しほ「時には昔の話を」 (カーチスの野郎)
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遠き時代を求めて

 ――秋山宅――

 

 

みほ「ありがとう優花里さん。おかげで対策が立てやすくなったよ」

 

優花里「恐縮です!」

 

沙織「まさか大学選抜との試合が終わったら海外のチームから試合を挑まれることになるなんてビックリだね~。人気者は大変だ~」ヤダモー

 

華「しかし、海外の学校にまで偵察に行かれるとは、優花里さんには驚きです」

 

麻子「国際問題になってもしらんぞ」

 

みほ「あとは相手チームの戦車の資料を集めて、作戦を練るね」

 

優花里「あ、ウチに資料本があるはずですのでおだししますね。えーっとこの辺りに・・・」バサバサ

 

沙織「たいていの戦車の資料揃ってるってとんでもないよねゆかりん」

 

優花里「あれれ?下にあるのかな?ちょっと下に降りて探してきますね」

 

華「私達もお共します」

 

麻子「皆で探した方が早いだろうしな」

 

 ~~~

 

優花里「うーん、見つからないなぁ」ガサガサ

 

みほ「私も手伝うよ」ガサガサ

 

麻子「人の家の押し入れを躊躇なくガサるのもどうかと思うが」

 

沙織「ねえねえ、家族アルバム出てきたんだけど」

 

華「わあ、赤ん坊の優花里さんかわいいです」

 

優花里「そ、それは勘弁してくださいよー!」

 

麻子「人の家のアルバムで遊ぶのもどうかと思うが」

 

みほ「あ、あったよ。これじゃないかな」バッ

 

 <ガサガサガサ~ ドドドドドド

 

沙織「わあ!押し入れの中から雪崩が!みぽりん大丈夫!?」

 

みほ「・・・う、うん・・・平気」ボロ

 

優花里「あわわわすみません西住殿!我が家の押し入れが詰め込みすぎだったばっかりに!」

 

みほ「ううん、私がムチャに本を引き抜いたから・・・」ピラッ

 

みほ「あ、押し入れの中から写真が一枚・・・」

 

 

みほ「!・・・・・・この写真・・・お母さん?」

 

沙織「え?どれどれ」

 

華「たしかに顔立ちは雑誌で拝見したみほさんのお母様に似ていますが・・・これは黒森峰の制服ですね」

 

麻子「高校時代の写真ということか。なぜそんなものがここに」

 

優花里「・・・と、というか・・・一緒に写ってる人・・・これ・・・」プルプル

 

 

秋山好子「ちょっと優花里、大丈夫?なんだかすごい音がしたけど・・・」ヒョッコ

 

優花里「お、おおおおお母さん!この写真!」バッ

 

好子「え?・・・・・・あ。あ~・・・その写真・・・ね」

 

沙織「も、もしかしてこの写真に写ってる人っておばさんですか?」

 

好子「あはは・・・まあ、そうなんだけど・・・とうとうバレちゃったわね・・・」

 

優花里「どどどどどどうしてお母さんと西住しほさんが一緒に写真を!?」

 

みほ「もしかして・・・」

 

 

好子「そう・・・・・・私としほちゃんは、昔・・・一緒に戦車に乗ってたの」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

優花里「なっ!なっ!なっ!ぬゎんだってぇ~~~~~!」ガーン

 

華「みほさんのお母様と優花里さんのお母様はお友達だったんですね」

 

沙織「ていうかしほちゃんて!」

 

優花里「どっ、どうして教えてくれなかったの!?」

 

好子「隠してた訳じゃないけど、自分から言うのもなんだかね・・・」オホホ・・・

 

麻子「まさか親同士も同級生だったとは」

 

好子「しほちゃん見た目が若いでしょ?同い年で比べられるのが恥ずかしくてね」

 

沙織「いやいやいや、おばさんも十分若いですよ」

 

みほ「あっ、あの!お、教えてくれませんか!?お母さんが高校生だったころの話!」

 

好子「・・・うーん・・・そうねぇ・・・」

 

みほ「・・・っ」グッ

 

好子「・・・・・・まあ、もういいかしらね・・・」

 

 

好子「・・・あれは私が大洗女子学園に入学して数カ月が過ぎた、夏の始まる頃よ――」

 

 

 

 ―――・・・・・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

好子「わあ~・・・戦車がいっぱい」

 

 

 好子《私は人並みに戦車が好きだったけれど、戦車道はやってなかったの。大洗は昔こそ戦車道が盛んだったけど、あの頃はまだ復活してなかったし》

 

 好子《あの頃は今よりも戦車道はマイナーな武芸と言われてて、人気も下火で、世間から戦車道は忘れ去られそうになっていた》

 

 好子《それでも私は戦車の何かに心惹かれて、選手でもないのに一人で戦車道全国大会の抽選会を見に行っていたの》

 

好子「選手人口減ってるって聞いてたけど、やっぱりそれなりに人はいるんだなぁ」

 

 好子《その時、あの子に出会ったの》

 

 

 「ちょっと西住!あなたどういうつもりなの」

 

好子「!」

 

 

黒森峰2年生A「みんなの前で隊長に向かってあんなこと言って。先輩達あなたに目を着けてるわよ」

 

黒森峰2年生B「1年坊が隊長に噛みつくなんて・・・あなた自分が何をしでかしたかわかってる?」

 

 

西住しほ「・・・」

 

 

好子(・・・強豪校の黒森峰の制服だ。もめてるのかな?)

 

 好子《当時の黒森峰は強かったけど、今みたいに優勝常連というわけではなかった。準優勝やベスト4に数回食いこむものの、一番にはなれなかった》

 

 好子《聖グロ、サンダース、プラウダ・・・強豪ひしめく戦車道界で優勝まで一歩及ばずにいたわ》

 

 

黒森峰2年生A「アンタは1年らしく上の言うこと聞いて大人しくしてればいいの。でしゃばってチームを乱すようなことしないで」

 

黒森峰2年生B「先輩との間を取り持つ私達の身にもなってよ。あなたがチームから追いだされるのをかばってあげてるのよ」

 

しほ「・・・・・・馬鹿ばっか」

 

黒森峰2年生A「なに・・・?」

 

しほ「隊長は『大会の目標はベスト4』と言った。私はそれに異議を唱えただけ。なぜ優勝を目標に掲げないのか、疑問に思わないのか?」

 

黒森峰2年生B「現実的に見てそれがちょうどいい目標なの。無理に背伸びしないで、モチベーションを維持しやすい目標がベスト4よ」

 

黒森峰2年生A「目指せ優勝なんて言っておきながら優勝できなかったらかっこわるいでしょ」

 

しほ「ほんと馬鹿ばっか・・・そんな心構えで戦う者に戦車道をやる資格などない。戦車に乗っても何の意味もない」

 

黒森峰2年生B「なっ・・・下級生は先輩の言うことに従ってればいいのよ!上の言うことは絶対なの!社会でも戦車道でも、上の人間に逆らっちゃダメ!」

 

しほ「くだらない・・・」プイッ

 

黒森峰2年生A「あっ!ちょっと!どこ行くの!?」

 

黒森峰2年生B「夕飯までには帰ってきなさいよ~!今晩はハヤシライスなんだから~!」

 

 

 ・ ・ ・ ・ ・

 

華「――みほさんのお母様、先輩に堂々と噛みつくなんて、度胸があるというか肝が据わっているというか」

 

好子「言葉使いも男っぽかったわ。思春期だからね」

 

みほ「・・・なんとなくそんなイメージはあったけど・・・やっぱり我が強い人だったんだなぁ・・・」

 

好子「大会トーナメントの抽選会や、見世物の団体行動や戦車の曲芸パフォーマンスで会場は盛り上がってたけど、私はずっと黒森峰の生徒のことが気になってたわ」

 

麻子「戦車で曲芸て」

 

好子「帰り際になっても、なぜだかずっとあの子のことが気がかりだった。で、駅までの道を歩いていた時――」

 

 

 ・ ・ ・ ・ ・

 

好子(あ〜、満喫したなぁ〜・・・私もできることなら戦車道やりたいな・・・けど・・・大洗には戦車道無いし、私なんかが戦車に乗っても何の役にも立たなくて無駄だろうな〜・・・)

 

好子(あ〜あ・・・・・・戦車道か〜)

 

 トボトボ・・・

 

 

 バッタリ

 

好子「あ」

 

しほ「む」

 

 

好子(さっきの黒森峰の人・・・目が合っちゃった)

 

しほ「・・・なんだ?」

 

好子「あっ、いえ、あの、さっきの人だ。目が合っちゃったな~って思って・・・えっと・・・上級生と言い争いしてた黒森峰の人ですよね」

 

しほ「見ていたのか・・・あなたも戦車道を?」

 

好子「いえ、戦車は好きですけど・・・見る専門です」アハハ・・・

 

しほ「・・・・・・西住しほ。黒森峰一年生」

 

好子「あ、秋山好子です。大洗女子一年。西住ってことは・・・あの西住流の?」

 

しほ「そう。私もいずれ西住流を継ぐつもりだ。だが、そのためには強くならなければならない。今よりもずっと」

 

好子「は、はあ・・・」

 

しほ「あなたも聞いていただろう?ウチの上級生が、高い目標を掲げておいて負けたらカッコ悪いだと、そんなふざけたことを抜かしていたのを。ほんっと馬鹿ばっか・・・」

 

(なんだかキムズカシそーな子だなぁ・・・)

 

 

しほ「私は強くならねばならない・・・西住流を継ぐ者として、誰よりも強くならねば・・・それなのに上級生は腑抜けばかり・・・だから私は・・・!」バッ

 

好子「!?」

 

 

 好子《・・・・・・その子は突然、道端のボロボロのみかん箱の上に仁王立ちした。そして、大きな声で、宣言するように言ったの――》

 

 

しほ「私は強くなりたい!今の腐った黒森峰では本物の強さなど得られはしない!」

 

しほ「人の顔色を伺い、メンツばかりを気にし、一年だ二年だとくだらないことに固執するような連中などくそくらえだ!」

 

しほ「私は私の戦車道を進むと決めた!誰にも縛られず、誰にも邪魔されず、自由に戦うと!」

 

しほ「自分達だけで練習し、自分達だけで戦い、自分達だけで勝つ!そして、黒森峰を打ち倒し、日本中の強豪達と戦い、日本一になってみせる!」

 

しほ「たとえ無茶だ無謀だと笑われようと、己の道を突き進む!」

 

 

しほ「それが私の戦車道だ!」

 

 

好子「っ・・・・・・!」

 

 

 好子《――・・・ビックリしたわ。高校一年生の女の子が、泥だらけのダンボール箱の上で、そんな無茶な夢を語ったんだもの・・・》

 

 好子《・・・・・・その子は、私の目を真っ直ぐ見て、少しだけ口角を上げて、こう続けた・・・》

 

 

しほ「これから一緒にやれそうな者を集めて、等級や学校に縛られない自分達のチームを組むつもりだ。どうだ、秋山。一緒にやってみないか」

 

 

好子「ーー!」

 

 

 ・ ・ ・ ・ ・

 

好子「――・・・想像もできなかった・・・一年のぺーぺーが、それも別の学校の生徒がチームを作るなんて・・・ムチャな話だわ・・・」

 

好子「・・・でも心の奥が熱く燃え上がるような感覚があった・・・ずっと探してた、自分のやりたいことに出会ったようで・・・」

 

優花里「・・・っ~~~!」プルプル

 

優花里「すごい!すごいよお母さん!西住しほさんと学校の垣根を越えて戦車道やるなんて!」

 

麻子「不良みたいだ」

 

華「野良チームという訳ですね」

 

好子「そんな無茶苦茶な話、断るのが常識的だったけど、私の答えは決まっていたわ。この子と一緒に戦車に乗れば・・・きっと楽しいってね」

 

みほ「お母さんがそんなことやってたなんて・・・聞いたこともなかった」

 

沙織「それで、それからどうなったんですか?」

 

好子「さっそく次の日、しほちゃんに呼び出されたの。一緒に戦車に乗るメンバーをスカウトに行くって、朝早くからね」

 

沙織「でっ、でっ、どこにスカウトに行ったんですか?渋谷?池袋?」

 

 

好子「聖グロリアーナ女学院よ」



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Addio!

 ・ ・ ・ ・ ・

 

 ――聖グロリアーナ女学院――

 

好子「ねえ、急にスカウトに行こうだなんて言ったけど、聖グロのチームで戦車道やってる人を引き抜くなんて無茶だと思うよ」

 

しほ「目星は付いてる。チームに所属していないが、砲撃の名手になり得る人物だ」

 

好子「砲撃の名手・・・そんなすごそうな人ならなんで戦車道やってないの・・・?」

 

しほ「いたぞ。あれだ」

 

 

百合「ふんふんふふ~ん♪」スキップスキップ♪

 

 

好子「お弁当持ってスキップしてるあの子?」

 

しほ「名を五十鈴百合。我々と同じ一年生だ。元々は華道の家元の人間だが、思春期特有の反抗期故、華道を嫌い、親に反発して家を飛び出したそうだ」

 

好子「どうしてそんなことまで知ってるの?」

 

しほ「ツテで情報を集めたんだ。彼女は親や華道への反発のために、あえて茶道をやってみようと、聖グロリアーナに入学したという」

 

好子「茶の種類が違うと思う」

 

しほ「ああ。本人も入学してから気付いたらしい。今まで華道一筋な生活だったせいか、高校進学以降は色々なことに挑戦しているそうだ」

 

しほ「弓道、クレー射撃、ダーツ・・・数々の体験入部で叩き出した記録は全国レベルに匹敵し、各部から勧誘されているが、本人は自由に色々やりたいとフリーでいる」

 

好子「なにそのゴルゴ13みたいな子・・・で、その子に砲手をやってもらおうって訳だね」

 

しほ「上手くいけばな。話をしてくる」

 

 

しほ「五十鈴百合」ザッ

 

百合「あら、ごきげんようでございますわ」ペコ

 

しほ「私は黒森峰の一年生、西住まほ。あなたに話があって来た」

 

百合「あら?ごきげんようでござんす・・・でしたっけ?ごきげんようでごじゃる・・・だったかしら?」ハテ

 

しほ「突然だが、私は今、戦車道チームを組織している。あなたの噂を聞き付け、はるばるこの学園艦まで来た」

 

百合「ごめんなさい。私、せいぐろの生徒らしいお嬢様言葉というのがまだ上手く話せなくて、聞きづらいでしょう?」

 

しほ「私と一緒に戦車に乗ってほしい。乗るか、乗らないか?」

 

百合「それで、わたくしに一体どういうご要件ですか?」

 

好子「ちょっと待って。二人とも一方通行すぎ」

 

しほ「・・・」

 

好子「ちょっと代わって。私が話すから」グイ

 

しほ「むう」

 

百合「ごきげんようでござる。あら?ごきげんようでありんす・・・ごきげんようで・・・」エート

 

好子「五十鈴さん、私の目を見て」ガシッ

 

百合「わ、はい、なんでしょう」

 

好子「私は秋山好子。一緒に戦車道をやってくれる人を探してるの」

 

百合「あら」

 

好子「あなたなら一緒にやれそうって思って誘いにきたの。それで、こっちは西住しほちゃん。私の友達」

 

しほ「えっ」

 

好子「なに?友達でしょ?私達」

 

しほ「・・・その・・・えと・・・ああ」

 

百合「まあ、戦車道?お母様が大嫌いな鉄と油まみれのきったねぇ泥んこ競技ですね」

 

好子「お淑やかな人だと思ったけど口は悪いね」

 

しほ「戦車道を馬鹿にしたらひどいぞ」メラメラ

 

好子「あのね、百合さんは射撃の名手だって聞いたんだ。弓道部でもクレー射撃部でもダーツ部でもすごく上手だったって」

 

百合「はい!わたくし当てるの得意なんです。私の手から放たれたものが、目指した目標をスパンと射抜く様がとてもとても気持ちがよくて・・・」ウットリ

 

好子「それじゃあ、私達と一緒に戦車道やってみる気はない?きっと楽しいよ。大砲も撃てるし」

 

百合「戦車道・・・きっとウチの親は大反対します。家を飛び出し華道を捨て、あろうことか戦車道などやれば勘当されるのは必至・・・五十鈴流から永久追放されるやも・・・」

 

しほ「・・・」

 

好子「・・・」ゴクリ

 

百合「私、戦車道やります!」

 

好子「やったぁ!」

 

しほ「本当か」

 

百合「はい!泥んこまみれの戦車で暴れ回りたいです!こ~んな感じで。ぎゃごごごご!どーん!ぴゅーんぴゅぴゅーん!ぶしゅー!どっかーん!・・・嗚呼、胸が躍ります!」ウットリ

 

好子「とんでもないヒネくれ者だけど友達が増えたよ!やったねしほちゃん!」ピョンピョンブンブン

 

しほ「・・・う、うむ」ユサブラレ

 

好子「これからよろしくね百合ちゃん!」ギュ

 

百合「はい、こちらこそよろしくしてございませ」ギュ

 

 

 ・ ・ ・ ・ ・

 

沙織「――・・・まさか華のお母さんまで・・・」

 

華「びっくりして空いた口がふさがりません・・・まさかお母様が・・・」

 

麻子「世間狭すぎ」

 

優花里「でもおかしくないですか?五十鈴殿のお母さん、あんなに戦車道を嫌ってるのに」

 

好子「高校時分の百合ちゃんはとにかく実家に反発してて華道が嫌いだったけど、大人になるにつれて考え方も穏やかになっていったの」

 

