の森だしかなり余裕がある

 

 これなら、色々と出来そう

 

一樹「そうですね。まず、去年は来賓する保護者様への待遇を改善しましたわね。」

真樹「生徒側も現状は不満などは少ないですし、案は出しましたが、特に必要は感じませんわね。」

楓「あ、ちょっと待ってください。」

 

 僕はそう言って、あるデータを出した

 

 これは、僕個人が保健室で貰って来たもので

 

 一番、気になってたものだ

 

瑠唯「これは?」

楓「過去5年分の体育祭中で体調が悪くなった人のデータです。」

凪沙「ほう?」

 

 全員、テーブルに置いたデータを見てる

 

 僕が言いたいことはここからなんだけど

 

楓「ここを見るとですね、後日に熱中症の症状があったり、体調を崩してる人が意外と多いんです。」

真珠「確かに、多いですわね。」

楓「はい。なので、そこの改善をしたいなと思いまして。」

一樹「いいじゃないですか!」

真珠「言われてみれば、おもてなしの心が先行し、視野が狭まっていたかもしれません。」

 

 なるほど、見に来てくれる人達を優先してたんだ

 

 確かに、月の森はお金持ちな人が多い学校

 

 つまり、見に来るのは、社会的地位が高い人ばかり

 

 だから、保護者と言うより、お客様っていう認識なんだ

 

楓「やっぱり、体育祭の主役は競技をする皆さんです。だから、よりよい環境で、いい思い出を作ってほしいなと。」

一樹「良い考えだと思います。」

真珠「では、その方向で進めましょう。」

 

 先輩2人はニコッと笑って、そう言ってくれた

 

 よかった、変なことは言ってなかったみたいだ

 

凪沙「だったら、予算の割り方はもっと工夫できるね。」

楓「?」

凪沙「まず、ここをこうして......」

 

 お兄ちゃんは手早くペンを走らせ

 

 書類そのままの予算の図を描いて

 

 そこに全く違う風に予算を割り振っていく

 

凪沙「ほら、こうすれば効率が良くなるし、楓のやりたいことも出来ると思うよ?」

楓「すごい!こんな風にできるんだ!」

凪沙「大したことないよ!あっはっは!(楓可愛い。)」

 

 流石はお兄ちゃんだ

 

 これは、来年以降も役立つだろうし

 

 僕じゃこんな風には出来ないや

 

真珠「すごいですわね。今の一瞬でこんなのを思いつくなんて。」

穂希(やはり天才ですわね。衛宮凪沙。)

一樹「完璧も完璧。これ以上改良の余地はないとすら思えますね。」

 

 皆さんも羨望の眼差しを向けてる

 

 まぁ、誰でもそうなるよね

 

 当たり前の反応だと思う

 

瑠唯「じゃあ、これを基にして考えていきましょう。まず、今出てる案の中で衛宮君の意向に沿うものはこんな感じね。」

楓「ありがとうございます!」

瑠唯「この中から絞っていきましょう。」

楓「はい!」

 

 やっぱり、多いのは熱中症だ

 

 そこの対策をした方がいいんだけど

 

 無難なのは......

 

楓「皆に飲み物を配るとかに、なるんですかね。」

瑠唯「それが無難ね。」

楓「他には、出来るなら塩飴とかも配りたいです。よく持ち歩くので。」

真珠「熱中症対策に慣れてますのね。」

楓「あまり体が強い方ではないので、出来る限りの対策はしてるんですよ。」

 

 一度熱中症になったことがあるけど

 

 あの時は流石に死んだと思った

 

 なんか、変な声が聞こえてきたし

 

一樹「確かに、生徒会長はかなり華奢ですよね。」

真珠「一体、どんな生活をなさっているのかと思っていましたが、そういうことだったのですね。」

楓「あはは......」

 

 まぁ、誰が見てもそう思うよね

 

 食生活は普通なはずなんだけど

 

 脂っこいものをあんまり食べないくらいだけで

 

凪沙「楓?取り合えず、この方向で進めていく?」

楓「うん、この辺りは確定でいいんじゃないかな。」

穂希「予算も余裕で収まりますし、問題ないと思われます。」

 

 お兄ちゃんがいると進むのが早いなぁ

 

 こんなに頼ってていいのかなってなる

 

楓「取り合えず、方向性は決まりましたね!」

穂希「まだ終わりじゃありませんことよ?まだまだ決めることがあります。会場設営、当日の生徒会、各委員会での役割分担、当日の挨拶、体育祭に向けての活動などなど、問題は山住です、わ!」

楓「お、おー。」

 

 白鳥さんはドンッ!と書類を机に置いた

 

 すごい量だ

 

 一体、何枚あるんだろう

 

穂希「全て、あなたが確認するものです。」

楓「あ、はは、ですよねぇ。」

 

 うんまぁ、分かってたよ?

 

 けど、大変そうだなぁ

 

 いや、責任があるから頑張るけど

 

瑠唯「手伝うわよ、衛宮君。」

楓「あ、ありがとうございます。」

瑠唯「大丈夫よ。あなたを支えるのが、私の役目だもの。」

真珠「私たちも頑張ってまいりましょう。」

一樹「そうですね。」

穂希(頼りない生徒会長ですわね......)

 

 それから、僕達はそれぞれの業務に取り掛かった

 

 大量の書類の確認は思った以上で大変で

 

 八潮さんの力を借りても、半分は明日へ持ち越しになった

 

 僕は、こんな調子で大丈夫なんだろうか......?

 

 

 




楓君の声、黒子君でイメージしたら書きやすいです


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帰り道

 体育祭の準備は進んでる

 

 生徒会メンバーは彼の為にと頑張ってる

 

 その結果か、準備は驚くほどに順調

 

 締め切りには必ず間に合う

 

穂希「__この書類の確認を!」

楓「は、はい!」

 

 衛宮君の方は彼女が手綱を引いてる

 

 元生徒会長候補なだけのことはある

 

 基本的な事務の心得はあるようね

 

楓「......けほっ。」

瑠唯「衛宮君?」

楓「あ、すみません。」

瑠唯(......最近、少し多いわね。)

 

 生徒会の仕事に関しては心配ない

 

 けれど、彼の体調については不安が残ってる

 

 ドクターストップにかかっているのは知ってる

 

 そして最近の咳の回数の多さ

 

 嫌でも、体調が思わしくないのが分かってしまう

 

楓「季節の変わり目は、いつもこうなんですよ。」

瑠唯「......そう。」

楓「お仕事はちゃんとできるので、ご心配なく。」

 

 彼はそう言い、書類に目を落とした

 

 大丈夫......だと思う、今は

 

 体温自体は平熱だと聞いているし

 

 無理さえしなければ

 

瑠唯(......そう、無理さえ、しなければ。けど......)

 

 そんなことが可能なの?

 

 彼は何かあれば、必ず無理をする

 

 いや、そんなトラブルが頻繁に起こるわけがない

 

 いくら彼がトラブルに出会いやすいと言っても

 

 流石に体育祭でまでそんなことがあるわけがない

 

瑠唯(けれど、何なの?この、胸騒ぎは?)

 

 彼から目を離してはいけない

 

 そんな気がする

 

 出来るだけ、彼の近くにいないと

 

 私はそう思いつつ、ひとまず、自分の請け負っている業務に取り掛かった

___________________

 

 “楓”

 

楓「はぁ、大分かかっちゃったなぁ......」

 

 下校時間を少し過ぎて、僕は学校を出た

 

 やっぱり、生徒会で一番仕事ができないのは僕だ

 

 まぁ、分かり切ってたことなんだけど

 

 それでも、流石に差がありすぎる

 

楓(八潮さんと白鳥さんの力を借りてギリギリなんだよね......)

瑠唯「お疲れ様、衛宮君。」

楓「あ、八潮さん。帰られたんじゃ......」

瑠唯「折角だし、一緒に帰ろうと思ったの。」

楓「あ、そうなんですか?」

 

 わざわざ待ってたんだ

 

 なんでかは分からないけど

 

 1人で帰るより、ずっといいや

 

楓「すみません、待たせてしまったみたいで。」

瑠唯「大丈夫よ。行きましょうか。」

楓「そうですね__」

つくし妹「__あれ......楓、お兄ちゃん......?」

楓「え?あれ、君は、二葉さんの妹さん?」

 

 僕たちが帰ろうとした瞬間

 

 向こうから二葉さんの妹さんが歩いて来た

 

 なんだか、心細そうな色をしてる

 

楓「こんなところでどうしたの?」

妹「うっ、うわーんっ!お兄ちゃん~!」

楓「わっ!だ、大丈夫!?」

 

 妹さんは泣きながら僕に抱き着いて来た

 

 本当にどうしたんだろう?

 

 ここは妹さんにとっては少し遠い場所で

 

 しかも、もう時間も遅いのに

 

妹「ちょっと、冒険してたら、迷子になったの......」

楓「それで、暗くなっちゃったってことだね?」

妹「うん......」

 

 なるほど......分からないこともない

 

 僕も普通に動ける子供だったら、一度くらいこうなってたと思う

 

 好奇心って言うのは止められないからね

 

楓「じゃあ、僕がお家まで送るよ。抱っこ......はしてあげられないけど。」

妹「おてて、繋いでもいい......?」

楓「それは大丈夫だよ!」

 

 僕はそう言って立ち上がった

 

 流石にこの時間に迷子の子を放っておけないし

 

 八潮さんには申し訳ないけど、送って行かないと

 

楓「すみません。と言うことなので、一緒に帰るのは__」

瑠唯「私も着いていくわ。」

楓「え?」

妹「?」

瑠唯「時間はあるもの。付き合うわよ。」

 

 八潮さんもついて来てくれるみたいだ

 

 もう時間も遅いのに

 

 本当にいいのかな?

 

 本人が言ってるからいいんだろうけど......

 

楓「じゃあ、行きましょうか。」

妹「うん!」

瑠唯「えぇ。」

 

 そうして、僕達は妹さんを家に送り届けることになり

 

 取り合えず、家にいてもらうように二葉さんに連絡をして

 

 それから出発した

___________________

 

 と言うわけで、僕達は3人で暗くなってきた道を歩いてます

 

 街灯もポツポツと点き始めて

 

 もう、ほぼ夜だ

 

妹「ねーねー、お兄ちゃん?」

楓「どうしたの?」

妹「お兄ちゃんはお姉ちゃんのこと、好き?」

楓「え?」

瑠唯「!?」

 

 妹さんはいきなりそんな質問を投げかけてきた

 

 でも、別にこれは迷うようなものじゃない

 

楓「好きだよ?大切なお友達だしね。」

妹「そーなんだ!よかったー!」

瑠唯(まぁ、彼はそうよね。)

 

 二葉さんとは仲良くしてるからね

 

 色も澄んでていい人だし

 

妹「お姉ちゃんはねー、お兄ちゃんのこと大好きだってー。」

瑠唯「!?」

楓「そうなんだ。嬉しいね。」

妹「あとねー、お兄ちゃんはどんかんさん?って言ってたー。」

楓「鈍感?うーん、そうでもないと思うけど。」

瑠唯「......(それは否定できないわね。)」

 

 最近よく言われるけど

 

 鈍感ではないと思うんだけどなぁ

 

 色も見えてるし

 

楓「八潮さんはどう思いますか?」

瑠唯「え?」

楓「僕、鈍感なんですか?」

瑠唯「それは......自分がどう思うかが重要ではないかしら。(流石に、正直には言えないわ......)」

楓「じゃあ、大丈夫ですね!」

瑠唯(こうして鈍感さは加速するのね。)

 

 やっぱり、僕は鈍感じゃないみたいだ(勘違い)

 

 じゃあなんで言われたのかが分からないけど

 

 まぁ、いいや

 

妹「お兄ちゃんって、好きな人いないのー?」

楓「え?いっぱいいるけど。」

妹「そうじゃなくて、お嫁さんにしたい人!」

楓「!?」

瑠唯(動揺してるわね。)

 

 最近の小さい子ってこんなこと聞いてくるの?

 

 僕、そんな話とは一切無縁だったから分からないけど

 

 最近の子供は進んでるんだなぁ......

 

楓「うーん......考えた事ないかも。」

妹「お兄ちゃん、お子様だねー。」

楓「え、そうなの!?こういう話って普通なの!?」

瑠唯(子供にお子様扱いされてるわ。)

楓「ち、ちょっと待ってね!今考えるから!」

瑠唯「っ!?(今!?)」

 

 とは言っても

 

 そう言う意味での好きってよく分からないんだよね

 

 結婚したい人ってことでしょ?

 

 うーん......

 

楓「そもそも、僕がよく関わる異性が八潮さん達しかいないからね。」

妹「じゃあ、お姉ちゃんは?」

楓「二葉さんかぁ......なんだか、朝が早そうだね。」

瑠唯(そこなの?)

 

 私生活とかしっかりしてそう

 

 でも、ちゃんとお互いを尊重できそう

 

 きっと、二葉さんの相手は幸せになるだろうなぁ

 

楓「二葉さんはしっかりしてるからね。きっと、相手の人といい関係を築けると思うよ。」

妹「お兄ちゃんの話だよー?」

楓「あっ、そうだった。」

妹「変なのー。」

 

 変、なのかな......?

 

 つい、他人事になっちゃったけど

 

楓「あ、で、でもね。」

妹、瑠唯「?」

楓「その、そう言う、結婚したい人って言うのは、自分がその人しかないって思える人が良いとは思ってるんだ。」

妹「それは、だーれ?」

楓「えっとぉ......僕の場合は、1人じゃ何もできないから、引っ張ってくれるような人がいいのかなって思ってる、かな?」

妹「そーなんだー。」

 

 一応、絞り出した回答だ

 

 なんとか、他人事っぽくならなかったかな?

 

 かなり頑張った方だと思うけど

 

つくし「__あ!衛宮君!」

楓「二葉さん?って、もう着いた。」

つくし「本当にごめんね!ほら、ちゃんとお礼しなさい!」

妹「うん!ありがとう!お兄ちゃん、お姉ちゃん!」

楓「全然、大丈夫だよ。」

瑠唯「右に同じ。」

 

 もう、二葉さんの家に着いたみたいだ

 

 話してたら一瞬だった

 

 良かった、ここまで何ともなくて

 

母「あら、お久しぶり。楓君。」

楓「あ、お母さん。お久しぶりです。」

母「まぁ、お義母さんだなんて。意外とせっかちなのね。」

楓「?」

 

 二葉さんのお母さんは歩いて来て

 

 いきなりそう言ってきた

 

 どういう意味なんだろう?

 

母「何はともあれ、今日はありがとう。」

楓「いえいえ。お気になさらず。」

母「これから、お夕飯でもいかが?お礼もかねて。」

楓「あー、すみません。母さんが用意してくれてるので。」

母「あらそう?残念ね。折角、うちの味に慣れてもらおうと思っていたのに。」

つくし「お母さん!?///」

瑠唯(ぐ、ぐいぐい行くわね。)

 

 二葉さんの家のご飯かー

 

 確かに気になるかも

 

 お母さん、料理上手そうだし

 

妹「ママ!私、楓お兄ちゃんにほんとのお兄ちゃんになってほしいなー!」

瑠唯「!?」

つくし「何言ってるの!?///」

母「でも、今日は無理そうね。」

妹「えー。」

楓「ごめんね。また、一緒にご飯食べよっか。」

妹「うん!約束だよ!」

つくし「も、もういいでしょ!///家に帰るよ!お母さんも!///」

 

 二葉さんはそう言い、2人を引っ張っていく

 

 すごく恥ずかしがってる

 

 なんでだろ?

 

妹「ばいばーい!お兄ちゃん!」

母「また会いましょう。次は挙式の__」

つくし「もういいよ!///」

楓「ま、またー(?)」

瑠唯(大変ね、二葉さん。)

 

 3人は大騒ぎしながら家に入って行った

 

 本当にどうしたんだろうか

 

楓「僕たちも、帰りましょうか。」

瑠唯「......そうね。」

 

 気になるけど、時間も遅いし

 

 僕と八潮さんは家に帰ることにした

 

 なんだか、妹さんがいると賑やかだったなぁ

 

 また、遊べる機会があればいいな

 

 

 



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動揺

 あれから1週間と少し経って体育祭前日

 

 準備は何とか終わらせることが出来て

 

 本番は問題なく迎えることが出来そうだ

 

透子「いやー!やっと体育祭だねー!」

七深「そうだね~。」

 

 そんな今日はバンドの練習で

 

 いつも通りアトリエに集まってる

 

 体育祭もあるけど、月ノ森音楽祭ももうすぐ

 

 第一目標に設定していた舞台

 

 それももう間近だ

 

ましろ「衛宮君は大丈夫?最近、すごく忙しそうだったけど?」

楓「皆に力を借りて、なんとか。」

瑠唯「あなたは十分頑張ってるわよ。少しずつだけれど、着実に成長してる。」

楓「そんな、まだまだですよ。」

 

 最後にはお兄ちゃんにもアドバイス貰ったし

 

 分かってるけど、まだまだだ

 

 どうにかしないといけないな、この現状は

 

七深「も~!かえ君は真面目なんだから~!」

楓「わっ!」

ましろ、透子、つくし、瑠唯「!?」

 

 視界が広町さんの色でいっぱいになった

 

 なんで、僕は抱きしめられてるんだろう

 

 て言うか、こんな風に抱きしめられるの初めてかも

 

つくし「ななみちゃん!」

透子「な、なにしてるわけ!?」

ましろ「ず、ずるい......!」

七深「え~。いいじゃん~。」

楓「く、苦しい、広町さん......」

七深「あ、ごめんごめん~。可愛くてつい~。」

 

 お、男なんだけどなぁ......

