竜の魔女と騎士王と紛い物 (3DS大将)
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1話 不運

黒いコートの男が現れ、アルトリア・オルタに近づいてきた

 

「お前は誰だ?」

 

アルトリア・オルタは質問した

 

「聖杯戦争?またやるのか?」

 

男はうなづく

 

「召喚される前に私と会うとは…貴様何者だ」

 

男は首を横に振る。アルトリアの質問を拒否し、今回の聖杯戦争について話す

 

「世界の誰もが参戦できる…聖杯戦争の枠を超えた戦争…魔術師だけではない全ての人間に機会を与えられた聖杯をかけた戦いだと?」

 

男はにやりと笑う

 

「出来もしない事を…どうやら貴様は聖杯戦争を知らないようだな。聖杯戦争の参加資格は…」

 

アルトリアの言葉を遮るように目の前で聖杯が現れた

 

そして男はこう言った

 

ーー聖杯は用意してある。だから思う存分楽しんでください

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー東京都のとある地区

 

「・・・」

 

崩壊し、廃墟と化した場所でアルトリア・オルタは1人ポツンと腕を組みながら状況確認をしている

 

それもそのはず。召喚されたというのに自分のマスターがどこにも見当たらないのだ

 

「私を待たせるとは一体どんな奴だ…」

ある種の悪戯とさえ感じる違和感はアルトリアを不機嫌にさせる。彼女の前のマスターを認めていた分既に今回のマスターに不満を募らせていた

 

「・・・」

いくら見渡しても壊れた建物が見えるばかりで景色に変化はない

 

ーーガララッ(建物が崩れる音)

 

「…誰だ」

建物の倒壊の仕方から自然に壊れたわけでない。そう認識した上でアルトリアは殺意を剥き出しにして剣を向ける。待たされていることに相当腹を立てているのだろう

 

「ったく!なんで召喚された先でこんな汚い建物の下敷きならなきゃいけないのよ!てか召喚されたのに下から出てたまりますか!」

 

見覚えのあるサーヴァントにアルトリアは静かに剣を下ろす

 

「・・・なにをしている突撃女」

「その声…!…やっぱりあんたね冷血女!」

 

そのサーヴァントの名はジャンヌ・オルタ。2人は藤丸立香というカルデアのマスター側につき、共に戦った仲間…というのは変わりないがこの2人の関係自体は良好とは言い難い

 

犬猿の仲と言うべきか…あの時は藤丸立香が両者のマスターになったからいいものの今回は状況も悪かった。マスター不在。そして何よりも聖杯戦争である以上戦闘は避けられない

 

と思っていたアルトリアだったが

 

「…おい、突撃女。一応聞くがマスターはどうした」

「ハッ。誰がアンタになんかに教えますか」

「そうか。貴様もいないのか」

「教えないって言ってるでしょ!!…って、え?『も』って何よ」

 

ジャンヌはアルトリアの言葉に引っかかる

 

「召喚されたものの、マスターが見当たらんのだ。全くどこへ行ったのやら」

「アンタも見つかってないのね…」

「…フ。やはり貴様もいないのか」

「なっ!?」

うっかりボロを出したジャンヌにアルトリアは微笑する。

 

その感情には特別悪い意味はこもっていなかったのだが

 

「フン…いいでしょう…聖杯戦争である以上ここでアンタを消してもルール上問題ないわね」

何かに火がついたのかジャンヌは武器を片手にアルトリアへ向ける

 

 

「…やるつもりか?」

「当然、あの時と違ってアンタと私は敵同士よ。殺し殺される関係に戻っただけ」

「やれやれマスターがいないタイミングで戦いを挑むとは流石は突撃女と言ったところか」

 

アルトリアも剣を構え、両者の間に不穏な空気が流れる

 

「決着をつけるぞ」

「ブッ殺す!」

 

ジャンヌがアルトリアに剣を振り下ろす瞬間だった

 

「えぇ!?」

突然攻撃した側であるジャンヌの動きがピタリと動かなくなった

 

「うぐぐ…!!」

「・・・」

「こ…この!」

「なにをしてるんだ?」

アルトリアはとっくに剣をしまい、ジャンヌの方へ近づく

 

「なんで…なんで身体が…!」

「動かないのか?」

 

突然動かなくなったジャンヌにアルトリアは身体を揺らしたりするが特別何かに拘束された様子はない

 

「新しいパントマイムか?」

「んなわけないでしょう!う…!!なんで動かないのよ!」

「ほう…」

 

動けないジャンヌを見てアルトリアは静かに笑みを浮かべる

 

「ならこの状況は貴様を串刺しにできる数少ない機会という事だな」

「!?」

 

そう…この状況はまたとない機会。動けない敵ほど楽な相手はいない

 

ジャンヌにとって最大のピンチであった。しかも攻撃をしたのは自分からであるが故、余計に悪化している

 

「ま…待って…ちょ、こんな意味も分からない状態で私死ぬの!?」

「恨むなよ」

無情にもアルトリアは剣を構える。

 

「さらばだ突撃女…ッ!?」

するとアルトリアの方も何故か身体が動かなくなった

 

「く…クソッ…、」

「あらあら、もしかして動けなくなっちゃった感じですか〜?」

「黙れ…くっ!?」

動こうとすればするほど身体は硬直する。

 

「な…何故だ…!」

「アンタも動けなくなるとか…意味わかんないわね」

 

両者共動けなくなった

 

 

 

「これ最悪じゃない?今他のサーヴァントがきたら」

「2人共々消滅だな」

 

最悪の状況になった

 

「この…!!せめて何に拘束されてるかわかれば!」

 

動けない中で言ったジャンヌのこの疑問はすぐに解消されることになった

 

「…おいあれはなんだ?」

アルトリアの視線には右手をこちらに向けている少女がいた

 

「ねえなんか私あの子に見覚えあるんだけど」

少女がジャンヌとアルトリアの2人に近づいてくる時にその顔はだんだんと鮮明に写ってきた

 

「ま…まさか…」

ジャンヌとアルトリアは目を疑う。何故なら自分の目の前には

 

「「立香!?」」

 

忘れもしないあの顔。カルデアのマスターが姿を現したのだ

 

 

 

 

 

 

…と思いきや

 

 

「…にしては小さくないか?」

「えぇ、立香ってこんな背が低かったっけ?」

2人は一時藤丸立香が来たと驚いた。だが実際来たのは自分達の太股あたりまでしかない身長の立香であった

 

しかも顔は立香そのものだがよく見てみると髪と瞳の色が白色と自分達が知るカルデアのマスターとは全然違っていた

 

「・・・ア…ア…」

立香?はアルトリアを指差して声を出す

 

「な、なんだ?」

「・・・ア…ア…」

 

 

 

 

「アーモンドチョコレート!!」

「・・・は?」

 

そう言って笑い転がる立香?に2人はついていけない

 

「おい、ふざけているのか」

アルトリアは立香を抱き抱えると立香は笑うのが収まっていく

 

「あれ?アンタ動けるじゃない」

「何故か立香が笑うと動けるようになってな」

「あ、私も動ける」

 

解放された2人は幼児化した立香を確認する

 

「アル!アル!」

「…っ…やめろ」

立香はキャッキャと笑いながらアルトリアの頬をペチンと触る。その様子は本当に幼児化したのだと2人に認識させた

 

「ねぇそいつ本当に立香なの?」

「分からん…身長も違えば髪の色も立香と違っている」

アルトリアは立香と視線を合わせる

 

「・・・」

立香とよく似た存在…となると

 

「立香オルタ…」

「ハァ!?」

ボソッと言った一言であった

 

「アンタ何デタラメな事言ってんのよ!」

「一瞬そう思っただけだ…!」

自分の発言にアルトリアは少々顔を赤らめるが、目の前にいる立香のような幼児にはそうとした説明がつかなかったのだがジャンヌからすれば信じられない…信じたくない結果となる

 

仮に目の前にいるのが立香オルタだとしたら人間の立香は死んだことになる。

 

サーヴァント…英霊とは人として死んでいる。立香は人々から讃えられる功績があるため、死亡した場合サーヴァントになる可能性もあるが…

 

「アル!アル!」

「・・・やはり似ても似つかないな」

なんで幼児化してるのだろう…当然の疑問である

 

「…あぁもうよく見なさいよ!」

ジャンヌが立香の右手をアルトリアに見せつける。

 

マスターであることの証明である『令呪』が刻まれていた

 

「なるほど…少なくともサーヴァントではないな…」

「そうそう…」

 

・・・

 

・・・・

 

・・・・・

 

・・・・・・

 

 

・・・・・・・

 

 

「令呪だと!?」

「令呪ですって!?」

 

2人は急いで立香の右手を再確認する

 

「うわ!?ホントに令呪よこれ!」

「バカな…こんな子供にまで令呪を与えるのか…」

本来なら有り得ない事態にアルトリアは驚くが、召喚される前の事を思い出した

 

ーー全ての人間に機会が与えられた聖杯をかけた戦い

 

「おい、おまえは召喚される前の事を覚えているか?」

「…あれでしょ、7人に限らず全ての人間に機会を与えられた聖杯戦争でしょ」

「あぁ、しかし本当に全ての人間に令呪を与えられているのか?」

「そんなの決まってるでしょ。不可能よ不可能、魔術回路を持たない人間がいる時点で全員参加の聖杯戦争は破綻してるわ」

 

ジャンヌの言う魔術回路はマスターになる上ではどうしても外せない条件になる。魔術回路がなければ令呪は与えられず、サーヴァントとの契約もできないためである

 

「でも仮に一般人にも令呪がついても…まぁ扱いきれないでしょうね」

「…つまりこいつには既に魔術回路があるということか」

 

この子供に魔術回路がある。信じられないことだが令呪がある以上否定は出来なかった。しかしこの2人からすれば

 

「それで、この白い立香は誰のマスターなの?」

「私に聞くな」

詳細が分からない以上安易に殺すこともできない。相手は会話もままならない子供だ

 

「確かめるとするか…」

そう言うとアルトリアは片腕で立香を支え、片方の手で再び剣を取り出す

 

そしてその剣をジャンヌに振り下ろそうとする

 

「っ!アンタ!?」

不意打ちとも取れる攻撃にジャンヌは咄嗟に身構えるが

 

「・・・・!!」

立香の表情が悲しくなり…すると

 

「…っ!…やはりな」

ジャンヌに剣が届く前に身体が動けなくなった。ということは

 

「どうやら…私のマスターのようだ…」

アルトリアのマスターであったそうな

 

「フフ…それはお気の毒様ね。随分幼いマスターですこと…でもこれで躊躇なく殺せるわ〜」

「貴様…」

自身に懐く立香を片腕にアルトリアはジャンヌを強く睨む

 

「…と思ってましたけど、その幼いマスターの顔に免じて今日は見逃してあげる」

 

「随分と上からの言い草だな。自分の方が強いと錯覚してるのか」

「やっぱり癪にさわるわねこの女…何よ、だったらそのお荷物抱えて私とやり合おうと言うの?」

「・・・・分かった。さっさと行け」

「言われなくても行くわ」

そう言うとジャンヌは立香とアルトリアから離れ、どこかへ姿を消す

 

 

…予定だったのだが

 

「・・・ジャンジャン」

 

小声で立香は寂しそうに呟く、すると

 

「ぐっ!?えっ!?今度はなに!?」

ジャンヌの歩みが止まり、立香とアルトリアの方へ戻っていく

 

「ちょっと…!!…なによこれ…!!」

「・・・」

 

ジャンヌはまた振り出しに戻った。そんなジャンヌをアルトリアは冷めた表情で聞く

 

「見逃してくれる話だったのだが?」

「勘違いしないでよ!!身体が勝手に動いたのよ!…!」

自分の言葉にハッと気付くと、立香の方へ視線を向ける

 

「まさか…嘘でしょ…!?」

 

 

「ジャンジャン♬」

立香は嬉しそうにジャンヌに手を振る

 

「…おい立香」

流石に2人はこの結果は疑った。

 

「もしかしてこの子…」

「・・・」

ジャンヌが戻ってニコニコしている立香に、2人はあるものが横切る

 

「二騎契約だと…」

 

サーヴァント二体の使役…現状そう認識せざるを得ない

 

何せジャンヌオルタとアルトリアオルタは立香に従っているのだがら…そもそも令呪の三回の絶対命令権を行使しなければここまでの強制力はないのだが…

 

「ハァ!?こんな小さな身体で!?」

 

ジャンヌがそう言うのも無理はなかった。なにせサーヴァントは一騎だけでも多くの魔力を使い、二騎ともなると必要になる魔力量が尋常ではないことになる。そうすれば一騎分の魔力が減らされ、性能が落ちるなどデメリットしかない。

 

「信じ難いな…」

「ホントよ!てかよく私達存在できてるわね!」

「今の立香の魔力量なら身体になんらかの影響があるはずなのだが」

 

アルトリアが立香と顔を合わせると立香はニコやかな笑顔で「アル!」と言ってくる

 

「元気そうだな。どうやら私とお前を存在させるだけの魔力は足りているようだ」

「いいえ…立香の魔力が十分じゃなくて…きっと私のレア度が下がったんだわ…」

「落ち着け、みっともないぞ」

「・・・」

 

表情では伝わらないが、2人は絶望していた。

 

この先の戦闘、従来の聖杯戦争よりも参加人数が多いとその分脅威も増える。しかし自分達のマスターは子供。強力な魔術師もいるとなるとどう考えても生き残りは本当に絶望的と言えるだろう

 

「・・・」

ジャンヌはまたどこかへ歩き出した

 

「貴様どこに行く」

「うるさいわね…ちょっと散歩するだけよ」

「この状況で…ふざけるのも大概にしろ」

「別にふざけてないわ…」

「どこかに行くなら自害してからいけ。いや、すぐに自害しろ」

「絶対自殺なんてしませんからね!」

 

静止の言葉はジャンヌに届かず、そのまま姿を消していった

 

「勝手な女だ…立香、早く呼び戻せ」

しかし立香は応えない

 

「おい、立香?」

「・・・」

 

マスターは普通に寝ていた

 

「やれやれ…」

 

軽くため息をつき、とりあえずここから移動することにした

 

(私だけでもお前を守らねば…まず隠れる所が必要だな)

 

ジャンヌは諦め、アルトリアは立香を安全な場所に連れて行く事を目的とした。

 

だがここは廃墟となったとはいえオンボロで崩れた建物が多い。となると自然に見渡しは良くなる。

 

襲撃する側としては目立ってくれてありがたい気持ちだろう

 

「ーーーっ!」

 

突然背後からの攻撃にアルトリアは剣で弾く

 

「…クソ、」

普段のアルトリアならこの攻撃はなんともないはずだが、身体は怯んでしまう

 

その隙をつかれてアルトリアは襲撃者に蹴り飛ばされてしまった

 

「・・・マスター?」

幸い立香にはダメージはなく、まだ普通に寝ていた

 

「…呑気な奴だ」

「そうだね。呑気な子供だね」

 

男は一騎のサーヴァントを引き連れてアルトリアと対峙する

 

「・・・ランサー」

「おや?もう見破られたか。ったく槍は目立つな」

 

敵のランサーはそう言っているが、余裕の笑みでアルトリアに槍を構える

 

「んじゃ死んでくれや」

目には捉えられない程のひと突き。

 

ーーガキン(槍を剣で抑える音)

 

「・・・」

アルトリアは片腕で槍を防いだ。しかし魔力量が足りてないことと、立香がいることが災いし、段々とパワー負けしていく

 

「やっぱり思った通りだ、子供にもちゃんと令呪が行き届いてる!最初はただの商売文句かなんかと思ったけど、本当に全員平等なんだ!ありがたい!」

男のマスターはニヤニヤと笑いながら拍手をして煽ってくる

 

「これで弱そうなマスターから潰していける…まずは1人目だね」

「・・・下衆が…」

「ハハッ吠えてろ吠えてろ、やれぇ!ランサー!その女を殺せ!」

「見て分かるだろ?やってる最中だっつーの」

 

ジリジリと槍はアルトリアの霊核まで近づいていく、振り払おうにもパワーが足りない。受け流そうにも立香を庇い、蹴られた衝撃で身体が思うように動かない

 

「ぐ……」

 

(このままでは…せめて魔力が確保できていれば…)

 

「何やってるんだランサー!遅いぞ!」

「分かってる!思いのほか粘るんだよこいつが!」

男のマスターはアルトリアが抵抗することに腹を立て、その場にある石を投げ付けた

 

「おい何やってんだ!邪魔だどいてろ!」

「うるさい!お前はそのまま女を抑えてろ」

ランサーからすれば石を投げるだけなんてものは戦いの邪魔でしかない。

 

仮にその石がアルトリアに当たった所でサーヴァントに対してダメージはなく、せいぜい蚊を刺された程度だ

 

しかし男のマスターの目的は違っていた

 

「・・・!」

石が立香に当たった

 

(…!!こいつ…先に立香を殺すつもりか!)

 

男は石を持って立香に近づく

 

「貴様…ぐっ!?:」

「よそ見はいけねぇぜ」

助けようにもランサーが邪魔をしてくる。ランサーの方も男の意図を読んでアルトリアを殺すよりも、抑える事を優先させた。

 

「さてと…」

男は立香の前に立つ

 

「終わりだ…ぐぁぁぁぁぁぁ!?」

男が石を立香に叩きつける前に後ろから剣を突き刺され、男は悲痛の叫びをあげる

 

「…ジャンヌオルタ」

「・・・何ヘマしてんのよ」

そう言ってジャンヌは男から刺した剣を引き抜いた

 

「ギャァァォァァァァ!?あぁぁぁぁぁぁぁ!?」

男は大量の出血をしながら地面にのたうちまわる

 

「何故だ…!?なんでサーヴァントが2人も!?」

「ま、当然の反応よね。子供がサーヴァントを2体も従えてるなんて思わないでしょうに」

「ええええええええええなんだそれぇぇぇぇぇ…」

男は地面を怒りに任せて強く殴る

 

「初見殺し…過ぎる…でしょ…」

サーヴァントの二体使役は普通ならやらないことだ。背中がガラ空きだったとはいえアルトリアを封じたと思って孤立したのが敗因になった

 

「ま…まさか…そこの女は…こうなることを…予想して…」

「フッその通りだ」

「ナチュラルに嘘ついてんじゃないわよ!」

「げほっ!…く…くそ…聖杯を…聖杯が……」

男は出血しているところを抑えながら苦しそうにもがく

 

「うう…」

男の叫び声に立香が目を覚まし始め、アルトリアは自分の掌で立香の目を覆わせる

 

「……早く黙らせろ」

「いいえ、もう十分よ。

ジャンヌの言葉通りになるように、刺した所からの出血により、男はそのまま力尽きた

 

「あーくそ。やられちまった。まさかこっちのマスターがやられるとはな」

そして男のマスターが死んだことにより、ランサーは諦めがつき、槍を捨てて負けを認めた

 

「まぁあのまま勝ってもいい気分じゃなかったから良しとするか」

「ランサー…お前」

「召喚に応じたのは俺だが…マスターはよく選ぶもんだったな。ちゃんとそこガキの面倒みろよ」

「余計な世話だ…」

 

男のランサーは残存していた魔力が尽きた事により現界することができなくなり、そのまま消滅した

 

 

「・・・」

「・・・」

 

そしてアルトリアとジャンヌの気まずい空気がながれた

 

「何故戻った」

「第一声がそれ?感謝ぐらいしてくれると思ったのだけれど」

「・・・」

 

アルトリアは立香ぎ再び眠りについた事を確認すると、先程の戦いで自分の力量を感じた。

 

「・・・助かった、礼を言う」

「あら、結構素直なのね」

「認めたくはないが、1人では守りきれなかった。お前が戻ってこなければ私とマスターは殺されていただろう」

「…っ…」

 

思いのほか自分(ジャンヌ)に礼を言われ、複雑な気分になる。どうせ挑発的な物の言い方だろうと予想していただけにアルトリアに対しての言葉を失った

 

「マスターは怪我させてないでしょうね」

「・・・それがさっき頭に石をぶつけられてな」

「ちょ、!?早く言いなさいよ!見せなさい!」

慌てた様子でジャンヌは寝ている立香に顧みず、身体の至る所を確認する

 

「頭だと言っただろう」

「うっさい!」

 

それからもジャンヌは立香に怪我はないかを隅々まで調べた

 

「どうだ怪我の具合は?必要な物は私が調達してこよう」

「…あれ?」

「どうした」

 

アルトリアはジャンヌから立香を返される

 

「怪我がどこにもないわよ?」

「・・・なに?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 





幼児化してる白い立香のことなんですけどこれオリ主判定になるんですかね?

怒られるのもアレなんで一応オリ主にしますけど、あくまでこの2次創作の主人公はオルタの2人なんですけど…


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2話 協力

東京都 新宿 朝

 

ジャンヌオルタ、アルトリアオルタ、立香(白)の3人は昨日の一件の出来事から、サーヴァント同士の戦いで廃墟と化したビルの一階で一泊していた。

 

やはりマスターが幼く、未熟というのが致命的でありしばらくは隠れる生活が続きそうだ

 

「・・・♬」

「こら!危ないでしょ!」

 

ジャンヌは瓦礫の破片で無邪気に遊ぶ立香から取り上げる

 

「う……うえ……」

しかしおもちゃを取られたと感じた立香は瞳から涙が零れ落ちる

 

「……泣かせるな」

「泣いて結構。怪我でもして死なれるよりマシよ」

ジャンヌは瓦礫の破片を遠くに投げ捨てると、立香の手を確認する。すると立香の手から少量の血が流れていた。

 

「やっぱり、だから昨日から破片で遊ぶなって言ってるでしょ!!こうやって怪我して泣くのはあんたなんだからね!」

「……!…!!」

 

ジャンヌの怒声に立香は子猫のように震える。

 

「やめろ相手は子供だ。言って聞く年でもないだろう」

「言い聞かせておかないとずっと同じこと繰り返すのが子供なのよ…ほらまた持っている!!」

 

今度はレンガで積み上げて遊び始めた立香にジャンヌは指摘する。するとアルトリアが立香をスッと抱き上げる

 

「今は遊びたいらしい、あんまり怒ってやるな」

「私だって好きで怒ってんじゃないわよ!…立香!手を出しなさい」

ジャンヌは瓦礫の破片で怪我をした立香の手を包帯で巻くと、立香は笑顔で「ジャンジャン!」と答える

 

「…あと思ってたんですけどジャンジャンって何!?」

「お前のことだろ」

「分かってるわよ!でもあんたがアルって呼ばれてなんで私が変なニックネームみたいになってんの!?」

 

立香は昨日からずっとジャンヌオルタの事をジャンジャンと呼んで懐いている。アルトリアオルタは「あるとりゃ」や「あるとあ」など頑張って本名で呼ぼうとするが、ジャンヌオルタだけはそういった努力はなかった

 

「なんだ不満なのか?」

「不満ていうか立香って前は私のことジャンジャンなんて一度も言ってなかったでしょ!」

 

…そうだな

 

「だが不思議だ…立香だけでなくマシュやお前の事を覚えている。新宿での出来事も同じだ…だがそれ以外の記憶はあまりない」

「そりゃそうですか。私が分かるのは全員参加とかいう狂った聖杯戦争に駆り出された哀れな二騎だけよ」

「暗い奴め」

 

アルトリアはそう呟くと、立香をジャンヌに預けて昨日のランサーと戦闘した場所へ向かう

 

「ちょっとどこ行くのよ!」

「お前の言葉が引っかかる。あの一般人はサーヴァントを無理なく扱えていた、だが本来なら魔術回路がない一般人に令呪なぞつかん」

「まあそうね…」

「本当に全員参加の聖杯戦争ができるとしたらルール無視程度じゃない、聖杯戦争そのものを崩壊させるものだ」

 

7騎が殺し合う聖杯戦争、7騎の陣営が殺し合う聖杯戦争。

 

今までは最大でも14騎だった。しかし全員参加が認められるとなると何億ものサーヴァントが世界中で殺し合うまさにこの世の終わりが起こってしまう

 

「何かカラクリがあるはずだ。私は調べてくるが、お前はここに残って立香を守れ」

「なっ!?なんで私がお守りみたいなことしなきゃいけないのよ!」

「安心しろ、いずれ私もする時がくる。…あともしもの時のために名を付けておいてくれ」

「あんたいい加減に…」

「頼んだぞ」

「ちょ!?」

 

アルトリアは瓦礫と化した街を駆け抜けて、前回の戦闘場所に向かっていった

 

「ありえない…本当に行ったわあいつ!」

「ジャンジャン!」

「私はジャンヌ・オルタよ!ジャ・ン・ヌ!!」

「ジャンジャン♬」

「はぁ……」

 

立香と2人きりとなったジャンヌは渋々ながらも面倒を見ることにした

 

 

「名前って…名前ねぇ…」

 

(私が誰かに名前をつけるなんて…別に立香でいいじゃない)

 

「・・・♬」

(って言っても立香の髪の毛…こんなに白くなかったわね)

 

私はその白色の髪をそっと触れた

 

「や"!!」

「いたっ、なにすんのよ!」

いきなり髪に触れた手を叩かれた。私はサーヴァントだからこんな小さい子に叩かれたくらいじゃ痛みなんて感じませんけど…少しショック

 

流石にせめすぎたか

 

「・・あんたもしかして私やあの騎士王のようにオルタ…みたいなものなの?」

「???」

「なーんて冗談よ」

 

立香が英霊化…あいつがヘマなんてするはずないわ

 

「名前か…」

思わずその場で寝っ転がる。名前を与えるのに頭を悩ませるなんて…こんなん適当でいいのよ…適当で…だって相手は私の…

 

「ジャンジャン?」

「・・・なんでもないわ」

私は立香…いえこれからの名前を付ける相手を持ち上げて、私の顔と向かい合わせた

 

「立香。あんたの名前は今日からシロカよ」

「はにゃ?」

 

白い立香をそのまま略しただけだけど…いいのよこれで。少しの間の呼び名だから変に凝る必要なんて

 

「シロ!!」

「シロカよシロカ!」

「ジャンジャン!」

「だぁーー!!私はジャンヌ・オルタよ!」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

ジャンヌがシロカに名前を付けた時、アルトリアは既に昨日の場所へ到着していた。

 

「…そこか」

 

背中から刺した痕跡のある死体…突撃女が仕留めたランサーのマスターに違いない

 

遺体を回収される前にことを済ませるのが先決だろう

 

「・・・これは」

 

なんだこれは?…この腕輪のようなものは。

 

私は男の腕輪を取り外した

 

「僅かだが魔力を感じる。魔力の増強を狙った腕輪なのか?」

 

…考えても分からん。この時に立香の仲間がいてくれたら解析の1つでもできたはずなのだが

 

いない者は仕方ない、これを土産とするか。

 

「・・・この腕輪…まさか魔術回路を…」

 

深く考えるのはよそう、今はあいつらの元に戻らねば

 

 

●◆

 

「戻ったぞ」

「あるとりゃ!!」

「・・・」

 

アルトリアが帰った時、そこに映ったのはジャンヌの髪の毛を引っ張って遊んでいたシロカだった。しかし今はアルトリアに向かってハイハイしてきたが

 

「…で収穫は?」

「お前今立香に遊ばれてなかったか?

