転生したら大魔王の娘だった (残月)
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目覚めました

 

 

 

 

目が覚めると……水の中だった……って、なんじゃこりゃ!?

 

 

俺は突然の事態に思考が追い付かず慌てた。水の中から顔を出そうとしたらゴツンと頭に何かがぶつかり水から出られない。頭だけじゃなく体も動かしにくい。まるで狭い浴槽にでも入っているかのようだ。風呂で寝ちまって溺れかけたのか俺は。焦りから思わず力を入れて殴ると衝撃音と共に俺の周りにあった水が流れる感覚が……出られたのか?

 

 

俺は妙に重くなったと感じる体を起こすと違和感を感じる。まて、俺の家の風呂はこんな感じじゃない。って言うか此所は何処だ?

 

周囲を見渡すと完全に見覚えの無い部屋。やたらと広く薄暗い部屋の真ん中に、俺が今まで入っていたと思われるカプセルの様な容器に水が流れ落ちていた。

 

 

「なんだ今の音は……なっ!?」

「あ、すいません。ここは……」

 

 

薄暗い部屋で気付かなかったが扉があったらしく、開かれた扉から人の声が聞こえた。何がなんだかわからないが、此処が何処なのかこれで聞けるだろう。そう思って口を開くと人の声はあっと言う間に遠ざかって行った。

 

 

「う、動いたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「え、いや、ちょっと待って!?」

 

 

 

姿は見えなかったが声の主は明らかに俺を見て逃げていった。なんなんだ?

 

 

「なんなんだ?本当に……っと?」

  

 

そこで俺は更なる違和感に気づく。俺ってこんなに髪を伸ばしていたっけ?胸の辺りが重たい……ついでを言えば股間の辺りが軽い気がする。

 

うん、凄く嫌な予感がしてきた。今流行りのライトノベルなんかで流行ってるよね異世界転生。スライムになったり、魔王になったり色々だよね。中には男が女キャラになってるのもあったっけ……そろそろ現実を見ようか……俺はそっと視線を下げた。まず俺は裸だった……いや、焦るけど問題はそこじゃない。落とした視線の先には見事なツインボムが。ちょっと待って……まさか……まさか……

 

 

「や、やはり見間違えでは無かった!私の研究に間違いは無かった!」

 

 

俺が混乱していると再び扉が開かれた。見たことの無い科学者風の男が俺を指差していた。

 

 

 

「あ、あの……」

  

 

俺が科学者風の男に圧倒されながらも口を開くと科学者風の男が笑みを浮かべた。

 

 

「これはなんとも喜ばしい事です。では、お願いします」

「え、あ、ちょっ!?」

 

 

混乱する俺を尻目に科学者風の男が一言発すると、それと同時に部屋の中に数人のメイドさんが入って来て俺の濡れた髪や体を拭き始めた。

 

 

「あ、あの……自分で出来ますから……」

「いえ、私達に身を任せてください。あのお方をお待たせしてはいけません」

 

 

メイドさんの中でメガネを掛けた女性が俺の言葉を否定して有無を言わさずテキパキと身支度を整えていく。ああ、プロの仕事だ……と思っていたら既に着替えは終わっていた。恐るべし早業。

 

先程まで裸だった俺はノースリーブの服にスパッツの様な物を履かされて腰にはパレオの様な物を巻かれていた。

 

 

「お済みになられた様ですね。では、大魔王様の所へ行きましょう」

「え、あの……」

 

 

俺の着替えが終わった事を確認した科学者風の男が口を開くと俺の手を引く。俺は聞きたいことが山ほどあるんだけど……今の俺の体の事とか。

 

そんな事を思っていたら科学者風の男が立ち止まる。そこにはやたらとデカい扉があった。

 

 

「あ、あのー……そろそろ話を……」

「しっ、着きましたよ。失礼いたします。例の者を連れて参りました」

『入るがよい』

 

 

 

俺が説明を欲すると叱られた、解せぬ。なんて思っていたら頭の中に渋いダンディーな声が響いた。なんか頭に直接語られたみたいな感じだった。

 

 

「失礼いたします、大魔王バーン様」

「……………はい?」

 

 

ギギッと扉が開く最中、俺は科学者風の男が言った一言に体がフリーズした。今、コイツなんて言った!?

 

そんな俺を置いたまま科学者風の男が一歩前に出る。その先には立派な玉座に座っている渋目のお爺様……じゃなかった。あのダイの大冒険のラスボスである大魔王バーンが座っていた。側には全身を隠す様なローブで身を包んでいるミストバーンが控えていた。

 

  

 

「うむ……どうやら本当に目覚めたらしいな、ミザルよ」

「はっ……私にも何が切っ掛けで目覚めたかはわかりません。ですが、今こうして目覚めたのは事実かと。そして……この個体は自分が何者なのか分かっていない様子でして……」

 

 

混乱している俺を放置して話が進んでいるが俺はそれどころじゃない。なんで俺の目の前に大魔王バーンとミストバーンが居るんだよ!?そんな風に思っていたらゾクッとした。視線を上げると大魔王バーンが俺を見つめていた。

 

 

 

「そなたは自分が何者かも分かっていない様だな」

「え……あ、はい」

 

 

 

威圧感とでも言うべきなのか……大魔王バーンの視線に体が震えて来そうになる。最初は本物の大魔王バーンかよ!?って思ってたけど、目の前の爺さんは本物だ。それを思わせる感覚があった。

 

 

 

「ならば……教えてやろう」

「は、はい……お願いします」

 

 

重々しく尊厳な雰囲気に大魔王と言う存在感が増していく。次の一言で俺の身に何が起きたか分かると思うと心臓がバクバクと鳴り響いている様な気分になっていく。そして大魔王は口を開いた。

 

 

 

「そなたは……余の娘だ」

「……………はい?」

 

 

 

大魔王様の思わぬ一言に俺はポカンとしてしまう。

 

俺、ダイの大冒険の世界に転生したら敵側で女になって、しかもラスボスの娘になってしまった様です。

 

 

 



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大魔王の娘です

 

 

俺は部屋の姿見で自分の姿を確認すると、本来の自分とは違った姿の女の子。今の俺が写っていた。

 

背中に掛かるまで長くちょっとウェーブの掛かった金髪の髪。つり目がちな赤い瞳。出る所は出て引っ込む所は引っ込んでいるボディ。頭からチョコンと伸びた二本の角に尻の辺りから伸びている尻尾。これが今の俺だった。 

 

大魔王様から『娘』宣言されてから既に三日。混乱していた頭も漸く冷静になり、現状を確認できた。

 

まず、此所はやはり『ダイの大冒険』の世界である事。まあ、大魔王バーンやミストバーンが居た段階で確定していたが。次に現在は原作開始前って事だ。

 

 

先日、科学者風の魔族のミザルさんから聞いたのだが勇者アバンに敗れたハドラーは力を蓄える為に十五年の眠りに付く。そして現在は十二年経過らしい……原作開始の三年前やんけ……しかもハドラーはただ眠るだけではなく、この間に肉体改造処置を施しているらしい。暗黒闘気とか超ド級爆弾の黒のコアをハドラーに無断で仕込んでる時期。今の内に対処すればどうにかなるかな?と一瞬思ったけど大魔王バーンには見透かされてそうで怖くてやめた。

 

 

次に俺の立場なのだが、どうやら俺は……と言うか俺が憑依した体は大魔王バーンの実子ではなく禁呪法で生み出された人工魔族だったらしい。魔族が作った体なのに『人工』とはコレ如何に。

 

ミザルさんから聞いた話だと、大魔王バーンは自分に唯一対抗できる『竜の騎士』であるバランを仲間に引き入れた際に少量だが血を採取したらしく、大魔王バーンはその血をコアとして使用し、禁呪法で俺を作り上げたとか。

 

禁呪法で生み出された生命体は禁呪法を使った者が生みの親に当たる。俺の体を禁呪法で作り上げたのは大魔王バーンだから俺は立場的には大魔王バーンの娘……となるらしい。

 

 

大魔王バーンは人工的に『人造竜の騎士』を作り上げようとした。しかし俺を生み出したまでは良かったがそこに魂が無く生ける屍同然だったらしい。何故目覚めないのか謎だったが失敗作とは言えど擬似的な竜の騎士の素体を破棄するのは勿体無いという事で保存する事が決定され、俺が目覚めた時に入っていた培養液に満たされた容器に保管され、ミザルさんは大魔王バーンから俺を目覚めさせる方法を探せと命じられていたらしい。

 

当然の事ながらミザルさんは原作には存在しなかったキャラだ。俺の想像だが、もしかしたら俺の存在は原作にもあったのかもしれない。しかし、俺と言う人格が憑依しなかった為に『人造竜の騎士』が目覚めなかった為にミザルさんは出番が無かった……と思われる。

 

 

今は俺が目覚めてしまったのでミザルさんは俺の魔法の先生となった。監視役と教師を両方兼ねている様だ。魔法の道具や生物の研究ってザボエラのイメージだったけど、考えてみればザボエラ一人に任せてる訳無いか。他にも居たんだろうけど漫画じゃ描かれなかったんだな。

 

 

「では、イーリス様。本日の授業を始めましょうか。バーン様からも貴女の事を頼まれてますので」

「父上からの命令には逆らえないですもんね」

 

 

 

そんな事を思っているとミザルさんが数冊の本を持ってきたので本日の授業魔法の授業が始まる。

 

どうも禁呪法で生み出された生命体は生みの親には逆らえない様に出来るらしく大魔王バーンからの命令の一つに自分を『父上』と呼ぶように厳命された。言いたくなくてもコアに命令を刻まれたから拒めないんだけどさ。

 

 

あ、『イーリス』ってのは今の俺の名前です。

 

 

 

 




『イーリス』

ダイの大冒険に転移した男が人造竜の騎士である女魔族に憑依した姿。

見た目は十六才程で身長は160cm。
背中に掛かるまで長くちょっとウェーブの掛かった金髪の髪。つり目がちな赤い瞳。頭からは小さな角が二本生えていて、尻の辺りから伸びている尻尾がある。

原作に存在しなかったキャラに憑依してしまったので混乱しつつ今後どうするか悩む日々。バーンがイーリスを作った際にこの世界の知識や女としての常識を埋め込んだので日々の生活には困っていない。

一人称は『俺』
基本的な服装はノースリーブの服にスパッツを履き、腰にパレオの様な物を巻いている。靴はブーツ。指出しタイプの籠手を装備。




『ミザル』

イーリスの監視役件責任者となっている魔族。褐色の肌に銀髪をオールバックにしている。中年男性の様な容姿で身長は180cm。
典型的な魔法使いタイプで魔法の扱いには長けるが体力が無い。マッドサイエンティスト。

原作には登場しなかったキャラだが魔王軍での立場はバーン直属の科学者。バーンの命令でイーリスの魔法部門の家庭教師役にもなっている。

一人称は『私』
基本的な服装は白衣。


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魔法の才能が無いようです

 

 

 

 

俺がイーリスになってから一週間が経過した。

 

竜の騎士って言っても角や尻尾は無かったよなぁ……と思いながら自分の尻尾を揺らしながら思いに耽る。自分の意思で動く尻尾ってなんか凄い違和感だ。頭には小さいながらも角が生えている。触ると触られている感触があるので自分の一部なのだと再認識してしまう。

 

 

 

竜の騎士でも見た目は基本的には人間だったし、竜魔人にでもならないと……いや、待て。バランは竜魔人になっても角や尻尾は無かったよな。人工竜の騎士だから通常とは違う感じになったのか?

 

竜魔人は上半身に竜の鱗が鎧みたいになって竜の羽が生えていた。逆に俺は頭に角が生えて尻尾がある。なんか本来の竜の騎士に出ないところに異常が出たみたいになってる。本来の生まれ方をしなかったから反転したみたいな感じだ。

 

 

「イーリス様、休憩時間は終わりです」

「………はーい」

 

 

俺が目覚めた時に身支度を整えてくれた眼鏡を掛けたメイドさんが俺を呼びに来てくれる。この女性魔族は『アイナ』なんでも大魔王バーンに仕えたメイドの中では古株らしく、戦闘力も相当に高いらしい。その割には年老いた感じは全くしないのだ。20代にしか見えねーよ。自己紹介の時にそんな事を思っていたら無言と威圧のダブルコンボで大変だった。うん、どんな種族でも女性に年齢の話をしちゃダメだね。

 

因みにこのアイナさん、めっちゃ強い。午前中に戦闘訓練をしていたのだが、俺の攻撃は一切当たらずボコボコにされたばかりだ。午前中は近接戦闘の訓練で午後は魔法座学と実戦が主である。そんな訳で午後の魔法授業なのだが……

 

 

「メラッ!」

「…………相変わらずですね。どうして、此所まで魔法の才能が無いのか不思議です」

 

 

俺の唱えた呪文に反応して俺の掌から火が出る。火が出たのだが……その火はライターやマッチで灯したかの様な小さな火だった。初日からこの様子なので、ミザルさんも驚いていた。そしてそこから進歩したかと言われれば、この通りな訳で。

 

 

「バーン様の魔力を受け継いでるのに、どうしてこうなるんでしょう」

「それは俺が聞きたいです」

 

 

手の中で風に負けて消えそうな魔法を見詰めながらミザルさんの言葉に泣きそうになる。俺の体は大魔王バーンが禁呪法で生み出した肉体で大魔王バーンの力を引き継いで体の魔力量は凄まじいのだが、それが全然扱えていない。宝の持ち腐れが見事にマッチしていた。

ダイの大冒険の世界に来たのに魔法の才能が無いとは泣ける。

 

メラを使えば手元に小さな火が点り、ヒャドを使えば氷が一粒落ちた。バギを使えば、そよ風が発生。ギラを使えば手元が光って終わり。イオを使えば爆竹が破裂した程度の爆発が起きた。ホイミを使えば、擦り傷が消える程度の効果しか起きなかった。一通りの魔法の契約をしたので使用可能だが効果が低すぎた。

 

  

「突然目覚めたかと思えば素質があるのに才能が開花しないとは……貴女はどちらかと言えば武道家タイプなのかもしれませんね。アイナとの訓練も順調な様ですし」

「さっきボコボコにされたばかりなんですが」

 

 

ミザルさんの発言に、俺は手元のメラを消しながらげんなりとしていた。ため息を吐きたいのはこっちだってのに。正直、魔王軍に協力する気はないが最低限覚えなきゃならない事は多いし、弱いままじゃ何も出来ないから色々と学ぶ予定だけど出だしから躓いている気分だ。

 

 

「本日の魔法の座学は此所までにしましょう」

「あれ、今日は早いんですね」 

 

 

ミザルさんの発言に驚く。なんせ、いつもよりもかなり早く授業が終わったのだから。

 

 

「………本日、此所までにしたのは理由があります。貴女がバーン様に呼ばれているからです」

「へー……俺が父上に……え?」

 

 

ミザルさんの発言に固まる俺。目覚めてから一週間が経過したけど最初の挨拶の時以外は一切接触の無かったバーン様がなんのご用なのでしょうか!?そんな風に驚いているとミザルさんから早く行く様にと言われて謁見の間に行く事に。

 

 

「ああ……不安だ」

 

 

謁見の間に行く道中でため息が溢れる。何を言われるんだろう。憂鬱な気分を抱えたまま謁見の間に到着する。扉の前で声を掛けた。

 

 

「父上、イーリスです」

「うむ、入れ」

 

 

その言葉を皮切りに扉がギギッと自動で開き始める。既に少し、胃が痛いです。

 

 

 

 





『アイナ』

イーリスのお付きのメイドの魔族。メガネを掛け、長い黒髪を後ろで三編みにしている。バーンに長年使えているメイドだったが現在はイーリスのメイドとして働いている。魔法は使えないが武芸百般で肉体労働派。バーンの命令での武道部門の家庭教師となっている他、マナーをイーリスに叩き込むべく活動中。イーリスの教育係件護衛。

基本的には穏やかで優しい性格だが怒った時は怖く、相手が大魔王バーンであろうと圧倒する程のオーラを放つ時がある。原作には存在しなかったキャラ。

一人称は『私』
基本的な服装はメイド服。


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大魔王様とチェスしました

 

 

 

どうしてこうなったんだろう……謁見の間に入ってから脳内リフレインしている言葉だ。

 

 

「ほぅ……そうくるか」

 

 

俺の動かした駒に思案顔な大魔王バーン。現在、大魔王様と向かい合ってチェスをしております。将棋は知ってたけどチェスは知らないから出来るかな、と不安だったけど知識として埋め込まれてたみたいで何とか指せてる。

 

 

「あ、あの……」

「ミザルから聞いたが魔法が上手く発動しないそうだな」

 

 

俺が何が理由でチェスに誘われたのか問おうとするとバーンが口を開く。なるほどミザルさんから俺の状態を聞いていたのか。

 

 

「はい……魔法の契約はしているんですが、上手く発動しないみたいで」

「人造竜の騎士だから不具合が出たのか、素質はあれど才が欠けたか……ままならぬ物だな。だが、だからこそ面白いがな」

 

 

バーンは俺の言葉を聞いてから駒を持ち上げニヤリと笑い、俺のナイトを倒す。あ、ヤバイなナイト取られた。

 

 

「面白い……ですか?」

「そなたは余の魔力を受け継いでるにも関わらず魔法の才能が無い。だが、それはそなたが鍛えられる素養があると言う事だ。励むがよい」

 

 

バーンから予想外の言葉を聞かされる。戯れとか余興とも聞こえたが俺を励ましているかのようにも聞こえた。

 

 

「チェックメイト。どれ……見ているがよい」

「え?」

 

 

バーンが駒を指して俺はチェックメイトされる。敗けが確定したと同時にバーンは手を翳す。

 

 

「これがギラだ」

「おお……」

 

 

バーンの手から光の魔力が溢れ、光の光球が作り出される。ギラって『閃光魔法』だから光球にはならない筈だがバーンの魔力で形を作ってんのか……そういやポップも魔法力を調整してベギラマをメドローアと誤認させた魔法使ってたっけ。

 

 

「そしてコレを発展させたのがベギラマとなる」

「スゲェ……魔法を粘土みたいに」

 

 

作り上げた光球型のギラに再度発生させたギラと混ぜ合わせてベギラマを作り上げる。遊び感覚で魔法を粘土みたいに練り上げて精製していく。魔法が不得手の俺でも凄い技術だと分かる。そしてバーンの魔力的にこれはベギラマでも威力的にはベギラゴンなんだろう。

 

 

「せめてこれくらいは出来るようになるんだな」

 

 

そう言ってバーンは指を弾く。それと同時に精製されたベギラマは空に向かって昇って行き、最後は花火みたいに弾けた。

 

 

「う……精進します」

「それでよい……勝負も付いたし退室せよ」

 

 

バーンに促されて退室する事に……なんかどっと疲れた気がする。

 

 

 

「はい、失礼します。父上」

「ああ、それとだが……来週も来るがよい。また指そうではないか」

 

 

頭を下げて退室しようとしたらバーンに呼び止められる。何事かと思えばバーンはチェスの駒を指で遊びながら俺に語りかけた。マジですか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇side大魔王バーン◆◇

 

 

「バーン様……」

「ミストバーンか」

 

 

イーリスとのチェスを終え、イーリスが退室した後にミストバーンが姿を現す。ミストバーンはチェスが終わるまで待たせていたが……

 

 

「ミストバーン、奴をどう思った?」

「禁呪法で生み出した生命体は生みの親に影響を受けますが……イーリスはバーン様に似ても似つきません。また、バランとも似つきません」

 

 

ミストバーンの考察に余も同意する。ミザルからの報告でイーリスの事は聞いていたが直接見てみたいと思った。余の魔力を受け継いでる割には魔法の才能がまるでなく、チェスを指してみれば慣れない手付きで指す割にはそれなりの指し方をしていた。面白い指し筋をしていたものだ。

 

 

「余が禁呪法で生み出した生命体だが……最初は目覚めず、目覚めれば余の手から離れた存在……戯れには丁度良いではないか」

「戯れ……ですか?」

 

 

チェス盤に駒を並べ、先程のイーリスの指し筋を思い出す。

 

 

「ハドラーが目覚めるまで、あと数年ある。その間に余の娘がどのように成長するか……楽しみではないか。ミストバーン、そなたも奴を見てやれ。アイナの報告ではイーリスは魔法よりも闘気を用いた戦法が得意になりそうだ。それにそなたと接触し、どのような影響を及ぼすか楽しみだ」

「………バーン様の仰せのままに」

 

 

ミストバーンにイーリスの事を任せるとミストバーンは頭を下げ、姿を消す。ふふ……ミストバーンもなんだかんだ言って気にしている様だな



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伸びてきた爪を避けました

 

 

大魔王様とのドキドキチェスを終えた次の日。俺は格闘の鍛練に勤しんでいた。

 

バーンからは、励めよとか言われたけど『力こそ正義』の権化である大魔王バーンの一言だから裏があるとしか思えない。まあ、今後魔王軍から離反するにしても力が無い事には、どうにもならないから特訓はするが。

 

 

「せいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「…………………」

 

 

そんな訳で……いや、どんな訳だ。俺はミストバーンと組手をしていた。組手と言っても俺がミストバーンに殴りかかり、ミストバーンは無言で俺の拳や蹴りを捌き続ける。しかもミストバーンはその場から一歩も動かず、左手だけで俺の攻撃を完璧に防いでいた。いくら強さに差があるからってこれは悔しかったので、なんとか一撃でも当てようと躍起になっているのだが、結果は散々だった。一発もかすりもしない。

 

 

「ぜー……ぜー……駄目だ……当たらない……」

「…………………」

「イーリス様、はしたないですよ」

 

 

疲れた俺はその場に座り込む。ミストバーンはそんな俺を無言で見詰め、アイナさんは俺をはしたないと叱る。そんな事言っても、中身は男なんだから仕方ない……と言いたいが女の体に慣れてきてる自分が悲しくもある。

 

 

「……………」

「ん、なんだよミストバー……危なっ!?」

 

 

そんな風に少しダラけているとミストバーンが無言のまま人差し指を此方に向けている。嫌な予感がした俺は咄嗟にその場を飛び退いた。それと同時にミストバーンの爪が高速で伸びてきた。なんだったっけ、あの技!?技の名前は忘れたけどヒュンケルの鎧を砕くくらいの威力があったよな、確か!

 

 

「……………」

「ちょ、待って、危な、にょわっ!?」

 

 

片手だけだけど、五本の指から高速で伸びてくる爪を避け続ける。必死に避ける内に追い詰められて、最後の攻撃も避けたけど変な体勢になり、妙な悲鳴を上げてしまった。

 

 

「……………」

「あ、危なかった……」

「お見事です、イーリス様。それと貴方は調子に乗りすぎです」

 

 

全ての攻撃を避けられた事にミストバーンは怒っているのか、さっきの悲鳴に呆れているのか、やはり無言のままだった。アイナは褒めてくれたけど気持ち的には微妙な所だ。アイナは不意打ちを仕掛けたミストバーンの頭に拳骨を落としていた。おいおい、ミストバーンの体はバーンの体なのに乱暴に扱って良いのか?と思ったけど、アイナさんはその辺りを知らないのだろうか?

 

 

「……………」

「イーリス様。明日以降の修行は私との組手とミストバーンから闘気の扱いを学ぶ内容になります。ミストバーンの通訳は私が行いますので」

「あ、うん……お願いします」

 

 

ミストバーンは無言だったがアイナさんが通訳してくれた。テレパシーでもしてるのかな?原作でもバーンとミストバーンはテレパシーみたいなのしてたし。

それと通訳してくれるなら、さっきの不意打ちについても聞いて欲しかった……なんて思ってたらミストバーンはフッと姿を消した。そういや、初期のミストバーンって寡黙キャラだったな。ヒュンケル曰く、『俺に物を教える時でさえ滅多に喋らなかった』って言ってたし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇sideミストバーン◆◇

 

 

 

意外な事だった。バーン様の命令でイーリスに稽古をつける事になった私だが、イーリスは魔法の才能が無いと聞き、私は闘気を教える事となり、イーリスの身体能力を計る為に組手をした。

そこらの雑魚モンスターや人間の兵士を遥かに上回る力を持つイーリスだが、動きそのものは素人だった。禁呪法で生み出されたイーリスは格闘術もその身に刻まれている筈なのだが……動きが良く言えば大雑把、悪く言えば見よう見まねの素人芸。

 

私はイーリスの攻撃を左手で防ぎ続けたが攻撃を仕掛けていた側のイーリスが先に根を上げた。なんたる体たらく。強くなれる筈の……バーン様から生み出された個体がこんなにも弱い事に私は苛立ちを感じ、イーリスを戒める為にビュートデストリンガーでイーリスを痛め付けようとしたが、なんとイーリスは私のビュートデストリンガーを避けた。

 

ビュートデストリンガーは鋭い爪を高速で伸ばして離れた相手を貫く技で、初見では玄人でも避けるのは難しい技だが、イーリスは無様な避け方だったが確かに避けた。私は立て続けにビュートデストリンガーを放ち続けるが、イーリスは無駄な動きが多いにも拘わらず避け続けた。最後には本気の速度で放ったのだが……

 

 

「ちょ、待って、危な、にょわっ!?」

 

 

妙な掛け声と共にイーリスは私のビュートデストリンガーを全て避けた。今の速度のビュートデストリンガーはヒュンケルですら避けるのは難しい筈なのに。私が放心しているとイーリス付のメイドとなったアイナが私に近づいた。

 

 

「あ、危なかった……」

「お見事です、イーリス様。それと貴方は調子に乗りすぎです」

 

 

息も途絶え途絶えのイーリスと、イーリスを褒めた後にアイナが私の頭を殴る。何をする!私の体はバーン様の物だ!貴様も知っているだろうが!バーン様からの厳命であった寡黙に徹するという事も忘れて私は叫びそうになる。

 

 

『貴方はバーン様からイーリス様を鍛える様に命じられたのでしょう?執拗に攻撃をするのは違うのでは?組手は私がしますから貴方は闘気の扱いを教えて上げてください』

『う、うむ……承知した』

 

 

アイナからのテレパシーに私は怯んでしまう。私よりもバーン様に仕えた時間は短いのに私よりも立場が上のようにも見えて、バーン様にすら恐怖を与える、このメイドは何者なのだろうとこの数百年で何度思った事か。

 

 

「イーリス様。明日以降の修行は私との鍛練とミストバーンから闘気の扱いを学ぶ内容になります。ミストバーンの通訳は私が行いますので」

「あ、うん……お願いします」

 

 

私が自身の思考を優先していると、アイナはイーリスに今後の予定を伝え、イーリスは私とアイナに頭を下げる。不思議なものだ……バーン様の禁呪法で生み出された疑似竜の騎士はバーン様にもバランにも似付かず、人間のヒュンケルとは違ったタイプの思考の持ち主。私の嫌悪するゴミのような存在である人間と同じ様な心の持ち主であると言うのに……その笑顔と面白い仕草が何故かまた見たくなった。

 

何をバカな事を考えているのだ。私はそんな自分の思考をかき消し、その場を離れた。全ては大魔王様の為に……私はヒュンケルと違って手の掛かりそうな新たな弟子の修行メニューを考えるのだった。

 

 



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死神と遭遇しました

 

 

 

 

「メラ!メラッ!メーラッ!メ~ラ~!」

「後半からミュージカルみたいになっていますよ、イーリス様」

 

 

ひたすらにメラを放つがポヒュっと小さな音と共に火の粉が舞うだけの結果となってしまっていた。ミザルさんから呆れと同時にツッコミを貰っていた。

大魔王の娘に転生してから数ヶ月。未だに魔法の上達が見えないのが泣ける。

 

 

「何故、ここまで魔法の発動が悪いのか……竜の騎士とは『人間の体と心、魔族の魔力、龍族の強大な戦闘力』を併せ持つ存在。それが竜の騎士であるのですが……」

「出来の悪い生徒でスイマセン……」

 

 

ため息を吐きながらレポートを作成しているミザルさん。そういや初期のダイも魔法が全然、使えなかったっけ。中盤から普通に使ってたけど。

 

 

「イーリス様は魔法よりも肉弾戦の方がお得意のようですね。午前中の私の授業はお見事でしたよ。さ、お茶にしましょう」

「お見事と言う割にはボコボコにされてましたけどね」

 

 

魔法の授業も一休みを挟む事にした。アイナさんの淹れてくれたお茶を飲むために席に着くが俺よりも先にミザルさんが席に着いていた。

 

 

「あら、まだ未熟とは思いますが進歩してますよ。ミストバーンから学んでる闘気の扱いも上達してますし」

「本人の口から上達したと聞いてないから、なんとも……」

 

 

アイナさんの発言通り、俺はミストバーンから闘気の扱い方を学んでいる。最初の方こそ上手く使えなかったが現在ではそれなりに闘気を扱えるようになってきてるのだ。

身体能力の底上げや闘気を纏わせた拳や蹴りでの戦法。そしてそれを体外に放ち、遠距離攻撃をする仕方。最近では闘魔傀儡掌も練習してる。

そっち方面はある程度の成果が出てきたけど魔法はさっぱり。

 

 

「イーリス様はバーン様譲りの魔力があるから魔法の練習でも尽きる事はありませんが……意味の無い練習は無駄ですよ」

「そうは言っても練習しない事には……」

 

 

キメ顔をしながらクッキーを頬張るミザルさん。ちょっと残念イケメンな絵だ。しかし、ミザルさんの言うことも分かる。だって全然、上達しないんだもん。

 

 

「少々、授業を変える必要があるかも知れませんね。このままでは進展も無さそうですし」

「でも、どうやってですか?イーリス様はルーラを使えない所かバーンパレスの内部の宮から出た事もないんですよ」

 

 

俺の授業を変えようとしているミザルさんだったがアイナさんが疑問を口にする。そう、俺はバーンパレスの外は愚か内部の宮から出た事すら無いのだ。しかも俺は移動呪文であるルーラが使えないのでルーラが使える他の人と同行しないと外にすら出られないのだ。

 

 

「うふふ……キミってば思ってた以上に箱入り娘みたいだね」

「なんの用ですか、キルバーン殿」

「うおっ!?」

 

 

お茶をしていたテーブルに気が付けば黒い衣装を身に纏った仮面の男『キルバーン』が優雅にお茶を飲んでいた。いや、ちょっと待て。お前、ロボットだからお茶飲まなくてもいいだろ。あ、使い魔の一つ目ピエロのピロロも一緒か。こっちが本体なんだよな。

 

 

「初めまして、お嬢様。僕の名はキルバーン。バーン様の使い魔みたいなもんさ。この子はピロロ」

「あ、えと……イーリスです」

 

 

俺はキルバーンと握手を交わす。コイツ、最終的には大魔王バーンも裏切るんだよな……あんまり、仲良くしない方がいい気もするけど、今の俺じゃ確実に返り討ちだな。

 

 

「それでキルバーン殿、暗殺が主な仕事のアナタが何の用ですか?」

「僕もバーン様の配下だ。そのご息女の成長を促すのも仕事の一つさ」

 

 

ミザルさん、キルバーンの事を知ってたんですね。考えてみればバーンパレスの内部の宮に居る幹部待遇の魔族だから、ある意味妥当か。

 

 

「それで……イーリス様に何をさせる気ですか?」

「怖いなぁ……そんなに睨まないでよ。単なる課外授業さ。バーンパレスを飛び出して地上へ行ってみようじゃないか」

 

 

アイナさんがとてつもなく恐ろしいオーラを放ちながらキルバーンを睨む。近くで見ている俺やミザルさんの方が圧倒されるほどなのに、キルバーンはその殺気をサラリと受け流していた。

 

それはそうと……バーンパレスの外に出るって初体験だな。



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初戦闘になりました

 

 

 

キルバーンのルーラで初めてバーンパレスの外に出た俺。つーか、ルーラも初体験だった。なんか不思議な感覚だった。一瞬の浮遊感があった後に高速移動したんだもん。

 

 

「さ、着いたよ。此処が人間の町さ。中には入れないけどね」

「おおー……」

 

 

キルバーンに促されて人の町を遠くから眺める。流石に俺とキルバーンの容姿じゃ町の中には入れないから遠くから見てるだけだ。

ドラクエ世界だけど、初めて人を見た。あの世界観の人達が闊歩してるのを見てると少し嬉しい気分になってくる。

 

 

「やっぱりね。キミの心は魔族や竜の騎士よりも人間寄りだ。人の町を見て慈愛の瞳になるのが何よりもの証拠だ」

「あ、いや……初めて人を見たから……」

 

 

キルバーンの指摘にドキっとする。何かを見透かされた様な一言にバクバクと心臓の鼓動が早くなった気がする。

 

 

「隠さなくてもいいよ。僕はバーン様やミストに報告しようって訳じゃないんだから」

「そ、そうか……」

 

 

にこやかに告げるキルバーンに俺はコイツが何を考えているのか分からずに不安な気持ちにさせられる。

 

 

「でもね、僕は思ったのさ。キミが魔法が使えないのは緊張感が無いからだとね。キミが今までしてきたトレーニングはミザル君の魔法の授業とアイナの組手、そしてミストから闘気の使い方を学んでいるだけ。だからキミはキミ自身の才能を開花させられていない。実戦を経験した事がないからキミの中にある才能が燻っているのだとね」

 

 

そう言ってキルバーンは懐から小袋を取り出した。なんだろう……とてつもなく嫌な予感がする。

 

 

「戦場に殺気なく、戦場に危険がなければ、無味乾燥になり、成長もあり得ない。だからこそ……存分に殺気と危険を味わってもらおう」

「グルォォォォォォォォォォォッ!」

「グ、グリズリー!?」

 

 

キルバーンの持つ小袋から発せられた臭いに誘い出されたグリズリーが現れた。

 

 

「この小袋は獣の魔獣の理性を奪う臭い袋でね。今はグリズリーだけ出てきたけど、グリズリーの叫びと臭い袋の効果でもっと魔獣が出てくる。早く倒さなきゃね。しかも手間取ったり、キミが逃げたら人里に降りていくかもね」

「確信犯かよ……危なっ!」

 

 

キルバーンの説明に最初から、このつもりだったのだと気付く。俺がグリズリーを素早く倒さなければ、追加でモンスターが現れ、尚且つ俺が逃げれば近くの町をモンスター達が襲うという時間制限&撤退禁止となった。

考える時間も興奮したグリズリーが襲ってきた為に無いといえる。早く倒さなきゃ……グリズリーくらいドラクエの初期から中盤の敵だ。倒せない事もないだろう。

 

 

「この……やってや、ぐあっ!?」

「グルォォォォォォォォォォォッ!」

 

 

グリズリーの右爪を避け、闘気を込めた拳で殴りかかったがグリズリーの左爪のカウンターを食らってしまう。近くの木に叩き付けられ、一瞬意識が飛びかけた。

 

 

「痛っ……くぅ……」

「グルルルルルルルッ!」

 

 

転生してから修行はしてたけど、実戦。それも対魔獣は初めてだ。それに普通に考えれば人がクマと戦って無事で済む訳がない。体が恐怖で震えて動けなくなるし、痛みで動きも鈍くなる。何を簡単に倒せるとか勘違いしてたんだ俺は!

 

 

「おやおや、予想はしてたけど思ってたよりも動けなくなってるね。ま、この程度で死ぬならバーン様も納得してくださるだろう。竜の騎士の実験体は失敗作だったとね」

「……んだと……」

 

 

キルバーンの呆れと失笑に俺は怒りが沸いてきた。今のこの状況を作り上げた張本人が何言ってんだ。誰が失敗作だ。

 

 

「生き残ってもその強さじゃ魔王軍の下っぱ以下だよ。ミストもアイナも、ミザル君の見立てと育て方が悪かったのさ。まあ、女の子なんだし、慰み者くらいにはなれるんじゃない?」

「ふざけんな!」

 

 

俺はキルバーンの発言に自分の中の何かがキレた気がした。俺の才能の無さは認めるが俺を教えてくれていた人達を侮辱されたのは許せなかった。そして確かに俺は女の体にはなってるが中身は男だっての!女の体の生活に慣れて言う事じゃないとは思うが。

 

 

「グルォォォォォォォォォォォッ!」

「五月蝿い!」

 

 

そんな俺の気も知らずに、再び襲ってきたグリズリー。右爪を振り下ろしてきたので、それを左手で受け止めると腹に右拳を叩き込んでやった。

 

 

「グホッ!?」

「これで終いだ!」

 

 

腹を殴った事で前屈みになったグリズリーの頭が俺にとって丁度良い高さとなった。俺は右足に闘気を集中させハイキックを放ち、グリズリーの頭に叩き込む。

 

 

「グギャァァァァァァァァ!」

「ハァ……ハァ……やった……」

 

 

そのまま地面に伏して動かなくなったグリズリーに俺は自分がグリズリーを倒したのだと確信を得た。なんだろう、この気持ち。まるで自分の中にあった蓋が開いたかのような……高揚感があった。

 

 

「お見事、お見事。流石はバーン様の……」

「イオッ!」

 

 

拍手をしながら歩いてくるキルバーンに俺は振り向き様に左手を翳してイオを放った。今までの爆竹レベルの爆発ではなく光球が放たれ、キルバーンに着弾し爆発した。

 

 

「酷いなぁ。折角褒めたのに」

「褒められたのも、切っ掛けを作ったのにも感謝はするけど、やり方をもう少し考慮して欲しかったからな!」

 

 

ノーダメージで服の埃を払うキルバーン。思わずイオを放ったけど、コイツに魔法は厳禁なのを怒りで忘れてた。

 

 

「じゃ、もう帰ろうか。キミを連れ出したのがバーン様やミストにバレたみたいでね、相当怒ってるみたいだ」

「無許可だったのかよ。それはそうと他にモンスターが現れなくて良かっ……た……」

 

 

キルバーンの発言に少し呆れたものの、グリズリー以外のモンスターが現れなくて安心した。他にも出てたら危なかったし、町にもモンスターが行く所だったから……そこで俺の意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇sideキルバーン◆◇

 

 

 

まったく妙な娘だよねぇ……僕がイーリスに感じた感想はこんな物だ。

イーリスはバーン様が作り上げた擬似的な竜の騎士。しかし、その才能が開花しないのは何かしらの要因があるのだろうと考えていたのだが、僕からしてみたら過保護だから戦いの才能が開かないのだろうと考えた。箱入り娘のままじゃ成長しないのも仕方ないよね。だからこそ、僕はイーリスを誘って人里近くの森で戦わざるを得ない状況を作り上げた。

イーリスの思考はミストやミザル君から聞いていた通り、甘ちゃんの人間寄りだったから煽ったら簡単に乗ってきた。

 

戦いに不馴れな感じでグリズリーなんかに負けそうになってたけど、僕の挑発に触発されたのかイーリスは一気に攻勢に出て、あっという間にグリズリーを倒してしまった。しかも臭い袋に釣られて集まっていたモンスター達はイーリスの魔力と闘気にビビって逃げ出してしまった。正直予想外だね。眠ってる力が目覚めれば今の下っぱ魔族から中級くらいには強くなると思ってたけど、今のイーリスから放たれる闘気は上級魔族と変わらない波動を放ってる。眠れる獅子……いや、竜を目覚めさせちゃったかな?

 

そんな事を思っていたらイーリスからイオを放たれ食らってしまう。威力は上がったものの僕には大した事ないから痛みはないんだけど驚いた。魔法の運用もマトモになってるじゃないか。その後、緊張の糸が切れたのかイーリスはそのまま倒れそうになったのを受け止める。

 

 

「やれやれ、思ってた以上にお転婆な娘なんだね。それにしても死神の前で眠るとか、ある意味大物だよ」

 

 

イーリスを横抱きにした状態でルーラを唱えてバーンパレスに帰還した。バーン様やミストじゃないけど、この娘は見てて飽きないなぁ。僕は魔王軍での楽しみが増えたと笑みを禁じ得なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バーンパレスに戻るとミストとアイナが待っていた。ミストは僕の腕からイーリスを少々乱暴に取り上げるとそのままイーリスを部屋に運んでいく。死神の僕が言うのもなんだけど過保護すぎない?アイナなんか笑顔だったけど、なんか凄いオーラ出てたし。

 

 

『キルバーンよ、余の下へ来い。少々、話がある』

『………かしこまりました、バーン様』

 

 

ミストと入れ替わるようにバーン様の魔力による念話が来た。多分、イーリスに関する事なんだろうけど絶対、皆過保護だから!そんな事を思いつつ僕はバーン様の下へと急いだ。

 



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尋問されました

 

 

 

キルバーンと出掛けた翌日。バーンに呼び出されてチェスをする事に。いつもの定例チェスではなく急遽呼び出されたのだ。まあ、間違いなく昨日の一件だろう。

 

 

「イーリスよ。キルバーンに連れられて下界へ行ったそうだな?」

「は、はい……修行になるからと……父上に許可を取って無かったのは後で知りました」

 

 

何手か指した後にバーンが口を開く。心なしか機嫌が悪そうだ。

 

 

「そなたはまだ隠しておきたい存在だったのだ。そなたの存在はそなたが考えている以上に大きい。その事を努々忘れるな」

「う……気を付けます」

 

 

威圧されて流石に萎縮する俺。つーか、機嫌悪すぎじゃないですかね!?あ、ナイト取られた上にクイーンがヤバい。

 

 

「それで初めての戦闘はどうだった?」

「なんて言うか……最初は体が強ばってマトモに動けませんでした。その後、キルバーンの挑発を受けてから……なんかカッとなって後は無我夢中に戦ってました。でも、頭は冷静だったと言うか……うーん」

 

 

初めての戦闘を聞かれるが、ぶっちゃけ怖かった。途中から体から溢れだす何かに翻弄されていた気もするが。

 

 

「そうか……だが、戦闘能力の向上と魔法をマトモに使える様になったのは悪いことではない。今後の成長が楽しみだ。チェックメイト」

「う……参りました」

 

 

相変わらず強いよバーン様。アッサリと決着のついたチェス。

 

 

「それはそうと……キルバーンに抱えられて帰ったと聞いたが?」

「すみません、その辺りは眠っていたので……」

 

 

表情はそのままだが圧が増した。どうも初戦闘を終えた後、俺は気絶していたらしい。キルバーンの前で気絶とか超怖い。まあ、なにもされずにバーンパレスまで送り届けてくれたみたいだけど。

アイナさんからの話じゃ、キルバーンはお姫様抱っこでバーンパレスまで運んだらしい。帰ってきた俺とキルバーンを迎えたミストバーンとアイナさんは怒ったものの、キルバーンの手から俺を取り上げると寝室まで運んで何もされてないか診察までしたらしい。俺が言うのもなんだが過保護だと思う。

 

 

「その……迂闊だったのは自覚しています。今後気を付けます」

「そうしろ。マトモに魔法が使える様になったのなら今後の指導方針も考えなければか……下がってよい」

 

 

 

素直に謝罪をしたら何やら考え込んでしまった。退室を促されたので席を立ち、その場を後にする。うーん、思うようにいかないもんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇sideバーン◆◇

 

 

定例のチェス以外でイーリスを呼び出し、キルバーンと下界に出た時の事を聞き出す。イーリスは竜の騎士とも魔族とも思えない……しいて言うなら人間寄りの心を持っていると考えていた。それをキルバーンがわざと人里近くでイーリスを刺激させた。

その結果、イーリスは戦闘能力が格段に増した。キルバーンの報告では楽しそうに戦っていたと。まるで魔族の様な笑みを浮かべていたと。イーリスは余がバランの血を用いて生み出した擬似的な竜の騎士で何かしらの不具合が生じると思っていたが……

 

普段は人の心を持ち合わせ、何らかの切っ掛けで魔族の本質が表に出るといった所か。竜の騎士は『竜の力、魔族の魔力、人間の心を併せ持つ究極の生物』だが、擬似的に生み出した結果、そのバランスが悪いのだろう。

 

 

育て方を間違えれば血と破壊を好むバーサーカーに成りかねんな。だとすれば……イーリスを的確に指導できる存在に任せるしかない。だが、魔族の幹部に任せれば結果は同じになってしまうだろう。

 

 

「仕方がないな……気は進まんが奴に頼むとするか……」

 

 

地上で唯一、余に逆らいうる人物に連絡を取る事にした。イーリスの事は奴には伝えていなかったから驚愕するだろうが、邪険にはしまい。息子を失った悲しみを持つ奴がイーリスを攻め立てようなどあり得ぬのだからな。



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当代の竜の騎士と会いました

 

 

建設中の鬼岩城にバーンと共に視察に行くと誘われて来たは良いのだが……予想外の人物が待ち構えていた。

とてつもなく……とてつもなく空気が重い。相対する男達から放たれる闘気と殺気。それらが混ざり合い、その場の空気を重くしていた。

 

 

バーンはなんと竜騎将バランを呼び出したのだ。いや、類を見ないほど貴重なシーンなのは分かるけど、凄まじく気まずい。

それと言うのも、バーンがバランに俺の事を説明した際に新たに様々な事が発覚した。

バーンはバランから研究に血液を譲り受けたと俺に説明していたが、実際にはバランが冥竜王ヴェルザーとの戦いの際に流れた血を勝手に採取していたらしい。戦いの場に居なくても、戦いの後に流れ落ちた血液を採取することなんて容易い事だったらしく、バランにとって俺と言う存在は寝耳に水。しかも、バランはまだ実子が死んだと思っているから、代わりに俺を宛がうつもりなのかと深読みしているみたいだ。

 

 

「バーン様……いや、この場には我等しか居ないのだから敬語は外させて貰うが、正気か?禁呪法で竜の騎士を生み出すとは……本来ならあり得ない事だ」

「余は正気だ。バランよ、そなたに黙っていた事は悪いとは思うが、これが現実だ」

 

 

やめて!会話が進む度に空気が重くなってくから!圧が増してるから!

 

 

「ふん……私の血液を勝手に採取した挙げ句、竜の騎士を複製するとはな」

「だが、一向に目覚めなかったが一年程前に目覚めたのだ。もう少し成長してからそなたにも会わせようと思っていたのだが……少々事情が変わってな」

 

 

バランの殺気が収まらないのをバーンも理解しているだろうが、バーンは俺の事を話し始めた。

 

俺が目覚めた時の事。俺の今の実力。先日、初戦闘の際に感じた高揚感の理由。魔族の側面が際立つとバーサーカーと化す事。早急に対処しないとマズイ事になりかねない事。

 

いや、待って。後半の話は俺も初耳なんですけど!?そんな事になってたの俺!?このままいくと『URYYY』みたいな感じになるの!?

 

 

「余としてはそうなる前に人格の確立をさせたいと思っているが、余や幹部が育てたのではやはり魔族寄りになってしまう。故に当代の竜の騎士である、そなたにイーリスを任せたいのだ」

「…………良いだろう。私としても竜の騎士が増えるのであれば心強いし、人間を滅ぼす戦力が増すのも反対する理由にはならん。だが、大魔王バーンよ、一つだけ言っておく」

 

 

バーンは意外にも俺の事を思ってバランに俺を任せるらしい。バランも苦虫を噛んだ表情になった後に口を開いた。

 

 

「これ以上は竜の騎士を禁呪法で増やそうとするな。それを守れないと言うのなら……」

「心配せずとも、これ以上は増えん……と言うか増やせんのだ。そなたの血を媒介にして生み出せたのはイーリスのみ。他は反応も起きずに血液のままだった。そのイーリスも目覚めたのは最近。つまりは偶然の産物に過ぎんのだ。余としても目覚める可能性の低い竜の騎士を増やすよりも計画している魔王軍六団長の方が期待が持てるのでな」

 

 

睨みを効かせるバランに、バーンはこれ以上は増えないと断言した。話は前にも聞いてはいたけど、やっぱ俺ってイレギュラーなんだな。それはそうと六団長って言えばハドラーが目覚めるまで後二年くらいか?

