男子一年会わざれば刮目して見よ (ローファイト)
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大学日常生活

大学2年生となった八幡がマッチョだったら?
というお話です。
意味と意義とかそう言う難しい事は考えてません。


「はっちー、とべっち、遅れてごめん、待った?」

白のワンピースに水色の薄手のカーディガンを羽織った、清楚な夏らしいコーディネートに身を包んだ海老名姫菜。

彼女は首を傾げながら木陰のベンチで待つ若い男性二人に、微笑む。

高校までは彼女のアイデンティティの一つであった眼鏡はかけてはおらず、大学に入りコンタクトにかえていた。

目元が露わになり、大和撫子然とした目鼻立ちがより一層彼女を清純な美女に見せる。

その微笑みは木陰に刺す斜光で、一層眩しく映った。

 

「大丈夫よぉ、さっき来たばっかりだしィー」

待っていた一人の若者は、茶髪に染めた髪をかき上げながら立ち上がり、相変わらずの崩れた口調で手を振ってそれに答える。

今風でいえばチャラい服装も相まって、かなり軽い男に見える。

だが、彼はこう見えても同大学のサッカー部のレギュラーでエースストライカーだ。

彼の名は戸部翔、海老名姫菜とは高校からの同級生だ。

因みに、戸部は姫菜に数度告白したが、全てすげなく断られている。

それでも彼は、めげずに今も彼女に好意を寄せ続けていた。

 

「いいや、俺は元々ここの木陰で本を読むつもりだったから、問題ない」

もう一人の捻くれた返事を返す若者は読んでいた小説をパタリと閉じ、やる気が無さそうな双眸でベンチに座ったまま彼女を見上げ、静かに答えた。

彼の服装は上下共に水色のジャージ姿だが、彼から発する無気力そうな気配からとても運動部員に見えないため、違和感が拭えない。

彼の名は比企谷八幡、戸部と姫菜と高校からの同級生だ。

高校時代は2年、3年と同じクラスではあったが、それ程親しくはなかった。

大学に入り、何故だか戸部や姫菜の方から八幡に付きまとうようになり、今は誰が見ても友人関係であり、大学内でもこの3人が並んで過ごす姿はよく見られる光景だ。

 

因みに、彼女彼らは別の学部で、姫菜は芸術学部、戸部は教育学部、八幡は法学部だ。

それぞれのカリキュラムや部活動が終われば、こうやって週に数度顔を合わせている。

 

 

3人は並んで広々とした大学キャンパス内をゆっくり歩きだし、校門へと向かう。

「来週さ、隼人くんたちと海に行くんだけどさ、八幡もいかない?」

今は大学二年の夏季休暇前、夏休みの計画について戸部が話し出す。

 

「なぜわざわざそんな暑苦しい場所にいかなくてはならないんだ?」

 

「どうせ八幡はさ、暇っしょ?姫菜も結衣も来るしィー、」

 

「………俺も色々あんだよ」

 

「なになに?八幡なにブルーになってんのさ?」

 

「とべっち、はっちーはさ、去年に結衣と雪ノ下さんと約束したんだよ。この夏休みにはどちらかを選ぶって」

姫菜のこの話は、八幡の高校生時代にまで遡る。

彼が高校3年の夏休み、雪ノ下雪乃と由比ヶ浜結衣に正式に告白されたのだが、八幡は真剣に考え、今の自分には、二人の思いを受け取る事が出来ないという結論を伝えたのだ。

大学に入り一年の夏、再び雪ノ下雪乃と由比ヶ浜結衣の告白に晒される八幡。

八幡は答えを出す事が出来ずに今年の夏まで答えを先延ばしにしたのだ。

告白の答えの延期を伝えられた二人は、八幡を振り向かせるべく女を磨くとかで、この一年八幡と直接会っていなかった。

Lineや電話は頻繁に交わしていたようだが……。

そして、8月8日……その期限が迫っていたのだ。

 

「いたたたたっ、そう言えばそんな話だった、でもでも羨ましすぎるべ、このモテ男っぷり、そんじゃ同時に2人と付き合っちゃえばいいんじゃない?」

 

「とべっち、最低」

姫菜の冷ややかな目が戸部に突き刺さる。

 

「えーっ!?まずった?」

 

「どうせ、はっちーの事だから、『俺なんかと付き合うべきじゃない』とか『俺なんかには2人は勿体ない』とか思ってるんでしょ?」

姫菜は戸部の事は余所に置き、八幡に温かい笑顔を向けていた。

 

「そんなんじゃねーよ」

八幡は姫菜に図星を突かれるが、動揺を隠しながら答える。

 

「はっちーは、自分の事を卑下し過ぎなんだよ。二人の事好きなのに……でも、二人の事が好きだからこそ選ぶのって大変だよね」

 

「そんなんじゃ……」

 

「それとも!愛しの隼人くんの告白を待ってるとかーーーーーっ!!八×隼来たーーーーっ!!」

さらに図星を突かれた八幡が姫菜の言葉を表面上は否定しようとしたのだが、姫菜は何故か突然興奮し、こんな事を絶叫する。

海老名姫菜、1週間後には20歳となるが、彼女の腐女子っぷりは相変わらずであった。

 

「違うからね。海老名少し落ち着こう」

八幡は内心呆れながらも、冷静に対処する。

高校時代は三浦優美子が姫菜の暴走を止める役目であったが、その役目は八幡に引き継がれていた。

 

「はぁ…じゃあ、結衣とだけ会うってのは不味いかぁ……そんじゃ、雪ノ下さんも呼んじゃえばいいんじゃない?」

戸部の空気を読んでるのか読んでいないのかよくわからない言動が飛ぶ。

 

「そう言うのは、はっちーと二人の話だから」

 

「でもさ、二人と会う本番前の予行演習みたいな?ワンクッション置いた方がいんじゃない?しかも外野が居たほうが気にし過ぎなくていいべ?」

 

「うーん。それはありかも………じゃあ、はっちーそう言う事で」

最初は戸部の意見に反対していた姫菜だが、戸部の説得に一理あると見て、戸部の意見の賛成側に回る。

 

「本人無視して、何勝手に話を進めてるんですかね?」

八幡は呆れた眼差しで、2人を見据えていた。

 

「大丈夫、大丈夫!俺もフォローしちゃうからさ」

戸部は八幡に軽い感じでウインクする。

その姿に不安を覚える八幡。

 

「一年ぶりの2人との再会を劇的なシチュエーションを用意してあげるよ」

姫菜もかなりノリノリだ。

 

だが……

 

「再会?サイカイ?……サイ、サイ、……」

八幡は海老名姫奈の会話の中に再会という言葉に、ピクリと反応を示し、何故か俯き加減に

ブツブツと何やら呟きだす。

 

「ちょ、は、八幡!?」

その八幡の様子に、戸部は焦りだし、海老名姫菜はニヤケ顔でポシェットからデジカメを取り出す。

 

「サイドチェストーーーっ!!」

突然雄叫びを上げる八幡。

その雄叫びと共に八幡が着ていた上下のジャージは爆発を起こした様に破裂し、その下からどう考えてもジャージに収まるはずが無い筋骨隆々の肉体が現れる。

どう見ても肉体は二回りどころか、圧倒的に膨れ上がっていた。

八幡は右手で左手首を掴み横向きにポージングを決め、肥大した大胸筋と丸太のような腕や足の筋肉がより一層強調され、見る物を圧倒させる。

 

「キターーーーー、サイドチェスト!!頂きましたわっ!!」

姫菜は、八幡のそのゴリマッチョなブーメランパンツ姿に、何故か眼鏡をわざわざ装着し、顔を蒸気させ興奮し、彼の周りを素早く動き周り、美女にあるまじきだらしない顔をさらけ出しながら、いろんな角度からデジカメを構えパシャパシャと写真を収めていく。

 

「………ないわーー」

戸部翔はそんな二人の様子を、ため息交じりに呆れて茫然と見ていた。

 

 

 

 

八幡に何があったか説明しよう。

去年の夏休み終盤。

戸部はサッカー部の監督にフィジカルを鍛えるようにと忠告され、とあるスポーツジムを紹介される。

1人で行くのが億劫な戸部は、体験コース無料キャンペーンのチラシを片手に、八幡をスポーツジムへと誘ったのだ。

それに、雪ノ下雪乃と由比ヶ浜結衣二人に再び告白され思い悩む八幡を、普段と異なる環境に身を置かせ、運動させる事でストレスを発散させうようとする思いもあった。

「一人で行けよ。なぜわざわざ体力を消費しにいかにゃならんのだ」と、当然の如く八幡は断ったのだが、戸部はめげずにしつこく八幡を説得に掛かる。

それでも、首を縦に振らない八幡。

だが、丁度このタイミングで、高校の一つ下の後輩だった一色いろはから電話がかかって来る。

明日、総武高校に来てくれだのという頼み事だった。

生徒会の仕事やらの面倒な厄介事が待っているのだろう事を察した八幡は……

「すまんな一色、明日用事がある」

「バイトじゃないですよね。小町ちゃんから、明日はシフトが無いのは把握済みです。先輩の大学のスケジュールも午前中で終わりますよね」

一色は既に八幡が明日の午後からフリーであることを把握済みだった。

 

「せ、先約があるんだよ」

 

「先輩が先約とか、可笑しくないですか?それに、可愛い後輩の用事より大切な用事なんてないですよね先ー輩♪」

「戸部と約束していたんだ」

「本当ですか?」

「ああ、今、戸部と一緒に居る」

「戸部先輩ですか?どうせくだらない用事だから断ってください。というか代わってください。私が断って上げます」

八幡は戸部にジムに明日一緒に行くから一色を如何にかしてくれと頼み、戸部にスマホを渡す。

戸部は一色に罵られたり、蔑まれたりしながらも、何とか一色の攻勢を交わしきる。

まあ代償として、戸部は一色にそれだけの対価を払う事になるのだが……

 

 

翌日。

戸部と共に憂鬱そうにジムへ向かう八幡。

 

駅前のデカデカとマッチョのオブジェが聳え立つビルへと足を踏み入れる。

そのジムの名はシルバーマンジム。

 

そこで爽やかイケメンの名トレーナーと出会う。

 

最初は嫌がっていた八幡だが、トレーニングを黙々と行っている最中は、悩み等を忘れる事ができ、次第にはまっていく八幡。

何時しか、筋肉を鍛える事が八幡の日課となって行き、爽やかイケメン名トレーナーの元、たった1年間で強靭な肉体を手に入れるまでに至る。

 

 

 

そして………

 

「フロント・ラット・スプレッドーーーっ!!」

 

次々とポージングを決めていく八幡の元に、何時の間にか人だかりが出来ていた。

ほぼ八幡ファンクラブと化した女子漫画サークルや、写真部、造形電子サークル、ボディービル部などなど、写真をパシャパシャと撮っていたり、スケッチをしていたり、体をくねらし恍惚に八幡の肉体を鑑賞する女性に一部の男共が集まっていた。

この光景は今やこの大学の日常風景と化しつつあった。

 

「いいね!仕上がってるよ!はっちー!!」

姫菜は鼻血と涎を垂らしながら、八幡の肉体を写真に収めていく。

 

「………」

 

「はい!そこでとべっちがはっちーの二の腕を抱きしめるーーーっ!!」

 

「…………」

戸部にはそんな姫菜の雄たけびは耳に入っていない。

順応性が高いハズの戸部なのだが、こればかりは慣れる事が出来なかった。

 

「そこのボディービル男子!はっちーと肩を組む!!キターーーーっ!!いいーーっ!!」

 

 

「……………」

戸部はこの光景を見て思った。

夏休み、八幡を連れて海に遊びに行くのはまずいのではないかと。

しかも、由比ヶ浜結衣と雪ノ下雪乃と一緒に………。

 

 

 

 

 

 

 




うむ。
3話ぐらいで終わりたい。


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夏の思い出(上)

感想ありがとうございます。




「比企谷君、こうして直接会うのは久しぶりね」

白色のブラウスに淡い水色地の花柄ワンピースを着、少々大人びた夏コーディに身を包んだ雪ノ下雪乃は、つばの広い麦わら帽子を脱ぎながら、八幡に挨拶をする。

 

「……ああ、そうだな」

八幡はその姿に、つい見惚れてしまっていたが、冷静に努めようとする。

 