「で、収穫は?」

「・・・」

 

力押しするジャンヌにランサーのマスターから奪った腕輪を見せた

 

「なによこれ」

「さぁな。だが魔力が付与されている。これを身に付ければ必要最低限の魔力供給はできるだろう」

「へぇ〜…んで他は?」

「あるわけないだろう」

「…役立たず(ボソッ)」

 

ジャンヌの一言にアルトリアはムッとした顔で睨みつける。するとアルトリアの足元でシロカがしがみついてきた

 

「それで…名前は付けてやったんだろうな?」

アルトリアはシロカを抱き上げると、シロカはニコニコとまたアルトリアの顔をペチペチと触れる

 

「えぇ…今日からその子は“シロカ"よ」

「・・・白いからか?」

「それ以外なにがあるのよ」

 

アルトリアはため息をつくとシロカを下ろす

 

「自分の子供に娘と名付けそうな奴だな」

「はい?」

「…なんでもない。シロカ…といったか」

「アル!」

 

返事のつもりだろうか

 

「マシな名前で良かった。この女のことだからホワイトとか付けられると思ったぞ」

「それどうゆう意味よ!!」

 

シロカという名前が気に入ったのか分からないが、シロカが自分の名前に反応した時を頃合いにアルトリアが話を戻す

 

「さて…この腕輪だが」

「立…じゃないわシロカに付けるの?」

「サイズが合わん。それにシロカは二騎を存在させる魔力があるから十分だろう…それに…」

 

アルトリアが言わずともジャンヌは察する

 

サーヴァント二騎を存在させる魔力、魔術回路の有無。マスターとしての資格があれどシロカは幼すぎるのだった

 

「どうすんのよ…あの時はたまたま私が敵のマスターを直接倒せたけど、次はもう…」

「・・・」

 

アルトリアとジャンヌは沈黙する。その空間にはシロカが遊ぶ音が響き渡る

 

「隠れよう」

「…!」

ジャンヌは驚いた。

 

「そんな顔をするな。私が口にする事ではないと自覚している。だがこのままでは間違いなく全滅する」

「それは…そうね…でもいつまで隠れるの?」

「シロカが立香の年まで…いや、最悪会話が成り立つ年まででいい」

「それでも何年後って話よ」

「せめて令呪は使えるようにしておきたい。生き残れるか不透明だが…今はこれしか思いつかん」

 

ジャンヌは頭を抱えるが、アルトリアの言い分も分からなくはなかった。

 

どんな環境が整っていようが結局幼児に出来ることは限られる。他にも、立香である可能性があるシロカを死なせるような事は2人とも本意ではなかった

 

「前のマスターに似た子を育てる…なんか変な気分よね」

「あぁ…私も育児をすることになるとは思わなかった」

 

この聖杯戦争を勝ち残るため2人は時間がくるまでシロカを守る意思を固める

 

「まぁ私は聖杯が欲しいだけだけよ。だからあんたと協力なんて今回限り、いいわね?」

「それはこっちのセリフだ。貴様のマスターがシロカではなかったら今頃殺している」

 

協力すると誓った矢先2人は衝突し始めるが、そこを悲しそうに見てるシロカにお互いに気がついた

 

「…よそう、子供の前だ」

「はいはい…」

 

泣き出しそうなシロカに2人は頭を撫でる。

 

するとシロカはニコニコな表情になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それに頭を撫でられている時間はシロカにとってとても…とても

 

 

幸せそうだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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3話 成長(身体)

あれからジャンヌ・オルタとアルトリア・オルタは隠れ場所を転々として、シロカを育てた。

 

あちこちで戦闘が行われ、噂では中東の戦争でサーヴァントが複数人使われたらしく、今中東では今までよりも激しく戦闘が行われている。生身の人間を含めて戦っていた、つまりは兵士や民間人もいる

 

死者の数は多かった。だが中東に限った話ではない。

 

アメリカでもイギリスでもフランスでも日本でもサーヴァントが暴れまくっている。治安維持のため警察を派遣する。その警官にもサーヴァントがいて、戦争状態になるため結果的に多くの死者が出た

 

そうこうしているうちに何年過ぎただろう…世界人口の半数が亡くなったとされる現在、二騎の英霊と1人の少女が新宿の土地を歩いている

 

「ジャンジャーーーーン!!!」

すっかり成長したシロカはジャンヌの太ももあたりまで身長が伸びた

 

「ねぇ!ある程度運動したら私と遊んでくれる約束でしょ!?遊園地で遊ぼうよー!!ねぇーーー!!!!」

「うるっさい!!!」

シロカはジャンヌの足にしがみついてお願いするが、ジャンヌに振り払わせてしまった

 

「お金なんてないわよ。第一、遊園地なんて1年前になくなったでしょ」

シロカが行こうと行っていた遊園地は既にサーヴァントが暴れたため更地と化したのであった

 

「じゃあ動物園!」

「吹っ飛んだわね」

「水族館!」

「沈んだわね」

「じゃ…じゃあ大人の大好な●●●!」

「燃やしたわ。てかなんでそんな単語知ってんのよ!」

 

ジャンヌはまた足にしがみつくシロカに対抗する

 

「他にも知ってるよ!!●●●とか●●●なんて!!」

「少し黙ってなさい!!」

ジャンヌはしつこいシロカの頭をチョップする。一応マスターなので手加減はしている

 

「いたーい!何すんの!」

「あんたがあまりにもしつこいからよ」

「ジャンジャンが遊んでくれないからだよ!」

「それはお生憎、私は忙しいのよ。冷血女に遊んでもらいなさい」

「えぇ!!やだぁー!!」

 

シロカは顔が真っ青になり、激しく首を横に振る

 

「だってアルトリア私とボール遊びした時にアルトリアが投げたボールが人の家の二階を消し飛ばしたんだよ!危なくて遊べないよ!」

「ボール遊び以外にすればいいでしょ。例えばかけっこでもすれば?」

「アルトリア速いもん!」

「…腕相撲でもなんでもしたら」

「やだぁ!アルトリア強いもん!」

「シロカに負けるわけないだろう」

 

食糧を買ってきたアルトリア・オルタがシロカの背後で話しかける

 

「うぅ…アルトリア手加減しないじゃん」

「あたりまえだ。いくらマスターとはいえ勝負事に手を抜くわけにはいかん」

「頑固!…あ、聞いてよアルトリア!ジャンジャンが遊んでくれないんだよ!ちゃんと3000Km走ったのに!」

「・・・どういうことだ?」

 

アルトリアの睨みにジャンヌは睨み返す

 

「なによ…」

「マスターとの約束だろう?それに貴様この前も私に押し付けておいて何故今回も拒む」

「…ふん」

 

ジャンヌはシロカを振り払う

 

「ジャンジャン?」

「悪いですねマスター。私はそういったマスターと親睦を深めようとした行為は愚行と見なしてますので、遊ぶことなんてもってのほか」

「貴様…シロカはお前が約束したからずっとお前の無茶を聞いていたんだぞ」

「勝手にやっただけでしょ」

 

ジャンヌはアルトリアに距離を詰めてきた。2人はバチバチと睨み合い、お互い一歩も引かないため一触即発になりかねない状況だった

 

「ジャンジャン…アルトリア…」

「シロカ、諦めろ。こいつはもう言っても無駄だ」

「それは別に大丈夫だよ」

 

シロカは令呪が刻まれている手を出す

 

「令呪を以って命ずる!」

 

「おい待て!」

「なに考えてんのよアンタ!!」

 

ジャンヌとアルトリアの2人はシロカの口を塞ぎ、なんとか令呪は使わせないで済んだ

 

「はぁ…はぁ…驚かせないでよ…令呪使ってまで私と遊んでほしいの?」

「うん!」

キラキラした目でジャンヌにお願いする。その目は純粋無垢で単純に遊んでもらいたい気持ちはジャンヌでも容易に感じ取れる

 

「でもお断り」

「なーんーでー!!!」

 

シロカはその場で泣き出してしまった。そしてジャンヌは2人から離れる

 

「おい突撃女!…クソッ、シロカ。涙を拭け」

アルトリアはシロカに歩み寄り、ハンカチを渡す

 

「ありがとう…うわーーーん!!」

「…はぁ…私が遊んでやろう」

「やだ。アルトリア強いもん」

「嫌なのか?」

アルトリアが不敵な笑みを浮かべる

 

「なら肩車してやらんぞ?」

「えぇ!?ごめんなさい!だから肩車して!!お願ーい!」

「分かった分かった。だからいちいち泣き出すな」

 

抱きついてくるシロカを離し、望まれたとおり肩車をする

 

「アルトリア高ーい」

「お前は小さいからな」

「むぅ…でも絶対ジャンジャンとアルトリアより大きくなるもん!」

「…フッ…ハンバーガーを2個程度で根を上げる割にはな」

「30個食べれるほうがおかしいでしょ!」

 

シロカはアルトリアの頬をペチペチと叩く

 

「シロカはまだ子供だ。ハンバーガーの30や40…いや80は食さなければ身長は越せないぞ」

「でもねぇ、ジャンジャンはハンバーガーは食べ過ぎると身体悪くなるって野菜食べさせられたよ」

「そうか…なら次はポテトにするか」

「ポテト!!食べたい!食べたい!」

「今日は弁当を買ってきたからまずはそっちを食べてくれ」

「えぇ〜!なんでなんで〜」

シロカはアルトリアの頬を優しくつねる

 

「突撃女がうるさいからな」

「ジャンジャンのこと?」

「あぁ」

 

シロカは何か不思議に思い、耳に顔を近づける

 

「ねぇねぇなんでジャンジャンのこと『とつげきおんな』って呼ぶの?」

「お前こそ何故あいつをジャンジャンと呼ぶ」

「ジャンジャンはジャンジャンだもん」

「なら突撃女は突撃女だな」

 

 

 

 

 

そんな会話を続けて歩いていくうちに、日は落ちていき、シロカは目を擦る

 

「……うーん…」

「シロカ…?」

(そろそろか…)

 

アルトリアは頭が重くなるのを感じた。シロカが寝落ちしてアルトリアの頭を枕にして寝てるためだ

 

「まったく…夜寝てくれなくなるから肩車はしたくないんだが…」

そう言いつつ、アルトリアはシロカを抱えて隠れ家へ帰っていった

 

 

●◆

 

アルトリアはホテル…と言ってももはやサーヴァントが戦闘を行ったせいで半壊してしまっているが、寝る場所は確保できるので勝手に住み込んでいる

 

「帰ったぞ」

「……寝たの?」

「あぁ」

 

ジャンヌは先に戻っており、シロカをアルトリアから渡されると起こさないようにベッドに寝かせた

 

「…なぜ断った?」

シロカに布団をかけるジャンヌにアルトリアは質問した

 

「何をよ」

「遊んでやる約束だ。もう何ヶ月か断っている。いい加減あそんでやれ」

「ふん…遊んであげてるアンタの方がおかしいと思うけど」

「お前がやらないからやってるだけだ」

「随分とシロカに甘いのね」

寝ているシロカを起こさない為2人はベランダに出る

 

「お前と遊ぶ為にシロカが身体を酷使しているのが見ていられなくてな」

 

シロカは何度もジャンヌに遊ぼうって頼んでいた

 

しかしやたら遊びたがらないジャンヌは断り続けるが、そんなとこではシロカは折れない。

 

そこでジャンヌは無茶な条件をつけてシロカに諦めさせようとしたのである。

 

今回は3000Km走れ。休まずに

 

この要求はまだ小さいシロカにとってとても走りきれない距離なのだが、体力を極力温存しながらも時間をかけて走り切ったのだった

 

そのためアルトリアはジャンヌと遊ぶためだけに頑張っているシロカを哀れんでできる限り遊んであげているのだが手加減はしない性格のせいで若干シロカにトラウマを植え付けてしまった

 

アルトリアもその事は自覚している。だからこそジャンヌに遊んでもらったほうがいいと考えていたのだが令呪でも使用しない限りジャンヌは頑なだ

 

「勝手に頑張ってるのはあいつよ」

「約束をしたのはお前だ」

「何よさっきから!そんなにシロカが可愛いかったらあんたが…」

「シロカはお前に懐いているぞ」

「・・・」

 

アルトリアの一言でジャンヌは言葉を失った。すると改めて寝ているシロカの方へ歩き、頭を撫で

 

「じゃあなんで私のことジャンジャンって呼ぶのよ…」

「それは分からんが…」

「くっ…あんたは名前で呼ばれて…」

「言っておくが。私はお前の真名は伝えている」

「それでも言ってくれないって何がどうなってんのよ…」

 

ジャンヌは頭を抱えた。アルトリアは何度もジャンヌと伝えてきたつもりだがシロカは今に至るまでジャンヌ・オルタと一度も呼ぶことはなかった

 

「私のこと、嫌いなのかしら」

「嫌いなら死にかけるまで走らん」

「・・・だからアンタは私を凄く睨んだのね…バカ親ね

「何か言ったか?」

「いえ何も」

 

アルトリアはシロカが寝ているベッドに腰を下ろす

 

「私はただシロカがマスターだから気にかけているだけだ。あいつが死んだら私も死ぬからな。お前の要求で今回シロカが倒れそうになった、それが許せんのだ」

「・・・分かりました。明日遊べばいいんでしょ」

ジャンヌはため息をついたが、シロカと遊ぶ決心がついた

 

「それにしても何故お前はシロカと遊ぶことを拒む。あいつは手のかかる奴ではないはずだ」

「・・・」

 

毒舌で口のたつジャンヌが黙り込んだ

 

「・・・立香が忘れられないのか?」

「…っ…」

「分かりやすい女だ。たとえ年や髪の色が違っても立香は変わらん。シロカという名前も仮だ」

「分かってるわよ!私だってあいつがシロカじゃなくてちゃんと立香って思ってるわ!!」

「静かにしろ」

 

シロカが起きることを危惧してアルトリアは掌でジャンヌの口を塞ぐ

 

「ただ私は…あいつが…こんなになってることが分からないのよ。なんで今立香が小さくなったのか、なんで私とアンタで育ててんのか分からない」

「詳しく状況が分からんうちはこれしかない。まともにサーヴァントと戦えないのだから貴様も分かるだろう」

 

アルトリアはドアノブに手をかける

 

「私は見回りに行く。お前はシロカの側にいろ」

「はいはい」

 

ジャンヌは言われるまま寝ているシロカの側で横になる。アルトリアは部屋を出て敵がいないか安全確認のため見回りに出かけた

 

「ジャンジャン……」

寝言を言いながらシロカはジャンヌの服を掴む

 

「はぁ…私は…もうそれでいいわ」

 

サーヴァントは睡眠を必要としない。しかしその日ジャンヌはシロカと一緒に一夜を過ごした

 

ジャンヌも思うところがあったのだろうか

 

シロカを力強く抱きしめ、後から戻ってきたアルトリアから見て我が子を守る母親に見えたという

 

 

 

 

 

 

…しかし抱きしめる力が強すぎるあまり一回シロカが気絶していたのは2人は知る事もなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




現在のステータス

マスター:シロカ

真名-ジャンヌ・オルタ

パラメータ
筋力:D/耐久:E/敏捷:B−/魔力:C/幸運:E/宝具:A

●◆●◆

マスター:シロカ

真名:アルトリア・オルタ

パラメータ
筋力:D/耐久:C/敏捷:D/魔力:C/幸運:E/宝具:A

全体として2人とも能力は下がっている

しかし2人は優秀なサーヴァントであることは変わりなく、やはりマスターであるシロカが足枷になってしまっている

宝具はAを保っているものの使ってしまったら魔力切れで消滅しかねない








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4話 約束

「うーん…」

 

ジャンヌは昨晩シロカと一緒に寝ていたが、既にシロカはベッドにいなかった

 

(よく寝た…)

眠ること自体はサーヴァントにとって不要だが、結局付き合ってくれるのはやはりジャンヌらしい

 

「あいつはどこに…」

下着姿でジャンヌはシロカとアルトリアを探す。しかし朝食を考えると下の階へ降りて食堂の方へ歩き出した

 

とそこには予想通りアルトリアとシロカが食事をしていた

 

「あ!ジャンジャンおはよう!もぐもぐ…」

「遅いぞ。マスターより後に起きるとはたるんでいるぞ突撃女。もっきゅもっきゅ…」

「う…うげえ……朝からジャンクフード?」

これ以上ない嫌悪感に襲われ、ジャンヌは口を抑える

 

「なんだ?嫌なのか?もっきゅもっきゅ」

「ダメだよジャンジャン!好き嫌いは!もぐもぐ…」

「いやそうゆうわけじゃなくて…」

2人はジャンヌを意に介さずハンバーガーやポテトを食していく。アルトリアとシロカは一緒に食事しているがアルトリアの食事の速度が異常でシロカがハンバーガー1個食べ終わるのに既に3個はなくなっている

 

「ちょ、ちょっと!私の分残してよ!!もぐもぐ…うっ…」

「フッそろそろ腹の限界かシロカ?もっきゅもっきゅ」

「違うよ!喉が詰まっただけだよ!それにジャンジャンの分を考えているんだよ!」

「私はいらないわ」

ジャンヌはあくびをしながら上の階の寝床へ戻る

 

「下着でうろちょろするな。シロカに悪影響が出たらどうするもっきゅもっきゅ」

「はいはい」

「ジャンジャン?うぇぇ…もうキツい…」

「小さい胃袋だな、まだ3個目じゃないか。もっきゅもっきゅ」

「あ〜チーズがこんなにもキツい…ジュース〜」

「ほら」

アルトリアは目の前のコーラを差し出す

 

「ジャンジャンは?」

「また寝たぞ」

「えぇ!?じゃあ私も寝る!うっぷ……その前にトイレ…」

「大丈夫か?」

「大丈夫…」

 

一方上の階では

 

「・・・」

ジャンヌは特に下着から着替えず、ベッドで寝っ転がっていた

 

「…立香」

前のマスターの容姿を思い出し、静かに目を瞑る

 

 

「ジャンジャン!!」

「きゃあ!?」

 

するとシロカが寝ているジャンヌに向かってダイブしてきた

 

「何してんのよ!」

「ジャンジャンもう朝だよ!朝ごはん食べよ!」

「朝ごはん(ジャンクフード)ねぇ…」

シロカに馬乗りにされながらジャンヌは冷めた目で見る

 

「ねぇ起きてえ!」

「揺れるな揺れるな…はぁ」

立香に上を取られるなんて普段のジャンヌなら認めない事だが、今のジャンヌはこれでもかというくらい無抵抗でシロカのされるがままだった

 

「…どうしたの?お腹痛い?」

「いえ特には」

「ご飯持ってこようか?」

「遠慮します」

心配するシロカにジャンヌは少し気持ちが変わったのかシロカの頬に手をあてる。ジャンヌに触れられた途端シロカは昔と変わらない笑顔で返す

 

「えへへ」

「…ふん」

「いだだだだ!!!!」

するとジャンヌはいきなりシロカのほっぺをつねりだした

 

「痛いよもう!」

「あははっ!やっぱり泣き顔の方が見てられるわ」

「ジャンジャンってS?」

「Sではありませんよ。ただ人が苦しんだり、悶絶している姿を見るのが楽しいんですよ」

「なにそれぇ!!怖いよ!」

「怖くてけっこう。ほらどっか遊んできてください」

ジャンヌは再び目を瞑るが、シロカはそれをよしとしなかった

 

「ジャンジャン約束をは〜?ねぇねぇ約束は〜?」

「あ…そうでしたね…」

遊ぶ約束を条件付きで出してそれをクリアされたならばジャンヌとて破りきれない。

 

すぐ身体を起こして馬乗りになっていたシロカは姿勢を崩してベッドに転がる

 

「遊んでくれるの!」

「約束ですからね。ですが今日限りですよ」

「なんで?」

「ふん、あんたは別に遊びたいとまでしか言っておらず、これからも遊びたいとは言ってない。だから私は今日しか遊ばないんですよ」

「えー!!!」

結論から言えば屁理屈なのだが、まだ小さいシロカはジャンヌの言葉に訳もわからず論破された

 

 

「そうか…しょうがないよね…」

(やっぱりバカねぇ〜こんぐらいの言い訳であっさり引くなんて愚かで無知な子…)

 

内心笑っているジャンヌにシロカは話しかける

 

「じゃあ、また『じょーけん』クリアしたら…遊んでくれる?」

「え…?」

「だから、またジャンヌの言う事いい子に聞いたら遊んでくれる?」

 

ジャンヌは耳を疑った。あれだけいいように使ったのだからもう遊ばないとか見切りをつけられると思い込んでいたのだ

 

しかしこうもストレートに「言う事聞くから遊んで」はジャンヌにとって効果的面だった

 

「え…えぇ…そりゃそうです…」

「やたぁ!!じゃあ今日は何して遊ぼうかなぁ!遊園地行こう!」

「はぁ…もうそこはただの土地ですよ」

「あ…どうしよ」

 

落ち込んだシロカにジャンヌはすぐ新宿の服に着替え、シロカを抱き上げる

 

「それでは今日私が連れて行きます。かまいませんか?」

「ジャンジャン知ってるの?」

「知っているというよりかは…」

「デートみたいなものか?」

「そうそう…てっ!?」

 

後ろから声をかけてきたアルトリアに2人は思わず叫び声をあげる

 

「どうした?」

「あんたまだ食ってたんじゃないの!」

「察しの悪い奴だ。食べ終わったから来たのだろう」

「げぇ!?あの量を平らげたの!?」

 

アルトリアは口についたケチャップを舐める

 

「シロカもこのぐらいは食べれるようになれ」

「無理だって!」

 

「フッ…今日は突撃女とデートか。この戦車に燃やされないよう気を付けろ」

「誰が戦車よ!」

「ジャンジャンはそんな事しな…い…は…ず?」

「あんたも自信無くしてんじゃないわよ!マスターなんだから燃やすわけないでしょこのバカ!」

「バカじゃないもん!!」

「すぐヒートアップするから立香に機関車ジャンヌと言われるんだぞ」

「え、裏でそんな事言われてたの!?」

「今考えた」

「こいつ!!」

 

3人でうるさく喧嘩しながらも、今日はジャンヌメインで遊ぶことになった。

 

 

ーーーーーーー

 

そして3人の歩く道には

 

 

「クソッ!!なんでこんなことに!」

「無駄口を叩いている暇があるなら走れ突撃女」

「分かってるわよ!」

「ジャンジャン速い〜」

「黙ってなさい!!」

 

ジャンヌは安全も考えてなるべく人がいない所をと、人気のない公園で遊ばせるつもりだったのが、うっかり全員参加の聖杯戦争を忘れてしまっていた。どこに行こうと1人もいない公共施設なんてないためさっそく敵マスター達から狙われていた

 

「おい!セイバー!仕留めろ!!」

「了解だマスター」

 

セイバーは地面を強く踏み込み、一瞬で間合いを詰める

 

「っ!しまっ…」

(シロカがやられる…!!)

 

ーーガキン

 

シロカに振り下ろされる剣を間一髪でアルトリアが防いだ

 

「後ろを見るな!走れ!」

「よそ見をしてる場合かな?」

「チッ」

 

敵セイバーの攻撃を受け止め、相手を蹴り上げる

 

「ぐっ、やりますね。未熟なマスターを抱えていながらその動き」

「黙れ」

 

黒いオーラを纏った剣がセイバーを吹き飛ばす

 

「……っ…やはり魔力が…」

「アルトリア大丈夫?」

 

シロカがアルトリアの背中をさする

 

「なぜここに…?走れといっただろう」

「シロカがアルトリアを置いていったら令呪使う、なんて脅されたら戻るしかないでしょ?」

 

油断しているジャンヌにセイバーが一太刀浴びせる

 

「くっ…!」

「首を狙ったつもりだが、今のを避けたのは褒めよう」

「やったわね…まとめて燃やしてやるわ!!」

 

肩を切られたジャンヌは逆上して手に強大な炎を生み出す

 

「少しは魔力を抑えろ!消滅するぞ!」

「そりゃどうも…でも手加減できるほど相手は甘くないのよ!