 

 

「死んだそなたの息子の代わりなどと言う気はないが……次代の竜の騎士候補として育ててくれぬか?」

「人間を滅ぼした後に竜の騎士の存在価値があれば良いがな。だが、イーリスの育て役。確かに拝命させて貰ったぞ」

 

 

いや、アンタの息子はデルムリン島で生きてるよ、と思わず言いそうになったのを堪えた。ここで余計な発言をしてストーリーを変える訳にはいかないからな。

それはそうと、これからはバランが先生か……

 

 

「私の名はバラン……当代の竜の騎士だ」

「イーリスです。ご面倒を掛けますが、お願いします」

 

 

自己紹介をされたので頭を下げながら応えた。するとバランは複雑そうな表情で俺を見ていた。そりゃそうか……さっき俺も思わず言いそうになったがバランは息子を失った悲しみを抱えたままなんだ。そんな中、禁呪法で、しかも勝手に血を使われて親族増やしましたなんて許せる事じゃないよな。それに俺はバーンを父上と呼ぶけど、血縁上の父親はバランな訳だし。暫くはバランに気を遣う日々が増えそうだな、こりゃ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇sideバラン◆◇

 

 

 

大魔王バーンに呼び出された私は、建設中の魔王軍の拠点に案内された。大魔王バーンが直々に私に話があると連絡してきたからだ。メイドの魔族に案内されて入った謁見の間で会ったのは大魔王バーンと見知らぬ魔族の少女。

 

メイドの魔族が下がると謁見の間には我々だけとなり、私はバーンと対等に話をさせて貰ったが……久し振りに頭に血が上るのが、自分自身で感じれた。大魔王バーンは無断で私の血液を用いて禁呪法で竜の騎士を生み出したらしい。基本的に禁呪法で生み出した生物は無機質な存在だけだが、大魔王バーンともなるとその法則を破る事が出来たのか。

しかし、その禁呪法で生み出された擬似的な竜の騎士であるイーリスは長年目覚めなかったが、一年程前に急に目覚めたらしい。本来ならハドラーが目覚め、六団長の集結の際に紹介するつもりだったらしいが、イーリスの魂が安定しないと言うのだ。それはそうだろう。竜の騎士は戦闘の記憶と歴史を次代の竜の騎士に受け継いでいくものだ。それらを受け継がずに竜の騎士が生まれれば魔族の本能が勝ると言うもの。しかも大魔王バーンの魔力で生み出されたとあれば尚更だ。

 

大魔王バーンは折角生み出した竜の騎士をバーサーカーにはしたくないらしく、私に指南を頼んできた。私に無断で勝手なことをしておきながら虫の良い話だ……とは思ったものの、ソアラを殺し、私からディーノを奪った人間を根絶やしにすると約束した大魔王バーンを信じるとしよう。約束を違えば私が敵になると大魔王バーンも重々承知の上だ。

 

 

「ならば、この鬼岩城を拠点にイーリスを鍛えてやってくれ。ハドラーは、あと一年程で目覚める筈だ。イーリスの世話係はアイナに任せる」

「え……あと、一年?」

 

 

大魔王バーンの発言に驚いているイーリスに、私は疑問を感じた。何故この娘はハドラーの目覚めをそんなに驚いているのだ?私は大魔王バーンからその話を伺っていたから疑問には思わなかったが、イーリスの驚き方は少々違って見えた。まるで自分の知っている知識とは違うと言わんばかりの表情だ。それをイーリスから聞き出すのも視野に入れながら鍛えてやるとするか。

 

 



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指導を受けてます

 

 

 

 

 

「ベギラマッ!」

「既にベギラマを扱えるようになったのは驚きだが……甘いッ!」

 

 

俺の放ったベギラマを片手で受け止めると、それをそのまま俺に打ち返すバラン。そもそも竜の騎士に正面から魔法での攻撃が愚策なのは原作でも語られていた事だ。だから、ベギラマは囮にすぎない。

 

 

「てぁりゃっ!」

「むっ!?」

 

 

俺がベギラマを避けて、俺は体を一回転させて勢いを付けながら踵落としをバランに放つ。バランは驚きながらもしっかりと反応し、俺の踵落としを受け止めた。

 

 

「相手の意表を突くのは良いが迂闊だぞ!」

「それも込みでだ……よっ!」

 

 

バランが俺を投げ飛ばそうと防いだ俺の右足を掴んで投げ飛ばそうとしたので、俺は残った左足で蹴りを放つ。

 

 

「それが迂闊だと言うのだ!」

「えっ……うぎゃ!?」

 

 

バランは掴んだ俺の右足を捻り上げ、俺の体を半回転させる。俺の左足の蹴りは空振り、しかもそのまま地面に叩きつけられた。咄嗟に頭を庇うようにガードしたけど超痛い。

 

 

「まったく……戦闘のセンスはあるのに、なぜこうなのか。相手の意表を突くのは結構だが隙の方が多いぞ」

「いだ……だ……」

 

 

痛みに耐えながら起き上がろうとしたけど中々起き上がれない。流石、竜の騎士バラン。単なる投げ技が凄まじいダメージになってる。

 

 

「む、やり過ぎたか……立てるか、イーリス?」

「だ、大丈夫……」

 

 

大丈夫とは言いつつも、めっちゃ痛い。

 

 

「イーリス様は見た目とは裏腹にかなり頑丈ですが……それでも貴女が傷付く姿は見たくないですね」

「アイナさん……過保護だと思うよ」

 

 

倒れて立てない俺をアイナさんが膝枕をしつつ傷の手当てを始めた。俺が強くなれない理由の一つはこの過保護な部分が理由だと思う。

後、太ももが柔らかくて最高です。

 

 

「確かに過保護だと思いますよ。バーン様からイーリス様のお世話を命じられましたが、甘やかすのは違うでしょう」

「然り気無くホイミを掛けながらだと説得力がないですよ」

 

 

寝てる俺の頭の上でアイナさんとミザルさんが言い争ってる。

 

 

「どちらも過保護だと思うがな。その様子では成長は見られないと思うが。それにイーリスも本気で戦いに来ていないだろう」

「アハハ……すんません。でもマジになると魔族側の力が出てきそうなもんですから」

 

 

呆れた様子のバランに俺はアイナさんの膝枕から起き上がり、その場に胡座で座り込む。

バランの発言にも苦笑いで返した。だって本気で戦おうとすると、なんか心が染まりそうなんだもん。

 

 

「バーン様からもキミの力の側面は聞いてはいるが……だからと言って、本気でやらねばいつまで経っても力のコントロールが出来ないぞ」

 

 

フゥと溜め息のバラン。そうなんだけど闇堕ちしそうで怖いんだよね。

 

 

「それと……徒手空拳でも十分な力があるのだろうが、やはり竜の騎士の力を存分に発揮するなら武器が必要だな」

「その話ですが……バーン様が武器や防具を用意すると仰っていました。なんでも伝説の武具を用意するとか……」

 

 

やっぱ素手じゃ限界があるか。でも竜の騎士の力に耐えられる武器なんて……って思ってたけどバーンが武器を用意するらしい。至れり尽くせりで逆に恐縮するわ。

 

 

「ならば、それを扱えるようにもならねばな。安心しろ、キミが暴走したとしても止めてみせるから本気でぶつかってこい」

「……はい。だったら本気で行きますよ。明日から」

「頑張るなら今日から頑張って下さい」

 

 

全力で俺の教導をしてくれると言うバラン。本当なら実の息子に言いたいだろうに……

こんな所を見たり経験してしまうと、本当にこのままで良いのかと思ってしまう。

原作のダイの大冒険のストーリーを変えてもっと良い話に出来ないだろうかと考えてしまうが、正直それは叶わないだろう。

 

何故ならば、俺はバーンの禁呪法で生み出された存在だから、バーンがダイに倒された連鎖で俺も死ぬ。ヒムみたいに生まれ変わる可能性も無きにしも非ずだけど、その可能性は低いと見るべきだ。

 

此処で俺は気付く。禁呪法で生み出された生物って闘気、出せないんじゃなかったっけ?どうだったかな……漫画の知識もうろ覚えだからな……あれ?そもそも俺はどんな生活をしてたんだっけ?なんか生まれ変わる前……イーリスになる前の頃の記憶が曖昧だ。

 

なんか……最近、思い出せないんだよね。



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専用の武器を貰いました

 

 

 

「………えーっと」

「…………………」

 

 

 

目の前の変わった形の杖を見て言葉も出ない俺とバランさん。そりゃそうだよ、こんなもんが目の前にあれば。そんな俺達を尻目にミザルさんがコホンと咳払いをした後に口を開いた。

 

 

「では、説明させていただきます。此方の杖はバーン様よりイーリス様へと贈られてきた品です。私はバーン様より、この杖の事を聞いていましたのでお教えしたいと思います」

 

 

そう言ってミザルさんはテーブルの上に置かれた杖に付いての説明を始めた。と、言うかですね、俺はこの杖にとても見覚えがあるのですが……

 

 

「この杖は『りゅうおうの杖』バーン様がこの杖を手にした時から、その名が伝わったらしいのですが、古の魔王が持っていた杖だとか……この杖を装備した者は魔力に溢れ、様々な魔法を使う事が出来ると言われておりますが……バーン様は全ての魔法が使えるお方です。故にこの杖を使う事は無かったそうなのですが、イーリス様の魔法の上達ぶりを聞き、この杖を贈呈なされたのではないでしょうか?」

「忌憚のない意見をありがとう。でも、力が増すのもそうだけど、歴史的な価値もあるんじゃ……」

 

 

ミザルさんの説明を聞きながら俺は『やっぱり……』と心の中で呟いていた。だって、この杖はドラゴンクエストⅠでボスの『りゅうおう』が持ってた杖なんだもんよ。その後のドラクエ作品に出てきた時もりゅうおうはこの杖を持っていた。その、りゅうおうの杖をまさかバーンが持っているとは……

りゅうおうの杖は竜の頭を象った杖で、漫画とかゲームだと装備した者のステータス向上や魔法の威力を上げる効果があったけど……ミザルさんの説明だと同等の効果がありそうだな、これ。

 

 

「なるほど……見た目は兎も角、この杖の効果は保証されている訳だ。確かにイーリスは使える魔法の幅は広がったが威力はまだ低いからな」

 

 

いや、デザイン的には真魔剛竜剣と良い勝負だと思うよ、俺。

 

 

「一先ず試してみては?」

「そうだな。イーリス、私に魔法を放ってみろ。私なら竜闘気で魔法は効かんからな」

 

 

『竜闘気』は竜の騎士がその身に纏う闘気のこと。肉体を鋼鉄並みの強度と化し、あらゆる呪文を弾くなど絶大な防御能力を有する力。それを打ち破るには竜闘気を上回る物理的な力か絶対的に高い魔法を放つしかない。

因みに俺は竜闘気は微塵も使えません。やっぱ才能無いよネ。俺は少し泣きそうな気持ちになりながら、バラン達と共に外に出た。

 

バランと向かい合い、りゅうおうの杖を手に、ある程度距離を取り、俺は杖を構える。

 

 

「それじゃ……いきますよ。ベギラマッ!」

「ああ、来い……むうっ!?」

 

 

俺はいつも通り魔法を放った……筈だったのだが、放ったベギラマは俺が放ったとは思えない程の魔力光が杖から飛び出した。流石のバランも予想よりも威力が増したベギラマに驚いていた。そして放ったベギラマは普段、俺が放つよりも数段破壊力が増していたのか、バランに着弾したと同時に凄まじい光と爆音が鳴り響く。

 

 

「ふむ……見たところ、普段イーリス様が放つ魔法よりも威力が5割増しといった所でしょうか」

「いや、冷静すぎるだろ!バランさん、大丈夫ですか!?」

「流石に驚いたぞ……本気で防がねば危ない所だった……」

 

 

冷静に分析してるミザルさんにツッコミを入れた後に慌ててバランさんを心配すると、煙の中から竜闘気を纏いながらガードを固めるバランさんの姿が見えた。見た感じ、怪我は無さそうだ……いや、流石に焦ったわ。

 

 

「凄まじい威力になっていたな。これが、りゅうおうの杖の効果か」

「ちょっと怖いくらいなんですが……」

 

 

バランさんの意見も尤もだ。ぶっちゃけこんなチート機能付きの杖なんか持ってるだけで怖いわ。

とは言いつつも父上からの贈り物なので無下にも出来ず、りゅうおうの杖は腰にホルダーを装備して、ぶら下げる事になった。それなりに長い杖なので杖の真ん中辺りをホルダーに差して斜めにぶら下げている。これなら一応、邪魔にならないし。



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役職が決まりました

 

 

 

チート性能の武器『りゅうおうの杖』を貰ってから数週間。連日魔法の修行と実地調査をして判明したのは、りゅうおうの杖は使い手を選ぶって事だった。

物は試しと言う事でバランさん、ミザル、アイナさんで使い回して魔法を使ったのだが、俺が使った時程、威力が増さなかったのだ。その事を父上にも聞いたのだが、父上曰く「真の使い手に武器は応えるものだ」と言われた。なんか、はぐらかされた気もしないでもない。

 

だけど、バランさん達で試したようにもしも父上が使ったとして威力が増さなかったのだとしたら納得は出来る。威力が増さない意味のない杖よりも光魔の杖を持つわな、そりゃ。

 

 

「しかし、まあ……どうすっかな」

 

 

俺は鬼岩城の自室の窓から外を見ながら呟いた。ハドラーが目覚めるまで、あと半年ほど。そうなったら人間と魔族の間で戦争になるが……俺は迷っていた。俺と言う存在が原作のストーリーを変えてしまいかねないからだ。

正直、ダイの大冒険のストーリーはかなりのバランスで成り立っている。もしも、俺が介入して余計な事をしてしまった場合、大筋のストーリーから外れてしまう。下手をすればバッドエンドに成りかねない。

 

それに、もしも侵略に参加したとして、俺は人間相手に力を振るえるのだろうか……正直、難しいだろう。かといって前戦に出ないとダイ一行と出会う確率がかなり下がる。

その辺りも父上に聞かなきゃならないんだろうな。ハドラーが目覚めた後、俺の立ち位置が分からないんじゃ対策の立てようもない。俺としては魔王軍側に居ながらダイを影で助けていくのがベストだとは思うんだけど……バランさんの事もあるんだよな。最近、ずっと修行の相手をして貰ってたから親しくなったし。

 

ああ、それと竜騎衆にも会った。俺の稽古相手として呼んでくれて、ラーハルト、ボラホーン、ガルダンディーの三人纏めてではなく一人ずつだったけど。ラーハルトは原作通り、堅物。敵として会わなければボラホーンは意外と気さくだった。ガルダンディーの友達のスカイドラゴンのルードとは仲良くなった。その事でガルダンディーとは少しもめたけど普通に話すくらいの間柄にはなった。

 

そんな訳でバランさんとは親しいし、竜騎衆とも知り合いになった。そんな中でダイの仲間になり、彼等と敵対するかと言われれば非常に悩む。それにミザルさんやアイナさんとも戦いたくはない。

 

 

 

そんな思いを抱えながらも、俺は父上と定期的なチェスの為にバーンパレスに来ていた。りゅうおうの杖に魔力を介してルーラを唱えてみた所、今まで使えなかったルーラがマトモに使えた。これは嬉しい発見だった。その事をお迎え係となっているミストバーンに話したら嬉しそうにはしていたものの何故か寂しそうにも見えた。なんでだろう?

 

その事と今後の俺の立ち位置の話を父上にしたら笑われた。なんでやねん。

 

 

「奴は奴なりに、そなたを気に掛けている……とだけ言っておこうか。たまには奴に迎えをさせてやれ」

「は、はあ……父上がそう言うなら、そうします」

 

 

父上はクックッと笑うと駒を動かす。

 

 

「それはそうと、そなたの立ち位置の話だったな。六団長は既に決まっておるし、バーンパレスに引きこもらせる気もない。鬼岩城を拠点にハドラーの指揮下に入らせるか」

「やはり、その辺りが妥当ですよね。そう言えばミストバーンとバランさん以外の六団長に会ってませんね、俺」

 

 

考えてみればハドラーは寝てるし、フレイザードに至っては生まれてすらいない。ヒュンケル、クロコダインには会ってみたいけどザボエラはノーセンキュー。

 

 

「ふむ、ハドラーが目覚めた暁には、そなたの事も教えねばなるまい。ハドラーが目覚めた後に六団長を集結させる。その時にそなたのお披露目とするか」

「とんだお披露目になりそうですね」

 

 

会話をしながらも互いに駒を進める。本日も俺の負けだった。勝てる気しねーわ。

 

 

「ハドラーの指揮下に入らせるなら役職も必要か……ふむ、イーリスよ。そなたには魔軍指令補佐を任命する」

 

 

それって物語後半にザボエラが就いていたポストですよね?

 



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決意を新たにしました

 

 

 

身の丈に合わなそうな役職を貰ってから数日後。俺は部屋で一人佇んでいた。思い出すのは先ほどのバランさんとの会話。

 

 

 

◆◇

 

 

「まだ教え足らない所が多いが私の指導は此処までだ。私も六団長としての仕事があるのでな」

「いえ、此処まで指導してもらえただけでも嬉しいです。お陰で俺も強くなれました。本当にありがとうございました」

 

 

バランさんは父上からの命令でハドラーが目覚める前に超竜軍団長としてドラゴン達を躾なければならないらしい。他にも仕事は沢山あり、俺の為にギリギリまで時間を割いてくれていたのだ。

 

 

「『俺』か……男らしい所が目立つから途中から私も意識していなかったが、私の指導は年頃の娘に課す鍛練ではなかった。その事が気にかかっていたのだが無用の心配だったようだ。次に会う時は魔軍司令殿が目覚めた時になるだろう。その時を楽しみにしているぞ」

「はい、バランさんもお元気で」

 

 

バランさんは俺の扱いに気を遣ってくれていた。その事に感謝しつつ俺はバランさんと別れを告げ、自室に戻った。

 

 

 

◆◇

 

 

 

 

うん……何時からだろうな……俺自身が意識しなくなったのは。何時からだろうな馴染んでいたのは。何時からだろうな……それが当たり前になっていたのは……

 

 

「完全に女の子扱いだったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 

俺は部屋の外に漏れない程度の叫びを上げながら頭を抱えた。バランさんの言葉でこの何年間で俺が忘れていた……いや、馴染みすぎていた事を思い出す。

 

 

「何普通に女の子として過ごす事に慣れてんの俺!?転生したての頃は女の体に戸惑ってたのに、いつの間にか普通になってた!馴染みすぎてた!」

 

 

俺は思わず、自身の双球に手を添えた。そこには確かに女の子足り得る存在が。

 

 

「それに俺……いつから普通に父上と呼ぶようになってたんだ……」

 

 

ふと思い出したのは大魔王バーンとの会話の時だ。俺は口に出す時は『父上』と呼んではいたが、頭の中では最初は『大魔王バーン』と呼んでいた筈なのに、いつの間にか頭の中でも『父上』と普通に呼称していた。

 

 

「本当に何時からだ?……マジで無意識だった……」

 

 

俺は抱えていた頭を離すとベッドに腰を降ろす。尻尾を挟まぬように座ったり、無意識的に足を揃えようとする辺り、体が馴染んできているのだと再認識してしまう。

 

 

「……体に俺の意識が馴染んできてるのか?」

 

 

そう思うと何処か納得できる自分がいる。キルバーンと人の町に向かって初戦闘を経験してから俺の力は飛躍的に上がってはいたが……その分、意識が体に寄ってしまったのではなかろうか?

 

 

「だとすれば……相当マズいよな……」

 

 

俺は無意識のままに女の子として過ごしていて、魔王軍の為に働こうとしていた……いかん、思い出せ俺!男だった時の事を!原作を少しでも良い方向に持っていこうと誓った日を思い出せ!

 

 

「イーリス様、失礼します。バラン様も帰られた事ですし……バーン様から頂いた装備以外にもドレス等を着てみませんか?」

「ごめん、アイナさん!父上からの課題で魔法の鍛練をしなきゃだから!」

 

 

立ち上がり、意気込みを新たにした俺の所にフリフリのドレスを持ってきたアイナさん来襲。俺は言い訳を残してダッシュで逃げた。

色んな意味で危なかった……もしも、バランさんとの会話で今までの事を思い出さなかったら、あのドレスを着ていたかも知れない。

 

今後はもう少し意識して気を付けよう。そんな事を思いながら言い訳として放った父上からの課題をクリアしようと奮起するのだった。

 

 



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魔軍司令と出会いました

 

 

 

なんやかんやでハドラー目覚めの日になった。ハドラーは鬼岩城の一室で眠りについており、それを父上の声で目覚めさせるらしい。その時に俺とミストバーンの紹介をするそうだ。

 

ハドラーが眠っている部屋に辿り着き、ミストバーンと共に棺桶の前で待機する。この段階でハドラーの中に黒のコアが埋め込まれてるんだよなぁ……この場でハドラーを呪文で倒せば、ミストバーンも巻き添えに出来るから父上も元の姿に戻れずにストーリーも楽になるのでは?と一瞬過ったがデメリットの方が多そうだ。

 

 

『目覚めよ、ハドラー……目覚めよ、ハドラー……』

 

 

父上の呼び掛けに反応し、棺桶がズズッと重い音を鳴らしながら開き始める。遂にご対面か。

 

 

「おお……我が年老いた筈の体が軽い……」

 

 

棺桶から上体を起こしたハドラーが自身の手を開いたり握ったりして自身の体の感覚を確かめている。

 

 

「感謝いたします……バーン様」

『うむ、お前の目覚めは喜ばしい事だ。これから余の為に励むが良い。して、ハドラーよ……貴様に余の部下達を任せよう』

 

 

ハドラーが父上から授かった新たな体に感動している最中、父上は俺達の話題を振る。父上の言葉に合わせて一歩前に出る。

 

 

『その者達は魔王軍幹部に名を連ねる者達。魔王軍魔影軍団長ミストバーンと魔軍司令補佐イーリスだ』

「…………」

「どうも」

「おお……この者達が……」

 

 

ハドラーは俺とミストバーンを値踏みする様な視線を送ってくる。ジロジロ見るなっての。

 

 

「ミストバーンは寡黙なんで俺から説明させて貰うよ。俺の名はイーリス。魔軍司令補佐とは言われたものの実戦経験なんて無いから補佐と言うよりは手伝いかな」

「なんだと?」

『イーリスは余の娘だ……実戦を学ばせる為にもハドラーよ。貴様の下に就かせる』

 

 

父上の言葉にハドラーは青い顔になる。鼻水垂らしながら口を開けるって器用だな。

 

 

「バ、バーン様のご息女でしたか。しかし、バーン様のご息女を戦場に送り出されるのですか?私では荷が重く……」

『深く考えるなハドラーよ。イーリスを魔軍司令補佐に就かせたのも今後の為だ。そこで敗北するなら其処までの存在だと言う事だ。それにイーリスは余が禁呪法で生み出した竜の騎士……人間なんぞには負けぬ』

 

 

ハドラーは自分の責任の重さに狼狽えているが父上は構わないと言い放つ。信頼されてんだか、実力を測られてるんだか……

 

 

「竜の騎士が実在したのですか!?」

『貴様の配下にさせる魔王軍超竜軍団団長、竜騎将バランは当代の竜の騎士だ。そして、その血を媒介に生み出したのがイーリス』

 

 

竜の騎士が伝説の存在だと考えていたハドラーは先程同様に鼻水を垂らしながら動揺していた。そういえば、初期はギャグ顔よくしてたっけ。

 

 

「な、なんと……バーン様は竜の騎士を禁呪法で生み出せるのですか……」

「ま、そう言う事なんでヨロシク」

 

 

ハドラーは俺を見ながら信じられないと言った表情になっていた。おいおい、魔軍司令としての威厳ゼロだよ、アンタ。

 

 

『仔細はイーリスに付かせているミザルかアイナに聞くが良い。ハドラーよ……六団長を纏めあげ、夢と散った世界征服を成し遂げるが良い』

「ハハーッ!」

 

 

父上の最後の言葉にハドラーは棺桶から飛び出すと頭を下げた。壁に設置された父上の言葉を伝える石顔の瞳から光が消えたのを確認した後にハドラーは立ち上がり、俺達と向かい合う。

 

 

「ん、んんっ……では、改めて俺が魔軍司令のハドラーだ。バーン様のご息女を部下として迎え入れられるのを光栄に思うぞ。そっちのミストバーンとやらは喋らんのか?」

「俺が相手でも、喋る所を見た事無いんですよ。寡黙だけど、父上に対する忠誠心は誰よりもありますよ」

「………」

 

 

咳払いをした後に俺達に自己紹介をするハドラー。漫画とかアニメで描かれなかった部分だから起き抜けのハドラーってこんな感じだったのかと思ってしまう。

そう思いながら俺はミストバーンのフォローをした。そりゃそうだよね、喋らないんだもの。不審に思うのも無理無いわ。

 

 

「そうか……だが、俺の部下となったのならば二人とも働いて貰うぞ」

「はいよ。父上の命令でもあるんでね」

「………大魔王様のお言葉は全てに優先する」

 

 

鼻を鳴らし、偉そうにふんぞり返るハドラーに俺とミストバーンは答えた。それと同時に驚いた。喋ったよ、ミストバーンが喋ったよ。

 

 

「………喋ったではないか」

「いや、俺も驚いてる。俺、生み出されてから数年だけど初めて声聞いたし」

「……………」

 

 

寡黙で喋らないと言われて直ぐに口を開いたミストバーンに驚くと同時に呆れたハドラー。だが、それ以上に驚いたのは俺だ。原作だと、初めて喋ったのはヒュンケルの話の時だったし。

 

 

「ま、まあ構わん。ヨロシク頼むぞ」

「…………」

 

 

ハドラーの言葉にミストバーンは今度は黙ったままだったが、目の辺りが光った後にフッと姿を消した。前から思っていたけど、どうやってるんだろう?ルーラとは違う感じだったけど。

 

 

「ククッ……魔界の強者達が俺の配下に……勝てる。今度こそ、アバンにも勝てるぞ!」

「取り敢えず、その体に慣れる事と部下の把握が最優先だと思うよ、魔軍司令殿?」

 

 

拳を握り、勇者アバンへの恨みを全開にしてるハドラー。そっちも重要なんだろうけど、魔軍司令の仕事をしようぜ?

 

 



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豪魔軍師に会いました

 

 

 

ハドラーが目覚めてから数日。ハドラーは今の自分の体に馴染む為のトレーニングに励んでいた。今の肉体は父上から授かったモノで暗黒闘気によって強さを増す代物だ。しかも、ハドラーは年老いた状態から若返ったから体の感覚的にもズレが生じているとの事なので、魔軍司令としての仕事を終えた後はトレーニングが必須となっている。

 

 

「流石は大魔王バーン様のご息女であり、竜の騎士だ……強いな」

「そっちも実戦経験豊富なだけある……」

 

 

俺とハドラーは実戦形式の組手をしていた。

ハドラーの拳を避けながら此方も蹴りを見舞う。体勢の崩れたハドラーにメラミを放つがイオラで相殺されてしまう。怯んだ俺に対し、間合いを詰めてヘルズクローで攻撃してきたので、りゅうおうの杖で防いだ。

 

 

「ぬ、ぬぅ……この世に貫けぬ物など無いヘルズクローを受け止めるとは……」

「この至近距離で避けられるかな?ヒャダルコッ!」

 

 

俺は至近距離でハドラーに浴びせる。ハドラーは「あがががっ!?」と妙な悲鳴を上げながら氷付けになって氷の中に閉じ込められた。大口を開けて鼻水を垂らし、目玉が飛び出ん程に見開かれた瞳。やっておいてなんだが、酷いな、コレ。

 

 

「へっ……汚ねぇオブジェだ」

「いっそ砕いてしまいますか?」

「やめんかっ!」

 

 

氷付けになったハドラーに何処かのエリートさんみたいな台詞を溢したら、何故か魔神の金槌を肩に担いだアイナさんが俺の後ろに立っていた。

氷の中でもそれが見えたのか、聞こえたのか分からないがハドラーは慌てた様子で氷の呪縛から自力で脱出してみせた。

 

 

「恐ろしい事をしおって……」

「やですわ、魔軍司令様ったら。ご冗談でしたのに」

 

 

ぜぇぜぇと息を荒立てながらアイナさんを睨むハドラー。アイナさんは冗談だとクスクス笑ってはいるが、笑顔で魔神の金槌を担いで言われても冗談には聞こえず、寧ろ怖さ倍増だった。

 

 

「しかし……バーン様より頂いた肉体は素晴らしい。嘗ての俺の肉体よりも鍛えれば鍛える程に強くなっていく……最早、過去の俺と比べても強さの比較にならん程にな」

 

 

そう、ハドラーはここ数日のトレーニングでかなりの強さになっている。結構長い間、バランさんに鍛えて貰っていた俺でも今のハドラーを強く感じるから、肉体的にも魔力的にもかなり強化されているのだろう。

 

 

「これだけ強くなれば、アバンですら問題ではあるまい。感謝するぞイーリス。俺のトレーニングはもう充分だ」

「そうかい?なら、あとは魔軍司令としての仕事に本腰を入れて貰う感じかな?」

 

 

 

ハドラーはこの強さならアバンに負けないと強気になってる。なる程、原作でも誰かを相手に鍛えた後にアバンの所へ行ったのだろう。となれば、これ以上ハドラーが強くなるのは止めた方が良さそうだ。俺は然り気無くハドラーに魔軍司令としての仕事を促した。

 

 

「フッ……既に獣王クロコダイン、妖魔司教ザボエラ、魔影参謀ミストバーンに魔軍司令としての挨拶を済ませたのだ。後はバーン様の肝いりのヒュンケルと……バランだけだな」

 

 

 

ハドラーは指揮官として既にクロコダインやザボエラと会っていたらしい。らしいと言うのは俺はクロコダインにもザボエラにも会っていないからだ。ハドラーがクロコダインやザボエラに会っていた頃、父上から呼び出され、バーンパレスに行っていたからだ。そこで会ったのは豪魔軍師ガルヴァスという劇場版に出てきたキャラクターだった。ガルヴァスはハドラーの影武者であり、ハドラーの代わりに戦闘、制圧をこなす代用としての存在との事だった。

なんで俺に会わせたのだろうと疑問に思っていると、ハドラーとは既に顔合わせを済ませており、俺の事も紹介しておくべきだろうと父上が俺を呼び出したってのが事の顛末。

 

 

「ヨロシクお願いいたします、イーリス殿」

「うん、ヨロシク。ガルヴァス」

 

 

にこやかに握手を交わす俺とガルヴァスだが、ガルヴァスの目は笑っていない。なんで俺が小娘の下なんだと言わんばかりの目だ。

 

 

『イーリスよ。ガルヴァスはハドラーの代わりに魔界や人の手が及ばぬ地の制圧を任せるつもりだ。そなたはハドラーの代わりに表の六軍団と裏の六軍団の橋渡しをせよ』

「なる程、魔軍司令補佐だから両方に顔を利かせろと」

 

 

そういや、劇場版でも表と裏で仲が悪いなんて設定だった気がする。そこを円滑にしろって事ね……でも、現段階でガルヴァスってハドラーに反旗を翻す気満々に見えるんだけど。

 

 

「このガルヴァス……粉骨砕身でバーン様とハドラー殿の為に働かせていただきます」

「全ては父上の為に……お互いに頑張ろうか」

『なんとも頼もしい事よ。ガルヴァスよ、貴様は魔界の猛者を集め裏の六団長を編成せよ』

 

 

とても信用ならないけど、そう言うしかないよね。父上はそれですら楽しんでいる節がある。って言うか裏の六団長まだ揃えてなかったのかよ!

 




『豪魔軍師ガルヴァス』

劇場版『ぶちやぶれ!!新生6大将軍』に登場するキャラ。

ハドラーの影武者で逆立った赤い長髪に屈強な肉体の魔族。実力的にはハドラーと同等とされ、ハドラー曰く「俺と違い卑怯なことを平気でやる男」と評されている。


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氷炎将軍生誕に居合わせました

 

 

 

 

鬼岩城の一室。魔方陣が描かれた地面の中心でハドラーが何らかの呪文をブツブツと言いながら赤い石と青い石に魔力を注いでいる。更にその周囲には岩がゴロゴロと転がっていた。

 

これからハドラーが禁呪法で生命体を生み出すと言うので見学に来た。

ダイの大冒険の世界観ってゲームのドラクエとは微妙に違う部分が多いんだよなぁ。この辺りもその一例だ。

 

うろ覚えだけど、ばくだんいわとかフレイム、ブリザードなどはゲームだと悪い精霊とされていたが、ダイの大冒険世界では禁呪法で生み出された生物だとか世界の悪意の成れの果てだとか言われている。そんな風に考えていると呪文を唱え終えたのかハドラーが俺を見ていた。

 

 

「禁呪法の見学とは物好きな奴だ」

「知識として知ってるのと見るのじゃ大違いだからね。ま、後学の為にも知りたいんだわ」

 

 

実際、他じゃ見れない光景だからなぁ。まさか、父上に見せて貰う訳にもいかんし。

 

 

「ふん……ならば見ておけ!これぞ生命を弄ぶとして禁忌の秘術とされた呪われし技よ!」

 

 

ハドラーが叫ぶと全身に魔力を行き渡らせているのが分かる。そしてハドラーは魔力で目の前の赤い石と青い石を融合させ、一つの石に仕立て上げた。赤い石と青い石は空中で形を変化させトゲの様な物が複数飛び出てきた。

 

 

「ぬぅぅぅぅぅぅっん!貴様の名は『フレイザード』氷炎将軍フレイザードだ!」

 

 

ハドラーがコアに名前を刻むと周囲の岩がそれに呼応し、コアに向かって飛んでいく。岩は次々に合体していき、遂には氷河魔人と溶岩魔人を合体させたかの様な一体の岩の魔神が完成した。これって体力消耗した時のフレイザードだったよな。生まれたての時って、こんな感じだったのか。

 

 

「ク、カカカ……俺を生み出してくれて感謝するぜハドラー様」

「ふふふ……成功だ」

「おおー」

 

 

喋りだしたフレイザードにハドラーは笑みを溢し、俺は拍手をした。聞いた話によると、この術式は失敗すると制御できないバーサーカーの様な化物になるらしく、最初の受け答えでその真偽が計られるらしい。

 

 

「凄いなハドラー。流石、伊達に魔王じゃなかったって訳だ」

「俺は嘗て、禁呪法で生み出した配下に裏切られた……次こそはあんな不良品は作らんと誓ったのだ!」

 

 

裏切られた配下ってバルトスの事だよな。ヒュンケルの義理の父親の。その事を踏まえて残虐な性格のフレイザードを生み出したって訳か。

 

 

「おい、テメェ。いくら、バーン様の娘だからってハドラー様を呼び捨てたぁどういう事だ?」

「生まれたてでもハドラーの知識があるってか。益々凄いな。でも呼び名に関してもハドラーと決めた事だからフレイザードが口を挟む事じゃないさ」

 

 

フレイザードが指摘した俺とハドラーの呼び名。ハドラーは魔軍司令であり、俺は魔軍司令補佐。だけどハドラーは俺が父上の娘って事で萎縮して呼び方に悩んでいたのだが、役職と立場のバランスを考えて『互いに呼び捨て』って形で収まった。これは父上にも話して許可は貰ってる。

 

 

「その通りだフレイザードよ。納得は出来んかもしれんが理解はしろ」

「ちっ、バーン様のご指示ってんなら仕方な……げふっ!?」

「俺を甘く見るなよ、フレイザード?俺はその気になればお前のコアの位置を把握できるんだからな?」

 

 

俺はフレイザードの腹を杖の先で突いた。油断してた事もあり、フレイザードは痛みに膝を着いた。

 

 

「な、なんで俺のコアの位置が!?」

「俺も禁呪法で生み出されたからなのかな。コアの位置が分かるんだよ」

 

 

実は完全把握じゃなくて、なんとなくだけど分かるレベルなんだけどね。寧ろ、半信半疑で杖の先で突いたらコアにビンゴだったから突いた本人が一番驚いたわ。

 

 

「ま、そんな訳だ。俺が只、贔屓されただけの存在だと思うなよ?」

「けっ……だったら俺の実力も示してやらぁっ!」

「よせ、フレイザード。貴様はまだ生まれたばかりだ。イーリスはバーン様の娘。その潜在能力は計り知れんし、今のやり取りだけでも貴様が不利なのは分かっている筈だ。やるならば貴様も実力を増してからにするんだな」

 

 

俺の言葉に怒ったのかフレイザードの左側から炎が吹き出す。しかし、それを止めたのはハドラーだった。ハドラーの制止を聞き、フレイザードは舌打ちをした後に腕を組みながら俺を睨んだ。

 

 

「ハドラー様のご指示だ!今は諦めるが、俺がテメェよりも弱いなんて認めないからな!絶対に見返してやる!」

「ハハハッ……やんちゃな弟が出来た気分だ」

「ほう、ならば姉貴として頑張るのだなイーリスよ」

 

 

強がりを言うフレイザードに生意気な弟みたいだと思ってしまった。ハドラーの発言に自分が女の身である事を再認識させられ、ちょっとへこんだ。

 

 



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闘気を発動させました

 

 

 

 

 

フレイザードが誕生してから慌ただしく日々は過ぎていく。俺は魔王軍編成の仕事と自身の修行に日々を費やしていた。それと言うのも……

 

 

「こんな、こんなもの……いだだだだだだだっ!?」

「……………」

 

 

ミストバーンに再び鍛えられていたからだった。バランさんに修行をしてもらっていた間はミストバーンの闘気に関する修行は一時中断してたんだけど、急遽復活。現在、闘魔傀儡掌に掛けられており、脱出を図ろうとしたのだが体が捻られて失敗。超痛い。

 

 

「…………」

「こ、の……ぐぎぎっ……」

 

 

闘魔傀儡掌を破るには直接的なパワーで術者を上回るか、闘気を用いて弾き返すしかない。だが単純にパワーでミストバーンに勝てるとは思えないし、俺は闘気のコントロールは未だに出来ないから厳しい。余談だが、アイナさんは「こうするんですよ」とパワーだけで闘魔傀儡掌を破っていた。あの人、本当はハドラーやキルバーンよりも強いのではなかろうか?

 

 

「……闘気は己の心の奥底に眠る力。戦う意思を示し、それを表に出せ。出来ねば苦しみが続くだけだ」

「ぐ、うううぅぅぅぅぅ……」

 

 

珍しく口を開いたミストバーンに驚きながらも、アドバイスを参考にする事に。全身身動き取れなくて苦しいけど、瞳を閉じて意識を集中する。

痛くて苦しいが、意識を集中させると胸の辺りが熱くなるのを感じる。その感覚にこれが闘気なのだろうと感じた俺は『それ』を一気に爆発させる事にした。またも感覚的な事だが、今ならそれが出来る気がした。

 

 

「うおおおおおおおっ!」

「…………っ!」

 

 

俺の体を中心に爆発が起きた。闘魔傀儡掌は弾き飛ばせたんだけど、体力がいきなりごっそりと抜け落ちた感覚に襲われる。なんだ、これ?意識が一瞬飛びそうになるのをなんとか堪えたが、今までにない程の虚脱感に襲われた。

 

 

「っと……あ、れ……?」

 

 

闘魔傀儡掌から解放され、宙に浮いていた俺は地面に着地したと同時に足に力が入らず、そのまま意識が遠退いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇side大魔王バーン◆◇

 

 

 

 

 

「………ご報告があります」

「聞こう。なんだミストバーン?」

 

 

イーリスの修行を、バランからミストバーンに再び託したが、その日の内にミストバーンが報告に来た。イーリスに何か変化が起きたか?

 

 

「イーリスの闘気を目覚めさせる為に暗黒闘気でイーリスを追い詰めました。結果、イーリスは闘気の発動に覚醒し、私の闘魔傀儡掌を打ち破りました」

「ほぅ……初見の闘気の発動でミストバーンの闘魔傀儡掌を弾いたか」

 

 

ミストバーンの報告に余は少なからず驚く。最近、魔法の力が上がっていると報告は受けていたが闘気の方も良い才覚に恵まれていたか。本気で無かったにせよ、ミストバーンの闘魔傀儡掌を打ち破るとは……

 

 

「私は闘気の発動を確認したら闘魔傀儡掌を止めるつもりでしたが……イーリスは更に闘気を高め、私の見間違いでなければアレは竜闘気かと」

「生誕から三年にも満たぬ禁呪法で生み出した竜の騎士が竜闘気を操った……ククッ……フハハハハハハハハハッ!」

 

 

ミストバーンの報告に余は笑いが堪えきれなかった。竜闘気は光の闘気とも闇の闘気とも違う竜の騎士のみが扱える特殊な闘気。歴代の竜の騎士の血脈から受け継がれてきた唯一無二の闘気。それを闘気を操る事の出来ない禁呪法で生み出されたイーリスが使ったと言うのだから予想外にも程がある。

 

 

「バ、バーン様……」

「すまんな。こんなに笑ったのは何時以来か……」

 

 

愉快だ。実に愉快だ……当代の竜の騎士であるバランが人間を憎み、余の配下となった。そして禁呪法で生み出した疑似竜の騎士であるイーリスが竜闘気に目覚めるとは。我が魔王軍に二人の竜の騎士が居る事になる。これほど愉快な事があるだろうか。

 

 

「報告の続きを」

「はい……竜闘気を一度に使い果たしたイーリスは疲労からか倒れました。今はアイナが診ている筈です。闘魔傀儡掌を破ったあの時、イーリスから感じた闘気からは竜闘気の他にも光の闘気と闇の闘気を感じました」

 

 

ミストバーンに報告の続きを促すと、更に愉快な報告が待っていた。光の闘気と闇の闘気は対極に位置する相反する闘気。それを両立させる事は実質不可能で、例外があるとすれば魔物に育てられ、特殊な環境で育ち、アバンから光の闘気を学び、ミストバーンから闇の闘気を学んだヒュンケルくらいなものだが、イーリスはそれとも結び付かない。

そもそも闘気は誰しもが持っている力だ。要は力の使い方を知らないからで、善の心を昇華させた闘気が光の闘気。悪の心を昇華させたのが暗黒闘気と呼ばれている。

 

これらを同時に等しく扱う事は余ですら叶わず、恐らく地上の誰にも実現不可能な事だろう。当代の竜の騎士のバランですら出来ぬ事だ。この不可解な力の兆しを示したイーリスに、余は一つの可能性を見出だす。

もしも、余の想像した通りになれば……イーリスは余の想像を越えた存在になりうる。

 

ハドラーが六団長を率いて地上に侵攻する事が余の最近の楽しみであったが、イーリスの成長が楽しみになってきおったわ。

 

 

 



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悩んで相談しました

 

 

 

目が覚めたら自室のベッドの上だった。なんでだっけ……ぼんやりと働かない頭を振りながら起き上がると、アイナさんが泣きそうな目をしながら俺を抱き締めた。柔らかい……じゃなくて何事!?

 

アイナさんの話だと、闘気を爆発させた俺は自分の中の闘気の全てを出し尽くしてしまったらしい。その為、体に異常な程の負荷が掛かり、倒れたのだと言う。

さらに驚いたのが、ミストバーン経由の情報だが、俺が発動させたのは竜闘気ではないのだろうか、との事だった。

いや、めちゃくちゃ過ぎる。なんで光の闘気の発動を通り越して竜闘気が発動してるんだ。

とにかく、その反動なのか俺は三日程眠り続けていたらしい。死んだように寝てればそりゃ心配もするわな。

 

しかし、気掛かりなのは他の情報もだろう。俺は竜闘気、光の闘気、暗黒闘気の三つを発動させていた可能性があるとミストバーンが言っていたらしく、これらは同時発動はあり得ない話なのだとか。

光の闘気を発動させるには善の心を持ち、暗黒闘気を発動させるには憎しみ、妬みと言った負の感情が必要なのだとか。光と闇の闘気を持つヒュンケルですら、闘気の発動をさせるにはどちらかに片寄った発動をしていた。つまり、同時に光の闘気と暗黒闘気を完全に扱うのは理論上不可能とされている……らしい。でも、それが出来るかも知れない可能性が俺ときた。その事は当然父上の耳にも入り、大いに期待してるとかなんとか。

 

なんか……自分で自分のハードルを上げた気分だ。期待が重い……

 

それに、俺自身不思議なんだよな……最初の頃なんか、魔法もろくに使えない、闘気の発動方法も分からない。そんな俺がキルバーンとの接触を機にメキメキと実力を上げていってる。我ながら成長速度が異常すぎる。これ、絶対におかしい。

 

 

「とは言っても……調べようが無いしなぁ」

 

 

俺はアイナさんから許可を貰い、鬼岩城の中を散歩していた。アイナさんは「倒れたのだから無理はいけません」と俺をベッドに押し込めようとしたのだが『無理はせず、散歩だけ・鬼岩城から出ない』を条件に散歩だけ許された。そんな訳でリハビリがてら散歩をしながら考え事に没頭していた。

 

物語の主人公であるダイは数々の戦いを経て強くなっていった。魔法使いのポップは人間的な成長と共に頭角を表していく。他のダイ一行も同様だろう。強さにおいて段階を踏んで強くなっていくのだ。なんで俺はこんな『いきなり強くなる』と、不可思議な状態に陥っているのだろう。しかも自分じゃ制御不能だし。

 

 

「目覚めたのか、イーリス。倒れたと聞いて心配したぞ」

「バランさん、お久し振りです」

 

 

なんて考え事をしながら歩いていたら、後ろから呼び止められた。振り返るとバランさんが居た。鬼岩城にいるとは珍しい。

 

 

「バーン様からある程度の話は聞いた。竜闘気を発動させたらしいな?バーン様から当代の竜の騎士として話を聞くようにと頼まれている」

「もうバランさんまで話が届いてるんですか?」

 

 

確かに竜闘気の事ならバランさんに聞くのが一番だが、根回しが早すぎるだろう父上。そんな事を思いつつも、感じた事や俺の身に起きている不可思議な状態を説明した。

 

 

「………なるほど、私の推測で良ければ話そう。そもそも竜の騎士は一代限りの存在だ。それを無理矢理禁呪法で生み出したから異常が発生しているのかもしれんな」

「あー……竜の騎士は一代だけで、死んだら次代の竜の騎士が生まれるんでしたっけ?」

 

 

バランさんの見立てでは、竜の騎士を擬似的に生み出したから、魔法の才や竜闘気の発動が制御出来ない状態なのでは無いだろうかとの事だ。本来なら、竜の紋章を通じて戦いの歴史を継承する竜の騎士だが、俺はその番外と言うか劣化品。バランさんが原本の竜の騎士なら、ダイは書き掛けの写本。俺はコピー用紙って所か。

いくら魔法や闘気の才能があっても、制御できないんじゃ意味ねーわ。どうすっかな……

 

 

「そう難しい顔をするな。魔軍司令補佐と言っても、バーン様はお前を迂闊に戦場に出させる真似はせんだろう。ゆっくりと学べば良い」

「そうっスね。ありがとうございます」

「ヒャッヒャッヒャッ……甘やかされてんなイーリス。魔軍司令補佐には見えねーぜ」

 

 

優しげな眼差しのバランさんに思わず『それは自分の本当の息子にしてやってください』と言いそうになってしまう。なんとか言葉を飲み込む俺だが、そこに後ろから声が掛けられる。俺とバランさんが振り返ると、フレイザードがニヤニヤと笑っていた。弄る気満々だなコイツ。

 

 

「そんな甘ったれは……ひぎゃっ!?」

「イーリス様は病み上がりです。不穏当な発言や喧嘩は売らないでください」

 

 

俺に喧嘩を売ろうとしていたフレイザードの氷側の顔を、いつの間にか来ていたアイナさんが素手で握り潰す。顔の半身を砕かれたフレイザードは流石にダメージがあったのか苦しそうにしていた。いや、素手でフレイザードの氷を砕くとか普通じゃねー!

 

 

「わ、私が気配を察知できぬとは……」

 

 

隣では、バランさんが突如現れフレイザードの顔を握り潰したアイナさんに驚いている。竜の騎士の反応を越えるとか何者!?

ニコニコとしているアイナさんからそんな怖さは感じられないが、魔王軍最強なのは実はアイナさんではなかろうかと本気で思えてきた。

 

 



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六大団長が揃いました

 

 

原作開始まで半年程に迫った頃。六大団長が勢揃いになる日が決まり、父上へ全員揃って挨拶する事になった。結局、クロコダイン、ヒュンケル、ザボエラに会わないままこの日が来ちまった。出来たら事前に会いたかったけど、軍編成や修行で慌ただしく、会う事が叶わなかった。

そんな訳で鬼岩城の謁見の間に勢揃いした六大団長。顔合わせが済んでいるミストバーン、バランさん、フレイザードはともかく、クロコダイン、ヒュンケル、ザボエラは俺を見て、何者だ?って感じの視線を送ってきてる。そんな視線はさておき、ハドラーは父上に口上を述べていた。

 

 

「バーン様。魔王軍六大団長が勢揃いしました。彼等は各軍団を率い、全軍の準備が揃い次第、人間どもを滅ぼす手筈になっております」

『実に頼もしい顔ぶれ。余は大変満足しておる』

 

 

父上の言葉に、ハドラーは頭をたれる。原作のシーンを見てるのは感動ものだ。

 

 

『そして紹介をしておこう。余の娘であるイーリスだ。イーリスには魔軍司令補佐を任せる』

「魔軍司令補佐のイーリスだ。一応、ハドラーの補佐と代理。六大団長の手伝いをする予定なのでヨロシク」

「バ、バーン様のご息女ですと!?」

「………ふん」

「戦場に身を置くには可憐だが……大丈夫なのですかな?」

 

 

父上の言葉に、俺は一歩前に出て挨拶をすると、ザボエラ、ヒュンケル、クロコダインの順にコメントが溢れた。

 

 

『イーリスはミストバーン、バランと言った猛者に師事を受けて、貴様等に並ぶ程の強者である。では、六大団長の誕生を祝して、褒美を取らせよう』

 

 

父上から意外なお褒めの言葉を貰った。その言葉の直後、天井にまで届くほどの業火が現れる。暴魔のメダルのイベントだぁ。思ってた以上の炎に少し引いたわ。

 

 

『この炎の中央にあるのは、暴魔のメダル。さあ、忠誠心の証として我こそはと思う者は手に取るがよい』

 

 

その炎の勢いに、竜の騎士のバランさんやミストバーンはもちろん、魔鎧を身にまとったヒュンケルすら躊躇する。だが、忠誠心を示すため、取らないわけにはいかない空気で、誰もが暴魔のメダルを取ろうとしてる。これって俺も取らなきゃ駄目なんだろうか?

 

 

「イーリス……お前は取らなくて良い」

「…………」

『うむ。我が娘よ、退がって見ておれ』

 

 

バランさんに制止され、ミストバーンに手で制された。更に父上から退がれと言われ、仲間外れみたいにされて、ちょっと疎外感を感じた。

 

そんなやり取りを経て仕切り直しになり、六大団長が炎を囲い、構えた。その瞬間、躊躇なくフレイザードがメダルを掻っ攫う。

 

 

『見事なり。フレイザード』

「ヒャヒャヒャ!見たかよイーリス!」

「おおー!凄いぞフレイザード」

 

 

父上の言葉に、嬉しそうに暴魔のメダルを俺に見せつけるフレイザード。半身の氷が溶けながらも、ドヤ顔をしながら笑うフレイザードがやんちゃな子供みたいで微笑ましくなった。

 

 

「氷が戻ったら着けてやるよ」

「ヒャヒャヒャ、魔軍司令補佐様から着けて貰えるなんて光栄じゃねぇか!」

 

 

俺がそう言うと、フレイザードはドヤ顔を残りの六大団長に決めた。おいおい、煽るなっての。

 

 

『ハドラーよ。頼もしき六大団長と魔軍司令補佐を率いて、果たせなかった世界征服を成し遂げるが良い』

「ハハーッ!」

 

 

父上からの〆の言葉にハドラーは頭を下げ、六大団長も同様に頭を下げる。俺もそれに倣って頭を下げた。

 

 

さて、そろそろ原作に差し掛かってきたな……でも、俺は迷っていた。原作よりも良い結果を出そうと意気込んではいたけど……正直今は心が揺らいでる。誰かに相談も出来ないし……どうしよう。

 



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その生き方に悩んでます

 

原作開始を直前にして俺は悩んでいた。

ぶっちゃけ原作に沿って話を進めて良いのだろうか。俺は鬼岩城のてっぺんの頭の上で胡座で空を見上げていた。

 

正直、魔物・魔族と人間の間の溝が深い。

バランさんの過去もそうだし、竜の大群から人を助けたダイですら畏怖の目で見られていた。ダイみたいな子供ですら、強く異端な力は拒絶されてしまう。

 

他のドラクエ漫画でも似たような事が描かれてたっけ『魔王が倒されたと言う事は魔王よりも〈力〉を持つ者が現れた証』その為、勇者は国を飛び出し逃げ出したって話だ。

 

それを考えると、人間の側って正直ろくなもんじゃない。しかも、俺は見た目的に魔族だから、受け入れられる可能性低いわ。クロコダインはパプニカの人達には受け入れられていたけど、時間が掛かってたし、それはあくまで一部の人間に限った話だ。

 

 

だったら、魔王軍側を説得できるかと言われれば否だ。ぶっちゃけ、父上を説き伏せるなんて天地がひっくり返っても無理だ。

魔王軍に所属する魔族・魔物の大半が人間を見下してる。俺は元人間だから人間寄りな考えをしているが、魔族側の考えも理解できる。

 

人間は自分以外の者を疑い、拒絶する。そしてその猜疑心を正義感に変えて相手を糾弾する。魔族・魔物はそれをぶつけやすい相手って訳だ。

ダイの大冒険の世界ならバランさんの話が顕著だし、汚い人間って意味なら偽勇者のでろりん達が良い例だろう。

それにアバン達の例もある。アバンは世界中を旅していたから大丈夫だったけど、マトリフは王の相談役になったが、大臣や側近がマトリフを疎んで追放した。マァムの両親のロカとレイラは森の奥で暮らしていたからこれまた問題ないが、世界を救った英雄の後にしては質素なもんだ。更にブロキーナ老師も山奥で世捨て人みたいな暮らしをしていた。

困った時は平頼み。平和になれば厄介者。

 

その部分を汚いと、ヒュンケルは人間を恨んだ……と言うか大半の魔族はそう考えるだろう。他のドラクエの漫画でも、魔物は本来純粋な存在とされている。そこに人の悪意が混ざり合って人を襲う魔物になる。人を襲う魔物が生まれる、と。

ぶっちゃけ、人間の自業自得が招いたケースが多いのがドラクエ世界だ。

 

 

それに……色々悩んだが、一番の問題点は俺自身だ。大魔王バーンの娘って時点で、もう人類側を勝利に導いても禁呪法で生み出された俺は、父上の死で俺も死ぬ。仮に生き残っても、その後の身の振り方を考えれば追放されるのがオチだ。

 

それに……この世界に産み落とされてから出会った人達は魔族でも優しかった。人間からしてみれば魔族は異端な存在だ。魔族から見ても人間は異端なんだって分かった。

 

 

仲間意識があるからなんだろうけど、魔族・魔物は意外と気さくで朗らかだ。仲間に対する接し方は、正直普通……って言うか、かなりフレンドリーだったりする。

 

『人間』が恐れた『魔族・魔物』は『魔族・魔物』側からしてみれば『敵』ではなく『別の視点での味方』って事なんだ。

俺の心は人間の頃のままだが、この三年間、魔族の側で過ごした俺は、彼等を『敵』として見れない。魔物の中には可愛いのもいるんだもん。モフモフの奴とか特に可愛いわ。

 

それにさ……

 

 

「イーリス様……そんな所に座るなんてはしたないですよ」

「アイナさん……いいじゃん。此処は俺のお気に入りなんだ。魔王軍発起はまだ先なんだし、今はだらけていたいの」

 

 

ここまで育ててくれた魔族の人達と離れるって選択肢は今の俺には存在しない。ゴロンと寝転んだ俺を然り気無く膝枕してくれたアイナさんに、俺はさらに申し訳ない気持ちになっていた。



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アイツが居ないと思いました

 

 

 

色々と考えた結果、現状維持に落ち着いた俺。いくら頭の中で考えたって答えは出ねーわ。今後は魔王軍の活動をしながら人間側の動きを見よう。正直、今はどちらにも傾けられないわ。

 

一先ず、自身の悩みを解決(先延ばし)した俺は魔軍司令補佐としての仕事をしていた。六大団長の指揮下に入ってる魔物、魔族のリストを見て首を傾げた。

 

 

「キラーマシンとかメタルドラゴンが居ねぇ……」

 

 

キラーマシンはドラクエシリーズに登場する機械モンスターで、勇者を殺す為に作られたモンスターとされている。メタルドラゴンはキラーマシンのドラゴン版なんて設定だったりする。このキラーマシンシリーズはドラクエシリーズでも強敵として登場する。なのに、渡された魔王軍のモンスターリストにキラーマシンが載っていないのは何故なんだ!?

 

って言うか、原作のダイの大冒険でも、出てきたのって初期の頃だけだったなそう言えば。気になったのでハドラーに聞いてみよう。

 

 

「ってな訳で……ハドラーが旧魔王時代にキラーマシンって使ってたよな?」

「確かにキラーマシンは俺が作り上げた作品だが……今の魔王軍にキラーマシンが無いのは正直未完成な部分が多かったからだ。俺が作ったタイプは機械で外装を作り上げ、俺の魔力を流させる魔力を溜め込む魔鉱石を心臓代わりに使っていたからな。試作品は数台作ったが、コストと手間が掛かったのでな。アバンと戦わせたのはマトモに出来た3台だけだ」

 

 

なんか意外な事実が発覚したぞ、おい。つまりキラーマシンはおおよそのカテゴリーで言うと、ゴーレムみたいなもんだって事か?でもなんか納得。それなら魔鉱石の代わりに人間が乗り込める様に改造出来ても可笑しくなさそうだ。

 

 

「んじゃ、その3台の他には?」

「…………地底魔城に残らせている筈だ」

 

 

俺が更に質問をすると、ハドラーは苦虫を噛んだような表情で答えた。ああ……アバンに負けた場所が地底魔城だもんね。嫌な事を思い出させたな。それを考えると、あの人間が乗り込むように改造したキラーマシンは、アバンが倒したキラーマシンをパプニカの大臣が極秘に回収していたって事か。

 

 

「それで、キラーマシンの事を聞いてどうするつもりだ?」

「出来たら未完成品を回収。可能なら改良して量産かな」

 

 

ギロッと俺を睨むハドラーに俺は答えた。ぶっちゃけ悪い話じゃない筈だ。戦力増加に繋がるし、さまよう鎧やゴーレムなんかよりも強いんだから。俺個人としてもキラーマシンが欲しい。ドラクエモンスターズじゃキラーマシン系はパーティーに入れてたし。

 

 

「………バーン様に聞いてからだな。迂闊にイーリスに部下を与えたとなれば、俺が何を言われるか分からん」

 

 

ハドラーの発言に『ああ、なるほど……』と思ってしまう。俺は云わば、父上からの預かりなのだ。それを勝手に部下を与えて問題が起きればハドラーの責任になる。悲しいね、中間管理職。

 

 

「んじゃ、明日にでも聞いてみるわ。明日、父上とチェスの日だから」

「そ、そうか……」

 

 

若干引いているハドラー。俺は普通の感覚になってきてるけど、考えてみれば大魔王とチェスって普通じゃないよね。俺も大分、毒されてきたな。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

「ああ、構わんぞ」

 

 

父上にキラーマシンの話をしたらアッサリと許可が降りた。

 

 

「技術を埋もれさせるのは余も望まん事だ。だが、やるからには結果を出せ。ハドラーが使っていた頃よりも高性能のキラーマシンを作り上げよ。ミザルや他の科学者達に助力を求めるのも良かろう」

「あ、ありがとうございます……」

 

 

どうしよう。思っていたよりも父上が俺に甘い気がする。特に最近は、それが顕著に現れてる気がする。

 

 

「子にねだられて許してしまうのは親の因果と言うものか」

 

 

クックッと笑う父上。俺がアンタから貰ったのは『りゅうおうの杖』で、ねだったのがキラーマシンってどんな物騒な親子関係だよ。と思ったけど、大魔王の娘だから仕方ないと思わず考えてしまう。

 

 

「地底魔城は今はヒュンケルが根城にしている。奴からも学ぶ事があるだろう。励むが良い」

 

 

父上の言葉に面倒臭いトラブルが起きるような気がしたのは何故だろう。

 

 



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地底魔城へ行きました

 

 

 

 

父上から許可も貰ったので来ました地底魔城。ハドラーのルーラで一緒に来て貰ったけど、すぐに帰ってしまった。まだトラウマなんだよね、多分。帰ったら優しくしてやろう。

 

 

「お待ちしておりました。私、ヒュンケル様にお仕えする執事モルグと申します」

「魔軍司令補佐のイーリスです。今回は急な話ですいません」

 

 

チリーンと鈴が鳴り、現れたのは執事服を纏った紳士的な腐った死体のモルグさん。後ろにはマミーが二体付き添っている。初めて腐った死体とマミーを見たけどリアルで見るとキツいなぁ……リアルバイオハザードだよ。

 

 

「魔軍司令補佐様が私などに下げて良い頭ではないでしょう。ヒュンケル様から魔軍司令補佐様がお望みの物が保管されている倉庫にご案内するよう申し付けられております」

「お願いします、モルグさん」

 

 

紳士な腐った死体のモルグさんに思わず敬語で返してしまう。そして、そのまま地底魔城に足を踏み入れる。

 

 

「ふわー……広いし、深いんだな」

「ほっほっほっ、中は広い上に迷宮となっております。はぐれると探すのも困難ですので、お気をつけ下さい」

 

 

中に入ると、入り口こそ隠されていたものの、中はめちゃくちゃ広かった。地下とは思えない程に広いホールになったかと思えば、そこから複数の道があり、その先が迷宮になっているのだと言う。キョロキョロと見回しているとモルグさんが微笑ましい笑いをしていた。

 

 

「では、此方になります」

「あ、お願いします」

 

 

田舎者みたいにキョロキョロしていた俺だが、モルグさんの案内でキラーマシンが保管されている倉庫へ移動する。道中でガイコツやアニマルゾンビとかが徘徊してるのが普通にホラーだった。

 

 

「此方になります」

「あ、どうも。って、うわー……」

 

 

案内された倉庫には、長らく放置されていたのか作り掛けのキラーマシンが数台放置されていた。片腕が無かったり、宙吊りになってるのもある。でも、作り掛けでも五台くらいはありそうだ。

 

 

「これらはハドラー様が使われていた頃のままです。ハドラー様が眠りについてから、誰の手にも触れられていません」

「なるほどね……」

 

 

つまり、完全にあの頃のままと。でも、15年前でこれだけの物が作れるのは凄いな。ん、ハドラーの頃から?