「ヒッキーっ!ひさしぶり!」

ベージュ色に近いショートスリーブニットにショートパンツ姿の夏らしいラフな格好の、由比ヶ浜結衣が八幡へ駆け寄る。

その服装により、結衣の豊満な胸が強調され、上下に揺れる。

 

「ん?……由比ヶ浜だよな」

八幡は胸に注視することなく、彼女の顔を見つめていた。

 

「誰に見えたし、もう。でもじっと見られるのはちょっと恥ずかしいかも」

結衣は俯き加減にモジモジとそう言う。

八幡が注視し驚いたのは、結衣の髪型が大幅に変わっていたからだ。

以前はピンクっぽい髪色に脱色しお団子頭だったが、今は脱色をやめ、元々の髪質だった少々茶色がかった黒髪をミディアムボブで髪をまとめていた。

 

「す、すまん」

 

「似合うかな」

結衣は八幡の耳元でそっと訪ねる。

 

「い、いいんじゃないか」

八幡はそんな結衣の姿に内心焦っていた。

結衣をギャルっぽいイメージで見ていた八幡だったが、今の結衣は柔らかな印象を与えるほんわかとした美女に見える。

しかも、そのもじもじとした初々しい仕草がまた、男心をくすぐる。

 

一方の八幡は相変わらずの青ジャージの上下姿だった。

 

 

雪ノ下雪乃と由比ヶ浜結衣は、千葉駅前で凡そ一年ぶりに比企谷八幡と直接再会を果たす。

そう、今から戸部が夏休み前に計画していた海水浴に向かうのだ。

 

 

集合場所の千葉駅から葉山隼人が運転するワンボックスカーで勝浦の某海水浴場へ向かう。

メンバーは運転手の葉山隼人に戸部翔、比企谷八幡の男性陣、女性陣は三浦優美子に海老名姫菜、由比ヶ浜結衣に雪ノ下雪乃の計7人。

葉山・三浦グループに、八幡と雪乃が加わった形だ。

座席は運転席に葉山、助手席に戸部、2列目に三浦優美子と姫菜、3列目に結衣、八幡、雪乃の順。

高校時代、何だかんだと、この組み合わせで行動を共にすることが数度あった。

 

一時間半程度のドライブで目的地の海水浴場へ到着。

早速、海の家経由で、男連中は場所取りのために砂浜にパラソルを立てに行く。

まだ、午前10時にもなっていなかったが、そこそこの人で賑わっていた。

 

葉山はオシャレなサーフパンツ、戸部は黒のブーメランパンツにパーカーとサングラス。

八幡は何故かいつもの青の上下ジャージだった。

「比企谷、君は泳がないのかい?」

葉山は八幡の姿を見て、当然の質問をする。

 

「隼人く~ん、八幡には海より深いわけがあってジャージなのよ。察してあげて」

「まっ、単純に泳げないだけだ。それに虚弱体質でな。日焼けは勘弁してほしい」

葉山の質問に戸部は申し訳なさそうに手を合わせ、八幡はしれっとこんな嘘を言う。

実は八幡は戸部にジャージを脱がない様に言い含められていた。

ここで、あの肉体をさらすのはある意味、暴威といっていいだろう。

八幡も八幡で、特に異存は無く、ビーチで本を読む気満々だった。

ただ、海に遊びに来た意味が全く無いだろう。

 

 

「そうか、せっかくの海なのに残念だな」

「気にしないでくれ、俺は荷物番がてら、本でも読んでおく」

 

 

そこに女性陣が現れる。

三浦優美子は胸元に大きなリングをあしらった、金髪に映える野性味あふれる黒のセクシービキニ。

本人の整ったプロポーションと相まって、かなりセクシーである。

 

海老名姫菜は純白のフリル付きワンピース。

かわいらしさを全面にアピール。

今日は眼鏡を着用しているため、雰囲気は内気なお嬢様風である。

 

由比ヶ浜結衣は白のフリルビキニに、カーキ色のパンツ。

布地が多いビキニではあるが、バストが大きな由比ヶ浜が着用すると胸元が大きく開き放たれ、とてもセクシーである。

 

雪ノ下雪乃はアイボリーのクラッシックなビキニスタイル。バストが強調されにくいビキニではある。

ただ、透き通るような色白の肌とスレンダーな肢体に良く映える。

 

「水着のファッションショーっしょ、これ?みんなセクシー過ぎるんじゃない?」

戸部は女性陣の姿に口笛を吹き、大げさに驚いて見せる。

 

「皆良く似合ってる」

葉山は相変わらずの爽やかスマイルで皆を褒める。

 

「………」

八幡はぼうっと女性陣の姿を眺めている。

口には出さないが、見惚れていたのだ。

 

雪乃と結衣は八幡の前まで少々恥ずかしそうに歩む。

「ど、どうかしら?」

「どう?似合ってる?」

 

「………そのだ。に、似合ってると思うぞ」

八幡はビニールシートに座りながら二人を見上げるが、直視できずに視線を恥ずかし気に下にそらす。

 

「あらそう……」

「ふふ、ヒッキーが褒めてくれた」

八幡の答えに二人ともまんざらでもなさそうだ。

 

「それであなたは何故ジャージなのかしら?」

「そうだよヒッキー、せっかく海に来たんだから泳ごうよ」

二人はもっともな質問を不満そうに八幡にする。

 

「海よりも深いわけが……いや、泳げないだけだ。それに日光が……」

八幡はしどろもどろに言い訳を口にする。

 

「そう、あなた泳げなかったのね。でも私が教えてあげるわ」

「あたしも、そんなに得意じゃないけど」

二人は八幡に手を差し伸べる。

 

「医者に泳ぐのを止められてだな……」

そんな嘘を吐く八幡は至って健康体だ。

普段から健康に、筋肉に十分なケアを行っている。

 

「え?比企谷君大丈夫なの?」

「ヒッキー……病気なの?」

二人に本気で心配される八幡。

 

「た、大したことは無い」

嘘を信じ心配してくれる二人に、いたたまれない気分になる八幡。

 

 

そんな三人の姿を横目で見ていた姫菜は、別に隠す必要性はないのになと、どうせすぐにバレるのにと、心の中で呟いていた。

 

 

 

皆は海へと遊びに行き、八幡は一人パラソルの下で荷物番だ。

八幡は本を読みながらも、ちらちらと雪乃と結衣を目で追っていた。

二週間後の8月8日八幡の誕生日に何方か一人を恋人に選ばないといけないのだ。

八幡の心の中では未だに結論を出せていない。

いや、答えは出ているのだが一方を悲しませる事になる。

それが、八幡が結論を出せないでいた理由だった。

 

 

しばらくして雪乃が海から上がり、バスタオルを肩に羽織り、八幡の横に座る。

「皆、元気ね」

「雪ノ下、相変わらず体力がないのな」

「これでも、ましにはなったわ」

体力が無い雪乃はスタミナ切れで海から一足先に上がったのだ。

 

「比企谷くん、私に隠し事をしてないかしら?」

「唐突だな」

「ジャージよ。あなた、去年まではジャージなんて着た事なんてなかったじゃない」

「………」

「私達に見せられないような傷跡が残るような怪我をしていたとか、かしら?」

「それは無い」

「あなたが言う病気という理由は引っかかるわ、この猛暑の中ジャージなんて……」

「前にジムに通ってる事は、話さなかったか?」

「それは去年の夏の終わり頃に聞いたわ。まさか今も通ってるのかしら?」

「ああ、一応な。それでジャージが楽で今もな……」

「それだけではないでしょう?」

「……まあ、そうだな」

八幡は雪乃に追及され、ジムで鍛え過ぎた肉体について話そうと覚悟を決めるが、どう説明したものか、なかなか言葉が見つからない。

 

そんな時、結衣や他の皆もパラソルに戻って来た。

 

「次何しようか?」

「あーし、スイカ割りってやってみたいんだけど」

「あたしも久しぶりにやってみたい」

「私も興味あるなぁ」

次の遊びに三浦優美子がスイカ割りをチョイスし、結衣と姫菜もそれに同意する。

 

「流石にスイカは持ってきてねーべ」

「じゃあ戸部、買ってきて」

「優美子ぉ、それ酷くない?」

戸部と優美子がそんな会話そしているなか……

 

「俺が買ってこようか?駐車場近くの国道沿いにスイカを売ってる看板を見かけた。ここからそんなに遠くはない場所だ」

八幡が自らスイカを買いに行く事を提案する。

 

「いいのか?」

「ああ、どうせ暇だしな」

「じゃあ、頼めるか比企谷」

そんな八幡に葉山は気を使いながら、スイカの買い出しを頼んだ。

 

「そんじゃ、ちょっくら行ってくる」

「あたしもいっしょに行くよ」

「私も行くわ」

八幡が買い出しにと立ち上がると、結衣と雪ノ下もついて来ようとする。

 

「スイカぐらい一人でいい、せっかくの海だ。楽しんどけ」

「スイカって結構重いよ。それにあたしはヒッキーと一緒に行きたいの」

「先程の話はまだ終わってないわ」

八幡は断るが、結衣も雪乃もついて行く気満々だ。

 

「わーったよ」

 

結衣と雪乃は薄手のパーカーを羽織い、八幡と並び砂浜から国道へ向かう。

 

 

しかし、国道の歩道に差し掛かった頃……。

「超かわいい子めっけ!!」

「二人とも超かわいいんだけど!!」

「ねえねえ、君たち俺達とボートで遊ばない?」

3人組の日焼けした見るからにチャラ男共が八幡を余所に、雪乃と結衣をナンパしだしたのだ。

 

「お断りするわ」

雪乃はツンとした表情ではっきりと断る。

「あの、友達もいるから……」

結衣は八幡のジャージの袖を掴みながら、びくびくとしながらも断ろうとする。

 

「何?こんな奴がいいの?」

「ぷっ、見るからに根暗そうじゃん!」

「俺達の方と一緒に居たほうが絶対楽しいって、ね?」

彼女たちの断りも気にせずに、さらにナンパを続けるチャラ男共。

 

「あー、連れが嫌がってるんでやめてくれませんかね」

八幡は結衣と雪乃の前に出て、チャラ男共3人と対峙する。

 

「ああっ!?もやし野郎はお呼びじゃないんだよ!!」

「俺達は彼女達と話してるんだ!!」

「海でジャージって何それ?ダサいにも程があるじゃん。彼女達さ、こんなダサい奴ほっといて、一緒に遊ぼうぜ、絶対楽しいって」

 

「ダサい?……サイ……サイ」

八幡はチャラ男の一人から発せられたダサいと言う言葉に反応し、俯き加減にブツブツと何か呟いていた。

どうやらこのチャラ男、八幡の押してはいけない言葉のスイッチを押してしまったようだ。

 

「な、なんだこいつ?」

 

そして……

「はい!!サイドッチェストォーーーッ!!」

八幡は雄たけびを上げながら、右手で左手首を掴み横向きにポージングを取ると同時に、上下のジャージは爆発したかのように破砕し吹き飛ぶ。中からは途轍もなく肥大した筋肉の塊のような肉体が飛び出すように現れる。

筋肉の塊と化した八幡の肉体は、見る物を圧倒させる。

 

「な………なななななっ!!」

「はっ……はひっ!?」

「ほほほっほへ!?」

その衝撃と筋肉のプレッシャーに押しつぶされ、腰砕けとなり座り込むチャラ男共の顔は驚愕の色に染まっていた。

 

「ダブルバイセップスッ!フロントーーーーっ!!」

八幡は正面を向き、腕を折り曲げたまま上にあげ、膨れ上がった上腕二頭筋(力こぶ)を最大限にアピール。

 

肥大した大胸筋や上腕二頭筋がぴくぴくと脈打つその姿に、チャラ男共は恐怖を覚え、這う這うの体で走り去っていった。

「す、すみませんでしたーーーーっ!!」

「おおおお、お助けーーーーーーっ!!」

「ひぇーーーーっ!!ごめんさーーいっ!!」

 

 

「し、しまった。ついやってしまった」

八幡は逃げ去るチャラ男共の恐怖の叫びを聞いて我に返る。

ポージングを決めている最中の八幡は、肉体の開放と共に理性も吹き飛び、ただただ筋肉の喜びに酔いしれ、己の肉体美をさらけ出そうとする獣と化するのだ。

 

