仮面ライダーカブト ~赤の英雄、蒼の復讐者~ (龍牙)
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第一話

 その日は気分が良く、男は同僚との麻雀勝負で得た臨時収入で土産を買い、どことなく浮かれた歩調で家路を急いでいた。

 もう深夜と言っていい時間だから子供達も寝てしまっているだろうが、お土産に選んだのはおそろいの日記帳だ。娘達の枕元にでも置いておいて、季節はずれのサンタクロースを気取るとしよう。

 男の娘二人は近所でも評判の仲のいい姉妹だった。親の贔屓目を別にしても可愛い顔立ちをしている。きっと将来は美人になるだろう。

 来月には海に行く約束もしている。そのためにここしばらく仕事を前倒しにして進めているのだ。

 娘達が海辺ではしゃぐ姿を想像して、彼は思わず口元を緩めていた。先程までは……

 家まで後数十メートルと言った所で、男は異変に出会ってしまった。最初に現れた異変は男と全く同じ容姿をした人間が突然目の前に現れたのだった。

 それだけならば、他人の空似で済まされる話だろう……。だが、次の瞬間、不気味に笑ったと思うと目の前のもう一人の男は緑色の怪物……サナギ体のワームへと姿を変える。

「う、うわぁー!」

 サナギワームは右腕を振り上げ男に襲いかかろうとした瞬間、その爪を別の場所から飛翔してきた何かに弾かれる。

「おい、早く逃げろ」

 そう呟く新たに現れた第三者たる少年の言葉に従い、男は一目散に逃げ出していく。それでいい……再び出会わなければ、一夜の悪夢で済むのだから……。

「……兄さんが言っていた『人を傷つけなければ人類は敵じゃない』」

 彼の手の中に先程、サナギワームの爪を弾いた物…赤いカブトムシを模した機械『カブトゼクター』が収まる。そして、

「……だから……人を傷つけたお前は、敵だ! 変身!!!」

 少年はベルトのバックル部分にカブトゼクターを差し込む。

 

《HEN-SHIN》

 

 ベルトに装着された瞬間、カブトゼクターから電子音が聞こえ、みるみる内に彼の身体の周りには銀色の重厚な鎧が現れる。『仮面ライダーカブト・マスクドフォーム』へと変身したのだ。

「ハアァァァァ!!!」

 一気にサナギワームとの間の距離を詰めると、カブトはその重厚な姿に相応しいパワーで何度もサナギワームを殴りつけ、クナイガン・アックスモードで切り付ける。

 そして、クナイガン・アックスモードの刃の部分である『バヨネットアックス』を超高温化させ、クナイガンのアックスモードの持つ必殺技『アバランチブレイク』でサナギワームを切り裂く。

 

 その最後の一撃によりサナギワームは跡形も無く爆散する。

「やれやれ……明日は学校だって言うのに、ホント迷惑な連中だな」

 ベルトからカブトゼクターが外れ、少年…『天道 龍牙』の上空を飛び回るとそのまま飛び去っていく。

太陽の神『カブト』に選ばれし者『天道 龍牙』……職業:高校生兼正義の味方

同日:別の場所

「ま、待て……助けてくれ……」

 怯えた様に声を上げるサラリーマン風の男を両肩に湾曲した二本の剣を持ったクワガタをモデルとした青い戦士が一歩一歩追い詰めていく。

「ライダーキック」

 青い戦士『仮面ライダーガタック・ライダーフォーム』は無感情な声でそう呟き、ベルトに有るガタックゼクターに有るスイッチを三回叩き、ゼクターホーンを右から左へと送り、再び元の位置へと戻す。

 

『Rider Kick』

 

 

 電子音が響くと同時にガタックの全身を雷の様なエネルギーが纏い、そのエネルギーは右足へと集る。そして、

「はぁ!!!」

 

 叫び声と共に目の前の男に廻し蹴りを叩き付ける。それと同時に男は緑色の異形の怪物……サナギワームへと姿を変え爆散する。

「……排除、完了……」

 彼がそう呟くと同時にベルトよりガタックゼクターが外れ、戦いを終えたゼクターは虚空へと飛び去っていく。それと同時にガタックの装甲が外れ、現れた少年は携帯電話を取り出す。

『亨夜君、お疲れ様』

「いえ」

 着信を確認するまでもなく電話に出ると、聞こえてきた彼の上司に当たる女性の声に無感情な声で答える。

「それで……他の場所に現れたワームは……」

『今のところ無いわね。今日の所は帰って休んで貰っていいと思うわ。貴方、明日も学校でしょ?』

「はい。……それで……カブトとキックホッパーの事ですが、適合者の身元は」

『カブトの方は随分と派手に行動しているみたいだから、調べは付いているわ。その資料は自宅の方に送っておくから……』

「分かりました。明日は午後から適合者に接触します」

 亨夜と呼ばれていた少年はそう答えると携帯電話を切り、近くに停めてある青いバイク『ガタックエクステンダー』に乗る。

(……カブト……お前を始末すれば、オレはZECTの中で一つ上に上がれる。ZECTの正規のメンバーになれる)

 彼はその表情に冷酷な笑みを貼り付け、ハンドルを握る手に自然に力が篭る。彼の求める『情報』を手に入れる為に彼は、組織の中で上に向かう必要がある。

 戦いの神『ガタック』に選ばれし者『荒谷 亨夜』…職業:高校生兼ZECT隊員(アルバイト時給1000円…残業手当、深夜割り増し有り)

翌日…

「おーい、龍牙♪」

 

 龍牙は彼を呼ぶ声に気が付き、帰り支度を整えながら自分の名前を呼んだ相手を一瞥する。

「……お前か……亮也?」

 龍牙に声を掛けた少年の名前は『岡崎 亮也(おかざき りょうや)』と言う。龍牙の友人の一人であり、彼の『相棒』でもあるのだ。

「なんだか、眠そうだな?」

「……ああ。昨日は遅くなってな……よく寝てないんだ……」

亮也の言葉にそう簡潔に答えながら、龍牙は鞄の中から適当にノートを一冊取り出し、その中の一ページを破り、ノートを再び鞄に戻す。

「それより……次の……」

「……次のテスト問題の予想はこんな所だ。数学に関しては暗記が使えないから、頑張れとしか言えないけどな」

「サンキュー、やっぱり頼りになるぜ」

 一通り書き込んだメモを亮也に渡すと自分を拝んでいる彼に視線を向けながら、呆れたように溜息をつき、鞄を持って立ち上がる。

「気にするな、次のテストで赤点取られて、お前が補習を受けて戦力が削られるのは避けたいんだ」

「何だよ、その『オレは絶対に大丈夫だ』みたいな口調は」

「悪いけど、オレは普段から授業で内容はしっかり覚えてるんでな。態々慌てて勉強する必要が無いんだよ」

「露骨に『オレは頭がいいです。』とでも言いたいのか? お前は?」

「言わなくても、オレが成績いいのは知ってるだろう、亮也?」

 はっきりと言い切ってくれる龍牙に思わず黙ってしまう、亮也。それを盛大に無視しつつ、無言のまま手を振ってドアから出て行く。

「じゃあな。ふぁ……昨日は遅かったし、早く帰って寝ようかな」

 欠伸を上げながら、そんな事を呟きつつ龍牙は教室から出て行く。

 玄関を出て校門を潜り、高校の外へと出る。部活へと向かう者、学校の帰りに友人達と寄り道の相談をしながら帰る者、それは三者三様の放課後の風景である。

 龍牙の場合は非常事態に対して備えて休む為に帰路を急ぐと言う選択肢だろう。実際、彼は眠いのだ。

「ん?」

 ふと、視界の端に青いバイクに乗る龍牙の学校とは違う高校の制服を着た見覚えの無い少年の姿が視界に映る。彼の着ている物はこの近くの高校の制服ではなかったので、他の風景からは妙に浮いて感じられる。

 そんな相手が何の用だと考えながら、彼の横を通り過ぎ様とする。丁度、龍牙がその少年の隣を通り過ぎた瞬間、彼は口を開いた。

「……初めまして、『天道 龍牙』……で合っているよな?」

 突然、龍牙は自分の名前を呼ばれ思わず立ち止まる。

「お前、誰だ? どうしてオレの名前を……」

「自己紹介が遅れたな。オレは『荒谷 亨夜』……お前に話があるんだけど……時間を貰えるか?」

「悪いけど、オレは……」

 断りを入れようとした時、目の前を通り過ぎていった青いクワガタを象った機械を追っていく。

「……用件は『これ』に付いてだけどな。良いか?」

「良いだろう。話は何だ?」

 それを見て龍牙は表情を変える。亨夜の手の中に現れた青いカブトゼクターに似たクワガタを象った青い機械の昆虫…見るのは初めてだが知識としてのそれは知っている。それの名は『ガタックゼクター』。