好子「反抗期が終わってからちゃんと華道を修めて、五十鈴流を継いだのよ。皆もあるでしょ?一時自分じゃないくらい変な思考になってた時期って」

 

麻子「黒歴史というやつか」

 

沙織「華道アンチがいきすぎて戦車道に・・・って、納得できるかぁ!」

 

みほ「それで、華さんのお母さんを含めた3人はその後どうしたんですか?また新しい仲間を探しに行ったんですか?」

 

好子「いいえ、しほちゃんは3人いれば戦えるって言って、私達だけで活動を始めることにしたの」

 

好子「私も百合ちゃんも戦車道未経験だし、少しでも早く慣れておかないとってね。でもその前に大きな大きな問題があった・・・戦車を手に入れなきゃダメだったのよ」

 

優花里「そっか。戦車も無いのに戦車道はできないもんね」

 

沙織「でも戦車を手に入れるってどうやって・・・」

 

好子「盗むの」

 

沙織「え”っ」

 

 

 ・ ・ ・ ・ ・

 

 ――戦車喫茶〈ルクレール〉――

 

好子「戦車を盗む!?」ガタ

 

しほ「人聞きが悪いぞ秋山。それと、店の中で大声を上げるな」

 

百合「わたくし泥棒ってやったことないのでわくわくします」ワクワク

 

しほ「正確には泥棒ではない。使われていない戦車を使うんだ。黒森峰にはたくさん戦車があるが、修理を待ったまま倉庫で眠っている戦車もある。それを盗む」

 

好子「ほらほらほら!盗むって正確に言ってるよ!」

 

百合「でも使われていないものなら誰にも迷惑をおかけにならないのでは?」

 

しほ「その通り。戦車が買えるような大金などないしな。私のおこづかいは月500円だからな」

 

好子「しほちゃんの家って西住流の家元なんでしょ!?戦車くらい貸してもらえないの!?」

 

しほ「これは私達の戦車道だ。家の力を借りたくない」

 

百合「ではわたくしがウチから大金をかっぱらってきましょう!きっと両親ともども怒り心頭まっさかさま!」ガタ

 

好子「百合ちゃんは何もしないで」

 

しほ「秋山、他に手があるか?戦車が無いことには、戦車道など出来ないぞ」

 

好子「・・・・・・はあ、わかったよ。使われてない戦車なら大丈夫かな・・・」

 

しほ「よし、これで全会一致だな。この珈琲を飲み終えたらすぐに黒森峰に向かおう。今からなら夜には着く」ズズ・・・

 

好子「はあ・・・手持ちの少ない女子高生にゃ、コーヒー一杯が関の山だね」ズズ

 

百合「この喫茶店、小さいけれど戦車を連想させる内装が素敵ですね。窓辺から見えるマロニエの木がまた風情があって・・・」

 

好子「へ~、あの木、マロニエって言うんだ。さすがは華道の家元さん」

 

百合「ハッ!・・・い、いえ、華道なんて大っきらいです!マロニエさん!あっちに行ってください!シッシッ!」

 

しほ「無茶苦茶を言うな」

 

好子「しほちゃんが言わないで」

 

 

 ――黒森峰女学園――

 

 コソコソコソ・・・

 

百合「抜き足さし足忍び足♪お酒を飲んだら千鳥足♪」スキップスキップ

 

好子「百合ちゃん静かにしてよ!」シーッ

 

百合「あら、ごめんなさいませ。ついウキウキしちゃいまして」テヘ

 

好子「変わり者にしても度が越えてるよ・・・」

 

しほ「この倉庫だ。見回りが来る時間は把握しているが、手早く済ませるぞ」ギイーッ・・・

 

 パンター<・・・  ティーガーⅡ<・・・  マウス<・・・

 

好子「わぁ・・・戦車がいっぱい・・・これ全部修理する戦車なのか・・・」

 

百合「鉄の塊がたくさんですね。生け花の花器にいいかも・・・ッハ!か、華道のことなんて考えてございませんよ!」

 

しほ「あった。これだ。この戦車を私達で使おう」

 

好子「これって・・・」

 

 

 ティーガーⅠ<・・・・・・

 

しほ「Panzerkampfwagen Tiger Ausf.E・・・ティーガー戦車E型・・・鋼鉄の虎だ」

 

百合「なんだか泥だらけですね。この虎さん」

 

好子「ほ、ほんとに使っていいのかな?こんな立派な戦車・・・」

 

しほ「修理待ちの戦車は新しい車輌から優先的に修理される。旧型は修理してもすぐ壊れやすく効率が悪いからな。次から次に修理待ちの戦車が増えるから、古い物はいつまでも放置されている」

 

しほ「このティーガーは昔から使われていたもので、同型の新しいティーガーがいくつも入って来たものだから、こいつの修理は後に後にと回されているんだ」

 

百合「ご年配さんなんですね」

 

好子「と、とにかく早くかっぱらってとんずらしちゃおう!誰か来たら大変だよ!」

 

しほ「よし、皆、乗るぞ」パカ

 

 

好子「・・・これが戦車の中・・・」

 

百合「なんだか鉄と油のニオイがいっぱいで・・・不思議な感覚です」

 

しほ「車内を満喫するのは落ち着いてからにしろ。出発するぞ。エンジン点火」カチン

 

 ティーガーⅠ<・・・・・・

 

しほ「・・・・・・エンジン点火」カチ

 

 ティーガーⅠ<・・・・・・

 

しほ「・・・あれ」カチ カチ カチ

 

しほ「あっ、そうか。故障してるから動かないんだった」

 

好子「しほちゃん」

 

 

 ~ソレカラドシタノ~

 

しほ「他の戦車から使えそうな部品を拝借した。今はエンジンさえ何とかなればいい。すぐに出発したいが、エンジンが温まるまで少しかかるぞ」

 

好子「なんにしても早くしてしほちゃん。誰かに見つかる前に――」

 

百合「しっ・・・誰か来ます」

 

 

黒森峰生徒「ふわあぁ~・・・夜の見回りってホントいやだな~・・・何もなかったら面倒なだけだし、何かあったら大変だし・・・」ポテポテ

 

 

好子「どどどどどどうしよう!捕まっちゃうよ!逮捕されちゃうよ!裁判だよ!刑務所だよ~!」

 

しほ「落ち着け。車内で静かにしていれば気付かれやしない。音を立てずにやりすごすんだ」

 

 ティーガーⅠ<・・・ヴオロロロォン!

 

しほ「あっ、エンジンかかった」

 

好子「しほちゃぁん!」

 

黒森峰生徒「な、なに!?なんの音!?倉庫の中から・・・」バッ

 

 ティーガーⅠ<ドッドッドッドッド・・・

 

好子「どうするの!?バレちゃったよ!?土下座で勘弁してもらえるかな!?」

 

百合「ここはワイロをお渡しして・・・」

 

しほ「強行突破しかない。戦車前進」ガッ

 

 

 ティーガーⅠ<ギャラギャラギャラギャラギャラ!

 

黒森峰生徒「わー!」

 

 ティーガーⅠ<グオォン!ギャラギャラギャラ・・・!

 

黒森峰生徒「あわわ・・・ティーガーが・・・ティーガーが・・・」ワナワナ

 

黒森峰生徒「ティーガーが自我を持って脱走しちゃったよ~!機械の反乱がはじまった~!今日が審判の日〜!」ヒエー

 

 

しほ「どうやらバレていないようだ」

 

好子「変わった子で助かった・・・」

 

 

 ――西住邸・戦車整備倉庫(片隅)――

 

好子「ふうっ・・・こっちは終わったよ、しほちゃん」フーッ

 

百合「わたくしもお任せされていたお仕事終わりました~。がんばりましたっ」フンス

 

しほ「ああ、助かった。急ごしらえだが、これなら戦うこともできる」

 

好子「戦車道流派の本家なんだから、お抱えの整備士の人とかいないの?やってもらったほうがいいんじゃ・・・」

 

しほ「私達の戦車だ。私達で整備しないでどうする。それに、前も言ったように家の力は借りたくない」

 

好子「言いたい事はわかるけど、これから本気でやるんだったら、ちゃんとした整備士も必要だと思うよ。しほちゃんだって最低限の整備しかできないんだから」

 

しほ「むう・・・そうだな」

 

百合「でもわたくし達だけで戦車をいじるのって、なんだかとっても楽しかったです。今までやったことのない経験でわくわくしました」ニッコリ

 

好子「たしかに楽しかったね。それでしほちゃん、練習はどこでするの?いつ始める?私、今ちょっと気分高まってるから今からでもいいよ」フンスフンス

 

百合「わたくしもやる気に満ち溢れてます!これから何をなさるんですか?」フンスノス!

 

 

しほ「我々は今から二時間後、試合をする。相手は聖グロリアーナだ」

 

好子&百合『えっ』



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Dog fight

 

 ――対聖グロリアーナ女学院戦、練習試合会場――

 

しほ「申込試合を受けてくださり、感謝します。聖グロリアーナ女学院戦車道チーム隊長、ダージリン殿」

 

旧ダージリン「こちらこそ、あの西住流の後継者の方と試合が出来るのは貴重ですわ。それにしても・・・そちらのチームは1輌だけのようね。5対5の試合と聞いていましたけど?」

 

しほ「そうでも言わないと、試合すら組んでもらえないかと」

 

旧ダージリン「ふふ、かもね。そちらが1対5でいいと言うのであれば、こちらも手は抜きません。では・・・いい試合を」ザッ

 

しほ「・・・」

 

好子「い、いくらなんでも無茶だよしほちゃん!私達ズブの素人だよ。二時間でルールブックを読み込んだけど、まともに試合なんてできないよ!」

 

しほ「私が操縦をする。秋山は装填手だ。指示を出すから、砲弾を装填してくれ。五十鈴は砲手だ。合図をしたら撃て」

 

百合「それだけなら出来るかと思いますが・・・上手くお直撃させられるでしょうか」

 

しほ「照準は合わせなくていい。砲身ごと、車体ごと私が狙いを定める。秋山も、慌てずにやってくれればそれでいい」

 

好子「勝てっこないよしほちゃん・・・1対5で・・・素人二人も乗せてる戦車じゃ、誰だって負けるよ」

 

しほ「かもしれん。だが、やる。私を信じろ。この試合は価値のある試合になる」

 

好子「負けるってわかっててやって、価値なんかあるのかなぁ・・・」

 

 

審判「では、試合開始!」

 

 

 ティーガーⅠ<ギャラギャラギャラ・・・

 

百合「なんだか落ち着きません。聖グロリアーナの方々とお試合をするというのは、裏切っているような気分ですわ・・・」

 

好子「戦車道チームに所属していないとは言っても同じ学校の生徒だもんね。弱点とか知ってる?」

 

百合「さあ・・・ガソリンが無くなるとお走りになることができないとか?」

 

しほ「フラッグ車がチャーチル、マチルダⅡが二輌、クルセイダーが二輌だ。チャーチルは装甲が厚いが、ティーガーなら撃ち貫ける。勝てない相手ではない」

 

好子「言うのは簡単だけど――」

 

 

 < ド ワ ッ !

 

好子「「わあっ!?」」グララ!

 

百合「「ひゃあ!」」グララ!

 

 

旧アッサム「指示通り、こちらの気配を知らせるためにわざと外しました。次は?」

 

旧ダージリン「履帯を破壊し、身動き出来なくなったところで撃破するのよ。単騎で挑んできた勇気は買うけれど、二度と立ち向かう気が起こらないほど叩きのめすの」

 

旧オレンジペコ「いくら西住流とはいえたった一輌でなんて、私達も舐められたものですね」

 

旧ダージリン「いいえ、西住しほ・・・あの子の目は真っ直ぐで、決して私達をコケにしている訳ではなく、本気だったわ。だからこそ、叩きのめしてあげるのよ。砲撃」

 

 チャーチル<ドッ! マチルダⅡ<ドワ! グワ!

 

 \ドォン!/ \グワァ!/ \ドーン!/

 

好子「「わああっ!むちゃくちゃ撃ってきたよ!危ないよー!」」ドォーン!

 

百合「「まるで地震のように激しく揺れてます!こ、怖いでございます!」」ドゴォーン!

 

 \ドワ! ゴォーン! ボォーン!/

 

好子(これが・・・これが戦車道・・・考えが甘かった・・・実弾を使った戦車同士の撃ち合いが、どれくらい怖いか覚悟しておくべきだった・・・)

 

好子(こんな状況で落ち着いてなんかいられっこない・・・戦車で戦うなんて・・・こ、怖い・・・怖いよ・・・)

 

 

しほ「秋山、五十鈴、これが戦車道だ。初めての砲撃は身がすくむ。怖くて当然だ。だが怯えるな。その恐怖心に打ち勝ってこそ、道は開かれるんだ」

 

 ティーガーⅠ<ギャギャギャギャギャ!

 

好子「!」

 

しほ「こちらからも行くぞ。二人とも、構えろ」

 

 

マチルダⅡ乗員「敵接近!こちらに向かってきます!」

 

マチルダⅡ車長「返り討ちよ!ダージリン様の指示通り、脚を狙うの!撃て!」

 

 マチルダⅡ<ドッ! \ドーン!/

 

マチルダⅡ車長「チッ!外した!」

 

 ティーガーⅠ<ギャギャギャギャギャ! <ガン!>

 

マチルダⅡ車長「!?横っ腹に着けられ――」

 

しほ「五十鈴!撃て!」

 

百合「!・・・は、はい!撃ちます!」

 

 

 ティーガーⅠ<ドワァ!

 

  >ド ォ ン !<

 

 マチルダⅡ<・・・シュポ

 

 

審判「マチルダⅡ、走行不能!」

 

 

好子「っ・・・す、すごい」ジィ~ン・・・

 

百合「・・・じ、じんじんします・・・身体の芯まで衝撃が伝わって・・・これが・・・これが戦車!」ジィ~ン・・・

 

しほ「秋山、装填だ」

 

好子「はっ!は、はい!よいしょっ・・・!」ググッ・・・

 

 好子「お、おんもいなぁ!こんなのホイホイ持ち上げるなんて、戦車女子ってホントに人間?」グググ・・・

 

 

旧オレンジペコ「マチルダが撃破されるとは・・・」

 

旧ダージリン「・・・どうやら、認識を改める必要があるわね。操縦の腕はかなりのもの。けれど次弾を撃たずに慎重な点、砲身が動いていない点を見るに、操縦手以外は素人のようね」

 

 旧ダージリン「陣形を変更。マチルダはチャーチルの守りを。クルセイダーは相手を掻き回してやりなさい。手加減は無しよ。虎を狩るのに気を抜くと、こっちがやられるわ」

 

 

好子「よい・・・しょぉ!」ガコン!

 

好子「はあ・・・はあ・・・戦車ってこんなに大変なんだね・・・私、ちょっと甘かったみたい・・・」ゼーゼー

 

しほ(秋山の体力的に、撃てて後3発・・・いや、2発か。確実に当てる角度と距離まで詰めて、1発で仕留めなければ・・・だが)

 

 

 チャーチル<ギャラギャラギャラ マチルダ<ギャラギャラギャラ

 

しほ「くっ・・・マチルダが邪魔でフラッグに近づけない・・・懐に潜り込むには、マチルダをどけるしかないか。秋山、あとでもう一度だけ装填してもらうぞ」

 

 クルセイダー<ギュオオオオン! <ドッ! \グワァン!/

 

好子「うわー!撃たれてる!しほちゃん撃たれてるよ!」

 

しほ「わかってる!クルセイダーがうっとうしいが弾が惜しい。フラッグを仕留める!」ギャラギャラギャラ!

 

 

 クルセイダー<ギュオオルル! ティーガーⅠ<ギャギャギャ!

 

しほ「今だ五十鈴!撃て!」

 

百合「うつー」

 

 ティーガーⅠ<ドッ!

 

   マチルダ<グワア! \・・・ポシュ/

 

しほ「秋山!すぐに装填だ!一気に決める!」

 

好子「ううぅ~ん!」グググ・・・

 

 旧ダージリン「砲撃!」ドワ!

 

しほ「!」グンッ

 

 ティーガーⅠ<ガァン! <ゴォン!>

 

 旧ダージリン「!・・・咄嗟に車体を斜めに・・・芯を外された」

 

 

しほ「秋山!無事か!」

 

好子「いてて・・・う、うん・・・すぐに装填するから。よい・・・しょお・・・」ググ・・・

 

好子「ふんんん~~~!」グググ・・・ガコン!

 

好子「ぜー!ぜー!・・・い、いけるよ!」

 

しほ「五十鈴!撃て!」

 

百合「発射!」

 

 ティーガーⅠ<ド ッ !

 

 

 チャーチル《ゴガン!》

 

しほ「!・・・浅かっ――」

 

 

旧ダージリン「とったわ」

 

 チャーチル<ド ッ !

 

 

   \グワァ!/

 

 ティーガーⅠ<・・・ポシュ

 

 

審判「ティーガーⅠ、走行不能。聖グロリアーナ女学院の勝利!」

 

 

旧ダージリン「ふう・・・まさか・・・たった一輌相手に冷や汗をかかされるとは、少々不格好な試合だったわね・・・」

 

旧アッサム「あの子達がこれから腕を上げれば・・・今度はどう勝負が転ぶかわかりませんね」

 

旧ダージリン「ええ、本当に・・・少し期待してしまうわ。どこまでやれるようになるのか・・・フフ、楽しみね」

 

 

好子「・・・はあ・・・はあ・・・負けちゃったね・・・」ゼーゼー

 

百合「でも、自分で言うのも何ですが、初めての試合でよくおやりになった方ではないでしょうか、私たち」

 

好子「うん、ほんとそうだよね。なんだか・・・負けたけど自信がついたかも!」

 

百合「これからもっと練習して上手くなれば、次は勝てるかもしれませんよ!」

 

好子「初めは怖かったけど大砲を撃った時は感激しちゃったし、すごくわくわくしたよね。また試合をやってみたくなっちゃった。ね、しほちゃん」

 