「………比企谷くん……あなた」

「ヒッキー?……なの?」

雪乃と結衣の2人は、突然の八幡の変貌に驚き、茫然と見上げていた。

驚いても仕方がないだろう、今の八幡は、極大ゴリマッチョボディに八幡の顔を張り付けたようなコラ写真のような姿なのだ。

その違和感は、初めてこの姿の八幡を見る二人にとって、言いようもない恐怖を覚えるだろう。

 

「い、いや、これはだな」

八幡は数倍に膨れ上がったゴリマッチョボディのまま、言い訳を必死に考えるが、思いつかない。

そもそも何のための言い訳なのかも分からないが。

 

「ヒッキー?……これって本物?…本物だ。堅いけど温かい温もりが……」

結衣は不思議そうに八幡の六つに割れた腹筋をペタペタと触る。

 

「見る物を圧倒する大胸筋、そして山の様な僧帽筋……す、素晴らしいわ」

雪乃は何故か目を輝かせ、八幡の肉体美を、少々上ずった口調で褒めたたえていた。

雪ノ下雪乃19歳、実は彼女は筋肉フェチの毛があったのだ。

レベル的には初級段階ではあるが。

 

二人に言える事は、八幡のゴリマッチョボディに対して拒否感を示していない、それどころか心なしか顔を赤らめているようにも見える。

 

「はぁ?」

八幡は思っていたのと異なる反応を示す二人に戸惑っていた。

 




マッチョボディを晒してしまった八幡………。
次はどうなる事やら、(下)に続く。


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夏の思い出(下)

感想ありがとうございます。

続きです。


マッチョ姿をさらした八幡だったが、予備のジャージに着替えると、何故だかスッと元の体のサイズに戻る。

 

「へ?……ヒッキー!?着痩せってレベルじゃない!?どうなってるの?」

「ああっ、鍛え抜かれた上腕二頭筋が……」

結衣はその変貌にまたしても驚き、雪乃はジャージで隠されてしまった筋肉に、惜しむかのような声を上げていた。

 

「ジム通ってるって前に話しただろ?……筋トレにハマって、鍛えまくってたら、いつの間にかこんな感じに」

 

「スゴ!?」

「たった一年で……素晴らしいわ」

 

「まだまだだ、あの人には遠く及ばない」

八幡は遠い目をしながら、誰かに向かって謙遜するかの様な言動をする。

その誰かとは、ジムの専属トレーナーにして、八幡が目標とする人物だった。

街雄鳴蔵、八幡の肉体をたった一年でここまで仕上げた伝説のトレーナーだった。

 

 

スイカを5個担いでビーチに戻る八幡。

そのジャージ姿の八幡にホッとする戸部。

しかし、八幡の後ろを歩く由依と雪乃の顔が若干赤らみを帯びており、行きと帰りでは八幡へと向ける視線が異なっていた。

その様子に姫菜は気が付き、一人ほくそ笑んでいた。

 

 

スイカ割りを楽しむ面々に、ジャージ姿の八幡も参加を促され、渋々という感じで参加。

スイカ割りの棒を持つと、棒を横に持ち、ついバーベルに見立てて持ち上げて、バーベル・デッドリフトをやってしまう八幡。

そんな八幡の奇怪な行動に葉山や三浦優美子は疑問顔を向け、戸部は慌てて突っ込みを入れる。

姫菜は今か今かとカメラを持ち待ち構えるが、八幡は苦笑気味に棒を縦に持ち直し、姫菜が望むマッチョ姿とはならなかった。

 

そんなこんなで、海の家で昼食をとる面々。

姫菜が昼食中の男連中に、とあるチラシを見せながらこんな事を言う。

「じゃん!葉山くん、とべっち、はっちーはこれに登録したから出場してね♡」

それはイケメンビーチコンテスト、要するに男子の水着コンテストの参加募集のチラシだった。

姫菜は何故か興奮気味で鼻息が荒い。

 

「え~、流石にこれはないわー」

「姫菜……」

「おい、海老名、なに勝手な事を、参加しないぞ俺は」

流石の戸部も葉山も、勿論八幡も拒否反応を示す。

 

「ええ~、せっかく来たんだし、皆で思い出作りと思って、ね」

「そ、そそう、隼人のかっこいい所みたいし」

姫菜はそんな3人の説得にかかり、三浦優美子も恥ずかしそうに援護する。

 

「ほらほら、結衣と雪ノ下さんも説得手伝って」

 

「あたしは、ちょっと見たいかも」

「私は別に……」

結衣は姫菜の提案に賛成したが、雪乃は特に興味が無い様だ。

 

姫菜はそんな雪ノ下の手を引っ張り、男連中から離れて、何やらコソコソと話す。

「雪ノ下さん、はっちーのマッチョボディ見たくない?はっちー嫌がってるけど、きっと壇上に上がったはっちーは我慢できずに次々とポージング取ってくれると思うのよ。あの筋肉が合法的に見れるんだよ」

姫菜はほくそ笑みながら雪乃を説得に掛かっていた。

 

「比企谷君の筋肉が合法的に見れる………」

そして、雪乃はまんまと姫菜の話に乗せられ、八幡の先ほどのマッチョボディを思い出し、ゴクリとつばを飲み込んでいた。

 

その様子に姫菜は満足げに頷き、男連中の元に戻り、

「雪ノ下さんも見たいって、はい、4対3で多数決で決定」

 

「え~、マジか~」

「はぁ、仕方がないか」

戸部と葉山は姫菜の強引な説得に渋々応じる。

 

「おい、なんで男連中だけなんだ?お前らはどうなんだ?」

八幡だけは抵抗するが。

 

「はっちーは雪ノ下さんと結衣の水着姿を不特定多数の男共のやらしい視線にさらしていいの?もしかして、はっちーってそう言う性癖なの?」

 

「そ、そんなわけ無いだろ。……俺は出ないからな。そもそも俺はジャージだ」

 

「ふーん。まあいいや、はっちーはジャージのままで、参加要項に水着って明確に書いていないし、ビーチが似合う人だったら誰でもいいみたいだし」

 

「いや……流石にジャージはビーチとミスマッチだろ」

 

「八幡~、ジャージだったら大丈夫じゃない?こうなったら出るしかないべ」

「比企谷諦めろ」

抵抗する八幡に、戸部と葉山は八幡の肩をポンと叩き、諦めて参加するように促す。

 

「はぁ、お前らな……ふぅ、仕方がないか」

どうやら八幡は抵抗を諦めたようだ。

 

 

 

 

そして……。

ビーチに設けられた会場には、ちゃんとした舞台も用意されていた。

審査委員も5人程見受けられる。

このビーチの組合代表、地元の町会議員、主催者の地元企業の人達が審査を行うようだ。

その審査委員の中に、地元企業の主催者の一人として、スーツ姿の年若い美女がにこやかな笑顔を湛えていた。

(暑いわね。地元交流のためとはいえ、こんな面白くもないコンテストに参加しないといけないのよ)

若い美女は笑顔とは裏腹に、内心悪態をついていた。

彼女の名は雪ノ下陽乃、雪ノ下建設の令嬢で現在は雪ノ下建設グループの広報課に勤務していた。雪ノ下雪乃の姉である。

 

既にコンテストは始まっており、今は女性の部が行われている。

(はぁ、暑いわ。早く終わらせて、家に帰りたいわ)

 

途中、女子高生4人組がコンテストの壇上でアピールタイムに何故か筋トレしだす場面があったが、つつがなく終わりを告げ、次は男性の部に入る。

 

(やっと半分ね。早く終わらないかしら……あら?雪乃ちゃんにガハマちゃん?)

陽乃は観客ブースの中に妹である雪乃とその友人の結衣の姿を見つける。

 

(ここのビーチに遊びにきていたのね。という事は比企谷君も居るのかしら?観客として見に来てるから、もしかして比企谷君が参加してるのかな?)

内心、まったくやる気がなかった陽乃だが、八幡が参加してる風景を思い浮かべると心の中での笑いが止まらなかった。

 

陽乃の元に参加者の名簿が回って来ると、やはり八幡の名前があり、さらに葉山隼人の名前もあった。

(ふふっ、本当に参加していたのね。面白いわ。これをネタに比企谷君と隼人をどうやっていじってやろうかしら)

 

 

 

そして、男性の部が始まる。

参加者は9名。

アピールタイムの順番は戸部が7番目で葉山が8番目、八幡が最後の9番目だった。

次々と水着姿の男性が壇上に現れ、ウインクしたり、軽めのポージングをしたり、はたまたダンスを披露しアピールしていく。

 

戸部はアピールタイムに、サッカーボールでリフティングを披露し、最後には観客ブースの姫菜に向かって投げキスの真似までして終了。

そして、先にアピールタイムを終えた男性陣と同じく、壇上の後ろに並んで待機し、次の参加者を待つ。

 

葉山はこう言うのは苦手なんだと言いつつ、2分程爽やかな笑顔でトークをしアピールを終わらすが、観客席の女性たちからは今日一番のざわめきが起こる。

葉山もアピールタイムを終え、壇上の後ろに下がり、戸部の隣に並んで立ち、次の参加者を待つ。

 

(隼人も鍛えてるんだけど、違うのよね。まだまだ貧相ね)

陽乃は葉山の水着姿を見て、こんな感想を漏らす。

葉山も大学でサッカー部に所属し、そこそこいい体つきはしているのだが、陽乃のお眼鏡には叶わなかったようだ。

 

 

そして、八幡の番だ。

ジャージ姿で壇上に現れる八幡。

 

(比企谷君それは何?ジャージって……まあ、どうせ貧相だし仕方がないわ。無様を晒さないだけましよね。どうせ無理矢理参加させられただけだろうし、それにしても雪乃ちゃんは何故比企谷君みたいな貧弱な男が好きなのかしら?)

陽乃はそんな感想を心に留めていた。

 

八幡はため息と共にマイクの前に立って何かを言おうとしたのだが、その時会場から大声で八幡に声援が飛ぶ。

 

「はっちーーーー、最高だよ!さ・い・こ・う!!」

勿論、その声は姫菜だ。

そんな姫菜の声援に、会場の誰もが苦笑するが……。

 

「最高……さいこう……さい…さい……」

壇上のマイクの前のジャージ姿の八幡は何かぶつぶつを呟きだす。

その姿をみて、姫菜は眼鏡を装着し、カメラを取り出し、顔を蒸気させスタンバイする。

 

そして……

 

「さい…サイ……サイドチェストーーーーーー!!!!