 

 

「モルグさんは此処に何年居るんですか?」

「ハドラー様が地底魔城を拠点にされていた頃からです。ハドラー様が倒されたと世間で騒がれていた頃も、地底魔城に来る人間は皆無でしたので残った我々は地底魔城に潜伏しておりました」

 

 

つまり、地底魔城には本当に誰も侵入する事もなく放置され続けたのだろう。考えてみれば魔王の居城だった所に度胸試しに入る奴は居ないよな……いたら相当な馬鹿だ。恐らく、国の兵士も調査には来なかったんだろう。だけど、だ……ハドラーの死でバルトスも死んだと言うのであれば、何故モルグさんは生き延びているのだろうか。その回答になんでヒュンケルは気付かないんだろう。

 

 

「長年の勤務お疲れ様です。じゃあ、此処にあるキラーマシン達を運びたいので、お願いします」

「かしこまりました。マミー達よ、キラーマシンを運ぶのだ」

 

 

まあ、俺が此処で指摘すると絶対にややこしい話になるだろう。余計な口出しはしないでおこう。

俺がお願いをすると、モルグさんの指示でマミー達がキラーマシンのパーツをバラして運び出す。さっきの広い場所まで運んでくれれば俺のルーラで纏めて運べる。

何体ものマミーやガイコツが慌ただしくキラーマシンのパーツを運ぶ姿を見ると、少し可愛く見えた。

 

 

「俺もやるか……よっと」

 

 

マミーならともかく、ガイコツにキラーマシンのパーツは運べても、キラーマシン本体は運べないだろうと思って、俺はキラーマシンの胴体を抱える。

 

 

「ふん、そんなガラクタを運ぶとは……魔軍司令補佐殿はよほど暇と見える」

 

 

マミー達と一緒にキラーマシンの胴体を運んでいたら、悪い笑みを浮かべている不死騎団団長のヒュンケルが立っていた。

 

 

「仕事だっての。父上からも許可を貰ってるし、その事も連絡は来てるだろ不死騎団団長。それとも父上の決めた事が単なる暇潰しだとでも?」

「………ちっ」

 

 

俺の発言に舌打ちをして顔を背けるヒュンケル。思い出すと初期のヒュンケルって、人の話を聞かないひねくれ者って印象だったな、そう言えば。意固地になってると言うか。

 

 

「それに、今回は俺一人で此処に来てるんだ。現地のスタッフに手を借りてるんだから俺も動かなきゃだろ。ほら、仕事の邪魔すんなら退いてくれ」

「…………ふんっ、敗れた魔王の不良品の廃品回収とはくだらんな!」

 

 

俺はキラーマシンの胴体を抱えたままヒュンケルの横を通りすぎようとしたら、めっちゃ睨まれた。

 

 

「その敗れた魔王を補佐するのが俺の役割だ。それに……不良品ってのは俺も同じなんでな」

「なんだと……それはどう言う意味だ!」

 

 

俺は竜の騎士の劣化コピーみたいなもんだ。不良品と呼ばれれば、そうなるのだろう。自分で言っておきながら、ちょっとアンニュイになった。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇sideヒュンケル◆◇

 

 

 

不死騎団の根城となっているこの地底魔城は、かつて魔王ハドラーの居城だった場所で、今でもハドラーが使っていた頃の倉庫や拷問部屋が残っているが、触れたくないので手付かずのままの場所が多い。元魔王軍の拠点だけあって、人間が入り込んだ様子もなかった。

 

そんな中、魔軍司令補佐が地底魔城のキラーマシンを回収に行くと大魔王バーン様から連絡を受け、執事のモルグに迎えに行かせた。

 

 

「バーン様の娘と聞くが……子供のわがままを許すとはな」

 

 

俺はバーン様の娘だけあって、権力に物を言わせる小娘だと思っていた。実際に鬼岩城での態度は頂けないものだと考えていた。

しかし、その考えは迎えに行かせたモルグの報告で四散した。

 

 

「なに?魔軍司令補佐殿が自ら働いているだと?」

「はい。マミーやガイコツ達に交ざって、キラーマシンを解体した後に運んでおります。我々の事も気遣って頂きました。良いお方ですな」

 

 

モルグの報告では、魔軍司令補佐はモルグ達の話を聞いて感心したり、今もモンスター達と共に肉体労働をしているのだと言う。ハドラーの補佐だから、権力にすがる愚か者だと考えていたのだが……違ったのだろうか?俺は魔軍司令補佐の様子を見に行く事にした。

 

 

「………なっ」

 

 

モンスター達に交ざってキラーマシンを運ぶ魔軍司令補佐の姿に、俺はかつての自分を重ねた。父バルトスが生きていた頃、この地底魔城で俺はモンスターに囲まれて生きていた。俺にとってモンスター達は家族同然で彼等と笑いあった。その姿と光景が魔軍司令補佐と重なったのだ。彼女の周りに居るのはマミーやガイコツと言った骸共だが、何処か彼等も楽しそうにしている様に見える。

 

俺は、なぜかその姿に苛立ちを感じた。その苛立ちを彼女にぶつけると、正論で返される。彼女はバーン様に話を通し、魔王軍の戦力強化の為に動いていて、邪魔をしているのは俺。だが、言い負かされたままで居られなかった俺は、さらに言葉を重ねてしまう。

 

 

「…………ふんっ、敗れた魔王の不良品の廃品回収とはくだらんな!」

 

 

吐いた言葉は戻せない。その言葉を出した自分自身に後悔した。

 

 

「その敗れた魔王を補佐するのが俺の役割だ。それに……不良品ってのは俺も同じなんでな」

「なんだと……それはどう言う意味だ!」

 

 

キラーマシンを抱えたまま振り返った彼女の表情は、寂しそうで悲しそうな顔。そして、最後には悟った様な笑みを浮かべて再び歩き出す。

 

 

「まー、楽しみにしてろよ。改良して戦力にするからさ」

 

 

振り返らずにそう言った彼女に、俺は掛ける言葉が見つからず、立ち竦んでいた。



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獣王と会いました

 

 

 

バラバラにしたキラーマシンを鬼岩城に持ち帰った俺は、ミザルさんに解析を頼んだ。やっぱ、その手の専門家に頼むのが一番だからだ。すると、ミザルさんが呼んだのか、他の科学者風の魔族も集まってきていた。ザボエラは居ないな……まあ、アイツはどちらかと言えば生物学とかだから、キラーマシンには関わらないか。

 

 

「ふむ……旧魔王軍時代にこれほどの物を……」

「ベースはこのままに素材を変えて……」

「サイズも調整しますか。型に嵌める様にすれば量産も……」

 

 

などと、俺が口を挟む余地など無いように、科学者さん達は持ってきた俺を放置して、キラーマシンに御執心だった。挙げ句の果てに「では、イーリス様はキラーマシンの新たなデザインを考えてきて頂けますか?それを参考にしますから」と、研究室から追い出された。頭にきたので研究室にイオラでも叩き込んでやろうかと思ったが、専門家と素人じゃ意見が合わないし、仕方ないよね……

取り敢えず、キラーマシン2のイラストでも描いてから後日提出しよう。

 

 

そんな訳で、次の俺の仕事は六大団長の視察だ。ハドラーがアバンの所在を探すように部下に命じているが、アバンは旅の家庭教師をしているから簡単には見つからないだろう。それに、そもそも今の所在地は俺も知らないし。デルムリン島で張り込みしてる方が早く見つかるけど、黙っていよう。

その俺が、現在視察に来てるのはクロコダインの所だ。ハッキリ言おう。俺にとってはパラダイスであると!

 

 

「アハハっ!くすぐったいって!」

「うにゃん、ゴロゴロ……」

「ピイピイ」

「くるる……」

 

 

俺は今、クロコダインの拠点である魔の森に来ているのだが、動物系のモンスターに囲まれていた。物凄い懐かれてる。動物好きとしては嬉しい限りだ。超癒される。

 

 

「……随分と懐かれてますな。特に、このキラーパンサーは俺にも従わぬ気難しい性格なのですが」

「え、そうなの?めっちゃ人懐っこいんだけど」

 

 

先ほどから俺に甘えてくるキラーパンサーは、クロコダインの部下の中でも気難しいらしい。俺の顔を舐めて甘えてくるキラーパンサーを見ていると、とてもそうには見えないけど。

 

 

「そのキラーパンサーを連れていきますかな?魔軍司令補佐殿に懐いているなら、そいつも望んでついていくでしょう」

「んー……来るか?キラーパンサー」

「ガオッ!」

 

 

クロコダインの提案に、俺はキラーパンサーについてくるかと聞くと「行くっ!」とばかりに吠えた。

 

 

「よし、今日からお前の名はゲレゲレだ」

「クゥンッ!」

「変わった名を付けるのですな。まあ、ゲレゲレも喜んでいる様ですが」

 

 

キラーパンサーに名付けるならゲレゲレしかないでしょう!いや、他の候補も名付けしてみたいけど、なんかゲレゲレがしっくりくる感じがしたから。

 

 

この後、クロコダインと話をしている間に夕方前になってしまった。クロコダインから武人としてのあり方や、父上に対する忠誠の話をしていたらすっかり遅くなってしまった。そろそろ帰らないとなぁ……なんて思って空を見上げたら、一匹のキメラが高速で飛んでるのが見えた。さらにその背に乗っていたのは……マジかよ……

 

 

「魔軍司令補佐殿、どうかなされましたかな?」

「いんやなにも。俺は帰るよ。ゲレゲレ、道案内するから乗せてくれ」

「ガオッ!」

 

 

見送りに来たクロコダインの問い掛けを誤魔化すと、俺はゲレゲレにまたがった。そのまま鬼岩城まで……って訳もなく、俺はゲレゲレをロモス城へ走らせた。

 

 

 

 

 

 

◆◇sideクロコダイン◆◇

 

 

 

不思議な少女だ。魔軍司令ハドラー殿の代わりに魔の森の視察に来たと言う魔軍司令補佐イーリス。彼女は大魔王バーン様のご息女であり、前線には来ないだろうと思っていた少女は、真面目に視察に赴いていた。さらに驚いた事に、俺の配下のモンスター達がイーリスに甘え始めたのだ。体をすり寄せたり顔を舐めたりと、人に恐怖を与えるモンスターとは思えない光景になっていた。

 

特に、親を人間に殺され、気性が荒いはずのキラーパンサーが懐いたのが意外だった。奴は俺の命令ですらろくに聞かないと言うのに、イーリスには心を許している様にも見えた。動物が心を開くのは、絶対的な服従かその人物が心を許せる者だと本能的に察した時だ。イーリスは間違いなく後者だろう。

 

ふむ、大魔王バーン様のご息女だけあって、人望にも優れているのだろう。名付けのセンスはともかくだが……

 

 

「魔軍司令補佐の立場も伊達では無いと言う事か」

 

 

人柄の良さも評価できる方のようだ。バーン様の話では、あの竜騎将バランやミストバーンから師事を受けたと言う。ならば、その実力も高いのだろう。

ゲレゲレと名付けたキラーパンサーに乗って去っていった彼女を見送りながら、俺はそんな事を思っていた。

 

 



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原作開始を見ました

 

 

ロモス城へ到着した頃には夜になっていた。ゲレゲレも走りっぱなしじゃ可愛そうだったので、何度か休憩を挟んだからな。バレない様に城壁を乗り越えて、城の中庭へ向かう。中庭ではパーティーが行われていた。

王様らしき人物と、ドラクエⅢの勇者の格好をした男、魔法使い、戦士が話をしている。ああ、やっぱり先ほどのキメラは見間違いじゃなかったんだ。この話はダイの大冒険の冒頭の話だ。俺は見つからないように身を隠しながら辺りを見回す。すると、小柄な黒髪の少年が、隠れながら隙を窺っているのが見えた。

 

 

「やっぱり居たか……ダイ」

 

 

間違いない。彼がこの世界の主人公にして、バランさんの息子のダイだ。まだやんちゃ坊主の感じだが、これからレオナ、アバン、ポップとの出会いで勇者へと成長していく。

 

ここから先は原作通りだった。偽勇者のでろりん、まぞっほ、へろへろを島のモンスター達を呼び出し襲わせ、その隙にゴメちゃんを救出。更にまぞっほ、へろへろを倒した。

 

 

「やるな小僧……だが、俺に弱点は無いぞ!」

「く、くっそぉ……」

 

 

しかし、でろりんはリーダーだけあって他のモンスター達を倒してしまう。とは言っても、普通に戦えばモンスターの方が強いんだよなぁ。デルムリン島での奇襲で、モンスター達は傷ついていた。だからこそ、でろりんのメラ程度で全員ダウンしてしまったのだ。じゃなきゃ、ギガンテスや大王イカがメラで倒せるはずないし。と言うか、メラでこんがり焼かれた大王イカから良い匂いがしてるんだけど。ちょっと食べてみたくなったわ。

 

この後、ダイとでろりんは剣で戦うが、ダイは負けてしまう。だが、特別な魔法の筒から魔界のモンスターを召喚し、形勢逆転する。

 

 

「初期で魔界のモンスター達が現れるって、悪夢だよなぁ……」

 

 

俺は魔界のモンスター達に蹂躙されている偽勇者一行に少しだけ同情した。でも、自業自得な部分が多いだけに当然の報いとも言えるが。この偽勇者を絶賛していたロモス王も、困惑した表情で戦いを見ていた。

 

正直……ロモス王って、見る目がない王様なんだよなぁ……偽勇者を絶賛して正体を見抜けない。クロコダイン戦で助けて貰ったのにダイに渡した装備は『はがねの剣』この時に『覇者の剣』を渡していたら、絶対ストーリー変わってたよね。その後もザムザに騙されて、危うく人間側の精鋭を失う所だった。しかも覇者の剣は盗まれる始末。

 

 

「ああ……なんだろうな、もう……」

 

 

そんな事を思い出していたらモヤモヤとしてきた。さらに庭を覗くと、ずるぼんがスライム達を人質に、ダイに降伏を迫っていた。でろりんも「でかした!」なんて叫んでるし、本当に最低だな。いっそのこと……オレガヤツラヲケシテヤロウカ……

 

 

「ぎょえええぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

「な、ずるぼん!?」

「今だ、イルイル!」

 

「………っ!」

 

 

スライム達が合体したキングスライムに押し潰されたずるぼんの叫びに、俺の意識が呼び戻される。さらにでろりんは、一瞬の隙を突かれてダイに魔法の筒に閉じ込められてしまった。

それらの流れを呆然と見ていた俺は、一瞬意識が飛びそうになった自分に驚いていた。俺は今、何を考えた?でろりん達やロモス王にイライラしていたのは確かだが、一気に心が塗り潰された感覚に陥った。なんだったんだ……今の感覚は……

 

 

俺は気分が悪くなってきたが、一連の流れをそのまま見ていた。

ダイは疲労から倒れてしまい、モンスター達は心配そうにダイに駆け寄る。そのダイとモンスター達を兵士達が取り囲んだ。しかし、ロモス王がそれを止めた。

ロモス王は自分の見る目の無さを反省し、『覇者の冠』をダイに授けていた。

 

 

 

「ったく……最初からそうしろってんだ馬鹿王が……」

「ガル……」

 

 

俺はロモス王に悪態を突きながら、侵入した時と同じ様に城から抜け出した。あとの事は人間側が上手くやるだろう。

 

 

「でもまぁ……少し勉強になったかな?」

「……………」

「それが無断外泊しようとした言い訳ですか?」

 

 

人間を見る事が少なかった俺が、城に侵入して原作開始の話を見させて貰ったけど……人間側が言う『邪悪なモンスター達』の言葉よりも『人間の方が、よほど邪悪』と言う魔王軍の言葉が分かる気がする。そんな事を思っていたら、ガシッと後頭部を掴まれた。さらに聞き覚えのある声が……

 

 

「うえっ!?ミストバーン!?アイナさん!?」

「……………」

「なかなか帰って来ないのでクロコダイン様に連絡したのですが『魔軍司令補佐殿なら、ずいぶん前に帰ったはずだが?』と言われたので探しに来たのですよ。そしたらイーリス様ったら、道草をしていただなんて。私の目の黒い内は門限を破る事も無断外泊も許しませんよ?」

 

 

振り返ると、ミストバーンが俺の頭を掴み、アイナさんが笑みを浮かべていた。でもヤバい……あの笑みで重圧を放っている時はかなり怒っている時だ。

 

 

「もう……心配したんですよ?魔王軍の存在がバレない様に隠れながらの大捜索だったんですからね……さてイーリス様、お覚悟はよろしいですね?」

「走れゲレゲ……レッ!?」

「ギャウッ!?」

「……………」

 

 

アイナさんの説教から逃げるべく、俺はゲレゲレに乗って逃げようとしたが、ミストバーンの闘魔滅砕陣に捕らえられてしまう……つーか、このタイミングで使う技じゃないだろ!?なんで此処まで本気なんだよミストバーン!?

 

この後、鬼岩城に戻ってから、アイナさん、ハドラー、父上にもめっちゃ怒られた。ミストバーンは無言の重圧が半端なかったです。



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メタリックなキングにセクハラされました

 

 

 

『人間達が集まっていたので観察していた』と説明したところ、無断外泊の疑いは晴れたが、一人で外に出すとトラブルに見舞われると、しばらく一人で外に出るのを禁じられた。子供か俺は。いや、この世界じゃ確かに年齢的には子供だけど。説教受けた日、反省文の意味合いも込めてキラーマシンの新しいプランと、メタルドラゴンの概要を書いた図面を提出した。その後、ミザルさんと科学者連中が引きこもった。色んな意味で大丈夫だったのだろうか?

 

原作が進んでいると考えれば、これからダイとレオナが初めて会うシーンだな。少し見てみたかった。

まあ、そんな事が現状出来るわけもなく、俺は修行に専念する事にした。実は以前、父上から『お前独自の技と呪文を編み出せ』と課題を出されていたのだ。

 

それと言うのも、六大団長は勿論、ハドラーも独自の技を持っている。

ハドラーは『ヘルズクロー』

クロコダインは『獣王痛恨撃/獣王会心撃』

ヒュンケルは『ブラッディースクライド』

フレイザードは『フィンガーフレアボムズ』

ミストバーンは『闘魔傀儡掌/闘魔滅砕陣』

バランさんは『ギガブレイク』

ザボエラは『マホプラウス』

 

とまあ、それぞれが云わば『必殺技』を持っているのだ。ならば、大魔王の娘にして魔軍司令補佐の俺が、独自の必殺技を持っていないのはいかがなものか。そんな訳で、以前父上から課題が出されたのだ。でもなぁ……

 

 

「そんな簡単には思いつかないし、思いついても実践できないんじゃ意味ないしなぁ……」

 

 

それを考えたら、思いつきで魔法剣やアバンストラッシュクロスを編み出したダイは天才なんだろう。

うーむ……ならば魔法系にするか闘気系にするかだけでも決めないとなぁ……りゅうおうの杖もあるんだし、色々と試してみよう。

 

そんな訳で、監視役のミストバーンとアイナさんを引き連れてバーンパレスにやって来た。父上に「魔法の練習をしたい」と言ったら「ならば良い的……いや、適任の者がおる」と言われてバーンパレスに来たのだ。誰なんだろう、練習相手(的)って。

 

 

「フハハハハーッ!キーングマキシマム見参!大魔王様から、貴殿の魔法の練習相手になれと言われましたぞ!」

「よろしく、マキシマム」

「お久しぶりです、マキシマム」

「…………」

 

 

バーンパレスに到着するなり、メタリックな親父に歓迎された。コイツはキングマキシマム。原作ではミストバーンやキルバーンと同じく、父上直属の幹部……であるはずだが、明らかに『格落ち』の幹部だ。相手の強さを見抜けるスキャン能力とオリハルコンの駒を持ってるのに、慢心した性格であっさりと敗北したバカ王。

 

俺がバーンパレスで生活していた頃から面識はあったが、修行相手になって貰うのは初めてだった。俺とアイナさんは普通に挨拶をしたが、ミストバーンは沈黙を貫いていた。そういや、仲が悪かったなコイツら。

 

 

「我輩なら、このオリハルコンボディで魔法が効きませぬ!さらに!スキャン能力でイーリス様の身体能力を測れますぞ!」

「なるほど……魔法が効かなくても性質と威力を計測できて、俺の体調も見れるか。そりゃ良いな」

 

 

確かにマキシマムなら魔法が効かないから、魔法の的には丁度良いかも。と言うか、父上なりの冗談だったのだろうか?マキシマムを普通に『的』って言ってたし。

 

 

「しかしイーリス様、成長なされましたな。今、キングスキャンとスーパースキャンで確認しましたが、以前よりも体力も魔法力も格段に増しておりますぞ」

「え、そうなの?」

 

 

マキシマムの言葉に少し驚く。俺も少しは強くなっているんだな。

 

 

「ふむ……それに実に成長なされました」

「おい、なんで視線を下げた?」

 

 

マキシマムの視線が下がった。少し下がった視線の位置的に、マキシマムが見ていたのは……俺は胸を両手で隠す。

 

 

「確かに、イーリス様は最近胸が大きくなりましたが……セクハラですよ?」

「……………」

「わ、わかった!我輩が悪かった!」

 

 

アイナさんに魔神の金槌で殴られ、吹っ飛ばされた後にミストバーンの闘魔傀儡掌で全身の関節を逆方向に伸ばされている。マキシマムは流石に謝ってきた。なんか関節からミシミシ音が鳴ってる。

 

大きくなってたのか、俺の胸。自分じゃわからないもんだ。と思ったところで、自分が再び『女の子』に染まっている事を認識して、ちょっと凹んだ。

 



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合体呪文が(偶然)出来ました

 

 

 

マキシマムを的に魔法を放つが上手くいかなかった。そりゃ、いきなり新しい魔法を産み出すとか無茶すぎる。

単純な話、新しい魔法を産み出すとしたら、一つの魔法を極める、これは父上のメラゾーマであるカイザーフェニックスが良い例だ。または変則的な使い方をする、これはヒムのヒートナックルやシグマのライトニングバスターが筆頭となる。さらに言うならば、複数放つならフィンガーフレアボムズだ。

 

あと思い付くのは、融合呪文のメドローアだ。あれはメラとヒャドを極限まで高め、さらにそれを同じ分量に配分させてスパークさせた後に魔法の矢として放つ呪文。実は出来るかもと試しにやってみたが、無理だった。何故ならば、片手ずつで別の魔法を同時に使う事が難しかったからだ。

 

右手でメラを使いながら左手でヒャドを展開したら、右手のメラは普通に出たのだが、左手のヒャドは氷が一粒だけ出て終わった。

この様に両手を使いそれぞれ別の魔法を同時に使おうとするとバランスが極端に悪くなる。

今回のを例えるなら、100の分量でそれぞれ魔法を使おうとするとメラが95でヒャドが5となったのだ。

 

これが攻撃魔法と回復魔法だと、さらにややこしい話になってくる。此方もギラとホイミで試したが、そもそもホイミが発動しなかった。なんと言うか……感覚的な話になるが右手と左手で同時に別々の絵を描こうとした感じだ。それを考えると、マトリフさん超スゴい。

 

 

「うーむ……どうすっかな」

 

 

ハドラーがアバンを倒しに行く前に一つくらい呪文を編み出したいが……因みにそのアバンだが、未だに見つかっていない。ハドラーは、だいぶイライラしていた。

 

 

「ガハハッ!今日も頑張りましょうぞイーリス様!」

 

 

テンションが高いマキシマムにもちょっとイラッと来た。コイツ的には、父上から俺を任されたって事で誇らしい気分になっているのだろうが、俺からしてみれば放った魔法が棒立ちで効かない様を見せられるのは屈辱だったりする。こっちは悩んでるってのに。

 

 

「メラゾーマ!」

「フハハハハーッ!効かぬ、効かぬーっ!」

 

 

俺のメラゾーマはマキシマムのボディに意味をなさず、ただ通り過ぎるだけだった。だったら、連続で放ってやる。

 

 

「メラ、ギラ、ヒャド、バギ、イオッ!」

「おっと、質より量ですかな?ですが、無駄無駄無駄ぁーっ!」

 

 

俺の魔法連打に笑うマキシマム。イギリス産の吸血鬼かテメーは。俺はりゅうおうの杖を使わないまま両片手で呪文のランクを下げて次々に放ち続ける。右手でメラを放ち終えてから左手でギラを放つ。それらを呪文を変えながら次々に放つ。同時に呪文を展開するのではなく、順番にテンポ良く放つやり方だ。しかし、この戦法は呪文のランクを下げなければならないので威力は二の次だ。

 

 

「そろそろ我輩も攻撃しますぞーっ!」

「メラ……このバギッ!」

 

 

ハッキリ言えば偶然だった。右手でメラを放った直後にマキシマムが俺に攻撃してこようとして焦った俺は左手でバギを放とうとして、りゅうおうの杖に少しだけ手が触れた。すると、バギマ並みの威力になったバギが前方のメラを取り込み、炎の渦となったのだ。

 

 

「………えっ!?」

「な、これは……ぬおおおっ!?」

 

 

ぶっちゃけ驚いた。時間差で放った魔法が合体し、一つの魔法になったのだから。油断していたマキシマムは、その魔法の直撃を食らって炎の渦に飲み込まれた。しかし、元のメラの威力が低かったから炎の渦も直ぐに消えた。

 

 

「な、なんとも驚かされましたな……まさかメラとバギを時間差で融合させるとは……」

 

 

オリハルコンボディでダメージは無かったものの、焦ったマキシマムは汗を拭う仕草をしていた。いや、オメーは汗がそもそも出ないだろ。いやまあ……それはさておき……

 

 

「少し……兆しは見えたかもな」

 

 

時間差で魔法を放って融合させる、このやり方なら様々な魔法を試せるかも知れない。

先程のメラとバギの合体も右手でメラゾーマを放って左手で、りゅうおうの杖を持ちながらバギマを放てば先程の呪文よりも威力も範囲も広がる筈。

 

 

「さて……いろいろと試させて貰おうか」

「イ、イーリス様?悪い笑みを浮かべておるようですが……ぬおおおっ!?」

 

 

俺は、早速合体呪文を試す事にした。俺の笑みにマキシマムが一歩退いたが、オリハルコンボディならダメージは無いだろう。

この後、めちゃくちゃ合体呪文を試した。

 

 



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情報収集をしました

 

 

マキシマム相手に調子にのって魔法を連発していた俺は、魔力切れに陥った。融合呪文が面白くて、限界まで張り切ってしまった。

 

魔力切れなので半日休もうかと思っていたら、ハドラーからアバン捜索を手伝えと言われてしまう。此処で「デルムリン島に居る」なんて言ってしまえば楽なのだが、そうもいかない。アイナさんと共に人の町に行き、情報収集をする事になったのだ。

 

 

「でも、俺は魔力切れだしなぁ。誰かにモシャスを掛けて貰って人間に化けないと……」

「そちらの方は手配済みです。あとはイーリス様のお着替えですよ」

 

 

人の町に行くなら、俺の角と尻尾を隠さなければならない。モシャスで角と尻尾を隠さなきゃと思っていたら、アイナさんが全部手配してくれたらしい……いや、でもさ。

 

 

「アイナさん……その服は誰が着るのかな?」

「いやですわ。勿論、イーリス様が……逃がしませんよ?」

 

 

そう、アイナさんの手には可愛らしい服が一着。アイナさんの返答を待たずに俺は一目散に逃げ出した!のだが、尻尾を捕まれ逃走失敗!

 

 

「俺はそういう服は嫌なんだって!」

「あら、今のイーリス様が私に逆らえるとでも?体力も魔力も尽きている以上、私の意のままですわ」

 

 

なんとか逃げようとしているのだが、アイナさんに捕まれた尻尾が抜けない。単純な握力だけで俺の全力と張り合うアイナさんに、さらに戦慄を感じた。

 

 

「さ、お着替えしましょーね」

「嫌だぁぁぁぁぁぁぁ………」

 

 

尻尾を引っ張られ、俺はアイナさんに衣装室に連れ込まれる。ああ、これはもう逆らうだけ無駄なんだろう。そうは思いつつも叫ばずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

「うぅ……落ち着かない……」

「もう、普段からバーン様に頂いた装備しか着ないからですよ。イーリス様は可愛らしいんですから、少しは着飾らないと」

 

 

俺は女物の服を着させられた。少し良い所のお嬢様って感じの服装で、アイナさんはいつも通りのメイド服。設定的には『大商人の娘とお付きのメイド』って事らしい。

 

 

「しかし……アバンを探せって言われてもな……」

「ヒュンケル様のお話では旅の家庭教師をなされてるとか……ならば噂になっているでしょう。聞き込み開始ですね」

 

 

俺は答えを知っていながらもアバン捜索を手伝う事に。町の噂や商店等で聞き込みをする。その最中で意外な物を見付けた。それは調味料などのスパイスを取り扱っている店だったのだが、店先にある物は俺にとっては馴染み深い物だった。

 

 

「おや、お嬢さん。この調味料に興味があるのかい?これはとある国で試験的に作られた物らしくてね。味わいが深くなるんだが……見た目のせいで誰も買ってくれないんだ。少し前に髪をカールさせた旅の家庭教師なんかが買ってくれたんだが、あとはさっぱり売れやしない」

「この調味料を買わせてくれ。あと、今の話を詳しく」

 

 

スパイス屋の店員に聞いた所、パプニカから来たと言う旅の家庭教師は一人の弟子を連れて数日前に来たのだと言う。珍しい調味料を購入した男はロモス方面へと旅だったらしい。ついでに古道具屋で安物の剣を10Gで買っていたそうだ。

ビンゴ、当たりだな。原作でもアバンはパプニカ王家から依頼を受けてデルムリン島にダイをスカウトしに行っている。つまり、今はダイをスカウトする為にデルムリン島を目指している最中と言う事だ。これだけ分かれば適当に偵察を出せばアバンは見つかるだろう。

 

情報収集の結果は上々だったと言える。さてと、あとは帰ってこの調味料を使って料理を……

 

 

「帰ったら料理しやすい格好でしましょう……ね?」

「………はい」

 

 

にこやかながら、勝手は許さないと言うプレッシャーを放つアイナさんに、俺は一生頭が上がらない気がしてきた。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

鬼岩城に戻った俺は、アイナさんからメイド服とエプロンを着させられ、髪も長いと料理に入ってしまうからと、左右で三つ編みにされた。

 

 

「さて、と……」

 

 

この調味料は、見た目からこの国の者には受け入れられなかったと不評だったが、俺からしてみれば懐かしい故郷の味だ。鍋に銀杏切りに切った野菜を入れ、例の調味料を溶かす。さらにこの世界の出汁とスパイスを入れて味を整える。ふんわりと例の調味料の匂いが調理場を支配する。ああ、懐かしい……この匂い。本来の物とは若干違うのだろうが十分だ。懐かしい味を堪能するとしよう。そう思ってスープ皿にそれを注いで……

 

 

「おや、良い匂いがすると思えば珍しい方が料理をしていましたか」

「なんですか、ミザルさん」

 

 

いざ、食べようってタイミングで邪魔をされた。嗅いだ事のない匂いに釣られてきたらしい。ミザルさんの後ろには部下と思わしき魔族も居た。

 

 

「ふむ、我々科学者チームもイーリス様のキラーマシン案件で疲れていましてな。これはご相伴に……」

「わかった……科学者連中にも労いの意味を込めて配ってくれ」

 

 

鍋を渡した俺にミザルさんは笑みを浮かべた。そんなに食べたかったのか?

 

 

「他にも労う方々が居ますので、そちらにも届けるべきでしょう。さ、案内いたしますから此方へ」

「え、ちょっと……?」

 

 

部下に鍋をあずけたミザルさんはメイド服から着替えていない俺を調理場から連れ出した。いや、何処に行こうってんだ?

 

 

俺はこの後、迂闊に返事をした事を非常に後悔した。何故ならば、行き着いた先が鬼岩城の会議室で、そこでは六大団長とハドラーが会議をしていたのだから。

 

全員が「何事だ?」と言った表情で俺とミザルさんを見ていた。この後、部下が鍋を運び、アイナさんがトレイに皿とかを乗せて会議室に入室。

 

 

「さ、皆様。会議も結構ですが、休憩を挟んではいかがですか?イーリス様の手料理をお持ちしました」

「………いっそ殺せ」

 

 

ニヤリと笑みを浮かべたミザルさんと、いつも以上に良い微笑みを浮かべるアイナさん。ああ、この二人に嵌められたのか。羞恥に俺の顔が熱くなるのを感じた。

 

なんで『故郷の味を楽しみたくて気軽にクッキング』が『大魔王の娘が魔軍司令と六大団長に手料理を振る舞ったドキドキクッキング』になったのだろう。



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手料理を振る舞いました

 

 

 

「イ、イーリスの手料理か……」

「魔軍司令補佐殿の手料理とは光栄ですな」

「ほう、珍しい香りだ」

「…………」

「………俺、食えねぇ」

「ふん、食べられるんだろうな」

「やれやれ、老人に変な物を食べさせるんじゃないわい……」

 

 

ハドラー、クロコダイン、バランさん、ミストバーン、フレイザード、ヒュンケル、ザボエラの順番にコメントを溢す。皿を目の前に、まともなコメント出したのクロコダインとバランさんだけだよ。へこんだ様子のフレイザードに「ああ、岩の体じゃ食べ物の味とか分からないよな……」とあの体の不便さを改めて感じた。戦闘では強いのだが、日常生活では過ごしにくい体なんだよな。

 

 

「ほう、これは美味い」

「なんともめずらしい味ですな。味わった事がない」

「美味いぞ、イーリス」

「ちくしょう……だが食うぞ」

「…………」←無言で皿を持ち姿を消す。

「………温かいな」

「染み渡る味じゃのう」

 

 

ハドラーは恐る恐るスープを食べると顔を綻ばせた。クロコダインとバランさんは絶賛。フレイザードは味が分からないと言ってはいたが食べてくれた。ミストバーンは皿を持ってフッと消えた。ヒュンケルはたっぷりと間を空けてからコメント。ザボエラはゆっくりとスープを飲んでいる。

 

 

「多分、ミストバーンはバーン様にイーリス様の手料理を運んだのでしょう。バーン様も悔しがりそうですから」

「いや、本来なら何回か練習してから父上に振る舞う予定だったんだけど……」

 

 

消えたミストバーンの行方を考えていると、アイナさんが耳元で俺にだけ聞こえる様に耳打ちをする。

この世界では珍しい調味料である『味噌』を見つけた俺は、所謂『豚汁もどき』を作った。出汁やスパイス等を味見しながら豚汁に近い味を作ったつもりだが、味が安定したら父上に出す予定だった。が、ミザルさんとアイナさんに嵌められた為に、完全に試作品の段階で出す事になったのだ。

 

 

「初めての味だったな。どんな味付けをした?」

「あ、ああ……人の町で情報収集をした時に見つけた調味料の味噌を使ったんだ」

「ちなみに此方になります。豆を発酵させた物の様ですね」

 

 

バランさんの問い掛けに俺が説明し、アイナさんが補足する。

 

 

「見た事がないな……して、イーリスよ。人の町での情報収集の成果を聞かせて貰おうか?」

「はいよ、頼まれたアバンの行方だけど……」

 

 

味噌を見せると全員が珍しそうに見ていた。そもそも、アンタは料理なんかしないから調味料を見る機会なんかなかろう、とツッコミを入れそうになったが、先に報告をする事に。俺は人の町で得た情報と予想を報告した。そういや、ミストバーンが居ないままだけど会議を再開していいのだろうか?

 

 

◆◇その頃、ミストバーン◆◇

 

 

 

「此方がイーリスの作ったスープになります」

「ミザルとアイナめ……余よりも先に六団長に振る舞おうとするとはな」

 

 

私は食事が出来ないのでバーン様にイーリスのスープを届けた。鬼岩城からバーンパレスまでの移動の最中、メラとヒャドで温かさを調整しながらバーン様に献上する。

本来ならイーリスの手料理を振る舞うならバーン様が最初だろうが、ミザルとアイナの二人の悪戯に六団長が最初となってしまった。鬼岩城のイーリスの反応を見ると、それが間違いないと感じる。

アイナも、よくイーリスを着せ替え人形のようにして遊んでいる。特にアイナの事だから、私やフレイザードが食事が出来ない事を承知の上で我々にスープを提供したのだろう。意地の悪い事をしてくれる。

と言うか、バーン様に悪戯を仕掛けるのはアイナかキルくらいなものだろう。

 

 

「余ですら味わった事のない味だ。だが、悪くなかった」

 

 

私が考え事をしている間にバーン様はイーリスの作ったスープを食べ終えていた。私は空になった食器を手にバーン様のお部屋から退室する。

 

 

「良いなぁ……僕も食べてみたかったよ」

「食べたかった、食べたかった!」

「…………」

 

 

退室するとキルと使い魔のピロロが皿を見ながら羨ましそうに呟いた。私ですら食べられないのに、貴様等に食べさせてなるものか。私はそう思いながら再び鬼岩城に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

 

俺は人の町で得たアバンの情報を、ミストバーンを除くハドラーと六団長に報告した。

 

 

ヒュンケルの情報通り、アバンは旅の家庭教師を続けており、今は弟子を一人連れている。

アバンはパプニカ方面からロモス方面へと向かった。

ロモスでは以前俺も見たのだが、モンスターの暴動騒ぎがあり、その中でも一人の少年が話題に上がった。

ロモス方面にその少年をスカウトしに行ったのでは?と予想を立てた。

 

それらを報告し、近隣の魔物やガーゴイル等の飛行できる魔物に偵察をさせるプランを提出した。

 

 

「なるほど、確かに以前ロモス城が騒がしかったですな。イーリス殿が居たのは意外でしたが」

「ああ、キラーパンサーを従えた時の事か」

「その騒ぎになったガキをスカウトしにってか。勇者ってのは暇なんか?」

「…………ふん」

「ふむ、じゃがそちら方面に居ると言うのも確証が無いのぅ」

「確証が無くても構わん。イーリスの提案通りにロモス方面に偵察部隊を派遣する。怪しげな奴がいればアバンに違いあるまい」

 

 

クロコダイン、バランさん、フレイザード、ヒュンケル、ザボエラ、ハドラーの順にコメントが出る。ハドラーはアバンとの決着に執着している。父上からの命令もあるのだろうが、ハドラー個人としてもアバンとの決着を意識しているのだろう。

 

 

 

「…………」

 

 

そんな事を考えていたら、姿を消していたミストバーンが帰って来た。手には空になった皿がある。ああ、やっぱりアイナさんが言った通り、父上の所に豚汁を届けに言ったのだろう。次回のチェスの時までに父上に言い訳と別の料理を持っていかないとだなぁ……

あ、そう言えば俺の融合呪文の事を誰にも話してなかった。まあ、言い出せる雰囲気でも無かったのだが。

 

 

 

この会議の日から数日後、デルムリン島付近に偵察に行かせたガーゴイルが戻ってこなかった。怪しいと思ったハドラーは遠巻きに他のガーゴイルにデルムリン島の偵察に行かせた所、不自然な程に大規模な結界があると報告が上がった。

 



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新しい呪文を披露しました

 

 

 

 

 

「メラミ……からのバギマ!」

「ぬおおおっ!?」

「………」

 

 

はい、父上の前で絶賛技の披露中のイーリスです。いつもの定期チェスをしながら呪文の完成度を話したら、チェスの後に「では、見せて貰おうか」と言われてマキシマムを呼び出し、今に至る。今放ったのはメラ+バギの炎の渦を産み出す呪文。他にもヒャド+バギやメラ+イオ等の合成呪文を幾つか披露した。

 

それらを披露したのだが、父上の表情は固い。

 

 

「呪文の融合とは考えた物だが、まだまだ小手先の技と言った所だな。そのメラミとバギマの融合呪文でも余のメラにすら敵うまい」

 

 

そりゃ父上の呪文と比べたらそうだろうよ、と言いそうになったのを堪えた。このタイミングで口答えとか出来ねーわ。

 

 

「融合呪文以外にしている事はあるか?」

「え、えーと……あるにはあるんですが……」

 

 

父上の質問に答えづらくなった…なんせ、融合呪文以外に練習中の闘気と呪文はぶっちゃけ未完成もいいところだ。

 

 

「構わん、見せてみろ」

「………はい」

 

 

有無を言わさず、やる事を強要された。やっぱり機嫌悪いよな、今日の父上。マキシマムもかなり怯えた雰囲気だし。仕方ない、腹を括るか。俺はそう思いながら、りゅうおうの杖を構えた。

 

 

「ふ……ああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「………ほう」

 

 

りゅうおうの杖に俺の全魔力を注ぎ込む。りゅうおうの杖の素材は分からないが、この杖は魔力を際限無く吸収する。それを普通は放つ事で威力を増した呪文にする事が出来るのだが、あえて放たずに溜め込み、杖に集中し続ける。俺の魔力がドンドン吸い上げられていく。

 

 

「ぐ、ぎぎぎ……」

「待て、イーリス。その呪文を中断しろ」

 

 

俺の魔力を吸収しきった、りゅうおうの杖の先から魔力の刃を発生させる。杖の頭の竜の形を象った部分を魔力の刃が覆う。杖の部分が刀の柄の様になり、刃の部分が刀身の様に変化する。刀身と言うには真っ黒な魔力の刃は、俺の実力不足なのかフラフラと揺れていた。

 

 

「お、お待ち下さいイーリス様……その呪文は、何か嫌な予感がしますぞ……我輩……」

「ぐ……あ、が……」

「止めよ、イーリス。その呪文は禁呪法に近い」

 

 

マキシマムや父上が何か、話しているが何処か遠く聞こえる。魔力を吸われ過ぎて意識が飛びそうになってきた……そう思っていたら首筋に痛みが走り……俺の意識は闇に落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇sideバーン◆◇

 

 

 

 

「やれやれ……大したものだ、我が娘は」

「正直、肝が冷えましたぞ……」

 

 

禁呪法クラスの呪文を行使しようとしたイーリスの首筋に手刀を落とし、気絶させた。グラリと崩れ落ちそうになったイーリスを余は受け止める。

 

先程、イーリスがりゅうおうの杖を媒介に使おうとした呪文は、莫大な魔力を消費する代わりに、あり得ない程の威力を生み出す呪文だ。あれは余ですら手に余る呪文となろう。余が扱えなかったりゅうおうの杖はイーリスに最適の武器となった。いや、適合率が高過ぎたと言うべきか。故にあの凶悪とも言える呪文を編み出した。

マキシマムが本能的に危ういと感じたのも無理はない。あの呪文が完成されていたら、マキシマムのオリハルコンですら打ち砕く程の呪文となっていた可能性が高い。

 

さらにミストバーンからの報告では、イーリスは光の闘気と暗黒闘気の使い分けが出来るようになってきていると聞く。つまり、イーリスは光と闇の闘気を自在に操り、際限無く威力を高めた呪文を放てる存在になりつつある。噂に伝え聞く竜魔人の様な高みに登りつつあるのだ。

 

 

これは余の予想通り、イーリスは通常の竜の騎士とは違った存在に成長している。今のイーリスは通常の竜の騎士と竜魔人の間の存在。このまま成長すればバランすら上回る竜の騎士となれるだろう。

 

 

「バ、バーン様……イーリス様でしたら我輩が運びましょうか?バーン様のお手を煩わせる事も無いでしょう」

「いや、構わぬ。イーリスを禁呪法で生み出してから交流はあったが、こうやって抱いてやった事はなかったからな」

 

 

マキシマムが余の腕の中で眠るイーリスを受け取ろうとするが、たまにはこうして労ってやるのも良いだろう。予想外の成長を見せるイーリスに余は、手料理を最初に余に振る舞わなかった事の苛立ちを忘れていた。

 

このままバーンパレスに以前用意したイーリスの部屋に運んでやろうかと思ったら、悪魔の目玉から報告が来た。

 

 

『報告、報告。ハドラー様が勇者アバンを倒しました。しかし、ハドラー様も重傷です』

 

 

イーリスの策でアバンの所在を判明させたハドラーは、過去に因縁もある勇者アバンを倒しに行った。イーリスもその事を気に掛けていた様だが、パワーアップしたハドラーでもアバンを倒すのは容易ではなかったと見える。

 

 

「だが、これで余に仇無す要因を持つ可能性のある者は潰えた」

 

 

イーリスの成長といい、勇者アバンの打倒といい、良い報告が聞けるものだ。余の腕の中で眠り続けるイーリスに余は「これが父親の喜び」と言うものかと感じていた。

 

 

さて、ハドラーから改めて報告を聞かねばな。



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呪文が命名されました

 

 

 

 

 

目が覚めたらバーンパレスの自室だった。俺の世話をしてくれたメイドさん達の話では、俺は父上に魔法を披露している最中に魔力&体力切れで倒れたらしい。しかも、父上は俺を横抱きのお姫様抱っこで運んだとか。何それ怖い。大魔王バーンにお姫様抱っこされる娘って、凄い絵面になるな。

 

数時間寝て体力が回復した俺は、現在の状況を聞く為に父上の所へ。ハドラーとアバンの決闘は原作通りの結果に終わってる可能性が高いが、俺と言うイレギュラーがあるのだ。予想外の結果になっている可能性もある。

 

 

「父上、失礼します」

「む、目覚めたかイーリスよ。ちょうど良い、そなたにも聞かせよう」

 

 

玉座の間に行くと父上が水晶に話し掛けていた。あれが鬼岩城の壁に打ち付けてある顔に連動するのか。どんな仕掛けなんだか。

 

 

「ハドラーは見事に勇者アバンを打ち倒した。だが、アバンは弟子を育てていて、その内の一人が非常に強くハドラーに傷を負わせたのだ」

「両手を切り飛ばされて、胸に十字の刃跡を刻まれたのを『傷』の一言で済ませて良いんですか……?ともかく、アバンの弟子と言えばヒュンケルがそうでしたね」

 

 

水晶に映されたハドラーは鬼岩城の玉座に座っていたが、原作通り両手を切り飛ばされ、胸にアバンストラッシュの傷跡が残されていた。俺は父上の言葉にすっとぼける。何か知ってたら怪しまれるからな。

 

 

「そのヒュンケルの弟弟子と呼べる者共が居るらしい。だが、アバン亡き後の弟子程度では大した事ではあるまい?」

『ハハーッ!これより我が魔王軍はアバンの使徒を倒すと同時に各所の王国を制圧致します。そして……世界をバーン様の手に……』

 

 

父上がハドラーに『アバンを倒したのなら弟子なら問題ないだろう?』と問い掛ける。ハドラーは実際に戦ったからなのか冷や汗を一筋垂らしたが、魔王軍を総出で動かして王国を攻め、そのついでにダイ達を倒す計画らしい。ここで父上やハドラーがダイを甘く見なければ終わってたよな大冒険って。

 

 

「だったら、魔軍司令補佐として俺も出なきゃだな」

『おお、イーリスが戦線に加わってくれれば部下の士気も上がろう……』

「いや、イーリスには少々確認したい事がある。参加させるのはその後だな」

 

 

早めにダイ一行を見ておきたい俺は、それっぽい理由でバーンパレスから出ようと思ったのだが、父上から止められた。

 

 

「えっと……確認したい事とは?」

「それは後で話す。ハドラーよ、傷が癒え次第行動に移せ」

『か、かしこまりました』

 

 

俺が父上に問い掛けると、父上はハドラーとの通話を切って俺に向かい合う。なんかピリピリした空気になってきた。

 

 

「そなたが先程行使した呪文……余はラグナ・スレイブと名付けた」

「ラグナ・スレイブ……」

 

 

いや、あの呪文ですか!?光魔の杖を自力で再現したんですが!?なんで、そんな仰々しい名前を付けた!?

 

 

「完成すれば、あの呪文は神々の魂すら切り裂く刃となろう……余でも、りゅうおうの杖を使ったとしても扱うのは不可能だろう。そなたの独自の呪文となったな」

「あ、ありがとう……ございます」

 

 

なんか父上に褒められてるのにむず痒い気分だ。最初の頃は呪文もろくに扱えなかった俺が、父上から称賛の言葉を貰える程になるなんて。

 

 

「だが、あの不完全なままでは危険だ。余の見立てではラグナ・スレイブは呪文の発動まで十数秒掛かり、発動は数秒が限界。さらに素振りを数回したら魔力切れになるのではないか?」

「……その通りです」

 

 

父上が考察したラグナ・スレイブの弱点は全て見抜かれていた。威力・破壊力が抜群になった分、魔力消費が激しい上に制御するだけで精一杯なのだ。素振りを数回したら確実に息が上がる。

 

 

「発動時間の短縮と振り抜く際の制御が必要だな。現段階では実戦では扱えまい」

「………はい」

 

 

凄まじい呪文であるが故に制御が困難なのは仕方ない事だとは思うが、課題が多すぎる。これじゃ確かに前戦なんか出れんわな……そんな風にラグナ・スレイブの欠点にへこんでいると、父上が口を開いた。

 

 

「喜べ。数日は余が直々に相手をしてやろう」

「……………え?」

 

 

父上から出た発言に俺はフリーズした。あ、これ死ぬわ。それはそうと、初戦のクロコダインは見ておきたかったけど仕方ない。むしろ、俺が死なないように頑張ろう。

 

 




呪文のネーミングは中々思い付かなかったのでイメージした魔法の名前をオマージュしました。


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父上と鍛練をしました

 

 

 

父上から指南を受ける事になって、はや二日。

 

 

「ぎにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「逃げてばかりでは意味がないぞ」

 

 

父上から次々に放たれるギラを避け続ける。父上は右手を俺の方に翳し、ギラを連続で放ち続ける。指先から放たれる閃光は俺を的確に追い詰める。反撃したいけど絶え間なく放たれるギラを避けるので精一杯で反撃の糸口が見付からない。

 

 

「この二日で避ける事は上手くなったが、そろそろ反撃してみせよ」

「くそっ……ならば、ベギラ、マァァァァァァッ!?」

 

 

反撃しようとベギラマを放ったら父上のギラに俺のベギラマが貫かれ、俺の肩を撃ち抜かれる。超痛い、肩が焼ける様な痛みが走る。俺のベギラマは父上のギラに勝てなかった。

 

 

「痛たた……ってヤバっ!」

「ほれ、敵は休む時間はくれんぞ」

 

 

痛みに俺の動きが鈍ったのを見逃さず、ギラからヒャドに切り替えてきた。足下が凍り始めたので跳び退いて避ける。

 

 

「お前は過去にキルバーンに連れられてグリズリーと戦った時に力を解放した。ミストバーンとの特訓でも命の危機を感じ、さらなる力を見出だした。ならばと、その力を引き出せる様にギリギリまで追い詰めてやっているのだ。自身の思いで力を引き出せなければ死ぬだけだ」

「いだっ!?ちっ、この……なうっ!?」

 

 

飛び退いた先にイオを叩き込まれる。体勢を整え着地しようとしたがヒャドで凍らされた地面で足を滑らせて頭を打つ。痛みに転げ回りそうになったが、間髪いれずに放たれたバギで宙を舞わされる。視界が……と言うか体勢を反転させられ、目が回っていると火の粉が飛んできた。ヤバい、この火の粉は父上のメラだ!