 

ジャンヌはセイバーに向かって炎を浴びせようと構えるが、フェイクであり、セイバーが引いたところに合わせて

 

「そこ!」

「なっ…!」

 

着地の瞬間を狙われてセイバーは跡形もなく焼き尽くされた

 

「ふん、口程にもないセイバーね」

「終わったか」

 

セイバーの消滅を確認した後、3人は敵のマスターを探すが見当たらず…

 

「ジャンジャン強ーい!」

「あたりまえでしょ。なんだって私はーっ」

「サーヴァントにしては弱すぎる。あれは魔術回路がろくにない一般人がマスターだな。勝つのは必然だろう」

「ちょっと人が話してる最中になに割り込んでんのよ」

 

ジャンヌがアルトリアの胸ぐらを掴み、2人はまたバチバチとした空気になる。

 

「まぁまぁ、ここは2人とも落ち着きなよ勝ったんだから」

「…ふん」

 

シロカが2人の間にたって喧嘩(戦争)は避けられた

 

「これで後…何人だろう…セイバー倒して…ランサー倒して…あとは5人だね!」

「はぁ?なに言ってんの?」

「…伝えてないのか?」

 

以前アルトリアはジャンヌに聖杯戦争のことをシロカに伝えることを頼んでいた。

 

理由は流石にサーヴァントだらけの世界を隠し切れないことと、戦える精神ぐらいは身につけてもらいたい願望からだった

 

…結果ジャンヌが『今回』の聖杯戦争を伝えてないせいでシロカは『本来』の聖杯しか知らないのだ

 

その事実をさりげなく伝える

 

「シロカ。それは別の聖杯戦争だ」

「今のは違うの?7人だけじゃないの?」

「あぁ」

「それじゃあ後何人?」

「・・・」

 

地球上の人口が約70億人…それが半分以上減少したとすると

 

「35億人だ」

「35億!?…ってどのくらい?ひゃくまんより多い?」

「多いわよ」

「???」

「…説明するわ」

億の単位が分からないシロカにジャンヌは地面に数字を書いて教える

 

「100万は0が6個でしょ」

「うんうん」

「そして1億は0が8個よ」

「うわぁ…すごい多いね。…待って35億?あんなのが後35億人?」

 

「そうよ」

「そうだ」

 

やっと数の多さに理解したのかシロカの表情は真っ青になる

 

「めちゃめちゃ多いじゃん!」

「やっと理解したか…」

 

周りを見渡せば多くの建物がセイバーとの戦闘により破壊され、道路もズタズタにされていた

 

一般人がマスターといえどサーヴァントの1人の力は侮れないのだ

 

「ねぇ!!こんなのがたくさんいたらジャンジャンとアルトリアもたないよ!やられるよ!」

「喚くな。何も35億人まとめて相手するわけじゃない」

「あ、そうか」

「はぁ〜馬鹿…(ボソッ)」

アルトリアとシロカの会話にジャンヌはつい本音が出る

 

「ジャンジャン何か言った?」

「いいえ何も。それよりも早くこんなとこ離れましょ」

「突撃女と言う通りだな。ひとまずここから離れ…っ!」

アルトリアは敵を感知し、いち早くシロカを抱えて伏せる

 

「え、あんた何やって…」

「伏せろ!」

立ったままのジャンヌにアルトリアは頭を掴んで無理やり伏せさせるが勢いあまって…

 

ーーガン(ジャンヌが地面にめり込む音)

 

ジャンヌが地面に叩きつけられた瞬間頭上には極太のビームが通り過ぎていった

 

「……ふぅ…ありがとうアルトリア」

「礼には及ばん」

ジャンヌがフラフラと流血している頭部を押さえて立ち上がる

 

「ちょっと…めっっちゃ…痛いんだけど…」

「なんだ貴様。私に助けられた分際で礼の一つもないのか?いや、腰を曲げ、頭を下げて感謝しろ」

「なんなのよその態度ムカつく!!」

「…静かにしろ。何かくるぞ」

 

アルトリアは襲撃者の前に出て、ジャンヌはシロカを自分の後ろに隠れさせる

 

「・・・やっぱりサーヴァント相手には直撃前に感知されて避けられますか」

「すいません隊長…もっと下を狙えば…」

「気にしないでください」

 

3人の前に出てきたのは背中に『誠』と描かれているのが印象的な青い半被を着ている女の剣士だった

 

「この国の治安を乱すものには私の手で直接排除します」

小柄な見た目に反して既に何人か仕留めた後なのがわかるほどの返り血で染まった身体、物言わぬ殺人の目をした女の剣士にアルトリアとジャンヌはともかく、シロカは圧倒される

 

「怖いのですか?」

「うん…」

「そのまま私の後ろにいなさい」

「うん」

 

歩いてくる女の剣士に2人は剣を向ける

 

「何者だ」

「…申し遅れましたね。私は機動隊一番隊隊長…沖田総司」

「沖田総司?」

アルトリアはその名前にピンときた

 

「日本の病気剣士か」

「なんでそこだけ覚えるんですか他にも印象あるでしょ!!」

先程と雰囲気がガラリと変わり、アルトリアの病気発言に沖田は抗議する

 

「それに機動隊一番隊…生前と所属が違うような気がするわね」

「あれから何年経ってると思ってるんですか。そりゃ組織名も変わりますよ」

「そんなのよりも一番隊とか言ってる割に人数少ないわね。2人だけ?」

「うっ…それは…」

ジャンヌの発言に沖田は痛いところを突かれたような顔をする

 

「だって毎日暴れるサーヴァントを鎮圧する内に死者が絶えないので…今では機能してるのは一番隊のみ…じゃなくてあなたセイバーですね!?」

沖田は警察の実情に愚痴をこぼしつつも本来の任務に戻る

 

ジャンヌの方に指を指してクラスを確認する

 

「残念だけれど私のクラスはアヴェンジャーよ」

「セイバーはアルトリアだよ」

「え?そうなんですか?」

呆気取られた顔で沖田はジャンヌとシロカに説得される

 

「あー確かにこっちの方がセイバーって感じがしますね。アヴェンジャーの方だとすごい闇抱えてそうな顔してますし」

「ジャンジャン闇抱えてんの?」

「否定はしませんけど…」

 

沖田は手錠を取り出すと

 

「それじゃはいどうぞ」

アルトリアに手錠をかけた

 

「…これはどういう事だ?」

「あなたを器物破損、建造物破壊、誘拐罪、色々迷惑かけた罪の疑いで逮捕します」

「え…アルトリアって私とジャンジャンに隠れてそんなことしてたの?」

「罪深い女ね冷血女…くくっ…」

「ふざけるな!おい貴様一体何を言ってるんだ!」

駆けつけた警察2人がかりでアルトリアをパトカーに乗せようとする

 

「とぼけないで下さいよ。最近セイバーがこの地区で大暴れしてるんです」

「セイバー?」

シロカには心に当たりがあった

 

「それ倒したよ」

「え?本当ですか?」

「うん、ジャンジャンが燃やした」

「さ、流石ですね…逃げ足が早くて私達では捕まえられなくて…」

沖田は刀を納めてシロカに頭を下げた

 

「ありがとうございます」

「私がやったわけじゃないよ!ジャンジャンとアルトリアに言ってよ!」

「そうですか…ジャンジャンさんとアルトリアさん、よろしければ機動隊に入隊しませんか?」

 

 

しかしジャンヌとアルトリアは首を横に振る。

 

「そうですよね〜そりゃこんな危険な仕事誰も引き受けないですよねー」

「その前にさっさとこれを外せ」

「あ、その事なんですけどあなたの疑いが晴れたわけではないので署にご同行お願いできますか?」

「なんだと…?」

「ぶ…ふふ…」

ジャンヌは思わず笑ってしまった

 

「おいシロカ!突撃女!」

「まぁアルトリアいい人だからすぐ出れるよ」

「帰ってこなくていいわよ罪人さん…フフッ」

「貴様!!」

「落ち着いてください!!」

そこから暴れることもできたが事を大きくしないためにもアルトリアは仕方なく従うことにした

 

「アルトリアまたね。終わったら先に戻ってて」

「…了解だマスター。今日は突撃女で遊び尽くしてやれ」

「はーい!」

 

シロカの頭を撫でたあと、アルトリアは沖田と共に近くの警察署へ連行された

 

「…でも大丈夫かなアルトリア」

「まぁいざって時には警察署潰してでも戻ってくるでしょ。そんな奴は放っておいてさっさと行きましょ」

「行くってどこに?」

「…私と遊ぶのでしょう?行きたい所はありますか?」

「うーん…じゃあ!あそこ!」

 

ーー

 

 

「ふーんそれで行きたい場所は…なるほど」

「行こう!」

「いや無理でしょ」

「なんで!」

シロカはジャンヌに飛びつく

 

「っ!?離れなさい!」

「だってだってジャンジャンが遊んでくれるって!行きたい場所はって言ったじゃん!!」

「そうだけどアンタが行きたいところって海でしょ…ここ…新宿よ?」

ジャンヌオルタの言う通り、シロカはあろうことか海な行きたいと言い出したのだった。

 

まだ遊園地や動物園なら探してもいいと考えたジャンヌにとって非常に困る場所だ。海には行こうとすればいけるが新宿から海に行くまで割とダルい

 

「いーこーう!」

「いやよ!結局私が長い距離運ぶ事になるんだからお断りよ!」

「何言ってんの!ここにも海あるじゃん!」

「はぁ!?」

この子は何を言い出したのだろう…そう思った

 

「だから!ここに海あるんだよ!」

「あるわけないでしょ!」

「あるよ!疑うんだったらついてきて」

「いいわよ。それでアンタの諦めがつくんならね」

そう言ってシロカに手を握られたままジャンヌは連れて行かれた

 

 

 

 

 

 

 

■■■

 

「先輩……」

 

「あなたが…いなくなってからわたし…」

 

「……後悔しました」

 

「死ぬべきは…私…だったのに」

 

とあるシールダーは治療ポッドに手を添える。その治療ポッドに入っている人間にシールダーは涙を流す

 

「…大丈夫です…必ず…揃えますから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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5話 新宿に海

海があると言われて無理矢理連れてこられたジャンヌオルタは気だるそうにシロカについて行く

 

「あれだよ!見てみて!」

「・・・え?」

 

シロカが指を指した方角にはなんと辺り一面に壮大な海があった(新宿に)

 

「え、え?なんで?ちょ、どうゆうことよこれ!」

「だからあるって言ったじゃん!」

「あるって何よ!あるわけないでしょこんな所に!!」

 

新宿に海なんてものはない。その認識は正しかった。それも小規模ではなく奥が見えないほどの海の景色であるためか余計に疑わしくなる

 

海岸沿いでもないのにこの海の広さは異常だ。砂浜もきっちりとある。これは正真正銘の海であった。

 

しかしやはり今は混沌の世界になりつつある。海とはいえ安全とはいえない。むしろないはずの所にあるのは警戒心が高くなる

 

「……やっぱりやめましょ。なんだか気味が悪いわ」

ジャンヌオルタはシロカの手を握ってとりあえず海から離れようとしたが

 

「…って!あいつは!?」

 

シロカは既にいなかった

 

「わーい!!海だ!海だ!」

「目を離した隙に…!!」

ジャンヌオルタの言うことを聞かず、初めての海にはしゃぐ。

 

「何してんの!帰るわよ!」

「えぇーー!!遊びたい!」

「また今度にしなさい!ちゃんとした海連れてってあげるから!」

「やだもーんだ!」

シロカは浜辺を飛び跳ねる。飛び散った海水が迎えに来たジャンヌにかかる

 

「や、やめなさい!」

「ジャンジャンも遊ぼー!えーい!」

次は海水を手でジャンヌに向かってかける。海ではしゃぐシロカにジャンヌは翻弄されるのが余計に子供の悪戯心をくすぐる

 

「やめな…さい!こら!シロカ!」

ブチッとキレたジャンヌは仕返しと言わんばかりに海水をすくいあげるようにしてシロカにぶち込んだ

 

「わぁぁ!?おっとっと…」

思っていた数倍の仕返しにシロカは態勢を崩してそのままバシャーンと海に背中から倒れた

 

「うっ…えーーーん…濡れちゃった…」

「あーあせっかく洗濯したばっかりなのに」

「ひどいよ!!いきなりかけてくるなんて!」

「人のこと言えないでしょ」

涙目に訴えながらシロカは自身の人差し指をそっと舐める

 

「……このお水変な味する…きっとジャンジャンが驚かしたから海さんが怒ったのかな」

「塩水だからよ」

「うぇぇ…しかもちょっと気持ち悪くなってきた…」

「忙しい子ね。アンタには海は早かったかもね」

見た感じ海の匂いに酔ったのだろう。子供に塩水はキツかっただろうに

 

「ほら」

ジャンヌはシロカに背を向けてしゃがみ込む。ジャンヌにしては珍しいおんぶの姿勢だった

 

「…まだ遊ぶ」

「遊べばいいじゃない。ここ以外で。さぁ早く」

「うっ…ジャンジャン海嫌い?」

「嫌いではないわね。でもこのままいるとアンタ体調崩すわよ?」

「元気だもん…おえええ…!」

 

シロカが気分が悪そうに膝から崩れ落ちる

 

「…もしかしてアンタ、海水を飲みまくってんじゃないでしょうね?」

「ううん…でもジャンジャンがかけてきた時に驚いて口開けてたら…」

 

こりゃ私のせいだ。ジャンヌはすぐに悟ると、無理矢理シロカを抱き上げる

 

「うぅ…水のはずなのに喉渇く〜」

「海の水はそうゆうものですよ。飲めば飲むほど喉が渇くからほらこれ」

ジャンヌはシロカにジュースを渡す

 

「海って楽しいばかりじゃないんだね…」

「これをそもそも海と思う事自体おかしいのよね」

「え?海じゃないの?」

シロカは意外そうにジャンヌに聞く

 

「海なわけないでしょここ新宿なのよ」

「へー海じゃないんだ。ざんねーん。ジャンジャンよくわかるね」

一見本物の海と見間違えるほどの完成度。しかしジャンヌはそこからのわずかながらな魔力を感知していた

 

「誰かの宝具…ちがうわね。その割にはうまく隠しすぎてる…こんな大きな海なら宝具レベルでもおかしくないはずなのに…」

 

壮大な海に疑問が募る。誰かの宝具なら海を作るのも容易いのだろうがその点感知できるのが微力な魔力という謎。

 

規模に対して魔力が見合っていないのだ。ちなみにこの海は限りなく本物に近い海。塩水や浜辺などいかにも本物のようでありながらこれはただの作り物にすぎない。塩水や浜辺に魔力なんてものはないからだ

 

ジャンヌは至る所に魔力を感じるためもはやここがただの海ではないことは理解していた

 

「ジャンジャンすごーい!」

「褒めないでください恥ずかしい。サーヴァントならこのくらいの魔力は感じ取れます。…それにしてもだいぶ下手な魔力の隠し方ね」

 

「下手とは言ってくれますね」

「誰?ってギャァーっ!?」

 

どこからか声が聞こえたと思って振り返れば豪華客船レベルかそれ以上の船がこっちに向かってきていた。思わずシロカを抱き抱えて避難する

 

「おーー!!すごい!すごい!でっかい船!」

「何よあれ…まるで軍艦じゃないの」

 

ボディガードみたいな兵士らしき男共が甲板に大勢構えてる。そしてそれを束ねているのが

 

「これはこれははじめまして。私はアルトリアと申します。」

 

毎日見ているムカつく例の冷血女。そうアルトリアだった…と言いたいが彼女は大分別人のようだ。だって

 

「は…なんなのよあの格好」

「うさぎさんだ!」

「そこの娘さん。これはバニーって言うものですよ。私は水着として着てるんですけど」

「み、水着!?大分変わった趣味してんのね」

「悔しかったら貴方もバニー衣装を着てみませんか?丁度案内役が不足しているところだったのです」

「悔しくもないしなるわけないでしょこの冷血女!!」

 

水着と称するバニー衣装、子供にも敬語で話すのはオルタとは別人だとわかるが顔は本人そのものなのでジャンヌオルタにはやはり目障りであった

 

うっかり冷血女と呼んでしまうほどに

 

「はて…冷血女…そう呼ばれたのは初めてです。ですがあまり良い気分ではありませんね…よほど水着が嫌なんでしょう」

「うっさいわね!ともかくアンタがこの海の元凶なの!答えなさい!」

「いかにも。この海を作り出したのはこの私です」

 

やっぱり…この船からすごい魔力が感じられるし…それにしてもコイツあの女と似てるから想像はつくけど…

 

「・・?どうしました?」

「…いいえ。なんでもありませんよ?」

 

強い…魔力制限もあるし…悔しいけどあいつがいない今勝ち目があるかどうか…

 

 

「シロカ。私が炎を出して相手の視界を潰すからその隙に…」

「おー!高い!高い!」

「てぇーー!!シロカ!!」

 

いつの間にかアルトリア(バニー)に抱えられて船の上から景色を見渡す

 

「ジャンジャーン!!」

「何してんのよ降りてきなさい!!」

 

てかどうやって登ったのよ…

 

「お母様が呼んでいますよ」

「??…お母さんじゃないよ。ジャンジャンだよ」

「それは失礼しました。それでは…」

「耳可愛い〜お姉さんその耳どこに売ってるの?」

「っ!このガキ!」

シロカを降ろそうとすると付け耳を触ってきた。子供ながら好奇心に満ちた行動だったが周りの兵士の逆鱗に触れてしまい、銃を突きつけられる

 

「やめなさい。相手は子供ですよ」

「・・!!!…すいません」

優しい声で咎められた兵士は急に心臓が掴まれたような恐怖を感じた。たった一言で注意されただけなのに身体は氷漬けにされたように動かなくなる

 

「それで…この耳ですが売ってはいません」

「えー!」

「欲しいのですか?」

「売ってたら。アルトリアが今度好きなの買ってくれるんだ〜いいでしょ?」

「アルトリア…」

 

私もアルトリアだと引っかかるが、その点は大人の対応をみせる

 

「アルトリアさんは今どこに?」

「アルトリアはね〜色々な罪で捕まっちゃった」

「つかま…!…大変ですね…」

「大丈夫!アルトリア強いもん!偉大な王様だから!」

「王…」

 

その言葉にただの人間じゃないことを確信したアルトリア(バニー)は持ち上げているシロカの手を見る

 

「ほう…やはり…」

 

シロカの令呪を確認すると笑みを浮かべ、胸から取り出した紙らしきものを渡す

 

「これを受け取ってください」

「なにこれ?」

「招待状です。よろしければまたここへ3人でいらしてください。その時は丁重におもてなししますよ」

「ホント!?ありがとうお姉さん!」

「シロカ!!」

 

するとジャンヌの声が聞こえてきた

 

「早く降りてきなさい!」

「あ、やばいジャンジャンだ。言う事聞かなかったらお尻百捻りされちゃう…またねうさぎのお姉さん」

「フフ…それでは」

 

「こんなことしてる場合じゃ…」

「ジャンジャンさん。お返ししますよ」

「…!」

ジャンヌは戦慄した。船上にいたアルトリア(バニー)がシロカを返しにきたのはまだいい。しかしこうも簡単に背後を取られてしまったのは驚きを隠さなかった

 

「どうぞ…」

「え、えぇ…」

シロカを渡されるとジャンヌは警戒心から彼女から距離を取る

 

「実は招待状も無しにこの船を見られたら安全対策に倒しておかねければなりません」

「・・!ちっ!」

その言葉にジャンヌオルタは剣を取り出して身構える

 

「…ですが今はその子に免じて見なかったことにします。早めにお帰りください

「・・・」

「勘違いしてはいけませんよ。見逃すとは言ってません。また来てもらいますから」

「…帰らせてくれるんじゃなかったの?」

「えぇ、でもまた来ることになりますよ。私は貴方の居場所はすぐわかります。逃げようとしたら…わかりますね?」

「・・・」

 

ジャンヌオルタはシロカの手を見ると

 

(あぁ…クソ)

ばっちりと発信源みたいな腕輪がされていた。取り外すことはできるがそんなことしてしまえば自分達がどうされるのか予想できない

 

「言っておきますがその子を責めないように…本来なら貴方は私に殺されていたでしょう」

「でもまた来たら殺すんでしょ?」

「殺しませんよ。来ていただき、私の言うことを一つ聞いてくだされば解放します」

 

屈辱的な提案だが断る力もなかった

 

「分かったわ…」

「…ではまた」

彼女は船に乗ると、それと同時に姿が消えていった。自然と海と同化するようにして消えていくのはある意味神秘性が感じられる

 

「ジャンジャンどうしたのー?」

「・・・」

 

あのまま私がシロカを担いで逃げてたら…でもあの速度じゃすぐに追いつかれて殺されてた。この私が結果的にシロカに助けられた…?この私が?でもシロカが海に行きたいだなんて言い出さなければ…

 

「…ジャンジャン?」

「帰るわよ」

 

それだけ言ってシロカの手を強引に掴んで、歩き出した。これ以上考えるとシロカを恨んでしまう

 

明らかに元気がないジャンヌにシロカは何も聞かなかった。あるのはうかんできた申し訳なさと不安だった

 

「ごめん…」

「・・・」

 

震えた声での謝罪にジャンヌは何一つ反応を見せなかった

 

 

ーーその頃アルトリア(オルタ)の方は

 

「はい!今なら入っていただけるともれなく沖田さん講座が受けられますよー!!おまけに刀も支給されちゃいます!」

「…はぁ」

 

取り調べというよりも熱心な勧誘をされていた

 

「断る」

「えーー!!そんな〜!!入ってくださいよ〜その腕前は正義のために使ってください〜」

「生憎興味がなくてな。それに今は何かと忙しい」

「子育てしてるんでしたっけ?」

「まぁな」

アルトリアオルタは席を立ち上がる

 

「もう用件は済んだだろう。私は帰らせてもらうからな」

「あ、あぁ!ちょっと待ってください!」

沖田は焦った様子でアルトリアの前に立ち塞がった

 

「なんだ…?」

いい加減うんざりしてきた彼女は剣に魔力を込める

 

「戦闘態勢にならないでください?この交番老朽化進んできてちょっとした余波でも崩れかねないんですから」

「・・・で、なんだ?」

「私こっちの世界にきて小さな夢が出来まして…」

沖田は一旦離れて裏で大きな物音を立てて探し物をする

 

(しまった今のうちに帰ればよかったな)

後悔も束の間に沖田はあるものを持ってきた

 

「刑事ドラマ見てて一回やってみたかったんですよね!はいこれカツ丼です!」

「・・・」

 

心底帰ればよかったと思うアルトリアオルタだった

 

 

 

 

 

 

 

 



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6話 カジノ

「アルトリアペンドラゴン?」

「そうよ。それがあのバニーの名前でしょうね。顔見たら分かるし」

 

シロカは例のバニー英霊が気になるようで、ジャンヌに質問していた。

 

そしてそのアルトリアの話は

 

「でもアルトリアは私とジャンジャンの…」

「分かってるわ。けどそれはオルタ。私達のアルトリアはその兎耳冷血女の反転した姿よ」

「???」

 

分かっていたけれど子供にオルタの説明なんて伝わらないわよね

 

「つまりシロカの冷血女とは別人ってことよ」

「へーー…でもアルトリアなんでしょ?」

「はぁ…同じ名前でも別人は腐るほどいるでしょう」

「あ、そっか」

 

ホントにバカ…全く誰の子供なんだが…

 

 

2人は海から戻り、アルトリアオルタがいる交番にたどり着いた

 

「アルトリア!」

「む?戻ったか。随分と早かったじゃないか」

「ただいま!」

 

シロカがアルトリアに飛びつく

 

「戻ったわよ冷血…何食ってんのアンタ?」

「カツ丼というものだ。貴様にはやらんぞ」

「いらないわよ!なんでここで飲食してんのよ!」

「私が知るか!勝手に出されて食しているところだ」

 

不満そうに言っているけれどアルトリアの机の上では空になった丼が2つほど転がっていた

 

騒がしくなった交番に沖田が出迎えてきた

 

「あ、お二人ともおかえりなさい。もう取り調べは終わったので帰ってもらっても大丈夫ですよ」

「そうか?」

「アンタはカツ丼食べすぎ」

「出したのは私ですけど、ホントにこの人底なしの胃袋の持ち主ですよね…私の今月の給料が危ういですよ…」

沖田は空になった涙ながら財布を見せる

 

「サーヴァントの癖に給料で生活してるのね」

「えぇ、私のマスターは真面目な方なのでこういう混乱した中でも正しく生きることを目標にしているんですよ」

「こんな世界じゃろくに続かないわよ。その信条」

ジャンヌは沖田の戦闘時の時と今会話している姿の違いに内心違和感を感じながらもこの英霊には何故か信用たるものができていた。

 

無償にも本当に何故か信用できるのだ

 

あと足に何に掴まれているような感じがすると思ったら

 

「…ちょっと!後ろに隠れないでよ!」

「んーーー!!」

沖田から隠れるようにシロカはジャンヌの後ろに隠れていたが、ジャンヌは構わず振り払おうとする

 

「おや?貴方は…あの時の子供…あ!この2人のマスターさんだったんですね!」

沖田は膝を地面につけて、シロカに笑顔で接する

 

「こんにちは小さいマスターさん」

「…っ!!!!????…コ、コンニチハ…ヨソノヒト」

「ちょ、ちょっとビビりすぎじゃないですかー?」

予想よりも怯えまくった返事をされたことで、沖田の目に涙が出てきた

 

「どうしたのアンタ。泣いてんの?」

「うっ…えぇ…はい…実は生前子供とよく遊んでいて、人斬りである私に恐れないで接してくれる相手でもあったんですよ…」

「で、その子供に怯えられたのがショックってわけ?」

「恥ずかしながら…」

「…っ!!!!!」

 

その話を聞いてもなお、シロカは沖田と目線があったと思ったらすぐジャンヌの後ろに隠れてしまった

 

「人斬り職業なので仕方ない部分もありますけどここまで怯えられたら沖田さん大ショックです…」

「気にするな日本の警察」

 

カツ丼を食したアルトリアが声をかける

 

「元よりシロカは超がつくほどの人見知りだ。気にする事はない」

「え?そうなんです?」

「ん?」

 

沖田は気を持ち直すが、ジャンヌはアルトリアのフォローに耳を疑った。

 

何故ならつい前まで他人であるバニー英霊に臆することなく普通に会話していたのだから

 

「よかったです…ショックで血を吐かなくて…」

「血を?なぜ?」

「ちょっとちょっと」

 

ジャンヌはアルトリアの耳元で沖田に聞かれないよう語りかける

 

(なんで嘘までついて慰めてんのよ。アンタらしくないわね)

(嘘?なんの話だ。シロカは他人とまともに喋れない性格だぞ?)

