死にたがりのTSVR戦記 (竜野 ニア )
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1話 全てが終わり始まった日

前から言っておきながら大分お待たせしてしまって申し訳ありません


 これは、4年程前の出来事だっただろうか。

 

 思えばこの日、この瞬間が全ての始まりであり、その少年の終わりだったのかもしれない。

 

 夕暮れ、そこは病室だった。なんということもない、普通の病室。

 

 その病室のベットには1人の少年がからだを起こして座っていた。

 

 そのベットの傍には1つの人影があった。

 

 少年の髪は黒と白が入り交じり、くすんだ灰色のようになっていた。

 

 少年の左手首と首には包帯が巻かれていた。

 

 少年は完全に光が消え、焦点の合っていない瞳を人影へ向け、一言、言葉を発す。

 

「……ねぇ、おれを、ころしてよ」

 

 そんな少年の言葉に、人影は──

 

 

─────────────────

 

 

(これまたずいぶんと懐かしい夢を)

 

 そう思いながらその人影はベットからからだを起こす。時計を見ると、そこでは短い針が7を指していた。朝の7時である。

 

(……あ、お弁当と朝ごはん作るの忘れた)

 

 だが、自分が体調を崩して寝坊するのはたまにある事なので、おそらくなんとかしているだろうと考え、とりあえず起きようとベットから降りようとすると、

 

(あれ?ベットこんなに広かったっけ?)

 

「わわ!?」

 

 次の瞬間、ドン!という音をたて、床に落ちる。

 

 見事におでこから落ちたはずなのに、痛みに顔をしかめる様子も無く、顔を上げると、視界に白いさらさらとした髪が映る。

 

(あれ?俺の髪こんなに白かったっけ?もっとくすんだ灰色だったと思うけど)

 

 そこで寝ぼけていた頭がようやく覚め、現状がおかしいことに気付く。

 

 いつもより広く感じるベット。さらさらとした白い髪、そもそもこんなに長くなかった。よくよく思い出してみると先程の自分の声もおかしかった。

 

 少し視線を下げると、ぶかぶかになっている自分のパジャマが見えた。さらに左手を見ると、いつも付けている黒いリストバンドが緩くなっている。しかも元々日にあたる機会が少なかったので白かった肌がさらに白くなっている。

 

(……まさか)

 

 一つの可能性に思い当たり、急いで部屋から飛び出し、階段をかけ下りる。

 

 途中、部屋を出る前パジャマのズボンの裾を踏んずけて転びそうになったり、階段を下りる際に踏み外したので、壁を蹴って一回転し、着地する。

 

「よっと」

 

 体操選手もびっくりのアクロバットである。少なくとも寝起きにやるような動きではない。

 

 リビングを横切り、洗面所に駆け込む。

 

 リビングには全員揃っており、

 

「あ、しろおはよ───は?」

 

「「「───は?」」」

 

 大体こんなかんじの反応だった。

 

 ばたばたと洗面所に駆け込み、鏡を覗きこむとそこには、

 

「…………」

 

 白髪を腰を過ぎたあたり、ちょうど座った時にぎりぎり踏まない程度に伸ばし、頭上でアホ毛がおどる。血のように紅い目を少し、驚いたように見開き、首の黒いチョーカーの左側が少しずれている少女がいた。

 

 というか階段をかけ下りて来たあたりからほぼ確信していたが、身長が縮んでいる。

 

 元は160手前はあったはずだが、今はどう見ても150にも届かない。

 

「……なんでや」

 

 この日、この瞬間がこの少年、否、少女の人生で二度目の全てが終わり、そして始まった日であった。

 

 

─────────────────

 

 

「…………」

 

(よーしおちつけおちついた。俺の名前は紅月 白夜(あかつき びゃくや)。現在16歳の高一、のはずだけどここ数年不登校児やってます。やってることはほぼ専業主夫(?)だけど。よし、自己紹介終了。記憶問題無し。あとは夢かどうかの確認……ほっぺたつねる? やるだけ無駄か、夢にしてはリアルすぎるしさっきベットから落ちたし)

 

 それに、

 

(俺、男だったはずだよな?)

 

 そう、この少年、白夜の記憶では自分は生まれた時から男のはずであり、断じてこんな美幼女ではなかった。

 

「しろ──だな。どうしたその格好」

 

 白夜が鏡とにらめっこしながら悩んでいると一人の男が洗面所に入ってきた。よく見るとその後ろにさらに四人の男女が顔を覗かせている。

 

「ん、あぁ父さんか。あと後ろ、見えてるから」

 

 現在白夜が父さんと呼んだのは白夜の父親、紅月 研仁(あかつき けんじ)である。

 

 後ろにいるのは母親と、同居中の幼なじみ兼親友三人である。姉も一人いるのだが、今どこの国にいるのかも分からない。昨日まで日本にいたはずなのに次の日にはブラジルにいるような人間だからしょうがない。

 

 親友三人が同居しているのにはわけがあるのだが、それは後々説明する。

 

「俺をパパリンと呼ぶのは現在世界で二人だけだな。で、どうしたその格好。俺には息子と娘がいるが、今家にいるのは息子だけだったはずだが記憶違いか?」

 

「俺も姉ちゃんもパパリンって呼んだことないけどね? 俺も昨日まで男だったはずなんだけど気のせいか? あとたくみとりく、そら抑えといて」

 

「「完了した」」

 

 了解した、ではなくすでに完了していたらしい、ちなみに今呼ばれたのが親友の三人である。

 

 三人とも同じ制服を身につけており、拘束しているうちのがたいが良く、背が高い方が先程りくと呼ばれた少年が、如月 陸斗(きさらぎ りくと)という。

 

 もう一人陸斗より少し背が低い眼鏡の少年がたくみと呼ばれていた睦月 拓海(むつき たくみ)である。

 

 そしてそんな二人に拘束されているポニーテールの少女がそらと呼ばれていた、望月 美空(もちづき みそら)である。

 

 ちなみに今までの会話から分かるように普段、白夜はしろと呼ばれている。

 

「ねえしろ、ちょっと抱っこしていい?」

 

「だめ」

 

「そっかぁー」

 

 なにやら美空が寝言を言っているのを流しつつ、白夜は違和感を覚えていた。

 

(あれ? 今の会話どこかで……)

 

 思い出してみるが、どこにもそんな記憶は無い。

 

 だが、次の瞬間何が起きるかが視えた。

 

「ならば!」と美空が言うのと同時に美空が拘束から抜け出し、白夜へ迫る──

 

 が、そこにはすでに白夜はいなかった。

 

「!?」

 

(なんで躱せたんだろ。どこからか記憶が……)

 

 白夜はしばらく不思議そうに考え込んでいたが、これ以上考えない方がいいと考え、その思考を放棄した。懸命な判断である。

 

「まぁ、こんな所で話すのもなんだし、とりあえずリビング行かない?」

 

 と言ったのが白夜の母親、紅月 由美(あかつき ゆみ)である。

 

 由美の一言でリビングに移動した一同だったがそこには、

 

