ポストアポカリプス時代の配信ライフ ―令和原人っていうのはやめてくれ!― (石崎セキ)
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お馴染みの神様空間

「あのつまりですねお前様が死んだのはいえお亡くなりになられたのは(わたくし)めどもの不手際でござんしていえ本当なら本日亡くなるのはお前様のお姉様であるはずでしたのですがあれこれ文法あってます?」

 

 なんか聞かれた。自称神様はめちゃくちゃ早口だった。

 深夜のコンビニを出たところでトラックに轢かれた。ブピュッ、みたいな音がすると同時に意識が途絶えた。それで気づくと見知らぬ真っ白な空間にいた。

 

「文法はあっていないですが、内容は判りました」

 

 自称神様は若い女性の姿をしていたけれど「お前様が話しやすい姿なので」ということで、実際の姿ではないらしい。というか、そもそも「実際の姿なんてもんは存在しないんでございますねぇ」とのことだった。よく判らないが『人では認識できない領域』なのだという。

 

「それでお前様の死体はミンチじゃなくておミンチになっていて目撃者全員の記憶を改竄しやがろうにもSNSにアップロードされてしまっており全国的にお前様のスプラッタ画像がバラまかれているのが現状なのでありんすがどうしゃんせ?」

「どうしますとは?」

 

 なぜ最後がちょっと花魁(おいらん)調なのかという疑問よりもそちらのほうが気になった。というか日本語にこだわっていてはキリがない。花魁調としても合っているのか判らないし。

 

「おミンチ少女奇跡の生還! という見出しが新聞の一面に掲載される世界に戻りたいですか? 肉体の蘇生はできますが確実に死んだはずのお前様がよみがえったとならばマスコミは大挙して押し寄せ、お前様は実験に晒されるでしょう。代わりにお前様のお姉様がトラックの餌食に」

「……それならいいです、このまま死にます」

 

 これが見知らぬ他人だったら迷いなく首を縦に振っただろうが、姉の命と引き換えなら意味がない。

 

「お前様は自己犠牲の精神がありますね。人間というのは分かりませんですね。紙切れのためにほかの生命を犠牲にすることを厭わない者もいれば、メンツや家族のために無駄死にする者もいる」

「…………」

「あら? お気に召さない表現でしたなら申し訳ない。いえ申し訳はいくらでもできますが、日本語ではこれが謝罪の意なのでしたよね。それで(わたくし)めどもからご提案がありましてお前様は生きたいですか?」

「できるんですか?」

 

 意外な提案に驚いた。

 

「ええ、お前様のお姉様のいない世界であればお前様のお好きな通りに生きられますよ、資本家の家に生まれたいですか? 貧乏ながら温かい家庭に生まれたいですか? それとも温かい資本家の家に生まれたいですか?」

「……あの、この身体のままということは……」

「できますよ。戸籍のないまま生きることになりますでございますが。お前様は自分の身体にこだわりが――ああ、そういうことですか。つくづく人間というのは分かりませんですね」

「……あ、異世界とか」

「それは別の神の管轄でございます。どうしてもというなら頼んでみますけど、そのまえにお前様の魂の寿命が尽きることになると思いますがねぇ」

「なんか能力とかつけてもらうことって」

 

 面倒臭がられてこのまま殺されたとしても死ぬだけだ。ダメ元で頼んでみてもいいだろう。

 

「言語運用能力、運動能力、視力、聴力、嗅力、お前様はすでに色々と能力を持っていますねぇ。人体構造上可能なことでしたらできるようにできますけど、魔法とかは不可能ですよ」

「ですよねぇ。頭をよくするとか……」

「頭? (わたくし)がお前様の脳味噌を少しいじるだけで精神構造が激変しますよ。そんなお前様がお前様といえるのかどうか」

「でしたら、わたしの身体が壊れない程度に、いい感じにいじってくれませんか?」

 

 さっきの「ああ、そういうことですか」というリアクションから、わたしが隠そうとしたことでも読みとることができるのは推測できた。であれば、わたしの意に沿う形で調整することもできるだろう。

 

「いい感じに……けっこうアバウトな願いですが、聞き届けましたよ。それでお前様に提案なのですが、人類が滅びたあとの世界に行くのはどうでしょう?」

「滅びたあと?」

「お前様にとっては同じでしょう? 適当に話し相手も用意してあげますよ」

「おかしくないですか、人類が滅びたあとなのに、話し相手って」

 

 やっぱり理解されている――

 無駄な抵抗だとは分かっていたが、無駄に反応して喜ばせるのも癪に障る。この神様に人間と同じような感情があるのか判らないが。

 

「過去と繋がれるようにしてあげます。ただ、お前様のお姉様には会えませんが」

「どういう仕組みですか?」

「まずお前様にスマホを与えます。そしてそこから電波を過去に流します」

 

 電波なのはお前だと思ったが、さすがにいわなかった。思った時点で伝わっているのだろうけど、気分の問題だ。

 

「あの、でしたらなぜお(ねぇ)……(あね)とは繋がらないんですか?」

「正確には繋がるのですが、お前様とお前様のお姉様が同一の空間に存在した場合、どちらか一方が死ぬことになるのですよ。『人では認識できない領域』です」

「電波が空間?」

「お気づきとは思いますが、(わたくし)たちの空間には時間という概念がありません。過去も未来も等しい空間軸にあります」

「……じゃあ、なぜ会話が成立しているんですか? 時がなければ会話は成立しないはずでは?」

「そこが『人では認識できない領域』なのです。人間の言葉に簡単に落としこむなら、すべての可能性を秘めている空間とでもいえるでしょうか? そうですね、たとえばここに一冊の本があるとしましょう」

 

 ぽん、と本が空間に生み出された。神様が本を開く。白紙だった。

 中央に〈桃〉という漢字が書かれた。スペースが勿体ない。

 

「桃ですね」

「そうです、あなたが特別な経験をしていないかぎり、この単語から〈象〉を想起することはありません。でも、あなたがここで思い浮かべることのできる〈桃〉は無数です。大きな桃、小さな桃、茶色い桃、青い桃、ゆるキャラ風の桃……ですが」

 

〈桃〉の上に〈大きな〉と追加されて〈大きな桃〉と書かれた。

 

「また可能性が削られましたね。ディティールを細かくしていくことで、そのほかの可能性は消えていく……この時点で、〈大きな桃〉は宇宙大でも部屋くらいのサイズでも人と同じくらいの大きさでもいいわけです。また書かれていないことはいくらでも想像できます。味とか匂いとかですね。さて、また――」

 

 文章は〈人間くらい大きな桃からはお父さんの靴の臭いがした〉となった。想像して気持ち悪くなった。

 

「ええと、つまり、この空間にはあらゆる可能性が含まれている?」

「その通りです。理解が早くて助かります」

 

 いや、『すべての可能性を秘めている空間』というのをいい換えただけだけど。でも、おかげで具体的なイメージを掴むことができた。

 

「こうなるとすべての可能性は併存しているわけで、もはや過去も未来も関係ないんです」

「……そうなるんですか?」

「そうなるんです。さて、ほかに要望がなければ未来にお送りしますが――」

 

 おかしい、と思った。疑問をそのままにしておくのは苦手だ。

 だからやめておけばいいものを、ついつい口にしてしまう。

 

「だったら、お姉ちゃんの代わりにわたしが死ぬ可能性もこの空間にはあったんじゃないんですか?」

「…………」

 

 神様は無言だった。

 

「それに、そもそも、あなたがわたしに謝る理由もわからない。殺してしまった、残念でしたでいいじゃないですか。あなたはさっき『ほかに要望がなければ』といったけれど、『ほかに疑問がなければ』とはいわなかった。疑問があったら困るからでは?

 そして当然、わたしがこれに気がつく可能性だってあったはずですよね。だから今のあなたの無言は演技です。どこからが偽りなんですか? 答えてください。これがわたしの要望です」

「ふぇ…………」

「ふぇ?」

「ふぇええええええええん! だ、だっていったじゃん! 『人では認識できない領域』って! 人間の言葉で説明したら齟齬が生じるのは当然じゃん!」

「そ、それはそうですけど……」

 

 急に駄々っ子のような口調になった神様に困惑して口ごもってしまう。

 

「それに(わたし)たちは全知全能ってわけじゃないの! 全知全能だったら、日本語なんて最初から流暢に話せてたでしょ!」

「……それも演技なのでは?」

「そこまで疑われても証明できないけど! 探偵が、「これは真犯人が残した『偽の証拠』なのでは?」って考えだしたら一生推理が終わらないでしょ!」

「……まあ、確かに」

「だ・か・ら・! (わたし)を信じて! 信じて未来に行って!」

「どうして未来なんですか?」

「分かった、正直にいうね、めんどくさい!」

「めんどくさい?」

 

 わたしが? 確かにかなりめんどくさい性格であると自負しているけど。

 

「さっきもいったけど、あなたが死んだのは、世界の記述のされ方からして本来ありえない可能性だったんだよね。これはただのバグで、あなたが選ばれた理由もない、っていうかあっても判らない。だから、あなたの死で可能性が想定以上に分岐するのも本当!

 で、あなたを過去に送れば、可能性が分岐する可能性があるわけ。当然だよね、過去は未来に影響を及ぼすから」

「でも、未来は過去に影響を及ぼさないから楽って……それだけの話なんですか?」

「それだけの話なの! 謝ってるのは本当に悪いと思ったから! でも、謝っておいて『めんどうだから未来に行ってね♡』なんていえるわけないじゃん!」

 

 じゃあさっきのわたしの『答えてください』っていうのはただの勇み足? 

 それって――

 

「……穴があったら入りたいです」

「未来行きのゲートなら開いてるけど、行く?」

 

 わたしは無言で頷いて「ごめんねー、気をつけてねー、楽しんできてねー」とにこにこと手を振る神様に見送られて、空間にごっそりと開いた穴をくぐった。



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配信開始!

「……おお」

 

 あまり心を突き動かされることはないのだが、さすがに感動した。

 

 アスファルトを黄色の花が突き破っている、という表現は適切だろうか。経年劣化したアスファルトの隙間に黄色の花が咲いている、といい換えたほうが正確かもしれない。

 要するに、ロマンをとるか正確さをとるかの問題だ。

 

 そんななか、都市が自然に呑まれているというのは、ロマンと正確さの両方の観点から満足のいく表現だろう。

 

 半ば倒壊したビルを支えにして伸びる(つる)植物。乱立する木々は、日除けとしてありがたいが、都会ではまずみることのない巨大さにギョッとする。

 ビルが高くともなんとも思わないけれど、木が高いと蒼穹(そうきゅう)にまで届きそうだと思ってしまうのは無意識に自然を崇拝しているからなのだろうか。

 夏空を遮る電線はなく、鳥やセミの鳴き声がひっきりなしに続いている。

 

 森でも街でもあるようなこの場所は、空々(そらぞら)しいような白々しいような――つまり、現実感がなかった。

 授業中に廊下に出たことがある。切っかけが何だったのかは思いだせないが、授業が嫌になったので抜けだした。そういうときに、わたしは浮遊感とでもいうべき感覚に陥るのだけれど、ほかの人がどうなのかは判らない。

 とにかく、そういう浮遊感みたいなもの。

 

 なんだか酔ったような、焦点が定まらないような、不思議な感覚がする。

 というか、ピントがボケている? みたいな感じ。異世界にきた副作用だろうか。

 

「スマホ……だっけ」

 

 神様に入れられたスマホは、ジーンズのバックポケットにあった。

 おそらく――というか、願望なのだけど、このスマホはそれなりに頑丈なのだろう。

 あの『過去と繋がれるようにしてあげます』という言葉が一時的なものなのか、恒久的なものなのかは判らないけど、恒久的なものだと思う。そうでなければお詫びにならないし。

 このスマホを投げたり焼いたりして耐久力をチェックするのも、あながち間違った選択じゃない気がしてきた。頑丈な物体はそれなりに役に立つ。でも、いきなり壊してしまったら目もあてられないので、選択肢としてはありかもしれないが、とりあえず後まわし。

 電池が長時間持つのかも判らないが、すぐに切れることはないのだと信じたい。

 

 画面には見覚えのないアイコンが多い。

 メモ帳に何か書かれていないかとも思ったけど、特に何もなかった。神様とは永遠にお別れのようだ。

 

 適当にネットに接続してわたしの名前を入力する。

 ヒットなし。

 というか、明らかにわたしと関係ない同姓同名の人がでてくるだけだった。

 死亡記事になっていないか、長い時をかけて消えてしまったのだろう。

 次いで姉の名前。

 ヒットなし。

 というか、以下略。

 最後に『Follow Post(フォロー・ポスト)』というSNSで『猫』と検索する。最新の投稿が、わたしの時代から300年以上は経っている日時だった。

 

 さて、どうしよう。

 

 いきなり途方に暮れてしまった。

 そういえば、火とかないんだった。

 布団とかは建物のなかに残っていたりするんだろうか。

 

 ていうか、人類はどうやって滅びたんだろう。

 中性子爆弾とかだったら、建物を壊さずに滅亡させることができるらしい。

 布団が残っていたとしても、大量の放射能が付着していたら目もあてられない。

 それかウィルスとか?

 さすがに人類が滅びたあとも布団にくっついているほどウィルスもしぶとくないと信じたいけれど。

 でも、神様を信じよう。……っていうと宗教勧誘みたいだけど、そうじゃなくて、お詫びとして成立しないシチュエーションに人をおかないだろうという判断だ。

 

「……だれかに助けを乞おう」

 

 これからどうすればいいか?

 そういう質問だ。できるだけ人が集まってきて、かつ、迅速なレスポンスを期待できる場。

 残念だけど、わたしはネット上での交流が一切ない。

 だから、まずは多くのひとの目にとまりやすいところ――ネット掲示板に頼ろうと思う。

 

 

   ◇

 

 …………だめでした。

 証拠を出せといわれて写真を投稿しても信じてくれない。

 なんでネットに繋がってるんだとかいわれた。マジレスしないでほしい。そんなのわたしが知りたいくらいだ。

 動画も撮ったけど、用意周到ですねとしかいわれなかった。

 

 お前らが信じてくれないから動画配信してやる! と書きこみ、『Live Corpus(ライブ・コーパス)』というサイトで生配信をする画面を立ちあげた。

 いや、打算はあった。わたしは、声バレどころか顔バレをしたとしても問題がない。究極、殺害予告したとしても警察が捕まえにこられるわけがないんだから。だから別にネットリテラシーなんてどうだっていいのだ。

 そんなわたしが配信したところでまったく問題がないはず――だったのだけど。

 

 配信開始から30分が経過したころだろうか。にわかに視聴者数が増えはじめた。

 

 最初は、ただ歩いていただけだった。けれどもコメントがあったから拾って適当なことを話したら、『話し方が古い』とか『懐かしい喋り方』とかいわれた。

 

 300年もしたら言語も変わるということをすっかり忘れていた。

 

 江戸時代から明治時代、というように劇的に変化しているわけではないのだろうが、ゆるやかに変化しているようだった。

 みたことのない表現が行き交っていて「それどういう意味?」って聞いたら『それどういう意味ってそれどういう意味?』って知らないことを訝しがられた。

 仕方がないので、判らない単語はいちいち検索しながら配信をしている。

 

:タポタポ音が聞こえてきてかわいい

:分かっていなそう

:今どきタップとかちゃんとした機材買えてる?

:うちの会社のポンコツPCでもタップはない

:↑施設費逆に高そう

 

「あの、実はわたし、2020年からきた人間なんだよね」

 

 ちなみに顔はだしていない。

 ブスとかいわれたら、相手を一生かけて呪い殺してやりたくなる。

 元の世界だったら直接手を下すこともできたけど、今は時空間という制約があって無理だ。

 

:さすがに盛りすぎ

:まだそこ授業で習ってない

:昭和?

 

「昭和じゃないから! 令和!」

 

:昭和も令和も同じでしょ

:令和って何かあった?

:パンデミック

:暗 黒 時 代

 

「あ、やっぱあれ教科書載ってるんだ?」

 

 こうして配信をしてみて初めて知ったのだけど、わたしは配信していると性格とか考え方が少し変わるらしい。

 

:令和の言葉調べたら草とかでてきた草

:草って何?

:面白かったときに草って使うらしい草

:草草

:令和に言葉なんてないだろ

 

「言葉くらいあるわ! わたしが生き証拠!」

 

:生き字引って言いたいの?

:生き字引ってゆうか生きた化石草

 

「草の使い方間違ってるから! いや、わたしも詳しくは知らないけど!」

 

 なんなんだ、微妙に腹が立つこの感じは。

 

:令和の人なのに詳しくないの?

:令和エアプ勢草

 

「エアプとかムカつく言葉だけ残ってるのなんなの!?」

 

:エアプとか知らない

:令和辞典から引っ張ってきた

 

「ああ調べてくれたのね、それはありがとう! 

 で、これから火を起こしたいんだけど知恵を借りたい!」

 

:令和原人

:令和原人草

 

「原人呼ばわりはマジで腹立つな!」

 

:影の感じからして、もしかして眼鏡とかかけてる?

 

「かけてるけど、え、なんで!?」

 

:影ソムリエ草

:怖い

:眼鏡あるなら日光で火起こせるよ

 

「ああー、虫眼鏡で蟻を焦がして遊んだことあるなー」

 

:こっちの方が怖かった

:ヒエッ(令和語)

:将来ヤバい犯罪に手を染めそう

:虫眼鏡って何時代ですか?

 

「令和だよ! あ、違った、小学校のときだから平成」

 

:平 成 原 人

:平成って何があった?

:テロとか地震とか

:あー、あったね

:小学校のときって元建物のお方ですか?

 

「そこはいいだろ! 何を燃やせばいい?」

 

:無難に木とかでいいんじゃない?

:黒いもの

:蟻とかな

:度数とかどんな感じ?

 

「度数? あー、こんな感じ」

 

 眼鏡を外してスマホのカメラに近づける。

 と、今までボケていた視界がクリアになった。

 え、もしかして視力がよくなってる?

 

:かなり強い

:大丈夫?

:薬効かない体質?

 

「え、薬って何?」

 

:視力の補助にクリアi

:クリアi

:のむとおめめがよくみえるようになるおくすりだよ

 

「そんな薬あるの!? 便利だねー」

 

 とりあえず、視力がよくなっていたことは黙っておこう。

 この状況でそれを含めて説明したら、ややこしいことになりそうだ。

 

:それなら大丈夫そう

 

「よし、じゃあ早速やってみよっか。えーと、燃やすものは、そこに転がってる木でいいかな?」

 

:そこらへんのは湿ってて難しいんじゃない?