(はぁ?でもだって…もういいわ)

 

「訳のわからん女だ。自分の娘の性格を知らんとは…」

「待って今聞き捨てならないんですけど。シロカは私の娘じゃないわ。マスターよマスター」

「そこに引っかかるか炎上女。赤ん坊の頃から育てているのだから娘とさほど変わりがないだろう」

「だ・か・ら娘と呼ぶなっての!誰かシロカの親になんて」

「…っ!…」

 

シロカは身体を震わせる。それは怯えの感情ではなく、むしろ後ろめたさに近かった

 

「たかが数年育てたくらいで親と思われても困るのよね。こっちがめいわry」

「そこまでだジャンヌオルタ。それ以上口を開くことは許さん」

アルトリアはさっきまで軽く聞き流していたが、急に威圧した表情で詰め寄る。

 

「・・・」

いつになく真剣な表情にジャンヌは面をくらった

 

「えー…と…」

変な空気に沖田は戸惑う

 

 

 

「シロカ、食べるか?」

「た、食べるー…で、でもカツだけ…いい?」

「いいぞ」

 

話を逸らすように口をつけてないカツ丼をシロカに差し出す。

 

「おいしい!」

「そうか…大きくなるんだぞ」

アルトリアはカツを食べて笑顔になったシロカの頭を撫でる

 

「・・・」

「シロカさんはアルトリアさんと仲が良いんですね」

「…甘すぎるのよ。アイツは」

「うーん…私から言うのもあれですが、貴方もシロカさんと仲がよろしいようで…」

「は?」

 

「い、いえ何も…!」

 

とんでもない圧で黙らすと、ジャンヌはシロカとアルトリアに近づく

 

「ほら。もう帰るわよ」

「それもそうだな。行くぞシロカ」

「はーい」

 

アルトリアの手を繋ぎながら、シロカは交番を出る

 

「あ…待って…ジャンジャン、アルトリア…」

「…どうした?」

「け、け、警察のおねーちゃん…ば、ばい、ばいばい…」

 

シロカは沖田の方を振り向くと、手を振ってあいさつをした。

 

「…!はい!バイバイ!シロカさん!」

自分に怯えていた子が勇気を持って自分に手を振ったことが、胸をうたれ、沖田は嬉しそうに手を振った

 

「…よく言えたな」

「うん!」

 

シロカは嬉しさでアルトリアの手をちょっと強く握る

 

「・・・」

ジャンヌはというとやはりあのバニー英霊と沖田とのシロカの態度に疑問が残った

 

 

(やっぱりこの子こんなに人見知りだったっけ?)

 

 

 

ーーーホテルにて

 

 

夜遅く。ジャンヌはアルトリアに今日の接触したサーヴァントととの出来事を伝えるため今からアルトリアの部屋に出向くところだった。

 

その前にシロカを寝かさなくてはならなかったが、なかなか眠らないし、これ以上起こすわけにもいかず…

 

「それじゃ、私は冷血女とちょっと喋ってくるから。今日は1人で寝なさい」

「う、うん…おやすみジャンジャン…」

「……えぇ…おやすみ…」

 

(なんか今日は聞き分けがいいわね)

 

ジャンヌは寂しがりのシロカが1人で寝ることになんの躊躇なく承諾したことに内心驚いていた。

 

(絶対泣きながらついてくると思ったんだけど…)

 

そう思いながらジャンヌは部屋を出て、アルトリアのもとへ向かう

 

 

そしてアルトリアに今日起こったことを伝えた

 

「……分かった。お前は明日に備えて休め」

「あら?面倒事持ち込んだのに割と冷静なのね。怒鳴られるかと思ったんだけど私」

「騒いでも変わらんからな。だが貴様に怒鳴ってやりたいのは本心だ」

「な、なによ…」

 

交番での威圧感がまたジャンヌを襲う

 

「サーヴァントと接触して面倒事を起こしたのはまだ良しとしよう。命あるだけ良しだ。だがお前が交番で言ったあの言葉。あれはなんだ?」

「あれって?…もしかしてシロカの親じゃないって言ったこと?」

「まぁそんなところだが少し違うな」

 

アルトリアはシロカを起こさないため大きい声を出さず、ジャンヌを睨む

 

「お前の言う通り私達はシロカの親じゃない。それは紛れもない事実だ。否定はせん。だが私が怒鳴りたいのはお前が私達がシロカの親だったらという仮定を否定したことだ」

「仮定?」

「そうだ。私達が親ではなく、使い魔だというのはシロカも知っている。だがあの場でシロカの親であった場合を拒絶するとは何を考えている」

「さっきから意味がわからないんですけど。結局アンタは何が言いたいわけ?」

「…シロカはお前に懐いている。親同然にな」

「…っ…」

 

ジャンヌは言葉を失う。薄々シロカの目から頼りにされている事は分かっていた。それなりに長い付き合いになるためでもあるだろうが、自分に懐いていることがわからないほどジャンヌは鈍感じゃない。

 

ただそれを認めたくない自分がいた

 

「令呪の繋がり、マスターとサーヴァントの関係なくお前を親として慕っている。そんな相手からたとえ仮定でも拒絶されてみろ。子供からしたら心に傷なんてものじゃないぞ」

「…ふん…何よ…シロカに気を遣って甘やかしてアンタらしくないわね」

 

シロカに過剰とも言えるほど気を遣うアルトリアにジャンヌは嘲笑うが、その反応は冷たいものだった

 

「私とお前が育てているんだ。可愛がるのは勝手だと思うが…」

「は、はぁ!?」

 

言い返しもしない目の前の冷血女の考えに理解が追いつかなかった。子供を可愛がるなんてことは縁がない騎士王だと思っていたため余計にビックリした。

 

「まぁ甘やかしすぎたのはお前の言う通りだな…自重しよう。だが、シロカに不必要な傷はいらん。精神に影響するような言動は控えろ」

「…分かってるわよ。でもたまについうっかり言っちゃうのは仕方ないでしょ」

 

「口で言うにしても場を考えろ。相手は子供でも言葉は分かる。シロカ個人を嫌っているのなら私に愚痴るなり方法を考えろ」

「っ!」

 

ジャンヌはアルトリアの胸ぐらを掴む

 

「誰が…誰がアイツのことが嫌いって言ったのよ!嫌いじゃないわよ!ただ私は!…私は…」

「…どうした?」

自分から言い出すのもアレだけど…いきなりキレ出した自分が恥ずかしくなってきた。カッとなってこいつの胸ぐら掴んだけど…ムカつくことにこんな時に限って振り払わないし、私の答えを待つこの姿勢…余裕あるわね

 

 

「・・・シロカが不幸だと思ったのよ」

「なに?」

 

ジャンヌは掴む手を放して、力なくベッドに座る

 

「別にシロカが不幸って言いたいわけじゃないわ。アイツの親が私だった場合が不幸って言いたいのよ」

「・・・」

「こんな憎悪に塗れた親なんて…シロカだって嫌でしょう。あの聖女サマならまだしも、魔女と恐れられた私が人の親とはどんな冗談よ」

「・・・そういうことか。不必要に責めすぎたな」

「・・・」

 

あの冷血女が自分の非を認めるとは馬鹿にしていたところだった。しかし今はもうあれこれ言う元気はない。

今の自分にはあの時と同じ口喧嘩を言う暇もない。

 

あの時…?この女とあの時と呼べる時間があった?

 

「だが言葉を選べ。あの言い方は問題があろう」

「はいはい…分かっているわ…でもあれは本心よ。シロカの親なんてごめんよ。だってシロカが可哀想すぎるもの。人々から恐れられた魔女に人間の娘とはどんな皮肉よ。」

「・・・それは本人が決めることだ。勝手に決めつけるな。話は私がするからお前はもう休め」

 

「分かっているわよ……ちょっと待って今物音しなかった?」

「・・・さぁな。気のせいだろう」

アルトリアは少し微笑みながらドアの向こう側を見据える

 

 

 

「・・・!」

 

ドアの前で盗み聞きしていたシロカは急いでジャンヌの部屋に戻った

 

(私…不幸でもいいからジャンジャンとアルトリアと一緒に…でも今、今は一緒だからいいや)

 

シロカは布団に包まり、静かに目を閉じた。

 

 

ーー翌朝

 

「・・・よく寝た…」

 

シロカはいつもより狭い感じで起きたことに変と思い、周りを見ると

 

「え!!」

 

なんとジャンヌとアルトリアがシロカを挟んで添い寝をしていたのだった

 

「え、え?」

仲の悪い2人が自分を間に挟んでいるとはいえ同じベッドで寝てるとは子供であるシロカも目を疑うような光景だった

 

「…おや、もう起きたのか」

「あ!アルトリア!おはよう!」

「早起きだな…感心したぞ…」

 

アルトリアはいつものようにシロカの頭を優しく撫でた

 

「…あ!ねえ!何があったの!」

「・・・気にするな」

いつもの新宿の服に着替えると、彼女は準備のため部屋から出て行った

 

「アルトリア!」

「うるっさいわね…朝から…」

「ご、ごめん…」

ジャンヌが目覚めるとシロカは冷蔵庫の扉を開ける

 

「お水いる?」

「アンタが飲みなさい。ちょっと寝てから行くから」

「ねえねえ、アルトリアがここに…」

「知ってるからシロカは寝るなり遊ぶなりして自由にしなさい。今日は外出するわよ」

 

アルトリアがいたことに何も騒がないのが不思議に思った。自分がカルデアのマスターだった記憶は全て忘れてるにしても割と長くいるためジャンヌが「はぁ!?嘘でしょ!!」とか「ふざけんな!あの冷血女!」とか言うんだろうなぁと勝手に予想していたのだ

 

シロカはまだ子供だが

 

「…ジャンジャンもしかして熱ある?冷たいの持ってこようか?」

「余計なお世話よ!子供は遊んでこい!」

 

 

 

 

 

 

ーー◆■

 

「…ということでジャンジャンに追い出されちゃった」

「お前も散々だな」

一通り準備し終えたアルトリアの部屋に訪れた

 

「アルトリアは何してるの?」

「あぁ…これか…」

 

リモコンらしき物をいじるアルトリアにシロカは謎が生まれる。アルトリアは機械いじりするような性格ではないからだ

 

「これは遠隔操作で遠くからでも機械が自動で私の元に駆けつけてくる装置…らしい」

 

まぁ元よりこれは私自身持っていたものではないのだが…

 

 

「???」

「…分かりにくいな。要するに飼い主が口笛で犬を呼ぶのと同じだ。私はその口笛を修理していると考えてみろ」

「へぇ……犬を呼ぶの?」

「お前何を聞いていたんだ?」

 

2人の元にジャンヌが部屋に入ってきた

 

「そろそろ行くわ。どう?その口笛というやつは?」

「…期待はせんほうがいいだろう。所詮盗品だ」

「…は?それ盗んできたやつなの?」

「盗品…言葉に困るな。盗んできたのは確かだが、相手に押し付けられたというべきか」

「長そうだから帰ったら説明して

 

アルトリアはバックを片手に持つ

 

「無事に帰れたらな。出発するぞ」

 

 

3人は再びあの海へ向かった

 

 

ーーアルトリア(バニー)の縄張りである海に着いた一向だが、

 

そこには目を疑う光景があった

 

「な、なによこれ!!」

 

シロカと共に来た時とは段違いなほど数百、いや数千人規模でカジノやパチンコなどありとあらゆるギャンブルに溢れており、非常に賑わっていた

 

「ええい!ランサー!お前がサイコロ振れ!」

「俺は幸運が低すぎるからマスターがやってくれ」

 

サーヴァント達も例外ではなかった

 

「うわぁ…これ沖田が見たらブチ切れそうよね」

「それ以前に警察が動くかどうか怪しいからな。それよりも問題は私達だ」

 

アルトリアはシロカを抱き上げると、ジャンヌに預けるように背中へ回る

 

「背中にしがみついていろ」

「わかったー」

「人に聞かずに勝手なことを…」

「騒ぐな。3人のうちお前が1番速いんだ」

 

アルトリアは例の招待状を取り出すと、警備員らしき人か英霊に渡し、3人は船の中へ入る

 

「言っておくが仮にこの船の主と戦闘になったら勝つことはできん。勝手に燃やしたりして相手を刺激するなよ」

「分かってるわ。シロカも絶対私から離れちゃダメよ。いい?絶対よ?」

「うん!わかった!」

 

…心配すぎる、とジャンジャンもとい、ジャンヌオルタは思うのであった

 

「ついでに言っておくがここでカジノに浸るなよ。遊びに来たわけじゃないからな」

「当たり前よ」

アンタなんかに言われなくてもと言わんばかりにジャンヌは鼻で笑うと、アロハ衣装の男達がジャンヌを囲んだ

 

「そこの姉ちゃん、そんな服でこの楽園にきたのかい?」

「…どきなさいよ」

「まぁまぁそう言わずに、ここは自由な場所だがその分外観も大事だ。そんな服じゃあ逆に目立つだろう。俺たちと綺麗な可愛い姉ちゃんに似合うドレスでも選ばないかい?」

 

はぁー…うざい。どの時代にもこうゆう奴はいるんでしょうね

 

しかも人のためと思って行動してんのが余計に癪にさわるわ。

 

「いい加減燃やすわよ…」

「おおっと…でもここで騒ぎを起こせば…どうなるか分かるかな?別に悪意あっての行動じゃないんだ。ここだと何が起こるか分からないんだぜ?噂によれば人身売買もまかり通っていると聞くが…」

 

男達が何か言っているがジャンヌにとっては耳障りな声でしかなかった

 

「しつっこい!どきなさいよ!」

「あ!この女逃げるぞ!」

 

男の1人がジャンヌの腕を掴む

 

「っ!触るな!!」

ジャンヌが振り払おうとした腕が、止まる

 

「落ち着け」

止めたのはあの冷血女だった。こいつはこいつでいけすかないけれど、なのに冷血女の顔をみて少しでも安心した自分に腹が立つ

 

「わ、私は悪くないわよ!」

「分かっている。もう行くぞ」

「おい!待て!」

 

アルトリアはジャンヌの手を引っ張って男達の包囲を突破する

 

しかしそれを良しとしない男が今度はアルトリアの前に立ち塞がる

 

「ナンパなら他所でしてくれないか?」

「っ!!…やめてくれよナンパなんてしてないだろう?ハハ…」

「ほう…」

 

アルトリアは笑みを浮かべた。さっきから回りくどい言葉でジャンヌに迫っていたのが不思議に思っていたが、彼女が予想していた通りここのカジノでは揉め事は禁止。その種の一つでもあるナンパはここではオーナーに目をつけられるほどご法度。

 

この男の焦り具合をみて確信を持てた

 

「どうする?今すぐここのオーナーにでも来てもらうか?」

「…チッ」

 

男達は不満そうに去っていった

 

「…ナンパ禁止なのになんでわざわざここでしてくんのよ」

「さぁな。田舎女はあのような男に惚れられるスキルでもついているのか、または…」

「あんまり好き勝手言うと燃やすわよ…!!」

 

変な男に絡まれてメラメラと今にでも魔力をぶっぱしそうなジャンヌを見て、アルトリアは行くぞと言って、歩き出そうとするが…ふとある事を思い出す

 

 

「…シロカはどこだ?」

「そういえば静かね。大丈夫?」

さっき男たちに絡まれたのもあってシロカもびっくりしたろうと、気遣ってジャンヌはシロカの安否を確認するが

 

「…いない!?」

「お前…どこを見ていたんだ!」

「なんか肩が軽いと思ったら…どこに行ったのよ!」

「知らん!とにかく手分けして探すぞ!」

 

多分ナンパされた時にはぐれた…いやしがみついてたしはぐれるなんて…ちょっと待って…

 

ーー噂によれば人身売買もまかり通っていると聞くが…

 

あの男の言葉を思い出す…まさか…誘拐?

 

 

 

 

 

 

 

 



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7話 シロカと黒髭ライダー

ジャンヌとアルトリアが捜索している間、シロカはカジノ船の地下と思わしき所で手錠と足枷をされており、2人の予想していた人身売買の被害にあってしまっていた。しかしシロカは焦らない

 

そもそも意識すら取り戻しておらず、恐怖も感じる暇もなかった。だがその意識も次第に戻っていき、周囲の声もも聞こえるほど回復してきた。

 

…しかしそれが彼女にとって苦痛であるのと同時に

 

「いやぁ!白髪ロリときましたか!!!拙者ロリではない(自称)が属性的にイケる口でもあるがこれは困った!!これは困った!!拙者に眠る第ニの刃が目覚めそうですぞ!デュフフフフフ」

「…っ!!???」

 

意識が完全に戻ったシロカは開始早々、目の前の黒い髭が特徴のおっさんに怯えまくる

 

「だ、だだだだ誰!?」

「おー!目が覚めたか!このままノー意識のままだったら襲っちゃってかも」

「ひっ!!」

 

その言葉を聞いてシロカは涙目

 

「あ!勘違いしないでくれ白いロリ娘。拙者別に特別好きとかではないぞ?ただ…」

 

黒い髭のおっさんは真剣そうに言葉を出すのを渋る

 

「おぬしでイケるかもしれん…デュフッ」

「ジャンジャン!!!!アルトリア!!!!!助けてえええええええええ!!!!!!!!

 

シロカは足枷をされているのにも関わらず大声で泣き叫びながら走り回る

 

 

その一方でジャンヌとアルトリアはシロカを探すものの全く見つからず、ひとまず合流した

 

 

「…っ!」

ジャンヌは何かの気配に察したように身を震わせる

 

「おいどうした?」

「い、いえ…なんでもないわ」

 

(今誰かに呼ばれたような…呼ぶっていうよりもマジの救援信号って言ったほうが正しいわね…)

 

今はそんなことどうでもいい!!

 

「こんだけ探してもいないなんて…!!もう我慢できない!やっぱり私外探してくる!」

「待て、無駄だ。ここの出入り口の警備はしっかりしている。子供を連れて出て行くのはここのオーナーも見逃さんはずだ」

「じゃあなんで攫われてんのよ!!警備しっかりしてんでしょ!」

「それは…おそらく出入りに関して徹底しているが、こんな密集した場所の警備は目が届かんのだろう。現に周りを見ろ」

 

アルトリアとジャンヌの他にも誰かを探して焦っている人がちらほら見かけた

 

「安心しろ。外に出ていかれない以上はまだ助けられる」

「…そうね…次は7階をみてくるわ」

「頼むと言いたい所だが…探す場所を変えよう。人気が無さそうな所を隅々と探せ。それと…」

「何よ…」

 

アルトリアはジャンヌのじっと見つめると

 

「……フッ、なんだ。手頃な手段があったとは…」

「え…ちょ、何よその顔!え!?なんで服掴んでくんのよ!離せ!離しなさいよ!」

 

アルトリアはジャンヌを引っ張って行く

 

 

その2人のやり取りをよそにシロカは女の子としてピンチになっていた

 

「ジャンジャン〜!!アルトリア〜!!助けて!!襲われる!殺される!!」

「だから危害は加えんって!まぁちょっと最近読んだ同人誌みたいな展開も考えたけど…安心せい!痛くないようにする!!」

 

黒い髭のおっさんは両手でグッドポーズをする

 

「ーーーーーっ!!!!!」

 

シロカは今の今まで恐怖を感じなかったことはない。

 

荒れた世界では幾度となく恐怖を感じることも少なくなかった

 

ある時は…

 

●◆

 

「・・・」

 

ある朝、ジャンヌオルタはシロカが遊んでいる所で、ソファで身体を横にして眠っていた

 

「ジャンジャーン!一緒に『コガネムシだと思ったけど本当はカメムシだった』ごっこやろうよー」

 

シロカはジャンヌの身体をゆさゆさと揺らすが

 

「・・・」

疲れが溜まっていたのか中々起きるそぶりを見せなかった

 

「…ちぇー…お昼寝かー…ん?」

 

ーーガサガサッ!

 

シロカはやつを見た…

 

「うわっ!あれは!」

 

そう、ゴキブリだ

 

「うぇー…いつ見ても気持ち悪いぃ〜…」

シロカはジャンヌの方を見る

 

(ジャンジャンの大切なお昼寝の邪魔はさせないよ!)

そう決心したシロカは新聞紙を丸めて偽剣を完成させた

 

「よーし…我が名はシロカ!!この聖剣を以て貴様を灰にしてくれるわ!!」

←アルトリアの真似のつもり

 

「わーはっはっは!この要塞(半壊ホテル)にきてしまった己の不幸を呪うがいい!このゴキブリめ!覚悟しろ!」

 

聖剣新聞紙の一振り。ゴキブリは倒せず

 

「えい!えい!」

何度も振るが、ゴキブリは倒せず、ていうか避けられまくりで…

 

「はぁ…はぁ…フッ…やるではないか…なら!」

シロカは殺虫剤スプレーを取り出した

 

「私の憎悪で焼け尽くされなさい!」

←ジャンヌの真似

 

「ラグ…ラグロント…なんだっけ?えい!とりゃあ!!」

 

子供といえど流石に殺虫剤スプレーに危機感を持ったゴキブリは逃げ回り、ついにジャンヌが寝ている部屋まで戻ってきてしまい、不本意ながらジャンヌの顔あたりまで登ると…

 

「あ!!今助けるからねジャンジャン!くらえ!汚物は消毒だぁー!」

 

…っとゴキブリにスプレーをかけようとしたが

 

「うっさいわね、何して…ギャァァァァァァ!!!!!!??

 

「あ…」(言葉にできないやってしまった感)

 

ゴキブリはスプレーを避けた上、運悪くジャンヌが目を覚ました直前に殺虫剤スプレーをジャンヌの顔面にもろに当ててしまった

 

 

「ジャ…ジャンジャン…?大丈夫?」

 

ジャンヌはゆらりと立ち上がる

 

「あーそー…アンタにとって私は汚物なのねそーですかだから消毒したのね納得したわ」

「え!?ち、違うよ!」

「なぁにが違うってぇ〜!!」

「ひぃ!!」

 

ジャンヌはどす黒いオーラに目が赤く光ってシロカに近づいてくる。完全にキレたジャンヌはシロカの頭を鷲掴みにして自分の顔に近づかせる

 

「だ、だって…ゴキブリが…」

「言い訳する前にまずごめんなさいが先でしょう!!!」

「ひぃーーー!!!ごめんなさい!ごめんなさい!!」

 

シロカは涙を流しながら謝り続ける

 

「…全く…私に殺虫剤スプレーをかけるなんて…いい度胸ね…いいわ」

「…え?」

「アンタ…覚悟することね…」

「ーーーっ!!!」

 

その後、シロカはジャンヌにど叱られ、こっぴどく泣かされ、挙句にはあまりの恐怖に漏らしてしまったという…

 

ーー実はシロカが怖かったエピソードはまだある

 

●◆

 

強くなりたい…

 

シロカの純粋な願いだった。理由は

 

『●●マン!!ここは任せて!!』

『ありがとう!ヒロインちゃん!くらえ魔王!』

 

あるテレビを見たことがきっかけだった。そのテレビ内容は普段守られているヒロインが主人公を助けるため、勇気を出して主人公を庇い、覚醒したシーンという

 

「す、すごい…!」

その場面にシロカは感動したのと同時に自分の無力さを感じた

 

(…いつもジャンジャンとアルトリアが守ってくれる…でも…)

 

自分は何もできない。

 

(いつも助けてくれる…危ない時はいつでも…)

でも自分はジャンヌとアルトリアを助けることができない。そんな力はないからだ

 

「・・・」

「シロカ、どうかしたのか?」

 

アルトリアはテレビを見ていたシロカの頭にポンと手を乗せて、シロカが座っているソファの横に座る

 

「アルトリア…強くなりたいな」

「いきなりどうした?」

 

すごく真剣そうな顔で相談されたアルトリアは面と向かってシロカの相談を聞き入れた

 

 

「なるほど…お前はそんなこと思っていたのか」

「うん…」

「心配するな。お前が戦う必要がないように私が守ってやる。怖がりな癖に無理をしなくていい」

「いや、うぅ…」

 

シロカとしてはいざという時のためにという意味であった

 

「・・・まぁ、シロカが望むとなれば、私が鍛えてやらんでもない」

「え!ホント!?」

「嘘はつかん」

「ありがとうアルトリア!」

 

…っとここまでは子が親を思う気持ちと親が子を思う気持ちが合った一面とも言えるが、問題は鍛える所だった

 

 

シロカは子供。以前の特異点を乗り越えた記憶はもちろん覚えているはずもなく、現地点ではただの子供である

 

だがアルトリアはそんな裏事情なぞ考慮しない、誰であろうと手を抜かない人なため…

 

「ギャァァァァァ!!!」

 

シロカは壁に打ち付けられる

 

「遅い!!見て避けようとするな!」

「いでぶ!?」

 

木刀で容赦なく吹っ飛ばされる。一応手加減はしてるが、痛いことに変わりはない

 

「い"だ!?」

「だから見て避けるなバカ者!!」

「ギャァァ!!見てって!見て避けるなってなに!?いたぁ!!」

 

シロカはアルトリアにしごかれ、天井に身体をぶつけ、ゴロゴロと転がる

 

「そこ!」

「うわっ!!」

シロカはがむしゃらに避けていると、ようやくアルトリアの木刀から一回だけ避けれた。偶然も偶然だが

 

「それだ」

「何が!?」

「見て避けるのでなく身体で感じて避けろ」

「そんな無茶な!!」

「口答えは許さん!」

「ギャァァァァァ!!」

 

鍛錬開始3分 シロカ 挫折

 

 

「う、うぅ…」

「立つんだシロカ。まだ終わってないぞ」

「え?」

 

身体のあちこちをぶつけてもはや限界のシロカだったが

 

「あと4時間はやるぞ」

「よ、よ、!!」

 

あまりの長さにシロカは

 

「4分!?」

「4時間だ」

頭がバグった

 

「うわーーん!!ごめんなさーーーい!!」

「何を謝る?さぁ始めるぞ!そこだ!」

「げふぅ!?」

 

シロカはまたアルトリアに一撃をもらう

 