 結局捕えられたのが一人、捕えて膝の上に乗せてご満悦なのが一人、変わり果てた親友を見て笑いを堪えてぷるぷるしているのが二人、それを微笑ましげに眺めているのが一人、ちょっとでも真面目な雰囲気になるかもと考えた自分がばからしくなったのが一人、

 

 と、とても自分の息子、もしくは親友が変わり果てたとは思えない程の呑気な雰囲気が流れていた。全員驚きを誤魔化しているのでもなく、本心からのこの反応である。

 

「で、しろそのからだどうした?」

 

「朝起きたらこうなってた」

 

「あやに変な薬でも飲まされたか?」

 

「姉ちゃん信用ねぇな。たしかにやりそうだけど多分違うと思う姉ちゃんここ一週間は帰ってきてないし。」

 

 白夜から姉と呼ばれているように、先程研仁からあやと呼ばれたのが白夜の姉である紅月 愛夜華(あかつき あやか)である。

 

「んー、分からんならこの話はまた今度にするか。とゆうかそのからだアルビノじゃないか?」

 

「多分ね」

 

 そう、先程血のように紅い目、と表現したが、おそらく血のように(・・・・・)ではなく血の色である。

 

「後天性のアルビノとかあんの? メラニン色素どこやった?」

 

「遺伝子レベルで書き換わってるって事でしょ? 姿も性別も変わってるのに今更でしょ」

 

「それもそうか」

 

「というかこの姿で俺って一人称違和感あるな。わたし? ボク?」

 

「適応早すぎね? あとチョーカーとリストバンドずれているぞ」

 

「そりゃちっちゃくなったなら緩くなるでしょ。てか学校はいいの? 時間そろそろヤバくない?」

 

「「「「「あ」」」」」

 

「とりあえず白夜、包帯(これ)巻いときなさい」「えー、別にいいよわたし気にしてないし」「「「「「少しは気にしろ! そして適応が早い!」」」」」「先生、担任権限でなんとかならない?」「なんとかする。任せろ」「「「やったぜ」」」「帰りにいろいろ買ってくるわね。またあやにチョーカーとか頼まないと」「はいよ」「今日金曜日だし今日中に病院行くわよ」「はーい」「あと明日にでも服とか買いに行くから」「え?」

 

「「「「「いってきます」」」」」

 

「いってらっしゃい」

 

 と、怒濤の勢いで家を出て行く五人を見送る白夜。その後、言われた通り慣れた手つきで手首と首に包帯を巻き、

 

「とりあえず片付けするか」

 

 朝ごはんの片付けに取り掛かった。




 どうも! ただいま学校に向けて全力疾走中、望月美空です!
 突如ロリったしろの最初の疑問は「そもそもこのからだどこまで動くの?」というわけでいろいろ試してみよう! という話です
 ていうかあの見た目……名は体を表すってまさにああいう事だよね
 話がそれましたね、次回予告でした

 次回:『身体検査』

 次回もお楽しみに!!
 え? しろを襲うなよって? ……それは約束しかねる


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2話 身体検査

 片付けが終わった白夜は、現在リビングにいた。

 

 今のからだがどこまで動かせるか確かめるためである。

 

「まずは」

 

 白夜は近くにあったゲームセンターのコインを拾い上げた。以前、陸斗達と裏表をあてるゲームをした時に使ったものだ。なぜそんな事をしていたかというと暇だったから。

 

 それを指の上にのせ、深呼吸してから、指を弾く。

 

 ピィィン、という音とともにコインが回転しながら宙を舞う。

 

 頭の奥でバツン!という、なにかが切り替わるような音が響いた。

 

 すると白夜の視界では世界から色が抜け、コインに描かれている文字がはっきりと見えるくらいに回転が遅くなる。

 

「………」

 

 しばらくそれを眺めた後、世界に色が戻り、落ちてきたコインを掴む。

 

 やった事としては簡単だ。人間の脳にはリミッターが設けられており、本来は全体の機能の30パーセント程しか使えない。それを外し、集中力を限界まで高めただけのことだ。もちろん身体能力の底上げも出来るが、最悪筋断裂を起こしたりするのであまり使わない。

 

 いわゆる、火事場の馬鹿力というやつである。

 

 白夜はそれを自分の意思で引き出すことが出来る。愛夜華はとあるゲームにちなんで『リフレックスモード』とか呼んでいたが、もちろん敵に発見される必要はない。ちなみに白夜もあのゲーム大好きである。

 

 以前、少し死にかけた事があったので、その時にコツをつかんだ。転んでもただでは起きないとはこのことである。

 

 だが、白夜自身これがあまり好きではない。自分の身体が生きろと言っているようで嫌なのだ。

 

 ──自分はこんなに死にたがっているというのに。

 

 

 

 それから数時間程からだを動かし、身体能力は以前と変わらないことが分かった。そして視覚、聴覚、嗅覚が以前にもまして鋭くなっていた。元々人間にしてはかなり良い方だったのが、さらに強化されている。

 

「なんでだろ? まあ、いっか」

 

 当の本人はその程度の認識のようだが。

 

 ふと、時計を見ると、すでに昼の一時前だった。

 

「あー、ご飯食べなきゃなんないのかあ、めんどくさい」

 

 朝も食べずに今まで数時間ぶっ通しで動き続けており、胃も空腹を訴えてきているが、ただめんどくさい。動き続けてからだがだるいというのもあるが。

 

「……まあいっか、ないとは思うけど戻ってるかもしれないし、ないとは思うけど」

 

 そんなに期待してないので二回言った。

 

 それでも面倒には変わりないので、冷蔵庫にあったものと朝の残りのご飯で簡単なチャーハンを作った。

 

 味はしらない、というよりここ数年あまり気にしてないが、だてに数年間毎日料理を作り続けてない、しっかり美味しそうにできた。味はしらん。

 

「いただきます。………はぁ」

 

 ひと口食べた後、ため息を吐いてまたもそもそと食べ続ける。やがて食べ終わり、

 

「ごちそうさま。………そりゃそうだよねぇ」

 

 これは朝ベットから落ちたあたりから分かっていたのでたいした発見ではない。

 

 それからさっさと片付けを終えた白夜は、からだが本格的に眠気を訴えてきたのでリビングのソファーに倒れこんだ。

 

(このからだは体力が無い、っと。まあどうでもいいや。ねよ)

 

 白夜がそんな事を考えつから数秒ですぅすぅという寝息が聞こえ始めた。

 

 の○太君程とは言わずとも、かなり寝付きは良いようだ。

 

 その後、目を覚ますといつの間にか帰ってきていた三人が白夜の寝顔を覗き込んでおり、「なにしてんの?」とツッコんだのだが、それはまた別の話。

 

 

─────────────────

 

 

 結局病院に行く事になり、現在白夜の通っている近場の病院の待合室に母こと由美と二人である。

 

 先程由美が買って来た赤いヘアピンを前髪でクロスするようにとめ、同じく赤いヘアゴムで首の後ろで髪をまとめており、首と手首にはいつもの黒いチョーカーとリストバンドの代わりに包帯が巻かれている。なぜ赤なのか聞くと、「白い髪に黒いのもおかしくない?」とのこと。多分趣味だろう。