:布とか紙とかない?

:眼鏡の上に水滴垂らして

 

「水滴? ええと、そういや水ないや」

 

:バケツとかどっかない?

:早く水確保して

:水なかったら生きれて10日

:火よりも水

 

「わかった、そうだね、水探す。どうやって探したらいい?」

 

:背景に映ってるビルから場所特定できないかな

:無理

:ていうかセットでしょ?

:さすがに原形留めてないのは

 

「とりあえず水を汲むためのバケツか瓶かペットボトルを探す!」

 

:ペットボトルって何?

:分からん

:頑張って



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食料確保!

 かろうじて原型を保っているビルは、瓦礫によって入り口が塞がれている。

 なので、瓦礫(がれき)をよじ登って2階の窓から侵入しようという算段を立てた。なぜ侵入しようとしているのかというと、1つは水をいれる容器の確保、もう1つは屋上から川をみつけられないかという期待からだ。

 窓ガラスは割れているので、侵入自体は簡単だろう。

 

「しゃ!」

 

 体育の成績はよくないほうだったけど、すんなりと登ることができた。神様がいい感じに調整してくれたのだろう。

 右ポケットにいれていたスマホを廃墟の内部に向ける。

 

:身体能力どうなってんの?

:おめでとう

:おめでとう

:おめでとう

 

「ありがとう」

 

 オフィスだったのだろうか。椅子や机のデザインは見慣れないけど、椅子や机と判る程度の変わりよう。

 とりあえず探したいのは冷蔵庫、次点でトイレだ。2階に冷蔵庫らしきものはなかった。トイレは一つしかないみたいで、全部個室だった。女子トイレだろうか。

 

「覚悟してたけど、まったく臭わないね」

 

:そりゃあ建物が崩壊するレベルなら

:有機物全部分解されてるだろうし

 

「あ、そりゃそうだ。高校生のいうことだと思って水に流してよ、トイレだけに」

 

:意味わからん

:トイレだと水に流すことになるの?

:令和ジョークやめてくれ

 

「たしかに寒かったけどさ! 辛辣じゃない!?」

 

:昔のトイレは水洗だった

:有識者あらわる

:有識者のおかげで聞くに値しない冗談だったことがわかった

 

「え、そっちだと水洗じゃないの?」

 

:風洗

:風で吸う

 

「へぇぇ」

 

 感心しながらトイレの個室を開けると、タンクにあたる部分がない。

 風洗だからなのだろう。

 入り口からいちばん遠い個室は、案の定、清掃道具が置いてあった。

 

「バケツ確保!」

 

:洗えば大丈夫なんだろうけど

:それで汲むの?

:まあ文句いってられないしな

:シンプルに気が悪い

 

「ウィンナーだって豚の腸つかってるんだから、何ならそっちのほうが汚い」

 

 とりあえず最低なカウンターを打っておいた。

 普通の階段は閉まっていたので、非常階段に向かう。

 

:令和はまだ本物の肉食べてるんだっけ?

:俺らが食べてるのは合成肉

:本物じゃないぞ

 

「え、そうなの!? わたしって野蛮人?」

 

:まあ令和の人だし

:いろんな文化があるからな

:人の文化にケチつけるほうが野蛮

 

「みんな優しいね! 日本の未来は明るい!」

 

:暗いだろ

:これが明るい…?

:あなたの目の前にあるのが日本の未来ですが

 

「そうだった…………。

 みんなから何年後の世界なんだろうね、ここ。ていうか日本なのかな」

 

:わからん

:文字があればわかりそうだけど

 

「そういえばオフィスのはずなのに紙ないね。風化しちゃったのかな?」

 

 3階に到着したので瓶や何か使えるものがないかを物色する。

 

:今どき紙使ってる企業なんてないぞ

:さすがにコンクリートが残っている時間なら風化しないんじゃない?

 

「あ、そうなの? エコなんだね。

 ――お! 水筒発見! 瓶より優秀なものゲット」

 

 棚に水筒があったのでバケツに入れる。重みが心地いい。

 

:それ帰るとき大丈夫?

:バケツ持ったままだと降りれなくない?

 

「あー、ほんとだ。ロープみたいなものもないか探そう」

 

 窓からバケツをゆっくりと降ろせば、わたしは両手を使って降りられる。

 バケツだけだったら放り投げればどうにかなるけど、水筒はそういうわけにはいかないので。

 

:職場にロープ?

:カーテン結んでロープ代わりにしたら? 燃やすのにも役立つし

 

「ナイスアイディア! じゃあ、ハサミ……はないよね。紙がないから」

 

:ないことはないだろうけど

:あったほうが便利だからあると思う

:片っ端からデスク漁って

 

「オーケー。2階も探したほうがよかったかな?」

 

:大丈夫じゃない?

:また何かあったら見にくればいい

:このペースだと比喩なしに日が暮れるし、日が暮れたらまずいでしょ

 

「おっ、そんなこといってるうちにハサミ発見」

 

:優秀な人だったんだろうな

:なんかこう…人物のディティールが分かるとくるものがある

 

「ハサミ持ってると優秀なの?」

 

:重要な役職の人が持ってることが多い

:あんまり使わないものだから会社に長くいる人とかが持ってる

:そういう貸し借りをするときに仲間とコミュニケーションをとる

 

「なるほどねー。じゃあ、とりあえず日が暮れるまえに川を探そう」

 

 ということで、細かな物色はやめて屋上に向かった。

 途中で食堂らしき場所があったので鍋を確保。煮沸するための道具が完全に揃ったことになる。

 あたりまえだけど鍵が閉まっていた。

 仕方がないので、1階分降りて21階。

 

 廃ビルが地平線まで連なっていくようだった。

 夕暮れにはまだ猶予がありそうだったが、夏空は徐々に暗くなっていた。

 残っている建物が少ないぶん、見通しはそこまで悪くない。

 遠方には山がある。あれは富士山だろうか。わたしは富士山とエベレストくらいしか山を知らないのでアテにならないが。

 

「おおー、みんなみてる?」

 

:おお

:どこでロケしてるの?

:これCG?

:さすがにこのレベルのCGは金がかかりすぎる

:川ある!!!

:川!

:川けっこう近い

 

「川? ほんとだ!」

 

 右手に水の流れがみえる。わたしの知っているような汚れた水ではなくて、日の光を浴びて、きらきらと輝いていた。

 こんなに川が近くにあるのは神様の配慮だろうか。

 わたしは、花より団子を優先して2階に降りた。

 

「……お、これ、日本語っぽいよね?」

 

 カーテンを取り外して裏を確認すると風雨に晒されて滲んでいたけど、ひらがなの「に」のような文字が確認できた。

 

:日本語っぽい

:いつ滅びたって設定?

:日本なのか

 

「日付が読めればいいんだけどねー、この感じだと、そんなに遅くないうちに判ると思う。文字が残ってることは判ったからね」

 

:楽しみにしておく

:ちょっと怖い

 

「ええと、とりあえずこれでよし、と」

 

 ハサミと水筒をいれた鍋を、さらにバケツにいれる。

 バケツの取っ手にカーテンを結んで、窓から外に降ろした。

 

:もうひとつバケツがあったほうがいい

 

「なんで?」

 

濾過(ろか)の手段は多い方がいいから

:濾過のため

:水汲み用と濾過用

 

「なるほど、今でよかった。3階から取ってくる」

 

 3階にもどってバケツを取ってきた。これは投げてもいいだろう。

 入るのに使用したルートで降りる。

 

「生還! さて、水取りに行くよー。

 ……あれ、どっちだっけ?」

 

 

 

   ◇

 

 

 魚が、銀色の腹を閃かせて跳んだ。飛沫が頬にかかる。

 川はわたしの腰くらいまでで、流れは割とゆるやかだ。

 

「この水綺麗そうだし(じか)飲みしていい? だめ?」

 

:何のために鍋持ってきたんだ

:だめ

:さすがに危ないでしょ

 

 瓦礫で鍋の高さを調整して、下にカーテンの切れ端をおいた。

 水にくぐらせた眼鏡でカーテンを燃やす。数分すると火がついた。

 

「やったー!」

 

 久々に生きているという感じがあった。

 こんな風に何かを真剣にやったのは初めてかもしれない。

 

:おおおおおお

:火だ!

:怖くないの?

 

「火? いや、怖いけど、そこまでじゃない」

 

:令和だとまだ火使ってたしな

:今は使う機会まずない

:専門職じゃなくても火使えたの?

 

「みんなそんな体たらくでわたしを原人呼ばわりしてたの!?」

 

:ひとりしかいってない

:危険察知能力が高いといってほしい

:恐怖に敏感なことが長生きの秘訣

:むしろ恐れないから原人

 

「散々いってくれるな!」

 

 なんなんだ、その絶妙なコンビネーションは。

 

「でも煙草とか吸うでしょ?」

 

:はい懲役

:それ犯罪です

 

「嘘!? そんな麻薬みたいな扱いなの!?

 じゃあお線香は?」

 

:せんこうってなんですか

:汚染…なんだって?

 

「燃やすといい匂いがするやつ!」

 

:煙草では?

:大麻では?

 

「違うから!」

 

 わたしの言い方も悪かったけどさ。

 それにしても魚がパチャパチャと無防備に跳ねるものだから、捕まえたくなってきた。

 

「今からあの魚を捕まえて食べる。なぜなら食料がないから」

 

 水があっても食料がなければ、いずれ死ぬわけで。

 

:魚か

:魚飼ってるから複雑

:あれはボラかな

 

「ボラって不味いんでしょ?」

 

:肉食べないからわからない

:合成のなら食べたことあるけど美味かったよ

 

 魚も合成で(まかな)っているのか。

 合成のがあるってことは、作っている人は食べているということなんだろうけど。

 

「とにかく、跳ねているアイツの下にバケツをくぐらせて確保! これでいく!」

 

:そんなに簡単にいくか?

 

 ……………………………………、

 …………………………………………、

 ………………………………………………。

 

「あの、こんなに捕れるとは思わなかった」

 

 水が沸騰しているのに気がついて鍋のまえに戻ったときには、バケツのなかに8匹のボラが入っていた。

 集中するとボラが飛び上がる軌道が何となく判って、その下にバケツをくぐらせるだけでよかった。

 

:魚取るのってあんなに簡単なの?

:難しいよ

:人がいないから警戒心が薄いのかな

:いや、身体能力がヤバいだけ

 

「食べないぶんはリリースします。バイバイ、また今度ね」

 

 3匹を残してリリースした。

 

:また今度(捕食者の目)

:ほんとに食べるの?

 

「えっと、しんどい人はみないほうがいいかも。これから魚の口に木の枝をぶっ刺して、焼きます」

 

:規約引っかからない?

:これ駄目ならライオンの食事シーンも駄目になる

 

 ボラの丸焼きが完成。食べる。味がない。

 

「不味くはないけど、美味しくもない」

 

 わたしだってこの世界で初めての食事は美味しくいただきたかったけど。

 

:それはそう

:淡水魚だしな

 

「遠征できる装備を整えたら、この川をたどって海に行きます」

 

 配信中にFP(フォロー・ポスト)のアカウントを作成して、フォローしてくださいといった。

 これで、いちいち掲示板で告知する必要がなくなった。

 

「それじゃ、また明日!」



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掲示板回:【助けて】未来に転移した

読み飛ばしてもOKな回です。


【助けて】未来に転移した

 

 

 

1:Name=未設定/ID:豕」縺榊ッ晏?繧翫@縺

 起きたら知らないところにいて廃墟?みたいなのがある。

 証拠写真1

 

 

2:Name=未設定/ID:W3dmcYB7

 IDバグってない?

 

 

3:Name=未設定/ID:INIFqMBB

 拾った画像じゃないことは評価する

 

 

4:Name=未設定/ID:xvRhP6A6

 なんで未来ってわかるの?

 

 

5:Name=未設定/ID:豕」縺榊ッ晏?繧翫@縺

>>2

 マジ?これが普通だと思ってた。

>>3

 ありがとう。今撮ったから。

>>4

 勘。今でも昔でもこんな場所があるなら教えてほしい。

 

 

6:Name=未設定/ID:xgU54f1uc

 ID付きで動画撮ったら信じてやることを考えてやらんでもない

 

 

7:Name=未設定/ID:豕」縺榊ッ晏?繧翫@縺

>>6

 IDは複雑だったし書くものなかったから、君のIDを読み上げた。→Live Corpus

 

 

8:Name=未設定/ID:INIFqMBB

>>7

 音だったらいくらでも吹き入れられる

 

 

9:Name=未設定/ID:xgU54f1uc

 用意周到だな。でも未来なら電波どうなってんの?

 

 

10:Name=未設定/ID:l9NLpRSV

 釣りにしても上手くやってくれ

 

 

11:Name=未設定/ID:豕」縺榊ッ晏?繧翫@縺

 信じてくれないから生配信する→Live Corpus

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

201:Name=未設定/ID:H53gHR37

 どこのプロモだ、これ?

 

 

202:Name=未設定/ID:TGtf2neU

 金かかってたな

 

 

202:Name=未設定/ID:INIFqMBB

 アーカイブCGチェッカーにかけてもヒットしない。

 こんなに広いセット海外か?海外ロケとかヤバい

 

 

203:Name=未設定/ID:xmXrlP5G

>>202

 配信中に映った山、富士山だよ。

 日本であることは間違いない。

 

 

204:Name=未設定/ID:StmZttbn

>>202,>>203

 どっちにしろ金がかかりすぎてる

 

 

205:Name=未設定/ID:1vntAPq0

 川の透明度が高かったから、保護区のどこかじゃないか?

 

 

206:Name=未設定/ID:oanTRyy5

>>205

 それこそあんな大掛かりなセット作るの許されないだろ

 

 

207:Name=未設定/ID:YPWSbm3E

 アーカイブ見てないんだけど見たほうがいい?

 

 

208:Name=未設定/ID:4uQrvlte

>>207

 見た方がいい。金と技術に驚き慄け

 

 

209:Name=未設定/ID:wikbUHQb

 俺、学部で令和の研究してるけどあの演者ヤバいよ

 勉強してるってレベルじゃない

 こんなことやってるやついるんですよ、って教授に見せたら釘付けで配信終わるまでデバイス返してくれなかった

 あのレベルの知識の披露をコメント見て即興でやれるのは研究者でもそんなにいないって

 

 

210:Name=未設定/ID:nUntnfI3

 素人の演技が上手すぎる。プロか?

 

 

211:Name=未設定/ID:ib4I9zy5

 あれ配信慣れしてないよ。

 プロだったら息とかのノイズが入りこまないように話す。

 

 

212:Name=未設定/ID:X303G2Nf

>>211 それを含めて演技の可能性

 

 

213:Name=未設定/ID:KWT9AlE3

>>212

 ボイトレしてる感じもなかったし、あれが演技だったらとっくにメジャーデビューしてると思う

 このプロジェクト金かかってそうだし、報酬もらってデビュー遅らせてるなら納得

 あれが本当に演技なら、すぐスカウトくるよ

 

 

214:Name=未設定/ID:2Q3KofkU

 ①音質が悪い ②カメラ回しが雑 ③大々的な宣伝なし

 これは本物(思考停止)

 

 

215:Name=未設定/ID:3Nl4depv

 何がヤバいって、あの廃墟群CGチェッカーにも剽窃チェッカーにも引っかからないことなんだよな。

 あの量の実物用意するのかなりの資本が必要。

 ついでにあそこが保護区なら権力とのコネもある。

 個人でできる仕事じゃないのに背後に人がいるように感じられない。

 まあこれからボロでるかもしれないけど。

 

 

216:Name=未設定/ID:mWQQ1Vzv

 今来たんだけど、誰かまとめてくれない?

 

 

217:Name=未設定/ID:xE4KqYID

>>216 自分でやれ

 

 

218:Name=未設定/ID:HLsFFxuI

>>216

 親切な俺が教えてやると、

スレ主「未来にきた、助けて」

スレ民「嘘だろ」

スレ主「生配信して証明する」

 →巨大セットにスレ民ビビる

 

 

219:Name=未設定/ID:mWQQ1Vzv

>>217 ごめん

>>218 ありがとう、生配信やってるのか、見てくる

 

 

220:Name=未設定/ID:VibAuldc

 LCとFBの名前も適当だよな。

 商売っ気があればSEOくらい考えるだろ。

 同じ名前で検索しても4万件くらいヒットするぞ。

 

 

221:Name=未設定/ID:Ii1mVPmv

 ここまで白いと逆に黒い。

 

 

222:Name=未設定/ID:ANa9oAXh

 魚食うのに躊躇いなさすぎて怖い

 あとあれ不味くはないけど、美味しくもないっていうのリアル

 批判怖くないのか?

 

 

223:Name=未設定/ID:pkXGxuJ5

>>222 食ってるところ直接は映ってないからまだ分からん

 燃えたらラッキーくらいの認識だったんじゃない?

 

 

224:Name=未設定/ID:KJ0jUqg1

 とりあえずチャンネル登録とFBフォローしておいた。

 偽物でもコンテンツが面白ければいいだろ。

 

 

225:Name=未設定/ID:dgvwjnBT

 喋り方が面白い、いや馬鹿にする意味じゃなくて

 

 

226:Name=未設定/ID:R8MGsQa3

>>225

 分かる、古い口調とか以前にテンポとリズムがいい

 

 

227:Name=未設定/ID:qgRDzLeN

 ノリ軽いけど頭よさそう

 

 

228:Name=未設定/ID:nJPyCDgN

 令和RP崩さないしな

 

 

229:Name=未設定/ID:559mHKxg

>>227 加えて身体能力もヤバい

 どこでこういう人材見つけてくるんですかね

 

 

230:Name=未設定/ID:avSVlryk

 フォローするためにFBアカウント作った。

 毎日の楽しみが増えてしまった。



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野菜を手に入れた!

