ダンジョンにリーパーがいるのは間違っているだろうか (ほっか飯倉)
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プロローグ



まごうことなき初投稿です。


 

 

 

ある日目覚めたら知らない天井だった。

 

そんな最近流行りの転生モノのラノベの導入みたいなセリフを言うことがあるだなんて思いも

しなかった。

実際、あの時はそんな手垢でべたべたな感想しか思い付きやしなかったし、まさか本当に転生していたなんてそれこそ考えてもいなかったのだけど…。

 

どうやら、俺は異世界転生というやつを経験したらしい。

 

 

 

 

さて、なぜ異世界転生などという眉唾なものだと気づいたかというと、赤ん坊なのに「前世」の

自分の記憶があったとか、服やら建物やらが異国情緒溢れるものだったとかだけの理由じゃない。

ある日、狩りから帰ってきた(らしい。両親と兄がそんな話をしていた)父さんが背負っていたものが、

すげーでっかい鎌だったからだ。

さすがにそんなものを狩りに使うのは地球ではあり得ないって。

 

 

閑話休題。

 

 

そんなこんなで年月が過ぎ、俺が読み書きを覚えるために読んだ絵本が、俺の人生を変えたのだ。

 

その内容は、良くある英雄譚。ただの農民の息子が、剣を取り、仲間を集め、強くなり、そして

悪のドラゴンを倒して財宝と名誉を得る、そんな話。

 

 

 

…正直、憧れた。あんな風に強くなりたい、って。

 

 

もともとその手の話は大好きで、前世でも勇者とか英雄とかになりたいと思ったことはあったのだけど、所詮は凡人だった俺はそうそうに何か「特別」な人間になりたいという夢を諦めた。

 

 

だけど、この世界なら。大鎌もって狩りに出かけるような世界なら。

 

そう思った俺は、父さんに話してみることにした。

 

「あのさぁ、父さん」

 

「何だ?何か分からないところがあったのか」

 

「もう少し大きくなったらでいいからさ、俺にあの鎌の使い方を教えて欲しいんだ」

 

「それはそのつもりだったが… つまり、お前はその本の主人公のようになりたいということだな。…本気か?」

 

バレテーラ。まあ、本を読んでる時にこんなこと言い出したらそう思うか。

 

「うん、本気だよ。英雄みたいにはなれないかもしれないけど、それでも強くなりたいんだ!」

 

「………そうか。なら、十三歳だ。十三歳になったら教えてやる。戦い方も、身体の鍛え方も、全部。」

 

「ホントに?やった、ありがとうッ!」

 

 

大鎌の扱いは教えてくれる予定だったみたいだけど、それにしてもこんなにあっさり許可がもらえるとは思わなかったな。十三歳が楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

数年後、十三歳になった俺は、父さんに様々なことを教わった。体力づくりのやり方、大鎌の扱い、戦いのいろは、他にもたくさん。それらの多くを身につけられた俺は、十五歳のある夜、父さんにこんなことを聞かれた。

 

 

「お前は、英雄のように強くなりたいと言っていたな。今もそう思っているのか?」

 

「えっ?もちろん。言っただろ、本気だって」

 

「昨日、母さんと相談してみたんだがな。迷宮都市に行って、冒険者になってみないか?そこなら、神の"恩恵"を受けることでヒトの限界を超えた力を手にすることもできる。他にも方法はあるが…」

 

 

迷宮都市、か。…うん?ふぁるな?

 

「もしかして、その都市の名前、オラリオっていうんじゃない?」

 

「良く知ってるな。本にでも書いてあったか?」

 

 

父さんの言葉にうなずきながら(もちろん嘘)、俺は考えた。

迷宮都市オラリオで"恩恵"で冒険者だって?もしかしなくてもここは「ダンまち」の世界なのか?