 

 

「メラゾー……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 

メラゾーマで父上のメラに対抗しようとしたが、先に着弾したメラが炎の渦となり俺の身を焼いた。

 

 

「ぐうっ……うりゃあっ!」

「ほう、闘気で炎をかき消したか。だが、それで次はどうする?」

 

 

魔法力じゃ対抗できないから、闘気を両手に纏わせて炎の渦を振り払う。ヤバい、キツい……父上からの指摘通り息が上がってるし、反撃の糸口が見付からない。このままじゃ……すると、目の前が明るくなった。思わず顔を上げたら、火の鳥と目があった。

 

 

「これが余のメラゾーマ……カイザーフェニックスだ」

「ちょ、待っ……」

 

 

父上の右手から炎が溢れ、鳥の形を象った炎が羽ばたいている。即座にそれが何なのか察した俺は、冷や汗が止まらなかった。一撃一撃が必殺技の領域の大魔王バーンが、自ら必殺技と呼んだ呪文の一つが目の前で展開されているのだ。感動よりも恐怖が勝った。

 

 

「防いでみせよ」

 

 

そう言って放たれたカイザーフェニックス。どうする……避けるか?いや、逃げ切れない。防ぐか?いや、魔法を弾くヒュンケルの鎧ですら防げなかったカイザーフェニックスを防ぐ事は不可能だ。切り裂くか?何発か食らってコツを掴んだポップと違って一発目のカイザーフェニックスを指先で引き裂くとか無理過ぎる。

魔法で打ち返すのは実質不可能だ。ラグナ・スレイブは時間が掛かりすぎる。マホカンタ、フバーハはまだ使えない。

 

 

「だったら……これだ!」

 

 

俺は咄嗟に闘気を高める。高めた闘気を右手に集中させる。右手に集中させた闘気を掌から放つ。

 

 

「ほう……光の闘気か。ミストバーンから聞いてはいたが、魔の力を持つ者が光の闘気を操るとは興味深い」

「ぐぎぎ……」

 

 

放った闘気波はカイザーフェニックスと僅かに拮抗するが、徐々に追い詰められそうになっていく。俺は必死だってのに父上は呑気に解説してるのが腹立たしい。

 

 

「余のカイザーフェニックスに僅かにでも拮抗したのは見事だが、それまでだ」

「舐めん……なぁっ!」

 

 

カイザーフェニックスが俺の目の前まで迫ってきた。俺は父上に対して……いや、今までの怒りを込めて左手に闘気を集中してカイザーフェニックスを殴り飛ばした……のだが、直後に頭に衝撃が走り、俺の意識は落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇sideバーン◆◇

 

 

 

「まったく……予想がつかんな、我が娘は」

 

 

目の前で気絶して、地に伏しているイーリスに溜め息を吐く。余がイーリスの鍛練をするようになってから二日。避けてばかりだったイーリスを今回は避けきれない様に追い詰めた。すると、イーリスは魔法よりも闘気を選択し、余の放ったカイザーフェニックスを受け止めた。イーリスの放った闘気は魔族が扱う事が出来ない光の闘気だった。

イーリスが光の闘気を扱ったのにも驚いたが、その後も驚かされた。なんとイーリスは、左手で暗黒闘気を使用したのだ。光の闘気と暗黒闘気は相反する闘気で、同時に扱えた者は長い歴史の中で皆無だ。それを未熟な余の娘が無意識とは言えど、両方を同時に扱ったのだ。

右手で光の闘気、左手で暗黒闘気を展開させるなど、当代の竜の騎士バランは勿論、余ですら不可能だ。

イーリスは追い詰められ、強敵と戦う事で爆発的に強さを増していくタイプだ。故に、手加減をしたとは言ってもカイザーフェニックスを放った。そしてイーリスは、余の期待通りにカイザーフェニックスを弾くまでの実力にはなった。

 

もしも、イーリスが自分の意思で完璧に光の闘気と暗黒闘気を操れる様になれば……いや、まだ先の話になるだろう。

暗黒闘気を纏わせた拳でカイザーフェニックスを殴り飛ばしたイーリスだったが、弾いたカイザーフェニックスが壁を破壊し、降ってきた瓦礫で頭を打って気絶し、余の目の前で倒れ眠る未熟な娘に、期待と一抹の不安を抱くのだった。

 

 

気絶したイーリスを寝室に運ぼうとしたら、ハドラーが手傷を負わされた次代の勇者ダイを、クロコダインに始末させる手筈だと報告が上がった。



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いざ、ロモス城へ

 

 

 

鍛練なのか、はたまた子供の虐待なのか、父上から雨霰と放たれるイオラを避けながら俺は、両手に留めた光の闘気でイオラを弾きながら父上に接近する。拳で殴れる範囲まで近付いたら、殴り掛かると見せ掛けて体を前宙させ、あびせ蹴りを放つ。父上はそれを避けずに片手で受け止めた。俺は受け止められた右脚を足場に体を捻り、左脚で父上の顔面に蹴りを叩き込もうとした。しかし、父上はそれを避ける事もせず、掴んだ右脚を捻り上げ、俺の体を浮かせた。その為、左脚の蹴りは宙を切り、俺はそのまま地面に叩きつけられる。

 

 

「痛っだぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「まだまだ未熟。だが、並の相手なら通用するであろうな」

 

 

咄嗟に頭を守ったが、背中を強打した……めっちゃ痛い。

 

 

「だが、並では困る。アバンの後を継いだと言う勇者ダイとやらの事もある。六団長並の……いや、さらなる強さをもって貰わねばな」

 

 

痛みに悶絶する俺を差し置いて、話を続ける父上。そういや、アバンとハドラーの戦いがあったなら、そろそろダイVSクロコダインが始まる頃か。

 

 

「だが、その心配も無いだろうがな。ハドラーからの報告では、ロモスに向かった勇者ダイをクロコダインに始末させると言っていた。クロコダインならば討ち漏らしはあるまい」

「………え」

 

 

父上の言葉に固まってしまう。俺が父上にしごかれてる間に、原作が思った以上に進んでる……

思えば、この後のクロコダインは、片目を失うわ、ザボエラに唆されるわ、敗北するわ……でも、それらを通過しなくてはダイの仲間にならないのだ。どうしよう……最近、父上との特訓に忙しくてすっかり失念していた。

 

 

「どうした、イーリス」

「あ、いえ……クロコダインと勇者の戦いはどうなるのか、気になりまして……」

 

 

父上の質問に、冷や汗を流しながら答える。まさか『クロコダインが敗れる未来を知っています』なんて言えないし。

 

 

「クロコダイン程の強さならば、人間なんぞには負けんだろう」

 

 

それが負けるんだよなぁ……しかも、ザボエラの卑怯な戦略を使った上に、最後は単純なパワーでも負けてるし。父上はクロコダインの強さを信じてるんだろうけど、フラグにしか聞こえない。

 

 

「あー……父上。どうせなら戦いの見学に行っても良いでしょうか?今後の参考の為にも」

「ふむ、まあ良かろう。だが、そなたの姿は見られぬように気を使え。他にもミストバーンを補佐に付ける」

 

 

俺の提案を飲んでくれた父上だけど、過保護だっての。

 

 

「だ、大丈夫ですって父上。ゲレゲレと一緒に行きますし、最悪戦闘になっても、クロコダインが近くに居るなら安全でしょうから」

「………良かろう。存分に励むが良い」

 

 

父上から許可を貰ったのでロモスに行く事に。途中まではルーラで行って、途中からゲレゲレの背に乗ってバレない様にロモス城まで行こうっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇side大魔王バーン◆◇

 

 

 

余はクロコダインの戦いを見学に行くと言うイーリスを見送った後にミストバーンを呼んだ。

 

 

「ミストバーンよ。イーリスに悟られぬ様に後をつけよ。戦闘になったら手を貸すのだ」

「………御意」

 

 

余の言葉に頷いたミストバーンはイーリスの後を追っていった。奴もイーリスを気に掛けている様だな。



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ロモス城での戦い

 

 

 

ルーラで魔の森に到着。ゲレゲレも久し振りの生まれ故郷が嬉しいのか興奮気味だ。

 

 

「しかし……妙だな」

 

 

森が静かすぎる気がする。前に来た時はそこら中から魔物の気配がしたのに、今は不気味なくらいに静かだ。

 

 

「まさか、もうダイと一度目の戦いは終わったのか?だとすれば……ゲレゲレ!」

「ギャウ!」

 

 

嫌な予感がした俺はゲレゲレに跨がると走らせた。目指すのはクロコダインの塒だ。もしも、クロコダインが居なければ既にロモス城へ行っている可能性が高い。

 

 

「……思い過ごしであって欲しかった……」

 

 

以前、訪問したクロコダインの居城はもぬけの殻だった。部屋の一部が殴ったような跡があったので相当荒れているのが分かる。これは間違いないな……クロコダインはダイと戦って片目を失っている。そして怒りに駆られたクロコダインはロモス城を攻めている筈だ。

 

 

「まいったなぁ……」

 

 

俺は天を仰いで自分の考えの浅はかさを呪った。父上との修行で日数の感覚が麻痺してたのもあるが、確認を怠った結果、原作スルーをしてしまった。今の現状を見るにクロコダインとダイの一戦目が終わって数日が経過している。

俺は報告が上がったら様子を見に行こうと考えていたが、そもそもクロコダインは武人の恥を晒したくないとダイとの一戦目をハドラーにすら報告していなかった。そこをザボエラに唆された。出来る事ならそれは防ぎたかったが状況を見るに明らかに手遅れだ。

 

 

「仕方ない……ロモス城に行くか」

 

 

俺は過ぎてしまった事は仕方がないと割りきってロモス城に行く事にした。まあ、そもそも原作知識があったとしても自分の思いどおりに出来るなんて思い上がりでしかないよな。

 

俺は急いでロモス城へと行く事にした。父上との約束もあるので黒のマントを身に纏い、フードで顔を隠す。取り敢えずはこれで充分だろう。

俺はルーラでロモス城の近くまで飛ぶ。城下町の様子を見ながら城を目指した。

 

城下町では城の兵士達が魔物相手に奮闘していた。良い勝負をしている者も居れば、敗北する者、武器を捨て逃げ出す者もいた。

 

 

「父上やハドラーが人間を下に見るのも分かるよなぁ……」

 

 

民衆と共に逃げ出す兵士達に呆れながらも俺は城を目指す。そんな中、少しだけ見知った顔を見つけた。

 

 

「お、おい……早く逃げようぜ!」

「で、でもよぉ……」

「我が身が一番可愛いわよ!」

 

 

偽勇者のでろりん、へろへろ、ずるぼんの三人が揃っていた。手にした袋には盗んだと思われる金品などが入っているのだろう。明らかに重そうな物を持ってるし、奴等はそんな金を持っていない筈だ。非常時の盗みは重罪だってのに……

 

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「お、女の子がモンスターに襲われてる……」

「ど、どうしよう!?」

「ど、どうするも何も……」

 

 

そんな時だった。モンスターに襲われ始めた女の子が悲鳴を上げたのだ。へろへろ、ずるぼん、でろりんの順にコメントを溢し、最後にでろりんは覚悟を決めた様な表情になった。お、助けに入る決意をしたのか?

 

 

「あの女の子が襲われてる隙に逃げ出そ……へぶっ!?」

「努力しろよ、もう少し」

 

 

でろりんが覚悟を決めた顔で最低な発言をしたので回し蹴りで顔面を蹴り上げた。その衝撃でへろへろとずるぼんを纏めてぶっ飛ばした。ったく、ギャグ漫画なら許されるがシリアスなら絶対に許されないっての。

偽勇者達のオシオキを済ませた俺は素早く女の子を庇うように立ち、魔物を睨み付ける。

 

 

「………失せろ」

「………ぐるぅ」

 

 

ギロッと睨み付けると魔物は怯んだ。そしてすごすごと去っていく。

 

 

「あ、あの……ありがとう……」

「さっさと逃げな。行くぞ、ゲレゲレ」

 

 

ポンと女の子の頭を撫でた後に俺はゲレゲレに股がり、ロモス城へ走らせた。颯爽と城下町を走り抜け、城門に到着。大型の魔物に襲撃された為に城門は見事に破壊されていた。城の中の魔物の対処に追われているのか、門に兵士は居なかったので、すんなりと潜り込めた。さて、クロコダインとダイは玉座の間に居るだろうから……

 

 

「アバンストラッシュ!」

「グオァァァァァァァァァッ!?」

「え、マジか!?」

 

 

叫び声に俺は空を見上げる。そこには崩れた城壁から見えるクロコダインの姿。ああ、完全に出遅れた……これもう、終盤じゃん。

クロコダインとダイの会話は聞こえないが、クロコダインが己の精神的な弱さを嘆き、勇者ダイを認めている様が繰り広げられてるのだろう。

 

 

「然らばだ、勇者は常に強くあれ………グォォォォォォォォォォォォッ!!」

 

 

クロコダインは飛び降り、地面に叩きつけられながら叫び声を上げる。その断末魔に城と城下町を襲っていた魔物達に伝わった。その結果、魔物達は魔の森へと逃げ帰っていった。

 

 

「やれやれ……俺もクロコダインを連れて引き上げるか」

 

 

俺、今回は何も出来なかったなぁ。そんな事を思いながらクロコダインを回収しようかと思ったら城の兵士達が走ってきた。

 

 

「コイツが魔王軍の幹部か!」

「死んでるんだろ、俺達も槍を刺しちまおうぜっ!」

「勇者様が倒したんだから、もう安心だよな」

「なんなら、俺達の手柄にしちまうか!」

 

「コイツら……」

 

 

その会話を聞いた瞬間、俺の頭は沸騰した。敗れたとは言えど相手を汚すような行為を平然としようとしている人間達に憎しみの感情が沸き立つ。

 

 

「消えろっ!」

「な、なんだ貴様っ!?」

「まだ魔族が居たのかっ!?」

「ギャァァァァァァッ!?」

 

 

俺はクロコダインを囲っていた兵士達をイオラで吹き飛ばす。俺は心の中にある、黒い感情をなんとか抑えながら俺は空を見上げた。

 

 

「ガルーダ、来いっ!」

「クワァァァァァァァッ!」

 

 

上空に待機していたガルーダを呼び寄せてクロコダインを運ばせた。魔の森に運ばせて応急処置してから鬼岩城で本格治療だな。ふと、見上げれば穴の空いた城壁から俺を見下ろしている黒髪の少年ダイと目があった。

黒のマントにフードで顔は見られていないだろうけど目があった。そんな気がした。

俺はゲレゲレを連れてルーラでその場を後にした。魔の森のクロコダインの居城へ行き、ホイミや回復系の特技を持つ魔物が全力でクロコダインの回復をしていた。

 

そして何故か、ミストバーンとアイナさんが待機していた。周囲の魔物とか萎縮してるよ、なんで居るんだよ。

 

 

「ミストバーンからの要請でして。クロコダイン様の応急処置が済み次第、鬼岩城へと輸送します」

「手際が良すぎて怖いんですが」

 

まるで俺の行動を全部見てたみたいな手際なんだけど。テキパキと応急処置を済ませたアイナさんはクロコダインを担いで外へと歩いていく。巨漢のリザードマンを担ぐ、メイドさんって絵面が凄いなぁ。

 

 

「………見ただろう、イーリス。あれが人間だ」

「………っ」

 

 

アイナさんの後を追ったミストバーンがすれ違いざまに俺に告げた。

人間が綺麗な所ばかりじゃないのは理解してる。元々人間だった俺はそれを痛い程に分かっている……分かっていた筈なのに。

 

 

今回の出来事は俺の心に黒い影を落としていた。

 



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クロコダイン敗北からのヒュンケルの戦いへ

 

「胴体真っ二つ……じゃないだけマシなんだろうな……」

 

 

ロモス城での戦いから数日。鬼岩城に戻り、蘇生液のポッドに浸かっているクロコダインは腹の辺りから凄まじい傷痕が残っていた。ミザルさんや他の科学者魔族から「蘇生できるかは確率半々と言った所です」等と言われている。

 

 

「おや、魔軍司令補佐殿はお早い……いや、お部屋が鬼岩城にあるのでしたな。キーッヒッヒッ」

 

 

蘇生液のポッドの前で胡座をかきながら座っていた俺の背後に耳障りな声が聞こえた。

 

 

「イーリス様はクロコダインがご心配の様ですな」

「こんな怪我してりゃ心配にもならぁな」

 

 

振り返ると予想通り居たのはザボエラだった。クロコダインが敗れた事でハドラーから緊急召集が掛かったのだ。

 

 

「なんだ、来てたのかよジジィ」

「フレイザードか。もう来たのか。流石は魔王軍の切り込み隊長じゃ」

「よぅ、フレイザード」

 

 

ザボエラと簡単な挨拶を交わしていたらフレイザードが来ていた。担当してる地域から鬼岩城まで距離があるのに早いな、おい。フレイザードはルーラは使えないのに到着が早いってのは凄いわ。

 

 

「クロコダインがここまでやられるとはな……クロコダインの肉体は生半可な刃は通さない。それを打ち抜くとは相手は常識を超えた力の持ち主って事か……」

「見ただけで、ここまで解析できるとは流石じゃのフレイザード。炎の荒ぶりと氷の冷静を待ち合わせるだけの事はあるわい」

 

 

そうなんだよなぁ。フレイザードは強いのに慢心とか栄光への執着でダイに負けるから勿体ない。ダイと戦う時も冷静さを失わなければ勝てるだろう。その辺りは俺がフォローするしかないな。

 

 

「お揃いの様だな」

「バランさん」

「バラン殿……いらしていたのですか」

「竜騎将バランか。アンタも不運だったな。リンガイアまで行ったのに、Uターンとはよ」

 

 

クロコダインの蘇生液の前で俺達が話をしていると背後から話しかけられる。振り返ると其処にはバランさんが立っていた。

 

 

「心配には及ばん。リンガイアならもう潰してきた。行くぞ、イーリス。魔軍司令殿がお待ちだ」

「あ、はい」

「強固な軍隊と猛者揃いのリンガイアをもう滅ぼしたってのかよ……」

 

 

バランさんは俺の肩をポンと叩くと俺達を会議室へと誘う。あ、フレイザードが悔しそうにしてる。もしかして、フレイザードが功を焦ったのってこれも原因の一つか?そんな事を思いながら俺はバランさんを追って会議室へと急いだ。

 

 

会議室に行くとハドラーが会議室の大きい椅子に座っていた。パワーアップして自信があるのだろう。ドヤ顔で出迎えて来たのが印象的だった。

ここから先は基本的には原作通りだった。父上からの指示で勇者一行の殲滅は、この場に居ないヒュンケルが担当となった。フレイザードがその事に怒りを露わにしてる。バン!っとテーブルに手を着いたフレイザード。ジュゥゥゥッとテーブルが焦げていく。おいおい、熱いっての。

 

 

「落ち着け、フレイザード。暑くて敵わん」

「これが落ち着いていられるか!そもそも俺はあの若造が俺達と同格の幹部ってのが気に食わなかったんだ!」

 

 

バランさんの言葉に更に半身を燃え上がらせるフレイザード。それを言ったら俺もお前も誕生してからの期間はヒュンケルよりも短いんだけどな。

 

 

「お前の怒りも尤もだフレイザード。だが、これは我等が大魔王バーン様の決めた事だ」

「それもどうせ、ヒュンケルの野郎が申し出たに決まってますぜ!」

「クククッ……フッフッフッ」

 

 

ハドラーやフレイザードの言葉を遮る様にミストバーンの笑い声が会議室に響き渡る。この頃のミストバーンは数十年に一度しか喋らない男と言う設定だったから皆は喋った事に驚いている。俺はもう結構会話してるから、そんな意識は薄れていたが。

 

 

「大魔王様のお言葉は全てに優先する」

「その通りだ。我等はそれに従う以外の選択肢はない」

 

 

ミストバーンの発言にハドラーが同意する。父上の決めた事に異を唱えるなんて魔王軍の魔族なら出来ないわな。そんなこんなで勇者一行の討伐はヒュンケルに決まった。フレイザードはまだブツブツと文句を言っていたし、ザボエラも気に食わないって顔をしていた。バランさんは「ヒュンケルならば問題はあるまい」とさっさと鬼岩城から出て行ってしまった。ミストバーンはいつもの様にフッと姿を消す。

 

 

「やれやれ……俺はどうするかな」

「イーリス、これから地底魔城に行くから同伴しろ」

 

 

俺は今回、どうしようかと悩んでいるとハドラーから地底魔城行きのお誘いを受けた。そのポジションってザボエラじゃなかったっけ?俺が行ってもどうにもならん気がするのだが……

 



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地底魔城で上司と部下の諍いを見る

 

 

 

 

ハドラーの付き添いで、やってきました地底魔城。アークデーモン数体もセットで来たのだが、俺はゲレゲレだけを連れていた。

 

 

「地底魔城か……久しぶりだな」

「この間は直ぐに帰ったからね。でも、来ることはヒュンケルに連絡してないんだろ?」

 

 

いきなりの訪問って印象悪い気がするんだけど。

 

 

「ダイ討伐の為だ。それに戦地と部下の視察は必要であろう?」

 

 

ドヤ顔のハドラーだが、抜き打ちの視察ってやられる側はキツいんだよ。鬼岩城に父上の視察が来たらどんなリアクションするか見てみたいわ。

 

 

「ハ、ハドラー様、イーリス様!先程、使い魔から緊急連絡が届きました!クロコダイン様が蘇生の水槽から姿を消したと報告が!」

「なんだと?クロコダインめ、ダイの後を追ったか?」

「目が覚めてから、いきなりリベンジってか?そりゃ無いとは思うけど」

 

 

アークデーモンの一体が慌てて報告に走ってくる。そういや、クロコダインってダイとヒュンケルの戦いに割り込みに来たんだっけ。取り敢えず知らないフリをしたけど、マズいかなぁ。そんな事を思いながらハドラーと地底魔城を進んでいく。嘗ての居城だけあってズンズンと先を行くハドラー。

 

 

「おやおや、魔軍司令殿と魔軍司令補佐殿が揃って来ていただけるとは光栄ですな」

「ぬ……ヒュンケル」

「悪いね、急な視察みたいなもんだわ」

 

 

ハドラーと揃って地底魔城の中を歩いていると悪い笑みを浮かべているヒュンケルが現れた。この時点でヒュンケルは一度、ダイとポップを圧倒してマァムを人質にしてるんだったっけ?後、クロコダインも居る筈だが。

 

 

「視察ですか……」

「うむ、ダイ討伐の担当はヒュンケルに任命されたが心配でな」

「ハドラーはダイと戦ってるから身を以ってダイの強さを実感してるから心配だったんだよ。クロコダインも負けちまったしな」

 

 

ヒュンケルの問いにハドラーと俺は返答をした。するとヒュンケルは鼻を鳴らす。

 

 

「一度、剣を交えましたが問題にはならない相手です。次は仕留めてみせましょう」

「戦力的にはそうだろう。だが貴様は人間。しかもアバンの弟子だ。くだらん情に流されて、あらぬ結果になるのではとフレイザードが煩くてな」

「中間管理職の悲しい実態だよなぁ。上からの叱責と下からの突き上げ」

 

 

ヒュンケルとハドラーの会話に口を挟んだらハドラーから睨まれた。でも、実際ツラい立場だよなぁハドラー。

 

 

「ふん、バカ将軍なぞ吠えさせておけば良いでしょう。よろしいか、私の任務は大魔王バーン様からの勅命。したがって何者にも口出し無用!」

「……そうか、わかった。では最後に聞きたい。クロコダインがこの国に来なかったか?完治する前に蘇生液の水槽から出て行ってしまったのだ。もしやダイ達を追って、この国に来たのではと思ってな」

 

 

ヒュンケルの叫びにハドラーはこれ以上の問答は無駄だと判断したのかヒュンケルに背を向けて最後の問いを投げ掛ける。

 

 

「いや、知りませんな。どうせなら地底魔城の見物でもされては如何ですかな?強者どもが夢の跡をね」

「ちっ……知らぬのなら良い」

「この間はキラーマシンの回収だけだったから俺は見物していこうかな」

 

 

ヒュンケルの嫌味に舌打ちをしたハドラー。俺は我関せずで地底魔城の見物を考えていた。ヒュンケルが居なくなったのを確認してからアークデーモン達が不満を口にする。

 

 

「おのれ、ハドラー様に不遜な態度を!」

「人間の分際で!」

「吠えるな。ヒュンケルがダイを倒せれば、それで良い。負けたなら、それを理由に処罰してくれる」

 

 

アークデーモン達の不満を押さえつけるハドラー。アークデーモン達からしてみれば人間の分際で魔軍司令のハドラーや魔族に逆らうのが許せないんだろうな。まあ……俺から見ても、あの態度は頂けないんだよなぁ。初期のヒュンケルって本当に捻くれ者だ。

 

 

「まあ、良い……鬼岩城に戻るぞ」

「俺はちょっと地底魔城を見物していくわ」

 

 

帰ると言うハドラーに俺は地底魔城見学を考えていた。今、地底魔城にはマァムが捕らえられてる筈だ。原作でも好きなキャラだったし、ちょっと見ておきたいんだよね。

 

 

「そうか、この地底魔城なら心配は無いが、貴様が帰らぬとアイナが煩くて敵わん。アークデーモンにも貴様の護衛を……」

「色々と過剰だって。護衛ならゲレゲレも居るし、少し見学したら戻るから心配ないって」

 

 

俺が地底魔城に残ると告げるとハドラーはアークデーモン達に俺の護衛をさせようとする。父上から俺を預かってるとは言っても過保護にも程がある。

 

 

「ならば今日中には帰って来い。あまり遅くならん様にしろ」

「はいはいっと」

 

 

ハドラーは溜息混じりに俺の地底魔城見学を容認するとアークデーモン達を引き連れて帰って行った。なんか親戚の子を預かった叔父さんみたいな感じに見えた。

 

 

「さぁて、地底魔城見学ツアーと洒落込みますか」

「ガゥッ」

 

 

俺はゲレゲレの頭を一撫でしてから地底魔城を見学する事にした。マァムを見るのも楽しみだしね。

 



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マァムとの出会い

 

 

 

 

◆◇sideマァム◇◆

 

 

不死騎団団長ヒュンケルとの戦いに敗れた私達だがダイとポップはクロコダインの助力もあり、戦場から逃げる事が出来たけど私は魔王軍に捕えられてしまった。手を縛られて身動きが取れない状態じゃ逃げ出す事は難しそうね。

 

 

「開けろ」

「っ……ヒュンケル!」

 

 

監視役のガイコツに扉を開けさせるとヒュンケルが牢屋に入ってくる。

 

 

「心配するな。お前はダイを誘き出す為の囮だ。事が済んだら逃がしてやる」

「こ、殺さないの?」

 

 

ヒュンケルの意外な言葉に私は聞き返してしまう。

 

 

「例え敵でも女は殺すな。武人の鑑であった父の言葉だ」

「お父さんを尊敬していたのね」

 

 

ヒュンケルは旧魔王軍の幹部であったバルトスと言うモンスターの教えから女性には手を上げないと言う騎士道を持ち合わせていた。

 

 

「お父さんを尊敬していたのね……そのお父さんの命を奪ったアバン先生を……正義を恨むのね?」

「そうだ、正義だとか平和のお題目の為だと俺の父を殺したアバンを許せる筈が無かろう!」

 

 

ヒュンケルは私の言葉に怒りを露わにして叫ぶ。ヒュンケルの心は怒りで支配されている。でも、それ以上の感情に私は気がつけば涙を流していた。

 

 

「ヒュンケル……可哀想な人。お父さんを失った悲しみから他人の所為にしないと生きていけないのね。でも、正義を憎むのは間違っているわ!だって貴方のお父さんは魔王軍の中にいても正しく武人だったんでしょう!?こんな事をしてもお父さんは生き返らないし、こんな事を望んではいないわ!」

「黙れっ!」

 

 

私の言葉に怒ったヒュンケルは私の胸ぐらを掴み、ビンタをしようと振りかぶっていた。殴られる、そう思った私は目を閉じて痛みに耐えようとした。でも、いつまで経過してもヒュンケルからのビンタは来なかった。私が目を開けるとヒュンケルの腕に何かが巻き付き、私の頬に当たる寸前のビンタを止めていた。

 

 

「ダメじゃないかヒュンケル。紳士なら女の子に乱暴しちゃいかんよ」

 

 

ヒュンケルの背後。牢屋の入り口に立っている女の子が面白そうな物を見つけた様な表情で私とヒュンケルを見ていた。

 

 

「イーリス……貴様、何故まだ地底魔城に居る……」

「さっきヒュンケルが言ったんじゃん。見物でもしていったらどうだってさ」

 

 

ヒュンケルが女の子を睨みながら私の胸ぐらから手を離す。女の子の名前はイーリスと言うらしい。でも、なんで地底魔城に女の子が?それに、よく見たらイーリスから生えている尻尾がヒュンケルの腕を絡めて動きを止めていた。頭には角も生えてるし、もしかしてこの子は魔族!?

 

 

「心配しなくてもハドラーは帰ったよ。俺は地底魔城の見学でウロウロしていただけさ。そしたらバイオレンスな状況に驚かされたよ」

「貴様には関係ないだろう」

 

 

イーリスはヒュンケルの腕に絡めていた尻尾を解くと私の方に向き合う。

 

 

「ふーん、勇者一行の僧侶さんか。可愛いね、ヒュンケルが夢中になるのもわかるわ。名前、聞いても良い?」

「へ?あ、あの……」

「さっさと帰れ。さっきも言ったが勇者討伐の任務は俺の担当だ。余計な口出しをするな」

 

 

イーリスが膝を曲げ、私の顔を覗き込む様に見てくる。ニヤニヤと面白そうに私を眺めるイーリスの尻尾をヒュンケルが掴んで引き剥がそうとしている。魔族らしさが無いイーリスに私は毒気を抜かれた気分になってしまう。

 

 

「ヒュンケルが勇者一行の討伐をするなら勇者と話せる機会はこれが最後だろ?だったら少しでも話が出来るならしておきたいんだよ」

「コイツはダイを始末したら逃すつもりだ。わかったら帰れ」

 

 

ヒュンケルは私とイーリスが触れ合う事を望んでいないのか早く居なくなる様に促している。イーリスはチラリと部屋の片隅に視線を移していた。視線の先は……通気口?薄暗くて意識してなかったけど、あの隙間からなら私なら通れるかも知れない。でも、ヒュンケルや監視の目があるんじゃ抜け出すのはむりね。

 

 

「やれやれ、仕方ないな。それじゃあね、マァム」

「う、うん……」

 

 

ヒュンケルに言われて諦めたのか牢屋から出て行くイーリス。あれ?私、イーリスに名前を教えてないのに、なんでイーリスは私の名前を呼べたの?ヒュンケルもイーリスと一緒に出て行ってしまったので私の疑問に答えてくれる人は誰も居なくなってしまった。でも、ヒュンケルも出て行ったのなら逃げ出すチャンスだわ。早く、ダイとポップと合流しなくっちゃ!

 

 

 

◆◇sideマァム•end◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僧侶の服を着たマァム可愛かったなぁ……武道着の姿も好きだけど僧侶の頃のも好きだったから見れて嬉しいわ。ヒュンケルがマァムに平手打ちしそうだったから思わず止めて、原作の展開をちょっと変えちゃった気もするけど誤差の範囲内だろう……多分。

それと牢屋の隅の隙間、あれは通気口だったな。多分、あの隙間を壊せば宝箱のある隠し部屋に行けるんだろう。違ったとしても原作通りならマァムが魂の貝殻だったっけ?あのアイテムを見つける筈だ。まあ、違ってたら俺が「地底魔城見学の時に見付けた」とか言って渡せば良いだろうし。

 

 

「いい加減、帰ったらどうだイーリス。先程の皮肉をそのまま受け取られたのは驚いたが邪魔だから、もう帰れ」

「痛っ!?」

 

 

考え事をしながらヒュンケルの前を歩いていたら尻尾を力強く握られた。この尻尾は割とデリケートだから痛いんだよ!

 

 

「はいはいっと。団長様の邪魔をするのは本意じゃ無いから帰らせて貰うよ」

「ふん……お前はもう来るな。バーン様のご息女なら戦場に来る必要もないだろう」

 

 

尻尾を掴んでいたヒュンケルの手を払いのけ、帰ろうとするとヒュンケルから後ろから声を掛けられた。ヒュンケルなりの気遣いなんだろうけど……今のお前の考え方は色々と矛盾してるんだよ?

 

 

「ヒュンケル……聞いておきたいんだけど、お前はアバンを、そして正義を憎んでいるんだよな?」

「さっきの会話を聞いていたな?ああ、それがどうした」

 

 

騎士道だなんだと言うけど、その矛盾に自ら気付かない段階で……いや、気付かないフリをしているだけなんだろうけど。

 

 

「アバンが死んだら、その弟子を憎む。そこまでは良いけど、その後はどうするんだ?お前がダイを倒したら後は魔王軍の天下だ。そしたらお前の憎む対象は何処へ行く?バルトスを死なせる原因となったアバンに敗北したハドラーか?それとも人間達を継続して憎むか?女には手を掛けないと言うけど魔王軍は人間を滅ぼすぜ。子供だろうが女だろうが……な」

「そ、それは……」

 

 

やっぱりな。俺の問いに即答出来ない辺り、ヒュンケルはその事を考えなかった。いや、考える事を避けていたと言うべきか。今までのヒュンケルはアバンやハドラーを憎む心を持ち続けて成り立っている。その本懐を遂げてしまえば人間を憎む心は消えるだろう。原作を読んでいた頃から思っていた事だ。仮にヒュンケルがダイに勝ったとしても、いずれは自分の行いを恥じて魔王軍の敵となるだろうと。物語後半で父上もヒュンケルはアバンの事を憎み切れておらず、正義の心が奥底に眠っていた、と。今はバルトスの事があるから人間の敵となっているが、それが無くなればヒュンケルもアバンの弟子として戦場に舞い戻るだろう。でも、今この場でそうはならないだろうけどな。

 

 

「ま、その辺りはダイ討伐が済んでから聞かせてもらうよ。帰るぞゲレゲレ」

「ガゥッ」

 

 

俺はガイコツの骨を齧っていたゲレゲレに声を掛けて地底魔城を後にした。もう来るなとは言われたけど次に来るのはヒュンケルがダイに敗れてからだから割と直ぐに来る事になるな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれ?俺はマァムとヒュンケルに何を言おうと思ってたんだっけ?なんか最近、思考が定まらない時がある……疲れてるのかな、俺。

 



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マグマ海水浴を見物

 

 

 

◆◇sideダイ◆◇

 

 

ヒュンケルに捕まったマァムを助け出す為に俺とポップは打倒ヒュンケルの特訓を積み、地底魔城へと来ていた。嘗てのハドラーの居城だった場所にはガイコツやマミーみたいなアンデット系モンスターが徘徊していて、俺達は地底魔城の闘技場に誘導されてヒュンケルと対峙する。

 

ポップと打ち合わせた通り、ポップが雨雲を呼び、俺がライデインでヒュンケルに雷を落とす。作戦は上手くいったけどヒュンケルはそれでも倒せなかった。ライデイン一発ではヒュンケルはダメージは負ったものの倒すまでには至らなかった。

その後の事はよく覚えていない。俺はヒュンケルに剣で戦いを挑んだけど負けてしまった。意識が朦朧とする中で「剣でも呪文でも勝てない。ならばどうすれば……」

 

 

「俺の……負けだ」

 

ハッとした時にはヒュンケルが敗北宣言をしていた。纏っていた魔鎧も粉々に砕けていて、何が起きたのかわからないままだった。マァムは倒れているヒュンケルに膝枕をしながらアバン先生の卒業の印を手渡していた。

 

「ヒャハッハッハッ!負けた挙句、女の膝枕たぁ、良い御身分だなヒュンケル!」

「うーん、柔らかそうだし羨ましいけどな。フレイザードを膝枕したら火傷か霜焼けが確定だからしてやれないぞ」

 

 

勝利の余韻に浸る間もなく、闘技場の座席から声がかかる。

そこにいたのは体の半分が氷で、もう半分が炎となっているモンスターと金髪の髪が綺麗な女の子だった。二人の姿を見たヒュンケルは半死半生の体を無理やり起こす。

 

 

「くっ…何の用だ!氷炎将軍フレイザード!魔軍司令補佐イーリス!」

「え、あの子は魔王軍で、そんなに偉い立場の魔族だったの!?」

 

ヒュンケルがモンスターと女の子の名前を叫び、マァムも女の子の事を知っていたのか凄く驚いていた。

 

 

「何の用って……様子を見に来たに決まってんだろ。勇者一行の討伐を果たしたヒュンケルへの祝辞なんて思ってたんだけど」

「デカい口を叩いた割にはお涙頂戴の状況に笑わせて貰ったぜ」

 

 

イーリスは溜息混じりに、フレイザードはニヤニヤと楽しそうに言う。

 

 

「なあ、ヒュンケル。昨日、俺が聞いた事を答えられるかい?これからも魔王軍の為に戦える?」

「くっ……」

「ふざけないで!もうヒュンケルは魔王軍には……」

「やめときな、イーリス。あの野郎にゃもう戦う気なんざないだろうよ。勇者に負けた不名誉は俺が無かった事にしてやらぁ!」

 

 

イーリスの問いにヒュンケルは苦々しく顔を背けた。マァムはイーリスの問い掛けを拒もうとしたがフレイザードがそれを遮る様に叫ぶと半身の炎が燃え盛る。そしてフレイザードは片腕を振り被ると闘技場に炎を打ち込んだ。

 

 

「な、何をしたフレイザード!」

「ここらの死火山に活を入れてやったのよ!これからここらはマグマの海になるだろうよ!ハドラー様には勇者と相打ちって報告してやるよ!」

「どちらにせよ、魔王軍に戻れば今までの不敬で処罰される可能性の方が高いだろうよ。今のアバンの弟子達のやりとりを見れば尚更な」

「くそ、可愛い顔してフレイザードと同じ考えかよ、あの子!」

 

 

叫ぶヒュンケルに笑い飛ばすフレイザードと何処か達観したかの様な物言いのイーリス。ポップの言い分は少しズレてる気もするけど。

 

 

「おのれ、フレイザード!」

「おっと、歓迎されてないみてぇだな。それじゃ精々、マグマの海水浴を楽しんでくれや」

「……」

 

 

ヒュンケルが魔剣を投擲するけど座席に突き刺さっただけでフレイザードとイーリスには当たらない。フレイザードがその場を翻し帰ろうとする。イーリスは何故かチラリと俺を見てから何も言わずにフレイザードと共に立ち去って行った。何故だろう、イーリスを見てから何か俺の心がザワザワと騒ぐ様な感覚になっていた。

 

 

「おおぃ!ボウっとしてんなダイ!」

「マグマが押し寄せて来てる!」

 

 

ポップとマァムの叫びにハッとなる。気が付けばフレイザードによって引き起こされたマグマが湧き上がって闘技場の端に溜まって来ていた。

この後、俺達はヒュンケルがその身を犠牲にして助けてくれた。ヒュンケルは大岩に俺達を乗せると剛力で観客席まで投げ飛ばした。その場から動けなくなったヒュンケルは最後に俺達に笑みを残しながらマグマの渦に飲まれて行った。マァムが泣き叫びながらヒュンケルの名を呼び続けた。

 

 

 

 

◆◇sideダイend◆◇

 

 

 

フレイザードに誘われてヒュンケルとダイの戦いを見に来たけど凄まじいの一言に尽きた。俺とフレイザードが到着したと同時に見た光景はヒュンケルがダイのライデイン+アバンストラッシュの合わせ技のライデインストラッシュを浴びて敗北した所だった。

 

 

「カカカッ……ヒュンケルが負けるたぁ、都合が良いじゃねぇか。ぶっ殺す理由が出来たぜ」

「それはやり過ぎだと思うけどな」

 

 

この後の展開を知っている身としてはフレイザードを止めたい所だけど、死を望むヒュンケルを説得するのはクロコダインの役割だ。それが無いと違った展開になりそうだし。あ、マァムがヒュンケルに膝枕してる。ちょっと羨ましい。

 

この後は原作通りに話が進んでいった。後はこの後でマグマ海水浴イベントか。ヒュンケルがダイ達を助けて、ヒュンケルをクロコダインが助けると分かってるけど、もどかしいな何も出来ないってのは。そんな事を思っていたらフレイザードが炎を闘技場の地下に打ち込んでいた。

 

 

「な、何をしたフレイザード!」

「ここらの死火山に活を入れてやったのよ!これからここらはマグマの海になるだろうよ!ハドラー様には勇者と相打ちって報告してやるよ!」

「どちらにせよ、魔王軍に戻れば今までの不敬で処罰される可能性の方が高いだろうよ。今のアバンの弟子達のやりとりを見れば尚更な」

「くそ、可愛い顔してフレイザードと同じ考えかよ、あの子!」

 

 

フレイザードの行動にヒュンケルが怒鳴るが此処まで来たら俺も話に乗るしかない。まあ、普通に考えれば同僚や上司にあんな口を利いていれば処罰はされるだろ。

しかし考えてみればバルトスと同じだなヒュンケル。バルトスは任された地獄門に勇者を通し、ハドラーを裏切った。その罰は何かしらの形で下される筈だった。ヒュンケルは魔王軍を裏切る兆しを既に見せていたし、普段の態度も悪かった。まあ、罰にマグマ海水浴はやり過ぎだとは思う……って言うかマグマ海水浴ってリアルに見ると引くわー。ポップの叫びに俺は違うと言いたくなったけどフレイザードが隣に居るんじゃ下手に否定も出来んな。って、ちょっと待て。可愛い子の部分を即座に否定出来なかったぞ、俺。なんかまた毒されてた気分だ。

 

 

「……お」

「どした、イーリス?帰ってヒュンケルの相打ちを報告してやらなきゃだなぁ」

 

 

帰ろうとした矢先、視界の端に巨大な鳥を見つけた。多分、クロコダインを運んでるガルーダだな。良かった、原作通りにクロコダインが助けに来たんだな。少しの安心感を覚えながら俺は楽しそうにしているフレイザードを連れて鬼岩城に戻る事にした。

 

 



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いざ、バルジ島へ

 

 

 

マグマ海水浴のイベントの後、俺は鬼岩城に戻る様に言われたが、フレイザードはそのままパプニカの担当になった。そして、翌日には鬼岩城で緊急会議となった。お題はヒュンケルの敗北とパプニカ王家の生き残りがバルジ島に逃げ延びた事の対応、フレイザードからの報告ではレオナ姫を人質にダイを誘き寄せる事に成功したとの事だった。更に氷炎結界呪法で結界内に侵入した者のステータスを落とす罠を仕掛けたとの事だ。

ハドラーは、その報告を聞き、全軍あげて勇者ダイを倒すと宣言したがバランさんをそのメンバーから外した。ミストバーンの担当しているカール王国が手強く、侵攻が遅れているので代わりを務めて欲しいと頼んだのだ。ここまでは原作通りだ。ハドラーはダイが竜の騎士だと確信してるし、それを理解してバランをダイから遠ざけた。

 

 

「まあ、良い……此処は魔軍司令殿の顔を立てるとするか」

「バランさん、一緒に行けなくて残念だよ」

 

 

思案顔をするが、ハドラーの意見を聞き入れたバランさん。そのまま、カール王国へと向かおうとするバランさんの背に声を掛けておく。このタイミングでダイの事を告げてやるべきか悩む。でも、下手に介入すると流れを壊しそうで怖いんだよなぁ……ダイの大冒険って奇跡的なバランスで成り立っているから、どれか一つが崩れれば良い方向にも悪い方向にも簡単に転がってしまう。だから俺は大筋は変えずに最良の結果を求めた。人的な被害が少ない状態に進めるなら途中までは原作の展開を崩さずに進めて、途中から俺も本格的に介入すると決めていた。それはダイが竜の騎士として本格的に目覚めてから……つまり対バランさん辺りからの介入を考えていた。正直、お世話になったバランさんを失いたくない。だが、バランさんを生かすには原作以上に上手く立ち回らなければならない。しかも父上やキルバーンに悟られない様に。ぶっちゃけ無理ゲーだとは思うけどやるしかない。そして、それは俺一人では無理だから協力者……と言うか、俺個人の仲間が必要だ。

 

 

「行くぞ、今度こそダイを討ち滅ぼしてくれる!」

「ハドラー様、イーリス様。兼ねてより研究していたキラーマシンの量産型が数台完成しました。名をメタルハンター。此度の戦いに参加させて頂きたい」

 

 

ハドラーの号令にミザルさんが完成した量産型キラーマシンを持ってきた。つうか、メタルハンターかよ。なんかバルジ島での戦いをダイ側の難易度を上げちまったな。まあ、数台だから大丈夫か?

そういや、俺はバルジ島でどうしよう?部下を率いてハドラーはポップ、マァム。ミストバーンとザボエラはダイとバダックの爺さんと戦う。そうなると俺はどっちに参加する方が良いんだろう。

 

 

「イーリスよ、貴様はゲレゲレとメタルハンターを率いて中央塔に行け。フレイザード以外の者は弱体化されるがメタルハンターなら氷炎結界呪法の結界内でも戦えるだろう」

「そうなると俺も戦えないんだけど」

 

 

いや、中央塔に配置されると俺も呪文が使えなくなるから駄目なんだけど。戦力外宣告ですか?

 

 

「ハドラー様はバーン様のご息女である貴女を危険な配置にしたく無いのでしょう。かと言って鬼岩城では戦場を経験させろとの命令に背いてしまうから最低限安全な配置にしたのでしょう」

「ミザル、余計な事を教えるな」

「ま、そう言う事なら仕方ないか」

 

 

ちょっと凹んだ所でミザルさんの解説が入る。成る程、中間管理職の苦労その2だな。でも原作通りになると中央塔って一番の危険地帯になるんだが。

 

さて、ハドラー達とこのままバルジ島に行こうかと思ったら父上に呼び出されたので鬼岩城に残る事に。何事かと思っていたらガルヴァスが鬼岩城に来た。

 

 

「イーリス殿、ご覧ください。裏の六団長が揃いましたぞ」

「ああ、お披露目って事ね……」

 

 

ドヤ顔のガルヴァスが裏の六大将軍を揃えたので魔軍司令補佐の俺にお披露目をしたいと父上に上申したらしい。戦いの前に言う事かね、これ。ガルヴァスの背後に立っている劇場版の裏の六団長。

 

 

「私は既に二人も敗れた表の六団長と違って最強の面子を揃えましたぞ。なんでもハドラー殿はダイとか言う勇者のガキに苦戦しているとか……なんとも情けない次第ですな」

「俺もハドラーの補佐の立場だから情けない事になるな。そんな事を言う為に俺が戦場に行くのを遅らせたのかガルヴァス?」

 

 

ガルヴァスの発言に同意する様にニヤニヤと笑う裏の六団長。なんて言うか、小物感が凄いよなぁ。と言うか、この時点でガルヴァスはハドラーに反旗を翻す気満々じゃねーか。多分、現段階でダイに苦戦していたハドラーが情けないから自分が魔軍司令になると言いたいんだろう。そんなガルヴァスに皮肉気味に返すとガルヴァスはニヤリと笑みを浮かべた。

 

 

「いえいえ、私が言いたいのはハドラー殿よりも私の方が貴女の才能を活かせると言いたいのですよ」

「その辺りはバルジ島での戦いが終わってから父上と相談して再考するよ。急いでるから後でな」

 

 

つまり、ハドラーの立場に成り代わりたいのと、俺から父上に評価を伝えて欲しいって事か。俺はガルヴァスとの会話を打ち切ってルーラでパプニカへ飛び、ハドラー達と合流した。ガルヴァス達の事は後で考えよう。今はバルジ島での戦いに集中しないと。

 

 

今回はやる事が多いんだから。



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中央塔でフレイザードと

筆が乗ったので本日、二度目の更新になります。


 

 

 

やって来ました、バルジ島。俺はハドラーとの打ち合わせ通りにメタルハンターを二体とゲレゲレを引き連れて中央塔に来ていた。そしてフレイザードに作戦の全容を伝えると……酷く不満そうだった。

 

 

「結界を作ったから勇者達は足止めで更に魔王軍全軍で戦うってなりゃあ、俺の出番が無いじゃねぇか!手柄が逃げちまうぜ!」

「全軍って言ってもバランさんの超竜軍団は来ないし、手柄ってんならパプニカの姫様を手中に収めて、勇者を誘き出した段階で結構なもんだと思うけどな」

 

 

中央塔の最上階、レオナが氷漬けにされている場所で外を眺めながらフレイザードと話をする。結界の影響から体がダルいが仕方ない。

 

 

「それにイーリスのメタルハンターも居るんだろ?こりゃマジで出番がねーじゃねーか!」

「俺の護衛に二体。ハドラーの軍勢に二体。ミストバーンとザボエラに二体。計六体のメタルハンター。仮にハドラー達を切り抜けても、中央塔には俺とフレイザードにゲレゲレ。俺の護衛のメタルハンター二体……確かに出番は無いかもな。かと言って此方から打って出る訳にはいかないんだぞ、結界の都合上」

 

 

フレイザードがイライラしている最中、俺はリンゴを剥いて半分に割ってからゲレゲレに差し出す。ゲレゲレは嬉しそうにそれを食べ始めたので、残りの半分は俺が食べる。あ、このリンゴ甘いなぁ。しかし、視界の端に氷付けにされてるお姫様が居るってのは若干メンタルにダメージがあるな。

 

 

「わかってるっての!」

「ま、ハドラーやミストバーン達の報告を待とうや」

 

 

しゃりしゃりとリンゴをゲレゲレと食べながらフレイザードと会話を続ける。滾っているのかフレイザードの炎がメラメラと揺らいでいた。やっぱ、この間から何処か焦ってる感じなんだよなぁフレイザード。この間、バランさんがリンガイアを速攻で潰したと聞いてから功を焦ってる言うか……

 

 

「なあ、フレイザード。そんなに焦らなくても……おわっ!?」

「なんだ、爆発か?」

「グルル……」

 

 

夜の帷が明ける前。まだ薄暗い空に場違いな程の光と轟音が鳴り響いた。もしかして、もうポップとハドラーが戦っているのか?となるとダイもミストバーンとザボエラが戦っている頃か。

 

 

「おいおい……なんか面白い事になって来たんじゃねーか、おい!」

「楽しそうに言うなよ。戦いの音かな?って事は勇者一行が炎魔塔と氷魔塔に来たか」

 

 

爆音の後に僅かに聞こえて来る更なる爆発音。最初の爆発音は爆弾で今のはハドラーのベギラゴンかな。だとすれば、そろそろクロコダインとヒュンケルが戦いに参加する頃か。立ち上がり、中央塔の最上階から身を乗り出して外を見ると夜が明けてきている。爽やかな朝の筈なのに、戦闘音のBGMで台無しだよ。

 

 

「クックックッ……退屈してたが、面白そうな音が聞こえてくるねぇ」

「上司や同僚が苦労してるのを想像して、悪い笑みを浮かべるなよ。でも、なんか不確定要素でもあったのかな?苦戦して……あ」

 

 

隣のフレイザードは楽しそうにしてるし……あ、音に反応して、中央塔の下に配置してた二体のメタルハンターが動き出しそうになってる。なんて、思っていたら衝撃音と共に氷魔塔がガラガラと崩れて行った。

 

 

「おいおいおい!氷魔塔が崩れたぞ!?」

 

 

驚いてるフレイザード。そりゃ魔軍司令が防衛してる筈の氷魔塔が崩れれば驚くわな。氷魔塔が崩れたって事はヒュンケルが来たか。あの超絶良いタイミングで現れてマァムとラブコメ展開してる頃合いだな。可哀想だからポップに薬草恵んで上げたい。しかし、ヒュンケルが現れたとなれば炎魔塔の方には既にクロコダインがダイの加勢をしているんだろう。正直、戦闘音だけで状況判断するのは難しいな。悪魔の目玉でも連れて来て戦闘を見れる様にすれば良かったな。

 

 

「勇者のガキがこんなに強いってのか……ハドラー様を出し抜く程の強さを……」

 

 

いや、ハドラーを出し抜いたのはポップで氷魔塔を砕いたのはヒュンケルだよ……と言えたらどんなに楽か。なんて、思っていたら炎魔塔も崩れていった。って事はヒュンケルとハドラーが戦い始めて、クロコダインが炎魔塔に獣王痛恨撃を撃ち込んだか。となるとハドラーの敗北も時間の問題だな。そろそろ、スタンバイするか。

 

 

「フレイザード、どうにも不穏な……」

「ク、ククク……ハドラー様や他の軍団長が軍を率いて倒せない勇者ダイ。ソイツが結界を破いて俺の所に来る……ヒャーハッハッハッ!!」

 

 

フレイザードに戦闘準備を促そうと思ったらフレイザードは笑い始めた。大爆笑でだ。なんなんだ、一体!?

 

 

「笑っちまうよなぁ……勇者ダイを倒した手柄が……功績が全部、俺達の物になるんだからよ……」

「フ、フレイザード?」

 

 

ん……『俺(達)』?フレイザードは原作だと『俺の手柄になる』って叫んでたけど、ちょっと変わってる?俺が思わず、フレイザードを見上げるとフレイザードは俺を見下ろしながら何か思案顔だった。

 

 

「いいねぇ……悪くない。いや、実に良い!ヒャーハッハッハッ!気合いが入るってもんよ!」

「そ、そっか……頑張らなきゃな」

 

 

なんなんだ?なんかフレイザードのテンションがドンドン上がってんだけど。すると、辺りに眩い光が溢れ始める。その光が何なのか理解する前に衝撃波が中央塔を襲った。今のはまさか、グランドクルス!?氷魔塔から中央塔まで結構距離があるのに、衝撃波が届くってどんな威力だよ!?そんな事を思っていたらフレイザードが静かになっていた事に漸く気付く。

 

 

「たった今、ハドラー様からの魔力供給が途絶えた……ハドラー様も情けねぇな。援軍に来て負けるなんてよ。だが、奴等も相当な体力と魔法力を消費してる筈だ。なんせ、魔王軍全体を相手にした後なんだからよ」

 

 

その表情にゾクっと背筋が凍りそうになった。先程まで手柄だ功績だと騒いでいたフレイザードが冷静に状況分析してるんだから。炎の様な獰猛さと氷の様な冷徹さと評されるだけあるわ、コイツ。

 

 

「見てろよ……俺は他の誰にも負けねぇくらいの手柄を上げてやる!」

 

 

そう叫んだフレイザードに、俺は何故か不安が込み上げて来た。原作通りに話が進んでいる筈なのに、何処か違う気がする。この不安は後に的中する事を今の俺は知るよしも無かった。



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中央塔での闘い

前話の展開や以前の話から主人公が『原作に寄りすぎ』『まだ漫画の世界だと思い込んでいる』等のコメントを感想で多く頂きましたが、まだ話の途中で全容を明かしていないと返させていただきます。主人公も悩んだ上で行動をしています。


 

 

さて、これからダイ達を迎え打つべく中央塔の外へ……と思っていたらフレイザードが最上階から飛び降りて行った。いや、近道を選びすぎだろう!

