リゾット・ネエロなベル君 (くらえ『メタリカ』ッ!)
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覚悟ガンギマリなベル君
主人公に他作品のキャラが憑依する系の作品が好きなんじゃ…。
誰かベル君がリゾットの服を着ている絵を描いてくれ!(見てみたい)
遠い昔、刺激を求めて下界に降りてきた神が与えた恩恵によって、冒険者はモンスターと戦えるようになった。
しかし、今ここに
迷宮都市―オラリオ。
この街には、神々が住んでいると言われるバベルという巨塔の真下にダンジョンが存在する。多くの冒険者がその胸に様々な期待を抱いて日々ダンジョンへと向かう。
ランクアップを目指してダンジョンに潜る冒険者もいれば、金を稼ぐためにダンジョンに潜る冒険者もいる。そしてダンジョンから帰ってきた冒険者たちは、酒場で仲間と共に酒を飲み交わしたり、ファミリアのホームに戻って神やファミリアのメンバーと団欒を楽しんだりする。
冒険者1人1人に様々な物語があり、またこれからもその物語を紡いでいくのだろう。
これからの話はそんな冒険者の1人であり、
5階層―
―ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド―
「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」
「……これはミノタウロスか…。」
インナーの上に前面にクロス状のベルトのようなものが付いた黒ジャケットを羽織り、パンツは白と黒のボーダー、頭部にはフードのような黒い帽子といった独特な服装をしている少年は、自分の何倍もの大きさのモンスターと対峙していた。
モンスターの名はミノタウロス。通常であればミノタウロスは中層で現れるモンスターであり、討伐にはレベル2以上であることが必須条件とされるモンスターである。決してレベル1である冒険者が倒せるようなモンスターではない…そう
中層で現れるはずのミノタウロスが上層である5階層に現れるという
白い髪と真っ赤な目という兎を連想させるような見た目からは想像できないようなプレッシャーを放っている少年の名は、ベル・クラネル。
ヘスティア・ファミリア唯一の眷属である。
「ミノタウロスは上層には現れないと思っていたが…。」
「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」
「フッ!!」
「ヴォッ!?」
ベルはナイフを数本取り出し、自分を殺そうと近づいてくるミノタウロスの足元と胴体に向かって牽制目的で放り投げたが、まるで何かを警戒しているかのようにミノタウロスはそれをかわした。…普通なら大した傷にもならないはずの安物のナイフをだ。
ベルの放つプレッシャーがミノタウロスの警戒心をあおり、回避という行動をとらせたのだ。
「このミノタウロスからは僕に対する殺意や警戒心に加えて、
「ヴォオオオオッ!!」
初級冒険者なら誰もが恐れ、萎縮してしまうような存在を目にしながらも、ベルは鋭い目つきでミノタウロスを観察しながら自分の見解を述べていく。逃げ出すこともなく、恐ろしいほど冷静にただそこに佇んでいた。
一方、ベルのプレッシャーに警戒していたミノタウロスだったが、今の一連の流れで目の前の冒険者が自分を倒しうる存在ではないと判断したのだろう。自分を追ってきている連中から逃げるためにも、できるだけ早く目の前の存在を排除しなければならないと判断し、ベルに向かって突撃する。
「レベル1である僕が
「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」
ベルはそこで初めて自然体の姿勢から、両手を頭の後ろにやり足を組んだような独特な立ち方に変え、ミノタウロスに向かって言った。
「だから…
「ッッ!!」
『
そのナイフやカミソリはミノタウロスの足をズタズタに切り裂き、ミノタウロスの突撃を強制的に中断させた。
「ヴォッ!?ヴォオオオオオ!?」
いきなり自分の足から出てきた物体を見て、何が起きているかわからず混乱するミノタウロス。
一方、ベルは
「興味はある……なぜ中層に出現するはずのミノタウロスが上層にいるのかという好奇心はな…。」
「ヴ…ヴォオオオオオ!!」
ミノタウロスは自分の足がズタズタに傷ついていながらもなおベルを排除しようと立ち上がろうとする。
「しかしのん気にもしていられない。確実に仕留める…確実に…。」
「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」
ミノタウロスはあたりに響き渡る大きさで叫びながら再びベルに向かって突撃する。その際に
