アズールレーンT (BREAKERZ)
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第一章 集いし者達
【序章】勇者達の消失


ウルトラマンタイガ×アズールレーン(アニメ)。始まります。


遠い遠い宇宙の果てにある『M78星雲世界』の宇宙で、『平行世界』からやって来た『7人の光の戦士』が、青い仮面の巨人、『ウルトラマントレギア』と激闘を繰り広げていた。

 

【『シュワ!』】

 

【『シャァ!』】

 

『炎城烈人』と『炎城來人』。『炎城兄弟』が変身する『兄弟ウルトラマン』。『ウルトラマンロッソ・フレイム』と『ウルトラマンブル・アクア』。

トレギアと因縁がある兄弟ウルトラマンが同時に必殺光線である、『フレイムスフィアシュート』と『アクアストリューム』を放つが、トレギアは難なくそれを避ける。

 

【『オオ、シュゥワッ!』】

 

『ツルギ・ガイト』が変身する『ウルトラマンオーブ・オーブオリジン』が、『オリジウム光線』を放つも、トレギアは急旋回でそれを避けてしまう。

 

【『オオォォ・・・・ジュァア!!』】

 

【『イィィィサァァァッ!!』】

 

避けた場所を狙って、炎城兄弟と共にトレギアと戦った『暁月理巧』が変身する『ウルトラマンジード・プリミティブ』。

『五河士道』が変身し、一体となって共に戦っている『ウルトラマンエックス』。

二人が放つ『レッキングバースト』と『ザナディウム光線』を、トレギアはバリアを展開して2つの光線を受け止め、反撃に電撃にも似た光線『トレラアルティカイザー』を放ち、ジードとエックスは咄嗟に避ける。

 

【『ショォォォラァッ!』】

 

【『トォリャァァッ!!』】

 

【『ぐはぁっ!?』』】

 

7人のリーダーとも言える『希堂 輝』が変身する『ウルトラマンギンガ』と、相棒の『ビクトリアン・ジーク』が変身する『ウルトラマンビクトリー』は隙を突いて、光のエネルギーを込めた拳をトレギアに同時に叩き込むと、トレギアは小惑星に叩きつけられる。

 

【『観念しろトレギア。『終わりの魔獣』も全部俺達が倒した。お前の野望もここまでだ!』】

 

ギンガ<輝>は起き上がるトレギアに向けてそう言い放ち、小惑星に集った7人の若いウルトラ戦士達、彼らの名は、『ウルトラニュージェネレーションヒーローズ』。

それぞれ違う宇宙を守る若き戦士達だが、トレギアが利用していた“暗黒の戦士”と戦うために次元を超えてこの宇宙に集結しその“暗黒の戦士”を倒し、『光の国』に迫ってきたトレギアを阻むために集ったのだ。

 

【『フフフ、ソイツはどうかな?」』】

 

しかしトレギアは、余裕綽々で嘲笑うかのように態度で返してくる。

 

【『「若きウルトラマン達よ。では、ごゆっくり』】

 

【『待てトレギア!!』】

 

『ニュージェネレーションヒーローズ』は黒い霧となるように消えるトレギアを止めようとするが、足元で点滅する何かに気づいた。

時限式の爆弾だ。

 

【『しまった!罠だ!!』】

 

爆弾が仕掛けられていた事に気づいた時には既に遅く、『ニュージェネレーションヒーローズ』は爆弾の爆発に呑まれ、その場に倒れ込んでしまう。

 

 

ートレギアsideー

 

【『フフフフフフ』】

 

爆発の届かない安全圏で眺めて含み笑いをするトレギア。

そんな彼の元に1人のウルトラマンが現れた。

 

【『トレギア・・・・』】

 

【『っ! タロウ!!』】

 

2本の角が特徴的な赤い戦士、「ウルトラマンNO.6 ウルトラマンタロウ』だ。

 

【『闇に落ちた者を、光の国に近づけるわけにはいかない!』】

 

【『フン! 宇宙の番人を気取るか。光が正義だと誰が決めた!!』】

 

今まで余裕綽々の慇懃無礼な態度をとっていたトレギアが、初めて感情的となって声を荒げ、タロウへと挑みかかっていく。

 

 

ーニュージェネレーションヒーローズsideー

 

【『皆、まだ行けるか・・・・?』】

 

【『当たり、前だ・・・・!』】

 

【『士道、大丈夫か?』】

 

【『(ああ、やれるぞ、エックス・・・・!)』】

 

【『しっかし、思ってた以上に、狡猾なヤツだぜ・・・・!』】

 

【『加えて、こっちは『暗黒の戦士』との戦闘で消耗して、本来の力の半分しか引き出せない状態ですからね・・・・!』】

 

【『でも、やるっきゃない。だろ來人?』】

 

【『あぁ、やるっきゃないな烈人・・・・!』】

 

倒れているニュージェネレーションヒーローズは立ち上がろうとすると、彼らの元に、『3人の戦士』が遅れて駆けつけてきた。

 

【『先輩達! トレギアは俺達が止めます!』】

 

【『油断するなよタイガ。トレギアは手強いぞ・・・・!』】

 

【『任せてください!最高のチームワークを披露するチャンスだ!』】

 

【『うむ!』】

 

【『ああ!』】

 

自分達のチームワークに自信があると言うこの若きウルトラマンは、『ウルトラマンタイガ』。

ウルトラマンタロウの息子であり、宇宙警備隊の隊員として数多の平行宇宙の任務で戦いと経験を積み重ねて来た。

そして『ウルトラマンジョーニアス』と呼ばれる平行世界のウルトラマンと同じ、『Uー40』のウルトラマンである『ウルトラマンタイタス』。

オーブ、ロッソ、ブルと同じように『O-50』のウルトラマンである『ウルトラマンフーマ』。

彼ら三人は、『トライスクワット』というチームを結成した若きウルトラ戦士達だ。

 

【『だったら、これを持って行け!』】

 

ギンガ<輝>がそう言うと、ニュージェネレーションヒーローズは、それぞれの『光』を『トライスクワット』に託した。

 

【『タイガ。お前さんに俺の光を!』】

 

【『俺の火を君に授ける!』】

 

【『俺の水も使ってくれ!』】

 

オーブ<ガイト>とロッソ<烈人>とブル<來人>。『Oー50』のウルトラマン達から光を託されたのは、熱い情熱と可能性を秘めた『M78星雲』のウルトラマン、ウルトラマンタイガ。

 

【『光の勇者!タイガ!』】

 

エックス<士道>とジード<理巧>から『光』を託されたのはーーーー。

 

【『士道。理巧』】

 

【『(ああ。タイタス、貴方に俺とエックスの雷を!)』】

 

【『僕の力、貴方の叡智で生かしてくださいよ!』】

 

三人の中で年長者である、冷静な知識と力を兼ね備えた『U-40』のウルトラマン、ウルトラマンタイタス。

 

【『力の賢者! タイタス!』】

 

そしてギンガ<輝>とビクトリー<ジーク>。未来と地底のウルトラマンから『光』を託されたのはーーーー。

 

【『フーマ。お前に俺の七星を!』】

 

【『俺の刃、使いこなして見せろ!』】

 

匠な技と速度を兼ね備えた『O-50』のウルトラマン、ウルトラマンフーマだ。

 

【『風の覇者! フーマ!』】

 

三人が自分達の『光』を受け取った事を見て、ギンガ<輝>が頷く。

 

【『それがきっと、お前達の力になってくれるはずだ』】

 

【『『『はいっ!』』』】

 

タイガ達トライスクワットは、トレギアと戦うタロウの元へと向かって飛ぶ。

 

【『タァァっ!!』】

 

【『ハァァッ!!』】

 

タロウの『ストリウム光線』とトレギアの『トレラアルティカイザー』、必殺光線をぶつけ合うタロウとトレギア。

一旦距離を取ろうとしたタロウの一瞬の隙を狙われ、放たれたトレギアの光線を、タロウは咄嗟に腕を交差させてガードしようとすると、トライスクワットの3人がそれを防いだ。

 

【『見ててください父さん! トレギアは俺達が止めます!』】

 

【『『『俺達(私達)は、『トライスクワット』だ!!』』』】

 

【『よせ!お前達が敵う相手ではない!』】

 

タロウの制止の声を聞かず、トレギアへと向かっていくトライスクワット。

最初に仕掛けたは、トライスクワットの切り込み隊長・ウルトラマンフーマだ。

 

【『光の速さでテメェをぶっ倒す!』】

 

高速の攻撃でトレギアを斬りつけるフーマ。

そこにウルトラマンタイタスが追撃を仕掛ける。

 

【『賢者の拳を受けてみよ!』】

 

タイタスの鍛え抜かれた肉体から繰り出す強烈なパンチに、トレギアを怯まされていると、タイガが両腕にエネルギーを集束させーーーー。

 

【『ストリウム、ブラスターーーー!!』】

 

ウルトラマンタイガは必殺光線、『ストリウムブラスター』がトレギア直撃し、爆炎が周囲に舞う。

 

【『『『フンッ!!』』』】

 

トライスクワットは倒したと思ったが、トレギアは何事もなかったかのように、悠然と出てきた。

 

【『フハハハハハハハ!! フンッ!!!』】

 

トレギアは高笑いを上げると、タイタスに向けて『トレラアルティカイザー』を放った。

 

【『グァアアアアアアアアアアアッ!!』】

 

【『タイタスゥゥゥゥゥゥッ!!』】

 

トレギアの『トレラアルティカイザー』が直撃したタイタスは黄色い光の粒子へと分解されて消滅してしまう。

 

【『ウワアアアアアアアアアアアッ!!』】

 

【『フーマァァァァァァァッ!!』】

 

続けてフーマも光線を受けてしまい、青い光の粒子となって消滅してしまった。

 

【『よくも、俺の仲間を・・・・絶対に許さねぇぇぇぇっ!!』】

 

怒りに身を任せたタイガはトレギアへと向かっていく。

 

【『若いねぇ~』】

 

しかしトレギアはあっさりとタイガの首を掴んだ。

 

【『ぐぁっ・・・・! はな、せ・・・・!』】

 

トレギアはタイガにも『トレラアルティカイザー』を浴びせた。

 

【『アァアアアアアアアアアアアアッ!!』】

 

【『タイガァァァァァ!!』】

 

タイガの父であるタロウは、息子が目の前で赤い光の粒子となって殺されてしまった事を嘆きの叫びを上げる。

 

【『うぉぉぉぉぉぉ・・・・!!』】

 

息子の仇を伐つために、全身を虹色に輝かせながら炎を纏うタロウ。

 

【『ハァァァァァァ・・・・!!』】

 

対するトレギアも青い炎を身に纏いーーーー。

 

【『『ハァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!!』』】

 

赤と青の炎が、宇宙の果てでぶつかり合い、目映い光を生み出した。

 

【『タロウーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!』】

 

ギンガ<輝>の叫びが、タロウとトレギアが生み出した光の中で響いたーーーーーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから幾つの時が流れたのかーーーーーーーーとある惑星で。

 

 

 

ー???sideー

 

「っ・・・・随分と、現実味のある夢を見たな・・・・」

 

その若者は微かに揺れる船の中の船室に設られたベッドから起き上がると、眠気眼を擦りながら、船室に備えられた洗面台で顔を洗い、タオルで拭くと壁に掛けていた黒い軍服を着て船室から出ると、眩しい太陽の光に若干目を細める。

 

「・・・・・・・・」

 

若者は船の船頭につくと、青い空と白い雲、煌めくような海を眺め、船が行き先であろう島が見えてきた。

 

「見えてきた。あれが、『アズールレーン母港』か」

 

若者がそう呟くと、船員がやって来て若者に敬礼すると、間もなく到着する事を告げた。

若者は了解を示すように頷き船員を下がらせると、黄昏た気分で眼前の島を見据える。

 

「・・・・不思議だなぁ。前にも『誰か』とこんな風に、母港に向かった感じがする・・・・」

 

『記憶を失った若者』は、ただ静かに呟いた。

ふと、先ほどの夢の事を思い返していた。

 

「・・・・それにしても、あの若い三人の戦士達は、どうなったのかな?」

 

≪以外と近くにいたりしてな?≫

 

「???」

 

若者は突然聞こえた声に周囲を見渡すが、誰もいないことに首を傾げる。

そして若者、『カイン・オーシャン特務中佐』は、上陸の準備を始めようと、船室へと向かった。

 

 

 

 

ー???sideー

 

ーーーー戦い。・・・・そう、戦いは、いつの世も変わることは無い。

『大航海時代』。冒険心を胸に、大海原へと乗り出した人類は、やがて海の覇権を競い、あい争うようになった。

たが、『真の敵』は、『世界の外側』より訪れるーーーー。

『セイレーン』ーーーー。人類をはるかに越える技術を持ったこの敵は、瞬く間に世界中の制海権を奪い、海に人類の居場所は無くなったーーーー。

この未曾有の危機に人類は、陣営を越えた大連合。

その名を『アズールレーン』を結成した。

『セイレーン』の脅威に対し、果敢に立ち向かった。

その創立に深く関わったのが、『四大陣営』。

『ユニオン』。『ロイヤル』。『鉄血』。そして『重桜』。

死闘の末、ついに『アズールレーン』は、『セイレーン』の大攻勢を退けたのだ。

 

そして、時は流れーーーー。

 

『ユニオン本国近海』。

大海原を飛ぶ戦闘機を眺める、輝く銀色の長髪に黒い軍服の格好に白い軍帽を被った少女の後ろに近付くのはーーーー。

紫がかったピンクを基調としたナース服を着て、青い瞳に紫がかった長い銀髪がフワッと広がった髪型の、十字のペンダントを首から垂らしたナース服の少女、『ユニオン所属の工作艦 ヴェスタル』が話しかける。

 

「いよいよ、出発ですね? 大きな戦いになるかも・・・・それこそ、今まで経験したことの無いような・・・・気をつけてね」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

言い様の無い奇妙な不安感をヴェスタルが発すると、背を向けていた少女、『ユニオン所属の空母』、『ヨークタウン級二番艦 エンタープライズ』はヴェスタルに顔を向けず左腕を出すと、その腕にハクトウワシが止まった。

 

「(我々が、歴史より学ぶのはただ1つ・・・・。戦いは、いつの世も、『変わることの無い』・・・・)」

 

しかし、この時エンタープライズも、イヤ、艦船<KAN-SEN>と呼ばれる少女達の誰も知らなかった。

この戦いで、遥か彼方の宇宙からやって来た『勇者』と『賢者』と『覇者』と共に戦う『指揮官』と出会い、この星の命運を賭けた激戦が待ち受けていることに・・・・。

 

 




次回、アズールレーン(アニメ)のストーリーと絡みます。


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【到着】新たな出会い

ーカインsideー

 

「んーーーー!! やっと着いたかぁ・・・・!」

 

カイン・オーシャン特務中佐が新たに新設された、ユニオンとロイヤルの艦船<KAN-SEN>で構成された『アズールレーン母港』の港に船が接岸して船から下りると、風が運ぶ潮の香りを吸い込みながら身体を伸ばした。

 

「カイン・オーシャン特務中佐。我々はこれから補給を受けた後、ロイヤルへと帰還します」

 

「はい。ご苦労様でした。お世話になりました」

 

船の船長が代表してカインに敬礼し、カインは自分を送ってくれた船長に返礼し、船長が船に戻るのを見送ったカインは、荷物が入ったボストンバッグを担ぎ直した。

 

「さて、『ウェールズ』が来るまで少し暇だし・・・・。ちょっと母港を散歩してみるかな。・・・・それにしても流石は南の島だ。眩しいし、暑いなぁ・・・・」

 

そう呟いて、カインは懐から日差し避けのサングラスを掛けて、母港へと歩を進めた。ユニオンとロイヤルの艦船<KAN-SEN>達が笑いあっているのを見て笑みを浮かべる。

しかし、これから自分は『指揮官』として、この娘達を指揮し勝利へと導き、無事に帰還させるという責務がある事を自覚した。

 

「(“記憶がない僕”が、彼女達の指揮官として相応しいのだろうか・・・・?)」

 

そう。『カイン・オーシャン』と言う若者には“過去の記憶が無い”。

半年ほど前。自分はロイヤルの基地にて目を覚まし、それまでの過去の記憶がまったく無く。途方にくれていたが、試しに指揮官として演習をしてみれば、まるで昔からやっていたかのように的確な指示を出し、その演習で『女王陛下』が率いる艦隊を敗北させてしまった。

そしてその指揮能力を『女王陛下』に見込まれ、さらに他に適任がいなかった事もあり、新設させた母港の指揮官を任命された。ロイヤル艦隊の『女王陛下』の推薦もあっただろうが。

 

≪くよくよしたってしょうがないぜトモ・・・・カイン。とりあえずやってみようぜ!≫

 

「(っ!? まただ。一体誰なんだ・・・・)」

 

頭に響いた声にカインは怪訝そうに周囲を見渡すが、誰もいなかった。

すると、ポスンッと、自分の腰に誰かがぶつかったような軽い衝撃がして、見下ろすとそこにはーーーー。

 

「お・・・・お兄、ちゃん・・・・っ!」

 

藤色の長い髪と竜胆色の眼をし、左側をシュシュで結ってサイドテールにして、アホ毛が前に跳ねている。服装は白いワンピースに白いニーソックス、白いロンググローブを着ており、清純と清楚さを魅せる少女だった。

 

「『ユニコーン』? 『ユニコーン』だな!」

 

「うん。ユニコーンだよ、お兄ちゃん・・・・!」

 

少女の名前は『ユニコーン』。『ロイヤル所属 軽空母』である。本人は『支援空母』と言っているが。

カインが演習で指揮した艦船<KAN-SEN>の1人で、演習後にカインの事を、【お兄ちゃんって・・・・呼んでも、良い?】と聞いてきて、カインは了承し、以来カインをお兄ちゃんと呼んで慕い、なついている。

 

「あれ、ユニコーンちゃんその人誰? 艦船<KAN-SEN>ではないようだけど??」

 

「・・・・眠い・・・・」

 

「『ジャベリンちゃん』、『ラフィーちゃん』・・・・」

 

「(あぁ、ロイヤルのジャベリンとユニオンのラフィーか・・・・)」

 

ユニコーンが呼んだ名前から、カインはこの母港に来るまで母港に着任する艦船<KAN-SEN>達の名簿を見ていたので、理解した。

 

1人はエメラルドグリーンの瞳に紫の髪をリボンで束ねフワリとしたポニーテールに王冠のような髪飾りを着け、紫のタータンチェックのスカートを身に着け、青いスカーフを巻いている。ロイヤルレディとしては少々落ち着きが足りないようだが、それが魅力とも言える少女が、『ロイヤル所属 Jクラス駆逐艦ジャベリン』。

 

もう1人はボサボサな銀髪をツインテールにまとめ、白いウサミミのようなカチューシャを着けた、ウサギのように赤く眠そうな目、ノースリーブのシャツ一枚に、サイズの合ってないモコモコしたピンク色の上着を羽織った今にも眠ってしまいそうにウトウトしている少女は、『ユニオン所属 ベルソン級駆逐艦ラフィー』。

 

「はじめまして。僕は本日からこのアズールレーンの指揮官を務める事になったカイン・オーシャン特務中佐だ。よろしくね」

 

「ええっ!? 貴方が噂の指揮官さんですか!? お会い出来て光栄です! あ、私はJクラスの駆逐艦のジャベリンって言います!! よろしくお願いします指揮官!」

 

ジャベリンはカインの手を取って上下にブンブンと振る。艦船<KAN-SEN>は人間よりも身体・戦闘能力が高いので、振り回されるカインの腕が悲鳴を上げる。

 

「こちらこそよろしくジャベリン。でも、そろそろ手を離してくれないかな? 正直腕が痛い・・・・」

 

「あ、ごめんなさい! つい私ったら・・・・!」

 

ジャベリンはカインの手を離し、気遣う様に言った、元気とやる気が有りすぎると思うが、根は思いやりのある優しい娘なんだな、とカインは思った。

 

「・・・・ラフィー・・・・終わり・・・・ZZZzzz」

 

「眠そうだね。あと服が崩れているよ」

 

カインは立ったまま寝そうになっているラフィーのはだけている服を直した。

内心、以外と発育しているラフィーの胸に目が行きそうだったが、何とか視線を向けないようにした。

 

「これで良し。そういえばユニコーン、お友達の『ゆーちゃん』はどうしたんだい? いつも一緒にいるのに?」

 

「あっ・・・・! お兄ちゃん、『ゆーちゃん』知らない? 探しているんだけど・・・・」

 

そう言って、ユニコーンは1枚の絵が描かれた紙を見せた。

 

「ああ、ユニコーン。これじゃゆーちゃんじゃなくて『ペガサス』に見えるよ。あと絵凄く上手だね・・・・」

 

描かれているのは、に角と翼が生えた凛々しい馬は、『ユニコーン』と言うよりも『ペガサス』と言っても良かった。その絵のクオリティの高さに感心してしまう。

 

「ゆーちゃん、何処かに行っちゃって探してるの、お兄ちゃん知らないかな?」

 

「んー。僕もここに来たばかりだから、ゆーちゃんは見ていないな。『饅頭』なら見たけど」

 

『饅頭』。アホ毛が付いた黄色いひよこのようや生物で、艦船<KAN-SEN>達のサポートをこなす謎の生命体である。

 

「そう、なんだ・・・・」

 

「大丈夫だよユニコーンちゃん! 次だよ次!」

 

「頑張ればきっと見つかる・・・・」

 

シュン、と顔を下げるユニコーンをジャベリンとラフィーが慰める。それを見てカインもうん、と頷き。

 

「よし、僕もゆーちゃんを探すのを手伝うよ」

 

「ええ!? 良いんですか指揮官??」

 

「ま、後で『ウェールズ』に怒られるだろうけど、泣いている女の子を見過ごすような男にはなりたくないからね。一緒にゆーちゃんを見つけようユニコーン」

 

少し泣きじゃくんだユニコーンの頭を優しく撫でると、ユニコーンは顔を上げて笑顔を浮かべた。

 

「ありがとう・・・・! お兄ちゃん!」

 

「まぁまぁ良いて事さ♪」

 

≪ナイスだぜカイン!≫

 

可愛い妹分の笑顔に笑みを浮かべるカインに、『謎の声』がサムズアップしたような声が響いた。

すると、背中に何やら柔らかく軽めの重さがのし掛かった。背中を見ると、眠そうなラフィーがカインの背中におぶさった。

 

「・・・・ラフィー、指揮官におんぶして欲しいって思ってない、よ・・・・ZZZzzz」

 

「おんぶして欲しいならそう言えば良いのに、仕方ないなぁ・・・・」

 

カインは背中に感じるラフィーの以外な膨らみや柔かさを感じながらしっかりと背負い、落とさないように姿勢を正しくした。

 

「あれ? 指揮官。そのブレスレットって何ですか?」

 

ジャベリンは、カインの右手首に巻かれた、『三本の角に青い水晶が嵌められたブレスレット』が目に入り、聞いてみた。

 

「あぁこれか。何か良く覚えていないけど、とても『大切な物』なんだ。気にしなくて良いよ」

 

「あ、はい。じゃぁ、次はあっちでゆーちゃんを見ていないか聞いてみましょう!」

 

「うん・・・・!」

 

「では行きますか」

 

ジャベリンの号令を聞きながら、カインはラフィーを担いでゆーちゃんを探しに出かけた。

 

≪・・・・・・・・・・・・ありがとう≫

 

『謎の声』は、ブレスレットを『大切な物』と言ったカインに、小さな声でお礼を言った。

 

 

 

ー船長sideー

 

「これはこれは『プリンス・オブ・ウェールズ』殿。『イラストリアス』殿。それにユニオンの『クリーブランド』殿ですね。どうなされました?」

 

補給を受けている船長の前に、三人の艦船<KAN-SEN>が近づいた。

 

1人は真っ赤な貴族のような制服とマントを羽織った優雅な佇まい、ミニスカートと白いニーソから生み出される絶対領域と腰に巻いたサーベルを携えた。黄金色のショートヘアーに編み込みを施し、キリっとした深紅の瞳を持つ凛々しい麗人の女性は、『ロイヤル所属 戦艦プリンス・オブ・ウェールズ』。

 

もう1人は、キャペリンハットを被り、豊満な胸元と豊かなプロポーションを白いドレスで優雅に身に纏う貴婦人。左目の下の泣きぼくろが特徴的な、清楚で優雅な大人の女性の余裕と魅力と包容力が溢れる淑女は、『ロイヤル所属 空母イラストリアス』。

 

最後は、ブロンドのロングヘアのサイドテール、勝ち気な表情を際立たせる真っ赤な瞳を持った女の子。白のクロークとミニスカートが特徴的で、男勝りな雰囲気と活発さを醸し出しているボーイッシュな少女は、『ユニオン所属 クリーブランド級軽巡洋艦一番艦クリーブランド』である。

 

「・・・・船長殿。我々の指揮官は何処にいるのでしょうか? もう来ている筈なのですが?」

 

「オーシャン中佐ならば、先ほどまでいらしたのですが、母港の方に行ってしまいましたよ・・・・」

 

「えええぇぇっ!? 指揮官、どこかに行っちゃったんですかっ!?」

 

船長がそう言うと、クリーブランドは驚きの声を上げ、ウェールズは頭痛を堪えるように人差し指を額に当て、イラストリアスは頬に手を当て困った笑みを浮かべた。

 

「また指揮官の気まぐれ行動が起こったか・・・・!」

 

「まぁまぁウェールズさん。指揮官様の気まぐれはいつもの事ですし・・・・」

 

「えっ? 指揮官って、気まぐれで行動したりするの?」

 

「ああ。優秀な人なのは確かなのだが、普段はボーッとしているし、時々『メイド隊』ですら手を焼く行動を起こしてしまうのだ」

 

『女王陛下』が我が儘な猫なら、指揮官は気まぐれな猫だな。と、内心ボヤいたウェールズの心情を察したのか、イラストリアスも苦笑を浮かべた。

 

 

ーカインsideー

 

カイン達はそのまま母港の色々な所に赴いたり、他の艦船<KAN-SEN>達と出会い、自己紹介や言葉を交わしたりしていると、ゆーちゃんは母港の丘の上に向かうのを見かけたと聞いてそこに向かった。するとーーーー。

 

「あっ、ゆーちゃん居たね。・・・・それに、あの娘、は・・・・?」

 

≪はっ!・・・・・・・・あの娘は、まさか!?≫

 

絵に描かれている馬ではなく、ぬいぐるみのような姿をしたゆーちゃんが、外套を纏ったクリーム色の髪をポニーテールに纏め上げ、瞳は血のような紅色であり、頭からは赤と白の装甲板で出来た耳か角のような物が生えている艦船<KAN-SEN>らしい少女がゆーちゃんを抱き抱えていた。

それを見たカインは、何故か分からなかったが、その少女をジッと見ていた。

 

≪『綾波』・・・・? 『綾波』なのかっ!?≫

 

「あや、なみ・・・・??」

 

「???・・・・・・・・っ!!!」

 

カインは『謎の声』が驚きながら呟いた名前を発すると、『綾波』と呼ばれた少女は、カインを訝しそうに見つめ、驚愕したように目を見開いた。

 

「ぁ・・・・あぁ・・・・!」

 

『綾波』と呼ばれた少女は、カインをまっすぐ見つめ、手が緩んだのかゆーちゃんを落とした。

 

「ゆーちゃん! ゆーちゃん見つけた! 良かったぁ・・・・!」

 

「っ!」

 

ユニコーンがゆーちゃんに駆け寄ると、『綾波』と呼ばれた少女はハッとなって、我に返った。

 

「ゆー、ちゃん・・・・?」

 

「ユニコーン、その娘にお礼を」

 

「うん! ありがとう!」

 

「・・・・いえ、お礼言われること、何もしてないです・・・・あ、あの・・・・」

 

ラフィーを下ろしたカインに言われ、ユニコーンが『綾波』にお礼を言うと、『綾波』と呼ばれた少女はカインをチラッ、チラッと見ながらそう言って、カインに向けて口を開こうとしーーーー。

 

「うわぁ~! こんな凄い場所があったんですね!」

 

「っ・・・・・・・・」

 

ようとしたが、ジャベリンの声に振り向くと、丘の上からの広く透き通るような空と海に思わず息を呑んだ。

 

「あぁ、とても素晴らしい景色だな」

 

「・・・・風、気持ちいい・・・・ウトウト」

 

カインも景色に見惚れ、コーラ瓶のような飲み物を持ったラフィーが立ったまま寝そうになる。

 

「こんな穴場を知ってるなんて、貴女中々やりますね!」

 

「ど、どうも・・・・」

 

「あっ、私ジャベリンです!」

 

「ラフィー・・・・」

 

「ユニコーン・・・・」

 

「僕はカイン・オーシャンって言うんだ。ユニコーンのお友達を見つけてくれて、ありがとう」

 

「カイン、オーシャン・・・・ですか?」

 

「ん?」

 

『綾波』と呼ばれた少女は、カインをジッと見つめていた。

 

「あの~、貴女のお名前聞いても良い?」

 

ジャベリンが前に出て、『綾波』と呼ばれた少女に向けて握手を求めるように手を差し出した。

 

「・・・・・・・・えっと・・・・」

 

『綾波』と呼ばれた少女は惑うようにその手を見つめると。

 

≪「っ! なにか来るっ!!?」≫

 

カインと『謎の声』の声が重なると、ビュン!と音と共に、何かが近づいて来た。

 

「みんな頭を押さえて!」

 

「うわぁ・・・・!」

 

「うぅ・・・・!」

 

カインが叫ぶと、ジャベリン達を庇い、ジャベリン達も頭を下げて身を屈めると、『物体』が通り過ぎ、巻き起こる風圧に飛ばされまいと足を踏ん張った。

 

「鳥・・・・?」

 

「いや、チラッと見たが鳥ではなかった。『青い紙飛行機』のような物体だった・・・・。そう言えばこの間資料で・・・・」

 

カインを顎に手を置いて、思考を始める。

 

「お兄ちゃん・・・・?」

 

「あれ? あの子は?」

 

ジャベリンの声で周りを見ると、確かに『綾波』と呼ばれた少女の姿が何処にも無かった。

 

「(嫌な予感がする・・・・)みんな、戻るぞ。ウェールズ達と合流する」

 

「お兄ちゃん・・・・?」

 

「急いで。最悪な事態になるかもしれない・・・・」

 

「最悪って・・・・?」

 

「・・・・戦闘が起こるかもしれない」

 

「せ、戦闘・・・・!?」

 

カインの一言にジャベリンが驚き、ユニコーンは身体を強ばらせ、ラフィーは、相変わらず眠そうにウトウトしていた。

 

≪(あの紙飛行機・・・・まさか、『あの人達』も来てるのか?)≫

 

『謎の声の主』も、見覚えのある紙飛行機を見て、嫌な予感を感じていた。 

 

 

ー綾波sideー

 

 

「はい。こちら綾波・・・・」

 

《作戦中だぞ、コードネームを使え》

 

綾波は丘から離れた森の中で、一本の木に登り、先ほどの『青い紙飛行機』を通信機のように使っていた。

 

「あっ、ごめんなさい。こちら『ユズ』。基地の構造は大体把握した、です」

 

《良し。こちらもそろそろ仕掛ける。状況を見て合流しろ》

 

「・・・・了解」

 

通信を切った綾波は、先ほど出会った『カイン・オーシャン』と名乗る若者の顔が浮かんだ。サングラスを掛けていたし、肌も浅黒く、髪型も違っていたが、記憶の中にいる人物とほぼ合致していた。

 

「・・・・・・・・トモユキ、指揮官・・・・」

 

綾波は、『生死不明・行方不明となってしまった指揮官』の名を、ボソッと呟いた。

 

 

ー???sideー

 

そしてここは、『アズールレーン母港』から少し離れた海域にある岩礁海域。

その中の岩礁の上に立つ二人の女性。

 

黒い長髪の頭の上に狐の耳に生やし、裏地が赤の雀色の羽織を肩にかけ、胸元を大きく開き、肩を丸出しにし、白い肌を晒した露出度の高い格好で、その目元に赤い化粧が施され、艶やかかつ蠱惑的で自虐的な印象を受ける美しい女性の背面からは狐のような黒い尻尾が九本生えていた。

 

もう一人の女性は、白銀の狐耳が生やし、白銀の髪を肩口まで伸ばしており、スラッとした高い背丈、同じく露出の高い青い着物からは白い胸の谷間が見え、氷を思わせる眼差しは気高く、背面から覗くは白い九本の尻尾を生やしていた。

白銀の女性が、黒髪の女性に向けて口を開く。

 

「何時でも行けるぞ、『オオトリ』」

 

「『加賀』ぁ? 戦いの本質とはなんだと思う?」

 

「あの『赤城姉様』・・・・コードネームを・・・・」

 

『加賀』と呼ばれた女性は、自分なりに考えたコードネーム方式を使って欲しいと、『赤城』と呼んだ女性に伝えるが、『赤城』は構わず『戦いの本質』について語り始める。

 

「戦いとは傷つけること。戦いとは傷つくこと。戦いとは、痛みを交換することよ」

 

『赤城』は『加賀』に後ろからしなだれるように『加賀』にお互いの温もりも確かめるように触れる。

 

「痛みを通じて、互いの思いに触れ合うの。すなわち、『愛』に他ならないわ」

 

「・・・・・・・・」

 

『加賀』は『赤城』の手を外した。

 

「加賀には、姉様の言うことが良く解りません。私はただ、討ち滅ぼすだけ・・・・“アイツ”が、『帰ってくる場所』を守る為にも・・・・!」

 

『加賀』は手にした青い紙飛行機を構えると、紙飛行機が青い炎に包まれ、二人の後ろの空に暗雲が立ち込める。

 

「ウフフ、連れない子ね。でも、その通りね。“あの方”が『帰ってくる場所』を、誰にも汚させたりはしないわ」

 

『赤城』が、『黒い箱』を取り出すと、暗雲の下の海から、『赤い光を放つ黒い艦隊』ーーーー『人類の敵』、『セイレーン』が現れた。

 

「さぁ、戦争を始めましょう・・・・」

 

『重桜所属 空母赤城』。

『重桜所属 空母加賀』。

今、火蓋が切って落とされる。

 

 

 

ー???sideー

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

半分黒に半分白のモノクロのブラウスを着用した無表情ながらも、不気味な雰囲気を漂わせた青年が、先ほどまでカイン達がいた丘の上に立ちながら、海の向こうから広がる暗雲と、迫り来る『セイレーン』の艦隊を見つめながら、これから起きる事を楽しみにしているように笑みを浮かべた。

 

「よき旅の終わり、そして・・・・始まり」

 

さんさんと照り付ける太陽に映し出された“影”が、人間の形をしていなかったーーーー。

 

 

 




『カイン・オーシャン』

階級:『特務中佐』

容姿:『うたの☆プリンスさまっ♪』 の『皇綺羅』を茶髪にし、浅黒い肌に半年前の傷痕か、右手に薔薇のような模様の傷痕がある。

年齢:18歳くらい。

備考:半年前にロイヤル近海の小島に意識不明ならびに、全身に軽い火傷を負った重体で発見され、それから1週間後に目を覚ます。
しかし、名前やそれ以前の記憶をすべて失っていた。
ロイヤル艦船<KAN-SEN>の旗艦である『女王陛下』より『指揮官役』で演習をし、その卓越した指揮を見せ、新設される『アズールレーン母港』の『指揮官』を任命される。

次回。艦船<KAN-SEN>達が戦闘開始。


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【初陣】新たな戦い

ーウェールズsideー

 

『指揮官の執務室』で指揮官を待っていたウェールズは、執務室の扉を開けた艦船<KAN-SEN>からの報告を聞いて驚く。

 

「『セイレーン』だとっ!? 迎撃急げ! これは演習ではないぞ!」

 

「「はいっ!」」

 

ウェールズが指示を出すと、イラストリアスは難しい顔を浮かべ、クリーブランドが軍港を見渡せる窓に行くと、爆撃機から攻撃を受けている軍港が見え、すぐに向かった。

 

「まだ指揮官が来ていない状況で『セイレーン』とは、タイミングが悪すぎる・・・・! 偶然か? それとも・・・・」

 

「まさか・・・・!」

 

「いや、おそらくそのまさかって事はだね」

 

「っ! 指揮官!」

 

「指揮官さま!」

 

ウェールズの言葉に、イラストリアスも難しい顔を浮かべていると、ちょうどユニコーン達と別れたカイン指揮官が執務室にやって来た。

 

「指揮官! 今までどこに?!」

 

「お説教は後、ユニコーンとジャベリン、それにユニオンのラフィーって子も向かわせた。ウェールズ、君もすぐに軍港にいる子達と合流して、迎撃に当たってくれ」

 

「はっ!」

 

「イラストリアス。この状況を、急ぎ『陛下達』に通達してくれ」

 

「承知しました」

 

「間もなく『ユニオンのエース』も来る。それまでの時間は稼いでおこう」

 

「「了解しました」」

 

「それと、ユニコーンにいざとなったら、『切り札』を使えと、指示を出している」

 

「っ! 『切り札』を、ですか?」

 

「あぁ。元々すぐに、他のロイヤル艦隊やユニオンの艦隊にも教えるつもりだったからな」

 

会話に出てきた『切り札』。

それこそ、記憶喪失で素性の知れないカイン・オーシャンが、“アズールレーンの指揮官を任命される理由”となっていた。

 

 

ークリーブランドsideー

 

クリーブランドは砂浜を駆けて行く。

 

「海上の騎士クリーブランド、出る!」

 

クリーブランドがそう叫ぶと、海上に停泊していた『クリーブランド級軽巡洋艦 クリーブランド』が複数のキューブへと変化し、飛び出したクリーブランドの身体に集まると、クリーブランドの身体に艦船<KAN-SEN>の武装、『艤装』である。

 

「へっ!」

 

クリーブランドは不敵な笑みを浮かべると、『セイレーン』の爆撃機に向かって、艤装の砲口を向け、砲撃を浴びせ、撃墜した。

撃墜した爆撃機を尻目に、海上に着水したクリーブランド。

 

「どうだっ! 人類がお前達『セイレーン』に対抗するため生み出した『切り札』!!」

 

海上を進むクリーブランドに、もう一機の爆撃機がクリーブランドに通りすぎる際、ミサイルを発射し、爆発して大きな水柱をあげた。

爆撃機は旋回してようとするが、クリーブランドの砲撃で撃墜した。

水柱からクリーブランドが飛び出てきた。

 

「それが、軍艦の力をその身に宿した私達!」

 

クリーブランドに続くように、他の艦船<KAN-SEN>達も艤装を装備した。

 

「お前達<『セイレーン』>を倒す力だっ!!」

 

クリーブランドがさらに爆撃機を撃墜する。

そして他の艦船<KAN-SEN>の中に、ジャベリン達の姿もあった。

 

「ジャベリン! 全力で行きまーす! です!」

 

「状態良好、行こう・・・・」

 

ジャベリンが自身の自慢の武器である槍を振り回して快活に、ラフィーがいつものダウナーに海上を駆ける。

二人に向かって二機の爆撃機が向かうが、ジャベリンは槍から、ラフィーは艤装から攻撃して、爆撃機を撃墜した。

 

「やったぁ!」

 

「おぉ・・・・」

 

 

ーカインsideー

 

カインはウェールズと共に軍港の方に向かって行った。

 

「・・・・・・・・」

 

「指揮官。この調子ならば、『セイレーン』を追い返せると思いますが?」

 

「いや、真打ちが来るぞ・・・・」

 

「っ!」

 

ウェールズは渋面の指揮官の顔を見て、息を飲む。

 

≪やっぱり、そうなのかよ・・・・!≫

 

『謎の声』は、辛い声色でそう言っていた。

 

「(ユニコーン、頼むぞ)」

 

 

ークリーブランドsideー

 

「っ!?」

 

クリーブランドは、このまま『セイレーン』を撃破できると少し気を抜いた瞬間、目の前にーーーー。

“桜の花びらが現れ、鈴のような声が響いた”。

 

『そう、『セイレーン』と戦うため、人類は私達を造った。だけどやがて理念の違いにより、“『四大陣営』は2つの勢力に別れる”・・・・』

 

突然現れた桜の花びらの元を追うと、桜吹雪が海上に渦巻いているのに気づいた。

そして先ほどと違う冷徹な声が響く。

 

『1つはお前達、“あくまで人類の力だけで『セイレーン』と戦う、『ユニオン』と『ロイヤル』”』

 

『そしてもう1つーーーー』

 

桜吹雪が晴れて現れた艦船の紋章が目に入った。

 

「その紋章は!?」

 

そして、艦船<KAN-SEN>の姿が現れた。

 

「“『セイレーン』を倒すためには、『セイレーン』の技術をも利用する『鉄血』と、私達『重桜』”」

 

甲板に立っているのは、重桜の艦船<KAN-SEN>.

『重桜第一航空戦隊所属正規空母・赤城』。

『重桜第一航空戦隊所属正規空母・加賀』。

甲板に立つ二人の横を、重桜の艦載機が横切るが、飛び立つ瞬間、赤城の船から発進した艦載機は赤い炎に包まれ、加賀の船から発進した艦載機は青い炎に包まれた。

炎に包まれた艦載機の編隊は、2つの船の上空を旋回していく。

 

「重桜一航戦、赤城」

 

「重桜一航船、加賀」

 

「「押して参る!」」

 

二人がそう宣言すると、セイレーンと重桜の爆撃機はクリーブランド達に向かって行った。

 

 

 

ージャベリンsideー

 

各艦船はそれらを迎撃するが、編隊を組んで飛翔する爆撃機は巧みな機動で攻撃を回避したり、数の暴力で押していく。

 

「キリがないですぅ~!」

 

「ちょっとピンチ、かも・・・・」

 

ジャベリンとラフィーも弱音を出してきた。

が、迎撃機が飛んできて、セイレーンと重桜の爆撃機を撃墜する。

 

「迎撃機?! っ!」

 

クリーブランドが視線を向けると、ゆーちゃんを抱きしめて艤装を装備したユニコーンがいた。

 

「お友達をいじめないで!!」

 

ユニコーンが抱いているゆーちゃんが光だすと、そのぬいぐるみのような姿が大きくなり、翼が生えて、ユニコーンを背に乗せて空へと駆け、艤装から迎撃機を次々と射出して、加賀の爆撃機を撃破した。

 

「ユニコーンちゃんスゴい! ラフィーちゃん!私達も頑張ろう!!」

 

「うん・・・・頑張る・・・・」

 

《全KAN-SENに連絡》

 

「え!? なになに?」

 

「通信・・・・指揮官・・・・?」

 

《こちら、本日から君たちの指揮官をする事になったカイン・オーシャン特務中佐だ。現在戦闘中のKAN-SEN達は、僕の指示に従って欲しい》

 

「指揮官・・・・」

 

ジャベリンは、指揮官の言葉に耳を傾けた。

 

 

ーカインsideー

 

「今回が初陣のぽっと出の指揮官なんかに命預ける事になってしまって申し訳なく思っている。だか、僕は君たちを、KAN-SENを、誰一人として沈めるつもりも、見捨てるつもりも、無駄死にさせるつもりも毛頭無い。それだけは理解してくれ」

 

カインは『量産型艦船』の船上から、全KAN-SENに通信を送り、その船を守るように、艤装を装備したウェールズとイラストリアスが控えていた。

 

「大丈夫。この戦いは相手を倒す事が勝利じゃない。相手を追い返す事が勝利だ」

 

 

 

ー加賀sideー 

 

「あの娘、空母か。あんな痩せた身体では食いでが無いが・・・・獲物は獲物!」

 

加賀は空中で奮戦しているユニコーンに向けて、歪んだ笑みを浮かべると、手に狐面を持ち、青い炎で燃やすと、加賀の生まれる元となった、『空母加賀』が桜吹雪に包まれ、それが晴れるとそこにはーーーー。

艤装を装備し、尻尾や目に青い炎を灯した、巨大な白い九尾の狐へと姿を変えた。

その目は獲物を見据え。

その牙は獲物を喰らう為に存在する野獣の姿。

 

「えぇぇぇぇぇっ!?」

 

その姿にクリーブランドは仰天した。

 

「喰ろうてやるぞっ!」

 

『グルルルルルルルルル・・・・!!』

 

白い九尾はユニコーンを獲物と定め、唸り声を上げ、艤装から青い炎を纏った艦載機を発射した。

 

 

 

ーユニコーンsideー

 

「っ・・・・!!」

 

《ユニコーン》

 

「っ! お兄ちゃん・・・・!」

 

《無理に戦おうとしなくて良い、回避を優先して。大丈夫、必ず助けるから》

 

「う、うん!」

 

 

ージャベリンsideー

 

「っ! させないっ!」

 

「っ・・・・危ない」

 

ジャベリンがユニコーンの援護をしようとすると、ラフィーが海中から近づく魚雷を察して、ジャベリンに退かすと、魚雷が爆発し、水柱を上げたーーーー。

 

「ラフィーちゃん!!」

 

「ケホッ、ラフィー、戦闘継続可能・・・・」

 

が、ラフィーは艤装で魚雷で撃ち抜いていたが、多少のダメージを受けていた様子であった。

ジャベリンはホッとすると、魚雷が向かって来た方向を見ると、先ほどの女の子が立っていた。

 

「あなたは・・・・!」

 

「『重桜吹雪型駆逐艦 綾波』・・・・っ!」

 

『特型駆逐艦吹雪型・十一番艦 綾波』だった。

綾波は身の丈程はある刀を抜きながら、ジャベリンに振り下ろすが、ジャベリンは槍で防いだ。

 

「その力、味わうが良い・・・・!」

 

「どうして、こんな・・・・!」

 

「敵同士なのだから、当然なのです・・・・!」

 

綾波が艤装で攻撃するが、ジャベリンは後ろに飛んで回避し、追撃で攻撃する綾波。

 

 

ークリーブランドsideー

 

《ユニオンのクリーブランドと『サンディエゴ』。ユニコーンの援護をしてくれ。見てくれは大きな獣だが、あれは重桜独自の技術で作られた艤装だ。艦載機も君達の対空砲で撃墜できる》

 

「・・・・了解! 海上騎士団の実力を見せてやる!」

 

「私の歌を聴けー!」

 

対空砲を放つと、炎を纏った艦載機は爆発した。

 

「なにっ!?」

 

「や、やった・・・・!」

 

「本当に撃墜できた・・・・」

 

加賀は自分の艦載機が撃墜された事に驚くが、クリーブランドとサンディエゴはそれ以上に驚いていた。 

 

《呆けるのは後回し、『C・オースバーン』、『サッチャー』、『スペンス』、『オーリック』、『フート』の『リトルビーバーズ』に、『コメット』、『シグニット』、『クレセント』の『ロイヤルCクラス』。獣の足元に魚雷を放て。獣は足元がおぼつかないと攻めあぐねる》

 

『り、了解!』

 

『リトルビーバーズ』と『ロイヤルCクラス』が魚雷で白い九尾の足元を攻撃し、白い九尾は怯んでしまう。

 

 

ー加賀sideー

 

「ちぃ!邪魔な奴らだ!」

 

ユニコーンを落とそうとするがクリーブランドとサンディエゴが正確に艦載機を狙って撃墜し、リトルビーバーズとロイヤルCクラスの魚雷が足元を攻撃し、白い九尾はユニコーンに攻めあぐねていた。

 

「周りの雑魚に構うなっ! あの空母を狙えっ!!」

 

『グガァアアアアアアッ!!』

 

加賀は内心苛立っていた。

敵にこちらの動きを阻害され、それに苛立ち、九尾の攻撃が段々雑になる。

敵のKAN-SEN達は九尾を1ヶ所に固定し、艦載機を射出してもクリーブランドと対空砲火とユニコーンの艦載機が撃破し、リトルビーバーズが魚雷で九尾の動きを阻害する。

加賀はふと、KAN-SEN達の動きに既視感を覚える。

 

「(このやり方、まるで『アイツ』と演習していたときのようだ・・・・!)」

 

それはかつて、自分達の指揮官の指揮に似ていた。

 

 

ーカインsideー

 

「さて、そろそろ来る頃かな?」

 

「はい」

 

カインは『何か』が近づいてくるのをウェールズに問うと、ウェールズが肯定した。

 

『グガァァァァァァァ!!!』

 

すると、少数の魚雷が九尾に着弾し、九尾が苦しみ叫び声を上げた。。

 

「魚雷だと・・・・! だが、これしきのことで倒れる私ではない!!」

 

『オォォォォォォォォン!!』

 

加賀の声に応えるように、九尾が雄叫びを上げるが、カインは冷静にそれを見据える。

 

「ま、重桜の主力の一航戦がこの程度で倒れるような手温い相手じゃないよね。だから、こっちも強力な一手を仕掛けるだけだ」

 

状況は拮抗状態、このままでは双方に大きな被害が出ると分かっているカインがそう言った瞬間。

青い鳥の形をしたモノが、九尾の体を貫き、そのまま倒れ込み、鳥はその後を、1つの艦載機に姿を戻した。

 

「なに!?」

 

赤城は驚き、飛んできた方向へと目を向ける。

『セイレーン』の艦隊の後方、その先に1つの空母とその上に立つ1人のKAN-SENがいた。

その姿は白と黒の軍服を身につけ、長く美しい銀色の髪。その姿は凛としながら今まで多く激戦を戦い抜いた戦士のようだ。

 

 

ークリーブランドsideー

 

「あの船は・・・・!」

 

「ユニオンの空母ね、もしかしてあいつが・・・・」

 

クリーブランドと赤城が呟いた瞬間、空母から次々と艦載機が発進した。

 

「間違いない。あの船こそ、私達ユニオンの最強空母!」

 

「『灰色の亡霊』大いなる『E』・・・・くっ!」

 

「そうか、貴様が!」

 

鋭く睨む赤城と加賀に構わず、その少女は叫ぶ。

 

「エンタープライズ エンゲージ!!」

 

エンタープライズの乗っていた空母が姿を消すと、その形が艤装となって、エンタープライズに装備された。

 

 

ーカインsideー

 

「そう。『ユニオンのエース』、『ヨークタウン級2番艦空母 エンタープライズ』」

 

《指揮官。指示を頼む》

 

「それじゃそのまま、敵の懐に入れ、思いっきりぶちかませ!」 

 

《わかった。行くぞ・・・・!》

 

エンタープライズの声を聞くと、カインはニヤリと笑みを浮かべた。

 

 

 

ーエンタープライズsideー

 

エンタープライズは艦載機の上に飛び乗ると、量産型の『セイレーン』の艦隊の間をすり抜けて、加賀に向かう。

 

「面白い!」

 

「っ!」

 

加賀が青く燃える艦載機を飛ばし、エンタープライズは艤装のアーチェリーを引くと、放たれた矢が一本を五本に拡散し、加賀の艦載機を撃ち抜く。

 

 

 

ーカインsideー

 

「エンタープライズ、無理はするなよ」

 

《問題ない》

 

カインはエンタープライズに無理をしないように告げるが、エンタープライズは加賀と交戦を開始した。

 

≪スゴいな、あのエンタープライズって空母・・・・≫

 

「ああ、確かにな。だけど、結構脆いかもな彼女・・・・」

 

カインは『謎の声』に同意した。

確かに彼女は強い。英雄と呼ばれるに相応しい強さを持っている。

 

「(だが、『強い』だけだ。彼女が持っているのは『強さ』だけ、もしそれを失ったとき、彼女はどうなるかな?)」

 

敵の砲撃を掻い潜り、エンタープライズは指示通り、懐へと近づいた。

 

 

ーエンタープライズsideー

 

《よし。では次にあの獣を討っておいてくれ》

 

「了解」

 

『グガァァァァァァァァ!!』

 

カインの言葉を聞き、エンタープライズは九尾の頭上に跳ぶと、頭部に矢を3発放つと、矢は爆弾に変化し、九尾は悲鳴を上げ、その背中を走り、加賀へと近づく。

 

「私を楽しませろ! 亡霊よ!!」

 

「待ちなさい! 加賀!!」

 

赤城の静止を聞かず、目と背面の尻尾を青く光らせた加賀は、艦載機をエンタープライズに向けて放つ。

 

「ふっ・・・・!」

 

獣の背中に乗り、一気に敵との距離詰める為に走り跳ぶとーーーー。

加賀との距離が、お互いの顔がはっきりと分かるほど近い。そして加賀に、敵に向けて弓を引く。

 

「貴様・・・・!」

 

「とったぞ」

 

敵の急所、人間でいうと心臓を何度も射抜き倒れるまで何度も撃った。

 

「がはぁ・・・・!」

 

「加賀!!」

 

悲痛な叫びと共に、九尾は蒼い炎と共に消えた。

 

 

ーカインsideー

 

「おいおい・・・・あれでまだ立てるのか、存外タフだな・・・・」

 

≪あぁ、流石は加賀さんって所だな・・・・≫

 

心臓にあたる部分に何発も矢を喰らったが、まだ立てる加賀にカイン達も驚いた。

 

「くっ・・・・よくも私の体に傷を・・・・! この体は姉様の!」

 

カインは怒りを全面に出して、エンタープライズに向けて艤装を召喚した。

それを見て、カインは拡声器を使って戦場に声を響かせた。

 

「(ここだな・・・・)重桜艦隊に告げる。こちら、アズールレーン指揮官。カイン・オーシャン特務中佐だ。これ以上の戦闘行為は無益と判断する。重桜艦隊は即刻この海域から退去されたい!」

 

サングラスを外したカインはウェールズとイラストリアスを連れて、『量産型艦船』で戦場の近くに行き、そう告げると、重桜側の赤城と加賀、そして先ほど会った『綾波』と言う少女が、こちらをーーーーもっと正確に言うとカインを見て目を見開いたような貌となった。

 

「なんだ?」

 

≪(やっぱり、気づくよな・・・・)≫

 

 

 

ー加賀sideー

 

「な、何故だ・・・・! なぜ、“アイツ”が・・・・!」

 

加賀は先ほどエンタープライズに向けていた憤怒が頭から消滅してしまい、『アズールレーン指揮官』を名乗る『カイン・オーシャン』を見て愕然となった。

敵が目の前にいる戦場で呆けるなど、普段の加賀ならば絶対にやらないミスを加賀は犯してしまった。

 

「ああ、ああ・・・・! やはり、あなた様は、生きておられた・・・・!」

 

加賀の後ろから、赤城が感極まったような声を上げながら、ゆっくりと、カインのいる船に近づこうとした。

 

「姉様! お待ちください!」

 

加賀が赤城の手を掴んで止めた。

 

「離しなさい加賀・・・・。あの方が、あの方が生きていたわ・・・・やっぱり生きていたのよ・・・・!」

 

赤城はカインを見据えて呟く。

 

「姉様・・・・!」

 

 

ー???sideー

 

「(ニヤリ)」

 

丘の上から戦況を見ていた青年は、ニヤリと笑みを浮かべると、手を伸ばして、指を弾いて鳴らした。

 

パチンっ・・・・!

 

「では、私から贈り物を・・・・『ヘルベロス』」

 

青年が静かに呟くと、カイン達のいる海域の上空から、暗黒の渦が現れた。

 

 

ーカインsideー

 

「何を言ってるんだ・・・・」

 

≪カイン! 上を見ろっ!!≫

 

「っ!?」

 

カインは赤城と加賀の様子を訝しそうにしていたが、『謎の声』が叫びを聞いて上空を見ると、暗黒の渦が現れ、そこから黒い刃のような隕石が戦場に飛来した。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

『きゃぁああああああああああああああっ!!』

 

カインだけでなく、KAN-SENのほとんども悲鳴を上げると、渦の中から『剣がついた尻尾のようなもの』が、海面を叩き、『セイレーン』の量産艦船を破壊していった。

 

「っ!! 総員退避っ! 避けろーーーー!!」

 

『っ!!』

 

アズールレーンのKAN-SEN達はカインからの叫びを聞いて、尻尾から回避した。尻尾は一度渦の中に消えると、今度は『尻尾の本体』が現れた。

 

ザパァァァァァァァァァァァァンンッ!!

 

巨大な水飛沫を上げて降り立ったそれは。頭に二本の刃を冠、肘に刃を付け、背中には鋭いトゲ、鋭い刃が付いた尻尾、身体中に刃状の突起を付けた黒と赤黒い姿をした異形なる巨大生物ーーーー『怪獣』だった。

 

『グワァアアアアアアッ!!』

 

ーーーー『最凶獣ヘルベロス』。

 

「おいおい嘘だろっ!!」

 

「こんな事が・・・・!」

 

「っ!!」

 

クリーブランドも、ウェールズも、イラストリアスも、突然現れた怪獣に驚きを隠せない状況だった。

 

『グワァアアアアアアッ!!』

 

ヘルベロスは肘の刃から赤い光刃『ヘルスラッシュ』を辺り構わず振り回した。

KAN-SEN達も回避するが、とても間に合わない。

 

「何てこった・・・・!」

 

≪・・・・どうする? お前だけなら逃げられるかも知れないぞ?≫

 

『謎の声』がカインに問いかけた。

が、カインはほんの僅かな迷いもなく反論する。

 

「そんなのゴメンだ! 僕は彼女達の『指揮官』なんだ! 今逃げたら、此処に! 『心』に! 【KAN-SENを、誰一人として沈めるつもりも、見捨てるつもりも、無駄死にさせるつもりも毛頭無い】って決めた『自分の気持ち』に嘘をつくことになるっ! だから僕が、彼女達を守るっ!!」

 

その時、ヘルベロスが口から火球を放つと、『セイレーン』の量産型艦船の残骸が爆発し、火の塊となった他の残骸が、カインの乗る艦船の近くに落下し、爆発して炎がカインを呑み込んだ。

 

「っ! 指揮官!!」

 

「指揮官!!」

 

「指揮官・・・・!」

 

「お兄ちゃん!!」

 

『指揮官っ!!』

 

「っっ!!!」

 

綾波が、ジャベリンが、ラフィーが、ユニコーンが、アズールレーンや重桜のKAN-SEN達が、エンタープライズも、カインの方に目を向けて叫んだ。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!」

 

炎の中でカインの胸から、『光』が飛び出した。

 

≪お前の覚悟、受け取った!!≫

 

 




次回、『勇者』が降臨。


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【勇者】光輝くその勇姿

ついに『光の勇者』が登場。


ーカインsideー

 

周囲が炎に包まれたカインの目の前に、顔のついた細長い形状の中心に青く丸い水晶を付けたキーホルダー。『タイガキーホルダー』が現れ、それから『謎の声』が聞こえた。

 

『トモ・・・・イヤ、カイン! 怪獣からKAN-SENの皆を守るぞっ!!』

 

「誰なんだ? 力を貸してくれるのか?」

 

『やっぱり、覚えてないんだな・・・・。まぁ今は良いぜ! それよりもこれを!』

 

一瞬寂しそうに呟いたキーホルダーが言うと、カインの右手首のブレスレットが光ると、ブレスレットが手甲型のアイテムになった。

 

「ブレスレットが・・・・。まさか、このブレスレットは君のモノだったのか?」

 

『今はお前のモノでもあるぜ! そして、“もう一度言うぜ”! 俺はお前で、お前は俺だ! その手で俺を掴むんだ!』

 

「あぁ!」

 

カインは手甲型のアイテム、『タイガスパーク』を起動させた。

 

[カモン!]

 

一瞬、自分と同じ声に首を傾げそうになるが、気を取り直して、『タイガキーホルダー』を左手に掴むと、炎が霧散し、宇宙のような空間が広がっていた。

 

「光の勇者! タイガ!!」

 

カインは左手に持った『タイガキーホルダー』を突き出すと、右掌に翳すように持ってくる。

すると、キーホルダーの中心の水晶から、赤いエネルギーが右掌を通して、手甲の水晶に吸収されると、水晶が赤く輝き、キーホルダーを握る。

 

『叫べカイン! 『バディゴー』!!』

 

水晶の中で赤い粒子が集まると、『謎の声』が銀の身体に小さな角を伸ばした超人へとなった。

 

「バディィィィィィィゴーーーーーー!!」

 

[ウルトラマンタイガ!]

 

中腰になったカインは、右腕を天へと突きだして叫ぶと、カインの身体が変貌し、光輝く超人となって漆黒の空間に幾つも飛び出す流星と共に飛び出した。

 

『ーーーーシュアッ!!』

 

ザパァァァァァァァァァァァァンンッ!!

 

超人は飛び出すと巨人へとなり、大空を宙返りして、炎に覆われた大海原へと降り立った瞬間、炎が全て吹き飛んだ。

 

『グワァアアアアアアッ!!』

 

ヘルベロスもその風圧に押され、水飛沫を上げて倒れる。

 

 

ーエンタープライズsideー

 

「な、なんだアレは・・・・!」

 

エンタープライズが、いや、エンタープライズだけではない。

この場にいたアズールレーンだけだなく、重桜のKAN-SEN達も、指揮官を送りに来た船長達も、突如現れた巨人を唖然と見ていた。

 

銀の身体に赤いラインが走り、胸に水晶を中心に置いたプロテクターを装備し、右腕に手甲を付け、頭部に小さな角を二本生やし、あどけない若者のような顔立ちに見える巨人だった。

 

『ハァァァァァ・・・・!』

 

巨人が立ち上がり、ヘルベロスを睨んだ。

 

「あれは、一体・・・・!」

 

《まさか・・・・!》

 

通信機に、船長からの通信が入った。おそらく他の全KAN-SENにも送られているのか、ウェールズの声も響いた。

 

《船長。あの巨人を知っているのですか?》

 

《ええウェールズ殿。実は軍上層部は隠しておりますが、この我々の星には、『怪獣』と呼ばれる異常進化した生物と、それらを狙って、別の星からやって来た『異星人』がいるのです》

 

《『異星人』ですって!?》

 

《ええ。そしてロイヤル陣営が初めて接触した宇宙人が譲渡した資料にあの巨人の事が記されていました。あの巨人の名は、『ウルトラマンタイガ』。『ウルトラマン』と呼ばれる、宇宙の正義と平和と秩序を守る、光の戦士の1人だそうです》

 

「宇宙の正義と平和の秩序を守る光の戦士・・・・」

 

エンタープライズは、ウルトラマンタイガを静かに見据えていた。

 

 

ー綾波sideー

 

「ウルトラマン・・・・」

 

「タイガ・・・・」

 

「・・・・カッコいい・・・・」

 

どうやら船長とウェールズの通信を傍受した綾波と、綾波から少し離れた間合いにいる、ウェールズと船長の通信を聞いていたジャベリンとラフィーも、ウルトラマンタイガを見てそう呟いた。

 

 

ータイガsideー

 

『・・・・ハァッ!!』

 

タイガは中腰になって、腕を前や上に上げて構えた。

 

『グワァアアアアアアッ!! ガァアアアアッ!!』

 

起き上がったヘルベロスは雄叫びを上げると、タイガに刃が付いた尻尾を突き刺そうと振り回す。

 

『ハァ!』

 

タイガはバク転で攻撃を回避した。

 

『フッ・・・・!』

 

『ガァアアアアッ!!』

 

ヘルベロスは背中の刺を赤く発光させると、トゲが飛び出し、紫色の矢の光弾となり、上空からミサイルのようにタイガに向かっていく。

が、タイガは腕を十字に組むと、左手から光弾を連続で発射した。

 

『『スワローバレット』!』

 

タイガから放たれた『スワローバレット』が、ヘルベロスの『ヘルエッジサンダー』を撃ち抜いていく。

 

 

ークリーブランドsideー

 

「スゴッ・・・・!」

 

ウェールズ達と合流したクリーブランドも、タイガの正確な光線技に唖然となった。

 

 

ータイガsideー

 

『ハァ! ウォオオオオオオ!!』

 

構え直したタイガが、ヘルベロスに向かい、ヘルベロスの腹部に飛び蹴りを浴びせると、すかさず頭部に拳を、腹部に回し蹴りをお見舞いし、さらに頭部にチョップを繰り出すが、ヘルベロスの固い皮膚によって阻まれた。

 

『いってぇ~・・・・!』

 

ヘルベロスがタイガに拳を振るうが、タイガは頭部を掴んで背負い投げで倒すと、ヘルベロスの背中にまたがり、拳を連続で振り下ろす。

 

『タァァァァァァ!! ウアッ!』

 

が、ヘルベロスが起き上がり、タイガは振り落とされた。

落とされたタイガはそのまま肉弾戦でヘルベロスと渡り合っていく。

 

『ハァアアアアア!! タァッ!!』

 

最後にヘルベロスにドロップキックをお見舞いした。

 

『ガァアアアアッ!!』

 

ヘルベロスは頭部から赤い電撃『ヘルホーンサンダー』をくり出そうした。

 

『フッ』

 

『「まてタイガ! 後ろにKAN-SEN達がいる!」』

 

『はっ!』

 

回避しようとするタイガが、カインの言葉で後ろを振り向くと、ジャベリンとラフィーとユニコーン。そして、綾波がいた。

 

『グワァアアアアアアッ!!』

 

ヘルベロスが『ヘルホーンサンダー』を放つと、タイガは腕を交差させて防いだ。

 

『グゥウウウウウウウウウウウ・・・・!!』

 

 

ーウェールズsideー

 

「あの巨人、ユニコーン達を庇ったのか?」

 

「じゃ、やっぱり味方なのかな?」

 

「イラストリアス、貴女はどう思う?」

 

「・・・・ユニコーンちゃん達を守ってくれたなら、少なくても敵ではないと思います」

 

 

ージャベリンsideー

 

「あの巨人さん、私達を守ってくれたのッ!?」

 

「・・・・多分そう」

 

「頑張って・・・・!」

 

「・・・・・・・・・」

 

ジャベリンとラフィーとユニコーンがタイガを応援し、離れた位置の綾波は、ただ静かにタイガを見上ていた。

 

 

 

 

ータイガsideー

 

『「タイガ! 踏ん張れ!!」』

 

『ヌゥオオオオオオオオ!・・・・ハァアッ!!』

 

タイガが交差させていた腕を広げると、『ヘルホーンサンダー』は二つに割れて上空に流された。

 

『ハァッ!!』

 

ピコン、ピコン、ピコン、ピコン・・・・。

 

タイガの胸のカラータイマーが赤く点滅し鳴り響く。

 

 

ーウェールズsideー

 

「あれは、何かの警告か?」

 

《ウルトラマンは、この星では『3分間』しか活動出来ないと資料で記されていました。おそらく活動限界が来たのでしょう》

 

「えっ! ウルトラマンが出て来てもう何分経ったの!?」

 

「・・・・そろそろ2分と30秒になります!」

 

ウェールズ達の頬に汗が一筋流れる。

 

 

 

ータイガsideー

 

『ガァアッ!!』

 

ヘルベロスが口から火球を放つが、タイガは赤いオーラを纏ったチョップで火球を割り、火球は海面に当たって水蒸気爆発を起こした。

 

『フッ! ハァァァァァ・・・・『ストリウムブラスター』!!』

 

タイガが力を込めるように両腕を引き絞って腰に当てると、タイガの身体が虹色に輝き、虹色のエネルギーを貯めて、腕をT字に組んでタイガスパークをヘルベロスに向けると、青色の光線、『ストリウムブラスター』をヘルベロスに浴びせた。

 

『グワァアアアアアアッ!!』

 

ヘルベロスは火花を散らして怯んだ。

それを見て、タイガが自分の内部にある、赤い宇宙空間のような『インナースペース』にいるカインに声を発する。

 

『カイン!『オーブレット』を使うんだ!!』

 

『「ああ!」』

 

[カモン!]

 

カインがタイガスパークを起動させて左腕を出すと、『中心にOの字に三本の角を付けたブレスレット』が巻かれた。

 

『「これが・・・・」』

 

『ああ。『ウルトラマンオーブ先輩』の光だ! カイン! 『タイガスパーク』を翳すんだ!!』

 

『「分かった!」』

 

タイガの声に答えて、カインはタイガスパークをオーブレットに翳す。

 

[オーブレット! コネクトオン!!]

 

音声が流れると、『オーブレット』から3筋の水色の光がタイガスパークの中心に集まった。

すると、タイガの姿が水色のエネルギーに包まれると、『さすらいの風来坊 ウルトラマンオーブ』の姿と重なった。

 

『フッ!ハァァァァァ・・・・『スプリウムブラスター』!!』

 

前方に光の輪を展開させると、『ストリウムブラスター』のように構えて、水色の光線を放った。

 

『グワァアアアアアアッ!!』

 

ヘルベロスは断末魔の悲鳴を上げて、そのまま爆散した。

 

 

ージャベリンsideー

 

「や、やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「倒した・・・・」

 

「凄い・・・・!」

 

「・・・・・・・・」

 

ジャベリンはユニコーンとラフィーに抱きつき、ラフィーとユニコーンも笑みを浮かべ、少し離れた綾波は、ウルトラマンタイガをジッと見つめていた。

 

 

ーウェールズsideー

 

「あんなデカイ怪獣を、1人で倒した・・・・!」

 

「あれが、ウルトラマンの力なのか・・・・?」

 

「彼が敵に回らない事を祈りたいですね・・・・」

 

ウェールズ達は、とてつもないタイガの力におののいた。

 

 

ー赤城sideー

 

「なんという、力だ・・・・!」

 

「厄介な、お邪魔虫が現れたかも知れないわね・・・・」

 

赤城と加賀は空を飛びながら、これまでのタイガの戦いぶりを見て、渋面を浮かべていた。

 

 

ーエンタープライズsideー

 

「・・・・・・・・」

 

エンタープライズも、タイガを鋭い目でジッと見つめていた。

 

 

ーカインsideー

 

爆発したヘルベロスの爆炎から、『赤く光る物体』が、タイガに近づき、タイガがそれを掴むと、タイガの内部、『インナースペース』にいるカインの手に収まり、それを確認すると、『ヘルベロスの形をしたリング』があった。

 

「これは・・・・?」

 

『ウルトラマンの力を感じる・・・・』

 

「(これが、ウルトラマンの力??)」

 

カインは、何やら禍々しいオーラを放つその指輪を訝しそうに見つめる。

 

『・・・・シュワッ!!』

 

そして、タイガは上空に向かって飛んでいった。

 

 

ー???sideー

 

「・・・・・・・・」

 

その戦況を丘の上から見物していた青年は、静かにタイガに向かって小さく手を振った。

 

「フフフフ・・・・」

 

不気味な笑みを浮かべる青年の影が、異形の姿となり、その顔の部分から、赤く発光する目が怪しく輝いていた。

 

 

 

ーカインsideー

 

カインが乗っていた量産型艦船の上に、赤い粒子が集まると、カインは元に戻った。

 

「戻ったか・・・・」

 

≪どうだ? 俺の力は!?≫

 

カインは今まで聞こえていた『謎の声』が、ウルトラマンタイガだと分かった。

 

「ああ凄いな、僕が君になったんだな」

 

≪おう、そうだぜ!≫

 

「っ! それよりも、重桜が!」

 

≪ああ! そうだった!!≫

 

カインが船頭に上がると、ウェールズとイラストリアス、そしてクリーブランドがこちらに向かってきていた。

 

「ウェールズ、こっちは無事だ・・・・」

 

《指揮官! そこから逃げてください! 重桜が!》

 

「なに? っ!!」

 

「「・・・・・・・・」」

 

通信機でウェールズに通信したカインの耳に、ウェールズの焦った声が響き、上を見るとソコには、重桜の赤城と加賀が浮いていた。

 

「・・・・・・・・」

 

≪(赤城さん・・・・! 加賀さん・・・・!)≫

 

「(・・・・下着は黒と白か・・・・!)」

 

≪あらっ! お前は何処を見てるんだよっ!!≫

 

見上げた赤城と加賀のスカートの中身が風でなびき、心の中で色を呟いたカインに、本当にスケベ心は無くしてないんだなぁ、とタイガは呆れ混じりの怒鳴り声を上げた。

が、カインはすぐに赤城と加賀に鋭い視線を二人の顔に向けるが、赤城は戸惑いと喜びが混ざった顔となり、加賀は訝しげな視線を送り、ゆっくりとカインの元に降りてきて、赤城はカインの顔をジッと見る。

 

「・・・・あぁ、やっぱり、あなたなんですね・・・・!」

 

赤城が感極まった様子でカインの顔を見つめる。

 

「な、何を言っている・・・・?」

 

「“指揮官さま”。あなたはなぜここにいるのですか? あなたがいるべき場所は、このような場所ではないはずです」

 

「っ! 君は、僕を知っているのか?」

 

「・・・・どういう事ですか?」

 

カインの言葉に、潤んでいた赤城は目線を鋭くした。

 

「僕には、過去の記憶が無い・・・・。だから、君達の事が分からないんだ・・・・」

 

「過去の、記憶がないだと・・・・!」

 

加賀もまた目線を鋭くした。

 

「・・・・そうですか、記憶を失っているのですね。お可哀想に・・・・。では指揮官さま、すぐに重桜に参りましょう」

 

「なんだと・・・・?」

 

「あなたの本当の居場所は、アズールレーンなどではありません。そう、私達のーーーー」

 

「指揮官!!」

 

カインと赤城の間に割って入るように、ウェールズ達が赤城と加賀に攻撃するが、2人はカインから離れる。

 

「無事ですか、指揮官様」

 

「あ、ああ。イラストリアス・・・・」

 

イラストリアスと話しているカインを見て、赤城は不愉快そうに眉根を動かすと、艦載機を取り出そうとするが、その手を止めた。

 

「姉様?」

 

「ここまでね、狙われているわ」

 

赤城が視線を向ける先を加賀は見ると、エンタープライズが艤装のアーチェリーを引き絞って赤城と加賀を狙っていた。

 

「っ! グレイゴースト・・・・!」

 

「・・・・・・・・・・・」

 

加賀はエンタープライズに鋭い視線を向け、赤城も一瞥すると『黒いメンタルキューブ』を取り出した。

 

「今日のところはここまでにしておきましょう。“目的”も概ね果たせたしね。多少の予想外の出来事はあったけど、思わぬ収穫もあり上々の戦果よ」

 

「はい。姉様がそう仰るなら・・・・」

 

「(なんだ? あの『黒いメンタルキューブ』は?)」

 

『メンタルキューブ』。KAN-SEN達の誕生の関わる物体で、彼女達の艤装もこのメンタルキューブによって構築されているのだ。

 

「逃がすと思うか?」

 

エンタープライズがアーチェリーを構えたままそう言うが、赤城はーーーー。

 

「あ~ら恐い恐い♪ そんな目で見られたら、私どうにかなってしまいそう♪」

 

「・・・・・・・・」

 

「エンタープライズ。ここまでだ、武器を下げろ」

 

「しかし指揮官・・・・」

 

「下げろと言っている。これ以上の戦闘は無意味だ。それに、早く腕を下げないと、危険だぞ」

 

「・・・・・・・・???」

 

僅かに目を細めたエンタープライズのアーチェリーを構えた腕に、紅色の紙飛行機が当たり、海面に落ちると火を上げて燃えた。

 

「どうやら、新手がいるようだな」

 

カインが視線を向けると、『セイレーン』艦隊の向こうの空母に、長髪の茶髪を束ね、袖部分が鶴をイメージしたような衣装の着物に身を包み、得物として刀を持っている少女が、紙飛行機を投げたフォームで立っていた。

 

「重桜空母の、『瑞鶴』か・・・・」

 

≪(瑞鶴、お前までもかよ・・・・!)≫

 

『瑞鶴』と呼ばれた少女が、カインを一目見ると、驚愕したように目を見開いた。

 

「・・・・・・・・指揮官?」

 

「???」

 

瑞鶴の言葉に首を傾げるカイン。瑞鶴はかぶりを振るとエンタープライズを一瞥して、赤城達に向けて声を発する。

 

「先輩達、時間です・・・・」

 

「ええ、お暇しましょう。だけど覚えておきなさいアズールレーン。指揮官さまは必ず返して貰うわ・・・・!」

 

赤城はそう言って、加賀と共に空を飛んでいく。

 

 

ー綾波sideー

 

「っ・・・・・・・・」

 

「あ・・・・!」

 

ジャベリン達といた綾波も、この場を離れようとし、ジャベリンとはその背中を追う事ができず、ラフィーとユニコーンはジッと綾波の背を見つめ、綾波はそのまま去って行こうとすると、カインと目が合った。

 

「・・・・・・・・」

 

「・・・・指揮官・・・・!」

 

綾波は締め付けられる胸の痛みを振り切るように、赤城達と合流しようとした。

 

 

ーカインsideー

 

カイン達は、空母に降り立った赤城達を見据えると、赤城と加賀が宣言する。

 

「これは宣戦布告よ、アズールレーン」

 

「これより重桜は『鉄血』と共に、お前達の欺瞞を打ち砕く」

 

「未来とは強者に委ねられる物、天命は、この力で大洋を統べる我々にありーーーー我らは、赤き血の同盟、『レッドアクシズ』なりーーーー」

 

そう言って、重桜は桜吹雪の中に消えていった。

 

「逃げられましたね」

 

「ああ」

 

「指揮官。エンタープライズをどう思います?」

 

「・・・・このままでは、危険だな」

 

「ええ、なんて痛々しいのでしょう・・・・」

 

カインの言葉に、イラストリアスが同意するように頷いた。

 

「ロイヤルとユニオン。重桜と鉄血。『四大国家』が二分してしまった、か・・・・」

 

≪何で、何でこうなっちまうんだよ・・・・!!≫

 

カインの隣に、赤いオーラを纏ったタイガの思念体が、押し殺したような声を上げた。

 

「(戦いの次に、また戦い、か・・・・)」

 

カインは知らなかった、今自分が思った事を、エンタープライズも思っていたことを。

 

『光の勇者 ウルトラマンタイガ』はまだ知らない。『青き悪意』もまた、この碧<アズール>の大海原に渦巻いている事をーーーー。




対立してしまった四大国家。どうなる次回?!


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【休憩】襲撃の後

ーーーー『艦船<KAN-SEN>』。

未知の敵、『セイレーン』に対抗する為に作られた、『人の形をした兵器』と呼ばれている。

その『艦船<KAN-SEN>』を創造したのがーーーー『メンタルキューブ』。『セイレーン』との戦いの中、人類にもたらされた未知の結晶体。

『艦船<KAN-SEN>』が結成した『アズールレーン』により、人類は海を奪還する事ができるようになったがーーーー今、『四大国家』の『重桜』と『鉄血』が、“セイレーンの力を取り込まん”とし、『レッドアクシズ』と言う同盟を組み、『アズールレーン』に反旗を翻した。

しかし、この星の人類と、各陣営の艦船<KAN-SEN>達はまだ知らない。

『この星から生まれた異常進化した巨大生物』。

『遥か宇宙の彼方からやって来る異星の悪党』。

そしてーーーー『青い悪意の影』が迫っている事を。

 

 

 

ーカインsideー

 

「(つまり・・・・“僕は元々重桜の、『海守トモユキ』指揮官だった”って事で良いんだな、タイガ・・・・?)」

 

≪ああ。記憶を失って精神が不安定になってたから、今まで何も言わないでおいたけど、重桜がこんなことになっているなら、カインに“トモユキだった頃の記憶”を取り戻して貰うしかないと思ってな・・・・≫

 

カインは今、重桜いや『レッドアクシズ』からの襲撃を受け、それにより負傷した艦船<KAN-SEN>達を救助する饅頭達に指示を飛ばしながら、自身と同化し、現在は妖精のように小さな思念体となっている『光の勇者 ウルトラマンタイガ』から、自分の失われた記憶についての事を聞いていた。

 

「(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)」

 

≪やっぱり、戸惑うよな?≫

 

「(正直、いまだにピンと来ないが、とりあえず1つ聞きたい)」

 

≪なんだ?≫

 

「(僕は・・・・『海守トモユキ』は、“重桜がアズールレーンを脱退する事”をどう思っていた?)」

 

≪もちろん。“トモユキは脱退に反対派の筆頭”だったぜ。トモユキは、【『セイレーン』と言う脅威が去っていないのに、人類同士で内輪揉めをやってるなんて馬鹿馬鹿しい】って常に、重桜の艦船<KAN-SEN>のみんなに言ってたからな≫

 

「(そうか。それだけ聞ければ良いさ・・・・。それにしても、今回はエンタープライズのおかげで救われたな)」

 

≪ああ。アイツ、スゲェな≫

 

「(だが、危うい)」

 

≪えっ?≫

 

カインの言葉に、カインの肩に乗ったタイガが首を傾げるように声を発した。

 

「(彼女は強い。それに、迷いは無いように見えるが・・・・)」

 

≪???≫

 

「(己を省みない者に、力を持つ事はできない・・・・。今の彼女じゃ、『アレ』は使えないな)」

 

≪『アレ』か・・・・でも、『ロイヤル』のみんなは大半ができるんだよな?≫

 

タイガの声を聞きながら、カインは自分の左の手の甲に刻まれた、『薔薇のような痣』に目をやる。

 

「(・・・・『アレ』が何なのか、正直僕にも分からないが。あ、ウェールズ達が来る。少し静かにしてくれタイガ)」

 

≪分かった≫

 

タイガとの会話を終えたカインに、プリンス・オブ・ウェールズとイラストリアス、そしてグリーブランドが近づく。

 

「指揮官。お疲れ様でした」

 

「イヤ、済まないなウェールズ。少々面倒をかけたようだ」

 

「いえ、気にしなくて良い。と言いたい所だけど、これを教訓に気まぐれ行動は控えてほしいものだな」

 

「善処するよ。イラストリアスも、着任早々にお疲れ様・・・・」

 

「それは指揮官様も同じですよ。気にしないでください」

 

ウェールズが少しやれやれと、肩をすくめ、イラストリアスがたおやかな笑みを浮かべてそう言うと、カインは二人の背後にいる艦船<KAN-SEN>に目を向けた。

先程指揮した艦<KAN-SEN>の1人、『ユニオン所属 クリーブランド級軽巡洋艦一番艦クリーブランド』だ。

 

「はじめまして、クリーブランド。改めて、僕は本日から指揮官となった、カイン・オーシャンだ」

 

「はじめまして、指揮官。私はクリーブランド、海上の騎士だ! さっきの指揮のおかげで助かったよ!」

 

「ああ、そう言ってもらえると嬉しいよ。こちらとしても、『ユニオン』の精鋭チームのリーダーが仲間になってくれて心強いよ」

 

カインが握手を求めるように手を差し出すと、クリーブランドはその手を快く取ってくれた。

 

「アハハ! そうかなぁ!」

 

「もちろん。それに、可愛い女の子が来てくれた事にもね」

 

「か、可愛い・・・・!///////」

 

カインが「可愛い」と言った瞬間、爽やかに笑っていたクリーブランドの頬が紅く染まる。

タイガは≪(やれやれ始まった・・・・)≫と、内心ため息を吐いた。

 

「? どうしたんだい?」

 

「いや、その、『格好いい』って良く言われるんだけど、『可愛い』なんて、始めて言われたから・・・・」

 

「そうなのかい? 『ユニオン』の人達は見る目がないんじゃないか? 確かに『格好いい』って感じもあるけど、クリーブランドはこんなに『可愛い女の子』なのに」

 

「か、可愛い、女の子っ!!?///////」

 

カインが可愛いと言うと、クリーブランドは頬だけでなく、顔や耳まで真っ赤になって俯く。

 

「あの、その、ええっと・・・・///////」

 

「ん? どうしたんだい?」

 

「あ、あの! 私! ちょっと他のみんなの方に行ってくるから!!」

 

真っ赤になった顔を隠しながら、クリーブランドは握手を離して、そそくさとその場を去っていった。

 

「あんなに慌てて、他の艦船<KAN-SEN>のみんなが心配なんだな」

 

「「・・・・・・・・・・・・」」

 

呆れた様子で、ウェールズが半眼となり、イラストリアスは苦笑いを浮かべていた。

 

「・・・・それにしても、やられたわね」

 

溜息混じりに話を変えようと、ウェールズが双眼鏡を覗き込んで、救助されている艦船<KAN-SEN>達を眺めながら呟いた。

 

「『重桜』に先手を打たれた・・・・」

 

「『重桜』が『鉄血』と手を組む事は予想されていた事です。でも・・・・」

 

イラストリアスが見据える先にあった。小島に建てられた寺院に刺さった『セイレーンの鑑載機』と『セイレーンの量産型艦船』が霞のように消えた。

 

「『セイレーン』の力、それがどれほど危険か、分かっているのか」

 

「・・・・ウェールズ。イラストリアス」

 

「はっ」

 

「はい」

 

カインの言葉に、二人は答える。

 

「復旧を急ごう。第二陣が来ないとも限らないから、ウェールズは動ける艦船<KAN-SEN>達を集めて防備を固める準備をしてくれ」

 

「了解」

 

「イラストリアスは、動ける艦船<KAN-SEN>達から、怪我をしてなく、もしくは軽傷で、それでいて足の速い子達を集めておいてくれ」

 

「足の速い子達、ですか?」

 

「おそらく、『重桜』の攻撃はまだ終わっていない」

 

「「っ!!」」

 

カインの言葉に、ウェールズとイラストリアスは息を飲んだ。

 

「お兄ちゃん・・・・! イラストリアス姉ちゃん・・・・!」

 

そこで、ゆーちゃんを抱えたユニコーンが現れた。

 

「あぁユニコーン。お疲れ様。よく頑張ったな」

 

カインですユニコーンの頭を優しく撫でると、ユニコーンはほんのり頬を赤くなり、嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

「うん・・・・! ユニコーン、頑張ったよ、お兄ちゃん。ジャベリンちゃんとラフィーちゃんも、頑張ったんだよ・・・・」

 

「そうか、それじゃジャベリンとラフィーにも労いに行かなきゃな」

 

「うん・・・・!」

 

カインはユニコーンと手を繋いで、ジャベリンとラフィーの元へ向かい、ウェールズとイラストリアスも、二人の後に続きながら、艦船<KAN-SEN>達に連絡を取っていた。

 

 

 

 

ージャベリンsideー

 

ジャベリンとラフィーが母港の港に戻り、艤装を解除すると、艤装はそれぞれの艦船の形に戻った。

 

「はぁ・・・・全員無事みたいで良かったね」

 

ジャベリンはラフィーに向けて声をかけるが、ラフィーはずぶ濡れの身体で大の字で横になり、動かなかった。

 

「(チーーーーーーン・・・・)」

 

「って! 大丈夫ラフィーちゃん!?」

 

「駄目かも・・・・眠い・・・・くぅ・・・・」

 

顔を向けたラフィーは、眠そうな重い瞼を閉じそうになる。

 

「こんなところで寝ないで! よいしょっ!」

 

うつ伏せに倒れるラフィーをジャベリンが仰向けにして身体を起こさせ、肩を貸して歩き出した。

するとちょうど良く、カイン達と合流した。

 

「ジャベリンちゃん! ラフィーちゃん!」

 

「あっ、ユニコーンちゃん! 大丈夫? ケガ無い?」

 

「うん、大丈夫!」

 

「ジャベリン。ラフィー。良くやってくれた」

 

「あっ・・・・」

 

カインの言葉に、ジャベリンは先ほど相対していた艦船<KAN-SEN>、綾波の事を思い浮かべた。

 

「あ、あの! 指揮官!」

 

指揮官に声を発そうとしたジャベリンだが、ラフィーが肩からずり落ち、その際ジャベリンの服の肩紐を掴み、ジャベリンの服がずり落ち、以外と発育したトップレスが露になった。

 

「えっ? あっ、あぁっ! あぁぁぁぁぁ!!」

 

「っ・・・・!////」

 

「うぉっ・・・・!」

 

「「・・・・・・・・」」

 

≪わっ! わっ! わわっ!/////≫

 

ジャベリンが両手を交差してその場にしゃがみこみ、ユニコーンが顔を赤くし、カインが目を奪われそうになるが、後ろに控えていたウェールズとイラストリアスが左右から目を塞ぎ、タイガは慌てて両手で目を隠して身体を反らした。

 

「うぅっ! ちょっと! ラフィーちゃん!!」

 

「眠い、お腹すいた、だるい・・・・」

 

ジャベリンが怒鳴るが、ラフィーは眠っているのか、身体を仰向けにすると、ラフィーの服もずり落ち、片乳が露になる。

 

「わわわわわわわ!!」

 

ジャベリンが慌てて、ラフィーの服を直した。

 

「疲れたでしょう? もう休むと良いわ。さ指揮官様、参りましょう」

 

「あのさ。だったら手を離してくれないかな?」

 

ウェールズとイラストリアスに両目を塞がれたまま、カインはその場を去ろうとし、ユニコーンも続いた。

 

「あ、あの・・・・!」

 

「ジャベリン。言いたい事は分かるが、今は休むことだ」

 

「休憩も任務の内だぞ」

 

そう言って、四人はその場を立ち去った。

 

「・・・・・・・・」

 

「・・・・飲まないとやってられない」

 

しょげるジャベリンの横で、ラフィーが『酸素コーラ』をイッキ飲みした。

 

 

 

ークリーブランドsideー

 

カイン達と別れたクリーブランドは、艦船の修復作業を行う饅頭達の手伝いをしていた。

 

「ふぅ、船の修復も、手が回らないよ・・・・」

 

ふと辺りを見ると、自分の船を沈められて泣き崩れている『サンディエゴ』が目に入った。

 

「あちゃー。せめて『工作艦』がいてくれたらなぁ・・・・。ん?」

 

さらに目を向けると、港に立って海を眺めているエンタープライズがいた。

クリーブランドはエンタープライズに近づく。

 

「おーい、エンタープライズ! 休んだ方が良いよ! さっきの戦闘で、かなり無茶してたじゃないか!」

 

「・・・・問題ない」

 

「そんな訳無いだろ・・・・!」

 

クリーブランドの言葉に、エンタープライズは素っ気なく答えたが、エンタープライズの船に目を向けると、船体がボロボロの状態となった、痛々しい姿が見えた。

 

「緊急修理は済ませた。まだしばらくは戦えるさ。・・・・あっ」

 

「あっ! ほら見たことか!」

 

移動しようとしたエンタープライズだが、足元がよろけ、クリーブランドが駆け寄る。

が、エンタープライズはクリーブランドの手をソッと払う。

 

「敵はまだ近くにいる。警戒を解く訳にはいかない・・・・!」

 

「・・・・・・・・あぁもう!!」

 

自分の身を鑑みないエンタープライズに、クリーブランドは地団駄を踏んだ。

 

 

 

ー加賀sideー

 

その頃、アズールレーン母港から離脱途中の赤城と加賀と綾波。

赤城は朱傘を広げた縁台に、団子と救急箱を置き、加賀の手当てをしていた。

 

「ほら、じっとしてなさい」

 

「ね、姉様・・・・近いです・・・・」

 

赤城はお互いの息がかかりそうな程に顔が近づけ。思わず顔を背ける加賀。

しかし、赤城はそれを許さなかった。

 

「ほら、顔にも怪我してる」

 

「姉様、この程度の傷で大袈裟な・・・・」

 

しかし赤城は止めない。かすり傷でも見逃さずように、過保護な検診を続いた。

 

「ダ~メ。せっかく“指揮官さま”が生きている事が解ったのに、加賀の綺麗な顔に傷が残ったら指揮官さまが悲しむわ」

 

すると赤城は、加賀の顔にある傷を消毒するかのように加賀の頬を舐めた。

 

「うっ、それは、そうですが・・・・しかし、姉様。指揮官が“記憶を失っている”と言うのは、本当だと思いますか?」

 

加賀の言葉に、赤城は当然と言わんばかりに笑みを浮かべる。

 

「ウフフ、当然よ。そうでなけれ指揮官さまが赤城と敵対するだなんてあり得ないもの。あぁ、おいたわしい指揮官さま。指揮官さまが記憶を失っている事を良いことに、アズールレーンのお邪魔虫達に利用されているのよ。指揮官さまを取り戻すためにも、身体は大事にしなくちゃダメよ加賀」

 

「はい姉様。指揮官を取り戻すためにも、私も全力を尽くします」

 

「ええそうよ加賀。指揮官さまは必ず取り戻すわ。ウフフフ、ウフフフ!」

 

赤城の狂気を帯びた笑みを浮かべるが、加賀は少し顔を曇らせた。

 

「へぇ〜あれが『海原の軍者』と言われた、『海守トモユキ指揮官』なの」

 

「っ!!」

 

不意に頭上から聞こえた声に、加賀は過敏に反応して、縁台から弾けるように飛び出て、声のした方を睨むと、アンテナマストに座る一人の艦船<KAN-SEN>がいた。

 

「あら? お邪魔だったかしら?」

 

銀色の長髪をツーサイドアップにし、前髪の一房に赤いメッシュが入っている少女が機械でできた2頭の龍の艤装を背面から伸ばし、加賀達を見下ろしていた。

 

『鉄血所属 重巡洋艦 プリンツ・オイゲン』

 

鉄血の艦の証である赤と黒と灰色を中心とした無骨な衣装を纏い。プリンツ・オイゲンのアレンジなのか露出は多く、スカートがあるのかないのか、分からないくらい丈は短く、レオタードのような服の線から先は、脚部が全面的に露出し太ももを大胆に晒す形になっており、ガーターベルトが露出していた。

プリンツ・オイゲンは蠱惑的な笑みを浮かべて声を発する。

 

「貴様・・・・!」

 

「そんな怖い顔しないでよ。“仲間”じゃない。 貴女達『重桜』と私たち『鉄血』は?」

 

加賀は、プリンツ・オイゲンを静かに睨むと、彼女が言った“仲間”と言う単語に、妙な薄っぺらさを感じた。

かつて『トモユキ指揮官』が言った“仲間”と、目の前の艦船<KAN-SEN>が言う“仲間”が、天と地ほどの差があると心から感じた。

 

「(やはり苦手だこいつは・・・・)」

 

内心渋面を作っている加賀の心境を察してか、赤城が甲板に降り立ったプリンツ・オイゲンに向けて、『黒いメンタルキューブ』を取り出して口を開く。

 

「もちろんですわ。私たちは“同じ理想を掲げる同志”。全ては、『レッドアクシズ』の勝利のために」

 

明らかに社交辞令のような赤城の物言いに、プリンツ・オイゲンも織り込み済みと言わんばかりの態度で返す。

 

「ふ~ん。それにしても大したものね。量産型とはいえ“セイレーンの船を意のままに操る”なんて。これも“例の計画”の成果?」

 

「全ては神の思し召しですわ」

 

「でも随分と慎重なのね。あのまま基地を一気に潰してしまえばよかったのに」

 

赤城が縁台から離れ、プリンツ・オイゲンは縁台に置かれた団子を一本取り、舐めるように食べていく。

加賀は内心、「なんて行儀の悪い」と、悪態をついた。

 

「妹が傷ついて怖くなっちゃった?」

 

「くっ・・・・!」

 

加賀への侮辱なのか、プリンツ・オイゲンが加賀を一瞥してそう言った。

加賀はプリンツ・オイゲンを殴ってやろうかと近づくが、赤城がソッと制した。プリンツ・オイゲンはそれを愉快そうに眺めて口を開く。

 

「フフフ。それにしても、行方不明だった指揮官が目の前にいたのに、何もしないで帰るだなんてね」

 

「ふふっ。急いては事を仕損じると言う言葉がありますの。それに慌てなくとも、あのお方は自分からこちらに接触してきてくださるはずですわ。だって、あのお方の本来の居場所は『アズールレーン』などではない。『重桜』なのだから・・・・!」

 

赤城は笑っていた。その目にはもう離さないと訴えるような色を帯びていた。

そして赤城は、激しく損傷した加賀の船を一瞥する。

 

「それに3つ。気になる事が起きましたの。『あの船』と『巨人』、そして『巨大な異形』。この事をすぐに本国に報告しなければなりません」

 

「『ユニオン』のエンタープライズ、別名『グレイゴースト』。『宇宙の守護者』と呼ばれるウルトラマン。異常進化の生命体、通称『怪獣』。確かに厄介ね」

 

プリンツ・オイゲンが食べ終えた団子の串をプラプラと弄びながら呟くと、赤色の紙飛行機が赤城に近づき、声が響いた。

 

《先輩見つけました。別動隊です》

 

「綾波の報告通りだな」

 

「じゃぁ、もうちょっとだけ『嫌がらせ』をしましょうか。やれるわよね五航戦? 未熟な貴女達でも、このくらいの『お使い』なら、ね?」

 

《・・・・了解》

 

紙飛行機はそう返事すると、その場で燃えて消えた。

すると、赤城はプリンツ・オイゲンに一礼する。

 

「さて、武名高き『鉄血』のプリンツ・オイゲン様に、お頼み申し上げます」

 

「五航戦が『食い残し』を見つけた。見逃す手はない」

 

「お恥ずかしながら私、後輩達が心配で心配で・・・・。『鉄血』の皆様にご協力してもらえたら、こんなに心強い事はありませんわ」

 

「ふ~ん・・・・」

 

いけしゃあしゃあとそう言う赤城に、プリンツ・オイゲンは縁台から立ち上がり、赤城の足元に団子の串を投げ指し、加賀は、クッと唇を噛む。

 

「ま、良いわ。うちの『Z23<ニーミ>』とあの『綾波』って子を連れていくわよ」

 

「ええ。お手並み拝見ですわね」

 

プリンツ・オイゲンはそのまま悠然と歩いていく。

『重桜』と『鉄血』。一応の同盟を組んだ両者の間には信頼はなく、“打算による同盟”と言うのが明らかに見えていた。

 

 

 

ー綾波sideー

 

その日の夕方、綾波は自分の船で海に沈む夕焼けを眺めていると、近づく艦船<KAN-SEN>が現れた。

 

「綾波」

 

赤と紺と白を基調にした金の縁取りの美しいコートを身に着けて、腕にはアームカバーと腕章、手には白い手袋を嵌め、コートの下はハイネックタイプの水着。

頭にはベレー帽と鉄十字のヘアアクセサリーを付けた、見るからに優等生然とした少女。

 

『鉄血所属 駆逐艦 Z23<ニーミ>』である。

 

「ニーミ・・・・」

 

「出撃命令です。私達について来て下さい」

 

「また、戦闘・・・・?」

 

「はい。基地を離れていた敵艦隊です。帰還する前に叩きます」

 

「・・・・敵・・・・」

 

綾波の脳裏に、アズールレーン基地で出会ったジャベリン達の事、そして、カイン・オーシャン指揮官の顔がよぎった。

 

「・・・・戦闘は嫌いじゃないけど、好きじゃないです・・・・」

 

「い、いきなり我が儘言わないでください!」

 

「ニーミは戦うの好きですか?」

 

「・・・・好きも嫌いもありません。任務を遂行する事が、私達の義務ではないですか?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

ニーミは綾波から目を離して、夕日を見据える。

 

「私達は艦船<KAN-SEN>です。戦う為にこそ、私達は生まれたのですから・・・・」

 

ニーミの言葉に、綾波は昔の事を思い出していた。

もう数年も前になるのに、綾波には遥か昔の事のように、妙に懐かしくなる言葉。

 

「綾波も、昔はそう思っていたです・・・・。でも、【つまらない生き方だな】って、言われたです」

 

「? 誰にですか?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「あ、綾波??」

 

ニーミが綾波を見ると、悲しみを堪えるような、切なそうな顔をした綾波の瞳からは、静かに涙が流れていた。

 

「・・・・・・・・・・指揮官に、『海守トモユキ』指揮官にです」

 

 

 

ーカインsideー

 

その頃。アズールレーン母港の『指揮官の執務室』。

カインが秘書であるウェールズと被害報告書などの書類と格闘していると、通信機を持って来たイラストリアスが執務室に入室してきた。

 

「指揮官さま。『陛下』と連絡がつきましたわ」

 

「そうか、ありがとうイラストリアス」

 

カインがイラストリアスから通信機を受け取り(その際、イラストリアスの豊満なバストがブルンっと揺れ、深い谷間がかいま見えて、眼福と思ったのは割愛する)。

通信機を机に置くと、通信機から光が出て、その光から、優雅に椅子に座りながら紅茶を飲んでいる貴族、と言うより、王族のような衣装を着た少女の映像が映し出された。

 

《あら『下僕』。何かあったのかしら?》

 

「ご無沙汰してます『女王陛下』。こちら、貴女の可愛い下僕ですけど。折り入って『陛下』に少しばかりのお願いがあるんです」

 

いきなり『下僕』と呼んだ少女に怒りを覚えず、カインは『次の一手』を打とうとしていた。

 

 



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【対話】何の為に戦う?

今回の話で、艦船<KAN-SEN>に『オリジナル能力』を付けます。


ーカインsideー

 

カインは書類仕事を終えると、まだ挨拶を済ませていない艦船達と対話するために外を歩き回りながら、『ロイヤル』や『ユニオン』の艦船<KAN-SEN>達と話をしていた。

話を終えると、ノンビリと母港を歩きながら、タイガと心の中で会話する。

 

≪良いのかカイン? 『女王陛下』さんに“あんな頼み”しちゃってさ?≫

 

「(まぁ、確かにウェールズとイラストリアスに大反対されたけどな。でも、セイレーンだけでなく、怪獣なんて存在が現れたんだ。このまま艦船<KAN-SEN>同士で内輪で戦いだなんて不毛だろう)」

 

≪まぁな・・・・(それに、“アイツ”の存在も気がかりだしな・・・・)≫

 

タイガは、“トモユキが記憶を失いカインとなった原因”の事を考えていた。

 

「(・・・・タイガ、ちょっと向こうに行こうか?)」

 

≪ああ≫

 

指揮官である以上、艦船<KAN-SEN>達に話しかけられるので、タイガとの会話は綾波と会った丘でする事にした。

ーーーーが、先客が二人いた。ジャベリンとラフィーがシートを広げて昼食を取っていた。

 

「ーーーーあの子、元気かなぁ・・・・」

 

「ん?・・・・あぁ、綾波って言ってた・・・・アムアム」

 

「綾波ちゃん、かぁ・・・・」

 

「随分黄昏ているね?」

 

「えっ?・・・・あっ! 指揮官っ!?」

 

「やっ。ここ良いかな?」

 

「良いよ」

 

「は、はいっ!」

 

指揮官であるカインの登場に驚くジャベリンだが、カインは二人のシートの隣にハンカチを広げて腰を落とした。するとラフィーが眠そうな眼をカインに向ける。

 

「指揮官もお昼ご飯?」

 

「まぁね。それで、どうしたんだジャベリン? 重桜の綾波の事が気になるのかい?」

 

「えっと、その・・・・指揮官。やっぱり、戦わないといけないんですか? 綾波、ちゃんと・・・・」

 

「フム・・・・指揮官としての立場上、おいそれと答える訳にはいかないが・・・・。ジャベリン自身はどうなんだい?」

 

「っ、わ、私は・・・・」

 

ジャベリンが口を開こうとすると、バサッと音が聞こえ、頭上を見上げると、一匹の鷹が飛んできて、近くの枯れ木に止まった。

 

「あの鳥・・・・」

 

見たことある鷹だと思うと、エンタープライズがやって来て、鷹はエンタープライズの肩に止まった。

 

「あっ、エンタープライズさん!」

 

「・・・・・・・・指揮官か?」

 

エンタープライズは話しかけたジャベリンに視線を向けた後、カインの方を見据える。

カインも立ち上がって、エンタープライズに向けて声を発する。

 

「はじめましてエンタープライズ。この母港の指揮官をする事になった、カイン・オーシャンだ。どうだい? 少し話をしないか?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

エンタープライズはカイン達の近くに行くと、そのまま立ち尽くし、頭の上を鷹が飛んでいた。

 

「「・・・・・・・・・・・・」」

 

「≪(お、重い・・・・!)≫」

 

「モグモグ・・・・」

 

重い沈黙がその場を包み、さっきから一言も喋らないカインとエンタープライズ。タイガとジャベリンはこの沈黙に息苦しさを感じるが、ラフィーは何とも思わないと言わんばかり、昼飯のバーガーを食べていた。

 

「あ、え、エンタープライズも食べますか?」

 

遂に沈黙に耐えられなくなったのか、ジャベリンがお昼ご飯のサンドイッチが入ったバスケットをエンタープライズに差し出した。

 

「いや、結構だ」

 

「ああ・・・・」

 

が、断れてしまった。

 

「エンタープライズが食べないなら、僕にくれないかジャベリン?」

 

「えっ? あ、はい! どうぞ指揮官!」

 

「ありがとう。・・・・・・・・うん。美味しいよジャベリン」

 

「えへへへ」

 

カインがバスケットからサンドイッチを取り出して頬張って言うと、ジャベリンは嬉しそうに笑った。

 

「・・・・エンタープライズ。ケガしてる?」

 

「≪えっ?≫」

 

「・・・・・・・・」

 

ラフィーが言った言葉に、ジャベリンとタイガは驚き、カインはラフィーの洞察力に感心した。

 

「・・・・分かるか? どうやら直りが遅いらしい」

 

「ええっ! ちゃんと直さないと!」

 

「最低限の措置はしている。心配は無用だ」

 

「あのね。指揮官として言わせてもらうが、最低限の措置程度で、次の任務をやらせる訳にはいかないよ」

 

「っ!」

 

「敵は『セイレーン』だけじゃない。この間の、異常進化した生命体、『怪獣』だって現れたんだ。艦船<KAN-SEN>達には常に万全の状態にしておいて貰わないと作戦行動にも支障を来す。そんな初歩的なミスをしないで欲しい。エンタープライズ、君は治療が済むまでは母港で待機。これは命令だ。」

 

「・・・・・・・・」

 

カインの言葉に、エンタープライズはカインの静かに見据えるが、カインはその視線を見つめ返す。

 

「(エンタープライズさん、ユニオン最強の人、こういう人だから強いのかな。でも・・・・)」

 

ジャベリンは意を決して、エンタープライズに声を発する。

 

「エンタープライズさんは、どうしてそこまでして戦うんですか!」

 

「っ・・・・おかしな事を聞く子だな。私達は『戦う為に生まれた存在』だ。その事に疑問は無い」

 

「・・・・『つまらない生き方』だな」

 

「なんだと?」

 

カインがそう言うと、エンタープライズは訝しそうにカインを見る。

 

「『つまらない生き方』だって言ったんだ。『戦う為』? せっかく人の身体を得たんだから、『戦う』以外の『生き方』だってあるだろう。なぁラフィー?」

 

「んー、ラフィー、眠い時やる気でない」

 

「ラ、ラフィーちゃん!!」

 

『酸素コーラ』をグビグビと飲むラフィーに、カインはウムウムと頷く。

 

「ラフィーみたいに、寝たいときは寝る。お腹減ったらご飯を食べる。『酸素コーラ』を飲みたくなったら飲む。こう言う『生きる事』を堪能している方が、『生きてる』って感じがあるな。ラフィーは『戦う』以外の事をちゃんと心得ているよ」

 

「・・・・・・・・」

 

カインはラフィーの考えを肯定するが、エンタープライズはわずかに片眉を動かす。

 

「でもラフィー、友達虐められたら許せないから、そのときはちょっと本気出す」

 

「あぁ、それで良いんだよ。友達の為に戦うラフィーは正しいよ」

 

「おぉ~・・・・」

 

カインがラフィーの頭を撫でると、ラフィーは気持ち良さそうな声を上げ、カインはエンタープライズに目を向ける。

 

「エンタープライズ、君はどうなんだ? ラフィーは友達を守る為に戦う。君はなぜ戦う? 何の為に戦う?」

 

「・・・・・・・・私は・・・・・・・・」

 

エンタープライズは顔を俯かせ、それ以上の言葉を紡げなかったーーーー。

 

 

 

ーホーネットsideー

 

『アズールレーン基地』の近海。

新たに増援として派遣されるユニオンの艦船<KAN-SEN>達は、襲撃を受けた基地に向かって急いでいた。

 

「『ハムマン』、落ち着きなよ!」

 

小麦色の肌に水着のような衣装を着て、鍛え上げられた腹筋が見え、やや紫がかった黒髪に黄色い大きなリボンをつけた少女は、『ユニオン所属 重巡 ノーザンプトン』。

 

「のんびりしている場合じゃないのだ! ハムマン達の基地がピンチなのだ!!」

 

編隊を組んで海を進む艦隊の先頭を走るのは、白い髪に犬耳と尻尾をつけ、見るからに犬っぽい雰囲気のある少女、『ユニオン所属 駆逐艦 ハムマン』。

 

「あのー。だから敵艦隊は、すでに撃退したと報告が・・・・」

 

「急ぐのだーーー!!」

 

青と紫のグラデーションの長髪と、紫とピンクのこれまたグラデーションの瞳をした少女、『ユニオン所属 軽巡 ヘレナ』の言葉を遮り、ハムマンはさらにスピードを上げた。

 

「元気だな。昨日からあのテンションだよ」

 

「幽霊さん、もうダメ、ヘトヘト・・・・」

 

呆れるノーザンプトンに同意するのは、足の膝まで届く黒いスーパーロングヘアーにスカイブルーの瞳を持ち、大き過ぎて腕の裾が垂れている制服を着て自らを『幽霊さん』と自称するこの少女は、『ユニオン所属 軽空母 ロング・アイランド』。

 

「敵を退けたのは、『ロイヤル』から転属された指揮官が指揮をとって、あの武勲艦、エンタープライズのようですね」

 

薄幸そうな表情をし、青い服装をし、黒髪のロングストレート、白いタイツをはき、帽子を被った少女、『ユニオン所属 戦艦 アリゾナ』。

 

「エンタープライズって、『ホーネット』。貴女の・・・・」

 

アリゾナの言葉に、ノーザンプトンは自分の横を走る艦船<KAN-SEN>に目を向けた。

 

「いや~。凄い姉を持つと、大変だわ~」

 

陽気に答えたのは、黒一色の服装と言うよりも、白い肌にナイスバディの肢体に、黒ビキニとホットパンツと扇情的な格好に、裏地が黄色の黒いマントを肩にかけ、見るところ、スズメバチのようなカラーリングに、金髪のツインテールにテンガロンハットを被った少女、『ユニオン所属 空母 ホーネット』。エンタープライズの姉妹艦である。

 

「なに呑気におしゃべりしてるのよ! 敵がくるかもしれないでしょうっ!!」

 

「ま、ハムマンの言うことも一理あるよね。急いだ方が良さそうだ!」

 

ハムマンに急かされ、ホーネット達もスピードを上げた。

 

ーーーーキン・・・・!

 

が、その時、ヘレナの髪にアクセサリーとして付けている『SGレーダー』が異変を検知した。

 

「っ! みんなっ!」

 

「ヘレナ? っ!!」

 

「あぁ、ちょっと遅かったようだね!」

 

ホーネット達が立ち止まると、眼前に、2隻の空母が立ち塞がった。

 

『重桜所属 空母 翔鶴』と『重桜所属 空母 瑞鶴』だ。

 

「『重桜五航戦』・・・・!」

 

「うぅっ、強そうだよ・・・・」

 

「雑魚どもめ、このハムマンがやっつけてやる!」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

ホーネットは2隻の空母を見据えて、渋面を作っていた。

 

 

 

ー翔鶴sideー

 

「あぁ、可愛そうな私達! あんな意地悪な先輩<赤城>に目をつけられるなんて! そう思わない? 瑞鶴?」

 

泣き真似をしながら赤城に対する毒を吐くのは、鶴を彷彿させる着物に身を包んだ長い銀髪の女性、『重桜所属 空母 翔鶴』。

翔鶴は妹艦でもある瑞鶴に目を向けると、瑞鶴は先輩である赤城に悪態をつく姉に向けて口を開く。

 

「真面目にやろうよ翔鶴姉。この戦いで一航戦の先輩に、私達の実力を認めさせなくちゃ!」

 

「もう、瑞鶴は本当に素直なんだから・・・・。それで、本当なの? “指揮官がアズールレーン側にいたって”?」

 

『海守トモユキ指揮官』の所在を翔鶴が聞くと、瑞鶴は顔を俯かせて頷いた。

 

「うん・・・・間違い無いよ。遠目だったけど、あれは間違いなく指揮官だった・・・・」

 

「・・・・指揮官が今の重桜の有り様を見たら、どれだけ失望するかしらね・・・・?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

少し辛そうに呟く姉と同じように、瑞鶴も顔を曇らせた。

“重桜がアズールレーンを脱退する事に反対していた派閥の筆頭だったトモユキ指揮官”。

もちろん五航戦の二人も、一航戦の赤城と加賀もその事は重々承知だった。

だが、トモユキ指揮官が行方不明となってから、少しずつ、そして確実に、重桜艦隊に行く道が歪み初めている事に、翔鶴も瑞鶴も薄々気づき始めていた。

 

「でも、やるしかないんだ・・・・。指揮官がアズールレーン側に行ったんなら、無理矢理でも、殴ってでも連れて帰る! そうすれば、重桜もきっと、きっと元に戻るはずだよ!」

 

指揮官が戻って来てくれれば、また皆で笑い合い、騒がしくも楽しかった、あの頃の重桜に戻れるかもしれないと、瑞鶴はそんな一縷の希望を信じていた。

妹のそんな純粋な心情を察したのか、翔鶴も肩をすくめてから、口を開いた。

 

「まぁ確かに。指揮官が戻ってきてくれれば、あの性格の悪い赤城先輩も少しは大人しくなるかも知れないわね。・・・・それじゃ瑞鶴! お姉ちゃんが守ってあげるから! 行きましょうっ!」

 

「うん! お姉ちゃんがいれば、何も怖くないっ!!(だから、少しだけ待ってて指揮官! 絶対に、絶対に連れて帰るから!!)」

 

翔鶴が笛を、瑞鶴が刀を抜刀して、空母を艤装へと変換し、戦闘を開始したーーーー。

 

 

 

ーカインsideー

 

昼食を終えたカインは、執務室に戻ると同時に、『ユニオン』の増援部隊が重桜の五航戦と遭遇した事を報告され、主要メンバーを集めた。

 

「ホーネット達の援護には、クリーブランドを旗艦に、『ユニオン』艦船<KAN-SEN>達と、『ロイヤル』の艦船<KAN-SEN>の一部を追加して向かわせよう。ウェールズ、『陛下』達には?」

 

「『陛下』達も指揮官の指示通り、既に向かっています」

 

昨日の内に手を打っておいたカインは、ウェールズの報告を聞いていると、執務室の扉が乱暴に開かれ、扉からイラストリアスとユニコーンがやって来た。

『ロイヤル淑女』と言ってもいいイラストリアスの慌てた様子を見て、カインは嫌な予感がし、イラストリアスが発した言葉を聞いて、それが的中した。

 

「指揮官さま! クリーブランド様がエンタープライズ様を追って・・・・!」

 

「やっぱりか、たくっ・・・・! ウェールズ、僕も出る。母港の指揮は任せるぞ」

 

「了解しました。指揮官、お気をつけて」

 

「ああ」

 

『指揮官専用 量産型艦船』の元に向かいながら、カインはジャベリンとラフィーに連絡をする。

 

「ジャベリン。ラフィー。『ユニオン』の増援部隊が重桜に攻撃を受けている。クリーブランドとエンタープライズが向かっているが、エンタープライズは損傷がまだ直っていない、すまないが護衛を任せるぞ!」

 

《り、了解しました!》

 

《状況了解・・・・》

 

二人との通信を切ると、カインは『とある艦船<KAN-SEN>』に連絡を入れた。

 

「『ベル』、聞こえるかい? 『ベル』・・・・」

 

《はい。如何なさいましたか? 『ご主人様』》

 

「少し厄介な事態になった。できるだけ急いで向かってくれ。いざとなったら『アレ』を使う事も許可する」

 

《承知いたしましたご主人様。では、〈ノブレス・ドライブ〉。解禁いたします》

 

カインは、“記憶を失ってから一番お世話になった艦船<KAN-SEN>”に連絡した。

 

 

 

 

ー???sideー

 

薄暗い通路の中を“ある異形”が歩いていた。青い蝉のような姿をしたその“異形”は、『マーキンド星人』。

 

『さぁ~て、『オークション』の始まりですよぉ~』

 

マーキンド星人は、通路の先にある光が漏れていた出口に向かって歩き出していった。

 

 




オリジナル能力・〈ノブレス・ドライブ〉。どんな能力かは、次回で解禁で。


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【高貴】気高く輝く心

艦船のみんなに〈オリジナル能力〉をつけます。


ーエンタープライズsideー

 

カイン指揮官から『待機命令』を降されていたエンタープライズは、ボロボロの身体を押して『アズールレーン基地・近海』に向かっていた。

 

「エンタープライズ! 先走るなって! 指揮官が事前に編成も整えているんだから!」

 

「事態は一刻を争う!・・・・ぐぅっ!」

 

報せを聞いてすぐに出撃したエンタープライズ。近くには偶然一緒にいて、エンタープライズの行動を見て共に出撃したクリーブランドしかいなかった。

が、痛みで身体がよろけるが、歯を食いしばり、なんとか身体を立て直すが、身体はもはや限界であろうというのは明らかであった。

 

「やっぱりダメージが残ってるじゃないか! こんなの無茶だよ! 指揮官にも待機してろって言われたんだろ!?」

 

「『ホーネット』は私の妹だ・・・・!」

 

ユニオンの増援艦隊の中に、妹のホーネットもいるというのを知っていたから、一目散に出撃したのだ。

 

「っ・・・・。エンタープライズ・・・・なんだ、人間らしいとこあるじゃないか・・・・仕方ない、付き合うよ」

 

「クリーブランド・・・・」

 

「私も、妹が沢山いるんだ・・・・気持ちは分かるよ。・・・・でも、せめて護衛艦がいてくれればな・・・・」

 

その時、後ろから接近してくる2つの艦影か現れた。

 

「ラフィーも行く・・・・」

 

「指揮官に指示されて来ました! 皆を助けに行きましょう!」

 

ラフィーとジャベリンが合流した。

 

「あ、さすが指揮官! OK!」

 

クリーブランドはジャベリンとラフィーに向けてウインクして親指を立てた。

 

 

ーホーネットsideー

 

そしてホーネット達は、たった二人の『五航戦』によって、ホーネット以外はほぼ戦闘不能状態になった。

 

「ブクブク・・・・」

 

「なの~・・・・」

 

ーーーー♪~♪~♪~♪~♪~♪~

 

「この笛の調は亡者を沈める鎮魂曲」

 

戦場に不釣り合いな笛の音色が鳴り響くと、翔鶴から発艦された艦載機がホーネット目掛けて爆撃をかけるが、ホーネットは何とか回避していたた。

 

「くっ! 防戦一方ってのは! 性に! 合わないんだけどなぁ!!」

 

ホーネットは次々と向かってくる艦載機の攻撃を必死に回避していると、爆撃機で大きな水しぶきで視界が塞がれ、動きが止まった。

 

「貰ったぁ!!」

 

「っ!! しまった・・・・!」

 

その隙を見逃さず、瑞鶴が刀を抜いて、ホーネットに斬りかかったーーーー。

 

「!? くぅっ!!」

 

「はっ!」

 

間一髪のところで、艦載機が機銃を斉射して瑞鶴に迫り来て、刀を振り回して機銃の弾を斬る迎撃行動を即座に取る瑞鶴。翔鶴も妹に起きた事を見て、笛の演奏を一旦止めた。

その隙に、ホーネットはなんとか避けることができた。

 

「姉ちゃん!」

 

「行け!」

 

「ありがとう姉ちゃん!」

 

上空にいた瑞鶴がエンタープライズの姿を捉えた。

 

「来たかグレイゴースト! はぁっ!!」

 

そして重桜の瑞鶴はエンタープライズに突撃を試みる。

瑞鶴の刀を、エンタープライズはアーチェリーで防ぐ。

 

「ユニオン最強空母! エンタープライズ!!」

 

「・・・・・・・・っ!!」

 

「相手にとって不足無し!!」

 

間合いを開けた両者が、刀と弓を構えた。

 

「いざ! 尋常に勝負!!」

 

「・・・・・・・・」

 

 

 

ーホーネットsideー

 

ホーネットは瑞鶴と相対する姉を心配そうに見るが、前に視線を送ると、倒されていた仲間達が、クリーブランドと友軍艦であろう駆逐艦二人に助けられ、そして『量産型艦船』に乗る指揮官らしき軍服を着た若者が目に入った。

 

「ホーネット!! 助けに来たよー!!」

 

「ナイスタイミング。間一髪だったよ・・・・」

 

クリーブランドと合流したホーネットは、指揮官であろう若者に目をやった。

 

「クリーブランド。その人が?」

 

「ああ! 私達『アズールレーン』の指揮官。カイン・オーシャン指揮官だよ!」

 

「初めましてホーネット。仲間達を守りながら、良く戦ってくれた。MVP級の戦果だ」

 

「あ、ありがとう、指揮官・・・・」

 

ホーネットは気が抜けたのか、少し体制を崩すが、クリーブランドが慌てて支える。

 

「クリーブランド。負傷した艦船<KAN-SEN>達を僕の船に乗せてくれ。すぐにこの海域を抜けるぞ」

 

「えっ? 指揮官、戦わないの?」

 

「クリーブランドも分かっているだろう。本来ならエンタープライズは戦える状態じゃない。今にボロが出る。負傷者も多い。ここは・・・・っ! 全艦退避っ!」

 

「fɔʏər<フォイヤ>!」

 

カインが叫ぶと同時に、上空から砲撃が放たれ、クリーブランド達も回避するが、カインの船は回避が間に合わず、砲撃の余波で船体が揺れた。

 

「ウフフフフ」

 

上空にいる蠱惑的な笑みを浮かべる銀髪の少女。

 

「指揮官! あれって・・・・!?」

 

「鉄血所属、アドミラル・ヒッパー級重巡洋艦3番艦の、『プリンツ・オイゲン』だったな。いよいよ鉄血も参戦って訳か。まったくめんどくさい・・・・!」

 

「Guten Tag<グーテンターク>。私たちとも遊んでよ。アズールレーン」

 

そう言ったプリンツ・オイゲンの足元に、『セイレーン』の『量産型艦船』が現れ、その隣に艤装を展開したZ23<ニーミ>が現れた。

 

「任せてもいいかしら、ニーミ?」

 

「(コクン)」

 

ニーミが前に出て、艤装を構えた。

 

「鉄血駆逐艦、Z23と申します。あなた達はここで倒します」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

そしてニーミの隣に綾波が現れた。

 

「あ・・・・綾波ちゃん・・・・!」

 

「・・・・・・・・」

 

ジャベリンとカインが、綾波を見つめるが、『量産型艦船』にいるカインの姿を確認した。

 

「っ・・・・。指揮官を、返してもらうです・・・・!」

 

綾波はジャベリンから目を伏せようとしたが、艤装の対艦刀を構えた。

 

「綾波」

 

「っ!!」

 

カインが声を発すると、対艦刀を構えた綾波の手が震える。

 

「僕が指揮官ならば、重桜がアズールレーンを脱退する事に良い顔はしなかったと思うけど?」

 

「っ・・・・! 指揮官が、指揮官が戻ってきてくれれば、重桜は元通りに、なるです・・・・!」

 

綾波は震える手を押さえて、対艦刀を構えた。

 

「指揮官。皆を連れて撤退して」

 

「えっ、ラフィーちゃん!?」

 

ラフィーが前に出て、殿を買って出た。

 

「自ら殿を買ってでますか・・・・。敵ながら敬意に値します」

 

Z23が、銃口をラフィーに向ける。

 

≪どうするんだよカイン!?≫

 

「(撤退するにしても、目の前の鉄血と綾波を何とかしないとな・・・・)」

 

《ーーーーご主人様》

 

カインが思考を巡らせようとすると、耳の通信インカムから、涼やかな声が響いた。

 

「おっ『ベル』。流石に仕事が早いな? 今どの辺りだい?」

 

《はい。もう間もなくです》

 

 

ーエンタープライズsideー

 

その頃、エンタープライズは斬りかかってくる瑞鶴の攻撃を防ぐので精一杯だった。

 

「くっ!!」

 

「貰ったぁっ!!」

 

瑞鶴の一撃でバランスを崩し、仰向けに倒れそうになるエンタープライズに瑞鶴が追撃しようとしたその瞬間ーーーー。

 

「ダメ! 瑞鶴!!」

 

「っ!!」

 

翔鶴の静止の声が聞こえ、瑞鶴もその訳を理解した。

倒れそうになったエンタープライズが、弓矢を瑞鶴に向けていたからだ。

 

「!!」

 

「くっ!」

 

エンタープライズが放った一矢を紙一重で上空に払うが、一矢が艦載機へと変わり、瑞鶴を押さえたエンタープライズごと、爆弾を投下した。

 

「む、無茶苦茶だ・・・・っ!!」

 

ーーーードゴォォォォォォン!!