 

 情けないからそう見えちゃうのかな......

 

透子「ほんと。衛宮が抱きしめて欲しいって思ってんのはあたしだってのに!」

楓「え?」

ましろ「わ、私だと、いいな......!」

瑠唯「何を言ってるの?私よ。」

つくし「私だよ!ね?衛宮君?」

楓「誰にも特に思ってないよ?」

 

 むしろ、思ってたらおかしいよね?

 

 うん、絶対におかしい

 

 これは僕でも分かる

 

瑠唯「冗談は置いておいて。」

楓(良かった。八潮さんは冗談だった。)

瑠唯「体の調子はどうかしら、衛宮君?」

楓「体の調子ですか?」

 

 あ、そっか

 

 ドクターストップかかってるの知ってるから、心配してくれてるのかな?

 

楓「大丈夫ですよ?」

瑠唯「......そう。(そう、よね。)」

 

 今は特に不調は感じてない

 

 むしろ、今までの人生で一番いい

 

 本当なら、体育祭の競技に参加したい位だ

 

七深「まぁ~、今年参加できなくても来年があるでしょ~。」

つくし「そうだね!高校生活は3年あるんだもん!」

楓「そうだね。来年、参加できればいいな。」

 

 来年、か

 

 誰かとこんな話をしたのは初めてだ

 

 今まで、周りの人たちは気を遣ってか、僕の前でそう言う話はしなかった

 

 だから、初めて知った

 

 近い未来を話すことが、これほどワクワクすることだと

 

楓(きっと、来年も楽しいよね。皆と一緒にいれば。)

 

 未来の事なんて、誰にも分からないんだ

 

 2年生や3年生、その先も

 

 まだ、未来があるかもしれないんだ

 

 そのためにその日その日を全力で生きたい

 

 いや、そうするべきだ

 

 ただただ、そう思った

___________________

 

 “ましろ”

 

 練習が終わって、今は帰宅中

 

 隣にはいつも通り、衛宮君がいる

 

 この時間は楽しくて、すごく好き

 

ましろ「とうとう明日だね、体育祭。」

楓「そうだね。入学式がまだこの間あったように感じるのに。」

ましろ「だよね......よくここまで生き残れたよ......」

 

 4月中は絶望してたのに

 

 なんだかんだでバンドを組んで、衛宮君と出会って

 

 それからはずっと楽しかった

 

楓「もう、秋なんだね。」

ましろ「うん。」

楓「そっか......」

ましろ「?」

 

 衛宮君は小さく呟いて、空を見上げた

 

 なんだか、目が輝いてる気がする

 

楓「ねぇ、倉田さん。」

ましろ「どうしたの?」

楓「僕、今、生きてるのがすごく楽しい。」

ましろ「!」

 

 弾むような、楽しげな口調

 

 けど、今まで死と隣り合わせで生きてきた衛宮君だからか、その言葉には重みがある

 

 なんて言うか、不思議な感じだ

 

楓「高校生って言う特別な時に皆と出会って、色んなことを経験して......こんなに楽しいのは人生で初めて。」

ましろ「衛宮君......」

楓「これも、倉田さん達がお友達でいてくれるお陰だよ。」

ましろ「そ、そんな......///」

 

 それはこっちのセリフだ

 

 衛宮君がいたから、私たちは楽しくバンドを出来て

 

 そして、ライブも成功させられた

 

 ......それに、私もバンドのメンバーでいさせてくれた

 

ましろ「......私も、衛宮君にはたくさん助けられてるよ。」

楓「え?」

ましろ「練習で疲れた時は飲み物持ってきてくれて、アドバイスもくれて、緊張してたら励ましてもくれた......それに、私の為にすごく頑張ってくれた。」

 

 生徒会選挙の時の衛宮君はすごくかっこよかった

 

 堂々としてて、全力で

 

 ......それに......

 

ましろ(大切な、人......///)

 

 あの言葉はずっと心に刻み込まれてる

 

 今思い出してもドキドキする

 

 本当にあの言葉は嬉しかった

 

ましろ「......///」

楓「倉田さん?どうしたn__」

ましろ「え、衛宮君!!///」

楓「は、はい!(!?)」

 

 鈍感で、体も弱い方で、雰囲気は儚くて、世間的に男らしいとは言えない

 

 けど、自分の信念は絶対曲げない頑固者で

 

 誰かの為に愚直に頑張る

 

 それこそ、倒れるまでやめようとしない

 

 そんな、馬鹿が付いちゃうくらい、優しい男の子

 

 だからこそ、私は......

 

ましろ「わ、わた、しは......///」

楓「?」

 

 上手く言葉が出てこない

 

 どう伝えれば、衛宮君にこの気持ちが伝わるんだろう

 

 好き、はダメだし

 

 遠回しに言っても伝わるわけがない

 

 ......いや、考えちゃダメ

 

 自分の気持ちを正直に真っ直ぐ伝えるんだ

 

 そう、私は......

 

ましろ「__衛宮君に、恋をしてます///」

楓「えっ?」

 

 その言葉は少しだけ詰まって

 

 でも、はっきりと出てきた

 

 今の私が出来る、精一杯

 

 ちゃんと伝わったかな......?

 

 “楓”

 

楓(......あれ、これは......)

 

 倉田さんからの告白

 

 それは僕にとってすごく衝撃的だった

 

 けど、それ以上に驚くべきことがあった

 

 それは、今の倉田さんの色だ

 

楓(この、色は......)

 

 ふやけてる感じが強い色

 

 5人全員が偶になってた

 

 もしかして、今まで分からなかったこの色って......

 

楓「......っ。(そうだとすれば、皆は......)」

 

 なんでなんだ

 

 あんな素敵な人たちがなんで僕なんかを......

 

ましろ「え、衛宮君......?///」

楓「え、あ、そ、その......僕、は......」

 

 何も言葉が出て来ず、どうすればいいかも分からなくなって、呼吸が浅くなる

 

 足元がボロボロと崩れて行って

 

 奈落へ落ちていくように感じた

 

 

 



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急変

 衛宮君に思いを伝えた

 

 昨夜は結局答えは聞けなかったけど

 

 何となく、自分の中で満足した

 

ましろ(......でも。)

 

 少し、気になったことがある

 

 それは、告白した後の衛宮君の表情

 

 恥ずかしがってるとか、驚いてるって感じじゃなかった

 

 苦しそう......そう言う感想が出る表情だった

 

ましろ(あの表情は、何だったんだろう......)

 

 あの後ずっと、心ここにあらずだったし

 

 大丈夫、なのかな......

 

瑠唯「倉田さん。」

ましろ「るいさん?」

 

 しばらく1人で考え込んでると、体操着を着たるいさんが歩いて来た

 

 朝から生徒会の方に行ってたはずだけど

 

 どうしたんだろう?

 

瑠唯「衛宮君がまだ来ていないのだけれど、何か心当たりはないかしら?」

ましろ「えっ」

 

 その瞬間、サーっと血の気が引くのを感じた

 

 あの衛宮君がこの時間に来てないの?

 

 いっつも一番早く来てるのに

 

透子「あ!2人共いた!」

七深「かえ君、まだ来てないんだけど~!2人は知らない~!?」

つくし「こっちにもいない!?」

 

 他の3人もこっちに来た

 

 ど、どうしよう......

 

ましろ「もしかしたら、私のせい、かも......」

透子、七深、つくし「え?」

瑠唯「......どういうこと?」

 

 皆の視線がこっちに集まる

 

 怖い......けど、言わないと

 

ましろ「き、昨日、衛宮君に告白した......」

七深「!!」

透子「......そ、そっか。でも、それは流石に原因じゃなくね?」

ましろ「ち、違うの......」

 

 まさか、とは思った

 

 けど、今、学校に来てないのを知って確信した

 

 衛宮君は......

 

ましろ「すごく、思いつめた顔をしてた......あの時は、舞い上がってて、そこまで頭が回らなかったけど......今思ったら......」

透子「まさか、病気だからそれで思い悩んだ、とか。」

つくし、七深、瑠唯「え?」

 

 透子ちゃんの言葉に3人は愕然とした表情を浮かべた

 

 言った本人はやっちゃったって言った顔をしてる

 

 そっか、この3人は衛宮君の病気のこと、知らないんだ

 

七深「......どういうこと?」

ましろ「と、透子ちゃん。」

透子「......こうなったら、仕方ないか。」

 

 透子ちゃんは深くため息をついた

 

 そして、いつもからは考えられないくらい静かな声で話し出した

 

透子「これは本人から聞いた話。あいつ、心臓の病気なんだよ。生まれた時から。」

つくし「そ、そんな......」

透子「最近は症状は治まってたらしいけど、完治はしてない。つまり、今も病気と闘ってるんだよ。」

七深、つくし、瑠唯「......」

 

 3人が言葉を失った

 

 それはそうだ

 

 元から体は強くないと思ってただろうけど

 

 心臓の病気を持ってるなんて思わないし

 

つくし「いや、それでもおかしいよ。だって、さっき衛宮先生いたもん。もし、衛宮君が病気になってたら、体育祭に来るわけない。」

瑠唯「......言われてみれば、そうかもしれないわね。」

 

 なら、なんで......?

 

 体が悪いならつくしちゃんの言う通り学校に来ないだろうし

 

 でも、あの衛宮君が寝坊なんて考えられない

 

透子「と、取り合えず、電話かけみよ!もしかしたら、珍しく寝坊してるかもしれないしさ!」

七深「そ、そうだね~!」

つくし「それがいいよ!うん!」

瑠唯(......なに、この嫌な感じは。)

 

 透子ちゃんはそう言って、携帯を取り出し

 

 つくしちゃんとななみちゃんは横で明るく振舞っていた

 

 けど、その中で1人

 

 るいさんだけは、不安そうな、何かを恐れてるとうな

 

 そんな表情を浮かべていた

___________________

 

 “同時刻”

 

磐長姫「__着いた。」

 

 ここは出雲

 

 10月に神々はここに集結する

 

 ......と言うことになってる(面倒臭い)

 

?「やぁ、今年は早いね。磐長姫。」

磐長姫「大国主神。久しい。」

大国主神「そうだね。しばらくはここに来ても会えなかった。神はあまりに増えすぎた。」

磐長姫「それは仕方ない。」

 

 この、人間で言うチャラ男みたいな神

 

 一見すればそうでもないけど

 

 これでも、国津神の主宰神

 

 簡単に言えば、偉い

 

大国主神「どういう心境の変化かな?」

磐長姫「別に。偶然だよ。」

大国主神「新たな神候補の熱心さに心を動かされたわけじゃなく?」

磐長姫「!......なんで知ってるの。」

大国主神「面白い気配を感じてね。少し観察していたんだ。」

 

 ......気持ち悪い(直球)

 

 いつから見られてたのかは知らないけど

 

 神にもプライバシーはあってほしい

 

大国主神「それで感想なんだけど。」

磐長姫「!」

大国主神「いいね、彼!すごくいい!」

 

 大国主神は嬉しそうにそう言った

 

 やはり、私の目に狂いはないみたい

 

大国主神「君の見る目は確かだ。彼は神に必要な要素のほとんどを人間ながらに備えてる。しかも、神にすら恋をさせるほどの何かもある。」

磐長姫「......それはいい///」

大国主神「だがね、君は一つ、彼を見誤ってる。」

磐長姫「......?」

 

 大国主神の雰囲気が変わった

 

 私が、楓を見誤ってる?

 

 そんな馬鹿な

 

 観察してるだけの大国主神が気づいて私が気づかないことなんて......

 

大国主神「彼の持つもの。君は恐らく、齢で死に至る呪いだと思ったんじゃないかな?」

磐長姫「そのはず。楓の寿命は確かに16で......」

大国主神「まぁ、あの時点では16だったね。」

 

 あの時点では......?

 

 一瞬、そう思った

 

 けど、すぐにその意味が分かった

 

 まさか......!

 

大国主神「だが、少し違う。彼の本当の呪いは__」

磐長姫「__っ!?(マズい!!)」

 

 大国主神の言葉を聞いて

 

 私は大急ぎで出雲を飛び出した

 

 これは不味い、不味すぎる

 

 一刻も早く、楓のこのことを伝えないと

 

 でないと、本当に取り返しの付かないことになる

 

 

大国主神(また、彼の運命が動いた。これは......)

 

 

 



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カウントダウン

 体育祭の朝、僕は少し早めに家を出た

 

 今日はいつもより集合時間は遅いけど

 

 家にいても落ち着かなかったのと、今は倉田さんと会うのが気まずいのがある

 

楓「はぁ......(どうしよう......)」

 

 あの色、結構前から出てた

 

 つまり、僕はかなりの間みんなに好意を持たれてたってことだ

 

楓(......なんで、僕なんかを......)

 

 勿論、嬉しい気持ちもある

 

 何の取り柄もない僕に好意を持ってくれてるんだ

 

 嬉しくないなんて、口が裂けても言えない

 

 けど、それでも思う

 

 ......出来る事なら、気づきたくなかった

 

楓「......っ」

 

 ギュっと、服の胸元を掴んだ

 

 最近、虚勢を張って来たけど、分かる

 

 先生の言ってた通り、僕はもう長くはない

 

 この心臓の鼓動一つ一つも、最近の体の好調も

 

 全部が、終わりへのカウントダウン

 

楓(......心のどこかでは気づいてたんだ。僕に、来年や再来年がないことくらい。)

 

 高校生になってからのこの数か月は誰かからのお情けだって、何となく感じてた

 

 こんなに体の調子がいいこと、約16年生きてなかったもん

 

 今までの僕ならきっと、オリエンテーションの時点で命はなかった

 

楓(あと、どのくらい力は残ってるのかな。)

 

 もうすぐそこに限界の気配を感じる

 

 きっと、もう何回か全力で動いたら......なんて、そんな予感がする

 

 あと1回が__

 

楓「......いいや。」

 

 考えないことにしよう

 

 まだ分からない

 

 1%......いや、0.1%だけでも可能性があるなら

 

 気持ちで体は動かせる

 

楓「行ける......まだ。」

「__そこの君。」

楓「はい?」

 

 しばらく足を止めてると、声をかけられた

 

 後ろを向くと、そこには警察の人と不安そうな色を身に纏ってる女性と男性と男の子が立っていた

 

 この色、ただ事じゃない

 

 どうしたんだろう_

 

楓「どうしましたか?すごく困ってるようですけど。」

「す、すみません!うちの、うちの娘を見ませんでしたか!?」

楓「え?」

 

 後ろの女性が悲鳴のような声でそう言った

 

 これ、本当にただ事じゃないみたい

 

警官「お母さん、落ち着いてください。申し訳ない。だが、急を要することなんです。」

楓「いえ、大丈夫です。それより、何があったんですか?」

警官「実は、昨日の夕方頃この方たちの娘さんが誘拐されたと通報が入ったんです。」

楓「えっ!?」

 

 思わずそんな声が出た

 

 この辺りでそんなことが起きたの初めて見た

 

 大変どころの話じゃない

 

警官「一晩捜査をしたんですが、未だに手掛かりはなく。今は聞き取り中なんです。」

楓「そ、そうなんですか。それは......」

警官「それでなんですが、この女の子に見覚えはないでしょうか?些細な情報でもいいんです。」

 

 そう言って、一枚の写真を見せられた

 

 活発そうな、髪の短い女の子だ

 

楓「......すみません、見てないですね。」

「そ、そんな......」

「お、落ち着いて。他の警察の方も動いてくれてるから、諦めず探そう。」

「うぅ......どこにいるの......?」

楓「......っ!」

 

 後ろのご両親2人の恐怖、後悔、悲しみの色が濃い

 

 それはそうだ

 

 だって、家族が誘拐されたんだから

 

 怖いに決まってるんだ......

 

「......お、俺のせいだ......」

楓「!」

 

 そんな涙声が少し下から聞こえた

 

 声のした方に視線を移すと

 

 そこには、大粒の涙を流して、小刻みに震えてる男の子の姿があった

 

「俺が、トイレに行っちゃったから......ずっと、一緒にいれば......」

警官「君のせいじゃない。大丈夫だ、落ち着いて。」

楓「......っ!」

 

 泣いてる男の子を警察の人が慰めてる

 

 この男の子、誰よりも後悔の色が濃い

 

 いや、あまりにも濃すぎる

 

 もし、誘拐された女の子に何かあったら......