 夜の静寂(しじま)に縁がない生活を送ってきた。

 

 わたしのアパートは国道沿いに位置していたので、深夜でもクルマの走る音が聞こえたものだ。

 ときおり改造バイクが横切って眠りを妨げられることもあった。そういう夜は、怖かった。

 人生で経験した旅行は学校行事だけ。もちろん個室ではなくグループごとの部屋を割りふられるわけで、いびきだったり寝息だったりが耳に入ってくる。

 

 ところで、これはわたしの予想なのだけど、夜の静寂という表現は、近年になって作られたものだと思う。

 

 人類が滅亡したあとの世界では、虫や鳥がひっきりなしに鳴いている。

 荒れた土地か都市でもなければ生き物の鳴き声が(せわ)しなく、とうてい静寂などといえる状況ではないのだ。

 冬になって鳴き声が収まったなら再考の余地があるかもしれないので、あくまでも現時点の予想だけど。

 

 川の方から水気を含んだ風が流れてきた。

 水辺なのに蚊がいないことを不思議に思って検索をかけたら、コメントを打っている人たちがいる時代では、蚊に出くわすことがあまりないらしい。

 その理由として、地面がなだらかに作られているため水たまりが生じにくいこと、排水溝の水が絶えず循環していること、ペットボトルや空き缶がポイ捨てされないことなどが挙げられていた。蚊は空き缶に残ったわずかな水にも排卵するのだという。

 まあつまり、川辺に蚊がいないのは川の水が流動しているからだということだ。またひとつ賢くなった。

 

 そういえば、ペットボトルを知らない視聴者がいたなと思って、ペットボトルについて検索をかけた。

 やっぱりエコのためなのだろうかと考えていたら、思ったよりも闇が深い記述をみつけた。

 受験生用のサイトらしく、空欄をタップすると選択肢がでてくる。 

 

«当時の【⑦   】政権は、ペットボトルやアルミ缶〔飲み物の容器。多くは使い捨てられた〕などの投棄を理由に、シンガポールの環境公衆衛生法を参考に同年9月に【⑧   】を立法した。同法による逮捕者は、主にデモ参加者など政権に批判的な者で、政権の支持率の増加の要因となった。これに対して【⑨   】はハンドフリー・デモを提案、【⑩   】年4月に同法が廃止されるまでデモの主流となった。»

 

 このページの下のほうに「狂ったようにわかる! 【⑧   】はなぜ悪法なの?」と題されたコラムがあった。

 

デモ参加者「あっ」(ポケットからゴミが落ちる)

警察「ピピーッ、法律違反です! 罰金!」

デモ参加者「落ちただけだって!」(警察の手を振りほどく)

警察「はい公務執行妨害。署まできてもらおうか」

 →合わせ技で逮捕

政権「俺らに敵対するやつらモラル低すぎない?」

 →支持率アップ

 

 なんでSSチックなんだ。

 それに「狂ったようにわかる」って、どういうたとえだ。

 なんというか、説明が頭悪そうだった。いや、よくわかったけれど。

 

 ……ともあれ、この法律のために、ゴミをださないためのものが飛ぶように売れたのだという。

 誰だって自分の身が可愛い。

 ゴミ箱に入れ損ねた場合でも罰金が課される可能性があるなら、そもそもゴミを出さない生活にシフトするようになる。

 ペットボトルは水筒に、紙は電子媒体に、ティッシュは紙ではなく布製に――

 環境のためを思ってというよりも、保身のためにエコな生活をするようになったのが、徐々に慣習化したらしい。

 

 その過程で、缶詰なんかも減少していった。

 保存技術の凄まじい向上に加えて、慣習が転じてエコに目覚めたのが背景にあったようだ。

 

 余計なことを、とわたしは内心で舌打ちする。

 缶詰は、理論上は腐らない。

 缶が腐蝕(ふしょく)していなければ、たんまりと食料にありつけたのに。

 こういうことになった以上、長生きするつもりもないが、必要以上に短命でいるつもりもない。

 

 まあ、文句をいっていても仕方ない話だ。

 

 わたしは魚を焼くついでに燃やした木の枝で歯を磨くと、埃っぽいカーテンをお腹にかけて眠りについた。

 

 

   ◇

 

 

 早寝早起きは三文の得というけれど、もはや金に意味などない。

 惰眠をむさぼろうかとも思ったけれど、暗い時間には何もできない。

 カーテンの洗濯を終えて、食事(ボラ)と歯磨きをする。

 それから配信を開始した。

 

「おふぁよう」

 

 早速コメント欄に喜ばれるようなプレイングミスをかましてしまう。

 もうしっかりと目は醒めたはずなのに、とんだ失態だった。

 

:おふぁよう

:おふぁー

:おふぁようごじゃます

 

「最後のごじゃますについては管轄外なんだけど!」

 

:まあまあ

:どうどう

 

「わたしは獣か?」

 

:獣っていうか原人

:原人は獣

 

「それ絶対定着させないからな」

 

:まあまあ

:どうどう

 

「……もういいもん。

 今日は、魚だけだとあまりに栄養が偏りすぎているので、食べられる植物を発見していきたいと思う。

 懐かしいなー、家出したときとか、公園に生えてるノビルを食べて飢えをしのいだもんだよ。

 あ、これ令和スタンダードね」

 

:流れるように嘘をつくな

:割とハードな経験してるな

:詳しくないからつっこめないけど絶対嘘

:草食うのは草

:野蛭?

 

「悪意ある間違え方しないでよ! ノビル食べるとき思いだしちゃうじゃん!」

 

:草

:一応正確には野蒜

 

「訂正ありがとう、そう、これだからね。

 今後間違えたやつは永久にコメント無視してやる」

 

:永久に記憶に残れるってことだよな?野蛭

:天才いて草 野蛭

:令和語録はびこってて草 野蛭

 

「しまった、悪化した!

 ていうか、みんな一晩明けて草の使い方上達したね!?

 いっとくけど、別にそれ日常会話で使ってたわけじゃないから!」

 

:今までで一番歴史の勉強してる

:徹夜で令和辞典眺めてたわ

 

「もっと真面目なこと勉強したほうがいいよ、スラングとかじゃなくて」

 

:一応、俺らの時代では義務教育はサプリメントでまかなえる

 

「嘘!?」

 

:嘘だよ

:本気で驚いてて草

 

「お前絶対許さないからな。純心な少女騙して楽しいか」

 

:マジギレじゃん

:純心…?

:ごめんなさい

 

「食べられる草探しに協力してくれたら許してやる。

 いちおう、わたしのほうでもアプリをいれて確認するけど、これだけは嘘つかないでほしい。マジで生死に関わるから」

 

:了解

:心いれかえます

:これだけはということは、ほかの嘘はいいってことだな! 昨日告白に成功した

:涙拭けよ

 

 完全にスラング使いこなしてる人もいるな。学習能力が高いというか、無駄な努力というか。

 

「それから聞きたいんだけど、みんなの時代って畑とかあるの?」

 

:ある

:あるよ

 

「じゃあやっぱり田舎の方にいくべきかな」

 

:田舎だけではないですね

:普通にそのへんにあるよ

 

「えーと、みんなの時代の日本って、どこでも畑があった感じ?」

 

:どこにもはないけど、近所にある人のほうが多いかな

:ビル型農園とか

:ビルは屋上が畑になってるのが大半

 

「え、そうなの?」

 

:昨日のビルの屋上見る価値はある

 

「鍵かかってたからなー」

 

:1階に鍵とかない?

:屋内のだから電子錠の可能性は低い

 

「屋内のだと電子ロックの可能性低いの? なんで?」

 

:屋内のだからセキュリティが緩い

:そっちのほうがコストがかからない

 

「なるほど、いわれてみればそうかも」

 

:避難はしごで屋上から侵入して向こう側から開けるのは?

 

「うへぇ、いつの避難はしご? それはさすがに怖いなぁ」

 

:やめとけ

:コンクリ壊れるくらいの時間経ってる

:相当切羽詰まったときに試す価値はあるけど、畑がある保証もない

:そもそも鍵が壊れている可能性ないか?

 

「鍵壊れてたらお手上げだね、別のビル探す?」

 

:ていうか倒れてるビルの付近に野菜あるんじゃない?

 

「どういうこと?」

 

:今の野菜は繁殖力がヤバいので、できるだけ植生を脅かさないように都会の高所に隔離されてるんだよね。で、繁殖力がヤバいやつらが地面にくっついたわけだから、少しでも土があれば野菜くらいあると思う

:そうだったのか

:それは知らなかった

 

「え、嘘じゃないよね?」

 

:嘘じゃない、信じてくれ

:俺は無実だ

 

「ねえ?」

 

:疑心暗鬼で草

:可哀そうに、トラウマになってるじゃん

 

「嘘くさいんだけど!

 ……まあ確認するだけタダだし、結局植物みつけなきゃだから、探してみるけどさ!」

 

 このあとめちゃくちゃ発見した。



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海水浴には準備が必要

 トマトが口内で弾け、冷たい液汁(つゆ)が吹きだした。

 川で冷やしておいたトマトは酸味が強かったが、重要なのは火照った身体を冷やしてくれることと、ボラではないことだ。

 

 ――やっぱ塩だよなぁ。

 

 海に行く準備を進める必要があるだろう。

 時間ならいくらでもあるけれど、何か用意する必要があるだろうか。

 

 でも、それよりも先に水浴びをしようと思う。

 さすがに臭う……ような気もする。

 服を脱いで、軽く水を身体に振りかけたあとで、おそるおそる足を水につけてみた。

 正直、水をかぶる作業に何の意味があるのかは判っていないが、プールの時間でやらされていたので大切なことなのだろう。

 

「冷たっ」

 

 配信をしていないのに独語(ひとりごと)を呟いてしまった。

 誰かに迷惑をかけているわけでもないし、そもそも迷惑をかける相手なんていないわけなのだが、言葉が宙に浮いたまま降りてこないような感覚がある。

 

 いよいよ水に入ると、汗ばんだ身体から汚れが流れ去っていくような爽快感があった。

 今まで痒みは感じていなかったけど、こうして洗い流せる環境におかれると途端に頭が痒くなるから不思議なものだ。

 わたしの歩行スピードと同じくらいの水流だから、近くの木に捕まっていれば安心して身体を清められる。

 

 それにしても綺麗な水だ。

 

 これなら生水でも……と思うのだけど、この前に、こんなやり取りがあった。

 

「ねぇ、やっぱり1日1口ずつ試してみるのは駄目?」

 

:だめです

:早まるな

:エキノコックスの潜伏期間知ってるか?5~10年だぞ

 

「でも逆にいえば5年は無敵ってことでしょ?」

 

:なぜ逆に言った?

:行き過ぎたポジティブ

:ただちに影響はない(外科手術が必要)(再発率6%)(放置した場合5年以内の死亡率70%オーバー)

 

「だって曇ってたら火起こせないし煮沸できないじゃん」

 

:摩擦でどうにかできない?

:リスでさえ貯蓄できるのに…

:死なれたら目覚め悪い

:さすがに生水はやめとけ

濾過(ろか)しろ

:なんのためにバケツとってきたんだ

 

「……判ったよ、水については濾過装置を作ろう。持ち運び簡単そうだし」

 

:納得してなさそう

:よかった…よかった…

 

 ここまで透明度の高い水なら少しくらい口にいれても大丈夫なんじゃないだろうか。

 そんな考えから、川の水を生で飲んでみようかと提案したらメチャクチャ批判されたのだ。

 1口ずつ試したら大丈夫だと思ったんだけどな……。

 

 そんな残念な出来事を思いだしたけれど、水浴びくらいなら大丈夫だろう。

 なんたって、死体が流れているガンジス川で水浴びしている人がいるくらいなのだ。

 

 服も洗って木に干すと、いい時間になってきた。

 

 さすがに裸で配信する勇気はない。古代ギリシャ人に(なら)ってカーテンを身体に巻きつけて服の代わりとした。

 服のために作られた生地ではないのでゴワゴワとしているが、贅沢はいっていられない。

 巻きつけているとズレて何度も調整しないといけないので、今度カーテンを確保したら、頭と腕の部分に穴を空けてワンピースみたいにしようと思う。

 

 動きやすい格好ではないので、今日はあまり動き回るような配信をするつもりもない。

 ちょっとした情報収集をするだけにしよう。

 

「おはよう」

 

 今度はあくびが出ずにスムーズに挨拶できた――と、思っていたら。

 

:こんにちは

:こんにちふぁ

:おはよう(13時)

 

「みんなさ、容赦って言葉知ってる?」

 

:知りませんね

:知らない

:【容赦】〔よう―しゃ〕とは容赦の意

 

「最後の人知ってそうだから知らないっていってるやつ全員土下座ね」

 

:【土下座】〔どげざ〕とはなんですか?

:それは本当に知らない

 

「みんなさ、オオカミ少年は知ってるよね」

 

:知ってるけど?

:さすがに狼少年知らないとかモグリだよね

:オオカミ少年なら知ってるよ、美味しかった

:懐かしいな、卒論は狼少年についてだった

 

「え、どっち……?

 ……まあ、今日はっていうか今日もなんだけど、みんなに相談があってね。

 わたしは海に行きたい。味が薄いんですよ、味が。食べ物の」

 

:ぜんぶ丸焼きだしな

:本当に行くのか

:移動中も配信撮るの?

 

「え、撮るよ。何かあったら頼りたいし」

 

 答えてから、わたしのいっていることを信じていない視聴者からのコメントだったのだと気がついた。

 セットがどこまで巨大かを確かめているのだ。でも、わたしは視聴者に本物だと思われていなくてもいい。

 それよりも優先するべきなのは、リアルタイムでわたしに忠告をしてくれることだ。

 

:任せてくれ

:俺ら嘘だけはつかないから

:嘘エアプ民だからな

 

「はいはい、嘘つかないよね、知ってる知ってる。

 自分をコントロールできずに嘘ついちゃうだけだもんね。つきたくてついてるわけじゃないよね。判ってるから」

 

:わからないで

:すみませんでした

:ちゃんと自分の意思で嘘をついてます

 

「それがいちばんタチ悪いんだけど!

 でね、海に行きたいんだけど、みんな判るよね……移動が大変ってこと」

 

:少なくともビルからみた範囲にはないからな

:持ち物とか必要だしね

 

「でもわたしは天才だから思いついたんだ。行きは舟を使えばいいんじゃない? って」

 

 これは自分でもナイスアイディアだと思う。

 下流に行くにつれて海が近づくのだから、そもそも海に行くには川をたどるのが手っ取り早い。

 

:確かにそれなら楽できる

:これは知将

:天才

 

「流れに身を任せるだけだから高度な技術は必要ないだろうし、行きに道のり確認できるだけアドバンテージだよね。

 帰りは大変だけど、それに応じた計画を立てればいいわけだから。

 で、みんなに聞きたいんだけど、舟ってどうやって作ればいいと思う?」

 

:これは普通に行ったほうが楽なやつですね……

:バスタブとか湯船っていうくらいだし栓すればいけるんじゃない?

:重いし普通に沈むと思う

:そもそも壊れてるんじゃないか?

 

「荷物バケツにいれて流すだけでも楽だとは思うんだけど、カーテンとか入れたいから濡れると困るでしょ」

 

 念のため濾過装置も作って持っていきたいし、ひっくり返ったら比喩でも何でもなくすべて水の泡だ。

 

:安定感もないしな

:用意したやつ全部沈むとか嫌すぎる

:木をくり抜いて作れるんじゃないか?

:時間がかかりすぎるだろ

 

「だよねぇ……帰りどうするか問題もあるし」

 

:川遡るとき捨てるのは勿体ないしな

:船だったら人力で引っ張るらしいよ

:筏はどう?

 

「そっか筏があるか。筏ってどうやって作ればいいんだろ」

 

 川といったら舟、という段階で連想が止まっていたので思いつかなかった。

 マジカルバナナだったら一発で負けていた。

 

:浮力あるものがあればいいんだけどな

:発泡スチロールとか……残ってないよなぁ

:浮力ありそうなものって全部脆そうだよね

 

「バケツの口の部分塞げれば可能性ありそうだけど」

 

:塞ぐっていってもどうしようもないよなぁ

:冷蔵庫とかは?箱みたいな形してるし浮くんじゃない?

:いや沈むんじゃないか?

:体重聞いてもいい?

 

「え、体重? 50キロくらい」

 

 別に体重を知られても恥ずかしくないので、答えた。

 

:荷物が20キロくらいだと仮定すると、70キロのものが浮けばいいわけだろ?F=ρVgだからすまんわからん

:有能だと思ったら違った

:そもそも浮力の計算に重さは必要ないのだが

:体重聞いただけ

 

「文系にも判るように頼むよー」

 

:要約=今の時間は無駄だった

:あいつはブロックしとけ

:今は文系と理系の区別ない

 

「え、逆にそれめっちゃ大変そうだね」

 

 わたしは数学というよりも算数からできないから文系という区分に助けられている気がする。

 

:そうでもない

:科目選択式だから

 

「じゃあ理系とか文系とかいうよりも科目で勝負する感じってこと? あんまり変わってるようには思えないけどなぁ」

 

:本質的には、ほとんど変わってないね

:数学苦手なやつは科学とか難しいからな

:文系と理系の対立は弱まったらしい

 

「なるほどねー。あ、ごめん、話逸れちゃったね」

 

:考えてみるけど直接ビルとかみたほうが分かりやすいかも

:あのビルのレストランにクーラーボックスないかな。あれなら浮きそう

:確かにクーラーボックスなら浮くかも

 

「オッケー。確保しに行くからそのときはみてて。

 今日は訳あって確保しにいけないから、明日以降かな。

 あとは雑談でもしようと思うんだけど、話題とかある?」

 

:今いくつ?

 

「17だけどいってなかったっけ?」

 

:親しい人は?

 

「親しい人って……彼氏とかのこと? いないよ、そういうの興味ないから。

 友だちとかって意味なら、そこそこいたけど」

 

:寂しくない?

 

「……お姉ちゃんと会えないのは寂しいかな」

 

:お姉ちゃんとは何歳差?

 

「あ、差とかないよ。双子だから」

 

:お姉さんと顔似てるの?

 

「似てるっていうか、ほとんど同じだね。一卵性なんだ、わたしたち」

 

:顔出すことある?

 

「うーん、どうだろう。別に出すことには抵抗ないんだけど、もうみんなのなかに、わたしのイメージできてない?

 そのイメージを崩さないでいられる顔かな?」

 

 ……………………、

 …………………………、

 ………………………………。

 

 気づいたら1時間が経過していたので、配信を切った。

 これでもかというくらい質問がきたけど、そんなにわたしのことに興味があるのだろうか。

 

 ――お姉ちゃん。

 

 お姉ちゃんは、残された8年を有意義に使ったのだろうか。

 わたしは川の水を覗いた。

 お姉ちゃんそっくりのわたしの顔は、川の流れにかき消されて、水の底に溶けていった。



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海へ

「それでは着水式に移ります」

 

 クーラーボックスの大きさは、私の右肩から左手の先まで。

 わたしもギリギリ入るくらいのサイズだ。

 確保するついでにカーテンの物色もすませた。野菜もたくさん確保した。

 旅の準備は万端――とはいわないけれど、早いところ塩を手に入れたい。

 

 川面(かわも)にクーラーボックスをつけると無事に浮いた。

 

:問題は入れるかだが

:これ危なくない?大丈夫?