 龍牙の了承を聞き、亨夜は周囲を見回す。

「……ここじゃ駄目だな……。流石に人が多い。あんまり、他人に聞かれたくないのはお前も一緒だろう?」

「ああ、そうだな」

「付いて来い。場所は用意してある」

 龍牙の了承の言葉を聞き、亨夜は彼に背中を向けて歩き出す。彼に案内されるまま龍牙は彼の後を付いて行く。

 亨夜に案内され歩く事数分…付いたのは公園だった。だが、平日の昼の公園にしては不自然な点が有る。人が誰もいないのだから…。

「……改めて自己紹介させてもらおう。オレは『ZECT』所属のマスクドライダーシステムの一つ『ガタック』の適合者……『荒谷 亨夜』……。よろしくな、天道龍牙」

「あんまり宜しくされたくないな。大体なんでオレの名前……いや、名前だけじゃないんだろう、知っているのは?」

「そういう事だ。まあ、それ以外のお前の個人情報は正直どうでもいい。オレ達にとって重要なのは、お前が行方不明の二つのゼクターの中の一つ、一号機『カブトゼクター』を所持していると言う事だ」

「前振りはいい。早く用件を言ったらどうだ?」

 目の前に立つ亨夜を睨みつけながらそう言いきる。自分の事を知っていて、ここまで完璧に人払いをしているのだ。相手の用件は簡単に想像することが出来る。

「……そうだな、ゼクターの適合者はどんな形にしろ、『ZECT』に所属して貰う必要がある。天道龍牙、ZECTに入れ。結構、アルバイトでも条件は良いぜ、どうせワームと戦ってるんだ。一人でボランティアで戦うより得だろ?」

 

 彼の想像通りの問い……それに対する自分の答えは既に出ている。

「……答えは『No』だ。大体、突然、正体不明の怪しげな組織に入れと言われて、はいそうですかって言って入るバカはいないだろう」

「そうか……交渉決裂だな」

 龍牙の返答を聞き亨夜は残念そうに言う。だが、龍牙は何処か演技の入った彼の言葉に白々しい物を感じていた。

「……残念とか言ってるわりには顔は全然残念そうじゃないな? それに最初から交渉なんてしてたのか?」

「ああ、ばれたか。元々交渉事は苦手でね。こっちの方が得意なんでな。」

 冷酷な笑みをその表情に貼り付け、後ろを向き二、三歩ほど龍牙との間に距離を置くと、右手を真上へと振り上げる。

「来い、ガタックゼクター!」

 

 龍牙の真横を高速で通り過ぎ、亨夜の上空を一回転すると、彼の振り上げたガタックゼクターは右手の中に納まる。

「変身!」

 

《HEN-SHIN》

 

 素早く手の中に納まった『ガタックゼクター』を亨夜はベルトへのバックル部分へと差し込む。

 

 ベルトに装着された瞬間、ガタックゼクターから電子音が聞こえ、彼の身体の周りに両肩の砲塔を持った蒼い重厚な鎧が現れる。『仮面ライダーガタック・マスクドフォーム』へと変身する。

「っ!? いきなりか?」

 右手を後ろに回し、正面に立つガタックマスクドフォームから目を放さず、一歩後ろに下がり相手との距離を開ける。

「上からの命令じゃ、こちらの申し出を断った場合はお前を抹殺しろとも出ている。最後通告だ、ZECTに入れ」

「交渉じゃなくて、今度は思いっきり力技の通告か? ……重ね重ね言うが、お前はどこの犯罪組織の回し者だ?」

「少なくても、オレのやり方がZECT全体のやり方じゃない事は確かだな。オレは交渉なんて面倒な事に時間をかける気は無いからな」

 

 そう言うと同時にガタックの両肩の大口径火器『ガタックバルカン』から嫌な音が聞こえる。そう、何かが装填される様なそんな音が。

 そして、龍牙へと向かい両肩のガタックバルカンより光弾が撃ち出される。

「っ!? 変身!」

 素早く相手に気付かれない様に呼び出したカブトゼクターを、ガタックがガタックバルカンから光弾が撃ち出されると同時にライダーベルトのバックル部分へと差し込む。

 

《HEN-SHIN》

 

 ガブトゼクターより電子音が響き龍牙の体を『仮面ライダーカブト・マスクドフォーム』の銀色の装甲が包むと同時にガタックの弾丸が着弾する。

 最初の着弾から始まり、絶え間なく連射されるガタックバルカンの弾丸……一人の人間に対して……いや、硬い外殻に守られているサナギ体のワームで有っても完全に殲滅できる程の破壊の嵐…完全なオーバーキルとなる攻撃。

 だが、

「が!」

 攻撃が止んだと同時にガタックの体が真横へと弾き飛ばされ、そのまま地面へと倒れる。

 ガタックを殴り飛ばしたのは、カブト、ガタックの両ライダーのマスクドフォームよりも細身の赤い装甲を纏った戦士。そして、顎のローテートを基点にカブトムシを思わせる『カブトホーン』が起立して頭部の定位置に収まり、電子音が響く。

 

《Change Beetle》

 

 それこそがマスクドフォームの装甲と言う殻に守られていたカブトの持つ、もう一つの姿にして、真の姿《仮面ライダーカブト・ライダーフォーム》である。

「危なかった。キャスト・オフがあと少し遅れていたら確実に死んでいたな」

「くっ、貴様!!!」

 叫び声と共にガタックは立ち上がると同時にカブトへと殴りかかる。だが、カブトはガタックのパンチを避け、懐に飛び込むとその無防備な顔面を殴りつける。

「ぐっ!」

 

 それにより、体制が崩れた所に追い討ちとばかりに胸の部分に肘打ち、そして、回し蹴りへと続ける。

「くそ!!!」

 完全に自身の主要武装であるガタックバルカンの射程外である近距離へと潜り込まれたガタックは再びカブトへと殴りかかるが、パワーと装甲で勝る分、スピードに劣るマスクドフォームの攻撃は完全にカブトに見切られ、避けられた所にカウンターを打ち込まれる。

「こいつ!」

 頭に血が上ってガタックの攻撃は次々と大振りとなる、だが、まだ冷静だった際の攻撃でも避けられていたのだ。故にそんな攻撃が当たるはずも無く、簡単にカブトには避けられている。

「いい加減に……」

ボクシングのアッパーの様な形で打ち上げられた一撃をバックステップでかわすと、カブトクナイガンをガンモード時のグリップ部分(アックスモード時の刃部分)から抜き、クナイモードにし、ガタックの胸を切りつける。

「……しろ!」

 そして、切り付けた後に頭を狙い、回し蹴りを叩きつける。

「がぁ!!!」

「……少しは冷静になったらどうだ?」

 再び地面に倒れるガタックを見下ろしながら、カブトはそう言い切る。スピードで劣るマスクドフォームでパワーと装甲に特化したライダーフォームで戦うのは、圧倒的に不利な事は理解できるだろう。

 そして、《マスクドフォーム》から《ライダーフォーム》への変身は当然ながら、ガタックも持っているはずだ。それを使わない所か、考えも付かないと言う様な今のガタックは完全に頭に血が上っているのだろう。冷静さの欠片も無い。

 元々カブトにはガタックを倒す気は無いのだ。最初から話し合いで済めばそれに越した事は無い。行き成り好戦的な態度を取られた以上、防衛策として叩きのめしはしたが、それ以上攻撃する気はない。

「……ガタック……亨夜だったか? オレにはこれ以上、お前と戦う気は無い。『ZECT』の上層部かお前の上司かは知らないが伝えておけ、『オレはオレで勝手にやるがお前達の敵になる気は無い』ってな」

 カブトの宣言を聞きながら、ガタックは立ち上がる。…………そう、ベルトのガタックゼクターのゼクターホーンに手をかけながら。

「……そうだな……。お蔭で冷静になれたぜ……カブトォ。オレは一刻も早く上に行かなきゃ行けないんだ……奴を……あいつを殺したワームを見つけ出して、この手で殺すまではな!? キャスト・オフ!!!」

 

《CHAST OFF》

 

 叫び声と共にガタックゼクターの角『ゼクターホーン』を両脇に畳み込み、全身の装甲が浮かび上がり青いスパークが駆け巡る。そして、ガタックの全身を包んでいたマスクドフォームの装甲が一斉に飛散する。

「危ない!!!」

 

 カブトは慌ててその場に伏せ、初速度、秒速2000mの速度で飛散したガタックのマスクドフォーム時の装甲を避ける。

 

 そして、そんなカブトを他所に最後に頭部左右に倒れていた『ガタックホーン』が起立し、側頭部の定位置に収まり、電子音が響き渡る。

 

《Change StagBeetle》

 

 立ち上がったカブトの目の前に立つ彼の持つ赤い装甲とは対照的な青い装甲を持ち、クワガタをイメージさせ、両肩にはマスクドフォーム時の火器とは違い二本の接近戦用の曲刀に似た武器を装備した細身の戦士。それこそが、《仮面ライダーガタック・ライダーフォーム》である。

 対峙し合うカブトムシとクワガタ…赤と青…そして、頭部の目の部分はカブトの青に対してガタックの赤とどこまでも対照的な二人の戦士。

 