 

水柱が上がる中から瑞鶴が出ると、すかさずエンタープライズが瑞鶴を蹴り飛ばす。

 

「うわぁっ!!!」

 

瑞鶴は海面を跳ねながらもボロボロになった身体を起こす。

 

「くっ・・・・! なんてヤツ・・・・!!」

 

瑞鶴に視線を向けて、エンタープライズが弓を構えた。

 

 

 

ーカインsideー

 

「・・・・指揮官。戦うしか、ないんですか?」

 

「出来ることなら、こんな戦いなんてやりたくないんだけどね」

 

「アラアラ、『海原の軍者』とまで言われた“『重桜』の指揮官”とは思えないわね。悩んじゃって可愛い」

 

プリンツ・オイゲンがジャベリンに聞こえないような声量で呟いた。

 

「っ・・・・あら?」

 

が、その時思わぬ事態が起こった。

なんと、“ラフィーが艤装の砲身を折り畳んだのだ”。

 

「な、何のつもりですかっ!?」

 

「ラフィー・・・・」

 

ニーミとカインが、ラフィーの行動に驚いた。

 

「・・・・やっぱり気が乗らないから止める」

 

「なっ・・・・! あ、あなたふざけてるのですかっ!? 真面目にやりなさいっ!!」

 

「えっ、えっ、ええっ???」

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

ラフィーの行動にニーミが怒鳴り、ジャベリンやクリーブランド達も唖然となった。

 

「おいおいラフィー」

 

「指揮官も気が乗らないよね?」

 

「・・・・ま、確かにな」

 

「えぇっ!? 指揮官までもですかっ!?」

 

「し、指揮官ともあろう方が何を言ってるんですかっ!!」

 

カインの言葉にニーミが今度はカインに怒鳴り、ジャベリン達も愕然となった。その時ーーーー。

 

ーーーードォォォォォォォォォンンッ!!

 

全員が後方の戦闘に目を向けると、エンタープライズの猛攻で瑞鶴が追い込まれていった。

 

「エンタープライズさん、凄い・・・・!」

 

「っ! エンタープライズ! そこまでだっ! やめろーーーーーーーーっ!!」

 

『っ!!?』

 

カインが突然大声でエンタープライズを静止しようとするのと同時に・・・・。

 

ーーーーピキピキ、ガジャーーーーン・・・・。

 

なんと、エンタープライズの弓矢が音を立てて砕けた。

その一瞬の隙を見逃さず、瑞鶴は戦闘機を発進させると、戦闘機が炎となって、瑞鶴の刀身に纏った。

 

「うおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

雄叫びを上げてエンタープライズに迫る瑞鶴。

 

「不味い・・・・!」

 

《ご主人様。到着しました》

 

「っ! 『ベル』!!」

 

 

 

ーエンタープライズsideー

 

「貰ったぁっ!!」

 

「(ここまで、なの・・・・か・・・・?)」

 

艤装も損壊し、瑞鶴の炎を纏った刀身が迫り、いよいよ『死』を覚悟した。その時ーーーー。

 

「失礼いたします」

 

「!?」

 

戦場に似合わない涼やかな声が響くと同時に、エンタープライズの目の前に入り、瑞鶴の一撃を腕を交差して防いだ一隻の艦。

 

「なっ!?」

 

「な、なんなのアンタはぁっ!?」

 

絹のような精細な白髪、フリルに彩られたステレオタイプのメイド服、首には小さく破断した鎖を垂らしたチョーカーを首輪のように身に付け、凛としていながらも、どこか柔和さと艶やかさを兼ね備えた瞳をした艦船<KAN-SEN>が、交差した腕をほどきながら瑞鶴を離した。

 

「通りすがりの、『メイド』でございます」

 

『ロイヤル所属 エディンバラ級軽巡洋艦 二番艦ベルファスト』であった。

 

《よく来てくれた。『ベルファスト』》

 

「はい。ご主人様」

 

「っ! 指揮官・・・・!!」

 

ベルファストが視線を向けた方に目を向けた瑞鶴が、カイン指揮官を見て愕然とした。

 

「っ、本当に・・・・指揮官だわ・・・・!」

 

翔鶴も、カイン指揮官を見て、『トモユキ指揮官』だと確信した。

瑞鶴がカインの元に向かおうとするが、ベルファストが艤装の対空砲を放って止めた。

 

「ちぃっ! 邪魔をするなアズールレーン!!」

 

「申し訳ありませんが、ご主人様に危害を加えるようならば、お相手をするしかありません」

 

「何が『ご主人様』よ! ぐぅっ!」

 

「瑞鶴!」

 

翔鶴が海上に降りて、ボロボロの瑞鶴を支える。

 

「指揮官を、“私達の指揮官を返せ”っ!!」

 

「何をおっしゃっているのか存じませんが、主人の身を守るのも、メイドの務めなのですよ」

 

「何がメイドよ! 変な冗談を・・・・っ」

 

「大マジメなのよ、そいつは・・・・」

 

エンタープライズ達がいる地点の上空に、プリンツ・オイゲンが現れ、ベルファストを見下ろす。

 

「『ロイヤルエディンバラ級軽巡洋艦ベルファスト』ーーーーふざけた格好をしていても『ロイヤル』の中でも歴戦の強者よ。甘く見ないことね」

 

「ご機嫌麗しゅうございます。『鉄血』のプリンツ・オイゲン様。このような場所で会うとは奇遇でございますね」

 

「そうね・・・・、『鉄血』と『ロイヤル』。遠く離れたこの海で、決着をつけるのも悪くないわね」

 

プリンツ・オイゲンがそう言って手を上げると、プリンツ・オイゲンの下に、武装した『量産型艦船』が数隻出現した。

 

「おやこれは・・・・」

 

「ウフフ。『鉄血』の総統曰く、【鉄血の科学力は世界一ぃッ!】との事でね、これくらいは当然よ」

 

余裕の笑みを浮かべるプリンツ・オイゲンが、艤装の砲身を起こすのを見て、ベルファストが、チラッとカイン指揮官を見ると、カインの口の動きと通信が耳に響く。

 

《・・・・・・・・行け、ベルファスト!》

 

「・・・・承知しました、ご主人様。少々お待ち下さいませ」

 

ベルファストはエンタープライズを一瞥すると、少し目をつむると、カッと開いたその瞳が、一瞬金色に輝き。

その瞬間ーーーーーーーー。

 

「〈ノブレス・ドライブ〉!」

 

ベルファストがそう言った瞬間、ベルファストの身体が金色の光を纏った。

 

『っ!!?』

 

それを見て、エンタープライズだけでなく、『鉄血』も、『重桜』も、『ユニオン』の艦船<KAN-SEN>達も見た、その金色の輝きをーーーー。

 

「では、参ります!」

 

そう言ったベルファストは残像を生み出すほどの加速を見せると、『量産艦』に向けて主砲を放つと、その一撃で呆気なく『量産艦』の船体を貫き、次々と撃破していく。

 

「なっ! なんなんだ、あの、輝きは・・・・!」

 

エンタープライズは、光輝きながら敵を撃破していくベルファストに目を奪われた。

いや、エンタープライズだけでない、ジャベリンもラフィーも、クリーブランドもホーネット達は勿論、『重桜』と『鉄血』の艦船<KAN-SEN>達も目を奪われた。

 

「これが、わたくし達『ロイヤル』と、指揮官であるご主人様が生み出した、艦船<KAN-SEN>の新たな可能性の力ーーーー〈ノブレス・ドライブ〉です!」

 

「〈ノブレス・ドライブ〉・・・・!」

 

 

 

 

 

ーカインsideー

 

≪(〈ノブレス・ドライブ〉。艦船<KAN-SEN>達の力を爆発的に上げる能力か)≫

 

「(タイガ。彼女達は確か、『翔鶴』と『瑞鶴』だな。どんな子達だった?)」

 

≪あっ、ああ、えっと、翔鶴は頭が良くて結構な毒舌家で、赤城とは仲悪い感じがしたな。瑞鶴は真っ直ぐな性格をしてて、俺は好感を持ってたぜ≫

 

「(フム。毒舌家な姉と実直な妹か・・・・。『鉄血』のZ23は生真面目な優等生って感じで、プリンツ・オイゲンは腹に何かを秘めた感じだな)」

 

新たに現れた艦船<KAN-SEN>達の性格を分析していたカイン。

 

≪んっ・・・・! カイン! 上空に怪獣の気配だっ!!≫

 

「なにっ!」

 

カインが上空を睨むと、『青い球体』が降りてきていた。

 

 

 

ーマーキンド星人sideー

 

『それでは皆様!! これから登場する怪獣のご活躍をご覧下さいませっ!!』

 

ーーーーパチパチパチパチパチパチ・・・・!

 

カイン達の星の衛生軌道上に鎮座する宇宙の犯罪者組織『ヴィラン・ギルド』の宇宙ステーションでは、あらゆる星からやって来た犯罪者宇宙人達が、『ヴィラン・ギルド』の『怪獣オークション』を楽しんでいた。

 

『さて本日の商品怪獣は! 『初代ウルトラマン』が初めて戦った怪獣! 『宇宙怪獣 ベムラー』です!!』

 

《ギュワァアアアアアアアアアアアアアッ!!》

 

ーーーーおぉぉぉぉっ!!

 

カイン達がいる海域に落ちてきた『青い球体』が、背中に刺を付けた細長い怪獣となった時、オークションに来ていた客達から、盛大な拍手が起こった。

 

 

 




ー〈ノブレス・ドライブ〉ー

艦船<KAN-SEN>達の起動力、攻撃的、防御力、武器の破壊力を一時的に上げる能力。所謂『トラ◯ザム』状態。
発動には条件があり。
1つ:カイン(トモユキ)指揮官とお互いに、“心からの信頼関係”を結んでいる。
2つ:艦船<KAN-SEN>自身の精神と肉体が一定のレベルに到達する。
現在ではカインと交流を持ち、信頼関係を得た『ロイヤル』艦船<KAN-SEN>だけ発現している。

『ロイヤル』では、『女王陛下』、『陛下の剣』、『ロイヤル淑女』、『ロリコン』、『ロイヤルメイド(ほぼ全員)』、プリンス・オブ・ウェールズ、イラストリアス、ユニコーンである。
一番最初に発現したのは、ユニコーン。最後に発現したのは、ベルファストである。

〈ノブレス・ドライブ〉のモデルは、『千◯士』の〈◯対◯貴〉。


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【悪意】青い影は不気味に踊る

ーカインsideー

 

「(タイガ、あれも怪獣か?)」

 

≪ああ! あれは『宇宙怪獣ベムラー』! 凶暴な宇宙の怪獣だ!≫

 

タイガの話を聞いて、カインは一瞬苦虫を噛んだような顔になるが気持ちを切り替えて、クリーブランドに目を向ける。

 

「・・・・・・・・クリーブランド。ホーネット達を僕の船に収容し終えたら、すぐにエンタープライズを拾って来てくれ」

 

「拾うって、指揮官、言い方が酷いんじゃ・・・・」

 

「待機命令違反。自分のコンディションと艤装の整備を疎かにして自壊。そんなドアホにはこういう扱いで十分だ」

 

「で、でもさ、エンタープライズは妹のホーネットの事が心配だったからで・・・・」

 

「それでエンタープライズが轟沈してしまったら、元も子もないだろう。エンタープライズが沈んで、悲しむ子達がいない訳じゃ無いんだからな」

 

「おっしゃる通りです・・・・」

 

自分もエンタープライズを焚き付けた手前、それ以上言えなくなったクリーブランドは、他の艦船<KAN-SEN>を連れて、指揮官の量産型に避難させる。

カインは、綾波とZ23<ニーミ>を見据える。

 

「レッドアクシズ。これ以上の戦闘行為を無意味だ。君たちもすぐに退避しろ」

 

「・・・・・・・・」

 

Z23がチラッとプリンツ・オイゲンを一瞥するとーーーー。

 

「・・・・確かに。こんな事態では潮時ね。引くわよニーミ。綾波って子もよ」

 

「・・・・了解。いいですか! 次に会うときはそのいい加減な態度! 反省してもらいますからね!」

 

「むにゃ・・・・ふわぁ~・・・・」

 

「~~~~~~っ! 行きますよ綾波っ!!」

 

肩をすくめてそう言ったオイゲンに従うニーミは、ラフィーを指差して言うが、ラフィーはマイペースに欠伸をしうつらうつらと頭を揺らしていた。ニーミは肩を怒らせて綾波を連れて去ろうとするが、綾波は悲しそうな眼差しでカインを真っ直ぐに見つめていた。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・また会おうな、綾波」

 

「綾波。バイバイ、またね」

 

「っ・・・・!」

 

カインとラフィーの言葉に、綾波は少し顔を俯かせて、ニーミと共に去っていった。

 

「あ・・・・」

 

ジャベリンは綾波に何か言いたそうな顔をしていたが・・・・。

 

『ギュァアアアアアアアアアアアアアアッ!!』

 

「あっ!!」

 

ベムラーの雄叫びで現実に戻ると、ベムラーが口から青い熱線を空に向けて放出していた。

 

「ジャベリン! ラフィー! すぐに退避しろ!」

 

「り、了解!」

 

「了解~・・・・」

 

「ふつうに運ぶのだ~・・・・」

 

倒れた姿勢で、ラフィーに腕を引っ張られながら運ばれるハムマンが文句を言うが、ラフィーは気にせず運んでいった。

クリーブランド達がホーネット達を収容するのを確認したカインは、通信インカムで連絡をする。

 

 

 

 

ーベルファストsideー

 

ベルファストも〈ノブレス・ドライブ〉状態のまま、眼前に現れた山のように巨大な生命体、怪獣を見上げた。

 

《ベル》

 

「はい、ご主人様」

 

《すまないが、エンタープライズを収容する為に、クリーブランドとジャベリンをそっちに向かわせる。レッドアクシズも撤退するようだが、それまでの時間稼ぎを任せたい。・・・・できるかい?》

 

「お任せください」

 

《・・・・いつもありがとう。ベルには苦労を掛けるよ》

 

「ウフフ、ご主人様のご命令を遂行するのは、メイドとして至極当たり前の事ですわ」

 

《そうか。それでも、もう一度言わせてくれ、ありがとうベル》

 

ベルファストが少し頬を染めてカインの言葉を耳に浸透させると、すぐに気持ちを切り替えて、ベムラーに向けて艤装の砲口を向けた。

すると、近くにいた瑞鶴が翔鶴に支えられながらベルファストに向けて口を開く。

 

「あ、アンタ、まさか、戦うつもり?!」

 

「ご主人様から、時間を稼げとご命令を受けましたので。レッドアクシズの皆様も、すぐに撤退をおすすめ致します。この怪獣は私が・・・・」

 

『ギュァアアアアアッ!!』

 

言い終わる前にベムラーがベルファストに向けて熱線を吐き出し、ベルファストの姿が熱線に呑まれ、海面は沸騰されて小さな水蒸気爆発が起こった。

 

「あ・・・・っ!」

 

「うわっ!」

 

「きゃっ!」

 

エンタープライズと瑞鶴と翔鶴が、爆発によって生まれた波に揺られる。上空にいたプリンツ・オイゲンも、ベルファストが蒸発したか、と一瞬考えたが、その考えはすぐに消えた。なぜならーーーー。

 

「こちらの会話の途中に攻撃を仕掛けたくるとは、少々お行儀が良くないですね」

 

なんと、ベムラーの真横にいつの間にかベルファストが悠然と立っていた。

 

「では、失礼します!」

 

ベルファストは艤装の砲口から火を吹かせ、ベムラーの身体に砲撃を叩き込む。〈ノブレス・ドライブ〉状態となったベルファストの砲撃は金色のエネルギー弾となり、ベムラーの身体を押し飛ばす。

 

『ギュワァアアアアアアアッ!?』

 

ベムラーは思いもがけない攻撃に身体をぐらつかせるが、身体の体制を元に戻すと、金色に輝きながら鋭い視線で自分を見上げるベルファストを見下ろして睨んだ。

先ほどの攻撃は、足元にいるこの生き物がやった、と本能が告げた。

 

『ギュァアアアアアアアッ!!』

 

それを理解したベムラーは、標的をベルファストに定めて、青い火炎弾を連続で放った。

 

「っ!」

 

が、ベルファストを残像が残るほどの高速の動きで火炎弾を回避すると、ベムラーに向けて再度砲撃を放った。

 

『ギュゥゥゥゥゥゥゥッ!!』

 

砲撃がベムラーの身体に当たると、痛みをこらえるような声を上げるベムラーはさらに火炎弾を放ち続ける。

 

「当たりません・・・・!」

 

通常の状態では回避する事が難しいが、ベルファストは現在〈ノブレス・ドライブ〉状態。ベムラーの攻撃は口からの熱線と火炎弾と尻尾による攻撃と見抜いているようで、冷静にベムラーに対処していた。

 

 

 

ー瑞鶴sideー

 

「す、すごい・・・・」

 

「・・・・プリンツ・オイゲンさん。ロイヤルのメイドさんはあんな能力を持っていたのかしら?」

 

「いいえ、私が知っている限り、ベルファストにあんな能力はなかった筈よ」

 

瑞鶴達は、自分達の十数倍の大きさの怪獣と渡り合っているベルファストの戦いぶりに目を奪われていた。

 

「翔鶴さん、瑞鶴さん・・・・」

 

「あ、ニーミ。綾波も無事だったのね」

 

「はい・・・・。それにしても、あれが異常進化生命体、『怪獣』ですか。鉄血もその存在は知っていましたが、こうして間近で見ることになるまで半信半疑でした」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

ニーミがベルファストと交戦しているベムラーを見て、戦慄したように呟き、他の艦船<KAN-SEN>達も怪獣やベルファストの光輝く姿を見つめるが、そんな中、綾波だけはアズールレーンの方にいるカインとジャベリンとラフィーの方をチラッと見ていた。

 

 

 

ーエンタープライズsideー

 

「エンタープライズ!!」

 

「エンタープライズさん!」

 

ヨロヨロと立ち上がるエンタープライズに、クリーブランドとジャベリンが駆け寄り肩を貸す。

 

「すぐにここから退避するよ」

 

「待って、くれ・・・・」

 

「エンタープライズさん?」

 

エンタープライズは、怪獣と交戦するベルファストを、いや、正確にはベルファストが起こした〈ノブレス・ドライブ〉と言う状態を目に焼き付けていようとしていた。

 

 

 

ーカインsideー

 

ホーネット達を船頭の甲板に座らせ、ベルファストとベムラーの交戦を見ていたカインは、通信インカムでベルファストに連絡する。

 

「ベル。クリーブランドとジャベリンがエンタープライズを確保した。切りの良いところで離脱してくれ」

 

《了解しましたご主人様》

 

「それで、〈ノブレス・ドライブ〉で怪獣との戦闘はどうだ?」

 

《何とか戦えていますが、正直〈ノブレス・ドライブ〉状態でも私一人では牽制が限界です。・・・・間もなく『陛下』達も到着しますが》

 

「いや、『陛下』達が来ても怪獣と交戦する事はない。あくまで僕達はホーネット達の救援が目的なんだ。わざわざ怪獣と戦う必要はないよ」

 

《しかし、このまま怪獣を放置しておくのは危険と具申します》

 

「・・・・分かった。しかし無茶はするなよ」

 

《承知しました》

 

ベルファストとの通信を終えると、カインは『量産型』の船橋に足を向ける。

 

「指揮官、どこに行くの?」

 

「船橋に行って、エンタープライズ達が戻ったら、機を見てベルファストを回収して離脱する準備をしておく。ホーネット達は休んでてくれ」

 

「う、うん・・・・」

 

「指揮官・・・・」

 

「ん?」

 

「気を付けてね」

 

「あ、ああ」

 

小さく手を振るラフィーの言葉に、苦笑いを浮かべたカインは船橋へと向かった。

 

 

 

 

≪なぁ、もしかしてラフィーって気づいているのか?≫

 

「さぁね。それよりもタイガ、行くよ!」

 

≪ああ!≫

 

カインは『タイガスパーク』を起動させた。

 

[カモン!]

 

腰につけた『タイガキーホルダー』を左手に掴むと、宇宙のようなインナースペースが広がっていた。

 

「光の勇者! タイガ!!」

 

カインは左手に持った『タイガキーホルダー』を突き出すと、右掌に翳すように持ってくると、タイガキーホルダー』の中心の水晶から、赤いエネルギーが右掌を通して、手甲の水晶に吸収されると、水晶が赤く輝き、『タイガキーホルダー』を握る。

 

「バディィィィィィィゴーーーーーー!!」

 

[ウルトラマンタイガ!]

 

『ーーーーシュアッ!!』

 

ザパァァァァァァァァァァァァンンッ!!

 

光の勇者、ウルトラマンタイガがベムラーとベルファストの間に入った。

 

 

 

ーホーネットideー

 

「な、なななな、なんなのだぁ! あの巨人はっ!?」

 

「あれはウルトラマンタイガ・・・・」

 

「あれが、宇宙からやって来た光の戦士?!」

 

すでに前回のヘルベロスとの戦闘を聞いていたホーネット達も、初めて見るウルトラマンの姿に、驚嘆したような声を上げていた。

 

 

ーベルファストsideー

 

「あれはーーーー」

 

《ベル。ウルトラマンが現れた。すぐに離脱するんだ》

 

「ご主人様・・・・」

 

《それに、“もうそろそろ時間切れだろう”?》

 

「・・・・・・・・承知致しました」

 

少し不満気味だが、ベルファストは〈ノブレスドライブ〉を解除し、通常の姿に戻ると、疲労感から小さいが長い吐息も漏らした。

 

《君のお陰でアズールレーンの仲間達だけじゃない。レッドアクシズの艦船<KAN-SEN>達の離脱する距離と時間を稼げたんだ。流石はベルファストだ》

 

「・・・・ありがとうございます。ご主人様」

 

不満気味だった心が、指揮官であるカインの言葉で少し晴れたのを感じたベルファストは、そんな自分を少しおかしく思ったのか薄く笑みを浮かべると、離脱しようとしているエンタープライズ達と合流した。

 

 

 

ー綾波sideー

 

「っ! ウルトラマン・・・・!」

 

「えっ!? あれがウルトラマンなんですか?!」

 

「「・・・・・・・・」」

 

「へぇ~、あれが・・・・」

 

綾波がタイガを見て呟き、ニーミや翔鶴と瑞鶴がタイガを見上げ、プリンツ・オイゲンが興味深そうにタイガを見ていた。

 

 

 

ータイガsideー

 

『ギュワアアアアアアアアアアッ!!』

 

『ハァッ!』

 

ベムラーはタイガに向けて青い火炎弾を連続で放つ。

だが、タイガはその攻撃を跳んで回避した。

回避された火炎弾はタイガの後方で爆発する。

 

『『タイガキック』!!』

 

跳んだタイガはベムラーに向けてキックを放つ。

 

「ギュウウッ・・・ギュガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

怯んだベムラーは火炎弾を乱射してタイガに放つ。

 

『『スワローバレット』!』

 

しかしタイガは『スワローバレット』を放ち、火炎弾を打ち消していった。

 

『ギュアアアアアッ!』

 

『ハァッ! シュワッ! テヤッ!』

 

迫ってきたベムラーに、膝蹴りと肘打ちや回し蹴りを繰り出し、ベムラーを怯ませた。

 

『ギュゥゥアアアアアアアアッ!!』

 

ベムラーは渾身の力を込めてティガに火炎波をぶつけようとする。

 

『(カイン! この間手に入れた『怪獣リング』を使ってみようぜ!)』

 

『「・・・・ふん!」』

 

インナースペースにいるカインは、難しい顔をしながら左手の握り拳を上げると、中指に『ヘルベロスリング』を召喚すると、禍々しいオーラを放つリングを見て渋面を作る。

 

『「・・・・何か、禍々しいオーラが見えるんだが」』

 

『(でも、使ってみないとどんな力なのか分からないぜ?)』

 

『「・・・・仕方ないか」』

 

[カモン! ヘルベロスリング! エンゲージ!]

 

インナースペースにいるカインの隣にヘルベロスの幻影を浮かぶと、タイガの腕から赤黒い光刃が現れる。

 

『ふっ! 『ヘルスラッシュ』!!』

 

『グゥワアアアアアアアアアアアッ!!』

 

『へルスラッシュ』を浴びたベムラーは吹き飛び、海面に倒れた。

 

 

 

 

ー???sideー

 

「・・・・・・・・」

 

海面の上に立っていた青年は、離れた場所で倒れるベムラーを見て、ニヤ~と不気味な笑みを浮かべると、懐から折り畳まれた形状のマスクを取り出し、それが覆面マスクのように展開し、眼鏡のように当てると、グリップのように持ってボタンを押した。

その時、黒い靄のようなオーラが青年を包み込みーーーー。

 

 

 

ーカインsideー

 

『っ! この気配はっ!?』

 

タイガが倒れるベムラーから目をそらすと、ソコ現れた青い巨人を見て驚愕した。

青い身体に胸の水晶には×印のプロテクターに身体には鎧を身に付け、全身に拘束具を付けたような姿。

顔には仮面のようなものを被り、額にクリスタルをつけた仮面の瞳は血のように真っ赤になっており、足のつま先の先端が反り返るような形状をしている。顔の輪郭や耳の形は鋭く伸び、道化師のようにも見える巨人。

 

『トレギアッッ!!!!』

 

〈ウルトラマントレギア〉。

 

『久しぶりだね。まさかこんな形で再会するとは思わなかったよ』

 

トレギアのその慇懃無礼な不気味さは、艦船<KAN-SEN>達も気味悪そうにしていた。

 

 

ーラフィーsideー

 

「ま、また巨人が現れたのだっ!」

 

「ウルトラマンみたいな見た目だね・・・・」

 

「・・・・・・・・ちがう」

 

「ラフィー??」

 

タイガの戦闘を見ていたハムマンとノーザンプトンがトレギアを見て驚き、他の艦船<KAN-SEN>達も見ていたが、ラフィーだけがいつもの眠そうな眼を心無しか鋭くしたような視線でトレギアを睨み、ホーネットがそれに気づいて首を傾げた。

 

「・・・・あの大きいの、たぶん敵」

 

いつもの抑揚の無い声に僅かに緊張をはらんだように呟いた。

 

 

ージャベリンsideー

 

「あ、あの、ウルトラマンさんって、タイガってウルトラマンさんの仲間なんですか?」

 

「いや、何か違うようだけど」

 

「「・・・・・・・・」」

 

エンタープライズとベルファストは、トレギアを訝しそうに見ていた。

 

 

ー綾波sideー

 

綾波は他の艦船<KAN-SEN>達と同じようにトレギアを見ていた。

恐ろしいほどに不気味なトレギアに、一筋の汗を流した。

 

 

ーカインsideー

 

『「・・・・・・・・コイツは・・・・」』

 

カインの脳裏に、見覚えの無い光景が過った。

 

ーーーー腹を貫かれた“友達”。

 

ーーーー“友達”の腹を貫く不気味な腕。

 

ーーーーそして、腕に付いた“友達”の血を振り払う、“目の前のトレギア”・・・・。

 

 

『「あ、あぁ・・・・!!」』

 

『トレギア・・・・!!』

 

『『「うぉああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」』』

 

カインとタイガの声が重なり、トレギアに接近すると次々と拳を繰り出すが、トレギアはその拳を受け流し、タイガの拳を掴むと後ろに回り込んだ。

 

『おや、ずいぶん気が立っているな? どうした海守トモユキ指揮官? いや、今はカイン・オーシャン指揮官だったかな』

 

『「・・・・分からない。でも、お前を見ていると、無性に怒りが混み上がってくる・・・・!!!」』

 

『フフフ。この世界は矛盾に満ちている。戦いを終わらせると言いながら、戦いを終わらせる事ができず、すぐに新たな戦いを続ける。宇宙には、昼も夜も、善も悪も無いのだよ。あるのはただ『真空』。底知れぬ『虚無』・・・・』

 

『「っ! 黙れっ!!」』

 

トレギアはタイガの正面に回ると、掌底打ちをタイガに叩きつけた。

 

『フッ!』

 

『『「ぐぁっ!!」』』

 

叩きつけられたタイガは水飛沫を上げながら倒れる。

 

『その人間もお前と同じでまだまだ未熟だな。『ウルトラマンタロウの息子』よ?』

 

『ぐぅぅ! 俺は、タイガだっ!! 『ストリウムブラスター』!!』

 

『フッ!!』

 

タイガの『ストリウムブラスター』を、トレギアは両手に集めた黒い稲妻で押し返した。

 

『何っ!? ぐぁあああっ!!』

 

再びタイガは海面に倒れた。

 

『くぅっ、カイン! 『ロッソレット』を、使え・・・・!!』

 

『「よしっ!」』

 

[カモン!]

 

カインの左手首に、赤いブレスレット、『ロッソレット』を召喚し、タイガスパークに読み込ませた。

 

[ロッソレット! コネクトオン!!]

 

『ロッソレット』から3筋の赤い色の光がタイガスパークの中心に集まった。

赤いエネルギーに包まれたタイガの身体が、『兄弟ウルトラマンの兄・ウルトラマンロッソ・フレイム』と重なった。

 

『フッ! 『フレイムブラスター』!!』

 

タイガは炎を纏った『フレイムブラスター』を放った。

 

『おっと』

 

するとトレギアは、当たる瞬間、手から黒い稲妻をヨロヨロと立ち上がろうとしたベムラーに向けて放つと、ベムラーの身体は宙を浮いて、『フレイムブラスター』を受けてしまった。

 

『ギュァアアアアアアアアアアアアアアッ!!』

 

『なんだとっ!!』

 

『「アイツっ!!」』

 

ベムラーは断末魔の雄叫びを上げて、そのまま爆散した。

 

ージャベリンsideー

 

「か、怪獣を盾にしたっ!?」

 

先ほど戦っていた相手だが、こんな酷いやり方に、ジャベリンだけでなく、アズールレーン、レッドアクシズ、双方の陣営の艦船<KAN-SEN>達は、トレギアに鋭い視線を送った。

 

 

ータイガsideー

 

ピコン! ピコン! ピコン!・・・・。

 

タイガのカラータイマーが鳴り初め、爆発が止むとその場にトレギアの姿はなかった。

 

ーーーーフフフフ・・・・!

 

『『「なっ!!?」』』

 

上空からの声に反応すると、トレギアが空に浮き、その頭上に黒い靄の渦が現れ、その中に魔法陣が展開していた。

 

『中々骨のあった攻撃だったよ。流石はあの『兄弟ウルトラマンの兄』の方の力だね。これからが楽しみだ。・・・・では、この世の地獄でまた会おう』

 

トレギアが魔法陣をくぐると、渦もまた消滅した。

 

『くぅっ! トレギアーーーーーーーーッ!』

 

タイガはトレギアの名前を叫ぶと、赤い粒子となってその場から消えた。

 

 

 

ー綾波sideー

 

「あ・・・・」

 

「なんなの、あの青い仮面の巨人・・・・」

 

「・・・・ニーミ。あの巨人達の戦いは?」

 

「き、記録しておきました」

 

ニーミは戦闘記録を記すために、事前に持っていたカメラを取り出した。

 

「そう、『重桜』の皆さん。この場は引くわよ。そろそろ厄介な奴等も集まって来たしね・・・・」

 

プリンツ・オイゲンの視線を追う綾波達は、この場に向かってくる艦船<KAN-SEN>達の姿が映った。

 

「『ロイヤルの主力艦隊』よ。このままいたらこっちが危ないわ」

 

プリンツ・オイゲンがニーミを連れて去ろうとし、綾波達も急いで後を追った。

 

 

 

ーベルファストsideー

 

「あれは、いっ、たい・・・・!」

 

「「エンタープライズ(さん)!!」」

 

遂に力尽きたのか、エンタープライズは気を失った。

 

「クリーブランド様。ジャベリン様。エンタープライズ様をすぐにご主人様の船に」

 

ベルファストが冷静にそう言うと、二人も頷いて『指揮官専用』に向かった。

 

 

ーカインsideー

 

船に戻ったカインは難しい顔を浮かべていた。

トレギアを見た瞬間に過った光景、あれはおそらく『海守トモユキ指揮官としての記憶』であると察したからだ。

 

「タイガ・・・・アイツは・・・・」

 

≪ヤツは『悪に堕ちたウルトラマン』、ウルトラマントレギアだ≫

 

「・・・・どうやら、『セイレーン』や、『レッドアクシズ』と同じか、それ以上に厄介な事が動いているようだな・・・・」

 

カインは船頭に戻ると、エンタープライズを運んでくるベルファスト達。

そして『ロイヤルの主力艦隊』がこちらに向かってくるのが見えた。

『ロイヤル所属 戦艦 Q<クイーン>・エリザベス』。

『ロイヤル所属 戦艦 ウォースパイト』。

『ロイヤル所属 戦艦 フッド』。

『ロイヤル所属 軽巡 シェフィールド』。

『ロイヤル所属 軽巡 エディンバラ』。

 

「・・・・陛下達も来た。これでアズールレーンがようやく始動か。・・・・だが」

 

カインの思考は、あまりにもタイミング良く現れたベムラーと、不気味な雰囲気が漂うトレギアの存在が、どうしても危険だと警鐘を鳴らしていた。

 

「(・・・・やっぱり、行ってみるしかないな。『重桜』に)」



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【教導】その輝きは己の内に

ーカインsideー

 

『鉄血』のプリンツ・オイゲンとZ23<ニーミ>、『重桜』の翔鶴と瑞鶴、そして綾波。レッドアクシズとの交戦を終え、突如現れた『宇宙怪獣ベムラー』と交戦している最中に現れた青い巨人ーーーー。

 

ウルトラマントレギア。

 

あまりにも異質な不気味さを漂わせた存在。

そしてカインの『海守トモユキとしての記憶を失った元凶』だと後でタイガに聞いた。

カインはトレギアに警戒心を持ったが、母港に戻ると『ユニオン』と『ロイヤル』の増援部隊の着任手続き。負傷した『ユニオン』の艦船<KAN-SEN>達の治療。損傷した艤装の修理。怪獣とウルトラマントレギアとの遭遇やらの報告書作成と仕事に追われ、トレギアの事は頭の片隅に一時置いておいた。

ようやくそれらの作業を終わらせた翌日。

 

「(・・・・ツ、ツラい・・・・っ!!)」

 

≪耐えろ! 耐えるんだトモユキ!!≫

 

カインは自制心をフルに使い、タイガが声援を送っていた。

それと言うのも、ロイヤルの寮に向かう為に車に乗り込んだカインに、ウェールズとイラストリアスもカインを挟んで後部座席に座ってついてきたのだ。

 

「(・・・・これは、かなり刺激的過ぎる・・・・!!!)」

 

左を見れば、ウェールズの凛々しい美貌と軍服に包まれた凶暴な胸部装甲と白いニーソに包まれた美脚とミニスカートが織り成す絶対領域が目に入り。

右を見れば、女神のように麗しい美貌のイラストリアスの暴力的な胸部装甲が薄いワンピースに包まれ、その白く深い谷まで見える上に、豊麗なプロポーションが目と鼻の先にあった。

カイン(年齢おそらく20歳前後)に、ウェールズもイラストリアスも20歳前後の容姿。そんな三人が車の後部座席に横に並んでいるのだから、身体はほぼ密着状態となる。

しかも、車が僅かに揺れるだけで、左右の狂暴的な胸部がカインの腕に当たり、フニョン、ムニュン、と音を立つような幻聴と、ウェールズの跳ね返すような弾力とイラストリアスの包み込むような柔らかさでカインの自制心はクライマックス状態だった。

 

「指揮官・・・・」

 

「な、なんだい?」

 

声を発したウェールズに、カインは内心の動悸を悟られないようにするが、ウェールズが続けて言った言葉に、瞬時に感情が冷静になった。

 

「基地に続き、ホーネットの艦隊も救われました。エンタープライズの力は疑いようもないと思いますが」

 

「だが、あまりにも軽率だ。ベルファストが駆けつけるのが僅かでも遅れていたら、彼女は撃破されていただろう」

 

「・・・・このまま、彼女が戦いですり減っていくのを見たくありません・・・・」

 

イラストリアスの悲痛な顔に、ウェールズも同意するように頷いた。

 

「あぁ、コレで何もしないようでは、私の信条にも反するからな」

 

「だからこそ、掛け合うんだーーーー『ロイヤル』のちょっとワガママな女王陛下様に、ね」

 

 

 

 

 

カインとウェールズとイラストリアス、寮について合流したユニコーンを連れて、アズールレーン新設基地内にあるロイヤル庭園で女王陛下達とお茶会をしながら話を始めた。

 

女王陛下と呼ばれるのは、小さな王冠を頭に乗せた幼い容姿に長い金髪をしたお嬢様風の艦船<KAN-SEN>は、ロイヤル艦隊の旗艦、『ロイヤル所属 戦艦クイーン・エリザベス』。

 

獣耳のように金髪の髪をセットし、まるで騎士のような衣装を着て、下半身がスカートを着用していない(?!)少女、『ロイヤル所属 戦艦ウォースパイト』。

 

そして穏やかな淑女という風格が全身から漏れ出ているロイヤルレディ、『ロイヤル所属 巡洋艦フッド』。

 

ケーキを一口食べたエリザベスが、美味しそうに顔をほころばせると、顔を戻して、『下僕』と呼んでいるカインに顔を向けた。

 

「話は分かったわ下僕。けれど・・・・それって、ユニオンの問題ではなくって? 私達が口を挟む事ではないでしょう?」

 

「ーーーーっ陛下、それは・・・・」

 

ウェールズが身を乗り出そうとすると、カインが手を上げて止め、ウェールズも黙って座り直す。

 

「陛下。彼女、エンタープライズはユニオンのエースです。それゆえ彼女の存在はユニオンの艦船<KAN-SEN>達の士気にも関わる上に、戦力的にも彼女をこのままにしておくのはあまりにも勿体無いと考えております」

 

「随分彼女を買っているのですね、指揮官?」

 

フッドがそう言うと、カインはフッと笑みを浮かべた次の発言に、エリザベス達はピクリ、と肩を揺らした。

 

「この母港に来てほぼ数日だけど、“ある程度の兆しを見せている子達もいるからね”」

 

「・・・・“兆し”、って事は、〈ノブレス・ドライブ〉を発動させる事ができそうな艦がいるの?」

 

「ええ。ロイヤルだけでなく、すでにユニオンの中にも“兆し”を見せている子達がいます。エンタープライズもその一人です。・・・・ただ、彼女は自分をかえり見なさすぎる節があります。このままでは彼女は、“扉を開く前に自分で自分を潰してしまいます”。・・・・“僕もこれから行かなければならないので、それまで彼女の『お目付け役』を決めておきたいのです”」

 

「『お目付け役』、ね・・・・」

 

カインの発言にエリザベスは渋面を浮かべ、ウェールズとイラストリアスにも目を向ける。

 

「ウェールズ。イラストリアス。貴女達はどう思う? 下僕の意見に賛成?」

 

「はい陛下。私も指揮官様と同じ意見ですわ。彼女の力はきっとこれからの戦いで必要になります。異常進化生命体・『怪獣』、この星に潜んでいる異星人、そして先の戦闘で現れた青いウルトラマン<トレギア、エンタープライズ様はここで終わっていい方ではありません」

 

「確かに理にかなっているけど、他に理由を聞いても?」

 

フッドが聞くと、イラストリアスはニッコリと微笑みながら、その豊満な胸元の前で祈るように手を握って口を開いた。

 

「聖なる光の導きですわ♪」

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

イラストリアスの言葉に、場の空気が少し停止した。

 

「・・・・貴女はいっつもソレねぇ・・・・」

 

「けれど、彼女の勘はこれでなかなか侮れませんわ」

 

「光と言えば、『光の守護者』とも呼ばれている『ウルトラマンタイガ』なる存在も現れています。『セイレーン』ならびに『レッドアクシズ』の問題もある以上、エンタープライズはこれからの戦力的にもこの基地の主力となる船です。彼女の抱える問題を見過ごすわけにはいきません!」

 

≪いや、俺は『光の守護者』じゃなくて、『光の勇者』・・・・≫

 

「(タイガ。ここは黙っててくれ)・・・・陛下。お願いします」

 

カインがエリザベスに僅かに頭を下げると、エリザベスも口元をハンカチで拭うと、自分の剣であり、右腕とも言える艦船<KAN-SEN>に目を向ける。

 

「ウォースパイト。貴女はどう思う?」

 

「ーーーー陛下の判断を信じます」

 

「・・・・下僕」

 

「はい」

 

「“この間の頼みも含んで、これは貸しよ”♪」

 

「重々承知しています」

 

カインがそう返事すると、エリザベスは頷いて見せる。

 

「・・・・そこまで言うなら見定めてあげるわ! エンタープライズ。彼女がどんな艦なのかをね!」

 

エリザベスがそう宣言すると、カインは左右の席に座るウェールズとイラストリアスと顔を合わせて笑みを浮かべる。

そしてエリザベスは後ろに控える『ロイヤルメイド隊・メイド長』に声をかける。

 

「ベル!」

 

「畏まりました陛下」

 

「よし。エンタープライズの事はこれで良いだろう。それじゃウェールズ。ロイヤルとユニオンの艦船<KAN-SEN>達を集めてくれ、〈ノブレスドライブ〉について教える」

 

「了解しました」

 

「では、すぐに戻りましょう指揮官様」

 

イラストリアスの言葉に頷くが、またこの二人に挟まれるのかと思うと気が重いと思うと、ユニコーンがカインの袖を引っ張り、カインが目を向けると。

 

「お兄ちゃん。ユニコーンも一緒に行ってもいい?」

 

「ああ良いけど。車の中は狭いよ?」

 

「お兄ちゃんの膝に乗せて・・・・」

 

「えっ・・・・?」

 

「ダメ?」

 

ユニコーンが瞳を潤わせて言うから、カインは了承するしかなかった。

帰り道は来たときよりも胆力を使う事になると、カインはさらに気が重くなった。

 

≪がんばれトモユキ・・・・!!≫

 

タイガの鼓舞に苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

 

 

ーホーネットsideー

 

ホーネットとハムマンは、新しく着任したロイヤル艦船<KAN-SEN>を出迎えた。

身体のラインが出ている修道士のようなナース服を身に纏い、青い瞳をもち、紫がかった長い銀髪がフワッと広がった髪型をしている。看護師のような雰囲気のある少女、『ユニオン所属 工作艦 ヴェスタル』。

ホーネットはヴェスタルの着任に喜び、歓迎するように抱きしめ、ヴェスタルも苦笑いしながら、よしよしと背中を撫でた。

ふとハムマンを見るとモジモジしているのを見て、声をかけた。

 

「・・・・“『ヨークタウン姉さん』は元気?”」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

沈んだ顔で無言になるヴェスタルを見て、ハムマンとホーネットは察した。

 

「あーっと・・・・相変わらずってとこかなー?」

 

「・・・・えぇ」

 

「・・・・そう・・・・」

 

“『ユニオン』のリーダーポジション”の状態に沈んだ気持ちになるハムマン。ホーネットはポリポリと頬を掻くと、ハムマンの後ろに回るとスカートに手をかけ・・・・。

 

「ムゥン」

 

「きゃああああぁあぁっ!?」

 

おもいっきりハムマンのスカートを捲った。

 

「なっ何をするのだーっ!!」

 

「私の姉ちゃんだぜ? 心配すんなって!」

 

ホーネットはニィッと笑みを浮かべると、ハムマンとヴェスタルもようやく笑みを浮かべた。

 

「それで、エンタープライズちゃんはどうしてます?」

 

ヴェスタルの言葉で場の空気が止まった。

 

 

 

 

それからヴェスタルを半壊されたエンタープライズの船に連れていくと。

 

「「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」」

 

ヴェスタルがプルプルと怒りに振るえ、ホーネットとハムマンはヴェスタルの様子にプルプルと恐怖に振るえる。

 

「・・・・フゥーーーーーー・・・・わかっていたことですもの。あの子は必ず一番に戦場へ飛び出してーーーー自身の事なんてちっとも考えてくれやしない。言いたい事は沢山あります。傷ついたときーーーー傍についていてあげられなかった事・・・・でもーーーーちゃんと帰って来てくれて、本当に良かった・・・・」

 

ヴェスタルの笑顔を見て、ホーネット達も笑みを浮かべるが。

 

「なので、エンタープライズちゃんの目が覚めたら、たっぷり“お話”しなくちゃいけませんね♪」

 

ウフフ・・・・と、暗い笑みを浮かべるヴェスタルにまたも恐怖に震えた。

 

「ハハ・・・・姉ちゃん。今はゆっくり休んどけ・・・・」

 

「そうそう。こちらの指揮官にもちゃんと、エンタープライズちゃんが無茶をやらないように見て欲しいって言っておかないと・・・・!」

 

「ああ、指揮官ね。これから指揮官がみんなを集めて話しておきたい事が有るんだって!」

 

「それってなに?」

 

「多分、あれなのだ! 『ロイヤル』のベルファストが見せた、ピカーって光ったあれなのだ!!」

 

「ピカーって、何?」

 

「たしか、〈ノブレス・ドライブ〉って言ってたっけ・・・・?」

 

ヴェスタルを連れて、ホーネット達は艦船<KAN-SEN>達が集まっている場所に向かった。

 

 

 

ーカインsideー

 

両隣にウェールズとイラストリアス。膝の上にユニコーンを乗せて母港の港についたカインは、精神的にかなりの負担がかかっているが、集まってきた『ユニオン』と『ロイヤル』の艦船<KAN-SEN>達を見渡せる壇上の上に立つ。

 

『ええっと、皆さん。はじめましての子達もいるからはじめまして。この母港の責任者で、君達の指揮官となったカイン・オーシャン特務中佐だ。よろしく頼む』

 

『よろしくお願いします!!』

 

マイクで話すカインに、艦船<KAN-SEN>達の多くが好意的に返事した。

 

『さて、先ずみんなに言っておくことがある』

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

カイン指揮官の言葉を、艦船<KAN-SEN>達が静聴する。

 

『僕は、なるべくなら、君達艦船<KAN-SEN>達を誰も犠牲にしたくない』

 

ザワ・・・・ザワ・・・・。

 

『甘いとは分かっている。僕は指揮官である立場上、冷酷な判断をしなければならないと言うのは重々承知している。・・・・しかしそれでも、君達を1人として、無駄死にさせるつもりはない。全員揃って、無事に帰還させたい。その為にも、君達の力を貸して欲しいと思っている』

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

カインの言葉に、多くの艦船<KAN-SEN>達は少し戸惑っているような態度だった。

 

『もちろん。その為の力を、君達に見せる。・・・・ウェールズ! イラストリアス!』

 

カインが目を向けると、艤装を装備したウェールズとイラストリアスが距離をおいて向かい合っていた。

 

『二人とも。模擬戦を始めてくれ!』

 

「「〈ノブレス・ドライブ〉!!」」

 

二人が叫ぶと同時に、多くの艦船<KAN-SEN>達が驚愕した。

ウェールズとイラストリアスの身体が金色に輝くと、残像が残るほどの超スピードで移動し、艤装の砲口から金色のエネルギー弾を放ち、海面に当たると水飛沫をはね上がった。

 

ザワザワ・・・・。ザワザワ・・・・。

 

ウェールズ達の姿に『ユニオン』のほぼ全員と、エリザベス達や『メイド隊』以外の『ロイヤル』の艦船<KAN-SEN>達は目が釘付けになり、カインが口を開いた。

 

『今のは〈ノブレス・ドライブ〉。見ての通り君達艦船<KAN-SEN>達の攻撃力とスピード、さらに防御力も時間制限ではあるが爆発的に強化する事ができる。今はまだロイヤル艦船<KAN-SEN>達の一部だけが発動する事ができるが、ユニオンや他のロイヤルの君達にも、〈ノブレス・ドライブ〉を発動させる事ができる!』

 

カインの言葉に多くの艦船<KAN-SEN>達が、ウェールズやイラストリアスが今見せている力を発動できると知り、再びざわめき出した。

そんな中、クリーブランドが挙手して声を発する。

 

「指揮官! あの力が私達にも使えるなら、どうすれば良いのっ!!?」

 

ざわついていた艦船<KAN-SEN>達も、カインの言葉を聞こうとし、ウェールズとイラストリアスも模擬戦を止めてカインの言葉に耳を傾けた。

 

『それは、“常に自分に問いかけろ”。“自分は何故戦うのか?” “どうして戦うのか?” “何のために、誰のために戦うのか?” その答えを常に自分自身に問いかけろ。言っておくことが、“自分達が艦船<KAN-SEN>だから”。“その為に生まれた存在だから”。そんな教科書通りの回答なんて何の意味も無い』

 

「何の意味も無いって・・・・」

 

『良いか。その理屈は“兵器”なら通じるかもしれない。だが、君達艦船<KAN-SEN>は、“兵器”じゃない』

 

カインの言葉に、艦船<KAN-SEN>達が戸惑うようなざわめきが生まれ、カインはマイクを置いて、艦船<KAN-SEN>達に向けて声を発する。

 

「君達艦船<KAN-SEN>達には、大きな『可能性』と、光り輝く『気高き心』がある。それを自分自身に見つけるんだ。他の誰の物でもない。自分だけの『気高さ』を見つけたその時、君達に金色の輝きを得ることができる。僕は、君たち艦船<KAN-SEN>の『可能性』と『気高さ』を・・・・!!」

 

決して大きな声で言っている訳ではない。

だが、カインの言葉は、その場にいた全艦船<KAN-SEN>達の耳に入り、心に染みたーーーー。



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【休息】母港の日常

新年、明けましておめでとうございます。『アズールレーンT』をよろしくお願いいたします。


ーホーネットsideー

 

「ホーネット。どう思うのだ? あの指揮官が言っていた事・・・・?」

 

「う~ん、自分の中の『可能性』と『気高さ』、か・・・・。何かパッとしないなぁ」

 

ホーネットとハムマン、そしてヴェスタルは、先ほどカイン指揮官が言っていた『〈ノブレス・ドライブ〉の発動条件』について首を捻っていた。

前回のレッドアクシズと奇襲と怪獣の襲撃のおり、ベルファストが見せた金色の輝き。

そして自分達よりも圧倒的な巨大な怪獣と互角近く戦った姿を見て、カイン指揮官から、自分達にもあの輝きを得られると知らされ、どうすれば良いのか頭を悩ませた。

 

「何も難しく考える事ないよ」

 

「「「指揮官っ!」」」

 

ベルファストを連れたカイン指揮官が目の前に現れて、ホーネット達は肩を振るわせるが、カインは落ち着いてと言うように、手を上げる。

 

「ああそんなに肩肘張らなくて良いよ。気楽にしてくれ」

 

カインがそう言うと、ハムマンは肘でチョンチョンとホーネットの脇腹をつついて、ホーネットも少し言いづらそうに口を開く。

 

「あのさ指揮官。その、〈ノブレス・ドライブ〉ってさ、どうやったらその、なれるのかな?」

 

「〈ノブレス・ドライブ〉になる方法か・・・・。実際にできた人達に聞いた方が良いと思うけど。・・・・ベル、どうやってなれたか覚えているかい?」

 

カインの後ろに控えているベルファストに声をかけると、ベルファストが声を発する。

 

「・・・・申し訳ありません。私も無我夢中で戦っていたら、いつの間にか発動できるようになったので。詳しくはーーーーただ、“自分が何故戦うのか”を考え続けていたら、身体の中をまるで血液が溶岩のように熱く煮えたぎり、それなのに頭はまるで氷のように冷静となった感覚がありました」

 

「「「???」」」

 

あまりに抽象的な言葉に、三人は首を傾げ、カインとベルファストはにこやかに笑みを浮かべる。

 

「ま、焦らず、“自分の戦う理由”を考え続け、“自分に問いかけて行けば”、自ずと答えは出てくるよ」

 

「あの、指揮官、良いでしょうか?」

 

「ん? ユニオンのヴェスタルだね。工作艦が来てくれて助かるよ。それでなんだい?」

 

「あの、エンタープライズちゃんの事で・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

「ご主人様・・・・」

 

ヴェスタルがエンタープライズの事を話そうとすると、カインは突然頭を下げた。

 

「し、指揮官?!」

 

「「!?」」

 

カインの行動に面食らったヴェスタル達に構わず、カインは口を開く。

 

「すまなかった。エンタープライズの行動を読めず、止められず、彼女を行かせてしまったのは、僕の失態だ。行動を読んでいれば、彼女が負傷した身体と破損した艤装で出撃するのを止められたかもしれないし、彼女が倒れる事もなかった。本当に申し訳ない」

 

カインの謝罪にヴェスタルが口を開いた。

 

「顔を上げてください。指揮官が救出部隊の編成をし、エンタープライズちゃんに待機指示をしていたのに、それをエンタープライズちゃんが破ったって事は聞いてますから」

 

「あの後、クリーブランドから聞いたんだよ。姉ちゃんが私達を助ける為に無理して出撃したって。指揮官が悪い訳じゃないんだから、あんまり気にしないでよ」

 

「・・・・まぁ、次からはちゃんとやるのだ」

 

「・・・・ありがとう。そう言って貰えると少し気持ちが晴れるよ。・・・・だが、エンタープライズには自重を覚えてほしいな」

 

「・・・・それには同意します指揮官」

 

カインとヴェスタルが顔を見合わせて黒い笑みを浮かべる。

 

「彼女には『お目付け役』を付けようと思うけど、その辺りはどう思う?」

 

「それは良い考えですね。エンタープライズちゃんには『お目付け役』を付けることをお薦めします」

 

「ほぉ、ヴェスタル。君は賛成かい?」

 

「ええ。是非とも」

 

フッフッフッ・・・・と、黒い笑みを浮かべて笑い合う二人に、ホーネットとハムマンは引き、ベルファストは静かに控えていた。

 

 

 

 

 

ーエンタープライズsideー

 

そのさらに翌日。

母港にある『ユニオンの寮』の部屋でエンタープライズは、まだ眠っていた。

そして夢の中で、青い空と海が窓の外に広がる部屋の一室。

ベッドに横たわるのは、『ロイヤル所属 空母 ヨークタウン』。エンタープライズとホーネットの姉であり、現在は負傷の為、戦線を離脱してしまっていた。

 

【見て、海が綺麗よ】

 

【ーーーー海を、美しいと思ったことはない。私達が生まれた時から、海は戦場だった】

 

エンタープライズは忌々しそうに海を睨んだ。

 

【ヨークタウン姉さん。あなただって海でーーーー】

 

【それは違うわ。忘れてるだけよ、私達は艦が人のカタチを成したもの。海の美しさは、私達の魂の奥に刻み込まれている】

 

ヨークタウンはエンタープライズの手を取り諭す。

 

【人があなたの名前に込めた想いを、いつかきっと、思い出させる日がくるわーーーー碧き航路に祝福を、エンタープライズ。私の、かわいい妹ーーーー】

 

 

「ヨークタウン姉さん・・・・」

 

「あら? 可愛らしい寝言ですね?」

 

「・・・・はっ!?」

 

突然聞こえた声に、エンタープライズは目を覚まし飛び起きると、カーテンが開かれ、日差しに目がくらむとーーーー。

 

「おはようございます。ゆっくりとお休みになられましたか?」

 

「貴女は・・・・?」

 

「メイドの、ベルファストと申します」

 

『ロイヤルメイド隊 メイド長・ベルファスト』がにこやかな笑みを浮かべていた。

その顔を見て、あの時に見た〈ノブレス・ドライブ〉を発動させた艦船<KAN-SEN>であると思い出した。

 

「・・・・そうだった。私は貴女に助けられたんだな。すまない、迷惑を掛けた」

 

「大事が無くて何よりでございます」

 

エンタープライズは服を着用すると、自室の机に置いた携帯食を持って、部屋を出ようとした。

 

「もし・・・・」

 

ベルファストはエンタープライズについていく。

 

「安静にしていた方が宜しいのでは?」

 

「この程度の負傷は戦場の常だ」

 

「危ない所だったのですよ」

 

「そうだな。貴艦に感謝する」

 

素っ気なく答えるエンタープライズにベルファストが小さくため息を吐く。

 

「朝食のお時間です。それを終えたら、待機命令違反について、ご主人様・・・・カイン・オーシャン指揮官様が執務室に来るようにと」

 

「そうか・・・・」

 

指揮官の名前を聞くと、エンタープライズは外に出ようとした。

 

「朝食は・・・・?」

 

「これで十分だ。それに、指揮官が呼んでいるのだろう?」

 

携帯食を見せたエンタープライズは外に出ようとするが、ベルファストに向けて声を発する。

 

「一つ、聞いておきたいのだが・・・・」

 

「何でしょう?」

 

「あの時の、あの光る姿、あれは一体?」

 

「〈ノブレス・ドライブ〉。の事でしょうか?」

 

「・・・・・・・・」

 

エンタープライズは小さく頷いた。

 

「それを知りたければ、貴女御自身の中にある『気高さ』を見出ださなければなりませんね」

 

「『気高さ』? まるで人間みたいな事を言うのだな?」

 

そう言って、エンタープライズは今度こそユニオン寮を出ていった。

 

 

 

 

ーベルファストsideー

 

「はあ・・・・(ご主人様の言うとおり、『お目付け役』が必要なお方のようですわね)」

 

ベルファストは、エンタープライズの様子を見て、カインの見立ては正しかったと思った。

 

 

ージャベリンsideー

 

母港の食堂で、朝食のサンドイッチを食べていたジャベリンは、隣でハンバーガーを頬張るラフィーを見る。

綾波に対して敵対しようとしないラフィーの態度に疑問を持っていた。

勿論。綾波についてだ。

「ラフィーを置いて撤退して」と言うラフィーを置いて行けず、しかし並んで綾波に武器を構えて立つ事すらも、選べなかった。

 

「ラフィーちゃんは、どうしてあの時・・・・」

 

「???」

 

「・・・・うぅん。なんでもない」

 

首を傾げるラフィーに無理に笑みを浮かべるジャベリン。

 

「やぁ、おはよう」

 

「っ! し、指揮官!?」

 

突然話しかけてきたのは、トレーに朝食を乗せたカインだった。

 

「一緒に良いかな?」

 

「は、はい!」

 

「指揮官、今日はここでご飯??」

 

「ああ。最近書類仕事が多いから執務室で取っていたけど、たまには良いかなってね」

 

座ったカインはパンとサラダ、目玉焼きとウィンナーそしてコーヒーの朝食を食べると、何か難しい顔をして唸った。

 

「・・・・・・・・」

 

「指揮官、どうしたの?」

 

「いやな、何か物足りないって言うか、何かを食べたいがそれが何か分からないんだよなぁ?」

 

「???」

 

なんてジャベリンとラフィーと他愛ない会話を続けると食事を終えて立ち上がるカイン。

 

「じゃあ、僕はもう行くね。・・・・あ、そうだジャベリン」

 

カインはジャベリンに顔を近づけた。

 

「し、指揮官/////」

 

「ジャベリン、君は綾波が悪い子に、“敵”に見えたかい?」

 

カインがそう言うと、ジャベリンは少し言いにくそうにしながらも、口を開いた。

 

「・・・・いえ、そんな子には、見えませんでしたし、“敵”だとは・・・・思いたくありません」

 

ユニコーンの大事な友達である『ゆーちゃん』を見つけた姿を見たときの綾波からは、とても悪い子だとは思えなかった。

悩みながらも絞り出したジャベリンの答えに、カインは笑みを浮かべてジャベリンの頭をソッと優しく撫でた。

 

「そうか。・・・・ジャベリン。その気持ちを大切にしなよ」

 

「・・・・・・・・///////」

 

カインは優しい笑顔をジャベリンに向けると、そのまま去っていき、ジャベリンはその背中をボォ~と、頬を紅くして見送り、ラフィーもカインに小さく手を振ると、朝食を終えて、くぁ~と小さな欠伸をした。

 

 

 

 

 

 

ーカインsideー

 

カインが執務室の自分の席に座ると、ちょうどエンタープライズが入室してきて、先ほどジャベリン達と会話していた時とは一変した雰囲気でエンタープライズを見据える。

 

「・・・・エンタープライズ。何か弁明する事はあるか?」

 

「言い訳をするつもりはありません。命令違反の厳罰は覚悟しています」

 

執務室に来たエンタープライズを、ウェールズとイラストリアス、そしてユニコーンを控えさせたカインが厳かに睨んで口を開き、エンタープライズは答える。

 

「戦場に立つ者ならば、自分のコンディションと艤装の状態を常に万全にしておくのがプロだ。それは分かっているか?」

 

「私は『兵器』です。コンディションが万全でなくても、戦う事が義務です」

 

エンタープライズの言うと、ウェールズが口を開こうとするが、カインが手を上げて制する。

 

「結果的にホーネット達を救出できたから、今回は不問とするが、次に命令違反を行った場合、今度こそ君には厳罰を受けてもらう。下がって良い」

 

「・・・・はっ」

 

敬礼して執務室を出ようとするエンタープライズに、カインが声をかけた。

 

「エンタープライズ。〈ノブレス・ドライブ〉について聞きたい事はあるか?」

 

「っ・・・・!」

 

それまで無表情だったエンタープライズの顔に、僅かな動きがあったのを、カインは見逃さなかった。

 

「・・・・指揮官。あの力は、どうやって会得できるのでしょうか?」

 

「今の君じゃ、会得するのは不可能だろうね」

 

「な、何故ですかっ?」

 

エンタープライズがカインに顔を向けて言うが、カインは毅然とした態度で言う。

 

「“君は何も見えていない”。そんな君に、『気高さ』なんて見いだせないな」

 

「『気高さ』・・・・。まるで私<KAN-SEN>を『人間』として見ているようですね」

 

「・・・・君は自分を『兵器』だなんて思っているようだが、そんなのはただ、“自分にそう言い聞かせて自分の殻に閉じ籠っているだけじゃないのか?”」

 

「っ・・・・・・・・失礼します」

 

そう言って今度こそ部屋を退室したエンタープライズに、ウェールズとイラストリアスは重いため息を吐いた。

 

「やはり彼女は危ういですね」

 

「ああ・・・・」

 

「お兄ちゃん。エンタープライズお姉ちゃん、大丈夫かな?」

 

「こればっかりは、本人が向き合わないといけない事だからなぁ。僕がちゃんと対話しないといけないだろうがーーーー」

 

「・・・・指揮官」

 

「ウェールズ・・・・」

 

エンタープライズを追おうかと考えるカインに、ウェールズが諌めるように声をかけた。

 

「指揮官様。エンタープライズだけを特別視するような素振りをしてはいけません」

 

「イラストリアス・・・・」

 

「この艦隊はできて間もないのです。指揮官には出向する前に、出来るだけ多くの艦船達と交流を重ね、連携を取れるようにして貰わないとなりません。エンタープライズだけに構っている訳にはいかないでしょう」

 

「・・・・そうだよなぁ。・・・・分かった。なるべく多くの艦船達と対話していくよ」

 

イラストリアスとウェールズに言われたカインは、ユニコーンを連れて執務室を出て行こうとしたその時ーーーー。

 

「じゃ、書類仕事の方はヨロシクね!」

 

「「あ・・・・」」

 

机の上に置かれた書類を見て、ウェールズとイラストリアスが、ハッとなるが、既にカインはユニコーンを抱えて執務室から逃げていき、少し進むとベルファストと出会った。

 

「あら、ご主人様。お仕事はどうなさいました?」

 

「あ、いや、ね・・・・。ほら! 他の艦船<KAN-SEN>の皆とコミュニケーションを取るのも、指揮官として大事な仕事だからさぁ!」

 

「・・・・それもそうですね」

 

「お見通しですよ」と言わんばかりのベルファストの笑みにカインは苦笑いを浮かべると、ちょうど通信機に着信音が響き、『ホーネット』と表示され、通信に出るとホーネットと会話し、通信を終えると笑みを浮かべて、ベルファストとユニコーンに指示を出した。

 

 

 

 

ーエンタープライズsideー

 

「何をやってるんだ、あの子達は?」

 

1人母港を歩いていたエンタープライズは、ベルファストとユニコーンに誘われ、車に乗ってそこに連れてこられて呆然と呟いた。

目の前にはビーチが広がり、ビーチウェアには妹のホーネットが少し過激な黒いビキニを着用し、そのメリハリの効いたプロポーションを惜しげなく晒して寝そべり、ハムマンや他の艦船<KAN-SEN>達も水着姿でいた。

トランクスタイプの水着にパーカーを着用した指揮官が、何やら細長いアタッシュケースを持って、水着姿のジャベリンとラフィーと談笑していると、サンディエゴが鮫に食われそうになったり、サラトガがそれを助けようとサンディエゴごと吹き飛ばした光景が広がっていた。

 

「息抜きも結構な事だと思いますが?」

 

「襲撃の後だぞ」

 

「固いこと言うなよエンタープライズ」

 

「指揮官・・・・」

 

エンタープライズ達に近づくアタッシュケースを持ったカインは、ユニコーンに遊んで来て良いよと言うと、ユニコーンは浜辺へと走っていった。

 

「襲撃の後だからこそ、身体や心を休ませないといけないんだ。じゃないと、何処かの誰かさんみたいな凡ミスをやらかしてしまうからな」

 

「・・・・・・・・」

 

カインの刺のある言い分に、エンタープライズは渋面を作った。

すると、ユニコーンがこちらに手を振っていた。

 

「呼ばれてますよ」

 

「えっ?」

 

エンタープライズは自分を指差して、ユニコーンをチラッと見ると、少し困ったが歩を進めようとした。

 

 

 

 

ーーーーキラッ・・・・。

 

「む」

 

ふと、カインが浜辺から少し離れた場所で、奇妙な反射光に目を鋭く向け、アタッシュケースを開けて中身を出すとそれはーーーー。

スナイパーライフルのエアガンだった。

 

「・・・・ソコッ!」

 

ーーーーぐぁっ!!!

 

指揮官が狙いをすませてライフルの引き金を引くと、パシュンッ! と、小さな音が鳴り、銃口から“何か”が発射され、光った地点から何やら女性のような声が響いた 。

 

「ベル」

 

「はい」

 

「『対象R』はあそこだ。ゴム弾だから命に別状はない。すぐに捕縛し、ロイヤル寮の地下の独房に軟禁しておいてくれ。抵抗するようなら『性格改編装置』を使用すると脅しておけ」

 

「承知しました」

 

スラスラと慣れたように指示を出すカインと、それに応じるベルファストが何処から出したのか、通信端末を取り出すと、ロイヤルメイド隊のメンバーに指示を出していた。

 

「・・・・・・・・一体、何があったんだ?」

 

「気にしなくて良いよエンタープライズ」

 

「ええ」

 

ライフルをしまったカインと通信を終えたベルファストは何事も無かったように言い。

カインは改めて海で戯れる水着の天使達と遊んだ。

 

 

 

 

 

ーーーー待ってくれ閣下! 私は小さな駆逐艦達を眺めて愛でていただけでやましいことはぁぁあああああああああああああああああ!!

 

離れた所から女性の悲鳴のようなものが聞こえたが、エンタープライズは聞かなかった事にした。




次回。嵐の海にロボット怪獣登場。


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【救難】それは本物の兵器

ー???sideー

 

カイン達のいる星の衛生軌道上に鎮座する宇宙ステーション。カイン達の星の科学では発見できないように光学迷彩が仕掛けられたその場所で、『マーキンド星人』が再び『怪獣オークション』を始めようとしていた。

 

『それではお集まりの皆様! 前回のベムラーではウルトラマントレギアのせいで中止となりましたが、今回は大丈夫です! 本日紹介致します怪獣はまさに目玉商品! あの! “『サイバー惑星クシア』が生み出した『最凶の人工知能』が作り出した超兵器です”!!』

 

『おぉおおおおーーーー!!』

 

オークションのステージの真ん中で声高に宣言するマーキンド星人の頭上に大きな空中ディスプレイが表示され、その画像には、宇宙ステーションの怪獣保管庫に入った『兵器』を見て、競りに来た宇宙のならず者や一部の悪徳な金持ち達が驚嘆の叫び声を上げた。

 

『では! これよりその性能を実戦でお見せしましょう! 降下開始!!』

 

マーキンド星人がそう言うと、『兵器』がカイン達の星に降下されようとしていた。

 

 

 

ーエンタープライズsideー

 

「ウフフ、お兄ちゃん♪」

 

夕暮れの浜辺にて、ワンピースの裾を少し上げて波際をパシャッパシャッと跳ねるユニコーンが、ちょうど他の艦船<KAN-SEN>達との遊びを終えて近づいたカインに抱きついた。

 

「・・・・・・・・」

 

優しい笑みを浮かべるカインは、ユニコーンの頭をソッと撫で、ユニコーンは気持ち良さそうな笑みを浮かべる。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

波の前に座り、ゆーちゃんと2人の様子を眺めていたエンタープライズは、ユニコーンに口を開く。

 

「私に用があるのでは?」

 

「・・・・うん。あのね、ちゃんとお礼が言いたかったの」

 

「???」

 

ユニコーンはエンタープライズは首を傾げる。

 

「エンタープライズさん! 助けてくれてありがとう!」

 

「・・・・あぁ、襲撃の時の話か」

 

「ーーーー!!」

 

ユニコーンが、うんうん!と頷くが、エンタープライズは砂を払いながら立ち上がる。

 

「礼を言われる事ではない。当然の責務を果たしたまでだ」

 

「でも・・・・!」

 

「ユニコーン。見てみなよ」

 

「え?」

 

素っ気なく答えるエンタープライズに、ユニコーンはしょげそうになるが、カインの言葉で振り向くと、水平線の向こうに沈む夕焼けに染まったオレンジ色の海原が目に入った。

 

「綺麗・・・・」

 

「っ・・・・・・・・」

 

「エンタープライズさん。海が凄く綺麗だよ! えっ?」

 

ユニコーンは再びエンタープライズを向くが、彼女は悲しそうにうつむいた。

 

「皆同じ事を言うんだな・・・・」

 

「えっ?」

 

「海が美しいなどと、思えたことが無いんだ。思い出すのは、轟く砲声や硝煙の匂いのみ、燃える炎の熱さ、水の冷たさ、そう言うモノばかりだ」

 

エンタープライズは夕焼けの海原を見つめる。

 

「海は戦場だ。それを美しいだなんて・・・・」

 

「それはただ、“海が怖いだけなんじゃないか”?」

 

「“怖い”・・・・私が?」

 

カインの言葉に、エンタープライズが俯く。

 

「昼間の青い海も素敵だけど、夕日に染まる海も悪くない。夜になれば夜空の燦然と輝く星々を映す。海も、世界はこんなに色鮮やかに輝いている。それを守るために君達艦船<KAN-SEN>の力は存在する。だけど君は、海や世界や、自分自身とも向き合わず、ただ逃げているだけじゃないのか?」

 

「・・・・あなたに、何が・・・・!」

 

「指揮かーーーーん! ユニコーンちゃーーーーん!」

 

エンタープライズがカインに何かを言うが、離れた所にいるジャベリンの声に遮られた。

 

「っ・・・・!」

 

「ユニコーン。先に行っておいて」

 

「・・・・私の事は良い」

 

「う、うん!」

 

二人の言葉に、ユニコーンは頷きジャベリン達の元へ向かい、ゆーちゃんも後を追った。

 

「言っておくぞエンタープライズ、〈ノブレス・ドライブ〉。あれをロイヤルで一番最初に発現させたのは、あのユニコーンだ」

 

「えっ!?」

 

エンタープライズは驚いた。まさか、あんなに小さな女の子が、あの『力』を発現させた事に驚いたからだ。

カインは驚愕するエンタープライズの横を通りすぎる際、“ホーネット達から聞いた事を囁いた”。

 

「“姉である『ヨークタウン』を奪った海を憎んでいるようじゃ、君は『その先』に行くことはできない”」

 

「っっ!!?」

 

「君は自分を『兵器』だなんて言ったけど、『兵器』は恐れたりしない。何も感じず、何も考えず、何も生み出さず、ただ『破壊』しかもたらさない。それが『兵器』だ。その事をちゃんと考えろ。『安易な考え方』に逃げるな」

 

エンタープライズは思わず過ぎ去るカインの背中を見つめるが、直ぐに俯いてしまった。

 

 

 

ーカインsideー

 

≪俺は、彼女の気持ちが少し分かるよ≫

 

そんなエンタープライズの様子を見て、タイガが口を開いた。

 

≪俺も、大事な仲間をトレギアに殺された・・・・! トモユキ。お前も忘れているけど、ヤツはお前の友達を殺したんだ! だから、大切な姉を奪った海を憎むエンタープライズの気持ちが少しは分かるんだ・・・・≫

 

「(なあタイガ。君もその二人と同じようにトレギアの攻撃を受けて、粒子状になって宇宙をさ迷っている時、偶然幼い僕、海守トモユキと出会って、同化したんだよね?)」

 

≪えっ? あ、ああ・・・・≫

 

「君が生きていたんなら、君の二人の仲間達も、生きている可能性が有るんじゃないかな?」

 

≪あ・・・・!≫

 

カインの言葉に、タイガはハッとなる。

 

≪・・・・生きて、いるかな?≫

 

「(信じてやれよ。大事な仲間なんだろ? 君が生きている事を信じないで、誰が信じるのさ)」

 

≪・・・・そう、だよな!≫

 

「(そう言う事。さてと・・・・)」

 

カインは車に乗って待っていたベルファストに近づく。

 

「ベル」

 

「はい」

 

「雲行きが怪しい。みんなを寮に戻すから、エンタープライズを頼む」

 

「承知しましたご主人様」

 

「それとーーーー」

 

「分かっておりますよ」

 

ベルファストが淑やかな笑みを浮かべて答えると、カインも口元にフッと笑みを浮かべた。

 

「苦労をかけるな」

 

「いいえ」

 

まるで熟年夫婦のように息のあった会話をする二人。カインはベルファストから離れると、外にいる艦船<KAN-SEN>達に帰投を指示した。

 

 

ーベルファストsideー

 

カインの予想は当たり、少し前まで晴れていた天気が一変して雨が降り注ぎ、視界を閉ざしていた。

ずぶ濡れになりながら寮に戻るジャベリン達。

しかし、エンタープライズは、海を見つめながら雨に濡れていった。そんなエンタープライズに傘を差し出したのは傘を広げているベルファストだった。

 

「指揮官のそばにいなくていいのか?」

 

「そのご主人様から、あなた様の事を見ていてくれと命じられたのです」

 

「そうか・・・・」

 

エンタープライズは受け取った傘を広げ、ベルファストが口を開く。

 

「陛下には、それとなく探りを入れるよう仰せつかっているのですが、お恥ずかしながら、私そのような機微には疎いものでして・・・・」

 

「何が言いたい?」

 

「これ以上、ご主人様のお心に心配事の種を増やすわけにはいないので、単刀直入にお伺いします。いつまであのような戦い方を続けるおつもりですか?」

 

「・・・・!」

 

ベルファストの言葉に、エンタープライズは視線を送る。

 

「ご主人様があなた様に対して一番危惧しているのはそれです。あなた様は、“戦いを疎んじているようお見受けします”。しかしその一方で、“自らの命を顧みることがない”・・・・あなたの在り方は歪んでいる。このままでは〈ノブレス・ドライブ〉を発現させる以前に、あなた様は、“戦う意味さえ見失ってしまうでしょう”」

 

「・・・・!」

 

ベルファストが指摘した『己の中の歪み』。それをエンタープライズは身体をビクッと震わせた。

 

 

 

ーカインsideー

 

執務室の窓ガラスが風でバンバン、と音が鳴り。さっきまでの快晴が嘘のように、突然の嵐となった。

 

「まったく。今日の夜辺りに出発するつもりだったのに、間の悪い天気だ・・・・」

 

「荒れそうね・・・・」

 

“出向する予定だったカイン”は、天候を睨んで渋面を作り、ウェールズも難しい顔を浮かべると、執務室の扉が大きな音を立てて開け放たれ、クリーブランドが慌てた様子で入ってきた。

 

「指揮官! ウェールズ! 大変だ!!」

 

クリーブランドのただ事ではない様子に、二人は嫌な予感を感じた。

 

 

 

ークリーブランドsideー

 

それからクリーブランドから、この近くに救助信号があった事を報告されたカインは、もしかしたら〈セイレーン〉か、重桜から攻撃を受けているのではと推察し、救援部隊を編成し、直ぐに、ベルファスト。クリーブランド。ハムマンを出撃させた。

が、その中にエンタープライズの姿があった。

 

「この嵐で遭難したのか?」

 

「かもね・・・・ってぇ、何で付いてきたのさエンタープライズ!? 艤装まだ直ってないだろう!?」

 

「っ! そのような状態で出撃なさっているのですか!?」

 

「また命令違反なのだ!」

 

ヴェスタルのお陰で多少は修復されたが、まだ戦闘ができる状態なのは明らかであり、クリーブランドとベルファストが戻るように急かすが・・・・。

 

「少しは修復した。問題ない」

 

「でも!」

 

「待って! 前方に何か・・・・!」

 

ハムマンの言葉により前方を確認する。そこには一隻の艦と〈セイレーン〉の艦が存在していた。

 

「セイレーン!? こんな時に!」

 

「いや、よく見ろ」

 

「・・・・っ、戦闘の後だ」

 

エンタープライズの言うとおり、戦闘中にしては静かすぎる上に、直前に砲撃した後ではない。

何より、セイレーンの艦が機能停止している。

 

「まさか! 救難信号を出した艦がセイレーンと戦っている!?」

 

「大変だ!急いで助けに行かないと!」

 

機能停止したとしてもまた何時動き出すか分からない。早めに救助すべきだ。

 

「でも、この嵐じゃ索敵も難しい。慎重に進まなきゃ・・・・」

 

「周囲の警戒を頼む」

 

「えっ?!」

 

エンタープライズは一足先に救助信号を出した艦へと全速力で突っ走っていった。

 

「な、なななな、ああもう! なんであいつはいつもああなのさーーーー!!」

 

ついに憤慨するクリーブランドをなだめるハムマン。ベルファストはエンタープライズの後ろ姿を見据え、カメラ付き通信インカムでカインに連絡する。

 

「ご主人様」

 

《ベル。もしかして・・・・》

 

「はい。エンタープライズ様が・・・・」

 

ベルファストの報告を聞いて、カインが重いため息をもらした。

 

 

 

 

ーエンタープライズsideー

 

エンタープライズは機能停止した量産型の〈セイレーン〉の艦の間を走りながら、救助信号を出した艦を探した。

周りには量産型の〈セイレーン〉の艦があり、警戒を怠っていない。

 

「っ!」

 

量産型と違った艦を見つけ、その艦に飛び乗ると、二人の艦船<KAN-SEN>を見つけた。

 

「くっ・・・・!」

 

一人は気を失っているもう一人を抱きしめ、エンタープライズに対して警戒している。

 

「(この格好、『東煌<ドンファン>』の艦船<KAN-SEN>か・・・・)安心しろ。わたしは『アズールレーン』に所属するものだ。救助信号を追ってきた」

 

エンタープライズがそう言うと、警戒していた『東煌』の少女は、嗚咽混じりの声をもらした。

よほど怖かったようだ。

 

「・・・・周囲のセイレーンは貴女方が倒したのか?」

 

「(コクン)」

 

「何があったか教えてくれ」

 

エンタープライズは警戒を解いてもらうため、所属を聞く。

気を失っているのは、『東煌所属 軽巡洋艦 寧海<ニンハイ>』。

嗚咽をもらしているのはその妹の『東煌所属 軽巡洋艦 平海<ピンハイ>』である。

『東煌』は地形の位置的に重桜に近いが、東煌はアズールレーンに所属している。

すると、警戒心がまだ解かれて無いが、全容を話してくれた。

 

「平海達、『セイレーン』に追われてて、全部やっつけたけど、姉ちゃんが私を庇ったから・・・・!」

 

「うっ・・・・うぅっ・・・・!」

 

「あっ! 寧海姉ちゃん!」 

 

「平海・・・・無事・・・・?」

 

「うん!」

 

「・・・・良かった・・・・うぅっ!」

 

「姉ちゃん!?」

 

倒れていた寧海が目を覚ましたが、ダメージが残っているようで苦悶の声を上げた。。

 

「大丈夫だ。私たちが助ける。仲間たちもじきに到着する」

 

と、その時、ぎこちない機械音がし、咄嗟にその音源に向けて構えるエンタープライズと平海。

ソコには『セイレーン』の艦が動き始め、主砲をこちらに向けた。

 

「倒し損ねた!?」

 

「逃げなさい・・・・! 平海・・・・ぅっ!」

 

「嫌だ! 今度は寧海が姉ちゃんを助ける!」

 

「ーーーー!」

 

その光景に、エンタープライズは姉のヨークタウンの顔が脳裏をよぎり、艦から飛び出して『セイレーン』の注意を逸らした。

 

「こっちだ!」

 

『セイレーン』は狙いをエンタープライズに変え、すかさず防御しようと攻撃を行おうとするが・・・・。

 

「くぅ・・・・!!」

 

出だしが悪かった。ヴェスタルのおかげで攻撃が可能な程修復はしたが、艦載機の具現化がまだ本調子ではなかった。『セイレーン』の主砲が早く、放たれた砲弾が真っ直ぐにエンタープライズに向かった。

 

「はぁぁぁぁ!!」

 

しかし、ベルファストの二発の主砲がセイレーンの弾を撃ち消した。

 

「うふ。少しだけ貴方の事が理解できました」

 

エンタープライズの前に立ったベルファストは、魚雷をセイレーンに向かって撃った。

魚雷は全弾命中し、『セイレーン』の残りの艦も撃破した。

 

「(・・・・つ、強い・・・・!)」

 

〈ノブレス・ドライブ〉を使わなくてもこれほどの強さを見せるベルファストに、エンタープライズは驚く。

 

「貴方は、ご主人様と同じくお人好しなんですね。エンタープライズ様」

 

「指揮官と、同じだと・・・・?」

 

「ええ。ご主人様は、半年前までの記憶がございません」

 

「なに・・・・!?」

 

指揮官に過去の記憶がない。その事にエンタープライズは驚くが、ベルファストは構わず続ける。

 

「記憶を失ったご主人様の指揮能力を陛下が認め、アズールレーンの指揮官としてスカウトされたのです。本来ならば、ご自身の過去を探そうとするのに、あのお方は指揮官として、私達の力になるために、ご自分の過去を後回しにしているのです。そんなご主人様だからこそ、陛下達も私達メイド隊も、信頼を置いているのです」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「おーい! ベルファスト! エンタープライズ! 大丈夫!?」

 

クリーブランドとハムマンが、二人の元に向かってくる。雨の勢いも弱くなっていった。

 

「あ、あぁ。こちらは無事だ。早くあの子たちの救助を・・・・」

 

その時、エンタープライズ達の後方に、“何か巨大な影“が現れた。

 

『っっっ!!』

 

その影を見て、エンタープライズ達は驚愕する。

白い色に青い鎧に覆われ、腕や足に金色の刃が装備され、頭から巨大な斧を垂らした竜人を思わせるロボットのようなシルエット、これまで現れた『異常進化生命体・怪獣』とは違ったメカメカしい姿をした怪獣。

 

『ーーーーーーーー!!!』

 

『シビルジャッジメンター・ギャラクトロンMK2<マークツー>』が、機械の駆動音を響かせながら姿を現した。

 

 

 

ー平海sideー

 

「寧海姉ちゃん・・・・」

 

「平海・・・・」

 

いきなり現れたギャラクトロンMK2におののく二人。だが、寧海は妹を励ます。

 

「だ、大丈夫よ平海・・・・私達には、『賢者様』が付いている、から・・・・」

 

「うん、そうだよね・・・・!」

 

平海は、懐から取り出した『黄色い星形の宝石』を持って頷いたーーーー。

 

 

 

ー霧崎sideー

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~」

 

その頃。ウルトラマントレギアの人間体、『霧崎』は、雨の海の上に立ちながら傘を広げて、鼻歌を歌いながらこれから始まる戦いを面白い見世物を眺める心地でニヤついていた。




次回。ムキムキの『賢者』が登場。


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【賢者】全てを砕くその拳

力の賢者が遂に登場! マッスル! マッスル!!


ーカインsideー

 

《・・・・ご主人様。こちらに機械のような怪獣が現れました》

 

「ああ。こちらでも確認した」

 

≪トモユキ。あれは『ギャラクトロンMK2』! 感情も意思も無い完全な破壊兵器だっ!≫

 

執務室にて、ベルファストのカメラ付き通信インカムからの映像を空中ディスプレイで見るカインは、タイガからの言葉に目を細める。

 

「・・・・破壊兵器か、ウェールズ。この通信をエンタープライズ達にも繋げてくれ」

 

「了解」

 

カインが指示すると、ウェールズが送信器を少し操作すると、個別通信から全体通信へと変えて、カインが口を開く。

 

 

 

ーエンタープライズsideー

 

《ベルファスト。エンタープライズ。クリーブランド。ハムマン。聞こえているか?》

 

「指揮官・・・・?」

 

耳の通信機から聞こえる指揮官の声に、エンタープライズ達が反応する。

 

《東煌の艦船<KAN-SEN>の二人をうちの母港に連れてきてくれ。目の前の怪獣に対しては、マトモに戦わず、牽制しながら後退するんだ。今からヴェスタル達も向かわせる。決して、自分たちで戦おうなんて考えるなよ》

 

「承知しました」

 

「「り、了解!」」

 

「・・・・・・・・」

 

「エンタープライズ!」

 

「・・・・了解」

 

不満気なエンタープライズに、また独断行動をしそうになるのを止めるように、クリーブランドが腕を掴んで後退させた。

東煌の寧海と平海も、なるべく動きやすいように艦を艤装に変換した。が、寧海はまだ傷が痛むのか、苦しそうにしているので、平海が肩を貸していた。

 

 

 

ーカインsideー

 

「・・・・・・・・」

 

カインは通信で、ヴェスタルとジャベリンとラフィーにエンタープライズ達の援護に向かうように指示をすると執務机の椅子から立ち、窓に向かい開け、嵐の勢いが弱まったとはいえ、まだ雨風が吹きすさぶバルコニーへと出る。

 

「指揮官!」

 

「指揮官様!」

 

ウェールズとイラストリアスが指揮官の後を追おうとすると、カインは二人に振り向く。

 

「ウェールズ。イラストリアス。僕はこれから、ベル達を助けにいく。それと、“『重桜』にも向かうつもりだ”」

 

「なっ! 正気ですか!? まだ嵐は収まっていません! 重桜に行くのは、ベルファスト達が戻ってきてからでも・・・・!」

 

「それに、助けに行くってどういう事なんですか!?」

 

ウェールズとイラストリアスが聞いて来て、カインは無言で、タイガスパークを起動させた。

 

「(タイガ。すまない・・・・)」

 

≪えっ? ま、まさか・・・・!≫

 

[カモン!]

 

「「!!?」」

 

「この事は内密しておいてくれ。詳しい事は重桜から帰ってきてから話す。でも、二人には、僕がこの姿になっている事を教えておきたいんだ・・・・」

 

「まさか・・・・!」

 

「指揮官様・・・・!」

 

「光の勇者! タイガ!」

 

カインは腰のタイガのキーホルダーを握って腕を突き上げて叫ぶ。

 

「バディィィゴーーー!」

 

[ウルトラマンタイガ]

 

カインの身体が赤い光に包まれると、光は嵐の空を突き抜けて行った。

 

「指揮官が・・・・!」

 

「そう、だったんですね・・・・」

 

ウェールズとイラストリアスは飛んでいったカインの後ろ姿を見て理解した。

 

 

ーエンタープライズsideー

 

「く・・・・っ!」

 

「エンタープライズ! 無理するなって!」

 

エンタープライズがギャラクトロンMK2へと向かおうとするが、艤装が本調子でないのでマトモに動けず、クリーブランドとベルファストとハムマンが、主砲や魚雷を駆使して、ゆっくりと迫るギャラクトロンMK2を牽制する。

が、ギャラクトロンMK2の分厚い装甲に邪魔され、こちらの攻撃が通じていなかった。

 

『ーーーーーーーー!!!』

 

ギャラクトロンMK2は駆動音を響かせながら、手先のマシンガン『ギャラクトロンゲベール』を放つが、ベルファスト達はジグザグに航行して回避する。

 

「ベルファスト! 〈ノブレス・ドライブ〉なのだ!」

 

「そうしたい所なのですが・・・・!」

 

ハムマンがベルファストに〈ノブレス・ドライブ〉を発動するように言うが、ギャラクトロンMK2を守っている装甲をどうにかしなければ、消耗するだけだと思い、発動できずにいた。

その時、赤い光がギャラクトロンMK2と自分達の間に割って入ってきて、光が収まると、ウルトラマンタイガが現れた。

 

『シェャッ!』

 

 

 

ーカインsideー

 

『「すまないなタイガ」』

 

『(全くだ! ウェールズ達に俺の事を話すだなんて・・・・!)ウォオオオオオオオオ!!』

 

タイガはギャラクトロンMK2に『タイガキック』を繰り出した。

が・・・・。

 

ーーーーガキーーーーーン・・・・!

 

『いってぇぇ~~~!!』

 

『「これは、かなり効くなぁ・・・・!!」』

 

ギャラクトロンMK2の分厚い装甲に阻まれ、逆に足を反動のダメージを受けるタイガ。

 

『ーーーー!!!』

 

ギャラクトロンMK2は後頭部の戦斧・『ギャラクトロンベイル』を右手に持つと、タイガに向かって振りかぶる。

 

『「タイガ! 危ない!」』

 

『フンッ!』

 

斧を素手で止めたタイガは、そのまま海上に叩きつけると水しぶきが巻き上がり、ギャラクトロンMK2の動きを少し制止させると拳の乱打を浴びせた。

 

『ハァァアアアアアアアア!!・・・・いってぇぇぇ~!!』

 

が、やはり強固な装甲に阻まれてしまった。

 

『「タイガ! 避けろ!」』

 

『ハァ!』

 

ギャラクトロンMK2が斧を持ち上げて振り回すが、側転で回避する。

 

『ーーーーーーーー!!』

 

ギャラクトロンMK2は手先のマシンガン・『ギャラクトロンゲベール』を乱射して、タイガを攻め立てる。

 

『ウォアアアアアアアアアアア!!!』

 

『タイガ! ヤツの攻撃には僅かな隙がある! その隙を攻撃するんだ!』

 

『(っ・・・・よし!)』

 

カインの指示に従うタイガは、数秒ほど乱射に耐えると、一瞬、ギャラクトロンMK2の攻撃が止み、その瞬間ーーーー。

 

『(今だ!)『スワローバレット』!!』

 

『ーーーー!!』

 

光線弾を放つとギャラクトロンMK2がぐらつき、タイガはギャラクトロンMK2の後ろに跳び、そのまま斧を回避しながら格闘戦を行う。

 

『「タイガ。少しの間、1人で戦えるか?」』

 

『(なに?! 出来るけどなんだ!?)』

 

『「少し、時間をくれ」』

 

そう言って、カインは耳に付けた通信機で、この戦いを見ているエンタープライズ達に通信を送った。

 

 

 

ーエンタープライズsideー

 

「エンタープライズちゃん!!!」

 

「っ、ヴェスタル・・・・」

 

タイガがギャラクトロンMK2と肉弾戦を始めるのと同時に、ヴェスタルとジャベリンとラフィーが合流した早々、ヴェスタルが厳しい目でエンタープライズを睨んだ。

 

「また無茶をして!」

 

「緊急事態だったんだ・・・・」

 

「艤装だって満足に修理できていない状態で出るだなんて、エンタープライズちゃんは・・・・!」

 

「ヴェスタル様。お叱りはごもっともですが、今はこのお二人を・・・・」

 

説教を始めようとするヴェスタルを、ベルファストが寧海と平海の看護を頼んだ。

 

「あ! 分かりました!」

 

ヴェスタルも負傷した寧海を見て、応急措置を始める。

 

「またウルトラマンさんだね・・・・」

 

「あの怪獣、生き物じゃない・・・・」

 

ジャベリンがタイガを見上げて呟き、ラフィーはギャラクトロンMK2を見据えて呟いた。

 

「え? 生き物じゃないって、どういう事?」

 

「あれ、多分機械で出来てる」

 

《察しが良いなラフィー》

 

「「「「「「「指揮官(ご主人様)??」」」」」」」

 

クリーブランドの質問にラフィーがギャラクトロンMK2を指差して呟くと同時に、カインの通信が入った。

 

《こちらも状況を見ている。・・・・この怪獣の名前はギャラクトロンMK2。生物ではない完全な機械で作られたロボット怪獣だ。・・・・『戦う為に作られた存在』だ》

 

「「「「「「「っ!!」」」」」」」

 

あたかも母港の執務室にいる体裁で言うカインの言葉に、艦船<KAN-SEN>達は息を詰まらせる。

『戦う為に作られた存在』。目の前の怪獣は、“自分達と同じ存在”だった。

 

《みんなよく聞いてくれ。『兵器』って言うのはこういう怪獣の事を言うんだ。ウルトラマンタイガがこれだけ攻撃しているにも関わらず、この怪獣は、“痛みを感じていない”》

 

ギャラクトロンMK2を見ると、タイガの『スワローバレット』が次々と被弾しているのに、『痛み』を感じているようには思えない。

 

《この怪獣は、“ただ命令された事を忠実に動くだけの物だ”。“誰かを助ける為に無茶をする心も、大切な仲間を守るために戦う想いもない”。“ただ命令された事だけしかできない心の無い人形”と同じだ・・・・!》

 

カインにそう言われ、改めてギャラクトロンMK2を見ると、手の甲から『ギャラクトロンシュトラール』を放とうとする。

 

『っ、 『ストリウムブラスター』!!』

 

が、それよりも早く、タイガが『ストリウムブラスター』を放つと、ギャラクトロンMK2の身体に当たる寸前、両肩と両膝のバリア発生装置を起動させて防ぐが、光線の威力に体制を崩し、ギャラクトロンシュトラールの砲口は上に上がり、そこから砲撃が天高く放たれ雲を突き破りーーーー。

 

 

ーマーキンド星人sideー

 

ーーーードゴォオオオオオオオオオンン!!!

 

『どわぁああああああああああ!!!!』

 

ギャラクトロンMK2でオークションしていたマーキンド星人達のいる宇宙ステーションの一部を破壊してしまった。

 

『おいマーキンド!』

 

『な、なんですかマグマ!!』

 

マイクを持ったままで、よろけて倒れるマーキンド星人に、商売仲間である黒いレザースーツを着用した宇宙人・『サーベル暴君 マグマ星人』が肩を貸して起こす。

 

『やべぇよ! ステーションの航行システムがおじゃんになっちまった!』

 

『えぇっ!? どうなるんですか?!』

 

『このままだと、まもなく重力圏に捕まっちまう。それで計算してみるとこのステーション・・・・ギャラクトロンMK2がいる所に落下しちまう!』

 

『なんですとぉぉぉぉぉぉ!!!』

 

マーキンド星人の持っていたマイクでオークションに来ていた客の宇宙人達にも聞かれてしまい、客は直ぐに逃げ出し、マーキンド星人とマグマ星人も慌てて逃げようとしていた。

 

 

ー霧崎sideー

 

「フッフフフ」

 

霧崎は何処からかポップコーンとドリンクを乗せたトレイを持って、やられるタイガや落ちてくるステーションを見上げてほくそ笑みを浮かべる。

 

 

 

 

ーカインsideー

 

『うぅっ!! うぁぁぁぁぁ!!』

 

タイガはギャラクトロンMK2の砲撃の嵐に晒される。

攻撃したくても、バリアのせいで今度は光線が通じなくなり苦戦を強いられる。

 

『「みんな! コイツは哀れな存在だ! 何も生み出せず、何も作ろうとせず、ただ破壊することしかできない存在! それが兵器だっ!! だが、艦船<KAN-SEN>のみんなには、コイツには無い『心』がある! 戦うだけじゃない! 守る事も生み出す事もできる! 君たち艦船<KAN-SEN>には、無限の可能性があるんだ!!」』

 

 

ーベルファストsideー

 

「『心』、ですか・・・・」

 

タイガとギャラクトロンMK2の戦いを見ていた艦船<KAN-SEN>達の中で、ベルファストだけが、少し目を閉じて過去の出来事を思い起こす。

 

【ベルファストは、さ。いつも皆から一歩引いた所で見ている所があるけど、たまには“自分の『心』のまま行動してみるのも、良いかも知れないよ”】

 

次々と〈ノブレス・ドライブ〉を発現していく仲間達の中、自分だけが発現できず、平静を保っているようで、心の中では焦燥感を覚えていたベルファストに、カインがそれとなく言った言葉。

その言葉が、ベルファストに足りなかった、“一歩を踏み出させてくれたのだ”。

 

「(心のままに、ですね。ご主人様)」

 

内心呟いたベルファストは、エンタープライズ達から離れ、ギャラクトロンMK2の元へ向かう。

 

「ベルファストっ!?」

 

「申し訳ありません。ですが、私は私の、“心のままに行動します”! 〈ノブレス・ドライブ〉!!」

 

そう叫んだベルファストの身体が金色の光を纏ったベルファストは、タイガに向けて砲撃を続けるギャラクトロンMK2の両肩と両膝の突起物を見据えーーーー。

 

「ソコ・・・・!」

 

ベルファストは主砲と魚雷を同時に放つと、金色のエネルギー砲となった砲撃が両肩を、金色のオーラを纏った魚雷が飛び魚のように飛び上がると、両膝の突起物を破壊した。

 

『ーーーーーーーー!!!』

 

突然バリア発生装置が破壊され、バリアが解除されたが、ギャラクトロンMK2は構うことなくタイガを攻撃する。

それを見てベルファストは哀れみの目をギャラクトロンMK2にむける。

 

「なるほど。確かに哀れですね。もしかしたら、私達も下手をすればこのような兵器になっていたかもしれません」

 

ベルファストが全砲門を一斉射すると、金色のエネルギー砲がギャラクトロンMK2の胴体に当たり、その巨体を倒した。

 

 

 

 

ー平海sideー

 

『・・・・あれが艦船<KAN-SEN>の持つ、無限の可能性か』

 

「っ、平海! 宝石が!」

 

「えっ!」

 

平海は握っていた『黄色い星形の宝石』を見ると、その宝石が輝いていた。

 

「えっ? なにそれ?」

 

「この海域に入るまえに空から落ちてきたの。そしたら、“この宝石から声が聞こえて、『賢者様』が『セイレーン』と戦っていた平海達を手助けしてくれたの”」

 

「えっ? 宝石から声??」

 

ヴェスタルが、いや、エンタープライズ達も平海の言葉が分からず首を傾げると、宝石が宙に浮いた。

 

『ありがとう。寧海くん。平海くん。お陰で、私は仲間の元に行ける・・・・!』

 

「「「「「「っ!!?」」」」」」

 

宝石から声が響き、エンタープライズ達が驚くが、宝石は黄色い光となって、タイガのカラータイマーへと吸い込まれた。

 

 

 

ーカインsideー

 

カインのインナースペースに、黄色い光が現れ、声が響いた。

 

『久しぶりだな、タイガ』

 

『っ! おい『タイタス』! これは夢じゃないんだよな?!』

 

光が収まると、そこにはタイガキーホルダーの顔が別のウルトラマンで、中心が星形となったキーホルダー、タイタスキーホルダーだった。

 

『ああ! 再び共に戦う時が来たようだ!』

 

『また一緒に戦えて嬉しいぜ!』

 

「良かったな、タイガ。さて、タイタスさんかな?」

 

『いや、タイタスで構わない。賢者、ウルトラマンタイタスの力を貴方に!!』

 

「分かった!」

 

カインはタイガスパークのレバーを動かし起動させた。

 

[カモン!]

 

「力の賢者! タイタス!!」

 

タイタスキーホルダーを左手で掴んで、タイガスパークのついてる右手に持ち替えると、黄色いエネルギーが出てきて、スパークの中心のランプに吸い込まれ、ランプが黄色く光った。

 

『ヌゥゥゥンッ!! フンッ!』

 

「バディーゴー!!」

 

叫び、腕を思いっきり突き上げると、黄色い光が眩く輝き、タイガの身体を包み込む。

 

[ウルトラマンタイタス!]

 

七色の光の奔流がマーブルに変化し、その中からウルトラマンタイタスが両腕を振り上げて飛び出していった。

 

「ヌンッ!」

 

タイガの身体は完全に赤黒い巨人のものに変わって、嵐の雲がすっかり消え去り、満天の星空が燦然と輝く夜の世界に、新たなウルトラマンが現れた。

額とカラータイマーが星形となった、U-40のウルトラマン、力と知性を兼ね備えた『力の賢者』・ウルトラマンタイタス。

 

「ムンッ!」

 

タイタスは力を込めると、その鍛え抜かれた肉体を、ダブルバイセップスからのモストマスキュラーのポーズをする。

 

「ムンッ!」

 

そこからの、ラットスプレッド。

 

「ムゥンッ!」

 

さらにそこからの、サイドチェスト。

 

『「ナイスバルク! キレてるキレてる!・・・・って、何でボディービルディングポーズ??」』

 

一応のってみたカインは、頭にデカい汗を垂らして聞いてみた。

 

『(こうする事で、己の身体能力を一時的に上昇させる事ができるのだ!)』

 

『(そうだったの? 俺はてっきり自分の筋肉に自信が有るからだと思ってた・・・・)』

 

『(無論! それもある!!)』

 

『(「あるんかい!」)』

 

タイタスの言葉に、インナースペースにいるカインとその隣に現れたタイガが同時にツッコミをいれた。

 

 

 

ーエンタープライズsideー

 

「うわぁああああ! ウルトラマンタイガさんが何かムキムキマッチョにっ!?」

 

「多分タイガとは違ったウルトラマン・・・・」

 

「で、デカイのだ・・・・!」

 

「な、なんて逞しい・・・・!」

 

「す、スゴい筋肉・・・・!」

 

「「・・・・・・・・」」

 

ジャベリンがその巨体に驚き、ヴェスタル達もタイタスの鍛えられた肉体に驚嘆し、エンタープライズと戻ってきたベルファストも、新たなウルトラマンの登場に驚く。

特にーーーー。

 

「み、見なさい平海!」

 

「うん! 見てるよ姉ちゃん!」

 

「「なんて素晴らしく鍛えられた筋肉!!」」

 

寧海はケガの痛みなんて忘れて、平海と共に、筋肉の鎧を纏ったようなタイタスの肉体に、目をキラキラとさせた。

 

 

ータイタスsideー

 

ギャラクトロンMK2が斧を構え、タイタスに向かってくる。

 

『破壊しかもたらさない哀れな兵器よ!』

 

『ーーーーーーーー!』

 

『賢者の拳は全てを砕く! ぬぅぉぉぉぉ!!』

 

ギャラクトロンMK2が斧で斬りつけようとした時、タイタスも拳を振るう。

 

『ハアッ!!』

 

タイタスの拳は頑丈な斧を砕き、そのまま強固なギャラクトロンMK2は吹っ飛び、水しぶきを上げて倒れた。

 

『「凄いな、一撃だ」』

 

『フン!』

 

ギャラクトロンMK2は立ち上がり、タイタスに向かって構える。

 

『フゥ、ウォオオオオッ!!』

 

タイタスもギャラクトロンMK2目掛け、大きな地響きを立て、水しぶきを上げながら走り出す。

 

『トゥヤッ!!』

 

タイタスの右肩からのショルダータックルで、再びギャラクトロンMK2は吹っ飛び、タイタスは再びポージングを取った。

 

『指揮官殿。『ジードレット』を使ってください!』

 

『「分かった」』

 

[カモン!]

 

カインはタイガスパークのレバーを引き、左手に意識を集中させると、光の国の反逆者の遺伝子を継ぐウルトラマン。最強の遺伝子の継承者である、『ウルトラマンジード』から託されたブレスレット・『ジードレット』が出現した。

カインはタイガスパークを装着した右手に左手を重ね、ジードレットのエネルギーをタイガスパークに読み込ませる。

 

[ジードレット、コネクトオン]

 

タイタスにウルトラマンジードのビジョンが合わさる。タイタスは両手を曲げ力を込め、腰の位置でクロスさせる。すると、紫のオーラを纏った青いエネルギー弾が出現する。

 

『ハァァァァァァ! 『レッキングバスター』ッ!!』

 

ウルトラマンジードの力が加わった光弾が、ギャラクトロンMK2の身体を突き破り、そしてーーーー。

 

バチバチ・・・・ドガァアアアアアアンン!!!

 

爆散した爆炎から、一筋の光がタイタスの中に入ってくる。それを手で掴むとギャラクトロンMK2の顔が入った黒いオーラを放つ禍々しい指輪になった。

 

『「また指輪が・・・・」』

 

『ウルトラマンの力を秘めている。不可思議だ』

 

『「ああ。どうにもこの指輪は、怪しいな」』

 

 

 

ーベルファストsideー

 

「新たな光の巨人、ですか・・・・」

 

「もう、何が起きても驚かない自分がいる・・・・」

 

ベルファストはタイタスを見上げて微笑むが、クリーブランドは苦笑いを浮かべている。クリーブランドに同意なのか、ジャベリンとハムマンとヴェスタルも苦笑いをしていた。

 

「・・・・・・・・」

 

ただ、エンタープライズはタイタスを少し眉を寄せて見据えている。

ふと、ラフィーは空を見上げていた。

 

「どうしたの、ラフィーちゃん?」

 

「・・・・何か落ちてくる」

 

ラフィーが指差した方角を見るとーーーー。

巨大な炎の塊がこちらに向かって落下してきた。

 

「ウソ・・・・」

 

ジャベリンが、一同を代表して呟いた。 

 

 

 

ー霧崎sideー

 

それに気づいたタイタスが、落ちてくる宇宙ステーションを迎え撃つために空に飛び立った。

だが、霧崎はそれを笑って見ていた。

 

「遊びの時間は終わらない・・・・」

 

霧崎は『トレギアアイ』を目に翳し、本来の姿に戻るーーーートレギアへと。

 

 

 

ータイタスsideー

 

宇宙空間でステーションを迎え撃とうとしていたタイタス。その下からトレギアが追ってきた。

 

『フハハハハハハ!!』

 

『トレギア!』

 

『「この忙しい時に・・・・!」』

 

『あの日の苦痛、覚えているかい?』

 

タイタスはトレギアの挑発を一喝する。

 

『相手をしている暇はない!!』

 

『つれないねぇ・・・・フフフフ!』

 

トレギアは小さい光弾を放つも、タイタスは裏拳でそれを弾く。

 

『暇はないと言ったはず!!』

 

タイタスは落下するステーションに向かって真っすぐ突っ込み。

 

『ハァアッ!!』

 

右手の拳で落下する宇宙ステーション粉砕する。

 

『ナイスパンチ』

 

タイタスはトレギアに向けて拳を構える。

 

『暇が出来た! 戦闘再開とゆこうか!!』

 

『打ってごらん。賢者の拳とやらを』

 

『フン! ハァァァァァァ!!』

 

タイタスはトレギアに向かって真っすぐ進み、緑のエネルギーを込めた拳を顔面に叩きつける。

 

『おいおい、全てを砕くんじゃないのか?』

 

『フン! その挑発、敢えて乗ろう!』

 

タイタスはトレギアに左手、右手、両手の順で拳を叩きこむ。トレギアは両手を掴むもタイタスの頭突きで両手を手放す。

 

『フゥ、トオッ!!!』

 

再び、タイタスが右ストレートの拳を放つもトレギアは闇に消える。

 

『フハハハハハハ、ハハハハハハ、ハーーーーーッハッハッハッハッハッ!!』

 

『逃げられたか・・・・!』

 

『「悔しいけど、今は相手をしていられない。タイタス。このまま向かって欲しい所があるんだ」』

 

『ん?』

 

カインの指示に、タイタスは頷くと、ある場所に向かって飛んでいった。

 

 

 

 

ーエンタープライズsideー

 

すっかり嵐は消え去り、太陽が昇り始めた時間帯。

艦モードにした船の上で、ヴェスタルに治療を受けている寧海と平海に付き添うクリーブランド達。

しかし、エンタープライズは一同から離れた位置におり、脳裏にはーーーー。

 

「(あれが、兵器・・・・。私は、私にも、彼女やウルトラマン達のような力があれば・・・・!)」

 

痛みも、苦しみも、何も感じず、ただ破壊しかできないギャラクトロンMK2の姿を自分と重ねてしまう。それと同時に、あんな強大な破壊兵器に立ち向かえるベルファストと、その兵器を破壊した2体のウルトラマンに羨望の気持ちを抱いていた。

そんなエンタープライズに、ベルファストが近づく。

 

「私事で恐縮ですが、あなたに興味を持ちました」

 

「なんだと?」

 

「僭越ながらこのベルファスト、エンタープライズ様に淑女としての礼節を教示させていただきます。・・・・ふふっ」

 

「はぁ・・・・?」

 

ベルファストの言葉に、エンタープライズはただ首を傾げる。

 

「一応言っておきますが、拒否権は御座いません。2度にも渡る待機命令違反をした場合、エンタープライズ様の『お世話係』をするように、ご主人様であるカイン指揮官様が仰っておりましたので」

 

「な・・・・っ、指揮官がか?」

 

「はい」

 

「・・・・・・・・」

 

「ご主人様に文句を言おうとしても無駄です。ご主人様は今しがた、出張に出掛けました」

 

「“出張”? どこにだ?」

 

「『重桜』です」

 

「なっ!!?」

 

ベルファストの言葉に、エンタープライズは思わず間の抜けた声を漏らしてしまった。

 

 

 

ートレギアsideー

 

『・・・・・・・・へぇ~、中々面白そうなのがいるね、アズールレーン♪』

 

トレギアは空の上に立ちながら、遥か眼下にいるエンタープライズを見て、意味深に笑みを浮かべていた。

 

 

 

ー綾波sideー

 

朝方、綾波たち重桜と鉄血の艦隊はようやく重桜近海に近づこうしていた。

負傷した加賀と瑞鶴の応急措置、嵐による航行不能で足止めをくらったが、何とかここまで戻ってこられた。

 

「ん・・・・? っ!」

 

ふと、船首にやって来た綾波は、潮の満ち引きで露になった砂浜に、“1人の男性が立っているのを確認した”。

 

「し、指揮官・・・・!?」

 

その砂浜に立っていたのは、海守トモユキ指揮官こと、カイン・オーシャン指揮官だった。

 

 

ー赤城sideー

 

「姉様!」

 

「あら、どうしたの加賀?」

 

慌てた様子で自分を呼ぶ妹に、赤城は怪訝そうに聞くとーーーー。

 

「し、指揮官が・・・・!」

 

指揮官の名を聞いた瞬間、赤城は察したように鋭い笑みを浮かべる。

 

「ウフフフフ・・・・。やはり来てくださったのですわね。指揮官様♥️」

 

笑みを浮かべる赤城からは、絶対に逃がさないと言わんばかりの圧力が放たれていた。

 

 

~綾波達が来る前~

 

『ふん! ふん! ふん! ふん!・・・・』

 

小さい思念体となったタイタスはカインの左肩に乗って、宝石となっていて鍛練ができなかったので、スクワットをしていた。

 

『そういえばタイタス。お前いつからこの宇宙に来てたんだ?』

 

『うむ! ちょうど! 今から! 12年程前! この宇宙に! 来てな! 少し前に! この星から! タイガの気配が! していたので! 来てみると! 『セイレーン』と! 戦闘に! なりそうだった! 寧海くん達と出会ったのだ!』

 

『12年前って、俺がトモユキと同化した時と同じだな?』

 

カインの右肩に座っているタイガが声を発する。

 

「ん? そうなのか?」

 

『ああ! 凄い奇跡だな!』

 

『うむ! まさに! 宇宙的! 可能性の! 奇跡だな!』

 

「(これは本当に奇跡なのか?)」

 

カインは疑問を感じるが、重桜の艦隊が近づいているのが見えた。

 

「(タイガ。タイタス。お喋りはここまでにしよう)」

 

『うむ!』

 

『ああ! 久しぶりに重桜に帰れるぜ!』

 

『それにしても! 寧海くんや平海くんも! 勇敢な少女だったが! あのベルファストと言うお嬢さんも! 素晴らしい女性だったな!』

 

『まぁ俺の『婆ちゃん』には負けるけどな!』

 

「(さて、重桜では鬼が出るか、蛇が出るのか?)」

 

カインは艦首に現れた綾波を見据えた。




次回。故郷に戻ったカインを待ち受けるのは??


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【重桜】記憶に無い故郷

ついに重桜に戻ったカインの運命は?