その後は泣きまくりながらアルトリアに打ちのめされるのを繰り返し、流石に逃げ出そうにもアルトリアの速度から逃れるはずもなく

 

・・っ・・う…いた…い…

 

結局本当に4時間付き合わされた

 

 

「…シロカ」

倒れたシロカにアルトリアは駆け寄る

 

「明日も頑張ろう」

「ひっ!?」

 

この時の恐怖もまたシロカのトラウマと化した。シロカがやたら前に出ないのはこの時点で英霊と自分と力の差が天と地との差ということを思い知らされたためでもある

 

 

ちなみにこの話はジャンヌに伝わっており、アルトリアはかなり叱られたそうな。その後はこの鍛錬がトラウマとなってしばらくアルトリアに寄り付かなくなり、自分に懐いてくれるまでアルトリアは相当苦労したんだそうな

 

話は話としてもこの2つはシロカの感じた恐怖であったが今回のは違った

 

 

 

「あれ?痛くないようにって拙者ヤるつもり満々ではないか!!犯罪行為はちとまずい…いや…拙者生前は犯罪塗れだったから今更か!」

 

黒い髭のおっさんは再びシロカにグッドポーズをする

 

「ひ…!…た、助けて…」

 

今回の違った恐怖は痛みとかいうのではなく、女として本能的な恐怖であった。この年でこの経験とはシロカもかなり運が悪い

 

 

「なんてジョーダン。ほら、拙者も捕まってるんだって」

そう言って手錠と足枷を見せてシロカを安心させる

 

「あ…おじさんも捕まってるの?」

「あー…まぁそうだな。そうだわ。捕まっとるんだわ。いわゆる監禁プレイ?拙者攻めるのも攻められるのもOKだがこれに関してはそうゆうのはされる側よりもする側だと思うんだが…」

「な、何言ってるのおじさん…」

 

黒い髭のおっさんの言う事が理解できず、割とガチめにドン引きするシロカだった

 

「まぁ要するにおぬしと拙者は今んとこ仲間じゃな!…ん?」

黒い髭のおっさんはシロカの令呪に目を向ける

 

(なるほど、マスターか…子供相手に容赦ないか)

「ねぇねぇ、おじさんはサーヴァントなの?」

「お?なぜわかった?」

「だって令呪ないもん」

「これはこれはお目が高い!」

「高くないよ」

 

テンション高めにおっさんは答える

 

「その高さに免じて拙者の真名を教え……ない!!」

「えぇ〜」

「すまんね。真名は個人的に教えてもいいがそんなことするとマスターがうるさいったらもう…ね?」

「仕方…ないね…」

 

(顔が近い…怖い…)

 

シロカはこの男の底知れなさに怯える

 

「だから拙者のことは『黒髭ライダー』と呼んでくれ〜」

「くろひげらいだー?」

「黒い髭にクラス名はライダーだからですぞ!」

「なるほど!ですぞ?」

「んでんで拙者はおぬしをなんて呼べばいいんですぞ?」

「シロカだよ!!」

 

シロカは元気よく手をあげる…ことはできなくなくてギリギリまであげる

 

「シロカ!そうかシロカ!!いい響きですぞー!」

「そうでしょ!そうでしょ!ジャンジャンがつけてくれたんだよ!」

 

人見知りなシロカも段々とと打ち解けていき、黒髭ライダーといつの間にか普通に会話できるようになっていた

 

「ジャンジャン?」

「私のサーヴァントーー!!」

「そーかそーか」

 

(ジャンジャンって誰!まぁいいか)

 

ジャンヌオルタのことだが、シロカのあだ名のせいで黒髭ライダーは多少困惑した

 

「ジャンジャンはね!強いんだよ!アルトリアもそうだけど!この2人は強いんだ!いつも助けてくれて!私の自慢のサーヴァントなんだよ!」

「こりゃ頼もしいですな!是非助けてもらいたい所ですぞ!」

「助けてくれるよ!黒髭ライダーさんもきっと助かるよ!」

「いや、ワシ、一応君の敵」

「でも今のところ仲間なんでしょ!私がジャンジャンとアルトリアにお願いするよ!助かるって!」

 

頑張って励ましてくれるシロカを見て黒髭ライダーは感動…

 

(いやぁ、幼女が頑張って拙者を励ますのは萌え…元気でますなー!ん?こうゆうのはロリ系同人誌の1ページにあったようななかったような)

 

したわけでなくシロカの考えられない領域に達していたのだった

 

 

「ねぇねぇ、黒髭ライダーさんのマスターはどんな人?」

「えぇーと…」

黒髭ライダーは髭を触りながら考える

 

「うるさい奴…と言ったところか…」

「う、うるさい人なの?」

「その通り。聞いてくれシロカちゃん〜拙者のマスターはコミケ行ったぐらいでキレるほど短気なマスターでしてでして」

「こ、コミケ?」

 

シロカは子供なためコミケのことは知らない。しかし頭の中でなんとなくスーパーマーケットと勝手に認識をしてるため、黒髭ライダーが買い物に行くことにキレられていると勘違いしてしまった

 

「ひ、ひどい…黒髭ライダーさんかわいそう…」

「し、シロカちゃん〜!分かってくれるか〜!こんな幼いのに〜!」

何故かここでは涙を流す黒髭ライダー

 

「気持ちはわかるよ…私だってプレイランドで遊ぼうとしたらジャンジャンに無理矢理連れて行かれちゃって…」

「ぷ、プレイ!?ら、ランド!?」

 

黒髭ライダーはシロカの発言に身体に激震が走る

 

(この年で…!?コミケのプレイランド!?コミケにプレイランドなんてありましたかな?いや!!)

 

スーパーで子供の遊べる場所とわかるはずもない黒髭ライダーはあさっての回答に行きつく

 

(シロカ殿はコミケで欲求を満たしまくっているんだなぁ…デュフフフフフ、シロカ殿がどんな性癖かまでは知らぬがそこまで積極的な子とは)

 

「シロカちゃんはプレイランドは好きかい?」

「うん、女の子いっぱいいるから遊びやすいし」

「お、女の子!?遊ぶ!?」

 

再び黒髭ライダーの身体に雷が走った感覚が襲う

 

(まさかシロカ殿が百合属性だったとは…いや、拙者は百合もイケる口だしむやみに口出しはしませんぞ。むしろ同じ趣味を持った同志。拙者もこのような理解あるマスターが欲しかったですなぁ〜)

 

ニヤニヤする黒髭ライダーに心配するようにシロカが声をかける

 

「大丈夫?」

「大丈夫大丈夫。趣味を縛られるのはちと応えますがな」

「趣味…?うん、そうだね」

コミケの真の意味を理解していないシロカからするとハテナである

 

「シロカ殿もコミケいけなくて辛いことがあるでしょうに。まっ、それはお互いの共通の問題点、さてさてどうしたものですなぁ」

「コミケいけなくて辛いの?」

「そりゃあ辛いとも!コミケへの行動制限は拙者にとって心臓を人質に取られている深刻な問題。探偵さーーん!誰か解決してくだされーー!!」

「え、えぇ…?」

 

(こ、この人そんなにコミケでお買い物したいんだ…でもあそこって大人の人がすることって野菜とかお肉とか買うところしかなかった気がする…)

 

「あーあ。今回のコミケはおいしくいただけちゃうのもありましたのになぁ」

「おいしく…いただけるもの…」

(なるほどー!この人はお料理が大好きなんだね!)

 

「黒髭ライダーさんはどんなの食べるのー?」

「食べるだなんてそんな大胆な聞き方はいくら拙者でも動揺を隠せませんな〜!デュフフ、気をつけなされ?」

「え?なんで?う、うん分かった」

シロカは黒髭ライダーにピースサイン

 

「どんなのが好きなの?」

「拙者は基本好き嫌いしませんからなぁ〜どんなものもウェルカムですぞ!」

白い歯を見せながらグッドポーズをする

 

「好き嫌いしないんだぁ〜偉いなぁ」

「シロカはどんなのが好みなのかな?」

「うーんとね…」

 

ジャンジャンとアルトリアと一緒に食べてると美味しいし…1番好きな食べ物なんて決められないよ…でも今食べたいものでいいかな

 

「親子丼」

「お、親子丼!?」

黒髭ライダーは後ろにぶっ倒れる

 

(ふ、不覚!?拙者としたことが相手を子供と甘く見ていたのが敗因!!いやいやこんな小さな子の性癖が親子シチュなんて誰が予想できた!?この子は秘めたる才能を持ってますなぁww…シロカ殿、拙者は個人的に敬服致しますぞ!)

 

黒髭ライダーはシロカに優しさMAXのキラキラ視線で話しかける

 

「黒髭ライダー?」

「シロカ殿…いえ、シロカ『さん』」

「え、なに…」

「共にここを抜け出しましょうぞ!」

「う、うん」

シロカは薄笑いを浮かべる。

 

この2人が友情を深め(?)脱出を決意した

 

 

ーーそして例の2人は

 

「ちょっと!!何よこれ!!」

ジャンヌはアルトリアに無理やりバニー衣装を着せられていた

 

「作戦のうちだ。我慢しろ」

「これのどこが作戦よ!!脱ぐ!」

「構わん。だが脱いだあとの衣服は知らんぞ」

「うっ…クソ…私のバカ…」

 

この女に言いくるめられてつい着てしまった…余裕ないとはいえとんだ不覚だわ…

 

「それで作戦のことだが極めて単純だ。捕まってこい」

「はぁ!?いや…なるほど居場所を把握するのね。って!そんなことこんな服着なくてもできるでしょ!」

「…そうだな」

 

と答えるアルトリアだが頭で思っていることは違っていた

 

(ジャンヌオルタよ…着替える前のお前は全体的に全てを恨み殺さんとする覇気を纏っていたぞ…そんな強力な殺意をサーヴァントなら誰でも感知できるだろうから誰も攫わんぞ)

 

「まぁいいわ…でもこの一件終わったらアンタは絶対燃やす!」

「受けてたとう、早く終わらせてこい」

「…ふん!」

 

ジャンヌオルタはアルトリアから離れ、人混みを避けながら歩く。アルトリアは一定の距離をキープし続ける

 

「こんな格好しただけですぐ攫われるわけなっ、」

と、発言したのち、人混みの中から突然出てきた腕が彼女を襲う。ジャンヌオルタが姿勢を崩し、引き込まれるようにそのまま姿を消した

 

「まさかここまで結果が出るとはな…」

軽くため息をつき、アルトリアはジャンヌオルタの元へ向かっていく

 

 

 

 

 



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8話 何者

お久しぶりです


「全部燃えろおぉ!!!!!」

 

ジャンヌオルタは壁を突き破るなりいきなり警備員に向かって灼熱の炎をばら撒く。

 

「ギャァァァァァァァァァ!!!!!!!!!」

「おい、なんなんだあのバニー女!?誰が連れてきた!!」

 

アサシンと思われるサーヴァントがマスターに耳元でこう呟く

 

「そ、それが…アンタなら気に入ると思って攫ってきたんだが…」

「お前かよ!!なんであんな全身大砲並みの女連れてきたんだ!?」

「それなりに綺麗だったし…バニー服好むマスターって知ってたからサプライズに…」

 

言い訳してる間にも警備員達は灰となっていく。煙も蔓延して視界が見えない中、警備員達の悲鳴と爆発音が続いていた

 

「ひ…ひぃ…お、お助け…」

 

両足を燃やし尽くされた男が這いずりながらその場を離れようとした途端

 

「待て」

「いだーーーーっ!!!?」

 

傷口を抉るようにアルトリアは倒れ込む男の足を踏ん付ける

 

「お前に聞く。髪の白い子供を知らないか?」

「し、シロカッてガキのことか?…それなら地下に…ギャァァ!?」

答えたにも関わらずアルトリアは男の指を踏み潰した

 

「貴様なんぞに私の子をガキ呼ばわりされる筋合いはない」

「あが…が…」

 

「聞こえたか突撃女。シロカは地下だ。そんな雑魚を相手に時間を費やす必要はない」

 

大きな爆発音が部屋中に響き渡る。天井やら色々と陥落し、船が沈没しかねないほど大暴れを繰り返す。

 

「おい聞いているのか!!」

「うるっさい!!!ここにくるまで散々とお尻やら胸やら触られてこんなんで済ますわけないでしょうが!!」

 

そう言うと増援にきていた兵士を瞬く間に消し炭にしていく

 

「不必要に暴れすぎたバカ女。シロカは地下にいる。マスターを危険に晒すような真似は慎め」

「…っ!ふん!もうやめようと思ってたところよ!」

 

「兎として売ってやればよかったか…きたか…」

 

数百人の警備員達の中から1人明らかに格の違う敵が出てきた。確実にサーヴァントだろう

 

「ジャンヌ…復讐の悪鬼として蘇ったとお見受けするよ。憎き炎に身を包んで殺戮を繰り返す。本当に聖女かい?」

「誰あんた?」

 

「誰…とは悲しいね。僕を覚えてないとは…酷く悲しい」

 

騎士らしき少年…青年?、いや女騎士…性別に判断ができない相手ね。こんな奴、私の部下にいたかしら

 

「アンタに構ってやる時間はないの…そこをどきなさい!!じゃないと骨まで燃やし尽くす!!!」

「敵にするとここまで…憎悪が伝わる。強いねこれ」

 

セイバーらしき目の前の英霊は剣を構え、一気に距離を詰めてジャンヌに襲いかかる

 

「っ!?」

 

は、はっや…

 

「僕の剣技を受け止めたのか。さすがジャンヌ。救国の聖女。」

「なにが救国よ…」

 

振り払った途端にセイバーへ炎の魔力をぶつける

 

「救わなければよかったと今でも後悔してるわ。アンタの言う聖女は別のジャンヌ。本物のジャンヌなら…これは言わないでしょう?」

 

ジャンヌはニヤリとセイバーに向かってこう叫ぶ

 

「あの国なんて燃えてしまえばいい!!私の憎悪と復讐の炎は永遠と踏みとどまることはない!!お前を殺す!!」

 

剣を取り、セイバーと鍔迫り合いにまで持ち込む

 

「ぐっ…情報通り…なんて力だ…」

「代われ」

 

アルトリアはセイバーを蹴り飛ばし、ジャンヌを地下の入り口で押し倒す

 

「いった…何すんのよ!」

「こいつは私が相手をしておく。お前はさっさとシロカを助けてこい」

 

くっそ!!いいところでこいつは!!

 

「シロカを助けて、ここに戻ってきたらアンタごと燃やす!!」

「早く行け」

 

捨て台詞を吐いてジャンヌは地下へ向かっていった。アルトリアはセイバーと対面すると黒き聖剣を手に、対峙する

 

「なぜ?今彼女が優勢だったのに」

「お前はジャンヌダルクを知っているようだったからな。それに…貴様はあの女を挑発しすぎだ。あれ以上怒らせると地下にいる私のマスターが危ない」

 

「なるほど。なら謝罪しよう。だけど言わせてもらう。私は決して彼女を挑発したわけではない。私は、ジャンヌダルクを本当の救国の聖女だと思っている。これは本心だ」

 

「あぁ…そうだとも…ジャンヌダルクは救国の聖女…お前は間違ってない。だが…」

 

アルトリアは剣を振るう

 

「語る相手を間違えたのだ」

 

 

 

 

地下にて。上の階の爆発音はここまで聞こえてくるほどの轟音だった。

 

「わぁ…すごいね。船の中でも地震って起きるんだ」

「・・・」

 

不思議そうに辺りを見渡すシロカを隣に黒髭ライダーは気配を探知する

 

(とんでもない奴の気配が1人…いや1騎)

 

「あー…シロカさん、やけに落ち着いてない?」

「だってジャンジャンとアルトリアが喧嘩したら家壊れるの毎回だし」

「え、毎回家で起こってるのかよ!?」

 

「この地震で済むぐらいならマシかな〜火事も起こるし大変で…」

「それどんなサーヴァント…ぬぉ!?」

談笑してる2人の後ろの壁が木っ端微塵に吹き飛び、シロカとライダーは呆気に取られていた

 

「シロカッ!!!」

「・・・え!?ジャンジャン!?」

 

ジャンヌはシロカの元へ走り、拘束されている手錠を壊した

 

「…てか何でウサギの格好してるの?」

「それは…色々あったのよ」

「そう言って、ぷぷッジャンジャンの趣味なんでしょー??」

 

ーードゴッ(ジャンヌのゲンコツ)

 

 

「あんた、サーヴァントね。ウチのマスターに何やってたか知らないけれど傷つけてりしてたらタダじゃおかないわ」

 

(もう既にシロカ殿がタダじゃない状態に…)

 

黒髭ライダーはジャンヌに殴られてのびているシロカを心配しつつ、自分の置かれている状況を再確認する

 

「さて…燃やすわ」

「ちょーーーーーっ!!!」

 

いきなり無慈悲に処刑宣言をされ、黒髭ライダーは焦る。いや、むしろ妥当な判断だろう。無防備な敵がいるとするのなら早めに潰しておくのが吉だ。

 

 

「お、お待ちくだされ!拙者!シロカ殿と友達!フレンド!」

「はぁ?シロカ、この髭のおっさんはアンタの友達なの?」

 

聞かれても気絶しているシロカは答えることはなかった

 

「というわけで死になさい」

「うぉぉぉ!!!せめてコミケ行きたかった!!」

もはやこれまでと諦めたライダーは来年のコミケ開催を祈りながら目をつぶった

 

「待って…ジャンジャン…」

 

頭を抑えながらシロカはジャンヌを後ろから抱きついて処刑を止める

 

「その人友達。だからやめて」

「こんな髭のおっさんが!?」

 

「助けてあげてよ…おねがーい」

 

純粋にシロカから甘えられて、ジャンヌは躊躇するものの子供の前での殺戮は控えるため黒髭ライダーの手錠を外した

 

「感謝ですぞ!!シロカ殿!!」

 

シロカにハグしようとする黒髭ライダーをジャンヌが殴り倒す

 

「にしても気絶から早くない?」

「いつもぶたれてるから、こんくらいへーき」

 

(殴られすぎて打たれ強さが子供離れしとる…)

 

 

「ジャンジャン氏。少しシロカさんに優しくしてもいいんじゃない?」

「お前もジャンジャン言うな!!…それにこいつは甘やかすとすぐ調子乗るからダメ」

 

「わ、私甘やかされて育つタイプだもん!!」

「なに?また殴られたいの?」

「ご、ごめんちゃい…」

 

(…ジャンジャン氏ってホントに助けに来たの?)

 

捕らえられている時よりも酷い扱いにライダーはシロカに同情。

 

見てる間にもジャンヌはシロカの手を握り、突き破った壁の先へ歩き出す

 

「さっさとこの船から降りるわよ。ライダー、あんたは逃げるなり死ぬなり好きにしなさい」

「拙者は逃げるけど…シロカさんに一つ聞きたいことがある」

「なに?」

 

初めて見た真剣な表情のライダーにシロカはまだしもジャンヌまで歩みを止める

 

「ジャンジャン氏と…本当に夜は気持ちいいのですか!!!」

「はぁ!?」

 

いきなりアホみたいに大声で馬鹿みたいな質問をされた。私はその質問に内容は詳しくわからないが、何故かイラっとする

 

質問をされた肝心のシロカはキョトンとしてる

 

「回りくどすぎた。では簡潔に…」

 

ライダーは息を整え、再び大声で

 

「ジャンジャン氏とレ●セッ●スは気持ち良いのですか!!」

 

「子供の目の前でやめろお前!!」

 

な、何言ってんだこのおっさん…子供の前でしていい言葉じゃないでしょ!正気ですか!!

 

「親子丼の真髄を私に教えてくだされシロカさん!!」

「うるっさい!!静かに!!」

「ねぇねぇジャンジャン、レ●セッ●スってなに?」

 

あぁ…ほらこの子が興味持っちゃった…!!

 

「いい?無視しなさい。あのゴミ髭ライダーの言うことに耳を傾けちゃダメよ」

「レ●セッ●スってなに!?レ●セッ●スってなに!!」

「しーっ!!」

 

シロカの口を手で塞ぐ。

 

「シロカ殿!!お答えくだされ!!!せめて攻めか受けなのか教えてくださーい!!!」

 

「うるさい!!燃えろぉ!!!」

「ギャーーーー!!!」

 

口封じのようにライダーに向かって強力な炎を浴びせ、攻撃を受けたライダーは海の中に落ちたっいった

 

「いい…次あの単語を私の前で言えば燃やすわよ」

「わ、わかりました…」

 

黒髭ライダーが言っていた単語が気になっていたのだが…海をも燃やすように炎上する火柱を前に、聞くことなんてできやしなかった

 

 

 

●◆

 

ジャンヌに抱えられ、上のフロアに出た後、もうそれは酷かった。

 

簡単に説明すると全部燃えてた。床も天井もパチンコ台も人も全部

 

「な、なにこれ!!」

「・・・」(やばいやりすぎた…あのバニー女に目をつけられたら流石に…)

 

「けふっけふっ…煙が…」

「煙は絶対吸っちゃだめよ。もうすぐここから出るから深く呼吸しないように」

「息吸っちゃだめ?」

「ちょっと我慢しなさい」

 

すぐにもっと上のフロアへ出るとある人物がこっちに向かって落ちてきた

 

「っ!?」

 

落ちてきたのは敵セイバーだった。冷血女に大分やられている。かなりの重症を負っているようだ

 

「シロカッ!」

「アルトリア…」

 

アルトリアはシロカの元に駆け寄ると無事な姿に安心する

 

「む?…それは…」

 

シロカの頬が赤くなっていいた。自分の手で見えてなかったせいか気づくのに遅れた

 

「あいつらにやられたのか…いいだろう。私の子に手を出したことを後悔させてやる」

「いや…これはジャンジャンに殴られて…」

 

シロカの話を聞かず、アルトリアは敵セイバーに切り込む

 

「ぐぁ……ぐっ…」

 

傷だらけの身体に鞭を打ってアルトリアの剣を防ぐが、その攻撃の重さに身体が悲鳴をあげる

 

「あいつの強さは動きの俊敏さ、剣先の速さ。でもあんな身体じゃそれを生かすのは無理ね」

 

ジャンヌの言う通り、身体がボロボロの状態でアルトリアの相手ができるはずもなかった。

 

「がはぁ…!?…これが…ブリテンの騎士王の実力…」

 

膝から崩れ落ち、セイバーはついに倒れる

 

「あと少し…!頑張れアルトリア!」

 

あとは首を刎ねるのみ。あと一歩のところだった

 

「…一旦離れろ!!」

 

アルトリアがそう叫んだ瞬間

 

 

・・・・・

 

 

「アルトリア?」

 

アルトリアはこっちに振り向き、手を伸ばしたまま固まっている。ジャンジャンは爆発から守るために私を抱きしめようとしたところで固まってる

 

固まってるというのは間違いだとすぐ気づいた。周りの破片や炎や爆発による煙も全て止まっていた。

 

まるで時間が止まってるかのように

 

「ジャンジャン?動ける?」

ほっぺを触っても反応しない。

 

ジャンジャンの体を揺らし続けるうちに、いきなり突然黒いのが雷のようなオーラを纏いながら高速で私に近づいてきた

 

「ひっ…!!」

 

腰を抜かす。目の前の人は鋭い黄色の瞳、緑色の帽子…そして何より怖いのが荒々しい笑顔…

 

「俺が見えるな?」

 

サーヴァント?が語りかけてきた

 

「見えない見えない!!!!何も見えないよ!!」

「見えてるようだな」

 

あまりの恐怖に嘘をつくが、一瞬でバレてしまった。次の対処を考えようにもアルトリアもジャンジャンも動かず、どうすればいいのか分からなくなる。

 

泣き出したくなるけど…我慢して目の前の人に話しかけてみる

 

「あ、あの…あなたは…ナニモンナンデス?」

「俺か?…あぁ…そうだな。お前は覚えていないか。まぁいい。端的に説明するなら俺は『犯人』だ」

 

「はんにん…?」

「そうだ。あの船の人攫い事件の犯人は俺だ」

 

な、なぜそんなことを?…と聞く前に男の人は喋り続ける

 

「動機は俺のマスター…藤丸立香を戻すこと。そのために騒ぎを起こしてまでお前を連れてきた」

「な、なんで?…私攫うなら…他の人関係ない…」

 

頷きながら男はシロカと同じ視線にするため片膝をつく

 

「お前だけを攫うのは簡単だ。しかし攫うにしても本当の狙いがお前であることを悟られないためにはなるべく多くの者を連れていくしかなかった。ここにいる小物達を使ってまで随分と余計なことをした。遠回りで蛇足まみれであったが…目眩しにはなっただろう。」

 

じゃあずっと私を狙ってたの?なんのために?

 

「時間を止めたのは気にするな。下っ端どもが連れてきた火力馬鹿な女が暴れ出したお陰で火の手の広がりが早くてな…お前が死ぬ可能性が出てきたからすぐ対策したにすぎない。安心しろ」

 

ぜ、絶対ジャンジャンのことだ

 

「お前は死なすわけにはいかない。これは俺だけじゃない『全員』の意思だ。藤丸立香…俺のマスター。これだけは伝えたい」

 

周りにヒビが入り、段々とそのヒビが広がっていく

 

「死ぬな。生きろ。なんとしてと生き続けるんだ。そしてまた世界を救え」

 

男の身体も透けてきてる

 

「待ってよ!!私の名前!!リツカじゃない!シロカって名前だから!!人違いだよ!!」

 

「・・・時間だ。俺はしばらくお前に干渉できない。だがあの2人ならなんとかするだろう」

「・・・」

 

アルトリアといいジャンジャンといい、なんでサーヴァントって人の話聞かないのかな

 

男は返事をせず、消滅をしていく

 

ーー俺を呼んだな!復讐の化身を!