 光を支配せし太陽の神《仮面ライダーカブト》……『天道 龍牙』

 戦いの神《仮面ライダーガタック》……『荒谷 亨夜』

赤き英雄と蒼き復讐者……カブトとガタック…二人のライダーの最初の激突が始まる。

つづく…

 

 



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第二話

「無茶な奴だな、お前は!?」

 

 

叫びながらガタックへと叩き付けられるカブトの拳。

 

 

 

 

「黙れぇ!」

 

 

叫びながら放たれたガタックの蹴りがカブトの胸へと叩き込まれる。

 

 

加速した『時』の中での武器も使わず、技術も何も無い二人の戦士の『喧嘩』…。そう、それは既に戦いではなく『喧嘩』である。

 

 

 

 

 

 

 

 

『絶望』を抱き闇の中を歩き続けていた蒼き戦士『ガタック』と、『希望』を抱き光の中を歩き続ける赤き戦士『カブト』…。

 

 

そう、カブトとガタック…二人が対照的なのはその姿形だけではない…。彼等は彼等の生き方さえも対照的なのだ。

 

 

共に戦う意思は揺るぐ事も無い程強く持ち続けていた。だが、その戦意は常に復讐に支えられた『ガタック』に対して、『カブト』は『護る』と言う意思によって支えられていた。

 

 

『絶望』と『復讐』が生み出す『闇』に支えられ戦うガタック…亨夜に対して、龍牙の心に有るのは『希望』と『守護』の意思が生み出す『光』…近い意思を持ちながら支える物はまったくの正反対…其れさえも最も近く、最も遠い所に有る二人。

 

 

故にこの戦いはある種、当然の結果なのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「カブトォ!!!」

 

 

咆哮を上げながら、ガタックはカブトへと向かっていく。それを視界に収めながら、カブトはゼクターに振れる。

 

 

 

 

《1》《2》《3》

 

 

 

 

向かって来るガタックに対してカブトはゼクター上部のスイッチを流れる様に押し、反対側に倒れていたゼクターホーンを元の位置に戻し、再び倒す。

 

 

それに気が付いた時、カブトに遅れながら、ガタックもゼクターのスイッチを押す。

 

 

 

 

《1》《2》《3》

 

 

 

 

「っ!? ライダーキック!」

 

 

「これで、頭を冷やせ! ライダーキック!」

 

 

『『Rider Kick』』

 

 

まったく同じタイミングで響く電子音、カブトとガタックの二人のライダーの上段回し蹴りが一点でぶつかり合う。

 

 

《クロック・オーバー》

 

 

二つの必殺技が激突した瞬間の衝撃によって、二人が弾き飛ばされると同時に時は再度動き出す。そして、時が動き出した瞬間に二つのゼクターは二人のベルトから外れ、飛び去っていく。

 

 

「痛…。」

 

 

龍牙は立ち上がってライダーキックを使った右足に触れる。流石にライダー同士で必殺技をぶつけ合う経験など持って居ない為に確実な事は言えないが、多分骨は折れていない。今更ながら《マスクド・ライダーシステム》の性能に感心してしまう。

 

 

「少しは頭は冷えたか、荒谷?」

 

 

「貴様ぁ!!!」

 

 

遅れて立ち上がる亨夜は、自分へと視線を向けながら告げられる龍牙の言葉にそう叫ぶ事で返す。

 

 

「…なんでお前はそこまでZECTでの出世に拘る? それに…その格好…学生との兼任で?」

 

 

「………ZECTは最低でも高校くらい卒業して無いと正式・・に入れないんだよ。」

 

 

「無駄な所で細かいな。…それ以前に…いいのか、折角のゼクターの資格者に対して其れで?」

 

 

『アルバイト=下っ端=有る意味ゼクトルーパー以下の立場の最強戦力ライダー』と言う図式が頭の中に浮かんでしまう。

 

 

『こんな所でも学歴社会!? ゼクターの資格者相手にそんな扱い!? それでいいのか、ZECT!?』等と思わずツッコミを入れてしまったのも無理もないと言えば、無理も無い。

 

 

(ん?)

 

 

そこまで考えた後で気が付く事が有る。『学生との兼任』と言う理由は説明されたが、まだ『何故、ZECTで出世したがる』理由の説明にはまったくと言って良いほどなっていない。

 

 

「おい、一つ目の質問の答えにはなってないぞ。」

 

 

「………貴様にそれを答える理由は無い。」

 

 

「……そうだな、余計な質問だったな……。」

 

 

そう簡潔に答えると亨夜に背中を向けながら龍牙は歩き始める。

 

 

「待て! まだ話は「答えはNOだ。それに無意味に戦っても、お前に得は無いと思うぞ。」くっ。」

 

 

亨夜の言葉を遮るように告げられた龍牙の言葉に納得してしまう。

 

 

それもそうだろう。このまま戦った所で結果はさっきと対しては変わらないだろう。それ以前に自分の目的は…ZECTからの指令は飽く迄『カブトゼクターの資格者の勧誘』にあるのだ。既に勧誘と言う任務には失敗している以上、これ以上の戦いは龍牙の言う通り、無意味だ。

 

 

「…天道…龍牙ァ…その名前、絶対に「違う。」なに?」

 

 

再び亨夜の言葉を遮る様に告げられる龍牙の言葉。そして、龍牙は空を…否、天を指差して言葉を継げる。

 

 

「兄さんが言っていた。オレは『天の道を行く龍』…『天道 龍牙』だ。」

 

 

「………えーと………天道龍牙…だよな? あれ? 何処が違ったんだ? まあいいか。天道龍牙、その名前…忘れないぞ!!!」

 

 

龍牙の言葉に一瞬だけ呆気に取られた後、誰にでもなく自分自身に確認する様に呟くと、立ち去っていく龍牙を睨みつけ、憎しみを込めて亨夜はそう叫ぶ。

 

 

龍牙は背中にぶつけられる憎しみの篭った亨夜の絶叫を一瞥もせず、その場を立ち去っていく。

 

 

龍牙の背中を見送ると、亨夜は携帯電話を取り出して登録してある電話番号を選択、通話ボタンを押す。公園を閉鎖しているであろう上司の連絡先の番号。するべき事は不名誉な任務失敗の連絡。

 

 

「…済みません…カブトの適合者の勧誘、失敗しました。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ…あいつに付き合ってたら遅くなった。」

 

 

(ん? …そう言えば、もうすぐスーパーの特売の時間だったな、寄りながら帰るか。)

 

 

携帯電話を取り出し、時間を確認すると既に五時近くを廻っている。現在地と目的地であるスーパーの位置を考えて帰り道を帰る。一応、自分の立場は一人暮しの高校生と言った物であるのだ。安い時に買い物は住ませて置きたいと言うのが龍牙の心情であった。

 

 

(……それにしても……オレだけに用が有ると言っていた事から考えて、亮也の情報は向こうに伝わってなかったのか? 一応、後であいつにその確認と注意をして置いた方がいいな。)

 

 

ゼクターの所持者として開発元であるZECTから、何らかの接触をしてくると言うのは当然予想していた事であり、その為にある程度は警戒して動いていた。

 

 

だが、知られてしまった以上はこれ以上各巣必要は無いと判断して、今後は動き易くなったとも考える。

 

 

(…物は考え様だな。それに巧くやればオレが囮になって、亮也の事を暫く隠す事が出来そうだ。)

 

 

今後の対策、自分の取るべき行動を考えながら帰り道を歩いていると、見慣れた物が龍牙の視界の中に飛び込んでくる。自分と同じ学校の女子の制服を着た少女。何処か哀しそうな印象を与える瞳と短く切り揃えられた黒い髪の少女だった。…亨夜の物とは違いこの辺では良く見かける物で器にする必要は無い。だが…

 

 

「え゛?」

 

 

橋の柵を飛び越え様として身を乗り出そうとしている。何処からどう見ても投身自殺を図っている人間にしか見えない。

 

 

「ちょっと待て!!!」

 

 

龍牙がそれに気がついて走り出したが、時既に遅し。既に少女は飛び降りた後だった。少女を追い掛けて片手で橋の一部を掴み、片手で少女の手首を掴み落下を阻止する。だが、それでも少女から反応が無い。恐らく気絶しているのだろう。

 

 

「…おい…何が有ったかは知らないけどな…目の前で死なれたら、夢見が悪いんだ。」

 

 

かなり無理がある体勢だった為、橋の一部を掴んでいる手が二人分の重さに巻けて少しずつ滑っていく。

 

 

「っ!? カブトゼクター!!!」

 

 

 

 

《HEN-SHIN》

 

 

 

 

完全に手が離れた瞬間、龍牙が相棒の名を叫び、龍牙のベルトへとカブトゼクターが装着され、彼の全身を銀色の装甲が包む。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…今日は厄日か?」

 

 

飛び去っていくカブトゼクターを一瞥しつつ、ゼクターホーンに鞄を引っ掛けながら橋から走り出す時投げ出した鞄を持ってきてくれた事を感謝しつつそんな事を呟く。

 

 

先日のワーム退治と今日は亨夜に呼び出された後、自殺者の救助にと…既に一日の内に合計二回もカブトに変身しているのだ。

 