ーカインsideー

 

朝日が昇る頃。

先日に重桜艦隊に乗り込んだカインと思念体のタイガとタイタス(二人ともカインの肩に乗っている)は、赤城の艦の船首から、漸く見えてきた重桜母港を覆い尽くすほどに咲き乱れる満開の桜を眺めていた。

 

≪ほぉ、あれが重桜。あの桃色に咲き乱れているのが桜と言う樹木か。何とも艶やかで美しい花だな≫

 

≪だろう! トモユキもこの桜を眺めるのが大好きだったんだぜ!≫

 

「(ふぅ~ん。そうだったのか)」

 

「どうですか? 指揮官様」

 

後ろからの声に振り向くと、笑みを浮かべる赤城と冷静な表情の加賀が近づく。

 

「・・・・・・・・」

 

カインは二人を一瞥すると、再び重桜母港を見つめる。

 

「着いたらすぐに、貴女達重桜の旗艦、『長門』と会談を行いたい」

 

カインはそう言うと、背後から優しく抱き締められる。

後方を見ると、赤城の顔があり、背中には赤城の大きな胸部が、フニョンっと押しつけられる。

 

「(うおっ! なんと幸せな感触! これはフッドかアークロイヤルはあるぞ!)」

 

≪おいおい・・・・≫

 

≪しっかりしないか・・・・≫

 

色事に関しては隙だらけでドキドキしているカインに、タイガとタイタスがシャンとしろ、と言わんばかりに声を発する。

 

≪もしかして、記憶を失う前からこうだったのか?≫

 

≪いや、トモユキの頃は嬉し涙を流してたな。「素晴らしい感触だ・・・・!」って言って≫

 

「(えっ? そうだったの?)」

 

「指揮官様・・・・やって帰って来て下さいましたした・・・・赤城は信じていました・・・・指揮官様が、必ず戻ってきてくださると・・・・」

 

背中から抱き締める赤城の手は、もう離さないと言わんばかりに力を込めていた。

 

「・・・・・・・・っ」

 

カインは赤城の腕の力にうすら寒い悪寒を感じながら、隣にやって来た艦・『綾波』と、船首に佇んで自分をジッと見つめる綾波の姿を捉えた。

 

「・・・・・・・・」

 

「(綾波・・・・)」

 

綾波は悲しそうにカインを見つめると、そのまま船首から歩き去っていった。

 

 

 

 

重桜基地の港に到着すると、『重桜所属 重巡洋艦 古鷹』と『重桜所属 重巡洋艦 加古』が出迎えきた。

 

「赤城さん、お帰りなさい」

 

「ご苦労様、加古。古鷹」

 

「留守の間、何事も無かったか?」

 

「はいこれと言っては。それと、『長門様』がお呼びです」

 

「分かっているわ。色々と報告に向かわないとね」

 

古鷹が綾波に近づく。

 

「お帰り綾波!」

 

「ただいま、です。それと・・・・」

 

「えっ?・・・・・・・・あっ」

 

「あ!」

 

綾波が後ろを振り向き、その視線を追った古鷹と加古が目を見開く。

綾波の後方から歩いてきた、ロイヤルの軍服を着た青年に。

肌と髪の色と服装は違うが、間違いなく、いや、見間違いなどする筈もない人物が、歩いてきたからだ。

 

「「し、指揮官・・・・!!」」

 

「・・・・・・・・」

 

≪加古! 古鷹!≫

 

「指揮官よ!!」

 

「本当なのだ!?」

 

「おーい指揮かーーーん!!!」

 

「あ・・・・? (ドンッ!!)ぐぉがっ!!」

 

≪あだっ!?≫

 

≪むっ!≫

 

突然自分の胸に突撃してきた三人の艦船<KAN-SEN>達に、カインは仰向けに倒れるが、突撃してきた三人は構わずカインの顔をジッと見つめ、瞳に涙を溢れさせた。

 

「今までどこに行ってたのよこのアホ指揮官!!」

 

「指揮官なのだーーー!!」

 

「この匂い、間違いねぇ! 指揮官だ!」

 

≪いててて・・・・。時雨に、雪風に、夕立か・・・・≫

 

犬耳としっぽに黒髪をポニーテールにした少女・『重桜所属 駆逐艦 時雨』。銀色の髪に猫耳としっぽの少女・『重桜所属 駆逐艦 雪風』 。白い髪に時雨と同じく犬耳としっぽの少女・『重桜所属 駆逐艦 夕立』。

三人はしっぽも物凄い勢いで振り回していた。喜びを全力で表現しているようだ。

 

「いっつぅ~・・・・あの、その、ね・・・・」

 

後頭部を強かに地面に叩きつけ、目の前がバチバチと火花が飛び散るが、三人の艦船は気に止めずカインの胸元に顔を埋め、中々自己主張のある胸元をフニョンと押し潰す。

 

「・・・・みんな、指揮官が困っているです。早く退くのです」

 

綾波がオロオロしながら時雨達に退けるように言うが、古鷹と加古も、カインに抱きつきたいのか身体をウズウズしているとーーーー。

 

「あらあら貴女達、重桜の女性として、随分とお行儀が悪いわね?」

 

「「「っ!」」」

 

目元に影が差し、ユラリと三人を見下ろす赤城の気配(殺気?)を感じると、三人は瞬時にカインから退き、古鷹と加古も少し身体を震わせながら大人しくなる。

顔は笑っているが目がまったく笑っていない赤城の視線に、三人はガタガタと身体を震わせる。

 

「あ、赤城。そんなに怒らなくていい。僕は気にしていないから」

 

「・・・・指揮官様がそう仰るならば」

 

不承不承ながらも、赤城は物騒な気配を収めた。カインは加賀に手を貸して貰いながら起き上がる。

 

「あれが、『海原の軍者』と謂われた『海守トモユキ指揮官』、なんですか?」

 

「そのようね。どうやら記憶を失っているようだけど・・・・」

 

その様子をニーミは訝しそうにカインを見据え、オイゲンは興味深そうにカインをジットリと見つめる

 

「っ・・・・・・・・」

 

そのオイゲンの視線に気づいた加賀が、カインの姿を隠すようにオイゲン達の間に立った。

二航戦の『重桜所属 空母 蒼龍』と『重桜所属 空母 飛竜』が出迎えにやって来た。

 

「お帰りなさいませ、指揮官」

 

「お帰り、指揮官!」

 

「あ、えっと、蒼龍に飛竜、だね。僕は・・・・」

 

「・・・・翔鶴から連絡で聞いております。記憶を失っているのですよね?」

 

先日からすでに報告を受けていたようで少し表情を曇らせる重桜艦船達。カインは内心、記憶が無くて申し訳ない気持ちで話し出す。

 

「ああ。半年以上前から記憶がない。・・・・もしも僕が、“海守トモユキであった”としても、今の僕はアズールレーン指揮官である『カイン・オーシャン』だ。早速だが、重桜旗艦・長門殿との会談をお願いしたい」

 

「分かっています。ですが、仲間の出迎えの後で宜しいでしょうか?」

 

「ああ。構わない・・・・ん?」

 

急に視線を感じると、先ほどの三人の内、雪風と夕立がカインを見上げていた。

 

「な、何かな?」

 

「・・・・指揮官、雪風様の頭を撫でるのだ!」

 

「俺のお腹も撫でろ! 指揮官じゃないのか判断してやるっ!」

 

「え、ええっ!?」

 

カインが雪風と夕立に迫られている内に、五航戦の翔鶴と瑞鶴を蒼龍と飛龍が出迎えた。

 

「ただいま戻りました」

 

「はいお疲れ様。無事で何よりよ」

 

「もう聞いてくださいよ蒼龍さん。一航戦の先輩方ったら本当に人使いが荒いんですよ」

 

「・・・・・・・・」

 

「どうしたんだい瑞鶴? 浮かない顔をしてるけど」

 

翔鶴が蒼龍に一航戦に対する長くなりそうな愚痴を話し出すと、沈んだ表情をした瑞鶴に飛龍が問いかける。

 

「・・・・ううん大丈夫。何でもないよ飛龍さん」

 

瑞鶴の脳裏に浮かんでいるのは、グレイゴースト<エンタープライズ>と決着をつけられなかった事だ。

 

「・・・・グレイゴースト。次こそは必ず!」

 

それを分かっている翔鶴が心配そうな表情を浮かべる。

 

「(ふむ。どうやら悩める艦船がここにもう1人、か・・・・)」

 

カインも雪風の頭を撫で、夕立のお腹を撫でながら、瑞鶴の方にチラッと視線を向ける。

因みに雪風も夕立も気持ち良さそうな笑みを浮かべながら、カインの手のひらの感触や撫で方で、間違いなくカインはトモユキ指揮官であると確信していた。

それを見て赤城が冷酷な視線を二人に向け、加賀はそんな姉を宥め、時雨と加古と古鷹は赤城に震え、綾波は若干羨ましそうに雪風と夕立を見つめ、ニーミは顔を赤くし、オイゲンは愉快そうにしていた。

 

 

 

ーエンタープライズsideー

 

その頃、エンタープライズは少々参っていた。

朝になればベルファストが起こしに来て、さらに食堂で食事をするようにされ、生活習慣を改善されようとされていた。

文句を言いたくともーーーー。

 

「二度にも渡る『待機命令違反』を行ったエンタープライズ様に拒否権はありません。これはご主人様であるカイン・オーシャン指揮官様からの罰則とお考えください」

 

そう言われればグウの音もでなかった。それ故に『礼節』などを学ばされる事になった。

二人は表へ出ていくと。

 

「・・・・東煌の少女たちの様子はどうだ?姉の方は深手を負っていたが…」

 

「それでしたら・・・・」

 

ベルファストは指し示した浜辺には屋台があった。

そこで、平海と寧海がパンダまんの店を開いており、繁盛しているようだった。

 

「うぅ・・・・なんでハムマンが手伝わされてるのよ!」

 

後、何故かハムマンが手伝わされていた。

 

「加油、頑張って」

 

「平海! 売り物を食べるな!」

 

「商売を始めてる・・・・」

 

「大変逞しいお嬢様方でございます」

 

そこへ平海がパンダまんを持って、ベルファストとエンタープライズに渡しに来た。

 

「はいどうぞ」

 

「いや、私は・・・・」

 

「お代は気にしないで、って姉ちゃんが言ってた」

 

平海がそう言うと、屋台に居た寧海は見ると、寧海も頷いていた。

 

「平海達の事を助けてくれたお礼」

 

「・・・・・・・・」

 

そしてエンタープライズはそのままパンダまんを食べている。

その表情にベルファストは少し微笑んでいた。

 

「ベルファストさん」

 

「はい」

 

「指揮官はいつ戻ってくれるの? 平海達がここで商売するのも、ここにいても良いって許可もしてくれた事にお礼の肉マンをプレゼントしたかったのに・・・・」

 

「ご主人様は出張に出掛けておりまして。しかし必ず戻ってきてくださいますから、ご安心くださいませ」

 

「うん・・・・!」

 

平海はベルファストの言葉に頷くと、商売に戻っていった。

 

 

 

 

ーユニコーンsideー

 

そしてユニコーンも海辺でビーチチェアに座りながら、パンダまんをじっと見ている。普段は食べ慣れていないからか、不思議と思っていた。

だがジャベリンがパクっと食べているのを見て、ユニコーンもそのパンダまんをパクっと食べた。

 

「美味しい・・・・」

 

「うん、美味しいね!」

 

そして口元にパンダまんの餡が少し付いてしまったため、横に居たイラストリアスが口元を拭いてあげた。

その光景をジャベリンは微笑ましそうに見ていると、ラフィーが唐突に話し始める。

 

「次は綾波や指揮官とも一緒に食べたい・・・・」

 

「えっ?」

 

「嫌?」

 

「ううん! そんなことないよ!・・・・そうだね。綾波ちゃんも一緒だといいね・・・・」

 

「???」

 

ジャベリンが空を眺めながら呟き、ユニコーンは首を傾げた。

 

 

ーエンタープライズsideー

 

場所は基地内の会議室。

東煌の二人が商売を切り上げて、これまでの経緯を話していた。

指揮官が不在の為、指揮官代理兼ロイヤル代表としてウェールズとベルファストが。

ユニオン代表として、エンタープライズとホーネット、ヴェスタルとクリーブランドが同席していた。

寧海が経緯を説明する。

 

「私達東煌は、『セイレーン』に怪しい動きが有るのを掴んだの。『大規模交戦』の余丁かも知れない。それを探るため、私達は偵察に出たんだけど。・・・・そこで、『セイレーン』の艦隊と『セイレーンの上位個体』。そして、“青い仮面をつけた不気味な巨人”がいたの」

 

『上位個体』。

それは、謎の艦隊『セイレーン』を従える、女性のような姿をした存在だ。

 

「『セイレーンの上位個体』が動いてるって事? しかも、“青い仮面をつけた不気味な巨人”って私達も遭遇した、確か何だっけ?」

 

「『ウルトラマントレギア』、でしたっけ?」

 

「ああ。だが、ウルトラマンの名を持っているが、これまで現れた2体のウルトラマンとは、敵対関係にあるようだがな」

 

ウェールズはテーブルに置かれたカメラ付きインカムで撮られたタイガとタイタス。

そしてこれまで現れた怪獣、ヘルベロス。ベムラー。ギャラクトロMK2。そしてトレギアの写真を見据えた。

寧海は話を続ける。

 

「その巨人(トレギア)はすぐに消えたんだけど、私達は『セイレーン』の艦隊から逃げながら戦い、その最中に、空から落ちてきた宝石が私達に近づいてきて、その宝石から『賢者様』の声が聞こえて、その声の指示に従いながら何とか戦えたの」

 

「ふぅ~ん。その『賢者様』が、新しく現れたウルトラマンって訳か。結構イカした姿だね。もぐっ・・・・ペロッ」

 

「お行儀悪いですよ、ホーネットちゃん」

 

タイタスの写真を手に取り、パンダまんを食べ終えたホーネットが写真を持ってない手の指を少し舐めると、ヴェスタルが注意し、ウェールズが口を開く。

 

「東煌はアズールレーンに属する陣営の1つだ。我々の為に、この情報を掴んでくれたのだ」

 

「アズールレーンとレッドアクシズが戦ってる隙を突いて、仕掛けるつもりかも・・・・。それに、ウルトラマントレギアだっけ? アイツ、とんでもなくヤバい奴よ。見た瞬間萎縮しちゃったモノ・・・・」

 

「もぐもぐ・・・・。アイツきっと、『賢者様』やタイガって言う『勇者』の敵だと思う」

 

寧海と平海の言葉に、一同は渋面を作る。

『セイレーン』だけでなく、『怪獣』と『ウルトラマントレギア』。さらなる脅威が現れたのだ。

 

「これってさ、指揮官もいないといけない話だと思うけど・・・・」

 

クリーブランドの言葉に、他のメンバーも頷くが、ウェールズが声を発する。

 

「指揮官も、事態は深刻さは理解しておられる。だからこそ、アズールレーンとレッドアクシズなどと人類同士で内輪揉めをしている場合ではないと、重桜の説得の為に向かったのだ」

 

「でもさ、指揮官が無事に戻ってくるの? 私達艦船<KAN-SEN>を1人も連れていかないで・・・・」

 

「いや、我々も一緒に行けば重桜側にも警戒されるとお考えになったのだ。それに、重桜は指揮官に対して手荒な真似はしないだろう・・・・」

 

ウェールズがそう言うと、ベルファストは少し目を伏せた。

 

 

 

 

 

 

 

そして会議を終えたエンタープライズは、ベルファストと共に廊下を歩きながら、先ほどの会議の懸念事項について話していた。

 

「『セイレーンの活動』と『重桜の新技術』、量産型のセイレーンを操るあの力・・・・。そして突如現れた怪獣とウルトラマントレギア。無関係とは思えない。少し調べる必要があるな」

 

「それは我々ロイヤルが得意とするところでございます」

 

「なに?」

 

それを聞いてエンタープライズは首を傾げるが、ベルファストは続けて言葉を紡ぐ。

 

「既に私ども『メイド隊』が新しい任務に就いております」

 

「メイドが? 任務だって?」

 

「はい。ご主人様が重桜に現状の重大さを伝えるため、相手に警戒されないように単身で向かいましたが、事前に策を打っております」

 

「策・・・・?」

 

「ふふっ・・・・『クローク&ダガー』、『外套と短剣』でございます」

 

エンタープライズに、ベルファストが優雅にお辞儀をした。

 

 

ー???sideー

 

「扶桑姉様! 殿様が帰って来ましたよ! 早く早く!」

 

「山城。そんなに慌てなくても大丈夫よ」

 

『重桜所属 戦艦 山城』が姉の『重桜所属 戦艦 扶桑』の手を引っ張りながら、カインのいる港に向かい、二人のお面を着けた巫女の横を通りすぎた。

二人の巫女の内、長髪の巫女が遠くの港で『重桜所属 工作艦 不知火』に身体検査をされているカインを眺める。

 

「指揮官、やっぱり来ちゃったわよ」

 

「そのようですね。護衛と諜報活動までやらせるとは、相変わらず仕事を増やす害虫ですね」

 

もう1人の髪をアップさせている巫女が、冷徹な目線でカインを睨んでいた。

 

「あ、相変わらず指揮官に毒舌ね、『シェフィールド』・・・・」

 

「事実を言ったままです。ま、愚痴を言っても仕方ありません。ご主人様が仕事を終えたらすぐに脱出できるように逃走ルートを確保しますよ」

 

「まっかせない! 私ももう〈ノブレス・ドライブ〉が使えるんですから!」

 

「隠密行動中なのですから静かに、『エディンバラ』」

 

そう言って二人の巫女はコッソリと行動を開始した。

 

 

 

 

 

ーエンタープライズsideー

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「やぁ、エンタープライズさん♪」

 

「っ!・・・・誰だ?」

 

同じメイドの『サフォーク』がサボっていると、ウォースパイトから連絡を受けたベルファストが、少し離れている間に自分の艦に来ていたエンタープライズに、母港で見たことが無いモノクロのブラウスを着用し、不気味な笑みを浮かべた青年が現れた。

エンタープライズは警戒心を露にすると、青年は両手を上げて降参を示してきたが、その顔にはニヤけた笑みを浮かべたままである。

 

「そんなに警戒しないでくれないかな。僕の名は『霧崎』。君の味方だよ」

 

「っ!」

 

『霧崎』と名乗った青年はエンタープライズに向けて『何か』を投げ、エンタープライズはそれを思わず手で掴み取り、『それ』を見る。

それは、『宇宙怪獣ベムラー』の顔があしらわれたリングだった。

 

「これは・・・・?」

 

「それが、君に更なる力を与えてくれるよ」

 

「なに?」

 

「君、〈ノブレス・ドライブ〉だっけ? 自分にアレが使えないと言われて焦っているでしょう?」

 

「っ!」

 

図星を突かれ、エンタープライズは息を飲む。

 

「『気高さ』だとか、『戦う理由』だとか、訳の分からない感情論なんかに捕らわれる必要なんて無いよ。だって、『力』って言うのは、簡単に手に入るモノなんだから・・・・!」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

霧崎にそう言われ、改めて『ベムラーリング』を見つめたエンタープライズは、そのリングから立ち上る禍々しい力を感じ、再び霧崎を見ると、霧崎の姿は忽然と消えていた。

 

「・・・・・・・・これを使えば」

 

エンタープライズは、少し不気味に思いながら、『ベムラーリング』を懐に隠した。

 

 

 

ー霧崎sideー

 

先ほどまでアズールレーン母港にいた霧崎はいつの間にか、“重桜母港に来ていた”。

 

「フフフ・・・・」

 

「随分機嫌が良いのね?」

 

ほくそ笑みを浮かべる霧崎の隣に、蛸のような触手をうねらせた色素の無い白髪と生気が全くない青白い肌の女性が現れた。

 

「なに、面白いのがいたからね。少し手助けをしていたんだよ♪」

 

「あら? その子って面白いの、『トレギア』?」

 

「その内わかるよ、『オブザーバー』」

 

霧崎の影がウルトラマントレギアとなり、『セイレーン オブザーバー』と不気味な微笑みを浮かべていた。




トレギアに目をつけられたエンタープライズの運命や如何に?


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【会合】旗艦との会議

ーカインsideー

 

カインは赤城と加賀に連れられて、母港で最も高い丘の上に、一際大きい御神木の桜が咲き乱れる場所。

湖の中央に建てられた神社の小さな社に到着すると、そこに二人の黒髪に獣耳の少女と二人を護衛するように一人の銀髪に獣耳の少女がいた。

『重桜所属 戦艦 長門』。

『重桜所属 戦艦 陸奥』。

『重桜所属 駆逐艦 江風』。

ロイヤルの旗艦がQ<クイーン>・エリザベスならば、重桜の旗艦はこの『長門』である。

 

「・・・・指揮官・・・・!」

 

カインの顔を見た瞬間、長門の瞳が潤う。

 

「指揮官!」

 

すると今度は、長門の少女の妹である陸奥がカインに抱きついた。

 

「ぁ・・・・」

 

「はぁ~、やっぱり指揮官だ・・・・!」

 

「こ、これ! 陸奥! 指揮官は今記憶を失っておるのだ! そのような事をしてはならぬ!」

 

カインの胸元に顔を埋める陸奥を、長門が離れるように声を発し、江風が優しく陸奥をカインから引き剥がし、定位置に座らせた。

 

「すまぬ、指揮官。妹も指揮官が行方知れずとなって悲しんでいたからの」

 

「いえ、お気になさらず。ですが、今僕は『海守トモユキ』ではなく、アズールレーン指揮官である『カイン・オーシャン』です。今回は、重桜にもう一度、アズールレーンに戻ってもらいたくここに来ました」

 

他人行儀なカインの態度と言葉に、その場にいた一同は一瞬悲しそうな顔となるが、すぐに顔を引き締め、姿勢を正す。

それからカインは現在、自分達の星で起こっている脅威について話した。

この星から生まれたり、異星からやって来る『異常進化生命体・怪獣』。

遥か彼方の星からやって来てこの星に潜伏している『異星人』。

さらに、おそらく『セイレーン』以上の危険性を秘めた巨人、『ウルトラマントレギア』。

さらに、怪獣や異星人やトレギアと敵対関係にあり、アズールレーンの艦船<KAN-SEN>達を守ってくれた『ウルトラマンタイガ』と『ウルトラマンタイタス』の事も説明した。

 

「フム・・・・『セイレーン』だけでなくそのような者達が我らの星にいるとはな」

 

「この重桜母港には、指揮官がいないようですが、トモユキ指揮官が行方不明となってから半年以上、誰も来なかったのですか?」

 

「ウム・・・・。重桜上層部は指揮官がいなくなった事を良いことに、アズールレーン脱退を強行させたのだが、いざ自分達がトモユキ指揮官の代わりにこの母港の、つまりレッドアクシズの代表をやらなければならないと言われ、上層部は母港の運営と鉄血との連合も、全て我ら重桜母港の艦船<KAN-SEN>に任せたのだ。“現場の判断はお前たち艦船<KAN-SEN>で上手くやれ”、と言ってな」

 

長門を渋面を作りながら説明し、陸奥も江風も渋面になっていた。それを見て、カインは察したように頷く。

 

「・・・・なるほどな」

 

≪どういう事だ?≫

 

「(つまり、アズールレーンを脱退した重桜と鉄血の同盟、レッドアクシズの指揮官だなんて、言い方を変えれば『人類への裏切り者』だ。そんな後ろ指さされる上に、もしもレッドアクシズがアズールレーンに敗北すれば、その責任の全てを押し付けられる立場だなんて、誰もなりたくなかった。だからもしそんな事態になっても、長門たち重桜艦船<KAN-SEN>達が勝手にやった事で、重桜上層部は関知していないって言い分けを立たせるって訳だ)」

 

≪へぇ~・・・・≫

 

≪何処の星、何処の世界も、軍の上層部と言うのは、安全な場所で自らの保身と利権しか考えてなく。現場の状況は現場の人間に押し付ける世渡りだけが上手いと言う事か・・・・≫

 

カインの説明に、タイガは良く分かっていないような声を漏らし、タイタスは上層部に対して呆れたようなため息を吐いた。

 

「長門様、そろそろ話を進ませて貰っても?」

 

「おお、すまないな。して、どうであった?」

 

「ではまずは・・・・こちらを」

 

話を中断させた赤城は、懐から『黒い四角の立方体』を取り出した。

それを見てカインは目を鋭くする。

 

「(あれは、『メンタルキューブ』か?)」

 

≪それっぽいけどさ、俺の知っている『メンタルキューブ』は、薄い蒼い色をしていたぜ?≫

 

≪あれが『メンタルキューブ』。艦船<KAN-SEN>の少女達を生み出す未知のテクノロジーか≫

 

カインとタイガとタイタスも、赤城の取り出した『黒いメンタルキューブ』を訝しそうに睨んだ。

 

「ふむ、この『黒匣』が『セイレーン』を従えるのか?」

 

長門の言葉でカインは察した。この『黒いメンタルキューブ』のような『黒匣』が、重桜が『セイレーン』の艦隊を操る為のキーアイテムだと。

しかし、どうやって赤城達がこんなものを手に入れたのか、それが分からなかった。

 

「はい、ですがそれはあくまで“副産物”に過ぎません。この『黒箱』もまた『メンタルキューブ』。いわば、私たち艦隊<KAN-SEN>を生み出す素材その物なのです」

 

「『オロチ計画』・・・・」

 

「(『オロチ計画』・・・・?)」

 

「はい、私たち重桜の希望ですわ」

 

「だがそのために、我らから仕掛ける事になろうとは・・・・」

 

≪『オロチ計画』って、まさかあの・・・・≫

 

≪タイガ、何か知っているのか?≫

 

≪俺も詳しくは良く分からないけど、確か、“赤城さんと加賀さんの姉である『天城』って人を含んだ8人の艦船<KAN-SEN>を誕生させる計画”・・・・だったけ?≫

 

「(それが『重桜の希望』となる計画、か・・・・)赤城、聞いておきたいんだが?」

 

「何なりと、指揮官様」

 

「何故同じ艦船<KAN-SEN>達で、人類を二分するような戦いを起こす? 確か海守トモユキ指揮官は、『重桜のアズールレーン脱退に反対派筆頭』だったと聞いたが、何故それに反した?」

 

「避けられない事だったのです指揮官様」

 

「『セイレーン』との大戦は、これまで幾度となく繰り広げられてきた。今の人類は辛うじて生き延びてるに過ぎない」

 

「怪獣、異星人、ウルトラマントレギア、このような脅威が蔓延る中、アズールレーンのやり方では間に合わないのです。全ては重桜の明日のために・・・・」

 

赤城と加賀が宥めるようにカインを説得する。

 

「それに、指揮官様はもう私達の敵ではなく、私達の重桜の・・・・“このレッドアクシズの指揮官になっていただきます”」

 

「(ピクッ)・・・・なに?」

 

赤城の言った言葉に、カインが片眉を動かす。

 

「だってそうでしょう? 元々指揮官様は重桜の者、なれば元の鞘に収まるだけでございます」

 

「・・・・まだ僕自身、自分が『海守トモユキ』なのかと確証が持てない。先ほど『不知火』が身体検査と称して、僕の網膜、指紋、声紋、毛髪、皮膚、血液、果ては唾液まで採取したのは、僕が『海守トモユキ』本人なのか照合する為でしょうが、生憎とまだ自分自身で確証を得ていない。それに、アズールレーンには、半年前に僕を保護し、指揮官として迎え入れてくれたロイヤルの皆への恩義があるし、重桜のやり方にも、納得しないし、できない!」

 

その時、カインの目には、『強い意志』があった。それを見た瞬間、長門達は確信した。

目の前にいるのは、『海原の軍者 海守トモユキ』だと。

長門が一同を代表して口を開く。

 

「わかった。指揮官がそこまで言うのであれば、この重桜にある『トモユキ指揮官の執務室』に行くと良い」

 

「『執務室』?」

 

「ウム。ソコならば、指揮官の記憶の手がかりが見つかるかも知れん。だが、記憶が無い以上、こちらも『案内役』を置かせて貰うが、宜しいか?」

 

「(『案内役』じゃなくて、『監視役』だろう)・・・・構いませんよ」

 

「では今手が空いている艦船<KAN-SEN>を、ん?」

 

長門の手元に空中ディスプレイが表示されると、そこに一人の艦船<KAN-SEN>が現れた。

 

「丁度良い時に来たな『愛宕』」

 

「『愛宕』?」

 

「あ、『愛宕』・・・・!」

 

重桜艦船<KAN-SEN>の一人である事を察したカインだが、後方にいる赤城から、何やら苦虫を噛んだような声が聞こえた。

愛宕からの通信を終えた長門が、カインに向き直る。

 

「指揮官よ。『愛宕』がソナタの案内役を志願した。これから『愛宕』の案内に従ってくれ」

 

「分かりました」

 

「し、指揮官様! もうすぐ会議も終わります。私と加賀が案内をしますから、もう少し待っていてくださいませんか?」

 

妙に慌てたような赤城を、カインは訝しそうに見る。

 

≪どうしたのだ赤城殿は?≫

 

≪あぁ良く『愛宕さん』や『大鳳』や『準鷹』と、トモユキの事で揉めまくっていたからなぁ・・・・。そうだ! トモユキ、こう言えば良いぜ≫

 

「(ん?・・・・・・・・分かった) 悪いが赤城、僕も自分が海守トモユキである確証が早く欲しい。どうしてもっと言うならば、“案内役は綾波に頼もうかと思うが”?」

 

「あ、綾波・・・・!!」

 

綾波の名前が出た途端に、赤城は逡巡する様に呻くが、すぐに静かに深呼吸すると、

 

「わ、分かりましたわ。綾波に任せるくらいならば、まだ愛宕の方がマシですから・・・・!」

 

悔しそうに声を発する赤城に加賀と長門と江風は半眼となり、陸奥は良く分からないと言わんばかりに首を傾げた。

 

≪どういう事だタイガ?≫

 

≪実は綾波が一番トモユキとの付き合いが長い艦船<KAN-SEN>だからなぁ。もしその綾波と過ごしていてトモユキの記憶が戻りました! なんて事になったら、赤城さんとしては面白くないと思ってさ≫

 

「(ふぅ~ん・・・・)」

 

等と話している間に、社に一人の艦船<KAN-SEN>がやって来た。

柔和な笑みを浮かべ、白い軍服を着用し、腰には刀を所持しており、サラサラとした長い黒髪にピンと獣耳が立ち、白いリボンをつけている。

軍服の上からでも分かる程のベルファストと互角と言っても良いくらいのグラマラスな肢体と豊満なバスト。

露になっている魅力的な太ももにはガーターストッキングを履いており、全体的に包容力と妖艶さが見事に調和し、見るからに『色気の溢れる優しそうなお姉さん』と言っても良い美女だった。

 

≪『愛宕さん』だ≫

 

「(彼女が・・・・)」

 

「お久しぶりね、指揮官♥️」

 

柔和に微笑むその人物が、『重桜所属 重巡洋艦』だ。カインが立ち上がり、愛宕に挨拶した。

 

「えっと、案内役を頼みます。それでは長門殿、これにて失礼します」

 

「ウム。良い返事を期待しておるぞ」

 

カインが愛宕に連れられ社を離れる。その際、一瞬目が合った赤城と愛宕の間に、青い火花がバチバチッ、と弾けたように見えたのは、おそらくカインだけではないだろう。

 

 

 

 

 

 

社から離れ、長い階段を下っていくカインと愛宕。

少し歩いていくと、不意に愛宕がカインの腕に自分の腕を絡めた。

 

「あ、愛宕・・・・?」

 

「指揮官、お姉さん寂しがったわ。指揮官が突然居なくなって、どれだけ悲しい思いをしたか、指揮官に分かる?」

 

「いや、その、僕は・・・・」

 

「分かっているわ。指揮官は今、記憶が失っているって、だ・か・ら、これからお姉さんが側にいてあげるからね♪」

 

愛宕が離さないと言わんばかりにカインの腕をガッチリと絡ませ、その豊満なバストを当てる。

 

ーーーーボニュン♥️

 

「(うおっ!・・・・こ、この柔らかさと弾力! これはベルファストにも勝るとも劣らない!!)」

 

≪コラコラ・・・・≫

 

≪本当にスケベ心は無くしていないな・・・・≫

 

鼻の下が伸びそうになるカインに呆れるタイガとタイタスだった。

 

 

 

ー長門sideー

 

去っていったカインと愛宕の背中を恨みがましそうに睨んでいた赤城だが、加賀が何とか宥め、改めて長門への報告を続けた。

 

「・・・・指揮官様はああ言っておりますが、『セイレーン』だけでなく、『異星からの脅威』も迫っているこの状況をやはり『オロチ計画』を何としてもやり遂げなければ・・・・」

 

「しかし、あの指揮官が本当に我らの指揮官であり、彼がこの『計画』に反対すれば、おそらく多くの重桜艦船の皆が従うだろう」

 

「指揮官様を説得します。かなり難航すると思いますが、必ず」

 

「・・・・・・・・分かった。指揮官の説得は任せる。下がって良いぞ」

 

長門は去っていく赤城と加賀の背中を見ながら呟く。

 

「戦いはいつの世も変わらぬ、と言う事か・・・・」

 

 

 

ー赤城sideー

 

「この期に及んでまだ迷うとは、長門には『覚悟』が足りん!」

 

階段を下りながら、赤城の前を歩く加賀は長門の態度に不満を漏らした。

 

「そんな事を言うものではないわよ。それもまた『深い愛』があっての事・・・・」

 

「ですが姉様!!・・・・っ」

 

諌める赤城に振り向くと、加賀は姉の様子に言葉を止める。

 

「指揮官様が戻ってきてくれて本当に良かった。だって、指揮官様がもしいなかったら、赤城の愛が世界を燃やして尚、燃え盛っていたのだから・・・・」

 

赤城は袖に入れておいた『黒匣』を取り出す。

 

「指揮官様も戻ってきた。後は、『あの人』も戻ってきてくれれば・・・・」

 

「・・・・姉様・・・・」

 

何処か歪になっていく姉を、加賀は静かに見つめる事しかできなかった。

 

 

 

ーニーミsideー

 

その頃ニーミは、重桜母港にある『和菓子屋』にて、桜と重桜の風光明媚な景色とヨウカンとお茶を堪能していた。

 

「あ~む「えぇええええええっ!!」んぐっ!?」

 

ヨウカンを頬張った瞬間、後ろで突然響いた声に噎せたニーミは、何とか飲み込んで、情緒を壊した相手を睨むと、綾波から話を聞いていた時雨達がいた。先ほどの大声は時雨だったようだ。

 

「エンタープライズって奴、あの加賀さんに勝ったの!? ヤバイわね・・・・」

 

「ふん! この雪風様の手に掛かれば、ユニオンもロイヤルも一網打尽なのだ!」

 

雪風が得意満面にふんぞり返る横で、団子を口一杯に頬張っていた夕立が喉に詰まらせ、時雨がお茶を、綾波が背中をさする。

 

「ぶはっ! 良いなぁ綾波は出撃できて! しかも怪獣とか、ウルトラマンってのとも会ったんだろ!? 夕立も早く戦いたいぜ!!」

 

「っ・・・・」

 

綾波は脳裏に、ジャベリンやラフィーの顔が頭に過った。

 

「・・・・戦いは好きじゃないです、ただ普通に戦ってただけ・・・・」

 

「・・・・普通って、あの『鬼神綾波』がなに言ってんのよこのこの!」

 

時雨が綾波の頬をプニプニし、夕立が綾波の頭に乗っかって角を触る。

 

「鬼だぁ~! 角角~! ハハハッ!」

 

「うぅ、これは綾波の耳です、角じゃないです・・・・」

 

「アンタも変わったわよね?」

 

「“変わった”? 綾波が、です?」

 

「変わったわよ。初めて会った時のアンタ、戦う事が自分の存在意義だ! って言わんばかりだったのに、いつの間にかそんな風に考えるようになったのね」

 

「・・・・・・・・それは、やはり指揮官が・・・・」

 

指揮官の名前が出た途端、それまで和気藹々だった空気が少し曇る。

 

「だ、大丈夫よ! 今『不知火』と『明石』が検査しているんだから! 指揮官がアタシ達の指揮官だって証明されるのは時間の問題よ!」

 

「おうよ! 匂いも手の感触も指揮官だったんだ! 絶対指揮官に決まってるぜ!」

 

「あっ、当たったのだ!」

 

「ぬぐ!」

 

などと会話している間に、雪風がアイスの当たり棒を当てた事に、時雨は悔しそうに吠えた。

 

「勝負よ雪風! 決着を着けてやる!!」

 

「お店では静かにしなさーーーーい!!」

 

『幸運艦』として日頃から勝負している時雨が勝負しようとするが、ニーミが声を張り上げて止めた。

 

「・・・・・・・・ふふ」

 

綾波はそんな光景を見て、ただ静かに微笑んだ。

 

 

 

ーカインsideー

 

愛宕に連れられたカインは、重桜宿舎に到着し、執務室に向かう途中で、瑞鶴とそしてもう一人の艦船<KAN-SEN>と出会った。

 

≪高雄さんだ・・・・≫

 

愛宕と似た顔立ちで豊満なバストもグラマラスな肢体だが、妖艶な愛宕と異なり、凛とした印象が受け、愛宕と同じ白い軍服を着用し、愛宕がタイトスカートでこちらはプリーツスカート。

愛宕と同じ黒髪で、大きさの違うリボンで髪をポニーテールにしており、獣耳部分は垂れ耳で、両脚には黒タイツを履いている。

 

「指揮官殿・・・・!」

 

『重桜所属 重巡洋艦 高雄』であった。

 

「指揮官!」

 

「どうも、瑞鶴に、高雄で良いかな?」

 

他人行儀な物言いに、一瞬顔を曇らせた瑞鶴と高雄だが、すぐに気を取り直して頷いた。

それを確認すると、カインは瑞鶴の方を見据える。

 

「瑞鶴。君は、エンタープライズに勝ちたいのか?」

 

「っ!・・・・指揮官・・・・私、もっと強くなりたいんだ! 私が皆を護らないといけないから!」

 

瑞鶴は意を決して、発した言葉にある『決意』、その裏に隠された『気高さ』を感じる。

だが、それと同時に、焦りも感じた。

 

「グレイゴースト<エンタープライズ>は、不備の状態であそこまで戦っていた。もしも、万全の状態だったら負けていた、だから、もっと、もっと強くならないと・・・・!」

 

大方の原因、焦りからだろう。

タイガから聞いたが、瑞鶴は竹を割ったように分かりやすく、明朗快活な性格をしている事は知っているが、どうやら今はそれが悪い方向に向いている様である。

 

「・・・・・・・・」

 

「指揮官・・・・?」

 

カインは瑞鶴に近づくとーーーー。

 

ビシッ!!

 

「あいたっ!!」

 

なんと、瑞鶴のおデコに、デコピンをした。

 

「バ~カ、お前一人で背負い込んでいるじゃない」

 

「っ!」

 

「「っ!」」

 

カインが発した言葉に、瑞鶴だけだなく、高雄と愛宕もピクリ、と身体が動いた。

 

「良いか瑞鶴。一人で護れる数なんて、たかが知れている。どんなに手を伸ばしても、どんなに広げても、この手から零れる命がある。だから、いやだからこそ、『仲間』がいるんだ。一人じゃできない事も、仲間達と力を合わせればできる。仲間の存在が、自分の力になってくれる。お前一人で頑張るんじゃない。辛い時は、姉である翔鶴に頼って良い。仲間である高雄や愛宕や皆に頼っても良い。助けて欲しい時は、弱音を吐いて、手を伸ばして良い。少なくても、お前には、助けてって言えば、手を伸ばせば、その手を掴んでくれる『仲間』がいるって事を、忘れないでくれ」

 

「「「・・・・・・・・」」」

 

三人はカインを見つめる。すると、瑞鶴の瞳が潤み、頬に涙が零れた。

 

「・・・・のに・・・・!」

 

「ん、瑞鶴?」

 

「記憶が・・・・ない、のに・・・・!」

 

嗚咽を漏らしながら、瑞鶴の瞳からは止めどなく涙が流れた。

 

「記憶が、ないのに・・・・! なんで、なんでそんな事を、言うのよ・・・・!!」

 

瑞鶴はカインに背を向けて、涙が流しながら走り出していった。

 

「瑞鶴・・・・!」

 

「指揮官殿! 瑞鶴は拙者が!」

 

そう言って、瑞鶴を追う高雄の瞳にも、僅かに涙が零れていた。

 

「・・・・愛宕。僕は、何か変な事を言ったのか?」

 

「・・・・違うわ。“同じ事を言ったのよ”」

 

「“同じ事”?」

 

カインが振り向くと、愛宕も指で目元の涙を拭き取っていた。

 

「ええ。前にね、無茶をしてしまった瑞鶴ちゃんに、トモユキ指揮官が似た事を言ったの・・・・。『一人でやろうとしないで、仲間を頼れ。『艦隊』って言うのは、チームなんだ。『仲間』と力を合わせれば、どんなに辛い戦場でも、きっと乗り越えられる』ってね・・・・」

 

「そう、か・・・・」

 

≪(意図せず、記憶を失う前の自分の言葉が出たのか・・・・)≫

 

≪(“一人でやろうとしないで”、か・・・・。でも、俺は・・・・!)≫

 

タイタスはカインの様子を静かに見るが、タイガはカインの言葉に、何処か否定的な気持ちであった。




次回。カイン指揮官がトモユキ指揮官に触れる。


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【追憶】かつての自分

ー高雄sideー

 

瑞鶴を追った高雄は、重桜母港が一望できる高台に着くと、膝を抱えて蹲る瑞鶴を見つけた。

 

「瑞鶴殿」

 

「ここってさ、指揮官が好きな場所だったんだよね・・・・」

 

「・・・・そうだな」

 

高台の上から眺めるのは、美しく咲き乱れる桜に包まれた重桜母港。トモユキ指揮官が一番好きな場所だった。

 

「高雄さん、私ね、指揮官が戻ってきてくれれば、何かおかしくなって行ってる重桜が、元に戻ってくれるって、思っていたんだ」

 

「・・・・拙者もそう思う」

 

「でも、指揮官は記憶を失ってて、私達の事、まるで他人のような態度でいて・・・・」

 

「ああ、堪えたな・・・・」

 

「なのに、私に前に言ってくれた事を、私には仲間がいるって、教えてくれた事を言って、なんで・・・・なんで、忘れちゃったんだよ、って、頭の中、ゴチャゴチャになっちゃって・・・・!!」

 

再び涙が溢れてくる瑞鶴の隣に腰掛けた高雄が、慰めるように瑞鶴の背中を優しくポンポンと叩く。

 

「瑞鶴殿、今この場に指揮官殿がいる。例え記憶を失っていても、指揮官殿は指揮官殿だと言う事が分かったのだ。きっと拙者達の事を思い出してくれる。信じようではないか・・・・」

 

「・・・・そう、だね」

 

涙で目を赤く腫らした瑞鶴は、高雄の言葉に頷いた。

 

 

 

ーカインsideー

 

執務室に向かう途中、思わぬ艦船と出くわした。

 

「あら愛宕、ソコにいるのが噂の指揮官かしら?」

 

「っ! 『プリンツ・オイゲン』・・・・!」

 

鉄血の艦船であるプリンツ・オイゲンだ。

 

「(この人が、ベルが強敵と言っていた艦船か・・・・)」

 

「なんの用かしら? ここは指揮官の執務室なんだけど?」

 

≪愛宕さんが警戒しているのか? 同じレッドアクシズなのに?≫

 

≪加賀殿達も、カイン指揮官をあまり鉄血の艦船達と会わせようとしなかったが、どうやら関係はあまりよくないようだな≫

 

「そんなつれないこと言わないでよ。それで貴方が、アズールレーンの指揮官で、『海原の軍者』と呼ばれた海守トモユキ指揮官ね、ふぅん、結構整った顔をしているのね・・・・」

 

オイゲンがカインの頬を撫でるように手を滑らせるが、カインは蠱惑的な手つきと扇情的な雰囲気に鼻の下を伸ばさず、ジッとオイゲンの瞳を見据え。

 

「随分とフランクに接するんだね?」

 

「レッドアクシズの指揮官になるなら、私達鉄血の指揮官にもなるかも知れないのだから、興味があるのよ」

 

「そうか。・・・・“作り笑顔を浮かべて心を閉ざしている君がかい”?」

 

「っ!」

 

カインの言った言葉に、オイゲンは僅かに目を見開き手を引っ込める。

 

「・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

両者の間に奇妙な沈黙が起こるが、オイゲンはコホンっと咳払いをして口を開く。

 

「まぁいいわ、赤城が全然見せてくれなかったから見に来ただけだからもう行くわ。・・・・また会いましょう指揮官」

 

不敵な笑みを浮かべるオイゲンだが、その目にはカインを品定めするような視線を送り、そのまま去っていた。

 

≪あのプリンツ・オイゲンって、心を閉ざしているのか?≫

 

「(あの人の瞳の奥には、なにか心に、一人ぼっちでいる、そうーーーー孤独感のようなものがあったんだ)」

 

≪そんな事が分かるのか?≫

 

「(まぁ、僕自身も記憶が無くて、ロイヤルの所属だけど、どこか自分は違うって思う時があるからね)」

 

≪ふむ。しかしどうやら、レッドアクシズは一枚岩では無いと言う事が分かったな≫

 

「(ああ)」

 

「指揮官。そろそろ行きましょう」

 

愛宕はカインの手を握って、執務室へと向かった。

 

「指揮官。ここが指揮官の執務室よ」

 

愛宕に連れられて入った部屋には、畳の上に置かれた執務机と大きめの座椅子。その両隣には壁に固定された大きめの本棚が置かれていた。

 

「ここが、海守トモユキの執務室か・・・・?」

 

≪ああ。懐かしいぜ!≫

 

≪うむ。埃一つ落ちていないな≫

 

カインは自分の机を指先で擦ると、確かに埃一つ付いていなかった。

 

「よく掃除をしているみたいだね」

 

執務室の扉に鍵を掛けた愛宕に、カインが話しかけた。

 

「ウフフ。皆、指揮官が帰ってくることを信じて、掃除を欠かさなかったのよ」

 

「そう、か・・・・」

 

カインは本棚にある本の並び方に、既視感を感じて本を一冊取り出すと、その本には『アルバム』と記されていた。

 

「アルバムか」

 

カインがアルバムを捲ると、ソコには髪の毛と肌の色以外は自分と瓜二つの人物ーーーー海守トモユキの姿があった。

 

春。綾波や他の皆と花見で宴会をして、酔ったような二人の艦船(タイガの説明で『伊勢』と『日向』)に絡まれている光景。トモユキ指揮官がカラオケで歌を歌い、大盛り上がりになっている光景。

 

夏。トモユキ指揮官は水着姿でビーチウェアに横たわり、同じく水着姿の高雄と愛宕に左右から抱きつかれて感無量と涙を流している光景。スイカ割りをしている最中に砂場に足を取られ、水着姿の赤城と加賀を巻き込んで倒れた光景。綾波にサーフィンを教えている光景。

 

秋。皆で紅葉を眺め、落ち葉で焼き芋を焼いて食べている光景。綾波に時雨達、翔鶴や瑞鶴と共に露天風呂に入っている光景。読書の秋や食欲の秋、芸術の秋やスポーツの秋を楽しんでいる光景。

 

冬。雪が積もり、皆で雪像作りをし、雪合戦で綾波が投げた雪玉に当てられた光景。コタツに入ってまったりしている光景。お正月で皆で餅つきや凧上げ等で遊んでいる光景。赤城と翔鶴が百人一首で勝負し、弾き飛ばされて手裏剣のように飛んでくる札から必死に逃げる光景。

 

勿論、それだけでは無かった。任務で艦船<KAN-SEN>達に指揮をしている凛々しい姿。

赤城や愛宕、イラストリアス以上に胸の大きな艦船や紫の髪に鬼の角ような物を付けた艦船に迫られて、冷や汗を流している姿。

綾波や時雨達と仲良く団子を頬張っている姿。

幼い艦船達と戯れている姿。

ネコミミが生えた小柄な艦船に追い回されている姿。

蒼龍と飛龍に監視されながら書類仕事に追われている姿。

眠っている長門に陸奥に膝枕をしてやっている姿。

 

これが、『海原の軍者』と謳われた海守トモユキ指揮官なのだ。

 

「・・・・・・・・」

 

「どう指揮官? 何か記憶が呼び起こされた?」

 

「・・・・・・・・」

 

≪トモユキ?≫

 

≪どうなのだ?≫

 

「・・・・何か、既視感を感じる。ピンッと来ないけど、こう・・・・何て言うか、胸の奥が、ホワホワと温かくなって、奇妙な既視感を感じるんだ」

 

カインは座椅子に座りながら、他のアルバムや日誌等を読み漁っていった。

 

 

 

 

 

 

そろそろ日が傾き始めようとした時間帯、カインは気分転換の為に窓を開け、身体を伸ばしながら窓から見える風景に目を走らせる。

 

「ん~!! 随分時間が経ったな・・・・!」

 

「それで指揮官、何か思い出せた?」

 

愛宕に話しかけられ、カインは愛宕に身体を向け、窓際に寄りかかり、両手を後ろに隠して口を開く。

 

「まぁ、何て言うか、他人の思い出話を見聞きしている気分なんだけど、妙な懐かしさを感じるんだよ」

 

「まだ記憶が戻るには時間が掛かりそうね」

 

「所で愛宕」

 

「なにかしら?」

 

「少し、一人にして欲しいんだけど」

 

「それは駄ぁ~目。指揮官は今はアズールレーンの指揮官だから、自由行動を許すわけにはいかないの。・・・・それに、邪魔者抜きで指揮官をお姉さんのものにできるチャンスだしね」

 

なにやら後半から不穏な声が聞こえたが、カインは気にしないようにし、肩をすくめる。

 

「仕方ない、か。・・・・愛宕」

 

「なに?」

 

「・・・・“ゴメンね”」

 

カインが謝意を述べると、窓際からすぐに横に移動し、愛宕がハッとなってカインを捕らえようとすると、なんと窓から、巫女服の少女が現れて愛宕に向けて小さな玉を投げつけた。

 

パァンッ!

 

「なっ!・・・・あぁ・・・・!」

 

玉は愛宕に豊満な胸に当たり破裂すると、中から煙が巻き上がり、煙を吸った愛宕は強烈な睡魔に襲われ、そのまま眠ってしまった。

 

「ふう。ナイスタイミングだよ。“シェフィールド”。“エディンバラ”」

 

窓からヒラリと出てきた巫女服の小柄な少女と、続いて這い上がってきた長髪の巫女服の少女は、顔に着けていた仮面を取るとその素顔を露にした。

 

亜麻色の髪をアップさせ右目を前髪で隠している小柄でクールな雰囲気の艦船・『ロイヤル所属 軽巡洋艦 シェフィールド』。

白銀の髪を後ろに伸ばし長髪の中に三つ編みをし、眼鏡を着用したドジっ子な雰囲気の艦船・『ロイヤル所属 軽巡洋艦 エディンバラ』。

 

「まったく。重桜の母港にやって来るだなんて、こちらの段取りとかも少しは考えて欲しいですね、害ーーーーご主人様」

 

「シェフィさん、今『害虫』って呼ぼうとしなかった?」

 

「いえ、そのような事はありません害虫」

 

「今はっきり害虫って言ったよ・・・・」

 

≪相変わらずヒデぇな、シェフィールドって≫

 

≪仮にも上官に対しての物言いなのか?≫

 

「(まぁそう言うなよ、シェフィなりの愛情表現だと思おう・・・・)」

 

ロイヤルメイドのシェフィールド。主に掃除担当の艦船であり、2丁拳銃を操り、ロイヤルメイドの中でも戦闘タイプの強者である。が、その小柄で涼やかな容姿に反してかなりの毒舌家で、よくカインがその被害にあい、さらに仕事をほっぽって出ていくとその2丁拳銃の餌食となっていた。

 

「エディンバラも、よく来てくれたね」

 

「と、当然ですよ指揮官! 私も優秀なロイヤルメイひでぶっ!」

 

ふんぞり返って言おうとしたら足を滑らせて、ステーン、と盛大にひっくり返ったのは、ロイヤルメイドのメイド長である“ベルファストの姉であるエディンバラ”。

 

≪このお嬢さんが、“あのベルファスト嬢の姉上なのか”・・・・?≫

 

≪あぁ。俺も初めて見た時、逆なんじゃねぇのって思った程だぜ≫

 

タイガとタイタスは美貌、容姿、プロポーション、能力、戦闘力、どれをとっても優秀なベルファストの姉が目の前のエディンバラとはとても思えなかった。

エディンバラ自身も、そつなくこなす完璧メイド長である妹にコンプレックスを抱いているが、紅茶を淹れる事にはベルファストも一目置いている。

 

「エディンバラ。遊んでいる場合ではないでしょう?」

 

「あ、遊んでいるつもりはないですよぉ。うぅ、指揮官、やっぱり私に潜入任務なんて無理なんですよぉ!」

 

「まあそう言わないでくれよエディンバラ。何事も経験って言うからさ」

 

実を言うと、現在アズールレーン母港に来ているロイヤルメイドは。

メイド長のベルファスト。

シェフィールド。

エディンバラ。

そして、エディンバラ並のドジっ子メイドでサボりがちな性格の『ロイヤル所属 重巡洋艦 サフォーク』であり、消去法でエディンバラが選ばれたのは伏せておいた。

穏やかに眠る愛宕を抱き上げて、壁に寄りかからせたカインが2人に口を開く。

 

「さて、それなりに情報は集められたかい?」

 

「はい。現在、この重桜母港に来ている鉄血の艦船は、プリンツ・オイゲンに他数名と、少数の艦船が来ているようです」

 

「あの人か・・・・。しかし、仮にも同盟を組んでいると言うのに、『鉄血の旗艦』が来ていないのは、どうにも引っ掛かるな」

 

「プリンツ・オイゲンは鉄血の実質No.2ですからねぇ。この重桜も旗艦は長門って艦船ですけど、実際の指揮は赤城って艦船が執っているようですよぉ」

 

「それと、物資の流れから察するに、何やら“大掛かりな物を建造しているようです”。ですが、それがどこで行われているのかが・・・・」

 

「そうか。よし、取り敢えずここを抜けよう」

 

「「はい」」

 

シェフィールドは懐から外套を取り出すと、カインに渡し、カインは軍帽を脱ぐと外套を羽織って、シェフィールドとエディンバラと共に窓から脱出した。

 

 

ー???sideー

 

カインがシェフィールド達と合流したその頃、重桜にある工房にてーーーー。

 

「にゃにゃにゃ・・・・」

 

「ふむ・・・・」

 

足元にも届きそうな緑色の長髪の先を三つ編みにし、ネコミミが生え、金色の瞳と何を考えてるのかわからない猫っぽい表情をし、完全に身の丈に合ってない非常に大きな上着一枚を羽織り、ダボダボな袖で隠れている手からは大量の工具が出ている小柄な少女・『重桜所属 工作艦 明石』。

光がない赤目に黒髪ロングオカッパでシェフィールドと同じように目隠れで揺らめくような焔が描かれた黒い和服を左前(和服において『死人前』・『死人合わせ』と称される、縁起が悪い着用)にしたハリボテのようなウサ耳をし、人魂みたい物が浮遊し、まるで幽霊のような雰囲気をした小柄な少女・『重桜所属 駆逐艦 不知火』。

重桜の誇る工作艦と商売人の駆逐艦が難しい顔を作っていた。

 

「どう思うにゃ不知火<ぬいぬい>?」

 

「このデータから分かるでしょ?」

 

「そうにゃけどにゃ・・・・」

 

原因はカイン・オーシャン指揮官だ。先ほど指紋や血液、毛髪等のデータを摂り、重桜指揮官・海守トモユキ指揮官のデータと照合してみた結果。

 

『照合率:95.86%』

 

と出た。これで間違いなくカイン・オーシャン指揮官は海守トモユキ指揮官なのは明白だった。がーーーー。

 

「カイン・オーシャン指揮官が明石達の指揮官なのは、ほぼ間違いないにゃ」

 

「ですね。しかし、指揮官の髪の毛と皮膚、詳しく解析してみると。これは余程の高熱で熱せられたゆえに変色してしまったとありますね」

 

二人が渋面を作っているのはこれだ。肌と髪の色が変色するほどの高熱をどうして浴びたのか、一体あの事件から指揮官に何が起こったのか、分からない事だらけだった。

 

ーーーープルルル・・・・。

 

「ん?」

 

「にゃ?」

 

う~ん、と唸っている二人に通信が入り、不知火が出て少し会話すると通信を切った。

 

「どうしたにゃぬいぬい?」

 

「もうすぐ新たな資材が到着するそうです。行きますよ」

 

「にゃ~。そんなの饅頭達にやらせれば良いのに、何で明石達がやらにゃいといけないのにゃ?」

 

「いいから行きますよおおうつけ」

 

「にゃっ!?」

 

不知火は明石の首根っこを掴んで港に向かった。

それから資材を搬入を行う不知火だったが、明石が逃げ出し、「あのおおうつけめ」とぼやいていた。

 

 

 

ーカインsideー

 

不知火が饅頭達に指示を飛ばしながら資材を搬入しているのを、外套に身を包んだカインとシェフィールドとエディンバラが物陰から見ていた。

 

「あれほどの資材、一体何に使うんだ?」

 

「・・・・ご主人様、あれを」

 

「ん?」

 

シェフィールドが指差した方を見ると、先ほど自分の身体を検査していたネコ耳の艦船、明石がオフニャ(指揮官を補佐する猫型ロボット)を持って、資材置き場の奥にある洞窟に入っていった。

 

「あれは・・・・」

 

≪明石だな。それにあそこは確か、閉鎖された洞窟のドックだけど・・・・≫

 

≪そんな場所に、一体なにをしているんだ?≫

 

三人(+二人)は明石の後を追った。

 

 

ー明石sideー

 

そして明石がこの洞窟にやって来たのはーーーー。

 

「ぬいぬいのヤツ、猫使いが荒いにゃ! やってられないにゃ!」

 

ただ単に資材搬入の仕事をサボる為だった。

ぶつくさ文句を言っている内に、洞窟の奥の開けた場所に出た。

 

「ん? ここ何処にゃ?」

 

適当に歩いていた明石は、地底洞窟のドックのような場所で、天井の岩場の僅かな隙間から溢れる光に照らされた洞窟に広がる海の輝きに目を奪われた。

 

「おお~・・・・!」

 

思わず手を弛めてしまい、オフニャを落としてしまう。オフニャはそのまま洞窟の出口に向かうが、明石は洞窟のドックの奥に向かった。

 

「迷子になってしまったにゃ・・・・ん?」

 

歩いている明石は、開けた場所に到着すると、ソコには巨大な艦が置いてあった。

 

「もしかして、『オロチ計画』の艦かにゃ? でもこれ、『セイレーン』にそっくりにゃ。こんな物を作って本当に大丈夫かにゃ? ん?」

 

艦の甲板を見下ろすと、ソコに赤城がいた。

 

「赤城? 何をしてるにゃ?」

 

甲板に立った赤城が『黒いメンタルキューブ』を取り出すと、メンタルキューブは激しい光をはなったーーーー。

 

「にゃにゃにゃにゃにゃっっ!!?」

 

光が収まると、メンタルキューブは甲板に溶け込むように入り、電子回路の基板のような模様が、艦全体に広がった。

 

「・・・・!」

 

『これほどのエネルギーが集まれば、『オロチ計画』発動は目の前よ』

 

「っ! あれは・・・・!」

 

明石は声がした方に目を向けると驚愕する。赤城の目の前の艦橋に現れた『存在』にだ。

 

『この調子なら・・・・そうね、あと一つと言った所かしら?』

 

この世の存在とはかけ離れた異彩を放つ風貌に、蛸のような触手をうねらせ、生気を感じさせない白髪と青白い肌の艦船のような女性。

ーーーー『セイレーン オブザーバー』だった。

 

 

ー霧崎sideー

 

「ふ~ん♪ ふふ~ん♪ ふん♪ ふ~ふふ~ん♪」

 

霧崎は“明石達”が入っていった洞窟の入り口に立っていると、鼻歌を歌いながら背を向けて、スキップしながら消えると、先ほどまで瑞鶴達がいた高台に現れ、夕暮れの海面に浮き出た重桜母港に近づく、『毒々しい緑色をした影』を捉えた。

 

「フフフフフフ♪」

 

霧崎はその影を見て、これから始まる喜劇を楽しみにしているような声で含み笑いを溢していた

 




次回、赤城と加賀を見て、カインは何を思う?


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【脱出】裏切りの一航戦

ー明石sideー

 

明石は驚きに固まったがそれも仕方ない。何故なら、一航戦にしてこの重桜の宰相でもある艦船・赤城が、“人類の敵である『セイレーン』と内通していたからだ”。

 

「にゃにゃ、これは一体どういう事なんだにゃ!?」

 

 

ー赤城sideー

 

『セイレーン』の上位個体・『オブザーバー』が両の手のひらから『黒いメンタルキューブ』が現れ、ソレは赤城に向かって飛んでいった。

 

『『オロチ計画』がもたらすのは、ただの艦ではない。言うなればこれは、あらゆる想いを乗せて海を渡る『方舟』よ』

 

身体を撫で回したオブザーバーは赤城に近づくと、その頬をカプッと甘噛みすると耳元に顔を近づけソッと呟くと、赤城を視線を鋭くする。

 

『“もうすぐ逢えるわよ”』

 

「失せなさい。誰かに見つかると面倒よ」

 

『あら、連れないわね。貴女の大好きで大切で大事な指揮官に、この事を知られるのがイヤなの?』

 

オブザーバーがそう言うと、赤城が目に殺気を滲ませる。

 

「指揮官様に近づくなら、貴女とも関係もこれまでになるわ。それとも、ここまでやって来た貴女の苦労も徒労に終わって良いと?」

 

『ウフっ、こわいこわい♪』

 

 

 

 

 

ー明石sideー

 

「(にゃにゃ! えらいこっちゃにゃ、とんでもにゃい物を見てしまったにゃ! どうするにゃ、赤城がこんな事をやってるのを加賀が知らにゃい訳にゃいから、多分加賀も共犯に違いないにゃ。・・・・そうにゃ! 指揮官にゃ! 指揮官が止めれば赤城と加賀も止まる筈にゃ)」

 

明石はこっそり逃げようとしたその時。

 

「貴様」

 

「にゃにゃにゃ!!」

 

背後の涼やかな声に顔を青くして振り向くと予想通り、加賀が冷酷な視線で明石を見下ろしていた。

 

「見たな?」

 

「にゃにゃ、ここどこにゃ? 明石、道に迷っただけだにゃ(ニュルリ)にゃにゃ!!」

 

惚けようとした明石の身体に蛸の足が絡み付き宙に浮くと、目の前にオブザーバーがいた。

 

『あら見られちゃったわね。仕方ないわ』

 

オブザーバーは異形な艤装の砲身を明石に向ける。

 

『好奇心は猫をも殺す。なんてね♪』

 

「にゃーー! 指揮官助けてにゃーーーー!」

 

「待ちなさい」

 

赤城が待ったをかけた。

 

「トモユキ指揮官様がいるこの重桜の中で、勝手な真似は許さないわよ」

 

『そんな言われてもね。放っておくわけにも行かないでしょ?』

 

「・・・・・・・・」

 

赤城がオブザーバーと睨み合っていると。

 

ドンッ!

 

『「「「っ!」」」』

 

銃声が響くと、明石を絡み取っていたオブザーバーの触手がほどけ、明石は下に落ちていき、銃声が聞こえた方に目を向けると。

 

「「っ!!?」」

 

ソコに立っていたのは、仮面を着け、両手に拳銃を構えた巫女を後ろに控えさせた、トモユキ指揮官こと、カイン・オーシャン指揮官だった。

 

「し、指揮官様・・・・!」

 

「な、なぜ、ここに・・・・!?」

 

「赤城、加賀。これは、どういう事だ!?」

 

驚愕する一航戦の姉妹を、カインは険しい視線で睨んだ。

 

 

 

ーカインsideー

 

隠れて調査していたカイン(&タイガとタイタス)とシェフィールドとエディンバラは、洞窟に入っていった明石を追って、この現場に来た。

 

≪アイツ確か、資料で見た『セイレーン』だ!≫

 

≪あれがこの星の脅威かっ!?≫

 

「ソコにいるのは『セイレーン』の上位個体、識別名称『オブザーバー』。赤城、加賀、なんで重桜母港にソイツがいるんだ!?」

 

「し、指揮官様、これは・・・・!」

 

「ご主人様、下がってください!」

 

赤城がカインに近づこうとするが、2丁拳銃を構えたシェフィールドが巫女服からロイヤルメイド服に早着替えして、カインを守るように赤城達と交戦を開始した。

 

「そのふざけた格好はロイヤルか!」

 

シェフィールドはそのまま真っ直ぐと赤城に向かい、蹴りを入れた。

しかし赤城は一歩後ろに下がり綺麗に避けた。

 

「っっ!!?////////」

 

が、何故か赤面し動きが止まり、その隙にシェフィールドは黒いメンタルキューブを蹴り飛ばし、キューブは下の方に落ちていった。

 

「エディンバラ!」

 

「おっおっお・・・・取りました!」

 

キューブが落ちた先には予め隠れていたエディンバラがキューブを見事に取れ・・・・ずに顔面で受け止めた。

『オブザーバー』が砲身をエディンバラに向ける。

 

「っ! シェフィ、撤退だっ!」

 

「畏まりました!」

 

「明石! 君も来い!」

 

「にゃにゃ! 指揮官!」

 

シェフィールドは煙幕を巻き、煙が辺りを包んだ。

カインは明石のいる方に下りると、明石を背負って逃げようとするがーーーー。

 

「指揮官様! 行かないで! 貴方はずっとずっと私といて下さい! もう離れないで・・・・! 重桜の! 私の側にいて下さい! 指揮官様ーーーー!!」

 

「指揮官! 待て、待ってくれ!!」

 

「うぐっ!」

 

赤城と加賀の声に、一瞬カインの脳裏にノイズが走ったが、カインは煙に紛れながら赤城と加賀に向けて声を発する。

 

「赤城! 加賀! 僕は、アズールレーン指揮官として、『オロチ計画』を否定する! お前達を止める!!」

 

カインはそう言って煙に紛れ姿を消した。

 

 

 

 

ー加賀sideー

 

「くっ! 小癪なっ!!」

 

加賀が煙を払うが、ソコにはカイン達の姿はなかった。

 

「指揮官・・・・!」

 

「・・・・ふふふ・・・・指揮官様・・・・いけませんわ・・・・私から離れては・・・・指揮官様がまた何処かに行ってしまう・・・・それなら・・・・足を切り落としてしまえば・・・・もう何処にも行かないのですよね?」

 

『まぁ大変! 失態ね赤城。指揮官にも否定されちゃって』

 

「・・・・っ」

 

「姉様・・・・」

 

顔を俯かせる赤城を、加賀は悲しそうに見つめた。

 

 

 

ー高雄sideー

 

突如警報が鳴り響いたのを、瑞鶴と高雄が訝しげに眉をひそめる。

 

「何があったの!?」

 

「っ!」

 

高雄はすぐに走り出した。

 

 

 

ー綾波sideー

 

「何なのだ!? 何なのだ!?」

 

「指揮官・・・・!!」

 

戸惑う雪風達を置いて、綾波は駆け出す。

 

 

ー長門sideー

 

「・・・・」

 

長門は警報に眉をひそめる。

 

 

 

ーカインsideー

 

警報が鳴り響き、カイン達は古鷹と加古の前を通りすぎた。

 

「ちょっとゴメンよお二人さん!」

 

「し、指揮官!?」

 

カイン達に戸惑う加古と古鷹を置いて、四人は母港まで走る。

 

「ご主人様。なぜその者を連れて来たのですか?」

 

「この子は赤城達がセイレーンと癒着している事を知る証人だ。このまま母港に連れていく。明石も良いな?」

 

「勿論にゃ! 明石あのままじゃ消されるにゃ! 口封じにゃ! 死人に口にゃしにゃ!」

 

「それで明石。何か脱出する艦とかあるか?」

 

「あるにゃ! 今度指揮官に売り込もうと思って用意していた物が明石の店にあるにゃ!」

 

「良し。シェフィ、エディンバラ。時間を稼いでくれ」

 

「はぁ、畏まりました」

 

「ふぇ~! 何か大変な役を押し付けられましたぁ!」

 

シェフィールドとエディンバラは海に出て艤装を展開させ、カインは明石と共に『明石の店』に向かった。

 

 

ーシェフィールドsideー

 

シェフィールド達が海に出ると、海に設つられた鳥居の上に立っている高雄が、後ろから綾波が、艤装を展開してやって来た。

 

「逃がさん!」

 

「指揮官を、返して貰うです!」

 

「ここは私が引き受けます! ご主人様の元にお行きかさいエディンバラ!」

 

「でもシェフィ!」

 

シェフィールドは2丁拳銃を機関銃の発砲する。が、高雄と綾波はその弾幕を回避する。

高雄の刀と綾波の大剣が振り下ろされるが、シェフィールドも何とか回避する。

 

「流石に、2体1は分が悪いですね」

 

「拙者達は鍛練を積んできたのだ!」

 

「綾波達の力、味わうがいい、です!」

 

武器を構えて隣り合う2人を見て、シェフィールドも目をソッと閉じる。

そしてーーーー。

 

「致し方ありません。少々本気で参りましょう・・・・〈ノブレス・ドライブ〉!!」

 

「「っ!」」

 

シェフィールドがカッと目を開くと、全身を金色のオーラを纏った姿、〈ノブレス・ドライブ〉へと変わった。

 

「あ、あれは・・・・!」

 

「まさか、翔鶴の報告にあった物か?」

 

驚愕する二人の間に、シェフィールドは一瞬で現れ、左右の二人に銃口を向けて放つ。

 

「速っうぁあああああっ!!」

 

「っ! 高雄さん!」

 

ベルファストで見ていたので、一瞬早く大剣で防御した綾波だが、完全に初見の高雄は遅れ、弾丸をマトモに浴びてしまった。

 

「食らうがいい、です!」

 

大剣を振って攻撃するが、シェフィールドは華麗な動きで回避し距離を取ると、綾波がありったけの魚雷を放った。

 

「無駄です」

 

が、シェフィールドは冷静に2丁拳銃で魚雷を全て撃ち破ると、大きな水飛沫が跳ね上がった。

 

「貰ったです!」

 

水飛沫を目眩ましにした綾波が、シェフィールドに接近して大剣で振り下ろすーーーー。

 

「甘いですね」

 

が、シェフィールドは片手の拳銃で大剣を防ぎ、その動きに合わせて流れるように受け流し、綾波にもう片方の拳銃が火を吹いた。

 

「あぁっ!!」

 

ただの拳銃とは思えないほどの重い攻撃と威力に、綾波は高雄の方にまで吹き飛んだ。

 

「あ、綾波!」

 

「だ、大丈夫、です、でも・・・・!」

 

「ああ、まさか、これほど、とは・・・・!」

 

高雄と綾波は、痛む身体に鞭を打って、悠然と構えるシェフィールドに向けて剣を構えた。

 

「お生憎ですが。今の私と戦いたければ艦隊で向かってくる事をお薦めします」

 

余裕の態度のシェフィールドは2丁拳銃を構える。

 

 

 

 

 

ーカインsideー

 

カインと明石は店に着き、近くの港に行くと『小型潜水艦』が置かれていた。

 

「これがそれか?」

 

「そうにゃ! 某イルカの名前の変態刑事が乗る潜水艦をイメージして、仕事から逃げる指揮官に売り込む為に、明石が夜も寝にゃいで昼寝して造った代物にゃ! こう見えて大人三人分は乗れるにゃ!」

 

≪こんな物を造り上げるとは・・・・≫

 

≪明石って、商売の為なら何でもやれるな・・・・≫

 

「まぁ、とりあえず乗り込んで逃げるか」

 

「指揮官。お値段の方にゃけど?」

 

「そんな事言ってる場合かオイ? なんなら君だけ置き去りにして赤城達に三味線の皮にされるかい?」

 

「て、テスト運転と言う事でどうぞにゃ・・・・」

 

≪トモユキ、怖ぇ・・・・≫

 

≪鬼の様相だな・・・・≫

 

明石をジッと睨んでそう言うカインに、明石を目を反らしながらそう言い、タイガとタイタスも少し引いた。

潜水艦に乗り込み、明石が起動させると、レーダーに目を向けた。

 

「にゃにゃ?」

 

「どうした?」

 

「レーダーに反応にゃ! にゃにかトンでもにゃく大きにゃものが母港に接近中にゃ!」

 

「っ! 明石! すぐに発進だ!」

 

 

 

ーエディンバラsideー

 

「うわ~、シェフィったら容赦ないわね~。ん?」

 

少し離れた位置にいるエディンバラは、高雄と綾波を圧倒するシェフィールドに苦笑いを浮かべた。

が、シェフィールド達が交戦している場所に向かって、“緑色の巨大な影”が迫っている事に気づいた。

 

「シェフィ! 2時の方角に不審な影が!!」

 

「「「っ!」」」

 

エディンバラの声に、シェフィールドだけでなく、綾波と高雄もその方向を見ると、突然海面が盛り上がり、その中から巨大な生物が現れた。

 

毒々しい緑色の鱗に全身を覆われ、ヘビとライオンが混ざったような異形、眼は皿のように見開かれ焦点が定まっていないような不気味な面相の怪獣。

 

『ギィャアアアアアアアア!!』

 

『毒炎怪獣 セグメゲル』が雄叫びを上げると、口から毒々しい紫色の火炎『セゲルフレイム』を放った。

 

「っ、くっ!」

 

シェフィールド『セゲルフレイム』が放たれる直前、高速移動で高雄と綾波を抱えて回避した。

『セゲルフレイム』は海面に当たると高い水飛沫をあげ、高い波を起こした。その水飛沫がシェフィールドの艤装に僅かに当たると、シェフィールドは目を細める。

 

「シェフィ! 無事?!」

 

「何とかですが。しかしどうやら、あの怪獣は『毒』を有しているようですね・・・・」

 

エディンバラが高雄達を下ろしたシェフィールドに近づくと、シェフィールドの艤装の一部が腐食していた。

 

「うわぁっ! かなり強い毒みたいですねぇ!」

 

青ざめるエディンバラはセグメゲルを見上げる。

 

「あ、あれが怪獣か・・・・!」

 

「何故、綾波達を助けたです?」

 

高雄と綾波は、自分を助けたシェフィールドの行動の意図を問うた。

 

「このような異常事態に、敵だの何だの言っている場合ではありません。それに、我らがご主人様も、貴女方を助けろと言うでしょうしね。さてエディンバラ。取り敢えず、あの怪獣をどうにかしますよ」

 

「わ、わかってる! 〈ノブレス・ドライブ〉!!」

 

シェフィールドに答え、エディンバラも〈ノブレス・ドライブ〉へとなった。

 

「行きますよ」

 

「ええ」

 

シェフィールドとエディンバラは、残像を残すほどの高速移動で、セグメゲルに接近した。

 

 

ーカインsideー

 

「ヤバいにゃ! ヤバいにゃ! まさかあんなのが出てくるにゃんて!」

 

と、セグメゲルが現れた直後。

初めて見る怪獣に明石は慌てていたが、セグメゲルが『セゲルフレイム』を放った時の高波にまだ潜航していない潜水艦の船体が大きく揺らぎーーーー。

 

「にゃっ!?(ガンっ!!)にぎゃん!!?」

 

「明石?!」

 

大きく揺れた際に明石の小柄な身体が大きく跳ねて、天井に強かに頭をぶつけた。

 

「~~~にゃんかお星さまが見えるにゃ・・・・ガクッ」

 

目を回した明石はそのまま気絶した。

 

「・・・・大丈夫みたいだな。それに、丁度良い。この重桜から奴を追い出す! 頼むぞタイタス!」

 

≪承知した!≫

 

カインはタイガスパークのレバーを動かし起動させた。

 

[カモン!]

 

「力の賢者! タイタス!!」

 

タイタスキーホルダーを左手で掴んで、タイガスパークのついてる右手に持ち替えると、黄色いエネルギーが出てきて、スパークの中心のランプに吸い込まれ、ランプが黄色く光った。

 

『ヌゥゥゥンッ!! フンッ!』

 

「バディーゴー!!」

 

叫び、腕を思いっきり突き上げると、黄色い光が眩く輝き、カインの身体を包み込む。

 

[ウルトラマンタイタス!]

 

七色の光の奔流がマーブルに変化し、その中からウルトラマンタイタスが両腕を振り上げて飛び出していった。

 

「ヌンッ!」

 

ザパァァァァァン!

 

ウルトラマンタイタスがシェフィールドとエディンバラと交戦していたセグメゲルに立ちはだかる。

 

 

 

 

ー長門sideー

 

「うわっ! 何かムキムキな巨人が現れたのだ!」

 

「綾波が言っていたウルトラマン!?」

 

「スッゲェ筋肉!」

 

長門は陸奥と江風を連れて母港の港に着くと、雪風と時雨と夕立の他に、多くのKAN-SEN達が来ており、少し先の海域に現れた怪獣と巨人を見ていた。

 

「あれが指揮官の言っていた、『光の巨人ウルトラマン』と『異常進化生命体・怪獣』か・・・・」

 

「長門様」

 

「瑞鶴に蒼龍に飛龍か、状況はどうなっておる?」

 

長門に話しかけたのは、瑞鶴と二航船の蒼龍と飛龍だった。

 

「現在、高雄と綾波が出撃しております。私達も出撃しようと思いますが、あの怪獣が放つ毒が艤装を腐食させる事を高雄から通信で報告され、海面にその毒が広がっており、下手に動けない状況です」

 

「それだけじゃ、ないわ・・・・」

 

「愛宕?」

 

蒼龍からの報告を聞いていた長門に、翔鶴に肩を貸して貰いながら愛宕がヨロヨロと話しかけてきた。

 

「どうやら、母港に侵入者がいたらしくて、指揮官が、連れて行かれたわ・・・・」

 

「なんじゃと!?」

 

「それに、加古と古鷹からも、明石が指揮官達と一緒にいるらしいようです」

 

「明石までも・・・・」

 

愛宕と翔鶴からの報せに、長門だけでなく、他の重桜KAN-SEN達も動揺したような声が漏れる。

 

「指揮官・・・・」

 

長門は、タイタスとセグメゲルの戦いを見つめながら、カインの身を案じていた。

 

 

ー赤城sideー

 

そして赤城と加賀は、重桜基地で母港を一望できる展望台で怪獣と新たなウルトラマン、タイタスの戦いを一瞥してから、加賀が式神を放ち、カインの捜索をさせていた。

 

 

 

ー綾波sideー

 

「綾波、あれが報告にあったウルトラマンと言う異星人なのか?」

 

「いえ、綾波が知っているウルトラマンは2本の角を付けた銀色の巨人なのです。あんなにムキムキなウルトラマンは知らないのです」

 

初めてタイタスを確認した綾波は戸惑ったような声を漏らす。

 

「あれが、ベルファスト達が遭遇した新たなウルトラマンですか・・・・」

 

「な、なんて逞しいんでしょう!」

 

事前に定時連絡で存在を知っていたシェフィールド達も、タイタスを見上げて呟き、〈ノブレス・ドライブ〉を解除した。

 

 

 

ータイタスsideー

 

『フン! この美しい重桜母港に! 汚い毒を撒き散らすなど! 私のウルトラマッスルが許さん! ヌゥン!』

 

ボディビルポーズを取ったタイタスは、セグメゲルに自慢のパンチを繰り出した。

 

『ギャアアアッ!』

 

セグメゲルはタイタスのパンチの威力に後退する。

 

『マッスル! マッスル! マッスル! マッスル! ハァア・・・・! マッスルっ!!』

 

『ギィャアアアアア!』

 

さらに接近してジャブの応酬を腹部に叩き込み、最後はアッパーカットでセグメゲルをノックアウトする。

 

『「流石タイタスだ!」』

 

『(トモユキ! この間手に入れた怪獣のリングで、一気に終わらせちまおうぜ!)』

 

『「・・・・よし」』

 

怪獣リングに懐疑的なカインは一瞬躊躇うが、意を決して『ギャラクトロンMk2リング』をタイガスパークに翳した。

がーーーー。

 

『「っ、反応しない?」』

 

『(何だって?)』

 

『っ! カイン指揮官!』

 

『「っ!」』

 

リングに反応しない事に訝しんだその刹那の隙、起き上がったセグメゲルは起き上がるとーーーー。

 

『ギボォォォォォウ!!』

 

『ムゥッ!!』

 

何と、セグメゲルは毒々しい緑色の血を吐き出し、タイタスの右腕に浴びせた。

 

ーーーージュゥゥゥゥゥ!!

 

『ヌゥアアッ!!』

 

『「ぐぅああっ!!」』

 

その血を浴びた腕から焼けるような激痛がタイタスとタイタスと一体化しているカインを襲った。

 

『(タイタス! トモユキ!)』

 

『「こ、これは・・・・!」』

 

『この怪獣、血液まで毒を有しているのかっ!?』

 

『ギィャアアア!』

 

セグメゲルはタイタスの腐食し始めた腕に、その凶暴な歯で噛みついてきた。

 

ガブリッ!!

 

『ヌゥウウウウ!!』

 

 

 

ー綾波sideー

 

綾波達も、セグメゲルが吐いた血が海面に入り、そこから浮き上がる煙に口元を塞いで後退した。

 

「なんですかこのイヤな匂い!」

 

「吸ってはいけませんエディンバラ! この煙にも毒が含まれているようです!」

 

「高雄さん、大丈夫なのです?」

 

「あぁ、すまないな綾波。しかし、あれが怪獣か、『セイレーン』だけでなくあのような怪物がいようとは・・・・」

 

高雄は苦々しい視線でセグメゲルを見上げる。

 

「アズールレーンだのレッドアクシズだのと、我々KAN-SENも争っている場合ではない事を理解できましたか?」

 

近くにいたシェフィールドが、ハンカチを口にあてながら話しかけてきた。

 

「今私達の星には『セイレーン』だけではありません。怪獣に異星人、そしてトレギアと呼ばれる得体の知れない巨人もいるのです。各陣営がいがみ合っていては、この星が滅んでしまいますよ」

 

「「・・・・・・・・」」

 

シェフィールドの言葉に、高雄と綾波は顔を俯かせた。

 

 

 

ーカインsideー

 

『「ぐぅっ! タイタス! 噛みついている奴には、側面からの攻撃だっ!!」』

 

『了解した! ヌゥオオオオオ!!』

 

腐食と噛みつきの痛みに耐えながら、タイタスはセグメゲルの顎関節に拳を何発も叩き込んだ。

 

『ギアアっ!!』

 

『今だ! 受けてみよ星の一閃、『アストロビーム』!!』

 

『ギィャアアアアアア!!』

 

顎関節への攻撃に口を離したセグメゲルに向けて、額の星からビームを放ち浴びせると、セグメゲルは吹き飛ぶ。

 

『カイン指揮官! 『エックスレット』を!』

 

『「分かった!」』

 

カインは左腕に、『X字のブレスレット』を取り出すと、タイガスパークに読み込ませる。

 

[エックスレット、コネクトオン]

 

『エックスレット』から緑色の光がタイガスパークに吸い込まれた。

 

『フン! 『「エレクトロバスター」』!!』

 

ボディビルポーズをしたタイタスに、『電子の勇者・ウルトラマンエックス』の幻影と重なり、光球を生成して腕をXの字に組んで緑の稲妻エネルギーが付加した光球をカインと声を合わせて、クロスチョップで打ち出す。

 

『ギィャアアアアアアアア!!』

 

それを受けたセグメゲルは全身に雷が迸り爆散した。

爆散したセグメゲルから緑色の光が飛びだし、タイタスのカラータイマーに入りカインの手に収まると、セグメゲルのデザインの入った『怪獣リング』を手に入れた。

 

『「・・・・また、怪獣のリング、ゴホッ!」』

 

『ぐぅうっ!!』

 

タイタスは皮膚が焼けた腕を押さえ、毒を含んだ煙を吸ったカインは咳き込む。

 

『(トモユキ! 変身を解除するんだ!)』

 

『「いや、まだだタイガ。タイタス、君は休んでくれ・・・・」』

 

[カモン!]

 

『す、すまない・・・・!』

 

カインは苦しい身体を動かして、『タイガキーホルダー』を読み込んだ。

 

『「バディ、ゴー・・・・!」』

 

[ウルトラマンタイガ]

 

タイタスからタイガへとチェンジした。

 

 

ー綾波sideー

 

「『ウルトラマンタイガ』?!」

 

「あれが、報告にあったウルトラマンか?」

 

綾波達はタイタスからタイガに変わった事に驚いた。

 

 

ー長門sideー

 

「翔鶴。あれがウルトラマンタイガか?」

 

「ええそうです」

 

港にいるKAN-SEN達も初めて見るタイガを見据える。

 

 

 

ータイガsideー

 

『「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・・!」』

 

『トモユキ! どうするんだ!?』

 

『「今、重桜の周りの海が、毒に汚染されている、このまま無視する訳には、いかないだろう?」』

 

『(・・・・記憶は無くしても、重桜の皆の事を思っているんだな) 分かった! やってやろうぜ!!』

 

タイガは飛び上がると、重桜の周りに広がりそうになっているセグメゲルの毒が入った海の上に立つと、その場で大回転した。

 

『ハァァァァァァァァァァァ・・・・!』

 

タイガが竜巻のように回転すると、毒に犯された海面が巻き上がり、ほとんどの毒を含んだ水が空に巻き上げられた。

 

『トモユキ! 『ブルレット』だ!』

 

『「了解!」』

 

カインは『青い一本角のリング』を取り出してタイガスパークに読み込ませた。

 

[ブルレット、コネクトオン]

 

青い光が迸り、タイガの身体が『兄弟ウルトラマンの弟・ウルトラマンブル』と重なった。

 

『フン! 汚れた水を浄化してやる! 『アクアブラスター』!!』

 

水を纏った光線を放つと、毒々しい緑色の水飛沫が、美しい青色に戻り降り注いだ。

 

『・・・・・・・・』

 

タイガは後ろを振り向くと、港にいる重桜KAN-SENの皆を見据える。

 

『トモユキ。必ず戻ろうぜ。赤城さんと加賀さんが間違った事をしてるんなら、俺達で止めようぜ!』

 

『「・・・・ああ。タイタス、力を貸してくれるか?」』

 

『(無論だ!)』

 

『・・・・シャァッ!!』

 

タイガは夕焼けに染まる重桜の海から、飛び立っていった。

 

 

 

ーカインsideー

 

「にゃ、にゃにゃ・・・・?」

 

カインは潜水艦に戻ると、丁度良いタイミングで、気絶していた明石が目を覚ました。

 

「明石、目を覚ましたか?」

 

「指揮官? にゃにが起きたにゃ? 怪獣はどうしたんだにゃ? って言うか、指揮官顔色が滅茶苦茶悪くなっているにゃ!」

 

「怪獣は、ウルトラマンって、巨人が倒した、それよりも早く、離脱するぞ。シェフィとエディンバラと合流してくれ・・・・」

 

「指揮官・・・・」

 

「急いでくれ・・・・!」

 

少量とは言え、セグメゲルの毒を含んだ煙を吸ってしまい、カインは倦怠感と目眩と息苦しさに耐えていた。

 

 

 

ーシェフィールドsideー

 

「行きますよエディンバラ」

 

「り、了解!」

 

セグメゲルが倒され、タイガが飛び去ってすぐに離脱しようとする二人。

高雄と綾波は追おうとしたが、先ほど〈ノブレス・ドライブ〉したシェフィールドとの戦闘のダメージが響き動けなかった。

シェフィールドとエディンバラの目の前に、小型の潜水艦が浮上し、ハッチが開くとソコからカイン・オーシャン指揮官、いや、海守トモユキ指揮官が顔を出した。

 

「シェフィ、エディンバラ!」

 

「「ご主人様!」」

 

「すぐにここから脱出して・・・・」

 

『指揮官!!!!』

 

「・・・・ぁ」

 

声がする方に振り返ると、重桜KAN-SEN達の大半が港からカインのいる地点に向かって全速力で向かってきていた。

 

「うわわわわ! 大軍で来ちゃいましたよぉ!」

 

「ご主人様、すぐに離脱を・・・・ご主人様?」

 

「・・・・・・・・」

 

カインは、自分に向かってくるKAN-SEN達の顔から、彼女達の想いが伝わってきた。

 

『(行かないで!)』

 

『(ここにいて!)』

 

『(もう、いなくならないで!!)』

 

彼女達の気持ちが伝わった。だが、赤城と加賀の隠し事と『セイレーン』の暗躍をアズールレーンの皆に伝えなければならないと考えたカインは、口元を動かして彼女達に自分の意思を伝えた。

 

「(ゴメンね)・・・・行こう。明石」

 

「・・・・了解にゃ。ポチッとにゃ」

 

明石が潜水艦に搭載されたミサイルを2発発射すると、上空で爆裂し1つは光を、1つは煙を巻き上げてKAN-SEN達の視界を遮り、進軍を停止させた。

そして光と煙が収まるとソコにはもう、指揮官達の姿は無かった。

 

 

 

 

 

ー赤城sideー

 

そしてその夜。

カイン達を追跡していた加賀の式神が戻ってきた。

 

「すみません姉様。指揮官を逃がしてしまいました」

 

「・・・・そう。仕方ないわね」

 

「『黒箱』が指揮官の、アズールレーンの手に渡ってしまいますが?」

 

「追撃隊を編成してちょうだい。指揮官様をお迎えに行かないと。でも、『黒箱』の方はむしろ好都合かも知れないわね・・・・」

 

「姉様?」

 

「アズールレーンが『黒箱』を育ててくれると言うなら、ご厚意に甘えようかしら?」

 

赤城の企みに満ちた声に、加賀は不安そうに見つめていた。

 

 

ー綾波sideー

 

「・・・・・・・・」

 

母港に戻ったKAN-SEN達の顔は沈んでいた。

トモユキ指揮官が帰って来てくれた。

また一緒にいられる。

また一緒に。

そんな淡い希望が、ようやく戻りそうだった光が、その手から離れていってしまった。

 

「・・・・・・・・指揮官」

 

綾波は夜の満月を見上げながら、『大好きな人』の名前を呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーオブザーバーsideー

 

『あの怪獣を呼び寄せたの貴方の差し金ね?』

 

「♪~♪~♪~」

 

宙を浮くオブザーバーは、カインを追っていった赤城と加賀と入れ替わるように現れた霧崎<トレギア>が、空中に浮かばせた映像でセグメゲルとウルトラマン、そして〈ノブレス・ドライブ〉を目の当たりにし、カインが去っていく所まで見終わると、オブザーバーが鼻歌を歌う霧崎に話しかけた。

 

『どういうつもりかしら? “私達はある程度の干渉はしても、お互いの作戦行動には触れない事を決めた筈よ”』

 

オブザーバーは少し不機嫌そうにそう言うと、身体の触手を霧崎の身体に近づけるが、霧崎は一瞬で姿を消すと、宙に浮かぶオブザーバーの眼前に現れた。

 

「スパイスだよ」

 

『スパイス?』

 

オブザーバーが聞き返すと、霧崎はオブザーバーの手を取って、宙に浮きながらワルツを踊る。

 

「そう。どんなに美味しい料理でも、スパイスと言った刺激物は必要不可欠。重桜も怪獣のような“脅威”を目の当たりにすれば、より一層の力を求め、『オロチ計画』を進める。“それがどんな結果を生み出すのか知らずに”、ね」

 

「なるほど。だからわざわざ、破壊された『ヴィラン・ギルド』の『オークションステーション』から、『怪獣保管庫』を回収したのね?」

 

「その通り。これで誰も彼もが踊るよ。重桜も、ユニオンも、ロイヤルも、鉄血も、その他の陣営も、そしてタロウの息子とオマケ達も、み~んな僕達の手の平の上で踊り狂うのさ」

 

「ウフフフフ♪ それは確かに面白いわね。『トレギア』」

 

僅かな灯りに照らされた二人の影、オブザーバーの影は亀裂が走ったように笑みを浮かべ、霧崎の影はウルトラマントレギアの姿となっていた。

 

 

 

ーマグマ星人sideー

 

『んでマーキンド。何とかボロボロの宇宙船でここまで逃げてきたけどよ。こんな何にもない廃墟の街に来ちまってどうすんだ?』

 

『う~ん。ウルトラマンタイタスのせいで『オークションステーション』は全壊。『怪獣保管庫』も行方不明。こんなヘマをもしも上層部に知られたら・・・・』

 

『おいおい、俺達の命が危ねぇじゃねぇか!?』

 

『ですから、暫くこの廃墟で野宿しながら船を修理して、その後で『ステーション』が崩れる寸前に宝物庫から掻っ払ってきたこの『お宝の山』や『商品』を売りさばいて、ほとぼりが冷めるまで悠々自適に暮らそうじゃありませんか』

 

『たくっ、元々その『お宝』やらを集めるのに時間掛かっちまったから、脱出した直後に重力に捕まっちまってコントロールを失って、この星に不時着したんだけどな』

 

マグマ星人とマーキンド星人は、『オークションステーション』から脱出する際に回収しておいた『お宝』の中に、“『青い宝石』が光り輝いていた”。




次回の話で『三人目』が登場します。


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【聴取】異星人との遭遇

ーカインsideー

 

カイン達は事前にウェールズ達との合流地点として定めていた島。深い霧に包まれた『セイレーン』との戦争で廃墟となってしまった島にたどり着いた。

しかし、島は追撃してきた重桜艦隊に囲まれており、上空では重桜の飛行機が偵察で飛び回り、カイン達は島の建物に隠れていると、見張りをしていたシェフィールドが戻ってきた。

 

「ただいま戻りました」

 

「お帰りなさい!」

 

「はぁ、はぁ、はぁ、シェフィ、外の様子は、どうだった?」

 

「やはりかなりの警戒網です。偵察機も飛び回っており、簡単には脱出できそうにありません。エディンバラ。ご主人様の容態は?」

 

「ダメ。熱が下がらないの」

 

「にゃにゃ、あの怪獣の毒が含まれた煙を吸っちゃったからにゃ」

 

前回のセグメゲルとの戦闘で、毒を含んだ煙を吸ってしまったカインは、頭痛と発熱と倦怠感に襲われ、マトモに身体が動けなくなっていた。

 

「(タイタス、君はどうだ?)」

 

≪すまない。ウルトラマンの回復力でも、この毒による負傷の完治は、まだ少し掛かりそうだ・・・・≫

 

≪厄介だな。それにしても、赤城さんと加賀さんがこんな物を『セイレーン』から貰ってただなんてな≫

 

エディンバラに膝枕をして貰い、汗を拭って貰っているカインは、テーブルの上に置かれた『黒いメンタルキューブ』を見据える。

 

「明石、それがどんな物か分かるか?」

 

「う~む、謎だにゃ・・・・?」

 

「本当に何も分からないのですか? 重桜の秘密兵器なんでしょ?」

 

「明石ただの工作艦だにゃ! 詳しい事は分からにゃいにゃ!」

 

「だが、これは赤城と加賀が、『セイレーン』から貰っていた物だ。何か、『オロチ計画』って、作戦に関係している、物だろう・・・・」

 

「まさか、『セイレーン』の横流し品だったにゃんて・・・・これ絶対ヤバい奴にゃ! おっかないにゃ!!」

 

明石が怯え、シェフィールドは取り敢えず、持参していた食料とティーセットで軽いお茶会を始めた。

 

「僕達の状況は、基地の皆にも伝わっている。今は救援を、待つべきだね・・・・」

 

「そうですね。それで、明石でしたか? 本当なのですか? ご主人様が行方不明となった貴女方重桜の指揮官、海守トモユキ指揮官だったなんて」

 

「確かにご主人様は記憶喪失だし、私達ロイヤルがご主人様を見つけたのは、海守トモユキ指揮官が行方不明になった日の翌日だったけど」

 

「間違いにゃいのにゃ! その指揮官のDNAにゃら、指紋にゃら血液まで徹底的に調べたら、明石達の指揮官と95%以上の数値で合致したんだにゃ!!」

 

「機械の故障では?」

 

「にゃん回も機械の状態を確認したけど問題無かったにゃ! 間違いにゃく指揮官はトモユキ指揮官だにゃ!!」

 

「うぅ~。ご主人様は兎も角、この『黒箱』を渡したら許してくれますかね?」

 

「それは無いでしょう。赤城達が『セイレーン』と癒着していた事を知る我々を見逃すとは思えません」

 

「赤城の性格にゃから、きっと明石は三味線の皮にされるにゃ! 指揮官はおそらく捕まって監禁されてしまうにゃ!」

 

「と、言われておりますが、如何なさいますかご主人様?」

 

「・・・・先ずはなんとか、ウェールズ達と連絡を取って・・・・」

 

 

ーーーーガタンっ!

 

 

「「「「っ!!」」」」

 

突然隣の部屋で物音が聞こえると、即座にシェフィールドが2丁拳銃を取り出し、忍び足で音の聞こえた方に近づき、エディンバラと明石はカインの背に隠れた。

 

「君たちね・・・・」

 

「わ、私シェフィと違って荒事苦手なんですよ!」

 

「明石ただの工作艦にゃ! 指揮官守って欲しいにゃ!」

 

「はぁ・・・・シェフィ、気をつけて」

 

「はい」

 

シェフィールドは静かに歩を進め、隣の部屋に向かうと。

 

ーーーーバタン! ドタドタ!

 

ーーーーうわぁ! なんだこの女!?

 

ーーーーちょ、ちょっと何するんですかっ!?

 

ーーーーテメェ調子にブッ!!

 

ーーーーちょっ、マグマ!? なに鼻血を吹いてるんですか!?

 

ーーーーこ、この女、穿いてグへっ!!

 

「・・・・なんなんだ? エディンバラ。シェフィはどうしたんだ?」

 

「あ~ご主人様。その事は取り敢えず聞かなかった事にしてください・・・・」

 

「にゃんか、聞くのがおっかにゃいにゃ・・・・」

 

 

 

 

「シェフィ、何ですかその怪しさ全開の方達は?」

 

「コソコソとコソ泥のようにしていたので、取り敢えず捕縛しました」

 

戻って来たシェフィールドは、何処から取り出したのか、荒縄でミノムシのように縛り上げた二人の異形を連れてきた。

 

≪あの黒服、『マグマ星人』か?!≫

 

≪もう1体の異形は『マーキンド星人』だな≫

 

「・・・・お前達、もしかして異星人か?」

 

「にゃ? こんな奴らが異星人にゃのかにゃ?」

 

『こんな奴ら』呼ばわりされた2人の異星人達は、横に倒れた身体から頭をガバッと上げて声を張り上げた。

 

『こんな奴らとはなんだコラ!? こちとら泣く子も黙る宇宙最凶の犯罪組織『ヴィラン・ギルド』だぞ!』

 

『私達に手をあげるだなんて! あなた方、コンクリに詰めてスペースデブリにしちゃいますよ!!』

 

バキッ! ドガッ! ゴキッ! グギッ! メキッ! ゴキャッ! グシャッ!・・・・。

 

『『大変失礼な事を口走りました! お許しくださいませ!!』』

 

シェフィールドに物理的なお仕置きを受けて、頭に大量のタンコブを乗せた二人がミノムシ状態で器用に正座して土下座した。

 

「それで、『ヴィラン・ギルド』って言うのは、一体なんなんだ?」

 

カインの質問に、二人の異星人は淡々と説明した。

 

 

 

 

 

ー翔鶴sideー

 

その頃、島を包囲していた重桜艦船の1人、翔鶴は『セイレーン』の艦船を見回った。

 

「この子達、平気かしら? 向こうに操られない?」

 

「母体は『オロチ』の方だから乗っ取られる事は無い、って赤城先輩は言ってたけど・・・・」

 

翔鶴の質問に答えたのは妹の瑞鶴だった。

翔鶴は瑞鶴に近づき、難しい顔を浮かべた。

 

「赤城先輩、ね・・・・あの人一体何を企んでいるの? 指揮官が逃げ出すような悪巧みでも考えたのかしら?」

 

「翔鶴姉・・・・」

 

「私ああいう腹の黒い人、苦手なのよねぇ~」

 

「・・・・・・・・あはははは」

 

自分の事を棚に上げて赤城に毒を吐く姉に、瑞鶴は苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

 

 

 

 

ー高雄sideー

 

別の艦に乗っている高雄は、シェフィールドとの戦闘で負傷した身体をさすりながら、廃墟の島を睨んでいた。

 

「(拙者が至らぬばかりに、指揮官をみすみす奴らに奪われてしまった。この汚名と屈辱は何としても雪がなくては・・・・)「もう高雄ちゃんったら、また難しい顔をして」ひう!? あ、愛宕!何をする!?」

 

不意に後ろから愛宕が高雄の頬を触れた。あまりにも不意だったので高雄は情けない声を出してしまう。

 

「ほら、肩に力が入りすぎてるわ」

 

肩だけではなく、腕や腹回りを撫でる回すような怪しい手つきで指を這わせる。

 

「や、やめろ・・・・!」

 

「いいじゃない。指揮官と一緒に海水浴に行った時なんて、指揮官に身体を寄せまくったじゃない」

 

「あ、あれはお前が、【この水着で迫れば指揮官もイチコロよ♪】、なんて言うから仕方なく・・・・!」

 

「あら? その割りには必死に指揮官を誘惑してたじゃない?」

 

「そ、そんな事は・・・・あぁ!/////」

 

「あら?」

 

そんな二人のイチャコラを、通りすがった綾波が見ていた。

 

「綾波ちゃんもどう?」

 

「いえ、綾波は遠慮しときます、です」

 

その手はいよいよ高雄の豊満な胸やスカートの中にまで近づいてくる。

 

「っ! どこまで触っているんだ!」

 

高雄は愛宕を引き離し、一旦距離を取ると、愛宕は残念そうな顔をしていた。

 

「全く・・・・任務中だぞ、真面目にやれ」

 

「分かっているわよ・・・・。指揮官を絶対に連れ戻すのだから、真面目じゃない訳ないじゃない」

 

にこやかだった愛宕の顔が変わり、臨戦状態のような顔つきとなる。赤城と同じくらいトモユキ指揮官に対する思慕が強い(重い?)愛宕は、トモユキ指揮官の事になると普段は押さえている圧を発してくる。

 

「(これだから愛宕は侮れない・・・・。しかし、拙者も気持ちは同じだ。必ず指揮官殿を連れ戻す!)」

 

「瑞鶴ちゃーん! 首尾はどうー?」

 

愛宕は偵察機と同調している瑞鶴に話しかけると、瑞鶴が口を開く。

 

「・・・・隠れるのには絶好の廃墟。見つけるのは骨が折れそう・・・・!」

 

瑞鶴は苦い顔を浮かべてそう言った。

 

 

 

ーカインsideー

 

「ほぉ~、つまりこう言う事かな? 君たちヴィラン・ギルドは自分達のシノギ(稼ぎ)として『怪獣オークション』なんて悪趣味な商売をやっており、そのデモンストレーションの場所として、僕達の星で怪獣を暴れさせていた、と?」

 

『『は、はい・・・・』』

 

「ベムラーや、ギャラクトロンMK2なんかも、君たちがオークションの為にけしかけた怪獣だったんだね?」

 

『『そ、その通りです・・・・』』

 

「・・・・・・・・・・・・(ジャキッ!)」

 

『『ひぃいいいいいいいいいいいっ!!!』』

 

無言で2丁拳銃の撃鉄を起こすシェフィールドを見て、顔を青ざめて悲鳴を上げた。

 

「待てシェフィ、彼らにはまだ、聞きたい事がある」

 

「・・・・・・・・承知しました」

 

「さて、君たち。まだまだ色々話して貰うけど、黙秘するならシェフィに鉛玉ぶちこんで貰うからな」

 

『『い、イエッサー!』』

 

「先ず、何で僕達の星をデモンストレーションの場所に決めた?」

 

『こ、この星は戦争状態であり、その為軍備も整っているから、怪獣の力を示すのに丁度良いと、『ある筋』からの情報を受けた上層部が、この星に決めたのです!』

 

「ある筋とは?」

 

『そ、それは・・・・』

 

「・・・・(カチャ)」

 

言い淀むマーキンド星人に向けて、シェフィールドが銃口を向ける。

 

『し、知らないんですよ! 上層部からも『ある筋からの情報だ』の一点張りで! 私達は上からの命令に従っていただけなんですよ!』

 

『それに! この星に『ウルトラマンタイガ』やら『ウルトラマンタイタス』やら! 俺らヴィラン・ギルドにとっては敵対関係にあるウルトラマン達がいることも、上層部がオークションを始めた理由なんだぜ!』

 

「えぇっ! ウルトラマンがですかぁ?!」

 

「にゃんでウルトラマンが関わってくるにゃ?」

 

『ウルトラマンって言うのは、宇宙の秩序と安定を守る為の戦士達だ。ヴィラン・ギルドみたいな犯罪組織にとっては、目障りな存在なんだよ』

 

≪なに?! お前達が悪さするからだろ!≫

 

≪我々に怨みを抱くなど、逆恨みも良いところだ!≫

 

「(二人とも落ち着いてくれ)・・・・なら次の質問だ」

 

憤るタイガとタイタスを宥めたカインが手をあげると、シェフィールドは銃を下ろし、マーキンド星人はホッとすると、カインは次にマグマ星人に目を向ける。

 

「重桜に怪獣をけしかけたのは何故だ?」

 

『重桜に怪獣? 俺らはギャラクトロンMK2とウルトラマンの戦いのとばっちりで、『オークションステーション』が落下してから怪獣の事は知らないぜ。オークション用の怪獣を収納した『怪獣保管庫』も行方不明になっちまったんだからな!』

 

≪なるほど。あの時落下していたのは、彼等の『オークションステーション』だったのか≫

 

≪どうりでこの星の物にしては、奇妙な形してると思ったぜ≫

 

マグマ星人の話から、ギャラクトロンMK2を倒した後に破壊した落下物の正体を知った。

それからカインは、重桜に現れた怪獣の事を二人に話すと。

 

『それは、『毒煙怪獣 セグメゲル』ですね。ギャラクトロンMK2と並んでオークションの目玉商品だった怪獣ですよ』

 

『そう言えばあんちゃん、具合悪そうだな』

 

「そのセグメゲルの、毒を含んだ煙を吸ってしまってね。元々君達の商品の怪獣なら、『解毒剤』とか持っていないか?」

 

『・・・・その顔色からして、症状は軽いようですが。すぐに治したいなら、確か持ち逃げした荷物の中に解毒剤があった筈なんですが、この状態では・・・・』

 

「・・・・・・・・シェフィ」

 

「・・・・・・・・はぁ、承知しました。ですが、解放するのはマーキンド星人だけですよ。もし妙な真似をしたら、お仲間のマグマ星人の身の安全は保証しません」

 

『何だと! このノーパ「(ジャキッ!)何か?」マーキンドっ! 早く解毒剤をお渡ししてぇっ!!』

 

マグマ星人が何かを言おうとした瞬間、シェフィールドは銃口をマグマ星人の額に押し付けると、マグマ星人は大人しくなった。マーキンド星人は明石とエディンバラに縄をほどいてもらうと、荷物が入ったケースを取り出し、中を開けてガサガサと漁ると、セグメゲルの毒々しい緑色と違い、『美しい緑色の液体が入った瓶』を取り出した。

 

『これが解毒剤です。この程度の症状なら少量を飲んで15~20分安静していれば全快に回復しますよ』

 

「そうか・・・・ありがとう」

 

『・・・・一応言っておきますが、私達は異星人で、犯罪者なのですよ。お礼を言うなんて変わってますねアナタ』

 

「異星人だろうと、犯罪者だろうと、助けてくれた人物にはお礼を言う、それが『仁義』って奴さ」

 

『そうですか、か・・・・』

 

「所でもう一つ聞きたいんだが、君達ヴィラン・ギルドは、“トレギアとどういった関係なんだ?”」

 

トレギアの名前を出すと、マーキンド星人もマグマ星人も、ゲンナリとした顔になったように見え、マグマ星人が口を開いた。

 

『あの陰険陰湿極悪性悪のクソトラマンのトレギアだなんて、俺らヴィラン・ギルドにとっちゃタイガとタイタス以上に目障りなんだよ! ベムラーだって奴のせいで倒されたんだからな!』

 

マグマ星人の言い分に、マーキンド星人もウンウンと力強く頷いて同意していた。

どうやら本当にヴィラン・ギルドはトレギアと無関係な間柄らしい。

 

「(・・・・にゃ? にゃんかキレイな宝石だにゃ~)」

 

明石は一同が話に夢中になっている隙に、ケースの中から『青い宝石』をソッと自分の長い袖口に入れた。

 

 

 

 

 

 

ー扶桑sideー

 

扶桑と古鷹が主砲の上に立って、廃墟の島を見ていた。

 

「焦っても仕方ないわ。偵察機が見つけるまで待ちましょう」

 

「でも扶桑さん、拐われた指揮官と明石ちゃんが心配だよ。あんまりノンビリとはしてられないよ」

 

「そうね。でも、指揮官様が重桜を出るときに見せたあの顔・・・・」

 

【(・・・・ゴメンね)】

 

扶桑の脳裏に、申し訳ない気持ちでいっぱいのカインの顔が浮かんだ。

 

「(指揮官様は、何故重桜から逃げ出したのかしら?)」

 

「扶桑さん! 鉄血艦隊から連絡です!」

 

思考の海に入っていた扶桑を呼び戻したのは、加古からの伝令だった。

 

 

 

ーニーミsideー

 

「アズールレーン・・・・!」

 

別の方面で監視をしていたニーミたち鉄血艦隊は、霧の向こうからやってくるアズールレーンの艦を見て目を細める。

ニーミの周りにはプリンツ・オイゲンの他に、オイゲンの姉の『鉄血所属 駆逐艦 Z1<レーベ>』、『鉄血所属 軽巡洋艦 ケルン』がいた。

 

「はい! 間違いないありません!」

 

「どうすんだ? あっちを先に片付けるのか?」

 

ケルンが連絡をし、レーベが勇ましくアズールレーンを迎え撃とうと言うがーーーー。

 

「私達の仕事は『島の監視』。向こうは重桜艦隊に任せましょう」

 

同盟を組んでいるはずなのに、鉄血と重桜の間には連携が取れているとは、お世辞にも言えなかった。

 

 

ーアズールレーンsideー

 

ユニオンのセレナと『ユニオン所属 戦艦 オクラホマ』。ロイヤルの『ロイヤル所属 巡洋戦艦 レパルス』

、『ロイヤル所属 重巡洋艦 ノーフォーク』は、『セイレーン』の襲撃で廃墟となった島を見ながら、

 

『人類同士でなにやってんだが・・・・』

 

と、『セイレーン』と言う真の敵を無視して内輪揉めしている現状に霹靂していた。

ロイヤルメイドの『ロイヤル所属 重巡洋艦 サフォーク』は呑気に鴎を眺めていたが。



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【苦悩】『答え』は霧の中に隠れて

ーウェールズsideー

 

ウェールズとクリーブランドがカイン達がいるであろう島に眺めていた。

 

「指揮官達と合流する前に、先手を取られちゃったな・・・・」

 

「まぁ良いだろう。この島を合流地点とした時から、予め指揮官がこのような事態を『プランB』として策を練っていたからな」

 

「でもどうやって助けるんだい? あの包囲を突破するのは大変だよ?」

 

「目的はあくまで指揮官達の救出だ。『プランB』の内容から行くと、“彼女”に動いてもらう所だが、ベルファストはどう考えているかな?」

 

主と姉が危機的状況にいる中、ロイヤルメイド隊のメイド長の心境を考えていた。

 

 

 

ーベルファストsideー

 

「・・・・・・・・」

 

「落ち着いているんだな?」

 

「はい?」

 

冷静に島を見据えるベルファストに、エンタープライズが話しかけた。

 

「心配じゃないのか? 島に指揮官と“同僚”がいるんだろう?」

 

「同じ『ご主人様』と『女王陛下』に仕える、メイドでございます」

 

「・・・・・・・・」

 

「?」

 

エンタープライズはベルファストの服装を見る。

 

「奇妙な話だ。『メイド』とか、『女王』とか、まるで『人間』だ・・・・」

 

「『人間の真似事』だと?」

 

「っ」

 

「そのように仰りたいのでしょう?」

 

「・・・・・・・・」

 

エンタープライズは肯定するように頷く。

 

「変わりませんよ」

 

「なに?」

 

「『人』も『艦』も違いはありません。『心』を持つ、『生命』でございます」

 

「・・・・いや、我々は『戦う為』に生まれてきた。違うか?」

 

「はい。強大な力を持つ我々には、『大いなる責務』があります」

 

「そうだ、『敵を倒す事』だ」

 

艦船エンタープライズの甲板に並んだ艦載機を見ながら答えるベルファストに、エンタープライズは肯定した。

が、ベルファストはーーーー。

 

「いえ、私達は、証明しないといけないのです」

 

「証明・・・・?」

 

「はい。『可能性』を、です」

 

「『可能性』、だと・・・・?」

 

「〈ノブレス・ドライブ〉も、その“可能性の一端”に過ぎないのです」

 

「なに・・・・!?」

 

エンタープライズの声に、ベルファストを優雅に微笑みながら続ける。

 

「どんな過酷な世界であっても、人は気高く生きる事が出きるのだと、迷える人々の模範となる為に、私達は優雅でなければならないのです」

 

「・・・・・・・・」

 

「主の優雅な人生を手助けする。それが、『メイド』の仕事でございます」

 

「・・・・ユニオンとは違う考え方なんだな」

 

「当然です。だからこそ、アズールレーンは手を取り合うのです。『ロイヤル』、『ユニオン』、さらに『東煌』、『アイリス』、『北方連合』ーーーー「『鉄血』、『重桜』もか?」・・・・」

 

「かつてはな・・・・」

 

以前は手を取り合っていた相手と砲口を向けあって戦おうとしている。その現象を見て、エンタープライズはまた手を取り合えるのかと聞いていた。

 

「取り合えます。その『鍵』となるのが、ご主人様、カイン・オーシャン指揮官様であると、私は確信しております」

 

そう言ったベルファストの『曇りのない眼差し』に、エンタープライズはそれ以上言えなくなった。

 

「エンタープライズ。ベルファスト」

 

そんな二人に話しかけてきたのは、ユニコーンを連れたイラストリアスだった。

 

「指揮官様が残していた、『プランB』の説明がありますからすぐに来て下さい。“彼女”もすでに来ていますから」

 

「はい」

 

「・・・・分かった」

 

 

 

 

 

 

ージャベリンsideー

 

「「・・・・・・・・・・・・」」

 

ジャベリンとラフィーは、エンタープライズ達の近くで重桜の艦隊のある1隻の船を見ていた、『綾波』である。

 

「綾波ちゃん、来てるのかな?」

 

「かもしれない」

 

「次会ったら、私は・・・・」

 

ジャベリンはまだ、綾波と戦う事を躊躇っていた。

 

 

 

 

ー綾波sideー

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

綾波もまた、遠くいるアズールレーン艦隊の中にいるジャベリン達の事を考えていた。

 

「悩み事?」

 

「愛宕さん・・・・」

 

「悩みならお姉さんが聞いてあげるわよ♪」

 

愛宕は両手を広げて、抱き締めてあげると言わんばりに手を動かす。がーーーー。

 

「っっ! 綾波は、結構です!」

 

「・・・・そこまで警戒しなくても」

 

先ほどの高雄へのセクハラまがいな抱擁を見ているので警戒し、後ろに後退りしてしまった。その様子に愛宕は頭に大きな汗を流すが、すぐに気を取り直して。

 

「戦うのは気が進まない?」

 

「っ!・・・・戦闘は、嫌いじゃないですが」

 

「好きでもないでしょう?」

 

「・・・・綾波は重桜の皆が好きです。大事な仲間なのです。でも・・・・向こうも同じなのです」

 

愛宕は綾波の言葉にウンウンとただ静かに頷く。

 

綾波はアズールレーン母港の偵察に行った時のことを思い出していた。

 

「綾波達と同じように、仲間がいて、笑い合って・・・・」

 

基地にいた艦船<KAN-SEN>達は当たり前のように笑い合い、あの丘の上で指揮官をずっと行方不明だった指揮官を見つけて、ジャベリン達が自分に笑いかけて、握手を求めてきてーーーー。

 

「・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

思い悩む綾波を、愛宕は優しく抱き締める。

 

「・・・・変な感じなのです・・・・」

 

「綾波ちゃんは、指揮官を取り戻したい?」

 

「勿論、なのです・・・・! でも、指揮官が何故、重桜を離れたのか分からない、です。赤城さんは、ロイヤルが指揮官を拐かした、と言っていたですが、去っていこうとした指揮官の顔・・・・」

 

綾波は重桜から去ろうとした指揮官の顔を思い出した。

あの時の指揮官の顔は、拐かされた顔ではないと、綾波は直感した。

 

「・・・・指揮官が重桜から離れたのには、きっと『理由』がある筈です」

 

「・・・・それじゃ、アズールレーンと戦える?」

 

「っ・・・・!」

 

綾波は愛宕の問いかけに顔を俯かせた。トモユキ指揮官も大事。重桜のみんなも大切。だが、彼女達と戦う事に迷っていた。

 

「(我ながら、意地悪な事を言っちゃったわね・・・・)」

 

愛宕は俯く綾波を見て、内心反省した。

勿論、愛宕自身もアズールレーンとレッドアクシズ。同じ艦船<KAN-SEN>同士。人類同士で戦う事になっているこの現状に思う所はある。

指揮官が重桜から逃げたのにも、きっとやむにやまれない事情がある事は、綾波や愛宕だけではない。おそらく翔鶴や蒼龍、扶桑や長門も理解している。

だが、その僅かな躊躇いが姉妹や、目の前の仲間の命を危険にさらす事になるから敢えて言ったのだ。

 

「(まぁでも、それだけじゃないけどね・・・・)」

 

愛宕はトモユキ指揮官を想っている。それこそ赤城に負けない程にだ。だからこそ、つい綾波に意地悪をしてしまう。

 

ーーーー何故なら綾波は、トモユキ指揮官と“最も絆の強い艦船<KAN-SEN>”だからだ。

 

トモユキ指揮官が重桜にまだいた頃。その隣には常に綾波がいた。

戦う事しか己の存在意義を見いだせない『鬼神』ーーーーそれが綾波だった。

しかし、そんな綾波がトモユキ指揮官と共にいる内に、段々『戦う』以外のモノを見つけ始め、艦船<KAN-SEN>としても、“人間としても”大きく成長し、駆逐艦でありながらも、重桜の『主戦力』の一角を担う程になった。

『海原の軍者 海守トモユキ』と『鬼神 綾波』。重桜軍で知らぬ者無しの二人だった。

重桜艦船<KAN-SEN>の大半は、トモユキ指揮官と綾波が一緒にいるのは、もはや当たり前の光景と言っても良い位だった。周りが羨む程の二人、と言っても過言ではない程、あの二人が一緒にいるのは当然とも言えた。

