河童が実力至上主義の学校で色々やらかす話 (河童はきゅうり好き)
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プロローグ的なやつ

よう実と東方のクロスオーバーが検索してみて、一作品しかなかったので書いてみました。

まあ、少ないのは間違いなく合わせにくい世界観だからってのが一番あるのでしょうが・・・。

すでに存在しているありきたりなアプローチをする小説とか書いてもあまり需要が少ないだろうと思って書いてみました。




 とある実力至上主義の学校内の施設の1つであるカラオケルームの一室に男が3人、女が2人いた。そのうちの1人は何やら機械を持っていて、1人の男にその機械について自慢げに話していた。

 

「やあ、盟友。新しい発明品が出来たんだけど……どう? 気になるかい!?」

 

「クククッ、今度はどんなもんを開発しやがったんだ、河童? ……役に立ちそうなもんだったら買ってやってもいいぜ?」

 

「フフッ、やっぱり君はそうでなくちゃね! 今回紹介する発明品はね……これだよ!」

 

 女はそう言って、不良のように見える男の目の前に機械を見せつけるようにして教室の机の上に置いた。その機械はどこかオーバーテクノロジー染みた見た目をしていた。少なくとも何十年は先の技術を先取りして作ったのではないかと思わせるほど、この時代では想像もつかないような……そんな見た目をしていた。

 

「それで……こいつはどんなことに使えるんだ?」

 

「よくぞ聞いてくれた! この機械はね取り付けることでその物体を極限まで小さくすることが出来るんだ! そうだな……例えば、ここにスパナがある。これにこの機械を取り付けると……」

 

 女がそう言いながらその機械を取り付けると、スパナはみるみるうちに小さくなっていき、その大きさはもはや、米粒ほどと言っていいほど小さくなってしまった。まず、間違いなくこの時代には作れるはずのない代物である。

 

「すげぇ!」 「Oh、My God」

 

 男の付き人であろう俗に言う不良に見える男と黒人の男が反応する。しかし、驚いているだけで腰を抜かしたりはしていない。そう、彼らにとってもこれは日常茶飯事なのだ。それだけ、この異常な機械のようなものを見せられてきたということだ。

 

「なるほど……確かに使えそうだ。おい、これは取り付ければ何でも小さくすることが出来るのか?」

 

「いや、人間は小さくならないようにしているよ。うっかり小さくなった盟友を踏みつぶしたりしたら大変だからねぇ~。私は安全にも配慮できる素晴らしい発明家なのさ!」

 

「お……おう、そうだな。あと、この機械はその対象の小ささを調整出来るのか?」

 

 ほんの一瞬だが、その6人の中でリーダーだと思われる生徒から覇気が失われた。彼女の発明品にどこかトラウマを抱えているのだろうか? 

 

「勿論だとも! 大きさを調整出来なきゃ意味ないじゃないか! この機械を付けた対象の変化に下限はないから、小さくし過ぎたら普通に見失うから使う時には注意が必要だからね!」

 

「いいだろう。それで今回は何ポイントだ?」

 

 男がそう言った瞬間、青髪のウェーブがかかった外ハネが特徴的な女の纏っていた雰囲気が一気に変わった。

 

「そうだね~。レンタルなら月10万、購入なら150万だよ。今回の発明品はかなり自信あるからね~」

 

「高すぎる。それに今回の発明品もお前のことだ。量産の目途があるんじゃねえのか?」

 

「確かに量産の目途はすでに立っているよ。でもね……君たちすぐに私の発明品を壊しちゃうじゃんか! 特に光学迷彩スーツ! あれは確かに在庫はあったけど、作るのも修理するのも面倒くさいんだ! それにも関わらず君たちは繊細に扱わないもんだから使用できるものが少なくなってきているんだよ。修理をするのにも当然ポイントはかかるんだから他の道具のレンタル料が上がるのも当然ってわけさ」

 

 彼女は当たり前のように言った。それはそうだ。実は彼女が言っていた通りに光学迷彩スーツは10着ほどあった。いずれも彼女が予備に作っておいた物だ。しかし、とある事情によりこのリーダーの男にポイントと引き換えで貸し出すことになった結果、10着あった光学迷彩スーツは8着が無残にも壊れてしまったのだ。

 

 だが、これでもかなり優しい方だ。これが本来の彼女だけであったならば、このリーダー格の男はポイントを限界まで払うことになっていただろうことは軽く想像がつくからだ。そうならなかったのは彼女に異質な物が混ざり合ったからである。

 

「さて、何のことだろうな? 俺には全然心当たりがないなぁ?」

 

「いや、嘘つけよ。君たちは知らず知らずのうちに私に迷惑をかけているということに早く気付くべきだよ。私の部屋から何個か試作品が消えていて、同じクラスの女の子が盗んだことは知っているんだからね? 訴えていない現状に感謝して欲しいぐらいだよ、龍園君」

 

 そう、この男 勝つためならば手段を選ばない。龍園翔はこの少女にとって、盟友であり、商売相手であり、発明品を勝手に奪っていく邪魔者である。

 

「そういう河城……お前こそ俺に謝罪するべきことがあるんじゃないか? お前が俺に与えた屈辱の数々を忘れたわけではないだろうな」

 

「さて、何のことやら。でも、信頼できる駒が増えて良かったじゃないか。今の君とクラスがあるのは私のおかげだぜ? まあ、私は君の部下を将棋の駒で表したとしたら、歩にもなるつもりはないけどね」

 

 そして、彼女の名前は河城にとり……かの有名な作品のキャラクターの河童である。

 

「ハッ! お前と俺の関係は部下という関係ではなく、ビジネスパートナーがいいところだろう」

 

「流石、よく分かってるじゃないか盟友。金の切れ目が縁の切れ目だよ。発明には当然お金が必要だから、お金を多く払ってくれる方に付くのは自明の理だろう? 私にとって発明が出来ればそれでいいからね。ちゃんと払ってくれないと坂柳さんの方に私は遠慮なくついちゃうからね。それに、あっちに付けば助手がもれなくついて来るしね」

 

「坂柳のパシリか。あいつもとことん不運だよなぁ……坂柳だけでなく、河童にまで目を付けられたんだからよぉ」

 

 そんな雑談をしていると、カラオケルームの扉が開く音がした。

 

「にとり──! 一緒に帰りましょう!」

 

「ほら、彼女のお出迎えだぜ? ククッ、行ってやれよ」

 

「だから、私たちはそんな関係じゃないって何回言えば分かるんだか……。分かった、今行くよ雛」

 

 何故厄神である彼女がここにいるのか。それは彼女たちが本来住んでいる幻想郷……そこで異変が起こったからだ。

 

「じゃあ、盟友。また明日にでも、この話はしようじゃないか」

 

 そう言ってにとりは雛と一緒に帰宅した。

 

 

 

「あの異変が起こってからもう、3年。月日が経つのは早いわね。人間と関わることが出来るから尚更早く感じるわ。……それににとりと過ごす時間もたくさん増えたことだしね」

 

「雛と私にとって今回の異変はいい方向に働いてるね。私は唯一無二のパートナーを手に入れて、雛は厄を集めることなく過ごすことが出来るんだから。でも、霊夢がいつ解決するか分からないし、今のうちに楽しまないと損だよ!」

 

「だからといって、人に迷惑をかけすぎないようにね? にとりったらこの前また、機械を爆発させてたでしょう? いくらあなたが部屋を改造して他の部屋に影響が及ばないようにしているとしても、危ないことには変わりないんだから。今の私たちの状態を理解していないはずはないわよね?」

 

 そう、今現在。彼女たちは幻想郷で過ごしていた時とはかなり状況が違うのだ。まず、能力の使用不可。雛が厄を集めることが出来ていないのはこのためである。勿論、これはにとりも同じであり、水を自由に操ることが出来なくなっている。

 

 次に人間になっていること。にとりも雛も異変の影響により、幻想郷とは違う世界……すなわち外の世界と呼ばれる所に住んでいる人間に憑依してしまっていた。何故、そのようなことになってしまったのか……それは、彼女たちですら理解していない。いや、理解するつもりがないのだろう。

 

 にとりと雛、二人にとっては今の環境の方が幻想郷で過ごしていた時よりもずっと好ましいのだ。雛は厄を集めるという使命があるが、にとり的にはずっとこの世界にいたいと思っている。しかし、そんな幸せはいつかは終わりを迎えることは確定しているのだ。だからこそ、彼女たちは今を楽しんでいる。

 

「雛、今日のご飯なーに?」

 

「今日はねーにとりの大好きな河童巻きだよー」

 

「やったー! 雛、大好き!」

 

 まあ、そんな背景はどうでもいいだろう。この物語は外の世界に出た河童が発明品を使ってよう実のキャラクターたちを時に驚かせ、時に弄り、時に危機に陥らせる。そんな小説である。

 

 




先に言っておくと、作者は間違いなく東方にわか側の人間だと思います。

書く段階で出来るだけ食い違わないように調べてから書くようにはしていますが、ちょっとおかしい所とかあるかもしれません。

あまりにも解釈違いの所とかがあったら教えてくれると嬉しいです。


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入学式~バスの中とモルモット~

():にとり
〈〉:オリ主

「」:普通の会話




 入学式

 

 にとりはバスの中で揺られながらパートナーと思考にふけっていた。

 

(なあ、盟友。次はどんな物を開発しようか。私としては次はF-ZEROの乗り物を開発してみたいな)

 

〈にとり、開発するのはいいけど、ちゃんと周りの目は考えてよ。にとりが作る物ってオーバーテクノロジー過ぎて周りがついていけてないから〉

 

(でも、盟友も私の発明品には興味あるだろう?)

 

〈これはこれ、それはそれだよ。私だってにとりがかつて作ったっていう、ロボットとか見てみたいけど……ああいうのはこの現代で目をつけられたら面倒なことになるって何回説明したら分かるの? そのせいで何回警察のお世話になりかけたことやら〉

 

(この世界はこの世界で面倒くさいなー。まさか、椛の代わりになるような奴らがいるなんてね。まいったもんだよ)

 

〈言っとくけど、私の中学校は田舎の方にあったからあの程度で済んだけど、今から行く学校は都会にあるんだから、あんな処罰では済まないんだからね。せめて、私たちのせいだってバレないようにしてよね〉

 

 彼女たちがそんなことを頭の中で話していると、とある声が聞こえてくる。

 

「席を譲ってあげようとは思わないの!?」

 

 にとりたちはこの言葉が聞こえた方向に目を向けた。社会人と思われる女とこれから通う学校の同級生であろう男性が言い合いをしていた。

 

 その様子をしばらく見ていたにとりたちだったが、どんどん自分の持論が論破されていく女性を冷めた目で見ながら、こんなことを考えていた。

 

(馬鹿だなーそういうもんは自分の手で勝ち取っていくもんさ。他人から譲ってもらおうだなんて考えている時点で甘えだよ)

 

〈まあ、あの女は自分の社会的地位をあげようとしていたみたいだけど、相手が悪かったわね。逆に恥をかいて馬鹿みたい〉

 

 にとりと彼女はとても波長があっていて、対立することは少ない。何かしらのトラブルなどに遭った時、2人とも基本最初に考えることは自分にとって利益のある事柄かどうかである。

 

 そして、にとりが異変の影響で憑依することになってしまった彼女は重度のオタクである。その彼女のオタ知識とにとりの技術が噛み合って最強に見える。そんなことになってしまった。それほどの相性の良さなのだ。

 

 これからも、彼女たちの仲が壊れることはないだろう。それほど、2人は互いをパートナーと言うほど噛み合っていたのだ。

 

(じゃあ、盟友。今回も任せたよ)

 

〈別にいいけど……いいの? このままずっと私に任せていて。にとりのコミュニケーション能力の向上にならないけど。〉

 

(良いんだよ! 発明と運動は私が、アイデア出しとコミュニケーションは盟友がって、そう決めたじゃないか。互いが互いの欠点を補填したり、互いの長所をさらに活かしたり、私たちはそういう関係だろう?)

 

〈まあ、私は別にコミュニケーションが得意ってわけじゃないけどねー。にとりが少し人間に対して慣れてないだけだと思うよ。未だににとりが妖怪だってことが私には信じられないんだけど。むしろ、にとりの方が人間らしい人間だと思うよ。自分の欲に常に忠実なところとか、自分よりも強い相手に遭遇したら真っ先に逃げるところとか〉

 

(そう褒めるなよ盟友。顔がにやけちゃうじゃないか)

 

〈今はにやけないでね。気持ち悪い奴だって思われちゃうから〉

 

(安心してよ、盟友。皆が気持ち悪いって思っても私だけは君を見捨てないからさ! というか今の状態だとと融合してるようなもんだから私にも被害が及ぶし……)

 

〈それ何のフォローにもなってないってことにお願いだから気付いて〉

 

 彼女たちが脳内でそんなたわいもない話をしている間にその騒動は収まっていたようで、彼女の出番が来ることはなかった。

 

(あちゃ~気付いたらもう騒動終わっちゃったじゃないか。せっかくあの発明品を試してみようと思ったのに……)

 

〈あの発明品って? 〉

 

(いや、盟友には話してたよね? 博麗神社って所で宴会をしてたって話。その時に酔っ払った勢いで作った発明品があってね。その実物は幻想郷に残ったままなんだけど、構造は分解して改良した状態で記憶しておいたからね。何とか試行錯誤して入学式とやらまでに完成させておいたのさ)

 

〈ふ~ん。にとりがその幻想郷……って場所にいた時の発明品かぁ……ちょっと興味あるなぁ。〉

 

 彼女がそう脳内で言ったタイミングでバスが到着したようで、彼女と同じ学校に通う生徒たちがバスから降りていく。彼女もその後についていくようにバスから降りた。

 

 

 

 バスを降りた後、彼女はすぐに教室に向かおうとした。しかし、1人の男子生徒から呼び止められた。よう実チーターの1人こと主人公綾小路である。

 

「なあ、聞きたいことがあるんだが……」

 

「……何?」

 

 話しかけられるならば、教室の中だろう。そう考えていた彼女の足が止まる。

 

「さっきからお前は誰かと会話しているのか? 少なくとも、俺が見た感じでは周りの人間と話しているわけではなさそうだが……」

 

「えっと……何の話です? 頭大丈夫ですか? 病院行きます?」

 

〈にとり……この人頭大丈夫かな……。私たちのことって誰にも分からないはずじゃなかったっけ? 〉

 

(う~ん。幻想郷の住人なら表に出ているのは私の姿だから誰でも分かるとは思うけど……最低でもこの人間は私の知り合いではないかな)

 

〈じゃあ、どうする? さっさと逃げる? 少なくとも不気味だから関わりたいと思える人じゃないし〉

 

(いや、待つんだ盟友! こういう時こその私の発明品さ! 彼が思っていること……解き明かしてみたくないかい?)