 

「………ん。」

 

 

「…目が覚めたか?」

 

 

龍牙は少女へと視線を向けて問い掛ける。

 

 

「…私…生きてる…?」

 

 

回復する意識の中で彼女はそう呟く。

 

 

「…当たり前だ。オレが助けたんだ、感謝しろ。大体、何が有ったかは知らないけどな…自殺し様なんて…。」

 

 

「……………さい……………るの。」

 

 

「え?」

 

 

「うるさい!!! 何が分かるの!? 私は…私は貴方とは関係無い…だから………放っておいて………。」

 

 

少女は絶叫する。それは…全ての感情を出しきるように。

 

 

「…何で…何で…私を助けたの…。」

 

 

「…簡単な話だ…。目の前で死なれたら夢見が悪い。」

 

 

「何で「名前…?」え?」

 

 

龍牙から告げられた予想もしていなかった言葉に思わずそんな反応を示す。

 

 

「…だから名前だ。…お互い、まだ自己紹介もしてないだろう?」

 

 

「………夕美………『氷川 夕美』。」

 

 

何でそんな事を聞くのだろうと言う疑問と共に少女は自分の名前を答える。

 

 

「オレは…。」

 

 

天を指差しながら、龍牙はゆっくりと口を開く。

 

 

「天の道を行く龍、天道龍牙だ。」

 

 

「龍牙…。」

 

 

「ああ。まあ、何を考えての自殺でも、良い事とは言えないと思うぞ。兄さんが言っていた。『命の価値は全て同じじゃない。だが、失っていい命は一つも無い』ってな。」

 

 

「何それ?」

 

 

龍牙に冷たささえ感じる視線を向けながら夕美はそう呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

『そうよね。そいつは何も分かってない。彼は貴女の事は何も知らないのよ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

笑いながら一人の少女が近づいてい来る。驚いた事にその少女も夕美と同じ顔と姿形をしていたのだ。

 

 

「ワーム。」

 

 

(狙いは彼女か?)

 

 

状況について行けずに呆然としている夕美を一瞥すると龍牙は正面に立つ擬態夕美を睨みつける。

 

 

「大丈夫…私達と一緒になればみんな友達になれるから。」

 

 

そう囁くと擬態夕美はワームの姿へと変わる。蜘蛛の特徴を持った赤いワーム『アラクネアワーム・ルボア』へと。そして、それに合わせて、緑色の体色を持ったサナギワームが数体、姿を表す。

 

 

(まったく、今日は本当に厄日だな。)

 

 

「な、なに…これ?」

 

 

「仕方ないな。夕美だったな? 隠れてろ、こいつ等の相手はオレがする。」

 

 

夕美へとそう告げて空高く腕を振り上げる。龍牙の周囲を旋回する様に飛び回り、カブトゼクターが龍牙の手の中へと収まる。

 

 

「変身!!!」

 

 

 

 

《HEN-SHIN》

 

 

 

 

本日二度目となる叫び声を上げ、カブトゼクターをベルトのバックル部分へと差し込むと同時に電子音が響き、三度龍牙の体を銀色の装甲が包み込む。

 

 

龍牙が『仮面ライダーカブト・マスクドフォーム』へと変身すると同時に、サナギワーム達が一斉に龍牙へと向かっていく。

 

 

マスクドフォーム時の主力武器、クナイガンを取りだし、それをガンモードでサナギワームの中の一体へと向けて撃ち込み、反対から近づいてきた相手を空いた手で殴り飛ばし、素早くアックスモードへと持ち替えたクナイガンで切りつける。

 

 

そして、クナイガンの刃の部分『パヨネットアックス』を超高熱化させ、その場で回転し近づいてくるサナギワームをアックスモードのクナイガンの必殺技『アバランチブレイク』で纏めて叩き切る。

 

 

そして、残る敵がアラクネアワーム・ルボアだけとなった瞬間、力を溜めるような体勢を取り、そして、次の瞬間、アラクネアワーム・ルボアの姿が消える。

 

 

「ぐぅ。」

 

 

次の瞬間、突然襲い掛かった衝撃がカブトの体を弾く。何とかその衝撃に耐えた後、間を置かずに今度は次の衝撃が背中から襲い掛かる。

 

 

その後も、前後右左から絶え間無く衝撃がカブトを襲う。

 

 

「調子に…。」

 

 

カブトゼクターのゼクターホーンに振れた瞬間、カブトのマスクドフォームの装甲が僅かに浮かび上がる。

 

 

「乗るな! キャスト・オフ!!!」

 

 

そして、そのままゼクターホーンを一気に反対側まで移動させると同時に全身を包んでいる装甲が初速度、秒速2000mの速度で弾丸の様に撃ち出される。それによって加速状態のアラクネアワーム・ルボアは動きを止める。

 

 

そして銀色の装甲と言う殻に守られていた鮮やかな真紅のスーツを身に纏った姿を表し、顎のローテートを基点にカブトムシを思わせる『カブトホーン』が起立して頭部の定位置に収まり、真の姿《仮面ライダーカブト・ライダーフォーム》が現れる。そして、ゼクターより電子音が響く。

 

 

 

 

《Change Beetle》

 

 

 

 

そして、カブトの手が腰の部分に有るスイッチへと触れる。

 

 

「クロックアップ!!!」

 

 

 

 

《Clock up》

 

 

 

 

そう呟いた瞬間、電子音が響きカブトもまた加速状態へと入る。そして、カブトクナイガンをガンモード時のグリップ部分(アックスモード時の刃部分)から抜き、クナイモードにし、加速状態のアラクネアワーム・ルボアの姿を自身の視界の中へと捕らえる。

 

 

此方へと向かってくるアラクネアワーム・ルボアの攻撃をクナイモードのクナイガンで受け流しながら着実に切り付けて行く。

 

 

そして、アラクネアワーム・ルボアの懐へと踏み込み、カブトクナイガンを突き刺すと同時に真上に振り上げる。そして、それによって怯み、後に後退した瞬間を逃さず、カブトはゼクター上部のスイッチを流れる様に押し、

 

 

 

 

《1》《2》《3》

 

 

 

 

反対側に倒れていたゼクターホーンを元の位置に戻し、再び倒す。

 

 

「ライダー…キック!」

 

 

 

 

《Rider Kick》

 

 

 

 

電子音が響くと同時に頭部のカブトホーンから、右足へとエネルギーが流れて行く。そして、

 

 

「破ァ!!!」

 

 

放たれた上段回し蹴りがアラクネアワーム・ルボアへと叩き付けられる。

 

 

「グォォォォォォ!!!」

 

 

 

 

《Clock Over》

 

 

 

 

アラクネアワーム・ルボアが大地に倒れた瞬間、自身の勝利を確信したカブトが天を指差した瞬間、その勝利を告げるように電子音が響き、加速状態が終了する。

 

 

そして、アラクネアワーム・ルボアの爆散する花火がカブトの勝利を告げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カブトゼクターがベルトから外れ、カブトの装甲が飛び散っていくと、龍牙の勝利を祝福する様に上空を飛び回り、飛び去っていく。

 

 

「なに…あれ…?」

 

 

一人呆然と立ち尽くしていた少女…夕美が力が抜けた様に地面に座り込み、一言だけ呟きが漏れた。

 

 

「…何? なんて聞かれてもな…。」

 

 

そう呟いた後、意を決すると彼女の手を掴んで立ち上がらせる。

 

 

「な、なに?」

 

 

「…とにかく、今はここを離れた方がいい。また会いたくない奴と再会なんて言うのは御免だからな。納得できるまで説明してやる。」

 

 

「う、うん。」

 

 

夕美の手を引きながら龍牙はその場から走り去る。

 

 

 

 

 

 

つづく…



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第三話

時は数日前へと遡る。

 

 

数日前に起こった珍しくも無いはずの一件の自動車事故…カーブを曲がりきれずにそのまま崖から転落。運転手は病院に運ばれた後に死亡と言う事故。

 

 

そう、本来ならそう処理されてしまう筈の事故だった…はずなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バイク事故…確か、この近くで起きた程度の事は知ってますけど…それがなにか?」

 

 

渡された資料をテーブルの上に投げ出して亨夜は興味無さ気にそう答える。

 

 

「ええ…次にこの二枚の写真を見てもらえる?」

 

 

「?」

 

 

何故と思いながらも渡された二枚の写真を見比べる。偶然撮られたと思われる写真とその写真に写っている人物の写真と言う二枚。二枚の写真に写る人物には違いは見られない…一枚目の写真は写りがあまり良くは無いが、なんとか二枚の写真に写っている人物が同一人物であると言う事が明らかに見て取れる。

 

 

「…だから、これがどうかしたんですか?」

 

 

「…一枚目の写真は数日前の自動車事故の被害者で、もう一枚の写真は先日前に撮られた物よ。」

 

 

その言葉で亨夜は目の前の女性…ZECTの自分の直属の上司の言いたい事が大体理解できた。

 

 

「なるほど…この男はワームですか? それで、この写真の男を始末すれば良いんでしょう?」

 