 

「もしもの場合に備えて、カメラはここに置いておく」

 

 わたしはカメラを伏せ、クーラーボックスに乗りこんだ。

 

「ぎゃあ!」

 

 一瞬で転覆して、塩をぶっかけられた悪霊みたいな声がでた。

 耳やら鼻やらに水が流れこんできて苦しい。

 どうにかして流れていったクーラーボックスを確保、地上に這いあがった。

 

「歩いていくことにします」

 

 大丈夫? という心配が大量に流れているコメント欄に宣言。

 結局、着替えたあとでクーラーボックスの持ち手にカーテンをくくりつけることにした。

 とりあえず空の状態で試してみる。

 

:思ったより安定感あるね

:ペットみたいで可愛い

 

「確かにやんちゃな犬みたい」

 

 こう考えれば転覆してわたしをビショビショにしたことも可愛いイタズラと思えなくも――思えないな。なんだこいつ。ただの無機物じゃん。

 次に水没してもダメージが小さい野菜をいれて確かめると、むしろ安定感が増した。

 

 問題は濾過(ろか)装置だけど、これはまだ完成していない。というより完成までに時間がかかるので後回しににする。

 濾過装置には木炭が必要なのだけど、これが厄介な代物なのだ。木炭は徹夜で数日は火の番をしなくては作れない。それに粘土もあったほうが便利なのだが、これについても都市ではなかなか見つからない。下流にあることが多いという噂を聞いたので、下っているうちに発見できることを祈ろう。

 

 じゃあ、(くも)って火起こしできないときはどうすればいいのか。

 なんとも原始的なことではあるけれど、貯めておくのがいちばんだという結論になった。

 

「それじゃあ、いってきます」

 

 瓦解したビル群に手を振る。

 ビルたちが、無言でわたしを見送っている。

 

 

   ◇

 

 

 今回の旅の目的は塩の確保なのだけど、塩を確保したらすぐに戻るつもりでいる。

 野菜があるというのは大きなメリットだ。

 休憩途中に野菜の種を撒くから、何年かあとには食料を持たずとも海までたどり着けるようになっていると思う。

 それまでは、わたしが飛ばされた場所を拠点とする。神様も理想的な環境だったから、わたしをあそこに送ったのだろう。

 

 ……あの神様だって、完全に信頼できないけど。

 

 視聴者には信じてもらえないだろうし秘密にしているが、わたしはある仮説を立てている。

 もしその仮説が正解なのだとすれば、神様には人並みの感情がないに違いない。

 まあ、わたしに人並みの感情があるかと問われたら黙るしかないのだが。

 

:すっごく綺麗

 

 考え事をしていたら、ひとつのコメントが目についた。

 今まであまり見ることのなかった素朴なコメントに微笑ましくなる。

 

「今までと雰囲気違うねー」

 

 東に進むにつれて建物は徐々に減っていった。

 それに比べて樹木の数が明らかに増えている。

 

 このあたりの地面は柔らかい。

 そのため自重に耐えられなかった巨大樹が、物言わず倒れている。

 倒れた巨大樹を(こけ)が覆っている。

 苔は川の飛沫(しぶき)蒼々(あおあお)と輝き、不可思議な冷気を発しているかのように思われた。

 その涼しさには日陰であることが少なからず寄与しているだろうけれど、それだけではなくて、すーっと身体が冷えていくような心地がするのだ。

 

 クーラーボックスを引きあげて、巨大樹を迂回する形で進んでいく。

 

「ちょっと休憩にしようか」

 

 疲れていたわけではないが、汗をかいていたので水を飲みたかった。

 クーラーボックスを引きあげていたのでちょうどいい。

 

:お疲れさまー

:けっこう遠くまできたな

:半日歩きっぱなしとか体力ヤバいね

 

 バケツに貯めてある水を水筒で(すく)う。

 

「……ぬるい」

 

 乾いた喉に水は心地よかったけれど、どうしても冷えた水を欲してしまう。

 

「みんなさ、過去の人たちなんだから、氷の1つや2つ送れないの?」

 

:無茶いうな

:溶けるだろ

:令和人に過去の人とかいわれるの業腹なんだけど

 

「でもさ、氷とかじゃなくて鉄とかなら劣化しないから、場所が分かれば地面に置くとかそういう手段でどうにかできるんじゃないかな」

 

:鉄は錆びますが

 

「じゃあ(きん)でいいよ」

 

:無茶いうな

:溶けるだろ(口座の中身が)

 

「前々から思ってたけど、なんでみんなそんなにタイミング合わせられるの? タイピング速いから?」

 

:これが古の文化のラップですか…

:↑違うぞ、ただのダジャレだ

 

「そういう意図はなかったけど!」

 

:タイピングもタップも今は補助的に使われてるだけ

:時代は音声入力

 

「え、みんなモニターの前で独語(ひとりごと)いってるってこと?」

 

:そういわれると語弊があるな

:それはあなたもですが

 

「ごもっともです。

 じゃあわたしが喋ってるのもバッチリ音声入力できるってこと?」

 

:ばっちりリアルタイムで字幕でてるよ

:翻訳もされてる

 

「凄い技術だね!

 え、じゃあ外国の人もみてくれてるってこと?」

 

:みてます

:中国から

:インドから

 

「うわぁ、ありがとう! 日本語への変換ってAIがやってるの?」

 

:そうだよ

:翻訳に使われているの古いAIだから昔の名残で男性口調が多い

 

「あ、もしかして男性比率が高いって思ったのはそのせいだったりする?」

 

:たぶんそう

:今は昔ほど男性と女性の区別ないよ

:そうだぞ(女性)

 

「そのカッコとか、音声入力だと、むしろ時間かかるんじゃない?」

 

:適当な文字を記号に割り振ってる

:俺はカッコ始めをピェッ、カッコ閉じをチェッっていってる

:猫(キャット)が猫ピェッキャットチェッなのか…

:想像したら草

:なぜそんな変換をしているのか

 

「今後カッコつきのコメントみたら、全部それに音声変換されちゃうんだけど!」

 

:変なこと覚えさせないで

:あれは例外だからね

 

「例外ね、オーケー覚えた。

 ……さて、休憩はこのあたりでおしまいっ。

 海を目指そう。わたしは塩を食べたい!」

 

:塩を食べるのか…

:徴兵逃れでもするつもりですか

 

「いいでしょ、そこは!」



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挿話:その日の手は砂浜の匂いがした

本編ではありませんが、一応主人公が海についています。


『なんか潮の匂いがしない?』

 

:モニター越しに匂いがすると思うか?

:匂いは電極繋がないと再現不可能

:海が近づいているようで何より

 

 ベッドで最近お気に入りの配信をみていた(あかり)は、カーテン越しの光が(かげ)ったのを感じた。配信をつけたままカーテンを開ける。

 窓の外では、無数のドローンが働きバチのように(せわ)しなく各宅と飛行船を往復していた。高層ビルの隙間を縫う自律操縦は生物よりも生物らしく滑らかだ。ドローンたちは互いに衝突し合うことなくミリ単位ですれ違い、蟻の行列モデルを応用した効率的な運搬をしている。

 配信の空は時々鳥が飛び交う以外には静かで、どこまでも()んだ青空なのだった。匿名掲示板での考察班は、今までの配信時刻を総合すると航空領域内での撮影ではないと結論づけていた。そうなってくると別の問題も生じるので、明は、彼女が未来にトリップしたことを信じている。

 

 ――ほんと、少しだけだけどね……。

 

 完全に信じきれているわけではない。しかし「信じたい」と「信じられない」は両立する。

 配信は六時間続いていた。始めから今まで代わり映えのない景色が映し出されているが、平地を六時間も歩いて代わり映えしないことは、彼女が現在と同じではない時空間にいることの裏付けにもなりそうなのだった。今の日本で、ここまで広大な領域を占有(ひとりじめ)することなんてできるのだろうか。

 デバイスが来訪を告げ、ワイプでベランダの様子を映し出す。宅配ボックスを抱えたドローンが停止飛行(ホバリング)していた。明がベランダに向かい、宅配ボックスから紙の本(オールドブック)を三冊抜き取ると、ドローンは飛行船にもどっていく。

 

『ほら、心なしか砂浜の匂いもする』

 

:わからないを上塗りするな

:砂浜の匂いって潮の匂いと何が違うの?

 

『え、違うでしょ? もしかして、これってわたしだけ?』

 

 戸惑ったような様子の彼女に、明の口元が、にへらと(ゆが)む。彼女の喋り方は、間や抑揚が随分と特徴的なのだ。それが聞きにくくないどころか落ちつくのだから不思議だった。

 文章的なノイズが入らないように調整された喋り方。それが時代によって構築されたものだと知ったのは、明が中学生のときだ。クラスで映像資料をみせられて、過去は言葉と言葉の間に「あー」とか「えー」とかノイズが入っていたことを知った。「えー、この度は誠に申し訳ございませんでした。あー、このようなことが二度と起こらないように……」という具合に。

 彼女のトークは明朗だが、ときおり、そのようなノイズが混ざる。最初は少し気になったが、今となっては持ち味の一つと肯定的に考えている。

 

 ――砂浜の匂いか……。

 

 明は海の実物をみたことがない。複雑な理由があるわけではなく、みたいと思ったことがなかったのだ。だから、砂浜の匂いという言葉には突っこめなかったが、周囲の反応からして彼女か令和に特有の感性なのだと思う。

 木が生い茂っていた風景が拓けてきた。そのうちに彼女が叫んだ。

 

『海だ! ほらみて! ……砂浜じゃないけど』

 

:砂浜(岩場)

:宇宙規模で見たら岩なんて砂みたいなもんだよね

 

 遙か遠方にゴツゴツとした岩場がある。波止場もあり綺麗というよりは無骨だ。それでも見ているうちに明も海に行きたいと思った。潮の匂いを感じてみたいと思った。

 

 ――こんな気持ちになったの、いつぶりかなぁ。

 

 明が勤めている会社の労働条件は、オブラートに包んでいえば、決して良い方ではない。オブラートに包まずにいえば最悪だ。今回の休みだって有給でもぎ取ったものだった。日曜日に有給をとらなくてはならないなんて、どうかしている。

 日々の労働に追われて感情は摩耗したものだと思っていた。どこか遠くへ行きたい、という欲求が心の底から湧いてきているのが、自分でも意外だ。

 

『みんなは塩のありがたみを知らないかもしれないけどさ! 今のわたしは張り裂けんばかりに嬉しい!』

 

:張り裂けないで

:本当に嬉しそうで草

:そりゃあ何日もかかったからなぁ

 

『これで木炭も作れる……』

 

:一人で徹夜大丈夫?

:体調崩しても医者いないとまずいのでは

:そのうちやらなきゃいけないことだけどな

 

『だいじょーぶ、だいじょーぶ。今のわたしは丈夫だから!』

 

:大丈夫って聞いたあとだと丈夫は心細いな

:海に着いてハイになってるだけでは

 

『波打ち際に着いたら休憩しよう』

 

 彼女はクーラーボックスを持ちあげて海まで走っていく。かなり重いはずなのに、足取りは軽快だ。

 あっという間に波打ち際まで辿りつく。頬に飛沫がかかり、彼女はくすぐったそうな顔をした。

 

:海、行ったことない

 

 明がコメントすると彼女が反応してくれた。

 

『じゃあわたしが海の楽しみ方を教えて進ぜよう。……こうやってね』

 

 彼女は足元に落ちている平たい石を拾いあげると、海に向かって投げた。

 

『――みた!? 今の! 6回跳ねたんだけど! 新記録!』

 

:画面がぶれまくってて無理だった

:画面酔いしました、責任とってください

 

『せっかくの新記録が!』

 

 

 

   ◇

 

 

 

 翌日、明は会社を無断欠勤して近くの海に訪れた。砂浜ではなかった。クルマから降りたとき、潮の匂いといわれていたものを初めて嗅いだ。

 

 ――砂浜の匂いだ。

 

 明は、自分の感想に苦笑した。砂浜でもなんでもないうえ、砂浜なんて訪れたこともないのに、これが砂浜の匂いだと判ってしまう。

 遠くに波止場がみえた。

 

 ――まさか、ね。

 

 そんな偶然があるはずがない。明は自分に都合のよい想像を振り払った。

 平日の昼である。周りに人影はなかった。

 明は海に向かって石を投げた。石は水を切らなかった。もう一度。失敗。もう一度……。トライ・アンド・エラーを繰り返しているうちに、石が二回跳ねた。二回跳ねた石は、緩やかに回転しながら沈み、海底の石に紛れこんだ。



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海でしょ!

「ん、ふぅぅぅ――!」

 

 トマトを口に入れた瞬間に膨大な情報量が脳味噌に流れこんできた。パリピみたいな声も出た。

 ヤバい薬をキメるとこうなるかもしれない。

 

:毒、食べた?

:ウチの猫が威嚇するときの声してる

 

「違うから! 人が美味しさに感動してるのに!」 

 

 今までの食事は、素材の味といえば聞こえはいいけど、何の加工も加えないトマトと、焼いただけのボラだ。

 すっごく簡単に表すと今までは「素材の味」だったのが、今では「素材の味」+「塩分」+「塩分」+「塩分」+「塩分」+「塩分」みたいな感じ。

 情報自体は野生動物でも判るくらい単純だけど、情報量が圧倒的に多い。

 大昔には塩が貴重だったという。生前は札束風呂が贅沢とされていたけど、もはや貨幣に何の価値もない今では塩風呂のほうが価値がある。塩風呂って海じゃん。

 海、最高か?

 今までは山派だったけど、海派か山派か問われれば、迷いなく海を選ぶ。山なんて盛りあがっているだけの土塊(どかい)だ。エルフかオークかだったら絶対オークだし、一人称は「オデ」だ。

 

 ちなみに、まだ塩を海水から取りだしたわけではなくて、沸騰させてから放置した海水にトマトをつけただけ。

 それだけでこんなに食材に彩りを添えるのだから、まさしく目の前にあるのは宝の山だった。あ、山は土塊でオークなんだった。ここは海様の名前をお借りして、宝の海ということにしよう。

 いっそ、塩水をこのまま持ち帰るのはどうだろう。

 運搬の手間はかかるけど、水を蒸発させるだけ火にくべておいても、取れる塩は雀の涙ほど。そんなに苦労してまで塩の抽出にこだわる必要はないんじゃないかという気もする。

 

「さて、これからの目的はふたつなんだけど、まずひとつは塩! これはもうほとんど達成している課題だから、勝ち確だとして……。

 われわれは、炭を作る必要があるのです。塩……じゃなかった、完全に塩に脳が引っ張られてたけど、みんなーっ!? 炭作りの手順を知りたいかーっ!?」

 

 あのあと、少し歩いて砂浜にたどり着いた。

 ここにくる前に確認はしていたけれど、慎重を期して視聴者に確認する。

 初見の人やアーカイブを見ていなかった人たちのなかに、知識人がいる可能性も捨てきれない。

 

:おー!

:あ、自分で調べます

:一生作ることないからいいです

:休憩時間ですか?トイレ行ってきます

 

「みんな興味ないね!? たったひとりのために、わたしは戦うよ……!

 まずは、キャンプファイアーみたいに薪を積みます」

 

:キャンプファイアーって?

 

「そっか、君たち火を知らないんだもんね。野蛮人だもんね」

 

:心外

:鏡見ろ

 

「めっちゃ美少女が映ってるけど、どうかした?」

 

:強すぎる切り返し

:無敵か?

 

「んー、じゃあなんて伝えればいいんだろう。

 薪でタワーを作るイメージ。あー、もう、絵描いたほうが早いな」

 

 わたしは木の棒で、砂浜にイメージ図を描く。

 棒が砂に絡まって線が(いびつ)だけど、キャンプファイアーみたいになってはいる。

 

「こうやって火を囲むの」

 

:豊作を祈る儀式?

:原始宗教じゃん

:このあと魔女とか縛り付けそう

 

「みんなにロマンがひとかけらもないことを忘れてたよ……。

 ええと、それで、この薪のタワーを粘土で覆う。でも、これだと粘土がかなり必要になるから、砂浜に穴を掘って上から粘土で蓋をするってスタイルで行こうかなって思う。そしたら、あとは3日くらい火を見守るだけ! できないことはないんじゃないかな」

 

:通気性がありすぎるのでは

:鉄板とかあれば楽だった

:まあ普通に穴掘るの結構手間だし

:いっそカマド作れば?また来るんなら

 

(かまど)かぁ……。確かに将来的に海辺に住むことを考えたら、今作っちゃうのもありかも」

 

:ちゃんとした建物がないと、海の近くは天候とか不安だね

:塩害とか大丈夫かな

:塩害については心配しなくていいとは思うけど、単純に物資がなくないか?

 

「うん……確かに。竈を作るんだとしたら、あの場所かな。どうせ一年はあそこで暮らすんだし、竈にはレンガとか必要だからね」

 

 レンガは粘土を固めたものだから、粘土さえあれば簡単に作れるけど、問題は竈を作れるくらいの粘土が必要だということだ。

 今回あらかじめ確保できた粘土は、そう多くない。

 クーラーボックスの蓋に粘土を敷き詰める。厚さの目安は分からないので、わたしの握りこぶしくらいにした。

 それを、棒で等間隔にへこませて波状にする。これは、視聴者が波状鉄板を使うと楽だといっていたからだ。鉄板がなかったので粘土で代用した。

 とりあえず、これでよし。粘土を乾かしている間に作業に移る。

 

「さて、それじゃあ穴を掘ろうか」

 

 穴を掘っている間はあまりコメントを拾えないけど、わたしが掘ったのをスタッフが掘ったことにされるのは、なんとなく悔しい。

 それに、人は、他人が努力している様子に高みの見物を決めこむのが好きだ。これはいわば現代版コロッセオ。剣闘士たるわたしは穴を相手に戦うのだ。

 素手で掘っているから、何か固いものに引っかかったら怪我をする。慎重に掘り進める必要があった。

 

 途中、割と大きめな二枚貝の殻を発掘したので、それをスコップ代わりにしてペースアップ。

 

「貝食べたいね」

 

:生き物ってこと抜きにしてもあんなナメクジみたいなやつ食べられない

:人肉のほうがマシ

:昔はカタツムリ食べてたらしいし、令和人は殻ついてりゃなんでも食う

:草。タマゴか何かと間違えてるのか

 

「適当なこといわないでよ! エスカルゴなんて食べたことないし!」

 

 食べる人がいることは令和人の名誉のために黙っておいた。

 ……ロールプレイ失敗みたいなこと、いわれるかもしれないな。

 どうせ信じている人なんていないだろうけど、何かモヤモヤする。

 最近、ちょっとこういうことが増えてきた気がする。ストレスが溜まっているのだろうか。

 

「っと、これくらいでいいかな? 粘土は……さすがにまだ乾かないね」

 

 薪は、乾燥した倒木の枝だ。薪として丁度いいサイズ感だったので、へし折った。

 倒れてから相当時間が経っていたのか、見た目よりも脆かった。

 決してわたしが馬鹿力だったわけではない。

 この薪を、タワー状に積んでいく。

 

「よしっ! できたっ!