しほ「・・・・・・ああ、そうだな。二人とも、初めてでよくやった」

 

好子「?・・・しほちゃん?」

 

しほ「・・・・・・勝つことはできなかったが・・・よくやってくれた・・・本当に・・・っ・・・」

 

 好子(しほちゃん・・・泣いてるの?・・・)

 

 

 ・ ・ ・ ・ ・

 

好子「後になってわかったけど、しほちゃんは私達に砲撃の感覚と試合の恐怖心に慣れさせるつもりで試合を組んだみたい」

 

好子「でも・・・それでもしほちゃんは、血が出るくらい唇を噛み締めてたの。本気で勝つつもりだったんだってわかったわ」

 

好子「私は最初から、どうせ勝てるわけがないなんて思ってたけど、しほちゃんは勝つ気だった。それを知って、私も百合ちゃんも、本気でやらなきゃって思ったものよ」

 

沙織「・・・一瞬ダージリンさんが昔から高校生やってたのかと思ってちょっとびっくりしちゃった。聖グロの呼び名って受け継がれてるんだったね」

 

華「でもダージリンさんなら何十年も昔から高校生でも不思議ではありませんね」

 

麻子「不思議だろ」

 

みほ(お母さんも負けたことがあったんだ・・・)

 

優花里「それで、次はどこと試合を?」

 

好子「聖グロとの試合後一週間、しほちゃんからの連絡は無くなったわ。突然よ突然。何も言わずに音信不通になっちゃって、私も百合ちゃんもただただ待ってた」

 

好子「とにかく私達は戦車道の勉強をしながら、しほちゃんを待ったわ。夏休みに入る前日、ようやっとしほちゃんから連絡があったの」

 

沙織「なんて言われたんですか?」

 

好子「北に向かう、準備しろ、とだけよ」

 

沙織「雑把ぁ・・・」



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アドリアの海へ

 ・ ・ ・ ・ ・

 

好子「突然連絡が来たと思ったら北に向かうだなんて・・・今度は何をするの?まさかプラウダと試合とか・・・」

 

しほ「いいや、今日は違う。聖グロリアーナとの試合の後、仲間に整備士を加えようと探していたんだ」

 

百合「まあ、そうだったのでございますか。私達もしほさんをお待ちしながら、きちんと鍛錬を積んでいましたのでございますよ」フンス

 

好子「そうそう。私もちょっとは筋肉ついたよ。それで、プラウダにいい整備士の人がいるから勧誘に行くって訳だね。どんな人なの?」

 

しほ「プラウダの中等部に通う3年生で、整備科に通う井手上菊代という者だ。整備の腕は優秀だが、戦車道チームには属していない。我々と同じはみ出し者だ」

 

好子「はみだし者って・・・まあ、野良戦車チームだからそうかもしれないけど・・・って、中等部?」

 

しほ「中学3年生ながら整備の腕前を買われ、高等部の整備班に出張しているそうだ」

 

百合「まあ、すごいお方ですのね」

 

 

 ――プラウダ高校・戦車整備倉庫――

 

 ジジジジジ・・・ ガコーンガコーンガコーン カンカンカン・・・

 

好子「おっきな倉庫だね。さすが大所帯のプラウダ。で、いてがみきくよさんはどこにいるのかな?」

 

百合「う~ん、鉄と油のニオイでいっぱいでございます。慣れてしまったらこのニオイがクセになっちゃいました」ウットリ

 

 

プラウダ整備士「あんれま~、あんたら他所モンだべ?こったらとこでなんしとるべさ?」

 

好子「おっ、なまってるね~」

 

百合「お難しいお言葉ですね」

 

しほ「失礼、井手上菊代という生徒はいるか?」

 

プラウダ整備士「あ~、井手上のツレだべか。おーい井手上~、お客さんが来とるべー」オーイ

 

 ジジジ・・・ ガチャ

 

 

菊代「・・・え?・・・・・・お客さん?・・・」

 

 

 ~ソレカラドシタノ~

 

しほ「突然訪れてすまない。私は黒森峰女学園一年の西住しほという者だ。こっちは秋山好子と五十鈴百合」

 

好子「あ、どうも」ペコ

 

百合「ごきげんようござんす。・・・あら?ごきげんよろしゅうでしたっけ?ごきげんよきにはからえ?」ハテ

 

菊代「・・・はあ・・・あの・・・どちら様でしょうか?・・・知り合いじゃないですよね?・・・」

 

しほ「私達は今、自分達だけの戦車道チームを作っている。戦車はあるのだが、いかんせん整備に明るい者がいない。君の技術は折り紙つきと聞いてはるばる来た」

 

菊代「・・・はあ」

 

しほ「これから我々は全国のチームと戦う。そしていずれ、黒森峰と戦い、勝つ。君にも私達の仲間に加わってほしい」

 

菊代「・・・・・・あの・・・よくわからないというか・・・何の話なのか・・・いえ、遠慮します。けっこうです。お断りします」ペコリ

 

しほ「・・・」

 

 好子(まあそうだよね。普通はそうだよね。私も百合ちゃんもよく話に乗ったなあ)

 

 

しほ「・・・君は部活にも所属せず、校内でも友人を作ろうとしないそうだな。塞ぎ込んで黙々と整備ばかりしていると聞いたが・・・」

 

菊代「!・・・」

 

しほ「朝起きて、授業を受けて、戦車をいじって、寝て、起きての繰り返しだけの毎日・・・成績こそ問題ないが、あまりに孤立していると教師達も心配しているぞ」

 

好子「し、しほちゃん?・・・な、何の話してるの?」

 

菊代「・・・関係ありませんよね、あなたに。突然現れて人の人生にケチつけるなんて、非常識を通り越して失礼です」プイ

 

しほ「無礼は詫びる。君の事を聞きつけ、ツテで色々調べさせてもらった。その内・・・君の事を心配するようになってしまったんだ」

 

菊代「・・・」

 

しほ「なぜ人との関わりを拒絶し、戦車の整備ばかりしている。華の十代を無駄に過ごす気か?」

 

 

菊代「・・・私には何も・・・何も無いんです。戦車道の才能も、勉強の才能も、何も・・・」

 

菊代「唯一、手先が器用なことくらいしかなくて・・・だから今のうちから一生懸命勉強して、整備の腕を磨いておかないと将来働き口がないんです・・・人並みにもなれない私には、遊んでる暇なんてないんですよ」

 

好子「・・・」

 

菊代「戦車道なんかやったってなんの意味もない・・・それが仕事になるような人はほんの一握り・・・私なんかがやっても無駄です」

 

しほ「戦車道には人生に大切な全てのことが詰まっている。無駄などではない」

 

菊代「人生?・・・私の人生には何もありませんよ。楽しいこともうれしいことも・・・カラッポで、平凡ですら無い」

 

菊代「あなた達はいいですよね。何の不安もなく、友達と楽しく遊んで、青春満喫してるみたいで・・・うらやましい」

 

好子「・・・」

 

 

しほ「・・・・・・歯をくいしばれ」

 

菊代「え?」

 

 

しほ「西住流平手打ちぃ!」バシコーン!

 

菊代「いでがみぃー!?」ブアシー

 

好子「し、しほちゃん!?なにするの!?」

 

 

しほ「人を羨むな!!! 人を羨むということは自分を否定するということだ!」

 

 しほ「そんなんじゃあミジメな人生を送ることになるぞ!人は人!自分は自分!幸せになりたいと願うことは構わない!だがそれは人と比べるようなことではないんだ!」

 

  しほ「人生全ての答えは己の中にあるんだ!!! わかったか菊代!!!」

 

 

菊代「っ・・・!」

 

 

しほ「・・・もし学校を卒業して、行く当ても無く、働き口も無いというのなら、私の所へ来い。私が面倒を見てやる」

 

 しほ「私達にはお前が必要だ。これから無茶なことばかりするだろう。馬鹿な連中だと笑われるだろう。だが、きっと楽しくなる」

 

 しほ「どうせなら、楽しい青春を送ろう。大人になって、昔は無茶をやったなと笑えるような青春をな・・・・・・」

 

菊代「っ・・・・・・」

 

しほ「一緒に戦車道をやろう、菊代」ニッ

 

菊代「・・・・・・は、はい・・・」

 

好子「・・・!」

 

百合「あらあらまあまあ」

 

 

 ・ ・ ・ ・ ・

 

華「あらあらまあまあ」

 

沙織「すっご~い!みぽりんのお母さんおっとこ前~!『私の所へ来い!』なんて言われたら女子なら誰でもオチちゃうようね~!」ヤダモー

 

みほ「菊代さん、昔は今と随分違ったんだぁ・・・」

 

麻子「知っているのか?」

 

みほ「ウチのお手伝いさんなの。忙しいお母さんの代わりによく私とお姉ちゃんの面倒を見てくれてたんだ」

 

優花里「じゃあほんとに西住流家元の所へ行ったんですね」

 

好子「しほちゃんの強引さには肝が冷えたわ。ほんとに無茶ばっかりやってたもの・・・」

 

沙織「でも女は強引な人に弱いものですよね!」

 

麻子「それは・・・」

 

好子「それから、プラウダで整備品をいくつか買い込んで、西住の敷地で本格的な整備をすることにしたの。でも、また新たな問題に直面したの」

 

麻子「単位が足りなかったのか」

 

沙織「麻子じゃないんだから。きっとチームの誰かが男子から告白されて、戦車を取るか恋を取るか・・・う~ん迷っちゃう~♪ってヤツでしょ!」

 

好子「お金よ」

 

沙織「うわっ」

 

 

 ・ ・ ・ ・ ・

 

 ――西住邸・戦車整備倉庫(片隅)――

 

菊代「これで整備は完了しました」フキフキ

 

しほ「ありがとう菊代。助かったよ」

 

菊代「いえ、しほさんと皆さんのためならこれくらい軽いものです」

 

しほ「試合中も戦車に乗ってくれるか。ティーガーは足回りが故障しやすいし、試合中にも整備が必要かもしれないしな」

 

菊代「はい、お任せください」

 

好子「菊ちゃん、友達がいないとか言ってたから心配だったけど、普通に人付き合いできるね」

 

菊代「私も驚いています。皆さんが話しやすい方々で助かりました」ニコ

 

百合「こちらこそ、お人の良い方でお助かりになりました」ペコ

 

しほ「プラウダで買った部品も使い切った。なるべく戦車を壊さないようにしよう。今まで貯めてきたおこづかいがもうない」ションボリ

 

好子「私と百合ちゃんが出した分ももう底をついたんだよね・・・バイトしないとなぁ」

 

百合「私は生活費も必要なので割烹とピザ屋さんで見習いをしていますが、今まで以上にがんばります!」フンス

 

しほ「資金問題はなんとか手を打とう。だがその前に、今日は皆に紹介したい者が――」

 

 

 「センパ~イ!」ドボォッ

 

しほ「るぐぉ!」ズム

 

菊代「し、しほさん!?」

 

好子「突然女の子が背後からタックルを・・・大丈夫?しほちゃん」

 

しほ「ぐ・・・平気だ・・・西住流はへこたれない」ググ・・・

 

 「あー、すみませんセンパイ。テンション上がってついドーンしちゃいました」テヘ

 

百合「こちらの方はどちらの方でしょう?」

 

しほ「ああ・・・紹介しようとしていた者だ。少し元気すぎる奴だが・・・自己紹介を」

 

 「はぁい!」ザッ

 

 

蝶野「わたくし、西住しほセンパイ第一の舎弟にして、サンダース大学付属中学校一年生、蝶野亜美でございます!どうぞよろしくしてやってください!」ビシッ

 

 

好子「しゃ、舎弟!?」

 

百合「まあ、しほさんのお手下ですか」

 

蝶野「はい!自分、昔は荒れてまして、野良犬同然の生活をしていたところ西住センパイに目をかけて頂き、お世話してもらったんです!」

 

好子「の、野良犬同然て・・・」

 

菊代「困っている人を放っておけないとは、さすがしほさんですね」

 

蝶野「そ〜なんスよ!センパイがいなけりゃ自分今頃ゾンビになってましたね!センパイには感謝感激アメアラレでスわマジで!」グリグリ

 

しほ「頭をグリグリ押し付けるな。ということで皆、これからはこの蝶野に操縦手をやってもらう」

 

 好子「えっ!」  百合「えっ」

 

     菊代「え!」  蝶野「え?」

 

しほ「蝶野、お前は知っているのだから驚くことないだろう」

 

蝶野「あ、そうでした」テヘ

 

好子「この子もチームに加わるってこと?菊ちゃんもだけど、中学生も巻き込んで大丈夫?」

 

しほ「我々は等級に関係ない自由なチームだからな。それにこいつの腕は本物だ。戦車の操縦に限れば、国内で高校生を含めても上から数えた方が早いだろう」

 

蝶野「そんなヨイショしないでくださいよ~照れますよセンパイ~」デヘヘ

 

しほ「私は操縦手より車長の方が性に合っている。これで我々のチームもやっと役者が揃ったというわけだ」

 

百合「しほさんが車長、好子さんが装填手、菊代さんが整備士、亜美さんが操縦手、私が砲手で、本格的に始動というわけですね」

 

しほ「これから毎日練習をするぞ。夏休みだから集まりやすいし、学校を気にすることもない。試合の申し込みもどんどんやっていくつもりだ」

 

好子「練習もしなきゃだけど、お金もなんとかしないとね。砲弾だってタダじゃないんだから」

 

しほ「む・・・私も家の手伝いをしておこづかいをもらうか・・・菊代、うちの整備の仕事を手伝うといい。勉強になるし、賃金ももらえるだろう」

 

菊代「はい。学校の整備の仕事は自主参加なので、こちらに専念させてもらいます」

 

百合「わたくしも早速明日から見習いの『しふと』を増やします!がっぽがっぽ稼ぎますよ~!」フンス

 

蝶野「レースに参加して賞金稼いできます!」

 

好子「よーし、なんだかやれそうな気がしてきた!みんなで一緒にがんばろう!」

 

 

 ・ ・ ・ ・ ・

 

華「教官まで出てくるなんて・・・」

 

麻子「もう何が出てきても驚かんぞ」

 

優花里「蝶野教官、見た目以上に歳いってるのかな。お母さんと三つ違いには見えないけど・・・」

 

華「歳の重ね方は人それぞれ・・・ウチのお母様が一番老けてますね」

 

麻子「ひっでぇ言いよう」

 

みほ「でもこれでやっと操縦手も整備士も揃ったから、お母さん達の快進撃がはじまるんですね」

 

好子「いいえ、その後も負けっぱなしよ」

 

みほ「えっ」

 

好子「世の中そんなに簡単じゃないの。高校一年や中学生が集まった急造チームが、毎日懸命に練習してる高校生チームにすぐに勝てるなんてことはなかったわ」

 

好子「試合は毎度、相手チームは5輌以上でこっちは1輌。いくら皆の腕が良くても、そう簡単にいくものじゃない。アニメじゃないんだから」

 

麻子「アニメじゃないのか」

 

好子「マジノ女学院、知波単学園、コアラの森学園・・・三戦三敗と負けこしたわ。試合をするにも燃料や砲弾でお金が消えるし・・・戦車の修理にも・・・」

 

沙織「ボコボコじゃん・・・」

 

華「世知辛いですね」

 

 

 ・ ・ ・ ・ ・

 

 ――戦車喫茶〈ルクレール〉――

 

好子「う~~~ん・・・・・・」アタマヲカカエル

 

蝶野「で!で!私がグルグル戦車回すんで!五十鈴センパイもドッカンドッカン撃ってください!360度全方位に砲撃!いい作戦っしょ!」

 

百合「まあ、なんと破天荒な。ぜひ次のお試合でお試ししてみましょう」

 

菊代「うまく相手に当たるといいですね。ところで秋山さん、何故頭をかかえて唸っているんですか?」

 

好子「資金繰りだよ資金繰り!私達カツカツだよ!このチームの家計は火の車なの!」ワーン

 

蝶野「! ヒラメいた!ティーガーに火を点けて敵陣に突っ込めば相手もビビるんじゃないスかね!」

 

菊代「きっとどんな相手でも逃げだすね、亜美ちゃん」

 

好子「ダメダメダメ!修理費だってバカにならないんだから!皆の持ち金集めてやっと綱渡り状態なんだよ・・・このままじゃ試合もできなくなるよ」

 

百合「それはまずいですね。ここは一丁、金融機関さんにお殴り込んで、有り金をごっそり頂戴するというのはどうでしょう。きっと私の親にもご迷惑がたくさん・・・」

 

 <ガチャ カランカラ~ン

 

しほ「待たせたな」

 

菊代「しほさん!お疲れ様です。どうでした?お家の方は」

 

しほ「こってり絞られたよ。大人達はカンカンだ」

 

蝶野「なんの話スか?」

 

しほ「我々の存在も多少名が知れてきた。それがとうとう西住流や戦車道連盟の耳にも入ってな」

 

しほ「非公認の野良チームを結成し、試合をけしかける我々のことを大人達は毛嫌いしている。連盟の管理管轄が行き届いていないと批判されかねないからな。お母様も渋い顔だったよ」

 

百合「なんと!親御さんに叱られるとは・・・なんとうらやましい!」イイナー

 

しほ「まあ、お母様は私の真意を悟っているだろうがな・・・」

 

菊代「真意・・・?」

 

好子「それよりしほちゃん見てよこれ!チームの家計簿!このままじゃ資金難で夏を乗り切れないよ!」

 

しほ「なに?・・・む・・・安心しろ。私が稼いでやる。昨晩もお母様の肩をトントンしておこづかいをもらった。ほら、千円」ピラ

 

好子「なしのつぶてだよ!スズメのナミダだよ!お金が無いから行くとこもなくて、毎日こうやってコーヒー一杯で喫茶店に入り浸って!女子高生なのに!」

 