 

「…そう簡単にいけばいいんだけどね…。実は…。」

 

 

女性は亨夜に対して事情を説明し始めた。二枚目の写真は何でも最初に見せられたバイク事故の現場近くで撮られた物であり、ワームで有る可能性が高い写真の人物が犯人である可能性があるそうだ。更に同様の事故現場で同一人物が何度も目撃されている。だが、

 

 

「…なるほど、このワームは何らかの目的を持って、擬態した相手の知り合いを殺して廻っている可能性が有ると言う訳ですか? 仲間を擬態させるでもなく。」

 

 

向こう(ワーム)の事情など知った事ではないが、相手の動きを捉えるための材料になるのなら、存分に思考の材料の中に入れて置こうと考え、情報に目を通していく。

 

 

(まったく…連中も分かり易く動いてくれれば、楽な物を…。)

 

 

相手にどんな目的があるにしろ、相手がワームで有る以上始末するのみと結論付け、亨夜は写真だけを持ってその場を立ち去っていく。

 

 

目的はただ一つ、ワームの始末。前回のカブトの勧誘又は始末と言う任務を果せなかった以上、そのミスを補う為に一体でも多くのワームを倒す事。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

龍牙SIDE

 

 

龍牙の自宅…紅茶の入ったカップを一つは夕美の前へと、一つをそのまま口へと運ぶ。

 

 

「飲まないのか? 体が温まるぞ。」

 

 

「……いい、要らない……。それより、あれは……あの化け物達はなに!? 貴方は何者なの!?」

 

 

夕美の口から出たのは叫び声。それは、自分の巻き込まれた異常な現実の事が何も分からないとでも言う様な叫び声。

 

 

「………あれは…ワーム…。分かりやすく言えば…『擬態能力を持った正体不明の(宇宙?)生物』と言った所か?」

 

 

「…なにそれ…?」

 

 

龍牙は巻き込まれた彼女に対して、言葉を選びながら『ワーム』について説明するが、当の夕美からはそう言葉を返される。当然と言えば、当然なのだが。

 

 

「言葉通りとしか言えないな。そして、オレのあれは……『マスクドライダーシステム』…ワームに対抗する為に作られたシステム…。『仮面ライダー』に変身する為の特殊戦闘システムの総称だ。オレが変身した姿の名は『カブト』。オレはそれの資格者。こんな所か? 他に聞きたい事は…?」

 

 

「無い。」

 

 

一言で簡潔に答えられてしまうとそれ以上は言い返し様もない。本来なら、ワームの事など知らなくてもいい事なのだ。必要以上に多くの事を教える事も無いだろうと考え、言葉を止める。

 

 

「「…………………。」」

 

 

(…なんか、気まずい…。)

 

 

二人の間に長い沈黙が流れる。実際、それほど長い時間は立って居ないが丸で時の流れがクロックアップしたかの様に遅く感じてしまう。

 

 

「…ねえ…。」

 

 

「どうした?」

 

 

「…よく分からないけど、なんでワームとか言う化け物は私に似てたの…あれが貴方の言ってた擬態能力って奴なの? あれは私を殺そうとしてたの? それに…あいつは…なんで…私の…。」

 

 

元々それほど明るい響きの無かった夕美の口調がより暗く、沈んだ物へと変わっていっているのが感じ取れる。

 

 

「…その通りだ。ワームは人間に擬態して人間社会に入り込み、密かに繁殖を続けている。擬態した人間を殺して入れ代わっている様だ。…擬態した人間は近しい人間にも簡単には分からないほど高度に化ける事が出来る。何故だと思う?」

 

 

「分からない。」

 

 

「一つは外見からは想像も出来ないほどの高度な知性。そして、もう一つ…それが最後の質問の答えになる。擬態した人間の持っていた『記憶さえも』完全にコピーする事が出来る。だから、ワームに入れ代わられると言う事は『自分』と言う『存在』を奪われる事を意味しているんだ。擬態した人間を殺すのは入れ代わったと言う事を悟られない為と言う事が考えられる。」

 

 

「…そう…別に…私の存在なんて…取られても良かった…死にたかったのに…。どうして、邪魔したのよ!?」

 

 

感情に任せた叫び声と共に振り下ろされた拳を一瞥もせずに手首を掴んで受け止める。

 

 

「…死にたかったね…。何が有ったかは知らないけど…自殺趣味でも有るのか? 手首の傷はその痕か? 死にたいなら、手首じゃなくて首にしろ、確実に死ねる。それから、なるべくカップは倒さないでくれ、洗濯するのは大変なんだ。」

 

 

「うるさい…うるさい! 貴方に私の何が「お前の事は何もわからないが…生きたいのに、死んでいった奴等の気持ちだったら良く分かるぞ。」…どう言う意味?」

 

 

夕美の疑問に対して龍牙は軽く息を吸い込んで呼吸を整えると、口を開く。

 

 

「渋谷隕石…オレはそれの生き残りだ。」

 

 

『1999年10月19日』…東京の渋谷区に落下した隕石を指す言葉。新しく教科書に記される事となった近代の事件とも言える物だろう。だが、多くの者は知らない事だが、それと同時に渋谷隕石はワームをその内に内包していたのだ。

 

 

隕石の直撃と言う災害と、その後のワームの発生と言う第二時の災害を起こした現在進行形で起こっている、今世紀最大の大災害である。

 

 

「…ごめん…。」

 

 

「気にしなくて良い。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

亨夜SIDE

 

 

ヘルメットとクワガタをイメージさせるマークの入ったライダースーツを着て、亨夜はクワガタをイメージさせる蒼いバイク『ガタックエクステンダー』を走らせる。

 

 

「…資料によれば事故の現場はこの近くのはずだ…。」

 

 

バイクを停め、亨夜は周囲の様子を油断無く探る。ここ最近の事故の影響か、暗い夜の道路を走る車やバイクの数は驚くほど少ない。

 

 

 

 

 

 

『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!』

 

 

 

 

 

 

そして、場所を変えて他の所を見回って見ようとした時、ブレーキ音と何かがぶつかる様な衝撃音、そして、男の悲鳴が聞こえてきた。

 

 

「出たか?」

 

 

声の聞こえた場所へとガタックエクステンダーを走らせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…い・・生きてたのか? 待て、待てよ…すまねえ、あれは…オレはやりたくてやった訳じゃ…。」

 

 

「…死ね…。」

 

 

倒れて許しを請う男と対峙している男の身体が滑り落ちる様に溶け出していき、鈴虫に似たワーム『ベルクリケタスワーム』へと姿を変える。そして、その手を振り上げ、無慈悲にもそれを振り下ろす。

 

 

「見つけたぞ、ワーム!」

 

 

殺さない程度に男を痛めつけていたベルクリケタスワームが男にトドメを刺そうとした瞬間、丁度その場へと着いた亨夜がそう叫び右手を振り上げ、

 

 

「来い、ガタックゼクター!」

 

 

ガタックゼクターを呼び出す。右手に収まったそれを振り上げ、ベルトのバックル部分へと近付けていく。

 

 

「変身」

《HEN-SHIN》

 

 

亨夜の身体を蒼い装甲が包んでいき、《仮面ライダーガタック マスクドフォーム》へとその姿を変える。

 

 

「邪魔すんじゃねぇ!」

 

 

襲いかかってくるベルクリケタスワームに対してガタックは更にガタックエクステンダーを加速させ、そのまま跳ね飛ばす。

 

 

「く、くそ!」

 

 

「待て、逃がすか!!!」

 

 

二流の悪役の捨て台詞とでも言う様な台詞を残してクロックアップを利用して逃げ出していくベルクリケタスワームを追い掛ける為に《キャストオフ》しようとした時、別のワーム、ホタルをイメージさせるランビリスワームが亨夜の前に姿をあらわす。

 

 

(チッ、余計な邪魔が入ったか。まあいい…せめてお前だけでも始末させてもらう。)

 

 

心の中で舌打ちしつつ、そう考えベルトのガタックゼクターのゼクターホーンへと指をかける。

 

 

「キャスト・オフ!」

《CHAST OFF》

 

 

素早く、ガタックゼクターのホーンにふれ、全身の装甲を分離させ、《仮面ライダーガタック ライダーフォーム》へと変身する。

 

 

 

 

《Change StagBeetle》

 

 

 

 

ガタックがライダーフォームへと変身し、両肩のガタックダブルカリバーを手に取った瞬間、ランビリスワームの全身が発光し始める。

 

 

「なんだ?」

 

 

その眩しさに思わず目を覆ってしまう。そして、再び目を開けた瞬間、

 

 

「うそだろう…?」

 

 

ガタックの周囲を取り囲んでいたのはランビリスワームの大群だった。しかも、個々の固体に外見上の変化は全く存在しておらず、全く同じ固体が複数存在していたのだ。

 

 

「チッ!」

 

 

舌打ちして一斉に襲いかかってくるランビリスワーム達を迎え撃つべくガタックダブルカリバーを振るう。

 

 

先ずは正面に居るランビリスワームの身体に『×』を描く様に切り裂き、横から襲いかかってくるランビリスワームの身体を蹴り、後ろに下がらせ後方のランビリスワームへと肘打ちを打ち込む。

 

 

(手応えは有る…幻って訳じゃないな。でも、どう言う事だ…? 奴ら、なんでクロックアップしてこない?)