 

〈解き明かしてみたい! この目に光がない人間が何を思っているのかはとっても気になるよ! 〉

 

 若干クズいことを話しているが、彼女たちの好奇心から来る発言である。決して綾小路を馬鹿にしているわけでは無い。

 

「オレの頭は大丈夫だが、迷惑をかけ……たらしいな。悪い、忘れてくれ」

 

「悪いという自覚があるならさぁ……ちょっと付き合ってくれないかな? 私……私たちの実験に」

 

〈それで……何をすればいいの? にとり! 〉

 

(焦るな盟友。まずは君のポケットに仕込んでおいた機械を取り出してくれ。右のポケットの近くにあるよ。それをこいつの心臓付近に取り付けるんだ)

 

〈心臓だね! 分かった! 〉

 

「おい、何をするつもりだ?」

 

「動くな。あんたに多少なりとも罪悪感があるなら一歩も動くな。上手く取り付けれないじゃないか」

 

〈取り付けたよ、にとり! それでこの機械はどんな機械なの? 〉

 

(フフフッ、聞いて驚くなよ盟友。これはね、その機械を取り付けた人間が一体どんなことを考えているのかが分かる機械なんだ! 悟り妖怪のさとりに協力してもらって作れた私が幻想郷で作った発明の中でもかなりの逸脱品だよ! 工具とかは無かった癖にこの機械は何故か近くに置いてあったんだから不思議だよねぇ? まあ、疑うよりも受け入れる精神が幻想郷では大事だったからね。もう、慣れっこだよ)

 

〈心が読める……かぁ。しんどいだろうし、私はいらないかな。常に人の心なんて読めたらなんか病みそうだし。この機械に頼った方がよっぽど健全だよ。〉

 

(まあ、そんなことはどうでもいいか。私にとっても、盟友にとっても。取り合えず彼と何か話してみてくれ。結果は後で見せようじゃないか)

 

「よし! これで準備完了! さてと、教室に入るまでの時間もまあまああるみたいだし、少しお話しようか」

 

「その前にこの機械が何か教えてくれないか? 急にこんな物を付けられて困っているんだが……」

 

「いや、別に……だって説明しても多分誰にも理解されないだろうしね。そうだな……強いて言うなら少しデータが欲しいんだ。高校男子の心臓がどれくらいの速度で動いているのかとか……ね」

 

「そんなことを知って何になるというんだ?」

 

「さぁ? 私にも分からないよ。ただ、こうすると何か面白いことが起こるよって、昔占いをしている婆ちゃんに言われたことを今思い出してやってみてるだけだよ」

 

「占いって当たるのか? 俺にはよく分からないんだが……」

 

「知らないよ。信じるも信じないもその人間次第でしょ。私は一応信じてる派だよ」

 

〈こんなもんでどうかな、にとり? ある程度話せたと思うんだけど……〉

 

(うん。問題ないよ。じゃあ、その機械はきちんと回収しておいてね。その機械に関してはさとりの協力がないと作れないから、幻想郷の皆と未だに会えてない現状だと貴重な物だし。替えが利かないってのが辛いところだね)

 

〈了解。教室には五分前には入っておきたいし、回収はとっとと終わらせよう。〉

 

「じゃあ、その取り付けた機械外すから動かないで。動いたら許さないから」

 

「……早く取り外してくれ……」

 

 彼女は綾小路の心臓の位置に取り付けた機械を取り外して、ポケットの中に入れた。

 

「じゃあ、あんたにはもう用はないから。さよなら」

 

 彼女はもう用済みだと綾小路に対して言い切った。とある事情から彼女がこの時の発言に頭を悩ませることになるのは別の話である。

 

「もしかして、オレってモルモットにされていた……のか……?」

 

 綾小路の悲し気な声は学生たちの騒騒しさに打ち消され、彼女たちに聞かれることは無かったのだった。

 

 

 




今回の幻想郷で起きている異変の副作用である外の世界の人間への憑依は東方憑依華をリスペクトしました。


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入学式~質問~

第一回目のやらかし

オリ主の学校からの評価も書いておくスタイル

氏名:川城 ことね 

クラス:1年C組

部活動:無所属

誕生日:2月10日

学力:A 知性:A ー 判断力:B 身体能力:D- 協調性:Dー

前代未聞の発明を中学3年生の時に行った天才。欠点も運動が少し苦手な程度でAクラスでの入学が予定されていたが、別途資料が事実である可能性があるため、Cクラスでの入学とする。


別途資料

川城ことねが開発したVRゴーグルが行方不明者を出している可能性がある。彼女が開発したVRゴーグルを買った人物の何名かが行方不明になっていることが判明した。そのことに対し、政府の人間が川城ことねの自宅を捜索しに行ったのだが、その調査員も戻ってきていない。そのことから、まず間違いなく彼女が関わっていると言っても過言ではないだろう。

中学校の教師曰く、川城ことねは中学2年生まではただの大人しい生徒だったが、中学3年生を境に姿がまるっきり変わり、性格も大分明るくなり、そして狂ったかのように機械を分解しては元に戻したりしていたらしい。その件で警察にも何回か補導されたこともあるらしいが、ことねはそのことを覚えていなかったらしく、二重人格が疑われている。姿がかなり変わった事と関係がありそうではあるが、真偽は不明である。

担当する教師は彼女の一言一言の発言や行動に気を配ること。




〈それで、にとり。あいつは何を考えてたのか教えてくれなーい? 暇だよ〉

 

(それは夜のお楽しみさ。最低でも今は見ない方が良いと思うよ。このCクラス……だっけ? なんかヤバそうな人間ばっかだし。少なくともまだ、制服の改造が完了していないから変な行動は取らない方が良いと思うし)

 

 そう、彼女が入学して所属することになったクラスは龍園翔が率いることになるCクラスであった。

 

〈じゃあ、何か次に作るものでも考えてみようか。出来るだけ周りに見つからない凄いものを〉

 

(と言っても、もう手遅れだと思うよ盟友。私たちの発明品がもう、新聞で大々的に挙げられている時点で私たちの発明品が凄いということは認められているんだし、それなら最初から凄い物作った方が良いと思うよ)

 

〈まさか、にとりがあんな物を作れるとか全く思わなかったし……なんで*1VRゴーグルなんて物を作って、地域で売っちゃうかな! 確かにそのおかげで家には大量のお金が入っては来たけど……その分面倒事も増えたんだからね! なんかホワイトルームとかいう所に誘拐されかけたし!〉

 

(でも、盟友。その誘拐犯だって私の発明で虚無に送ってあげたじゃないか。私がいるんだから盟友の安全は保障されているもんさ。まあ、今仕掛けられたら……返り討ちに出来ない……かもしれないけど)

 

〈あーも、不安になるようなこと言わないでよ。取り合えず何か私の身を守れる発明品を……〉

 

 彼女が上を見上げてみるとある物を見つけた。教室で授業中の生徒を監視するための監視カメラだった。

 

(盟友……あれって何だい? 何か写真機に似ているけど……)

 

〈あー、なんで教室についているのかは分からないけど、監視カメラだね。あれは映像を取ることが出来てね、防犯や悪者の監視のために使われたりする機械だよ〉

 

(……へぇ! 盟友、あれって分解したら駄目かな!? どんな構造かとっても気になるんだけど!)

 

〈面倒臭いことになるからやめてよね……そりゃあ、私も気になるけど……やっていいことと悪いことがあるんだから〉

 

「ちょっと、あんた。早く回しなさいよね」

 

 彼女たちがそんな会話を繰り広げている間に学校の説明が始まっていたようで、前の人間からパンフレットを手渡されていたようで、後ろにいる人間に行き渡っておらず、迷惑をかけていたようだ。彼女は早めに自分の分を取って、残りを手渡した。

 

 それからこの学校の説明が始まった。ポイントのことやクラス替えが無いことなどの説明が行われ、最後の質問タイムに移った。

 

「これである程度の説明は終了したが……何か質問がある者はいるかね? いるならば手を挙げるといい」

 

 そう言われて手を挙げたのは龍園翔と……彼女だった。

 

〈ちょっとにとり!? まさかとは思うけど……あのことについて質問するつもりじゃないよね? 質問するならせめて後にしてよ! ねぇ! 聞いてる?〉

 

(止めるな盟友。これは必要なんだ。私の技術の進歩のためには必要なんだぁぁ!)

 

「2人いるのか……。じゃあ、まずは川城さんから聞こうか」

 

〈おい、馬鹿! クソ教師! こいつを野放しにするんじゃない! どうなっても知らないぞ!〉

 

 彼女……川城 ことね(かわしろ ことね)の願いも虚しく、河童は盛大にやらかした。

 

「あそこにある……監視カメラ……だっけ? あれ、分解してもいいかな!?」

 

 皆呆然としていた。あの監視カメラの存在に気付いていたであろう、龍園翔でさえも流石に分解するところまでは想像していなかったようで呆然としていた。そんな中、Cクラス担任の坂上は冷静に対応してみせた。いや、事前に知らされていたというのが正しいだろう。彼は冷静に対処しては見せたが、冷や汗をかいているからだ。

 

「丁度いいし、説明しておこう。さっきこの学校ではポイントを使えば学校の敷地内の物ならば何でも買えると言ったが、川城さんが言ったような監視カメラに関しても買収は可能だ。ただ、買収といっても映像の消去だとかそういったものなため、分解というのは……前例はないな……。ちょっと校長先生と話し合っておくから、返事が来るまでは待っておきなさい」

 

「えーすぐに分解したいんだけどなぁ~生殺しだよ」

 

「待っておきなさい! いいですね……?」

 

「ちぇ~、仕方ないな~」

 

 坂上はため息をつきながらも次の質問のために気を引き締めた。

 

「それじゃあ、次は龍園君。君は何を聞きたいのかね?」

 

〈にとり……面倒事はあまり増やさないで欲しいんだけど……? そういうのを上手くやり取りするのが私の役割だったと思うんだけど……ねぇ?〉

 

(仕方ないじゃないか盟友! あの機械が私に分解されたがって、こっちを見ているんだ。その期待に応えてあげなきゃ駄目だと思ったのさ!)

 

〈ハァ……もう慣れちゃってる自分が怖い……。もう、やっちゃったのは仕方ないからせめて暴走して勝手に機械を分解するようなことだけはしないでよね……〉

 

(合点承知!)

 

 ことねがにとりを説得している間に坂上はすでに教室から出ていったらしく、入学式までの自由時間となった。当然、さっきの質問タイムで奇妙な発言をしたことね(にとり)の近くに誰も近寄ってくる人間はいなかった。

 

 それはそうだろう。いきなり殆どの人間が気付いていなかったであろう監視カメラの存在を看破しただけにとどまらず、それを分解したいと急に言い出したのだ。そんな人間に好き好んで近づいていく人間がいるだろうか? 普通ならいないだろう。しかし、この男は別だった。

 

「よぉ。お前がかの有名な河城にとりか。変人だという噂は本当だったようだな」

 

 何故、彼がにとりの名前を呼んだのか……それにはきちんと理由がある。その時に彼女のことを取材に来たのが射命丸文だったのだ。幻想郷の人間に会っていないと言ったな、あれは嘘だ。

 

 まあ、表に出ているのはにとりの姿であったし、その記者の表向きの姿は翼のない文そのものだったため、何か異変に巻き込まれたのだとにとりと文が考え付くにはそう時間はかからなかった。

 

 文は異変の原因を調査する気満々だったらしいが、にとりは遠慮した。この異変が終わるまで機械をずっと作り続けたいと考えたからだ。恐らく変人だと言われているのは文の腹いせで新聞にそう書かれたからであろう。にとりはそう思った。まあ、そのしわ寄せがコミュニケーション担当のことねに来るわけだが……。

 

「いきなり人を変人扱いって酷くない? 礼儀というものを知らないのかなぁ?」

 

「ハッ! 教師に対してタメ口で話している奴に対する態度なんてこんなもんでいいだろ」

 

 ”いや、あんたもタメ口で質問してただろう”

 

 周りはみんなそう思っていた。

 

「あれは私であって私じゃないし、勘違いしないでくれる? 普段の私は大人しい普通の生徒だし」

 

 ”いや、普通の生徒はあんなもん開発出来ないし、あんな発言も普通しねえよ”

 

 周りの生徒たちはこの2人が醸し出す異常な空気に呑まれて、何も話すことが出来なかった。結局、入学式が始まるまで龍園とことねの言い合いは終わらず、坂上が入学式の会場へ案内するために教室に入った時にやめさせたことでようやく終着したそうだ。

 

 

 

 

 

(はぁ……全く嫌になるね。よく盟友はあんな興味もないような話を長々と聞けるよな。私はとても退屈だったよ)

 

〈面倒臭いけど、ああいうのってたまに教師から聞かれることがあるからね。あの時校長先生が何って言ったか覚えてますか?みたいにな〉

 

 入学式が終わり、にとりとことねは買い物に来ていた。日常生活に必要な物とかは買っておかなければならないからだ。2人はスーパーで見たあることについての考察をしていた。

 

〈う~ん。あの無料コーナーっていうの怪しいよなぁ……値引きならまだ賞味期限切れが近いとかで説明が付くんだけどな……。賞味期限切れが近いものだとはいえ、無料ってのは少しな……〉

 

(ねえ、盟友……。なら、壊れた機械とかって無料で引き取れたりしないかな!)

 

〈まず、こんな環境の整った場所で機械がそうそう壊れるかというと何とも言えないけど……調べてみる価値はありそうだね。壊れた機械を修理するのもいいし、そこから分解して何か別の物を作るのもよしだしな〉

 

 彼女たちの行動方針は固まった。彼女の制服が機械によって魔改造されるのにそう時間はかからないだろう。

 

(まずは光学迷彩だろ。鞄の中にのびーるアームも入れなきゃね。他には……)

 

 ……間違いなく魔改造になるのは間違いないだろう……。

 

 

*1
VRゴーグル(どんな機種にも使用可能。PS4どころか、PS2などの端子があるゲーム機などならば、自動でそのゲーム機に合う端子を形成。昔のゲームが立体映像で楽しめるようになる。また、あるコマンドを入力すると、そのゲームの中に実際に入ることが出来る。しかし、そのゲームを自分の運動能力でクリアしなければ現実に戻ることが出来ないため、偶々そのコマンドを見つけてしまった数名が行方不明になっている。メタルギア、サイレントヒル、ダークソウルあたりのゲームに入ったら悲惨である。なお、原理としてはfgoのレイシフトが一番近い模様



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職員室~質問2~

 その日の夜、にとりとことねは綾小路が何を考えていたのかを確認することにしたようだ。

 

〈じゃあ、あいつが何を考えていたのかそろそろ知りたいな! 〉

 

(そうだね。盟友にこれを見せておけば、また何かいい案を生んでくれそうだしね)

 

 そう言うとにとりは綾小路に取り付けた機械にあるボタンでとあるコマンドを入力した。すると、文字が画面に自然と現れた。そこにはこう書かれていた。

 

≪何だ? こいつは。いきなり機械を取り付けてきたが……これが普通の学校生活……なのか? 教えてもらった限りではそんなはずはないと思うんだが……。それとも、親父にはもう情報が伝わっていてこいつは親父の刺客だというところか? 負ける気は無いが……もし、俺の平穏を破壊するようならば、排除するだけだ。どんな奴であっても……二度とあそこには……ホワイトルームには戻らない≫

 

〈……うわぁ、もしかしてやっちゃったかな、私? まさか、私を誘拐しようとしていた所に何かしら関係がある人間だったとは……流石に予想外だよ……。取り合えず、彼に関わると面倒事が舞い込んできそうだし、近づかないでおこう……〉

 

(盟友! それで……どう? 何かいい案は思い付いたかな!? ここ最近は忙しくて機械を弄ってないから退屈なんだよ~)

 

〈……ハァ。きゅうり食べさせてあげるから少しの間考えさせて……〉

 

(わーい! きゅうり──!)

 

 河城にとりの好物は河童らしくきゅうりである。特に河童巻きが好きらしく、尻子玉を抜かれそうになった人間はきゅうりを献上することで見逃してもらえたのだとか。現在河城にとりの姿に変わっていることねにとっても味覚はにとりの物を参照しているため、きゅうりがとても美味に感じられるのだ。それ故ある意味彼女にとってもストレス解消ができて丁度いいのだ。

 

 

 

 

 数十分後……暇つぶしに携帯でネットサーフィンをしていた彼女に電流走る! 