八幡は雄叫びを上げながら、右手で左手首を掴み横向きにポージングを決め、それと同時に体は膨張しジャージが爆発したかのように粉みじんにはじけ飛びブーメランパンツ一丁の姿に……。

そして、ジャージの下からは、先ほどまでとは打って変わって、筋骨隆々なマッチョボディが現れたのだ。

どう考えても先ほどのジャージ姿の人物と同じ人間には見えない、体の厚みや大きさが、二回りも三回りも大きくなっているのだ。

 

観客ブースでは驚きと戸惑いの声と黄色い声が同時に上がる。

 

「キマシタワーーーーーー!!!!サイドチェスト頂きました!!」

その中で姫菜が機敏な動きで、その八幡のマッチョボディをカメラに収めて行く。

 

同じく観客ブースの雪乃は……

「やはりいいわ、膨張しつつ引き締まった大胸筋。ああ、触らせてほしい……」

八幡の肥大した大胸筋にデレていた。

 

「ヒッキー、スゴ!こんど肩車してもらおうかな」

結衣は結衣でこんな事を口走っていた。

 

「……なにあれ?……ちょ、あれ何!?ヒキオ!?おかしくない!?縮尺おかしくない!?」

八幡のその姿に三浦優美子は狼狽しっぱなしだ。

まあ、それが普通の反応だろう。

 

壇上の後方では、マッチョボディを晒した八幡の後ろ姿に戸部は「あちゃー」と天を仰ぎ、葉山は目をひん剥き驚愕な表情を浮かべていたのだが……。

「す、すばらしい。なんて凄い肉体なんだ。比企谷!」

葉山は何故か八幡の肉体を褒めちぎる。

 

審査員席の陽乃は……

「いい!凄くいい!!あああ、大胸筋から下に向かって湧き出る腹筋が見事よ!シックスパックの形状も素晴らしい、均等に鍛えてる証拠だわ。そして、丸太のような大腿四頭筋……下半身の形状もいい!!良い仕上がり具合だわ!!ああ、なんて素晴らしいの比企谷君!!さ、触りたい……はぁ、はぁ、隠してたなんてズルいわ」

潤んだ目で八幡の肉体をなめるように見定め、はぁ、はぁ言い、涎まで垂れそうになっていた。

そう、彼女は極度の筋肉フェチで造形美を重視するタイプだった。

そして、八幡の肉体は彼女にとって理想的な肉体そのものだったのだ。

 

 

「ダブルバイセップスッ!フロントーーーーッ!!」

「サイドトライッ!セップスーーーーッ!!」

「モスト!マスキュラーーーー!!」

壇上では次々と笑顔でポージングを決めて行く八幡。

 

 

大盛況のまま、コンテストは終了したのだった。

 

 

 

マッチョボディを晒してしまった八幡。

雪乃や結衣だけでなく、陽乃や葉山との関係性まで変化していく事になるとは……この時は思いもしなかった。




ダンベル女子高生組はちょい役でw

一応、これで一旦完結です。
思いついたらなんか書けたら良いな~。


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再会①前編

やってしまった。


 

比企谷八幡大学二年生。

彼は20歳の誕生日に高校からの友人である雪ノ下雪乃と由比ヶ浜由衣のどちらかを恋人に選ぶという約束をしていた。

 

彼の誕生日8月8日当日。

八幡は母校総武高校に向かう。

3人の原点である奉仕部部室にて、雪乃と由衣のどちらかを選ばなくてはならなかった。

しかし、八幡は既に覚悟を決め部室へと入る。

既に雪乃と由衣は奉仕部のいつもの席に座り、緊張気味に八幡を待ち構えていた。

 

「比企谷くん」

「ヒッキー……」

 

「俺は……」

いざ告白をしようとする八幡。

 

だが……

「「その告白ちょっと待った!」」

そこに乱入者が現れる。

しかも何故か二人も。

 

 

 

 

 

話は変わり、2か月前の6月初旬。

八幡の高校の後輩、今年大学生となった一色いろはは、とある知る人ぞ知る人気喫茶店に友人の鈴木鈴音に連れられ入っていた。

「ちょっと鈴音、ここって本当に喫茶店なの?なんかバーみたいなのがあるんだけど、私、まだお酒飲むつもりはないわよ」

「そんな男受けするような恰好して、いろはは意外とガード堅いんだから、まあ、安心して、ここ本当に喫茶店だから、あのバーは演出みたいなもので、あそこでオリジナルオーダードリンクが注文できるのよ。それにほら、客はほとんど女性よ。それにあそこの女の子達なんてどう見ても高校生でしょ?」

鈴木鈴音とは一色いろはが生徒会長二期目を務めていた際に関東高校交流会で知り合い友人となった人物で、同じ大学に入学し、いつも一緒につるんでいる。

知り合った当時の鈴音は女子高の生徒会書記で、長身で見た目は中性的な美女でどこかあっけらかんとした性格をし、いろはとは真逆で女子にモテる女子だった。

だが、そんな真逆な境遇が逆にウマが合い、お互い本音で話せる数少ない友人となったのだった。

 

「ほんと人気店なの?私のリサーチに全く入ってないし、しかもなんか店員さんってむさ苦しい男ばっかりなんですけど、しかも短パンTシャツって……」

「気にしない気にしない」

確かに店の中央にバーがあったり、小さな舞台のようなものがあったりと喫茶店としてはちょっと変わったつくりはしているが、この店は喫茶店であることは間違いない。

 

「はぁ、…メニューは意外とまともそうね。ふーん、結構ケーキやドリンクメニューも充実してるわね。ちょっとネーミングセンスはアレだけど」

「いろは、おすすめがあるから私が頼んでいい?」

「好きにしていいわよ」

「OK~」

鈴音はタッチパネルを手慣れた手つきで操作し、次々とオーダーを通す。

 

「ところでいろは、また男を振ったんだって?」

「またその話?」

「前野先輩だっけ、大学で1、2番のイケメンって噂の人じゃない」

「なんか違うのよね」

「またそれ?何が違うのよ。いろは、今まで付き合った男悉く2、3日で振ってるじゃない。それだったら最初っから付き合わなければいいんじゃない?」

「まあ、告白してくるし、一応イケメンだったし、でも、なんか違うのよね」

「身体の相性が悪いって事?」

「何言ってんのよ!!違うわよ!!」

「ごめん、ごめん、いろははそんななりして処女だったわね」

「鈴音もね」

「私はまだいいの。それに大学のひょろ男共に興味ないし~」

「はぁ……」

「まあ、実際いろはって、まだ高校の先輩の、えーっと、葉山先輩だっけ?忘れられないだけじゃない?」

「そうなのかな、踏ん切りは付けたハズなんだけどな~」

いろははサッカー部の一つ上の先輩である葉山に、葉山の学年の卒業式の日に二度目の告白をし、見事振られたのだ。

その後、高校時代にも何人かと付き合ってはみたものの、すべて2、3日で振っていた。

 

「もしかして、いろはの話によく出て来るインキャの先輩君が気になってるとか?」

「はぁ?何言ってんの鈴音!私が先輩を?あり得ないわよ!」

「へ~、なにムキになってるの?いろは~」

「違うって言ってるの!そもそも先輩は……」

いろははその言葉の続きを心の中でつぶやく。

そもそも先輩は私なんて眼中にないと。

先輩というのはもちろん八幡の事だ。

 

 

「お待たせいたしました。こちらチョモランママロンケーキとベリーマッスルソーダー、バプロテインバナナシェークになります」

Tシャツ短パンの色黒でガタイのいい店員が、注文の品を運んでくる。

 

「ありがとう、店員さん。スマイルとポーズをお願いします」

鈴音が注文の品を運んできたガタイのいい店員にこんな事を言った。

 

「かしこまりました。では……フンッ!!」

その店員はニカっとした暑苦しい笑顔と共に、右腕を突き出し力こぶをつくり、上腕二頭筋をアピールしだした。

 

「仕上がってますね~」

「どういたしまして、それではごゆっくり」

鈴音がそういって店員に賛辞をおくり、店員はお辞儀をして下がる。

 

いろはは何が起こったのかわからずに、ポカンと目を見開いて見ていたが店員さんが下がると……

「ちょ、ちょなななななに?今の?なんなの?鈴音!!」

いろはは鈴音に慌てて迫る。

 

「え?何って、サービスのスマイルとポージングを店員さんに頼んだだけよ」

鈴音はあっけらかんとこう返答する。

 

「サービス!?スマイルはまだいいわよ!ポージングって何!?」

 

「え~、ポージングしてもらって、いい筋肉を見せてもらってるのよ。今の店員さんなかなか仕上がってたわ。やっぱり男は筋肉よ」

 

「はぁああ!?」

いろはは混乱とも驚愕とも取れないような声を上げる。

 

 

そう、ここはマッスルカフェ。

店員はすべてガタイの良い男性のみで構成されている知る人ぞ知る筋肉の花園。

女性に圧倒的な支持を受けて人気急上昇中のカフェなのだ。

 

 

「いろは、ここね。指名料を払えば店員さんも指名できるのよ。ほら」

混乱冷めやらぬいろはに向かって、鈴音は嬉しそうにタッチパネルの画像を見せる。

そこには首から下のマッチョ共の写真が並んでいた。

 

「ちょ、どういうこと?」

 

「そして今日は水曜日!!この店ナンバー1アルバイターのはっちーさんがシフトに入ってるのよ!!指名はしたんだけど、待ち時間が15分って、いろは!今日はラッキーよ。いつもは1時間ぐらい待つんだから!!」

興奮した鈴音はいろはの声など聞こえてないかのように一方的に語る。

 

「だから!なんなのよ!ここは!指名って、どういうことよ!!」

 

「キターーーーーーッ!!」

いろはの声など鈴音の叫び声に掻き消える。

 

そして、テーブルの前にはナンバー1アルバイターのはっちーさんが現れる

「お待たせしました。ご指名ありがとうございます……ってアレ?」

 

「え?……え???ええええええええーーーーーーーーーっっ!?!!?!?!?」

 




ということで、いろはす


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再会①後編

続きです。


 

「え?……え???えええええええーーーーーーーーーっっ!?!!?!?!?」

 

「いっ、一色?」

 

「せ、先輩!?こんなところで何をやってるんですか!?」

指名された店員として現れたのはジャージ姿の八幡だった。

いろははまさか八幡とこんな場所で再会するとは夢にも思わなかったため、大いに驚いていた。

 

「バ、バイトだ」

 

「バイト!?先輩が?しかも何で一人だけダサいジャージなんですか!?しかも、ただでさえ貧相な先輩が!こんなむさくるしいマッチョ共がうようよするような最悪喫茶店でバイトなんて、余計に悲しくなってきますよ!!」

しかも八幡と再会した場所がこんなとんでもない場所で、しかもそこでバイトしていたため、いろはは何故だか悲しいやら空しいやら悔しいやらで八幡に迫りまくしたてるように怒声を浴びせる。

 

「これには深いわけが……」

 

「え?いろは、先輩って、いつも話に出て来るいろはの先輩君のこと?はっちーさんが?」

八幡といろはの様子をポカンと眺めていた鈴音がようやくここでいろはに聞いた。

 

「はっちーさん?なんですかそのダサいあだ名は!!先輩はダサいにダサいを掛け合わせてるんですか!?」

いろはは鈴音の問いにも応えず、さらに八幡を責め立てる。

さすがの八幡もタジタジだったのだが、いろはが連呼するとあるキーワードに八幡はピクっと反応し、獣へと誘うスイッチが入ってしまった。

「……ダサい…ダサイ」

 

さらに……

「いろは、聞き捨てならないわ。はっちーさんがダサい?そんなわけあるかーーーー!!」

今度は鈴音がいろはに迫り叫ぶ。

何故だか周りの女性客たちが、その鈴音の叫びに皆一様に大いに頷いていた。

 

「な、なに言ってるのよ鈴音は!」

いろはは振り返りそんな鈴音に反論しようとするが……

 

いろはの背後では八幡は……

「ダサイ?ダ…サイ、サイ、サイサイ、はいッ!サイドチェストーーーーーーー!!

八幡は雄叫びを上げる、左手で右手首を掴み横向きにポージングを取ると同時に着ていたジャージは木っ端みじんに吹き飛び、中から熱せられた鋼の筋肉が爆発的に膨張し飛び出してきたのだ。

もはや筋肉の熱暴走!

体のサイズは二回りどころか二乗倍ぐらいに膨れ上がる。

勿論八幡は笑顔だ。

 

「へ?…………ええ?………え?」

いろは八幡に向き直り、その姿を目撃し……驚愕に打ち震えその場でへたり込む

 

「きゃーーー!!素敵!!はっちーーさーーーん!!」

「サイドチェスト!!キターーーーー!!」

「はぁ、はぁ、たまりません!?」

だが、鈴音と周りの女性客は黄色い声援を上げていたのだった。

 

 

 

八幡が何故ここでアルバイトをしていたのかを説明しよう。

ジム通いで筋トレにハマって行く八幡だったが、ジムに通うにはやはり金がかかる。

しかも専属トレーナーまでついているため、なおさらだ。

さらにはトレーニング機材やらプロテインなどにも金がかかる。

そこで、友人の海老名姫菜の勧めでここのバイトを紹介されたのだ。

毎週水曜日はこのマッチョカフェ、そして毎週日曜日の夜は、系列店で隣の店のマッチョバルでアルバイトを始めたのだ。

直ぐに超人気スタッフとなり、八幡が出勤する時間帯は通常の売り上げの3倍も上がる位だ。

当然時給もあがり、指名料もがっぽりと。

週二日の時間限定バイトなのに、正社員以上に給与が付いてしまう始末。

 

 

 

 

ダブルバイセップスッ!フロントーーーーーッ!!