しほ「落ち着け秋山。そこまで家計を心配してくれていたとは、きっといい母親になるな。ははは」

 

好子「カラカラ笑ってる場合じゃないよ!しほちゃんがそんなだから私がしっかりしなきゃならないの!言いだしっぺなのにもっとキチンと考えてよ!」

 

しほ「す、すまん・・・」

 

菊代「整備のお手伝いで稼いだお金も全て献上してますが、やはり厳しいようですね」

 

蝶野「戦車レースで稼ごうと思ったけどレースなんかなかったんで稼ぎがないです!スンマセン!」

 

百合「見習いをさせてもらってるピザ屋さんにアンツィオ高校のおドゥーチェという方がおられたので、試合をさせてもらえないか尋ねたのですが、延期してもらうべきでしょうか」

 

しほ「ダメだ。せっかく試合を組めるならやる方がいい。少しでも経験と技量を積まねば」

 

好子「でも燃料も砲弾も修理費もかかるし、移動の交通費とか宿泊費とか食事代とか色々かさばるんだよ。ホイホイやるわけにはいかないよ」

 

しほ「・・・そんなにかかるのか」

 

好子「いいよね何にも考えないで戦うことしか考えてない人は!気楽で!」

 

しほ「め、面目ない・・・」

 

菊代「せっかくのチャンスなのに、どうしましょう・・・」

 

 一同『う~~~ん・・・・・・』

 

 

 <ガチャ カランカランカラン・・・

 

 「フフフ・・・お困りのようね」

 

しほ「!・・・・・・き、貴様は!」

 

 

千代「お久しぶり、西住しほさん」

 

 

しほ「ちよきち!」ガタッ

 

千代「千代よ!島田千代!名前くらいちゃんと呼びなさい!」キッ

 

菊代「しほさんのお知り合いですか?」

 

しほ「・・・島田流家元の子だ。家柄のこともあって昔から何度か面合わせしたことがあってな・・・」

 

千代「あらあらしほさん、まだそんな喋り方をしてたのね。中学のころから男みたいな口調で・・・格好つけてるつもりかしら」チヨチヨ

 

しほ「五月蠅い。何しに現れた。今の私はお前にかまってやるほど暇じゃない」

 

千代「フフ・・・相変わらず威勢だけはいいのね。しほさんが無茶なことばかりをしていると聞いて、鼻で笑ってやりに来たのよ」フォヒフハハハ!

 

百合「あら、そうなんですか?てっきりしほさんのピンチにお助けにご登場なさったのかと思いましたのに」

 

千代「ななななな!?なんで私がしぽりんを助けなきゃならないのよ!けけけ見当違いも甚だしいわ!私はただ嘲笑いに来ただけよ!あー面白いおもしろい!」オホホーノホー!

 

百合「まあ、しほさんのお友達かと思ったのですが、いじわるなお方なんですね」

 

しほ「友達じゃない!」キッ

 

千代「友達じゃないわ!」キッ

 

 

 好子「・・・しほちゃん、ちょっと」チョイチョイ

 

 しほ「なんだ。友達じゃないぞ、ちよきちとは」

 

 好子「ねえ、モノは相談なんだけど、この人もチームに入ってもらうのってどうかな?」

 

 しほ「なんだと!?こんなイヤミったらしい傲慢ちきで勝手で老け顔で成り金女など兆害あって一利なし!」ヤメトケヤメトケ!

 

 好子「島田流家元の子ならけっこー小金を貯め込んでるはずだよ。私達が戦車道を続けるためにはスポンサーが必要・・・¥」

 

 しほ「・・・秋山・・・お前案外黒い性格してるんだな・・・」

 

 好子「それに、本心ではしほちゃんのこと心配してるっぽいし・・・島田流家元なら戦車も上手なんでしょ?チームのためチームのため」

 

 しほ「くっ・・・・・・仕方ない。心の奥から不本意だが・・・」

 

しほ「ちよきち」ザッ

 

千代「な、なによ・・・」チヨッ・・・

 

しほ「・・・」

 

しほ「やっぱヤだ」プイ

 

好子「しほちゃん!お金のためお金のため!」

 

しほ「お前もそれでいいのかそれで・・・」

 

菊代「千代さん、本当はしほさんに何かお話があって来たのではないですか?」

 

千代「ぬっ・・・ま、まあ大した話ではありませんわ。・・・あなた達、悪い意味で有名になってるのよ。戦車道界隈じゃちょっとした時の人扱い」

 

蝶野「でぇへへへ~!照れるッスね~!」エヘヘ

 

千代「でも、あなた達のような破天荒な連中が偉業を成し遂げれば、戦車道界隈だけでなく世間一般の人々にも知れることになるわ。そうして戦車道そのものの認知度が上がれば、もうマイナーな武芸なんて言われなくなる・・・」

 

千代「これでも私は戦車の世界に生きる身として、真面目に戦車道の未来を案じてるのよ。戦車道という武道が生き続けるには、世間からの注目を集める必要がある。だからあなた達にはもっと頑張ってもらわないと困るの。そこで・・・」

 

 

千代「この島田千代、あなた達と一緒に戦車に乗ってあげようと思っているのよ」

 

しほ「なんだと!?」

 

 

千代「勘違いをしないでちょうだい。しほさんを助けるなどというつもりは毛頭ないわ。これは戦車道の未来のためよ」チヨッ!

 

百合「まあ、心強い助っ人さんということですね」

 

菊代「西住流のしほさんと島田流の千代さんが手を組めば鬼に金棒ですね。そうですよね?しほさん」

 

しほ「イヤだ。こんな傲慢チキでヘソ曲がりでイヤミったらしいメスカナブンと組むなんてーー」

 

好子「しほちゃん」

 

しほ「・・・・・・くっ・・・仕方ない。いいだろう。ただし、足を引っ張るようなことはするなよ」

 

千代「ご心配なく。やるならせいぜい大きなことをやって、世界中を驚かせてやりましょう」チヨチヨ

 

しほ「言われなくても、大人どもの度肝を抜いてやるさ」シホシホ

 

蝶野「チヨセンパイ!よろしくしてやってくださいよぉ!」バンバン

 

千代「痛いっ・・・ふ、ふん。あなた達は戦車道再盛のために利用されるのよ。勘違いしないようにね」フンチヨ

 

百合「あら、三下悪役みたいなお台詞ですね」

 

 

好子「よーし、役者も揃ったことだし、頑張ろうねみんな!」

 

しほ「ああ、これから嵐のような毎日になるぞ。燃えて、燃え尽きて、息が切れるまで走ろうじゃないか」



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帰らざる日々

 

 ティーガーⅠ<ギャラギャラギャラ!

 

しほ「左に旋回!車体を斜めにして砲撃を受け流し、次弾装填の隙を狙って反撃だ!」

 

千代「右に旋回よ!後方の敵に注意しつつ前方の敵陣の間を突き抜けて一気にフラッグまで辿り着くの!」

 

蝶野「どっちなんスかぁ!」ギャラギャラギャラ

 

しほ「ちよきちぃ!貴様何をやっている!」

 

千代「何って指示を出してるのよ!」

 

しほ「車長は私だ!」

 

千代「いいえ私よ!」

 

しほ「やいの!」

 

千代「やいの!」

 

 しほ&千代『ヤイノヤイノヤイノヤイノヤイノ!』

 

好子「二人とも!やいのやいのと言い合っている場合じゃないよ!」

 

 ファイアフライ<ド ッ ! \ドグワァァン!/

 

 ティーガーⅠ<シュポッ

 

審判「ティーガーⅠ、走行不能!よって、サンダース大学付属高校の勝利!」

 

蝶野「だー!また負けたー!」クヤシー

 

しほ「ちよすけぇ!貴様邪魔をするため来たのか!そもそもティーガーの乗員は5人だ!おりろスッタコ!」

 

千代「あなたこそ何よ!無茶な指示ばかりだして!トーヘンボク!」

 

しほ「やいの!」

 

千代「やいの!」

 

好子「いい加減にしなさいっ!二人とも仲良くできないなら戦車から降りて!」

 

しほ「でもちよちよ丸が・・・」

 

好子「仲間同士でケンカしてなにが戦車道よ!二人とも反省しなさい!」

 

しほ「う・・・す、すまん・・・」ショボン

 

好子「しまちょんも!いいわね!?」

 

千代「しま・・・私は島田千代・・・」

 

好子「いいわね!?」クワ

 

千代「・・・・・・はい」チョボン

 

蝶野「秋山センパイこっえー!」ケタケタケター

 

 

サンダース生徒「・・・なんだかもめてるみたいですね」

 

サンダースリーダー「HAHAHA!たった一輌でここまでやるなんて大したモンだと思ったけど、仲間内でケンカまでしてるなんて!あの子達大物になるかもね!HAHAHA!」

 

 

 ――戦車喫茶〈ルクレール〉――

 

好子「な”ん”た”って”ぇ!?お金持ってないの!?」

 

千代「語弊がある言い方をしないでちょうだい。島田流はお金持ちよ。ただ私は一ヶ月に五万しかお小遣いをもらえないの」

 

しほ「ご、ごまん・・・だと・・・」ワナワナ

 

好子「そんなー!札束で履帯作れるくらいたんまり持ってると思ってたのに!戦車の消耗品を揃えるのに五万くらいじゃ結局カツカツ生活だよー!」

 

菊代「そう嘆かないでください。それでも続けられるだけありがたいじゃないですか」

 

好子「そりゃそうだけどね・・・もっとガッポリ持ってると思ってたから・・・」

 

千代「あなたが私のことを単なる財布としか見ていなかったことがよーくわかりましたわ」

 

しほ「ごまんえん・・・貴様ちよきちぃ!そんな大金を高校生風情が持ち歩いて!誘拐されても知らんからな!ちくしょうめ!」

 

千代「なにを怒っているのしぽぽん」

 

しほ「うるさい!この歩く身代金め!島田流なんかだいっきらいだ!バーカ!」

 

好子「しまちょん!お小遣い前借りしてきて!」

 

百合「おスネかじり虫!憧れます!」

 

菊代「コーヒー来ましたよ。お砂糖入れます?」

 

蝶野「分身の術見せてくださいよ!分身!」

 

千代「なんなのよ!なんなのよあなたたち!」

 

 

 \ドグア!/

 

 ティーガーⅠ<シュポッ

 

審判「ティーガーⅠ、走行不能!よって、アンツィオ高校の勝利!」

 

アンツィオ統帥「ぅわーっはっはっは!やはり我々はつおいっ!ティーガー戦車に勝利したぞー!今夜は皆でパーティーだ!」ソーレソレソレドドンガドン♪

 

アンツィオ生徒P「ウチのP-40重戦車の玉砕アタックのおかげッスよね。完全にブっ壊れちゃいましたけど」

 

アンツィオ生徒K「もう古いものだったし、買い替えないといけませんね。これからは貯金しましょう。おやつの回数も減らさないと・・・」

 

アンツィオ統帥「な、なんだとぉ~!?アンツィオ名物のおやつを減給だと~!?おのれ~あの野良虎め~!覚えてろ~!」プンプン

 

 

百合「なんだかアンツィオのおドゥーチェさん、勝ったのに悔しそうにされてますね」

 

菊代「勝つために多大な犠牲を払ったからですかね」

 

千代「なによしぽりん!ぜんっぜん勝てないじゃない!」

 

しほ「五月蠅い!無駄に負けている訳じゃない!我々にとっていい経験になっているはずだ!」

 

千代「そんなこと言っても――」

 

好子「二人とも」

 

しほ「っ・・・ちよすけ、今は言い争うのはやめよう・・・」

 

千代「・・・そうね・・・この子怒らすと怖いし・・・」

 

 

 ――戦車喫茶〈ルクレール〉――

 

百合「ご覧になってください。戦車シミュレーションの砲撃スコアで満点を獲得しましたよ」フンス

 

 しほ&千代『おお~~~』

 

好子「私だって装填所要時間が前回のスコアの半分以下になったよ!」ブイ

 

 しほ&千代『おお~~~』

 

蝶野「自分、大洗の伝説の飛ばし屋こと、音速銀婆(クイックシルバー)の異名を持つ冷泉さんに弟子入りして、操縦テクを学んできました!」

 

 しほ&千代『おお~~~』

 

菊代「私、西住家の整備倉庫で子供の頃のしほさんの写真を見せてもらいました」

 

 しほ「おお――・・・なんだと!?」

 

 千代「わー、見せて見せて」

 

菊代「これです」ピラ

 

好子「わあ・・・10歳くらいかな?」

 

蝶野「アハハハハ!センパイが幼女ー!」ケタケタケター

 

しほ「笑うな!お前だって子供だったことくらいあるだろ!」

 

百合「あら、こちらの方をご覧ください。背丈は子供なのにおヒゲをはやしておられますわ」

 

菊代「あ・・・たぶんこれ髭じゃなくて黒ずみですよ。写真の場所が整備倉庫だし、きっと汚れたんですよ」

 

好子「しほちゃんと同じくらいの年齢かな?友達?」

 

しほ「ん?・・・ああ・・・懐かしいな。そいつは西住家に専属で就いていてくれた整備士の息子で、たしか・・・常夫という名だったな」

 

千代「しほさんったら随分マセてたから、こんな小さな時からボーイフレンドがいたのよ」

 

百合「なんと!しほさんは意外とお遊び人だったのですね」

 

しほ「そんなんじゃない。よく父親の仕事について来ていてな、同年代ということもあって一緒に遊んだりもしたが、今ではどこにいるのかもわからない」

 

好子「どうして?」

 

しほ「西住家とその父親の整備士との契約期間が切れてな。別の所で整備士を続けているとは聞いている。息子の常夫も整備士になったとか・・・」

 

しほ「あいつは、大きくなったら整備士になって、自分が整備した戦車が日本一になるのが夢だとよく言っていたよ。今でも同じ夢を追っているのかもな」

 

菊代「もうお会いにならないんですか?」

 

しほ「まさか。会う必要もないし、理由もない。達者でやっているならそれでいいさ」

 

千代「ふーん、しほさんは昔の男のことなんかどうでもいいのね」

 

しほ「そんなんじゃないと言ってるだろう!貴様こそ子供の頃は私の後ばかりチョロチョロ追いまわしていたクセに!」

 

千代「なななななな!そんな昔のことを引き合いにださないでよ!」

 

しほ「今では男の尻を追いかけているのか知らんがな!」

 

千代「そそそそそそんなことないわよ!私は純愛タイプだし・・・というかそんなことはどうでもいいでしょ!」

 

 

ウェイトレス「お待たせしましたー。コーヒー6丁お待ち-」コトッ

 

菊代「あ、コーヒー来ましたよ」

 

好子「はーい。いつもすみませんね武部さん」

 

ウェイトレス「えっ?どうして名前を・・・もしかして私、美人ウェイトレスって有名なの!?」ヤダモー

 

好子「なふだ」チョイチョイ

 

百合「武部さん、わたくしモーモーさんのおちちも欲しいです」

 

蝶野「スティック10本ください!」

 

 しほ&千代『ヤイノヤイノヤイノヤイノヤイノ!』

 

 

 \ドワオ!/

 

 ティーガーⅠ<シュポッ

 

審判「ティーガーⅠ、走行不能!よって、継続高校の勝利!」

 

百合「あらら・・・もう少しでしたのに・・・」

 

菊代「でもいい試合でしたね!きっと次は勝てますよ!うん!いけるいける!」

 

しほ「・・・」 ムウ・・・

 

千代「確かに前より操縦も砲撃も装填も精度が上がっているし、試合中のエンジントラブルにも即座に対応できてた。ポテンシャルはいいんだけど、一輌だけなのがどうもね・・・」

 

 

継続高校隊長「いい試合だったね。たった一輌だと油断しなくて良かった。ウチにもいい経験になったと思うよ。また試合をしてくれるかい?」スッ

 

しほ「はい。もちろんです。こちらもいい経験になりました」グッ

 

継続高校隊長「では、これで」ソッ・・・

 

好子「ちょっと待ってください。それウチの戦車の履帯です」

 

継続高校隊長「・・・気付くとはさすが、目の付けどころがいいね」

 

好子「・・・でも、ネコババしたくなる気持ちもわかります。少しでも部品が必要なのにお金は簡単に手に入らなくて・・・お互い大変ですよね・・・」ポロポロ

 

継続高校隊長「・・・そうだね・・・大変だよ・・・本当に・・・」ポロポロ

 

蝶野「二人とも、なんで財布持ったまま泣いてんですか?」

 

 

 ――試合の帰り道・・・

 

 雨<ザー・・・ザー・・・ザー・・・

 

好子「わー!走って走ってー!」タタタ

 

千代「まったく!この豪雨の中で戦車がガス欠なんて・・・どうして私までこんな目に!」タタタ

 

蝶野「仕方ないッスよー。修理代がかさんだんでガソリン代もケチってたんですからー」タタタ

 

千代「そもそも交通費ケチって戦車で移動してるからガス欠になるのよ!もー!」タタタ

 

菊代「あ、あれです!あれが予約してる下宿です!」タタタ

 

 

しほ「ふう・・・ずぶぬれになってしまったな」ボトボト

 

千代「こんな小さな下宿に押し掛けることになるとは・・・少しでもいいホテルとか無かったの?」

 

好子「仕方ないよ。資金面の問題でね・・・今日の会場と明日の会場が近いから、ここで泊まるのが最善だったし」

 

千代「はあ・・・明日はボンプル高校と竪琴高校と連戦、その前に朝の内に給油に行かなくちゃならないし・・・こんなに大変だとは思ってなかったわ」

 

蝶野「いいじゃないですかぁ楽しいし!明後日はBC高校自由学園連合と試合、その次は青師団高校、ヨーグルト学園、ワッフル学院と三連戦スよ!」ワクワク

 

菊代「ハードスケジュールですけど、がんばりましょう!」フンス

 

 