 

 

両腕に有る確かに手応えが周囲にいる大群のランビリスワームが確かに実態を持っていると認識させる。だが、それ以上に…何故、奴等はクロックアップをしてこないのか? そんな疑問が浮かんでくる。

 

 

(…考えるだけ無駄か。纏めて一掃する。)

 

 

ランビリスワームの攻撃を避けながら、ガタックはゼクターのボタンを連続で押していく。

 

 

 

 

《1》《2》《3》

 

 

 

 

そして、反対側に倒れていたゼクターホーンを元の位置へと戻し、再び倒す。

 

 

「ライダーキック。」

《Rider Kick》

 

 

電子音が響くと同時に頭部のガタックホーンから、右足へとエネルギーが流れて行く。

 

 

「破ァ!!!」

 

 

正面にいるランビリスワームへと飛び蹴りを叩き込み、その反動を利用して無理矢理軌道を変えて、回し蹴りへと変える。

 

 

ガタックのライダーキックが周囲を取り囲んでいるランビリスワームを薙ぎ払った瞬間、ランビリスワームの姿が揺らぎ、サナギ体のワーム『サリス』へとその姿を変えて爆散していく。

 

 

「…幻術か…。つまり、オレは態々、サナギ如きに無駄な時間を取らされた訳か? 糞!!!」

 

 

怒りに任せて壁に拳を叩きつけた瞬間、襲われた男にまだ息が有る事に気がついた。

 

 

「……まだ息が有るか…。」

 

 

実際、ワームの行動パターンは解っていない。擬態した相手の知り合いを襲っている様だが、手かがりと言えばその程度なのだ。そして、目の前には…先ほどまで襲われた男がまだ生きている。彼に聞けば有力な情報が手に入るのではないかと考える。

 

 

「…今は情報を仕入れた方が良さそうだな。」

 

 

ガタックは男に近づいていくと、そのまま変身を解き、ポケットの中から携帯電話を取り出して電話を掛ける。

 

 

「…田所さん、亨夜です。ワームには逃げられましたけど、襲われていた男にはまだ息が有ります。あのワームについて、貴重な情報を手に入れる好機(チャンス)を逃す手は無いので、処置をお願いします。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

龍牙SIDE

 

 

「…ありがとう…助けてくれて…。」

 

 

微かに微笑を浮かべながら夕美はそう呟いた。

 

 

「…気にするな、オレがしたくてした事だ。」

 

 

「…でも、ありがとう。私に優しくしてくれる人なんて…居なかったから…。私のお父さんとお母さんも渋谷隕石に死んじゃったから…。それから、親戚に引き取られて…そこでも、冷たくされてて…学校でも虐められてたの…。」

 

 

「ッ!? ………。」

 

 

表情にこそ浮かべていなかったが、龍牙は思わず驚いてしまった。彼女も自分と同じく、渋谷隕石によって両親を失っている事に…。だが、考えて見れば当然だろう…あの災害では多くの人々が命を落としているのだ。

 

 

龍牙は搾り出すような夕美の言葉を黙って聞いていく。

 

 

「…実は…自殺しようとしたのはこれが最初じゃないんだ…。何度も、手首を切った事も有るけど、何時も手当てが間に合って死ねなかった。…助けてくれた叔父さん達なんて言ってたか分かる? 『世間体が悪くなるから、勝手に死ぬな』だって、『世間体を気にしてお前を引き取ったけど、引き取るんじゃなかった』だって…。」

 

 

「…勝手な話しだな…。」

 

 

「うん。今は高校に入学して離れて暮らしてるけど…。今度は学校でも虐められてて………誰かに優しくされたのって、これが始めてなんだ。だから…ありがとう。」

 

 

「…兄さんが言っていた『優しさに理由は要らない。誰かを助けるのに理由は要らない。』ってな。」

 

 

「…うん…。ねぇ…龍牙のお兄さんってどんな人…?」

 

 

夕美の言葉に視線を天井へと向ける。

 

 

「…兄さんはオレの本当の兄さんじゃない。渋谷隕石の一件で両親が居なくなったオレを引き取ってくれた人だ。一言で言えば…兄さんは立派な人さ…尊敬している…誰よりも…。…それで…もう遅いし、家まで送っていくけど…?」

 

 

「ありがとう、龍牙。」

 

 

そう言って彼女が立ちあがった時、彼女のポケットから一枚のカード状の何かが落ちた事に気がついた。

 

 

「…病院の…?」

 

 

「うん。…定期的にカウンセラーの先生に見てもらう事が…叔父さん達から『勝手に死なないように』って出された一人暮しの条件だから…。それで、明日行く事になってるの。」

 

 

儚げな笑顔を浮かべながら答える夕美に龍牙は少しだけ安心する。以前の自分がそうだったように…かつての兄のように傷ついた人を支えたいと思う。

 

 

「…そうか。またワームに襲われない様に明日も送っていこうか?」

 

 

「…ありがとう…龍牙。」

 

 

「それで…場所は…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

亨夜SIDE

 

 

自宅、夕食後、亨夜は自室の机の上に広げた資料に目を通していく。

 

 

「…事故死…? いや、死亡が確認されたのは、病院か…? ワームがあの男に擬態した経緯から…行動が解ればいいと思ったけど、ちょっと難しそうだな。やっぱり、有力な情報は助けた被害者か…。」

 

 

そう結論付け、亨夜は読み終わった資料を封筒へと戻し鞄へと仕舞う。その中で一枚の資料に目が止まる。

 

 

「…あの男が運び込まれた病院…たしか…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「平坂総合病院か…。」」

 

 

奇しくも全く違う場所で同じ時、示し合わせたのでもないのに龍牙と亨夜…二人の戦士の声が重なったのだ。

 

 

結びつく点と線…二人の戦士の宿命の糸は更なる関係者を巻き込みながらここに交わろうとしている。

 



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第四話

龍牙SIDE

 

 

「…………。亮也、何の用だ?」

 

 

放課後の時間帯、龍牙は自分へと妙な視線を向けてきている亮也へと視線を向けそう言い切る。

 

 

「いや、お前…昨日、女の子と一緒にいたよな~…って、思ってな。」

 

 

「…どう言う…って、見てたのか!?」

 

 

『どう言う意味だ?』と聞き返しそうになった時、亮也の言葉に思い浮かぶ物が有って、逆にそう言って(素直に答えて)しまう龍牙で有った。

 

 

「ああ、思いっきり。」

 

 

さて、昨日夕美に会った時の事と、今の亮也の言葉を重ねて考え居るとある結論へと到達する。

 

 

「…おい、亮也…。お前、近くに居たなら手伝え。」

 

 

学校と言う場所も有り、周囲を気にしながら、最後に小声で『お前も一応、ゼクターの資格者なんだからな』と付け加えておく。

 

 

「なんだ…ワームでも出たのか?」

 

 

「…お前、昨日の事、何処から見てて何処から見てないんだ?」

 

 

「いや、オレは夕方頃お前が女の子と一緒に歩いているのを見ただけだ。って、その様子だと…本当に出た訳だな。」

 

 

「ああ。」

 

 

亮也の言葉へと即答する。実際、夕美を助けた時から見ていたのかと予想したのだが、結局は帰りに彼女を送っていった時の所からしか見ていなかった様だ。

 

 

「…悪かったな、手を貸せなくて。」

 

 

「気にするな。そんな事より、昨日はワームより厄介な奴に会った。」

 

 

「ワームより?」

 

 

「ZECT所属のライダー…『ガタック』とだ。オレに『ZECTに入れ』だそうだ。」

 

 

「…ZECTのライダーか…? 確かに、下手すればワームより厄介だな。それに『ガタック』って、お前の兄さんが言ってた…『ゼクター五号機』の事だよな?」

 

 

「ああ。それに連中はまだお前の事には気付いていない様だ。悪いが、暫くの間、お前は目立たない様になるべく変身しないで貰えるか?」

 

 

龍牙の言葉に亮也は何処か面白そうな笑みを浮かべる。

 

 

「へー…って事はお前は大きく動くつもりなのか?」

 

 

「ああ。先日の彼女を襲ったワーム…奴の狙いが偶然なのか、意図的なのか…少し、調べて見ようと思ってな。」

 

 

偶然でないのなら、別のワームにも狙われる危険性が有る上に、彼女の周辺の人間がワームと入れ代わっている可能性もある。彼女の安全の為にその辺の調査は確りとしておくべきと言う考えへと至った。

 

 

「おいおい、いいのか?」

 

 

「今更そんな事、気にしてもしょうがないだろう、こっちはもう連中に目を付けられてるんだ。」

 

 

そう、自分達にして見れば現状で正体を知られていない亮也の存在は、『ZECT』に対して有効な手札で有り、使い所を間違わなければ、効果的なカードとなる。

 

 