 

 

ーーー「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」。ただの一般人だった主人公が、育ての親である祖父の言葉を胸にダンジョンのある街で冒険者として生活する、といった内容のラノベであり、それの舞台となる街の名前が「オラリオ」というのだ。そして、そこでは神の血によって"恩恵"なるものを受けることで、超人的な力を発揮することができるようになる。

 

 

いや、異世界だなぁとは思っていたけど、まさかラノベの世界に生まれたとは思わなかった。でも、これはとても都合がいい気がする。時代にもよるけど、主人公くんと同じファミリア(俗にいうクランみたいなもの)に加入すれば強くなるための試練があるということがわかっているし、何より前世の俺はこの作品が好きだったんだ。原作のシーンを間近に見てみたいという欲もある。

つまり、

 

 

「是非とも行かせてくださいッ!」

 

「命の危険があるぞ。わかってるな。」

 

 

もちろんだ。そういう思いを込めて、しっかり目をみてうなずく。

 

 

「…実は、父さんたちはオラリオで冒険者をしていたんだ。結婚するために辞めてきたがな。お前の兄さんが産まれる前だから、もうだいぶ昔の話になるのか」

 

「えっ、そうだったの!?初耳なんだけど」

 

「聞かれなかったからな」

 

 

そんなお約束な返しをされるとは…。いやそんなことはどうでもいいのだ。早く家に帰って準備しなくては。

 

その旨を告げて家に急ぐ俺を、父さんが懐かしむようにみていたことにはまったく気付かなかった。

 

 

 

 

数日後、しっかり旅支度をととのえた俺は、家の出口で家族に見送られていた。

 

 

「向こうでもしっかり頑張んなさいね」

 

「家のことは僕と父さんに任せてよ」

 

「強くなるんだぞ。そのためには、自分以外の"強くなれる理由"というやつを探すんだ。俺のそれは母さんだった。…いってこい!」

 

 

母さん、兄さん、父さん。俺は、この家族のことを絶対に忘れないだろう。

 

 

「俺、向こうに着いたら手紙を書くよ。俺を育ててくれたこと、感謝してる。……行ってきます!」

 

 

ああ、もしかしたらこれが最後の会話かもしれない。

そう思うと、なんだか涙が出てきそうだ。ここまで感謝したことは、前世ではなかった。これは俺が目的をはっきりもって生きているからなのだろうか?

 

そんなことを考えながら、最寄りの馬車の乗り場へ歩く。…そう、きっとここから始まるのだ。俺の「英雄譚」が。

 

 

 

 




主人公…夢のためにあっさり命かけてるやべーやつ。ぶっちゃけ話思い付かなかったのではしょったけど、しっかり家族に愛されて育ち、また家族を愛している。ちなみに名前は次回の予定。


父親…元冒険者。夫婦共にレベル3くらいを想定してる。もう出てこないかも。

母親、兄…作者の技量不足にて、ひとつしかセリフがもらえなかったし、なんなら一瞬しか出てこない。ごめんね(泣)


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一話 リーパー、オラリオに立つ




今更なんですけど、自分、物書き初心者なんですよ。ですんでェ、こいつドヘタだな、とか思ったら、ごめんなさいネ!(イツ花並感)


 さて、あれから特に何事もなくオラリオに到着した訳だが、どうしようか。

 俺の記憶が正しければ、ヘスティア様は屋台でバイトしていたはずだ。来たばかりで地理なんか分からないが、大通りにあるだろう、多分。それならこの通りをまっすぐ歩いていってみようか。

 

 

 

 ……なんて考えながら歩いて、歩いて、歩いて、屋台を探して──

 

 ──いねえ!いねえじゃんどこにも!くそう、まだニートしてんのかあの神!……まあいいや、別にヘスティア様んとこじゃなきゃいかんわけでもないし、ギルドに行って入れそうなファミリア聞いてくればいいけど……なんか悔しいなあ……

 

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 

 

 ギルドの職員さん(ヒューマンの男だった)におすすめのファミリアを聞いてみたところ、いくつかのファミリアの名前と拠点の場所を教えてもらった。もちろん加入すべきは積極的にダンジョンに潜って活動する探索系ファミリアなのだが、大手のファミリアに入るのはなんか恥ずかしいし、つまり最適解は中堅どころかそこそこの規模、または小さめのファミリアとなる。つまり大手は緊張する。まあ最悪えり好みしてられないけど、最初に行ってみるファミリアはこの目標に従ってもいいだろう。

 

 というわけで、やってきました小さめの規模のファミリアの中で一番拠点が近かったファミリア、《カイロス・ファミリア》。

 

 

「たのもーっ、こちらのファミリアに入団したいんですけどー」

 

「……やあどうも、君は入団希望かな?」

 

 