「なるほど…ナイフを持っているとはいえ先ほどのように走って向かってくるということは…やはり魔法のような遠距離攻撃の手段を持っていないパワータイプのモンスターというわけか…。」
「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」
「それさえわかれば『
「ヴォオオオ!?」
ベルがそう呟くと、ミノタウロスの顔からナイフが次々飛び出しミノタウロスは痛みのあまりに叫んだ。その際に手に持っていたナイフを取り落としてしまうが、しかしミノタウロスは、痛みで足を止めることなくそのまま突撃する。このまま足を止めてしまったら自分は再起不能になってしまうと本能的に察したからだ。
しかし、その突撃もベルによって軽々とよけられてしまう。その後もミノタウロスはベルを攻撃しようとするが、ベルはその度にひらりとかわし自分の目算した1~2M以上の距離を保っていた。
「ヴォオオオ…」
「ヴォッ……ヴォッ……?」
今までベルに注視していたため気が付かなかったが、ミノタウロスは流れる血が赤色から黄色へと変化しており、その息は倒れてしまうのではないかというほど上がっていることに気が付いた。
一体何故…とミノタウロスが自身の身体に起きた異変について考え始めたその時、ベルがちょうど口を開いた。
「気が付いたか…。しかしもう遅い…
その瞬間、ミノタウロスに向かって地面に落ちていた大量のナイフが飛んでいき、ミノタウロスの体に突き刺さった。ミノタウロスは身体を動かすことができず、すでに満身創痍である身体にナイフによる決定的なダメージを負ってしまった。
「ヴォォォォ…」
ミノタウロスは小さな断末魔を上げ、魔石を残して消滅した。
ベルの能力『メタリカ』。その能力は『磁力を操る』というものであり、磁力を操って相手の血液中の鉄分を刃物などに作り替えて体内から攻撃する・鉄分を身にまとって背景と同化する・刃物などを操作するといったことを行うことができる。
相手の鉄分を使って攻撃しているため、酸素を身体の隅々まで運ぶ役目を持つ鉄分を失わせることができる。血が赤いのは鉄分の色だからであるため、鉄分を失うと血が黄色になる上に酸素が体中に行き渡らなくなるのだ。酸素が足りなくて息が荒くなっていたとしても、鉄分が抜かれているため酸素が全く体内に取り込まれないという恐ろしい状況が出来上がる。今回ミノタウロスが陥っていた症状はそれだ。
ベルは物心ついた頃からこの能力を持っていた。ある日、ベルは眺めていたカエルからカミソリが突き破って出てきた様を見て、驚愕して村の人間に助けを求めた。しかし駆けつけてきた村の人間が調べても原因がわからず、村の人間はベルに怖いことは忘れるように言ったが、そのことはベルの脳内にいつまでも残っていた。
それからしばらくたった時、ベルは遊んでいた森の中でモンスターに出会い、腕を切断されてしまった。ベルは痛みをこらえながら逃げようとして、ふと自分の腕を見た時断面に微生物のような存在がいることに気がついた。そのことに驚愕していると、ベルの切断された腕はひとりでに浮いてベルの方まで飛んできて彼の切断面とくっついたのだ。そこからは何があったのか覚えていない。気が付けば義祖父に抱えられていて、モンスターはカミソリが全身から飛び出たようになって死んでいた。ベルの腕も何事もなかったようにくっついていた。
かつての現象が自分が起こしたものだったと知ったベルはそのことにひどく悩むことになった。モンスターに襲われたときに見えた微生物のような存在は自分にしか見えず、村の人間は決して見ることはできなかったということもベルが悩む一因となっていた。彼は自分が他の人と
恐ろしい惨状を作り出すことのできるこの能力をベルは恐れ、嫌っていた。明るかった性格はだんだん擦れたものになり、村の人間も自分たちとは異なった雰囲気を持つベルのことを遠巻きに見るようになっていた。自分は英雄譚に登場する悪側の存在なのではないかと自己嫌悪に陥り、好んでいた英雄譚でさえも嫌いになりそうになった時、義祖父は言った。
「力というのは使い方によって善にも悪にもなる。英雄譚に登場する英雄も強大な力を持っているが、その力を悪のために使ったことがあったか?要は心のあり方が一番大切なんじゃ。それを忘れるな、ベルよ。どんな力を持っていたとしてもベルはベルじゃ。わしの愛する孫じゃよ。」
そう言ってベルを抱きしめ、ベルの全てを肯定してくれた義祖父がとても輝いて見えた。いつも女遊びにかまけていてだらしがないと思っていた義祖父とは違っていた。言葉1つでこんなにも勇気づけられるものなのかと感激した。義祖父はベルの言う『能力』を否定せず、彼はベルの疎外感をどうにかして無くそうと努めてくれたのだ。ベルの性格は達観したものから変わることはなかったが、それからのベルは村の人間とも打ち解けるようになり、充実した生活を送ることができるようになっていった。