己の筋肉という究極の鎧とブーメランパンツ一丁という戦闘態勢の八幡は次々とポージングを決めていく

おのれの肉体を開放する喜びに打ち震える八幡はもはや誰も止められない。

何時の間にか女性客が周囲に押し寄せ、八幡の肉体を目に焼き付けようとしていた。

店内は大盛り上がりだ。

因みに店内は写メ禁止である。

 

 

床にへたり込み、茫然と八幡の姿を見上げていたいろは。

「いろは、……すごいでしょ?素敵だと思わない?」

そんないろはに鈴音は諭すように語り掛ける。

 

「………うん」

いろはは茫然としたままだが、何故か頷いた。

 

「美しいと思わない。人間の体はここまで成長できるのよ」

さらに鈴音は語る。

 

「………うん」

いろははそれにゆっくりと頷く。

 

「筋肉をここまで育てるなんて、並大抵じゃないわ。真面目にコツコツと筋肉と向き合い、時には我慢し時には厳しく、良い人じゃないと良い筋肉は育たないの、だからはっちーさん、いえ、いろはの先輩君は誰よりもとてもいい人なのよ」

 

「………うん」

頷くいろはは頬を染めていた。

マッチョを毛嫌いしていたいろはだが、ここでその天秤がひっくり返る。

但し、八幡限定の様だが……。

 

「………先輩」

いろはの八幡を見上げる目はうっとりとしていた。

その目の奥にはくっきりとハートが浮かんでいたのは言うまでもない。

 

 

この後、いろはは八幡に何かと連絡をし、かまってちゃんを演じる事に……。

 

 

 

 

 

話を戻す。

八幡の告白を邪魔した二人のうちの一人は、一色いろはだった。

そして、もうひとりは……。

 



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再会②前編

感想ありがとうございます。

というわけで、もう一人はこの方


 

 

 

1カ月半前の6月も下旬に差し掛かろうとしていた時期。

八幡は8月8日の雪乃と結衣との恋人問題を決着の地を、八幡達奉仕部3人の始まりの地である総武高校奉仕部部室で行うべきだと考えていた。

わざわざこんな事を考える八幡はああ見えて意外とロマンチストな所があるのだ。

まあ、視点を変えれば拗らせているともいう。

 

ただ、これには大きな問題があった。

卒業生とは言え、総武高校の一室を私的理由で借りる事など、なかなか許可が下りないだろう。

しかも、既に奉仕部と言う部活は廃部となっており、OBの部活動応援などの理由もつけられない。

ただ、幸いにも8月8日は夏休み真っ最中で授業は無いため、可能性はゼロではない。

とりあえず、元奉仕部顧問の平塚静教諭に頼み込むしかないのだが……。

 

八幡は平塚静に電話を掛けることにする。

「先生ご無沙汰してます」

「おう、比企谷か、元気か?」

「まあ、それなりに。先生はどうですか?」

「私か……そ、それなりにな」

静は開口一番は元気そうだったのだが、らしくなく暗い感じだ。

 

八幡は静の元気の無さに気にはなっていたが、目的を達成すべく話を続ける。

「先生、お願いがあるんですが、夏休みに部室を借りたくて、その同窓会を行いたくて……」

「そうか、相変わらず君たちは仲がいいようだな。だが昨今の物騒な事件が増えた関係でセキュリティが厳しくなってな。なかなか許可が下りにくいのが現状だ」

「そこを何とかなりませんか?」

「かなえてやりたいが……、ん?比企谷、君はもうすぐ20歳だったな」

「そうですが」

「なるほど……うーむ。うむうむ……比企谷だったら」

静は何か考え事をし始めた。

 

「先生?」

「おっと、すまん。比企谷、一つ提案だ。部室の貸し出しの件は何とかしてみよう。その代わりに私の願いも聞いてくれないだろうか?」

「先生の願いですか?」

「ああ、ギブ&テイクと言う奴だ」

「そういうことなら」

「いいんだな!?よし!!」

「………なんですか?俺が出来ない様な無茶難題は勘弁してください」

「なーに、簡単な事だよ」

こうして八幡は静の願いを聞く事になった。

 

 

時は少々流れ6月下旬に……。

シックな黒のドレスを着こなす静の横には、蝶ネクタイを締めたスーツ姿の八幡。

ここはとある結婚式場である。

もちろん静と八幡の結婚式ではない。

静の要求(願い)が結婚ということではない。

流石に八幡もその願いはかなえる事は厳しいだろう。

では、静の願いとは……。

「比企谷、今日一日だけでいい、すまんが恋人のふりをしてくれ」

「はぁ、引き受けたからにはやりますが、俺に務まりますかね」

「大丈夫だ」

「いや、平塚先生の恋人に見えないんじゃないかなって、年齢的にも」

「……女性に対して年の事をいうもんじゃない。それに今日一日は静と呼んでくれ」

「ぐべっ、何も叩かなくてもいいじゃないですか。平……静さん」

「うむ、まあいい」

そう、静の八幡への願いとは、この結婚式で静のエスコート役、要するに恋人役をやって欲しいという物だった。

実は静はかなり精神的にまいっていた。

6月に入り、静かは教え子の結婚式に3回、友人の結婚式に2回、従妹の結婚式1回と。

そして、今回は大学時代のサークルの後輩の結婚式だった。

 

披露宴から参加し、大学の友人枠で席に着くが……。

「……平、静さん。大学のサークルの他の人は来てないんすか?」

「ふん、他の連中は全員結婚済みだ。性格が悪い彼奴の事だ。結婚した連中は呼んでいないのだろう。または独り身である私にこの結婚式を見せつけ優越感にでも浸りたかったというところか」

「……まじで性格悪いっすね。そんな人の結婚式に来る必要なんてなかったんじゃないっすか?」

「まあ、それでも同じサークル仲間で後輩だ。当時はそこそこ仲も良かったからな。先輩として最後の務めだと思えば何ともない」

「……いや、なんか怒ってません?」

「いいや!全然!全然!悔しくなんてないんだからね!」

「………」

静は目を見開きっぱなしの上で、口元が引きつっていた。

相当腹に据えかねているようだ。

 

披露宴が始まり、新郎新婦、親類や友人枠などの挨拶が行われ、ウエディングケーキカット

キャンドルサービスを兼ねて新郎新婦が各テーブルに挨拶をしに来る。

「あっ、静先輩!来て頂いてありがとう。……あれれ?本当に居たんだ彼氏、てっきり妄想かと、それとも代行業者の方かな」

「ははははっ、なーにを言っているんだ。私とて恋人の一人や二人、わけないさ。そちらこそおめでとう」

「静先輩……次は先輩の番ですね。気長に待ってます」

新婦は笑顔でキャンドルサービスを終え次のテーブルに向かう。

一方静は顔を引きつらせていた。

どうやら、新婦は静かが彼氏を連れて来た事自体を疑っているようだ。

 

「静さん……まじで、もう帰っていいんじゃないすか」

「なんのこれしき、私はなんともない。これでも彼奴の先輩なんだ」

「何ともないって顔じゃないっすよ」

「ふはははっ、はっ、ははっ……はぁ、彼氏が欲しい」

「はぁ」

2人して溜息吐く。

それぞれ意味は異なるが……。

 

「まあ、先生……静さんは美人だし、普通にしてればモテそうなのに……雑な私生活と男勝りな性格がちょっとネックなだけで」

「なにかね。もうすぐ彼女が出来る人間の余裕かね」

「いいえ、男共は見る目がないなと」

「な、なにを言ってるんだ君は!私を褒めても何も出ないぞ!」

「それか、先生が男の理想が高いのが問題とか?」

「そんな事ないぞ」

「じゃあ、どんな男の人がタイプなんですか?」

「ふむ、スクライドのカズマも良いが、しいて理想を言えば北斗の拳のケンシロウかラオウか、強くて女性を守ってくれる人がいい。姿恰好だけでいうと、バキの勇次郎や花山薫でもいい。あの肉体に包み込まれたい!」

「………」

静の理想があまりにも突拍子もない物で、思わず八幡は沈黙してしまう。

そんな奴、この世にいないだろうと。

静はシンデレラ症候群どころか、アニメやマンガの熱血マッチョ症候群に罹患していた。

そんな中、八幡の頭の中で唯一該当しそうな人物として、自分の肉体を育ててくれた街雄を思い起こす。

そうなると、八幡自身も静の理想の人物に近い存在になる事を、八幡は気が付いていなかった。

 





結婚式は無事終わるのだろうかw
いや~、無理だろうな~w


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再会②後編

感想ありがとうございます。


 

静の後輩の披露宴はつつがなく進み、新郎新婦の友人や会社関係者によるスピーチや余興が始まる。

 

まずは新郎の友人達による余興からだったのだが、新郎と同じく何故か皆ガタイが良くむさ苦しい連中だ。

その連中がスーツをその場で脱ぎ出しラガーマンの恰好になり、何やらラクビーあるあるを始めた。

「ぐぬっ、そういえば、彼奴も漢の趣味が同じだったな。だがあの程度の男などケンシロウの足元にも及ばないではないか」

静は新郎とその余興のラガーマン共を見て、そんな事言うが、目はうらめしようにしていた。

 

「………それはいいとして、静さん。もしかして、静さんも余興をやらされるとか?」

「うむ、そうだ。私は大学時代の話を少々するだけだがな」

「まじで後輩花嫁と仲良かったんすか?」

「そうだ。性格は異なるが境遇がよく似ていたのでな、自然と会話が馴染んでいたのだ。だが、彼奴も私と一緒で恋人がなかなかできなくてな、それもあって、今じゃこんな感じだ」

「……いや、ただ単に後輩の花嫁さんの性格が悪かったから今迄彼氏ができなかったんじゃ?」

「……すまんな、比企谷。こんな事に付き合わせてしまって、私もどうかしていた。見栄貼って彼氏などと……」

「いいんじゃないっすか?たまには見栄位はっても」

「……君は優しいな。だから雪ノ下も由比ヶ浜も……私も君がケンシロウのようにガタイが良かったら惚れていたよ」

「……そこっすか」

静は男勝りとは言え、美女でありスタイルも抜群だ。

高校や大学でも男共は静に声を掛けていただろう。

ただ、男性の理想が高すぎて、静のお眼鏡に叶う男性に出会わなかったに過ぎない。

しかし、静のこの扱いには流石に八幡も見て見ぬふりは出来ない。

如何にかならないかと思案するが、いい案が考えつかない。

それならば、せめて恋人役を全うしようと思う八幡だったのだが……。

 

 

司会進行役の女性スタッフに呼ばれ、余興が静の番が回って来る。

八幡はせめて静のスピーチの間、寄り添っていようと、静の後について行く。

新郎新婦席の斜め前でスポットライトに当てられスピーチを始める静。

当たり障りのないトークを進める。

「大学時代はまだまだ子供っぽい所が有りましたが、どうでしょう。今の淑女然とした彼女の姿は誰が見ても立派な女性です。最良の男性ともめぐり逢い。そしてよい家庭を築く事でしょう」

静のスピーチの最良と言う言葉に思わず反応する八幡だが、冷や汗を垂らしながら本能を抑えようとグッと我慢する。

 

静がスピーチを進めている間、新婦が、静の後方スポットライトの影に控えている八幡に小声で声を掛ける。

「ねえ、君若いけど、もしかして静先輩の生徒だったり?無理矢理連れてこられたのかな?」

「いえ、そんな事は無いです」

八幡はきっぱりと否定して見せる。

「静先輩ってああ見えて男の人知らないから、君のストーカーとかになっちゃうかもだから危ないよ。お姉さんからの忠告、本当に危ない目に遭っちゃうから、きっぱり断った方がいいよ」

新婦は尚も八幡に声を掛け余計なお世話な忠告をする。

 

だが……

「危ない? アブナイ? アブ…アブ…」

八幡はサイという言葉を必死に我慢していのだが、新婦が連呼する『危ない』というキーワードに反応してしまう。

 

「君?どうしたの?」

新婦はそんな八幡の様子に訝し気に声を掛ける。

 

そして……

 

「アブアブアブアブ!アブッ!!……アブミナルッ!!アーーーンドッ!!サイッ!!!!!