 ~~~

 

千代「はぁ~・・・サッパリしたわ」チヨホクチヨホク

 

菊代「千代さん、明日の着替えも用意しておきました。皆さんの布団も敷いてありますよ」

 

千代「まあ、ありがとう菊代さん。気が利くのね」

 

しほ「そうだろうそうだろう」フフン

 

千代「なんであなたが得意げなのよ。菊代さんのお守りがないと何もできないからかしら」

 

 しほ「なんだと!」 千代「なによ!」

 

好子「また始まったよ・・・いい加減に仲良くできないのかな」

 

百合「ケンカするほど仲がよろしいという奴ですね」

 

蝶野「センパイ方!やり合うならコレっしょ!枕アターック!」ボフン

 

しほ「むぶっ!・・・蝶野・・・貴様いい度胸だな・・・」

 

千代「島田流枕投げ術をお見せしてあげるわ・・・!」

 

蝶野「はっ!あわわ・・・センパイが怒髪天に!好子ちゃんセンパイ!百合ちゃんセンパイ!菊ちゃんセンパイ!お助けくださいー!」

 

好子「任せて!しほちゃん、しまちょん、中学生をいじめたりしたらダメだよ!」

 

 しほ「うるさい!一斉撃ち方!」ボフー

 

 千代「破ー!」ボフー

 

好子「ぐえへー!」

 

蝶野「アキヤマセンパイよっえー!」ケタケタケター

 

百合「わたくしもお混ざります!昔からまくら投げってやってみたかったんですー」

 

菊代「ああ、皆さん・・・そんなに騒いだら外まで聞こえますよ」

 

 <ドリャー! ボフ!

 

菊代「ぼへ!・・・・・・やりましたねー!」

 

 \クラエー!/ \ナンノー!/ \ギエピー!/ \ダッシャー!/ \コノヤロー!/

 

 \ワハハハハハ・・・/

 

 

 ・ ・ ・ ・ ・

 

好子「――結局、その日は朝まではしゃいで眠ったわ。次の日も試合で、急いで帰ってアルバイトに向かった。終わってからまた次の試合の準備をして・・・もう毎日ヘトヘトよ」

 

華「なんだか、とても楽しそうですね」

 

麻子「・・・・・・待ってくれ・・・大洗の飛ばし屋の・・・冷泉って・・・」

 

好子「詳しく知らないけど、亜美ちゃんが言うにはけっこうなお歳の方だったそうよ」

 

麻子「・・・詮索しない方がいいかもしれない」

 

沙織「で、でも戦車喫茶のルクレールがそんなに昔からあったなんてビックリだね」

 

好子「今ほど大きくて立派じゃなかったけどね。皆の溜まり場で、丸一日入り浸って作戦会議やお喋りをしてたわ」

 

沙織「高校生らしいのかそうじゃないのか難しいところだなぁ」

 

みほ「本当に色んな高校と試合をしたんですね」

 

好子「ええ、日本中をあっちに行ったりこっちに行ったりしてね。帰り道で燃料が切れて、道端に戦車を停めて、その車内で眠ったこともあったわ」

 

沙織「やっぱり高校生らしくないや」

 

好子「とにかく連続花火みたいな毎日だったわ。試合して、練習して、アルバイトして、また試合して・・・無茶なことばかりしてたって今でも思う」

 

みほ「・・・とても大変だったんでしょうね」

 

好子「大変だったわ・・・でも生きてる手応えがあった。身体中でその瞬間を・・・時を感じている気がした」

 

好子「お金は無かったし、この先どうなるかなんてわからなかったけど・・・立ち止まってる暇もないくらい無我夢中で、全力疾走みたいな毎日で・・・楽しかった」

 

優花里「・・・」

 

華「青春っぽくていいですね」

 

沙織「男の子とのロマンスがあれば言うことナシなんだけどなー」

 

麻子「ところで、ずっと気になっていたんだが・・・黒森峰の戦車を盗んで問題にならないものなのだろうか?」

 

みほ「そういえば盗んだ戦車だったね」

 

好子「ええ、まさにその頃よ。私達の前にとうとう黒森峰の人が現れたの・・・」



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セピア色の写真

 

 ・ ・ ・ ・ ・

 

 \グワア!/

 

 ティーガーⅠ<シュポッ

 

審判「ティーガーⅠ、走行不能!プラウダ高校の勝利!」

 

 

プラウダ指導者「ふう・・・我がプラウダがここまで追い詰められるなんて・・・ウチのドクトリンを見直す必要があるわね」

 

しほ「ありがとうございました。いい試合ができました」

 

プラウダ指導者「こちらこそ。正直侮っていたけど、いい経験になったわ。また試合してあげてもいいわよ。そっちがやる気ならね」

 

しほ「是非」

 

菊代「プラウダの隊長さんに認められるようになるなんてすごいですよ私達。厳しい方で有名なんですよ。下手した者はしゅくせーされるって」

 

百合「まあ、お厳格でおスパルタでおイラチな鬼隊長さんにお褒めいただいたということですね」

 

 プラウダ指導者「聞こえてるわよ!」

 

好子「あーあ、もう少しで勝てたんだけどなぁ・・・でもまた試合させてもらえたら今度こそは勝てるかもね」

 

 

黒森峰生徒A「ちょっと、それってウチの戦車でこれからも続けるってことかしら?」ザッ

 

好子「!・・・ゲッ・・・く、黒森峰の・・・どうしてここに・・・」

 

黒森峰生徒B「それ、ウチの戦車よね?どういうことか説明してもらえるかしら?西住しほ」

 

しほ「先輩方、お久しぶりです。プラウダと我々の試合を見学に来ていたのですか?」

 

黒森峰生徒A「練習に顔出さないから辞めたのかと思ったけど、まさか戦車を盗んで勝手なことをやっていたなんて!あなた達の話を聞いて駆け付けたのよ」

 

黒森峰生徒B「見回り番の赤星って子が、戦車が自我を得て脱走しただなんて言ってたけど、あなた達が盗んでたのね。おかしいとは思ったけど・・・」

 

百合「どうやらバレてしまったようですね」

 

好子「バレなかったのが不思議だけど・・・」

 

菊代「えっ、盗んだって・・・」

 

蝶野「この戦車、黒森峰からパクったんですか?さっすがセンパイ!」ヤッルゥー!