 

 ポイント稼ぎとにとりの機械弄りを両立させるにはこれが一番簡単だと思ったからこそ、ことねはにとりに提案してみることにした。

 

〈にとりー機械を弄りたいのは分かるけど、もう少し耐えてくれない? ちょっと明日先生に質問しておきたいことが出来たから。もし、実現出来たら機械弄り放題だよ~〉

 

(分かったよ。じゃあ、それでよろしく~。今はきゅうりを食べるので忙しいんだ)

 

〈我が半身ながら自由だなぁ~本当に……〉

 

 今日何かが出来る訳でもないため、彼女たちは就寝した。

 

 

 

 

 

 Cクラスでの授業風景だったが、比較的平和なものであった。まず、やらかしそうなのは龍園翔だが、意外にも真面目に授業を受けていた。それはそうだろう。彼が王になるには不利になるような点を残しておくわけにはいかないからだ。

 

 にとりは今のうちに学べることは学んでおこうと思っているので、ことねがキープしているのもあって、昨日のように暴走することは特に何もなかった。

 

 むしろ、入学式に異常な雰囲気を醸し出していた二名が授業に集中しているという異常な光景に周りの方が集中出来ていなかった。勿論、この時の授業態度は坂上にカウントされているため、龍園に指摘されることになるのは間違いないだろう。

 

(盟友! 早くしてよ。早く機械弄りを始めたいんだから!)

 

〈分かってる分かってる。私としても早めに自衛手段は持っておきたいからね。早めに話をつけに行くよ〉

 

 昼休み、クラスの皆が浮かれている時間……ことねは動き出した。主に自分のために。職員室に向かった。

 

 

 

「坂上先生、今時間大丈夫ですか? 少し聞きたいことがあるのですが……」

 

「川城さん。監視カメラの件ならまだ決まっていませんよ。そのことを聞きに来たのなら今すぐ教室に戻りなさい」

 

「いえ、それは私ではない私が言ったことなのであまり気にしないでください。別に聞きたいことが出来たから皆に迷惑をかけないように今来たんですよ? そんなに邪険にしないでください」

 

「じゃあ、何を聞きに来たというのかね?」

 

「いえ、生徒同士で合意さえとれればポイントの取引だとか、賭けだとかそういうのは認められているのかということについてと、どこか壊れた機械を不燃ごみとして置いている所がないかについて聞きたいんですよ」

 

 空気が凍った。入学してからたった一日で機械を弄るための環境を整えようとしていることが簡単に分かったのだろう。彼女に機械を弄らせるということは何かまたヤバい物を開発する可能性がある。その考えに至った坂上は他のクラスの担任にも相談することにした。

 

「ちょっと……ちょっと待っていたまえ! すぐに戻ってきますから!」

 

「早くしてくださいね? 時間が勿体ないですから」

 

 

「本当に彼女はどうすればいいんだ!? たった2日目でそんなアウトロー側に足を突っ込もうとしている生徒は初めてですよ!? こっちにも心の準備ってものがあるというのに……それすらも踏みつぶしていくんですが!? あの少女!」

 

「落ち着いてください、坂上先生。確かにたった2日でそこまでたどり着く生徒は今までいませんでしたが、そこまで彼女のことを警戒しなくてもいいのではないですか?」

 

「そうよ~考え過ぎよ。彼女だって可愛らしい少女じゃな~い。そんなに敵視しちゃうと彼女が傷ついちゃうわよ? 女は案外か弱い生き物なんだから~」

 

「そうですよ、坂上先生。生徒からの質問には答えるのが教師というものです。そんなに嫌ならばある程度のポイントを請求すればいいのではないですか?」

 

「そ……そうですよね……。彼女もポイントを払ってまで知ろうとは思わないでしょう。特に今は4月……しかも入学してきて1日しか経っていない。どれだけ生活費に使うことになるか分からない以上、彼女も流石に払わないでしょう。それでいきましょう! ありがとうございます、茶柱先生」

 

 

「まだですか? 時間というものは戻ってこない物なんですよ? 私たちは時をかけることなんて出来ないんですから。早くしてください、お願いします」

 

「そう急かさないでくれたまえ。私たち教師にも都合というものがあるんだ。……さてと、川城さん。その情報にはポイントを払ってもらわなければ答えることが出来ない」

 

「へぇ~何でも買えるとは言っていましたが、教師の買収なんてことも出来るんですか? 随分と人権を軽視した学校ですね。国が経営している学校が、人権を軽視ですか。なるほど……気に入りました!」

 

「……話を続けますよ。それで、その情報の購入には1万プライベートポイントの支払いが必要ですが、どうします? 教師からの勧告としては一カ月後にポイントが貰えるとはいえ、節約しておくべきだと思いますよ?」

 

 坂上は確信していた。この情報を1万円で買う。そんな贅沢をこの天才は犯すだろうかと。現金はポイントに変換することは出来ないし、その逆も然りだ。手持ちのお金が使えないこの状況で彼女ほどの天才が無駄にポイントを使うことはない……そう思っていた。

 

 しかし、この少女は見破っていた。坂上が明らかにこの情報を買われるのを嫌がっていることに。彼女には間違いなくそれが、自分にとって利益を生み出すものか、取り返しのつかない要素を含んだものだと理解した。だから、彼女の次の行動は決まっていた。

 

「はい、じゃあ一万払うので教えてください! その私に教えたくなかったであろう情報を! 別に節約すれば一カ月は10万もあれば余裕で持ちますから。むしろ、この情報を今のうちに買っておかないともう1人の私がうるさくなるので」

 

 坂上は恐怖した。彼女の一言一言に。調査書には二重人格の可能性があると書いていたが、それは正しいだろう。だが、真に恐ろしいのは彼女が自分自身の中に別の人格があるのを知っていて、尚且つ受け入れているのだ。そして、その人格が行ったであろうことも認めているのだ。

 

 坂上は確信した。彼女は天才なんかではない。この世に波乱をもたらす天災だと……。

 

「どうかしましたか、先生? 私は払うと言いましたが? 早く準備をしてください。私はまだ昼ご飯を食べていないのですよ。時間を無駄にすることが私にとって一番嫌いなんですよ。盟友のためにも早くしてくれませんか?」

 

(盟友! 早くきゅうり食べたいからそろそろ終わらせてよ!)

 

〈待っててね。今畳みかけるから〉

 

「分かった。分かったから落ち着きたまえ。勿論ポイントを払うならば情報は教えよう。ただ、徐々に敬語ではなくなってきているから、言葉使いには気を付けたまえ」

 

「……ああ、そうですね。つい熱くなってしまったようで、その件については申し訳ありません」

 

 坂上は形式上仕方なくことねに要求された情報に対して解答した。だが、坂上は失敗した。彼女を止めたければ確固たる意志が必要なのだ。この情報を渡したツケは坂上の胃に深い傷を負わせることに繋がったのだ。

 

 



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5月1日~全ての発端の日~

お気に入り、評価ありがとうございます。

この調子で頑張っていこうと思います。


 坂上から情報を得たことねはある場所に向かっていた。そう、この学校で出たゴミを集めている場所にである。

 

〈ここでの交渉次第でもう一つのことも出来るようになるからね。にとりだってお金は欲しいでしょう? 〉

 

(もちろんだよ盟友。やっぱり何かを作ろうと思ったらお金がかかるんだよ。だから、幻想郷にいた時はぼったくりな値段で商品を売ったり、落とし物に心辺りがあるかもと言って、お金を払わせた後にネタ晴らしをしたり、ただの乾かした流木をお香として売り出したり……色々工夫していたのさ)

 

〈……やっぱりにとりに商売は向いてない気がする……。商売ってのは信頼を失うのが一番危険なことなんだよ、にとり? 私の目がある限りはそんな詐欺まがいの商売は絶対にさせないからね。……まあ、売れるか売れないかのギリギリのラインで売って見せるから商売の方は私に任せて〉

 

(盟友がそこまで言うなら……でも、ちゃんとお金は稼いでよね。開発には本当にお金が必要なんだから)

 

〈大丈夫だよ。私の予測が正しければ最終的ににとりの発明品がないと、駄目になる状況にこの学校の全員がなると思うから〉

 

 彼女たちは様々な機械が捨てられている場所に着いた。そして、ことねはそこで働いている人間に声をかけた。

 

「すみません。少しいいですか?」

 

「こんなところに生徒が来るとは珍しいな。何か用かな? お嬢ちゃん」

 

「はい、少し聞きたいことがありまして……ここにある機械を引き取ることは出来ませんか? 条例などで禁止されていなければ、原則としては持って帰ってもいいとは思うのですが、私はまだ昨日入学してきたばかりでして……そこらのルールには少し疎い所がありますから、聞いた方が早いと思いまして」

 

「こんな物を欲しがるなんてお嬢ちゃん変わってるね~。自由に持って行って構わないよ。ここにある物は全部処分されてしまう物だからむしろ、こちらとしてもコストがかからなくて済むからね。大助かりだよ」

 

「無料で貰ってもいいんですか! ありがとうございます。それで……その……無料で貰えるなら今後もここに通ってもいいですか?」

 

「お嬢ちゃん……本当に変わってるね。いいよ。真夜中とかでなければいつでも来たまえ」

 

「はい! 是非とも行かせてもらいます。今後ともよろしくお願いいたしますね」

 

(盟友! やったね! 機械弄りし放題じゃないか!)

 

〈にとり、私はあなたの要望を叶えたよね? なら、私の要望にも当然応えてくれるよね? 等価交換……だよ〉

 

(もちろん! 自衛手段の確保だろう? 盟友がアイデア出しに協力してくれるならすぐに取り掛かるよ)

 

 ことねによってにとりが機械を弄るための環境は整った。これより、彼女たちの真の意味での物語が幕を開けるのだった。

 

 

 

 

 

 4月の間、彼女たちはそこまで目立った行動をそれ以降取ることはなかった。強いていうならば、部屋の中で火事にならないように色々と買って対策したことでポイントをまあまあ消費したぐらいだろうか。彼女の手元には約3万プライベートポイントしか残っていなかった。

 

 坂上はこのことから安心していた。彼女がすぐに何か大変な物を作り上げて、学校に波乱を引き起こすものと思っていたからだ。しかし、予想とは裏腹に彼女は大人しかった。授業中はきちんと真面目に授業を受けていたし、抜き打ちで行った小テストも最後の3問のいずれも正答出来ていないなど、安心できる要素はいくらでもあった。

 

 だが、同時に不安もあった。それも彼女がホームセンターに何回も通っていたのが、監視カメラに写っていたからだ。さらに、彼女が毎日下校後にどこかから機械を部屋に持って帰ってきているのである。持ってきている機械は多岐に渡り、電子レンジ・テレビ・炊飯器・パソコンなど様々な物を持ち帰っているのだ。生徒たちがコミュニケーションを取れる場所の1つであるネット掲示板にもその姿が有名になっているのか、よく話題に上がるほどである。

 

 もしかして、自分が知らないだけで何か恐ろしい計画が彼女によって進行中なのではないか……。坂上はそう思わずにはいられなかった。実のところその考えははずれである。しかし、この話題性が後々にとりとことねにとっての追い風となった。

 

 彼女が動いていなかったのは自衛手段を用意するのに意外と時間がかかったから……つまり、動きたくても動けなかったというのが正しいのである。

 

 5月1日……この日から全てが始まった。正史とは戦いの環境が大きくかけ離れることとなった発端の日である。

 

 

 

 

 

「これから朝のホームルームを始めようと思うのだが……その前に何か質問がある生徒はいるかね? あるのならば、今のうちに聞いておくことをお薦めしますよ」

 

「先生、毎月10万払われると先生は言ったと思うんですが……6万ポイントしか振り込まれてません。4万ポイント足りないんですよ。どういうことですか?」

 

 とある生徒がそう言った。坂上はあらかじめそういうことを言う生徒がいるのは分かっていたため、説明に入った。ことねともう1人の問題児である龍園翔も特に口を挟むつもりはないらしく、説明は順調に進んだ。

 

「まずはこれを見たまえ。これを見ればある程度の人間は理解出来るはずだ」

 

 Aクラス:940

 Bクラス:650

 Cクラス:600

 Dクラス:0

 

「まず、このポイントはcpというものだ。入学したタイミングで各クラスに1000ポイント配布されていたものだ。このポイントはクラスとしての実力が反映されたものと思っていい。そして、このポイントは減点方式で君たちの授業態度などから採点を行い、正当に評価された分のポイントが支払われる……そういうシステムなのだ」

 

「おい、坂上。そのポイントが減らされた詳細を教えろよ。俺やひより、河城のように真面目に授業を受けていた人間には何も無いのか?」

 

「この学校は連帯責任の形式を取っている。個人がしっかりしていたからと言って、この評価が変わることはない。あと、ポイントの件は人事考課、詳しい査定内容を教えないという方針であるため、残念ながら教えることは出来ない。だが、私からのアドバイスとしては出来て当たり前のことを行わなかった生徒がいたからだと言っておくよ」

 

(うへぇ~全体に責任が来るのか。私が住んでいた幻想郷じゃそんなことは無かったんだけどなぁ~。何をやっても個人の責任。各自が責任を持つ。そういう感じだったんだけどね。盟友! お金がこれから必要だっていうのに……どうする?)