トモユキ指揮官は女の子大好きなスケベ指揮官だったが、本命は綾波なんじゃないかと噂が立ったほどだ。

そんな中、夕立が綾波に『私闘』が挑んだ。夕立が「綾波が指揮官を独り占めしてズルいぞっ!」と言って、綾波と私闘をした事があった程だ。そのお陰か、綾波が夕立や雪風や時雨と仲良くなるきっかけになったのだが。

だが、表立って騒動を起こしたのは夕立だけだが、赤城も実は虎視眈々と綾波を攻撃する機会を伺っている。

愛宕や他の“トモユキ指揮官への愛が重い艦船<KAN-SEN>達”もそれぞれトモユキ指揮官と綾波の間に思う所はある。

だがひょっとしたら、現在記憶を失ったトモユキ指揮官を取り戻す可能性を持っているのも、また綾波なのだと、愛宕を含んだ重桜艦船<KAN-SEN>達は考えていた。

 

「(でもそれを認めちゃったら、お姉さん、指揮官の事を諦めなくちゃならないからね・・・・)」

 

我ながら難儀な性格だと愛宕は自嘲気味に思った。

 

「(・・・・指揮官。綾波は、綾波はどうすれば良いです・・・・?)」

 

そして綾波自身は、トモユキ指揮官に『答え』を問いかけていたが、霧の中に消えるように『答え』は返ってこなかった。 

 

 

 

 

 

 

ーカインsideー

 

「ご主人様。お加減はどうですか?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

マーキンド星人から貰った解毒剤を飲んで20分後。カインは身体を苛んでいた頭痛や熱、倦怠感が綺麗に無くなり、今は身体をストレッチさせて状態を確認していた。

 

「うん。さっきまでの不調が嘘のように消えている。感謝するよ、マーキンド星人」

 

『それは良いんですが、私達はこんな扱いのままなんですか?』

 

マーキンド星人はシェフィールドによって再びミノムシ状態に縛られ、マグマ星人と共に明石にその縄を掴まれていた。

 

『なんで俺達こんな扱いなんだよ?!』

 

「君達にはまだまだ聞きたい事がある。申し訳ないが、アズールレーン母港に同行してもらう」

 

『はぁ!? この星の戦争に、俺達を巻き込ぐぅ!!』

 

「静かにするにゃ! 見つかったから大事にゃっ!」

 

『あ、いえ、もう手遅れみたいです・・・・!』

 

大声で文句を言うマグマ星人の口を明石が塞ぎ、小さな声で怒鳴るが、マーキンド星人の言葉に一同が外を見ると、カイン達がいる建物の近くを、重桜の偵察機が飛び交った。

 

「あわわわわわわ!!」

 

「くっ!」

 

急旋回した偵察機がこちらに来たのを見て、エディンバラはアワアワとなり、シェフィールドは建物から飛び降りると、二丁拳銃を機関銃のように弾幕を発射させ、偵察機を撃墜した。

 

≪流石シェフィールドだぜっ!≫

 

≪だが、こちらの位置が知られてしまったがな≫

 

「行くしかないか・・・・」

 

シェフィールドが着地した場所に、エディンバラにお姫様抱っこされたカインとマーキンド星人とマグマ星人を連れた明石が着地した。

 

「女の子にお姫様抱っこされるとは・・・・」

 

『おいもっと丁寧に扱えよ!』

 

『鼻、打っちゃいましたよ!』

 

エディンバラにお姫様抱っこされたカインは複雑な心境になり、顔面から着地した二人の異星人が文句を言った。

 

「見つかってしまいましてね」

 

「しししし指揮官っ! 本当に作戦が上手くいってくれているのでしょうか!?」

 

「島も囲まれてるにゃっ!」

 

「・・・・脱出するには今しかない。シェフィ、エディンバラ、明石を連れて島を脱出。僕はコイツらを潜水艦に連れ込んだら、海底に潜航して通信機で指示を出す。1人だけ安全な所に逃げてすまないな・・・・」

 

「いえ、重桜の目的がご主人様であれば、我々と一緒でない方が撹乱しやすくなります。ご主人様はオマケ達を連れて海の底に避難しておいてください」

 

『『ちょっと! 俺(私)達の扱いホントに雑じゃない?!』』

 

縛り上げた二人を引きずるカインは、近くの瓦礫で隠した潜水艦に向かった。

 

 

 

ーオイゲンsideー

 

そして鉄血の方でも、カイン達の情報が入ってきた。

 

「重桜の偵察機がターゲットを発見しました!」

 

「ん~っ!・・・・じゃあ、真面目にお仕事しましょうか・・・・」

 

「このレーベ様がいれば楽勝だぜ!」

 

ケルンからの報告を受け、ノンビリしていたプリンツ・オイゲンが気だるそうに起き上がり、Z1<レーベ>が行動を開始しようとした時、ニーミが声を発する。

 

「そう簡単には行かないようです」

 

真面目に偵察していたニーミが、島の外に視線を向けると、プリンツ・オイゲンもアズールレーン艦隊に目を向けた。

 

「あら、どうやら向こうも動いたようね・・・・(それにしても、まるでこの島に意図的に連れてこられた感じがしていたけど。もしかして、あの指揮官の采配かしら?)」

 

何か行動を起こし出したアズールレーン艦隊の動きを見ながら、プリンツ・オイゲンは、カイン・オーシャン指揮官の技量を見極めようとしていた。

 

 

 

 

ーカインsideー

 

『どべしっ!』

 

『あべしっ!』

 

潜水艦に無理矢理押し込まれた二人は奇妙な悲鳴をあげながら潜水艦に転がると、カインもすぐに乗り込み、船体を操作しながら通信機にウェールズ達に連絡する。

 

「ウェールズ、聞こえるか?」

 

《指揮官! ご無事でしたか?!》

 

「一応な。これから『プランB』の最終確認だ。『彼女』は?」

 

《はい。この場にいます》

 

《・・・・・・・・・・・・》

 

「良し。まず『彼女』と話をさせてくれ」

 

カインは通信越しにいる艦船<KAN-SEN>に向けて話を始めた。

 

 

 

ーウェールズsideー

 

「全門、斉射!」

 

「狙って~・・・・ボンッ!」

 

「撃てーーーー!!」

 

アズールレーン艦隊から砲撃が放たれ、レッドアクシズ艦隊を攻撃する。

 

 

ー扶桑sideー

 

「仕掛けてきたわね、アズールレーン・・・・!」

 

扶桑がアズールレーンの砲撃に目を細め、山城は砲撃が起こった水飛沫でずぶ濡れになっていた。

 

 

ー綾波sideー

 

綾波も艦首に戻ると、アズールレーンからの攻撃を、高雄と愛宕、翔鶴と瑞鶴と眺める。

 

「牽制だな・・・・」

 

「霧と混乱に乗じて、指揮官達を助けるつもりね」

 

「鉄血に任せっきり、と言うわけにはいくまい。綾波」

 

「っ!」

 

「我々も出るぞ」

 

「・・・・(コクン)」

 

綾波は一瞬躊躇うが、頷いた。

 

「陽動とは言え、敵戦艦も無視できないわよ?」

 

「そっちは私達が行く!」

 

瑞鶴が声を発し、翔鶴も頷く。

 

「向こうにグレイゴースト(エンタープライズ)がいるなら、今度こそ勝って見せる!」

 

「(コクン)」

 

瑞鶴の意を汲んだ高雄が頷くと、愛宕を連れて出撃した。

 

「翔鶴さん。瑞鶴さん」

 

出撃しようとする翔鶴と瑞鶴に、綾波が声をかける。

 

「多分ですが、綾波達はこの島に“連れてこられた”と思うです・・・・」

 

「“連れてこられた”? どういう事?」

 

翔鶴がそう聞くと、綾波は少々難しい顔を浮かべて言葉を紡ぐ。

 

「上手く、言えないですが。向こうには指揮官がいるのです。何か、思惑があると見て良いと思うのです」

 

「「「「っ!!」」」」

 

言われて四人は息を呑んだ。

今アズールレーンの指揮官は、『海原の軍者』と謳われた海守トモユキ指揮官。記憶を失ってはいるが、本質が変化していないなら、きっと何か仕掛けがあると理解したからだ。

 

「分かったわ。確かに指揮官が何の思惑も無しにこんな廃墟に来たとは思えないわ。十分注意しておくわね」

 

翔鶴がそう返事をし、瑞鶴も頷くと、今度こそ5人は出撃した。

 

 

 

 

 

ーベルファストsideー

 

ベルファストはクリーブランドとジャベリンとラフィーは、周りの海の背景に合わせて迷彩シートを被って島に向かっていった。

 

「始まりましたね!」

 

「私達も急ごう!」

 

廃墟の島にたどり着くと、少し離れた場所で砲撃がある事にクリーブランドは気づいた。

 

「不味い!」

 

ソコに向かおうとするクリーブランドの眼前に、高雄が現れ、刀を振り下ろす。

 

「はぁあああっ!!」

 

「くっ!」

 

ギリギリ回避したクリーブランドが距離を空け、ベルファストと合流すると、高雄も愛宕と合流した。

 

「っ、最悪のタイミング・・・・! ラフィー! ジャベリン! 気を付けて!」

 

後方にいる二人に声を発する。

 

 

 

ージャベリンsideー

 

少し離れた位置にいるジャベリンとラフィーは、深い霧によって視界が塞がれ、クリーブランドの。

 

「ん・・・・!」

 

「っ!」

 

背中合わせで周囲を警戒していた二人の前に、霧の中から現れたのはーーーー。

 

「あ・・・・」

 

「綾波、ちゃん・・・・!」

 

「・・・・・・・・」

 

綾波は対艦刀を構えた。

 

 

 

 

ー霧崎sideー

 

「♪~♪~♪~♪~」

 

霧崎は砲弾が飛び交うアズールレーン艦隊とレッドアクシズ艦隊の戦闘を、鼻歌を口ずさみなが、まるでオーケストラの指揮者のように身ぶり手振りをしていた。

まるでこの混沌とした戦闘が起こす狂想曲を奏でるようにーーーー。



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【激突】ぶつかり合う艦船

ーカインsideー

 

「始まったな・・・・」

 

崩れた建物から出た潜水艦のハッチから、顔を上げたカインは砲撃音を聞いた。

 

≪カイン指揮官。重桜の戦闘機がユニオンの方に向かっていますが≫

 

≪あれって、翔鶴と瑞鶴だな≫

 

「・・・・頼んだよ『ーーーーー』」

 

 

 

ー瑞鶴sideー

 

「何処にいる!? グレイゴーストっ!!」

 

「敵さん。強そうです・・・・!」

 

「が、頑張ります・・・・!」

 

随伴艦の『ロイヤル所属 重巡洋艦 サフォーク』と『ロイヤル所属 重巡洋艦 ノーフォーク』が立ち塞がるがーーーー。

 

「うわっ!」

 

「きゃっ!」

 

「ごめんなさ~い、構ってあげるほど暇じゃないんです」

 

翔鶴と瑞鶴はかまわず通りすぎた。

そして上空では、翔鶴と瑞鶴の艦載機を、ロイヤルの戦闘機が迎撃した。

 

「迎撃機っ!? やっぱりいるのかっ! グレイゴースト!!」

 

「あっ、瑞鶴! 先走ってはダメよ!」

 

見るからに冷静さを失っている妹を翔鶴は諌めようとするが、瑞鶴は聞かずに突っ走っていった。

 

「グレイゴースト! 今度こそ必ずーーーーっ!」

 

その時、瑞鶴の脳裏に、かつてトモユキ指揮官に言われた言葉が過った。

 

【瑞鶴。お前はすぐに前しか見えなくなってしまうのが玉にキズだ。もう少し冷静に、視野を広く持てよ】

 

「(何で、指揮官の言葉を思い出したの・・・・?)」

 

瑞鶴がこの記憶が甦った理由を思い知るのは、すぐだった。

 

 

 

 

 

ーシェフィールドsideー

 

シェフィールドとエディンバラは、プリンツ・オイゲン達と遭遇し、建物の上からオイゲンが攻撃し、二人は必死の回避する。

 

「うぅっ・・・・!」

 

「わわわわわっ!?」

 

「ほいやっ!」

 

「ぐっ・・・・!」

 

「ソコです!」

 

「シェフィっ!」

 

「だ、大丈夫です・・・・」

 

「どうだ? 俺らのコンビネーションは無敵だ!」

 

さらにケルンの砲撃、そしてZ1<レーベ>の砲撃とニーミの雷撃。

この鉄血の連携攻撃相にシェフィールドとエディンバラは苦戦を強いられていた。

 

「どうしたっ!? あの『金ぴか』にはならないのかっ!?」

 

重桜母港で高雄と綾波を圧倒した〈ノブレス・ドライブ〉にならない二人に、鉄血側は奇妙な違和感を感じていた。

 

「お、お生憎ですが! あのモードって凄く疲れるんですよ!」

 

「貴女方、程度を、相手に使用するのは、少々酷と言うものです」

 

「言ってくれるなぁっ!!」

 

明らかな挑発だが、Z1<レーベ>はそれに敢えて乗った。

 

 

 

 

ー明石sideー

 

「マズいにゃ・・・・こっそり逃げられないかにゃ?」

 

建物の瓦礫に隠れていた明石は、その場から逃げようとするが、ケルンに気づかれそうになる。

 

「?」

 

「にゃ~・・・・」

 

「っ・・・・・・・・」

 

ケルンが明石の方に向かった。

 

 

 

ーベルファストsideー

 

シェフィールド達の元へ向かおうとしているクリーブランドとベルファストの前に、高雄と愛宕の重巡洋艦姉妹が立ち塞がった。

 

「・・・・・・・・」

 

「うふ・・・・・・・・」

 

「くっ・・・・・・・・」

 

「っ・・・・・・・・」

 

ベルファストは平静を装っているが、内心では姉のエディンバラの事が気がかりであった。その証拠に、ベルファストの拳が震えていたからだ。

それを見て、クリーブランドが小声で話しかけた。

 

「先に行って」

 

「っ、ですが・・・・」

 

「指揮官に〈ノブレス・ドライブ〉は救出を終えてからって指示だろ? 大丈夫。私、結構強いんだぞ! それに、本当は心配なんでしょ?」

 

「・・・・(コクン)」

 

「ぃよぉーしっ! やるぞぉ! はぁぁぁぁっ!!」

 

クリーブランドとベルファストが飛び上がり、ベルファストは高雄と愛宕を飛び越えて、その場を離れた。

 

「待ちなさい!」

 

「まとめてかかって来なよっ!!」

 

クリーブランドがベルファストを追おうとする高雄と愛宕を足止めした。

 

 

 

ージャベリンsideー

 

そして綾波と遭遇したジャベリンとラフィーは、綾波から逃げるように進み、綾波も追撃する。

 

「またですか! いい加減に、するのです!!」

 

綾波は苛立ち混じりに雷撃を放つ。

 

「「っ!」」

 

ジャベリンとラフィーが雷撃を受け、水柱が上がる。

 

「・・・・・・・・どうして、戦わないのですか」

 

顔を俯かせた綾波の視線の先には、ギリギリ建物の中に逃れたジャベリンとラフィーだった。

 

「・・・・・・・・」

 

ジャベリンは対艦刀を構える綾波に渋面を作るが、

 

「・・・・・・・・」

 

ラフィーがジャベリンの前に立ち、綾波に向き合う。

 

「・・・・・・・・っ!」

 

綾波は対艦刀を振り上げて、ラフィーに迫った。

 

「ラフィーちゃん!!」

 

対艦刀がラフィーに振り下ろされーーーー。

 

 

 

ーベルファストsideー

 

ベルファストはプリンツ・オイゲンの砲撃を受けそうになったエディンバラとシェフィールドを間一髪で庇った。

 

「ベル!」

 

「あら、来たのねベルファスト。でも残念。今回は一手の差で、私達の勝利ね?」

 

「・・・・・・・・」

 

ベルファストはZ1<レーベ>とニーミにも囲まれていた。

アズールレーンとレッドアクシズの艦隊戦も、レッドアクシズが優勢だった。オイゲンが勝利を確信したような笑みを浮かべる。

がーーーー。

 

「・・・・(クスッ)」

 

「何が可笑しいの?」

 

小さく笑みを浮かべるベルファストに、怪訝の声をあげる。

 

「いえ、ここまでまさに、“ご主人様の読み通り"です」

 

「っ! なんですって?」

 

そう言ったベルファストの言葉に、オイゲンは戸惑いの声を上げた。

 

 

 

ー瑞鶴sideー

 

「「・・・・・・・・・・・・」」

 

翔鶴と瑞鶴は、目の前の艦船<KAN-SEN>を見て、愕然となる。

深い霧が少しずつ晴れていき、ソコにはグレイゴースト、エンタープライズがいると確信していたが、ソコにいたのはーーーー。

 

 

 

ーカインsideー

 

その頃、シェフィールド達いる地点と反対方向にある地点の海底を移動しながら、ウェールズ達のいる艦隊に向かっていたカイン指揮官達は。

 

『よぉ指揮官さんよぉ?』

 

「ん?」

 

『本当に向こうの重桜って所の確か、瑞鶴だったか? ソイツが思い通りに動いてくれていると思うのかい?』

 

「動いている」

 

『そう断言できる理由は何ですか?』

 

簀巻きにされているマグマ星人とマーキンド星人がカインに聞くと、カインは確信を込めて口を開く。

 

「瑞鶴は真面目でまっすぐな性格をし、加えて五航船として自負を持っている(タイガ曰く)。が、不調のエンタープライズに追い詰められた事で、その自負にキズを付けられた。まっすぐな気性の娘が、そんな相手を目の前にいると思い込めば、周りの制止を聞かずにエンタープライズの元に突っ走る・・・・ソコにいるのが“本人"なのか考えずにね」

 

 

ー瑞鶴sideー

 

「ふふふ。姉ちゃんじゃなくて、残念だったね♪」

 

エンタープライズの妹、ホーネットだった。

 

「くっ・・・・!」

 

「っ、まさかっ!」

 

瑞鶴が歯噛みするが、翔鶴はエンタープライズのいるであろう場所を睨んだ。

 

「(指揮官の予想通り、五航戦が釣れるだなんてな)」

 

* * *

 

【ホーネット。君にはエンタープライズを装って、出来る限り重桜艦船、特に五航戦を引き付けてほしい】

 

【私に出来ると思うの指揮官?】

 

【『天の時』は霧が味方をし、『地の利』は予め合流地点として定めて経路も構築しており、連携が取れていないレッドアクシズと違い、僕達には『人の和』がある】

 

【なにそれ?】

 

【戦いには、『天の時と地の利と人の和』。この三つが合わされば勝てるって意味だと思ってくれ。大丈夫だ。ホーネット、君とはほんの少ししかいられなかったけと、君なら出来るって確信していている】

 

【・・・・ソコまで言われたら、やってみせなくっちゃね!】

 

 

* * *

 

 

「へへへ。ウチの指揮官の読みの方が、あんた達より上だったね!」

 

「っ! 指揮官が・・・・!」

 

「(綾波の言うとおり、指揮官がここに逃げ込んだのは目論みがあったからなのね。はめられたわ!)」

 

「さて、サフォーク! ノーフォーク! さっきのお返しをしてあげなよ!」

 

そう言って後方にさがるホーネットと入れ替わるように、サフォークとノーフォークが前に出た。

 

「いきますよ、ノーフォークちゃん!」

 

「は、はい!」

 

「「〈ノブレス・ドライブ〉!!」」

 

そう叫んだ瞬間、サフォークとノーフォークの身体が金色に包まれた。

 

「っ! そ、その姿は!?」

 

「まさか、彼女達も・・・・!」

 

怪獣と接戦したベルファスト。重桜母港で高雄と綾波を一蹴したシェフィールドと同じ姿になったサフォークとノーフォークに、翔鶴と瑞鶴の身体に緊張が走る。

 

 

 

 

 

ーエンタープライズsideー

 

「まったく。無茶な指示をする指揮官だ。それに、人にはああ言っておきながらも貴女も十分お人好しだな、ベルファスト!」

 

ベルファスト達のいる地点の建物の屋上から、別方向で進行していたエンタープライズが、オイゲンに向けて弓矢を引いていた。

 

「・・・・エンタープライズ!」

 

「・・・・・・・・」

 

「くっ・・・・・・・・」

 

ニーミとレーベも、エンタープライズを狙おうとするが、エンタープライズに睨まれ、動けなくなった。

 

「さて、姉さん。シェフィールド。行けますか?」

 

「と、当然よ!」

 

「・・・・支障なしです」

 

「では・・・・」

 

「「「〈ノブレス・ドライブ〉!!」」」

 

三人が叫ぶと、金色のオーラを纏った。

 

「あら、合流するまで忍ばせていたのね・・・・」

 

オイゲンが流石に分が悪いと判断し、撤退を言おうとしたその瞬間ーーーー。

 

 

 

ークリーブランドsideー

 

「はぁあっ!!」

 

「っ! ぐぅっ!!」

 

「高雄ちゃん?!」

 

クリーブランドの砲撃を回避している高雄だが、重桜母港でシェフィールドと交戦した時のダメージが響き、動きが段々と鈍くなっていき、愛宕がフォローに回った。

 

「(これは何とかなりそうだ!)」

 

クリーブランドがこのまま高雄と愛宕を撃退しようと思ったその時ーーーー。

 

 

 

 

 

ー綾波sideー

 

対艦刀を振り下ろした綾波は、ラフィーの髪の毛を少し切っただけで、その顔の寸前で太刀を止めた。

 

「・・・・どうして、どうして戦わないのですかっ!?」

 

指揮官を取り戻す。その為なら戦おうと決めたのに、ラフィーとジャベリンの行動が綾波の剣を鈍らせた。

 

「綾波とは戦いたくない・・・・」

 

「っ!」

 

ラフィーは綾波に向けて手を差し出す。

 

「敵同士なのにっ!」

 

「関係無い。ラフィー、綾波と友達になりたい。指揮官もきっと望んでる」

 

「っ!」

 

【綾波、お前は何のために戦う? 誰のために戦うんだ?】

 

【・・・・綾波は・・・・綾波は兵器なのです。そんな考え持たないのです】

 

【頭の固いヤツだな。ま、今はそれでいいさ】

 

初めてトモユキ指揮官と重桜母港に向かう途中でのやり取り。今でも色褪せない綾波の大切な思い出。

 

【指揮官・・・・?】

 

【今はまだ分からなくても良いさ。これから学んで行け。お前たち艦船<KAN-SEN>の“可能性”や、内に秘めた“気高さ”をな】

 

【可能性に、気高さ、ですか?】

 

【ああ】

 

「(っ、指揮官、綾波は・・・・綾波は・・・・!)」

 

綾波は過去の記憶が過る。

 

 

 

ージャベリンsideー

 

そしてそのラフィーの行動を見たジャベリンも、

 

「(そっか、そうだったんだ・・・・私もあの娘と、“友達になりたかったんだ"!)」

 

 

 

ー霧崎sideー

 

「ふふふ。もっと面白くしてあげよう」

 

島の上空でポップコーンを食べながらアズールレーンとレッドアクシズの戦いを面白そうに笑って見ていた霧崎は、ポップコーンの入っていた容器を消すと、空に手を伸ばし、魔法陣を展開させた。

 

 

 

ーカインsideー

 

ピピピッ・・・・!

 

「っ! なんだ?」

 

突然明石特製レーダーに奇妙な反応が出た事を知ったカインは、潜水艦を浮上させ、近くの大きく隆起した岩礁の影に潜水艦を隠し、レーダーを最大にすると、上空から巨大な反応がある事に気づいた。

 

 

 

 

ー綾波sideー

 

「っ!」

 

綾波は、ラフィーのその手を払おうとしようとした、がその時ーーーー。

 

ザバァアアアアアアアアアアアンンッ!!

 

「「「っ!」」」

 

突然の爆音に3人は肩を揺すり、急いで外に出るとソコには、島を覆っていた霧を吹き飛ばす巨大な異形の生命体、怪獣が現れた。

 

 

 

ーカインsideー

 

その怪獣は、異質だった。

丸っこい体に手と足があり、全身に様々な機械が付いているのが特徴的で、右目にはスコープを、両肩には武装がされた機械が付いていた。

両腕も右腕に3本の爪を中心に、赤い結晶が埋め込まれた機械の腕。巨大な機関銃を付け腕と武器が両腕に一体になった姿は、まるでサイボーグのような怪獣だった。

 

『ギュォオオオオオオ!!』

 

『奇機械怪獣 デアボリック』が、咆哮を上げながら廃墟の島を蹂躙し始めた。

 

「なんだこの怪獣は!?」

 

潜水艦を浜辺に移動させ、上陸したカインは突如現れたサイボーグ怪獣を見て驚くが、潜水艦の中から顔を出したマーキンド星人とマグマ星人が声を張り上げる。

 

『あっ! あれは『怪獣爆弾』として売りに出そうとしていた、『奇機械怪獣 デアボリック』!!』

 

「と言う事は、お前達『ヴィラン・ギルド』のオークション商品か。何とか止められないのか?」

 

『いや無理だ。もう俺らでどうにかなるモンじゃねぇよ!』

 

≪自分達の怪獣の癖に無責任な事を!≫

 

≪止めろタイガ。元々は私達が彼らの宇宙ステーションを破壊してしまい、『怪獣保管庫』を行方不明にさせてしまったのが原因の1つだ≫

 

「・・・・みんなが危ない」

 

カインはデアボリックがいる方へと走っていった

 

『ちょっと指揮官さん! せめて私らを解放してからにしてくれませんかっ!?』

 

『クソッ! こうなったら自棄だ! 噛み千切ってやるっ!!』

 

マグマ星人がヤケクソでマーキンド星人の縄を噛み千切ろうとした。

 

 

 

 

 

 

カインは人目が無いのを確認すると、『タイガスパーク』を起動させた。

 

「行こうタイガ!」

 

≪ああ!≫

 

[カモン!]

 

腰につけた『タイガキーホルダー』を掴み、赤いインナースペースが展開される。

 

「光の勇者! タイガ!! バディィィィィィィゴーーーーーー!!」

 

[ウルトラマンタイガ!]

 

『シュアッ!!』

 

光の勇者、ウルトラマンタイガがデアボリックに『タイガキック』をぶつけ、デアボリックの巨体を倒した。

 

 

 

ー瑞鶴sideー

 

「それっ!」

 

「えいっ!」

 

「うわっ!」

 

「くぅっ!」

 

〈ノブレス・ドライブ〉となったサフォークとノーフォークに、瑞鶴と翔鶴は押されてしまっていた。

 

「うわ~。やっぱ〈ノブレス・ドライブ〉している艦船<KAN-SEN>は桁違いに強いねぇ。私出る幕ないよ」

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・!」

 

「ふぅ、ふぅ、ふぅ・・・・」

 

ホーネットが苦笑いを浮かべ、頬を人差し指の先でポリポリと掻きながら言い。翔鶴と瑞鶴は肩で荒い呼吸をし、劣勢である事が物語っていた。

 

「だ、大丈夫、ですか?」

 

「ごめんなさい! “ちゃんと手加減してますから"!」

 

「て、“手加減"ですって・・・・!」

 

カイン指揮官から、なるべく相手を傷つけないように戦えと指示を受けているので本気で戦う訳にはいかないサフォークとノーフォークだが、“手加減されている"、と言われた瑞鶴は悔しそうに呻く。

がーーーー。

 

ザブァアアアアアアアアアアアンンッ!!

 

『ギュォオオオオオオ!!』

 

『シュアッ!!』

 

「「「っ! ウルトラマンタイガ!?」」」

 

「瑞鶴! あれを見て!」

 

「また怪獣とウルトラマンっ!?」

 

突如現れた怪獣とウルトラマンタイガから、戦闘が始まると考えたホーネット達は、急いでウェールズ達と合流しようとした。

 

「ま、待て! まだ戦いは!」

 

「瑞鶴。ここまでよ」

 

「でも翔鶴姉!」

 

「今鉄血のニーミって子から連絡があったわ。追っていた子達がグレイゴーストと合流したそうよ。指揮官の姿も見えないし、これ以上の戦闘は無意味よ」

 

「・・・・了解」

 

エンタープライズだけでなく、サフォークとノーフォークにも遅れをとった事に、瑞鶴は悔しそうだった。

 

 

 

ータイガsideー

 

『ギュォオオオオオオ!!』

 

起き上がったデアボリックは、背中や両腕から高速射撃を放ち、その圧倒的な段幕と火力に、タイガはバク転などで回避する。

 

≪タイガ! このままじゃ島や外にいるみんなに被害が出る。上空に逃げるんだ!≫

 

『分かった! シュァッ!!』

 

上空に飛んで回避するタイガだが、デアボリックの段幕は収まらずにタイガを追撃する。

 

『ダァアっ!!』

 

タイガは空中で段幕を回避するが、デアボリックの右腕のレーザーキャノンの砲撃を受け、廃墟の方へ墜落した。

 

『っ!』

 

『「っ! ジャベリン! ラフィー! それに、綾波っ!?」』

 

倒れたタイガの視線の先には、おそらく待避途中であろう綾波達がいた。

 

『「タイガ! 綾波達を守るんだ!」』

 

『あ、あぁ!』

 

タイガは起き上がると、デアボリックと肉弾戦を繰り広げる。

 

 

 

ーエンタープライズsideー

 

「くっ!」

 

「エンタープライズ様! お早く待避を!」

 

建物の屋上にいるエンタープライズは、眼下で待避しようとするベルファスト達や鉄血陣営に目もくれず、タイガとデアボリックの戦いを見ていた。

 

「・・・・・・・・」

 

「何をしているのかな、エンタープライズさん?」

 

「っ、貴方は・・・・!?」

 

そんなエンタープライズの少し先の正面に現れたのはーーーー。

 

「お久しぶりです」

 

そう、霧崎だった。

 

「貴方が、何故こんな所に・・・・?」

 

「そんな事はどうでも良い事ですよ。それよりも、先日貴女に渡したリング。それを指に嵌めてみてはどうでしょう?」

 

「何?」

 

「それを使えば、貴女は簡単に手に入りますよ。『力』がね」

 

「・・・・・・・・」

 

エンタープライズは懐から『ベムラーリング』を取り出すと、そのリングから放たれる力の波動に、おそるおそるとリングを右手中指に嵌めた、その瞬間。

 

『ギワァアアアア!!』

 

「っっ!!!」

 

『宇宙怪獣 ベムラー』の幻影が自分と同化したような感覚に襲われると、強烈な力の奔流が全身を駆け巡った。

 

「ぐっ! うぁ! あぁぁああああああああ!!!」

 

エンタープライズの目が緑色の光を放ち、身体が青白い炎に包まれた。

 

「っっっ!!!!」

 

ギンッ!と鋭い視線でタイガを組み合い、右腕のレーザーキャノンをタイガに押し付け、放とうとするデアボリックを睨んだエンタープライズは艤装のアーチェリーを構え弦を引き絞ると、身体を包んでいた炎が弓に集まり。

 

「はぁあっ!!!」

 

『ギワァアアアア!!』

 

放たれた一矢がベムラーの頭部の形になると、デアボリックの脇腹に当たると、その巨体を吹き飛ばした。

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・・はははっ!」

 

エンタープライズは、力の奔流が収まり、僅かな疲労感と虚脱感に襲われながらも、奇妙な高揚感に笑みを浮かべた。

 

「ではまた地獄で、エンタープライズ・・・・!」

 

霧崎も愉快そうな笑みを浮かべて、その場から消えたが、エンタープライズはそれを気にかけてすらいなかった。

 

 

 

ーベルファストsideー

 

「今の攻撃は・・・・まさか、エンタープライズ様?」

 

霧とデアボリックの高速射撃による流れ弾で起きた爆煙で周りが見えなかったが、突如デアボリックを吹き飛ばした攻撃の発射位置から、エンタープライズがおこなったのではと、ベルファストは推理していた。




エンタープライズに不穏な影が生まれた。
そして次回、『風の覇者』が大海の戦場を駆け抜ける!


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【覇者】銀河の風と共に

風の覇者が突っ走るぜ!


ーウェールズsideー

 

「ウルトラマンタイガ・・・・!」

 

島の外で、アズールレーン艦隊の撤退指揮を取っていたウェールズは、デアボリックと交戦するウルトラマンタイガを見据える。

 

「(指揮官・・・・。どうかご無事で!)」

 

前回のギャラクトロンMK2の戦いで、カイン・オーシャン指揮官がウルトラマンタイガである事を知るウェールズが、自分達を守るために戦っている指揮官に、内心応援をしていた。

 

 

 

 

 

ーベルファストsideー

 

「エンタープライズ様、あの力は一体・・・・?」

 

「ベル! ベル! ボーッとしている場合じゃないって!」

 

「そうにゃそうにゃ! 早く逃げるのにゃ!!」

 

慌てふためいている姉のエディンバラと、何故か海面に浮かんでいた冷蔵庫の中に隠れていた明石が、逃げようとワチャワチャ騒いでいた。

 

「お二人共冷静に。慌てても何にもなりませんよ」

 

シェフィールドは冷静にそう言うが、それでもエディンバラと明石は不安を隠せなかった。

その時ーーーー。

 

『おい猫のお嬢ちゃん! 』

 

「にゃっ!? だ、誰にゃっ!?」

 

「「「っ!?」」」

 

突然響いた声に明石は仰天し、ベルファスト達は敵かと思い周囲を警戒するとーーーー。

 

『おい! お前がパクった宝石だよ! おかげで仲間達と再会できたぜ!』

 

明石がマーキンド星人達から掠め取った、袖の中に隠していた青い宝石のペンダントを取り出すと、ペンダントの宝石が光輝き、タイガの方へと飛んでいった。

 

 

 

 

ーカインsideー

 

『「タイガ、大丈夫か?」』

 

『な、なんとかな・・・・』

 

その頃、タイガはデアボリックの攻撃のダメージで疲弊しており、カインはインナースペースで、突然デアボリックを吹き飛ばした青い炎の矢が放たれた場所を追うが、霧とデアボリックの攻撃の爆煙で良く見えなかった。

 

≪タイガ! 私と交代だ! 力には力で対抗しよう!≫

 

『「ッ! 駄目だタイタス! 君だってセグメゲルの毒の牙のダメージが抜けきれていないんだろ!」』

 

≪しかし!≫

 

『こうなったら、新しい『怪獣リング』を使って・・・・!』

 

『まぁ待ちなって! 頭と仲間は生きてる間に使うもんだぜ!!』

 

『その声は!?』

 

 

ーベルファストsideー

 

その時、ペンダントから一筋の光となり、タイガのカラータイマーに吸い込まれる。

 

「にゃぁぁぁぁぁ!! 明石のお宝がっ!!」

 

明石が騒ぐが、ベルファスト達は退避を始めた。

 

 

 

ーカインsideー

 

インナースペースにいるカインの手に、タイガとタイタスと同じウルトラキーホルダーが現れ、そのキーホルダーから声が響く。

 

『よう、兄ちゃん! お前さんは俺を呼び出すチケットを手にいれた!』

 

『「君はまさか・・・・!」』

 

『俺の事はこう呼べ、『風の覇者 ウルトラマンフーマ』!!』

 

『「よしっ!」』

 

カインはタイガスパークの引き金を引く。そのキーホルダーを左手で掴んだ。

 

[カモン!]

 

『「風の覇者、フーマ!!」』

 

フーマキーホルダーをタイガスパークのついてる右手に持ち替えると、青いエネルギーが出てる。タイガスパークの中心のランプに吸い込まれ、ランプが青く光った。

 

『ハァアアアッ!! フッ!』

 

「バディーゴー!!」

 

叫び、腕を思いっきり突き上げると、青い光が眩く輝き、タイガの身体を包み込む。

 

[ウルトラマンフーマ!]

 

一点の光から旋風と共に、青いカラーと後ろに伸びるトサカが特徴的なウルトラマンが左腕を上げて手は薬指と小指を若干曲げた状態にして巨大化する。

ウルトラマンオーブ、ウルトラマンロッソとウルトラマンブルと同じ惑星0-50出身の速さと技のウルトラマン。

 

『セェヤッ!』

 

タイガの身体は完全に青い巨人のものに変わり、青い旋風が吹きすさび、島を覆っていた霧を吹き飛ばして新たな光の巨人が現れた。

 

『俺の名はフーマ! 銀河の風と共に参上!!』

 

最後のメンバーがタイガとタイタスと再会を果たす。

 

『久しぶりだなフーマ!』

 

『これで三人が揃った!』

 

そして三人は仲間の言葉を発する。

 

『生まれた星は違っていても!』

 

『共に進む場所は一つ!』

 

そしてタイガスパークを着けた腕を突きつける。

 

『我ら!』

 

『『『トライスクワッド!!』』』

 

12年の時を経て、3人の若きウルトラチーム・『トライスクワッド』が集結した。

 

 

 

ー綾波sideー

 

「見てラフィーちゃん! 新しいウルトラマンさんだよ!」

 

「なんか素早そう・・・・」

 

「・・・・ここでお別れです」

 

「あ、綾波ちゃん!」

 

なし崩しに一緒に退避していたが、綾波はレッドアクシズの方へと向かっていった。

 

 

 

ー瑞鶴sideー

 

「高雄さん! 愛宕さん!」

 

「瑞鶴ちゃん、翔鶴ちゃん」

 

デアボリックが現れ、クリーブランドとの戦闘を中断して、ダメージが残っている高雄に肩を貸して離脱した愛宕は、レッドアクシズ艦隊と先に合流していた翔鶴と瑞鶴と合った。

 

「高雄さん! 怪我したの?!」

 

「大丈夫よ。母港でのロイヤル艦船<KAN-SEN>との戦闘ダメージが痛み出したみたい」

 

「す、すまない、指揮官を、取り戻せず・・・・!」

 

高雄は自らの不甲斐なさに悔しそうに呟いた。

 

「高雄さん。不甲斐ないのはこっちもよ。それよりも今は、少しでもこの場を離れましょう。巻き込まれる可能性があるわ」

 

翔鶴が新たに現れたウルトラマンに目を細めて呟く。

 

「あ、綾波ちゃんよ」

 

少し離れた位置で、こちらに向かっている綾波を一同が見つけると、すぐに退避に出ようとした。

 

 

 

ーベルファストsideー

 

「ウェールズ!」

 

「クリーブランド。ベルファスト達も無事だったか」

 

途中でクリーブランドとエンタープライズに合流したベルファスト達は、そのままアズールレーン艦隊と合流し、離れた位置からジャベリンとラフィーの姿もあった。

 

「無事で何よりだ」

 

「ウェールズ様。ご主人様はこちらに来ていないのですか?」

 

「あ、あぁ・・・・先ほど指揮官と連絡がついてな。少し離れた位置で隠れているから安心してくれ、と言っていた」

 

「・・・・我々を戦わせて、自分は安全な場所に隠れているとは」

 

「ん? 姉ちゃん、どうしたの?」

 

「いや、何でもない」

 

こっそりと、何処か刺のある言い方をするエンタープライズに、ベルファストとウェールズが気づき、訝しそうな目を向けるが、起き上がったデアボリックの雄叫びを聞いて、ウェールズはウルトラマン<カイン指揮官>の邪魔にならないように、退避行動を始めた。

 

 

 

 

 

ーフーマsideー

 

 

『ギュオオオオオオオオオッ!!』

 

『へい、兄ちゃん! 覚悟はいいか!?』

 

『「ああ、行ってくれフーマ!」』

 

『良い返事だ! ぶっ飛ばすぜ!!』

 

起き上がったデアボリックはフーマを敵と判断し、左手の機関銃を発射した。

その瞬間、フーマは目に止まらぬ速さで銃撃を避けた。

 

『「凄いスピードだっ!」』

 

『セェェェヤァ!!』

 

フーマはまるで〈ノブレス・ドライブ〉した艦船<KAN-SEN>のような速さで飛び回り、デアボリックの前後左右に現れ、

 

『『光波手裏剣』!!』

 

『ギュワアアアア!』

 

手裏剣状のエネルギー弾である『光波手裏剣』を放ち、デアボリックを斬りつける。

 

『セェヤッ! ハッ! セェェェヤァ!!』

 

デアボリックも全身から光弾やミサイルを放ち、左腕の機関銃で攻撃するが、縦横無尽に動くフーマの速さは、デアボリックの目に付いたスコープでも捉える事が出来ない速さだった。

 

『「凄いな、これほどのスピードが出せるだなんて・・・・!」』

 

 

ーベルファストsideー

 

「凄い凄い! 凄く早い!!」

 

「おぉ~」

 

「ヒュ~♪」

 

「何と言うスピード・・・・!」

 

「にゃにゃ・・・・!」

 

「お、追い付けないです!」

 

「三人目のウルトラマンは、高速の戦士か」

 

「・・・・・・・・」

 

「(エンタープライズ様?)」

 

アズールレーン艦隊は高速で戦うフーマに目を奪われた。が、エンタープライズだけが心無しか、目を鋭くしてフーマを睨み、ベルファストだけがそれに気づいた。

 

 

ー綾波sideー

 

綾波達レッドアクシズもまた、新たに現れたウルトラマンフーマの戦いぶりを見据えていた。

 

 

 

 

ーフーマsideー

 

フーマはデアボリックの体中から放たれる一斉射撃を全て避けて、『光波手裏剣』を放ち続けると、フーマは太陽を背に飛び上がる。

 

『ハァアッ!』

 

『ギュワアアアア!』

 

デアボリックは右手からビームを放った。

 

『行くぜ兄ちゃん!』

 

『「決めよう、フーマ!」』

 

『セェェェヤァァァァァァッッ!!』

 

フーマはビーム目掛けて急降下すると、ビームを突き抜けて、デアボリックの右手に突っ込み、デアボリックの右手を破壊した。

 

『ギュワアアアア!』

 

『ドッセェェェェェェェェッ!!』

 

ーーーーピコンッ! ピコンッ! ピコンッ!

 

『ん?』

 

フーマはスライディングしながら着地するが、カラータイマーが鳴り始める。

 

『おっと、そろそろ時間切れだ! 兄ちゃん、『ギンガレット』を使え!!』

 

『「『ギンガレット』・・・・分かった!」』

 

カインはタイガスパークのレバーを引き、左手に意識を集中させると、三又の角と透明な宝石を付けたブレスレット・『ギンガレット』が召喚した。

 

[カモン!]

 

カインはタイガスパークを装着した右手に左手を重ねると、『ギンガレット』の白い光のエネルギーが、タイガスパークに吸い込まれる。

 

[ギンガレット、コネクトオン!]

 

『遥か未来の戦士 ウルトラマンギンガ』が姿が合わさると、フーマはデアボリックに向けてピースマークを出す。

 

『これはピースマークじゃねぇ! お前はあと2秒で終わりって事だ!!』

 

デアボリックは再び全身から弾幕を放つもフーマは一瞬で背後の空中に移動すると、

 

『『七星光波手裏剣』!!』

 

ギンガのプラズマの力を宿した七色に輝く光線手裏剣・『七星光波手裏剣』を連続で2発も放ち、デアボリックの強固な身体を斬りつけ、デアボリックの身体が爆発する。

 

『ギュワアアアアァァァァァッ!!!』

 

チュドォォオオオオオオオオオオオンンッ!!

 

デアボリックの爆発すると同時に、フーマは左腕を後ろにして着地する。

 

 

 

ー霧崎sideー

 

「ふふふ・・・・」

 

そして、霧崎はトレギアアイを展開して目に翳し、トレギアに変身し、飛び去ろうとするフーマの足を掴んだ。

 

 

 

ーフーマsideー

 

『セイヤッチ! (ガシッ) ん? うわぁっ!?』

 

その場を飛び去ろうとするフーマの足を掴んだトレギアは、フーマを地面に叩きつけた。

 

『いってぇ! てめぇは、トレギア!』

 

『「またかっ・・・・!」』

 

フーマは振り返り怨敵を睨みつけ、カインはまた現れたトレギアにウンザリとした声を漏らし、ジャベリン達も「また出たぁっ!」と言っていた。

するとトレギアは手を添えて、フーマを挑発する。

 

『久しぶりだなO-50。最後に会った時は惨めに泣き叫んでいたんじゃなかったか?』

 

『っ! こんの野郎ッ!!』

 

『辞めろフーマ! 奴は君を怒らせようとしている!』

 

タイタスがフーマを止めるが、フーマは聞かず、トレギアに怒りを込めて蹴りを放つ。

が、トレギアは難なくかわしていく。

 

『おいおい?』

 

『上等じゃねぇかてめぇ!!』

 

神経に障るような態度を取るトレギアに、フーマは手刀や膝蹴りを放つも、受け流される。

トレギアと同時に蹴りがぶつかり合う。フーマは今度は右腕で肘撃ちを放つも受け止められた。

 

『くっ!』

 

『フフ。君のスピードなど私には通用しない』

 

逆にトレギアに手刀を放たれる。フーマは受け止め、トレギアと距離を取ると左腕でタイガスパークをスライドし、光の手裏剣状の光弾を生成する。

 

『くらえ! 『極星光波手裏剣』!!』

 

『おいで・・・・』

 

極星光波手裏剣は見事にトレギアに命中するも、トレギアは平然てし、空に展開した魔法陣に消えていく。

 

『残念・・・ハハハハハハ!!』

 

『待て!』

 

『辞めろ、フーマ! 深追いするな! トモユキの体が持たない!!』

 

『っ~~! くぅっ!!』

 

フーマはトレギアを追おうとするも、タイガに制止され、フーマは悔しそうに腕を振るった。

 

 

 

ーカインsideー

 

インナースペースにて、思念体のタイタスが同じく思念体のフーマを咎める。

 

『全くフーマ、君は軽率すぎる!』

 

『何だよ・・・・』

 

『もっと考えて行動してもらわんと!』

 

『そう言うなって旦那。 そんな事してたら、相手に逃げられちまうだろ!』

 

ワチャワチャと騒ぐ二人をタイガが止める。

 

『お前ら、いっぺんに喋るな! トモユキが混乱するだろ!!』

 

『へへっ! とりあえず、これから宜しくな兄ちゃん!』

 

『「はぁ、これでウルトラマン三人が揃ったか・・・・だが、まだまだ問題が無い訳じゃないな」』

 

インナースペースから周りを見るカインと、その視線の先を追うトライスクワッドは、自分達に羨望や警戒といった、様々な感情の視線を向けるアズールレーン艦隊とレッドアクシズ艦隊を見据える。

 

『我々の事を警戒しているようだな?』

 

『だな。どうやらこの星も、厄介事を抱えているようだぜ』

 

『これから、どうなっちまうんだろう。重桜も、赤城さんと、加賀さんも・・・・』

 

『「・・・・一度、皆の元に戻ろう。フーマ、頼む」』

 

『あぁ。セイヤッチ!』

 

そして、フーマはそのまま空高く飛んでいった。

 

 

 

 

「な、なんと・・・・!」

 

カインが潜水艦を止めた場所の近くで元に戻り、潜水艦を止めた所に来ると、マーキンド星人とマグマ星人が潜水艦で遠くに逃げていた。

 

『だーはっはっはっはっ!! じゃあな指揮官さんよぉ!』

 

『我々を甘く見ましたねぇ!!』

 

マーキンド星人とマグマ星人がそのまま潜水艦で沈んでいった。

 

≪あ、あいつら・・・・!≫

 

≪自力で縄を千切ったか。犯罪者の割りには中々気骨のある輩のようだ≫

 

≪呑気な事言ってる場合じゃねえぞ旦那! 俺達どうやって帰るんだよ!?≫

 

「はぁ、どうしたものか・・・・」

 

「指揮官ーーーー!」

 

「ん? ジャベリン! ラフィー!」

 

カインを捜索に来たジャベリン達に発見してもらい、事なきを得た。

 

 

 

ーマグマ星人sideー

 

そして、まんまとアズールレーンから逃げ出したマグマ星人とマーキンド星人はーーーー。

 

『それでマーキンド、俺達どこに逃げれば良いんだ?』

 

『そうですねぇ、アズールレーン艦隊と一緒に行けないですし、とりあえずレッドアクシズという艦隊に紛れて、彼女達の母港で雲隠れしてましょう』

 

そう言って、マーキンド星人が操縦する潜水艦は、重桜の艦のしたにコバンザメのように引っ付いて、重桜母港へと向かった。




トライスクワッドが揃い、母港に戻ったカインのウルトラマンを交えた生活が始まる。


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【黒匣】それは何をもたらす

ーカインsideー

 

「「「姉貴!!」」」

 

「ああ、みんな!」

 

時刻はウルトラマンフーマと出会い、アズールレーンとレッドアクシズ戦闘から翌日の昼頃。

カイン指揮官はアズールレーン母港に戻ってすぐ、クリーブランドを出迎えるように近づく、3人の艦船<KAN-SEN>と出会った。

クリーブランドの妹である艦船<KAN-SEN>、『ユニオン所属 軽巡洋艦 コロンビア』。『ユニオン所属 軽巡洋艦 モントピリア』。『ユニオン所属 軽巡洋艦 デンバー』だった。

 

「クリーブランド。君の妹達かい?」

 

ウェールズを連れて母港に帰還したカインが尋ねると、クリーブランドは自慢気に妹達を紹介した。

 

「うん。指揮官! 私の妹達! みんな、挨拶して!」

 

「『クリーブランド級2番艦 コロンビア』よ! 宜しくね指揮官♪」

 

「『3番艦 モントピリア』。姉貴が世話になった・・・・」

 

「『4番艦 デンバー』です! ロイヤルのみんなが自慢気に話している指揮官に会えて光栄だよ!」

 

「うん。こちらも宜しく頼むよ」

 

「自慢の妹達なんだ!」

 

「いえ、姉貴に比べれば、ボクなんか」

 

「クリーブ姉貴の方こそ、1番だよ!」

 

モントピリアがそう言うと、デンバーもそう言い出し、クリーブランドは頬を赤くする。

 

「なっ! ちょっと! そう言うの良いって、いつも言ってるだろ!」

 

「フフ。仲が良くて大変けっこうな事だね」

 

「えへへ。重桜や鉄血は手ごわいだろうけど! 私達『海上騎士団<ソロモンネイビーキャバリアーズ>』が来たからには! 大船に乗った気持ちになって良いよ!」

 

「心強いよ。・・・・しかし、『海上騎士団<ソロモンネイビーキャバリアーズ>』とは?」

 

「私達仲良し姉妹の総称さ! カッコいいだろ?」

 

「あぁ・・・・確かに君達にピッタリだ。えっと、コロンビア。モントピリア。デンバー。君達も頼りにさせてもらうよ」

 

「「了解!」」

 

「・・・・了解」

コロンビアとデンバーは元気良く挨拶するが、モントピリアは素っ気ない態度で返した。カインは「(まだ信頼されてないんだな)」と察して、苦笑いを浮かべるが、直ぐに顔を元に戻す。

 

「クリーブランド。妹達との再会ついでに、母港を案内してやってくれ。もうすぐ『学園』も始まるからな。他のユニオンやロイヤルの艦船<KAN-SEN>達と顔合わせもしておいてくれ」

 

「うん! 指揮官任せてよ!」

 

そしてクリーブランド姉妹はカインはウェールズを連れて、Q・エリザベスに帰還の報告をしに向かった。

 

「指揮官。ウルトラマン達については・・・・」

 

「・・・・今日は陛下に報告から留守の間に貯まった書類の整理があるから、明日にさせてくれ」

 

「・・・・了解したわ」

 

≪なぁ、後ろにいるウェールズって姉さん、兄ちゃんが俺達ウルトラマンと同化してるって知ってるのか?≫

 

≪イヤ、詳しくは知らないんだ。何しろタイタスと再会した日に、ウェールズさんともう一人、イラストリアスさんって艦船<KAN-SEN>の目の前で変身して行ったからな≫

 

≪ふむ。そうだったのか≫

 

タイガ。タイタス。フーマのトライスクワッドの3人は、小さな思念体となって、カインの肩に座ったり、トレーニング等をしたりしていた。

 

 

 

 

そしてその翌日。戦術や武器の性能。それぞれの国の文化などを学ぶ『学園』の視察し終えたカインは、ウェールズとイラストリアスを連れ、執務室にやって来ると、重桜で潜入調査をしていたシェフィールドとエディンバラ、そして重桜の明石。他にもクリーブランドを含め、エンタープライズにベルファスト、ホーネットとヴェスタルが集まり、保管ボックスに封印している『黒いメンタルキューブ』を見せた。

 

「黒い、メンタルキューブ・・・・!」

 

「セイレーンの技術を応用した、『重桜の切り札』か・・・・」

 

重桜が、と言うよりも重桜の一航戦である赤城と加賀がセイレーンと通じている事を知り、エンタープライズ達も驚きを隠せなかった。

 

「これがあれば、向こうの『量産型セイレーン』を無力化できるんじゃないの?」

 

クリーブランドの問うが、明石は首を横に振る。

 

「『量産型』を操ってるのは『オロチ』の方にゃ。こっちは補助にすぎないにゃ」

 

「あの巨大な軍艦が『オロチ』。・・・・重桜、と言うよりも、赤城が建造しているようだったね」

 

「それも、セイレーンの上位個体が絡んでいるようでした」

 

「本当に凄い大きな軍艦でした!」

 

カインとシェフィールドは冷静だったが、エディンバラはオーバーアクションで『オロチ』の事を話した。

 

「『オロチ』と『このキューブ』、どんな関係があるのでしょう・・・・?」

 

ヴェスタルの問いにも明石は分からないと、首を横に振り、カインが口を開く。

 

「今分かっている事は、“このキューブはセイレーンが与えた物"。そして、“赤城がそのセイレーンと手を組んでいる事"」

 

『・・・・・・・・』

 

カインの言葉に、全員が神妙な顔になる。

 

「それが確かなら、重桜自体が騙されていると言う事になります」

 

「赤城・・・・何を考えているにゃ・・・・?」

 

そんな中、エンタープライズは『黒いメンタルキューブ』を見据えると、指先でそれに触れた。

その瞬間ーーーー。

 

「・・・・っ!」

 

エンタープライズの意識が、ブラックアウトした。

 

 

 

 

ーエンタープライズsideー

 

エンタープライズは、満天の星空を映す海原の上に立っていた。

 

『なっ!?』

 

エンタープライズは驚き、辺りを見渡すと、海面に映った自分の姿に驚愕する。

 

それはまるでーーーーセイレーンのような容貌だったからだ。

 

『ギャァアアアアアア!!』

 

『キシャァァァァァァ!!』

 

『ガアアアアアアアア!!』

 

すると、海面に映った自分が、紅蓮に燃える炎の海で、“怪獣達を率いて進軍する姿"が映った。

 

ーーーーエンタープライズ? エンタープライズ!

 

しかし、そんな自分の名を呼ぶ声にエンタープライズの意識がホワイトアウトしたーーーー。

 

 

 

ーカインsideー

 

カインは、突然茫然自失していたエンタープライズに声を掛けると、エンタープライズは、ハッとなった。

 

「どうしたんだ?」

 

「心ここに有らずと言った様子でしたが?」

 

「い、いや、何でもない・・・・」

 

エンタープライズは、『黒いメンタルキューブ』を一瞥した。

 

≪この真っ黒のメンタルキューブに触ったら、ボ~っとなってたぜ≫

 

≪しかし、セイレーンがもたらした物とは言え、中々に興味深いな≫

 

≪おいおいダンナ。変な気を起こさないでくれよ?≫

 

「(・・・・みんな、遊ぶなよ・・・・)」

 

フィギュア位の大きさの思念体になったタイガがエンタープライズの帽子の上に胡座をかき。タイタスが『黒いメンタルキューブ』に近づき興味深そうに眺め、フーマが明石の猫耳に寄りかかりながらそう言った。

 

「・・・・それはそうと、もう1つ問題点があるだろう。指揮官」

 

「ん・・・・?」

 

エンタープライズが指揮官を見据え、それが何なのかすぐに察した一同が、カイン指揮官をジッと見据える。

 

「カイン・オーシャン指揮官。貴方が重桜司令官、『海原の軍者』と謳われた、海守トモユキ指揮官である事だ」

 

既にシェフィールドとエディンバラと明石から、カイン指揮官が、重桜のトモユキ指揮官と同一人物であったと知らされている一同を代表して、エンタープライズがカイン指揮官に聞く。

 

「本来重桜の人間である貴方は、これからどうするおつもりですか?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

エンタープライズの言葉を聞いて、カインは少し思案をすると、明石に目を向けた。

「明石。もう一度聞いておく、僕は、本当に海守トモユキ指揮官だったんだよね?」

 

「(コクン)間違い無いのにゃ。指紋から網膜、明石達が持っている指揮官の生体情報を何度も照合させて、95%以上の照合率で、トモユキ指揮官のデータと一致したにゃ」

 

「・・・・僕がトモユキ指揮官だとして、アズールレーンと今の重桜の関係をどう思っている?」

 

「にゃ。トモユキ指揮官は重桜がアズールレーンを脱退する事に反対だったにゃ。それこそ、その反対派の筆頭とも言えるほどにゃ。【セイレーンと言う脅威があるのに、人類同士でいがみ合うのは馬鹿馬鹿しい】って何度も言ってたにゃ」

 

「・・・・そうか。僕も同意見だ。セイレーンだけじゃない。僕達の星で『怪獣オークション』などをおこなっている宇宙人の犯罪組織・『ヴィラン・ギルド』。そして何よりも、『ウルトラマントレギア』の存在もある」

 

ホーネットが挙手して声を発する。

 

「指揮官。ウルトラマンタイガの他に現れた二人のウルトラマン。彼らは?」

 

「あぁ、この間捕まえたが逃げられた『ヴィラン・ギルド』の構成員の二人から聞いたが、筋肉ムキムキなウルトラマンは『ウルトラマンタイタス』。青いウルトラマンは『ウルトラマンフーマ』。彼らは『トライスクワッド』と言うチームで行動しているらしい」

 

本当の事を言うわけにもいかないので、宇宙人達から聞いた事にする。

 

「彼らは私達アズールレーンに協力してくれないの?」

 

「それも構成員達から尋問してみたが、ウルトラマンはその星の戦争に加担する事はできないみたいだ。あくまでも怪獣や侵略者から守る為に、彼らは戦うんだ。いずれにしても、こんな脅威がこの星にある中、アズールレーンとレッドアクシズがいがみ合っている場合じゃない。しかも、重桜の切り札がセイレーンからもたらされた物であるならば、尚更放っておく訳にはいかない」

 

カイン指揮官の言葉に、ベルファストが声を発する。

 

「では、ご主人様。如何なさいますか?」

 

「重桜を止める、必ずな。これは重桜の人間としてだけじゃない。元重桜指揮官として、そしてアズールレーン指揮官として、重桜の、赤城の暴走を止める。その為にも・・・・皆の力を貸して欲しい」

 

その真っ直ぐな眼差しに、その場にいた(一部を除いた)艦船<KAN-SEN>達が頷く。

 

「勿論です」

 

「承知しました」

 

「私も出来る限り力になります!」

 

「私も妹達も! 力を貸すよ!」

 

「そこまで頼まれちゃ、やるしかないね!」

 

「私達ロイヤルメイド一同。ご主人様のご意志に従います」

 

「「(コクン)」」

 

ウェールズ、イラストリアス、ヴェスタル、クリーブランド、ホーネット、ベルファスト達ロイヤルメイド隊も頷いた。

ちなみにこの事はQ・エリザベス達にも伝えており、彼女達も了承を得ていた。

がーーーーエンタープライズは。

 

「・・・・私は正直に言って、まだ指揮官に対して半信半疑だ」

 

「ちょっ、エンタープライズちゃん!」

 

「姉ちゃん・・・・」

 

エンタープライズの言葉に、ヴェスタルとホーネットが渋面を作る。

 

「エンタープライズの気持ちは当然だ。だからもう少し僕と言う指揮官が信頼に足る人物か、見定めて欲しい」

 

「・・・・・・・・・・・・失礼させてもらう」

 

エンタープライズは真っ直ぐに見つめてくるカインの目を見ようとせず立ち上がり、その場を去ろうとする。

 

「あ、姉ちゃん!」

 

「エンタープライズちゃん!」

 

ホーネットとヴェスタルが追いかけて行く。

 

「・・・・今日はここまでだね。クリーブランド、饅頭達が明石の店を作っているから、明石を連れていってくれ。シェフィとエディンバラも仕事に戻って良いよ。ベルは少し待ってくれ」

 

「了解。明石、案内するよ!」

 

「宜しくにゃ。さぁこれから商売にゃ♪」

 

「「はい」」

 

「承知しました」

 

クリーブランドが明石を連れ、シェフィールドとエディンバラも退室したのを確認したカインは、執務机の椅子に座りながら、執務机の前に移動したベルファストに問いかける。

 

「ベル。エンタープライズのこの処の様子はどうだい?」

 

「今朝のご様子では、朝食は他のユニオン艦船<KAN-SEN>の皆さまと共に摂り、最低限ですが、コミュニケーションを取る努力をしています。初めてお会いした時よりも、雰囲気が少々変わったと言えます」

 

「そうか。それは良いことだ。・・・・だが、1つ気になる事がある」

 

神妙な顔となるカインにベルファストは同意するように頷く。

 

「あの廃墟の島で現れた『デアボリック』と言う怪獣と、ウルトラマンタイガが交戦している最中、デアボリックの脇腹を襲った一撃。あれはタイガの技ではなかった。ベルファスト。あの攻撃はまさか・・・・」

 

「ご推察の通り、あれはエンタープライズ様がいた筈の地点から放たれました」

 

「「っ!」」

 

ウェールズとイラストリアスが驚いた貌となる。

 

「あれは、〈ノブレス・ドライブ〉とは違った力に見えたが、エンタープライズ本人はそれの事を知っているのかい?」

 

「・・・・【退避をしていて気づかなかった】、とおっしゃっていました」

 

「・・・・・・・・そうか。ベル。スパイのような真似をさせるようで済まないんだが、エンタープライズの事を良く見ておいてくれ。彼女が本当に知らないのか。それとも隠しているのか」

 

「承知致しました、ご主人様」

 

明らかにエンタープライズは“何か"を隠している。

その事に一抹の不安を感じるカインの心境を察しているのか、ベルファストが優雅にお辞儀すると、執務室を後にした。

ベルファストが退室するのを確認したカインは、執務机の椅子に深く腰を落ち着かせるように座り込む。

 

「ふぅ~・・・・(エンタープライズ。一体何を隠しているんだ?)」

 

「指揮官。彼らの事も、我々に教えて欲しいのだが?」

 

ウェールズとイラストリアスが、他に誰もいない事を確認すると、タイガ達の事を聞いてきた。

 

「あぁ。そうだね。それじゃ・・・・」

 

そこからカインは、トライスクワッドの事を話した。

幼い頃に、海守トモユキであったカインを助けるために、トレギアとの戦いで粒子状に分解され、この平行世界の宇宙に流れ着いたタイガが同化し、それからカイン・オーシャンとしてアズールレーン母港に来てから、タイガと共に戦い。あの嵐の日に同じように粒子状となり、宝石となったタイタスと合流し、さらに先日の戦闘で宝石となったフーマとも合流し、3人のウルトラマンのチーム、トライスクワッドがカインの身体と一体化している事を伝えた。

 

「それで指揮官様。トライスクワッドの皆さまは?」

 

その問いかけに、カインは半眼となって、イラストリアスとウェールズを見据えながら口を開く。

 

「・・・・その前にイラストリアス。左肩、重くないか?」

 

「えっ? ええ。何やら左の肩がいつもよりも重く感じまして・・・・」

 

ロイヤルでもトップクラスの豊満なバストをしているイラストリアスは、足元が見えない事と肩凝りが悩みなのだが、今回は少し違った。

 

「今思念体となったタイタスが、イラストリアスの左肩でスクワットをしているんだ」

 

「えっ?」

 

「さらにウェールズの顔の周りを、フーマが飛び回っているよ」

 

「何と・・・・!」

 

思念体が見えない2人は驚く。

 

≪おっと、これは失礼しました、イラストリアスお嬢さん。トゥ!≫

 

≪ま! これから世話になるぜ! ウェールズの姐さん!≫

 

タイタスとフーマは執務机の上に置かれた書類の束の上に座る、タイガの元に戻った。

 

≪お前らあんまりからかうなよ・・・・。ウェールズさん! イラストリアスさん! 宜しくな!≫

 

「・・・・今ここにいるタイガが、宜しくって言ってるよ」

 

「「・・・・・・・・本当に?」」

 

「本当に・・・・」

 

ウェールズとイラストリアスは、書類の束の上を指差すカインに訝しげに聴くが、カインは苦笑いを浮かべて肯定するしかなかった。

 



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【散歩】ウルトラマンと過ごす日々

ー加賀sideー

 

その頃重桜では、赤城と加賀が気分転換で、母港の出店で、髪飾りが売られている店にいた。

鏡に映る加賀に、赤城が青い髪飾りを加賀の新雪のように美しい白い髪に着けた。

 

「ほら似合うでしょう?」

 

「このような物は、私よりも姉様が着けた方が、アイツも喜ぶと思います・・・・///」

 

「そんな事無いわよ。ほら御覧なさいな」

 

赤城は髪飾りを着けた加賀に鏡に映る自分を見させた。

 

「思った通り、加賀には青がよく映えるわ。きっと指揮官様も似合うって言ってくれるわよ」

 

そう言って、赤城が店にいる饅頭に髪飾りを買う言った。

 

「これ頂くわ」

 

「あっ・・・・////(指揮官、似合うと言ってくれるだろうか・・・・)」

 

加賀も満更でもない笑みを浮かべば、二人はそのまま母港の出店を歩いていると、幼年部の艦船<KAN-SEN>、『重桜所属 駆逐艦 睦月』、『三日月』、『長月』、『水無月』、『文月』、『卯月』がタイヤキを食べる為に走っていると、赤城と加賀に会い、二人が避け、睦月達は通り過ぎるが、卯月は転んでしまい、加賀の足元で止まった。

 

「っ」

 

「うぅ・・・・ふぁっ!?」

 

卯月は加賀を見上げて涙目になる。幼く気弱な卯月にとって、加賀の無言の威圧感(本人にその気は全く無い)が恐いらしい。

加賀が腰を下ろして卯月に話しかける。

 

「こら、走ると危ないぞ」

 

「ひぅっ!」

 

加賀なりに優しく注意したようだが、卯月は完全に怯えてしまったようだ。

 

「ごめんなさい・・・・!」

 

「え?」

 

「悪気は無かったんです・・・・!」

 

「食べないで下さい・・・・!」

 

「ま、待て! 私は怒っている訳では・・・・!」

 

三日月達も戻ってきて加賀に謝罪するが、加賀は怒っているつもりなんて無いので弁明しようとするが聞き入れて貰えなく、どうしたものかと迷っていると。

 

「あら、加賀ダメじゃない。こんな小さな子を泣かせちゃ」

 

「姉様!」

 

「あの! あの! ごめんなさい! むつきのアメさんぜんぶあげるからゆるして!」

 

「いや、だからな・・・・」

 

「うふふ、じゃ頂こうかしら」

 

今度は陸月が涙目でやって来て、飴をあげようとするが、加賀はさらに困ってしまうと、赤城が睦月から飴を1つ取ると、にこやかに睦月の頭を撫でた。

 

「うふふ、加賀も許してあげるわよね?」

 

「え、ええ・・・・」

 

赤城が飴を加賀に渡すと、袖口から小袋を出して睦月に渡した。

 

「ちゃんとごめんなさいできたご褒美よ。みんなで分けると良いわ」

 

「??・・・・わぁ!」

 

小袋の中には、金平糖が一杯入っており、睦月が顔を喜びに染めた。

 

「お姉ちゃん! ありがとう!!」

 

睦月達は赤城と加賀に手を振って、タイヤキを食べにまた走り出した。

 

「まったく、走るなと言ったろうに・・・・」

 

幼い駆逐艦達に、加賀はため息を吐いた。

 

「あの子達なりに、不安を振り抜こうとしているのよ」

 

「えっ?」

 

「あの子達、凄く泣いていたでしょう? 指揮官様がまたいなくなって」

 

「あっ・・・・」

 

加賀も思い出した。カイン指揮官こと、トモユキ指揮官がこの母港を去って、あの駆逐艦達が泣いていた事を。

 

 

 

 

ーカインsideー

 

「あら指揮官。もうお暇するの?」

 

「あぁ、まだ色々な艦船<KAN-SEN>達とコミュニケーションを取らないとね。お茶をありがとうフッド。それじゃ、これから宜しくね『ネルソン』、『ロドニー』」

 

「はい。指揮官」

 

「・・・・ふん」

 

カインが仕事を終えて母港を歩いていると、テラスで優雅にお茶をしていたフッドと、金髪のツインテールに赤い瞳をした豊満な胸に抜群のスタイルをしたツンツンとした艦船<KAN-SEN>と、紫色の長髪と瞳をした同じく豊満な胸と抜群のスタイルをしたにこやかな笑みを浮かべた艦船<KAN-SEN>と共に、お茶を楽しみながらの会話を終えた。

金髪の方は『ロイヤル所属 戦艦 ネルソン』。紫色の長髪はネルソンの妹である『ロイヤル所属 戦艦 ロドニー』。二人は『世界7大戦艦・ビッグ7』と呼ばれる戦艦である。ちなみに重桜であった旗艦の長門と陸奥も、ビッグ7の一員である。

 

≪ネルソンもロドニーも、相変わらずのようで安心したな≫

 

「(うん。ロイヤルにいた頃と変わっていないようだ)」

 

≪しかし、この母港の指揮官に対して、ネルソン嬢は少し態度が悪いと思うが≫

 

「(まぁまぁ、あれがネルソンの通常運転なんだよ)」

 

≪俺的にはあのロドニーって嬢ちゃんの方が曲者って感じだったぜ≫

 

「(あぁ。実は姉のネルソンよりもロドニーの方が恐い処が有るからな)」

 

トライスクワッドと会話しながら、カインは歩を進めた。

因みにネルソンはカインに好意を抱いているのだが、素直にそれを表現できないだけである。ロドニーもカインに好意を寄せているが、にこやかな笑みのポーカーフェイスで隠しているのだ。

「「ご主人様!!」」

 

「ん? おお! 『ダイドー』に『シリアス』!」

 

名前を呼ばれて振り向くと、露出が少々激しいロイヤルメイド服を着た、銀髪の二人の艦船<KAN-SEN>だった。

青を帯びた長い銀髪に大剣を持ち、露出が少々激しいメイド服に豊満な胸とグラマラスな肢体をしたメイド・『ロイヤル所属 軽巡洋艦 ダイドー』と、白銀の銀髪をボブカットにした、同じく大剣に豊満な胸とグラマラスな肢体をしたメイド・『ロイヤル所属 軽巡洋艦 シリアス』である。

 

「ご主人様。またお会いできて嬉しいです♥️」

 

「お会いしたかったです。誇らしきご主人様♥️」

 

二人が頬を赤らめてそう言った。

記憶を失ったカインの側にいて、支えていたのはベルファストだが、ベルファストはロイヤルメイド隊のメイド長としても、ロイヤルの主戦力の一角としても多忙だった為、その時は目の前のダイドーとシリアス、そして『ロイヤル所属 軽巡洋艦 ハーマイオニー』が世話を焼いてくれていたのである。

 

「あぁ、僕も二人が来てくれて嬉しいよ。ハーマイオニーはどうだい?」

 

「は、はい。ハーマイオニーはまだ本国の守りを勤めていますが、いずれ来るとの事です」

 

「そうか、それは楽しみだな」

 

「・・・・あ、あの、ご主人様、な、何か仕事はありませんか?」

 

ダイドーが何やら不安そうな顔でそう言った。

 

「えっ? いや無いけど「そ、そんなっ!?」 ダ、ダイドー?」

 

≪ヤベッ、始まった・・・・!≫

 

≪≪何が?≫≫

 

「ご、ご主人様から何も命じて貰えない・・・・! やっぱり、〈ノブレス・ドライブ〉になれないような無能なメイドには、ご主人様からのご命令を頂けないのでしょうね・・・・!」

 

「そ、そうなのですかご主人様! あぁ申し訳ありません! ご主人様のお役に立てないこの無能なメイドに! どうか! どうか罰を!!」

 

顔を青くしてこの世の終わりのように泣き崩れるダイドーの言葉に、シリアスも顔を青くして泣きそうな顔で罰をしてくださいと懇願した。

 

「い、いや、二人とも落ち着いて!!」

 

≪・・・・どうなっておるのだタイガ?≫

 

≪ダイドーもシリアスも、かなり思い込みの激しい性格でさ。トモユキが少し連れない態度を取るとああなるんだ≫

 

≪メンヘラ系ってヤツか・・・・。兄ちゃん、がんばれよ≫

 

トライスクワッドはダイドーとシリアスを宥めるカインにエールを送った。

 

 

 

 

 

≪こんなに店ができたんだなぁ!≫

 

≪おお! 寧海くんと平海くんの肉マンか!≫

 

≪おいあの明石って嬢ちゃんも、店を出してるぜ!≫

 

何とかダイドーとシリアスを宥め終えて、二人に自分に付いてきてくれと命令をし、浜辺に着いたカインは、浜辺に出来た明石の店や寧海と平海の肉マン屋と花屋を見て、笑みを浮かべる。と、そこで話しているエンタープライズとベルファストを見つけ、話しかけようとすると、エンタープライズが思わぬ事を言った。

 

「・・・・一緒にメイドでもやれと言うつもりか?」

 

「ほぉ、随分面白い冗談を言えるようになったなエンタープライズ」

 

「っ! し、指揮官!?」

 

「あら、ご主人様。ダイドーとシリアスを連れて視察ですか?」

 

「まぁね。ところでベル。先ほどのエンタープライズの言葉だが?」

 

「ええ。ご主人様、いかがでしょうか? 私がエンタープライズ様を何処へ出しても恥ずかしくない、立派なメイドに躾て見せますが?」

 

「うんうん。ベルが躾てくれるなら、エンタープライズも見事なメイドになるなぁ」

 

「いや、指揮官! 私は・・・・!」

 

何やらエンタープライズをメイドにする方向で話を進める二人に、エンタープライズは慌てる。

そんな様子を見て、カイン指揮官(&トライスクワッド)とベルファスト、ダイドーとシリアスもクスクスと笑みを浮かべる。

 

「メイドは兎も角としても、新しい事に挑戦する事は、良い考えだよ。実はここにいるシリアスだって、少し前までは戦闘担当だったけど、メイド隊に志願して今に至っているんだ」

 

「っ」

 

「ぁ・・・・!」

 

エンタープライズがシリアスを見ると、シリアスはモジモジしながら項垂れた。

 

「戦い以外の『何か』を見つければ良いのです」

 

「・・・・私にとっては、難題だな」

 

「ご主人様の仰る通り、挑戦して見て見れば良いのです。人生とは何時だって、冒険なのですから!」

 

「・・・・そういう物かな?」

 

「ふふふ、エンタープライズ。悩め。悩んで悩んで悩みまくって、その先にある『答え』を見つけてみろ」

 

「・・・・『答え』を、か」

 

「さて、僕達は明石の店を見てくるよ。行くよダイドー、シリアス」

 

「「はい。ご主人様」」

 

明石が開いた店の中に入りーーーー明石の名を呼ぼうとしたその時。

 

ーーーージリリリリリリリリリリリリリリ!!!

 

「な、なんだぁっ!?」

 

何と、突然店内に警報がけたたましく鳴り響くと、店内のシャッターや窓が急に閉めきってしまい、カインと何人かの艦船<KAN-SEN>達を閉じ込めた。

 

「にゃふふふふふふ!! 遂に捕まえたにゃ指揮官!!」

 

「あ、明石っ!? 何のつもりだ?!」

 

カインがレジの方に顔を向けると、レジ台の上に立ち、何やら紙の束を持って饅頭達にスポットライトを当てられている明石がいた。

 

「忘れているようだけどにゃ指揮官。指揮官は明石に『借金』をしているのにゃ!」

 

「・・・・・・・・・・・・『借金』??」

 

≪あぁそう言えばトモユキの頃、艦船<KAN-SEN>のみんなに新しい衣装が出ると明石に借金してまで作ってもらっていたな≫

 

「・・・・・・・・そうか、『借金』か」

 

明石が見せた紙の束は、おそらく借金の請求書を、カインはユラリと近づき、請求書の束を持つと、近くにあったシュレッダーに近づきーーーー。

 

ーーーーガリガリガリガリガリガリガリガリ・・・・。

 

請求書の束を細く切り刻んでいった。

 

「にゃぁああああああああああ!! 何を請求書を処分してるにゃ指揮官!!」

 

「・・・・えっ? あれっ!? 僕、今何やってンのっ!?」

 

「指揮官ーーーー!!」

 

袖口から何やら物騒な工具を取り出した明石が、カインに飛びかかる。

 

「うわーーーー!! 待て待て待って明石! 僕も分からないんだ! 何故かあの紙の束を見た瞬間、意識が飛んでしまって気がついたら!」

 

「言い訳無用にゃ! 解体してやるにゃーーーー!!」

 

 

 

 

ーエンタープライズsideー

 

ドタン! バタン! ガチャガチャ! ドヒャーン!!

 

外にいるエンタープライズ達は、突然シャッターが閉め切り、指揮官と明石、そして他の艦船<KAN-SEN>達の騒ぐ声を聞きながら、唖然とした顔になっていた。

 

「ウフフフ。ご主人様がいると、本当に愉快な事が起きますね♪」

 

ただ一人、ベルファストだけはにこやかな笑みを浮かべていたが。

 

 

 

ー霧崎sideー

 

「♪~♪~♪~♪~♪~」

 

霧崎は母港から数十キロ離れた海面の上に立ちながら、鼻歌を口ずさみ、母港に近づく黒い影を見ていた。




次回、カインにとって“天国と地獄"が広がります。


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【風呂】嫌いにならない

ージャベリンsideー

 

「はぁ・・・・」

 

カイン指揮官が借金取り<明石>から逃げていたその頃。

ジャベリンはラフィーと共に艦の清掃をしていたが、物思いに耽っており、掃除に身が入って無いようだった。

 

「はぁ・・・・」

 

「ふぅ、ピカピカ・・・・」

 

ラフィーが汗を拭う仕草をすると、ジャベリンに目を向けた。

 

「・・・・私たち敵同士、でも・・・・!」

 

ジャベリンの頭には、敵同士となっている綾波の事を考えていた。

 

「でも、後悔はしたくないから! わぷっ!!」

 

決意を新たにしたジャベリンの頭に、ラフィーがホースで水をかけた。

 

「・・・・ジャベリン、サボらない」

 

「・・・・ふふ、もう! お返しだよ!!」

 

ラフィーの行動に笑みを浮かべたジャベリンもホースを持って、ラフィーに水をかけようとするが、ラフィーは回避した。

 

「当たらなければどうと言う事はない。全力でいく」

 

二人は仲良く水の掛け合いをしていた。

 

 

 

ーユニコーンsideー

 

その夕方。

ユニコーンは大浴場に続く脱衣場で、他の艦船<KAN-SEN>達の着替えの様子を隠れて見ていた。

 

「・・・・・・・・」

 

何故か脱衣場に入ろうとしないユニコーンの後ろから、ジャベリンが声をかけた。

 

「あれ、ユニコーンちゃん?」

 

「ぁっ・・・・?」

 

振り向くと、ずぶ濡れのジャベリンとラフィーがいた。

 

「どうして濡れてるの?」

 

「あははは・・・・。これは、あぁ、ユニコーンちゃんもお風呂? じゃあ一緒に入ろ?」

 

「えっ? ユニコーンは・・・・」

 

「ヘクチッ、寒い・・・・」

 

「このままじゃ風邪ひいちゃう。ささ、早く早く!」

 

「うぅっ・・・・!」

 

「???」

 

ジャベリンとラフィーはユニコーンの様子に首を傾げていると、ラフィーがポンッと手を叩いて、ユニコーンの手を取って脱衣場から離れると、“別の浴場へと向かった"。

 

「じゃ、アッチにいく・・・・」

 

「え、えぇっ!?//////」

 

「ラ、ラフィーちゃん! あそこって!?//////」

 

ユニコーンとジャベリンが顔を赤くし、その浴場が何か知っているが、ラフィーの勢いに流され、そのまま歩いていった。

 

 

 

 

ークリーブランドsideー

 

クリーブランドは妹達と脱衣場で着替えをしていると、ロイヤル勢の下着に目を向けていた。

ロイヤル艦船<KAN-SEN>はみんな、派手なフリルや刺繍が施された所謂大人の下着を着用し、スポーツ系のランジェリーを着用しているクリーブランド達には物珍しかった。

 

「うわ~お、スゴいなぁ!」

 

「姉貴! ロイヤルの人は皆、ああいう大人の下着を着ているのかな?」

 

「っっ/////」

 

顔を赤くするクリーブランドの隣に、ロイヤルメイドのシェフィールドが着替えようとしていたので、クリーブランドは声を潜めて話しかける。

 

「・・・・ねぇ、ソコんとこどうなの? やっぱりパンツとかも拘ってるの?」

 

「いえ、私は履いていませんが」

 

「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」

 

シェフィールドの言葉にクリーブランド姉妹は一瞬、言葉の意味が分からずフリーズした。

クリーブランドが正気に戻ると、もう一度聞いた。

 

「・・・・・・・・ゴメン、よく聞こえなかった」

 

「ですから、履いていません」

 

シェフィールドがいつも通りの冷静な無表情で、スカートをあげるとーーーー。

 

「「「「うぅっ!!!!??」」」」

 

クリーブランド姉妹は、ソレを見て仰天し、クリーブランドに至っては顔を真っ赤にして、息を呑んでしまった。

 

「あ、あぁ・・・・! ゴクリ・・・・!//////」

 

「あっちゃ~~」

 

ソレを見て、エディンバラも頭を抑えてため息を溢した。

シェフィールドの名誉の為に言うが、これは機動力を損なわない為に履いていないだけであり、けっしてシェフィールドが特殊な趣味嗜好をしている訳ではないのだ。

 

 

 

ーユニコーンsideー

 

ユニコーンとジャベリンはラフィーに連れられた浴場の脱衣場に着く。

 

「ラ、ラフィーちゃん、ここではちょっと・・・・//////」

 

「//////」

 

ジャベリンとユニコーンが顔を赤くして言うが、ラフィーは構わず。

 

「ユニコーンも“一緒にお風呂入りたいと思っている筈"」

 

「ふぇっ//////」

 

ユニコーンがさらに顔を真っ赤にすると、否定も肯定もせず、俯いてしまい、そのままラフィーに連れられて脱衣場で服を脱ぎ始めた。

 

 

 

 

 

 

ー明石sideー

 

「にゃ~、指揮官には逃げられたけど、いずれは借金を返してもらうにゃ~。それにしても・・・・」

 

浴場では複数ある温泉の一つで寛いでいる明石は、湯船から顔を上げながら周りを見渡した。

ソコはーーーーまさに桃源郷だった。

重桜でも、赤城や加賀、翔鶴と瑞鶴、高雄に愛宕と、豊満で抜群にスタイルの良い艦船<KAN-SEN>がいたが、ロイヤルもユニオンも、負けず劣らずの豊満かつ抜群のプロポーションをした子達がいた。

そんな中、サンディエゴが湯船に飛び込み、まるで感電したかのように痺れて倒れた。湯船の中から『ユニオン所属 駆逐艦 エルドリッジ』が出てきた。エルドリッジは何故か放電体質であり、彼女が入った為に強烈な電気風呂となっていた。

何故かクリーブランドが湯船に潜水したりしていたが、とりあえず無視する明石。

 

「温泉は最高だにゃ~・・・・!」

 

ノンビリしている明石の近くに温泉に浸かっていたQ・エリザベスが得意気に立ち上がり、

 

「ふふっ! 我がロイヤルの手による、テルマエ式大浴場よ! 温泉が重桜だけの物だとは思わないでね!!」

 

「流石です陛下!」

 

ウォースパイトも立ち上がり、Q・エリザベスにパチパチと拍手するが、他の艦船<KAN-SEN>達はその様子に唖然とした貌を浮かべていた。ただ一人、Q・エリザベスの裸体を見て、鼻血を流している艦船<KAN-SEN>がいたが。

そんな中、明石がふとした疑問点をあげた。

 

「それはそうとにゃ、指揮官は別の浴場にいるのかにゃ?」

 

「ええそうよ、下僕は別の浴場で温泉に浸かっているわ!」

 

 

 

 

 

ーカインsideー

 

その頃。緑色のタオルを折り畳み頭に乗せたカインは湯船に浸かりながら、疲れを癒していた。

 

「あぁ~、いい湯だ。なぁ皆?」

 

≪そうだなぁ・・・・≫

 

≪ふん! 確かにいい湯加減だな! おかげでトレーニングに役立つ!≫

 

≪暑苦しいぜダンナ・・・・≫

 

思念体となったタイガとフーマは湯船に浸かっていたが、タイタスは浴場の床に座ってストレッチをしていた。筋肉ムキムキのタイタスが気合いを込めた声をあげてストレッチする姿は、たしかに暑苦しい雰囲気だった。

 

「ソレにしても、明石に借金していたって、海守トモユキってどんな人だったんだタイガ?」

 

≪う~ん。ムッツリスケベのカインをオープンスケベにしたような奴だったな≫

 

「ムッツリスケベって・・・・」

 

記憶を失う前の自分の性格と、スケベである事はある程度の自覚はしていたが、改めてムッツリスケベと言われたカインはガックリと肩を落とす。

 

≪ま、あんまり気にするなよトモユキ!≫

 

≪そうそ、スケベなのは男としては正常だって言うしな!≫

 

タイガとフーマは湯船に浮かした桶の中から、赤いタオルと青いタオルを取り出すと、タイガは角を、フーマはトサカを丹念に拭いていた。

 

≪しかし、女王陛下も『指揮官専用の温泉』を用意してくれるとは、我が儘なお方に見えて、気遣いができるようだ≫

 

タイタスがストレッチを終えると、黄色のタオルを桶から取り出し、自分の頭のアストロスポットを丹念に拭いた。

 

「ん? 何か脱衣場から声が・・・・」

 

脱衣場から聞こえる物音に、カインが眉をひそめると、ガラッと扉が開きーーーー。

 

「指揮官、一緒にお風呂入ろ・・・・」

 

「ラフィーちゃん! ちゃんとタオルを巻いてッ!!」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・えっ?」

 

ソコから現れたのは、裸体を晒したラフィーと、慌ててラフィーの身体にタオルを巻くジャベリン(タオル装備)とオズオズと出てくるタオルを巻いたユニコーンだった。

時が凍りついたように固まったカインとトライスクワッド。ーーーーが、ピチョンと、水滴が滴り落ちる音が響いた瞬間。

 

≪きゃあああああああああああああっ!!!≫

 

≪ぬぅおおおおおおおおおおおおおっ!!!≫

 

≪うぉあああああああああああああっ!!!≫

 

「(うわぁビックリ!)」

 

悲鳴をあげそうになったカインだが、タイガ、タイタス、フーマがそれ以上の悲鳴を上げたおかげ逆に冷静になれた。

 

≪な、なななななな! なんでジャベリン達が男湯にっ!?≫

 

≪はっ! こらっタイガ! フーマ! お嬢さん達の柔肌を見てはならん!!≫

 

≪おとととととと!!≫

 

ウルトラマン達は湯船に身体を隠し、両手で目を塞いで背中を向けた。

 

「(・・・・・・・・いや、皆いつも裸みたいなモノじゃなかったか?)」

 

同じくジャベリン達に背を向けたカインが冷静に三人に突っ込む。

 

≪いや、こう言うのは、その、気分的に・・・・!≫

 

≪我々も、一応紳士としての礼儀と言うのか・・・・≫

 

≪つーか兄ちゃん! なんで嬢ちゃん達がここに来たのか聴いてくれよっ!≫

 

「(あぁハイハイ)・・・・あのさ、ジャベリン、ラフィー、それにユニコーン、一応ここ男性と言うか、指揮官専用お風呂なんだけど、どうしたの?」

 

「あ、あのですね! ラフィーちゃんが、脱衣場に行かないユニコーンちゃんの為に? ここに来ちゃいまして・・・・!」

 

「・・・・ユニコーン。みんなとお風呂に入るのが恥ずかしい。だったらお兄ちゃんである指揮官と一緒なら恥ずかしくない」

 

ラフィーが親指を立ててドヤッと擬音を出した。

 

「(そう言えば、ユニコーンはロイヤルにいた頃から皆とお風呂に入ろうとしなかったな)・・・・まぁ来たものは仕方ないか。僕も今から上がるから」

 

「指揮官も一緒の方が良い」

 

逃げようとするカインだが、ラフィーがダメと言った。

 

「・・・・・・・・はぁ、仕方ない。背中越しでなら一緒に入って良いよ」

 

「了解・・・・」

 

「は、はい・・・・//////」

 

「//////」

 

根負けしたカインが了承すると、ジャベリン達は浴場の洗い場で身体を洗い出した。

 

≪それじゃトモユキ。俺達はここで・・・・!≫

 

≪失礼させていただく・・・・!≫

 

≪頑張れよ兄ちゃん・・・・!≫

 

「(お前らな・・・・!)」

 

そそくさと光の球体となってキーホルダーへと立ち去るトライスクワッドを恨みがましく睨んだカインは、やれやれと肩を落とした。

そしてふと、身体を洗っていたジャベリンがユニコーンに向けて口を開いた。

 

「うわ~、ユニコーンちゃん、胸大きい!」

 

「ぶほっ!」

 

そんな声が聞こえ、カインは顔を赤くし、顔の半分を沈めるがーーーー。

 

「クスン・・・・クスン・・・・!」

 

「えぇっ!? どど、どうしたのユニコーンちゃんっ!?」

 

「?」

 

「っ!」

 

ユニコーンの啜り泣く声が聞こえ、カインは赤くなった顔が冷静になる。

横目で後ろを見ると、ユニコーンの背中をジャベリンがさすり、ラフィーも近くにより慰めていた。

 

「・・・・ジャベリン、ラフィー」

 

「は、はい」

 

「ん」

 

カインから静かに、それでいてよく聞こえる声にジャベリンとラフィーが反応した。

 

「ユニコーンをこっちに」

 

「わ、分かりました!」

 

「了解」

 

ジャベリンとラフィーが、ユニコーンを慰めながら湯船に入ると、カインと背中合わせにし、自分達も湯船に浸かった。

 

「ユニコーン」

 

「うぅ、お兄ちゃん・・・・」

 

「どうしたの? お兄ちゃんに聞かせてみ?」

 

「でも、お兄ちゃん、ユニコーンの事、嫌いになっちゃう・・・・」

 

「どうして? 言ってみて、大丈夫だからさ」

 

「・・・・ユニコーン、背低いのに、胸だけこんなで、凄く変、だから・・・・!」

 

どうやらユニコーンは背は低いが、胸は大きい自分の体型にコンプレックスが抱いているようだ。

普段はユーちゃんで隠れて分かりづらいが、カインは知っている。

ユニコーンが実は、Q・エリザベスやウォースパイトの3倍のバストサイズをしており、イラストリアスの妹を名乗るのも納得する程である事を。

 

「そうか、僕に嫌われると思っていたんだね?」

 

「うん・・・・」

 

「ユニコーン」

 

「・・・・なに?」

 

「僕はそんな事で、可愛いユニコーンを嫌うなんてしないよ」

 

「え?」

 

「誓うよ。僕はユニコーンを嫌いにならない」

 

背中越しからのカインの言葉に、ユニコーンは戸惑いがちに声を発して振り向くと、カインも振り向いて、ユニコーンを真っ直ぐ見つめ頭を撫でる。

 

「・・・・本当?」

 

「ああ、間違いないよ。“ユニコーンが僕を嫌いになる事はあっても"、“ユニコーンを僕が嫌いになる事は絶対に無い"、からね」

 

「///////ゆ、ユニコーンも・・・・!」

 

「??」

 

「ユニコーンも、お兄ちゃんの事、嫌いにならないから!」

 

「本当?」

 

「うん!」

 

「ありがとう。ユニコーン」

 

「っ・・・・お兄ちゃん!」

 

ユニコーンに向けて優しい笑みを浮かべたカインに、ユニコーンはたまらず抱きつき、フニョンッと胸元が押しつぶれた。

 

「(ぬぁっ! なんと幸せな感触・・・・!!)」

 

「いいなぁ~ユニコーンちゃん・・・・」

 

「・・・・ラフィーも指揮官に抱きつきたいと思ってない、思ってないかも・・・・」

 

羨ましそうに見つめるジャベリンを余所に、ラフィーがカインの左腕に抱きつき、以外と膨らんでいる胸元を、ムニンッ、と押し付けた。

 

「うおぅっ! (以外とラフィーもある・・・・!)」

 

「ラ、ラフィーちゃんまで・・・・!」

 

「ジャベリンも抱きつけば良い・・・・」

 

「で、でででででも・・・・!/////」

 

「お兄ちゃん、ジャベリンちゃんも、良いよね?」

 

「えっ? まぁ、その、ジャベリンが良いなら、僕もやぶさかでは・・・・」

 

「そ、それでは・・・・/////」

 

ジャベリンが右腕に抱きつき、ポニュンッと、膨らんだバストがカインの右腕を挟んだ。

 

「(こ、ここは天国か、地獄か・・・・!!)」

 

見目麗しい美少女三人に裸で挟まれ、カインは理性と煩悩が激しくせめぎあっていた。

 

ーーーーザバァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン・・・・!!!!

 

ーーーーピギュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッッッ!!!!

 

「っ、なんだっ!?」

 

「「っ!!?」」

 

「おぉ~・・・・」

 

突然母港の外から聞こえた水飛沫の音と、それとは違った雄叫びに、カインは正気に戻り、ジャベリンとラフィーとユニコーンも肩を揺らした。

 

 

ー霧崎sideー

 

「さぁ~て、新しいオモチャをプレゼントしなければね」

 

霧崎は母港に現れた、体長よりも長い尻尾をした、黄色の白地に黒の模様が付いた体色に、横一文字に伸びて光る口、眼の部分は三日月の角がクルクルと回転している怪獣、『宇宙怪獣 エレキング』だ。

 

「そして、もう一体・・・・」

 

霧崎が見上げると、空に暗雲が立ち込め、ゴロゴロと雷が迸っていた。



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【電撃】痺れる戦い

ーエンタープライズsideー

 

『ピギュウウウウウッ!!』

 

「あれはっ!」

 

「怪獣、ですね」

 

風呂に向かっていたエンタープライズとベルファストが巨大な物体が見えたのでその場に向かうと、エレキングが雄叫びを上げている姿を見た。

 

「指揮官達は?」

 

「まだ入浴中でしょうが、すぐに来られるでしょう」

 

「では、我々で足止めするぞ」

 

「はい」

 

エンタープライズとベルファストは海に出ると艤装を展開させて、エレキングへと向かった。

 

 

 

 

 

ーカインsideー

 

カインは湯船を出ると、服を着こんで、タイガスパークを着け、ウルトラキーホルダーを持って外に出ると、髪を下ろしたまま服を着ただけのジャベリンとラフィーとユニコーンも到着した。

 

「また怪獣かっ! まったく入れ替わり立ち替わりで!」

 

≪あれは『宇宙怪獣 エレキング』。電流を放出する怪獣だ。海は電気を通しやすいから、艦船<KAN-SEN>達には相性が悪い相手だ≫

 

「(確かに、戦場が海である艦船<KAN-SEN>達には、厄介な相手だな・・・・!)」

 

「下僕っ!」

 

「あ、陛下!」

 

タイタスからの情報で渋面を作るカインだが、声がした方に目を向けると、髪の毛が濡れて肩にタオルをかけ、服も少々濡れていたQ<クイーン>・エリザベス達だった。

全員、入浴中に怪獣が現れて、ろくに身体を拭けずに来たのだろう。服が汗や風呂の水分で湿り、透けていた。

 

「わおっ! 刺激的っ!」

 

「なんて言ってる場合じゃないって指揮官っ!」

 

「ああそうだな・・・・。さて、どうやってアイツを片付けるか」

 

「指揮官!」

 

「指揮官様!」

 

「ウェールズ・・・・! イラストリアス・・・・!」

 

思わず片手で顔を隠したカインに、クリーブランドがツッコミ、改めてどうしよかと考えていると、まだ風呂に入っていなかったのであろうウェールズとイラストリアスが通信インカムを持ってやって来た。

 

「指揮官様、これを」

 

「あぁ、ありがとう」

 

「今あの怪獣には、エンタープライズとベルファストが向かい、交戦を開始しました」

 

「うん」

 

イラストリアスからインカムを渡されミミに付け、ウェールズの言葉に頷くと、二人に連絡した。

 

「エンタープライズ。ベルファスト。聞こえるか?」

 

《はい、ご主人様》

 

《・・・・・・・・》

 

「エンタープライズ」

 

《・・・・ああ。聞こえている》

 

「だったらちゃんと返事をしろ」

 

《済まないな。怪獣に攻撃を開始しようとしていたので、な!》

 

最後の部分が力強い声で発すると、エレキングの身体の回りを艦載機が飛び回り、機銃による攻撃を開始した。

 

「エンタープライズ。ベルファスト。奴を沖に誘導してくれ」

 

《この場で戦えば良いのではないか?》

 

「ここで戦えば、母港にも甚大な被害がでる。他の艦船<KAN-SEN>の皆も向かわせる。ソイツは電流を流す怪獣だから、君達艦船<KAN-SEN>と相性が悪い! なるべく距離を置いて戦うんだ!」

 

《承知しました》

 

《・・・・了解》

 

エンタープライズとベルファストに指示を出したカインは、他の皆に目を向ける。

 

「ウェールズ。イラストリアス。出撃可能な艦船<KAN-SEN>達を連れてエンタープライズ達の元へ向かってくれ」

 

「了解!」

 

「はい!」

 

「陛下達は・・・・」

 

「言わなくても良いわよ下僕」

 

「ん?」

 

「身だしなみを整え次第、私達もベル達の援護に回るわ! アンタはやるべき事をしなさいっ!」

 

「分かりました陛下。ユニコーン。ジャベリン。ラフィー。三人も来てくれよ」

 

「うん!」

 

「はい!」

 

「了解・・・・」

 

カインはその場から駆け出すと、ウェールズとイラストリアスも、エンタープライズ達の方へと駆け出した。

 

 

ークリーブランドsideー

 

「所でジャベリン。アンタ達どうして指揮官と一緒にいたのだ?」

 

ハムマンが問いかけると、ユニコーンとジャベリンが顔を赤らめ、ラフィーはいつも通りの貌でーーーー。

 

「ラフィー達、指揮官と一緒にお風呂に入ったよ」

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

ラフィーの言葉にその場にいた艦船<KAN-SEN>達は一瞬、言葉の意味が分からずフリーズした。

クリーブランドが正気に戻ると、代表してもう一度聞いた。

 

「・・・・・・・・ゴメンねラフィー、よく聞こえなかったんだけど、もう一度言ってくれないかな?」

 

「ラフィーとジャベリンとユニコーン、指揮官と一緒にお風呂に入った、よ・・・・」

 

『・・・・・・・・えぇえええええええええええええええええええええええっ!!!!???』

 

 

 

ーカインsideー

 

人気のない場所に到着すると、人目が無いのを確認し、『タイガスパーク』を起動させた。

 

「行くぞタイガ!」

 

≪ああ!≫

 

[カモン!]

 

腰につけた『タイガキーホルダー』を掴み、赤いインナースペースが展開される。

 

「光の勇者! タイガ!! バディィィィゴーーーー!!」

 

[ウルトラマンタイガ!]

 

『シュアッ!!』

 

光の勇者、ウルトラマンタイガへと変身した。

 

 

 

ーエンタープライズsideー

 

「ふんっ!」

 

「はぁっ!」

 

エンタープライズが艦載機を発進させ、ベルファストが魚雷を発射し、上と下からの攻撃でエレキングを攻め立てる。

 

『ピギュゥゥゥゥゥッ!!』

 

エレキングは攻撃をしてくるエンタープライズとベルファストを狙って、口から『放電光線』を放つが二人は回避する。しかし、放電光線が当たった海面から、バチバチッ、電気が迸り、二人の艤装も僅かに流電した。

 

「っ、確かに、電撃を放つようだな・・・・!」

 

「長引けば、私達の艤装にも影響を及ぼしかねませんね」

 

カインの言う通り、エレキングは艦船<KAN-SEN>と相性が悪いようだ。

ベルファストが〈ノブレス・ドライブ〉を発動させようかと思考した瞬間、

 

『シェァッ!』

 

『ピギュゥゥゥゥ!』

 

ウルトラマンタイガがエレキングの長い首にヘッドロックをした。

 

「ウルトラマン、タイガ・・・・!」

 

「やはり現れましたね・・・・っ!」

 

タイガに鋭い視線を向けるエンタープライズを訝しそうに見たベルファストが、不意に夕焼けの空に現れた不気味に黒い雷雲を見つけ、警戒するような光が宿らせると、ウェールズとイラストリアスと合流し、後方に下がると同時に、黒い雷雲から稲妻が迸り、

 

ーーーーゴロゴロ・・・・ピシャァァァァァァァァァァァァンッ!!!

 

雷雲から雷が落ちると、海面に当たり、高い水柱をあげるとそこには。

 

『ゴロロロロロ・・・・』

 

両肩に発電機のような突起物の装甲と、胸には重桜や東煌の楽器である太鼓のような丸いパネルを二つ付けた赤い体色に、手には木を削ったような棍棒を持ち、頭部には3本の角が生えており、口には牙を生やしている怪獣ーーーーが、

 

 

 

 

 

ーQ<クイーン>・エリザベスsideー

 

「・・・・何、あのマヌケそうな怪獣は?」

 

衣服を整え、母港の港に来たQ・エリザベスがボソリっと言い、他の艦船<KAN-SEN>達も白い目で半眼になったり、苦笑いを浮かべたり、同意するように頷く。

 

でっぷりとしたお腹のヘソにカラータイマーのような器官を付け、アヒルのような口が目立つ、間抜けそうな顔つきが特徴的な怪獣、『雷撃獣神 ゴロサンダー』だ。

 

 

 

ーカインsideー

 

『「・・・・あれも、怪獣なのか?」』

 

≪カイン指揮官。見てくれに惑わされてはなりません≫

 

≪アイツは宇宙にその名を轟かせる雷神、ゴロサンダーだ!≫

 

『出会った者には必ず死が訪れると、恐れられている厄災の神とも呼ばれているんだ!』

 

トライスクワッドが警戒心を高めにカインに注意を促した。

 

『ゴロロロロロ!』

 

ゴロサンダーは自身の武器、『ゴロン棒』を振り回すと、エレキングをホールドしているタイガに棍棒を叩きつけた。

 

ーーーーピシャァンッ!

 

『うぉああああっ!!』

 

棍棒の衝撃と共に電撃が流れ、タイガをエレキングを離して吹き飛び、海面に倒れる。

 

『ゴロロロロロ!』

 

ゴロサンダーは笑い声のような声をあげる。

 

≪タイガっ! パワーで攻めてくる相手ならば、私と交代だっ!≫

 

『分かった! トモユキ!』

 

『「ああっ!」』

 

[カモン!]

 

『「力の賢者! タイタス!」』

 

『ぬぅあああっ!!』

 

『「バディ、ゴー!」』

 

[ウルトラマンタイタス]

 

タイガからタイタスにチェンジすると、ゴロサンダーがゴロン棒を振り上げ、タイタスもそれに応戦するように拳を突き出したがーーーー。

 

『ぐぁあっ!!』

 

なんと、タイタスの拳が押し負けてしまい、さらに電撃を浴びてしまう。

 

『「(タイタスのパワーを上回って、イヤ、電流のせいのようだな・・・・!)」』

 

態勢が僅かに崩れるタイタスに、胸の太鼓のような器官を叩き、エネルギーを充電すると、片腕の吸排口から『サンダースパーク』を放つ。

 

『ぬぅぉぉっ!!』

 

『ピギュゥゥゥッ!!』

 

今度はエレキングがその長い尻尾でタイタスの身体に巻き付け、電流を流す。

 

『ぐぁああああああっ!!』

 

タイタスが悲鳴を上げる。

 

 

 

 

 

 

ー霧崎sideー

 

「ははははは! 良いぞゴロサンダー、想像以上だ!」

 

母港の丘の上から戦況を眺めていた霧崎が楽しそうな声をあげる。

 

 

 

 

 

ーカインsideー

 

『「くっ、どうすれば・・・・っ!?」』

 

インナースペースにいるカインは、勝利を確信したのか、笑い声をあげているゴロサンダーのヘソと、電流を流すエレキングの回転する角を見据えると、

 

『「もしかしたら・・・・! ベル! ベルファスト!」』

 

耳に付けていたインカムでベルファストに連絡をする。

 

 

 

ーベルファストsideー

 

「っ! ご主人様?」

 

ベルファストがインカムを押すと、エンタープライズとウェールズとイラストリアスがベルファストに目を向ける。

 

《ベル! ウェールズと一緒にウルトラマンを拘束している怪獣の角を攻撃してくれ! イラストリアスとエンタープライズは艦載機で援護を頼む!》

 

「承知しました」

 

「了解」

 

「分かりました」

 

「・・・・指揮官。ウルトラマンを助けろと言うのか?」

 

エンタープライズが訝しそうに聞いてきた。ウルトラマンの正体がカイン指揮官である事を知っているウェールズとイラストリアスが苦々しそうに顔を歪める。

 

《・・・・あぁ。ウルトラマンは何度か艦船<KAN-SEN>達を助けてくれた。僕は彼らを信じたい。・・・・だから、彼らを援護してくれ!》

 

《お兄ちゃん・・・・!》

 

《ユニコーン?》

 

カインの通信に、ユニコーンも入ってきた。

 

《ユニコーンも、助けたい・・・・! ウルトラマンさんは、ユニコーンとジャベリンちゃんやラフィーちゃんを守ってくれたから、ユニコーンも、ウルトラマンさんを助けたいの・・・・!》

 

《分かった。ユニコーンはゴロサンダーの足止めを任せる。無理はするなよ》

 

《うん!》

 

《エンタープライズ。頼む・・・・》

 

「・・・・了解した」

 

「では、参りましょう・・・・〈ノブレス・ドライブ〉!」

 

「〈ノブレス・ドライブ〉!!」

 

ベルファストに続き、ウェールズの身体が金色のオーラを纏い、イラストリアスが頷くが、エンタープライズはスッと目を細めた。

 

 

 

ーユニコーンsideー

 

「ユニコーンちゃんっ!?」

 

ユニコーンの突然の言葉に、ジャベリンや他の艦船<KAN-SEN>達も驚きの声をあげる。

 

「大丈夫・・・・! ユニコーンだって、ウルトラマンさんを、助けたいから・・・・! 〈ノブレス・ドライブ〉!」

 

ユニコーンの身体が金色のオーラを纏い、

 

「ユーちゃん!」

 

なんと、同じく金色のオーラを纏ったユーちゃんが大きくなり、ユニコーンを乗せ高速で飛翔していった。

 

「えぇっ!? ユーちゃんってあんな事ができるのッ!?」

 

 

 

ーカインsideー

 

『「ぐぅぅぅっ!!」』

 

『ピギュゥゥゥゥゥッ!!』

 

『「あっ!」』

 

電流に耐えているカインとタイタスが、エレキングの悲鳴に目を向けると、エレキングの頭の周りを艦載機が飛び回り、光線で応戦していた。

 

『「よし、頼むぞ皆・・・・!」』

 

 

ーエンタープライズsideー

 

「・・・・指揮官の指示では、あの怪獣の角を狙えと言っていたが、あんなに距離があるのにできるのか?」

 

エンタープライズは隣にいるイラストリアスに聞くが、イラストリアスはたおやかな笑みを浮かべる。

 

「大丈夫ですよ。ウェールズさんとベルファストがやってくれますわ」

 

イラストリアスの視線の先、エレキングに向けて艤装の砲口を向けるベルファストとウェールズがいた。

 

 

ーベルファストsideー

 

「行くぞベルファスト!」

 

「参りましょう、ウェールズ様」

 

「「『共鳴<レゾナンス>』・・・・!!」」

 

二人の声が重なると、身体がさらに輝き、自分達の周りに『光の艦船』が出現し、ソコから光の光線が幾つも発射され、エレキングの頭の角を破壊した。

 

『ピギュゥウウウウウウウウウウウッ!!』

 

エレキングは角を破壊され、痛みに悶える。

 

 

 

ージャベリンsideー

 

「な、なんなんですかっ! あれっ!?」

 

「あれは『共鳴<レゾナンス>』よ」

 

「『共鳴<レゾナンス>』・・・・?」

 

驚くジャベリンやクリーブランド達に、Q・エリザベスが教え、ラフィーも首を傾げる。

 

「〈ノブレス・ドライブ〉した艦船<KAN-SEN>の心を共鳴させ、1つにして放たれる必殺技よ。でも、〈ノブレス・ドライブ〉出来た子なら誰でもできる訳じゃないの。心を1つにしやすい相手、私ならウォースパイト、イラストリアスならユニコーンと妹達、ってね。ベルは誰とでも『共鳴<レゾナンス>』ができるのよ!」

 

「流石は陛下。見事な説明です!」

 

ウォースパイトがQ・エリザベスに拍手を送った。

 

 

 

 

ーカインsideー

 

「ピギュィィィィィッ!!」

 

『「今だっ!」』

 

『ヌンッ!』

 

エレキングの高速が緩んだ隙に、タイタスは尻尾から脱出した。

 

『カイン指揮官、エレキングの角がセンサーの役目を持っている事を知っていたのですか?』

 

『「イヤ、何となく勘でな・・・・」』

 

≪スゲェ勘だな・・・・≫

 

≪トモユキ! もう一度俺だ!≫

 

『「良し!」』

 

[ウルトラマンタイガ!]

 

タイタスからタイガにチェンジした。

 

『トモユキ! 怪獣リングを使うぞ!』

 

『「・・・・分かった」』

 

カインはギャラクトロンMK2のリングを召喚しタイガスパークに読み込ませると白い光が発光する。

 

[カモン! ギャラクトロンMK2! エンゲージ!]

 

カインの隣にギャラクトロンMK2の幻影が現れると、タイガはエレキングに光線を発射した。

 

『『モンスビームレイ』!!』

 

放たれた白い光線がエレキングに当たると、エレキングの身体に魔法陣が展開され、エレキングの身体が爆散した。

 

『よしっ!』

 

『「(タイタスの時は使えなかったのに、タイガだと使えた? どういう事だ?)」』

 

≪カイン指揮官! ユニコーン嬢が危険だ!≫

 

『「っ! ユニコーン!」』

 

目を向けると、ユニコーンがゴロサンダーのゴロン棒を回避していた。

 

[トモユキ! セグメゼルのリングだっ!]

 

『「ああ!」』

 

今度はセグメゼルのリングを召喚した。

 

[カモン! セグメゼル! エンゲージ!]

 

カインの隣にセグメゼルの幻影を浮かぶと、タイガの腕から掌から毒々しい紫色の火炎『セゲルフレイム』が現れる。

 

『「ユニコーン! 離脱するんだ!」』

 

《うん!》

 

『『セゲルフレイム』!!』

 

ユニコーンがゴロサンダーから離れるのを確認したタイガは、火炎をゴロン棒へと放った。

 

『ゴロロロロロッ!!』

 

『セゲルフレイム』を浴びたゴロン棒が、まるで溶けたアイスのように溶解した。

 

『やったっ!』

 

『「タイガ! フーマと交代だ!」』

 

[カモン!]

 

『「風の覇者! フーマ!」』

 

[ウルトラマンフーマ!]

 

『セイヤッ!』

 

ゴロン棒を失ったゴロサンダーは、『サンダースパーク』をフーマに放つが、フーマは高速移動で回避した。

 

『ヘヘッ、俺のスピードは雷よりも速いぜっ!』

 

『ゴロロロッ!』

 

ゴロサンダーは連続で『サンダースパーク』を回避していく。

 

 

ージャベリンsideー

 

『おぉ~!』

 

艦船<KAN-SEN>達、それもスピードに拘りのある子達は、フーマのスピードに目を輝かせる。

 

 

 

ーカインsideー

 

『兄ちゃん! 『ビクトリーレット』を使ってくれ!』

 

『「ああ!」』

 

カインは左手に意識を集中させると、黄色のV字型の宝石を付けたブレスレット・『ビクトリーレット』が召喚した。

 

[カモン! ビクトリーレット! コネクトオン!]

 

カインはタイガスパークを装着した右手に左手を重ねると、『ビクトリーレット』の黄色の光のエネルギーが、タイガスパークに吸い込まれると、『地底世界の勇者 ウルトラマンビクトリー』が姿が合わさると、フーマの右腕にV字型の光の手裏剣を発生し、矢尻のような形に変化させ、弓矢を放つ要領で撃ち出す。

 

『『鋭星光波手裏剣』!』

 

放たれたV字型の矢はゴロサンダーのヘソの宝石を撃ち抜いた。

 

『ゴロォアアアアアアアアアアア!!!』

 

ゴロサンダーは腹部を抑えて痛みに悶えると、カインは艦船<KAN-SEN>達に指示を飛ばした。

 

『「今だ皆っ! ヤツの急所はヘソだっ! 砲撃を撃ち込めっ!!」』

 

 

ーベルファストsideー

 

「はっ! ウェールズ様!」

 

「ええ!」

 

「イラストリアス姉ちゃん!」

 

「行きましょう!」

 

「「「「『共鳴<レゾナンス>』!!」」」」

 

ベルファストとウェールズ、ユニコーンと〈ノブレス・ドライブ〉したイラストリアスが放つ『共鳴<レゾナンス>』の砲撃が、ゴロサンダーの身体を貫いた。

 

『ゴロロ・・・・・・・・ッ!!』

 

ゴロサンダーは身体の内側から漏電が出て来て・・・・。

 

ーーーードゴォォオオオオオオンンッ!!