 いやこれじゃ道場破りか?とか考えていたが、応対しに出てきた人物の顔……というか髪型を見たとたんにそんな思考は幾星霜のかなたにすっ飛んでいった。いや、顔はすんごい美形なんだけど。

 

 

「こうして扉をたたいてくれた以上、君を歓迎するよ。もし迷っているのなら、ぜひここにした方がいいだろう。なぜって、チャンスの神様には、この通り前髪しかないからね!」

 

 

 ここの神様かよ、この人、もといこの神。じゃなくて、そうなのだ。この神物の髪型、すごい長い前髪以外は全く髪が生えていないのだ。

 まあ、神様の髪型でファミリアを選びたいわけじゃないし、それにチャンスの神だっていうのならなんかあやかれそうだし。*1

 

 

「入団させてもらえるならぜひしたいんですけど、面接とかしなくていいんですか?」

 

「君からそれを言うのか……。試験がない理由かい?そんなの、私のカンさ!私のカンが君は問題ないと言っている、それだけさ」

 

 

 それでいいのか神様。確か神は下界で神の力(アルカナム)は使えなかったのでは?

 まあ入れてもらえるならいいけど。というか、毎回このノリで入団許可してんのかな。それならもうちょい人がいてもいいと思うんだけど……確か4、5人くらいしか登録されてなかったよな?

 

 

「一つ聞きたいことがあるんですけど、いつもそんな感じで許可してるんですか?」

 

「いや、そんなことないよ。ただ、私のカンがピンときた子しか入れてないだけで」

 

「だからファミリアの人数が割と少ないんですね、納得しましたよ」

 

「それもあって、うちの子たちはみな優秀な者ばかり。私の冴え渡るカンが自分でも恐ろしいくらいだよ、ナハハハハ!」

 

 

 自画自賛かよ……でも、自画自賛するほどの基準に合格したんだから、俺も期待していいのかな?

 いや、油断しちゃダメだ。努力しないと成長しないのは当然のこと。才能があろうがあるまいが、それは変わらないはず。

 ともかく、ここに入ろうと思う。そして、このファミリアで強くなるんだ。とりあえず、当面の目標は父さんを目指して頑張ろう!

 

 

「決めてくれたかい?」

 

「はい。このファミリアに入れてください」

 

「よし、歓迎しよう!君はたった今からカイロス・ファミリアの一員だ!……そういえば、君の名前は?」

 

「名前ですか?俺の名前はアイザック、アイザック・ハーケンです」

 

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 拠点内には誰もおらず閑散としていたが、内装はしっかりしていて居心地はすごく良さそうだった。誰もいないのは、おそらく全員ダンジョンに潜っているからだろう。もうすぐ夕方になるくらいの時間だから、そろそろ帰ってきてもおかしくないけど。さすがにそれぞれの個室は無いようだったが、それはまあしょうがないか。ある方が珍しいだろう。

 カイロス様の部屋に入ると、彼は恩恵を与えるための準備を始めた。

 

 

「服を脱いでそこの台に座ってくれ。…………さてと、始めるよ」

 

 

 言われたように服を脱ぎ台に座ると、カイロス様が背後に立ったのがわかった。そして、なにか温かいもの──多分彼の指──が背中に触れたとき、背中の方で柔らかな光がはじけた。ああ、これで俺も名実ともにこの神の子となったんだなぁ……楽しみだよ、自分のステイタスってやつを見るのが。

 

 

「うん?これは…………なんてこった」

 

 

 えぇ、なんか不安になるようなこと呟いてるんだけど。なんか問題があったのかよ……。そう思って尋ねると、彼はやりづらそうにステイタスを記した羊皮紙を渡してきた。

 

 

「あの、なんか問題でもあったんですか?」

 

「いや、問題というか、なんと言うか……まずこれを見てくれよ、君のステイタスだ」

 

 

 

 ──────────────────

 アイザック・ハーケン

 

 Lv.1

 

 力:I0

 耐久:I0

 器用:I0

 敏捷:I0

 魔力:I0

 

《魔法》

 

【】

 

《スキル》

 

魂寄吸収(アブソープ・ソウル)

 ・早熟する。

 ・Lvが上がるほど効果上昇

 ・敵と遭遇する確率上昇

 

 

 ────────────────────

 

 