 

 ちなみに服装はズボンは全て大きかったので上から大きめのサイズのパーカーを着ている。前にチャックとか付いてないやつである。下着? あるわけないじゃん。

 

「しょっぱなからこれはどうかと思いますが母上?」

 

「仕方ないでしょ。服無かったんだから。大丈夫、見た目は可愛いわよ」

 

「見た目じゃなくて中身の話なんですけどね?」

 

 二人がそんな話をしていると、名前を呼ばれたので診察室に向かう。診察室に入ると、

 

「くみちゃん久しぶり」

 

「……しろ? どしたのその格好」

 

 白衣を着た黒髪を短く切りそろえた女がいた。もちろん医者である。

 

 白夜にくみちゃんと呼ばれた彼女は、紅月 久美子(あかつき くみこ)白夜の担当医で、研仁の上の妹でもある。

 

「それを診てもらいに来たんだよ?」

 

 

 

 その後の診察の結果、

 

「DNA鑑定とかはまだ結果が出ないから分からないけど、事例は少ないけどおそらく『性転病』だと思われますね」

 

「なに? それ」

 

「……まんまじゃん」

 

 白夜と由美の質問に、

 

「まあ読んで字のごとく性別が変わる病気だね。ざっくり言うと遺伝子のバグ?」

 

「本当にざっくりね」

 

「………」

 

「ただ気になるのが、性転病では体格が大きく変わることは無い、ってところかな?」

 

「そうなの?」

 

「………」

 

「性転病はあくまで遺伝子のバグだからね。完全な性転換ってのもおかしいけど。そうなると別の病気もかかっている可能性もあるね」

 

「別の病気?」

 

「………」

 

「そ、こっちはある意味性転病以上の奇病だね。性転病以上に事例は少ないけど『幼体病』って言ってこちらもその名の通りからだが幼児化する病気。ただ問題なのが精神も退行する、ってところだね。簡単に言うとアポ○キシン4869プラス精神退行」

 

「……大丈夫なの?」

 

「………」

 

 かなりギリギリの問題発言に少し不安になる由美。

 

「そこ? セウトくらいかな? それよりもしろさっきから喋らないけど大丈夫?」

 

 先程から無言で虚ろな目で虚空を眺める白夜に少し心配になる久美子。

 

「……だい、だい? じょう、ぶ」

 

「うん、大丈夫じゃないね」

 

「あぁ、これはさっき検査用に血を抜いたから貧血起こしてるんじゃないかしら?」

 

「……たしかに少し多めだったけどそんなにとってないよ?」

 

「もともと貧血体質でさらにからだ縮んだからじゃない?」

 

「……なるほど。ところでしろ、感覚とかなにか変化でた?」

 

「……痛覚、味覚……かわりなし。他がすこし鋭くなった……かな? リフレックスモードも問題なし」

 

「……そっか。じゃあしろもそろそろ死にそうだし今日の診察は終了です。またなにかあったら来てね。おだいじに〜」

 

「ありがとうございました〜」

 

「……ましたー」

 

 そして母娘は帰路に着くのだった。




 ……どーも。先程貧血で半分以上意識がないしろをそらが風呂に連れ込むのを黙って見過ごした如月陸斗です
 申し訳ないがあいつは俺には止められん
 次回予告か
 とりあえず病院で検査を受けたので姉である愛夜華に連絡をする事にした一同、そこではいつも通りすぎる愛夜華の様子が──

 次回:『我らが姉は世界最強!』

 次回もお楽しみに!!
 あや姉大喜びしそうだな……あ、風呂場の方からなにやら騒ぎが……


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3話 我らが姉は世界最強!

 家に着き、からだが動かない白夜の変わりに由美が作った料理を食べ、ほぼ意識の無い白夜を美空が風呂に入れて意識の戻った白夜によりひと騒動起きた後、白夜がある程度動けるようになったので白夜の姉である愛夜華に連絡をする事になった。

 

 現在リビングのテーブルに五人が集まっている。美琴はリビングのすみっこで縛られている。

 

 スマホをビデオ通話に切り替え、愛夜華に電話をかける。数コールの後、愛夜華は電話にでた。

 

『もしもし?』

 

「おう、愛夜華久しぶり」

 

『父さんが名前で呼ぶってことはなんかあった?』

 

「相変わらず話が早くて助かる」

 

『まあ、天才なんで?』

 

 本人は冗談めかして言っているが、一切冗談になっていない。彼女がまだ二十歳(はたち)だというのに世界中を飛び回っているのにはもちろん理由がある。その理由がこれである。

 

 近年、ゲーム界隈で話題になっている、フルダイブ型のゲームだが、彼女が作ったものである。

 

 数ヶ月でフルダイブシステムを作り上げ、さらにその当時はCTスキャン並のサイズだったそれをさらに数ヶ月、合計半年程で従来のVRゴーグルサイズにまで圧縮し、市販化まで済ませた。要は化け物である。

 

 他にもいろいろ作っており、彼女一人で地球の文明は十年は進んだ。と言われているが、ここにいる全員がそれを少し疑っている。

 

 というのも、果たして本当に十年でフルダイブシステムを作り上げ、今のサイズまで小型化し、市販化まで出来るのか。という話である。

 

 ちなみにすぐに作って市販化した理由は研究資金が尽きかけていたのでお金が欲しかったという理由である。

 

「つーかお前今どこにいんの?」

 

『えーと、どこだっけ。 田村〜ここどこ〜?』

 

『ロンドンだよ!! なんであんたはここの研究員とかと普通に喋ってんのに今いる国が分かんないの!?』

 

((((田村さん生きてた!!))))

 

 子供組四人の最初の感想はそれである。

 

 毎回自由奔放な愛夜華に振り回され、というよりぶん回され、戦場のど真ん中を駆け抜け、どこかのジャングルで原住民族に数日間追いかけ回されたりと、例えをあげればきりがないが、超ハイスペック人間モドキな愛夜華はともかく、人類の中では優秀な方とはいえ、れっきとした人間である田村がいつまで生きていられるかとこの四人は心配していたのである。

 

 ちなみに田村は美空の実家の剣道場の門下生で、愛夜華の幼なじみ、現助手である。

 

 なぜ田村が愛夜華について行っているかというと、愛夜華が海外に行く事が決まった時に田村が愛夜華に告白し、自分もついていきたいと言ったのだ。

 

 そして二人で数々の困難を乗り越えて二人の絆は深ま──ったかどうかは神の味噌汁というやつである。

 

 そんな理由で本人が幸せそうなので誰も田村を止めようとはしない。

 

『だって周りで喋ってんだからそれに合わせればいいだけじゃん』

 

「「「「「「『????』」」」」」」

 

 それを聞いた全員がなにを言っているか分からないという表情になる。なぜ話している言語をなにか理解せずに話せるのだろうか。

 

 見えている世界が違う。天才が天才たる所以である。

 