 

千代「しぽりん・・・あなた・・・」ヒキチヨッ

 

しほ「盗んだんじゃない。使われていないものを借りただけだ。私も黒森峰の生徒なのだから権利はある」

 

黒森峰生徒A「そんな言い訳――」

 

 

 「待って、私が話すわ」

 

黒森峰生徒B「!・・・隊長」

 

しほ「・・・お久しぶりです、逸見隊長」

 

逸見「説明してもらえる?あなたは何が目的で、何をしているのか」

 

蝶野「あわわ・・・黒森峰の逸見隊長だ!西住流の門下生でめちゃ強い3年生!黒森峰を今までよりずっと強くした人!」

 

百合「そんなにおつおいのですか?」

 

蝶野「西住流の中でもエリートなんですよ!黒森峰を初の全国優勝に導くんじゃないかって言われてるんス!」

 

しほ「以前隊長に進言した通り、現在の黒森峰の理念に異議があります。聞き入れてもらえないようなので、自分達だけで自分達のやり方を貫こうと」

 

逸見「やりたいようにやっている・・・という訳ね。戦車の件はいいわ。確かに使われてなかったし、自分達で修理したみたいだものね」

 

逸見「でもあなた達の暴走はさすがに私達も放ってはおけないわ。黒森峰の生徒が無法者のように振る舞っているんだもの」

 

逸見「戦車道連盟や西住流からも再三警告を受けているでしょ。大事になる前に止めておきなさい」

 

しほ「いいえ、止めません。野良試合を続けてきたおかげで私達は強くなりました。そこで・・・」ゴソ

 

 

しほ「逸見隊長、私達は黒森峰女学園に試合を申し込みます。これは我々からの果たし状です」スッ

 

 

好子「な、なんだってぇー!?」

 

黒森峰生徒A「は、果たし状!?いつの時代よソレ!」

 

黒森峰生徒B「っていうかこの状況でウチと試合とかどういう神経してるのよ!」

 

しほ「隊長・・・受けてもらえますか」

 

逸見「・・・いいわ、西住しほ、あなたの申し出を受けるわ」

 

黒森峰生徒A「た、隊長!」

 

しほ「ありがとうございます。試合は一週間後・・・詳しい日時、試合条件は果たし状に書いてあります」

 

逸見「ふ・・・楽しみね。黒森峰戦車道チーム、帰還するわよ」ザッ

 

黒森峰生徒A「!・・・はっ!」ザッ

 

黒森峰生徒B「貴方たち、ケガしないようにね!」ザッ

 

 

しほ「・・・」

 

千代「ほんと無茶な人ね・・・まったく」

 

百合「しほさんは黒森峰を打ち倒すために御旗を立てたのですから、私達はこれから最終目標に挑むというわけですね」

 

好子「で、でも勝てるの?・・・私達、まだ一度も勝ったことがないのに・・・」

 

しほ「勝てる」

 

好子「どうして言い切れるのかなぁ・・・」

 

蝶野「さっすがセンパイ!肝が据わってんスね!」

 

菊代「しほさんが言うのなら負ける気がしません」フンス

 

しほ「そのためには作戦を練り、準備を整え、皆が一丸となる必要がある。期限は一週間。私達がどれくらいのものか、やってやろうじゃないか」

 

 

 

 ――西住邸・戦車倉庫(片隅)――

 

しほ「――なるほど、これなら敵も混乱するだろう。やるなちよすけ」

 

千代「島田流は変幻自在の戦術が得意。一輌でたくさん相手にするのなら、西住流より島田流の方が合うでしょ」チヨチヨ

 

しほ「・・・島田のやり口で戦うのは気がすすまんが・・・ここは仕方ない。西住の崩し方は心得ている」

 

百合「相手が西住流の戦法でお戦いになるのでしたら、しほさんならそのお突破口もご存じなのですね」

 

しほ「ああ、西住流は一糸乱れぬ隊列陣形で戦う。多対多ならば非常に強いが・・・我々ならその隙間を突ける」

 

好子「敵の隊列に割り込んで、チョロチョロ動いてかき乱す作戦なんだね」

 

蝶野「よくわかんねーですけどなんとかなるんならなんとかなるっしょ!」

 

しほ「明日、私とちよきちと蝶野で会場を下見に行く。秋山と五十鈴は必要な物をリストアップするから用意しておいてくれ。菊代はどこだ?戦車も作戦に合わせて調整してもらわねば・・・」

 

千代「菊代さんなら、門までお迎えに行ってもらったわ」

 

しほ「?・・・誰を迎えるんだ?」

 

 

 ――ザッ

 

菊代「千代さん、お連れしました」

 

しほ「菊代、誰を――・・・・・・!?」

 

 

常夫「・・・」

 

しほ「・・・・・・つ・・・常夫・・・さん?・・・」

 

 

千代「あら、さん付け?お話を聞いた時は呼び捨てだったのに」

 

しほ「だ、だって・・・どうして・・・なんで・・・」アワアワ

 

菊代「千代さんの提案で整備士の方のツテを辿ってお探ししたんですよ。ご迷惑でしたか?」

 

しほ「い・・・いや・・・そういう訳じゃ・・・」アセアセ

 

千代「積もる話もあるでしょう。何年ぶりかの再会だものね。ほら」グイイ

 

常夫「・・・」

 

しほ「ちょっ・・・あ、あの」アタフタ

 

百合「あらあら、なんだかしほさんがしおらしいでございますわね」

 

好子「しほちゃんったら女の子になってるぅー」キャイキャイ

 

蝶野「センパイねこかぶりー!」ケタケタケター

 

しほ「う、うるさい!あっち行け貴様ら!見世物じゃないぞ!散れ!散れ!」シッシッ

 

千代「ふふふ、それじゃあ皆、しほさんは二人っきりになりたいみたいだし、あっちに行きましょう」

 

菊代「はい。しほさん、がんばってくださいね」ニッコリ

 

しほ「なにをがんばるのだ何を!さっさと行け!もうっ!」

 

 

 ~~~

 

 しほ「・・・久しぶり・・・ですね。常夫・・・さん」

 

 しほ「いや、だってとても大きくなってるから・・・」

 

 しほ「すみません・・・この喋り方にちょっと慣れてなくて・・・」

 

 しほ「・・・そ、そんなことないです!・・・昔と同じ様には・・・」

 

 しほ「・・・ふふ、そうですね」

 

 

好子「わー・・・しほちゃんめちゃめちゃモジモジしてるよ」ジー

 

蝶野「くっそー、ここからじゃよく聞こえねー・・・何話してるんだろ」ジリジリ

 

千代「うふふ、実はさっきしぽりんの懐に盗聴器潜り込ませておいたの。みんなで聞いてせせら笑いましょう」サッ

 

百合「まあ、なんと手癖のお悪い。名案でございますね」キュピーン

 

菊代「ちょ、ちょっと千代さん!そんなのいけませんよ!」

 

 好子「やったー!しまちょんやるぅー!」

 

 蝶野「グッジョブベリーナイス!是非盗聴しましょうや!」

 

千代「ほら、静かにして。みんなでコッソリ聞きましょ。菊代さんは聞かないみたいだけどね」チラ

 

菊代「うっ・・・」

 

 好子「おお~、しほちゃんが丁寧語使ってる~」クフフ

 

 百合「普段と違う雌の声帯ですよこれは」

 

 蝶野「あっははは!センパイ女丸出しー!」ヤッベェー!

 

千代「ほんとーに聞きたくないのかな~?」ン~?

 

菊代「・・・・・・き・・・聞かせてもらいます」

 

 

 

好子「――ちゃん・・・しほちゃん」

 

しほ「・・・」ポヘ~

 

好子「しほちゃん!」

 

しほ「わ!な、なんだ!?敵襲か!?」ビクッ

 

好子「もうっ、ボーっとしちゃって。百合ちゃんと二人で作戦に必要なもの買ってきたよ」ガサッ

 

百合「常夫さんと菊代さんは戦車のお整備とお改造をされています。会場の下見はどうでした?」

 

しほ「あ・・・ああ、すまん。地形は把握した。それに見合った作戦を立てておく。後は――」

 

 千代「常夫さん、わたし・・・子供の頃から常夫さんのこと・・・」

 

 蝶野「わかっているよしほさん。僕もおんなじ気持さ・・・結婚しようぜ!」

 

 千代「うれしいっ!常夫さん!いっしょういっしょにいてくれや!」

 

しほ「そこ!いつまでくだらんことやってるんだ!下見の時からずっと続けて!阿呆!馬鹿!やめろ!」

 

千代「あら、別にいいじゃない。私達はただオママゴトしてるだけよ。ねーっ♪」

 

 蝶野「ねーっ♪」

 

しほ「五月蠅い!わ、私達は・・・そんなんじゃない!結婚とかふざけるな!」

 

 蝶野「しほさん・・・僕と・・・けっ、けっ、けっ・・・」

 

 千代「常夫さん・・・私も常夫さんと・・・ケッ・・・ケッ・・・コケーッコッコ!コケー!」

 

 蝶野「誓いのキィーッス!しほと常夫のラブゲェーム!」

 

しほ「わー!馬鹿!阿呆!殴るぞ!止めろ!やめてください!」

 

 

 ――戦車喫茶〈ルクレール〉――

 

しほ「いよいよ明日、黒森峰との試合だ。準備は万端。作戦通りに行けば勝てない相手ではない」

 

好子「菊ちゃんと常夫さんが整備してくれたんだもん、絶対に負けられないね、しほちゃん」

 

しほ「つ、常夫さんは関係ないだろう!阿呆!馬鹿!スカタン!」カア~ッ

 

好子「ええー・・・めっちゃ怒るじゃん・・・」

 

菊代「あのー、前から疑問に思っていたんですが、私達のチーム名って何ですか?」

 

好子「えっ?・・・・・・そういえば決めてなかったかも」

 

千代「試合に勝っても名前呼ばれないんじゃ締まりがないわね」

 

蝶野「じゃあさ!じゃあさ!マイティしほセンパイチームってのはどうですかね!?しほセンパイフォースってのもいいっしょ!」

 

菊代「しほさん同盟なんてどうでしょう」

 

好子「う~ん、どれもダサいな~」

 

しほ「えっ」

 

好子「何かいいアイデアは・・・」

 

 窓<サアァ~・・・

 

好子「!・・・ねえ、あれはどうかな?あの窓辺から見えるマロニエの並木!」

 

百合「マロニエの木はセイヨウトチノキとも呼ばれ、アンネ・フランクの木とも言われるそうです。アムステルダムの中央に生えていて、『アンネの日記』で言及されていたとか」

 

千代「へえ・・・ドイツを模した黒森峰に屈さず、希望を失わないという意味では私達には合っているかもね」

 

しほ「・・・よし、それでいこう。私達はマロニエチームだ。ティーガーとはイメージがかけ離れているがな」

 

菊代「さすが百合さん、植物に詳しいんですね」

 

百合「ハッ!い、いいえ!華道なんかでぇっきらいでございますわ!やっぱり豚さんチームに変更しましょう!」

 

好子「なんで豚なの?」

 

百合「しほさんが体重がお増えになったってお悩みになってらしましたわ」

 

しほ「ぬぉい!?そんなことをバラすな!」

 

千代「プークスクス!しぽりんったら常夫さんとラァヴラヴで幸せ太りしちゃったのかしら~?」チ~ヨチヨ

 

百合「千代さんもお体脂肪が増えたとお悩んでおられました」

 

千代「チヨォっとォ!いらんこといわないでちょうだいよ!」

 

百合「亜美さんはチームのお財布からいくらかおクスねてましたし・・・」

 

蝶野「ブーッ,゚.:。+゚!ユ、ユリセンパイ!?」

 

好子「ほーう?こっそりお金抜いてたのは亜美ちゃんだったのね」ポキポキッ・・・

 

蝶野「アワワのアワビ!こ、これにはふかーいワケが・・・」

 

百合「菊ちゃんさんはしほさんと常夫さんのお密会を見つめながらおヨダレをおタラしてましたわ」

 

菊代「あっ!そ、それはナイショにって・・・」

 

しほ「菊代ァ!覗くなと言っただろうに!」

 

菊代「アヒィー!すみませーん!推しの幸せがうれしくってついー!」

 

しほ「許るさーん!」

 

 \ドンガラガッシャ~~~ン!/



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狂気ー飛翔ー

 

 ――対黒森峰戦・試合会場――

 

蝶野「ふわあああぁぁぁ~~~・・・ねんみぃー・・・」

 

千代「なんだってこんな朝っぱらから試合なの?っていうかまだ夜じゃない。睡眠不足は美容によくないのよ」

 

百合「太陽さんもまだお眠りになっていますね。夜明け前の暗いまま」

 

好子「ねえしほちゃん、相手の隊列に割り込んでかく乱する作戦ってのはわかったけど、どうやって割り込むの?」

 

しほ「作戦はタイミングが全てだ。その時になるまで私を信じて待て」

 

好子「一体どうするつもりなんだろ・・・」

 

しほ「来たぞ。黒森峰だ」

 

 

 黒森峰戦車道チーム<ギャラギャラギャラギャラギャラ・・・

 

 

好子「!?」

 

菊代「わあ・・・ものすごい戦車の大群・・・」

 

蝶野「ひーふーみー・・・・・・全部で30輌くらいですかね」

 

好子「どどどどういうこと!?なんであんなにたくさん・・・」

 

しほ「この試合は我々1輌に対し、黒森峰30輌だ。試合条件として、果たし状に書いておいたからな」

 

好子「な、な、なにぃ~!?1対30!?なんだってそんな・・・」

 

しほ「黒森峰の全力と勝負しなければ意味がない。それに、こちらのかく乱作戦は相手車両が多いほど有効だ」

 

好子「そ、そうかもしれないけどさぁ・・・今までどのチームと1対5以上で試合してて、それでも勝ったことがないんだよ?30輌と戦っても勝てっこないよ」

 

しほ「どうかな」フッ・・・

 

好子「なに笑ってるのさぁ!もー!しほちゃんってほんとむちゃくちゃなんだからー!」

 

 ~~~

 

しほ「おはようございます」

 

逸見「おはよう。こんなに早い時間に試合なんて、こちらの集中を乱す作戦かしら」

 

しほ「どうでしょう」

 

 菊代「向こうの戦車、ティーガーばっかりですね」

 

 蝶野「フラッグがティーガーⅡで、他は全部ウチとおんなじティーガーⅠ・・・黒森峰ってあんなにティーガー持ってたんですねぇ」

 

 好子「たぶん当てつけでティーガーⅠ揃えたんだろうなぁ・・・」

 

逸見「本当にいいのかしら?30対1なんて無茶な内容で」

 

しほ「もちろんです。そちらも手を抜かないでください。私達が負ければ即チームを解散し、戦車をお返しします」

 

逸見「・・・いいわ。全力で叩きのめしてあげる。西住流の名に懸けて・・・」

 

しほ「・・・」

 

審判「合意と見てよろしいですね?それではこれより、黒森峰女学園対マロニエチームの試合を始めます!お互いに礼!」

 

 

 ティーガーⅠ<ギャラギャラギャラ・・・

 

千代「しほさん、一体どういう作戦なのかいい加減に教えてくださるかしら?」

 

しほ「蝶野、あの丘の上に移動してくれ。大きな岩があるだろう。あれに爆薬を仕掛ける」

 

蝶野「はーい♪」ギャラギャラギャラ・・・

 

千代「岩に隠れて、敵が近づいてきたところで遮蔽物の岩を爆破し、奇襲を仕掛けるつもりね。ずいぶん古典的なやり方だけど黒森峰に通じるかしら?」

 

しほ「いや、違う」チラ

 

千代「は・・・?」

 

 

 <ガチンッ>

 

菊代「セットしました。起爆ボタンを押して10秒後には爆発するようになってます」

 

好子「っていうか爆弾って戦車道で使っていいの・・・?」

 

しほ「構わん。戦車に対して使う訳でもないし、どうせ非公式の野良試合だ。蝶野、今度は丘を下りて、東を背に戦車を進めてくれ」

 

蝶野「はいは~い」グンッ

 

千代「ちょっと、せっかく爆薬を仕掛けたのにどうして離れるの?敵を誘き寄せるならそんな危険な真似しなくても・・・」

 

しほ「私を信じろ」

 

千代「無茶いわないでよ」

 

 

 ティーガーⅠ<ギャラギャラギャラ・・・

 

蝶野「あの・・・いいんスか?このまま進むと敵と真っ向勝負ですよセンパイ」ギャラギャラギャラ・・・

 

しほ「もとよりそのつもりだ」チラ

 

千代「な!?・・・どういうつもりなのよ。さっきから時計を何度も見てるけど、本当に策があるの?」

 

 

 ティーガーⅡ<ギャラギャラギャラ・・・ ティーガーⅠ(黒森峰)<ギャラギャラギャラ・・・

 

好子「12時の方角に敵集団。30輌全車で来るよ。密集隊列で綺麗に進んできてる」

 

しほ「・・・」チラ

 

千代「向こうはひし形に並んだ密集陣形で来るわ。すぐに引き返して岩の裏に隠れないと――」

 

しほ「よし・・・戦車前進!敵を真正面に据えて全速で突き進め!」

 

蝶野「えっ!?」

 

千代「!?・・・取り消し!今の命令は取り消しよ!なにを考えてるのしぽりん!敵の攻撃に晒されるわ!」

 

しほ「取り消しは取り消し!迷わず進め!」

 

蝶野「え、え~っと・・・は、はい!」グン

 

 ティーガーⅠ<ドドドドド!