 これは…………成長促進スキル!?なんか嫌な予感がするぅ……。

 しかもなんか厄い文面も見えるし……。

 

 

「最初からスキルが発現してるだけで珍しいのに、成長を促進させるスキルなんてのは聞いたことがない。だから、このことがほかの神に知られたら、君は面倒に巻き込まれると思う。特によその子どもたちのことをあまり尊重しないタイプのやつらにはね」

 

「そうですか……じゃあどうするんです?黙っておくんですか?」

 

「そうだね、このことは他言無用にしよう。子どもたちを信用しない訳じゃないけど、どっから漏れるかわかったものじゃないからね。ただ、この敵と遭遇しやすくなる効果は周知しておこうか」

 

 

 確かに。その効果を教えないままいつもの感覚で探索すれば、危険な状況になってしまうかもしれないし、そうしたほうがいいな。いやでも、具体的なアビリティを教えないにしても、俺が明らかに早く強くなっていけば怪しまれるんじゃなかろうか?

 うーん、こればっかりはなってからじゃないとわかんないしなぁ……まだあったこともない人たちのことだし、今から気にしてもしょうがないかな。

 

 

「そういえば、先輩方ってどんな方々なんですか?」

 

「うちの子たちかい?そろそろ戻ってくると思うから、その時に紹介しようか……っと、そんなこと言ってるうちに戻ってきたみたいだ」

 

 

 

「たっだいまぁ〜ッ、我輩、帰還ッ」

 

「あのねリズ、うるさいわよ毎度毎度」

 

「いいではないかクリス、我輩の熱い情熱を表現するにはだな―」

 

「だからそれが―」

 

「まぁまぁ、クリス落ち着いてよ。姉さんも声量抑えて」

 

 

 うっわ、予想の数倍個性的な人きたぁ……。

 拠点に入ってきたのは茶髪のエルフの女性と緑髪の猫人(キャットピープル)の男女だった。エルフの方はローブに杖とわかりやすい魔術師の格好をしていて、猫人の女性は軽装に弓、男性の方は盾と剣を背負っている。

 3人ともこちらに気づいてる様子はないけど、こちらから声をかけるべきなんだろうか?

 と悩んでる間に、先に神様がクリスと呼ばれていたエルフに声をかけてしまった。

 

 

「お帰り3人とも。クリス、団長はどうしたんだい?」

 

「ただいま戻りました、神カイロス。団長は換金の為にギルドによってから来ます。……それで、そこの方は?」

 

「この子はだね、先程入団することになったんだよ」

 

「どうもはじめまして、アイザック・ハーケンといいます。よろしくお願いします」

 

 

 などと、居間に移動しながら自己紹介を始める。さて、どんな反応が返ってくるのか怖いな……。さっきの口げんかが素だったらやだな……。

 

 

「ええ、こちらこそはじめまして、クリスティ・ニアックよ。というか、あたし達に対して丁寧に喋らなくていいわよ、あたしもそうする」

 

「む、新人か?我輩の名前はリズ・アード。それから―」

 

「ボクはルシアン・アード。リズ姉さんの弟なんだ」

 

「あとはもう一人団長がいるんだけど……そろそろ帰ってくる頃だと思うわ」

 

 

 団長かぁ、こんな人たちを束ねるんだから、すごい統率力のある人なんだろうなぁ。

 と、そんなとき、玄関のドアが開く音がした。これは多分、件の団長が帰ってきたのだろう。タイミングいいな、なんか。

 

 

「さっきからなんかタイミングいいですね」

 

「なぁに、これこそが私の神の力なのさ!」

 

「運がいいだけよ。神の力は下界では使えなくなるはずだし」

 

「ウッ、おっしゃるとおり……」

 

 

 ええ、そうなのかよ。一瞬期待して損したわ。じゃあさっきのカンってやつもほんとにただのカン?

