のびハザ×ガールズ&パンツァー 英雄達と戦車乙女たち the heroes and battle tank girls (白石)
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設定
◇登場人物
野比 のび太 10歳(第一章)→11歳(第二章、第三章、第四章、第五章)
数々の大冒険を潜り抜けてきた少年。しかし、ひょんなことから日向穂島のバイオハザードに巻き込まれる。運動も勉強もダメだが、ここぞという時に機転がきく。性格は臆病だが、ここぞという時にはやる男。特技は射的と綾取りで、特に前者はプロの殺し屋と一対一でやり合っても勝つことが出来るレベル。普段は全く役に立たない特技であるが、それがのび太を生存に大きく関わった。ラクーンシティでS─ウィルス完全適合者となった結果、更に強くなった?。
ドラえもん
22世紀からやって来た猫型ロボット。過去改変は本来違法である筈なのだが、何故かセワシによって送り込まれた。普段ならば、あらゆる秘密道具が仕舞ってある秘密道具で問題を解決するが、本編開始時点では道具のほとんどを修理に出していた上に、タイムトンネルのあるのび太の家の2階が全焼してしまった為、ほとんどの秘密道具が駆使できなくなってしまった。
島田 響 32歳(第一章)
本作オリジナルキャラ。のび太が日向穂島で出会った島田千代の夫。研究者であり、プラーガに興味を持ったことで研究に参加したが、教団に危険な臭いを感じ取って脱退した。のび太と出会った後は彼らのサポートへと回る。
西住 みほ 11歳(第一章)→12歳(第五章)
教団によって拐われ教会に閉じ込められていたところをのび太によって救われた少女。日本戦車道の二大流派の1つである西住家の次女であり、云わばお嬢様という立場なのだが、その明るい性格はそれを感じさせない。ちなみにのび太と出会った当初のガルパン時系列はリトルアーミーの直前辺り。そして、その半年後にまたもや誘拐されるが、のび太によって救出された。
富藤 雪香 16歳(第一章)
赤いドラえもんが率いていた教団に属していた研究者の娘。父親が死ぬ原因になった教団を恨んでおり、日向穂島に潜入したが、のび太によって壊滅した為、そののび太を追う形でアンブレラの研究島までやって来て、そこでのび太と邂逅する。そこでのび太にみほの居場所を知らせたり、みほに対するプラーガ除去装置の操作を行ったりした。その後はのび太達と行動を共にする。容姿としては黒髪のセミロングに青い瞳といった感じ。
アリス・アバーナシー 27歳(第二章、第四章)
元アンブレラ特殊部隊の戦闘員であり、Tウィルス完全適合者となった女性。元々優秀な戦闘員であったが、Tウィルスを取り込んだことで超人的な強さになり、今では特殊訓練を受けた特殊部隊を圧倒するほどになった。
桜井 咲夜 12歳(第二章)
ススキヶ原バイオハザードの生き残りの一人。のび太より1つ上の学年であり、緑川聖奈、翁餓健治、白峰とはクラスメートだった。その後、ラクーンシティのバイオハザードに巻き込まれる過程でアリスと同じTウィルス完全適合者の能力に目覚める。
緒方 タカシ 12歳(第二章)
ガールズ&パンツァーでアリサの話に出てきた少年(ただし、名字の方は本作オリジナル)。ヘリの操縦スキルなども持っており、基本的に乗り物は戦車以外ならばなんでも乗れる。9月上旬からラクーンシティに留学していたが、それゆえにバイオハザードに巻き込まれた。
有宮 ノン子 享年11歳(第二章)
ドラえもんの赤い靴の女の子の話に出てきたキャラ(ただし、名字は本作オリジナル)。ネメシスに襲撃され、最期は幼い頃に会ったのび太に看取られながら死亡した。
アンジェラ・アシュフォード 8歳(第二章)
チャールズ・アシュフォードの娘。しかし、父親はケイン少佐によって目の前で射殺されてしまい、トラウマを残すことになった。
緑川 雪奈 8歳(第二章)
緑川聖奈の父違いの妹。のび太と同じS─ウィルスの完全適合者であり、アルビノという体質からか、白い髪に赤い目といった変わった容姿をしている。
久下 真二郎 享年26歳(第三章) 警察階級・・・巡査長(第三章)→死後・警部補
ススキヶ原バイオハザードの生き残りの一人。元々は普通のお巡りさんといった感じであり、少々情けない面も多かったが、警察官としての責任感は強かった。R市バイオハザードにて、原作無理のないバイオⅡの榛名の運命を辿るかのように、列車から自分ごとティンダロスを落下させて死亡した。
榛名 39歳(第三章) 自衛隊階級・・・三等陸佐(通常の軍隊で言うところの陸軍少佐相当。第三章)
中央即応連隊所属の隊員の一人であり、そこに所属する中隊長の一人。原作バイオⅡでは本作の久下の立場になる形で死亡しているが、本作では生き残る。
大鷹 20歳 自衛隊階級・・・一等陸士(通常の軍隊で言うところの陸軍一等兵相当。第三章)
中央即応連隊所属の隊員の一人であり、榛名の部下。入隊2年目にしてR市のバイオハザードに巻き込まれた。鉄オタであり、その知識は曲がりなりにも列車を動かすことが出来るほどのもの。
浪波 享年19歳 自衛隊階級・・・二等陸士(通常の軍隊で言うところの陸軍二等兵相当。第三章)→死後・陸士長(通常の軍隊で言うところの陸軍上等兵相当)
中央即応連隊所属の隊員であり、榛名の部下。入隊1年目にしてR市のバイオハザードに巻き込まれた。医学的な知識を持っており、医学的な資格も幾つか修得している。しかし、原作同様、死亡の運命は変わらず、本作ではティンダロスの襲撃を受けて死亡した。
満月 美夜子 15歳(第三章)
R市で出会った
島田 愛里寿 9歳(第三章)
島田流家元である島田千代の一人娘。今回は大好きなキャラクターであるボコをR市に買いに行ったことでバイオハザードに巻き込まれる。天才少女と言われており、その知識はトップクラスであり、その頭脳は出木杉を越える程。だが、自分にはないものを持っているのび太に憧れている。
剛田 武 11歳(第三章、第四章)
ススキヶ原バイオハザードの生き残りの一人。のび太の友人であり、クラスメートかつ大冒険を共にした戦友。R市のバイオハザードではテレビ局のゴタゴタを生き残り、終盤にのび太達の収容を終えたヘリが通りがかった事で、R市から脱出することに成功した。その後、マリアナ諸島にて翁餓健治の奪還が行われた際、サーシャを殴るという問題行動を起こした。
田中 安雄 11歳(第四章)→享年12歳(第五章)
ススキヶ原バイオハザードの生き残りの一人。のび太のクラスメートでもある。ススキヶ原バイオハザードでは途中拾ったM79グレネードランチャーを用いてバイオゲラスを撃破するという戦果を挙げる。そして、マリアナ諸島にて翁餓健治奪還作戦にも参加した。その後、Y町バイオハザードにて改良型T─ウィルスを諸に吸い込んでゾンビ化してしまった。
サーシャ 27歳(第四章、第五章)
USS(アンブレラ保安警察)の隊員の一人。マリアナ諸島にてのび太達の捕虜となった。Y町にてリシングスキー率いるUBCS隊に救出され、その後、UBCS隊や鳥柴と共に出木杉達と共闘する。
レオン・S・ケネディ 21歳(第四章)
ラクーンシティの生き残りの一人。警察官として配属される予定だったが、遅刻をした挙げ句、1日で失業した。その後、アメリカ合衆国特務機関に所属し、南米に派遣された。
ジャック・クラウザー 享年34歳(第四章)
アメリカ合衆国特殊作戦軍の兵士。原作オペレーション・ハヴィエでは深手を負いながらも生き残ったが、本作ではV・コンプレックス・ヒルダの攻撃によって死亡した。
緑川 聖奈 享年13歳(第四章)
ススキヶ原バイオハザードの生き残りの一人であり、のび太の学校の生徒会長。のび太達より1つ年上であり、桜井咲夜、白峰、翁餓健治とはクラスメート。だが、R市にてアンブレラによって拐われ、その後、南米のハヴィエの元に売り渡され、臓器を剥ぎ取られるという悲惨な末路を辿った。ちなみに緑川雪奈とは父違いの姉妹。
翁餓 健治 12歳
ススキヶ原バイオハザードの生き残りの一人。桜井咲夜、緑川聖奈、白峰とはクラスメート。R市にて聖奈と共にアンブレラに拐われたが、マリアナ諸島にて奪還される。
マヌエラ・ヒダルゴ ?歳
南米の麻薬王、ハヴィエ・ヒダルゴの娘。V・コンプレックス・ヒルダとの戦いで血を使い果たし、最後はのび太に看取られて塵となって死亡した。
白鳥 渚 11歳
白鳥珈琲という超有名ブランド会社の社長の次女。2つ上の姉が居る。
リシングスキー 35歳(第五章)
出木杉達を捕まえるために派遣されたUBCS隊の隊長。ブラックジョークや紅茶を好む。
エスター 32歳(第五章)
リシングスキー率いるUBCS隊の副隊長。主にコンピューターなどのハッキング能力に優れている。
リシーツァ 28歳(第五章)
リシングスキー率いるUBCS隊の隊員の1人。隊唯一の女性であり、ポジションは狙撃手(スナイパー)を担当している。
セイカー 24歳(第五章)
リシングスキー率いるUBCS隊の隊員の1人。寡黙な男であり、隊員の中では非凡な才能を見せる。
ヤノフ 18歳(第五章)
リシングスキー率いるUBCS隊の隊員の1人。隊の中では一番若い人材で、ロケットランチャーなどの火力部門の担当。
鳥柴 26歳(第五章)
アンブレラの人間でアンブレラ・ジャパンの職員の1人。リシングスキー達の道先案内人を行う。
出木杉 英才 11歳(第五章)
のび太のクラスメートであり、ススキヶ原の生き残りの1人。戦闘面はのび太には劣るが、指揮能力が優れている。
骨川 スネオ 11歳(第五章)
のび太のクラスメートであり、大冒険の戦友にして、ススキヶ原の生き残りの1人。主に機械などに強い。
源 しずか 11歳(第五章)
のび太のクラスメートであり、大冒険の戦友にして、ススキヶ原の生き残りの1人。のび太が好きだった人物であり、未来で結婚したいと思っていた程の人物。しかし、今は・・・。
◇物語の時系列
西暦1981年、榛名誕生。
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西暦1985年、リシングスキー誕生。
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西暦1986年、ジャック・クラウザー誕生。
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西暦1988年、島田響、エスター誕生。
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西暦1992年、リシーツァ誕生。
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西暦1993年、アリス・アバーナシー、サーシャ誕生。
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西暦1994年、久下真二郎、鳥柴誕生。
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西暦1996年、セイカー誕生。
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西暦1999年、レオン・S・ケネディ誕生。
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西暦2000年、大鷹誕生。
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西暦2001年、浪波誕生。
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西暦2002年、ヤノフ誕生。
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西暦2004年、富藤雪香誕生。
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西暦2005年、満月美夜子誕生。
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西暦2008年10月23日、西住みほ誕生。
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同年、緒方タカシ、桜井咲夜、緑川聖奈、翁餓健治誕生。
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西暦2009年6月15日、剛田武誕生。
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同年8月7日、野比のび太誕生。
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同年、有宮ノン子、田中安雄、白鳥渚誕生。
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西暦2011年10月24日、島田愛里寿誕生。
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西暦2012年、アンジェラ・アシュフォード、緑川雪奈誕生。
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西暦2020年6月~7月中旬、ドラえもん 劇場版。
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同年7月23日、バイオハザード0。
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同年同月24日、バイオハザード1。
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同年同月28日、本編第一章。
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同年9月~10月1日、バイオハザード2&バイオハザード3&本編第二章。
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同年9月~10月、ガールズ&パンツァー リトルアーミー。
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同年11月、バイオハザード ガンサバイバー。
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同年12月上旬、バイオハザード コード・ベロニカ。
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同年同月下旬、本編第三章。
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同年同月31日、アメリカ合衆国・対バイオテロ機関『FBC』発足。
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西暦2021年1月上旬~中旬、本編第四章。
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同年同月1月下旬~2月上旬、本編第五章。
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第一章 The Down
地獄の始まり
◇西暦2020年 7月28日 日本 東京 練馬区 ススキヶ原
日本の東京練馬区にあるススキヶ原。
そこには数々の冒険を経験した小学5年生の4人の少年少女と1体の青い猫型ロボットが存在している。
そんな彼らは3日間、とある無人島でバカンスを過ごして、今日、ススキヶ原の野比家に帰ってきていた。
「うわぁ~。すっげえ楽しかったぁ」
「あ~、やっとママに会える」
「いざ家族の顔を何日もみないとなると、恋しい思いをするものね」
ジャイアン、スネオ、しずかは戻ってきて早々、思い思いの言葉を口にする。
彼らもこの家に住むのび太やドラえもんに誘われて3日間のバカンスを楽しんだのだが、やはりどんなに楽しくとも、故郷を離れるというのは若干寂しい思いを感じてしまうのだ。
「でも、楽しかったよ。ありがとう、ドラえもん」
のび太はドラえもんに礼を言う。
今回、無人島でバカンスを楽しめたのは、ドラえもんがどこでもドアやキャンプ道具などを貸してくれたのが大きかったからだ。
彼が居なければ、そもそも無人島に行けたかどうかも分からない。
「いやいや、お安いご用だよ」
ドラえもんはそう言いながら謙遜するが、褒められるのは満更でもないようだった。
しかし、そこでのび太はあることを思い出す。
「あっ、ドラえもん。悪いんだけど、ちょっと忘れ物しちゃったから。もう一回、どこでもドアを使って良いかな?」
「うん、良いよ」
「まったく、のび太はおっちょこちょいだな」
そう言ってスネオはのび太をからかう。
のび太はうるさいなぁと言いながらも、ドアを潜って先程の島へと向かった。
「じゃあ、俺達は先に帰っているからな」
「うん、分かった。またね」
「ああ、またな」
「じゃあね」
「お邪魔しました」
ジャイアン、スネオ、しずかの3人はそう言いながらのび太の部屋から立ち去っていった。
「さて、僕もママに報告してくるか」
そして、それを見届けたドラえもんもこの家の住人であり、のび太の母親に帰ってきた事を告げるべく、下へと降りていった。
──しかし、彼は気づかない。
最初に5人がドアを潜った直後に、ドアの空間制御装置の部分が故障してしまったことを。
そして、のび太が先程までバカンスを楽しんでいた島とは全く別の場所に飛ばされてしまったことを。
更に、のび太が再び潜った直後、ドアの空間制御装置が完全に破壊されてしまい、どこでもドアは完全に壊れてしまったということを。
そして、のび太が地獄の空間へと放り込まれたということを。
・・・まあ、もっとも、そういった現象が無かったにしても、のび太が地獄の空間の放り込まれる事実は変わらなかっただろう。
何故なら、この街でも既に
◇日本 日向穂島
ここは日本の南東に浮かぶ日向穂島。
小規模ながら集落があり、駐在所も存在している小さな島である。
そんな島の南岸にのび太は居た。
「あれ?可笑しいな?」
のび太は何か違和感を感じた。
何か帰る前に見た島とは違うようなそんな感じを。
「もしかして島を間違えたのかな?・・・ええ!!」
のび太は島を間違えたのかと、どこでもドアのある筈の後ろを振り向くが、そこにどこでもドアは無かった。
見えるのは周囲に飛び散る丸太や青い海だけだ。
「ど、どこでもドアが無い!も、もしかして、ドラえもん。間違ってしまっちゃったの!?」
のび太は動揺しつつ、ドラえもんの(のび太もだが)おっちょこちょいな性格を思い出して、間違えてドアを閉まってしまったのではないかと疑った。
「それかドアが壊れたかのどっちかかな?どっちにしても最悪なのは変わりないけど」
のび太はそう呟きつつ、折角なのでこの島を探検してみようかとも思った。
「・・・折角だから、探検してみようかな?まあ、周囲を見た感じ、人が居るみたいだし、ドラえもんがなんとか見つけてくれるだろう」
のび太はそう言いながら、かつて無人島で10年近くの年月を過ごしたことを思い出すが、今回は周囲の様子を見た感じでは有人島だ。
なので、ドラえもんがなんとか見つけてくれるだろうし、見つけられなくとも、最悪、助けを呼べれば良いのだ。
のび太はそう思い、この島の探検を行おうと、島の奥へと入っていった。
・・・そこが地獄であることも知らずに。
◇
「あっ!家だ」
最初の海岸から少し奥へと入った後、のび太は一件の家を発見した。
のび太は鍵の掛かっていなかった家のドアのノブを握り、ドアを開けて中へと入る。
すると、一人の男性らしき後ろ姿を発見した。
「すいません!ちょっと、お聞きしたいことが」
のび太はそう言ったが、男性の反応はない。
「? あの──」
のび太は再度声を掛けようとした時、男は振り向いた。
しかし──
「アアアァァ・・・」
男はとても人間とは思えない呻き声を上げながらのび太を見ている。
「うっ。すいません。失礼しま──」
「アアアァァ!」
のび太が何か薄気味悪いものを感じて、家の外に出ようとした瞬間、男は突如として襲い掛かってきた。
「わあっ!」
のび太は悲鳴を上げながらも、慌ててそれを避ける。
しかし、男は尚も襲い掛かってきた為、咄嗟に机の上にあったゴンバットナイフを手に取った。
「く、来るな!」
のび太はそう言いながら、ゴンバットナイフの矛先を男へと向ける。
しかし、男の方はまるでそんなものが見えていないかのように再び襲い掛かって来る。
「アアアァァ・・・」
「うっ、うわああああ!!」
のび太は悲鳴を上げながら、男の体に向かってゴンバットナイフを突き刺した。
が──
「アアアァァ・・・」
「わっと!」
全く効いている気配がなく、むしろ、近づいてきた獲物に食い付いたかのように、口を開き、のび太を補食しようとする。
のび太は間一髪のところでそれをかわすが、ナイフを刺してもなんの効果も無いことに動揺してしまう。
「ど、どうなってるんだ!ナイフを刺しても効果が無いなんて!」
のび太は動揺しながらも、以前聞いたとある知識を思い出した。
(そ、そう言えば、人間は脳から体に命令を伝えて動いているって聞いたことがあったな)
のび太は学校では劣等生とも言うべきレベルの不出来な生徒であったが、こういうときに限って何故か頭の回転が普通の人より断然早くなる。
そうでなければ、秘密道具を使っているとはいえ、大冒険を潜り抜けられるわけもない。
もっとも、のび太がもっと冷静な思考を取れているならば、戦わずに逃げることも選択肢に入れることが出来ただろうが、あいにくのび太はそこまで冷静になることが出来ず、目の前の敵を倒すことしか考えられなかったのである。
そして、そんなのび太の思考が次の瞬間に考えたのは、あのナイフをどうやって引き抜くかだった。
幸い、のび太は子供であり、そんな人間が刺したナイフはそれほど深く突き刺さっているわけではないので、抜くのは造作もないだろう。
しかし、抜くためには当然のことながらあの男に近づかなければならない。
これらの事を男が再びこちらに襲い掛かってくるまでの短い間で瞬時に考えると、のび太は逆に男に向かって駆け出し、ナイフを素早く抜き取る。
そして、一旦、距離を取ると、とあることに気づく。
(しまった!僕の身長じゃ、あの頭まで届かない!!)
のび太の身長は年相応であり、残念なことに男は小柄であるが大人であり、のび太よりも身長は高い。
なので、これではゴンバットナイフは男の頭まで届かないのだ。
しかし、のび太はチラリとある方向を見る。
(あれなら・・・)
のび太がそう思っていた時、再び男は襲い掛かってきた。
しかし、のび太はゴンバットナイフを片手で持ちながら駆け出し、男の脇を通り過ぎる。
そして、椅子に乗り、そこから更に机に乗ってそのままジャンプし、男の上の空間へと飛んだ。
一方、男はといえば、この動きに反応できなかった。
何故なら、のび太の動きが早かったのに加えて、男の知能は低下していたのだから。
「おりゃああああ!!!」
そして、右手に持ったのび太のゴンバットナイフは重力の助けもあって、男の頭を貫いた。
◇
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ」
ひとしきりの戦闘後、のび太は大いに息を吐いていた。
元から運動が苦手だったのに加えて、急激な動きをしたせいで、アドレナリンの切れた戦闘後にどっと疲れが押し寄せてきたからだ。
「な、なんだったんだ?今の?」
いきなり襲い掛かってきた男。
とても人間とは思えない感じだったので、倒してしまったのだが、本当にその判断が正しかったのかどうか、のび太にも分からなかったのだ。
ヴヴヴゥゥウ
──しかし、残念ながらのび太にそんなことを考えている余裕はなさそうだった。
「気味が悪いな。急いで出ないと」
のび太は男の頭に刺さっていたゴンバットナイフを引き抜いて外へと繋がる扉を開けた。
だが、そこには──
「「アアアァァ・・・」
──地獄が待っていた。
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銃入手
西暦2020年 7月28日 昼 日向穂島
「はぁはぁ、どうにか逃げ切った」
あれからのび太はゴンバットナイフを片手に、どうにかゾンビから逃れてゾンビの気配がないこの広場までやって来た。
「あそこにも死体が・・・ん?あれは」
のび太は視線の先に死体が有った為、げんなりしそうになるが、何か光るものが気になってその傍まで歩いた。
そして、その光る物を拾う。
「銃・・・か」
それは一丁の自動拳銃──ベレッタM92──だった。
日本の警察で採用されている銃であるが、日本の警察官が主に装備するのはM60ニューナンブなので、ベレッタを装備する警官というのは珍しい存在だ。
だが、この倒れている死体の人物はその珍しい部類であったらしく、おそらく当人の物であろうベレッタを装備していた。
しかも、使った形跡があり、本来なら15発装填できるこの銃の中には13発程の銃弾しかない。
おそらく、相手に向けて撃ったが、結局、殺られてしまったというところだろう。
「無いよりはマシだよね?僕だって酷い目に遭っているわけだし。あっ、そうだ。ついでにマガジンが有ったら貰っておこう」
のび太は半ば銃を持つことを自己暗示によって正当化しながら、警官の死体を漁る。
すると、ベレッタのマガジンが3つと、先程のベレッタとは違う銃であるニューナンブM60拳銃と、その弾薬が10発程出てきた。
ニューナンブM60の方は前述したように、日本の普通の警官が装備している代物なので、ベレッタよりもこちらを装備している方が自然だ。
もっとも、どうして二種類の拳銃を持っているのかは謎だったが。
「こんなものかな。・・・・・・ごめんなさい」
のび太は一言そう謝ると、そこから立ち去っていった。
◇
「うわぁ、こんなに・・・」
先程の警官が居た位置から、少し歩いたところに島の村であろう町並みが存在したが、そこに居たのはゾンビの大群だった。
そして、ゾンビ達はのび太の存在を餌だと認知したのか、のび太の方へと向かって来る。
「く、来るなら来い!こっちには銃が有るんだ!全員やっつけでも生き延びてやる!!」
のび太はそう言うと、ベレッタM92をゾンビの方に構える。
まずやって来たのは8体のゾンビだったが、のび太はこれをそれぞれ眉間に弾丸を一発ずつ撃ち込むことであっさりと倒した。
のび太は言わずと知れた射撃の天才であり、このくらいのことは造作もなかったのだ。
次に少し開けた場所に移動し、そこにも6体のゾンビが居た。
のび太はこれを倒そうとしたが、5体まで倒したところでベレッタからカチッカチッという音がなる。
弾切れだ。
「しまった!?」
のび太はそう言いながらも、素早くニューナンブM60を引き抜いてゾンビの眉間へと叩き込み、そのゾンビを倒す。
「危なかったな」
のび太は深い息を吐きながらそう言って、周囲を警戒するが、見える範囲ではもうゾンビは居ない様子だった。
それを確認すると、のび太はニューナンブM60を仕舞い、空になったベレッタのマガジンを捨てると、弾丸が満タンになっている3つのマガジンの内1つをベレッタへと押し込んだ。
「・・・しかし、ゾンビだらけだな。生きている人間は居ないのかな?」
のび太はふとそう思った。
先程から探索した感じではのび太の知る限り、生きている人間は居ない。
だが、ゾンビの元が人間であろうことは容易に想像できるので、逆に言えば生きている人間も居るのではないかとのび太は思う。
しかし、それらの人間に頼るなどという甘い考えは抱かない方が良い。
こんなことになっている時点で、そういう人間達も苦しい状況にある可能性が高いのだから。
「取り敢えず、この辺を探索してみるか。何か使えるものが有るかもしれないし」
のび太はそう言いながら歩き出した。
◇
「生存者はなし。そして、見つかったのもベレッタとニューナンブの弾丸が幾つか。・・・あとはこれだけか」
のび太はそう言いながら、見つかった大型の銃であるショットガン・ベネリM3を握り締める。
あれからのび太は、この集落に残っていたゾンビを掃討し、改めて探索を行ったのだが、生存者は居らず、手に入ったのはこのベネリM3と銃の弾薬だけだった。
ちなみにこのベネリM3は、日本の警察や自衛隊でも採用されているショットガンであるが、猟銃としては普及していない。
なのに、何故このような民家に有るのか分からないが、それは気にしない方が良いだろう。
それを言うなら、先程の警官が二種類の拳銃を持っていたのも不自然なのだから。
そして、ベネリM3の装填弾数は全部で7発だが、先程一発使ったので、残りは6発だ。
予備の弾薬はない。
更にこの他にもベレッタのマガジンが2つと、ニューナンブの弾丸である38スペシャル弾が15発程が見つかっている。
これだけあれば、それなりの数のゾンビ相手がでも大丈夫そうに見えるが──
「なんか嫌な予感がするんだよなぁ」
のび太は冷や汗を流す。
のび太の大冒険の経験上、こういう命が懸かっているような時に限って、とんでもない化け物クラスの相手が出てきたりするのだ。
そして、今度はドラえもんの秘密道具はなく、自力で何とかしなければならない。
「せめて、これでなんとかできる相手だったら良いんだけど・・・」
のび太はベネリM3を見ながらそう思うが、それもまた期待できないなと思う。
ショットガンは複数の弾丸を一度にばら蒔くことにより、広範囲の面を制圧する兵器であり、近距離では無類の強さを発揮するし、複数の敵を一度に相手できる。
しかし、ばら蒔かれる銃弾である子弾の1つ1つの威力は拳銃と然程変わらない。
それでも弾丸が一度に複数、相手に押し寄せるというのがショットガンの強みだが、人間なら兎も角、化け物では何処まで通用するか分からない。
しかも、この銃はゾンビには殆ど効果がない。
なにしろ、ゾンビは頭に銃弾を叩き込むことでしか効果が無いのだから。
喰らわせれば転倒させるほどの効果を得られるとはいえ、頭にピンポイントに当てることが困難な以上、使える場所は物凄く制限されてしまうだろう。
ましてや、弾丸があと6発しかない。
「・・・なんだか考えれば考える程、邪魔に思えてきたな、これ」
のび太はそう思うが、現時点ではこれが一番威力の高い銃であることも確かなので、一応、持っていくことにした。
「あとは使えるものは無いかな?」
のび太はそう思い探してみたが、結局、ハーブや救急スプレーくらいしか見つからず、それらを集落に有った登山用のバッグに詰め込んだ後、それを背負ってこの場を去っていった。
◇
「あれ?何かここの棚だけ微妙に動いて・・・」
あれからのび太はまたゾンビを相手にしたり、弾薬を拾ったりして島の奥へと進んでいたのだが、そこで一件の家へと辿り着き、そこに置かれてあった弾薬やハーブを拾っていたのだが、探索していた時、奇妙な違和感を感じ、そこを調べていた。
しかし、のび太が詳しく調べようとしたその時──
「!?」
「わっ!」
その奥から、一人の男が現れた。
そして、その拍子にのび太は突き飛ばされる形で転ぶ。
「いたっ。なんだよ、もう・・・」
そう言いながら、文句を言おうとするのび太だったが、その時、男はなにやら叫んだ。
「くそっ!ここも奴等に見つかっちまったか!来るなら来やがれっ!ぶっ飛ばしてやる!!」
そう言ってのび太に銃を向ける男。
のび太は慌てて釈明する。
「お、落ち着いて下さい!僕はあの変な人たちとは違います!!」
「う・・・ん?なんだ、子供じゃねえか」
そう言われて、男はようやく気づく。
「え、ええ。それよりも、ここはどの辺なのかを教えて欲しいんですけど」
「はあ?何言ってんだ?ここは日本の南東に浮かぶ・・・!?」
しかし、男は言い掛けたところであることに気づいた。
「お、お前!その顔は・・・」
どうやら男にとって、のび太の顔は見覚えがあるものだったらしい。
その証拠に、のび太の顔をまじまじと見て、明らかに動揺している。
しかし、その時──
「───」
「・・・?今の声はいったい・・・」
のび太は突如として聞こえてきた声に、男に背中を向ける形で聞き耳を立てる。
「・・・」
しかし、男はのび太を見て何かを思うと、のび太の首筋に向けて、思いっきり手刀を喰らわせた。
「うっ・・・」
──そして、それに反応することができず、のび太はゆっくりと意識を落とす。
「・・・・・・すまんな、のび太。少しばかり眠っていて貰うぜ」
男は倒れたのび太に対して、そのような呟きを残した。
本話終了時ののび太の装備
武器・・・ベレッタM92(12発)、ニューナンブM60(4発)、ゴンバットナイフ
弾薬・・・ベレッタM92のマガジン2つ(30発)、38スペシャル弾(25発)
補助装備・・・救急スプレー2個、調合されたハーブ1つ
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T─ウィルス
西暦2020年 7月28日 夕方 日向穂島
「ううっ・・・」
先程とは違う場所で、のび太は意識を取り戻した。
そして、意識を取り戻した直後、辺りを見回してその事に気づく。
「・・・なんだここ?さっきとは違う場所だ。あれ?さっきの人は?」
のび太はそう思って先程自分を気絶させた男の姿を探すが、男の気配は何処にもない。
しかし、そこで傍に置かれてあった手紙を発見する。
「これは?」
のび太はそう言って、手紙を手に取って読み上げだが、そこにはこう書かれてあった。
『のび太へ
急に殴ったりしてすまない。だが、追っ手から逃れるためにひとまず気絶させてここに運ばせてもらった。時間がないので、手短に話す。お前は命を狙われている。ロス・イルミナドス教団という言葉に気をつけろ。俺の名前は響。ハンサムなプーってところだ。お互い生きていれば何処かで会うこともあるだろう』
手紙にはそう書かれてあったが、それを見たのび太は驚いてしまう。
「僕が命を狙われているだって!?こっちはまだここが何処かも分かっていないのに」
のび太は自分が命を狙われることに理不尽さを感じた。
確かに先程、ゾンビを倒したりしていたが、普通の人間は誰も死んでいない。
狙われる心当たりは全く無かったのだ。
「ろすいりゅにゃ・・・ロス・イルミナドスか。なんのことか分からないけど、気をつけないと。とにかく、早くここを出よう。響さんに話を聞きたい」
そう思うのび太であったが、その時、手紙の傍に2つの銃とマガジン、そして、手榴弾──M67破片手榴弾─が2個と閃光手榴弾──M84スタングレネード──が置かれてあるのに気づく。
「これは・・・響さんが置いていったのかな?」
のび太はそう思いながら、2つの銃を見る。
1つはコルトガバメント。
45ACP弾という45口径の弾丸を使用する大型自動拳銃だ。
製造されてから既に100年が経つが、未だに名銃として親しまれている。
自衛隊でも9ミリ拳銃が登場するまでは採用されていた拳銃でもあった。
そして、そのマガジンが3つ。
もう1つの銃はH&K MP5・サブマシンガン。
こちらもまた、H&K社が開発したサブマシンガンであり、傑作銃として知られている代物だ。
サブマシンガンの為、拳銃クラスの弾しか応用できないが、ショットガンを除けば、こちらのトップクラスの火力であることは間違いない。
もっとも、装填されている32発マガジンであるが、予備のマガジンはないため、いちいちこれに弾を込めなければならないが。
「・・・一旦、荷物を整理しよう」
荷物が嵩張ってきた為、のび太は一旦荷物を整理することにした。
まず拳銃だが、現在、のび太はベレッタM92、ニューナンブM60、コルトガバメントの三種類の銃を持っている。
しかし、この中で一番使いづらいのは、やはりニューナンブM60だろう。
なにしろ、最大5発しか装填できない上に、リボルバー式の為、再装填にはいちいち弾薬を直接込めなくてはならない。
これがマグナム銃とかであれば話は別だったが、残念ながらニューナンブM60は普通の拳銃である。
なので、のび太はニューナンブM60とその弾丸である38スペシャル弾を登山用リュックの中へと押し込み、代わりにコルトガバメントをニューナンブM60の在った位置に装備する。
ベネリM3は元々、ショルダーが付けられていたので、先程までと同様に肩に掲げ、MP5もショルダーが着けられていた為に、同じように肩に掲げた。
そして、手榴弾と閃光手榴弾もまたリュックの中に入れて、のび太は立ち上がる。
「さて、そろそろ行かないとね」
のび太はそう言いながら、荷物を持って建物の外へと出ていった。
◇日向穂島 アンブレラ研究所
「ここは、研究所?なんでこんなところに?」
のび太はそう思いながら、ここしか行く道が無いために、中へと入っていく。
しかし、中にも数体のゾンビが居た。
「ここにもゾンビが居るか・・・ん?なんだこれ」
のび太は本棚に目につくような白いノートのようなものが挟まってあったので、それを取った。
「これは日記か?なになに」
のび太はその日記を読む。
『牧田照棟の日記
くそっ、緑川研究員が栄転でススキヶ原に渡りやがった。女の癖に生意気だ。だが、俺は知っている。奴がアメリカで上のお偉いさんに体を売ったことで今の地位を手に入れたこともな。そのお偉いさんとの間に出来た
「・・・なんだ?これ?関係ないか」
のび太は日記をソッと本棚へと戻す。
見る人が見れば、どういうことか察しはつくのだが、あいにくのび太はそういうことに疎く、そういうことは全然分からなかった。
そして、また暫く探索したところで、机の上に置かれていたとある書類を見つける。
「・・・ん?これは・・・」
それはとあるウィルスに関する資料だった。
『アンブレラ極秘研究資料
・身体能力の変化
腐敗により、俊敏性・思考力は低下しているものの、腕力、脚力は感染前に比べて上昇の傾向あり。また一部の歯が牙状に変異し、咀嚼力が大幅に上昇。
・捕食本能の活性化
感染者の膨大なエネルギー消費を補うためか、捕食本能が大幅に働き、種類を問わず、主に肉類を貪るように食らうようになる』
「これ、僕を襲った連中と全く同じじゃないか。ということはT─ウィルスが原因なのかな?まさか、僕も感染していたりして・・・」
そこまで言ったところで、のび太は冷や汗を流すが、今考えても仕方がないと、取り敢えずその資料を持って部屋を出た。
そして、すぐそこにとあるロッカーが存在し、のび太はそこに寄ってロッカーを開けてみる。
すると──
「武器だ」
そこには42発マガジンが装備されたショルダー着きのステアーAUG A1・アサルトライフルと30発箱型マガジンが2つ、更にMK─3手榴弾が3つ、更にM79グレネードランチャー(通常弾頭装填)とその弾薬が5発(通常2発と焼夷弾2発と硫酸弾が一発)ほど存在した。
のび太は手榴弾と30発箱型マガジンとグレネードランチャーの弾薬をリュックに詰め込み、これまたショルダーの着いたステアーとグレネードランチャーをMP5やベネリM3のように肩に掲げる。
少し荷物が嵩張るが、それは仕方がないとのび太は諦めることにして、のび太はそれらの装備を持って研究所の外へと出た。
◇
「・・・誰の絵だろう?これ」
のび太は研究所を出て少し歩いた先にあった家へと入った。
そして、その部屋の中央に存在する紫のローブを羽織った絵を見ていたのだが、のび太にはそれが誰だか分からない。
いや、仮にのび太でなくとも、それが誰かと聞かれれば、答えに窮する人間が多かっただろう。
なにしろ、当人は紫のローブを深く羽織っており、顔が全く見えなかったのだから。
「・・・良い絵だろう?それ」
そんなのび太に、声を掛けてくる人間。
それはのび太からしてみれば、それは物凄く聞き覚えのある声だった。
「出木杉?」
「やあ、のび太君」
出木杉は何時も通り、爽やかな笑顔で声を掛けてきた。
ただし、その目は笑っておらず、のび太はそんな出木杉の様子に若干の違和感を抱く。
「なんで、ここに?」
「知る必要はないよ。早速だけど、君には死んで貰う」
「えっ?」
ドン!
出木杉がそう宣言した直後、出木杉はライフルの銃口をのび太の方に向けて発砲する。
しかし、その弾丸は先程のび太が見ていた絵に着弾したが、本来、その通り道に居る筈ののび太を貫くことはなかった。
のび太が今までの大冒険の経験を生かした反射神経でどうにかかわしたからだ。
「ちっ。今ので死んでくれれば良かったものを。余計な手間を増やさないでほしいな」
「や、止めろ!出木杉!!」
のび太は制止するようにそう言ったが、出木杉はそれを無視してのび太へと再び銃口を向ける。
しかし──
ガチャン!ドン!ドン!ドン!
「うっ!」
突如として二人の近くに有った窓が割れ、そこから銃弾が部屋の中へと飛び込む。
しかし、その弾丸は全て出木杉を狙ったものだったらしく、出木杉に数発の弾丸が掠り、出木杉は呻き声を上げる。
「ちっ、邪魔が入ったか」
出木杉は舌打ちすると、先程来た道を戻り、窓を割って強引にこの家から脱出した。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・何が起こったの?」
のび太は何が起こったのか分からず、一連の事象にただ呆然としていた。
本話終了時ののび太の装備
武器・・・ベレッタM92(15発)、コルトガバメント(6発)、ニューナンブM60(4発)、M79グレネードランチャー(1発)、ステアーAUG A1(36発)、H&K MP5(28発)、コンバットナイフ M67破片手榴弾2個、M84スタングレネード1個、MK─3手榴弾3個
予備弾薬・・・ベレッタM92のマガジン1つ(15発)、コルトガバメントのマガジン3つ(21発)、38スペシャル弾(25発)、グレネードランチャー5発(通常2発、焼夷弾2発、硫酸弾1発)、30発箱型弾倉2つ(60発)
補助装備・・・救急スプレー1つ、ミックスハーブ2つ、調合されたハーブ1つ、アンブレラの資料。
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闇の中の巨人
◇西暦2020年 7月28日 夕方 日向穂島
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ」
出木杉の狙撃から逃げ切ったのび太は、とある小屋へと逃げ込んだが、のび太本人はかなり疲れきっていた。
無理もないだろう。
なにしろ、なんの前兆もなく、このような地獄に放り込まれた上に、自分は命を狙われていて、更に知り合いまで銃口を向けてくると来ている。
大人でもあまりに理不尽だろうと感じるであろうこの状況に、本来なら小学生であるのび太が耐えきれるわけもなかったのだ。
もっとも、彼には普通にはない経験があったお蔭で、ここまで生き残れたが、精神的な疲れはどうにもならない。
「しかし、なんで僕の命を狙ってくるんだろう?」
のび太はその点に首を傾げる。
自分にそれほどの価値があるとは思えなかったのだ。
まあ、もっとも、のび太の大冒険による活躍は命を狙われても仕方がないと言えるほどのものなのだが、それをのび太は自覚していなかった。
「・・・でも、ちょっと疲れてきた。少し眠ろう」
のび太はそう言って、小屋の床に横になり、1秒も経たないうちに、死んだようにぐっすりと眠った。
◇同日 夜 某所
「サドラー様、それが例の子供ですか?」
「そうだ。これが我々の夜明けへの鍵となる」
サドラーと呼ばれた男は、そう言いながら口元を歪める。
「よく眠っていますね」
「今のうちに種を植え付けるのだ。せめて夢見のうちに終わらせよう」
◇
ドン!ドン!ドン!
グワアアアアア!!!
バタッ
「ふぅ、やっと倒した」
のび太は戦いによって発せられた汗を拭いながら、たった今自分が倒した存在を見る。
「しかし、なんなんだ。こいつ?明らかに普通のゾンビと違うぞ」
先程まで眠っていたのび太は、外が真っ暗になっていることに気づき、慌てて行動して眠っていた小屋を出たのだが、その矢先にこの存在と出くわしてしまったのだ。
遠目で見れば普通のゾンビにも見えなくはないが、普通のゾンビと違って走る上に肌も赤く変色しており、腕のツメもかなり長く、もはや人間の形を留めていない。
・・・とてもではないが、普通のゾンビとは到底言えないだろう。
「ゾンビの変異体か何かかな?」
のび太は何気なくそう呟いたが、この発言は的を射ていた。
この化け物の正体の名はクリムゾンヘッド。
T─ウィルスによって発生したゾンビの変異体の
また、凶暴性もさらに増しており、自らの行動を妨げる生物に対しては、たとえ人間以外であっても攻撃する。
更に、のび太は知らないことだが、このクリムゾンヘッドは、つい4日前にアメリカのアークレイ山地の洋館でラクーンシティの特殊部隊であるSTARSと交戦していた。
「・・・それにしても、いよいよヤバくなってきたかな」
のび太は周囲を見渡しながらそう思った。
既に辺りは真っ暗になっており、視界がかなり悪い。
この上に、このような化け物が出現したとなれば、ヤバイと思うのも当然だろう。
「・・・いやいや、弱気になっちゃダメだ。必ず生きてドラえもんにまた会うんだから」
のび太は改めて弱気になった心を締め直すが、やはり不安な気持ちは払拭されなかった。
しかし、それでものび太は進んでいく。
それしか生き延びる道が無いのだから。
◇
「・・・ん?」
途中在った洞窟を抜けて、再び夕方に来た広場に戻ってきたのび太は、そこでとある死体を見つける。
「これは・・・あの時の犬じゃないか」
それはのび太がゾンビと遭遇する前に、罠に掛かっていたところを助けた犬だった。
「酷いな・・・」
何か大きな爪のようなものに切り裂かれたらしく、その死体から臓器がはみ出ている。
その惨たらしい死体に、既に死体を見慣れてしまったのび太も眉をしかめた。
「いったい誰がこんなことを・・・」
ウウゥ
のび太が何かを言い掛けた時、小さな呻き声のような声が聞こえた。
そして、のび太はそちらを見た。
「・・・」
その先はただの暗闇だった。
しかし、何かが居る。
のび太は直感的にそう感じた。
そして、のび太の直感を裏付けるかのように、“それ”は姿を現す。
オオオオオォオオ
現れたのは、人体模型のような様相をした3メートル級の巨人だった。
「ッ!?」
のび太はそれを視認した途端、ステアーAUG A1の銃口をそちらに向けてフルオートで発砲する。
殺到する5、56ミリNATO弾の嵐は、人間であれば穴だらけにされ、防弾チョッキを着ていたとしてもただでは済まない攻撃だ。
しかし──
(効いていない!?)
その巨人──タイラント──には効いている様子がなかった。
やがて装填された28発の弾丸は撃ち尽くされ、ステアーの弾倉は空となる。
そして、タイラントはのび太の方に近寄ってくると、その大きな爪でのび太を切り裂こうとした。
慌てて回避しようとするのび太だったが、それが間に合わないと判断すると、弾倉が空になったステアーを盾にする。
ステアーはへし折られるが、そこで攻撃の勢いは切れて、のび太に届くことはなかった。
この時、のび太にとって幸いだったのが、このタイラントが出来損ないであったという点だ。
そうでなければ、のび太の体は銃ごと切り裂かれていただろう。
そんな幸運もあり、タイラントはのび太に対して隙を作ってしまった。
そして、その隙を突く形で、のび太は一旦距離をとる。
(あれは拳銃なんかじゃダメだ。やっぱり、これを使うしかない!)
アサルトライフルが通用しなかった以上、それより劣るサブマシンガンや拳銃の弾丸など、まず通用しないだろう。
となると、残るはショットガンかグレネードランチャーしかないわけだが、残念ながらショットガンの弾丸は先程全て使いきってしまっている。
となると、やはりグレネードしかない。
のび太はそう思い、M79グレネードランチャーの砲口をタイラントへと向けた。
「喰らえ!」
のび太はそう言いながら、M79グレネードランチャーの引き金を引く。
そして、発射された40×46ミリグレネード弾はこれは偶然ではあったものの、タイラントの心臓たる左胸へと向かっていき、そこで爆発した。
ウウウウウウゥウウ
そして、タイラントは倒れて動かなくなった。
「・・・とんでもない化け物だな」
弾が無くなったM79グレネードランチャーに弾薬(通常)を再装填しつつ、のび太はへし折られたステアーAUG A1を見ながらそう呟く。
結果的にこちらの強力な武器の1つであるアサルトライフルを失ってしまう結果となったが、その程度で済んで良かったとのび太は心底思う。
「とにかく、一刻も早くここから離れないといけないな。でも、何処へ行こうか」
のび太は使い物にならなくなったステアーAUG A1をショルダーごとその辺に放り捨てながら、これからの行動を少しだけ考える。
今の状況は最悪だ。
島は何処もかしこも化け物だらけ、武器は消耗している上に、先程、有力な武器の1つであるアサルトライフルすら失った。
しかも、今の時間帯は視界の効きづらい夜ときている。
はっきり言って、これ以上の最悪はないと言えるほど、最悪な条件が揃いまくっていた。
「取り敢えず、適当な建物を見つけて・・・ん?」
のび太はそこで壁に張られてあった貼り紙を見つけた。
「あれ?さっきはこんなの有ったっけ?」
のび太はその貼り紙を見るが、まだ紙自体はまだ新しく、おそらく貼られてそう時間は経っていない様子だった。
そして、のび太はその張り紙の内容が気になって読んでみる。
そこにはこう書かれてあった。
『~適合者の捕獲完了~
熊本から誘拐した西住家の次女、西住みほを捕獲、現在、教会へ搬送中。New Typeの適合者がこうも早く見つかるとは。あの方もお喜びになるだろう。
島田響については依然捜索中。奴は教団を脱走する際、寄生体に関する資料とNew Typeのサンプルを一緒に持ち出している。何としても捕らえ、資料とサンプルを回収するのだ』
「寄生体?島田響っていうのは、おそらくあの響さんの本名だろうけど・・・」
それを一通り見たのび太は首を傾げながらそう言うが、誘拐という物騒の言葉が使われていることもあって、文章の内容が物凄く気になった。
しかも、教会ということは当然宗教関係者が使う施設なので、響が言っていたロス・イルミナドス教団と関係があるのかもしれない。
のび太はそう考える。
「教会・・・そう言えば、さっきも在ったな。あそこか」
のび太はその内容を確かめる意味でも、夕方に確認した教会に向かうことに決めた。
どのみち、他に行く当ても無いし、夜に闇雲に動き回るのは危険だ。
それに外れていたとしても、教会なら当座の休む場所くらいにはなるだろう。
そう考え、のび太はその場を立ち去っていったのだが、彼は気づかない。
ドクン、ドクン
先程、倒れたタイラントの心臓が復活しつつあることを。
武器・・・ベレッタM92(6発)、コルトガバメント(4発)、ニューナンブM60(4発)、ショットガン・ベネリM3(0発)、M79グレネードランチャー(1発。通常弾)、H&K MP5(14発)、コンバットナイフ、M67破片手榴弾2個、M84スタングレネード1個、MK─3手榴弾1個
予備弾薬・・・コルトガバメントのマガジン2つ(14発)、38スペシャル弾(25発)、グレネードランチャー4発(通常1発、焼夷弾2発、硫酸弾1発)、30発箱型弾倉2つ(60発)
補助装備・・・ミックスハーブ3つ、調合されたハーブ1つ、アンブレラの資料、謎のメモ。
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孤独な少女
◇西暦2020年 7月28日 夜 日向穂島 教会 とある部屋
寂しい。
真っ暗闇の空間の中、閉じ込められた明るい茶髪をした少女はそう感じながら、身を抱えて俯いていた。
今現在、誘拐されて監禁され、おまけに注射を受けたという状況も、そういう感情を産み出している原因の1つだったが、一番の問題は彼女が何処に居ても一人ぼっちであるということを自覚してしまったことにある。
元々、彼女は明るい性格ではあったものの、意外なことに社交性の高い人間ではなく、小学校では友達が全く居なかった。
そして、よく遊んでくれた1つ上の姉も、今年から中学生になり、黒森峰の学園艦に行ってしまって、家には帰ってこない。
お手伝いの菊代はよくしてくれているが、母親とは元々馬が合っていなく(馬が合う人間の方が少ないかもしれないが)、ほとんど会話がないので、実質、菊代の居ない時は彼女は3ヶ月前から何時も一人ぼっちだった。
それでもどうにか話せる人間も居たことで、その気持ちを押し込めていたのだが、こういう状況になったことで、そういった感情が一気に沸き上がってしまったのだ。
とは言え、だからと言って彼女はそれを表に出すことはしない。
元がそういう性格ではなかったし、なにより抑圧された家の環境で育ったことがそうさせていた。
「お姉ちゃん・・・お母さん・・・」
しかし、寂しいものは寂しい。
みほは家族の名前を呼びながら、必死に不安と戦っていた。
そして──
「──大丈夫?」
そんな彼女に、1つの救いの手が差し伸べられた。
◇
のび太は教会の2階で閉じ込められた女の子──西住みほを発見していた。
西住みほ。
小学5年生ののび太より1つ上の学年である小学6年生の少女である。
彼女は日本戦車道の二大名門の1つでもある西住家の次女であり、云わば名家のお嬢様でもあるが、のび太はそこまでの情報は知らない。
もっとも、知っていたとしても態度は変わらなかっただろう。
彼女が自分が救うべき対象であるという点には変わり無いのだから。
しかし──
「だ、誰!?」
閉じ込められていた方は、当たり前だが酷く怯えていた。
のび太はその反応に若干傷つくが、まあ、当たり前の反応だと思い直し、彼女に対して優しく声を掛ける。
「落ち着いて。僕はあの人達とは違うよ。それと、一応聞くけど、君の名前は西住みほ?」
「ど、どうして、それを知っているの?」
のび太は名前を言われた彼女──西住みほの驚いた様子を見ながら、彼女の首筋に目を掛けた。
(これは・・・注射痕?あの貼り紙の通り、ここから寄生体っていうのを投与されたのかな?だとしたら、ここに居るのは危険だ)
「僕の名前は野比のび太。助けに来たよ。早くこの教会から出よう」
「えっ?あの・・・」
「どうしたの?」
「う、ううん。でも、のび太君も私と同じ子供だよね?なんで、こんなところに?まさか、君も誘拐されたの?」
みほは自分と同じか、年下であろう人物がこのような場所に来たことをとても驚いていた。
まあ、もっと冷静ならば銃を持っていることの異常性にも気づけただろうが、あいにくみほはそこまで気が回っていなかったのだ。
「ちょっと違うよ。ただ迷い込んだだけ。さあ、人が来るかもしれないから早く」
「う、うん。ごめんなさい」
そう謝りながら、みほは差し伸べられたのび太の手を取った。
◇
「──待て」
みほを伴い、教会を出ようとしたのび太達の前に、一人の紫のローブを羽織った男が声を掛ける。
のび太はそれを見て、みほを後ろに庇うように前へと出るが、男はそれに構わず言葉を続けた。
「その娘は置いていけ」
「だ、誰だ!お前は!?」
「私はオズムンド・サドラー。ロス・イルミナドス教団のカリスマ。その娘は我が教団にとって必要な存在だ。今すぐ置いていって貰おうか」
ローブを羽織った男はそう言うが、のび太も『はい、そうですか』と承諾するわけもない。
「断る!女の子を監禁するような連中にみほさんを渡すわけにはいかない!!」
「・・・威勢は良いようだが、得策とは言えないな。この島は全て私の支配下にある。それに──」
男はその時、口を歪めながら言葉を繋ぐ。
「その娘には種を植え付けてある。いずれ私の意のままとなるだろう」
「えっ、な、なんのこと?」
男の言っていることが分からず、みほはのび太の後ろで震えながら言葉を発した。
「お前にはとある寄生体を投与してある。それがお前の体の中で蠢いていて、時間が経てばお前は自分の意思を失って私の人形となる。・・・意味が分かるかな?」
「い、いや・・・」
みほはその意味を正確には理解できなかったが、自分の体に何かを埋め込まれたことは理解できた為、その事実を否定したくて、震えながら手を胸の前で交差させ、掠れた声で拒絶の反応を示す。
それを見た男は更に歪んだ笑みをするが、のび太はそんなみほの様子を見かねたのか、のび太は彼女に声を掛ける。
「みほさん、今すぐここを出よう!逃げるんだ!!」
「・・・構わんよ。逃げたければ、逃げれば良い。だが、覚えておくが良い。お前たちは私の鳥籠の中で踊る道下に過ぎないということをな」
「ッ!?」
男の言葉を無視し、のび太はみほの手を取って、半ば無理矢理教会から連れ出した。
◇
「さて、これからどうしようか」
のび太はそう呟く。
あの場はヤバいと判断して、教会を出たのび太だったが、別段行く当てが有るわけでもなかったのだ。
まあ、当たり前だろう。
行く当てが無かったからこそ、あの教会に行ったとも言えるのだから。
「わ、私。これからどうすれば・・・」
みほは不安に陥るが、のび太は先程と同じく優しげな声でこう言った。
「取り敢えず、誰か頼りになりそうな人を探そう。そうだ!響さんだ!!」
「響さんって?」
「君の体の状態について詳しく知っていそうな人だよ」
「ほ、本当に?」
「うん」
のび太はみほの問いにそう答えた。
確かにこの状況で響に頼るのは最善とも言える手だ。
なにしろ、のび太は彼女の体についてなにも知らないし、そもそも医学的な知識もないのだから。
しかし──
(何処に居るんだ?響さん)
彼女には不安を与えることも避ける意味もあって言わなかったが、のび太は彼の居場所を知らなかったのだ。
それも一から探さなければならないだろう。
加えて、幾つかの不安要素もある。
前述したように、のび太の持っている銃はほとんど弾薬が尽きているか、尽きかけている最中だ。
MP5の残弾は12発しかないし、ショットガンに至っては1発も残っていない。
もっとも、MP5は9×19ミリパラベラム弾が使用弾薬なので、同様の弾を使っているベレッタM92の弾丸でも代用できるのだが、そちらもショットガンと同じく残弾がもう無いのだ。
コルトガバメントやニューナンブM60については比較的弾薬を残していたが、これらも何時尽きるか分からないし、前者は今装填しているものを除けば、残るマガジンはあと2つ、後者は前述したようにリボルバー式のため、装填に手間が掛かる。
もっとも、背に腹は変えられないので、一応、現在装備してはいるのだが。
グレネードランチャーについてはあのタイラント戦から使っていないので、比較的余裕があるのだが、それでも慢心して良いほど、弾薬を持っているわけでもない。
手榴弾もまた同じだ。
破片手榴弾の方はほとんど使っていないのでまだ残っているが、爆発手榴弾はあと1個しかないし、破片手榴弾は被害範囲が大きすぎて使いどころを選ぶ。
加えて、今は夜な上に護衛対象もたった今できた。
のび太は先程よりも厳しい条件の戦いを強いられることとなるだろう。
(でも、やるしかないよね)
そう言いながら、のび太はみほの顔を見る。
美少女というには少々地味だが、整った顔立ちをしており、もう少し成長すれば美少女に変身するのは間違いない。
なにより、童顔の為、見た目より幼く見えるために、自分より1つ年上にも関わらず、自分より年下に見える上に庇護欲が沸いてくる。
正に存在するだけで人を笑顔にする存在、というのは彼女のような人間を表すのだろう。
そんな少女がなんの罪もないのに汚い大人に利用されようとしている。
それは大冒険を生き延びてきたのび太にとって、看過できることではなかった。
「? どうしたの?」
「いや、なんでもない。じゃあ、行こうか」
そう言って、のび太はみほを伴って響を探しに歩いていった。
◇教会
「──サドラー様、本当に宜しかったのですか?」
「構わん。事が済むまでは奴に面倒を見て貰うとしよう」
「しかし、島は既に亡者の巣窟。あちらの方が安全だと何故言い切れるのです?」
「決まっている。奴がまだ人間で、我々がそうじゃないからだ」
「・・・」
「心配せずとも奴は守るさ。例え、化け物に変異しようとしている上に、すがり付くしか出来ない少女が相手だったとしても、な。・・・それよりも、奴等を迎えるにはこの教会では狭すぎるな」
「移動なさいますか?既に準備は完了していますが」
「そうだな。奴等を迎えるにはもっと広く、圧倒的な舞台が必要だ」
男──サドラーはそう言いながら、何かを考えていた。
本話終了時ののび太の装備
武器・・・ベレッタM92(0発)、コルトガバメント(6発)、ニューナンブM60(5発)、ショットガン・ベネリM3(0発)、M79グレネードランチャー(1発。通常弾)、H&K MP5(12発)、コンバットナイフ、M67破片手榴弾2個、M84スタングレネード1個、MK─3手榴弾1個
予備弾薬・・・コルトガバメントのマガジン1つ(7発)、38スペシャル弾(24発)、グレネードランチャー4発(通常1発、焼夷弾2発、硫酸弾1発)、30発箱型弾倉2つ(60発)
補助装備・・・ミックスハーブ3つ、調合されたハーブ1つ、アンブレラの資料、謎のメモ。
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プラーガ
◇西暦2020年 7月28日 夜 日向穂島
「ふぅ、やっと休めそうな家があったな」
のび太はそう思いながら、目の前の民家を見る。
あれから更に弾薬を消費して、いよいよヤバいという状態となったのび太達だったが、そうなる前に一休みできそうな建物が見つかったことで、大いに安堵していた。
しかし、それはまだ早かったということを、この直後に思い知る。
「の、のび太君!後ろ!!」
「? どうした・・・の」
みほの言葉を聞いて、後ろを振り向いたのび太は目を見開いた。
先程、自分達が渡ってきた橋から、多数のゾンビがこちらに向かってくるのが見えたからだ。
「みほさん、建物のなかに入るんだ!急いで!!」
「う、うん」
二人は慌てて建物の中へと駆け込んだ。
◇
「よう、無事だったか」
のび太とみほは中に入ると、中に居た男から声を掛けられた。
「響さん!」
「この人が響さん?」
「うん、そうだよ」
そんな問答をしている二人を見ていた響は少女の方の顔を見て、あることに気づいた。
「ん?そっちの女はもしかして西住みほか?」
「はい、そうです」
「へぇ、思ったより可愛いな」
「なっ!」
それを聞いたみほは顔を赤くする。
小学生とは言え、みほも女。
可愛いと言われるのは悪い気はしなかったのだ。
「それで、みほが居るってことは、お前、教会に行ったのか?」
「ごめん、響さん!説明したいのは山々なんだけど、今それどころじゃ」
「ん?」
のび太の慌てた様子に、響は首を傾げる。
が──
ヴオオオォォオオ
その呻き声が聞こえてきた時、それは焦りに変わった。
「おい・・・まさか」
「ええ、外に一杯!」
「ちっ、お前らは上に隠れてろ。ここは俺がなんとかする」
響は迎撃に出るために外へと出ようとするが、そこでのび太が待ったを掛ける。
「いや、僕も戦います。あれは僕が引き連れてきたんですから」
「・・・そうか、分かった。だが、死ぬなよ。それと机の上の奴はお前が自由に使え」
「はい、みほさんは上に隠れていて」
「・・・分かった。気を付けてね」
「うん」
「それじゃ、行動開始だ」
その響の言葉と共に、3人は一斉に動きだし、のび太は先程響が言っていた机の上の付近へ、残る二人は迎撃と避難のために2階へと駆け上がる。
「これか」
のび太は机の上に在った武器と弾薬をとる。
ちなみに、机の上に置いてあったのは、武器がRDI ストライカー12・ショットガン。
そして、その弾薬である12ゲージ弾とコルトガバメントのマガジンが1つ、更にベレッタの15発マガジンが2つ、更に閃光手榴弾が2つ程あった。
「これだけ在れば・・・」
なんとかなる。
のび太がそう思っていた時、銃声が建物の上から鳴り響いた。
「始まったか。急がないと」
のび太は急いで弾薬を装填しようとしたが、ベレッタは既に鞄の中に仕舞い込んでしまった為、一旦これを出して、代わりに再びニューナンブM60をバッグへと入れる。
更に、空になっていたベレッタのマガジンを満タンの物に代え、机の上に在ったストライカー12・ショットガンを今までと同じようにショルダーで肩に掛けながら、残る12ゲージ弾の内8発をベネリM3へと押し込んだ。
そして、一通りの準備が完了した後、それはやって来た。
「おい!のび太、取り逃がした奴がそっちに行った!対処してくれ!!」
響がそう声を掛けた直後、6体程のゾンビが複数の窓を破って、一斉にやって来た。
「ふっ!」
のび太は焦らず、右手に持ったベレッタM92から6発の9×19ミリパラベラム弾を発射する。
そして、発射された6発の弾丸は6体のゾンビの全ての眉間に叩き込まれ、6体のゾンビはあっという間に倒された。
次にまた5体のゾンビがやって来るが、これも同じように対処する。
しかし──
「ゾンビ犬!」
今度入ってきたのは、2体のゾンビ犬だった。
2匹のゾンビ犬は一斉にのび太に向けて飛び掛かってきたが、のび太はどうにかそれをかわし、そのうちの一匹の頭にベレッタの弾丸を叩き込んでこれを倒す。
残った一匹も、のび太に再度飛び掛かってきたところを、真正面から銃弾を撃ち、撃破する。
そして、次に4体のゾンビが入ってくる。
しかも、その内の1体はクリムゾンヘッドだった。
「くっ!」
のび太は先に脅威度の高いクリムゾンヘッドに狙いをつけ、発砲する。
放たれた銃弾はクリムゾンヘッドの眉間を撃ち抜いてこれを撃破するが、それともう1体のゾンビを倒したところでベレッタの弾丸が切れた為、左手でコルトガバメントを引き抜いて2発の銃弾を発砲し、残る2体も倒した。
「さて、次は──」
グワアアア
のび太が何かを言い掛けた時、今度は緑色の爬虫類を思わせる怪物が1体、中へと入ってきた。
それは4日前の洋館事件でもSTARSを襲い、後にBOWの代表的な存在の1つとなるハンターだった。
ちなみに現在、のび太の目の前に出てきたのは、その初期型であるハンターαだ。
・・・しかし、ハンターαにとって不幸だった点が1つあった。
それはのび太がハンターαに対して、攻撃するために使用した銃が9×19ミリパラベラム弾を使用するベレッタM92ではなく、45ACP弾を使用するコルトガバメントであった点だ。
コルトガバメントは大型自動拳銃と言われるだけあって、大口径の銃弾を使っている。
流石にデザートイーグルなどのマグナム銃と比べると見劣りはするが、それでも通常の拳銃の中ではトップクラスの威力であり、そんなコルトガバメントから発射されたACP弾は、のび太の射撃の腕によって正確にハンターの頭部へと命中し、その大口径銃弾の威力によってハンターαの命を刈り取った。
かくして、ハンターαは遭遇早々、のび太によって呆気なく撃破されたのである。
「ふぅ、見える範囲の奴は全て片付いたぞ。おい、無事か!のび太!!」
ハンターαを撃破した直後、既に外の敵をやっつけ終わった響が2階から降りてきた。
「大丈夫です」
「そうか。じゃあ、早速だが、例のことを説明したい。なにぶん、こんな時勢だ。早く状況を知った方が良いだろう」
「そうですね。あっ、でも、みほさんは・・・」
「あいつも知った方が良いだろう。知らないうちに不安で自殺でもされたら困るからな」
のび太はみほに知らせることに若干躊躇するが、響は知らせた方が良いと主張する。
まあ、確かに自分の中に何が起きているかどうか分からないなど不安でしかないし、それで錯乱などされるよりは知らせた方がまだリスクは少ない。
その為、のび太は渋々ではあったが、響の意見に納得し、みほを呼ぶために2階へと上がっていった。
◇
のび太がみほを伴って2階から下り、3人が勢揃いしたところで、早速、響が事情を説明するために口火を切った。
「さて、何処から話したものかな」
「まず、みほさんの状況について説明して欲しいな」
のび太はまずみほの状況を説明することを求めた。
他にも色々と聞きたいことはあったが、みほの体の事が最優先事項だとのび太も思っていたからだ。
「ああ、それは構わないが・・・そうだな、のび太は寄生虫って知っているか?」
「? よく分からないけど、ぎょう虫検査ってしたことあるよ」
「まあ、簡単に言えば、生物の体の中に入って、その生物が食べたものを食して生きている虫のことだな。それで最近、人間の精神に干渉できる寄生虫が見つかったんだよ。それを教団は寄生体、またの名をプラーガと呼んでいる」
響はそれを淡々と説明したが、当のみほはどういうことなのか、その話でなんとなく察してしまい、体を震わせる。
「大丈夫?」
そして、それに気づいたのび太は、落ち着かせるように少しばかり彼女を抱き締める。
男女問わず、人肌の温かさは不思議な効果があるのか、みほは震えていた体を徐々に静まらせることに成功した。
しかし、
「続けて良いか?」
「ええ、それでその寄生体がみほさんの中に?」
「まあな、俺も寄生体を入れられたことが有るからみほの気持ちは分かるよ。まあ、俺の場合は専用の機械で除去したがな」
「! 機械で除去できるんですか!?」
「ああ、それと除去とは行かなくとも、進行を遅らせる薬もある。まあ、今はどっちも教団の手の内だがな」
響はそう説明するが、そこまで聞いた時、のび太は違和感を持った。
「あの・・・1つ聞いて良いですか?」
「なんだ?」
「何故、そこまで教団の内情に詳しいんですか?」
「・・・俺もつい最近までは教団の一員でプラーガの研究をしていたからだよ」
「・・・」
のび太はそれを聞いて、なんとも言えない表情になった。
「昔の話さ。今は違う。それに俺が元々、このプラーガの研究をすることになったのも、妻の母親に頼まれたからだしな。だが、段々と教団の狂気性が分かってきて、俺は抜けることにしたんだ」
「じゃあ、あの化け物も・・・」
のび太は一連の話を聞いてそう思ったが、意外なことに響はこれを否定した。
「いや、それは違う。あれはおそらく教団とは無関係だ」
「えっ?」
「プラーガは人間の精神を支配する代物だが、その影響でゾンビになるようなことはない。それは俺が保証する」
「じゃあ、何が・・・あっ、そう言えば、途中通った研究所でそれらしき資料を発見しましたね」
「本当か?」
「ええ、確か・・・T─ウィルスとか」
のび太は夕方に手に入れたアンブレラの資料を思い出しながらそう言うが、響はなおも首を傾げている。
「T─ウィルス。・・・聞いたことがないな。教団の新兵器か?いや、しかし・・・」
「あの!」
響がT─ウィルスについて考えていた時、今まで話に参加しなかったみほが話に参加する。
「あの・・・何故、私が誘拐されて、その寄生体というのを投与されたんでしょうか?」
みほはずっと気になっていた疑問を尋ねた。
確かにみほは名家のお嬢様ではあるが、名家のお嬢様であれば他にも居るし、わざわざ田舎である熊本から、こんな島まで拐ってくる理由がよく分からなかったのだ。
だが、響はそれに対して、罰が悪そうにこう答える。
「それについてなんだがな。おそらく、お前の家が関係している」
「えっ?」
「島田と西住が戦車道で対立していることはよく知っているだろう?」
「は、はい」
みほは響の言葉を肯定する。
確かにそのような話は聞いたことがあったからだ。
「まあ、俺は入り婿だからよく理解は出来ないが、戦車道では島田と西住はライバル関係で互いに睨み合っているんだが、流石に相手をぶっ殺そうとする程、憎んでいる奴は極少数だ。しかし、俺を教団に誘った妻の母親はどうやら極少数の奴のようでな。プラーガの実験台に西住流の人間を使いたいって言い出したんだ」
「そ、そんな・・・」
みほはショックを受けた。
まさか、そのような事を考える人間が居て、自分がそれに巻き込まれるとは思ってもいなかったからだ。
「それで色々考慮した結果、お前が拐われた訳だが、その後、偶然プラーガ寄生体の適合者であることが判明して、教団はお前を重要視したって訳だよ」
「・・・」
「まあ、そういうわけだ。質問が以上なら、俺は失礼するぞ。みほが居る以上、機械は無理でも、薬は取ってこなきゃならんからな」
そう言って響はこの民家から去ろうとするが、それをのび太が呼び止める。
「待ってください。僕が命を狙われる理由が分かりません。いや、というより、どうして教団は僕の事を?」
「・・・それについてはさっぱり分からん。見つけたら殺せとまで言われているのに、理由は教えてくれなかったからな」
「・・・そうですか」
「力になれなくてすまんな」
そう言い残し、響は今度こそ民家から出ていった。
「僕は・・・なんで」
それを見送った後、のび太はボソリとそう呟いた。
本話終了時ののび太の装備
武器・・・ベレッタM92(0発)、コルトガバメント(3発)、ニューナンブM60(5発)、ショットガン・ベネリM3(8発)、ショットガン・RDI ストライカー12(12発)M79グレネードランチャー(1発。通常弾)、H&K MP5(12発)、コンバットナイフ、M67破片手榴弾2個、M84スタングレネード3個、MK─3手榴弾1個
予備弾薬・・・ベレッタのマガジン1つ(15発)、コルトガバメントのマガジン2つ(14発)、12ゲージ弾(12発)、38スペシャル弾(24発)、グレネードランチャー4発(通常1発、焼夷弾2発、硫酸弾1発)、30発箱型弾倉2つ(60発)
補助装備・・・ミックスハーブ2つ、調合されたハーブ1つ、アンブレラの資料、謎のメモ。
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スーパータイラント
◇西暦2020年 7月28日 夜 日向穂島
「ふぅ、大体こんなものかな」
あれから少しして民家を出て移動していたのび太達だったが、途中で多数のゾンビの呻き声らしきものが聞こえたので、みほを近くにあった人間一人丸ごと入る箱の中に入れさせて、自らは進路上のゾンビの掃討に移った。
案の定、ゾンビが多数居り、のび太はそれを掃討していて、途中でチェーンソーを持った男が二人程出てきた為、危機に陥ったが、途中拾ったマグナム銃──コルトパイソンが有ったお蔭で、危機を逃れることに成功している。
「しかし、また弾の危機が迫ってきたな」
しかし、のび太の武器には再び弾切れの危機が迫っていた。
ある程度はあの民家で補充したものの、やはりそれだけでは足りなかったのだ。
現にベレッタは1マガジン分しか残弾が無かった為、温存せざるを得なかったし、その代わりとして使ったニューナンブM60は装填が非常にやりづらかった。
まあ、それでも何とかするところは、流石のび太と言うところであろうが。
「まあ、良いや。取り敢えず、みほさんを連れてこよう」
そして、のび太は再びみほを連れてきて、この道を通ることを考えていたのだが、何か得たいの知れない違和感を感じていた。
「・・・なんだろう?どんどん特定の場所に誘い込まれているような・・・」
のび太はそう感じていた。
確かに通れる道がかなり限られているという現在の状況は、そう思えても仕方がない。
しかし、それ以外に道が無いこともまた確かだった。
「いや、ここまで来たんだ。行くしかない」
のび太は改めてそう思い直し、みほを連れてくるために元来た道を戻っていった。
◇
「・・・みほさん、少しここで待っててくれます?」
のび太はそう呟いた。
あれからのび太達は一件の小屋の前に辿り着いたのだが、のび太の勘はこう言っている。
これはヤバイ、と。
その為にも、非戦闘員であるみほにはここに残っていて欲しかった。
「わ、分かった。気を付けてね」
「うん」
みほの言葉に、のび太は頷くと、建物の中へと入って行った。
◇
「・・・・・・何もないな」
のび太は少し小屋を探索してみたが、何もないことに気づく。
(杞憂だったのかな?)
のび太はそう思った。
てっきり、何かここで強力な敵と戦うかと思ったのだが、何も無かったことに内心では安堵している。
まあ、好き好んで強い奴と戦いたくはないのだから当たり前だが。
「さて、戻るか」
のび太はそう呟く。
しかし、その時──
ガタガタ
「ん?」
何か小屋の上から物音がした。
のび太はそれに気づいて上を見る。
そして──
ガタガタ
ドッガアアアアン
天井から1体の巨人が現れた。
「なっ!こいつは!!」
のび太は驚いた。
なにしろ、その相手は数時間前に戦ったタイラントだったのだから。
ちなみに、のび太は知らないことだが、この個体は数時間前に戦ったタイラントがスーパータイラント化したものだった。
ドン!ドン!
「のび太くん!そっちに何か行ったよ!!大丈夫!!」
外に居るみほは屋根から侵入するスーパータイラントの姿を見たのか、心配してドアを叩いてくる。
しかし、のび太はみほを安心させるようにこう言った。
「うん、大丈夫。ちょっと待っててね」
みほの問いにのび太はそう答えるが、スーパータイラントの方はのび太を視認すると、のび太の方に向かって走ってきた。
「ッ!!」
のび太はM79グレネードランチャーを構えると、そこから弾丸を発射する。
数時間前と同じように、発射された40×46ミリグレネードはスーパータイラントへと着弾して、爆発した。
しかし──
ウオオオオオ
スーパータイラントは仰け反って苦しそうに呻き声を挙げたが、致命傷には至っていない。
「!? グレネードランチャーでも効果がないのか」
のび太は少し驚いたが、それはタイラントの様相が違うことに気づいてから、なんとなく予想していたことだった為、然程驚かない。
そして、スーパータイラントは態勢を建て直すと、のび太の方に向かってきた。
「不味い!」
のび太はグレネードランチャーの再装填は間に合わないと判断し、M79グレネードランチャーを捨てて回避行動に移る。
そのお蔭もあって、どうにか回避には成功するが、M79グレネードランチャーはスーパータイラントに踏み潰されてしまう。
「!? こうなったら!」
のび太はグレネードランチャーの弾丸である弾丸(通常)をスーパータイラントの足元に転がして、それをコルトガバメントを引き抜いて撃った。
すると、その弾丸は爆発を起こし、スーパータイラントの足下を殺傷する。
ウオオオオオ
スーパータイラントはそれによって転倒し、それを確認したのび太はコルトガバメントを仕舞って、マグナム銃であるコルトパイソンを構えた。
コルトパイソンの装填弾数は最大で6発だが、先程のチェーンソー男に対応するために2発使ったので、残りは4発。
更に予備弾薬は無いので、コルトパイソンの弾は今装填されているこの4発しかない。
(落ち着け。4発で仕留めるためには・・・)
のび太は気持ちを落ち着かせると、タイラントの前に回り込んでコルトパイソンから2発の銃弾を発射させる。
コルトパイソンはマグナム銃なだけあって、普通の拳銃よりも反動が強いが、のび太はどうにかそれを受け流しながら正確な射撃を行い、2発の357マグナム弾はスーパータイラントの頭部へと命中し、スーパータイラントは悲鳴すら上げることが許されず、今度こそ絶命した。
「ふぅ、手強かったなぁ」
のび太はそう思いながら、このような場所には長く居たくないと、コルトパイソンを仕舞いながら小屋を出ていった。
◇
「な、何かあったの?」
小屋から出てきたのび太を見たみほが恐る恐ると言わんばかりに尋ねる。
まあ、彼女からしてみれば、大きな銃声や爆発音がどう考えてものび太が入った小屋の中としか思えない場所から響いてきたのだから、心配するのも当然と言えば当然だった。
だが、それに対して、のび太はこう答える。
「いや、なんでもないよ。ちょっと大きなゴキブリが出てね。それを始末するのに手間取っちゃっただけだよ」
「そ、そうなの」
みほは少々引き気味にそう答えた。
のび太の台詞には色々と突っ込みどころがあったが、今はそれを突っ込んではいけないと思ったからだ。
「うん、じゃあ、行こうか」
こうして、のび太はスーパータイラントを撃破し、先へと進んだ。
◇城
「うわぁ。大きなお城」
みほは素直に感心していた。
なにしろ、目の前に存在する城は見た目にもかなりでかい洋風の城であったからだ。
それこそ、こんな島に在るのは相応しくないと思えるくらいに。
「・・・」
だが、のび太はそれをじっと見て観察している。
(なんか、可笑しいな)
こんな田舎とも言える島に堂々と立っている巨大な城。
これだけでも相当不自然であるが、のび太はこの城が綺麗であるという印象に違和感を持った。
なんせ、島はゾンビや化け物があちこちに存在する地獄だ。
そんな中で、綺麗な場所が存在するというのは、それだけで違和感がある。
ましてや、こんな巨大な城ならば。
「ここに入るの?」
「それは・・・」
のび太は若干言葉を詰まらせる。
こんな怪しさ満点の城に入っていくなど、自爆するような行為に思えてならなかったのだ。
もしかしたら、例のロス・イルミナドス教団の本拠地かもしれないし、そうでなくとも大量のゾンビが城内に蔓延っている、などという可能性もある。
しかし──
「・・・うん、そうだよ」
のび太は結局、ここに入ることに決めた。
元々、この島は既に化け物だらけとなっている。
その中には通常の人間ゾンビだけでなく、ゾンビ犬──ケルベロスやゾンビカラス──クロウ等の動物型のゾンビも居るのだ。
そんなゾンビが蔓延る外、しかも夜に土地勘もない武器も尽きかけている者達が生きていられるだろうか?