 

ーーお前はお前だ…

 

「・・・」

 

…なんだろう。初めて会ったのに。変な記憶ある。

 

え、と。名前…名前…

 

 

「・・・・エドモン?」

 

 

 

 

 

 

 



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9話 兎女 兎少女

騒ぎが収まった後。誘拐犯グループは獅子王(バニー)によって一掃され、カジノの強制労働の刑となり、休みなしで船の修理に駆り出されることになった。

 

事件が終わり、ようやくカジノにいけると一息ついたアルトリアとジャンヌを後にして、シロカは獅子王の命によって誘拐犯を捕えた警備兵にエドモンについて聞く

 

「ねぇ、エドモンは?エドモンも捕まったの?」

「ん?お嬢さん、エドモンは誰のことかな?」

「サーヴァント。見てないの?」

「うーん…サーヴァントで捕縛したのは一騎だけだしなぁ…あのセイバーのことなんだが…」

 

警備兵が指差す方向を見るとアルトリアに叩きのめされたセイバーが手錠をかけられて連行されていた

 

身体はボロボロの状態で、見ていて可哀想に見えてくる。あと相変わらず女性か男性かわからない姿でボロボロの服装がやけにセンシティブ

 

「あの人違うよ。ねぇねぇ、他の人は?サーヴァントいない?」

「こら、シロカ。まだこんなところにいたのか」

アルトリアがシロカを迎えにきた

 

「邪魔したな。行くぞ」

「あーっ!ちょっと!!」

 

アルトリアはシロカを抱き上げ、その場から去った

 

 

「エドモン…エドモン…確かに…あの誘拐犯グループのボスって一体誰なんだ?」

 

 

●◆

 

 

そして一件落着として片付いた今

 

 

「い、いらっしゃいませ〜」

 

ジャンヌオルタは獅子王にバニー衣装を着せられて働かさせられていた

 

「よ、いい姉ちゃん。俺、カジノで大儲けしてくるよ」

男は気軽にジャンヌオルタの尻をポンと触れ、奥の部屋へ行く

 

「が、頑張ってくださーい〜」

 

(クッッッソ!!!なんで私がこんな目に!!結局この服脱げなかったし変わらずセクハラはされるし!!)

 

表面では作り笑いをしていてもジャンヌの怒りのボルテージは最高潮に達していた。何故ならあの騎士王が自分の姿をみて嘲笑っているからだ

 

「ふん、兎にしては出来た接客じゃないか。どうだ?ここで働くのも悪くないと思うぞ?」

「絶対にお断りよッ!!てかなんでアンタとシロカがドレス着て私が弁償代のために働かなきゃいけないのよ!!」

 

「えぇ…でもそれジャンジャンが」

 

 

…どうしてこうゆうことになったのかはこうである

 

2時間前

 

獅子王の部屋に連れてこられた3人は彼女の前で並ばされた

 

「はぁ…全く…せっかく大金を払い、ここまで大きくした客船をボロボロにするとは…特に火災での煙については逃げ惑う客で溢れて、私達は不利益を被りました」

 

「…フン」

 

ジャンヌはバツが悪そうにしていると、獅子王の静かな怒りを察し、怯え出すシロカの背中をさする

 

「わ、悪かったわよ。でもあの攫い魔達が…!」

「えぇ、分かっています。貴方達が私達を悩ませていた誘拐組織を壊滅させたことは感謝しています…それに免じて死罪を問うことはありません」

 

げぇ!!割とくるところまできてた!!もう少しで死刑になるところだったじゃないの!!

 

「かと言って私達が受けた損害も甚大…ここは…」

 

獅子王は怯えるシロカと視線を合わせると

 

「この2人のマスター…シロカに責任をとっていただきましょう」

「チッ!!!突撃女!」

「えぇ…!!」

 

獅子王の一言でアルトリアとジャンヌは武器を構え、周りの警備兵達に銃を向けられながらも獅子王を牽制する

 

「…何をしているのです?サーヴァントの不始末を責任者であるマスターに問うことがそんなにおかしいのですか?」

「おかしくない。だがそれはマスターが英霊に命令を行使した時に発生する義務だ。今回の件は私の独断で動いた。あのバカ共を駆逐したのも、この船を破壊することになったのも私の責任だ」

 

アルトリアはシロカを庇う。

 

「何も知らない子供に責任を問わせるな。少なくともシロカはお前に被害は出していない。こいつだけは見逃してやれ」

「ふむ…一理あります…では貴方はいかなる罰を受けると?」

「…あぁ」

「わかりました。それでは…」

そう言うと獅子王が縄を取り出しアルトリアに近づく

 

「それでは貴方の身柄を拘束します。抵抗すれば…言わなくても貴方なら分かることでしょう」

「…勝手にしろ」

無抵抗になったところで獅子王はアルトリアの身体を縛る

 

 

その行動にビクッと反応したシロカが獅子王の前に出る

 

「ま、待って!!アルトリアは私を助けようとしただけだよ!!悪いことしようとしてたわけじゃないよ!!だから許して!!」

 

「・・この者は貴方のために罰を受けると申しているのです。その気持ちを不意にするのですか?」

「せ、責任は私にあるんでしょ!、アルトリアとジャンジャン…か、関係ないよ!!」

「ほう…」

 

少女の覚悟に少し感服した獅子王だったがそれだけで許すほど甘くはなかった

 

「なら代わりに貴方を…」

「待ちなさい!!」

 

ジャンヌが獅子王の肩に触れる

 

「アンタが自分の船の被害を憂いているのなら…私が責任取るわ」

「ジャンジャン?」

 

獅子王はため息をついてこう述べる

 

「庇い合いで時間を潰さないでください…まぁ少し猶予を与えましょう」

アルトリアの拘束を解くと獅子王は警備兵を全員下がらせ、3人を話しやすいようにするためその場から離れようとする

 

「アンタ…一体何を」

「3人で決めてください。罰を受ける人を1人…」

 

そう言われてアルトリアが名乗り出る

 

「私の作戦だ私が責任を取る。だからこいつらを見逃してやれ」

 

すると次はシロカが名乗り出る

 

「ま、待った!!私マスター!!マスターだよ!だから私が罰を受けるよ!!」

 

子供に庇われては情けないと感じだジャンヌは2人より前に出て自信に罰を与えるよう獅子王に詰め寄る

 

「私よ!私が船を燃やしたのよ!だから責任取れと言うのなら私が取るわ!!」

 

とジャンヌが言うとアルトリアとシロカは

 

「「どうぞどうぞ」」

 

「はぁ!?ちょっ!アンタ達!!!」

 

手のひらを上にしてジャンヌに向けながら彼女に罰を譲った

 

「よろしい…それでは貴方に弁償してもらうとしましょう」

 

その一言から速かった

 

獅子王によってジャンヌは一瞬で全裸にさせられてしまった

 

「……なっ!」

「貴方に羞恥する時間はありません。すぐにこれに着替えてください」

 

使用人が持ってきた服はさっき着ていたバニースーツよりも露出度が高いバニースーツだった

 

「はぁ!?なんで弁償とこの服が関係あんのよ!!」

「着なさい」

「絶対断る!!!」

 

そうですか…と獅子王がポツリと呟くと、

 

「では力づくで。本気でかかります」

ニコッと笑顔で手を鳴らしながら歩く姿はとても美しかったが、同時に得体の知れない恐怖を周囲に与えていった

 

 

そして魔力をお構いなく消費し続けたジャンヌに勝ち目などなく、無理矢理バニースーツを着せられ、今に至る

 

「あの女…!魔力回復して、借金返済したら燃やしてやるわ!」

「やめなよ…また殴られるよ」

 

魔力消費の有無にしても勝てるかどうかはジャンヌ本人も分からなかった。自身が万全な状態でもワンパンでKOされるのは想像に難くなかった

 

アルトリアと2人がかりなら…?となるがそれはジャンヌのプライドが許さない

 

「…で、手持ちは?お金なんてそれほど持ってきてないでしょ?」

「あるよ。ほら」

 

シロカがジャンヌに見せたのはざっと2000万QP

 

1QPが1円とするととんでもない大金だ

 

「えぇ!?これどっから持ってきたのよ!!」

「アルトリアのそっくりさんに貰った」

「はぁ!?」

 

ーージャンヌが無理矢理バニースーツに着せられている時間の間

 

「さて…貴方達はカジノを楽しむ上で手持ちが少ないのは私も承知しています」

「あぁ、だから招待されておいてなんだが突撃女が借金の返済をしたらすぐ帰らせてもらうぞ」

「いえ、それでは示しがつきません。シロカさん、手を」

 

獅子王はシロカの側に寄り、シロカと身長を合わせるようにしゃがむと、自分の胸から札束…2000万QPを与えた

 

「お、お金?」

「・・悪どい女だ…子供に利子つけて借金させるつもりか?」

「失礼ですね。これは私からの善意。・・まぁ少し早いお年玉だと思ってください」

 

シロカは動揺する。いきなり大金を渡されて、札束を持ったまま周囲を不安そうにキョロキョロと見渡す

 

「大丈夫ですよ。そのお金に返済の必要はありません」

獅子王はシロカに笑顔でそう言うと優しく頭を撫でる

 

ジャンヌに見せた笑顔(牽制)と違ってこちらは優しさに満ち溢れた慈愛の笑顔だった

 

「…ありがとう、アルトリアのそっくりさん」

 

アルトリアに連れられてカジノの大広場へ2人は向かった

 

「・・・私もアルトリアなんですけどね…」

 

獅子王はそうポツリと呟くと、バニー姿に着替えたジャンヌの服を手直しする

 

「やはり貴方は胸が大きすぎますね。私のカジノはそうゆう店ではありませんので色気を使った接客はご遠慮ください」

「注意されなくてもやらないわよ…そんで、どんくらい稼げばいいの?」

 

もはや自分に選択肢はない。働くことを覚悟したジャンヌは自分の胸を触る獅子王に金額を聞いた

 

「5億です」

 

ご…

 

 ご・・・

 

「5億!?」

 

 

ーー現在

 

「で、今どのくらい稼いだのだ?」

アルトリアはジャンヌに質問する。ここのカジノではチップとしてディーラーでもスタッフでもお金が貰えることがあるのだ

 

「ま、まぁ…2億ぐらい…」

「もう3分の1近くまで稼いだのか。フッ兎らしく愛想を振りまいたのか?」

「違うわよ!男どもが私に勝手に金払っていくのよ!!」

「やはりお前はカジノの運営に向いているのかもな。しばらくここにいるといい。私は辺りを物色していくぞ」

 

ある程度ジャンヌをからかった後、アルトリアは人混みの中に消えていく

 

「はぁーーーーーー……後で殺す」

そう決心して仕事に戻ろうとすると、自分の足元に小さな子供が座っている

 

シロカである

 

「何してんのよこんなところで。アンタも遊んできなさい」

そう言って突き放してもシロカはジャンヌの足にしがみついたまま離れなかった。からかってるわけでもなく、ふざけているわけでもない様子を不思議に思ったジャンヌは優しく質問する

 

「・・どうしたのよ」

そう聞くとシロカはモジモジしたまま答える

 

「・・・カジノつまんない」

 

あぁ…そうだ。普通に考えればわかる話だった。カジノは子供の遊ぶ場所ではない。見た目こそ豪華だが、やることは大体ギャンブル。大人ウケするようなデザイン、曲を流されてもシロカにはピンとこないだろうし、なにより楽しめることはないだろう。 

 

「…カードゲーム…ポーカーとかあるわよ?」

「行った。でも私勝ったんだけど…相手のおじさんがすごく怒って…」

 

この流れで大体の話は理解できる。みっともない話だ。大の大人がカードゲームに負けたくらいで子供に怒鳴り散らすとは。

 

「・・・は?勝った?」

 

こんなバカの申し子が勝てるほどポーカーは簡単ではないわ。

 

運だけじゃなくて多少のテクニックも必要…ってなんで私ポーカーのルール知ってんのかしら

 

「勝ったよ。ざっと…いち、に、さん…」

「1QP程度しか増えてないの?本当にリスク取りたがらないわねアンタ」

「いや、0の数を数えてて…あ、9個だった」

「1億QP!?嘘でしょ!?」

 

予想以上に大勝ちしてんじゃないのよアンタ!!!

 

「うん…なんか10回やっても10とJとQとKとAしかでなくて…」

「ロイヤルストレートフラッシュ10回も出たの!?」

ポーカー最強の手札じゃないのよ…それを10回出すって幸運Aでもそんなに出ないわよ

 

「普通にカジノ楽しめてるじゃない!もっと喜びな!!」

「全然楽しくないよ!だって貰ったカードを相手に見せたらゲーム終わるんだよ!?何が楽しいのこれ!!」

 

可哀想だけどアンタはギャンブル向いてる!!無欲なのがまた…!!

 

「それに…ゲーム終わった後…大人の人達全員泣いてたし…」

「…アンタが大勝ちして持ち金全部取ったからもらったからでしょう」

まさか相手もこんな子供に負けるとは思ってなかったでしょうに。心中お察しするわ

 

同情はしないけれど

 

「で…すごい騒がれて…ここに逃げてきた」

「・・・」

 

まぁそもそもここはシロカが楽しめる場所ではない

 

人見知りが激しいシロカにとって大人数の大人が馬鹿騒ぎをして、ある人は大負けして周りに怒り散らす様子をみてよく感じるわけがない。そもそもこの子は性格的に争いごとは向いていないのだ

 

「そう…大変だったわね」

「うん…」

落ち込むシロカを抱き上げると涙を指で拭き取り、頭を撫でる

 

「私もあとちょっとでお金が溜まるわ。だから少しの辛抱よ」

「うん…あっ!、仕事の邪魔になるなら下ろしていいよ?」

「気にしないでください。むしろ…」

 

ちょっとだけ気持ちに整理がついた…とはシロカ本人には言えなかった

 

「…手伝おうか?私も」

「え?」

 

シロカは降りると、どこから持ってきたのかつけ耳のうさ耳を自分の頭につけた

 

「ジャンジャンとお揃い!どう?可愛い?」

「それ…どっから持ってきたのよ」

「ないしょ〜!!はい、兎のモノマネします!!ぴょんぴょんぴょーん!!」

 

そう言ってシロカは辺りを飛び跳ねる

 

「あぁ!!コラ!動き回らない!!」

ジャンヌが止めようとするが、お構いなしにシロカはジャンプを続ける

 

注意しても止まらず、捕まえようかと思った矢先、ワラワラと人が集まってきた。主にセレブな女性達がシロカに注目する。

 

その人達の中で豪華なドレスを見に纏った、いかにもお金持ちな女性が飛び跳ねるシロカに近寄った

 

「あら、可愛らしい子ウサギさんね。お名前は?」

「シロカッ!!」

「元気がよろしくて。そうゆう子は嫌いじゃなくってよ」

 

すると女性は札束を取り出し、シロカに渡した

 

「はいどうぞ。楽しい余興をありがとう」

そう言ってシロカのおでこにキスをするとそのまま女性は立ち去った

 

「えぇ…あれだけでお金貰えるの?…金持ちの感性はわからないわね…」

セレブの金銭感覚に疑問を募らせるジャンヌを横に、シロカは変わらず飛び跳ねていた

 

普通はカジノに小さな子供はこないためか、物珍しそうにセレブ達はシロカに興味を示していた

 

「ハッハッハ!よくはねる兎だ!」

「このカジノにきて負け続けていたが、ちょうどいい癒しよの」

「フフッ、やはり純粋な子供っていいですわね」

 

私には理解し難いがそれなりにウケているわね…

 

だとしたら今止めてもここにいる人達からのブーイングは目に見えてる。

 

全くこんな安い兎のモノマネに何が癒されんだが…

 

「・・・フフッ」

「何を笑っている兎女?」

「ギャーーーーッ!!!!」

 

あ…アルトリアオルタ!!!

 

うっかり自分も微笑んでしまったところを、最悪な女に見られた…

 

「む?あれはシロカ?」

後ろから話しかけてきたアルトリアはジャンヌの隣に並び、セレブに囲まれているシロカの様子を見る

 

「何をやってるんだ?」

「兎のモノマネよ。さっきここで飛び跳ねてたら投げ銭が凄いことになったのよ。金持ちって変なのばっかね」

 

起きたことをありのままに伝え、彼女からは自分の意見と同じのが返ってくると思っていたが予想外にも彼女は

 

「そうか?このようか場所ならシロカのような子は誰であろうと可愛がられると思うぞ」

「は?」

 

まさかセレブと同じ思考とは…いや、そういえばこいつは、アルトリアはブリテンの王。つまり金持ち…なるほどウマが合うわけだわ

 

「言っておくが私が王だったからと言って奴らと全く同じ趣味というわけじゃないからな」

「なっ!?ふ、ふん!!!そう思ってませんし!思ってないわ!!アンタの思い過ごしよ!」

見透かされたような答えにジャンヌは焦りまくりながら平常心を装う。しかし長年の付き合いである彼女からはバレバレである。むしろ何故これで隠しきれると思ったのだろうか

 

「…まぁ良い…つまりはな。あいつらの世界では普通の子供が珍しいのだろう。貴族の子でも御曹司でもなんでもない普通の子供が。あんなふうに無邪気に飛び跳ねる子供を見れば興味ぐらい湧くだろう」

 

へ…へぇ…金持ちの世界は独特なのね…

 

「・・・フッこのレベルの話、田舎娘では理解できんか」

「ッ!!燃やす!!」

頭にきたジャンヌオルタは右手に炎を生み出す…が生み出した途端

 

「う…っ…ぐっ……!…」

バニースーツが内側から締め付けてきた。あまりにキツい拘束にジャンヌオルタは膝をつき、息苦しそうに服を掴む

 

「おい、どうした?」

「服が…!!」

どうやら抵抗防止のために魔力を出すだけで拘束される小細工ありの服らしい。どうりでわざわざ元々着てたバニースーツから着替えさせるわけね

 

「ほら、気をしっかり持て。そんな拘束に倒れるほどやわな女ではないだろう?」

「…!!けほっ!けほっ!」

ようやく締め付けが収まった。まさかこんな仕掛けがあるとは…

 

「クソ…あのバニーガール女!!この服外したら宝具ぶち込んでやるわ!!」

「全く…まぁいい…私は飲み物を取ってくる。シロカ!戻ってきなさい」

 

「っ!!はーーい!!」

アルトリアの声に反応してシロカが走って戻ってきた

 

「飲み物を買う。ついてきて好きなものを選べ」

「え!買ってくれるの!?やった!!!」

「で、兎女。お前は何にする?」

 

…は?こいつもしかして私の分も買ってくるつもり?どんな風の吹き回しで?

 

「・・・」

「そう警戒するな。飲み物ぐらい買ってきてやる」

「そ、そう?じゃあ…あればレモンジュース…」

「レモンジュースだな?わかった。いくぞシロカ」

アルトリアはシロカを連れてジュースを買いに行く

 

「ねぇ!飲み物だけじゃなくてお菓子あるかな〜!あったら買って!!」

「いいだろう。好きなだけ選ぶといい」

「いいの!?アルトリア大好き!!!」

 

シロカ…笑ってる?…あいつさすがね。こんなカジノで上手くシロカを楽しませるなんて

 

 

「よぉ、いいケツの姉ちゃん。ちょっと俺たちといいことしない?」

「うるっさい!!寄るな!!!」

 

ジャンヌは男を蹴り飛ばした

 

 

●◆

 

アルトリアとシロカは菓子とジュースの購入を済ませた後、持ちきれないほどお菓子を持ってしまったので休憩室で数を調整していた

 

「…貰いすぎたな」

「うん…まさかお菓子もジュースも無料だったなんてね」

 

調子に乗ってあれこれ購入した結果ここまで痛い目を見るとは2人は予想にしてなかった。しかしカジノで暇を持て余してたシロカはアルトリアと2人でお菓子を食べるのも悪くない時間と感じていた。

 

 

それはアルトリアも同じだった。

 

 

「そういえば夜ご飯食べてなかったなぁ…」

「腹がすいたのか?」

「ちょっとだけ…あ!!!でもお菓子食べまくって夜ご飯食べれなかったらジャンジャンに叱られる…!!」

「一日だけならいいだろう、今日は楽しめ」

 

楽しめなかったんだよなぁ…

 

 

「うん?」

 

シロカは菓子を食べるアルトリアを見て目を擦る

 

ーー立香ッ!!ポッキーよ!!ポッキーで勝負するわ!

 

ーー順番待ちすらできんのか貴様は。立香は今、私と戯れている

 

 

「…?どうしたシロカ。」

「あれ?…」

 

シロカは立香と呼ばれる自分に非常に良く似た女性を相手に取り合うジャンヌとアルトリアの姿が見えた

 

立香と呼ばれる女性は本当に自分に似ていた。…いや、身長は違うが

 

ーーもう、落ち着いて2人とも。はい、チョコレート

 

「・・・」

 

笑顔で2つに折ったチョコレートを2人に譲った記憶を最後に、不思議なことは起らなかった。一つ言えるのはこれは自分の記憶とは絶対に違うことだ

 

なぜなら渡したチョコレートは今手元に持っているが、このチョコレートは生まれて初めて食べるチョコだからだ

 

「シロカ、大丈夫か?」

髪をかき上げて心配するアルトリアに一つの疑問をぶつけてみる

 

「アルトリア、聞いていい?」

「何をだ?」

「立香って誰?」

 

その一言にアルトリアは食を進める手をピタリと止め、こちらを向くシロカと目線を合わせた

 

 

 

 

 

 

 



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10話 バニー(師匠)

「立香って誰?」

「・・・」

 

シロカから予想外の言葉にアルトリアは内心かなり驚いていた。しかしそこは名のある騎士王。

表情を一つ変えず、感情を悟られることなくシロカに対してこう返す

 

「・・それは友達か?」

 

まず立香という人間から聞く。偶然に同性同名であるのならばそれに越したことはないと願いながらの質問だった

 

「違うよ。なんかねぇ…私に似てた」

「どこかだ?」

「顔。髪型も、あ!でも色は赤色だったよ。私の髪色白なのに」

 

紛れもなく藤丸立香その人だった。

 

何よりもシロカは藤丸について情報ひとつないはずにも関わらずここまで特徴が一致するのは不自然である

 

「そうか。お前に似てたのか…」

「ねぇ、立香って誰?エドモンにもそう言われたんだけど立香って私にとっての何?」

 

いつかこの質問がくるとは思っていた。心構えはできていたはず…だが…その時になるとやはり躊躇してしまう。

 

本当のことを話すか、誤魔化すか

 

 

自分の子でもあるシロカに嘘はつきたくなかった。自分を慕う子供に嘘をついてまで関係を続けていくなど愚かなのは分かっていた

 

 

「…私も夢で見た。その立香という女を」

「えぇ!?ホント!?」

「あぁ…お前も見たのだな。驚いたぞ、お前そっくりの女が出てきた時は」

「アルトリアも同じ夢見たの!?…じゃあ…私が見たのは夢?」

「・・・あぁ…」

 

 

しかしなんと答えたらいいのだ?

 

仮にお前は藤丸立香その人だと、世界を救ったマスターだと真実を告げたとする。

 

…それで?何が変わる?それを教えた瞬間、今までシロカとして生きてきたこいつは立香として生きることを余儀なくされる。

 

…いや、無理矢理にも藤丸立香として生きなくていい…しかしこんな子供に選択できるのか?

 

カルデアのマスターとして生きるか、このまま私の子として過ごすか

 

選べるはずがない。まずそもそも話の内容が理解できない。かけ算もまだ十分に理解できないのにカルデアについてどう説明すればいいのだ…

 

だが、私も私だ。カルデアのマスターとしてこいつが戻りたいと思うなら…

 

「よ、よかったぁ…私、私じゃないみたいで心配した…」

シロカは身体を震わせ、心臓に手をあてながら声を絞り出した

「っ!…安心しろ、お前はお前だ。そんなくだらん夢なんぞに動揺するな」

アルトリアはシロカを宥めるようにシロカの頬に自分の手を触れさせる

 

「えへへ〜ごめんちゃい」

「あまり気負うな。まだ不安が残るのならいつでも私を頼るがいい」

「うん!!!」

 

こいつには…まだ速い。今ではなくていいはずだ。

 

そうだろう?マスター…だがもしお前がカルデアのマスターを、いや、藤丸立香としての人生を捨てたいと願うなら…

 

「…そうすればいい」

「え?何が?」

「む?…あぁ…すまない、ただの独り言だ」

つい心の中で思うことをそのまま口に出してしまったアルトリアの言葉にシロカはキョトンとした。バカな子供だとしても話の脈絡ぐらいはわかるためであった

 

「アルトリア大丈夫?具合悪くない?」

「・・・」

 

表情は変えなかった、態度にも変わりがなかったはずだ…何故わかる?私の迷いがわかるのか?