もしもこの時ベルの悩みを真摯に受け止め、相談に乗ってくれる存在がいなかったのなら、ベルは今頃悪側の存在に落ちていただろう。狭まっていた自分の視界を切り開いてくれたのは、義祖父であった。
憧れ、尊敬する存在となった義祖父が自分に話してくれる英雄になろうと決意したのはその時だった。ベルはその日から自分の能力を自在に操れるように努力し、体を鍛えるようになった。自分の能力の性質上、英雄譚に出てくる英雄たちのように華麗に人々を助けることはおそらくできないだろう。しかし、それでも自分なりに人々を助けたいとベルは強く思った。英雄に憧れていることを宣言することはなく、心に秘めているだけであったが、義祖父は気づいていたのか優しく彼の修業を見守ってくれていた。
能力に悩むベルに対してベルの能力を肯定していた義祖父であったが、彼はベルに決して『つらい道を歩ませまい』という厳しい態度をとっていた。ベルが望むのなら、能力を使うことなく商人や一般人として暮らさせることも彼は計画していた。
しかし、あの日抱いたベルの気持ちを止めることはできない…彼の中に生きるための目的が見えたのだ…。
こうして少年―ベル・クラネルは、成功して巨万の富を築いた商人にあこがれるよりも…『英雄』にあこがれるようになったのだ!
「あの子は一体…」
逃げたミノタウロスを追ってきていたロキ・ファミリアの一員であるアイズ・ヴァレンシュタインは、ベルとミノタウロスとの戦いの様子を見ていた。その目は驚愕で見開いており、アイズの『人形姫』という通り名を知っている人物がそれを見れば驚愕するだろう。
アイズの目の先にいる少年は、ミノタウロスを相手にして傷1つ負うことなく、ミノタウロスを圧倒していた。上層にいるということは初級冒険者であるはずなのだが、ミノタウロスを圧倒する様子はとても初級冒険者であるとは考えられなかった。
「凄い…あれは魔法…?」
ベルがミノタウロスに向かって大量のナイフを放つところを見て、アイズは再び驚愕した。長い間オラリオにいるが、あんな現象は見たことがなかったからだ。しかし、そう呟いておきながら
この時、確かにアイズはベルの戦いぶりに見惚れていた。
(見られているな…)
「……そこにいるのは誰だ?」
「あ…ごめんなさい…。」
ベルが魔石を拾いながら通路の物陰に問いかけると、物陰から金色の髪を持つ少女―アイズが現れた。
アイズはおずおずとした様子で謝りながらベルの様子をうかがっていた。
「何故謝る…?」
「あのミノタウロスは私たちが逃がしてしまったんです。」
「モンスターが逃げただって…?」
「はい…私たちも初めてのことだったので…。」
「事情は分かった……気にする必要はない。」
アイズが事情を説明した後に再び謝罪すると、ベルはその謝罪を受け取った。少しの間ベルと話したが、アイズは自分と同じぐらいベルも言葉数が少ないな…と思った。しかし、決して気まずいということはなく、不思議な雰囲気のまま時間が過ぎていった。
「あの…どうやってミノタウロスを…?」
少し経ってからアイズはミノタウロスの魔石が落ちていたあたりを見回して、ベルに問いかけた。すでにナイフやカミソリなどは消えており、何があったのかを把握することが困難だったからだ。
アイズがベルに姿を見せたのは、ミノタウロスが消滅してから少ししか経っていないが、ナイフは一本も見つけることはできず、ベルと話している間に確認できたのは地面にあるミノタウロスが流しただろう血の染みだけだった。
いつの間にナイフを収納したのだろうと疑問に思いつつも、ベルの戦いに見惚れていたことを自覚しているアイズは、ベルにミノタウロスを倒した方法を尋ねようとした。
他の冒険者のことを詮索するのはタブーであったが、強さを求めているアイズはベルに対して問いかけずにはいられなかった。
「……。」
「あ、待って…。せめて名前だけでも…。」
「…ベル…ベル・クラネル。」
「私はアイズ。アイズ・ヴァレンシュタイン。」
ベルは何も答えずに立ち去ろうとしたため、慌ててアイズはベルに名前を尋ねた。答えてくれないかもしれないとアイズは思ったが、少女に背を見せていたベルは立ち止まって答えてくれた。
この時アイズは同じぐらいの年齢であるベルから肌を突き刺すような『スゴ味』を感じた。ベルはアイズの名前を聞いた後すぐに立ち去ってしまったが、何故かアイズの胸に温かな風が吹いたような感じがした。
これが『スタンド使い』ベル・クラネルと『剣姫』アイズ・ヴァレンシュタインのファースト・コンタクトであった。
誤字脱字や説明で何か間違っている部分があれば、遠慮なく言ってください。喜びます。感想も喜びます。
散りばめすぎたジョジョネタ。全部気が付いた人は同士。
ちょっとベル君強くなりすぎちった…こんなんチーターやん!