答えは当然NOだ。
それならば、まだ敵の本拠地だとしても、城の中に入る方がリスクが少ないだろう。
隠れるものが一杯あるだろうし、建物そのものが人工物なので、動物型ゾンビが居る可能性も少ない。
・・・敵の居る場所の方がリスクが少ないというのは、あまりにも過酷すぎる現実であったが、これが現在ののび太達の状況だったのだ。
(もう戻ることも別の場所に進むことも出来ない。だったら、教団の本拠地だったとしてもやるしかない)
のび太は改めてそう決意して、不安を押し殺しながら、みほの手を引く形で城の中へと入っていった。
本話終了時ののび太の装備
武器・・・ベレッタM92(15発)、コルトガバメント(1発)、ニューナンブM60(5発)、コルトパイソン(2発)、ショットガン・ベネリM3(6発)、ショットガン・RDI ストライカー12(12発)、H&K MP5(9発)、コンバットナイフ、M67破片手榴弾2個、M84スタングレネード3個、MK─3手榴弾1個
予備弾薬・・・コルトガバメントのマガジン2つ(14発)、12ゲージ弾(12発)、38スペシャル弾(15発)、40×46ミリグレネードランチャー3発(焼夷弾2発、硫酸弾1発)、30発箱型弾倉2つ(60発)
補助装備・・・救急スプレー1つ、ミックスハーブ1つ、調合されたハーブ2つ、アンブレラの資料、謎のメモ。
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約束
◇西暦2020年 7月28日 島田城 城内
「はぁ・・・はぁ・・・あっちこっち敵だらけで、流石に疲れた」
のび太は流石に疲れ始めていた。
城内に入った二人を出迎えたのは、おそらく教団関係者であろう武装兵──ガナードの集団であり、のび太はそれと応戦することになったのだが、流石に相手がゾンビと違い、既にプラーガによって怪物化しているとはいえ、生きた人間となると若干射撃に躊躇したが、みほを守るためにやむをえず相手を殺したが、その行為そのものはのび太の精神を徐々に蝕んできている。
加えて、持っている武器も尽き始めているということや、相手が殺す気で掛かっているという現実、更に仲間も居ないという現状には、流石ののび太も堪らず、つい弱音を溢してしまったのだ。
しかし、その言葉は今のみほには深く突き刺さる。
「ごめんなさい」
「えっ?あっ」
みほにそう言われて、のび太はようやく先程の愚痴が失言であったことに気づいた。
なにしろ、自分達が狙われるのはみほにも原因があると、響に先程言われたばかりだったのだ。
おまけに戦闘に直接参加しているわけではないので、自分の存在はのび太が狙われる原因を増やしている上に、足手まといになっていると思っても不思議ではなかった。
「私のせいで、のび太君を危険な目に遭わせちゃって・・・本当にごめんなさい」
みほは泣きそうになりながら、そう言葉を溢した。
しかし──
「・・・いや、違うよ」
のび太はそれを否定する。
「確かに最初は僕だって、一人でさっさと脱出すれば良いとは思っていたさ」
そう、それがのび太の当初の目的。
のび太はこの島を脱出することを最優先に考えていて、生き残っている島の住民を助けることなど、全く考えていなかったのだ。
まあ、そもそものび太がここに来たのは偶然だったし、そこでバイオハザードが起きていたのも偶然が重なったからに過ぎない。
なので、のび太の考えは当たり前と言えば当たり前の事だったのだが、それが変わったのはみほと実際に会った時だった。
「でも、みほさんのことを聞いて危険に晒されているなんて知っちゃったら、見捨てるなんて出来ないよ」
のび太はみほを助けることを迷わず選ぶ。
彼女を助けようと思い至った経緯としては、自分と同じく巻き込まれた側の人間であるという共感や同情という感情も少なからずあったが、なにより恐怖に震えている女の子を見捨てるという事が、のび太には出来なかったからだ。
何故なら、確かにのび太は臆病ではあるが、今までの大冒険がそうだったように、芯の入った人間ではあるのだから。
「のび太君・・・」
みほは思わず驚いた顔をした。
まさか、この期に及んでそのような言葉を掛けてくれるとは思わなかったからだ。
心なしか、みほの頬は若干赤くなる。
しかし、のび太はそれに気づかず、更に言葉を紡いだ。
「絶対に生きてここを出よう!プラーガとかいうのを取り除いて、僕と君と響さんの3人で必ず脱出するんだ!!」
「・・・うん、そうだね!約束だよ、のび太君!!」
のび太の宣言に、みほは笑顔でそう答える。
その笑顔は、かなりの晴れやかな顔であり、見ていたのび太は思わず顔を赤らめてしまう。
こうして、二人は1つの約束をした。
しかし、それとは裏腹に、みほは1つの決意を行う。
(何かあったら私がのび太君を守ろう。・・・例え、私の命に換えても)
それは姉が居なくなった寂しさから、内気な性格になりかけていた少女の確かな意思だった。
◇
「響さん!」
のび太達は城内で彼の姿を見つけて、駆け寄った。
しかし、当の響の方は彼らの姿を目にして、大きく目を見開く。
当然だ。
ここに居るとは思わなかったのだから。
「なっ!お前ら、なんでこんなところに!?ここは教団のアジトだぞ!!」
「それが、もうここしか入れる場所がなくて」
「・・・そうか。なんてこった」
響は顔を手で覆う。
おそらく彼らがこの城に入ったのも偶然ではないだろう。
どうやら、教団は何がなんでも二人をどうにかしたいらしい。
「それより、薬は?」
「・・・ああ、ちゃんと有るよ」
そう言って響は懐から薬を取り出してみほへと渡す。
「ありがとうございます」
みほはお礼を言いながら、薬を受け取り、中身を飲み始める。
中身は苦かったが、体の中に入った異物をなんとか出来るのは現在、この薬しかないので、みほは我慢して飲み続けた。
それを見ながら、のび太は響に尋ねる。
「それで、機械は何処に在るの?この薬って、進行を遅らせるだけだから根本的な解決にはならないよね?」
その通りだった。
響が手渡したのは、あくまでプラーガの進行を遅らせる薬でしかなく、根本的に危険を取り除くにはやはり機械を使うしかない。
のび太は響の説明でそれを分かっていたからこそ、肝心の機械の在処を掴んだかもしれない響に尋ねているのだ。
「それは今、探している。どうやら俺が知っている場所とは違う場所に移されたみたいでな。ここからは今まで通り、二手に別れよう。お前が派手に暴れて、その間に俺が機械を確保する」
「少し気にかかるところはありますけど・・・まあ、分かりました。でも、そっちが機械を探すなら、みほさんも一緒に・・・」
「いや、みほはお前と一緒に居た方が良い」
「えっ?」
のび太は響の言葉に首を傾げた。
どう考えても、みほを響が連れたまま機械を見つけてそのまま治療した方が手っ取り早い。
それに子供の自分より、大人の響と一緒に居た方が良いし、その方が安全だとのび太は思う。
ましてや、自分は命を狙われている。
みほは自分が原因みたいなことを言っていたが、自分にもどうやら別に狙われる理由があるのだ。
だったら、せめてみほだけでも連れていってもらった方が良いとのび太は考えたのだが、響の意見は違うようだった。
「みほは教団からしてみれば重要性が高い人間だ。そんなところで、お前とみほが一緒に居ないことがわかれば、当然、教団は俺に疑惑の目を向ける。陽動が成り立たなくなる。それに──」
そこで言葉を切ると、既に薬を飲み終わったみほに残りの言葉を告げる。
「よう、嬢ちゃん。俺とのび太、着いていくならどっちが良い?」
「えっ?」
突然の質問に、みほはキョトンとするが、その意味を理解すると迷わずのび太の方に身を寄せる。
「──だそうだ。意外にモテるじゃねえか」
「・・・分かりました。みほさんは絶対に僕が守ります」
「俺もこうなった以上、死んでもお前らに機械の場所を探って教えてやるさ。それと、あっちに教団の武器庫がある。武器がもう無いなら、武器の補充をしていった方が良い。じゃあな」
そう言って響は立ち去ろうとしたが、その前にみほが声を掛ける。
「あの響さん!どうして、そこまで・・・」
みほがそんな問い掛けを響にする。
なにしろ、彼女からすれば、どうしてそこまでしてくれるのか分からなかったからだ。
ましてや、彼の妻の実家である島田と自分の家である西住は不倶戴天の敵同士であったのだから。
だが、それに対して、少し考えてから響はこう答えた。
「そうだな・・・一言で言うなら、良心の呵責、かな」
そう言い残し、響は今度こそ立ち去っていった。
◇
「うわぁ、こりゃ凄い」
響が立ち去った後、響が言っていた武器庫に着いたのび太は、その量の豊富さに驚かされた。
まず、武器はアーウェン37・グレネードランチャー、デザートイーグル(44マグナムバージョン)・マグナム、レミントンM870・ショットガンなどがあった。
他にもその3つの武器の弾薬や、ベレッタM92の15発マガジンが5つ、コルトガバメントの7発マガジンが2つ、閃光手榴弾が3つ、M67破片手榴弾が2つ、MK─3手榴弾が1つ、357マグナムが3つ、MP5の32発マガジンが2つ、更に38スペシャル弾が10発ほど在る。
正直、弾薬不足に悩まされていたのび太にとってはこれらの存在はかなり有り難かった。
しかし、同時に思う。
(なんで、これらの武器をさっきの教団の人間は使ってこなかったんだ?)
今まで交戦してきた教団が使ってきたのは、盾やナイフ、剣、ボウガンなどといった銃が存在する前から使われた代物ばかり。
これだけの武器があるならば、銃火器を使ってきても可笑しくはないのに、わざわざそんな古い武器を使う理由が分からなかった。
「・・・まあ、良いか」
のび太はそう呟く。
これだけの武器が手に入った以上、わざわざそんなことを気にする必要はないし、向こうがそういった物を拘って使っているならば、それはチャンスでもあるのだ。
のび太はそう思うことにした。
本話終了時ののび太の装備
武器・・・ベレッタM92(15発)、コルトガバメント(4発)、ニューナンブM60(5発)、コルトパイソン(5発)、ショットガン・ベネリM3(8発)、ショットガン・RDI ストライカー12(12発)、レミントンM870・ショットガン(4発)、アーウェン37・グレネードランチャー(5発)、H&K MP5(9発)、コンバットナイフ、M67破片手榴弾4個、M84スタングレネード5個、MK─3手榴弾2個
予備弾薬・・・ベレッタM92のマガジン5つ(75発)、コルトガバメントのマガジン3つ(21発)、12ゲージ弾(20発)、38スペシャル弾(19発)、40×46ミリグレネードランチャー3発(焼夷弾2発、硫酸弾1発)、37×110ミリグレネード弾(通常3発)、30発箱型弾倉2つ(60発)、MP5の32発マガジン2つ(64発)
補助装備・・・救急スプレー2つ、ミックスハーブ1つ、調合されたハーブ1つ、アンブレラの資料、謎のメモ。
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島田千尋
◇西暦2020年 7月28日 夜 日向穂島 島田城 城内
「ほう、まだ無事だったのかい?」
城内に入ってきたのび太とみほに嘲笑混じりの声でそう話しかけてきたのは、一人の初老の女性だった。
傍らには執事らしき男性が居る。
「? なんですか?あなたは?」
「そうだね。ここの城の持ち主、と言ったところだろうかね?」
「!? じゃあ、あんたも教団の」
「そう。私は忠実なサドラー様の僕、島田流家元の島田千尋」
そう言う千尋の顔には狂気とも言うべき笑みが浮かんでいる。
どうやら僕と言う辺り、相当サドラーに心酔しているらしい。
「正直、そこの小娘はうちにとっては死ぬほど気に入らないんだけどね。サドラー様が計画のために必要だっていうから生かしておいてやっているんだ。感謝して欲しいよ、まったく」
千尋はそう言いながら、憎々しげにみほを見る。
そのあまりの視線に、みほは体が震え上がってしまう。
名家のお嬢様とはいえ、そういう教育を受けてきた訳ではないみほは、そういった視線に慣れていなかったのだ。
・・・いや、仮に教育されていた人間、例えば西住まほだったとしても、ほとんどみほと同じだったかもしれない。
なにしろ、幼い子供(と言っても、まほの方は中学1年生だが)が耐えるには、千尋の眼光はあまりにも鋭すぎたのだから。
しかし、そんなみほとは対称的に、のび太は千尋の身勝手な主張に怒っていた。
それもその筈。
そもそもみほがここに居るのも、ロス・イルミナドス教団が浚ってきたからなのだ。
それを棚にあげて“生かしてやっている”などと言うのは、あまりにも傲慢きわまりなさ過ぎる。
加えて、千尋がするような眼光も、大冒険においてその手のことには慣れているのび太にとってはなんてことはない。
・・・流石に宗教に浸る狂信者を相手にするのは初めてだったが、それでもみほよりは耐性がある。
故に、のび太は千尋に反論の言葉を返した。
「なにが感謝してやって欲しいだ!お前達が誘拐してきたんじゃないか!!」
「・・・ほう、威勢が良いね。だけど、あんたは用済みだ。もう死んでも結構だよ」
「なに!?」
千尋は冷たくそう言い言うと、のび太の反応に返すことなく、執事を伴ってその場を去っていった。
◇
「くそっ!しくじった!!」
のび太は焦っていた。
先程の逆T字路の道で、のび太とみほの二人は床下に仕掛けられたトラップによって分断されてしまったのだ。
そして、この状況は考えうる限りで最悪のもの。
なにしろ、分断されたということは、向こうはすぐにでも西住みほを確保する準備に掛かっている可能性が高いのだから。
そして、もう1つ、のび太は気づいていなかったが、今の分断された状態ならば、教団はみほの存在に配慮することなく、のび太を始末できるのだ。
実際、ガナードはおろか、何処から入手したのかノビスタドールやハンターなどのBOWまで使ってのび太を全力で殺しに掛かってきている。
もっとも、それらの全てが返り討ちにされているのだが。
そして、のび太はある部屋にたどり着く。
「お前は!」
「おや、またあったねぇ」
そこには千尋が居た。
先程と同じように、高台でのび太を嘲笑うように見下ろしている。
「西住の次女はどうしたんだい?」
千尋は挑発ぎみにそう言ったが、元々二人は千尋の手によって分断されているので、本来ならこの問いは愚問に等しい。
しかし、それでも敢えてそう言うのは、西住みほ程ではないにしろ、彼女にとっては忌々しい存在であるのび太を嘲笑うチャンスでもあるからだ。
そして、のび太は勿論、彼女の言葉に反発する。
「うるさい!みほさんはあんたらの手なんかには渡さない!!」
「ふん!サドラー様に逆らうものは子供でも容赦しないよ!地獄を見せてあげる」
「偉そうに!そっちだって、寄生虫に頼っているだけじゃないか!!」
「私をガナードのような輩と一緒にされて貰っては困るね。あの男たちは奴隷に過ぎない。私が操っている」
「どっちにしろ、お前みたいな奴は絶対に許さないぞ!!」
「減らず口を」
千尋はそう言うと、いつのまにか周囲に居たガナードを呼び寄せる。
「奴を始末しろ」
そう言った後、千尋は立ち去り、後にはのび太に襲い掛かるガナードの集団が残された。
◇
「外か」
のび太が扉を開けると、そこは城の外の廊下の空間だった。
案外広く、これだけでもこの城全体がどれ程広いのか伺える。
しかし、のび太にその光景を感動している時間などない。
今こうしている間も、みほの命は危険に晒されているのだから。
(幸い、あいつの感じからするに、まだみほさんは奴等の手に捕まっていない。ということは、先に合流してしまえば)
のび太は千尋の言動から、まだみほが教団に捕らえられていないことを察していた。
何故なら、もしみほが捕らえられているのだとしたら、これ見よがしに見せびらかす可能性が高いからだ。
のび太は10年と少しという短い人生しか生きていないが、千尋のようなタイプとは少なからず会ったことがあるので、そのくらいは分かる。
「急がないと・・・!?」
のび太はそう言って急いで探そうとして曲がり角を曲がったが、その先に存在する影に驚き、慌てて身を隠す。
「ふむ、思ったより広いな」
しかし、相手側の人物──出木杉はのび太に気づいた様子はなく、淡々と一人言を呟いている。
「しかし、野比のび太は確かにこの城に入った。ならば、この近くに居るはずだ」
出木杉はそう言うと、先へと進んでいき、のび太の近くから去っていく。
それを確認したのび太は、見つからなかったことに安堵の息を漏らした。
「ふぅ、危なかったな。しかし、まさか出木杉もこの城に居たなんて」
のび太は出木杉のことに関して、あの夕方の狙撃以来、ほとんど完全に忘れていた。
何故なら、あれ以来襲ってこなかったし、ゾンビやガナード、更にはタイラントやら、ハンターやらと次々と化け物に襲われたり、みほを守ることに集中していた為、そんなことを考えている余裕が無かったからだ。
(これは厄介なことになったな。さて、どうしようか)
のび太は考える。
出木杉があの教団とどういう関係かは分からないが、どちらにしてものび太を殺そうとする人間であることに変わりはない。
となると、出木杉も場合によっては相手にすることを考えなくてはいけないのだが、正直、今は時間が惜しいので、なるべく戦闘を避ける方針をのび太は考えるのだが、この城の全貌を知らない以上、有効な考えなど浮かぶわけもなく、のび太はすぐに考えることを止めた。
「・・・こうなれば、当たって砕けろだ。こっちが先にみほさんと合流してしまえばどうということはない」
のび太は半ば自棄になりながら先へと進んでいった。
◇
「! のび太君!!」
「みほさん!」
この城の中庭を抜けた先の部屋で、のび太はみほと再会を果たした。
どうやらのび太の予想通り、捕まってはいなかったらしい。
「良かった。無事だったんだね」
「うん、助けてくれた人が居たから」
「助けてくれた人?響さん?なんで一緒に居ないの?」
のび太は響が居ないことに首を傾げるが、みほの方はと言えば、なにやら言いづらそうにしていた。
「その・・・違うの」
「? 違うって、なにが?」
「助けてくれた人は響さんじゃないの」
「えっ!」
のび太はその情報に目を見開いた。
それはそうだろう。
今までこの島で会った人間の中で、力を貸してくれたのは響くらいのものであり、ましてや、ここは敵地のど真ん中。
プラーガによって精神を蝕まれたガナードが大勢居るなかで、そのような人間が居るとは思わなかったのだ。
しかし、のび太はその時、この島で初めて出木杉と遭遇した時の事を思い出した。
(そう言えば、あの時も助けてくれた人が居たっけ?)
のび太はあの時助けてくれた人物と同じかもしれないと思い、みほにその人物の行方を尋ねた。
「それで、それはどんな人?」
「それは・・・ごめんなさい。暗くて顔はよく覚えていないの」
みほは申し訳なさそうに言う。
「そっか」
その言葉に、のび太は少々がっかりしてしまう。
現状で確認できている限り、のび太の味方はみほと響しか居ない上に、みほは非戦闘員で、頼りになるかどうかと聞かれたら否と答えるしかない。
なので、響の他に頼れる味方が居れば、のび太の負担も軽減することが出来たかもしれないのだ。
連戦によって、疲れが見え始めていたのび太ががっかりするのも、ある意味では当然と言えた。
「あっ。でも、響さんだけじゃないことは確かだよ」
「分かった。じゃあ、脱出手段を探しつつ、その人も探してみるよ」
のび太はそう答える。
まあ、なんにせよ、みほの言っていることが本当ならば、響以外にも自分達の味方が居るということだ。
今はその事実だけでのび太は満足することにし、みほと共に先の道へと進み出した。
本話終了時ののび太の装備
武器・・・ベレッタM92(9発)、コルトガバメント(1発)、ニューナンブM60(5発)、コルトパイソン(4発)、ショットガン・ベネリM3(8発)、ショットガン・RDI ストライカー12(12発)、レミントンM870・ショットガン(4発)、アーウェン37・グレネードランチャー(5発)、H&K MP5(9発)、コンバットナイフ、M67破片手榴弾4個、M84スタングレネード5個、MK─3手榴弾2個
予備弾薬・・・ベレッタM92のマガジン3つ(45発)、コルトガバメントのマガジン2つ(14発)、12ゲージ弾(18発)、38スペシャル弾(19発)、40×46ミリグレネードランチャー3発(焼夷弾2発、硫酸弾1発)、37×110ミリグレネード弾(通常1発)、30発箱型弾倉2つ(60発)、MP5の32発マガジン2つ(64発)
補助装備・・・救急スプレー2つ、調合されたハーブ1つ、アンブレラの資料、謎のメモ。
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平行世界からの侵略者
西暦2020年 7月28日 夜 日向穂島 島田城
「ん?ここはまた武器庫か?」
のび太は進んだ先の部屋でまたもや武器庫らしい部屋を見つけた。
「これは・・・ロケットランチャー?」
のび太はそこに在った1つの武器を手に取る。
それはのび太の言う通り、ロケットランチャー──RPG7だった。
ソ連時代に開発された傑作兵器であり、開発からもう半世紀以上経過していたが、現在でも紛争地帯などで愛用されている武器だ。
ちなみに、火力は使用する弾頭にもよるものの、それが最新のダンデム弾頭ならば、陸上自衛隊で採用されている
それが1つ、この部屋に立て掛けてあった。
他にもベレッタのマガジンや手榴弾などがあったが、武器はこのRPG─7しかない。
「大きいな」
のび太は若干眉をしかめる。
RPG─7はロケットランチャーだけあってかなり大きい。
それでも一応、のび太のような子供でも撃てなくはないが、それは撃つときの話であり、持っていく分にはかなり大変な代物である。
ましてや、他にも大量の武器を抱えている状態とあっては。
「まあ、しょうがない。持っていこう」
それでものび太は持っていくことに決めた。
何故なら、このRPG─7がのび太の保有している武器の中でも一番火力が高いものだったのだから。
こうして、のび太は強力な武器を手に入れ、先へと進んだ。
◇
「・・・出木杉」
「のび太君」
先へ進んだ場所に存在する室内に水の通った大きな部屋。
そこに居たのは出木杉だった。
「・・・君の方から来てくれるとはね。今度こそ君を殺す」
散々に命を狙ってきたこともあって警戒するのび太に対して、出木杉もまた不敵な笑みを溢しながら最大限の敵意を向けている。
「・・・」
そして、それを見たのび太は悟ってしまう。
出木杉との直接対決は免れない、と。
のび太は内心でため息を溢しながら、みほの方に向き直る。
「・・・みほさん、ここを離れていてくれ」
「のび太君?」
みほはのび太の言葉に首を傾げる。
今ののび太はこれまでみほが見たどの時よりも覇気が込もっていて、異様な雰囲気を発していたからだ。
しかし、みほのその疑問に答える余裕もないため、のび太は少し威圧感を込めて更に言葉を重ねる。
「お願いだ、早く」
「・・・わ、分かった」
みほはのび太の気迫に負けたのか、素直にのび太の言葉を聞き入れて下がっていく。
そして、それを見届けると、のび太は改めて出木杉に向き直る。
「・・・出木杉、なんでそこまで僕を殺しに来るんだ?」
のび太は夕方に初めて出木杉と遭遇してから思っていた疑問を出木杉に尋ねる。
「・・・良いだろう。冥土の土産に教えてやる」
出木杉はそう言って、説明を始める。
「のび太君、君は平行世界という言葉を知っているかい?」
「平行世界?あのもしもボックスで行ける奴?」
のび太は前にドラえもんに聞いた話や自分が体験した話を思い出す。
平行世界、またの名をパラレルワールド。
例えば、科学の代わりに魔法が発達した世界や、お金の概念や価値観が違う世界などの、この世界とは全く別の世界のこと。
もしもボックスという秘密道具はそういった世界へ行ける代物だ。
のび太はそれを使って、魔法の世界へ行き、魔界星まで乗り込んで、悪魔や大魔王デマオンを相手にした事もある。
「そうだよ。そして、僕はこの世界から来た人間ではない。別の世界から来た人間なんだよ」
「・・・」
自慢気に言うその説明に対して、のび太は意外にも無反応だった。
これには出木杉も少々驚く。
「驚かないんだね?」
「うん、まあね。今まで色んな冒険をしてきたせいでたいていのことには驚かないようになっちゃったんだよ」
のび太は若干苦笑げに言う。
遠い昔のようにも思えるが、時期的にはここ1~2ヶ月間に体験したあの大冒険は想像を絶するものであり、あれを経験したのび太はたいていの事には動じなくなっていたのだ。
もっとも、あれを体験した者ならば、誰だってのび太と同じ事を思うだろうが。
「ふん、なるほどね」
「それで、どうして僕の命を狙うの?」
のび太は根本的な質問をする。
今までのものはただの概要であり、それだけではとてもではないが教団がのび太を殺す動機にはなり得ないからだ。
それもあってか、出木杉の方はそののび太の疑問に答えた。
「・・・僕と同じように世界を越えて現れた存在があと2つ居る。一人は君も知っているドラえもん、もう1つは君自身だ」
「・・・」
「そして、ドラえもんが名乗っているオズムンド・サドラーという名だが、これは偽名だし、ロス・イルミナドス教団という名の宗教集団も同じだ。まあ、同様の人名と名前はこの世界に居るから、万が一の場合はその集団に罪を擦り付けようと思ったんだろうね」
「・・・それで?」
のび太は話の続きを促す。
「連中はこの世界を征服することを狙っている。そして、この世界の君は数々の大冒険を潜り抜けているという情報も既にそいつらは知っている。だから、何かされる前に始末してしまおうという魂胆なのさ。そして、それは僕も賛成している」
そう、それがのび太を殺害する根本的な理由だ。
どうやら、この世界に侵攻してきたドラえもんは世界征服を考えていて、のび太の事をこの世界の征服の為の最大の障害だと考えているらしい。
出木杉ののび太の殺害行為は、その平行世界のドラえもんの意見に彼も賛成していたからこその出来事だった。
しかし、それでも疑問は残る。
何故、のび太なのか、だ。
「なんで僕なの?それだったら、ドラえもんの方がよっぽど脅威じゃないか」
のび太は思わずそんな問いをしてしまう。
自分は小学生の中ですら、かなり貧弱な存在。
そんな自分より、秘密道具を保有しているドラえもんの方がよっぽど彼らの脅威になる。
そう考えるのび太であったが、出木杉は鼻で笑う。
「ふん、本気で言っているのかい?」
「なに?」
「ドラえもん君が誰の子孫から送り込まれている存在なのか。これを考えれば、君にもその意味は分かるだろう?」
「!?」
のび太は目を見開く。
確かにその通りだ。
ドラえもんはのび太を含む大冒険を経験してきた5人の中でも秘密道具を保有するだけあって非常に脅威ではあるが、所詮は今から約100年後の22世紀の存在であり、過去を変えてしまえばなんの障害にもならない。
もっと直接言うならば、ドラえもんを送り込んだセワシの子孫であるのび太を始末してしまえば、ドラえもんの存在は自然と消えてしまうのだ。
加えて、平行世界からの干渉なので、タイムパトロールも出てこれないという寸法である。
まあ、大冒険でタイムパトロールが役に立った事など、全体を通してみればほとんど無いのであるが。
「加えて、奴は大冒険で何時も土壇場を乗りきってしまう君の特性を非常に危険に思っている。まあ、命を狙われるのも当然だね」
出木杉は皮肉げにそう言うが、実際にその通りだった。
確かに秘密道具はドラえもんが保有しているものであり、使うのもドラえもんが一番多いが、その秘密道具を使ってここぞという土壇場を生き残るアイデアを出すのは、ほとんどのび太と言っても良い。
なるほど、その平行世界のドラえもんが脅威に思うのも当然と言えば当然だろう。
「・・・さて、長話もそろそろ終わりだ。死ぬ覚悟は出来たかい?」
出木杉は話は終わったとばかりに、再びのび太を殺そうと銃のホルスターに手を掛け、それを見たのび太も同じような動作をしながら、こう宣言する。
「僕はこんなところで死ぬわけにはいかない!返り討ちにしてやる!!」
のび太はみほを助け、脱出するという目的を達するためにもここで立ち止まるわけにはいかないのだ。
対する出木杉もまた、彼の目的のためにのび太を排除しなければならない。
二人の衝突は起こるべくして起こることだった。
「・・・」
「・・・」
二人は無言で睨み合う。
お互い相手が強者であることを認めているからだ。
しかし、強者同士の睨み合いも、ずっと続くわけでもない。
むしろ、二人が睨み合ったのは、僅か数秒に過ぎなかった。
「勝負だ、のび太君!」
「勝負だ、出木杉!」
二人は互いの目に闘志を携える。
正にそれはライバル同士の決闘のようなものであった。
そして──
「「絶対にお前を倒す!!」」
──二人はそう宣言し、同時に各々の銃を引き抜いた。
本話終了時ののび太の装備
武器・・・ベレッタM92(14発)、コルトガバメント(7発)、ニューナンブM60(5発)、コルトパイソン(4発)、ショットガン・ベネリM3(8発)、ショットガン・RDI ストライカー12(12発)、レミントンM870・ショットガン(4発)、アーウェン37・グレネードランチャー(5発)、H&K MP5(9発)、ロケットランチャー・RPG─7(1発)、コンバットナイフ、M67破片手榴弾3個、M84スタングレネード5個、MK─3手榴弾2個
予備弾薬・・・ベレッタM92のマガジン4つ(60発)、コルトガバメントのマガジン3つ(21発)、12ゲージ弾(18発)、38スペシャル弾(19発)、40×46ミリグレネードランチャー3発(焼夷弾2発、硫酸弾1発)、37×110ミリグレネード弾(通常1発)、30発箱型弾倉2つ(60発)、MP5の32発マガジン2つ(64発)
補助装備・・・救急スプレー2つ、ミックスハーブ1つ、調合されたハーブ1つ、アンブレラの資料、謎のメモ。
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対決 天才VS秀才
◇西暦2020年 7月28日 夜 日向穂島 島田城 城内
ドン!ドン!ドン!
ドドド!ドドド!ドドド!
島田城の城内にて、二人の少年──野比のび太と出木杉英才は激戦を繰り広げていた。
互いの持つ武器はのび太がベレッタM92、出木杉がストック付きのH&K VP70だ。
そして、両者の戦いは火力的には出木杉が圧倒的に有利だった。
H&K VP70はマガジンに装填できる弾数ががベレッタM92の15発より3発多い18発という他、ストックを着ければ三点バースト射撃すら可能な銃であり、出木杉の持っているVP70にもそのストックが付けられている。
もっとも、VP70には色々と欠点があるが、逆に言えばその欠点が表に出ないような状態ならばその利点をそのまま相手に叩きつけられるのだ。
よって、のび太が1発撃つ間に出木杉は3発撃ってくる事が出来る。
だが──
ドン!
「うっ!」
出木杉は右肩に走った激痛に、思わず声を出してしまう。
それだけの火力の優位をもってしても、出木杉はのび太に対して優位に立つことが出来ずにいた。
その理由は幾つかある。
まず最初にVP70は三点バーストにすると、前述したように瞬間火力は3倍となるが、その分、弾薬の消費ペースも早いため、弾切れや装填回数が必然的に多くなる。
本来なら、そのようなモードを止めて単発に切り換えるべきなのだが、それは不可能だった。
何故なら、単純に二人の実力が違っていたのだから。
この世界に居る方もそうだが、この出木杉もこの世界に居る出木杉と負けず劣らずの才能を持っている。
更に専門の訓練もされているため、普通の人間ならば同年代の人間どころか、大人ですらそれが訓練された軍人でもない限りは勝てない。
しかも、今回は支配種プラーガすら体内に宿され、身体能力が劇的に向上していたのだから尚更だ。
しかし、残念ながらのび太は“普通の人間”にカテゴライズされない。
あの大冒険を潜り抜けた経験や元から持っている射撃の才能。
後者については出木杉も元からそこそこ出来るし、訓練も行って腕を上げているのだが、残念ながらその程度では天才の次元にあり、大冒険を潜り抜けて腕を上げ、更にこれまでの戦闘の過程で人に撃つことに躊躇がなくなっているのび太には通用しない。
もっと言えば、“格”が違うのだ。
更に身体能力の差で圧倒しようにも、のび太はまるで出木杉の行動を先読みしているかのような行動を取り、出木杉の攻撃を回避し、逆に反撃を喰らわせている。
・・・このような行動が出来ること自体、のび太もかなり化け物染みているのだが、そこは双方とも戦闘に集中しているせいか、お互いに気づいていないし、気にしていない。
そして、そのような不利な条件が揃っても出木杉が途中までどうにか拮抗出来たのは、前述したように瞬間火力によるものが大きい。
しかし、それでものび太の方が戦闘に優位に立っているという現実は変わらない為、出木杉は戦闘が進むごとにどんどん不利になっていた。
ドン!ドン!
「がっ!」
またのび太のベレッタから9×19ミリパラベラム弾が発射され、出木杉の左脇腹と左足に銃弾を喰らった。
これで出木杉の体に3発が着弾したことになるが、それに対してのび太は先程左頬を少し掠めた1発しかダメージらしいダメージは負っていない。
強いていうならば、連戦による体力的な疲弊はあったが、戦闘によるダメージによる疲弊と単に体力的な疲れによる疲弊では、どちらが苦痛かは言うまでもないだろう。
更に左足に弾丸を喰らったことで、出木杉は機動力が急激に落ちた。
そこにのび太からの連続射撃の嵐が出木杉を襲う。
ドン!ドン!ドン!
ベレッタから3発の弾丸が発射される。
その内、1発は頭に出木杉の向かって進んでいったが、出木杉はどうにか回避した。
しかし、残り2発は左腿と右胸に命中。
その猛射を浴びた出木杉は今度こそ地に伏した。
「うぐっ!」
床に叩き付けられた出木杉は苦悶の声を上げた。
更に急所に当たったらしく、出木杉の体からはドバドバと血が流れ続けている。
このまま何も治療をしなければ、助からないのは明白だった。
ましてや、戦闘をするなどもっての他だろう。
しかし──
(あれを・・・使おう)
──出木杉は自身の体内に存在するある切り札を使うこととした。
◇
(ん?なんだ?)
のび太の目の前で、出木杉は持っていたVP70を突如としてホルスターに戻した。
出木杉の不可解な行動に、のび太は怪訝な表情をする。
戦闘は終始、のび太の有利だった。
だが、この世界の出木杉とは違うとはいえ、知り合いの顔を殺すことは流石に少し躊躇いがあり、のび太は出木杉に対して、降伏勧告を行おうかと考える。
逆に言えば、それをのび太が考えられる程、のび太にとってこの戦闘は余裕が有ったのだ。
「うおおおおおおお!!」
しかし、たった今、目の前で起きている出木杉の異変に、その考えは捨てざるを得なかった。
出木杉の左手は大きな剣のようになり、とても人間の体とは言えないような状態になっている。
どう見ても、のび太が今まで会ってきた化け物たちと同種になっているのは明らかだった。
「出木杉・・・どうしてそこまで」
「ふん!愚問だね。1つは君に勝つため。もう1つは僕本来の目的である絶大な力を得ることさ」
出木杉は半ば狂気を孕んだ赤い目をしながらそう言った。
そう、出木杉はプラーガによる絶大な力をその手に入れることを目論んでいたのだ。
だからこそ、平行世界のドラえもんに近づいたとも言える。
「・・・そうか。堕ちたな、出木杉」
のび太は失望したような目線で呟く。
のび太にとって、出木杉英才とはライバルであると同時に、何時か越えるべき壁だと思っていた。
もっとも、その壁はのび太からしてみれば高すぎるように思えた為、半ば越えることは諦めていたのだが、それでも憧れのような感情は持っていたのだ。
しかし、こんな結果になってしまうと、もはやそんな感情は抱けず、のび太の心の中に在るのは失望と怒りだけだった。
「さあ、行くぞ!のび太君!今度こそ、決着を着けよう!!」
出木杉がそう宣言し、二人が交戦状態に入ったことで、戦いの第二ラウンドは始まった。
◇
(面倒だな)
のび太はそう思いながら、出木杉の攻撃をかわし続けていたが、出木杉がプラーガの力を解放した結果、戦況そのものは完全に逆転してしまっていた。
出木杉の剣のような攻撃に対して、のび太はかわし続けるしか手がなかったし、のび太の方は先程、ベレッタの9×19ミリ弾を更に2発とガバメントの45ACP弾を3発、出木杉に向けて発射したが、それら全てが素早く膨張して展開された翼のような盾になった左腕に防がれてしまっている。
そこでのび太はコルトパイソンを引き抜いて更に2発発砲したものの、これも効果は無し。
デザートイーグル(44マグナム)やショットガン、果てはグレネードランチャーまで撃ち込んで試してみたが、結果は上に同じだった。
加えて、向こうの攻撃を一度でも直撃で喰らえば、一撃で致命傷を負うのは間違いない。
それは先程、あの左腕の剣によって真っ二つにされたRDI ストライカー12の末路を見れば明らかだろう。
状況は完全にのび太の不利だった。
(こうなったら、あれを使おうかな?)
のび太は一瞬だけRPG─7に目を移す。
このRPG─7に装填されているロケット弾は榴弾。
戦車などの装甲目標を相手にするには心もとないが、非装甲目標に関しては絶大な効果を発揮する弾丸だ。
本来なら、人を相手にするには一番適していると言える弾頭なのだが、残念ながらこの時ばかりは戦車などを相手にするための
何故なら、相手はグレネードランチャーの直撃にすら耐える正真正銘の化け物だったのだから。
(・・・いや、止めておこう)
のび太はRPG─7を使うことを止めることにした。
理由としては、これ1発しか弾丸が無いからだ。
その為、のび太は何か出木杉の弱点を探そうと、出木杉の攻撃を回避しながら観察を続けたが、一方の出木杉はと言えば、自らの攻撃が当たらないこの状態にかなり苛立っていた。
(くそっ!なんで当たらない!?)
出木杉は剣のようになった左腕でのび太に向かって突きや凪ぎ払いのような攻撃を行っていたが、それら全てがのび太によってかわされた結果、なんの効果も挙げていない。
しかし、これだけを見るならば、のび太の反撃は先程から効いておらず、出木杉の攻撃をかわしてはいるが、防ぐ手段が無い以上、出木杉が未だ圧倒的に有利に見える。
だが、出木杉には焦りがあった。
そもそも出木杉はプラーガの力を解放することでここまでの力を得たのだが、その代償として段々と自分の自我が無くなっていっているような感覚を得ていたのだ。
つまり、このまま戦闘を続ければ、自我が無くなってしまい、出木杉の敗けは決定される。
だからこそ、長期戦は不利なので、短期決戦で行きたいのだが、先程から攻撃は全く当たらない。
(化け物か!こいつは!!)
人間よりもかなり圧倒的な力を有している自分。
その力は一人で完全武装をした軍の1個小隊は蹴散らせる程になっている筈だ。
にも関わらず、のび太はそんな自分を難なくあしらっている。
ここに至って、出木杉はのび太がとんでもない存在であると改めて認識せざるを得なかった。
その恐怖とも取れる感情も合わさって、戦闘が経過するごとに、出木杉の焦りはどんどんと募っていく。
そして、その思考は動きにも同調されており、のび太はそれによって出木杉の弱点を見つけ出した。
(! ここだ!!)
のび太は残ったコルトパイソンの357マグナム弾2発を発砲した。
狙ったのは足。
のび太は出木杉の全体を改めて観察した結果、脚の部分はあの翼で覆われていない事が分かり、もしかしたら脚には効くのではないかと一縷の望みをかけて攻撃を行ったのだ。
そして、その目論みは見事に的中し、出木杉は態勢を崩してしまう。
(しまった!?)
出木杉はそう思ったが、同時にそれが命取りとなった。
「喰らえ!!」
態勢を崩した出木杉に、のび太は右手にベレッタ、左手にガバメントを持ち、ベレッタのマガジン内に残された3発の9×19ミリパラベラム弾とガバメントのマガジン内に残された4発の45ACP弾。
合わせて7発の弾丸を出木杉へと叩き込んだ。
◇
「ここまでやってもダメなのか・・・」
出木杉は自嘲しながらそう言った。
「どんどん体が乗っ取られているような感覚がする。これが力に呑まれた者の末路か」
「出木杉・・・」
この戦いの勝者であるのび太は、そんな出木杉に哀れみの視線を向ける。
そして、どうにか救えないかと思考を回すが、その機先を制するように出木杉がこう言った。
「無駄だよ。プラーガに一度でも完全な侵食を許した者は決して治らない。まあ、神経を引っこ抜けば出来なくもないけど、そこまでして普通の人間に戻るなんて真っ平ごめんだね」
「・・・」
のび太は無言を以て答える。
のび太も分かっているのだ。
出木杉はもう助からないということが。
しかし、そんな状況ですら諦めるという事をしないのがのび太という男であったが、今回は流石ののび太もどうにもならない。
それをのび太は自覚すると、その顔を哀しげに歪めてしまう。
「・・・そんな顔をするな。君は西住みほを守ることを考えれば良い。あとプラーガの除去装置を探すこともね。それと」
出木杉は右手でホルスターに入っていたH&K VP70を取り出すと、のび太に向かって放り投げる。
「餞別だ。持っておいてくれ」
そう言うと、出木杉は左手の刃を自分の首へと当てる。
「出木杉、待て!」
のび太は制止の声を上げて慌てて止めようとするが、出木杉の穏やかな顔にその動きを止めてしまう。
「・・・・・・さようなら、この世界ののび太君。この世界の僕によろしくね」
それが最期の言葉だった。
出木杉がそう言った直後、彼は自らの左腕の剣で自分の首を切り落とし、その首と胴体を離して死んだ。
辺りに鮮血が飛び散り、周囲一帯を真っ赤に染めた。
「・・・・・・・・・」
それを見届けたのび太は、無言で出木杉が最期の選別として渡したVP70を拾い、その場から去っていった。
本話終了時ののび太の装備
武器・・・ベレッタM92(0発)、コルトガバメント(0発)、ニューナンブM60(5発)、コルトパイソン(0発)、デザートイーグル・44マグナムバージョン(5発)、H&K VP70(9発)、ショットガン・ベネリM3(8発)、レミントンM870・ショットガン(4発)、アーウェン37・グレネードランチャー(4発)、H&K MP5(9発)、ロケットランチャー・RPG─7(1発)、コンバットナイフ、M67破片手榴弾3個、M84スタングレネード5個、MK─3手榴弾2個
予備弾薬・・・ベレッタM92のマガジン4つ(60発)、コルトガバメントのマガジン3つ(21発)、12ゲージ弾(18発)、38スペシャル弾(19発)、デザートイーグルの44マグナムマガジンが2つ(16発)、40×46ミリグレネードランチャー3発(焼夷弾2発、硫酸弾1発)、37×110ミリグレネード弾1発(通常1発)、30発箱型弾倉2つ(60発)、MP5の32発マガジン2つ(64発)
補助装備・・・救急スプレー2つ、ミックスハーブ1つ、調合されたハーブ1つ、アンブレラの資料、謎のメモ。
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狂人との会話
◇西暦2020年 7月28日 深夜 某所 とある島
「──出木杉が敗れたようです」
「うむ、既に知っている。まったく、使えん男だったな」
暗がりの島で、側近の言葉にサドラーはそう呟く。
そこには出木杉を労るような言葉や感情は一切無い。
「この世界の野比のび太が異常すぎる、というのも有りますがね」
「ああ。この世界の野比のび太と我々の世界の出木杉英才は言うなれば天才と秀才。コインの表と裏のように対極的だ。それであるがゆえに相容れない。そして、私は裏に賭けたが、どうやら期待外れだったようだ。やはり、秀才は秀才止まりということか」
「どういたします?」
「島田千尋に相手をさせてやれ。例のものを渡してな。ちなみに西住みほは確保したのだろうな?」
「はい、二人が交戦している間に。島田響の方はまだですが、既に捕捉しており、確保も時間の問題です」
「よし。では、確保次第、西住みほと共にこちらの島に移送しろ」
「承知しました」
◇少し前 日向穂島 島田城 城内
「みほさん!もう出てきて良いですよ!!」
出木杉との激闘を終えた後、のび太はみほが隠れているであろう周辺に向かって声を掛けた。
しかし、返事はない。
「みほさん?」
のび太はみほからの返事がないことを怪訝に思うが、次の瞬間にはある想像をしてしまい、顔を青ざめた。
(もしかして・・・拐われた?)
それは十分考えられる可能性だった。
なにしろ、あの時、のび太は出木杉と激闘を繰り広げている状態であり、のび太はみほを巻き込まないためにあの場から追い払った為、みほは結果的に一人となってしまっていたからだ。
しかも、あれだけの戦いだったので、仮にみほが悲鳴を上げてのび太に助けを求めていたとしても、のび太は気づかなかっただろう。
加えて、みほはのび太と違って、戦闘能力が皆無な上に武器の1つすら持っていない普通の女の子。
相手からしてみれば、拐うことなど造作もないのは間違いない。
(迂闊だった。やっぱり、離れるべきじゃなかったか?いや・・・)
のび太はみほを離すべきではなかったかと一瞬思ったが、それは違うと思い直した。
何故なら、どのみち出木杉の決闘は避けては通れなかったし、あの場に待機させていれば戦闘によって流れ弾が飛んできてみほが死傷しかねなかった。
それを考えれば、あの時、みほを離した決断は間違いではなかった筈だ。
しかし、今の現状を前にすると、やはりあの時、どうにか逃げる方法を考えるべきではなかったか?
そういう考えも、のび太の頭の中に存在した。
(どっちにしろ、今はそんなことを考えている余裕はない。早くみほさんを探さないと!!)
もし拐われたのだとしたら、プラーガ寄生体の事もある以上、早く教団からみほを奪還しなくてはならない。
のび太はそう思い、みほの捜索のために一歩を踏み出す。
しかし、その時──
キシャアアアア
──天井から化け物の声が聞こえた。
「!?」
のび太はその声に反応し、右腰のホルスターに仕舞われているベレッタを引き抜こうとするが、弾切れであることに気づき、素早くそれを止め、先程出木杉から貰った弾が装填されているであろうH&K VP70を改めて取り出す。
しかし、その間に件の化け物──キメラは攻撃を仕掛けてきた。
「あっ!」
慌てて回避し、どうにかダメージから逃れたのび太であったが、その際に持っていたVP70を取り落としてしまう。
「しまった!?」
のび太はそう叫び、慌ててそれを拾おうとするが、そこにもう1体のキメラが現れ、そのVP70をその鋭い爪で突いてバラバラにした。
「・・・・・・は?」
のび太は一瞬、何が起きているのか分からなかった。
しかし、徐々にその状況を理解し始めると、怒りと憎悪の感情を2体のキメラに抱く。
「お前ら・・・よくもやったな!!」
のび太は怒りの声をキメラに向かって叫ぶ。
あの銃は出木杉が死に際に自分に託してくれた云わば形見なのだ。
それを託されてすぐ、それも化け物ごときに壊された。
それはのび太からしてみれば、ガンマンとしてのプライドを大きく傷つける行為であり、のび太は出木杉にすら向けてなかった本気の殺意をキメラに向ける。
「生きて帰れると思うな!!」
のび太はそう叫び、デザートイーグルを引き抜いてキメラに向かって発砲した。
◇数十分後
「無様だねぇ、響」
千尋は椅子に縛られている状態の響に向かって嘲笑うようにそう言った。
ちなみに、その響はどうやら捕まる際にかなり教団の団員に痛め付けられたのか、あちこちアザだらけであり、左腕からは血を流している。
しかし、それでも響は気丈に千尋を見返し、逆に挑発するようにこう言った。
「へっ。そっちこそ、良いかっこしているじゃねえか。そんな趣味の悪い花に覆われ、ガッ!」
その言葉の途中で、触手のようなものが響の腹を貫く。
「お黙り!!サドラー様が授けてくださったこの姿を貶すとは何事だい!!」
「ぐっ。うぅ・・・は、は。何が、サドラー様・・・だよ。あんな・・・気味の悪い、くそ教祖、があぁ!!!」
痛みにもめげず、途切れ途切れになりながらも更なるサドラーへの罵到を繰り返す響に対して、千尋は響の腹を貫いた触手を掻き回すように動かす。
当然、腹を掻き回されるという事をされた響はその激痛によって悲鳴を上げている。
そんな響の様子を、千尋は怒りと愉悦で歪んだ顔で楽しんでいた。
「・・・おっと。そう言えば、生かして連れてこいと言われていたんだったね。残念ながらここまでか。おい、この坊やを連れていけ!!」
「はっ」
千尋は触手を引き抜きながら、響の傍らに控えていた教団の男にそう命じ、男もまたそれに応える形で響を連れていった。
それを見送りながら、千尋は忌々しげに呟く。
「まったく、サドラー様の思想も理解できないとは。救えないね。やっぱり、あんなのと千代を結婚させたのは失敗だったね」
千尋は今更ながらに、娘である千代とあの男を結婚させたことを後悔していた。
元々、島田流は群馬県に本家を置く、西住流を対となす戦車道の流派だ。
それ故に、彼女の夫にはその身分に相応しい男を宛がおうとしたのだが、当の千代が選んだのは、当時、大学院生だった響であった。
当然、千尋は二人の結婚に反対し、どうにか自分の選んだ男と結婚させようとしたのだが、千代の方は男と共に一旦姿を消して行方を眩ませたのだ。
そして、その後、千代と響は二人の娘である愛里寿が産まれた直後に戻ってきたのだが、その時には千尋の立場は大きく変わることになった。
具体的には、どうやら島田流の分家や有力な門下生たちにいつの間にか話を通して、自分を家元の座から追い出そうと手を回しており、気がついた時には彼女は“元”家元という肩書きとなっており、その地位を追われることになったのだ。
ちなみに、このようにスムーズに彼女の排斥の話が進んだ背景には、彼女の日頃からの傲慢な態度も関係していたのだが、彼女はそんなことを自覚していない。
その後、どうにか権力を戻すことを試みたのだが、万が一にも彼女が家元という座に返り咲かないように千代が色々と手を回していたこと、更には愛里寿が天才と島田家内で持て囃された事から彼女の居場所は島田家内では無くなっていた。
そして、そんなときに近づいてきたのがサドラー(別世界のドラえもん)だった。
彼女はその後、色々あって彼の思想に感銘を受け、忠誠を誓うことに決めたのだ。
しかし、彼の計画は先程の響と、たった一人の小学5年生の少年によって破綻しようとしている。
これは千尋にとっては信じがたいことであり、同時に許せないことでもあった。
「こうなったら、ここであの小僧を仕留める!サドラー様には近づけさせない!!」
千尋は決意を新たにする。
そして、その僅か数分後、件の野比のび太は現れた。
◇
「なっ・・・」
のび太は扉を開けた先の部屋の光景に絶句した。
「よく来たね」
千尋はやって来たのび太にそう声を掛けるが、当ののび太はその時は何も返すことが出来なかった。
なにしろ、入った部屋の奥には、花の壁のような物が存在するが、その中央には千尋の首が在るのだ。
そのホラーのような現状に、のび太は思わず身がすくんでしまう。
「これはいったい・・・」
「ああ、これかい?サドラー様が授けてくださったのだ。どうだ?凄いだろう?」
「・・・」
その千尋の言葉に、のび太は哀れみを通り越して呆れた視線を向ける。
いや、狂人を見る視線と言った方が良いのだろうか?
何故なら、のび太にはそこまでしてサドラーに尽くす理由が分からなかったのだから。
「・・・なんで、そこまでしてサドラーに?」
「うん?そんなものは愚問だろう?かの御方はこの世界を救ってくださる御方なのだからな」
「そんな筈はない!!だいたい、こんなことをしている時点で、世界を救えるわけがない!!」
のび太はそう叫ぶ。
今までのび太がこの島を見てきたなかで、教団はプラーガを使っての島民の洗脳と怪物化、更にはみほというなんの関係もない小学生の少女を誘拐して連れてきた挙げ句に、プラーガを体内に植え付け、実験台にするといった非道な事をやらかしている。
ちなみに、これはのび太が知っている事だけに限定してのものであり、実際はもっと非道を行っている可能性が高い。
しかも、それだけにあきたらず、サドラーはプラーガを使ってこの世界を征服して自分のものにしようなどと考えているのだ。
とてもではないが、そこに救いがあるなどとはのび太には到底思えない。
しかし、のび太は1つ、根本的な事を分かっていなかった。
狂人という存在は、そんなことを気にするような人種ではないことを。
「ふん、分かっていないね。サドラー様がプラーガを世界中にばら蒔けば、世界中の人間がサドラー様によって幸せになり、争い事も無くなる。そうは思わないかい?」
千尋はうっとりとした顔でそう言うが、のび太はその発言と千尋の空気に恐怖を感じた。
確かに世界中の人間が洗脳されて一人の意のままに動かせれば、争いはなくなるだろう。
だが、それは所詮、一人の独裁に過ぎず、たった一人の手によって世界中の人間の生死や生き方が左右されてしまうことになるし、人生の権利を非道なことをしている人間の手に与えるというのは、まともな頭をしていれば決してしないことだ。
(正気じゃない!)
のび太はその瞬間、これが狂人という存在であるという事を、心の底から刻み付けられた。
そして、これ以上話しても不毛だということも。
「・・・・・・みほさんは何処だ?」
「おや、いきなり話を変えたねぇ?」
「何処だ!!」
のび太は苛立ちを込めて叫ぶ。
元々みほには時間がないのだ。
薬でプラーガの進行を遅らせているとはいえ、プラーガそのものが体内に在るのは変わり無いのだから。
しかし、そんな貴重な時間をわざわざ割いて千尋の話を聞いたのに、それが全くの無駄になってしまったことで、のび太はかなり苛立っていたのだ。
「ふん!あの小娘なら、この島には居ないよ。既に別の島に移送されてる。・・・ああ、そう言えば響とかいう奴もさっきその島に送ったっけねぇ」
「響さんも?」
「ああ。だが、再会することはないよ。何故なら、お前はここで死ぬんだからね!!」
そう言うと、千尋の周囲に触手のようなものが展開された。
本話終了時ののび太の装備
武器・・・ベレッタM92(9発)、コルトガバメント(1発)、ニューナンブM60(5発)、コルトパイソン(0発)、デザートイーグル・44マグナムバージョン(3発)、ショットガン・ベネリM3(8発)、レミントンM870・ショットガン(4発)、アーウェン37・グレネードランチャー(5発)、H&K MP5(9発)、ロケットランチャー・RPG─7(1発)、コンバットナイフ、M67破片手榴弾3個、M84スタングレネード5個、MK─3手榴弾2個
予備弾薬・・・ベレッタM92のマガジン2つ(30発)、コルトガバメントのマガジン2つ(14発)、12ゲージ弾(18発)、38スペシャル弾(19発)、デザートイーグルの44マグナムマガジンが2つ(16発)、40×46ミリグレネードランチャー3発(焼夷弾2発、硫酸弾1発)、30発箱型弾倉2つ(60発)、MP5の32発マガジン2つ(64発)
補助装備・・・救急スプレー2つ、ミックスハーブ1つ、調合されたハーブ1つ、アンブレラの資料、謎のメモ。
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約束を果たすために
◇西暦2020年 7月28日 深夜 日向穂島 島田城 城内
(何故だ。何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だああぁぁぁぁああ!!!)
千尋は現状のキャパシティをオーバーしたのか、現実を認められなくなる。
のび太との戦闘が始まって最初のうちは良かった。
千尋本体へと行われたのび太の銃撃は周囲に覆われた花弁?によって防ぐことができたし、のび太の方は千尋の触手の攻撃によって逃げ回るしか術がなく、戦況は一方的であったからだ。
しかし、戦闘開始から1分後、のび太は攻撃の対象を千尋本体から壁の穴から除く巨大な眼へと切り換えると、戦況は一気に変わった。
正にそれこそが千尋の弱点だったからだ。
そして、眼に攻撃を受けた千尋は文字通り眼に直接銃弾を当てられたような衝撃を受け、苦悶の声を上げるようになった。
それを皮切りに、のび太は次々と復活する眼に銃弾を浴びせていく。
しかも、途中からはアーウェン37・グレネードランチャーの37×110ミリグレネード弾を叩き込み始めた為、彼女の苦痛はより増加していった。
(このままじゃ負ける!)
そうは思ったが、彼女は何も出来ない。
元々、彼女の変貌した姿では体を自らの手で動かすことは出来ないのだ。
よって、彼女の取りうる選択肢は、自らの攻撃の手段である触手の直接攻撃やそれを使っての落石攻撃などによってのび太にダメージを与える他なく、それが出来ない限りは一方的に撃たれるしかない。
(・・・なんでだ!!どうしてガキなんかにここまでされるんだ!!)
自らの攻撃は全く当たらず、対して向こうの攻撃は的確に当たり、こちらにダメージを与え続けている。
このままでは自分が殺られるのも時間の問題だろう。
しかも、小学生相手に。
そんな屈辱的な現状が認められなかった結果、千尋の思考は恐怖と怒りでごちゃごちゃになっていた。
そして、それに同調する形で攻撃は滅茶苦茶になり、のび太はそれをかわし続けた結果、千尋に大きな隙が生まれる。
(! 今だ!!)
のび太はそのタイミングで先程、再装填を終えたデザートイーグルの44マグナム弾を千尋の顔面に叩き込む。
──そして、それを受けた千尋の意識は、2度と回復することはなかった。
◇
「ふぅ。ちょっとてこずったけど、どうにか倒したな」
のび太は44マグナム弾を受けて頭が弾け飛んだ千尋の姿を見ながらそう呟く。
こちらの被害は、強いて言うならば少々の掠り傷と5発のアーウェン37・グレネードランチャーの弾丸を全て使いきってしまったことくらいだ。
正に完勝と言っても過言ではない。
「・・・そう言えば、二人は別の島に運ばれたとか言っていたな」
のび太は先程の千尋の言葉を思い出す。
(別の島に行くには海を渡らないと行けないから、もしかしたら船かヘリが有るのかも)
のび太はそう考えるが、1つだけ問題がある。
そもそものび太は船には乗ったことはあるものの、操縦したことはないし、ヘリに至っては乗ったことも無い。
故に、それらが有ったところで動かす術が無い以上、どうにもならないのだ。
(・・・でも、このまま手をこまねいていてもどうしようもない。取り敢えず探してみよう)
のび太はそう思い、部屋から出ていこうとしたが、その前にとある男から声を掛けられた。
「待て!」
「!?」
のび太はその声に反応し、咄嗟にベレッタをそちらの方に向け、自らも顔を向ける。
すると、そこには島田千尋の執事らしき男が立っていた。
「私の名前は井手上透。野比のび太、俺はお前を絶対許さない」
男──井手上透はそう宣言するが、それ以上のび太に対して何かを言うことも行動することもなく、部屋からスッと姿を消していった。
のび太は奇襲の可能性もあると、警戒を行いながらしばらく銃を構えたままにしていたが、やがてゆっくりと銃口を下へと向け、ベレッタをホルスターへと戻す。
「・・・何だったんだ?いったい」
のび太は透と名乗った男の不可解な行動の意味が分からなかったが、取り敢えず今は危険は去ったと見て、今度こそ部屋から出ていった。
──しかし、のび太は知らない。
後にこの男が、とんでもない災いをのび太にもたらすということを。
◇
「──のび太君!」
「!? ドラえもん!!」
あれから少しした所に船着き場があった為、のび太はそこに向かったのだが、そこに居たのは青い色をした丸っこい形をした存在──ドラえもんだった。
時間にして半日振り、しかし、体感時間では何日も会っていないような気がした為、のび太はその青い姿を目にすると同時に涙を溢す。
「良かった。無事だったんだね!!」
「どうしてここに?いや、そんなことよりも、なんで早く来てくれなかったの!?こっちは大変だったんだよ!!」
のび太は思わずドラえもんに対して、そう叫んでしまう。
なにしろ、手違いでこの島に入ってしまったとはいえ、ドラえもんならば容易に調べてここまで来ることが出来た筈なのだ。
もっとも、以前、無人島で10年近くも発見できなかったことがあったので、一概には言えないが、この島はキチンとした名前がある有人島だし、忘れ物を取りに行ってなかなか帰ってこない状況ならば、何かしらのトラブルが有ったのは分かる筈なので、もっと早く秘密道具でもなんでも使って迎えに来て欲しかったというのがのび太の本心である。
まあ、あんな地獄の空間に長く居たい訳がないので、のび太の言ったことは至極尤もだった。
「・・・」
しかし、それに対してドラえもんは少々複雑そうな顔をした。
のび太はそのドラえもんの表情を不審に思い、更に問い詰めようとした時、聞き覚えのある声がのび太の耳に入る。
「よう、お前も無事だったか」
「響さん!?」
それは教団に連れ去られた筈の響だった。
左腕は包帯によって吊るされており、腹にはでかい包帯が何重にも渡って巻かれており、とても無事とは言えない状態であったが、それでもどうにか生きていることにのび太は喜んでいる。
なにしろ、この島では生きているだけでももうけものであるのだから。
「連れ去られたと聞きましたけど・・・」
「ああ、そこの青だぬ、じゃなかった。青い奴に助けられたんだ。だが、みほは当の昔に、こことは別の島に搬送されちまったらしい」
青狸と言い掛けたところでドラえもんの目がギラリと光った為、響は慌てて言い直す。
「・・・そうですか」
しかし、そんな響を気にすることなく、のび太は残念そうに呟いた。
もし響と同じタイミングで搬送されたのならば、ドラえもんが共に助けてくれた可能性もあったからだ。
もっとも、みほが拐われたのは元はと言えば自分の失態なので、ドラえもんを責める気はないが。
そこでドラえもんが会話に戻ってくる。
「兎に角、今はここを離れよう。あっちに船が用意してあるから、そこでお互いの状況を話そう?」
「・・・うん、分かった」
のび太は半ば疲れた様子でそう答えた。
◇海上 船内
「そんなことが・・・」
のび太はドラえもんから知らされる情報に絶句していた。
自分が日向穂島を探索していたのとほぼ同時期に、のび太の故郷である東京練馬区ススキヶ原がバイオハザードによって壊滅し、ドラえもん達が生き残ることに奔走したこと。
そして、その過程で何人か仲間が死んだことなどだ。
中でものび太がショックを受けたのは、のび太の両親が既に死亡していることと、先生がゴリラのような化け物に体を2つに引き裂かれたこと、更にはクラスメートのはる夫がバイオゲラスというカメレオンのような怪物にやられて死んだことなどだった。
しかし、思ったよりのび太はショックを受けることはない。
何故なら、バイオハザードの恐ろしさはのび太もこの1日で嫌という程思い知っていたし、そうでないにしても、いきなり自分の知らない間に故郷を失い、両親が死んだなどと言われても、却って実感が沸かなかったのだ。
「待って。ドラえもんの道具はどうなったの?それを使えば良かったんじゃ・・・いや、それ以前にタイムマシンを使ってバイオハザードを未然に防げば──」
「ごめん、のび太君。道具のほとんどは修理中だったんだ。残っているのは空気砲やタイムテレビとかくらいなんだ。あとはキャンプ道具や幾つかの船くらいかな?それとタイムマシンの事だけど、のび太くんの家は学校に一度逃げてからジャイアンと一緒にやって来たんだけど、その頃にはのび太くんの部屋はもう燃えてて・・・」
そこから先は言わなくとも、のび太には理解できた。
要するに、過去を改編することはできないので、今の現状を現実として受け入れるしかないということだ。
もっとも、本来であればタイムマシンを使うことの方が“異常”であり、これが“正常”と言えるのだが。
しかも、話を察するに、現状ではタイムマシンどころか、秘密道具すらろくに無いらしい。
ということは、ドラえもんにはあまり期待しない方が良いという事だ。
「それで残った道具を使って君を探してこうして迎えに来たんだよ」
「そうだったんだ・・・」
のび太はドラえもんの言葉にそう返事をしながら、現状がかなり不味いものであるということを改めて認識した。
そして、そんなのび太にドラえもんはあることを告げる。
「それでね。ジャイアン達はアンブレラを倒しに行こうって言っているんだ」
「ええっ!?」
そのドラえもんの言葉に、のび太は流石に驚いた。
まさかそのような話になるとは思わなかったからだ。
しかし、理解はできた。
おそらく、故郷や両親が亡くなってしまったという事実による怒りと大冒険での成功がそのような決断をさせたのだろう。
なにしろ、のび太もまた先程までは同じような目に遭っていたのだ。
おまけにジャイアン達の場合、それが故郷というだけあって、日向穂島では所詮余所者に過ぎなかったのび太よりバイオハザードに対する思い入れが深い事も簡単に想像できた。
「もちろん、このまま政府に保護される予定の人達も居るから全員って訳じゃないんだけど・・・君はどうする?」
「行くよ」
のび太は即答する。
ドラえもんの言っていることが全て事実ならば、のび太もまたアンブレラを許せない。
なにしろ、先程の日向穂島もまた、アンブレラの手によって汚染されていて、島の住民は全滅している。
この上に故郷がアンブレラの手によって全滅したとなると、のび太のアンブレラへの怒りは教団に対するものと同程度だ。
「でも──」
しかし、その前にのび太にはやるべきことがあった。
『絶対に生きてここを出よう!プラーガとかいうのを取り除いて、僕と君と響さんの3人で必ず脱出するんだ!!』
『・・・うん、そうだね!約束だよ、のび太君!!』
それはあの古城で交わしたみほとの約束。
あれはまだみほがこの場に居ない以上、達成されていないし、平行世界からやって来たという教団との決着もある。
それらをまずのび太は優先しなくてはならない。
「──ドラえもん、頼みがあるんだ」
そして、のび太はドラえもんを巻き込む形で、ある頼み事を行った。
──一人の少女との約束を果たすために。
本話終了時ののび太の装備
武器・・・ベレッタM92(6発)、コルトガバメント(2発)、ニューナンブM60(5発)、コルトパイソン(0発)、デザートイーグル・44マグナムバージョン(7発)、ショットガン・ベネリM3(6発)、レミントンM870・ショットガン(4発)、アーウェン37・グレネードランチャー(0発)、H&K MP5(9発)、ロケットランチャー・RPG─7(1発)、コンバットナイフ、M67破片手榴弾3個、M84スタングレネード5個、MK─3手榴弾2個
予備弾薬・・・ベレッタM92のマガジン1つ(15発)、コルトガバメントのマガジン1つ(7発)、12ゲージ弾(18発)、38スペシャル弾(19発)、デザートイーグルの44マグナムマガジンが1つ(8発)、40×46ミリグレネードランチャー3発(焼夷弾2発、硫酸弾1発)、30発箱型弾倉2つ(60発)、MP5の32発マガジン2つ(64発)
補助装備・・・救急スプレー2つ、ミックスハーブ1つ、調合されたハーブ1つ、アンブレラの資料、謎のメモ。
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上陸
◇西暦2020年 7月29日 未明 アンブレラ研究島
「野比のび太とこの世界のドラえもん様がこの島へと上陸したようです」
「そうか。遂に恐れていたことが起きてしまったか」
「一応、迎撃の指示は出しましたが・・・」
「その程度でやられてくれるなら我々とて苦労はしない。こうなると、我々も全力をもって相手をせねばならぬだろうな」
「では?」
「武装教団員達を根こそぎ集めて迎撃しろ。それとこの島に存在する化け者共もだ。我々の全戦力で奴等を迎え撃つのだ!!」
「はっ」
◇
「良い武器が手に入ったな」
のび太は上陸した島の武器庫にて、H&K G36・アサルトライフルとFN Five-seveNとそのマガジンや手榴弾、閃光手榴弾、更には何故かのび太のサイズに合う戦闘スーツ──バイオアーマーが存在した。
更にG36のマガジンは30発箱型マガジンの為、ステアーAUG A1を見つけたのと同時に手に入れた2つの30発箱型マガジンが使える。
「さっきは危なかったからね。持っているに越したことはない」
のび太はこの島に上陸した直後のことを思いだし、思わず冷や汗を流してしまう。
この島にはのび太とドラえもんで上陸し、響は負傷していることも考慮して船に残す形で置いてきた。
そして、ドラえもんとのび太も二手に別れてこの島を捜索していたのだが、のび太は初っぱなにM134ミニガンを構えた大男に出くわしてしまったのだ。
M134ミニガンは7、62×51ミリNATO弾を毎分3000発(毎秒50発)発射することが出来る。
当然、そんなものが人間の体に直撃すれば防弾チョッキを着ていようがいまいが、蜂の巣となり、挽き肉へと変わってしまう。
その為、のび太は必死に射線外へと逃れたのだ。
幸い、このM134ミニガンは人が持つサイズでは使える弾数にも限りがあったので、10秒程撃った辺りですぐに弾切れが起きた。
加えて、日向穂島と違って障害物が多かった為、M67破片手榴弾を使うことができ、のび太はそれを使ってその大男のガナードを倒したのだ。
しかし、その後も銃火器やナイフ、手榴弾や電気の剣などを使った現代的な装備をしたガナードが大挙して押し寄せて来て、これもどうにか倒したものの、のび太はこの島に居る敵は日向穂島で相手した者達とは根本的にレベルが違うということを認識せざるを得なかった。
更に武装教団員達との戦いで弾丸もかなり消費してしまった為、のび太は何か強力な武器が欲しいと思ってここに入ったのだが、その判断は正解だったと言える。
「さて、問題はみほさんがこの島の何処に居るかなんだよな。・・・ん?」
のび太はみほに繋がる手懸かりはないかと周りを見渡し、1つのパソコンを発見した。
そして、それを覗き込んでみると、そこには幾つかの映像が映し出されている。
「これは監視カメラか?これで何か分かるかも・・・」
そう思うと、のび太はパソコンのモニターを覗き込む。
すると──
「! みほさん!?」
とあるカメラにみほは映っていた。
どうやら牢屋のような場所に閉じ込められているらしい。
「ここはエリア5?確かここはエリア1だったから、少し遠いけど行けない距離じゃないか・・・」
のび太はそう言うと、部屋で手に入れた武器を持ちながらエリア5へと向かった。
◇
のび太がエリア5へと向かっていた頃、別行動を取っていたドラえもんもまた空気砲で武装教団員達を倒しながらみほとプラーガ除去装置を探していた。
「・・・それにしても、数が多いなぁ」
ドラえもんは武装教団員達の数を見ながらそう思う。
別にそれ事態は何てことはない。
ドラえもんは曲がりなりにも今から100年後の技術の結晶であり、並の銃火器では傷つけることさえ出来ないのだから。
まあ、ロケットランチャーでも持ってこられれば話は別だが、逆に言えばそれでも持ってこない限り、ドラえもんにとって教団の銃火器は脅威にならないのだ。
しかし、そんなドラえもんでさえこの武装教団員の数には辟易していた。
まあ、サドラーがのび太とドラえもんを迎撃するために全戦力を傾けていたのだから、ある意味では当然とも言えたのだが、そんなことをドラえもんが知るよしもない。
「ん?あれは・・・」
ドラえもんは武装教団員に続いてやって来るBOW達を見た。
そこには緑色をしたハンターαや黒いハンター──シャドウハンターの姿もある。
「・・・これは少しばかり厄介そうだね」
ドラえもんは冷や汗を流しながらそれらの迎撃を行うために空気砲を再び構えた。
◇エリア2
「しかし、ここは何の島なんだ?」
武装教団員達を倒して進みながら、のび太は疑問に思う。
なにしろ、教団が待ち構えている島なので、ただの島ではないことは予測していた。
しかし、それにしては妙だ。
のび太が交戦してもいない場所に、あちこちに銃撃戦の後はあるし、よく分からない研究所や研究資料やらがあちこちに散らばっている。
「響さんもこの島のことを全く知らないって言ってたし・・・」
ここが教団の研究施設でない可能性は高い。
それなら教団の元研究者である響が知らないはずがないからだ。
勿論、秘密裏に運営されていた可能性もあるが、のび太は何か違う気がした。
「まあ、今は良いや。それより、ここはエリア2であっちがエリア3か。段々と近づいていってるな」
のび太は案内板を見ながらそう思い、そちらに向かって歩みを進めていった。
◇エリア4
「これは・・・」
エリア4に侵入したのび太は、とある研究室に入ったが、そこにある光景には今までのことを加味しても絶句せざるを得なかった。
何故なら、そこには幾つかのベッドとそこに寝かされた人達が居たが、その人間達は全員、腹を内側から破られたような状態となっているからだ。
当然、生死など言うまでもない。
「何があったんだ?それによく見ると、寝かされているのは女性ばかりだし。こんな小さい子まで」
のび太はその寝かされている小さな女の子の近くに寄ってみる。
すると、ベッドの脇にはその人物の名前であろう名札が貼られていた。
「西住めぐみ。・・・西住?」
のび太は西住という名字にみほを思い浮かべる。
(同じ名字だから、姉妹か何かかな?それとも名字だけ同じの全くの別人かな?)
のび太はそう思ったが、その時にみほのことを思い出して、今は時間がないと、女の子に軽く冥福を祈るだけでその女の子から離れたが、念のためと思い、他の遺体も調べることにした。
すると──
(西住さほ。ここにも西住の名字か)
しかも、これはどう見ても20代くらいの人間の遺体だ。
おそらく、先程見た西住めぐみの母親か何かだろう。
のび太はその母親にもまためぐみと同じように冥福を祈ると、足早にその研究室から出ていった。
(・・・やっぱり、あの二人の母娘はみほさんの親戚か何かなのかな?)
部屋を出た後、のび太はそう考える。
これが親戚ならば良い。
いや、良くはないが、助けた後のみほのことを思えば、もし仮に先程の母娘がそうだったとしても、親戚と関わりがないのであれば、黙っているという手もあるのだ。
知れば彼女は悲しむだろうし、後の人生にも大きく影響を与えてしまう。
まあ、このようなことに巻き込まれた時点で遅いと思われるかもしれないが、それでも知らぬが仏という言葉もある以上、そういった悲惨な話はなるべく知らない方が良い。
ましてや、彼女はのび太より1つ年上とはいえ、小学生でしかないのだから。
しかし、これが彼女の姉妹、母親であったらどうだろうか?
もしそうであるなら、みほは目を逸らすことは許されず、悲しみを必ず背負うことになる。
それは数時間前に唐突に両親の死を告げられたのび太が一番よく分かっていた。
(どうしたものかなぁ)
のび太は頭を掻きながらそう考えるが、この心配は全くの杞憂である。
何故なら、みほの姉妹はみほの1つ上の姉である西住まほしか居ないし、母親に至っては西住しほという全くの別の人物であるのだから。
しかし、そんなことをのび太は知らない。
響なら知っていたであろうが、あいにくここには居ないし、知っていたとしてものび太が言葉に出していない以上、答えられなかっただろう。
(・・・まあ、これは後で考えれば良いか。取り敢えず、今はみほさんを早く助けることを考えないと)
のび太はそう思い、みほを助けることに思考を戻したが、その時、何かを感じ、足を止めた。
「・・・」
のび太はじっと黙ったまま、周囲を見渡すが、何も居ない。
しかし、何かが居ることはなんとなく感じ取れるので、今度は耳に神経を集中させる。
すると──
ヒッヒッヒェッヒェッ・・・ヒッヒッヒェッヒェッ・・・
──不気味な音が聞こえてきた。
「・・・」
のび太は無言のまま、ソッとデザートイーグルを引き抜く。
そのあまりの不気味さに若干の恐怖を抱いたのか、その顔には冷や汗があちこちに流れている。
デザートイーグルを引き抜いたのも、そんな恐怖の対象を一撃で仕留めたいという心理が働いたからだ。
「・・・何処だ?」
まだ気配はある。
だが、姿は見えない。
その矛盾にのび太が首を傾げたその時──
ヴゥゥ
赤い目をした灰色の化け物──リヘナラドールがのび太の側面から襲い掛かってきた。
本話終了時ののび太の装備
武器・・・ベレッタM92(6発)、コルトガバメント(2発)、ニューナンブM60(5発)、FN Five-seveN(20発)、コルトパイソン(0発)、デザートイーグル・44マグナムバージョン(3発)、ショットガン・ベネリM3(8発)、レミントンM870・ショットガン(4発)、H&K G36・アサルトライフル(12発)、アーウェン37・グレネードランチャー(0発)、H&K MP5(14発)、ロケットランチャー・RPG─7(1発)、コンバットナイフ、M67破片手榴弾5個、M84スタングレネード7個、MK─3手榴弾3個
予備弾薬・・・ベレッタM92のマガジン1つ(15発)、コルトガバメントのマガジン1つ(7発)、FN Five-seveNの20発標準マガジンが3つ(60発)、12ゲージ弾(16発)、38スペシャル弾(19発)、デザートイーグルの44マグナムマガジンが1つ(8発)、40×46ミリグレネードランチャー3発(焼夷弾2発、硫酸弾1発)、30発箱型弾倉4つ(120発)、MP5の32発マガジン1つ(32発)
装備防具・・・バイオアーマー
補助装備・・・救急スプレー2つ、ミックスハーブ1つ、調合されたハーブ1つ、アンブレラの資料、謎のメモ。
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あと少し
◇西暦2020年 7月29日 未明 エリア5
エリア5の牢屋。
そこには西住みほが閉じ込められている。
そこに居るみほは日向穂島に居た時のように俯いているが、あの時とはそのような体勢を取っている理由が違った。
(あ~あ。私って、本当に役立たずだなぁ)
みほは内心で自嘲していた。
散々同級生か、年下に思える少年に守って貰ったというのに、あっさりと化け物に拐われてしまったのだ。
もっとも、あれはのび太の判断ミスでもあったのだが、それを責める資格は誰にもないだろう。
何故なら、のび太はのび太なりに、あの場を切り抜ける判断をしただけなのだから。
しかし、だからこそ少女は自分を責めていた。
彼女はのび太のことを自分の命さえ賭けて守ろうと誓っていたが、その誓いがされてから今まで、それが果たされることは一切なかったのだ。
まあ、そもそもみほはのび太と違い、戦闘経験も相手を殺傷する覚悟も武器もそれを扱う技能も何も持っていない。
要は自分の命を賭けられる程の覚悟はあっても、相手を傷つける度胸はなかったのだ。
もっとも、それはのび太も同じだった筈なのだが、彼の場合、大冒険やその他の戦闘という経験を経たことがそれをクリアさせていたが、みほにはそんなものはない。
つまり、はっきり言って彼女が戦場で出来ることなど何も無いのだ。
それでも命を捨てる覚悟は本物なのだから、そういう意味ではその度胸は大したものではあるが、逆に言えばそれだけだ。
いや、仮にみほが戦闘技能を持っていたとしても、それはのび太の邪魔にしかならなかっただろう。
何故なら、のび太の戦闘技能はそれが戦場に居る味方が自分一人であった時に一番発揮されるものなのだから。
とどのつまり、みほはこの舞台で見せたように“主人公に守られるお姫様”という立場であるのが、本来、その舞台で一番苦労を強いられるはずの
もっとも、みほはそんなことを知るよしもない。
何故なら、それはみほどころか、のび太や敵であるサドラーですら気づいていない事実であったのだから。
まあ、仮にそれに気づいたところで、みほがその事実に納得するかどうかは別問題だろう。
みほが一番嫌なことは、自分のために他人が傷つくことなのだから。
「・・・のび太君、大丈夫かな?」
そんな状況で思うのは、自分を守ってくれた一人の少年の安否。
彼が助けに来るとは思っていない。
何故なら、この場所はあの島から海を隔てた位置にあるし、あの少年が海を越える移動手段を持っているとも思えなかったからだ。
なので、あの約束が果たされることはないだろう。
みほはそれも覚悟していたが、やはりのび太は無事で居て欲しいというのが、紛れもない彼女の本心だ。
元々、彼は何の関係もなかったのだから。
「ごめんね」
みほはここには居ないのび太に向けて謝罪の言葉を口にする。
そして、願う。
無事でいますように、と。
・・・しかし、彼女も無意識下ではこう思っていた。
助けて、と。
だが、それを口に出すことはない。
それは許されないことであるとみほの感情が否定していたからだ。
だが──
ドン!