 

…いや、悟られるほど隠しきれていなかったというわけか

 

「・・・シロカ」

アルトリアはシロカの頭に手を乗っけて

 

そのままデコピンをした

 

「いっっったい!!!何すんの!!」

「お前に心配されるほどでもない。ほら行くぞ」

 

デコピンをされて座ってる場所から転げ落ちたシロカはアルトリアに摘まれて、その場で立たされた

 

「えぇ…おんぶ!」

「断る。歩け。」

「はーい…」

 

渋々自分の力で歩き、アルトリアの隣に並んだ

 

「手は繋いでいいでしょ?」

「・・・」

 

アルトリアは何も答えなかった。答えなかったが自分の右側に並ぶシロカに右手を差し出した

 

シロカは笑顔でアルトリアの右手を握る。温かな手に心落ち着き、さっきまでの疑念は吹き飛んだ

 

「・・・♬」

「・・・」

上機嫌に歩くシロカを見てアルトリアは安心した。この子の笑顔を奪ってしまったかと懸念していたからだ。そのため真実を話さなかったことを心底良かった思っていた

 

(…シロカ、お前は好きに生きていいんだぞ)

 

何かを決意したかとのようにアルトリアはシロカの手を優しく握る

 

 

 

ーーーージャンヌオルタの待つ場所へ

 

「あれ?ジャンジャンいない」

「どこに行った?あの炎上突撃ウサギ女は」

ジュースを持って戻ってきた場所にはジャンヌオルタの姿はいなかった。

 

「もしかしてもうお金ヘンサイできたのかな?」

「大半返したにしても後1億はあるはずだぞ、あいつは何をしている」

 

2人が周りを探し出した途端聞き慣れた声で「ぴょんぴょん」と叫ぶ声が聞こえてきた

 

「ジャンジャンだ!!おーーい!!」

シロカはすぐさま反応し、ジャンヌの声がする方向へ走り出す

 

「…ぴょん…だと?」

ジャンヌオルタが絶対言わないセリフであろうものを聞いて半信半疑でアルトリアも後を追った

 

するとそこは広い個室だった。中には誰もいなく…いや、誰も近寄らない謎の空間と化していた。その場所にジャンヌはもちろん、1人バニースーツで槍を持った美女がジャンヌをしばいていた

 

「どうした!!その程度の声で真のバニーが務まるものか!!さぁもう一度!!心の底から叫べ!!」

「はぁ!?もうあんだけやったんだからもういいじゃない!!…いっだ!?なに刺してんのよ!」

「口答えは許さん、串刺しにされないだけありがたいと思え。次はその耳の揺れも指導してやる!」

 

そこにはジャンヌが紫色のバニースーツを見に纏う槍兵に調教と見間違うようなバニー修行を叩き込まれていた

 

「さぁ!!ぴょんっと言いなさい!!」

そう言って槍でジャンヌオルタの尻を叩く

 

「ぐぁ…ぁ…ぴょ…ぴょーん…」

「声がなってない!!もう一度だ!!」

「いった!!!…ぴょ、ぴょん…」

再びまた尻を叩かれる。その様子を見ていた2人は唖然としていた。シロカに至っては開いた方が塞がらない状態だ

 

「えぇ…ジャンジャン何してんの?」

「・・・」

表情を変えないアルトリアだが、内心ではかなりドン引きしていた

 

(な、なんだ…この絵面は…シロカに見せて良いものなのか?)

 

「・・・シロカはここで待ってなさい」

 

アルトリアは紫色のバニー女の肩に手をポンと置くと

 

「おい、そいつは私の連れだ、何を勝手にしている」

「む?」

「冷血女!?」

槍兵はアルトリアに止められ、尻を叩くのを中止する

 

しかし槍兵から色々やられていたところを見られていたという事実にジャンヌオルタは最悪の気分に陥っていた

 

「魔女を痛めつけるほど度量の小さい女ではあるまい、その槍をしまってはくれないか?」

「…貴方にそこまで言われて続ける理由はないな」

そう言うと槍兵はジャンヌを解放した。意外に聞き分けのいい人である

 

「ジャンジャンー!!」

シロカはジャンヌオルタに抱きつく

 

「ねぇねぇ、何されてたの?」

「意地悪い拷問よ」

「おやおや、人聞きの悪い言い方をするんだな」

 

槍兵はジャンヌに向かって笑顔を見せる。その笑顔は涼しい顔と凛々しさも重なって見る人によっては一発で恋に落ちてしまうであろう

 

「・・・この人だれ?」

ジャンヌの後ろに素早く隠れ、めっちゃ小声で紫バニーランサーについて聞く

 

「そういえば名前聞いてなかったわね、クラス名だけでも良いわ。教えてくれると色々助かるんだけど」

「それもそうか。名乗らない私に非があった。では…こほん…私の名はスカディ。今この者にバニーの心得を教えていたところだ」

 

 

・・・・それ真名なんじゃ…?

 

 

「あーー…いくらなんでも偽名としてケルト英雄の師匠の名を名乗るのまずいんじゃないの?」

「案ずるな。この名はれっきとした私の本名である」

「なおさら問題じゃないのよ!!!!」

 

サーヴァントの真名とは普通隠すものだ。その名から弱点の逸話など都合の悪いことを知られるわけにはいかないためだからだ

 

「ちょっと!!あんたしっかりしなさいよ!」

「知られたところで私がどうにかなる問題でもない。君たちも真名を名乗って生活しているのならば、あまり気になる事案ではないだろう?」

「いや…子育てに影響あると思って…」

「子だと?」

 

スカサハはジャンヌの後ろに隠れているシロカを見ると、再びジャンヌに問う

 

「もしや後ろの子供か?」

「そう、このバカよ」

 

(今日一日で私何回バカって言われたんだろう…)

 

「こらこら、自分の子をあまり罵るものではないぞ?親というものは子を正しく導き…」

「違う違う!私の子供じゃなくて!!」

「む?そうなのか?なら養子か?」

「あ…いや、・・・・」

 

答えに迷いが生じたジャンヌオルタは腕組みをしているアルトリアを「お前が説明しろ」と言わんばかりに睨んだ

 

「・・・プライベートだ。語る義務はない」

「それもそうだな。失礼したジャンヌよ」

「…まぁいいわ。よくよく考えたら、真名名乗って活動してんのって私達とアンタぐらいでしょうね」

「いや沖田もだろ」

 

・・・・・

 

「…た、確かに」

「確かに!!」

 

アルトリアの言葉に納得するジャンヌとシロカであった

 

 

「あ、あいつ…アホね…」

「あぁ…阿呆というよりは抜けていると言ったほうが正しいな」

 

 

 

 

ーー警察署にて

 

沖田はデスク上の整理をし終えた後、妙な寒気を感じ取る

 

「・・・なんででしょう、どこかで私の評価が落ちてる気がします」

「そりゃあこんな仕事をしていたら恨む人間も出てくるさ、それが分かって今の仕事してるんでしょ?」

「いや、そうですけど…なんででしょう…あまり考えない方が良い気がして来ました」

 

資料の整理を終えた後、沖田と斉藤は暇すぎたので警察署内で暇つぶしに色々会話していたのだった。まさかここで仲間としてまた会えるとは2人は予想しておらず、会話は思った以上に盛り上がった。しかし沖田は沖田で悩みがあった

 

「考えすぎても…私はもう少しすれば警察辞めるかもしれませんしね」

「えっと…マスターがうるさいんだっけ?」

「えぇ…帰る度に「警察やめて、私だけのボディガードになりなさい」と頼まれまして」

「サーヴァントとしては、それが普通なんだけどなぁ…まぁその子も沖田ちゃんにすごく懐いてるみたいだから自分にずっとかまっていてほしいんじゃないか?」

「まさか…魔術師としてかなり位の高い人ですし…

 

沖田のマスターは実のところシロカとあまり年齢が変わらないのである。斉藤は一度沖田が現在住む家に行ったことがあるため、知っていたのだった

 

「だとしても最近は別行動しすぎじゃないのかい?あいつにずっと任せっきりで警察のの仕事に没頭するのは誉められたもんじゃないよ」

 

しかし沖田に働いてもらってる分、斉藤が楽をしてるのも事実。そのため斉藤は皮肉などではなく一応仲間として沖田の行いを咎めた

 

一応なため口調は軽めだ

 

「私だってずっと側にいたいですよ〜でも令呪の影響のせいで警察の仕事が…」

「前のマスターがあれじゃあねぇ…」

 

 

 

ーーピロロン(電話の音)

 

「沖田ちゃん」

「あ!すいません!ありがとうございます斉藤さん!はいっ!沖田ですよ!」

 

斉藤は鳴り続ける電話を沖田に渡す

 

「え?あ、すぐに帰ります。…いやいやほんとですって、沖田さんは嘘はつきませんとも!……た、確かに前は遅れてしまいましたけども…あ!分かりました!分かりました!すぐ帰ります!帰りますからね!」

 

謝りながら電話を切った沖田は申し訳なさそうに斉藤に頭を下げて

 

「今日は早めに帰らせてもらいます!」

「いいよ。後は任せて。行ってあげな」

「斉藤さん…ありがとうございます!」

「あの子によろしくね〜…えっと…ま、マリ…オル?、……沖田ちゃんのマスターって名前なんだっけ?」

 

斉藤は頭を悩ませる、すると沖田は呆れた様子で答える

 

「もう何回忘れるんですか…」

「ごめんごめん、フルネームで覚えようとするからいけないのかな?」

「オルガマリーのどこが覚えにくいんですか。…あ!こんな時間!失礼します!!」

 

沖田は退出し、目に止まらぬ速さで帰宅していった

 

「さぁてと…何やら怪しい船があるらしいけど…調べてみる必要があるな」

斉藤は1つの資料に目を通し、そこには

 

シロカ達が乗ってる船の写真があった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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11話 贋作英霊達の過去話

 

 

スカサハから色々やられた後、ジャンヌ達は獅子王に呼び出された。まだ借金は返しきれてないと一時は拒否したのにも関わらず、彼女が直々に迎えにくるなど側近の兵士から見ても異例の対応をしてきた

 

「…何よ」

念のためシロカを抱き抱えながらジャンヌは話だけでも聞いておくことにした。アルトリアは2人を守るように1番獅子王に近い位置に来ると、スカサハに対して「何があるか分からないから離れろ」と耳元で小さく囁くがスカサハからは心配するなと返された

 

「そう警戒なさらず…見たところどうやらまだ借金は返済できていないようですね」

「…これから返すからアンタは帰りなさい」

「返す?何を言っているのです。今日はもう営業終了です」

「え、嘘!?」

 

違法で営業してる割に営業時間存在すんの!?

 

「それでは稼げんな。仕方ない。突撃女、腹踊りだ」

「そんなんで稼ぎたくないわよこのアンポンタン!!」

 

やばいあと1億とかそこらなのに…まさかこいつ…借金が残ってるところを見越して私達を拘束しにきたんじゃ…

 

「ジャンジャン…」

「アンタは心配しなくていいわ。私に任せなさい」

不安そうな顔で自分にしがみついてくるシロカの背中をトントンと優しく触れる。

 

「腹踊りってお腹冷えそうだけど、大丈夫?」

「しないって言ってるでしょうがこのお馬鹿!!!」

「いでででで!!!!!」

 

ほっぺをジャンヌにこれでもかというぐらいにまで引っ張られる

 

「踊りは自由ですが…見たところ貴方達はここで寝る場所すらないみたいなので私から直々に部屋の提供をしにきたのです」

「余計なお世話だ。帰れ」

獅子王を信用しきれないアルトリアは剣を向ける。しかしそれを気にもとめない獅子王は淡々と説明する

 

「貴方は正直どうでもいいですが、シロカさんの健康に支障をきたしてしまいかねないのは私とて許し難い状況です。なのでこのぐらいはさせていただきますよ」

「え!いいの!!」

シロカは獅子王の話を鵜呑みにする。まだ子供なので疑うことを中々しない

 

「バカ、どうせ馬小屋とか地下室とかろくでもないところよどうせ」

「きてみれば分かりますよ。もし気に入らないようでしたら申し付けください。すぐに変更しますよ『シロカ』さん」

 

あくまでシロカ優先なのね…

 

「おや、私は貴方にも興味ありますよジャンヌさん」

「げっ!?」

 

何よこいつ人の心読めんの…人の心分からなそうな顔してるくせに!

 

「貴方のことも知りたくなってきました。どうです?ジャンヌさんさえよければ私の部屋にご招待しますよ」

 

はぁ?行くわけないでしょ

 

私がそう言う前に予想外のことが起きた

 

どういうわけかアルトリアが獅子王の襟を掴み上げた。それも中々見れない険しい顔で

 

「・・・どういうつもりですか」

「・・・なんでもない」

 

すると獅子王の襟から放す。はん、ダサい奴。何がしたかったのか分からないですけれど

 

「では着いてきてください」

 

他に行く当てがないので仕方なく獅子王についていく

 

自分達は借金があるのでベッドさえついてくれれらそれでいいとジャンヌとアルトリアは頭の中で妥協していた

 

しかし目の前の部屋は自分達の妥協案よりも遥か斜め上をいっていた

 

「ひ、広い…」

「すごーい!!!!プールあるよ!ジャンジャン!」

 

シロカははしゃいぎながら走り回るが、2人は唖然としていた。なんと言ったってあまりにも部屋が広い上にそれが3部屋あるというのだった。プールもあり、温泉も完備されているこれ以上ないほど完璧な部屋だった。

 

というよりもはやこれは家である

 

「…どういう風の吹き回しだ」

「信用なさらないのですね。困ったものです。ですが…シロカさんには気に入ってもらえたようでよかったです」

「うん!!ここ好き!」

 

シロカのその言葉に獅子王は笑顔で応える

 

「それでは、何が困りごとがありましたらいつでも私にご相談を。いつでも駆けつけますので」

 

 

…夜遅くに電話鳴らしまくってやろうかしら

 

「ちなみにそこの2人に警告しますが、必要外の連絡をしてきましたらその時は覚悟してください」

「なんで心読めんのよアンタは!!」

 

「シロカさん、私はどんな時でも話し相手となります。寂しくなりましたらお電話を」

「ありがとう!でもジャンジャンとアルトリアいるから寂しくないよ」

 

そう言ってシロカは親代わりの2人の手を握る

 

「ふふ、そのようですね。それではゆっくりしていってください」

その言葉を言い残して獅子王は退出していった

 

ここで2人はある疑問をもつ

 

何故獅子王はここまでシロカに尽くすのか

何故獅子王は必要以上にシロカに甘いのか

 

この二つがかなり引っかかる

 

「あいつ…なぜあそこまでシロカに肩入れするのかしら…隠す気ないほどこの子に甘いじゃない」

「話によると最初にシロカに銃口を向けた兵士も容赦なく強制労働の処罰を課したらしい」

「なんなのよあいつ…シロカのために自分の兵士をそこまで裁く?」

「異常だな…くれぐれも気をつけろ。お前も狙われてるみたいだしな」

 

アルトリアの言葉にジャンヌはさっきのことを思い出す。

 

自分が誘われた時、アルトリアにしては珍しく考えるよりさきに行動に移したようなことをしていた

 

「・・・」

 

もしかしてこいつ…

 

●◆

 

「じゃあ電気消しますよ」

「はーい」

 

温泉に入り、身体を温めた後。疲労が溜まっていたのかシロカがやたら目を擦っていたため早めに寝ることにした。早めにと言ってももはや夜はかなり遅いのだが、2人はベッドの上でシロカを挟むようにして横になる

 

ちなみに3部屋もあるのに1部屋のベッドで寝るのはいつでも2人で戦えるように警戒をしているからである

 

珍しくもアルトリアとジャンヌと一緒に寝ることができることに嬉しく思っていたシロカだが

 

「・・・ジャンジャン」

「なんです?」

「なんで下着のままなの?」

 

一緒の布団の中とはいえ、ジャンヌの格好が気になるようだった

 

「これ?一緒に寝る時いつもこれじゃない」

「そうだけど…」

シロカと寝る時、ジャンヌは黒色の下着のままで寝ている。理由は単純に動きやすいからだった

 

「服用意されてるからそれ着ればいいのにと思って…」

「あいつの用意した服なんか着たくないからよ。ほら、早く寝なさい。眠いといっても明日は叩き起こしますよ」

「えぇーー!!」

 

ギョッとするシロカの表情とは違ってジャンヌはニヤニヤと悪い笑顔をしながらの言葉だった。

 

本人からすれば軽い冗談みたいなのだが

 

「やばい…こうゆう時に…私寝れない!!」

「困った子ね。さっきまで眠そうにしてた癖に」

「貴様が驚かせるからだろうがこの性悪女。仕方ない、今日は私がなんとかしてやる」

 

やれやれとした表情でアルトリアはバッグから本を取り出した

 

「その本は?」

「これは沖田の警察署にあった魔術に関する本だ」

「はぁ!?それまさか盗んだの!?」

「人聞きの悪いことを言うな。冤罪で拘束されたのだ。これくらい賠償してもらわんとな」

 

だが実際のところは特に気にしておらず、沖田のことはミリほども恨んでなどいない。とするとなぜ盗んだのかとなればシロカが魔術を習うことを見越してあらかじめ教科書となりうるものを頂戴していたのだった

 

「良い機会だな。元々シロカにはある程度の魔術は習得してもらうつもりだった」

「でもこの子にはちょっと早いんじゃない?」

「その通りだ。まぁある程度魔術がどんなものかは伝えるのも必要かと思ってな」

 

アルトリアがページをめくるとこほんと軽く咳払いをして本を読み上げた

 

「まず、魔術と言うのは…」

「くかーっ」

 

シロカは寝落ちした

 

「はやっ!?」

「・・・ふむ」

あまりの早さにジャンヌは驚き、脈まで確認するが、アルトリアは冷静に本を閉じてバッグにしまい、寝ているシロカの横に寝転んだ

 

「まぁいい。寝てくれてよかった」

「え、えぇ…でもまさか1行も耐えずに寝るなんて思わなかったわ…」

「こいつには魔術は向いてないかもしれんな」

「本当に藤丸なのこの子?前だって…」

 

 

 

●◆

 

1ヶ月ほど前

 

「・・・♬」

 

シロカはアルトリアが破壊した機械エネミーのコアを弄り回し、年相応とは思えない行動をしていた。

 

ガラクタを組み立てる遊びをしている日もあれば、ドライバーなどを使い、機械を解体したりするなど明らかに元魔術師とは思えない

 

「…ねぇアンタ、そんなのが本当に楽しいの?」

「楽しいよ。ちょっと触るだけで動きまわるし、今売ってるおもちゃよりもすごく面白い!アルトリアに後でありがとうって言わなきゃ」

「ふ、ふーん」

 

…立香は前はこんな趣味があっただろうか?

 

彼女は決して根っからの魔術師気質ではなかったがここまで機械に対して没頭するほどでもなかった。記憶を無くしたとは人はここまで変わるものなのか

 

「シロカ。」

「なに?」

「魔術って興味ないの?」

「・・・ジャンジャンが火出してるアレ?」

「ちょっと違うけれど…まぁ似たようなものです」

「へぇ…」

 

シロカの反応は薄かった。隠し事が下手くそな年齢もあって興味がないのが窺える

 

「どっちみち、私には無理だよ。だってバカだし…」

「魔術ってのは頭悪くても魔術回路ありゃ誰だってできんのよ。ほら立ちなさい!」

「あっ!掴まないでよ!」

 

シロカの後ろ首の服を掴み上げて立たせるとジャンヌは指に小さな炎を出す

 

「アンタにはこれくらい出してもらうわ」

「えぇ!?いきなり!?無理無理無理!!」

「泣き言は聞かないわよ」

 

ジャンヌからしても最初から炎を出すなどの芸当は期待していなかった。あくまで魔術に興味を持たせるのが目的であった。興味は持たせることができなくても昔の感覚が蘇るかもしれない…細い希望のようなものだったがジャンヌは確かめずにはいられなかった

 

「・・・」

「どうしたの?」

 

だがその願いに動かない。シロカは基本的に自分にとって珍しいものはなんでも欲しがるが、この反応を見るに魔術に興味がないのは明らかだった。

 

沈黙がしばらく続いた後、シロカはうつむきながら声を出す

 

「魔術わけわかんない…手から火なんて…出るわけないじゃん」

その言葉を言い放った後、逃げるように二階へ駆け上がっていった

 

「こ、こら!待ちなさい!」

ジャンヌは追いかける

 

すると目の前でシロカは足を滑らすと後ろに体勢を崩す

 

「うわぁぁぁぁぁ!!!!」

「シロカ!!!」

階段から落ちたシロカを私は頭をぶつかられる前に一瞬でキャッチする。いきなり落ちたことで混乱状態だったシロカも私の顔を見たことで自分が助けられたことを理解したようだ

 

「あ、ありがとうジャンジャン…」

「相変わらずどんくさい子ね。目を離せたもんじゃない」

「あはは…」

この子は勢いよく飛び出して行ったのにドジをしてしまったことに苦笑いをするしかなかったようだ。

 

私がいなかったらどうなっていたことか…

 

「でも…やっぱり魔術は…いや」

「ふーん…ま、いいんじゃない?アンタはアンタなりに自分のしたいことすれば」

「ジャンジャンは私に魔術学んでほしいの?」

「別に。似合いそうと思っただけよ」

「?」

 

藤丸立香を思い出すことができるから。なんてことは言えるはずがなかった。

 

「あ、魔術じゃないけど、やってみたいのはあるよ」

「あら?言ってみなさい」

「アルトリアって黒い剣でぶわぁぁってなるじゃん?」

「まぁそうね」

語彙力が壊滅的なところは気にしないでおくわ

 

「あの剣でバッサバッサやっつけていくのってカッコいいじゃん?」

「・・・そうね」

アルトリアが美しく剣を振るう様子を思い出し、不覚にも頼もしさを感じた自分の感情がモヤモヤとする。しかしその胸のモヤモヤ感を吹き飛ばすほどの言葉を聞くことになった

 

「あれやりたい」

「え?」

シロカは私の目を見てはっきりと自分の意見を述べた

 

 

「私、騎士になりたい」

 

 

●◆

 

「ってことがあったのよ」

「…なんだと?」

流石の冷血女も驚きの表情を隠せていないようだった。まさか立香が剣を振るえるようになりたいと思うとは。

 

「あいつ…『騎士』という言葉知ってたのか…?」

「どこに驚いてんのよ!?いくらなんでもバカにしすぎでしょう!!」

↑人のこと言えない

 

「だがまぁシロカが私の真似事をしたいのは分からんでもない。高火力で周りに大惨事を起こす突撃女に変わって私が戦うことが多いからな。お前よりも私の戦闘方法に憧れるのは必然というべきか…」

 

…確かにアンタが戦ってる間、私はシロカの護衛役といった役割が多かった。

 

アルトリアが攻め、私が守る。そのようなことをずっと繰り返していた

 

お互いに協力せざる負えない状況で長い間暮らしていたせいか今ではこいつに抱いていた苦手感情は前ほど出なくなった。

 

こうして同じベッドの上で過ごすぐらいはなんとも思わなくなってしまっていたのだ

 

「でもこの子に剣術教えて意味ある?この時代で」

「マスターは魔術で後方支援に専念してくれた方が安全なのだが…シロカが魔術に全く興味がない以上は剣術を鍛えさせていくしかないだろう」

 

そう、シロカは頭が悪いことに加えて興味がないものにはとことん無関心なのだ。馬鹿なくせにやる気がないため算数を教えるのには本当に苦労した…

 

勉強はもちろん興味を示さなかった。まぁそれには焦りはない。私とアルトリアも勉学は高いわけではなく、シロカを難関大学に入れようとなんて考えるわけもない。

 

しかし流石に足し算や字の読み書きはできた方がいいと思い、無理矢理頭に叩き込んでるのが現在である

 

「剣術…剣術ねぇ…一度逃げたのにもう一回やりたいって…」

「確かにあのときは弱音だらけだったが辞めるとは一言も口にしていなかったぞ?」

「続かせるわけにはいかないから止めたのよ私が。あのままいってたら確実に死んでたわよ、感謝なさい冷徹女」

「フッ、なめられたものだ。手加減など心得ている。むしろ力を制御できず、いらぬ炎を撒き散らしている脳筋女よりは上手く教えてやれる自信がある」

 

はぁ?言ったわね

 

「あんだけ泣かせといてどこが教育よ。所詮人の心なんて分からない無感情兵器にシロカは任せられないわ」

「できない事をできる事にするには苦労が伴うのは当然だ。お前の甘さはシロカを弱くする」

「はぁ!?甘いのはアンタの方じゃない!私がいくら夕飯前にハンバーガー食わすなって言っても聞かずに欲しいもの全部食べさせてんのはどこの誰よ!」

「腹を空かす娘を放置する親がどこにいる。貴様の料理の量が少なすぎるからわざわざ私の方に来るのだろう」

「あれだけ食べさせてまだ食わせる気!?あれ以上食べさせたら流石に太るから制限かけてんでしょうが!!」

「足りないから腹を鳴らしていることが分からんのか脳なし女。あれで太っていたら今頃は肥満体型だ。だがそうなっていないのはシロカには足りない量だということが何故分からん」

 

また突然にお互いは喧嘩をし始めた。シロカを挟んでいるため実力行使とまではいかないがバチバチとアルトリアとジャンヌは睨み合う

 

いるのがベッドの上でさえなければ船が沈没するまでぶつありあっていたことであろう

 

「う…うーん…」

流石にうるさすぎたのかシロカが目を覚ましそうになる

 

「やばっ…」

「静かにしろ。ただの寝返りだ」

シロカが目覚めそうになったことで私達2人は落ち着きを取り戻す。

 

前からこうだった。苦手感情はなくなったとはそれは敵対から協力に変わっただけに過ぎない。だからシロカ…もとい立香が関わっていないところだとすぐにアルトリアと衝突する。

 

「・・・」

「・・・」

 

なんとも言えない空気が出てくる。お互いに言いたい放題言い合ったせいで落とし所がなく、雰囲気を良くしようにもそれでは譲歩したとみなされ、プライドが邪魔して2人はとてもよりを戻せそうにない

 

 

「・・・まぁ…無感情兵器ってのは言い過ぎたかも…」

「…お前」

 

意外にも先に言葉にしたのはジャンヌだった。目線を合わせず、シロカの頭を撫でながら顔を赤くして言っていた。その様子はアルトリアから見ても驚きを隠せなかった

 

「私も…言葉が過ぎた…」

 

お互いが謝罪したのにも関わらず気まずい状態が続く。かつてないほどシロカが今起きててほしいと思ったことはない

 

「・・・カルデアにいた時もこんな感じだったわよね」

「あぁ…お前とは争ってばかりだった。それでいつも立香が仲裁に入ってきたな。あんなひ弱な身体で私達の間に入って」

「そしてアルトリアと私が間違えて立香殴って怪我させて、アンタと喧嘩してるはずなのに毎回立香が怪我をするのよね」

「…そうだな」

 

立香は決して私達に『強制』を強いることはしなかった。もし本当に喧嘩を止めるだけが目的とするならば令呪でも使えばよかったのだ。でも立香は一度も使わなかった。

 

いくら間違えられて殴られても嫌な素振りを見せずにずっと私とジャンヌの関係修復に力を入れていた

 

シロカもそうだ。冗談で令呪を使うと言う時はあるが本当に使ったことは一度もない。

 

「…フフッ」

「何がおかしいのよ」

「いや、まさかお前と昔話ができるとは思わなくてな」

「私もよ、私みたいな贋作英霊が思い出話できることが奇跡そのものですし。あーあ、こうゆう時に酒とかあればいいんだけど。」

「・・・1杯どうだ?」

「本気で言ってる?…のったわ」

 

2人は目線を合わせるとニヤリと笑い、ベッドから出るとアルトリアが高そうなワインを冷蔵庫から取り出し、ジャンヌはグラスを2つ持ってきた

 

テーブル椅子に向かい合うように座り、準備をしていく

 

「へぇ…いかにも高級品って感じがするわね」

「お前が暴れた場所がバーの一部だったみたいでな。そこから少し拝借してもらったんだ」

「いつの間に…アンタそろそろセイバーからアサシンにクラスチェンジしたら?」

「セイバー憎しオルタになんぞならん」

そう言ってコルクを開けるとグラスに注ぐ

 

「・・・酒でふと思い出したんだが…立香は酒に弱かったな」

「さ、酒?あいつあの時はまだ未成年でしょ?」

「…覚えてないのか?」

「覚えてないって…何を?」

 

え、本当に覚えてないんだけど。てかなんで前の召喚の記憶をアンタが持ってんのよ。

 

ちょっと待って思い出せない。その様子だと私が何かしたみたいじゃないのよ

 

「あれは深夜だったな。お前が飲みまくって潰れたあの時に立香とマシュがお前を運ぶために駆けつけた時だった」

「・・・あーなんだかそんな気が…」

「それで何を思ったのか知らないが急にお前がワインを立顔に無理矢理飲ませ、そのままベッドに連れ去って…」

「待った待った待った!!!!なにそれ!!なんにも覚えてないんだけど!!」

「交通事故起こした時の言い訳レベルだな。その後は酔った立顔が…いや、これは…」

 

は?なんでそこで言葉詰まるの?未成年を部屋に連れ込むよりヤバイことをしたってこと?