 

 

黒森峰生徒B「敵車輌、真正面から突っ込んできます!」

 

逸見「玉砕覚悟の突撃か・・・度胸試しなら乗ってあげる。全車前進!引き付けて全車の集中砲火で焼け野原にしてやるのよ!」

 

 ティーガーⅡ<ギャラギャラギャラ! ティーガーⅠ(黒森峰)<ギャラギャラギャラ!

 

 

好子「敵も真正面からこっちに向かってくるよ!」

 

しほ「菊代!岩を爆破しろ!」

 

菊代「え!?・・・!?」

 

しほ「起爆するんだ!」

 

菊代「は、はい!」カチッ

 

 

 <カチッ> 《ジジジ・・・》

 

千代「正気!?岩に隠れて待ち伏せするんじゃないの!?こんなに離れた所で後方の丘の岩を爆破しても何の意味もないじゃない!」

 

千代「このままじゃ私達また負けるわよ!」

 

 

しほ「・・・敗色は濃厚だ」

 

 《ジジジジジ・・・》

 

 

しほ「敵は30輌に対し、こっちはたった1輌」

 

 《ジジジジジ・・・》

 

 

しほ「誰だって勝てっこない」

 

 《ジジジジジ・・・》

 

 

 

しほ「だが私達は勝つ」

 

 

 

 》・・・ ゴ ワ ッ !《

 

 

逸見「全車砲げ――」

 

 

 岩<ガラガラガラ・・・

 

 

 > カ ッ !!! <

 

 

逸見「っ!?・・・目がッ――」

 

黒森峰生徒A「眩しっ――」

 

黒森峰生徒B「太陽がっ・・・!・・・し、しまった!て、敵は――」

 

 

 ティーガーⅠ< ガ ン ッ !

 

 

百合「痛いのをぶっくらわせてさしあげますわ!」

 

しほ「撃て!」

 

 ティーガーⅠ< ド ワ !

 

 >グ ワ ァ ア ン !<

 

 

 ティーガーⅠ(黒森峰)<・・・シュポッ

 

黒森峰B「し、しまったぁ!」

 

しほ「突っ込め!煙幕開始!」

 

菊代「煙幕開始!」シュボッ

 

 ティーガーⅠ<モクモクモクモクモク・・・

 

 

黒森峰生徒A「て、敵車輛、こちらの陣形に侵入!煙幕を撒き散らし始めました!」

 

逸見「隊列に割り込んできただと!?見失うな!」

 

黒森峰生徒C「で、でも煙で視界が・・・」

 

 ティーガーⅠ<ドッ!

 

 ティーガーⅠ(黒森峰)<ゴワア! <シュポッ>

 

黒森峰生徒C「す、すみません隊長!やられました!敵は煙の中から襲ってきます!」

 

逸見「密集陣形に潜り込んで煙で姿を隠すとは・・・まるで忍者・・・」

 

 

千代「まさか正面から密集陣形に割り込むとはね・・・!」

 

好子「もー!しほちゃん!日の出の光を遮ってた岩を爆破して目くらましする作戦だったなら最初から言ってよ!ヒヤヒヤしたじゃない!」

 

しほ「万が一でも無線傍受されていることを懸念したんだ。とにかく、これで敵の懐に潜り込めた。ちよすけ、作戦通り行くぞ」

 

千代「ええ、菊代さん、準備はいい?」

 

菊代「はい!」

 

 

 <モクモクモクモクモク・・・

 

黒森峰生徒A「皆落ち着け!姿は見えんが敵はすぐそばにいる!音を拾って位置を探るんだ!」

 

黒森峰生徒D「そうは言っても・・・いつどこから攻めてくるかわからないからものすごく怖くて・・・」

 

 <・・・・・・パンッ

 

黒森峰生徒D「!?」ビクッ

 

 <パパパパパパパ!パンパン!

 

黒森峰生徒D「て、敵だ!機銃かわからんが何かしてる!」

 

 

 ティーガーⅠ<ブワア!

 

黒森峰生徒D「!い、いた!撃て!撃て!」

 

 ティーガーⅠ(黒森峰)<ドワッ! \ドォン!/

 

 ティーガーⅠ(黒森峰)<シュポッ

 

黒森峰生徒E「こ、こら!私達は味方だ!」

 

黒森峰生徒D「!・・・し、しまった・・・慌てて味方と分らず――」

 

しほ「撃て!」

 

 ティーガーⅠ<ズワ!

 

 ティーガーⅠ(黒森峰)<ドォン! <シュポ>

 

黒森峰生徒D「ああっ・・・!や、やられた!」

 

 

逸見「落ち着きなさい!敵味方をきちんと識別して――」

 

    <パパパパパパ!

            <パン!パンパン!

 <パパパパパン!

 

黒森峰生徒F「わあ!すぐそばにいます!炸裂音がしています!」

 

黒森峰生徒G「隊長!指示を!指示をください!煙の奥でなにか動きが・・・!」

 

黒森峰生徒H「敵だ!撃って!撃ちなさい!やられる前に早く!」

 

  <ドオン!  <グワア! \ゴガァン!/

 

 \ズガアン!/   ドンッ!>  ボガアン!>

 

逸見「っ・・・味方同士で撃ち合わせられてる・・・爆竹か何かを振りまいているのか・・・!」

 

 

好子「しまちょんの作戦うまくいったみたい!」

 

菊代「かんしゃく玉と爆竹がこんなに効果的とは」

 

千代「煙で視界を塞がれ、どこから敵が来るかわからない状況だもの。爆竹の破裂音でもすごく怖く感じるものよ。煙の中で何かしてるんじゃないかってね」

 

菊代「何をされているのかわからないというのはとっても怖いですから。敵の編成がティーガーⅠばかりというのが同志討ちをより効果的にしているようです」

 

しほ「蝶野、左45度に車体を向けて前進。フラッグがいる」

 

好子「どうしてわかるの?」

 

しほ「こちらの方角から履帯を動かす音がしない。逸見隊長のことだ、この状況でヘタに動いたりしない」

 

菊代「なるほど、他の皆さんはとにかく慌ててますからね」

 

蝶野「こっちにボスがいるんですねー!やったらー!」ギャラギャラギャラ!

 

 

逸見「通信手、全車に通信を。恐らく花火か何かで恐怖を煽っているだけだ。落ち着いて相手を――」

 

 ティーガーⅠ<ブワア!

 

逸見「! 目の前に敵車輛!」

 

 ティーガーⅠ<ドォン!

           ティーガーⅡ<ゴガン!

 

逸見「っく!・・・撃て!」

 

 ティーガーⅡ<ドォン!

             ティーガーⅠ<ガァン!

 

 

百合「っ・・・すみません、抜けませんでした!」

 

しほ「蝶野!車体をぶつけろ!」

 

 ティーガーⅠ<ガンッ! 《ギャリギャリギャリ!》

 

逸見「くっついて・・・!」

 

しほ「菊代!ちよすけ!」

 

 千代「わかってるわよ!」

 

 菊代「は、はい!」

 

逸見「引き離すわよ!体勢を整えるの!」

 

 ティーガーⅡ<ギャラギャラギャラ!

 

 

蝶野「離されました!」ギャリギャリギャリ!

 

好子「向こうも馬鹿じゃない!今度は位置を悟られないように、全車に動くなと通信を入れるハズだよ!音で位置を探る他に方法は?」

 

しほ「音で位置を探る」

 

好子「!?」

 

 

逸見「くっ・・・密集陣形を逆手に取られるとは・・・だが煙の中で姿が見えないのはお互い様。向こうがこちらを探し出す前に陣形を立て直す」

 

逸見「通信手!皆に動くなと通信を!もう花火の音も止んでいる。混乱する必要もないと伝えて!」

 

通信手「は、はい!」

 

逸見「全車が動きを止めれば、煙の中で動いているのは相手だけ・・・音でどこにいるのか丸わかりよ。自分達の策でやられ――」

 

 

 ティーガーⅡ<パパン!パパパパパパパン!

 

逸見「!? な、何!?・・・破裂音が・・・!」

 

 

しほ「周りが静かになったおかげで、どこにいるか丸わかりだ・・・右に75度回せ」

 

 

逸見「!・・・さっき戦車をぶつけた時に火を点けた爆竹をこのティーガーⅡに――」

 

 

しほ「撃て」

 

 ティーガーⅠ< グ ワ ア !

 

 

 > ド ガ ァ ン ! <

 

 

 

 ティーガーⅡ<シュポッ・・・

 

 

審判「ティーガーⅡ、走行不能!・・・・・・よって、マロニエチームの勝利!」

 

 

千代「・・・・・・」

 

好子「・・・・・・勝った・・・の・・・?」

 

百合「・・・・・・ええっと・・・」

 

菊代「・・・勝ったみたいですよ・・・私達・・・」

 

蝶野「・・・・・・~~~っ!ぃやったぁ~~~!」

 

好子「か、勝っちゃったよ!私達黒森峰に勝っちゃったよ~!」

 

百合「とうとう私達・・・やったんですね!」

 

菊代「はじめて勝ったんですよ!初勝利です!今夜はちらし寿司でお祝いしましょう!」

 

蝶野「勝つのが夢だったけどー!もう夢じゃなくなったー!」

 

 \イエーイ!/ \ヤヤア!ピューピュー!/ \ワーイワイワイドドンガドン♪/

 

 

千代「・・・本当に勝っちゃうとはね・・・かなり綱渡りな作戦だったけど・・・ま、私と島田流のおかげかしら」

 

しほ「ああ、かもな」

 

千代「ちょっ・・・反論しなさいよ。やりづらいじゃない」

 

しほ「この勝利は皆のおかげだ。秋山の素早い装填、五十鈴の見事な砲撃、菊代の整備と下準備、蝶野の完璧な操縦、ちよきちの作戦・・・皆のおかげだ。ありがとう」

 

千代「っ・・・ま、まあ・・・あなたの無茶な作戦もなかなかよかったわよ。あなたが車長じゃなきゃ、こうはならなかったわ。さすがね」

 

しほ「ああ、だな。やはりちよすけよりも私の方がすごいらしい」

 

千代「んなっ!?あ、あなたねぇ!人が下に出たら調子に乗っちゃって!なんなのよ!なんなのよもうっ!」

 

 

逸見「・・・負けたわ。私の負け。見事に翻弄されてしまったわ」

 

しほ「もう一度試合をするとなれば、今回の作戦は通じないでしょう。この勝負一度きりの作戦でした。上手く行ったのはそちらの陣形が見事に統率されていたからこそです」

 

逸見「ふふ・・・相手を立てることもできるのね。でも、私の指揮がいたらなかったから負けたの」

 

しほ「いいえ、逸見隊長は西住流の体現者です。西住の門下生であなたほど優秀な方は他にはいません」

 

逸見「だけど勝負は勝負。あなたの方が私よりも黒森峰の隊長として相応しい・・・」

 

黒森峰生徒A「隊長・・・」

 

 

逸見「西住しほ・・・あなたに黒森峰の隊長の座を譲るわ」

 

 

しほ「えっ、それはいやです」

 

逸見「えっ」

 

 

しほ「私はなにも、黒森峰の隊長になりたくて戦っていたのではありません。私はいずれ西住の名を背負うことになる。それ以降、私は絶対に負けられない立場になる」

 

しほ「だが、敗北を知らない者には見えない世界もある。西住流を継ぐ前にせいぜい負けておかなければ、私が見れる世界は狭いまま・・・」

 

しほ「本気で戦い、負けて、私は強くなった。私は自分を磨くために戦ってきたのです。自分達だけの戦車道を・・・」

 

逸見「で、でも・・・私より強いんだし・・・」

 

しほ「強いだけが全てではありません。人の上に立つ人間というのは、人に支えられないと立っていられないものです。今の私では隊長になど相応しくない」

 

逸見「・・・・・・そう・・・ふふ・・・さすがね。私にとってもいい経験になったわ。戦車は使っていいから、これからもがんばって」

 

しほ「いいのですか?」

 

逸見「前も言ったけど使ってなかった戦車だもの。でも連盟や大人達には気をつけなさい。どんなイチャモンを付けてくるかわからないわよ」

 

しほ「・・・はい、ありがとうございます」

 

黒森峰生徒A「西住、色々きつく当たっちゃってごめんね。でも、次は負けないわよ」

 

黒森峰生徒B「今度は味方として試合をしたいわね」

 

しほ「こちらこそ、下級生の癖に色々とすみませんでした。いずれ黒森峰に戻ります。その時は是非、よろしくしてください」

 

黒森峰生徒A「その時は厳しく指導してあげるからね!」フフフ

 

黒森峰生徒B「がんばりなよ!」フフフ

 

 

好子「よかったねしほちゃん!黒森峰のみんなに認めてもらえて!」

 

しほ「ああ、お前達のおかげだ。よくやってくれた」

 

好子「フフフッ、しほちゃんがミカン箱の上で宣言したときは、ここまでこれるとは思いもしなかったけどね」

 

しほ「ふっ、からかうんじゃない」

 

 蝶野「センパーイ!祝勝会行きましょうよー!今日くらいパーっといきましょうパーっと!」

 

 百合「私が見習いをさせてもらっているピザ屋さんでお祝杯をあげましょう」

 

 菊代「わあ、いいですねぇ」

 

 千代「早く行くわよー、好子ちゃーん、しぽりーん」

 

好子「みんなが呼んでる。行こう、しほちゃん」

 

しほ「ああ、先に行っててくれ。すぐに行くよ」

 

好子「うん。まってよーみんなー」タタタ

 