そんなみほの思いを一方では裏切り、もう一方では叶えるかのように、一発の銃声が彼女の牢屋と少し離れた位置で響き渡った。
◇
「ふぅ、厄介な敵だな、こいつ」
のび太はそう思いながら、持っていたデザートイーグルを元のホルスターの位置に戻す。
あれからリヘナラドールを(アーウェン37・グレネードランチャーを破壊されるというハプニングは有ったものの)どうにか退け、のび太はエリア5までやって来たのだが、その先に居たのはたった今交戦した鎧のようなハンター──モビルハンターだった。
正面からの攻撃はデザートイーグルすら通用しなかったが、攻撃を回避した時、背中の部分は通常のハンターαの色合いをしていることに気づき、そこは普通のハンターと変わらないのかもしれないとのび太は推測し、デザートイーグルの44マグナム弾をそこに向けて発射し、見事に撃破したのだ。
しかし、正面からの攻撃がマグナムをも通さないというのは、非常に厄介であるのは確かだった。
何故なら、このような狭い場所では横に回避して、攻撃をやり過ごすということは難しいからだ。
おまけに障害物も少ないので、破片手榴弾も使いづらい。
「まったく、よくこんなのを用意できたな」
のび太は倒れて動かなくなったモビルハンターを見ながらそう思う。
皮膚を強化するのではなく、文字通り金属のような物で強化された生物兵器。
日向穂島で戦ったスーパータイラントもそうだったが、装甲化された生物兵器など、どうやって造ったのか分からない。
のび太は別に化学の専門家という訳でもなかったが、それが異常であるということはなんとなく分かった。
「・・・まあいいや、取り敢えず対処法が分かっただけでもよしとしよう。それより、エリア5はここだな。ということはあと少しだ」
のび太はそう呟きながら、先へと進んでいった。
◇
「! みほさん!!」
モビルハンターと交戦した場所から少し歩き、遂にのび太はみほを発見することが出来た。
「のび太君!?」
だが、当のみほは困惑していた。
まさか本当に来るとは思っていなかったからだ。
しかし、そんなみほに構わず、のび太は彼女が閉じ込められた牢屋に駆け寄り、扉を開けることを試みる。
「これはカードキー式か?みほさん、ここの鍵を知らないかな?」
のび太はここの鍵の場所をみほに尋ねる。
もっとも、みほがそんなことを知っている可能性が低いのは、のび太も重々承知の上だ。
しかし、それでもダメ元で聞いてみた。
「えっ?ごめんなさい、流石にそこまでは・・・」
しかし、案の定、みほは鍵の位置を知らなかった。
まあ、当然だろう。
閉じ込めている人間から見える位置に鍵を置いておくなど、よほどの間抜けがすることなのだから。
「いや、ダメ元で聞いただけだから良いんだ。分かった、すぐに探してくるからここで待っていて」
「へっ?あ、あの・・・のび太君?」
みほは状況についていけず、困惑していた。
しかし、そんなみほに対して、のび太は優しくこう言う。
「大丈夫、心配しないで。もう少しだから」
「う、うん」
その優しい声に、みほはつい頷いてしまう。
そして、のび太は懐から弾が満タンに装填されたニューナンブM60を取り出してみほに渡す。
「一応、持っておいて。護身用くらいにはなるだろうから」
「えっ、でも・・・」
みほは戸惑う。
まあ、彼女は拳銃を持ったことも、ましてや扱ったことも無いのだから当たり前の反応だが、あいにくのび太は当たり前のように扱っていたので、その点には気づくことが出来なかった。
「大丈夫だよ。僕はまだ武器があるから。じゃあ、そういうことで」
そう言って、のび太は一旦そこを去っていった。
◇
「くそっ!あと少しなのに!!」
のび太は悪態をつく。
ようやくカードキーを見つけたのび太であったが、そこからみほのところに戻ろうとした先に居たのは、教団の武装教団員達だった。
おまけにハンターαより凶悪なハンターβまで居る。
本来ならゆっくりやり過ごしたい相手ではあったが、そうもいかない理由があった。
(ここにこいつらが居るということは、みほさんが別の場所に連れ出されようとしている可能性が高い。なら、急がないと)
そう、この道に武装教団員が居るということは、彼らはみほを再度連れ出すための足止めとして配備されている可能性が高い。
ならば、早くみほのところに駆け付けなければならない。
(仕方がない。あの灰色の奴で弾を使いすぎたから温存したかったけど、あれを使うしかない!)
のび太はここに来てリヘナラドール戦で消耗した為、温存していたG36を投入することに決めた。
そして、のび太はG36の銃口をそちらに向け、発砲し出すと、拳銃では撃破が難しかった敵も5、56×45ミリNATO弾の前には流石に堪えたのか、あっという間に掃討されていく。
一方、それは敵からしてみれば悪夢でしかない。
何故なら、彼らはのび太が拳銃でこちらを相手にしていた時ですら、のび太に対して傷をつけることすら出来ていなかったのだから。
のび太は自分が苦戦していたと思っているが、実は苦戦していたのは彼らの方だったのだ。
しかし、流石にハンターβはある程度は持ちこたえたものの、攻撃力以外ではハンターαとさして変わらない事もあってか、他の武装教団員と同様にG36の銃弾を前に倒れた。
そして、そのような強引な進撃を行って、どうにかのび太はみほが閉じ込められている牢屋の近くまで辿り着いた。
しかし──
「えっ?」
のび太は目を見開く。
「よく来たな。その褒美として、裏切られて死ね恐怖を味わって貰おうか」
そう言って嘲笑う赤い色をしたドラえもんと──
こちらにのび太が渡したニューナンブM60を向けるみほの姿だった。
ドン!
──その直後、1つの銃声がその場に鳴り響いた。
本話終了時ののび太の装備
武器・・・ベレッタM92(13発)、コルトガバメント(5発)、FN Five-seveN(14発)、コルトパイソン(6発)、デザートイーグル・44マグナムバージョン(6発)、ショットガン・ベネリM3(8発)、レミントンM870・ショットガン(4発)、H&K G36・アサルトライフル(6発)、H&K MP5(14発)、ロケットランチャー・RPG─7(1発)、コンバットナイフ、M67破片手榴弾3個、M84スタングレネード6個、MK─3手榴弾2個
予備弾薬・・・FN Five-seveNの20発標準マガジン3つ(60発)、12ゲージ弾(12発)、38スペシャル弾(12発)、40×46ミリグレネードランチャー3発(焼夷弾2発、硫酸弾1発)、30発箱型弾倉3つ(90発)、MP5の32発マガジン1つ(32発)
装備防具・・・バイオアーマー
補助装備・・・救急スプレー1つ、ミックスハーブ1つ、調合されたハーブ2つ、アンブレラの資料、謎のメモ。
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戦闘ヘリ
◇西暦2020年 7月29日 未明
「危ない!」
ニューナンブM60を発砲するほんの直前、みほは支配されかけている精神の中で確かにそう言った。
それは本来ならば、ほとんど聞こえないほどのか細い声の筈であったが、何故かのび太の耳にはしっかりと届く。
「!?」
それを見たのび太は慌てて先程自らが通ってきた曲がり角に身を隠すが、その前にみほの持っていたニューナンブM60の38スペシャル弾がのび太を襲う。
しかし、バイオアーマーに身を包むのび太には拳銃弾程度では少し衝撃があるくらいであり、効果はほとんど無い。
これがのび太のようにヘッドショットを決めたのなら話は別なのだが、みほにそんな腕は元からないし、操られている今の現状ならばそれより更に腕は落ちる。
よって、銃弾は頑丈なバイオアーマーへと当たり、吸収されるという結果に終わったのだ。
そして、2発目の38スペシャル弾が発砲された時には、既にのび太は曲がり角に身を隠しており、その弾丸は空しく壁に当たるだけだった。
(確かニューナンブM60の装填弾数は5発だったから、残りは3発かな?・・・予備の弾薬を渡してなくて良かった)
のび太はその事に安堵していた。
のび太にとって幸運だったのは、彼がみほに予備の弾薬を渡していなかった事だろう。
逆に言えば、装填弾数が満タンで渡したことは紛れもない不幸だったのだが、それでも2発撃った今、残りは3発。
それも相手の腕から推察するに、よっぽど運が悪くない限り、当たらない確率の方が高い。
(でも、問題はその後どうするかなんだよね)
状況から見て、みほのプラーガへの同化はかなり進んでいる。
それだけでも問題だが、おそらく敵であろうあの赤いドラえもんの近くにみほが居る以上、こちらから手出しは出来ない。
みほを避けて相手に銃弾を当てられる自信はあるが、プラーガで操られていることを考えれば、逆にみほを盾にして銃弾を受け止める、などということをされる可能性もあるのだ。
そもそもあの赤いドラえもんに銃弾を当てたとしても効くかどうかも分からない。
RPG─7でも使えば分からないが、もちろんこの状況で使うのは論外である。
「さて、どうしたものかな?」
のび太は言葉は余裕そうだが、頭の中では必死にこの状況の打開策を練っていた。
しかし、そんなのび太の思考を遮る形で、のび太の居る廊下の奥から、武装教団員達が現れる。
「あそこだ!殺せ!!」
「!? 不味い!」
のび太はここに来てかなり焦った。
ここは曲がり角の一本道しかなく、当然、出た先にはみほたちが居るのだが、現在はその反対側の道からも武装教団員達が殺到している。
つまり、挟撃状態なわけだ。
「こうなったら・・・」
のび太は使いどころが無くなっていた3発の40×46ミリグレネード弾の内、焼夷タイプの物を2発とも取り出すと、それを武装教団員達の方に向かって投げる。
そして、彼らの足元にそれが転がると、のび太はそのグレネード弾にベレッタの弾丸を一発ずつ撃ち込んだ。
すると、爆発が起きて炎が飛び散り、その付近にいた彼らの体は燃え上がる。
「よし!あとは・・・」
のび太はこうなった以上、一か八か、短期決戦のためにあの赤いドラえもんに接近戦を挑むことに決めた。
どのみち、みほのことを考えれば時間はないし、時間をかければあの武装教団員達の増援がやって来るだろう。
ならば、そうなる前にここで決着を着けた方が良い。
そう考えたのび太は、右手にデザートイーグル・44マグナムバージョンを、左手に貫通力の高いFN Five-seveNをそれぞれ持つ。
「よーし。1・・・2の・・・3!」
のび太はその掛け声と共に飛び出す。
しかし──
「──あれ?」
──そこにみほと、あの赤いドラえもんの姿はなかった。
◇
「サドラー様」
「もう芝居は止めだ。本来の名前で良い」
「・・・失礼致しました。それでドラえもん様、この状況如何致しますか?既に野比のび太とこの世界のドラえもん様が別々なルートでここに近づいているようですが」
「決まっている。全戦力をもって迎え撃て」
「・・・よろしいのですか?既に戦力の7割近くが消耗していますが」
「構わん。どのみち奴等を倒すことが出来なければ、この世界の征服など夢のまた夢だ。その後の再建など後で考えれば良い。今は全てを失う覚悟で挑まないと奴等には決して勝てん」
「分かりました」
「なにがなんでも勝ちきるのだ!奴がジャックポットを引く前に!!」
◇
ドドドドドドドドド
平行世界のドラえもんが覚悟を決めていた頃、のび太は雨の降りしきる中、機関銃を連射しているトーチカの前で足止めを食らっていた。
「くそっ・・・どうすれば良いんだ?」
のび太は悩む。
本来ならば、RPG─7を使えば良いのだが、先程別のトーチカを潰すのに使ってしまったのだ。
しかも、入手した2つのグレネードランチャーも既にこれまでの戦闘で破壊されてしまっている。
グレネード弾なら1つだけ余っていたが、先程と同じ戦法を取ろうにも、それには相手に自分の姿を晒してトーチカの中へと投げなくてはならない。
当然、そうなれば敵も機関銃を撃ってくるし、のび太のノーコンな投球ではまずトーチカの中へと入れられないだろう。
そういったこともあって、のび太はその戦法を取らなかったのだ。
しかし、残った火力ではトーチカを破壊するには足りない。
だが、時間がない。
こうしている間にも、みほの同化は更に進んでいるのだから。
どうするべきかとのび太が考えていたその時だった。
バババババババ
トーチカとは反対側の方向から1機のヘリがやって来た。
「ん?あれってスネオの家で見た・・・確か戦闘ヘリだったかな?・・・・・・戦闘ヘリ!?」
そう、やって来たヘリはただのヘリではない。
AH─1 コブラ。
ベトナム戦争の頃に登場したアメリカの戦闘ヘリだ。
現在でも自衛隊や中小国の国などでは現役となっている機体である。
しかし、のび太にとっては現役だろうが、旧式だろうがその存在が脅威には違いない。
何故なら、その武器の1つでものび太に牙を剥けば、のび太がミンチにされる運命に変わりは無いからだ。
思わず大量の冷や汗を流してしまうのび太。
そんな彼に、上陸する前にドラえもんから貰った無線機から通信が入った。
『──やあ、のび太君。無事かい?』
「あっ、うん、ドラえもん。・・・え~と、さよなら」
『のび太君?』
「ちょっと今戦闘ヘリとトーチカに挟まれちゃっててね。たぶん数秒後には僕も眼鏡だけしか残らないと思うんだ」
テンパった結果、思わず変な言葉を発してしまうのび太。
しかし、その言葉に間違いはない。
何故なら、戦闘ヘリにはそれだけの攻撃力があるのだから。
だが、ドラえもんが発したのは意外な言葉だった。
『──OK、分かったよ。ちょっと待っててね』
「えっ?」
のび太はその言葉に戸惑う。
しかし、その直後、戦闘ヘリは移動していき、トーチカの近くに寄る。
すると、いきなりロケット弾ポッドを使ってトーチカを攻撃し始めた。
「!?」
のび太は潜んでいた戦闘員ごと破壊されたトーチカを呆然と見る。
しかし、その直後に再びドラえもんから通信が入ってきたことで我に返った。
『──あのヘリは僕が操作しているんだよ』
「ドラえもん!!」
『さあ、行こう。早くみほちゃんを助けるんだ』
「ああ、援護頼むよ。親友」
『任せといて!』
二人は無線越しにそう言い合って再び進撃を開始した。
◇
その後も、のび太はドラえもんが操作するヘリと共にトーチカや敵を撃破していった。
しかし──
(不味いな)
敵が待ち構えていた場所にのび太は不用意に突っ込んでしまっていた。
おまけに、向こうにはM134ミニガンを装備したあの大男まで居る。
「・・・やるしかないよね」
のび太はそう思い、敵を撃破するべく障害物から躍り出ようとするが、その前に再びドラえもんから通信が入る。
『──のび太君、伏せて』
「えっ?」
のび太はその言葉の意図が分からなかったが、取り敢えず親友の言葉を信じてその場に伏せる。
すると──
ドドドドドドドドドドドドドドドド
たった今、のび太が撃破しようとしていた敵は、ドラえもんが操作するコブラから発射された20ミリM197ガトリング砲によって文字通りの意味で粉砕された。
そして、一通りの掃射が止むと、のび太は顔を上げる。
「・・・凄いな」
のび太は目の前の光景を見てそう思う。
なにしろ、先程まで機関銃やライフルを元気に発砲していた敵が物言わぬ肉片となっているのだから。
これがもし敵であったらと思うと、のび太はゾッとする感情を抑えることが出来なかった。
それでも助かったのは確かなので、ドラえもんに一言礼を言う。
「ドラえもん、援護ありがとう」
『──お安いご用だよ』
「あとでどら焼き買ってあげるね」
『良いね!良い店を知っているんだよ』
二人はそんな冗談を言い合った。
しかし、二人とも分かっているのだ。
それが叶うのは当分先、下手をすれば永遠に叶うことはないということを。
何故ならば、この戦いが終われば、彼らはアンブレラとの戦いに身を投じなければならないのだから。
だが、今だけはそんな冗談で気を紛らわしたかった。
ドッガアアアアアン
だが、そんな思いも、何処からともなく飛んできたロケット弾によってヘリが撃墜されたことで踏みにじられた。
「! ドラえもん!!」
のび太は叫ぶが、ヘリは無情にも落ちていき、そのまま地面に墜落すると、燃料や弾薬に引火したのか、大爆発を起こして完全に破壊された。
「そ、そんな・・・」
のび太はその光景を見て呆然とした。
無理もない。
先程まで陽気に話していた親友がああなってしまったのだから。
『──やあ、のび太君。仲の良い友達が撃ち落とされた気分はどうかね?』
しかし、その時、無線機から耳障りな声が聞こえてきた。
「お前は・・・サドラー。いや、あの赤いドラえもんか」
『そうだ。ところで、ずいぶんとイラついているようだが、何を怒っているのかね?』
白々しい。
のび太はそう思いながら、怒りに顔を真っ赤にしてこう言った。
「よくもドラえもんを!!」
『何を言っているのだ?お前だって、目の前を虫が飛んでいたら殺すだろう?』
「ふざけるな!僕らは虫じゃない!!」
『・・・ああ、そうだとも。お前は人間だ。だが、これから先、私は全てを犠牲にしてでもお前を殺す。殺してみせる』
「やれるものならやってみろ!」
それが二人の宣戦布告の言葉だった。
やがて、無線機から赤いドラえもんの声が消える。
「・・・」
そして、のび太は無言のまま、みほを助け、教団に止めを刺すために足を前へと進めた。
本話終了時ののび太の装備
武器・・・ベレッタM92(7発)、コルトガバメント(1発)、FN Five-seveN(8発)、コルトパイソン(6発)、デザートイーグル・44マグナムバージョン(5発)、ショットガン・ベネリM3(8発)、レミントンM870・ショットガン(4発)、H&K G36・アサルトライフル(24発)、H&K MP5(14発)、ロケットランチャー・RPG─7(0発)、コンバットナイフ、M67破片手榴弾2個、M84スタングレネード5個、MK─3手榴弾2個
予備弾薬・・・FN Five-seveNの20発標準マガジン3つ(60発)、12ゲージ弾(7発)、38スペシャル弾(12発)、40×46ミリグレネードランチャー1発(硫酸弾1発)、30発箱型弾倉2つ(60発)、MP5の32発マガジン1つ(32発)
装備防具・・・バイオアーマー
補助装備・・・救急スプレー1つ、ミックスハーブ1つ、調合されたハーブ2つ、アンブレラの資料、謎のメモ。
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可能性
◇西暦2020年 7月29日 未明
のび太はとある実験場らしい部屋へと入る。
すると──
「!?」
そこには一人の女子高生くらいの少女が居た。
のび太は銃を向けようかと一瞬考えたが、その少女が両手を上に挙げているのを見てそれを止める。
「あなたは?」
「私の名前は富藤雪香。この教団の研究者の娘といったところかしら。ところで、あなたは野比のび太君よね?」
「そうですけど・・・」
のび太は警戒しながらも雪香の言葉を肯定する。
既に教団に自分の名前と顔が知れ渡っている以上、隠しても無駄だと判断した為だ。
「そんなに警戒しなくても大丈夫よ。私は別に教団に属しているわけでも、崇拝している訳でもないんだから」
「・・・」
だが、それを聞いたのび太は警戒を解かない。
当たり前だ。
この状況で初めて会った相手を無条件に信用する人間など居ない。
それを分かっているのか、雪香は苦笑しながらこう言った。
「信用できないのも分かるわ。でも、私は西住みほさんの居場所を知ってる。それを教えることで信用してくれないかしら?」
「・・・分かりました。案内してください」
のび太はそう答える。
まだ信用は出来ないが、だからと言って手懸かりになりうる情報を放り出すわけにはいかないと思ったからだ。
なにより、時間が無いのだから。
「じゃあ、着いてきて」
そうして二人は奥の部屋へと進んでいった。
◇
「! みほさん!!」
のび太は雪香の案内で奥に進み、その先に在った部屋で大きな椅子に座らされたみほを発見した。
「の・・・びた君?」
「喋らなくて良いよ。今助けるから」
そう言うと、のび太はみほに肩を貸す形で支えながら立ち上がらせる。
そして、雪香に向き直ると、あることを尋ねた。
「それで、プラーガ除去装置が何処に在るか知りませんか?」
「ええ。それなら、こっち──」
「どうあっても邪魔をするようだな」
しかし、雪香の言葉を遮るように、のび太達が入ってきた入り口からあの赤いドラえもんが入ってくる。
「その娘は連れていかせない。お前たちにはここで死んで──」
ドガアアァン
だが、言葉を言い切らない内に、更なる存在が赤いドラえもんの後ろから出てきて、その存在の砲撃によって赤いドラえもんは若干前のめりに転倒しそうになる。
「誰だ!?」
赤いドラえもんの視線が背後に向く。
すると、そこにはのび太の大親友である青いドラえもんが居た。
「ドラえもん!?無事だったんだね!!」
「あのヘリはラジコン操縦なんだ。落とされたって僕は大丈夫だよ。それよりのび太君、みほさんを早くプラーガ除去装置に!」
「うん、分かった!頼んだよ、ドラえもん!!」
のび太はドラえもんを信用してそう言うと、足早にみほを連れて入ってきた時とは別な入り口から出ていった。
雪香も戸惑いながらもそれに続く。
「待て!」
しかし、当然、赤いドラえもんを追いかけようとするが、その前に青いドラえもんが呼び止める。
「お前の相手はこの僕だ!」
「ちっ。ポンコツロボットめ」
空気砲を構える青いドラえもんに、赤いドラえもんは忌々しげにそう言った。
◇
「あった。ここよ」
雪香はとある部屋に在った機械を指差す。
「こ、これですか?本当に」
のび太は若干顔をひきつらせている。
何故なら、その機械はなんとなく古臭いような外観をしていたからだ。
見れば、みほも同じことを思ったのか、不安そうな顔をしている。
「大丈夫よ。私が操作するから」
「・・・操作出来るんですか?」
「ええ、これでも研究者の娘なんだから」
誰かが聞けば、関係ないだろと突っ込まれそうなことを言う雪香。
それを見たのび太も少々不安に思ったが、今はみほのプラーガ除去が最優先であり、それが出来るかもしれない人材は雪香しか居ない。
のび太がやる手もあるが、言うまでもなくミスる可能性が十分すぎる程に有る。
「・・・じゃあ、お願いします。ただし、変なことしたら・・・」
「分かっているわ。任せて」
のび太は凄みを利かせた目で睨むが、雪香は若干恐怖を抱きながらもどうにか受け流す。
そして、それを見たのび太は彼女を信じることに決めた。
「・・・そこまで言うなら。じゃあ、みほさん。お願いします」
「う、うん。分かった」
みほはそう言いながら、機械の中へと入った。
しかし、その時──
ドッガアアアアアン
上の方で爆発音が聞こえた。
「・・・雪香さん。みほさんのことをお願いします。僕はちょっと出てきますから」
「えっ?ちょっと」
雪香は制止しようとするが、のび太はそれを無視する形で部屋を出ていき、音がした方向、すなわちこの島にある山の頂上へと向かった。
◇
山の頂上。
そこでは2体のドラえもんが居た。
しかし、1体は倒れていて1体は立っている。
そして、立っていたのは赤いドラえもんであり、倒れていたのは青いドラえもんだった。
「・・・・・来たか。思ったより早かったな」
赤いドラえもんは何かに感付いたのか、倒れている青いドラえもんに止めを刺すのを止め、そちらの方に向き直る。
そして、その視線の先にはここまで登ってきたのび太の姿があった。
「ドラえもん!?」
「スイッチを切って気絶しているだけだ。あいにく、とどめを刺す前にお前が来てしまったのでな」
「・・・」
のび太はそれに応えず、赤いドラえもんを無言のまま睨み返す。
「ほう、良い顔つきだな。だが、それで勝ったつもりか?最後に正義が勝つというのは所詮映画の中のクリシェでしかない。お前はここで死に、我々が勝利する。・・・だが、ここまで我々を追い詰めたのだ。その報酬代わりに、君に見せたいものがある」
赤いドラえもんはそう言うと、指をパチンと鳴らす。
すると──
「!? これは教会で見た」
「そう。この世界のサドラーに姿を似せて紫のローブを羽織っているが、中身は別世界のお前だ」
「なんだって!?」
思ってもいなかった事実を告げられ、のび太は驚愕する。
しかし、考えてみれば、平行世界のドラえもんや出木杉が居た以上、彼らと同じ平行世界から来た自分が居たとしても、なんら可笑しくはないのだ。
だが、改めてこうして突き付けられると、やはり感慨深いものがある。
「もっとも、プラーガの母体をその身に纏い、もはや原型を留めていないがな」
赤いドラえもんはそう言って彼──平行世界の野比のび太の状態を説明しながら、言葉を続ける。
「そして、我々は本来ならば教団の人間達と共にこの世界を征服している筈だった。お前のせいで半分は滅茶苦茶にされたがな」
赤いドラえもんは苦々しげにそう言うが、のび太はある点が気になって尋ねた。
「・・・1つだけ聞くよ。何故、わざわざこの世界、いや、別の世界を侵略しようなんて考えたの?」
のび太はずっとその点が気になっていた。
自分の世界なら兎も角、わざわざ平行世界まで行って侵略する理由がよく分からないのだ。
もっとも、それは赤いドラえもんからすれば簡単な理由だった。
「それは簡単だ。自分達の世界の過去を変えてしまうと、タイムパラドックスが起きて、元の世界の22世紀で生まれた私自身が存在しなくなってしまうからだ。しかし、時間軸が独立している平行世界ならば幾ら過去を変えようが、その心配はない」
「・・・つまり、未来が変わることを気にせずに悪さが出来るからここへ来たのか?」
「簡単に言えばそういうことだ」
のび太の要約を赤いドラえもんは肯定する。
そう、簡単なことだったのだ。
自分達の世界を征服して過去を変えてしまうと、自分が未来に居たという事実まで変わってしまい、自分は消滅してしまう。
つまり、過去改変などというのは、自分にとっても自滅行為な訳だ。
しかし、独立した時間軸の平行世界ならば、自分はその世界で生まれるという未来そのものが無いので、好き勝手して未来を変えたとしても自分に被害は及ばない。
それが赤いドラえもんが平行世界に来た理由だった。
「だが、この世界にも当然、平行世界ののび太とドラえもん、そして、出木杉が居る。それは私にとって非常に喜ばしくないことだ」
「だから僕を殺そうとしたと?」
「そうだ。だが、この世界のドラえもんは脅威にならない。22世紀の存在だから未来を変えてしまえば消滅してしまうからな。出木杉もそこそこ出来るようだが、所詮は秀才。我々にとってみればなんの障害にもならん。しかし、お前は別だ。お前だけはこの場で始末しておく必要がある」
そう言って赤いドラえもんは殺気を身に纏うが、のび太はあと1つ聞きたいことがあった為、そんな状況でも敢えてそれを尋ねた。
「・・・もう1つ聞いて良いかな?」
「なんだ?」
「何故この世界なんだ?平行世界と言えば、他に幾らでも有るんじゃないの?」
そう、平行世界というのはもしもボックスにあるように色々と存在する。
ドラえもんがのび太の元に来なかった世界、科学ではなく魔法が常識となっている世界、もしくは人間ではなく、犬が進化して発展させた文明の存在する世界、などがあるかもしれない。
しかし、そんな幾多の平行世界にあって、何故この世界がこの赤いドラえもんの侵略先に選ばれたのか分からなかったのだ。
だが、この質問に対して、赤いドラえもんはあっさりとこう答えた。
「それもまた簡単だ。平行世界の持つ可能性は、この途方もなく広い宇宙が許す限り幾らでもある。1つの世界や時代なんぞ比にもならん程にな。その中でテロリストを志す我々が生まれ、お前たちはその異世界からの襲撃を受けるという世界に生まれた。ただそれだけのことだ。つまり、運が悪かったのだよ」
そう、運が悪かった。
言ってしまえば、ただそれだけのことなのだ。
もっとも、のび太からしてみればそれだけで納得できるものではないが、ただ事実だけを述べるのであれば、そういうことだった。
「・・・しかし、お前がまさか最後に残って我々の元まで辿り着くとはな。まったく、“可能性”というものは恐ろしいものだ」
「可能性?」
「そうだ。私は誰一人として他人を信用しない。出木杉も島田千尋も、部下のガナード共も。何故だか分かるかね?それは人間が可能性の生き物だからだ。あらゆる事象をありそうなものにしてしまう存在だからだ」
赤いドラえもんは、可能性という事象への恐怖を口にする。
「私は確かに多くの人間から信仰されている。信仰とは素晴らしいものだ。しかし、それだけでは確実な服従は得られない。人間というものは気紛れで簡単に裏切る。そう、あの島田響のように」
その言葉に、のび太は複雑そうな顔をする。
感情の面では島田響に世話になったこともあり、反論の言葉は色々とあるが、事実だけを考慮すればその通りだったからだ。
そして、そんなのび太を他所に、赤いドラえもんの言葉は続く。
「私は可能性に何度も裏切られ、幾度となく時を渡り、こうして別世界まで追いやられた。だが、そんな折に私はプラーガに出会った。私が唯一信用し、信頼し、信仰するもの。プラーガは私が憎む可能性を微塵も残らず駆逐してくれる。何故なら、彼らはそうして生きているからだ。可能性を殺すために何度も何度も進化と退化を繰り返して、今まで生き続けたからだ。プラーガこそ絶対にもっとも近い存在なのだ!!」
赤いドラえもんはそこで一旦言葉を切り、のび太から視線を外す形で東の空を一瞬だけ見つめ、またのび太に向き直る。
「・・・もうじき夜が明ける。しかし、それはただこの世界を再び照らすためだけのものではない。プラーガが確率を完全に凌駕し、世界に新たな秩序を作り出す。その夜明けなのだ」
「ふざけるな!そんなことは絶対にさせない!!」
のび太はその言葉に激怒し、銃──ベレッタM92を赤いドラえもんに向ける。
しかし、それを向けられた赤いドラえもんは平然としていた。
「貴様さえ倒せればあとはどうにでもなる。ガナードは少しずつ増やせば良い。私に残る脅威は貴様だけだ。我々が数百という絶対の剣ならば、お前はたった1つの可能性の剣なのだろう。そして、貴様は私の持つほぼすべての剣を弾き飛ばし、ついに私の左胸に刃を向けている。だが、残念だったな。私は貴様と違い、鎧を身に着けているのだ」
「鎧?」
「その通り。その馬鹿な頭で考えてみろ。私の装甲はそんなちゃちな拳銃程度では抜けない。つまり、私を倒すことは絶対にあり得んのだよ!!・・・それでも貴様は打ち勝つのか?私の信仰そのものすらはね飛ばし、夜明けへのジャックポットを引くか?そんなことが出来るわけがない。勝つのは私だ。大人しく死ね」
「・・・」
その言葉にのび太は沈黙する。
確かに赤いドラえもんの言う通り、ドラえもんの装甲はああ見えて強靭だ。
それこそマグナム弾でも破壊できるかどうかかなり怪しい。
そう考えると、なおさら通常の拳銃であるベレッタ程度で破壊できるとは到底思えないのだが、今更銃を変えるとなると、その間に自分は赤いドラえもんから攻撃を受けてしまうだろう。
(なにか無いか!考えろ、考えるんだ!!)
のび太はそう頭の中で思いながら、赤いドラえもんをじっと観察する。
すると、ある点に気づく。
(・・・!・・・左胸!!)
赤いドラえもんの左胸に僅かながら、電流が漏れていた。
のび太は知らないが、それは青いドラえもんとの戦いで偶然そうなったものだ。
しかし、当の赤いドラえもんは気づいておらず、空気砲のピストルバージョンのようなものをこちらに向ける。
「死ね!」
「死ね!」
「死ね!」
「死ね!」
赤いドラえもんは念仏を唱えるかのようにそう言い、そして──
ドン!
──1つの銃声がその場に響き渡った。
本話終了時ののび太の装備
武器・・・ベレッタM92(6発)、コルトガバメント(0発)、FN Five-seveN(18発)、コルトパイソン(6発)、デザートイーグル・44マグナムバージョン(3発)、ショットガン・ベネリM3(8発)、レミントンM870・ショットガン(4発)、H&K G36・アサルトライフル(2発)、H&K MP5(14発)、ロケットランチャー・RPG─7(0発)、コンバットナイフ、M67破片手榴弾1個、M84スタングレネード4個、MK─3手榴弾2個
予備弾薬・・・FN Five-seveNの20発標準マガジン2つ(40発)、12ゲージ弾(2発)、38スペシャル弾(12発)、40×46ミリグレネードランチャー1発(硫酸弾1発)、30発箱型弾倉2つ(60発)、MP5の32発マガジン1つ(32発)
装備防具・・・バイオアーマー
補助装備・・・救急スプレー3つ、ミックスハーブ1つ、調合されたハーブ1つ、アンブレラの資料、謎のメモ。
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夜明け
◇西暦2020年 7月29日 未明
ビリっ、バリッ
「ば・・・かな・・・!?な・・・ぜ・・・!?」
赤いドラえもんは目の前の現実に驚愕していた。
自分は障害にもならないと判定していた拳銃程度の弾丸に左胸にある心臓部を撃ち抜かれたのだから。
「さあ、なんでだろうね」
のび太は惚けるようにそう言いながら、銃口を下にして、不敵な笑みを溢す。
「・・・運が良かった。それだけじゃないかな?」
「運が・・・良かった・・・だと!?」
赤いドラえもんはその発言に目を見開くが、次いて何処か陰りのある笑いを発する。
「くっ・・・ははは。そうか・・・・・・ここでもか・・・ここでもなのだな。そうは・・・させんぞ!貴様もここで朽ち果てるのだ。絶対にな!!」
ドガアアアァアアン
その言葉を最後に赤いドラえもんは爆発して消滅した。
「・・・絶対、か」
その光景を見届けたのび太は、赤いドラえもんが最後に発した言葉を呟く。
「悪いけど、この世に絶対なんて有りはしないのさ。今まで散々不運に見舞われ続けてきた僕が言うんだ。間違いない」
絶対などない。
それが赤いドラえもんの“絶対”という言葉に対するのび太の意見であり、今までの人生や大冒険、そして、このバイオハザードを生き抜いた者の感想だった。
そもそも絶対などという言葉はのび太からしてみればただの甘えだし、仮に絶対などというものが存在すれば、今までの人生はおろか、大冒険やバイオハザードはなんの苦労もせずに切り抜けることが出来ただろう。
しかし、現実にはそうなっていない以上、絶対などというものはこの世には存在しないのだ。
バリッ、バリッ
そんなことをのび太が考えていた時、この場に残っていた紫のローブを羽織った存在──平行世界ののび太の方からそのような音が聞こえ、次いてその体が徐々に膨張し始める。
しかし、のび太が慌てることはない。
これから最後の戦いが始まるのだと悟っていたからだ。
「・・・まあ、これで終わりなわけないよね」
グチュグチュ
「そうだ。暴れろ。存分に暴れれば良いさ。こっちは数百という化け物と戦ってきたんだ!今更あと一匹増えたところでなんだって言うんだ!!」
グオオオオオオオオオオ
「さあ、最後の戦いだ。行くぞ!!お前を倒して、僕は夜明けを手に入れる!!」
──その宣言と共に、この島での最後の戦いが始まった。
◇
のび太が最後の戦いを始めた頃、みほはプラーガ除去を終えて、雪香と共に山の上へと昇っていた。
「ねぇ、本当に行くの?」
「はい、何か出来ることが有るかもしれませんから」
雪香の問いに対して、みほは毅然とした答えを返す。
そう、みほは雪香からのび太が戦いに赴いたことを聞いて、自分に何か出来ることを探すために頂上へとこうして赴いているのだ。
しかし、雪香からしてみればみほの判断は正気とは思えなかった。
(あれは普通の小学生の動きなんかじゃない!)
雪香はのび太の戦い振りをモニター越しとはいえ、少しだけ見たが、あれはとても小学生の動きとは思えなかった。
いや、訓練された兵士ですらあれほどの動きは不可能だろう。
なにしろ、人間が出来るような動きを明らかに越えていたのだから。
・・・もっとも、それはモニター越しの感想であり、もし直にのび太の戦闘を見たらこう呼んでいただろう。
化け物、と。
それだけのび太の戦闘での動きは異常であり、それに慣れたような反応をするみほもある意味では異常だったのだ。
まあ、なんにせよ、彼女にとってのび太は得体の知れない存在であり、出来ることなら関わり合いになりたくなかった。
それでものび太に関わったのは、彼が自分の代わりに父親の仇を討ってくれた恩があるからであり、なにより少女を守る姿に感銘を受けたからだ。
だが、戦闘においてはおそらく自分達はあの少年に着いていくことは出来ないだろうとなんとなく感じており、頂上に行くことは却って邪魔になるのではないかという思いがあった。
しかし──
「・・・分かったわ。でも、心配だから私も着いていく」
結局、彼女は着いていくことに決めた。
みほの言うことも一理あると思ったからだ。
しかし、本来ならば雪香の判断の方が正しい。
何故なら、のび太の戦闘に彼女たちが着いていける訳がないからだ。
だが、実を言うと、今この時に限ってはみほの判断の方が正しかった。
そして、それを他ならぬのび太自身が実感することとなる。
◇
「くそっ、足の踏み場が少ない!!」
のび太は状況の不味さに思わず舌打ちをしてしまう。
最初の第一形態の時は良かった。
8方向に展開される波動をかわして、本体にダメージを与えるだけで良かったのだから。
取り巻きのブラットゾールや本体そのものの頑丈さには少々手こずらされたが、それでもそれほど難なくクリアできた。
しかし、更に巨大化して進化した第二形態。
これにはのび太もこれまでにない苦戦を強いられている。
その理由は幾つか存在した。
1つ目は、第一形態と違って攻撃手段が圧倒的に多いこと。
2つ目に、その攻撃手段の威力がかなり大きいこと。
3つ目に、弾薬が尽きかけていること。
更にこれが一番問題だが、そもそも足場そのものが少なかったことだ。
第二形態はあまりに巨大化しすぎて山の頂上を埋め尽くしており、のび太の足の踏み場が少なく、移動できる場所がかなり制限されていた。
更にその数少ない踏み場にも、敵の広範囲な苛烈な攻撃が加わっている。
こういった事情もあり、のび太は苦戦していたのだ。
「あの目のような部分が弱点だと思ったんだけど・・・」
千尋の時のように、化け物の目の部分が弱点だとのび太は一度は推察したが、通常の拳銃はおろか、デザートイーグルの44マグナム弾を撃ち込んでも堪えた様子はなく、途方に暮れていた。
・・・実際のところ、あの目の部分はコアの部分でもあるので、致命傷ではないにしろ、この怪物にとってそこそこ痛い打撃を食らわせていたのだが、悲鳴のような声を上げていない事もあってか、のび太がそれに気づくことはない。
「・・・いや、何か弱点があるはずだ」
のび太は諦めず、弱点を探そうとひたすら相手の攻撃をかわしながら機会を待った。
すると、いきなり昆虫のような頭部が出てきてのび太に向かってくる。
「ッ!?」
少し驚いたが、得意の早撃ちによってベレッタM92の弾丸を叩き込む。
すると──
グギャアアアアアアアア
悲鳴のような雄叫びをあげ、首はあっという間に引っ込んでいった。
「・・・あそこが弱点か」
手応えあり。
そう感じたのび太は更に追撃を行おうとしたが、問題があった。
もう強力な武器がほとんど残っていないのだ。
G36は第一形態を倒すのに使いきってしまったし、デザートイーグルも先程弾薬が尽きた。
コルトパイソンも装填されているのが38スペシャル弾の為、威力は普通の拳銃とそうは変わらない。
手榴弾は残っているが、この状況では投擲する時間など無いだろう。
あとはショットガンくらいなら残っているが、連射が出来ない上に、足の踏み場が少なく、攻撃を受け続けているこの状況では酷く使い勝手が悪いのだ。
一応、拳銃弾でも手応えがあるので、それらでも通用はするのだろうが、やはり強力な武器を使った方が確実性は高い。
「どうすれば・・・」
のび太は必死にどの武器を活用するか考えていた、その時、のび太の近くの地面に触手が叩き付けられ、コンクリートが砕かれた結果、その破片がのび太に向かって飛び散った。
「うわっ!」
のび太はどうにか体を転がすことでそれを回避するが、所々に擦り傷を負ってしまう。
(不味い!急いで起き上がらないと・・・ん?)
のび太は転がった先で何か銃らしき物が落ちているのを見つけてそれを手に取る。
しかし、その時、またもやあの昆虫のような頭部がのび太を襲ってきた。
「うおっと!」
のび太は慌ててそれに向かって銃を撃つ。
しかし、のび太が驚いたのは昆虫のような頭部がのび太を襲ってきたことにではない。
この銃の反動に驚いたのだ。
S&W M500。
それがこの銃の正体だった。
本銃は全ての拳銃の中で最強の威力を誇るとされ、自動拳銃で最大の威力を誇るデザートイーグル・50AEバージョンすら凌ぐ威力を持つと言われている。
しかし、この銃はデザートイーグル・50AEバージョンが自動拳銃最強と言われている事からも分かるように、リボルバータイプの銃だ。
それ故にデザートイーグルのような自動拳銃のような
まあ、早い話がこの銃は大の大人ですら扱うのが難しく、子供であるのび太が扱える道理はないのだ。
本来ならば。
・・・しかし、何故かのび太はこの銃をなんの影響もなく軽々と(少し反動に驚きはしたが)扱い、その強力なS&W M500マグナム弾を頭部にぶつけることに成功した。
まあ、重量が130キロ近くあるドラえもんを片腕で持ち上げたこともあるので、このぐらいのことはのび太にとってなんの問題もないだろう、きっと。
グギャアアアアアアアアアアアアアアアア
そして、化け物は先程よりも更に甲高い悲鳴をあげる。
「これは使えるな!」
のび太は先程とは違い、不敵な笑みを溢した。
更にS&W M500の攻撃の後、化け物の攻撃は更に苛烈になっていたが、その攻撃場所はかなり疎らであり、全くのび太と関係のないところまで及んでいる。
しかも、心なしか、苦悶の声もあげており、断末魔の時が近いこともその様子からすぐに分かった。
あと一息。
のび太はそう思い、攻撃をかわしながら再びあの頭部で攻撃してくる時を待つ。
そして、攻撃を交わし続けること数分。
遂にそれが現れた。
「! 喰らえ!!」
ドオオン
のび太はそう言いながら、得意の射撃の腕でS&W M500から発射されたS&W M500マグナム弾を頭部へとぶちこんだ。
グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
これまでより更に大きな悲鳴をあげる。
その声の大きさに、のび太は眉をしかめながらある焦りを感じた。
(・・・足りない)
攻撃が効いているのは分かる。
しかし、あと一歩、何か決定的な攻撃が足りないのではないか?
のび太はそう思ったが、それは所詮無い物ねだり。
その“決定的な攻撃手段”が無い以上、現有装備でどうにかするしかないということもよく理解していた。
よって、のび太は残った武器で再度の攻撃を仕掛けようとする。
・・・だが、そんな時だった。
「──のび太君!!」
「ッ!? みほさん!!」
その声に反応してそちらを見ると、高台の上に居るみほの姿が見えた。
「これを使って!!」
そう言うと、みほは何処にそんな力があったのか、ロケットランチャーらしきものを放り投げる。
そして、それはのび太のすぐ傍まで落ちて着地した。
「! これは!?」
それは正真正銘のロケットランチャーだった。
しかも、のび太は知らないが、その弾種にはある特殊弾頭が装備されている。
「よし!これを使って・・・!?」
その時、化け物から触手攻撃が来た。
のび太は難なくこれをかわすが、装備していたベネリM3にそれが突き刺さり、更にショルダー付きであった為か、のび太まで一緒に引っ張られてしまう。
(!? しまった!!)
のび太はすぐにベネリM3を放り投げようとするが、それは少し遅い行動であり、ショルダーを外して放り投げたのとほぼ同時に、のび太の体は近くの壁へと叩き付けられた。
「・・・・・・う・・・あぁ」
あまりの痛みに、意識が遠のくような感覚を覚える。
しかし、化け物はそれを見逃すことなく、更に触手をのび太に突き刺そうとした。
──全てがスローモーションの動きとなる。
のび太はそんな感覚を覚えながら、目を閉じようとした。
しかし──
『のび太君!!』
──その前にある声がのび太の脳裏へと響いてきた。
それは自分が守ると誓った少女。
(そうだ。僕はみほさんを守ると誓ったんだ!なら、約束は守らなきゃ!!)
その声にのび太は奮起し、再び意識を取り戻した。
そして、離さなかったロケットランチャーを化け物へと向ける。
「これで最後だ!くらえぇぇえ!!!!」
そして、発射された特殊弾頭ロケット弾は化け物へと直撃し──
ドシャアアアアアアアアン!!!!
──そのまま化け物を木っ端微塵にした。
◇
「・・・ああ、夜が明ける」
夜明けの時間。
それはどんな日にも起こりうるものだ。
しかし、この日の夜明けはのび太にとって特別なものであったのは間違いない。
──何故なら、これは彼にとって勝利を掴み取った証でもあったのだから。
本話終了時ののび太の装備
武器・・・ベレッタM92(5発)、コルトガバメント(0発)、FN Five-seveN(12発)、コルトパイソン(6発)、デザートイーグル・44マグナムバージョン(0発)、レミントンM870・ショットガン(4発)、H&K G36・アサルトライフル(0発)、H&K MP5(15発)、ロケットランチャー・RPG─7(0発)、コンバットナイフ、M67破片手榴弾1個、M84スタングレネード4個、MK─3手榴弾2個
予備弾薬・・・FN Five-seveNの20発標準マガジン2つ(40発)、12ゲージ弾(2発)、38スペシャル弾(12発)、40×46ミリグレネードランチャー1発(硫酸弾1発)
装備防具・・・バイオアーマー
補助装備・・・救急スプレー2つ、ミックスハーブ1つ、アンブレラの資料、謎のメモ。
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The Down
◇西暦2020年 7月29日 早朝
「ここを、こう引っ張れば・・・」
のび太はドラえもんを起こすために、尻尾の赤い丸のような物体を引っ張る。
すると──
カチッ
「う~ん・・・あれ、僕は一体?」
スイッチが入った為か、ドラえもんは起きた。
「ドラえもん、無事で良かった!」
のび太はドラえもんの無事を喜んでいた。
なにしろ、彼はのび太にとって唯一無二の家族であり、親友なのだ。
無事を喜ぶのは当然だった。
そして、そんな彼が起き上がったのが嬉しかったのか、のび太は更なる朗報を彼に伝える。
「全部終わったよ。みほさんのプラーガは取り除いたし、平行世界のドラえもんは僕がやっつけた」
「なんだって!そりゃ良かった!」
ドラえもんもまたその報告に驚いた。
自分が意識を失う前に懸念したのは、正にその事だったからだ。
「さあ、みんなでこの島を脱出しようよ」
「そうだね、そうしよう!!」
のび太の意見にドラえもんが賛同する。
しかし、その時──
『──警告します。管理者の判断により、施設の維持が不可能となりました。証拠隠滅のため、研究施設は順次爆破されます。緊急時のため、全てのドアロックを解除しました。職員は速やかに施設から脱出してください』
──とんでもなく物騒な警告が二人の耳に入った。
「施設を順次爆破だって!?」
「たたっ、大変だ!!」
二人は慌てる。
まあ、いきなり施設が爆破されると伝えられたので、当然と言えば当然の反応だったのだが、この時、立ち直るのが早かったのは、意外にものび太の方だった。
「落ち着いて、ドラえもん!君は先に行って、入り口に泊めてきた船をすぐ動かせるようにしておいてくれ。僕はみほさん達と合流してからそっちに向かうよ」
「う、うん。分かったよ!」
ドラえもんはのび太のその冷静な反応に若干戸惑いながらも、のび太の言う通り、船の準備を行いに山を降りる。
「絶対に脱出してみせる!!」
そして、それを見送ったのび太もまた、そう宣言した後、みほと同行しているであろう雪香を迎えにドラえもんの後へと続いた。
◇
「あっ、のび太君!!」
「みほさん!雪香さんも!!」
のび太がみほと雪香の方に向かうと、彼女たちはちょうど良いタイミングで高台から降りてきた。
「もうすぐこの島は爆破される!!早く僕たちが乗ってきた船に乗ろう!!着いてきて!!雪香さんも」
「うん、分かった!」
「私もよ。案内、お願いね」
「はい、では、こっちに」
のび太はそう言って、二人を案内する形で船着き場へと向かった。
◇
ドガアアアアアアアアアアン
爆煙を上げる先程までのび太達が居た島。
のび太達は間一髪で脱出が間に合い、その被害を受けることなく船にて日本本土に向かっていた。
そして、何かを考えていたのか、海をボーと見つめていたのび太に、みほが話し掛けてくる。
「ねぇ、のび太君」
「・・・ん?どうしたの?みほさん」
ボーとしていたのび太は少し間を置く形ではあったが、みほの声に反応して、そちらに顔を向ける。
すると、そこには顔を紅くしたみほの姿があった。
「あ、ありがとう」
「えっ、何が?」
いきなりお礼を言われたのび太は、何故そんなことをされるのか分からず、首を傾げる。
しかし、その理由はみほの次の言葉で判明した。
「その・・・守ってくれて」
「ああ、なるほど。でも、そんなにお礼を言われることなんて・・・」
のび太は自分の行動にお礼を言われるほどの価値はないと思っていた。
何故なら、守ると言っておきながら、結局、一度は自分の元から拐われてしまったのだから。
こうしてみほを奪還したから良かったものの、もし奪還できず、あるいは奪還してもプラーガに完全に支配された状態だったらと思うと、ゾッとしてしまう。
故に、この島での活躍はあくまで汚名返上であり、お礼を言われるほどのものではないのだ。
しかし、みほはそうは思わなかったようだった。
「ううん、正直ね。私はもう助けに来ないって思ってた。あの島から離れちゃったのもそうだし、のび太君にこれ以上迷惑を掛けられないって諦めてた」
「・・・」
「でもね。のび太君は約束通り、ちゃんと助けに来てくれたから、本当ならお礼なんかじゃ済まないんだろうけど」
「いや、そんな・・・」
のび太は恐縮してしまう。
前述したように、あの島まで助けに行ったのは汚名返上の為なのだ。
・・・いや、単純にみほを助けたかったという理由もあるが、やはりそれを加味してもお礼をされるに値しないとのび太は判断していた。
「だから、改めて言うよ。ありがとう!」
みほは精一杯の笑顔を込めてお礼を言った。
それが自分にできる最善のものであると思ったからだ。
「ど、どういたしまして」
のび太はその笑顔に顔を赤らめながらそう答える。
ちなみに、この船に乗る残りの3人はそんな二人の様子を生暖かい目で見ていたが、二人はそれに気づいていなかった。
そして、礼を言ったところで、みほはのび太はあることを聞く。
「ねぇ、のび太君。これからどうするの?」
「どうって・・・そうですねぇ。まずは家に帰ります」
のび太は少し考えてからみほの問いにそう答えた。
ちなみにこれは嘘だ。
のび太に帰る故郷など残されていないし、これからアンブレラとの戦いにも身を投じなければならないだろう。
しかし、そんなことを部外者のみほに話すわけにもいかない。
「で、でも・・・その・・・あなたが住んでいた島はもう」
「・・・ああ、そういうことですか」
のび太はみほが勘違いしていることに苦笑する。
「僕はあの島の出身じゃありませんよ。東京の練馬にあるススキヶ原っていう町です、あの島には偶々来ていたんですよ」
「そ、そうだったんだ・・・」
みほは何処か安堵した様子だった。
大方、のび太に帰る場所があって安心しているのだろう。
自分は熊本に帰る場所があるが、もしのび太があの島の出身であった場合、故郷を無くしてしまったということでもある。
自分が助けて貰ったのに、その助けた人物が故郷を失ったというのはあまりにも救われない話だ。
そういう意味からも、みほが安堵するのは当然と言えた。
・・・しかし、彼女は1つ、勘違いをしていた。
確かにのび太の出身地は東京・練馬のススキヶ原であるが、そのススキヶ原もまた、あの島と同じようにバイオハザードによって壊滅してしまっているのだ。
そういう意味ではみほが懸念したことと然程変わらない悲惨さだった。
いや、アンブレラとの戦いに身を投じるという決断をした以上、苦痛はそれ以上だろう。
しかし、それらのことを彼女は知らないし、のび太も伝えるつもりは無い。
彼女に余計な心のしこりを残してはいけないと思ったからだ。
「・・・ところで、みほさんは?」
「私も帰るよ。お父さんとお母さんやお姉ちゃん、あと菊代さんも心配しているだろうし」
みほもまた、少し先にあるであろう未来に思いを馳せる。
しかし、のび太はここで迷った。
あのキメラの実検室で見たことを言うかどうか。
だが、その結論はすぐに出た。
(・・・言わない方が良いだろうな)
のび太はそう思う。
仮にあの二人の死体がみほの家族であったとしても、あの末路など知らない方が良い。
知れば確実に心に傷が残るだろうし、その心が変な方向に行ってしまうかもしれない。
要するに、知っても良いことなど無いのだ。
であれば、のび太の心の内に留めて墓場まで持っていくべきだろう。
(あとは響さんにでも任せるか)
のび太は万が一の場合は響に任せることに決めていた。
二人の関係はよく知らないが、響はみほを知っている様子であるし、彼ならばみほのことを無下には扱わないだろうと思ったからだ。
「そっか」
「それで、良かったら夏休み・・・は無理か。冬休みに遊びに行っても良いかな?」
みほはのび太に尋ねる。
それはお礼もかねての行為なのだろうということはのび太にも簡単にわかる。
しかし、当然のことながら、のび太はそれに対して『はい』と言う訳にはいかない。
「・・・ごめんね、みほさん。僕、夏休み中に引っ越す予定があるんだ。だから、残念だけど・・・」
「そっか。それなら、仕方ないね。何処に引っ越すの?」
「え~と、確か・・・」
のび太は少し考える。
下手に日本国内の地形を言っても、みほの家に近かったりしたら余計にみほが家を尋ねてくると言い出しかねない。
しかし、そこでのび太は思い出した。
かつてふざけ半分でもしもボックスを使った時に、引っ越し先として上がった国の名前を。
「アメリカ、だったかな」
◇本章登場人物(ただし、のび太とその味方限定)のバイオハザードの生存者と死亡者
・生存者
野比のび太、西住みほ、島田響、ドラえもん、富藤雪香。
・死亡者
無し。
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第二章 ラクーンシティ
最後の9月
・生存者(11名)
出木杉英才、ドラえもん、骨川スネオ、剛田武、源しずか、田中安雄、翁餓健治、緑川聖奈、桜井咲夜、久下真二郎、山田太郎。
・死亡者(4名)
先生、金田政宗、白峰、はる夫
──あの悲劇のバイオハザードから2ヶ月。
ススキヶ原・日向穂島の両バイオハザード生存者15名の内、のび太を含めた11名の者達はアンブレラへの反抗を決め、アンブレラの裏情報を調べていくうちにGウィルスの情報を掴み、のび太達はヨーロッパ組(出木杉英才、源しずか、骨川スネオ、翁餓健治、緑川聖奈、富藤雪香)とアメリカ組(野比のび太、ドラえもん、剛田武、田中安雄、桜井咲夜)に別れてそれぞれに潜入しており、アメリカ組の内、野比のび太と桜井咲夜の2名はラクーンシティに潜入していた。
しかし、それによって彼らは再びバイオハザードに巻き込まれることとなる。
◇西暦2020年 9月30日 夜 アメリカ合衆国 ラクーンシティ
アメリカ中西部の街、ラクーンシティ。
人口10万人の街であり、日本の基準ではあまり大きいとは言えない街であったのだが、領土が広く、人口密度が薄いアメリカでは大きい街の部類に入る。
しかし、この街は現在、バイオハザードが進行しており、既にどうにもならないところまで来ていた。
「くそっ!しつこいな!!なんで追いかけてくるんだよ!?」
そんな中、のび太はある存在に追いかけられたことによって必死にラクーンシティの街並みの中を逃げていた。
幸いにして、遭遇する先にゾンビはほとんど居なかったのだが、後ろに居る存在の脅威度を考えれば、ゾンビの大群に囲まれた方がまだ良かったかもしれない。
何故なら、それはガドリングガンをのび太に向けて容赦なく発砲してくるタイラント──ネメシスだったのだから。
実はこの街にはネメシスは2体存在する。
1つはアンブレラが保有する個体で、現在はこの街に残るSTARS最後の生き残りであるジル・バレンタインの抹殺を行っている個体。
もう1つは、アンブレラからアメリカ軍に売却され、現在はケイン少佐が指揮して行っているネメシス計画の下、ラクーンシティで戦闘データを取っている個体だ。
そして、のび太を襲っていたのは後者の方だった。
ちなみにこうなった経緯としては、単に通りに出た時に出くわしてしまい、驚いたのび太がそのまま攻撃してしまったことで、ネメシスに組み込まれた自己防衛システムが発動し、結果、反撃としてこうして追い回されていたのだ。
まあ、運が悪かったとしか言いようがないだろう。
しかし、もう一時間近く追いかけられているので、いい加減諦めて欲しいというのがのび太の本音だった。
「こうなったら・・・」
のび太は左腰のホルスターに入っていたFN Five-seveNを引き抜いて開いていたネメシスの左眼の部分に発砲する。
本当であれば、右腰に入っていたベレッタを使っても良かったのだが、あいにく先程の遭遇時に慌てて落としてしまったのだ。
まあ、ドラえもんの残っていた道具の1つであるフエルミラーで増やし、全員に配っていたスペアポケットの中には同じくフエルミラーで増やした予備の銃と銃弾もあったのだが、わざわざそれを取るよりは左腰のホルスターに在るFive-seveNを使った方が早い。
それに、Five-seveNはマズルフラッシュこそかなり激しいが、弾丸はPDWと同じものを応用しているため、通常の拳銃弾でしかないベレッタより圧倒的に貫通力が高く、更に銃の反動そのものも通常の拳銃より3割程軽減されている。
そういう意味からも、この銃を選んだことは正解だったと言えるだろう。
そして、発射された5、7×28ミリ弾はネメシスの青い左眼へと着弾し、その強力な貫通力で左眼を貫いた。
グオオオオオオオオオ
流石に効いたのか、苦悶の声をあげるネメシス。
そして、のび太は素早くFive-seveNを左腰のホルスターに戻すと、M67破片手榴弾をネメシスに向かって投げる。
爆風で相手を殺傷するMK─3攻撃手榴弾ではなく、破片で相手を殺傷する手榴弾を使った理由は、これだけの相手となると、これぐらいの威力の手榴弾でないと仕留められないと感じたからだ。
そして、M67破片手榴弾の爆発に巻き込まれないように、そこら辺にあった物陰に身を隠す。
ドゴオオオン
その数秒後、手榴弾の爆発音が響く。
しかし、のび太はその音を聞いた直後、速やかにその場から離れた。
仕留められたかどうかは分からないが、仮に仕留められなくとものび太にとっては逃げるのに十分な時間を稼げばそれで良いのだ。
そして、その目論みは見事に成功し、のび太は無事にネメシスから離れることが出来た。
◇少し前
それはのび太がネメシスを撃退する少し前の話。
ラクーンシティのとある建物内に一人の20代くらいの女性とまだ一桁であろう東洋系の顔立ちをした白髪の少女が潜伏していた。
そして、女性の方は何やら電話である会話を行っている。
「──じゃあ、その子を連れていくことが出来れば、脱出の手段を教えてくれるのね?」
『ああ、もちろんだ。むしろ、そうしないと私の娘まで死んでしまうからな』
電話をしている女性の名はアリス・アバーナシー。
つい最近までアンブレラの特殊部隊員(ただし、UBCSではない)の所属であり、優秀な戦闘員だった女性だが、洋館事件後辺りに突如として同じ部隊の隊員に拘束され、ラクーンシティの地下に存在するのアンブレラ地下研究所、通称ハイブでT─ウィルスを投与され続けていた。
その後、1000万人に一人の割合で居るというT─ウィルス完全適合者として覚醒した彼女だが、その力を用いて研究員を皆殺しにし、なにかはアリスも知らなかったが、別のウィルスの実験台にされていた少女──緑川
そうして今までとある建物に潜伏していたのだが、どうやって調べたのか、アンブレラからアメリカのとある特殊部隊に出向していた一人の人物が接触を計ってきた。
しかし、彼の目的は二人を捕まえることではない。
むしろ、その逆。
条件付きで脱出の手段を提供しても良いという話だった。
そして、その条件とは電話の相手の男──チャールズ・アシュフォードの娘であるアンジュラ・アシュフォードを連れてくるという条件だ。
・・・正直言えば、かなり部の悪い賭けだった。
チャールズが言うには、アンジュラはラクーンシティ小学校に居る可能性が高いとの事だが、このゾンビやBOWが蔓延る中でそこまで行かなくてはならないし、そもそも彼女が生きている保証など何処にもないのだ。
本来なら彼女としても雪奈が居ることもあって断りたい案件ではあったのだが、そうも言っていられない事情があった。
チャールズが言うには、明日の夜明けと共にアメリカ政府によって『コードXX(ダブルエックス)』が発動され、サーモバリック爆弾を搭載した航空機がこのラクーンシティを焼き払う予定との事だったのだ。
それが本当ならば、あと8時間程度でこの街は地図から消滅してしまうことになる。
勿論、街に残っていた場合、その消滅には自分たちも含まれるだろう。
そうならないためにはラクーンシティから早急に脱出しなければならないのだが、現状ではチャールズの提案以外にその手段がない以上、チャールズの提案に乗るしかないのだ。
「・・・分かった。引き受けるわ」
『ありがとう。では、娘を助けたらまた連絡してくれ。その時に脱出手段を言おう』
そう言ってチャールズからの電話は切れた。
そして、アリスは電話を仕舞うと傍らに居た雪奈に向き直る。
「・・・これから私と一緒に外に出るけど、絶対に離れないで」
「はい」
アリスの言葉に雪奈は無表情な顔で淡々とそう言った。
年齢が一桁代の子供がそう言う事には少し不気味さを感じさせてしまうが、これは仕方のないことだ。
何故なら、彼女は日常の生活を実験台にされることで過ごしてきたのだから。
むしろ、こうなるのが自然である。
アリスもそれを分かっていたが、敢えて彼女の手を引きながら笑顔でこう言った。
「じゃあ、行きましょう」
そう言ってアリスは雪奈と共に潜伏していた建物を出ていき、地獄の空間の中へと飛び出していった。
・現時点でアンブレラとの戦いに身を投じたメンバー(11名)
野比のび太、ドラえもん、出木杉英才、源しずか、剛田武、骨川スネオ、田中安雄、翁餓健治、緑川聖奈、桜井咲夜、富藤雪香。
・日常社会に戻ったメンバー(4名)
久下真二郎、山田太郎、島田響、西住みほ。
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もう1つのウィルス
◇西暦2020年 9月30日 夜 ラクーンシティ とある建物 地下
「変な所に迷い込んじゃったな」
のび太はそう呟きながら辺りを見回す。
あのネメシスから逃げた後、のび太はこの建物に逃げ込んだのだが、そこにまたネメシスが表通りに現れてしまい、のび太は視線から逃げるように建物の奥へと入っていったのだ。
実際はその表通りに現れたネメシスはのび太を追い掛けていたアメリカ軍に売却された個体ではなく、ジルを追い掛けていたアンブレラのネメシスだったのだが、そんな見分けをのび太がつくわけもないし、ついたとしてもあまり意味のないことだろう。
何故なら、のび太もまたあの日向穂島のアンブレラ研究所から引き上げられた監視カメラの映像によってアンブレラにマークされている状態だったのだから。
それは兎も角、建物の奥、正確には地下へと進んだのび太だったが、そこで見たのはアンブレラのマークをした研究所と研究員らしき者達の死体だった。
「ここがアンブレラの施設なのは分かったけど、なんの研究をしてたんだろう?それに・・・」
のび太はあちこちに倒れている研究員の死体の様子を見るが、なにやら違和感を感じた。
遺体に傷がないのだ。
いや、それどころか血痕すら全くない。
「あとなんだろう?この煙みたいなの」
のび太はこの部屋に入った時に充満していた薄青色の煙も気になっていた。
色が妙なので、ただの煙ではないことは明白だが、それがなんなのか分からない。
毒ガスかとも一瞬思ったが、それだったらのび太は今頃この世には居ないだろう。
ハンカチは一応口に当てているが、その程度で毒ガスを防げるならば苦労しない。
「・・・分からないな。やっぱり、早くここから出た方が・・・ん?」
のび太がここから出ようかと考えたその時、机の上にあった1つのファイルが目に入る。
「資料かな?・・・念のため見てみるか」
資料だとしたら、アンブレラについての貴重な情報が書かれているかもしれない。
のび太はそう思い、ファイルを手に取った。
「S─ウィルス?」
のび太は表紙に書かれている名称に首を傾げながら中身を見た。
『S─ウィルス(通称スペシャル・ウィルス)
アドレナリンの分泌によって活発化するウィルスで、T─ウィルスとは全く違う性質を持つ。効能的にはT─ウィルスとほぼ変わらないが、こちらはT─ウィルスと違って例の副作用がなく、非常に扱いやすいウィルスであるが、アドレナリンの分泌という現象自体、闘争本能を刺激されるか、天敵が現れ、命の危険を感じたときしか行われないため、日常生活では全く役に立たない代物である。また、強い毒性も持っており、このウィルスが発生させる薄青色の煙を吸ってしまうと、ほぼ一瞬のうちに死に至ってしまう。だが、この煙を吸っても大丈夫な存在、すなわちS─ウィルスの完全適合者を命の危険に晒された状況下に放り込めば、T─ウィルス完全適合者とほぼ変わらない、いや、上回る身体能力、回復力を得ることは緑川雪奈の実験によって証明されている。現在、彼女はラクーンシティにてバイオハザードが発生した為、ハイブに移送中であるが、ラクーンシティ外に脱出すれば再び研究が再開されることとなるだろう』
資料にはそう書かれてあった。
「・・・・・・薄青色の煙?」
のび太は周囲を見渡す。
そこには資料に書かれていたような薄青色の煙が充満している。
・・・よく見ると、あちこちでビーカーや試験管が割れているような気がした。
「ま、ま、ま、ま、まさかね。あはは。そんなわけないよね?あはは」
のび太はそう言いながら動揺を隠そうとするが、顔が青ざめており、様になっていない。
まあ、当然だろう。
確かに毒ガスではなかったが、それに近い、いや、それを上回る代物がのび太のすぐ周囲に充満していると言うのだから。
「と、兎に角、ここを早く出た方が良さそうだ」
のび太は足早にその部屋を出ていこうとしたが──
「ん?なんだこれ?」
何か資料の束らしき物を踏んづけたことに気づき、それを拾い上げる。
「・・・まあ、後で読めば良いや。とにかく、急がないと」
のび太はそう言うと、その資料も先程のS─ウィルスの資料と一緒に四次元ポケットの中に仕舞いながら、足早にその部屋を出ていく。
──しかし、のび太は知らなかった。
のび太が最後に拾った資料。
それは彼が思っているよりもとんでもない代物であったことを。
ちなみにその資料の表紙の部分の表に書かれていたのは『アンブレラ超極秘資料』。
そして、裏には
『アメリカ軍向け生物兵器売却の概要と売却記録』と書かれていた。
◇同時刻
一方、ラクーンシティ小学校に向かっていたアリスと雪奈は、途中でゾンビの大群と遭遇してしまい、足止めを食らっていた。
(ちょっと、厄介ね)
アリスは少しばかり歯噛みをしながら、ゾンビの一体に斬りかかり、その胴体と頭部を2つに分断する。
本来なら、このような敵はアリスにとっては何てこともない。
アリスはT─ウィルス完全適合者であり、その戦闘能力は通常のタイラントと素手で戦えるほどであり、仮にゾンビに噛まれたとしても、その時は入り込んだT─ウィルスがアリスの中に既に入っているT─ウィルスと同じ働きをするだけである。
しかし、雪奈は違う。
彼女はウィルスの完全適合者であっても、T─ウィルスとは違うウィルスの適合者であってT─ウィルスの完全適合者ではなく、ゾンビに噛まれた場合、他の感染者と同じようにゾンビ化してしまう。
完全適合者でなくとも、抗体を持っている人間であれば話は別だが、T─ウィルスの抗体を持っている確率は通常の人間で10パーセント程。
つまり、10人に1人の割合なので、それに当たってなければ噛まれただけでゾンビ化する。
更にそれをクリアしても、抗体で購える量以上のT─ウィルスを摂取してしまうとやはりゾンビ化してしまう。
まあ、T─ウィルスの上位互換であるG─ウィルスならばT─ウィルスの効果もはね除けてしまうが、残念ながら雪奈の中に在るS─ウィルスはT─ウィルスとは全く別系統のウィルスであり、効果ははね除けられない。
というわけで、彼女を守るためにはアリスとしてもよく頭を働かせながら戦闘をしなければならず、必然的に行動が制限されてしまう。
・・・しかし、見捨てるという選択肢は彼女には無かった。
彼女は根本的な部分は悪人ではない。
本来の彼女は、戦闘はできるが、根本的な性格としてはとても家庭的な女性といった感じの人物だったのだから。
それでもアンブレラに居た時は、仕事だと割りきって汚れ仕事をやったりしていたが、内心はかなり不満に思っていたし、既にアンブレラの方から裏切った以上、彼女にアンブレラのことを考慮する必要など全く無かった。
むしろ、積極的に潰し回る気でいたのだ。
そして、その性格ゆえに、彼女は雪奈を見捨てるという事が出来なかった。
(くっ、一旦引いて出直す?でも・・・)
時間がない。
その考えがアリスの頭を占めていた。
なにしろ、これからこのゾンビの軍団を突破して小学校までたどり着き、居るかどうかも分からない対象の人物を探し、そこから更に脱出手段のある場所まで向かわなくてはならないのだ。
それに脱出手段も無事手に入るかどうかも分からない。
向こうは脱出手段を用意するとは言っていたが、それはアンブレラか、協力しているというアメリカ軍特殊部隊の機体を奪取しろという意味の可能性が高いし、下手をすれば罠の可能性もある。
にも関わらず、アリスがこの話に乗ったのはこのまま手をこまねいていては滅菌作戦に巻き込まれるという危機感からだった。
しかし、この条件に加えて時間制限もあるという状況では無駄を省きたいという思考になるのも当然と言えた。
だが、それは無駄な思考であり、とんでもないミスだったという事に、アリスはすぐに気づかされる。
「!? セツナ!!」
いつのまにか、少し離れた位置に隠れていた雪奈の背後に1体のゾンビが迫っているのが見える。
雪奈の方は気づいていない様子だったが、そのアリスの声にようやく背後の存在に気づいたが、既に遅い。
何故なら、雪奈とゾンビの距離は既に1メートル程までに縮まっていたのだから。
それでもバイオハザードに慣れたのび太クラスの人間であれば問題なく対処できるような相手だったのだが、残念ながら雪奈は戦闘慣れしていないし、頼りのウィルスもある条件下でしか発動せず、そして、その条件は満たしていない。
おまけに前述した通り、感情という感情がないせいで、戦意も全く無いのだ。
万事休す。
アリスがそう思ったその時だった。
バサッ
突如として銀色の閃光が閃き、雪奈に迫っていた胴体と頭部が2つに分断される。
「えっ?」
雪奈は目の前の光景に、何が起きているのかさっぱり分からず、声を漏らしてしまうが、反対に少し離れた位置に居るアリスには何が起きたか分かった。
突然現れた東洋系の黒髪をした少女が剣らしきもの(刀のこと)を使って雪奈を助けてくれたのだ。
アリスはそれを素早く理解すると、取り敢えず雪奈は助かったのだと判断し、自分を囲むゾンビたちを片付けることにした。
そして、その後、僅か5秒でゾンビの集団を片付けたアリスは雪奈達の方に向かう。
「セツナ!無事!?」
「は、はい・・・」
少し呆けた感じではあったが、雪奈が無事であることにアリスは安堵し、続けて雪奈を傍らに居た黒髪の少女に顔を向ける。
「ありがとう。セツナを助けてくれて」
「気にしないで。困った時はお互い様だから」
アリスの言葉に少女──桜井咲夜はにっと笑いながらそう言った。
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ラクーンシティ小学校
タイムふろしき、フエルミラー、四次元ポケット、タイムテレビ、たずねびとステッキ、船、そうじゅうくんれん機、空気砲、技術手袋
以上。
◇西暦2020年 9月30日 深夜 ラクーンシティ小学校前
「ええ!?じゃあ、明日の夜明けまでに脱出しないと、私たちは・・・」
「ええ。この街と運命を共にすることになるわね」
咲夜の悲鳴のような言葉に、アリスはそう言って肯定する。
あれから咲夜はアリスと雪奈の二人と行動を共にすることになったのだが、その過程で例のコードXXの事をアリスから説明されたのだ。
そして、明日の朝にはこのラクーンシティが地図上から消滅すると聞かされた咲夜は当然の事ながら驚いた。
「それで、脱出手段を得るために、ここに居るかもしれない女の子を探さないといけないと?」
「そういうこと。それもなるべく早くね」
「でも、どうしてそんなことに・・・」
「おそらく、街がこんなになってしまったから、これ以上の被害の拡大を防ぐために焼き払おうとしているんでしょうね」
咲夜の疑問にアリスはそう答えるが、実際はそれだけでは無いことも彼女は知っている。
何故なら、アンブレラの生物兵器がアメリカ軍にも売却されていることはアリスも知っているし、そこからアメリカ政府が証拠隠滅を計ろうとしている事は容易に想像がつく。
しかし、アリスはそこまで咲夜に言うつもりはなかった。
ただのこの街の一般市民であろ少女にそこまで言う必要はないと思ったからだ。
勿論、これはアリスの勘違いなのだが、彼女は咲夜が2ヶ月前に日本で起きたあのススキヶ原バイオハザードの生き残りであることを知らない。
と言うより、アンブレラそのものが、日本で起きたバイオハザードの生存者の内、のび太以外の人間を把握していなかった。
何故なら、ススキヶ原や西住みほなどが閉じ込められていた研究所や研究島は自爆によって監視カメラやその記録媒体共々吹っ飛ばされてしまったし、日向穂島の研究所は保全されていて記録も残っていたものの、そこはのび太しか立ち寄っていないという有り様だったのだ。
そういうわけで、アンブレラはのび太以外の生存者を知らないという状態となっており、更にアンブレラと戦うという決意を行って世間から姿を眩ましたのが幸いし、アンブレラはのび太の行方すら掴んでいなかった。
しかし、一応、存在そのものは知っていたので、念のためということでアンブレラの会社内限定ではあるものの、手配書が配られている。
だが、咲夜については当然知らず、この街には東洋人も少ないが住んでいるので、その類いだとアリスは思っていたのだ。
「そうですか・・・」
咲夜はそう答えたが、その内心ではアリスの言う滅菌作戦はアンブレラの仕業ではないかと疑っている。
彼女もまたアリスが元アンブレラの人間であるということを知らなかったのだ。
勿論、実際はラクーンシティの滅菌作戦を主導しているのはアメリカ政府(もっと言えばシモンズ)なので、アンブレラは一切関与しておらず、アリスの方が正しい認識をしているのだが、咲夜はそのようなことを知らない。
いや、そもそも政治的な権力や実力という概念がまだ子供の彼女には分かっていなく、アンブレラをアメリカよりも上位の存在のように見ていたのだ。
故に、アンブレラはそれくらいの無茶なことも出来ると踏んでいた。
(のび太君、大丈夫かしら?)