 

楓「......あの、すみません。」

警官「どうかしましたか?何か、思い当たることでも?」

楓「いえ、思い当たることはないんですけど。その捜査、僕にも協力させてください。」

 

 僕は警察の人に向けてそう言った

 

 多分だけど、もし女の子に何かあったら、この男の子はダメになる

 

 思いつめて、もしかしたら、死んでしまうかもしれない

 

 そんな色をしてる

 

警官「気持ちは嬉しいが、流石に__」

楓「僕なら、その子を必ず見つけられます。」

警官「......なんだって?」

 

 警官の人は目を丸くした

 

 あまりにも自信があるように見えたからかな

 

警官「......それは、本当ですか?」

楓「はい。絶対に見つけます。何か、その女の子の私物とかありませんか?」

「そ、それなら......」

 

 男の子はそう言ってランドセルを開け

 

 その中から、ピンクの花柄のハンカチを取り出した

 

 恐らく、女の子のものだ

 

「トイレから出た時、これだけ落ちてた......」

楓「ありがとう。これなら、見つけられる。」

 

 僕はハンカチを凝視し

 

 そして、集中して過去の色を見た

 

 この色が見られれば、見つけられ__

 

楓「__うぐっ......!!!」

警官「!?」

 

 その時だった

 

 目の奥と心臓が焼けるように熱くなり

 

 それと同時に激しい激痛に襲われた

 

警官「だ、大丈夫か!?」

楓「だ、大丈夫、です。」

 

 ......なるほど

 

 これって、そう言うことだったんだ

 

楓(......いわさん言ってたっけ。人間には過ぎた力だって。)

 

 それはそうだよね

 

 神様が使うものだって聞いてるもん

 

 人間、ましてや僕なんかがノーリスクで使えてるわけないよね

 

楓(......ここで、か。)

警官「ほ、本当に大丈夫か?」

楓「......大丈夫ですよ。」

 

 僕はノソっと立ち上がった

 

 心臓が信じられないくらい動いてる

 

 まるで、カウントダウンのスピードが上がったみたいに

 

楓(......ごめんなさい、皆。)

 

 きっと、僕の人生の正解は皆と少しでも長く一緒にいることだと思う

 

 最後に良い思い出をくれた皆に恩返しをする

 

 それが、僕にとって正しいんだと思う

 

 けど......

 

楓(僕に、正しいだけの判断なんて出来ないんです。)

 

 思い切り歯を食いしばった

 

 ここでこの人たちを見捨てたら、きっと僕は後悔する

 

 こんな我が儘で、本当に皆に申し訳ない

 

 けど、これが僕だから

 

 この短い人生で悔いなんて残したくはない

 

 だから、死んでもこの人たちを助けるんだ

 

 

 



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小さな英雄

 今まで、僕の世界には色がたくさんあった

 

 喜びの色、楽しそうな色、怒りの色、悲しみの色

 

 僕には、そんな色が見えていた

 

 人が存在する数と同じだけ種類のある色

 

 それがそこら中を無作為に色だった世界

 

 それが、僕の世界だった

 

楓「はぁ、はぁ、はぁ......っ!」

 

 けど、そんな世界は一色に支配された

 

 それは、黒と赤が混ざり合った地獄のような色

 

 それがカーテンのように僕の視界にかかっていて

 

 ほとんど、赤黒い景色になってる

 

警官「だ、大丈夫か!?」

楓(......あれ、なんで......僕は倒れてるんだ......?)

 

 体中にアスファルトの感触を感じる

 

 そして、視線が低い

 

 なんで、こうなったんだっけ......

 

楓(体が動かない......と言うか、痛い......血、水たまりみたいになってる。)

 

 一瞬気を失ってたけど、思い出してきた

 

 僕、女の子を探すために色を見てて

 

 それで、しばらくはなんとか頑張ったけど

 

 結局、限界迎えて倒れたんだ

 

楓「あ、ぐっ......」

 

 どこがどう痛いのかもわからない

 

 けど、明確に痛いのは心臓

 

 いつもより圧迫感が強くて、今にも破裂しそうだ

 

楓(どうしよう......これ、今までの人生で、一番つらい......)

 

 内臓全部に穴が空いたように痛い

 

 体を動かそうとすると、激痛に襲われる

 

 たとえ、動かすのが指一本だろうと

 

「お兄ちゃん!!大丈夫!?」

「警官さん!救急車を!」

警官「は、はい!君、待ってろ!すぐに救急車を__」

楓「まっ......て......」

警官「!?」

 

 自分で聞いて、自分の声と一瞬分からなかった

 

 いつもよりも低くて掠れてる

 

 声を出す力も、ほとんど残ってないみたいだ

 

 でも......

 

楓「ま......だ......見つ、けて、ない......」

警官「な、なにを言ってるんだ!?確かに、あの子のことも大切だが、今の君は__」

楓「これで、いいん、です......っ!」

 

 どうせ、残り少ない命

 

 いや、もう残ってないのかもしれない

 

 体の感覚なんて、もうほとんど残ってないもん

 

楓「きっと......その子は、僕よりも長く、生きられます......」

「お兄、ちゃん......?」

 

 今の僕は、燃え尽きる前の蝋燭

 

 火は弱く、小さくなって、いつ消えてもおかしくはない

 

 けど、どんなに小さい火だって、周りを明るくできる

 

 少しくらい誰かを温められるんだ

 

楓(どこだ......あの子の、色は......?)

 

 真っ赤になった景色の中で一つ

 

 クリーム色って言われる黄色

 

 これだ......これが、あの子の色だ

 

楓「こっち......だ。」

「だ、大丈夫なんですか!?口どころか、目からも血が......!!」

警官「だ、ダメに決まってるでしょう!?(見ただけで虫の息だと分かるレベルなのに、なぜ、この子は動けるんだ......!?)」

 

 一歩、足を踏み出す

 

 動いたかどうかはいた意味で分かる

 

 今、僕は一歩進んだ

 

 大丈夫、まだ動ける

 

楓「あっ、ぐっ、うっ......っ!!(動け、僕の体......!)」

 

 クリーム色の線に沿って、歩を進める

 

 一歩踏み出すごとに体中に激痛が走る

 

「き、君......もう、病院に......」

 

 遠くから、あの人達の声が聞こえる

 

 けど、何を言ってるかは分からない

 

 目以外の感覚がほぼ死んでるんだ

 

楓(ここは、どこなんだろう......?)

 

 時間の感覚も距離の感覚もない

 

 けど、色はちゃんと追えてる

 

 まだまだ先は長いけど、着実に進んでる

 

「__お、おい。なんだ、あれ......?」

「ち、血!?」

「顔中血だらけだぞ!?」

「映画の撮影か......?」

 

 なんだか、周りに色が増えた

 

 そのほとんどが疑惑の色だ

 

楓(大丈夫、色、見失ってない......)

 

 他の色は見ない

 

 ただ一つ、目的の色を追う

 

 そう、あの時みたいに......

 

楓(あの時も、こんな感じだったなぁ......)

 

 何も分からない中で必死にもがいて

 

 一つの命を救うことに必死で

 

 ただ、手を伸ばし続けてた

 

楓「......っ!!」

警官「っ!」

 

 その時だった

 

 視界が真っ黒に暗転した

 

 なんだ、これは......

 

楓(何も分からない。僕は今、立ってるのか?倒れてるのか?)

 

 何も感じない

 

 歩を進めてた証の痛みも無くなった

 

 全部、一瞬で消えていった

 

楓(死んだのか、僕は?こんなところで、やりきらないで?)

 

 ここで終わり......?

 

 僕はまだあきらめてない

 

 気持ちはまだ動いてる

 

『__お兄ちゃん!!!』

楓(......なんだ?)

 

 遠くから、大きな声が聞こえる

 

 この声、さっきの男の子......?

 

『がんばれー!!!』

楓(......!!)

 

 耳から入って、体中に響く声

 

 胸の奥が温かい

 

楓(......痛い。)

 

 体の中に流れこんでくるエネルギー

 

 それでいっぱいになるわけじゃない

 

 けど、一滴が体に染みわたる

 

 一滴あれば十分、動きだすだけの力にはなる

 

楓「ぁ......ぐ、うぅ......っ!」

 

 感覚が薄くだけど戻って来た

 

 僕は道の真ん中で倒れてた

 

 周りにたくさん、人がいる

 

 それに横に救急車が来てる

 

 どれだけ倒れてたんだろう

 

楓(もう、少し......)

 

 なんとか、僕は立ち上がった

 

 けど、立ち上がることでエネルギーを使い果たしたのかな

 

 また感覚がなくなった

 

「き、君!止まりなさい!すぐに病院に__」

楓「......行こう。」

「え?」

 

 けど、大丈夫

 

 視界はもう、赤くも真っ暗でもない

 

 白い

 

 まるで何も書かれていないキャンバスみたいだ

 

楓「あぁ、そっちにいるんだね......」

 

 そのキャンバスに一本のクリーム色の線が引かれる

 

 それを追うように僕は一歩を踏み出した

 

楓(綺麗だなぁ、この色......)

 

 さっきよりも速く歩けてる気がする

 

 不思議な感覚だ

 

 体が羽にでもなったみたいに軽い

 

楓(こっちだね。すぐ行くよ。)

 

 真っ白なキャンバスの上を歩いていく

 

 綺麗だなぁ、色のない世界って

 

 静かで、無駄なものは何もなくて

 

楓(っと、何かのぶつかった。なんだろ。)

 

 白い景色を歩いてると何かにぶつかった

 

 何にぶつかったのかな

 

 そう思いながら、僕は右手を前に出した

 

楓「......進めるみたい。」

 

 すると、その壁は消えて

 

 僕はまた、歩を進めた

 

楓「階段。」

 

 白い景色に階段が現れた

 

 色はそっちに続いてる

 

楓(もうすぐ行くよ。)

 

 きっと、向こうに行っても楽しいよね

 

 いわさんもいるだろうし

 

 もしかしたら、皆のことを見守れるかもしれない

 

楓(死ぬのも、悪いことばかりじゃないのかな。)

 

 スーッと溶けていく感覚

 

 体か精神か、それとも両方か

 

 分からないけど、溶けて行ってる

 

 まるで、終わりとでも言わんばかりに

 

「な、なんだ!?」

楓「あっ。」

 

 階段を上り切って

 

 僕は少し、口角を上げた

 

 そして、色の終着点に向かって最後の力を振り絞って歩いて

 

 そこにたどり着いた

 

楓「__追いつけた。」

 

 “別視点”

 

警官「突撃ー!!!」

「うわっ!!な、なんでここが!!」

 

 警官の一声に反応し

 

 何人かの他の警官が犯人を取り押さえる

 

 犯人はジタバタと藻掻くがそれも及ばず

 

 あっさりと手錠をかけられた

 

「あ、あぁ......!!よかった......!!」

「美優......!!」

「ふぇ、ママ、パパ......?」

 

 その奥にいた女の子に両親が駆け寄る

 

 女の子、美優は目に涙を浮かべ

 

 両親に抱き着いた

 

警官(ま、まさか、本当に見つけてしまうなんて。あの子......いや、彼は、素晴らしい少年だ。)

 

 警官は尊敬の念を抱いた

 

 一つの尊い命を救った勇気

 

 ボロボロな体でやり切った根性

 

 その全てに

 

警官(これは、表彰ものだな。あの制服、確か月ノ森学え__)

「お、お兄ちゃん!?」

警官「っ!?」

 

楓「......」

 

 男の子の悲鳴のような叫びに警官は反応した

 

 その声に反応し、警官がそっちを見ると

 

 そこには__

 

楓「......(これで......終わり......)」

警官「き、君!!!」

 

 糸の切れた人形のように力なく倒れる

 

 尊敬の念すら抱いた少年の姿があった

 

警官「き、救急隊!すぐに担架を!近くの病院に連絡を回せ!!救急だ!!!」

「は、はい!」

警官「しっかりしろ!!気をしっかり持つんだ!!!」

「お兄ちゃん!しっかりして!」

 

 その空間に訪れた喜びはほんの一瞬だった

 

 再開した家族の喜びを掻き消すように、その家族を救った小さな英雄は力尽きた

 

 それを見たすべての人間は悲痛な叫びを上げ

 

 その空間はすぐに悲痛な感情に支配された

 

 その中心には、血の水たまりに生気なく横たわる屍のような少年の姿があった

 

 

 



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現実

 体育祭が始まってしまった

 

 彼はついに、開会式に姿を現すことはなかった

 

 衛宮君のご両親の話では、早くに家を出たらしい

 

瑠唯(ど、どういうことなの......?)

 

 彼がサボるなんてことはありえない

 

 何か、大変なトラブルに巻き込まれたのかも......

 

 そんな不安が胸を締め付けてくる

 

瑠唯(衛宮君......)

 

 根拠はないけど感じる不安

 

 最近の彼の様子

 

 あれは地味だったけれど、明らかに異常だった

 

 あの咳の頻度、体のふらつき方

 

 まるで、体が少しずつ弱ってたような雰囲気だった

 

穂希「八潮さん。どうかされましたの?」

瑠唯「......白鳥さん。」

 

 1人で立ち尽くしていると

 

 白鳥さんが後ろから声をかけてきて

 

 私は声のした方を向いた

 

穂希「彼のことを気にしているのですか?」

瑠唯「!」

穂希「まぁ、確かに不可解ですわね。決して優秀とは言えないですが、サボりを働くような人間でないことは一目見れば分かりますし。」

 

 白鳥さんは考え込むような仕草をしながらそう言った

 

 かつて敵対関係だった彼女ですらこんな見解を示す

 

 そのレベルで彼は真面目な人物であるはずなのに

 

瑠唯(一体、何が......)

 

 衛宮先生もご両親も不安なのが見て取れる

 

 本当にどうしたというの?

 

 お願いだから、せめて連絡だけでもして......

 

穂希「はぁ......本当に彼に入れ込んでるのですね。」

瑠唯「......それがどうしたというの?」

穂希「月ノ森でも屈指と言われた才媛のあなたが、たった1人の平凡な男子に......いえ、平凡ではないですね、あの人は。」

 

 白鳥さんはそう言い、一つ息をついた

 

 彼女は敵と言う立場で彼を経験してる

 

 だからこそ、彼の非凡さを感じられたのかしら

 

穂希「彼のあの優しさ......もはや、執念すら感じます。普通の人間なら踏みとどまってしまうようなラインを易々と踏み越えてしまう。そのくせ、本人はあんなに弱弱しい。正直、呪われてるのではないかと思います。」

瑠唯「......」

 

 呪われてるという言葉に私は納得してしまった

 

 度々思っていた

 

 彼のやさしさにはどこか使命的なものを感じていた

 

 優しくいなければならない、あるいはそれに固執してる

 

 そんな危うい雰囲気を感じたことは何度もあった

 

瑠唯「......否定はしないわ。」

穂希「!」

瑠唯「私はそんな狂気的な優しさな彼に命を救われて、好きになったんだもの......」

穂希「難儀ですのね。恋というのは。」

瑠唯「......そうかもしれないわね。」

 

 本当に難儀だと思う

 

 彼のことを異常だと思って、大人しくしてほしいとは思う

 

 けれど、彼の意志を否定したくない

 

 そんな相容れることのない気持ち

 

 今日の倉田さんと桐ケ谷さんの話を聞いて

 

 それはさらに強くなった

 

瑠唯「......もし、彼に何かあったら__」

凪沙「__なんだって!?」

瑠唯、穂希「!?」

 

 白鳥さんとの会話の途中

 

 聞いたこともないような衛宮先生の声が聞こえてきた

 

 あの人からあんな声が出るのかと驚きつつも

 

 私の胸の内は一気に嫌な予感で埋め尽くされた

 

凪沙「い、今すぐ行きます!」

 

 衛宮先生は慌てた様子で携帯をしまい

 

 信じられない速さで学校を駆け出して行った

 

瑠唯「__っ!」

穂希「八潮さん!?」

 

 それを見て、私も駆け出した

 

 信じたくはない、嘘であってほしい

 

 けれど、なぜか確信めいたものがある

 

 そんな不安で押しつぶされそうになりながら

 

 私は、学校を出て行った衛宮先生を追いかけた

___________________

 

 十数分ほど走って、私は病院に到着した

 

 ここは、衛宮君がよく来ていた病院で

 

 この辺りでは一番規模が大きい

 

瑠唯(衛宮君......っ!)

 

 病院の中でも、つい急ぎ足になってしまう

 

 不安と疲労で息が荒くなる

 

 どうか無事でいてほしい

 

瑠唯(お願い......なんでもするから、無事でいて......っ!)

 

 いつもみたいに優しく笑っていてほしい

 

 全部、何かの冗談で

 

 彼はなんともなくて、この後一緒に体育祭に参加したい

 

瑠唯(......そして、できることなら__っ!)