『んで、なんか用があったんじゃないの?』

 

「ああ、見てもらった方が早いな。しろ」

 

「はいはい、姉ちゃん久しぶり」

 

『久しぶりって程でもないけどね〜。ずいぶんと美少女になったね〜しろ。どしたのその格好』

 

 かなり今更だが人の性別が逆転しているというのに全員「今日は珍しい格好してるね」くらいの反応なのはなぜなのだろう? そしてなぜ誰もその事につっこまないのだろう。

 

「なんか『性転病』とかいうのと『幼体病』とかいうのだって」

 

『あー、そういえばどっかの研究所でそんな話を聞いた気がする。たしかそれ治らないよね? 顔立ちは昔の白夜だね。こんな美少女になるとは……やはり私の目に狂いは無かった!!』

 

「まったく同じセリフを昔聞いたな。大丈夫、あんたはしっかり狂ってる」

 

『えへへ〜、照れるなぁ〜。白夜程じゃないよ〜?』

 

「照れるな褒めてない」

 

「ところで明日にでもしろの服買いに行こうと思ってるんだけど、あやはどうする?」

 

 白夜と愛夜華が話していると由美が隣りから口を挟んできた。その言葉に愛夜華は、

 

『なんですと!? 明日!? 今すぐ帰るわちょっと待ってね。田村ー! 日本に帰るよ!』

 

『言うと思ったけど研究どうすんの?』

 

『だいたいは終わってんだから後はここの人達で出来るでしょ。不測の事態に備えて対処マニュアルも置いていく』

 

『不測って言葉が仕事してないんですが? まあ、そう言うと思ったから荷物は用意しておいたけど』

 

『田村ナイス! マニュアル10分で書き終える! それじゃあすぐ帰るから待っててね!』

 

 ブツッ、という音とともに通話が切れた。

 

「……相変わらず慌ただしいな」

 

「アレについて行ける田村さんすごいよね」

 

 研仁の言葉に白夜が答える。

 

「ところでそらはいつ抜け出したんだ?」

 

「いつの間にかいたな」

 

「まあ、そらさんは不滅なので?」

 

 陸斗の疑問に拓海が同調し、美空が答える。

 

 そこで由美がすでに白夜が船を漕ぎ始めているのに気付き、

 

「まあ、あやも明日には帰ってくるみたいだしあなた達はもう寝なさい」

 

「「「はーい」」」

 

「………あい」

 

 三人も白夜が限界である事に気付き、すぐに頷いて部屋へ戻る。

 

 

 

 その後、陸斗は寝る準備を済ましている間に白夜が一緒に寝ようとしてくる美空を部屋から叩き出しているのを眺めた後、

 

「さてと……寝るか」

 

 丁度寝ようとしていたところで、部屋のドアがノックされた。

 

「ん?」

 

 ドアを開けると、そこには少しアホ毛をへにょらせ、さらに少し涙目でこちらを見上げている白夜がいた。

 

「……いっしょにねよ?」

 

「?」

 

 まだ寝てもいないのに寝ぼけているのかそれともすでに夢の中なのか、という考えが頭をよぎり、目を擦り、さぁ現実を見るぞとばかりに目の前を見るが、変わらずそこにある現実(涙目の白夜)があった。

 

「……なんで?」

 

 とつぶやいたところで思い出した。

 

 ──『幼体病』は肉体だけでなく精神も幼児化する。

 

「……そらのところ行けば?」

 

「あそこは危険地帯」

 

「なるほどたしかに」

 

 美空に対する全員の認識がよく分かる会話である。

 

「今一応異性なわけだが、さすがにまずいとは思わんか?」

 

「? べつに問題ないでしょ?」

 

 意訳:お前幼女襲う度胸とか無いでしょ?

 

「馬鹿にされてるのか信頼されてるのかどちらでとれば?」

 

「両方かな?」

 

「せめて嘘でも信頼だけと言ってくれ……今日だけだからな?」

 

「……それは約束しかねる」

 

 結局陸斗が折れたようだ。陸斗はため息を吐きながらも白夜を中に入れる。

 

(これ明日絶対めんどくさくなるやつだろ)

 

 明日を思い少し憂鬱になるが、今考えても仕方ないのでさっさと眠る準備をする。

 

 

 次の日の朝、そんな陸斗の予想を覆す形の出来事が起こるのだが、その事を陸斗はまだ知らない。




 ども! 現在真っ昼間のロンドン市内を疾走中、紅月愛夜華です!
 しろの着せ替えなんて滅多に出来ないんだから早く帰らねば!
 というわけで次回はTS現代の定番、ショッピングです
 え? それはもう一つ後? まじで?

 次回:『暴走幼女と爆走少女』

 お楽しみに!!
 あれ? しろの身になにかが起こる気配が?


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4話 暴走幼女と爆走少女

 あれから一晩経って次の日の朝、陸斗は目を覚ますと同時に腕に温かいものが引っ付いている事に気が付いた。そちらに目を向けると、そこには陸斗の腕を抱き枕にして気持ち良さそうに眠る白夜の好かがあった。

 

「すぅ……すぅ……」

 

 それを見た陸斗はため息を一つ吐き、

 

「起きろ離れろ」

 

 容赦の欠片も無かった。陸斗は腕を乱暴に揺すった。

 

「むにゃ……ふにゃ!?」

 

「人の腕を枕にしてたわけだがよく眠れたか?」

 

 特に怒っているわけではないが、声に怒気を含ませて言う。

 

 すると白夜は顔を青ざめさせ、顔色を恐怖に染め、

 

「ふぇ? ひっ、あ、ご、ごめんなさい!」

 

「へ?」

 

 その反応は陸斗の予想の範囲外のものだった。そもそも白夜にしてはありえないことがあった。

 

 現在、白夜は顔色を恐怖に染めている。

 

 ある日を境に白夜は恐怖という感情自体を無くしていた。それ以来陸斗も白夜にこの反応は一部の例外を除いて見た事が無い。

 

(これも幼体病の影響か? いや、まてよ? この反応どこかで……)

 

 と、陸斗がそこまで考えたところで、

 

「部屋にいないと思ったらなんでここから白夜のにおいがするのさ!?」

 

 地味に怖いことを叫びながら美空が部屋に乱入してきた。

 

「ひうぅっ!」

 

 ついでに白夜がびっくりした。

 

 その状況に少しいらつきつつ、

 

「お前はノックという言葉を知らんのか!? でもナイスタイミング! ちょっと白夜の薬とってきてくれ!」

 

「薬? ってまさか!」

 

「そのまさかだ! この状態の白夜から目を離すのはまずいから俺が見とくからはよ頼む!」

 

「いえっさー!」

 

 返信はともかく目は真剣に、美空が部屋から出て行った。

 

 とりあえず陸斗はおびえて縮こまっている白夜に気を配りつつ、美空が帰ってくるのを待つ。

 

 しばらくして、美空が帰ってくるなり二人で白夜を押さえ、薬を飲ませる。この状態の白夜が会話が出来ない事は二人ともよく知っているので無理やりである。一切の容赦はない。