 

 

「あなたはいつもいつもそうやって──」

 

「そんなことより、団長にあいさつしに行ったほうがいいと思うよ?アイザックくん」

 

 

 ルシアンさんの言うとおりだ。個人的にどんな人か気になるのもあるけど、向こうもあいさつに来られたほうが印象いいだろうし。そう思い、ちょうど居間に顔を出した人物に話しかける。

 

 

「どうも、今日からお世話になります、アイザックといいます!」

 

「おう、よろしくな。オレはアシュレイ・バイオネット。このファミリアの団長をやってる」

 

 

 団長は青髪のヒューマンだった。筋骨隆々という雰囲気ではないが、なんとなく頼りになる感じがする人だ。

 これで全員にあいさつしたということになるのかな?俺はどこまで強くなれるのだろう?それはすべて明日からの行動にかかっているのだ。そして、明日からの行動のためにまずやるべきことは──

 

 

「じゃあ、あいさつ終わったんで、冒険者登録してきますね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────────

 

「そういえば、ついでに手紙書くのにこのペン借りてもいいですか?」

 

 

 そう聞いてきたのは、先程冒険者登録しにきた少年だった。

 その紫の長髪で中性的な顔をした華奢な少年は、どこまで強くなれるか試しにこのオラリオに来たのだという。

 一応参加しているファミリアは新規のものではないらしく先輩からいろいろ学んでいきたいと言っていたが、少々心配である。こうやって話を聞いたのもなにかの縁ということで、この少年の担当をやろうか?

 ギルド職員 ガウン・エヴァンズ(34)は、そう決めながらペンを貸し出すのだった。

 

 

 

 

 

*1
そんなことないです。




おかしいな、一月かかったのに一話しかできてないだと……?
しかも全然リーパーである説明されてないし、クソ盛り上がらんし
家の手伝いとか自動車学校で忙しかったんです、許してください何でもはしませんけど。


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二話 初陣



なんなんですかね、あの自分の書いたの読んでてもつまんなく思える現象


 俺が習得した鎌の技は、基本的には刃で切り裂く、もしくは峰でド突く動きを組み合わせたものだ。父さんなんかはこれだけで大鎌のリーチを半径にした球形の攻撃圏(アタックレンジ)を持っていたし、俺自身も前面の半球くらいならなんとかなる。

 なぜこんなことを考えているのか?それは──―

 

 

「ッ、セェイッ!」

 

 

 ゴブリンの集団と戦っているからだ。……一人で。

 

 

 

 

 

 事の始まりは、一対一の状況でゴブリンを瞬殺してしまったことだ……と思う。あれから、ギルド職員の講習なるものを受け、ダンジョンに潜る許可を得たので、先輩方とともに向かい、そこでまず俺がどれだけやれるかという話になったのだが、一応、俺もある程度の訓練をしてきたので、ゴブリン一匹くらいならなんとかなってしまうのだ。

そのことについて聞かれたので正直に答えたところ、

 

 

「じゃあオレが引っ張ってくるから、複数相手にどんだけやれるか教えてくれよ」

 

 

……となったのだ。

 そこで団長がトレインしてきた二体だけなら良かったけど、俺のスキル──「魂寄吸収」──のエンカウント率上昇効果が発動しやがったのか、さらに追加で二体が現れたのだ。しかも先輩らは「危なくなったら援護する」と言うばかりで助けてくれないし……。

 

 そんな訳で計四体のゴブリンどもと戦うことになったのだが、一体だけなら楽勝でも流石に四体相手では厳しいものがあるかもしれない。一応、遠くの方から弓で狙っているのがさっきチラッと見えたけど、たぶんほんとにギリギリまで助けてくれないだろう。

 

 

「ハァッ、くらえ!」

 

 

 父さんに教わった通り、できるだけ背後を取られないように立ち回り、一匹ずつ減らしていく。先程一体倒したとき恩恵で強化されたこの身体なら一撃で叩き斬れることは確認済みだ。しっかりと間合いを取って、突っ込んで来たやつの首を刈り、そして味方が殺られて動揺しているやつの胴を薙ぐ。続けてその隣のやつの胸を貫き、引き戻すついでに飛びかかってくるやつを峰で押しのける。よし、これでトドメ……!?