 

 そんなことを考えてると衛宮先生は足を止めた

 

 私もそれを見て立ち止まり

 

 病室に衛宮先生が入っていくのを見た

 

瑠唯「ここに、衛宮君が......」

 

 私は病室の前に立ち、そう呟いた

 

 ここに衛宮君がいる

 

 入ったら、すべての答えが出てしまう

 

瑠唯(......お願い。)

 

 ぎゅっと、服の裾を握った

 

 怖い、入りたくない

 

 もし、彼に何かあったら、私は......

 

瑠唯(無事でいて、衛宮君......!)

 

 私は大きく深呼吸をした

 

 そして、ドアノブをつかみ

 

 静かにドアを開けた

___________________

 

瑠唯「......?」

 

 病室に入ると、恐ろしく静かだった

 

 先に入った衛宮先生は入り口近くで立ち尽くしている

 

 一瞬、不可解に思った、けれど、所詮一瞬

 

 先生が立ち尽くしてる理由は、すぐに理解できた

 

瑠唯「え、衛宮、くん......?」

 

楓「......」

 

瑠唯「嘘......」

 

 今までの人生で、これほど自分を信じたくなかったことはない

 

 今見てるものすべてが夢か幻であってほしい

 

 けれど、無情にもこれが現実だと理解してしまう

 

瑠唯「な、なん、で......?」

 

 純白のベッドの上に向かって、何本も管が伸びている

 

 周りには見たこともないような機械の数々

 

 そして、その真ん中には......ほぼ全身に血が滲んだ包帯を巻かれ

 

 人工呼吸を取り付けられた......衛宮君がいた

 

瑠唯「えみ、や、くん......?」

凪沙「八潮、ちゃん?」

瑠唯「うそ、なんでしょう......?」

凪沙「っ!!」

 

 私はおぼつかない足を動かし、ベッドの上にいる衛宮君に歩み寄った

 

 こんなの、嘘よ

 

 衛宮君は昨日まで一緒に体育祭の準備をしてた

 

 バンドの練習だってした

 

 昨日まで、元気そのものだった

 

瑠唯「起きて、お願い、おねがい......っ!」

凪沙「......」

瑠唯「え、衛宮先生、衛宮君は、大丈夫、ですよね......?」

 

 私は震える声でそう尋ねた

 

 この人が否定してくれれば否定してくれる

 

 こんな状態の衛宮君も助けてくれる

 

 この人なら......

 

凪沙「.......ありがとう、八潮ちゃん。」

瑠唯「え.......?」

 

 衛宮先生はいきなりそんなことを言い出した

 

 なぜ、私はお礼を言われたの?

 

 今は__

 

凪沙「でも、ごめん......」

瑠唯「えっ__っ!!」

 

 お礼の後すぐに述べられた謝罪

 

 一瞬、何のことかわからなかった

 

 けれど、すぐに理解できた

 

 ......いや、できてしまった

 

瑠唯「そ、そんな.......えみや、くん......っ。」

 

 体中の力が抜けていき

 

 立っていられなくなって、床に膝をついた

 

 なんで、なんで、なんで.......

 

瑠唯「いや......目を覚まして、お願いだから......」

楓「......」

瑠唯「まだなの......私は、まだ何も伝えてないの......お願い、お願いだから、目を覚まして、衛宮君......!!!」

 

 私は3人だけの病室で心の底から叫んだ

 

 でも、その叫びは眠っている衛宮君に届くはずもなく

 

 時間は無情に過ぎていった

 

 

 

 



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納得

 あれから、どれくらい時間が経ったのだろう

 

 病院に来たときはまだ朝だったのに、今は日が傾いてる

 

 なんだか、時間が一瞬で時間が経った気がする

 

瑠唯「......」

 

 あれから、色んな人が来ていた

 

 衛宮君のご両親は泣いていた

 

 警察官の人は衛宮君に何があったのかを説明し

 

 衛宮君に助けられた女の子とその家族は頭を下げていた

 

瑠唯(......どうして。)

 

 衛宮君はかけがえのない命を救った

 

 それは立派な行いだし、誇ってもいい

 

 そう頭では理解してる、でも到底納得は出来ない

 

 なぜ、体が弱ってた彼の前に現れたの?

 

 なぜ、彼は助けようとしたの?

 

 なぜ......私たちを選んでくれなかったの......?

 

瑠唯「......なんでなの......衛宮君......っ?」

 

 ポタポタと水滴が床に落ちていく

 

 胸が締め付けられて、苦しくて、死にたくなる

 

 その原因は彼があんな状態になってしまったことだけじゃない

 

 私達より、見ず知らずの少女が選ばれた悔しさ

 

 それが私の心を締め上げてくる

 

透子「__ルイ。」

瑠唯「っ......!桐ケ谷さん......」

透子「泣いてんの?」

 

 顔を上げると、そこには桐ケ谷さんが立っていた

 

 いつもとは雰囲気が少しだけ違う

 

 きっと、今の衛宮君を見たのね

 

瑠唯「......」

透子「隠さなくていいよ。分かってるから。」

瑠唯「......他の、3人は。」

透子「泣いてる。」

瑠唯「......そう。」

 

 容易に想像がつく

 

 特に広町さんの彼への思いは群を抜いていたもの

 

 けど、おかしい

 

瑠唯「......あなたは、平気そうね。」

 

 桐ケ谷さんが妙に落ち着いてる

 

 いつもより少し暗いけれど

 

 絶望してる様子はない

 

透子「全然、平気じゃない。正直、悲しいし、辛い。」

瑠唯「っ!」

 

 平気なわけ......ないわよね

 

 よく見れば、体が震えてる

 

 きっと、必死に耐えてるんだわ

 

透子「でも、あたしは衛宮の病気のこと知ってたし。何より、衛宮が自分で選んで、納得してるなら、あたしはそれでいい。」

瑠唯「......えっ?」

 

 私は耳を疑った

 

 なぜ、そんなことが言えるの?

 

 あなたも彼に好意を持ってたのに

 

 なぜ、そんな言葉が出てくるの?

 

瑠唯「ふざけないで......っ!あなた、衛宮君が死んでしまっていいというの......!?」

透子「......そんなんじゃない。」

瑠唯「なら、なぜ......っ!!」

透子「!!」

 

 私は桐ケ谷さんの胸倉をつかんだ

 

 けれど、桐ケ谷さんは少し驚いただけで

 

 すぐに冷静な表情に戻った

 

透子「......好きっていう感情はさ、そんなに一方的なものなわけ?」

瑠唯「っ!」

 

 その言葉を聞いて、私は力が抜けた

 

 それで、桐ケ谷さんから手が離れた

 

透子「あいつは、生まれた時から病気や周りからの風当たりに苦しんできた。天才の兄と比べられて、親戚からは心無い言葉だって吐かれたと思う。でも、あいつは人間に失望しなかった。それどころか、自分に優しくしてくれた数少ない人間と同じように、誰かの役に立とうと必死だった。」

 

 ......何も言えない

 

 私の知りえなかった彼の過去を彼女は知ってる

 

 彼にとって、頼れる存在だったはずなのに

 

 なんで......っ

 

透子「もう、いいじゃん......解放されても。」

瑠唯「......!」

 

 桐ケ谷さんからポタポタと涙が落ちた

 

 そして、話を続けた

 

透子「あいつが満足して、悔いなく人生を終えられるなら、あたしはそれでいい。これ以上、無理に生きて苦しむ姿は見たくない。」

瑠唯「......!」

透子「ルイは、そう思わないわけ......?」

瑠唯「......」

 

 ......何も言えない

 

 私は今まで、大きな病気になったことがない

 

 そんな私に、彼に生を強要する資格はない

 

透子「勘違いしないで欲しいけど、あたしは別に衛宮に死んでほしいわけじゃない。けど、もしそうなったら、あたしはあいつを悲しい顔で見送ることだけは絶対にしたくない。」

瑠唯「......」

透子「......あたしは衛宮の大切にしてたもの、守るから。」

瑠唯「っ!」

 

 桐ケ谷さんはそう言って

 

 こちらに背中を向けた

 

透子「......ルイ。辛いかもしれないけどさ、一緒に衛宮を見送ろ。衛宮の友達として......あいつを好きになった仲間として。」

瑠唯「......」

 

 そう言って、彼女は部屋を出て行った

 

 その後も、私はその場に立ち尽くした

 

瑠唯(......私は。)

 

 どうするのが正解なのか、分からない

 

 彼女の話に納得した部分はあった

 

 彼を悲しまないように見送るのは、確かに正しい

 

 ......でも、全てに納得できるかと言えば、そうではない

 

瑠唯「......私は、どうすれば......」

 

 今の私には分からない

 

 けど、早く答えを出さないといけない

 

 彼の命が明日明後日と続いてる保証はないし

 

 ......彼を悲しませて、後悔したくないから

___________________

 

 “楓”

 

楓「......んっ......?」

 

 目を覚ますと、そこは薄暗い石で出来た道だった

 

 見た感じ結構凸凹してる場所で寝転んでたのに、痛みを感じない

 

 なんだか不思議な感覚だ

 

楓「ここは......あっ。」

 

 ここはどこだろう、なんて疑問はすぐに吹き飛んだ

 

 だって、分かったから

 

 ていうか、これしかないよね

 

楓「死んだんだ、僕。」

 

 特に驚きはしなかった

 

 あんなに無理をしたし、当たり前だ

 

 むしろ、生きてる方が自分を疑いたくなる

 

楓「......そっか。」

 

 後悔はない

 

 僕は最後に最善を尽くした

 

 そして、僕よりずっと長く生きていく命を救えた

 

楓「よかった......」

 

 僕は使命を果たせたのだろうか

 

 たくさんの人に支えてもらった分、頑張れたのかな

 

楓「さぁ、行こう......どこに行くか分からないけど。」

 

 ていうか、自我って残るものなのかな?

 

 よく分からないけど

 

 まぁ、なるようになるだろうし、いいかな

 

?「__やっと、来てくれた。」

楓「!?」

 

 僕が歩き出そうとした瞬間

 

 後ろから、女の人の声が聞こえた

 

 あれ、さっきまでいなかったのに......

 

 いつの間に......?それに......

 

楓(この人、色がない。いわさんみたいだ。)

?「あなたが、私の呪いを受け継いだ子供なんだね。」

楓「え?」

 

 その人は僕を見ながらそう言った

 

 私の呪い?......って、あれ?

 

 この人、どこかで......

 

織衣「私は、衛宮織衣。あなたの先祖だよ。」

楓「やっぱり。」

 

 いわさんに見せてもらった通りだ

 

 姿は最期の時のままなのか、体は若いままのに髪は白い

 

 この人が、僕のご先祖様なのか

 

織衣「少し、お話しない?」

楓「?」

 

 織衣さんはそう言い、自分の隣をポンポンと叩いた

 

 僕はそれを見て少し首を傾げたけど、特にすることもなかったので、僕は言われた通りそこに腰を下ろした

 

 その間、織衣さんは僕を見ながらずっと穏やかに笑っていた

 

 

 



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1人語り

 かえ君が生死を彷徨ってる

 

 その知らせが来たのは体育祭の真っ最中だった

 

 衛宮先生とご両親がいないことに気づいてからすぐだった

 

 正直、それからのことはあまり覚えてない

 

 辛うじて学校を飛び出したことだけが記憶にあった

 

七深「......」

 

 それで、次に正気に戻った時

 

 目の前には信じたくない光景が広がってた

 

 私は言葉を失った

 

七深「......っ。」

 

 足元がボロボロと崩れていくのを感じる

 

 自分がこの世の中に絶望していってるのが分かる

 

七深「な、ん、で......?」

 

 体、こんなに悪かったの?

 

 なんで、私に教えてくれなかったの?

 

 なんで、こんなに無理しちゃったの?

 

 なんで、私から離れるの?

 

 ......ずっと一緒って、思ってたのに

 

七深「......ねぇ、かえ君。」

 

 ベッドの上にいるかえ君に話しかける

 

 答えてくれないのなんて分かってる

 

 これは、ただの意思表示

 

七深「愛してるよ。」

 

 呟くようにそう言った

 

 私のことを救ってくれた、光のようなかえ君

 

 かえ君は、一番大切な人

 

 何者にも代えられはしない

 

 だから......

 

七深「......1人にはしないからね。」

 

 そう、絶対に1人にはしない

 

 かえ君がどこに行ったって、私はついていく

 

 それが私の幸せだから

 

 ......かえ君のいない世界なんて、意味ないもん

 

 そんな世界なら、いっそ......

___________________

 

 “つくし”

 

 体育祭の翌日は振替休暇になってる

 

 本当ならこの日は中間テストに備えて勉強しないといけない

 

 けど、私は今、ベッドの上にいる

 

つくし「......」

 

 まだ、衛宮君の現状を受け入れられない

 

 本当は夢なんじゃないかって

 

 そんな風に思ってしまう

 

つくし「......(衛宮君......)」

 

 病室に来てた家族

 

 あの女の子を衛宮君が助けたらしい

 

 病気なのに、無理して、あんな風になって......

 

つくし「......きっと、分かってたはずなのに。」

 

 自分の限界くらい、分かってたと思う

 

 だけど、それでも、誰かを助けるのを選んだ

 

 それを悲しいとは思う、けど、衛宮君らしくて嬉しくも思ってる

 

 私が好きになったのはそう言うところだから

 

つくし「私なら、出来たのかな......」

 

 自分なら、衛宮君みたいに出来たのかなって考える

 

 死ぬのが分かってて、体も苦しい中

 

 あんなになるまで、人を助けられたのかな......

 

つくし(......落ち着かない。)

 

 そう思って、ベッドから立ち上がる

 

 部屋にいても、気が滅入っちゃうだけ

 

 取り合えず、外に出よう

___________________

 

 外に出て、歩いて

 

 私は吸い寄せられるように病院に来た

 

 何か理由があったわけじゃない

 

 無意識に足がこっちに向かっていた

 

つくし「__おはよう、衛宮君。」

 

 病室に入ると、私はそう声をかけた

 

 けど、返事は帰ってこない

 

つくし「包帯、取れたんだね。」

 

 昨日は包帯でグルグル巻きだったけど

 

 今は血も止まって、包帯も取れてる

 

 見えてなかった顔が見えてる

 

つくし「こんなに近くで顔見るの、あの時以来だね。」

楓「......」

 

 改めて、白いなぁって思う

 

 白すぎて透明感すら感じる

 

 まるで、この世から消えて行ってるみたいに

 

つくし「あのね、聞いて?最近、お母さんと妹たちが衛宮君に会いたいって言ってるんだ。将来、息子にするんだって、お母さんが張り切っちゃって。」

楓「......」

つくし「妹たちもね、お兄ちゃんになってほしいって。」

 

 ......そんな未来、あったのかな

 

 衛宮君と結婚して、とか

 

つくし「あのね......私、衛宮君が好き。」

楓「......」

つくし「本当に、大好き......だから。」

 

 喉で言葉がつっかえる

 

 上手く、そこから出て来てくれない

 

 けど、なんとか、絞り出す

 

つくし「お願いだから......死なないで......」

 

 ポタポタと涙が布団に落ちる

 

 これが、私の本音だったんだ

 

 現実が見えて、出たのがこれだよ

 

 私がこんな風になるなんてね......

 

 これが、恋なんだね

 

つくし「もっと、一緒にいたいよ......まだまだ、楽しいことはいっぱいあるよ......?バンドだって、これからだよ......?」

 

 全部、これから

 

 これから、もっと仲良くなって

 

 バンドの皆と一緒に成長して

 

 私たちの5人の中の誰かと付き合って、とか

 

 まだまだ、これからなのに......

 

つくし「お願いだから、起きてよ......っ、私、なんでもするから......」

楓「......」

つくし「もっと、一緒にいたいよ......」

 

 衛宮君は特別なの

 

 お友達だけど、それ以上な

 

 言葉に出来ない、特別な存在なの

 

つくし「衛宮君......っ、んっ......」

 

 私は衛宮君にキスをした

 

 別に私が衛宮君にとってのお姫様になれるとは思ってない

 

 ただ、衛宮君を感じたいだけ

 

 しないで後悔することはしたくないから

 

つくし「......もう少し、お話しよ。あのね__」

 

 それから、私は衛宮君に話しかけ続けた

 

 この間に起きて欲しいって思ってた

 

 けど、衛宮君が目を覚ますことはなかった

 



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本当は?

 薄暗い道の端にある岩に僕と織衣さんは腰かけた

 

 お話するらしいけど、何のだろう?

 

 今の世の中の事とかかな?