この作品を読んで興味を持った人がいれば、単行本やリゾット・ネエロのフィギュア買ってもいいのよ…?
続か…ない(多分)。
誰かこんな感じの作品書いて(切実)。
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迷宮都市オラリオ
みんなジョジョクロス作品好きなことがわかって、これには筆者もにっこり。
ヘスティアとかアイズとか見てると、リゾットの格好が普通に見えてくるから不思議。…つまりリゾットの格好をしているベル君も普通の人ってことだね!
1話の誤字報告ありがとうございました。普通に冒険都市って書いて投稿してたヨ…。
ダンジョンから地上へと戻ったベルは、魔石の換金を行うためにゆっくりとした足取りである場所へ向かっていた。しばらく歩いていると、多くの冒険者が出入りしている大きな建物が見えてきた。その建物がベルの目的地である。
その建物―ギルドは、オラリオの都市運営をはじめ、冒険者および迷宮の管理、魔石の売買を司る機関である。ダンジョンから戻ってきたたいていの冒険者はまず最初にギルドへと向かう。その目的は、ベルのように魔石を交換するためであったり、ダンジョンで起こったことを報告するためであったりと様々である。
「あ、ベル君!」
「…エイナか。」
ギルドの中に入った途端、ベルに向かって声がかけられた。ベルがそちらへと顔を向けると、茶色い髪を肩口で切りそろえたハーフエルフの女性の姿がベルの視界に映った。
声をかけてきたのは、エイナ・チュール。彼女はギルドの受付嬢であり、ベルの担当アドバイザーも兼任している女性である。彼女は自分よりも年下のベルのことが余程心配なのか、街中で会った時など事あるごとにベルに声をかけてくる。ベル自身も言葉数が少ないだけで話すことがそこまで嫌いなわけではないため、良好な関係を築いている。
エイナに連れられたベルは、ギルド内の談話スペースのソファに座り、それを見たエイナもまた対面のソファに腰を下ろした。
「ベル君はダンジョンからの帰り?」
「…ああ、そうだ。」
「怪我は…無さそうだね。用は魔石の換金かな?」
「…ああ。」
「ベル君、私が伝えたことちゃんと守ってる?」
「……。」
「もう!また3階層よりも下まで潜ったの!?」
「……。」
「ベル君、意地悪を言っているように聞こえるかもしれないけど、私は君のことを心配しているの。パーティを組まずにソロでダンジョンに潜ってるだけでも危険なのに…。」
「…すまない。」
「まったく…。」
ベルの姿を見て怪我がないことに一安心したエイナは、ダンジョン探索ついて説明した際にベルに伝えた言いつけを守っているか確認する。そのことについて聞かれたベルが沈黙すると、エイナはベルが自分の言いつけを守っていないことを理解し、叱った。
エイナがベルを心配する理由はこれだ。ベルが怪我を負ったところを見たことがない以上、ベルなりに安全対策には気を使っているのだろうが、エイナはどうにもベルから目を離すことができなかった。
エイナがベルと初めて会った時から、ベルには『
寡黙であるがとても優しい少年で、基本的には他人の言うことを素直に聞いてくれるのだが、ダンジョン探索のことになると駄目だ。まるで世話の焼ける弟を見ているようだ…とエイナは人知れずため息をついた。
「エイナ…アイズ・ヴァレンシュタインのことを知っているか?」
「ヴァレンシュタイン氏?少しなら知ってるけど…一体どうして?…まさか、ベル君!」
「ダンジョンの中で少し話をしてな…少し気になっただけだ。」
ベルは思い出したように、エイナにアイズのことを聞いた。基本的に自分を高めることに集中しているベルは、
「と言っても私もそれほど多くは知らないんだけどね…。アイズ・ヴァレンシュタイン…ロキ・ファミリア所属で、現在のレベルは5。剣の腕はオラリオで1、2を争うとされ、授かった称号は『剣姫』。」
(『剣姫』…か。)
エイナからアイズのことを聞いたベルは、機会があったら話をしてみてもいいかもしれないと思った。
「…参考になった。感謝する。」