両手を後頭部後ろで組み、腹筋と下半身を突き出し、ポージングを決めると同時に、肉体が膨らみ、スーツがバリっという大きな破砕音と共に粉々に飛び散り、まるで紙吹雪のように舞い、飛び散った服の後には、巨大な鋼の肉体とシックスパックな腹筋と丸太のような大腿四頭筋が浮かび上がり、五廻り程に膨れ上がった肉体は脈を打つ。

勿論八幡は笑顔だ。

 

何故だかそんな八幡にスポットライトが照らされる。

しかも、あろうことか蝶ネクタイとブーメランパンツ一丁の極大ゴリマッチョ姿というシュールな姿を式場でさらしてしまったのだ。

 

会場は静まり返り、全員八幡に注目する。

間近で見ていた新婦は、驚愕なあまり椅子からズレ落ち、床にへたり込む。

スピーチを行っていた静は掛け声に振り返り、その八幡の姿に固まってしまっていた。

 

 

そんな中八幡は、右手首を左手で掴み斜め横にポージングを変え……。

「アブミナル・アンド・サイからの~~~!!はい!!サイドッ!!チェストーーーー!!

マッスルしりとりを始めてしまった。

 

すると会場からは一気に声が上がり、女性陣からは黄色い声が上がり、男性陣からは感嘆の声が上がる。

どうやら会場のゲストは余興と勘違いしているようだ。

 

固まっていた式場スタッフの一部がようやく目を覚まし、予定の無いこの状況にオロオロしだす。

これが事故なのか、余興の一端なのか判断しかねていた。

他のスタッフはまだ、この衝撃が覚めなかったり、司会進行役の女性スタッフなどは八幡のこの姿に見ほれ、黄色い歓声をあげていたりと。

 

そのうちに、新郎と新郎友人ラクビー部連中が八幡の周りに押し寄せ、声援を浴びせていた。

「腹筋板チョコーーー!!」

「仕上がってるよーーー!!」

「大胸筋が、歩いてる!!」

 

式場は大盛り上がりだ。

 

 

腰砕けとなっていた新婦がオロオロしてるスタッフに、八幡を追い出すように怒声を浴びせ、しばらくすると、警備スタッフやらが式場に現れる。

 

 

固まっていた静は、ここでようやく意識を取り戻し、迫る警備スタッフに気が付く。

「比企谷!引き上げるぞ!」

静は八幡を引っ張ろうとするがビクともしない。

 

「へ?やばっ!?」

そんな静の行動と掛け声に、八幡もようやく警備スタッフに気が付き、静を抱き上げ、お姫様抱っこ状態で式場から逃げ出す。

 

そして、そのまま式場を飛び出し、近くの公園まで逃げ込み、木陰に隠れる八幡。

八幡の胸に抱かれたままの静は、

「……凄い、これが真の漢(おとこ)なのか」

抱きかかえられたまま、顔を赤らめうっとりした顔で、八幡の肉体を指でなぞっていた。

 

「あっ、すみません」

八幡は慌てて静を降ろす。

 

「えっ、別にそのままでも……」

静は名残惜しそうにし、そのまま何故か八幡の腕に縋りつく。

 

「あの、披露宴台無しにしてしまってすみません」

 

「いいんだ。比企谷……、彼奴にもいい思い出になっただろう。私の最後の手向けだ」

 

「はぁ、まあ、なんていうか」

 

「そんなことよりも!比企谷!結婚してくれ!!」

 

「はぁーーー!?」

 

 



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八幡の告白

感想ありがとうございます。


 

 

「比企谷!結婚してくれ!!」

「はぁーーー!?」

静の突然の告白に八幡は驚くというよりも、何言ってるんだと、呆れるような感じだった。

 

「あっ……す、すまん。急に……いや、そのだ。が、がまんが、その、感情の歯止めが効かなくてな」

静は顔を赤らめながら、しどろもどろに告白の釈明をし出す。

 

「はぁ」

 

「なんというか、君がいけないのだ!あ、あのいけすかない結婚式をぶち壊して、後輩の鼻をあかし、あまつさせ私をこのような形で連れだしてくれて……、それに、その体は何だ!!」

 

「なんか、黙々と鍛えていたらこんな感じに」

 

「その体は!私の理想そのものではないか!!捻くれている所はあるが、素の性格はいいし、私にさえ気を使ってくれる優しさ。それにお互い気心も知れているではないか!これ以上何がある!!」

 

「いや、色々と不味いのでは?」

 

「……君が真剣に雪ノ下と由比ヶ浜の事を考えている事は知っている」

 

「まあ、そうですが」

八幡が不味いと言ったのは、年齢的な問題や元教師と生徒の関係やらの事である。

 

「何故今になってこんな……」

静は項垂れる。

その瞳には涙が溜まっていた。

 

「……その、なんていいますか」

 

「すまない。こんなこと言っても君が困るだけだ。さっきの言動は忘れてくれ……、君は私の願いを聞いてくれた。約束は守ろう」

静はそう言って項垂れたまま、八幡から離れていくのであった。

 

 

八幡はそんな項垂れ肩を震わしながら離れていく静の背中を申し訳なさそうにしばらく眺めていた。

だが、静の背中が見えなくなり、そこで重要な事に気が付く。

自分の姿に。

蝶ネクタイとブーメランパンツ一丁のほぼ裸同然だったと。

ここからどうやって家に帰ろうか思案する八幡。

 

 

 

 

時を戻し、8月8日の総武高校奉仕部。

八幡が雪ノ下と由比ヶ浜のどちらかに告白しようとしたその時。

 

「「その告白ちょっと待った!」」

そこに現れた乱入者は、一色いろはと平塚静だった。

 

「えええっ!?いろはちゃんと先生!?」

「今取り込み中よ。要件は後で」

由比ヶ浜はその乱入者たちに驚き、雪ノ下は冷たい視線を送っていた。

 

「へ?一色と先生?……先生がここに居るのは分かるけど、このタイミングでなんですか?そんで一色もここで何をしてる?」

八幡も乱入者たちに驚きながらも、ここに現れた事を問う。

 

 

いろははすかさず八幡の右手を取り、目を潤ませ上目遣いでこんな事を言い出す。

「先輩は責任取ってくれるって言いましたよね」

「何の事だ?」

「私が生徒会長になるときに言ってくれました!」

「はぁ?それは随分前の事だろ?」

「約束に前も後もありませんよ」

「責任って生徒会の手伝いとか色々しただろ?」

「それじゃないです。私をマッチョ好きにした責任です!元々は細身のイケメンが好きだったのに!先輩のせいで!細身の連中がごぼうに見えて、もうダメなんです!それに中途半端な連中でもダメなんです!先輩じゃないと!!」

「ちょ、待て一色!何でそうなる!?」

いろはは心情に訴え、八幡の精神をここぞと責める。

 

 

次に静が八幡の前に仁王立ちをしこんな宣言をする。

「ふっ、私はここの教室を貸し出すという君との契約を果たした。ここからは私のターンだ!!」

「え?ターンって?」

「私は契約履行前に告白してしまったからな、フライングも良い所だ。そしてここに君との契約を果たしけじめをつけた。これで私は君に対しちゃんと出来る」

「ちゃんとって、何を?」

「告白をだ!改めて言おう。比企谷八幡!私と結婚してくれ!!」

「はぁ!?アレって撤回したんじゃ?」

「何を言う!!だから改めて告白したのだ!!」

静の言動は告白と言うよりもなんらかの勝負の宣言のような感じだ。

 

「待ちなさい!二人共!」

「ええええーーー!?いろはちゃん、責任って!?先生もヒッキーと結婚って!?」

2人の告白に雪乃は明らかに怒りに満ちた目で、結衣は突然の事に混乱気味に戸惑いながらも、八幡に迫るいろはと静の間に割って入った。

 

「私も先輩の恋人候補に立候補します。まだ先輩の告白前だから有効ですよね」

いろはは不敵な笑みを浮かべ、雪乃と結衣に明らかな宣戦布告を行う。

 

「熱い展開だ!恋のバトルロイヤル方式と行こうではないか諸君!」

何故かかなりハイテンションな静。

静は静でこれは宣戦布告なのだろうが、もはや恋愛事には聞こえない。

 

「世迷い事を……」

「ええ!?なんで!?そんなのおかしいよ!」

雪乃は怒りに震え、結衣は二人に抗議する。

 

八幡は一触即発な雰囲気に、雪乃と結衣の前に立ち、

「一色も先生も待ってくれ!何でそうなる!?」

いろはと静を止めようとする。

 

「待ってれば、先輩は私の思いに応えてくれるんですか?」

「ふふっ、先手必勝!今の私に待つという言葉は無いのだよ」

しかし、いろはと静の暴走は止まる様相はない。

 

 

だが、八幡はすっと真顔になり、いろはと静を見据え大きく息を吸う。

「一色に先生、好意はうれしいが……今の俺には雪ノ下と由比ヶ浜の事しか考えられない。だから、すまない」

そして、八幡は二人に深く頭を下げる。

 

「ヒッキー……」

「比企谷君……」

そんな八幡の誠実な対応に結衣はうれしそうに、雪乃は気恥ずかしそうに頭を下げる八幡の横顔を見つめる。

 

「はぁ、そうですよね。恋愛ベタな先輩に急に告白してもダメだって事は想定済みですよ。だからこうするんです」

いろははため息を吐き肩の力を抜いて、そんな誠実な対応をする八幡に微笑むが、直ぐにいつものあざとい笑顔を向ける。

 

「心が折れなければ負けは無いのだ。だがここはドローにさせてもらう!!」

静は静で暴走したままで、目をクワッと見開きこんな事を言う。

 

 

そして……。

 

「せーんぱい♡。最高ですよ。さ・い・こ・う!」

「危ない危ない。私としたことがついふら付いて。危ないな。ア・ブ・ナ・イ・な」

いろはは八幡をあざとい笑顔で褒めちぎり、静はよくわからないワザとらしい演技を……。

 

 

「う……サイコウ?ううう………アブナイ?」

何故か八幡は頭を抱え苦しみだす。

その様子にニヤリとするいろはと静。

そう、いろはと静の狙いは、八幡のマッスル筋肉暴走だ。

それで今日の告白を無しにする算段だったのだ。

 

「ヒッキー、大丈夫!?」

「比企谷君耐えるのよ……でも、そのちょっとぐらいなら」

八幡の様子に結衣は心配そうに、雪乃は二人の狙いを理解し、八幡に耐えるように言うが、雪乃も八幡の肉体が見たいがために本音がちょっと漏れる。

 

「サイ・アブ・サイ・アブ・サイ・アブ・サイ!!……アブドミナルッ!?アーーンドッ!!サイッ!!!!

案の定、八幡のジャージは爆発し吹き飛び、一気に風船を膨らましたかのように筋肉が隆起。

両手で後頭部を抱え腹筋と下半身を突き出し、ポージングを決める。

数倍に膨れ上がった肉体は見る物を圧倒する。

勿論八幡は笑顔だ。

 

「いい!すごくいい!先輩!」

「はぁ、はぁ、た、たまらない。もう、私はどうにかなってしまいそうだ」

「ああ、いいわ。見後に割れたシックスパック……」

いろは、静、それに筋肉フェチの雪乃も八幡のはち切れんばかりの肉体にデレデレである。

 

「ヒッキー待って!ヒッキーってば!」

だがこの場で結衣だけは、そんな八幡を止めようとする。

 

フロント・ラット・スプレッドッーーーッ!!