 

 しばらくし抵抗していたものの、すぐに薬の副作用により眠った白夜をベットに寝かせつつ、

 

「しろが薬飲むの忘れるって珍しいね」

 

「……貧血やらお前の風呂での騒動で疲れてたんじゃね?」

 

「………」

 

 心当たりがあったのでとりあえずスルー。

 

「そ、そういえば今回はラッキーだったね。あれはまだ当たりの部類でしょ?」

 

 そして話の方向転換。そんな美空に陸斗はジト目を送りつつ、

 

「……まあそうだな。あれ? 下手すりゃ俺朝から血溜まりの中だったのでは? ………あっぶねぇ」

 

 美空の言葉に同意しつつ、何気に自分が命の危機にあった事に気付き、冷や汗を流す。

 

 先程から二人が話しているのは四年前からの白夜の症状の一つ、『人格異常』起きている事は多重人格なのだが、問題はその数が異常な事とその落差である。

 

 先程の人格は全ての中で最も気弱なもので、他には急に周りの人間を殺そうとするものから自殺しようとするものまで数え上げればキリがない。今では白夜が任意に切り替える事も出来るらしい。切り替えた後はおそらく白夜の意識は無いが。この瞬間にもポコポコ増えているのではないかと思われている。

 

 そしてそれを抑えるためにあるのが先程飲ませた薬、愛夜華特製『人格安定剤』である。

 

 白夜の操作が効くのはあくまでこの薬が効いている間のみであり、この薬は丸一日で効果が切れる。先程の騒動は白夜が昨日の夜薬を飲み忘れたからである。

 

 脳に直接作用するので副作用として強烈な眠気と頭痛があるが、後半は白夜には関係ない。脳にかなりの負担がかかるので眠っても脳が休まらず、白夜は常に眠気に襲われている。

 

 一応市販化もしたらしく、使い道が無いかと思いきや世界には意外と二重人格等に悩んでいた人がいたらしく、思ったより売れたらしい。需要が少ない事には変わりないので割高にはなるが、愛夜華のおかげでうちてはほぼタダだ。

 

「とりあえずしろが起きるの待つか」

 

「そだね」

 

 

 

 それからしばらくして、研仁達に説明を終えて陸斗の部屋で拓海も交ぜて雑談をしていた時、

 

「ん、んぅ?」

 

「お、起きたか」

 

 白夜が目を覚ました。

 

「……あれ? どしたの?」

 

「お前どこまで覚えてる?」

 

 陸斗の質問に白夜は、

 

「……えーと、そらを部屋から追い出して寝ようとして……そこから記憶ない。……あ、薬飲むのわすれた」

 

「できればそれを昨日の晩寝る前に思い出してほしかった……」

 

「あーなるほど。でもなんでわたしりくの部屋にいんの?」

 

「理解が早くて助かるが、お前が昨日の晩来たんだよ」

 

「……? 記憶にない。りくはよくそれ了承したね」

 

「幼体病の影響だと思ったんだよ」

 

「ちなみに誰だった?」

 

「めっちゃ気弱なおどおどしてるやつ」

 

「なるほ──」

 

 なるほど。と白夜が納得したように頷きかけたところで悪寒を感じ、とっさにベットから飛び降りる。すると、

 

「しろーー! ただいまーー!! へぶっ!?」

 

 先程までしろがいた位置に一人の女が現れた。瞬間移動などではない。そう思える程の速度で踏み込んで来ただけである。ここにいる誰にも気付かれずにそんな人外じみた動きをしたのは、白衣のような白いコートに身を包み、下ろせば腰あたりまで届く黒髪をポニーテールにした、まだ高校生にも見える顔立ちの女、なんとなくお察しの通り白夜の姉、愛夜華である。

 

 しかしそこにいる全員は慣れたもので、

 

「姉ちゃんおかえり」

 

「「「あや姉おかえりー」」」

 

 特に何も無かったかのように返事をする。突然人が現れた? べつに愛夜華なら不思議ではない。むしろ本当に瞬間移動してきてもそこまで驚かない。それが紅月愛夜華という人間(?)である。

 

「うん! ただいま!」

 

 本人も特に気にした風はない。慣れているのか馬鹿なのか。どちらかというとアホなのだろう。紅月家は天然が多い。

 

「てゆうか大分早かったけどどうやって帰って来たの?」

 

 そして離せ、といつの間にか自分を捕まえて膝の上にのせている愛夜華に白夜が聞く。

 

「イギリスで軍用機借りてきた。」

 

「「「「………」」」」

 

「そのままこっちの基地で降りて朝イチだったから電車動いてなくて走ってきた。」

 

「田村さん生きてる?」

 

「お姉ちゃんより田村の心配〜? 田村は今下で休んでるよ」

 

「やっぱりコレといつもいるだけあって丈夫になってる……」

 

「コレって……。いくらなんでも傷つくよ〜? 君たちお姉ちゃんをもっといたわれ〜?」

 

「「「「……ふっ」」」」

 

「おいコラどーゆーことかなぁ?」

 

 四人が思わず鼻で笑うと愛夜華の額に青筋が浮かぶ。人類史のバグなどわざわざ心配する必要もないということだろう。ヤクザも逃げ出す殺気を前に四人とも特に気にした風もない。

 

「まあいいや。そんな事よりあや姉、しろの着せ替え遊びできるんだよ! しかも女の子の!」

 

「おい」

 

 本当にどうでもいいようで、美空がすぐに話題を変える。女の子のしろちゃんの抗議もなんのその。男二人の同情の視線も無視である。それを聞いた愛夜華も、

 

「そーだよねぇ。しろの着せ替え遊びなんて昔しろを女装させた時以来だね〜」

 

 しっかり爆弾を投下する。

 

「「「え?」」」

 

「ちっ」

 

 愛夜華による予想外の爆弾発言により三人が白夜の方を見、白夜が小さく舌打ちをする。

 

「ちょっとあや姉! なんで私も呼んでくれなかったのよ!」

 

 美空が馬鹿なことを叫ぶが全員無視。そんな状況に白夜は、

 

「姉ちゃん帰ってきたってことは買い物行くんでしょ? 用意してくる」

 

 逃げた。別に話せない理由は無いが、ただ単純に説明が面倒なだけである。そもそも、

 

「てかお前ら見た事あるでしょ?」

 

 それだけ言って白夜は陸斗の部屋を後にした。

 

 残された者達はというと、

 

「「「え?」」」

 

 混乱の極みにあった。

 

「『見た事ある』? たくみ、お前覚えてる?」

 

「覚えてないよ」

 

「美空〜お前は?」

 

「私がそんなイベント忘れるわけないじゃん」

 

「だよな〜」

 

 三人とも一切心当たりが無いらしい。

 

「ん〜? でも見た事あるはずだよ? あの時は『女装したうえでりく達と会って遊んでくる』って罰ゲームだったから」

 

 愛夜華がそう言うと、拓海が納得したように、

 

「なるほどね。そこに『その場で正体を明かす』ってのは無かったわけか」

 