 

 僕もそんなに知らないんだけど

 

織衣「あなたのお名前は?」

楓「衛宮楓です。」

織衣「楓......綺麗な名前だね。」

楓「ありがとうございます。」

 

 僕もこの名前は好きだし

 

 これ以降、誰かに名乗ることはないけど

 

 自我がある限りは大切にしていたい

 

織衣「祖父の名前は?」

楓「すみません、分かりません。僕は、親戚と関わりがなかったので。」

織衣「そうなの?」

楓「僕は心臓の病気だったので。敬遠されてたんです。」

 

 別にそれについての恨みとかはない

 

 顔も知らないから、そう言う感情を抱けない

 

 感覚的には他人だしね

 

織衣「......私のせいだね、その病気。」

楓「え?それは、どういうことですか?」

織衣「もう、100年前になるのかな。」

 

 織衣さんは空を見上げながら話し始めた

 

 さっきよりも暗い声だ

 

織衣「私の家は貧乏で、私はお金持ちの家に嫁いだの。」

楓「そうなんですか。」

織衣「嫁いだと言っても、ほぼ奴隷だった。朝4時に起きて、掃除洗濯、朝ご飯の準備。それが終わったら家中の掃除をして、旦那様が帰ってくるまでにお風呂と夜ご飯の準備をして、その片付けをして、誰よりも遅くに眠る。冠婚葬祭の準備も、法事の準備も、全部私1人でして。浮気に気づいても、見て見ぬふりをする。そんな生活だった。」

 

 思ってたよりもひどい生活だ

 

 今と違って便利な家具もないだろうし

 

 きっと、すごく大変な生活だったはず

 

織衣「そんな生活を送ってたある日、私はある神様に出会ったの。」

楓「神?」

織衣「その神様は私に言ったの。『君が一晩僕のものになるなら、一つ願いを叶えよう。』って。」

楓「そんな神様がいるんですか?」

 

 何と言うか、変な神様だ

 

 言葉が妙に軽いというか

 

 価値観がいわさんとは違いすぎる

 

織衣「それで、その誘いに乗った。その後に私が願ったのは、綺麗な世界が見たい、だった。」

楓「綺麗な世界、ですか?」

織衣「うん。それで与えられたのが、あなたの持ってる力。」

楓「......綺麗ですか?この目で見える世界って。」

織衣「私の住んでた場所は人が少なかったから。綺麗だった。」

 

 まぁ、それはそっか

 

 僕は生まれつき都会育ちだったし

 

 そもそも環境が違うんだ

 

楓「でも、なんで、僕にその力が受け継がれたんですか?」

織衣「それは......あなたに、あの神様の因子みたいなものが宿ってたから。」

楓「え?」

織衣「あなた、家族の中で1人だけ髪の色が違うでしょう?」

楓「そう、でしたね?」

 

 僕以外は3人とも、赤みのある色をしてた

 

 小さい時は何でだろうって思ってたけど

 

 そう言うものだって受け入れてた

 

織衣「あなたの髪の色は、あの神様と同じだから。」

楓「そうなんですか!?」

織衣「うん。」

 

 なんでそれが僕に受け継がれたのかも謎だけど

 

 もう、神様だからってことにしよう

 

 考えても分からないし

 

楓「なんて言うか、現実感ありませんね。」

織衣「それを言ったら、今の状況も現実味ないよ?」

楓「確かに。」

 

 よくよく考えたら、ここはどこなんだろう?

 

 天国でもなければ地獄と言うわけでもない

 

 何と言うか、変な空間だ

 

織衣「じゃあ、次は君の話を聞きたいな。」

楓「僕ですか?」

織衣「ねぇ、好きな人いる?」

楓(どこかで聞いたことのあるセリフ。)

 

 いつの時代も女の人ってそう言う話が好きなのかな

 

 僕はよくわからないけど

 

楓「それはどいう意味でですか?」

織衣「それはもう、結婚したいって方向性の。」

楓「じゃあ、いません。」

織衣「嘘。」

楓「嘘じゃないですよ?」

 

 な、なんで疑われるんだ?

 

 別に僕って恋とかそういうのするタイプに見えないと思うけど

 

織衣「嘘だよ。だって、あなた、恋をしてる魂だもの。」

楓「!?」

 

 あ、そうだった

 

 この人って僕と同じ力を持ってるんだ

 

 いや、でも、それでもおかしい

 

 僕は別に恋なんてしてない

 

 そんな感覚、今まで一回も.....

 

織衣「鈍感なんだよ、あなたは。人の心にも自分の心にも。」

楓「そう、なんでしょうか?」

 

 また、鈍感って言われた

 

 今年になってから何回言われただろう

 

 数えきれないや

 

楓「......わからないです。」

織衣「え?」

楓「生前、僕はお友達だと思ってた子に告白されたんです。それで、気づいたんです。僕が大切に思ってた人たちは、僕のことを恋愛的な意味で好きだったんだって。」

 

 なんで僕なんだって思った

 

 あんなに素敵な人たちなのにって

 

 正直、消えてしまいたくなった

 

織衣「あなたは、好きじゃないの?」

楓「勿論、大好きです。でも、分からないです。」

織衣「やっぱり、鈍感だね。でも、仕方ないのかもね。」

 

 織衣さんはまっすぐ僕の目を見た

 

 少し、自分と似てる気がする

 

 特に、目の感じとか

 

織衣「あなたは、そういう環境で育ってきたから。」

楓「......!」

織衣「病気のせいで自己肯定感も低くなった。だから、自分に好意を向けられること自体をありえないと思う。そう思うのは仕方のないことだよ。あなたは悪くない。それは、私のせいだから。」

 

 悲しそうな表情を浮かべる

 

 色が見えなくてもわかる

 

 この人、本気で自分のせいだと思ってる

 

織衣「私の身勝手さのせいで、あなたに辛い宿命を突き付けてしまった。本当に、ごめんなさい。」

楓「そんなに気に病まないでください。」

織衣「!」

楓「僕は自分の人生に満足してます。」

 

 優しい家族がいた

 

 最後に優しい思い出も出来た

 

 僕の人生に悔いなんて一切ない

 

織衣「......それは、本当に?」

楓「え?」

 

 織衣さんがそう尋ねてきた

 

 どういうことだ?

 

織衣「本当に、自分の気持ちを全部出し切れた?」

楓「......!」

 

 その言葉に動いてないはずの心臓が跳ねたような気がした

 

 なんだ、この感覚は

 

 自分の中で何かが崩れる感覚

 

 倉田さんに告白されたときに似てる

 

織衣「もう一度聞くよ、楓。」

楓「......は、い。」

織衣「好きな人は、いる?」

 

 織衣さんの目は真っすぐに僕をとらえていた

 

 そのせいかそうじゃないかわからないけど、僕はうまく声を出せなくなって

 

 2人の間は、静寂に支配されていた

 

 

 



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 今、あたしは人生の大きな分岐点を迎えてる

 

 いや、衛宮に出会ってからかな

 

 あたしの運命は動き出した

 

透子「......衛宮と出会って、もう半年経つんだ。」

 

 最初は、ななみと一緒に茂みから覗いて来てたっけ

 

 あの時は、よく一緒にいる2人の内の1人って感じで

 

 そんなに印象に残る存在じゃなかった

 

 けど、バンド組んで、一緒に過ごすようになって

 

 段々、良い奴だなって思うようになって

 

 そこから好きになるのにそんなに時間はかからなかった

 

透子(......何してんだろ。)

 

 あの日から、あたしは毎日、衛宮のお見舞いに来てる

 

 別に何か理由があるわけじゃない

 

 ただ、体が勝手にここに向かうだけ

 

透子「なんで、ここに来るんだろ。」

 

 分かんない

 

 あたしが今、何を求めてるのか

 

 衛宮に会いたいのか、最近バンドの練習がなくて暇だからなのか

 

 なぜか、ここに引き寄せられる

 

透子「衛宮はどっちだと思う?」

楓「.......」

透子「.......って、答えらんないか。」

 

 今まではなんでも答えてくれてた

 

 SNSの話題なんてわからないのに

 

 頑張って、話を合わせてくれてた

 

 それが、すごい嬉しかった

 

透子「ほんとに衛宮は誰にでも優しかったよね。」

 

 あたし達はもちろん

 

 クラスの皆や会ったこともない他人

 

 さらには敵だった白鳥にまで

 

 衛宮は優しかった

 

透子「誰かを助けて、こんなになるとか。ほんとに、馬鹿じゃん。」

 

 バカって言えるほど、あたしも賢いわけじゃないけど

 

 けど、衛宮は特別だ

 

 特別バカで.......

 

透子「.......すごい、かっこいい。」

 

 困ってる人がいれば、自分がどんな状況でも助けようとする

 

 例え、命が風前の灯火でも

 

 どんなに痛くても辛くても

 

 衛宮は自分が信じれば、真っ直ぐ突き進んでいく

 

 それが、かっこいい

 

透子「.......なんで、人ばっか助けて、衛宮は助からないの?」

 

 衛宮はいっぱい、人を助けてきた

 

 なのに、衛宮のことは誰も救えない

 

 ......なんで?

 

透子(あたしが、何もできないからだ。)

 

 頭がいいわけでも、ななみみたいな天才でもなければルイほど努力家でもない

 

 そんなあたしが衛宮を救えるわけがない

 

 ......だから、見送りたかった

 

 明るいのが取り柄だから、衛宮が振り向かないように振舞いたかった

 

透子「......けどっ。」

 

 嫌なのに、涙があふれてくる

 

 我慢なんて、無理に決まってるじゃん

 

 衛宮が病気なことなんてずっと前から知ってた

 

 いつかはこうなるかもしれないとも思ってた

 

 けど......けど......

 

透子「あたし......好きな人が死ぬのを、笑って見送れるほど......大人じゃなかった......っ!」

 

 ルイに散々言っといてこれって、すごいダサい

 

 けど、我慢できない

 

 結局あたし、普通の女だった

 

透子「......あたしは、衛宮が好きだよ。だから__」

 

 あたしは呟くようにそう言って

 

 ベッドの上にいる衛宮の胸に顔をうずめた

 

 その時、衛宮から、どこか冷たい冬の匂いがした

___________________

 

 “楓”

 

 ここは、静かだ

 

 だから、余計な情報が入ってこなくて

 

 今起きてる事柄だけを考えさせられる

 

楓(......僕は。)

 

 好きとか、そうじゃないとかなんて考えたことがなかった

 

 だって、僕は人より早く死ぬのが分かってたから

 

 人を好きになったって、仕方ないから

 

楓(......)

 

 そのはずなのに、なんだろう

 

 この胸に何かがつっかえてる感覚は

 

織衣「きっと、いたと思うよ。最後、あなたの頭に浮かんできた人。」

楓「最後に、浮かんできた人......(......誰だ?)」

 

 最後、死ぬ寸前の景色を思い出す

 

 あの時は、目の前が真っ白で

 

 それで......

 

楓「......色、でした。」

織衣「!」

楓「最後に見えたのは、色だったんです。僕の人生を彩ってくれた色が走馬灯のように見えました。」

 

 時間にしてみれば、ほんの一瞬だったのかもしれない

 

 けど、いろんな色が見えた

 

 父さんと母さんとお兄ちゃん、先生に生徒会の皆さん

 

 そして......僕の最初で最後の5人のお友達

 

織衣「......そっか。(本当に、いい子過ぎるね。)」

 

 きっと、皆特別なんだ

 

 僕の人生は色んな人に支えられてきたから

 

織衣「まぁ、いいよ。もう少し、ここにいて、考えればいいよ。」

楓「いいんですか?それって。」

織衣「大丈夫。あなたはまだ、ここにいられる。だって__」

 

磐長姫「__まだ、楓は死んでないから。」

 

楓「え?」

織衣「神様?」

 

 空気が少し緩んだ瞬間

 

 向こうからいわさんが姿を現した

 

 いきなり現れたみたいだった

 

磐長姫「そうだよね。織衣。」

織衣「はい。その通り。楓はまだ死んでません。」

楓「そう、なんですか。」

 

 正直、もう死んでると思ってた

 

 と言うより、よく生きてたね

 

 僕、ありえないくらい酷い状態だと思ってたけど......

 

磐長姫「生きてると言っても、楓には時間がない。これから、楓は手術を受ける。それまでに、楓は選ばないといけない。」

楓「選ぶって......?」

磐長姫「これから生きるか、このまま死ぬのか。」

楓「!」

 

 まさか、考えないよね

 

 まだ僕が死んでなくて、生きられる

 

 そんな可能性、ここに来てから考えてなかった

 

 でも......

 

楓「......僕には、どうすればいいのか分かりません。」

織衣、磐長姫「!」

 

 生きたいとか、今まで考えたこともない

 

 死にたいとも思ってないけど

 

 正直、今の現状に満足している節がある

 

楓「僕がここで倒れることは運命だったと思うんです。きっと、僕の役目は全部終わったんだと思うんです。」

磐長姫「......それは違うと思う。」

楓「え?」

 

 いわさんの声が低くなる

 

 それに僕も織衣さんも少し背筋が伸びた

 

磐長姫「楓が死にかけて悲しんでる人間を、ここに来るまでに私は見てきた。」

楓「......!」

磐長姫「まだ、楓は役割を終えてない。楓が幸せに出来る人間はまだいる。」

 

 ......大体、分かってる

 

 僕の周りにいる人たちは優しいから

 

 僕なんかの為に悲しんでくれてるんだと思う

 

磐長姫「......でも、私は正直、このままでいて欲しいとも思ってる。」

楓「!」

織衣「神様?」

 

 また、雰囲気が変わった

 

 声音は変わらないけど

 

 なんだか、少し震えてる気がする

 

磐長姫「神は平等でないといけない。けど......」

楓「?」

 

 サファイヤのような目に僕の姿が写ってる

 

 次の言葉が出るまでの時間が長く感じる

 

 僕はいわさんを見たまま、固唾を飲んだ

 

磐長姫「......あのね、楓。」

 

 静かな足音と共にいわさんが近づいてくる

 

 そして、目の前でフワッと浮いて

 

 僕に向かって両手を広げた

 

楓「いわ、さん......?」

磐長姫「あのね、楓。」

 

 いわさんの顔が近い

 

 けど、この距離で見ると人間とそこまで変わらないって思う

 

 そんなことを思ってると、いわさんが口を開いた

 

磐長姫「私は、楓のことを愛してる。初めて出会った時から。何百年でも何千年でも、一緒にいたい。」

 

 いわさんはそう言って、穏やかな笑みを浮かべた

 

 その表情は、あまりにも綺麗すぎて

 

 僕は呼吸をすることすら、忘れさせられた

 

 



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タイムリミット

 さして優れた部分はない

 

 なのに、素敵な人たちが僕を好きになる

 

 ましてや、神様まで

 

 なんでなんだ......

 

楓「な、なんで......?」

磐長姫「......私を、可愛いと言ってくれたから。」

楓「え?」

 

 その答えに、驚いてしまった

 

 意外と、単純な理由と言うか

 

 何も特別なことじゃないから

 

磐長姫「......この世に生まれてどのくらいになるか分からないけど、初めてだった。」

楓「そう、なの?」

磐長姫「父親に嫁に出されて、醜いって送り返されたくらいだからね。」

楓(え?)

 

 いわさんは絶世の美女だ

 

 それはもう、この世に存在しないだろうってレベルの

 

 そんないわさんが、醜い......?

 

磐長姫「そんな私にとって、可愛いと褒めてくれて、神の器である楓は特別なの。だから......」

楓「......!」

磐長姫「悠久の時を私と生きよう。楓。」

 

 顔を見たらわかる

 

 いわさん、本気だ

 

 今までの言葉全部、本心なんだ

 

楓「それ......は。」

 

 それも、悪くないと思ってる

 

 いわさんとは話が合うし

 

 ずっと仲良くいられると思う

 

 だけど......

 

織衣「迷ってる魂だね。楓。」

楓「っ!」

織衣「落ち着いて。」

 

 織衣さんに背中を撫でられる

 

 それで、少しだけ落ち着いた

 

楓(......僕は。)

 

 冷静になった頭で考える

 

 今、僕はどうしたいのか

 

 生きたいのか、このままでいたいのか

 

楓「......っ」

 

 そうしてると皆の顔が浮かんでくる

 

 胸が締め付けられて、寂しいって思う

 

 僕って、意外と素直なのかな

 

 自分では全然そう思ってなかったんだけど

 

織衣「そんなに辛かった?生きてるの。」

楓「え......?」

 

 織衣さんは優しく諭すような声でそう言ってきた

 

 心安らぐような声だった

 

 けど......僕には、とてつもなく、気分が悪くなった

 

楓「......」

織衣「楓?」

楓「......辛かった、ですよ。当たり前のように。」

織衣、磐長姫「!」

 

 絞り出すようにそう言った

 

 けど、一度口に出してしまえば少し楽になった

 

楓「いくら治療しても病気は治らなくて、ずっと楽しく遊んでる同年代の子たちを見てた。いつか、自分もこうなれると思ってたけど、結局最後まで、病気を克服できなかった......」

織衣「楓......」

 

 僕は人生で一度も体育の授業を受けたことがない

 

 運動会にも参加したことがない

 

 走った距離だって、生涯で1㎞もないと思う

 

楓「僕はもっと、走り回りたかった。何も考えずに、楽しく......まぁ、今となっては身の丈にあってない夢だったんですけど。」

?「__いや!そうとは限らない!」

楓、織衣、磐長姫「!?」

 

 その時、静かなこの場所に大きな声が響き渡った

 

 けど、どこからしたのか分からない

 

 スピーカーから流れてきた声みたいだった

 

?「君の願い、聞き入れた!」

楓(だ、誰......?)