 

〈安心して、にとり。稼ぎ方はもう考えてある。まあ、にとりの協力が必要不可欠なんだけど……協力してくれない? にとりの技術力が必要なんだ!〉

 

(任せてよ。盟友の頼みだし、私の技術力が必要な物が何かという方が気になるからね! 腕がなるなー)

 

「さて、君たちには言っておかなければならないことがある。この学校は進学率、就職率共に100%と謳ってはいるが、その恩恵を受けられるのはAクラスの生徒だけなのだ」

 

 坂上がそう言うと、かなりの生徒が騒ぎ出した。ことねも声には出してはいないが、かなり驚いていた。楽して大企業に受かりたかったからこそ、この学校に来たのに詐欺まがいのことをされたからだ。

 

〈え~マジで~。まさか学校側に詐欺られるとは。流石にそれは予想してなかったな~。〉

 

(盟友、世の中そんなに甘くないんだよ。私たち河童も幻想郷では立場が上の天狗や鬼に下克上するために準備を着々と進めていたことがあるんだけど……そんな努力が一瞬で無に返ることだってあるんだ。自分で勝利を勝ち取らないと明日は来ないよ)

 

「だが、当然ポイントがこのようになったことから分かると思うが、君たちがcpをあと51ポイント手に入れれば、晴れて君たちがBクラスとなる。簡単に言うと下克上制度を取り入れている。君たちの努力次第でいくらでもAクラスに上がれる可能性はあるということだ。……以上で説明は終了するが、質問がある者はいるかね?」

 

〈なるほど……じゃあ、これを聞いておくかな。はっきりと言ってクラスで上がろうと思うよりは、私とにとりでAクラスに行く方が楽だろうし。〉

 

 後々伝えられる情報であったのは間違いない。坂上に言われたからこそ、龍園はこの方法でAクラスにクラス皆で行こうとしたのだから。だが、この方法があるという事実はいきなり坂上にチェスで言う所のチェックメイトに陥れる羽目になった。

 

「先生、なら質問いいですか?」

 

「……川城さんか。何だね? 出来れば早くしてくれませんか? 他にも説明することはあるのですが……」

 

「いえ、プライベートポイントで教師を買収することも可能ならば、プライベートポイントを使うことで、Aクラスに個人であがる方法も何かあるのではないかと思いまして、あるのか無いのかを教えてください。また、方法があるのならば、教えられる範囲でいいので、詳細に教えてください」

 

 坂上は胃を痛めた。こちらがいずれ教える予定である情報を先取りして教えろと迫ってくる彼女のことが嫌いになりそうだった。後々教えるつもりであった情報であったため、坂上は渋々情報を渡した。

 

 だが、坂上は知らない。この情報を提供したことで坂上が本来恐れていたことが本来よりも早く実現してしまうということに。ことねによってペースを崩されてしまった坂上がそのことを考えつくことは無く、そのことに気付くのは後日であった。

 

 

 



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5月1日~王の誤算~

 小テストの結果の報告……そして、中間テストがあることについての話が終わったあと、ことねは坂上から与えられた情報について考えていた。

 

〈1人でAクラスに上がるために必要なプライベートポイントは2000万必要……か。こればかりは稼いでみないと分からないな。評判が広まるまではいくらにとりの技術が凄くても人は寄ってこない。……駄目もとでやってみるか。ポイントを貯めきれなかったとしても、事業が成功すれば豪遊とかして学校生活を送れるかもしれないしね。〉

 

 ことねがやろうとしているのはにとりのとんでも技術によって、壊れた機械を直したりする事業だ。にとりの技術が表に出ているのはVRゴーグルだけなのだ。

 

 実際に世の中から認知されていないだけで、家のガレージや彼女の部屋には様々な発明品がある。許可なしに部屋に侵入を試みた場合、何もない*1虚無の世界に転移させられる防衛システムのような危険な物から、全自動介護ロボットなどの安全な物まで、彼女の家には社会に出れば大ごとになる事間違いなしの発明品がいっぱいあるのだ。

 

 にとりが機械を修理する時に魔改造を施したり、何かそういった商品を皆に紹介出来れば、金をいっぱい持っているであろう2,3年生が買ってくれるのではないかとことねは考えた。そこでことねは2つの金稼ぎを実行することにした。

 

 1つはお客が持ち込んだ機械の修理や、魔改造、お客のニーズに沿った機械の開発を行うサービスを提供すること。こちらのサービスの名前はお、値段以上にとりという名前にすることにしたようだ。

 

 もう1つはにとりが自分で開発した機械を動画で紹介して、インターネットオークション形式で売りつけるカパネットにとりというサービスを展開する。

 

 この案を思いついたことねは早速行動に移した。最初はおふざけでもいいので、客が来ることが重要であるから、ことねは自分のことが話題になっているサイトがないかを探した。毎日壊れた機械を持ち歩く人間がいるのだ。むしろ、話題になっていない方がおかしいだろう。ことねはそう確信していたからだ。

 

 彼女はネット掲示板で自分のことが度々話題になっていることに気付いた。彼女はネット掲示板に自分のことを書いてみた。

 

 すると、何人かの生徒には反応があったらしく、後日おふざけでにとりのところに壊れてしまった機械を持ってくるらしい。こんなにすぐに反応があるとはことね本人も思っていなかった。ある意味で人間とは変人を笑いの種とするのをいつの時代も好むのかもしれない。

 

 彼女が後日彼らが本当に持ってきた時にすぐに取り掛かれるように、色々とにとりと相談して用意しておこう。彼女がそう思い、教室から出ようとした放課後、龍園が教壇に立ち、クラス全体に向けてこんな事を言ってきた。

 

「今日からCクラスの王に君臨することにした龍園翔だ。だが、今の俺はあくまで自称王に過ぎない。当然お前たちの中にはいるだろう。俺に反発する気のある人間が。だから、白黒つけようじゃないか。俺に不満がある奴は叩き潰してやるからよぉ~。逆に俺が王になることに不満がない奴は教室を出ても構わないぜ。だが、そう判断したからにはきちんと駒として働いてもらう」

 

〈……面倒臭いことになったね、にとり〉

 

(盟友はどうするんだい? 私としては一応残っておいた方がいいと思うんだけど。あいつの態度を見るに、ここで何かしら手を打っておかないと何か私たちの物を横暴に盗んでいきそうな気がするし)

 

〈本当はわざわざ自分から闘いなんてやりたくないんだけどな……。まあ、こういう時の為に用意した自衛手段だし、使わない手はないか。にとり……にとりは人間のことを撃てる?〉

 

(人間と河童は盟友同士だからねぇ……出来ればやりたくはない……かな。でも、盟友がやって欲しいっていうなら、やってあげないこともないけど……どうする?)

 

〈……分かった。私がやるからにとりはちょっと……耐えてね。〉

 

(盟友……あれの出番かな? 確かにあれは今まで作ってきたものの中では殺傷能力が低い方だけど、撃ちどころを間違ったら普通に死ぬから気を付けてね)

 

〈うん。頭をぶち抜かなければ取り合えず大丈夫だよね。分かってる分かってる。お互いに同意を得れば、死にさえしなければ問題はない……と思うから大丈夫だって。〉

 

 彼女たちが龍園たちのことを話している間にかなりの生徒が教室から出ており、教室には龍園、石崎、アルベルトを除くと、ことねを含めて数人しか残っていなかった。

 

「河城、お前も俺に対して不満があるのか?」

 

「いや、まあね。私はクラスのことなんてどうでもいいんだけどね、ここであんたを倒しておかないと後から色々と請求されそうで嫌だから残った。私が望むのはCクラスというクラスに縛られないこと。……つまり、あんたが王になるかどうかはどうでもいいけど、あんたが出す戦略に無条件で協力してやるつもりはないってこと。もう1人の私は機械をずっと弄れるならそれでもいいって言いそうだけどね」

 

「結局、言いたいのは俺の指図には従わないってことだろ? だったら簡単だ。俺たちに勝ってみせろ。それならば、俺はお前には何も指示しない。まあ、お前に果たして勝てるかな? 俺たち3人に」

 

「うん、いいよ。でも、戦う前に1つ約束事をしてくれないかな? たった1つだけなんだけど……どんな怪我をしたとしても、お互いに文句は言わないってこと。そして、もう1つ。監視カメラが無い所で喧嘩は行う事。それでいいよね?」

 

「おいおい、緊張しているのか? 1つと言ったはずなのに、2つ頼みごとをしているぞ? まあ、2つ目に関しては当然の処置だ。場所は既に用意してある。そして、1つ目に関してだが……一応俺の優しさから言っておくぞ? やめておけ。テストが受けれなくなるぐらい滅茶苦茶にされてもいいってなら、思いっきりやってやるぜ? お望み通りにな」

 

「そちらこそ、後で後悔しないでよね? 今だからこそ言っておくけど、私ももう1人の私も敵に対しては割と容赦ない性格なんだ~。むしろ、私は1対3でも勝てる自信があるよ? 私のことを甘く見れば、後悔するのはそっちだと言っておくよ」

 

「クククッ、お前こそ後悔するなよ……。証人はここにいる生徒全員だ。そして、監視カメラもある。あとで泣きべそかいて文句を言ってもしらないぜ?」

 

 龍園は己たちが必ず勝つと確信していた。目の前にいる少女はいくら天才であったとしても、自分とは違うベクトルの天才であり、喧嘩慣れもしていないただのアマちゃんだと。真の喧嘩も理解していない雑魚だとそう認識していた。

 

 だが、龍園は知らなかった。彼女の真の恐ろしさはそんなものではないと。にとりは色々な機械をこの世に来てから作り上げてきた。その中には当然彼女の弱くなった体を守るために作り上げた兵器もあった。あのVRゴーグルであっても、独自でゲームソフトを開発すればスパイの育成や軍隊の育成など軍事に生かすことだって出来るのだ。ホワイトルームの関係者が彼女を攫いに来たのも、このVRゴーグルを量産させるためというのが大きかった。

 

 無論、政府も自分たちで量産すればいいと最初は考えた。しかし、あまりにも使われている技術が理解不能であったため、仕方なく誘拐という手段を取って量産させるつもりだったのだが……その結果が虚無の世界への転送である。

 

 だが、そんな発明品でさえ彼女にとっては売り出してもいいと思える品物なのだ。にとりとことねはモラルが途轍もなく低かった。それを売り出すことで世の中がどうなるかなんて欠片も考えていなかった。それを売った目的も発明のための資金調達である。

 

 そんな彼女と正々堂々と決闘するということは自殺行為に等しいのだ。龍園はこの日、正史で綾小路に与えられたトラウマとはまた別のトラウマを植え付けられる羽目になる。ついでに坂上の胃も今回の件で痛みを訴え始めることとなる。

 

 

 

 

 決戦のバトルフィールドにやって来たことねと龍園、石崎、アルベルトは互いに向き合っていた。伊吹など龍園に対して不満を持っていた数名は離れた場所で横から4人の戦いを見守っていた。

 

 伊吹は当初、1対3で戦おうとしていたことねに対して無謀だと言った。彼女もある程度喧嘩慣れしていたからこそ、アルベルトがいる時点でことねに勝ち目はないと確信していた。そのため、自分も一緒に戦ってやろうかと提案したのだが、他ならぬことね自身に断られたのだった。危険だからと。

 

 内心伊吹はことねのことを馬鹿にしていた。なら、精々恥をかけばいい。そう考えていた。だが、喧嘩の結果は彼女の予想の斜め上の物であった。

 

 結果はことねの前に龍園たち3人が血を流しながら地面に這いつくばる……そんな光景であった。

 

 伊吹もその他の人間もまるで信じられなかった。ことねが何をしたのか……まったく理解出来なかった。ただ理解出来たのはことねがスカートをめくった動作のみ。その動作の後、何が起こったのかまるで理解できなかったが、一瞬で龍園たち3人の足から血が噴き出したのだ。

 

 目の前にあるのは地面に這いつくばって、何が起こったのか分からずに呆けた顔をしている龍園たち3人の姿……そして、何かいたずらが成功した時の子供のような表情を浮かべていたことねの姿であり、その異常な光景に何名かはその場から逃げ出したのだった。

 

 

*1
にとりの作った物の中でもかなり危険な発明品。事前に登録しておいた人物以外がその場所に侵入した場合、何にもない世界に転送され、必ず1週間以内に死にいたる。死ぬ理由としてはその世界には水すら存在していないため。存在するのは空気だけである。参考にしたのは5億年ボタン。



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職員室~会議~

まさか、赤色になるとは・・・。高評価してくれた方、本当にありがとうございます!


〈いやぁ、上手くいったとはいえ試運転しておかないとやっぱり駄目だな……元ネタからしてかなりの威力があるとは思っていたけど、ここまでとは……思わなかったな。〉

 

 ことねが何をしたか……実は彼女は何もしていない。ただ、スカートをめくって標的を捉えさせただけ。当然龍園たち3人の足を撃ち抜いたのはにとりが作った機械である。

 

 その名は……*1高圧ウォーターガン。ことねとにとりが自衛手段として開発してスカートの中に潜ませていた機械の1つである。

 

〈まあ、どんな怪我をしてもお互いに文句は言わないという話だったし、別にいいよね。これであいつの指図に従う必要がないから、商売にも集中出来るってものさ。〉

 

「て……てめぇ……何しやがった?」

 

 龍園は足から出てくる血を見ながらそう言った。アルベルトと石崎も何があったのかまるで理解出来ないらしく、ことねのことをただ睨んでいた。それはそうだろう。彼らは勝負が始まったと思ったらいつの間にか足に怪我を負っているのだ。何が起こったのかぐらい知りたいだろう。

 

 だが、ことねから出た言葉は彼らにとって望むものではなかった。

 

「だから……何? 私があんたたちに教えてあげる義理があるとでも思ってるの? あんたたちにあるのは敗北だけ。それともまだ続ける? 続けるなら次はもう片方の足に穴を開けてあげるけど……それはあんたたちにとっては致命的なんじゃないの? 今は片足だからいいけど、両方の足に穴が開けば自由に移動なんて暫く出来なくなるよ」

 

 龍園は自分が圧倒的に不利な状況にあるということを理解したのだろう。一旦引くことにしたようだ。

 

「今はそうやって勝ち誇っておけばいいさ。だがな! 最後に勝つのはこの俺だ。俺はお前をどんな手段を使ってでも必ず叩き潰してやる。首を洗って待ってな」

 

「龍園さん!? こんな奴に負けを認めるんですか!?」

 

「黙ってろ石崎。最低でも今の状況でこいつと戦っても勝てないことぐらいお前でも理解出来るだろう! 後、俺がいつ敗北を認めた? 確かにこの勝負では負けた。だが、最後には必ず勝ってやる。アルベルトの時のようにな」

 

 そう言って、龍園たち3人組は足を引きずりながらどこかへ向かって行った。彼らがその場所を去ってからすぐに悲鳴が聞こえてきたが、ことねにとってはどうでもいいことである。

 

(今回の発明品はどうだい? 盟友のアイデアを取り入れてみたけど……かなり威力があったね。これは幻想郷に戻っても身を守るのに使えそうだね。天狗にでも使ってみる価値はありそうだな)

 

〈鬼には使わないの? これがあれば鬼の四肢ぐらいは使用不可に出来そうなもんだけど……〉

 

(盟友はあいつらの怖さを知らないからそんなことが言えるんだよ。あいつらの四肢を失わせることなんて私たち河童には出来っこないし、何よりも恐ろしいのは鬼に強さで興味を持たれること=死なんだよ。そんなことになるくらいなら泣き寝入りした方が遥かにマシさ)

 

「ちょっとあんた何をしたんだ。私に危険だからと言ったのはこういうことなのか?」

 

 外野で見学していた伊吹がことねに詰め寄る。今の勝負に納得がいっていないようだ。

 

「私の勝ちで、あいつらの負け。それだけでいいでしょ。ともかくこれで私はCクラスの王の独裁制度から一抜けた。あんたもあいつら3人組の足が重傷の間に戦いを挑んでおいた方がいいんじゃない? んじゃまあ、そういう事で。私も明日から忙しくなるからあまり話しかけないでよね」

 

「待てよ。じゃあ、さっきの勝負のからくりは教えてから帰れよな。どうやったらスカートをめくっただけであいつらの足に穴が開くんだ」

 

「さっき全く同じことを言ったんだけど? 何度も言わせないでくれる? 私はそうやって無駄に時間を奪われるのが好きじゃないの。私たちは失った時間を取り戻せる? 取り戻せないでしょ。だから、趣味に時間を費やすためにも無駄な部分は省くことにしているんだ。まあ、でもそうだな……企業秘密だよ。これでいい? じゃあ、さよなら」

 

 今の彼女には金のことしか見えていない。その為、準備を妨害した龍園に若干イラついていたため、お灸をすえる意味でも割と本気でやった。そう、川城ことねは重度のエゴイストであった。

 

 

 

 ******

 今回の件は学校全体に広まり、坂上は今まで感じたこともないような気持ちに覆われた。今回の事件の発端は龍園翔と川城ことねであることが分かった時はまたこいつらかと思った。だが、やってしまったことが途轍もなく大変なことであった。

 

 5月1日、入学からわずか一カ月後に自らが担当している生徒が3人も緊急搬送されたのだ。それも原因は川城ことねたった一人なのだという。このことを真嶋に聞いた時、坂上は本当に耳を疑った。確かに川城ことねは天才ではあるが、荒事に慣れているはずもない。そう思っていたのだが、被害にあったのは龍園翔とその取り巻き2人なのだという。坂上にはとてもではないが信じられなかった。

 

 坂上はこの件について調べているうちにある事実に辿り着いた。1年Cクラスに設置されている監視カメラに龍園翔と川城ことねのやり取りが録画されていたのだ。その映像を見た坂上は確信した。川城ことねがこうなることを理解しておきながらやったに違いないと。確実に傷つける自信があったからこその発言であったのだとこの事件が起こった以上、簡単に理解出来るからだ。彼らが怪我をした理由も何かしらの発明品が原因だとすれば納得がいく。