「全然気にしないで。私はベル君の担当アドバイザーだもん。もう帰るの?」
「…ああ。また来る。」
「ベル君、冒険者は冒険をしちゃいけないってこと忘れないようにね!」
「…覚えておく。」
「もう…!…じゃあ、またね。」
エイナから一通り
ベルはこの時ミノタウロスと遭遇し戦ったことを言わなかった。この後ロキ・ファミリアが報告するだろうと考え、言う必要がないと思ったからだ。…後に5階層でベルがミノタウロスと戦ったと聞いた時、エイナは卒倒した。
「お帰りぃぃぃ、ベル君ー!!」
「ヘスティアか…。…今、帰った。」
エイナとの会話の後、魔石を換金したベルは自分たちが住んでいるホームに帰った。ベルと主神が住んでいるホームは一見するとボロボロの教会なのだが、その地下に居住スペースが存在している。ベルがあらかた片づけたおかげで、ベルがここに初めて来た時と比べて居住スペースは見違えるほど奇麗になっていた。
ベルがホームの戸を開けると、奥からベルの主神―ヘスティアがベルに向かって走って抱き着いてきた。白一色の服装に青いリボンを胸元から背中までを囲んで二の腕で結ぶという独特な恰好に加え、髪をツインテールにしているヘスティアは、唯一の家族が帰ってきたことが嬉しかったのか満面の笑みを浮かべている。そう、ベルは神ヘスティアただ一人の眷属であり、ヘスティア・ファミリアの団長でもあるのだ。
「ベル君、ベル君!怪我は無いのかい?」
「ああ、特に怪我はしていない。」
「それなら良かったよ…。唯一の家族であるベル君に何かあったと思うと、ボクは胸が張り裂けそうになるんだ!」
「…世話をかけるな。」
「いやいや、ベル君がしたいことを制限するわけにもいかないし、ボクもアルバイトをしているとはいえ、ベル君はこのファミリアの稼ぎ頭だからねっ!」
「…そうか。…ヘスティア、今日の稼ぎだ。」
「おおう…。相変わらずベル君は凄いね。」
「買いかぶりすぎだ…。」
ベルの身体をペタペタと触って怪我の有無を確認したヘスティアは、安心したようにベルと会話を始める。ヘスティアは愛する眷属と話をすることが好きなのだ。
話の途中でベルは
その金額およそ10000ヴァリス。しかも、これが毎日である。
「そんなことないよ!ボクはベル君が眷属になってくれたことが本当に嬉しいし、誇りなんだ。」
「…そうか。」
「ベル君ッ!!」
「…落ち着け。」
ヘスティアがベルに自身の気持ちを伝えると、いつも寡黙で冷静なベルが少し照れ臭いのかそっぽを向いた。珍しさと嬉しさがあいまってヘスティアはベルに再び突撃した。
「それじゃあ、始めようか。」
「ああ…頼む。」
「任されたっ!」
ヘスティアがアルバイト先で貰ってきたじゃがまる君で夕飯を終えた後、ヘスティアはベッドの上で上半身半裸になったベルの上でまたがり、ステータスの更新を行おうとしていた。
ヘスティアは指先を針でつつき、
「ベル君…。…ステータスの伸びがいつもより著しいんだけど、今日ダンジョンで何かあったのかい?」
「…伝えるのを忘れていたな。5階層でミノタウロスと遭遇した。」
「ミ、ミノタウロスだって!?ベ、ベル君大丈夫だったのかい?」
「帰ってきたときにも確認しただろう…、特に怪我を負ってはいない。しかし、『メタリカ』を使わされた上に冒険者1人に見られた。」
「…!!…でも今回ばかりは仕方ないよ、ベル君。君が無事でよかった。見られた冒険者は誰かわかるかい?」
「ロキ・ファミリアのアイズ・ヴァレンシュタインだ。」
「よりによってロキのところか…!でもあいつなら…ううん…。」
先にも述べたように、ヘスティアはベルに『メタリカ』の使用を控えるように言っている。ベルの『メタリカ』は全知全能である自分も知らなかった特別な能力であるため、もしそれが他の神々に知られたならベルが付け狙われることは間違いない。
「すまない…。」
「大丈夫だってベル君。君の言う『メタリカ』そのものは見られてないんだろう?」
「ああ…。…その点は問題ない。」
「なら大丈夫だよ、ベル君。向こうも魔法かなんかだと勘違いしてくれているはずさっ!」