 

 

「最上階で人質抱えて待ってるなんざ性に合わねぇからな!結界も無くなっちまったし、好きにさせて貰うぜ!」

「もう結界も消えて、俺達も全力で戦えるんだ!観念してレオナを解放しろ!」

「まあ、もう戦う以外の選択肢は無いだろうからな」

「ガウッ!」

 

 

中央塔内部からから入口に到着すると既にダイとポップとマァムが揃っていた。ゲレゲレと共に中央塔から出ると凄い驚かれた。フレイザードは地面に潜って待ち伏せする暇は無かったんだな。

 

 

「まさか、イーリスが中央塔に居るとはな……」

「フレイザードには恨みはあるが……」

「クロコダインにヒュンケルか……軍団長二人が敵に回ってるってのはキツいなぁ」

 

 

それぞれ氷魔塔と炎魔塔を破壊したクロコダインとヒュンケルも中央塔に揃った。これで役者が揃ったな。

 

 

「フレイザード、不意打ちもせずに正々堂々戦いに来るとはどう言う心境の変化だ?」

「どうもこうも……お前らがハドラーを倒したから、このままだと禁呪法で生まれたフレイザードは魔力供給が絶たれて消えちまうんだよ。お前達を倒して、父上にフレイザードの命の助力を願うからさっさと掛かって来な」

「え、父上って……あの子は何者なんだ?」

 

 

ヒュンケルはフレイザードが堂々と戦うつもりになっている事に疑問に思っている様だ。ポップは俺の事が気に掛かる模様。まあ、ろくに説明もしてないから当たり前か。

 

 

「あの少女の名はイーリス。魔軍司令補佐にして、その正体は大魔王バーンの娘だ」

「いいっ!?大魔王バーンの娘!?」

 

 

クロコダインの解説にオーバーリアクションのポップ。まあ、俺がそっちの立場なら同じ様に驚くだろう。さて、そろそろ本格的にやるとするか。

 

 

「フレイザードは勇者達を頼むわ。俺とゲレゲレは裏切り者の軍団長二人を相手にするから」

「ヒャハッハッハッ。勇者討伐の手柄は俺が貰っちまうぜ!」

 

 

俺とフレイザードは互いに背中合わせになってダイ達とヒュンケルとクロコダインと向き合う。更にゲレゲレが俺の隣に並び立ち、俺の護衛用のメタルハンター二体がダイたちの背後に一体。ヒュンケルとクロコダインの背後に一体現れて挟み討ちの形になった。

 

 

「くそ、挟撃の為の伏兵を隠していたのか!」

「戦況を有利にする為の伏兵だっての。そもそも俺とフレイザードは五対三の状況で不満を言わずに戦おうとしたんだ、それが五対五の対等な数になったんだから……卑怯とは言うまいね?」

 

 

原作でもフレイザード一人相手に五人で戦いを挑んでいたのに、自分達は卑怯とは言わなかった。条件が対等になっただけなんだから不満は口にするなよ?

 

 

「ゲゲっ、さっきのメタルハンターがまだ居たのかよ!?」

「落ち着きなさいよ、ポップ!」

「え、ポップ達の方にも居たのかアイツ!?でも大地斬で倒せるから大丈夫だ!」

「メタルハンターはキラーマシン程の強さは無い。呪文は効きにくいが力で対応すれば問題ない!」

「うむ、先程の個体同様に獣王痛恨撃……いや、獣王会心撃で砕いてくれるわ!」

 

 

メタルハンターに怯えたのはポップだけだった。と言うか口振りからするとダイは大地斬で、ヒュンケルとクロコダインは一人一体の割合でメタルハンターを倒したんだな。いや、ヒュンケルは一人で二体倒したな多分。グランドクルスなら纏めて倒すのも可能か。

ヒュンケルが言った通り、メタルハンターはキラーマシン程の強さや防御力は無い。けど、それを差し引いても強敵の筈なんだが、軍団長相手じゃ力が足りないらしい。

 

 

「メタルハンターだけを相手にするなら出来るだろうな。でも、俺とフレイザードを相手にしながらメタルハンターを倒せるかな?」

「逆に聞くが、俺達を相手にそれだけで足りると思うのか?」

「気は進まんが覚悟して貰おう」

 

俺がりゅうおうの杖を構えるとヒュンケルも剣を構えた。こう言う時の思い切りが早いよなぁ。クロコダインもそれに倣って真空の斧を構えた。ぶっちゃけ怖いよ、この状況。でも、これからを乗り切るなら必要だから頑張らないと。そう思いながら俺はゲレゲレとメタルハンターを率いてヒュンケルとクロコダインに戦いを挑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇sideヒュンケル◆◇

 

 

 

地底魔城でフレイザードに引き起こされたマグマに飲まれかけた俺をクロコダインが救ってくれた。俺はそのまま死のうと思っていたが、クロコダインに諭され、死したアバンの代わりにダイ達を助けるべく、再び戦場に赴いた。俺がバルジ島に辿り着いた際、クロコダインと二手に分かれダイ達の助っ人に向かう事にした。俺が駆け付けるとマァムがハドラーに殺されそうになっていた。俺はマァムを救う為と氷魔塔を破壊する為にブラッディースクライドで氷魔塔を砕いた。ギリギリのタイミングでマァムを救う事が出来た俺はポップに手持ちの薬草を渡すと直ぐにダイと合流する様に頼んだ。

ハドラーは案の定、ポップとマァムの事は追わずに先に俺を始末するつもりらしい。俺にとっても好都合だ。俺はハドラー配下のアークデーモンを何体か瞬殺し、ハドラーとの一騎打ちをした。伊達に魔軍司令を名乗っていないハドラーは強く、苦戦させられたが何とか倒した。だが、それは俺の油断を誘う為の罠だった。心臓をブラッディースクライドで貫いたがハドラーの心臓は両胸に一つずつあると判明し、絶命していなかったハドラーは俺の鎧をヘルズクローで貫くと、メラゾーマやベギラゴンを叩き込んできた。満身創痍と化した俺に更なる悲報が重なる。ハドラーはその存在を隠していたが、キラーマシンの量産型のメタルハンターと言うモンスターを切り札の一つとして隠していたのだ。あのメタルハンターはイーリスが以前持ち帰ったキラーマシンを解析して量産したのだと言う。

 

イーリス……魔王軍に所属しながら魔族らしからぬ行動と言動の大魔王バーンの娘。俺は魔王軍を抜けると決心したが、あの娘にした事は謝罪しなければと考えていた。彼女が以前言っていた自分が『不良品』だと言う意味。その一言を発した彼女は悲しそうで、泣きそうな顔をしていた。はっきり言って大魔王バーンの娘とは思えぬ姿だった。

その『不良品』と言う意味が彼女自身を意味するなら、彼女は本来なら戦いたくないと言う意味なのだろうか?大魔王の娘と言う立場から戦う事を強要されているのだろうか?

 

 

俺はそれらの疑問を抱きながらもアバンから過去に学んだ技の中でも一笑に付した闘気を用いた技『グランドクルス』を放った。自分でも想定した以上の威力となったが、その反動から俺は意識を失い……気が付いた時に見たのはグランドクルスで倒したモンスター達と粉々に砕けた二体のメタルハンターだった。辺りを見回したが、ハドラーの死体は無かった。

 

 

「俺は本当に……ハドラーを倒したのか?」

 

 

薄れた意識の中でハドラーを倒した感覚はあったが、実感は無かった。だが、呆けてる場合ではなく俺は急いで中央塔へと向かい、フレイザードとの戦いに臨んだ。

 

中央塔に辿り着くと意外な事にフレイザードは正々堂々と俺達と戦うつもりらしい。残虐で卑怯な戦法を好むコイツがどんな心境の変化だ?その疑問はイーリスの口から語られた。ハドラーが死に、フレイザードへの魔力供給が絶たれたからだと口にした瞬間、俺はアバンと父バルトスの仇が討てたのだと確信して、少しだけ気持ちが和らいだ。だが、気は抜けない。何故ならば、これからフレイザードとイーリスとゲレゲレに加えてメタルハンターを倒さねばならないのだから。

 

 

 

だからこそ、俺はイーリスの何かを決意した様な表情が気に掛かった。

 



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元軍団長との戦い

 

 

 

 

フレイザードにダイ、ポップ、マァムを任せた俺はヒュンケル、クロコダインと向き合う。俺がりゅうおうの杖を構えているのを見てヒュンケルが呟いた。

 

 

「イーリス、俺の鎧は攻撃呪文を受け付けない。そして、お前のパワーではクロコダインには敵うまい。降参しろ」

「その穴の空いた鎧じゃ完全には防げないだろ?それにパワーならソイツがいるさ」

「ぬおっ!?」

 

 

ヒュンケルの指摘に反論したタイミングでクロコダインの背後に回ったメタルハンターが剣を振り下ろし、クロコダインは咄嗟に斧で受け止めた。

 

 

「その状態で防げるかな?ベギラマ!」

「させるかっ!」

「ぬぅん!」

 

 

その隙を狙って俺はクロコダイン目掛けてベギラマを放った。即座にヒュンケルがカバーに入り、穴が無い腕の部分でベギラマを弾き飛ばす。その間にクロコダインは力任せにメタルハンターを押し返した。押し返したメタルハンターを破壊しようとヒュンケルが斬り掛かろうとしたがゲレゲレが体当たりで邪魔をする。鎧を纏っているからダメージは無かったが一瞬の隙を作るには十分だ。

 

 

「イオラ!」

「効かないと……何っ!?」

「目眩しか!」

 

 

俺はイオラを二発放った。一発はヒュンケル目掛けて、もう一発は足下目掛けてだ。当然ヒュンケルの鎧には意味がないが、足下に放ったイオラは爆発と共に土埃を舞い上げる。視界を悪くした上で俺は距離を空けて右手でメラミ、杖を持つ手にも魔力を込めておく。

 

 

「メラミ……からのバギマッ!」

「炎の渦だとっ!?」

「うなれ、真空の斧!」

 

 

土埃が収まる前に合成呪文で編み出した炎の渦でヒュンケルとクロコダインを攻撃する。ヒュンケルは鎧を纏っていたので無事……とは言えないか。穴の部分から炎が入り込んで若干のダメージがあった模様。クロコダインは真空の斧で強風を生み出して炎の渦を防ぎきった。だが、それが俺の狙いだ。

 

 

「やれ!メタルハンター!!」

「な……ぐわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「クロコダイン!?」

 

 

メタルハンターの剣がクロコダインの体を斬り付ける。先程と違って直撃で今度はダメージがあった。俺が狙ったのはクロコダインに大きな隙を作る事。ヒュンケルは多少の呪文なら鎧の事もあり、突っ切ってしまう。だが、クロコダインは真空の斧で防ごうとするから大きな隙が出来ると確信していた。何故ならば真空の斧は使う為に真空の斧を振りかざさなければならないからだ。しかも真空の斧で強風を巻き起こしてる時は身動きが取れない。

炎の渦と土埃で視界が悪くなった上に真空の斧を使って身動きが取れなくなった瞬間ならメタルハンターの攻撃が通用すると思ったけど上手くいって良かった。

 

 

「クロコダイン!このぉ!」

「な、ダイ!?」

「こっちに来たか!」

 

 

クロコダインがダメージを負った事でフレイザードと戦っていたダイが俺に狙いを定めてきた。剣を振るわれるが、りゅうおうの杖で防ぐ。ギリギリの所で防いだが流石にビビった。

 

 

「てりゃぁぁぁぁっ!!」

「よ、と、ふ……ヒャド!」

 

 

ダイの剣による猛撃を避けながらヒャドを放つ。放ったヒャドはダイの剣と腕を凍らせる。

 

 

「火炎大地斬!」

「危なっ!?……あ」

 

 

 

ダイは火炎大地斬で凍結を溶かすと同時に俺に斬りかかって来た。咄嗟に避けたのだがダイの狙いは俺ではなく、メタルハンターだった。火炎大地斬で縦に真っ二つにされたメタルハンターはその機能を停止した。更に俺の意識がダイに集中している間にヒュンケルとポップがフレイザードと戦い、マァムがクロコダインの治療をし、クロコダインは回復されると同時に獣王会心撃で残りのメタルハンターを破壊した。やられたな……分断したのにコンビネーションでメタルハンター二体をアッサリと倒しやがった。

 

 

「これでメタルハンターは片付けた……後はお前達だけだ」

「多勢に無勢とは思うが、勇者と元軍団長二人を相手に勝てると思ったか?」

 

 

ヒュンケルとクロコダインがギロッと俺達を睨む。うーむ、良い勝負になったかと思ったけど経験値的にもやっぱ不利だったな。俺もフレイザードも生誕から五年も経過してないし当然と言えば当然だが。

 

 

「ちっ……仕方ねぇな。こりゃ諦めるしか無さそうだ」

「な、なんだ……妙に神妙になりやがったぜ」

「パプニカの姫を解放すると言うのか」

「フレイザードが降伏するんだ……イーリス、お前も……」

 

 

フレイザードが呟き諦めた様に暴魔のメダルに手を添える。その仕草にダイ達も諦めたのかとホッと安堵している様に見えた。ヒュンケルが俺にも降伏勧告をしてくるが違うと思うぞ?

 

 

「勘違いするんじゃねーよ。俺は無傷での勝利を諦めただけだ。これから放つ技は俺にとっても痛い技なんでな、出来たら使いたくねーんだよ。おい、イーリス。預かっといてくれや」

「え?……うわっ!?」

 

 

フレイザードは暴魔のメダルを自身から剥がすと俺に投げ渡した。咄嗟に受け止めたけど重さと熱と冷たさに驚く。そりゃ灼熱と極寒の体に張り付いてたんだから温度差、凄まじいよね!つーか、メダルは捨てないのかよ!

 

 

「あのメダルをイーリスに返すのか」

「な、何なんだよ。あのメダルは……」

「あれは俺達を六大団長が一同に会した時の事だ……」

 

 

原作よりも驚き少な目なヒュンケルとクロコダイン。事情を知らないポップに解説が入る。解説が終わる頃に暴魔のメダルがフレイザードが命の次に大事な物だと理解された。でも、何で捨てなかったんだ?それがちょっと気にかかる。

 

 

「俺は生誕から一年も経過しちゃいない……だから俺は栄光を求めるのさ。そして、俺を真っ直ぐに認めてくれたのはイーリスだけだ。俺は捨てねぇ……未来も過去も俺は認められてぇんだ!」

「フレイザード……」

 

 

そっか……さっきの違和感はこれだったんだ。元々のフレイザードは勝利と栄光だけに執着した性格だったけど、俺との交流で変な話だが良い方向に矯正されたんだ。だから俺や父上が認めた証である暴魔のメダルを捨てなかった。自分を認めた俺だから自分の手柄だけじゃなく俺達の手柄と言い切ったんだ。思えば暴魔のメダルを炎から奪取した時も真っ先に俺に見せ付けたのも、それだったんだ。

なんか、モヤモヤする。モヤモヤと言うか、なんだろう……弟が思った以上に成長した事に驚いてる姉の心境と言うか……ちょっと、ジーンと来た。

 

でも、それと同時に罪悪感も湧いてくる。だって俺は俺の目的の為にフレイザードと一緒に戦っているんだから。

 

 

 

「行くぜ、弾岩爆花散!」

「邪魔になるから離れるぞ、ゲレゲレ」

「がうっ」

 

 

フレイザードの弾岩爆花散が発動したと同時に俺とゲレゲレは被害を受けない様に下がった。でも、俺の事を思ってるフレイザードを一時的に見捨てる様な真似をするのはツラいな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇sideハドラー◆◇

 

 

何故、俺は生きている。ヒュンケルとの戦いに敗れた俺は死んだ筈だ。それにバルジ島にいた筈なのに目覚めた時には鬼岩城に戻っていたのだ。それに気の所為か俺の顔の黒い模様が一回り大きくなった気がする……

 

 

「それは暗黒闘気の影響だ」

「ミストバーン……そうか、お前が俺をバルジ島から運んだのか。そして暗黒闘気で俺を蘇らせたのか」

 

 

振り返ればミストバーンが俺の傍に立っており、俺の復活の要因を説明した。俺の肉体は死してもバーン様やミストバーンの暗黒闘気で復活し、更なる力を与えられるのだと言う。まさかミストバーンはその為に俺の部下になっていたのか。

 

 

「ハドラーよ、お前の命は全知全能の大魔王バーン様の物だ。死する権利すら、お前には無い。何度でも蘇り、その命をバーン様の為に捧げるのだ」

「望むところよ」

 

 

ミストバーンから肉体の秘密と宣言を言い渡され、俺は奮起した。全てはバーン様の為だ……バルジ島での敗北もある、これ以上の失敗は……

 

 

「し、しまった……イーリスをバルジ島に残したままではないか!迎えに行かねば!」

 

 

イーリスの事を思い出し、焦る。バーン様のご息女を護衛があるとは言えど、バルジ島に放置していた事実に俺は焦る。イーリスに何かあれば、バルジ島での敗北以上にバーン様にお叱りを受ける可能性がある。急いでバルジ島に向かおうとした俺をミストバーンが手で制した。

 

 

「な、何のつもりだ!?」

「……イーリスの迎えは私の仕事だ」

 

 

そう言って姿を消すミストバーン。バルジ島にイーリスを迎えに行ったのか?俺が言うのもなんだが、影の男がお喋りになった上に過保護ではないか……

 

 

 

 



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アーマードフレイザード生誕を見ました

 

 

 

◆◇sideポップ◆◇

 

 

 

フレイザードとイーリス。俺達は魔王軍の軍団長と魔軍司令補佐を相手に戦っていた。フレイザードは禁呪法で生み出された不死身のモンスターでイーリスは巧みな魔法の使い方で俺達と互角以上の戦いをしていた。イーリスの方の攻略はヒュンケルが鎧で魔法を弾いて防いでくれていたが、フレイザードの方はどうにもならなかった。フレイザードの弾岩爆花散は自身の体を砕いて溶岩と氷の礫を浴びせる技で、しかも、フレイザードを倒すには無数にある岩の中からコアを探し出して砕かなきゃならなくなった。ダイはアバン先生から学んだ空裂斬で倒そうとしたが、中々決まらずにフレイザードの岩を砕くだけの結果となってしまっていた。

ヒュンケルのアドバイスから空裂斬を会得したダイは空烈斬でフレイザードのコアを切断し、フレイザードは灼熱と極寒の体が合体している状態で苦しんでいた。

 

 

「ギ、ギャァァァァァァァァァァッ!か、体が維持出来ねぇ!このままじゃ消滅しちまう!」

「今だ!やれ、ポップ!」

 

 

フレイザードは耐えきれず、灼熱の半身と極寒の体が別々に分かれた。そのチャンスにヒュンケルが叫んだので俺は痛む体を起き上がらせて、構えた。

 

 

「よぉし、ベギラマッ!」

「させるかっ!」

 

 

俺がフレイザードの氷の半身に放ったベギラマをイーリスが受け止めた。

 

 

「その隙は逃がさん!ブラッディースクライドッ!」

「ギャァァァァァァァァァァッ!」

「あ、しまった!?」

 

 

俺とは反対の位置に居たヒュンケルがイーリスの隙を突いてフレイザードの極寒の体を砕いた。残るはフレイザードの灼熱の半身とイーリスだけだ。

 

 

「へっ……ざまぁ、見ろだ。今度こそ俺の呪文で……どわっ!?」

「させるかよ、バギ!」

 

俺が呪文を放とうとしたら、イーリスから放たれたバギで吹っ飛ばされてしまう。

 

 

「ならば俺が残りの半身も砕いてやろう!」

「や、止めろ!やめてくれ!」

「フレイザード!」

 

だが、その隙に再びヒュンケルがフレイザードの半身を砕こうとしたが、予想外の事が起きた。なんとイーリスはその身を挺してフレイザードを庇った。突然の事態にヒュンケルは剣を止められず、その剣はイーリスの体を貫いた……と思われた瞬間、ヒュンケルの方が吹っ飛ばされた。

 

 

「き、貴様は魔影参謀ミストバーン!ってやりすぎだ!?」

「…………」

「ぐ、が、がはっ!?」

 

 

イーリスを斬ろうとしたヒュンケルを突如現れた何者かが現れて防いだ。オッサンの叫びから現れた男が魔影参謀ミストバーンだと言う事が判明する。ミストバーンは掌底をヒュンケルに打ち放ち、吹き飛ばす。更に倒れたヒュンケルを何度も足蹴にしていた。表情は伺えないけどイーリスを傷つけようとしたヒュンケルを何度も蹴っていた。その仕草から怒っていると伝わってくる。

 

 

「あ、あの……ミストバーン?」

「ミストバーン!助けてくれ、頼む!この状態じゃイーリスを守れねぇ!このままじゃ死んでも死にきれねぇ、助けてくれよ!」

「………」

 

フレイザードが懇願すると、ヒュンケルを蹴っていたミストバーンは虚空を指差した。

思わず向いた視線の先の空間に、折りたたまれた黄金の鎧が出現した。

 

 

「これは我が魔影軍団最強の鎧。お前が炎の暗黒闘気……即ち魔炎気と自らを化す決意があるなら与えてやろう。お前が望むイーリスを守る力となろう」

 

 

ミストバーンの言葉に、その場の全員がフレイザードが難色を示すと思っていた。岩石生命体の身体を捨てて、魔炎気としてあの鎧に宿るという事は、フレイザードは鎧のモンスター、つまりミストバーンの部下になるという事だ。あの性格のフレイザードなら、断るだろうと思っていたのだが、フレイザードは覚悟を決めた顔になっていた。

 

 

「本当にソイツと一体化すりゃあ、奴等に勝てるんだな!」

「……敵はない」

 

 

フレイザードの問いに答えたミストバーンに、フレイザードはやってくれと頷いて、ミストバーンが手を掲げると、フレイザードの身体の岩から炎だけが離れ、残された岩がボロボロと崩れる。離れた炎は、上空に浮かんだ鎧に吸い込まれるように入っていき、それと共に折りたたまれた手足が伸びて、重い音と共に地面に降り立った。

 

 

「おお、力が……みなぎってくる……信じられないような、凄まじい力だ!」

 

 

鎧の体から溢れてくる炎が今のフレイザードの力を表すかの様で、今まで以上に強くなったフレイザードなのだと伝わってくる。しかも、そのタイミングでバダックの爺さんとゴメの奴が来てしまう。最悪のタイミングで来ちまいやがった!

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇sideイーリス◆◇

 

 

 

 

 

いやはや、失敗した。フレイザードのコアが斬られた所までは仕方ないとしても、出来たらフレイザードの体はそのまま連れて帰りたかったけど氷の半身がヒュンケルに砕かれてしまった。ポップの呪文を防いでから逃げようかと思ってたのに、即座にフォローに入ったヒュンケルに氷の半身を砕かれてしまった。これ以上はさせないとポップをバギで吹っ飛ばして、全員フレイザードから距離を空けさせようとしたけど、ヒュンケルは俺のバギをものともせず突っ込んできた。このままじゃフレイザードが完全に砕かれてしまう。このタイミングでミストバーンが現れて助けるだろうと知ってはいたけど、俺の体は考える前に動いていた。気付けば俺はフレイザードを庇う様に立っていた。ヒュンケルの剣が俺の体に突き刺さる……その瞬間、ミストバーンが現れてヒュンケルを掌底でぶっ飛ばした。今のは流石に怖かった……目の前に剣が迫ってくるって超怖かった。このままアーマードフレイザードになるのかと思っていたが、ミストバーンはぶっ飛ばしたヒュンケルの体を何度も蹴っていた。あの、このシーン無かったよね?なんか過剰に攻撃を加えてるんだけど!?

 

俺が唖然としている間にフレイザードはミストバーンの手により、アーマードフレイザードになった。もっと悩むかと思ったフレイザードだけどフレイザードは即決でミストバーンに頼んでアーマードフレイザードになる決意を固めていた。そんなに思ってくれたなんてお姉ちゃん嬉しいよ。

 

確かに強くなったフレイザードだが空裂斬を習得したダイは完全版のアバンストラッシュを放つだろう。俺の仕事はそこからだ。今はミストバーンとゲレゲレと共に戦いを見るとしよう。

 



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バルジ島の戦いの決着

 

 

◆◇sideミストバーン◆◇

 

 

ハドラーを甦らせた後、私はバルジ島に戻ってきた。イーリスの迎えとフレイザードの様子を見に行く為に。イーリスとフレイザードならば勇者一行を倒せるかも知れないと思っていたが、経験値の差かイーリスとフレイザードは押され気味だった。フレイザードは弾岩爆花散を繰り出したがダイの技でコアを斬り裂かれ、半身を失う結果となった。ダイの実力を確かめる布石となるだろうから、そろそろ助けてやろうかと思ったら炎の側だけとなったフレイザードをイーリスが庇おうとした。このままではヒュンケルの剣に貫かれる!そう思った私はイーリスを庇い、ヒュンケルを突き飛ばした。

 

イーリスがバーン様の娘である事は貴様も知っているだろう!イーリスが怪我でもしたらどうする!

私はヒュンケルが予備のボディだと言う事も忘れて怒りを晴らすべく蹴り続けた。

 

 

「あ、あの……ミストバーン?」

「ミストバーン!助けてくれ、頼む!この状態じゃイーリスを守れねぇ!このままじゃ死んでも死にきれねぇ、助けてくれよ!」

「………」

 

 

そんな私の怒りを沈めたのはイーリスの困惑した様な声とフレイザードの叫び……そして中央塔に潜んでイーリスの様子を見ていたアイナの静かで深い殺気だった。

私はフレイザードの懇願に魔影軍団最強の鎧を与えてやる事にした。元々はダイの力を試す試金石のつもりだったがフレイザードの心境の変化に私は心を動かされた。ダイを倒せるならよし。敗北しても新たな肉体を再度授けても良いだろう。

炎の暗黒闘気となったフレイザードの魂を鎧に定着させ、戦わせる。私の背後ではイーリスがフレイザードの援護のつもりなのか呪文を放とうと杖を構えていた。

 

 

「やめておけ。フレイザードはお前の為に戦おうとしている。それに水を差すのは無粋だ」

「………わかった」

 

 

私は飛び出そうとしていたイーリスを手で制するとイーリスは渋々引き下がった。フレイザードは勇者一行を次々に制圧していくが、ダイはフレイザードの猛攻を避けながらカウンターでフレイザードのボディの鎧に傷を付けた。

 

そしてフレイザードの猛攻を潜り抜け、放たれたダイのアバンストラッシュはフレイザードの鎧を粉々に破壊した。その威力を肌で感じ取ったのかイーリスが震えていた。

 

 

「……素晴らしい」

 

 

敵ながら素晴らしい技の出来栄えに私は感嘆としてしまう。心・技・体の全てが練り上げられ放たれたアバンストラッシュは、魔影軍団最強の鎧をいとも簡単に打ち砕いた。ガラガラと地面に落ちていく鎧を眺めながら、私は今のダイの戦闘力は軍団長を上回るレベルとなっている事を確信した。だが、まだ足りない。この少年の強さをもっと測らねばバーン様の覇業の妨げとなりうるだろう。

 

私は砕かれ、欠片程の小ささになったフレイザードに歩み寄った。

 

 

 

 

 

 

◆◇sideミストバーンend◆◇

 

 

 

 

ミストバーンの手によりフレイザードがアーマードフレイザードになった。見た目も強そうになって楽勝ムードで勇者一行を蹴散らかしていくけど、ダイが相手になってから風向きが変わってきた。ダイはフレイザードの攻撃を紙一重で避けて、隙を見て一撃を与えてフレイザードの鎧を一部砕いた。フレイザードがやられそうなのを見て俺は思わず、援護にベギラマを放とうとしたけどミストバーンに止められる。

 

 

「やめておけ。フレイザードはお前の為に戦おうとしている。それに水を差すのは無粋だ」

「………わかった」

 

 

ミストバーンの有無を言わさぬ物言いに俺は尻込みしてしまう。この後の展開が俺の知っている通りならフレイザードは負けてしまう。今もダイの一撃にワナワナと震えているフレイザードを見ていると、不安しか込み上げて来ない。

 

 

「これで……このパワーと強度で負けたら……馬鹿だぜぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

「大地を斬り、海を斬り、空を斬り、そして全てを斬る……空烈斬が出来たんだ。きっと俺には全てが斬れる!」

 

 

フレイザードの渾身の一撃を避けようともせず、ダイは剣を逆手に構えて腰を落とした。あの体勢には見覚えがある。あり過ぎた……溢れ出ている闘気に俺はゾクっと体が震える感覚に襲われる。

 

 

「アバン……ストラッシュ!」

「ぐ……がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「……素晴らしい」

 

 

ダイから放たれたアバンストラッシュによる閃光がアーマードフレイザードの鎧を斬り裂き、砕いた。なんちゅー威力だ。一撃でアーマードフレイザードの鎧を軽々と砕きやがった。でも、自身の技の威力に耐えきれなかったのかダイの鋼の剣も砕け散った。原作よりも寿命が早かったな。まあ、メタルハンターを斬ったりとかしてれば劣化も早いか。

 

 

「ミ、ミストバーン…‥テメェ、嘘吐きやがったな……何が最強の鎧だ……全然、弱いじゃねぇか……」

「あの鎧は紛れもなく我が軍団最強の鎧。破壊されたのは相手の技が勝っていただけの事」

 

 

粉々に砕かれた鎧と端切れみたいに炎の欠片が地面に落ちる。フレイザードのコアとなっている瞳の部分だけでミストバーンに抗議しているが、何処で喋ってんだろうと疑問が湧き上がると同時に俺は駆け出していた。このままだとミストバーンにフレイザードが踏み消されてしまう。

 

 

「頼む、もう一度チャンスを……ミストバーン!」

「………」

「待った。フレイザードは俺が預かる……良いだろ、ミストバーン?」

 

 

フレイザードの欠片の前で立ち止まったミストバーンに俺は声を掛けた。ミストバーンはチラリと俺を見てから、俺の頭を撫でた。いや、なんで撫でた?

 

 

「……好きにすると良い」

「ありがと、ミストバーン。ほら、行こうぜ、フレイザード」

「おお、助かるぜイーリス!」

「待て、逃すか……ぐはっ!?」

「待つのは貴方です。イーリス様を傷付けるのは許しませんよ」

 

 

ミストバーンがフレイザードを踏み消さなかった事に安堵してフレイザードの欠片を拾い上げた。炎の欠片なのに熱さが感じられず本当に弱りきっている状態なんだと思った。すると、ヒュンケルが俺達を逃すまいと一歩踏み出そうとした瞬間、吹っ飛ばされた。何が起きたのかと呆然としていると其処には鬼岩城に居る筈のアイナさんが片足を上げた状態から足を下ろす姿が。え、まさかヒュンケルを蹴り飛ばしたの!?全然動きが見えなかった……

 

 

「ア、アイナさん?なんで此処に?」

「あら、イーリス様のお迎えに来たんですよ。フレイザードの破片も回収させて頂きました」

 

 

アイナさんの発言に周囲を見渡すとアバンストラッシュで砕かれた鎧の破片が無くなっていた。そしてアイナさんの足元に大きな物を包んだような風呂敷がある。まさか、誰にも気付かれずフレイザードの岩と鎧の破片を回収したのか!?その事にその場の全員が戦慄していた。だって、この場の誰にも察知されずに広範囲に散らばった破片を回収するなんて実質不可能だろう。時を止めたか、クロックアップでもしたのか、この人。

 

 

「ね、ねぇヒュンケル……あの女性も魔王軍なの?」

「あの女性はアイナ。イーリス付きのメイドだ……実力者なのは知っていたが。この場の誰にも察知されずに現れるとは……」

 

 

力尽きたダイを支えているマァムがヒュンケルにアイナさんの事を聞いているが実力は推し量れていないのだろう。そりゃそうだ、だってミストバーンも驚いていたみたいだもん。

 

 

「そんじゃ、今回は痛み分けって所だな。因みにフレイザードが魔炎気になった段階で氷は溶け始めてる筈だ」

「な、本当か!?」

「信じるな爺さん!アイツのそんな話、信じられるかよ!」

 

 

俺は本当の事を話したのにバダック爺さんが驚き、反発したのはポップだった。なんか疑われてんなー、地底魔城のマグマ海水浴の場面に俺も居たから信用が無いっぽい。

 

 

「本当だよ。フレイザードのコアが破壊されて氷の半身が失われた段階で呪縛は解けた筈だ。これを教えるのは敵とは言えど強者には敬意を表するってのが師の教えなんでね」

 

 

ミストバーンやバランさんは父上の命令や主義に従うけど強者には敬意を表する。それは俺も従いたい事だから少しばかり真似してみた。

俺の解答に満足したのかミストバーンも小さく頷いていた。

 

 

「そんじゃ、俺達はこの辺で帰るよ。フレイザードの事もあるんでね」

「テメェ等……俺が復活したらリターンマッチを楽しみにしてやがれ!」

「………」

「失礼させて頂きます」

 

 

俺の手の中でフレイザードが叫ぶ。本当に目の部分だけでどうやって喋ってんだろうか。俺達はミストバーンに連れられてバルジ島から鬼岩城に戻った。本当なら魔弾銃とレオナ救出の流れも見ておきたかったけど、俺達がこの場に居ては駄目だろうから仕方ないわな。

 

さて、少し予定とはズレたけどフレイザードを生還させるっていう事には成功した。これで俺の目的の一つは達成出来た。この調子で頑張ろう。

 

 

俺自身の今後の目標の為にも……ね。

 

 



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フレイザード復活の為に

 

 

 

 

 

鬼岩城に戻った俺は自室で悩んでいた。

バルジ島で魔王軍全隊が大打撃を受けたから立て直しに数日費やし、その後ダイを始末すると言うのがハドラーの言い分だ。原作だとその数日でバランさんがカール王国を滅ぼして、次にダイと戦うのは自分だと主張する。俺はそれまでに『コイツ』をどうにかしないと。

 

 

「おい、イーリス!まだかよ、早くしてくれや!」

「次のボディをどうするかとか、暗黒闘気の使い方とかで悩んでるんだよ。適当な体じゃフレイザードも嫌だろ?」

 

 

鬼岩城の俺の部屋の机の上で炎の欠片が叫んでいた。これはダイのアバンストラッシュで砕かれたフレイザードの欠片だ。砕かれたフレイザードは目の部分だけを残して殆ど失われたから、残っているのはこの部分だけだ。ミストバーンからこの欠片を受け取った後、フレイザードのマスター権を俺に移した。元々生みの親であるハドラーがマスターだが、魔炎気になった際にマスター権はミストバーンに移り、その後さらに俺に移動した。それと言うのも、ミストバーンからの課題で「暗黒闘気の更なる使い方を学ぶ為に、フレイザードを次のボディに移してみろ。禁呪法を記した書も渡すからやってみせろ」と言われたのだ。

魔法使いの間で卑怯な技とされる呪法を使った者は外道として魔法使いの間では仲間はずれにされてしまうってのに、それを学べって……人道とは真逆のベクトルを行く教育法だよなぁ。

 

 

「フレイザードも炎の側だけになっちまったから、現状で再生しようとすると、中途半端なようがん魔人みたいになっちまうぞ」

「ぐ……だったらミストバーンが用意した鎧とかよ……」

 

 

今の俺の暗黒闘気で復活させようとすると力不足で中途半端な状態になるのが目に見える。

 

 

「その鎧は砕かれたばっかりだろ。かと言ってキラーマシン2は開発中だし」

「もどかしいぜチクショー!」

 

 

フレイザードはミストバーンが出した魔影軍団の鎧みたいなのを期待してるけど、キラーマシン2は未だ開発中で完成には至っていない。それに俺としてはフレイザードを炎と氷の体で復活させたかったけど、氷の半身が失われた状態ではそれも厳しいだろう。

 

 

「そうなると……いっそ別の生物に転生でもさせるとか、かな?」

「そんなやり方もあるのかよ」

 

 

ペラペラと禁呪法を記した本を読む。そこには死者を蘇らせる技術として魂を別の肉体に定着させる技術などが書いてあった。外法と呼ばれる技術なだけあるな。読んでるだけで内容に引くわ……やり方もエグいのが多いし。

 

 

「でもよ、別の生物に転生ったって体が無きゃ駄目なんだろ?」

「ああ、だから気は進まないけど、そう言うのを研究してるマッドサイエンティストを頼る事になるな」

 

 

アイツ等は正直、頼りたく無いんだよなぁ……頼ったら後から色々と吹っ掛けて来そうだし。

 

 

「まあ、でも……フレイザードの為だし、気は進まないけど行くとするか」

「行くって……何処にだよ?」

 

 

俺はフレイザードの欠片を手にして立ち上がる。フレイザードが行き先を聞いてくるけど俺は少々テンション低めに答える事にした。

 

 

「……妖魔士団」

「はぁ!?ザボエラのジジィの所かよ!?」

 

 

行き先は妖魔士団。フレイザードはザボエラの名を叫んだけど、用があるのは息子のザムザなんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇sideクロコダイン◆◇

 

 

 

 

フレイザードを倒し、パプニカの姫君を救出して魔王軍を撃退したと今宵は宴となっていた。だがリザードマンで元魔王軍の俺が宴に参加する訳にはいかず、俺は宴の場から離れた丘で酒を飲んでいた。そんな俺にバダックの爺さんやパプニカの兵士達が酒を持って来てくれた。あんなに美味い酒が飲めるとは思わなかったな。

 

 

「姫様の命の恩人なんじゃ!遠慮なんかせんと、ドンドン飲んでくれぃ!」

「恩人か……俺は色々あって魔王軍と戦ったんだがな。しかし、姫様か……」

 

 

爺さんの『姫様』のフレーズに思い出したのは魔王軍の姫様だった。

 

 

「おお、そう言えば魔王軍の姫も来ておったんじゃな。確か……イーリスとか」

「ああ、大魔王バーンの娘だ。本来なら戦場に出るタイプでは無いんだがな」

 

 

あの娘は魔の森のモンスター達が大人しく懐いてしまう位に惹きつける何かを持っていた。大魔王バーンの娘だと言う事を忘れてしまうくらいに気さくで人懐っこい性格。間違っても人を傷付けるタイプではない。

 

 

「あの娘っ子は信用出来るのか?姫様の氷は確かに溶けとったが命の危険すらあったと言うのに……」

「確かにパプニカの姫は助けなければ危険だったが、氷は溶け始めていた。嘘は言っていなかったさ」

 

 

そう、イーリスの言葉から俺達はパプニカの姫の氷は完全に溶けたのだと勘違いしたが、氷が溶け始めたのはフレイザードの半身が失われてからだった。故に日没までに氷が溶ける事が無く、パプニカの姫君の命が危ぶまれた。ポップの尽力とダイの紋章の力、そしてマァムが魔弾銃を犠牲にパプニカの姫を助け出した。

 

 

「それに、あの時イーリスの言葉に嘘は無かった。魔王軍において、あの娘は信用に値する。魔王軍を抜けた俺が言うのもなんだがな」

「なら、お主みたいに我等の仲間になってくれるかも知れんな!」

 

 

俺の言葉に笑い飛ばす爺さん。俺もそれを望む。あの娘は魔王軍に向かないと思うからだ。だが、あの娘は大魔王バーンの娘で師がミストバーンだ。そう簡単にはいかんだろう。だが、俺はそれでもイーリスが魔道から抜け出す事を願わずにはいられなかった。

 

 

 

 



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マッドな妖魔士団でした

 

妖魔士団の研究所に来た俺はフレイザードの欠片を持って来ていた。手の中に持ったままってのが面倒臭くなって来たから肩に乗せたのだがこれは楽だ。

 

 

「なぁ、イーリスよ。やっぱザボエラのジジィは頼りたくねぇぞ」

「頼るのはザボエラの爺さんじゃなくて、息子にザムザってのがいるからソイツに頼るんだよ。ソイツは魔物や魔族の肉体を研究してるから、フレイザードの体も凄いのが選べるかもよ?」

 

 

俺の肩に乗せたフレイザードの欠片から不満が出る。フレイザードは元々プライドが高いし、どちらかと言えば武人側だ。だから策を弄するタイプのザボエラは頼りたくないんだろう。ザボエラが信用無いってのが一番の理由だろうけど。

妖魔士団は元々、魔物や魔族の研究をしていた。ダイとバランさんの戦いで竜の騎士の最終形態である竜魔人を見て、超魔生物の研究に移行する。つまり、この段階で研究した魔物や魔族の肉体があるかも知れない。その研究を加速させられるかも知れないフレイザードの憑依転生が出来るかも知れないなら協力してくれるかもと考えたんだ。

 

 

「お待ちしていましたよ、イーリス様。我が妖魔士団の研究に興味を持って頂けるとは光栄の極みです。キーッヒッヒッヒ!」

「今日はヨロシク、ザムザ」

「……おい、知り合いなのかよ」

 

 

ザムザの出迎えに俺は挨拶を返す。フレイザードからのツッコミが入ったが、実は俺とザムザは知った仲なのだ。それと言うのも、ミザルさんとザムザは研究者として先輩と後輩の立場にあるらしく、顔合わせと挨拶程度は以前に済ませていた。フレイザードの体の相談をしたいからとミザルさんに話を通して、ミザルさんからザムザに連絡してもらった。本当ならミザルさんにも同伴して欲しかったけど、勉強の為だと俺とフレイザードだけで行くようにと言われてしまった。まあ、バルジ島の時の事を考えれば影で監視されてるんだろうけど。

 

 

「ミザル殿から話は聞いております。フレイザード様の新たな肉体の相談だとか」

「うん。元の灼熱と極寒の体に戻す事も考えたんだけど、更なる強さを求めたくてね。それで魔物や魔族の研究をしているザムザに話を聞きたくてね」

 

 

通された研究室はハッキリ言ってグロかった。解剖された魔物や魔族の肉体が吊るされていたり、ホワイトボードみたいな板に体の細部を描いた石板とかがあるから気分が悪くなりそう。

 

 

「キーッヒッヒッヒ。それならば我が妖魔士団で研究中の魔物の突然変異が役立つやも知れませんな」

「魔物の突然変異?」

 

 

お客さん用の椅子に腰掛けてザムザの説明を聞く。作中の説明には無かったけど、やっぱそんなのがあるんだな。

 

 

「環境や生まれ方にもよるのでしょうが、突然変異により、通常の個体よりも強い魔物が存在しております。この様な突然変異体を常に生まれさせられる様になれば魔王軍の戦力は凄まじいものとなりましょう。キーッヒッヒッヒ」

「その突然変異の進化の可能性は解析出来てるのか?」

 

 

熱く解説しているザムザだが、そのアテはあるのか?と聞いてみると明らかにザムザの顔色が曇った。ああ……研究中で難航してるんだな。するとザムザは立ち上がり、カーテンの奥に隠された部屋の扉を開けた。

 

 

「し、しかし……我が妖魔士団は突然変異の個体の捕獲に成功したのです!それがコイツ等です!」

「いや……言いたくないけど、継ぎ剥ぎの体じゃん……」

「明らかに解剖後の魔物じゃねぇか……」

 

 

ザムザはドヤ顔で突然変異の魔物の個体を見せつけてきた……部屋の壁に何体かの魔物が吊るされていた。フレイザードのツッコミの通り、吊るされた魔物達は切り刻まれてバラバラにされていた。正直、グロい……ヤバ、吐きそうになる。こんなんだから人間sideから見ると魔王軍って悪者扱いなんだよなぁ。いや、こんなの見せ付けられたら俺もそんな気分になるって。

 

 

「これ等は通常の個体よりも強かった連中でしてな。筋肉繊維や皮膚組織の研究に役立ちました。更に肉体に薬や呪術で強化を施しました」

「もう……説明はいいわ。帰る……」

 

 

吐きそうになって、もうアカン感じになった……俺は立ち上がり帰ろうとしたけどザムザは俺の腕を掴んで待ったを掛けた。

 

 

「お待ちを。まだ解剖していない個体がありましてな。その個体は突然変異に加えて強さも凄まじい物だったと聞いておりましてな。肉体も妖魔士団研究中の技術も盛り込みました」

「それにフレイザードを憑依させろってか?」

「元が強い魔物で生身の肉体ってんなら俺は嬉しいもんだが……大丈夫かよ、イーリス」

 

 

ザムザお勧めの突然変異の改造魔物の肉体にフレイザードを憑依転生させるか悩む……いや、悩むって言うか、テンションと言うか、精神的に参ってるって言うか……フレイザードも心配してくるし。

多分だけど、この突然変異の肉体も超魔生物の開発の素体の一つだったんだろうな。あー……思考が定まらないや。

 

 

「んじゃ、この体で良いかフレイザード?もう、良いよな?これに決めてくれ……」

「イーリス、今の俺よりも弱って来てねーか?」

 

 

正直、放送コードに引っかかる光景を見ながらグロい説明を聞くのって精神的にキツい。もう早く帰りたいからフレイザードにこれで良いか聞くと呆れた様な心配をされた。よくよく思えばザムザって戦闘シーンはあったけど研究シーンは無かったな……マジでマッドだよ……精神衛生的にかなり悪いわ。

 

 

「気分が悪くなりましたかな?では、気付け薬を……」

「そのあからさまに怪しい紫色の液体を飲ませようとすんな……」

 

 

隙あらば実験しようとする姿勢は流石と言いたいが、そろそろキレるぞチクショウが。

取り敢えず、素体は後程、鬼岩城に送ってもらう事にして俺は妖魔士団の研究所を後にした。あー、気分悪りぃ……口からバブルスライムとか吐きそうな気分だわ。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「ハドラー殿……いや、ハドラーよ!貴様の影武者として働くのも今日までだ。今日をもって影武者ではなく、私が魔軍司令とならせてもらう!そう、勇者ダイを倒してなっ!」

「貴様如きにダイを倒せるとは思えんな……豪魔軍師ガルヴァス!」

 

 

憂鬱な気分のまま鬼岩城に帰ったら面倒くさい奴がハドラーに喧嘩売ってた。バランさんの戦いの前にガルヴァス戦か……忘れてたわ。

 



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ガルヴァスの行動は黙認方針

 

 

 

鬼岩城の天守閣にあたる頭の部分でハドラーに下克上を叩き付けていたガルヴァスに呆れながらも、フレイザードの話をハドラーにしなきゃと思っていた俺は、どうしようかと悩んでいたらガルヴァスが俺に気付く。

 

 

「おや、イーリス殿。私が魔軍司令となった暁には貴女にも働いて貰いますぞ」

「粋がるのは良いけど、父上には話を通したのか?まさか、無断出撃しようってか?」

 

 

俺の質問にガルヴァスはニヤリと笑みを浮かべた。

 

 

「大魔王様も無能なハドラーよりも勇者を倒した功績を持つ私を重用してくださる筈。私は貴様等とは頭の出来が違うんでな。ハーハッハッハッ!」

 

 

既にダイを倒したつもりのガルヴァス。つまり、ダイを倒した功績を土産に魔軍司令になるってのが奴の描いた未来って訳か。ガルヴァスは高笑いをしたまま姿を消した。

 

 

「むう……奴は俺と違って卑怯な事を平気でする男」

「卑怯な真似をしても負けたら意味が無いとは思うけどな。取り敢えず父上に報告を……」

「……必要ない」

 

 

ハドラーの呟きに俺はガルヴァスの行動に不安しかなかった。だって策を弄する割には詰めが超甘いんだもん、アイツ。ガルヴァスの行動を父上に話そうかと思っていると、背後から声を掛けられ超ビビる。振り返るとミストバーンが立っていた。

 

 

「報告の必要が無いとはどう言う意味だ、ミストバーン」

「………」

「えーっと……」

「ミストバーンはガルヴァスの行動を静観する様ですね。少なくともパプニカ攻略の一助にはなるでしょうし、勇者一行の戦力を削れるでしょう」

 

 

ガルヴァスの行動を黙認するミストバーンに理由を尋ねても無言を貫かれた。するとミストバーンと共に来ていたのかアイナさんが説明してくれた。

 

 

「しかし……ガルヴァスがダイを倒してしまっては……」

「………」

「あ、帰った」

「後は任せるとの事です」

 

 

ハドラーの心配を他所にミストバーンは姿を消してしまった。ミストバーンの言葉なら父上も多分、把握してるんだろうな今の状況を。

 

 

「はぁー……となれば魔軍司令補佐として俺は見に行った方が良いんだろうな。ハドラー、後でフレイザードの事で相談があるからヨロシク」

「う、うむ……ガルヴァスの行動には注意しろ」

「では、行きましょうイーリス様」

 

 

ため息混じりにガルヴァスの事を見に行くと告げるとハドラーからの忠告を受け、アイナさんと一緒に退室した。ガルヴァスの行き先ってなるとパプニカだよな。

 

 

「ガルヴァスの行動はダイの戦力の把握とパプニカへの追加侵略となるでしょう。ミストバーンはダイとガルヴァスとの戦いをバーン様にご報告するつもりの様ですね」

「なるほど……だったら尚更、俺は手出しをせずに見るだけにした方が良さそうだ」

 

 

アイナさんの発言からミストバーンは元々のフレイザードの役割をガルヴァスに与えたんだな。勝手な行動をしたガルヴァスだけど、渡りに船だったんだ。

 

 

「ガルヴァスの話からすると、すぐに行動に移すでしょう」

「そうだね、じゃあ行こっか」

「行こう、行こう!」

「……いつから居たんだ?キルバーンにピロロ」

 

 

俺とアイナさんの話にサラッと混じって来たキルバーン。いつから居たんだコイツ。全然気付かなかったわ。

 

 

「面白い話を聞いてね。最近仕事も無かったし、見学するには面白そうだったから僕も同伴するよ。保護者がいないとバーン様もミストも不安だろうからね」

「でしたら、決してイーリス様に怪我が無いように願います。私は他の用事があるので、ご一緒出来ないのは誠に遺憾ですが貴方に任せます」

 

 

いや、お前と一緒の方がよっぽど不安になるよ。そんな事を思っていたらアイナさんがキルバーンの肩を掴んでる。握力が凄まじいからキルバーンの肩からミシミシと軋む音が聞こえてるんだけど。

 

 

「うん……気を付けるから手加減してほしいかな」

「なら、結構。イーリス様、私は妖魔士団から届く物の受け取りの準備をしておきますので」

「あ、うん……お願い」

 

 

キルバーンは仮面だから表情はないんだけど焦ってるのは伝わってくる。そんなアイナさんはキルバーンの肩から手を離して俺に頭を下げて離れて行った。

話は既にアイナさんまで伝わってるんだな。フレイザードの新しい体の件。

 

 

「さ、行こうかお姫様。エスコートは僕が勤めよう」

「キルバーン、カッコいいー!」

「……ヨロシク」

 

紳士的に手を差し伸べるキルバーンに楽しそうにしているピロロ。俺は躊躇いながらもキルバーンの手を取った。なーんか、嫌な予感がするんだけど。

 

 

 

 



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パプニカ再襲来

 

 

復興が進みつつあるパプニカの街を破壊する裏の六大将軍のザングレイ、ブレーガン、ベグロム、ダブルドーラ。この破壊活動は勇者であるダイや仲間を誘き出す為の策なのは重々承知なのだが……

 

 

「生ぬるいよねぇ。表の六大将軍ならとっくに街を壊滅させてるよ」

「ダイを誘き寄せる為なんだろうけど不自然に見えるよな」

 

 

キルバーンの発言に思わず同意してしまう俺。

ガルヴァスは元々映画のオリジナルのボス。ガルヴァスはハドラーに下克上を叩き付けた後、裏の六大将軍を一気に攻めさせるのかと思えば四将軍で勇者を誘い出す。そこで倒す訳でも無く、残りの二将軍で勇者の仲間の魂を抜き取り、ダイを瘴気の満ちたベルナの森へ誘導。万全の体制を引いた状態での布陣で挑むのがガルヴァスの作戦なのだが……ハッキリ言って現在の戦いを見るとやる気が見えない。まるで勇者が現れても楽勝に倒せるから手を抜いていると言わんばかりの状態だ。

お、宮殿の方からダイとポップが走って来た。

 

 

「誰だ、お前達は!?何故、街を破壊する!」

「グオオオオッ!」

 

 

ダイの問いかけにザングレイは斧を振り翳しダイを斬り伏せようとする。しかし、ダイはアッサリと斧を避けて反撃しようとするがブレーガンが持っていた炎と氷の三節棍から火炎と冷気を放ってダイの攻撃を阻止する。更にベグロムがワイバーンに乗って空から奇襲を掛ける。

 

 

「表の六大将軍と違って連携が取れているね。こりゃあダイも苦戦するかな?」

「かもな……でも、個々の技量は裏の六大将軍は表よりも低い気がする」

 

 

キルバーンの言う通り裏の連中は見事なコンビネーションをしているのだが今一決め手に欠けている。それと個々の技量は裏の方が低いのだろう。だって、彼方ではポップがダブルドーラと互角の戦いをしてるし。

 

 

「宮殿の方にはデスカールとメネロが行ってる筈だけど……」

「うーん……イーリスの言う通り、決め手に欠けるね。ガルヴァス君も慎重が過ぎるよ。ハドラー君に啖呵を切った割には少々頼りないよ」

 

 

俺とキルバーンの視線は戦っているダイ達の上空。戦いを観戦しているガルヴァスに向けられている。ガルヴァスはニヤニヤとした表情でダイの戦いを見ている。

 

 

「なる程……ガルヴァス君はダイの戦力の確認をしているんだね。戦力の把握をしてから本格的に戦うつもりなんだろうね」

「一気に攻め落とした方が良い気がするんだけど……」

「中々やるではないか勇者ダイ!我が名はガルヴァス!魔王軍を率いる者だ!」

 

 

キルバーンとそんな話をしていたらガルヴァスが高笑いをして自己紹介を始めた。因みにお前はまだ率いる立場じゃないからな?気持ちが先走りし過ぎだろ。

 

 

「ガルヴァス?ハドラーの手下じゃないのか?」

「我々はガルヴァス様の忠実なる部下!」

「ハドラーが手こずるから、どんな奴かと思えばこんなガキとはな!」

「私はハドラーに成り代わり、魔王軍を率いる!手始めに貴様を倒させて貰うぞ!」

 

 

ポップの呟きにブレーガンとザングレイが答えた。更にガルヴァスはダイを指差して叫ぶ。

 

 

「そうはさせないぞ!」

「ふふふっ……我々ばかりに気を取られて良いのかな?」

「手筈は整いました」

「ダイの仲間の魂を捕らえてまいりました」

 

 

ダイの叫びにガルヴァスはチラリと宮殿の方に視線を向けた。宮殿の方で戦っていたデスカールとメネロが戻ってきた。デスカールの手には淡い光の球が輝いている。アレがマァムの魂か。

 

 

「くっくっくっ……これで勝ったも同然。皆の者、引き上げだ!」

「な、なんだ……尻尾を巻いて逃げて行くぜ?」

「ピーピピピィ!」

「何だろう……え、ゴメちゃん!?そんなっ!」

 

 

ガルヴァスの指示に去って行く裏の六大将軍達。ポップが唖然とする最中、何処からかゴメちゃんが飛んできてダイに何かを……って言うかダイはゴメちゃんの言ってる事が分かるのね。

恐らくゴメちゃんが言ったのはマァムが倒れた事を告げたのだろう。その証拠にダイは宮殿の方へ走り出してるし。ポップもその後を慌てて追っている。

 

 

「おやおや、ガルヴァス君も大口を叩いた割に退くのが早い。何か策があるのかな?」

「そうみたいだな。有利な状況だったのに退却ってのは不自然だし」

 

 

キルバーンが面白そうに呟く。俺は何も知らないフリをして戦いの観戦を……あ、ベグロムが反転してダイに迫って行く。

 

 

「死ねぇ、ダイ!」

「アバン流刀殺法、大地斬!」

「ギャァァァァァァァァァァッ!!」

 

 

ワイバーンに乗ったベグロムがダイを襲うがダイは大地斬で返り討ちにした。大地斬を食らったワイバーンは頭から真っ二つにされ、ベグロムは焦った様子で逃げて行った。アレがバランさんのポジションってのは釣り合ってねーよなぁ。流石、公式で六大将軍最弱設定。

 

さて、ここからが山場だな。俺はキルバーンと共に移動を開始した。今回って口出しは出来ても手出しが出来ないからもどかしいな。

 



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学ぶ事が多くてもフォローも忘れずに

 

 

 

 

ガルヴァスと六大将軍は一時撤退した。マァムは禁呪法で魂を抜かれてしまい、倒れてしまう。マトリフの見立てでマァムは二十四時間以内に抜かれた魂を取り戻さねば死ぬという事が告げられ、そこへガルヴァスの使い魔が現れ、マァムの魂を取り戻したくばベルナの森へ来いと告げる。しかし決戦場は瘴気で満たされており、使い魔が瘴気除けの神魔水をダイ達に渡す。

 

 

「態々、瘴気をベルナの森に満たせるとかガルヴァス君も手間の掛かる悪戯をしたもんだね」

「せめて裏工作って言ってやれよ」

 

 

俺とキルバーンはダイ達が詰めている宮殿の近くの小屋の外で中の様子を伺っていた。キルバーン曰く、気配を消す訓練との事。

ガルヴァスの渡した神魔水は一人分の効き目しかなく、最終的には薬を飲もうとするポップを押しのけたダイが飲み、単身ベルナの森へ向かう。だが、これはガルヴァスの罠であり、その神魔水は瘴気の効果を倍増させる薬であった。

 

 

「と、まあ……事の成り行きを見ていたけど、あの神魔水が瘴気の効果を倍増させる薬じゃなくてストレートに致死性の毒だったら楽だったよねぇ」

「勇者を毒殺とか身も蓋も無い気がする……くしゅん!」

 

 

ダイがベルナの森に移動を始めたので後を追う俺とキルバーンだったが流石に夜の森は寒く、ちょっと体が冷えてしまった……っと?