「そりゃわからんわ。あいつの演技スキル無駄に高いし」

 

「うぐぐ……」

 

 美空だけ一人頑張って思い出そうとしているが他二人は既に諦めている。

 

 

 

 それから数分後、白夜が着替え終わり、出発しようとした所で愛夜華が。

 

「ちょっと待ちなさい。しろ、ちゃんと髪とかした?」

 

「え? べつにぼさぼさになってないし良くない?」

 

「え!? その長さでとかしてないのに寝癖無しなの!?」

 

 美空の驚きももっともである。なんせ白夜の今の髪の長さは腰まであり、座ってもぎりぎり踏まないくらいである。どれだけ寝相が良くても普通は寝癖がすごいことになる。しかし今の白夜にそういった様子はない。

 

「……髪質じゃない?」

 

 白夜もよくわからないので適当に答える。ちなみに寝癖がつかないのは昔からである。

 

「じゃあそこ座って後ろ向いて」

 

「……はーい」

 

 それから数分後、

 

「ふにゃあ……」

 

 白夜は溶けていた。

 

「……最初めんどくさがってた割にめっちゃ気持ちよさそうだな」

 

「……そだね」

 

「とろけた顔も可愛い」

 

 一人だけ感想がおかしいが、それは置いておいてしばらくして愛夜華がようやく満足したところでようやく外へ出ることになった。




 どうも。前回流れ的に俺のはずがあや姉に出番を取られた睦月拓海です
 アイツに聞いたところそもそも俺は影が薄めになるってマジ?
 まあ、そこはなんとかしてもらうとして次回予告ですね
 次回はショッピングと紅月姉妹の異常性について説明できたらなーとかアイツがぼやいてましたね
 というわけで

 次回:『化け物姉妹とショッピング』

 お楽しみに!!
 つかタイトルまんまだな
 そういえばアイツが暇つぶしにアプリでしろをデザインして冗談で友達に挿絵を頼んでみたところナメクジ波動砲の絵を渡されたらしい
 アイツお絵描き小学校並だからな
 ……ナメクジ波動砲って何?


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5話 化け物姉妹とショッピング

待たせたな CV:大塚明夫

いや、まじで本当に
いいわけは後書きで
今回は説明回です
今回の説明でなにか質問がある場合、気軽にコメントしてください
答えられる範囲で答えます


 白夜達が外に出てみると白夜にとっては幸いなことに見事な曇り空だった。

 

 アルビノ体質になってしまった白夜は直射日光を浴びることが出来ない。

 

 メラニン色素が無いために紫外線を遮るものが無く、直射日光を浴びると皮膚癌になってしまうのだ。

 

 曇りの日も紫外線はあるが、そこは後々説明しよう。

 

 そのため昨日病院に行く際も日が沈んでからだった。

 

「まあ、吸血鬼みたいなもんだしな」

 

「誰が吸血鬼じゃい」

 

 陸斗の言葉に思わずつっこむ白夜。

 

「でも身体能力的には吸血鬼みたいなもんでしょ?」

 

「………」

 

 だが続く拓海の言葉には否定が出来ない。

 

 実際、白夜は身体能力が吸血鬼並と言われても否定が出来ないくらいには化け物である。

 

 そこは愛夜華も同じなのだが、今の小さくなったからだはともかく、以前までのからだなら単純な戦闘能力では愛夜華よりは白夜に部があった。頭脳ならば白夜は愛夜華に一歩劣るが、一応白夜も人外級の天災……天才の一人である。

 

 この世界にはこういった存在が偶に現れる。世間では〈特異点(イレギュラー)〉などと呼ばれている存在達である。

 

 一人で十倍の時代を進める愛夜華などはこの時代の〈特異点(イレギュラー)〉の中でもトップクラスと言われている。

 

 ちなみに白夜や愛夜華が人間の常識を超えた本物の〈特異点(イレギュラー)〉で、陸斗、拓海、美空は人間の限界に限りなく近いところにいる準〈特異点(イレギュラー)〉である。

 

 もちろん普通は〈特異点(イレギュラー)〉はこんなにごろごろ転がっているようなものではない。もちろんス○ンド使い同士は引かれあう。みたいな法則も無い……はずである。

 

 陸斗達のような準〈特異点(イレギュラー)〉でさえレア度(?)で言えばオリンピックで金メダルとってるような人並である。

 

 ちなみに〈特異点(イレギュラー)〉には大きく分けて二種類あり、『頭脳型』と『身体能力型』である。

 

 頭脳型はそのまま、分かりやすく言うと天才。

 

 身体能力型は身体能力が生まれながら異常、という訳でなく、運動神経が異常に高い者達である。

 

 異能力ものならもっと多彩な種類があるのだろうが、人間の持つ能力などこんなものである。

 

特異点(イレギュラー)〉といっても異能力者という訳でなく、〈特異点(イレギュラー)〉=『最低でもどこか一箇所が異常に尖った天才』くらいの認識で正解である。

 

 とまあ、化け物共(こいつら)の異常性を説明しようとすればキリがないので細かいところは後々説明していくとして先へ進もう。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 現在、一同は由美が運転する車で近場のデパートに向かっている。

 

 ちなみにメンバーは白夜、愛夜華、陸斗、拓海、美空、由美である。

 

 研仁は留守番、田村は家に帰るらしい。弟にお土産を頼まれていたのでそれを渡しに行くらしい。

 

「そーいやしろ、今日の朝暴走したんだって? いつぶりよ?」

 

「……退院してからはほとんどなかったと思う」

 

 助手席に座っている愛夜華からの質問に少し考える素振りを見せてから答える。

 

「普段は薬無くても問題ないけど……まあ、昨日はいろいろ疲れてたから。その辺も明日にでも相談する」

 

「おう、ついでに俺達も別に怒ってないって伝えといてくれ」

 

「りょーかい。明日はあの子なだめるところから? ……いや、やっぱり他のやつらにたのむ(押し付ける)。つーわけでたのんだ」

 

((((ふざけんな!))))

 

 なんか聞こえたが無視する。やつらには明日までにうちの小動物をなだめて貰わなければならないのだ。

 

「ナチュラルに虚空と会話すんのやめろ。俺達はわかってるけど傍から見たらやべぇやつだから」

 

 もちろん陸斗がなにか言ってるのも無視である。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 そんなことをしているうちにデパートに到着した。

 

 ちなみに白夜は昨日までの包帯のから代わって愛夜華が速攻で作ってきたという黒いチョーカーとリストバンドを左手に付けている。

 

 昨日の今日で仕事の早いことである。

 

 ちなみにこれらは愛夜華の特別製で防火、防水、防弾、防刃、耐爆仕様で、現代の軍服もびっくりの超高性能品である。

 

 なぜこんなに高性能かというと、そもそもなぜ白夜がチョーカーやリストバンドをしているかというところに繋がるのでこれもそのうち話そう。

 

「……はぁ」

 

 デパートに入ってまず最初に感じたのが大勢の人間からの好奇の視線だった。大方、白夜の白い髪が目を引いたのだろう。正直、鬱陶しい。

 

 既に何人かはスマホを構えようとしている。流石は現代人、珍しいものを見ると反射的にスマホを向ける。盗撮は犯罪だということを知らないのだろうか?