 ……粘土が乾いたら、焼いて石板を完成させるよ。そしたらめっちゃ寝て、そのあと3日ぶっ通しで配信する」

 

:時間にもよるけど、1日くらいならFPのDM開放してくれれば通知音で起こせるよ

 

「え、仕事とか大丈夫?」

 

:おまいう

:辞めることにしたから大丈夫

:大丈夫……?

 

「え、辞めるの? まあ、辞めるくらいなら酷いとこだったってことか。辞められてよかった」

 

:そうそう

:ゆっくり休んでな

 

「――そして、わたしのためにもよかった! わたしの睡眠は守られた!」

 

:台なしだよ

:こいつ…ぬけぬけと……

:代わりにリスナーの睡眠時間は削られた

 

「みんなは、わたしの寝息がときどき聞こえるだけの配信をみることになったわけだけど――」

 

:見ることは確定しているのか…

:見ない権利はないんですか!?

 

「寝言でとんでもない失言するかもよ?」

 

:見ます

:神回確定

 

 このサイトが限定公開に対応していることは知っているけど、視聴者との関係性を勘ぐられたり、関係が悪化したりすると困る。

 とまあ、そんな目論見で全体公開にすることにしたのだけど、思ったよりも起こしてくれるという人がいたので、DMを開放しておいた。

 

「このDMを悪用して変な時間に起こした者には天罰がくだるから。具体的には鼻と耳がねじれてくっつく」

 

:あっ、やめます

:それは逆に見たい

:弟にやらせるか

 

「弟さんになんか恨みでもあるの!? 話聞くよ?」



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72時間耐久配信 前編

 休日を意識したのは久しぶりだった。

 金曜日の昼下がり。

 土日であれば起こしてくれそうな人が多いかもしれないという、ちょっとした打算に基づいている。

 

 水と地面とが衝突する音。一拍おいて、水は海へと戻っていく。

 音は。

 絶え間なく続いている。

 セミはどこでも鳴いている。

 風はどこでも吹いている。

 薪が爆ぜる乾いた音。

 

 でも、この世界で声を発しているのはわたしだけだ。

 

「さて、72時間火を絶やさない耐久配信、始めるよー」

 

 配信をつけると同時に、スイッチが切り替わる。

 目がコメントを追いかけて、リアクションできそうなコメントに、即座に反応する。

 タイムラグがほとんどないコメントを拾えるのは、動体視力の賜物だろうか。

 

:聖火ですか?

:初見です

:お通夜ですか?

 

「お通夜にしては長いね! 火を見守る側が寝不足で死んじゃうから!」

 

:通夜ってなんだ?誰か翻訳してくれ

:知識人vs令和人

 

「そこはわたしも知識人枠でカウントしてくれないっ!?」

 

 というか、なぜ戦うことになっているのだろうか。

 

「まあ、初見の人もいるということで、今回の企画内容をお話します。

 ここに火があります。で、この火が絶えたらゲームオーバーです。人類は滅亡します」

 

:それ君がいうと洒落にならないぞ

:人類が滅亡した理由って……

:じゃあ失敗するじゃん

 

「だから全力でやるんだよ。滅亡したくないでしょ?」

 

:滅亡したくないでしょ?とかいう新手の脅し文句

:しょうがない…昨日寝溜めしたから、つきあってやりますよ

 

「わたしは途中で寝るから、その間、火が絶えそうになっていたら、みんなが起こしてください」

 

:初見困惑中

:後ろの波の音がツッコミに聞こえた

:公開放送事故

 

 なんだか賑やかなコメント欄を見ていると、いつもより初見の割合が高いことに気がつく。

 同時接続者数は――普段の10倍ほど。

 さすがにちょっと驚いた。前兆のようなものは一切なかったし、今回の配信は72時間耐久という、常連でさえ戸惑うような内容のはず。

 

「なんか視聴者増えてる? なんで?」

 

:エリザベス香車が紹介してた

:72時間耐久と聞いて

:エリザベス香車から

 

「エリザベス香車? 有名なの? 変わった名前だね」

 

:有名っていうか有名

:中堅ライバー

:登録者数1600万人くらい

:エリザベス香車に紹介されて有名なの?って聞く人はじめてみた

 

「1600万!? ……え、日本何個分?」

 

:有名は有名だけどトップクラスだと1億とか1億5000万とかザラだしな

:リアクション大きくていいね

:日本の人口は1億人ですが

 

「え、日本の人口、ちょっと減ってない?」

 

 日本人の10人に1人がエリザベス香車とかいうトンチキネームの動画投稿者を登録している……?

 ……違うか。

 グローバル化の影響で外国人視聴者も非母国語の動画をみることができるから、もはや日本国内という換算には意味がないのかもしれない。

 1600万人で中堅と呼ばれているのも、自動字幕の性能がいいからだろう。

 わたしの場合は、たまに字幕が用意されていない語彙を使うから、外国人視聴者は比較的少ないらしいけど。

 

:まず令和の人口を知らない

:話逸れまくってて草

:新規の人もいるし内輪ネタ減らしていくか?

:調べたけど人口減ってるね

 

 こうして徐々に出生率が下がって滅亡した?

 いや、流石に滅亡するレベルで出生率が下がるということはないはず。

 

 わたしの考えでは。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 これが杞憂であればいいのだけど、残念ながら可能性としては低くない。

 

 ――さっきもいったけど、あなたが死んだのは、世界の記述のされ方からして本来ありえない可能性だったんだよね。これはただのバグで、あなたが選ばれた理由もない、っていうかあっても判らない。だから、あなたの死で可能性が想定以上に分岐するのも本当!

 ――で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 可能性が分岐することが面倒なのであれば、わたしを送るのは未来であれば未来であるほどいい。

 つまり、人類が滅亡する直前に送った可能性が高い。

 

 でも、あの廃墟だらけの町には、死の気配なんてなかった。

 人骨や、人が今まで生きていた痕跡のようなもの、生活の気配のようなものは、まったくなかった。

 だとすれば。

 

「――避難した?」

 

 避難したとすれば、なぜ?

 あそこには建物が残っている。つまり、爆撃や自然災害などではないはずだ。

 

:どうしたの?

:誰も非難してないが

 

 ……配信中に考えることでは、ないか。

 わたしの生存には、何よりも視聴者が大切だ。

 いくらでも時間はあるのだから、それは後まわしにしていい。

 

「あ、ごめんごめん。ぼーっとしてた。

 実は今回の配信はノープラン! 視聴者のコメント力が確かめられる配信ってわけ」

 

:ごりら

:ばなな

:ももひき

 

「こんなときに限って、急にバカにならないでよ」

 

:配信者のコメント力を確かめろ

:俺、ホント馬鹿でさ…。お前の誕生日だってのに、こんなことしか、できねぇや…

 

「まさか素面(しらふ)でそれいってないよね?」

 

:モニターの向こうから刺さないで

:殺傷性が高い

:もうコメントしないぞ

 

「まあまあ、大丈夫だって。ちょっとくらいボケが滑ってたって人間死ぬわけじゃないんだし」

 

:そろそろファイティングポーズ解除してもらえません?

:傷口に塩を塗るな

 

「人に塗るくらいなら食べるけど」

 

 なお、木炭を作っている傍らで海水を沸騰させている。

 本当は一回濾過してからのほうがいいらしいのだけど、濾過装置には木炭が必要だ。

 ちょっとしたタイムパラドックスである。いや、全然違う。

 

:そうだった

:冷静で草

 

「ところでだね、諸君。わたしが何の企画も用意していないと思ったら大間違いです」

 

:おっ?

:何かあるんですか?

 

「うん、質問コーナーを設けようと思います」

 

:無計画じゃん

:何も間違ってなかった

:質問コーナー=何も考えてない証拠

 

「待って待って、みんなからの質問じゃなくて、こっちからの質問。

 まず、君たちの時代がどうなっているか知りたい。どうして人口が減少しているか判る?」

 

:これでも上がったほうだよ。少し前は9000万人台だったから

:そうそう、別に下がってはいない。むしろ令和が多すぎた

 

「あー、そうかも?」

 

 確かに、わたしの時代から少子高齢化云々という話はあった。

 今回の話もその延長線上にあるのだろうか。

 となると――ますます急激に滅ぶ理由が判らない。

 というか、これについて聞くためだけに質問コーナーを設けてしまったけど、ほかに聞きたいことは別にない。スマホで調べられるし。

 そういえば、今の人は、スマホじゃなくてデバイス? とかいうのを使っているらしいけど。

 

「デバイスって何? 調べたけど、よく判らないんだよね。令和ピープルにも判るように説明してくれない?」

 

:なんでもやってくれる機械のこと。もちろん犯罪以外はだけど

:デバイスとは、デバイスのことである ――アリストテレス

:令和人にも判るように簡単にいうとボタンを押すだけで何でもやってくれるスマホ

 

 令和人にも判るように簡単に行われたはずの説明でもイマイチ判らなかったので、意訳。

 あらゆる機械に使用できるリモコン、ということみたいだ。

 かつ、コンピューターで出来ることは最小限の操作でできてしまうらしい。

 このデバイスという機械のために、一度インターネットの世代が代わった。

 旧世代――つまり、わたしたちの時代――のインターネットとは、まったく別のものだと考えたほうがいいのだという。

 だから、わたしたちの時代のデジタルアーカイブを一般人がみることはあまりないそうだ。

 

:ポケベルとスマホくらい違う

 

「さすがに、ポケベルの世代ではないんだけど!」

 

 ……何となく判ってしまったのが悔しい。



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72時間耐久配信 中編

前半ちょっとシリアスですが、後半はもどります。
必要なシリアスしか書かないので、ご安心ください。


 遺影は笑っていなかった。

 あの写真には見覚えがある。生徒手帳の写真だ。

 

 遺影の両脇におかれているアレンジメントは、どんな花を組み合わせて作られているのだろうか。

 菊と百合。

 このふたつはどうにか見分けがついたが、それ以外は、見当もつかない。

 

 カビの痕跡のある畳はささくれだっており、お母さんの黒い靴下には、イグサがついていた。

 薄い座布団は六つ用意されている。一つはお坊さんのためのものだ。

 火葬場に隣接した狭い式場だ。数年前のお父さんのお葬式でも同じ場所を使った。お父さんとは違って、たとえ直葬でなかったとしても出席者はこれ以上増えなかっただろう。

 お姉ちゃんとお母さん、それから父方の祖父と母方の祖父母。

 

 それが、わたしの葬儀の出席者のすべてだった。

 

 もっとも、お姉ちゃんとお母さん以外は関係性も希薄で、あまり会う機会もなかったけれど。

 お坊さんは、遺影とお姉ちゃんとを見比べてギョッとした様子だった。お姉ちゃんは制服を着ていてわたしの遺影と同じ格好な上、(はかな)げな雰囲気をまとっているから、幽霊だと思ったのかもしれない。

 

 読経がはじまる。

 

 お母さんは。

 泣いている。泣くほどの情が湧いていたことが意外だった。お母さんは、わたしのことを少なからず気味悪がっていたはずだ。お父さんの葬儀のときに泣かなかったわたしを。

 お母さんは、条件反射で葬儀のときに泣くようになっているのかもしれない。

 お父さんの葬儀から数ヶ月ほどして、わたしは心の発達が遅れているのではないかと心療内科に連れていかれた。結果は知らない。そのあと治療を受けていないことを考えると、所見がなかったのか、通院費が高かったのだろう。

 

 お姉ちゃんは。

 泣いている。これは意外ではなかった。お姉ちゃんは普通を演じるのが上手だった。

 

 諸々(もろもろ)の名前の判らない儀式を終えると、わたしの棺桶は、火葬場に送られることになった。男性スタッフが二人がかりで棺桶を持ち上げる、けれど思ったよりも軽かったのだろう、複雑そうな表情を浮かべていた。血が噴きだして肉片となった身体だ、重いはずもない。

 お母さんが出席者に何かを話しているとき、お姉ちゃんとわたしの目があった。わたしは怖かった。

 なぜなら、お姉ちゃんは。

 

 わたしの死を、無様だと思っているだろう。

 わたしの死を、無惨だと思っているだろう。

 わたしの死を、無意味と思っているだろう。

 この世界は、もともと無様で無惨で無意味なものだからだ。

 

 ――あなたが、わたしより早く死ぬとは思わなかった。わたしが死んだあとに死ぬとは思っていたけれど。

 

 わたしは頷いた。

 お姉ちゃんのいない世界に意味など見いだせなかった。わたしは、お姉ちゃん以外に、何もいらなかった。

 だからあのとき、生まれ変わることを拒んだ。

 わたしの顔は、わたしとお姉ちゃんを繋ぐものだったから。

 

 ――わたしはね、きれいなうちに死にたい。その気持ちは変わらないわ。醜く老いていくなんて嫌。

 

 わたしは頷いた。

 お姉ちゃんは25歳で死ぬのだという。

 鈴蘭の毒で死にたいと、お姉ちゃんはいった。

 お姉ちゃんは、わたしといるとき、芝居がかった話し方を好んだ。それがどうしてかは判らない。

 

 ――あなたはどうするの?

 

 式場にいる人たちの視線が、わたしに集中する。

 わたしは答えを求められている。

 わたしは何かを答えなくてはいけない。何かを。

 

「わたしは――――

 

 

   ◇

 

 

――――……ん」

 

 妙にリアルで質感がある、嫌な夢だった。

 震えるスマホに手をあてる。

 不思議なエネルギーで動いているスマホにも、地球上の物理法則が適応されているらしい。スマホが熱を発している。

 夢のことは一旦忘れることにして、意識を切り替える。

 

「おっと、火のパワーを強めなきゃね。起こしてくれてありがとう」

 

:めっちゃうなされてたよ

:寝起きの声で草

:ほんとに寝てたんだなって

 

 薪を投下したあとでDMを確認する。12件のメッセージがあった。どれも短い言葉を連投する形式だった。

 わたしは、メッセージをくれた人の名前を読みあげてお礼をいう。

 

:さて、中盤戦も頑張っていきますか

:デバイスって寝てないと警告してくるんだな

 

「うん、頑張ってこー。まあ、やることは変わらないんだけど」

 

 いいながら、近くで沸騰させていた塩を確認する。

 どろどろとしているけれど、ちゃんと塩だ。

 

「火を見守るだけです。合間に小粋なトークをかましながらね」

 

:そういうの求めてないんで

:自分で言うのはちょっと…

:俺はお前が生きてるだけで幸せだよ

 

「えっ、正気?」

 

:正気を疑われてて草

:寝起きで刃を向けるな

:もうコメントしないぞ

 

「まあまあ。ちょっと聞いてよ。ちょっと前に配信みたのよ、あれの。あれって何かっていうとさ、あれ」

 

:小粋…?

:寝起きでボケてる?

 

「あの、そうそう、LC!」

 

:いつもなにで配信してるんですかね

 

「スマホだけど」

 

:そうだけどそうじゃない

:スマホって答えも大概だぞ

 

「それで同業者? っていうか配信者の配信みてたんだよ。めっちゃ演出凝っててすごかった」

 

 未来の配信のクオリティは――正直、令和とそこまで代わり映えはしない。

 未来の家は目新しいけど、それだけだ。

 でも、どんな素人のものをみてもカット編集がされていて、わたしの配信より遥かにテンポがいい。

 

:まあ、編集とか半分自動でやってくれますし

 

「え、ほんとに? わたしでもできる?」

 

:できるよ。LCの基本機能だから

:これくらいがシンプルでいい

:結局トマトも下手に加工するより生がいいから

 

「なるほど。じゃあ編集したのみたければ、自分でしてもらう形で」

 

 いちいち何時間もあるアーカイブを見返す気にもならなかった。

 自動的な編集といってもミスはあるんだろうし、大切なところが切れていないか確認するのも面倒だ。

 

:新しい

:かしこい

:そういえば登録者増えてるの気づいてる?

:そろそろ収益化申請できそう

 

「収益化? しないよ」

 

:収益化しないの…?

:貢がせてくれ

 

「えー、だって口座ないんだもん」

 

:そこは設定遵守するのか

:なにか貢ぐ方法はないんですか!

 

「んー、今のところはないかな。お金は使い所ないし、現物を送ってもらう方法はないし」

 

 ギフトカードのようなもので電子書籍を買おうにも、サイトに登録するための住所がない状態。

 住所がないというのは不便だけど仕方がない。ネットに繋がるというだけで御の字とみるべきだ。

 

:マイナンバーないと何もできないしな

(かすみ)食って生きてるのか?

 

「わたしはみんなに知恵を授けてもらえる、みんなは変わった風景をみられる。それでウィンウィンだからさ」

 

:なるほど、了解した

:たくさん本読んで勉強します

 

「それがいいよ。人間生きてると一度や二度はトリップするんだから、そのお勉強もかねて」

 

:あってたまるか

:あなただけです

:もう一度トリップするのか…

 

「え、みんなはしたことないの? 遅れてるね」

 

:令和人にいわれたくないわ

:これが――〝怒り〟

:私はあなたを殴りたい

 

「みんなカルシウム足りてる? もっと摂ったほうがいいよ」

 

:お前、この、お前……

:配信続けて一番伸びてるのが煽りスキルなの好き

 



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72時間耐久配信 後編

 月曜日の昼下がり。

 海は相変わらず、ざっぶーんと波打っている。

 

「これ大丈夫かな? できてる?」

 

 参照しているのは、炭っぽいものができていたら冷やす、というアバウトなマニュアル。

 土壇場になって炭っぽいものとは何かという疑問が湧いてきたのでネットで調べる。それっぽいとは思ったが、あまり自信が持てない。

 コメント欄に訊ねてみるも、

 

:わかんないけど、よさげかも?

:専門じゃないしなあ

:黒いし、炭です

 

 という、ふわっとした返答ばかりだった。

 

「やっぱり火を使ったことのない軟弱者はあてにならないね」

 

:なんだこいつ

:顔映ってないのに腹立つ顔が見えるんですけどバグですか?