織衣「あ、あなたは......!」

磐長姫「......げっ。」

 

 そこから現れたは、金髪で長身の男の人

 

 見たこともないアクセサリーをいくつも付けてて

 

 チャラい......って言うのかな?

 

?「会えて嬉しいよ。愛しき我が子よ。」

磐長姫、織衣「......!?」

楓「え......?」

 

 その言葉に、僕は首を傾げた

 

 その横では2人が愕然とした表情を浮かべていた

___________________

 

 “瑠唯”

 

 あれから、2週間が経った

 

 彼は目を覚ますことなく、眠り続けてる

 

 けれど、その時間にも終わりが近づいている

 

凪沙「__楓は、もうすぐ大規模な手術を受けることになる。」

ましろ、透子、七深、つくし、瑠唯「......」

 

 衛宮君の担当医の話によると、もって1日2日

 

 それ以降はもう、命は保証されない

 

つくし「衛宮君は、治るんですか......?」

凪沙「......」

ましろ「そんな......」

 

 衛宮先生を見ればわかる

 

 確率は限りなく0であると

 

 この人でこれなら、他は......

 

凪沙「楓の担当の方はとても優秀だよ。だけど、彼女の力を持ってしても、厳しいだろうね。」

七深「......そうですか。」

 

 大切なものを失ってしまう恐怖

 

 もし、衛宮君がいなくなるような事態になったら

 

 私たち5人への影響は計り知れない

 

瑠唯(本当に、私たちを置いて行ってしまうの......?)

 

 今の状況を考えれば、その可能性が高いのは分かる

 

 そうなった時、私はどうするのだろう

 

 それを考えると、恐怖を感じる

 

七深「......私は、かえ君を1人にはしないよ。」

つくし「ななみ、ちゃん......?」

七深「私の人生は全部、かえ君にあげてるから。」

瑠唯「......!」

 

 危うい

 

 私たちの中で、彼女の彼への思いは頭一つ抜けてる

 

 それこそ、命よりも大切に思ってるはず

 

 そんな彼女だからこそ、彼の後を追う......何てことも考えられる

 

七深「かえ君は、私の全てだから。」

ましろ(ななみちゃん......)

透子(......なんかあったら、止めないとかも。衛宮の為にも。)

 

 病室内の空気がさらに重くなる

 

 彼の手術の結果で、大袈裟でもなんでもなく、私達の運命が変わる

 

 今の広町さんの姿を見て、私はそう直感した

 

 

 



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もう一つの家族

 目の前に現れた、チャラいと呼ばれる類の人(?)

 

 この人が来て、空気がガラッと変わった

 

 いわさんはどこか嫌そうな顔をして、織衣さんは目を見開いて驚いてる

 

 この人は一体?それに、息子って......?

 

大国主神「君は楓......だったね。」

楓「は、はい。」

大国主神「ふむ。」

 

 な、なんだか、すごく見られてる

 

 この人は神様、なのかな?

 

 それにしては人間らしい外見だ

 

磐長姫「......大国主神。なぜここに。」

大国主神「なぜ、そう聞かれると難しいね。でも、間違いなく言えるのは。」

楓「わっ!」

 

 大国主神さん?は僕に抱き着いて来た

 

 すごく体が大きい

 

 一回り位違うんじゃないかな

 

大国主神「我が力を引き継いだ息子に会いに来た、と言うわけだよ。」

磐長姫「それだよ。息子って、なに?」

大国主神「それは、そっちの子に聞いた方がいいんじゃないかな?」

 

 大国主神さんはそう言いながら、ある方向を指さした

 

 僕といわさんはそっちに目を向けた

 

織衣「!」

大国主神「久しぶりだね。」

楓「織衣さん......?」

 

 大国主神さんは織衣さんを指さしていた

 

 2人は面識があるのかな?

 

 そんな雰囲気があるけど

 

織衣「......はい。」

楓(まさか!)

大国主神「100年前、偶然彼女を見つけてね。彼女の純潔の見返りとして力を与えたのは他でもない、この僕だよ。」

磐長姫「!?」

楓(この人が......)

 

 なんだか、変な感じはした

 

 神様なのに、妙に軽い感じ

 

 それに何となく、異質さを感じたけど

 

 まさか本人なんて......

 

大国主神「だが、まさかだった。我が力の因子が遥か遠い世代にまで引き継がれるとは......興味深い。」

 

 神様にとっても予想外だったんだ

 

 なんか、変な感じだ

 

 小さい頃から当たり前にあったものが、そんなにすごいものだったなんて

 

磐長姫「......いいの?楓?」

楓「え?」

 

 僕は首を傾げた

 

 何のことを言ってるんだろう?

 

磐長姫「今、目の前には楓に過酷な運命を強いる原因になった存在がいる。憎いとは思わない?」

楓「え、全然?」

磐長姫「!?」

楓「?」

 

 僕の答えに、いわさんは驚いた表情をした

 

 なんでそんなに驚くんだろう?

 

楓「僕が色を見れたからこそ、救えた人たちがいるから。憎いなんて、ありえないよ。」

磐長姫「......楓らしいね。(だから、愛してるんだけど。)」

大国主神「......なっ。」

楓、磐長姫、織衣「?」

大国主神「なんていい子なんだっ!!!」

 

 大国主神さんがいきなりそう叫んだ

 

 すごい声だ

 

 一瞬、この空間が揺れたかと思った

 

大国主神「もうこのまま出雲に連れて帰りたいよ!折角の可愛い可愛い我が子だし!」

磐長姫「目的を見失ってどうするの?」

大国主神「あ、そうだった。」

 

 大国主神さんはそう言ってから咳ばらいをした

 

 少しだけ真面目な表情になる

 

 一気に場の雰囲気が変わった

 

大国主神「まぁ、今すぐにでも出雲に連れて帰りたいところだけど、今回の目的はそれではない。」

楓「どういうことですか?」

大国主神「楓はまだ、生きていかなければいけない、と言うことだよ。」

楓「え?」

 

 大国主神さんは落ち着いた声でそう言った

 

 僕はそれに首を傾げた

 

 ど、どういうことだろう

 

大国主神「これは誰の意志でもない、運命なんだ。そして、その運命を手繰り寄せるのは......」

楓「......?」

大国主神「......いいや、これは言うまでもないかな。」

楓「!」

 

 僕の頭に大きな手が乗せられた

 

 なんだろう、この感じ

 

 妙に安心するけど、少し恥ずかしい

 

 父さんに撫でられた時に似てる

 

楓「僕は、生きていていいんですか......?」

磐長姫「楓?」

楓「これ以上生きても、僕には......」

 

 これ以上生きて、僕に何が出来るんだろう

 

 生きても、また病気に侵されて、繰り返しになるだけじゃないの?

 

 そう思うと、小さく体が震えてくる

 

織衣「大丈夫だよ、楓。」

楓「織衣、さん......?」

大国主神「織衣の言う通りだよ。」

 

 2人に、優しく抱きしめられる

 

 温かい

 

 体温がどうとかじゃなくて、心が

 

大国主神「運命は動き出してる。そして、その運命を決めるのは今の楓だ。」

楓「今の、僕......?」

大国主神「この道は本来、一方通行なんだ。だが、楓のみ、逆行することができる。」

 

 そう言えば、僕以外の人たちは皆、同じ方向へ歩いてる

 

 ここは、そう言う場所なんだ

 

織衣「私の我が儘になるけど、楓には生きていて欲しい。」

楓「それは、なんでですか......?」

織衣「私が神様と交わったことがきっかけで、楓に能力が継承されて、申し訳ないとは思ったの。でも、それ以上に、我が子のように愛おしく思った。」

楓「......!」

大国主神「......まぁ、あながち間違いでもないからね。」

 

 織衣さんの抱きしめる力が強くなる

 

 少しだけ苦しい、けど、嫌ではない

 

織衣「だから、生きて。それで、幸せな最期を迎えて欲しい。」

楓「僕、幸せになれますか......?」

織衣「なれる。きっと。」

大国主神「あぁ。」

 

 僕の問いに、2人は頷いた

 

 正直、僕は僕の人生に満足して、後悔はなかった

 

 けど、まだまだだったのかな

 

 この先の僕にも、可能性はあるのかな

 

大国主神「楓が神として僕や織衣と会うのは、もう100年は先でいい。」

織衣「!」

楓「え?」

大国主神「言ってなかった?僕がここに来た理由は、可愛い可愛い楓に会うのともう一つ、織衣を迎えに来たんだ。」

 

 大国主神さんはそう言って、織衣さんの方に手を差し伸べた

 

 そして、こういった

 

大国主神「君を、僕のお付きとして迎えることにした。」

磐長姫「珍しい。」

大国主神「そろそろ、1人ぐらい付けてもいいかと思ってね。何より、愛しい我が子の成長を見守りたいからね。」

織衣「......はい。ありがとうございます。」

 

 ポタっと、綺麗な雫が地面に滴り落ちた

 

 泣いてる、のかな

 

 それにしては、嬉しそうに見えるけど

 

大国主神「じゃあ、僕達はお暇しよう。磐長姫、楓のことをよろしく頼むよ。」

磐長姫「言われるまでもない。」

大国主神「そして、楓。また、100年後に会おう。」

楓「は、はい。」

 

 大国主神さんはそう言って、こっちに背を向け

 

 そのまま歩き出した

 

織衣「楓。」

楓「織衣さん。」

織衣「もうしばらく会えなくなるけど、私はずっと、楓の幸せを願ってるよ。」

楓「はい。織衣さんも、幸せになってくださいね。」

織衣「ふふっ、なるよ。きっと。」

 

 そう言うと、織衣さんも歩いて行った

 

 なんだか、少し寂しいな

 

磐長姫「私はずっと一緒にいるよ。100年でも、何年でも。」

楓「うん。」

磐長姫「現世に戻ろう。楓が生きる分の命は、私があげるから。」

楓「そうだね......行こうか。」

 

 僕は、多くの魂とは逆の方向を向いた

 

 きっと、こっちなんだろうね

 

 生きるっていう運命に続く道は

 

 これが正解なのかどうかは分からないけど、一回、運命に従ってみよう

 

 そんなことを思いながら、僕はゆっくり歩き出した

 

 

 



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決意

 あれから、衛宮君は手術室に入った

 

 固く閉ざされた扉の上に手術中のランプが光っている

 

 時間が恐ろしくゆっくりに感じる

 

瑠唯(衛宮......君......)

 

 ドクンドクンと心臓が大きな鼓動を刻んでいる

 

 この手術が終われば、すべてが決まる

 

 彼の運命も、私たちの運命も

 

透子「......衛宮ってさ。」

ましろ、七深、つくし、瑠唯「......?」

透子「初めて会った時から、不思議な奴だったよね。」

 

 彼女はいきなり、そんなことを言い出した

 

 こんな時に何を......と思ったけれど

 

 頭の中に、彼との出会いを思い出す

 

瑠唯(あの時は......)

 

 1学期の始業式の日、クラス表の前

 

 顔を真っ青にして頭を押さえて蹲っていた

 

 今思えば、あれは彼の能力の過負荷によるものだけれど

 

 あの時は変な人だと思っていた

 

七深「......きっと、運命だった。」

つくし「ななみちゃん......?」

七深「かえ君に出会わなかったら、私は今も救われてない......それくらい運命的だった。だからこそ、私はここまで、かえ君を好きになった......」

瑠唯「......」

 

 彼女もまた、彼に救われた1人

 

 大袈裟でもなんでもなく、人生そのものを変えてしまった

 

 そんな彼の特異な才能の影響を最も受けた1人

 

 その言葉には、何とも言えない重みがある

 

七深「......だからね、私はかえ君のいない世界になんて、何のこだわりもないんだよ。」

ましろ、つくし、瑠唯「......っ!」

透子「そ、それって......」

七深「......うん。」

 

 彼女は小さく頷き

 

 ひどく光のない目を私たちに向けた

 

七深「かえ君を1人にはしない。ずっとついて行くよ。それが例え、あの世であっても。」

瑠唯「......っ」

 

 重い、重すぎる

 

 愛情ではない、依存と執着

 

 彼女にとっての彼はそれほど大きな存在になっていた

 

 そんな彼女がもし、彼を失うことがあれば......彼女の言葉通りの事態になることは十分考えられる

 

ましろ「ななみちゃん、それは......」

七深「しろちゃん。これがね、愛なんだよ。恋なんて可愛いものじゃないんだよ。」

つくし(ほんとに、やばいかも......)

瑠唯「......」

 

 恐ろしい

 

 彼女はもう、彼の存在なしには生きていけないだろう

 

 そんな風に彼女を変えてしまった、彼の才能が恐ろしい

 

透子「......でも、それさ、衛宮は喜ぶ?」

七深「......どういうこと?」

透子「もし仮に衛宮が死んじゃって、七深もすぐに向こうに行って、そこで出会うことになったら......どう思うんだろうね。」

七深「......」

 

 桐ケ谷さんも、彼を思っている

 

 誰よりも早く、衛宮君の病気のことを知って

 

 行動の細かい部分に彼を気遣う動きがあった

 

 そう言う成長も、彼は促した

 

七深「......それでも、一緒にいればいつかは忘れる、いや、忘れさせる。あっちには死なんてないから。何十年でも何百年でも何千年でも、一緒にいられる。」

つくし「そんなの、ダメだよ......」

七深「なんでかな?つーちゃん?」

つくし「だって、衛宮君が大切にしてくれてたもの、残らないから......」

七深、瑠唯「......!」

 

 その言葉を聞いて初めて、広町さんの表情が変わった

 

 何かに気づいたような表情をしている

 

つくし「衛宮君が残り少ない時間を費やしてくれた、バンド。ななみちゃんがいないと、なくなっちゃうよ......?」

七深「......っ」

つくし「私達のために、ほぼ毎日、練習に付き合ってくれた。そのおかげで、大きく成長できた。それを、どんな結果になっても、私は守りたいって思ってる。」

 

 二葉さんもまた、独自の決意を持っている

 

 バンドを彼の形見とする......私も考えなくはなかったし

 

 どうなっても、しばらくは続けると思っていた

 

つくし「もっと上手になって、衛宮君のいる場所に届くようなライブをする。」

七深「......そっか。」

 

 二葉さんの決意は伝わって来たし

 

 私もそれに協力するのはやぶさかではない

 

 だが、まだ、彼女の雰囲気は変わらない

 

 未だに彼女からは死の気配が溢れ出している

 

ましろ「......私は、今のままでいる気はないよ。」

透子、七深、つくし、瑠唯「......っ!!」

 

 病院の廊下に響く、いつもよりもトーンの低い声

 

 雰囲気も、柔らかいものではなく、どこか重苦しい

 

ましろ「もっと練習する。それで、もっと上手になって、綺麗になる。Circleのステージに立つのは、もう目標じゃない。」

透子、七深、つくし、瑠唯「......!?」

 

 倉田さんは固く拳を握り込み

 

 そして、一度、大きく呼吸をし

 

 ゆっくりと口を開いた

 

ましろ「私、メジャーデビューを目指したい。衛宮君が繋いでくれたこのバンドで。そして、証明する。衛宮君は本当にすごいんだって。」

透子「......!(シロ......!)」

つくし(あの、ましろちゃんが......)

七深「......」

 

 あの消極的で大人しかった少女が、確固たる決意を持った女性に変わった

 

 倉田さんの目にはただならぬ覚悟が宿ってる

 

 彼女は決して天才などではない

 

 ましてやメジャーデビューなんて、実現できない可能性の方が高い

 

瑠唯(......なのに。)

ましろ「絶対にそこまで行く。私の人生すべてをかけて。その間にあるCircleも先輩のバンドも何もかも、ぜんぶ通過点だから。」

 

 決して、天才でも実力者でもない彼女の言葉

 

 でも、誰もそれを戯言などとは思えない

 

 確固たる決意と狂気を孕んだ目を見れば、全て本気であると、納得させられる

 

 そう、まるで......

 

瑠唯(まるで、衛宮君の目......)

 

 常軌を逸したあの目

 

 それを目の当たりにして、私は恐ろしくなった

 

 あの、何もかもを変えてしまう才能の再来を、予感したから

 

 

 



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変化

 整備された様子のない、荒れた道

 

 そこを、いわさんと歩いてる

 

 こっちに歩いてれば大丈夫って言ってたけど

 

 本当に大丈夫なのか不安になる

 

楓「これ、大丈夫なのかな?」

磐長姫「大丈夫だよ。現世の気配、もう近いから。」

楓「いわさんがそう言うなら......」

 

 どうやら、もうすぐ着くらしい

 

 景色は一切変わってないけど

 

 神様が言うなら大丈夫だよね?