ふと気になったのは、自分と共にラクーンシティに潜入した仲間であるのび太のこと。
もっとも、バイオハザードに巻き込まれる過程ではぐれてしまったので、現在、彼がどうなっているかは分からない。
脱出したのか、それともまだ街に留まっているのかも。
いずれにしても、咲夜には彼の無事を祈ることしか出来ない。
何故なら、既に携帯は繋がらない状態となっており、彼の安否を確認する術が無いからだ。
そんな思いを咲夜がしているとは露知らず、アリスは咲夜に対して、ある疑念を抱いていた。
(サクヨの身体能力。あれは・・・)
そう、アリスが咲夜に疑念を抱いている理由。
それは咲夜の身体能力にあった。
ここに来るまでの間にその戦いぶりは見たのだが、彼女は刀を利用した戦法で相手を駆逐している。
それだけなら問題ないのだが、ここで問題になってくるのが咲夜の動きがあまりにも速すぎることだ。
人間は危機的状況になると、火事場の馬鹿力というとても人間が発揮できるとは思えないほどの身体能力が発揮出来ることがあるが、あれは明らかにその類いではない。
どちらかというと、自分のようなT─ウィルス完全適合者に似た現象だ。
(もしかして、この子・・・いや、まだ結論を出すのは早いか)
アリスはこの少女がT─ウィルス完全適合者なのではないかと疑った。
T─ウィルス完全適合者の割合は1000万人に一人というとてつもない低い割合だが、逆に言えば日本中探せば12人くらいは居るという事でもあるし、アメリカなら割合的に30人以上は居る。
なので、咲夜がT─ウィルス完全適合者だったとしても、なんの不思議もないのだが、本人がそれを自覚しているのと居ないのとでは話が大幅に違ってしまう。
しかし、アリスは結論を出すには早いと判断し、一時、この疑念は棚上げにすることにした。
彼女は自分達の味方である。
それだけの確信で今は充分だったのだから。
「じゃあ、行きましょう」
「あっ、はい。分かりました」
アリスの言葉に咲夜はそう答え、そこに雪奈を加えた3人は小学校の中へと入っていった。
◇同時刻 ラクーンシティ小学校 内部
アリスと咲夜、そして、雪奈の3人がラクーンシティ小学校に着いた頃、ラクーンシティ小学校内では3人の男女の小学生が身を寄せあっていた。
(このままじゃ不味いな)
少年──緒方タカシはそう思いながら、状況の不味さを認識していた。
彼は小学6年生であり、この中では一番年長ではあったのだが、彼に出来ることは震える少女二人を慰める以外にはほぼ無いと言っても良い。
何故なら、彼は留学生であり、この街に来たのは今月からであったし、英語も喋りはともかく、読みはあまり出来ないので、この街の地形が全く分からなかったからだ。
地の利も分からないのに、ゾンビや化け物が蔓延る空間に飛び出していく蛮勇さなど彼は持ち合わせていない。
そういうわけで、彼は少女二人を慰める以外には何も出来なかったのだ。
「私たち、どうなるんでしょうか?」
そう言って不安を口にするのは、栗色の髪をした少女。
彼女の名は有宮ノン子。
タカシより1つ下の学年である小学5年生の少女であり、かつてのび太が幼稚園の時に一緒におままごとをしたりして遊んだ少女である。
彼女はアメリカに引っ越した後、このラクーンシティに住んでいたのだが、それによってバイオハザードに巻き込まれてしまったのだ。
しかも、ノン子と同じくこの街に住んでいた母親や祖父の安否も分からないままというおまけ付き。
彼女が不安に思うのも無理はなかった。
「・・・」
そして、最後の一人である小学2年生の少女。
彼女の名はアンジェラ・アシュフォード。
チャールズ・アシュフォードの娘であり、アリス達が探している少女でもあった。
彼女は筋ジストロフィーという難病を患っていたのだが、T─ウィルスによってそれを強引にではあるが解決させ、そのT─ウィルスの効果を抑制するためのT─ウィルス抑制剤を常に持ち歩いている。
もっとも、その存在は誰にも言ってはいけないと、父親であるチャールズから強く言われていたので、その薬の存在は誰も知らなかったが。
しかし、そんな彼女も現在の状況に対しては震えて自分よりも年上の男女二人にすがるしかなかった。
だが、そのすがった相手である二人も恐怖に震えるしかない。
もっとも、これがのび太達のように大冒険を経験した者や、ドラえもんと関わって少なからず非日常を過ごした経験がある者であれば、また話も違っていたかもしれないが、あいにくと3人にそんな経験はなかった。
そんなわけで、3人は体を寄せ合うことしか出来なかったのだ。
キシャアアアアア
──しかし、そんな3人の都合など無視するかのように1つの存在が3人に牙を剥こうとしていた。
ちなみにこの話で登場したタカシはガルパンのアリサの話に出てくるあの人という設定になっています。
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脱出手段
◇西暦2020年 9月30日 深夜 ラクーンシティ小学校 内部
小学校内に入ったアリス達はBOW──リッカーに襲われていた3人を助け、その3人の中にアンジェラが居る事を確認し、チャールズに連絡してその事を伝えていた。
『そうか。娘は保護したか』
「ええ。ところで、これで条件は満たした筈なんだけど、脱出手段は教えて貰えるのかしら?」
アリスは改めて尋ねる。
なにしろ、肝心の脱出手段を確保しなければ彼女達は終わりだ。
その不安から、敢えてその問いを行ったのだが、その心配は杞憂だった。
『それは勿論だ。──地区に広場がある。そこで私が出向しているアメリカ軍の特殊部隊のヘリが着陸している。それを奪ってくれ』
「・・・やっぱり、そうなるのね」
アリスはやはりといった顔だった。
元々、ヘリを奪えと言われることはアリスの想定の中にも在ったのだが、そもそも軍用ヘリを奪うというのはなかなか難しいのだ。
おそらく周囲に居るであろうアメリカ軍と間違いなく交戦状態となるし、その戦闘の過程でヘリの計器が壊れてしまえばヘリは動かないし、ヘリの外装もローター部分を銃撃戦か何かで壊してしまえば、やはり動かない。
軍用ヘリと言っても、それは通常のヘリよりは頑丈だというだけで、そういった点は通常のヘリとさして変わらないのだ。
まあ、戦闘ヘリであれば話は少し違うが、この人数を乗せる関係上、今回奪うのは輸送用ヘリ。
それ故に迅速かつ慎重な奪取が求められる。
しかし、アリス一人ならともかく、他の人間、それも子供を抱えている以上、それは結構難しい注文だ。
だが、やるしかないのは明らかなので、拒否するという選択肢はなかった。
「・・・分かったわ。なんとかヘリを奪ってみる」
『では、健闘を祈る』
そう言って通話は切れた。
そして、電話を懐に仕舞うと、ある人物の方に向き直る。
「大丈夫?」
「は、はい。あの薬のお陰でなんとか・・・」
それはタカシだった。
よく見ると、肩口になりやら裂傷を負ってしまっている。
実は彼はアリス達が来る直前にリッカーに襲われ、その時にリッカーの舌の攻撃によって肩口を負傷してしまったのだ。
当然、そのままでは10人に1人の確率で居る抗体持ちでも無い限り、T─ウィルスに侵されてゾンビの仲間入りとなっていた筈なのだが、アンジェラが持っていたT─ウィルス抑制剤を投与することで、どうにかそれを抑えることに成功していた。
しかし──
「でも、あの薬はただウィルスを抑制するだけの薬だから、定期的に薬を摂取しないとゾンビ化してしまうから気を付けなさい」
そう、タカシに打たれたのはあくまでT─ウィルスの抑制剤でしかなく、体内に入り込んだT─ウィルスを完全に抑え込んだとは言い難い。
ラクーンシティ総合病院で造られていたデイライトでもあれば話は別なのだが、あいにくあれはラクーンシティ総合病院のある医者が独自で開発した薬であり、アリスもその存在は知らなかったのだ。
もっとも、デイライトより効力が劣るT─ウィルス抑制剤でも、今晩を乗り切る分にはなんの問題も無いので、その後にまた新たな対処法を考えるということも出来る。
そういう面では、T─ウィルス抑制剤を打つのと打たないのとでは雲泥の差があるのだ。
「は、はい」
「じゃあ、悪いけど急ぐわよ。急がないとみんな死ぬわ」
「何か有るんですか?」
ノン子が不安に思いながらそれを聞くが、残念ながらそれを説明している時間はなかった。
「それは行きながら説明する。だから、今は黙って私たちに着いてきなさい」
「わ、分かりました」
こうして、アリスはラクーンシティ小学校に居た3人と合流し、その3人を連れてヘリポートへと向かった。
◇同時刻
「・・・」
アリス達がヘリを奪いに小学校を出た頃、のび太はとある場所にて、何かしらのBOWにやられたのか、倒れて死んでいた軍人らしき服装の男が手に持っていた書類を読んでいた。
しかし、その書類を持つ手は震えている。
当然だろう。
その書類には英語でこのような事が書かれていたのだから。
『アメリカ陸軍第121部隊 指令書
明日10月1日夜明けをもって、アメリカ政府はコードXX(ダブルエックス)を発動し、6機の航空機から発射される10発のサーモバリック爆弾によって、ラクーンシティを消滅させることを決定した。ネメシス計画を行う貴部隊は10月1日午前0時をもって作戦を中止し、ラクーンシティから脱出せよ』
・・・要するに、この倒れていた軍服の男はアメリカ陸軍の所属であり、あと6時間程でこのラクーンシティはアメリカの地図上から消滅するという内容だったのだ。
驚くのも無理はないだろう。
ちなみに何故、のび太が英語を読めるかはこの際突っ込んではいけない。
「ど、ど、どうしよう!は、早くこの街から逃げないと!!」
のび太は慌てる。
まあ、このままラクーンシティに居れば自分は蒸し焼きになってしまうのだから当たり前の反応ではあるのだが、問題はどうやって脱出するかだった。
いや、脱出せずに地下に逃げるという手も一応あるのだが、それで絶対に大丈夫だという保証が無い以上、やはり脱出するのが一番の最善策だろう。
しかし、それではどうやって脱出するかという問題が残ってしまうため、話は振り出しに戻ってしまうのだ。
悩むのび太だったが、もう一度文章を読み直した結果、のび太はあることに気づいた。
「・・・ん?待てよ。“脱出せよ”なんていう指令を出しているってことは、救出用のヘリかなんかが用意されてるんじゃ・・・」
のび太はその事に思い至った。
確かにこんな脱出指令などというものを出しているということは、当然、救出する手段も用意しているという事でもある。
ならば、脱出用のヘリか何かがあるはずだ。
「問題は乗せて貰えるかだけど・・・」
アメリカ軍の部隊に保護される。
普通ならば、軍に保護される分にはなんの問題もなさそうに見えるが、のび太は不法入国者だ。
脱出後に身元を調べられるとかなり不味いことになる。
しかし、かといって奪うという行為も憚られる。
「・・・しょうがない。取り敢えず行ってから考えよう」
この書類には0時を以て撤退と書かれているため、それが本当ならばもう時間はない。
今は脱出以外の懸念を後回しにして、取り敢えずその指令に付属されていた地図に記されていた撤退場所へと向かうことにした。
◇
「じゃあ、ここで待っててね」
アリスはそう言いながら、3人の少女──ノン子、アンジェラ、雪奈に向かってここで待っているように言う。
広場に近づいていく過程で、一行は二手に別れることにした。
アリス、咲夜、タカシの3人がヘリの確保(奪取)を。
ノン子、アンジェラ、雪奈の3人がここで待機。
これは後者の3人が戦闘能力が皆無であったからだ。
これから相手にするのは、本物の軍隊。
しかも、相手は特殊な訓練も受けている。
そんな中、戦闘能力が皆無な人間を3人も抱えながらヘリを奪取するなど、まず無理と踏んだのだ。
まあ、それを言うならタカシも同じなのだが、彼はヘリを操縦できるという意外なスキルがあることから、二人に同行する形となった。
もっとも、大半の戦闘をアリスと咲夜が引き受けるとはいえ、バッタリと敵と出くわしてしまう可能性もあるので、一応銃は持たされている。
そして、ここに残される3人はヘリ確保後に、そのヘリを使って直接迎えに来る予定だ。
「なるべく、早く迎えに来るわ。その間にもしゾンビが来たら、適当に逃げてヘリが来た時に居場所をこの照明弾で知らせて」
「はい、分かりました!」
アリスから照明弾を託されたノン子ははっきりとそう言った。
そして、アリスはノン子の頭を撫でながら『期待しているわよ』と言い残し、咲夜やタカシと共にその場を去っていく。
それを見送った雪奈はアンジェラは不安の声をあげる。
「大丈夫でしょうか?」
「心配ないよ。必ず迎えに来てくれる」
ノン子はアンジェラだけでなく、雪奈に向かってもそう言うが、相変わらず雪奈の反応は薄い。
もっとも、アンジェラはその答えに満足したようで、取り敢えずは安心している様子だった。
だが、正直言って、ノン子にも先の言葉がどれだけ信用に値するかどうかは分からない。
(でも、信じるしかない)
ノン子はそう思いながら、アリスに言われた通りに二人の面倒を見ることに集中する。
ズシン、ズシン
──だが、彼女達の背後からとんでもない殺意を携えた1体の巨人がやって来た。
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狙撃
◇西暦2020年 9月30日 深夜
「大丈夫!?君!!」
ヘリの集合場所に向かおうとしていたのび太は、壁に寄り掛かっているおそらくは同年代であろう一人の栗色の髪をした少女を発見し、声を掛ける。
目に生気がある様子から、ゾンビでは無さそうだったが、腹の部分が鉄の棒によって串刺しにされており、どう見ても大丈夫ではないことは丸分かりだった。
どうやら、何か強い力に押し付けられた結果、そうなったらしい。
(可哀想に・・・)
のび太は少女に対してそう思いつつも、せめて治療を行ってあげようと、ハンカチを取り出しながら少女へと近づく。
しかし、その前に少女がある言葉を発したことで足を止めてしまう。
「もし・・・かして。のび・・・ちゃん?」
「・・・えっ?」
のび太はその言葉に驚く。
のびちゃん。
言うまでもなく、のび太の渾名だが、これでのび太を呼んでいる人間は意外に少なく、のび太の事をよく知っている両親や祖母など、大抵は大人に限られ、同年代では幼稚園の頃にアメリカに引っ越してしまった一人の少女のみだった。
しかし、祖母はのび太が小学生に上がる前に死んでしまったし、両親もつい2ヶ月前に死んだ。
そして、ここはアメリカ。
となると──
「あ・・・あぁ・・・」
のび太は嫌でも気づかされてしまう。
目の前の少女の正体に。
「ノンちゃん!!」
それが分かったのび太は慌ててその名前を呼びながら、彼女に駆け寄っていく。
「ノンちゃん!しっかり!!」
「ふふっ・・・やっぱり、のびちゃん・・・なんだね。こんな時だけど・・・会えて、嬉しいな」
「喋らないで!今、手当てを!!」
「いい」
急いで手当てを行おうとするのび太だったが、それを拒否したのは他ならぬノン子自身だった。
彼女も悟っていたのだ。
自分はもう助からない、と。
ならば、せめて最後にあることをのび太に頼もうと考えた。
「この先に、女の子が二人・・・連れ去られた、の。あの子達を・・・コホ、ゴフッ」
ある方向に指を指しながら状況を説明している途中、遂に体内に血の行き所が無くなったのか、ノン子は血を吐いてしまう。
それを見て、いよいよ命の危険が迫っていると分かったのび太は更に慌てる。
「い、いや。駄目だよ!まずは手当てが・・・」
手当てが先。
そう言おうとしたのび太に彼女は最期の言葉を告げる。
「お・・・ねが、い」
そして、その言葉を最後に彼女は事切れた。
「・・・」
それを見届けたのび太は泣き叫ぶこともなく、ただ一筋の涙を溢す。
──しかし、その内心はかなり荒れていた。
(なんで・・・なんでだよ!!)
のび太は心の中で叫ぶ。
彼女とはタイムマシンで遡った時以来、数ヶ月振りの再会(ノン子にとっては数年振り)となるが、こんな状況で再会するとは思わなかったし、このような短い再会が最期になるなど思いたくもなかった。
「・・・くそおぉぉおお!!!」
だが、彼女はもうこの世には居ない。
のび太はその現実に怒り、嘆きながらせめて彼女が最後に託した願いだけは叶えようと、彼女が指差した方向に向かって静かに歩いていった。
──その目に、これまでに無いとんでもない殺意を携えながら。
◇10月1日 未明
(よし、あと少しだ)
タカシは隠し持った小型ナイフによって、自分の手首に結ばされた結束バンドが徐々に切れていく現状に、内心でニヤリと笑う。
結論から言えば、3人のヘリ奪取作戦は失敗した。
確かに咲夜とアリスによって、ヘリを警備していた大半の敵の動きは拘束され、ヘリを確保して運転する予定だったタカシも多少の障害はあったものの、概ね想定通りの行動を取ることが出来たのだが、全ての行動が終わる直前に、両腕にアンジェラと雪奈が抱えた1体のネメシスがやって来たことで形勢は逆転してしまう。
二人を人質に取られた形となった3人は降伏し、こうして結束バンドで縛られているという訳だ。
・・・もっとも、全員ではない。
アリスだけは縛られず、現在、実験という形でネメシスと戦わされている。
だが、その隙にタカシは隠し持っていた小型ナイフで拘束バンドを切ることを試みていた。
そして──
(よし、切れた!)
遂にタカシの手首を縛っていた結束バンドが小型ナイフによって切り裂かれた。
これにより、タカシの手首は自由となったが、問題なのはここからどうするかだ。
ここで即座に暴れるという選択肢はまず無い。
すぐ傍には完全武装の兵隊が10人以上居るし、のび太達と違ってただの12歳の少年に過ぎないタカシでは暴れたところであっという間に殺されてしまうのは目に見えている。
では、どうするかと言えば、一番の最善策は仲間の中でアリスに次ぐ戦闘力を持つ咲夜の手首をこのナイフで切って自由にさせ、彼女に兵隊を相手にして貰うことだ。
その間に、自分は人質の解放とヘリの確保をする。
幸い、彼女はタカシのすぐ隣に座らされており、彼女にこのナイフをどうにか手渡せれば、あとは自力で何とかするだろう。
が、問題はどうやって手渡すかだ。
すぐ傍には兵隊が自分達の見張りについているので、あまり不審な動きをすれば気づかれる可能性がある。
そうなったら、タカシの命は風前の灯となることは間違いない。
(なんとか隙を見つけねぇと)
タカシはそう思いながら、その機会を待つ。
一番良いのは、ここに居る以外の誰かが、煙幕やら銃撃を行って周りに居る兵隊を攻撃してくれることだったが、そんな都合の良い展開など早々起こるものではない。
・・・無いのだが、今この時に限っては話が違った。
◇
「拐われた女の子達・・・あれか」
のび太はビルとビルの間にある路地裏から兵隊達に拘束されている女の子を見ながら、あれがノン子の言っていた女の子達であると確信していた。
しかも、その周囲ではどういうわけか、拘束している兵隊達に見届けられながら女の人と数時間前まで自分を追いかけ続けていたあのネメシスと戦っている。
「あいつ、生きてたのか」
のび太はその事が気になったが、今はネメシスに構っている時間はないと、先にどうやって周りの兵隊を排除しようか思案する。
「・・・やっぱり、これしか無いよな」
そう言いながら、のび太はH&K MP5・サブマシンガンを取り出す。
狙いは女の人とネメシスの近くに居る偉そうな人物──のび太は知らないがケイン少佐──だった。
彼我の距離はおよそ180メートル。
MP5の有効射程が200メートルなのを考えれば、十分効果的な攻撃が行える射程内と言える。
もっとも、専門の狙撃用ライフルか、アンブレラの研究島でも使ったH&K G36・アサルトライフルが有ればもっと効果的であったのだが、あいにく前者は手に入られなかったし、後者はフエルミラーで増やす前に弾薬を使いきってしまうというミスをおかしてしまった結果、銃自体が文字通りお蔵入りとなってしまっていた。
それでも前述したようにMP5でも有効射程の範囲内であったし、狙っている相手は防弾ヘルメットすら被っていない為、拳銃弾でも頭を狙えば確実に致命傷を与えられるのは間違いない。
が、ここで1つ問題があった。
実はこの距離での射撃はのび太にも全く経験がなかったのだ。
そもそも銃を使うタイプの人間というのは二種類居る。
近距離で勝負をするガンマンタイプの人間と、中遠距離で勝負するスナイパータイプの人間だ。
当然、のび太は前者であり、100メートル以内ならば、どんなに条件が悪くとも1円玉程の大きさの物に命中させる自信があったし、条件さえ揃っていれば5円玉の穴にも命中させられる程の腕があった。
しかし、この距離は180メートルという中距離に相当する距離であり、尚且つ今は夜間であり、ライトアップされている状態とはいえ、やはり辺りは薄暗い。
更にサーマルスコープはおろか、通常のスコープもドットサイトも無いという状態では、流石ののび太も狙ったところに確実に命中させるという自信はない。
日向穂島の時は、そういう狙撃の展開が無く、敢えて自信のある100メートル以内に接近してから戦闘を行っていたので、その欠点は露呈しなかったのだが、ここに来てその経験不足が祟ってきていた。
(・・・でも、やるしかない)
しかし、それでものび太はやるつもりだった。
もう彼女はこの世に居ないが、その弔いのためにもせめて彼女が言っていた女の子二人はなんとか守らなければならないと思っていたからだ。
「・・・」
──そして、複数の冷や汗を流しながら、ゆっくりとそのトリガーを引いた。
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脱出
◇西暦2020年 10月1日 未明 ラクーンシティ
ドン!
鳴り響いた銃声。
しかし、それに撃った張本人であるのび太以外の気づいた時にはもう遅く、発射された9×19ミリパラベラム弾は標的へと向かっていく。
そして──
「がっ!」
標的──ケイン少佐の首部分へと命中した。
そこはのび太が狙った頭部からやや外れてはいたものの、十分人体の急所であり、当たれば致命傷は免れない場所でもある。
その為、その部分に弾丸が命中したケイン少佐は次の瞬間には崩れ落ち、やがて永遠に覚めない眠りへと、強制的に就かされる事になった。
「なにっ!」
「てきしゅ──」
その光景を見たケイン少佐の部下達も慌てて敵襲を察して迎撃態勢を取ろうとする。
──しかし、この時、彼らにとって不運なことが2つあった。
1つはのび太の手によって指揮官であるケインが倒された結果、少なからず彼らの指揮系統が混乱してしまったこと。
そして、もう1つは──
ドドドドドドドドド
アリスと戦っていたネメシスが突如として彼らに牙を剥き始めたことだ。
そして、掃射されたガトリングガンは5名程の兵士を蜂の巣にする。
下僕であるはずのネメシスの突然の凶行に、再び部隊は混乱してしまう。
しかも、ケイン少佐がやられた直後であった為か、その混乱は更に助長された。
──しかし、彼らも特殊訓練を受けたアメリカ軍の特殊部隊。
どうにか態勢を建て直し、ネメシスとアリスに銃を向ける。
だが、そこに先程混乱した隙を突いて、タカシに結束バンドを解いて貰った咲夜が兵隊達に襲い掛かった。
「はあぁ!!」
咲夜の一蹴りにより、一人の兵隊が文字通りの意味で吹っ飛ばされる。
12歳の女の子とはいえ、そこはT─ウィルス完全適合者と言うべきか、物凄い脚力を発揮した結果、あっという間に素手で完全武装の兵士一人を戦闘不能にした。
そして、次の敵へと襲い掛かっていき、二人に少しばかり出遅れる形となったが、アリスもまたネメシス、咲夜に続いて、兵隊に襲い掛かっていく。
一方、背後からも襲われる形になった兵隊達は堪らず、また自分達を襲っている相手がT─ウィルス完全適合者と強力な兵装を持つBOWということもあり、態勢を建て直すことが出来ずにいる。
このままでは彼らの全滅も時間の問題なのは明らかだった。
しかし、3人が戦っている間にアンジェラと雪奈の拘束を解いていたタカシの姿が一人の兵隊の目に映り、その兵隊は銃をタカシの方に向ける。
「このガキ!」
その兵隊はそう言いながら、引き金を引こうとしたが、その時、その兵隊の側面から飛来した5、7×28ミリ弾が側頭部に命中したことによって、ケイン同様、彼も強制的に永遠の眠りへと就かされる事になった。
そして、それを成したいつの間にかタカシ達の近くにやって来ていた少年──のび太は続けて別の兵隊に得物であるFN Five-seveNの銃口を向け発砲。
その敵もまた、着用していた防弾ヘルメットごと頭部を撃ち抜かれてしまい絶命する。
「あ、ありがとう」
「良いから!ここは任せて早くヘリの確保を!」
「分かった!」
タカシはそう言いながら、雪奈とアンジェラを引き連れる形で手近な一機の輸送ヘリへと向かう。
そして、先程の拘束劇で兵隊が全て外に出ていたお蔭か、無人になっていたヘリは3人に占拠されることになる。
一方、アリス達の方はと言えば、敵が軍用ヘリを用いて銃撃してきた時は苦戦したものの、直後にネメシスのロケットランチャーによってそのヘリは撃ち落とされ、脅威は去るが、軍用ヘリが墜落した場所にネメシスが居た結果、ネメシスもまたその墜落の際の爆発に巻き込まれ、撃破されることになった。
戦力が3人に減ったアリス達であったが、相手はもう壊滅状態であり、部隊としての機能はほとんどしておらず、ヘリ墜落から僅か数十秒後には全滅することになる。
そして、最後の一人が倒れたのを確認すると、3人はタカシ達が準備したヘリに向かって一斉に走った。
◇ラクーンシティ上空 輸送ヘリ 機内
ラクーンシティ上空を飛ぶ一機のヘリ。
そのヘリを飛ばすのは、僅か12歳の少年であったが、その飛行は安定しており、このままならばコードXXが発動される前にラクーンシティを抜け出せそうな見込みだった。
「まさか、あんなタイミングでのび太君がやって来るなんて思わなかったわ」
「僕も咲夜さんが居るなんて思わなかったよ。てっきり、もう脱出しているのかと」
その機内では、咲夜とのび太が会話を行っていた。
しかし、どうやら二人とも互いに相手は脱出したと見ており、ましてやあんなタイミングで合流することになったのは予想外だったらしく、表面上では笑っているものの、内心では驚いている。
だが、もっと驚いていたのは会話に参加していないアリスだった。
(あの顔って・・・)
アリスはのび太の顔に見覚えがあった。
それはそうだろう。
なにしろ、アンブレラ社内の手配書に載っていた顔とそっくりだったのだから。
まあ、実際は本人なのだが、流石のアリスも顔を見ただけでは本人だと断定は出来ないし、そもそも危険人物かどうかも分からなかったので、今のところ何かしようという気は無かった。
それに助けて貰った恩もある。
そんなアリスの思いを他所に、咲夜とのび太の会話は進んでいく。
「それで、脱出した後はどうするの?」
「・・・そうだね」
咲夜の問いに対して、のび太は答えに窮してしまう。
なにしろ、のび太は先程撃破したのがアメリカ軍の部隊であることは知っているし、このヘリも元はおそらくアメリカ軍のものだ。
そして、正当防衛とはいえ、アメリカ軍の特殊部隊を撃破してしまった以上、アメリカ軍に保護されたりすれば、どう低く見積もっても、自分達はただでは済まないだろう。
「・・・一旦、ドラえもん達と合流しよう。ただし、米軍が来たら逃げる方向で」
「えっ?なんで?」
咲夜は首を傾げる。
アンブレラなら兎も角、米軍の部隊からわざわざ逃げる意味がよく分からなかったからだ。
だが、のび太はその疑問に対してこう答える。
「さっき倒したあれは米軍の部隊だよ?幾ら不可抗力だったとはいえ、倒してしまった以上、僕たちを許してくれるとは思えない」
「で、でも・・・」
咲夜は戸惑っている。
まさか、自分達が正規軍に目を付けられるような身分になっているとは思わなかったのだ。
が、少し考えてみれば当たり前のことだった。
そもそもアメリカから見れば、のび太達は元々不法侵入者であり、悪である存在だ。
そんな中、不法侵入者である彼らは自分の国の軍隊と交戦し、これを撃破し、挙げ句の果てに一部ではあるが秘密を知ってしまった。
・・・とても許してくれるとは思えない。
しかし、それでも納得できるかどうかは別問題であり、尚も戸惑う咲夜に対して、二人の話を傍観していたアリスが助け船を出した。
「私もその子の言う通りだと思うわ。アメリカ軍の保護は絶対に避けた方が良いと思う。・・・いえ、アメリカそのものから脱出した方が良いと思うわね」
アリスはそう言いながら、のび太の意見に便乗する。
しかし、その意見はおそらく正解だろう。
前述したように、彼女はアメリカ軍が少なからずアンブレラと繋がっていることを知っていたし、今回のラクーンシティ事件後にアメリカ政府がどのような対応を取るかは不明だが、ラクーンシティの生存者だと分かれば、ろくなことにならないのは目に見えている。
・・・いや、あの秘密を知ってしまった以上、“不慮の事故”で殺される可能性すらあるのだ。
ならば、アメリカそのものから出ていった方が良いと考えるのは当然の帰結だった。
「あの・・・あなたは?」
のび太は見知らぬ女性が会話に入ってきたことに驚いた。
まあ、彼女はネメシスと戦っていた女性でもあり、のび太もそれを目撃していたので、全く見知らない訳ではないが、それでものび太からしてみれば素性の分からない女性であることに変わりはない。
「ああ、自己紹介がまだだったわね。私の名前はアリス」
アリスは自己紹介を始める。
それをのび太達は黙って聞いていたが、次の彼女が発した言葉に驚愕することになる。
「そして、アンブレラ特殊部隊の元隊員でもあるわ」
──その瞬間、周囲の空気が凍るような感覚を覚えた。
◇本章登場人物の生存者と死亡者
・生存者(6名)
野比のび太、桜井咲夜、アリス・アバーナシー、緒方タカシ、アンジェラ・アシュフォード、緑川雪奈。
・死亡者(1名)
有宮ノン子。
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第三章 追跡者
3度目のバイオハザード
・アンブレラとの戦いに身を投じたメンバー(14名)
野比のび太、ドラえもん、出木杉英才、源しずか、剛田武、骨川スネオ、田中安雄、翁餓健治、緑川聖奈、桜井咲夜、富藤雪香、アリス・アバーナシー、アンジェラ・アシュフォード、緑川雪奈。
・日常社会に戻ったメンバー(5名)
久下真二郎、山田太郎、島田響、西住みほ、緒方タカシ。
◇西暦2020年 12月22日 夜 日本 群馬県 R市
R市。
人口5万人のラクーンシティの半分ほどの人口の街。
しかし、今そこではラクーンシティやススキヶ原と同様、1つの地獄が現出していた。
◇とある倉庫
R市内に存在するとある倉庫。
そこには8人程の生存者が逃げ込んでいて、その中にはR市に潜入していたのび太と避難民を警護している警官が2名程含まれていた。
(ふぅ、やっと落ち着いたか)
のび太はそう思った。
しかし、口には出さない。
バイオハザードを経験するのが、これで3度目であるのび太は慣れていたので、このような目に遭っても動揺していなかったが、ここにはバイオハザードを経験するのは初めてであり、家族を失った人も居るので、のび太も気を使っていたのだ。
(しかし、困ったな。まさか、僕たちがこの街に侵入したタイミングでバイオハザードが起きるなんて・・・おまけにジャイアンともはぐれちゃうし)
のび太は困った様子でこれからのことを思案する。
あのラクーンシティでのバイオハザードから2ヶ月半の時が経ち、のび太達アメリカ組はアリス達を加える形でヨーロッパ組と合流し、一旦日本に戻っていた。
そして、ヨーロッパ組が手に入れた情報から、この日本の群馬県のR市にアンブレラの施設があることが分かり、健治と聖奈の二人がR市に潜入してアンブレラの施設を探る予定だったのだが、2日前に連絡が途絶えてしまい、その捜索要員としてのび太とジャイアンの二人がこうして派遣されたのだ。
しかし、アンブレラに見つからないようにバラバラに手分けして捜索したことが祟ってしまい、バイオハザードが起きた時、二人は分断されてしまう形となった。
まあ、なんだかんだでジャイアンの生命力が凄いことはのび太も知っていたので、そちらの方はあまり気にしていなかったのだが、今の状況では当初の目的である健治と聖奈の捜索を果たすことはおろか、自分が無事に脱出できるかどうかも分からない。
なにしろ、アリスの言うところでは、自分はアンブレラ内で指名手配されているようなのだから。
このバイオハザードに託つけて、刺客のような者を送り込んできても可笑しくない。
事実、のび太は知らないが、ラクーンシティのバイオハザードでは、アンブレラが洋館事件の詳細を知るSTARSの隊員の生き残りを始末するために、自社のネメシスを送り込んでいる。
(それにここの人達も巻き込んじゃうかもしれないしね。こうなったら、偵察という形で出ていった方が良いかもしれないな)
のび太はそう思うと、入り口付近に居る二人の警官の元へ向かった。
「あの・・・僕が外の様子を見てきましょうか?」
「ん?その申し出は有り難いけど・・・さすがにそういうわけにはいかないよ」
案の定、警官の一人が拒否の反応を示してきた。
まあ、当然だろう。
彼ら警察官は基本的に市民を守るのが仕事であり、その守るべき市民にこんな地獄の空間での偵察行動をさせるわけにはいかないのだ。
ましてや、相手は小学生くらいの子供。
余計に行かせるわけにはいかない。
しかし、それでものび太は粘る。
「でも、誰かがやらないと」
「それは分かっているが・・・」
その警官は言い淀む。
彼も分かっているのだ。
事によっては、数日間籠城しなければならない身としては、周囲の探索は必要不可欠だということが。
なにしろ、食料も武器もろくに無いのだから。
だが、それでものび太を行かせるには躊躇いがあった。
しかし、そこでもう一人の警官がこう言った。
「なら、俺が着いていこう」
「えっ?」
「正気か!?久下!」
「ああ。幸い、俺はこの地獄に慣れているからな」
「そうか・・・お前はススキヶ原の。分かった、そこまで言うなら構わんが、そこの子供は本当に連れていくのか?」
その警官はもう一人の警官──久下真二郎の言葉に渋々頷いたが、まだのび太を行かせることには抵抗があった。
しかし、久下はこう言う。
「いや、俺一人では出来ることは限られる。そこの子供にも手伝って貰えるとありがたい。勿論、何か有ったときは率先して守るさ」
「・・・分かった」
久下の言葉に、警官は少しの沈黙の後、先程と同じように頷いた。
◇
「あの・・・ありがとうございます」
「ん?なにがだ?」
「いや、その・・・あの警官の人を説得してくれて」
「・・・礼には及ばない。それより君はよくこんな地獄の空間に飛び込むなんて言ってのけられたな」
「ええ、僕はススキヶ原の出身ですから」
のび太は躊躇うことなく自分の素性を明かした。
先程の会話からするに、この人物はススキヶ原のバイオハザードを経験している。
ということは、あの街で何が起こったかも分かっているということでもあり、素性を明かしても問題ないとのび太は判断したのだ。
「・・・そうか。じゃあ、君もあのバイオハザードを?」
「ええ」
のび太はこの時、少しだけ嘘をついた。
確かにあの日にバイオハザードを経験したのは事実だが、それは日向穂島であってススキヶ原ではないのだ。
だが、そこまで言うつもりはのび太にもない。
説明がややこしくなると判断したからだ。
・・・ちなみに、この久下という男は実を言えばススキヶ原で出木杉達と行動を共にしていた人間の一人なのだが、のび太と合流する前に出木杉達と別れた為、面識は無い。
よって、のび太も久下も互いのことは全く知らなかった。
もっとも、射撃が上手い仲間が居たことは久下も出木杉達から聞いているが、それが目の前に居るのび太の事であるとは久下も全く気づいていない。
「なるほど、だからか。・・・君もアンブレラと戦うことを選択したのか?」
「・・・」
久下の問いに、のび太は沈黙をもって答える。
しかし、正直言えば、のび太自身はアンブレラにそれほど恨みの感情を抱いているわけではない。
何故なら、確かにススキヶ原は壊滅し、両親が死んだと知らされたが、それは人伝に知らされた事であり、直接見た訳でも味わった訳でも無いのだ。
要するに実感がなく、あまり過激な思想は抱けなかったというわけである。
だからこそ、他の仲間がアンブレラに本気の殺意を抱いているのを見て、ちょっと引いていたりした。
しかし、それでもススキヶ原を失ったという仲間の悲しみは分かってし、アンブレラが危険な団体であるということは日向穂島の一件からも知っていたので、彼らに合流する形で参戦していた・・・ラクーンシティの一件までは。
だが、先日のラクーンシティの一件で自分が指名手配されているのも分かったことで、嫌でも戦わざるを得ない状況になってしまったということを自覚したことで、のび太はアンブレラに対して改めて本気で戦うことを決めている。
もっとも、そんな事情を久下が知るよしもないのだが、のび太がアンブレラと戦うことを決断したというのは分かった。
「・・・俺も上司に訴えたりしたんだけどなぁ。全く相手にされなかったよ。それでこの街の警察署に飛ばされた挙げ句、これだ。ここまで来ると、作為的なものを感じちまうよ」
久下はそう言いながら、ススキヶ原で生き残った後のことを語り始める。
滞在していた警察官が文字通り全滅した日向穂島もそうだが、ススキヶ原に滞在していた100名以上の警察官が全滅したという報告を受けた警察、特に東京の警察を管轄する警視庁は大騒ぎになり、その後、ススキヶ原の生き残りである久下に聞き取り調査が行われ、久下も素直に答えたのだが、あまりにも現実離れしすぎた内容だったせいか、当初は誰からも信じてもらえず、精神鑑定まで受ける有り様だった。
しかし、調査する過程で久下の言っていることが真実だと分かったものの、その後の対応に日本政府は難儀している。
何故かと言えば、外交に響くからだ。
アンブレラは日本にはあまり影響を及ぼしておらず、それどころか高いレベルの細菌やウィルス開発の申請などをしつこく推したりしてくるので、日本の内情を憂慮する政治家や官僚にはよく思われておらず、どうにか日本法人こそ成立させることが出来たものの、前述した高いレベルの細菌やウィルスを開発することは全面禁止となっている。
なので、日本から追い出す分には感情面からも契約面からも比較的簡単だったのだが、アンブレラは世界的な大企業であり、下手なことを言って追い出すと逆に他の国が文句を言ってくる可能性があったのだ。
しかも、ススキヶ原の研究所は自爆によって吹き飛ばされていたし、日向穂島の方の研究所もアンブレラ側が日本の警察に先立って爆破処理してしまっており、証拠はほとんど残っていない。
なので、裁判を起こすにしても、こちらの不利は確実であり、それが日本の政治家や官僚達を尻込みさせていた。
もっとも、ラクーンシティの一件でアメリカがアンブレラを訴え始めたこともあって、それに便乗しようかとも考えたのだが、やはり証拠が少ないことから棚上げにしていたのだ。
そして、久下は事件後に新しくR市警察署に配置されることになったのだが、その矢先にこのバイオハザードである。
ここまで来ると、不幸と言う他無いだろう。
「・・・そうでしたか」
「でも、3ヶ月くらい前にアメリカのラクーンシティだったか?そこでもバイオハザードが起きて、アメリカがアンブレラを訴えたって話だからな。早くアンブレラが無くなってくれると良いんだが・・・」
「そうですね」
のび太は久下の独り言とも言える発言にそう返事をしたが、内心ではおそらく裁判は長引くだろうと思っていた。
なにしろ、のび太がS─ウィルスが充満していたあの研究室から回収した資料にはアメリカがアンブレラと結託していたことが書かれている。
その後にどういう心境の変化が有ったのかは知らないがアメリカはアンブレラを訴えた。
しかし、決定的な証拠は出していない。
おそらく、下手に証拠を出せば自分達も道連れとなると分かっているからだ。
おまけにアンブレラの方もその経済力を駆使して一流の弁護団を組織しているため、このまま証拠が提出されなければ、最悪の場合、このまま裁判で逃げられる可能性すらある。
しかし、あまりにも事が重大すぎることもあって、この事実は流石にのび太の口から久下には言えなかった。
「それで、行き先はどうします?」
「むっ。そうだな。取り敢えず、俺が所属するR市警察署まで行って、そこで武器を──
キャアアアアアアアア
久下はなにかを言い掛けたが、それは突如として聞こえてきた女性の悲鳴に掻き消されることとなった。
そして、その悲鳴を聞いたのび太はすぐさま駆け出していく。
「あっ、ちょっと待て!」
そう言いながらも、久下もまたのび太の後を追う形で悲鳴の元へと向かった。
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初対面?
◇西暦2020年 12月22日 夜 日本 群馬県 R市
のび太が悲鳴の元に駆け付けた時、そこに居たのは中学生くらいのセミロングの少女とそれを囲む3体のゾンビだった。
「ッ!!」
のび太は状況を確認すると、両腰に在るそれぞれ1丁ずつのFN Five-seveNを両手で同時に引き抜き、ゾンビに向けて発砲。
その両手で構えられた2丁の銃から同時に発射された5、7×28ミリ弾によって、2体のゾンビがほぼ同時に頭を撃ち抜かれ倒れる。
2丁拳銃。
のび太の得意技の1つで、両手に1丁ずつの拳銃を持ち、2丁の銃を同時に操り、相手を倒す効率と瞬間火力を2倍にする芸当である。
勿論、こんなことは誰にでも出来ることではない。
むしろ、利き腕などの関係で出来ない人間の方が圧倒的に多いのだが、のび太の射撃技術はその“特定の人間にしか出来ないこと”が出来るレベルのものだった。
そして、残った1体ものび太が右腕を少しずらし、そのゾンビの頭に照準を向けて発砲したことで先の2体と同じように倒される。
この一連の動作は全て含めて僅か0、5秒だった。
「えっ?えっ?」
助けられた少女自身、あまりにも速い動作に何が起こったのか分からないのか、呆然としている。
そんな少女に拳銃をホルスターに仕舞ったのび太が近づく。
「大丈夫です・・・か?」
のび太は相手の少女の顔を見て驚いた。
何故なら、それはかつて魔法の世界で会った少女──満月美夜子であったからだ。
◇
「えっ?のび太さん?」
美夜子もまた、のび太の顔を見て驚く。
実は野比のび太と満月美夜子は初対面であって初対面ではない間柄だ。
・・・ややこしい話だが、のび太が知っている美夜子はあくまで魔法世界の美夜子であり、この科学世界に生きる美夜子ではなく、科学世界の美夜子もまた、知っているのは魔法世界ののび太であって、科学世界ののび太ではない。
そして、のび太が魔法の世界に行ったのとは正反対にこの世界に来た魔法世界ののび太は、まるで科学世界ののび太が魔法世界の美夜子と出会い、魔界星を消滅させたのをなぞるかのように、この世界の美夜子と出会い、この世界に出現していた危機──ブラックホールを消滅させた。
その後は科学世界ののび太と魔法世界の美夜子同様、この世界でも魔法世界ののび太と科学世界の美夜子が、もう2度と会うことが無いであろう別れを行ったのだが、お互いまさかこんな形で同じ世界同士の相手に出会うとは思っていなかったのだ。
「え~と。初めまして?」
「う、うん。そうだね、初めまして」
──故に、固い挨拶になってしまうのも、ある意味では仕方ないと言えた。
しかし、そこに助け船?を出すかのように久下が現れる。
「お、おい、君。そんな一人で・・・あれ?そっちの君は・・・」
久下もまた、美夜子の顔を知っていた。
と言っても、のび太のように面識がある?という訳ではない。
どちらかと言えば、見覚えがあると言った方が正しいだろう。
そして、少しの思考の末、久下は美夜子を何処で見たのか思い出した。
「あっ、思い出した!確かテレビで見た満月博士の助手の天才少女って」
「えっ?あっ、はい。天才かどうかは分かりませんけど、それは私のことだと思います」
美夜子は天才少女と言われて、少々照れくさそうにそう答える。
そう、魔法世界の美夜子がそうであったように、この世界の美夜子も15歳という年齢にも関わらず、プログラマーとしてかなり優秀であり、高名な科学者である満月博士の助手を勤められる程の腕前だったのだ。
なので、テレビにもたまに出ることもあり、それを久下が覚えていたという訳である。
「そうか。しかし、ここに居ては危険だ。1度、我々が保護した避難民が居る倉庫へ──」
「待ってください。ここは1度、警察署に来てもらう方が良いんじゃないですか?」
「・・・ふむ。まあ、確かに戻ってまた改めて出発というのもリスクが有って危険か」
久下はそう考える。
確かにここからあの倉庫までそうは離れていないが、街がこんな状況であるので、リスクを避けるためにも、なるべく外に出入りする機会は少なくした方が良いだろう。
しかし──
「武器が無いな。・・・と言っても、俺も似たようなもんだが」
久下はそう言いながら、腰のホルスターに入っているニューナンブM60を見る。
ニューナンブM60はのび太が日向穂島でも使っていた銃であり、日本の警察官に標準配備されている銃でもあるが、装填弾数は最大でも5発しかなく、更にリボルバー式のため、再装填の手間も掛かる代物だ。
普段は銃を使う機会など滅多に無いので、それくらいがちょうど良いのだろうが、このようなバイオハザードの時には無いよりはマシ程度の働きしかしないだろう。
まあ、その代わりにススキヶ原の経験からか、弾薬となる38スペシャル弾はバイオハザード発生時に出来るだけ武器庫から持って来ていたので、他の警官よりは予備の弾薬に困っていなかったのだが。
もっとも、久下が指摘したように、のび太と違って美夜子は丸腰。
とてもではないが、連れて歩くだけでも足手まといとなるだろう。
しかし、のび太はそんな彼女に四次元ポケットから取り出したあるものを差し出した。
「これ、良かったら使ってください」
のび太がそう言って差し出した物。
それはベレッタM92とそのマガジンだ。
ちなみにこちらも日本の警察で採用されている装備だが、一般的ではなく、一部の刑事、警官やSATなどの特殊部隊くらいしか持っていない代物である。
「えっ?でも、私、こんなもの使ったことは・・・」
いきなり銃を渡されて、彼女は戸惑っていた。
それはそうだろう。
銃の扱いに比較的慣れているアメリカ人ならともかく、日本人でいきなり銃を渡されて使いこなせる人間はそう多くはない。
むしろ、使いこなせるのび太のような人間の方が例外である。
「それはそちらの・・・え~と」
「久下だ」
「そう、久下さんに聞いてください。久下さん、彼女をお願いします」
「・・・君はどうするんだ?」
久下は尋ねる。
元々、彼はのび太を守るために着いてきたようなものなのだ。
先程のように勝手に行かれては、彼の立つ瀬がない。
しかし、そんな久下の問いに、のび太はこう答えた。
「僕は先に警察署に行きます。ああ、中の道は分からないので、後から来てくれますか?」
「・・・・・・分かった。気を付けてな」
少し迷った末、久下は仕方なく許可を出す。
「はい、それでは」
そう言ってのび太はその場から立ち去っていった。
それを呆然と見届けた美夜子は久下にこう尋ねる。
「あの・・・良かったんですか?行かせちゃって」
「・・・まあ、本来なら警察官としていけない行為なんだがな。仮に俺が共に行ったとしても、あいつの命の保証は出来ないんだ。情けないことにな。それがバイオハザードだ」
久下は歯噛みしながらそう言った。
しかし、これは事実だ。
ススキヶ原でも実感したことであるが、バイオハザードは正に地獄だ。
なにしろ、ちょっとでも攻撃を受ければ自分がゾンビ行きの可能性大という過酷な環境であり、ましてやここは日本。
銃器が簡単に調達できる国ではない。
そして、自分の持っている銃は多数のゾンビが襲ってくるバイオハザードには不向きのリボルバー式拳銃。
はっきり言って、市民の命どころか、自分の命すら危ない有り様だ。
それならば、一人で行動してくれた方がのび太も行動の制限が無くて良いだろう。
のび太を行かせたのには、そういう配慮も兼ねていた。
「バイオハザード・・・ですか?」
「ああ、満月さんも知らないか?5ヶ月前のススキヶ原の事を」
「知っています」
美夜子はきっぱりとそう答えた。
まあ、知っているも何も、美夜子の家はススキヶ原の郊外に存在する樹海の森に在るので、ある意味知っていて当然なのだが。
もっとも、彼女は事件当時、例のブラックホール消滅事件を整理する関係で父親の助手としての仕事をまっとうしており、街には居らず、バイオハザードに巻き込まれずにすんだのだが、その区画は現在、自衛隊の封鎖区画に指定されている為、事実上、家は失ってしまったに等しい状況だった。
「俺はその事件の生き残りでな。その時にバイオハザードがどれ程恐ろしいか身に染みて思い知らされたんだ」
「・・・1つ、聞いても良いですか?」
「なんだ?」
「あの日、ススキヶ原で何が起こったんですか?」
「・・・」
久下は迷った。
本当の事を言うかどうかを。
ここで本当の事を言ってしまえば、アンブレラによって彼女の身も危険に晒される可能性がある。
しかし、すぐに結論は出た。
(よく考えれば、こんなときに秘密も糞もないか)
よくよく考えてみれば、こんなバイオハザードに巻き込まれている時点で安全などと言う言葉は破綻しているのだ。
そして、秘密だからといって黙っておけば、いざというとき、とんでもない判断ミスを犯す可能性がある。
そう考えると、久下はあの時の真相を話すことにした。
「あまり他言して欲しくはないんだが・・・一言で言ってしまえばアンブレラの仕業だ」
「アンブレラですか」
美夜子はその言葉に対しては、大して驚いた様子はなかった。
と言うのも、実は彼女もススキヶ原の一件については調べていて、そこから自力でアンブレラが何か関わっているというところまで辿り着いたのだ。
もっとも、のび太達と違って、あまり確証的な証拠は得ていなかったのだが、それでもアンブレラが怪しいというところまで辿り着けたのは、流石は天才少女と言うところだろうか?
そして、この街で何か行われると聞いて、調査にやって来たのだが、そのタイミングでバイオハザードが起き、巻き込まれてしまったという訳である。
「そうだ。ススキヶ原の裏山にある旅館の地下にはアンブレラの研究施設があってな。俺たちはそこに偶々入った結果、ススキヶ原のバイオハザードがアンブレラの仕業であると知ったんだ」
「・・・そうだったんですか」
美夜子は久下から話された真相に少しばかり驚いていた。
まさか、そんな場所に危険な研究施設が在るなど、思いもしていなかったのだ。
「・・・おっと、長話をしすぎたな。俺たちもそうのんびりとはしてられない。さっきもあの子が言ったように警察署の案内もしなきゃならんしな。満月さん、だったか?銃の使い方は今教えてやるから、なるべく早く覚えてくれ」
「はい」
美夜子はそう返答しながら、久下に拳銃の使い方を教わることになった。
グルルルルル
──そんな二人の様子を、6つの目をした
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追跡犬
◇西暦2020年 12月22日 深夜 日本 群馬県 R市 R市警察署前
「う~ん、なんか遅いな」
美夜子達と別れた後、のび太は30分ほどでこのR市警察署に着いていた。
しかし、それから一時間以上の間、警察署の建物の前で待っていたのだが、一向に来る気配がなく、のび太は不安に思う。
「・・・もうすぐ2時間くらいか。何かあったのかな?」
のび太は腕に装着された時計を見ながら、何かあったのではないかと勘繰る。
こういったバイオハザードでは不測の事態が付き物だ。
もしかしたら、二人もゾンビの大群か、あるいはタイラントやハンターなどの強力なBOWに襲われた結果、こちらに来れない状態になっているかもしれないし、あまり考えたくはないが、既に死んでしまっている可能性もある。
「やっぱり、あの時、離れるんじゃなかったかな?」
のび太があの二人から離れて先行したのは、居るかもしれないアンブレラの追跡者を自分に引き寄せるためだ。
そして、その追跡者も強力なBOWである可能性が高いと読み、二人を巻き込むわけにはいかないとこうして単独行動を取ったのだが、どうやらそれは裏目に出たらしい。
「仕方ない。1度さっきの場所まで戻って・・・!?」
その時、のび太は何かを感じて、咄嗟に右のホルスターに入ったFive-seveNに手を添える。
(何か居るな。それもかなり強力そうな奴が)
のび太は何か強力なBOWが周囲に居るのを、本能的に感じ取った。
それもかなり強力、おそらくタイラント級であろうBOWだ。
アドレナリンが分泌され、体内に存在するS─ウィルスがのび太もほぼ無意識のうちに活発化する。
「・・・・・・・・・来た!」
のび太はそう叫ぶと同時に、後方に向かって大きくバックステップする。
その距離は5メートル。
普通、バックステップでこれほどの距離を跳ぶことは出来ないのだが、のび太の体内に存在するS─ウィルスの効果がそれを可能にしていた。
そして、先程までのび太が居た場所に高速で何かが通り過ぎる。
グルルルルル
──そして、その唸り声をあげながら、“ソレ”はのび太の前に姿を現した。
「!? これは・・・」
それは犬型のBOWだった。
だが、ケルベロスやゾンビ犬などとは全くその様相が違った。
何故なら、この怪物は
その様相は、神話に出てくる地獄の番犬『ケルベロス』を思い起こさせる。
なにより、ケルベロス(BOWの方)やゾンビ犬などとは比較にならない程強いであろうというのは、その雰囲気を見ればすぐに分かった。
(・・・こいつはヤバイな)
直感的にのび太はこの目の前の敵はヤバイと判断し、即座に決着を着けるために、右腰のホルスターのFive-seveNを3本首の頭の犬──ティンダロスに向けて発砲した。
Five-seveN特有の凄まじいマズルフラッシュと共に、拳銃とは思えない弾速で空中を飛翔する5、7×28ミリ弾は、ティンダロスへと真っ直ぐに向かい、そのまま行けば3つの頭の内、中央の頭へと命中する筈だ。
しかし──
ヒュン
命中する前にその銃弾はかわされ、空を切り、その先にあったガードレールへと命中した。
「はっ?」
のび太はその光景に一瞬だけ呆けてしまうが、すぐにゾクリという感覚が体中を駆け巡ったことで、先程と同じように大きく飛び退いた。
直後、目にも止まらぬ速さで接近したティンダロスが、一瞬前までのび太が居た場所をその鋭い爪で切り裂くが、既にのび太は飛び退いた後だったので、その攻撃は空を切るに留まる。
(あ、危なかった・・・)
それを見たのび太は自分の直感と反応の良さに感謝しつつ、再度状況を認識すると、大きく冷や汗を流した。
(なんなんだこいつ!銃弾をかわしたぞ!!)
そう心の中で絶叫を上げつつ、のび太はこの状況は極めて不味いと改めて認識した。
日向穂島、アンブレラ研究島、ラクーンシティのバイオハザードを潜り抜けて、このR市のバイオハザードに巻き込まれたのび太であったが、銃弾をかわす相手などこれが初めてだった。
それまではハンターやタイラント、ネメシスなどの銃弾を食らっても耐え抜くような相手はいたが、銃弾をかわすような反射神経や運動能力を持つBOWは全く居なかったのだ。
しかし、このティンダロスは銃弾が発射されてからそれをかわすほどの反射神経と運動能力を持っている。
おまけに先程使ったのはFive-seveN。
全ての拳銃の中でもトップクラスの初速を誇り、中でもSS190弾を使った場合の速度は650メートル毎秒という音速の2倍近くにも達すると言われている。
そして、のび太が普段Five-seveNに装填して使ったのも、そのSS190弾であり、先程ティンダロスに向けて使ったのもそうだった。
そして、これでダメだったということは、他の銃、例えばベレッタM92やデザートイーグルでは、命中させることは不可能だということでもある。
・・・と言うより、マグナム銃を含めて既存の拳銃ではまず命中しないと見て良い。
(・・・さて、どうするか)
こちらの様子を伺っているのか、依然として自ら飛び掛かってこないティンダロスと睨み合いながらも、段々と冷静になってきたのび太の思考は、この状況をどうやって切り抜けるか考え始める。
戦う?
NOだ。
拳銃は前述したように通用しないし、ショットガンやサブマシンガンを投入してみれば分からないが、
逃げる?
NOだ。
単純に考えても向こうの方が速いし、この状況で不用意に背中を晒したりしたらバッサリ殺られてしまうだろう。
(ならどうすれば・・・ん?)
のび太はティンダロスの後ろに1台のパトカーを発見した。
「・・・」
そして、ほんの一瞬だけ考えた後、右手のFive-seveNをそのパトカーの後方のある部分──ガソリンタンクに向けて発砲した。
・・・言うまでもないことだが、ガソリンというのは極めて引火性、爆発性が高い物質で構成されている。
そんなところに銃弾を撃ち込んだらどうなるだろうか?
答えはすぐに出た。
タンクを撃ち抜く過程で起きた摩擦によって極僅かではあったが火花が飛び散り、その火花にガソリンが引火。
そして──
ドッゴオオオオオオオン
──大爆発を引き起こした。
◇同時刻
のび太がR市警察署前でティンダロスと交戦を始めた頃、久下と美夜子の二人は余談を許さない状況にあった。
「大丈夫か?しっかりしろ!!」
久下は肩を貸して美夜子を支えてゆっくりとだが移動しつつ、もう片方の手で迫ってくるゾンビをニューナンブM60で倒しながら必死に呼び掛けていた。
しかし、その美夜子の腹部からは出血による血が流れており、幸い致命傷ではなさそうであったが、非常に苦しい様子で久下に寄り掛かりながら引き摺られるように久下と共に移動する。
こうなった経緯を説明すると、まず久下は美夜子に銃の扱い方を教えていたのだが、そこに例の3本首の犬──ティンダロスが襲撃してきたのだ。
そう、現在、のび太と交戦中のあのティンダロスと同じ個体であり、彼らはのび太より一足早く襲撃を受けていたのである。
そして、交戦したのだが、Five-seveNがかわされたことからも想像できる通り、彼らの装備(ニューナンブM60、ベレッタM92)ではティンダロスに当てることさえも出来なかった。
その後、ティンダロスの反撃によって美夜子は腹部を切り裂かれてしまったのだ。
しかし、その後、何故かティンダロスが二人の前から突然去ったことで二人は難を逃れたのだが、一旦建物から出た後にゾンビに囲まれてしまった。
カチッ、カチッ
そして、久下の持っていたニューナンブM60に装填されていた5発の弾丸は底を尽く。
再装填しようと予備の38スペシャル弾を取り出すため、久下はポケットをまさぐり、5発の38スペシャル弾を取り出し再装填するが、リボルバー式拳銃はマガジンさえ交換すれば良い自動式拳銃とは違い、弾込め方式のために、なかなか再装填が難しい。
リボルバー式拳銃で裏の世界を渡り歩くような熟練した人間なら数秒くらいで出来るのだろうが、あいにく久下はそこまで熟練しているわけではなく、僅か5発の弾丸を再装填するまでに十秒近く掛かってしまっていた。
そして、その間にゾンビは迫ってきていたし、その数は明らかにニューナンブM60に装填された5発の弾丸よりも多い。
しかし、それでも久下は諦めるつもりはなかった。
彼の横には守るべき市民の姿があるのだから。
「来るなら、来い!!」
半ば自棄っぱちにそう叫びながら、久下は一番手近に居たゾンビに狙いを定めて引き金を引こうとする。
しかし、その時──
ドドド、ドドド、ドドド、ドドド
突如として別な方向から銃声が聞こえてくる。
それは久下のような拳銃による発砲音ではなく、連射式のライフルのような発砲音だった。
そして、その音が響く度に、久下達を襲おうとしていたゾンビがバタバタと倒される。
「なんだ?」
久下が銃声をした方向に目を向けると、そこには迷彩服を着て小銃を構えた3人の男が居た。
「大丈夫か!?」
3人の男の内、一番年長そうな男が声を掛けてくる。
その男達の胸と左肩の部分には鮮やかな日の丸の紋章が描かれていた。
「自衛隊か・・・助かった」
久下はそう言いながら、安堵したように胸を撫で下ろした。
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もう一人の天才少女
◇西暦2020年 12月22日 深夜 日本 群馬県 R市 R市警察署前
「・・・やったかな?」
のび太はそう呟きながら、爆発の際に咄嗟に隠れた柱の影から出る。
辺りは爆発したパトカーとその爆発によって誘爆したパトカーの数々によって火の海となっていた。
おそらく、もう正門から外に出ることは不可能だろう。
あの
「今のうちに中に入るか。どのみち、ここじゃ生きていたとしても戦えないし」
のび太はそう呟きながら、右手に持っていたFive-seveNを右腰のホルスターに仕舞い、警察署の中へと入っていく。
グルルルルル
──その光景を炎の中に居る存在は睨むように見つめていた。
◇警察署内
「・・・ここもダメなのか」
警察署内にはあちこちに血痕や銃痕が存在していた。
おそらく、ゾンビなりBOWなりと戦った結果だろう。
中に居た警察官がどうなっているのかは知らないが、敵が中に居ることはほぼ間違いない。
「まあいいや、取り敢えず武器庫を──」
「あなたも避難してきたの?」
「ん?」
のび太は突然声をかけられ、そちらを向くと、そこには包帯だらけの熊のヌイグルミを抱えた見るからに年下の灰金色の髪をした少女が居た。
彼女の名は島田愛里寿。
群馬県のとある小学校に通う小学3年生の少女であり、のび太は知らないことだが、かつて会った島田響の娘でもあった。
彼女は自分の大好きなボコグッズがこの街で販売されていることを聞き付け、この街にやって来たのだが、そこでこのバイオハザードに巻き込まれてしまったのだ。
そして、この警察署に駆け込んだという訳である。
「君は?あっ、ちなみに僕の名前は野比のび太だよ」
「・・・島田愛里寿」
「そっか。じゃあ、愛里寿ちゃん。ここに他に避難していた人は居ないの?」
日本人でアリスとは少々珍しい名前だと思いつつ、のび太は愛里寿にこの警察署に避難している人が居ないかどうかを聞く。
もし先程ののび太の推測が間違っていて、ここに避難民や警察官が居るならば、倉庫に居た人達もここに避難させることが出来るかもしれないからだ。
そして、こういった警察署の屋上にはヘリポートがある。
もし自衛隊や何らかのヘリが通れば、救助してもらう事も可能だ。
しかし、愛里寿から返ってきた返答はこのようなものだった。
「分からない。私もさっきここに来たばかりだから」
そう、実は愛里寿もここにはのび太が来るほんの30分前に来たばかりであり、中の探索などしていなかったのだ。
ちなみにのび太が二時間近く前にここに来ているにも関わらず、30分前に来ていた愛里寿に気づかなかったのは、彼女が別の出入り口を通ってこの警察署内に入ったからである。
「そうなの?じゃあ、警察署の奥や2階には?」
「まだ行っていない。と言うか、不気味で行けない」
それはそうか。
のび太は少女の言葉にそう思いながら苦笑した。
なんせ、のび太でさえこの警察署の中に入った時、中にゾンビやBOWが居ると直感したほどなのだ。
それが小さな少女で、尚且つ不気味なものを感じ取っていれば、下手に動かないのも無理はないだろう。
「じゃあ、この警察署の武器庫が何処に有るかは・・・流石に知らないよね」
「それなら2階」
「へ?」
「あそこの地図を見て」
愛里寿はそう言うと、警察署内のある方向を指差した。
そこにはこの警察署内の案内板であろう地図が貼られている。
「明確に武器庫とは描かれていないけど、2階に空白場所が2つ在る。たぶん、そこが武器庫と警察が押収した武器なんかが保管されている場所なんだと思う」
愛里寿はそう推測する。
一般の警察署内に存在するような銃火器は二種類ある。
1つは警察が自前で調達した武器。
そして、もう1つが暴力団や拳銃を使って殺傷や携帯を行っていた犯人を制圧した際に押収した武器。
その入手経緯の違いや証拠品などで使う関係上、両者は一緒に保管されてはいないのだろうが、盗まれては大変だという点では同じであるため、何らかの方法で隠されている可能性が高い。
そして、愛里寿の言う通り、他の部屋にはちゃんと会議室や事務室などの使用用途が明白にされているのに、明らかな不自然な空白の部屋が2つ程、2階に存在する。
ここに武器庫や警察が押収した銃火器がもしかしたら在るかもしれない。
それにしても、僅か9歳の少女がここまで推測できたのは、流石天才少女と言ったところだろうか?
「ありがとう。・・・ああ、良かったら一緒に来てくれるかな?ここに居てはちょっと危ないかもしれないから」
のび太は窓ガラスから見える先程のび太自身が起こした火の海を見ながらそう言うが、本音を言えば警戒しているのはそこではない。
先程のBOWがまだ生きていて、こちらを襲おうとしている可能性を懸念していたからだ。
なにしろ、あれだけの怪物だ。
防御力がどれほどのものかは知らないが、少なくともこの窓ガラスを破るだけの頑丈さは持っているだろう。
そうなったら、ここに残っていた場合、愛里寿はあっという間に殺される。
もっとも、のび太は流石にそこまで少女に説明しなかった。
下手な不安を煽っても逆効果だと思ったからだ。
だが、一人で居るのは寂しかったのか、愛里寿はのび太の言葉にコクリと頷いた。
「うん、分かった」
「じゃあ、行こうか」
そうして、二人は警察署の奥へと進んでいった。
◇同時刻
「しかし、いったいどうなっているんだ。この街は」
榛名はそう言いながら、89式小銃を携えつつ、地獄の街を進んでいく。
先程、保護した警察官と少女は部下の大鷹一士(通常の軍隊の階級では一等兵相当)と浪波二士(通常の軍隊の階級では二等兵相当)に少女の治療と北の駅まで運ぶように命令し、自らは他に市民が居ないかどうかの確認と脱出に役に立ちそうなものを探すためにこうして街中を走り回っていた。
ちなみに榛名の階級は三佐。
通常の軍隊では少佐に相当する階級であり、奇しくものび太がラクーンシティで射殺したケイン少佐と同階級でもある。
しかし、彼の率いる部隊は中隊規模の部隊であり、本来彼の指揮下には大鷹や浪波の2名だけでなく、およそ140人もの部下が居る筈だった。
だが、それらの部下の安否は確認できておらず、中には既に死亡が既に確認されてしまったものも居る。
未確認だが、3本首の犬に襲われたという報告もあった。
そして、榛名は冷静な思考こそ行っていたものの、現在のこの状況が信じられずにいる。
榛名と彼の率いる中隊の隊員達が所属する連隊は、約700人で構成された陸上自衛隊の中でも比較的小規模の連隊であるが、ただの普通科連隊ではない。
中央即応連隊。
群馬県の隣県である栃木県宇都宮市に本拠地を置く部隊であり、隊員の3割がレンジャーや空挺肩章などの特殊技能を持った陸上自衛隊屈指の精鋭部隊の1つである。
今回、かの連隊は災害救助要請を受けて群馬県のR市までやって来たのだが、この地獄のような惨状に連隊はあっという間に消耗してしまい、連隊はほぼバラバラとなり、榛名が率いていた中隊も大鷹と浪波の2名を除いて安否不明となってしまったのだ。
おまけに連隊本部とは連絡が付かなくなってしまっているため、事実上、孤立無援の状況まで追い込まれていた。
「これはまさか、ススキヶ原の・・・」
ススキヶ原の事は噂で榛名も聞いたことがあった。
なにしろ、ススキヶ原は練馬区に属する街であるが、その練馬区には陸上自衛隊東部方面隊の中核部隊たる第一師団の本拠地が在るのだ。
そのススキヶ原は現在、東部方面隊の部隊によって厳重に封鎖されており、榛名には大した情報は回ってきていなかったが、それでもゾンビらしき存在が徘徊しているくらいの噂は飛んできていた。
そして、このR市ではゾンビが現実に徘徊している。
関連性がないと考える方が無理があった。
「・・・いや、考えるのは後だ。とにかく、今は生存者の救出と列車の部品の調達をせねば」
榛名は一旦、考えるのを後回しにして生存者の救出と列車の部品を調達することに集中することにした。
◇倉庫
一方、久下とのび太が去った後の倉庫では、残った一人の警察官が入り口付近で見張りをしながら、生存者と共に籠城を続けていたのだが、そんな中、とある来客が現れることになった。
「おーい!開けてくれ!!」
「頼む!怪我人が居るんだ!!」
外に居るであろう人間達は扉をバンバンと叩きながらそう叫ぶ。
それを聞いた警官は考える。
彼らは自分達と同じ生存者であり、怪我人も居ると言う。
更にこのまま彼らが扉をバンバンと叩き続ければ、いずれゾンビも寄ってくるだろう。
そうなるくらいならば、いっそのこと彼らを入れてしまった方が良い。
そう考え、扉を開けることを決意した警官であったが、これが致命的な失敗であった。
彼は新たにやって来た生存者の中に怪我人が居るという事の意味を、もう少し深く考えるべきだったのだ。
しかし、彼は同僚の久下とは違ってバイオハザードは初めてであり、
──それ故に、彼はR市のバイオハザードにおける1つの悲劇を招いてしまうこととなる。
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天才少女の尊敬
◇西暦2020年 12月22日 深夜 R市警察署内 1・2階間の階段
一階から二階に繋がる階段。
そこを上って2階へと向かうのび太と愛里寿は気晴らしとばかりに軽い雑談をしていた。
「へぇ。じゃあ、そのヌイグルミを買いにわざわざこの街まで?」
「うん」
のび太の言葉を愛里寿は肯定する。
それを聞いてのび太は複雑な心境を抱いた。
こことは違う場所に住んでいるということは、両親がバイオハザードに巻き込まれた可能性は低いということでもある。
心配になって捜しに来てバイオハザードに巻き込まれた、という可能性もあるが、本人が内緒で来たと言っている以上、その可能性もまた低いだろう。
しかし、にも関わらず、のび太が複雑な心境を抱いたのは、やはり自分の両親が死んでいるのに、彼女の両親が健在であるという嫉妬からだろう。
と言っても、それはのび太の中でそれほど強いものではない。
自分の両親が死んでいるからこそ、愛里寿の両親が無事だという話には逆に安心するものがあったのだから。
加えて、のび太も孤独という訳ではない。
ドラえもんも居るし、今まで大冒険を共に潜り抜けた仲間、そして、バイオハザードを機に出会った仲間などが居り、彼らと家族のような関係で日々生活している。
アンブレラがこちらを狙ってくる事さえ無ければ、アンブレラへの復讐を止めて何処かで静かに暮らしたいという思いもあった程だ。
もっとも、のび太やドラえもんなどの一部の人間以外は皆、アンブレラに復讐する気満々であったので、それは叶わなかっただろうが。
「でも、こんなことが起こったから、心配していると思う」
「まあ、そうだろうね」
のび太は少しだけ苦笑ぎみにそう言った。
内緒で来たとはいえ、同じ県にある街でこれほどの大事件が起こったら愛里寿の親も危機感を抱くだろうし、時間が経てば経つごとに、もしかしたらバイオハザードに巻き込まれているのではないかという疑念も抱くだろう。
そうなれば、まず間違いなく愛里寿を心配して、何らかの行動を起こす可能性もある。
「おっと。2階に着いたね」
のび太は2階へと辿り着いたのを確認すると、H&K MP5・サブマシンガン(32発マガジン装着)を四次元ポケットから取り出す。
「? どうしたの?」
「いや、こういうケースってたいてい扉を開けた途端に化け物と遭遇、みたいなことが多いんだよ」
のび太は愛里寿にそう答えながら、目の前の扉をゆっくりと開ける。
すると、そこには──
キシャアアアアア
アアァァア
のび太の予想通り、10体近くの化け物達が廊下中に蔓延っていた。
しかも、その中にはラクーンシティに現れたものの、結局、のび太自身は見ることが無かった存在──リッカーまで居る。
はっきり言って、薄気味悪く、仮に相手が人を食わないような存在であったとしても、普通の人間ならばここを通ることはお断りだっただろう。
しかし、のび太は怯むことなくMP5を構え、化け物達に照準を向ける。
──そして、ゾンビとリッカーの方もまた、新たに入ってきた
◇
「う~ん、武器はほとんど持ち出されてるか」
リッカーとゾンビの集団を片付けた後、2階の武器庫に入ったのび太は辺りを一通り漁ってみたものの、何も発見することが出来なかった。
やはり、このバイオハザードに際して警官が持ち出したのだろう。
まあ、考えてみれば当然の話だった。
外でこれだけの惨状が起きている中で、警官が武器を持ち出していない訳が無かったのだ。
「こっちの押収品の方もあまり収穫があったとは言えないし・・・」
のび太は残念そうに呟く。
押収品の方も見てみるが、そちらには多種類の拳銃とその銃弾が多数有ったものの、のび太が欲しいのはライフルや機関銃であり、拳銃は比較的余っている状態だった。
「仕方ない。幾つか持っていくか。倉庫に居るあのお巡りさんも使うことになるだろうし」
のび太がそう呟きつつ、幾つかの銃を四次元ポケットへと入れる。
正直、これ以上武器は必要なかったのだが、倉庫で待っているであろうあのお巡りさんに配る分を考えると、やはり持っていった方が良いだろうとのび太は考えたのだ。
そして、のび太がそんな作業をしていた時、そのすぐ後ろに居た愛里寿が声を掛けてくる。
「すごいね」
「ん?なにが?」
「私とあまり変わらない年なのに、あんな戦闘が出来るなんて・・・」
先程のリッカーやゾンビ達との戦闘のことだろう。
愛里寿は畏怖の感情を向けているのかと思いきや、素直に尊敬の念をのび太に向けてきた。
「・・・まあ、ね」
愛里寿の言葉に対して、のび太は少々複雑げにそう返す。
バイオハザードを経験したのはこれが3度目なので、のび太としては当然と言いたかったのだが、あまり慣れたくなかったことでもあったからだ。
それでも慣れてしまえば、なんとも思わないようになっていたのだが、改めて指摘されると結構堪えるものがある。
「でも、君も凄いと思うよ。こんな状況でそれだけ冷静でいられるんだから」
日向穂島の時のみほもそうであったが、一見ひ弱そうな少女が戦闘そのものに対して、然したる動揺をしていないというのは、のび太に女性の逞しさを感じさせるに十分なことであり、のび太は素直に愛里寿に感心の念を抱いている。
実際にはみほも愛里寿も、それぞれ西住流と島田流という特殊な家柄の娘であり、普段から火薬に慣れ親しんでいるからこそ、そのような反応が出来たのだが、その事をのび太が知るよしもない。
まあ、例えその事を知ったとしても、愛里寿に向ける感心の念は変わらなかっただろう。
何故なら、それを知ったところで、みほや愛里寿がのび太の思っていた以上に逞しい少女であることに変わりはないのだから。
「そうかな?」
「そうだよ。僕なんてかなり臆病で──
ガシャアアン
のび太が何かを言おうとした時、近くの窓ガラスが割れる音がした。
「なに!?」
その物音に、愛里寿がビクッと反応するが、のび太の表情は先程の楽しげな表情から、リッカーやゾンビ達を相手にしたときのような険しい表情へと変わった。
(外で何らかの爆発の破片で窓ガラスが割れた?いや・・・)
のび太は先程の正門の火の海の影響によって何らかの物が爆発し、その破片が飛んできたことによって窓ガラスが割れたのではないかと思ったが、その考えをすぐに捨てる。
このような状況だ。
そんな無理矢理な推測はせず、BOWの来襲によるものと考えた方が良いと思い直す。
仮にそうでなかったとしても、それはそれで構わない。
当たって嬉しいことではないのだから。
「愛里寿ちゃん。念のため、非常階段の所まで行こう」
「わ、分かった」
のび太の言葉に愛里寿は素直に頷いた。
もし万が一、相手がリッカーやゾンビなどではなく、大型のBOWだった場合、ここで戦闘を行うのはナンセンスだ。
のび太一人ならばそれも良いかもしれないが、今は愛里寿が傍に居る以上、逃げることも考えなくてはならない。
となると、その逃げ道として候補に上がるのは、何処の建物にも取り付けられている火災の時などに利用する非常階段だった。
(しかし、ここは2階。となると、入ってきた奴はゾンビじゃないな)
のび太は愛里寿と共に非常階段へと向かいながら、侵入者のことを考える。
まずゾンビでないのは確実だ。
T─ウィルスに感染したゾンビには、2階に上がるだけの跳躍力はない。
次に先程見たリッカー。
無くはないが、可能性としてはやはり低い。
3つ目にゾンビカラスであるクロウ。
今のところ、これが一番高い可能性だった。
そして、最後。
これがのび太にとって一番考えたくない可能性であったが、正門で襲ってきたあのティンダロスが生きていて、その跳躍力で無理矢理2階に上がってきた可能性だった。
(どうか、予想が外れてくれますように)
非常階段付近に着いたのび太は、確認のため、すぐ近くに在った先程窓ガラスの割れた廊下へ繋がる扉を慎重にゆっくりと開ける。
すると──
グルルルルル
15メートル先にのび太の考えていた可能性の内の最悪である存在──ティンダロスがこちらを睨むように見ていた。
「まずい!」
そう叫びながら慌てて扉を閉めるのび太。
そこにティンダロスが雄叫びをあげながら、のび太に向けて突っ込んでいく。
ドーン!