しほ「・・・・・・」

 

 

しほ「・・・っ~~~!」ピョンピョン

 

しほ「やったっ・・・!」グッ



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夏の終わりに

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・・

・・・

・・

 

 好子《・・・黒森峰との試合に勝った後も、私達の戦車道は続いた》

 

 好子《大金星をあげた私達のことを聞きつけて、各校は前にも増して試合に意欲的になってくれて、逆に申し込まれるくらいだったわ》

 

 好子《聖グロとも、サンダースとも、プラウダとも、西呉王子グローナとも、ヴァイキング水産高校とも、知波単学園とも、継続とも・・・色んな高校と再戦した。勝った試合もあったし、また負けた試合もあった》

 

 好子《でも勝敗がどうであれ、試合の後にはいつの間にか相手校の生徒と仲良くなっていたわ・・・不思議とね》

 

 好子《戦車道を通じて、色んな人と出会えて、色んな所へ行って、色んな思いでを作れた・・・》

 

 好子《戦車道をやっていて、本当に良かった。そう思えたものよ》

 

 好子《でも・・・・・・》

 

・・

・・・

・・・・・

・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 ――戦車喫茶〈ルクレール〉――

 

好子「昨日菊ちゃんが淹れてくれた紅茶、とってもおいしかったね~」

 

菊代「聖グロリアーナの皆さんからいただいた茶葉なので、味も品格も保証付きですからね」

 

百合「サンダースの方々からお頂戴したケーキセットと一緒に食べてしまいましたが、お贅沢すぎて少しもったいなかったかもしれませんね」

 

蝶野「それよりそれより!プラウダからお中元が届いてますよ!じゃーん!」ドッカ

 

千代「喫茶店に宅配物持ち込まないでよね」

 

蝶野「んな細かいこと気にしてると老けますぜチヨチヨセンパイ!しほセンパイなんか玉の肌!」

 

千代「なっ!私はしぽりんと同い年よ!」

 

好子「そんなことはどうでもいいから中身は何か見てみようよ!」ワクワク

 

千代「・・・仕方ないわね。オープンザプライス!」ガパッ

 

菊代「わあ、蟹ですよ!カニ!」ドコカニ

 

百合「なんとまあ!イカの塩辛の瓶詰まで同梱されております。手紙もあるので読み上げますね」ガサ

 

百合「《ホカホカの蒸かしたジャガイモに溶けたバターを乗せ、その上にイカの塩辛を乗せて食べるとおいしいわよ!》とのことですわ」

 

好子「すごくハイカロリーっぽそう・・・プラウダ飯は女の敵ね・・・」

 

 

 <ガチャ カランカラン・・・

 

しほ「・・・」

 

菊代「あっ、しほさん」

 

蝶野「見てくださいセンパイ!プラウダからお中元ですよ!毒盛られてないか調べます!食べていいスか!?いいスよね!?ね!?」

 

百合「お待ちになってくださいまし。毒見の役割はこの私にお任せくださいませ。ほんの微量な毒でさえ全て喰らい尽くしてみせます」キリッ

 

菊代「調理は私にさせて下さい。しほさん、蟹はお鍋にしますか?刺身にしますか?」

 

千代「蟹くらいで騒ぐことないじゃない。プラウダもどうせなら10杯くらいくれればいいのにね」

 

好子「これだから貴婦人は・・・あれ?どうしたのしほちゃん。なんだかいつもと様子が・・・しほちゃん?」

 

しほ「・・・」

 

好子「・・・ど、どうしたの?・・・」

 

 

しほ「本日を持って、我々マロニエチームは解散とする」

 

 

好子「・・・」

 

百合「・・・」

 

蝶野「・・・?」

 

好子「・・・・・・えっ」

 

 

菊代「ど、どうしてですか?なぜ急に・・・」

 

しほ「西住流の上の方々と戦車道連盟から警告を受けた。即刻チームを解散しろと。これ以上続ければ、戦車道連盟は然るべき対応を取るとのことだ」

 

好子「それってどういう・・・」

 

しほ「西住の者でありながら連盟が定める規約に違反し、再三の注意を無視して無法行為を繰り返してきた私達に、とうとう堪忍袋の緒が切れたらしい」

 

しほ「黒森峰に勝利して以降、他校にも何度か勝利することができた私達の活躍は世間一般にも知れるところとなり、話題になった」

 

しほ「それは即ち、戦車道連盟が無法者の野良チームを野放しにし、管理できていなかったことを意味する」

 

千代「・・・!」

 

しほ「西住流にとっても、次期後継者である私がこんなことをしていると世間に知られ、流派のイメージが損なわれたとカンカンだ」

 

しほ「そんなうつけ者である私達が、西住流の逸見先輩率いる黒森峰を下したことで、西住の名は地に落ちた」

 

しほ「私達が名を上げたことで戦車道の認知度は上がっても、西住流と連盟の顔に泥を塗ったことになったのだ。我慢の限界を迎えた大人達は私にこう言った・・・」

 

 

しほ「チームを解散し、金輪際、私がチームの仲間と顔を合わせることを禁ずると・・・お前達と縁を切れとな」

 

千代「・・・!」

 

百合「そんな!」

 

しほ「西住流次期後継者の私が、無法者の素人共と付き合うなど言語道断だと。さすがに頭に来て怒鳴り返してやったがな・・・」

 

菊代「横暴です!解散だけならまだしも、そんなことにまで従う必要はありませんよ!」

 

しほ「拒否するならば法的措置も辞さないとのことだ。私達が戦車を盗んだ話・・・出るところに出れば、まずいことになる」

 

菊代「あっ・・・」

 

しほ「拒否するなら、お前達を警察に突きだすと言われた」

 

好子「で、でも・・・」

 

しほ「逸見先輩は・・・戦車を貸し出したのは自分、黒森峰が負けたのは自分の実力不足だと、私達をかばってくれていたがな・・・」

 

しほ「大人達の言う通りにしなければ、お前達は高校生にして前科持ちにされてしまう。選択肢などない」

 

菊代「私はイヤです。しほさんと絶交するくらいなら、牢屋でもどこへでも放り込まれてもかまいません」

 

しほ「私がお前達を巻き込んだんだ。これ以上迷惑をかける訳にはいかない」

 

菊代「でも・・・」

 

しほ「お前達が交流を続けるのは問題ない。私が引き下がればいいだけ・・・それでも当分は風当たりは冷たいだろうがな。お母様が配慮してくれなかったらどうなっていたか・・・」

 

好子「・・・しほちゃんはそれでいいの?・・・私達、もう会えなくなるんだよ」

 

しほ「私が始めたことだ。私が終わらせる。わかってくれ・・・」

 

好子「・・・」

 

千代「・・・本当にワガママな人」

 

 

百合「そんなのあんまりです!メンツだのなんだの・・・大人は横暴です!戦車道とはそのようなものでいいのですか!」

 

しほ「大人には大人の事情がある。とりわけ今の戦車道は微妙な時期だ。世間体を気にしなければ、廃れて行く一方・・・」

 

百合「っ・・・そんなの・・・」

 

百合「・・・・・・戦車なんて・・・戦車なんて・・・・・・私、戦車なんて大っきらいです!」

 

しほ「・・・それでいい。五十鈴、お前は華道に生きる人間だ。私の我がままで引っ張り込んですまなかった・・・戦車になど、もう乗るんじゃないぞ」

 

百合「~っ・・・」

 

しほ「もう夏も終わる。どちらにせよ、学校が始まればこうして面を合わせることも難しくなるだろう。私達の戦車道は一夏だけのものだったということだ」

 

好子「・・・」

 

しほ「私は黒森峰に戻って、一から出直すことにする。学校の皆も前のように腑抜けたままではなくなっただろうしな」

 

蝶野「センパイ・・・」グスッ

 

しほ「将来、黒森峰が全国大会で優勝・・・いや、10連覇できるようにしてみせるさ。それが私の今の夢だ」

 

千代「フフ、最後まであなたらしい無茶な話ね」

 

 

しほ「それじゃあ・・・私は去るよ。これからお偉い方に頭を下げて周らねばならんからな」スッ・・・

 

菊代「・・・しほさん」

 

蝶野「センパイ!」

 

百合「・・・」

 

しほ「お前達も達者でやれよ。もう会うことはないだろう・・・」

 

 <ガチャ

 

 

しほ「・・・」

 

 クルッ

 

 

 

しほ「・・・・・・戦車道をやっていて良かった・・・お前達と出会えて、一緒に戦車に乗れて、本当に良かったと心から思うよ。ありがとう」

 

 

好子「・・・!」

 

 

しほ「・・・じゃあな」

 

 カランカラン・・・ <バタン

 

 

千代「・・・・・・またなって言いなさいよ」

 

 

 ・ ・ ・ ・ ・

 

 

好子「・・・・・・それ以来、私はしほちゃんと会っていないわ」

 

好子「菊ちゃんと亜美ちゃんは西住流の門を叩き、門下生になったから特例としてしほちゃんと会うことができた。それでもしばらくは話すことすらダメだったみたい」

 

好子「千代ちゃんも立場上、しほちゃんと会うこともあったそうよ。でも私と・・・とりわけ百合ちゃんは西住流に入るなんてことはできなかったわ・・・どうしてもね」

 

好子「あれ以来、百合ちゃんは戦車が大嫌いになっちゃって・・・華道に戻るきっかけにはなったけど、戦車なんて見るのもイヤになったみたい」

 

好子「もうずっと昔の話・・・結局、あの夏に私達が戦車道をがんばったことで、お金をもらえた訳でも、何かの資格をもらえた訳でもない・・・でも」

 

好子「あの日々の全てが虚しいものだなんて誰にも言えないわ。形の無い大切な財産をもらえたのは確かだもの」

 

 

みほ「・・・」

 

優花里「・・・お母さんも色々あったんだ・・・」

 

華「お母様が戦車を嫌うのにも理由があったのですね・・・」

 

麻子「しかし、それだけがんばっておきながらなんとも虚しい終わり方だ」

 

好子「そうでもないわよ。チームを解散した後、今まで戦った皆が私達を称えてくれたの。聖グロの隊長さんから手作りの賞状とトロフィーをもらったわ」

 

優花里「ウチに飾ってあるやつ!なんのトロフィーなのかなーって思ってたけどそういうことだったんだ!」

 

麻子「なぜ知らなかったんだ」

 

好子「友人関係も広まったし、大切な思い出もできた。戦車道をやってて良かったわ・・・しほちゃんが言ったように、私もそう思うの」

 

好子「だからあなた達も、勝ち負けも大切だけど、もっと大事なことを戦車道から学んでね」

 

沙織「はい!」

 

華「心配無用です。もうすでにたくさんのことを学んで、たくさんのものを得ていますから」

 

麻子「単位と遅刻取り消しの報酬もな」

 

 

 <Prrr

 

みほ「あ、電話」Pi

 

桃【西住ぃ!貴様一体どこで何をしている!秋山の家に偵察映像を取りに行ってから何時間経ったと思ってるんだ!】

 

みほ「あっ!すっかり忘れてた!早く学校に戻って作戦会議しないと!」

 

沙織「急がなきゃ!麻子!何分で学校に着ける!?」

 

麻子「ここからなら飛ばして5分、私なら3分で着ける」

 

華「さすが麻子さん!すぐに行きましょう!」

 

優花里「お母さん、散らかしちゃったけど片づけは帰ってからするから!西住殿、行きましょう!」

 

みほ「う、うん・・・・・・あの・・・」

 

好子「ん?」

 

 

みほ「ありがとうございました。お母さんの話を聞けて・・・なんだか、少しだけお母さんのことがわかった気がします」

 

好子「・・・そう・・・厳しい親かもしれないけど、しほちゃんがあなたの事を大切に思っているのは確かよ」

 

みほ「!・・・」

 

好子「しほちゃんが勝つことにこだわるのは、あなたに自分と同じ思いをさせたくないから・・・自分がかつて大人達に言われたように、仲間にまでひどいことを言われないようにするためだと思うわ」

 

みほ「・・・」

 

好子「まあ、自分自身であなたのこと強く攻めすぎちゃうなんて、あの子もお馬鹿さんよね」

 

みほ「あはは・・・」

 

 

優花里「西住殿~!行きますよ~!」

 

みほ「あ、うん。今行くー。・・・じゃあ、お邪魔しました」ペコ

 

 

好子「・・・青春時代かぁ・・・・・・みんな、どうしてるかなぁ・・・」

 

好子「・・・・・・」

 

好子「・・・もう・・・そろそろいいよね」

 

 

 

 

 

 ――戦車喫茶〈ルクレール〉――

 

好子「みんな、集まってくれてありがとう。本当に・・・随分久しぶりね」

 

菊代「好子さんから連絡が来た時は驚きましたよ。こうしてここに集まるなんて、何年ぶりですかね」

 

百合「あれから何年経ったかなんて、怖くて数えたくありません」

 

蝶野「皆さんすっかり歳食っちゃってますからねー」アハハハ

 

千代「あなたもでしょ。いつまで独りでいる気なのやら・・・それより、あの人は来るのかしら?」

 

好子「もう家元を襲名したんだし、昔の言いつけを守る必要もないはずだから、きっと・・・」

 

 

 <ガチャ カランカラン・・・

 

好子「!」

 

 

 

しほ「この店も変わったわね・・・・・・でも、窓から見えるマロニエの並木だけは変わっていない」

 

 

好子「・・・しほちゃん」

 

 

しほ「・・・せっかく久しぶりに仲間で集まったんだ・・・・・・時には・・・昔の話をしようか」

 

 

 おわり

 

 

 

  ・

  ・

  ・

 

 ~おまけ~

 

 

 \ハハハハハハ!/

 

千代「そうそう、懐かしいわね。しぽりんったら常夫さんの前では言葉使いを変えて・・・」フフフ

 

蝶野「あの頃のセンパイ、ずーっと中二っぽい感じの喋り方してましたよね。あーハズカシイハズカシイ」

 

しほ「う、うるさいわね!五十鈴だって親への反抗でどうのこうの・・・似たようなものだったじゃない」

 

百合「わたくしは思春期故の健全な反抗期です。何もおかしなことではありませんでした。しほさんのそれとはモノが違います」キッパリ

 

菊代「しほさんは常夫さんに合わせるために口調を矯正したんですよ。大変でした・・・あんなに男っぽい口調だったのを女性っぽくするなんて、聞く方も恥ずかしい・・・」

 

しほ「余計なことは言わなくていいの!」

 

好子「フフ、こうしてるとなんだか昔のことを思い出しちゃうわね。あの夏の日々が、遠い昔のように感じるけど、つい昨日のことのようにも思えるわ・・・」

 

菊代「そうですねぇ・・・」シミジミ

 

しほ「・・・・・・皆に話がある」

 

千代「三人目!?」

 

しほ「ちがう!・・・今度、戦車道のプロリーグの発足に辺り、私がプロリーグ設置委員会の委員長を努めることになったわ」

 

好子「すごいじゃない!さすが西住流家元ね

 

しほ「そこでリーグ選手の強化訓練を行うのだけれど・・・教官の人員が足りなくて困ってるの。優秀かつ士気を上げるために名のある戦車乗りが必要なのよ」

 

蝶野「!センパイそれって・・・」

 

菊代「・・・家元、まさか」

 

百合「・・・・・・もしかして」

 

千代「・・・」フ・・・

 

好子「しほちゃん・・・」

 

 

 

しほ「また私達で戦車に乗ってみる気はないか」ニッ

 

 

 ~おわり~



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