「…だといいが。」
「万が一があってもボクだけは君を守るよ。約束だ。」
「……。」
ベルには神々の思惑などに巻き込まれることなく、自由に暮らしてほしいとヘスティアは思っている。もしもベルが何らかのトラブルに巻き込まれても自分だけは彼を信じて守ろうと。それが自分が彼にできる恩返しだと思っているから。
「はい、ベル君。今回のステータスだよ。」
ベルはステータスを受け取って目を通す。
―――
ベル・クラネル
レベル:1
力 :I90→H120
耐久:I50→I60
器用:H120→H150
敏捷:H160→H190
魔力:I0→I0
〈スキル〉
…
…
早熟する。
憧憬が続く限り効果持続。
憧憬の丈により効果向上。
―――
「…やはりミノタウロスと遭遇したことがステータスに影響を与えているな。」
「そうだね。いくらスキルがあると言ってもここまで伸びるとはボクも思わなかった。」
「……。」
「ベル君、君は確実に
ヘスティアの言葉を聞いてベルは、ほんの少し…ほんの少しだが確かに笑みを見せた。
ヘスティアはそんなベルの様子を見ながら、彼と出会った時のことを思い出していた。
半月前―
その日は今日のように晴れた一日だった。
いつものようにファミリアの勧誘に勤しんでいたヘスティアだったが、その日も勧誘した人すべてに断られ続けていた。そして今、ヘスティアは悲嘆にくれながら人目につかない路地裏の樽に腰を下ろしていた。
「はあ…今日も駄目なのかな…。」
(空は奇麗な青空なのにね…。)
今日までめげずに勧誘してきたヘスティアも流石に心が折れかかっていた。
空を見上げればこんなにも晴れているのに、自分の心の中は、今いる路地裏のようにどんよりとした陰がかかっていた。
(あと1人に勧誘して、それでも駄目だったら帰ろう。)
ヘスティアはそう心に決め、自分の膝に活を入れて立ち上がった。そして最後に勧誘したいと思えるような人物を探そうとあたりを見回したとき、
この世界には「
(これは…一体何だろう?…神であるボクが吸い寄せられるようだ。)
きっとヘスティアの分岐点はここだった。もしもさっき諦めて帰ってしまっていたら、
ヘスティアが吸い寄せられるように歩いて行った先、そこにいたのは白髪を風になびかせ壁に寄りかかっている少年だった。
(あの子は…?)
ヘスティアが白髪の少年―ベルを目にした瞬間、まるで世界がその出会いを祝福するかのようにベルとヘスティアがいるその一帯を温かな日差しが差し込み、さわやかな風が2人の間を通り抜けた。
(
「ねえ、君。ボクの家族にならないかい?」
ヘスティアがベルに対して抱いたそれを、人々は「
誤字脱字や説明で何か間違っていることがあったら是非教えてください…喜びます。感想も喜びます。
今回は日常回みたいな感じだったので、リゾットinベル君の格好良さをあまり出せませんでした。すまねえッ!
ヘスティアとベル君の出会いの場面はめちゃくちゃ頑張って執筆しました。なんかゾワッて感じてくれる人がいれば嬉しいです。
あ、ちなみに最後の場面のベル君はオラリオに来たばかりで疲れていたので涼んでいただけです。もしヘスティアがここで帰ってしまっていたら、ベル君は他の誰かにその素質を見染められて別のファミリアに所属していたかもしれません。君は「引力」を信じるか…?
それっぽいの考えて書きましたが、スキルの名前は後で変えるかもしれません。ジョジョ5部がイタリアの話だからローマの英雄の名前にしてみたけど、こういうの考えるの難しい。…『メタリカ』は上手く思いつかなくてこうなりました。多分変えます(無慈悲)。
磁界ってのはわかる。磁気の働く空間のことだからな。だが、磁界を統べる者っていうのはどういう事だああ~っ!?(混乱)
ベルがヘスティアに伝えた『メタリカ』の話の流れと初めてステータスを開示したときの話は次に書けると…いいな。
1話の感想、評価ディ・モールトグラッツェ!とても嬉しいですッ!
続かせ…たい(願望)。
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