しかし、のび太の方が一歩早く扉を閉めることに成功し、その扉にティンダロスは突っ込むこととなった。
だが、ティンダロスに体当たりされたその扉は、その衝撃によってめり込んでおり、あと2、3回同じような威力の体当たりをされれば、突破される事はまず間違いないだろう。
それを理解したのび太は、愛里寿に向かってこう叫ぶ。
「愛里寿ちゃん!急いで非常階段から外に出るんだ!!早く!!」
「う、うん!」
愛里寿はそういうと、のび太の言葉に従って非常階段の外へと出る。
そして、愛里寿が出た直後、先程めり込んだ扉にティンダロスがもう一度体当たりをしてきた。
ドゴオオン
凄まじい音と共に、扉が先程よりも更に大きくめり込んだ。
どうにか破られてはいないようだったが、ほとんど扉としての機能を成さなくなっているその扉を見れば、破られるのが時間の問題であるのは一目瞭然だった。
「扉が破られる前にさっさと逃げよう!」
しかし、それでものび太の行動方が早く、彼は愛里寿に続く形で、非常階段から外に出ることに成功した。
──そして、その数秒後、その扉は再度体当たりしてきたティンダロスによって破られる事となる。
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安全地帯無し
◇西暦2020年 12月23日 未明 日本 群馬県 R市
「・・・居ないみたいだね」
R市警察署から逃げ出したのび太と愛里寿は、数十分の逃走の末、どうにかティンダロスを撒くことが出来たことを確信する。
「でも、これからどうするの?」
「ここの少し先に何人かが避難している倉庫が有るんだ。一旦、そこに逃げるよ」
のび太は次に取るべき行動を愛里寿に話す。
幸いと言って良いべきか、倉庫の方に向かって逃げた為、倉庫のすぐ傍まで来ており、このまま行けば歩いたとしても数分で到達できる見込みだった。
のび太としては出来るならば、久下と美夜子の安否も確認したいところだったが、愛里寿を連れている以上、無闇矢鱈に動くことは危険なので、一旦倉庫に戻って愛里寿を預けてから改めて捜索することにしている。
「そこは安全なの?」
「・・・まあ、外で動き回るよりは安全、と言ったところかな」
要するに、安全は保証できないということだ。
のび太としてはもう少し気の利いた言い回しをしたかったのだが、無理な期待を抱かせても回り回った失敗をしてしまう可能性もあるし、そもそものび太は口下手なため、あまり気の利いた台詞は言えなかった。
しかし、愛里寿はその聡明な頭でのび太が言った内容を理解すると、こんな質問をする。
「倉庫に行った後はどうするの?」
「・・・本音を言えば、はぐれてしまった仲間の捜索とこの街を脱出するための策を練って実行したい。例えば、車や電車などの街の外に出られるような移動手段を確保するとかね」
誤魔化してもしょうがないと、のび太は自分の計画を正直に愛里寿に話す。
しかし、一見、良策に思えるそれも現実としては困難なことはのび太が一番よく知っている。
何故なら、あの倉庫には自衛隊や警察が助けに来るまで、断固として動かないと言っていた人も居たからだ。
加えて、人間というのは危険な場所から一旦安全な場所に移ると、また再度危険な場所に行こうとはなかなか思わないものであり、それはこうして外に探索に出ようとした人間が、あの倉庫に避難した人間の中ではのび太しか居なかったことからも分かるだろう。
だが、現実としては警察や自衛隊の助けは期待しない方が良い。
実際、ススキヶ原や日向穂島では彼らが登場する出番は最後まで無かったのだから。
「あとはそれに乗ってこの街を脱出できれば完璧だよ」
それが出来たら苦労しないんだけどね。
のび太はそう思いながらも、それは決して口にしなかった。
こんな状況でわざわざ不安を口にするなど、その話した相手に恐怖を助長させるようなものだ。
ましてや、愛里寿はのび太より2つ程年下。
なおさら言葉には気を付けなければならない。
そう思っていたのび太だったが、次の愛里寿の言葉には驚かされることとなる。
「そう。だったら、お手伝いできるかもしれない。私、車の運転できるから」
「え?そうなの?」
「うん」
愛里寿はきっぱりとそう言う。
嘘は言っていない。
彼女は島田流の師範である西住千代の娘であり、次期家元候補として戦車の運転なども仕込まれていたのだから。
もっとも、普通の車は運転した経験は無かったのだが、それも運転しているうちに覚える自信がある。
何故なら、彼女は自他共に認める“天才”たったのだから。
・・・ちなみに小学3年生の女の子が車の運転を出来るということ自体、かなり異常な事態の筈なのだが、のび太自身、車を運転してレースに出たこともあるので、今更それに突っ込むことは無かった。
まあ、そもそものび太も銃片手に特殊部隊でも生き残るのが難しいバイオハザードを何度も生き残っているという十分な異常人物なのだが。
「じゃあ、お願い出来るかな?」
「任せて。それより早くその倉庫に行った方が良いと思う」
「ああ、こんなところに何時まで居ても危険だからね。早く行こう!」
のび太はそう言うと、愛里寿と共に件の倉庫に向けて歩いていった。
◇倉庫
「なに・・・これ」
倉庫に帰ってきたのび太達は、そこに在った光景に絶句していた。
グチャ、ガチュッ
そこにはゾンビと化した人達が人の肉を食っているという外の地獄とさして変わりない光景が存在していたからだ。
中には、残って避難民達を守っていたあの警官の姿もある。
「くそっ!」
のび太はそんな罵声を溢しながら、Five-seveNを引き抜いてゾンビの頭に5、7×28ミリ弾を叩き込んでいく。
幸い、リッカーなども存在しなかった為、掃討は比較的簡単に終わったが、のび太はどうしてこうなったのか、原因を探ろうと辺りを見回す。
すると──
(あれ?こんな人居たっけ?)
見覚えのない顔を見つける。
しかも、よく見たら倒れている人数も可笑しい。
ここに逃げ込んだ人間の数はのび太を含めて8人。
のび太と久下が出ていった後は6人になっている筈だ。
仮に久下と美夜子がここに戻っていたとしてもやはり8人。
しかし、今、のび太の前に倒れているのは
ここから導き出される結論は1つだけだ。
「・・・ああ、そういうことか」
のび太は理解してしまう。
つまり、こういうことだろう。
のび太達が出ていった後、この倉庫に他の生存者がやって来た。
しかし、その生存者達の中にゾンビ化した者が居て他の人を襲い、その襲われた人がゾンビ化してまた別の人を、という感じだ。
「やっぱり、久下さんには残って貰うべきだったかな」
あのススキヶ原を生き残った久下であれば、他の生存者を受け入れるリスクにも、その怪我人がなにを引き起こすかにも気づくことが出来ただろう。
しかし、彼は事実上、自分が引っ張り出してしまう形でこの倉庫の警護から外してしまった。
のび太はその事に罪悪感を感じつつ、愛里寿の方に向き直る。
「申し訳ないけど、作戦変更だ。今すぐ脱出手段を探す」
のび太はここで作戦を変更することに決めた。
幸いと言ってしまっては不謹慎だが、ここに居る人間が死んだことによって懸念されていた足枷も大幅に減らされている。
問題は美夜子と久下だが、倉庫がこうなってしまった以上、ここに愛里寿を置くわけには行かず、また愛里寿を連れて無闇に動き回る訳にもいかないので、彼らの捜索は行えない。
・・・つまり、見捨てるしかないのだ。
それはのび太としても苦渋な思いではあったが、彼らの手掛かりすら掴めていない現状では、彼らには自力で脱出することを期待するしかない。
「・・・分かった。でも、大丈夫?」
「何が?」
「お兄ちゃん、大分疲れているみたいだけど・・・」
愛里寿の言う通り、今ののび太は大分疲れているように見える。
実際、のび太はかなり疲れていた。
無理もない。
ラクーンシティでのバイオハザードもそうだったが、都市でのバイオハザードというのは思ったより神経を消耗してしまうのだ。
なにしろ、人そのものが多いので、ゾンビになる人間が多く、人が集まることで摩擦も増える。
それは元々、優しい性格をしているのび太には大きく堪えた。
しかし、だからこそ、のび太は立ち止まるわけにはいかないとも言える。
「いや、大丈夫だよ。その点は心配しないで」
「でも・・・」
「本当さ。それより早く移動手段を探そう」
「・・・分かった。でも、無理はしないで」
気休めだと分かってはいたが、敢えて愛里寿はそう言ってのび太を慰めた。
のび太はその言葉に励まされる形で『ありがとう』と例を言いつつ、脱出の手段を思案する。
愛里寿にああは言ったものの、改めて考えてみると、その移動手段が見つかるかどうかはのび太にも分からなかったことに気づいた。
ここまで来る途中に見たが、街のあちこちに点在する車両は全て壊れたり、鍵が無かったりで使い物にならなくなっている。
また事故車両によって道を塞がれている所もあった為、運転できたとしてもまともに通れるかどうかは分からなかった。
となると、残るは電車くらいだが、こちらも上手く見つかるかは分からないし、そもそも電車は車とは全く運転構造が違う。
ススキヶ原地下のアンブレラ研究所に有ったような自動の電車でも有るならば話は別だが、そんな都合の良いものがそうそう有るわけがない。
(最悪、歩いて脱出しないといけないかもな)
のび太はそう思った。
無論、現実的でないのは分かっている。
何故なら、愛里寿は天才であり、戦車道である程度鍛えているとはいえ、根本的には小学3年生の少女に過ぎない。
まだ年齢が二桁に届いていてすら居らず、体が十分に成長出来ていない以上、その体力などたかが知れている。
その意味ではのび太もさして変わらない。
いや、むしろ、条件は更に悪いかもしれない。
何故なら、のび太は5ヶ月前までは運動音痴な少年に過ぎず、この5ヶ月間でトレーニングを行ったとはいえ、大人の体力に比べれば五十歩百歩だ。
まあ、それでも無いよりはマシなのは明らかだが、どちらにせよ歩いて脱出は困難だと考えた方が良い。
最悪の場合はやるしかないだろうが、これは最後の手段だろう。
「じゃあ、行こうか」
「うん」
のび太は愛里寿にそう言いながら、二人で倉庫を後にする。
が──
グルルルル
倉庫を出た直後、のび太達はあの追跡者──ティンダロスと出くわしてしまった。
そして、ティンダロスはやっと見つけた自らの獲物を今度こそ自分の餌食にするため、のび太達に向かって飛び掛かっていく。
──それは3度目ののび太とティンダロスの遭遇戦が始まった瞬間でもあった。
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狙撃
◇西暦2020年 12月23日 未明 日本 群馬県 R市
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ。危なかった」
のび太は息を切らせながら、自分と愛里寿の身が無事だったことに安心する。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
「大丈夫?愛里寿ちゃん?」
短い間に何度も呼吸をして苦しそうな様子を見て、のび太は心配そうに声を掛ける。
愛里寿は今回のような急な運動をした経験が少ない。
何故なら、戦車道などの訓練では戦車に乗ってあらかじめ呼吸を整えてからの運動を行うことが多く、逆に鬼ごっこのような相手を見つけたら即運動するような事があまり無いからだ。
そういう意味ではのび太以上に体力の消耗が激しいと言っても良い。
その為、のび太以上に疲弊していたが、取り敢えず何処にも怪我はしていないので、あのティンダロスに至近距離で遭遇してしまった事を考えれば、上出来だろう。
「わ、私も大丈夫。それより、あいつは?」
「・・・少なくとも近くには居ないみたいだね」
のび太はそう言いつつも油断せず銃を構えながら、先程の事を思い返す。
あの時、飛び掛かってきたティンダロスに対して、のび太はMP5を発砲して一旦相手に距離を取らせ、その隙を突いて愛里寿の手を引いてあの場を離脱した。
その後もティンダロスは執拗に追い掛けてきたが、銃弾や閃光手榴弾を投入して、どうにか撃退してここまで逃げてきたという訳である。
「でも、すぐに追ってくるだろうから、今のうちに遠くに行こう」
警察署からあの倉庫まで追ってきたような敵だ。
どういう方法でこちらを追ってきたかは知らないが、ここに来るのも時間の問題だろう。
であれば、姿の見えない今のうちに遠くに逃げる必要がある。
「分かった」
「ごめんね。じゃあ・・・ん?」
のび太が愛里寿を連れていこうとした時、目の前に1体のゾンビの死体を発見した。
別にそれだけならば大したことではない。
誰かがゾンビを殺したという事でしか無いのだから。
だが、その死体は頭が文字通り半分ほど欠けており、普通のゾンビの死体としてはあまりにも異様だった。
「見た感じ、刃物じゃないな。銃か何かで弾かれたような──
ドン!バシャン!!
のび太はゾンビの死体を眺めながら推測を立てるが、その言葉が最後まで続かないうちに目の前のゾンビのもう半分の頭は弾かれてバラバラとなり、続いて銃声が響いてくる。
「! 伏せて!?」
そう叫びながら、のび太は身を屈めつつ、近くに在った車両の影に隠れる。
愛里寿もまた、戦車道の機銃音を普段から聞く為か、銃声には慣れており、素早く同じような動作を行って車両の影へと隠れた。
その間にまた銃声が響き、弾丸がのび太が隠れた車両に向かって着弾する。
「いったい、なんなんだ?」
のび太はそう思いながら、チラッと銃撃元と見られる方を車越しに見る。
すると、そこには警官の服を着た一人の男が狙撃用ライフル──豊和M1500を構えてこちらを狙っている姿があった。
だが、ゾンビでも明確な敵でもないことは分かったので、間違えて撃たれないように再び車の影に隠れながらも、のび太はこう叫んだ。
「撃たないでくれ!!僕たちはゾンビじゃない!!」
しかし、その叫びの返答は銃撃によって返された。
どうやら聞こえていないらしい。
(くそっ!こうなったら近づいて直接伝えるしかないか)
のび太はそう思いながら、再びあの警官の男から自分までの間を車越しにチラリと見る。
(幸い、幾つもの車両が連なってる。そして、あの男の銃も連射式の銃じゃない。これならなんとかなるかも)
のび太はそう考察する。
実際、その推測通り、豊和M1500はボルトアクション式のライフルのため、連射は出来ない。
が、その銃の口径は7、62ミリであり、更にこの豊和M1500という銃自体が、本来なら熊などの猛獣を狩るための狩猟用に使われる銃のため、装填されている弾薬の威力は高くなっている。
1発でも命中すれば致命傷は免れない。
もっとも、S─ウィルスに覚醒しているのび太であれば、それを受けたタイミングが戦闘中、あるいはそれに近い状態ならばアドレナリンが分泌されてS─ウィルスの効果によって脅威的な回復力が働くため、致命傷となったとしてもすぐ回復してしまうだろうが、それでも痛いことには違いなく、のび太も好き好んでそんな痛い目に遭いたくはなかった。
しかし、どうにか誤解を解かなければこの銃撃は止まないだろう。
「・・・愛里寿ちゃん、少しここで待っててね」
「えっ?」
どういう意味?
その言葉を愛里寿が返す前に、のび太はそこら辺に在った石ころを上へと投げる。
そして、それに反応してか1発の銃声が響き渡り、発射された7、62ミリ弾がのび太達の頭上を通り、向こう側へと着弾した。
それを確認したのび太はダッシュし、すぐ近くの車へと移る。
再び銃弾がのび太の方に向かうが、その時にはのび太はその車の影へと隠れていた為、銃弾がのび太に浴びせられることはなかった。
そして、また先程と同じように石を投げ、発砲された直後にダッシュ、車の影に隠れる。
この動作を何度か繰り返した後、のび太は再び声を張り上げようとする。
しかし──
「ぎゃあああ!!」
先程の男の方から悲鳴が聞こえてくる。
驚いたのび太がそっとそちらを見ると、そこには先程までのび太を狙撃していた男がゾンビに噛み付かれている光景があった。
どうやらのび太の方に集中するあまり、背後からやって来たゾンビに気づかなかったらしい。
(不謹慎だけど、助かったなぁ)
のび太はその光景に悲観の感情ではなく、むしろ安堵の感情を抱いた。
それはそうだろう。
のび太の動きは明らかにゾンビではなく人間の動きなのに、何度も何度も狙撃されたのだ。
ここまで来ると、あの警官は意図的に人を撃って楽しんでいるか、それとも錯乱しているかのどちらかでしかない。
そんな人間に狙撃される心配がなくなったとなれば、安堵の感情を強く抱くのも当然と言えた。
(と言うか、今思えば引き返せば良かったんじゃ・・・)
のび太は一瞬、最初に狙撃された時に引き返せば良かったのではないかと思ったが、それはそれでティンダロスに襲われる可能性があったと思い直す。
しかし、そんな風にのび太が考えていた時、先程の車の影に居た愛里寿が突如として叫んだ。
「お兄ちゃん、危ない!!」
「えっ?」
のび太は一瞬、なんの事かと首を傾げる。
が──
グルルルル
すると、そこにはいつの間にかのび太が隠れていた車両の屋根に乗っているティンダロスの姿があった。
(ヤバい!?)
ガアアアアア
──ほんの一瞬の間、見つめ合った両者はほぼ同時に動いた。
のび太は持ち前の0、1秒の早撃ちの要領で銃を引く抜き、ティンダロスもまたそれと同時にのび太に飛び掛かる為に車両の上からジャンプする。
そして、両者が激突する直前──
ドドド ドドド ドドド
突然、別の場所からやって来た銃撃の嵐がティンダロスを襲った。
◇
(なんなんだ、こいつは!!)
のび太を助けたのは榛名だった。
三本の首をした化け物が一人の少年を襲おうとしているのを見た榛名は持っていた89式小銃の銃口をティンダロスへと向け、三点バーストのまま発砲する。
しかし、当たったのは1連射目の3発と2連射目の最初の1発の計4発のみ。
後は全てかわされてしまった。
発砲したのが合計で3連射9発であることを考えれば、半分以下の命中率という事になる。
しかも、奇襲でこれだ。
まともに正面から向き合っていたら、フルオートでも無い限り、1発も当たらなかっただろう。
だが、それよりも榛名が驚いたのは、89式小銃の弾丸がかわされたことだ。
89式小銃は平成元年に正式採用された銃であり、各国、特に西側諸国の小銃の中ではかなり古いタイプの銃ではあるものの、新型小銃である20式小銃は今年採用されたばかりのため、未だに自衛隊の数的主力を担う自動小銃でもある。
そして、前述したように設計が古いこともあって、性能面では色々と問題点はあるが、腐ってもアサルトライフルなだけあり、その5、56ミリ弾の弾速は音速を悠々越える勢いだ。
しかし、ティンダロスは4発を奇襲によって喰らってしまったものの、残りの5発を悠々とかわし、更にその4発によるダメージはまるで受けていないように見える。
化け物。
それがティンダロスに抱いた感想だった。
(部下からの報告に三本首の犬の報告があったが、この目で見るまでは信じがたかったな。そして、予想よりもかなり厄介だ)
榛名がそのような事を考えている間に、のび太は愛里寿の元に駆け付けて彼女の手を引きながら榛名の元へと駆け寄る。
「ありがとうございます」
「私は榛名。自衛隊の者だ。君達は?」
「野比のび太です。こっちは島田愛里寿ちゃんです」
榛名に名前を聞かれ、のび太は自分の名前と、元からの人見知りな性格からか、のび太の後ろに隠れてしまった愛里寿の名前を言った。
「よし、のび太君。このまま北の駅まで行ってくれ。そこに私の部下が居る。彼らに保護して貰え」
「榛名さんは?」
「ここであいつの相手をする」
榛名は89式小銃のマガジンを新しいものに変えつつ、どうやら先程の銃撃から態勢を建て直したらしいティンダロスを見据えながらそう言った。
その言葉に、加勢しようかどうか迷ったが──
(いや、愛里寿ちゃんを連れていく方が先だね。それに自衛隊の人は戦闘のプロだし、大丈夫だろう)
のび太はそう思いながら、ここは自衛隊の人に任せることにした。
まあ、実を言えば榛名もこのR市のバイオハザードが初めての実戦であり、実戦経験だけで言うならば武装教団員や米軍の特殊部隊ともやりあったことのあるのび太の方がある。
もっとも、訓練量などの差から、戦闘能力で言えば、のび太もまだまだ軍隊の兵隊などには及ばず、ましてや榛名はレンジャー持ちだ。
もし銃無しでまともにやり合ったら、S─ウィルスを使用したとしてものび太が勝てるかどうかは微妙なところだろう。
「・・・分かりました。愛里寿ちゃん、行こう」
「うん、分かった。・・・気をつけてください」
愛里寿は最後にそう言い残し、のび太と共に北の方へと去っていく。
そして、残った榛名はティンダロスと睨み合いながら、89式小銃のモードを三点バーストからフルオートへと変える。
「さあ、化け物。俺が相手だ!!」
榛名はそう言いながら、89式小銃から自衛隊で採用されている弾丸である89式5、56ミリ普通弾をフルオートでティンダロスに向けて発砲した。
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電車内での再会
◇西暦2020年 12月23日 早朝 日本 群馬県 R市
陽が上り、朝を迎えようとしていた時刻。
のび太は愛里寿と共に北の駅へと向かっていた。
「それで、駅に行くには本当にあの道しかないの?」
のび太は先程偶然見つけたこの辺りの地図を持っている愛里寿に聞く。
しかし、当の愛里寿は首を横に振る。
どうやらこの道しかないようだ。
「しかしなぁ」
のび太は駅の入り口付近を見る。
そこから見えるのは、目算でだいたい15体程のゾンビ。
Five-seveNが1マガジンにつき最大20発、両方の銃を同時に使えば40発なので問題なく処理できるのだが、のび太はなるべくマガジンを節約して使いたかった。
何故かと言えば、ここに来るまでに後先考えずにゾンビを倒しまくっていたせいで、せっかくフエルミラーで増やして持ってきたFive-seveNのマガジンも既に予備は残り8つ程になってしまっていたからだ。
それでも160発の予備があるし、両腰のFive-seveNは先程装填を終えたばかりなので、まだ200発の弾丸が残っている計算になる。
しかし、あのティンダロスを相手にすることを考えると、これでもまだ不安だった。
(しょうがない。ここからはまだ弾丸が余っているMP5を使うか)
のび太はそう考えると、H&K MP5・サブマシンガン(32発マガジン装着)を取り出し、ここから1体1体丁寧に仕留めようとした。
しかし──
「お、お兄ちゃん!後ろから沢山のゾンビが!!」
「なんだって!?」
のび太は慌てて後ろを振り向く。
すると、そこにはこちらに向かってくる8体程のゾンビが居た。
「挟み込まれたか・・・」
前方に15体、後方に8体、合計は23体。
のび太一人が相手にするには大した数ではないが、今は愛里寿が傍に居るため、そちらにも気を配らなければならない。
とすると──
「走るぞ!」
前方の15体に向けて突っ込んであの道を突破するしかない。
しかし、弾薬節約も大事だ。
のび太はFive-seveNを構えつつ、進む上で邪魔だった3体のゾンビの脳天を撃ち抜く。
そして、その3体のゾンビを倒したことで出来た道を愛里寿と共に走る。
その後、邪魔なゾンビだけ倒しながら、思ったよりすんなりと北の駅への道の門の前まで着くことが出来た。
しかし──
ガチャッ、ガチャッ
そこには鍵が掛かっていた。
「じ、冗談じゃない!?いまさら鍵なんて探していられるか!!」
のび太はそう言いながら、どうするかを考える。
鍵を探すという選択肢はない。
この状況でそんなことをしている暇はないからだ。
ならば、鍵を壊すしかない。
(ショットガンで壊した方が早そうだけど、あれは銃身が長いからな)
こういう鍵を壊す作業はショットガンの方が向いているのだが、のび太の持っているレミントンM870は銃身の長さが80センチ近くあり、取り回しが効きに難いのだ。
もっとも、もしのび太がショットガンの銃身を切り詰めたソードオフ・ショットガンの存在を知り、レミントンM870を改造したレミントンM870・ブリーチャーを携帯していたならば話は大幅に違っただろうが、あいにくのび太はその存在を知らなかった。
なので、Five-seveNを選択し、鍵の錠の部分に銃口を向ける。
そして──
ドン!ドン!
両側の錠の部分はFive-seveNから発射された2発の5、7×28ミリ弾によって破壊され、門の前に掛けられていた鍵は下へと落ちる。
「早く通るんだ!!」
のび太は門を開き、愛里寿に先へ進むことを促しながら、自らは寄ってきたゾンビ達の頭を撃ち抜く。
そして、愛里寿が門を潜った後、のび太もまたそれに続く形で門を潜り、足で開いた門を蹴飛ばし、素早く門を閉じる。
「さあ、あと少しだ!行くよ!!」
「うん!」
二人はそう言いながら、駅構内へと進入することとなった。
◇
「あった!たぶん、この列車!!」
「あっ!待って、愛里寿ちゃん!!危険だよ!」
件の列車らしきものを見つけた愛里寿はそちらの方に駆け寄るが、もしかしたらゾンビが居るかもしれないので、のび太は慌ててそれを止めようとする。
しかし、愛里寿が列車に入り込もうとした時、突然愛里寿の足が止まった。
「? どうした・・・の?」
それを見て不思議に思ったのび太は愛里寿に駆け寄るが、そこには銃口をこちらに向ける二人の軍服の男達の姿があった。
しかし、二人を見た男達はそれぞれの手に持っていた銃──89式小銃の銃口を下げる。
「なんだ、子供か。ビックリさせんなよ」
男の一人──大鷹はそう言うと、安心しながら電車の席へと座った。
そして、もう一人の男──浪波も大鷹に習って、同じような行動を取る。
「もしかして自衛隊の方ですか?榛名さんの部下っていう」
「おっ。ということは三佐殿はまだ生きておられたか。一向に戻ってこないから死んだものかと思っちまったが」
「はい、それでここに保護して貰えと言われたんですけど・・・」
「そうか。しかし、子供がこれで3人か。しかも、一人は重傷。一刻も早く脱出しなきゃな」
大鷹はそう言いながら、顎に手を携えて何かを考えるが、のび太は大鷹の発言のある部分に注目し、それを尋ねた。
「えっ、3人?」
のび太は首を傾げた。
大鷹の言う子供とは自分も含まれているのだろうが、自分が引き連れてきたのは愛里寿一人なので、自分達しか居ないとなれば二人しか子供は居ない筈だ。
ということは、もう一人、自分達が来る前に誰かが来ていることになる。
「ああ、あそこに寝込んでいるお嬢ちゃんだよ」
大鷹がある方向に指を指したため、のび太もそちらの方を見る。
すると──
「美夜子さん!」
そこに寝込んでいたのは、あの建物で別れた美夜子だった。
どうやら相当な重傷を負っているらしく、横になりながら苦しそうな声を上げている。
「知り合いか?その子は警官と一緒に居たところを助けて保護したんだが、手持ちの医薬品ではこの手当てが手一杯でな」
「あんまり動かすなよ。今は安静にさせてやるんだ」
「あっ、はい。すいません」
浪波がそう忠告してきた為、のび太は申し訳なさそうに美夜子から離れながら辺りを見回す。
しかし、そこには美夜子と一緒に居た筈の人物の姿がなかった。
「あの・・・この人と一緒に居た警察の人、久下さんは今どちらに?」
「ん?ああ、あの警官なら倉庫に居る他の生存者を連れてくるって言って、ついさっき出ていっちまってな」
「生存者・・・」
それを聞いて、久下はおそらく倉庫に居たあの生存者の面々を探しにいったのだろうと悟った。
しかし、あそこに居た人達は既に全滅していることをのび太が自分の目で確認している。
(行き違ったか。まあ、久下さんもあの倉庫に居た人達が全滅しているのを見れば戻ってくるしかないだろうし、ここは更に行き違いを防ぐために出ない方が良いか)
のび太は探しに行こうかとも思ったが、更なる行き違いを防ぐためにそれは断念する。
そして、少しだけ自分も横になることにした。
「すいませんが、僕も少しだけ横になって良いですか?」
「ああ、構わないよ。ゆっくり休んでくれ」
「それじゃ遠慮なく」
のび太はそこら辺の座席に寝転がると、極度の疲れと日頃の早寝ぶりから、1秒後にはぐっすりと眠りに就いた。
◇同日 朝
「──────ゃん」
「──────いちゃん」
「──────お兄ちゃん!!!」
のび太が眠りに就いてから数時間後、愛里寿が大声を出しながらのび太を起こしてきた。
「ど、どうしたの!!」
そのただならぬ様子の声に、のび太は慌てて目を覚ます。
いつの間にか電車は動いており、のび太は眠気がまだ残っている状態だったが、次の愛里寿の言葉でその眠気は一気に吹き飛んだ。
「後ろの車両の方にあの3本首の犬が乗ってきたの!!」
「な、なんだって!?」
のび太は驚愕する。
3本首の犬。
それはのび太達を何度も追ってきたあのティンダロスに他ならない。
「今、榛名さんと警官の人が戦っているみたいで」
そう言われて耳を済ませてみる。
確かに後ろの方から榛名が持っていた89式小銃であろうアサルトライフル特有の音が鳴り響いていた。
「大鷹さんと浪波さんは?」
「それが運転室の方に居て・・・」
「分かった。じゃあ、すぐに呼んでくるんだ!!僕は久下さん達の加勢に入る!!」
「分かった!!」
愛里寿はそう言いながら、電車の運転室の方へと向かっていき、のび太もまたH&K MP5・サブマシンガンやレミントンM870・ショットガンなどの大型装備を構える。
「よし!行くぞ!!」
そして、のび太は榛名達が居る後ろの車両へと繋がる扉を開ける。
「榛名さん!久下さ・・・ん?」
そこには二人と件のティンダロスが居た。
しかし、のび太はその光景に固まってしまう。
何故なら、そこには89式小銃をティンダロスに向けている榛名と──
「あ、あぁ・・・」
ティンダロスの3つの顔に、体を思いきり噛み付かれている青い服を着た警官──久下の姿があったのだから。
「久下さん!?」
のび太は思わず悲鳴のような声を上げる。
しかし、久下はそれを無視する形で残った力を振り絞り、ティンダロスを抱え込む。
「ば、化け物め!俺と、一緒に・・・ダイブだ!!」
久下はそう叫びながら、ティンダロスを抱えたまま列車から飛び降りていく。
「「なっ!」」
──残された榛名とのび太は、その久下の行動に絶句しながらも、黙ってその光景を見送るしかなかった。
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怒り
◇西暦2020年 12月23日 朝 日本 群馬県 R市 列車内
「・・・」
「・・・」
のび太と榛名の二人は無言のまま、前の車両へと移る。
すると、そこには愛里寿にその愛里寿に呼ばれた大鷹と浪波の3人が待っていた。
「さ、三佐。も、もしかして、さっき窓から見えたのは・・・」
大鷹は震えながら榛名に尋ねる。
この列車は現在80キロもの速さで走っている。
そんな列車から飛び出した人間の末路など考えるまでもない。
だからこそ、否定して欲しかった。
あれは見間違いである、と。
しかし、現実は非情だった。
「・・・ああ。あの警官はあの3本首の犬を道連れにして飛び降りた」
大鷹の言葉に対して、榛名がそう答えると、なんとも言えない空気が一同の中に蔓延る。
当然だろう。
ついさっきまで居た人物の一人が欠けてしまったのだから。
「そ、そうでしたか。すいません。それと、実は1つ重大な報告がありまして・・・」
自分の発言が元でそうなった為に、少し気まずい思いをしたものの、それでもこの列車を運転した者として言わねばと、大鷹はある事実を一同に告げる。
「なんだ?」
「じ、実はこの列車、線路の先が無い方に向かっていまして、もうすぐ脱線を──」
起こします。
そう続けようとした大鷹の言葉は最後まで続かなかった。
何故なら、そのタイミングで電車が脱線してしまったからである。
──そして、その直後、のび太は意識を失った。
◇同日 昼
「・・・・・・ん?」
列車の脱線によって周囲で火災が発生する中、のび太は気絶から目を覚ました。
「ここは・・・」
のび太は周囲を見渡すが、どう見ても自分の居る位置は列車の中ではなく外だ。
何故こうなっているのかと、のび太は頭を働かせながら考える。
「・・・そうか。僕は脱線の衝撃で列車から投げ出されたのか」
暫しの考え事の末、その結論に辿り着いたのび太は立ち上がり、辺りを見回しながら同じ列車に乗っていた筈の人物達の安否を確認しようとする。
だが、周囲にそれらしき人物達の影は見えない。
「みんな無事かな?」
のび太はそう言いながら不安に思うが、そんな時、あのもう恒例となってしまったあの声が聞こえてきた。
アアアァァア
「ゾンビが寄ってきたか。取り敢えず、ここから移動しよう」
のび太はそう思いながら、Five-seveNを引き抜きつつ移動を開始した。
◇同日 夕方 時計塔
「あっ!お兄ちゃん!?」
あれから近くの在った巨大な時計塔に逃げ込んだのび太は、同じくそこに避難していた愛里寿に出迎えられた。
見れば、榛名や大鷹、浪波に重傷だということで横になってはいたが、美夜子の姿もある。
「無事だったか。のび太君」
「ええ、なんとか。それより皆さんは?」
「俺達もなんとか大丈夫だ。それで、新たな脱出手段だが、さっきヘリを呼び寄せるサインを出した」
「ヘリ?自衛隊のヘリですか?」
「いや、まあ、詳しくはこれを見てくれ」
そう言うと、榛名は一枚の紙をのび太に差し出した。
『脱出指令書
市内に投入されたUBCSの部隊は既に壊滅の危機に瀕している。R市に展開中のUSS並びに社員は我々が用意するヘリにて脱出せよ。なお、その際は時計塔の鐘を鳴らして合図せよ』
その手紙にはそう書かれてあったが、のび太はその横に書かれていたマークに固まってしまう。
そこには赤と白の傘、アンブレラのマークがあったからだ。
更に言えば、UBCS(アンブレラバイオハザード対策部隊)やUSS(アンブレラ保安警察)、どちらもアンブレラが保有する武装組織であり、アンブレラと戦う関係上、いずれこれらの戦闘集団と戦うことになるだろうと、出木杉やアリスがよく言っていた為、のび太もその名称はよく覚えていた。
そして、内容を見て、あることを思い出す。
「そう言えば、さっき鐘が鳴ったのって・・・」
「ああ、俺が鳴らしたんだ。手順を踏まないといけなかったから少々手間取ってしまったがな」
榛名がそう言ってのび太の疑問に答える。
のび太がここに向かう途中、鐘が大きく鳴ったりしていたが、あれは自然に鳴ったのではなく、榛名が鳴らしたのだということに、今さらながらに気づかされた。
「そうですか。しかし、大丈夫なんでしょうか?便乗しちゃって」
「まあ、おそらく米軍の特殊部隊か何かの指令書だろうから、便乗しちまうと向こうさんに迷惑をかけて最悪国際問題になっちまうかもしれないが・・・そんなことは後から考えれば良い。今は脱出することが先決だ」
大鷹はその際に交渉を担当するであろう外務省や防衛省の役人が聞いたら、殺意を込めて睨まれそうな台詞を言うが、それは大鷹の知ったことではない。
なにしろ、自分達は現在進行形で命の危険に晒されており、おまけに部隊の本隊と分断されて孤立無援と来ている。
そんな状況では自分達の命が助かることこそ、まず先決。
そう考えていたし、実際、それはあながち間違った思考でもないからだ。
「・・・」
しかし、榛名は大鷹の言葉を受けて考え込んでいた。
(助けに来るのは、本当に米軍の特殊部隊なのか?)
今思えば、書類の内容は軍の特殊部隊の指令にしては不自然なものであったし、UBCSやUSSなど聞いたこともないからだ。
それに社員という呼称も気になる。
榛名はそう思っていたが、実際のところ、榛名が懸念している通り、この書類は米軍のものではない。
この傘のマークは米軍ではなく、アンブレラのマークであり、これから救助に来るヘリというのも、おそらくアンブレラのヘリであるからだ。
もちろん、その事をのび太は知っており、それを皆に伝えるかどうか一瞬迷った。
しかし、大鷹の言う通り、今はこの街から脱出することが先決であると考えて、わざわざこのタイミングで余計な波風を立たせることはないと考えた為、結局、それを取り止めたのだ。
だが、榛名はそんなことを知るよしもない。
そして、考え込む榛名や他の人間の耳に、件のヘリの音が響き渡ってきた。
◇
「危なかったぁ」
のび太は目前で燃え盛るアンブレラのヘリを見ながらそう呟く。
結論から言うと、のび太達は脱出どころか、ヘリに乗ることすら出来なかった。
やって来たアンブレラのヘリが着陸直前で、突如として姿勢を崩して墜落するように不時着した後に爆散してしまったからだ。
これで唯一の脱出手段は絶たれてしまったことになるが、のび太はかえってそれに安心していた。
(取り敢えず、これでアンブレラに捕まるなんていう事態は避けられた。今回はそれで良しと考えるべきかな)
のび太はそう思いながら、最悪とも言える事態を回避したことに安堵していた。
よくよく考えれば、自分はアンブレラに指名手配されているのだ。
どう楽観的に見積もっても、アンブレラの本拠地に行けばドンパチ祭りになるだろうし、最悪の場合、捕まってしまう。
それを回避できたと考えれば、安心するのも無理はなかった。
もっとも、前述したように脱出手段は絶たれてしまったので、再び窮地に追いやられたという現実にも変わりはなかったが。
「それにしても・・・なんでこうも規定事項みたいに目の前にヘリが落ちるんだ?ヘリってこんなに落ちやすいものだったっけ?」
のび太は半ば現実逃避しながらそう言う。
なにしろ、日向穂島でもラクーンシティ、そして、今回を含めて3回もヘリが落ちるのを目撃しているのだ。
おまけにそれらは全て軍用ヘリときている。
幸い、ラクーンシティで乗った自分のヘリは落とされることはなかったが、こうもポンポンとヘリが落とされる様を見ると、本当はヘリに乗ったらかえって危険なのではないかと思えてしまう。
「・・・まあ、落ちたものは仕方ない。一旦、あっちに戻るか。一緒に来た大鷹さんは既に退避したみたいだし」
のび太がそう思いながら、時計塔内の部屋に戻ろうとした。
しかし──
グルルルル
──その前に3本首をした一匹の追跡者が立ちはだかった。
そして、のび太はその追跡者の姿を見て驚愕してしまう。
「なっ!お、お前は・・・」
のび太の前に現れた追跡者。
それは警察署で出くわして以来、何度ものび太を襲撃してきて、つい数時間前には久下と共に列車から落ちていった筈のティンダロスだった。
もう死んだものと思っていた為に、のび太の驚きも尋常ではなかったが、それ以上にある事実がのび太の頭を占める。
「お前がここに居るってことは久下さんは・・・」
そう、久下真二郎。
のび太達を守り、最後は80キロの速さで走る列車から、ティンダロスを道連れにする形で飛び下りていった警察官。
ここにティンダロスが居るという事実は、彼の死は無駄になってしまったということを意味している。
そして、その結論に達した途端、のび太の顔は怒りの表情へと変わった。
「お前が・・・お前が居るからこんなことになったんだぞ!!絶対に許さない!!」
のび太はそう叫びながら、右腰のホルスターからFive-seveNを引き抜き、発砲する。
だが、その弾丸はティンダロスの運動によって悠々と回避されてしまう。
しかし、それものび太の計算のうちだった。
のび太は何度か同じことを繰り返してティンダロスを回避させると、必死にその動きを観察した。
そして──
「! ここだ!!」
のび太は左腰のホルスターからもう1丁のFive-seveNを引き抜き、発砲する。
その弾丸はティンダロスによって回避されるが、直後にのび太は回避中のティンダロスに向かって右手のFive-seveNを発砲した。
キャウン
のび太の射撃が正確なこともあり、流石のティンダロスもこの射撃には回避しきれず、しかも、回避中に命中させられたことに相当驚いたのか、5、7×28ミリ弾が直撃したことによって、ティンダロスは悲鳴をあげる。
だが、怯んだティンダロスに対して、のび太は容赦なく追撃を行う。
「くたばれえぇええ!!!!」
のび太は普段ならしないような物凄い剣幕でティンダロスに対して弾丸を叩き込んでいく。
──そして、のび太の剣幕に驚いたのか、ティンダロスはよろよろになりながらも、どうにかのび太の前から撤退することに成功する。
のび太はその光景を無表情に眺めてながら追い撃ちを行っていたが、やがて両方のFive-seveNの銃弾が切れて空しい撃鉄音が響くと、一筋の涙を溢していた。
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ワクチンベース
◇西暦2020年 12月23日 夜 日本 群馬県 R市 時計塔内
「おう、戻ったか。坊主」
ティンダロスとの戦闘を終え、時計塔内の部屋に戻ってきたのび太に、先に戻っていた大鷹が出迎える。
「ええ、ちょっと手間取りましたが・・・どうしたんです、これ?」
のび太は言葉の途中で部屋の異様な空気を感じ取り、思わずそう尋ねてしまう。
中はまるでお通夜、いや、それより冷やかな殺気立った雰囲気も少し混じっていた。
ヘリが墜落して脱出手段が絶たれたことがショックだったのかとも思ったが、それにしてはやはり変だ。
それによく見ると、榛名の姿がない。
そして、尋ねられた大鷹はと言えば、こちらはばつが悪そうにこう言った。
「ああ、それがな。あの嬢ちゃんの事なんだがな」
大鷹はあちらで榛名や浪波に見守られながら横になっている一人の少女を指差す。
「・・・美夜子さんですか?」
「ああ、その子なんだがな。あそこに居る浪波は医療の資格を持っているんだが、その浪波の見立てでは、このままじゃゾンビの仲間入りになるかもしれないらしい。なんでもゾンビになった患者と同様の症状を起こしているらしくてな」
「・・・」
大鷹の話を聞いても、のび太はあまり慌てることはなく、むしろ、やはりといった顔つきだった。
薄々感づいてはいたのだ。
美夜子の傷は見た感じ、意外に浅かった。
まあ、そうでなければとっくにその傷によって亡くなっていただろうが、だからこそ、傷に対して尋常ではなく苦しんでいるその光景に異様さを感じている。
そこで気づいた。
もしかしたら、美夜子はT─ウィルスに感染しているのではないか、と。
(はぁ、僕の嫌な予感ってだいたい当たるけど、今回ばかりは当たって欲しくは無かったなぁ)
のび太はそう思いながら、頭を悩ませる。
もしかしたら、このまま彼女を生かしたまま殺してやった方が人間の尊厳を保てるのではないか?
一瞬、そうも考えたが、すぐに首を横に振った。
(何をバカなことを!それに・・・)
その脳裏にフラッシュバックするのは、ラクーンシティにおいて、自分の目の前で死んでしまったノン子の顔。
のび太はあの時の二の舞を演じるつもりなど更々なかった。
そして、藁にもすがる思いで大鷹に聞く。
「治療法は、無いんですか?」
「今手持ちの医薬品じゃ、どう遣り繰りしたって無理だ。だが──」
「だが?」
「この近くにある病院だったらもしかしたら原因を掴んでいるかもしれん。あそこは総合病院だからな。今、榛名三佐が向かっている」
大鷹はそう言った。
実のところ、病院で病原体であるT─ウィルスが発見されていたとしても、それに対するワクチンでなど、よっぽど特殊な機械を使わない限りは簡単には造り出せない。
のび太は知らないが、3ヶ月前のラクーンシティの一件ではジル・バレンタインがそのワクチン──デイライトによって助かっているが、あれは特殊な機械が有ったからこそ短い期間で製造することが出来たのだ。
だが、それでものび太は大鷹の言葉に光明を見出だし始めていた。
(・・・そうだ。諦めるのはまだ早かったな)
のび太はそう思うと、大鷹に対してこう言う。
「分かりました。僕もその病院に行ってみます」
「えっ?ちょ、ちょっと待て!」
大鷹はそう言って制止しようとするが、のび太はそれを無視して部屋を出ていった。
◇
「ここがその病院か・・・」
のび太はそう言いながら、目の前の病院──R市総合病院の敷地内へと入っていく。
「榛名さんは先に来たって話だけど・・・ここまですれ違わなかったということは、まだ病院でワクチンを見つけられていないということか、もしくは──」
何か不慮の事態が起きて戻れなくなっているか。
そう考えるのび太の脳裏には、自分をしつこく追い掛けてきて今も生きているであろうティンダロスの姿が過る。
「まあ、榛名さんなら大丈夫だろう。僕はワクチンを探すことに集中しよう」
のび太はそう言いながら、病院の中へと入っていった。
◇R市総合病院 地下 ワクチンベース
「ワクチンベース・・・これだな」
のび太はそう言いながら、病院の地下の一室にあったワクチン製造機械の説明書を見る。
あれからのび太は病院内を隈無く探したが、結局、T─ウィルスに関する資料は見つからず諦めかけていた時、一人の医師の日記を発見し、そこからこの病院の地下に在ったワクチンベースの存在を知ってここまでやって来たのだ。
問題なのは機械の動かす方であったが、ご丁寧に説明書付きで書かれていた事もあって、意外に簡単に製造の手順が踏めていた。
『ウィルス搬入を確認。ワクチン製造完了まであと5分』
機械特有の無機質な声がのび太の耳に響いてくる。
しかし、5分。
それだけ待てば、美夜子を治す薬が出来上がるのだ。
のび太はその長いようで短い5分間をただひたすら待とうとした。
しかし──
ウゥウウウ
ガルルルル
突如としてこの部屋に存在する2つのドアが一斉に開き、ゾンビとケルベロスが何体か中へと入ってきた。
「う、嘘だろ!?こんなときに!!」
まさか、こんな最悪なタイミングで敵がやって来るとは思わなかった為、少々驚いてしまうのび太であったが、気を取り直すとH&K MP5サブマシンガンを構える。
ワクチンを精製する機械は自分の目の前にあり、今はワクチンを製造中だ。
そして、ワクチン完成までの時間はおよそ4分。
それまでの間、この機械を絶対に壊されてはならない。
のび太は改めてそう認識すると、MP5の発射モードをセミオートへと変え、まず先程のび太が通ってきた扉からやって来たゾンビの頭部に照準を向け発砲する。
そして、発射された一発の9×19ミリパラベラム弾は、のび太の正確な射撃によってゾンビの脳天へと命中した。
「まず1体!」
まず1体のゾンビを倒したのび太だったが、それで油断はしない。
次いて違う扉からやって来たケルベロスに照準を向け、先程と同じように頭部を撃ち抜いて倒す。
その後も次から次へとやって来るが、全て同じように脳天を撃ち込まれて倒されていく。
──しかし、ワクチン完成まで残り3分となった時、MP5の弾が切れた。
「くそっ!弾切れか!!」
のび太は弾の切れたMP5を躊躇いなく放り投げると、レミントンM870・ショットガンを取り出す。
そして、手近にいたケルベロスに向けて発砲し、その頭部が文字通り無くなった。
この時、発射されたのは12ゲージ9粒弾。
しかも、装填されていた9つの子弾は鹿などの中型動物を狩猟するための仕様であり、狂暴性が増していようとも、サイズ的には小型動物にすぎないケルベロスを相手にするにはオーバーキルとも言える弾種だ。
だが、そんなことはどうでも良いだろう。
戦場ではどんな弾であろうが、相手を倒せれば良いのだから。
そして、のび太はケルベロスが倒されたのを確認すると、レミントンM870の照準を2体のゾンビへと向けて発砲する。
ショットガンは近距離及び至近距離では絶大な威力を発揮する銃であり、弾が同時に何発も命中するので防弾チョッキを着ていたとしても、ショットガンの直撃を受ければ、どんなに被害が最小限だったとしても骨折は免れないし、下手をすれば臓器破損からの死に至る。
が、それはあくまで生きた人間の場合。
ゾンビなどのように、頭以外を撃ち抜いても死なない敵が相手の場合、精密射撃がほぼ出来ないショットガンは不適格と言える。
しかし、それでも子弾が何発か命中した衝撃は相当のものであり、その一撃によって2体のゾンビは同時に転倒した。
再び立ち上がる前に、のび太は別方向から来た3体のゾンビにショットガンの銃口を向ける。
のび太にとって幸いだったのが、ここが室内であったことだ。
通れる場所が限られているため、知能が無いに等しいゾンビは密集して来るしかない。
その為、のび太にショットガンの銃口を向けられた3体のゾンビもショットガンの危険性を認知できず、先程の2体と同じようにショットガンの攻撃を受けて転倒する。
そして、立ち上がったゾンビをFive-seveNで脳天に風穴を開けることで止めを刺した直後、ワクチン完成まで残り2分というアナウンスが鳴った。
(よし、あと2分。それだけ粘れば)
のび太はそんな希望を抱いた。
しかし──
キシャアアアア
そんな希望を打ち砕こうとするかのように天井からリッカーが現れた。
(こいつかよ!!)
のび太はまた面倒な敵が現れたと少々焦りを覚える。
リッカーは普通のゾンビよりもすばしっこく、耐久力も高いので、通常の拳銃程度ではびくともしない。
まあ、流石に拳銃の中でも貫通力の高いFive-seveNや威力の高いマグナム銃、更には三点バーストやフルオート機能のある拳銃の連射攻撃を喰らえば話は別なのだろうが、それでも厄介な事に変わりはないだろう。
しかし、のび太はそれならばと、レミントンM870銃口をリッカーに向けて発射する。
そして、流石に
だが、そこでまた新たなゾンビが現れる。
「しつこいな!」
のび太はFive-seveNを取り出し、そのゾンビ達を倒していく。
そして、ワクチン完成まで残り1分となった時、とんでもない敵がのび太の前に現れた。
グワアアアア
それはハンターαだった。
「なんで、こんな奴がここに!?」
のび太はそう叫びながら、ハンターαにショットガンを向けて発砲する。
しかし、そこは流石ハンターと言うべきか、仰け反ってダメージを受けたものの、一撃では倒されなかった。
なので、のび太が追撃を行おうとしたその時──
キシャアアアア
いつの間にか、ハンターαが入ってきたの左後ろの壁辺りにリッカーが張り付いていた。
「くそっ!」
のび太は右手でレミントンを持ったまま、左手で左腰のホルスターに入ったFive-seveNを引き抜いて撃つ。
貫通力の高いFive-seveNの銃弾が脳天に直撃したことで、リッカーは一撃で倒されたが、その間に態勢を建て直したハンターが飛び掛かってきた。
のび太は片手ではあったが、既にスライドは終わっていた為、持っていたレミントンM870をそのままハンターに向けて発砲し、2連続で12ゲージ9粒弾の攻撃を受けたハンターαは流石に耐えきれず、断末魔の悲鳴をあげながら倒れていった。
その直後──
ピー
『ワクチンの製造が完了しました』
──ワクチンの製造が完了されたというアナウンスがのび太の耳に響き渡った。
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救助
◇西暦2020年 12月23日 深夜 日本 群馬県 R市内
デイライト製造後、のび太は製造されたデイライトと戦闘中に放り投げたMP5を持って時計塔へと戻ろうとしていたのだが、その途中、のび太はある人物がこっちに向かってくるのを目にした。
「・・・ん?あれ、榛名さん?」
「! のび太君、何故こんなところに!?」
一方の榛名ものび太がここに居る事に驚いたようで、驚愕の目を向けている。
「いや、榛名さんがあんまり遅いんで、僕がこうして来たんですよ」
のび太は少しだけ嘘を言う。
本当のところは、美夜子を救いたい一心が暴走して大鷹の制止を振り切る形でこうして出てきたのだが、流石にそれは言えなかった。
しかし、それは榛名に妙な誤解を生んでしまうことになる。
「あの二人、子供に任せるとは・・・。帰ったら、一言言わなければならんな」
(ごめんなさい。大鷹さん、浪波さん)
それを聞いたのび太は内心で帰った後に説教されるであろう二人に向けて合掌する。
なんの罪の無い二人が罪を着せられて罰せられることに少し罪悪感を抱きつつ、のび太は気になったことを榛名に尋ねた。
「そう言えば、榛名さん。なんでこんな遅くなったんですか?」
「・・・実は3本首の犬にまた襲われてな。あいつを振り切って改めて病院に向かっていたら、遅くなってしまったんだ」
「またあいつか・・・」
のび太は相変わらずしつこいティンダロスの存在にうんざりしていた。
もっとも、榛名がティンダロスを引き寄せたからこそ、のび太がこうして安全にR市総合病院に行き、デイライトを手に入れられたとも言えるのだが。
「ああ、そう言えばワクチンらしきものは入手しましたよ」
「本当か!?」
「ええ、ちょっと大変でしたけどね」
のび太は少し震えている右腕をチラリと見ながらそう言った。
別に大ケガをしているという訳ではない。
ただ少しだけ痺れただけだし、一晩寝れば治るほどのものでしかないが、逆に言えば今晩は使い物にならないだろう。
いや、全く使えないという訳ではないが、それでも腕の震えによって普段のような精密な射撃は狙えない。
ショットガンを片手で撃つという行為は、のび太にそれほどの影響を与えていたのだ。
「・・・そうか。じゃあ、戻るぞ。そろそろ彼女が危険だ」
「はい!」
二人はそう言いながら、共に時計塔の方へと戻っていった。
◇西暦2020年 12月24日 未明 日本 群馬県 R市 時計塔内
「・・・・・・・・・ん」
時計塔内の一室。
その部屋の台に寝かされていた美夜子は遂に目を覚ました。
「・・・あれ?ここは?」
「気がついたか?」
まだ状況を把握しきれていない美夜子に対して、榛名が声をかけてくる。
「ここは時計塔の中だ。外があの有り様だからな。一時、ここに避難している」
「そうですか。・・・あの、私を運んでくれた警官の方は?」
美夜子は自分を運んでくれた警官──久下の姿がないことを疑問に思う。
なにぶん、T─ウィルスに感染していた時は意識が朦朧としていて、自分が何か病気に掛かっていたということは自覚しても、周囲の状況など気にする余裕が無かったのだ。
故に、久下がどういう結末を迎えたのか、この部屋に居る人間達の中で、唯一知ることが出来ていなかった。
「・・・」
だが、それに対して、榛名は無言を以て返した。
そして、美夜子はその榛名の表情と無言振りから、だいたいのことを察してしまう。
「そう、ですか」
「・・・すまない」
「いえ、謝ることは・・・むしろ、こちらが助けてくれたことに感謝しなければならない立場ですし」
「ああ、その礼ならあの子に言ってくれ」
榛名は親指をある方向に向ける。
そして、美夜子がそちらを見ると、そこには愛里寿に寄り添うように眠るのび太の姿があった。
「あの子が君に治療したワクチンを病院から取ってきてくれたんだ」
「のび太さんが?」
美夜子はその事に驚きつつも、同時に納得してしまう。
やはり、世界は違ってものび太はのび太なのだということに。
「ふふっ」
美夜子はそれに対して、少しだけ優しげな笑みを溢す。
「? とにかく君は今夜はゆっくり眠りなさい。明日、いや、今日か。今日の朝にはここを出発する」
榛名はその行為に首を傾げたが、まだ安静が必要だということで、美夜子に眠りに就くように促した。
「分かりました。お休みなさい」
「ああ、お休み」
榛名は美夜子にそう返して、彼女が眠るのを見届けると、今のうちにどうにか連隊本部に連絡を着ける方法を見つけることを思案し始めた。
◇同日 朝
「えっ?川を渡るんですか?」
早朝に目を覚ましたのび太は昨晩、榛名達が練った案を聞かされた。
どうやらここから少し北西にある川をボートで渡ろうという考えらしい。
「でも、魚が凶暴化していたら・・・」
ここで懸念されるのは魚がT─ウィルスに感染したことで凶暴化している可能性だ。
川ということは、当然のことながら魚を始めとした水棲生物が多数居る。
そんな生物がもし凶暴化していて、ボートを襲撃してきたら、川の上で逃げ場がない自分達はどうにもならなくなるだろう。
「その時はその時だ。まず行ってみないと始まらん」
榛名はそう言うが、実のところのび太の言うことは榛名も懸念していたことだ。
しかし、このままここに居ても仕方がない以上、やるしかないというのもまた確かだった。
「・・・そうですね。ですが、それがダメだった時は?」
「その時は近くに在るこの下水道を通っていくしかないな」
榛名は地図に示された下水道を指で指す。
下水道と聞いて、のび太は若干眉をしかめる。
何故なら、バイオハザード下の下水道というのは相当な鬼門だからだ。
暗い上に狭く、道が限られている。
更にネズミや虫などの小型なBOWが居る可能性がある。
そんなところを進んで通っていきたい人間など居る筈がない。
だが、これも他に案が無い以上、やるしかないだろう。
そう考えたのび太は取り敢えず納得することにした。
「分かりました。じゃあ、それで行きましょう」
──こうして、方針は決定された。
◇同日 昼 川付近
「これは・・・」
川付近に在るであろうボートを探していたのび太達はその途中で1つの研究所らしき建物の前に来ていた。
「なんじゃこりゃ。少なくとも、俺達の仲間じゃないな」
しかし、その建物の中庭に在ったのは大勢の兵隊らしき武装をした男達の死体だった。
だが、大鷹の言う通り、榛名達のような自衛隊員でないことは確実だ。
何故なら、装備も明らかに自衛隊で採用されているものではなかったし、なによりそれを装備している人そのものが日本人ではなかったのだから。
「米軍が秘密作戦でもしてたんですかね?」
「う~む。その可能性はなきにしもあらずだが・・・」
浪波の言葉に対し、榛名は何か引っ掛かっていた。
確かに日本国内には榛名達のような日本固有の防衛戦力である自衛隊の他に、外国軍である在日米軍が駐留しているので、米軍が何かしらの秘密作戦を日本で展開していたとしても不思議ではない。
しかし、それにしては同地域に展開している榛名達になんの通達もないのは可笑しい。
日本国内で米軍が秘密作戦をするということは、榛名達と作戦地域で同士撃ちになる可能性もあるし、それで米軍の部隊に何か有ったとしても流石にアメリカは文句を言えなくなる。
まあ、榛名達と本部の通信が寸断された後に派遣が決定された可能性もあるが、やはり何かが違う気がした。
(まさか、こんなところにアンブレラの特殊部隊が居るなんて・・・)
だが、榛名がそのような事を考えている一方、のび太はここに倒れている武装兵の正体に、だいたいの検討はつけていた。
榛名達はあまり注目していなかったようだが、この武装兵達のは肩口のところには赤と白の傘──アンブレラのマークの紋章が着いている。
UBCS、USSのどちらかは分からないが、アンブレラの特殊部隊に間違いはないだろう。
(て言うか、そもそもここって、R市に在るアンブレラ支部の1つじゃないか。確か健治さんと聖奈さんが潜入する予定だった)
のび太はこの目の前の建物に見覚えがあった。
二人を探しにR市に潜入するに辺り、見せられた建物の写真の1つだったからだ。
(まあいいや。これは逆にチャンスかもしれないな。消息を絶った二人を探すための)
のび太はそう考えていた。
一応、確定ではないので消息を断ったという曖昧な言葉遣いを使っていたが、おそらく二人はアンブレラに連れ去られたのだろうとのび太は推測している。
もしそれが正しければ、この建物を調べることは二人の消息を知るチャンスかもしれない。
「この建物を調べてみませんか?何か使えるものも有るかもしれませんし」
「・・・そうだな。せめて、無線機か何か、連絡するものが手に入れば、隊に連絡が取れて脱出も可能、か」
のび太の進言に対して、榛名は前向きな姿勢を示す。
「よし、じゃあ、ここを調べてみよう」
「はい」
こうして、一行はアンブレラの建物の中へと入っていった。
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核爆弾
◇西暦2020年 12月24日 夕方 日本 群馬県 R市 アンブレラ研究所
「やっぱり、ここにも武器庫が有ったか」
のび太はそう言いながら、武器庫を漁る。
例によって武器はほとんど持ち出されていたが、マガジンなどは比較的残っており、その中にはH&K G36・アサルトライフルに使う30発箱型マガジンも有った。
「よし、これでG36が使えるな」
これは大きな収穫だったと言えた。
何故なら、アサルトライフルはのび太の持っている装備の中でも火力が大きいものであり、かつ弾が無かったことから使用できないので、のび太のスペアポケットに入れたまま放置されているというお荷物武器だったのだが、ここに来て弾薬が手に入ったことで使い物になる銃となったのだから。
これだったら、ティンダロスが来てもなんとか対抗できるだろう。
「あの時みたいに弾薬を全て使いきったりしないようにしないといけないね。他にも何か使える武器がないかな?」
そう言って更に中を漁った時、1つの銃が出てきた。
「ん?これは・・・サブマシンガン?」
のび太はそう思いながら、その銃とそのすぐ傍にある40発マガジンを手に取る。
厳密にはその銃はサブマシンガンではない。
この銃の名はH&K MP7・PDW。
一見、サブマシンガンのようにも見えるが、弾丸には4、6×30ミリ弾という大口径の弾丸が使われており、流石にアサルトライフルには及ばないものの、拳銃弾の応用にすぎないサブマシンガンと比べれば、火力と貫通力で勝る銃である。
もっとも、これはMP7に限った話ではなく、他のPDW全体に言える話だが。
ちなみに携帯性もサブマシンガンとほぼ同等であり、それでいてサブマシンガンに火力と貫通力で勝るPDWという銃種は、サブマシンガンの上位互換と言っても過言ではない。
ただ、専用の弾が使われているので、サブマシンガンよりも高価なのが難点だが。
だが、のび太はガンマニアではないので、その辺の区別は分からず、のび太がこの銃の本当の性能を知るのは少し後の話になる。
「まあいいや。一応、持っていこう。他にはないかな」
そう言って他にも漁っては見たが、結局、見つけられたのは手榴弾や閃光手榴弾くらいだった。
「こんなもんかな。じゃあ、他の場所を──」
「お兄ちゃん!!」
のび太が他の場所を捜索しようかと立ち上がった時、慌てた様子で部屋に愛里寿が入ってきた。
よく見れば、その顔は青ざめている。
「ど、どうしたの!?」
「良いから、これを見て!!」
その尋常ではない様子に、のび太は思わずそう言ったが、愛里寿はそんなのび太にとある1枚の書類を渡してきた。
「ん?どれどれ・・・」
のび太はその書類を読む。
『撤退指令書
我々の議会遅滞工作は既に限界を迎えている。現在、R市の原子力発電所内に核爆弾を設置中である。12月25日午前0時をもって起爆する。その後は、原子力発電所の事故として情報操作が行われる予定。USS及びアンブレラ社員は速やかに撤退せよ。なお、いかなることがあろうとも、予定に変更はない』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
その書類を読んだ後、長い沈黙の末、ようやくのび太は言葉を発することが出来た。
しかし、先程の愛里寿同様、のび太の顔は青ざめている。
「えっ?えっ?か、核爆弾!?嘘だろ!!」
のび太は動揺していた。
それもその筈、まさか学校の授業で習った核爆弾が日本に持ち込まれ、使用されようとしているとは思いもよらなかったのだ。
まあ、ラクーンシティの例からするに、何らかの方法で滅菌作戦が取られるとは思ってはいたが、核を投入するというのは流石に予想外だった。
「幾らなんでも、手段選ばなすぎだろ!!」
「どうするの?」
「そうだね。え~と、今が4時だから、残りは8時間か。それまでになんとか脱出しないといけないんだけど・・・」
愛里寿の声に幾分冷静になったのび太は考えるが、何も思い浮かばない。
解決策としては簡単だ。
脱出手段を用意して、それで脱出すれば良い。
だが、その脱出手段が見つからないのだ。
しかし、あと8時間でR市が吹っ飛ばされてしまうとなると、早急にR市から脱出する必要がある。
「・・・ダメだ。何も思い浮かばない。榛名さん達に相談してみよう」
「分かった!」
二人はそう言いながら、別行動を取っている榛名達にこの事を通達するべく、部屋を出ていった。
◇同時刻 研究所外の森
のび太が武器庫を漁っていた頃、大鷹と浪波は榛名に命じられ、研究所の外を探索し、大鷹は研究所西側の川付近の探索、浪波は研究所東側にある森の探索を行っていた。
「薄気味悪いな・・・」
浪波は森の中を進みながら心底そう思う。
時刻は夕方であり、一応、森全体は明るかったが、R市中がゾンビだらけになっていることもあり、明るい中でも視界が比較的限られた森の中では若干の恐怖を感じてしまうのだ。
「とんだ貧乏くじを引いちまったな。しかし、夜じゃなくて良かったぜ。こんな森を夜に探索しろなんて言われたらどうなっていたことか・・・」
浪波は今が夕方であることに感謝した。
これが夜だったら大変だったからだ。
もっとも、のび太が日向穂島でゾンビが蔓延る夜の森を探索したことがあるので、浪波はのび太よりも臆病だという見方も出来るのだが、そののび太でさえも森の探索をしなくて良い状況だったとしたら、全力で探索を避けていたであろうので、浪波の感性はむしろ普通だろう。
なにしろ、森の中で襲撃されたら戦闘はなかなか難しいのだから。
「しかも、こんな森じゃ収穫も無さそうだし、そろそろ戻るか」
なんの収穫もなかったが、一通り探索が終わった浪波は一旦研究所に戻ろうとした。
しかし、その時──
グルルルル
──明らかに獣であろう唸り声が浪波の耳に聞こえてきた。
「・・・」
浪波は冷や汗を流しながらも、89式小銃のセーフティーを外し、セミオートに設定しながら声が聞こえてきた方向に構える。
ガサッ
しかし、今度は別の場所から物音が聞こえてきた。
当然、それに反応する形で浪波は銃をそちらに向ける。
だが、何も居ない。
「何処だ・・・」
ガサッ
また物音がして、浪波は銃をそちらに向ける。
しかし、またもや何も居なかった。
「・・・・・・気のせいだったのか?」
浪波はそう自分に言い聞かせるように呟きながら、安心したように銃を下ろす。
しかし、それは明らかな油断だった。
ガウウウウウウウ
突如、後ろから聞こえてくる雄叫びが浪波の耳に入った。
しかし、浪波が後ろを振り向く前に、浪波の首筋に凄まじい激痛が走る。
──直後、浪波の悲鳴が周囲の森に響き渡った。
◇同日 夜 アンブレラ研究所内
「・・・遅いな。浪波の奴」
大鷹は自分の腕時計を見ながら、浪波が帰ってこないことに首を傾げる。
あれからのび太と愛里寿は同じく研究所内で探索していた榛名、美夜子の二人と合流し、その数分後にはアンブレラ研究所外の東側を探索していた大鷹とも合流できたのだが、研究所外の西側を探索していた浪波が何時まで経っても帰ってこないのだ。
「俺、探しに行ってきます」
「いや、俺が行こう」
探しに行こうとする大鷹に、榛名は自分が行くと告げる。
「しかし、三佐は坊主達の護衛を・・・」
「本当ならそうしたいところだが、私も上司だ。部下を見捨てるわけにはいかん」
「しかし・・・」
「時間がない。早く行け。俺も浪波を見つけたら、すぐに後を追う」
榛名にそう言われた大鷹は時計を見る。
そこには6時であることを示す2つの針。
そして、核爆弾の話が本当だとすれば、残りはあと6時間ということになる。
一応、アンブレラ研究所内にあった無線機を使って、どうにか生存していた榛名達の部隊の本隊に連絡が着き、救援のヘリを送って貰えることになったものの、その予定は8時であり、残り2時間しかない。
しかも、指示されたヘリの着陸場所はここから少し離れた場所にあり、浪波を探してそこに行くとなると、ギリギリのタイミングになってしまう。
しかし、自衛隊内において、榛名は士官であるが、大鷹は士官どころか、下士官ですらない兵の階級だ。
当然、重要性は全然違うので、本来ならば本来なら自分が浪波を探して榛名がのび太達を護衛するのが筋というもの。
しかし、榛名にも上司としての意地があることや、責任感が強いことは大鷹もよく知っていた。
「・・・分かりました。俺が坊主達を連れていきます」
これ以上の抵抗は無意味と分かり、大鷹は頷くしかなかった。
「では、頼んだぞ」
榛名はそう言って、浪波を探すためにその場から去っていった。
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脱出前
◇西暦2020年 12月24日 夜 日本 群馬県 R市 下水道
「まさか、ここを通ることになるとは・・・」
のび太は少々顔をしかめながら、下水道の道を歩いていた。
その腕にはレミントンM870・ショットガンが構えられている。
狭い下水道の中ではショットガンが有効だと考えた為だ。
「仕方ないだろ。外に大勢ゾンビが居たんだからな」
「いや、僕は良いんですけど・・・」
大鷹の宥めるような言葉にのび太はそう答えながら、チラリと美夜子と愛里寿の二人を見る。
下水道というのは、様々な負要素のオンパレードであり、酷い臭いや病原体、更にはネズミなどの汚い場所に住む動物が多数居る場所だ。
のび太は日向穂島で地下水道を通ったこともあるので、このような道には慣れているが、美夜子や愛里寿のような人間にこのような場所に耐えられるのかという疑問があった。
事実、二人は相当やつれている。
どうやらのび太の推測通り、このような道には慣れていなかったようだ。
(まあ、それだけじゃ無いんだろうけどね)
二人から他に感じるもの。
それは疲れだ。
前述したように、愛里寿はまだ二桁にも達していない年齢であり、鍛えていてもその体力はたかが知れているし、美夜子に至ってはキレイサッパリ消え去ったとはいえ、昨晩までT─ウィルスによって苦しんでいたのだ。
加えて、この3日間、直接戦闘に参加していないとはいえ、常に戦場の近くに居て神経を磨り減らしているのだ。
疲れが出てくるのも当然だった。
(でも、そんな苦労もあと少しだ)
そう、あと少し。
あと少しで脱出できるのだ。
その為にはもう少し我慢して貰わなければならない。
そう思いながら進んでいたのび太だったが、とある奇妙なことに気がついた。
(・・・ん?)
のび太は下水道の向こう側から白い浮き輪のようなものが2つ程流れてくるのを発見した。
しかも、どんどんこちらに接近してきている。
(なんだ?)
のび太はその光景に何か違和感を感じる。
そして、よく見ると、それは浮き輪ではない。
丸い形状をした何か皮膚のようなものだ。
「大鷹さん、ちょっと退いて貰えますか?」
「ん?どうしたんだ?・・・まあ、良いけどよ」
大鷹は素直にのび太の言う通りに道を開ける。
そして、のび太はと言えば、その近づいてきた2つの白い浮き輪?のうちの1つに向かって、持っていた
すると──
グワアアア
12ゲージ9粒弾が直撃し、その白い浮き輪が悲鳴をあげながらひっくり返った。
「な、なんだ!?」
大鷹はその光景にビックリしていた。
そして、それはもう1つの白い浮き輪をした化け物──ハンターyもまた同じであり、隣に居た仲間の惨状に驚いたのか、飛び上がってのび太の近くの床へと着地する。
だが、ハンターyが着地する頃には、のび太はショットガンのポンプアクションを終え、次弾装填を完了させていた。
ドン!!
そして、ショットガン特有の甲高い音と共に、再び12ゲージ9粒弾が発射され、その直撃を受けたハンターyは先程の個体同様、一撃で葬られることになった。
「まさか、あんなのが居たとはな。坊主、助かったよ」
「いえ、それよりも早くここを出ましょう。あんな怪物が他にも居るとなると事ですから」
のび太は大鷹の礼に対してそう言って答えたが、正直、あれにのび太が銃撃を行うまで気づかなかったのは意外だった。
(大鷹さんも疲れているのかな?)
のび太はそう思った。
人間というのは、疲れていると僅かな事には気にしなくなってしまう。
それは日常生活は勿論、僅かなミスが致命傷となる戦場でも同じであり、自衛隊員として鍛えられた大鷹でさえ例外ではない。
まあ、そもそも大鷹は中央即応連隊という精鋭部隊に配属された優秀な兵士とはいえ、軍歴で言えば入隊2年目の隊員にすぎない(行方不明の浪波に至っては1年目)上に、R市で戦う前は実戦経験すら無く、初の実戦が精鋭の兵士ですらあっさり死んでしまうこのバイオハザードを、3日間も潜り抜ける羽目になったのだ。
むしろ、疲れていない方が以上だと言える。
しかし、のび太は違う。
疲れていると僅かな事には気にしないという点は大鷹と同じだが、その“僅かな事”の規模や定義が異なる。
要は実戦経験を身に付けたことによって、効率的・効果的な判断能力が無意識単位で刷り込まれているのだ。
でなければ、今まで生き残れてはいない。
なので、大鷹が見逃すような事も、のび太は疲れている中でも見通すことができる。
もっとも、そんな学問的な事など、小学5年生にすぎない(それもどちらかと言えば劣等生の部類に入る)のび太が気づいている筈もないのだが、大鷹が疲れているということはなんとなく理解できた。
(・・・となると、少なくとも
のび太はそう思いながら、内心でため息をついた。
もっとも、今のままでは仲間の誰かに死傷者が出るかもしれないし、最悪の場合、全滅しかねないので、仕方のないことだとは思っていたのだが。
「ああ、そうだな。急ごう」
そんなのび太の様子に気づくこと無く、大鷹はのび太の意見に頷くと、再び先を進み始める。
のび太達もその後に続く形で進んでいく。
──そして、一行はその後、何度か起きたハンターyの襲撃を切り抜けた後、下水道を脱してヘリの着陸地点まで到着することに成功した。
◇
のび太達がヘリの着陸地点に着いてから15分程後、浪波を探していた筈の榛名がそこへやって来たが、肝心の浪波の姿はなかった。
「そうですか。浪波の奴は・・・」
「すまない」
榛名から大鷹に伝えられたのは、浪波がゾンビ化したという最悪の情報だった。
大鷹と浪波が1つ年と階級が違うとはいえ、同じ部隊に所属する仲の良い友人だったことを知っている榛名は大鷹に謝罪する。
「止めてくださいよ、三佐。仕方なかったんですよ。それにうちの部隊で死んだのは浪波だけではありません」
そう、榛名の部隊で死んだのは浪波だけではない。
榛名が率いていた大鷹の仲間は既に100人以上死んでいる。
それを考えれば、浪波もその100人以上の死者に名を連ねたにすぎないのだ。
それにこの3日間で嫌という程、人の死には慣れてしまっている。
仲の良い友人が死んで悲しい気持ちはあるが、それだけだった。
「それより、今は生還することを考えましょう」
「そうだな。あと30分足らずでヘリは来る。それまでゾンビが来ないと良いんだがな」
「ええ、迎えに来るチヌークには武装がほとんど施されていませんからね」
これから迎えに来る陸上自衛隊のヘリ──CH47 チヌークには武装がほとんど施されていない。
何故かと言えば、そもそもこの機のコンセプトは軍用ではあるものの輸送用のヘリであり、完全武装の兵隊を目的地まで移送させる事に特化する仕様で造られているからだ。
なので、チヌーク自身には何の武装もない。
実際には改造してチヌーク自身に武装を施して使用している国もあるのだが、少なくとも日本の陸上自衛隊ではそのような改造を施していないのだ。
故に、着陸地点に居るゾンビなどをヘリから掃討する事が出来ない。
加えて、今回のチヌークの任務は救援のため、機体の中には兵士を搭載してはいない。
帰りに人を乗せる関係で邪魔になってしまうからだ。
その為、チヌークの中には操縦士と副操縦士くらいしか居ないので、着陸地点にゾンビが多数居れば着陸に尻込みしてしまうだろうし、下手をすれば勝手に撤退されてしまう可能性もある。
二人はそこを懸念していた。
「なんとか、ゾンビ達が現れないことを祈りたいが・・・」
榛名はそう言いながら、周囲を見渡す。
「・・・ん?」
すると、榛名の目に人の影が映った。
「あれは・・・」
生存者か?