故に相手に気取られない為に、亮也の存在は暫くの間はZECTに対して隠し続ける必要が有る。自分を含めて、此方には相棒である亮也以外には手札はないのだから、使い所を間違える訳には行かない。

 

 

それに対して既に存在を知られている自分は自由に動く事が出きる。だから、今回の一件は自分だけで行動すべきと考えての結果だ。

 

 

「まあ、オレの手が必要な時は何時でも言ってくれよ、龍牙。」

 

 

「ああ、その時は遠慮しない。」

 

 

そう告げて龍牙は鞄を持って教室を後にしようとする。

 

 

「それで、今日はどうするんだ?」

 

 

「ああ、夕美と約束してな…。」

 

 

龍牙のその言葉を聞くと亮也は楽しそうな笑みを浮かべる。………それはもう、心の底から楽しそうに。

 

 

「へー…約束ねぇ。しかも、もう名前で呼ぶなんて…。」

 

 

「っ!? ちょっと待て、亮也!!! それはどう言う意味だ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

亨夜SIDE

 

 

「なるほど…つまり、あのワームの目的は擬態した相手の復讐…。つーか、擬態主の生前の恨みに支配されたって訳ですか? 決まりました、今回確保した被害者囮にして、あのワームがまた出て来た所でさっさと始末しましょう。」

 

 

報告書を読みながらあっさりとそう結論付ける。実際、今回の被害者達相手では同情所か、助け様と言う意欲さえも浮かんでこない。

 

 

「ちょ、ちょっと、亨夜くん。」

 

 

「…喧嘩で袋叩きにして死んだと思って河に捨てて…。何処で擬態されたかは知らないですけど、そんな連中が殺された所で心は痛みません。寧ろ、始めてワームに味方したい気分になりました。喧嘩になった経緯なんて知りたくないですし。」

 

 

基本的に過去の影響からか、『ZECT』の中でもワームに対する敵愾心(てきがいしん)が強い亨夜では有るが、それ以上に亨夜に有るのは『復讐心』の三文字のみ。ただ…今回はワームの行動原理も恨みなのだ。

 

 

(…強い恨み…それも直接の死因になったんだからな…。…だけど、それなら余計に分からない事が有る。)

 

 

そう、亨夜の中に生まれた疑問…それは今回のワームが男に擬態した場所である。今回確保した被害者からワームが擬態した人間の事が分かり、その男の事がある程度分かったのだが…問題はそこなのだ。

 

 

(…今分かっている最後の足取りは病院か…。退院してからの足取りは不明…。バカらしい…敵の狙いが分かったんだ、奴らが何処で擬態したかなんて考える意味はない。)「確か、今回狙われている人間には最後の一人がいましたね?」

 

 

「ええ、でも、それはまだ調査中で…。」

 

 

「解りました。では、結果が出たら連絡を下さい。」

 

 

亨夜がそう言って帰ろうとした時、部屋のドアを開けて黒いスーツの男性が入ってくる。

 

 

「二人共、今、警察から連絡が有って最後の一人の居場所がわかった。」

 

 

「田所さん、本当ですか?」

 

 

「ああ。だが、警察が保護に向かった時には、部屋には誰も居なかったようだ。」

 

 

「………。まさか、もうワームに…?」

 

 

田所の言葉に少しだけ考え込むと考えられる可能性をあげて見る。

 

 

「いや、部屋から荷物が持ち出されていた事や形跡から考えて、自分の意思で出て行った様だ。荒谷、悪いが至急現場に向かって貰えるか?」

 

 

「解りました。…ただ、遅くなりそうなので、自宅の方に連絡したいので、少々時間を頂けますか?」

 

 

「ああ。その間に此方もマシンの方を用意しておく。」

 

 

「解りました。」

 

 

亨夜は田所の言葉に返事を返して、ポケットの中から携帯電話を取り出し、ヘルメットを持って部屋から出ていく。彼の背中をガタックゼクターが追いかけて飛んでいく。

 

 

(…あのワーム…今度こそ、逃がすか…。)

 

 

表面的には冷静だが、内心怒りで気が狂いそうなほど亨夜は苛立っていた。

 

 

それもそのはずだ。現在追っている一体目のワームには逃げられ、後から現れたニ体目のワームには幻覚を見せられて逃してしまったのだ。結局、倒したのは必殺技を使っていながらサナギ体のワーム数匹と言ったレベル。今までの彼の成果から考えれば少ないとしか言いようがないだろう。

 

 

(…今回の奴らも違う…『奴』じゃない。)

 

 

自分の母と妹を殺し妹の姿に擬態したワームの姿は幼い日の記憶とは言え確りと記憶に残っている。先日見た二匹のワーム達はそのどちらも自分の記憶の中に有るワームとは一致しない。だが、

 

 

(…だけどな…お前達にはオレの『糧』になってもらう…。)

 

 

全ては家族を殺したワームをこの手で倒す為…その為の『過程』なのだと思えば思うほど、その苛立ちは大きくなってしまう。自分にはこんな所で脚踏みをしている暇など無いのだから。

 

 

通路の壁に背中を預け、携帯電話の番号を押していく。

 

 

「…もしもし、ああ、美由紀。今日はバイトで少し遅くなりそうだから…夕飯? 悪いけど、爺ちゃんと先に食べててくれ、多分、間に合いそうもないから。」

 

 

亨夜は自身の心を覆っていた仮面を外して言葉を繋いでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE OUT

 

 

ガタックエクステンダーを走らせながら、亨夜は頭の中に出る前に見せられていた地図を思い浮かべる。一人はZECTに保護された今、ワームの最後のターゲットとなっているであろう男の自宅の位置。既に男が逃げ出している以上そこに行っても意味はないだろうが…。

 

 

(やれやれ、条件はワームと同じだろうけどな、お互いに居場所も解らない人間を探すなんて…どう考えても向こうが有利だろう。せめて、スタート地点にはたどり着かないとな。)

 

 

要は砂場に落した一本の針を探すような物。それでも手掛かりがないとは言え、今は探すしかない。実際、その男が犠牲になってしまったら、次は自分達が保護した男を囮にするしかないのだ。…亨夜としては別にそれでもいいと考えているのだが。

 

 

「…向こうが事を起してくれれば楽なんだろうけどな。」

 

 

そんな物騒な事を考えながら、そう呟き亨夜は僅かにガタックエクステンダーのスピードを上げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、危ない奴だな。」

 

 

猛スピードで走るバイクを見送りながら、カブトエクステンダーの上で龍牙は呆れた様にそう呟く。今は夕美を病院から自宅まで送った帰り道なので今は彼一人なのだ。

 

 

「っ!? ワーム?」

 

 

次に彼の視界の中に飛び込んできたのはバイクに乗って疾走しているベルクリケタスワームの姿だった。

 

 

「…やれやれ…目の前にワームが居るのに見逃す手はないな。」

 

 

カブトエクステンダーを反転させ、龍牙は空へと向かって手を伸ばす。

 

 

「来い、カブトゼクター!」

 

 

虚空より飛来してきたカブトゼクターを受け止め、それを素早くベルトのバックル部分へと指し込む。

 

 

「変身!!!」

《HEN-SHIN》

 

 

龍牙の力を与える言霊ともにカブトゼクターの電子音が響き、龍牙の全身を銀色の装甲が包み込み、彼の姿を《仮面ライダーカブト マスクドフォーム》へと変えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

『亨夜くん、ワームの姿が確認されたわ。ワームの目的の男性も逃走中だけど…。』

 

 

「っ!? やっぱり、先を越されたか。それで…場所は?」

 

 

停車させたガタックエクステンダーの上でワーム発見の連絡を聞き、亨夜はそんな感想を洩らす。だが、それはまだ想定内での事、ワームに先を越されると言うのは有る意味、当然の結果なのだ。

 

 

「それで…ワームの位置は?」

 

 

『E地区を南に移動中よ。』

 

 

「解りました。オレの位置なら頭を押さえられるはずです。」

 

 

そう答えると電話を切り、右手を虚空へと伸ばす。

 

 

「行くぞ、ガタックゼクター!!!」

 

 

虚空から現れるガタックゼクターを掴み取り、彼はベルトへとガタックゼクターを指し込む。

 

 

「変身!!!」

《HEN-SHIN》

 

 

亨夜の体を青い装甲が包み込み、彼の姿を青い重厚な装甲が包む《仮面ライダーガタック マスクドフォーム》へと変える。

 

 

「やっと見つけたぞ…ワーム。」

 

 

ガタックのマスクの向こう側で邪悪な笑みを浮かべながら、亨夜はそう呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁぁぁぁあ!!!」

 

 

男の乗っていたバイクが倒れ、男がバイクから振り落とされ、壁へ激突したバイクからはガソリンが洩れる。

 

 

「ひぃ、ひぃ…ま、待ってくれ。」

 

 

自分に近づいてくるベルクリケタスワームに対して命乞いをする様に怯えてた様子を見せるが、ベルクリケタスワームはそれに構わず、近づいていく。

 

 