 

 

「……………」

「ミストバーン?」

「あれ、ミストも来たのかい?」

 

 

フワリと俺の体に布の様な物が被される。振り返るとミストバーンが俺にフード付きのマントを着せていた。キルバーンは面白そうにミストバーンの名を呼ぶ。

 

 

「キミってばガルヴァス君の行動の監視よりもイーリスの為に態々、外套を用意したんだろ?過保護だよねぇ」

「そっか……ありがとう、ミストバーン」

「…………」

 

 

キルバーンの言葉と俺の感謝を聞いたミストバーンはダイが馬で走り去った方角を指差した。あ……後を追って仕事しろって事ね。ミストバーンはさっさと先に行ってしまう。

 

 

「ミストってばツンデレだねぇ」

 

 

ミストバーンの後を追って走り出した俺の背中にキルバーンの一言が聞こえる。ツッコまないからな!あ、マントを羽織るだけでも暖かいんだな。

 

 

 

 

◆◇

 

 

 

 

ダイに追い付くと既に戦闘が始まっていた。ブレーガンとザングレイがコンビネーションでダイをベルナの森の奥へと誘導して行く。つーか、この段階でダイは瘴気の毒が回り始めてる頃の筈だけど普通に互角の戦いをしてる。ダイの潜在能力が高い事を褒めるべきなのか、裏の六大将軍の弱さに呆れるべきなのか……なんて考えていたらミストバーンを中心に空気の膜みたいな物が広がる。その膜の中ではベルナの森の瘴気が入って来なくなった。

 

 

 

「これは……なんの呪文?」

「これはトラマナだよ。呪文の効力で害意を与える場所でも行動出来る様になるんだ」

 

 

ミストバーンの呪文がなんなのか分からないと思っていたらキルバーンから解説が入る。トラマナって毒の沼やバリアの上を歩けるだけじゃないんだな。単純に『移動用呪文』って考えてたけど『一部無効化呪文』に分類になるのかな。うーむ、勉強になる。

 

 

「おや、裏の六大将軍が勢揃いだよ」

『死ねぇ、ダイ!』

『海波斬っ!』

「遂に最終決戦か……あ、ベグロムがやられた」

 

 

ガルヴァスを筆頭に裏の六大将軍である不死将軍デスカール、妖魔将軍メネロ、氷炎将軍ブレーガン、百獣将軍ザングレイ、魔影将軍ダブルドーラ、超竜将軍ベグロムが勢揃いしてベルナの森に作られた闘技場で決戦が始まる。

一番手にベグロムが背後から奇襲したのだが、アッサリ避けられカウンターで海波斬を袈裟斬りに斬られた。

 

 

「ねえ、ミスト。ガルヴァス君達でダイの戦力把握するつもりなんだろうけど、彼等で良いのかい?明らかに力不足だと思うんだけど」

「…………」

 

 

瞬殺されたベグロムを一瞥してキルバーンがミストバーンに問いかける。ミストバーンはちょっと視線を背けた。うん、気持ちは分かるけどまだ見てやろうよ。

 




トラマナに関しては独自解釈になります。


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本来とは違う展開(解説付)

 

 

 

 

早くも一人の脱落者が出た裏の六大将軍。神魔水の毒でろくに動かない体だろうに凄いな。そのダイの視線はガルヴァスに注がれていた。

 

 

「マァムの魂を返せっ!」

「クククッ……ああ、約束だ。返してやるとも、だがそれは我等を倒せたらの話だがな」

 

 

ダイの叫びにガルヴァスはニヤニヤと笑いながら答える。ガルヴァスの座っていた玉座の隣に淡く光る光球がある。恐らくアレがマァムの魂なのだろう。そしてダイがマァムの魂に視線が釘付けになった瞬間、ザングレイがダイに襲い掛かった。

 

 

「捻り潰してくれるわっ!」

「くっ……このぉ!」

「油断していたベグロムと一緒にしない事だな!しゃぁぁぁぁぁっ!」

 

 

 

ザングレイの斧を避けたダイ。振り抜いた斧が戻る前にザングレイを斬りつけようとするがブレーガンが炎と氷を放ち、援護する。若干の炎と氷を浴びたダイだが体勢を整えようと飛び下がった先にダブルドーラが控えていて、ダイの体を捕らえた。

 

 

「ふははははっ!このまま握り潰してやろう!」

「私にもやらせなさいよ……そおらっ!」

「ぐ……うぅ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 

ダブルドーラの巨体に小柄であるダイは押し潰されそうだ。しかもダイは瘴気の毒で限界が近い。更にメネロは綺麗な女性の魔族姿から植物を思わせる様な姿に変貌を遂げ、ダイを荊の鞭で滅多打ちにしている。身動きの取れないダイはされるがままだ。

うーん、この戦いってこんな感じだったっけ?流石にうろ覚えだからちょっと違和感を感じる。

 

 

「ガルヴァス君の策が上手くいったねぇ。ダイは瘴気の毒で全力が出せず、裏の六大将軍君達はコンビネーションでダイを追い詰めている」

「かもね……でも、ダイの……いや、勇者の力ってそれだけじゃないんだよな」

「ベギラマッ!」

「ギャァァァァァァァァァァ!?」

 

 

 

キルバーンの発言に俺は思った事を口にする。それと同時に一筋の閃光がメネロにヒットした。その光はベギラマで放ったのは口元をマスクで覆ってるポップだった。隣にはレオナも居る。ダイは突如、増援として現れたポップとレオナに驚いたダブルドーラの隙を突いて拘束から逃れるが限界だったのか倒れてしまう。

 

 

「おやおや、増援かい?確かに勇者には仲間が居た。それも勇者の強さの一つだね」

「ああ、それにパーティー全体の強さもあると思う。現に今のベギラマでメネロは倒されたみたいだし。ダイはダブルドーラから逃げ出したし、ポップは護衛でレオナが回復呪文でダイを復活させるだろ」

 

 

レオナがダイに駆け寄り、ベホマでダイの回復を担う。ポップはダブルドーラに杖を構えて威嚇していた。

ダブルドーラの足下でブスブスと焦げたメネロは動かない。ベギラマ一発で倒される六大将軍って、どうよ?

 

 

「おのれっ!」

「雑魚が二人増えた程度で!」

 

 

いや、雑魚とは言ってやるなよ。君らの同僚はその雑魚に剣の一閃と呪文一発でやられたんだから。そんな事を思っていたらザングレイとブレーガンがポップとレオナを襲おうと迫っていた。しかし、それを遮る様に地鳴りが鳴り響く。

 

 

 

「グオオオオッ!貴様等の相手は俺達だ!」

「アムドッ!」

「お、おお……」

 

 

地面から現れたクロコダインに颯爽と現れたヒュンケル。ヒュンケルは登場するや否や魔剣の鎧を身に纏って完全武装となった。その二人を見てガルヴァスは鼻を垂らしてアホ面になっていた。

 

 

 

「ダイ、大丈夫か!?」

「あらましはマトリフから聞いた。後は俺達に任せておけ」

「ダイ君は私が治すわ。ポップ君も奴らを!」

「おう、まかせろ!」

 

 

ダイの下へ駆け寄るクロコダインとヒュンケル。レオナはダイをベホマで治しながら指示を出し、マァム救出を優先させた。

 

 

「ふん、裏切り者が何の用だ!このザングレイ様の強さに平伏せ!」

「貴様等、程度が俺に敵うつもりか!」

 

 

「魔剣士と呼ばれた男……一度戦ってみたかった!」

「迷惑だな!剣の錆が増えるだけだ!」

 

 

「貴様の様な魔法使いに何が出来る?瞬殺してくれるわっ!」

「マァムは……いや、マァムもダイも俺が助けるんだ!」

 

 

ザングレイVSクロコダイン。ブレーガンVSヒュンケル。ダブルドーラVSポップの戦いが始まる。もう映画の時とは違う構図になってきたなぁ……特にポップが。

 

 

「うーん、ダイの仲間達も想定よりも強いね。それにクロコダインやヒュンケルも強さが増している様に見える」

「そう……だな」

 

 

キルバーンの一言に俺は頷いた。本来なら裏の六大将軍が一時的には優勢になる筈だがハッキリ言ってクロコダインやヒュンケルはザングレイとブレーガンを圧倒してるし、ポップもダブルドーラと互角の戦いをしてる。なんでなんだ?

 

 

「バルジの戦いに於いて奴等は仮にもハドラーやフレイザードを倒した。レベルアップも当然だろう……」

「あー……成る程」

 

 

ミストバーンの発言で納得してしまった。ヒュンケルはハドラーと、その護衛のアークデーモンやガーゴイルを倒しているし、クロコダインは魔影軍団と妖魔師団を壊滅に追い込んでいる。ポップはマトリフの下で特訓を繰り返して強くなってるし、ダイはフレイザードとアーマードフレイザードを倒してるからゲーム的な発言をしてしまえば相当な経験値を得た事になる。ついでを言うならメタルハンターも漏れなく倒されてるからダイ達のパワーアップに一役買った形になってるな……

 

 

「フッフッフッ……仲間の為に一緒に死にに来るとは見上げた友情だ。ならば共に死なせてやろう!」

「先にダイを倒してくれるわ!」

 

 

そんな事を考えていたらガルヴァスの叫びにデスカールが治療中のダイに襲い掛かった。レオナはダイを庇いながら治療を続けている。

 

 

「フィンガーフレアボムズ!」

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 

デスカールのフィンガーフレアボムズを浴びたレオナはダイと引き剥がされてしまう。更にダイは爆風でガルヴァスの待つ玉座の方面に転がって行った。それよりも俺には気になる事が……

 

 

「威力低っ」

「そうだねぇ。フレイザードが放ったフィンガーフレアボムズに比べると威力が段違いに低いよ」

 

 

 

デスカールは両手でフィンガーフレアボムズを放っていたがフレイザードのと比べると明らかに威力が残念の感じだった。フレイザードのフィンガーフレアボムズはフバーハを突き破り、更に全員にダメージを与えていたのにデスカールのフィンガーフレアボムズはノーガードのダイとレオナを吹き飛ばすくらいの威力しか無かった。なんて言うか爆竹と爆弾の違いを見た気分だ。

 

 

「フレイザードの呪文はメラゾーマだったがデスカールのはメラミ程度だろう。両手から放った事で呪文の練度そのものが落ちている。奴程度なら当然だ」

「わぉ、辛辣だねミスト」

「ダイの強さを測る為の試金石にもならないなら当然か……あ、ダイが起きた」

「ぐ……うぅ……」

 

 

呆れた様子のミストバーン。俺に教える為なんだろうけど寡黙キャラが完全に崩れてるぞ。そんなミストバーンにツッコミを入れようかと悩んでいると本来よりも痛め付けられて気絶していたダイが吹き飛ばされた衝撃で意識を取り戻す。そろそろクライマックスかな?

 



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更なるレベルアップ

 

 

 

 

「ぬぅん!」

「がぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 

クロコダインがザングレイとの乱戦の最中、槍を奪い取り構えるとザングレイの腹を貫いた。クロコダインは肩を斧で斬られて重傷になったが相打ちに近い形でザングレイを倒していた。

 

 

「アバンストラッシュ!」

「ぐわぁぁぁぁっ!」

 

 

ヒュンケルとブレーガンの戦いはブレーガンが優勢だった。ヒュンケルの鎧はあらゆる呪文やブレス攻撃を防ぐ筈だが前回の戦いで鎧の修復が間に合っていなかったのか三節棍の炎の側で突かれた際にヒュンケルが苦しんでいた。その苦しみ方を見て油断したブレーガンの一瞬の隙を突き、ヒュンケルはアバンストラッシュでブレーガンを真っ二つにした。

 

 

「ベギラマッ!」

「その程度の呪文が効くものか!」

 

 

ポップのベギラマを食らって頭と体を半分に分離させて襲い掛かるダブルドーラ。しかし、分離した頭を体をポップはバギで吹っ飛ばす。

 

 

「よっしゃ!これで……イオ!」

「ま、待て……ギャァ!」

 

 

頭を吹っ飛ばされた事でコントロールを失った体が慌て始めた所でポップがイオでダブルドーラの関節を破壊した。その為、体を支えられなくなったダブルドーラは頭だけとなってしまう。あの体、ヒュンケルの鎧やアーマードフレイザードの鎧みたいに呪文を弾く材質じゃなかったんだな。

体を破壊され身動きが取れなくなったタイミングでダブルドーラは頭部を破壊され機能停止した。分離出来る体ってのも考えもんだな。

 

 

「うーん、魔界の猛者を集めたって言ってなかったっけガルヴァス君」

「言ってやるなよ……もう、見てる側が辛いんだから」

 

 

アッサリと敗北していく裏の六大将軍に溜め息しか出ない。流石のキルバーンも呆れて……欠伸とかしてるし。しかし、これで裏の六大将軍はデスカールだけか……と思ったら焦げたメネロが立ち上がっていた。おお、根性あるな。

 

 

「よくも私の髪を……殺してやる!」

「うおおおおおおおおおっ!」

 

 

ガルヴァスの下へ走って行くダイの進行方向に立ち塞がるメネロ。ダイは右手に鋼の剣を左手にパプニカのナイフを構えており、更に炎を纏わせている。

 

 

「せりゃ!てぇいっ!」

「ふ、そんな攻撃……きゃぁぁぁぁぁっ!?」

 

 

メネロはダイの攻撃を避けて飛びのいたが飛んだ先にパプニカのナイフを投げられ着地の瞬間に背中に突き刺さり、倒れた。

 

 

「ダイってフラフラだったんだから鞭なり呪文なりで距離を空けて戦えば良かったのにねぇ」

「炎が迫ってたし、怖かったんじゃない?」

「軍師の部下の筈なんだがなぁ……」

「………」

 

 

キルバーン、ピロロ、俺、ミストバーンの順にコメント溢し。もう散々なもんだ。これで残るはガルヴァスとデスカールのみ。何故かガルヴァスはニヤニヤと笑みを溢しながらダイを見下ろしていた。

 

 

「ふふふ……計算通り。これでダイの力は半減し、仲間もボロボロ。これで勝ったも同然」

「流石はガルヴァス様」

 

 

ガルヴァスの呟きに同意するデスカール。いや、ダイと仲間をボロボロにした事よりも部下が5/6も失われた事を嘆けよ。ほら、レオナのベホマでクロコダインとポップは回復してるぞー。もうちょっと状況見ようぜ?

 

 

「ダイを倒せば後は雑魚ばかり……やれ、デスカール!」

「闘魔傀儡掌!」

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 

ガルヴァスの指示でデスカールが闘魔傀儡掌を放ち、ダイを更に追い詰める。いや、お前の部下はその雑魚にやられたのよ?

 

 

「ククッ……最後だ。マァムと会わせてやれ」

「それは良い。それ、マァムの魂だ」

「マ、マァ……ぐわぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 

ガルヴァスが悪い笑みを浮かべながらダイとマァムを引き会わせようとする。マァムの魂が封じられている玉座に叩き付けられるダイ。更にガルヴァスは至近距離で何らかの呪文を浴びせてダイを嬲り殺しにしようとしていた。

 

 

「ダイ、このベギラマ!」

「獣王会心撃!」

「ブラッディースクライド!」

「暗黒衝撃波!ガルヴァス様、お力添えを……ギャァァァァァァァァァァ!?」

 

 

それを見かねたポップ、クロコダイン、ヒュンケルからそれぞれ必殺技が放たれる。デスカールの放った暗黒衝撃波は一瞬、拮抗したものの獣王会心撃とブラッディースクライドは止められず、更にポップのベギラマが直撃した事で拮抗は完全に崩れて三種の必殺技が叩き込まれ、デスカールは大爆発に飲み込まれた。

 

 

「最早、憐れとしか言いようが無いな……」

「先程も言ったがヒュンケル達もレベルアップしている。それを計算に入れずに軍団結成当初のつもりで戦えば当然の結果だ」

 

 

オーバーキルとなったデスカールに憐れみを溢すとミストバーンが口を開いた。うん、それにしたって酷い結果だと思う。

 

 

「お、おのれ、もう許さん!こうなったら私自ら手を下してくれるわ!」

「復活したね。アレは最後の切り札かな?」

 

 

爆発の余波を浴びたのかガルヴァスは少々焦げていた。マントを勢い良く剥ぎ取ると裏の六大将軍の体に設置されていた宝玉が浮かんでガルヴァスの鎧に装備されて行く。ガルヴァスから感じられる闘気と魔力が格段に跳ね上がったのを感じた。しかし、俺はガルヴァスの背後から更に凄まじい闘気を感じていた。

 

 

「許さないのは俺の方だ!ガルヴァス!」

「な、なんだと!?」

 

 

そこに立っていたのは瘴気と部下の攻撃で弱っていた筈のダイだった。ダイの額から光が発せられ、凄まじい闘気が放たれている。しかも良く見れば先程の爆発からマァムの魂が封じられた玉座を守ったのか玉座も無傷である。

 

 

「こりゃあ……予想以上な状態になってきてんな」

 

 

ダイもその仲間達も原作よりもレベルアップしてんなー。いや、マジで。本来ならこの話ってもっとダイ側が劣勢になる筈なのに割と余裕があるんだもんよ。



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まさかの共鳴現象

 

 

 

復活したガルヴァスは六つの宝玉の力を得てパワーアップした。対するダイも額に竜の紋章を発動させていた。そういや何気に竜の紋章の発動を見るの初めてだな。バランさんは見せてくれなかったから。

 

 

「っ……痛っ!?」

「どうした、イーリス?」

 

 

ダイが紋章の力を発動させてから……急に胸に痛みが走った。なんだ……この痛みは。俺は胸を押さえて蹲ってしまう。

 

 

「なんか……急に胸に痛みが……」

「あれ、イーリス。胸の辺りが光ってるよ?」

 

 

俺の顔を覗き込む様にピロロが話しかけて来る。え、胸が光ってる?何を馬鹿な事をと思って視線を移すと……本当に光ってる。思わず首元から服を捲ってみると胸の谷間の部分……強いて言うならウルト○マンのカラー○イマーの位置が光っていた。更に言うなら、そのカラー○イマーの位置に……

 

 

「コレ、竜の紋章だね。バーン様の魔力で生み出された擬似的な竜の騎士でも紋章が発動するとは驚きだね」

「確認ありがとう。でも、見るな!」

「………っ」

 

 

キルバーンが捲った服を覗き込む様にガン見していたので思わず顔面に拳を叩き込んだ。つうか、危なかった。コイツの顔面殴るとか最大級のNG行為だってのに。そしてミストバーンが即座にキルバーンに手を翳した。

 

 

「ゴメン、ゴメン。でも、ほら……確認してバーン様に報告しなきゃだからさっ!だから許してくれないかい、ミスト?」

「………っ!」

 

 

俺が殴り飛ばしたキルバーンをミストバーンが闘魔傀儡掌を極めてる。おお、関節が危ない方向に曲がっていってるよ。コイツはロボットだからダメージは無いんだろうけど中々ショッキングな光景になってきてるよ。メキメキって嫌な音してるし。

 

しかし、これって……ダイの紋章の力に俺の紋章が反応したって事なのか?なんで胸の谷間に出たのかは疑問だが……俺が考え込んでいるとキルバーンへの罰が済んだのがミストバーンが俺の前で片膝を突いて、俺の顔を覗き込んでいた。

 

 

「大丈夫なのか、イーリス?痛みがあるのか?」

「ああ、いや……痛みは無いよ。なんか、ザワザワする感じがするけど……なんだろうな。ダイが立ち上がって力を漲らせてから、こんな感じなんだ」

 

 

ミストバーンが心配そうに聞いてくるが、取り敢えず惚けておこう。まだこの頃はダイが竜の騎士であるのは魔王軍で疑っているレベルの話で確定事項では無かったからな。

しかし、紋章の力に共鳴して俺の紋章が発動するとか驚かされたな。出た場所の事も含めて……いや、何度も思うけどなんで胸の谷間やねん。

 

 

「死ねぇ、ダイ!豪魔六芒槍っ!!」

「アバン……ストラッシュ!!」

 

 

なんて話をしていた俺達だったがダイとガルヴァスの叫びに意識がそちらに向く。視線を移せばガルヴァスが魔力で精製した槍を放ち、ダイはヒュンケルの魔剣を借りてアバンストラッシュを放っていた。やべ、途中から戦いを見てなかった!

 

 

「ば、馬鹿な……ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 

豪魔六芒槍をアバンストラッシュで切り裂かれ、そのままガルヴァス本人も切り裂かれ爆発四散した。紋章の力を発動したアバンストラッシュの威力、スゲーな。

 

ガルヴァスが死んだ事でベルナの森に張り巡らせられていた瘴気が晴れていく。力を使い果たしたダイは仰向けに倒れ、ポップ達が駆け寄って行ってる。あの分なら時間内にマァムの魂を元に戻すのは問題無さそうだな。ちょっと安心。

 



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フレイザードの新しい肉体と名前

 

 

 

 

ガルヴァスの一件の翌日。俺は父上に呼び出されたのでバーンパレスに来ていた。俺の胸に発現した竜の紋章の事を報告した後に試しに紋章の力を使ってみせよと言われた。でも、俺はまだ紋章の力を自在に操れる訳じゃないんだけど……取り敢えずやってみるか。

 

 

「ハァァァァァァァァッ!」

「ミストバーンとキルバーンから報告を聞いたが、竜の騎士の力の目覚めは不完全らしいな」

 

 

俺は父上の前で闘気を高める。しかし、あの時に感じた紋章の力は感じ取れない。以前に比べれば闘気や魔力の質が上がったと自分自身感じるが、竜の騎士の紋章が発動した時と比べれば力が出ていない。やっぱ戦いの中で力を練り上げるか、他の紋章の力と共鳴して力を引き出すしかないのかな?そう言えばダイも戦いの中で成長してたんだし。

 

 

「不完全ながら竜の騎士としての力に目覚めたとしても発動に手間取るか……やはりバランに力を引き出させるのが一番か。それに気に掛かるのは勇者ダイ……奴の力に共鳴してイーリスの紋章が発動したと考えるのならダイは竜の騎士である可能性がある」

「ど、どうなんでしょう?俺の力も何が切っ掛けだったのか分からなかったので……」

 

 

父上の推測に俺は目を泳がせながら答える。父上は僅かな情報からダイが竜の騎士である可能性にたどり着いていた。

 

 

「そうであるならば……ハドラーは余にその報告もせぬまま黙っていたと言う事か……」

「あー……その辺りに関してはなんとも……ハドラーとしても、アバンの弟子であるダイ抹殺は自分の手でしたいから黙っていた可能性も否定は出来ないので」

 

 

父上はほぼ確信得てるみたいだな……すまん、ハドラー……フォロー出来そうにないわ……

 

 

「バランもダイの動向を探っている様だ。ハドラーにダイの事を問いただすのと裏切り者の軍団長の件がある。キルバーンにバーンの鍵を渡して鬼岩城の移動を命じてある。イーリスよ、そなたも鬼岩城へ戻るが良い」

「そうですね。フレイザードの体の事もあるので失礼します」

 

 

ああ、キルバーンにバーンの鍵を渡して鬼岩城の移動イベントの辺りか。早く鬼岩城に帰って移動イベント見ようっと。と言うか、ルーラって『思い描いた場所』に移動する呪文だから鬼岩城が移動してたら俺は移動後の何もない荒野に行って寂しい思いをする事になってしまう。下手すればヒュンケルとクロコダインと遭遇してしまうわ。

早く帰ってフレイザードの体を定着させてやりたいし。

 

 

「しかし、胸の位置に紋章か……新しい服の意匠も考えさせるか……」

 

 

帰り際に聞こえた父上の発言は聞かなかった事にしたいなぁ……

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

「ええい、ならんと言っただろう!ダイは俺の手で抹殺してくれるわ!第一、ダイが竜の騎士である証拠が何処にある!?」

「アナタの言い訳も聞き飽きた……我が目で確認すれば良いだけの話」

「あ、お帰りイーリス。キミが帰ってくるのを待ってたんだよ」

「………」

 

 

鬼岩城に帰るとハドラーとバランさんが睨み合い、キルバーンが片手を上げて出迎えてくれた。ミストバーンは無口キャラに戻っていた。

 

 

「キミが帰ってこないと鬼岩城の移動が出来ないからね。イーリスも帰って来たし、取り急ぎ用を済ませるとしよう」

「あ、俺を待ってたんだ。なんか、ごめん」

 

 

キルバーンは懐からバーンの鍵を取り出して、玉座の後ろにある顔と言うかエンブレム?に鍵を突き刺して鬼岩城を起動させた。ゴゴゴッと鬼岩城が激しく揺れ動き、鎮座していた鬼岩城が海に向かって歩き始めた。

 

 

「さ、皆で仲良く世界旅行と洒落込もうじゃないか。次にダイと戦うのは誰にするのかも、ゆっくりしてから決めようじゃない」

「そんじゃ、その世界旅行の途中でフレイザードの新しい体を定着させるか。早めに肉体を得たいだろうし」

 

 

楽しそうに鬼岩城の移動と次のダイの相手を決める事を提案するキルバーン。俺は移動に時間が掛かるならフレイザードの体の事を早く済ませたかった。ザムザから例の素体も送られて来てるみたいだし。

そんな事を思ったと同時にバランさんとハドラーが俺を見た。

 

 

「イーリスよ。私がダイと戦う時にはキミにも来てほしい」

「イーリス、魔軍司令補佐として俺の仕事を手伝え!行ってはならん!」

 

 

自分がダイと戦う時には来てほしいと願うバランさんと、そうはさせまいと叫ぶハドラー。いや、どうしろってのよ……

 

 

「えっと……父上にも話したんだけど、先にフレイザードを復活させてくるよ。その後でダイの動向を調べてから判断しよっか。それじゃ!」

 

 

俺は一気に捲し立ててから鬼岩城の謁見の間を後にする。問題の先送りとは思うけど、今はフレイザードの事が先だよな、うん。ザムザからフレイザードの新しい肉体が届いてアイナさんが運んでくれてる筈だし。一旦自分の部屋に戻ってから目だけになったフレイザードの欠片を回収してから急いで以前、ハドラーがフレイザードを生み出した時の部屋に向かった。

 

 

「いよいよ肉体を持てるってか……いいねぇ。これで勇者のガキにリベンジ出来るぜ!」

「次の出番はバランさんになりそうだけどな」

 

 

頭の上でフレイザードの欠片が喜んでいるが次のダイの相手はバランさんで決まりだろう。間違いなくダイにとっても俺にとってもターニングポイントになる所だ。だからこそフレイザードの復活を急がなきゃならない。

 

 

「お待ちしておりました、イーリス様。妖魔士団から届けられた魔族の素体は此方になります」

「これが……ありがとうアイナさん」

 

 

ベッドに寝かされているのはザムザの研究所で吊るされていた突然変異の魔物の一体だった。その改造された後が残る肉体だが、これこそがザムザが研究していた超魔生物のプロトタイプに該当する素体なのだ。

原作でも、ザムザはバランさんが竜魔人となった姿を見て、魔物や魔族を改造する研究をベースに超魔生物の研究にシフトした。つまり、目の前のコイツは超魔生物研究前の最高傑作となった素体って訳だ。

 

 

「早く、憑依させてくれよイーリス!」

「ハドラーやミストバーンみたいにヒョイヒョイと出来ないからね、俺は。ちょっと待ってくれ」

 

 

俺は頭の上に乗せていたフレイザードの欠片を素体の上に乗せてから魔力と暗黒闘気を発動させる。う……やっぱりキツいな、コレ……体にズシッと重さを感じた。

フレイザードの欠片と素体に魔力と暗黒闘気を染み込ませていく。すると心臓の位置にフレイザードの欠片がズブズブと沈んでいく。それと同時に素体の魔物の体にも変化が起きていた。銀色の体毛が少しずつ赤く染まっていく。まるでフレイザードの炎の部分の色に染まっていく様な感じに見えた。しかし、更に体毛が変化していく。最終的には紫色になって、見開いた瞳は赤く染まっていた。

 

 

「ククッ……まさに生まれ変わったって感じだな、こいつぁ……」

「気分はどうよ、フレイザード?」

 

 

目覚めて起き上がるフレイザード。おっと……目眩が……

 

 

「おっと……俺の為に無茶をさせちまったな、お嬢」

「おいおい、お嬢って……」

 

 

起き上がったフレイザードは俺を支える。目覚めたばかりの肉体なのに支えてくれた手は温かく感じた。ちゅーか、呼び方が変わってるんだけど?

 

 

「今の俺のマスターはハドラー様じゃなくて、イーリス……お前だ。だけどよ……今更、イーリス様やマスターって呼ぶのもシックリこねー。だったら、お嬢って呼ぶのが丁度良いだろ、ケケケッ」

「ったく……フレイザードらしいな」

 

 

フレイザードが笑みを溢した。良かった、取り敢えずは成功したらしいな。

 

 

「そう、それよ。名前も変えてくれや。今の俺は氷炎将軍フレイザードじゃねぇ。お嬢の側近になった証に新しい名前を頼む」

「名前……新しい名前……」

 

 

フレイザードに言われて悩む。新しい名前ねぇ……今のフレイザードの見た目って、ぶっちゃけ大猿なんだよな。ん?……って言うか、この見た目って、DQ IIのアイツだよな。ゲレゲレの事もあるし、伝統の名前を授けるとするか。

 

 

「よし……なら、お前の名前は『バズズ』だ」

「バズズ……ククッ……気に入ったぜ、お嬢!今から俺の名はバズズだ!」

 

 

良かった、気に入ってくれたみたいだな。バズズはDQ IIに出てくるシルバーデビルタイプの中ボスの名前だ。そもそもフレイザードの素体になったモンスターはデビルロードだったから体毛が変わってマジでバズズみたいになったな。体の継ぎ接ぎも漫画のバズズみたいになってるし。




『バズズ』

フレイザードの欠片を妖魔士団で超魔生物の研究対象にしていたデビルロードに憑依させた結果、生まれたモンスター。
見た目はシルバーデビル/デビルロードを紫色に染めた体毛をしている。
身長がクロコダイン並みに高く体格も良い。元がデビルロードなので羽による飛行も可能になった。



元ネタはDQ II、DQⅤ、ドラゴンクエストモンスターズ+に登場したバズズ。
DQ IIでは中ボスだがDQⅤでは魔界に出没するモンスターの一種に格下げされた。
ドラゴンクエストモンスターズ+ではDQ IIで死んだバズズが邪配合によって作られたシルバーデビルの肉体に憑りつき復活した形で登場。その肉体は主人公ロランに切り刻まれた傷跡が恨みの様に残っている。


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人間って勝手だよね

 

 

 

「やれやれ……せっかくイーリスとのデートだったのに、お供が出来ちゃうとは残念だよ。僕にしては珍しい自由時間なのに」

「テメェとお嬢を二人きりにさせる訳ねぇだろうが!それに新しい体の具合も確かめたいんでな」

「もう……喧嘩すんなよ、二人とも」

 

 

現在、俺とキルバーンとバズズはベンガーナの近くの森に来ていた。俺がバズズに魂を吹き込んだ後に紹介しようと鬼岩城の玉座の間に戻ったら、話し合いは終わっていたのだ。

ダイの正体の疑惑についてはキルバーンと俺が出向いて正体を確かめる事になったらしい。なんで俺が同伴したかと言えばキルバーンが俺を連れて行きたいと提案してハドラー、バランさん、ミストバーンが反対したが、キルバーンが意見を押し切ろうとした。結果、妥協案としてバズズとゲレゲレが護衛として一緒ならばと承諾されたのだ。と言うか、本人の意思も確認しようぜ?俺が口を挟む間もなく決まっちまったよ今回。

ちゅーか、街を襲わせてダイの正体を確かめようとする事をデートと抜かすな。

 

 

「酷いと思わないか、なあ?」

「グルル……」

 

 

俺は街を襲う予定のドラゴンの一匹の鼻先を撫でる。撫でられたドラゴンは気持ちよさそうにしていた。すると、それを見た他のドラゴンやヒドラは「俺も俺も!」と言わんばかりに俺に鼻先を突き付けてきたのだ。

 

 

「うわっと、落ち着けって……ほら、順番に……な?」

「グルル……」

「グゥ……」

 

「うーん、イーリスってモテモテだねぇ」

「傍目にはドラゴンに食われる一歩手前のお姫様って感じだがな」

 

 

俺が順番にドラゴンを撫でているとキルバーンとバズズがそんな事を言っていた。確かに絵面だけを見ればそう見えなくもないか。俺がドラゴンを撫でた事に嫉妬したのかゲレゲレも体を擦り寄せてきてるし。

 

 

「さ、お遊びの時間は終わりだ。キミ達はあの街に行って存分に暴れてくると良い。人間も沢山いるからお腹いっぱいになれると思うよ」

「グワァァァァァ!」

「ギャォォォォォォッ!」

 

 

キルバーンがパンパンと手を叩いてから指示を出すと、ドラゴン達は雄叫びを上げてベンガーナの街へと突撃して行った。

街で暴れたドラゴンを退治するにはダイはドラゴンの紋章を使わざるを得ない。その力を発動させればダイは紛れもなく竜の騎士である事が証明されるのだ。でも、その為には……

 

 

「…………」

「おや、あの街に居る人間達の事を気遣ってるのかい?それともダイやその仲間にドラゴン達が倒されてしまう事への悲しみかい?」

 

 

俺の心を読んだかの様にキルバーンが俺の顔を覗き込んでくる。分かってて聞いてやがるだろ、コイツ。正直、どっちもだよ。俺達の都合でドラゴン達を犠牲にしようとしてるし、その為に他人を傷付けようとしてるんだから。

 

 

「甘いって言いたいんだろうが……俺は割り切れない」

「そんな事はないさ。そのキミの甘さを、さっきのドラゴン達も感じ取ったんだろ?それは僕やミスト……更にはバーン様にもない魅力さ。そんな所が僕は大好きなんだよ、イーリス」

「おら、サッサッと行くぞ!」

「ガウッ!」

 

 

俯いた俺を励まそうとしたのか、キルバーンが俺の顎をクイっと指で上に向けるが、バズズが俺を抱き上げ肩に乗せて走り出す。後ろではゲレゲレがキルバーンに威嚇なのか吠えていた。一応言っておくが、ときめいたりしてないからな?

 

 

「やれやれ、仕方ないなぁ。お仕事お仕事」

 

 

そんな事を言いながらキルバーンは俺達の後を追ってきた。ここ最近思うけど、キルバーンって仕事は出来るけど真面目では無いんだよな。まあ、その辺りはミストバーンと対極だからバランスが良いんだろうな。

ぼんやりとそんな事を思いながらバズズの肩に担がれてベンガーナの街に到着。そこでは既にポップがドラゴン相手に奮戦していた。

 

 

「おや、勇者君の姿が無いな。逃げちゃったのかな?」

「そりゃないだろ。あのガキの事だ。力を蓄えているのか、機を見計らっているのか……」

 

 

キルバーンとバズズの呟きに「今頃ダイは地面に激突してるだろうよ」と言いたかったがギリギリ我慢した。するとポップがトベルーラで空を舞いながらダイの大冒険発祥の呪文のベタンでドラゴンを纏めて五匹押し潰していた。そしてそれと同時に街で暴れていたヒドラにダイが立ち向かっていた。

 

 

「おお、なんだあの呪文は!?」

「流石は勇者の仲間。大呪文を扱うか」

「あっちでダイがヒドラと戦い始めたな」

 

 

初めて見たけど、凄いなベタン。広範囲に重量を掛けて対象を圧する。単純だが効果は絶大だな。ましてや相手はドラゴンだ。対象の自重があればある程に効果が増す呪文だな、アレは。一方でダイはヒドラ相手に苦戦していた。そりゃ一般兵士が使う剣じゃヒドラの皮膚は貫けないわな。オマケに街中だから派手に動き回れないし技の制限も出て来る。このハンデがある状態でどうする?

「僕はもう少し近くで見て来るよ」と言ってキルバーンは民家の屋根の上から飛び降りて近くの民家の壁の中にズブズブと沈んで行く。どうやってんだろう、アレ。ちょっとやってみたいんだけど。

 

その直後、ポップの呪文からギリギリ生き残った一匹のドラゴンが立ち上がると他の場所へと走って行く。つーか、一匹しか生き残らなかったのか。本来なら二匹だった筈だが、ポップの呪文のレベルも上がってるんだな。

 

この後だが、ダイが紋章の力を発動させヒドラの首を数本吹っ飛ばし、迫って来たドラゴンも倒してしまう。その凄まじい力に助けられた筈の街の人達からの視線は冷たく怯えたものだった。やっぱり嫌だな……この光景を実際に見るのは。正直、このシーンはダイの大冒険の中で特に嫌いな場面だった。人間の身勝手な部分が特に強調された所だったのだから。

 

 

「勝手だよねぇ、人間は。街と自分達を守ってくれたのに、キミの人間離れした戦いにビビっちゃてるんだ。本当に自分勝手さ、フフフ」

「そこだ!」

 

 

ダイは人々からの冷たい視線に狼狽していたが、一瞬の殺気を感じとり、装備していたドラゴンキラーを民家の壁に突き刺す。その壁から腕が生えて、突き刺したドラゴンキラーを掴んでキルバーンが姿を現した。中々凄い演出だな。

でも、キルバーンの言い分に今回は概ね同意してしまう。先程も……今までも思った事だが今回の一件もバランさんの過去も人間の身勝手な考えが招いた事なのだから。

 

 

「お見事、お見事。まさか僕に気付くなんてね」

「お前が超竜軍団の軍団長か!?」

 

 

笑いながら現れたキルバーンにダイが問い掛けるがそれは違うぞ。俺はそう思いながら屋根の上から光景を眺めていた。

 

 

「軍団長?まさか。僕はただの使い魔……と、お姫様のお守りさ」

「お守り……あ」

「ア、アイツは……魔軍司令補佐のイーリス!」

「よう……」

「会いたかったぜ、クソガキども!」

 

 

キルバーンが「お姫様」の辺りで俺に視線を送り、ダイとポップがその視線を追って俺を見つけてしまう。思わず手を振ってしまったが、その直後に隣に居たバズズが叫んだ。うわぁ……恨み抜群。

 

 

「な、なんなんだ……あのシルバーデビルは通常の奴よりもデカイぜ。しかも俺達の事を恨んでるみたいだ」

「コイツの名はバズズ。元、フレイザードだよ。バズズはリベンジマッチをしたいみたいだけど……今日の所は引き上げるから安心してくれ」

「そういう事さ。ま、近い内に本物の軍団長が会いに行くから楽しみにしてると良い」

 

 

ポップがバズズを見て怯えていた様子だけど、俺が手で制しながら引き上げる事を告げるとキルバーンも同意してくれた。これでダイ達は占い師の……名前は忘れたけど婆さん達に導かれてテランに向かう筈だ。俺の仕事はこれで終わりだな。キルバーンが再び壁の中に戻っていったので、俺とバズズはゲレゲレを連れてルーラでその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イーリス、バーン様と話がついた。ダイとの戦いにキミも同伴してくれ」

「あ……はい」

 

 

鬼岩城に帰ろうと思ったらバランさんに呼び止められた。うーん、地上最大の親子喧嘩に俺も加わる事になるのか。と言うか、血縁からすればバランさんは俺も居た方が良いと思ったんだろうな……

 



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竜の神殿へ行こう

 

 

 

 

今更ながらキルバーンが灰にしたドラゴンキラー勿体なかったなぁ……普通に高価で実例のある武器なだけに残念だ。もしも、ドラゴンキラーを装備したキラーマシンとか作ったらどうなるんだろう……なんて思っちゃったし。帰ったらキルバーンに少し文句を言ってやろう。

 

 

「どうした、イーリス」

「いや、ドラゴンキラーが勿体なかったなぁ……ってね。資源は無駄にしちゃ駄目だよね」

「へっ……ドラゴンキラー以上の武器を持ってる奴が言う事かね」

 

 

原作通りならダイは占い師の婆さんとメルルに導かれてテラン王国に辿り着いた辺りだ。俺とバランさんとバズズはその後を追ってテラン王国に到着していた。因みに今回、ゲレゲレは鬼岩城にお留守番である。

 

 

「随分と落ち着いた雰囲気になったなフレイザード……いや、今はバズズだったな」

「おうよ、あの頃の俺は功を焦っていたからな。今はお嬢を守るのが俺の使命よ」

 

 

フレイザード時代を知ってるバランさんはバズズに生まれ変わってからのフレイザードに驚いていた。まあ、あの頃の焦った様子が無くなればそりゃそうか。良くも悪くもフレイザードは生まれたての赤ん坊みたいなもんだったんだし。

バランさんの言葉に怒る事もなく、俺の頭に手を乗せてポンポンと叩くバズズ。

 

 

「そうか……む、此処だな」

「テラン王国か……なんか寂しいな」

「寂れた王国なんざ、攻める価値すらねーんだろ。魔王軍の侵略する国のリストにすら載ってなかったぜ」

 

 

テラン王国の湖に到着。自然豊かと言えば聞こえが良いが廃れた結果とも言える。バズズの言う通り、攻める価値が無かったからこそ国が無事だとは皮肉なもんだ。

 

 

「もうダイ達は来てるみたいだな。ほら、彼処に魔法使い君とかお姫様も居るみたいだぞ」

「ああ、俺が氷漬けにした姫さんと……俺の半身を溶かそうとしたクソ魔法使いのガキが……」

 

 

反対岸に見える村と人影達。あれはポップとレオナ姫かな……遠くて良く見えないが間違いないだろう。

 

 

「だが勇者の姿が見えないな。恐らく湖の底にある竜の神殿に既に行ったのだろう。ならばやはり勇者ダイは竜の騎士である可能性が高いな。私も竜の神殿に行ってくる……イーリス。キミも一緒にだ」

「え、俺も?」

 

 

バランさんとダイの親子再会の後から俺とバズズの出番だと思ってたのに俺も竜の神殿に同伴するの!?

 

 

「キミが私の血で生み出された存在なら竜の騎士として認識される可能性がある。竜の紋章も発現した様だしな」

「……じゃあ、俺も一緒に行くよ。バズズ、俺とバランさんはちょっと行ってくるから待っててくれよ?間違ってもアイツ等を強襲するなよ」

「わかってるっての。バラン、お嬢を傷付けさせんなよ」

 

 

バランさんから手を差し出される。そう言われれば俺も竜の紋章が出たんだから竜の神殿に入れるんだろう。親子再会に水を差したくも無いけどバランさんの眼差しに俺は折れた。念の為にバズズに指摘しておくと逆にバズズはバランさんに俺の保護を頼んでいる。

 

 

「任せておけ、バズズ。私が言うのもなんだが、キミの周囲には過保護な者が多いな」

「我ながらそう思うよ」

 

 

バズズに返答した後に苦笑いを浮かべながら俺の手を引いて湖に入水するバランさん。俺はバランさんに手を引かれながら湖に入り、そのまま湖の底の竜の神殿に向かった。

俺は本当に竜の神殿に入れるかな?と少し不安だったけど竜の神殿に無事に入る事が出来た。

 

 

「………」

「話には聞いていたが……本当に額以外の場所に竜の紋章が発現するとはな……今はその事を言い合うべきでは無いな。先を急ごう」

 

 

神殿に入ってからバランさんの額に紋章が浮かび上がった。それと同時に俺の胸に竜の紋章が浮かび上がっていた。服の下からでも光っているのが分かるくらいに光っている。バランさんも俺の額と胸の辺りを見比べて驚いていた。キルバーンと違ってガン見する事はなく、少し見比べてから咳払いをしてから先に進む事を促される。

紳士なのだとは思うが、他に対処のしようもないから先送りにしたとも言えるが。

 

そして神殿の奥の間に辿り着いた。扉を開けようとしたが重く中々開きそうに無かったのだが、我が子に早く会いたかったのかバランさんが力づくで開けようとしていた。ピシッと扉にヒビが入り、遂に重たく結界に封じられた扉が、こじ開けられた。

 

 

『バ、バカな……この神殿には結界が……それに中には二重の結界も……』

「お、お前達は……」

 

 

中には動揺している声とダイが居た。動揺してる声は多分、竜水晶の声なんだろうな。お騒がせしてスミマセン。

 

 

さて、これから俺は色々と暗躍しなきゃだから忙しくなるぞ。



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せめて話は聞いて欲しい

 

 

 

 

竜の神殿でダイと対峙する俺とバランさん。鳩が豆鉄砲を食ったような顔してるわ。ま、そりゃそうか。竜の騎士しか入れない神殿に三人も居るんだから。

 

 

「お、お前は……魔軍司令補佐のイーリスに……」

「我が名はバラン……魔王軍超竜軍団長のバランだ。そして当代の竜の騎士だ!」

「俺の方は自己紹介はいらないな」

『この神殿に入ったと言うことはこの男と娘も竜の騎士だと言うのか?ありえない。同じ時代に竜の騎士が三人も揃うなど……』

 

 

ダイが俺の名を呟き、バランさんが自己紹介をした。竜水晶は壊れたラジオみたいに震えた様な音声を発してる。うん、あり得ない事態にバグってんな。

ダイの方も竜水晶の言葉が聞こえてないっぽいな。その視線はバランさんに集中している。

 

 

「聞いた筈だ……竜水晶から己が竜の騎士である事を!私はお前の力が欲しい……私の部下になれ!共に人間共を滅ぼすのだ!」

「バランさん。もっと段階を置いて話をしないとでしょ。ダイの方は明らかに理解が追い付いてないよ」

 

 

バランさんのいきなりの発言にダイは何を言われているのか分からないって顔をしている。俺の指摘にバランさんは少し思案してから言葉を続けようとしたが先にダイが叫んだ。

 

 

「だったら……大魔王バーンの方が悪いじゃないか!?竜の騎士が世界のバランスを保つ存在なら倒すのは大魔王バーンの方なんじゃないのか!」

「違うな、悪いのは人間だ。バーン様は世界の平和の為に人間を滅ぼそうとなさっているのだ」

「魔王軍が世界平和を叫ぶとか斬新だよなぁ。取り敢えず話だけでも聞いてくれないか?」

 

 

ダイとバランさんの会話に思った事を普通に口にしてしまった。ダイも冷静な状態じゃないし落ち着かせようとしたのだがダイは既に剣を抜いて逆手に構えている。

 

 

「俺は人間の味方だ!アバン先生の命を奪った魔王軍の手下になんかなるもんか!食らえ、アバンストラッシュ!」

「うおっ!?いきなりかよ!」

「むん!」

 

 

そう言ってダイは体を引き絞り、アバンストラッシュを放った。俺は思わず悲鳴を上げそうになったがバランさんが一歩前に出てアバンストラッシュをその身で受け止めた。

フレイザードとの戦いで空裂斬を会得したダイのアバンストラッシュは完全な物となりアーマードフレイザードやガルヴァスを一撃で倒す程の威力となったにも関わらずバランさんの鎧に僅かにヒビが入る程度のダメージにしかならなかった。庇って貰って思うのもなんだけど……規格外だよな、この人。バランさんはアバンストラッシュを意にも介さず、無造作にダイの右手を掴んだ。

 

 

「出来る事なら傷付けたくなかったが……お前がそう言う気持ちならば力付くでも連れて帰るぞ!」

「な、全然効いていない!?」

「バランさん、ちょっと落ち着いて……わっ!?」

 

 

バランさんの額に竜の紋章が浮かび上がり、それに共鳴してダイの額にも竜の紋章が浮かび上がり、俺の胸にも竜の紋章が浮かび上がった。改めてなんで胸に紋章が浮かび上がるんだろう、俺。そんな事を思っていたらバランさんから放たれた闘気が爆発して竜の神殿を破壊し始めた。俺は急いで神殿から脱出した。

 

 

「ぷはっ!」

「無事だったかイーリス。すまないな、私も冷静に事を運ぼうと思っていたのだがダイを前にしたら気が昂ってしまった様だ」

「あ、アイツは魔軍司令補佐イーリス!あんな奴まで一緒に来てたのかよ!?」

 

 

水面から顔を出したらバランさんに謝罪された。バランさんは竜の紋章を光らせながら水面の上に立っている。もうポップ達と遭遇してたのね。ダイは剣を杖の様にして立ち上がり、レオナはダイを支えていた。

 

 

「あの男も竜の騎士!?」

「アイツ等は魔王軍だ……魔王軍の超竜軍団長のバランと魔軍司令補佐のイーリス!」

「魔王軍にも竜の騎士が居るのかよ!?」

「そんな筈は……伝説によれば竜の騎士はこの世でただ一人と言われています。二人も存在する筈はありません!」

 

 

レオナの叫びにダイが答え、ポップはバランさんの額の紋章を見て悲鳴に近い叫びを上げた。しかしメルルがそれを否定する。

 

 

「そう……この私こそ、この時代のただ一人の真の竜の騎士だ!」

 

 

バランさんは俺の手を引いて俺を水中から引き上げる。俺の手を引きながらだと少し締まらない感じだけど仕方ないか。

 

 

「だったら……なんで竜の騎士が魔王軍に協力してるのよ!?」

「貴様等、人間には関係ない事だ。その子は連れて行かせてもらおう」

「ふざけんな、ダイはわたさねぇぞ!姫さん、ダイに回復呪文をしてやってくれ。コイツ等は俺が時間稼ぎをするぜ、ベタン!」

 

 

レオナの叫びにバランさんは吐き捨てる様に告げる。その様子にポップが叫ぶがバランさんは鼻で笑った。そしてポップのベタンで俺とバランさんの体に重圧がのし掛かる。うおっ、思ってた以上にキツい!