 

「先輩~、触っていいですか?」

「まて、一色、未成年にはまだ早い。私が先だ」

いろはと静は八幡の筋肉に触れようと迫る。

 

「わた……はっ、私は何を?」

雪乃も二人と同じく八幡へとフラフラと近づこうとするがここで、正気に戻る。

 

「ヒッキー!!」

結衣は八幡を止めるべく腕を思いっきり掴む。

 

「あ、アレ?し、しまったーーーっ!!」

結衣の行動で八幡は我に返り……。

 

「由比ヶ浜!雪ノ下!」

八幡は迫り来るいろはと静を避け、結衣と雪乃を片腕づつで抱き上げ、部室から逃走する。

 

「せんぱーーーい!」

「比企谷――――!」

追って来るいろはと静。

 

八幡は結衣と雪乃を抱えたまま屋上へと逃れ、二人を降ろし、そこにあった机などで屋上のドアの前に置きバリケードを作る。

 

「ふぅ……すまん。邪魔が入ったな」

八幡は結衣と雪乃を見据える。

 

「……ヒッキー」

「比企谷君……」

 

そして、八幡は結衣の方へ体を向ける。

「由比ヶ浜……すまん。俺は雪ノ下に告白をする。俺はお前の事は嫌いじゃないし、友達だと思ってる。いや、それ以上なのかもしれない……だが」

八幡は結衣を振ったのだ。

 

「知ってた……。ヒッキーがゆきのんの事が好きだって……でもね。あたしはヒッキーの事、本気で好きだから、だから諦められなかったの」

結衣は笑顔でそう言うが、声は震えていた。

 

「すまない」

 

「謝らないで……、でも今まで通り、友達でいていい?」

 

「ああ」

 

「ありがと、……あたしは大丈夫だから、ゆきのんへ……」

結衣は目に涙を溜め、後ろを向き、八幡から離れていく。

 

「すまない」

八幡はそんな由比ヶ浜の背中に頭を下げる。

 

 

そして……

「雪ノ下……」

「……はい」

 

「雪ノ下、俺と付き合ってくれ……」

「……うん、でも理由を聞きたいわ」

 

「理由か……最初は憧れだった。遠い存在だった。だが、奉仕部で活動している内に普通の女の子となんら変わらないじゃないかって……」

 

「失望した?」

 

「いいや、逆だ。手が届く場所にお前がいると……」

 

「そう……、それが理由?」

 

「守ってやりたいとも思ったが、そうじゃない。一緒に居たいと思ったからだ」

 

「そう……、私は貴方に憧れているわ。今も……」

 

「いや、俺はそんなんじゃないぞ」

 

「……訂正するわ。憧れだけでなく。羨望……そして、その……体は……理想……うふふふっ、比企谷君の大胸筋が私の物に……」

何故か雪乃の目がうっとりとしながらも怪しく八幡の肉体を捉えていた。

 

「へ?……雪ノ下?」

八幡はその雪乃の様子に、早まったのではと一瞬頭に過るが……。

 

 

「せんぱーーい!ここに居るのは分かってるんですよ!!」

「比企谷!君は包囲されている。今すぐここを開けたまえ!!」

いろはと静が屋上の扉をドンドンと叩き、こじ開けようとする。

 

「やばっ!?」

 

「あなた、ここは私に任せて、逃げた方がいいわ」

「あ、ああ、すまん……由比ヶ浜も………」

「……うん、ヒッキーまたね」

八幡は雪乃と結衣を残し、屋上から外壁の隙間などに指をかけロッククライミングのようにするすると降りていく。

 

 

こうして八幡は無事告白を終え、雪乃と付き合う事になったのだが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八幡が逃げた後、雪乃と結衣は……

「ゆきのん。……ヒッキーを幸せに出来なかったら、あたし、ヒッキーを奪っちゃうかもしれないから、だから……。ちゃんとヒッキーを大切にしてね」

「……そうならないよう努力はするわ……もし、私が彼に相応しくないのであれば、由比ヶ浜さん、あなたが強引に奪いなさい。来年……また、この場所で……」

「そうする……」

雪乃と結衣はこんな話し合いをしていたのだ。

 

 

その話は、いろはと静の耳にも勿論聞こえていた。

 

 

 

 





次の展開は……


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小町の思い

ご無沙汰してます。
続きです。


 

 

「お兄ちゃん、ご飯だよ」

「小町、今年受験だろ。俺が作るからいいぞ」

「いいのいいの。丁度いい息抜きになるから」

「そうか?」

「小町が好きでやってる事だから、お兄ちゃんは気にしないで」

食卓に並んだ料理は八幡だけ特別製である。

蒸し鶏と豆腐ステーキに、オクラ納豆、コンソメスープと、筋肉を鍛えるのにこれ以上ないボディービルダーメニューだ。

 

8月9日、小町は高校最後の夏休み。

塾の夏季講習に通っていたが、今日から1週間塾も盆休みに入った。

「それじゃ、頂きます」

「頂きます」

2人だけの昼食が始まる。

 

「えーっと、お兄ちゃん、昨日はちゃんと告白した?」

「ああ」

「で、どっち?」

「……雪ノ下だ」

「やっぱりか~、でもあと一年違ったら結衣さんもあったかな~」

「なんで?」

「うん?女の勘?」

小町は首を傾げながらそう答える。

中学まで小柄だった小町は高校に入り身長が伸び、今では雪乃よりも身長が高い。

女子にしてはかなり遅い成長期だったようだ。

今では髪を伸ばした影響もあるかもしれないが、落ち着いた雰囲気の美女に成長していた。

因みに八幡は家ではTシャツ短パン姿で、ゴツイ二の腕と太ももを晒している。

 

「で、雪乃さんの反応は?」

「ああ、嬉しそうにはしてくれたんだが……」

「ん?なに?何か引っかかる事でもあるの?」

 

「聞き間違いかもしれんが、大胸筋が私の物とかなんとか…まさかな」

八幡は雪乃が筋肉フェチであることにまだ気が付いていなかった。

 

それを聞いた小町は、

「なぬ?」

一瞬目つきが鋭くなる。

 

「小町?」

 

「なんでもないなんでもない、あははははっ」

小町はごまかすように笑うが、心中では……、

(ふーん、そうなんだ。雪乃さんがね。ふーん)

雪乃に対して警戒心を高めていた。

 

「それで由衣さんの方は大丈夫なの?」

「由比ヶ浜は、今まで通り友達でと言ってくれてだな。まあ、そのだ。ホッとしてる」

「由衣さん、本当にお兄ちゃんの事が好きだったから、家族以外で最初にお兄ちゃんの事をちゃんと理解してくれたのは由衣さんだったし。だからこそ由衣さんはつらいのを我慢してそう言ってくれたんだよ。そこに甘えちゃだめだよお兄ちゃん」

「……わかった」

小町は由衣と雪乃のどちらが八幡の恋人となったとしても異存はなかったが、本音で言うと、雪ノ下家が背後にある雪乃よりも由衣との付き合う方が楽だろうなとは思っていた。

 

 

一旦、昼食中の八幡の告白の話題を終える。

 

八幡が自宅筋肉トレーニングを終えた後は、小町が八幡の筋肉にマッサージを施し、クールダウンさせていた。

ここ一年の比企谷家の日常風景である。

「そういえば、いろは先輩が最近やたらお兄ちゃんの近状を聞いてきたんだけど、何かあった?」

小町はマットの上でうつ伏せに寝転がる八幡の腰にまたがり、首の付け根の僧帽筋から腰に近い広背筋までをテンポよくほぐしながら、八幡にこんな話題をふる。

小町にとって一色いろははもっとも親しい先輩と言っていいだろう。

何せ、生徒会執行部で1年半も一緒に活動していたのだ。

いろはは結局1年の10月から3年の9月まで2期生徒会長を務め、総武高校の顔となっていたのだ。

その生徒会執行部のメンバーとして小町は入学時から一色を支えていたのだ。

現在も小町は生徒会書記として活動し、現生徒会長よりも生徒や教職員達から認知され、生徒会執行部の裏番とも呼ばれていた。

 

「……一色か」

八幡は昨日の総武高校での告白時に、いろはと静が乱入してきたことを思い出し、憂鬱そうな声を上げる。

 

「やっぱなんかあったんだ。小町が相談に乗るよ?」

 

「あ、……いや」

八幡は小町に話していいものかと、躊躇する。

八幡自身もいろはや静の乱入騒ぎについて、消化しきれていなかったためだ。

 

「話してみ」

 

「うーん、……あ、そうだな。なんていうか。雪ノ下と由比ヶ浜との話し合いの場に、一色と平塚先生が現れてな、なんか告白された」

 

「はぁ?なにそれ?え?いろは先輩だけじゃなくて、しずちゃんも?え?どういうこと?え?」

小町は明らかに混乱していた。

当然だろう。

告白の場への乱入騒ぎだけでも、かなりの衝撃的な話だろうが、一色だけでなく、八幡や小町の恩師までが、乱入の上、告白までしたのだ。

普通に考えれば絶対にあり得ない状況だろう。

因みに、小町は静の事をしずちゃんと呼んでいる。

生徒達の実質のまとめ役である小町と生徒指導担当の静は何かと絡むことが多く、こんな気安く呼ぶ間柄になっていたのだ。

そう呼ぶたびに、静からは注意を受けていたが、小町はやめるつもりがないため、静の方が半場諦めている状況だ。

 

「俺にもよくわからん。平塚先生は漫画系のマッチョ好きで2か月前に一度、筋肉がバレてちょっと暴走してな。一色は3か月前にバイト先でバレたんだが、あいついつものように俺の事をディスってただけなんだけどな。筋肉が忘れられないとかなんとかで、なんでこうなったか、さっぱりだ」

 

それを聞いた小町は

「なぬ?」

またしても、眼つきが鋭くなる。

 

「小町?」

 

「あははははっ、なんでもないなんでもない。……お兄ちゃんは気が付いてなかったかもしれないけど、いろは先輩は高校時代の時からお兄ちゃんの事が気になって仕方がなかった感じだった」

 

「何言ってんだ小町?気になるって、俺は彼奴にディスられた記憶しかないんだが」

 

「お兄ちゃんは相変わらずそういうのに鈍感だね~、雪乃さんと由衣さんがぴったりお兄ちゃんにくっついてたから、いろは先輩はあきらめてただけで、お兄ちゃんの事が好きだったんだよ」

 

「はぁ?あいつ、葉山が好きだったんじゃないのかよ!?小町の勘違いじゃないのか?」

 

「うーん。葉山先輩を狙ってるのは表向きかな、小町が入学した時には、いろは先輩はお兄ちゃんの事が好きなんだってわかったし、本人は全力で否定してたけど、小町の目はごまかせません」

 

「そんな素振りなんてまったくなかったぞ?」

 

「たぶんだけど、いろは先輩はお兄ちゃんの事を好きになったらダメなんだとブレーキをかけていたんだと思うよ」

 

「そ、そうか。昔の事は今はいい。なんか一色の奴、俺の筋肉じゃなきゃ愛せないとか、筋肉フェチにした責任を取れとか、訳が分からんことを言って迫って来るんだが」

 

それを聞いた小町は、

「なぬ?」

またしても、目を鋭くなる。

 

「どうなってるんだ?俺の知らない内に巷ではマッチョが流行ってるのか?」

八幡は頭を抱えたい気分だった。

 

「ふっ、ふっ、ふーーっ」

小町はぎらついた眼をしながらニヤリとし、含み笑いのようなものが漏れる。

 

「ん?小町?どうした?」

 

「なんでもない。なんでもない。次、足のマッサージね」

小町は明るい声でそう言いながら八幡の腰から下りて、大腿四頭筋をほぐしだす。

八幡はうつ伏せのままのため、小町の表情は見えないが、小町の目は鋭くぎらついたままだ。

 

小町は八幡をマッサージしながらある思いが渦巻いていた。

(しずちゃんにいろは先輩、この筋肉達は私が丹精込めて育てた筋肉なの。それを横取りしようと?)