 

ゴロサンダーの身体は爆散し、ゴロサンダーの怪獣リングがカインの手に入った。カインは怪獣リングを訝しそうに見ると、インカムを操作する。

 

 

 

ージャベリンsideー

 

「やったぁっ!!」

 

ジャベリンは大手を降って喜ぶと、他の艦船<KAN-SEN>達のインカムに、カイン指揮官の声が響く。

 

《皆、見ていたかい》

 

「指揮官!」

 

《艦船<KAN-SEN>だって、力を合わせればウルトラマンと一緒に戦えるし、あんなに大きな怪獣とだって渡り合えるんだ》

 

『・・・・・・・・』

 

艦船<KAN-SEN>達は、カインの言葉を耳に聞き入れ、「私達も、ウルトラマンと一緒に戦える」と、確信したように思えた。

 

 

 

 

そしてその夜、艦船<KAN-SEN>達はそれぞれが自由時間を過ごしていた。

 

「綾波、ちゃん・・・・?」

 

ジャベリンの自室に集まり、パジャマに着替えたジャベリンとラフィーとユニコーンは、ジャベリンの決意を聞いていた。

 

「私達、敵同時だけど、こんな事間違っていると思うけど・・・・。でも、諦めたくない! 私、あの子と友達になりたいっ!」

 

「・・・・ユニコーン、あの子の事まだなにも知らない。だから、このまま戦うのはイヤ」

 

「ラフィー達、まだ何も始まってない・・・・」

 

「っ・・・・うん!」

 

ジャベリンは笑みを浮かべて頷いた。

 

 

ータイガsideー

 

カインは、怪獣の出現に関しての本部への報告書、被害の報告書に目を走らせていた。

そんな中、タイタスはゴロサンダーに後れを取った事を気にしてトレーニングに勤しみ、フーマも自主トレをする中、タイガは怪獣リングの事を考えていた。

 

≪(あんなに凄い怪獣達と戦える怪獣リング・・・・あれをもっと集めれば、どんな相手でも・・・・!)≫

 

 

 

 

 

ーエンタープライズsideー

 

エンタープライズは、姉のヨークタウンとの事を夢で見ていた。

 

【人が、貴女の名前に込めた想いを、いつかきっと思い出せる日が来るわ・・・・】

 

そこで目を覚ましたエンタープライズは、片足を失った姉の言葉を考える。

 

「・・・・っ」

 

机の上に置かれた『エレキングの怪獣リング』を見つけたエンタープライズは、それを持って着替え、外へと向かった。

 

「・・・・・・・・」

 

海岸に佇むエンタープライズに、ベルファストが暖かい飲み物が入ったポットとコップを2つ持ってきた。

 

「エンタープライズ様、寝付けませんか?」

 

「指揮官の手伝いは良いのか?」

 

「ご安心を。エンタープライズ様の面倒を見るようにと言われていますので」

 

「そうか・・・・」

 

「静かですね」

 

「ああ。静かな海は、嫌いじゃない」

 

二人は静かな夜の海を眺める。

 

 

ー加賀sideー

 

加賀は1人、夜の母港を眺めながら酒を飲んでいた。

自分と赤城は、同じ物を見ているのだろうかという不安を、酒と一緒に飲み込むように。

 

 

ー赤城sideー

 

「指揮官様を取り戻すわ、絶対に・・・・。そしてーーーーもうすぐ会えますわ。『天城』お姉様」

 

赤城は、狂気を宿した瞳で虚空に手を伸ばした。

 

 

ー綾波sideー

 

「・・・・・・・・」

 

そして綾波もまた、虚空に手を伸ばし、あの時、手を掴まなかった事に思いを馳せていた。

 

 

 

 

ーカインsideー

 

それから数日。ユニオン寮にて、『ユニオン所属 軽巡洋艦セントルイス』と『ユニオン所属 軽巡洋艦ホノルル』と談笑していたカインに、ウェールズが慌てた様子で、報告が入った。

 

ーーーーレッドアクシズが、アズールレーン母港へと進行を開始した、と。

 




ー『共鳴<レゾナンス>』ー
〈ノブレス・ドライブ〉をした艦船<KAN-SEN>達の心が共鳴し合う事でできる必殺技。発動すると、光の艦が現れ、一斉砲撃を放つ。しかし、発動には〈ノブレス・ドライブ〉と、その艦船<KAN-SEN>と共鳴しやすい艦船<KAN-SEN>でなければ威力は半減する。

次回。ついに2つの陣営がぶつかり合い、その海域に封印された怪獣が目を覚ます。


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【開戦】碧と赤の激突

ーカインsideー

 

レッドアクシズがアズールレーンに進軍を開始した。

 

目的はーーーー『アズールレーンに捕虜とされている重桜指揮官・海守トモユキ指揮官を奪還する』と言う大義名分を掲げて・・・・。

それを知ったカインは迅速に指示を出し、アズールレーン艦船<KAN-SEN>の大半に出撃させた。

現在カインは、ウェールズとQ・エリザベスの艦の船首に立っていると、Q・エリザベスが声をかけた。

 

「素晴らしいわね下僕。これこそ私が求めた艦隊だわ!」

 

「そうですね陛下。ロイヤルとユニオンの艦隊が並んだこの光景、まさに壮観と言えます」

 

「頼もしい限りですわ」

 

近くでテーブルを置き、椅子に座りながら優雅に紅茶を飲むフッドと、その隣に控えるシェフィールドとエディンバラ。

それを見て、ウォースパイトは呑気だな、と思いながらも口を開く。

 

「ええそうね・・・・決戦ですもの」

 

「指揮官。もう避けられないのだろうか・・・・?」

 

「・・・・何も相手を全滅させる事が勝利って訳ではないんだ。ようは、レッドアクシズの戦う意思を折れば良いんだよ」

 

「それは、一体・・・・?」

 

「ま、その為にこれだけの艦隊を組んだんだけどね」

 

ウェールズと問答をしたカインの見つめる先には、まだ姿は見えないが、レッドアクシズ艦隊を捉えていた。

 

≪いよいよおっぱじまるって事か・・・・!≫

 

≪しかし、同じ艦船<KAN-SEN>達が戦う事になろうとは・・・・≫

 

≪みんなの本当の敵は、『セイレーン』の筈なのに・・・・!≫

 

トライスクワッドも、これから起こる戦争に、苦い声色をあげていた。

 

 

 

 

ー重桜sideー

 

その頃。

重桜艦隊も、アズールレーン艦隊との決戦に向けて進軍していた。

 

「・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

赤城と加賀、二人はまっすぐに、遠くから迫り来るアズールレーン艦隊を見据えていた。が、二人が同じ物を見ているかは分からないが。

そんな中、赤城を遠くから見据えている高雄に、愛宕が話しかける。

 

「どうしたの、高雄ちゃん?」

 

「いくら指揮官殿を取り戻す為とは言え、時期尚早と思わんか?」

 

「・・・・・・・・」

 

「『オロチ計画』も進まない内に、これほどの大規模作戦・・・・。赤城殿は何を考えている?」

 

「・・・・指揮官と黒いメンタルキューブを取り戻せなかったから、焦っているのかも・・・・?」

 

トモユキ指揮官を取り戻す事に関しては、重桜艦船<KAN-SEN>全員の総意と言っても良いので、その事に関しては問題は無いが、『オロチ計画』については、赤城と加賀以外は詳しく計画全貌を知らない。旗艦である筈の長門ですらーーーーその事に不信感が抱いているのだ。

自分の艦に立っている瑞鶴も、赤城を見据えていた。そんな妹に、翔鶴が話しかける。

 

「赤城先輩が何を企んでいるのか分からないけど、大丈夫よ瑞鶴! お姉ちゃんが守ってあげますからねぇー!」

 

「・・・・うん!」

 

明るい口調で言う翔鶴に、瑞鶴は頷くが、その胸中は曇ったままだった。

そして綾波の艦に来ていた時雨と夕立と雪風がいた。

 

「やったー! 漸く出陣だぜ! 指揮官を取り戻すぜーっ!!」

 

「雪風様の力で、指揮官を取り戻すのだー!」

 

「・・・・・・・・」

 

はしゃぐ夕方と雪風を放っておいて、時雨が綾波に近づく。

 

「元気無いわね、この前からずっと変よ?」

 

「何でもないです。大丈夫です・・・・」

 

「・・・・安心しなさいよ! この時雨様には、幸運の女神様が付いているんだから!」

 

「雪風様もなのだー!」

 

「ああハイハイ、忘れてないわよ~」

 

いつもの通りのやり取りで騒ぐ仲間達に、笑みを浮かべる綾波だが、その心は晴れなかった。

 

 

 

 

ージャベリンsideー

 

ジャベリンとラフィーは、エンタープライズの艦で物思いに耽っていた。

 

「向こうには、綾波ちゃんが・・・・」

 

不安がるジャベリンの手を、ラフィーがソッと掴んだ。

 

「っ・・・・」

 

「・・・・」

 

「ふふっ、大丈夫! どうすれば良いのかまだ分からないけど、でも、もう迷ってはいないから!」

 

お互いの手を握り合うジャベリンとラフィーの身体からーーーー微かに、金色の光が昇っていたのを、偶然後ろを通りかかったベルファストが見た。

 

「っ・・・・・・・・」

 

ベルファストは二人の様子に笑みを浮かべると、同じく物思いに耽っているエンタープライズの元へと向かった。

 

 

 

ーエンタープライズsideー

 

「・・・・・・・・」

 

瞼を閉じて風を感じているようなエンタープライズに、ベルファストが話しかける。

 

「エンタープライズ様」

 

「・・・・・・・・」

 

ベルファストの方へと振り向くエンタープライズ。

 

「考え事でございますか?」

 

「いや、少し風に当たっていただけだ。・・・・決戦の時は近い、気を引き締めないとな」

 

「あまり無茶な行動は慎んでくださいませ」

 

「・・・・・・・・善処する」

 

顔を逸らして言うエンタープライズに、ベルファストは半眼で見据える。

 

「エンタープライズさま」

 

「・・・・まぁそう心配するな。大丈夫だ、迷いは無い」

 

頬に一筋の汗を垂らしてそう言い、カイン指揮官の指示を仰ぐため、歩みだしたエンタープライズの背中を見つめるベルファスト。ハムマン達が騒いでいるが、ベルファストはその背中に険しい視線を送っていた。

 

 

 

 

 

ーカインsideー

 

そしてその夜。

寝つけず、軍服の上着を肩にかけて甲板に立ち、夜風に当たっていたカインは、静かな海と夜空を訝しげに見ていた。

 

「(・・・・静かだ・・・・。静か過ぎる・・・・)」

 

あまりにも不自然なほど静寂な状況に、奇妙な不気味さを感じているカインに、ヘレナから通信が入る。

 

《指揮官・・・・》

 

「ヘレナか、どうかしたの?」

 

《可笑しいんです。さっきから、レーダーの調子が良くなくって・・・・》

 

「何・・・・?」

 

すると、今度は褐色の肌に白い髪、白いラインが描かれている少し神聖な雰囲気を持つ、『ユニオン所属 戦艦 マサチューセッツ』からの通信が入った。

 

《指揮官、何か、良くない事が起きそうな気がする・・・・!》

 

「っ!」

 

二人の報告から、カインはイヤな予感が全身を走ると、通信を個別から全体通信に変えて、声を発する。

 

「全艦船<KAN-SEN>に告ぐ! 直ちに戦闘配備! 敵さんが来るぞっ!!」

 

カインがそう叫んだその瞬間ーーーー。

 

 

 

 

ーオブザーバーsideー

 

『お膳立てはしておいたわ。後は貴女しだいよ、赤城』

 

『セイレーン・オブザーバー』が、どことも知れない別の空間でそう囁くと、その空間に降り立った赤城が、言葉を唱える。

 

「天津風、雲の通ひ路吹き閉ぢよ・・・・をとめの姿・・・・しばしとどめむ・・・・!」

 

その赤城の詠唱と共にーーーーカイン達のいた海域に異変が起きた。

 

 

ージャベリンsideー

 

カインの指示が飛んだその時ーーーー。

突如、静かだった海の波が荒れ、空は暗雲に包まれ、暴雨が降り注ぎ、嵐が吹き荒れた。

 

「きゃぁあああああああああああああああああっ!」

 

艦が傾きそうになり、艦載機まで吹き飛ばされそうになり、ジャベリンが落ちそうになるが、ラフィーがその手を取った。

 

「あっ・・・・!」

 

「大丈夫・・・・?」

 

他の艦でも、カインの指示で外に出た艦船<KAN-SEN>達が、突然の嵐に驚いていた。

その時ーーーー。 

 

 

 

ーカインsideー

 

「な、なんだっ!?」

 

カインが大雨が降り注ぐ曇天の空を見上げるとーーーー虚空に、赤い亀裂が走り、幾つもの赤い稲妻が、アズールレーン艦隊のいる海域に落ちていった。

 

「くうっ!」

 

≪これって・・・・!≫

 

≪何事なのだっ!?≫

 

≪どうなってんだよっ!?≫

 

稲妻が迸ると、辺り一面が光に包まれ、カインとトライスクワッド、アズールレーン艦船<KAN-SEN>達は目を瞑った。

 

 

 

 

 

光が収まったと思い、目を開けた時ーーーー海域が、いや、その空間自体が変わっていた。

赤い光を放つ太陽のような光。それに照らされた赤い空。闇のような漆黒の海。そしてその海には、『セイレーン』の物と思わしき黒い柱が幾つもの並び、黒い大陸のような物があった。

 

「・・・・ここは、一体・・・・?」

 

≪どうやら、何者かによって我々は、別の空間に転移させられたと思われます≫

 

≪あの一瞬で、艦隊全部を転移させるだなんて・・・・!≫

 

≪『異次元人 ヤプール』でもあるまいしよ!≫

 

異様な空間に、カインにトライスクワッド、アズールレーン艦船<KAN-SEN>全員が、辺りを見渡した。

 

「指揮官! あれを!」

 

カインの元にやって来たウェールズが指差し、カイン指揮官が視線をそこに向けると、ワームホールのような穴が展開され、ソコから『セイレーン』の艦隊が次々と出てきた。

 

「指揮官! 『セイレーン艦隊』です!」

 

「っ! あれは・・・・!」

 

『セイレーン艦隊』の後方にある、火山列島のような島になんとーーーー赤城が宙を浮いてこちらを見据え、

 

「赤城っ!!??」

 

「お迎えにあがりましたわ、我が愛しく恋しい指揮官様♥️・・・・そして、歓迎するわアズールレーン。『私の海』へ」

 

カインには紅蓮の炎のように熱く危険な視線を、アズールレーン艦隊には冷たい氷のような冷徹を向けていた。

 

 

ーオブザーバーsideー

 

『セイレーン オブザーバー』がいる空間に、霧崎が悠然と歩いてきた。

 

『あら、なにか用かしら? トレギア?』

 

「いや何、かなり面白い展開を見せてくれるねぇ」

 

『“お互いにある程度の干渉はしても、作戦行動には触れない事”。それが私達と貴方の取り決めよ? 反故するつもり?』

 

「まさか。だけど、私が目をつけている者達に、ちょっとしたサプライズを見せてあげたいんだ」

 

霧崎が、片手を虚空に向けると、“三つの映像”が映し出せる。

それを見て、オブザーバーも口元を笑みで歪める。

 

『あらあら、これはこれは、中々楽しめそうねえ・・・・!』

 

「ふふふふ、だろう?」

 

霧崎、トレギアもまた、歪んだ笑みを浮かべた。

 

 

 

ーカインsideー

 

『セイレーン艦隊』から艦載機が発進したのを確認すると、Q・エリザベスから通信がきた。

 

《下僕。敵が来たわよ?》

 

「・・・・陛下。この場は、ロイヤル艦隊で対処しましょう。ユニオン艦隊は待機」

 

《ちょっと待ってよ指揮官! ロイヤル艦隊であの大艦隊を相手にするって無茶だよ! 私達も!》

 

通信を聞いていたクリーブランドが抗議の声を出すが、カイン指揮官は冷静に対応した。

 

「クリーブランド。何も彼女の、赤城の『策』に乗る必要は無いよ」

 

《えっ? 『策』??》

 

「明石から聞いたが、赤城は頭もキレるし、かなりの陰険な所がある性格らしい。そんな人が、なんでわざわざこんな手の込んだ事をやったと思う?」

 

《えっと・・・・なんで?》

 

「赤城の狙いは、“こちらの消耗だ”」

 

カイン指揮官はアズールレーン艦船<KAN-SEN>全員に伝える。

 

「おそらくこの『セイレーン艦隊』は囮だ。僕達がコイツらを相手すれば、多かれ少なかれ消耗する。後は切りの良いところで艦隊を退かせ、レッドアクシズ艦隊の本隊で一気に攻め落とすつもりだ」

 

《な、なるほど・・・・!》

 

《でも下僕。この海域、もといこの空間から出られないようじゃどの道、消耗戦は避けられないわよ?》

 

「赤城は言った、『私の海へ』って、この言葉から、おそらくこの空間を作ったのは赤城。おそらく『セイレーン』の技術を応用したのだろう。・・・・つまり、この空間を作った元凶を狙えば良い」

 

《狙いは赤城って、事ね?》

 

「その通りです。故にーーーー陛下達に派手に、そして優雅に活躍してもらおうと思います」

 

《・・・・悪くないわね》

 

若干弾んだような声でそう言ったQ・エリザベスが言うと、ロイヤル女王陛下として、ロイヤル艦隊に指示を飛ばす。

 

《行きなさいっ! 我が騎士達よっ!!》

 

《はっ!!》

 

ウォースパイトを始めとしたロイヤル艦隊が、応戦に出た。

 

「よろしく頼むぞ、皆・・・・!」

 

 

 

ーロイヤルsideー

 

「回りくどい策なんて不要よ! 状況は私が作る! 行くわよ、ウォースパイト!」

 

「はっ! 陛下!」

 

Q・エリザベスとウォースパイトの身体から金色の光が漏れ出てくる。

 

「行くぞ、イラストリアス。ユニコーン」

 

「はい」

 

「うん」

 

ウェールズ達もーーーー。

 

「では行きますよ、『シグニット』ちゃん」

 

「は、はい! フッド姉さま!」

 

フッドが『ロイヤル所属 駆逐艦 シグニット』と共にーーーー。

 

「我らロイヤルメイド隊、あくまでも優雅に参りましょう」

 

『はい!』

 

メイド隊の大半もーーーー。

 

「ビックセブンの力、見せてやるわよロドニー!」

 

「敵に情けを無用です」

 

ネルソンとロドニーもーーーー。

ロイヤル艦船<KAN-SEN>達の身体から、光が漏れ出て来て、そしてーーーー。

 

『〈ノブレス・ドライブ〉!!』

 

ロイヤル艦隊の大半が、金色に輝く光を身体に纏った。




次回、〈ノブレス・ドライブ〉ができる艦船<KAN-SEN>達に、暴れてもらいます!


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【激戦】目覚めるモノ

ーQ・エリザベスsideー

 

ロイヤル艦隊の大半に向かってくる『セイレーン艦隊』。しかしその状況で、〈ノブレス・ドライブ〉したQ・エリザベスは余裕の態度で隣に立つ、同じく〈ノブレス・ドライブ〉を発動したウォースパイトに声をかける。

 

「重桜の陰険で陰湿な消耗戦なんて無駄な策よ! このロイヤル女王に通じないわっ!行くわよウォースパイト!」

 

「はっ! 陛下!」

 

金色の光を纏った二人は、残像が残る超加速で『セイレーン艦隊』に近づき、敵艦からの砲撃を、余裕で、優雅に、踊るように回避し、Q・エリザベスは敵船体に一発の砲撃を放つ。

放たれた光の砲撃は軌跡を描きながら船体を貫通し、『セイレーン艦船』を隣に並んだ艦を含めて三隻も沈めた。

 

「お~ほほほほほほほほ!! この程度で私達を倒せないわよっ! 赤城!!」

 

「っ! はぁあああああああっ!」

 

高笑いをあげるQ・エリザベスの近くで、ウォースパイトが飛び上がると、持っていた剣で『セイレーン艦船』を一刀両断した。

 

 

ーシェフィールドsideー

 

「シェフィ! そっちに敵艦載機が!」

 

「問題ありません」

 

セイレーンの艦載機が機銃を連射しながら、包囲するように迫ってくるが、シェフィールドはいつものように冷静に見据え、機銃の弾丸を回避しながら、その場で回転し、2丁拳銃で次々と撃墜していく。しかも1発も外さずに。

 

「流石はシェフィ!」

 

何て言いながらエディンバラも、次々とセイレーン艦隊を撃破していった。

 

「エディンバラもやりますね。・・・・普段からこれならいいのですが」

 

「何か言いました?」

 

「いえ、では参りましょう」

 

首を傾げるエディンバラを少し視線を泳がせたシェフィールドは、フッドとシグニットを見据える。

 

「優雅は伊達でなくてよ!」

 

ロイヤル貴婦人と言っても過言ではない優雅で穏やかな性格をしたフッドは、戦場に立てば歴戦の猛者となり、砲撃で次々とセイレーン艦隊を撃沈させていき、シグニットも遅れまいと撃破していく。

 

「ドカンっとやっちゃうYO!」

 

『ロイヤル所属 重巡洋艦 ケント』が武装のキャノンが火を吹き、セイレーンを撃破する。

さらに現れるセイレーン艦隊だが、ロイヤル艦船<KAN-SEN>達は次々と撃破していった。

 

 

 

ーエンタープライズsideー

 

「うわ~! やっぱ〈ノブレス・ドライブ〉ができる艦船<KAN-SEN>はみんな凄いなぁ!」

 

エンタープライズの近くに来たホーネットが、ロイヤル艦船<KAN-SEN>の奮闘ぶりを眺める。

と言っても、〈ノブレス・ドライブ〉を使える艦船<KAN-SEN>達が大半であり、後は後方支援をしながらユニオン艦隊にセイレーン艦隊を近づけさせない防衛ラインとなっていた。

 

「・・・・・・・・」

 

エンタープライズは懐に忍ばせた『怪獣リング』を握りながら、歯痒さを感じていた。

 

 

 

 

 

 

ー赤城sideー

 

「・・・・・・・・あの姿」

 

これまで何度も報告に上がっていた『ロイヤル』の謎の力〈ノブレス・ドライブ〉。

五航戦を退け、高雄と綾波を追い詰め、怪獣とも渡り合える謎の力。

だが、こうして目の当たりにした時、赤城の脳裏に“ある記憶が甦った”。

 

 

* * *

 

トモユキ指揮官がまだ重桜にいた頃。

その日、重桜艦隊はセイレーン艦隊と大規模な戦闘をしていた。

トモユキ指揮官率いる重桜艦隊は、長門を旗艦に赤城と加賀、『重桜所属 軽巡洋艦 川内』と『重桜所属 軽巡洋艦 神通』。そして赤城にとって、“最も厄介な存在である綾波”を配置した『重桜・重爆雷の陣(トモユキ指揮官命名)』を中心に、セイレーン艦隊を圧倒していった。

その最中、上位個体である『セイレーン テスター』と遭遇した。

かなりの激戦となり、テスターが指揮官が乗っている専用艦船に近づきそうなったその時、

 

【指揮官っっ!!!】

 

綾波がトモユキ指揮官の名を叫ぶと、瞳と身体が一瞬、金色に輝き、駆逐艦の出せる速度を圧倒的に越えた速さでテスターに肉薄し、対艦刀でテスターを負傷させ、撤退にまで追い込んだ。

 

【綾波っ!】

 

【・・・・・・・・ん? 綾波は、どうしたのです? 指揮官は?】

 

と、トモユキ指揮官が名を呼ぶと、それまで無表情で意識の無い状態のように海面に佇む綾波が、意識が戻ったのように目を瞬いていた。

それから改めて戦闘を再開させ、重桜からセイレーンを撃退できたのだ。

綾波の身に起きた事は、トモユキ指揮官と、その時綾波の近くにいた赤城の間での秘密となった。

 

 

 

* * *

 

「あの時の、綾波が見せたアレに良く似ているわ。・・・・それにしても、もうセイレーン艦隊の半数以上が撃破されているわね。このままでは・・・・」

 

赤城は内心少し渋面を作っていた。

この空間にアズールレーン艦隊を閉じ込め、セイレーン艦隊と戦わせ、疲弊させた処で、レッドアクシズ艦隊の本隊をこの場に来させようとしていたが、ロイヤルの主力艦隊だけで、この場に出現させたセイレーン艦隊を全滅させていく。このままではいずれ自分のいる所にやって来てしまう。

それでは作戦が台無しだ。

 

「・・・・仕方ないわね。もう少し消耗させておきたかったけど」

 

赤城は待機させていた艦隊に、命令を出した。

 

 

 

 

ークリーブランドsideー

 

「凄いなぁ! ロイヤルの人達!」

 

「姉貴。あの力、僕達も使えるんですか?」

 

「指揮官が言うには、私達も『自分の気高さ』ってヤツを見つければ使えるようになるって言ってたけどね」

 

クリーブランドが妹達に〈ノブレス・ドライブ〉を説明していると、自分達に向かって砲弾が近づいているのを視界に捉え、着弾の前に艤装を展開して回避した。

 

「っ! 指揮官! 重桜の艦船<KAN-SEN>が現れたよ!」

 

クリーブランドの視線の先には、重桜艦隊が現れた。

 

 

 

ーカインsideー

 

「時間を掛けた消耗戦から、本隊を連れてきたか。・・・・クリーブランド。間もなくロイヤル艦隊がセイレーンを撃破する。ユニオン艦隊も戦闘配備だ」

 

《了解!》

 

カインが指示を出すと、クリーブランドはそう返事した。

 

≪トモユキ! 重桜の皆がお前を見ているぜ≫

 

「・・・・・・・・」

 

タイガの言葉に重桜艦船<KAN-SEN>を見ると、確かに彼女達は自分を見ていた。

 

 

 

 

ー重桜sideー

 

「確かにありゃ指揮官だな。久しぶりに一緒に酒を飲み交わしたいぜ!」

 

「さっさと取り戻して終わらせて、朝まで指揮官と飲みあかそうや」

 

『重桜所属 戦艦 伊勢』と『重桜所属 戦艦 日向』に続くように、レッドアクシズ艦隊がワープゲートを潜って、『赤城の空間』に現れた。

 

 

 

 

ーカインsideー

 

カインが立つ艦が前に出て、アズールレーン艦船<KAN-SEN>達が、カインを守るように横1列に並ぶ。

重桜艦隊も、それに向き合うように横1列に並ぶ。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

カインが重桜艦船<KAN-SEN>達を見据えると、重桜艦船<KAN-SEN>全員が、カインを真っ直ぐに見据えていた。

 

「ーーーー覚悟を決めるか・・・・!」

 

「取り戻すわよ。私達の、私の指揮官様を・・・・!」

 

カインの言葉に秘書艦のウェールズが剣を構え、赤城の言葉に高雄と愛宕が刀を抜いて、敵に切っ先を向け、ジャベリンも愛用の槍を構え、そしてーーーー。

 

「撃てーーーーーーーーっ!!!!」

 

カインを合図をすると、アズールレーン艦隊が進む。

 

「行けっ! 重桜の兵達! 天運は我らにあるっ!!」

 

加賀の号令に、重桜艦隊も進軍した。

 

 

 

 

ー蒼龍sideー

 

空中に浮く蒼龍に、同じく浮いている飛竜が近づく。

 

「始まったわね・・・・」

 

「だけど蒼龍姉様。あの海域はなんなんですか? 赤城先輩が何をしたんですか・・・・?」

 

「解らないわ。わたくしにも・・・・」

 

重桜の頭脳役である蒼龍にも、何が起こっているのか分からないでいた。

 

 

 

ーシェフィールドsideー

 

「っ!!」

 

「はぁっ!!」

 

シェフィールドの眼前にやって来た高雄が刀を振り下ろすが、シェフィールドはそれを冷静に受け流した。

 

「っ」

 

「くっ!」

 

受け流したシェフィールドは拳銃を高雄に向け発砲するが、高雄はギリギリで回避する。

 

「少し腕をあげたようですね?」

 

「雪辱を晴らさせてもらう!」

 

「シェフィ!」

 

「ここは大丈夫です」

 

シェフィールドが2丁拳銃を構えると、高雄と接近戦を繰り広げる。

高雄の刃を拳銃で受け流し、その攻撃の合間から弾丸を放つが高雄が回避し、また刃を振るう。

 

「(〈ノブレス・ドライブ〉を発動した私とここまでやるとは・・・・)本当に、雪辱を晴らす為だけですか?」

 

「それもある! だが、拙者達は取り戻すのだ! 大切な・・・・大切な指揮官殿を!!」

 

シェフィールドが別の方をチラッと一瞥すると、愛宕がフッドと交戦し、エディンバラを加古と古鷹が戦っていた。

〈ノブレス・ドライブ〉をしているロイヤル艦船<KAN-SEN>達に、ギリギリだが渡り合っている。それは装備や能力ではない。

只々純粋に、最愛の指揮官を取り戻したいと言う想いが、彼女達に凄まじいポテンシャルを生み出していた。

 

 

 

 

 

 

ーエンタープライズsideー

 

そしてエンタープライズは、艦載機の乗り、この海域を生み出しているであろう赤城の元に近づく。恐らく旗艦であろう赤城をどうにかすれば、この戦闘は終わる。

カインはそう考え、エンタープライズもそれを理解した。

 

「っ! 真打ちの登場か・・・・!」

 

加賀は赤城の元に行こうとするエンタープライズをミスエルト、好戦的な笑みを浮かべる。

 

 

 

 

ー瑞鶴sideー

 

「っ! グレイゴースト!」

 

翔鶴と共にカインの元へ向かっていた瑞鶴は、もう一つの目的であるエンタープライズを見つけると、紙を投げるが、それよりも早く、加賀の放った紙が青い炎を纏い、エンタープライズの艦載機を撃破する。

が、別の艦載機に飛び移ったエンタープライズは、赤城の元へ向かう。

 

「待て!」

 

「下がっていろ五航戦」

 

「加賀先輩! グレイゴーストの相手は私が!」

 

前回勝てなかったエンタープライズに勝ちたいと思っている瑞鶴だが、加賀もそうだった。

 

「これは私の雪辱戦だ。未熟な雛鳥は指揮官を取り戻してこい!」

 

「っ!」

 

エンタープライズは加賀の艦に爆撃を仕掛けるが、加賀は艤装を展開させ、青い炎を纏った艦載機をエンタープライズに向ける。

加賀も艦載機に乗り、エンタープライズを追う。

 

「・・・・あんなのアリなの?」

 

「瑞鶴。気持ちは分かるけど、今は指揮官の方に行きましょう」

 

翔鶴は赤城と加賀の暴走を止める抑止力としても、重桜から脱出した真相を知るためにも、自分達にとってもかけがえのない存在であるカインを、トモユキ指揮官を取り戻す事を優先した。

 

 

 

 

ーエンタープライズsideー

 

空中戦を繰り広げるエンタープライズと加賀。

エンタープライズが加賀に話しかける。

 

「お前達、本当にセイレーンと手を組んだのか!?」

 

「指揮官か明石から聞いたのか? まったく、仕方がない奴だ」

 

加賀は否定しなかった。真実だったようだ。 

 

「お前と赤城は裏切ったんだ! 我々ではなく、重桜の同胞を! お前達を信じていた指揮官を!!」

 

エンタープライズは矢を放つ。

しかし、加賀は紙を投げ、紙は炎へと変わり、矢を撃ち落とす。

 

「貴様に姉様の何が分かる!」

 

何も知らない奴が、何も分からない奴が、指揮官に重桜を託された赤城の気持ちを知らずに、簡単に裏切ったと断ずる事に怒ったのか、加賀は艦載機の機銃でエンタープライズの艦載機を撃ち落とそうとする。

しかし、エンタープライズは艦載機を宙返りさせ、攻撃を避けた。二人の空中戦は激しさを増していく。

 

 

 

 

ー赤城sideー

 

「加賀に任せっきりという訳にもいかないわね・・・・っ!!」

 

加賀とエンタープライズの空中戦を見て、赤城も自分の艦載機で援護をしようと紙を出すが、下からの砲撃によって遮られる。

赤城は艤装を展開して砲撃を防ぎら下に視線を落とすと、ロイヤルメイド隊のメイド長ベルファストがいた。

 

「オジャマムシが来たようね・・・・」

 

《ベル。赤城は任せるぞ!》

 

「承知しました。ご主人様」

 

エンタープライズが赤城の元に向かっている事をクリーブランドから聞いたカインは、すぐにベルファストに赤城へと向かわせた。

エンタープライズに重桜の艦船<KAN-SEN>達の目が向いている間に、ベルファストに奇襲をさせようと言う算段だった。

 

「・・・・なるほど、貴女がベルファストね?」

 

「はい。お初にお目にかかります赤城様」

 

ベルファストが優雅にお辞儀するが、赤城はベルファストに“ある事”を聞いた。

 

「そう言えば、記憶を無くした指揮官を一番甲斐甲斐しく世話を焼いていたのは、貴女だと、指揮官様から聞いていたのだけど、それは本当なの?」

 

赤城の瞳に、不穏な光が妖しく輝くが、ベルファストは臆する事なく、たおやかな笑みを浮かべ、

 

「はい。ご主人様の寝顔は、とても可愛いらしいのですよ」

 

「っっ・・・・・・・・」

 

赤城の瞳に、明確な殺意を宿った。

 

「重桜では綾波が一番目障りなオジャマムシだったけど、ロイヤルでは貴女が一番のオジャマムシのようね」

 

「それでは、如何なさいますか?」

 

「ウフフ。『ソウジ』をさせてもらうわ」

 

「されるのは、そちらになるかもしれませんが」

 

二人の間で、静かな火花が飛び散った。

 

「じゃあ、これはどうかしら?」

 

赤城は背後から多数のワープゲートを展開すると、そこから機銃が現れ、銃口をベルファストに向ける。

 

「・・・・・・・・」

 

ベルファストは涼しい顔でそれを見据える。

 

「さぁ、召し上がれ」

 

弾幕がベルファストを襲う。

がーーーー。

 

「ご遠慮させてもらいます」

 

〈ノブレス・ドライブ〉したベルファストはその弾幕を全て回避しながら砲撃を放ち、機銃を次々と破壊していった。

 

「くっ・・・・!」

 

赤城は忌々しそうに顔を歪めた。

 

 

 

ーエンタープライズsideー

 

エンタープライズはチラッと下を見ると、難なく戦うベルファストの、〈ノブレス・ドライブ〉の輝きに、一瞬意識が行った。

 

「取ったぞ・・・・!」

 

「っ!!」

 

その僅かな隙を加賀は見逃さず、艦載機の機銃でエンタープライズの乗っていた艦載機を撃破した。

ゆっくりと海面に落ちていくエンタープライズを、加賀はニィッと笑みを浮かべた。

 

 

ーベルファストsideー

 

「エンタープライズ様! っ!」

 

ベルファストは砲撃を放ち、赤城が呼び出した機銃を、全て破壊し、最後に赤城にも砲撃を放つ。

 

「くぅっ!!!」

 

艤装で防ぐが、あまりの威力に後方に吹き飛ぶ赤城。

体制を整えベルファストを見ると、ベルファストの姿は無くなっていた。

 

 

 

ーカインsideー

 

≪トモユキ! エンタープライズがっ!!≫

 

「分かっている!」

 

トモユキはエンタープライズの元に行こうとしたその時ーーーー。

 

「指揮官」

 

「っ!!」

 

カインの艦の前に、翔鶴と瑞鶴が立ち塞がった。

 

「翔鶴・・・・! 瑞鶴・・・・!」

 

「指揮官・・・・。戻って来てよ指揮官! 指揮官は本当は重桜の、私達の指揮官なんだよ!」

 

必死に訴える瑞鶴に、カインは少し申し訳ないような顔をした。

 

「・・・・すまない」

 

「指揮官!!」

 

瑞鶴がカインに近づこうとするが、翔鶴が止めた。

 

「翔鶴姉ぇ!」

 

「指揮官、貴方が重桜を去った理由は、赤城先輩と加賀先輩が関係しているの?」

 

「・・・・・・・・」

 

果たして言って良いものかと、一瞬逡巡したカインは、静かに呟く。

 

「翔鶴。瑞鶴。赤城と加賀の動きに、目を光らせておいてくれ」

 

「っ! それって・・・・」

 

「翔鶴姉ぇっ!!」

 

瑞鶴の声に振り向くと、シリアスとダイドーが大剣を振り下ろした。

 

「「っ!!」」

 

二人は回避するが、シリアスとダイドーは大剣を構えて、カインを守るように立ち塞がる。

 

「誇らしきご主人様には!」

 

「手を出させませんっ!」

 

「くっ!」

 

「っ!」

 

瑞鶴がシリアスの剣を刀で受け止め、翔鶴がダイドーの大剣を上空に飛んで回避し、笛を吹いて艦載機を飛ばした。

 

「(・・・・・・・・これで、重桜の方でも二人を見張っておいてほしいが)」

 

カインは艦を動かして、エンタープライズの落下地点へ向かった。

 

 

 

 

 

ーエンタープライズsideー

 

漆黒の海の中へと落ちたエンタープライズは、ゆっくりと沈んでいき、薄れる意識の中、姉との記憶が甦るーーーー。

 

【見て、今日は海が綺麗よ・・・・】

 

「(生まれた時からーーーー海は戦場で・・・・。轟く砲声・・・・硝煙の匂い・・・・燃える炎の熱さ・・・・海の水の冷たさ・・・・私にとって、海はーーーー)」

 

海面に向かって、手を伸ばしたその時ーーーー。

『黒いメンタルキューブ』がーーーー。

2つの『怪獣リング』がーーーー。

妖しい輝きを放った。

そしてーーーー漆黒の海の底から、大きく不気味な一つ目が開き、そこから音波のような波が放たれ、エンタープライズを包んだ。

 

「(はっ!!)」

 

目を覚ましたエンタープライズは、自分のカンレキがフラッシュバックし、そして気がつくと、燃える海の真ん中に立っていた。

そこで見たものは、死んだセイレーンを海にソッと横たわらせるーーーー自分と同じ顔をしたセイレーンだった。

 

【・・・・・・・・】

 

「(・・・・・・・・)」

 

そのセイレーンと目が合った瞬間ーーーー。

 

「(っっ!!!)」

 

海の中で、目を開いたエンタープライズは、その瞳が金色に輝き。両手の中指に、『ベムラーリング』と『エレキングリング』を嵌めていた。

そして海底から大きな一つ目が閉じると、鮮血のように真っ赤な二つの眼が開きーーーー。

 

ーーーーキュルルァァァァァァァァァァァッ!!!

 

海底に響く程の雄叫びをあげた。

 




次回、エンタープライズと海底に潜んだ怪獣が目覚める。


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【覚醒】黒き力の顕現

ー赤城sideー

 

赤城はエンタープライズが沈んだ海を見下ろしながら、笑みを浮かべる。

 

「お眠りなさい。『灰色の亡霊』・・・・。貴女の想いは『黒箱』に宿り、大いなる力の一部となるのよ・・・・」

 

「“大いなる力の一部”、か。それは一体なんの事なのから詳しく教えてほしいな」

 

「っ!」

 

赤城が声のする方に目を向けると、ベルファストとウェールズを控えさせたカインがいた。

 

「あぁ、指揮官様♥️ やはり来てくださると思っておりましたわ・・・・」

 

カインに向かって危険な光を放つ視線を送る赤城。ウェールズとベルファストが警戒して、カインを守るように赤城との間に立つ。

 

「赤城。分かっているのか? 今お前が手にしている力は、とんでもない危険性を持っているって事に?」

 

「指揮官様。・・・・以前も言いましたが、アズールレーンのやり方では間に合いません。その為には、『オロチ計画』を成功させなければなりません」

 

「その為に、セイレーンと癒着したと言うのか?」

 

「・・・・必要な事だったんです。愚かな上層部から指揮官様の母港を守るためにも、『オロチ計画』を成功させ、姉様を・・・・『天城姉様』を取り戻す為にも」

 

「『天城』・・・・。そうか、君は姉を取り戻す為に、セイレーンの技術を・・・・」

 

≪トモユキ! 海面を見ろっ!≫

 

「っ!」

 

タイガに言われ、エンタープライズが落ちた海面から金色の光が上ってきてーーーー。

 

その光が巨大な柱のような伸び、天を貫いたーーーー。

 

「っ!」

 

≪なんだぁっ!?≫

 

≪光・・・・?!≫

 

≪どうなってんだっ!?≫

 

「これは・・・・!」

 

「エンタープライズ様・・・・?」

 

「なっ!」

 

「何事だっ!?」

 

カインとトライスクワッドも、ウェールズも、ベルファストも、赤城と加賀も、そしてこの場にいる艦船<KAN-SEN>全員が、その光に目を奪われた。

 

 

 

 

 

 

ー霧崎sideー

 

「ウッフフフフフフ! 予想通りだよ! エンタープライズ!!」

 

「『覚醒』したわね・・・・やはり貴女なのね。“この世界でも、貴女が『鍵』となるのね”・・・・エンタープライズ」

 

霧崎<トレギア>とオブザーバーは、セイレーン艦船の艦橋から光を見つめると、笑みを浮かべた。

 

 

 

 

ーカインsideー

 

天を貫く光の柱の中に、“瞳が金色に光るエンタープライズが宙に浮いていた”。

両手の中指には、『ベムラーリング』と『エレキングリング』を嵌めており、その貌はまるでーーーー感情、心、意思、それらを全て失った、ギャラクトロンMK2と同じ、文字通りの機械となったようだ。

 

「エンタープライズ・・・・? いや、違う・・・・一体、誰だ?」

 

≪あれって、ベルファスト姐さん達がやる〈ノブレス・ドライブ〉か・・・・?≫

 

≪いや、違う気がするが・・・・っ!≫

 

≪っ! さらに海から何か出てくるぞッ!!≫

 

「っ!」

 

エンタープライズ?の後ろから、巨大な水柱を上げて、漆黒の異形が現れた。

 

『フェエエフェフェフェフェっ!!!!』

 

眼と口の位置が逆転した頭部。胴体に浮かぶ赤い目の巨大な髑髏の顔のような模様をし、身体の各所には何本もの触手が生え、両腕も鞭のような触手となり、背中には巨大な黒い翼などが生え、その容姿はまるで、おぞましい悪魔か、禍々しい邪神のようで、人間の啜り泣きにも、薄ら笑いにも聞こえる不気味な鳴き声を発っするその怪獣はーーーー『悪夢魔獣 ナイトファング』である。

 

「なんだっ?! あの怪獣はっ!?」

 

 

 

 

ー加賀sideー

 

「ーーーーっっ!!!」

 

加賀がエンタープライズの目に見据えられた瞬間、突如意識が遠のき、艦載機から落ちていくーーーー。

 

 

 

ー赤城sidー

 

「加賀っ!! ・・・・っ!!」

 

赤城は加賀の方に向かうが、エンタープライズの光が迫り、危険を感じて逃れようとする。

 

 

 

ーカインsideー

 

「これは一体?」

 

「ご主人様っ!!!」

 

「ベル! ウェールズ! 皆を守るんだっ! 急げ!!」

 

「っ! 行くぞベルファスト!」

 

カインの意図を察したウェールズが、ベルファストを連れて離れようとするが。

 

「しかしご主人様が・・・・!」

 

「大丈夫だベル! 僕を信じて!!」

 

「~~~~!! 承知しました!」

 

ベルファストがウェールズと共に離れるのを確認すると、カインは『タイガスパーク』を起動させた。

 

「行くぞタイガ!」

 

≪ああ!≫

 

[カモン!]

 

腰につけた『タイガキーホルダー』を掴み、赤いインナースペースが展開される。

 

「光の勇者! タイガ!!」

 

[ハァアアアアアっ!!]

 

「バディィィィィィィゴーーーーーー!!」

 

[ウルトラマンタイガ!]

 

『シュアッ!!』

 

ウルトラマンタイガがナイトファングに向かっていくと、ウルトラマンタイガとカインーーーー。

アズールレーンもーーーー。

レッドアクシズもーーーー。

エンタープライズの生み出した光に呑み込まれていった。

 

 

 

 

『うわぁあっ!!』

 

『「くぅっ!!」』

 

光が突如消えると、嵐と暴雨が吹き荒れる海に戻ったタイガは、荒れ狂う海の波に足をとられ倒れるが、すぐに起き上がると、ナイトファングが両手を上げて迫ってきた。

 

『ぬぅあっ!』

 

ナイトファン力比べをするタイガ。インナースペースのカインとタイタスとフーマは辺りを見渡す。

 

≪我々は元の空間に戻ってきたのかっ!?≫

 

≪おい! 嬢ちゃん達と姉ちゃん達は何処に行っちまったんだっ!?≫

 

『「っ! 赤城っ! エンタープライズっ!!」』

 

『えっ!?』

 

カインの視線の先に向いたタイガが目を向けると、宙に浮いた赤城とエンタープライズが、暴風雨の中で睨み合っていた。

 

「貴女、何者なの・・・・?」

 

赤城はエンタープライズの身体を使っている“何か”に問いかける。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

エンタープライズ?は金色の瞳を光らせて俯いていた。

 

「・・・・邪魔はさせないわ!」

 

赤城が艤装から真っ赤な炎を迸らせると、炎が龍の形となって、赤城の周りを守るように渦を巻いた。

 

『「まずい! タイガ!!」』

 

『応! 『ストリウムブラスター』!!』

 

「フェエエエエエエ!!!」

 

組み合っていたタイガが力の限りにナイトファングを押し出すと、『ストリウムブラスター』を放ち、ナイトファングを後方に吹き飛ばすと、赤城に向かって走り出す。

 

≪急げタイガ!≫

 

≪間に合えば良いがっ!≫

 

『くっそぉっ!!』

 

『「赤城・・・・っ!」』

 

赤城の名を呟いたカインの意識が・・・・一瞬、途切れた。

 

 

 

 

ー赤城sideー

 

「これが私の愛のあり方よ! 私の愛は時を越え、神ですら凌駕して重桜を! そして姉様を! 指揮官様を!!」

 

赤城が叫ぶと、炎の龍がエンタープライズ?に向かって、その紅蓮の顎を開いた。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

しかし、エンタープライズ?は無機質な貌で艤装の弓を構えると、光の矢が生まれ、両手のリングが禍々しく光ると、エンタープライズ?の左右にリングから緑色と黄色の光が漏れだし、集まり、『宇宙怪獣ベムラー』と『宇宙怪獣エレキング』の幻影となった。

 

ーーーーギュワァァァァァァァ!!

 

ーーーービギュゥゥゥゥゥゥゥ!!

 

『「なにっ!!?」』

 

『あれは、ベムラーとエレキングっ!?』

 

エンタープライズ?が弓を絞ると、矢の光が強くなり、左右のベムラーが青白い炎の玉を、エレキングが電撃を、大顎を開ける龍に向けて、放ったーーーー。

 

「っっ!!!」

 

 

 

 

 

 

ソコは、真っ白な空間に赤い曼珠沙華が咲き乱れる世界。

 

「・・・・ん?・・・・あっ」

 

ソコに呆然と佇む赤城の瞳に、番傘を広げ、自分と良く似た容姿をした女性の後ろ姿が映った。

 

「ぁっ!」

 

赤城はその女性に向けて手を伸ばす。

が、その時ーーーー。

 

『「赤城ーーーーーーーーーーーー!!!!!」』

 

「(っ、指揮官、様・・・・?)」

 

 

 

 

 

 

微睡む意識の中、赤城の光を失いそうになった瞳に、自分に向かってくるウルトラマンタイガが映った。

が、赤城にはその姿が、愛おしい海守トモユキ指揮官の姿に見えた。

 

「(ああ、指揮官様・・・・。ソコに、いたの・・・・ですね・・・・)」

 

身体に電流が流れる光の矢が刺さり、身体を青白い炎に包まれた赤城が、ゆっくりと海に落ちていくと、矢と炎が消えていったーーーー。

 

 

 

ーエンタープライズsideー

 

「・・・・え?」

 

左右の怪獣の幻影が消え、意識を取り戻したエンタープライズが、嵐の海に落ちていく女性ーーーー赤城を見下ろし、近くでウルトラマンタイガが赤城に向かっている姿が視界の端に入った。

 

「ぁっ・・・・あぁっ・・・・!」

 

エンタープライズが落ちていく赤城に手を伸ばすが、赤城は静かに、ポチャンッと静かな音を立てて、嵐の海に沈んでしまった。

 

「あぁ・・・・!」

 

茫然となりながら、エンタープライズは赤城が落ちた海を見つめる。

 

【それはただ、“海が怖いだけなんじゃないか”?】

 

カイン指揮官の言葉が頭にフラッシュバックする。

そして・・・・その問いに応えるように、嵐の空を見上げるとーーーー雨と交じった涙を零しながら呟く。

 

「ーーーーあぁ・・・・そうか・・・・そうだったのか・・・・私は、海が怖いんだ・・・・!」

 

涙がこぼれるようにエンタープライズの意識は、この嵐の海へと落ちる涙のようにーーーー沈んでいった・・・・。

 

 

 

ーカインsideー

 

『赤城さんっ!!』

 

『「赤城・・・・何故、こんな事に・・・・! “俺”はお前に、こんな事を、望んでは・・・・!」』

 

≪カイン指揮官?≫

 

≪どうした兄ちゃん?≫

 

『っ! トモユキ、お前、今・・・・“俺”って・・・・?』

 

『「赤城・・・・。“俺”は、“俺”は・・・・!!」』

 

『フェエエエエエ、プルゥワァアアアアア!!』

 

意識が混濁したように呟くカインだが、背後からナイトファングが頭部の口から、火球『ファングヴォルボール』を吐き出した。

 

『うぁあああああああああっ!!』

 

『「ぐぅあっ!!」』

 

強力な火球を浴びてしまい、タイガは嵐の海に倒れる。

 

『フェエエエエエッ!!!』

 

さらに火球を放ち、大雨であるにも関わらず、その火球の威力も熱量も衰えず、タイガを攻め立てた。

 

『「くぅううううっ!! タイガ! 赤城はどうしたんだっ!!?」』

 

『は? 何を言ってるんだトモユキ! 赤城さんは海に落ちていっちゃっただろう!』

 

『「何っ!?・・・・えっ? どうなっている? 赤城が、嵐の海に落ちていきそうになって、それから・・・・何だ? 記憶がソコから無くなっている??」』

 

≪どうなってンだ?≫

 

≪(・・・・まさか、記憶が戻り始めたのか?)≫

 

『フェエエエエエェェェェェッ!!!』

 

ナイトファングがさらに大きな『ファングヴォルボール』を放ち、タイガがそれを浴びて、後方に吹き飛ぶ。

 

『うあああああああああああああっ!!』

 

吹き飛んだタイガが大きな水飛沫を上げて倒れーーーー。

 

ピコンッ! ピコンッ! ピコンッ! ピコンッ!ピコンッ! ピコンッ!・・・・。

 

カラタイマーが鳴り響き始める。

 

『フェエエエエエ!!』

 

ナイトファングが両腕の鞭を振り、タイガの首に巻き付いた。

 

『ぐぅああああっ!!』

 

タイガが巻き付いた鞭を掴むと、ナイトファングが背中の翼を大きく広げると、タイガごと空の向こうへと飛翔した。

 

『「ま、不味い! エンタープライズっ!!」』

 

カインが茫然と宙で佇むエンタープライズに叫び声をあげるが、エンタープライズはそれに答えず、ただ涙を流して上の空の状態だった。

 

 

 

 

稲妻が迸る暗雲の中、ナイトファングに捕まったタイガが脱出しようと、もがいていた。

 

『この・・・・!』

 

『「タイガ! 荒っぽいやり方をするが、良いかっ!?」』

 

『ああ!』

 

タイガの了承を聞くと、カインはブルレットを召喚し、タイガスパークに読み込ませた。

 

[ブルレット コネクトオン!]

 

『『アクアブラスター』!!』

 

水を纏った光線をゼロ距離から放ち、爆発が起きる。

 

『ぐぁあっ!!』

 

『「うぅっ!!」』

 

ゼロ距離で爆発を浴びて、タイガもダメージを受け、インナースペースのカインにも及んだ。

 

『フェェェェェェ!』

 

が、ナイトファングの耐久力が凄いのか、あまり効いていなかった。

 

『トモユキ! お前の目的が分かったぁ! コイツが離すまで、光線をぶつけまくってやるぜっ!!』

 

『「ああ! まだまだぁっ!!」』

 

[ロッソレット コネクトオン!]

 

『『フレイムブラスター』!!』

 

『フェエエエエエ!!』

 

炎を纏った光線を浴びせ、爆発が起き、ナイトファングの身体が揺れた。

 

『「ぐぅあああ!・・・・くぅ、うぉぉおおおおおおおおおおっっ!!!」』

 

[オーブレット コネクトオン!]

 

『『スプリウムブラスター』!!』

 

水色の光線を受けて、ナイトファングが腕の鞭を弛めたその瞬間ーーーー。

 

『「今だ! タイガッッ!!!!」』

 

『っっっ、セヤッ!!』

 

ボロボロになりながらも、鞭から逃れたタイガは再び光線を放つ。

 

『スト、リウム・・・・ブラスター!!!!』

 

最後に渾身の力を込めた『ストリウムブラスター』を浴びせると、ナイトファングは後方に吹き飛び、暗雲の中に消えていった。

 

『や、やった、ぜ・・・・!』

 

『「タ、タイガ、ヤツは、一時撤退した、だけだ。また、直ぐにーーーー」』

 

『ぅあっ!』

 

言葉を続けようとしたカインだが、カラタイマーの光が消えた瞬間、タイガの身体は赤い光の粒子を撒き散らせながら、その姿がカインへと戻った。

 

「あ、か、身体が、動け、ない・・・・!」

 

ダメージによって、タイガとカインは気を失った。

 

≪カイン指揮官っ! タイガっ! フーマ、我々の力でカイン指揮官を守るのだ!≫

 

≪応よ旦那!≫

 

タイタスとフーマの思念体が光を放出させると、カインの身体が黄色と青色の光に包まれ、暗雲の中を落下していくと、“空にできた大きな亀裂”に、呑み込まれていった・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

そしてここは、夜明けの日が登り始めた海。しかし、その天候は、季節外れがすぎる吹雪となり、海には巨大な氷山が浮かんでいた。

“空の亀裂”から、カイン指揮官が落ちてきて、小さな流氷の上に倒れる。

 

「・・・・ぁ・・・・あ、赤城・・・・! エンター、プライズ・・・・!」

 

薄れ行く意識の中、ここにはいない二人の艦船<KAN-SEN>に思いを馳せながら、ゆっくりと、瞼を閉じた・・・・。

 

その時ーーーー氷山が浮かぶ海の海底で、『金色の光』が漏れ始めていた。

 

 

 

 

 

ー赤城sideー

 

赤城が再び、夢の世界に戻ると、背中を見せる女性、『天城』へと近づき、その肩に手を置いた。

 

「・・・・漸く会えたわ。『天城姉様』・・・・」

 

が、『天城』が振り向くとーーーー顔は何もなかった。

 

「っっっ!!!??」

 

愕然となる赤城の耳に、オブザーバーの声が響いた。

 

 

ーーーーまだ終わってないわよ、赤城。




次回、ボロボロになったカイン。指揮官の行方が不明となったアズールレーン。重鎮赤城を失ったレッドアクシズ。追い討ちをかけるようにエンタープライズとナイトファングが襲い来る。


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【停戦】氷の海

ーウェールズsideー

 

赤城の空間から脱出したアズールレーン艦隊の艦船<KAN-SEN>達は、すっかり日が登り、変貌した光景に愕然となった。

シンシンと降る雪、海には氷山が浮かび、まるで北方連合の領地のような海となっており、空には、虚空に大きな亀裂が幾つも生まれ、その亀裂の中には夜空のような空間が広がっていた。

何人かの艦船<KAN-SEN>達は突然の気温の変化と戦いの疲労で座り込んでいるが、メイド隊などが温かい飲み物や毛布を配っていた。

そんな中、Q・エリザベスを中心に、ロイヤル艦船<KAN-SEN>の重役が会議をしていた。

 

「はい。赤城が展開した特殊空間の崩壊により、この辺りの空間は不安定になっているようです」

 

「これも全てセイレーンの仕業かしら?」

 

「『オロチ計画』と『エンタープライズの起こした謎の現象』。無関係とは思えません」

 

「セイレーンの企みを挫く為にも、重桜を見逃す事はできないわね。・・・・それで、カイン指揮官<下僕>の所在は?」

 

「・・・・ベルファストが捜索に出ていますが、まだ発見には」

 

ウォースパイトの報告に、Q・エリザベスは渋面を作る。

 

「そうーーーー全く、こんな時だから必要だって言うのに・・・・」

 

「・・・・・・・・(指揮官、どうか無事で)」

 

ロイヤル艦船<KAN-SEN>達は全員がカインは無事なのかと不安そうな顔をする。

ウルトラマンタイガに変身し、赤城の空間に現れた異形の怪獣と戦闘に入ったカインの無事を、ウェールズとイラストリアスが祈っていた。

 

 

 

 

 

ーホーネットsideー

 

空母の上から氷山を見ているクリーブランドの姉妹も、この状況に戸惑っていた。

 

「姉貴、何が起こっているのかな?」

 

「そんな事、私にも分からないよ・・・・」

 

その後ろで、ホーネットは姉の異変に誰よりも戸惑っていた。

 

「・・・・何やったんだよ・・・・姉ちゃん」

 

 

ーベルファストsideー

 

そしてその頃、カインとエンタープライズを捜索していたベルファストは、空の空間から落下してくるセイレーンの艦を見ると、小さく呟いた。

 

「・・・・エンタープライズ様。・・・・ご主人様・・・・!」

 

異変が起こったエンタープライズと、行方不明となってしまった最愛の主を探しに戻った。

 

 

 

 

ージャベリンsideー

 

ジャベリンはラフィーと共に、仲間達と合流しようと、吹雪となった氷山の海を渡っていた。あまりの寒さと風力で、髪の毛がカチコチに固まっていた。

 

「ヘクチッ・・・・寒い」

 

「皆とはぐれちゃったね! 早く艦隊と合流しないと・・・・っ!」

 

唯でさえ薄着の二人にはこの寒さは堪える。

と、そこで吹雪が一瞬強まり、目の前の霧が風で吹き抜け、そこから現れたのはーーーー。

 

「っ!」

 

「綾波ちゃん・・・・!」

 

綾波だったーーーー。

 

「・・・・・・・・」

 

綾波は対艦刀をと艤装を構える。

 

「ヘックチッ・・・・!」

 

「あっ・・・・」

 

ラフィーが身を震わせながらくしゃみをすると、綾波は苛立ったように声を発する。

 

「また、そうやって・・・・! どうして戦わないのです!? どういうつもりなんですかっ!? あなた達!?」

 

そんな綾波に、ラフィーはいつも通りの態度で話しかける。

 

「・・・・前にも言った。綾波と友達になりたい」

 

「そうだよ! 私達、綾波ちゃんも友達にーーーー」

 

「敵同士で! 何を言ってるんですかっ!」

 

ジャベリンの言葉を遮るように叫ぶ綾波だが、ラフィーは構わず続ける。

 

「関係ない」

 

「関係あるです! 綾波達は艦だから! 敵と戦うのは当たり前なんです!」

 

「違うよ・・・・!」

 

綾波と言葉を、今度はジャベリンが声を上げて否定した。

 

「私達、そんな単純じゃない!!」

 

「指揮官も、ラフィー達が戦うの、絶対嫌がると思う」

 

「っ! 指揮、官・・・・」

 

カインの、トモユキ指揮官の事をラフィーが言った瞬間、綾波の脳裏にーーーー初めて重桜母港にトモユキ指揮官と二人で向かっている途中、トモユキ指揮官が言った言葉が蘇った。

 

【綾波】

 

【はいです】

 

【お前は、この水平線をどう思っている?】

 

【???】

 

トモユキ指揮官がそう言うと、綾波はキョトンっと、首を傾げた。

 

【どう見るってどういう意味なのです?】

 

【あぁだから、潮風の感触とか、空や海の色とか、そういうの感じてどう思う?】

 

【・・・・綾波は“兵器”なのです。そんなものに感傷を持ったりしないのです】

 

綾波は一瞬逡巡するように顔を俯かせるが、直ぐに顔を上げて、トモユキ指揮官に向かってそう言うと、それを聞いて少し肩を落とす。

 

【つまんない生き方だな・・・・】

 

【つまんない、ですか・・・・?】

 

【ああつまんない生き方だよ。聞いたけど、お前ら艦船<KAN-SEN>って、昔の大戦で活躍した艦船を元に、『メンタルキューブ』から生まれたんだよな?】

 

【はい・・・・】

 

【せっかく人間の身体を手にしたんだからさ。人間の身体を楽しめば良いんだよ】

 

【楽しむ、ですか?】

 

【そう。綾波はご飯を食べて美味しいと思ったか?】

 

【・・・・はいです】

 

トモユキ指揮官の質問に、綾波は少し考えると、肯定するように首肯した。

 

【綺麗な風景を見たとき、綺麗だと思ったか?」

 

【・・・・はいです】

 

【おもいっきり身体を動かして、疲れたって思ったか?】

 

【・・・・はいです】

 

それから指揮官が色々と“ヒトの身体”を得てからの綾波の経験を聞くと、綾波は小さく首肯していた。すると、指揮官はそれを見て小さく口角を上げた。

 

【それで良い。旨い飯を食って美味しいって感じるのも、身体を動かして疲れたと感じるのも、綺麗な風景を見て綺麗と感じるのも、生きている人間だからこそ感じる感覚なんだよ】

 

【・・・・綾波は戦うための存在なのです】

 

【では、お前は何のために戦う? 誰のために戦うんだ?】

 

【・・・・綾波は・・・・綾波は兵器なのです。そんな考え持たないのです】

 

【頭の固いヤツだな。ま、今はそれでいいさ】

 

トモユキ指揮官は、綾波の頭にポンッと手を置いて優しくクリーム色の髪を撫でる。

 

【指揮官・・・・?】

 

【今はまだ分からなくても良いさ。これから学んで行け。お前たち艦船<KAN-SEN>の“可能性”や、内に秘めた“気高さ”をな】

 

【可能性に、気高さ、ですか?】

 

【ああ】

 

それからトモユキ指揮官と重桜母港で過ごしてきた日々は、綾波にとって、どんな宝石や夜空の星よりも燦然と輝くかけがえのない思い出だった。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「綾波ちゃん・・・・」

 

「綾波・・・・」

 

綾波は対艦刀と武装を持っていた手から、力が抜けて、顔を俯かせた。

そして、その瞳からポタポタと、涙が零れ落ちたーーーー。

 

「・・・・えして、です・・・・」

 

「え?」

 

「指揮官を、返して・・・・欲しい、です・・・・!」

 

綾波は、泣きそうな声で、懇願するように言ってきた。

 

「綾波ちゃん・・・・」

 

「っ、あぶない!」

 

ジャベリンが綾波に近づこうとするが、ラフィーが押し出すと、ジャベリンの近くを砲弾が通りすぎ、海面に着弾した。

 

「ガルル! 綾波をいじめんなぁ!!」

 

「指揮官を返せなのだぁっ!!」

 

「っ!」

 

夕立と時雨と雪風が駆けつけた。

 

「待って! 私達戦う気は!」

 

「その手には乗らないのだぁ!」

 

「なにボサッとしてるの! さっさと逃げるわよ!」

 

ジャベリンの言葉を、雪風が遮り、時雨が綾波の手を取ってこの場を去った。

 

「あははは! 勝負は預けておくのだ!」

 

「次会ったら負けないぜ!」

 

「待って! あぅ!」

 

「ジャベリン!」

 

追おうとするジャベリンだが、夕立と雪風が退散しながら放つ砲撃に煽られ、倒れそうになるが、間一髪で誰かに抱き止められた。

 

「大丈夫ですか?」

 

「ベルファストさん・・・・」

 

ベルファストだった。

 

「行きましょう。ここは危険です」

 

「・・・・・・・・・・・・ぁっ」

 

ジャベリンは綾波が去っていった方に目を向けると、視界の端の近くに浮いていた、小さな氷山の上に倒れている、黒い軍服を見つけた。

 

「・・・・指揮官?」

 

「っ! ご主人様!」

 

「指揮官・・・・」

 

ベルファストとラフィーも、ジャベリンの目線に視線を向けると、身体も軍服もボロボロになったーーーーカイン・オーシャン指揮官が、気を失って倒れていた。

 

 

 

 

ーエンタープライズsideー

 

ーーーーかつて世界は、単純だった・・・・。

私達は『戦う為の存在』で、敵は『外からの侵略者』。そして、人類は追い詰められていた。

世界は過酷だったが、戦いに迷いは無かった。

『戦う事』と、『守る事』、その2つは矛盾無く、等しいモノだったーーーー。

けれど・・・・私達を取り巻く世界は、何時からこんなに複雑になってしまったのだろう・・・・。

共通の敵を前に、何故か私達は互いに銃を突き付け合ってーーーー。

 

エンタープライズは真っ暗闇の世界をさ迷っていると、一本の大きな桜の木が、暗闇の世界でその姿を視認できるように、奇妙な光を放っていた。

 

「(私は、何故ーーーー)」

 

エンタープライズは桜を見上げながら、自問を繰り返していた。そんな自分の耳に、幼い女の子達の笑い声が聞こえた。

 

『『クスクスクスクスクスクス・・・・』』

 

ソコに目を向けると、狐面を着けた黒髪の女の子と銀髪の女の子の二人が、手を取り合って笑いながらをあげていた。

エンタープライズがその女の子達に近づくが、二人は消えてしまった。

そして、ため息を混じらせた声が響いてきた。

 

『はぁ・・・・あの子達はまた思い詰めているのね。いつも二人一緒なのに、泣く時は一人ぼっちで・・・・。不器用なのです、二人共。貴女と一緒です』

 

一人の女性がいた。赤城と加賀と同じく、狐の耳と九尾をつけた茶色の長髪をし、重桜の着物をキッチリと着こんだ20代中盤くらいの女性が、男性を膝枕で眠らせながら、片手で男性の頭を撫で、もう片方の手で番傘を広げていた。

 

「・・・・指揮官?」

 

その女性の膝枕で眠っているのはーーーー“カイン・オーシャン指揮官のようだった”。

ようだったっと言うのは、その男性の顔は指揮官なのだが、髪の色は茶髪ではなく黒髪で、肌の色も色黒ではなく白い肌である上に、ロイヤルの黒い軍服ではなく、重桜の白い軍服であった。

 

『先ほど少しだけ目が覚めたのですけど、“何かに阻まれて”、また眠ってしまいましたわ・・・・』

 

「・・・・そこに眠っているのは、指揮官、なのか?」

 

『貴女の知る指揮官様とは、少しだけ違いますけどね・・・・』

 

「なに?」

 

『目の前で友達を殺された哀しみ。殺した相手への怒り。終わらない戦いへと不安。艦船<KAN-SEN>を戦地に向かわせる辛さ。それらがこの御方を眠らせてしまいました・・・・』

 

「・・・・・・・・」

 

『ですが、この御方は弱くありません。・・・・そして、信じているのです』

 

「・・・・何をだ?」

 

『私達艦船<KAN-SEN>の誰しもが持っている、『可能性』と言う名の、内なる奇跡を・・・・』

 

「可能性と言う名の、内なる奇跡・・・・」

 

『そう。『心を得た者』となった私達が持つ無限の可能性。それを信じるからこそ、この御方は戦っているのです』

 

「信じて、いる・・・・?」

 

「繋がっているのです。あの子達も、私達は艦の記憶を宿している。時の彼方の遠い海。数多の想いを乗せて・・・・」

 

女性が桜を見せるように手を伸ばすと、エンタープライズも桜を見上げる。

 

「どうか忘れないで。貴女に宿る、人の願いを・・・・」

 

エンタープライズが再び目を向けると、女性と指揮官によく似た男性は、その姿を消しており、女の子が被っていた狐面が、ゆっくりと沈んでいった。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

エンタープライズは光を失った瞳でそれを見て俯き、

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

そして、狐面を被った銀髪の女の子も、そんなエンタープライズを仮面越しに見据えていたーーーー。

 

 

 

ーカインsideー

 

「(・・・・・・・・・・・・・・・・)」

 

気を失っているカインは、まるで深い海の底に沈んでいった。朦朧とする意識の中、カインは奇妙な感覚を感じた。

 

「(・・・・何だ・・・・海の音、海に生きる生命、そしてーーーー)」

 

『指揮官!』

 

『指揮官・・・・!』

 

『ご主人様!』

 

『お兄ちゃん!』

 

『下僕!』

 

『指揮官様!』

 

『『指揮官!!』』

 

艦船<KAN-SEN>達の声が、鮮明に聞こえた。

 

「(僕は・・・・そうだ、戻らなきゃ・・・・皆が・・・・)」

 

カインは海底に到達すると足をついて立った。水の中だと言うのに、まるで空気があるような感覚だった。

 

「(・・・・・・・・・・・・)」

 

カインの視線の先の海底から亀裂が走り、“金色に輝く光”が漏れ出していた。

 

「(あれは、一体・・・・うっ!?)」

 

亀裂から漏れ出る光が、一層強く光りだし、カインが目を瞑ったその瞬間ーーーー。

 

 

 

 

「かっはぁ!!」

 

『指揮官!(ご主人様!/下僕!)』

 

目を開けたカインは、艦船<KAN-SEN>達に心配そうに見下ろされながら、Q・エリザベスの艦の上で横になり、大量の毛布で身体を包まれていた。

 

「こ、ここは・・・・?」

 

「陛下の艦の上です。ご主人様、何が起こったか、覚えておりますか?」

 

ベルファストの言葉に、カインは記憶を思い返す。

赤城と変貌したエンタープライズの戦い。

赤城がエンタープライズに撃破された事。

ナイトファングとの戦い。

決死の光線技の連続で、満身創痍となった事を。

 

「そうだ・・・・! エンタープライズが、赤城を・・・・!」

 

「エンタープライズ様が・・・・!」

 

驚く艦船<KAN-SEN>達に、カインは悲鳴をあげる身体に鞭打ちながら、上体を起こした。

 

「皆、エンタープライズの異変と、あの黒い怪獣もまた現れるかも知れない、警戒体制を、取るんだ・・・・!」

 

『了解!』

 

指揮官の指示に、アズールレーン艦船<KAN-SEN>達は迅速に行動を起こした。



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【撤退】守りたい仲間の為に

お久しぶりです。


ー重桜sideー

 

「ーーーーはっ!・・・・」

 

気を失っていた加賀が、目を覚ますと、山城が自分を介抱していた。

 

「目を覚ましたぁ「姉様!!」うわぁ!!」

 

山城が皆に声をあげるが、飛び起きた加賀に驚き後ろに転んだ。

 

「加賀先輩! 重傷です、無理はしないでください!」

 

瑞鶴が近づいてきて、加賀を支えた。

 

「・・・・五航戦・・・・私は一体・・・・」

 

周りを見ると、寒さや疲労でぐったりとしていた重桜艦船<KAN-SEN>達がいた。

 

「確か私は、グレイゴーストと戦って・・・・」

 

言葉の途中で、以前赤城に買って貰った髪飾りが落ちてくる。

 

「姉様・・・・? そうだ! 赤城姉様はどうした!?」

 

「っ・・・・それは・・・・」

 

加賀が聞くと、瑞鶴が辛そうな顔を浮かべた。

 

 

そこで、綾波と時雨、夕立と雪風が通りがかると、他の艦船<KAN-SEN>達が不安そうな声と泣き声が聞こえた。

 

「(・・・・指揮官、皆不安で、怖がっているです。こんな時、綾波はどうすればいいのです・・・・?)」

 

綾波は上空の亀裂を見上げながら、ここにいないトモユキ指揮官へと問いかけた。

 

 

瑞鶴に肩を貸して貰いながら、加賀は蒼龍と飛竜、日向と伊勢、扶桑と山城、そして翔鶴。現在重桜の重鎮達と合流し、これからのどうするかを話し合っていた。

 

「もう瑞鶴ったら! 加賀先輩ばっかり構っちゃって! お姉ちゃん寂しい!」

 

「「あはは・・・・」」

 

飛龍と瑞鶴が、翔鶴の言葉に苦笑いを浮かべた。

赤城の行方を知りたい加賀は、そんなじゃれ合いに構わず、蒼龍を見ると、蒼龍は加賀の言葉を予測しているかのように口を開く。

 

「赤城先輩の消息は、未だ不明です」

 

「はぐれてた連中は大体合流したぞ。それでも見つかってないっつー事は・・・・」

 

「やはり、グレイゴーストに・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

伊勢と扶桑の言葉を聞いて、翔鶴は思案するように黙る。

 

「諦めるのはまだ早いですよ! もっと良く探してみないと!」

 

「でも、ノンビリはしてられないぜ。この海域は危険だ。いつまでもいられないぞ・・・・」

 

飛龍が諦めないように言うが、次々と亀裂が生まれる海域に、日向も蒼龍も、訝しそうな視線を向ける。

 

「それと、問題が1つ・・・・」

 

蒼龍の視線の先には、動かなくなった『セイレーンの量産型』を見据えた。

 

 

 

ー高雄sideー

 

その量産型には、高雄と愛宕が、他の艦船<KAN-SEN>を率いて、量産型の様子を調べていた。

 

「量産型セイレーンが、機能停止、ね・・・・」

 

「1隻だけでなく、全艦、か・・・・」

 

高雄は周りの量産型を見据えて呟いた。

 

 

ー瑞鶴sideー

 

「海域の異常と関係あるのか?」

 

「『オロチ』との接続が、途切れたのかもしれません」

 

「『黒いメンタルキューブ』を失ったのは、痛いですね・・・・」

 

「そもそもどうなんですかねぇ? 『オロチ計画』って」

 

一同に向かって、翔鶴がそう言い出した。

 

「翔鶴・・・・?」

 

「元々あの計画って、トモユキ指揮官も難色を示していた物ですしぃ。『黒いメンタルキューブ』の正体も、セイレーンを操る仕組みも、私達詳しく知らされてないですしぃ」

 

「ちょっと、翔鶴。こんな時に・・・・」

 

「赤城先輩の、結界? みたいな術もですけど、秘密が多すぎません? 報告・連絡・相談は大切にしろって、トモユキ指揮官が常に私達に言っていた事ですよぉ? 一航戦の先輩方、何を隠しているですかねぇ?」

 

翔鶴が加賀を探るような視線で見据えた。

 

 

 

 

 

ーカインsideー

 

「へっくちっ! ぶるるる、うぅさむぅ~~!!(タイガ。無事かい?)」

 

≪いっつつ・・・・何とか、な・・・・!≫

 

≪だが、まだ戦闘ができるコンディションではありません≫

 

≪クソッ、一体何がどうなってんだよっ!?≫

 

くしゃみをしたカインに、シリアスがさらに毛布をもってこようと、ダイドーが暖かいコーヒーを持ってこようと走っていくと、カインはひび割れた虚空を見上げながら、タイガの容態を聞く。まだ万全とは言えず、タイタスもフーマも、異常が起きた空を見上げていた。

 

「(エンタープライズ。怪獣リングを持っていたのか・・・・)」

 

≪彼女のあの異常な力は、リングによるものだったのですね≫

 

≪探しに向かったベルファストの姐さんとジャベリン嬢ちゃんとラフィー嬢ちゃんに、なにも起きなければ良いけどよぉ≫

 

 

 

 

ーベルファストsideー

 

ベルファストはジャベリンとラフィーを連れて、エンタープライズの捜索に出ていた。

 

「「・・・・・・・・」」

 

「あの重桜の子を気にしているのですか?」

 

ジャベリンとラフィーにそう言うと、ジャベリンが返答する。

 

「み、見てたんですね・・・・」

 

「はい。助けに入るのが遅れてしまい、申し訳ございません」

 

「・・・・あの、怒らないんですか?」

 

「はい?」

 

「綾波ちゃんは敵で、でも、私達どうしても戦いたくなくて、でも、どうしたら良いのか分からなくて・・・・」

 

敵となってしまったが、それでも戦いたくない。そのジレンマを吐き出すジャベリンに、ベルファストは声を発する。

 

「大いに、悩むべきかと・・・・」

 

「え?」

 

「悩むのです。状況に流されるまま、引き金を引いてはいけません。我々の力は、そんな軽いものではなのです。私達は“戦う為”に生まれてきました。“滅ぼす為”に生まれてきたのではありません」

 

「っ、はい!」

 

「(コクン)」

 

ベルファストの言葉に笑みを浮かべて頷くジャベリンとラフィーだが、吹雪が強くなり、すぐ近くでセイレーンの量産型が沈んでいった。

 

「この周辺は特に危険です。お二方は、艦隊にお戻りください」

 

「ベルファストさんは?」

 

「私は、エンタープライズ様を捜索します。私はメイドです。主であるご主人様から、エンタープライズ様のお目付け役を任された身。エンタープライズ様のお側にいる事こそ、今の私の仕事です」

 

「ラフィーも手伝う」

 

ラフィーが小さく手を上げて言う。

 

「ですが・・・・」

 

「私達も、エンタープライズさんを探します! 皆で指揮官達が待っている艦隊に戻りましょう!」

 

「・・・・・・・・」

 

ジャベリンとラフィーの言葉に、ベルファストは笑みを浮かべた。

 

 

 

 

ー重桜sideー

 

「なんだとっ!? もう一度言ってみろっ!!」

 

「加賀先輩、落ち着いて!」

 

蒼龍に掴み掛かりそうになる加賀を、瑞鶴がおさえる。蒼龍は加賀の剣幕に臆せず、眼鏡をあげながら言葉を並べる。

 

「・・・・現時刻をもって、赤城の捜索を打ち切ります。全艦、速やかにこの海域を離脱。重桜本陣に帰投します」

 

「・・・・くっ、ふざけるな! 赤城は旗艦だぞ! 姉様を置いて帰投などあり得ん!!」

 

瑞鶴から離れ、蒼龍を指差す加賀。蒼龍は冷淡に続ける。

 

「はい、おっしゃる通り。我々は旗艦である赤城を失い、量産型セイレーンも活動を停止しています。艦隊に作戦を遂行する能力はありません。この海域に留まり続ける事は不可能です。赤城一隻の為に、艦隊を危機に晒す訳にはいきません」

 

「~~!! 蒼龍貴様っ!! ぐぅっ!」

 

「ぁっ!」

 

蒼龍に掴みかかろうとする加賀だが、身体の痛みで倒れそうになるのを、瑞鶴が支えた。

 

「ーーーー“アイツ”、ならば・・・・!」

 

『っ!』

 

苦しそうに、絞り出すように加賀が口にした“アイツ”と言う言葉に、その場にいた艦船<KAN-SEN>達が、ぴくりっと、肩を揺らした。

 

「指揮官ならば・・・・絶対に、赤城姉様を、見捨てたりなんか、しない・・・・! 」

 

『・・・・・・・・』

 

加賀の言葉を否定する者はいなかった。確かに、トモユキ指揮官がこの場にいれば、決して赤城の捜索を止めなかっただろう。その意思を曲げなかっただろう。誰一人欠ける事無く、母港に帰る事を、あの人は常に言っていた。

だがーーーー。

 

「・・・・だって、仕方ないじゃないですか。・・・・今は、あの方はいないのですから」

 

「蒼龍姉様・・・・」

 

蒼龍は加賀から目をそらし、人知れず拳をきつく握り締めながら、小さな声でそう言った。その声が聞こえた飛龍も、悲痛な顔の姉を心配した。

 

「「「・・・・・・・・」」」

 

その様子を物影から見ていた綾波と夕立と雪風。

 

「あっ・・・・」

 

そこに、加古がやって来て、アズールレーン艦隊を発見したと報告した。

 

 

 

ーカインsideー

 

「へっくしゅんっとアホタレっ!!(ズズッ)・・・・重桜の主力艦隊が見つかった?」

 

漸く身体が暖まってきたカインと、側に控えるウェールズとクリーブランドとホーネットの元に、ヘレナからの報告が入った。

 

「・・・・やるしかないのかな? 指揮官」

 

クリーブランドが、辛そうな顔でそう言った。本来なら、重桜は戦う相手ではない。しかし、セイレーンの力はあまりに危険であり、このままでは情勢が更に悪化してしまう。

 

「・・・・・・・・」

 

カインは難しい顔を浮かべていた。

 

 

 

ー重桜sideー

 

蒼龍と飛龍が、アズールレーン艦隊との戦闘の準備を進めていた。

 

「ただでは、帰してくれないようですね・・・・」

 

「今の戦力で、正面から戦り合う訳にはいかないわ」

 

「蒼龍姉様は、撤退の指揮をお願いします。アズールレーンは、僕が引き付けます」

 

飛龍が頭に巻いていたハチマキを締める。がーーーー。

 

「いいえ! 殿は私に任せて!」

 

「瑞鶴ッ!?」

 

「後輩にそんな事させられないよ!」

 

「あなたが気にやむ事ないでしょう!?」

 

飛龍と翔鶴が、瑞鶴をひき止める。

 

「翔鶴姉。私ね、加賀先輩の気持ち、痛い程分かるんだ・・・・。私だって、お姉ちゃんが居なくなったら、きっと耐えられないって思うから」

 

瑞鶴の言葉に、翔鶴はふぅ、と息を吐いた。

 

「大丈夫よ瑞鶴。お姉ちゃんはずっと一緒にいるから!」

 

翔鶴も殿を務めるつもりのようで、最早言っても無駄だと感じた蒼龍と飛龍。

 

「もしも無理だと思ったら、降伏をしなさい。アズールレーンには指揮官がいますから、煮たり焼いたりなんかは絶対にしないでしょう」

 

「決して早まらないでよ、二人共」

 

「「(コクン)」」

 

 

 

 

五航戦の二人を、綾波達も一緒に行こうとするがーーーー。

 

「へーきよへーき! こう見えて私だって幸運艦なんだから!」

 

「皆をよろしく頼むわね」

 

「・・・・翔鶴さん」

 

「それに、降伏したフリをして、指揮官に近づいて、隙を見て連れて帰るって事もできるかもしれないしね」

 

「だから綾波。あなたは待っていて。あなたがいる重桜こそ、トモユキ指揮官の帰る場所なんだから!」

 

「瑞鶴さん・・・・」

 

そして、重桜の仲間達が見送る中、翔鶴と瑞鶴は出撃した。

 

 

 

ー綾波sideー

 

それを見て高雄が呟く。

 

「・・・・行ったか」

 

「・・・・どうすれば良いのか、綾波には分からないのです」

 

「綾波・・・・」

 

顔を俯かせる綾波を高雄は心配そうに見つめる。

 

「・・・・でも!」

 

顔をあげた綾波の目には、決意が込められていた。

 

 

ー???sideー

 

氷山の上に隠れていたウェールズが、進んできた五航戦に砲撃を放つが、二人は回避した。

それを確認したウェールズは、自分のいる地点に砲撃が迫っている事を見て回避する。

そして、ウェールズがいた地点に砲撃したのは、

 

超巨大な砲塔を片翼に3基ずつと、巨大な魚雷発射管のようなものを3連装で腰に装備し、腕には飛行甲板と思われる平たい面を持つアームに収めた全身兵器と言わんばかりの重武装をしているセイレーンの上位個体『テスター』だった。その身体には、左肩から右脇腹にまで、大きな刀傷が刻まれていた。かつて重桜との戦闘で付けられた傷だ。

 

『つくづく面白いわね人類って、争いを恐れながら戦う事を選ぶ。度しがたい程に矛盾しているわ』

 

『彼女達は、人の想いと歴史を映し出す鏡。闘争こそ人類の本質よ』

 

『オブザーバー』もそこにいた。

 

『そうーーーー戦いはいつの世も、変わる事はない』

 

嘲笑うような『オブザーバー』に、『テスター』がその触手に絡めている艦船<KAN-SEN>を見据える。

 

『なぁに拾ったの、それ?』

 

『ええ。トレギアが持ってきてくれたの。この子にはまだ役割があるわ』

 

触手に絡めていたのは、気を失っている赤城だった。

 

『エンタープライズのお陰で、『黒いメンタルキューブ』は膨大なデータを獲得したわ。『計画』には十分なエネルギーよ』

 

それを聞いて、『テスター』がニヤリと笑みを浮かべた。

 

『そう、漸くね・・・・』

 

『ええ。〈オロチ〉が目覚めるわ・・・・』

 

 

 

 

ー瑞鶴sideー

 

アズールレーン艦隊と交戦していた五航戦は、二手に別れて、瑞鶴は氷山の隙間から、別ルートを進んでいた。

その時、視界の端に映った氷山の一角に、エンタープライズがいた。

 

「っ! 『グレイゴースト』っ!?」

 

「・・・・・・・・」

 

エンタープライズを何も言わず、何も感じていないように無感情に。その金色に光る瞳を開けると、立っていた氷山が砕け、その中から、『悪夢魔獣 ナイトファング』が現れた。

 

『フェエエフェフェフェフェッッ!!』

 

エンタープライズはナイトファングの頭上に降り立つ。そしてエンタープライズが片手をあげて下ろすとーーーー。

 

『フェエエエエッ!!』

 

ナイトファングが『ファングヴォルボール』を放ち、それが瑞鶴に迫る。

 

「っ!!」

 

「瑞鶴っ!!!」

 

別ルートから駆けつけた翔鶴が、瑞鶴を抱き締めた。

 

 

 

ーカインsideー

 

瑞鶴がエンタープライズを発見するのと同時に、カインは双眼鏡でエンタープライズを見つけ、氷山の中にナイトファングがいるのを確認した。

 

「タイタスっ!!」

 

≪了解!≫

 

タイガはまだ本調子ではなく、ナイトファングに対抗するパワーと頑丈さを持つタイタスを選んだ。

カインはタイガスパークのレバーを動かし起動させる。

 

[カモン!]

 

「力の賢者! タイタス!!」

 

『ヌゥゥゥンッ!! フンッ!』

 

「バディーゴー!!」

 

叫び、腕を思いっきり突き上げると、黄色い光が眩く輝き、カインの身体を包み込む。

 

[ウルトラマンタイタス!]

 

『ヌゥゥンっ!!』

 

七色の光の奔流がマーブルに変化し、その中からウルトラマンタイタスが両腕を振り上げて、五航戦の前に飛び出し、『ファングヴォルボール』を受け止めた。

 

 

ー瑞鶴sideー

 

突然現れた光の巨人ーーーーウルトラマンが、自分達を守るようにナイトファングに立ち塞がった。

 

「「(・・・・・・・・えっ? 指揮官??)」」

 

それを見て翔鶴と瑞鶴は、自分達を庇ったウルトラマンの姿が、海守トモユキ指揮官と重なったーーーー。




『セイレーン・テスター』に傷を負わせたのは、綾波です。本人は覚えていませんが。


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【悪夢】駆け抜けろ、友のために

今回で新たに覚醒が・・・・。


ーカインsideー

 

『ヌゥンッ!』

 

ナイトファングからの攻撃から、五航戦の二人を守ったタイタスは、ナイトファングに向かって構える。

 

『フェ~フェフェ!!』

 

と、そこで、ナイトファングの頭部の角が上がり、巨大な一つ目から紫色の音波が流れた。

 

「うっ!」

 

「あっ!」

 

「なっ!」

 

五航戦はその音波に頭を抑えるが、ウェールズ達は、その音波を聞いてーーーー眠ってしまった。

 

『こ、これは・・・・!』

 

『「な、なんだ、すさまじく、眠い・・・・! み、皆・・・・!!」』

 

カインが全員に連絡を取ろうとすると、インカムから、他の艦船<KAN-SEN>達の声が聞こえた。

 

《・・・・私が、ヨークタウン姉を、守っていたら・・・・!》

 

《私は、まだ、戦える・・・・!》

 

《ハムマンが、ハムマンがヨークタウン姉さんを・・・・!》

 

通信インカムから聞こえる苦しそうな声と、周囲の海域、もっと良く言えば、艦船<KAN-SEN>達から、紫色のオーラが立ち上がり、それがナイトファングの額の目玉に吸収されているようだ。カインは訝しそうな顔になる。

 

『「これは、一体・・・・」』

 

≪トモユキ! アイツが出す音波に、皆は悪夢を見せられているんだ!≫

 

『「っ! なんだってっ?」』

 

『やはりあの怪獣は・・・・!』

 

『「タイタス、知っているのか?」』

 

『はい。奴は怪獣よりも強力な力を有する『魔獣』と言う個体です。名を『悪夢魔獣ナイトファング』。ウワサ程度に聞いてみましたが、悪夢を見させて、その苦しみを自らエネルギーに変換するようです』

 

≪けっ! 胸くそ悪い野郎だぜ・・・・!≫

 

エンタープライズはナイトファングの上に佇み、紫色のオーラを立ち上らせ、ナイトファングの目玉に吸収されていた。

 

『「エンタープライズ。彼女もあの魔獣に悪夢を見せられているのか・・・・?!」』

 

エンタープライズの後ろから、艦載機が大軍でせまり、機関銃や爆撃でタイタスを攻撃する。

 

『ぐぅあっ!!』

 

『「くっ! エンタープライズっ!!」』

 

 

 

 

ーエンタープライズsideー

 

エンタープライズの意識は、炎の海の悪夢に捕らわれていた。

終わることのない戦い。炎に埋め尽くされる海。倒れていく仲間達。

 

「誰か教えてくれ・・・・争いのない日は、果たしてくるのだろうか・・・・?」

 

『その答えは、貴女が一番良く分かっているでしょう?』

 

エンタープライズの問いかけに、オブザーバーが答えた。

エンタープライズは炎に焼かれる仲間達の艦を見て、声を発する。

 

「ああ・・・・そうだな。戦いは、変わる事のない・・・・」

 

ーーーーライズ・・・・。

「・・・・・・・・」

 

ーーーーエンタープライズ・・・・。

 

「・・・・誰だ? この声は・・・・?」

 

ーーーーエンタープライズ!!

 

「・・・・・・・・指揮、官??」

 

 

 

 

ーカインsideー

 

『ぬぅぉおおおお!!』

 

タイタスはナイトファングにショルダータックルを繰り出すと、抑えながら押し出そうとする。

 

『「エンタープライズ! 目を覚ませっ! お前は、こんな風になることを望んでいるのかっ!?」』

 

タイタスの後方では、眠りそうになるのを必死に抵抗する五航戦の姿があった。

 

≪どうやら、艦船<KAN-SEN>の嬢ちゃん達の何人かは、コイツの音波に耐えられるようだな・・・・!≫

 

≪だけど、いつまでもつか分からないぜ!≫

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

エンタープライズは、艦載機を発進させると、五航戦へと飛ばした。

 

『っ、不味い!!』

 

『「くぅっ!! 翔鶴っ!! 瑞鶴っ!! 逃げろーーーーっ!!」』

 

「っ! 指揮官?」

 

「あっ!」

 

指揮官の声が響いた気がして、顔をあげた二人の目の前に、艦載機が爆撃しようとしていた。

 

「お姉ちゃん!!」

 

「瑞鶴っ!」

 

翔鶴を庇おうする瑞鶴は、爆撃の衝撃に備えて目を瞑ろうとした瞬間ーーーー。

 

ドゴォォォオオオオオオンンッ!!

 

近くの氷山が突如崩壊し、その中から、ここにいる筈のない駆逐艦が現れた。

 

「綾波っっ!?」

 

「え・・・・!」

 

 

 

 

ーテスターsideー

 

『疼くわねぇ・・・・!』

 

オブザーバーと共に離れた位置からウルトラマンとナイトファングの戦いを眺めているテスターが、急に自分の身体に刻まれた刀傷をなぞる。

 

『あの子がいるのかしら? 私の身体に傷を付けたあの子が・・・・?』

 

自分の身体に傷を付けた艦船<KAN-SEN>、綾波の存在を感じていた。

 

 

 

 

 

ー綾波sideー

 

綾波は砕け散る氷山の欠片の上を飛びながら、艦載機に向かう。

 

「(どうすれば良いか、綾波には分からないです。でも、これは違うっ!!)」

 

綾波は対艦刀で艦載機を切り捨てた。

 

「嫌なのですっ!!!」

 

切り捨てた艦載機の爆発に、綾波も巻き込まれてしまった。

 

 

 

 

ーエンタープライズsideー

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

エンタープライズは、爆発した艦載機の爆煙の中から落ちていく傷だらけの綾波の姿を捉えた。

 

「・・・・・・・・っっ」

 

その時、金色に光っていた瞳から光が消えて、元に戻っていく。

 

「あぁ、待って・・・・!」

 

正気に戻ったエンタープライズが、綾波に向かって、虚しく手を伸ばすーーーー。

 

 

 

 

ージャベリンsideー

 

「ぁっ!」

 

「・・・・!」

 

ジャベリンとラフィーも、眠りそうになっていたが、綾波が落ちていく姿を見て、眠気が吹き飛んだーーーー。

艤装も失い、ゆっくりと落ちていく綾波、その落下先の空間が砕け、その中に落ちていきそうになる。

 

「行きなさいっ!!」

 

「「はい/(コクン)っ!」」

 

微睡む頭を振るベルファストが叫ぶと、ジャベリンとラフィーは綾波に向かって走り出した。

その時、二人の身体から、金色の光が漏れ出すーーーー。

 

 

ーカインsideー

 

綾波が落ちていく姿を見て、カインの頭に一瞬ノイズが走り、その中から1人の少女の姿が映った。

自分の隣にいつもいてくれた女の子、それはーーーー。

 

『「綾波っ!!」』

 

≪トモユキ! ジャベリンとラフィーがっ!!≫

 

タイタスの中から綾波を見ていたカインは、タイガの言葉で、視界の端に、光が漏れ出ているジャベリンとラフィーが入った。

 

『「ジャベリン・・・・! ラフィー・・・・! ベルから報告を受けていたが・・・・良し。ジャベリン! ラフィー!」』

 

《っ! 指揮官?!》

 

《??》

 

通信で二人に呼び掛けるカイン。

 

「二人とも! 綾波を! 君達の友達を助けろ! それが、君達の・・・・君達だけの『気高さ』だっ!!!」

 

()()/()()()()()()

 

その時、ジャベリンとラフィーの身体から出ている金色の輝きが更に増していった。

 

 

 

ージャベリンsideー

 

「ジャベリン・・・・!」

 

「うん! 今なら・・・・できる気がする!!」

 

身体から溢れる輝きを感じ、二人は叫んだ。

 

「「〈ノブレス・ドライブ〉っ!!」」

 

その瞬間、ジャベリンとラフィーの瞳が金色に煌めき、全身を金色のオーラを纏っていた。

 

 

ーカインsideー

 

≪ジャベリン・・・・! ラフィー・・・・!≫

 

『「ついに扉を開いたか・・・・!」』

 

ナイトファングを抑えているタイタスの中から、タイガとカインが、覚醒した二人を見た。

 

 

 

ーベルファストsideー

 

「お二方・・・・!」

 

ベルファストも満足そうな笑みを浮かべた。

 

 

 

ージャベリンsideー

 

「「・・・・・・・・」」

 

二人は氷山の上を走りながら、冷静に綾波を助けに向かう。

 

「(不思議・・・・。急がなくちゃって思っているのに、頭が凄く落ち着いている)」

 

「(視界良好。障害回避)」

 

二人はこの一分一秒を急がねばならない状況であるにも関わらず、視界が広く、崩れる氷山の何処を走れば良いのか、どう行けば綾波に最短に近づき、助けられるのか、非常に落ち着いた心で、クリアな思考で見ていた。

 

「(ーーーーここだ)ラフィーちゃん」

 

「(コクン)了解」

 

ほんの少し声をかけただけで、ジャベリンもラフィーも、お互いどうするのかを直ぐに察知し、視線を合わせた瞬間、お互いの考えが瞬時に理解できた。

 

「っ!」

 

氷山から飛び降り、空中を飛ぶジャベリンとラフィーはお互いの手を取ると、ジャベリンが空いた片方の手で自分の艤装に付いた錨を投げ、氷山に突き刺すと、まるで振り子のように大きく弧を描いて動き、綾波へと近づく。

 

「(チャンスは一回だけで、一瞬・・・・)」

 

「(でも、できる気がする!)」

 

こんな一か八かの危険な事をやっているのに、二人には、失敗するだなんて思考が、まるで無かった。

綾波に近づき、ラフィーが綾波の手を取った。

 

「あ・・・・っ」

 

「救出成功。任務完了」

 

「綾波ちゃん!!」

 

三人はそのまま遠心力で亀裂から離れ、ジャベリンとラフィーは綾波を連れて、ベルファストのいる地点に着水した。

 

「お二方。お見事です!」

 

「ベルファストさん!」

 

「(グッ)」

 

ベルファストが二人を労い、ジャベリンとラフィーは気を失った綾波を二人で支えながら笑みを浮かべた。

 

 

 

ーエンタープライズsideー

 

「ぁぁ・・・・!」

 

正気に戻ったエンタープライズは思い出したーーーー自分が赤城を撃破してしまった事。力と悪夢に呑まれてしまった事。ジャベリンとラフィーの〈ノブレス・ドライブ〉への覚醒を見て、両膝をついて項垂れた。

 

『フェーッ! フェフェッ!!』

 

ナイトファングが悪夢を放たなくなったエンタープライズを、用済みと云わんばかりに、頭を振るいエンタープライズは振り下ろした。

 

「っ・・・・!」

 

空中に投げ飛ばされたエンタープライズに向けて、ナイトファングは『ファングヴォルボール』を放つ。

 

「(ああ・・・・これは、報いだな・・・・)」

 

自分に迫る炎を見て、エンタープライズは瞼を閉じようとしたーーーーしかし。

 

《エンタープライズっっ!!!!》

 

『フーマ! 任せるぞっ!』

 

『あいよっ!』

 

[ウルトラマンフーマ!]

 

ナイトファングを殴り飛ばしたタイタスはフーマへと変わり、エンタープライズの元へ一瞬で走り、手のひらの上にキャッチした。

 

「・・・・・・・・指揮官?」

 

そこでフーマを見上げたエンタープライズは、フーマの姿が、カイン指揮官と重なったかのように見えてしまった。

が、そこで意識を失い、眠ってしまった。

 

 

 

ーカインsideー

 

エンタープライズをその手で受け止め、『ファングヴォルボール』を回避したフーマは、ベルファスト達がいる地点に優しく下ろし、エンタープライズをベルファストに渡した。

 

『フェ~ッ!』

 

ナイトファングが再び『ファングヴォルボール』をフーマの背中に放ち、フーマはそれを受けた。

 

『ぐぅああああっ!!』

 

「「「ウルトラマンっ!!」」」

 

攻撃を受けたフーマにジャベリン達が声を張り上げる。

 

『「つぅ、すまないフーマ!大丈夫かっ!?」』

 

『た、大した事ねぇ・・・・!』

 

フーマがジャベリン達から高速で離れるが、ナイトファングは腕の触手を鞭のようにしならせると、フーマの首に巻き付かせた。

 

『ぐぅあああああっ!!』

 

『「フーマ・・・・! 『ビクトリーレット』をーーーー」』

 

≪トモユキ! ヤツの額がっ!!≫

 

「っ!」

 

カインが目を向けると、ナイトファングの額の目玉から音波が放たれる。

 

『「うわぁっ!」』

 

『うぁぁっ!』

 

≪しまった!≫

 

≪ぐぅあっ!!≫

 

カインとフーマ、タイタスとタイガも、ナイトファングの悪魔を見せる音波を受けてしまった。

 

『「あ、あぁ! 赤城・・・・! 僕は、俺は・・・・! 何だ、あの怪獣は? 『チビスケ』? えっ? 『チビスケ』って何なんだ・・・・?」』

 

『『ゲルグ』・・・・! 俺が、俺が選らばれたせいで、お前は・・・・!!』

 

 

『す、すまない、『マティア』・・・・! あの時、私が躊躇しなければ・・・・!!』

 

『あ、あぁっ! あああああああああっ!!』

 

カインは“海守トモユキとしての記憶”と混濁し。

フーマとタイタスは、かつて死なせてしまった友の記憶が悪夢として甦り。

タイガは仲間のタイタスとフーマーーーーそして自分が、トレギアになす術もなく殺された記憶が甦り、苦しんでいた。

 

ーーーーピコン! ピコン! ピコン! ピコン!・・・・。

 

『フェッフェッフェッフェッ!』

 

カラータイマーが鳴り響いたフーマに、ナイトファングが『ファングヴォルボール』を次々と放ち、フーマは後ずさる。

 

『ぐあああああああっ!!』

 

と、その時・・・・。

 

ーーーーベゴッ!

 

『うゎあっ!!』

 

ーーーーザバァアアアアアアアアンン!!

 

突如、フーマの足元が大きな海溝だったのか、フーマは足を踏み外し、海底へと沈んでいったーーーー。

 

 

 

ーベルファストsideー

 

「っ! ウルトラマンが・・・・!」

 

ベルファスト達も、フーマが沈んでいく姿を見た。

 

「・・・・ラフィーちゃん」

 

「(コクン)」

 

ジャベリンがラフィーに話しかけると、ラフィーも理解を示すように頷くと、二人は走り出そうとした。

 

「お二方・・・・!」

 

「ベルファストさん。綾波ちゃんとエンタープライズさんをお願いします」

 

「今のラフィー達なら、艦隊の皆が逃げられるまでの時間稼ぎができる・・・・」

 

「しかし、二人だけで戦わせる訳には参りません」

 

「大丈夫です。ウルトラマンさんも、きっと戻ってきてくれます」

 

「ラフィー達、信じてる・・・・」

 

ジャベリンとラフィーの目には、死ぬ気など全くない、ウルトラマンが戻ってくると、信じていると、目で言っていた。

ベルファストと、肩を竦めると、綾波とエンタープライズを抱えて、艦隊のいる方角を向く。

 

「ご無理を為さらないようお願いします。私も仲間を連れて直ぐに戻ってきます」

 

「はい!」

 

「了解」

 

ベルファストが走り出すと、ジャベリンとラフィーは、五航戦へと向かうナイトファングへと、駆け出した。




ジャベリンとラフィーが覚醒。
そして次回、タイガが新たな姿に!


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【光輝】 輝きの力をその手に!

新年、あけましておめでとうございます! 今年もよろしくお願いいたします。

そして新年早々、タイガがパワーアップ!


ーカインsideー

 

フーマはそのまま海溝に沈み、ゆっくりと海底へと落ちていく。

 

ーーーーピコン! ピコン! ピコン!・・・・。

 

途中、カラータイマーが鳴り終わると、フーマの姿はカインに戻ってしまった。カインの身体は、『タイガスパーク』から放たれる光に包まれ、水圧に潰れる事なく沈んでいった。

 

「(・・・・・・・・僕は・・・・そうか、カインの記憶と・・・・海守トモユキの記憶が、混濁したのか・・・・身体が、言う事を聞いてくれない、このまま、死ぬのか・・・・?)」

 

カインの脳裏に、アズールレーンの艦船<KAN-SEN>達の顔が浮かんだ。

 

「(エンタープライズ・・・・ジャベリン・・・・ラフィー・・・・クリーブランド・・・・ホーネット・・・・陛下・・・・ウォースパイト・・・・ウェールズ・・・・フッド・・・・イラストリアス・・・・ユニコーン・・・・アークロイヤル・・・・メイド隊の皆・・・・・・・・・・・・ベル・・・・!)」

 

沈み行くカインの全神経が、全感覚が、“何か”を感じた。

 

「(何だ?・・・・この感覚は・・・・?)」

 

海の流れ、ソコに生きる生命の息吹き、海底の大地のう唸り、吹き上がる空気の動きーーーー。

 

「(感じる・・・・この海のーーーーこの星の自身の生命を感じる)」

 

カインは海の中で瞼を開けると、暗い深海であるはずなのに、その視界は明るく、海底から金色の光が漏れ出て、その上に何とーーーーオーロラが浮かんでいたのが見えた。

 

「(あそこか・・・・)」

 

カインはゆっくりと、その歩を進めていくと、海底の大地から漏れ出る光に触れたその時、オーロラが集まり、光の剣になり、カインに近づき、カインはその手に取った。

 

「(・・・・これは、この星のパワー、なのか?)」

 

≪ぐぅっ、あ、あぁ・・・・!≫

 

≪ぬぅっ! うぅ・・・・っ!≫

 

≪うぁっ! ぉお・・・・!≫

 

悪夢に苦しむタイガ達を見て、カインは静かに、しかし、力強い声で呼び掛ける。

 

「(・・・・タイガ)」

 

≪っ! トモ、ユキ・・・・≫

 

「(・・・・タイタス)」

 

≪カイン、指揮官、殿・・・・≫

 

「(・・・・フーマ)」

 

≪に、にいちゃん・・・・≫

 

「(落ち着くんだ皆・・・・。皆が見ているのは、ナイトファングが見せている悪夢、幻想に過ぎない。まだ戦いは続いている。こんな所で、悪夢にうなされている場合じゃないぞ! 目を覚ませ、ウルトラマン! 立ち上がれ、トライスクワッド!!)」

 

カインが手にした光の剣を掲げると、『タイガキーホルダー』が点滅する。

 

≪この光・・・・俺の、光の力と共鳴しているのか・・・・?≫

 

光の剣はその輝きを強め、『タイガキーホルダー』と一体化すると、キーホルダーは一回り大きくなり、タイガの顔の左右に、青と黄色の水晶が付いていた。

 

「(この星のパワーと、太陽のパワーが融合した!)」

 

≪トモユキ! 力がみなぎってくるぞ!≫

 

「(この新たな力で、悪夢を討つ!!)」

 

カインは『タイガスパーク』を起動させた。

 

[カモン!]

 

そして、新たな形となった『フォトンアースキーホルダー』を手に取り、左右の水晶に順に翳した。

 

[アース!][シャイン!]

 

「(輝きの力を手に!)」

 

キーホルダーを握ると、上部が二又に開き、光輝く。

 

≪はぁぁぁぁぁっ!!≫

 

金と銀と黒がメインとなり、タイガの身体へ脚から順に鎧が装着されていく、その鎧は、荘厳な姿であり、頭部のウルトラホーンも金色に変化し大振りになった。

 

「バディーーーーゴー!」

 

[ウルトラマンタイガ フォトンアース]

 

『シュアッ!!』

 

 

 

ージャベリンsideー

 

「っ!」

 

『フェフェフェ!!』

 

ラフィーは、火球を放つナイトファングの攻撃を軽やかに回避しながら、その巨体に機銃で光の弾丸を放ち、光の砲撃で攻撃する。

 

「えーーーーい!!」

 

『フェーーーーィ!!』

 

ジャベリンも砲撃しながら、ナイトファングに自前の槍を投擲して腕の触手を貫いた。

 

「っ、ジャベリン・・・・!」

 

「っ! ありがとうラフィーちゃん!」

 

落ちていく槍を掴んだラフィーがジャベリンに向けて投げると、ジャベリンはソレを難なく掴み、再び交戦を始めた。

しかし、足止めはできても、倒す事はできない。自分達では決定力に欠けているのだ。ベルファストが他の艦船<KAN-SEN>の皆、できれば〈ノブレス・ドライブ〉ができる子達が後何人かいれば、どうにかなるかも知れないが、それまで持ちこたえるしかない。

その時ーーーーウルトラマンが沈んだ海面から、金色の光が広がっていった。

 

「あれは?」

 

「ん?」

 

『・・・・・・・・』

 

「「えっ?」」

 

ジャベリンとラフィー、ナイトファングもそれに気づいて戦いを中断し、五航戦の二人もそこに目を向けると・・・・。

 

ーーーーザパァアアアアアアアアアンン!!

 

海面から、荘厳な鎧を纏った、ウルトラマンタイガが現れ、着水したのだ。

 

「ウルトラマンさんっ!? あれ、何か鎧を付けてる?」

 

「金ぴか、ラフィー達とお揃い・・・・」

 

「「・・・・・・・・」」

 

五航戦も、新たな姿のウルトラマンに目を奪われた。

 

 

 

ーカインsideー

 

立ち上がったタイガ・フォトンアースは、その荘厳な姿を見せる。

 

『フッ・・・・ハッ!』

 

『ヒュルルル!』

 

構えるタイガ・フォトンアースに、『ファングヴォルボール』を放つ。

がーーーー。

 

『フンッ! ハァッ!』

 

タイガ・フォトンアースは、迫る火球を光を纏った拳で殴り返して、ナイトファングは自らの火球を受けてダメージを負う。。

 

『ヒュルルル! フェェェェェ!!』

 

ナイトファングが迫り、触手の腕をタイガ・フォトンアースに振るうが、

 

『フンッ! フッ! ハッ! ツアッ!!』

 

その腕を受け止め、受け流し、カウンターで攻撃し、腕を絡めて動きを封じる。

 

『フェェェェェ!!』

 

ナイトファングが額の目玉で再び音波を放とうとした。

 

『タァアアアアッ!!』

 

ーーーードォォンッ!

 

『フェェェェ!!』

 

が、タイガ・フォトンアースは後ろ回し蹴りで目玉を逆に粉砕した。

 

 

 

ーアズールレーンsideー

 

『っ!!』

 

「皆様っ!」

 

ナイトファングの目玉が破壊されたのと同時に、悪夢を見せられていた艦船<KAN-SEN>達が目を覚まし、エンタープライズと綾波を抱えてきたベルファストが声を上げる。

 

 

 

ー重桜sideー

 

「っ! 姉様!!」

 

「あら、漸くお目覚め?」

 

撤退していたレッドアクシズ艦船<KAN-SEN>達も、ナイトファングの音波で悪夢を見せられていたようだ。

加賀が起き上がると、自分の近くに、遠くで行われているタイガ・フォトンアースとナイトファングの戦いを見ていたオイゲンがいた。

 

「貴様。一体何が起こった・・・・?」

 

「ふん。あの気持ちの悪い怪獣が、不愉快な悪夢を見せていたのよ・・・・」

 

ナイトファングを鋭く睨むオイゲンのその目は、強い怒りに満ちているようだった。

 

 

 

 

ータイガsideー

 

『ふっ! たぁ! はぁあああああああ!!!』

 

さらにタイガ・フォトンアースは拳を次々と繰り出し、ナイトファングを押していく。

 

『フェェェェ!!』

 

ナイトファングが頭の角で突進してくるが、ソレを受け止め、殴り上げ、腹部を蹴り、ナイトファングを追い詰めていく。

 

『キュルルル!!』

 

ダメージによって動きが緩慢になったナイトファングに、タイガ・フォトンアースは必殺技を放つーーーー。

大気中の光エネルギーを体内に吸収し、周りの景色が薄暗くなり、オーロラが浮かび、そして身体が金色に輝く。

そしてーーーー『ストリウムブリスター』を放つように構えると、腕から一気に発射した。

 

『『オーラムストリウム』ッッ!!!』

 

腕から放たれる金色の光エネルギーが、ナイトファングの身体を砕いていくーーーー。

 

『キュアアアアアアアアアアアアッッ!』

 

ナイトファングは光エネルギーに満ちて倒れ・・・・。

 

ーーーーチュドォオオオオオオオオオオオンンッ!!

 

大爆散した。

そして、爆発の中から、紫色の光がタイガのインナースペースにいるカインの元に行き、カインが手に取ると、『ナイトファングリング』がそこにあった。

 

≪『怪獣リング』、ですね・・・・≫

 

≪にいちゃん、どうするよコレ?≫

 

『「エンタープライズが可笑しくなったのはこれが原因でもある。迂闊な事はできないな・・・・」』

 

『(だが、この力を使いこなせれば、俺はーーーー)』

 

カインとタイタスとフーマは、完全に怪獣リングを懐疑的に見ていたが、タイガは違っていたようだ。

 

 

 

ー霧崎sideー

 

『あら、随分とパワーアップしたんじゃない? あのボウヤ』

 

「・・・・・・・・」

 

オブサーバーの言葉に、いつの間にか現れた霧崎は、ニンマリと笑みを浮かべ、トレギアアイを展開し変身した。

 

 

 

 

ータイガsideー

 

『フフフフフ・・・・』

 

『っ! トレギア!!』

 

爆発の煙の中から、トレギアが現れた。

 

『おいで、ボウヤ・・・・』

 

『オオオオ!!』

 

トレギアに迫るタイガは、肉弾戦を繰り広げる。

 

『ほお、やるねぇ』

 

以前よりも腕を上げたタイガに、感嘆の声を上げる。

 

『ハァアアア!!』

 

『ハァッ!!』

 

タイガ・フォトンアースの拳とトレギアの闇のエネルギーを纏った拳がクロスカウンターして、お互いの頬に入った。

 

『くっ!』

 

『良いねぇ、センスあるぞ。流石はタロウの息子だ・・・・!』

 

『っ! 俺は、タイガだっ!! トモユキ! 怪獣リングだっ!!』

 

『「しかしタイガ・・・・!」』

 

『早くしろっ!!』

 

『「ーーーー分かった!」』

 

[カモン! ナイトファングリング! エンゲージ!]

 

『キュルルル!』

 

『ふっ! 『ファングウェーブ』!!』

 

紫色の音波の弾を放つが、トレギアは霞のように姿を消し、ソレを回避した。

 

『また会おうね』

 

それだけを残し、トレギアは消えた。

 

『くっ・・・・!』

 

タイガ・フォトンアースは悔しそうな声を上げると、近くにいたジャベリンとラフィー、翔鶴と瑞鶴を見据えた。

 

「「(グッ!)」」

 

「「・・・・・・・・」」

 

ジャベリンとラフィーはサムズアップをして、艦隊に戻ろうとし、翔鶴と瑞鶴は呆然とタイガ・フォトンアースを見上げた。

 

『ウン・・・・シュワッ!!』

 

タイガ・フォトンアースは無事なのを確認すると頷き、空高く飛び去っていったーーーー。

 

 

 

ー霧崎sideー

 

『割りとあっさり引き上げたのね?』

 

オブザーバーがタロットカードをシャッフルする霧崎にそう言うと、霧崎はニヤリと笑みを浮かべる。

 

「もう間も無くさ。面白くなるのは、ね・・・・」

 

『ウフフフ。1枚、いいかしら?』

 

「どうぞ」

 

オブザーバーが霧崎のタロットカードの上から1枚引くと、そこにはーーーー『悪魔』のカードだった。

 

「新たなパワー。その力に酔いしれろ。今の内に」

 

そして霧崎は、タロットカードから、『死神』のカードを引き当てた。

これから起きる不吉を暗示するかのようにーーーー。

 

 

 

 

ーカインsideー

 

そして、夕暮れ。

変身を解除したカインは、レッドアクシズ艦隊が撤退したのを知り、アズールレーン艦隊と共に、異変が起こった海域から離れ、母港に戻ろうとしていた。

 

「・・・・・・・・」

 

ウェールズの艦の船首で、目の前の水平線を見据えているカインは、これからの事を考えていた。

既にこの海域の異変は上層部に伝え、暫くは様子見をする事になるしかない、とーーーー。

 

「指揮官・・・・」

 

「ウェールズか」

 

ウェールズがカインに声をかけると、カインは振り向いた。

 

「エンタープライズと・・・・綾波の方は?」

 

「エンタープライズは現在眠っている。ホーネット達とベルファストが付いているわ。綾波の方は、ジャベリンとラフィーが付いているわ。・・・・それと、ベルファストから、エンタープライズの懐から、これを見つけたそうよ」

 

ウェールズが取り出したのは、『ベムラーリング』と『エレキングリング』だった。カインはソレを受けとると、鋭い目を向ける。

 

「・・・・ウェールズ。これがエンタープライズがおかしくなった要因の一つだと思う。これは僕が預かる。他の艦船<KAN-SEN>の皆には、これに関しての事を話すのは禁止にしておいてくれ」

 

「はっ。・・・・捕獲した重桜の駆逐艦の方はどうする?」

 

「・・・・彼女は、僕がジャベリンとラフィーに救助しろと命令したんだ。捕虜として扱って、手荒な扱いをしないようにしておいてくれよ。まぁ、一応の監視を付けておいてくれ」

 

「了解」

 

ウェールズの返事を聞いたカインが、再び水平線に視線を戻すとーーーー背中に突然、フニョン! と、柔らかくも弾力に満ちた感触が広がった。

 

「(ぬおっ! ベルファスト級か愛宕級!!)」

 

さらに背中から手が伸びてきて、カインを抱き締めるように力を込められた。

 

「・・・・良かった・・・・あなたが無事で・・・・」

 

「っ・・・・心配をかけたね、ウェールズ」

 

それから暫く、ウェールズに抱き締められると、ウェールズは少々名残惜しそうに離れ、他の艦船<KAN-SEN>達の方へと向かった。

 

「・・・・・・・・」

 

カインは、ナイトファングに見せられた悪魔、おそらくそれが、重桜艦隊指揮官 海守トモユキ大佐の記憶であると、推察した。

 

「(あれが、海守トモユキの記憶か・・・・。もし、彼の記憶が蘇ったら、僕は、カイン・オーシャンはーーーーどうなってしまうのだろうか・・・・?)」

 

水平線に沈み行く夕日を見つめて、カインは静かに物思いに耽っていた。

 

《(・・・・・・・・『怪獣リング』。あれをもっと集めれば、俺はトレギア・・・・!!!)》

 

そしてタイガの心にも、暗い暗雲が立ち込め初めていた。

 

 




トモユキとしての記憶が覚醒を始め、綾波がついにアズールレーンへ。エンタープライズのこれから。力に固執するようになるタイガ。そして暗躍するトレギア。
これからどうなっていくのか!?