 

「さっきから苛立ってるみたいだけど、ちゃんと睡眠はとったほうがいいよ」

 

:あなたのせいですが

:チャンネル主が一番寝てる説

:逆になんで72時間耐久で寝てるんだ

 

 とりあえず何度も見返すが、ちゃんと3日間はやったので大丈夫――と思いたい。

 正直、ここからやり直しとなると体力が持たない。

 ……まあ、しっかり寝てはいるけど。

 

「とりあえず、これで完成として、あとはくすぶらせて冷えるまで待つだけとします」

 

 即席のカマドは判らないが、ちゃんとしたカマドは密閉性が高いので、数日間は熱が逃げ切らない。

 熱が冷めるまで待つのがいいとサイトには書いてあった。

 

:おおおおお

:やった

:コメント欄の勝利だ!

 

「なんか疎外感感じるんだけど、わたしハブられてない?」

 

:それは、はい

:あなたが寝てるあいだここでダベってたので

:コメントのみんなは煽らないから…

:自分の言動を顧みるチャンスだぞ

 

「煽ってるのはみんなのためなんだよ」

 

:もっと寝てくれ

:悪魔に取り憑かれてる?

:当方弁護士ですが無罪にできません

 

「弁護士がみてるの? 見逃してください」

 

:弁護士と会うのは見逃されなかったやつだけだぞ

:検察に言って

 

「……さて、今日のお昼ごはんは、ボラです」

 

:魚…?

:初見困惑中

 

 そういえば、合成食を食べている人たちにとっては刺激が強いんだったっけ。

 忘れかけていたけど、これに耐えられない人は今後も見られないと思うので、仕方ない。

 計画は変えずに、枝を突き刺したボラを火にくべる。

 

:うわうわうわ

:本物の魚…?

:野生ではあたりまえの光景

 

 人が死体を怖がるのは、人が死を遠ざけすぎたからだ、というような文章を読んだことがある。

 死が身近であれば、死体を異様に怖がることはない。

 それなら極端に死を遠ざけた社会では、死体への恐怖は令和の比ではないだろう。

 わたしは、むしろ合成食のほうが不健全に思うのだけど、そこは文化の違いだ。

 

 さて、焼いているあいだに。

 

 風で砂が飛んで混ざったら困るので、クーラーボックスに入れておいた鍋を取り出す。

 鍋にこびりついている、水気を孕んでどろどろとした塩。それにカメラを向ける。

 

「さて……この塩だけど、ここで食べるのは勿体ない。向こうに持って帰りたいと思います」

 

 といって、とりあえず塩をどかす。

 これから海水を採取して、ボラを海水で味付けるのだ。

 もはや、塩分なしでは生きていけない身体になってしまった。

 

:うんうん

:向こうに行ってからが楽しみだな

:にがりとか大丈夫?

:あっ

:しーっ、しーっ

 

「にがりって?」

 

:気づかれた

:豆腐を作るのに使うやつだよ

 

「なるほど」

 

 豆腐……時間があったら作ってみたいけど、大豆はみつからないし、後まわしだろうか。

 そろそろガッツリとタンパク質を取ってみたいような気もする。

 大豆はタンパク質が豊富というし、筋肉はあっても困らない。そもそも必須栄養素だし。

 フルーツとかの甘味もほしいけど、これは後まわし。

 

:セーフ

:あっ

:セーフとかいうと…

 

「まあ、知ってたよ。塩を煮詰めるとにがりが出るってことは」

 

 だから、どろどろの状態で留めておいたのだ。

 これを濾過することによって、塩とにがりを分離できる。

 

:し、知ってたことくらい知ってたし

:べつに苦くて苦しんでる様子を見たかったわけじゃないし

 

「……素直(すなお)だね」

 

 そんなにわたしが苦汁を飲まされている様子をみたかったのだろうか。

 まあ、コメント欄なりのジョークという可能性もある。

 この人たちは少し変だけど、これでいて――

 

:前

:前みて前

:ヤバいヤバいヤバい

:気づいて

 

「ん? どう――」

 

 わたしはスマホを放り投げた。

 

 魚の焼ける匂いに惹かれてきたのだろう。

 野犬が、前足を折り曲げて、今にもわたしに飛びかかろうとしていた。

 

 頭が、今までにない速度で回転するのを感じる。

 

 黒い犬だ。

 犬に詳しくないので犬種は判らない。

 愛玩動物(ペット)とは違った――野生の獰猛(どうもう)さ。

 

 火にくべてあるボラを投げる余裕はない。

 むしろ火に近づいたとき、後ろから飛びかかられたら大やけどする危険がある。

 

 犬はしなやかに、わたしの胸の高さまで跳躍した。

 わたしは滑りこむような形で犬の下をくぐり、鍋を手に取る。

 

 犬は体勢を崩すことなく素早く振り向く。わたしはタイミングをみて鍋を振り下ろす。

 

 ――ぐしゃ、と頭蓋骨が潰れる音がした。

 

 血はあまり飛散しなかった。

 感覚が過敏になっているのか、鍋越しに、犬の動脈が動いているのが分かった。

 (まぶた)がピクピクと動いている。

 生きている。

 

 もう一度。

 もう一度。

 もう一度。

 

 三発ほど振り下ろすと、犬は完全に沈黙した。

 

「…………」

 

 ふぅ、と溜息をつく。

 それから、顔が映らないように、手で隠しながらスマホを確認する。

 幸いにも、角度的には、一部始終は映っていないようだった。

 

 ……荒れているだろうなぁ。

 

 案の定、コメントをみると阿鼻叫喚だった。

 擁護してくれる人もいるようだけど、火に油。

 擁護を火種にしてバッシングが連鎖していく。

 視聴者同士の距離が近いことにはメリットもデメリットもある。

 今回は、そのデメリットが思いっきり表出した形だった。

 

 タイミングが悪かったとしか、いいようがない。

 よりによって配信していた時間で、よりによって新規が多かった。

 

「えーっと……向こうが襲ってきたので、殺しました。

 まあ、分かります。犬は引く。わたしも自分に引いている。でも、殺らなかったら噛まれてたかもしれないわけです。

 あたり前だけど医療環境はないので、みんなの時代の比にならないくらいヤバいです。これは分かってほしい」

 

:撮影でしょ?本当だとしたら現場管理が杜撰すぎない?

:まだロールプレイ続けてるんですか?

:ヤラセだとしたら殺してない、ヤラセじゃなかったとしたら正当防衛。以上。

:信者が何かいってますね

:殺したくせに落ち着きすぎてない?

 

「まず、わたしは、悪いと思っていないことで謝りたくないです。

 わたしに落ちつく時間がほしい。わたしにいわれたくないだろうけど、みんなにも落ち着く時間が必要だと思う。

 だから、とりあえず配信は閉じます。72時間耐久はこれでおしまい。

 めでたい締めとはいかなかったけど、ありがとうございました」

 

 最後まで一息でいい切り、配信を閉じる。

 

 ……ふぅ、とまた溜息。

 

 あーあ。

 

 せっかく、普通らしくできていたと思ったのにな。



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挿話:そこにあの子がいなかったとしても

アイヒマン実験の詳細は、スタンレー・ミルグラム『服従の心理』(山形浩生訳,河出文庫,2012年)に依りました。


 同窓会は(にぎ)わっていた。

 高校が主催する『十年会』には、卒業してから10年、アラサーの元生徒が出席する。

 進学校だけあって、敦志(あつし)よりも高級なスーツを身にまとった生徒が多くいた。

 

 そのなかに、美しい女性がいた。

 敦志は彼女の担任ではなかったが、彼女のことをよく覚えている。

 

 

   ◇

 

 

 巷では教師は聖職であるといわれるが、敦志にとって、教師はただの仕事であった。

 

 だいたい、教師になるための特殊な訓練はない。いくつか実習があって煩わしいが、基本的には、大学で所定の単位をとれば卒業のオマケについてくるような代物だ。

 特別な信念があるわけでもないし、担当教科にしたって教科書レベルの理解で十分だ。優秀な生徒であれば、敦志よりもよほど日本史に詳しいだろう。

 それでも生徒がバカにすることなく敦志の話に耳を傾けているのは、教師としての立場があるからだった。

 

 アイヒマン実験、というものがある。

 

 この実験に登場するのは3名。先生役と生徒役、そして実験を見守る実験者である。

 生徒役と実験者はグルで、実験の対象は先生役。

 生徒役がテストに誤答した場合、先生役は手元のスイッチで電撃を流す。

 実際には電撃は流れていないのだが、先生役は、そのことを知らない。そのため生徒役の悲鳴を本物だと思っているし、電撃が危険であることも知っている。

 実験者は、生徒役が誤答する度に電撃を強くするように告げる。

 

 電撃のレベルは30まで設定されている。

 レベル1は15ボルトで、レベル30は450ボルト。

 

 15ボルトのスイッチには「軽い電撃」と書かれている。

 75ボルト(レベル5)になると「中位の電撃」。

 こうして60ボルトごとにランクが上がっていって、375ボルト(レベル25)以上は「危険:過激な電撃」、435ボルト(レベル29)以上は「×××」とだけ書かれていた。

 

 生徒役が悲鳴をあげるのは120ボルト(レベル8)から。150ボルト(レベル10)で実験の中止を訴え、330ボルト(レベル22)で完全に沈黙する。

 さて、何パーセントの先生役が450ボルトまでやりきっただろうか。

 

 実験にはさまざまなバリエーションがあるのだが、その1つでは、65パーセントという数字がでた。

 

 過半数の先生役は、実験を最後までやりきったのだ。

 そのなかには現役の看護師も含まれていて、彼女は210ボルト(レベル14)で十分に感電の恐れがあると知っていた。

 ちなみに、実験が中止されたときの平均的な電撃は360ボルト(レベル24)。生徒役が完全に沈黙しても電撃は流され続けたのだった。

 

 ところが、実験者が同じ室内におらず電話で指示した場合、最後までやりきった先生役の数はガクッと減った。20.5パーセントになったのだ。

 

 この実験で明らかになったのは、人は権威の命令に従ってしまう傾向があるということだ。

 教壇に立った時点で、その人物は権威となる。

 教師が威圧的に振るまうのは、自分を権威だと思わせて、生徒をコントロールしようとしているからにほかならない。実際、生徒には横暴に振るまう教師であっても、職員室ではいつもニコニコとしていて、温厚な性格の人間である場合が多い。

 

 ところが、生徒のなかには、教師を遥かに上回るカリスマを持つ者が稀にいる。

 

 普通のクラスでは、3人か4人くらいが強いパワーを持っていて、各々にグループが分散されている。

 いわゆるスクールカーストというやつだ。

 彼らが教師に好意的であるか否かがクラスの雰囲気の要になるので、教師は彼らと積極的にコンタクトを取ろうとする。

 しかし、その生徒は違う。

 スクールカーストという枠組み自体の上にいるような。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

 死さえ超越しているような。

 死に一切の怯えをみせず、かえって死を歓迎するような。

 

 自分が初任で担任を持たされていないことに、心底安堵した。

 ところが、不思議なことに。

 双子の妹からは、まったくそうした気配を感じなかった。

 

 彼女は、()()()()()()()()

 感情表現が少し苦手なだけの、普通の生徒だった。

 

 それが、死んだ。

 交通事故だった。

 彼女が合葬された共同墓地には沢山のクラスメイトが訪れたという。

 

 そして。

 

 彼女の姉は――あっけなく、そのカリスマ性を失ったのだった。

 

 彼女は、すっかり普通の人間のようになってしまった。

 成績は上位をキープしていたものの、死にたくない、ということをしきりに周囲に()らすようになった。

 

 簡単なことだ。

 要するに、彼女はただの人だった。

 

 死を恐れない姿勢は、若さゆえの驕りで。

 その傲慢さこそが神秘的なベールを作り出していたのだ。

 

 

   ◇

 

 

 もう28歳になる双子の姉は、敦志をみると微笑んだ。どうやら覚えているようだ。

 思い出話に花を咲かせたあと、彼女は突然いった。

 

「わたし、25歳で死のうと思っていました」

 

 敦志が理由を訊ねると、彼女は顔を赤くして答えた。彼女がこう切り出したのも、酒のせいなのかもしれなかった。

 

「恥ずかしいんですけど――あのときのわたしは、子どもでした。大人になっても何も変わらないと。そんな退屈な世界で、醜くなってまで生きたくないと思っていたんです」

「でも、死んでない」

「はい。だから、その――妹に申し訳なくて。あの子は、わたしが25歳で死ぬと思いながら死んだんです。あの子を待たせることになる……」

 

 うつむく彼女に、敦志はどのように声をかけていいものかと逡巡した。

 迷った結果、敦志は陳腐な答えをいうことになる。

 

「大丈夫だよ。現世の土産話は多いほうがいい」

「そうですね」

 

 彼女は涙ぐみながらも、晴れやかな笑顔でいった。

 

「たくさんのお土産を、あの子に持っていってあげないと」



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夏は怪談の季節

毛艶(けづや)、悪いなぁ……」

 

 わたしは自分が撲殺した犬の死体を眺めていた。

 枝毛が混じったボサボサとした犬だ。この時代に血統が保証されたペットがいるのかは甚だ疑問だが、少なくとも純血ではないだろう。

 血は頭頂部から滲み、楕円状に広がっている。だがそれだけで、地面にはさほど垂れていない。毛が防波堤の役割を果たしているのだろう。

 よくいうような苦悶の表情というのは(うかが)えない。白目を剥き出してはいるが、苦しんでいるのかと問われればそうでないような気がする。黒目はほとんど見えなかったが、みていてあまり気持ちのいいものではないので、瞼を閉じさせた。

 

「……どうしよっかな」

 

 変な炎上の仕方をしたけど、そこまで大きなものかといわれれば、そうではない。わたしは実況者としては底辺もいいところだし、騒いでいた人はだいたい初見だ。可愛さ余って憎さ百倍式の、いわゆる反転アンチではない。

 わたしは登録者数もそこまでではないので、自分でいうのもアレだけど、叩きがいがない。人の怒りは数日も持たない。少し時間を空ければ自然に鎮火すると思う。

 

 思うのだけど。

 

 この犬を食べるか食べないか。

 炎上対策としては食べないのが圧倒的に正解――なんだろう。

 

 魚であれだけ騒がれるとなると、犬はもっと騒がれるだろう。

 こと動物に関しては、命の軽重が確実にある。微生物や昆虫などの小さいものは軽く、クジラや象などの大きいものは重い。

 犬は愛玩動物としても親しまれているぶん、かなり重い。

 

 でも、貴重なタンパク質だ。せっかくの戦利品だし勿体ない。

 

 問題は、わたしが犬を食べたことを報告するか否か。

 食べていないといっても嘘だと思う人はいるだろう。

 逆に食べたといえば、それを嘘だと思う人は少ないはずだ。

 いくら無言を貫いたとしても詮索するような雰囲気は出るだろうし、いっそ正直にいったほうがいいかもしれない。

 

 とりあえずそのあたりまで決めておいて、もう遅いかもしれないけど、喉元を切って血抜きをする。

 

 わたしの手元にある刃物はハサミのみ。あまり鋭利なものではないし、錆びているので、切り心地が悪い。血と脂で刃がぬらりと滑る。

 レストランに塩も包丁もないのって何のバグ?

 それだけ、未来は加工食品が多かったのだろうか。あのときちゃんと聞いておけばよかった。

 

 とりあえず火にかけることで、毛が処理されやすくなるらしい。

 殺菌もできるので一石二鳥とのこと。

 

 火力は心もとないけどキャンプファイアーのように、薪を組み立てる。

 この手順も慣れたもの。

 燻製は調べたところ、今は難しそうだ。まだカマドから炭を取りだしていないので、カマドも使えないし、必要な材料を入手するのも難しい。

 

 ここで問題が発生した。

 

 丸焼きにするには、尻から頭までを貫けるほど大きな棒がなくてはいけない。それに犬を高いところに固定するための木材も必要だ。

 

 そのための、太い棒がない。

 

 海辺を離れて散策する。

 

 なんだか妙に拓けている道のようなものがあったので、自然とそこを歩くことにした。

 獣道とも違う。

 邪魔な木がなぎ倒されているのだ。

 

 熊鈴の役割もかねて、スマホでこの時代の音楽を再生することにした。

 

 音楽で〝ノる〟という経験をしたことはあまりないが、それにしてもノり切れない。聞き覚えがなさすぎて脳が受けつけないのだ。

 

 若者が演歌を聴かず、年寄りがボカロを聴かないのと同じ原理だ。

 音楽を音楽として聞き取るためには訓練が必要だと聞いたことがある。

 どこかの部族に名曲を聴かせても音楽として認識しなかったというのだ。その真偽は知らないけれど、今のわたしには、これを娯楽的な音楽として認識する能力が欠けていた。

 

 結果、令和のヒット・ソングを検索してかける。若者向けの曲がクラシックとして扱われているのには違和感があったけど、時代を越えて聴き継がれているだけあって名曲揃いだ。

 曲数が少ないのが難点だが、少なくとも今日はこれで充分だろう。

 

 気づけば適切な棒が見つからないまま、2時間ほど探索していた。

 まったく疲れていないから時間経過分かりづらい。

 もしかすると疲労には時間を知らせる効果があるのかもしれない。

 今ごろ犬の死体には虫がたかっているかもしれないが、そういうのは炙ればいなくなるから、精神衛生のために気にしないでおく。

 

 往復で4時間かぁ、と思ってちょっと憂鬱になる。

 

 帰る頃にはあたりは暗くなっているだろう。

 急に拓けた場所に出た。

 

「……うわ」

 

 前方は目が届く限りの野菜畑。地面が隙間なく野菜で覆われている。

 引くくらい量が多い。

 ビルにあった野菜だけではなくて、スイカまである。

 包丁はないけど、木の棒で割れるくらいなら自力でどうにかできるだろう。

 とりあえず引っこ抜いて、木に思いっきり叩きつける。

 服にスイカの汁が付着するハプニングはあったが、無事に甘味を得ることに成功した。

 

「……うわ」

 

 ドン引きしたときと同じ声が出た。

 あまりに久しぶりに糖分を摂取した。

 

「……うまぁ…………」

 

 声が心なしか夢見心地になる。

 甘くて瑞々しい。こんなものを食べたら今までのボラとか、これから食べるであろう犬とかの貧相さが際立つ。一瞬で食べ終わり、タネを慎重に確保した。

 もうひとつを同じようにして食べてから、なぜこんな畑があるのだろうかと疑問に思った。

 たしか、野菜は屋上に隔離されているんじゃなかったのか。

 この繁殖具合を見れば納得だ。あたりには他の植物がなく完全に植生が変化している。

 周囲の木はごっそりと枯れている。

 野菜に栄養を吸われているのだ。

 

「……誰かが、()いた?」

 

 海からここまでの一本道。邪魔な木がなぎ倒されていたのも、人の手が入っていたからと考えれば納得できる。

 このあたりで引き返そうと思っていたけど、もう少し調査を進める必要がありそうだ。

 

 そうしてさらに道を歩いていくと、

 

「あばら家?」

 

 木造の粗末な家がみえた。わたしでも努力すれば建てられそうだ。

 木材は随分と劣化していたけど、ビルとは違って人間の棲家(すみか)という感じが強くて、

 

「おじゃましまーす……」

 

 と挨拶をしてドアを開ける。

 鍵はかかっていないようだった。

 ドアを閉じる。

 

「いや、無理無理無理……! わたし、ホラー耐性ないんだって!」

 

 わたしの見間違いでなければ、木製の床には。

 

 一体の白骨死体が落ちていたのだった。



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ゴールドラッシュ

「……まあ、あんなふうに配信を切って、わりかし早く戻ってきたけどごめん。ひとりは耐えられない」

 

:どうしたんだ

:古参は気にしてないぞ

:荒れてたししょうがない

 

「あんなことやったあとなんだけどさ、犬食べようと思って棒を探していたんだよね。丸焼きにするための」

 

:たくましすぎる

:これは炎上しますね(予言)

:メンタル強者か?