 

 坂上は決断した。これ以上彼女を野放しにしておくのは危険だと。坂上は早速彼女がこれ以上何か大罪を犯さないうちに行動を抑制させるために他の教師、そして校長に会議を開くように頼みに行くのだった。

 

 

 

「すみません、集まっていただいて。今回は本当にこの学校の築き上げてきたものが崩壊しかねない案件だったので、会議の題材として挙げることにしました」

 

「例の事件ですか。確かにあれは大変な事件でしたが、被害はCクラスの生徒だけなのですから、私たちまで呼ぶ必要はなかったのでは? 坂上先生」

 

 真嶋がそう言う。実際本来ならば、坂上と校長だけで話し合えばいい案件だったのだ……本来であれば。

 

「すみません。ですが、私の担当しているクラスの生徒である川城ことねがこうなることを理解しておきながらあの事件を引き起こした可能性があったのでその報告をと思いまして。そして、提案なのですが川城ことねの動きを抑制するために皆さんにも策を考えてはもらえないかと思いまして」

 

「何故ですか? 他のクラスからならまだしも、ご自身のクラスの生徒をそこまで警戒するとは……らしくないですよ。坂上先生」

 

 茶柱もそう言う。彼は本来勝つために龍園の策の後押しで佐倉のことを色々と強く言って証言台から退場させようとしたりと自分の為に生徒の策略に協力するような人間であり、決して自ら自分のクラスの生徒の情報を吐くような人間ではないのだ。

 

「ええ、私もらしくないと自分自身思っています。しかし、これはこの事件が起こった以上、全教師に公開すべきものだと思いましたので……手元の資料をご覧ください」

 

 坂上は川城ことねの評価についていた別途資料のコピーを各教師と校長に事前に渡しておいた。その情報を開示された教師は目を見開く。校長は入学時点で既に理解していたことから特に驚きもしなかった。

 

「なるほど……坂上先生。坂上先生はこのことは事実なのではないか……そう疑っていたのですね? 今回の事件から鑑みても、川城ことねは人を殺したことがあるのではないかと……そう言いたいのですか?」

 

「ええ……はっきりと言って彼女は異常です。もし、このまま何も彼女に対して対策を取らなければ、本当に死人が出かねないのです。無論彼女自身も危険ですが、彼女の行動を何故抑制しなければならないのか。それは彼女が作っているのは機械の類であり、誰でも使い方さえ理解すれば使用できるという点にあるのです。そして、これが全教員に相談しなければならないと思った原因です」

 

 そう言って坂上は自分のスマホの画面を各教員に見せた。そこにはことねがネット掲示板に書き込んだコメントがあった。そして、同時に教師たちは坂上が何を言いたいのかを完全に理解する。

 

「機械の修理・改造・製作に加えて発明品のインターネットオークション……ですか。なるほど……彼女が具体的に何を作っているのかは分かりませんが大事になるのは間違いなしでしょう。彼女の発明品がどんな物か次第では生徒の実力を高めるというこの学校の設立された主義の在り方が完全に崩壊するというわけですか」

 

「彼女の発明品の中でいかに有用なものを持っているか……プライベートポイントを多く持っている者が必然的に有利になり、逆にプライベートポイントを持たない者は勝つ確率が全く無く不公平になりますね。勿論この学校に平等なんて甘い考えはありませんが、流石に勝つ確率が0になってしまえば教育になりませんから、これはどうにかしなければならない問題でしょう」

 

「う~ん、流石にこれは見逃せないなぁ~。今回の件をネタにして厳重注意とかそういうのやった方がいいんじゃな~い? 彼女、やって良いことと悪いことの区別がついてないだけかもしれないし~」

 

 教師たちも坂上のこの意見に全面的に肯定していた。教師たちも競い合う仲ではあるが、今回の件に関しては協力しあう必要があると考えたからだ。

 

 だが、彼らは出来るだけ穏便に済ませるべきだったのだ。いや、ある意味仕方がないのかもしれない。まさか、彼女があんなことをするとは到底誰も思いつかないだろうからだ。しかし、この場で思いついていれば被害は最小で済んでいたかもしれない。

 

 

 

 

河城にとりが日本政府を脅し始めるまで残り数カ月

 

 

*1
ステルス迷彩付きウォーターガン。水を少しずつ超高圧で弾丸のように発射することで、ただの水が体に穴を開けるほどの威力になる。ことねとにとりはスカートに4丁隠しており、尚且つそれらが標的を確認後自動で撃ちこむプログラムを組み込んでいるため、彼女に痴漢をしようものならその相手は重傷を負うことになる。元ネタはジョジョ3部に出てくるスタンド、ホウィールオブフォーチュン。



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カフェ~不幸~

・・・日間にまさか載るとは・・・。本当にありがとうございます。

主人公のちょっとした裏設定をあとがきに書いときます。

あと、その裏設定が原因でステータスを書き直すことにしました。知りたい方は第三話を読んでください。


 あの事件の後、ことねの存在はとても有名になった。人は噂話というものが好きらしく、ことねが龍園との喧嘩に勝利したという事実はすぐに学校全体に広がった。

 

 その結果、にとりが知己の人物と会うことになるのは明白であった。

 

 

 

〈全く教師たちが急に面倒臭くなったよね。どこか私のことばかり見てくるし……粗探しでもされている気分だよ……。別にいいじゃん。龍園と合意を取ってからあの結果なんだから龍園としても私に文句は言えないでしょ。〉

 

(ふふ~ん。やっと私の発明の偉大さに人間どもも気付いたのかな? 幻想郷では日の目を浴びることなく、椛に没収された発明品もあったからなぁ。実に嬉しい限りだよ。これも盟友のおかげさ! ありがとう)

 

〈きゅ……急に何を言い出すかと思えば……。……こちらこそありがとう、にとり。これからも心身共々よろしくね。〉

 

(うん。私たちは盟友だもん! 当然だよ)

 

 ことねとにとりが固い友情を確認し合っていたその時、Cクラスの扉が開く音がした。

 

「えっと……にとりはどこにいるのかしら。このクラスに河城にとりという子がいるはずなんだけど……どこにいるのか教えてくれない?」

 

 その発言を聞いた時、ことねは新しい客かと思った。あの事件の後、ことねの株は上がりっぱなしなのだ。特に学校全体でかなり有名な龍園にただの少女が喧嘩で勝ったというのだ。ただ、技で倒したというのは体格の違いから説明がつかないため、生徒たちがにとりの発明がそれほど凄いものだと気づくのにそう時間はかからなかったからだ。

 

 彼女の元に来た客の中で最もビックネームと言えるのは2年生生徒会副会長の南雲だろう。彼は生徒会長堀北学に勝つことを目標としていて、にとりの発明がその目標を達成するには必要な物だと早く見抜いたのだ。

 

 なお、この時南雲はにとりとことねに愛人になれと体を触りながら言ったのだが、明らかに利用する気満々の不愉快な告白をされたことに腹を立てたことねによって、龍園たち以上に怪我を負うことになった。自業自得である。にとりとことねの部屋にはサーモグラフィー付き監視カメラが大量に設置されているため、南雲が訴えたとしても痛み分けで終了である。

 

「は~い、お値段以上にとりに何か用かな? お客さん……」

 

 そこにいたのはことねにとっては見覚えのない人物……だが、にとりにとっては知己の人物であった。

 

「えっと……雛? なんでこんなところにいるんだい?」

 

 にとりは思わずそう言ってしまう。確かに射命丸と会った時点で可能性としては考えていた。だが、幻想郷の住人とはそれっきり会っていなかったため、諦めかけていたことが再び起こったのだ。

 

「にとり……にとりね。うわぁぁぁ! 良かったわ。本当に!」

 

 今2人はこの学校で再開した。

 

 

 

 

 この学校の敷地内にあるとあるカフェ。にとりと雛は久しぶりに話をしていた。ことねは話についていけてないため、素直に黙っておくことにしたようだ。

 

「それで、何故この学校にいるのさ? もしかして、雛も人間に憑依しちゃったわけ?」

 

「そうなのよ。人里の厄を集め終わって神々に献上した後に寝たんだけど……気がついたらこの世界に来てて……そして、ある人間に憑依していたのよ。そして、そう言うってことはにとりも誰かに憑依しちゃってたわけ?」

 

「うん! 私にとって最高の盟友さ。心身共によろしくするぐらい仲がいいよ。雛はどうなの? どんな人間に憑依したのか興味あるなぁ」

 

「私の憑依した人は何というか不器用な人なのよね。いじめられていた子を助けるために自分をいじめの対象になるように仕向けたり、友達から告白されたくないからどうにかして欲しいと言われた時も自分を犠牲にして解決してたし……憑依して迷惑をかけている立場からすれば言いにくいけど、彼女のことが時々心配になるわ。せめて、事情を理解してくれている友達だっていたんだから、協力を求めれば良かったのに……他人を頼らないのよ。根が優しいのは分かっているつもりなんだけど……そこら辺の考え方がどこか捻くれてるのよね」

 

「……何というか変わってるね、その人間は。雛としてはやっぱり心配なのかな? 何というか話を聞く感じだと似たもの同士だし」

 

「私なんかよりも彼女の方が大変よ。私に出来るのは心配ぐらいよ。彼女同じクラスの人と関わろうとしないもの。よく同じクラスの人が関わろうと試みてはくれているんだけど……彼女は拒絶しちゃってるのよね。やっぱり、もう人と関わること自体が懲り懲りになっちゃったのかしら……。私が憑依しちゃったせいで彼女の容姿も私のものになってしまったから、中学校の友達からも別人だと思われて交友が失われちゃったみたいで……本当に申し訳ないわ」

 

「う~ん。そこまで雛が悲観的になる必要はないんじゃない? 私たちだって自分から望んでこんなことになったわけじゃないんだし。というか、今の話を聞いている限りその人間は私と会う事なんて嫌がると思うんだけど……どうやって説得したの?」

 

「……にとりがいるかもしれないということに気が動転してて忘れてたわ。基本的には彼女に体の支配権は譲っていたのだけど……少し待ってて」

 

(盟友、随分と黙っているけどどうしたんだい?)

 

〈いや、話についていけないから黙ってたんだけど……何か反応を示した方が良かった?〉

 

(いやー盟友との体の支配権で揉めたことなんてなかったなと思ってね。今頃だけど盟友としてはそこら辺どう思っているの? ちょっと興味が湧いたからね。無理矢理体を乗っ取られた時の感想を教えて欲しいなと思って)

 

〈割とびっくりする。急に体から力が抜けるような感覚が襲って来るからね。だから、私も急ににとりが出てくるようなことはやめて欲しいかな。せめて、体の主導権を交代するなら一言欲しい〉

 

(……そうだ! 雛が憑依したっていう人間と話せるようにしてみようかな。ちょっと興味あるからね)

 

〈おい、聞けよ。あの監視カメラのことを聞いた時だって割とびっくりしたんだからね。私は中学生の時に散々やられて慣れてたから倒れることはなかったけど、その……雛さんの話を聞く限りその子は初めてっぽいし、その子は今怒っていても仕方ないんじゃないかな?〉

 

「えっと……あなたは彼女の知り合いなんですか? 随分と仲が良いようですね。その交友を悪く言うつもりはありませんが、あまり近づかないでもらえますか? もう、ごめんなんですよ。親しい人から忘れ去られてしまうぐらいなら、もう友達なんて作りたくないんです。そう言う訳で今日はもう帰ります。さようなら」

 

 彼女にはかなりのトラウマがあるらしく、席を立ちそそくさと立ち去っていった。ちなみに支払いはきちんと済ませている。常識がちゃんとあることはそのことから理解出来る。

 

〈……あんな子と雛さん……だっけ? そんなに似てるの、にとり? はっきりといって雛さんの方はあんな根暗とは違うと思うんだけど……〉

 

(盟友、私が似ていると言ったのはそこではないよ。盟友には前説明したことがあると思うんだけど、私たち幻想郷の住人は”~する程度の能力”という能力を各自持っているんだけど、雛の能力は”厄を溜め込む程度の能力”なんだよ)

 

〈……よく理解できない。それが雛さんと彼女が似ているという理由にどう結びつくの?〉

 

(そうだな……簡単に言うと雛は幻想郷では嫌われ者だったってことだよ。彼女に近づいてしまえば彼女に集まった厄がそいつに降りかかるのさ。ようするに不幸になるってことだね。だから、彼女は人間にとても嫌われているんだ。でも、彼女は人間のことが好きなんだよね)

 

〈そんな仕打ちを受けていれば人間のことなんて嫌いそうなもんだけど……どうしてなの?〉

 

(何で彼女が人間のことが好きなのか……それは私自身分からないんだよね。ただ、雛は厄を溜め込むことで強くなる厄神だから、人間たちの里から厄を集めることでその力は増していくんだよね。普通の神様ってのは信仰がなかったら弱まっていくものだけど、彼女にとっては集めた厄がそのまま力になるだけで、信仰とかを特に必要としない神なんだよね)

 

〈……結局何が言いたいの? 分かるように説明して〉

 

(彼女たちは在り方が同じだってことだよ。それが生まれた時からか後からそうなったかの違いだけで。雛は必ずしも人里から厄を集める必要はない。人間たちに蔑み嫌われながらも人里から厄を集めてやる義理はないのに、人里から集めている。無論、簡単に厄を集めやすいからという理由もあるかもしれないけど、雛のことだから、自分は嫌われていたとしても彼女は人間のことが好き。だから、その憑依先の人間に迷惑をかけたことに罪悪感を感じているんじゃないかな?)