確かに小町の食事とマッサージなどの献身的なサポートによって、八幡の筋肉はここまでの仕上りに育ったと言っても過言ではない。

 

(雪乃さん……いくらお兄ちゃんの恋人になったからと言って、小町が育てた筋肉達を勝手に好きにしていいとでも?この筋肉に触れる資格があるのは小町だけ)

小町は徐々に育っていく八幡の筋肉をまるで子供が育っていくかのような目で見ていたのだ。

 

ある意味、時間をかけてレベルMAXまで育てたポケモンを、横から搔っ攫われるような感覚に似ているのかもしれない。

 

「ふっふっふっーーっ」

(小町が筋肉達を守らなくは……)

小町は八幡の大腿四頭筋をマッサージしながら、ある決意をし、凶悪な笑みを浮かべていた。

 




ブラコンではなくて、マッスルコンプレックス?な小町ちゃんでした。


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雪ノ下家

感想ありがとうございます。

今回はかなりやってしまった感があるお話です。
ご了承を……。


8月8日

比企谷八幡と雪ノ下雪乃は晴れて恋人同士となった。

雪乃からすれば2年半越しの恋が実った形である。

 

その一週間後。

恋人となってから初めて顔を合わす二人。

八幡はいつものジャージ姿ではなく、こじゃれたカジュアルスーツ姿で、雪乃の方は清楚な白のワンピース姿だ。

雪乃の自宅マンションで待ち合わせをし、二人は出かける予定であったが、デートではない。

八幡は向かう先について、考えるだけで憂鬱だった。

「いきなり、実家って……、こういうのってもうちょっと付き合ってからとかじゃないのか?心の準備がまだというかなんていうか」

「ごめんなさい。母さんがあなたを連れてくるようにと何度も連絡があって、……でも、いきなりでもないでしょ?あなたは母とは何度も顔を合わせているのだし」

「はぁ、高校時代にやらかしてるからな、お前のかーちゃんに嫌われてるんじゃないか?」

「あなたは私の彼氏さんなのでしょ?大丈夫よ」

「期待に応えられるかどうかわからんが、何とかするしかないか」

これから雪乃の実家に向かうのだ。

デートやら何やらをすっ飛ばして、恋人同士となって初めてのイベントが恋人の実家への挨拶であった。

 

電車を乗り継ぎ、駅からタクシーで向かった先は、広大な敷地を持つ大邸宅の前だった。

寺の山門のような大きな門扉の前に八幡はつい身じろぎする。

「……か、帰ってもいいか?」

「ここまで来たのだから、覚悟を決めなさい」

「はぁ、憂鬱だ」

 

雪乃がインターフォンを鳴らし「雪乃です」と一言応えると、門扉がギギギと開き、その先には純和風の平屋の屋敷と洋館が二棟並んでいた。

因みに、純和風の屋敷は旧雪ノ下家邸宅で、現在は来賓を迎えるための用途となっており、洋館の方が実際の生活の場である母屋となっていた。

出迎えに現れた雪ノ下家の家政婦が「奥様は鳳の間でお待ちです」と純和風の屋敷へと二人を案内し始める。

 

長い廊下を家政婦の後ろに雪乃と八幡がついて行き、とある襖の前で「こちらでお待ちです」と家政婦は案内を終え、その場を静々と去る。

「母さん、入るわ」

「ええ、待っていたわ。雪乃」

雪乃が声をかけると、雪乃の母から返事が返って来る。

 

「失礼します、こんにちは」

雪乃が襖を開け、八幡が挨拶しながら部屋に入る。

十二畳の和室の中央には、木目調高級座卓の前に着物姿の雪乃の母親が座っており、その横には雪乃の姉の夏らしい涼し気なシャツを着こなす陽乃が座って待っていた。

「こんにちは、比企谷さん」

「やっほー、比企谷君」

雪乃の母と陽乃はそれぞれ挨拶を返す。

 

「姉さんはなぜここいるのかしら?」

雪乃は陽乃を軽く睨む。

どうやら雪乃は陽乃がこの場に居ることを聞かされていなかった様だ。

 

「妹の恋人が挨拶に来るのよ、それに私は雪ノ下家の長女として、家を継ぐ者として、この場に居なくてはならないわ」

陽乃はいつもの軽口ではなく、真剣な眼差しで言葉を返してきた。

 

「比企谷さん、そちらにお座りになって、雪乃も」

雪乃の母は娘のやり取りなど気にせずに、八幡に座卓を挟んだ前に座るように促す。

 

「失礼します。これつまらないものですが……」

八幡は座布団の上に座ると同時に、持ってきていた菓子折りを座卓の上に置く。

 

「ありがたく」

雪乃の母が、丁度お茶を出しに来た家政婦に視線を移し、アイコンタクトを取ると、家政婦が「預かります」と菓子折りを八幡から受け取る。

 

家政婦が4人の前に冷茶と和菓子をそれぞれだし、静々と退出した後。

八幡は意を決し、事前に準備していた言葉を口にする。

「こ、この度は雪乃さんとお付き合いさせて頂くことになりました」

 

「それは聞いています。比企谷さん。……雪乃にも困ったものね。相談もなく」

どうやら雪乃の母は、雪乃と八幡が付き合うことを良しをは思っていないようだ。

 

「私と彼が合意したのだから問題ないわ。そもそもこんな席を設ける必要も本来ないわ。母さんがどうしてもと言うから」

 

「はぁ、この子ったら……、比企谷さん。申し訳ないですが、雪乃と別れてもらえませんか?」

雪乃の母は雪乃を呆れ顔で見やってから、真剣な面持ちで八幡にこんなことを切り出した。

 

「ちょっと待ってください」

「何を言うの!母さん!」

これにはさすがの八幡も面を食らい、雪乃は激しく抗議する。

 

「前々からあれ程言っているのに、雪乃、あなたもわかっているわよね。比企谷さんが雪ノ下家に連なる者となる条件に合致しないのは……。例え、お付き合いしたとして、結婚は許可できないわ。それなのにあなたは強引に事を進めて……、ならば傷口が浅いうちに分かれた方が比企谷さんにとっても、あなたにとっても有意義というものよ」

 

「いいえ、母さん。彼は完璧よ」

 

「雪乃……比企谷さんは確かに頭も切れるし、度胸もある。それは認めます。大前提が合致しないのでは、結婚どころか、本来お付き合いも憚れる問題です」

雪乃の母は強い口調ではあるが、あきれ気味雪乃にはっきりと言う。

 

八幡は二人の話を聞き、雪乃の母に質問を投げかける。

「大前提って……、俺の家が何処にでもある一般の家だからですか?」

八幡がこう言うのも仕方がない。

雪ノ下家は代々千葉に根差している名家であり、さらに雪乃の父は現在千葉の県議会議員であり、次は国政にと噂される人物でもあった。

普通の一般家庭である比企谷家と家格を見ても釣り合わないのは明白であった。

 

「そうではありません。雪ノ下家が男性に求めるものは家格などと言った不確実なものではありません。その男性個人が持つ能力です。ですが、比企谷さんは雪ノ下家が求める大前提と言える能力条件を満たしているとはとても見えませんもの。残念ですが……」

雪ノ下家の当主は代々女性で、男性は入り婿だ。

その婿の選別はかなり厳格に行われていた。

その中でも最も婿としての資質を問われる大前提があった。

 

「大前提?母さんの目は節穴かしら?」

雪乃はここで余裕の笑みを浮かべる。

 

「何を言っているのです?陽乃も雪乃に何か言ってあげなさい」

雪乃の母は八幡をじっと見つめてから、今まで沈黙を守っていた陽乃に雪乃を諫めるように言う。

 

「だ、大前提は、だ、大事よ。はぁ、はぁ、そ、そうね。とても大事。だからここで審査しないと」

陽乃は何故か顔を赤くし息使いも先ほどから荒い。

その目は何故か八幡を怪しく捉えていた。

 

「陽乃?どうしたのです?」

そんな娘の状態に疑問顔を向ける雪乃の母。

 

「そんなに言うなら、良いわ。母さんのその目が節穴だったことを後悔させるわ、比企谷君立ってもらっていいかしら」

「雪ノ下?」

雪乃はすくっと立ち上がり、八幡にも立つように促す。

八幡は母娘のやり取りを疑問に思いながらも、雪乃に従い立ち上がる。

 

「雪乃、比企谷君に恥をかかせるつもり?おやめなさい」

母は雪乃に対し、厳しく叱責する。

 

だが……

雪乃は立ち上がった八幡の耳元に囁きだす。

「比企谷君、あなたは最高の彼氏よ。自信をもって、最高、そうサイコウ、サイコウなのよ」

 

「雪乃、見苦しいですよ」

そんな雪乃の行動に母の目はますます鋭くなる

 

そんな中八幡は、雪乃の囁く言葉を耳に入れて反応しだす。

「最高?サイコウ?サイコ…サイ…サイ……」

その様子に雪乃はニヤリとほくそ笑む。

 

そしてついに……

「サイサイサイッ!!ハイ!!サイドチェストーーーーーーーッ!!!!

八幡は腹の当たりの位置で右手首を左手でしっかり握り斜め横にびっしりとポージングを決めると、八幡が着ていたカジュアルスーツは風船が破裂するかのようにボンという音共に四散し、その下から何倍にも膨れ上がった鋼のような筋肉が飛び出した。

見るものを圧倒する全身の筋肉の塊。

解放された筋肉の喜びを表現するかのように、全身が脈動する。

勿論八幡は笑顔だ。

 

こんな状況で八幡はゴリマッチョボディにブーメランパンツ一丁というシュールな姿を思いっきり晒す。

 

「はわわわわわわわわわわ」

雪乃の母はその衝撃に、驚きのあまりその場で後ろにひっくり返る。

だが、八幡のはち切れんばかりの肉体からは目を離さない。

 

その横に座っていた陽乃は……。

「いい!すごくいい!はぁ、はぁ、はぁ、じゅるっ……はぁ、はぁ、も、もうダメ、これ以上は……」

興奮のあまり息が上がり、今にも卒倒しそうな勢いではあるが、その目は怪しく八幡の姿を捉えて離さず、とろける様な顔をさらし、よだれも垂れかけていた。

 

八幡の筋肉暴走を意図して促した雪乃は……。

「ああっ、いい!すごくいいわ大胸筋!……もういいでしょ?我慢できない!」

我慢ならないという感じでポージングを決める八幡の腕に抱きついた。

 

「はぁ、はぁ、ゆ、雪乃ちゃん、私もさ、触ってもいいわよね!?」

陽乃はゆらゆらと立ち上がり、八幡に迫りだす。

 

「ゆ、ゆゆゆ雪乃!!こ、こここれは!?はわわわわっ、な、なんて素晴らしい!丸太のような大腿四頭筋なのかしら!はわわわわわわっ」

雪ノ下母も畳を這うように、八幡に迫る。

 

「ダメに決まってるわ。これ(筋肉)は全部私の物よ!」

雪乃は八幡の前に出て、二人の前に立ち塞がる。

 

「はぁ、はぁ、独り占めは良くないわ雪乃ちゃん。雪乃ちゃんの物は私もの、雪乃ちゃんの彼氏の筋肉も私のもの……はぁ、はぁ」

なおも迫って来る陽乃。

 

「はわわわわ、認めます!ひ、比企谷君は雪ノ下家の婿として認めます!だから彼は雪ノ下家の共有財産よ!娘の物は母のもの、娘の婿の大腿四頭筋も母のもの……はわわわわわっ」

そう雪ノ下母も極度の筋肉フェチだった。

いや、雪ノ下家の女性は代々筋肉フェチなのだ。

雪ノ下家の婿の大前提は、マッチョであることなのだ。

そもそも強く丈夫な遺伝子を残すため、そもそもは男性は強く健康であるという大前提だったのだが、時代の流れと共にエスカレートし、さらにそれに興じて雪ノ下家の女性がマッチョを求めてやまない性癖とまで進化してしまった歴史があった。

 

モストッ!!マスキュラーーーッ!!

 

「はうううう!?だ、大胸筋が!?腹筋が!?花咲いている!?はううううう!?筋肉の花園があううううう!?」

雪乃の母は八幡のその姿に、興奮のあまり目を回し、その場に仰向けに倒れて小刻みに震えていた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、上腕二頭筋も!?はぁ、はぁ、はぁ、も、もう我慢できない!!」

ゆらゆらと八幡に近づいていた陽乃は、八幡に襲い掛かる勢いで一気に迫ってきた。

 

「姉さんには渡さないわ。彼(筋肉)は私のものよ!!」

雪乃は八幡に迫る姉の陽乃を合気術でいなす。

 

「妹の物は私の物、比企谷君の筋肉も私の物よーーー!!」

「何を戯言を!」

ついには雪ノ下姉妹によるキャットファイトが勃発。

 

そんな中八幡は……。

フロント!!ラット!!スプレッドッッ!!

バッグッ!!ダブルバイセップス!!

暴走したまんまだった。

 

 

 

和室の中央ではゴリマッチョボディーの八幡が暑苦しい笑顔でポージングを叫びながら次々と繰り返すのみ!!

その周囲では、よく似た顔立ちの美人姉妹が何故か興奮しだらしない顔をさらしながらキャットファイトを!!

ちょっと離れたところで和服の清楚系美魔女が興奮のあまり仰向けに倒れ、息絶え絶えで痙攣していた!!

 

この空間にはまともな人間は存在せず、カオスと化したのだった。

 




誰が止めれるんだろうこの状況?


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