 最後の一匹の首を叩き落としたところで、後ろから壁が崩れる音……つまり、モンスターが生まれる音が聞こえてくる。

 

 ヤ、ヤバい!慌てて振り向きながら後ろに飛びのき、構える。……が、たった今生まれ落ちようとしていたゴブリンは、壁から出てくる前に矢で頭をブチ抜かれ、魔石を残して消滅した。さっと振り向くと、リズ先輩が残心をしていた。いやつっよ!というか上手いぞ、リズ先輩。ゆっくりとはいえ動いてる的相手にヘッドショットとか……。

 

 

「お〜い、見たか、新人!我輩の弓の腕前を!」

 

「ちょっと、アイザックくんに当たったらどーすんのよ!」

 

「我輩が誤射したことがあったか?」

 

「これまではそうだけど──」

 

 

 なにやら言い合いをしている二人を尻目に団長がにこやかに笑いながら話しかけてくる。

 

 

「おい、一体瞬殺したからそんなに心配してなかったが、思ったよりやるじゃねぇか!」

 

 

 いやあ、先輩から褒められるってのはいいなぁ。昔はそもそも先輩に話しかけられるってことがなかったからな……。

 そういえば、どうして俺はいつまでも前世(むかし)のことを覚えているのだろう?

 

 

「大丈夫か?なんか急に考え込んだが」

 

「……いや、なんでもないッス」

 

「そうか?まあ、本人がそういうならいいけどよ。……よし、向こうも落ち着いたみてえだな」

 

 

 団長の言うとおり、リズ先輩とクリス先輩の言い合いはルシアン先輩がうまいこと仲裁してくれたみたいだ。ダンジョンのなかで言い合いなんてしててもいいのかと思ったけど、先輩程になると第一階層のゴブリンなんぞ油断しててもどうとでもなるのだろう。

 

 

「しっかし、恩恵ってやつは凄いですねぇ、まだ経験なんて積んでないのにかなり強くなってますよ、俺」

 

「まあ、お前の場合は元の技術がある程度しっかりしてたから経験値ゼロでもあんだけ上手くいったんだと思うけどな……。うし、新人の実力も見れたことだし、今度はオレ達の実力ってもんを見せてやるとするかぁ!」

 

 

 団長はそう言って、腰の二刀を叩いた。彼の得物は小剣二刀であり、それらを巧みに使って遊撃をこなすらしい。先輩方のレベルは全員2なのだと昨晩聞いたが、位階を上げた者の強さはどれほどのものになるのだろう。これから俺が目指し、そして越えていくべき壁であるのだ。それをより早く感じれるなら、それに越したことはないだろう。

 

 

 

 

 

 

 ────────────────────────―

 

 第一階層のモンスターでは流石に弱すぎるということで、やってきました第六階層。本来は中層*1の攻略を進めているのだが、俺という新人──早い話が足手まとい──がいる状況で、万が一があってもなんとかなると判断されたのがこの階層らしい。完全に戦闘から離脱しているなら話は別らしいけど。

 

 

「まあ、この程度の階層の敵なら楽勝だしね」

 

 

 とは、クリス先輩の言であるが……。確かに先輩方はここまで俺では勝てないようなモンスター相手に鎧袖一触といった戦いぶりだったし、やはり、まだまだ俺って弱いんだなぁ。これからは一人で来るべきか……。先輩方と一緒だと、いくら成長促進スキルがあるといってもなかなか経験が積めないだろうし、彼らの邪魔にもならないだろうし。サポーターって手もあるけど……。

 そんなことを考えているうちに、数体のモンスターが生まれ落ちてくる。確かアレは「新米殺し」と呼ばれるウォーシャドウだったか、そいつが五体、あとはフロッグ・シューターがいくらか。正直習った通りなら俺が四人いてもかなりヤバいとしか思えないが、この先輩方なら楽勝なのだろう、マジで。

 

 先輩方の布陣は、団長が先頭で遊撃、ルシアン先輩が次点で後衛の護衛、クリス先輩とリズ先輩が後衛でそれぞれ魔法、弓での攻撃である。今回もその役割をきっちり守り、まさに瞬殺、といった感じであった。

 

 まず団長が姿勢を低くし、その二刀を広げるように構えながら最も近い敵──ウォーシャドウに突撃する。そしてそのまま上体を起こしつつ、その勢いでX字に斬り裂き、さらにその次の敵に斬りかかって行くのだ。もちろん、相手もやる気のない兵士(ただのカカシ)ではない。向こうもその爪で、またはその舌でこの冒険者を殺さんとしてくるが、そのすべてを躱していく。

 

 その間、団長を無視してこちらを目標にしてくるモノもあったが、それらはルシアン先輩が鉄壁の盾捌きで完全に捌ききり、後衛まで敵を通さない。また、遠くから攻撃してくるフロッグ・シューターに対してはリズ先輩の弓が唸り、前方の乱戦の隙間を射抜き、確実に数を減らしていく。