「ま、待ってくれオレはやりたくてやった訳じゃ…うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

命乞いの言葉を繋げていく間に事故を起したバイクから飛び散る火花が洩れていたガソリンへと引火し、男が炎に包まれる。

 

 

「あと一人…。」

 

 

そう呟き、ベルクリケタスワームが立ち去ろうとした時、バイクのエンジン音と共に猛スピードで迫ってきたガタックエクステンダーがベルクリケタスワームを跳ね飛ばす。

 

 

「ぐ…お前…また邪魔を…。」

 

 

「今度は逃がさねえよ、害虫(ワーム)。」

 

 

ガタックエクステンダーを止めそう宣言し、ガタックエクステンダーから降りる。

 

 

ガタックがマスクドフォームからライダーフォームへとキャスト・オフしようとして、ゼクターに触れた時、何処に隠れていたのか、新たにベルクリタスワームを助ける様にランビリスワームと数匹のサナギ体のワームがその姿を表す。

 

 

「またか。」

 

 

「おい、お前…亨夜だったか?」

 

 

背中へと掛けられた声に気がつき、後を振りかえると後にはゆっくりと近づいてくるカブトの姿が有った。

 

 

「カブト。」

 

 

「随分と大変そうだな、手助けはいるか?」

 

 

「チッ! 確かに確実に奴らを倒したい…手を貸せ。」

 

 

「…任せろ。」

 

 

優先すべきはワームの撃退と結論付け、共闘を決めたカブトとガタック…二人の仮面ライダー達がゼクターのホーンに触れ、逆の方へと移動させる。

 

 

「「キャスト・オフ。」」

 

 

 

 

()()()()() ()()()()

 

 

 

 

その瞬間、全身を包んでいた装甲が浮き上がり、全身を覆っていた装甲が弾け飛ぶ。

 

 

赤と青を主体としたボディ…頭部の仮面には瞳の様に青と赤の染められたカメラ部分を持った二人の仮面ライダーの昆虫を思わせる『カブトホーン』と『ガタックホーン』が定位置へと移動する。

 

 

 

 

《Change Beetle》

《Change StagBeetle》

 

 

 

 

同時に電子音が響き渡り、重厚なマスクドフォームからライダーフォームへと姿を変えた二人の仮面ライダーがその姿をあらわした。

 

 

それと同時にニ体の成体となったワーム達が力を溜めるような動作をし、それを確認した二人のライダー達も腰のベルトへと手を伸ばす。

 

 

「手前の方を頼む。奥のはオレが始末する。」

 

 

「解った。」

 

 

 

 

()()()()()() ()()()

 

 

 

 

電子音が響き渡り、ニ体の成体のワームと二人のライダーが加速状態に入った瞬間、サナギワーム達は通常の体感時間では一瞬で…爆散していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

ランビリスワームの攻撃を捌きながら、カブトは逆にカウンターを一つ一つ正確に叩き込んでいく。

 

 

「………。」

 

 

カブトの一撃によって吹き飛ばされ、倒れたランビリスワームが立ち上がった瞬間、ランビリスワームの全身が発光する。

 

 

「なんだ?」

 

 

その光を直視したカブトは思わず目を覆ってしまう。そして、目を開いていくとまったく同一の姿形・体色をした無数のランビリスワームが存在していた。

 

 

(…同一固体…? いや、違う…これは…。)「幻覚か? 厄介な能力だな。」

 

 

周囲を囲むランビリスワームを一瞥し、カブトはそう呟き、ランビリスワーム達を迎え撃つべくランビリスワームの群の中へと飛び込んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

「破ァァァァァァァァ!!!」

 

 

ガタックのラッシュがベルクリタスワームの体へと叩き込まれていく。

 

 

「がぁ。」

 

 

「せい!!!」

 

 

素早く肩から片方のガタックダブルカリバーを抜き放ち、ベルクリタスワームへと斬撃を浴びせる。

 

 

「な、なんでお前は邪魔するんだよ?」

 

 

「…………。」

 

 

ヨロヨロとした足取りで立ちあがりながら、ベルクリタスワームはガタックへと向かって喋り出す。

 

 

「あいつ等は、オレとあいつを殺したのに、何で奴らばかり…。」

 

 

(ああ…こいつは…。)「黙れよ、化け物。」

 

 

その言葉で『復讐者』は全てを理解する。目の前のワームもまた自分と同じ理由でこんな事を続けていたのだと。だが、ベルクリタスワームの言葉を切り捨てるように宣言された言葉が突き付けられる。

 

 

「借り物の記憶で咆えるなよ。仇だろうが復讐だろうが、それは全部お前には何の関係もない事だ。お前にそんな『復讐』の権利は無いんだよ、『化け物』。」

 

 

残すガタックは残されたガタックダブルカリバーを抜き、ベルクリタスワームとの距離を詰める。

 

 

「…うるせぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええ!!!」

 

 

「どうしても復讐したいなら、オレを倒してでもするんだな、化け物が!!!」

 

 

両腕を弾くように振り上げられたガタックダブルカリバーがベルクリタスワームのガードを弾き、無防備な体へと斬撃が次々に叩き込まれていく。

 

 

「返してもらうぜ…お前が奪った…『記憶』を。」

 

 

そう呟き、ガタックは『プラスカリバー』『マイナスカリバー』の二本を交差させ、鋏のような状態へと変える。

 

 

 

 

《Rider Cutting》

 

 

 

 

電子音が響き渡ったと同時にベルクリタスワームの体を挟み上げ、ベルクリタスワームの体を上空へと持ち上げる。

 

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!」

 

 

ベルクリタスワームの絶叫と共にベルクリタスワームの体は爆散する。

 

 

 

 

《Clock Over》

 

 

 

 

クロックアップの終了を告げる電子音が響き渡り、周囲の時が動き出していく。

 

 

「…醜いな…。これが復讐者の末路の一つか。」

 

 

自嘲する様にガタックはそう呟く。

 

 

「………これも…オレを待っている未来か。…………どうでもいい、オレにはそれ(復讐)以外の未来なんて…必要無いんだからな。」

 

 

憎悪をこめた瞳で今までベルクリタスワームが存在していた場所を一瞥するとそれ以上は何も無いとばかりにそこから立ち去っていく。

 

 

 

 

 

 

ランビリスワームの幻影を逆手に持ったクナイガンで切り裂いていく。ガタックへやったようにサナギのワームに自分の幻影を与えると言う戦法はクロックアップした状態では出来ないようであり、幻影もたった一撃で消え去る程度の物であったのだが…。

 

 

「…逃げられたか…。」

 

 

全てのランビリスワームの幻影を切り裂いた瞬間、既にその場に残っていたのはカブトだけであった。倒した手応えは無い…故に逃げられたと考える。

 

 

「やれやれ…あの程度の幻影で逃げられるなんて…オレも未熟だな。ん?」

 

 

周囲に視線を向けてみると、空中に浮いている一枚の紙に気がついた。その瞬間、

 

 

 

 

《Clock Over》

 

 

 

 

クロックアップの終了を告げる電子音が響くと同時に停止していた時が動き出し、浮いていた紙は地面へと落ちる。

 

 

「…あのワームの落し物か?」

 

 

そう言って落ちていた紙を拾い上げる。

 

 

「…診察券だって? それも…『平坂総合病院』の…。」

 

 

何故、こんな所にそんな物が落ちているのかと言う疑問が沸いてくる。そもそも、つい先日ワームに狙われた夕美もこの病院にカウンセリングを受けに行っていた。妙にここ最近のワームの動きにこの病院の名前が出てくるのか疑問に思ってしまう。

 

 

(…まだ二度目だ…単なる偶然という可能性も有る。)

 

 

「おい、龍牙。」

 

 

思考の中に意識を向けているカブトへガタックの声が届く。

 

 

「もう一匹のワームはどうした?」

 

 

「残念ながら逃げられた。奴の幻術は厄介だ、お前も気を付けるといい。」

 

 

「…そんな事はわかっている。」

 

 

「…お前も逃げられたのか…。」

 

 

「っ!? うるさい!!!」

 

 

図星を刺されて感情を露にするガタックへと先ほど手に入れた診察券を投げ渡す。

 

 

「これは?」

 

 

「ワームの落し物の可能性が高い。お前にも教えておこうと思ってな。」

 

 

受け止めた診察券へと視線を向けるガタックに対して背中を向けて手を振りながらカブトはその場を立ち去ろうとする。だが、

 

 

「…またこの病院の名前が…。」

 

 

ガタックの呟きが聞こえてくると一瞬だけ動きを止める。ガタックの言葉から推測すると、彼もまたあの病院の名前に心当たりが有るようだと推測できる。

 

 

(…これで三度目。どうやら、偶然じゃないみたいだな。…やっぱり、あの病院の事を、少し調べて見る必要もありそうだな。)

 

 

心の中でそう呟きながら、カブトはその場を立ち去っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び出会った英雄と復讐者、肩を並べ戦うその様、赤き太陽と蒼月の如きその姿、この時の共闘は彼らの未来に何を与えるのか?

 

 

 

 

 

 

つづく…

 

 



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