 

 

「これで奴等は動けない……姫さん、今のうちに……んなっ!?」

「うわぁ……平然と歩いてる」

 

 

ポップのベタンが全く効いていない訳じゃないんだろうけどバランさんは平然と歩みを進めてる。俺も闘気を発動させれば動けそうだけどさ。

 

 

「ド、ドラゴン数匹を仕留めた俺の最大呪文が足止めにもなってねぇ!?しかも増えやがった!」

「ドラゴンを束ねる軍団長がドラゴンよりも弱いと思ったか?」

「おい、動けねぇのかイーリス?ちっとキツいが動けない程じゃねぇだろ」

「まあ、少しキツいけど動けない程じゃないか」

 

 

驚愕するポップにバランさんが無慈悲に告げ、更に反対岸に居たバズズが飛んで来た。ベタンの範囲に入っても平然としているバズズにポップが可哀想になってきた。

 

 

「ひ、姫さん……急げ!」

「そ、そんな急に完全回復はしないわよ!」

「むん!」

「うわっと!」

 

 

ポップが焦ってレオナを急かすがいくらベホマでも一瞬では回復はしない。そんな二人を尻目にバランさんは闘気でベタンを弾き返した。その衝撃波に俺とバズズも吹き飛ばされそうになったが何とか耐えた。

 

 

「その子は貰っていくぞ」

「だ、ダメよ……ダイ君は渡さないわ!」

「アンタが竜の騎士だとしても同族だからって好き勝手にコイツの生き様を決めて良い訳がねぇだろ!」

 

 

バランさんが倒れたレオナやポップ達の前に立ち、ダイを連れていくと宣言するとレオナはダイを抱き締め、ポップは仲間は渡さないと意思を示した。

 

 

「好きにする権利ならある……その子の本当の名はディーノ。血の繋がった我が子だ」

「な……ダイ君の父親!?」

「そ、そんな事がなんで言えるんだよ!?同じ竜の騎士だからって親子だなんて確証は無いだろ!それに大体、ダイはデルムリン島で生きていたんだぜ!アンタと親子の筈がないだろうが!」

 

 

バランさんのカミングアウトにレオナは驚愕し、ポップが反論した。ダイは呆然としていて理解が追い付いていない様に見える。

 

 

「それが親子なんだよなぁ。バランさんとダイが離れ離れになっていた事には理由があるし、一人しかいない筈の竜の騎士が二人って事が何よりもの証拠ってね」

「だとしても……魔王軍の言う事なんか信じられるかよ!」

「それにアナタが父親だと言うならお母さんは?ダイ君のお母さんはどうしたの!?」

 

 

俺の発言にポップが杖を俺に突き付けて叫ぶ。レオナも当然の疑問を口にするが俺はハラハラしていた。だって、ダイの母親……つまりバランさんの奥さんの話題はバランさんにとって触れちゃいけないキーワードなんだもの。

 

 



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カミングアウトしてみました

 

 

レオナの母親はどうした発言に思案顔になったバランさんだが「貴様等には関係ない」と切り捨て、ダイの勧誘を再開していた。

 

 

「もうよさんかディーノ。お前の気持ちも分からんでもないが、これ以上私の手を煩わせるな」

「うるさい!ディーノなんて呼ぶな!俺の名はダイだ!じいちゃんから貰った俺の名前なんだ!本当の名前もクソもあるもんか!俺は魔王軍と戦う……勇者ダイだ!」

「ダイ君……」

「……ダイ!」

「ふーん……」

 

 

なんとか穏便に話を進めようと思ったのにバランさんは我が子に会えてテンションが上がり過ぎたのか説明を端折った発言で今のナイーブな状態のダイを刺激してしまい、ダイは意固地になった上に問答無用で斬り掛かって来た。更にポップ達も話を聞かずにひたすら拒む態勢になっている。

魔王軍と勇者の橋渡しをしようとするのが大魔王の娘ってどんな構図だよ……

 

 

「大したもんだな勇者様は。お前の両親がお前の為に付けた名前は知らないとツバを吐く訳だ。確かにお前は人間寄りだよ。自分の価値観で他人を平然と傷付ける」

「……え?」

 

 

俺の発言にダイは目を丸くした。頭に血が上がっていたから出た発言なんだろうけど見過ごせないぞ今のは。ポップ達も嬉しそうな顔をするなっての。

 

 

「確かに育ての親が付けてくれた名も大事だろうけど、長年お前を必死に探していた親の気持ちは一切考えていない。さっきも俺達が魔王軍ってだけでいきなり斬り掛かって来たな。もしも俺達が魔王軍に居ても善良な存在だったらどうする?それとも勇者様は相手が魔王軍なら一方的な虐殺も良いってか?」

「で、でも……アイツは魔王軍で……アバン先生の仇が……」

 

 

俺の言葉にダイから闘志に揺らぎが見え始めている。うん、良い兆候だ。迷いながらも出した言葉に俺は畳みかける事にした。

 

 

「仇……仇ね。お前は知らないだろうから教えてやろうか。お前の母親を殺したのは……人間。それも王家の人間だ」

「なっ……!?」

「ま、マジかよ!」

「そ、そんな事……信じられないわ!」

「イーリス……余計な事は話さなくて良い」

 

 

俺の発言にダイ、ポップ、レオナは絶句し、信じられないと言った様子だ。バランさんは呆れた様子で俺を睨みながら呟く。俺はこの話は原作を知っていたと言うのもそうだが、バランさんから直接聞いた話でもあるのだ。俺が知っていても不思議は無く、話す事が出来た。

 

 

「いや……バランさん、話すべきだよ。世界のバランスを調整する竜の騎士なら人間が如何に間違っているか問うのも竜の騎士の務めじゃないかな?それにバランさんも息子に波風は立てたくないだろ?」

「そうだが……」

 

 

俺の発言にバランさんも冷静になり始めたのか若干落ち着いて来ていた。よしよし……このまま話を進めよう。

 

 

「そんな訳だからクロコダインも話に参加したら?」

「……気付かれていたか。流石だな、イーリス」

「クロコダインのおっさん!ありがてぇ、アンタが居てくれば百人力だぜ!……おっさん?」

 

 

俺は森の茂みに潜んでいたクロコダインも呼び寄せる。すると潜んでいたクロコダインが姿を現し、ポップが駆け寄る。クロコダインの増援に喜んでいた様だがクロコダインの体は震えているのだろう。

 

 

「おっさん……震えてるのか?」

「クロコダインか……いくらお前でも私。そしてイーリスとバズズを同時に相手にすればどうなるか分かるだろう?親が我が子を連れ戻すのを邪魔するか?」

「死ぬ……だろうな。そのつもりで手助けに来たのだが……イーリスが対話を望むとはな」

「バランさんから息子さんの話は聞いていたからね。まあ、その息子さんは年齢的にも反抗期真っ只中みたいだけどな。取り敢えず親子の再会を願っていたんだけどね」

 

 

ポップがクロコダインが恐怖に震えているのに驚く最中、バランさんが口を開き、俺は最低限話し合いをするつもりだったと告げる。

 

 

「だが、ダイの本意ではあるまい。母親の事も知らぬ事であったのも事実だが、だからと言ってダイが魔王軍に降る事もないだろう。ダイが居なければ俺やヒュンケルは未だに魔道を彷徨っていただろう。ダイは俺達の心に光を与えてくれていた太陽なのだ!生きとし生けるものには太陽が必要。それを奪おうとする者は断じて許さん!例え力及ばずとも戦うのみ!」

「成る程……完全に人間の味方って訳だ。んじゃリベンジさせて貰おうか」

「落ち着けバズズ。まだ話の途中だ」

「………」

 

 

クロコダインの宣言に試合開始のゴングだとばかりに襲い掛かろうとしたバズズを止める。まだ戦うなっての。バランさんは『太陽』のキーワードで奥さんを思い出してるみたいだし。

そんな事を思っていたら俯いていたダイが顔を上げた。そして額には竜の紋章が浮かび上がっていた。

 

 

「アンタが俺の本当の親だとしても……俺の母さんが人間に殺されたとしても……俺は勇者だ!人間の為に戦う!」

「やれやれ……ならば今は人間共の呼び方に倣ってダイと呼ぶ!ダイよ、我が軍門に下らん限り、その命は無いものと思え!」

 

 

ポップ達の思いやクロコダインの宣言に再び勇者としての闘志が湧き上がって来たみたいだ。ダイの紋章に呼応してバランさんの額にも紋章が浮かび上がって頭にもまた血が上って来たみたいだ。まあ……ある程度、下準備が出来たから上等かな。あ、俺の胸元も光って熱くなって来てるわ。

 

 

「なんで貴女は……此処まで介入するの?貴女が大魔王バーンの娘だと言うのは聞いているけど、それにしては口を挟み過ぎていると思うわ」

「魔王軍としてもダイの竜の騎士の力を必要としてるんだろうぜ……」

「ああ……俺は父上、大魔王バーンの娘でもあるけど血縁的にはバランさんと繋がりがある。敷いて言うなら俺はダイと姉弟……いや、年齢的には兄妹になるけど。ま、俺も一応、竜の騎士扱いだからな」

 

 

レオナとポップの疑問に答えた俺。まあ、隠す事でも無いし。俺の発言に今までの空気が四散して場が静まり返った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「…………え?」」」

 

 

 

 

 

 

俺とバランさん、バズズを除いた全員が鳩が豆鉄砲を食ったような顔になっていた。うーん、貴重なワンカットになったな。



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交渉失敗しました

 

 

 

 

 

微妙な空気になった。うん、勇者陣営の全員が目を丸くしている。そろそろ相手側にも情報開示とは思ったけど父上やミストバーンに黙って喋っちゃったのマズいかなぁ……

 

 

「お、おいおい……それじゃ矛盾してるぜ?アンタは大魔王バーンの娘なんだろ?なんでバランやダイと血の繋がりがあるなんて言えるんだよ!?」

「俺はバランさんの血を媒介に禁呪法で生み出された存在なんでな。色々と規格外なんだよ。まあ、そんな訳で俺も一応竜の騎士って訳だ」

 

 

ポップの疑問に答えるとそれぞれが何とも言えないような表情になっている。うん、急にぶっ込んだ情報に頭が追い付いてないとみた。

 

 

「という訳で俺は竜の騎士でありながら魔王軍所属で父上、大魔王バーンの娘って事。バランさんとは血の繋がりもあるし、ダイとは争わないで欲しかったんだけど」

「争わないで欲しい!?ふざけるな!超竜軍団の所為でカール王国が滅ぼされて、ベンガーナの町に被害が出たんだぞ!」

 

 

お涙頂戴とは行かずとももうちょっと共感が欲しいところだがダイは拒絶の姿勢を崩さない。まあ、勇者として魔王軍が許せないスタイルなら仕方ないか。取り敢えず帰ったら話をややこしくさせたキルバーンは殴ると決めた。しゃーんなろー!

 

 

「勇者とか魔王軍とかを一先ず置いておいてさ……少しだけ歩み寄ってはくれないか?お前が先生を魔王軍に殺されて魔王軍を恨むように、人間に奥さんを殺されて、息子と離れ離れにさせられた父親の心境を汲んでさ」

「そ、れは……」

 

 

俺が手を差し伸べながらダイに語り掛けるとダイは握っていた剣の先が降り始めて来ていた。よし、このまま話し合いに移行しようか。

 

 

「騙されんなダイ!コイツ等が勝手にそう言ってるだけなんだぞ!大体、竜の騎士って割にはイーリスの額には紋章が無いじゃないか!」

「それがなぜだか俺の紋章って此処にあるんだよね。見てみる?」

 

 

ポップがダイを庇う様に前に出て輝きの杖を構える。紋章が見たいのかい?俺はノースリーブの服を胸元からチラ見せしてみせるとポップは分かりやすく鼻の下を伸ばした。

 

 

「気安く見せるものでは無いだろう。それと迂闊な事をするなアイナに怒られるぞ。さて、答えを聞こうかダイ?」

「俺は……俺は……」

 

 

バランさんは俺の手を下ろして服を捲るのを止めた。おっと淑女にあるまじき行為だったか。何気にレオナがダイの目を手で隠してるし。

 

 

「例えアンタが俺の……父親だとしても……母さんの事があったとしても……俺は人間の味方だ!」

「ふむ……人間共の価値観に浸かり過ぎた様だな。ならば、その価値観を崩してやろう……」

「バランさん、ちょっと待っ……ひゃわあっ!?」

 

 

ダイの闘志が再び燃え上がった事でバランさんは人間の価値観に染まったダイの記憶を消そうとしたのか額の紋章が輝き始めた。しまった、なまじ話し合いにしたからバランさんの中でダイの価値観が揺るぎない物だと確信させちまったみたいだ。バランさんはダイの価値観の元である記憶を消そうとしたのだろうが、俺の胸にある紋章にも影響が出たのか共鳴を始めて震えてしまい、変な声が出た。

 

 

「バ、バランさん……それは無しで。俺の紋章の方にも影響出そうだ」

「む……そうか。ならば此方で押し通るまで」

「最初からそうしろっての」

 

 

俺の一言にバランさんはダイの記憶を消すのを止めてくれた。ふー、色んな意味で危ない事を回避出来た。でも、バランさんは真魔剛竜剣を鞘から抜き放ち構えた。バズズもニヤリと笑みを浮かべながら魔力を漲らせ始める。凄惨な親子喧嘩を避けようと思ったのに原作よりも酷い結果になった気がする。

 

 

「くっ……コイツ等に力で来られたら……」

「なんの力及ばずとも戦うまでだ!」

「そうね……今の話を聞いて確かに思う所はあるけど、魔王軍の侵略は許す気は無いわ」

「人間だって酷い人が居るのは分かってる……でも、俺は勇者だ!竜の騎士としても魔王軍は許さないぞ!」

 

 

ポップ、クロコダイン、レオナ、ダイの順番にコメントが溢れる。うーん、とってもカオス。いっそこのままダイ達をK.O.して魔王軍に連れ帰るとかしてみるか?

 



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おや、イーリスの様子が?

 

 

 

 

まいったな……壮絶な親子喧嘩を回避してバランさん生存で父上との戦いに親子タッグを成立させようと思ったのにどうしてこうなった。

 

俺の目的の一つであるバランさん生存。その為にダイとバランさんの確執を少しでも減らして和解への道を……と思っていたけどダイは想定以上に勇者としての使命に目覚めていたし、バランさんは人間を憎む心が強かった。しかも俺の紋章への影響からダイの記憶喪失イベントも無くなるという最悪の事態。

このまま力尽くの展開になったら勇者パーティ全滅で『ダイの大冒険・完!』となりかねん。

 

 

「バランは俺が抑える。お前達はイーリスとバズズを相手にするんだ!」

「な、何言ってんだよ、オッサン!?連携して戦った方が……」

「そうだよ、いくら相手が強いからって……みんなで戦った方が」

 

 

クロコダインがダイ達に指示を出す。しかしポップが反発してダイもポップに賛成している。

 

 

「それがダメなのだ……どう言う訳だか分からんがこの男には呪文の類が効かんのだ。この男を倒すには純粋なパワーで挑むしかない。そしてイーリスとバズズも相当の実力者だ。ならば俺がバランを押さえている間にダイ達がイーリスとバズズを倒し、全員でバランに立ち向かわねば倒せまい」

「じゅ、呪文が効かない?!」

「だったら尚更……」

「流石はクロコダインだな。確かに私には並の呪文は通用しない。竜の騎士にはドラゴニックオーラと言う特別な闘気がある。これを纏っている限り私には呪文は効かん。私のドラゴニックオーラを突き破る程のパワーを持った呪文か闘気なら別だがな。クロコダインの提案は的確な戦力の振り分けと言えるが……そう上手く行くかな?いくらお前でも私を相手にどれ程保たせられる?その僅かな時間にイーリスとバズズを倒せるとでも?」

 

 

クロコダインの発言にポップが青くなり、ダイも戸惑いを隠せない。ヒュンケルの時もそうだけど呪文が通用しない相手にぶつかると魔法使いは大変だよなぁ……あれ?そもそもポップって今までの対戦相手が悪かったんじゃ……

 

 

ヒュンケル→魔装の鎧で呪文が通用しない

フレイザード→炎と氷の呪文が無効化

アーマードフレイザード→呪文を弾く装甲

バラン→ドラゴニックオーラで並の呪文が通用しない

 

 

歴代の相手を考えるとポップと相性が悪い相手ばかりじゃん。それを考えるとポップって今まで相当頑張って戦列に加わってたんだと実感する。クロコダインやハドラーとの戦いって割とマシな分類だったんじゃ?そんな事を考えているとバランさんはドラゴニックオーラの説明をしてポップやレオナの顔色が更に悪くなる。そりゃ呪文が主体の魔法使いと賢者との相性最悪だから、そうなるか。

 

 

「くそっ……ダイ、速攻でイーリスとバズズを倒してオッサンに加勢だ!姫さんも援護してくれ!」

「わかった!」

「ええっ!回復や援護は任せて!」

 

 

腹を括ったのかポップの号令でダイとレオナが構える。何気に現段階で状況把握が出来ている辺りマトリフの教えがあるんだろうな。本人に自覚はないんだろうけど。俺がどうしようかと少し悩んでいるとバズズが一歩前に出た。

 

 

「そりゃテメェ達が勝てたらの話だろ。覚悟しろや……フレイザード時代のリベンジだ!」

「……取り敢えずやるしかないか」

 

 

やる気十分なバズズにこりゃ俺も腹を括るしかないと俺も腰のホルダーからりゅうおうの杖を引き抜いて構える。ここで難しく考えても状況は好転しなさそうだ。ならば今は戦いを止めるよりも戦いに身を投じて、この後の流れを見極めなきゃだと思ったからだ。

 

 

「ダイ、俺が足止めをするから一気に決めるんだ!ベタン!」

「ぐっ……またこの呪文か……だけど……」

「二度も通用するかと思ったか!くたばれや、クソガキ!」

 

 

ポップのベタンの重圧に俺は呪文を放つ為にりゅうおうの杖を構える。バズズは気合いでベタンの重圧を跳ね除けて走ってポップを殴り飛ばそうとしている。しかしポップの背後には剣を逆手に構えたダイの姿が。

ポップの呪文で俺達を足止めすると同時に視界を悪くさせるのが目的で、その重圧から抜け出したらダイのアバンストラッシュって訳か……いや普通にえげつない戦法だよな。させないけどね!

 

 

「メラミからの……バギマ!」

「え……どわぁぁぁぁぁぉっ!?」

「ポップ危な……うわっ!?」

「追加で焼き入れてやらぁ!メラゾーマ!」

「ダイ君、ポップ君!?この……ヒャダルコ!」

 

 

俺は右手でメラミを発動させて左手のりゅうおうの杖からバギマを放つ。俺の合体呪文で炎の渦となったバギマをポップに浴びせるとポップは炎の渦に巻き込まれながらダイの方向へと飛んでいき、アバンストラッシュを放とうとしていたダイは慌てて技を止める。それと同時にダイとポップは激突しながら炎に焼かれていき更にバズズが追加でメラゾーマを叩き込んだ。その様子にレオナが慌ててヒャダルコで炎の鎮火を試みる。

 

 

「た、助かったぜ姫さん……」

「イーリスも強いけど……バズズも相当だ……フレイザードの時よりも手強くなってる……」

 

 

炎の渦に飲み込まれてブスブスと服の一部が焦げたポップとダイが髪や服の一部が凍った状態で起き上がってきていた。やっておいてなんだが、あの炎の渦に飲み込まれてダメージがあの程度って……アバンの使徒はタフだねぇ、おい。普通の兵士なら丸焦げになってるっての。

 

 

「ちっ……焼き加減が足りなかったらしいな。やっぱ生焼けはダメだよなぁ……」

「それを放ったらウェルダンを通り越して炭になりそうだけどな」

「ぐわぁぁぉぉぁぁぁぁぁぁっ!」

「クロコダイン!」

 

 

炎の渦から生還したダイとポップに舌打ちしたバズズは左手を前面に突き出すと左手の指先全てに火が灯る。バズズがフィンガーフレアボムズを放とうとしたら背後から叫び声が振り返るとバランさんがクロコダインの目の辺りに紋章閃を放った直後だった。目を潰されたクロコダインにダイが叫びを上げた。

 

 

「両眼が見えなければ戦えまい。さて、これでクロコダインは片付いた。お前達もイーリスとバズズを倒せないどころか劣勢の様だな。これで勝敗は明らかになったと思うが?」

「俺の中の竜の騎士としての力よ……目覚めてくれ!今、魔王軍に負ける訳にはいかないんだ!」

 

 

バランさんがダイに再度降伏を勧めようとしたがダイは自身の紋章の力を発動させた。自力で紋章の力を発動させた事にバランさんも驚きを隠せていない。

 

 

「驚いたな……通常、竜の騎士の子は成人するまで己の意思では紋章の力を引き出す事は出来ない。余程、良い師良い戦に恵まれたのだな」

「感心してる場合じゃないと思うんだけど……凄いとは思うけどさ」

 

 

驚いてはいるけど我が子の成長が嬉しいお父さんの発言だよなぁ。バランさんは落ち着いた様子で真魔剛竜剣を鞘から抜き始める。そしてバランさんの額にも竜の紋章が浮かび上がって……うぐっ!?

 

 

「言った筈だ!俺はアンタを倒すと……ライデインストラッシュ!」

「やった!ヒュンケルも倒したライデインストラッシュだ!しかも今度のストラッシュは完璧版!こりゃ決まったぜ!」

「むぅん!」

「ぐ……あ……あぐ……あぁ……」

「お、おい……お嬢!?どうした!?」

 

 

ダイのライデインストラッシュを受け止めたバランさんだが俺はそれどころじゃなかった。ダイの紋章が輝き、バランさんの紋章が強く輝いたと同時に俺の胸はドクン!と跳ね上がった。今も俺の胸に……いや、胸だけじゃない。

 

 

「な、なんだ急に苦しみ始めたぞ、アイツ!?」

「おい、イーリス!?どうした!?」

「ふ……く……はぁ……はぁ……」

 

 

ポップの言葉が遠くに聞こえる。俺はそれどころじゃない。胸がバクバクうるさいぐらいに騒いでいる。それに何故だか……頭の中で魔王軍が許せない……そんな感情が湧き上がってきている。その筈なのに人間を皆殺しにしろと叫んでいる感情もあった。訳がわからない……まったくの反対方向の感情が俺の中で渦巻いている。なんなんだ……今までこんな事……なかったのに……俺は膝から崩れ落ちそうになるのをりゅうおうの杖で支えてなんとか持ち堪える。

 

 

「イーリス、何があった!?」

「ぐぅ……バラ……ン……さ……」

 

 

俺を心配する表情のバランさん。世話になり尊敬していた人だった筈なのに……今はその顔を見ていると殴りたくなってきている。バズズ……俺が助けたフレイザード……なのに今は滅ぼさなきゃと思ってしまう。

 

ダイやポップ……先程まで敵対していたけど俺は原作を良い方向へと持っていきたかったから戦う気なんか無かった。コイツ等を憎む感情なんか無かった筈なのに今は人間を滅さなければと強く考えてしまう。憎い?そんなもんじゃない……嫌悪すら感じる。人間が生きている事自体が間違っているとすら思えてきた。

 

 

本当になんなんだ……ダイとバランさんの紋章が最大限に輝いてから体が熱い。頭の中で様々な感情が渦巻いている。魔王軍を倒せと、人間を滅ぼせとリフレインしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まるで……ダイとバランさんの感情が俺の中に流れ込んできたかの様だ。

 

 

 

 




ここ最近の『人間が酷いよね』的な話が多かったのは、この展開の為でした。


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親の視線

 

 

 

◆◇side大魔王バーン◆◇

 

 

 

よもやの事態に余も驚きを隠せなかった。

バランとダイが親子である事をキルバーンから報告を受け、ハドラーの動揺からダイが竜の騎士であるのは間違いない事からバランはダイを自身の味方に引き入れようとするのは明白であり、我が娘イーリスを含めて竜の騎士が三人も世の配下となるのだから笑いが止まらなくなりそうだった。しかし、そう上手くいかないらしい。遠見の水晶で奴等の動向を見ていたがダイはバランに反発し、人間の為にバランに戦いを挑もうとしている。イーリスからの口添えはダイには多少は響いたらしいが勇者としての矜持かダイは戦う道を選んだ。戦力差は明らかであるのに戦おうとするとは愚かな……

 

裏切り者のクロコダインも戦列に加わり、ダイの助太刀に現れたがクロコダインはバランに鎮圧され、ダイ達はイーリスとバズズと良い勝負をしている……様には見えるだろうがイーリスは本気で戦ってはおらんな。あやつの今の実力を考えればダイを圧倒する事も可能な筈だがイーリスの攻め手は生ぬるいと言えよう。何故、イーリスはダイと仲間に手心を加えているのか……

 

禁呪法で余が生み出したイーリスだが性格では余に似ず、人間寄りに育ったイーリス。バーンパレスと鬼岩城から外に出さぬ様に育てさせたが、よもや勇者との戦いでも手心を加えようとするとはな。血と暴力を好む魔族の因子が目覚めぬのは問題だな。そう思っていた矢先にイーリスに動きがあった。

 

バランとダイの紋章に呼応してイーリスの紋章が輝き始めた時、その紋章に影響が出始めた。

バランとダイの紋章の力を全開にした結果近くに居たイーリスの紋章に影響が出始めているのは明白だ。紋章の力が強いのかイーリスは胸を押さえて今にも倒れそうになっておる。

 

竜の騎士の紋章の力は未知数だ。成人であるバランの実力もさる事ながらダイの潜在的な力もそうだ。イーリスの中にも解放されていない力が眠っているとは思ってはいたが、それが今共鳴と言う形で解放されようとしている。力が強すぎるが故にイーリスの体を蝕んでいるのだろう。だが……余の見立てではそれだけではないな。あの表情……あれは何かを自覚、または実感した顔だ。バランとダイの顔を交互に見て安堵と憎しみの表情を繰り返しているのが何よりもの証拠だ。

 

恐らくだがバランの人間を憎む心とダイの魔王軍を倒すと使命の感情の両方が紋章を介してイーリスに流れ込んでいる。イーリスの心は今までどちらかと言えば人間寄りだった。その心がバランの人間を憎む心で魔族の側の力が強まり、逆にダイの勇者としての心も流し込まれて相反する感情を受け止め暴走を始めている。あのままでは以前、イーリスがグリズリーと戦い、覚醒した時と同様に破壊と殺戮の魔獣となりかねんな。

 

 

「バ、バーン様。あのままではイーリスが……」

「落ち着けハドラー。確かに少々想定外の状態になってはおるが今はまだバランとイーリスの動向を見守ろうではないか」

 

 

イーリスのあの状態にハドラーも焦りを感じておるようだな。だが、余の仮説が正しいか見極めるにはこれが手っ取り早い。余の魔力で生み出した竜の騎士……その姿に少々疑問があったが此度の事がその答えとなり得るか……

 

 

「子の成長を見守るのも親の役目と言うではないか。困難を乗り越えた者がどう成長するのかも楽しみの一つと言えよう」

「はっ……畏まりました」

 

 

ハドラーめ。イーリスの心配もそうだがバランがダイを仲間に引き入れたら魔軍司令の座を奪われる事への焦りで冷や汗が止まらぬ様だな。ハドラーには最強の肉体を与えたが精神的な脆さが目立ち始めている。此奴も追い詰めれば化けるやも知れん。それを含めてもイーリスの事で今は手を出さぬ方が良さそうだな。そう思っていたが余は遠見の水晶から部屋の片隅に視線を移す。

 

 

「落ち着きなってミスト。イーリスが心配なのは分かるけど今回はバラン君に任せる話になっているだろう?バーン様も見守るって言ってるんだから行っちゃダメだよ」

「…………っ!」

 

 

部屋の片隅では今にも飛び出していきそうなミストバーンをキルバーンが羽交い締めで取り押さえていた。ミストバーンにはイーリスの世話をしろと申し付けたが少々、気持ちが偏っているようだな。

 

さて、イーリスよ。何か目論んでいたかも知れんがお前の望む展開になるか否か見届けさせて貰うぞ。



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どうしようか悩んでいます

 

 

頭が痛い。雪崩の様になだれ込んでくる感情の波に冷静ではいられなかった。

 

 

『人を滅ぼせ』「魔王軍は悪い奴」『人間を許すな』「先生の仇」『竜の騎士の使命として人の存在は認めない』「大魔王を倒さないと爺ちゃんが」

 

 

頭の中に響く、様々な声に俺は耐えきれず膝から崩れ落ちる。息が荒くなり、マトモに呼吸が出来なかった。

 

 

「ハァ……ハァ……ぐう……あ……」

「な、なんか分からないけど苦しんでる?」

「ダイ!?お前もか!?」

「う、うぅ……」

 

 

俺が苦しんでいるのと同様にダイも苦しんでいるのがポップからの発言で分かる。だったら……

 

 

「どう……したよ、正義の味方さん?魔王軍の幹部が弱っているんだからトドメを……刺しに来たらどうだ?」

「出来ないよ……だって……」

「一先ず此処は退くとしよう。だが次は容赦はせんから覚悟するんだな」

 

 

俺が顔を上げて挑発するがダイは何かを躊躇う様な表情になっていた。するとフワッと体が宙に浮いた。見上げるとバランさんが俺をお姫様抱っこで抱き上げていた。ちょっと俺よりもダイを気遣ってあげて。

 

 

「バランさん……俺よりも息子さんと……」

「私はバーン様から君を預かっているんだ。無理をさせる訳にはいかんのだ。ディー……勇者ダイよ、考える時間をやろう。先程、紋章を介して見たのだろう?考えるまでもないだろうがな」

「そ、それは……」

「ダイ?何を見たってんだ?」

 

 

俺がバランさんを嗜めようとするとバランさんはダイに話し掛ける。俺がバランさんとダイの感情を紋章を介して感じ取った様にバランさんとダイにも互いの感情が流れたのだろうか?ダイのリアクション見る限りそんな風に思ってしまう。

 

 

「よう、バラン。なんだったら俺が奴等を消してやろうか?」

「貴様はイーリスの護衛だろう。ダイへの対応は私に一任されている。余計な真似はするんじゃない」

 

 

バズズがニヤリと笑みを浮かべながらポップ達を見ている。その仕草にポップ達が青い表情になったがバランさんに止められ、バズズは舌打ちをして引き上げた。

俺はバランさんの腕の中で揺られながらどうしてこうなったのか回らない頭で悩んでいた。

 

 

俺はこの世界に転生してから、ずっと考えていた。俺にとってのハッピーエンドとは何か。

初めから人間側に転生していたら迷わずに魔王軍と戦う道を選んでいただろう。もしかしたらアバンの使徒にでもなっていたかもしれない。でも俺は魔王軍の……大魔王バーンの娘として転生した。しかも禁呪法で生まれたからダイ達が大魔王バーンを討伐したら俺も一緒にくたばってしまう。ならば死なない為に魔王軍として人間を滅ぼすかと言われれば否だ。

 

元々人間の俺に人間を滅ぼせとかどんな無茶振りだよ。かと言って人間側に付いて魔王軍と戦えるかと問われれば、それも無理。原作では見られなかった魔王軍の人達の面白おかしい面を見てしまって情が完全に移ってしまっている。

父上はあんな調子だが親バカだ。ミストバーンは意外にも過保護。ハドラーも悲しき中間管理職の叔父さん。渋くてダンディだが息子の事にはポンコツ気味のバランさん。口は悪いがやんちゃな弟分の元フレイザードのバズズ。マッドサイエンティストだが知識は一級品のザムザ。ドラクエⅤ並に人懐っこいゲレゲレ。原作に存在しなかったけど優しいアイナさんやミザルさん。

それとなんか違和感を感じるキルバーン。明確に何かが違うと言われたら分からんが妙な違和感を覚えるんだよなぁ。

 

 

この人達と戦えって……今更無理だよ。だが、このままで良いとは思わない。何故ならばバランさんとの戦いが終われば人間と魔王軍との戦いは本格化する。その前に俺が生き残る為にはどうするべきか……それを考えた時に必要な事としてバランさんとフレイザードの生存。そしてミストバーンから学んだ禁呪法とザムザの超魔生物の知識。それぞれが揃って尚且つ戦いの場をコントロールして初めて成功になる……と思っていたんだけどまさか竜の騎士の紋章が足枷になるとは……そんな事を思っていたらなんか眠くなってきた。なんでだ?紋章の力を引き出した所為で肉体的な疲れが出たのか……

 

 

 

俺の意識はそこで途絶えた。

 



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覚悟を決めてから出鼻を挫かれました

 

 

 

「う……あ?」

「おお!?バラン様、イーリスが目を覚ましたぜ!ったく!バラン様を心配させやがって!」

 

 

妙に体が重く、瞼を開けるのも一苦労。そんな中で目を覚ましたら鶏ガラの鳥人が視界に入る。騒がしいな……それに妙に頭がボーッとするな。

 

 

「イーリス殿。大丈夫か?」

「うん、大丈夫。俺は犬よりも猫派だから」

「………本当に大丈夫か?会話のキャッチボールが成立していないが」

 

 

鶏ガラに続いて水族館に居たら人気の出なさそうなゴツい鎧を着たセイウチに話しかけられる。返事をしたらイケメンに可哀想な物を見る目で見つめられた。

 

 

「寝起きで覚醒していない様だな。イーリス、私が分かるか?」

「あれ……バランさん?なんで……っ!」

 

 

バランさんに話しかけられて漸く頭がシャキッとした。マジの寝起きで頭が回ってない状態ってなんか恥ずかしかった。ガルダンディー、ボラホーン、ラーハルトが揃ってこっちを見てるし。

 

 

「あ、あはは……おはようございます」

「ああ、おはようイーリス。体の不調はどうだ?」

 

 

被されていたシーツを握り締めながらバランさんに寝起きの挨拶をすると少々強張っていたバランさんの表情が緩んだ。体の不調?あ、そうか。ダイと戦ってる内に紋章の力の影響があったんだった。俺は右手を紋章の位置に添えて力を感じ取る。

 

 

「今は落ち着いてます」

 

 

少なくともダイとの戦いの最中に頭の中に渦巻いていた感情が湧き上がる感じはない。力の方もそれに呼応していたのか今は抑えられている様だ。

 

 

「そうか……ならば良い。寝起きで悪いが状況を説明しよう。キミが倒れてから既に一日が経過した。その間に私は竜騎衆を呼び戦に備えた。一時間後にディーノを取り戻す戦いに赴く予定だ」

 

 

どうやら俺が寝ていた間に竜騎衆召喚イベントは終わったらしい。なんて思っていたら髪を櫛でとかれる。コレって気持ち良いんだよね。

 

 

「竜騎衆でクロコダインやポップを殲滅。その間にダイの説得って感じ?」

「そうだ。キミの紋章を介してディーノにも私の気持ちを知っただろうからな」

「人間達の間では親の心子知らずと言うらしいですよ。この場合は子の心親知らずと言うべきでしょうか」

 

 

原作通りの流れになって来ている様だ。それにバランさんの話ではバランさんの人間を憎む感情は俺の紋章を介してダイの紋章に伝わり、ダイの心に伝わったとの事。でも、それはダイの感情もバランさんに伝わった筈だがバランさんは変わった様子は無い。

相槌を打ちながらもバランさんは否定をされる。

 

 

「ディーノの気持ちもわからんでも無い。だが、あの子は知らんのだ……人間がどれほど愚かで救い難い存在なのか……」

「それは全ての生物に言える事なのでは?まあ、バーン様の提唱する事の全てを否定する気はありませんが両手を上げての賛同はしませんよ」

 

 

訂正。内心、腑が煮え繰り返るのを理性で押さえ付けてる感じだな。だからこそ原作でクロコダインやレオナの説得は逆鱗に触れる所業だったんだなって再認識してしまう。ギリっと拳を握るバランさん。

うん、所で……

 

 

「アイナさん、何時から居たの?」

「ぬおっ!なんだ貴様は!?」

「い、いつの間に!?」

「馬鹿な……いつの間に間合いに……」

「アイナか……世話を掛けるな」

 

 

俺の一言に竜騎衆がバッと飛び退いてアイナさんを睨む。アイナさんはナチュラルに俺の身支度を整えながら会話に参加していた。あまりにも自然過ぎて誰も気付かなかった。

まあ、アイナさんが手練れで気配を消していたのも理由の一つなんだろうけど。バランさんは驚いた様だがいつもの事と言葉を飲んだ様だ。

 

 

「私はイーリス様の専属のメイド。身支度をするのは当然ですし……武人である貴方達にイーリス様のお世話が出来るとは思いませんでしたから」

「そうだな……私達では子供や女子の世話は出来ん」

 

 

そう言ってテキパキと俺の身支度を整えたアイナさん。やだ、このメイドさん完璧過ぎる。

バランさんはちょっとしょんぼり。確か、赤ん坊のダイを寝かしつけようとしたり世話をしたけど上手く出来なかったんだっけ?それを思い出してるんだろうな。

 

 

「イーリス様、私は本日は身の回りだけで戦闘への参加は禁止されています。バーン様からも『イーリスもそろそろ本気で戦わせよ』との仰せなので」

「バランさんが居て、竜騎衆が揃ってバズズが居るなら出番は無さそうだけど……あれ、バズズは?」

 

 

アイナさんは今回、助太刀は無いらしい。前回のフレイザードの時は助けられたけど、その事は父上に怒られたのだろうか?今でも十分過保護だとは思うが。そういえばバズズの姿がないと辺りを見渡すとガルダンディーが口を開く。

 

 

「あの猿野郎ならルードと空の上だ」

「寝ているイーリス殿の傍に寄り添おうとしたルードをバズズが止めて喧嘩になってな。今は空の上で仲良く喧嘩中だ」

 

 

ガルダンディーとボラホーンの発言に空を見上げる。かなり遠くでだが光が見える。いや、仲良く喧嘩ってレベル超えてねーか?

 

 

「私は支度をしてくる。戻る時までにお前達も身支度を済ませておけ」

 

 

そう言ってバランさんは俺からシーツを取り上げると森の奥へと行ってしまう。あ……あの白いシーツはバランさんのマントだったのか。布団代わりに借りてしまっていた様で申し訳ない。

この後、空の上で喧嘩をしていたバズズとルードの仲裁をしてからダイ達の所へ行く準備を済ませた。原作であればガルダンディーとルードが近隣の町を襲って壊滅させるのだが、それは止めた。

それぞれがドラゴンに跨り、ダイの所へと進軍する中、俺の胸中は穏やかではない。何故ならば既に原作から大きく外れた展開になっているからだ。

 

ダイの記憶は失われていない。バランさんが紋章の力を共鳴させてダイの記憶を消すイベントは俺の紋章の都合があって実行出来なかったからだ。つまりはダイは記憶喪失にならずにバランさんを迎え撃つ為にクロコダインやポップ、レオナと万全の状態で待ち構えている筈。更にヒュンケルも途中参戦してくるだろう。

つまりは此処からは俺にとって未知の領域。そもそも原作知識があっても物事がうまく進まないのは、この世界に転生してから散々味わって来たんだ。

 

原作知識があって能力もあるチート?バカを言え、そんな風に思ったって今の俺にはこの世界が現実で原作知識なんざ意味がない。ある程度の指針にはなるだろうけど、それが全てじゃない。ならば俺が思い描いていた展開になる様に頑張るだけだ!腹を括ろう。悩み続けたけどそろそろ本気で戦わなければ願う事も望む事も出来ない。

 

 

 

 

 

なんて、思っていた時が俺にもありまして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「此処から先は……行かせないぜ!」

 

 

ダイの記憶は失われていない筈なのにポップが一人で足止めに来ていた件。どうして、こうなった?

 



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立ち直るのには時間がかかる様です

 

 

 

 

テラン王国の城に居るであろうダイの下へと行こうと進軍を開始した俺達の行手を阻む様に崖の上から俺達を見下ろすポップ。

なんでポップが一人で来てるんだろう。俺が疑問に思っていると竜騎衆やバランさん、バズズが騒ぎ始める。

 

 

「なんだ、テメェは!?」

「見た所、魔法使いの様だが……」

「アレはディーノと共に居た魔法使いか……まさか一人で我々の足止めにきたのか?」

「片腹痛いですな、あんな未熟そうなのが来るとは」

「ほぅ……面白ぇじゃねぇか……」

 

 

ガルダンディー、ラーハルト、バランさん、ボラホーン、バズズの順にコメントを溢していく。しかし、本当にどうしたんだ?ダイの記憶は失われていないんだから、ポップが一人で足止めするよりも纏まって防御を重ねれば良いのに……まさか、ダイに何かあったのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇sideポップ◆◇

 

 

 

 

超竜騎団のバラン、魔王軍司令補佐のイーリスの襲撃を受けた俺とダイと姫さんとクロコダインのオッサンは絶望感に打ちひしがれていた。

特にダイは肉親であるバランと禁呪法とはいえど、姉弟のイーリスという存在に戦う意志が弱くなってしまった。

 

今までの魔王軍は人間を滅ぼす事を重点に置いた分かりやすい『悪』だったから俺もダイも戦い続ける事が出来た。

でもバランやイーリスの心情を聞いた俺達は戦う決意が鈍ってしまった。特にダイは竜の騎士の紋章を介してバランとイーリスの意思が流れ込んだと言っていた。そのせいでダイは魔王軍と……いや、バランとイーリスと戦う闘志が湧かなくなってしまった。

 

 

テラン王国に匿われた俺達は王との謁見の後に貸し与えられた部屋に篭っていた。姫さんやクロコダインのオッサンもダイを気遣っていたが、俺は焦っていた。今まで俺達はダイに全てを任せていたと言っても良いくらいに頼り切っていた。そのダイが戦えなくなった事で俺達は絶望に浸っていた。

 

いつも逃げ出したり、弱音を吐いていた俺がこんな風に考えちまうなんてな……

 

 

「こりゃダメなのかもな……先頭で戦わなきゃならない勇者様がこんなんじゃ大魔王バーンどころかアバン先生の仇のハドラーにも勝てやしねぇよ。悪いが俺は一抜けさせて貰うぜ」

「な……何を言ってるのよポップ君!?」

 

 

俺の発言に真っ先に食ってかかってきたのは姫さんだった。ダイやクロコダインのオッサンは俺が何を言ったのか理解出来てなかったのか呆然としていた。

 

 

「言った通りの意味さ……勝てもしない戦いに挑んで死ぬなんざゴメンだね」

「ポップ、本気で言ってるのか!?」

 

 

やっと正気に戻ったクロコダインのオッサンが俺の肩に手を乗せて俺に正気なのかを問うが、正気だよ。だからこんな事は言いたくない。でもこんな言い方しなきゃダイの目は覚めないと思った。

 

 

「ダイは竜の騎士で父親は魔王軍の幹部と分かったんだ。向こうでなら暖かく迎えてくれるんじゃねーの?」

「最低ね……行くならさっさと此処から居なくなって!」

 

 

俺はダイの頭をひと撫でする。ダイは俺の言葉が聞こえているのか分からない様な顔付きで俺を見上げていた。しっかりしろよ、ダイ。お前は勇者なんだ。アバン先生の勇者の名を後を継ぐのはお前だろ?だったら俺なんかに発破を掛けられなくても立ち上がれよ。

直後、姫さんからのビンタで俺は部屋を出ていく。すれ違った占い師のメルルにも最低と言われたが、この役目は俺にしか出来ないと思っていた。

 

 

勇者が立ち上がれなくなったのなら再び立ち上がれる様に支えるのも、立ち直らせるのも仲間の役目。それは姫さんやクロコダインのオッサンに任せる。

 

 

 

 

立ち上がるまでの時間は……俺が稼ぐからよ。だから負けんなよダイ。

 



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マジで予想外の展開になる様です

お待たせしました。今後の展開に悩みまくりました。


 

 

なんでポップが一人で立ち向かいにきてんのかなー。

 

 

「ハッ……バカな奴だ!たった一人で俺達を相手にするつもりだってのか!?」

「自身の力量も計れぬ愚か者か」

「気を抜くなよ、ガルダンディー、ボラホーン。ソイツは見た目によらず強力な呪文を使うぞ」

 

 

俺が呆然としているとガルダンディーとボラホーンが鼻で笑う。発言はしなかったもののラーハルトも同じ気持ちなのだろう。バランさんは三人に注意を促すが三人は明らかにポップを侮っている。

 

 

「先手必勝、バギマ!」

「こんな、そよ風で何をしようってんだ?」

「やはり、人間は愚かだ。こんな呪文が我等に通じるとでも思ったか?」

「砂埃を巻き上げるだけとは芸がないな」

 

 

ポップは何故か先手必勝で自身の最大呪文であるベタンを使わずにバギマを放ってきた。暴風が吹き荒れ、周囲の石や岩が宙を舞う。

当然ながら俺達になんのダメージも無い。なんで初手でベタンを使わなかったんだろう?虚を突いた戦法じゃなきゃ戦えないのはご承知の……ん?バギマを放ったのにダメージが無い?石や岩が空に舞い上がってる?

バズズ、ボラホーン、ラーハルトの発言に俺はハッとなって空を見上げて絶句した。そしてポップの狙いに気がついた時には既に遅かった。

 

 

「ヤバい!散……」

「遅い!ベタン!!」

「グオオオオッ!?」

「こ、これは!?」

「やってくれる……っ!」

 

 

俺が離れるように叫びきる前にポップはベタンを唱えた。それと同時にバギマの風で空に舞い上がっていた石や岩がベタンの影響で一気に加速しながら落下してきた。ベタンの超重力場を作り出し敵を押し潰す効果に加えて、石や岩が弾丸のように降り注ぐ。バランさん達が乗っていたドラゴンは勿論のこと、俺やボラホーン達にも予想以上のダメージを負わされた。

 

 

「このクソガキがぁ!」

「グオオオオッ!」

「ぐわあっ!?」

「痛っうう……流石に効いた……」

 

 

空に流れていたガルダンディーとルードがポップを体当たりで弾き飛ばしたからベタンが解除されたが、あのままベタンの効果が続いていたらヤバかった……だって原作以上に被害が大きいんだもの。

ドラゴン達はルードを除いて全滅。

ボラホーンは石の弾丸の直撃を受けたのか全身傷だらけで……あ、既に牙が一本折れてる。

ラーハルトは石や岩の範囲からは脱したようだけど所々出血。

バランさんは防ぎ切ったみたいだけど土まみれになっていて服の端を叩いて身なりを整えていた。

バズズは大岩の下敷きになったらしく岩の下から出てきた。

俺は咄嗟に離れようとしたから石や岩のダメージは無かったけど、普通にベタンの効果範囲内だったから高重圧にダメージを負った。

 

つーか、えげつない呪文の使い方しやがって……俺も時間差で呪文の併用をして効果を上げる事はするけど今回のは予想外だった。

 

 

「バラン様の言う通り、油断のならぬ相手の様だな……ワシの牙を折るとは……」

「ボラホーンの自慢の牙を折りやがるたぁ、ドブネズミにしちゃあやるじゃねぇか」

「バラン様、先に向かってください。我々は奴を始末してから合流致します」

「ああ、任せた。だが今の戦法を見てわかっただろう。油断はするなよ?」

 

 

ボラホーン、ガルダンディー、ラーハルトはポップを改めて『敵』として認識したみたいだ。原作だと『雑魚』って認識だったけど。

バランさんは三人に促されて先にダイの所へ行こうとしてる。さて、俺はどうするべきか…….

 

 

 

「イーリス、キミは此処に残って竜騎衆と共に戦ってくれ。私はディーノの説得をするが最悪の場合は……」

「分かりました……でも対話は諦めないでくださいね」

 

 

バランさんが俺に向き合い、この場に残る様にと告げてくる。ダイの説得とは言うが最悪な場合を口にすると同時に額を指でトントンと突く仕草をするって事は最終手段として紋章の力でダイの記憶を消すつもりなんだろう。それをする為に俺が近くにいると前回の様に共鳴が起きて予想外のトラブルに繋がりかねない。だから、離れていて欲しいって事なんだろうな。

俺としても慢心してない竜騎衆を相手にするポップが心配だから残る理由が生まれるのはありがたい。

俺の返答にバランさんは頷くとルーラで城の方へ飛んでいく。即座にポップも追撃しようと飛ぶがボラホーンの鎖に絡め取られ、落下する。

 

 

「貴様の様な奴がバラン様の後を追おうなぞ我々が許すと思ったか!不確定要素は此処で潰す!」

「言ってろ、トド野郎が!メラミ!」

 

 

ボラホーンの叫びにポップは左手に持っていた杖からメラミを放つ。ボラホーンの顔面に放たれたメラミはボラホーンの凍てつく息で無力化された。そりゃ原作でもメラゾーマを無力化されたのにメラミじゃ……と思っているとポップは右手の拳を握り正拳突きを放つかの様に一気に突き出した。

 

 

「この程度で終わりじゃ……グオオオオッ!?」

「ベギラマーっ!!」

「ボ、ボラホーン!?」

「まさかっ!?」

「ええーっ……」

「クカカッ……あの小僧、俺の半身を溶かそうとした時よりも強くなってやがる。明らかに威力が増してんぜ」

 

 

メラミを無力化した事で恐怖を与えた後に叩き伏せようとしたボラホーンだったが、ポップが間髪入れずに放ったベギラマがボラホーンのボディを撃ち貫いた。

先程は顔面に放ったメラミは右手に溜め込んだベギラマから注意を逸らす為のものでポップの思惑通り、ボラホーンはメラミを無力化した段階でポップの力を見誤り、侮った。

そして油断して無防備になった所へハドラーのベギラマよりも威力が上とされたポップのベギラマが放たれる。フレイザードの氷のボディを消滅させる威力を持ったベギラマを浴びたボラホーンは全身が焦げた状態で仰向けに倒れて動かなくなった。

その事にガルダンディーやラーハルトは驚愕し、俺も呆然としていた。バズズだけはポップの実力を認めているらしい。今のベギラマの威力からポップの実力を推し量ってるみたいだし。

 

ヒュンケルが合流する前に竜騎衆の一人が欠けたよ……ポップの実力は既に原作とは次元が違うみたいだ。まさか一人でボラホーンを倒してしまうなんて……

 

 

もうポップの『アバンのしるし』は光ってんじゃないだろうな?

ちょっと現実逃避をしそうになった俺はそんな事を思っていた。



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ポップVSガルダンディー……ってちょっと待て。

 

 

「うしっ……一人撃破だ……」

 

 

まさかのポップ単体でのボラホーン撃破。とんでも事態に俺は空いた口が塞がらなくなっていた。いや、マジでアバンのしるし光ってんじゃない?

 

 

「このクソガキがっ!よくもボラホーンをやりやがったな!行くぜ、ルード!」

「グルォォォォォォッ!」

「スカイドラゴンかっ!?ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「ボラホーンの油断があったとは言えど我々、竜騎衆を相手にするには未熟過ぎたな。このまま成長すれば大した魔法使いにはなっただろうがな」

「ケケッ……やっぱテメェ等、竜騎衆は詰めが甘ぇな」

 

 

ボラホーンの敗北に頭に血が上ったガルダンディーとルードが襲い掛かった。ルードの体当たりでポップの体を宙に浮かせてから体に巻き付いてギリギリと締め上げていった。ラーハルトは勝負あったなと鼻を鳴らしたが俺とバズズは警戒を緩めなかった。

 

 

「がはっ……くっ……もう限界だ…‥いっそ頭を砕いて楽にしてくれ……」

「ああん!?ボラホーンをやっておきながら何を甘えてやがる!」

「そこまでだガルダンディー。敵の言う通りにするのは癪だがバラン様を待たせる訳にはいかん。一思いにやってやれ」

 

 

ポップの発言になぶり殺しにしようとしていたガルダンディーは拒もうとしたがラーハルトの意見にチッと舌打ちをしてルードの手綱をパシンと叩いた。即ち、一思いにルードが頭を砕こうと指示を出したのだ。だが、俺がそれを許す訳ないだろ。

 

 

「ルード、ペッしなさい」

「べっ!」

「ベギラマーッ!な、外された!?」

「なっ…‥小僧狙ってやがったのか!?」

「これが人間の底力か……鼠が何度も猫に噛みつこうとするのを見る事になるとはな」

 

 

俺の一言にルードは慌ててポップから離れた。それと同時にポップの右手からベギラマが放たれた。だが俺が事前にルードに離れる様に告げた事でポップのベギラマはルードに当たらずに逸れた。

 

 

「このクソガキ……狙ってやがったな!」

「油断してたテメェ等が悪いんだろうが。ほれ、追加も来やがったぜ」

「何……なっ!?」

「グォォォォォォッ!?」

「この剣筋は……」

「ちっ……よりにもよって一番助けられたくない奴に助けられちまったぜ」

「それは悪い事をしたな」

 

 

ガルダンディーが怒り、バズズが呆れと指摘をするとラーハルトが気付かない内に一閃が放たれた。その一閃はガルダンディーとルードを同時に切り裂いた。

ルードはポップを解放すると同時に悲鳴を上げながら地面に叩き落とされ気を失った。ポップも地面に叩き落とされた後ヨロヨロと立ち上がると悪態を吐き、増援に現れたヒュンケルに支えられていた。

流石、ヒュンケル。颯爽とイケメン登場である。

 

 

「身に合わぬ無茶をしたなポップ。奴等は竜騎衆だろう?軍団長に匹敵する強さを持っている筈だ。それにイーリスとシルバーデビルの亜種か……お前が弱いとは言わんが一人で相手を出来る奴等ではなかろう」

「一人でやりたくてやってんじゃねーよ。バランがダイの父親って事がわかってからダイの闘志がなくなっちまったんだ。それにイーリスも変わった関係だけどダイと姉弟らしい……血の繋がった肉親と本能的に戦いを拒んじまってんだ……勇者が立ち上がれないなら仲間である俺がどうにかしなきゃだろ……俺はもう仲間を絶対に見捨てないって決めたんだ」

 

 

ヒュンケルがポップの無謀を咎めようとしたがポップの志に驚いた表情になった後、納得した様な顔つきになる。あ、そうかヒュンケルはまだバズズが復活したフレイザードなのを知らなかったんだっけ。

 

 

「成る程な、リンガイアの騎士のやられ具合やダイの強さの秘密がわかった気がするな。イーリスの件は後で聞くとしよう。この雑魚共に時間を取られる訳にはイカンな。ポップ、あの鳥は譲ってやる。一度相手をしたなら最後まで相手をして通してみせろ」

「そりゃありがてぇな。どうせならやりきってやらぁ」

「なっ……雑魚だと!?貴様、俺を雑魚と侮るか!?その魔法使いのクソガキが俺に勝てる訳無いだろうが!」

「へっ……俺達の出番が回ってきそうだな」

「なんだと?まさかガルダンディーが負けると言うのか?」

「見てりゃわかるよ。ルードは……ギリギリ生きてるな」

 

 

ヒュンケルとポップの会話にガルダンディーがキレて、バズズはガルダンディーが負ける予想をしていた。ラーハルトはそれが信じられないと驚き、俺はヒュンケルに斬られたルードの様子を見ていた。うん、傷は深いが死んじゃいない事を安堵していた。

 

 

 

「お前はコイツには絶対に勝てん。万が一にもコイツが負ける事になったなら俺が相手をしてやろう」

「ならばなぶり殺しにしてやる!この羽で……なっ!?」

「確か……こうだ!」

「嘘っ!?」

「お嬢の魔法を真似やがった!?」

 

 

ヒュンケルの言葉に頭に血が上がったガルダンディーは自身の羽攻撃をしようと引き抜いた瞬間、ポップはバギマを放った後、メラゾーマを放って炎の渦を生み出して、羽を燃やし尽くしガルダンディーをも飲み込んだ。

まさか俺が一度だけ見せた合成呪文を一発で成功させやがった。俺だって何度も練習して習得したのに……その事に俺とバズズは本気で驚いた。

 

 

「トドメだ…‥イオラッ!」

「ま、待て……ギャァァァァァァァァァッ!?」

「まさかボラホーンに続いてガルダンディーまでもが……」

「見事だ……ポップ!」

 

 

炎の渦で身動きが取れなくなっていたガルダンディーにトドメとして放たれた特大のイオラがガルダンディーを吹っ飛ばした。原作よりも遥かに強くなったと感じるポップにラーハルトは驚き、ヒュンケルは最大の賛辞を送っていた。

 

俺はと言えば…‥強くなりすぎている気がするアバンの使徒に何故か嫌な予感を禁じ得なかった。



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予想外っていうか予想の斜めをいった

 

 

 

いやー、ぶっちゃけありえない。

まさかポップが三人の竜騎衆の内二人を倒しちまうなんて誰が予想出来るよ。原作でのポップのレベルは27だったけど恐らく今のポップは35〜39って所か?じゃなきゃ、あの強さの説明が付かない。多分、フレイザードとの戦いや裏の六大軍団長とベンガーナの街のドラゴン軍団との戦いで劇的にレベルアップを果たしてる。ついでに戦いの覚悟の違いって奴かな。

覚悟を決めてるかどうかで強さってのは段違いに変わってくる。今回の話はダイにとってもポップにとってもターニングポイントとなる話だった。ダイは記憶が消されていないが闘志が消えてしまった。だが逆にポップの人間的な成長が著しい。

 

こりゃ本格的に流れが見えなくなってきたな。

 

 

「さて…‥後は貴様だけだな」

「まさかボラホーンとガルダンディーを倒してしまうとはな……未熟と言った事は詫びよう。だが貴様等では俺に勝てん」

 

 

事の成り行きを見届けたヒュンケルがラーハルトに視線を移す。ラーハルトはボラホーンとガルダンディーを倒したポップの実力を認めた様だ。ヒュンケルは俺をチラリと見るとアムドを唱えて鎧の魔剣を身に纏った。

 

 

「どうかな?イーリスとそのシルバーデビルの亜種が居たとしても俺とポップに勝てると思うなよ。俺の鎧の魔剣は呪文やブレスの類を弾く。如何に貴様が強かろうがイーリスやシルバーデビルの援護があろうと勝ち目は無いぞ」

「案ずるな。俺は戦士故、呪文はさして得意ではないが……貴様と同様の物を持っているからな。これこそ魔界最高の名工と言われたロン・ベルクのもう一つの鎧の作品だ。アムド!」

 

 

ヒュンケルの忠告にラーハルトは問題ないと告げると鎧の魔槍を構えてアムドを唱えた。鎧の魔槍を纏ったラーハルトにヒュンケルとポップは驚愕していた。そりゃ一点物だと思ってた鎧が他にもあれば驚くわな。

 

 

「これで互角……いや、腕は俺の方が上でイーリス様とバズズも居る。其方は魔法力が尽きかけている魔法使いのみ。やはり俺の方が優位だな」

「ほざけ!」

 

 

ラーハルトの挑発にヒュンケルが魔剣を片手に先手を取った。しかしラーハルトは苦もなく避けると収納していた魔槍を引き抜きながら構えた。

 

 

「中々の速さだが俺には通じんな。先程貴様は俺達を雑魚と呼び即座に片付けると宣言したが今度は俺から言わせてもらおう。貴様等雑魚を片付けて……なんだ!?」

「爆発?!まさかダイとバランが戦ってんのか!?」

「いや、それにしては……それになんだ、この邪気は!?」

「此処にきて想定外の事態みたいだな……」

 

 

ラーハルトがヒュンケルを一気に倒そうとしたと同時に城の方面から凄まじい爆音が鳴り響く。ダイとバランさんの戦いが始まったのかとポップが叫ぶがこれは違う。何故かそう確信出来た。何よりも遠くに離れていても感じる禍々しい邪気がそれを物語っている。

 

 

「不測の事態の様だな……イーリス様。此処は俺が片付けます故、バラン様とディーノ様の下へお急ぎください。私もコイツ等を始末したらすぐに向かいます」

「………わかった。行くぞ、バズズ」

「ちっ……しゃあねぇな」

 

 

ラーハルトの提案を俺は呑む事にした。本当なら良い勝負をしてから適当な所で切り上げてバランさんの所へ行こうと思ってたけど現段階でも予想外の事が起きすぎだ。早めにバランさんと合流した方が良さそうだ。

 

 

「……ごめん」

 

 

俺は倒れてるガルダンディー、ボラホーン、ルードを一瞥してからトベルーラで城へと急いだ。バズズは翼で空を飛び後を追ってきた。まだ息のあるルードや倒れてるガルダンディー、ボラホーンを残して行くのは心苦しいが仕方ない。後で迎えにくるからな。

 

しかし、嫌な予感ってのは得てして外れる確率が高いとされていたが今はそれは違うと言いたい気分だった。

何故ならば竜騎衆とポップの戦いが始まる以前から俺は胸のざわめきが治らなかった。当初は竜の騎士の紋章の影響なのだろうと考えていたのだが違った。

嫌な予感とは俺の眼前に繰り広げられている状況だったのだろう。

 

 

 

「く、くくく……イーリスまで此処にいるとは好都合。今一度我が野望の為にも利用させてもらおう」

「ディーノもイーリスも貴様の好きにはさせん!」

「俺の仲間には……手出しをさせるもんか!」

「ダイ君、気をつけて!」

「バラン、そしてイーリスよ!今は一時休戦といこうではないか!」

「いや、何この状況」

「なんだありゃ、気持ち悪っ!」

 

 

 

城の付近で戦っていたのはバランさんではなくダイのアバンストラッシュで真っ二つにされた筈の豪魔軍師ガルヴァスだった。

それに対峙するのはバランさん、ダイ、レオナ、クロコダイン。

なんで、つい先日まで啀みあってた親子がいきなり共闘してんだよ!