 

磐長姫「それで、現世につく前に聞いておきたいことがあるんだけど。」

楓「?」

磐長姫「楓が生きてるうちの伴侶について。」

楓「えぇ!?」

 

 いきなり何を言いだすんだ、いわさん!?

 

 驚いて変な声出ちゃったよ

 

 ......でも

 

楓(そっか、そうだよね。)

 

 気づいたんだ、無視なんてできない

 

 向こうに戻ったら、向き合わないといけないんだ

 

楓「......」

磐長姫「楓、顔真っ赤だよ?」

楓「え!?そ、そうかな!?」

磐長姫「うん。(気づいたらこうなるんだ。)」

 

 うん、まぁ、仕方ないよね

 

 僕の人生は恋愛とかとは無縁だと思ってたし

 

 しかも、全員、すごく美人で、優しくて

 

 こんな僕なんかとはとても釣り合わないくらいの人たちだし

 

楓「ど、どうすればいいんだろう?」

磐長姫「楓の好きなようにすればいいんじゃない?」

楓「う、うーん......」

 

 好きにしろが一番難しい......

 

 嫌いな人いないし、むしろ、みんな好き寄りだし......

 

楓「ど、どうすれば!?」

磐長姫「全員にすれば?」

楓「いわさん!?」

 

 さ、流石、神様(関係ない)

 

 いや、普通にダメなんだけどね?

 

 僕が住んでる世界、法律があるから

 

磐長姫「それは冗談にしても、楓の思ったようにすればいいんだよ。彼女たちも、きっと、選ばれたいと思っても選ばれるとは思ってない。」

楓「それは、いわさんも?」

磐長姫「私たちは人間で言う許嫁のようなもの。不安なんてない。」

 

 それはそれでいいんだけど

 

 いわさん、面白いし

 

楓「難しいんだね、恋って。」

磐長姫「あの5人の方がそう思ってるよ。」

楓「......ですよね。」

 

 今までの僕、かなりヤバいよね

 

 怒られても文句言えないよ

 

 と言うより、よく愛想尽かされなかったなぁ......

 

磐長姫「よく愛想尽かされなかったなぁ......とか思ってるでしょ?」

楓「なんでわかるの?」

磐長姫「顔に書いてる。」

 

 もはや、心を呼んだとかじゃないんだ

 

 顔を見ればわかるって......

 

磐長姫「あの5人が楓に愛想を尽かす、か......あんまり、考えられない。」

楓「?」

磐長姫「楓はそれだけ頑張ったんだよ。あの体で。」

楓「......」

 

 そんなに、特別なことをした気はないんだけど

 

 ただ、大切な人の為に出来ることをした

 

 手が届きそうなら、全力で伸ばした

 

 ただ、それだけ......

 

楓(じゃあ、なんで、全力を出せたんだろう......?)

 

 それは、お友達だから......大切だから

 

 それ以外の理由なんてない

 

 でも、大切って、それって......

 

楓「......」

 

 大切=好き、なんて、乱暴な理論だ

 

 でも、何となく、そう思う

 

 大切だから、好きだから、思い出したら胸が高鳴る

 

楓「......生き返ったらさ。」

磐長姫「?」

楓「僕、伝えてみるよ。今、顔が浮かんできた気がするから。」

磐長姫「そっか。」

 

 正直、好きっていう感情はまだよくわからない

 

 けど、こういうのは理屈を考えちゃいけないって

 

 広町さんに借りた漫画に書いてた

 

楓「......だ、大丈夫かな?」

磐長姫「ここでヘタレになるの、楓らしいね。」

楓「ヘタレ......」

 

 否定が出来ない

 

 まぁ、ヘタレですし......

 

磐長姫「大事な時にヘタレちゃダメだよ?」

楓「が、頑張ります......」

磐長姫「ほら、もう少しだから、急ぐよ。」

楓「は、はい。」

 

 僕はそう言われ、歩くスピードを上げた

 

 少し向こうに、白く光ってる物が見える

 

 あれがきっと、出口なのかな

___________________

 

 “透子”

 

 世界って、楽しい事とか面白いことでいっぱいだって思ってた

 

 実際に、この間まだは楽しかった

 

 仲間とバンドして、好きな男子がいて、青春してたと思う

 

 けど、それが今、壊れようとしてる

 

透子「......なぁ、ルイ?」

瑠唯「......どうかしたの?」

透子「シロが言ってたことだけどさ、どう思う?」

瑠唯「......本気でしょうね。」

透子「......」

 

 チラっと、横で寝てるシロを見る

 

 さっきはすごい目をしてたのに、今はふーすけと寄り添って寝てる

 

透子「ルイは、どう思ってる?」

瑠唯「私は......」

七深「私は賛成だよ。」

透子、瑠唯「!」

 

 突然の声にあたしとルイは驚いた

 

 完全に寝てると思ってたななみは

 

 目を見開いて、こっちを見てる

 

七深「私たちがバンドで成功すればするほど、かえ君のすごさを証明できる。かえ君の生きた証を残さないと。」

透子「ななみは、そうだよね。」

七深「むしろ、とーこちゃんは何を悩んでるの?」

透子「......っ。」

 

 何を悩んでるか......そんなの、主にお前らが原因だよ

 

 シロもななみも、本気すぎるから

 

 いつか、バンドも、2人も、壊れる気がするから......

 

瑠唯「......今のあなた達を見れば、衛宮君は悲しむでしょうね。」

七深「......は?」

 

 静かなルイの声が響く

 

 それに、ななみが反応した

 

 地の底から響くような、怒りを孕んだ声

 

 あたしはそれを聞いて、背筋が凍った

 

瑠唯「羽が凍り付いた蝶が、飛べると思っているの?」

七深「......どういうことかな。」

瑠唯「彼の見た、色の話よ。」

 

 ルイはななみの方を見てそう言った

 

 そういえば、衛宮、言ってたっけ

 

 あたし達の演奏してる時の色、青色の蝶に見えたって

 

瑠唯「彼の好きな私たちの演奏ができないなら、私は続ける意味を見出せない。」

透子「......!」

七深「.......っ」

瑠唯「それに、あなた達は一つの可能性をもう捨てるの?」

 

 ルイは静かな声でそういった

 

 あたしもななみも首をかしげる

 

 ど、どういうこと?

 

瑠唯「彼は、私たちの期待を超えてくれる。そして、まだ彼の死亡は確定していない。」

透子、七深「......!」

 

 ルイの目に光がある

 

 諦めてない

 

 こいつ、こんな状況なのに

 

瑠唯「彼は目を覚ます。そして、また、あの笑顔を見せてくれる。」

透子「ルイ.......!」

七深(......かえ君なら。)

 

 ルイらしくない

 

 あたし達すら現実見て、諦めてたのに

 

 今はただ1人、諦めてなかった

 

 あの、リアリストのルイが

 

 この変化も、衛宮が与えたもの、なのかな

 

 



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成就と犠牲

瑠唯「__っ!」

 

 バっと、私は体を起こした

 

 周りを見渡すと、暗い病院の中で

 

 他の4人も毛布を掛けられて眠っている

 

 それで、私が寝てしまったのだと分かった

 

 気を張ってたはずなのに......

 

瑠唯(し、手術は.....)

 

 恐る恐る、手術室の方を見る

 

 その時、サーっと血の気が引くのを感じた

 

瑠唯(お、終わってる。)

 

 手術中を示す赤いランプは消えていた

 

 ドクンドクンと心臓が鼓動を刻む

 

 時計の秒針がいつもよりゆっくり動いてるように感じる

 

瑠唯「......」

 

 少し前は虚勢を張っていたけれど、不安を感じる

 

 私の知らない間に彼の運命が決まってしまった

 

 それが、不安で仕方ない

 

瑠唯(......行くしか、ないのね。)

 

 今、私が目を覚ましたこと

 

 それが、運命なようにも、そうでないようにも思える

 

 実際のところがどうなのかは分からない

 

 だからこそ、確かめないといけない

 

瑠唯「......行きましょうか。」

 

 私はそう呟いて、立ち上がった

 

 足が床に張り付いてるように感じる

 

 けれど、ここで立ち止まってばかりもいられない

 

 そう思い、私は彼のいるであろう病室に向かった

____________________

 

 コツ......コツ......と、足音が院内に響く

 

 少しの照明と夜勤の看護師の方々が目に入った

 

 当然だけれど、昼とは全然違う

 

瑠唯(......ここ、ね。)

 

 そんな院内を歩いて、病室に辿り着いた

 

 今まで以上に心臓が痛いほどに動いてる

 

 この扉を開けた時点で、全てが決まる

 

瑠唯(......もし、彼がいなかったら......)

 

 体が動かない

 

 何かに四肢を掴まれているように感じる

 

 こんな感覚、初めてかもしれない

 

瑠唯「......止まっていられない。」

 

 ドアに触れる

 

 しばらく触れられていないのか、ヒンヤリと冷たい

 

瑠唯(お願い、神様......!)

 

 私は体中に力を入れ、扉を開けた

 

 もう引き返せない

 

 この先は天国と地獄しか存在しない

 

 けれど、わがままを言うなら、願わくば......

____________________

 

 窓から、月の光が差し込む病室

 

 それはまるで舞台を照らすライトのように、とある一点を優しく照らしている

 

 そして......

 

瑠唯「衛宮......君......?」

楓「__え、八潮さん?」

 

 光の元に希望はいた

 

 全体的に白い彼は月の光でよく映えて

 

 優しい笑顔をこちらに向けていた

 

楓「えっと、なんで、こんな時間に病院に......?」

瑠唯「......ずっと、いたわよ。あなたが倒れた日から、手術が終わる今まで。」

楓「あ、そ、そうですか。」

瑠唯「......」

 

 いろんな感情が溢れそうで、どうすればいいのか分からない

 

 嬉し泣きか、抱き着くのか、おかえりと言えばいいのか

 

 正常な判断力を失ってる私には分からない

 

瑠唯「......よかったっ。」

楓「!?」

 

 そのさなか、口からそんな言葉が零れ

 

 それと同時に目から水滴が滴り落ちる

 

楓「ど、どうしたんですか!?」

瑠唯「ごめんなさい......こんな風にする気は、なかったの......でも......っ。」

 

 涙が止まらない

 

 湧き水のように延々と溢れてくる

 

 こんなことは、初めてかもしれない

 

楓「え、えっと、その、ごめんなさい。ご心配、おかけして。」

瑠唯「ほんとうに、そうよ......っ。」

楓「ご、ごめんなさい。」

 

 彼は、ずっと申し訳なさそうにしてる

 

 違う、本当はこんなことを言いたいわけじゃない

 

 なのに......

 

瑠唯「もう、お願いだから、無理をしないで......離れないで......」

楓「!」

瑠唯(っ!?)

 

 気づけば、そんな言葉が漏れていた

 

 それに自分自身、ひどく驚いた

 

 けど、それ以上に、目の前にいる彼が一番驚いている

 

 その様子を見て、私は今の言葉を激しく後悔した

 

 “楓”

 

 正直、驚いた

 

 あの場所から戻ってきて、目を覚まして

 

 少し外を見てたら、八潮さんが現れた

 

楓(運命があるとするなら、今、なのかもしれない。)

 

 まだ意識がハッキリしてない

 

 頭がボーっとしてる

 

 上手く、言葉が出てこない

 

楓「あの、八潮さん。」

瑠唯「衛宮君......?」

楓「僕は、一度、死にました。」

瑠唯「......!」

 

 嘘は言えない

 

 あの時、僕は確かに死んでた

 

 嘘は言えないし、これを言わないと話を始められない

 

楓「そして、そこで、ある人の助けを借りて、いろいろ考えました。」

瑠唯(ある、人......?)

楓「僕は、何も知らなかった。いや、恐らく、知っていても、向き合えなかった。自分には無理だと思って。」

 

 けど、今は違う

 

 たくさん話して、考えて、寿命も延びた

 

 きっと、今なんだ

 

楓「けど、僕は今までよりも長く生きられるようになりました。だから......」

 

 あの場所で過ごした少しの時間

 

 その間に僕は学んだ

 

 前までの僕なら、分からなかったと思う

 

 けど、今は分かるから

 

 ちゃんと、言わないといけない、よね

 

楓「そこで学んで、分かったことを、八潮さんに言います。」

瑠唯「......?」

 

 ゆっくりと、呼吸をする

 

 いろいろと考えたけど、僕には正直に言う以外できない

 

 そう、心の中で意気込んで、八潮さんの方に目を向けた

 

楓「僕は、八潮瑠唯さんが好きです。」

瑠唯「__えっ?」

 

 その言葉は驚くほどあっさりと出て来て

 

 それを聞いた八潮さんは、ひどく驚いていた

 

 これで、ちゃんと、伝わったかな......?

 

 “瑠唯”

 

 涙が引っ込むと言うのは、このことだと思う

 

 驚いて、言葉が出てこない

 

 今、彼の言ったことを理解できない

 

瑠唯「え、な、今、なんて......?」

楓「えっと、八潮さんが好きです、と......」

 

 好き?彼が、私を?

 

 現実的じゃなさ過ぎて、信じられない

 

楓「あ、お友達としてじゃないですよ?その、恋愛的な意味で。」

瑠唯「それは、わ、分かったわ......///」

 

 思考が追い付いてきて、段々と顔が熱くなる

 

 鼓動が早くなっていくのを感じる

 

 今までも似たような感覚はあったけれど、今までで一番強い

 

楓「僕は今まで、恋を知らなかった。いや、知ろうとしなかったんです。長くない命だからって。」

瑠唯「......」

楓「仮に誰かとそういう関係になっても、取り残してしまうだろうって。多分、関係ないものとして処理してたんです。」

 

 命がないというのは、そういう事なのかもしれない

 

 人間関係とかも、どこか外から見てた

 

 きっと、主観とは少しずれたところにいたんだと思う

 

 だから、何にも気づかなかったんだ

 

楓「でも、今は、どこまでかは分かりませんが、長く生きることが出来ます。その時間を一緒にいたいと思ったのが、八潮さんなんです。」

瑠唯「......///」

 

 顔が熱い、胸が高鳴る

 

 彼が、まだ生きられる

 

 そして、人生のパートナーとして私を選んでくれた

 

 それがどうしようもなく嬉しい

 

楓「だから、あの......僕とお付き合いしていただけないでしょうか。」

 

 彼が首を傾げながら、そう聞いてくる

 

 その様子は、いつもの可愛らしい彼

 

 そんな状況で、私が答えに困ることはなかった

 

瑠唯「......はい///」

楓「!」

瑠唯「不愛想で、可愛げのない女だけれど......よろしくお願いします///」

楓「八潮さんは可愛いですよ?」

瑠唯「......あ、あなたはっ///」

 

 純粋に褒められるのが、一番響く

 

 彼の場合、そう思ってるのではなく、そうとしか思ってない

 

 だからこそ、一層恥ずかしい

 

楓「これからも、よろしくお願いします。」

瑠唯「えぇ///末永く///」

 

 そう言って、私は彼のいるベッドに腰を下ろした

 

 この時間は、短くも永遠のようにも感じて

 

 ただ、生きた彼を感じられたことが幸せだった

____________________

 

 “七深”

 

 夜の病院の廊下で立ち尽くす

 

 理由なんて明白で

 

 今、この状況を理解できないから

 

七深「__あれっ......?」

 

 ポタポタと水滴が床に落ちていく

 

 この時にやっと、状況を理解できた

 

 私の初恋は、終わったんだって......

 

七深(なんで、なんで......っ!)

 

 なんで、私じゃないの?

 

 ずっと一緒だって言ったのに

 

 いつも、一番近くにいたはずなのに

 

七深「かえくん......」

 

 かえ君を幸せにするのは、私だと思ってた

 

 私なら、かえ君のすべてを受け入れられる

 

 どんなことがあっても、かえ君さえ、いればよかった

 

 なのに......選ばれたのは、るいるいだった

 

七深(なんで、私じゃないの......?なんで......?)

透子「__何してんの?」

七深「......!」

 

 横から、声が聞こえる

 

 とーこちゃんだ

 

 起きてたんだ......

 

透子「大体、どういう状況かは分かったよ。(あれ見たらね。)」

七深「......」

 

 とーこちゃんがチラっと病室の中を見たのが分かった

 

 本当に、すごいと思うよ

 

 なんで、平気でいられるんだろう......?