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【捕虜】綾波、アズールレーン母港にて

ーカインsideー

 

「うっ、くぅっ・・・・ああぁっ・・・・はっ!!」

 

時刻は深夜2時。

アズールレーン母港の指揮官の寝室で眠っていたカインは、ベッドから飛び起きた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・・」

 

荒い息を吐き、寝汗をかいていた。

 

≪指揮官殿、大丈夫ですか?≫

 

≪スゲぇ、うなされていたぜ≫

 

「ああ、すまない・・・・(なんだ、黒い影に襲われる、妙な夢をこの処見るようになったな・・・・)」

 

カインは、ベットの近くのテーブルの上に置かれたリング収納ケース(明石の店から買った)に収められた、『怪獣リング』を見据える。

 

「(・・・・まさか、僕もエンタープライズのように、暴走するのか?)・・・・ん? タイガ?」

 

≪・・・・・・・・≫

 

思念体のタイガが、バルコニーの手すりに座りながら夜空を見上げていた。

 

「・・・・どうしたタイガ?」

 

≪あっ、トモユキ・・・・≫

 

「何か、悩みが有るなら聞くよ?」

 

≪・・・・俺、もっと強くなりたい≫

 

悩みながらタイガが発した言葉に、カインは静かに聞きながら口を開く。

 

「・・・・『フォトンアース』の力を得て、君は強くなったと思うけど?」

 

≪いや、それだけじゃ多分足りない・・・・。トレギアを倒すにはーーーー父さんを越えるには・・・・≫

 

「君の父さん、確かウルトラマンタロウって言ってたね?」

 

≪ああ。俺はいつも、父さんと比べられてきた。いつも、『ウルトラマンタロウの息子』扱いを受けてきた。だから、俺はーーーー≫

 

英雄の父を持つと、息子は周りの一方的な期待や嫉妬を受けてくる。

タイガはその事に辟易としていたのだ。

 

「タイガ。僕は君のお父さんがどんなに凄いウルトラマンだったのか分からないから、そんなに偉そうに言えないけど・・・・タイガはタイガ。僕にとって、それだけで十分だよ」

 

≪俺は俺?≫

 

「そう。あるがままのタイガで、ウルトラマンとして戦えば良いんだ。だからもし、タイガに何かあったら、必ず手を伸ばして、掴んで、助け出してみせるよ」

 

≪・・・・俺はウルトラマンだ。そんな事起きないよ。ほら、さっさと寝ようぜ≫

 

タイガは照れ臭そうに部屋に戻ると、カインは笑みを浮かべながら、部屋に戻っていった。

 

 

 

 

ー綾波sideー

 

「・・・・・・・・」

 

朝日の陽光で目を覚ました綾波が身体を起こすと、頭や腕のアチコチに包帯が巻かれて、ベッドの上にいた。

 

「???」

 

綾波は訝しげに治療を受けた身体を見て、周りを見ると、明らかに重桜ではないと推察した。

 

「逃げようとしても無駄だぞ」

 

「っ!」

 

綾波が声がする方に目を向けると、部屋の扉に、ロイヤルの服を黒いショートヘアーで片目が隠れた、艶やかな雰囲気に、スレンダーながらも、出るところは出て、引っ込むところは引っ込んだ攻撃的なプロポーションをした麗人風の女性『ロイヤル所属 空母 アークロイヤル』が、林檎が入った紙袋を抱えて立っていた。

 

「見張りが付いている。何も捕って喰ったりはしないさ」

 

「・・・・ここは、アズールレーンの基地ですか?」

 

「流石に詳しいな。良く調べている」

 

アークロイヤルは、紙袋の中の林檎を一つ、綾波に投げ渡すと、綾波は受け取った。

 

「戦いが終わった後、黒い怪獣が現れ、ソイツはウルトラマンが撃破したが、気絶したお前を我々の仲間が運んだ。閣下・・・・指揮官からも、お前の事を丁重に扱うように指示をされているしな」

 

「(指揮官が・・・・)あの二人は、どうしてるんですか?」

 

「気になるのか? ジャベリンとラフィーが?」

 

「・・・・・・・・」

 

綾波は、林檎に映る自分の顔を見つめた。

 

 

 

 

ーカインsideー

 

植えた桜が花を咲かせた母港の、指揮官の執務室にて、綾波を助けたジャベリンとラフィーに対してお叱りが始まった。

 

「全く! 無茶をしてくれたよ!」

 

「敵を助ける為に無謀な突貫。ま、そのお陰で二人とも、〈ノブレス・ドライブ〉を発現させる事ができたけど、あまり褒められた事じゃないね・・・・」

 

クリーブランドとホーネットが、難しい顔でジャベリンとラフィーを睨む。

 

「ご、ごめんなさい・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

「っ、お待ち下さい! お二人をけしかけたのは私です! 責は、このベルファストにあります!」

 

二人を弁護するベルファストだが、指揮官の席に座るカインが手を上げて制した。

 

「ベルファスト。綾波を助けろと命じたのは、指揮官であるこの僕だ。ジャベリンもラフィーも、その命令を実行したに過ぎない。責を感じる事はない」

 

「しかし指揮官。確かに結果として、ジャベリンもそうですが、ラフィーもユニオン初の〈ノブレス・ドライブ〉を発現させました。これから二人には、艦隊の主力部隊に入ってもらう事になります。しかし、このままでは“示し”がつかないでしょう?」

 

「ふむ。ウェールズの言う事も、一理あるか・・・・」

 

「「・・・・・・・・」」

 

ジャベリンが顔を俯かせ、ラフィーはいつも通りの無表情だったが、どこか険しい目をしていた。

カインが顎に手を当てて考えるそぶりをすると、二人に向けて口を開いた。

 

「では、ジャベリンならびにラフィーの両名には、懲罰としてーーーー『捕虜の監視任務』を与える!」

 

「「えっ?」」

 

「捕虜は丁寧に扱うのが基本だからねぇ」

 

肩を揺らす二人に、クリーブランドが人差し指を立てて説明する。

 

「それって・・・・!」

 

「任せたよ、二人とも」

 

「「はい!/うん・・・・!」」

 

笑みを浮かべるカインの言葉に、二人は笑みを浮かべて答えた。

 

 

 

 

 

 

 

ジャベリンとラフィーを退室させると、カインは応接用のソファの上座に座り、左右のソファに座るクリーブランドとホーネット、ウェールズとお茶会をし、笑みを浮かべたベルファストが煎れた紅茶を一口飲んだ。

 

「少々、寛大だと思いますが?」

 

「甘い、と言いたいのかい『PoW』?」

 

「・・・・少し、な////」

 

ウェールズの言葉に、カインは笑みを浮かべながら、ウェールズの愛称を呼んでそう答えた。愛称で久しぶりに呼ばれ、少々顔を赤らめるウェールズ。

 

「〈ノブレス・ドライブ〉を発現させた二人に、ちょっとした恩賞さ。それに、ラフィーのお陰で一つの可能性が実証できたしね」

 

「・・・・我々ロイヤル艦船<KAN-SEN>だけでなく、ユニオン艦船<KAN-SEN>も、〈ノブレス・ドライブ〉を発現させる事ができる、か?」

 

「ああ。それが証明されたんだ。これっくらいは許されても良いだろう」

 

「私も良いと思うよ」

 

「そうそう♪ コーヒーも紅茶も人生も、甘い方が良いのさ♪」

 

カインの言葉に同意するクリーブランドもホーネットは、先ほどの険しい顔が嘘のような顔となっていた。

 

「・・・・しかし、問題はコレらだな」

 

ウェールズが、お菓子が置かれたテーブルの上にさらに、『黒いメンタルキューブ』と、『怪獣リング』が置かれていた。

その時、キューブが今までにない、禍々しいオーラを放っていた。

 

「っ! キューブがっ!」

 

「あの戦い以降、キューブは異常な反応を示しています。これが何を意味するのかまでは、分かりませんが」

 

クリーブランドとホーネットも、キューブに目を見開き、ベルファストが説明した。

 

「『黒いメンタルキューブ』はオロチ計画の『鍵』。セイレーンの企みである事は間違いない。それに、この怪獣の指輪も、何かしらの関連があるだろう」

 

「これって、やっぱり姉ちゃんと関係があるよね?」

 

エンタープライズに起きた暴走とも言える異常を思いだし、沈黙が部屋を満たした。

カインがベルファストに向けて声を発する。

 

「ベル。エンタープライズの様子はどうだい?」

 

「身体と艤装の検査を行っていますが、今のところ、異常は見つかっておりません」

 

「凄い艦だとは思っていたけど、さ・・・・あの時のエンタープライズは、何て言うか、怖かった。まるで、そうーーーー前に戦った、機械の怪獣のようだったよ」

 

冷酷に、無機質に、ただ相手を殲滅するだけの殺戮の機械のような雰囲気、それをクリーブランドは、以前に遭遇した『ギャラクロンMK2』と重ねた。

 

「・・・・気になる事があるのはもう一つ、“重桜の今後の動き”、だね」

 

「『オロチ計画』を進めていた赤城が行方知れずになった今、計画に協力していた加賀が動くのでしょうか?」

 

「そうなると、厄介になるかも知れないな」

 

「厄介な事って?」

 

「追い詰められた加賀が、暴走するかも知れないって事だよ・・・・」

 

カインは、一抹の不安を感じていた。

と、そこで、グリーブランドとホーネットの通信機が鳴り響き、二人が応答した。

 

「はいこちらグリーブランド。あ、モントピリア、どうしたの?・・・・えっ?・・・・あっ!」

 

「あ、ボルチモア? どうしたの?・・・・えっ?・・・・あっ!」

 

二人は同時に声を上げると、同時に肩をビクンと揺らした。

 

「ああ、今日だったけ? ご、ゴメンすぐ行くから!」

 

「えぇっ! ハムマンが参加を断った!? ・・・・OK! 選手の方はこっちで探してみるよ!」

 

二人は同時に通信を切ると、カインに向き直り。

 

「ゴメン指揮官! ちょっと用事が出来ちゃって!」

 

「ヘイ指揮官! ちょっとお願いがあるんだけど!」

 

「「・・・・・・・・・・・・」」

 

何やら嫌な予感を感じるカインとウェールズだった。

 

 

 

 

ーエンタープライズsideー

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

そしてエンタープライズは、小島に建てられた塔に立ち、物思いに耽っていた。

 

「こんな所にいた!」

 

「?」

 

下を見ると、艤装をまとったヴェスタルが、自分に向けて声を発していた。

 

「まだ検査は終わってないのよ! 大人しくしてなくっちゃ!」

 

「・・・・ああ・・・・すまない・・・・」

 

「・・・・エンタープライズちゃん、大丈夫?」

 

「・・・・ああ・・・・何があろうと、今は戦うしかない・・・・そうだろう」

 

「エンタープライズちゃん・・・・」

 

空返事をするエンタープライズを、ヴェスタルは心配そうに言うが、エンタープライズは構わずに言い、ヴェスタルは心配そうにするがその場を離れた。

 

「・・・・私には分からない、ヨークタウン姉さん。海の美しさも、この名前に込められた思いも、指揮官の言うーーーー『気高さ』と言うのも・・・・力を得れば、分かると思ったのだが、結局、何も分からないんだ・・・・」

 

エンタープライズは、この場にいない、遠いユニオンにいる姉に向けて問いかけた。

 

 

 

ー綾波sideー

 

綾波はジャベリンとラフィーに連れられ、アズールレーン母港の桜並木の道を、重桜とは違った赴きのある道を歩いていた。

 

「まずは必要な物を買いに行かなくちゃ!」

 

「???」

 

「しばらくはこっちで暮らすんだから、色々と準備しなと!」

 

「売店なら揃ってる・・・・」

 

「あ、そうだね! 行こう行こう!」

 

はしゃいでいるジャベリンに戸惑う綾波が、ふと周りを見ると、他陣営の艦船<KAN-SEN>達が、仲睦まじくしている姿が映った。

足元に転がってきた野球ボールを、『ユニオン所属 軽空母 ボーグ』達『野球部』に投げ渡すと、かなりの威力に拍手されたり、『ユニオン所属 駆逐艦 チャールズ・オースバーン』達〈リトル・ビーバーズ〉に、重桜の仲間の為に戦う姿勢を賞賛され、仲間として受け入れてもらえた。

それを見て、ラフィーが綾波に向けて口を開く。

 

「大丈夫・・・・誰も綾波の事、悪く思ってない」

 

「さあ! 早く行こう!」

 

「・・・・何か、変な感じなのです」

 

先を歩くジャベリンとラフィーの後に続く綾波。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

その後ろの桜の木に隠れていたアーク・ロイヤルが、小さく笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませニャ! 綾波久しぶりニャ!」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

そしてここは『明石商店』。

ソコには、アズールレーンに捕虜にされていると思っていた明石が、ニッコリと笑みを浮かべて商売をしていた。半眼になる綾波が口を開く。

 

「こんな所で何やってるですか? 明石?」

 

「お客様がいれば、世界の何処でも商売ができるニャ」

 

綾波の後ろから、『ユニオン所属 空母 ロング・アイランド』が商品を持って顔を出す。

 

「ねえねえ! これまけてよ!」

 

「びた1まからないニャ!」

 

「ケチー!」

 

「明石ちゃんが来てから、品揃えが増えたんだよ!」

 

「・・・・・・・・皆心配してたのに」

 

捕虜になりながらも、図太く厚かましく商売をしている明石に、綾波が呆れたような、もしくは、ある意味感心したような気持ちで肩をすくめた。

それから、ジャベリンとラフィーが品定めをしている間に、明石から『オロチ計画』の裏に隠された事を聞いた。

 

「っ! 赤城さんが、『セイレーン』と・・・・!」

 

「赤城はおっかなけど、仲間を、指揮官の信頼を裏切るような事は絶対しないヤツだったにゃ・・・・」

 

「重桜はどうなっちゃうですか?」

 

「分からないニャ・・・・」

 

「・・・・明石。カイン指揮官は、本当にトモユキ指揮官なのですか?」

 

綾波は、これまで何処か避けていた指揮官の事を明石に聞くと、明石は頷きながら口を開く。

 

「アズールレーン母港に来てから、それとなく指揮官を見て観察したけどニャ。トモユキ指揮官らしい行動はそれとなくあったニャ。明石の借金の請求書を破いたり、シュレッダーにかけたり、バラバラの紙吹雪にしたり、トモユキ指揮官がやっていた事を無意識にやっているようだったニャ」

 

「・・・・・・・・」

 

「綾波。指揮官が記憶を取り戻す『鍵』は、綾波だと明石は思うニャ。多分、口には出さないけど、重桜の皆も、そう思っている筈ニャ」

 

「・・・・・・・・・・・・綾波は、恐いのです」

 

「えっ?」

 

何処か怯えたような声の綾波に、明石は首を傾げた。

 

「もし・・・・指揮官に会って、指揮官に、綾波を『知らない人を見る目』で見られたら・・・・綾波は・・・・」

 

明石は理解した。そして、聞き耳を立てていたジャベリンとラフィーも理解した。綾波は指揮官が大好きなんだ。だからこそ、大好きな人の記憶から、自分が消えてしまった現実を受け入れるのが、綾波は怖くて堪らないのだとーーーー。

 

「・・・・綾波ちゃん!」

 

「綾波」

 

「っ!」

 

そんな場の空気を変えようと、ジャベリンとラフィーが、マグカップを持って綾波の前に出る。

 

「どれが良いと思うっ!?」

 

「良い?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

綾波はそんな二人の心遣いに、笑みを浮かべた。

そして店先では、アーク・ロイヤルが、フッと笑みを浮かべていた。



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【試合】 リーダーに必要なもの

ー重桜sideー

 

アズールレーン母港がまだ昼頃の頃、重桜母港では夕日が沈み始め、夕闇が広がっていた。

そして母港では、時雨と夕立と雪風、そして瑞鶴が、海の向こうーーーーアズールレーン母港に連れて行かれた指揮官と綾波の事を心配していた。

 

「指揮かーーーーん!! 綾波ーーーー!!」

 

「指揮官だけじゃなくて、綾波まで敵に捕まっちゃうなんて・・・・」

 

「ゴメンね、二人を連れて帰れなくて・・・・!」

 

泣きじゃくる雪風と泣きそうになる夕立を見て、瑞鶴が申し訳ない無さそうに顔を俯かせた。

 

「ず、瑞鶴さんが謝る事じゃ・・・・」

 

「綾波、大丈夫かな? 虐められてないかな?」

 

「ひっく、雪風様と違って、幸運じゃないから、もしかして・・・・・・・・びぇええええええええええええええええええええ!!!」

 

「ええっ!!?」

 

遂に大泣きする雪風に、時雨が驚く。

 

「私、殿だったのに、逆に助けられて・・・・」

 

「ちょっとちょっと! 暗くなりすぎよ!」

 

瑞鶴まで目に涙を貯め始め、時雨がしどろもどろになる。

 

「綾波だけご飯抜きだったら・・・・」

 

「一人だけ肉食わせて貰えなかったら・・・・」

 

「私がしっかりしていれば・・・・」

 

「もう何なのよーーーー!! この重たい空気ーーーー!!」

 

涙を流す三人に、遂に時雨がお手上げと言わんばかり叫んだ。

 

 

 

 

 

そして瑞鶴の姉の翔鶴は、社にて長門に報告をしていた。

 

「赤城は戻らなかったか」

 

「作戦の総指揮を務める赤城先輩を失い、『黒箱』はーーーーアズールレーンに奪われたまま、極めて厳しい状況です」

 

「加賀は『オロチ計画』の遂行を強く主張しているが・・・・怪しんでおるのか? 加賀を」

 

「・・・・指揮官からーーーートモユキ指揮官から、赤城先輩と加賀先輩の動きに、目を光らせておいてくれ、とご指示を受けました」

 

「指揮官が、か・・・・」

 

「このまま計画を続けるのは危険です」

 

「・・・・仲間を疑いたくはないが」

 

目を伏せる長門の心情を察したのか、陸奥と江風は長門を心配そうに見つめた。

 

 

 

 

 

ー鉄血sideー

 

そして重桜と同盟であるはずの鉄血陣営は、重桜の茶屋で団子を頬張っていた。

 

「何か大変な事になってんなぁ~」

 

「重桜は苦境に立たされているです。今こそ同盟相手である私達、鉄血が立つべきではありませんか?」

 

「あら、混乱に乗じて重桜を乗っとるつもり? ニーミったら腹黒いわね?」

 

「そう言う意味で言ってるんじゃありません!」

 

レーベとニーミが、重桜の様子を見てそう言うが、オイゲンがからかうように言ってきて、ニーミが怒鳴る。

 

「冗談よ冗談。早く綾波を助けに行きたいのよね?」

 

「妙に仲良かったもんなぁ、お前達」

 

「そ、そんな個人的な動機じゃありません。違います!////」

 

「確かに動くなら今がチャンスよ。どうするの?」

 

オイゲンの姉である『鉄血所属 重巡洋艦 アドミラル・ヒッパー』が聞くと、オイゲンは追加された餡蜜を見つめる。

 

「さて、どうしようかしら? うちの『総統閣下』は、この状況を見ても、私達の好きにすれば良いと言っていたけどね」

 

「あの総統かぁ。何か気持ち悪いのよね・・・・」

 

「それに胡散臭くて、どうにも信用できないんだよなぁ・・・・」

 

「ヒッパーさん! レーベ! 『総統閣下』に対してそんな不敬な事を・・・・!」

 

「ニーミだって、あのハイテンションに付いていけないって、ボヤいていただろう?」

 

「そ、それは・・・・!」

 

「ま、何にしても、我らが鉄血の『総統閣下』曰く、私達は、“愛と善意を伝道する、鉄血艦隊!”、だからね」

 

オイゲンは、『総統閣下』がよく口にする言葉を呟いてから、餡蜜を食べた。

 

 

 

 

ーカインsideー

 

「はぁ、はぁ、なんで、こんな・・・・事に?」

 

ロイヤルの軍服から、スポーツウェアに着替えたカインは、今自分の現状に、肩で息をしながら若干困惑していた。

何故なら、軍港のバスケットコートで、ホーネット、ヘレナ、『ユニオン所属 重巡洋艦 ボルチモア』と共に、クリーブランド率いる『海上騎士団<ソロモンネイビーキャリバーズ>』とーーーーバスケの試合をしていた。

 

「何でバスケ?・・・・はぁ、しかも、4対4だし。普通バスケって、5人でやる、スポーツでしょうが・・・・」

 

「ゴメンね指揮官。今日クリーブランド達とバスケする約束してたんだけど、お互いメンバーが四人しか集まらなくてさ。本当はハムマンがメンバーに入る予定立ったんだけど、ドタキャンされちゃったんだ」

 

既に前半を終えて後半のタイムアウトでベンチに休憩するカインに、ホーネットが改めて説明した。

 

「いや、まあ、でもさ、僕が助っ人に入っても、クリーブランドの姉妹達に勝てるかな・・・・?」

 

現在、海上騎士団<ソロモンネイビーキャリバーズ>50点対指揮官チーム40点。

圧倒的不利な状況だ。バスケ経験0のカインを穴にして、クリーブランド達が攻めるが、運動神経抜群のボルチモアとホーネットと、サポート上手のヘレナがカバーに入ってくれているが、10点差で勝てるか分からない。クリーブランド達はもう勝った気になっているような雰囲気だった。

自分が足を引っ張っている自覚があるカインが、気落ちするーーーーが。

 

「指揮官・・・・ヘイガッツ!!」

 

バチンっ!

 

「いっつぅ! ホ、ホーネット?」

 

ホーネットがカインの背中を叩いた。

 

「沈んでたって勝てる訳じゃないんだよ。私も頑張るからさ。諦めずに頑張ろう指揮官! 諦めたらそこで試合終了だって、重桜のバスケの名将も言ってたしさ!」

 

「いや、知らないけど・・・・」

 

「指揮官。私ももっと頑張るよ。だから諦めないで」

 

「私もです指揮官・・・・!」

 

「ボルチモア・・・・ヘレナ・・・・。ふぅ、ありがとう。お陰で冷静になれた。10点差を埋めるのは難しいけど、一つ、“策”がある」

 

「「「えっ?」」」

 

カインがホーネット達を側に集めて、声をひそめて口を開く。

 

 

 

ータイガsideー

 

≪さぁ~て、兄ちゃん達はこの窮地をどうやって攻略するのか! 解説のタイタスの旦那! どう思います?≫

 

≪うむ。姉妹艦なだけに、クリーブランド嬢が率いる海上騎士団<ソロモンネイビーキャリバーズ>は素晴らしい連携が取れている。逆にカイン指揮官達のチームは寄せ集め、これはカイン指揮官の統率力が試される事になる!≫

 

フーマとタイタスは、カインから離れ、ベンチの上でフーマが司会者のように声をあげ、タイタスが解説役をやっていた。

しかしーーーー。

 

≪・・・・・・・・・・・・≫

 

普段ならば応援か、自分も出たいと騒ぎそうなタイガが、何も言わずに物思いに耽っていた。

 

≪・・・・おい、タイガ?≫

 

≪っ、えっ?≫

 

≪どうしたのだ? カイン指揮官が何か動きを見せているのだが?≫

 

≪あ、あぁ! 確かに、トモユキの奴、何か仕掛けてきそうだなぁ!≫

 

明らかに様子がおかしいタイガに、タイタスとフーマは怪訝そうに見つめていた。

 

 

 

 

ー綾波sideー

 

綾波はジャベリンとラフィーについていくと、バスケットコートに多くの艦船<KAN-SEN>達が集まっているのが見え、ジャベリン達も気づいたのか近づくと、指揮官も混じってバスケの試合をしていた。

 

「あっ、ジャベリンちゃん・・・・! ラフィーちゃん・・・・!」

 

「ユニコーンちゃん!」

 

ユニコーンを見つけ近づくと、その隣にイラストリアスとベルファストーーーーさらにベルファストの隣には、何故かゴルフウェアを着用したQ・エリザベスとウォースパイトとフッド、そばに控えるメイド隊がいた。

ベルファストから、カイン指揮官がハムマンに代わってホーネット達と一緒にクリーブランドのチームとバスケの試合をする事になったのを聞かされ、それを知り多くの艦船<KAN-SEN>達が見物に来たのだ。饅頭を率いる明石がおせんにキャラメルを売っていた。

すると、近くにハムマンがやって来たので、ジャベリンが聞いてみた。

 

「ハムマンちゃん。何で出るの止めたの?」

 

「・・・・あれを見るのだ」

 

ハムマンが膨れっ面を作りながら、何やらカイン指揮官と話し込んでいるボルチモア、ホーネット、ヘレナの三人を指差したーーーー正確に言うと、ボルチモアとホーネットの巨大な、ヘレナの普通のサイズだが形が美しく発育した胸部装甲を・・・・。

 

「バスケで激しく動くと、三人のアレが揺れるのだ、弾むのだ、暴れるのだ・・・・! そんな物を間近に見せられて、どれだけの苦行だと思うのだ・・・・!!」

 

拳を強く握りながらさめざめと悔し涙を流すハムマンに、ジャベリン達は苦笑いをし、エリザベスとウォースパイトだけは「確かに・・・・」と云わんばかりに、三人の胸部装甲を睨んでいた。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「綾波。この試合どう見るにゃ?」

 

明石が綾波に近づき、話しかけた。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「ベル。貴方はこの試合、下僕達が逆転できると思う?」

 

エリザベスがベルファストに尋ねた。

 

「綾波は、バスケットボールの事は良く分からないのです・・・・」

 

「率直に申し上げまして、残り時間も15分。ここから逆転するのは困難でしょう・・・・」

 

二人の言葉は、妙に重なっていた。

 

「でも・・・・」

 

「しかし・・・・」

 

綾波とベルファストの視線は、カイン指揮官へと注がれていた。

 

「指揮官のあの目・・・・」

 

「ご主人様のあのお顔・・・・」

 

その視線を追って、ジャベリン達もエリザベス達も、カイン指揮官に視線を向けた。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

その眼差しには、この状況を諦めていない、強い光が宿っていた。

 

「そろそろ何か仕掛けてくる筈なのです」

 

「何やら策があるようです」

 

と、そこで二人の意見が重なり、綾波とベルファストがお互いに顔を向けあった。

 

「・・・・指揮官の事を分かっているのですね」

 

「・・・・メイドとして、主の事をある程度理解しておくのは当然ですから」

 

「・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

『あわわわわわわわわわ・・・・!』

 

二人の間に、何やら不穏な気配が漂い始める。二人の視線が合わさり、青い火花がバチバチと弾けているように見えるのは、おそらくジャベリン達の気のせいでは無いだろう。

そんな中、試合再開のホイッスルが鳴り響くと、両チームが再び試合を始まった。

そしてーーーー。

 

 

 

ークリーブランドsideー

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・ど、どういう事?」

 

クリーブランドは若干困惑した、試合が再開して僅か5分で10点もあった差がーーーー3点差にまで縮められたのだ。

先ほどまで自分達の勝利を確信して浮かれていた妹達の顔にも、ハッキリと焦りが浮かんでいた。クリーブランドは自分に立ち塞がる艦船<KAN-SEN>に目を向ける。

 

「まさか、君に止められるなんて思わなかったよ・・・・ヘレナ」

 

試合が再開してすぐ、クリーブランドに1on1<ワンオンワン>で勝負を仕掛けてきたのはなんと、ヘレナだったのだ。

最初は奇策で来たのかと思ったが、ヘレナはまるで自分の動きを予測しているかのように動き、攻められなかった。

周りを見ると、妹達もそれぞれホーネットとボルチモア、そしてカイン指揮官にマークされていた。

 

「ふっ!」

 

「しまった!?」

 

ヘレナ、僅かに視線を外したクリーブランドから、ボールをカットすると、ボールはホーネットがキャッチした。

 

「行けホーネット!」

 

「OK! 行けっ!」

 

ボルチモアの声に答えるホーネットがシュートを打とうとするが、

 

「させるかっ!」

 

コロンビアがブロックするように飛び、ホーネットを遮る。

 

「うっ!」

 

「ホーネット!」

 

「っ!」

 

「こっちだ!」

 

思わずホーネットがカイン指揮官にパスを渡した。カイン指揮官がマークしていたモントピリアは、得点力の高いボルチモアをマークしているデンバーのフォローに回り、クリーブランドもヘレナに押さえられて動けない。

 

「指揮官!」

 

ホーネットはフリーとなったカイン指揮官にボールをパスし、カイン指揮官がそれをキャッチすると、クリーブランドはヘレナを押さえ、コロンビアはホーネットを、モントピリアがボルチモアをデンバーに任せ、再びカイン指揮官の元へ向かおうとする。

 

「(思い出せ、クリーブランドが教えてくれた事を・・・・!)」

 

カイン指揮官は、試合が始まる前に、クリーブランドに少しだけ教えてもらった。シュートの打ち方をブツブツと言いながら思い返した。

 

【指揮官、バスケ初めてだろ? じゃあ私がシュートの打ち方を教えるよ! 大切なのは膝だぞ。しっかりジャンプして、腕の力はあまり使わない、そして・・・・】

 

「(左手は添えるだけで、アーチを描くようにボールを上に・・・・放つ!)」

 

カイン指揮官がソッとボールを放つと、コートの中にいた皆、外にいる皆が、そのボールの軌跡を追い、そしてーーーー。

 

スパッ・・・・。

 

ボールは、ゴールリングの中に、綺麗に入っていった。

 

ピー!

 

「指揮官チーム! 二点追加!」

 

審判役をしていたウェールズがホイッスルを鳴らすと、得点版に50対49になった。

 

わぁああああああああ!!

 

「やった・・・・!」

 

「ナイス指揮官!」

 

「お見事!」

 

「凄いです!」

 

周りが歓声をあげ、ホーネットとボルチモアとヘレナも声をあげ、ハイタッチした。

 

「ナイスシュート、指揮官!!」

 

「「「姉貴・・・・?」」」

 

「あ、ご、ゴメン!」

 

クリーブランドも思わず声を張り上げるが、妹達の視線に気づいて頭を下げた。

そして試合は進み、残り時間は30秒。ボールはカイン指揮官に渡り、モントピリアは今度こそカイン指揮官を止めようとマークする。

 

「っ!」

 

「2度もさせるかっ!」

 

カイン指揮官がシュートモーションに入り、モントピリアがジャンプして遮ろうとするが、

 

「っ・・・・」

 

「なっ! フェイント!?」

 

フェイントをかけられ、モントピリアが下がると、再びシュートしようとしたその時ーーーー。

 

「なんのぉっ!」

 

何と、クリーブランドがカイン指揮官に向かって来た。

 

「来ると思ったよ、クリーブランド」

 

「えっ?」

 

その刹那、クリーブランドに向けて、カイン指揮官が声を発する。

 

「クリーブランドが妹のフォローに動くと、予測していた、よ!」

 

カイン指揮官がクリーブランドから反対側にボールを投げると、ソコにいたのはーーーー。

 

「っ! ヘレナ!!」

 

「行け、ヘレナ」

 

「っ! えいっ!」

 

ボールを受け取ったヘレナが、ボールを放った。

 

スパッ・・・・ボスン。

 

そしてボールはゴールリングに入り、コートの地面に落ちたその瞬間、

 

ピッ、ピーーーーー!

 

「試合終了! 得点、51対50で、指揮官チームの勝利!」

 

わぁああああああああ!!

 

「やった!!」

 

「よっし!」

 

「ナイスだ! ヘレナ!」

 

「えっ、あ、えぇっ」

 

戸惑いがちのヘレナの元に、ホーネットとボルチモアとカイン指揮官が集まり、ハイタッチをした。

クリーブランド姉妹は、「負けたぁ・・・・」と、残念そうに肩を落とした。

 

「ふぅ・・・・」

 

「やったね指揮官!」

 

「ああ・・・・ありがとうホーネット」

 

「えっ? 何でお礼を言うの?」

 

「ホーネットが、諦めずに頑張ろう指揮官! って言ってくれたし、私の作戦を信じてくれたから、勝てたようなものだよ」

 

「いや、そんな・・・・」

 

照れ臭そうにするホーネットに、カイン指揮官がさらに言葉を紡ぐ。

 

「ホーネット。君もちゃんとリーダーの素質があるよ」

 

「えっ?」

 

「他のユニオンの皆から聞いたけど、ヨークタウンもエンタープライズも、“背中で仲間を引っ張っていくリーダー”なら、ホーネットは、ムードメーカーとして、“仲間を後ろから押してやるリーダー”だよ」

 

「後ろから押してやるリーダー?」

 

「そ。ホーネットは皆の空気を明るくする太陽のような子だよ。そんなリーダーがいれば、どんな危機的状況でも、希望を捨てずに戦える。ホーネットはさ、間違いなく、そんなリーダーの素質を持っている」

 

「私が?」

 

「ああ。流石は、ヨークタウン姉妹の末娘。ホーネットだけが持つ、姉達に負けない素晴らしいリーダーだよ」

 

「~~もう! 照れ臭い事言わないでよ!」

 

「イタタタタタ!」

 

顔を赤くして、カイン指揮官の背中をバシンバシンと叩くホーネット。そんな二人を見て、ボルチモアとヘレナも笑みを浮かべた。

そして、クリーブランドがカイン指揮官に近づく。

 

「負けたよ指揮官。もしかして最後の攻めって、指揮官が考えたの?」

 

「イチチチ、まあね」

 

「どんな作戦だったのか、教えてくれないか?」

 

「ああ。先ず、ヘレナにクリーブランドのマークを頼んだのは、結構単純な理由だよ」

 

「単純?」

 

「その、クリーブランドって結構小柄な方だろう」

 

「うっ、うん・・・・」

 

自分の身長を若干気にしているのか、苦々しく頷く。

 

「クリーブランドは小柄だから、自分より身体の大きいホーネットやボルチモアより小回りが効く、でもヘレナも同じくらいの体格だからそれは効かないし、ヘレナはサポート上手だから、クリーブランドがどう動いてくるのかある程度を察する事ができると思ったんだ。あそこまでできるとは思わなかったけど」

 

「情報収集は得意ですから・・・・」

 

照れ臭そうに言うヘレナ。

 

「それに、クリーブランドの動きを少しでも封じれば、コロンビアやモントピリアやデンバーの動きのリズムを狂わせる事ができるしね」

 

「「「えっ!?」」」

 

突然自分達の事を言われ、三人はピクッと肩を揺らす。

 

「こう言うのも悪いけど、長女に頼りきっている所がある妹達は、クリーブランドが動きづらくなればプレーが狂い出す。そこにすかさずホーネットやボルチモアが攻め立てれば、焦りが生まれて、さらにプレーに乱れが生じる。ぼく達はそこを突いたって訳さ」

 

「あちゃー、そうか・・・・」

 

「クリーブランド。長女だから自分が頑張らなくっちゃって思う気持ちは分かるけど。たまには、妹達に頼ったらどうかな?」

 

「えっ、妹達に?」

 

「さっきも言ったけど、妹達はクリーブランドに頼りきっているから隙が生まれた、だから勝てたんだ」

 

「「「・・・・・・・・」」」

 

三人は図星なのか、肩を落としたり、頭をかいたりしていた。

 

「信頼って言葉はな。重桜では、“信じる”って言葉と“頼る”って言葉を合わせて生まれる言葉だ。クリーブランド。妹達を信じて、頼るのもリーダーとして必要な事だ。そして妹達も、姉に頼られるようになれば、もっと伸びると思う」

 

「信頼、か・・・・」

 

クリーブランドはカイン指揮官の言葉を反復すると、妹達に向かった。

 

「「「あ、姉貴・・・・」」」

 

「皆、ゴメン。私がもっと皆にパスを回したりしていれば、勝ってたかも知れないのに」

 

「いえ、そんな、僕達も、姉貴に頼り過ぎていたし・・・・」

 

「ま、これから頑張って姉貴に頼られるようになるよ」

 

「だから姉貴も、私達に頼ってください」

 

「皆・・・・うん! これから頑張ろう! 海上騎士団<ソロモンネイビーキャリバーズ>はまだまだこれからだ!」

 

さらに気合いを入れるクリーブランド達を見てカイン指揮官は笑みを浮かべた。

そして、晴らしい試合を見せた皆に、他の艦船<KAN-SEN>達が集まった。

 

 

 

ー綾波sideー

 

「・・・・・・・・ふふっ」

 

「綾波ちゃん?」

 

綾波は小さく笑みを浮かべた。

カイン指揮官の元に集まる艦船<KAN-SEN>達の笑顔が、重桜にいる仲間達と同じなのだった。

記憶は失われても、指揮官の周りにはあんなに笑顔が集まっている。それが綾波には嬉しく、そしてーーーー少し羨ましいと感じたからだ。

 

 

 

ーアークロイヤルsideー

 

「ふっ」

 

綾波達の様子を物陰から見ていたアークロイヤルの口元に笑みが、そして鼻からは何故か、血が流れていた。



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【散歩】言えなかった言葉

ー綾波sideー

 

カイン指揮官のバスケの試合を終えると、次はQ・エリザベスとウォースパイトとフッド、そして『ユニオン所属 戦艦 ノースカロライナ』と『ユニオン所属 戦艦 ワシントン』とゴルフをするので連れて行かれた。

綾波達はイラストリアスとユニコーン、ベルファストと一緒に基地から離れた島にある露店商に赴いていた。

他の艦船<KAN-SEN>達も来ており、大道芸をしていたり、買い物をしていたり、食べ歩きをしていたりと、かなりの賑わいを見せていた。

 

「うわぁ~! 今日も賑わっていますねぇ!」

 

「ここに来たのって・・・・」

 

「一緒に遊ぶ」

 

「あっ・・・・」

 

戸惑う綾波の手を引っ張って走るラフィー。

 

「ユニコーンちゃんも! 早く早く!」

 

「あっ・・・・」

 

「(コクン)」

 

「うん!」

 

イラストリアスに行って良いと許可も貰い、ユニコーンは笑顔でジャベリン達の方に走り、イラストリアスとベルファストは笑みを浮かべる。

露店商を見て回る四人。その後ろを、アーク・ロイヤルが物影に隠れながら眺めていた。

 

 

 

 

 

 

そして、カフェでパンケーキを注文した綾波達。

 

「わぁ~! 美味しそう! いっただきまーす!」

 

「「「いただきます」」」

 

四人がパンケーキを食べようとするが、ラフィーは一口で食べてしまった。

 

「・・・・・・・・」

 

綾波はパンケーキを美味しそうに食べるユニコーンを見て、ジッとパンケーキを見ていたが、

 

「えい」

 

「あっ・・・・」

 

ソコでラフィーが綾波のパンケーキの上に置かれた苺を横から取って頬張った。

 

「(ムグムグムグムグ)・・・・ふっ」

 

「~~~~~~!! 鬼神の力、思い知るです・・・・!」

 

「受けて立つ」

 

目に涙を貯めた綾波が、ナイフとフォークを構え、ラフィーもナイフとフォークを構えた。

それから二人がナイフとフォークでつばぜり合いを繰り広げた。

 

「ちょっとちょっと! お行儀良くしなくちゃダメだよぉ!」

 

ジャベリンが言うが、二人は聞かず戦いを続ける。

 

「全くもう! もっと上品に食事できないのかなぁ?」

 

「・・・・・・・・」

 

そう言うジャベリンの口の周りには、パンケーキのクリームがベットリとついており、ユニコーンはそれをジッと見ていた。

 

 

 

 

ーアーク・ロイヤルsideー

 

「・・・・・・・・尊い」

 

「アーク・ロイヤル様。鼻血が」

 

離れた席でその様子を紅茶を飲みながら眺めて鼻血を流していたアーク・ロイヤルに、ソフトクリームを舐めていたイラストリアスの隣にいたベルファストが静かに言った。

ロイヤル空母 アーク・ロイヤル。見た目はウェールズと同じ麗人風で涼やかな美貌とスレンダーながらも攻撃的なナイスバディをし、性格も良好なので、女性に好かれそうなのだが、幼い駆逐艦が大好きなーーーーロリコンである。ロリコンである。ロリコンなのである!

それもベルファストが「この方をあまり陛下の近くに置くのは危険です」と危惧し、タイガも≪コイツが重桜の睦月や如月達に会ったら大変だろうなぁ・・・・≫と呆れてしまう程である。

おそらく綾波の監視役であるジャベリンとラフィーのフォロー役を志願したのも、駆逐艦達の様子を特等席で眺める為だろうと言うのが、容易に想像できた。

 

「・・・・ダイドー。シリアス」

 

「「はい」」

 

ベルファストの後ろから、ダイドーとシリアスが現れ、アーク・ロイヤルの両脇から挟み込むように持ち上げる。

 

「なっ! ベルファストっ!?」

 

「ご主人様から、アーク・ロイヤル様が何かやらかしそうになったら、ジャベリン様達から引き剥がして営倉に放り込んでおけ、とご指示を受けておりましたので。ここはユニコーン様とイラストリアス様と私に任せ、アーク・ロイヤル様は少々営倉でお休みくださいませ」

 

「えっ! カイン指揮官<閣下>がっ!?」

 

「では、アーク・ロイヤル様。参りましょう」

 

「誇らしきご主人様からのご命令。このシリアス。命を賭けて遂行します」

 

「い、いやーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 

そしてそのままアーク・ロイヤルは、ダイドーとシリアスに引きずられていく姿を、イラストリアスは苦笑を浮かべ、ベルファストはため息を吐いた。

 

 

 

 

ーカインsideー

 

ーーーーココン・・・・

 

「パーね、下僕」

 

「ええ。そうですね。今日はいまいちです・・・・」

 

ゴルフウェアを着用し、Q・エリザベス達とゴルフをしているカイン指揮官は、バスケの疲労が残っているのか中々スコアが伸びず、ワシントンと最下位争いをしていた。

 

「うがー! 何でこんなほっそい棒に当てなきゃなんねえんだよ!!」

 

「いけませんよワシントン。あなたは元気が有り余っているんだから、『スマイル』でしょ?」

 

「いい!? 姉貴!?」

 

金髪碧眼に高身長と豊満なバストに整ったプロポーション女性、ノースカロライナが、ボールが上手く当てられず、イライラしだした妹の、銀髪青眼に姉と同じ高身長とナイスバディをしたワシントンに注意した。

ノースカロライナがワシントンにスイングを教えていると、

 

「ノースカロライナは教え方が上手いね」

 

「えっ?・・・・お褒めにあずかり光栄です指揮官。私・・・・周りに比べたら個性がなくて地味ですから・・・・」

 

「ん? 何でそう思うんだい?」

 

カイン指揮官が問うと、ノースカロライナはオズオズと話し出す。

 

「だって他の艦船<KAN-SEN>は皆可愛いし、魅力的じゃないですか。それに比べて私は目立った戦果はないし、特徴もこれと言って・・・・」

 

「いや、ノースカロライナは金髪碧眼でスゴい綺麗だし、スタイルも抜群だし、暴れん坊のワシントンの手綱を握れる胆力があるし、クリーブランド達から聞いたところによると、何でもそつなくこなせる、ベルファストと同じ万能タイプって聞いたけど?」

 

「ベ、ベルファストさんとっ!? でも私、あんな完璧なメイド属性でクールビューティーなスゴい個性なんて・・・・」

 

「いやいや、ここだけの話だけどね。ベルも自分には突出した能力がない事を、ちょっと気にしていた時期があったんだよ」

 

「えっ?」

 

「シェフィは掃除が得意。サフォークはお菓子作りが得意。シリアスも戦闘方面は頼りになる。ケントはムードメーカー。エディンバラは紅茶を淹れるのはベルより上手い。ベルファストも自分には尖った個性がなくて、少し自信喪失になっていた事があったよ」

 

「そう、なのですか?」

 

「ああ。でも、そんなベルだからこそ、クセの強いメイド隊の皆を統率できるし、全線でも、後方でも頼りになるんだ。ノースカロライナだってそうだよ。万能型な子はどんな状況でも柔軟に対応する事ができる。個性だとか地味なんて関係ないよ。ノースカロライナにはノースカロライナの魅力があるんだからさ」

 

「わ、私の魅力・・・・あの、指揮官、実は私・・・・」

 

「下僕! 次はあんたの番よ!」

 

「あぁはいはい! それじゃまたなノースカロライナ」

 

「あっ・・・・」

 

カイン指揮官が行くのを、ノースカロライナは手を少し伸ばした。

 

「指揮官・・・・/////」

 

「姉貴??」

 

「ワシントン。今度一緒に、指揮官にバニーで・・・・」

 

「それは勘弁してくれぇ!」

 

ノースカロライナとワシントンが何やら騒いでいるが、シュパッ! とボールを打ったカイン指揮官に、Q・エリザベスが話しかける。

 

「下僕。アンタはセイレーンが何の目論見で私達に仕掛けているのだと思う?」

 

「・・・・これはあくまで僕の憶測ですがーーーー“観察している”、もしくは、“見定めている”んだと思います」

 

「見定めている、ね」

 

「ええ。彼女らは、僕達人間が、陛下達艦船<KAN-SEN>達が、どんな動きをするのか見定めていると思うんです。まるでそうーーーーチェス盤に乗った駒達がどう動くのかを眺めているかのように」

 

カイン指揮官の憶測が、奇妙な説得力があるように、エリザベス達も感じていた。

 

 

 

 

 

ージャベリンsideー

 

そしてその日の夜。食堂で夕食をとるジャベリン達。

 

「重桜のご飯はどんな感じ?」

 

「・・・・同じです」

 

「同じ?」

 

「大人の人も、小さな子も、皆仲良く、美味しく食べて皆、同じなのです・・・・」

 

そう言って穏やかな笑みを浮かべる綾波。

それを見ていたジャベリン達だが、台所のほうで、『ロイヤル所属 駆逐艦 グローウォーム』が包丁で指を少し切ったようだ。

 

「大丈夫かっ!! 傷は浅い・・・・いっ、いまッ・・・・お、お姉さんが消毒してッ・・・・!!」

 

と、ソコで営倉から出てきた(脱走してきた?)アーク・ロイヤルが、頬を赤くし、目がケダモノのように危ない光を放ち、ベロベロと舌舐めずりをしながらグローウォームの指を舐めようと迫った。完全に変態な変質者であった。

 

ーーーーゴン!

 

「ミリオンヘッドスマッシュ!!」

 

「かはっ!」

 

が、グローウォームが必殺技の頭突きをお見舞いし、アーク・ロイヤルをノックアウトした。

 

「「・・・・・・・・・・・・」」

 

と、そこでダイドーとシリアスが現れ、アーク・ロイヤルの身体を荒縄で簀巻きにすると、そのまま引きずりながら、再び営倉へと連行していった。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

その光景を、綾波は何とも言えない顔で見ていた。

 

 

 

 

ーカインsideー

 

「いででででででで!!」

 

また時間が経ち、カイン指揮官は自室のソファーで、バスケにゴルフと立て続けのスポーツで、軽い筋肉痛の痛みに悲鳴を上げていた。

 

「大丈夫指揮官?」

 

「たくっ、この位で情けないぜ?」

 

カイン指揮官の身体にストレッチをさせてくれているのは、ノースカロライナとワシントンだった。

そのストレッチで密着する度に、二人の豊満なバストが押し付けられたりして、かなりドギマギしていた。

 

「いやいや、昼にバスケ、その後ゴルフって、結構ハードだったんですけど・・・・!」

 

コンコン・・・・。

 

「失礼いたしますご主人様」

 

と、部屋に入ってきたのはベルファストだった。

 

「おおベル。来てくれたか。それじゃノースカロライナ。ワシントン。ありがとう。お陰で少し楽になったよ」

 

「いえいえ、それじゃ私達はこれで。行くわよワシントン」

 

「ああ」

 

二人はベルファストに一礼すると、部屋の外に出ていった。

 

ーーーーやっぱりバニーで来て方が良かったかしら?

 

ーーーー姉貴、マジで勘弁してくれよ・・・・。

 

何やら二人が外で話し合っているようだが、ベルファストは聞かなかった事にして、カイン指揮官に話しかける。

 

「ご主人様。それでどうしましたか?」

 

「う~ん。久しぶりにベルと夜のお散歩をしたくなってね。ダメかな?」

 

「・・・・ふふっ、はい。ご一緒させてもらいます」

 

一瞬ポカンとなるベルファストだが、すぐに可笑しそうに笑みを浮かべて、カイン指揮官と一緒に散歩に出掛けた。

 

 

 

ーエンタープライズsideー

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

エンタープライズは一人自室で携帯食を食べながら、窓から見える月を見上げていた。

 

ー加賀sideー

 

そしてここは『オロチ』が隠されている重桜の洞窟ドック。加賀はオブザーバーと共に『オロチ』を見下ろしていた。

 

「・・・・・・・・」

 

「『オロチ』が目覚める。数多の“想い”を乗せて。『オロチ』の中には“全て”がある。あらゆる海を渡り、“想い”を集めてきた」

 

「“想い”を・・・・」

 

「そうよーーーー赤城の想いもまた、ここにある。途絶えさせてはいけないわ」

 

赤城を失い、心に穴が空いた加賀に、オブザーバーは甘い言葉を紡ぐ。

 

「ああ・・・・そうだ、だがら私は・・・・!!」

 

その瞳に、危うい光を宿す。

 

 

 

ー???sideー

 

『・・・・なぁなぁ、なんかヤバい物見ちまったな・・・・!』

 

『そ、そうですね、この母港に来てしばらくこのドックに隠れていましたが、何でしょうあの戦艦は・・・・!』

 

廃れた艦の影に隠した小型潜水艦から加賀の様子をコッソリと眺めていたのは、マグマ星人とマーキンド星人だった。

 

 

 

 

ー綾波sideー

 

そしてその頃。ジャベリンの部屋でジャベリンとラフィーとユニコーンと一緒に寝ていた綾波が、ふと目を覚まし、外に出た。

 

「・・・・・・・・あっ」

 

「ん・・・・?」

 

すると、エンタープライズを見つけ、目を細める。

 

「何だ脱走か?」

 

「(フルフル)」

 

綾波が首を横に振ると、エンタープライズはフッと笑みを浮かべ、

 

「冗談だ。眠れないのか?」

 

「良く分からないのです。アズールレーンとは敵同士。でも、皆は優しくしてくれて・・・・戦いの事、重桜の事、指揮官の事・・・・色々考えるとーーーーどんどん、分からなくなって。もうずっと、綾波は分からないままなのです・・・・」

 

「まだ、戦おうと思うか?」

 

「綾波の“戦う理由の答え”は分かっているです。でも、アズールレーンと戦う事が正しいのか、分からないです。ーーーー分からないけど、戦いは好きじゃないです・・・・」

 

綾波がそう言うと、エンタープライズは綾波に背を向けて歩いていった。

 

「そうかーーーー“戦う理由の答え”が出ている所では、私よりかはマシだが・・・・。私も、戦いは好きではない」

 

 

 

ーカインsideー

 

と、ソコで、ベルファストとデートしていたカイン指揮官が、エンタープライズと綾波の話を聞いてしまった。

そして、そのままベンチに座るカイン指揮官。

 

「ご主人様・・・・」

 

「ベル。隣に座って」

 

「いえ私は・・・・」

 

「たまには良いだろう?」

 

「・・・・はい」

 

ベルファストを隣に座らせ、カイン指揮官が口を開く。

 

「エンタープライズは確かに強い。だが、その内面は繊細で脆い。だから、強い力を求めたのかもな。その脆さを隠す為に・・・・」

 

「はい・・・・」

 

「ねぇベル」

 

「はい」

 

「たまにはベルもーーーー少し強引になってみたら?」

 

「強引に、ですか?」

 

「そ。ベルはいつも3歩後ろに引いて来てくれるけど、たまにはこんな風に隣や前に来て、強引に攻めた方が良いよ」

 

「・・・・そうですか。ーーーーでは、ご要望通り、強引にいかせていただきます」

 

「うぉっ!?」

 

ベルファストはカイン指揮官を押し倒すように横にすると、覆い被さるように身体を密着させ、顔を眼前にまで近づけた。その豊満なバストがムニュリっと、押し付けられ、カイン指揮官は内心歓喜しそうだった。

 

「ご主人様」

 

「ん?」

 

「何を隠しておられるのですか?」

 

「んん!?」

 

少しムッとした顔で迫るベルファストの言葉に、カイン指揮官は歓喜しそうだった内心が、ギクッとなる。

 

「ウェールズ様とイラストリアス様は何かを知っているような雰囲気でした。ご主人様が私達に隠し事をしておられるのは察しておりました。そしてそれは、海守トモユキ指揮官様の事以外で。ご主人様は何を隠しておられるのでしょう?」

 

「・・・・・・・・」

 

「ご主人様・・・・?」

 

カイン指揮官は一瞬目を泳がせる。

こんな時にタイガもタイタスもフーマもすでに就寝してしまっているのだ。まぁ、ベルファストととのデートをお邪魔しないように配慮してくれたのだろうが。

 

「はぁ・・・・ベル。この事は他の皆、陛下達にもまだ内密にしてくれるかい? 折を見て皆にもいずれ話すからさ」

 

「お約束いたします」

 

「実はーーーー」

 

 

 

ー綾波sideー

 

そして綾波は、はじめてジャベリン達と出会った海岸に立って、月を眺めていた。

するとその足元に、ユニコーンのゆーちゃんが転がってきた。

 

「ぁ・・・・」

 

ゆーちゃんを持ち上げると、ジャベリンとユニコーンとラフィーが近くに立っていた。

 

「あの時、ゆーちゃんを見つけてくれて、ありがとう!」

 

「・・・・綾波は、本当に何もしていないのです。綾波はこの基地に忍び込んだ敵です・・・・」

 

「・・・・でも、だから会えた」

 

「ぁ」

 

綾波の言葉をラフィーがそう言った。そして次にジャベリンが口を開いた。

 

「【うわぁ~! こんな凄い場所があったんですね!】」

 

芝居がかった口調で話すジャベリン。

 

「【こんな穴場を知ってるなんて、貴女中々やりますね!】」

 

「ぁ」

 

それは、ジャベリン達と初めてこの場所でした会話だった。

 

「【私ジャベリンです!】」

 

「【ラフィー・・・・】」

 

「【ユニコーン・・・・】」

 

「【あの~、貴女のお名前聞いても良い?】」

 

「・・・・・・・・綾波、です。よろしくです」

 

あの時言えなかったその言葉を、綾波は漸く、伝えられた。

 

「指揮官もいれば、完璧・・・・」

 

「そうだね。綾波ちゃん!」

 

「ぇ」

 

「お兄ちゃんに、会いたくない?」

 

「・・・・会いたい、です。トモユキ指揮官としての記憶を、重桜の皆の事を、綾波の事を、思い出して欲しいです」

 

綾波のその顔から、綾波がどれだけ指揮官が好きなのか、ジャベリン達も察した。

 

「でも、前に蒼龍さん、重桜で知識が凄い人が教えてくれたです・・・・」

 

「え? 何を?」

 

「記憶を失う前の記憶を取り戻すと、記憶を失ってからの記憶を無くしてしまう、です・・・・」

 

「・・・・それってーーーー」

 

綾波が次に発した言葉に、ジャベリンも、ラフィーも、ユニコーンも息を呑んだ。

 

「海守トモユキ指揮官の記憶を取り戻すと、カイン・オーシャン指揮官が、消えてしまうのかも知れないのです」



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【罠】その声は届かず

いつの間にか凄く長くなりました。


ータイガsideー

 

『・・・・っ! タイタス? フーマ? 何処だっ?』

 

タイガが暗黒の空間の中にいた。そこには仲間達がおらず、一人ぼっちだった。

その時、タイガの頭に、身体に痛みが走る。

 

『ぐっ! お、俺の中に、激しい感情が・・・・!』

 

そしてタイガは、暗黒の渦の中に呑み込まれそうになる。

 

「トモユキ・・・・! トモユキっ! トモユキィィィィィィィィィィィッ!!!!!」

 

タイガの悲痛な叫びが、暗黒の空間に虚しく響いたーーーー。

 

 

 

ーカインsideー

 

「っ!」

 

ーーーーガチャガチャガチャガチャ・・・・!!

 

ソコは執務室だった。カイン指揮官はこのところ見るようになった夢の中であると瞬時に理解すると、執務室の扉が、外から無理矢理開けられそうになっているのか、大きな音を立てていた。

 

「・・・・・・・・」

 

カイン指揮官は、扉の向こうにいる存在に警戒心を抱くと、扉が乱暴に開かれ、

 

ーーーーヴォオオオオオオオオオオオオオっ!!!

 

「う、うわぁあああああああああああああっ!!!」

 

黒い塊が、自分に襲い掛かってきた。

 

 

 

 

* * *

 

 

 

「うわぁああっ!・・・・はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、ゆ、夢か・・・・?」

 

最近同じような夢を見るようになり、寝汗が酷い状態だ。

時計を見ると、午前5時を回っていた。ベッド近くのテーブルを見ると、タイガとタイタスとフーマが、それぞれミニチュアのベッドに横になり、寝息を立てていた。

がーーーー。

 

 

『うっ! うぅぅぅぅぅぅぅ!』

 

「タイガ?」

 

苦しそうにうなされていたタイガが、ガバッ! と、起き上がった。

 

『はっ! ト、トモユキか?』

 

「どうしたんだ? うなされていたけど」

 

『・・・・な、なんでもない』

 

そう言って、タイガは寝直そうと横になり、カイン指揮官も横になって寝直した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーエンタープライズsideー

 

そしてここにも、夢に悩まされている艦船<KAN-SEN>がいた。エンタープライズだ。

 

「また、この光景・・・・」

 

真っ暗な海に佇むエンタープライズは、過去の記憶、『カンレキ』を思い返していた。

終わる事のない争い。

燃える海。

沈みゆく艦達。

 

「・・・・・・・・」

 

そして振り向くと、炎の海で、死んでしまった仲間達を海にソッと横たわらせるセイレーン。

 

「お前は何だ? 私にこれを見せて、どうしようと言うのだっ!?」

 

そのセイレーンが、声を発する。

 

『戦い・・・・』

 

振り向いたそのセイレーンは、“髪を不揃いに短くしたエンタープライズに良く似た姿”だった。

 

『私は繰り返す・・・・。時を巡り、海を越え、戦い続ける・・・・。終わる事のない、戦い』

 

そのセイレーンは、手を出すと、その手のひらから、『黒いメンタルキューブ』を出現させ、そのキューブから禍々しいエネルギーを溢れる。

 

『燃えるこの海こそ、紅に染められた我が航路・・・・お前もいずれ・・・・』

 

ーーーーグルルゥワアアアアアアアアアッ!!!

 

「っっ!!」

 

『黒いメンタルキューブ』が妖しく輝くと、セイレーンの影から、巨大で異形の姿の怪物が現れ、エンタープライズを見下ろしていたーーーー。

 

 

* * *

 

 

ーーーーシャッ!

 

「っ!!」

 

突然朝日が目の前に現れると、エンタープライズは目を覚ました。

 

「おはようございます。ゆっくりお休みになられましたか?」

 

ベルファストが、エンタープライズを起こしにきたようだ。

 

「ベルファスト・・・・」

 

 

 

 

 

ユニオン宿舎から出るエンタープライズに、ベルファストが声をかける。

 

「朝食の時間ですが?」

 

「いらない」

 

「それはいけません。人として健康的な生活を送る為に、朝食は欠かせません」

 

「よせ!」

 

「っ!」

 

「私が人の真似事をしたところで、滑稽なだけだ・・・・!」

 

「・・・・・・・・」

 

そう言って、エンタープライズはそのまま去っていった。

 

 

 

ーカインsideー

 

カイン指揮官はウェールズとクリーブランドと共に、教室にいる皆と会議の為に向かっていた。

 

「重桜は戦力を失った、建て直しには時間がかかるわね」

 

「だが、こちら『黒いメンタルキューブ』と『怪獣リング』の事もあり、簡単には動けない状況だ」

 

「それに、エンタープライズの事もね」

 

「エンタープライズの事に関しては、彼女自身が頑なになってしまっている。・・・・問題は山積みだ」

 

そして教室に着くと、ベルファストに明石にホーネットとアーク・ロイヤルの他、数名の艦船<KAN-SEN>が教卓に置かれた『黒いメンタルキューブ』と『怪獣リング』を見ていた。

その教室に、カイン指揮官達が入ってくる。

 

「何か分かったかい?」

 

「さっぱりだ。何も分からん!」

 

「そもそも私達は、メンタルキューブに対して何も分かっていません」

 

「ふっ、文字通り、ブラックボックスと言う訳だな」

 

「誰が上手い事を言えと?」

 

『ロイヤル所属 駆逐艦 アマゾン』と『ユニオン所属 軽空母 ラングレー』がお手上げと言わんばかりに声をあげ、アーク・ロイヤルが駆逐艦が撮られた写真集を眺めながら肩をすくめ、カイン指揮官がため息交じりにそう言い、『黒いメンタルキューブ』を見ると、以前よりも光が強くなっていた。

 

「何だか前より光、強くなってない?」

 

「セイレーンの関わる事だ。危険の兆候と考えるべきだろう」

 

「指揮官。このリングは何なのにゃ?」

 

明石が『怪獣リング』を指してそう言う。

 

「・・・・怪獣を倒してから、発見されたリングだ。このところ出現する怪獣の事で何か関係があるんじゃないのかなって、ベルファストやウェールズ達に捜索と回収を任せていたんだ。まさか、エンタープライズも隠し持っていたとは思わなかったけどね」

 

「これも『ヴィラン・ギルド』の物なのでしょうか?」

 

「だが、エンタープライズはこのリングを嵌めて強力な力を発揮した。『ヴィラン・ギルド』がそんな物を作ったとは思えないな」

 

ベルファストは怪獣オークションを行っている『ヴィラン・ギルド』を怪しむが、犯罪組織は自分達に得の無い事をしないと、カイン指揮官は否定する。

 

「兎に角、セイレーンがこのキューブを使って、姉ちゃんに何か悪さをしたのなら、絶対に許さない」

 

「それでベル。エンタープライズの様子は?」

 

「・・・・悩んでおられます」

 

「そうか・・・・」

 

「何だよ、1人で抱え込んじゃってさ・・・・」

 

ホーネットは珍しく姉に対して愚痴り、その部屋に重い空気が流れ始めた。

 

「にゃ~~!! 赤城のヤツ! なんて面倒な事をしてくれたにゃっ!!」

 

それを破るように明石が頭を抱えて声をはり上げた。

 

「赤城がいない今、加賀がどう動くか、一応五航戦の翔鶴と瑞鶴に警戒しておいて欲しいと伝えたが・・・・」

 

「にゃ~・・・・。重桜は無事なのかにゃ・・・・?」

 

「・・・・(ん? タイガ?)」

 

カイン指揮官の肩に乗りながら、タイタスとフーマが『黒いメンタルキューブ』を見ている中、タイガは『怪獣リング』の方に視線が向いていた。

 

 

 

ー綾波sideー

 

「・・・・暑い」

 

綾波はジャベリンとラフィーとユニコーンと共に、大浴場のサウナにあたっていた。

 

「・・・・・・・・」

 

「大丈夫綾波ちゃん? もうあがる?」

 

「っ!・・・・考え事をしてただけです」

 

「「「?」」」

 

「重桜の皆が、心配なんです」

 

「「「あ・・・・」」」

 

「アズールレーンの皆は、良い人達です。だから、カイン指揮官の事を、アズールレーンの皆から奪いたくないです。でも、重桜の皆だって大切な人達で、トモユキ指揮官も、大切な人です。・・・・綾波、重桜の皆を助けたいです!」

 

決意を新たにする綾波の手を握るジャベリン。

 

「うん! うん! 頑張ろう綾波ちゃん!」

 

「・・・・綾波の大切な人、ラフィーにとっても大切な人」

 

「でも、指揮官の記憶を戻せば、カイン指揮官が・・・・」

 

「大丈夫・・・・!」

 

トモユキ指揮官の記憶が戻ればカイン指揮官の記憶が消える。その事を危惧する綾波に、ユニコーンが声をあげる。

 

「お兄ちゃんはユニコーン達の事、絶対に忘れないよ! もし忘れても、また覚えてもらうよ! 綾波ちゃんのお友達の皆とも、ユニコーン達、お友達になれる!」

 

「「(コクン!)」」

 

ユニコーンの言葉に、ジャベリンとラフィーも頷いた。

 

「・・・・ありがとうです。皆」

 

綾波は笑みを浮かべてそう言った。

 

 

 

ー加賀sideー

 

その頃重桜では、旗艦の長門が『オロチ計画』の中止を決め、それに加賀が反対していた。

 

「『オロチ』を封印するだとっ!?」

 

「計画を一時中止するだけだ。赤城がいない以上、無理はできぬ」

 

「誰の入れ知恵だ?」

 

「あくまで余の判断だ」

 

「甘いぞ長門! オロチ無くして重桜に未来はない!」

 

「・・・・それを指揮官が望んでおると言うのか?」

 

「っ!」

 

長門の言葉に、加賀は息を詰まらせる。

 

「忘れるでないぞ加賀。我ら重桜の指揮官は海守トモユキ指揮官じゃ。指揮官は『オロチ計画』に懐疑的じゃった。指揮官不在の穴を埋めるために、赤城は『オロチ計画』を半ば強引に進めていたが、指揮官がアズールレーンにいるのが分かった以上、先ずは指揮官と綾波と明石の3人を取り戻してから、改めて『オロチ計画』を進めるか協議をするつもりじゃ」

 

「しかし指揮官は記憶を!」

 

「蒼龍曰く、記憶は時間をかければ自然と戻るとも言う。・・・・何やら、指揮官が戻ってくるのが、困るみたいな言い方じゃな?」

 

「っ!・・・・失礼する」

 

長門の探るような言葉に、さらに息を詰まらせる加賀が、その場を去ろうとすると、長門がその背中に声をかける。

 

「・・・・加賀、赤城がいなくなってお主の心は乱れておる。少し休養を取るがいい」

 

「・・・・・・・・」

 

その言葉に答えず、加賀は去っていった。その背を見て、長門達はため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・」

 

加賀は石段を下りながら、『オロチ計画』を如何にして進めるか悩んでいた。

トモユキ指揮官や綾波と明石を取り戻す為に、重桜艦船<KAN-SEN>が今は戦力を整えているのは分かる。しかし、『オロチ計画』がセイレーンの技術の横流しと知る指揮官と明石が戻ってくるのは非常に不味い。

元々こういった腹芸は赤城の担当だったのでどうするべきかと悩んでいると、

 

「ーーーーおやおや。お困りかな?」

 

「っ、誰だっ!?」

 

加賀が振り向くと、そこには白と黒のツーカラーのスーツを着た若い男性だった。ニヤニヤと軽薄そうに笑みを浮かべているが、加賀は騙されない。

この男から、危険な気配を漂っているのだ。

 

「このままじゃ、『オロチ計画』が水泡にきちゃうね? それでも良いの?」

 

「何・・・・?」

 

何故この男が『オロチ計画』を知っているのかと、加賀が札を出して攻撃体制に入るが、男は両手を上げて降参を示した。

 

「落ち着いて。僕はただ、大好きなお姉ちゃんを失って不安な君の為に、プレゼントをもってきたんだよ」

 

そう言って、男は右手を握ってすぐに開くと、『指輪』が握られていた。

 

「大好きなお姉ちゃんがいない状況でも、指揮官や仲間達を裏切る計画を続ける君に贈り物さ」

 

そう言って、男が投げ渡した指輪を加賀は思わず手に取った。

赤く長い角をした、異形の生物の形をした指輪を。

 

「これは・・・・?」

 

「その指輪を、セイレーンに気づかれずに、オロチに付与すると良い。そうすれば、誰も君とお姉ちゃんの邪魔はできない」

 

加賀は一瞬指輪に視線を向け、再び男を見ると、男はその姿を消していた。

 

 

 

 

ー霧崎sideー

 

加賀に接触した男、霧崎は、重桜母港の遥か上空に浮かんでいると、黒い魔法陣を足元に展開して、沈みながら加賀に呟く。

 

「頑張りなよ、愚かな艦船<KAN-SEN>くん」

 

その口元には、歪んだ笑みを浮かべながら。

 

 

 

 

 

ータイガsideー

 

『うわぁあああああっ!!』

 

そしてその頃、カイン指揮官はタイガに変身し、アズールレーン母港の近くに突如現れた、首が長く頭は小さい人型に背骨状のパーツを始め、有機的な要素があり、右腕から伸びた剣と左手と一体化した銃を武器とした黒い身体に目や肩や膝にオレンジのパーツを付けたロボット怪獣、『惑星守護神 ギガデロス』と交戦していた。

 

『くっ! 『ストリウムブラスター』!』

 

『ーーーー!!』

 

タイガが光線を放つが、ギガデロスは駆動音を響かせ、オレンジのパーツが発光すると、光線のエネルギーを吸収して、二体に分裂した。

 

『何っ!?』

 

『「エネルギーを吸収したのかっ? この怪獣は一体?」』

 

≪噂に聞いた事があります。惑星守護神と呼ばれるギガデロスです!≫

 

『「ギガデロス?!」』

 

≪元々は、流れの宇宙人科学者が怪獣災害に苦しんでいる人々の為に造り出した防衛兵器であり、複数製造され怪獣災害をなくして平和をもたらしたらしいのですが。突然制御不能の暴走状態に陥り、その星のあった銀河を滅ぼしてしまい、その後は宇宙に散らばったと聞いておりましたが、まさかこの星に来るとは・・・・!≫

 

≪星を守っていた兵器が銀河を破壊しちまうとは! 守護神じゃなくて破壊神だろっ!≫

 

『トモユキ! 怪獣リングを使おうぜ! あれがあれば!』

 

『「駄目だタイガ。エンタープライズを見ただろう、あれは危険過ぎる!」』

 

『何言ってんだよっ!? エンタープライズは力不足だっただけだっ! ウルトラマンの俺なら使いこなせるっ!』

 

『「・・・・いや、駄目だ」』

 

『トモユキ!!』

 

怪獣リングの危険性もだが、タイガの様子がおかしい事を危惧するカイン指揮官は、怪獣リングを使わない事を選択した。

カイン指揮官はタイガスパークを起動させる。

 

[カモン!]

 

『タイガキーホルダー』が『フォトンアースキーホルダー』に変わり、それを手に取り、左右の水晶に順に翳した。

 

[アース!][シャイン!]

 

『「今持てる力を全て使って、コイツを倒す!輝きの力を手に!」』

 

キーホルダーを握ると、上部が二又に開き、光輝く。

 

≪ト、トモユキっ!!≫

 

タイガの身体に金と銀と黒の鎧が脚から順に装着され、ウルトラホーンも金色に変化し大振りになった。

 

「バディー、ゴー!」

 

[ウルトラマンタイガ フォトンアース]

 

『ちっ・・・・シュアッ!!』

 

フォトンアースとなったタイガが、舌打ちするような声を漏らし、雷のようなエネルギーを迸らせながら、ギガデロスと交戦した。

 

 

 

ーエンタープライズsideー

 

ギガデロスと戦うタイガを援護しようと、〈ノブレス・ドライブ〉ができるロイヤル艦船<KAN-SEN>達やラフィーが向かう。

エンタープライズ達は、母港の防衛をしながら、遠くでウルトラマンとギガデロスの戦いを見ていた。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

そしてエンタープライズは、全員の目がウルトラマン達に集中している中、コッソリとその場を離れた。

 

「っ・・・・姉ちゃん?」

 

ホーネットだけが、姉の不審な行動に気づいていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

エンタープライズはカイン指揮官の執務室に赴き、机の上に置かれているケースを開けるとーーーー怪獣リングが入っていた。

 

「・・・・・・・・」

 

エンタープライズは、怪獣リングを手にしようとその手を伸ばした。

 

「ーーーー姉ちゃん」

 

「っ! ホーネット・・・・」

 

執務室の扉から、ホーネットが現れ、驚愕に目を少し見開きながら、エンタープライズを見ていた。

 

「何、してんの? そのリングには近づくなって、指揮官から通達があった筈でしょう?」

 

何してんの? と問うたが、ホーネットも分かっている。だが、それが間違いであって欲しいと願う気持ちで問うがーーーー姉は、それが間違いではないと告げた。

 

「このリングの力を使って、怪獣を倒す」

 

「っ! 何言ってんのっ!? そのリングは危険だよ! またあんな風になるかもしれないでしょう?!」

 

「あの時は怪獣のせいで私の意識が無かっただけだ! 今度は使いこなしてみせる!」

 

「姉ちゃん!」

 

「私は艦船<KAN-SEN>だ! 戦う事が私の存在意義だ! 感情なんていらない! 『気高さ』など、『戦う理由』など、戦う為に生まれた私には・・・・不要なんだっ!!」

 

そう言って、エンタープライズはリングを全て左右の指に嵌めたその時、禍々しいオーラがエンタープライズの身体を包み込んだーーーー。

 

 

 

 

ータイガsideー

 

『ハアァッ!!』

 

タイガがギガデロスに拳を叩きつけるが、そのエネルギーまで利用して、三体へと分裂した。

 

『これは・・・・!』

 

『「(厄介だな・・・・)」』

 

足元の海面から、〈ノブレス・ドライブ〉した艦船<KAN-SEN>達も援護してくれているが、このままではジリ貧である。

 

『『『ーーーー!』』』

 

三体のギガデロスが、それぞれ左腕の銃をタイガに向けて発砲しようとした瞬間ーーーー。

 

ーーーーズガァアアアアアアアアアンン!!

 

『『『ーーーー!!』』』

 

三体のギガデロスが別方向から放たれた三本のエネルギーの矢に当たり倒れた。

 

『っ、あれは・・・・!』

 

『「エンター、プライズ・・・・?」』

 

宙に立つエンタープライズ。だが、その様子は前回と同じく、感情が消失した瞳は金色に妖しく輝き、さらにその両手の指には、全ての怪獣リングが嵌められていた。

 

 

 

ーベルファストsideー

 

「エンタープライズ様っ!?」

 

ベルファストが、まだ〈ノブレス・ドライブ〉になって間もないジャベリンとラフィーのフォローをユニコーンと共にしながらギガデロスと戦っていたが、突如不気味なオーラを纏い、前回と同じ状態で現れたのだ。

 

《指揮官! 皆!》

 

と、そこで通信機から、ホーネットの慌てたような声が響いた。

 

「ホーネット様?」

 

《姉ちゃんが、姉ちゃんが怪獣リングを嵌めて、またあの姿に・・・・!!》

 

「っ!?」

 

通信機から聞いた言葉に、ベルファストは視線を鋭くする。

 

《・・・・全艦船<KAN-SEN>は、怪獣への攻撃を継続。エンタープライズの方は警戒を持て。暴走するようなら止めろ》

「・・・・はい」

 

ベルファストが頷き、銃を乱射してくるギガデロス2の攻撃を回避する。

 

 

 

ー霧崎sideー

 

エンタープライズの様子を母港近くの灯台の天辺で眺めていた霧崎、トレギアが高笑いをする。

 

「ふっふふふふふ、あっはははははははは!! 想像以上だ! 想像以上の事をやってくれたねエンタープライズ! 私の感情をいれたロボットを連れてきたかいがあったよっ!!」

 

そう、ギガデロスが暴走し、惑星守護神を破壊神にしたのは、このトレギアだったのだ。

 

「でも、それじゃ面白くないからなぁ・・・・」

 

そう言って、パチンッ、と指を鳴らした。

 

 

 

ータイガsideー

 

『くっ! ふっ! はぁっ!!』

 

ブレードて攻撃してくるギガデロスの攻撃を受け止め、反撃するタイガ。

もう一体のギガデロスは宙に浮くエンタープライズが攻撃し、さらにもう一体は、ウェールズ達が戦っていたが、徐々に追い詰められていく。

 

《指揮官! 奴らの動きが段々正確になっています!》

 

『「こちらの動きを学習しているのかっ!?」』

 

『ーーーーイラつかせるぜぇ!!』

 

段々とタイガの声に苛立ちが募らせる。

と、エンタープライズの指に嵌めた『ナイトファングリング』が光ると、エンタープライズは手をギガデロスに向けると、ソコから超音波が放たれ、ギガデロスの動きを封じ、分身が一体に集まった。

 

『これは・・・・!』

 

『「超音波で奴の能力を封じたのか?」』

 

『・・・・・・・・』

 

『「タイガ?」』

 

タイガのカラータイマーに、黒い光が灯り出す。

 

『しぶとい野郎だ・・・・!!』

 

『「タイガ!」』

 

『っ! トモユキ・・・・』

 

『「落ち着くんだタイガ」』

 

『っ、お、俺はーーーー』

 

一瞬、我を忘れそうになったタイガが、トモユキの声で少し落ち着く。

 

『「皆! やつを抑えてくれっ!」』

 

『『共鳴<レゾナンス>』!!』

 

『ーーーー!!』

 

共鳴<レゾナンス>を使って、ギガデロスを攻撃する艦船<KAN-SEN>達。ギガデロスはその攻撃で身体を止めた。

 

『「タイガ!」』

 

『ふっ! ふぅぅぅぅぅ、『オーラムストリウム』!!』

 

ーーーーチュドォオオオオオンン!!

 

金色の光線が、ギガデロスの身体を爆散させると、爆発から、光が、怪獣リングが飛んできた。

 

「っ!」

 

『「なっ! エンタープライズ!?」』

 

タイガがそれに触れようとするが、エンタープライズが先に怪獣リングを掴み、指に嵌めた。

 

「・・・・・・・・うあぁあああああああああっ!!!!!!!」

 

『「エンタープライズ!」』

 

「エンタープライズ様っ!」

 

カイン指揮官とベルファストの声が重なると、エンタープライズがタイガに攻撃をしてきた。

 

「っ! うぅぅぅぅぅぅぅ!」

 

『うぁあああああ!!』

 

エンタープライズの攻撃に、タイガは倒れる。

 

『エ、エンタープライズ・・・・!』

 

≪怪獣リングの力に呑み込まれたかっ?!≫

 

≪するてぇとよぉ! どうすんだっ!? 手加減してどうにかなりそうもねぇし! 俺らの力じゃ、あの姉ちゃんも無事じゃすまねぇぞ!!≫

 

「姉ちゃーーーーーーーーん!!」

 

『「っ! ホーネット!」』

 

母港からホーネットとヴェスタルとハムマンが駆けつけ、エンタープライズに向かって叫ぶ。

 

「やめてよ! やめてよ姉ちゃん!」

 

「エンタープライズちゃん!」

 

「お願いだから止めてなのだーーーー!!」

 

「・・・・・・・・」

 

しかし、エンタープライズは、三人の言葉を意に返さず、弓の弦をしぼって、矢を三人に向けると、ヘルベロスの『ヘルスラッシュ』のような血のように真っ赤な刃が、矢に付与された。

 

「・・・・・・・・」

 

「姉ちゃん・・・・!」

 

妹や仲間を見るその目は、感情などなく、ただ目先の相手を機械的に殲滅するーーーー正しく、殺戮兵器へと化してしまった。

変わり果てた姉の姿を見て、ホーネットは静かに涙を流した。

矢が三人に迫るその時、ホーネットの前に、タイガが壁のように立ち塞がる。

 

『ぐああああ!!』

 

「っ! ウルトラマン!!」

 

『っ!! エンタープライズ! いい加減にしやがれぇええええ!!』

 

タイガがエンタープライズに手を伸ばし、エンタープライズが新たに構えた矢がタイガの手に触れた瞬間ーーーー。

タイガスパークが目映く光った。

 

『「っ! これは・・・・!」』

 

そしてカイン指揮官は、意識が遠退く感覚に襲われた。

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

「っ! ここは・・・・」

 

ソコは漆黒の空と燃える海の空間。

その海の上に立ち、涙を流す少女、エンタープライズがいた。

 

「エンタープライズ」

 

「・・・・終わらない・・・・戦いは、終わらない。私は、失う・・・・。大切なモノ・・・・全て・・・・!」

 

「・・・・エンタープライズ!!」

 

ーーーーパンッ!

 

カイン指揮官が、エンタープライズに近づき、その頬をひっぱたいた。

 

「っ・・・・し、指揮官?」

 

「エンタープライズ」

 

「私は、分からないんだ・・・・。どうすれば戦いが終わる? 私はいつまで戦う? 私は、“何の為に戦えば良い”?」

 

「・・・・“何の為に”、か。エンタープライズ。問い返すが、君は今まで、“何で戦ってきたんだ”? 艦船<KAN-SEN>だって言うのは無しだ」

 

「わ、私は・・・・私、は・・・・」

 

“何で戦ってきた?” それが艦船<KAN-SEN>として生まれた自分の意義だと言いたかった。それ以外に、戦う理由なんてーーーー。

今にも泣きそうな顔となるエンタープライズに、カイン指揮官は優しく説く。

 

「エンタープライズ」

 

「・・・・・・・・」

 

「笑いなよ」

 

「え?」

 

「皆同じだ。ベルファストも、ジャベリンも、ラフィーも、陛下達ロイヤルの皆も、君と同じユニオンの皆も、皆君と同じ不安や恐怖を抱いている。だから、いや、だからこそ、皆笑って、笑顔を作るんだ・・・・」

 

「笑う? 笑顔?」

 

「いつ終わるか分からない戦い。いつ失うか分からない仲間。いつ無くしてしまうか分からない場所。皆同じような気持ちだ。でもさ・・・・だから、そんな不安に負けない為に笑うんだよ」

 

「笑う?」

 

「君達は、人間と同じ身体と心を持った。だから、人間の身体を得てできる事をやる。そうして、皆と笑い合えば、不安な気持ちを吹っ飛ぶからだ」

 

「私は、人間では・・・・」

 

ない、と言おうとするエンタープライズの口に、カイン指揮官は人差し指を押し当てた。

 

「そうやって、否定したり、不安や恐怖を抱いたりするのも、人間だよ。エンタープライズ。僕は君達艦船<KAN-SEN>は、人間と同じだと思っている」

 

「私が、人間・・・・」

 

「エンタープライズ。辛いなら言えばいい。恐いなら叫べばいい。泣きたいなら泣けばいい。倒れそうになったら倒れてしまえばいい。でも、そうした時、君は一人じゃない事を思い出せ」

 

「私は、一人じゃない・・・・」

 

「僕が、ベルファストが、ホーネットが、皆が君を引っ張って、起き上がらせ、時には肩を貸してやる。間違った道に行きそうになったら、今みたいにひっぱたいてやる。そして僕が倒れた時は、道を間違えた時は、エンタープライズがそうしてやって欲しい。お互いに補う合う事ができるのが、“真の仲間”と言うんだ」

 

「“仲間”・・・・」

 

「ああ。仲間だエンタープライズ。君と皆と、そして僕との間にある、絆を信じろ!!」

 

「“絆”・・・・。指揮官・・・・」

 

差し出された指揮官の手を、エンタープライズは少し震えながら、その手を掴もうと伸ばした。

しかし次の瞬間ーーーー。

 

「指揮官! 後ろ!!」

 

「っ!」

 

怪しい影がカイン指揮官の背後に現れ、エンタープライズが叫び、カイン指揮官が振り向くと、ピエロの仮面をつけ、ロイヤル軍服を纏う人物がいた。

 

「何者だ・・・・!?」

 

『ありがとうエンタープライズ。違う形だが、『ゴール』に達したよ』

 

仮面を脱いで現れたのは、トレギアだった。

 

「お前は・・・・」

 

『ふふふふふふふ・・・・!』

 

トレギアが手を伸ばすと、その手が黒い光の手となり、カイン指揮官に向けて、黒い稲妻を放った。

 

「うわぁあああああああああああ!!!」

 

「指揮官!!」

 

エンタープライズがカイン指揮官を掴もうとするが。

突然、エンタープライズの意識が遠退いたーーーー。

 

 

 

ータイガsideー

 

『「うわぁあああああああああああ!!!」』

 

『っ! トモユキっ!? うわぁあっ!』

 

カイン指揮官が悲鳴をあげると、エンタープライズの身体から、漆黒のエネルギーが弾け、タイガをぶっ飛ばす。

そして、エネルギーが収まると、エンタープライズは力無く落下していき、指から怪獣リングが全て外れ、リングは宙を浮くと、凄まじい勢いで次々とタイガのカラータイマーの中に入っていった。

 

『な、なにっ!? ぐぁあああああ!!』

 

苦しむタイガの様子に、艦船<KAN-SEN>達が何事だと顔を向ける。

 

『逃げろ! トモユキ!』

 

インナースペースで黒い稲妻を浴びていたカイン指揮官の前にタイガが現れ、黒い稲妻を代わりに浴びた。

 

『ぐっ! うぅっ! あぁあああああああ!!』

 

『「タイガ!!」』

 

タイガがトレギアに連れていかれた。

 

『うぅっ! あぁっ! うあぁああああああっ!!』

 

タイガの身体から黒い稲妻が迸り、稲妻が空に昇っていくと、暗黒の雲が広がっていった。

 

『フフフフフ・・・・』

 

『ぐぅ、あぁあ・・・・!』

 

そして、空から、トレギアがゆっくり舞い降りてきた。タイガが海に倒れると、苦しそうにもがき、トレギアが近づく。

 

『苦しいかい? タロウの息子?』

 

『ト、トレギア・・・・!!』

 

『その怪獣リングには、私の感情が入っているのさ』

 

『お、お前の、感情?』

 

『何の代償も無しに、都合良くリングを使えると思っていたのか?』

 

『な、何・・・・!? リングはまさか、お前が・・・・!?』

 

『リングを使えば使うほど、使った者の魂は闇に堕ちていく仕掛けを作っていたのさ。まさか、艦船<KAN-SEN>にも使えるとは思わなかったけどね』

 

トレギアが、ベルファストとホーネットに肩を貸してもらいながら抱えられた、気を失ったエンタープライズを見てそう言った。

 

『ご利用は計画的に♪』

 

『この野郎!!』

 

『ハハハハハハハハハハ!!』

 

タイガが起き上がってトレギアに掴みかかり、殴り続けるが、トレギアはその攻撃が通じていないと言わんばかりに笑い声をあげ、タイガを後ろから押さえ込んだ。

 

『そうだ。もっと怒れ! 残忍になれ! そうすれば君は私になる!』

 

『「タイガ!!」』

 

『落ち着けタイガ!』

 

『怒りに呑み込まれるんじゃない!』

 

カイン指揮官、フーマとタイタスが呼び掛けるが、タイガは耳を貸さずトレギアと戦う。

 

『「僕達の声を聞いてくれタイガ! これまで一緒に戦ってきただろう! 戻ってきてくれ! 僕と君の絆は!」』

 

『絆・・・・?』

 

と、カイン指揮官の言葉を遮るように、トレギアがタイガの首を掴んで苛立ったような声で、カイン指揮官に伝えるように言う。

 

『二言目には、絆絆五月蝿いんだよ。人間風情に何ができる?』

 

首を離すと、ヨロヨロになったタイガに追い討ちを仕掛けるように蹴り続けてくる。

 

『あ、あぁ・・・・!』

 

『フフフフフ』

 

《ウルトラマンさん!》

 

『「皆! 動くな!」』

 

ジャベリンが駆けようとするが、カイン指揮官が止めた。

 

《指揮官!》

 

『「コイツは、トレギアは、危険すぎる!」』

 

タイガをなぶるように攻撃するトレギア。そして闇が身体から溢れ、タイガの身体を苦しめる。

 

『あぁああああ・・・・!!』

 

『ハハハハハ! 聞こえるかNo.6! 闇がお前の息子を蝕んでいるぞ! ウルトラマンタロウの息子を!!』

 

『ぐぅぅぅぅ、俺はタイガだっ!! うわぁああぁああああ!!!』

 

『ハハハハハ! ハハハハハハハハハハハハハハハ!!!』

 

起き上がるタイガだが、身体から闇が溢れ出て、フォトンアースの鎧を吹き飛ばしてしまった。

 

『っっ!!!』

 

艦船<KAN-SEN>達が驚愕する中、 茫然と立っているタイガ。ゆっくりと近づくトレギア。

 

『じゃあリングは返して貰うね。ご苦労さん』

 

トレギアがタイガのカラータイマーに手を翳すと、中から小さな光、怪獣リングが全て出てきて、トレギアの手に収まった。トレギアは、タイガの胸元を、ツンッと押すと、タイガは力なく座り込んでしまった。

 

 

 

ーカインsideー

 

そして、闇に染まったインナースペースでは、闇の渦の中にタイガが沈んでいった。

 

『タイガっ!!』

 

『タイガっ!!』

 

『「タイガーーーーっっ!!!」』

 

『タイタス! フーマ! トモユキーーーーっ!!』

 

『「タイガ! タイガーーーー!!」』

 

タイガが闇の渦に呑まれると同時に・・・・。

 

『ぐぅあああああ!!』

 

『「タイタスッ!?」』

 

タイタスが・・・・。

 

『うぁあああああ!!』

 

『「フーマッ!?」』

 

フーマが、光となって弾け消えた。

 

『「皆ーーーーっっ!!!」』

 

そしてカイン指揮官も、闇の中に呑み込まれていったーーーー。

 

 

 

 

 

「指揮官!」

 

「閣下!」

 

「指揮官様!」

 

「お兄ちゃん!」

 

「指揮官!」

 

「指揮官・・・・!」

 

「ご主人様!!」

 

「はっ! み、皆・・・・!」

 

皆の声に目を覚ましたカイン指揮官、ウェールズが展開させた艦の上にいた。横を見ると、ホーネットとヴェスタルとハムマンに介抱されているエンタープライズもいた。

どうやらタイガと分離してしまったようだ。

腰を見やると、タイガのキーホルダーだけがなくなっていた。そしてタイガを見ると、海に倒れるように横になり、その前に、トレギアがいた。

タイガの右腕にタイガスパークは消え、カラータイマーは赤く発光していた。

 

「タイガ・・・・!」

 

カイン指揮官が呼ぶが、タイガはゆっくりと起き上がり、それを見てトレギアが艦船<KAN-SEN>達にも聞こえるように言う。

 

『昨日までのタイガは死んだ。新しいタイガの誕生だ』

 

「っ!?」

 

『っ!!?』

 

その言葉に、カイン指揮官と、アズールレーン艦船<KAN-SEN>達が息を呑む。

それに構わず、トレギアはタイガの顔を手で触れて語りかけた。

 

『もう君は人間がいなくても変身できる。新しい相棒は闇のエネルギーと言う訳だ。君と僕とでバディ・ゴー。フフハハハハハハハハハ! アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!』

 

「・・・・タイガの光が、消えていく」

 

その様子を愕然と見るカイン指揮官に、イラストリアスが声を発する。

 

「例え・・・・暗黒の雲が世界を覆ったとしても、その向こうでは、太陽が光り輝いています!」

 

「イラスト、リアス・・・・」

 

「聖なる光が、そう言っています・・・・! 太陽はいつも、輝いているのです!」

 

《・・・・ここは危険だわ。全艦船<KAN-SEN>。母港に撤退よっ! 急ぎなさいっ!!》

 

通信機越しに、Q・エリザベスが代わりに撤退の指揮を取る。

カイン指揮官は、再びタイガの方を見る。トレギアに顔を撫でられているタイガを。

 

『良い子だ。それで良い。フフフフフフフ!』

 

「・・・・タイガ・・・・タイガ・・・・!!」

 

『さぁ、一緒に行こうか』

 

そしてトレギアは魔法陣を展開させ、タイガを放り込むように入れた。

 

「タイガ・・・・(ズキンッ!) うぉあっ!!」

 

突然、カイン指揮官の頭に激しい痛みが走った。

 

「ぐぅ、あ、あぁああああ!!」

 

『おや、君にも影響があったようだねぇ。それじゃ、貰っていくよ。カイン・オーシャン指揮官♪』

 

トレギアはそう言って手を振り、魔法陣の中に入り、魔法陣は消えていった。

 

「あぁあ、タイタス・・・・! フーマ・・・・! タ、タイガ・・・・!!」

 

四つん這いになったカイン指揮官は、そのまま意識を失ってしまった。

 

『指揮官(様)!/お兄ちゃん/閣下!/ご主人様!!』

 

ジャベリン達、艦船<KAN-SEN>達の悲痛な叫びが、暗黒の雲に覆われた海に、虚しく響いていった。

 

 

 

 

ー綾波sideー

 

「っ! 指揮官・・・・?」

 

そして母港から戦況を見ていた綾波が、嫌な予感がざわめき、それがカイン指揮官、トモユキ指揮官に何か起こった事を予感させた。




闇に呑まれたタイガとカイン指揮官。失意のエンタープライズ。暴走する加賀。

これからの展開をお楽しみください。


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【成長】変わる時は今

それは、まだタイガが『M78星雲 光の国』にいた頃、父である『ウルトラ兄弟No.6 ウルトラマンタロウ』から、タイガスパークを与えられた。

 

『かつて、“友”と一緒に作った仲間との絆を深める物だ。私も人間と絆を深め、巨大な悪と戦った』

 

『人間と? そんな絆なんて俺には必要ありません』

 

『ーーーータイガ。広い宇宙をその目で見てこい。『強さ』とは何か? 『仲間』とは何か? そして、お前自身が『真の絆』を見つけた時、大いなる力を引き出す事ができるだろう』

 

人間を、仲間を軽んじる息子に、父が言った言葉であった。

 

 

 

* * *

 

 

 

『あ・・・・あぁ・・・・』

 

『しぶといねぇ・・・・闇は気持ち良いだろう?』

 

深海の奥、抗うようにもがくタイガに、トレギアは囁き続ける。

 

『ト、トレ、ギア・・・・』

 

『あぁ~ぁ、これだから温室育ちは脆いねぇ。まぁ良いさ。もう少し待てば、新しいタイガが誕生する。ハハハハハ・・・・!』

 

深海の闇の中で、トレギアの笑い声が響いた。

 

 

 

 

ーカインsideー

 

「はっ!・・・・っ!?・・・・ここは?」

 

暗黒の空間の中で目を覚ましたカイン指揮官。腰にウルトラキーホルダーが無くなっていた。

 

「ない・・・・?」

 

『ーーーー!!』

 

「なっ!」

 

唸り声のようなのが聞こえ、ソコに目を向けると、闇に包まれるタイガがいた。

 

『ここは最高だ! 力が身体中にみなぎってくる!』

 

「タイガ? ここにいたらダメだ! 一緒に帰ろう!!」

 

『・・・・ウルセエ人間! お前は誰だ? 俺の中から出ていけぇぇぇぇぇぇっ!!!』

 

タイガが叫ぶと、闇が溢れ、カイン指揮官を取り込もうとする。

 

「あぁあっ・・・・!!」

 

 

* * *

 

 

「やめろーーーーっっ!!!」

 

「指揮官!」

 

タイガの変貌が起こったその日の夜。アズールレーン母港の指揮官の寝室。何人かの艦船<KAN-SEN>達が見舞いに来ており、ベッドに横たわらせた指揮官が突然飛び起き暴れだした。

 

「指揮官! 落ち着いてくれ!」

 

「うあっ! あぁああああああああっ!!」

 

「落ち着いて指揮官! 指揮官ってばっ!!」

 

「うぉおおあああああああああああああああっ!!!」

 

ウェールズとクリーブランドが押さえ込むが、カイン指揮官は暴れ続ける。

 

「・・・・ウォースパイト」

 

「・・・・はっ!」

 

カチャリ・・・・ガンっ!

 

「がっは!?」

 

Q・エリザベスがウォースパイトに命じると、ウォースパイトは剣の腹でカイン指揮官を殴り、カイン指揮官は再び眠った。

 

「ご主人様・・・・!」

 

ベルファストは、悲痛な顔でカイン指揮官を抱き抱えて、ベッドに戻した。

 

 

* * *

 

 

「どうしたんだよ?・・・・僕だカインだっ! トモユキだっ!」

 

『・・・・・・・・トモ、ユキ?』

 

トモユキの名前に反応するタイガ。

しかし、それを遮るように、トレギアがタイガの背後に現れた。

 

『いや~。絆って美しくて儚い物だ・・・・反吐が出る!』

 

「トレギア・・・・!! タイガをどうするつもりだっ!?」

 

カイン指揮官の問いに答えず、トレギアは舐めるような声色でタイガに声を発する。

 

『おや? 絆とか大層な事を言っておきながら、他の仲間は何処かなぁ~?』

 

『・・・・!』

 

『見捨てられちゃったのかなぁ~?』

 

『・・・・俺は、見捨てられた・・・・?』

 

「違う! タイタスもフーマも! 君を見捨てるなんて、そんな事ないっ!!」

 

『ハハハハハ! 安っぽい仲間ごっこは終わりにしよう。父親を越える力を手に入れたんだ。私と一緒に『光の国』に戻ろう。そしてーーーー父親にその力を見せつけてやれ!』

 

「ソイツの言葉に耳を傾けるなっ!!」

 

『せっかく手に入れた力を手放すか? 後はお前次第だ。『タロウの息子』よーーーーいや、ウルトラマンタイガ。ハハハハハ・・・・』

 

そう言って、トレギアは闇の中に消えた。

 

「・・・・(ドクンッ!) ぐぁっ! タイガ、僕の・・・・“俺”の声を、聞いてくれ・・・・!」

 

すると、突然カイン指揮官の頭に痛みが走り、“俺”と言った。

だがーーーー。

 

『ーーーー俺はタイガ・・・・。父親を、タロウを越える力ッッ!!!!』

 

「「うわぁあああああああああああ!!!」」

 

タイガが手を伸ばすと、暗黒のエネルギーが手の形となり、カイン指揮官を襲う。その時、カイン指揮官の声が“二人”となったように重なった。

 

 

* * *

 

 

「やめろ・・・・! 絶対に、助けて・・・・!」

 

「・・・・・・・・」

 

「ーーーーっ! 下僕! いい加減に起きなさいよ! 何やってるのよっ!? 私の声が聞こえないのっ!?」

 

「陛下! 落ち着いてください!」

 

ベッドに横になり、うなされ、汗を流しているカイン指揮官を、ベルファストは不安な顔でタオルで拭うと、エリザベスが胸ぐらを掴んで叫ぶ。ウォースパイトが押さえようとするが、エリザベスは止まらなかった。

 

「下僕! 私の声を聞きなさい! 下僕っ!!」

 

「・・・・明石。何か方法は無いのか?」

 

苦しんでいるカイン指揮官を見て、歯痒さを感じるウェールズが、指揮官のバイタルチェックをする明石に問う。

 

「にゃ~。言葉を頭の中に伝えるかにゃ・・・・。う~ん。もしかしたら、“あの子”の声なら、届くかも知らないにゃ」

 

「あの子?」

 

明石の呟いた言葉に、ウェールズ達は首を傾げた。

 

 

 

 

ー重桜sideー

 

カイン指揮官が苦しんでいる頃、夜の重桜母港では、伊勢と日向。蒼龍と飛龍。翔鶴と愛宕が食事を取っていた。

すでに『オロチ計画』の中止は通達された。伊勢と日向は酒を飲む。

 

「何ともまぁ、面倒な事になってきたなぁ」

 

「『オロチ計画』は休止。量産型セイレーンは結局動かないまま。八方塞がりだ」

 

「・・・・ふぅ、指揮官もだけど、綾波ちゃんと明石ちゃんが心配ねぇ」

 

「指揮官ならば、手荒い事はしないと思いますが、二人が心細い思いをしていないといいのですが」

 

愛宕が酒を一杯飲んでそう言うと、蒼龍が同意するように言った。そこで翔鶴が口を開く。

 

「そもそも『オロチ計画』は指揮官も懐疑的でしたし、あんな得体の知れない物に、重桜の未来を託す訳には行きません」

 

「そう簡単な話ではないわ」

 

「レッドアクシズはけして一枚岩ではない。あまり鉄血に弱味を見せたくない」

 

蒼龍と飛龍の言葉に、伊勢と日向が口を出す。

 

「アズールレーンはしっかり団結しているっぽかったな」

 

「本当の敵は『セイレーン』なのになぁ内輪で腹の探り合いばかりだ」

 

「指揮官がいれば、私達重桜もアズールレーンを脱退しなくて済んだのかもね」

 

愛宕の言葉に、その場にいる全員が黙った。可能性の話なのは重々分かっている。だが、トモユキ指揮官がいてくれれば、と考えてしまう。

 

「(指揮官・・・・アンタがいないと、重桜はダメになっちまうよ)」

 

伊勢は舞い散る夜桜を見て、そう思った。

 

 

 

 

 

 

そして、重桜母港を歩く瑞鶴と高雄。

 

「瑞鶴。身体の具合は?」

 

「うん。もう平気! いつでも戦える!」

 

「そうか。それは何より。しかし、状況は芳しくない。重桜だけではない。まるで全てが、善くない方向に進んでいっている。そんな気がしてならないな・・・・」

 

「(・・・・指揮官だったら、こんな時どうするかな)」

 

瑞鶴が、そう考えると、意を決したように言う。

 

「・・・・だったら、私達の手で何とかしないとね!」

 

「っ!」

 

「前に、私が無茶した時に指揮官に言われたんだ。【一人でやろうとしないで、仲間を頼れ。『艦隊』って言うのは、チームなんだ。『仲間』と力を合わせれば、どんなに辛い戦場でも、きっと乗り越えられる】って。善くない方向に向かっているなら、皆で善い方に直していこう!」

 

「・・・・うん」

瑞鶴の言葉に頷く高雄。瑞鶴の脳裏には、綾波を助けようとして、金色に輝いたジャベリンとラフィーの姿が過った。

 

「あの子達だって頑張っているんだ! 私達も変わらなきゃ!」

 

瑞鶴は決意を新たにした。

 

 

 

 

ー加賀sideー

 

加賀は一人、酒を飲んでいた。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

が、その瞳は酷く虚ろであり、赤城に貰った髪飾りを握っていた。

トモユキ指揮官が綾波と共にこの母港に来る前、天城は上層部の杜撰な指揮によって、自分達の前から消えてしまった。それから士官学校を卒業して間もない18歳のトモユキ指揮官の元、重桜母港は建て直され、赤城も天城を失った悲しみを、トモユキ指揮官への恋慕で上書きされた。加賀もまた、少しずつトモユキ指揮官に引かれていき、重桜は順風満帆になろうとしていた。

 

しかしーーーートモユキ指揮官が行方不明となってから、重桜はおかしくなっていった。

 

赤城は指揮官を失った絶望と天城を失った悲しみが重なり、赤城がどんどんおかしくなっていった。そんな赤城に救い手を伸ばしたのは、あろうことかセイレーンだった。

『オブザーバー』が『オロチ計画』を教え、その計画が成功すれば、天城が戻ってくる。その悪魔のような言葉に赤城は乗ってしまった。加賀はトモユキ指揮官に【赤城を支えてくれ】と託された言葉を胸に、赤城を支えようとした。

そして、アズールレーンにトモユキ指揮官がいる事が分かった時、赤城が久しぶりに心から笑みを浮かべた。トモユキ指揮官が戻れば、赤城も『オロチ計画』を止めるのではないかとすら思った。

しかし、結果は指揮官に否定され、敵対する事になった。

自分は赤城を支える事も、指揮官を取り戻す事もできない。

ーーーー自分は、“天城の代用品”にすらなれない。

 

「・・・・・・・・指揮官、何故いないんだ?・・・・何故いてくれないんだ?・・・・私に、教えてくれ・・・・。どうすれば良いんだ、指揮官・・・・」

 

その虚ろな瞳から涙が流れた。

 

 

 

 

ーエンタープライズsideー

 

うなされ、廊下をさ迷うエンタープライズの目の前に、『セイレーン』のようになった、『もう一人の自分』が立っていた。

 

「お前は何なんだっ!?」

 

『冒険心を胸に大海原へと乗り出した人類は、やがて海の覇権を競い相争うようになった』

 

そう言った瞬間、廊下の床に火が走る。

 

「っ!!?」

 

『海の歴史は戦いの歴史だ。『闘争』ーーーーそれこそが人が求めたもの』

 

そう言うと、ニンマリと歪んだ笑みを浮かべる。

 

『これが人の求める『ロマン』!!』 

 

「何を馬鹿げたことを! っ!?」

 

否定しようとするエンタープライズの目の前に、桜の葉が舞う。そして、『もう一人のエンタープライズ』は、天城へと姿を変えていた。

いや、それは天城の姿をした『何か』であると、直感した。

 

「お前はーーーー違うな・・・・」

 

『・・・・・・・・』

 

“天城”は可愛く首を傾げるが、エンタープライズは続ける。

 

「その姿も、さっきの姿も、仮初めの物。・・・・お前の正体はもっとおぞましいものだ!」

 

すると、“天城”が口を開く。

 

『いいえ本物よ。私は人の思いを映し出す『鏡』なのだから』

 

“天城”の瞳が妖しく光ると、エンタープライズは目眩が起こった。

 

「何を・・・・?!」

 

エンタープライズの視界が霞み、“天城”は姿を消した。

 

『我は『オロチ』・・・・人々の思いより生まれたーーーー“怪物”だ』

 

「待てっ! あっ・・・・」

 

そしてその場に、エンタープライズは倒れる。

 

『エンタープライズ・・・・』

 

「あっ・・・・」

 

が、倒れたエンタープライズの耳に、声が聞こえた。

声がした方に目を向けると、霞んでいた視界が少しずつ晴れていき、廊下を這いながら、自分に近づく人物がいた。それはーーーー。

 

「し、指揮官・・・・!」

 

そう。カイン指揮官が、床を這いながら、エンタープライズに向かって来ていたのだ。

 

『エンタープライズ・・・・! エンタープライズ・・・・!』

 

「指揮官・・・・! 指揮官・・・・!」

 

エンタープライズも、身体を必死に這わせながらカイン指揮官の元に行き、カイン指揮官がその手を伸ばした。

 

『エンタープライズ・・・・! 僕の、手を・・・・!』

 

「指揮官・・・・!」

 

エンタープライズも手を伸ばし、二人の指先が、触れようとしたその瞬間、

 

『っ! うわああああああああああ!!』

 

カイン指揮官のいた床が、突然、闇の渦のようになり、カイン指揮官が呑み込まれようとしていた。

 

「指揮官っっっ!!!!!」

 

エンタープライズが手を伸ばし、二人の指先が僅かに触れたが、カイン指揮官は渦に完全に呑まれ、エンタープライズの悲痛な叫びが炎に包まれる廊下に響いた。

 

 

 

* * *

 

 

「指揮官っっっ!!!!!」

 

タイガの変貌から翌日の朝。母港の自室で、エンタープライズは漸く目が覚め、ガバッと起き上がる。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・・こ、ここは・・・・っ!」

 

そして、何が起こったのか、徐々に記憶が甦ってきた。

怪獣リングの力を全て使い、その力で暴走してしまい、ウルトラマンタイガを攻撃してしまった事。

カイン指揮官が、自分を救ってくれた事。

トレギアと呼ばれる敵に、カイン指揮官がやられてしまった事。

 

「あ、あぁ・・・・! わ、私はーーーー」

 

「漸くお目覚めですか」

 

自分は何て事をしてしまったんだと、絶望するエンタープライズだが、不意に聞こえた声にビクッと、肩を揺らして目を向けると、ベルファストが部屋の扉を開けて立っていた。

いつもの優雅な雰囲気と穏やかな口調だが、その目も声もーーーー何処か冷たく感じた。

 

「っ・・・・・・・・」

 

その目や声に耐えられず、エンタープライズは目を反らすしか無かった。

 

「・・・・・・・・」

 

ベルファストはそんなエンタープライズの様子を、さらに冷めた目で見ると、ため息混じりに口を開く。

 

「・・・・朝食の準備ができておりますが。また、いらないですか?」

 

「・・・・いや、いただく」

 

「・・・・そうですか。では、ついてきてください」

 

そう会話をして、エンタープライズはベルファストに連れられるように通路を歩いて行く。

すれ違う艦船<KAN-SEN>達が自分に向ける視線は、心配。戸惑い。警戒。畏れ。そしてーーーー僅かな失望があった。

『ユニオンの英雄』と呼ばれたエンタープライズが、あんな暴走行為をしたのだ。こんな視線に晒されるのは当然だとも思っている。

 

「エンタープライズさん・・・・」

 

「ふぁあ、おはよう、寝坊した・・・・」

 

エントランスでエンタープライズを見かけ、心配そうに見るジャベリンと綾波とユニコーン。ラフィーは今起きてきたのか、呑気に欠伸をしてジャベリン達に近づいた。

 

 

 

 

ー???sideー

 

「ふぁあ」

 

そしてここにも、呑気に欠伸をしながら、アズールレーン母港に近づく、『セイレーン』がいた。




次回、カイン指揮官は闇を抜けだせられるのかっ!?


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【帰還】その声に導かれ

ーエンタープライズsideー

 

「・・・・・・・・ごちそうさま」

 

「どういったご心境の変化でしょう?」

 

食堂で朝食を食べ終えたエンタープライズに、ベルファストが訝しそうに問う。他の艦船<KAN-SEN>達は遠巻きで見ていた。

 

「・・・・・・・・私は、逃げていたのだ」

 

「・・・・・・・・」

 

目を伏せて、弱い気持ちを吐き出すように口を開くエンタープライズ。ベルファストは、先ほどまでの冷たい視線を少し和らげて、その言葉に耳を傾ける。

 

「ヨークタウン姉さんが動けなくなってから・・・・私の心に、ポッカリと『穴』が空いてしまった。大切な人を失った海が怖くなり、戦いが続いていき、いつか私も、その海のソコに沈んでしまうのではないかと言う恐怖と絶望感が、私の心を縛っていった。私は、それを埋めようと、その恐怖から逃げようと、戦いに没頭するようになった」

 

「あのご自身を顧みない戦いも、その『穴』を埋める為の、恐怖から逃げる為の物、だったのですね?」

 

「ああ。戦いはあまり好きではないのに、その戦いで『穴』を埋めようとした。恐怖から逃げようとした。そしていつしか私はーーーー何の為に今まで戦ってきたのか分からなくなっていき、艦船<KAN-SEN>だから戦う。戦う事が私の存在意義だ。私がここにいる理由だと。そう、安易な考え方を言い訳にして、逃げていた・・・・」

 

遠くを見るような目で天井を見上げるエンタープライズ。冷たい雰囲気を無くし、ベルファストは何も言わず、彼女の言葉を全て聞こうとした。

 

「そして見せられたのは、〈ノブレス・ドライブ〉と言う輝き」

 

「〈ノブレス・ドライブ〉が?」

 

「アレを見た時私は、【あの力さえあれば、この心の恐怖を克服できると、『穴』が埋まる】そんな気がした。だが、私には発現できないと言われ、どうすれば良いのか分からなくなった。・・・・そんな時、あのリングを貰ったのだ」

 

「『怪獣リング』を・・・・。一体、誰から貰ったのですか?」

 

「白と黒のスーツを着た、怪しい雰囲気の男だった。最初は私も怪しいと思ったが、いざリングを使った時、凄まじい力の奔流が身体を流れ、恐怖すると同時、いや、恐怖する以上に、【この力なら、〈ノブレス・ドライブ〉を使えなくても、私は戦える・・・・!】などと、高揚感を感じてしまった」

 

「それで、あのような行動に?」

 

「自分でも、愚かだったと今なら分かる。だが、私には、あのリングしか頼る物が無かった。戦場しか、私のすがる物が無かった。だから私は・・・・!」

 

「・・・・・・・・」

 

拳を握り、段々絞り出すように言葉を紡ぐエンタープライズに、ベルファストは黙ったまま、その握った拳にソッと手を乗せ、エンタープライズの帽子を被せ、目元を隠してあげると、エンタープライズの頬に一筋の雫が流れた。

 

「・・・・すまない」

 

「何に対してですか?」

 

「今まであなたも、指揮官も、私がどうして〈ノブレス・ドライブ〉を発現できないのか、どうすればできるのか、その『答え』をずっと教えてくれていたのに、手を差しのべていてくれたのに、私はそれを『答え』と認めようとしないで、意固地になって、ずっと逃げていた。ーーーーすまない」

 

それを聞いて、ベルファストの口元に漸く、小さくだが笑みを浮かべた。

 

「・・・・私にだけ言っても、意味はありません。ご主人様にも、直接に言って下さい」

 

「しかし、気を失う前に、少しだけ指揮官を見た。指揮官はーーーー」

 

「ご主人様は、きっと目を覚まします。その為にも、“彼女”のお力が必要なのです」

 

「“彼女”・・・・?」

 

「参りましょう。その方と共に、ご主人様の元へーーーー」

 

席を立ったベルファストが、手を差しのべてると、エンタープライズは、コクンと頷き、その手を掴んで立ち上がった。

 

 

 

ー綾波sideー

 

「綾波! 指揮官の所に来て欲しいにゃっ!」

 

「お願い綾波ちゃん!」

 

「綾波ちゃん・・・・!」

 

「綾波・・・・」

 

エンタープライズを見送った後、寮に突然明石がやって来て、カイン指揮官の状態を話すと、綾波に来て欲しいと懇願した。そしてジャベリンとユニコーンとラフィーも、綾波に頼み込んだ。

 

「・・・・・・・・」

 

しかし綾波は、今の指揮官と向き合う決意が固まらず、顔を俯かせて、黙ってしまっていた。

 

「皆様」

 

「あっ、ベルファストさん! エンタープライズさん!」

 

ベルファストとエンタープライズが一同に近づくと、綾波に話しかける。

 

「綾波様。ご主人様は今、とても危うい状態にあります。どうか、ご主人様を助けてください」

 

「あ・・・・ぁ・・・・」

 

ベルファストが綾波に頭を下げる。綾波は戸惑うが、やはり覚悟か決まらない。

 

「綾波・・・・」

 

「エンタープライズ、さん・・・・」

 

「私もこれから、指揮官に会いに行く」

 

「・・・・・・・・」

 

「正直に言って恐い。指揮官が危険な状態にしたのは私のせいだ。責められるかも知れない。貶されるのかも知れない。だが、それでも・・・・指揮官に会わなければならない気がする。そうしなければ、私は、前に進めない気がするんだ」

 

「・・・・・・・・」

 

エンタープライズの顔を見て、綾波は一度目を閉じると、スッと目を開け、立ち上がる。

 

 

 

 

 

カイン指揮官の寝室では、Q・エリザベスやウォースパイト、ウェールズにイラストリアスにクリーブランド。そしてホーネットとヴェスタルにハムマンが来ていた。

 

「ぐぅっ・・・・あぁ・・・・っ!!」

 

綾波達がカイン指揮官の寝室に到着するとソコにはーーーーベッドに横になりながら、苦しそうにうなされているカイン指揮官だった。

 

「指揮官!」

 

「お兄ちゃん・・・・!」

 

「指揮官・・・・」

 

ジャベリンとユニコーンとラフィーがカイン指揮官に駆け寄る。カイン指揮官の寝汗を拭いているシェフィールドも、いつもの無表情なのだが、心なしか不安そうな顔をしているようだった。

 

「・・・・姉ちゃん」

 

「ホーネット・・・・」

 

エンタープライズに目を向け、ホーネットが姉に近づくと・・・・。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

バキッ!!

 

『っ!!』

 

何と、ホーネットがエンタープライズの頬を殴った。

 

「ホ、ホーネット・・・・!」

 

「ビンタじゃなくて、パンチなの?」

 

「・・・・良いんだ二人共」

 

ハムマンとヴェスタルも、ホーネットの行動に弱冠驚いた。が、殴られた頬をさすりながら、エンタープライズは当然の事だと言わんばかりに言う。

 

「これでチャラだよ。二度とあんな真似しないで。・・・・少しは、妹や周りに頼りなよ」

 

「ああ。すまない」

 

そう言って、フッと笑みを浮かべる姉妹。

 

「男前ね、エンタープライズもホーネットも」

 

ウォースパイトが二人を見てそう言うと、ベルファストが綾波をカイン指揮官の近くに連れていく。

 

「綾波様・・・・お願いします」

 

「・・・・・・・・」

 

綾波は、カイン指揮官の左手、うっすらと紋章がある左手を握った。

 

「ジャベリン。ラフィー。ユニコーン。皆さんも、指揮官を呼んで欲しいのです」

 

「うん・・・・!」

 

「(コクン!)」

 

「了解」

 

ジャベリンとユニコーンとラフィーが、綾波と一緒にカイン指揮官の手を握る。エンタープライズとベルファストもカイン指揮官に目を向ける。

それから、綾波は苦しんでいるカイン指揮官に語りかける。

 

 

 

ーカインsideー

 

そしてカイン指揮官は、夢の中でタイガと対話していた。

 

『ははっ! 力こそ全てだ! 弱い者など必要ない!』

 

「ダメだ・・・・一人じゃ・・・・僕じゃ・・・・俺じゃ、タイガを救えないのか・・・・」

 

心折れそうなカイン指揮官のすぐ近くにーーーー光が漏れた。

 

ーーーー指揮官

 

「ぁ・・・・」

 

カイン指揮官は、その光に手を伸ばすと。

 

「うわっ!」

 

ソコは、自分の執務室だった。

 

「あ・・・・! 綾波・・・・? 皆・・・・!」

 

起き上がったカイン指揮官の目の前に、光輝く幾つもの光の玉が浮いていた。

 

『指揮官。帰って来てです・・・・』

 

「だ、だが・・・・!」

 

執務室の扉に目を向けると、扉が開き掛け、闇が溢れ出す。

 

「あっ、来る・・・・!」

 

すると、光の玉から、エンタープライズ達の声が響く。

 

『大丈夫だ指揮官』

 

「エンタープライズ・・・・!」

 

『あなたは、絶対に負けない心を持っている』

 

『ご主人様。あなたは、どんな時でも、誰かの為に戦えるお方です』

 

『指揮官。もしも、一人じゃ駄目なら私達がいます!』

 

『お兄ちゃんは一人じゃないよ・・・・!』

 

『ラフィー達がいる』

 

「ベル・・・・ジャベリン・・・・ユニコーン・・・・ラフィー・・・・」

 

『うおぉおおおおお!』

 

『ぬぉおおおおおお!』

 

「はっ!」

 

カインが扉に目を向けると、黄色と青の光が集まり、タイタスとフーマになり、扉から溢れる闇を抑えていた。

 

「タイタス! フーマ!」

 

『やっと私達の声が届いたようだ!』

 

『随分と時間が掛かっちまったぜ!』

 

「二人共・・・・」

 

『カイン指揮官! あなたには私達もついている!』

 

『そう言う事だ。タイガを救うんだろう!』

 

「・・・・・・・・」

 

『指揮官』

 

「綾波」

 

『負けないでです、指揮官!』

 

『私達、待ってますから!』

 

『頑張ってお兄ちゃん!』

 

『指揮官・・・・!』

 

『ご主人様!』

 

『下僕!』

 

『『『『『『『指揮官(さま)!!』』』』』』』

 

『指揮官・・・・私達の指揮官は、あなた以外にいないんだ!』

 

「・・・・あぁ。皆、ありがとう」

 

カイン指揮官は立ち上がると、闇を抑えるタイタスとフーマに話しかける。

 

「タイタス。フーマ。抑えなくていい」

 

『指揮官!』

 

『そらどういう事だ?!』

 

「この闇は、僕が向き合わなければならないんだ。だから、任せてくれ」

 

『・・・・フーマ』

 

『わぁったよ! 任せたぜ、兄ちゃん!』

 

二人が闇を抑えているのをやめると、闇が溢れ、ソコから闇を纏ったーーーーカイン指揮官と同じ容姿をした人物がいた。

 

『っ! これは・・・・』

 

『どうなってんだ?』

 

戸惑うタイタスとフーマだが、カイン指揮官は二人の前に出る。

 

「ずっと、目を背けていた。でも、向き合わなければならないーーーー『海守トモユキ指揮官』」

 

「うぅっ! うぉああああああ!!」

 

苦しそうにうなり声をあげるこの人物こそ、カイン指揮官と前の人格、海守トモユキだったのだ。

 

「・・・・・・・・」

 

「うおおおおお!!」

 

カイン指揮官は、自分に迫るトモユキ指揮官を抱き止めた。

 

「うぅううううううう!!」

 

「すまない」

 

「っ!!」

 

カイン指揮官がトモユキ指揮官にそう呟くと、闇に包まれたトモユキ指揮官がピクッと反応する。

 

「君の身体を奪ってしまって、重桜と敵対する道を選んでしまって、僕の代わりにーーーー怪獣リングの闇を受け止めてくれていた。本当に、すまない・・・・」

 

「重、桜・・・・!」

 

『指揮官・・・・』

 

「あ、や・・・・なみ・・・・」

 

その時、綾波の声が響き、トモユキ指揮官の動きが止まると、カイン指揮官がその身体を離し、

 

「タイタス! フーマ! 君達の光を!」

 

『うむ!』

 

『おう!』

 

『『はぁあああああ!!』』

 

タイタスとフーマが、自分達の光をトモユキ指揮官に浴びせると、徐々に闇が消えていき、重桜軍服を着た肌色と髪の色以外はカイン指揮官と瓜二つの海守トモユキ指揮官が現れた。

 

「っ!・・・・お、俺は・・・・」

 

「トモユキ指揮官」

 

「ーーーー君が、もう一人の俺、カイン・オーシャン指揮官、だな?」

 

「はい。記憶があるんですか?」

 

「ああ。ずっと眠っていた。だが、うっすらとだが意識があり、夢の中で、夢を見ているような、奇妙な感覚だったよ」

 

「僕は、君の事を避けていた。もしあなたを受け入れれば、ロイヤルの皆の事と、お別れをしないと思ったから」

 

トモユキ指揮官の記憶が甦れば、自分が消える。カイン指揮官はそれを恐れ、今までトモユキ指揮官の事を思い出そうとしなかったのだ。

だが、トモユキ指揮官は小さく笑みを浮かべる。

 

「・・・・何で、お別れするなんて考えるんだ?」

 

「えっ?」

 

「君も俺だ。君の記憶は俺の記憶。そして俺の記憶は君の記憶だ。どちらかが消える必要なんてないんだ」

 

「じゃぁ、僕は・・・・」

 

「君は俺。俺は君」

 

「二人で一人、いや・・・・」

 

「ああ・・・・」

 

二人の指揮官は、タイタスとフーマを見る。

 

「「“五人で一人”。一心同体だ」」

 

『『ぁ・・・・うん!』』

 

そう言うと、タイタスとフーマは嬉しそうな声をあげると、力強く頷いた。

 

「行こう。もう一人を助ける為に、赤城と加賀を救う為にも・・・・!」

 

「ああ」

 

【トモユキ・・・・!!】

 

「「っ!」」

その時、二人の指揮官の頭に、苦しそうなタイガの声が聞こえた。これこそ、本当のタイガの声をだと察するとーーーー二人は一人になり、トモユキ指揮官の後ろに、いつの間にか現れていた、番傘を広げる艦船<KAN-SEN>に目を向けた。

 

「ありがとう。ずっと守ってくれていて。いつか会える事を信じているよ。その時は、是非夢ではなく、現実で膝枕をしてくれよーーーー『天城』」

 

『・・・・・・・・』

 

『天城』か笑みを浮かべて頷き、指揮官は光の玉に手を伸ばした。

伸ばしたその手にタイガスパークが現れ、さらに左手首に、『新たなブレスレット』が出現した。

 

 

* * *

 

 

「ぁ・・・・・・・・」

 

そして、目を覚ました指揮官の瞳に、伸ばした右手を握りしめる。綾波達の姿が映った。

 

「指揮官・・・・」

 

「・・・・久しぶり、綾波」

 

「っ・・・・!」

 

指揮官の言葉に、綾波は涙を流す。

 

「指揮官、記憶が・・・・」

 

「どうやら、長く寝ていたようだ」

 

「・・・・それじゃ、カイン指揮官は」

 

記憶を取り戻せば、カイン指揮官が消える。それを悟り、不安そうな顔になるジャベリン達。

 

「大丈夫だ。カイン指揮官もここにいる。トモユキ<俺>と、カイン<僕>は、一つになったんだ」

 

『!!』

 

二人の指揮官が共にいる事に、艦船<KAN-SEN>達は笑嬉しそうな顔になる。だが、ただ一人、エンタープライズが顔を俯かせて、指揮官に向けて口を開く。

 

「指揮官・・・・」

 

「エンタープライズ・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

エンタープライズは無言になり、指揮官は言葉を待ち、ベルファスト達は見守る。

 

「・・・・申し訳、ありません」

 

「無事でよかったよ。エンタープライズ。少しは、『答え』を受け入れてくれるか?」

 

「~~! はい・・・・!」

 

笑みを浮かべる指揮官に、エンタープライズを涙を堪えるようにそう言った。

そして指揮官は、左手に巻かれたブレスレットに目を向けると、その場にいる艦船<KAN-SEN>全員に目を向け、毅然とした口調で声を発する。

 

「皆、ウルトラマンタイガを助ける。そして、重桜を救うぞ!」

 

『っ! 了解!!』

 

指揮官の言葉に、艦船<KAN-SEN>達は敬礼で答えた。

 

「うん・・・・っっ!!」

 

指揮官が窓の外に目を鋭くして睨み、艦船<KAN-SEN>達も目を向けるとソコにはーーーー『セイレーン』が宙を飛んでいた。

 

『ウフフフフフ・・・・!』

 

『セイレーン』の上位個体、『ピュリファイアー』は、ニンマリと笑みを浮かべると、艤装から艦載機らしき戦闘機を発進させたーーーー。




次回、復活した『海原の軍者』と、本領を発揮する『重桜の鬼神』。


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【強襲】奪われた黒き箱

ーコロンビアsideー

 

ドゴォオオオオオオオオオオオンンッ!!