 

 

それにガルヴァスは普通の状態では無かった。禍々しい邪気は勿論だがその姿が異様な雰囲気を加速させている。

ガルヴァスの上半身と右腕。左腕はブレーガン。下半身がザングレイ。両肩にはダブルドーラの盾。背中にはベグロムの翼。髪の一部が緑なのはメネロかな?心臓の辺りにはデスカールの顔が埋め込まれていた。

 

 

何このキメラモンスター……バズズの感想にめちゃくちゃ同意した。

 



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咄嗟の行動こそ真意が問われる

 

 

 

 

 

「一応、聞いとくけど……なんで生きてんだ?あの時、ダイのアバンストラッシュで真っ二つにされただろ」

「ククク……こんなガキに俺が敗れたとでも思っていたか?俺は確かに真っ二つにされたが死ななかった。そこで俺はかろうじて息があったデスカールを我が身に取り込み、そのアンデッドとしての力を利用したのだ。更に残された裏の六大軍団長の体を利用し我が身を再生させた……この体と貴様等への怨みにより俺のパワーは以前の数倍にもなったのだ!」

「ガルヴァス様……お止め下さい……」

 

 

つまりガルヴァスはダイのアバンストラッシュで胴体が真っ二つになったけど、死ななかった。そういやハドラーも下半身が消し飛ばされて上半身だけでも生きてたっけ。そんでギリギリ生きていたデスカールの肉体を吸収し、アンデッドとして甦る。更に他の裏の軍団長の遺体を吸収して自身の滋養としたって所かな。ついでにダイへの怨みから相当パワーアップしてる。この世界だとアンデッド系は憎しみや怨みで力が増すからなぁ。

 

つうかデスカールの自意識はまだ残ってんのかよ。ガルヴァスに肉体を掌握されている為、自身では動けないみたいだけど。

 

 

「黙れデスカール!魔界の猛者を集めたと思っていたが、あんなガキや裏切り者共に負ける体たらく!役立たずの貴様等が我が肉体の滋養になれる事を誇りに思え!」

「お、おのれ……ガルヴァス……」

 

 

心臓の部分のデスカールの抗議にガルヴァスはデスカールの顔を殴りながら叫ぶ。いや、体たらくと情けないのはお前も同じだっての。全部、裏の軍団長が悪いみたいな言い方してるけど。その態度に遂に腹心だったデスカールにも見限られたっぽいな。

 

 

「はぁ……んで、そっちは?親子喧嘩はどうなったんだよ?」

「親子だなんて言うな!俺は父親だなんて認めない!」

「子が親に逆らうな!」

「……最初は俺と姫でバランと戦った。今のダイでは戦えぬと思ったからな。俺はバランの攻撃を凌ぎ、姫に回復を頼む持久戦に持ち込んだのだが……」

「私が……怪我しちゃって……」

 

 

ああ、なんとなく察した。多分、原作同様の展開があったけどダイは戦いこそしなかったものの成り行きを見ていたのだろう。そしてクロコダインの回復をしていたレオナをバランさんがデインで牽制&威嚇。でも回復を止めようとしないレオナにバランさんがデインを落としてレオナは直撃こそしなかったものの怪我を負った。それを見ていたダイがブチギレて一足早くバランさんとの戦いを決意したって所かな?本来ならクロコダインの時間稼ぎの間に竜騎衆が倒されてヒュンケルとポップが助けに来るからレオナは怪我を負わないけど俺やバズズが居た事で合流が遅れて事態が悪化。

そんでダイとバランさんの戦いが始まろうかと言うタイミングでガルヴァスの乱入か……いや、めちゃくちゃ過ぎんだろ。さっきの爆発はコイツの攻撃だった訳ね。

 

 

「ま、そっちの事情は兎も角……ガルヴァス、ダイの対応は今はバランさんに一任されている。邪魔すればお前も反逆者になるぞ?」

「ならば、そのガキもバランも俺が倒せば良いだけの事だ……そうすれば大魔王バーン様もお認めになられる筈。そしてイーリス、貴様を喰らえば俺は更にパワーアップ出来る……ヒ、ヒヒ……」

「自分でも何言ってるか分からなくなってんじゃねーか?バーン様に逆らって、お嬢に手を出せば極刑だろ」

 

 

俺の言葉に妙な笑みを浮かべるガルヴァス。死にかけて生への執着で部下を貪ったと思えば支離滅裂と矛盾を抱えた思考。栄光と欲に塗れた軍師の末路か……バズズはそれを考えればシルバーデビルの亜種に転生して良い方向に浄化されたと言える。

 

 

「バランさん……ガルヴァスは魔軍司令補佐として俺が対応するからダイの方をヨロシク。無理に記憶とか消そうとすると俺にも影響出るし、ダイに本気で嫌われたく無かったらやらない方が良いよ」

「君がそう言うなら従おう。言葉で諭してもディーノのあの様子では力による解決しか出来んのだからな」

 

 

俺の提案に乗ってくれたバランさん。ポップ達はまだ戦ってるから増援はまだだろうし、下手に紋章の力を使われると俺も困る。

バランさんはガルヴァスから視線を外してダイ、クロコダイン、レオナと対峙して俺とバズズはガルヴァスと睨み合った。

 

 

「魔軍司令補佐としてお前の行動を認める訳にはいかないな」

「黙れ!小娘が!ベギラマ!」

「お嬢を喰らおうなんざ、俺が許すわきゃないだろうが!イオナズン!」

 

 

俺の発言にキレたガルヴァスはベギラマを放ってきたがバズズのイオナズンで消し飛ばされる。一瞬の拮抗こそ見えたが一気に押されてバズズのイオナズンが直撃した。

 

 

「グハハハッ!数倍にパワーアップしたと言っただろう!この程度の呪文なら盾で防げるわ!死ねい!」

「俺に炎なんざ効く訳ねーだろ!」

「アレはダブルドーラの盾だよな?魔法を弾く効果なんか無かった筈だけど……試してみるかベギラマッ!」

 

 

バズズのイオナズンに耐えたガルヴァスは左手にブレーガンの三節棍を構えて炎を放つ。だが炎の耐性が高いバズズには当然効かなかった。俺はバズズが炎を受け止めてくれている間にベギラマをガルヴァスに向けで放った。

するとダブルドーラの盾が宙に浮き、俺のベギラマを防いでしまった。

 

 

「これぞ俺の新たなる力!我が身に取り込んだ物の力を増幅させる能りょ……ぐがっ!?」

「ご高説ありがとよ。呪文が効かねぇなら、ぶん殴るまでだ!」

 

 

パワーアップした結果、ダブルドーラの盾を自在に操って魔法を防ぐ力を得たらしいな。ブレーガンの三節棍を扱えてるのを見ると多分、裏の軍団長の力を使える様になったみたいだな。使い切れてるかは別として。

呪文の効果が薄いと判断したバズズは速攻で肉弾戦に切り替えてガルヴァスの顔面に一撃入れていた。高笑いして余裕ぶってたから綺麗に入ったし。

 

 

「この猿が!」

「俺を斬りたければ勇者のクソガキ並みの強さになってからにしやがれ!」

 

 

何処から取り出したのかガルヴァスはザングレイの斧を取り出してバズズに切り掛かるがバズズはアッサリと避ける。ガルヴァスから距離を取った俺とバズズは同時に構えた。

 

 

「そうかそうか!逃げる程に俺が怖いか!」

「そこまで勘違い出来るのも逆に凄いよな。メラゾーマ!」

「そろそろ目障りだ……消え失せろフィンガーフレアボムズ!」

 

 

下衆な笑い声を上げたガルヴァスに俺の放ったメラゾーマとバズズのフィンガーフレアボムズが着弾し、一瞬で火だるまになるガルヴァス。

 

 

「がァァァァあァァァあぁァッ!?」

「燃やしといてなんだけどエグいな……」

「だが大した野郎だ。俺とお嬢の炎をくらってまだ生きてやがる」

 

 

炎に焼かれてのたうち回るガルヴァス。バズズはガルヴァスのタフさに驚いているがどちらかと言えば俺の呪文の威力不足なんだよな。そんな事を思っていたら炎の中からガルヴァスが魔力の槍を構えた。

 

 

「このままやられると思ったか!?喰らえ、豪魔六芒槍っ!!」

「あの野郎、まだやる気か!?」

「でも外れ……ヤバい!!」

 

 

炎に焼かれながら放たれたガルヴァスの豪魔六芒槍は俺とバズズには当たらなかった。軌道が逸れて少し離れて戦っていたダイとバランさんの方へと勢い良く飛んでいく。しかも二人は互いに集中しあって豪魔六芒槍に気付いていない。

俺は即座に二人の下へと飛んで気が付けばダイとバランさんを突き飛ばした。直後、背中に激しい衝撃が来た。

 

 

「間に……合っ……」

「イーリス!?」

「なんで……俺達を……」

 

 

遠ざかる意識の中、二人に抱き支えられている事とバランさんとダイの焦った声だけが聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆sideキルバーン◇◆

 

 

 

うーん、非常にマズい事になったね。

ガルヴァス君の放った攻撃からダイとバランを庇ったイーリスは背中に大ダメージを負って意識を失った。咄嗟の事だったから防御も出来ず、無防備な所へ必殺技が叩き込まれたのだから仕方ない。

 

 

 

「ふむ……あの程度の攻撃で気を失うとは情けない」

 

 

そうは言うけどバーン様は肘掛けに指先をトントンと叩く仕草の回数が明らかに増えている。アレは内心、相当焦ってるね。

 

 

「ミスト、落ち着きなって。ほら、イーリスもあれで強いんだからさ」

「放せキルっ!今すぐ行かねば!」

 

 

ミストはミストで完全に寡黙が崩れて大慌てでイーリスの所へ行こうと僕の拘束から逃れようとしている。先程から羽交い締めにしていたけど、そろそろキツくなってきたよ。

 

 

「……む」

「どうしましたバーン様?おやおや、あれは……」

 

 

意識がイーリスから逸れていた僕だったけどバーン様の一声に視線を水晶に戻す。そこには大ダメージを受けて気を失った筈のイーリスがフラリと立ち上がった姿だった。しかし、様子がおかしい。バーン様もその姿に違和感を感じているみたいだ。

だけど僕には心当たりがある。以前、グリズリーと戦わせた時の感じに凄く似ている。と、なれば……

 

 

『ハァァァァァァァァァァァァァァァッ!!』

 

 

水晶越しでも感じ取れるイーリスの闘気と魔力。あの時と同じく魔族の方の力が強くなってるみたいだね。イーリスの瞳も白目の部分が黒く染まって赤い瞳が色濃く感じる。

更に闘気と魔力を発した際に周囲が一気に凍り付いた。イーリスは殆ど使わなかったけどヒャド系呪文も発動したんだろうね。本当に意外性ばかりが際立つね、あの子。

 

 

「それはそうとミスト?何、闇の衣を脱ごうとしてるの?バーン様のお許しがなきゃキミの素顔を晒しちゃいけないんだろ?」

「行かねばならんのだ!」

 

 

本気で僕からの拘束から逃れようと闇の衣を脱ごうとしたミスト。流石にシャレにならなくなってきたと思う。

 

 

 



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豹変した大魔王の娘

 

 

 

 

◇◆sideレオナ◆◇

 

 

ダイ君と竜騎将バランを庇って負傷したイーリスは目覚めると豹変した。

先日あった時の様な私達と会話を取り持とうとする仕草や諌める様な雰囲気とはまるで違う。

 

イーリスの体から溢れた魔力が周囲を凍らせ、まるで全てを拒み生きる事すら許さないと言っているかの様に見えた。

 

 

「く、くくく……我が奥義を食らってその程度のダメージとは恐れ入りますな。だが、俺の力は……はひ?」

「これはマヒャドか!?」

「いかん、下がれ!」

 

 

ガルヴァスと名乗った魔族が再びイーリスに牙を剥こうとしたと同時にイーリスはガルヴァスに指先を向けてマヒャドを放った。バランやクロコダインが呪文の威力を察して皆に下がれと叫ぶ。それと同時にガルヴァスの体は一瞬で凍り付いた。

 

 

「速いっ!」

「あの一瞬で何発も蹴りを……」

「大抵のもんは氷付けになってりゃ脆いもんだが……それを差し引いても、お嬢の蹴りの威力が上がってやがるな」

「が、あ……あが……」

 

 

そしてイーリスはガルヴァスとの間合いを詰めると蹴りを放った。私には一撃に見えたが何発も蹴りを叩き込んだらしい。氷付けになっていたガルヴァスの体は粉々になった。

イーリスは頭だけになったガルヴァスをキャッチすると焦点の合っていない瞳でガルヴァスと視線を合わせてる。

 

 

「お、お待ちくださいイーリス様!俺はバーン様やハドラー殿の為に……いやいや、これからはイーリス様の為に……ひぎゃ!?」

「握力でガルヴァスの頭を握りつぶしただと」

「ひ、酷い……」

 

 

頭だけになったガルヴァスの命乞いにイーリスは無表情のままガルヴァスの頭を握りつぶした。その光景にクロコダインや私は目を背けてしまいそうになる。

 

 

「お、おい……お嬢。確かにソイツは気に食わない奴だったが……があっ!?」

「バズズ!イーリスなんの真似だ!?」

 

 

歩み寄ろうとしたバズズをイーリスは裏拳で払い退けた。その行動にバランですら驚愕していた。それに対してイーリスは凍りつく様な笑みを浮かべていた。

違う……初めて会った時の親しみすら感じたあの子は魔族だけど友達にすらなれるかもしれないと思った。でも今の彼女は冷徹な魔族よりも冷たさを感じる。いえ、無機質とさえ思えた。

 

 

「おい、お嬢!?何すんだよ!」

「下がれバズズ……これはまさか……」

「なんだ……心がこんなにざわつくなんて……」

 

 

突如殴られた事を抗議しようとしたバズズだがバランに止められる。そのバランはイーリスの今の状態に心当たりがあるみたいね。

ダイ君は今のイーリスの力に反応しているのか額の紋章が輝き始めていた。バランも同様に額の紋章が呼応して浮かび上がっていた。。

 

 

 

 

 

◇◆sideレオナend◆◇

 

 

 

 

 

◇◆sideバラン◆◇

 

 

私は呆然としていたと言える。私を庇ってガルヴァスの攻撃を受けたイーリスの姿とかつてのソアラの姿が重なった。

私とディーノがイーリスの体を支えると、この子は力無く私達に体を預けていた。

 

私は怒りに身を任せガルヴァスを始末しようと拳を握りしめた。だが、それと同時にイーリスは立ち上がり、魔力を解放した。その魔力が周囲を凍らせ今までにない雰囲気を発しているイーリスに私は嫌な予感を禁じ得なかった。

 

イーリスはガルヴァスをアッサリと始末するとバズズにすら牙を剥いた。

私の感じた嫌な予感は最悪の形で的中した。今のイーリスは目に映る者の全てが敵に見えているのだろう。

 

竜魔人になった竜の騎士が攻撃本能に支配され、敵対する者には情け容赦の無い攻撃をする本能のまま動く怪物のような存在と化してしまう。今のイーリスはその状態……いや、更に攻撃本能が刺激されている様に見える。まさか竜魔人としての力と魔族の本能が重なり合ってイーリスは力に心を塗りつぶされているのではないだろうか?

 

その証拠に私もディーノも額の紋章を介してイーリスの叫びが聞こえていた。彼女を早急に止めねば取り返しのつかない事態になりかねんな…-

 

 

◇◆sideバランend◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆sideキルバーン◆◇

 

 

 

 

「バーン様?肘掛けに穴が空いてるよ?ミストも、もう少し落ち着こうね」

「何……気にするなキルバーンよ」

「私は冷静だ」

 

 

バーン様はトントンと肘掛けに指を突き過ぎた所為で穴が空いてるし、ミストはバーン様に指摘されたから闇の衣を着直したけど、トントンと足踏みが止まらなくなっている。なんやかんやで似てる仕草してるんだよねバーン様とミストって。

二人がパニクってるから僕が冷静になれてるけど、どうしようかなー……この状況。



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託された想いと理解出来ぬ状況

DQM3やってました。ごめんなさい……


 

 

 

 

◇◆sideヒュンケル◆◇

 

 

俺は決死の戦いでラーハルトに勝利した。正直勝てるかどうか怪しい戦いだったがラーハルトのハーケンディストールをグランドクルスでカウンターで放ってギリギリでの勝利だった。グランドクルスの影響で身動きが取れなくなりそうだった俺は少し休んで動ける様になってからポップと共にダイ達の加勢に行こうと思ったがなんとポップが倒した筈のボラホーンが起き上がって来たのだ。

 

 

「貴様……まだ生きていたのか!?」

「グフフ……確かに大した威力の呪文だったがワシがそう簡単にくたばるか」

「ぐ……あ……」

 

 

俺の言葉にボラホーンは笑いながらポップの頭を掴み、無理矢理立ち上がらせた。ボラホーンは更に自身の懐に手を入れて何かを探している様だが何をする気だ!?

 

 

「お、あったな。ホレ飲め」

「ガババボボっ!?」

「ポップ!貴様……」

「落ち着け」

 

 

ボラホーンは懐から何かを取り出すとポップに飲ませ始めた。無理矢理飲ませられてポップが苦しそうに抵抗している様を見せつけられた俺はボラホーンの頭を打ち抜いてやろうと剣を構えたが、それを止めたのは倒した筈のラーハルトの声だった。

 

 

「げほっ……魔法力が回復してる!?」

「全快とまではいかんだろうが多少はマシになった筈だ」

「貴様……なんのつもりだ?」

「俺もボラホーンも同じ気持ちだと言う事だ。バラン様に救われた心と命だったがお前達はそんな俺達に涙を流してくれた……故にバラン様とディーノ様とイーリス様を任せられると思ったまでだ」

 

 

ボラホーンの不可解な行動をラーハルトが説明し、ボラホーンは『まほうのせいすい』でポップの魔法力を回復させたらしい。ボラホーンは顔を背けながらも満足そうにしており、ポップから手を離すとその場に座り込んだ。

 

 

「自惚れていた……人間なんぞ下等な生物だとな。だがイーリス様に諭され貴様に負けて……ワシの目が曇っていたと突きつけられたよ。最後にそれに気付かせてくれた貴様に敬意を表した……ま……で……」

「お、おいっ!?」

「ボラホーンも武人としてお前を認めたらしい。ヒュンケル……俺もお前にこの鎧を託したい……」

「ラーハルト……」

 

 

座ったまま満足そうに笑いながら動かなくなったボラホーンを呼びかけるポップだがボラホーンから返事は無かった。ポップは以前にもクロコダインとの戦いで迷いを断ち切らせたらしいが武人肌の者と相性が良いのかも知れんな。

ラーハルトもボラホーンと同じく俺を認めてくれたらしく魔槍の鎧を俺に託すと言う。

 

 

「魔槍の鎧も……お前を気に入った様だ……バラン様とディーノ様とイーリス様を……頼……む……」

「ああ、任せろ……友よ……」

「行こうぜ…‥俺も少しだけど魔法力が回復したからよ……」

 

 

魔槍の鎧は魔剣の鎧と比べると軽く感じた。魔剣の鎧は防御力重視だったが魔槍の鎧は動きやすさを重視している様だ。

俺はポップに促され、ダイとバランが戦っている戦場へと急いだ。

 

ダイとバランが戦い、イーリスとクロコダインが戦っているのだと思っていたのだが違った。

 

戦いの場となっていたテラン王国の城の前では猛吹雪が吹き荒れていた。

その猛吹雪の中心に居るのはイーリス。冷たい笑みを浮かべながら雪や雹を風に乗せ周囲を凍らせていきながら、その暴風の中に氷の刃や氷柱が混ざり近隣の木々を薙ぎ倒していく。

 

 

「火炎大地斬!」

「ダイ君!」

「唸れ、真空の斧よ!」

 

 

ダイはレオナ姫を守りながら魔法剣で雪や氷を溶かしている。クロコダインは真空の斧で吹雪を押し返そうとしていた。

 

 

「うおおおっ!寒さが骨身に染みる!あ、私は骨だけだから当たり前か!」

「うるせえクソガイコツ!さっさっとお嬢を元に戻す方法を吐きやがれ!」

「バズズ、イーリスは私が押さえ込むからデスカールから情報を引き出せ」

 

 

頭だけで叫ぶガイコツを抱えているバズズにイーリスの生み出した吹雪を魔力で押し返すバラン。

 

 

「どう言う状況だよコレ……」

「俺が知るか。何にしてもイーリスを止めるぞ」

 

 

一言では表現しきれない状況にポップが呟き、俺も同意してしまいそうだったが俺は恐らくこの状況を生み出しているであろうイーリスを止める事にした。



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それぞれ覚悟を決めた様です

 

 

 

 

◇◆sideバラン◆◇

 

 

魔族として……いや、竜の騎士として覚醒したイーリスはその力を解放していた。ガルヴァスの攻撃で気絶したイーリスは意識を失ったまま魔力を解き放ち、ヒャド系呪文で周囲を無差別に凍り付かせていた。

張り付いた様な冷たい笑みを浮かべたイーリスに恐ろしさを感じながらも私はどうするかを考えていた。今の彼女は半ば竜魔人になっている様なものなのだ。半端な攻撃ではビクともしないし逆効果になってしまう。

 

それにバズズやクロコダイン達は気付いていない……と言うよりは竜の騎士にしか分からない事だろう。紋章を介して伝わってくるのはイーリスの心の悲鳴。この悲鳴は恐らくディーノも感じている。だからこそイーリスとの戦いを拒む様な姿勢になっていた。

 

私自身、戦いの歴史に塗れた経験があるからこそ受け入れられているが正直堪えるものがある。

 

 

イーリスが何か大きな悩みを抱えている事に私は気付いていたが誰にも話していない事だから私が聞き出す訳にはいかないと考えていたのだが今にして思えば聞き出すべきだったかも知れんな。

抱えた物を誰にも言えず、疲弊した心にこの状況だ。彼女の心の慟哭が解放され暴走しているのだと私は推測した。

ディーノやクロコダインは仲間を守りながらこの暴風雹を防いでいるが長くは保たんだろう。

ヒュンケルやあの魔法使いの少年も来たが役には立たんだろうな。奴等がラーハルト達を倒したのも驚かされたがヒュンケルがラーハルトの鎧を託されたのにも驚かされた。ラーハルトが人間を信用するとは……。

 

 

「今のイーリス様は自身の力に振り回されている様に見えるな。あの様子では早めに元に戻さんと後遺症が残りかねんぞ」

「だったらどうすりゃ良いんだよ!?今のお嬢にゃ近づくのも難しいんだぞ!」

 

 

ガルヴァスの支配から脱したデスカールが頭だけでバズズに指摘していた。イーリスがガルヴァスの体を粉砕した際にデスカールの頭だけはギリギリ残されていた様だ。それを考えればイーリスの意識は残っているのかと考えたが無意識にデスカールを助けたのかも知れんな。あの子はそう言う子だ。

 

 

「ふむ……イーリス様の呪文を無効化しつつ肉弾戦で完全に気絶させるしかあるまい。まあ、今のイーリス様の呪文を防ぐなぞ実質不可能だろうがな。あれは触れただけで体が一瞬で凍りつき砕かれるぞ。先程もガルヴァスがそうなったのを見ただろう?」

「火葬すんぞクソガイコツ!解決方法を教えろって言ってんだろうが!何で、絶望感増す情報しか寄越さないんだテメェ!」

「俺の鎧なら呪文は通じ……があっ!?」

「ライデイン!?イーリスはデイン系の呪文まで使えるのかよ!?だったらメラゾーマ!」

「ダメだ、イーリスには呪文が通じんぞ!」

 

 

一向に好転しない状況に苛つきが隠せずにデスカールの頭を持つ手とは反対の手でメラを構えて燃やそうとするバズズ。

ラーハルトの鎧ならばあの暴風雹を防げると考えたヒュンケルがイーリスに挑もうとしたが直後、イーリスが放ったライデインに迎撃された。魔法使いの少年が叫んだ様にイーリスはライデインを唱えた。イーリスは元々ライデインは使えなかったが今の覚醒した状態のイーリスはライデインを使える様になったのだろう。

 

近付けば雷。離れれば暴風雹。周囲にも影響を及ぼす広範囲呪文。遠距離から呪文を放ったとしても竜闘気で弾かれるだろう。事実、魔法使いの少年の放ったメラゾーマは暴風と竜闘気の二重の効果でかき消された。これは打つ手がない状況だな。

 

いや、打つ手はある。前例はないが竜の騎士が放っている攻撃や呪文ならば同じ竜の騎士ならば対抗出来る筈。だが今のディーノは役に立たんだろう。私と対峙していた時ならば闘志を沸き立たせていたディーノだがイーリスから伝わる慟哭に動揺して戦う気が削がれている。

ならば私がどうにかするしかあるまい。

 

 

今のイーリスを制圧するには……これしかないだろう。覚悟を決めた私は竜の牙に手を伸ばした。

 

 

 

◇◆sideバランend◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆sideキルバーン◆◇

 

 

新たな力に覚醒したイーリスの事は喜ばしいけど……僕にとってはどうかと言われればどうなんだろう……

 

 

「成る程……竜の騎士としての力が覚醒したか。それに伴い魔族の本能が刺激され、暴走しておる。バランも今のイーリスを止める為に伝説の竜魔人になろうとしているな……」

「…………っ」

 

 

バーン様は相変わらず指でトントンと肘掛けに穴を開け……って言うか穴を開けすぎて肘掛けが割れてるよ。あの椅子、新しく発注しないとだね。ミストはミストで貧乏ゆすりが止まらなくなってるし。それに……

 

 

「通してくださいマキシマム!イーリス様の所へ行かなければならないのですから!!」

「なりませぬぞ!バーン様からもアイナ殿を絶対に行かせるなと厳命されておるのですからな!」

 

 

謁見の間の窓から見える外ではアイナとマキシマムが騒がしかった。バーン様からの命令でイーリスの世話を終えたアイナはバーンパレスへと帰還させられていた。現地に居るとアイナは確実にイーリスの手助けをしてしまう。だから世話を終えたアイナを帰還させたのだけど……今のイーリスを見たアイナは即行でテラン王国に戻ろうとした。それをマキシマムが止めようと必死になっている。

 

 

「退かないと言うのなら……押し通ります!」

「我がボディを素手で殴ろうなど……ぐぼはっ!?」

 

 

キレたアイナにボコボコにされていくマキシマム。アイナのゲンコツって痛いんだよねぇ……あ、マキシマムの体に亀裂が入った。マキシマムの体ってオリハルコンだけどアイナは拳で砕き始めてる。やだ、怖いんだけど。

 

 

「さ、流石はバーン様に仕えてる歴が長い方は違いますな。まさか我がオリハルコンボディを砕こうとするとは……吾輩よりも歳が上な……ぐぎゃ!?」

「黙れ」

 

 

アイナに顔面を打ち抜かれて沈黙したマキシマム。アイナに歳の話題を振っちゃダメだよねぇ。

 

 

「……ミストバーン、キルバーン。アイナを止めてこい」

「………」

「え、ちょ、マジですか?」

 

 

マキシマムがやられたのを確信したバーン様はミストと僕にアイナを止める様に命令してきたけど……ミストとは即座に行動に出たけど僕はぶっちゃけ嫌だった。だって素手でオリハルコン砕く人をどう止めろってんですか?

 

僕はため息を溢しながらミストの跡を追ってアイナを止める為に覚悟を決めた。



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竜魔人VS竜魔人

 

 

◇◆sideヒュンケル◆◇

 

 

 

豹変したイーリスを相手に俺達は苦戦していた。今までイーリスとの戦いで感じた思いは大魔王の娘でありながら甘さが残る奴と言うのが正直な感想だった。

魔王軍を抜け、再びアバンの使徒として戦い始めた今ならわかる。イーリスは甘いのではなく優しいのだと。

そんなイーリスが剥き出しの闘気と氷の様に冷たい感情で戦いに赴くなんて思いもしなかった。

だが今のイーリスは大魔王の娘に恥じない戦いをしていると言っても過言ではない。しかも竜の騎士としての力も目覚めたのかライデインも自在に操っていた。

 

 

「くそっ……打つ手がないじゃないか!?」

「だが、どうにかせねばっ!」

 

 

ポップやクロコダインがイーリスと戦ってはいるが効果は薄い。ポップは魔法力が多少回復してはいるものの呪文のパワーに差があるのか呪文を放っても効果が薄く、クロコダインは攻撃しようにも暴風氷によって遮られ肉弾戦に持ち込めずにいた。

向こうではバズズとデスカールが巻き込まれながらもイーリスを正気に戻そうと必死になっていた。

更に向こうでは闘志が無くなってしまったダイがレオナ姫に庇われながら戦いを見ている。バランの言葉を信じるならばダイは紋章を介してイーリスの心の叫びを聞いて消沈してしまっている。

 

 

「どうすれば……」

「そこを退けヒュンケル。ここから先は……真の強者のみの戦いだ」

 

 

どうしようもない状況に俺が焦っていると静観していたバランが俺を下げさせた。

 

 

「バラン……なんのつも……」

「イーリスよ……やはり竜魔人に近い状態になっている様だな。ならば止める手立てはただ一つ」

 

 

俺を手で下がらせたバランの瞳には人としての心が垣間見えた。それは先程までの武人や人間を憎む瞳ではない。そう……俺の父バルトスがしていた目と同じ目だ。

 

 

「どうする気だバラン!?今のお嬢にゃ何も効かねえぞ!」

「左様。如何にバラン殿と言えども今のイーリス様のお相手は……」

「お前達も下がっていろ。ディーノ……お前ももっと下がってろ」

 

 

バズズやデスカールを退かせたバランはダイにも下がる様に指示を出すとバランは装備していた竜の牙を翳した。その直後、バランから凄まじい闘気と魔力が溢れ出すとその姿が変わって行く。魔族としての魔力・ドラゴンとしての爪や羽、鱗がその身に発生していた。

 

 

「これぞ竜の騎士の最終戦闘形態……竜魔人だ」

「な、なんて威圧感なんだ……ハドラーなんかとは比べ物にならねぇ……」

「な、ああ……」

 

 

バランから竜魔人の事を告げられるとポップとダイは震えていた。ポップは過去最大の敵であったハドラーと比べているが、その威圧感は比較にすらならないだろう。ダイも竜の騎士である事からバランの力を感じているのだろう。

 

 

「竜魔人となった私と擬似的な竜魔人になっているイーリス……微妙な戦いになりそうだな」

「………ずあっ!!」

 

 

バランを敵と認識したのかイーリスは闘気を放ちバランに浴びせるがバランはそれを同じ様に闘気を放ち、相殺した。

 

 

「………ハッ!」

「ほう……量より質を選んだか?だが当たらねば意味が無い!」

 

 

イーリスがりゅうおうの杖を介して巨大なイオラを生成し、バランに投げ付けた。バランは迫るイオラを避けたがイーリスが手を振るうとイオラも軌道を変えバランに迫る。更にイーリスが手を握り開くと巨大なイオラが分裂しバランの周囲へと分散する。

 

 

「呪文を操作した上に分裂させた!?どうやったら出来るんだあんなマネ!?」

「量より質を狙ったんじゃなくて質より量を狙っていたのか……だがなんという魔力操作だ。それに威力も桁違いだ!」

 

 

ポップやクロコダインもイーリスの魔法の巧みな扱いに舌を巻いている。いや、それだけじゃない。今までのイーリスの呪文と比べても威力が遥かに増している。しかもバランは直撃したにも関わらずダメージがほぼ無いように見えた。

 

 

「ムゥン!」

「チッ!」

 

 

バランの額の紋章から放たれた紋章閃をイーリスはりゅうおうの杖を構えてバギを操作して竜巻を生み出すと紋章閃を弾かせた。更にりゅうおうの杖を振るって風の刃を発生させてバランの肩を射抜いた。

 

 

「やるな……だがっ!」

「くっ……シッ!」

 

 

バランは大したダメージでは無いとばかりにイーリスに急接近すると拳を振るう。イーリスはバランの拳を氷の盾を生み出すとそれで防ぐ。盾はアッサリと砕かれるがイーリスはその砕かれた氷の盾を蹴り飛ばし、氷の塊の雨をバランに浴びせた。

 

 

「舐めるなっ!」

「………」

 

 

バランはドラゴニックオーラで氷の塊の雨を弾き飛ばす。何と言う戦いだ……攻撃の一つ一つが必殺技の領域の破壊力だ。

 

 

「く……うぅっ……」

「ダイ君……ダメよ。立つのがやっとじゃない!」

 

 

向こうではダイがレオナ姫に支えられながら二人の戦いを見ている。なんとか戦いに参加しようと意思を奮い立たせている様だが紋章の影響で戦えずにいる様だ。

ダイは悔しさからなのか拳を強く握りしめて何度も地面を叩きつけていた。するとダイの拳から光が発せられその拳の甲に竜の紋章が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

◇◆sideヒュンケルend◆◇

 



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争う者と抵抗する者

 

 

◆◇sideダイ◆◇

 

赤ん坊の頃にじいちゃんに拾われてから俺は本当の親の事を知らずに生きていた。デルムリン島でじいちゃんと暮らしながら俺は勇者になる事を夢見て偽勇者と戦い、レオナと出会い、アバン先生に弟子入りして……アバン先生を失ってから俺は勇者としてポップと旅に出た。魔王軍と戦う道中でマァムが仲間に入り、クロコダインやヒュンケルと戦って二人は仲間になってくれた。

 

魔王軍との戦いで敵には敵の事情がある事はぼんやりと分かっていたけどアバン先生の仇であるハドラーや人々を苦しめている魔王軍に対して俺は勇者として戦っていた。

 

でも、この国に来てから助けたはずの人達に怯えられ怖がられていた。そして俺は人間じゃない事を知り、父親と名乗った魔王軍の竜騎将バランとの戦いが始まった。魔軍司令補佐のイーリスとも。二人は俺と同じ……竜の騎士なのだと言う。

 

 

俺は勇者として人間の為に戦ったけど人は俺を怖がった。

敵であるはずの魔王軍は俺を必要だと手を差し伸べた。

俺は二つの思いに挟まれながら魔王軍と戦う道を選んだけど……紋章の力を解放したらイーリスの想いを感じ取ってしまった。

 

 

戦え、戦いたくない、どうしたらいい、わからない、助けたい、逆らえない、逃げたい、逃げられない、生きたい、生きられない、楽になりたい、ツラい、良くしたい、思い通りにならない

 

 

こんな思いをイーリスは抱え込んでいた。こんな言葉がズッとイーリスの頭の中で再生していたのであれば紋章の力に振り回されて倒れてしまうのも無理はないと思う。

イーリスを抱き抱えて飛び去ったバランの背を思わず目で追ってしまう。アンタが俺の親だと言うならなんで俺よりもその子を優先するんだよ……

 

 

俺はイーリスの心の叫びを聞いてから闘志が湧かなかった。あんな思いをして悩んでいる子を敵だと思えなかった。そしてイーリスは魔王軍のモンスター達を家族の様に思っているのは心の叫びから感じていた。だとすれば俺が魔王軍と戦うのは彼女の家族を奪うと言う事……アバン先生とヒュンケルの様に怨み恨まれる関係になってしまう。

 

そんな思いから俺は戦えない……武器を手にする事が出来なかった。

俺が悩んでいる間にみんなはバランと戦う事を決めて、ポップは出て行ってしまった。そう……だよな。ポップはアバン先生の仇と戦うと俺と一緒にデルムリン島を出て、俺を勇者と信じてくれていたのに俺は戦えない。愛想を尽かされて当然だった。

 

 

でも、それは違った。ポップは俺の為に時間稼ぎの為にクロコダインやレオナと仲違いをするフリをして一人で戦いに出たんだ……バランの言葉にそれを気付かされて……俺の中で僅かにだけど闘志が再び湧き上がり俺はバランと戦った。

バランはクロコダインを傷つけてレオナにすらライデインを落とそうとした。それで俺は完全に吹っ切れてバランと戦おうと思ったら前に倒した筈のガルヴァスが復活して俺とバランに襲いかかって来た。

なんとか倒そうと思っていたらイーリスとバズズまで現れてしまった。

 

イーリスはガルヴァスと戦うと宣言し俺とバランさんの戦いを促した。俺はまだ震える手を抑えながらだけどバランと戦う。何合か斬り合った、その時だった。俺とバラン目掛けてガルヴァスの豪魔六芒槍が迫って来て俺とバランに直撃する……筈だった。

 

 

「間に……合っ……」

「イーリス!?」

「なんで……俺達を……」

 

 

イーリスは俺とバランを庇う様に立ち塞がり、その背中に豪魔六芒槍が突き刺さった。突然の事に驚いていると更に驚く事態になった。

 

イーリスの様子が豹変した。今までの豊かな表情からまるで凍りつく様な笑みと視線。でも、それ以上に心の叫び声が明らかに増した。

この声は竜の騎士の紋章から伝わってくる様で俺と同じ様にバランですら動揺してる。そんな中でイーリスはガルヴァスをアッサリと倒してしまった。まるで感情が消えて戦うだけの存在みたいに。

 

 

イーリスはその後も標的を俺達に切り替えたのか広範囲呪文で攻撃し始めた。ヒャドとバギの融合呪文なのか周囲の木々や城を破壊していくイーリスに俺は何もできず、バランは思案した顔から決意の表情に変わっていた。ポップやヒュンケルが敵を倒してから来てくれたけど今のイーリスは止まらない。ヒャドやバギ、ライデインを巧みに操りイーリスは俺達を追い詰めようとした、その時だった。

 

 

「どうすれば……」

「そこを退けヒュンケル。ここから先は……真の強者のみの戦いだ」

 

 

どうしようもない状況にバランはヒュンケルやポップを下がらせるとバランは俺を見た後にイーリスに視線を戻した。

 

 

「バラン……なんのつも……」

「イーリスよ……やはり竜魔人に近い状態になっている様だな。ならば止める手立てはただ一つ」

 

 

そう言ってバランは顔に装備していた物を外して構えた。

 

 

「どうする気だバラン!?今のお嬢にゃ何も効かねえぞ!」

「左様。如何にバラン殿と言えども今のイーリス様のお相手は……」

「お前達も下がっていろ。ディーノ……お前ももっと下がってろ」

 

 

その直後だったバランから凄まじい闘気と魔力が溢れ出すとその姿が変わって行く。魔族としての魔力・ドラゴンとしての爪や羽、鱗がその身に発生していた。俺はその姿に震えた。

 

 

「これぞ竜の騎士の最終戦闘形態……竜魔人だ」

「な、なんて威圧感なんだ……ハドラーなんかとは比べ物にならねぇ……」

「な、ああ……」

 

 

バランから竜魔人の事を教えられて震えが止まらない。さっきまでのバランはまだ手加減をしていたのだと痛感したから……

それはイーリスとバランの戦いを見ても明らかだった。

 

様々な呪文を駆使してバランに攻撃を仕掛けるイーリスにその全てを受け止めるバラン。その戦う姿は凄まじいとしか言いようが無く、その場の全員が驚いていた程だった。

 

 

「な、なんという戦いだ……」

「最早……俺達とは次元が違う……」

 

 

クロコダインやヒュンケルが呟く中、俺は悔しかった。あの戦いに加われない自分が。イーリスを止められない自分が。紋章の力を押さえ込み、戦えるバランに。

 

 

「これは竜の騎士が竜魔人になった時のみ使える呪文……名をドルオーラだ!!」

「ヒュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……ハッ!」

 

 

バランが両手を合わせると竜の口の様になり、そこから放たれた呪文ドルオーラがイーリスを襲う。イーリスはマヒャドを展開したかと思ったらそれを一つの帯のように纏め上げた。その姿はまるで氷のスカイドラゴンのようだった。それをドルオーラにぶつけると凄まじい衝撃と爆音が周囲に響きわたった。

 

 

「まるで天変地異ではないか……」

「こんなのどうしたら……」

「でもよ……やるしかないんだよな」

「え、ポップ……!?」

「何をする気だ……お前はもう魔法力も尽き掛けているだろう!下がるんだ!」

 

 

クロコダインとレオナの呟きにポップが立ち上がりながら上空のイーリスとバランを見つめ、俺は驚き、ヒュンケルはそんなポップを止めた。

 

 

「イーリスがなんであんなになったかは知らねーけどよ。止めてやらなきゃ可哀想だろ。それにダイが戦えないなら俺達でなんとかするっきゃねーだろ」

「ポップ……俺が勇者として戦えないから……っ痛」

 

 

ポップの言葉に俺が勇者として戦えないからだと言ったらポップにデコピンされた。

 

 

「違うだろ。勇者とか竜の騎士だからじゃ無くて仲間だから……親友だから助け合うんだろうが。俺はもう魔法力も尽き掛けてるけどよ。最後の手段で……」

「何をする気だ!?やめろ、ポップ!」

「ポップゥゥゥゥゥッ!」

 

 

ポップは何かを決意した顔でトベルーラでイーリスとバランの戦いに割り込むように飛んでいった。ヒュンケルの止める声にもポップは行ってしまう。その姿に俺は物凄く嫌な予感を感じた。

早く止めなくちゃ!でも頭の中で響く声に邪魔をされ心が挫けそうになる。

 

 

「くそっ!」

 

 

俺は頭の中の声を振り払う様に地面に拳を叩きつけた。それと同時に頭の中で響いていた声が消え、拳が熱くなるのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇sideキルバーン◇◆

 

 

 

やっとの思いでアイナを拘束してバーン様の前に突き出した。ミストも闇の衣を脱いでアイナと戦って僕が縄で縛り上げてギリギリの戦いだったと思う。

逆を言えばミストが闇の衣を脱がなきゃ対処しきれないんだから怖いよネ。アイナを縛ってるこの縄は相手の動きを制限させる呪い付きの特級呪物なんだけど、それでも抵抗する力が凄い。

 

 

「アイナよ……其方の心配も分からんでもない。だが、過度な心配はイーリスの事を信じておらぬと同義」

「……くっ」

 

 

いや、バーン様がそれを言いますか?今は貫禄たっぷりだけど、焦りと動揺で玉座の肘掛けを壊した貴方が。アイナもそれにツッコミを入れないくらいに悔しがってるし。

 

 

「わかりました……ですが、いざとなったら……」

「うむ…‥それで良い。ほう、戦いにも動きがあった様だな」

 

 

いや、アイナの提案を飲まないでバーン様。即頷く辺り、貴方も現場に行きたいんですね?と思っていたが口には出せないなぁ、と考えていたら水晶に映し出されてる戦いに動きがあった。

 

バランのドルオーラと呼ばれる竜の騎士オリジナル呪文をイーリスはヒャド系の呪文を駆使して対応して互角の戦いになっている。

 

 

「あれは……マヒャドを独自の魔力運用で操作してるのかな?まるで龍みたいだねぇ……流石はバーン様の御息女で……」

「エンペラー……いや、フロスト……むぅ……」

 

 

あ、もう呪文の命名を考えてるんですね。ラグナスレイブの時もだけど張り切りすぎでしょ。

 



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地上を揺るがす戦い・魔界を揺るがす戦い

 

 

 

 

 

 

◇◆sideハドラー◆◇

 

 

俺は鬼岩城で悪魔の目玉を通してダイとバランの戦いの行く末を見ていた。どの様な結果に終わろうが俺の地位を揺るがす戦いになるのは明白だったからだ。

だがなんらかの要因でダイが戦意を喪失したかと思えばガルヴァスの乱入からイーリスが暴走した。

 

イーリスは俺の肉体の再調整をした際に戦ったが、あの頃よりも……いや今の俺よりも強さが上なのではなかろうかと思う程に凄まじい戦闘をしている。

竜魔人と化したバランとも互角以上の戦いを繰り広げ、様々な呪文を駆使している。今までのイーリスとは大違いだ。

 

 

「ハ、ハドラー様……イーリス様はあそこまで強かったのですか!?まさかバランと互角に戦うとは……」

「いや、バランの竜闘気に阻まれ呪文の効果が薄い。ややイーリスが不利な筈だ」

 

 

ザボエラが恐れ慄いている。あの戦いはある意味、俺とヒュンケルの戦いに近い。呪文の効果が薄いのでは不利になるのも当然だ。一応は拮抗した戦いにはなってるが互いに決め手に……いや、バランには真魔剛竜剣がある。接近戦に持ち込めばバラン有利になる筈だ。だが何故バランは真魔剛竜剣で接近戦に踏み込まんのだ……そうすればイーリスの制圧も容易い筈なのに。

すると戦いに変化が訪れた。

 

 

『俺が相手だ!』

『やめろ、ポップ!」

『死ぬ気かっ!?』

『小童が……目障りだ!』

『……ハァッ!』

 

 

魔法使いの小僧がバランとイーリスの戦いに割って入ったのだ。ヒュンケルとクロコダインの叫びと同時にバランからは紋章閃が放たれ、イーリスからはバギで生み出した風の刃がポップに襲い掛かる。当然だが魔法使いの小僧は避けられる筈もなく紋章閃とバギが直撃し大爆発を起こした。

 

 

『もう……させない。誰も俺の所為で傷付けさせるもんか!』

『ダイッ!』

 

 

爆炎が収まり、そこには俺と対峙した時の様に覇気に溢れるダイがポップに放たれた攻撃を背で受けて守っている姿だった。しかも、その拳には竜の紋章が浮かび上がっていた。

 

 

「竜の紋章が拳にっ!?なんじゃあれは!?」

「どうやらダイなりの答えらしいな……バランとイーリスに対抗する為の」

 

 

竜の騎士としての完成度は当然バランの方が上だ。だがダイは拳に紋章を移動させる事で、そのパワーを拳にのみ集中させている。恐るべき事になったな……ダイは紋章の力を発動させただけでも潜在能力だけでアバンを上回っていた。

そのパワーの全てが拳に集中しコントロール出来るようになったとすれば……

 

 

「バランをも……上回るか。だが……」

『ァァァァァァァァッ!!』

『く……ウオォォォォォォッ!』

『ヌゥン!』

 

 

イーリスの繰り出す拳や蹴りを浴びて怯んだダイだが大したダメージにはなっていない。イーリスを押し返したダイは追撃しようとするがイーリスは即座に体勢を整えるとメラとバギの融合呪文を放った。炎の渦がダイを飲み込もうとしたがバランの竜闘気で勢いを弱らせた後、ダイのナイフでの一振りで完全に消滅した。

 

 

「どちらも……いや三人ともバケモノだな……」

 

 

どいつもこいつも規格外のバケモノ揃いだ。この戦いがどう転ぶか予想もつかん。先程の魔法使いのハナタレ小僧の事も含めてだがな。あの小僧はダイを奮い立たせる為に態々己の身を危険に晒したのだ。そして、あの目だ……あれはアバンが俺にメガンテを仕掛けた時と同じ、差し違えてでも事をなそうとした目だ。

 

 

「奴もまた……アバンの弟子だったな」

 

 

今頃になり、震えが来たのか魔法使いの小僧……ポップはフラフラと地面に尻餅を着いていた。

だが奴の事よりも俺自身の事だ。

バランが勝てば俺は魔軍司令の座を追われてしまう。ダイが勝ってもイーリスが傷ついたとして処罰が下りかねん。イーリスが勝ったとしても、その功績にイーリスが魔軍司令の座に着くだろう。

 

ぐ……俺はどうすれば。どのパターンを想定しても俺にとっては悪い未来しか見えん……こんな動揺をバーン様に知られては……

 

 

『バキィン!』

『お、折れた!?』

『竜の騎士のパワーにそんなナイフが耐えられるとでも思ったか!』

 

 

俺は最悪の事態にだけはならんでくれと願いながら再びダイとバランとイーリスの乱戦に視線を戻した。そこではダイのナイフを砕いたバランの姿が映っており、その直後イーリスの放ったベギラマがダイとバランに直撃した。この地上を揺るがす戦いにも決着が降りるか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆sideキルバーン◆◇

 

 

 

「アイナよ……余が決めた事だ」

「………」

「いいえ、こればかりは譲れません」

 

 

バーン様、ミストとアイナが睨み合う。バーン様の決定に異を唱えたのはアイナでバチバチと火花が散っている様だ。

水晶に映るイーリスとバランとダイの戦いを尻目に玉座の間でも凄まじい戦いが起ころうとしている。

 

 

「イーリス様の氷のドラゴンの名前は…… フロストダイナスト(氷の覇王)を勧めます!」

「ならぬ。『マヒャドーラ(氷龍咆哮呪文)』と決めておる」

「………」

 

 

イーリスの氷のドラゴンを生み出したヒャド系呪文の命名に揉めている。バーン様とアイナのやり取りは子供の教育方針に揉める夫婦にしか見えない。そう言えばバーン様とアイナって付き合い長いんだよね。ミストよりも少し短いくらいの年数って聞いたけど。

それはそうと僕として『アク・シーズ(帝王水龍瀑)』とかでも良いとは思うんだけどな。

 

 

「どうしても……お認めにはならないと?」

「当然だ」

 

 

あれ?なんか不穏な空気になってんだけど……呪文の命名でここまで拗れますか普通。

アイナが闘気を解放してバーン様も魔力を解き放った。

 

 

「イーリス様の教育は私が決めます!」

「余の娘だ!」

「ちょっ……他所でやってくれませんかね!?」

 

 

天地を揺るがしかねない二人の夫婦喧嘩が始まった。バーンパレスが壊れるから勘弁して欲しいんですけど!?

その直後、玉座の間でバーン様の魔力とアイナの闘気が激しく衝突した。

 

 

大魔王が娘の教育の為にメイドと喧嘩して城を揺るがす……この光景、部下には見せられないネ。

 

 




コメント欄に頂いた呪文の名が素晴らしかったので話の中に流用させて頂きました。

マヒャド+ドルオーラでマヒャドーラ。元々決めていた呪文名とコメントが同じだったので非常に驚きました。



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