全てを奪われてTSした盲目だけど最強の脇役が引退スローライフしていたら世界がやばくなった話 (ドレミ24)
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ある人物の過去話
朝日が差し込む森にひっそりと立っている小さな家の中、そこには英雄と呼ばれた人物が住んでいました。彼女の名前はハル、女性とも男性とも取れるごくごく普通の名前だ。彼女はベッドから起きると、壁伝いにテーブルの元へ行き、魔法で軽く火を起こすと一瞬でお湯を沸かします。そのお湯でお茶を入れて買っておいた小型なパンを少し齧るとふと、考え事をしてしまいました。
・・・あの戦いから丸々1年、俺は最後の戦いで目が見えなくなってしまっただけでなく、度重なる禁術と呼ばれる魔法の反動で体が女性に変化してしまっていた。別に困る事は無いから特に不満は無いが、この辺境にも最近魔物が増えてきてしまったためもう戦えないのかと思うと少しもどかしく感じてしまうのだ。もう、アイツらを振るう事すら出来ないのかと思うと今でも悲しくなる
壁に立てかけられた二本の剣の元へ歩を進め、そっと指を触れる
かつては神器とも呼ばれた二本一対の剣、方や光をもって闇を払うという逸話があり、もう一方は雷をもって天を切り裂いたという逸話すらある。しかし、そんな凄い剣も使い手がこのザマじゃただのガラクタだ。少し前の俺、当時の俺なら・・・
当時の俺は最愛の幼なじみを国が選定した勇者に寝取られ、そしてただ俺の存在が邪魔だというだけでありもしない嘘を広められて故郷を追われるというまさに不幸の極の様な運命を辿っていた。そして、あの時はスラムに身を潜めて泣いていたときだった。
「どうして俺がこんな目に・・・」
そんな事を呟きながら自殺でもしようかと考えていたその時だ、目の前が光って気が付けば俺の目の前には綺麗な顔立ちの2人組の男女がいた。そう、神は俺を見捨てては居なかったのだ。どうやら彼らは夫婦の神様らしく俺の様な人物を見つけては保護してどう生きたいかを決めさせてくれるらしい。ほとんどの人物は今の人生に嫌気が差して生まれ変わりを希望するらしいが俺は違った。俺の願いは「勇者なんかよりも強くなって奴らの目の前で圧倒的な力を見せつけたい」というただの嫉妬混じりのわがまま。だがそれを許容してくれた神様は俺に勇者の持つ聖剣に匹敵する剣をくれた。勇者は両手で扱っていたが俺はコレを片手で、それも二本使える様になるためにひたすら修行した。気が付けば俺は勇者に匹敵、というより勇者なんて遥かに超えた力を持つ剣士になっていた。
それからは簡単だった、勇者の前に姿を現し圧倒的な力でねじ伏せる。でもあんな奴とはいえ国の希望であり世界の希望だ。いくら俺が強かろうと世界のてきである邪神を倒すためにはコイツが鍵になる。
それが分かっていたから俺はトドメを刺さずに去ることにした。それからも何回か目の前に出ていったがその度に
「なんでお前にだけは勝てないんだよぉ。」
みたいな感じに泣かれてしまったりしたが
「お前への憎悪だけどなぁ、この力の大元って。」
と言うと。
「だったら、なんでお前が勇者になってないんだよぉ。俺より強いなんて反則じゃないか・・・勇者より強くなれる修行なんて聞いたことないぞ・・・」
ってガチドン引きされた。いやだからお前の所為だぞ、とは思ったが確かに努力や憎悪だけでは本来勇者は越えられない。ましてや聖剣を持った勇者を圧倒するなんて以ての外だ。コイツが驚くのも無理はない、かな。
それからはもうこの行為が馬鹿らしくなったのでただ見ている事にした。最初の頃は多かった俺の幼なじみとの夜の運動会(意味深)もほとんど無くなっていた。恐らくは俺からの復讐が怖いからだろうが、ぶっちゃけ俺はもうソイツには何の未練もなければ愛着も無いのでどうでもよかった。だから俺はあの戦いで勇者に助太刀する形で参戦したのだ。
想像よりも遥かに強い邪神を相手に勇者一味はある程度奮戦していたがそれでもレベル不足は否めず追い詰められていった。俺はそれを戦闘域の少し離れた所から魔法を介して見ていたが唯一の鍵である勇者を死なせては俺自身の命も危ういため急いで助けに向かった。
飛翔魔法を使用し、二本の剣を構えて俺は勇者達の前に立つ形で戦闘に参加した。世界を滅ぼせるレベルの魔法である禁術を何度もアイツに命中させ怯ませては全員での集中砲火を繰り返しなんとか倒す事はできたが、俺はその反動で戦闘後まもなく目から光を失い、数日後に体が女性になっていた。
とまあ、これが過去の俺を簡単に纏めた感じだが、我ながら馬鹿げてると思う。神様達に戦闘後直ぐに呼び出され、邪神討伐の報酬としてもう一つだけ願いを叶えてやると言われた時にはあまりしたい事も無かったのである程度町の近い森の中でスローライフを送りたいと頼んだ。
それからはどんどん貧弱で簡単な魔法しか使えない様になってしまい、剣なんてとてもじゃないが振るえない体になってしまった。だからこうして神器すらも壁に立てかけてあるのだ。
どちらにせよ、俺の役目は終わった。一応あんなのでも勇者だし、どうやら俺の幼なじみも優秀らしいから国の建て直し位はなんとかなるだろう。俺はここで静かに一生を終えようと思う。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