そんな淡い期待をかけて、榛名は双眼鏡でその人影を見てみる。
だが──
「ゾンビか・・・」
そこに居たのはゾンビだった。
しかも、一体だけではない。
少々離れてはいたが、その数はゆうに数十は居る。
「これは厄介だぞ。早く掃討に移らねばな」
そう言いながら、榛名は少々迷った。
選択肢は2つある。
1つは大鷹と共に二人であのゾンビ達を掃討すること。
そうなれば掃討のリスクも低いし、効率も良い。
しかし、デメリットとしてのび太達が一時的とはいえ無防備となってしまうという点がある。
もう1つは、大鷹をのび太達のところに居させて、自分一人だけでゾンビを掃討すること。
こちらはのび太達が無防備に晒される危険性は無くなるが、当然の事ながらゾンビ達の掃討のリスクが高く、効率が悪い。
どちらを選ぶか一瞬だけ悩んだ榛名だったが、すぐに結論を出した。
「大鷹一士、行くぞ。あのゾンビ集団を掃討して安全を確保する」
「えっ?いや、しかし、それでは坊主達が無防備に・・・」
「あのゾンビ達を片付けられなければどのみち同じだ。それに戦力の分散は下策でもあるしな」
「なるほど、確かに俺か、三佐のどちらかがゾンビ共の相手をするにしても、やられてしまえば、むしろ、戦力の無駄な浪費になってしまいますからね」
「そうだ。なかなか頭が回るじゃないか」
「いや、そんなことはありませんよ。それより早く片付けましょう。あまり長引くと坊主達が危険です」
「ああ、行くぞ!」
榛名はそう言いながら、大鷹と共にゾンビの群れへと向かっていった。
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決着 野比のび太VSティンダロス
◇西暦2020年 12月24日 夜 日本 群馬県 R市
「榛名さん達、大丈夫かな?」
美夜子が不安そうな声を出す。
それもそうだろう。
見るからに数十体は居るゾンビの群れの中に、彼らはたった二人で突っ込んでいったのだから。
愛里寿も言葉には出さないが、同じことを思っている。
「・・・」
しかし、のび太は違った。
いや、榛名達が心配なのは確かだったが、のび太は彼らが戦う場所とは反対側からの強烈な殺気のようなものを感じ取っていたのだ。
そして、その殺気はのび太にとって凄く覚えがあるものだった。
「・・・美夜子さん。ちょっとだけ、愛里寿ちゃんをお願いできますか?」
「えっ、そ、それは構わないけど、榛名さん達を助けに行くの?」
「いえ、あちらからゾンビが来ないかどうかを見張るだけですよ。あっちは榛名さん達が食い止めるとしても、こっちから来られたら意味のないものになってしまいますから」
のび太はそう言いながら、榛名達とは反対の方角を見る。
「・・・分かったわ。愛里寿ちゃんは任せて」
美夜子は何かを察したのか、それ以上追求することなく愛里寿を預かることを決めた。
「感謝します」
のび太はそう言うと、榛名達とは反対の報に向かって歩いていった。
◇
のび太は歩きながら、右のホルスターに入っていたFive-seveNを一旦スペアポケットに仕舞い、代わりにデザートイーグル・44マグナムバージョンをホルスターに入れる。
「・・・ここら辺で良いかな?」
一定の距離を歩くと、のび太はそこで立ち止まる。
ここから美夜子達までの距離は100メートル程。
昼間なら悠々見える距離であるが、今は夜でありほとんど見えない。
もっとも、これから起きるであろう銃のマズルフラッシュは見えるだろうし、この距離はアサルトライフルはおろか、PDWやサブマシンガンの有効射程内でもあるので、流れ弾が彼女達に飛んでしまう危険性もある。
しかし、100メートルという距離は狙撃でもしない限りは滅多に当たらない距離であるし、あまり遠くなるとヘリが着陸した時に回収して貰えなくなるので、やはりこの距離が適当だろう。
のび太はそう思いつつ、美夜子達の前では見せない低い声を出しながらこう言った。
「・・・出てこいよ。居るんだろ?」
のび太は一見、何もない暗闇に向かって話し掛ける。
それを第三者が間近で見たならば、見方によってはのび太の事を色々な意味で危ない人と評価する人間も居ただろう。
しかし、のび太は確信していた。
“あの存在”が近くに居ることを。
そして──
グルルルル
その存在──ティンダロスはのび太の声に応えるかのように、10メートル程先に姿を現した。
「やっぱりお前か・・・」
そう言いながら、のび太はその脳裏にこの存在によって死んだ男──久下の姿を思い浮かべる。
そして、のび太は決意した。
この化け物とここで決着をつけることを。
「行くぞ!これが最後の戦いだ!!」
のび太はティンダロスに向かって宣戦布告の言葉を口にしながら、戦闘を開始した。
◇
ドドドドドド
ティンダロスに宣戦布告を行った後、のび太は先制攻撃としてH&K MP7・PDWをフルオートで発射する。
その4、6×30ミリ弾の貫通力はMP5の9×19ミリパラベラム弾より遥かに優れており、当たれば100メートル以上距離を離していたとしても、防弾加工もされていない車のドアくらいなら簡単に貫通できる。
もっとも、より大口径であるFive-seveNの5、7×28ミリ弾ですら仕留められなかったティンダロスにどれだけ効果は有るかは疑問だったが、Five-seveNは拳銃に過ぎないのに対し、MP7は
その連射による猛攻を受ければ、ティンダロスと言えどもただでは済まない。
・・・まあ、これは全て“当たれば”という仮定の話であるが。
ヒュン、ヒュン、ヒュン
そのMP7のフルオート射撃を、ティンダロスは持ち前の運動能力で悠々とかわしていく。
そして、MP7に込められていた40発の弾丸が全て撃ち尽くされると、ティンダロスは反撃を開始し、のび太に体当たりを仕掛けてくる。
「よっと!」
のび太はそれをかわすと、MP7を一旦スペアポケットに仕舞い、左腰のホルスターに入っていたFive-seveNを引き抜いて撃つ。
しかし、それすらもティンダロスにかわされてしまう。
(こっからが肝心だ)
のび太はもう1発、Five-seveNから銃弾を発射する。
それもかわされてしまうが、直後、のび太は右手で右腰のホルスターに入っていたデザートイーグルを引き抜き、かわしている最中だったティンダロスに向かって撃つ。
ドーン!
拳銃よりも甲高い発砲音が響く少し前にデザートイーグルから44マグナム弾が発射される。
のび太がやろうとしたのは、昨日の戦闘の焼き直しだった。
要はFive-seveNをかわしたティンダロスをデザートイーグルで撃とうと考えていたのである。
昨日はこの方法によって、Five-seveNの5、7×28ミリ弾を当てたが、今回はより威力の大きい44マグナム弾。
当たれば、ティンダロスはかなりのダメージを負うことは間違いないだろう。
しかし──
ヒュン
ティンダロスはその44マグナム弾すら途中でかわす軌道を変える形でかわしてしまった。
「なに!?」
のび太は驚愕して、一時、動きを止めてしまう。
まさかこの攻撃を回避されるとは思わなかったからだ。
そんな動きを止めたのび太は、ティンダロスにとって格好の的となる筈だが、ティンダロスの方も無理矢理軌道を変えて回避したせいで体に何か異常が起きたのか、一旦のび太から離れて仕切り直す。
そして、両者は睨み合う。
(こいつ、学習してる。昨日の方法じゃダメだ)
のび太は昨日の方法ではダメージを与えられないということを実感し、別の方法を取ることを考えるが、その方法が思い浮かばなかった。
一番良いのは手榴弾を使ってダメージを与えることだが、こんな運動性能を持つ敵ではMK─3攻撃手榴弾の爆発など簡単にかわされてしまうだろうし、M67破片手榴弾では自分も被害を受けてしまう。
となれば、次点の攻撃力を持つアサルトライフルを使うのが一番だが、榛名の89式小銃の弾丸を4発とはいえ喰らってもピンピンしている辺り、目の前の敵を倒すにはフルオートで数十発単位の弾丸を浴びせる必要がある。
(だけど、そんなことやってたら何時まで時間が掛かるか分からない)
なにしろ、もうすぐ救援用のヘリが来るのだ。
そのヘリを迎え入れるためにも、長期戦は勿論論外であり、短期決戦しかない。
なんとか、短期間で決着を着けられる手はないか。
のび太がそう考えていた時だった。
(ん?待てよ・・・)
あることを思い付いたのび太はデザートイーグルとFive-seveNを仕舞い、代わりに太股に据え付けられていたコンバットナイフを引き抜く。
そして、数秒ほどティンダロスと睨み合った後、相手は痺れを切らしたのか、再びのび太に向かって突撃してくる。
しかし、のび太はそれをかわすと、ナイフを思いっきりティンダロスに向けて突き刺した。
ザシュッ
キャウウウン!!!
S─ウィルスで強化された腕で振られたナイフは相当深くまで刺さり、ティンダロスの3つの頭からそれぞれ盛大な悲鳴が聞こえてくる。
更に言えば、動きもかなり鈍った。
どうやら相当なダメージを与えたらしい。
「今だ!!」
そうして出来たティンダロスの隙をのび太は見逃さなかった。
右手で再び右腰のホルスターからデザートイーグルを取り出すと、残り7発の44マグナム弾を叩き込んでいく。
そして、全て撃ち尽くすと、左腰のFive-seveNを引き抜き、これまた残りの弾丸を叩き込んだ。
その頃には相手はほとんど動けない状態となっており、ティンダロスは何の行動も起こせないまま、何発もの5、7×28ミリ弾をその身に受ける。
そして、頃合いを見計らうと、のび太は仕上げとばかりにMK─3攻撃手榴弾を取り出し、安全ピンを抜き、安全レバーを放しながらティンダロスの方に向かって投げる。
のび太の腕から放たれたMK─3攻撃手榴弾はその数秒後に爆発し、辺りに凄まじい爆風を舞い上がらせた。
その後、のび太は念のためと言わんばかりに、更にもう1つのMK─3攻撃手榴弾を再びティンダロスに浴びせ、ティンダロスを更に弱らせる。
ティンダロスはもはや虫の息となっており、3つの首のうち、中央の首だけがどうにか動いている状態だった。
「・・・僕には生物兵器なんてものはよく分からない。だけど──」
のび太はどうにか動いているティンダロスの中央の首にFive-seveNの銃口を向け、更に言葉を紡ぐ。
「──お前みたいな奴は、消えてなくなれば良い!!」
のび太がそう言った直後、Five-seveNから発射された1発の5、7×28ミリ弾は寸分違わずティンダロスの中央の首へと命中し、3日に渡りのび太を追いかけ続けてきた追跡者は、遂にその息の根を止められることとなる。
──そして、それを見届けた後、のび太は美夜子と愛里寿の元へと戻るためにその場を去っていった。
◇R市上空
「・・・終わったのか?」
大鷹は未だ自分の今の状態が信じられないといった感じでそう言う。
あれから、のび太は美夜子と愛里寿、更にはゾンビ掃討を終えた榛名と大鷹といった面々と合流し、無事に5人でヘリに乗り込む事が出来た。
しかし、一同に笑顔といった表情は無い。
むしろ、皆、疲れきっている様子だった。
それはこの中でも年長である榛名でさえ例外ではない。
「ああ、そのようだな。だが、帰ったら、色々とやることが山程有りそうだがな」
「うへぇ、勘弁してくださいよ」
榛名の言葉に大鷹は辟易とした感じでそう言った。
ただでさえ、疲れきっているのだ。
この状況で更に馬車馬のように扱われるなど、到底冗談ではない。
本気で退官を考えようか。
そんな風な感傷を抱いている大鷹やその様子に笑っている榛名を他所に、他の面々、特にのび太はただぼうっと外を見ていた。
(・・・この街並みがあと数時間で消えるのか)
のび太は感慨深げにそう思う。
R市は既に無茶苦茶になっているとはいえ、一応、建物などはほとんど残っているのだ。
これがあと数時間後には無くなってしまうという事が、のび太には信じられなかった。
(アンブレラ・・・この落とし前は必ず着けて貰うよ)
のび太は改めてアンブレラとの戦いに闘志を燃やす。
──そして、その後、ヘリはR市内のテレビ局の屋上に居たジャイアンこと、剛田武を回収した後、R市内から離脱していく。
こうして、のび太達は脱出に成功した。
◇西暦2020年 12月25日 早朝
『──臨時ニュースを申し上げます。本日未明、R市にて謎の大爆発が起き、R市はその言葉の通り、消滅しました。この事件での死者は5万人にも上ると言われており──』
本章でのバイオハザードの生存者と死亡者
・生存者(6名)
野比のび太、剛田武、島田愛里寿、榛名、大鷹、満月美夜子。
・死亡者(2名)
久下真二郎、浪波。
・不明(2名)
翁餓健治、緑川聖奈。
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第四章 ハヴィエ
マリアナ諸島
・アンブレラとの戦いに身を投じたメンバー(13名)
野比のび太、ドラえもん、出木杉英才、源しずか、剛田武、骨川スネオ、田中安雄、桜井咲夜、富藤雪香、アリス・アバーナシー、アンジェラ・アシュフォード、緑川雪奈、満月美夜子。
・日常社会に戻ったメンバー(7名)
榛名、大鷹、島田愛里寿、山田太郎、島田響、西住みほ、緒方タカシ。
・行方不明者(2名)
翁餓健治、緑川聖奈。
◇西暦2021年 1月4日 夜 マリアナ諸島 某島
日本から2000キロ以上南の場所にある島々──マリアナ諸島。
かつては日本の委任統治領であり、事実上、日本の領土だったのだが、太平洋戦争中にアメリカ軍によって占領され、更にはその後の日本の敗戦によってその所有権を失っている。
そして、今、南海のその島々にはのび太、安雄、アリス、ジャイアン、ドラえもんの5人が訪れていた。
しかし、その目的は無論のことながら観光ではない。
「あれか・・・」
のび太はそう言いながら、前方に存在する1つの建物を見据える。
事はジャイアンの証言から始まった。
R市のテレビ局で彼はアンブレラのUBCS(アンブレラ・バイオハザード対策部隊)の所属隊員である酒田という男と出会い、その彼から子供が二人、このマリアナ諸島に移送されたという情報を聞き出していたのだ。
もっとも、その酒田という人物は最終的にR市のテレビ局にて死亡してしまったので、真偽は分からずじまいであったが、他に手懸かりもないし、新たに仲間に加わった美夜子、スネオのアンブレラネットワークのハッキングから、二人はここに移送された可能性が高いと見て、奪還のためにリーダーである出木杉は彼らを送り出したのだが、当初、出木杉はのび太とジャイアンを向かわせるつもりはなかった。
何故かと言えば、前回のバイオハザードからそう日は経っていなかったし、のび太に至っては3度ものバイオハザードを経験していたので、その疲れを癒すためにも二人には休養が必要だと考えており、のび太とジャイアンの枠には本来、自分と咲夜が入る予定だったのだ。
しかし、なんとか頼み込んで入れて貰ったという経緯がある。
もっとも、突入要員から外れることが条件だったが。
(見るからにボロい建物だな。武装兵もほとんど居ない)
それは見るからにボロい建物だった。
コンクリートですらない木で出来た建物であり、年月がそこそこ経っている様子で今にも崩れそうだ。
はっきり言って、あれならば日向穂島の研究所の方がよほど立派である。
・・・こんな場所に二人が監禁されているのか、甚だ疑問だった。
完全武装の兵隊が居るからには、ただの一般人の施設ではないことは確かだが、その武装兵の数も2、3人程しか居ないし、正直のび太単独でも簡単に突破できそうだ。
まあ、地雷などの罠が張られているし、守っている人間も精鋭という可能性があるので、油断はできない。
もっとも、後者については向こうの方が油断している様子な以上、可能性は低いと考えていたが。
「・・・始まったか」
のび太の前で爆発が起き、向こうの外に居た武装兵が一人吹っ飛ばされる。
安雄のM79・グレネードランチャーから放たれた40×46ミリグレネード弾(通常弾頭)が炸裂したのだ。
この作戦の概要は非常にシンプルだった。
まず安雄がグレネード弾を放ち、アンブレラの部隊を混乱させる。
アリスが突撃して制圧し、のび太とジャイアンは後詰めとしてアリスの突撃と同時に別方向からの奇襲を警戒するという内容だ。
ちなみにドラえもんは船の所で待機している。
万が一の時、すぐさま撤退を行うためだ。
──だが、結果から言えば、その心配は杞憂だったと言える。
何故なら、アリスが突撃して僅か1分後にこのアンブレラの基地?は制圧されてしまったのだから。
◇同日 深夜
「・・・助かった。ありがとう」
健治はそう言いながら、助けに来た仲間たちに向けてそう言った。
「いえ、ところで聖奈さんは?」
のび太は聖奈の所在を尋ねる。
ここには健治、聖奈の二人が監禁されているという話だった。
しかし、実際に居たのは健治一人。
そして、幾ら捜しても聖奈の姿は影も形もなかった。
「ああ、最初は俺と一緒に監禁されていたんだがな。数日前に突然連れていかれちまった。後は・・・残念ながらさっぱりだ」
「・・・そうですか」
のび太は残念そうに言う。
だが、死体が確認されていないということは、少なくとも生きている可能性はある。
のび太がそう考えて希望を持ち始めた時、アリスがこんなことを言い出した。
「あっちの女を尋問して聞き出した方が良さそうね」
アリスはそう言いながら、縛られているピンク色の髪をしたロシア系の顔立ちをした女性を見る。
彼女の名はサーシャ。
アリスが言うには、服に着けられた紋章から推測するにUSS(アンブレラ保安警察)の人間らしい。
確かに彼女ならば、聖奈の行方を知っている可能性もある。
「・・・あまり手荒な真似はしないでくださいよ」
のび太はそう言いながら、先程の事を思い浮かべる。
サーシャを捕らえた後、ジャイアンがサーシャを思いっきり殴り付けたのだ。
慌ててのび太と安雄が止めたが、あれは良くない兆候だとのび太は思っていた。
ジャイアンの気持ちは分かる。
彼はススキヶ原のバイオハザードで両親と妹を亡くし、つい10日前に起こったR市バイオハザードでも共に行動していた人間を全て亡くしているのだ。
同じくほぼ一人で行動しながらも、仲間の大半を生き残らせる事に成功したのび太とは対極的である。
その怒りと悔しさが今回、サーシャに対して爆発したという訳であった。
しかし、暴力、それも私的な感情による無抵抗な人間への暴力など振るってはいけないとのび太は思っている。
もっとも、今回は時間がないゆえに、アリスの提案に渋々ながら頷いたのび太だったが、なるべく穏便に済ませて欲しいというのが本音だった。
「分かっているわ。じゃあ、明日の朝には尋問の結果を報告するわね」
アリスはそう言ってサーシャを引き摺りながらある部屋へと入っていく。
その際、サーシャは救いを求める子羊のような視線をのび太達に送ったが、のび太達は敢えてそれを無視してアリス達を見送った。
◇西暦2021年 1月5日 早朝 マリアナ諸島 某島
「南米ですか?」
翌朝、尋問を終えたアリスはのび太達に結果を報告する。
・・・そして、結論として言うと、緑川聖奈は南米に移送されたらしかった。
「そこにアンブレラの基地が?」
安雄はアリスに聞くが、当のアリスは首を横に振る。
「どうやらアンブレラと接触した組織が有るらしくてね。彼女はそこに売却される形で移送されたらしいわ」
「人身売買かよ・・・」
安雄は吐き捨てるようにそう呟く。
人身売買。
それはのび太のような小学生ですら知っている単語であり、中小国、特に治安が悪い国々などではよくある現象と言われていたが、まさか日本人、それも自分達の仲間がそんな目に遭わされるとは思ってもおらず、安雄に限らずとものび太達は嫌悪感や怒りを抱く。
「あの野郎・・・やっぱりもう一発」
「止めなよ、ジャイアン」
「なんで止めるんだよ!」
「気持ちは分かるけど、今はそんなことをしている時間も余裕もないよ。それで、アリスさん。具体的に南米の何処に移送されたんですか?」
のび太は冷静にアリスに聞く。
今はなによりも大事なのは聖奈の奪還だ。
その為には1分1秒も無駄にしてはいられない。
ジャイアンはそののび太の態度に驚くが、少し冷静になったのか、黙ってその成り行きを見守る。
「それは本人も分からないらしいわ」
「隠している訳じゃないのか?」
ジャイアンは嫌みったらしげにそう言った。
「そんな様子は無かったわ。彼女が知っているのは、聖奈さんが南米に移送されたこと、そして、現地の別組織に身柄を売却されたという事だけね」
「それは・・・」
情報が大雑把に過ぎるとのび太は思った。
特に聖奈の正確な居場所が分からないのは痛い。
だいたいの居場所は残った秘密道具の1つである尋ね人ステッキを使えば分かるかもしれないが、このステッキは的中率が70パーセントである為、参考にはなるものの完全な信用は置けないのだ。
加えて、仮に合っていてもそれは方角が分かるだけであり、その道のりは選定してくれない。
例えで言えば、目標までの道程にジャングルなどが生い茂っていたとして、その迂回ルートなどの細かい道のりは全然分からず、100パーセント目標まで辿り着くには、そのジャングルを必ず突っ切らなくてはならないという事である。
・・・はっきり言って、無いよりはマシ程度の代物であるのは言うまでもないだろう。
「何か手懸かりになるようなもんはないのかよ・・・」
健治はそう言うが、のび太達をそれに黙らざるを得なかった。
実を言うと、他に手懸かりはないかと思い、建物内を隈無く探したのだが、それらしい資料は無かったのだ。
と言うより、資料そのものが思ったより少ない有り様だった。
おそらく、ここはアンブレラにとってそれほど重要な場所ではなかったのだろう。
「・・・とにかく、南米に行ってみましょう。それからどうにか捜索して救助した方が良いわね」
アリスの言葉に、一同は頷かざるを得なかった。
──そして、数時間後。
ジャイアンと安雄は救出した健治と捕らえたサーシャと共に、一旦日本本土にあるアジトへと戻り、残ったのび太、アリス、ドラえもんの3人は聖奈の行方を求めて南米へと向かうこととなる。
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ハヴィエの支部
◇西暦2021年 1月14日 昼 南米 某国 某所
のび太、アリス、ドラえもんの3人は前述した通り、聖奈を探すために南米へと赴いた。
もっとも、南米は治安が悪い関係上、情報収集を行うのはアリスの役目となっており、のび太とドラえもんは乗ってきた船で待機する日々だったが。
そして、今日もアリスは情報を持ってきてのび太達に報告している。
ちなみにドラえもんは見張りのために甲板に出ており、今日のアリスの報告を聞いているのはのび太だけだったが、この日、アリスが持ってきた情報は一味違っていた。
「ハヴィエ?」
のび太はアリスが言うその名前に首を傾げる。
そして、その男らしき髭面の男が映った写真を渡されるが、やはり見覚えはない。
「この国では有名な麻薬商売人よ。麻薬王とも言われているわ」
「麻薬王、ですか」
のび太は眉をしかめる。
聞くからに犯罪者、それも重大な犯罪を現在進行形で犯している人間だと分かったからだ。
「それで、そのハヴィエという人物は何を目的に聖奈さんをアンブレラから引き取ったんですか?」
「・・・」
その問いを受けたアリスは少々答えに詰まった。
一般的にこういった人物が人身売買によって少女を手に入れた場合、行うのは売春の強要や臓器の剥ぎ取りなどという凄惨なものだ。
アリスもそれは知っているが、それをまだ子供であるのび太に言っても良いものかどうか迷っていた。
しかし、何も答えないのはよろしくないと、仕方なく代わりの答えを急遽用意する。
「・・・さあ、分からないわ。ただ、アンブレラと接触があったのは確かよ。そして、ハヴィエは最近、少女を数十人単位で誘拐して、自分の居城まで運んでいるらしいわ」
「なるほど、その一環で聖奈さんもそのハヴィエって人のところに居る可能性が高いと」
「そういうこと」
「それで、その本拠地はもう分かっているんですか?」
「分かっているわ。でも、乗り込むのは明日にしたいの」
「何故ですか?」
本拠地が分かっているならば一刻も早く乗り込んで聖奈を奪還するべき。
そう考え、のび太はそう言ったのだが、そんなのび太に対し、アリスはある情報を提示する。
「実はこの近くにハヴィエが管理する支部があって、そこには10歳くらいの東洋人の女の子が監禁されているって話を聞いたのよ」
10歳くらいの女の子で東洋人。
東洋人と言っても、日本人の他にも中国人や韓国人などといった人間が居るが、ここは日本どころか、東洋全体から遠く離れた南米。
東洋人は滅多に居ないだろうし、このタイミングでその情報が入ってくるということは、その東洋人の少女が聖奈である可能性は十分にある。
「なるほど、じゃあ、今日はそこの襲撃を?」
「ええ、少なくとも陽が暮れる前には制圧したいわね」
「しかし、そういった場所には普通、武装した兵士みたいなのが居るのでは?」
のび太は唯一の懸念を示す。
別に戦闘をするのは構わないのだが、ここでド派手にやるのはかなり問題になるのではないかと思う。
マリアナ諸島ではあの島がほとんど無人島だったからこそ良かったが、この南米の大地では事情が異なり、銃撃戦などやって騒ぎになれば警察が飛んでくるのではないか?
少なくとも、のび太はそう思っていた。
「それが思ったより、ハヴィエの組織は人員が少ないのよね。偵察してみたけど、その支部には十数人くらいしか居なかったわ」
「そうですか。それならなんとかなるかもしれませんね。でも、それならなんで夜ではないんですか?」
のび太は襲撃時が夜でないことを疑問に思う。
少数による奇襲ならば夜の方が効果的であるし、そもそも夜という空間は少数の方に比較的有利に働く。
実際、日向穂島やラクーンシティでも、のび太が多数の戦闘員を圧倒できたのは、夜である要素が大きかった。
もしあれが真っ昼間であったら、やられていたのはのび太だった可能性すらある。
それなのに、何故わざわざ不利となる日暮れ前を選ぶのか、のび太にはよく分からなかった。
「・・・夜だとこっちからも向こうが見えにくいわ。襲撃して皆殺しにするだけなら良いけど、解放した人間も引き連れてこの船に戻るとなると、夜では不都合が多いのよ」
「なるほど・・・」
アリスの言葉に、のび太は納得する。
確かに夜に人の護衛をするというのは、結構大変であることは日向穂島で散々苦労したのび太が一番よく分かっている。
「ということは、やっぱりドンパチすることになりそうですね。・・・建物の構造と捕らえられた人のだいたいの位置は分かりますか?」
「ええ、これよ」
そう言うと、アリスは建物の構図が描かれた1枚の紙を広げる。
「ここに捕らえられた少女が居るらしいわ」
「らしい・・・ということは、確定ではないという事ですか?」
「ええ、流石にそこまでは調査できなかったわ」
「そうですか・・・」
のび太はそう呟きながら、頭の中にこの建物の構造を叩き込む。
少女達が何処に居るか分からないということは、グレネードランチャーや手榴弾などの爆発物を使うわけにはいかないし、ましてや流れ弾なども考慮すると、速やかに敵兵を全て排除する必要があるだろう。
しかし、問題なのは敵が何処に居るか分からないため、一室一室慎重に調査しなければならないのだが、突入要員がのび太とアリスの二人しか居ない上に、前述したように現地の警察が駆け付けてくる可能性もあるので、あまり時間は掛けていられないという事だ。
(これは思ったより大変なことになりそうだな)
のび太はそう思いながら、アリスにある提案をすることにした。
「アリスさん、ちょっとお願いが有るんですけど──」
その後に続く言葉に、アリスは驚いたが、最終的には渋々同意することになる。
◇同日 夕方 とある施設
「・・・」
あれから数時間後。
のび太は件の施設近くにある林に身を潜めていた。
その腕にはマリアナ諸島のアンブレラ基地で手に入れた銃──M4カービン・アサルトライフル(30発STANAGマガジン装着)が構えられている。
ちなみに後ろで控えるアリスが構えるのは、のび太も使っていた銃──H&K G36・アサルトライフル(30発箱型マガジン装着)だ。
「ふぅ、しかし、ここのジャングルは湿っぽいな」
のび太がジャングルに来るのはこれが初めてではない。
かつてバウワンコの秘密を解く為に、中央アフリカのジャングルを100キロほど行進したことがあった。
しかし、このジャングルはそれとは違うとはすぐに分かる。
加えて、日本との温度差もかなり激しい。
そもそも今は1月。
日本やアメリカなどの北半球では勿論冬だが、南半球に属するこの南米は夏なのだ。
ただでさえ暑い土地に、のび太は先日まで過ごしていた日本の冬から一転、南米の一番暑い時季にやって来てしまったと言える。
だからこそ、体調不良などを起こしても不思議ではなかったのだが、のび太は幸運なことにそういう事はなかった。
これはアフリカのジャングル経験がそれなりに役に立ったお蔭でもある。
「・・・さて、始めるか」
のび太は武装兵の一人に狙いを付ける。
今回の作戦ではのび太が突入要員であり、アリスが援護要員という形だ。
つまり、マリアナ諸島の時の逆という訳である。
本来なら、のび太より近接戦闘の強いアリスを突撃させて、のび太を援護要員にすべきという指摘もあるだろう。
しかし、これはのび太の要望であり、のび太がこうしたのには色々と訳があった。
1つはのび太が長距離射撃の経験がほとんど無く(それどころか、中距離射撃もハテノハテ星雲の一件やラクーンシティの一件のみ)、援護に不向きであること。
もう1つは、そもそもアサルトライフルが長距離の狙撃に向いていない銃であることだ。
これを解決するには、スナイパーライフルを持ってくるのが一番なのだが、あいにくのび太達は持っていない。
・・・つまり、これまで多大な経験をしてきたのび太は100メートル以内の近距離及び至近距離の戦闘以外はほとんど出来ないということになる。
この意外な問題点をのび太は感付いていたが、そのままにしていた。
なにしろ、この問題点の解決方法は先に言ったスナイパーライフルの所持や経験を積むこと、あるいは時間をかけて訓練を行うことなどがあるが、どれも満たすことが出来なかったからだ。
そういうわけで、のび太は自分の得意な近距離戦闘を生かすために、自分が突撃し、アリスには援護するように頼んでいた。
ドン!
のび太はM4カービンのモードをセミオートにして、1発の5、56×45ミリNATO弾を一人の武装兵の頭に向けて発射した。
彼我の距離は120メートルほど有り、アサルトライフルならば至近距離と言っても良いほどの射程内ではあったが、のび太にとって命中したところに当たるかどうかは微妙な距離でもある。
しかし、のび太の神業的な射撃技術と経験が功を奏したのか、弾丸は寸分違わず武装兵の頭へと命中し、命中した武装兵の頭は弾け飛んだ。
「な、なんだ!」
「敵襲だ!て──」
その光景に近くに居た二人の兵士の内、一人は動揺し、もう一人は敵襲と叫ぼうとするが、その叫ぼうとした武装兵の頭にM4カービンの銃弾と同じ5、56×45ミリNATO弾が直撃し、その兵士を絶命させる。
のび太より後方に居るアリスがH&K G36で狙撃したのだ。
(流石、アリスさんだな)
のび太はその射撃技術に感心していた。
自分もかなり射撃技術には覚えがある方だが、アリスは明らかにそれより上であるからだ。
しかし、のび太も負けてはいられないと、逃げ始めた最後の一人に向かって引き金を引く。
そして、直後、その男の頭もまた一人目の頭同様に弾け飛ぶ。
「よし、今だ。前進しよう」
いよいよ突撃。
のび太は若干の武者震いを感じつつ、武装兵達が待ち構える拠点に向かって進んでいった。
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懸念
◇西暦2021年 1月14日 夕方 南米 某国 とある施設
ドドドドドド
「ぐわっ!」
「うがぁ・・・」
のび太の銃撃によってまた2名の兵隊が倒される。
最初の攻撃から数分後、屋外の敵を制圧したのび太とアリスは、次に屋内の制圧に取り掛かった。
二手に別れ、のび太とアリスは次々と施設内部を制圧していく。
ちなみにのび太の使用銃器はM4カービンからH&K MP7に切り替わっている。
室内では銃身の長いアサルトライフルより、PDWの方が取り回しが良いと考えたからだ。
そして、武装兵達を排除していくと、やがて拐った少女達が閉じ込められている区画へと着いた。
「早く!逃げて!!」
のび太はそう言いながら、少女達が閉じ込められている部屋を一室ずつ慎重に解放していく。
そして、解放された少女達はのび太の声に従って出ていくが、逃げていく少女達のほとんどは南米系であり、一部に白人系が混じっているが、どちらにしろ東洋系の少女は一人も居なかった。
「さて、ここが最後の部屋だけど・・・」
もしここが外れであれば、アリスの担当する方に居るという事になる。
のび太はそう思いながらも、油断せず最後の部屋の扉のドアノブ部分を蹴飛ばす。
この扉は木製とはいえ、それなりに頑丈に出来ており、本来ならのび太の蹴力では、蹴り飛ばしたとしても大きな音を立てるだけで終わってしまう。
しかし、S─ウィルスで強化されたのび太の蹴力は鍛えられた大人並みの威力を発揮し、木製の廊下を容易に蹴破られた。
「っ!?」
「~~~」
中には武装した男達が4人とこの部屋で監禁されていたであろうクリーム色の髪をした少女が一人の計5人の人間が居り、男達は出入り口付近で武器を構えていたが、ドアが蹴破られたことに驚いたのか、銃口をのび太の方に向けるのが少し遅れてしまう。
のび太はその隙を見逃さず、武装した男達4人の内、目の前に居た3人をMP7の連射で射殺していく。
そして、残った一人は身体極まったと見たのか、最後の賭けとして、同じく部屋に居たクリーム色の髪をしたのび太と同年代くらいの少女を人質に取る。
「~~~!」
なにやら大きな声で、よく分からない言語──スペイン語──を叫ぶ男だったが、のび太は言語こそ理解できなかったものの、状況から男が何を言っているのか、だいたい想像はついた。
こいつを助けて欲しかったら武器を捨てろ。
おそらく、男はそう言っているのだろう。
のび太は一瞬だけ何かを考えた後、右手でMP7を捨て、ついでに左手で
安全ピンを着けたままの状態では誘爆に巻き込まれたり、銃弾が直撃するほどの衝撃を与えなければ爆発したりはしない。
当然、ただ放り投げるだけでは爆発しないのだが、あからさまに手榴弾だと見た目で分かるM67破片手榴弾をこれほど見せつけるように放り投げられると、人質を取った方は一瞬で見破ることは出来ず、テンパってしまい、遂には人質から仰け反る形で離れてしまうという失態を犯してしまう。
そして、それを見逃すほど、のび太も甘くはなく、素早く左手で左腰のホルスターに入っていたFive-seveNを引き抜くと、相手の頭部に向けて発砲した。
◇
「大丈夫?」
少女を人質に取っていた男を射殺した後、のび太は拳銃を仕舞い、少女に駆け寄って英語でそう声を掛けるが、直後に失態に気づく。
(しまった。言葉が・・・)
南米では歴史的経緯からスペイン語かポルトガル語(と言うより、ブラジルではポルトガル語で、それ以外の南米の国ではスペイン語)が使われているが、のび太は英語はある程度話せるようになったが、スペイン語やポルトガル語は話せなかったのだ。
しかし──
「は、はい。大丈夫です」
少女が話したのは、意外にも日本語だった。
のび太もこれには驚くが、改めてよく見ると彼女は東洋人系の顔立ちをしている。
しかも、この状況で日本語を使うということは、日本人である可能性が高い。
「君、もしかして日本人?」
「えっ。は、はい、そうです。し、白鳥渚と言いましゅ!」
少女──白鳥渚は少々台詞を噛んでしまいながらも、そう自己紹介をする。
「・・・そっか。でも、ここは危ないから一旦外に出よう」
のび太はそう言うと、放置されていたMP7とM67破片手榴弾を仕舞いながらそう言った。
しかし、少女は震えたままであり、先程の自己紹介を最後に顔を俯けさせている。
無理もない。
そもそも誘拐されたこともそうだが、いきなりこんな血濡れの現場を見せられたのだ。
震えるのも無理はなかった。
しかし、のび太にはなんでそこまで恐怖を感じるのか分からない。
これはのび太がみほや愛里寿と出会い、彼女達が血濡れの光景に比較的早期に慣れた様子から、自分と同年代の少女とはそういうものだという事が無意識のうちに刷り込まれてしまい、すっかりその感覚が麻痺されてしまっていたのだ。
・・・つまり、本来なら渚の方の反応が自然であったという事である。
「・・・しょうがないか」
のび太はそう言いながら腰を屈める。
「乗りな。怖いとは思うけど、ここから離れないと危険だから」
「・・・」
渚は無言のまま、コクコクと頷くと、黙ってのび太の背中へと乗る。
だが──
「重い・・・」
のび太は全く立ち上がれなかった。
これがS─ウィルス発動中であれば、渚を持つのはむしろ軽々出来る筈なのだが、あいにくあれはアドレナリンが分泌されていないと発動しないし、その効果は既に切れている。
よって、のび太は運動が
よって、ほぼ同年代の少女であるはずの彼女を持ち上げることが出来ずにいたのだ。
「な、何てことを言うんですか!!」
彼女は先程までとは全然違う声でのび太に対して怒ったようにそう叫んだ。
例え小学生であろうとも、体重の話は禁句のようであった。
まあ、これについてはのび太にデリカシーが無さすぎるだけなのだが。
「ご、ごめん!だけど、本当に重いんだ。出来れば、自分で歩いてくれないかな?」
「分かりました!」
渚は頬をパンパンに膨らませながら部屋の外へと出ていくが、のび太はまだ安全が確認されていないということで、それを慌てて追っていく。
──そして、二人は別の場所を探索していたアリスと合流し、3人で施設を脱出した。
◇同日 深夜 船内
「聖奈さんは居なかったなぁ」
「まあ、仕方ないよ。それで明日は例のハヴィエの居城に行くの?」
のび太の呟きをドラえもんは宥めながら、のび太に向かってその問い掛けをする。
あの支部で見つかったのは、聖奈ではなく白鳥渚という少女だった。
言うまでもなく、あの支部で捕らえられていた東洋系の少女とは彼女のことだったのだろう。
ちなみに聞いたところ、彼女はのび太と同い年で、白鳥珈琲というコーヒー農園を経営している会社の社長の次女らしい。
白鳥珈琲というのは超有名ブランドらしいが、コーヒーにあまり詳しくないのび太やドラえもん、更にアメリカ人であるアリスなどにはさっぱり分からなかったが、とにかく彼女がお嬢様という身分であることは分かった。
今回は南米にある支社に家族で視察に行ったらしいが、迷子になったところをハヴィエの部下に捕らえられてしまったらしい。
現在はアリスが渚の面倒を見ており、ここには居なかった。
「うん、でも、アリスさんもだいたいの場所は分かっても、内部の構造はよく分からないみたいだから、もしかしたら想像以上に苦戦するかもしれないんだよね」
ハヴィエの居城はとある川の上流に存在するダムにあるということは分かっているが、このダムの内部構造がよく分からないため、手探りで探さなければならないのだ。
しかし、居城には当然の事ながらハヴィエの部下も居るであろうので、それらを相手にしなければならないとなると、相当な苦労をしなければならない。
本来なら時間をかけて内部構造を知りたいのだが、あいにくそんな時間は掛けられないのだ。
「じゃあ、渚ちゃんはどうするの?」
「ドラえもんが送る・・・って訳にもいかないか。でも、明日には出発しないといけないし・・・」
のび太は悩む。
出来れば今すぐにでも家族の元まで送ってあげたいが、それは難しい。
何故ならば、単純に時間がないし人も居ない。
ドラえもんに送らせても良いが、それだと船を動かす人員が居なくなってしまう。
アリスでも一応動かせるが、彼女は突入要員だ。
ならば、のび太が送れば良いのではないかという話になるが、それだと突入要員はアリス一人になってしまい、手分けして探さなければならなくなった時に問題となってしまう。
つまり、割ける人員など居ないのだ。
「・・・仕方がない。一緒に連れていこう。それから聖奈さんを救出した後、送り届けるという事で」
「うん、それが良いと思うね。危険だけど」
渚には悪いが、こちらにはこちらの都合がある。
そして、時間もない以上、もうしばらくの間付き合ってもらおう。
のび太はそう思いつつ、ドラえもんにこう指示した。
「もし万が一、僕とアリスさんが帰らなかったら、その時は渚ちゃんをお願いするね」
「な、何を言っているんだ!縁起でもない!!」
「そう、縁起でもないね。でも、これが現実なんだ」
そう言いながら、のび太は何処か遠い目をした暗い雰囲気で外に見える南米のジャングルを眺め始めた。
前述したように、のび太はあまり戦いが好きではなく、出来るならば逃げ出したいとすら思っている。
しかし、それでも逃げないのは仲間や守るべき人間が居るからだ。
だが、最近ののび太はそれについて疑念に思っていた。
守るべき人間についてはまだ良い。
その人間達を見捨てることは、のび太の矜持に反するし、見捨てたら一生後悔する事になると自分で自覚しているのだから。
しかし、問題なのは仲間についてだ。
のび太から見て、最近の皆は大冒険でも皆の世話役になっていたドラえもんや大人であるアリス、来年には高校生となる美夜子、更には非戦闘員である雪奈やアンジェラなどを除いて、何処か暴走しているように見えた。
その結果が先日のサーシャの殴り付けにも繋がっているし、リスクのある行動を選んだことで、こうして自分やアリスが聖奈を救出しなければならない事態となっている上に、拐われた地であるR市は消滅している。
もしかしたら、自分達が戦ったことで犠牲者が大勢出ているのではないか?
のび太にはそのような疑念があったが、仮にそうだとしても、一度戦うと決めた以上、滅多な事が無い限り、のび太はアンブレラとの戦いを止める気はない。
しかし、仲間は本当に自分達の行動が大勢の人を巻き込むかもしれないという事を自覚しているのだろうか?
まあ、巻き込まれる側からしてみれば、どちらでも同じだろうが、自分自身という基準で考えると、自覚しているのとしていないのとでは、大きな違いがあるのだ。
特に酷いのはジャイアンだ。
おそらく、彼は自覚していない方の人間だろう。
少なくとも、そのようなことを自覚していれば、あのマリアナ諸島でのジャイアンのサーシャでの対応のような“暴走”は生まれなかったであろうから。
そして、それは冷静に見えるあの出木杉でさえも例外ではないとのび太は思っている。
なにしろ、彼からは時折、冷酷な狂気染みた何かを感じるのだから。
勿論、仲間の事は同じ同志として信用してはいるが、のび太はその仲間の今後について懸念を示さざるを得なかった。
(どうなるのかねぇ)
のび太は不安な気持ちを抱えながら、ジャングルから南米の夜空に視線を変える。
ドラえもんはそののび太の様子に、何も言うことが出来なかった。
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ミックスコアトル村
◇西暦2021年 1月15日 朝 南米 某国
「それで、この先にハヴィエの居城への案内人が?」
のび太は同行している相棒であるアリスに確認するように聞いた。
あれから一晩明け、とある村を目指して歩いている。
アリスが言うには、そこにはハヴィエの居城を案内できる人間が居るらしい。
なんでもアメリカ軍の無線を享受してその事を知ったらしいが、なんだかヤバそうな話だった為、のび太はその部分は聞かなかったことにしている。
「ええ、この先の村にね」
「しかし、僕たちはその案内人の顔を知らないんですが・・・」
のび太は唯一の懸念を口にする。
そう、無線享受によって案内人の事を知ったのは良いが、無線享受では当然の事ながら顔写真は手に入らない。
その為、村に行ったとしてものび太達はその案内人の顔を知らないので、案内人を先に確保することは不可能なのだ。
「そこは大丈夫よ。実は今日、アメリカから二人のエージェントが派遣されることになっているの。一人はジャック・クラウザー、もう一人はレオン・S・ケネディね。これがその写真」
アリスはそう言いながら、何処から調達したのか、のび太に二人の写真を見せる。
そこにはそれぞれイケメンの男と筋肉ムチムチの男が映し出されていた。
「なるほど、この人達の後を追えば・・・」
「そう、ハヴィエの居城の内部を行けるわ。でも、それだけじゃダメよ」
「と言うと?」
「もし私たちが尾行しているのに気づいたら問答無用に撃たれる可能性があるわ。特にあなたは気配を消すのに慣れてないから」
「あはは・・・」
のび太は苦笑せざるを得なかった。
既に3つのバイオハザードと幾つかの戦闘を経験したのび太であるが、まともな訓練はされていないこともあり、戦闘以外では出来ないことも多い。
今、アリスが言った尾行技術もその1つだ。
なので、もしのび太が尾行したとしても、二人のエージェントには簡単に気づかれてしまう可能性が高い。
まあ、のび太は一見子供なので、見つかった時は警戒されない可能性もあるが、やはり口封じという形で撃ってくるかもしれないので、見つからない方が良いだろう。
「では、どうするんですか?」
「発信器を着けるの。流石にこれには気づかないと思うわ」
アリスはそう言いながらこれまたどうやって調達したのか、小さな発信器を見せる。
映画などでは一流のエージェント相手だとよくバレる発信器だが、実際には発信器を即座に感づける人間はエージェントで一流と言われる人間の中でもほんの極一部だ。
レオンとクラウザーという人間がその極一部に当てはまるかどうかは分からないが、試してみる価値は十分にある。
だが──
「どうやってそれを取り付けるんです?」
そう、取り付け方が問題なのだ。
これを取り付けるためには、どうやっても取り付ける対象に近づかなければならないのだから。
「それは私がやるわ」
「いや、でも、さっき問答無用に撃たれる可能性があるってアリスさんが言ったばかりじゃないですか」
「大丈夫よ。私はそういう訓練も受けてるから」
「・・・分かりました」
のび太はそれを聞いて渋々だが了承することにした。
確かに訓練を受けているならば、アリスがやった方が成功すると考えたからだ。
「では、任せます。ですが、気をつけてください」
「ありがとう。上手くやるわ」
アリスはそう言いながら、のび太の頭を撫でた。
のび太はそれを気恥ずかしそうに受け入れる。
そして、二人は目標の村──ミックスコアトルへと向かっていった。
◇ミックスコアトル村
「くそっ!どうしてこうなった!?」
のび太は水の中を歩きながら、悪態をつく。
あれからのび太とアリスはミックスコアトル村へとやって来たのだが、待っていたのはゾンビによる大歓迎だった。
勿論、応戦しつつ進んだのび太だったが、途中で村の水位が上がってきた上に、T─ウィルスによって凶暴化したピラニアや水の中を進んできたハンターyの奇襲、更には建物の倒壊などによって、のび太とアリスは分断されてしまったのだ。
現在は目の前にあるほとんど倒壊同然の教会を目指して水の中を進んでいる。
「あのピラニアは襲ってきたりしないかな?」
のび太は周囲を警戒する。
こんなところであの凶暴化したピラニアに襲い掛かられたら堪らないからだ。
まあ、それを言ったらハンターyが襲ってきたとしても一環の終わりという点ではほぼ同じなのだが、ピラニアの方が小さい分、狙いにくいので脅威的に映る。
しかし、予想に反してハンターyやピラニアの襲撃はなく、のび太は無事に教会の床へと上がることに成功した。
「よいしょっと。・・・ん?」
床へと上がったのび太はそこで奇妙なことに気づく。
歌が聞こえてきたのだ。
それも良い音色の歌が。
「誰かこんな状況で歌でも歌っているのかな」
のび太はそう思いながら、教会の扉を開く。
すると──
「うっ」
のび太は固まってしまった。
そこにはその歌の歌い主である南米と白人の混ぜたような顔立ちをした少女が一人居る。
おそらくはハーフだろうが、それは今はどうでも良い。
問題なのは、その近くに居る両生類を思わせる巨大な
「・・・」
のび太はごくりと喉を鳴らす。
今のところ、そのBOWは少女に襲い掛かる気配はないが、これから何時襲い掛かるか分からないが、かといってこんなタイミングで刺激するわけにもいかない。
しかし、そうこうしているうちにのび太の存在に気づいたのか、少女は歌を歌うことを止めた。
すると──
ガオオオォォオオ
どういうわけか、その歌が止むと同時にその巨大なBOWは暴れだした。
そして、近くに居たのび太に敵意の視線を向けながら水の中へと潜っていく。
「不味い!」
のび太は一旦外へと出る。
一見、逃げたように見えるが、それが見た側の勝手な思い込みの可能性も有るからだ。
いや、先程の敵意の視線から見れば、むしろ、その方が可能性が高い。
のび太は辺り一帯が水であり、自分の方が不利ということも踏まえて、一気に決着をつけるべくM4カービン・アサルトライフル(30発STANAGマガジン装着)を構える。
ちなみにモードは三点バーストであり、昨日のうちにマガジンを交換していたことや今の今までスペアポケットに仕舞われたままだったこともあって弾丸は満タンに装填されていた。
「・・・!?」
その時、そのBOW──ヒルダは水中の中からのび太に飛び掛かってきた。
ドドド ドドド
1連射につき3発のペースで5、56ミリNATO弾は発射され、ヒルダに向けて着弾していく。
拳銃とは違い、アサルトライフルは人間の肉体をも容易に貫通する威力を秘めている。
その為、ヒルダもこの銃撃には堪らなかったのか、飛び掛かる途中でのび太の8メートル先の床へと落ちた。
そして、そこをすかさずのび太は三点バーストからフルオートにモードを切り換えて、残った弾丸を全てヒルダに叩き込んだ。
ギャオオオオオオ
ヒルダは悲鳴をあげながら水中へと戻り、そのまま泳いで逃げていった。
それを確認すると、のび太はM4カービンをスペアポケットに仕舞おうとしたが、それは1つの怒号によって掻き消される。
「動くな!」
いつの間にか、二人の男がのび太の背後に迫っていた。
そして、その二人のうち、筋肉ムチムチの男の方がそう言いながらのび太に拳銃──H&K MARK23を突き付けてくる。
(しまった!戦闘に集中しすぎて気づかなかった!!)
のび太は自分の失態を内心で罵りながら銃を突き付けてくる二人組の存在を見るが、それは物凄く見覚えのある顔だった。
(よく見たら、こいつら僕たちが後を追う筈だったアメリカのエージェントじゃないか)
そう、それはジャック・クラウザーとレオン・S・ケネディというのび太達がその後を追う事になっていた二人の男であった。
つまり、のび太は追う筈だった二人に逆に追われる形になってしまっていたのだ。
間抜けなことこの上無かった。
「早く銃を捨てろ!!」
筋肉ムチムチの男──クラウザーはそう言いながら、銃を捨てるように再度のび太に警告してくる。
イケメンな顔立ちをした男──レオンの方は子供が相手ということもあってか、クラウザーのように銃こそ突きつけてはいなかったが、その目はクラウザーに負けず劣らず鋭いものだ。
ガチャッ
のび太は素直にM4カービンを捨てた。
どのみち弾切れになっている銃だ。
持っているだけで命の危険を招く可能性が高いならば、いっそ捨てた方が良いだろう。
そして、その事が功を奏したのか、クラウザーは一旦銃を下ろし、レオンも少し警戒を解く。
しかし、のび太の方はと言えば、かなり迷っていた。
(どうしよう!!まさか、こんな形で接触するなんて!!)
のび太は二人に接触することは想定のうちの1つとして、頭の中には入れていたが、まさかこんな形で接触することになるとは思っておらず、少しばかり混乱していた。
だが、二人から警戒が少し解けたのを見ると、少しばかり冷静さが戻ってくる。
(接触してしまったものはしょうがない。隙を見て閃光手榴弾を使って逃げよう)
のび太はそう思いながら、ここは敵意を引っ込める事にする。
しかし、結果からその必要は無かった。
「あっ!」
のび太は思わず、二人の背後に居た存在に声を上げてしまう。
そののび太の様子を見た二人は、のび太の行動を不審に思ったが、直後、彼らは首筋に鈍い痛みを感じて、次の瞬間には意識を失った。
「大丈夫だった?」
そして、彼らの背後に居た存在──アリスは心配そうにのび太に声をかける。
「は、はい。大丈夫です。それより、教会の中に負傷している女の子が一人居て・・・」
「分かったわ。じゃあ、行きましょう」
「はい!・・・あっ、この人たちは?」
「放っておきなさい。彼らもエージェントだから、自分で何とかするでしょう」
そう冷たく言いながら、アリスは先に教会の中へと入っていく。
「は、はぁ・・・」
そして、のび太は先程捨てたM4カービンを拾ってスペアポケットの中へと入れると、少々心配ぎみに二人の様子を見ながら、アリスに続いて少女が居るであろう教会へと入っていった。
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戦いへの問い
◇西暦2021年 1月15日 朝 教会
「・・・」
アリスは少女──マヌエラの右腕を見ながら険しい顔をする。
そこは包帯で覆われていたのだが、アリスが少々強引に剥ぎ取り、彼女はその変色した腕を晒すことになったのだ。
その強引ぶりにのび太は少々眉をしかめるが、ここは同性であるアリスに任せた方が良いと、敢えて沈黙という選択肢を選択した。
「・・・これは、何かのウィルスを打たれたのね」
「何かのウィルスって、T─ウィルス関係ですか?」
「そうね。でも、それだけじゃないわ」
アリスは直感的にそう思った。
ちなみにアリスはマヌエラに打たれたT─ベロニカ・ウィルスの存在を知らない。
アリスもラクーンシティの研究所に居ただけあり、T─ウィルスのことは勿論知っていたし、G─ウィルスについても噂程度なら知っていた。
しかし、T─ベロニカ・ウィルスについてはラクーンシティから遠く離れた場所で研究されていた為、戦闘員ではあるが研究者ではない彼女はその存在を全く知らなかったのだ。
そして、当然、のび太も知らないし、他の仲間も誰も知らない。
と言うより、世界中を基準にしてもアンブレラ研究者以外の人間で知っている人間の方が少ない。
精々、先月の始めにその脅威を直に味わったクレア・レッドフィールドやクレアの兄であるクリス・レッドフィールドやその敵対者であるアルバート・ウェスカー、更には直に見てはいないが、クレアの話を聞いてそのウィルスの事を認知していたレオン・S・ケネディくらいしか居ないだろう。
もっとも、そのうちレオンは先程アリスによって気絶させられているのだが。
(それにしても変ね。ウィルスを完全に制御できる人はこんな影響は出ない。でも、この子は出るのに化け物化している)
T─ウィルス関連のウィルスを受けて辿るのは2つしかない。
1つはゾンビや化け物などの変異体になる者。
これは抗体を持っている者も同じだ。
二つ目がアリスのようなウィルスを制御してその力を得る者。
しかし、彼女はそのどちらでもない。
ウィルスを制御できるわけではなく、かと思えばゾンビにも化け物にもなるわけではない。
言い換えれば、不安定な存在だ。
「・・・」
アリスは迷う。
少女をここで始末してしまうかどうかを。
だが、そんなアリスの様子を察したのか、のび太はこう言った。
「アリスさん、一旦連れ帰りましょう。・・・処置はその後で考えれば良いと思います」
「・・・そうね」
アリスは一応頷くと、マヌエラの包帯を巻き直す。
そして、3人はその後、ミックスコアトル村を出ていった。
◇同日 昼 水中
1隻の船が水中を進みながらハヴィエの居城へと向かっている。
それはのび太とアリス、更にはマヌエラを回収したドラえもん達の船だ。
「凄いですね。この船」
そう言ったのは渚。
少しばかりのび太達の都合で今回の案件に付き合わせてしまった少女である。
そして、彼女が言ったように、この船はただの船ではない。
未来の22世紀で造られた船であり、海中も航行できる代物だ。
「まあね。改めて言うけど、悪いね。付き合わせちゃって。これが終わったらすぐに送るから」
「い、いえ!助けてもらった以上、それは構わないのですが・・・私は戦うことなんて・・・」
「ああ、それは構わないよ。ただこの船で待機してくれるだけで良いんだ。それに僕たちの用事だって、おそらく今日中に終わるだろうからね」
のび太はそう言うが、実のところ今日中に終わるという保証など何処にもなかった。
ハヴィエの居城はこの先のダムにあるらしく、マヌエラの話では彼女はそこから逃げ出してきたらしいが、内部構造を何処まで知っているかは疑問であったからだ。
だが、なんとなくのび太は今日中に決着がつくと感じていた。
それが何故かは分からなかったが。
「そうですか・・・」
「ごめんね。君の家族もおそらく心配してるのに」
「いえ。どころで、あの・・・」
「ん?」
「あなた方は何故このような戦いを?」
渚はそれをずっと疑問に思っていた事を口にする。
特にのび太は自分と同年代くらいの人間であり、名前からして日本人なので、本来ならこのようなどころで戦争の真似事のような事をしているのはどう考えても違和感が有りまくりだった。
実際、彼女とのび太は同学年であり、もし何かの運命の悪戯があれば、クラスメートとなっても可笑しくはない者同士だったのだ。
「それは・・・」
のび太は答えようとしたが、言葉に詰まってしまう。
なんのために戦うか?
それはのび太が無意識のうちにずっと思っていたことだった。
そもそも行動原理の明確な点はアンブレラの恨みからではない。
両親を殺し、自分達が住む街をメチャクチャにされた以上、無いと言えば嘘になるが、それでも復讐を考えるまでアンブレラに恨みが有るわけではなかった。
それよりのび太が抱いたのは──
(こんなことを起こした連中。・・・いや、もしかしたら)
そこでのび太は気づかされた。
自分が抱いているのは、アンブレラへの恨みではなく、バイオテロそのものだということに。
「・・・」
「ご、ごめんなさい!失礼でしたか?」
「いや、そんなことはないよ。それより、さっきの質問だけど、僕はバイオテロを許せないんだ」
のび太は初めて“本音”を口にした。
◇
一方、アリスに気絶させられたクラウザーとレオンだったが、現在は意識を取り戻し、ハヴィエの居城に向かうためにボートを準備中だった。
「くそっ!とんだ任務だぜ!!」
クラウザーは悪態をつく。
この任務に参加するためにこの国の国境付近でドタバタ劇をする羽目になり、レオンと合流してミックスコアトル村に着いたら着いたで、ゾンビに襲われるわ、ハヴィエの居城への案内人は殺されるわ、挙げ句の果てに何がなんだかわからないうちに背後からの攻撃で気絶させるわでろくな事が無かった。
おまけに肝心のハヴィエの居城は手探りで探らなければならないと来ている。
クラウザーは悪態をつくのも当然と言えた。
「・・・」
そんな中、レオンは先程会ったのび太の事を思い返し、4ヶ月前に出会い、現在は政府に“保護”されている12歳の少女──シェリー・バーキンの顔を思い浮かべた。
4ヶ月前。
彼は新人警官であり、興味本意からラクーンシティへの配属を志望し、それは叶ったのだが、それが原因で恋人とは別れてしまい、やけ酒を飲んだことで配属初日から盛大に遅刻してしまう。
だが、今から思えば遅刻してもしなくても同じだっただろう。
いや、遅刻していなかったら、あの地獄のような街で一晩ではなく、下手すれば一生過ごすことになりかねなかったのだから、むしろ遅刻したのは半ば幸運とも言える。
しかし、脱出した後、クレアとは別れ、自分とシェリーは政府に保護されることになったのだが、それが問題だった。
政府が自分にエージェントとなるように強要してきたのだ。
しかも、断ればシェリーの安全を保証しないと脅す形で。
G─ウィルスを植え付けられ、ウェスカーに狙われる可能性を考えると、彼がそれを断るという選択肢はなく、彼は渋々アメリカのとある特務機関に所属することとなった。
──しかし、彼は今の状況が良いとは思っていない。
理由としてはそもそも前提が間違っており、シェリーは合衆国政府に保護されているとは言ったものの、シェリーにやっていることは人体実験であることはレオンも知っている。
一応、G─ウィルスの変異が無いかどうかのチェックだとは言っていたが、それだけではないのはすぐに分かった。
おまけに彼女の自由すらろくに無いと来ては、レオンが不満に思うのも無理はない。
しかし、レオンも一度条件を飲んだ以上、それを裏切るわけにもいかないのだ。
(俺はなんのために戦っているんだろうな)
奇しくも、のび太と同じ心の悩みをレオンは抱いていた。
ただ彼とのび太が違うのは、レオンはバイオテロやアンブレラを倒そうと努力しているが、シェリーを不遇に扱うアメリカにも相応の不満を持っているという少しばかり濁った心なのに対して、のび太はなんのために戦うか分からなかっただけで、その信念は真っ直ぐだという点だろう。
要するに、大人と子供の考え方の違いなのだ。
「おい、準備できた。行くぞ」
「ああ」
そして、そんな悩みを誰にも話せないまま、レオンはのび太達の後を追う形でハヴィエの居城へと向かった。
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ハヴィエの居城
◇西暦2021年 1月15日 昼 南米 某国 ハヴィエの居城
のび太とアリスはマヌエラを伴い、3人で上陸し、ハヴィエの居城であるダムへと侵入した。
「・・・ふぅ。君、よくこんなのから逃げ出せたね」
のび太はFive-seveNをホルスターに仕舞いながらマヌエラに感心の言葉を述べる。
ダムへと侵入したのび太達は早速、ハンターyとハンターより機動力の高いのが売りの新型BOW──アヌビスによる歓迎を受けた。
だが、こんなBOWが蔓延った場所からよく抜け出せたものだと、のび太はマヌエラに感心の念を抱いている。
普通、こんなのがあちこちに居て、しかも丸腰であれば、のび太であっても脱走するなどほぼ不可能だからだ。
しかし、その言葉に対して、マヌエラは首を横に振りながらこう言った。
「知らない。私がここから逃げ出した時はこんなの居なかったわ」
「そっか」
であれば、おそらくハヴィエがマヌエラが脱走したことに気づいたのは、脱走した後だったのだろう。
その後、慌ててアンブレラから手に入れたであろうBOWを放って出入り口を封鎖した。
幾つか疑問はあるが、だいたいはそんなところだとのび太は思い、それ以上マヌエラに対して何も言わない。
「ところで、このままあの道を行けば良いの?」
「ええ」
「分かった。じゃあ、行きましょう。アリスさん」
「そうね」
その時、アリスはマヌエラにある疑惑の目を向けていたが、素直にのび太の言葉に頷き、一行は奥へと入っていった。
◇水路
(また何か出てきそうな場所だな)
のび太は嫌そうな顔をしながら、警戒の色を強める。
たいていこういう静かな場所では敵が出てくると相場が決まっているからだ。
見ればアリスも同様に思っていたのか、警戒を強めている。
そして、水路の橋の中間付近に達した時、予想通り敵はやって来た。
「! ピラニアか!?」
それはピラニアの大群だった。
水路の入り口から侵入してきてトビウオのような動きでのび太へと襲い掛かっていく。
のび太はFive-seveN、アリスはデザートイーグル・44マグナムバージョンを用いて応戦する。
しかし、ピラニアはあまりに小さく、加えてアリスはのび太程の射撃技術を持っていなかった故に、間合いを取るために無意識のうちに足を引くことになった。
だが──
「! しまった!?」
アリスは足を踏み外して水路に落ちる。
「アリスさん!?」
のび太は絶叫する。
幸い、アリスの流された方向がピラニアがやって来る方向と正反対なのが救いだったが、それでも危険な状態には変わりない。
のび太はそう判断すると、ピラニアに応戦を続けながら、自らは水路を渡りきって岸側からアリスを助けることを試みる。
だが──
キシャアアアア
そこにアヌビスが2体ほど現れた。
「ええい!邪魔だ!!」
のび太はそう叫びながら、Five-seveNを引き抜き、即座に発砲する。
アヌビスは機動力こそハンターを上回っているが、引き換えに防御力を落としており、Five-seveNで倒すのは決して不可能ではない。
おまけに2丁拳銃状態だったこともあり、2体のアヌビスは同時にダメージを与えられ、数発の攻撃の末に倒れる。
「アリスさん!?」
「大丈夫よ」
そして、改めてアリスを助けに行こうとしたが、その頃にはアリスはいつの間にかのび太より先に橋を渡っていたマヌエラの手を借り、水路をどうにか脱出してのび太の居る岸まで辿り着いていた。
「大丈夫ですか?」
「ええ、なんとかね。それより早く行きましょう。これは確実に罠を張っているわ」
アリスはそう断言した。
先程は単にBOWが封鎖していた場所に偶々出くわしてしまっただけと思っていたが、もはや疑いの余地なく敵は待ち伏せを行っている。
本来ならここで撤退するべきなのかもしれないが、それだと水中に隠している船が発見されてしまう可能性があり、残っている渚とドラえもんが危機に晒されてしまう。
となると、前進するしかないだろう。
「・・・分かりました。行きましょう」
のび太は頷き、再度、3人は先へと進んでいく。
◇
ドン!ドン!ドン!
「・・・・・・ん?」
銃声のなりしきる中、のび太はゆっくりと目を開けた。
まだ寝惚けたような感じに周囲を見渡すと、そこは最初にBOWと遭遇した入り口付近だった。
(そうか。僕達はあの後流されて・・・)
あの後、奥へ進んだのび太達はハヴィエと遭遇したが、ハヴィエの張った罠によって濁流に流されてしまったのだ。
そして、どうやらここまで流されて、すごろくでよくある“振り出しに戻る”を実体検させられてしまったらしい。
しかし、そんなのび太の馬鹿げた思考は次のアリスの言葉で一気に吹き飛んだ。
「急いで起きて!敵が来ているわ!!」
敵。
よく見れば、ハンターyやアヌビスが水辺から次々とやって来ている。
のび太はそれを確認して、一気に目が覚めた。
そして、Five-seveNを引き抜くと、次々ハンターyやアヌビスをやっつけていく。
あんな濁流に流されてかなり水を吸っている(それどころか、浸かっている可能性大)筈なのにも関わらず、正常に動く銃には驚かされるが、そこは突っ込んではいけない。
その後、一通り掃討したのび太達は自分達の状況と装備をまず確認する。
「銃は・・・全部あるわね。手榴弾は幾つか流されちゃったけど、スペアポケットに予備があるから良し。そっちはどう?」
「こっちも概ね似たようなものです。でも、マヌエラは・・・」
そう、マヌエラは既にのび太達と分断されてしまっている。
早めに元の場所まで行ってマヌエラを奪還しなければならないだろう。
そう思い、先を急ごうとするのび太だったが、アリスはそれを呼び止める。
「待って!」
「どうしたんです?早く行かないと・・・」
「マヌエラについてどう思う?」
いきなり訳の分からないことを聞かれたのび太は面食らったが、アリスの顔は真剣であり、のび太はその質問の意味を考える。
(そう言えば、ハヴィエって人、マヌエラの事を娘って言っていたような気が・・・)
マヌエラがハヴィエの娘だった。
この事実には驚いたが、はっきり言えばのび太からすればどうでも良い情報だ。
血縁関係が有ろうと無かろうとマヌエラとハヴィエは別人だとのび太は捉えていたし、それで裏切られるなら裏切られるで騙された自分達が悪い。
死人も居ないことだし、アリスの言っていることはこれではないだろうと推測し、のび太は次に気になったハヴィエの言葉の意味を考える。
(あと15年我慢すれば良いというのはどういう意味かな?)
のび太はそれも疑問に思った。
しかし、多分だが、あの変色した腕に何か関係があると感じている。
治療のような事を言っていたので、どう考えてもそれしか当てはまるようなものは無かったからだ。
まあ、いずれにせよ、今持っている情報だけでは所詮は推測にすぎない結論しか出せない。
よって、のび太は明確な答えを出すことは出来なかった。
「・・・さあ、分かりません。何か問題が?」
「おそらくだけど、あの娘、ハヴィエの娘よ」
「ああ、その事ですか」
のび太は深く考えすぎていたことに内心で苦笑する。
そして、おそらくアリスが言いたいのはマヌエラを裏切ったのではないかという疑惑だろう。
何故なら、あの会話からハヴィエとマヌエラが親子の関係であることは簡単に察することが出来るのだから。
「それは直接本人に会って聞きましょう。今、僕たちが考えてもしょうがないことだと思います」
そう、その事については深く考えてもしょうがないのだ。
幸い死人も居ないことだし、本人に直接聞いた方が良いとのび太は思っていた。
「・・・意外と大人みたいな考えをしているのね」
「そうですか?」
「ええ、でも、分かったわ。あなたの言葉に免じて、私もあの娘への疑いは保留にするわ」
「ありがとうございます」
のび太はそう言いながら先へ行こうとし、アリスもその後に続こうとしたが、その時、二人の男がこの広間に現れた。
「動くな!」
それはアリスに気絶させられ、仕方なく案内人抜きにこのハヴィエの居城へとやって来たアメリカのエージェントの二人組──クラウザーとレオンだった。
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不自然な問い
◇西暦2021年 1月15日 昼 南米 某国 ハヴィエの居城
(くそっ!まさか、こんなときに)
のび太は状況の不味さに舌打ちをする。
この状況は一見すれば、レオンとクラウザーが圧倒的有利だ。
クラウザーはH&K MARK23、レオンはH&K VP70をそれぞれ構えており、のび太達に向けているのだから。
しかし、彼らはのび太の早撃ち技術を知らない上に、彼らの人数も二人にすぎないため、2丁拳銃ならば余裕をもって無力化することが可能だ。
おまけに時間もないので、素早く彼らを片付けようとのび太は意識を集中する。
だが、先に行動をしたのはアリスだった。
「待って、少し話を聞いてくれない?」
アリスは両腕を上に挙げながら、二人にそう話しかける。
「・・・なんだ?」
だが、二人は銃を下ろさない。
当然のことだ。
状況から見て、目の前の女性が村で自分達を気絶させた人間であろうことは容易に想像がつくし、のび太の方は見るからに戦闘態勢といった感じだったのだから。
だが、それでも話くらいは聞いてくれるようだった。
「あなた達はこのハヴィエの居城への侵入者の方の側よね?だったら、私達がこの施設を案内できるんだけど?」
「アリスさん!?」
のび太はアリスの提案に驚く。
そもそもマヌエラが居ない以上、自分達も彼らとそう状況は変わらない。
まあ、彼らは今来たばかりの分、ハヴィエと出会ったところまでは一通り通ってきた自分達の方が多少は情報は持っているのだが、逆に言えばそれ以上の情報はないのだ。
加えて、それで彼らが警戒を解くとは思えない。
何しろ、アリスは一度彼らを気絶させているのだから。
のび太にはアリスが何を考えているのかさっぱり分からなかったが、アリスが目配せで“信じてくれ”といった感じの視線を送るので、取り敢えず信じることにした。
そして、アリスの言葉を聞いて、二人の男の内、レオンがこう話し掛けてくる。
「それが本当ならありがたいが・・・あんたは俺達を気絶させた奴だろう?一概に信用は出来ないな」
「あら?あなた達こそ、子供に銃を向けていたじゃない。言っておくけど、その子はまだ11よ」
「アフリカではよくある光景さ」
アリスの言葉に返したのはクラウザーだった。
アメリカの特殊作戦軍に所属していた彼はこれまで様々な戦場を回っており、その中には当然アフリカも含まれている。
そして、彼はそのアフリカで散々のび太のような年齢の子供が銃を持って少年兵をやっているのを見ているのだ。
そんな彼からすれば、のび太が銃を握るのは珍しくはあれども見慣れた光景ではあるものであり、銃を向けて警戒するに値するものだった。
「ここはアフリカじゃなかったと思うけど?」
「治安が悪いという意味では同じさ」
アリスのクラウザーの応酬は続くが、その様子を見かねたのか、レオンは自分が構えていた銃を下ろしながら、クラウザーにこう言った。
「もう止めよう、クラウザー。こんなことをしていても時間の無駄だ」
「レオン・・・ちっ、分かったよ」
渋々ながらもクラウザーも銃口を下げる。
「分かれば良いわ。行きましょう」
それを確認すると、アリスはのび太に向かってそう言い、のび太はそれに軽く頷くと、アリスと共に先へと進み、クラウザーとレオンもまた彼女らに続いてその場を後にした。
◇
「・・・なぁ」
「はい?僕ですか?」
アリスを先頭にして先程来た道を順調に進んでいるのび太達であったが、ふとレオンがのび太に向かって話し掛けてきた。
「君は11と聞いたが、それは本当か?」
「はい。ああ、もしかして11に見えなかったとか?そう言えば、西洋人からみた東洋人は実年齢の数歳若く見えるって話を聞いたことがありますが、もしかしてそれですか?」
「ああ、いや・・・まあ、それも有るんだがな」
何処か歯切れが悪そうに言うレオンだったが、それでも埒が明かないと判断したのか、意を決して話し始める。
「何故、君はなんで戦いをするんだ?」
「・・・何言ってるんです?」
のび太は今度こそ正真正銘、レオンが何を言っているのか分からなかった。
「いや、言葉が足りなさすぎたな。私はラクーンシティという街で女の子を12歳の女の子を助けたんだ」
レオンはまずそう説明するが、ラクーンシティという単語に内心でドキリとする。
それもその筈、レオンもそうであるが、のび太もラクーンシティの生き残りの一人であり、アリスもまた同じだ。
と言うより、今居る4人の中ではクラウザー以外はバイオハザードをラクーンシティを経験した人間と見て良いだろう。
まあ、のび太の場合、不法入国なので絶対に人には言えないのだが。
「だが、その女の子は一切戦えず、俺たちが守ることになったんだが、はっきり言えば君くらいの年齢は大人の加護が必要だと思う。だが、君は初見でBOWと戦って撃退している。何故、そこまで戦えるのか知りたくてな」
「?」
そう質問されたのび太だが、何故こんな質問をするのか分からず、改めて首を傾げたが、取り敢えず答えることにした。
「そりゃあ、やらないと死ぬからでしょう」
単純明解。
実際、バイオハザードではやらなければやられるのだ。
逃げるという手段もあるが、それで最後まで生き残れる確実は限りなく0だ。
だからこそ、のび太は戦うという選択肢を取った。
しかし、こんな当たり前の事はアリスに聞いたとしても同じ解答が返ってくるだろう。
何故、わざわざ自分に聞くのだろうか?