 

〈……つまり、にとりはあの根暗も自己犠牲によって大切な物を守っている点で雛さんと似ているって言いたい訳? ……分からないな。雛さんが人間のことが好きな理由も、あの根暗が自分のことを犠牲にした理由も。私はいつだって自分が大切だった。友情なんて物もにとりと会うまでは感じたこともなかったから……。そして、にとりとも一心同体みたいな状況だからわざわざ自分の身を犠牲にして他人を守る人間の気持ちなんて分からないよ……〉

 

(……この話は終わりにしよう。悪かったよ、盟友。嫌なことを思い出させて)

 

〈……いいよ。修理の依頼が2件、改造の依頼が3件来てたんだ。早めに片づけないといけないし、帰ろうか、にとり。〉

 

 ことねもまた嫌な記憶を思い出したため、部屋に戻ってからそのことを早く忘れたいのか、新たな金稼ぎの方法をにとりが機械を弄っている間に考え始めたのだった。

 

 能力を失った雛にはことねの不幸を防ぐことは出来なかった。……いや、雛も憑依先の人物との関係性が悪くなったという不幸に巻き込まれた。今回はただ溜め込まれた厄が暴発しただけ……。しかし、今回の集まりは4人全員に何かしらの傷を植え付けることになってしまったのだった。

 

 

 




オリ主裏設定

ことねの両親はとある事故でことねをかばって死亡。ことねが小学生の時点で他界済み。その時にことねは何故両親が自分のことをかばったのかを理解出来なかったのと同時に両親が目の前で死んだことで死への恐怖心を植え付けられる。

ことねがオタクになったのは死への恐怖を少しでも和らげたいと思ったから。友情をにとりが憑依してくるまで全く感じてなかったのは友達がいなかったため。

友達がいなかった理由としては、周りよりも遥かに精神の成熟が早かったため、ことねにとって周りのガキどもと遊ぶよりは身を守るため、死なない為に知識を蓄えること、そして金を稼ぐ方法を模索することの方が大事で専念していたからである。

この時に蓄えられた知識と恐怖を和らげるために手を出したオタ知識がにとりの技術と噛み合ったことによってオーバーテクノロジーが作成され、商売について知識があるのは金稼ぎを模索した時の名残。結果としてヤバい天災が生まれた。

本来の彼女であれば龍園に支配されることを選んだだろう。全ての歯車が狂った原因はにとりの存在・・・ただそれだけである。


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部活~被害~

 川城ことねが5月1日に起こしたあの事件以来、教師たちはとても忙しかった。

 

「どういうことですか!? 吹奏楽部で川城ことねの発明品が見つかった? それで……どんな発明なんですか? ……*1楽譜さえ入れれば何でも完璧に演奏してくれる楽器……? ふざけないでください! 廃棄ですよ廃棄! あなたたちは自分たちの力で一生懸命に練習していたじゃない! あの時のあなたたちはどこに行ったのよ」

 

 生徒たちは歯切れが悪そうにこう言った。

 

「だって……あんな完璧な演奏聞いたら……私たちが練習する意味なんてないんじゃないか……ってそう思えてくるんです。だって……楽譜を入れるだけで私たちなんかよりもうまい演奏が流れてくるんですよ……。私たちがいる意味なんてないじゃないですか。部員ももう殆ど来なくなりましたし、来てももうその機械を垂れ流すだけで、私たち演奏すらしていませんし……」

 

「えーい! 川城ことね──!」

 

 ある吹奏楽部の顧問は声を荒げる。

 

 

 

 また、別の場所では……

 

「何ですか! このロボットは!」

 

「えー? 先生知らないんですか? 先輩が河城にとりって人に頼んで作ってもらったっていうロボットですよ」

 

「また川城ことねか……」

 

「先生、何か言いましたか?」

 

「いえ、あなたには関係のないことです。それで、あの機械は何なのか説明してくれませんか?」

 

「えっと、通称*2剣豪っていうらしいですよ。剣道で敵なしになった先輩が新たな対戦相手が欲しいということで開発してもらったらしくて、随分と高性能ですよ。ただ、厄介な点が1つ」

 

「何だね? その厄介な点というのは……」

 

「いえ、離れていれば問題ないんですが……先輩があの機械に設定されている強さレベルを最大レベルにしたせいで対戦相手を突き飛ばすようになっちゃったみたいで……先輩とその他数名が今怪我で寝込んでます」

 

「……なら、止めてしまえばいいじゃないですか。リモコンとかそういうのはないんですか?」

 

「いえ、そこは先輩が拘ったらしく、あのロボット相手に点数を取らない限り止まらないように設定したらしくて……しかも、試合場に入った瞬間襲って来るので先輩以外はそれが原因で不意をつかれて重傷です。結果としてあそこの試合場には誰も近づかないし、使える試合場も1つ減って練習の効率が悪くなっているんですよ。何とかなりませんか?」

 

「……電池切れとかそういうのは無いのかね?」

 

「えっと……あの機械は内部で蒸気を使った発電をしているらしくて……しかも、ずっとバッテリーに貯め続けるらしいので、一回停止してやらないとオーバーヒートで火事になりかねませんし……どうにかしたいんですけど……圧倒的強さ過ぎて剣道部誰一人勝てないんですよ……先輩ですら勝敗は一瞬で決まりましたし……」

 

「……どうすればいいんだ!? こんなポンコツマシン。おい、その河城にとりを呼んで来い! 責任もって解体させる!」

 

「それが……彼女には既に頼んだんですよ。ですが、彼女から『私は責任を負わない』と言われて門前払いでして……」

 

「そんなの関係ないだろう! もういい、私が直接かける!」

 

 剣道部の顧問はその生徒に連絡先を教えてもらいかけてみる。数回かけたがかからず、5回目の挑戦でついに電話がかかった。

 

『はーい、お値段以上にとりです。今回はどのようなご用件でしょうか?』

 

「おい、君。私は剣道部の顧問だ。あのポンコツロボットを今すぐ解体しに来たまえ!」

 

『ハァ……お客さん。またそのクレームですか? 教師だろうがなんだろうが、あの先輩はあの契約でご購入なさったんですから、私が責任を取ることはありませんよ。自分たちで必要ないなら何とか処理してください。というか、その件に関して言えば、お客様の方にも問題があるかと。私は最初から最大レベルはやめた方が良いと忠告していたにも関わらず、CPUのレベルを最大にしたのはお客様では? 責任の擦り付けはやめてくれませんか』

 

「何だその態度は! 私は教師だぞ。君のせいで一体何人の罪のない生徒が被害に遭っていると思うのかね? 開発責任者として今すぐ処分しに来なさい!」

 

『知りませんよ。文句なら機械を開発してくれと頼んだ先輩に言ってくれませんかね? 私は彼の要望に答えただけ。お値段以上にとりは改造、開発の場合、アフターサービスを行っておりません。3年間は保証とかそんなサービスはございません。私は皆さまのご要望にお応えしているだけだということをお忘れなく。サービスがない分購入前に注意点はお客様に説明しているのです。そして、そのタブーを破ったのはお客様。私としては責任を負うつもりは全くないということをこれで理解していただければなと思います。どんな道具も使い方次第……ですよ。お客様がどんな使い方をしたところで、それはお客様自身の責任。私の責任ではございませんので。勘違いなさらないように。では、これからもお値段以上にとりをよろしくお願いします。ご利用いただきありがとうございました』

 

「あ、おい君! 待ちたまえ!」

 

 通話を切られた教師は激昂した。なんだあの生意気な小娘はと。あの小娘には矯正が必要だと思ったその教師はある強行手段に手を出すことになる。だが、それこそが間違いだった。ことねとにとりは怒ることは全くない。だが、ある一点において共通の地雷が存在する。

 

 その教師はその地雷を踏んでしまうことになる。この教師はそれが原因で自分の人生が滅茶苦茶になるということをまだ知らない。

 

 

 

 また、別のある場所……

 

「今年は全然賭けに来る奴がいないよな。毎年1年でも数人はギャンブルが出来るということに気付くんだがな……」

 

「それか案外リスクを怖がっているのかもな。ギャンブルってのは素人がやれば負けるという考えを持つ人間が多いかもしれないし。それに加えて1年のDクラスはクラスポイントゼロだってよ。笑える話ではあるが、一発逆転を狙って来る奴すらいないとなると俺たちからすれば残念だな。カモがいねぇ」

 

「おい、見てみろよ! これ! 俺たちの所に来ないのはこれが原因なんじゃないのか!?」

 

 3人組のうち、ある一人が見せたのはインターネットの画面。そこには簡単にインターネットギャンブルというものが映っていた。当然これもにとりが作ったものである。

 

「うへぇ、すげえな。チェスに将棋にオセロ……ボードゲームばっかだが、勝敗によってポイントを賭けあう単純なつくりだが、革新的な賭け場じゃないか」

 

「やってみようぜ。賭け金は一回5万からか。意外と取られるもんだな。だが、それでこそギャンブルってもんだ。当然俺たちは普段からチェスをしているからチェスにするか」

 

 

 

 

 

「弱すぎるだろマジで! 俺もう50万稼いだぜ? いやぁ、楽勝楽勝!」

 

「これ作った奴もアホだよな。こんな雑魚の実力じゃポイントをタダで渡しているも同義だぜ。俺もすでに25万稼いだ」

 

「俺も25万だ。こんなアホみたいに稼げるなら別にクラス同士での抗争も頑張らなくてもよくね? このまま1年間ここから搾取し続けて2000万プライベートポイントでAクラスに行くのを目標にするのはどうだ?」

 

「おーいいなぁ、それ! よし、俺ら3人でAクラスに行ってやろうぜ!」

 

 だが、彼らは上手く行き過ぎていたことに疑問を持つべきであった。3年Cクラス……彼らには希望がなかった。だが、目の前に希望があるのだ。誰でも手を伸ばしたくなるのは当然と言えるだろう。だが、それこそがことねの狙いなのだ。

 

 にとりが作ったAIはアホなどではない。わざと彼らを勝たせていたにすぎないのだ。そもそも、にとりの作ったAIはチェスの駒の動かし方の全通り10の120乗通りどころか、囲碁の10の360乗の動かし方を再現することが出来るスーパーAIである。

 

 それに加えて相手がのめり込むように最初はわざと勝たせているに過ぎない。彼らが10回ほど勝ち始めたころにそのAIは牙を剥き始める。その相手の実力を計り終えたAIは常に相手が勝てそうで勝てない状況をキープし、相手が焦りから凡ミスをしたところを的確についてとどめを刺す。そんなえげつないAIへと進化する。相手は勝てそうで勝てないという状況に苛立ちを感じながらもパチスロで喚いているギャンブル中毒者のように金を落としていく。

 

 すでにこのAIの毒牙に掛けられたものは多く、学校全体の生徒のうち、5%がギャンブル中毒者になってしまい、ことねに金を落としている。すでにことねのプライベートポイントは機械の開発の件もあり、600万プライベートポイントを超えていた。

 

 学校全体にことねとにとりの魔の手が行き渡っているのである。すでに学校はことねとにとりという2人の手によって波乱に満ちていたのだった。

 

 

*1
名前そのままの発明品。楽譜を入れれば後は自動で演奏してくれる。音量なども調節可能であり、1つの機材に付き5つの楽器を同時に演奏可能。

*2
剣道部のとある人間に頼まれてにとりが作った機械。レベルは100段階あり、1~40は高校生レベル、41~70は大学生・プロレベル、71~100に至ってはもはや剣術のレベルであり動きは妖夢の物が参照されているため、よう実世界のキャラクターでは綾小路と高円寺が辛勝できるほどの実力で手の付けられないロボット。本家と対決してどちらが強いかと言われれば、流石に本家が勝つといえるレベル。ただ、壊し方は簡単で試合場から離れた場所からRPG7やグレネードなど強い武器があれば遠くから攻撃するだけで機能は停止する。このロボット唯一の救いは試合場に入らなければ特に被害はないこと。



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部屋~恥~

 6月になって二週間ほどたった時……

 

 にとりとことねの元にある人間が訪れていた。

 

「おやおや、龍園と愉快な仲間たちじゃないか? 怪我はもう治ったから、リベンジに来たのかな? なら、少し待っていてくれないか? 見れば分かると思うけど今お仕事中なんだ。君たちに構う時間はないんだ」

 

 そう言う彼女の足元や机にはボルトやはんだごてなど、機械製作に使うものが雑に置かれており、散らかっていた。女の子感皆無の部屋である。

 

「汚ねえなぁ~。同じ人間としてどうかと思うぜ?」

 

 龍園は挑発を交えてそう言った。龍園の狙いは2つあった。1つは河城にとりの弱点を見つけること。前回の戦いで堂々と戦うのは明らかに分が悪いのは理解した。ならば、別の手を使えばいい。不意打ちをしようが、精神的に痛めつけようが最終的に勝てばいいのだから。そのためにも、彼女の情報を集める必要があった。

 

 2つ目は単純に客として来たのだ。Dクラスや他のクラスを己の策略に嵌めるための下準備として開発して欲しいものがあったからだ。

 

「別にそんなことを言われたところでね。私にとって機械を開発することの方が大事だし、そういうの求めてないし、私には盟友だけで十分だから」

 

(嬉しいこと言ってくれるじゃないか~このこの)

 

 〈……本当にそう思ってるよ、私は。こんなに素をさらけ出してるのはにとりだけだよ。いや、にとりがいるおかげでこうやって素をさらけ出すことが出来たんだよ。周りのカモ共にも。〉

 

(いやぁ、盟友も中々酷いよなぁ。ある意味私がやっていた商売よりもえげつないよ。ギャンブル中毒者を何人も生み出すとか……)

 

 〈でも、にとりとしても良かったでしょ? 金はアホな人間から勝手に供給されるし、何よりあのスーパーAIの製作は中々凄い課題だったでしょ? 〉

 

(あれの開発には手間取ったよ。まさか、開発途中にどこかの核爆弾をハッキングしているとはね。ボードゲームのことしか考えられないようにするのには苦労したよ。盟友が早めに気付いて無かったら大事だったよ)

 

 〈本当にあれには驚いたわ。偶々画面見てみたらアメリカの核爆弾がロシアを標的にして飛んでいきそうだったんだから。AIが完成したら人間を滅ぼすために動くという噂は本当だったんだな。あと少しで第三次世界大戦が始まってたよ。危ない危ない〉

 

「ふ~ん? まあいい。今回はお前に喧嘩を吹っ掛けにきた訳じゃねえ。ある物をもらいたくて来た」

 

「なるほど……つまり、今日はお客様として来たという訳か。じゃあ、聞くけど何を作って欲しいんだい?」

 

「簡単だ。お前がもう既に作ったことがあるであろう、姿を隠すことが出来る道具を寄こせ」

 

「……何の話かな? 何を根拠に作ったことがあるって? まあ、もう1人の私ならそんな物作れるだろうけど」

 

「いやぁ……よくもやってくれたもんだ。俺は何故お前にやられたのか……そう考えてみてどう考えてもおかしいのはスカートだ。だから、下僕の女どもにプールの授業の時にお前の制服を調べさせたんだよ。そしたら、出てきたんだよ。姿は見えないが、銃のような形状をした透明の物体がな」

 

「うわぁ、人の制服を調べさせるとか変態だねぇ? まあ、あんたが根拠を持ってきて言いに来たのは褒めてあげる。それで、購入するための費用はきちんと持ってきたわけ? 光学迷彩の購入には80万プライベートポイントだよ? あんたがポイントを徴収していたところで足りるわけがないでしょ」

 

(でも、盟友。1つ懸念点があるんだよ。ここ最近、ギャンブル中毒者からの供給が追い付いてないほど、荒稼ぎされている感じがするんだよねぇ。あのスーパーAI)

 

 〈……それがこいつのせいかもってことかな? はっきりと言うとこいつではないと思うよ。こいつの場合だったら挑発とかしてきそうだから。〉

 

(まあ、このまま荒稼ぎされたら困るから一旦停止させた方が良いと思うよ? 既に150万は被害に遭ってる。しかも、プログラムの勝敗を見てみるとその原因は1人だけだから。でも、あのスーパーAIを倒している相手だと考えると、このままじゃ被害総額の方が大きくなる)

 

 〈……分かった。いい案だと思ったんだけどなぁ。カモにされていたのはこちらだったか。にとり、今日を持ってそのサイト閉鎖しといて。そいつは多分天才級の実力を持ってる。〉

 

(うん。金を極限まで奪われるのなんてあの巫女だけで十分だよ。スーパーAIの方の動作はどうする?)