 

 リアクションはそこまで悪くない。一部アンチコメントがあったが、そういうのはAIが弾く設定にしておいた。

 炎上は観測した時点で炎上なのだ。シュレディンガーの炎上だ。

 観測した瞬間に、炎上は炎上として確定する。

 それに、いくら騒がれたところで、わたしに実害はない。身元は特定できるはずもないし、むしろできるならしてほしいくらいだ。

 

「見てよこの一面の野菜畑」

 

 わたしはあばら家を背にし、指先で地面を覆っている野菜を示す。

 爪は思ったよりも伸びていない。野生動物の爪が不必要に伸びていないのと同様、日常を送る動作をこなしているうちに摩耗しているらしい。

 

:おお

:スイカあるじゃん

:畑泥棒ですか?

 

「野菜泥棒は分かるけど、畑泥棒はレベル高いな!」

 

 土地の権利書を盗みだして名義を書き換えたりするのだろうか。

 コメント欄が落ちついてきたタイミングを見計らって「ところで」と切りだす。

 

「人骨って映しても大丈夫? 肉片とかはついてない。完全な白骨死体」

 

:まさか…お前……

:大丈夫だと思うけど

:大丈夫そう?

:規約には引っかからない

 

 一応はあらかじめ調べておいたけど不安なものは不安だ。

 こればかりはファンとアンチの区別がつかないので、見知ったアイコンの人が複数人オーケーを出していることから、大丈夫そうだと結論づける。

 わたしはカメラをあばら家に向けて、

 

「わたしの見間違いでなければ、あの家には人骨があった」

 

:展開早すぎてビビる

:見たいような見たくないような

:呪われない?

 

「呪われるとか怖いこといわないでよ! わたし、もうみちゃったんだから」

 

 仮にも近代人なら、呪いとか非科学的なことはいわないでほしい。いや、仮にも近代人であるわたしが非科学的なものを怖がっていては世話がないのだけど。

 

「で、ひとりだと怖いから、みんなを()()……道連(みちづ)……みんなと運命共同体になりたいなって思ってね」

 

:隠しきれない本音

:一緒(巻き添え)

:運命共同体…結婚のことか?照れるな

 

「どっちかというと血痕かな」

 

 あったとしても、乾ききっているだろうけど。

 会話では通じない返答をして、あばら家のドアを開く。

 

「やっぱ……幻じゃ、ないよね」

 

 やや変色した――まあ、元の色なんて知らないけど――頭蓋骨の(うつ)ろな眼窩(がんか)がこちらを睥睨(へいげい)している。白骨は室内にあっても風化しかけており、触れば砕けるほど脆そうだったが、強烈な存在感を醸していた。

 

:なんか…こんなもんなのかって思う俺がいる

:その場にいたらめっちゃ怖いだろうけど、怖くはないな

 

 反応はあっけないもの。

 白骨死体が放つ異彩なオーラとでも形容すべき何かは、画面を通り越しはしないようだ。

 犬のときもこれくらいのリアクションですませてほしかった。

 まあ、今は昔からみてくれている人が多いから、犬を殺したとしてもさほど強い反応はなかったかもしれないけど。

 

「でも……どうして、この人は、ビルじゃなくてこんな場所にいたんだろう?」

 

:文明が崩壊して、町は役に立たなかった?

:塩が欲しかったんじゃない?

 

 わたしの推測も似たようなものだった。

 この白骨死体は、文明が崩壊したあとで()()()()()()()。そして、この場所で暮らしていた。

 だとすれば。

 

「――滅亡の原因は、何なんだろう」

 

:ウィルス

:ウィルスだろ

:ウィルスなんじゃないの?

 

 示し合わせたとしか思えないほど、コメントの足並みが揃っている。

 

「どうしてウィルスだと思うの?」

 

:令和からきたんでしょ?

:令和だから

 

 一瞬何をいっているのかよく分からなかったが、わたしの配信をフィクションだと思っているのだと気づいた。

 わたしというキャラクターが、令和からきたという()()である以上、パンデミックで滅びたという設定がしっくりくる、というロジックなのだろう。

 

「でも……ウィルスで、そんなに簡単に人類が滅びると思う? だって致死性が高ければ感染は拡大しないし、致死性が低ければ感染は拡大するけど滅びないでしょ?」

 

:たしかに

:正論

:じゃあ別の理由があるってことか

:前に避難とかいってたけど、だとしたら戦争とか?

:人類が滅びる戦争とかありえん

:世界全体で人類が滅びているとは限らないし、この地域だけが焦土になってるとかじゃない?

 

 神さまに聞いたけど人類は滅びているらしいよ、といったらますます面倒くさいことになりそうだったので、いわないでおく。

 コメントが設定の考察でヒートアップしてきたところで、冷却材代わりに、気になっていたことを訊ねる。

 

「あの、白骨死体ってどれくらいでできるの?」

 

:完全に状況による

:埋まってるわけじゃないから結構速いよ。夏なら一週間でできるケースもある

 

 わたしは薄目で骨を確認する。

 よくみると周りに長ズボンと長袖の服が落ちている。そのことを伝えると、冬なら数ヶ月という答えが返ってきた。ただ、服がないから長袖を着ている可能性もあるというので、他の服があるかどうかを確認することにした。

 罪悪感はなくもないけど、危険なものが落ちていないとは限らない。

 アメリカンスタイルで土足で入る。

 

 床がわずかにたわみ、反動で白骨が揺れる。

 今にも死者が蘇ってきそうで恐ろしい。

 (きし)んだ音を立てるあばら家を、おっかなびっくりと探索していく――とはいってもそこまでの広さはないが――と、棚らしき場所に服がおかれているのを発見した。半袖があったので、この人が死んだ季節を秋から冬あたりとふんわりと仮定する。

 

:白骨死体っていっても、数百年とか残るものも普通にあるからな

:コンクリが倒壊するレベルの劣化をしてるんだから、この家は割と新しいんじゃないか?

:だとしたら、けっこう最近まで生きてたってことじゃないか?

:いや、ざっと50年は見積もれるだろ。

 

 キッチンらしき場所には、レンガ造りのカマドがあった。

 ここで犬を調理できるかもしれない。

 

「あっ、みて! 念願の包丁を手に入れた! 薪も、斧もある! 炭もある! ゴールドラッシュなんだけど!」

 

 あんなに苦労して作り出した炭が、こんなに簡単に手に入るなんて。

 もっと早くにここにきたかった……けど、包丁と斧を入手できたのは大きい。

 

「あ、みんなの時代って食堂に包丁とかないのが普通なの?」

 

:いや、あるよ

:ミスじゃなかったの?

 

 ……こんなところにも設定と思われている弊害があった。あのころは視聴者が今よりも少なかったし、スタッフのミスとか、エンタメのためにあえてなくしたとか思われていたのかもしれない。

 

「何この袋」

 

 カマドの側に、ごわごわとした麻袋のようなものがあった。

 虫とかが急に飛び出してきたら嫌なので、慎重に開ける。

 なかには大量の塩が入っていた。

 

「うわ……」

 

 きらきらと輝いていて、まるで宝石のようだ。

 わたしの努力は一体。

 せっかく塩を作る技術を習得したのに……

 ますます、もっと早くここをみつけていればよかった……

 

:チート始まった?

:初期の何もない状態での手探り感がよかったのに

:人の幸せは素直に喜ぼうぜ

 

「ここを拠点にする。そのために、犬の死体とか回収してから戻ってきて、この骨を埋める。できるだけ迅速にね。72時間耐久の延長戦、始めるよ……!」



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決意

いつもの倍くらいの文字数があるので実質2話更新です。
今回、作中最シリアス回。裏返せば、今後、これ以上のシリアスはないということ……!


 真夜中、月の光を頼りに死体を埋める。

 人工光を発するものがわたしのスマホしかないこの時代、月の光は夜の貴重な光源だ。月だけではなく星々が鮮明にみえるのは、街明かりが絶えたためだけではなく、スモッグが生じることもないからだろう。

 人のない世界でも夜は一定の明るさで、健全者が完全な闇を目にする機会はないのかもしれない。たぶん、夢のなかでさえ闇には光が混じっている。わたしたちは光の混じった闇しかみたことがないからだ。

 探したらお手製とみられる(くわ)があったので、それで穴を掘った。深く掘る必要はなかった。

 骨は風化していたのか、触れた瞬間に役割を果たしたかのように崩れてしまった。

 住んでいた家の近くがいいかもしれないと思って、すぐ近くの木の下に埋めた。

 墓標は作らなかった。この人の信仰は知らないし、わたしがここに埋まっていることを判っていれば充分だ。

 木の前で1分間ほど黙祷(もくとう)を捧げる。

 コメントも滞り、新規のコメントはほとんどなかった。

 

 家に入り、飲み水で手を洗った。

 この家から数分で行ける場所に川があるが、急な斜面なので夜には危険だ。

 

「意外。みんなの世界にも黙祷って残ってたんだ」

 

 ベッドの上にカーテンを敷きながら、いう。

 変な菌がついていたりしたら嫌だし、いかに自然の力で浄化されていようと、人の汗がついていた布の上で寝る気にはなれない。

 

:残ってる

:祈りの効果は科学的に証明されている

 

「え、ほんと?」

 

 わたしはベッドに腰を降ろす。パブロフの犬はベルの音を聞くと涎を垂らすというが、わたしはベッドに腰を下ろすと一気に眠気がこみあげてくるタイプだ。

 自分のベッドじゃなくても節操ない。別のベッドで眠った経験なんて修学旅行以外ではないけれど。

 

:「地球意識計画」で調べて

:平成ごろからやられてたはず

 

 検索をすると、まとめサイトが引っかかった。最後まで読み終わる。

「いかがでしたか?」と結ぶのは、いつの時代も変わらないのか……。

 少しげんなりとしながら、内容を整理する。

 

 地球意識計画。

 中二病チックな名前のプロジェクトだが、プリンストン大学が実際に行っている実験らしい。日本だと明治大学も実験に加わっているのだという。

 実験に使われるのは乱数発生器だ。

 実験結果は単純。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 わたしが知っている例でいえば、東日本大震災やトルコ大震災のときに乱数発生器が有意な偏りを示した。

 この実験は長らくインチキだとみなされてきたが(わたしが死んだときにも現在進行形で行われていたが、あまり多くの学者に支持されていなかった)、その後かなり経ってから成果が認められた。

 

 わたしにはにわかに信じがたいことだが、この時代の人たちはそれなりに信じているらしい。

 そんなことから、黙祷という文化はかえって強くなったのだという。

 呪いとかいう言葉が生き延びていたのは、そのあたりが原因なのかもしれない。

 とんでもないジェネレーションギャップだった。

 

「みんな、いろんなこと知ってるね」

 

:年季が違うから

:知識の質が違うだけ

 

「あ、じゃあさ。わたしが神さまに連れてこられたっていったら信じる?」

 

 なぜこんなことを口走ったのか、よく判らなかった。

 人類の存亡なんて、わたしひとりで抱えておくには重すぎる問題だ。それを押し付けようとしたのかもしれない。

 あるいは、人の骨を埋めたことでセンチメンタルな気分になっていたのかもしれない。

 人間の心理なんて、自分のものであっても判らない。すべては後付けだ。

 

:何言ってるの?

:迷走しすぎでは?

:使徒ってことか?

 

「あー、ダメだね、君たちまったくなってないよ。人を信じる姿勢というものがなってない」

 

:人を信じさせる姿勢がなってない

:いままで人に信じられるような行動をしてきたと、神に誓って言えますか?

 

「いや、まったくいえないけど」

 

 あの神さまへの誓いを破ったところで、なんのデメリットはなさそうだが。

 ただ、たしかにわたしのほうにも信じてもらうための土壌作りを怠った瑕疵(ミス)がある。

 

「これ本気でいってるんだけど、我ながら嘘っぽいから、信じたい人だけ信じてほしいんだ」

 

:なんだなんだ

:視聴者厳選でも始めるつもりですか?

:最初の段階から嘘っぽいが

:信じたい人だけ信じるって、宗教のシステムじゃん

 

 できるだけ忠実に伝えるつもりで、わたしがトラックに轢かれたところから、話し始める。

 

「結論からいうと、わたしは神さまのミスで死んで、そのお詫びということで、未来に送りこまれたの」

 

:平成とか令和とかにその手の本が量産されたって聞いた

:芸が細かい

:だから最初から未来って分かってたのか

 

「えっと、あのときわたしは……テスト勉強してたの。それで、夜の十二時を回ったころかな。お腹が空いたからコンビニに行くことにしたんだ。

 わたしの家からコンビニまでは、自転車で10分くらい。コンビニからでて、駐輪場に向かったとき……逆光で判らなかったけど、居眠り運転だったのかな。トラックが猛スピードで向かってきて、まず肋骨(ろっこつ)のあたりに自転車のハンドルが刺さった」

 

:痛い痛い痛い

:肺のあたりがヒュンってなった

 

「耳と耳のあいだで、なんか肉同士がこすれあう音? みたいなのがして、次の瞬間に変な空間にいたの。真っ白な空間だった。真っ白っていうか、光以外の何もないんだよね。どこに光源があるのかも判らない。光だけがあった」

 

:そして光があった

:創世記か?

 

「そこには女性がいて、わたしが死んだのは向こうのミスだっていってきた。あんまり神さまって感じはしなかったんだけど、わたしが話しやすい姿になっていたらしくて。

 それで、本当は、わたしのお姉ちゃんが死ぬ予定だったけど、今なら戻せるけどどうする? っていわれたんだ。わたしが生き返る場合には、肉体を蘇生することになるから、マスコミとかが押し寄せるだろうって。それからお姉ちゃんも死んじゃうって」

 

:究極の選択

:神ってミスるの?

:論理学的に神は全能ではないからな

:全能な神は、自分が持ち上げることのできない石を作ることができない

:それは詭弁ってことで決着がついてなかった?

 

「それで、わたしは生き返らないことにした。間接的な自殺なのかな。そのときは生きる意味とか見つからなかったし、なんていうか、死ぬのが嫌だっただけで、生きるのも面倒だった。死ぬのは怖かったし、死にたいわけじゃない。でも、生きること全般に対する疲労感っていうのかな、そういうのがあって、死んでもよかったんだよね。

 駅のホームでね、電車が通る音がすると線路に吸いこまれようとするような感覚がしたことがあって。別になんかショックを受けていたとか、そういうのじゃないんだよ。たぶん、その感覚に脳味噌が追いついて足を動かしていたら、そのまま死んじゃってたと思う。そのあと調べたんだけど、電車の運転手さんは飛び込み自殺の人の顔をみるんだよね。その瞬間の顔って、頭から離れてくれないらしくて。そのなかに、ビックリした顔の人が結構いるんだって。たぶん、わたしもあのまま足が動いたら、わたしもそのひとりになっていたんだと思う。

 ……どうしたの、みんな静かだけど、黙祷でも捧げてる? 当時はだよ、当時は。いまはそんなこと思ってないって。思ってたら配信とかやらないで死んでるから」

 

:私もそういうことあったよ

:いま大丈夫ならよかった

:わかる、いや、簡単にわかるとかいっちゃダメなんだろうけど

 

「なんだよ、みんな優しいじゃん。いや、別に家庭環境がアレだったとかそういうのじゃないんだよ。風邪みたいなものなのかな、そういう感覚って急にくるんだよ。

 だからわたしは神さまの提案に頷いたの。でも、神さまはお姉ちゃんがいない時代ならいつでも生き返らせるっていっていて。家族とかも選べるって。

 でも、わたしはお姉ちゃんと同じ顔がよかったから――でもそうすると戸籍がなくなっちゃうでしょ、それで神さまは戸籍とかないくらいの未来に送ろうかっていってくれたんだ。

 時系列は前後しちゃうんだけど、その前にわたしが能力をねだってたんだよね。いや、誰かがコメントでいってたけど、異世界に転生する話とか平成とか令和に流行ってたから、わたしもちょっと読んでて。それで、最悪でも死ぬだけなんだから能力をねだってもわたしに不都合ないから」

 

:たくましい

:ちゃっかりしてて草

:配信スキル?

 

「そういってくれるのは嬉しいけど、配信スキルはないからね。あったら炎上も上手く収められるんだろうし、っていうか炎上自体しないか。

 それでわたしが望んだ力っていうのは、身体能力。こちとらか弱い女子高生よ? ビル登るのとかボラ獲るのとか、やったことないけど普通無理だから。あと視力もよくなってた。もうメガネは火をつける専門。メガ専」

 

:ノリで物をいうな

:物をノリでいうな

:いうなノリを物で

 

「みんなコメントに困って適当いってるでしょ。

 どこまで話したっけ? ……ああ、そうだ、身体能力を授けることになったから切りだしやすかったのもあると思うんだけど、このスマホでネットに繋がるようにしてあげるから、人類が滅亡したあとの世界にトリップしたらどうかっていわれたの」

 

:条件悪すぎないか?食料とか医療とかどうするの?