のび太はそう思った。
「そうか・・・」
レオンは何処か複雑な表情をしながらそう言った。
「今度は僕が聞いても良いですか?」
「なんだ?」
「その助けた女の子はその後、どうなったんです?」
のび太はそれが気になった。
と言っても、何かしらの意図があったわけではなく、単に興味本意で聞いただけだ。
しかし、その質問をした途端、レオンは眉をしかめてしまう。
「・・・ごめんなさい。不味い質問でしたか?」
「いや、元気でやっているよ。ちょっと窮屈な思いはしているがね」
「そうですか。でも、驚かさないでくださいよ。てっきり、その女の子が助かった後に政府がウィルスの検査とかなんとか言って何かしらの研究機関に送って人体実験でもしているんじゃないかとか思っちゃいましたよ。アハハ」
のび太はそう言いながら笑うが、実を言うとこれはのび太が自分を含めたバイオハザードの生き残りに将来起こりうる可能性の1つとして前々から懸念しているものだった。
特に自分やアリスのようなウィルス適合者は実験台行きだろうという事は薄々感づいており、だからこそ西住みほには絶対に自分のプラーガの事を言うなと別れるときに釘を刺したのだ。
「・・・」
しかし、その発言を聞いたレオンは足を止めて表情を凍りつかせてしまった。
「どうしたんですか?」
「それを・・・誰から聞いた?」
「はぁ?」
のび太は意味がよく分からず、怪訝な表情をする。
だが、レオンがそういう対応をするのもある意味当然と言えた。
何故なら、のび太の中では懸念で終わっているこの可能性だが、レオンの中では現実のものとなっている事なのだから。
勿論、のび太はレオンがラクーンシティで助けた少女──シェリー・バーキンがG─ウィルスを撃ち込まれた適合者であることを知っている訳ではない。
と言うより、そもそも存在すら知らない。
何故なら、ラクーンシティで遭遇しなかった上に、アメリカ政府がアンブレラ、特にウェスカー(この時点でウェスカーはHCFという組織に移籍しているのだが、その事は知られていない)にバレないように厳重に情報封鎖を行っているのだから。
おまけにのび太の例は偶然にも全てドンピシャであり、偶然というより最初から知っていたという方が説得力があった。
「何を言っているんですか?全て僕の想像、いや、推測ですけど・・・」
「・・・そうか」
「?」
のび太はレオンの反応にまたもや首を傾げる。
(なんなんだ、この人。さっきから変な質問ばかりするな)
のび太は先程から妙な質問ばかりしてくるレオンに不審感を込めた視線を送る。
そのまま追求しようか迷ったのび太だったが、その時、背後から一人の少女の声が聞こえてきた。
「のび太!アリス!」
そう言って後ろの方からやって来たのは、マヌエラだった。
「マヌエラ!どうしてここに!?」
のび太は目を見開いて驚く。
てっきり、あのハヴィエという人物と一緒に居るだろうと思っていたからだ。
「二人が流された後に私も飛び込んだの!」
「なっ!なんて無茶なことを!?」
あの水の流れはかなり速かった。
それは実際に流されたのび太だからこそ断言できることだ。
彼女はそんなところに飛び込んで追ってきたと言う。
しかも、わざわざ父親らしき人物に逆らって。
驚くのも当然だった。
しかし、そんなマヌエラに対して、アリスはこう問い詰める。
「ねぇ、マヌエラ。全部話してくれる?」
そう言うアリスの顔は全く笑っていなかった。
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V・コンプレックス・ヒルダ
◇西暦2021年 1月15日 夕方 南米 某国 アムパロ
「・・・」
のび太は目の前の光景に絶句していた。
あれからのび太とアリスは正式にレオンとクラウザーと共闘することになり、マヌエラを救うためにハヴィエの居城に再び乗り込んだ。
その際、マヌエラの処遇について少々揉めることになったが、どうにか殺すことは避けられることになった。
もっとも、化け物に変わったら、アリスが即処分するのだろうが。
こう見ると、アリスも結構非情な性格に見えるが、彼女もまた仲間を守ろうと必死なだけなのだ。
更に言えば、もし非情で冷たい人間ならば、のび太の説得には一応でも応じてくれることは無かっただろう。
そして、ハヴィエと接触した元アンブレラ職員の成の果てであろう遺体が放置され、巨大な植物が存在した植物園のような広間を抜けて現在は研究室らしき場所に着いたのだが、そこには臓器を剥ぎ取られ、ホルマリン漬けにされた少女達の姿があった。
その中には緑川聖奈の姿もある。
「そ、そんな・・・」
のび太は愕然とした様子で膝を崩しながらへたり込んでしまう。
それはそうだろう。
わざわざ南米まで彼女を取り戻しに追いかけてきてみれば、その当の彼女はこうして無惨な姿を晒しているのだから。
同じく彼女の事を知っているアリスもまた言葉が出なかった。
唯一、平然としていられたのはレオンとクラウザーだったが、こんなものを見て気分が良いわけもなく、眉をしかめている。
その時──
「うぅ!!」
マヌエラが突如として苦しみ出した。
「マヌエラ!?」
レオンが慌てて心配そうに駆け寄る。
しかし、マヌエラの発作は治まらず、彼女は苦しみ続けていた。
「──臓器を取り換え続けるしかないのだ」
そう言いながら、研究施設に入ってくるサングラスの男。
言うまでもなくマヌエラの父、ハヴィエ・ヒダルゴである。
「何だと?」
咄嗟にクラウザーは銃を向け、続けてショックから立ち直ったアリスもまたデザートイーグルを向けるが、流石にそういった修羅場は潜り抜けてきたのか、ハヴィエがそれで怯む様子は無かった。
「それがウィルスの暴走を防ぐ方法だ。・・・だが、それも15年で終わ──」
ドドド
しかし、ハヴィエの話が最後まで終わらぬうちに、3つの連続した銃声が鳴り響く。
「「「「!?」」」」
そこに居た全員は銃声の元である人物に一斉に振り向く。
そして、その視線の先にはM4カービンを構えたのび太が居た。
なんの事はない。
のび太が三点バーストモードに設定されたM4カービンを発砲したのだ。
そして、発射された3発の5、56×45ミリNATO弾が話の途中だったハヴィエの体を貫いた。
事実はただそれだけである。
そして、肝心のハヴィエの怪我だが、のび太が少し冷静さを欠いてヘッドショットを行わなかった為に、即死という事態こそ避けられたが、アサルトライフルの弾丸を3発も立て続けに喰らって無事でいられる筈もなく、ハヴィエの体は崩れ落ちた。
その光景を見て、のび太は立ち上がりながらこう言う。
「・・・あんたの言いたいことも、したいことも分かったし、それは娘を助けたいという一面だけなら尊敬できるとも思う。だけど──」
のび太はそう言いながら、言葉を紡ぐ。
しかし、その目は他の面々が思わず黙ってしまうほど冷たかった。
「──あそこで臓器を剥ぎ取られた女の子の一人は僕にとっては大事な仲間の一人だったんだよ!!」
のび太は怒りに満ちた顔でハヴィエを睨む。
その気迫は見る人が見れば、のび太の中でも最上級の怒りだという事がすぐに分かっただろう。
それほどのび太は怒っていた。
そして、その視線を向けられたハヴィエは銃撃を受けたこともあってか、忌々しそうにのび太を見るが、先程のび太が行った銃撃は彼に致命傷を負わせており、徐々に意識が遠退いていく。
(これが末路、か。・・・マヌエラ)
──ハヴィエは最期に娘の事を想いながら、ゆっくりと永遠に覚めることのない夢へと旅立っていった。
◇
「・・・」
ここはのび太達が先程通った植物園。
そこでは1つの巨大な植物を見上げる1体のBOW──ヒルダが居る。
その視線は何かを待っているようだった。
グチャア
突如、巨大な植物の花が開かれ、ヒルダを呑み込もうとしていた。
しかし、そんな光景を前にしてもヒルダは動かず、ただ黙ってその開かれた花を見つめている。
そして、数秒後、ヒルダはその花によって呑み込まれ、その巨大な植物と一体化することとなり、1体の巨大なBOW──V・コンプレックス・ヒルダが造成された。
◇
ゴゴゴゴゴゴ
「・・・なんだ?」
レオンは突如聞こえてきた音と地響きに驚く。
しかし、それがただならぬ事態が起きているというのはなんとなく理解でき、すぐさまマヌエラを連れて外に出ようとする。
そして、それは他の3人も同じであり、彼らもまた外に出た方が良いと判断してレオンとマヌエラの後に続いて外へと出る。
すると──
「なっ!?」
一同は絶句せざるを得なかった。
何故なら、そこに居たのは体長だけで20メートルは行くであろう植物型のBOWだったのだから。
おそらく日本の怪獣映画好きの人間がこれを見れば、某怪獣王の細胞から造られた植物怪獣を思い浮かべるだろう。
おまけに──
「あっ!あいつは!?」
のび太は巨大な植物型BOWの開かれた花の部分の中央に見覚えがあった。
それはミックスコアトル村で自分を襲撃してきた水棲昆虫のような容姿をしたあのBOWそのものだったからだ。
そして、今はどういう訳か、あの植物と合体している。
のび太には何故そうなったのかさっぱり分からなかった。
そんな感じに、未だかつてない巨大なBOWを目にして呆然としていた5人であったが、そのBOW──V・コンプレックス・ヒルダからの敵意を感じ取ると、すぐさまマヌエラ以外の全員が戦闘態勢へと移行する。
──しかし、それより先にV・コンプレックス・ヒルダが行動する方が僅かに早かった。
「と、跳んだ!?」
巨大なそれが“跳んだ”という光景にのび太達は驚きの目で見ていたが、それも一瞬であり、次の瞬間には我に帰り、のび太はS─ウィルス、アリスはT─ウィルス、レオンやクラウザーはその鍛えられた体の身体能力をそれぞれ駆使して回避を行う。
そして──
ドッシィイイイイン
凄まじい轟音と共に、V・コンプレックス・ヒルダが盛大に着地した。
のび太は着地によって巻き起こった旋風によって少しばかり体を飛ばされたが、なんとか着地して態勢を建て直す。
だが──
「クラウザー!」
マヌエラの悲鳴が聞こえ、のび太がそちらを見ると、そこには立ち竦むマヌエラとV・コンプレックス・ヒルダの前足によって踏み潰されたクラウザーの姿があった。
そして、彼の上半身は丸々潰れており、既に事切れているというのはすぐに分かってしまう。
「くそっ!!」
のび太は仲間の一人が死んだことに悔しげに悪態をつく。
しかし、クラウザーの死を知ってか知らずか、レオンはH&K VP70、アリスはデザートイーグル・44マグナムバージョンを用いて、それぞれV・コンプレックス・ヒルダに対して反撃を行っていた。
その光景を見たのび太も援護しようと、M4カービンを構える。
しかし──
「あれ?」
その手にM4カービンの感触はない。
気になって辺りを見ると、10メートルくらい先にそのM4カービンの姿があった。
どうやら先程の衝撃でのび太が飛ばされた際に、のび太の手から放れてそこまで飛んでしまったらしい。
それを見てのび太はFive-seveNをホルスターから取り出す、あるいはスペアポケットからデザートイーグル・44マグナムバージョンやH&K MP7・PDWを取り出して反撃しようか迷ったが、結局、それらの銃は火力的な問題からV・コンプレックス・ヒルダには通用しないと見てM4カービンを取りに行くことに決めた。
本来なら、スペアポケットにフエルミラーでコピーした予備のM4カービンを入れておくか、G36を代わりに取り出せば良かったのだが、あいにくフエルミラーでコピーしたM4カービンは全てジャイアン達に持たせてアジトで待っている出木杉達に送ってしまっているし、自分が持っていたG36もアリスに渡してしまっており、予備も保有していない。
それは兎も角、のび太はM4カービンを取りに行き、数秒後にはそれを手にしてV・コンプレックス・ヒルダの方を向いたのだが、そこで真っ先に目にしたのはレオンとマヌエラがV・コンプレックス・ヒルダの触手に踏み潰される寸前の光景だった。
「止めろぉぉぉおおお!!!」
絶叫の声を上げながら、のび太はM4カービンの銃弾を放とうとする。
しかし、無情にもその前にV・コンプレックス・ヒルダの触手がレオンとマヌエラに向かって振り下ろされた。
その時──
ボオオオオオ
マヌエラが振り上げた右手から淡いオレンジ色の光が巻き起こり、次いて接触したV・コンプレックス・ヒルダの前足が炎に包まれる。
「な、なんだ!?・・・いや、今がチャンスだ!」
のび太は何が起こっているのかは分からなかったが、チャンス到来と見て、V・コンプレックス・ヒルダに対して攻撃を開始する。
三点バーストモードでは効果が無いと判断して、初っぱなからフルオートに設定して5、56×45ミリNATO弾を続けざまにV・コンプレックス・ヒルダに叩き込んでいくが、全く効果が見られない。
だが、一応効いてはいるようで、反撃とばかりにV・コンプレックス・ヒルダから触手のような攻撃がのび太に向かって飛んでくる。
「あぶな!」
のび太は地面を転がりながら、どうにかそれをかわす。
そして、すぐに立ち上がると、少し離れた位置に移動して弾が無くなった30発STANAGマガジンを新しい物へと交換する。
「・・・何処撃てば良いんだよ」
そうしてM4カービンを構えるのび太だったが、何処を撃てば良いのか分からず、途方に暮れた。
一番の弱点はあの花の中心にある頭だろうが、蕾に覆われていてとてもではないが弾が届きそうではない。
ならば、周りから崩すのがこの場合の上策なのだが、日向穂島の島田千尋の時とは違って、目のような明らかな弱点は何処にもなく、他にも弱点がないかと探すが、これも無さそうに見えた。
実際、アリスもレオンも攻撃をかわしながらあちこちに銃弾を撃ち込んでいたが、どれも効果はない。
有効打になりそうなものが見つからない以上、手当たり次第に撃ち込むしかないかとのび太は考えるが、この状況を打開したのは、意外にもマヌエラだった。
「あそこを狙って!」
そう言いながら、マヌエラの右手から血がばら蒔かれると、それが炎となってV・コンプレックス・ヒルダの足の関節部分へと命中する。
「そうか!あそこをやれば!!」
足の関節部分をやれば、相手を転ばせることは出来る。
マヌエラに続く形でその事に思い至ったのび太はM4カービンの射撃を足の関節部分に集中させた。
レオン、アリスもそれに続く。
その甲斐あってか、足の1つの関節が外れてV・コンプレックス・ヒルダは転倒し、その衝撃によって花の内部が開いて弱点である顔が露出する。
「今だ!」
のび太はそう言いながらM4カービンを撃ちまくるが、マガジン内には既に8発しか残っておらず、その8発を発射しただけで撃ち止めになってしまう。
しかし、たった8発でもその効果は絶大だったようで、V・コンプレックス・ヒルダは悲鳴を上げる。
「やった!」
手応えあり。
のび太はそう思いながら、止めを刺す為に再装填の手間を惜しんだのか、M4カービンを一旦スペアポケットに仕舞い、代わりにH&K MP7(40発マガジン装着)を取り出す。
しかし、V・コンプレックス・ヒルダの方が僅かに早く態勢を整え、顔を再び蕾の中に仕舞いながら他の足へ使って後方へジャンプする。
「くそっ、惜しい!だが、弱点は分かった!!このまま行けば!」
のび太は再び足の関節部分を狙うことにして、MP7を発砲する。
だが、事はそう簡単にはいかなかった。
何故なら、V・コンプレックス・ヒルダはあちこちにジャンプを立て続けに行ってのび太達を翻弄し始めたからだ。
のび太達は踏み潰されないように必死に避ける。
その合間を縫って4人は必死に攻撃を行うが、相手が激しく動き回るため、全く当たらないし、当たっても大したダメージにはならなかった。
(くっ。何か有効な手はないのか?)
走り回ってV・コンプレックス・ヒルダの攻撃を回避しながら、のび太はそう考えるが、全く思い付かない。
一時的にでも止まれば、グレネードランチャーを使えるかもしれないが、問題なのはその止める方法だ。
しかし、のび太がそれを考えていた時、またもやマヌエラが打開策を打ち出した。
ボオオオオオオオ
マヌエラは一旦、右手で溜めの態勢を取ると、右手に大量の血を集中させ、それを一気に解き放ったのだ。
そして、その激しい炎はV・コンプレックス・ヒルダの全体を包み込んで炎上させた。
ガアァアアアア
V・コンプレックス・ヒルダは炎に巻かれながら悲鳴をあげ、再びその蕾から花の内部をさらけ出す。
チャンス到来。
のび太は素早くMP7を仕舞い、スペアポケットからM79グレネードランチャーを取り出すと、その頭部に向けて照準を着ける。
「これで最後だ!」
そう言いながら、のび太はM79グレネードランチャーの引き金を引く。
──そして、発射された40×46ミリ擲弾は頭部へと命中して爆発し、V・コンプレックス・ヒルダは遂に倒れることとなった。
◇
V・コンプレックス・ヒルダが倒れ込み、そして、炎上してその姿が徐々に消え去っていく。
その光景を横目で見ながら、のび太はマヌエラの元へと駆け寄った。
「マヌエラ、大丈夫!?」
そう叫びながら、のび太はマヌエラに声を掛けるが、返事はなく蹲ったままだった。
「マヌエラ?」
それを不審に思い、再度声をかける。
しかし、その時、マヌエラの体がオレンジ色の光に徐々に包まれていった。
「え?」
「どうしたの?」
いつのまにかやって来たアリス、そして、その近くに居たレオンも二人へと近づいていく。
だが、そんな彼らもマヌエラの様子を見て絶句することとなった。
「マヌエラ!しっかりして!!」
のび太は急いでマヌエラを抱き起こす。
しかし、マヌエラはか細い声で悟ったようにこう言った。
「血を使い果たしてしまった・・・でも、これで良かった」
「・・・マヌエラ」
マヌエラの言葉を聞き、のび太は悲しげな顔をする。
しかし、そんなのび太に対して、マヌエラは朗らかに笑った。
「これ以上、心を失わなくて済むから。そして、あなたへの贖罪にもなる」
「そんな!?」
のび太は思いも寄らない言葉に驚いてしまう。
何故なら、確かに彼女の父親であるハヴィエがのび太の仲間を殺して臓器を剥ぎ取るという残虐な行為をしたし、マヌエラはその原因となったわけだが、だからと言ってのび太にマヌエラを責めるつもりなど毛頭無かった。
しかし、そんなのび太に対して、彼女は左手でのび太の頭を母親のような手付きで撫でながらこう言う。
「ごめんなさい。・・・そして、ありがとう。ノビタ」
その言葉が最後だった。
次の瞬間、彼女の体はオレンジ色の塵となり、やがて風に吹き飛ばされて空へと舞っていく。
その光景を見届けながら、のび太は右手に残った最後の塵を見る。
「・・・」
やがて、その塵もまた風に流されて舞っていき、彼女の姿は完全にこの世界から消え去っていく。
そして、それを自覚した時、のび太は静かに涙を流した。
彼女が心を持ち続けたのは、何故だろう?
遺伝子的作用だろうか?
生命溢れる南米の地のお蔭だろうか?
ウィルスは増殖を続ける。
形を変え、より強さを増しながら──
根絶されるその日まで。
人の体の中で・・・
人の心の中で・・・
本章登場人物の生存者と死亡者
・生存者(8名)
野比のび太、ドラえもん、ジャイアン、田中安雄、翁餓健治、アリス・アバーナシー、白鳥渚、レオン・S・ケネディ。
・死亡者(3名)
緑川聖奈、ジャック・クラウザー、マヌエラ・ヒダルゴ。
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第五章 アンブレラ・ジャパンの終焉
2度目の乗り込み
・アンブレラとの戦いに身を投じたメンバー(14名)
野比のび太、ドラえもん、出木杉英才、源しずか、剛田武、骨川スネオ、田中安雄、桜井咲夜、富藤雪香、アリス・アバーナシー、アンジェラ・アシュフォード、緑川雪奈、満月美夜子、翁餓健治。
・日常社会に戻ったメンバー(9名)
榛名、大鷹、島田愛里寿、山田太郎、島田響、西住みほ、緒方タカシ、レオン・S・ケネディ、白鳥渚。
その他(1名)
サーシャ
◇西暦2021年 1月27日 深夜 日本 アンブレラ研究島付近
「またここに戻ってくることになるとはね」
のび太は皮肉げにそう言いつつ、半年前にも訪れたアンブレラ研究島を船の上から見つめていた。
ハヴィエの一件の後、のび太とアリスはレオンと別れ、渚を南米に居る両親の元まで送り届けた後、日本にのび太、アリス、ドラえもんの3人は日本に向かって帰国の途に着いたのだが、昨日、安雄からとんでもない報告が届いた。
なんと、アジトがアンブレラの特殊部隊によって制圧され、皆が連れ去られたと言うのだ。
そして、咲夜と雪奈の二人はヘリで別な場所に連れ去られてしまったらしい。
幸い、安雄は制圧の際に外出していた上に、アンブレラにも捕捉されずに済み、この報告を送り届けることが出来た。
今、隙を見て乗り込めないか試みているところであり、のび太達にも協力を求めている。
勿論、のび太達も安雄に合流して皆の奪還に取り掛かりたいところだったが、咲夜と雪奈の運ばれた場所が半年前にのび太が訪れたアンブレラ研究島だと分かったことや、丁度近くを船が通り掛かっていたことから、先に二人の奪還を優先することにしたのだ。
そして、あのハヴィエの居城の一件から12日。
のび太は再び戦場へと突っ込もうとしていた。
◇
「しかし、まさかこの島が復活しているなんて思わなかったな」
「ここは日本でも無人島という事だけあって、かなり重要な施設が置かれているわ。近くの日向穂島にも有るけど、あそこは有人島だから研究施設も小規模だし、現在は日本の警察と軍に封鎖されているから、再建するにはここが良いと思ったんでしょうね」
のび太の呟きに対して、アリスがそう解説する。
実際、アンブレラ・ジャパンの中でもこの島に存在する研究施設は有数のものであり、貴重な設備や資料が勢揃いとなっていた。
もっとも、半年前の爆発によってそのほとんどが吹き飛んでしまったが、それでもアンブレラ・ジャパンにとってここ以上に都合の良い場所などそうそうないため、この半年で資材と人員を投入する形で、なんとかある程度の研究施設としての機能を回復させている。
「なるほど。それで、中に居る兵隊はどれ程なんですか?」
「最近再建されたらしいから詳しいことまでは分からないけど・・・10人以上の完全武装の兵士が居るとは考えた方が良いわね。ついでに、警備システムも新しいものになっていると思うわ」
「・・・つまり、マリアナ諸島とは別物と考えた方が良いと?」
「丸っきり、ね」
そのアリスの言葉を聞きながら、のび太はどうしたものかと思っていた。
勿論、兵士の数だけなら、半年前にのび太が乗り込んでいった時の方が多い。
しかし、あれはガナードとして操られていて、行動パターンの制限を受けていたからこそ相手が出来たのだ。
だが、今回はそうはいかない。
正真正銘、完全武装の兵隊とドンパチ祭りをすることになる。
そう考えると、今回の案件はどちらかと言えば、ラクーンシティでアメリカ軍の特殊部隊と戦った状況に似ていると言えた。
ただあの時と違うのは、囚われている人間の居る場所が分からないという点だ。
この点を考慮するとなると、ハヴィエの支部に乗り込んだ時のように、爆発物の使用は控えた方が良いだろう。
「・・・難しいな」
のび太は状況を改めて認識して、思わずそう呟いてしまう。
今回の作戦は予想以上に難しい。
何故なら、完全武装の兵隊が10人以上待ち構えている場所に二人で攻撃をかけ、何処に居るかも分からない二人を探さなくてはならないからだ。
しかも、武器の使用制限を受けた状態で。
「ねぇ、やっぱり辞めない?」
そんな二人を見かねたドラえもんはそう提案する。
・・・確かに今のまま島に乗り込むのは無謀な点が多い。
常識的に考えれば、一旦引いて本土に行って安雄と合流し、皆を助けて、それから救助するべきだろう。
まどろっこしいが、それが一番の最善策だ。
だが──
「そういうわけにもいかないよ。マリアナ諸島の例が有るからね」
あくまでそれは戦力という観点に限定した常識と最善策。
時間という観点で見れば、今ここで乗り込んでいかないのはリスクが大きい。
何故なら、のび太の言った通り、あまり時間をかけるとマリアナ諸島の例にあるように、別の場所に移送されてしまう可能性があるからだ。
そして、実際に移送された緑川聖奈がどうなったかを見れば、ドラえもんの提案はのび太にとってあまり取りたくない選択肢だった。
「それはそうだけど・・・」
「とにかく乗り込むしかないよ。・・・ああ、そう言えば、今思い出したけど、安雄とは連絡がついたの?」
「いや、まだ何も」
ドラえもんはそう言いながら、首を横に振る。
そう、安雄は何故か知らないが、昨日の連絡以来、通信が途絶えてしまっていた。
なので、現在は捕らえられた仲間の様子どころか、安雄の安否すら分からない。
「・・・そっか」
のび太は心配そうに呟く。
のび太から見れば、自分達より困難な任務に挑んでいるのは安雄だと思っている。
なにしろ、10人近くの人数を一斉に拐うような相手にたった一人で挑んでいるのだ。
・・・実際は拐う方も段階を踏んで行っているのだが、そこまでのことはのび太も知らなかった。
まあ、どちらにせよ、困難であるのには違いないのだが。
「捕まったのかな?」
「それか単に通信する余裕が無いかだね。・・・あと、あまり言いたくはないけど、殺されたっていう可能性もある」
色んな憶測を立てるのび太だったが、どれも憶測の域を出ないために、話をそこまでで中断することにした。
「やめよう。取り敢えず、咲夜さんと雪奈ちゃんの救出を終え次第、みんなが捕まっているY町に向かおう」
「・・・そうだね」
「そうね」
二人はそう言いながら、のび太の意見に賛同する。
──そして、装備を整えたのび太達が島に上陸するのは、それから数分後の事だった。
◇
ドドドドドドドドドド
M134ミニガンの連射音が鳴り響き、辺り一面に7、62×51ミリ弾が次々と着弾していく。
のび太は物陰に隠れながら、それらの銃弾の嵐をどうにかやり過ごしていたが、完全に釘付け状態にされていた。
「あんな格好良いことは言っちゃったけど・・・どうしようもないぞ、これ」
のび太は腕にM4カービン・アサルトライフルを抱えながら、これからどうするかを思案している。
撤退という選択肢はない。
一度上陸してしまった以上、ここで撤退してもやり直しが出来る確率は物凄く低いからだ。
しかし、現在進行形でM134ミニガン、更にはアサルトライフルによる銃撃を受けている身としては、今の進撃ですらほとんど不可能に近い。
おまけに手榴弾もグレネードランチャーも使えないとあっては尚更だ。
「相手は8人。だけど、こっちは僕一人だけ、か」
のび太は今更ながらにアリスと別れた事を悔やむ。
それなりに広い島なので、ハヴィエの支部の時と同じように手分けして探した方が良いと考えたのだが、今回はそれが完全に裏目に出ていた。
「・・・取り敢えず、あの巨大なガトリングガンを持っている奴から片付けよう」
のび太は先にM134ミニガンを持っている人物から片付けることにして、どうにか隙を伺う。
しかし、M134の弾が切れれば、アサルトライフルを持った敵が発砲してくるため、全く隙が見当たらなかった。
「くそぉ!」
のび太は悔しげな顔をするが、向こうがこちらの反撃がままならないくらいに銃撃を続けてきている為に、どうにもしようがなかった。
そんな時、またもや一人の兵士が向こうの後方からやって来る。
敵の増援。
そう思ったのび太は益々進撃が困難になると歯噛みする。
だが──
「ん?なんだ?」
向こうの兵隊の一部が後からやって来た兵士と何かを話しており、その後、3人の兵士がそのやって来た兵士と共に後方へと下がっていった。
いや、向かっていったという方が正しいだろうか?
「・・・何が起こったんだ?まあ、良いや。今のうちに」
敵に何が起こったのかは知らないが、これはのび太にとってチャンスでもある。
そして、のび太はまず当初の目標通り、M134ミニガンを持った敵に狙いを着けた。
しかし、数が減ったとはいえ敵数は5人。
なかなか隙は見当たらないが、それでもさっきよりは目に見えて銃撃の数が減っている。
その為、どうにか隙を見つけ出し、M134ミニガンの射手に照準を着けて発砲する。
ドドド
三点バースト射撃によって発射された3発の5、56×45ミリ弾はM134ミニガンの射手の頭部を直撃。
本人は防弾ヘルメットを被っていたが、それでは拳銃くらいの弾は防げてもアサルトライフルの弾は流石に防げず、銃弾は防弾ヘルメットを難なく貫通してそのまま頭部を突き抜けて絶命させた。
「よし、次!」
のび太はM134ミニガンの射手を片付けるとアサルトライフルを持った残り4人の兵隊に狙いを変更する。
そして、射撃モードをフルオートにすると、身を乗り出しながらそれらの兵隊に猛烈な銃撃を行った。
ドドドドドドド
相手のアサルトライフルの銃声に呼応するかのように、M4カービンの銃声が木霊する。
しかし、流石にアサルトライフルのフルオートとなると、どうやっても照準が若干ぶれてしまうため、のび太であっても精密射撃などほぼ出来ない。
それでものび太の正確な射撃は相手へと命中し、4人の内2人を片付けるが、そこで弾薬が切れた。
「あと二人」
のび太はそう呟きながら、M4カービンの30発STANAGマガジンを新しい物に変える。
そして、再び残る二人を攻撃しようと身を乗り出す。
すると、そこには残った二人の兵隊の内一人が自分に向かって手榴弾を投げようとしている光景があった。
(不味い!)
のび太はそう思い、その手榴弾を投げようとしていた男にM4カービンの銃口を向けて発砲する。
慌てて発砲したので、ヘッドショットこそ出来なかったが、弾丸は寸分違わず相手へと命中した。
そして、男は手榴弾を取り落とし、その拍子に手榴弾の安全レバーが外れてしまい、数秒後にその手榴弾を持っていた男と近くに居たもう一人の男を巻き込む形で爆発する。
「うわぁあ!!」
その手榴弾の爆発によって、手榴弾を持っていた男はミンチとなり、近くに居て爆発に巻き込まれた男も爆風によって体を吹き飛ばされ、地面に叩き付けられる。
それでもその男はどうにか生きていたが、そんな男に対してのび太は止めとばかりにM4カービンの銃口を向けて発砲した。
ドドドド
そして、男は完全に動かなくなった。
「・・・よし、これで片付いたな。遅れちゃったし、少し急がないと」
のび太は周囲を警戒し、他に敵が居ないことを確認すると島の奥へと進んでいった。
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再度の危機
◇西暦2021年 1月27日 深夜 日本 アンブレラ研究島
「ふぅ。しかし、2度目だって言うのに、ここまで変わっているなんて・・・これじゃあ初めて来るのと大して変わらないよ」
のび太はそう愚痴を溢す。
あれからのび太は再建されていたアンブレラの施設内に侵入したが、そこでも何人かの警備員と交戦した。
どうやらアリスの言っていた十数人という情報は完全に間違いだったらしい。
その証拠にのび太が倒した相手の兵士の数は既に12人に達しているが、相手はまだまだ居る気配がある。
おまけに再建されたアンブレラの施設は前回来た時とはその設備の地理も構造も全然違っており、はっきり言えばのび太の言う通り、初めて来たのとそう変わらなかったのだ。
よって、咲夜と雪奈が閉じ込められている場所など分からないし、予想することすら出来なかった。
「う~ん、まいったな。こうなったら、片っ端から部屋を探していくしかないか」
のび太はそう考える。
片っ端から部屋を探すのは効率が悪い上に時間も掛かるし、兵隊がうろついているので、リスクも高いのだが、この際、贅沢などは言っていられない。
そう思ったのび太は、まず手近にあった研究員の個室から調べることにした。
「・・・」
異常無し。
のび太はその部屋の扉を開けて誰も居ないことを確認すると、部屋の扉を閉める。
「何か手掛かりが有れば良いんだけど・・・」
のび太はそう考え、部屋の中を見渡す。
すると、机の上にあった1つの日記が目に入った。
「日記か。それらしいことが書かれているかもしれないし、一応読んでみるか」
のび太はそう考え、日記を手に取ると、その日記のページを捲る。
『坂井の日記
1月26日、この日、二人の女の子が運ばれてきた。一人はT─ウィルス完全適合者、もう一人はS─ウィルス完全適合者だ。だが、俺は彼女らの研究には加えて貰えなかった。どうやら普段の俺の態度が気に入らなかったかららしい。悔しい。
1月27日、俺は半年前にこの島に存在した一部の記録の復元に成功した。それによると、この島を占拠していたのはロス・イルミナドス教団という連中らしく、とある少女にプラーガとかいう代物を投与したらしい。その少女の名は西住みほ。調べてみたところ、戦車道の名家のお嬢様だそうだ。よし、決めた。こいつを捕まえて研究し、奴等を見返してやる。幸い、俺には仲の良いUBCSの連中が居る。そいつらに話を通そう』
日記はここで終わっている。
ポトッ
だが、読み終わったのび太は、思わず日記を取り落としてしまった。
「・・・そんな馬鹿な」
のび太は少しの沈黙の後、思わずそう呟いてしまう。
油断していた。
半年前にこの島にあった記録媒体は全て吹っ飛び、監視カメラなどの記録は全て塵となって修復不可能。
これで西住みほに繋がるものはなくなり、彼女は普通の日常に戻ることが出来る。
半年前は確かにそう思っていたが、それは勝手な思い込みだったと、この日記を見て思い知らされた。
「あの時、念を入れてこの島に有るものを全部吹き飛ばすべきだったか・・・」
のび太は今になって後悔するが、それはもう今更なことだった。
そもそも、あの時はアンブレラとの戦いが後に控えているということが頭の中を占めており、既に吹き飛んだ島のことなど考える余裕は無かったのだ。
更に言えば、希望がないわけではない。
「・・・待てよ。この日記が正しければ、この研究員が動き出したのは今日か。なら、なんとか間に合うかもしれない」
のび太はそう思い、咲夜と雪奈の2人の救出を終えて島を出たら、単独で熊本に向かうことに決めた。
なにしろ、彼女はこの戦いを知ることなく日常を過ごしている。
そんな彼女を巻き込ませるわけにはいかない。
安雄やみんなには悪いが、そこはアリスとドラえもんを送ることで我慢して貰おう。
のび太はそう考えながら、他に何かしらの手懸かりはないかと辺りを探す。
すると──
「・・・ん?これはメモか?え~と、熊本○○ホテル。この研究員が潜伏している場所かな?」
のび太はそう考えながらも、そのメモをポケットへと仕舞い、他にも手掛かりがないかどうか再度探し出す。
だが──
ビー、ビー、ビー
その時、突然スピーカーから警報音が鳴り響いた。
「なんだ?」
のび太はその警報音を聞いて怪訝な顔をする。
侵入者を知らせる警報かとも一瞬思ったが、少し考えてみればそんなものは今さらであり、兵隊が迎撃してきている以上、とっくに侵入者の警報など鳴らされているだろう。
では、この警報音はなんなのか?
のび太はそれを考えたが、その正体は次に入ってきた声によって知らされることになった。
『警告。現在、当施設内でバイオハザードが発生しました。職員はただちに避難してください。なお、感染拡大を避けるため、一部の場所の閉鎖を行います。繰り返します。現在、当施設内で──』
それはバイオハザードの発生に対する警告。
アンブレラ社では、最近になってバイオハザードが続けざまに起きることもあり、新たに建設された施設にはこういった警告音やセンサー、更にはUBCSやUSSの警備など、バイオハザードへの対策が取られるようになっていた。
「なっ!バイオハザード!?いきなり何がどうしたんだ!?」
しかし、のび太からしてみれば、警告の意味こそ分かったものの、どうしてこのタイミングでバイオハザードが発生したのか分からず、困惑していたが、一瞬の後に我に帰ると、次の行動を急ぎ思案し始める。
(取り敢えず、スペアポケットにここに有るものをあらかた積めて、と。これで良し。あとは二人の救出だけど・・・)
事情はよく分からないが、バイオハザードが起こった以上は捜索を早くするか、いっそ切り上げなくてはならない。
だが、のび太はすぐそこに居る仲間を見捨てる気は更々無く、前者の選択肢を選ぶことを既に決めていた。
しかし、その時、タイミングを計ったかのように、別行動を取っていたアリスから無線で連絡が入る。
『───ザッ、こちら、アリス。聞こえる?』
「はい、こちらのび太。ちゃんと聞こえています」
『二人は既に救助したわ。船のところで落ち合いましょう』
「了解しました。では、後で」
のび太はそう言って通信を切る。
(・・・取り敢えず2人は無事か。アリスさん達が何処に居るのかさえ分かれば、こっちから迎えに行ってあげたいんだけど・・→)
だが、それは叶わない。
何処に居るか分からないのもそうだが、既にこの施設ではバイオハザードが発生しているため、アリスを信じるしかないのだ。
「・・・頼みますよ、アリスさん」
のび太は祈るようにそう言いながら、部屋を出ていった。
◇同時刻
のび太が施設から脱出を計る一方、アリス達は船へと向かっていたが、途中でゾンビやBOWと遭遇してしまい、進路変更を余儀なくされていた。
(幾らなんでもゾンビになるのが早すぎる!)
アリスはそう思いながら、デザートイーグルでゾンビの1体を倒し、進路を切り開く。
だが、このゾンビ発生の早さにはアリスも驚いていた。
あのバイオハザードの警告は聞いたが、あの警告の感じからするに、バイオハザードが起きたのはつい先程。
アリスの知っているT─ウィルスならば、ゾンビが大量発生するほどの事態になるのは、どんなに早く見積もっても明日以降の筈だ。
しかし、まだ一時間と経たないうちにこれほどのゾンビが発生している現状には流石のアリスも驚かざるを得ない。
そして、この時アリスは知らなかったが、この施設でばら蒔かれたのは、アンブレラ・ジャパンが独自に開発した改良型T─ウィルスだった。
通常のT─ウィルスは空気感染することはほとんどない。
T─ウィルスというウィルスそのものが変異性が強いために、拡散していくうちに感染力が低下する性質を持っているからだ。
もっとも、拡散時にウィルスを吸い込んだりすれば話は別だが、逆に言えばそんな状況でも無ければ感染の危険性は低い。
しかし、今回の改良型T─ウィルスは空気への比重が重くなるように改良されていて、空気感染の危険性を増大させた代物だ。
更に感染能力も高く、感染した人間は一時間もしないうちにゾンビ化してしまう。
・・・ちなみにアリス達はまだ知らないが、この改良型T─ウィルスは昨日、日本のとある町にばら蒔かれて数千人の人間をゾンビへと変えている。
「サクヨ。悪いけど、あなたも戦って!」
流石に一人では荷が重いと感じたのか、アリスはそう言って咲夜にナイフを手渡す。
「分かりました!」
咲夜はそう言いながら、アリスからナイフを受け取ると、今まで捕まっていた鬱憤を晴らすかのようにゾンビへと飛び掛かり、次々とゾンビの首と胴を離していく。
これは咲夜がアリスと同じT─ウィルス完全適合者だからこそ出来る芸当だったが、その戦いぶりは鬼神そのものであり、見ていた雪奈は思わず恐怖のあまりに震えてしまう。
(・・・怖い)
雪奈は目の前の2人の鬼神(特に咲夜)を恐怖の感情で見つめていた。
雪奈が2人の戦いを見るのは、これが初めてではなく、ラクーンシティで散々見せられている。
あの時はその生い立ちから、感情そのものが乏しく、恐怖という感情を感じることすら出来なかったが、あれから3ヶ月間、のび太のような人間達と接することで、普通の人間がするような感情を徐々に身に付けていた。
しかし、だからこそ彼女は少なからず思ってしまう。
目の前に居る人達は正真正銘の化け物なのだと。
もっとも、雪奈もS─ウィルス完全適合者である以上、ある意味同類とも言えるのだが、あいにく彼女はあまりそれを自覚している訳ではなかった。
まあ、彼女の年齢では仕方がないとも言えるが。
そんな雪奈を他所に、2人は辺り一面に展開していたゾンビやBOWを全滅させる。
そして、アリスは雪奈の手を掴みながら、咲夜に向かってこう言った。
「次が来ないうちに急ぎましょう。そうしないと、先に船で待っているノビタにも迷惑を掛けてしまうわ」
「ええ。では、行きましょう」
アリスの言葉に咲夜も頷き、3人は少々遠回りをしながらも、船に向かって走っていった。
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研究島脱出
◇西暦2021年 1月27日 深夜 日本 アンブレラ研究島 武器庫
「・・・さて、困ったな。どうしよう?」
のび太は冷や汗を流す。
あれから脱出を計ろうとしたのび太だったが、行こうとした先では障壁が閉じられており、反対側からはBOWが来た為、やむなくこの部屋へと追い込まれることになった。
幸い、ここは武器庫であり、尚且つどういう訳か最新鋭の銃が勢揃いしており、H&K HK416・アサルトライフル(100発ドラムマガジン、グリップポット装着)、H&K G28・セミオートライフル(10発マガジン装着)、FN P90・PDW(50発専用マガジン装着)、グロック18C(33発ロングマガジン装着)などの強力な火器が揃っている。
他にも、のび太が日向穂島で壊してしまったアーウェン37・グレネードランチャーや閃光手榴弾にMK─3手榴弾、サイレンサー、果ては焼夷手榴弾にC4爆弾まであった。
のび太は取り敢えずそこに有った物を片っ端からポケットに積め、傍に有った地図を見ながら脱出ルートを頭の中で考える。
「ここの道は閉鎖されているから、やっぱりさっきの道を行って、あそこに道を居る化け物を倒してここの道を行って・・・無理かな」
広い道ならば兎も角、この通路は狭く、頼みのS─ウィルスも上手く力を発揮できない。
おまけに先程見たところ、ハンターやケルベロスも居た。
T─ウィルスのこともある以上、少しでも攻撃を受けたら不味いことになるので、そういったリスクはなるべく避けるべき。
そう考えたのび太は、その手段を最後の手段として頭の中に入れつつ、他の脱出手段を考える。
「と言っても、ここ以外に脱出ルートは・・・」
のび太はそう言いながら、窓を見る。
ここは2階。
特殊な訓練を受けた者が3階から飛び降りて無傷だったという話もある以上、ここから飛び降りて下に着地するということも不可能ではないのだろう。
だが、それは特殊な訓練を受けた場合。
残念ながらのび太はそういった特殊な訓練を受けてはいない。
もっとも、のび太も2階に相当する高さから飛び降りた事も無いわけではないので、一応、出来るのかもしれないが、それでも確固たる自信があるわけではないので、それをすることには躊躇いがあった。
「何か無いかな?」
のび太は何か使えるものがないかどうかを探す。
と言っても、ここは武器庫。
戦う以外の代物があるとは思えない。
しかし──
「・・・ん?」
それを見つけた時、のび太の頭に天啓が閃いた。
「これだ!」
──そして、のび太が
◇
「えっ、戻っていない?」
「はい、そうなんです」
アリスの言葉に、ドラえもんはそう答える。
無事に船に戻ってきたアリス達だったが、先に着いていると思っていたのび太はまだ船まで着いていなかったのだ。
「・・・」
ここでアリスは考える。
今後、取るべき方針を。
見捨てる、という選択肢はない。
まだそんな決断をするには早すぎるし、危急の事態という程のものでもない。
なにより、こんな状況でそんなことをすれば仲間割れが起きて今後に差し支える可能性が大だ。
そんな不必要なリスクを簡単に取るほど、アリスは馬鹿でもなければ非情でもない。
となると──
「・・・分かったわ。私が行ってくる」
アリスが行くしかなかった。
この際、咲夜かドラえもんでも構わないのだが、幾らT─ウィルス完全適合者とは言え、つい先程まで監禁されていた上に戦闘も行っていた咲夜には困難だと見ていたし、ドラえもんに至ってはアリスより戦闘力が低い。
まあ、ドラえもんはロボットなので、T─ウィルスなどの人間に効くウィルスが一切効かない上に、拳銃弾を通さないほどの頑丈さもあるので、そこが大きな利点だったが、それでも全体的に見れば戦闘力はアリスよりも劣ってしまう。
少なくともアリスはそう考えており、だからこそ自分が救助に赴くべきだと思っていた。
しかし、それにドラえもんが待ったをかける。
「待った。それは僕が行く。だからアリスさん達はこの船で脱出してください。予備の船なら僕のスペアポケットに有りますので、心配しないでください」
「あなたが?でも・・・」
「大丈夫。僕なら、生半可な攻撃は効きません。それに、彼は僕の親友なんです」
「・・・分かったわ」
アリスはドラえもんの言葉を信じることにした。
あのラクーンシティの後、初めてドラえもんを見た時は驚いたし、少々不気味にも思ったものだが、今では仲間であるという認識もあったからだ。
それになんだかんだ言ってのび太が一番信用しているのはこのドラえもんだとアリスは思っていたので、ここはドラえもんに任せてみようという思いもあった。
「頑張ってね」
「そちらこそ、僕達が行くまで安雄君達をお願いします」
「ええ、分かったわ」
ドラえもんはアリスのその答えを聞いた後、急ぎポケットから空気砲を出し、それを装備して船から降りてのび太を探しに島の中へと入っていく。
そして、それを見届けたアリスもまた船を操縦し、咲夜、雪奈と共に島を離脱し、本土へとその舳先を向けた。
◇
ドラえもんがのび太の元へと向かっていた頃、当ののび太は途中遭遇した3体の量産型のティンダロス──ツェルベロスの相手をしていた。
「この!」
のび太はM4カービンを1体のツェルベロスに向けて発砲する。
フルオートで発射される5、56×45ミリNATO弾は何発かがツェルベロスの運動によってかわされたものの、その後、のび太が照準を素早く修正したことによって悲鳴を上げながら倒された。
しかし──
グウウウウ
ガルルルル
まだ2体のツェルベロスが残っており、のび太を睨み付けながら隙を伺っている。
そして、睨み付けられた当ののび太は2体のツェルベロスにそれぞれM4カービンの銃口を向けながら、かなり焦っていた。
(やばい。こいつら、R市のあいつよりは強くないけど、それでも複数居るのは厄介すぎる)
ツェルベロスは量産型だけあって、オリジナルのティンダロスより性能は控えめにされており、オリジナル程の運動性能も耐久力も無い。
しかし、その性能は一般の完全武装の兵士を駆逐する程度であれば問題ないものであったし、なによりコストが安く複数揃えられるというのはかなり重要なポイントだ。
現にのび太はこうして複数のツェルベロスに追い詰められているのだから。
(それに早く行かないと置いていかれちゃうかもしれないし・・・仕方ない。あれで使おう)
のび太はM4カービンを片手で構えつつもう片方の手で“ある銃”を取り出す。
そして、それを1体のツェルベロスの方へと向けると、引き金を引く。
すると、その銃口からワイヤーが射出された。
ワイヤー銃。
文字通り、ワイヤーが射出される銃であり、アクション映画などでよく出てくる銃でもあり、のび太はそれを使って、先程、建物の2階から直接地面まで降りることに成功している。
それをかわそうとするツェルベロスだが、それはのび太も折り込み済みであり、ワイヤーの先はツェルベロスそのものではなくその近くの地面に突き刺さり、ツェルベロスが攻撃をかわそうとした線上にワイヤーを展開させた。
キャウン
ツェルベロスはそれに引っ掛かる形で転倒する。
のび太はワイヤー銃を一旦離すと、Five-seveNを取り出し、3回トリガーを引く。
そして、発射された3発の銃弾を3つの眉間に叩き込むと、そのツェルベロスは絶命した。
しかし、その直後、無事だったもう1体のツェルベロスが突っ込んでくる。
だが、のび太は予想外の行動を取った。
「えい!」
なんとM4カービンを思いっきりツェルベロスの方に投げたのだ。
S─ウィルスを発動させて放たれたM4カービンは物凄い速さでツェルベロスに直撃し、M4カービンはバキッという音を立てたものの、どうにかツェルベロスを倒すことに成功する。
「よし、これで終わりかな」
のび太は無事にツェルベロスを倒せたことに安堵していた。
先程のは一歩間違えれば、やられていたのは自分だっただろうから。
まあ、今の音からするにM4カービンは壊れたのだろうが、銃一つで命が助かるなら安いものである。
「急ごう。置いていかれたら不味い」
実際に今の段階ではよっぽどの事態でも無い限り、置いていかれることはない。
それくらいにはのび太も仲間を信用している。
しかし、逆に言えばよっぽどの事態が起きれば置いていかれるということでもあるし、そうでなくとも仲間に迷惑が掛かってしまう。
そして、バイオハザードの現場では“よっぽどの事態”が起きる可能性が極めて高い事をのび太は知っていた。
故に、のび太は急いで船へと向かう。
だが──
ガルルルル
そこにはまたもや1体のツェルベロスが現れた。
「またこいつか・・・」
のび太はうんざりした様子でFive-seveNを引き抜いて構える。
そして、発砲しようとしたが、結果的にその必要は無くなった。
何故ならば──
ドカン!ドカン!
その時、2発の空気の弾丸がツェルベロスを襲う。
技術手袋で強化された空気の弾丸の威力はツェルベロスを倒すのには十分な威力を秘めており、ツェルベロスは頭を潰される形で絶命する。
そして、のび太がその発射元であろう場所を見ると、そこには青い親友が居た。
「ドラえもん!」
「のび太君!良かった、無事だったんだね!」
「うん、ありがとう。助けに来てくれて」
のび太はドラえもんの手を握りながらお礼の言葉を口にする。
正直、助けは必要だったかどうかは微妙だが、それでも助けに来てくれたことは嬉しかったのだ。
「どういたしまして。さあ、早くこの島を出よう。アリスさん達は先に行って待っているよ」
「ああ、ドラえもん。それなんだけど・・・実はこの島を脱出した後は熊本に行って欲しいんだ」
「熊本?どうして?」
「それは──」
のび太はその理由を説明しようとした。
しかし、その時、ゾンビのような呻き声が近くから耳に響いてくる。
「・・・今は話している場合じゃない。一旦、海岸に出て船に乗ろう。話はそれからだ」
「OK、分かった」
のび太はドラえもんにそう返答する。
「じゃあ、行くよ」
「うん!」
──そして、2人はほぼ同時に行動を開始し、その後もゾンビやBOWを倒しながら海岸に向かって駆けていき、無事にアンブレラの研究島を脱出することに成功した。
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誤算
◇西暦2021年 1月28日 朝 日本 熊本県 某市 廃ビル
ここは熊本に存在するとある廃ビル。
そこには1人の少年と1体のロボットが潜伏しながら、近くにある熊本○○ホテルを見つめていた。
「みほさんはあそこか」
「どうする?のび太くん」
のび太の呟きに、ドラえもんはそう尋ねる。
アンブレラ研究島を脱出し、アリスに連絡を入れた後に熊本に来たのび太達だったが、それは少し遅い行動だった。
のび太達が着いた頃には、西住みほは既に誘拐された後だったのだ。
そして、誘拐された後、メモに書かれてあった熊本○○ホテルに監禁されているのは、タイムテレビとたずねびとステッキを使って既に確認している。
そこでのび太は西住みほの保護から救出へと思考をシフトした訳だが、問題なのはこの救出方法だった。
中でも、特にのび太とドラえもんが問題としていたのは“場所”だ。
あの熊本○○ホテルは一般のホテル。
当然の事ながら一般人も宿泊しているので、銃撃戦などやれば大騒ぎになるだろうし、一般人が多数犠牲になるかもしれない。
ましてや、爆発物など論外である。
しかし、だからと言って素手やナイフで奪還出来るかと問われれば、返事はNOだ。
何故なら、タイムテレビで見たところ、相手は最低でも拳銃を携行しているし、そもそものび太はこれまでの戦いで格闘戦など殆どやっていない。
経験も武器もなく、S─ウィルスを駆使した身体能力だけで武装した人間を全て制圧できると思うほど、のび太は自惚れていなかった。
第一、向こうが銃を使ってくれば、銃撃戦をした場合とさして変わらなくなる。
ならば、戦わずに奪還すれば良いではないかという理屈になるが、それが出来るくらいだったら苦労はしない。
「はぁ。いっそのこと、ここみたいな廃ビルだったら助かったんだけどね」
のび太はぼやく。
もしみほが監禁された場所がこの廃ビルのような人気の無い場所であれば、のび太もこれほどの苦悩は必要なかっただろう。
彼女に当てないように敵を排除すれば良いのだから。
しかし、今回、相手は思いっきり人気のある場所に堂々と拠点を構えており、それがかえってやりづらかった。
「そうだね。“カムカムキャット”でもあれば、話は楽だったんだけど」
ドラえもんも思うような道具がないことを無念に思う。
確かに人を呼び寄せることの出来るカムカムキャットがあれば、アンブレラの人間たちをこっちに誘導するなど、造作も無かっただろう。
もっとも、関係の無い一般人を呼び寄せてしまうかもしれないので、使いどころはよく考えなければならないが、それでも普通に誘導するよりはよっぽどやり易かったのは確かだ。
だが、無い物ねだりをしても仕方がなかった。
「今更言っても仕方ないじゃないか。それより、やっぱりどうやってもホテルで戦うのは無理が有りすぎるな。ホテルを出たところをやるしかない」
のび太はホテルで戦うことを諦めることにした。
どうやっても無理が出てきてしまうからだ。
となると、どうにか外に引き出させてみほを救出するしかない。
だが、ドラえもんはそれに懸念を示す。
「でも、それにも問題があるよ」
「分かっているよ。一歩間違えれば市街戦。そう言いたいんだろう?」
「まあね」
のび太の言葉をドラえもんは肯定する。
向こうは車で移動しており、一度振りきられてしまえば、のび太達では追跡は困難だ。
だったら、待ち伏せかという話になるが、何処を通るのか分からない上に、仮に銃でタイヤを撃って車を止めたとしても、それは一歩間違えれば街のど真ん中で銃撃戦をやることになる。
まず間違いなく、ホテルの銃撃戦より凄惨な事態になるだろう。
いや、そもそも救出対象であるみほが死んでしまう可能性もある。
(・・・でも、待てよ。逆に言えば迅速に片付けて、更には何かしらの派手で目立つイベントが何やらがあれば、人の誘導は可能かもしれないな)
のび太はそう思いながら作戦を考える。
(あれを使って・・・これをこうして・・・あれをああすれば・・・・・・ああ、ダメだ!どうしても、どう人を誘導すれば良いか分からない!!)
のび太は作戦を組み立てていたが、どうしても最後の人の誘導の部分で躓いてしまう。
そもそものび太はこういう作戦立案があまり得意ではない。
全く出来なくはないが、それでもメンバー内では出木杉はおろか、アリスや美夜子、健治や咲夜など、年上の人間達にはどうしても劣ってしまう。
まあ、これはのび太が普段から頭脳プレーをあまりしなかったり、勉強をサボったりしたツケであったので、ある意味では自業自得であったのだが、ここに来て必要な能力がないことはみほの命にも関わってしまうのだ。
その為、なんとしても組み立てる必要があった。
「・・・・・・・・・・・・ドラえもん、ちょっと頼みがあるんだけど」
少しの熟考の末、のび太はドラえもんに向かってそう口を開いた。
◇同日 昼 熊本○○ホテル内
「ここをこうして・・・」
ここはホテル内のとある場所。
そこでのび太はドラえもんから借りた技術手袋を使って、ある作業を行っていた。
「これをこうすれば、と」
ジリリリリリ
ドシャアアアア
のび太が作業を終えた時、突如としてホテル内のある警告音が鳴り響き、雨のような水が天井から降ってきた。
それは火災報知器とスプリンクラーの作動。
これが作戦の第一段階であり、まず相手をホテルの中から引きずり出すのが目的だった。
しかし、本来ならこんな面倒なことをしなくとも、外部からホテルのコンピューターをハッキングするだけで事が済むだろう。
今時、ホテルの管理は殆どコンピューターが賄っているのだから。
しかし、メンバー内でハッキングが出来るような人材はスネオと美夜子くらいしか居らず、のび太にはそのような真似は出来ない。
おまけにその2人もアンブレラの人間達に捕まってしまっている。
そこでのび太が考えたのがホテル内に侵入して直接サーバーを操作することだった。
これならハッキングせずとも目的を達成できる。
もっとも、サーバールームは当然の事ながら警備員が居るので、その近くに在った回線を操作して火災報知器の強制作動を行ったのだ。
まあ、勿論、こんな真似ものび太には出来る筈もなかったので、技術手袋を使って行ったという訳である。
「──ドラえもん、こっちの仕掛けは完了した。後は頼んだよ」
『──ザッ、分かった。盛大にやるよ』
「うん、頼んだよ」
のび太はそう言って通信を切り、先回りをするために下へと降りていった。
◇30分後 ホテル外
「・・・・・・出てこないな」
ホテルの外でのび太は怪訝そうに言う。
のび太の計算では他の宿泊客に紛れる形で彼らが出てきて、その後に彼らと宿泊客を選別する策によって彼らを宿泊客から分断させ、しかる後に何らかの形で連れているであろう西住みほを救出するという算段だったからだ。
そして、万が一にも車で逃げられないように、(関係ないものも混じっているので、少々申し訳ないとは思ったが)ホテルの駐車場に在った車のタイヤは全てパンクさせて貰った。
しかし、ここでそれらしき人物達が出てこないのでは、そもそも計算の過程そのものが違ってしまう。
「──ドラえもん、そっちはどう?」
のび太は念のために通信を繋げ、別の場所に待機しているドラえもんに尋ねることにした。
『──ザッ、のび太君。こっちは誰も来ていないよ』
「・・・そっか」
それを聞いたのび太は考える。
相手は何処に居るのだろうかと。
そして、実はこの時、のび太とドラえもんの両名にとって思いもよらない誤算が発生していた。
それは相手の思考だ。
のび太はこういう緊急事態が起こった時、アンブレラの人間達は素早くホテルから出ていくだろうと予想していた。
自分が逆の立場だったら、間違いなくそうするからだ。
しかし、それはあくまでのび太が行動する場合の思考であり、相手の思考は違った。
彼らは自分達が非合法な存在であるということをよく理解している。
だからこそ、彼らは今回の事は本能的に何かしらの勢力の襲撃であると感づいており、立て籠って武装して敵を待ち伏せする事を選択したのだ。
まあ、砲撃でもされれば話は別だっただろうが、あいにくのび太はそこまで過激なことをするつもりはなく、結果的にそれがのび太の誤算を生んでいた。
「・・・仕方がない。僕は中を見てくるよ。ドラえもんもそっちから中に突入してくれないかな?部屋の番号は覚えているよね?」
のび太は作戦を変更して、アンブレラの人間が泊まっているホテルの部屋に向かうことに決めた。
消去法から言って、そこしか見当がつかないからだ。
『勿論だよ』
「じゃあ、そこで落ち合おう」
のび太は再び通信を切ると、ホテルの中に向かって突入していった。
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奪還
◇西暦2021年 1月28日 昼 日本 熊本県 熊本○○ホテル内 非常階段
のび太はアンブレラの人間が居ると思われる部屋に向かうため、非常階段を駆け上がる。
そして、その部屋がある階に着いた時、非常階段の出入り口の扉を開けようとした。
が──
キィイイ
のび太がドアノブに触れる前にその扉は開いた。
誰か逃げ遅れた人が居たのか?
そう一瞬考えたのび太だったが、次に目に入ってきた光景に固まってしまった。
「「!?」」
そこには完全武装をした兵士が数人と研究員風の男が一人居た。
何処からどう見ても堅気の人間でないことは丸分かりだ。
おまけに研究員は人一人は入りそうな鞄を抱えている。
十中八九、アンブレラの人間達であり、鞄の中には西住みほが入っていることはすぐに分かった。
・・・しかし、動きを止めてしまったのは失敗と言える。
何故なら、戦場では一瞬の動きの停止が命取りとなるのだから。
だが、それ以上にのび太は悪運が強かった。
アンブレラの人間達の方もまた、逃げようとした矢先にのび太を見かけて固まってしまったのだから。
そして、ほんの数瞬の見つめ合いの後、最初に我に帰ったのはアンブレラの研究員だった。
「殺せ!口封じしろ!!」
その言葉に他の武装した兵士とのび太は同時に我に返る。
そして、武装した兵士達はそれぞれの得物をのび太へと向けて発砲しようとするが、それより先にのび太が両腰のホルスターから2丁のFive-seveNを同時に引き抜いて発砲する方が早かった。
ドン!ドン!ドン!ドン!
0、1秒。
ゴルゴ十三の0、17秒を上回る速さで引き抜かれた拳銃はアンブレラの人間達を殺傷していく。
おまけに2丁拳銃であり、それぞれの銃が一回発砲するごとに2人の人間が同時に倒れる。
そして、最後の武装兵が倒れた時、残っているのは研究員の男だけとなった。
「ひ、ひぃぃい!!」
研究員の男は目の前の参上を認識し、のび太が自分に銃を向けていることを悟ると、抱えていた鞄を放り出しながら非常階段の出入り口の反対側の方に向かって逃げていく。
のび太は一瞬、それを撃とうかと思ったが、先に鞄の中身を確かめるのが先だと、一先ず矛を収めることにして、両手に持ったFive-seveNをそれぞれのホルスターに戻す。
そして、鞄の中のチャックを開けると、そこには猿轡をされて腕を縛られたみほの姿があった。
どうやら眠っている様子で、目は閉じられている。
「みほさん・・・」
丁度半年振りに見る彼女の顔。
のび太は彼女が無事な様子に安堵しながら、猿轡と腕の縄を解いた。
そして、みほの手を引きながら、肩を貸す形で彼女を連れていこうとする。
「のび太くん!」
すると、先程研究員が去った方向からドラえもんがやって来た。
「ドラえもん、丁度良かった。そっちの方を持ってくれないかな?このままみほさんを非常階段から外に出す」
「分かった、任せて!」
ドラえもんはそう言うと、のび太の持っている反対側の手を持つ。
そして、3人は非常階段からホテルの外に出ることに成功した。
◇同日 夕方 廃ビル
「・・・・・・・・・んぅう?」
日没前の時刻。
眠っていたみほはゆっくりとその目を覚ました。
「あっ、気がついた?」
「ん・・・えっ!のび太くん?」
みほが目を覚ました事に気づいたのび太がそう声をかけるが、当のみほは何故こんなところに居るのか、そして、何故半年前に別れたのび太がここに居るのか分からず、困惑していた。
よく見れば、すぐそこにはドラえもんの姿もある。
「えっ、あれ?・・・どうして?私、また拐われて・・・」
「まあ、落ち着いて。もう大丈夫だから」
少しばかり怯えた様子のみほに、のび太はそう言って落ち着かせようとする。
もっとも、のび太の言っている“大丈夫”は一時的なものであり、しばらくの間は自分達がみほの身柄を預かることになるだろう。
なにしろ、このまま返したところでまた誘拐される可能性が高いのは、今回の事でよく分かったのだから。
しかし、今だけはその場凌ぎであっても安心させておく必要がある。
「そ、そうなんだ。ごめんね。少し混乱しちゃってて」
「いや、大丈夫だよ。あんなことがあったんだ。混乱しても不思議はないよ」
半年前に多少の修羅場は経験したとはいえ、基本的にみほはただの女の子なのだ。
いきなり誘拐などされれば混乱するのも無理はない。
ましてや、この短期間に2回目となれば尚更だ。
「・・・ところで、君はこれからどうするの?」
頃合いを見計らい、ドラえもんはみほにそう尋ねる。
「? どういう意味ですか?」
「そのままの意味だよ。このまま家に返しても良いんだけど、また狙われる事を考えると・・・」
「ドラえもん!」
のび太は怒鳴る。
確かに現状はドラえもんの言っている通りだが、まだそれを状況がよく分かっていないみほに言うのは早いとのび太は判断していたからだ。
しかし、みほはこれに対して意外な反応をした。
「狙われている・・・それってもしかして、ススキヶ原の事と関係が有るんですか?」
「!? 知ったんだ・・・」
のび太はみほがススキヶ原の事を知っていたことに驚くが、よくよく考えてみれば道理とも言えた。
ススキヶ原は小さな町とはいえ、練馬区に存在するれっきとした日本の首都、東京にある街なのだ。
それが丸々壊滅したとなれば、注目されるのも当然だろう。
「うん。半年前に家に帰って、お母さんに聞いたら私が助けられた日にススキヶ原は壊滅していたって聞いて、それで・・・その」
「ん?」
「私を助けてくれたのび太くんは・・・もしかしたら、幽霊じゃないかって・・・」
「なんでさ!?」
のび太はみほの言葉に思わず某正義の味方(笑)の台詞を吐いてしまう。
だが、これでみほが怯えていた理由も分かった。
まあ、助けられたその日にススキヶ原の事を話して、家に帰ってみたら丁度その頃にはススキヶ原が壊滅していたと知らされたら、幽霊だとも思うのも仕方の無い話だろう。
おまけにドラえもんという明らかに人外な存在も登場すれば尚更だ。
もっとも、のび太からしてみれば心外な話でしかないのだが。
「言っておくけど、僕は幽霊じゃないからね!!」
「う、うん!ご、ごめんなさい!!」
あまりと言えばあまりなみほの思われ方に、のび太は思わず声を荒げてしまう。
だが、みほがビクッとした反応を見せると、すぐに罪悪感を抱いてしまう。
「あっ、言い過ぎた。ごめん」
「ううん。私こそ幽霊なんて言っちゃってごめんなさい」
「いや、良いよ。それより話の続きをしよう。君を拐った連中だけど、実はあれアンブレラの人間なんだ」
「アンブレラ?」
みほは首を傾げる。
アンブレラは欧米では有名な製薬会社ではあるが、日本ではそれほど有名ではなく、アンブレラと言われてもなんのことだか彼女には分からなかったのだ。
「製薬会社だよ。かなり非合法のね」
「ええ!?で、でも、私、恨みを買うようなことなんて・・・」
「半年前のあの一件が有っただろう?どうやらアンブレラの連中はあの件でみほさんに目を付けたらしいんだ」
「そんなぁ」
みほはそう言いながら、哀しげな顔をする。
まあ、半年前に誘拐されて色々あってようやく助かったと思えば、その半年後にその事で目を付けられてまた誘拐されて狙われるとなれば当然の反応と言えるだろう。
要するに、彼女は運が悪かったのだ。
そう考えると、のび太はみほが可哀想に思えてくる。
「まあ、しばらくは僕とドラえもんが君を守るから心配しないで。ねぇ、ドラえもん」
「うん、僕達に任せといて」
のび太の言葉に、ドラえもんもまたその丸い手で胸の部分をポンと叩きながら同調する。
「ありがとうございます」
みほはそれに対して、信頼を滲ませた声でそう答える。
・・・だが、その声に元気が無かったということも、また確かだった。
◇同時刻
のび太がみほに状況を説明していた頃、のび太の前から逃げたあの研究員は上司に作戦失敗の報告を行っていた。
『なに、失敗しただと?』
「は、はい」
上司の言葉に、恐縮そうに冷や汗を掻きながらそう言う研究員。
まあ、無理を言って部隊を手配して西住みほの誘拐を行い、それが失敗したのだから当たり前の反応ではあったのだが、それを聞いた上司は眉をしかめながらも、取り敢えず部下の話を聞くことにした。
『何故、失敗したのだ?途中で警察隊や自衛隊の部隊とでもぶつかったのか?』
「いえ、それが・・・・・・相手は子供一人でした」
『なに?』
上司は部下が何を言っているのか分からなかった。
まあ、完全武装の兵隊が子供にやられたなど、普通なら誰だって信じない。
なので、上司の反応は当然と言えば当然だったのだが、研究員はその襲撃した人物についてこう言った。
「奴です。野比のび太が襲撃してきました」
『なにぃ!?』
上司は驚いた。
野比のび太と言えば、日向穂島での一件からアンブレラ社内で指名手配されている人物であったが、歳が10かそこらであるということもあり、本当に脅威に思う人間は少なかったのだ。
しかし、先日のアンブレラ研究島襲撃以来、その評価はガラリと変わって脅威と見なされるようになり、本格的にアンブレラの人間にマークされている。
だが、まさか熊本の方に現れるとは思っても居なかった為、上司はそこに驚いていた。
『・・・やはり、西住みほと野比のび太は依然として繋がりがあったということか』
「そのようです。しかし、どう致しましょうか?」
『分かった。北海道のアンブレラ・ジャパン本部から至急戦力を回してもらうよう要請しておく』
「はい、ありがとうございます」
研究員は上司の言葉にお礼を言いながら、熊本○○ホテルでのお返しをすることを改めて決意した。
──こうして、のび太はアンブレラ・ジャパンから本格的な敵意を向けられることとなる。
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温もり
◇西暦2021年 1月29日 深夜 日本 某所
日本の某所。
そこでは今日の夕方頃にバイオハザードが起きたY町から脱出した出木杉達やアリス達、そして、ドラえもんがそこに集合していたが、そこにはのび太の姿はなく、更に言えば1人の仲間である安雄の姿も無かった。
「・・・そっか。野比君は北海道には行けないか」
出木杉は残念そうに言う。
アンブレラの研究島で手に入れた情報や共闘したアンブレラの人間達の情報から、北海道にアンブレラ・ジャパンの本拠地があることは分かり、全員揃った時、乗り込もうと算段を立てていた出木杉は、途中合流したドラえもんからメンバーの中で有数の戦力を持つのび太が行かないと言っている事を知らされて、残念に思っていた。
ちなみにのび太はとある無人島にみほと共に隠れている。
その事を伝える意味でも、ドラえもんがこうして来ていたのだ。
「あの野郎、こんなところで腰を抜かしやがって!!」
「・・・仕方ないよ。のび太だって、何度もバイオハザードを経験して疲れているんだよ」
スネオはそう言ってジャイアンを宥める。
しかし、それではジャイアンの怒りは治まらなかった。
「でもよ、これが最後の戦いなんだぞ!ここまで来るのにどれだけ犠牲を払ったんだよ!!」
その言葉に一同は黙らざるを得なかった。
ススキヶ原でもそうだが、その後も彼らは南米で聖奈、そして、つい数時間前に脱出したY町では安雄が改良型T─ウィルスを諸に食らってゾンビ化し、犠牲となってしまっている。
いや、それだけではない。
その他にもアンブレラのウィルス被害に遭った人間はそれこそ万単位で居るのだ。
そんな犠牲を払ってここまで来たという認識があるジャイアンとしては、のび太の事を腰抜けのようにしか思えなかった。
勿論、普段のジャイアンならばこんなことを思うことはほとんど無い。
しかし、つい先程に安雄の死を悟り、その追い打ちとばかりに聖奈の死を知らされたジャイアンは気が立っていた。
そして、それは他の面々も同様であり、なかなかジャイアンの言葉に言い返す術を見つけることが出来なかった。
しかし──
「・・・でも、バイオハザードを一番経験したのものび太だよ」
そんな空気の中、ジャイアンに言い返すように言ったのは意外にもスネオだった。
「なんだと?」
「だってそうじゃん。そもそも僕たちはのび太に無理をさせすぎたんだよ。のび太があまりアンブレラに対峙するのに積極的でなかったのはジャイアンだって知っているだろ?」
「それは・・・そうだけどよ」
そこでジャイアンは言い淀む。
確かにのび太がアンブレラと対峙するのに積極的でなかったのは、ジャイアンも薄々感じていたことだった。
しかし、それでも足並みを乱さない為に気にしないようにしてきたのだ。
「そんな中、積極的に僕達に協力してくれたんだよ?今回くらい休ませてあげても良いんじゃないかな?」
加えて、のび太がこの中で一番バイオハザードを経験しているというのも事実だった。
ススキヶ原こそ経験していないが、日向穂島とアンブレラ研究島、ラクーンシティ、R市、南米、そして、またアンブレラの研究島と、間違いなくメンバーの中では一番バイオハザードを経験した人物と言える。
確かにスネオの言う通り、そこまでの貢献を果たしている以上、少しぐらい休ませるのも筋というものだろう。
「・・・」
ジャイアンは押し黙る。
それでも何処か不満げのある顔ではあったが、スネオの言っていることも分かるので、どう答えて良いか迷っているのだ。
そこで2人の会話を見守っていた出木杉が口を挟む。
「・・・まあ、最後だから参戦させて確実性を計りたいって武君の言うことも分かる。でも、今回は野比君に控えて貰うべきだよ」
「なんでだよ?」
「それは・・・」
ジャイアンの言葉に対して、出木杉は少しばかり答えに詰まってしまう。
あまり言いたくない事実だったからだ。
実はこの戦いは日本でのアンブレラの本拠地を叩くということで、皆の中では最後の戦いと認識されているが、正直言って、最後の戦いとなる保証など無い。
アンブレラ本社はヨーロッパに存在するのだから。
しかし、出木杉はその事を皆の前で言うことが出来なかった。
何故なら、いつ戦いが終わるか分からないという事実は、士気を大いに落としてしまうからだ。
だが、何も言わないのは悪手だと判断して、出木杉は代わりの答えを用意することにした。
「・・・雪奈ちゃんとアンジェラちゃんだよ。彼女達は一緒に連れていく訳にはいかないからね。誰かが面倒を見なくてはならない」
「でも、それはしずかちゃんとかだって」
「向こうが逆にこっちを襲ってきたら?しずか君では戦闘はほぼ出来ないだろう?」
「・・・」
そう言われるとジャイアンは反論の術がない。
一応、しずかには銃の扱い方を学習させているが、のび太に比べれば圧倒的に技量も練度も劣っている。
そもそもバイオハザードが起きる前の大冒険の時ですら、彼女が戦闘に駆り出される機会は比較的少なかったのだ。
であれば、こう言ってはなんだが、戦闘ではあまり頼りにならないと見るべきだろう。
「・・・決まりだね。じゃあ、雪奈ちゃんとアンジェラちゃんを野比君に預けて僕たちとあのリシングスキーさん達だけで敵のアジトに乗り込もう」
その出木杉の言葉に反対する者は居なかった。
◇西暦2021年 2月2日 夕方 日本 とある無人島
あれから4日後。
のび太達は出木杉達から、自分達が留守の間にアンジェラと雪奈の世話を見るように言われ、その言い付け通りにみほと共に2人で彼女達の面倒を見ていた。
「あっ、のび太君」
そんな中、みほは海岸で夕陽を見ていたのび太を見つけてそう声をかけた。
「みほさん、あれ2人は?」
「寝付いちゃったよ。今日は激しく動き回ったからね」
「・・・そうですか」
だが、そう言いながらものび太の視線は夕陽からピクリとも動かない。
みほはそんなのび太の様子を不審に思いながら、更に声を掛けた。
「どうしたの?」
「いや、なにやら雲行きが怪しくなってきたなって」
「そう?でも、この時期だから台風なんてほとんど来ないよ。来たとしても、精々大雨程度じゃないかな」
「いえ、そういう事ではなくて・・・」
のび太は若干ずれたことを言うみほに何かを言い掛ける。
そう、のび太が雲行きが怪しいと言ったのは、別に天気のことではない。
いや、それもあるが、なにやら不吉な予感がしたのだ。
しかし、縁起でもないことは確かだったので、のび太はこの話を止めることにした。
「なに?」
「いえ、なんでも。そう言えば、みほさんの家族や友達は今頃どうしてるでしょうね。やっぱり、心配しているんでしょうか?」
「えっ、うん。たぶん、千絋ちゃんも瞳ちゃんも私を心配してくれているだと思う。あと菊代さんも」
みほは二学期より友達になった2人と小さい頃から自分を世話してくれる使用人の名前を出しながら、のび太の言葉にそう答える。
本来なら、中須賀エミもこの名前の中に居た筈なのだが、自分の不注意な発言のせいで4ヶ月程前にドイツに戻ってしまった。
まあ、卒業まで居たとしても5ヶ月の延長であり、来月には別れる事となったのだが、それでもみほは少しでも長く一緒に居たかったという思いはあったのだ。
しかし、エミにあんな約束をしてなんだが、早くもみほは自信を無くしていた。
あんな厳しそうな環境で、とてもではないが自分の戦車道を貫く自信が持てなかったからだ。
加えて──
「でも、お母さん達は・・・」
みほは自分の母親が心配しているとは、どうしても思えなかった。
7ヶ月前のあの件の後でも、自分を心配する声すら掛けてくれなかったからだ。
「何か喧嘩でもしているの?」
「ううん。そういう訳じゃないんだけど・・・」
みほはなにやら歯切れの悪い言葉を吐く。
そして、ここ数日思っていたことだが、なにやら元気がない。
その理由は今まで分からなかったのだが、今の言葉でだいたい察しがついた。
「みほさん」
「ふぇ?」
のび太はみほをゆっくりと抱き締めた。
みほは戸惑うが、そんな彼女にのび太はこう言う。
「家族の温かみが欲しかったんですよね?僕じゃ代わりにならないでしょうけど、せめて偽物でも温かみぐらいは・・・」
結局、彼女が欲しかったのは家族の温かみだろう。
かつて大冒険の時、人魚族の王女(今は女王だが)であるソフィアも今のみほの同じ目をしていたことから、のび太はそう結論付けていた。
その気持ちはのび太にも分かる。
だが、それ故にこのままではいけないというのが分かってしまう。
しかし、のび太が彼女の問題に深く首を突っ込むわけにはいかない。
こういう問題は家族内で解決しないと根本的な解決にはならないのだから。
だが、友達として出来ることはあるし、こうして偽物ではあっても、抱き締めて温もりを与えることは出来る。
そして・・・この行動がみほの心に響く。
のび太は知らないことであったが、同じような事は使用人である菊代も行っていた。
しかし、彼女はみほの望んでいるものが何か、なんとなく分かっていながら、使用人という立場からあまり深みに突っ込んだ発言が出来なかったのだ。
だが、のび太は逆に他人だからこそ、そういう深みに突っ込んだ発言が出来る。
だからこそ、その言葉はみほの心に響いたのだ。
「・・・・・・ありがとう」
みほはその温もりに包まれながら、感謝の言葉を述べる。
──その目から静かに涙を流しながら。
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追手
◇西暦2021年 2月2日 夜 日本 無人島
ここはのび太達が潜伏している島とは少し離れた島。
そこにはあの研究員の他に40名規模のUBCSの隊員と4機のUH─1 イロコイ。
そして、一機のAH─1S コブラが待機していた。
「それで、その標的の人物っていうのは、この近くの島に居るのか?」
1人の外国人風の男をした隊員が研究員にそう尋ねる。
彼の名はカルーア。
このUBCS隊の隊長であり、今作戦の実行責任者でもある。
「そうだ。西住みほに着けていた発信器を辿ったところ、この近くに奴等が居るのは間違いない」
実は研究員は西住みほを誘拐した際、万が一脱走された時に備えて発信器を着けていた。
その発信器は気づかれにくい位置にあり、更には水で濡らした程度では落ちないように設計されていた為か、あれから5日経った現在においても気づかれることは無く、彼らはみほの位置を特定することが出来ていたのだ。
「ふーん。しかしよ。これはちょっと過剰なんじゃないか。ガキ2人を捕まえるために40人もの人員と戦闘ヘリまで投入するなんて」
カルーアは今作戦に投入される兵力は幾らなんでも大袈裟だと考えていた。
まあ、確かに普通に考えれば小学生2人捕まえるのに40人もの兵力と軍用輸送ヘリ4機、更に戦闘ヘリ1機を投入するなど、過剰戦力どころか、これを考えた人間の頭を疑うだろう。
しかも、戦闘ヘリに至ってはどう考えても捕獲するのには向いていない戦力であり、最悪の場合、“処理”してしまうことも考慮されているのが丸分かりだった。
そう、普通に考えるならば。
「何を言っているのだ!相手の内1人はT─ウィルス完全適合者だぞ!!むしろ、これくらいの戦力じゃ足りないくらいだ!!」
研究員はそう叫んだ。
ちなみに彼の言うT─ウィルス完全適合者とはのび太の事を表している。
これは彼の戦闘能力から分析されたものであるのだが、実際はのび太に適合しているのはT─ウィルスではなく、S─ウィルスなのだが、この事をアンブレラ関係者は知らない。
まあ、脅威には変わり無いという事も事実であったのだが。
「分かった、分かった。とにかく全力で──」
ポチャン
「──ん?」
カルーアが何か言葉を言い掛けた時、上から一滴の水が降ってきた。
彼は気になって空を見上げるが、その反応に返答するかのように、続いて沢山の水が一滴ずつ降り注いだ。
◇同日 深夜 雨
「雨、か」
のび太は島にあった洞窟の中で、数時間程前に降り始めた雨を見ながら呟く。
日本の場合、1年で一番寒いとされる時期が1月下旬~2月上旬とされており、今の日付は丁度その範囲に区分されている。
だが、それでも雨が振らないという訳ではない。
しかし、こんな滝のような雨が降るケースは珍しく、何か起こるのではないかと、のび太に暗示させるには充分な事だった。
「不吉だなぁ。何か起こらなければ良いけど」
のび太はそう呟きながらも、悪感を感じるのを抑えることが出来なかった。
そして、なんとなくだが、これから不吉な事が起きるような予感を感じる。
それがなんなのかはまだ分からないが、どのみちろくなものでないことは明らかだった。
「・・・」
「のび太君・・・」
のび太が黙って空を睨んでいた時、洞窟の奥に居たみほが駆け寄ってきた。
そして、のび太に寄り添うようにすぐ傍の位置に座り込む。
「みほさん・・・寝てなかったんですか?」
「うん、なんだか寝付けなくて」
「僕もだよ。なんだか星を見たくなっちゃんですけど、こんな雨じゃ星なんか出てないね」
のび太は苦笑げに言った。
勿論、これは嘘だ。
寝付けなかったのは本当だが、のび太がここに来たのは星を見たかったからではない。
そして、みほもまたそれが嘘であると分かっていた。
何故なら、もし星を見に来たのならば、戦っている時のような険しい顔をする筈が無いからだ。
しかし、追求はしなかった。
それをすることは今の平穏な時間を壊してしまうことであると思えたから。
「そっか。ねぇ、1つだけ聞きたいんだけど、良いかな?」
「ん?」
「あの時と同じ質問なんだけど・・・この戦いが終わったらどうするの?」
みほは単純にそれが気になった。
7ヶ月前は故郷であるススキヶ原に帰ると聞かされたが、今はそのススキヶ原そのものが無くなってしまっている。
いや、あの時点でも無くなっていたが、単純にみほがあの時知らなかった、と言うべきだろうか?
まあ、どちらにせよ、のび太に帰る場所がないというのは明らかだったので、みほはこの戦いの後、のび太がどうするのかという事が凄く気になっていた。
「・・・そうだね。取り敢えず、住む場所を探そうかな。ススキヶ原は暫く封鎖されていそうだし」
ススキヶ原は7ヶ月前のバイオハザードが起きた為に、自衛隊や警察隊によって封鎖されている。
もっとも、それは日向穂島やR市、更についこの前にバイオハザードが起きたY町も同じだが、仮にアンブレラが壊滅したとしても、それらの町にのび太達がすぐに戻るのはまず無理と断言しても良いだろう。
いや、下手をすればあと数年は戻れなくなるかもしれない。
となると、のび太達が何処に住むかが問題だ。
のび太が思っていたように、山奥や無人島に住むという手もあるが、やはりそれではのび太以外のメンバーがしっくりと来ないだろう。
しかし、今更政府に保護されるというのも憚られる。
「でも、あては無いんだよね。正直」
「・・・そ、そうなんだ」
みほはこの時、あることを言うべきかどうか迷った。
自分の家に来ないかと。
だが、正直、自分にこれから訪れるであろう厳しい人生に彼を巻き込んでしまうのではないか?