 

突然起こった襲撃に、アズールレーン母港は所々に火が上がっていた。

 

「重桜の襲撃か!?」

 

「違うよ! 襲撃者は『セイレーン』だっ!」

 

「何だって! 姉貴達は!?」

 

コロンビアやモントピリアやデンバーが突然の『セイレーン』の襲撃に驚いていた。

と、ソコでヘレナからの通信が入る。

 

《『セイレーン』の上位個体、『ピュリファイアー』が母港に侵入! 皆! 気を付けて!》

 

「全く! 姉貴は、指揮官達はどうしたんだ!?」

 

 

 

ーカインsideー

 

「いててて(ムニュン♪)(ポニュン♪)何だ? この柔らかい感触と弾力のある感触は? (ムニムニ♪)(フニュフニュ♪)ん? 左右の手にも何やら素晴らしい感触が・・・・!」

 

「ひゃんっ!!/////」

 

「あんっ♪」

 

「し、指揮官・・・・/////」

 

「ご主人様、お戯れをしている場合ではありませんよ」

 

カイン指揮官の頭を大きく柔らかい感触と、大きさは柔らかい感触に少し劣るが、弾力がある感触が包み込み。左手にスベスベと肌触りの良い感触が、右手に手に収まらない大きく張りのあるゴム毬のような感触があり、意識がハッキリとした視界にはーーーーおそらく爆風で吹き飛んだ自分を抱き止めたであろうベルファストとエンタープライズの豊満なバストに頭を埋め、右手にはホーネットのエンタープライズにも負けず劣らずの大きさと張りのある大きなバストが、左手にはクリーブランドのキュッと引き締まったスベスベとした美尻を掴んでいた。

 

「おお~。これはなんと言うマーベラスな(ジャキッ!)・・・・んん?!」

 

男として幸せな展開に喜びを感じていると、後頭部に銃口らしき物が押し付けられた。背後から感じる気配と声に、カイン指揮官は先ほどまで感じていた春のような幸せな気分が一気に、真冬になった冷たい気分へとなった。

 

「こんな時に何をしているのですかご主人様、いえ、害虫」

 

銃口を向けているのは、絶対零度もかくやと言わんばかりにカイン指揮官を見下ろす、シェフィールドだった。しかもご主人様ではなく害虫呼びで。

その後ろではエディンバラがアワアワと顔を赤くして、両手で覆っていたが、指の隙間からチラ見していた。

 

「ははははは、シェフィーさんや。これは不可抗力と言いますか、嬉しい事故なので・・・・」

 

「最後の言葉をそれで良いですか?」

 

「待って待って待って! 本当にわざとじゃないし! 今はそんな場合じゃないって・・・・!」

 

「お、落ち着いてシェフィ!」

 

「シェフィ。ご主人様へのお仕置きは後にしましょう。今はそれよりも」

 

ベルファストが止めると、シェフィールドは仕方なく銃口を下げ、ホッとするカイン指揮官は起き上がり、改めて部屋を眺める。

爆発ではなく、爆風によって窓ガラスやベッドの毛布等や部屋の小物が散乱していた。窓ガラスが自分達に突き刺さらなかったのは不幸中の幸い、いやーーーー。

 

「(タイタス。フーマ。助かったよ)」

 

≪ギリギリ、だったけどな・・・・!≫

 

≪だが、皆に怪我が無くて何よりです・・・・≫

 

直前に、タイタスとフーマがウルトラ念力を放出して、窓ガラスが当たらないようにしてくれたのだ。しかし、ウルトラ念力でかなりの力を消費したのか、疲弊したようである。

Q・エリザベスはウォースパイトが庇い、床に二人とも倒れているが、負傷はないようだ。ウェールズとイラストリアスも倒れていたが彼女達も傷はあまりないようでたった。綾波とジャベリン、ユニコーンとラフィーも無事のようだ。近くでは、明石が目を回していたが無事だ。

そしてカイン指揮官が外を睨むと、

 

『キャハハハハハハハハハハハ!!!!』

 

『セイレーン ピュリファイアー』が高笑いをして、母港を爆撃しながら飛び回っていた。

 

「(ここで『セイレーン』、それも上位個体が襲撃。目的は恐らく・・・・!) 明石! いつまで目ぇ回してるんだ!?」

 

「にゃにゃにゃ~・・・・。世界が回るにゃ~・・・・」

 

床に倒れて目を渦巻きに回している明石の肩を掴むカイン指揮官。

 

「おい明石! 呑気に目を回している場合じゃないだろ! 何回りだっ!?」

 

「にゃ~左回りだにゃ・・・・」

 

「良し。なら右に回せば元に戻るな」

 

そしてカイン指揮官は明石の頭を掴むと、右に回した。

 

「にゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「し、指揮官・・・・そんな事で戻る訳が「戻ったにゃ!」戻ったのっ!?」

 

クリーブランドが目が元に戻った明石を見て驚く。

 

「明石! 『黒いメンタルキューブ』は?」

 

「にゃ? にゃあああああああ!! しまったにゃ! 教室に置きっぱなしにゃ! 今ラングレー達と、アーク・ロイヤルにダイドーとシリアスが守っているけど・・・・」

 

「恐らく今から行っても間に合わないだろう。・・・・陛下! ウォースパイト! ウェールズ! イラストリアス! ユニコーンは母港の各所の消火と救助活動を! ベルファスト! エディンバラ! シェフィールド! ジャベリン! ラフィーは『セイレーン』を追跡! エンタープライズ! ホーネット! クリーブランドはコロンビア達と合流しだい、ベルファスト達とは別のルートから向かい、『セイレーン』を挟撃するぞ! 明石は私と一緒に来てくれ!」

 

『了解(にゃ)っ!』

 

艦船<KAN-SEN>達が敬礼する。

 

「あっ・・・・」

 

その時、綾波が声を上げようとした。

しかし、敵側の自分がアズールレーンの作戦に参加できるのかと、不安になり手を下ろそうとしたがーーーー。

 

「綾波!」

 

「っ! 指揮官・・・・」

 

「何してるんだ?」

 

「えっ?」

 

「行きたいんだろ?」

 

「っ!・・・・はい!」

 

カイン指揮官の言葉に綾波は一瞬驚くが、肯定するように頷く。

 

「それじゃ、久しぶりに見せてやれ。『鬼神』の力をな!」

 

「ーーーー了解なのです」

 

「にゃ・・・・」

 

その時、明石はーーーーいや、明石だけではない、その場にいた全員が、カイン指揮官と綾波の間にある、『確固たる絆』を見た気がした。

 

 

 

 

ーベルファストsideー

 

『黒いメンタルキューブ』を持ったピュリファイアーを母港近海まで追い詰めたベルファスト達。ベルファストが艤装の砲身をピュリファイヤーを捉えていた。

 

『あはははっ! あはははっ!! 意外と来たねえ!・・・・で、も』

 

ピュリファイアーは『量産型セイレーン』だけでなく、“4体の巨大な浮遊体”を召喚した。

 

『お楽しみはこれからだよ!』

 

“4体の浮遊体”が、重なるように合体すると、そこに現れたのは。

金色のカラーリングに、胸元がキラキラとした人型巨大ロボット、『宇宙ロボット キングジョー』だ。

 

「っ! ロボット怪獣ですか・・・・!」

 

「あわわわわ!」

 

「皆さん。油断せずに行きましょう」

 

シェフィールドが目を細め、エディンバラがアワアワし、ベルファストが気を引き締めるように言った。

 

『前夜祭だよ! 盛り上げていこうかっ!!』

 

そしてここから一気に、戦闘が開戦された。

 

 

 

 

ーカインsideー

 

「皆! 無事かっ!?」

 

カイン指揮官が、明石とウェールズ、イラストリアスとユニコーンを連れて教室にやって来ると、爆撃で半分が破壊された教室に、アーク・ロイヤル達が倒れていた。

 

「アマゾン! ラングレー! しっかりするにゃ!」

 

「大丈夫かっ!?」

 

「あ、明石・・・・し、指揮官・・・・」

 

「わ、私達より、ダイドーさんとシリアスさんを・・・・!」

 

アマゾンとラングレーを覆う形で、ダイドーとシリアスが倒れていた。

 

「ダイドー! シリアス!」

 

「ご、ご主人様、申し訳ありません・・・・!」

 

「黒いメンタルキューブを奪われてしまいました。こんな役立たずの卑しいメイドにどうか罰を・・・・!」

 

アマゾンとラングレーは二人がとっさに庇っていたようだ。

カイン指揮官は両手で泣きそうになっているダイドーとシリアスを抱き寄せた。

 

「君達のお陰で、アマゾン達は無事だったんだ。とっさに仲間を守った君達を、私は誇らしく思う。メンタルキューブはこれから取り戻せば良い。力を貸してくれるかい?」

 

「ご、ご主人様・・・・!」

 

「あぁ、ご主人様・・・・!」

 

感極まった二人がカイン指揮官に抱きついた。ウェールズ達やアマゾンとラングレーはその光景に感動するが、その際ちゃっかりカイン指揮官は、二人の豊満なバストが身体にムギュゥと押しつけられ、この世の天国な心地だった。

 

「と、こんな事している場合じゃない! アーク・ロイヤルは!?」

 

「指揮官! こっちだ!」

 

二人は離してから、近くの瓦礫の下に、ウェールズがアーク・ロイヤルが倒れていたのを見つけた。

 

「アーク・ロイヤル!」

 

瓦礫を皆で退かすと、アーク・ロイヤルに声をかける。

 

「アーク・ロイヤル! しっかりするんだ!」

 

「う、うぅっ、す、すまない閣下。私はここまでのようだ・・・・! せ、せめて最後は、可愛い駆逐艦の妹達に口付けをしてほしい・・・・! もしくは陛下に!」

 

何やら満身創痍の状態なのに、結構余裕のある願望を口にするアーク・ロイヤルに、全員が訝しそうな顔になる。

半眼になったカイン指揮官は試しに口を開く。

 

「・・・・あっ、幼い駆逐艦の子が水着姿で歩いている」

 

「(ガバッ!)何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ!?(バキンッ!)うきゃんっ!」

 

突然飛び起きると、物凄い勢いで周りを見渡すアーク・ロイヤルに、一発拳骨をおろした。艦船<KAN-SEN>達はホッとしたり、半眼で呆れたり苦笑いを浮かべたりした。

 

「よし取り敢えず全員無事だな」

 

足元でコブを作ってピクピクしている変態を無視して、カイン指揮官はその場にいた全員に指示を出す。

 

「皆、まだ襲撃で怪我をした子達がいるかも知れない。ダイドーとシリアス、アマゾンとラングレーは饅頭達に治療を受けてくれ。他の皆は救助活動を。ダイドーにシリアス、そこで気絶している阿呆も連れていってくれ」

 

『了解(にゃ)!』

 

《ご主人様》

 

耳に付けたインカムから、ベルファストの声が響いた。

 

「ベル、どうした?」

 

《『セイレーン』がロボット怪獣を呼び出しました》

 

「っ!(タイタス! フーマ!)」

 

≪す、すまないカイン指揮官・・・・≫

 

≪まだ、戦える程に回復できてねぇ・・・・!≫

 

「・・・・ベル。“こっち”は少し動けない。手加減は抜きにして、派手にやれ!」

 

ウルトラ念力でエネルギーを消耗した二人の話を聞いたカイン指揮官は、ベルファストにそう指示した。

 

 

 

ーベルファストsideー

 

「ーーーーかしこまりました。ご主人様。姉さん、シェフィー、派手に参りますよ!」

 

「オーケー!」

 

「承知しました」

 

「「「〈ノブレス・トライブ〉!!」」」

 

ベルファスト達が金色に輝くと、高速で動き、一分もかからず、『量産型セイレーン』を撃破した。

 

『うわぉ! 話には聞いてたけどスゴォい! で・も、この子にはどうかなぁ?』

 

『ピュリフォイアー』はキングジョーを指差すと、キングジョーはグワングワン! と、鳴き声なのか駆動音なのか分からない音を立ててベルファスト達に襲い来る。

 

「・・・・」

 

《ベル》

 

「ご主人様・・・・」

 

ベルファストの通信機に、カイン指揮官の声が響いた。

 

 

 

ーカインsideー

 

カイン指揮官は母港の港から、キングジョーを見ていた。

 

≪あれは、『ペダン星人』の侵略兵器、『キングジョー』です≫

 

≪四つの宇宙戦が、合体するロボット怪獣だぜ≫

 

「(合体・・・・ロボット怪獣、か・・・・)ベル。その怪獣が合体した時は見たかい?」

 

《はい。脚部、腰、胴体、そして頭部が重なるように合体しました》

 

「・・・・・・・・良し。ベルファスト。エディンバラ。シェフィールド。これから指示する場所に、攻撃を集中させてくれ」

 

()()()()()()()()()

 

「ジャベリン。ラフィー。綾波」

 

《はい!》

 

《んー・・・・》

 

《はい》

 

「ベル達と協力して、キングジョーを撃破するんだ」

 

《で、できるんでしょうか指揮官・・・・! いつもみたいにウルトラマンさん達が来てくれるかも知れないし・・・・》

 

艦船<KAN-SEN>だけでロボット怪獣に戦う状況に、ジャベリンが弱音を漏らした。

が、カイン指揮官は優しく諭すように声を発する。

 

「ジャベリン。ウルトラマンタイガの事は君も知っているだろう。彼は今、闇に囚われて動けない。ウルトラマンタイタスとウルトラマンフーマも、タイガを助ける為に力を温存している。彼らが動けない以上、私達が何とかしないといけないんだ」

 

《は、はい・・・・》

 

「ジャベリン。隣を見ろ」

 

《えっ・・・・》

 

「君の隣には、誰がいる?」

 

《ラ、ラフィーちゃんと、綾波ちゃんです・・・・》

 

「確かに、ウルトラマン達は来られないけど、君の隣には仲間が、友達がいる。それじゃ心細いかい?」

 

《ぁ・・・・!》

 

ジャベリンがカイン指揮官の言葉に小さく声を上げる。

 

《・・・・いいえ! 凄く心強いです!》

 

そして、迷いなくそう答えると、カイン指揮官は満足そうに頷く。

 

「よし。それじゃ1つ、派手に行こう! 策はちゃんとあるからさ!」

 

《はい! ジャベリン! 行っきまーすです!》

 

「ラフィー。本気出していってくれよ」

 

《了解。やってみる・・・・》

 

少々抑揚がないが、これがラフィーの通常運転なので頷く。

 

「綾波」

 

《・・・・・・・・》

 

綾波は答えない。ただ、指揮官からの言葉を待つ。

そして、カイン指揮官がただ一言ーーーー。

 

「頼むぞ」

 

《参ります》

 

そのたった一言に短く答える綾波。しかし、カイン指揮官は分かっていた。綾波が気合い十分だと言う事を。

 

「皆、作戦はこうだーーーー」

 

カイン指揮官がキングジョーと相対する艦船<KAN-SEN>達に指示を飛ばした。

 




次回、ペダン星人の最強兵器に、艦船<KAN-SEN>達が挑む。


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【軍者】本領発揮

今回、綾波が大活躍!


ーピュリファイアーsideー

 

『なぁにやってんのあの子達?』

 

ピュリファイアーはアズールレーン艦船<KAN-SEN>達の動きを訝しそうに眺めていた。

ロボット怪獣キングジョーがグワンッ、グワンッ、と駆動音なのか叫び声なのか分からない音を響かせながらアズールレーン母港に向かっているが、ベルファストにエディンバラにシェフィールドと言った艦船<KAN-SEN>達が 金色の光を纏うと、残像が残る程の高速移動でキングジョーの足や腕や胴体やらを闇雲に攻撃しているようである。

あの光を纏った艦船<KAN-SEN>は凄まじい戦闘力を見せると聞いていたのに、少々拍子抜けである、

 

『ヤケクソになっちゃったのかしらぁ?・・・・あれぇ?』

 

ピュリファイアーは、ベルファスト達から少し離れた位置にいるジャベリン達に目を向けると、ソコにいた1人の艦船<KAN-SEN>を見つけた。

 

『へぇ~!』

 

ピュリファイアーはその艦船<KAN-SEN>ーーーー綾波の眼前に現れた。

 

「っ!」

 

「「綾波(ちゃん)!」」

 

近くにいたジャベリンとラフィーが綾波の元に向かおうとしたその時、二人の近くに量産型セイレーンの艦載機が機銃を放ち、行く手を遮った。

 

 

 

 

ー綾波sideー

 

「ジャベリン! ラフィー!」

 

『こっち見ないと、ダ~メだよっ!!』

 

「くっ・・・・!」

 

ピュリファイアーはシュモクザメのような艤装の口から、レーザーキャノンを放ち、綾波がギリギリで回避する。

 

『あなただよねぇ? 『テスター』が一目置いている重桜の艦船<KAN-SEN>って?』

 

「っ、『テスター』・・・・?」

 

『あれぇ? 知らないの? あなたがぶった切った子だよぉ?』

 

「・・・・あの時の!」

 

言われて、綾波も思い出した。トモユキ指揮官の指揮の元、初めて交戦した『セイレーンの上位個体』の名だ。

後からトモユキ指揮官や赤城から聞いたが、自分がその上位個体を撃退したと言われたが、綾波はその時の記憶が無かったのだ。

 

『『テスター』みたいに、私とも遊ぼうよ!!』

 

ピュリファイアーは艤装から次々とレーザーを放ち、綾波は何とか回避していた。

 

「くっ!」

 

『アッハハハハハハハハハ!!』

 

「綾波ちゃん!」

 

「綾波・・・・!」

 

ジャベリンとラフィーの前に、量産型が立ち塞がるがーーーー。

 

「邪魔、しないで!」

 

「どいて・・・・!」

 

「「〈ノブレス・ドライブ〉!」」

 

二人の身体が金色に輝くと、ジャベリンは槍の矛先から光線を放ち、ラフィーは魚雷を放つと次々と撃破し、ピュリファイアーのレーザーが迫る綾波の前にジャベリンが立ち、槍を高速回転させてレーザーを防いだ。

 

『うわぉっ!』

 

「うぅぅぅぅ! ラフィーちゃん!」

 

「攻撃開始」

 

『ハハッ!』

 

ジャベリンが防ぐ横から、ラフィーが出て来て、砲台から光線を放ち、ピュリファイアーを攻撃するが、回避される。

 

『それじゃあ、まだまだだよ!』

 

空にいた量産型の艦載機が機銃を放ちながら綾波達に迫ってきた。

 

「「「っ!!」」」

 

回避しようと動こうとする三人だがーーーー。

 

ーーーーバババババババババ!

 

ーーーードォォォォォォンン!

 

「え・・・・? あっ! エンタープライズさん! ホーネットさん!」

 

「クリーブランド達も・・・・」

 

エンタープライズとホーネット、クリーブランド姉妹の海上騎士団<ソロモンネイビーキャリバーズ>が加勢に来てくれた。

 

「ホーネット! 行くぞ!」

 

「あいよ姉ちゃん!」

 

二人が艦載機を飛ばし、ピュリファイアーを攻撃する。

 

『あははははははははは!! エンタープライズっ!!』

 

「セイレーンっ!!!」

 

ピュリファイアーが艤装のレーザーを放ち、エンタープライズもアーチェリーから矢を放った。

 

「姉ちゃん!」

 

「っ!」

 

エンタープライズはピュリファイアーのレーザーを回避したが、ピュリファイアーもエンタープライズの攻撃を回避する。

 

『っと! きゃははははははははは!! やるやるぅ!』

 

さらに量産型を出現させるピュリファイアー。

 

《綾波》

 

「っ、了解です」

 

カイン指揮官がたった一言、綾波の名前を呼ぶと、綾波はピュリファイアーへと向かう。

 

「綾波ちゃん!」

 

「綾波・・・・」

 

《エンタープライズ。ホーネット。ジャベリン。ラフィーは綾波の援護を頼む。クリーブランド達はベル達の援護に向かってくれ》

 

「指揮官?」

 

《大丈夫だ、見せてやろう。『重桜の鬼神』と言われたーーーー綾波の本気をね!》

 

 

 

ー明石sideー

 

「大丈夫だ、見せてやろう。『重桜の鬼神』と言われたーーーー綾波の本気をね!」

 

カイン指揮官と共に、母港でカイン指揮官のすぐ隣で、通信機の準備をしていた明石は、カイン指揮官に視線を向けると、口元を長袖で隠しながら笑みを浮かべる。

 

「にゃふふふふふ。ここからが『海原の軍者』と謡われた指揮官と、その懐刀である『鬼神・綾波』の本領発揮にゃ!」

 

 

 

 

ー綾波sideー

 

綾波の心は、自分でも驚くほどに冷静だった。

目の前にはセイレーンの上位個体。量産型セイレーン艦隊。それらに駆逐艦の自分が挑むなど自殺行為だと思われるだろう。自分もそう思う。

しかしーーーー。

 

《綾波!(前方上から敵機!)》

 

「っ」

 

指揮官に呼ばれた瞬間、綾波は艤装の砲台を上に向けて放つと、自分に向かっていたセイレーン艦載機を撃破。

指揮官が自分の名を呼ぶ。その瞬間、まるでその一言で指揮官の意図が分かるような不思議な感覚。久しぶりの感覚だ。この連携によって、トモユキ指揮官と綾波は重桜にて幾つもの戦場を切り抜けてきたのだ。

 

《綾波!(危ない、回避だ!)》

 

「っ!」

 

指揮官の声で感慨から頭を瞬時に切り換えると、次に右に回避する。自分のいた場所にレーザーが通りすぎた。

 

『あっれぇ? 良く回避したわねぇ!?』

 

ピュリファイアーが次々と時間差でレーザーを放った。

 

「・・・・・・・・」

 

《綾波!(落ち着いて避けろ。君なら大丈夫だ!)》

 

「っ!」

 

が、カイン指揮官が名を呼ぶと、綾波はその攻撃が何処に着弾するのか分かっているかのように回避しながら、ピュリファイアーに全速力で近づきーーーー。

 

《綾波!(ソコだ!)》

 

『わぉ!?』

 

「はぁあっ!!」

 

対艦刀でピュリファイアーを斬りつける。

しかし、ギリギリの所で回避されるが、シュモクザメの艤装の一つを切り裂き、さらに艤装の魚雷を撃ちだし、もう一つのシュモクザメの艤装を破壊した。

 

『へぇー! 凄いじゃんあなた!』

 

「・・・・・・・・」

 

ピュリファイアーが賛辞の言葉をかけるが、綾波はそれに応えず、対艦刀を構え直す。

心に恐怖が無い訳ではない。だがーーーー。

 

《まだ行けるかい? 綾波》

 

「問題無しです! どんとこいです!」

 

指揮官が側にいる。それだけで、勇気が湧いてくる。何でもできる。そんな思いが溢れてきているのだ。

 

 

 

 

ーエンタープライズsideー

 

「す、凄い・・・・!」

 

エンタープライズが思わず呟く。〈ノブレス・ドライブ〉を発動させている訳でも無いのに、綾波は『セイレーンの上位個体』とマトモに戦っている。まるで隙のない完璧とも言える戦い。それにホーネットやジャベリンとラフィーも面食らった。

 

《にゃはははははは。皆驚いたかにゃ?》

 

「明石ちゃん?」

 

通信機に上機嫌の明石からの連絡が入る。

 

《指揮官と綾波の信頼度は重桜でも群を抜いていたにゃ。指揮官は綾波を信頼し、綾波も指揮官を信頼しているにゃ。だから僅かな声掛けだけで綾波は指揮官の意図を即座に理解し、まるで指揮官が綾波のすぐ近くで絶妙なタイミングで指示を出しているように見えるのにゃ。まさに完璧な連携なのにゃ!》

 

通信機越しでも、明石がドヤ顔を浮かべているのが分かる声だったが、それも納得できる。綾波は後ろを気にする必要ないように動き、時々鮮やかともいえる回避と攻撃。コレは指揮官の指示だけで成り立たない。

まさにーーーートモユキ<カイン>指揮官と綾波。強い絆で結ばれた二人だからこそできる事だ。

 

「〈ノブレス・ドライブ〉ができなくても、セイレーンの上位個体と渡り合っている・・・・」

 

「綾波ちゃんスゴい!」

 

《感心してないで、皆も綾波の合流してくれ》

 

「指揮官」

 

《ベル達の方も、そろそろ終わりだ》

 

 

 

ー綾波sideー

 

綾波の近くに、エンタープライズ達が合流すると、ピュリファイアーはさらに笑みを浮かべた。

 

『あははははははは! スゴいねぇ! で・もぉ! こっちには怪獣がいるんだよ! おいでキングジョー!!』

 

ピュリファイアーがキングジョーを呼ぶが、キングジョーはその場から動かず、グワン、グワンと、駆動音のような鳴き声を上げるだけだった。

 

『あれぇ?』

 

「気づいていなくて良かったです。綾波の目的は、あなたを倒す事では無いです」

 

『え~?』

 

『・・・・?』

 

ピュリファイアーだけでなく、エンタープライズ達も首を傾げると、綾波は言葉を続ける。

 

「綾波の役目は、あなたをこの場に釘付けにし、キングジョーの異変に気付かれないようにしていたのです。あなたが綾波やエンタープライズさんに気を取られている間に、ベルファストさん達が、キングジョーの動きを封じ込めていたです!」

 

一同がキングジョーを見ると、足や腕の関節部分から火花が激しく飛び散り、さらに頭部と胴体の間や腹や腰の間からも火花が散り、キングジョーはまるで壊れたブリキ人形のようにその場から動けなくなっていた。

 

『あれぇ? どうしちゃったのぉ?』

 

ピュリファイアーが首を傾げると、ベルファスト達が、艤装を展開させたQ・エリザベスとウォースパイト、フッドにウェールズ、イラストリアスとユニコーンと合流した。

 

《綾波。セイレーンに伝えてくれ》

 

「(コクン)ーーーーロボット怪獣は確かに装甲が厚いです。でも、動く為の関節部分の装甲は薄くできているです。さらに合体機構があるので、合体の接合部分も他の装甲よりは薄いです。ベルファストさん達はソコを重点的に攻撃していたのです。例え綾波達艦船<KAN-SEN>の攻撃がキングジョーにそれほどのダメージを与える事ができなくても、小さなダメージを積み重ねれば、怪獣を倒す事ができるです!」

 

綾波は、カイン指揮官が通信機越しから話した言葉を、そのままピュリファイアーに伝えたその瞬間ーーーー。

 

『『共鳴<レゾナンス>』!!』

 

ベルファスト達の声が重り、『光の艦隊』が出現し、ソコから光の光線が幾つも発射され、キングジョーの手足の関節部分、合体接合部分を貫いていった。

 

グワン・・・・! グワン・・・・! グワン・・・・! グワン・・・・!

 

キングジョーの手足が破壊され、身体のアチコチから小さな爆発が連鎖的に起き、上から崩れるように崩壊し、そしてーーーー。

 

ドゴォオオオオオオオオオオオオンン!!

 

火柱を上げて爆散していった。

 

『へぇ~! スゴいねぇ! じゃぁ、今日はここまでだね』

 

ピュリファイアーがそう言うと、自分の頭上に魔法陣が展開させ、量産型も、魔法陣の中に入っていき、姿を消していく。

 

『また、近い内に会おうねアズールレーン。ウルトラマンタイガはこちらの手の内にいる』

 

「っ! ウルトラマンタイガが!?」

 

『そっちの指揮官に伝えておきなよ。助けたかったら、来るんだね。戦場へ・・・・』

 

そう言って、『黒いメンタルキューブ』を掌で弄びながら、ピュリファイアーは戦場から姿を消した。

 

「・・・・どうやら、事態は急を擁するようだな」

 

《ああ。その通りだ》

 

エンタープライズの言葉を肯定するように、カイン指揮官の声が通信機越しに耳に響いた。

 

「ご主人様・・・・」

 

《皆、母港に戻ってくれ。『黒いメンタルキューブ』がセイレーン側に戻ったと言う事は、いよいよ『オロチ計画』が最終段階に入ったという事だ。整備と補給を済ませたら、全体ブリーフィングを行う》

 

「下僕。策はあるの?」

 

Q・エリザベスが問うと、カイン指揮官は少し黙ると、意を決したように声を発する。

 

《・・・・・・・・もはや事態は、ロイヤルやユニオンで対処できるレベルではない。加賀に不信感を抱いている重桜の艦船<KAN-SEN>達に連絡を入れて、協力を要請する!》

 

 

 

 

 

 

ーカインsideー

 

エンタープライズ達との通信を終えたカイン指揮官は、重桜への通信の準備し終えた明石に声をかける。

 

「明石。準備は?」

 

「バッチリにゃ! 周波数を翔鶴の通信機に合わせて・・・・良し。これで万端にゃ」

 

「うん」

 

カイン指揮官はヘッドセットを付けると、マイクに声を発する。

 

「翔鶴? 聞こえるか? 翔鶴!」

 

《(ザザッ)ーーーーきかん・・・・? まさか、指揮官なのっ!?》

 

「ああ。俺だ翔か《ズガァアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!》 っっっ!!?? な、なんだぁっ!?」

 

突然通信機越しから聞こえた轟音に、カイン指揮官は表情を歪めて、ヘッドセットを外した。

 

「何が起こった翔鶴!?」

 

《か、加賀先輩!!》

 

ヘッドセットのマイクに大声を発すると、今度は瑞鶴の声が響いた。

 

「っ!? まさか、もう加賀が動いたのか・・・・!」

 

 

 

 

 

 

ーオイゲンsideー

 

少し時間は遡り、アズールレーンがピュリファイアーとキングジョーと交戦している間、重桜母港の『オロチ』を隠している洞窟ドッグではーーーー。

 

「悪いわね重桜。『オロチ』の秘密、暴かせてもらうわ。・・・・ん?」

 

遂に『オロチ』を見つけたオイゲンが下を見ると、加賀が後ろを見せて立ち尽くしていた。

 

「加賀・・・・?」

 

オイゲンが呟くと同時に、振り返った加賀のその瞳にはーーーー感情がなくなったかのように無機質となっていた。

 

「・・・・姉様、今参ります」

 

加賀がそう言って、霧崎<謎の男>から受け取った、“頭に大きな角を付けた赤い怪獣の指輪”を、『オロチ』の甲板に落とすと、指輪は海面に一滴の水を落としたかのように溶け込んだ。

その時ーーーー『オロチ』が突如真っ赤に光りながら起動し、動き出した。

その動きで洞窟ドッグ全体が揺れ始める。

 

「っ! ちょっと・・・・!」

 

ドッグだけでなく、ドッグの海も荒れ始め、オイゲンが脱出する。

 

 

 

ー重桜sideー

 

洞窟の揺れはドッグだけに留まらず、重桜全体を揺らしていた。

丁度、トモユキ指揮官からの通信を受けた翔鶴、近くにいた瑞鶴に蒼龍に飛龍が驚き、母港を歩いていた艦船<KAN-SEN>達も戸惑い、遅くまで飲んでいて寝ていた伊勢や日向も、酔いが完全に醒めて飛び起きた程だ。

そしてーーーー。

 

ズガァアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!

 

『ヒギャァァァァァァァァァ!!』

 

重桜母港の一部を破壊し現れたのは、毒々しい赤の色をした背中に翼のような形状の巨大な突起物と、腹部には六つの目玉のような模様か器官のようなものがあり、人間の金切り声のような不気味な咆哮を上げるーーーー鋼鉄の怪物が現れた。

 

「何だ・・・・あれは!?」

 

「まさかあれが・・・・『オロチ』?」

 

「っ! か、加賀先輩!!」

 

他の艦船<KAN-SEN>達のように、高雄と愛宕が『鋼鉄の怪物』の異様さに圧倒されている中、瑞鶴は怪物の頭の上に立つ加賀を見て、名を叫ぶが、加賀は見向きもしないで、歩き出す怪物と共に、重桜を去ったーーーー。

 

 

 

 

ー霧崎sideー

 

『あれが、あなたのプレゼント? トレギア?』

 

重桜母港から離れた海域にいるオブザーバーがトレギアに話しかけると、トレギアは笑いを含んだ声をあげる。

 

『フッフフフフフフ。そうさ。かつて、『星を食い尽くすという伝説を持つ魔王獣』、『大魔王獣 マガオロチ』の力を得た新たなオロチ! 『大魔機獣 メガオロチ』さっ!!』

 

鋼の身体を得た姿に、トレギアは両手を広げて、その誕生を祝した。




ー『大魔機獣 メガオロチ』ー

『大魔王獣 マガオロチ』をロボット怪獣にした怪獣。本物のマガオロチと遜色ない力を秘めている。


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【会議】その手は護る為に

ーセイレーンsideー

 

『大魔機獣 メガオロチ』は重桜母港を離れ、洋上をゆっくりとした足取りで進んでいく。

通常の怪獣よりも一回りも巨大なその体躯での一歩は、セイレーン艦隊の速度とほぼ同じである。

メガオロチのすぐ近くにいるセイレーン量産艦の一隻にて、メガオロチの頭の上で、呆然と海を眺めている加賀を見上げていた『テスターα』が『オブザーバー』に話しかける。

 

『重桜艦隊を振り切ったわ。混乱で抵抗らしい抵抗も無かったけれど、いよいよね』

 

『それにしても随分と手の込んだこと。あのトレギアがオロチをここまでにしたのかしら?』

 

『戦いはドラマチックでないといけないわ。より刺激的に、より衝撃的に、より感動的に、ね。トレギアは中々のプロデューサーだわ。艦船<KAN-SEN>達は『想い』が形を成したモノを、ここまでに仕上げた。そうーーーー『想い』こそが、彼女達の力の源なのだから!』

 

『あなたの言う事は感傷的で理解し難いわ』

 

『あっはははは! どうせ自分に酔ってるだけでしょう?』

 

身体に刀傷がある『テスターβ』がそう言うと、アズールレーン母港から戻ってきた『ピュリファイアー』が戻ってきて、今ここに、セイレーン上位個体が集まった。

 

『あら、手酷くやられたようね?』

 

『激しくされるのは嫌いじゃないさ! それに、βの気になる重桜の子がいたからねぇ』

 

『ふぅ~ん。あの子、アズールレーンにいるのね・・・・』

 

『テスターβ』が、自分に傷を負わせた艦船<KAN-SEN>、綾波の事を思い返しながら、刀傷を指でなぞった。

それを横目に見て、『ピュリファイアー』は『黒いメンタルキューブ』を『オブザーバー』に渡した。

『オブザーバー』が手にした瞬間、『黒いメンタルキューブ』が凄まじい光を放った。

 

『では始めましょう。“過去の再演”を、或いは“未来の演算”を・・・・』

 

『オブザーバー』が『黒いメンタルキューブ』を天に掲げると、キューブは更に光を放ち、天へと昇っていきーーーー。

 

『チックタック♪ チックタック♪ お目覚めの時間だよー!!』

 

メガオロチへと向かって光は堕ちていき、その巨体を包み込んだ。

 

『ヒギァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!』

 

「くっ!・・・・はっ!」

 

赤い炎に包まれたメガオロチから宙に飛んで離脱した加賀の目の前に、炎の中からーーーー狐面を被った赤城が現れた。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「ね、姉様・・・・?」

 

加賀の問いに答えるように、狐面を外した赤城は笑みを浮かべる。

 

「・・・・・・・・」

 

「姉様・・・・? 赤城姉様!!」

 

感極まった加賀が赤城に抱きついた。赤城も加賀を抱き返す。

 

「無事だったのですね!」

 

「ええ。これこそ神の思し召しよ。見なさい加賀。これが、私達が求めたオロチの、いえ、それを上回る力よ」

 

『ヒギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』

 

赤城の言葉のすぐに、メガオロチの頭部の角から、小さな赤い光が、まるでミサイルのように天高く発射されーーーー。

 

 

 

 

 

 

ートレギアsideー

 

『フフフフ。“彼女”も出てきたか。ーーーーさらに面白くなってきたよ。君も行こうね、タロウの息子・・・・』

 

『ぁ・・・・ぁぁ・・・・』

 

深海から状況を見ていたトレギアが、タイガにそう呟いた。

 

『(ト、トモユキ・・・・! トモユキ・・・・! あ、赤城、さんが・・・・)』

 

タイガは途切れそうになる意識を必死に保ちながら、カイン指揮官に必死に呼び掛けていた。

 

 

 

 

 

 

 

ーカインsideー

 

「・・・・加賀が、巨大な機械の怪獣を連れて行った? 本当か瑞鶴?」

 

《うん。遠目だったけど間違いないよ。あれは、加賀先輩だった!》

 

そしてその頃カイン指揮官は、加賀の突然の行動に混乱状態に陥っている重桜の皆から報せを受けていた。

 

「・・・・翔鶴。蒼龍。すぐに長門に連絡を繋いでくれ」

 

《・・・・その前に、本当に指揮官は記憶が戻ったの?》

 

《ええ。先ずはその辺りをハッキリさせたいのですが?》

 

「あぁたくっ! 去年の秋! 翔鶴と瑞鶴と一緒に露天風呂に入った時、瑞鶴が翔鶴特性の海老天を食い過ぎて喉に詰まらせて暴れた際に倒れて、俺の顔面に股間を押し付ける形で騎乗してーーーー」

 

《わー! わぁー!! わわぁー!!!》

 

通信越しで瑞鶴が顔を真っ赤にして大声を上げているのが分かる。

 

「飛龍が蒼龍の代わりに睦月型の皆に勉強を教えようとしたけど、飛龍ったら勉強ができないから体育の授業で誤魔化して、後日睦月達と一緒に蒼龍に勉強を教えてもらっていたり!」

 

《わわわわわわぁーーーー!!》

 

今度は飛龍が慌てているのが分かった。

 

「伊勢と日向が酔って俺の服を無理矢理脱がそうとした事があったなぁ?」

 

《あぁ、そう言えばそんな事あったなぁ!》

 

《酔った勢いだ》

 

伊勢と日向が笑ったりソッポを向いているのが分かる。

 

「愛宕が高雄を騙して俺の寝室に良く夜這いに来て、同時に夜這いに来ていた赤城や『大鳳』と『隼鷹』と、毎度のようにドカドカとドンパチを始めて、俺の寝室を良く吹っ飛ばしていたよなぁ?」

 

《あらあら、記憶が本当に戻っているわぁ》

 

《ち、違うのだ! 拙者は愛宕に騙されて!》

 

愛宕が朗らかに笑い、高雄が慌てて重桜の皆に弁解しているのが分かる。

カイン指揮官が語る、海守トモユキ指揮官としての重桜の皆との過去の思い出の数々。当人達には黒歴史を暴露され、通信機の向こうから騒がしい声が響いていた。

 

《ーーーー確かに、記憶は戻っているようね? ちなみに、蒼龍先輩が仕事をサボろうとする指揮官に、艦載機を使って監視していた回数は覚えてる?》

 

「えっ、それは・・・・・・・・蒼龍が秘書艦をやる日は毎度のように監視されていたから、覚えてない」

 

《・・・・どうやら本当に戻っていますね》

 

翔鶴の問いに少し思案してから答えると、小さくため息を吐いてから、蒼龍が声を発してきた。

 

「分かってくれたなら翔鶴。すぐに長門に繋いでくれ」

 

《了解よ。指揮官》

 

一時通信を切ったカイン指揮官の元に、アズールレーン艦隊と綾波が戻ってきた。

 

「皆。ご苦労様。早速で悪いんだが、これから全体会議を行う。ロイヤルとユニオンの皆を集めてくれ」

 

『了解!』

 

カイン指揮官の言葉に、全員が頷いた。

 

()()()()()()()

 

「お、雪風! 夕立! 時雨か!?」

 

通信機から、三人の声が聞こえてきて、カイン指揮官が声を発する。

 

《指揮官! 夕立の事思い出したか!?》

 

「ああ思い出したよ。夕立の頭の感触やスベスベとしたお腹の感触までな」

 

《雪風様の事もなのか!?》

 

「ああ」

 

《ふっふ~ん! この時雨様の幸運ね!》

 

《雪風様なのだ!》

 

通信機越しから、雪風と時雨の口喧嘩が聞こえ、口元を緩ませるカイン指揮官。

 

「それで、何かあったのか?」

 

《ああそうだったんだぜ! 指揮官! オロチが出てきた洞窟ドックから、変なのを見つけてきたんだぜ!》

 

「へんなの?」

 

《ぎゃぁぁぁぁ離せぇぇぇぇぇぇ!!》

 

《私達は無害な宇宙人ですよぉぉ!!》

 

≪・・・・おい兄ちゃん。この声って≫

 

≪・・・・聞いた事がありますね?≫

 

「・・・・あぁ。まさか」

 

通信機から聞こえる聞き覚えのある二人の声に、カイン指揮官は半眼になり、フーマとタイタスも呆れた声をもらした。

 

 

 

 

 

 

 

「トモユキ指揮官としては、半年以上ぶりだな長門。と言っても、カイン指揮官としてはほんの1ヶ月と少しぶりだけど」

 

《うむ。記憶が戻り、安心したぞ指揮官。しかし、喜んでもおられん状況だ》

 

そして少し経ち、無事だった広場でアズールレーン艦船<KAN-SEN>達が集まり、大きめの立体通信機で会話できるように明石が急遽改造し、現れた長門達重桜艦船<KAN-SEN>達と会談を始めるカイン指揮官。

 

「さて、先ほど哨戒に出ていた潜水艦の子から報告があがってきたがーーーー哨戒中、突然赤い光が天から落ちて、海をこんな風にしたらしい」

 

長門の映る画面の隣に、巨大なクレーターができた海面が表示された。

それだけではなく、以前フーマと初めて一緒に戦った時の廃墟の島も、他にも多くの無人の島や海面が攻撃され、無惨な姿を晒していた。

そう、重桜とユニオンの領海の境目付近の無人島が遠距離により攻撃を受け、爆発をしたのだ。

 

「これは、『核』とは違うようだが・・・・」

 

昔、士官学校で習った人類が生み出した『兵器』を連想したカイン指揮官。

 

《いや、指揮官。これはセイレーンの、加賀が連れ出した怪獣となったオロチの仕業じゃ》

 

「そうと考えて間違いないわね」

 

長門の言葉に、Q・エリザベスが折り畳み式テーブルセットに腰掛けながら、紅茶のカップを回しつつそう答える。

 

「ですが、陛下。事態は深刻です。もしもこれで基地を攻撃されたら・・・・」

 

「ドッカーン! ひとたまりもないね」

 

深刻なフッドの言葉に続きながら、軽くも重く答えるホーネット。

 

「明石。俺達の母港にこれが撃たれればどうなる?」

 

「にゃ~。これまでの被害の範囲から計算するとにゃ・・・・最悪、母港本島どころか、半径数キロは巻き添えで消滅するにゃ」

 

「関連性はまだ分かりませんが、島の消滅より数時間前。重桜から巨大な怪獣が現れました。今まで確認されてきた怪獣達のほぼ二倍近くの体躯です・・・・!」

 

カイン指揮官の問いに、明石はタブレットを操作して計算すると、袖で口元を隠しながら渋面を作っていた。

更にヘレナもタブレットを操作して表示させたのは、セイレーンの量産型艦隊に守られながら海を闊歩する巨大な、本当に巨大な異形とも言える機械の怪獣ーーーー『メガオロチ』が写っていた。

 

「シェフィ。エディンバラ。これって、オロチなのかな?」

 

「わたくし達が見たオロチは、巨大な艦のようでした。こんな怪物ではなかった筈です」 

 

「こ、こんなとてつもなく大きな怪獣だったら、私気を失ってましたよぉ!」

 

≪こいつはーーーー『マガオロチ』かよっ!?≫

 

「(フーマ。知っているのか?)」

 

≪俺と同じ、『O-50』のウルトラマン、『ウルトラマンオーブ』がかつて戦った、大魔王獣だ! 星をも喰らい尽くす伝説の魔王獣だ!≫

 

≪おそらくあれは、そのマガオロチのロボット怪獣タイプ、名付けるならばーーーー≫

 

「・・・・『メガオロチ』、か」

 

「っ、指揮官。メガオロチとは?」

 

「あぁ、今名付けたあの怪獣の名称だ。あれは、星をも喰らい尽くす大魔王獣と呼ばれる、マガオロチのロボット怪獣タイプだ」

 

「星をも、喰らい尽くす・・・・!」

 

『っ!?』

 

『星をも喰らい尽くす』、と言う言葉に、エンタープライズ達、アズールレーン艦隊も、長門達重桜艦隊も戦慄したように目を見開いた。

 

「これは恐らく、セイレーンの技術に、宇宙人の技術がプラスされた事で生み出されたんだろう。ーーーーその辺りの事をどれだけ知っている? マーキンド星人。マグマ星人?」

 

長門の隣から縄で縛られ、時雨と夕立と雪風に連れられたマーキンド星人とマグマ星人が映し出された。

 

「あ! あの人(?)達!」

 

「逃げたと思ったら、重桜に隠れていたのですか・・・・」

 

エディンバラとシェフィールドが、呆れたような顔になった。

 

《何も知らねぇよ! 俺らにこんなとんでもねえ事なんてできねぇって! ちくしょー! 重桜の奴等にコッソリ引っ付いて、暫く自給自足の自由気ままな生活を送っていただけなのに・・・・!》

 

《私達だって『マガオロチ』の恐ろしさは重々知っていますよ! そんな宇宙の大災害を、『ヴィラン・ギルド』の下部構成員の私達に、そんな大それた事なんてできませんよ!!》

 

「・・・・それで、あの洞窟ドックに潜んでいたんなら、何か知らないか? 『オロチ』の事について」

 

《ってもなぁ・・・・。『セイレーン』って奴等が『オロチ』って戦艦にいたってのと・・・・》

 

《あっ! そう言えば、長い黒髪に、黒い狐の耳と尻尾をした赤い服を着た艦船<KAN-SEN>が、『オロチ』の中に吸い込まれた時がありました!》

 

《っ! それは、まさか・・・・!》

 

「ーーーー赤城かっ!?」

 

『っ!?』

 

《『っ!?』》

 

長門とカイン指揮官の声に、アズールレーン艦隊と重桜艦隊が驚愕した。

 

「成る程。加賀がこんな行動を起こしたのは、『セイレーン』に唆され、赤城を失い、弱った心に付け込まれたのか・・・・だとすれば、何としても止めなければならない。あの『メガオロチ』の存在は、アズールレーンにとっても、重桜にとっても、いや、この星にとっても、危険極まりない。そして、そのさらに背後にはーーーートレギアが絡んでいる」

 

「トレギアが、と言う事は、ウルトラマンタイガも」

 

「トレギアに連れられ、『メガオロチ』の元に現れるだろうな」

 

エンタープライズの問いに、カイン指揮官は視線を鋭くする。

 

「赤城と加賀、そしてタイガを助け出す。これ以上、トレギアの思い通りになんてさせない!」

 

「セイレーンの野望を打ち砕くためにも、だな?」

 

「ああ!」 

 

カイン指揮官とエンタープライズは決意を固め、アズールレーン艦隊、そして通信機越しだが、重桜艦隊に向けて声を発する。

 

「皆。聞いての通りだ。これよりアズールレーン艦隊は、重桜艦隊と協力し、識別名称『メガオロチ』の殲滅に向かう! そして恐らく、赤城と加賀も『メガオロチ』の元にいる。皆。この事態になったのは、赤城と加賀のせいだと思っていると思う。だが、赤城と加賀も、やり方を間違えてしまっただけなんだ。元重桜指揮官の俺の言葉なんて、説得力が無いと思う・・・・。それでも! 俺は皆に頼みたい! 頼む皆! 赤城と加賀を! 俺の大切な仲間を! 俺の相棒<バディ>、ウルトラマンタイガを助ける為に、力を貸してくれ!!」

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

カイン指揮官はアズールレーン艦船<KAN-SEN>全員に頭を垂れた。

アズールレーン艦隊は、若干戸惑いがちになる。が、その時ーーーー。

 

「指揮官! 私、行きます!」

 

「ユ、ユニコーンも、行くよ、お兄ちゃん・・・・!」

 

「ラフィーも、行く・・・・」

 

綾波と一緒にいたジャベリンとユニコーンとラフィーが、挙手して参加の意思を示した。

 

「ジャベリン・・・・ユニコーン・・・・ラフィー・・・・」

 

「綾波ちゃんのお友達なら、ユニコーン達にとっても、お友達、だから・・・・!」

 

「ラフィー達、ウルトラマンタイガに何度も助けてもらった。恩返し、したい・・・・」

 

「私達艦船<KAN-SEN>の力は、『セイレーン』を倒すだけじゃないです! 多くの人達を守る力です! だったら、敵だった人達だって、守る事ができる筈です!!」

 

駆逐艦と軽空母の少女達の言葉に、アズールレーン艦隊がフッと笑みを浮かべる。

 

「ふん。このロイヤルの女王の前で良く言ったわ。ジャベリン。ユニコーン。私の威光を重桜やウルトラマンに見せてやろうじゃない!」

 

「お供します、陛下!」

 

「ウルトラマンタイガにも色々助けられたからね! 受けた恩は返さないと、ユニオンの名が廃るよ!」

 

「「「おー!」」」

 

クリーブランドの言葉に、妹達も拳をあげた。

それに続くように、アズールレーン艦船<KAN-SEN>達が、声をあげてくる。

 

「・・・・皆」

 

「ご主人様。後は、重桜のご返答だけです」

 

「ああ」

 

ベルファストにそう言うと、カイン指揮官は、映像の長門達に視線を向ける。

 

「と、言う訳だ長門。重桜指揮官皆の意見は?」

 

《・・・・本当に、赤城と加賀を助けるのに、力を貸してくれるのか?》

 

「勿論だ! 赤城と加賀は必ず助ける! その為にもお前重桜艦隊も協力してくれ」

 

《・・・・・・・・皆、余はこれより赤城と加賀の救出の為に、アズールレーン艦隊と協力する。これはレッドアクシズから言わせれば裏切り行為となるだろう。しかし、余は失いたくないのじゃ。大切な仲間である、赤城と加賀を》

 

長門がそう言うと、画面が重桜艦船<KAN-SEN>達となり、すぐに瑞鶴の声が響いた。

 

《勿論です長門様! 赤城先輩も加賀先輩も! 必ず助け出します!》

 

《一航戦の先輩達ってば、本当に面倒ばかり押し付けてきて、文句の一つや二つや三つは言わないと気がすまないわ》

 

《夕立も行くぜ!》

 

《雪風様の幸運パワーを見せてやるのだぁ!》

 

《この時雨様の幸運パワーも使ってあげるわ!》

 

《指揮官からのお願いなら、お姉さんも一肌脱いじゃうわ!》

 

《拙者も力を貸すぞ!》

 

次々と、重桜艦船<KAN-SEN>達から参戦の声があがってきた。

 

《指揮官。これが重桜の総意じゃ。我らの指揮、頼むぞ》

 

「ありがとう、皆。・・・・良し! 赤城と加賀を助け出して! 叱ってやろうか!」

 

《このような事態を起こしたのですから、当然ですね》

 

カイン指揮官の言葉に、蒼龍が同意を示すように、片手で眼鏡を押し上げる。

 

「その後は、皆の文句を聞かせてやろうぜ!」

 

《うふふ、先輩達には言いたい事が山のようにありますから♪》

 

翔鶴が意地の悪い笑みを浮かべる。

 

「その後は、苦労をかけた事を労ってやろうぜ」

 

《あやつらも、重桜を思っての行動じゃったのだからな》

 

長門が頷く。

 

「その後は、ご馳走で宴会だ!」

 

《肉が良いぞ!夕立は肉が食べたい!》

 

《雪風様はお菓子が良いのだぁ!》

 

夕立と雪風がそう伝えた。

 

「お酒もいっぱい出してやろうぜ!」

 

《お! 良いね! 赤城と加賀が酔い潰れるまで飲ましてやるっ!》

 

《前から一航戦とは飲み比べ勝負をしてみたかったからな》

 

伊勢と鈍い日向が上機嫌で同意した。

 

「そしてーーーー【おかえりなさい】って言って、【ただいま】って言わせてやろう!」

 

《うん!・・・・って、えぇっ!? 何よそれっ!? 暑苦しい! 青春臭い!》

 

時雨が嫌そうな顔をした。

 

「では、時雨はやらないようなので、綾波が言うです」

 

《『綾波(ちゃん)!』》

 

「にゃ~。皆、お久しぶりにゃ」

 

《『明石(ちゃん)!』》

 

「よしっ! アズールレーン艦隊! 重桜艦隊! 我々はこれより、『メガオロチ殲滅作戦』を決行する! 各自、準備を進めるようにッ!!」

 

『了解!』

 

《『了解!』》

 

アズールレーン艦隊が各々の準備に取り掛かろうと、動くと、綾波と明石が重桜艦隊に話しかける。

 

「お久しぶり、なのです」

 

「にゃ~」

 

《二人とも、無事でなによりだ》

 

《綾波! 肉とか食べさせて貰ったか?!》

 

「美味しいケーキを食べさせて貰ったです」

 

《意地悪されなかったのだ!?》

 

「皆、親切にしてくれたです」

 

《明石。こっちでの仕事をサボって、そっちで商売しているようですね?》

 

「に”ゃー! 不知火<ぬいぬい>!!」

 

仲が良かった時雨達と談笑し、明石は不知火に睨まれ、顔を青ざめていた。

懐かしい光景に笑みを浮かべるとーーーー。

 

≪ーーーーモ・・・・キ・・・・!≫

 

「ん!?」

 

≪ーーーートモ、ユキ・・・・!≫

 

≪・・・・っ! この声はっ!?≫

 

≪まさか・・・・!≫

 

「タイガ・・・・?」

 

突然聞こえたタイガの声に、タイタスとフーマ、トモユキは戸惑いの声をあげる。

 

≪ト、トモユキ・・・・! トモユキ・・・・! あ、赤城、さんが・・・・『オロチ』・・・・に・・・・!≫

 

と、そこでタイガの声が途絶えてしまった。

 

「タイガ・・・・!」

 

≪彼も、抗っているようですな≫

 

≪必ず助けようぜ、兄ちゃん!≫

 

「ああ。当然だ!」

 

決意を固めたカイン指揮官のタイガスパークの宝石部分が、翠色の光を放っていた。

 




次回、アズールレーンと重桜が力を合わせる!


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【集結】救うための戦い

お久しぶりです。


ー鉄血sideー

 

重桜艦隊と共に、メガオロチを討伐する為に進む鉄血艦隊。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

いつもの人を食ったような余裕綽々のオイゲンが、珍しく顔をしかめて唸っていた。

 

「へへへ、やられたなオイゲン」

 

「全くよ。加賀がこんな乱暴な手段に出るなんて」

 

洞窟ドックから命からがら脱出したオイゲンに、レーベが軽口を叩くと、オイゲンが肩を竦めて返した。

 

「やっぱりセイレーンが裏で糸を引いているのかしら?」

 

「赤城と加賀が本当にセイレーンと・・・・」

 

ヒッパーが顎に手を当ててそう言うと、ニーミも顔を曇らせる。

 

「『内通者』に気付かないなんて、重桜も間抜けよねぇ!」

 

「・・・・重桜だけなのかしら?」

 

「え?」

 

「もしかしたら鉄血にも・・・・いえ、それ処か、各陣営の中枢にも、セイレーンの手が伸びているとしたら”・・・・」

 

ヒッパーの言葉に、オイゲンは顎に手を当てて思案する。

 

「どうした考え込んで?」

 

「・・・・やめやめ。考えても仕方ない事ね。少なくとも今回は」

 

「それで、私達鉄血も、アズールレーンと共に戦うのですか?」

 

「流石にあんな怪物を放置しておくのは危険だしね」

 

「それにしても、重桜はあんまり深刻な感じが出ていないな」

 

レーベが重桜の方を見ると、重桜艦船<KAN-SEN>全員の目に、一縷の希望を見いだしたような輝きすらあるように見えた。

 

「これからアズールレーン艦隊と合流して、メガオロチを迎え撃つのに」

 

「余程信じているのでしょう。記憶を取り戻した愛しい指揮官の事を、ね」

 

ニーミの言葉に、オイゲンはそう言った。

 

 

 

ー重桜sideー

 

「ソワソワソワソワ・・・・」

 

「ああもう! いい加減落ち着きなさいよ雪風!」

 

「だって、仲間と戦わなくちゃならないのだ・・・・」

 

落ち着き無くソワソワする雪風に、時雨が注意した。

 

「本当に、赤城と加賀を助けられるのだ?」

 

「・・・・絶対助けるよ」

 

「瑞鶴さん・・・・」

 

雪風の言葉に、瑞鶴がそう言い出した。

 

「指揮官が言ってた事、皆覚えてる? 私達の力は、『守る為』にある力だって」

 

それは、重桜からいなくなる前に、トモユキ指揮官が言っていた言葉である。その場にいる雪風達の他に、翔鶴、高雄に愛宕、扶桑と山城も瑞鶴の言葉に頷いた。

 

「絶対に加賀先輩も、赤城先輩も助け出して連れ戻す。言う事聞かないなら、ひっぱたいて目を覚まさせる。セイレーンの思惑何かに、乗ってやるものですか!」

 

「瑞鶴~!」

 

雪風が瑞鶴に抱きついて泣き出す。周りの皆も頷いた

 

「もうすっかり一人前なのね。お姉ちゃんちょっと寂しいわ・・・・」

 

立派になった妹に、姉は複雑な心境で笑みを浮かべた。

 

 

 

ー加賀sideー

 

「・・・・・・・・」

 

「姉様、一体何を?」

 

「ああ加賀、そんなに怯えないで。大丈夫。私は何処にも行かないわ。指揮官様の事も、もうどうでも良いの。加賀。あなただけいてくれれば」

 

メガオロチの頭上で、水平線を見つめる赤城に、加賀が声をかけると赤城は加賀を抱き締める。しかし、

 

「(ーーーー指揮官<アイツ>の事をどうでも良い、だと? あの姉様が?)・・・・違う」

 

「加賀・・・・」

 

「誰だ・・・・!」

 

加賀は赤城から離れて身構え、青い炎を出して赤城に向かって放った。

 

「“姉様の中にいるのは”!!」

 

「!」

 

赤城は手に持っていた狐面で炎を防いだ。

 

「相変わらず気難しい娘ね・・・・」

 

赤城が目を瞑ると、背後から真紅の炎が立ち上がり、炎の中からーーーー赤城の姉である、『重桜所属 巡洋戦艦 天城』が傘を広げて現れた。

『天城?』が現れると、赤城はまるで糸の切れたマリオネットのように力無く倒れそうになるが、『天城?』が抱き止めた。

 

「・・・・天城、さん?」

 

「久しぶりね、加賀」

 

「・・・・違う。やはり違う! お前は誰だ!?」

 

一瞬面食らった加賀だが、すぐに目を鋭くして『天城?』を睨む。

 

「私は『天城』よ。赤城がそう望んでいるのだから」

 

「はっ! 『オロチ』、なのか?」

 

「うふふふ・・・・」

 

加賀の言葉に『天城?』、いや、『オロチ』は唇の端を上げて薄く笑みを浮かべると、どす黒い炎が立ち上がった。

 

「姉様を離せ!」

 

「本当にそれで良いの?」

 

「っ!」

 

「赤城は私に会うためにここまでしたと言うのに」

 

「偽物が何をほざく!」

 

「あなただって、『偽物』じゃない」

 

「っ!」

 

『オロチ』に言われ、加賀の脳裏に、今は亡き天城の声が響いた。

 

【赤城の事も、頼みます】

 

赤城の事を頼まれ、亡くなった天城の言葉が。

 

「天城は逝ったーーーー赤城を残して。失われた天城の一部は、他の艦へと受け継がれる」

 

「・・・・やめろ」

 

加賀が苦しそうに顔を両手で押さえる。

 

「うふっ、分かっているでしょう? 加賀?」

 

「やめてくれ・・・・」

 

「空母加賀。“あなたは天城のパーツを使って改装された艦”!」

 

「っ!」

 

加賀の顔が絶望に歪む。『オロチ』はさらに畳み掛ける。

 

「赤城があなたを愛したのは、あなたの中に天城の『影』を見たから。でもそんなものはまやかし」

 

「う、ウソだ・・・・私は・・・・!」

 

「あなたは『代用品』でさえない。朽ちた部品の寄せ集め。海に浮かばぬテセウスの船。それがあなたよ、加賀」

 

「・・・・っ・・・・うぅっ・・・・!!」

 

涙を流して両膝を突く加賀に『オロチ』を歪んだ笑みを浮かべる。

そしてその真横に人間サイズとなったウルトラマントレギアが現れた。

 

『おやおや、こちらも壊れてしまったかな?』

 

「そちらは順調? トレギア?」

 

『勿論さ。坊やも徐々に、闇に堕ちている』

 

トレギアが手を向けると、宙にぶら下がるように浮遊するウルトラマンタイガがいた。

 

「うふふ。坊やも可哀想に、父親のようになれず、越えられず、こんな惨めな姿を晒してしまうなんて」

 

『まだ抵抗しているようだが、それも時間の問題だ』

 

トレギアと『オロチ』は、タイガを見上げてそう会話した。

 

『・・・・ユ・・・・キ・・・・トモ、ユキ・・・・』

 

「あらあら、あの指揮官の名を呼んだりして・・・・」

 

『ふふふ。彼には何もできないよ、坊や』

 

トレギアと『オロチ』は、泣いているようにも見えるタイガの姿に、憐れみと嘲弄の笑みを浮かべた。

 

「・・・・指揮、官・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・(ピクン)」

 

が、その二人に気づかれず、加賀の目に、僅かな光が宿り始め、『オロチ』に抱かれた赤城の手が微かに動いた。

 

 

 

 

 

ーアズールレーンsideー

 

そしてその頃、レッドアクシズ艦隊と合流し、メガオロチを討伐しようと向かうアズールレーン艦隊では。

 

「だから、こうフワ~!って力がみなぎってきて、グゥ~!っと光が満たされたら、ピカー!ってなったんです!」

 

『・・・・・・・・』

 

「分かりました?」

 

『分からないよ!』

 

いよいよ決戦とも言える戦いに赴くので、ユニオン艦船<KAN-SEN>達がジャベリンに、〈ノブレス・ドライブ〉の発動について何かアドバイスを貰おうとし、ジャベリンはどうにか教えようとしているが、感覚による擬音で伝えており、まるで理解されてなかった。

 

「ラフィー! アンタもなったんなら教えるのだ!」

 

ハムマンが言うと、ラフィーはいつものボゥとした顔で、

 

「ラフィー、できるかもって思ったらできてた」

 

『それじゃ分からないって!』

 

マイペース過ぎるラフィの言葉に、またもやツッコミを入れるユニオン勢。

そして、先頭のエンタープライズの艦首にいるエンタープライズ。そしてその後ろに控えるベルファストが声を発する。

 

「本当に、宜しいのですか? どうやらセイレーンとっても、エンタープライズ様は特別な存在。どんな罠が待ち構えているか」

 

「それでも、私は戦う。『答え』を見つける為にも、私の『気高さ』を見つける為にも、戦いから目を離してはいかないんだ。もう一度、私はこの海に立ち向かう」

 

「っ。愚問でございました。あなた様を見届ける事が私の役目。お供させていただきます」

 

「あぁ。ーーーーそれと、指揮官の事だが、ウルトラマンタイガを助けようとするあの姿、私はもしかしたら、突拍子も無い考えを抱いているのだが・・・・」

 

「・・・・ひょっとしたら、その『突拍子の無いお考え』が、真実なのかも知れませんよ?」

 

「っ」

 

エンタープライズの言葉に一瞬目を見開いたベルファストだが、すぐに小さく笑みを浮かべてそう答えた。それを見て、エンタープライズも少し驚いたが、確信を持った。

 

「・・・・そうか。私は、いや私達は、あの人に守られていたのだな。いや、『あの人達』と言うべきか」

 

「はい」

 

「ならば、助けよう。我らの指揮官とその盟友を」

 

エンタープライズは真っ直ぐな目でそう呟いた。

そしてこちらは、カイン指揮官とその隣に立つは綾波。

 

「懐かしいな綾波。まるで、君と一緒に重桜母港に配属された日を思い出すよ」

 

「はいです。あの頃の母港は、赤城さん達の大切な艦<ひと>がいなくなってしまい、皆落ち込んでいたです。でも、指揮官が立て直して、皆元気を取り戻して、素敵な母港になったです」

 

「だが、俺が行方不明になってしまい、赤城が暴走してしまい、更には加賀までも・・・・俺達のやるべき事は分かっているな?」

 

「ーーーーはいです。助けるです、二人とも。そして皆で帰るです。誰一人欠ける事なく、皆で必ず・・・・!」

 

迷い無く呟いた。綾波のクリーム色の頭をカイン指揮官は撫でた。

 

「指揮官・・・・」

 

「あの頃よりも、成長したな綾波」

 

「//////」

 

笑顔を浮かべるカイン指揮官と、照れ臭そうに頬を染めて笑みを浮かべる綾波。

 

≪う~~む・・・・≫

 

≪ほぉ~~・・・・≫

 

「うわ~//////」

 

「お~」

 

「はわわ~//////」

 

「あら//////」

 

カイン指揮官と綾波から少し離れたタイタスとフーマ。ユニオン艦船<KAN-SEN>達から離れ、綾波に話しかけようとしたジャベリンとラフィーとユニコーン。そしてカイン指揮官に間もなく合流地点に到着する事を伝えに来たイラストリアス。

しかし、カイン指揮官と綾波が二人っきりでいるその空間が、何処か割って入ってはいけない神聖さすら感じ、頬を赤く染めて見ていた。

 

「っ 指揮官・・・・!」

 

「あぁ。ジャベリン。ラフィー。ユニコーン。イラストリアス」

 

「「「「は、はい!/ん」」」」

 

「どうやら、合流する前に重桜と鉄血は、おっぱじめたようだ」

 

「「「「っ!」」」」

 

四人も前に出ると、レッドアクシズと合流する筈の地点に、ギャラクトロンMK2より二回りも大きな巨体をした『大魔機獣 メガオロチ』の姿が小さく見え、その足元で爆裂の光が起こり、レッドアクシズがセイレーン艦隊と交戦しているのが見て取れた。

 

 

 

 

ー重桜sideー

 

合流地点に到着したレッドアクシズ艦隊は、アズールレーン艦隊よりも早く来てしまっていたメガオロチとセイレーン艦隊と交戦を始めた。

砲撃が飛び交い、双方の艦載機が空を縦横無尽に飛び交う。

 

「はっはぁ! 雪風様に任せるのだっ!」

 

「ガルルルルル! 噛みついてやるぜ!」

 

「あまり先走らないでよ!」

 

雪風と夕立、時雨が突き進むが、目の前で砲撃が炸裂する。

 

「うわぁぁっ!」

 

「何なのだ!? 何なのだ!?」

 

「っ! あれって!?」

 

空を見上げると、エイのような艤装を装備して宙に浮く、『セイレーン テスター』が三人ーーーー

 

『可愛いお客さんねぇ。テストデータを取らせていただくわ』

 

「っ! 『上位個体』、しかもこんなに・・・・!」

 

いや、テスターは何体も宙を浮いており、艤装からレーザーを辺り一帯に放った。

 

『きゃぁああああああああっ!!』

 

レッドアクシズ艦隊はレーザーによって生まれた波にもまれる。

 

「セイレーンの強そうなのがいっぱいですぅ!」

 

山城の言うとおり、メガオロチの周囲には、セイレーンの上位個体がメガオロチを守るように展開していた。

 

「厄介ね! メガオロチに近づく事すらできないわ!」

 

五航戦の二人が、メガオロチに近づこうと進む。

 

「でも、やるしかないよ翔鶴姉! ラチが開かないなら、無理矢理にでもこじ開ける!」

 

瑞鶴が炎を纏った式神をテスターに向かって放つ。

が、下から出てきた青い炎が瑞鶴の式神を焼き付くした。

 

「「あっ!」」

 

炎が出てきた方向に目を向けた五航戦は目を見開いた。ソコには、冷酷な顔となった加賀がいたのだ。

 

「加賀先輩・・・・?」

 

「・・・・・・・・」

 

瑞鶴と言葉に応じず、加賀は臨戦体勢をとった。

 

 

ー赤城sideー

 

そして、メガオロチの頭頂部では、赤城の後ろで『オロチ』が立っていると、赤城が瞼を開くが、その虚ろな瞳に、この戦場を映った。

 

「私は、何を・・・・」

 

「何の心配はいらないわ赤城。あなたの願いは叶った。『永遠の愛』はここにあるわ」

 

『オロチ』は、天城であるかのように振るまい、赤城の耳元で囁く。

 

「私の願い・・・・私の愛・・・・天城姉様・・・・私は重桜を、指揮官様達を・・・・」

 

赤城の脳裏に、天城がまだ生きていた頃の重桜の光景が甦る。

昔はよく加賀と口喧嘩を繰り広げ、その度に天城の拳骨で止められ、天城が笑顔で圧を放ちながら、無理矢理仲直りをさせられていた。指揮官が来るほんの少し前に、天城がまだ重桜にいた頃の大切な思い出・・・・。

 

 

ー瑞鶴sideー

 

そして、加賀は艤装を展開すると、

 

「・・・・『オロチ』はやらせない」

 

艤装に青い炎を纏った。

 

「加賀先輩!」

 

瑞鶴が炎を纏った艦載機を加賀に向けて飛び立たせ叫ぶが、加賀の青い炎を纏った艦載機が瑞鶴の艦載機を簡単に全滅させた。

 

「どうしてセイレーンに手を貸すの!?こんなの間違ってる!」

 

「私はただ、赤城姉様の願いを叶えるだけだっ!」

 

加賀は虚ろな目をし、瑞鶴と翔鶴にの青い炎を纏った艦載機を放ち続ける。

翔鶴は瑞鶴を庇うように前に立つと、ありったけの艦載機を壁にするように配置した。

 

「ああもう! いつもの澄まし顔は何処行ったのかしら!」

 

炎に当たった艦載機はそのまま爆散したが翔鶴達を守った。

 

 

ー時雨sideー

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

テスターは笑みを浮かべてレーザーを放ち、それが海面に辺り水飛沫を立てた。

 

「うわぁぁぁぁっ!」

 

「夕立っ!」

 

夕立は回避しようとするが、波に煽られバランスを崩し、海面をバウンドして倒れる。

 

「ちょっと、大丈夫なの?」

 

「わぅわぅ~まだまだやれるぜ~・・・・」

 

時雨が駆け寄ると、目を回しながら答える夕立。

 

「不味いわね、これ・・・・」

 

時雨がセイレーンを見ると、正面にはセイレーン艦隊、上空にはテスターの団体と、不利な戦況に渋面を作っていた。

が、テスターと艦隊に砲撃が放たれた。

 

「あっ」

 

目を向けると、宙を浮いていたオイゲンが時雨達の前に降り立つ。

 

「ほら! ボサッとしない!」

 

次いでヒッパーとニーミとレーベも駆けつけた。

 

「しっかりして下さい」

 

「ボヤボヤしてるとやられちまうぜ」

 

「はっ! ブルブル! 倍返しだぁ!」

 

夕立も漸く正気に戻り立ち上がった。 

 

『お客さんがいっぱいで嬉しいわ』

 

「どうすんの? 戦況的に不利よ」

 

テスターが余裕の笑みを浮かべる。確かに戦況は芳しくなくヒッパーがそう言った。

 

「姉さんったら、胸だけじゃなく心の余裕まで無くしてしまったの?」

 

「っ! 張っ倒すわよ!!//////」

 

オイゲンが巨乳を揺らしてそう言うと、顔を赤くしたヒッパーが噛みつく。が、それでもオイゲンは余裕の笑みを浮かべる。

 

「うふふ。冗談よ。でもそうね、そろそろ『新しいカード』を引きたいところだけど」

 

オイゲンがそう言ったその瞬間、幾つもの砲弾が、セイレーン艦隊に向かって放たれ、艦隊の幾つかが破壊された。

 

『・・・・来たわね』

 

「援軍ですかっ!?」

 

「さあどうかしら、敵の敵は味方、だと良いのだけどね」

 

セイレーン艦隊の側面から、アズールレーン艦隊が攻め込んできた。

 

 

 

ーオブザーバーsideー

 

『ようこそアズールレーン。待っていたわ』

 

オブザーバーは笑みを浮かべて、アズールレーンを出迎えた。

 

 

 

ーカインsideー

 

「全艦、戦闘開始!」

 

指揮官専用船に乗るカイン指揮官の指示で、アズールレーン艦船<KAN-SEN>が艤装を展開し攻撃にでた。

 

『〈ノブレス・ドライブ〉!!』

 

ロイヤル艦船<KAN-SEN>達が〈ノブレス・ドライブ〉を発動させると、残像を残す超スピードで突き進み、セイレーン艦隊を破壊していく。

 

「ロイヤルに遅れを取る訳にはいかないよ!」

 

グリーブランド達を先頭に、ユニオン艦船<KAN-SEN>達も突き進む。

 

 

ー瑞鶴sideー

 

「目を覚まして加賀先輩! こんなのセイレーンに利用されてるだけじゃない!」

 

「どうでも良い」

 

瑞鶴達が加賀に向かって艦載機そう言うが、加賀は聞く耳を持たず、艦載機を放った。

お互いの艦載機がぶつかり合い、ほぼ撃墜され、炎に包まれた加賀の艦載機が瑞鶴達に向かっていく。

 

「瑞鶴を傷つけさせないわ!」

 

「お姉ちゃん!」

 

両手を大きく広げ瑞鶴を守ろうとする翔鶴を焼き尽くそうと迫った。

 

「ああ・・・・本当に、どうでもいい・・・・」

 

そんな五航戦姉妹の様子を見て加賀がそう呟いたその時、空から複数の艦載機が撃ち落とした。

 

「あなた達、アズールレーンの?」

 

アズールレーンが使ってる艦載機機を見た翔鶴は、その機の行先を見つめると、その持ち主である翼が生やしたユニコーン<ゆーちゃん>の上に乗ったユニコーンと、海面からはジャベリンとラフィーが駆けつける。

 

「どうでもよくは無いのです・・・・!」

 

「綾波か?」

 

加賀は綾波の声を聞き取り、その方角に向いた。そこには対艦刀を持った綾波が立っていた。

 

「私と姉様の邪魔をするつもりか?」

 

「違うです。皆を、助けに来たのです!」

 

綾波が対艦刀を構えてそう言った。

 

「・・・・・・・・「加賀」っ!・・・・指揮、官・・・・?」

 

綾波の隣にやって来た小型船に乗る人物を見て、虚ろだった加賀の瞳に、漸く光が灯った。

 

「加賀。こんな事が、赤城を支えているって言えるのか?」

 

「・・・・私には、無理だ・・・・私は、『天城の代わり』等には、なれないんだ!」

 

「・・・・・・・・誰がそんな事を言った?」

 

『っ!』

 

カイン指揮官が静かに、しかし確かに聞こえる声はとてつもなく重く、加賀処か、翔鶴に瑞鶴、綾波達ですら息を呑んだ。

 

「(タイタス。フーマ。海の上に立たせてくれ)」

 

≪うむ≫

 

≪ウルトラ念力だぜ!≫

 

カイン指揮官が船を降りてタイタスとフーマの念力で海面に立つと、ゆっくりと加賀へと歩む。

 

「・・・・・・・・」

 

加賀は、まるで怯えたように後ずさる。が、カイン指揮官は構わず進む。

 

「く、来るな!」

 

「・・・・・・・・」

 

「来るなっ!!」

 

加賀は青い炎を放つが、カイン指揮官は僅かに身体を逸らして炎を回避する。

 

「来るな! 来ないでくれ・・・・!」

 

「指揮官」

 

「皆、ここは任せろ」

 

そう言うと、カイン指揮官はまた加賀に向かって歩む。

加賀も退きたいが、足がすくんで動けなくなった。

 

「あ、あぁ・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

カイン指揮官が、加賀の真正面に立ってそしてーーーー。

 

ーーーーパンっ!

 

「っ!」

 

『・・・・!』

 

カイン指揮官が加賀の頬を叩いた。

 

「な、何をーーーー」

 

ーーーーパンっ!

 

「あっ!」

 

もう片方の頬も叩いた。そしてカイン指揮官は、加賀の胸元を掴んで顔を自分の眼前に突きつける。

 

「“誰がお前に、『天城の代わり』をやれと言った”?」

 

「ぇ・・・・?」

 

「俺がそんな事を言ったのか?」

 

「ぁ・・・・」

 

「『天城』が、そう言い残したのか?」

 

「ぅ・・・・」

 

「赤城がーーーーお前は『天城の代わり』だって! そう言ったのか!?」

 

「・・・・・・・・」

 

加賀はカイン指揮官の言葉を返せず、黙ってしまい、首を横に振るしかなかった。

 

「加賀ーーーーお前はお前だ! 『天城の代わり』何かじゃない!」

 

「っ!」

 

「お前は! 赤城の妹で! 翔鶴と瑞鶴の先輩で! 俺の大切な仲間の! 重桜艦隊一航戦空母! 加賀だろうっ!!」

 

「・・・・・・・・指揮、官・・・・」

 

カイン指揮官の言葉に、加賀は瞳に涙を浮かべる。

 

「言えよ加賀。お前の望みを、お前の本当の気持ちを!!」

 

加賀は胸元を離したカイン指揮官に抱きつき胸元に顔を埋め、嗚咽を漏らしながら口を開く。

 

「助けて、くれ・・・・! 指揮官・・・・! 姉様を、赤城姉様を・・・・! 救ってくれぇ・・・・!!」

 

「ああ。助けるさ、救ってやるさ! 俺は、お前らの指揮官だからな!」

 

加賀を抱きしめるカイン指揮官。綾波達も、翔鶴と瑞鶴も、一安心と言わんばかりに笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

ーエンタープライズsideー

 

エンタープライズとベルファストがセイレーン艦隊を撃破しながらメガオロチに近づくと、メガオロチの頭頂部に、赤城と『オロチ』の姿を確認した。

 

『ヒギャアアアアアアアアア!!』

 

メガオロチが雄叫びをあげると、黒い魔法陣が展開され、その中から、トレギアとタイガが降り立った。

 

「っ! タイガ!」

 

「トレギア!」

 

『はははは! さぁ! もっと盛り上げよう!!』

 

トレギアが両手に二つずつ『怪獣リング』を取り出すと、リングから禍々しい光が溢れ、トレギアの手から離れ形を成すとーーーー。

 

『グワァァァァァッ!』

 

『ヒィエエエエエッ!』

 

『ゴロロロロロロッ!』

 

『ーーーーーーーー!』

 

ヘルベロス。ナイトファング。ゴロサンダー。ギガデロスが召喚された。

 

 

 

ーカインsideー

 

突如現れたトレギアとタイガ。そして四体の怪獣達の姿を、加賀を抱いたままのカイン指揮官が見据えた。

 

「加賀。もう大丈夫か?」

 

「ーーーーああ。大丈夫だ」

 

カイン指揮官の胸から離れた加賀は、いつもの澄ました顔に戻っていた。泣いた跡や目を赤くしたままだったが。

 

「あら加賀先輩。もう少し指揮官の胸で泣いてても良かったですよぉ?」

 

「うるさいぞ五航戦」

 

「もう翔鶴姉ってば」

 

翔鶴といつものやり取りを済ませる。

 

「・・・・加賀。翔鶴。瑞鶴」

 

「「「っ」」」

 

カイン指揮官に名を呼ばれ、三人はおちゃらけを辞めて姿勢を正す。

 

「重桜艦隊はこれからアズールレーン艦隊と協力し、『大魔機獣 メガオロチ』と他の怪獣達とセイレーン艦隊の相手をしてくれ」

 

「「「了解!」」」

 

「指揮官は?」

 

綾波が聞くと、カイン指揮官はウルトラマンタイガを見上げる。

 

「俺は、タイガを助ける」

 

「いや助けるって、指揮官どうやって?」

 

「・・・・皆。少し驚くかも知れないけど、受け入れてくれ」

 

カインはタイガスパークの引き金を引き、フーマキーホルダーを掴んだ。

 

[カモン!]

 

「風の覇者、フーマ!!」

 

フーマキーホルダーを右手に持ち替えると、青いエネルギーが出てる。タイガスパークの中心のランプに吸い込まれ、ランプが青く光った。

 

『ハァアアアッ!! フッ!』

 

「バディーゴー!!」

 

叫び、腕を思いっきり突き上げると、青い光が眩く輝き、カイン指揮官の身体を包み込むと、青い竜巻が巻き起こり、そのここは身体が変わっていく。

 

[ウルトラマンフーマ!]

 

『セェヤッ!』

 

ウルトラマンフーマが立ち上がった。

 




次回、タイガを救出!


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【絆】輪の如く繋がる奇跡

さぁ、反撃だっ!!


アズールレーン艦隊がメガオロチ討伐に参戦する少し前に遡る。

 

「エンタープライズ。これを君に」

 

艦隊に指示を伝え終えたカイン指揮官は、エンタープライズに『ある物』を託した。

 

「指揮官・・・・これは?」

 

「必ず、君の力になってくれる。そして、綾波」

 

「はいです」

 

「加賀を正気に戻したら、『これ』を渡してくれ」

 

綾波にも『ある物』を二つ託した。

『友』が『先輩達』から与えられた力を。

 

 

 

 

ー綾波sideー

 

そして時は戻り。

 

「えっ、えぇっ!?」

 

「お、お兄ちゃん・・・・!」

 

「おぉ~」

 

「そう、だったのか・・・・」

 

「驚いた、わね・・・・」

 

「し、指揮官がーーーーウルトラマン!?」

 

「やっぱり、です」

 

カイン指揮官の近くにいたジャベリン達と加賀達が愕然となる。今まさに、カイン指揮官が、ウルトラマンフーマへと変身したのだから。

ただ、ラフィーと綾波は何となくそう思っていたようで、あまり驚いていなかった。

 

「加賀さん」

 

「?」

 

綾波がカイン指揮官に託された物を、加賀に渡した。

 

「綾波、これは・・・・」

 

「指揮官から、これの片方を加賀さんに、もう片方はーーーー分かりますです?」

 

「・・・・無論だ」

 

加賀は、『二つのブレスレット』の内、『青いブレスレット』を右手首に着け、もう片方の『赤いブレスレット』を着ける艦船<KAN-SEN>を見上げる。メガオロチの頭頂部にいる姉に。

 

 

 

 

ー赤城sideー

 

『・・・・・・・・『オロチ』。戦闘は少し待ちなさい』

 

オブザーバーは、メガオロチの頭頂部に行き、『オロチ』に向かってそう言った。メガオロチは身体を覆うようにバリアが張られており、重桜も鉄血も、アズールレーン艦隊も傷一つ付けられないのだ。

 

「あら。それはどうして?」

 

『見てみたいのよ。“私達セイレーンが知らない存在”であるウルトラマン。そして、カイン・オーシャン、いえ、海守トモユキ指揮官。彼が何を見せてくれるのか、ね』

 

オブザーバーは、“イレギュラーであるウルトラマンと、海守トモユキ”の動向に興味津々であるようだ。

 

「・・・・・・・・・・・・(指揮官、様)」

 

虚ろだった赤城の瞳がフーマを捉えると、その姿が、愛しい愛しい指揮官の姿に変わって見えた。

そして、オブザーバーと『オロチ』は気づいていない、足元の戦況が、少しずつ動いている事に。

 

 

 

 

ートレギアsideー

 

『やはり現れたね。では、そろそろエンディングと行こうか』

 

現れたフーマを見て、トレギアが含み笑いをあげると、指をパチンッ! と鳴らした。

 

『うぅ・・・・!』

 

すると、カラータイマーが真っ赤に染まったタイガが、立ち尽くしていた。

 

 

 

 

ーカインsideー

 

『「このブレスレットから、タイガの鼓動を感じる・・・・」』

 

インナースペースにて、新たなブレスレットを見てカイン指揮官が言う。

 

『「これを媒介に、俺達とタイガの魂を繋げる事ができるかも知れない!」』

 

『アイツの頭の中にカチコミを入れるのか? 面白れぇ!』

 

『しかし危険な賭けですが、それでもやりますか? カイン指揮官殿?』

 

『「・・・・タイタス」』

 

『ん?』

 

『「俺達は仲間だ。畏まった言葉は無用だ」』

 

タイタスは一瞬呆気に取られたが、すぐに気を取り直す。

 

『・・・・ふっ、そうだった。では、やるかカイン?』

 

『「あぁ。俺は子供の頃、タイガに命を救われた。今度は俺が、タイガを助ける番だ!」』

 

『よっしゃぁ! 行くぜ兄ちゃん!!』

 

『「ああ!」』

 

フーマが構えると、ヘルベロスとナイトファング、ゴロサンダーにギガデロスが立ち塞がる。

 

『来やがったな! 俺のスピードに付いてこれんのかよっ!?』

 

『ーーーー!!』

 

フーマが加速して近づこうとするが、その前にギガデロスも加速して、フーマに追い付いた。

 

『ちっ! コイツがいたかっ!』

 

フーマは加速しながらギガデロスと戦う。

 

『グワァァァァッ!』

 

『ヒィエエエエッ!』

 

『ゴロロロロロッ!』

 

ヘルベロスは背中の棘を、ナイトファングは頭の目玉から音波を、ゴロサンダーは金棒から稲妻を放ちながら、ギガデロスを援護する。

 

『うわっ! おっと! セェヤッ!』

 

攻撃を回避するフーマだが、ギガデロスと交戦しながら、身体を回転させて竜巻を起こし、攻撃を防ぐが、戦い辛そうにしていた。

が、

ヘルベロス達に砲撃と艦載機が一斉に攻撃し、三体の怪獣の妨害をする。

 

『「っ! 皆!」』

 

カイン指揮官が目を向けると、アズールレーン艦隊の一部と重桜艦隊の一部が、フーマを援護した。

 

 

 

ージャベリンsideー

 

「いっけーーーー!」

 

「攻撃開始」

 

「ゆーちゃん!」

 

「行くわよ夕立! 雪風!」

 

「ガルル! 噛みついてやる!」

 

「雪風様に任せるのだっ!」

 

「何で俺らまで!」

 

「レーベ! 文句は後にしてください!」

 

ジャベリン達と合流した時雨達、そしてレーベとニーミも参戦し、フーマを援護する。

他の艦船<KAN-SEN>達はメガオロチとセイレーン艦隊と交戦していた。

 

《皆! よく来てくれた!》

 

「指揮官! ご指示を!」

 

《あぁ。皆はウルトラマンフーマを援護しつつーーーー》

 

 

 

 

ーフーマsideー

 

フーマは艦船<KAN-SEN>達に援護されながら四体の怪獣と戦い、ブレスレットを通してタイガに呼び掛ける。

 

『(タイガ。オメェと初めて会った時は、生意気な、イケすかねぇ野郎だと思ってたけどよ・・・・! 今じゃ俺とお前は一心同体! オメェ一人が欠けても駄目なんだ! 俺達はこれまでも! これからも! いつも一緒だぜ!)』

 

『「フーマ・・・・!」』

 

『フッ! 『極星光波手裏剣』!!』

 

巨大な光の手裏剣を投げ放つフーマ。その手裏剣は回転しながら、四体の怪獣を切る。

 

『ヒィエエエエエッ!』

 

ナイトファングが反撃と言わんばかりに光線を放つ。

 

『ん! 忍っ!』

 

フーマが力を込めると、その身体が黄色に輝く。

そして光線が当たると、水蒸気爆発が起こり、姿が隠れる。そしてその中からーーーー。

 

『ヌゥゥゥゥゥゥゥゥッ!』

 

ウルトラマンタイタスが飛び出した。

 

 

ータイタスsideー

 

『ソォラッ!』

 

タイタスはアックスボンバーをナイトファングに叩きつけ、ナイトファングは退かせると、ゴロサンダーが振り下ろす金棒を受け止め、拳をゴロサンダーに叩きつける。

 

『ヌゥンッ!』

 

そして次にヘルベロスとギガデロスが迫るが、タイタスは二体の頭を掴んで押し出し倒れさせると、タイガに呼び掛ける。

 

『君の無駄な熱さに呆れながらも、その心に胸うたれた! タイガ! 私達は信じてる! 君はこんな闇に屈したりはしないっ!!』

 

『「タイタス・・・・!」』

 

タイタスはショルダータックルでナイトファングを倒す。

 

『思い出せ! 私達の出会いを! 私達の旅路を! そしてーーーー私達との、誓いの言葉をっ!!』

 

起き上がったヘルベロスにタックルするタイタスは、その勢いでタイガに迫り、後一歩で手が届きそうになる。

しかし、

 

『光の国へ攻め込む第一歩だ。やれ、タロウの息子』

 

トレギアがそう呟くと、

 

『タイガ!』

 

『フゥ!』

 

届きそうになったタイタスの手を振り払い、タイガがタイタスの首を掴んだ。

 

『ぐぅぅぅぅっ!』

 

『ぁぁぁぁぁっ!』

 

『目を覚ませタイガ・・・・!』

 

『うぅっ! うぐぅぅぅぅっ!!』

 

タイガはタイタスの手を払い、タイタスの腹に膝蹴りを叩き込む。

 

『グワァァァァッ!』

 

『ゴロロ!』

 

ヘルベロスとゴロサンダーがタイタスを攻撃しようとするが、

 

『うぁぁぁぁぁっ!!』

 

タイガはヘルベロスとゴロサンダーにも攻撃した。

 

『ウォオオオオオッ!!』

 

『ヌゥアッ!』

 

タイガはタイタスに蹴りを何度も叩き込み、タイタスを倒れさせる。

 

『ウゥオアアアアアアアアアッ!』

 

『ーーーー諦めんぞ! 諦める訳には!』

 

四体の怪獣の後ろにいるタイガを見据える。

 

『私達は一つ!』

 

『『『「トライスクワッドだっ!! うおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!」』』』

 

カイン指揮官とタイタスとフーマ、三人の声が重なる。

 

『ぬおおおおおおおおっ!!』

 

『ウァアアアアアアアッ!!』

 

タイタスがタイガに向かって駆け出すと、タイガは闇が混ざった光線を放つ。

 

『ふん! ぬああああああああっ!! たぁあっ!!』

 

が、タイタスが光を纏った拳でそれを防いだ。四体の怪獣が、タイタスに迫ってくる。

 

『後は頼んだぞ! カイン!!』

 

タイタスがフーマにチェンジした。

 

『セヤッ!』

 

フーマが上空に飛ぶと、カラータイマーから、カイン指揮官を発射した。

 

『俺達の熱い想いを! タイガにぶつけてやれ!』

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!」

 

 

 

ーカインsideー

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!」

 

落下しながら、カイン指揮官はタイガへと向かっていく。

 

『おいおい、邪魔しないでくれよ』

 

「トレギアっ!!」

 

『たかが人間と艦船<KAN-SEN>ふぜいが、思い上がっていたようだね。で・も、物事は思い通りにはいかないよ!』

 

カイン指揮官を見上げるトレギアの瞳に、妖しい光が灯り破壊光線『オプトダクリス』を放とうとした。絶対絶命な状況でカイン指揮官は・・・・

 

「・・・・ふっ」

 

笑っていた。

 

『ん?』

 

トレギアは、この状況で笑っているカイン指揮官を訝しそうに見ながら、自棄になったのかなと、思った。

が、

 

「分かっていたよトレギア。お前なら、このタイミングで仕掛けてくるってな!」

 

『何?』

 

カイン指揮官の両隣に、タイタスとフーマの思念体が現れる。

 

『我々がタイガに近づく寸前、やっと手が届くギリギリの状況を潰し、希望を絶望にひっくり返す!』

 

『底意地の悪い陰険陰湿なテメェなら、ここで来るって兄ちゃんは織り込み済みよ!』

 

『何をーーーー』

 

「その狡猾さが、お前の弱点だっ! 皆ぁ! 今だっ!!」

 

『〈ノブレス・ドライブ〉!!』

 

トレギアが声を発するのを遮るように、カイン指揮官が叫ぶと、トレギアの顎の下、トレギアの足元に、目映い光が起こる。

 

『なっ!』

 

トレギアが視線だけを向けると、顎の下を狙うようにゆーちゃんに乗ったユニコーンとラフィーが。足元には丁度膝の裏にジャベリンとーーーー綾波が、〈ノブレス・ドライブ〉状態でソコにいた。

 

 

 

ー綾波sideー

 

ほんの少し前。カイン指揮官が綾波達に指示を出すと綾波に話しかけた。

 

《綾波。君が〈ノブレス・ドライブ〉を発現するんだ!》

 

「綾波が、です・・・・」

 

《大丈夫だ。君なら必ず発現できる! 俺は信じる!》

 

「私もだよ綾波ちゃん!」

 

「綾波ならできる」

 

「頑張ろう、綾波ちゃん・・・・!」

 

「「「綾波!」」」

 

「・・・・綾波!」

 

ジャベリン達や時雨達だけでなく、ニーミまでも、綾波に声を発した。

 

「(・・・・・・・・不思議、です。指揮官が、皆が信じてくれるなら、綾波は何でもできる気がするです。何でもやれる気が、するです・・・・!)」

 

綾波が決意を込めて頷き、カイン指揮官がタイガの真上から落下し、トレギアがそれを遮ろうとした瞬間、綾波達はすぐに行動に移した。

時雨達やニーミ達に怪獣の足止めを任せ、トレギアの近くに進む。

トレギアは艦船<KAN-SEN>など眼中に無いと言わんばかりだ。しかし、それが狙いである。

 

「(指揮官が信じてくれる。皆が信じてくれる。綾波は必ず、皆と帰るです。指揮官が、友達が、仲間が、大切で、大好きな皆がいる母港に、誰一人欠ける事なく、皆でーーーー)帰るです!」

 

そう叫ぶと、綾波の身体から、金色の光が漏れ出す。そしてーーーー。

 

「皆ぁ! 今だっ!!」

 

カイン指揮官の叫びと共に、綾波達が叫ぶ。

 

『〈ノブレス・ドライブ〉!!』

 

と。その瞬間、綾波の身体が金色のオーラに包まれた。

 

「やったぁ! 綾波ちゃん!」

 

「(コクン) ユニコーン! ラフィー!」

 

「うん! ラフィーちゃん!」

 

「了解。合わせよう」

 

ユニコーンとラフィーが心を重ねる。

 

「「『共鳴<レゾナンス>!!』」」

 

ゆーちゃんに乗った二人が同時に叫ぶと、二人の周囲の宙に光の艦船が幾つも現れ、トレギアの顎を目掛けて、一点集中の総攻撃を放った。

 

『ぐあぁっ!』

 

突然の顎からの強烈な攻撃に、さしものトレギアも軽い脳震盪を起こす。只でさえ見上げていた体勢で顎からの予想外の一撃で、身体が仰け反りそうになる。

 

『く、くだらーーーー』

 

くだらない真似を! と、叫びそうになるトレギアに、更なる攻撃が来た。

 

「行くよ綾波ちゃん!」

 

「思いっきり、行くです!」

 

ジャベリンが槍を、綾波が対艦刀を、トレギアの膝の裏に力の限り叩きつけた。

 

「「せーの! 両足膝カックン!!」」

 

またもや不意討ちの攻撃に、トレギアは完全にバランスを崩し、仰け反りながら倒れそうになる。

 

『ば、馬鹿な! こんな、くだらないやり方で!』

 

トレギアは首だけでもカイン指揮官を向き、『オプトダクリス』を放ったその刹那、トレギアの視界の端に、信じられない『二人』がいた。

 

『え、エンタープライズ!? 加賀!?』

 

「「・・・・・・・・・・・・」」

 

艦載機に乗ってトレギアの横面目掛けて弓を引くエンタープライズと、艤装を展開する加賀。そして二人のその手首には何とーーーーエンタープライズが『オーブレット』を、加賀が『ブルレット』を着けていた。

 

 

 

 

ーエンタープライズsideー

 

カイン指揮官から指示が来て、加賀と合流したエンタープライズ。

お互い言いたい事があったが、今はトレギアを優先するべきと、共に艦載機に乗り、指揮官から託された『オーブレット』と『ブルレット』を着け、弓を構えると、自分の弓矢の前に光の輪が展開され、トレギアの横面に向け矢の照準を合わて弦を引いたその瞬間、

 

「っ!」

 

エンタープライズの意識が真っ白になる。

 

 

 

 

 

 

 

「ここは・・・・」

 

視界が晴れたソコは夕暮れのアズールレーン母港の海岸。

エンタープライズはソコで艤装もなく、帽子も脱いだ状態で佇んでいた。

そして目の前の海に佇むのは、以前『オロチ』が化けた自分そっくりの艦船<KAN-SEN>だった。

 

「『オロチ』・・・・いや違う。あなたは?」

 

『私の名はーーーー『コードG』。鏡のようなモノだ』

 

「鏡・・・・」

 

振り向いたコードGのその顔は、エンタープライズと瓜二つだった。

 

『あなた達は、人の想いが形を成したモノ。あなたが見ているモノは、その想いが写し出す『影』だ。『オロチ』も同じだ。人々の共通認識が写し出す『鏡像』。『オロチ』は闘争を目的とするが、それが人類の歩みその物だからだ』

 

「・・・・戦いは、いつの世も変わる事のない」

 

『あぁ。だから、あなたはもうこの航海を終えても良い』

 

「終えたら、どうなる?」

 

「『未来』を見ずに済む・・・・」

 

「・・・・・・・・一つ、聞かせてくれないか」

 

『何だ?』

 

コードGの言葉に、エンタープライズは一瞬目を閉じるが、すぐに開き、ある事を聞いた。

 

「あなた達セイレーンは、『未来』から来たのか?」

 

『・・・・それを聞いてどうしたい?』

 

「教えてほしい。あなた達が『未来』から来たならば、その『未来』に、カイン指揮官はいたのか?」

 

『・・・・・・・・』

 

ソコで始めて、コードGが言葉を紡がなかった。

 

「ウルトラマンは? 怪獣達は? ヴィラン・ギルドは?」

 

『・・・・怪獣達は現れた。しかし、光の戦士達は、現れなかった』

 

「つまり、『あなたの知る過去』と、『私達の現代<今>』は、違う流れになっていると言う事か?」

 

『誤差の範囲だ。この程度では、流れが変わった事にはならない』

 

「・・・・・・・・いや」

 

エンタープライズは、コードGの言葉を否定する。

 

「流れは変わる、変えられる。戦いは続くかも知れないが、その先に必ず、『違う未来』が見つかるかも知れない」

 

『無駄だ。あなたに流れを変える事はできない。あなた自身も、そう思っているのではないか?』

 

「それは・・・・」

 

エンタープライズが、コードGの言葉に黙りそうになる。その時、

 

ーーーー♪~♪~♪~♪~♪~♪~・・・・。

 

エンタープライズは後ろから聞こえる美しくも悲しい旋律に振り向くと、浜辺に重桜の刀や槍らしき武器が無数に突き刺さっており、その中心に重桜陸軍の軍服らしき服を纏った、指揮官と同い年くらいの青年が、ハーモニカを吹いていた。

 

「あなたは・・・・?」

 

「俺はーーーーただの風来坊さ」

 

風来坊と名乗る青年は演奏を止めると、エンタープライズに視線を向けて、フッと笑みを浮かべる。

 

「・・・・その剣や槍は、墓標か?」

 

「墓標なんて随分な言い方だな。コイツらはまだまだ現役なんだぜ」

 

「コイツら? まるで人間のような物言いだな?」

 

「そうだ。コイツらもアンタらと同じように、人の想いが形を成した存在さ。コイツらも、長い、長い年月を生きてきて、時に悲しい思いも、辛い思いもした。が、今もこうして生きて、それを楽しんでいるのさ」

 

エンタープライズは、その風来坊から滲み出る雰囲気が、まるで歴戦の勇士のように感じ聞き入っていた。

風来坊が一振りの刀の柄に手を置くと、その刀が淡く光り、いや、周囲の刀剣が光り始める。

 

「あなたは、迷ったりしたのか?」

 

「あぁ。長い間迷い、惑い、時には何もかも捨て去ろうとした。だが、彼女達が、そんな俺の手を握ってくれた」

 

風来坊がそう言った瞬間、何と触れていた刀や周囲の刀剣が人の姿へと変わった。重桜の趣向のある服装を着た少女達を、まるで自分達艦船<KAN-SEN>のような少女達に、エンタープライズは目を見開く。風来坊は言葉を続ける。

 

「彼女達が俺の手を握ってくれる。そして、彼女達が他の誰かと手を繋ぎ、そうして繋いだいった手は、紡いだ絆は、やがて大きな『輪』となり、世界を、宇宙を、未来を照らす光となる」

 

「未来を照らす、光・・・・」

 

「アンタのその手も、誰かと繋がっている筈だ」

 

エンタープライズは自分の手を見る。ほんの少し前の自分であれば、この風来坊の言葉を聞いても、何も見えなかっただろう。しかし、今ならば。

 

「ーーーー!!」

 

自分の片手が、カイン指揮官、ベルファスト、ジャベリン、ラフィー、ユニコーンと、アズールレーン艦隊の皆と繋がっている。そしてもう片方の手には、ホーネット、ハムマン、ヴェスタル、グリーブランド姉妹、ユニオン艦船の皆、そしてーーーーヨークタウンと、繋がっていた。

 

「そうか・・・・私も、繋がっていたのだな・・・・」

 

「それが分かったら進め! 闇を抱いて、光となれ! 揺るがぬ強い意思が、勝利への鍵だ!」

 

「・・・・ああ!」

 

エンタープライズは再びコードGを向いた。コードGは顔を俯かせ、目元は見えなくなっていた。

 

「私は行く。この航海の先にある『未来』を、掴む為に!」

 

そう言ったエンタープライズの身体から、光が立ち上る。

 

『その航海の先にある『未来』が、『絶望』である可能性も否定できない』

 

「しかし、立ち止まっていても、何も変わらない。まだ見ぬ『未来』を『希望』とする為に、私は進む!」

 

『そうか・・・・ならばーーーー』

 

コードGが言葉を囁くと、エンタープライズの視界が光り輝いたーーーー。

 

 

 

ー加賀sideー

 

「ここは・・・・?」

 

加賀は腕に着けた『ブルレット』から青い水が生まれ、それが九尾狐の形となり、トレギアに放とうとした瞬間、意識が真っ白に染まり、目を開けると、家屋のような部屋に机に座って何やらパソコンを弄っている、青い髪に眼鏡を掛けた少年がいた。

 

「お前は一体・・・・?」

 

「お互い、苦労するよなぁ。上の兄弟が無茶やると、下が貧乏クジを引く事になるんだからさ」

 

少年は眼鏡を外すと、髪の色と同じ青い瞳を加賀に向けてた。

 

「まぁちょっとした世間話だけどさ。アンタ、お姉さんに色々言いたい事あるか?」

 

「・・・・・・・・あるな」

 

「最後に、お姉さんと喧嘩したのはいつだ?」

 

加賀は何故かその少年の言葉に、素直に応じていた。

 

「天城さん、・・・・姉の大切な人がいなくなってからは、しなくなったな」

 

「大人になった、って言えば聞こえは良いが、お互い気を遣ってばかりじゃ疲れるぜ。兄弟姉妹なんだからさ。たまには喧嘩するするのも悪くない」

 

「そう、だろうか・・・・」

 

「俺なんて兄貴とたまに、いや、良く喧嘩するけどさ。それでも、一緒に戦って、支えあって、腹割って話して、語り合って、笑い合って、そうやって俺達は大切な人達を守り抜いてこられた。お互いの気持ちをぶつけ合うのも、大切な事だぜ。俺達兄弟なら、何だってできるって、思えるからさ」

 

「支え合う、か・・・・」

 

「俺達兄弟がそうだったように、アンタとお姉さん、二人の声が重なり合えば、どんな戦いだって乗り越えられる。固く結んだ手と手は、絶対に離すな!」

 

「・・・・ああ!」

 

加賀が少年の言葉に力強く答えると同時に、目の前が光り輝いた。

 

「「っ!」」

 

加賀とエンタープライズの視界に『オプトダクリス』を放った瞬間の、トレギアの顔が見えた。

先ほど見たのは、夢か幻だったのか、時間にすれば瞬きにも満たない時間、二人は意識が遠退いていたようだが、その眼には、最早一点の曇りのない光が宿っていた。

 

「利用してくれた借りを・・・・!」

 

「たっぷりと返してやる・・・・!」

 

エンタープライズが矢を放つと輪をくぐった矢が極大な光の矢となり、加賀が流水の九尾狐を突撃させた。

 

『な、何だとぉっ!?』

 

「諦めない! 前を見て! 限界を越える! 何度倒れても! 立ち上がる!」

 

「決して絆を諦めない! 決して明日を諦めない! この瞬間に起こった奇跡を!」

 

「「未来への希望を!!」」

 

『ぐはぁあああああああああああああああっ!!』

 

二人の放った攻撃が、トレギアの横面に叩き込まれ、トレギアの顔面が横に動き、『オプトダクリス』が放たれた。

 

『こ、この程度・・・・なっ!?』

 

『オプトダクリス』の発射された先にある物を見て、トレギアが驚愕した。

 

その先にーーーーアズールレーン艦隊と戦っていたセイレーン艦隊が、縦列に並び、尚且つそのさらに向こうに・・・・メガオロチがいたから。

 

 

 

ーオブザーバーsideー

 

『こ、これは・・・・!』

 

「まさか・・・・!」

 

オブザーバーと『オロチ』も、ウルトラマンと怪獣達の戦いに目が行っていて気付かなかった。

トレギアがエンタープライズと加賀によって顔をこちらに向けたその時、足元を見て驚愕した。

メガオロチの足元、 アズールレーン艦隊と交戦している筈の自分達の艦隊が、トレギアとメガオロチの間を、縦列になるように追い込まれていたのだ。

 

『まさか、ここまでもが作戦だったと言うのっ!?』

 

ウルトラマンタイガとメガオロチが並ぶように立ち回るようにタイタスとフーマが動き、それに合わせるようにアズールレーン艦隊とレッドアクシズ艦隊が戦いながら、セイレーン艦隊を誘導していた。

オブザーバーが驚愕の声をあげると同時に、トレギアが放った『オプトダクリス』が、メガオロチに向けて放たれた。

そして、その破壊光線の射線上にいたセイレーン艦隊も、空中にいるテスター達とピュリファイアー達も撃破されていき、破壊光線がメガオロチに当たりそうになる。

 

「む、無駄よ。メガオロチの障壁が「『共鳴<レゾナンス>』!!」何ですって!?」

 

今度は『オロチ』が驚愕の声をあげた。

トレギアの破壊光線が直弾するその刹那、足元の〈ノブレス・ドライブ〉を発動させた艦船<KAN-SEN>達が、『共鳴<レゾナンス>』を発動させたのだ。しかも、ロイヤルだけでなく、ユニオン艦船<KAN-SEN>の何人かも。

 

 

 

 

ークリーブランドsideー

 

「こ、こんな事が・・・・!」

 

クリーブランドと妹達は、バリアで守られたメガオロチをどうすればと迷っていた時に、カイン指揮官の指示を聞いた。

カイン指揮官からの指示はーーーーウルトラマンが現れた際、ウルトラマンタイガとメガオロチの間にセイレーン艦隊を縦列に並ぶようにしろ、だった。

始めは訳の分からない指示だと思ったが、この状況を見て、始めてその異図を理解した。

 

「指揮官は、これを狙っていたんだ・・・・!」

 

「姉貴! 仮面のウルトラマンの攻撃で、あのバリアが破られるのっ!?」

 

「アイツの攻撃が当たる寸前、ロイヤル艦船<KAN-SEN>が一斉に『共鳴<レゾナンス>』を放って威力を増大させるって言ってたけど!」

 

「これじゃ、足りないんじゃない?」

 

「・・・・そうだね、じゃぁ、私達も越えよう! 限界を!」

 

「「「っ! おー!」」」

 

クリーブランドの言葉に妹達が手を上げて答えると、クリーブランド姉妹の身体が光り輝く。

 

「こ、これって・・・・っ!」

 

周りを見ると、ホーネットとハムマンとヴェスタル、セントルイスにホノルル、ノースカロライナにワシントンの身体も、光り輝く。

 

「行ける・・・・! 皆! 行くよ!!」

 

『〈ノブレス・ドライブ〉!!』

 

全員がそう叫んだ瞬間、ユニオン艦船<KAN-SEN>達も、光のオーラを纏いそして・・・・。

 

「『共鳴<レゾナンス>』!!」

 

光の艦隊を出現させ、トレギアの破壊光線が当たる瞬間に砲撃を放つと、バリアに『オプトダクリス』と光の砲撃が、同じ箇所に同時に当たり、

 

ーーーーギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリ!! バリーーーーーーーーン!!!

 

と、激しい音を響き、バリアはガラスが砕けるような音を響かせながら砕け散ると、その光線はメガオロチの腹部に当たり、

 

『ヒギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!』

 

メガオロチは後ろに押し出されて行った。

 

 

 

ー加賀sideー

 

「っ! 加賀!!」

 

「言われずとも!」

 

バリアが砕けようとした瞬間、加賀は艦載機を動かし、メガオロチにいる姉の元へと飛んでいった。

 

「姉様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

そして、バリアが砕け散り、メガオロチの頭頂部に至ると、『オロチ』に捕らわれた赤城<姉>に、『ロッソブル』を投げ渡した。

すると、『ロッソブル』はまるで意志があるように赤城の手首に嵌められ、赤城の身体が、真っ赤な紅蓮の炎に包まれた。

 

「あ、赤城、ああああっ!!」

 

『オロチ』は赤城から離れた。

 

 

 

ー赤城sideー

 

赤城は炎に包まれかと思ったら、桜が満開に咲き乱れた並木道にいた。

 

「私、は・・・・」

 

「何やってんだよアンタ!」

 

「え・・・・?」

 

赤城が桜を見上げて黄昏ていると、赤い髪を逆立たせた、赤い瞳をした少年が立っていた。

 

「妹や仲間に、あんなに悲しそうな顔をさせて! そんな事が、アンタのやりたかった事なのかっ!?」

 

「わ、私、は・・・・」

 

「アンタの姉の言葉を、思い出して見ろ!」

 

「っ!」

 

赤城の脳裏に、天城の言葉が甦った。

 

【二人で力を合わせて、重桜を守るのよ】

 

そうだ。天城は、加賀と力を合わせろと、言っていた。こんなやり方じゃない。

 

「私は、何て事を・・・・!」

 

加賀を取り残し、重桜を裏切り、尚且つ、愛しい指揮官の信頼に泥土を塗って蹴ってしまった。

自分のやってしまった事に、赤城は絶望しそうになる。が、少年は声を張り上げる。

 

「アンタに俺達兄弟の言葉を教えてやる。【兄弟、力を合わせれば、何でもできる!】だ! アンタには妹だけじゃなくて、あんなに仲間達がいるんだ! アンタを助けようと戦おうとしている人だっているんだ! アンタは、皆に愛されているんだ!」

 

「私が、皆に・・・・ならば、私のやるべき事は一つ!」

 

そう言った赤城の目の前が光り輝くと。

そして、『オロチ』が赤城に近づく、

 

「赤城・・・・」

 

「・・・・つまでも・・・・」

 

「えっ?」

 

「いつまでも、天城姉様のフリをするつもりなの、『オロチ』!!」

 

「っ!」

 

赤城が艤装を展開されて燃える札を放つと、『オロチ』はそれを手で払った。

 

「あらあら赤城。正気に戻っちゃったのね」

 

「・・・・加賀を取り残した事を悔いるのも、重桜を裏切った事を嘆くのも、指揮官様の信頼に泥土を塗って踏みにじった事を慚愧するのもーーーーあなたを始末してからよ。『オロチ』!!」

 

「姉様!」

 

『ダァメ』

 

「っ、邪魔だ!」

 

加賀が赤城の元に行こうとするが、オブザーバーが立ち塞がり、空中で戦う。

 

「加賀!」

 

「あらあら、余所見は駄目よ赤城」

 

「っ!」

 

赤城が『オロチ』を睨むと、『オロチ』は天城の姿から、その様相を変えていく。

セイレーンらしく青白い肌、白髪の髪を後ろにストレートに流し、衣服は身体にピッチリしたボロボロのレザースーツに、天城や赤城に負けず劣らずのプロポーションと高雄や愛宕位はある大きな胸をした、二十代前半の成人女性。

が、その背面には、九尾の尻尾ではなく、八頭の蛇の機械が動いており、まるでヤマタノオロチのような艤装を付けた姿。

 

「それが『オロチ』、あなたの本当の姿・・・・!」

 

『ウフフフ・・・・』

 

『セイレーン オロチ』は、艤装の蛇達の口からレーザーを放ち、赤城は宙を飛んで回避した。

メガオロチの頭頂部で、赤城とオロチ、加賀とオブザーバーの戦いが繰り広げられる。

 

 

 

 

 

 

ートレギアsideー

 

『バ、馬鹿な!? こんな・・・・!』

 

加賀が赤城に『ロッソレット』を渡すのとほぼ同時の頃。

トレギアは、目の前の現実が信じられなかった。トレギアのように計算高く、狡猾な相手ほど、自分にとって想定外の事態に直面するのが苦手なのだ。

すぐに『オプトダクリス』を解除すれば良かったのに、状況に困惑した思考が邪魔になり咄嗟の判断が遅れてしまうと判断したカイン指揮官の読みがズバリ的中したのだ。

 

『き、貴様ぁ!』

 

 

トレギアはせめてもの抵抗に、腕を伸ばしてカイン指揮官の妨害をしようとするが、その伸ばした腕の指先も僅かに届かず、カイン指揮官はトレギアにまるで目を向けず、タイガのカラータイマーへと向かう。

 

『無駄だトレギア。我々はお前の相手をしている暇はない!』

 

『俺達の目的は、ただ1つ!』

 

「タイガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッ!!」

 

カイン指揮官が叫ぶと、腕に付けた『新たなブレスレット』が光り、タイガのカラータイマーの中へと入っていった。

 

『お、己ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!』

 

トレギアは呪詛のような声を叫びながら、海面へと仰向けに倒れた。

 

 

 

 

ーカインsideー

 

そして、血のように赤黒い空間になったタイガのインナースペースに到達したカイン指揮官は、力なく佇むタイガを見つけると、

 

「目を覚ませぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!」

 

ーーーーバキッ!

 

『っっ!!!???』

 

タイガの頬に拳を叩き込んだ。

 

『ぁ・・・・ぁぁ・・・・』

 

倒れたタイガにカイン指揮官はゆっくりと近づき、腰を下ろして目線を合わせる。

 

「お前の求めていた力はこれか!? 闇の力なのかっ!?」

 

『・・・・・・・・(コクン)』

 

タイガは小さく頷く。が、カイン指揮官は声を発する。

 

「こんな力で親父さんに勝てると思うな! 本当の力には、『誰かを助けたい』と言う強い想いが籠っているんだ! だからこそ! ジャベリンもラフィーと、綾波も! 新たな可能性を引き出せたんだ!」

 

『・・・・・・・・』

 

カイン指揮官はタイガの両腕を掴んで立たせた。

 

「ーーーーお前は一人じゃない! 俺がお前で! お前が俺だ!」

 

『・・・・トモ、ユキ・・・・?』

 

タイガがそう呟いた瞬間、インナースペースが光に満たされ、真っ白い空間になり、カイン指揮官の腰に、『タイガキーホルダー』が戻った。

すると、カイン指揮官の後ろから、タイタスとフーマが現れた。

 

『・・・・ぁ・・・・トモユキ・・・・! タイタス・・・・! フーマ・・・・!』

 

そして、フーマとタイタスとトモユキの三人が、タイガを真っ直ぐ見据えて声を張り上げる。

ーーーー誓いの言葉を。

 

『生まれた星は違っていても!』

 

『共に進む場所は一つ!』

 

「永遠の絆を胸に!」

 

『我ら四人ッ!』

 

『『『「トライスクワッド!!」』』』

 

[カモン!]

 

タイガとタイタスとフーマが手を重ねると、カイン指揮官がタイガスパークを起動させ、スパークの結晶部分が碧色の光を灯し、新たなブレスレット、『トライススクワッドレット』を嵌めた手をタイガ達に重ね、タイガスパークで読み込む。

 

[トライスクワッドレット! コネクトオン! トライスクワッドミラクル!]

 

すると、タイガとタイタスとフーマの手から、赤、黄、青の光が結晶部分に集まり、光が飛び出すと、光が弾け、炎の刀身をした剣が現れ、カイン指揮官が握った。

 

 

 

ータイガsideー

 

『なっ!? い、今のは・・・・!!』

 

漸く起き上がったトレギアが目にしたのはーーーー。

四体の怪獣とメガオロチ、そしてセイレーンの残存艦隊と戦うエンタープライズ達、アズールレーン艦隊と瑞鶴達レッドアクシズ艦隊が目にしたのはーーーー。

メガオロチの頭頂部でオロチに追い詰められた赤城と、その周囲でオブザーバーと戦い、赤城から離されていく加賀が目にしたのはーーーー。

長門とQ・エリザベス率いる増援艦隊が目にしたのはーーーー。

戦闘を中断したセイレーン達が目にしたのはーーーー。

 

『・・・・・・・・』

 

右手にタイガスパークを出現させ、カラータイマーが赤から青に変わった、ウルトラマンタイガだった。

 

『シャァッ!!』

 

タイガが飛ぶと、メガオロチの頭頂部でオロチに追い詰められた赤城と加賀をその手に掴まえた。

 

「姉様!」

 

「加賀・・・・ごめんね」

 

「いえ、いえ、姉様・・・・!」

 

タイガの手の平の上で、お互いに目に涙を浮かべて喜び合う。

そして、赤城と加賀がタイガを見上げる。

 

「あっ・・・・・・・・指揮官、様?」

 

赤城のその目には、タイガの姿がカイン指揮官に見えたのだ。

 

「そうーーーー指揮官様が、助けに来てくれたのね・・・・?」

 

「ええ・・・・!」

 

タイガは二人を瑞鶴達、重桜艦隊に預け、メガオロチと四体怪獣に向き直る。

そして、その場にいる全員が、タイガの声を聞いた。

 

『俺はタイガ! ウルトラマンタイガだっ!!』

 

『~~~~!!!』

 

トレギアが忌々しそうに身体を震わせた。

 

『「行くぜタイガ!!」』

 

『ああ! トモユキ!!』

 

『「タイガトライブレード!」』

 

トモユキが『トライブレード』のスイッチを押して起動させると、柄の回転盤に手を添える。

 

『「燃え上がれ! 仲間とともに!!』

 

回転盤を回すと赤い火花が飛び散り、刀身内で炎が渦を巻くように先端へ上っていき、頂点に到達した。

 

『『『「バディ・・・・ゴーーーー!!!!」』』』

 

トモユキの動きに合わせて、タイガとタイタスとフーマが、トライブレードを天に掲げ、スイッチを押した。

 

『ふざけるなぁ!!』

 

トレギアがタイガを捕まえようと迫ったその瞬間、タイガの身体が紅蓮の炎に包まれ、空高く飛び上がる。

 

『なにッ!? ぐぁああああああああああああああああああああああっっ!!!』

 

炎を受けたトレギアは全身が燃え、海面に倒れ込んだ。

そしてーーーー赤と黄と青の光が合わさり、タイガが新たな姿へと変わった。

 

『セヤッ!』『フンッ!』『シャァッ!!』

 

三人の声が交互に発し、タイガの身体が炎の渦に包まれ、海面に舞い降りた。

 

『っ!!』

 

その場にいた艦船<KAN-SEN>達もセイレーン達も目を見開いた。炎の渦の中から現れたのは赤い身体に銀と青の炎のような形のプロテクターを纏い、ウルトラホーンが伸び赤くなり、その手にはトライブレードを出現させて手に持つ、新たな光の戦士の姿をーーーー。

 

『俺は、ウルトラマンタイガーーーー『『「トライストリウム!!」』』』

 

今、三人の光の戦士と、一人の人間の友情の絆が爆熱し、紅蓮の戦士が誕生した。

 




次回、クライマックス!