:そんな条件よく受け入れたな

 

「そのときは死んでもいいって思ってたからさ、消化試合みたいな気分だったんだよ。

 でも、スマホはお姉ちゃんのいる時代にはつながらないっていわれて。お姉ちゃんとわたしが同一の空間にいると、どちらか一方が死ぬんだって。この部分、よく判らないんだけど、電波は真っ白な空間を通して過去に繋がっているみたいなんだよね。でも、真っ白な空間内には時間がない。ここ、たぶん面倒な部分だからはぐらかしたんだと思うんだけどね、一応わたしは、私のいる時代と、みんながいる時代は、白い空間を通して同一の空間として接続されてしまうってことだと理解している」

 

:薄っすら理解

:俺はバカなんだ。難しい話は…置いていかれるぞ?

:〔未来〕―真っ白な空間―〔現在〕←未来と現在が接続されている=同一空間

 

「まとめてくれてありがとう、たぶんそういうことだと思うんだ。それで、真っ白な空間は『すべての可能性を秘めている空間』なんだって。つまり、この空間のなかでは、ほとんどのことが起こる可能性があるし、起こらない可能性もあるってことなんだと思う。ここはわたしの理解だから、かなり杜撰な部分だと思って聞いてほしい。神さまは、『人間には認識できない領域』だっていってた」

 

 わたしは、神さまがやっていた桃のくだりを思い出せる限り再現して伝える。

 可能性は記述されることによって狭まる。

 したがって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

:雨が降るかもしれないし、降らないかもしれない、みたいなこと?

:降水確率50%ってことか

 

「そう、わたしもそんな感じで認識してる。ここがわからないんだけど、こうなると過去も未来も関係ないんだって」

 

:???

:いや、わからん

:過去から未来の可能性すべてを記述すれば、過去も未来もパラレルワールドも全部分かるってことかな。それこそ永遠に読めないほど膨大な量だけど、神ってことならわかる

 

「それはありそうだね。でも、わたしにも本当のところは分からない。

 たとえば、その考えだと、わたしがお姉ちゃんの代わりに死ぬことも、予定に入ってなきゃおかしい。つまりミスなんて生じるはずがないんだよね。わたしはそう思って神さまに聞いたら、判りやすくするために簡単に説明したんだといってた」

 

:確かに全部の可能性があるならそう

:えらく適当な神さまだな

 

「まあ『人間には認識できない領域』だから、判った時点で人じゃなくなっちゃうんだと思う。神さまなりの善意だったのかな? 知らないけど。

 それで呆れる話なんだけど、神さまは、わたしを未来に跳ばそうとしたのは、わたしが未来にいけばいくだけ過去への改変が少なくなるからっていってたんだよね」

 

:えらく適当な神さまだな

:…ヤバいことに気づいちまった…

:奇遇だな、俺もだ

:俺達の世代で滅びるってこと?

 

「……たぶん、そういうことになると思う。わたしは、そのときは気づかなかったけど。みんな、頭の回転が速いね」

 

:照れるな

:え?え?どういうこと?

 

「えっと、神さまが過去の改変を嫌うんだとすれば、必要以上の過去にスマホを繋げないでしょ? だから、滅亡スレスレのところに繋げるんじゃないかってこと」

 

:なるほどなぁ

:感心してる場合じゃないぞ

:だから避難っていってたのか。あの町、綺麗すぎたもんな

:すごいな、いままで説明できなかった部分が全部説明できる

 

「そう、そのときのわたしは、それに気づいてなかったからさ。受け入れて、こんなことになってるわけ。

 でも、でもだよ。滅亡スレスレのところに跳ばしたのだとすれば、()()()()()()()()()()()()()()()? そうじゃなきゃ送る意味がないから。まあ全部仮説なんだけど」

 

:回避できるってこと?

 

「……たぶん、みんながわたしを信じてくれれば。わたしが死ぬまで、猶予はあると思う。こんな環境だと長生きできないから楽観視はできないけど、わたしが死んだ瞬間、話し相手は必要なくなるから、そのあたりのタイミングで滅びるんだと思う。

 そのあいだに原因を突き止めて、止める方法を見つけられれば――」

 

:なるほど

:この人数だと…国を動かすのは難しいだろうけど

:戦争とかだったらアウトだな

:国は証拠がないと動けないから

:私費をだしてくれる物好きがいればワンチャン

 

「わたしがもっと有名になれば、信じてくれる人がでてくるかもしれないでしょ? みんなが人類が滅亡すると思って行動していたら、何か発見があるかもしれないし、何か変化があるかもしれないでしょ?

 ――だから、わたし、配信頑張る。なんか、めっちゃ普通の結論っていうか、スケールのくせに結論が小さくてダサいけど、とにかくめっちゃ頑張る」

 

:応援している

:↑なんで他人事なんだ、俺らも頑張るんだぞ

:身近でできることからやってみる

 

 

   ◇

 

 

 その夜、夢の続きをみた。

 

 ――あなたはどうするの?

 

 式場にいる人たちの視線が、わたしに集中する。

 

 わたしは答えを求められている。

 

 わたしは何かを答えなくてはいけない。何かを。 

 

「わたしは――――生きるよ。お姉ちゃんと同じ歳には死なない」

 

 あのね、お姉ちゃん。

 わたし、しばらくは死なないよ。死ぬつもりはない。

 だから待っててね、お姉ちゃん。

 天国では、絶対に退屈させないから。

 

 だって、世界を救ったなんて話、つまらないわけないでしょ?



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初コラボ!(上)

2話同時更新の1話目です。


 ……結構な勢いで啖呵(たんか)と配信を切ったが、そのあとにできることといえば、眠ることだけ。感情が(たか)ぶって睡魔を威嚇していたけれど、あの手この手で睡魔を呼び寄せて、意識を落とした。

 

 朝。まずは川まで行って、ベッド・マットや布団やスーツを洗濯する。

 ベッドはあったけれど、そこでそのまま寝るには、あまりにあの部屋は生活感がありすぎた。汗や脂なんかはとうに分解されているだろうが、滅亡の原因が菌だとすれば、いまなおその菌がベッドに貼り付いている可能性は捨てきれない。洗った程度でどうにかなるか判らないけど、もしそれでどうにもならないほどの強さを持っているのだとすれば、部屋に入った時点でアウトだと思う。

 いずれにせよ、この小屋を使う以上、避けては通れない問題だ。

 

 お父さんの靴の臭いがする大きな桃が流れてくることもなく、無事に洗濯を終える。洗濯物を干して、朝ごはんとして野菜を食べる。

 

 起きたときには鼻が慣れていて異臭に気づかなかったが、一旦外に出てしまえば、小屋が死臭に満ちているのが判った。

 原因は犬。

 さっさと丸焼きにしてしまおうと、ネットで豚の丸焼きの調理方法を検索する。

 昔はこんなに残酷な調理をしていたんですよ、ということを記したページだ。

 四足獣である点には変わりがないので、処理方法に大きな違いはない。

 

 口からお尻まで棒を突き刺して、ようやく下ごしらえに成功。

 (かまど)に吊るして焼きあげる。

 肉に含まれていた水分が蒸発していく。

 

「完成……でいいのかな」

 

 配信中に食べるわけにもいかないから、とりあえず食べることにした。

 

「うわ、くさっ……」

 

 うっかりと言葉が洩れてしまった。

 獣臭い。

 家畜用に育てられていた牛や豚と比べるのが悪いのかもしれないが、肉ということで期待していた。塩を過剰につけて匂いを強引に消したが美味しくはない。工事音をバカでかい音楽でかき消しているようなものだ。どちらにせよ、うるさいという事実は変わらないのだ。 

 

 ……牛とか豚とか鶏とか、野生化してないかなぁ。

 

 家畜を育てていない向こうでは望み薄だろうけれど。ペットはもはや自然界では生きられないから、むしろ飼うことを推奨されているらしいが、家畜はどうなのだろう。

 犬は、精神的にも味覚的にもよろしくない。

 

 肉でできたゴムを噛んでいるような感じだ。

 

 なんていうか……こんなに頑張って調理してもこんな感じなら、埋めてもよかったかもしれない。せっかく料理したからには食べるけれど。

 消極的なベジタリアンになりそうだ。

 途中、我慢できなくなってキャベツで包んで飲みこむことにした。塩を節約できるし、最初からこうしておいたほうがよかったかもしれない。

 

 可食部の4分の1くらいを食べ終えたところでお腹が限界を迎えたので、片付ける。残りはまた夜にでも食べることにしよう。

 

 洗濯物はベッド・マット以外は乾いていて、お日さまの香りがする。

 

 諸々の作業を終えたところで、FP(フォロー・ポスト)のダイレクトメールに通知がきた。

 通話である。

 繰り返そう、通話である。

 前世を併せても通話の経験はあまりないので緊張する。

 今は相互フォロワーしかダイレクトメッセージを送れない仕様にもどしたので、相互フォロワーであることには間違いない。

 そして、わたしの相互フォロワーはひとりしかいないのだ。

 

 承諾ボタンを押して、電話に出る。

 

『聞こえてますかー?』

 

 柔らかい女性の声が聞こえてきた。温和で落ちつく話し方だった。

 

「あ、聞こえてます。えっと、エリザベスさん……でいいですか」

『それでもいいですけどー、もっと卑猥(ひわい)な呼び方でもいいですよ』

「こっちがいやですよ!」

 

 そもそも卑猥な呼び方ってなんだ。

 

淫猥(いんわい)な呼び方のほうがいいですか?』

「さっきと変わったの単語だけですよね」

 

 意味は何一つ変わっていない。

 

『冗談ですよ』

 

 エリザベスさんは笑った。冗談じゃなきゃ困る。

 

『こっちからは、令和原人さんでいいですか』

「いいと思ってるんですかっ!?」

 

 相手は、チャンネル登録者数1600万人を擁する中堅ライバー・エリザベス香車。

 実は、昨日のうちにコンタクトを取ったのだった。コラボをしたいということを申し出たら、すぐに返信があって『明日通話しましょう』ときた。それからは時間なんかを向こうがトントン拍子に決めてくれて、ほとんど向こう任せになっていた。

 昨日の夜にしか動画を見られていないけど、ニッチなライバーを紹介する動画シリーズが好評を博していて、そうしたライバーとコラボをすることによって手広く交流を持っている人のようだ。

 

『いやー、それにしてもありがとうございます、コラボのお誘いなんて。初コラボですよね? 私でいいんですか?』

「こちらこそコラボを受け入れてもらってありがとうございます、全然そちらに視聴者を流せないのに……」

『視聴者といえば、あれ大丈夫でしたか、うちの視聴者が犬の件でかなり騒いでましたけど。すみません、変な時期に紹介しちゃって』

「全然問題ないです、あれでかえって吹っ切れたというか」

 

 これくらいの良識があるのに、最初に下ネタを振ってきたのか……振り幅が判らない人だった。

 

『通話でもそのままの喋り方なんですね――あ、変な意味じゃないですよ。ライバーには、配信と通話だと全然テンションが違う人が結構いるので』

「エリザベスさんは、確かに動画とキャラが違いますよね……じゃあ、最初のあれは……」

『素ですね』

 

 キャラであってほしかった。

 

「ところでコラボ初めてなので、あまり勝手とか分からないんですけど……どっちのチャンネルがいいとかってありますか」

『そうですね。せっかくですし、こちらのチャンネルでいいですか』

「……ありがとうございます、助かります」

 

 向こうのプラットフォームに乗りこんだほうが売名できるので、願ったり叶ったりだ。

 おそらく向こう側もそれに気がついていて、それでもコラボをしようとしてくれているのだろう。頭が上がらない思いだった。

 つくづく冒頭の下ネタはなんだったんだ。

 

『いえいえー、配信じゃなくて動画ってことになりますけど、考えているのは常識クイズです。令和について調べたんですけど、今と違うところが結構あるのでー、そこにスポットをあてたクイズですねー。えっと……カンペとかあったほうがいいですか?』

「いえ、なくても大丈夫です」

『わかりましたー。日程に希望とかありますか?』

「いつでもフリーです」

『おお、助かります。では、明日の14時はどうでしょう。撮影時間はトラブルとか諸々を想定して2時間くらいで。企画自体は1時間くらいで終わると思います』

「じゃあ14時で」

 

 こうして明日に動画を撮ることになった。そのほかに告知のタイミングを相談したり、雑談したりしているうちに、1時間くらい経っていた。

 

『それでですね……と、すみません、これからコラボがあるので、失礼しますね』

「引き止めちゃってすみません、明日もよろしくお願いします」



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初コラボ!(下)

2話同時更新の2話目です。


 あ、撮影中はタメ口でいきますねーと前置きをして、エリザベスさんは深呼吸した。

 

『ハロー・エブリアス! 好きなレタスはレタス、エリザベス香車です!』

 

 エリザベスさんは、小ネタを挟んで自己紹介をする。

 エブリアスというのは「すべての私たち」という意味の造語で、ノリとフィーリングで決めたのだという。エリザベスみたいでいいじゃないですか、といっていたが、意味が判らない。

 

『みんな、この前に紹介したライバーさんを覚えてるかなー? 今日のゲストは、おそらくライバー1令和に詳しい、このお方!』

 

 わたしの名前が呼ばれたので、自己紹介をする。

 

「……普段は人類が滅びたあとの世界でサバイバルしてます、よろしくお願いします」

『掴みのパワーがエグくない?』

「掴みがエグいのはエリザベスさんじゃないですか。初めて通話したとき、呼び方エリザベスさんでいいかって聞いたら、もっと卑猥(ひわい)な呼び方でいいですよ、っていってましたよ。第一声がそれですよ」

 

 動画だから、NGとか関係なしにエピソードを暴露する。

 

『ちょっと、バラさないでよ、裏で敬語なこと! 真面目なのがバレちゃう!』

「そっちですか? 卑猥な呼び方のくだりがバレるほうを危惧してくださいよ」

『私は自分に嘘はつかないからね』

「少しはついてください」

『さて、無事汚名がついたところで企画説明に移るよー。今日の企画は、常識クイズー! 令和からトリップしてきたレイちゃんに――』

「ちょっと。レイちゃんってもしかして令和からきてます? さっきまで呼び方普通だったじゃないですか」

『冷酷無比からきてる』

「なんでっ!?」

『とにかく』

「とにかくじゃないですよ。説明してください」

『……とにかく!』

 

 押し切られた。

 

『レイちゃんに、どれくらいの一般常識があるのかクイズしてみようって企画! 要するに無知を嘲笑(ちょうしょう)する企画です』

「常識はともかく、エリザベスさんは良識を学んだほうがいいですよ。ていうか、初手で卑猥な呼び方推奨するような人は常識も学んだほうがいいです」

『冷酷無比なツッコミ!』

「冷静といってください」

『冷静だからレイちゃんね』

「繋がった……!?」

 

 エリザベスさんが一瞬黙った。編集点というやつを作っているのかもしれない。わたしもそれに(なら)って黙る。

 

『それじゃあ、早速、問題です! 令和は47都道府県でしたが、今の日本の都道府県はいくつでしょう?』

「えっ、問題になるってことは、47じゃないってことですよね? えー……? 新しいものができることはないと思うから、合併みたいな感じかな。……ゾロ目の44都道府県でいきます!」

『ぶー、はずれー。47都道府県です。レイちゃん常識ないね?』

「思ってたのと違うんですけど! 完全に引っ掛けじゃないですか!」

『いや、完璧に王道だよ』

「王道も騎士道もあったもんじゃなかったですよ」

『じゃあ、次は正々堂々とした問題ね!』

「さっきまでが邪道だったって認めてるじゃないですか!」

 

 さっきのを王道といっている人の正々堂々なんて信用できない。

 ……というか、嘲笑するとかいう性格が捻じくれた企画趣旨からして信用できるはずもない。

 

『それでは次の問題! 日本の国鳥は何でしょうか』

「え……トキ?」

『正解! ちなみに令和にはキジだったけど、どこでこの知識を?』

 

 まっとうな問題だった。

 そしてまっとうじゃない方法で正解した。

 

「令和からトキだと思ってました……。絶滅危惧種なんて縁起悪いから、国鳥になるわけないですよね、冷静に考えれば」

『レイちゃんの名が(すた)るね』

「それは早く廃れてほしい」

 

 命名から廃れるのが早すぎるけど。

 こうして撮影はスムーズに続いていき、第15問目。

 1問4分程度のペースで、ということだったけど話題が脱線して、1時間30分が経過していた。

 

『最終問題! サービス問題です。私、エリザベス香車の名前の元になっている香車とは、何というゲームに由来するものでしょうか』

「将棋ですね!」

『――正解! 15問中正解が3問ということで、レイちゃんには常識がありません』

「正解宣言のあとシームレスに悪口に移行するのやめません? もうすこし誇らしい気持ちでいたかったんですけど」

『おこがましい』

「6文字で切り捨てないでください。何がおこがましいんですか」

『なにもかもだ』

「6文字で切り捨てないでください。6文字に揃えようとして口調変わってるし」

 

 もともと300年後の常識なんてわかるはずもないのだから、3問正解できたことが奇跡だ。

 1問がサービス問題とはいえ、である。

 

『それでは、みなさんご視聴ありがとうございました』

「えっ、突然すぎないですか? 逃げようとしてません?」

『エリザベス香車と――』

 

 わたしが入りこもうと息を吸った瞬間、エリザベスさんが声を放った。

 

『――レイちゃんがお送りしました!』

「レイちゃんじゃないですからっ!」

 

 そうツッコんで2秒くらい経つと『オッケーでーす』と声が聞こえてきた。

 

『お疲れさまでしたー。なんか思ったよりも盛りあがっちゃって、想定時間オーバーしちゃいましたね。撮れ高が多いので、前編と後半で分けることになるかもしれません』

「……お疲れさまでした。めちゃくちゃ疲れました。かなり引っ張ってもらいましたけど、それでも全速力っていうか」

『いや、レイちゃんがついてきてくれたので、久々にボケに振り切れました。いつもはツッコミなんですよ』

「嘘つかないでくださいよ。ドボケじゃないですか」

『それは単なる悪口じゃない?』

 

 ツッコまれた。

 ツッコミというのも本当なのかもしれない。

 別に確かめるためにボケたわけではなかったけれど。

 

「えっと……告知とか、いつしたほうがいいんでしょうか」

『確約はできないですけど、明日には投稿できると思います。私が告知をポストしたあとで、適当に何かしてもらえればー』

「判りました、適当に何かします」

 

 わたしの視聴者なんてエリザベスさんの視聴者の足元にも及ばないから、あまり宣伝効果はないだろうが。

 

『ありがとうございましたー、またコラボできるといいですね!』

「そうですね、またよろしくお願いします!」

 

 こうして、わたしの初コラボは終わったのだった。



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