 

「言った方がいいか?」

「…お願い」

「そうか。なら結論から話せば酔った立香がマシュを襲って…」

「ストーーーーープ!!!!」

 

信じられない行動に思わず度肝を抜かれた。立香がマシュを!?

 

「襲うって言ってもあれだぞ。傷つけるのではなく口づけを交わしただけだ」

「それもっとヤバいじゃないのよ!!」

「別にいいだろう。マシュもそこまで嫌がってなかったからな」

 

おい、マシュ。それでいいのか

 

「・・・・で、私は?」

「・・・」

「私は何かやらかさなかった!?」

「・・・特に」

「なーんだ。良かったわ」

 

「・・・・・」

安堵するジャンヌを前にアルトリアはあることを隠していた。

 

お酒の飲みまくっていたジャンヌがそのまま何もしなかったという訳がなく…実のところアルトリアはその場にいたのである。

 

だから事の詳細を鮮明に知っていた

 

(あの時は驚いたな…たまたま通りがかっただけにも関わらずお前からキスしてくるとは…)

 

マシュが立香を相手している中、周りからの目線がマシュ達に集中している隙にジャンヌはアルトリアを部屋に連れ込むとキスをしたり、胸を触ったりなど結構爆弾行為をしていたのであった

 

 

しかし知ってるアルトリアは何も言うことはなかった

 

 

(流石に今こいつの感情を落とすのもな…)

 

ジャンヌがかなり安心しているところにこの事実は伝えにくかったのである

 

 

「それでは…」

「えぇ」

気を取り直して2人はグラスを持って乾杯をしようとした時だった

 

「ジャンジャン何してんの?」

そこにはシロカが目を擦りながらこちらの様子を見ていた

 

「あ、ごめん起こした?」

「うん…なんか頭痛くて起きたら2人ともいないからびっくりして…」

 

まぁあんな距離で口喧嘩してたらこうなるわよね

 

「あ!ずるい!!アルトリアとジャンジャンこんな時間にジュース飲もうとしてる!!」

「ジュースじゃない。ワインだ」

「わ…わいん…??…私にも飲ませて!」

「これは大人の飲み物だ。お前にはまだ早い」

 

この様子だとすっかり目が覚めてしまっているようだった。これは3人揃って昼まで寝そうだわ

 

「ほら、子供は早く寝ろ」

「2人ともずるいよ!私だけ仲間外れにして!!」

「冗談、冗談ですよ。はいこれ」

 

ジャンヌはグラスをもう一つ持ってくると、それにオレンジジュースを注いだ

 

「え?いいの?」

「その代わりちゃんともう一回歯を磨くのよ」

「やった!!!」

ワクワクしながらシロカは椅子に座ると、両手でグラスを持つ。ジャンヌは続いてグラスを片手で持つと、アルトリアに視線を向ける。

 

「これからは…3人一緒だ。共に聖杯を勝ち取ろう。乾杯」

「乾杯」

「かんぱーい!!」

 

カシャンと鳴る。

 

色々あったとはいえ、初めてアルトリアとシロカで飲み合うのは悪くなかった。

 

昔話にシロカ(立香)がついていけないのは複雑な気持ちだったけれど、私たちの過去話はシロカも楽しんでくれた。初めは現実を受け止められなくてこの子を気持ち悪がった時もあった。

 

でもそれは私の自己都合。シロカには何にも罪がない。罪がないこの子を他の奴らに殺させてたまりますか。

 

これからも誰にもこの子には指一本触れさせないわ。

 

…絶対に

 

 

 

 

 

 

 

●◆

 

 

 

「あ、いたいた」

 

3人で夜食を食べているところを見つけた1人の女がいた

 

黒いドレスを着ており、顔は趣味なのか、変装用なのかハサンの仮面を被っており見えない。

 

「これだけ広い世界だからもう見つからないと思ってた…だからこそ、これは…クククク」

 

女は昂る気持ちを抑えられない

 

「これは運命だよ。奇跡だよ。でなければこうこうも早く見つかるはずがない。そうだと思わないか?シスター(妹よ)

 

「・・・・ギギギ」

妹と呼ばれた少女はおぼつかない足取りで女の隣に座る

 

その見た目はかなり異質で、小柄な体格の割に背中からは自分の体の2倍以上のドス黒い手のような翼を生やしていた。

 

そして女と同じく仮面をつけて顔を隠していた

 

「今の君なら英霊一騎程度なら相手できるだろう。私がそうしたんだからね」

「グルルルル…グォォォォォォ!!!!」

女の気持ちに応えるように喉を鳴らし、全身から生やした腕を4本に増やすとオオカミのような雄叫びを上げながら船に向かって走り出した

 

 

「おやおや?まだ目的を伝えてないのに飛んでいってしまったか。やれやれ私も行かなきゃならないのか」

 

困ったような言葉を並べているが女はの表情はニコニコしていた

 

「会いたいな…シスター(私の妹)。お前は私と同じだ…感動の再会の前にあのカジノのオーナーが邪魔だね。あいつはなんでもかんでも知りすぎてる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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12話 SHR-4868 シャルシャリヤ

 

 

「・・・ん?」

「おいどうした」

「いや、なんか向こう側から変な奴がこっちに来ているんだが…」

警備兵達3人は上半身を左右に揺らしながら歩いてくる女に違和感を感じていた。

 

酔っ払いが絡んでくるのは別に珍しいことではないないのだが、今回はやたら敵意を剥き出しにしているように見える。

 

「なんだよまたカジノに負けて無敵の人間が生まれたのかよ…お前ちょっと追い返してこい」

「えぇ〜先輩が行ってくださいよ〜めんどくさいっす」

「いいから行ってこい。上司命令だ」

後輩警備兵は渋々了承し、嫌々ながらも威嚇射撃をしたりして女を追い返そうとする

 

「・・・なぁ、カジノに負けたと言ったよな?」

「?…まぁな」

「だったら何故船から出ていけるんだ?」

「それは…なんかしたんだろ」

「だとしても出戻りでここにいる奴なんて…」

 

この船は入ることは許されるが出るには出るための料金が発生する。博打としてここにきたものは大金を稼いで出ることができるか負けて地下で働くことを強制される

 

脱出できたのならもう絶対に戻りたくないはず…

 

「うわぁぁぁぁ!!!!!た、たすけっ!!、」

「っ!!おい!どうした!!」

 

後輩警備兵の叫びが一瞬でかき消された

 

「グルルルル…」

「・・・!!!」

 

2人は言葉を失った。目の前の女の異形な姿、そして、変わり果てた後輩の姿に唖然としていた。

 

「よくもー/」

 

怒りの感情を示す前に2人共々女の背中から出ている巨大な腕によって虫を潰すか如く始末される

 

 

「ギギギギ…ガァァァァ…」

「こらこらシャルシャリヤ。ダメじゃないか勝手に行っては」

「グラァァァァ!!!!」

 

ハサンの仮面をつけた女は彼女を静止する…が、その言葉を無視するようにシャルシャリヤと呼ばれた少女は腕を地面に殴りつけたり周りのコンクリートを破壊したりする

 

「はっはっはっ!!こりゃすごいや!私の言うこと全然聞かないな!!」

「ギシャァァァァ!!!!」

 

何故か満足そうに仮面の女は高らかに笑う。その時間にも変化は訪れる。狂いながらも破壊活動に傾倒するシャルシャリヤが、途端に動きをピタリと止めたのだ

 

「・・・」

 

その視界はシロカ達のいる部屋に向けられた。

 

「グルォォォォォォォラァァァ!!!!」

すると突然発狂しだしながらシロカ達のいる建物に向かって高速で突撃し始めたのだ

 

「ほほぉ…?居場所は伝えてないはずなのにまるで『感じた』かのようなスピードで正確に突進するじゃあないか。これはこれはまさか?…妹同士の引力で引きつけられているのかな?」

 

・・・

・・・

・・・

 

「まぁいいさ。ともかく、あそこに私の妹がいるのは間違いないんだ。シャルシャリヤ、頑張るんだよ?君こそ私達の妹を救い出せるんだ」

 

 

 

 

●◆

 

 

「何やら騒がしいようですね…」

アルトリア(バニー)は資料を整理した後、窓の外から警備兵達がいつもより何倍も重武装をして走っているところを目撃する。そして向かう先を確認すると警備兵達が1人の女の子によって薙ぎ倒されていた

 

 

「あれは…一体なんの騒ぎです」

「オーナー!!!」

1人のボディガードが扉を勢いよく開ける。獅子王の部屋にノックもしないで開けるという不敬を働いてしまっているが本人はそれを気にするほど余裕がなかったのだ

 

「大変です!謎の女が船に乗り込んで手当たり次第に暴れ回っております!警備兵だけでは太刀打ちできず…」

「…英霊ですか?」

「それに匹敵する力はあります。ですがあの見た目はとても…」

「…よろしい。なら増援を」

「オーナー!!」

 

慌てた様子でもう1人のボディガードが駆けつけてきた

 

「け、警察が!!警察が攻め込んできました!!」

「このタイミングで来ましたか。その様子ですとかなり攻撃的に来ているようですね。・・・貴方達は急いで増援部隊を率いて警官達を迎え討ちなさい。私は暴れ回っている困ったさんを相手します」

「了解です!!」

 

2人はその場を離れ、無線で増援部隊を集めると、警官達に向かって突撃していった

 

「その前に…シロカさんを避難させなければなりませんね」

 

獅子王は手元の写真を胸元にしまうとアルトリア達の元へ向かう

 

 

 

●◆

 

「5番隊突撃!!全員捕らえろ!!抵抗するなら射殺も構わん!」

「おぉ!!」

 

警官と警備兵が激しくぶつかり合う。英霊らしき者達も全面衝突しており、瞬く間に戦火が広がる

 

「全く…こんなところに犯罪者の溜まり場を作っておくなんてねぇ…」

斉藤は警備兵を3人即座に切り伏せるとおどけた口調で戦況を確認する

 

「…流石に五分五分といったところか。沖田ちゃんの隊と俺の隊を合わせても数は劣るな」

「こちらの数が少ないからなんというのです?1人10人殺せば勝てます」

 

既に帰宅しているはずの沖田が斎藤の隣に並ぶ。本人に怪我をしてる様子もなく、血も浴びてない様子だが刀の方は銀色の刃の面影がなく、人の血液による赤い刃となっていた

 

「・・・大丈夫かい?あの子も寂しがってるんじゃ」

「ご安心を。すぐに片付けてマリーを抱きしめますので…」

「うわぁ…これぶん殴られるどころじゃ済まないぞ〜」

「・・・承知です。この大きな戦いに隊長である私が参加しないわけにはいきません!!!」

 

そう言うと沖田は先陣をきって敵に切り込んでいく。英霊の数もなにも把握しないで突っ込むのは普段の冷静な沖田から想像もつかないが、沖田は割と脳筋なところがあるのだ

 

 

「やれやれ…俺もいきますかね」

 

●◆

 

「・・・うるさいわね」

 

外が騒がしい。祭りかなにかと思ったけどありえないわね。これは…悲鳴だわ。誰かが死んでる

 

「起きなさい、シロカ」

「えぇ…さっき寝たばっかだよ〜」

「今起きないと永遠に寝ることになるぞ」

先に様子を確認していたアルトリアは黒い鎧を見に纏うと、シロカを立ち上がらせて窓の外のカーテンを開ける

 

「どうだった?」

「警察の襲撃だ。大砲も使ってなりふり構わずここを攻撃している。じきに流れ弾が飛んでくるぞ」

「シロカ。早く着替えなさい」

「うん」

しかし寝ぼけて上手く普段着に着替えれない

 

「いいなぁ2人は。一瞬でお着替えできて」

「悔しかったらアンタも英霊になってみなさい」

「まかないが出るならなる」

「アルバイトでやってんじゃないのよ私達は」

 

そんなこんなで着替えることが成功したシロカを確認してからこの子を抱き上げて部屋から出ようとした時だった

 

「御三方。失礼します。」

「冷血兎女!?何しにきたのよ!!」

「静かに。今から貴方達を逃がします。ついてきてください」

要件だけを述べると獅子王は非常口は歩き出す

 

「信用できると思うのか?」

「貴方達2人はどうでもよいのです。私の目的はシロカさんの存命。その子を生かしたいのであれば迷わずきてください」

 

かなり疑わしいがシロカを守ることは私達と共通の目的らしい。…今はついていくことにしよう

 

「警察はお前を狙っているのか?」

「えぇ」

「なら獅子王がシロカから離れてくれればOKなんじゃないの?」

警察がこいつを狙ってるとするならばむしろこいつと一緒の方が危険だと思う。正直これ以上めんどうごとに巻き込まれるのは勘弁よ

 

「警察だけなら貴方達とは別行動をとるつもりでした。ですが警察の他にもどうやら危険な女が攻め込んでいるみたいでして…」

「危険な女?」

 

警察の他に攻めてきてる?単独で?

 

獅子王の言葉に引っかかっている時に天井からヒビの割れた音がした

 

「キシャァァァァァァ!!!!!」

「っ!!下がって!!」

獅子王に突き飛ばされると、突如天井が崩壊する。奇声を上げながら地面に勢いよく突っ込む女が少し見えたが、直後に砂埃のせいで姿が視認できない

 

「グォォォォ!!」

女の巨大な腕がシロカに迫る

 

「させん」

アルトリアが剣でその攻撃を真っ二つにして防ぐ

 

「グルルルル…」

「よそ見ですか…」

「ギィ!!」

一瞬アルトリアに集中してしまった女は顔面もろとも獅子王に蹴り飛ばされる。仮面は粉々に割れ、壁に叩きつけられる

 

 

「…びっくりした…なんなのよこの子供…」

「小さい身体で中々の怪力の持ち主でした。ですが…かといって英霊でもなさそうです…蹴った感覚がヒトのそれでした」

「人だろうがなんだろうと、危険な女というのはこいつで間違いないだろう」

 

あの状況で1人だけに意識を向けるのは素人以下の行動だ。百戦錬磨の英霊ならあんなミスは犯すはずがない

 

「ギギギギ…」

 

女が動き出す。ならばもう一度攻撃を加えようと私達は行動に移そうとするが、ここにきて私とアルトリアは動きが止まった

 

「お、おい。あいつの顔…」

「え?…」

 

シロカはここにいる。私が抱き上げている。なのに…目の前の金髪の女の顔は…

 

「私そっくり…」

「グルルルルルルルルル」

 

怯えてた様子でシロカが呟く。それはそうだ。獣のような女が自分と同じ顔をしているのだから

 

だが私達よりももっと表情が分かりやすく変わっていたのは意外にも獅子王だった。

 

目を見開いて、まるで空想の生物に会っているかのような顔をしてこう言い放った

 

 

「シャルシャリヤ…何故ここに…」

「シャルシャリヤ?こいつの名前?」

「えぇ…SHR-4868 個体名 『シャルシャリヤ』…ですが、彼女がここにいるのはあり得ないはず…どうしてここに?」

 

どうやら目の前の女の名前はシャルシャリヤというらしい。いちいち女と呼称するのも気持ちがアレだったから名前が分かったのは呼びやすくて助かる。

 

・・・でもなんで名前知ってんの?

 

あと…なに?その番号…

 

「ガァァォァァ…」

「なんという姿に………いえ、貴方にシロカさんはやらせません」

「グシャァァァァァァ!!!!」

 

どうやら獅子王はこいつを知っている。シャルシャリヤという女と何かあったのか知らんがとりあえずここを離れなければ

 

「ジャンジャン!!腕が!!」

「ぐっ…!!」

いきなり伸びてくる腕の防御に精一杯になる。燃やしてもいいけど腐っても立香と同じ顔なのが気になって本気が出しにくい…

 

「グルォアァァァ!!!!」

「御三方。私がこの子の相手をします。その隙にお逃げください」

「…恩に着る…いくぞ」

シャルシャリヤという立香に似た女は大した強さではないが、いかんせん足が速すぎる。ここで止めてくれるのはありがたい

 

「兎のお姉さんは?一緒に逃げないの?」

「お前の無事が最優先だ。いくぞジャンヌオルタ」

2人はシロカを連れて窓ガラスを破り、デッキへ降りる

 

「シャルシャリヤ…久しぶりですね…元気にしていましたか?」

「ガァァァァァァ!!」

「・・・・・貴方に何があったのかは…分かりません…。しかしここを通らせるわけにはいきません。シロカさんは『これから』にとって必要。彼女の命を摘ませはしません!」

珍しく声を荒げた獅子王。発狂しながらもシャルシャリヤは腕を4本に生やし、ラッシュを叩き込む

 

それをまとめて受けきり、蹴り上げ、獅子王は着実にシャルシャリヤを追い詰めていく

 

ブリテンの英霊とただの狂兵士では実力に差がありすぎた

 

 

「ググググ…」

「これで終わりです」

 

せめて苦しませる時間を少なくさせようと、近くにあった槍を手に持ち、心臓を刺そうとした時だった

 

「グシャァァァァォ!!」

「なに…!」

背中の腕を思いっきり床へ叩きつけると、床は崩落し、獅子王はすぐに別の足場へ避難することができたが、シャルシャリヤは奥深くへ落下していった。

 

(まずい…今のシャルシャリヤを見失うのは危険すぎます。この高さは通常の人間ならば即死するでしょうが私の攻撃でも怯む程度にまで抑えられたあの身体では確実に生きてることでしょう。そしてあの追跡能力…)

 

「不覚を取りました。急ぎ、シロカさんの元へ戻らなくては」

 

獅子王はアルトリア達が壊した窓ガラスから飛び降りる

 

 

●◆

 

 

 

シャルシャリヤから逃れた後、なんとか広いところまできたが…中よりも外の方が状況がかなり悪い。警察とカジノの職員達が銃撃戦を繰り広げていて今でも収拾がついていない。

 

変に戦力が拮抗しているせいでもはや規律もないバトルロワイヤル状態だ。これに英霊も混ざってるのだから危険すぎて洒落にならん

 

「!?か、課長!女性が2人出てきました!」

「なに?」

警察側の1人がジャンヌとアルトリアに気がついた

 

「私服だとしても敵兵士の可能性がある。早く撃て」

「で、ですが…子供も…」

「かまわん、子供でもサーヴァントの奴もいるんだ。射撃用意…やれ!!」

 

無数の弾丸がジャンヌ達に襲い掛かる

 

「ジャンジャン!!」

「…目を閉じなさい」

 

そう言うとジャンヌオルタは巨大な炎で弾丸を全て飲み込み、その余波で撃った警察隊を吹き飛ばす

 

 

「頭沸いてんの!?子供にも容赦ないのかしら!!」

「いや…あいつらには余裕がない。死傷者が増えすぎてまともな判断が下せていない。見ろ。全員の顔が復讐に囚われている」

「だからって国家権力が見境なしに人撃つな!!」

 

流れ弾が次々と3人を襲うが、アルトリアが全て剣で弾いてくれる。銃弾でシロカが倒れることはなんとか防げる

 

「船の外に出るぞ!飛び降りろジャンヌオルタ!」

「ちょ、ちょっと!周り海なんだけど!」

警察が攻め込んだことに動揺したのかは分からないが実は警察が乗った瞬間に船は出港し始めていた。警察の増援を断ち切る分にはいいが自分達から脱出ルートをも切ったのは褒められたことじゃないが…

 

「船にいるよりは安全だ。岸まで泳げ」

「クッソ…シロカ!鼻摘みなさい!」

「う、うん!!」

飛び込んだ時に海水が鼻に入らないようにするためにあらかじめシロカに伝えておく

 

「私が先行する。ついてこい」

 

後ろで銃声やら爆発やら色々起こっている。私たちはシロカを連れて海に向かって飛び降りた

 

 

…でも油断していた。

 

海にさえ出れば。ジャンヌオルタにシロカを抱えてもらい、自分が周りの敵を全員殺せば済むと考えていた。

 

しかし甘かった。

 

 

「うわぁぁぁ!!!ジャンジャン!!!!」

「えぇ!?」

 

飛び降りている途中を狙っていたのか。シャルシャリヤのと思われる巨大な掌がシロカだけを掴み取る

 

「シロカッッ!!!」

 

だ、ダメ…足場がない…足場がないからこのまま落下するしかない…シロカを助けられない!!

 

「じゃ、ジャンジャン…アルトリア…た、助けて…うわぁぁぁっ!」

シロカは2人の名前を叫びながらシャルシャリヤの腕に連れ去られる

 

「炎上女!」

アルトリアは急いでジャンヌの身体にしがみつくと

 

「私を蹴っ飛ばせ。その反動でお前だけでも船に乗れ!」

「…!。分かった」

 

考えてる余裕はない。私はすぐにアルトリアを踏み台にする形で船の上に乗りわシャルシャリヤの腕を追った

 

 

アルトリアは海に落ちた。しかし彼女はすぐにシロカを追うことはできない

 

「くっ…。下から大穴を開けるわけにはいかん。登っていくしかないな」

もしここで落ちたのがジャンヌオルタなら焦りと不安で船を燃やしかねない。

 

という理由でわざわざ自ら踏み台になった

 

「私もすぐに向かう…待っていろシロカ」

 

●◆

 

 

アルトリアの機転により素早くシロカを攫った腕の追跡をすることができた。私は今、腕を追いかけて全力疾走してる…けどこいつの腕どこまで伸びてんのよ!もう500mは走ったわよ!

 

「速い…でもシロカごと燃やすわけにはいかない…」

 

焦りのせいか魔力を放ちそうになるけど…冷静になるのよジャンヌ・ダルク・オルタ。

 

もしあの腕がシロカを殺すつもりならもうとっくに握り潰しているはず。それをしないということはあいつの目的はあくまで生捕り。

 

「まだ猶予はある…」

落ち着きを取り戻してきた…けど、これ以上好きにはさせないわ。アンタに私のマスターは渡さない!!

 

「シロカ!私を信じなさい!」

「っ!」

 

そう叫んでジャンヌはシロカを連れて行く腕に向かって剣を投げる

 

シロカを掴んでいる手に剣を当てればそのまま貫通し、シロカを殺してしまう。だからジャンヌは投げることは躊躇した。だが、今は投げた。

 

単純な話だった。ジャンヌは掴んでいる手に対しては攻撃を加えようとはしない。

 

現にその剣はシロカを横切り、伸び切っているシャルシャリヤの腕の関節に突き刺さったのだ

 

「グォォォォォォォ!!!!!」

痛みにより、掴んでいた手は放され、シロカは投げ飛ばされる

 

「よし、きた!」

 

ジャンヌは見事に受け止める。いきなりの衝撃で驚いたのか気を失ってはいるけれど命に問題はなさそう…

 

「ふぅ…」

 

そう、狙いはシロカを連れ去る際に曲がり角を曲がる際にどうして曲げなければならない腕の関節。そこならシロカを避けて攻撃することができる。そして動きをも止めることもできる

 

「ガァァァァァァ」

「良かったわ。アンタに痛みの概念があって」

「キシャァァァァァ!!」

シャルシャリヤは天井を突き破り、ジャンヌの目の前に現れる

 

 

「本体のお出ましね。関節に剣をぶっ刺さられて頭でもきた?」

「グルァ!!」

 

腕を10本に増やし、ジャンヌに襲いかかる

 

「無駄よ」

しかしシロカの安否を気にする必要がなくなったジャンヌは10本全て燃やしきったのだ

 

 

「グルルルルルル」

「チッ…背中から生やした腕には痛覚がないのね…」

 

ということはさっきの腕は本体の腕…つまり生やした腕じゃなくても本体の腕でも伸ばすことは可能ってわけね

 

「苦戦してるようだねシャルシャリヤ」

「・・・・・」

 

お互いに次の動きを見極めている中で、仮面をした女がシャルシャリヤの後ろに出現する

 

「あんた…誰よ!!!」

 

宙に浮いてる…何者よこいつ…サーヴァントじゃなさそうだけど…得体の知れなさは中々のもの…

 

 

「誰?うーん……名前は教えたくないから教えないが…そうだな。強いて言うならゼックのお姉さんってところかな?」

 

・・・は?

 

「ゼック…誰よそれ?」

「む?ZZZ-9999。個体名:ゼック。つまりその子だ」

 

「・・・・・」

 

ゼ…ゼック?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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