そういう考えがみほにあった。
(・・・そうだよね。のび太君は今でも厳しい人生を送っているんだもん。これ以上、そんな人生を歩ませるわけにはいかないよね)
みほはそう思うと、自分の考えを引っ込める。
しかし、せめて自分の言葉で慰めるくらいはしようと口を開こうとする。
だが、先にのび太の方が先に口を開いた。
「・・・ヘリ?」
「え?」
「いや、今、ヘリコプターの音が聞こえて」
のび太がそう言った為、みほは耳を澄ませてみるが、やはり雨が地面が叩く音しか聞こえなかった。
「・・・何も聞こえないよ?」
「可笑しいな・・・うわっ!」
突然、上空からピカッと光が洞窟付近を照らし始める。
のび太とみほは驚きのあまり手で顔を覆うが、その目には一機のアンブレラの証である赤と白の傘のマークを着けた機体が目に入ってきた。
◇同時刻
「隊長、目標を発見しました」
一機のUH─1に搭乗した隊員の1人が隊長であるカルーアに報告を行う。
そして、そのヘリに搭載されたサーチライトはしっかりのび太とみほ、彼らが隠れ潜む洞窟を照らしていた。
『本当か?では、俺達が行くまで待て』
「いえ、先に降下して捕らえます」
『いや、駄目だ。情報によると、相手はT─ウィルス完全適合者だそうだ。油断は禁物だ』
「しかし、ここで逃げられれば不味いことになります!」
隊員はそう言いながら、隊長に食って掛かる。
そして、隊員の言っていることは確かであった。
UBCSは非正規部隊なだけあって、基本的に使い捨ての隊員で構成されており、アンブレラ内での地位はUSSより低い。
まあ、任務の関係上、死亡率が高いという点ではほぼ変わらないのだが、それでもラクーンシティの時はUSSには滅菌作戦の事を通達されていたが、UBCSの末端には滅菌作戦の事が伝えられておらず、滅菌作戦に巻き込まれて死亡するという事態が発生していたし、Y町でも残っていたUBCSの隊員達を巻き込む形で町に改良型T─ウィルスがばら蒔かれていた。
しかし、それでもUSSからライバルとして見なされているのは、UBCSの方が軍事的な意味合いを強く持つために組織規模が大きいことやライフルやアサルトライフル、ロケットランチャーなどの様々な装備が配備されること、更に所属している人間には元軍人が多く、練度が高いことなどが挙げられる。
だが、ここで万が一任務に失敗すれば、本部から何らかの制裁を受けることもありうるという事を隊員達はよく知っていた。
そして、その結果は“不幸な死”である可能性が高い。
この隊員の言葉はそう考えた結果の焦りだったのだ。
『しかし──』
「作戦を開始します!」
隊員はそう言いきると、通信を切り、のび太を捕らえるため、他の隊員達と共に降下を始めた。
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第一ラウンド
◇西暦2021年 2月2日 深夜 雨 日本 とある無人島
「アンブレラの連中、こんな所まで・・・」
のび太はそう呟きつつも、戦闘態勢を取る。
何はどうあれ、今は戦闘を行ってアンブレラの人間達を撃退しなければならないからだ。
「みほさん、あなたは洞窟の奥に隠れていてくれ。ここは僕がなんとかする」
「・・・」
「みほさん?」
「その前に・・・1つ言いたいことがあるの」
みほは少しの沈黙の後、顔をのび太に向ける。
その視線には普段にはない強い意思が込められていた。
「絶対に帰ってきて。じゃないと許さない」
「・・・ああ、勿論だよ」
のび太はみほに対して、微笑みながらそう言った。
しかし、次にみほが取った行動には流石に驚かされることになる。
「じゃあ、これは前祝いの証」
チュッ
みほはのび太の頬に口づけを行った。
「なっ!?」
のび太は一瞬、何が起こったのか分からなかったが、段々と脳が理解を始めると、頬をリンゴのように真っ赤に染めていく。
「じゃあね」
そう言いながら、みほはのび太の前から去り、洞窟の奥へと向かっていく。
・・・ちなみにのび太は気づかなかったが、彼女の顔もまたリンゴのように赤くなっていた。
のび太はそれを少しだけ呆然と見つめていたが、やがて我に返ると、改めて気合いを入れ直す。
「よし!やってやる!!」
のび太は雨の降りしきる中、敵の前へと飛び出していった。
◇
飛び出してまずのび太が取り出したのはRPG─7・ロケットランチャー(榴弾装着)だった。
目標は地上の兵士・・・ではなく、上空待機中のUH─1だ。
これはのび太が地上の兵士よりも、上空から撃ってくるヘリの方が危険だと判断した為である。
一見、対空ミサイルのような誘導を行わない無誘導のロケットランチャーを使ってヘリを撃墜することは無謀に思えるが、意外にも実際の戦場では撃墜例があり、ヘリを撃墜する事を考慮された時限信管を搭載した弾頭なども有るほどだ。
このRPG─7に装填されているのは時限信管ではなく、通常の触発信管だが、時限信管よりは劣るものの、それでも撃墜を狙えないわけではない。
しかし、問題なのは風の影響だ。
ロケット弾というのはミサイルも含めて風の影響を受けやすい。
砲弾と違って空気抵抗を受けやすい形状をしているし、弾速度も砲弾より遅いからだ。
しかも、今は雨も降っているので、その影響も受けてしまうだろう。
ミサイルならば誘導装置が着いているので、目標に向かっていくが、ロケット弾は無誘導なので、一回外せばそれで終わり。
しかし、それでものび太は当てられる自信があった。
(よく風を読め。そして、計算しろ)
狙撃とは計算である。
現代でコンピューターによって未来位置に弾丸を撃ち込んで、高速の航空機を撃墜できるようになったのもそういう理屈からである。
一見、のび太の頭では出来なさそうな事だが、何故かこういうことにかけては天才的な頭脳を発揮するため、すぐに計算を終えてしまった。
(喰らえ!!)
のび太は引き金を引き、ロケット弾はUH─1に向けて飛んでいく。
弾丸はのび太の計算通りにヘリへと吸い込まれるように着弾する。
そして──
ドッガアアアアアアン!!!
大爆発を引き起こす。
使ったのは戦車などの装甲目標を相手にするための成形炸薬弾ではなく、人などの非装甲目標を制圧するための榴弾だが、爆発物に意外に脆いところがある旧式の軍用中型輸送ヘリを撃墜するには充分であり、着弾したロケット弾はヘリの機体はおろか、そのパイロットや降下を終えておらず、中にまだ残っていたUBCSの隊員共々吹き飛ばし、更にはヘリの機体は墜落によって地上に降りていた6名のUBCSの隊員の頭上に落ちようとしていた。
「た、退避ぃ!!」
隊員達は慌てて退避しようとしたが、2名が間に合わずに吹き飛ばされ死傷し、残る4名の隊員も分散させられた上に一時的に動けなくなった。
しかし、それでも流石は軍隊仕込みの人材というべきか、すぐに態勢を建て直そうとする。
だが、そんな隊員達に対して、のび太は無慈悲にもH&K HK416(100発ドラムマガジン装填。グリップポッド装着)をフルオートで放った。
通常のマガジンよりも多数の弾を込められるというメリットの代わりに、弾詰まりのケースも多いドラムマガジンだが、今回はのび太にとっては幸いに、敵に取っては不幸なことに、弾詰まりが起きることなく、100発の5、56×45ミリNATO弾の嵐が、生き残っていたUBCSの隊員に降り注いだ。
──そして、一通り撃ち尽くした後、その場に生き残っているUBCSの隊員は1人も居らず、UBCSチャーリーチーム10名は、戦闘開始から僅か30秒足らずで全滅した。
◇同時刻
一方、残る3機のUH─1ヘリと一機のAH─1Sコブラの計4機のヘリはのび太を発見したというポイントに向かっていた。
「チャーリーチーム!応答しろ!チャーリーチーム!!」
指揮官機であるUH─1のヘリ内でカルーアはチャーリーチームに呼び掛ける。
だが、応答はない。
当然だ。
この時点で既にチャーリーチームのUH─1ヘリは叩き落とされていて、残った隊員にもアサルトライフルの銃弾の嵐が襲い掛かっていたのだから。
「くそっ!まったく、うっかり殺しちまうなんてことはねぇだろうな」
今作戦で重要なのは相手の確保だ。
そして、カルーア自身もあまり子殺しなどはしたくない。
そういう思いからチャーリーチームの暴走には眉をしかめていた。
実際には殺される側だったのはチャーリーチームだったのだが、現在進行形で起きているチャーリーチームの悲劇を知らないカルーアには想像も出来てすらいない。
そして、約1分後、目的のポイントにカルーアが乗っている機体を含めた4機のヘリは到着した。
しかし──
「なっ!?」
そこにあったのは叩き落とされて炎上したままのUH─1ヘリだった。
しかも、よく見たら周りには少しではあったが、死体が散らばっている。
「何があったんだ・・・」
カルーアは少々呆然としながらそう呟くが、彼に思考の時間は与えられなかった。
「! 隊長、前方からミサイルが!?」
「!?」
パイロットの報告にカルーアがそちらを向く。
そこにあったのはミサイルではなく、ロケット弾であったのだが、こんな突然の状況では見分けなどつくわけがない。
そして、そのロケット弾はカルーアのUH─1を通過すると、隣を飛んでいたAH─1S コブラに命中した。
この時のロケット弾の弾頭は成形炸薬弾頭。
榴弾の時のような派手な爆発はないが、火力が一点集中するように造られているその弾頭は頑丈な戦闘ヘリの装甲をも易々と貫通し、機体上部に命中したコブラはメインローターを吹き飛ばされ、2名のパイロット共々、真っ逆さまに落ちていく。
「脱出しろ!!」
カルーアは思わずそう叫んだ。
幸い、墜落した時に爆発は起きず、2名のパイロットも無事であり、脱出する余裕は多少あった。
・・・しかし、彼らの幸運もそこまでであり、コクピットを開けたところでのび太が構えたM79グレネードランチャーから40×46ミリグレネードが発射されコクピット付近に着弾。
脱出しようとした2名のパイロットはそこで吹き飛ばされることになった。
「・・・総員、ただちに降下しろ。油断するな!」
それを見たカルーアは自機を含めた残存3機のUH─1ヘリに向けてそう指示する。
──この時より、カルーア達UBCSの隊員達はのび太の事を狩るべき“獲物”ではなく、明確に“敵”と認識することとなった。
◇
「2機やっつけたか・・・」
のび太はM79グレネードランチャーをその辺に放りながらそう呟く。
あっという間に2機のヘリと10人の兵隊をやっつけたのび太だったが、だからと言って油断するつもりは更々なかった。
現にまだ3機のヘリと30人の兵隊が残っていたのだから。
「だけど、流れはこっちにある」
だが、それでものび太は戦いの流れはこっちに向いていると判断していた。
そして、実際に敵は浮き足立っており、対応が遅れているので、のび太の判断もあながち間違いではない。
しかし、残ったUBCSの隊員達に慢心が無くなり始めていたというのも、また事実だった。
ドドドドドドドド
一機のUH─1からドアガンとして搭載されていた12、7ミリ機銃が火を吹いた。
「おっと!ここは危ないな」
のび太はそう言いながら、その場を少し離れることにした。
幸い、向こうはこちらの正確な位置を掴んでおらず、ロケット弾の発射元を大まかに撃っているだけだ。
しかし、その近くに居るというのは事実であったし、対物ライフルと同じサイズの弾丸の連射など喰らえば、ミンチになる可能性が高く、おまけに12、7×99ミリ弾など、木に隠れる程度では防げない。
なので、のび太は一旦違う位置に移動し、そこから再度攻撃を計ることにしたのだ。
しかし、その間にも残った2機のヘリからUBCSの隊員が次々と降下を開始していた。
──戦いはこの時を以て第2ラウンドへと移行することになる。
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第2ラウンド
◇西暦2021年 2月2日 深夜 日本 とある無人島
ドドドドドドドド
ドドドドドドドド
日本の無人島の森で凄まじい銃撃戦が巻き起こる。
いや、実際のところ、その銃火のほとんどはUBCS側のものなので、のび太に対して一方的に撃っていると言っても良かったが、のび太は巧みにそれを回避して2名のUBCSの隊員を射殺していた。
しかし、この善戦もかなり苦しいことが伺える。
何故なら、これらの戦果は戦闘開始から30分も経った戦果だったのだから。
「くそっ、あのヘリが邪魔だな!」
のび太は森の一角に隠れ潜みながら、空を飛び回る3機のヘリを忌々しげに睨んでいた。
そう、上空からの援護。
これがのび太にとって、一番苦悩していることだった。
なにしろ、12、7ミリ機銃という歩兵にとっては大口径の弾丸を撃ってくるのだ。
そうでなくとも、撃ち下ろしてくる時点で向こうが有利なのは確かだった。
しかし、試しにとヘリに銃弾を撃ち込んでもさっぱり効果がない。
当然である。
幾ら旧式の中型軍用輸送ヘリコプターと言っても、腐っても軍用であり、拳銃やアサルトライフルの銃撃を受けてあっさりと落ちるほど柔な造りにはなっていないのだ。
序盤で2機を撃墜した時のように、RPG─7でも投入すれば話は違うだろうが、あいにくこの距離と風の強度、天候の悪さでは命中させることは難しい。
「どうすれば・・・」
のび太は隠れながらも、冷静に飛んでいるヘリを観察する。
すると、あることに気づいた。
(ん?待てよ。あのプロペラの部分はそう固くないんじゃ・・・)
のび太はそう思った。
胴体は無理。
先程、アサルトライフルの銃弾を撃ち込んだがびくともしなかった。
操縦席もまた同じ。
こちらにもガラスにアサルトライフルの銃弾を撃ち込んだが、ガラスに罅こそ入れられたものの、そこで弾は止まってしまった。
なん発か同じところに撃ち込めば話は違うだろうが、この状況でそんな面倒なことはしていられない。
となれば、脆そうなプロペラを狙ってみるのも1つの手だった。
「・・・よし!」
そうと決まると、のび太はH&K G28・セミオートライフル(10発マガジン装填)を取り出し、目に入った一機のUH─1の上部のメインローターに狙いをつけた。
セミオートライフルは自動で次弾装填されるというメリットの代償に、ボルトアクションライフルよりも精度が悪いというのが通例だったが、このG28が完成されたのは西暦2011年と最近であり、工作精度の向上によってボルトアクションライフルとあまり変わらない程度にまで精度を高めることに成功している。
「・・・」
そして、のび太は狙いをつけると、トリガーを引いてUH─1のメインローターの付け根部分に向けて7、62×51ミリ弾を発射する。
この雨の中、スコープ越しでも見えづらいヘリのメインローターを狙うというのは針の穴を通すような作業だったが、のび太はそれを見事に成功させ、メインローターに被弾させた。
すると──
「! やったか?」
ヘリは突如不規則な動きをし始めた。
メインローターをやられたことで高度を上手く維持できなくなってしまったのだ。
ヘリのパイロットは必死で態勢を建て直そうとするが、それでも物理法則には逆らえず、ゆっくりと高度を下げ、そして、墜落した。
それでもなんとか爆発は免れたようで、パイロットは脱出したが、もう飛び立つのは不可能であり、これで残るヘリは2機へと減った事になる。
「これであと2機」
のび太は次のヘリにライフルの銃口を向ける。
だが──
チュン!
その時、のび太の近くの木に銃弾が着弾する。
それに反応してのび太がよく見ると、そこにはいつの間にか近づいていたUBCSの隊員達の姿があった。
「いつの間に・・・」
のび太はG28を1人の隊員に向けて発砲すると、その隊員を射殺。
その後、少しばかり怯んだ隙にこの戦場から脱出した。
──戦闘はまだ続いていく。
◇同時刻
「ええい!連中はまだ捕獲できんのか!!」
その頃、別の島で待つ研究員は激怒していた。
あれだけ大口を叩いておきながら、出てくるのは捕獲成功の報告ではなく、大損害を被ったという報告だけだ。
これでは逆に返り討ちに遭うという公算すら考えなくてはならない。
「・・・まあいい」
しかし、一頻り癇癪をやり通すと、その研究員は全く焦りを見せなくなった。
いや、それどころか、余裕の笑みすら浮かべている。
それもその筈。
何故なら、彼はこうなった時の策を既に練っていたのだから。
しかし、確実性があまり無かったし、任務の主旨に半ば反してしまうので、積極的にやりたくはなかったのだ。
だが、この状況ではそんな事も言っていられないと研究員は判断していた。
何故なら、この仕事に失敗すれば、自分に待っているのはろくでもない運命なのだから。
「あれを投入するとなると、UBCSの損害は免れんが・・・まあ、問題ないだろう」
研究員は仲間である筈のUBCSの隊員達の命をなんとも思っていなかった。
精々、自分の役に立てば良いと思っていたのだ。
──そして、彼の言葉を裏付けるようにここより少し離れた空に一機のヘリが正に今、のび太達が戦っている無人島へと向かっていた。
◇西暦2021年 2月3日 未明 日本 とある無人島
あれから日付を跨いでいたが、戦闘は未だ継続されていた。
しかし、UBCSの隊員も20名程までに減っており、残るヘリは依然として2機だったが、銃弾の弾が切れたのか、偵察行為くらいしかしてこなくなっている。
だが、同時にヘリがあちこち撃ちまくって木々を薙ぎ倒したせいで、隠れられる場所も少なくなってきているのも確かであり、のび太は徐々に窮地に陥り始めていた。
「・・・」
のび太は冷静に息を潜めながら、G28を構え、残る2機のヘリの内の一機のプロペラをそのスコープに映す。
狙いはテールローター。
これは射線上の問題からメインローターは狙えないと判断した為だ。
小さな方のプロペラを狙って効果が有るのかは、やや疑問ではあったものの、この際仕方がないとのび太はそこを狙うことにした。
最悪、少しでもダメージを与えられれば良いのだ。
しかし、問題なのはスコープだった。
この雨によって濡れてしまったせいでよく見えないようになってしまっていたのだ。
もっとも、それはUBCS側も同じであり、彼らも連れてきたスナイパーを数ヶ所に配備させていたが、この雨によってあまり役に立っていない。
雨という空間はスナイパーにとってなかなかやりづらい空間でもあるのだ。
しかし、そんな中、のび太は数秒の修正を行いながらも上手くテールローターに向けて発砲し、見事UH─1のテールローターに命中させた。
ヘリコプターというのは基本的にメインローターで縦の動きを、テールローターで横の動きを制御するように造られている。
その為、そのUH─1はテールローターがやられたことによって機体は横の動きを制御する術を失い、クルクルと機体を舞わせながら高度を落としていき、墜落した。
ドッガアアアン
そして、燃料が引火したことによって爆発。
残る空を飛ぶヘリは遂に1機となった。
「よし、これであと1つ落とせば、残るは地上部隊だけだね」
勝ち筋が見えてきた。
のび太はそう思いながら、敵が来ないうちにあと1機のヘリのメインローターへと狙いをつけようとする。
だが、その時──
バババババババ
戦場に新たなヘリが来襲した。
「!? 増援か?しかも、あれって・・・」
のび太はそのヘリに見覚えがあった。
そのヘリの名はCH─47 チヌーク。
2ヶ月前にR市から脱出する際にのび太が乗ったヘリである。
しかし、あの時とは違い、機体の横に描かれているのは日の丸ではなく、赤と白の紋様をした傘だ。
どう見ても敵の増援と見るのが自然だろう。
そして、1番目についたのが、機体にぶら下げられる形で存在する3メートルもの身長と両手に鋭い鉤爪をもの巨人だった。
「あれはタイラントか!?まさか、こんなところで!」
のび太は焦る。
敵はどう見てもタイラントをここに投下して戦線に投入するつもりだ。
そして、それはのび太にとってかなり不味い。
ただでさえ、かなりギリギリの状態で拮抗させているこの状況でタイラントなどが投入されれば、一気に向こうに戦局が傾く可能性が高いからだ。
いや、そもそも自分しか居ないのだから、戦線も何もなく、自分がやられればそれで終わってしまう。
それだけは絶対に避けなくてはならない。
「急いで逃げないと!」
のび太は少々危険ではあったが、ここから離れて別の場所に向かうことにした。
ここではタイラントとUBCSを同時に相手にするには条件が悪すぎると感じたからだ。
その為、のび太は少々危険ではあったが、少し開けた場所で両者を迎え撃つことにした。
狙い撃ちされる可能性はあるが、少なくとも見逃して奇襲されるという展開は避けることが出来る。
そういった理由からその場を離れたのび太であったが、これは意図しなかったとはいえ、正しく正解の判断だったと言えるだろう。
何故なら、このタイラントは従来のタイラントよりも性能が大きく強化されていたが、制御する術などは全く無かったのだから。
──そして、チヌークに積まれていたタイラントは投下され、戦場に新たな展開が巻き起こった。
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最終ラウンド
◇西暦2021年 2月3日 未明 日本 とある無人島 上空
「いったい、どうなっているんだ!これは!!」
もはや上空に残る唯一のヘリとなってしまったカルーア座乗のUH─1では、カルーアが下の惨状に思わずそう叫んでしまった。
突如やって来てタイラントを投下して去っていったチヌーク。
カルーアはこの作戦で、その存在を全く聞かされていなかった。
しかし、目下の問題はそこではない。
1番の問題は、その投下されたタイラントによって、自分の部下達が次々と惨殺されているということであった。
『ぐわあああ!!』
『た、たすけてくれぇぇえ!!』
『くそっ!なんなんだよ、こいつはぁ!!!』
無線から響いてくる悲鳴や怒声。
それはいずれも地上に降りていた部下達のものだった。
実はこのタイラントは攻撃力や防御力など、戦闘能力を優先に作られており、制御などは後回しにされていて、目についた目標を片っ端から殺すようにプログラムされている。
しかし、今回、最初にこのタイラントが目にしたのはのび太ではなくUBCSであり、彼らはのび太と違って上空にやって来たチヌークを敵と認識しておらず、それ故に退避が遅れてしまい、こうしてタイラントの暴走に直面してしまったのだ。
「くそっ!パイロット!!もう少し、高度を落とせ!!銃撃して部下の援護をする!!」
「了解!」
カルーアの命令をパイロットは受諾し、高度を少しばかり落とす。
・・・しかし、それは致命的な判断ミスだった。
何故なら──
ゴキゴキ、ブン!
タイラントがヘリを視認してそこら辺にあった木をへし折って、その木をヘリへと投げたからだ。
そして、投げられた木は物凄い勢いでヘリへと飛んでいき、機体の正面に命中すると、そのまま窓ガラスを割ってパイロットを下敷きにし、ヘリは操縦不能となり、機体は墜落していく。
──こうして、UBCSのヘリは全て撃墜された。
◇
「・・・なんだ?仲間割れか?」
一方、いち早くあの場から離れたことで難を逃れたのび太は、投下されたタイラントが自分ではなく、UBCSの隊員を襲っていることに驚いていた。
まあ、のび太からすれば嬉しい誤算ではあったのだが、このままUBCSが蹴散らされれば次は自分だということは理解していたので、楽観は出来ない。
「どうする?一度、あの洞窟に籠ってあいつがどっか行くのを待つか?」
見た感じ、向こうの戦闘能力はかなりのものだ。
それは先程からUBCSの隊員達が撃ち続けているアサルトライフルやスナイパーライフル、更にはグレネードランチャーの猛射を浴びてもけろりとしていて、更にはボディアーマーを身に着けた隊員をその鉤爪で
こちらは武器は豊富にあるし、RPG─7などの弾頭も余っているが、それでも無理に戦う必要はないし、戦いたくもない。
なので、一旦洞窟に隠れて、あのタイラントがUBCSを殺して立ち去るまで待つというのも1つの手ではある。
しかし、のび太はそれをすぐに却下する。
「・・・ダメだな。どう考えても見つかる想像しかしない」
そもそもこの島は大して広いわけではない。
おまけに戦闘によってあちこちの木は文字通り薙ぎ倒されており、隠れる場所も極端に少なくなっている。
これでは隠れ潜むというのは不可能に近い。
となると──
「みほさん達を連れて、この島から脱出するしかないか」
幸い、船は隠された場所にある。
この近くを偶々通り掛かった船に、何かあったと通報されるのが嫌だからとそうしたのだが、それが意外な場面で役に立った。
「それしかない。あいつはアンブレラの連中と交戦してる。やるなら今だ」
少しの迷いの末、のび太は決断し、みほ達が隠れている洞窟に向けて駆けていった。
◇
「みほさん!!」
洞窟の奥に戻ったのび太は、みほに向かって叫びながら奥へと進んでいく。
すると、そこには雪奈とアンジェラを庇うように抱き締めているみほの姿があった。
「のび太君?もう終わったの?」
「いえ、まだ終わっていません。すぐにここを出て船に行こう!化け物が来る!!」
「ええ!?わ、分かった!」
みほは少々戸惑いながらも、のび太の指示に素直に従い、雪奈とアンジェラを起こして連れていこうとする。
だが──
「・・・いえ、やっぱり良いです。ここで待っていてください」
のび太は突如として先程の言葉を撤回した。
「?」
みほは急な命令変更にまたもや首を傾げるが、それも無理はない。
のび太の言っていることは支離滅裂だったのだから。
しかし、この時、のび太は気づいてしまったのだ。
外であれほど鳴り響いていた銃声が、今しがた止んだことに。
これは外のUBCS隊が全滅した可能性が高いことを示唆しており、今みほを連れて出ていけばタイラントの餌食になる可能性が高い。
となると、のび太が取るべき道は1つ。
タイラントを迎撃するしかない。
「みほさん、絶対にここを動かないでください」
のび太は一言そう言い残して、足早に洞窟から去ろうとする。
この状況で一番不味いのが、タイラントが洞窟の中に入ってきて洞窟で戦闘を行ってしまうという事態に陥ることだ。
なにしろ、この洞窟は狭くもないが、ロケットランチャーなどの高火力の兵器を中で撃ちまくって大丈夫であると断言できるほどの堅牢さはない。
いや、それどころか、下手をすれば落盤を起こして生き埋めになってしまう。
となると、火力はかなり制限され、ロケットランチャーやグレネードランチャー、C4爆弾はまず使えない。
手榴弾は辛うじて使えるかもしれないが、先程、グレネードランチャーを喰らってもびくともしなかった相手に、手榴弾でダメージを与えられるとは到底思えなかった。
そうなると、外で迎撃するしか術がない。
のび太はそう考え、タイラントが来る前に洞窟の外に出ようとしたのだが、それは少しばかり遅い判断だった。
「!?」
のび太は突然足を止めて目の前の光景に息を呑む。
グオオオオォォオオオ
出入り口付近には既にタイラントが待ち構えていた。
そして、こっちに気づいたのか、ゆっくりと中に入ってくる。
「・・・」
のび太は冷静に近くの岩に隠れる。
幸い、向こうはこちらに気づいていない。
気づいているならば、先程の機動力からするに、こちらに走って攻撃してくる筈だからだ。
出来ればこのままやり過ごしたいのだが、それは出来ない。
この奥にはみほ達が隠れ潜んでいるのだから。
(・・・やるしかないか)
のび太はそう決意すると、まず青い缶のような物──閃光手榴弾を取りだし、ピンを抜いてタイラントの前に放り投げる。
閃光手榴弾は基本的に構造は手榴弾と変わらないが、相手に対処処置を取らせないためなのか、安全装置を外してから爆発までの時間は普通の手榴弾より短くなっている。
その為、閃光手榴弾から手を離して2秒と少し。
閃光手榴弾は起爆し、激しい音と光がタイラントを襲う。
グオオオオォォオオオ
タイラントは悲鳴をあげながら悶絶する。
高い戦闘能力を発揮するタイラントだが、それでも激しい音と光を浴びせられてケロリとしていられる訳ではない。
その為、人間と同じく一時的に聴力と視力が機能不全となる。
ドドドドドドド
その間にのび太は取り出して、HK416の弾丸をタイラントに見舞う。
が──
キンキンキンキン
それらの弾は全て弾かれる。
(くそっ!やっぱりか!!)
分かっていたことであったが、やはりアサルトライフルの弾丸があっさり弾かれているという現状はのび太に若干の不安要素を与える。
これで
(でも、やるしかない!)
のび太はそう決意すると、一旦HK416を放り投げ、ワイヤー銃を取り出す。
そして、タイラントの右前辺りの岩にワイヤーを発射して突き刺すと、銃本体をタイラントの左前の岩にくくりつける。
その直後、タイラントの視界と聴力は回復し、のび太を視認すると雄叫びを上げながら襲い掛かって来た。
「危ない、危ない」
のび太は慌ててその場から退避し、タイラントは追撃しようとしたが、その前に展開されていたワイヤーに足が引っ掛かった。
のび太がやったのは至極簡単。
子供がやるような引っ掛け罠をワイヤーを使って行った。
ただそれだけである。
普通ならこんなあからさまな罠には引っ掛からないだろうし、そもそもタイラントのパワーによって紐どころか、縄ですら簡単に引きちぎられていただろう。
しかし、強化によって知性が低下していたこと、更には使ったのが何十キロもの人間の体重の重さに耐えるように設計されたワイヤーだったことが、この罠を成功へと導き、タイラントを転倒させた。
その隙にのび太はMK─3攻撃手榴弾のピンを抜くと、タイラントの頭に向かって放り投げ、自らは身を隠す。
そして、数秒後、手榴弾は爆発し、周囲数メートルに渡って爆風を舞い上がらせる。
この爆発を頭部に、しかも至近距離で喰らったタイラントは流石にダメージを受け、頭部の一部分に凹みが出来た。
しかし、再生能力も強化されているため、数秒後にはキレイさっぱり再生させられるだろう。
そう考えたのび太はそうなる前に倒すべく、両腰のホルスターからFive-seveNを取り出して発砲する。
2丁の拳銃から同時に5、7×28ミリ弾が撃ち出され、凹みの部分へと叩き込まれた。
1発ずつならその高い防御力で耐えられたかもしれなかったが、流石に同時に2発の弾丸が殺到するという状況には耐えられず、何回かの同時発砲の後、遂に頭部に穴が開き、脳に直接弾丸が撃ち込まれる。
そして──
グウゥゥウ
呻き声を上げながら、完全に動かなくなった。
「・・・」
のび太はそれを見届けると、足早にみほの待つ洞窟の奥へと入っていった。
◇数分後
グオオオ
先程、のび太の前に倒れたタイラントはその数分後に脳の損傷を回復させて起き上がる。
しかし、周囲にのび太の姿はなかった為、新たな獲物を求めて洞窟の奥へと進もうとするが、タイラントは知性が無いゆえに気づかなかった。
周囲に大量のC4爆弾が置かれていたことを。
──そして、それらはタイラントが数歩歩んだ後、一斉に起爆した。
◇
ドッゴオオオオオオオオン
島中に響き渡る轟音が鳴り響き、凄まじい爆風に見舞われた洞窟は落盤によって埋まっていく。
その光景を見ていたのび太達4人は、これでようやくあの怪物を倒すことが出来たと安心した。
「これで・・・終わったんだよね?」
「・・・うん、これで終わりだね」
みほの問いに、自信をもってのび太はそう答える。
この島に上陸したUBCS隊は全滅したし、投入されたタイラントも先程倒した。
もう敵は来ないと見て良いだろう。
後は仲間の北海道研究所襲撃成功の報告を待つだけだ。
まあ、それが失敗してしまえば、もう一度来るかもしれないが、少なくとも当面の危機は去っている。
(まっ、それまでは平和を謳歌しておくさ。また来たって僕が守れば良いだけだし)
のび太はみほの方をチラリと見る。
(・・・最悪、僕が死んでも、彼女達は守らないといけないな)
のび太は改めてそう決意した。
しかし、そんなことは露知らず、みほはのび太に対してこう言う。
「・・・ねぇ、のび太君」
「どうしたの?」
「あの・・・そのね。銃の使い方を教えてくれないかな?」
「銃の使い方?」
のび太は怪訝な顔をする。
いきなりのみほの提案に戸惑っていたからだ。
だが、その真意は次の言葉で分かることになる。
「ほら、そうすれば、もし次にこんなことがあった時、私も戦え──」
「──みほさん」
そこまで聞いたところで、のび太はみほの言葉を遮る。
そして、警告するようにこう言った。
「銃は所詮、凶器に過ぎません。そんなものは本来なら扱わない方が良いんですよ」
のび太はそう断言しながら、暗に教えないと解答する。
確かにここでみほに銃の扱い方を教えれば何かの役に立つかもしれない。
──だが、銃は所詮凶器に過ぎない。
それ故に、扱い方を知った時、みほは血生臭い世界に本格的に首を突っ込むことになるだろう。
のび太はみほにだけはそんな風になって欲しくなかった。
しかし──
「でも!私だって・・・私だって・・・・・悔しいよぉ!・・・・・・・うっ、うわあぁぁん」
みほは突然、涙を流し始める。
第三者から見れば、何故この場面で泣くのか分からないだろう。
泣くタイミングもがあまりにも可笑しいからだ。
しかし、彼女がこうなるまでには様々なものが関わっていた。
姉が中学に上がってしまったことによる孤独感、自分が拐われて迷惑を掛けているのに何も出来なかったこと、自分が不甲斐ないせいでドイツから来た友達の転校を早めてしまったこと、その友達の帰り際にした約束を守れる自信がないこと、そして、また拐われてしまいのび太の足を引っ張ってしまったこと。
そういった自分自身に対する怒り、嘆き、悲しみ、嫌悪感・・・そんな様々な感情がここに来て一気に爆発してしまったのだ。
しかも、のび太もその一因を担っており、そんな彼に対する嫉妬やそんなことをする自分への嫌悪感などが追い討ちとして加わっている。
その為、幾らのび太が慰めの言葉を言ったとしても、それは彼女をそのまま傷つけるだけだろう。
「・・・」
そして、それを知ってか知らずか、のび太はただみほの事を抱き締めることしかしなかったし、出来なかった。
──その数日後、仲間による北海道のアンブレラ研究所の制圧は成功し、研究所内部にあった情報は各国のメディアを通して晒されることになる。
それでもどうにか逃げようとしたアンブレラだったが、18日にロシア政府が主導して創設された私設対バイオハザード部隊によって、コーカサス研究所で行われていたテイロス計画が頓挫し、何者かによってアンブレラ内部の不正な研究実験が行われた証拠が世間に流出したことによって、アンブレラは裁判にて敗訴し、アンブレラは今度こそ息の根を止められ崩壊した。
こうして、洋館事件及びススキヶ原のバイオハザードから7ヶ月。
遂にアンブレラとの戦いは終わった。
・・・しかし、それは新たな戦いの始まりでしかなかったということを、彼らはすぐに思い知らされる事となる。
本章登場人物の生存者と死亡者
・生存者(21名)
野比のび太、ドラえもん、出木杉英才、源しずか、剛田武、骨川スネオ、桜井咲夜、富藤雪香、アリス・アバーナシー、アンジェラ・アシュフォード、緑川雪奈、満月美夜子、翁餓健治、リシングスキー、エスター、リシーツァ、セイカー、ヤノフ、サーシャ、鳥柴、西住みほ。
・死亡者(1名)
田中安雄。
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第六章 insanity Destiny
新たな日常
◇西暦2021年 7月某日 某所
「──約束通り、連れてきたぞ」
サングラスをかけた細身の外国人はそう言いながら、背負っていた女をそこら辺に放る。
その女への対応に、紫色のローブを羽織った男が苦言を口にした。
「・・・もう少し丁寧に扱ってくれないかね?あれでも一応、我が教団の客人なのだぞ?」
「ふん、俺には関係のないことだ」
吐き捨てるようにそう言いながら、サングラスの男はその場を去っていく。
それを見届けた紫色のローブの男は溜め息をつきながらこう言った。
「やれやれ、やはりあのような男は早急に始末しなければならんな。・・・と言っても、それは私が世界を掌握した後の話になりそうだが」
そう言って男──この世界のオズムンド・サドラー──は不敵に笑った。
「ふん、俗物が。あんな奴が世界を支配できるものか」
サドラーにそう言われた男──ゲイリー・ウェスカーは、呟くようにそう言いながら建物から去っていき、己の計画を遂行するためにとある場所へと向かった。
アンブレラの一件から5ヶ月。
物語はまた新たに動き出そうとしていた。
◇西暦2021年 7月26日 朝 ドイツ B市 とある一軒家
「起きろぉ!」
B市のとある一軒家。
そこでは銀色の髪をした1人の銀髪の少女が、惰眠を貪る黒髪の東洋系の顔立ちをする少年を叩き起こそうとしていた。
しかし、少年はなかなか起きない。
そんな少年に対して、少女はとある必殺の一言を言い出した。
「──ユラリに言い付けるよ?」
その言葉を聞いた途端、少年は跳ね起きた。
ユラリ=アースケラー。
名前から分かる通り、日本人と外国人のハーフであり、ここに居る少年と少女のクラスメートの少女である。
母親が外国人であったので、おそらく父親の方が日本人なのだろうが、その母親が言うには父親はユラリが産まれる前に既に死んでいるらしく、現在は母子家庭で日々過ごしているのだが、そんな環境にも関わらず、何処から金が沸いてくるのか、比較的裕福な生活をしているので、少年の母親代わりの女性からは不審な目で見られていた。
「あっ、起きた?良かった」
「・・・ツェスカちゃん。その冗談は洒落にならないから」
少年はひきつった顔で、銀髪の少女──ツェスカに向かってそう言った。
この反応からも分かる通り、少年はユラリという少女をかなり恐れている。
ちなみに少年がユラリという少女を恐れているのは、彼女のドSな性格が関係していた。
まあ、ドSと言っても、暴力を振るうとかそういうわけではないのだが、時々冗談なのか怪しいブラックジョークを無表情で言ってくるので、それが少年を恐れさせていた。
そして、ツェスカは少年と同じ小学校に通っており、ユラリとは少年に会う前からの親友であるのだが、からかうのが面白いため、しょっちゅうユラリに弄られている。
「ノビタが早く起きないからでしょ?」
「でも、今日、休みじゃん」
ツェスカの言葉に、少年はそう反論する。
休みの日くらい、ゆっくりさせて欲しいという何処ぞのサラリーマンみたいなことを暗に主張していた。
しかし、そんな理屈はこの少女には通じないらしい。
「ほらほら、とっとと起きて。今日は3人で遊ぶんだから」
強引な行動をするツェスカに少々呆れながらも、少年──野比のび太は身支度を始めた。
◇リビング
のび太やドラえもん、アリス、雪奈、アンジェラの5人がこの日本から遠く離れた地であるドイツで暮らしていたのは理由がある。
まず彼ら彼女らはウィルスの適合者であり、日本に居ては人体実験台にされかねず、自由が得られない可能性があったことだ。
実際、これはラクーンシティを脱出したシェリー・バーキンがそうなったことを考えれば、正しくその通りと言える結論だろう。
アンジェラは厳密にはウィルスの適合者ではないのだが、外国人であったので日本で暮らしづらいかも知れないことと、T─ウィルスの抑制剤を定期的に体に打っている事が憂慮され、のび太達に着いてきたのだ。
本来なら、アリスと同じくT─ウィルス完全適合者の咲夜も来る筈だったのだが、彼女は旅に出ると言って、何処かに去っていった。
ちなみにドラえもんは、元々のび太の世話の為に未来から来たということで、ここに来ており、今は別の部屋で寝ている。
そして、ドイツを選んだ理由は、ここにロッテという伝があり、万が一の場合、少し厄介になろうと考えていたからだ。
迷惑をかけてしまうかもしれないが、背に腹は代えられない。
「あら、起きたの?」
そう声を掛けてくるのはアリス。
現在、のび太、雪奈、アンジェラの母親代わりを務めている女性でもある。
もっとも、アンジェラは兎も角、東洋系の顔立ちをしたのび太と雪奈がアリスの子供という設定で暮らしているというのは、何か訳ありの家族であると近所の人間に思われるには充分であり、ここに来た当初はその事で不審な目で見られていた。
しかし、人は慣れるもの。
時間が経てばあまり気にしなくなっていき、のび太も女の子ではあるが、ユラリとツェスカという少女2人と仲良くなることが出来た。
「おはようございます。アリスさん」
「おはよう。またツェスカに起こされていたのね」
「ええ、起きなきゃ怒るよって言われたので」
のび太は苦笑ぎみに嘘を言った。
流石にユラリに言い付けると脅されたとは言えない。
のび太にも男としてのプライドがあるのだ。
なけなしのものではあるが。
ちなみにそのツェスカは、自宅にて既に昼食を食べ終えていたので、のび太の部屋で待って貰っている。
「これから朝御飯を食べて3人で遊びに行きます」
「そう。でも、くれぐれも気をつけてね」
アリスは少々だが、鋭い目でのび太に向かってそう言う。
気をつけてね。
普通ならば、車に気を付けてなど、危険に注意しろという意味に取られるだろう。
しかし、自分達の場合は違う。
ウィルスの完全適合者であることを気づかれるなとアリスは言っているのだ。
その理屈は分かる。
ウィルス完全適合者と分かってしまえば、今の日常は壊れてしまうのだから。
これはのび太だけでなく、雪奈にもよく言い聞かされていることだ。
まあ、アリスの体内にあるT─ウィルスと違って、のび太や雪奈の体内にあるS─ウィルスはアドレナリンを分泌しないと発動しないので、普段は通常の小学生の身体能力と変わらないのだが、それでも何かの拍子に出てきてしまう可能性がある。
特に運動をしている際、ドーピングと疑われて(見方によってはドーピングそのものだが)薬物検査をされると、かなり不味いことになるかもしれない。
そうならないために運動をなるべく人前ではしないようにしており、この前、雪奈が友達に誘われて運動をしてきた時などは少々きつめに叱った程だった。
「・・・ええ、分かっています」
「ならいいわ。しつこいようでごめんなさいね。・・・ああ、ツェスカちゃんが待っているから、すぐにご飯を作るわね」
そう言うと、アリスはのび太の朝食を作るべく、台所へと向かう。
のび太はそれを見届けながら、ふとカレンダーを見た。
(あれから1年、か)
そう、1年。
のび太が地獄へと放り込まれ、日常の生活を失ったあの日から、あと2日で丁度1年が経つのだ。
(あの頃は楽しかったなぁ。大変なことも色々あったけど、面白くてジャイアン達とも上手くやれてて・・・)
そう言いながら、のび太は今は死んでしまったり、最後の決戦の事が遠因となり、ギスギスした状態のまま別れてしまった戦友やクラスメートの顔を思い浮かべる。
あの頃は日々0点を取ったり、遅刻したり、先生に怒られて廊下に立たされたりしたし、大冒険の時は地球が滅亡するかの瀬戸際の時もあれば、とある惑星を救うのに奔走することもあった。
しかし、だからと言って、のび太はあの頃に戻りたいなど思わない。
何故なら、バイオハザードを経て得た人間関係などもあったし、なにより過去のやり直しなど、散っていった人間達の努力を否定することになりかねないからだ。
それに・・・過去に戻ったら戻ったらで、未来を知っているだけにあの人も救いたい、この人も救いたいなど、際限の無い欲が出てきてしまい、やがて人を救えない現状を惨めに思うことになるだろう。
もしかしたら、未来で過去改変が禁止されているのは、未来が変わってしまうだけでなく、そのような懸念が有るからなのかもしれない。
(・・・また戻れるかな?)
しかし、それでものび太はあの日々を取り戻すとまでは言わないが、せめて仲直りくらいはしたい。
そう思いながら、名残惜しそうに過去の光景を思い浮かべていた。
現時点の登場人物生存者(29名)のその後
・日本(15名)
出木杉英才、源しずか、剛田武、骨川スネオ、富藤雪香、満月美夜子、翁餓健治、榛名、大鷹、島田愛里寿、山田太郎、島田響、西住みほ、緒方タカシ、白鳥渚。
・ドイツ(5名)
ドラえもん、野比のび太、アリス・アバーナシー、アンジェラ・アシュフォード、緑川雪奈。
・アメリカ(1名)
レオン・S・ケネディ。
・不明(8名)
リシングスキー、リシーツァ、エスター、セイカー、ヤノフ、鳥柴、桜井咲夜、サーシャ。
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未来からの訪問者
◇西暦2021年 7月27日 夕方 ドイツ B市
「──ところで、のび太君?」
この日、金髪の髪を一括りで纏めた髪型をして翡翠の瞳をした少女がのび太の隣を歩いていた。
彼女の名はユラリ=アースケラー。
のび太のクラスメートであり、ツェスカ同様、ドイツで出来た友人の1人である。
彼女は普段、クールビューティーという感じに無表情ではあるが、のび太やツェスカからすればそれは間違いであり、面白いことにはちゃんと面白がるという人物だ。
いや、性格には面白いようにする、と言うべきだろうか?
「ん?どうしたの?」
「あなたがちょっと席を外している間、ツェスカちゃんが昨日、嬉しそうに私に言ってきましたよ。私の名前を出したら、あののび太君があっさり起きてくれた、と」
「うっ」
のび太はその様子が簡単に想像できてしまう。
かつてはのび太もそうだったが、ツェスカはそれ以上に抜けているところが多くあり、はっきり言えばのび太以上におっちょこちょいだ。
おそらく、ユラリが『ツェスカちゃん、どうやって起こしたんですか?』という質問をして、それに対してツェスカは『ユラリの名前を出したら簡単に起きてくれたよ。やったぁ!』みたいな返答をしたのだろう。
だが、それは回り回って現在進行形でのび太をなじる羽目になっている。
(ツェスカちゃん、恨むよ)
のび太の心の中で、ツェスカに対してそう思った。
彼女ものび太と同じくユラリの親友であり、ユラリはそういうなじることを面白がってやる人物だとよく知っている筈だ。
何故なら、彼女もよくそんなことをユラリにやられるのだから。
しかし、一旦やられる側に回れば、溜まったものではない。
別に嫌という訳ではないが、とにかく疲れるのだ。
その為、のび太は恨めしそうに内心でツェスカに呪詛の言葉を贈りつつ、ユラリに対してこう返答した。
「いや、そんなことは無いよ。僕がユラリさんを恐れている訳無いじゃない」
「・・・私を恐れているんですか?」
だが、のび太はそこで墓穴を掘ってしまった。
ユラリはツェスカが自分の名前を出したらのび太が起きたと言っただけで、のび太が自分を恐れているとは一言も言っていなかったのだ。
「い、いや、その・・・」
「残念です。私はのび太君に恐がられていたんですね」
「えっ、えっ?ユラリさん!?」
のび太は思わず、ユラリの反応に動揺してしまう。
何故なら、ユラリは悲しげに顔を覆いながら涙声でそう言っていたからだ。
・・・状況から見て、何処からどう見ても女の子を泣かす最低男にしか見えない。
しかも、原因は自分の失言だ。
その罪悪感も合間って、のび太はかなり混乱することになった。
しかし──
「──冗談です」
「へ?」
ユラリがいきなり顔を覆っていた手を離して、のび太に向かってそう言った。
「いや、でも、目から涙が・・・」
「ああ、これは目薬ですよ。のび太君をちょっとからかってみようと思いました」
「・・・」
「では、そういうわけで。今日はこの辺にしておきましょう。さらばです!」
「あっ。ちょっと、ユラリさん!?」
のび太の制止の声も聞かず、ユラリはそのまま走り去っていった。
◇数分後
のび太の姿が見えなくなる距離まで走ったユラリは、そこから歩いて自宅へと戻ろうとしていた。
しかし、ユラリは内心でこう思ってしまう。
(ちょっと・・・傷つきましたね)
先程は目薬と言って誤魔化したユラリだったが、実を言うとその涙は本物だった。
彼女はのび太の恐れているという部分に少々傷ついていたのだ。
ここまですれば分かると思うが、ユラリはのび太に対して好意を抱いていた。
勿論、
彼女がツェスカに抱く友情はそれほどまでに深かったのだから。
そして、ツェスカがもしのび太にそういった恋愛の意味での好意を抱いていれば、迷わず彼女に譲り、自分は応援に回っていた筈だった。
しかし、ツェスカがのび太に抱いたのはユラリとツェスカの間のものと同じ親愛。
だからこそ、ユラリは遠慮はいらないとのび太に好意を抱いていたのだが、その対象であるのび太にそのような反応をされたことで地味に心を傷つけられていたのだ。
しかし、それだけではなかった。
(やっぱり、私では相応しくないんですかね)
彼女はのび太は勿論、親友であるツェスカにすら言っていないある秘密がある。
まあ、彼女も1年前に知ったばかりなのだが、それを考えれば、自分はもしかしたらのび太には相応しくないのではないかとも思えてしまうのだ。
もっとも、秘密があるのはのび太も同じで、ユラリもそれに薄々気づいていたが、流石に自分ほど大きな秘密ではないだろうとも思っている。
(はぁ・・・明日からどんな顔をして会えば良いのやら)
ユラリは落ち込みつつも、家へ向けて足を進めた。
◇
ユラリが落ち込みながら帰宅していた頃、のび太もまたユラリの事を考えて少々落ち込んでいた。
「悪いことしちゃったな」
のび太は先程のユラリの顔を思い出す。
あれが嘘泣きではなく、本当に涙を流したのだということはのび太にも分かっていた。
そもそもあんな感情的な行動を取っておいて、嘘泣きというのはほぼ有り得ないだろう。
「でも、あそこまで悪いことをしたかなぁ?」
確かにあんな悪口当然のような反応をしたと知らされては、不快な思いをするのも当然だろう。
しかし、だからと言って泣くまでするだろうかとも思う。
そして、ここら辺がのび太とユラリの認識の差だった。
ユラリは前述したように、のび太に恋愛感情を持っている。
だからこそ、昨日、ツェスカが行ったことに対するのび太の反応に傷ついたのだ。
だが、のび太の方はと言えば、はっきり言って微妙だった。
友達以上の感情であることは間違いない。
のび太がユラリに向ける感情は、間違いなく友達と断言できるツェスカとは方向性の異なるものだったのだから。
しかし、恋愛感情と言われれば何かが違う気もする。
要するに、自分とユラリの関係性は今のところよく分からないというのが本音だった。
「・・・いや、今度、ちゃんと謝らないとな。その上で聞けたら理由を聞こう」
のび太はそう呟きながらアパートの自分の家へと向かうが、そこに辿り着いた時、玄関前に1人の金髪の20代くらいの女性が立っていることに気づく。
(誰だ?少なくとも、アリスさんやユラリさんの母親じゃないな)
アリスやユラリの母親であるエリア・アースケラーでないことはすぐに分かった。
アリスやエリアも同じ金髪だが、アリスはボブカット、エリアはセミロングなのに対して、この女性はショートカットだ。
第一、身長が違う。
そうなると、何者かという話になるが、それは声をかけてみなければ始まらない。
そう思い、のび太は意を決して彼女に向かって声を掛けた。
「あの・・・何か御用ですか?」
「ん?・・・ああ、君は確かのび太君といったかな?」
「ええ、そうですけど」
「実は君のところに居るMS─903に用が有ってきたんだ」
「!?」
のび太は驚愕する。
MS─903。
それはのび太の親友であるドラえもんの個体番号だ。
しかし、ドラえもんが造られたのは西暦2112年。
つまり、22世紀を10年以上過ぎた頃であり、21世紀を、それも20年しか過ぎていないこの時代の人間がドラえもんの個体番号など知っているわけがない。
となると、この女性の正体は──
「未来の人、ですか?」
「ああ、私の名前はイリーナ。タイムパトロールの隊員だ」
「そう、ですか。もしかして、ドラえもんを未来に連れ帰りに?」
「いや、そうではない。さっきも言ったが、ただ協力を求めに来ただけだ。そもそもよほどの歴史改変をしない限り、タイムパトロールは未来に帰ることを煩く言わない」
それを聞いてのび太は安心する。
そもそもタイムパトロールは未来人が余程の歴史改変をしない限りは動かない。
それは1年前の大冒険の数々でタイムパトロールが時間犯罪者のみ(キューとミューの一件では危うくのび太自身がその立場になりかけたが)しか取り締まっておらず、鉄人兵団や鬼岩城などの一件を見逃していたことからも分かることだ。
そして、大まかな歴史が変わらなければ、多少の個人単位の未来の改変は許容される。
そうでなければ、ドラえもんが21世紀に来てのび太の家に居候した時点で、ドラえもんはタイムパトロールに逮捕されているだろう。
「そうですか。・・・ドラえもんなら中に居ます。今、呼んできますよ」
少し迷ったが、のび太はこの人物をドラえもんに会わせることに決めた。
悪い人では無さそうだったし、そもそもドラえもんに用が有るのでは、自分に何かを言う資格はあまり無いと思ったからだ。
──しかし、のび太は知らない。
この時の判断が本当に正しかったのかどうか、生涯思い悩むことを。
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ミノフスキー物理学
◇西暦2021年 7月28日 早朝 ドイツ B市 とあるアパート
あののび太達にとっての運命の日から遂に1年が過ぎた。
そして、今日、珍しくのび太は早起きをしてこれから出ようとするドラえもんを見送ろうとしている。
「じゃあ、行ってくるよ」
ドラえもんはのび太に向かってそう言いながら、部屋を出ようとする。
あれからドラえもんとイリーナは話し合った末、タイムパトロールに協力することとなった。
というのも、今回、タイムパトロールが捕らえようとしている相手は脱獄してこの21世紀へとやって来たミスター・キャッシュだという話だったからだ。
この事からも分かると思うが、おそらく彼はのび太達に何らかの復讐をしようとしていることは間違いない。
でなければ、この時代に来る意味などないのだから。
だからこそ、ドラえもんはやっと平穏を掴んだのび太達を守ろうと協力しようとなった訳だ。
自分も着いていこうかと言うのび太だったが、それはドラえもん自身によって断られてしまった。
まあ、今回はイリーナという頼りになりそうな人間が側についているし、後からタイムパトロールの本隊がキャッシュを制圧しにやって来るという話だったので、のび太も無理に着いていく必要はないと判断してドラえもんの言葉を素直に聞いて、留守番することにしている。
「うん、気をつけてね」
のび太はそう言ってドラえもんを送り出す。
そして、ドラえもんもまた玄関を開けて外に出ようとするが、突然、ドアを開く動作を止めてのび太の方に向き直ると、最後とばかりにこんな質問をする。
「ねぇ、のび太君。1つ、君に質問して良いかな?」
「? どうしたの?改まって」
「もし、僕がこの仕事を終えて未来に帰らなきゃならなくなったら君はどうする?」
そのドラえもんがした質問。
それは1年前に現実化したものだ。
あの時はウソ八〇〇を使って(偶然ではあったが)ドラえもんが帰ってきたが、今度ばかりはそうはいかないかもしれない。
「・・・そうだね。確かにドラえもんはこの時代の人間じゃないからそれが正しいんだろうね。僕としては悲しいけど、それも運命なんじゃないかって思う」
だが、それに対して、のび太はあっさりと返答した。
実はこの1年、いや、それ以前から考えていたのだ。
そして、つい先日、それに対する解答としてある結論を出していた。
「だからね。僕は勉強する。たくさん勉強して、ロボット研究者になって、22世紀にあったようなロボットと人間が協同する社会を作って、そして、いずれはドラえもんそのものを造って改めて再会する。・・・それが僕の今の夢だよ」
「・・・そっか」
それを聞いてドラえもんは安心した。
これならば、自分が居なくとも前に進めると確信していたからだ。
「ふふっ。もしかしたら、僕の誕生する年が本来の歴史よりも早まるかもしれないね」
「そうなるように頑張るよ。でも、出来るなら何時までも一緒に居たいというのも本当だよ」
「ありがとう」
「でも、なんでこんな質問を?あのタイムパトロールの人に何か言われたの?」
「いや、そういう訳じゃないんだ。僕は何時未来に帰るか分からないからさ。出来るなら、早くのび太君に自立して欲しいって思っていたんだ。でも、さっきの話を聞いたら改めて安心したよ」
そう言ってドラえもんは改めて部屋から出ていこうとするが、今度はのび太が呼び止めるようにこう言った。
「・・・ドラえもん、帰ってきなよ。帰ってきたら、一旦日本に帰ってどら焼きでも食べよう?」
「そうだね。ついでにジャイアン達とも仲直りしないとね」
「ああ、努力するよ。約束する」
「それじゃあ」
そう言いながら、ドラえもんは今度こそ部屋を出ていった。
それを見送りながら、のび太はポツリとこう思う。
(・・・頑張らないとな)
あんな啖呵を切った以上、のび太は頑張って勉強して、あの22世紀のような社会を造らなければならないだろう。
それが親友に対して行った人生における1つの大きな約束だ。
(でも、その前にどら焼きを買うお金を貯金しないと。あとジャイアン達との仲直りも)
のび太は最後に行った身近な小さな2つの約束を思い浮かべて、少々辟易とするが、小さいとはいえ約束は約束。
キチンと守ろうと、ドラえもんが帰ってくるのを待つことにした。
のび太は知らない。
これが数々の大冒険を潜り抜けた戦友であり、共に日常・非日常を過ごしてきた大親友・ドラえもんとの今生の別れだったということを。
そして、のび太は知らない。
先程去り際に行った小さな約束
◇同日 夕方 図書館
「ミノフスキー物理学?」
あれからユラリに謝った後、彼女と共に近くの図書館までやって来た。
まるでデート(ユラリはそのつもりだった)のような行動に照れ臭くなったのび太だったが、折角なので色々と勉強してみようと、辺りの本を漁っていたのだ。
そして、このミノフスキー物理学についての本を見つけていた。
「なになに・・・」
のび太は気になってその本を読んでみることにした。
ミノフスキー物理学。
それは西暦1979年にジャミノフ・F・ミノフスキーが唱えた理論であり、従来の物理学とは一線を喫する独自の物理学である。
その一例たるものがミノフスキー粒子であり、これはレーダーや無線など、電波兵器の数々を撹乱させる効果があり、その他にも学園艦に使われている核融合炉の小型化などを実現できる可能性があるとの事だった。
「結構独創的な理論だな・・・」
のび太は数ヶ月前から物理学の事を本格的に勉強しており、だいたいの物理学については理解していた。
しかし、そんなのび太から見てこのミノフスキー理論というのはかなり独創的であり、到底夢物語に思える。
実際、提唱された当時も学会のほとんどには受け入れられなかったらしい。
「まあ、そうだろうね。でも、僕の勉強したいのはロボット工学だし、この理論は必要ないかな」
そう言ってのび太は本を閉じようとした。
が──
「・・・いや、待てよ」
何か思うところがあったのか、その手を止める。
(ドラえもんを造るのには様々な分野の知識が必要だ。機械だけでは成り立たない)
そう、ドラえもんを造るのには様々な知識が必要である。
通常の機械構造を始め、
学ぶものが多すぎて少々嫌になってしまうが、ドラえもんを将来に造るのであれば、少なくともこれだけの技術と知識が必要だった。
かつてドラえもんは自分の事を高級猫型ロボットと言っていたが、ある意味でそれは正しい言葉だったのだ。
そして、22世紀の結晶が相手では、この時代の技術で出来ることはあまりにも少なすぎる。
となれば、既存技術ではなく、新たな革新的な技術を学んでおくのも1つの手かもしれない。
(・・・一応、やってみるか)
のび太は本格的にミノフスキー物理学を勉強してみることにした。
しかし、全てを学ぶにはこの本だけでは足りなさすぎる。
そう思っていた時、ユラリが再び声を掛けてきた。
「気に入った本は有りましたか?」
「ああ、これなんだけど・・・」
話しかけてきたユラリに、のび太はミノフスキー物理学についての本を見せる。
だが、そのタイトルを見て、ユラリは首を傾げた。
「ミノフスキー物理学?聞いたことありませんね」
「教科書とかには載っていない理論らしいからね。僕はもうちょっとこれを詳しく学びたいんだ」
「そうですか・・・分かりました。今度、知り合いにも聞いてみますね」
そんな会話をしながら、2人は図書館デートを楽しんだ。
◇同時刻 日本 U村
「まさか・・・こんなことになるとはね」
ドラえもんは自嘲しながら、自分の最期を悟る。
なにしろ、動力部などの自分を機能させる上で肝心な部分がほぼ破壊されてしまったのだ。
おまけにチップの一部まで破損しているため、仮にこの場で急ぎ修理したとしても、自分を治すのはほぼ不可能だろう。
それはタイムふろしきなどの秘密道具を使ったとしてもおそらく同じだ。
なので、今、こうして喋っているだけでも不思議な状態であった。
しかし、この最期はドラえもんにとってかなり意外であり、そして、悲しく皮肉な最期でもあった。
なにしろ、ドラえもんは
「どうしてこんなことに・・・いや、それよりも約束、護れなかったなぁ」
しかし、ドラえもんがこの時、考えたのは仲間への恨みではなく、のび太との約束を果たせないことに対する無念の気持ちだった。
「のび太くん・・・」
──ドラえもんは最後に自らの大親友の名前を呟きながら、眠るようにその意識はこの世から去っていった。
ちなみにこの話で出てくるミノフスキー物理学ですが、ガンダムのUC(ユニバーサル・センチュリー)世界のものとは少々違ったものになっています。
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決意の夜
◇西暦2021年 7月28日 深夜 ドイツ B市 とあるアパート のび太の部屋
ユラリとの図書館デートを終え、自宅でアリス達と共に夕食をとった後、のび太は寝ようとしたのだが、その時、のび太の部屋の窓からこっそりと2人の来客が現れた。
1人はドラえもんと共に行動した筈のイリーナ。
そして、もう1人はミスター・キャッシュを確保するために派遣されたタイムパトロール隊の隊員の1人である男で、名前は田中というらしい。
しかし、そんなことはのび太にとってどうでも良かった。
「・・・・・・・・・・・・・・・今、なんて言ったんですか?」
のび太は頭が真っ白になりそうなのをどうにか堪えながら、真夜中にやって来た来客の1人であるイリーナに問い質す。
「・・・すまない。君の友人、ドラえもんは──
死んだ。
その言葉が届いた時、のび太の頭は今度こそ真っ白になった。
それは両親を失ったと言われた時とは比較にならない。
のび太にとって、ドラえもんとは人生そのものに多大な影響を与えている存在であり、それを突然失ったというのはかなり衝撃的な出来事だったのだ。
「そう、ですか」
のび太はそんな返事をすることしか出来なかった。
いや、何処かで思っていたのかもしれない。
戦うという選択肢を選んだ以上、死んでしまうのもある意味では必然だったのでは、と。
だが、それでもドラえもんは家族であり、何時か未来に帰ってしまうとはいえ、こんな形での別れを望まなかったというのは確かだった。
しかし、のび太がどう思おうが、もうドラえもんは帰ってこない。
ならば、せめてドラえもんがミスター・キャッシュを捕まえたことに貢献したかどうかを聞くため、のび太はイリーナにこのような問いを行った。
「それで、ミスター・キャッシュはちゃんと捕らえられたんですよね?」
「安心してくれ。ミスター・キャッシュの脅威は既に排除している。もうあやつが君に危害を加えることはない」
イリーナはそう断言する。
そして、それを聞いたのび太はホッとした。
その事実は、ドラえもんの犠牲は無駄にはなっていないということなのだから。
「分かりました。それと、ドラえもんを殺した相手。分かれば教えてくれませんか?」
のび太はイリーナに聞く。
それはドラえもんが帰ってこないならば、せめて彼を倒した人間くらいは聞いておきたい。
そういう思いからのび太はその問いを行ったのだ。
しかし──
「・・・すまない、それについては私たちも分からないんだ。分かったら、君に連絡しよう」
「ありがとうございます」
「それと・・・詫び代わりと言ってはなんだが、君にある情報を提供したい」
「情報?どんなものです?」
「奴、ミスター・キャッシュにはこの時代の協力者が居た。彼は現在、この時代のアイスランドのA区画街という場所に居るらしい」
「!?」
それを聞いたのび太は驚いた。
まさか、そのような情報を提供してくるとは思わなかったからだ。
しかし、同時にチャンスだとも思った。
それはドラえもんの弔い合戦が出来るという事でもあるのだから。
「夜分遅くに失礼した。私と田中はこれで未来に帰る」
最後にそう言って、イリーナと田中は来た時と同じように、窓から外へと去っていった。
それを見たのび太は再びある闘志を燃え上がらせる。
(ドラえもん・・・君がこの選択肢を選んだのを知ったら、君は悲しむだろうね。だけど、これは君の弔い合戦だ。それをしなきゃ、僕は前に進めないと思う)
のび太はその決意を胸に、ドラえもんの弔い合戦を行うことを決意した。
◇
「良いのか?あんなこと言って?」
「構わないさ。どうせこの時代の人間には我々タイムパトロールは手を出せないんだ。航時法での決まりでな」
田中の言葉に、イリーナはそう答える。
タイムパトロールは未来で定められた航時法に違反した時空犯罪者を捕らえるように編成されており、基本的に元の時代に居る人間には、例えその時空犯罪者に協力していても、手を出せないという不文律がある。
タイムパトロールそのものが歴史を変えたりしては意味がないからだ。
そして、これが大冒険で鉄人兵団やら、鬼岩城の一件やらを見逃した理由だったが、田中が言っているのはそういうことではなかった。
「いや、そうじゃなくて、あんな嘘を言っても良かったのか?」
「・・・」
その田中の言葉に対して、イリーナは沈黙する。
田中が言っている先程ののび太との会話での嘘。
それはドラえもんを殺した人間を知らないと言ったことだった。
実際はイリーナは彼を殺した相手を知っている。
だが、あの場では敢えてそれを黙っていたのだ。
そして、その相手は時空犯罪者ではない。
もしドラえもんを殺したのが時空犯罪者だったら、田中も嘘を言うことは咎めたりしなかっただろう。
その相手とは──
「・・・言えると思うか?まさか、彼の
「・・・」
今度は田中が沈黙してしまう。
そう、ドラえもんを殺したのはジャイアン達、のび太のかつての戦友だった。
おまけに殺された理由も、“潜入捜査をしていたのを敵と勘違いした”というある意味で最もふざけた理由だ。
そんなことをのび太に言わなかったのは、彼女の一種の心遣いだった。
「確かにな。と言うより、俺も非難できる資格はないか」
田中はそう言いながら、自分の不甲斐なさに少々イラついている。
実を言えば、ミスター・キャッシュの確保という当初の目的には失敗していた。
そして、確保する筈だったタイムパトロール隊員達は奇襲を受けて生き残りが自分しか居ないという有り様になったのだ。
が、のび太に言ったミスター・キャッシュの脅威が去ったというのは嘘ではない。
何故なら、ミスター・キャッシュはイリーナ達によって殺されてしまったのだから。
しかし、それを言わなかったのは、その事実ではミスター・キャッシュの確保できず、ドラえもんの死が結局は無駄になってしまったという事になってしまうからだ。
「しかし、あんな子供を復讐に走らせて良かったのか?何も知らせない方が良かったんじゃないのか?」
「それだと彼が前に進めないだろう」
イリーナはそう言った。
復讐は何も生まない。
これは昔からの事実であり、道理でもある。
だが、同時に感情の整理が出来る方法というのも確かだった。
まあ、それもケースバイケースであり、中には復讐を終えたことで無気力に人間も居るのだが。
しかし、のび太の場合、復讐を終えた後、どちらを辿るにせよ、あのまま何も伝えずに放っておけば無気力な人間になる確率が高い。
それは到底生きているとは言えないというのがイリーナの意見であり、あの場で復讐の方法を伝えて前に進むように促したのは彼女なりの恩情だった。
勿論、彼女はタイムパトロール隊員。
本来ならこのようなことはしてはいけないのだが、
◇西暦2021年 7月29日 早朝 ドイツ B市 とあるアパート
「・・・」
アリスは机の上に書かれた置き手紙を無表情で見ていた。
『アリスさんへ
ごめんなさい。どうしてもやりたいことが出来たんで、一旦、出ていきます、一応、帰ってきますが、場合によっては勘当してくれても構いません
のび太より』
手紙にはそう書かれてあったが、それを見たアリスは大きく溜め息をついた。
「はぁ、あの馬鹿息子・・・」
アリスは思わずそんな言葉を漏らす。
このアリスの言葉からも分かる通り、彼女はのび太の事を息子のように思っていた。
普段は時々厳しいことを言うが、なんだかんだでそれも家族を思っての事だったのだ。
「ねぇ、お兄ちゃん。出ていっちゃったの?」
「そう、なんですか?」
アンジェラと雪奈が不安そうな声でそう聞いた。
特にアンジェラに至っては泣きそうになっている。
彼女は1年前のラクーンシティの一件で父親を目の前で射殺された上に、まだ9歳という年齢なのだ。
トラウマが思い起こされるのも無理はないだろう。
そして、そんな彼女達に対して、アリスは優しげにこう言った。
「大丈夫よ。お兄ちゃんはそのうち帰ってくるからね」
その言葉を聞いて2人は安心した。
もっとも、彼女らが安心した要素はそれだけではない。
彼女達からしてみれば、のび太はなんだかんだでアリスと同じ強さの象徴なのだ。
なので、命懸けの事をしているとしても、今回も無事に帰ってくるだろう。
2人は無意識のうちにそんな思考を抱いていた。
もっとも、これをのび太が聞いたら全力で否定するだろう。
何故なら、のび太から見て、自分はアリスの戦闘能力に比べれば、何段も下の存在だと思っているのだから。
まあ、そんなことは彼女達の内心どころか、この場に居すらしないのび太に知るよしは無いのだが。
そして、そんな2人の顔を見ながら、アリスはこう思う。
(死んだら承知しないわよ。あと、生きてたら、たっぷりお説教をしなくちゃね)
──どうやらのび太は生きていようが、死んでいようがアリスの怒りをその身に受けるのは確定しているようだった。
U村バイオハザードの生存者と死亡者
・生存者(13人)
出木杉英才、剛田武、骨川スネオ、源しずか、翁餓健治、山田太郎、富藤雪香、満月美夜子、レオン・S・ケネディ、アシュリー・グラハム、大鷹、柏木、ピエール・森繁。
・別動生存者(2名)
イリーナ、田中。
・死亡者(3名)
ドラえもん、大門、不知火。
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セワシ
◇西暦2021年 7月31日 昼 アイスランド A区画街
北欧の国アイスランド。
面積は10万平方キロと、日本の約4分の1程の面積の国であり、同時に人口が35万人程しか居ない小さな国でもある。
更に緯度が高いことから、この月でもかなり寒く、普通の人間ならばよっぽどの暑がりな人間か、旅行中の人間や何らかの理由でこの島に住んでいる人間、あるいは変人でもない限りはあまり来たいとは思わないだろう。
しかし、のび太は確かにこの国に来て、ある行動を起こそうとしていた。
「・・・しかし、今言うのもなんだけど、こんな装備で大丈夫かな?」
のび太は少々不安に思う。
ちなみにこの時のび太が持ってきたのはFive-seveNが2丁(それぞれ20発標準マガジン装填)と予備の20発標準マガジン10個(200発)。
あとはMK─3攻撃手榴弾3つとM67破片手榴弾が2つ、閃光手榴弾5つ。
・・・正直言って、かなり少ない装備であり、これで生き残れるのかは甚だ疑問だった。
もっとも、これ以上の装備は流石に持ってこれなかったので、仕方ないと言えば仕方ないのだが。
「せめて、ショットガンが欲しかったな。いや、逆に嵩張って行動が難しくなるか」
のび太は少々装備に不満を残しながらも、A区画街の奥の空間へと入っていく。
しかし、のび太は気づかなかった。
既にそれを見ている者が存在したことを。
◇
「・・・ほう、来たか。これも日本の言葉で言うところの運命の巡り合わせという奴か」
とある暗がりの部屋でモニターを見ていたサングラスに金髪の髪をした男──ゲイリー・ウェスカーはそう言いながら、後ろに居た存在に話し掛ける。
「で、お前はどうするんだ?オリジナルが現れた訳だが」
「決まっている。奴を倒して、俺こそが野比のび太証明するまでだ。だいたいその為に俺を生み出したのだろう?」
「まあ、そうだがな」
「・・・ところで、前々から聞きたかったことがあるんだが、何故お前はお前のオリジナルであるアルバートに挑まないんだ?」
少年は前々からの疑問をウェスカーに言う。
そう、この男はウェスカーという名前からも分かる通り、ウェスカーの血縁者であるが、だからと言ってウェスカー計画の生き残りという訳でもなければ、イドニア共和国に居るジェイク・ミューラーのようなアルバート・ウェスカーの息子という訳でもない。
いや、厳密に言えば産みの親という点ではジェイク・ミューラーと同じ立場なのだが、“産まれ方”が違うのだ。
彼はウェスカー計画の生き残りの1人であるアルバート・ウェスカーのクローンだった。
H・C・Fという組織によって造られ、こうして生を受けたのだが、どういう経緯か脱走してある計画を実行に移そうとしていたのだ。
ちなみにこの少年──セワシもまた計画の過程で生まれた存在であり、これまたどういう訳かのび太のDNAから製造されたクローンでもあった。
「ふん。俺はそもそもアルバートに成り代わろうなんて思ってもいない。そもそも成り代わったところで何か意味があるのか?」
ゲイリーは嘲笑するようにそう言った。
そもそも彼のオリジナルであるアルバート・ウェスカーは世界中からマークされている状態であり、成り代わったとしてもマークされる対象が自分に変わるだけで全くメリットがない。
おまけに自分の計画にも支障が出てしまうというおまけ付き。
普通に考えれば、こんな状態でわざわざ成り代わろうなんて考える筈が無かった。
「・・・そうか。ところで、計画はどの程度進んでいるのだ?」
「もう少しのところだ。これで欲にまみれた人間達を一掃し、新たな新世界を創ることが可能だ」
ニューワールド計画。
それが彼らの考え、実行しようとしているプランである。
内容としては、従属種プラーガを胞子化させて世界中に散布し、全人類に寄生させ、支配種プラーガによって操ろうというものだった。
その為にプラーガを発見したロス・イルミナドス教団に接触したのだ。
「それで、サドラーはキチンと処分したのか?」
「当然だ。もはや奴には用はない」
ゲイリーはセワシの言葉に対してそう答えた。
ゲイリーがアシュリーをサドラーに手渡した場所でもある日本のU村で行われたバイオハザード。
それはミスター・キャッシュが起こしたものであり、目的はあの大冒険を経験したジャイアン達の抹殺だった。
本来ならのび太やドラえもんもその標的にしたかったのだが、何処に居るか分からなかった上に、捜そうにもその系統の秘密道具が全くなかったので、それは無理だったというわけである。
その為、まずジャイアン達から処分しようと、政府や対バイオテロNGO組織『BSAA』によって彼らが軟禁されているU村に未来技術で製造されたプラーガをばら蒔き、彼らを襲わせたのだ。
しかし、これはミスター・キャッシュの支援者でもあったロス・イルミナドス教団に知らせずに行ったので教団は混乱し、そのドサクサに紛れてアシュリーを手に入れた後、一旦スペインに戻っていたサドラー共々ロス・イルミナドス教団のほとんどを壊滅させた。
元々、彼らの事をゲイリーは自分の計画の邪魔だと思っていたので、いずれ消そうと思っていたのだが、今回はそれが早まった形となる。
「あの未来人は?かなり胡散臭い男だったが・・・」
「さあ、それについては分からん。だが、教団を支援者にしている辺り、1人で何か出来るような力はないだろう。心配はいらん」
ゲイリーはミスター・キャッシュが既に死んでいることを知らないため、半ば臆測でそう言った。
だが、ゲイリーは正直、ミスター・キャッシュの言う未来人については半信半疑であり、例え本当だったとしても、教団と手を組んで事を成そうとしていた事から、1人で何か出来るような力を持っていないと判断していたのだ。
いや、そもそも100年後の知識を持っていたとしても、それだけで何か出来るわけではない。
仮に現代の人間が100年前に行ったところで、1人で単独で何かを成すというのはほぼ不可能だ。
なので、ミスター・キャッシュが生きているにしろ、死んでいるにしろ問題はない。
ゲイリーはそう思っていたが、もし秘密道具の事を知っていれば、その考えは180度違ったものになっていただろう。
しかし、秘密道具の基礎となるフルメタルが開発されたのは21世紀後半。
一応、秘密道具そのものの概念についてはそれ以前からあったようだが、どちらにせよ21世紀前半の今ではその概念も存在しないし、例え有ったとしても、荒唐無稽として学会で笑われていただろう。
「それよりお前は野比のび太を迎撃しに行け。それがお前の悲願だろう?」
「・・・分かった」
セワシはそう言って部屋を出ていく。
それを見送ったゲイリーはモニターに再び目を映す。
「これがミスター・キャッシュが恐れていた少年か?何が出来るとも思えないが・・・」
ゲイリーはモニターに映るのび太の姿を見ながらそう思った。
実際、のび太は未来人が恐れるにしてはあまりに平凡な様相をしている。
これではゲイリーではなくとも、脅威には思わないだろう。
しかし、それは初見であるからこその意見であり、実際に戦って敗北していった者達の意見はまた異なったものになるだろう。
その中にはアンブレラも含まれている。
そして、敗北していった者達も、当初はゲイリーと同じ見方をしていたことを考えると、ゲイリーの感想はある意味死亡フラグでもあったのだが、ゲイリー自身はその事に気づいていない。
「まあ、お手並み拝見といこうか」
ゲイリーはそう言いながら、あるスイッチを押した。
◇
一方、のび太迎撃に向かうように言われ、そこに繋がる通路を歩いていたセワシはあることを考えていた。
(野比のび太、貴様を殺したところで、俺はお前になれるのか?)
セワシは野比のび太のクローンであるということから、産まれてきた時からオリジナルであるのび太を倒し、本物となる為に英才教育を受けてきた。
そして、今回、戦うにしても自分が勝つ自信は多分にある。
だが、それでも本当にオリジナルを越えられるのだろうかという思いが無いわけではない。
何故なら、自分は今のところ、偽物でしかないのだから。
結局、そのコンプレックスと呼ぶべきものは幾ら鍛練を積んでも払拭できなかったのだ。
そして、そこからオリジナルを倒して本当に野比のび太という存在に居座れるのだろうかどうか疑念があった。
・・・いや、はっきり言おう。
その必要があるかどうかもかなり疑問に思っている。
それはゲイリーの言葉を聞いてから大きくなっていた。
「・・・まあいい。今は奴を倒すことが優先だ」
セワシはそう言いながら、自らのオリジナルであるのび太と対決すべく戦場へと向かった。
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