 

透子「そんなに泣くことないじゃん。男なんていくらでもいるし......」

七深「......」

透子「......とも、言えないか。衛宮はマジで、特別すぎるから。」

 

 とーこちゃんはそう言って、小さくため息をついた

 

 やっぱり、そうだよね

 

 かえ君はほんとに、特別なんだもん

 

透子「でもさ、特別だからこそ、幸せになってほしいじゃん。」

七深「......それなら、私でも__」

透子「衛宮の幸せは、衛宮が決めることだよ。」

七深「っ!」

 

 言葉が刺さってくる

 

 自分勝手にするなって

 

 かえ君が決めた道を応援しろって

 

 わき腹をチクチクと刺されてる気がする

 

透子「間違っても、邪魔なんてしちゃダメだよ。衛宮の幸せ以上に優先することなんて、ないんだからさ。」

七深「......うん。」

 

 悔しい、死ぬほど悔しい

 

 胸がズキズキ痛いよ

 

 きっと、この先の人生でこれ以上はないと思う

 

七深「......かえ君の邪魔はしないよ。」

透子「うん。」

七深「でも。」

透子「?」

 

 かえ君には誰よりも幸せになってほしい

 

 納得しきったわけじゃないけど、かえ君が言うから仕方ない

 

 今回は諦めて、見守らないといけない

 

 でも、それでも......

 

七深「私は一生、かえ君一筋だから。絶対に、それだけは、変わらないもん......っ!」

透子「......そっか。」

 

 私は歩きながら、そう言った

 

 絶対に変わらないもん

 

 何年、何十年経ったって、かえ君以外を好きになったりしない

 

 ......いや、出来ない、かな

 

透子「ほら、何か奢るからさ、一緒に飲み食いしよ。シロとふーすけも入れて。」

七深「......そーだね。」

 

 そんな会話をして、私たちはその場を去った

 

 その夜は、死ぬほど泣いた

 

 悔しくて、悲しくて

 

 これは、しばらく、2人と上手く話せる気はしないや

 

 

 



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最終回:おかえり

 この世界に戻ってきて、2週間が経った

 

 向こうで歩いてたけど、実際の体は衰弱してたみたいで、歩行訓練が始まった

 

 それでも、まだ上手く歩けない

 

 今は一応家にいるけど、歩けないのと体の負担を考えて、車椅子生活だ

 

楓「__朝......?」

 

 そんな僕は1階にある客間で目を覚ました

 

 歩行訓練が終わるまで2階に行けないから1階にいるけど

 

 カーテンの隙間から、太陽の光が差し込んでる

 

 いい天気というのが、よくわかる

 

楓「って、あ、今日から学校いけるんだった。」

 

 寝ぼけた頭が目覚めて、今日の予定が頭に浮かんでくる

 

 久しぶりに学校って、ちょっと緊張する

 

 毎日言ってるときは特に緊張もしなかったのに

 

楓「どうしよう......考えたら余計に緊張してきた......」

瑠唯『__衛宮君。起きてるかしら?』

楓「!?」

 

 扉の向こうから、綺麗な、凛とした声が聞こえる

 

 もちろん、これの主はわかってる

 

楓「は、はい!」

瑠唯「なら、入るわよ。」

 

 八潮さんだ

 

 今日も制服の着こなしも色も綺麗だ

 

 ほぼ毎日見てるのに、つい見とれてしまう

 

瑠唯「おはよう、衛宮君。」

楓「おはようございます。」

瑠唯「体調はどうかしら?」

楓「調子はすごくいいです。ここ最近で一番。」

瑠唯「そう。よかったわ。」

楓「!」

 

 あの日から、八潮さんは笑顔が柔らかくなった

 

 それを毎回、可愛いと思って

 

 鼓動が激しくなってしまう

 

楓「って、あれ?なんで八潮さんがここに?」

瑠唯「あなたを迎えに来たのよ。車椅子だし、心配で。それに......」

楓「?」

 

 八潮さんの色がふやけてる

 

 それに、顔も少しずつ赤くなってる気がする

 

瑠唯「......あなたと登校してみたかったから///」

楓「っ!?あ、あ、そ、そうですか!嬉しいです!」

瑠唯「///」

 

 今までと見え方が違う

 

 ここ最近、よく感じることだけど

 

 八潮さんがかっこいいじゃなくて、可愛いになってる

 

 これは、どういう変化なんだろう?

 

瑠唯「あ、朝ごはん、もう出来てるわよ///着替え......るまで待ってるわ///」

楓「は、はい。」

瑠唯「そ、それじゃあ///着替えたら呼んでちょうだい///」

 

 そう言って、八潮さんは部屋を出て行った

 

 僕はそれを見てから、久しぶりの制服を着て

 

 八潮さんに少しだけ車椅子に乗るをの手伝ってもらって

 

 一緒に朝ごはんを食べた

____________________

 

 “瑠唯”

 

 衛宮君のお家で朝ご飯をごちそうになって

 

 時間になったので、お家を出た

 

 今は彼の乗ってる車椅子を押してる

 

 もう11月で、もうかなり寒い

 

楓「__もう、こんなに寒いんですね。」

瑠唯「えぇ。体育祭から、もう1か月だもの。」

楓「時間が経つのって早いんですね。」

 

 彼は空を見上げながらそう言う

 

 本当に時間が一瞬で過ぎた気がする

 

 彼が昏睡して、歩行訓練を初めて、しばらく

 

 ほぼ毎日一緒にいたものだわ

 

瑠唯「そうね。本当に、早いものだわ。」

 

 衛宮君とお付き合いを始めて2週間は怒涛の勢いだったわね

 

 けれど、今まで以上に一緒にいるのが嬉しくて

 

 時間が文字通り、駆け抜けていった

 

瑠唯「もう2週間だもの。」

楓「そうですねぇ......」

瑠唯「なんだか不思議ね。あれほど望んでいたあなたとのお付き合いなのに、あまり実感が湧かないわ。」

楓「あ、あはは、僕もです。まだ夢なんじゃないかって思うことがあります。」

 

 夢......私もそう思うときがある

 

 それくらい、幸せを感じているもの

 

 だから......

 

瑠唯「......これが夢なら、泣いてしまうかもしれないわ。」

楓「え?」

瑠唯「だって、今、すごく幸せだもの。夢だなんて、嫌よ。」

楓「可愛い。(僕もです。)」

瑠唯「!?///」

楓「あっ。(つい本音の方が。)」

 

 顔が熱くなる

 

 今まで、あまり言われなかった言葉

 

 それが、何の思惑もなく飛んでくる

 

 これ以上に嬉しく、恥ずかしいことはない

 

楓「ご、ごめんなさい。」

瑠唯「も、問題ないわ///あなたに褒められるのは、嬉しいもの///」

楓「そ、そうですか。よかったです。」

 

 幸せを感じる

 

 彼が生きていて、一緒にいるのが幸せ

 

瑠唯「あれから、ほかの4人とは会ったかしら?」

楓「!......はい。」

瑠唯「そう。(この表情、ということは......)」

 

 ちゃんと、伝えたのね

 

 優しい彼のことだし、きっと辛かったと思う

 

 泣いたりした子がいれば、特に

 

楓「正直、苦しかったです。それに、恋愛は難しいとも思いました。」

瑠唯「そうね。私も身に染みてるわ。」

 

 この2週間、4人とも私のところにも来た

 

 誰もが、私のことを祝っていた

 

 けれど、その表情には悔しさが滲んでいて

 

 私がもし、逆の立場だったら、あんな風に言えたのか

 

 そう、考えさせられてばかりだった

 

楓「僕のせいです。長い間、気づかなかったから、あんな風に悲しませてしまいました......」

瑠唯「......そうね。」

 

 否定は出来ない

 

 私も、彼女たちの立場だったら、そうなっていたから

 

 けれど、少し、誤解があるとするなら......

 

瑠唯「でも、悲しいだけではないはずよ。」

楓「!」

瑠唯「あなたと出会って、過ごしてきた時間は、楽しかったもの。だから、彼女たちはあなたから離れないわ。」

楓「そう、なんでしょうか。」

 

 彼はずっと不安を感じていた

 

 彼女たちも、彼にとっては大切な友人

 

 離れて行っては、あまりにも悲しいもの

 

瑠唯「大丈夫よ。今はギクシャクしているけれど、きっと。」

楓「......はい。」

 

 本当に彼は優しすぎる

 

 今も、心は傷つき続けてる

 

 こんな顔をしてるのは初めて見るかもしれない

 

楓「あの。一つ、言いたいことがあるんですが。」

瑠唯「どうしたの?」

楓「僕、八潮さんと一緒にいることを後悔してません。ちゃんと、好きですから。」

瑠唯「分かってるわよ。私もあなたから離れるつもりはないから。」

楓「!」

 

 そういいながら、彼の頭に手を置いた

 

 柔らかくて、フワフワしてる

 

 それに、彼が安心しているのが分かる

 

楓「僕、きちんと今を受け止めます。そして、時が来たら、ちゃんと皆と向き合います。」

瑠唯「......それで改めて好きになられたらどうするの?」

楓「え!?そ、そんなことはありえない......とも、言えないんでしょうか。」

 

 彼も学んでるらしい

 

 何が切っ掛けでそうなるか分からない、と

 

 今までもそうだったから

 

楓「......でも、僕に無視はできないと思います。」

瑠唯「えぇ、知ってるわ。ここで無視する人間なら、きっと好きになっていないもの。」

楓「!」

瑠唯「あなたは自分が正しいと思う道を進みなさい。私はそれについていくから。」

楓「......はい。」

 

 彼はこの先も人を助け続けると思う

 

 だから、私はパートナーとして、それについて行かないといけない

 

 1人にしてはいけないもの

 

瑠唯「話過ぎたわね。少し急ぎましょうか。」

楓「はい。お願いします。」

 

 そんな会話の後、私は少し車椅子を押すスピードを上げた

 

 彼は早く歩けるようになりたいと思ってると思うけれど、私は今の状況も悪くないと思ってる

 

 それくらい、今でも幸せだから

____________________

 

 “楓”

 

 あれから、八潮さんに車椅子を押してもらい、学校まで来た

 

 いつもより来るのが遅くなってるから、たくさんの色がある

 

 こんなに色のある学校を見るのは久しぶりだ

 

瑠唯「__この辺りでいいのかしら。」

楓「?」

 

 校門を通り抜けて少しすると、八潮さんが足を止めた

 

 どうしたんだろう?

 

一樹、真樹「__衛宮会長ー!」

楓「!?」

月ノ森生『おかえりなさーい!』

 

 な、なんだ!?

 

 いきなり、色んな所からいろんな人が出てきたんだけど!?

 

 え、なに、どうなってるの!?

 

楓「えっと、これは......?」

穂希「あなたのお出迎えですわ。」

楓「あ、白鳥さん。」

穂希「あなたが退院するという情報がなぜか流れまして。そこから、生徒会にこの手の意見が殺到しましてね。本当に、人望のある生徒会長には困ったものですわ。」

 

 白鳥さんはため息をつきながらそう言った

 

 顔も色も、見ただけで疲れてるのが分かる

 

 本当に毎度毎度、すみません......

 

穂希「まぁ、今はおかえりなさいと言っておきましょう。」

楓「え?」

穂希「その顔は何ですの?私も、あなたには多少の敬意をもっていますのよ?」

楓「そうなんですか!?」

穂希「そんなに驚くことですの?」

 

 ぜ、全然、そんな気配なかったのに

 

 それに、白鳥さんはすごい人だ

 

 それなのに、僕なんかに......?

 

穂希「まぁ、いいです。それよりも。」

楓「?」

穂希「本日の主役に縁の深い方々......ヒロインのご到着ですわ。脇役は下がることにします。」

楓「え?どういうことですk__!」

 

 人込みに白鳥さんが消えていき

 

 その後すぐに、見知った4つの色が現れた

 

 それを見て、白鳥さんの言ってたことの意味が分かった

 

楓「みんな......」

ましろ、透子、七深、つくし「......」

 

 みんなと会うのは、ほぼ2週間ぶりだ

 

 ちょっとだけ、気まずい

 

 なんて声を掛けたらいいか分からない

 

つくし「久しぶり、衛宮君。」

楓「う、うん。久しぶり。」

透子「元気そうで、よかった。」

 

 みんな、不思議な色をしてる

 

 恐怖とか、気まずさとかが濃いのに、どこか覚悟めいた色が見える

 

 初めて見るから、なんて声をかければいいのか分からない

 

楓「あ、あのっ。」

 

 気まずい、けど、僕は声を絞り出した

 

 なんていうべきかなんて分からない

 

 だから、聞きたいことを......

 

楓「みんなは......」

 

 言葉が出てこない

 

 聞きたいことを聞こうと思ったのに

 

 それすらも、喉でつっかえる

 

 だけど、聞かないと......怖いけど

 

楓「みんなは、僕を嫌いになりましたか......?」

ましろ、透子、七深、つくし「え......?」

 

 女々しい

 

 自分でもそう思う

 

 けど、聞かずにはいられないし、聞かないといけない

 

 もし、みんなに嫌われてたら、近寄っちゃいけないから

 

 そうしたのは、他でもない自分自身だから

 

 だから、ちゃんと受け止めないといけないんだ

 

ましろ「衛宮君を......?」

つくし「嫌い、かぁ......」

透子「そんなの......」

 

 静寂が空間を支配する

 

 周りの色も、静かだ

 

 自分の血の気が引いていくのが分かる

 

 怖いものは怖いんだ

 

 友達に嫌われるのなんて、怖いに決まってる

 

七深「......そんなわけ、ない。」

楓「......!」

七深「大好きに、決まってるじゃんっ!!」

 

 静寂を切り裂いたのは、広町さんの声だった

 

 どこか泣いてるような、叫び声

 

 それが、耳から胸をズキズキと痛めつけてくる

 

七深「ずっと、好きだったんだもん!!そんなすぐに、諦める......ましてや、嫌いになれるわけないよ!!」

楓「っ!!」

 

 ......バカな質問をした、と思った

 

 だって、きっと、僕もそうだから

 

 八潮さんに振られてたとしても、嫌いになれない

 

 わかってたことだったはずなのに......

 

つくし「そうだよ!あんなに人のことタラシ込んどいて!」

ましろ「こんなになるまで好きにさせられたら、簡単に諦めつかないよ!」

楓「あの、タラシ込んでは__」

ましろ、つくし「衛宮君は天然タラシ!!」

楓「え、あ......ごめんなさい......」

 

 す、すごく怒られてる

 

 こんな風に言われるのは初めてだ

 

 でも、なんだろ......この騒がしさが、すごく嬉しい

 

透子「と言うわけで、あたしら全員、衛宮のこと諦めてないから!」

瑠唯(......そう。それが、あなたたちの答えなのね。)

七深「まだ高校1年生だし、チャンスはゼロじゃないし!」

楓「そ、そうですか。」

瑠唯(悪くないわね。)

 

 みんなの宣言に僕はおろか、周りの人達も唖然としてる

 

 やっぱり、皆はあまりにも強すぎる

 

 だって、色から恐怖とかのマイナス感情が消えて、今は決意の色一色になってるんだもん

 

 本当に、すごいと思う

 

ましろ「......と、いう事なんだけど。」

透子「あたしたち、諦めないままでいい?」

楓「えっと......あの、僕は__」

瑠唯「受けて立つわ。」

楓「八潮さん!?」

 

 僕が言うより先に、八潮さんが張り合ってしまった

 

 というよりも珍しい

 

 八潮さんが、笑ってるなんて

 

瑠唯「私は誰にも負けない。彼を手放しはしないわ。」

七深「言うじゃん~。」

つくし「わ、私も忘れないでよね!」

 

 みんなの色は臨戦態勢と言わんばかりだ

 

 八潮さんもだから、収拾がつかない

 

 ......どうしよう?

 

透子「と、まぁ、これで宣戦布告は終わりね。」

楓「!」

透子「じゃ、あたしらもちゃんと言っとこっか!」

七深「そうだね~。」

ましろ「うん......!」

つくし「衛宮君!」

楓「は、はい!」

 

 二葉さんに呼ばれ、ピンと背筋が伸びた

 

 つ、次は何だろう

 

ましろ、透子、七深、つくし「おかえり!」

楓「!」

 

 身構えてた僕に向けられたのは、おかえりという言葉

 

 そして、楽しく、優しい色だった

 

 心が温かくなる、好きな色だ

 

楓(戻ってきたんだ。)

 

 人生16年目で辿り着いた、僕の居場所

 

 やっとそこに、帰って来れたんだ

 

 そう思うと、嬉しくて、自然と口角が上がった

 

楓「うん!ただいま!」

 

 世界は色で満ちている

 

 それは、この世に存在する人々の生きる証

 

 その輝きは出会い、混ざり合って、そして、新しい色になる

 

 そうして、未来の色は世界のどこかで誕生し続けている

 

楓(まだまだ、楽しいよね。僕の人生。)

 

 僕も未来を生きる

 

 その隣にはきっと、友達がいる、大切な人がいる、恋人がいる

 

 始まってたかが16年しか経っていない人生だ

 

 まだまだ、楽しいことはたくさんある

 

 これから先も末永く、みんなと一緒にいたいな

 

 

 



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