 

 〈停止しといて。私たちの目がない間に何をしでかすか分かったもんじゃないから。そのAI〉

 

 彼女たちが龍園たちから目を背けてそんな話をしていたからか、龍園はことねを脅しにかかった。

 

「いいのかぁ? そんなことを俺に言って? 俺にそんな口を叩かないで素直に渡すのをお勧めするぜ? お前が恥をかく前にな」

 

「へぇ……言ってみてよ。面白そうだから」

 

「お前が下着を履かずに学校に来ていると学校全体にばらしてやってもいいんだぜ?」

 

 〈ああ、そういえばもうこれに慣れてきたから忘れてたけど、下着なんて全く履いて無かったな。〉

 

(まあ、私の姿になっちゃったからね。まさか、そこまで反映されるとは思ってなかったけど)

 

 実はことねもにとりの姿に変わった最初期は下着を履いていた。だが、下着を履いていると何故か違和感を感じるのだ。何かしっくりこないという気持ち悪い気分をずっと味わっていた。だが、ある物を着ていれば違和感は消え去ったのだ。それ以降、ことねは下着の代わりにそれをずっと着用していた。

 

「クククッ、女どもから聞いた時は驚いたぜ? 制服の確認の時に下着が全く見当たらなかったという報告を受けたときはよ。あのスカートをたくし上げた動作は本当は俺たちのことを誘っていやがったのか? このビッチが」

 

「別にそんなつもりはないんだけど。というか、私は誰にも体を許すつもりなんてないし。セクハラ発言はほどほどにしてくれないかな?」

 

「変態にそんなことを言われてもな。まあ、だがこのことを学校の掲示板に流して困るのはお前だぜ? 客引きがみるみるうちに減っていくだろうな? そうなりたくないなら、今ここで賢い選択が出来るはずだぜ?」

 

 龍園は勝ち誇った顔でそう言ってくる。普通の人間ならその一言で勝敗が決まっていたであろう。この情報世界でそんな情報が流れればどうなるかは想像に難くないからだ。だが、この少女は良くも悪くも天才であり、天災なのだ。龍園は別の意味で驚くことになる。

 

「うん? 別に言えば? もう1人の私の発明がいかに優秀かはもう知れ渡ってるし、あんたがやったことはもう既に学校掲示板に映像付きで送信しといたからあんたの方が今頃変態で知れ渡ってると思うよ?」

 

 監視カメラには自動送信機能があり、龍園の発言は全て録画されていてしかも、その映像はことねかにとりが帽子に付いているボタンを押すだけで送信するのだ。つまり、龍園は脅していたつもりが恥をかく羽目になったのだ。

 

「……取り合えず光学迷彩は作れるんだな? なら、レンタルで貸してくれるならばいくらで貸して貰える?」

 

「あー、なるほど。レンタルか。なら、一回3万でいいよ。これなら、Dクラスの金を残している奴からもポイントを奪えるからね。じゃあ、あんたたち用に2日で作り上げておくよ。後日あんたたちがいつも行っているカラオケルームで渡すから」

 

 龍園は彼女への仕返しに変態だということを必ず拡散させてやる。これから坂柳にいじられてしまうことを考えると殺意が彼女に湧いたが、真正面から戦っても勝てないことが分かっているため、不完全燃焼の気持ち悪い気分のまま部屋を出ていったのだった。

 

 龍園は2回目の恥をかいた。これから彼が彼女に勝つことはあるのだろうか。頑張れ龍園。傷はまあまあ深いぞ。

 

 

 

 

 〈ハァ……面倒臭いなぁ。教師共が遂に目障りになってきてポイント集めがやりにくくなったんだよなぁ。AIの方も誰かに荒稼ぎされてるみたいだし、本当に邪魔になってきたら……消すかな。〉

 

(そうだな~。教師を買収するってのはどうだい? 賄賂じゃ意味ないだろうし、私が何か生活に役立ちそうな物でも作っておけば陥落するでしょ)

 

 〈それもそうだね。じゃあ、本当に監視以外の何かをやられたらどうにかしようか。〉

 

 にとりとことねは生徒だけではなく教師にすら魔の手に掛けるらしい。そして、彼女たちに一番に陥落するのは意外な人物であった。

 

 

 




ことねとにとりは常時スクール水着を下着の代わりに着てます。なので、プールの授業にもそのまま出てます。龍園の命令で女子が制服を調べようとした時に下着がないと報告したのはそういうことです。

ちなみににとりが作る機械は公式設定で全部防水性が完璧らしいので、スクール水着が濡れていたとしても、壊れることはないです。



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職員室~会議2~

 坂上は事後処理に追われていた。それもこれも全てことねとにとりが関わっているものである。

 

「えっと……生徒会副会長南雲から傷害罪での訴えに……剣道部での騒動……何故彼女はこうも私にダメージを与えるのが上手いんでしょうねぇ! 畜生! やってられるか!」

 

 坂上は5月1日からことねとにとりのことで対応に追われており、とても荒れていた。ある時は生徒に担任としてきちんと管理しろと言われたり、またある時は生徒会長に文句を言われ、またある時は顧問の先生に監督不足ではという指摘を毎日のようにされていた。

 

 坂上がその状況にも関わらず、肝心の川城ことねは数々の監視の目を潜り抜けて発明品を生徒と取引しているらしい。無論、監視カメラを設置していない場所もあるにはあるのだ。しかし、そういう所は警備員にも協力してもらい、監視している。だが、確かに発明品は出回っているのだ。教師たちにはその理由がまるで理解出来なかった。

 

 当然、ことねにもまずまずクレームが来てはいるのだが、ことねはクレームは処理するだけで改善は見られない。生活指導室に呼び出して注意しても反省する気は0。それどころか、ことねのサービスは大きく勢力を伸ばしているため、ことねとしては辞める理由がないのだろう。これが1人……いや、発言からして2人だけで成り立っているというのだから、ある意味驚くべき事実である。

 

「坂上先生、静かにしてください。今は会議中ですよ」

 

「ああ……すみません。つい気持ちが高ぶってしまいまして……」

 

 今は川城ことね対策会議という名目で行われている会議中であった。もはや、ことねの影響力は懸念していた通り絶大なものとなった結果、教師たちも本格的にこの件を重く見たようでこのようなことねのためだけに行われる会議が開かれた。このことが決定した時も坂上は胃を痛めた。

 

「では、坂上先生が正気を取り戻したところで会議を続けましょう。まず、川城ことねによって引き起こされた被害を確認しましょう。現在、被害に遭ったのは吹奏楽部、剣道部、ボードゲーム系の部活ということでいいのでしょうか。他にも現生徒会副会長南雲雅から傷害罪での訴えなど様々な被害が出ています」

 

「逆に彼女が何か役に立つ発明をしたことがあるのかね? 確かに世の中に出れば素晴らしい発明品だろう。そこは私も認めよう。だが、この学校にとってはいい迷惑の物ばかりです。やはり、彼女の行動を制限するべきでは? 彼女に機械を一切触らせないというのは」

 

「ですが、流石に生徒の行動の阻害は……問題になるのでは?」

 

「だったら、誰が彼女を止められるんですか!? こちらは剣道部員数名を除いた全員に怪我を負わされたんですよ! 彼女が作ったというあのポンコツロボットで! 彼らが大会に出れないという被害はどうやって取り戻す気ですか?」

 

「いえ……それはその……お気の毒ですね……」

 

 川城ことねへの対策を考える会議だったはずが、川城ことねに対する文句しか出てこない。意義が全く無いただのレベルの低い言い合いが勃発していた。このままただ時間を無駄にするのだろうか。早い所、平穏を取り戻したい坂上がそんなことを思っていると、今までの会議で一切発言してこなかった理事長が口を開いた。

 

「一回落ち着きなさい。彼女……川城ことねに対する対応策を考えるための時間ではなかったのですか? 今のままではただ時間を無駄にしているだけですよ?」

 

 理事長はただ冷静に物事を見ていた。教員たちが考え、解決できるならば自分はその意見をある程度大丈夫かを考えた後に肯定する。そういうつもりであった理事長もしょうもない言い合いにはただ呆れるしかなかったらしい。遂に自分から動き始めたのだった。

 

「ですが、理事長。彼女がこの学校に与えた被害は大きすぎます。彼女が開発したとされている物には使い方次第では殺傷性を持っているんですよ? そんな物を作る彼女を放置しておけと?」

 

「人の話はよく聞きなさい。むしろ、彼女の言い分も間違っていないと私は思いますよ。まず、殺傷能力を持っていることについてですが、それはその使用者が気を付けるべき問題ですよ? 例えるならフォークあたりでしょうか。食事に使うというのが主な用途ではありますが、人の目を刺したりすれば十分危険な物です。彼女がクレームに対してよく言っているという”どんな道具でも使い方次第”というのは何も間違っていないとは思いませんか?」

 

「そ……それでも、彼女の発明品が部活動生のモチベーションを下げているという話は理事長も知っているはずでしょう。ここ最近では吹奏楽部が被害に遭ったそうではないですか! そのあたりはどうお考えなんですか?」

 

「彼女のサービスの概要を見れば分かる話です。吹奏楽部にその機械があったということは、吹奏楽部の部員の誰かが川城ことねに開発を頼んだのではないですか? 彼女はただその客に対して実力を示しただけだということです。そして、その発明品で楽をしようとしたのは吹奏楽部の部員。ただの自業自得でしょう」

 

 その発言を見逃せなかった吹奏楽部の顧問は理事長の情に訴えるようにこう言った。

 

「で……ですが……彼女の発明品のせいで関係のない人まで被害を受けたんですよ! 真面目に練習していた人物が悲しそうな顔で私に訴えてきたんですよ! みんながやる気を無くしてしまったせいで、吹奏楽部は実質廃部。”あの大変ではあったけど、充実した生活はもう送れないんですか? ”って言ってきた生徒がいたんです。私にはそんな生徒の気持ちを踏みにじるあの彼女を到底許すことは出来ません! 理事長! 何か決定的な罰を与えるべきです!」

 

「……何故、彼女に罰を与える必要があるのですか? 確かに彼女は開発責任者として少し責任感は足りないかもしれない。ただ、彼女のその発明品は彼女の実力そのものです。彼女はその発明品という自らの実力で作り上げた物を商品として売っているに過ぎないのです。しかも、彼女曰く購入前にはきちんと購入者は説明を受けているそうではないですか。川城ことねに行っているクレームも本来ならば使用者に行くべきものなのです。この学校では実力が全てですよね? ならば、自らの実力を広めて商売を展開している彼女の方こそ褒めるべきではないでしょうか?」

 

 理事長のその言葉に周りは黙った。理事長が言っていることは全員分かってはいるのだ。だが、ことねとにとりが及ぼした被害はかなりのものだった。5月1日から1カ月半しか経っていない今ですらこの現状なのだ。教師たちにはこの状況が続けば彼女が卒業するまでにどれほどの被害が出るのか全く予想がつかなかった。つまり、彼女が作る発明品に……彼女に恐怖を感じていたのだ。

 

 人間という生き物は恐怖した時、圧倒的な力を持つまで安心できないような奴が多い種族なのだ。そのため、教員たちが望むのは川城ことねが二度と発明品を作れないようにすること。圧倒的な実力を封じ込めることであった。

 

「そ……それでもです! 彼女の技術は危険すぎる! このまま3年間野放しにしておけばこの学校が残っているかも怪しいですよ、理事長! どうか考え直してください。ここで彼女に言い聞かせなければ大変なことになります」

 

 剣道部の顧問は必死に理事長を説得する。だが、理事長はこの顧問の下心を見破っていた。この学校で最も重要な要素であるSシステム。これはクラス担当教師だけではなく、部活動の顧問にも適用される。大会の成績によって教員にもボーナスが入るのだ。

 

 この剣道部の顧問は生徒のことなど全く思っていない。自分の利益を奪われたことに腹を立てているだけに過ぎないのだと。簡単に見破っていた理事長は当然断った。

 

「教員からの過度な接触は駄目ですよ。この学校は生徒の実力を高めるために設立されました。生徒が自分で考え、自分から動き、自分から学ぶ。彼女はこれらのことが全て出来ています。無論、この学校内だけではなく、外部に影響を及ぼすような物を作った場合は私とて許すわけにはいきません。その場合は処罰することは約束しましょう。ですが、これまでの件は全て彼女以外にも問題があります。よって、川城ことねだけが悪いという決めつけは止めましょう。そうしなければ、いつまで会議した所で無駄ですから。認識を改めてください。私からは以上です」

 

 理事長はある程度言いたいことを言い終えたためか、コーヒーを口に含んでいた。剣道部の顧問と吹奏楽部の顧問は悔しそうな顔で理事長を見ていた。

 

 その様子を見ていた坂上はとても申し訳ない気持ちになった。剣道部の顧問は教師の間でも銭ゲバとして有名ではあるが、吹奏楽部の顧問は普段は優しい人なのだ。そんな人が本当に恨めしく思っている生徒が自分のクラスの人間だということに罪悪感が湧いてくる。坂上はさらに胃を痛めた。

 

 

 

 その後の会議で出た対策方法はかなりの良案であった。川城ことねが開発して生徒に売り出した機械をまずは学校側が全部回収する。そして、川城ことねには危険な発明品はこの学校では二度と作らせないように坂上が川城ことねと契約を結ぶ。学校側はその契約を結ぶメリットとして、学校の設備強化をすればポイントを支払うという契約を結ぶ。彼女が発明品を売っているのはポイントを稼ぐためだという。ならば、アルバイトのようにこちらがポイントを保証して、作る物も管理すればいいのではないかという考えだ。

 

 この学校にはアルバイトはなく、前代未聞の事例であるが川城ことねにこれ以上学校に被害を及ぼされるよりかは遥かにマシだろうと考えた結果である。理事長もこの案には許可を出したことで7月からこの作戦は実行されるはずであった。だが、その思惑は思わぬ方向から先延ばしにされることとなった。

 

 

そう! 須藤暴力事件が起こったのだった。

 

 いきなり出鼻を挫かれた教員たちは坂上を睨んでいた。彼が担当しているCクラスとDクラスで問題が起こったのだ。川城ことねの件で今まで散々迷惑をかけてきた坂上が睨まれるのも仕方ないともいえる。坂上にとって唯一救いであったのはまだ話が通じる方の問題児である龍園が引き起こした事件だったというところだろうか。だが、坂上にとっては所詮気休め程度の情報であった。職員室での立場が無くなってきた坂上が酒に溺れるのはそう遠くない未来である。

 

 

 



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7月1日~密会~

 7月1日

 

 須藤暴力事件が起こったことが説明される日。生徒たちが目撃したのは二日酔いで大分辛そうにしている坂上の姿だった。Bクラス担任の星之宮はよく二日酔いの状態で朝のホームルームを行っているというが、まさか自分たちの担任がそうなるとはCクラス全員が思っていなかっただろう。

 

「……朝のホームルームを始めたいと思う。……体調が悪いため説明は手短に行わせてもらう。……Cクラスの生徒とDクラスの生徒の間でトラブルがあったため、ポイントの支払いが遅れている。事件の解決に繋がる証言を学校側は求めている。あるものは手を挙げたまえ」

 

 坂上は辛そうにしながらもそう言うが、手を挙げる者は誰一人としていない。それはそうだろう。この事件は龍園翔が仕組んだ物だ。よって、Cクラスから証言が出ることなどありえないのだ。……強いて言うなら我らが河童は何かやらかせたのかもしれないが……彼女はこの事件に微塵も興味を抱いていなかった。むしろ、彼女にとって大切なことは来月に予定されているバカンスのことであった。

 

〈にとり、どうかな? 昨日夜な夜なアレを作っていたみたいだけど……バカンスまでに完成しそう?〉

 

(う~ん。流石に変形が多すぎるよ、盟友。せめて、4つぐらいにしないとメカの変形に限界があるからね……。にしても盟友が人助けのための道具を作ってみないかと言った時は心底驚いたよ。自分のことしか考えない盟友にそんなことを言われるとは思ってもみなかったからさ)

 

〈何言ってるの、にとり? 確かにコンセプトは人助けのためのメカだよ。でも、結局はロマンを求めているからだよ。私自身がそれを動かしてみたいと感じたから作ってってお願いしたんだから。まあ、ただロマンの為だけに作ってもらっている訳じゃないから安心して。ちゃんと金とか権力を手に入れる為でもあるし。〉

 

(て言っても、これはそれなりにでかいし、整備も多少必要だよ? こんな物をこの学校の生徒の誰が欲しがるのさ?)