 

 というわけで、犯罪者(未遂)にはそれ相応の罰を受けてもらう。

 

「あれ!? 俺のスマホが!?」「ええ!? 私のスマホも!?」「嘘だろ買い替えたばっかだぞ!?」「おいおいなんでだよ!」「くっそ最悪だよ!」

 

 どういうわけかスマホを構えようとした全員が騒ぎ始めた。どうやらスマホの画面が暗くなり、動かなくなったらしい。珍しいこともあるものだ。

 

「……これすごいね」

 

「でしょ?」

 

 もちろん原因は白夜だ。今朝愛夜華に渡された防犯アイテムの一つ、『対特定機器妨害電波発信機(こっち見んな変態!)』によるものである。

 

 その名の通り特定の条件を満たした機械に対する妨害電波を流すものである。

 

 今回の場合は、『カメラアプリの起動』『スマホのカメラをこちらに向ける』という二つの条件を満たした機器が機能停止している。

 

 よくよく考えれば電波の範囲内の全てのスマホに作動するコンピューターウイルスなのだが誰もつっこまない。

 

「……はぁ、さっさと終わらせてかえろ。あと帽子買お」

 

 視線にうんざりしてきた白夜がフードを被りつつ言うと、

 

「「「え? 何言ってんの? 今日はしろの着せ替え祭りだよ()?」」」

 

 当然のように言う女性陣の言葉に、白夜の顔が絶望に染まるが、女性陣は気にせず、男性陣は見ないふり。

 

 ちなみに、絶望に染まったと言ったが、傍から見たら白夜の表情はデフォルトの無表情から変わっていない。せいぜいアホ毛がへにゃったくらいである。五人にそう見えたのは単にここにいる全員の白夜の表情を見抜く技術が高すぎただけである。

 

 陸斗と拓海が慰めるようにポンポンと白夜の肩をたたくが、白夜は同情するなら助けをくれ、という心境である。

 

 この時、白夜の中でなんとしても二人を巻き込もうという決心が生まれた。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「着せ替え祭りは後でするとしてとりあえず下着類ね」

 

 さすがにいつまでもノーパンはまずい、と思った由美の発言にすぐさま動いた者が三人、

 

「「それじゃ、俺ら適当にぶらついてるんで!」」

 

「にがさないよ?」

 

 下着売り場とかついて行けるか! という現役高一の男子二人と、先程二人を巻き込むと決めたばかりの現在幼女元男子の白夜である。

 

 言ってなくても有言実行! この展開を読んでいたからこその先程の決心である。だってTSもの好きだもん。何が起こるかはよく知ってる。

 

「………」

 

「「………」」

 

 白夜は二人の服の裾をがっちり掴んでじぃ〜〜っと感情の読めない暗い瞳で二人を見つめる。

 

 二人は察した。すなわち、「あっ、これ逃げられないやつだ」と。

 

 この場で白夜の手を振り切って逃げることは出来る。だが、それをした場合待っているのはリミッターを外してでも追いかけてくる化け物との鬼ごっこだ。

 

「「………」」

 

 二人は無言で両手を上げて降参アピール。

 

 白夜は二人の無抵抗の意思を感じ取り、手を放す。

 

「それじゃ行くよ〜」

 

 そんなことを言う愛夜華に引きずられるようにして連行されていく白夜、その後をとぼとぼとついて行く二人、残りは先程のやりとりの間に既に行っている。

 

 ちなみに白夜が二人を放したのはこうすれば周りから見ると無理やりではなく渋々とはいえ自分の意思で入っているように見えるから、という意味の無い嫌がらせのためである。

 

 この時になって二人も気付いたが時既に遅し、手は放された後なので渋々ついて行くしか選択肢がなかった。実にタチの悪い嫌がらせである。

 

「ところでしろ、胸のサイズわかる?」

 

「貧乳です」

 

「「「見りゃわかるわ」」」

 

 結局、男子高校生二人は天井を眺め続け、白夜のアホ毛はさらにへにゃったという。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 数時間後、一同は買い物を終え、昼食を食べていなかったことを思い出し、デパート内にあるカレー屋に来ていた。ちなみに陸斗の要望である。

 

 カレー、ラーメン、うどん、スパゲッティで陸斗、拓海、美空、愛夜華でじゃんけんした結果、陸斗が勝ったのである。フードコートに行けというつっこみは受け付けていない。なぜカレー以外麺類なのだろうか。

 

 カレーにより陸斗と拓海はある程度精神が回復したようだが、若干一名、さらにダメージをくらった者がいた。

 

「…………」

 

 美味そうにカレーを食べる面々の隅で完全に生気を失った瞳でカレーを作業のように口に運んでは咀嚼して、飲み込む。ただそれだけを淡々と続けている少女、白夜である。

 

 別にカレーが死ぬほど嫌いだったとか、生気を失うほどまずかったとかそういう話ではない。そもそもそれを言うならこの世に存在する食べ物全て大嫌いである。だが、これはそんな好き嫌いとかではなく、それ以前の問題だ。

 

 昨日の昼間の行動から察した者もいたのではないだろうか。

 

 今の白夜には、味覚が無い。

 

 ついでに言うと痛覚もだ。一時期は色覚や話す能力すら無かったが、今は問題ない。

 

 このため、昨日の昼間にチャーハンを食べた時にはため息を吐いていたし、ベットから盛大に落下しても痛みに顔をしかめることすらなかった。

 

 例えば飴を口に入れたところで石ころを舐めていることとの違いは分からないし、肉を食べたところでゴムを噛んでいるのと変わらない。そのくせ嗅覚は常人より遥かに優れている。

 

 想像してみよう。目の前に美味しそうなステーキがある。とてもいい香りがする。お腹もすいている。食べてみる。味がしない。

 

 はっきり言おう。地獄である。

 

 白夜はそれがかれこれ四年続いている。そりゃあ死にたくもなる。もちろん白夜が死にたいのはそれが理由ではないが。

 

 そんな白夜が家で料理も担当しているのにはもちろん理由がある。

 

 理由はいたって単純、手順通りにすればまず失敗はしないからである。

 

 しろの3分クッキング〜。

 

 まず、スマホを用意してください。

 

 次にクルクルパットを起動してください。

 

 作りたい料理を検索してください。

 

 書いてあるとおりにしてください。

 

 以上。

 

 と、そういうわけである。3分かどうかは問題ではない。

 

 白夜いわく、「料理は『愛情』でもなけれは『化学』でもない。料理は、『作業』だ!」とのことである。

 

 つまり『化学』では? というつっこみも受け付けていないらしい。

 

 言っていることがめちゃくちゃだが、四年にわたる無味料理生活で多少(?)おかしくなっているので仕方ない。

 