あるお城の風景、それは慌ただしい以外の何物でもなかった
一人の兵士が一人の男の元へ報告書を持ってきた
「どうだ、見つかったか?」
男が問う、しかし兵士の返事は暗かった
「いえ、似たような人物こそ見つかりますが彼女と思わしき人物は未だに見つかっておりません・・・」
「そうか、簡単に見つかるとは思っていないがまさか1年経っても見つからないとはな・・・」
その言葉は近くにいた女性にも聞こえていたようで、彼女も会話に参加する
「ええ、ハルはあの戦いの前までは私達の前に姿を現さなかった。恐らくはどこかで見ていたんでしょうけど、もしかしたら私達に会いたくないのかもしれないわね、当然でしようけど。」
「・・・そうだな、俺たちに会いたくないのは当然だろうが、それでも国の・・・いや、世界の危機になる可能性がある以上アイツの助けは必須だ。何としてでも見つけ出せ。」
「はい!」
兵士は走り去った。その手の中にある報告書の中に混じっている模写には「異界よりの悪魔」とかかれた邪神の置き土産があった。
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2話
変わらない日常、戻ってきた日常。あの戦いが終わって邪神は滅び、勇者達は英雄として国のヒーローになった。そして、失われた日常が帰ってきたのだ・・・
「よし、準備完了。」
食事を終えた俺は簡素なワンピースに着替え、目に包帯を巻いて光から保護してから鞄を持って家から出る。
ちなみに目が見えないとはいえ気配などを察知する様な感覚的な力はかろうじて残っているので杖は必要ない。
「そろそろ食べ物がなくなっちゃうし買い出しに行かなきゃな。」
そう、俺はあまり家から出たくないので数日に一度買い出しに行くために町に行く。出来れば畑なんかを作りたいけど今の俺じゃ無理だからね
ゆっくり、ゆっくりと歩く。時折通行人とすれ違うが目に巻いてある包帯が珍しいからかじっと見つめてくるが、ちょっと気味悪いからやめてほしい
そうこうしてるうちに町に着いたが、なんだか様子がおかしい。
近くにいる男の人に聞いてみるか
「あの、すみません。」
「ん?なんだい嬢ちゃん。」
「なんだか様子がおかしくないですか?見ての通り私は目が見えないので何が起こっているかまでは分からないんです。」
そう言うと男の人はううんと唸る
「なに、嬢ちゃんみたいな子には関係ない事・・・って言いたいけど少しだけ関係あるからなぁ。」
「私に関係ある事?」
「あぁ、1年前に邪神が勇者とその仲間、そしてもう一人の謎の人物に討伐されただろ。」
謎の人物、俺だ。まさか、正体がバレてる?
「あの後に分かった事なんだが、あの邪神はある悪魔を呼び出そうとしていたらしい。」
初めて聞く言葉が出てきた
「悪魔?あの、よくおとぎ話に出てくる勇者でさえ負けてしまうことのあるっていうあの?」
「そうそう、その悪魔だ。どうやら邪神の召喚は不完全なものだったらしいが、それでも呼び出される時期が遅れただけで召喚される事は決定事項らしい。勇者達は自分達だけでは勝てないと判断して謎の人物、もう一人の英雄を探してるって訳だ。悪魔が復活すれば嬢ちゃん含めみんな死ぬ、だから少しだけ関係あるって訳だ、ってどうした?そんな顔色悪くして・・・もしかして死んじまうかもしれないって事が怖いのか?」
いや・・・違う。俺に関係は大ありだ。アイツらは俺がまだ戦える前提で動いている、ダメだ。俺はもう戦えない、その事を伝えなきゃ・・・せめて俺の神器を誰かに継承させて少しでも力にならなきゃ
「お、おい嬢ちゃん本当に大丈夫か?」
「あ、うん。大丈夫です、親切に教えてくれてありがとうございます。少し用事を思い出したので行きますね。」
急いで帰る、家に慌てて入ると二つの神器とすぐ側にある転移石(行ったことがある場所ならどこの町や建物の中にも入れる石)を手に取って城への転移を始める、この姿になってからは初めてだが、一度行ったことがあるからおそらく行くことはできるだろう。
少しづつ荷物と肉体が光の粒子になって消えていく、そして次の瞬間には城の前にいた
俺は神様経由で容姿は伝えてあるから多分大丈夫だろう、と思ったが門番に引き止められた
「お前、ここから先は入れないぞ。目が見えないから迷ったんだろうが、今度からは、気を・・・付けて・・・え?」
「あれ?わた・・・俺の事知ってるんだ。じゃあ入っても問題ないよね?」
「は、はい!問題ないです!というよりあのお方達をお呼びしますのでここでお待ちください!」
そう言って慌てて城の中に入っていく。中からは叫び声やらなんやら聞こえてくるがそんな慌てる事だろうか・・・って俺この格好できたのかー、さすがに着替えるべきだったかな。
そう思いながら自分のかつてではありえない格好をした姿である事を思い出す。ものすごい音を出しながらこちらに向かう人物に久しぶりに声をかける
「久しぶり、勇者。元気だったかな。」
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