 

 そして最後にクリス先輩の魔法だ。彼女の魔法の一つは炎の槍を飛ばすというもので、さらにスキルによって魔法の規模を拡張できるのだという。

 

 

「【魔導拡張!】【我に眠る妖精の血よ、森人の名の元に励起せよ】【この身の魔力を灼熱と変え、槍と成して敵を滅せよ】───」

 

「───【フレイムランサー・E(エクステンション)!】

 

 

 その炎槍は味方を避けながら残りの敵を焼き尽くし、このエンカウントを終わらせた。

すげぇ……きれいだ……。

 

 

「どうだった、私達の力は?……聞いてる?」

 

「いや、正直見惚れてたよ。団長は最前線にいたのに全く被弾してなかったし、ルシアン先輩は後衛まで敵を通さなかった。リズ先輩は前で乱戦になってたのに正確に弓を当てていたし、何より先輩の魔法、カッコ良かったし、なんか美しいって感じだったしなぁ」

 

「そ、そう?なんかそこまで褒められると恥ずかしいわね……」

 

 

 なんか興奮のあまりものすごいこと言った気がするけど、概ね本心のはず。ほんとにカッコ良かったし、尊敬すべき先輩方だと思う。だが、とりわけ惹かれたのは似たようなスタイルの団長でも、がっちり守れるルシアン先輩でも、先程助けてもらったリズ先輩でもなくクリス先輩だったのだ。

 というか、どっちかっていうと冒険者としてだけじゃなく、女の人としても惹かれてるかもしんない。ぶっちゃけ好みのタイプでもあるしな。

 ……俺は何を考えているんだ!?ちょっと興奮しすぎかもしんないぞ、これは…………。

 

 アホなこと考えてたせいでなんか恥ずかしくなってきた俺は、魔石回収の手伝いついでにこのあとの予定を聞くべく、団長たちの方に向かう。やっぱりしばらくはサポーターやった方がいいのかな?

 

 

「団長、手伝いますよ」

 

「おお、助かるぜ」

 

「これからどうします?戻りますか?」

 

「そうだな。お互いの実力も知れたことだし、こんだけやれば赤字にはならんだろ。一旦帰るか……それでいいか?」

 

 

 団長が、俺たちと同じように魔石の回収をしていたルシアン先輩とリズ先輩にそう呼びかける。返ってきた反応を見るに、彼らはその判断を了承したようだ。

 

 

「よし、クリスもそれでいいか?」

 

「えぇ、構わないわ」

 

「じゃあ、全員、帰還するぞ!」

 

 

 団長の号令を聞き流しながら、俺は今後の身の振り方を考えていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────

 

 

「ところで新人よ」

 

「何か用?リズ先輩」

 

「いやな、お前の名前、長くて言いにくいのだが、なんか愛称とかなかったのか?」

 

 

 帰途に着く中、リズ・アードはファミリアの新人であるアイザック・ハーケンにそう問いかける。彼女がアイザックのことを「新人」と呼ぶのは、名前を覚えていないのではなく一重に彼の名前が長い──少なくとも彼女はそう感じた──からであったのだ。

 

 

「いや、特にそういうのはなかったかな」

 

「そうかぁ、ないか……。ではザックとか、どうだ?」

 

「ザックですか……まあ、先輩が考えてくれた愛称だし、ありがたく頂戴するよ」

 

 

 アイザックにとってその響きはお荷物(ナップザック)を連想させる言葉であった。だが、彼は「他人に愛称をつけられる」ということを嬉しく感じたのだ。故に、少々の考え過ぎはなかったことにしてその名を受け入れる。

 

 

「よし!であるなら、我輩はこれからお前をザックと呼ぶぞ。他の者にも伝えるか?」

 

「あぁ、わかった先輩、頼むよ」

 

 

 アイザック改めザックとリズ、さらにその家族(なかま)たちは、各々の喜びとともに彼らのホームにも帰る。次の日もまた同じように全員で帰ることを願いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
十三階層以降、二十三階層まで






気づけばもう10月で、投稿したのはわずか3話。おかしいな、今頃完結してる予定だったのに……(大嘘)


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