 

〈にとり、確かにこの学校の生徒は欲しがらないと私も思うよ。だって、こんな物持っていても普段の学校生活では役に立たないんだから。でもさあ、この学校の偉い人ならどうかな? もしも、災害がこの学校で起きたとしても迅速に収束できるとなれば、学校を預かっている責任者からすれば大分欲しい代物だとは思わないかな?〉

 

(まあ、火事とかは大事になるからね。一回私たちの発明が原因で妖怪の山で山火事を起こしてしまった時は焦ったもんだよ。しばらく天狗からも酷い扱いを受けて大変だったな~。まあ、だからこそこの発明品にはかなり自信があるよ。でも流石にあれの完全再現は難しいかな)

 

〈まあ、あれは完全再現出来る方がおかしいからね……。でも、何個かは再現できたんでしょ? どれまでは再現できたのか教えてよ。〉

 

(えっと……ノーマルモード・ホイールモード・ジェットモードは標準装備で、あとは各自別途別の能力ということにするしかないかな。どうしても4変形が限界だよ。それに、炎と氷の両立なんて科学では出来ないしね……。魔法ならそういうのも可能なのかもしれないけど……魔法とかの類は苦手なんだよね)

 

〈……じゃあ、データも欲しいし、何台か作っちゃわない? それに自分としても、やっぱりいっぱい見てみたいし。〉

 

(今から1ヶ月後だと考えると作れるのは4台までかな。取り合えずチェーンソーモードの機体は完成させるから、盟友はどの能力にするかを考えておいて。今作っているの自体はあと2日ぐらいで完成すると思うから)

 

〈了解。バカンス時の持参の仕方は*1ポイポイカプセルでいいよね?〉

 

(うん、それで構わないよ。本当に自分で作っておいて正解だと思った発明だったよ。ただ、強いていうなら盟友がもうちょっと早く思いついてくれれば、機械の開発の効率も上がったんだと思うんだけどな……)

 

〈仕方ないでしょ。むしろ、自分でもよく思いだしたなと感心したレベルだよ。でも、これでかなりやりやすくなったとは思わない? カプセル自体は小さいから持ち運びは楽だし、重量制限も100トンまでで実質無いに等しいし。……これ、引っ越し屋が要らなくなるね。まあ、私たちだけが使えばいいし大丈夫でしょ〉

 

 現在にとりが開発した機械が量産されるようなことがあれば、介護士と引っ越し業者の仕事は完全に消え去るだろう。AIによって今の仕事は無くなっていくとはよく言われているが、たった1人の人間……いや、一匹の妖怪の発明だけで日本の高齢者社会の弊害である介護を完全になくすことが出来るのだ。

 

 政府がことねを攫おうという判断を下したのはある意味間違ってはいなかったのかもしれない。だが、河童の技術に人間が追い付くまでにはあと数十年はかかるだろう。そこで日本政府はまた別に誘拐作戦を仕組んでいた。だが、ことねとにとりは束縛を嫌うため、政府の願望が叶えられることは長い間ないのであった。……むしろ、その焦りがことねとにとりの逆鱗に触れてしまうことを日本政府はまだ知らない。

 

「いないのか……。ならそれでもいい。どちらにしろ、判決は来週に決まるからね。では、先生は気分が悪いから……質問は明日受け付けます。気になることがあるならば明日に纏めて聞きに来てください……」

 

 坂上はそう言うと教室から出ていった。生徒たちは坂上が何故そんなことになっているか疑問に思った。だが、彼女と龍園にとってはどうでもいいようで、朝のホームルーム終了後龍園は坂上の所に行き、ことねは自分の机の上に機械を乗せて弄り始めた。結局どちらも方向性が違うだけで問題児である。

 

〈今回の騒動は別にどうでもいいよね。何か龍園が仕掛けたっぽいけど別に私には関係がない話だし。〉

 

(うん。自分に利益がない面倒事には首を突っ込まないのが吉さ。特に今回の件は一応仲間である人間がやったことだしね)

 

〈じゃあ、邪魔はしない方向で。〉

 

 ことねとにとりは今回の事件に介入しても利益を得ることはないだろうと考え、龍園の邪魔をする気は無いようだ。一応彼女にもクラス内でのメンツという物は存在する。問答無用で退学させられる試験などで自分がその被害に遭わないようにするべきだと考えて最低限の迷惑はかけないようにしているからだ。

 

 よって、彼女がこの事件に介入することは無い……はずだった。だが、彼女はちょっとだけこの事件に介入することになる。

 

 

 

 

 ****

 

「先生……あの少女に復讐したくはありませんか?」

 

「確かにあの少女には何か罰が必要だとは考えてはいますが……理事長がああ言った以上どうしようもないでしょう……」

 

 とある場所にて……剣道部の顧問と吹奏楽部の顧問は密会をしていた。2人にはある共通点があった。それはにとりが作った発明品によって自分が担当している部活を滅茶苦茶にされたことと、川城ことねに罰を与えてくれと理事長に頼んだという点である。2人は理事長が下した判断に納得がいっていなかった。そのため、自分たちの手で復讐するために計画を企てていた。

 

「私は男ですから不可能ですが、先生は女ですよね? なら、あの川城ことねの部屋に入ることも可能なのではないですか? 彼女のサービスを鑑みるに機械を奪われればかなりの損害を彼女に与えることが出来るはずです。ですが、先生がその機械まで処理していれば疑われるのは間違いありません。ですから、作戦としては先生が川城ことねの機械を家から盗み出す。この時盗み出すのは完成している物がいいと思います。それも小型な物を。売り物の機械が無くなったとすれば彼女としても、困るでしょうから」

 

「ですが……先生。これは立派な犯罪ですよ? 復讐はしたいですが……流石にそれは」

 

「安心してください。この件は政府が認めてくれています。ですから、この行為はバレても政府の手によって揉み消されるので、川城ことねが学校側に訴えた所で問題にはなりませんから。それに……その成果次第ではお金も貰えますよ? 復讐は出来てついでにお金も貰える。……いいこと尽くしではないですか!」

 

 そう、この銭ゲバ教師……実はすでに政府から買収されていた。川城ことねがこの学校に入学したという情報が入った時、政府は川城ことねの技術力を盗む……または、川城ことねの身柄を確保する。このどちらかの目標を達成するために準備を進めていた。

 

 その準備の一環がこの教師買収である。当然、この学校は政府が運営しているだけあってその教師がどのような人物かを政府側は理解していた。よって、この銭ゲバ教師が一番買収しやすいということでスパイとして採用されるのは確定されていた。

 

「……背に腹は代えられません。あの少女には報復を味わってもらわなければ……いつまで経っても他人の気持ちという物を理解出来ない不良品として社会に出ていってしまうことになります。そう……これは私から彼女に与える教育……。犯罪行為なんかでは……ない!」

 

「覚悟は決まったようですね。なら、手筈通りにお願いしますよ?」

 

「そちらも、きちんと話はつけておいてくださいね?」

 

 ただ、彼らはことねとにとりのことを見くびり過ぎていた。はっきりと言ってしまおう。彼らの計画はこの時点で失敗している。ことねとにとりとしても偶々ではあったが、だがその偶々こそが運命の分かれ目であった。政府はこの2人が立てた計画が原因で自滅することになる。ことねという極度のエゴイストに脅しのきっかけを与えてしまったのだから。

 

 

*1
ドラゴンボールに出ていたポイポイカプセルそのまんま。原作でも家ごとカプセルに入れていたりしたので、引っ越し屋が本当に要らなくなる発明。他にも様々な重いものを入れることが出来るため、使い方次第ではレッカー車などがいらなくなる可能性もある。普段ことねは壊れた機械を持っていく時や、発明品の取引に向かう時にその商品を隠すためにも利用している。



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部屋~盗み~

『ご報告があります。マスターに対する敵性反応あり。こちらの映像をご覧ください』

 

「うん? *1バッドカンパニーじゃないか。お仕事ご苦労様。それでその映像ってのは?」

 

『こちらのUSBに移しておきました。マスターの敵が密会をしていたようです。始末するならば我々にお任せを』

 

「いや、映像を見てからそれは決めるよ。取り合えず追加の物資は補充しておいたから持っていくといいよ」

 

『はっ! ありがたき幸せ。では、物資を補充次第任務に戻ります』

 

「本当に働き者だな~。頑張っておいで。あと、君の数人の部下がメンテナンスをサボっているみたいだ。隊長の君から言い聞かせておいてくれ」

 

『なんと! それは本当ですか! マスターをいつでも守れるようコンディションは常に良好を保てと言っていたのに……分かりました。殺してでも連れていきます』

 

「殺してしまったら点検の意味がないだろう? とにかく、頼んだよ」

 

 にとりは早速パソコンに電源をつける。このパソコンは元々不燃ごみのところにあったものだが、にとりはすぐに直して使えるようにしたのだった。幻想入りしていないようなパソコンだったため、その時のにとりのテンションは爆上げだったという。

 

 USBを差し込んで開いた映像には教師たちの密会の映像があった。そう、あの教師たちは誰もいないと思い込んでいたようだが、それは違う。その部屋にはバッドカンパニーのうちの一名がいたのだ。だが、にとりとしてもそれはかなりラッキーな出来事であった。このバッドカンパニー、まだそこまで人員がいないのだ。現在作られて活動しているのは10人。ヘリなどの乗り物もなしである。一応自動で作ってもらえるような機械を作ろうとも考えたのだが、それはことねに却下された。

 

 〈にとり、にとりの商品はオンリーワンだからこそ価値があるの。にとりが作る機械を作れる全自動ロボットなんてあったら、それを盗まれた時点で価値は暴落するよ。金稼ぎをしたいならチマチマとそれでいて大胆にだよ。〉

 

 商売に関してはことねにかなり任せ気味のため、あまり反論できないにとりは特に何も言えなかった。まあ、そういうわけで現在のバッドカンパニーは総勢10名の少数精鋭部隊なわけだ。にとりとしては愛着が湧いているため、どうにかして仲間を増やすか乗り物をプレゼントしたいところなのだが……この2カ月程度で注文が殺到していて時間が取れないのが現状である。

 

 そして、にとりは今日特に対策する気は特になかった。明日盟友に相談してみようとしか思っていなかったからだ。にとりは午後4時に睡眠を取り始めた。この体は妖怪の身ではなく人間の身なのだ。当然一日でも多少は寝なければ今後の活動に支障がでるため、ことねがにとりに言い聞かせたルールである。必ず三時間は寝るようにすること。それがルールであった。

 

 最初はお互いに慣れなかったが、もう既に順応したルール。2人の仲が良好な証拠である。

 

 

 

 

 次の日の朝……

 

 〈ふ~ん、教師たちが共謀ね……。敢えて盗ませましょうか。にとり、ここにある撃退用のセキュリティは全て電源を落として。電源をつけたままなのは監視カメラだけでいいよ。あとはバッドカンパニーをこの部屋で一日中待機させておいて。証拠映像を掴み次第政府を脅すわ。そのホワイトルームだとかいう物に関しても私たちの平穏のために聞き出さないとね。真なる恐怖は未知にあるんだよ、にとり。〉

 

(盟友……自分から面倒事に突っ込んでいくのかい? 君の考えとは矛盾している気がするんだけど……)

 

 〈何言っているの、にとり? 私が恐れていたのは敵がどんな奴かが掴めなかったから。敵が本当に政府ならそれでよし! 他に敵がいるようならそいつらを滅ぼして完全勝利だよ! 結局は私たちを攫おうとしたホワイトルームとかいう所の責任者を排除出来る可能性が出てきたというわけだよ。誘拐というのは下手したら殺害よりも嫌なことを味わうことになるから、そういう危険はこっちから仕掛けることになっても排除しておくべきなのさ。〉

 

(まあ、私としても試し打ちしたいものがいっぱいあるから的は多ければ多い方が良いよね。威力検査も必要だし)

 

 〈そういうこと。科学の発展に犠牲は付き物って言うし、いいんじゃないかな? そういうわけだから、一旦思い上がらせておこうか。あの教師2人を。まあ、彼らがやってくれた方が脅しに使えるし、彼らの人生が破滅することになろうが私たちの知った事じゃないからね。〉

 

(でもいいのかい? お客様に悪い印象を与えることになるかもしれないけど)

 

 〈いいの、いいの。政府を脅せれば今までとは違って巨大ロボットも表立って作れるようになるかもしれないよ? だって、ここは政府が運営しているんだから。その実験のための環境ぐらい用意してくれるでしょ。ある意味、にとりへのプレゼントにもなるかもね。〉

 

(なるほど~まあ、私には機械とキュウリがあればそれでいいし。匙加減は盟友に任せるよ)

 

 〈ほいほい、任せなさい。必ず私たちを敵に回すような真似をした奴らには後悔させてあげるわ。〉

 

 ことねとにとりは政府に疑心を抱いていた。機械なら別に金を払えば売ってあげるのに……何故自分たちを誘拐しようとするのか。金の削減のために誘拐というくだらない手段を取ろうとしていると分かってことねは少し怒っていた。お前たちの発明は金を払うほどの物ではないと馬鹿にされているように感じたからだ。

 

 現在、この学校が設立されたときから見比べても学校に波乱を最も及ぼしたのは私たちだろうという自覚というか自信はあったため、それなりに傷ついたのだった。今回の件はことねにとって、その腹いせのつもりのようだ。この軽い気持ちで政府も脅される羽目になるのだから、まさに天災である。

 

 

 ことねとにとりは朝の支度をして教室に向かった。これからDクラスによる目撃者探しが始まるのだが、彼女たちにとってはどうでもいい話である。彼女たちは彼女たちの時間を過ごすだけ。ただ、それだけなのだから。

 

 

 

 

 

 ****

「……想像以上に綺麗ですね。もう少し汚いと思ったのですが……にしても改造しすぎでは? ここってあくまでも借り物ですよね? なんで床が鉄板に置き換えられているんですかね。この件は理事長に報告するべき……いや、それだと私が何故知っているのかという話になりますし……やめておきましょうか」

 

 ことねによってきちんと部屋の中は整理されていた。現在、学校では授業中。この部屋や周りには誰もいない。吹奏楽部の顧問が周りを見渡すと機械が整頓されている箱を見つけた。3種類ほどあり、依頼の物・開発途中・私物で分けられていた。

 

 いきなり探す手間が省けたと思い、彼女は持ってきた袋の中に依頼の物と開発途中の物から複数個見繕って持って行った。警戒ぐらいするべきであったのにだ。

 

 確かに入り口は何かトラップがないか念入りに調べたのだが、流石に生活空間にはないと思ってしまったのだろう。自分が怪我をしないようにはしているだろうと彼女は考えていたのだ。だが、その考えは甘い。

 

 本来ならば、赤外線によって発動するトラップが大量にあるのだ。ことねとにとりが如何に天災かということに気付いていなかったのが、彼女の敗因だった。

 

 この瞬間から、彼女の人生の終わりが着々と近づいていたのだった。

 

 

*1
おなじみジョジョのスタンド。ただ、姿が同じなだけでスタンドではない。その正体はにとりによって作られた小型ロボットである。原作と同じ攻撃力に加えて光学迷彩と高性能AIを装備に加えた連携も出来るヤバい小型軍隊となっている。主な仕事はにとりとことねの警護。その目的を達成するためにはいかなる犠牲も辞さないヤバい奴ら。ことねとしても流石にやり過ぎだと思っていたが、勝手に核爆弾を撃とうとしたあのAIよりかは遥かにマシなため、放置することにしたらしい。欠点は移動にとても時間がかかること。しかし、その問題点が解決するのにそう時間はかからないだろう。



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