 そもそも、〈特異点(イレギュラー)〉など頭のネジを五、六本前世の母親の腹の中に置き忘れてきたような連中である。つまり取りに行きようがない。

 

 要は、今更追加で何本か抜けたところでたいして変わらない。というか壊れている方が正常と言われるくらいである。

 

 異常が正常、〈異常者〉と書いて〈イレギュラー〉とも読まれる。

 

 話を現状に戻そう。

 

 カレー(小)を高速で食べ終えた白夜は、一言だけ「ねる」とだけ言い、目を閉じた。最小限の食事量で最大限のカロリーを取ろうという考えである。白夜が空いた時間を大体寝て過ごしているのも同じ考えである。

 

 以前、何も食べたくないので一週間近く水だけで過ごし、結局栄養失調で倒れた事があった。それ以降、最小限の食事だけを取るようにしている。

 

 ちなみにその時「いやもうまじでむりです。カロリーのお友達とかサプリだけじゃだめですか?」と、倒れた件で叱られている最中であることも気にせず言ったことがあるのだが、残念ながら却下された。

 

 あと、他のメンバーが特に白夜に気にせず普通に食事をしているのは、白夜の「下手に気を使われるのは腹立つからやめて」という発言のためである。それでもはじめは気を使っていたのだが、白夜が頑として譲らなかったので諦めて開き直る事にした。という経緯がある。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 その後、全員が食べ終わり、白夜を起こそうとするも、ゆすっても振り回しても投げても起きないため、仕方なく陸斗が背負って運ぶことになった。

 

 おそらく疲労が溜まっていたのだろう。人格安定剤の副作用の一つの、慢性的な眠気によるものもある。もう一つの副作用である頭痛は、先程言った理由により、白夜には関係ない。

 

 ついでに人格安定剤についても説明しておこう。説明が多い? 今回は説明回なので。

 

 前にも説明した通り、白夜は四年前のとある出来事により、多重人格になっている。

 

 そのために愛夜華が作ったのが、白夜が毎晩飲んでいる人格安定剤である。人格安定剤だが、その名の通り人格を安定させるための薬である。分かりやすくて助かる。……単純に愛夜華のネーミングセンスが無いだけかもしれないが。

 

 そしてその副作用だが、まず、飲んで効果が出始めると脳の容量の大部分が使われ眠る。これは寝ている間だけではなく、薬が効いている間はずっとである。

 

 人の脳は普段、全体の10パーセントしか使われていないという。これには様々な説があるが、とりあえず10パーセントということにしよう。

 

 そのうち、白夜は薬によって脳の演算機能の約3分の2が圧迫されているため、実質的に普段から使うことができるのは全体の3.3パーセント程度である。これで大体、頭脳型の準〈特異点(イレギュラー)〉にぎりぎり届かない天才一人分である。

 

 つまり白夜は一応身体能力型の〈特異点(イレギュラー)〉にも関わらず、頭脳型の準〈特異点(イレギュラー)〉にぎりぎり届かない天才の三倍の演算能力を持っていることになる。もちろん愛夜華はそれ以上だ。

 

 演算能力=天才というわけでもないが、単純に頭の回転が早いというだけで見れば驚異的である。

 

 最初に眠ることに関しては、しばらくすると起きるが、脳が休めていないため、脳に疲れが残るので慢性的な眠気に襲われる。

 

 眠気がピークになると気絶するように倒れる場合もある。

 

 本人いわく、「なにかに集中するなり気を張ってたら寝ずにすむけどめんどくさいから普段はしない」とのこと。

 

 それもそうだ。睡眠が足りていないのが原因なのだから無理をして起きるということは連日意味も無く徹夜し続けるようなものである。

 

 それで本当に必要な時に倒れるようでは本末転倒もいいところである。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 そんなわけで、結局力尽きて陸斗に背負われる白夜。現在デパートの駐車場に向かっているところだ。

 

「それで? りく、ご感想は?」

 

「無に等しい」

 

 愛夜華から茶々がはいるも、顔色ひとつ変えずに返す陸斗。

 

 ちなみに何の話かは想像におまかせする。本人が聞けば文句が入りそうだが、幸い本人の意識は無い。

 

「それにしても……」

 

 白夜の寝顔を眺め、少し考え込みながら昨日から全員が、本人すらも思っていたが誰も言わなかったことを口にする。

 

「見れば見るほどあの子(・・・)そっくりねぇ……」

 

「……そうだな」

 

「「「………」」」

 

 おそらく思わず口に出しただけなのだろう。普通ならデパートの喧騒にかき消されるような音量で発されたつぶやきは、その場にいた全員の耳に届いていた。

 

 とりあえずといった感じで陸斗が返事をする。

 

 全員が、暗いわけではないが、とても明るいとは言い難いなんとも微妙な表情になる。

 

 そんな微妙な空気の中、一行は帰路に着くのだった。




白「……どうも。現在りくの背中で夢の中、紅月白夜です」

陸「親友背負って三千里、如月陸斗です」

白「今回から二人になったんだね」

陸「作者の気分と物語の状況によってメンバーも人数もランダムらしい。ちなみに今回本来は田村さんの予定だったらしいぞ」

白「……相変わらず不憫な人だね……。っていうか『無に等しい』って何かな?」

陸「本編ではお前寝てんだから聞いてないはずなんだけどな? ほらあれだ、体重。あ〜軽いわぁ〜」

白「……まぁ、いいや。ここは舞台裏だからね?」

陸「メタ発言も構わないと? まあ、たしかに拓海もアイツとか言ってたしな。今回からは分かりやすく作者って言うことになったけど。っていうか今回えらく更新遅かったな。昔はほぼ毎日してた時期だってあったのに」

白「……いつの話?」

陸「3、4か月前だな。この頃は2、3日に一回くらいのペースだった」

白「まあ、今回は説明回だったからいろいろ詰め込んだのと途中でデータが吹っ飛んで絶望してたってのと、あとこれの外伝? 的なやつの設定とかも調整してたからね」

陸「外伝って……。本編ちゃんと書いてからにしろよ……。あとこれのタイトルの略称が決まったんだって?」

白「ごもっとも。一度始めると止まらないんだよ……。こっちのストーリーも最終回と後日談までしっかり決まってるけど書く手が追い付かず、もともと裏設定くらいだったやつを形にしたんだって……。あと略称は昨日ふと思いついたらしい。たしか『しにせん』だって」

陸「死に戦? あぁ、『(死に)たがりのTSVR(戦)記』で『しにせん』か」

白「漢字でもひらがなでもどっちでもいいらしいよ。あと他に良いのがあったらアイデアお待ちしてます、だって」

陸「そうか。……ってそもそもこれ次回予告! 早く次回予告するぞ!」

白「………? あぁ、そういえばこれいいわけと報告会じゃなかったね。それじゃ、どうぞ」

陸「丸投げかよ! え〜っと、家に帰って一晩経った紅月ファミリー、いろいろあったのでとりあえずしろが他人格と相談会? をするらしいです」

白「次回:『脳内会議』 次回もお楽しみに!!」

陸「最後だけしっかり持っていきやがった!!」


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