ー『セイレーン オロチ』ー

CV.早見沙織(鬼滅の刃・胡蝶忍 魔法科高校の劣等生・司波深雪)

容姿は、スーパーロボット大戦30のミツバ・グレイヴァレーの髪を下ろしセイレーンの様にして、バストサイズがベルファストに高雄に愛宕に翔鶴くらいにした容姿。

機械でできたヤマタノオロチのような艤装をし、噛みつきは勿論、口からレーザー、目から機関銃を放つ。


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【希望】我らは一つ!

これにて、第一部が終了します!


ートレギアsideー

 

『ぐ・・・・! ぐぅっ・・・・!』

 

トレギアは、全身を火傷したかのように痛みに悶えていた。セイレーン上位個体達は、そんなトレギアに目を向けず、新たな姿となった光の戦士達をーーーー“イレギュラーの存在”を見据えていた。

 

 

 

ーアズールレーンsideー

 

新たな姿となった『ウルトラマンタイガ・トライストリウム』を、その場にいた全艦船<KAN-SEN>達が目を見開いて見ていた。

 

「ウルトラマンタイガ、トライストリウム・・・・!」

 

エンタープライズが。

 

「ご主人様と皆様が、一つとなられました!」

 

ベルファストが。

 

「す、凄い! 凄過ぎる! 凄過ぎます!!」

 

「勝利確信(グッ)」

 

「あれが、ウルトラマンの新たな姿・・・・!」

 

ジャベリンとラフィー、そしてニーミが。

 

「指揮官様が、あのウルトラマンに」

 

「ええそうです姉様、アイツが、指揮官かあの者達と共に、我々を守っていてくれていたんです」

 

赤城と加賀が。

 

「指揮官・・・・行け・・・・行くです! ウルトラマンタイガ!! トライスクワットーーーー!!!」

 

『シュァッ!!』

 

綾波が叫ぶと同時に、トライストリウムは飛び出すように駆け出した。

 

 

 

 

 

ートライストリウムsideー

 

『ヒィエエエエッ!!』

 

先ずはナイトファングが両手の鞭を伸ばして攻撃する。

 

『ハッ! シャァ!』

 

が、トライストリウムがトライブレードを振り、その鞭を切り捨てながら突き進む。

 

『グアァッ!?』

 

『ゴロッ!?』

 

『ーーーー!』

 

ヘルベロス、ゴロサンダー、ギガデロスが立ち塞がろうとするが、トライストリウムは三体を突き抜けてナイトファングに肉薄すると。

 

『ハァアッ!!』

 

『ッ!?』

 

トライブレードを振り下ろし、ナイトファングを一刀両断した。

 

『ヒィィィィエエエエエエエエエエッ!!』

 

ーーーードカァァァァァァァァァァンッ!!

 

ナイトファングがその場で倒れ爆散し、『ナイトファングリング』がタイガの中に入り、カイン指揮官の手に収まった。

 

 

 

ーレッドアクシズsideー

 

「あの怪獣を一撃で!?」

 

「凄まじいな・・・・!」

 

愛宕と高雄が驚きの表情を浮かべ、他の重桜艦隊と鉄血艦隊もトライストリウムな戦いを見ていた。

 

 

 

 

ートライストリウムsideー

 

トライストリウムは次にヘルベロスに視線を向けた。

 

『グアァァァァァッ!』

 

ヘルベロスが背中の棘を発射し、腕から真っ赤な回転刃を生み出すとトライストリウムに向かって放った。

 

『シャァッ! ハァッ!!』

 

が、全てトライブレードを振ると全てその場で爆発した。

 

『「行くぞ、タイガ!」』

 

『ああ!』

 

その一瞬の間に、カイン指揮官はトライブレードのスイッチを一回押すと、トライブレードを持ったタイガの幻影が現れ、共に回転盤を回すと、赤い火花が飛び散る。

 

『「タイガ!」』

 

『シャッ!』

 

トライブレードに炎が燃え上がりトリガーを引くと、刀身を左手で撫でると、刀身に深紅の炎を宿し、トライブレードを突き出しながらトライストリウムの全身に炎を纏って、ヘルベロスに突撃する。

 

『グワァァァァァァッ!!』

 

ヘルベロスは近づかせないように棘と刃を放ち続けるが、トライストリウムを止まらず、その勢いも遮れず、トライブレードが突き刺さり、内部から深紅の炎を噴き出し、その身体が爆発した。

 

『『「『タイガブラストアタック』!!」』』

 

『グワアアアアアアアアアアアアアッ!!』

 

ーーーードカァァァァァァァァァァンッ!!

 

『ゴロロロロロロロッ!!』

 

ヘルベロスが爆発すると、『ヘルベロスリング』を回収し、次にゴロサンダーが棍棒を振り回しながら迫る。

が、トライストリウムはその棍棒を片手で受け止めた。

 

『ゴロッ!?』

 

『・・・・ハァッ!』

 

『ゴロォォォォォォッ!?』

 

トライストリウムがトライブレードを持った手で殴ると、ゴロサンダーはその巨体を吹き飛んで倒れる。

 

『「やるぞ、タイタス!」』

 

『うむ!』

 

今度はトライブレードのスイッチを二回押すと、トライブレードを持ったタイタスの幻影が現れ、回転盤を回すと黄色い火花が飛び散る。

 

『「タイタス!」』

 

『ムン!』

 

トリガーを引くと黄色い光が伸び、剣先に黄色い火球が現れる。

 

『ゴ、ゴロロロロ・・・・!』

 

起き上がったゴロサンダーは、火球を見て顔を青ざめた様子で棍棒から稲妻を放つが。

 

『『「『タイタスバーニングハンマー』!!」』』

 

ハンマー投げの要領で振り回して発射すると、稲妻を吸収する。

 

『ゴロロロロロッ!!』

 

ゴロサンダーは棍棒で打ち返そうとした。

 

ーーーーバキッ!

 

『ゴロロゥッ!?』

 

ゴロサンダーは棍棒が折れ、それを見て、「折れたぁっ!?」と、言わんばかりの声をあげると、稲妻を纏った火球が全身に叩き込まれた。

 

『ゴロアアアアアアアアアアアアアッ!!』

 

ーーーードカァァァァァァァァァァンッ!!

 

そのまま空高く飛んでいき、空中で爆散し、『ゴロサンダーリング』が落ちてきて回収した。

 

「たーまやー! にゃっ!」

 

明石が爆散したゴロサンダーを見上げてそう言った。

 

『ーーーー!!』

 

ギガデロスが高速の動きでトライストリウムの周りを飛びながら攻撃するが、トライストリウムはその攻撃をトライブレードで防ぐ。

 

『「ぶっちぎるぞ、フーマ!」』

 

『おうよ!』

 

トライブレードのスイッチを三回押すと、トライブレードを持ったフーマの幻影が現れ、共に回転盤を回す。

 

『「フーマ!」』

 

『セイヤッ!』

 

トリガーを引き、青い火花が飛び散るトライブレードを逆手に持つトライストリウム。

 

『ーーーー!!』

 

ギガデロスは高速に動き、トライストリウムの技から逃れようとするが。

 

『テメエのスピードはーーーー『『「既に見切ったぁ!」』』』

 

フーマの言葉に、タイガ、タイタス、カイン指揮官の声が重なり、トライストリウムも加速して、海上、空中でギガデロスと高速戦を繰り広げる。

 

「は、速い、速すぎる・・・・!」

 

「〈ノブレス・ドライブ〉している私達でも、追い付けない・・・・!」

 

スピードにこだわりがあるウォースパイトとシェフィールドを始めとする艦船<KAN-SEN>達も、驚愕に目を見開く。

 

『ーーーー!!』

 

と、ソコでギガデロスがボロボロの状態になり動きを止めた。

 

『『「『風真烈火斬』!!」』』

 

そして、トライストリウムが少し離れた位置から、トライブレードを切り上げると、大きな青い炎の光輪が飛ばされた。

 

『っ! 吸収しろ! ギガデロス!!』

 

倒れた状態で上体を起こしたトレギアが叫ぶと、ギガデロスは吸収しようと構え、光輪を受け止めた。

が、逆にギガデロスの身体から火花を噴射する。

 

『ーーーーーーーー!!』

 

『ま、まさか! ギガデロスの吸収能力を上回っているっ!?』

 

トレギアが驚愕すると同時に、ギガデロスの身体が真っ二つになる。

 

ーーーードカァァァァァァァァァァンッ!!

 

ギガデロスは悲鳴をあげる事も出来ず爆散し、『ギガデロスリング』を回収した。

 

『「後はーーーー」』

 

カイン指揮官は、退却しようとするセイレーン艦隊と、メガオロチに視線を向けた。

 

 

 

 

 

ーオロチsideー

 

ギガデロスが倒される直前、オブザーバーがメガオロチの頭頂部に集まったピュリファイアーとテスター、そしてオロチに向けて口を開く。

 

『ここまで、ね・・・・全艦、退却よ』

 

『えぇ~、逃げるのぉ?』

 

『戦況は完全に私達に不利よ。艦隊も8割以上を失い、赤城も取り返された。これ以上ここに留まっていても意味はないわ。それに、イレギュラーをじっくり観察できた事だし、ね』

 

オブザーバーはギガデロスを撃破したウルトラマンタイガ トライストリウムを見据える。

 

『・・・・・・・・』

 

が、そんな中、オロチはメガオロチを操作し、トライストリウムと対峙する。

 

『オロチ・・・・』

 

『私が、やるわ・・・・』

 

『では、アズールレーンとレッドアクシズは私が・・・・』

 

テスターβはテスターの軍団を率いて、メガオロチの周囲を飛びながら二大艦隊を迎え撃つ。

 

『そうーーーー任せるわ』

 

『トレギアはどうする?』

 

ワナワナと怒りに震えているトレギアを指差して、ピュリファイアーがそう言った。

 

『好きにさせましょう』

 

オブザーバーはそう言うと、宙を浮いて、その場から離脱しようとした。

 

 

 

 

ー綾波sideー

 

「ああ! セイレーンが逃げようとしてるのだ!」

 

雪風が指差すと、ほぼ壊滅状態になったセイレーン艦隊がこの場から離脱しようとしている。

 

「ガルルルル! 逃がすかぁ!」

 

夕立が唸り声をあげながら追撃しようとするが。

 

「っ! 夕立! 駄目です!」

 

「うわっ!」

 

綾波が夕立の首根っこを掴んで止めさせると、夕立は進もうとする先に、レーザーが横切った。あのまま進んでいたら夕立は蒸発していただろう。

 

「わ、わぅぅぅぅ~・・・・!」

 

夕立が涙目になって青ざめる。綾波はレーザーの放たれた先を睨むと、身体の至る所からレーザー砲台が現れたメガオロチだった。

 

『さぁ、終わらせましょう・・・・』

 

『ヒギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!』

 

メガオロチが雄叫びをあげると、全てのレーザーの矛先をトライストリウムに向けると、一斉に放った。

 

「ウルトラマン!」

 

「綾波ちゃん! 気をつけて!」

 

「っ!」

 

綾波がジャベリンの声に反応すると、自分に向けてレーザーが迫るが、綾波は夕立を連れて加速して避ける。

 

「! テスター!?」

 

『お久しぶり、あなたに付けられた傷が疼くわぁ・・・・!』

 

テスターβは、自分の身体に付けられた切られた傷をなぞりながら、綾波を見据え、自分の部隊を、ジャベリン達へと向かわせた。

 

 

 

 

 

 

ートライストリウムsideー

 

トライストリウムはタイガトライブレードに炎を纏わせ、回転しながらメガオロチに突撃する。

 

『『バーニングスピンチャージ』!』

 

回転するトライストリウムがメガオロチの装甲に包まれた身体を押し出す。

 

『ヒギャァァァァッ!!』

 

『シュァッ!』

 

ーーーーバリバリバリバリバリバリバリバリ!!

 

押し出されたメガオロチは体制を整え、トライストリウムに向けて口から電撃光線『メガ迅雷』を放とうとするが、トライストリウムが上空に飛ぶと、メガオロチは照準をトライストリウムに向けたまま『メガ迅雷』を放つが、トライストリウムが回避し、そのまま雲を突き抜け、空の彼方まで伸びていった。

 

『ヒギャァァァッ!!』

 

『ふっ! はぁ!』

 

着地したトライストリウムに尻尾で攻撃するが、トライブレードで防がれ、肉弾戦となる。

しかし、突如頭頂部の角を光らせると、ソコから巨大な弾頭が競り上がってきた。

 

『っ! あれは・・・・!』

 

『「島を破壊したミサイルかっ!?」』

 

「ーーーー兵器とは・・・・」

 

驚愕するトライストリウムを、メガオロチの頭頂部に立つオロチが見下ろしながら、その場にいる艦船<KAN-SEN>達にも聞こえるような声で伝える。

 

「より遠くから、一方的に敵を倒す。兵器の真価とはそう言う物。海を越えて、敵の本陣その物を殲滅する力」

 

『しかし! そんなボタン一つで決着の着く戦いを繰り広げていれば、戦いから人間性が失われ! 勝利も敗北もない、不毛の殺戮が繰り広げられる!』

 

『そんなの、ゲームと同じだろうがっ!』

 

カイン指揮官の隣に現れたタイタスとフーマが、オロチの言葉を否定する。

 

「それこそが、戦いの行き着く先。人間性、心などと言う不完全な物があるから、ウルトラマンタイガ、あなたも、彼女達も悩み、迷い、苦しみ続けるのです」

 

『・・・・・・・・確かに、心があるから苦しむ事もいっぱいある。それは事実だ。・・・・だがな! 心があるからこそ! 俺は限界を越えられる事ができたんだ!!』

 

『「彼女達も、新たな可能性を見いだせるんだっ!」』

 

トライストリウムがトライブレードを構え、弾幕を張るメガオロチと交戦を再開すると、艦船<KAN-SEN>達も動き始める。

 

 

 

 

ー綾波sideー

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

綾波とテスターβ、因縁深い二人お互いを真っ直ぐに見据える。

 

「綾波ちゃん・・・・!」

 

「大丈夫です」

 

綾波は対艦刀を正眼に構え、テスターの部隊と戦うジャベリンにそう言い、真っ直ぐにテスターβに向かう。

 

『っ!!』

 

テスターβは綾波に攻撃を仕掛けるが、綾波はそれらを全て回避し、テスターβの肉薄する。

 

『っ!』

 

「っ!」

 

テスターβは貫手にすると手が妖しく光り、綾波を貫こうと突き立て、綾波も対艦刀で振った。

 

ーーーー!!

 

一瞬の閃きの後、綾波とテスターβは、お互いに背中を向けたまま佇み。

 

「・・・・・・・・・・・・うっ」

 

綾波が脇腹を抑えて片膝を付いた。

 

『綾波(ちゃん)!!』

 

部隊を倒したジャベリン達が声を張り上げる。

しかしーーーー。

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・ぐうぅっ!!』

 

テスターβの艤装が斬られ、テスターβ自身も片腕を抑えながら離脱すると、艤装が爆発した。

 

「・・・・!」

 

綾波が浅い傷ができた脇腹を抑えて、艤装を失ったテスターβを睨む。

 

『くっ! 次こそ、決着を着けてやるっ!』

 

『キャハハハハハハハハハ!!』

 

飛んできたピュリファイアーの手を掴んで、テスターβは離脱した。

 

「綾波ちゃん!」

 

「大丈夫?」

 

「大丈夫です、早くあれを止めましょう」

 

綾波は、メガオロチが今まさに発射しようとしている弾頭を睨んでそう言った。

 

 

 

 

 

 

ー明石sideー

 

「さぁいよいよ大詰めにゃ! 明石も本気出すにゃ!」

 

アズールレーン艦隊とレッドアクシズ艦隊、セイレーンとの戦いで艤装が少し損傷した艦船<KAN-SEN>達に、艤装を付けた明石が元気よくそう言った。

 

「いや大詰めなのは分かるけど明石の本気って?」

 

「明石にも戦う理由があるにゃ! 平和にならにゃいと兵装でしか商売ができにゃいし、夕張と一緒に面白い発明ができないにゃ! 商売繁盛! 千客万来! 満員御礼! これこそ明石のーーーー」

 

瑞鶴の言葉に明石は平坦な胸を張って両手を上げてそう言った瞬間、明石の身体から金色のオーラが立ち上がり、アズールレーンが目を見開き、レッドアクシズもまさか、と思ったその時。

 

「気高さにゃっ! 〈ノブレス・ドライブ〉!!」

 

何と、明石も〈ノブレス・ドライブ〉を発現させた。

 

『ええぇぇぇぇ~~~っ!?』

 

自分達があれだけ苦労した〈ノブレス・ドライブ〉を、いとも簡単に発現させた明石に、アズールレーン艦隊は驚きの声を上げた。

 

「では、始めるにゃ!」

 

明石の両手の袖から、プラスにマイナスのドライバー、ペンチ、レンチ、ノコギリ、ハンマー、ドリルといった工作道具が飛び出し、明石が高速で動きながら、艦船<KAN-SEN>達の艤装を修理する。

 

「にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃっっっ!!!!」

 

まさにあっという間に、損傷した艤装が新品同然にピカピカに修理された。瑞鶴と翔鶴が唖然となる。

 

「う、うっそぉ~・・・・」

 

「これが、明石の本気?」

 

「ふっふ~ん。明石が本気を出せばざっとこんなものにゃ」

 

「普段からそれくらい働いて欲しいですねこの大ウツケ」

 

「にゃっ!!?? 不知火<ぬいぬい>っ!」

 

ドヤ顔になる明石の背後から不知火がニュッ、と出てきて、明石が顔を青くした。

 

「姉ちゃん! 行こうよ!」

 

「エンタープライズ!」

 

「ホーネット、皆・・・・」

 

エンタープライズの前に、〈ノブレス・ドライブ〉を発動させたホーネットとクリープランド達が声を上げる。エンタープライズは顔を上げて、メガオロチを見据える。

 

「あれが、あんな物が、兵器の真価と、兵器の行き着く先などと、認める訳にはいかない! アレはーーーーあってはいけない力だっ!」

 

エンタープライズの身体に、金色のオーラが立ち上げる。

 

「私達艦船<KAN-SEN>の力は、未来を守り、未来を掴む為のーーーー守る力だっ!」

 

エンタープライズの輝きが増し、そしてーーーー。

 

「〈ノブレス・ドライブ〉!!」

 

〈ノブレス・ドライブ〉を発現させた。

 

「エンタープライズ様・・・・!」

 

ベルファストとアズールレーン艦隊に笑みが浮かぶ。

 

「行くぞ皆!」

 

『おー!』

 

エンタープライズに続くように、ユニオン艦隊が動く。

 

「皆! 私達も行こう!」

 

「あぁ。これは重桜の失態! 我らがやらない訳にはいかん!」

 

瑞鶴と高雄の言葉に、多くの重桜艦船<KAN-SEN>も頷いた。

そして、重桜艦船<KAN-SEN>達の身体からも、金色のオーラが立ち上げる。

 

「皆! 行くです!」

 

『〈ノブレス・ドライブ〉!!』

 

綾波の言葉に続き、重桜艦船<KAN-SEN>達も〈ノブレス・ドライブ〉を発現させた。

 

 

 

ー赤城sideー

 

「・・・・・・・・」

 

「姉様・・・・」

 

「私に、重桜の為に戦う資格はない。でも、ここで何もしない方がもっとイヤ」

 

「そうですね」

 

二人はメガオロチを、自分達の暴走で産み出してしまった怪物を見上げた。

 

「行きましょう加賀。私達で二人で」

 

「はい!」

 

二人から金色のオーラが立ち上る。

 

「っ、これは・・・・!」

 

「ロイヤルの真似をするようで不本意だけど、これで少しでも、指揮官様のお役に立てるのであれば!」

 

二人が意を決して声を発した。

 

「「〈ノブレス・ドライブ〉!!」」

 

赤城と加賀も、〈ノブレス・ドライブ〉を発現させた。

 

 

 

 

 

ー長門sideー

 

「ユニオンも続々と覚醒したわね。ロイヤルが乗り遅れる訳にはいかないわ。そして、あなた達もよ、重桜」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

駆けつけた長門達重桜艦隊も、〈ノブレス・ドライブ〉を見て驚く。

 

「ロイヤル女王よ」

 

「何、重桜旗艦殿?」

 

「あの力、我らも使えるのか?」

 

「ふん。あなた達にもあるでしょう? 下僕・・・・指揮官との『絆』が、自分の『戦う理由』が」

 

「・・・・・・・・うむ」

 

長門は真っ直ぐにメガオロチと戦うウルトラマンタイガ・トライストリウムを、指揮官の姿を見据えた。

 

「我にもある。大切な妹や仲間達、重桜の皆を守るのが、この長門のーーーー気高さである!」

 

長門の身体に金色のオーラが上がる。

 

「〈ノブレス・ドライブ〉!」

 

そして、長門も〈ノブレス・ドライブ〉を発現した。

 

「わぁ! 長門姉ぇスゴい! よぉ~し! 私も! 〈ノブレス・ドライブ〉!!」

 

長門に続くように、陸奥も発現させた。

さらに続くように、増援に来た重桜艦隊の何人かも、発現させていく。

 

「陛下。見通していたのですか?」

 

「ふん。下僕と共に過ごしてきた日だけなら、彼女達の方が長いからね。これで発現できない筈がないでしょう?」

 

「流石です、陛下」

 

ウォースパイトが手を打って讃えると、Q・エリザベスは胸を張って直ぐに顔を引き締める。

 

「さぁ! 私達ロイヤルの威光を示すわよ! 〈ノブレス・ドライブ〉!」

 

『〈ノブレス・ドライブ〉!』

 

女王陛下が輝き、それに従いウォースパイト達も光りだし、メガオロチと戦うトライストリウムに加勢する。

 

 

 

 

ー鉄血sideー

 

「重桜艦船<KAN-SEN>達まで、あの光を・・・・!」

 

「一体何なのよ、あれは・・・・?」

 

「アイツらばっかりパワーアップして、何かズルいぞ!」

 

ニーミとヒッパーが〈ノブレス・ドライブ〉を発現させた重桜艦船<KAN-SEN>達に驚愕の目をし、レーベは悔しそうに海面を踏んだ。

 

「まさかあれが、あの指揮官との『絆』が生み出す力なの?」

 

オイゲンは、〈ノブレス・ドライブ〉に対して、自分なりの分析をしていた。

 

「オイゲンさん。私達鉄血はどうします?」

 

「・・・・勝負は決したけど、ニーミは行きたいみたいね?」

 

「えっ! まぁ、はい」

 

ニーミは気まずそうに肯定した。

 

「ま。私達も援護くらいはしましょうか、行くわよ!」

 

「はい!」

 

「ええ!」

 

「おお!」

 

オイゲンに続いて、鉄血艦隊も動いた。

 

 

 

 

 

ートライストリウムsideー

 

『おおおおおおおおおおっ!!!』

 

トライストリウムはメガオロチの全身から伸びた砲身から放たれるレーザーを防いでいた。

レーザーの雨を防ぐトライストリウムの足元やメガオロチの頭上から、声が響く。

 

『『共鳴<ハウリング>』!!』

 

ーーーードシュドシュドシュドシュドシュドシュドシュドシュドシュドシュドシュドシュドシュドシュッ!!!

 

突然の攻撃に、メガオロチがその巨体を後退させ、身体中の砲台も破壊されていく。

 

『ヒギャァァァァァァァァッ!!』

 

『っ! 皆っ!』

 

トライストリウムが顔を向けると、艦載機に乗ったエンタープライズやホーネット、赤城に加賀、翔鶴に瑞鶴といった空母達が〈ノブレス・ドライブ〉状態で攻撃し、足元には綾波達が攻撃していた。

つい先日まで敵対していた二つの陣営が、今正に一つとなって戦っている。

一種の感動すら覚えるカイン指揮官はメガオロチへと視線を戻す。

 

『トモユキ! 次はお前だ!』

 

『「良しーーーーはぁっ!」』

 

カイン指揮官はトライブレードのスイッチを五回押すと、トライブレードの回転盤を回すと、碧の火花が飛び散る。

 

『行くぜトモユキ!』

 

『オロチを止めるぞ!』

 

『やろうぜ兄ちゃん!』

 

『「あぁ!」』

 

トライブレードに炎が燃え上がりトリガーを引くと、刀身に緑色の炎が燃え上がり、トライブレードを振ると、緑色の光がまるで星屑のようにキラキラと輝く。

 

『ハァッ!』

 

トライストリウムがトライブレードを海底に突き刺した瞬間、緑色の線が真っ直ぐにメガオロチの足元へと伸びていき、メガオロチを囲うように円を描くとーーーー。

 

『『『『「『ヒーリングボルケーノ』!!」』』』』

 

円の中を緑色の炎が、まるで火山噴火のように立ち上がり、メガオロチの巨体を包み込んだ。

 

『ヒギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ・・・・!!』

 

メガオロチは、その炎に包まれるが、その雄叫びは悲鳴ではなく、まるで癒されるかのようなやすらぎに満ちた声をあげながら、徐々にその身体が崩れ落ちていく。

 

「これで・・・・終わるのね・・・・」

 

メガオロチの登頂部に立つオロチが、炎に包まれながらゆっくりと瞼を下ろそうとした瞬間、

 

『「すまない・・・・」』

 

「・・・・え?」

 

オロチがトライストリウムを見ると、その奥にいる、カイン指揮官がーーーー頬に涙を一筋流していた。

 

『「すまない、オロチ。もしかしたら、君も俺達の仲間として、共に肩を並べて戦っていたかも知れないのに・・・・勝手に生み出して、勝手に滅ぼして・・・・本当に、すまない・・・・!」』

 

「(私の為に・・・・泣いてくれる、の?)」

 

カイン指揮官を見つめながら、オロチは自嘲気味に笑みを浮かべる。

 

「・・・・さようならーーーー指揮官、様・・・・」

 

トライストリウムの中にいるカイン指揮官にのみ別れの挨拶をして、オロチは炎の中に消え、『マガオロチリング』も、炎に包まれて消滅した。

 

 

 

ー赤城sideー

 

艦載機に乗り、消滅していくメガオロチとオロチを見下ろしながら、赤城と加賀は複雑そうな顔をしていた。

 

「・・・・・・・・」

 

「去らばだオロチ・・・・私達の、妄執が生み出した、哀れな子よ・・・・」

 

まるで冥福を祈るように、赤城と加賀は静かに瞑目した。

 

 

 

ートライストリウムsideー

 

カイン指揮官も、どうかやすらかにと言わんばかりに、メガオロチに瞑目した。

 

『「・・・・オロチ」』

 

『~~~~~~!! ふざけるなぁっ!!』

 

『トレギア!』

 

トレギアが怒号を上げながら、トライストリウムに迫るが、トライブレードでそれを防ぎ、更に突き出された拳を受け止める。

 

『今のお前では、俺達の『絆』にも、艦船<KAN-SEN>の皆の『光』にも勝てない!』

 

『まだ『絆』だとか『光』だとかを語るのか! 反吐が出るっ!!』

 

『何故そこまで『絆』と『光』を否定するんだ!』

 

『黙れっ!!』

 

トレギアが怒涛の攻撃を繰り出すが、トライストリウムはその全てを防ぎと、トライブレードで攻撃し、トレギアが回避すると、回し蹴りを打ち付けた。

 

『へァッ!』

 

『グゥアッ!!ーーーー弱者が! 貴様らが『宇宙の番人』だと! 誰が決めたぁっ!!』

 

トレギアが全身のエネルギーを両腕に集め、必殺の『トレラアルティカイザー』を放とうとする。

 

『お前は負けるんだ! 俺達のーーーー『『「光に」』』!!』

 

四人の声が重なると、カイン指揮官がスイッチを四回押すと、トライストリウムの幻影と共に、回転盤を回す。

 

『「トライスクワット!!」』

 

『ハァッ!!』

 

トライブレードの刀身の炎が燃え上がり、登頂の水晶が光り輝く。

カイン指揮官がトリガーを引くと、トライブレードを一回、二回、三回と振ると、青と黄色と赤の光が舞い、天に突き立てると、赤い光が目映く輝く。

トライストリウムはトライブレードをトレギアに向けて剣先を突き出すと、三色の光線が発射される。

 

『『『「『トライストリウムバースト』!!」』』』

 

トライストリウムバーストが、トレラアルティカイザーと拮抗する。

 

 

 

 

ー艦船<KAN-SEN>sideー

 

「行け・・・・!」

 

「行け!」

 

『行けぇ!ウルトラマンタイガーーーー!!!』

 

艦船<KAN-SEN>達の声に応えるように、『トライストリウムバースト』が、トレギアの光線を押し返していく。

 

 

 

ートライストリウムsideー

 

『ぐぐぐぐぐぐぐぐ!! き、貴様らに! 私の何が分かるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっっ!!!』

 

ーーーーチュドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンッッ!!!!

 

トレギアが怨みの声を上げながら、トライストリウムバーストを受けて、三色の光に包まれて爆発した。

 

『やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!』

 

艦船<KAN-SEN>達の声が上がると、トライストリウムはゆっくりと皆を見下ろすと、静かに頷き。

 

『・・・・・・・・シュアッ!!』

 

トライブレードを太陽に突き立てるように天に掲げた。

 

ーーーーワァァァァァァァァァァァァ!!

 

そして、艦船<KAN-SEN>達は、勝利を喜ぶように声を上げた。

 

 

 

ー鉄血sideー

 

「・・・・ん? 『ビスマルク』?」

 

ニーミもヒッパーもレーベも、勝利を喜んでいる中、オイゲンの通信インカムから、『鉄血旗艦』からの通信が入った。

 

 

 

 

ーカインsideー

 

カイン指揮官が専用船に戻ると同時に、多くの艦船<KAN-SEN>達が集まり、長門と陸奥、翔鶴と瑞鶴、高雄と愛宕が、赤城と加賀をカイン指揮官の元へと連れてきた。

 

「・・・・赤城・・・・加賀・・・・」

 

「指揮官! 赤城先輩達は、セイレーンに利用されていただけで・・・・!」

 

「瑞鶴。沙汰は指揮官殿が決める」

 

瑞鶴が二人を擁護しようとするが、高雄が止めた。高雄も二人を庇いたいが、これだけの事をしたのだ。無罪放免と言う訳にはいかない。

 

「赤城。加賀。何か言いたい事はあるか?」

 

「・・・・何も、ありません。ですが、全ては私、赤城による暴走か招いた事。全ての責はこの赤城にあります。妹の加賀、そして重桜艦隊は何も知りません。どうか、私一人の命でーーーー」

 

「姉様! セイレーンに癒着していたのは、私も同罪です! 私達一航戦が責を追う! だから、重桜の皆にはーーーー」

 

「ま、待ってよ赤城先輩! 加賀先輩! だったら私達だって! 二人にだけ重い物を背負わせた責任があるよ!」

 

「黙りなさい加賀。五航戦。全ての責は私よ」

 

「あのですねぇ、そうやって全部自分が背負えばカッコいいとでも思ってるんですかぁ?」

 

「・・・・何ですって?」

 

赤城が全ての責任を負おうとするのを加賀が止め、その加賀を瑞鶴が止めて、赤城がそれでも自分一人が責を背負うとするが、翔鶴が毒舌混じりに止める。

長門と高雄と愛宕が苦笑いを浮かべ、陸奥は困ったようにオロオロすると、カイン指揮官が、パンパンと手を叩いた。その瞬間、言い争いを止めた。

 

「・・・・皆。盛り上がっている所で悪いが、報せがある。重桜上層部は、この事件は全て赤城と加賀による暴走行為であると言い出したんだ」

 

『っ!』

 

重桜艦隊は驚愕したが、一部はやはりと言わんばかりだった。

トモユキ指揮官が行方不明になってからこれまで、母港の運営から作戦まで、全部艦船<KAN-SEN>達に丸投げにしていた上層部だ。問題が起こったら蜥蜴の尻尾切りのように切り捨てられるのは分かっていた。

あまりの上層部のやり口に、艦船<KAN-SEN>達は渋面を作るが、カイン指揮官は冷静に声を発する。

 

「だが、こんな大事件をたった二人の艦船<KAN-SEN>だけのせいにするのか? と聞いたら、上層部は連帯責任で他の皆にも責任だと言い出した。だから、俺はこう言った。この事件の責任者としてーーーーこの海域にいる重桜艦船<KAN-SEN>を捕虜として捕らえる! てね」

 

「え? どういう事?」

 

瑞鶴が首を傾げると、カイン指揮官は同じ事を言った。

 

「“この海域にいる重桜所属の艦船<KAN-SEN>達を、捕虜としてアズールレーン母港に迎え入れる”って言ったの。当然、向こうから来る皆もな!」

 

カイン指揮官が指差すと、艦船に乗った重桜の皆が、この海域に近づいていた。

 

「『三笠』大先輩!? それに、幼年の皆も!」

 

「これって・・・・!」

 

「今言ったろ? この海域にいる重桜艦船<KAN-SEN>を、捕虜にするって」

 

「そ、それって・・・・!」

 

つまり、重桜母港いる艦船<KAN-SEN>達全員を、アズールレーンに迎え入れると言う事である。

 

「で、ですが指揮官様! これでは重桜の護りが・・・・!」

 

「ああそうだなぁ、重桜はこれからセイレーンの脅威や怪獣を艦船<KAN-SEN>達抜きでどうにかしなければならないなぁ。あ、でもレッドアクシズが・・・・あ駄目か、鉄血は同盟を破棄するようだし」

 

『えっ!?』

 

「先ほど、その通信が入ってきたようだからね」

 

『えぇっ!?』

 

カイン指揮官の言葉に、重桜艦隊は驚き、さらなる言葉に今度はアズールレーン艦隊も含んで鉄血陣営を見た。

ソコには、いつも通りの笑みを浮かべるオイゲンと、居心地悪そうなニーミ達が近づき、カイン指揮官に向けてオイゲンが肩をすくめながら口を開く。

 

「世論的にも、こんな事件を引き起こした重桜と手を組んでいられないわ。悪いけど、鉄血は重桜との同盟は破棄させて貰う、ってウチの上層部が言い出したのよ」

 

「と言う事は、重桜は孤立してしまうなぁ。東煌はウチで預かっている平海と寧海を通して、既にアズールレーンに入っているしぃ。このままでは重桜が危険だなぁ。重桜がアズールレーンに戻ってきてくれれば、我々も同盟相手を護る為に軍を動かせるんだけどなぁ」

 

≪≪≪し、白々しい・・・・≫≫≫

 

意地の悪い言葉を並べる指揮官に、トライスクワッドだけでなく、艦船<KAN-SEN>達も苦笑いを浮かべ、頬に汗を垂らす。

長門がコホンと咳払いをしてから言葉を発する。

 

「指揮官よ。重桜上層部から、その言葉に対する伝言がある」

 

「ほぅほぅ」

 

「重桜を再び、アズールレーンの一員として迎え入れて欲しい・・・・とな」

 

「ふぅん。良いよ。こっちもとっくにロイヤル上層部とユニオン上層部とも話を通してるし」

 

「(いつの間にそこまで話を進めていたんだ?)」

 

「(遊んでいるようで、ご主人様は手を打って置いたのですよ)」

 

エンタープライズとベルファストがこっそりと会話していた。

カイン指揮官は赤城と加賀に真剣な顔と目を向ける。

 

「さて、赤城。加賀」

 

「「っ」」

 

「重桜はアズールレーンに戻る。が、これからさらに忙しくなるだろう。重桜は暫くは白い目で見られるかも知れない。そんな大変な状況で、有能な君達二人を失う訳にも、暇を与えるつもりもないぞ」

 

「「えっ!?」」

 

「それは甘いんじゃないの指揮官? こんな事やらかしたのに無罪放免だなんて」

 

「いや翔鶴。やり方は兎も角、二人が重桜を思っての行動だと言う事は分っている。大切なのは、犯した事をどう償っていくかだ」

 

カイン指揮官は海面に降りると、トライスクワッドにウルトラ念力で浮かせて貰い、赤城と加賀の二人に両手を差し出す。

 

「赤城。加賀。辛い思いや苦しい思いをさせて、本当にゴメン。でもーーーーまた俺達と共に歩んで欲しい。俺には、君達が必要なんだ」

 

「「ーーーー!!」」

 

赤城と加賀はカイン指揮官の手に自分の手でそれぞれ触れ、両膝を突き、涙を浮かべながら声を発する。

 

「「私達の力、今一度、今度こそ! 重桜とこの世界と、あなたの為に・・・・!」」

 

それはまるで、王に絶対の忠誠を誓う騎士の様であった。

カイン指揮官は優しい笑みを浮かべ、赤城と加賀を見た後、重桜艦船<KAN-SEN>全員に顔を向けた。

 

「ああ。ただいま。赤城、加賀・・・・皆! ただいまっ!」

 

『~~~~!!! 指揮かーーーーん!!!』

 

重桜艦船<KAN-SEN>達が、堪えていた涙を溢れさせながら、カイン指揮官に近づき、抱き付いていった。

 

 

 

ーニーミsideー

 

「・・・・さ、私達は帰るわよ」

 

一瞬涙を浮かべそうになったオイゲンが、感動しているニーミ達を引き連れ、この場を去ろうとしていた。

 

「ニーミ!」

 

「っ! 綾波・・・・」

 

綾波がニーミを呼び止め、ニーミも止まって、涙を拭って綾波に方を向く。

 

「・・・・私達は、敵同士になりました。もう馴れ馴れしく「関係ないです」えっ?」

 

「綾波とニーミは、生まれた国も考え方も違うです。でも、進む道が違っても、目指すモノは同じです。だから、もしかしたら、ニーミ達鉄血の皆さんと、手を取り合える日が来るです。綾波は、そう信じるです」

 

「私もそう思う!」

 

「ゆ、ユニコーンも・・・・」

 

「ラフィーも・・・・くぅ・・・・」

 

「って、寝ないで下さい!」

 

ニーミが思わずラフィーにツッコミをいれた。一度咳払いするニーミが、綾波に向き直る。

 

「もし、そんな日が来たら、良いですね」

 

そう言って、ニーミは名残惜しそうに、オイゲン達と共に去っていった。

 

 

ー綾波sideー

 

「ニーミ・・・・」

 

「きっと、手を取り合える」

 

「指揮官」

 

綾波に近づいたのは、睦月達や夕立達に抱きつかれたカイン指揮官だった。

 

「だろ?」

 

「・・・・はいです」

 

綾波とカイン指揮官達は、ニーミ達が去っていった方角を見据えた。いつか、手を取り合う日を信じて。

 

 

 

 

 

 

ーカインsideー

 

それから数日が経ち、重桜の桜を何本かアズールレーン母港に植え直し、饅頭達が桜並木を作り、花見を楽しんでいるユニオン、ロイヤル、重桜艦船<KAN-SEN>を見ていたカイン指揮官の隣に、タイガの思念体がカイン指揮官と同じ大きさで立っていた。

 

≪これから益々騒がしくなりそうだな?≫

 

「ああ。でも、悪くない光景だ。・・・・これからも宜しく頼むぜ、“相棒”」

 

≪・・・・“相棒”、か。悪くないな!≫

 

「フッ」

 

≪それは、私もなのか?≫

 

≪俺もか?≫

 

タイガの隣に、タイタスとタイタスの肩に肩肘を掛けたフーマが現れてそう聞くと、カイン指揮官は笑みを笑みを浮かべる。

 

「当然、だろ? お前達は、俺の最強で、最高の、“相棒”達だ」

 

≪あぁっ!≫

 

≪ウム!≫

 

≪へっ!≫

 

カイン指揮官とウルトラマン達が笑い合っていると、急に艦船<KAN-SEN>達が宴を止めて、カイン指揮官を見ていた。

 

「・・・・ん? どうした皆?」

 

「あの~指揮官・・・・」

 

ジャベリンが、代表して手をあげた。

 

「ん? 何ジャベリン?」

 

「あのですね・・・・重桜の皆さんも入った事ですし、そろそろ私達にもーーーーソコにいるウルトラマンさんの事、紹介してくれませんか?」

 

ジャベリンがタイガとタイタスとフーマを指差してそう言った。

 

≪≪≪「・・・・・・・・・・・・・・・・え?」≫≫≫

 

ジャベリンだけでなく、その場にいる艦船<KAN-SEN>達の視線に気づいた。

四人は戸惑いの声を上げると、カイン指揮官はタイガを、タイガは自分を、タイタスはフーマを、フーマはタイタスを指差して声を発する。

 

「もしかして皆ーーーー」

 

≪≪≪「見えてるの?」≫≫≫

 

「クッキリ見えてるです」

 

「ハッキリ声も聞こえる」

 

「あの、メガオロチとの戦いから、ね」

 

≪≪≪「・・・・・・・・・・・・・・・・えぇえええええええええええええええええぇええええええええええええええええっっ!!!??」≫≫≫

 

トライスクワッドの叫びが、アズールレーン母港の空へと響き渡っていった。

 

 

 

~第一部 完~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーユニオン某所ー

 

そしてその頃。

広い国土のユニオン本国の、荒野が広がる某所にて、先日宇宙から落下してきた隕石により、巨大なクレーターが広がり、その周りにユニオンの軍や研究機関が集まっていた。

そして中心部に、卵のような隕石が少し煙を上げながらソコにあった。

 

 

 

 

ー鉄血sideー

 

そして一方、鉄血本国に戻ったオイゲン達は、長い金髪に軍帽を被った凛々しい顔立ちと青い瞳、そして長身にキッチリと着た軍服の開けた胸元から見える豊満な胸と、軍服越しでも分かる豊麗なプロポーションをした大人の女性、鉄血の旗艦である『鉄血所属 戦艦 ビスマルク』と、『鉄血の総統閣下』に、トライスクワッドの戦いを報告していた。

 

「そうか。怪獣や宇宙人の事は各方面で報告を聞いたが、最早そこまで発展していたか」

 

「どうするの? 四大陣営の三国や東煌もアズールレーンに入ったわ。それに、怪獣の存在や噂の〈ヴィラン・ギルド〉、それにトレギアってヤバいヤツもいるわ。鉄血だけでーーーー「心配は無用だ」・・・・総統」

 

それまで黙っていた『総統閣下』が声を発すると、ヒッパーとレーベとニーミは、少しウンザリしたような顔となり、オイゲンとビスマルクも顔には出さないが霹靂とした顔になる。

 

「所詮ロイヤルもユニオンも重桜もーーーー騙されているのだ」

 

「“騙されている”?」

 

「その通り。あの“偽者ウルトラマン達”に、な」

 

「“偽者ウルトラマン”?」

 

ニーミが訝しそうに聞くと、『鉄血総統』はバッと立ち上がり、両手を広げて、まるで宣言するかのように声を張り上げる。

 

「そう! いずれ現れるだろう『真のウルトラマン』! 彼が現れた時、『出来損ない』に、『汚れた血』、そして『紛い者』を討ち倒し! この星に真の希望と正義を示す、『本物のウルトラマン』が降臨する! そしてその『本物のウルトラマン』と共に正義を成すのは! 我ら愛と善意を伝導する鉄血艦隊だぁっ! あっははははははははははははははははははははははははははははははははははははっっ!!!」

 

『鉄血総統』であるその男は高笑いをあげ、その言葉の意味が分からず、ビスマルクにオイゲン、そしてニーミ達は首を傾げるだけだった。

 

ーーーー鉄血総統『アイゼーン・マコットラー』総統の言葉を

 

 

 

 

 

ー霧島sideー

 

ソコはアズールレーン母港から遠く離れた、何処か分からない小さな孤島。

不気味な黒い雲に覆われたソコには、ボロボロになった霧崎が顔を俯かせて立ち尽くしていた。

 

「・・・・・・・・っ・・・・! っっ・・・・!!」

 

霧崎は啜り泣くような声を漏らしていたが、次の瞬間。

 

「ーーーーあっはははははははははははははははははははははははははははっっ!!! あーはっはははははははははははははははははははははははははははっっ!!!!」

 

突然狂ったように笑い出し、虚空に向けて手を伸ばした。

 

「・・・・海守、トモユキ・・・・! カイン・オーシャン・・・・!!」

 

その目には、この孤島から遠く離れた場所で、アズールレーン艦隊と重桜艦隊、忌々しき光の戦士達と勝利を喜び合っているカイン指揮官の名を呟き、拳をゆっくりと握った。

 

「あははははははははははははははははははははははははははははははははははははっっ!!! あっはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっっっ!!!!」

 

霧崎の、トレギアの狂笑が曇り空に覆われた孤島に、響き渡っていった。

 




ー『ヒーリングボルケーノ』ー

カイン(トモユキ)指揮官がトライブレードを回す事で発動。荒ぶる怪獣や、邪悪に染まった者を浄化する。

次回から第二部が始まります。


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第二章 未来を照らす者達
【新章】新たな始まり


さて、新章です! オリジナル設定やオリジナル強化を作ります。


ーカインsideー

 

海守トモユキがカイン・オーシャンとしてアズールレーン母港の指揮官を勤めるようになってから、早くも半年近くが経った。

海守トモユキとして士官学校を卒業したのが18歳で、重桜母港の指揮官となった時は『少佐』。それから艦船<KAN-SEN>達と共に戦い、僅か1年で19歳にして異例の『大佐』にまで昇進した。

が、ウルトラマントレギアと戦い記憶を失ってカイン・オーシャン『特務中佐』となって1年が経過し、メガオロチとトレギアとの激戦を終えた時に、丁度20歳となり、『メガオロチ戦役』と呼ばれるようになったあの戦いを終結させ、重桜と東煌をアズールレーンに入れた功績により、一気に『准将』として正式にロイヤル上層部から任命された。

アズールレーンはロイヤル、ユニオン、重桜、そして東煌が加わり大きくなった。

 

「あぁ~・・・・疲れるぅ~・・・・」

 

「少しお休みください、ご主人様」

 

が、組織が大きくなると言う事は、それだけ事務仕事も多くなると言う事で。

執務室のカイン指揮官の机には山のように大量の書類が所狭しと置かれていた。

応接用のソファに腰かけたカイン指揮官は、ベルファストの膝枕で休憩していた。

 

「あぁ、ベルのこの適度に柔らかいスベスベな極上のお膝を枕にしているだけで、疲れが癒されるよ」

 

「それは何よりです」

 

「指揮官は、良くベルファストに膝枕をしてもらっているのか?」

 

「ええ。主にお疲れになった時などに」

 

本日の秘書艦、エンタープライズが、その姿を見て苦笑いを浮かべる。

当初はウェールズが秘書艦を勤め、イラストリアスは補佐をしていたが、他の艦船<KAN-SEN>達から、「私も秘書艦をやりたい!」だの、「ロイヤルの艦<ひと>達だけなんて不公平だ!」だのと嘆願書が大量に来ていたので、志願者のみ週一の交代制で秘書艦と補佐を任せるようにした。

 

「あぁ、それにしても、セイレーンは此処のところ大人しいけど、怪獣問題が大きくなってきたなぁ・・・・」

 

≪全くだよなぁ≫

 

≪『メガオロチ戦役』が終わって! から一ヶ月あまり! これといって! セイレーンの動きは! 無かったが! 怪獣の出現が! 三回も! 起こったからな≫

 

≪海のど真ん中だったり、人気のない火山島だったりとよぉ≫

 

カイン指揮官の目の前のテーブルにいるのは、遠い宇宙の果て、平行世界からこの星にやって来た光の戦士・ウルトラマン達だ。

〈M78星雲 光の国〉の若きウルトラマン・『光の勇者 ウルトラマンタイガ』。

〈U40〉のウルトラマン・『力の賢者 ウルトラマンタイタス』。

〈O-50〉のウルトラマン・『風の覇者 ウルトラマンフーマ』。

三人のウルトラマンとカイン指揮官を合わせ、〈トライスクワッド〉と言うチームである。

トレギアと戦い、粒子レベルにまで分解されて三人は、現在カイン指揮官と融合し、カイン指揮官の身体をそれぞれが状況に応じて変身し、怪獣と戦っている。

思念体でミニマムサイズになったトライスクワッドの面々は、テーブルに置かれた三人用の専用のベンチソファーに座っているタイガ。寝転んでいるフーマ。ソファ近くで日課のトレーニングをするタイタスだった。

 

「(タイガ達もすっかり皆に受け入れられたなぁ)」

 

本来ならカイン指揮官にしか姿も声も見えないし聞こえなかったが、『メガオロチ戦役』から、艦船<KAN-SEN>達もトライスクワッドの姿が見え、声も聞こえるようになった。

タイガとフーマが皆と戯れたり、タイタスがウルトラマンについての知識を授業で教えたりしていた。

 

「・・・・エンタープライズ。トレギアの所在は?」

 

カイン指揮官の問いに、エンタープライズは首を横に振る。

 

「他の皆にも、私と加賀に『怪獣リング』を渡した男を探してもらっているが、見つかっていない」

 

「ご主人様は、トレギアはあの時に倒されたと思っていないのですね?」

 

「ーーーーどうにも、ヤツがあれでくたばったとは思えないんだ」

 

頭の位置を変えて、ベルファストの豊かな双乳を見上げる形になったが、カイン指揮官は鼻の下を伸ばさず断言した。

ーーーーウルトラマントレギア。

タイガ達トライスクワッドを粒子に分解し、トモユキをカイン指揮官にし、エンタープライズと加賀を利用して『メガオロチ戦役』を陰で操っていた悪辣な宇宙人である。

アズールレーン艦船<KAN-SEN>達の大半は、『メガオロチ戦役』の終盤、カイン指揮官とトライスクワッドによって倒されたと思っているだが、カイン指揮官もタイガ達も、エンタープライズにベルファストを含んだ一部の艦船<KAN-SEN>達も、トレギアは死んでいるとは思えず、警戒をしているのだ。

 

≪ヤツが何かしらの動きも見せていないのも、不気味だな≫

 

≪まだ『メガオロチ戦役』での傷が完治しておらず、療養しているなのか、それとも、セイレーンと共に何処かで暗躍しているのか・・・・≫

 

≪ま。ろくでもねえ事しか企んでいねぇってのは分かるけどよ。たくっ、つくづくいけすかなくて、ムカつく野郎だぜ!≫

 

≪ムカつくヤツだが、油断できる相手ではない≫

 

≪あぁ≫

 

「『メガオロチ戦役』から現れた怪獣は、『どくろ怪獣 レッドキング』や『彗星怪獣 ドラコ』。『食葉怪獣 ケムジラ』に『火山怪鳥 バードン』。『地底怪獣 グドン』と『古代怪獣 ツインテール』。一度に二体の怪獣が現れた、か」

 

エンタープライズがタブレットを操作して、レッドキングとドラコと戦うタイタス。生まれたばかりのツインテールが好物であり補食しようとするグドンとの戦いに参戦するフーマ。バードンに食い殺されたケムジラと、そのバードンと空中戦を繰り広げるタイガの姿が映し出された。当然、艦船<KAN-SEN>達と協力して倒していったのだ。因みにバードンがケムジラを補食する光景は幼い艦船<KAN-SEN>達には見せないようにした。

 

「『怪獣リング』が現れなかったと言う事は、トレギアとは関係ない、この星の怪獣と言う事か・・・・」

 

『メガオロチ戦役』で再び回収した『ヘルベロスリング』と『ゴロサンダーリング』、『ギガデロスリング』に『ナイトファングリング』は、今度こそ厳重に保管ーーーーと言うよりも、封印している。

 

「・・・・ベル。〈ヴィラン・ギルド〉のマーキンド星人とマグマ星人はどうしてる?」

 

「はい。現在は明石様のお店で住み込みで働いております。メイド隊からシェフィールドとシリアスが監視をしていますから問題ありません」

 

 

 

ー明石sideー

 

「ほれほれ! キリキリ働くにゃッ!」

 

『何で私達がこんな目に!』

 

『合わなきゃならねぇんだよ!?』

 

「黙って働くにゃ! 明石が指揮官に売り込もうと思っていた『指揮官専用 小型潜水艦』を持ち逃げして無くしたにゃら、代金は働いて払ってもらうにゃ!」

 

『チキショー! 自給自足で生活していた重桜でのサバイバルよりかは寝床も飯もちゃんとしているけどよ!』

 

『こう毎日働かされたら身が持ちませんよ!』

 

マーキンド星人とマグマ星人がヒィヒィ言いながら明石の元で働かせており、力ずくで明石を黙らせたくても、シェフィールドとシリアスが目を光らせておりそれもできず、結局二人は働くしかなかった。

 

 

 

 

ーカインsideー

 

「まぁ何にしても、〈ヴィラン・ギルド〉の情報を得る為にも、彼らに手荒い真似はあまりしないようにな」

 

「承知しています」

 

彼ら二人を置いているのは、この星の各地に拠点を置いている〈ヴィラン・ギルド〉を捜索する為だ。

 

「・・・・セイレーン、トレギア、〈ヴィラン・ギルド〉。そしてこの星の怪獣・・・・忙しさ全開だよ」

 

「しかし、やるしかないのだろう、指揮官」

 

「まぁな。やるっきゃないな」

 

エンタープライズの言葉に、ニッと笑みを浮かべるカイン指揮官。

と、ソコでーーーー。

 

「失礼します、指揮官様」

 

「失礼する」

 

「っ!? 赤城! 加賀!」

 

執務室に入ってきた赤城と加賀の姿を確認して、カイン指揮官はガバッとベルファストの膝枕から飛び起きた。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「あ、あの・・・・赤城、さん・・・・?」

 

赤城は何も言わず、カイン指揮官に近づくと、書類を渡した。

 

「指揮官様。重桜の子達から、重桜のお菓子が少ない事に不満の声があがっていますわ。どうかご検討を」

 

「あぁ、確かに大福やお団子や羊羹やお煎餅が食べたくなるかなぁって思ってたんだよなぁ。・・・・分かった。丁度重桜母港の方にも視察に行く予定だったから手配してみる」

 

「宜しくお願いします。では、失礼しますわ」

 

そう言って、赤城は加賀を連れて執務室を出ていく。その際、カイン指揮官と加賀の間でアイコンタクトが行われた。

赤城と加賀が退室すると、タイガが訝しそうな声をあげる。

 

≪・・・・・・・・変だな?≫

 

≪何がだタイガ?≫

 

≪赤城さんの様子だよ≫

 

≪赤城の姐さんの?≫

 

タイガの言葉に、タイタスにフーマだけでなく、エンタープライズも首を傾げ、ベルファストは察しがついているのか黙っている。

 

≪重桜にいた頃の赤城さんなら、トモユキが他の艦船<KAN-SEN>の子と良い雰囲気を作っていたら・・・・≫

 

【あら指揮官様。膝枕で甘えたければ赤城の膝を幾らでもお貸し致しますわ。さぁさぁ指揮官様~!】

 

【指揮官様に膝枕をするなど・・・・どうやら『ソウジ』が必要なオジャマムシなメイドがいますわねぇ。ちょうど良いですからグレイゴーストと、指揮官様に寄生している『三馬鹿』もろとも、『ソウジ』をしてあげますわぁ!】

 

≪って言うくらいはする筈なのになぁ≫

 

≪『三馬鹿』って、俺らの事かよっ!?≫

 

≪随分と、過激な性格をしているのだな、赤城殿は・・・・≫

 

「私にも敵意を向けている所があったしな・・・・」

 

「ーーーーご主人様」

 

タイガの説明にフーマは不満気な声をあげ、タイタスとエンタープライズは苦笑いを浮かべ、ベルファストは赤城の心情を察しているのか、カイン指揮官に声をかける。

 

「・・・・まだ引け目を感じているんだろう。あぁ見えて、根は真面目だからな赤城は。加賀は戦闘で先陣切って、少しでも重桜の評価を取り戻そうとしているけどな」

 

赤城と加賀は、セイレーンと癒着し、『メガオロチ戦役』を引き起こしてしまった。トモユキ指揮官が行方不明になってしまったからが理由の一つでもあるが、それでもカイン指揮官や仲間達の信頼に泥土を塗り、重桜の立場を悪くしてしまった負い目を感じているようだ。

『メガオロチ戦役』からの怪獣騒動でも、二人が率先してタイガ達と共に戦っていたり、訓練から他の事務仕事、果ては雑用まがいな仕事もしていたりしていた。

 

「重桜の皆も、赤城と加賀が無理をしている事を心配してたしな」

 

「・・・・もう重桜は勿論、ユニオンもロイヤルの皆も、気にしてはいないと言うのに」

 

「それでも、ご自分が許せないのでしょうね」

 

≪お前も少しは姐さん達を見習えよ≫

 

≪反省しろ≫

 

≪わ、分かってるよ・・・・≫

 

同じく、トレギアの罠に嵌まってしまったタイガも、バツが悪そうな態度になっていた。

と、何とか赤城と加賀に元気になって貰えないかと悩んでいると。

 

「失礼しまーす! です!」

 

「ジャベリン。綾波にラフィーにユニコーンまで、どうしたんだい?」

 

「指揮官。実は重桜母港の方から連絡が来たです」

 

「ん?」

 

「・・・・メガオロチがいた洞窟ドックに、可笑しな反応があるって・・・・」

 

「も、もしかしたら、怪獣が現れるんじゃないかって・・・・長門さんが・・・・」

 

「ふむ・・・・良し。調査に行ってみよう。ちょうど重桜のお菓子も不足しているって報告もあったしね。メンバーは・・・・」

 

カイン指揮官が重桜に向かうメンバーを選抜し終えると、ソファから立って出発しようとする。

 

「ちょっと待ってくれ指揮官。仕事は?」

 

エンタープライズが執務机に置かれた書類を指差すと、カイン指揮官はにこやかな笑みを浮かべて、エンタープライズの両肩に手を置き。

 

「後は任せたよ。エンタープライズ秘書艦!」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・えぇっ!?」

 

「じゃベル。エンタープライズのフォロー宜しくね! もしもって時はヴェスタルに応援を要請してくれ!」

 

「承知致しました」

 

「えっ、ちょっと待ってくれ指揮官ーーーー」

 

「それじゃ、あと宜しくーーーー!!」

 

エンタープライズの訴えを遮り、カイン指揮官は綾波達を引き連れて執務室を出ていった。

 

 

 

 

 

ー???sideー

 

その頃、重桜母港・旧洞窟ドック。

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

メガオロチの出現で母港の三割が崩壊してしまったその場所の岩壁から、不気味な赤い目のような物が、うっすらと開き、

 

『・・・・キェェェ・・・・!』

 

まるで今にも起き上がりそうな唸り声をあげていた。




はてさて、重桜に戻ったカイン指揮官達を待ち受けるものとは?


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【故郷】再び戻った場所

ーカインsideー

 

「ん~~~!! いやぁ! ひっさしぶりの重桜<故郷>の海だなぁ!」

 

「『メガオロチ戦役』以来です」

 

駆逐艦・綾波の船首で潮風に当たりながら、カイン指揮官は身体を伸ばし、記憶が戻ってから漸く帰郷する重桜の潮風を感じており、その隣では綾波が同意していた。

 

「「「綾波(ちゃ~ん)! 指揮官(お兄ちゃん)!」」」

 

と、カイン指揮官と綾波の故郷に行ってみたいと言う事で、ジャベリンとラフィーとユニコーンも一緒に来ていた。

 

「「「綾波~! 指揮官~!」」」

 

さらに時雨に夕立に雪風がやって来た。

 

「ああ皆どうした?」

 

「綾波! 夕立達と組むよな!?」

 

「え?」

 

「綾波ちゃん! 私達と組むよね!?」

 

「え?」

 

「「どっちと組むの!?」」

 

「な、何の事です?」

 

夕立とジャベリンが綾波に向かって良く分からない事を言い出し、綾波も戸惑っていた。

カイン指揮官がやれやれと言わんばかり綾波に詰め寄るジャベリンと夕立の首根っこを掴んで綾波から引き剥がした。

 

「主語を言え二人共」

 

「「わぅ」」

 

首根っこを捕まれ持ち上げられた際、ジャベリンも夕立のような犬耳と尻尾が生えたように見えたが多分気のせいだろう。カイン指揮官はラフィーとユニコーン、時雨と雪風に顔を向ける。

 

「それで、君達は綾波に何をお願いしに来たんだ?」

 

「あぁ実はね。折角久しぶりに重桜母港に戻るんだから、皆でビーチバレーでもしようって言ったんだけど、綾波を私達のチームか、ジャベリン達のチームに入れるかで、夕立とジャベリンがもめちゃったのよ」

 

「綾波は重桜の艦船<KAN-SEN>だぞ! 夕立達のチームに入るべきだ!」

 

「綾波ちゃんも夕立ちゃんだってアズールレーンでしょ! それにバランス的に綾波ちゃんは私達のチームだよ!」

 

カイン指揮官は確かにそうだと思った。ビーチバレーのようなスポーツをやるとしたら、チームのパワーバランスを考えてジャベリンの言う事も一理ある。

夕立は勿論だが、時雨も雪風も運動神経は良い方。だが、ジャベリン達のチームはユニコーンはスポーツ苦手だし、ラフィーもスポーツは乗り気じゃない性格だ。バランス的に考えれば綾波がジャベリンチームに入れば丁度良くなる。

しかしーーーー。

 

「夕立。最近綾波がジャベリン達とばかり一緒にいて、自分達に構ってくれなくなったからって、困らせるのはどうかと思うぞ?」

 

「わ、わうっ!?//////」

 

「え?」

 

カイン指揮官にそう言われて、夕立は顔をほんのり紅くし、時雨と雪風はあちゃーと言わんばかりに片手で顔を覆い、綾波とジャベリン達は目をパチクリさせた。

 

「そうだった・・・・です? 夕立?」

 

「わ、わぅぅぅぅぅぅ~!//////」

 

夕立は恥ずかしそうに顔を真っ赤にすると暴れて、カイン指揮官の手から逃れると、そのまま逃げ出してしまった。時雨と雪風がやれやれと肩を竦めながら追いかけていった。

 

「あらら、行っちゃったか」

 

「夕立ちゃん。私達が綾波ちゃんを取っちゃったって思ったんだ・・・・」

 

「綾波。最近夕立達と遊んだか?」

 

「あう・・・・重桜の他の皆が早くアズールレーンに馴染んでくれるように働いていたら、遊んでいなかった気がするです」

 

「ふむ。じゃ折角重桜母港に戻るんだから、構ってやれよ」

 

「はいです」

 

「えぇ~、でもそれって、ビーチバレーで綾波ちゃんが私達の相手になるって事?」

 

「まぁそうなるな・・・・」

 

「そんなぁ~。指揮官、私達のチームに入って下さいよぉ~」

 

「う~ん、そうしたいのは山々・・・・はっ!」

 

と、ソコでカイン指揮官はある事に気づいた。ビーチバレーと言う事は、ジャベリン達も綾波達もーーーー水着になるかも知れないと言う事だ。

時雨と夕立は小柄だが、ナイスバディと言っても良いくらいのプロポーションだし、雪風はさらに小柄だが、出る所はしっかり出てるし、綾波も胸は平均的だが、均整の取れたプロポーションだ。目の前のジャベリンも綾波に負けず劣らずだし、ラフィーはロリータ体型も悪くない。さらにユニコーンに至ってはロリ巨乳だ。この面子が水着姿でビーチバレーで激しく動く。それはもう色々な箇所が揺れるし弾むだろう。

 

「(これは是非とも拝みたいっ!!)」

 

≪おいおい≫

 

≪コラコラ≫

 

≪しっかりスケベも元通りだな・・・・≫

 

トライスクワッドの三人も呆れながらカイン指揮官を見ていた。

 

「にゃ~! 次は甲板の掃除にゃ! キリキリ働くにゃ!」

 

『『ひぃぇぇぇぇ!』』

 

と、ソコで明石にケツを蹴られながら甲板にモップ掛けをさせられていたマグマ星人とマーキンド星人がやって来た。ついでに、二人の監視役であるシェフィールドとシリアスも。

 

「おいおい明石、あんまり無理に働かせ過ぎるなよ。過労で倒れたらどうする?」

 

『そうそう! そうだよなっ!?』

 

『もっと言ってやって下さいよ! カイン・オーシャン指揮官閣下様!』

 

カイン指揮官を味方に付けようと、カイン指揮官の背中に隠れる、泣く子も黙る〈ヴィラン・ギルド〉の構成員二人。

 

「もうすぐ重桜母港に着くにゃ! 着いたらすぐにコイツらが隠れていた洞窟ドッグに行って、明石の作った潜水艦を探すにゃ! もし潜水艦が壊れていたにゃらコイツらに弁償させるつもりにゃ! だから今の内にジャンジャン働かせて弁償金を稼がせるにゃ!」

 

「だから重桜母港に行くって言い出したのか・・・・それで、シェフィとシリアスも監視役として着いてきたと」

 

「「はい」」

 

「う~む・・・・でもさ明石。まだ潜水艦が壊れていると限らないんだしさ。重桜母港に着くまでは休息を与えてやれば良いんじゃないか?」

 

「何言ってるにゃ! 仕事はまだまだ山積み「それは明石がやれば善いのでは?」明石がサボる為にも、この二人をあくせく働かせて・・・・って、にゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! 不知火<ぬいぬい>っ!?」

 

「そんな事だろうと思いました。さ、行きますよこの大ウツケ」

 

「にゃぁ~~・・・・」

 

背後からニュッと現れた不知火に仰天する明石。不知火はそんなリアクションに構わず、半泣きになった明石の首根っこを掴んで引きずっていく。

 

「ふぅ~。さて、マグマ星人。マーキンド星人。重桜母港に着くまでーーーー」

 

『おおっ! たっぷり寛がせて貰うぜ!』

 

『いや~! 海風に煽られながらの旅と言うのも乙ですなぁ~』

 

マグマ星人とマーキンド星人は、何処から出したのかビーチチェアに寝そべり、サングラスまでかけて、更に言えばトロピカルジュースを飲みながら寛いでいた。

 

「コイツら・・・・」

 

あまりにツッコミ所満載の姿に、カイン指揮官だけでなく、トライスクワッドも綾波達も、脱力したように肩を落とした。

 

 

 

 

ー瑞鶴sideー

 

「何だか向こうが賑やかだね」

 

「また指揮官の方で皆が大騒ぎしているんでしょう」

 

駆逐艦・綾波の隣で進んでいる空母艦・赤城の甲板で、カイン指揮官達の方を見て、瑞鶴と翔鶴が微笑ましそうに会話していた。

 

「でも、それよりーーーー」

 

翔鶴が笑みを引っ込めると、半ば呆れた顔で前方の水平線に顔を向けている赤城と加賀を見据える。

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

赤城と加賀は、カイン指揮官達の方に見向きもしないで水平線を眺めていた。

 

「赤城せんぱ~い。加賀せんぱ~い。いつまで黄昏ているんですかぁ? 指揮官達の方、楽しそうですよぉ。指揮官が他の子達とイチャイチャしてますよぉ? 何もしなくて良いんですかぁ赤城せんぱ~い」

 

「ちょっと翔鶴姉・・・・!」

 

明らかに煽っている翔鶴に、瑞鶴は押さえようとするが、翔鶴は止まらない。

 

「いつまでもウジウジしてられてもこっちは迷惑なんですよねぇ。もう指揮官も許してくれたし、私達重桜の皆やアズールレーンの皆さんも許してくれたのに、いつまでも引きずっちゃってもう」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

が、赤城はそんな煽りに何の反応も示さず、加賀を連れて甲板から去っていった。

 

「・・・・全く。張り合いが無いわね」

 

「赤城先輩や加賀先輩が、重桜母港に戻って気分晴らしになれば良いと思って、指揮官は二人も連れ出したのに」

 

「あの様子じゃ、逆効果になっちゃうかもねぇ。自分達のやらかした事を直視する事になるから」

 

五航船の二人未だに本調子でない一航船の先輩の事を気にかけていた。

 

 

 

 

ーカインsideー

 

「重桜母港よ! 私は帰ってきた!!」

 

重桜母港に到着し、母港の大地を踏みしめながら、カイン指揮官は大仰に両手を広げて叫んだ。

 

「指揮官。一度は戻ってきたです」

 

「あの時は記憶が無かったからノーカン!」

 

綾波がツッコミを入れるが、カイン指揮官はそう返した。

 

「さて、ここから物資輸送艦から和菓子の材料を受けとる手筈になっているけど・・・・」

 

「まだ来てないみたいね」

 

「それじゃ綾波。ジャベリン達に母港を案内して。時雨、夕立、雪風。綾波だけじゃ大変だろうから手伝ってやれよ」

 

「「「っ! 了解!」」」

 

夕立達は嬉々とした様子で綾波達を連れて母港へと向かって行った。

 

「にゃぁ指揮官。明石達は一足先に洞窟ドッグに行ってるにゃ」

 

「ああ。潜水艦も大事だが気を付けろよ。落盤の危険が無いじゃないからな」

 

「了解にゃ。さぁ! キリキリ歩けにゃ穀潰しコンビ!」

 

『『ぎゃぁっ!』』

 

明石は寛ぎスタイルになっていたマーキンド星人とマグマ星人を引きずって、洞窟ドッグへと向かった。勿論、シェフィールドとシリアスも同行した。

 

「やれやれ。赤城、加賀。俺の執務室にある書類等も持っていこう」

 

「わ、私達が、ですか・・・・?」

 

「重要書類とかもあるんだから、赤城達くらいしか分からないだろう? 俺だけだと夕方になっちまうよ」

 

「了解した」

 

「はい・・・・」

 

カイン指揮官は赤城と加賀を連れて、執務室へと向かった。

 

 

 

ー瑞鶴sideー

 

「指揮官・・・・」

 

「いやぁ~久しぶりだなぁ重桜母港!」

 

「故郷に帰った来たって感じだな」

 

翔鶴と瑞鶴がカイン指揮官と赤城と加賀を見送ると、その後ろから、伊勢と日向、酒飲み姉妹が現れた。

 

「さぁて、行くか伊勢!」

 

「そうだな」

 

「あら、二人とも何処へ?」

 

「いやな、ロイヤルのワインやユニオンのウィスキーとかも良かったけどよ。やっぱ重桜の酒が飲みたくなってさぁ」

 

「こっちに残しておいた酒とかも持って帰ろうと思ってな」

 

「重桜母港に行きたいって言い出したのはそれが理由だったんだ・・・・」

 

「そう言う訳だ。翔鶴達も、こっちに置き忘れていた物があるなら、今の内に持ち出しておけよぉ」

 

伊勢はそう言いながら手をヒラヒラと振り、日向と一緒に酒蔵に向かっていった。

 

「・・・・私達も片付けしとく?」

 

「そう、だね。でも、この母港・・・・“封鎖されちゃうんだよね”」

 

「・・・・そうね」

 

『メガオロチ戦役』の発端となった重桜母港。上層部が他国との対面的にも政治的にも、ここを残しておくのは不味いと考え、封鎖する事にしたのだ。

が、ここで良くも悪くも多くの思い出を作ってきたカイン指揮官<トモユキ指揮官>と重桜艦船<KAN-SEN>達から言わせれば冗談ではない。だが、重桜艦船<KAN-SEN>達はアズールレーン母港にいる上に、重桜軍からは行方不明扱いにされているトモユキ指揮官では意見が中々通らず、取り敢えず『メガオロチ戦役』のほとぼりが冷めきるまでの一定期間の封鎖と言う事で話を通した。

翔鶴と瑞鶴は、封鎖される母港に哀愁を感じていた。

 

 

 

ーカインsideー

 

海守トモユキ指揮官の執務室にて、アルバムやら重要書類を選定しているカイン指揮官と赤城と加賀。さらに饅頭達には家具類等の運搬を任せている。

 

「ふぅ・・・・大分片付いたな」

 

「そうだな」

 

「・・・・はい」

 

加賀もアルバム等を段ボールに詰め終え、赤城も書類を封筒に入れた。

 

「・・・・赤城」

 

「は、はい」

 

カイン指揮官に呼ばれ、弱冠ビクッとなりながら応じる赤城。

 

「『メガオロチ戦役』から一ヶ月あまり、君達二人は重桜の信頼回復の為に怪獣騒動で先鋒を切って戦ったり、仕事の方も朝早くから夜遅くまで他の皆の倍は働いてくれている。重桜の皆もだけど、アズールレーンの皆だって、もう君達を怒っていないぞ。勿論、俺もな」

 

「「・・・・・・・・・・・・」」

 

「もう良い加減ーーーー自分を許してやれよ」

 

「「っ・・・・」」

 

そう、赤城と加賀が許しておけないのは、カイン指揮官と重桜の仲間達を裏切った自分達を許せないのだ。

 

「指揮官様・・・・ですが、私達は・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

それでも、自分を許せない赤城と加賀に、カイン指揮官が小さくため息を吐いて話そうとしてその瞬間ーーーー。

 

 

ーーーーギィィィィィィィィィィィッ!!

 

 

「っ! 今の音、嫌、雄叫びか?」

 

「「っ!」」

 

三人は外から聞こえる雄叫びに、窓から外を見るとソコにはーーーー。

 

「え、閻魔大王っ!?」

 

何と、重桜の昔話に出てくる地獄の支配者、閻魔大王に似た巨大な生命体が現れた。

 

 

 

 

 

ー明石sideー

 

数分前。

 

「さ、ここの何処に明石の潜水艦があるにゃ?」

 

『あぁ、確かあの辺りだったかぁ?』

 

洞窟ドッグにやって来た明石達は、艤装を展開して海面を進んでいた。ドッグは最早以前と異なり、天井の岩が全て砕け太陽の光が注ぎ、青空まで見えている。砕け落ちた岩は海に落ちていたりドッグ周辺に散らばっていたりしていた。普通の艦で来ていれば岩礁のようになっている海に足を取られているだろう。

 

『おおっ! 見てくださいマグマ! あれを!』

 

『あん? おおっ!』

 

マーキンド星人が指差す方を見ると、放逐されていた艦が岩に上部がほとんど潰れていたが、船隊の横に空いた小さな穴の中に隠していた小型潜水艦がほぼ無傷の状態で浮いていた。どうやら艦が防護壁になってくれていたようだ。

 

『あったあった! ほぼ無傷であったぜ!』

 

『良かった良かった!』

 

マグマ星人とマーキンド星人、そして明石が潜水艦の状態を確認すると。

 

「やったにゃ! 船体は無傷にゃ! 燃料も十分あるにゃ!」

 

『『いやっほぅ!』』

 

明石がマグマ星人とマーキンド星人とハイタッチする。

 

「良し! ここまで安全に行けるルートも見つけてあるにゃ。明石達か誘導するかにゃ、オミャーら付いて来るにゃ」

 

『『了解!』』

 

明石の指示に従い、マグマ星人とマーキンド星人は潜水艦に乗船した。

さぁ行こうとしたその時、シリアスが顔を上げて別の方に目を向けていた。

 

「シリアス。どうしました?」

 

「シェフィールド。明石さま。アレは何でしょう?」

 

「ん?」

 

「にゃ?」

 

『『あん?』』

 

シェフィールドと明石が目を向け、潜水艦からマグマ星人とマーキンド星人の声が発すると、岩壁の一部が崩れており、ソコからなんとーーーー真っ赤に充血した『眼』が、此方を睨んでいた。

 

『ギィィィィィィ・・・・!!』

 

「や、やな予感にゃ・・・・!」

 

明石がそう呟くと同時に、ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・っと、洞窟ドッグが揺れ始め、『眼』がある岩壁が崩れてきた。

 

「た、退避! 退避にゃぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

『『ぎゃあああああああああああああ!!』』

 

明石の声と潜水艦の二人の悲鳴が重なると同時に、その場にいた全員が逃げ出した。

 

『ギィィィィィィィィィィィッ!!』

 

そして、岩壁を砕いて現れたのはーーーー重桜の昔話に登場する、閻魔大王にそっくりな様相をした怪獣が現れた。

 

 

 

ーカインsideー

 

現在。

 

「何だぁっ!? 閻魔大王が戦争を続ける人類に天誅を下しにやって来たのかっ!?」

 

『違う! あれは閻魔大王ではないっ! 『えんま怪獣エンマーゴ』だ!!』

 

『あの怪獣は! かつて俺の親父、ウルトラマンタロウが苦戦した怪獣だぜっ!』

 

『重桜にあんなのがいたのかよっ!?』

 

驚くカイン指揮官の周りに、小さな思念体となったトライスクワッドが現れて解説した。

 

《指揮かーん!》

 

カイン指揮官の通信端末から、明石の切羽詰まった声が響いた。

 

「明石! 何が起こったんだ!?」

 

《洞窟ドッグの岩壁から、あの怪獣が突然現れたんだにゃ! 何とかしてにゃーーーー!!》

 

「分かった! すぐに何とかしてみる!」

 

[カモン!]

 

カイン指揮官が通信を終えると、タイガスパークを起動させた。

 

「赤城! 加賀! すぐに皆を集めて援護をしてくれ!」

 

「「了解!」」

 

二人が応じると、腰にある『タイガキーホルダー』を掴むと、タイガの象徴たる赤いインナースペースが展開される。

 

「光の勇者! タイガ!!」

 

『ハァァァァァ・・・・ハァッ!!』

 

「バディィィィゴーーーー!!」

 

[ウルトラマンタイガ!]

 

『シュアッ!!』

 

光の勇者、ウルトラマンタイガへと変身した。

 

『シュワッ!!』

 

タイガがタイガキックをエンマーゴに繰り出した。

 

『ギィィィィィィ!』

 

が、エンマーゴの右手に刀が、左手に円形の盾が現れ、盾でタイガのキックを防いだ。

 

『うわっ!』

 

反動で跳ね返ったタイガは海面に着地した。

 

『いってぇ~~!!』

 

『「タイガ! 長期戦は母港にも被害が出る! 一気に終わらせよう!」』

 

『つぅ~! よしっ!』

 

痛みが引いたタイガは、必殺光線『ストリウムブラスター』を放つ。

 

『ストリウム、ブラスター!!』

 

『ギィィィィィィ!』

 

が、盾によって防がれてしまった。

 

『何っ!?』

 

『「ストリウムブラスターを受け止めるとは、なんて強固な盾なんだ!」』

 

『トモユキ! もっと強力な攻撃だぜ! 〈フォトンアース〉だ!』

 

『「ああ!」』

 

[カモン!]

 

すぐに『フォトンアースキーホルダー』を手に取り、タイガスパークを翳した。

 

[アース!][シャイン!]

 

『「輝きの力を手に!」』

 

キーホルダーを握ると上部が二又に開いて光り輝く。

 

『はぁぁぁぁぁっ!!』

 

「バディーーーーゴー!」

 

[ウルトラマンタイガ フォトンアース]

 

『シュアッ!!』

 

フォトンアースとなったタイガは必殺光線を放つ。

 

『『オーラムストリウム』ッッ!!!』

 

腕から放たれる金色の光エネルギーが、エンマーゴに放たれたーーーーが、

 

『ギィィィィィィィィィィィッ!!』

 

またしても盾に防がれ、エンマーゴ自身は少し光線に威力に後退りしてしまっただけであった。

 

≪オーラムストリウムでも効果ないのかっ!?≫

 

≪反則級だな!≫

 

『ギィィィィィィィィィィィッ!!』

 

驚くタイガ達だが、エンマーゴは刀を振り回し、タイガに斬りかかる。

 

ーーーーザシュン!

 

『うわっ!』

 

少し一太刀を浴びて、タイガは後ろに退くと、斬られた箇所を見て、さらに驚く。

 

『フォトンアースに、傷を付けたっ!?』

 

そう、エンマーゴの刀の切れ味は、フォトンアースをも上回っていたのだ。

 

『ギィィィィィィィィィィィッ!!』

 

『「タイガ!」』

 

『くっ!』

 

刀を振り回して迫り来るエンマーゴに、タイガは苦い声を上げて回避するのであった。



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【指輪】新たな力

今回の話で、オリジナルアイテム登場します。


ータイガsideー

 

『ギィィィィィィッ!!』

 

『うわっ! くっ! うぉっ!』

 

タイガはエンマーゴの剣を回避し続けながら後退するしかなかった。フォトンアースのアーマーを傷をつける程の切れ味のエンマーゴの剣とマトモに相手をするのは危険である上に、タイガの必殺光線も弾き飛ばす盾に攻めあぐねていた。

最強形態・『トライストリウム』になりたくても、この隙のない剣戟に邪魔されている。

 

『ちっ! 『スワローバレット』!!』

 

『ギィィィィッ!』

 

『スワローバレット』で牽制するが、盾によって防がれる。

 

『ギィィィィッ!』

 

『やっぱりダメか! うわぁっ!!』

 

再びエンマーゴが剣を振り、時には突き刺そうと剣を突き立てて来て、タイガは後退しながら回避するが、アーマーに少しずつ刃が掠り、フォトンアースのアーマーは細かい傷だらけになっていった。

 

『ギュワワワ! ギュワワワ!』

 

≪野郎! 笑ってやがるぜ!≫

 

フーマの言うとおり、エンマーゴは防戦一方のタイガを嘲笑うかのように身体を震わせていた。

そしてエンマーゴは、重桜母港に向けて口から、『黒煙ブラックスモーク』を吐き出した。

それを浴びた瞬間、艶やかに咲き誇っていた重桜の桜が、朽ち果てていった。

 

≪なんと! あれほど美しかった桜を枯らすなど!≫

 

『「風情もへったくれもない怪獣だっ!」』

 

カイン指揮官とタイタスが憤慨する。

 

 

 

 

ー赤城sideー

 

と、タイガを援護しようと駆けつける艦船<KAN-SEN>達では。

 

「あの閻魔大王擬き! せっかくの桜になんて事をしやがる!」

 

「風情と言う物を知らない怪獣だな」

 

伊勢と日向がカイン指揮官とタイタスと同じような台詞をエンマーゴに向けて毒づいていた。

 

「綾波! どうすんの!? 指揮官達ピンチじゃない!」

 

「落ち着くです時雨。綾波達にもできる事はあるです」

 

時雨を落ち着かせようと、綾波が宥めると、翔鶴と瑞鶴の五航船姉妹が前に出る。

 

「タイガが攻めきれないのは、あの盾が邪魔だからなのは明白ね。私達でどうにかあの盾を破壊できれば、反撃の糸口が生まれる筈だと思うけど」

 

「でも翔鶴姉ぇ。あの盾って、タイガの光線を弾き飛ばしちゃうよ? 私達が〈ノブレス・ドライブ〉しての〈共鳴<ハウリング>〉でも壊せるかどうか・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

妹の瑞鶴の言葉に、翔鶴は顎に手を当て難しい表情を浮かべながら思案を巡らせる。

と、ソコで。

 

「ーーーー策ならあるわ」

 

「・・・・・・・・」

 

「赤城先輩! 加賀先輩!」

 

赤城と加賀。『メガオロチ戦役』から作戦会議にも口を出さずにいた二人が、遂に前に出た。

瑞鶴や他の重桜艦船<KAN-SEN>達も顔に喜色を浮かべるが、ただ1人、翔鶴は訝しそうに眉根を寄せて口を開く。

 

「今まで何にも言わず、命令待ちだった先輩方が、一体どういう風の吹き回しですかぁ?」

 

「ち、ちょっと翔鶴姉ぇ!」

 

姉の言いように瑞鶴が声を発するが、赤城と加賀はエンマーゴに苦戦するタイガを見上げてから、翔鶴達に目を向けた。

 

「確かに我々が口を出す資格はない。どんなに取り繕っても、重桜を裏切った事には変わりないからな」

 

「しかし、重桜や指揮官様への想いは本物よ。重桜母港を汚し、指揮官様に害となるならば、『ソウジ』しなくてはね。勿論、指揮官様にくっついている『三馬鹿』も、ついでに助けましょう」

 

『さ、三馬鹿って・・・・』

 

恩人であるトライスクワッドの三人に対する言いように、ジャベリン達ロイヤル&ユニオンはヒクついた笑みを浮かべ、重桜艦船<KAN-SEN>達は、漸く赤城が本調子に戻ってきた事に苦笑する。

赤城はそんな一同に向けて『策』を伝え、全員が頷くと行動を開始する。そして赤城が通信機でカイン指揮官へと通信した。

 

「指揮官様」

 

《赤城か、 “何か『策』があるんだな”?》

 

「っ・・・・はい」

 

すぐに赤城の意図を察してくれた。それは赤城の事を信頼してくれている証である。その事に赤城は嬉しい感情を抑え『策』を伝えた。

 

《分かった。タイミングは赤城に任せる。信じるよ赤城》

 

「はい」

 

赤城は通信を終えると、加賀と頷き合い共に動いた。

 

 

 

 

ーカインsideー

 

『「と言うわけだ! やるぞタイガ!」』

 

『たくっ、赤城さんって本当に人使いが荒いな!』

 

『ギィィィィッ!』

 

等と会話していると、エンマーゴが剣を上から切り下ろし、タイガの頭から真っ二つにしようとしたーーーー。

 

『グッド、タイミング!!』

 

ーーーーパシッ・・・・!

 

が、タイガはエンマーゴの剣を、両手で真剣白羽取りをした。

 

『ギィッ!?』

 

『へっ! どんな物だ!』

 

『ギィィィィッ!』

 

『ぐはっ! ぐっ! まだまだぁっ!!』

 

エンマーゴは離せと言わんばかり盾でタイガを殴り付けるが、タイガは怯まず剣を離さんとばかりに力を込めた。

 

『ギィーーーーッ!』

 

エンマーゴが口に大きく息を吸い込む。『黒煙ブラックスモーク』を吐き出そうとしているのだ。

だが、その瞬間。

 

『〈ノブレス・ドライブ〉!!』

 

『っ!?』

 

エンマーゴの上空から、金色の光が降り注ぐと、艦載機に乗った赤城と加賀、翔鶴と瑞鶴、四人の艦載機に乗せて貰っている綾波とジャベリン、時雨と夕立と雪風、伊勢と日向、ゆーちゃんに股がるユニコーンとラフィーがいた。

 

『〈共鳴<ハウリング>〉!!』

 

ーーーーバシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!

 

『ギィイイイイイイイイイイッ!!』

 

上空からの光の砲撃が降り注ぎ、それを受けてエンマーゴは悲鳴を上げて後退しそうになるが、タイガに剣を取られており動けないでいた。

 

『ギィィィィッ!』

 

剣を離して攻撃の手段が無くなる事を恐れ、エンマーゴは盾で防御すると、艦船<KAN-SEN>達はその盾に向かって光の砲撃を一点集中で砲撃を繰り返す。

 

『ギュワワワワワワワ!!』

 

攻撃が通じないと思ったのか、エンマーゴは高笑いをする。しかし、赤城達の攻撃を一向に止まず、それどころか、光の砲撃が勢いが、ドンドン上がっていった。

 

『ギ、ギィィィ?』

 

エンマーゴは艦船<KAN-SEN>達の攻撃が分からずにいたが、砲撃を浴び続けている盾は、徐々に真っ赤に熱していった。

 

『ギギ、ギギィィィィィッ!!』

 

熱された盾が高温を発するようになり、盾が真っ赤に膨張し、エンマーゴの腕が熱で焼けているのに気づき、悲鳴を上げた。

 

《指揮官様!》

 

『「良し! タイガ!!」』

 

『おう!ーーーー『ウルトラブリザード』!!』

 

赤城の声でカイン指揮官がタイガに叫ぶと、タイガは手のひらを突きだし、ソコから水色の光線、冷凍光線『ウルトラブリザード』が放たれ、エンマーゴの熱で膨張した盾に当たった。

 

ーーーージュワァァァァァァァァァァァ・・・・!!

 

盾から熱が冷めて水蒸気の煙が立ち上がる。

 

『ギュワワワワワワワ!!』

 

『シャァッ!!』

 

冷凍光線によって熱が冷めていき、エンマーゴは高らかに笑い声をあげるが、タイガはエンマーゴの上空に飛び上がると、回転しながらエンマーゴに向かって、回転しながら両足キックを繰り出す。

 

『『フォトンアースキック』!!!』

 

『ギギィィィィィッ!!』

 

エンマーゴは盾で防ごうと構え、受け止めとうとした。

 

ーーーービギッ!

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

タイガ、エンマーゴ、艦船<KAN-SEN>達、その場にいる全員が固唾を飲んだその時、

 

『ギ、ギギギギィィィィ・・・・ッ!?』

 

ーーーービギ、バキバキバキバキバキバキバキバキバキバキ・・・・バカァァァァァァンンッッ!!

 

何と、エンマーゴの盾が音を立てて砕け散った。

 

『ギギィィィィィッ!?』

 

エンマーゴは盾が砕けた事に動揺を隠せないようであった。

 

≪よっしゃぁっ!! 赤城の姐さんの作戦通りだぜっ!≫

 

≪艦船<KAN-SEN>のお嬢さん方の攻撃で盾を熱膨張させ、タイガの『ウルトラブリザード』で急速冷凍させてから、すかさずの重い一撃を叩き込む! これによる分子を脆くさせる策! 見事だっ!≫

 

『ああ! 流石赤城さんだっ!』

 

『「ふっ」』

 

タイガが、カイン指揮官が、赤城に加賀に向かってサムズアップをした。

 

「「・・・・!」」

 

赤城に加賀も、それに答えてサムズアップする。そしてそれを見て、綾波達も笑みが生まれた。

するとその瞬間ーーーー。

 

ーーーーポゥ・・・・。

 

『?』

 

綾波とジャベリン、ユニコーンとラフィー、そして赤城と加賀の胸元から『光の球体』が飛び出ると、タイガのカラータイマーの中に吸い込まれていった。

 

『「っ、これは・・・・!?」』

 

カイン指揮官がその『光』を手に取ると、六つの光がーーーーリングへと変貌した。

一つは、綾波の対艦刀の周りに鬼の角が伸びたリング。

一つは、赤い炎を纏う九尾の狐のリング。

一つは、青い炎を纏う九尾の狐のリング。

 

『トモユキ! これってーーーー』

 

『「あぁ。『怪獣リング』と違う新たなリング、『艦船リング』だっ!」』

 

『ギギィィィィィッ!!』

 

と、ソコで漸くエンマーゴが起き上がり、自分の刀に『黒煙ブラックスモーク』を吐いて浴びせると、刀身が太刀ぐらいに太く大きく伸び、さらには真っ黒になり、手近の岩場を切り捨てると、斬られたその場が朽ちていく。

 

『「皆! 一気に攻めるぞ!」』

 

『≪≪おう!≫≫』

 

[カモン!]

 

カイン指揮官がタイガスパークを起動させ、『トライススクワッドレット』を嵌めた手をタイガスパークで読み込む。

 

[トライスクワッドレット! コネクトオン! トライスクワッドミラクル!]

 

トライブレードが現れ、カイン指揮官は握り、柄のスイッチを押して起動させると、柄の回転盤に手を添える。

 

『「燃え上がれ! 仲間とともに!!』

 

回転盤を回すと赤い火花が飛び散り、刀身内で炎が渦を巻くように先端へ上っていき、頂点に到達した。

 

『『『「バディ・・・・ゴーーーー!!!!」』』』

 

カイン指揮官の動きに合わせて、タイガとタイタスとフーマが、トライブレードを天に掲げ、スイッチを押すと、赤と黄と青の光が合わさり、タイガの姿が変わった。

 

『セヤッ!』『フンッ!』『シャァッ!!』

 

三人の声が交互に発し、タイガの身体が炎の渦に包まれ、ウルトラマンタイガ・トライストリウムへと変身し、右手にトライブレードを持った。

 

『トモユキ!!』

 

『「ああ! 行くぜ!」』

 

綾波のリング、『綾波リング』を中指に嵌め込むと、タイガスパークに読み込ませた。

 

[カモン! 綾波! エンゲージ!]

 

ーーーーふっ!

 

カイン指揮官の隣に綾波の幻影が現れると、その幻影が粒子となり、タイガのトライブレードを持っていない左手に何とーーーー綾波の対艦刀が握られた。

 

 

 

 

ー綾波sideー

 

「えぇっ!? タイガさんが、綾波ちゃんの刀を持ったよ!?」

 

「これはビックリ・・・・」

 

「すごい、ね・・・・!」

 

「指揮官・・・・」

 

綾波達も、この現象に驚きを隠せなかった。

 

 

 

 

ータイガsideー

 

『こっからが、本番だっ!!』

 

『ギィィィィィッ!!』

 

エンマーゴが雄叫びを上げて太刀を振るうが、トライブレードで塞がれ、対艦刀に斬られる。

 

『ギワッ!!』

 

『はぁぁぁぁぁっ!!』

 

タイガは一瞬怯んだエンマーゴにトライブレードと対艦刀で何度も斬り込んでいく。

 

『ギワァァァァァァァァァァ!!』

 

大きく後退したエンマーゴは、太刀にさらに『黒煙ブラックスモーク』を吐きかけ、自分の身の丈以上に刀身を大きくすると、振り下ろし、黒煙が真っ直ぐにタイガに向かってくる。

 

『「何のっ!」』

 

が、カイン指揮官は今度は、『赤い炎を纏う九尾の狐のリング』を読み込ませる。

 

[カモン! 赤城! エンゲージ!]

 

ーーーーっ!

 

カイン指揮官の隣に赤城の幻影が現れると、幻影赤い粒子となり、対艦刀の刀身に纏うと、赤い炎が刀身を包む。

 

『「もう一丁!」』

 

[カモン! 加賀! エンゲージ!]

 

今度は、『青い炎を纏う九尾の狐のリング』を読み込ませると、加賀の幻影が現れ、青い粒子となってトライブレードの刀身に纏った。

 

『ハァァァァァァァ・・・・!!』

 

タイガは赤と青の炎を纏った対艦刀とトライブレードを舞うように振るうと、炎の勢いはさらに増しーーーー。

 

『『双弧紅蓮擊』!!』

 

ーーーーコォォォォォォォォォォォォォォンン!!

 

二振りの剣を振り下ろすと、赤い炎を纏った黒い九尾と、青い炎を纏った白い九尾が飛び出し、『黒煙ブラックスモーク』を焼き消しながら突き進み、エンマーゴを引っ掻き、噛みつき、最後に回転しながら突進した。

 

『ギワァァァァァァァァァァ!!』

 

エンマーゴは二体の九尾の攻撃に倒れると九尾は回転しながら、ドロンッ! と消えた。

 

 

 

 

ー赤城sideー

 

「ええっ!? 今の狐って、赤城先輩と加賀先輩!?」

 

「まさか、あの二人のリングにはこんな力が・・・・!」

 

「・・・・勝ちましたね」

 

「ええ・・・・」

 

瑞鶴と翔鶴が驚くが、加賀に赤城は勝利を確信した。

 

 

 

 

ータイガsideー

 

『「タイガ! 決めるぞ!」』

 

『ああ!』

 

カイン指揮官がトライブレードのボタンを長押しすると、タイガはトライブレードを逆手に持ちかえ、対艦刀の刀身に回転盤を滑らしながら回すと、トライブレードに真紅の炎が、対艦刀には桜色の炎が発生し、刀身に纏った。

 

『ギギィィィィィッ!!』

 

エンマーゴは太刀を振り上げてタイガに迫る。タイガはまるで摺り足のように海面を滑りながら、二振りを構えてエンマーゴと肉薄し、両者の間に閃光が閃いた。

 

『シュワッ!!』

 

振り下ろされる太刀の刀身をトライブレードで切り捨てると、対艦刀でエンマーゴの身体を斬る。

 

『ギァァァァァァァァァァ!!』

 

タイガはエンマーゴをさらに切りつけると、二振りの剣で、エンマーゴを十字に切り捨てた。

 

『『鬼神炎舞』・・・・!!』

 

タイガが呟くと、エンマーゴの斬られた傷口から、真紅の炎と桜色の炎が吹き出し、二色の火の粉が飛び散り、あたかも真紅の花びらと桜の花びらが舞っているかのような、幻想的な姿を見せーーーー。

 

ーーーードガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンンン!!!

 

エンマーゴの身体は爆散した。

 

『・・・・・・・・』

 

タイガは二振りの剣を下ろした。

 

『やったぁぁぁぁぁっ!!』

 

近くでジャベリン達が歓喜の叫びを上げるのであった。

 

 

 

 

 

ーカインsideー

 

変身を解除したカイン指揮官の元に、艦船<KAN-SEN>達が集まった。

 

「指揮官! 凄かったですね! こう、燃える狐さんを二匹も出したり! 綾波ちゃんの刀を出してズバッと斬っちゃったり!」

 

「お兄ちゃん、あれどうやって出したの?」

 

「・・・・多分、この指輪のお陰だと思う」

 

カイン指揮官が手のひらにある、綾波と赤城に加賀をイメージさせる意匠がされた三つの指輪を見せた。

 

「この指輪って・・・・赤城先輩に加賀先輩?」

 

「・・・・こっちの指輪は綾波」

 

「『怪獣リング』とは違うリング、『艦船リング』って所かな?」

 

瑞鶴とラフィーが、指輪を見てそう言うと、一同は綾波達に目を向ける。

 

「綾波! これってどうやったんだ!?」

 

「スゴいのだ! 雪風様にもどうすれば良いのか教えるのだ!」

 

「赤城に加賀! こんな隠し玉を持っていたのかよ!?」

 

「どうせならもっと早く出して欲しかったですねぇ~」

 

「そう言うなよ翔鶴。二人のお陰で、勝てたような物だしさ」

 

カイン指揮官が毒を吐く翔鶴にそう言うと、赤城と加賀の肩に手をおいた。

 

「ありがとな、赤城、加賀」

 

「「っ・・・・はっ!」」

 

口元に小さな笑みを浮かべた二人が頷いた。

 

「さて、と。伊勢、日向。酒は見つかったか?」

 

「応よ指揮官!」

 

「純米酒がこんなにズラリとな」

 

二人は何十本もの一升瓶の重桜産の純米酒を持った。

 

「翔鶴、瑞鶴。和菓子の方は?」

 

「今丁度、物資船が来たそうよ」

 

「和菓子や材料もいっぱいあるって!」

 

「良し、それじゃアズールレーン母港に帰るのは明後日にして、今日は重桜母港でゆっくりするぞ!」

 

『おおー!』

 

カイン指揮官の言葉に、その場にいる艦船<KAN-SEN>達が喜びの声をあげたその時ーーーー。

 

「指揮かーん! 大変にゃ! マグマ星人とマーキンド星人がどさくさ紛れに逃げたにゃ!」

 

『あらっ!?』

 

明石の慌てた声に、全員がカクンッとなった。

 

 

 

 

 

ーマーキンドsideー

 

マグマ星人とマーキンド星人は、エンマーゴとウルトラマンタイガの戦いで艦船<KAN-SEN>達の監視が弛んだ隙に、明石の潜水艦を使って逃げたのであった。

 

『逃げたのは良いですけどマグマ。これからどうしましょうか? まだヴィラン・ギルドにも戻れませんし』

 

『取り敢えず海だとあの連中に見つかるかも知れねぇしよ。『サディア帝国』って所に行ってみるか? 上手い飯がいっぱい有るって言うしよ』

 

重桜母港から数キロ離れた海上に浮上させた潜水艦から顔を出して、『サディア帝国』に向かおうかと相談する二人。

 

「サディアに向かうなら、私とも一緒に来てくれるかしら?」

 

『『っ!!?』』

 

突然声をかけられ、ビクッとした二人が声がした方に目を向けるとーーーー。

 

『あぁっ! あの銀髪と赤メッシュは!』

 

『あの見えそうで見えない際どい下半身の服装は!』

 

『『て、鉄血の・・・・!!』』

 

二人は、鉄血の艦船<KAN-SEN>、プリンツ・オイゲンとその姉のアドミラル・ヒッパーともう一人、Z1<レーベ>がいた。

 

「ヴィラン・ギルドのお二人さん。うちの総統閣下が、あなた達をお呼びよ」

 

『『へ?』』

 

オイゲンの言葉に、二人は間の抜けた声を発した。

 

 

 

 

 

 

 

ーカインsideー

 

重桜母港の浜辺で綾波とジャベリンとラフィーとユニコーンが、時雨と雪風と夕立とビーチバレーをしている(ちなみにタイタスは審判役、フーマは得点役)のを眺めながら、カイン指揮官は赤城に酌をされながら酒を呑んでいた。

 

「指揮官様。あの二人は放置しておいて宜しいので?」

 

「ま、逃げられたのは仕方ないさ。明石もあの潜水艦に発信器を付けておいたから、彼らの動きはある程度分かるよ」

 

「そうですか」

 

「ほら、赤城も」

 

今度は赤城に酌するカイン指揮官。

 

「はい。では」

 

「うん」

 

ーーーーちん。

 

二人は小さく乾杯しながら、酒を飲んだ。純米酒と米で作ったおはぎが意外にも合って酒が進む。

そしてーーーー。

 

「指揮官様~~~~~♥️ 赤城はとっても寂しかったんですのよぉ!♥️♥️♥️♥️♥️」

 

「うわぁ! 赤城が元に戻ってくれて嬉しいけど、暑苦しいぃぃ! 「「指揮官(様ぁ)~」」っ!! た、『大鳳』! じ、『隼鷹』」

 

ソコに新たに現れたの艦船<KAN-SEN>は。

濁った血のような紅い目に黒い長髪をツインテールにし、手には鉄扇を持ち、服装は羽織りと上着を一体化させ全体的に赤黒く禍々しい。黒ニーソとミニスカートの絶対領域をそして、重桜でもトップレベルの圧倒的なバストサイズをした『重桜所属 空母 大鳳』。

紫色のショートヘアーに牛のような角が伸び、袖の広い着物にミニスカートを着用し、大きな胸にメリハリのあるプロポーションをした、カイン指揮官を『オササナジミ』と呼ぶ『重桜所属 軽空母 隼鷹』だった。

 

「せっかくのお酒なのに、赤城先輩に絡まれては指揮官様もお酒を楽しめませんわぁ。ここは、この大鳳が指揮官のお相手を♥️」

 

「いいえ。ここは、『オササナジミ』である私と、一緒お酒を楽しみましょう♥️」

 

二人共、アズールレーン母港で留守番をしている愛宕や今まさに指揮官にベッタリと抱きついている赤城に負けず劣らずカイン指揮官への想いが重い艦船<KAN-SEN>ばかりである。

 

「退きなさいあなた達。指揮官様は私とお酒を飲むのよ」

 

「いいえ、指揮官様はこの大鳳と飲むのです」

 

「『オササナジミ』の私を差し置いて良くいえるわねぇ」

 

三人の間に不穏な火花が激しく飛び散った。

 

「加賀! 助けてくれぇ!」

 

「はぁ・・・・分かった分かった」

 

伊勢と日向に絡まれて酒を飲んでいた加賀も、三人に囲まれたカイン指揮官を、苦笑しながら助けに向かった。

 

≪へへっ、懐かしい光景だぜ≫

 

その姿を眺めながら、タイガは楽しそうな声をあげるのであった。

 

そしてその後、今回のように怪獣が現れる危険性があるので、重桜上層部は母港を全線基地として配置する事を決め、封鎖を取り消した。

 

 

 

 

 

ーユニオンsideー

 

ソコは、ユニオンの領海にある保養地の島。負傷した艦船<KAN-SEN>達の治療が行われているそこに、一人の艦船<KAN-SEN>が末妹から送られた写真を見て、笑みを浮かべていた。

 

「ふふふ。エンタープライズちゃんも元気そうね・・・・」

 

その写真には、書類仕事に頭を悩ませているエンタープライズの姿が写されていた。

 

「さぁ、私もリハビリを頑張らなくっちゃ」

 

“新しい足”で身体を支えながら、『ユニオン所属 空母 ヨークタウン』は歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

ー霧崎sideー

 

そして、その保養地の島のとある研究施設。広いドーム状の研究場にて、霧崎はドーム中央に置かれた機材の上にあるーーーー『隕石』を見上げる。

 

「ふぅん。これは、面白いヤツか来たねぇ・・・・!」

 

“隕石の中にいる生物”を透視して、霧崎は、ウルトラマントレギアは、不気味な笑みを浮かべながらその場を去る。

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

“隕石の中の生物”は、うっすらと目を開くと、不気味な光を放っていた。

 




『艦船リング』はこれから続々出てきます。
鉄血に連れていかれたマグマとマーキンドの運命は?
そして次回、ユニオンが見つけた隕石から、とんでもないモンスターがっ!


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【隕石】宇宙からの脅威

今回、ボイスドラマのキャラが出てきます。そして今回の怪獣は、ラスボス扱です。


ー???sideー

 

ここはタイガ達がいる世界とは異なる平行宇宙、ウルトラマンタイタスの故郷である『Uー40宇宙』。その宇宙にある『黄金卿』とも、『黄金惑星』とも呼ばれる星、『惑星ジー』の『王都アルダハ』にて、1人のウルトラ戦士が訪れた。

赤と白の身体に、額と胸にはタイタスと同じスターシンボルとスターマークを持ち、筋骨隆々なタイタスよりも、細く引き締まった筋肉をしたウルトラマン、『ウルトラマンジョーニアス』である。

 

「良く来てくれた。『Uー40』の勇者、ウルトラマンジョーニアス殿。こうして会えるとは、光栄な事だ」

 

『ありがとうございます。この度は謁見の機を賜り、私も光栄に存じます。『アウサル王』』

 

玉座に座り、ジョーニアスが会釈した相手こそ、この惑星ジーの王政の代表、つまり王である『アウサル13世』であった。

 

「それでジョーニアス殿。貴殿程の御仁が我が星に来られたのは、以前より我が星と貴殿の星が合同で開発しているーーーー『アレ』の事だろうか?」

 

『はい。本来ならば『アレ』は、平行宇宙を旅しているタイタスに持たせる予定でしたが・・・・』

 

「タイタスは、トレギアなる邪悪な存在に倒され、生死不明との報を受けた。我が妹『ネフティ』も、それを聞いて酷く落ち込んでしまい、未だに部屋から出てこないのだ・・・・」

 

『はい。ですが、『光の国』のウルトラ戦士から、タイタスの生存の報せが来たのです』

 

ジョーニアスから、タイタス生存の報告を聞くと、アウサル13世は玉座から少し身を乗りだし、嬉しそうな声を上げる。

 

「おおっ! そうであったか! これを聞けば妹もきっと元気になるだろう!」

 

アウサル13世とその妹のネフティ、そしてタイタスの関係は今は置いておき、ジョーニアスは本題を切り出した。

 

『実は、タイタスは『光の国』のウルトラ戦士。『O-50』のウルトラ戦士と共に、ある星で邪悪な者達と戦っているようなのですが、次第に敵の力が増大しているようなのです。ーーーーアウサル王』

 

ジョーニアスが声を上げる前に、アウサル13世は片手を上げて、ジョーニアスの言葉を制止する。

 

「みなまで言わなくても構わぬジョーニアス殿。開発途中である『アレ』の完成を急がせよう。そして、それを我が星を救ってくれた〈力の賢者〉に」

 

『はっ! ありがとうございます!』

 

「何。我が星の救世者の為ならば、我々も協力を惜しまん」

 

アウサル13世がそう言うと、玉座から立ち上がり、ジョーニアスと共に、タイタスに与える『新たな力』の元へと向かった。

 

 

 

 

 

ーカインsideー

 

「どうだ明石、夕張、 『艦船リング』は?」

 

「むむむにゃ・・・・」

 

「ぬぬぬ・・・・」

 

カイン指揮官は現在、明石と『重桜所属 軽巡洋艦 夕張』の『アズールレーン科学部』が、前回の重桜で現れた綾波と赤城と加賀の『艦船リング』の解析と分析を進めていた。

 

「間違いにゃく。このリングは『怪獣リング』と同じ物質で作られているにゃ。でも、何か違う感じがするにゃ」

 

「そうか」

 

明石と夕張が渋面を作って首を捻らせると、カイン指揮官は『綾波の艦船リング』を手に取った。

 

「ご主人。大丈夫なのか?」

 

「・・・・・・・・」

 

夕張が心配そうな声を発するが、カイン指揮官は『艦船リング』をジッと見据える。

 

「(・・・・どう思う皆? 俺は禍々しい気配は感じないけど)」

 

≪ああ。俺もそう感じる。このリングは『怪獣リング』とは違うと思うぜ≫

 

≪つー事は、トレギアとは関係無しって事か?≫

 

≪ふむ。取り敢えず、封印とはいかなくても、保管をしておくしかないだろう≫

 

トライスクワッドの面々もそう言うと、カイン指揮官は頷き、『艦船リング』をリングケースに入れ、明石と夕張のいる解析室を出て、執務室へと戻っていった。

部屋に入ると、本日の秘書艦であるクリーブランドと補佐のモントピリアの他に、ホーネットとヴェスタル、そしてハムマンがいた。

 

「おっ、ホーネットにヴェスタルにハムマン、どうしたんだ?」

 

「うん。実は保養地にいるヨークタウン姉からメールが来てさぁ」

 

「ヨークタウン? エンタープライズとホーネットのお姉さんか。確か負傷して保養地で療養中って聞いたけど」

 

「ヨークタウン姉さん、やっと足が元に戻って、今リハビリを頑張っているのだ! もしかしたら、この母港にも来てくれるかも知れないのだ!」

 

ヨークタウンを慕っているハムマンが、涙を浮かべながら声をあげた。

 

「ユニオンのヨークタウンか・・・・その実力は長門に陸奥、ネルソンにロドニーと同じ『ビックセブン』であるユニオンの戦艦、『ウェストバージニア』。『コロラド』。『メリーランド』に匹敵する程の実力者だって聞いたな」

 

≪って事は、それだけ強い艦<人>が来るって事か!?≫

 

≪まだリハビリ中だろう? そんなにすぐに着任されないだろう≫

 

≪早く来てくれると良いな? エンタープライズ姐さんにホーネットの嬢ちゃん。後、ハムマン嬢ちゃん≫

 

「そうなのだ!」

 

ホーネットから、ハムマンはヨークタウンの事を実の姉のように慕っていたと聞いていたから、喜びもひとしおなのだろうと、カイン指揮官は思った。

 

「ん・・・・そう言えば」

 

が、ふとカイン指揮官の脳裏に、“ある報告書”の事が浮かんだ。

カイン指揮官が執務机の近くに置かれた棚、それぞれ重桜用。ロイヤル用。東煌用。ユニオン用と区別されている棚のユニオン用からファイルを取りだし、ペラペラとページを捲ると、あるページを見つけ出した。

カイン指揮官の様子が気になり、執務机に集まったクリーブランド達にも見えるように広げる。

 

「指揮官。これって・・・・」

 

「『オロチ戦役』が終わってすぐの頃、ユニオンの陸地に直径三メートルの隕石が落下したって報告が入ってね。解析の為にユニオン軍の宇宙研究チームが自分達の研究施設に持っていったって報告が入ったんだ。見て、その研究施設のある場所」

 

「あっ、ヨークタウン姉のいる保養地の近くだ」

 

カイン指揮官が指差した研究施設がある場所は何と、ヨークタウンが療養している島から二~三キロメートルと、割りと近い場所にあったのだ。

 

「それで、これがどうかしたのか指揮官?」

 

「・・・・嫌な予感がするんだよね。今までの経験から、こういう状況だと・・・・」

 

『あ・・・・』

 

モントピリアは怪訝そうな顔で問うが、カイン指揮官がこれまでの経験から来る嫌な予感を告げると、全員が察したような声を上げた。

 

「いやいやいやいやいや。指揮官、考えすぎだって、まさかこの隕石が、怪獣だなんてそんな・・・・」

 

「タイタスさん。隕石から怪獣が生まれる、なんて事あり得ませんよね? しかも直径三メートルですよ・・・・」

 

≪・・・・いや、そうとも限らないのだヴェスタル嬢。怪獣の中には、隕石の形に擬態してくるタイプ。小さな隕石が周りの鉱物等を集めて身体を形成するタイプ。もしくはーーーー“自身の身体を小さくして隕石の中に潜んでいるタイプ”等がいるのだ≫

 

カイン指揮官の言葉に、クリーブランドは苦笑しながら否定し、ヴェスタルもタイタスに同意を得ようと声をかけるが、賢者のタイタスの言葉を聞いて、自分達も嫌な予感を感じた。

すると、ハムマンが部屋を出ようと飛び出した。

 

「ハムマン!」

 

「ヨークタウン姉さんが危ないかも知れないのだ! すぐに行くのだぁ!」

 

と、言い出して、駆け出してしまったハムマン。

 

「・・・・はぁ、ホーネット」

 

「はいよ!」

 

カイン指揮官が短く言うと、ホーネットはすぐにハムマンを連れ戻しに追いかけた。

 

「指揮官。どうするの?」

 

「この嫌な予感が杞憂であればいいけど・・・・クリーブランド、今日の予定は全部キャンセル。すぐに動けるユニオン艦船<KAN-SEN>で部隊を編成。ヨークタウンのいる保養地を訪問しよう。ついでに、この研究施設への視察を含んで、ね」

 

「了解!」

 

クリーブランドは保養地への連絡を、モントピリアとヴェスタルは他のユニオン艦船<KAN-SEN>達の元へ向かった。

 

「じゃあとりあえずエンタープライズは外せないとしてーーーー」

 

カイン指揮官も、今日は瑞鶴に挑まれて模擬戦をしているエンタープライズを編成に入れる事を考えていた。

 

 

 

 

ー???sideー

 

その頃、件のユニオン研究施設では、隕石に異変が起こった。何とーーーー隕石から突如、大きなヒビが走り、ソレが隕石全体にまで到達すると、グシャァァァァァァン! と、盛大に砕け散ったのだ。

そして中から。

 

『クァァァァ・・・・!』

 

小さなウサギに良く似たピンク色の可愛らしい姿に緑色のクリンとした瞳の生物。明らかにこの星の生物ではない未知の生命体が現れたのだ。その容姿はとても愛らしく、見るものをつい笑みを浮かべさせる『地球外生命体』であった。研究員達、特に女性研究員達はその姿にメロメロになっていた。

それから暫くの間、『地球外生命体』、『ウィロン』と命名された生物は、あらゆる実験をされ、それら全てに耐えた。

流石に小さな生命体を心配した女性研究員達が、『ウィロン』の実験を中断させ、『ウィロン』を別室で休ませた。

 

『クァァァァ♥️』

 

『ウィロン』は女性研究員達に甘えるようにすり寄ったりし、女性研究員達も『ウィロン』を可愛がった。そして、女性研究員達がそれぞれトイレや呼び出し等で部屋を出ていき、部屋には『ウィロン』だけになる。

しかしーーーー。

 

「ーーーーやぁ」

 

『クァ?』

 

『ウィロン』の目の前に、突如として、霧崎が現れた。

 

「上手く人間の女の子達を手玉に取っているねぇ。流石だよ」

 

『・・・・・・・・・・・・フッ』

 

霧崎の言葉に、『ウィロン』は可愛らしい顔を歪ませて、口角を上げて笑みを浮かばせた。

 

「でも、ノンビリはしていられないよ。こちらの研究所に、光の戦士達と、それに追従する艦船<KAN-SEN>達を率いる指揮官が近づいている」

 

『・・・・・・・・』

 

「フフフフ・・・・」

 

『ウィロン』が視線を鋭くすると、霧崎はトレギアアイを取りだし、ウルトラマントレギアへと変身した。

 

『ここでちょっと力を蓄えてから動こうと思っていたようだけど、そんな回りくどい事をしなくても、私が力を貸してあげるよ』

 

トレギアはそう言うと、『ウィロン』に手を翳したその時、黒い稲妻がトレギアの手のひらから放たれ、『ウィロン』の身体に浴びせる。

 

『クァァァァ・・・・!』

 

が、『ウィロン』はその稲妻を浴びて、心地良さそうな声を上げた。

トレギアが稲妻を止めて手を引っ込めると、

 

『それじゃ、後は好きにしていいよ。ウイロン。ーーーーイヤ、『ソーキン・モンスター キングマイラ』』

 

そう言い、トレギアを消すと、『ウィロン』はその身体を紫色に変色させ、身体から鋭い爪や角を伸ばし、クリンとした瞳は細くつり上がり、尻から長い尻尾が伸び、真っ赤に染まった瞳で歪んだ笑みを浮かべた。

 

『トレギア・・・・!』

 

と、トレギアの名前を呟くと同時に、『ウィロン』の身体が変貌した。

 

 

 

 

 

 

 

 

その数分後、『ウィロン』にお菓子を持ってきた女性研究員達が部屋に戻ると、ソコに『ウィロン』の姿が無くなっていた。

女性研究員達は猫なで声で『ウィロン』の名を呼ぶと、背後からーーーーメキメキッ、と何かが音を立てて崩れそうになっている音と、何か得たいの知れない気配を感じて、恐る恐ると振り向くとソコには。

 

『ハァァァァァァァァ・・・・!!』

 

紫色の異形の怪物が、身体を巨大化させながら、部屋の天井を突き抜けようとしていた。

その異形の血のように真っ赤に染まった瞳を見た瞬間、女性研究員達は『死』を直感し、甲高い悲鳴を上げたその時、異形が天井を突き破り、部屋が崩れ、女性研究員達の真上に瓦礫が落ちたーーーー。

 

 

 

 

 

ーヨークタウンsideー

 

『ユニオン所属 空母 ヨークタウン』は、少しずつリハビリが上手く行き、遂に海上を滑れるようになるまで回復していた。

 

「・・・・よし」

 

「ヨークタウン姉さん!!」

 

「あら? 『シムス』ちゃん」

 

リハビリが快調に笑みを浮かべるヨークタウンの元へ、銀髪の長髪に犬耳が生え、緑色の瞳をしたハムマンと姉の小柄な艦船<KAN-SEN>、『ユニオン所属 駆逐艦 シムス』が大慌てで駆け寄ってきた。いつもはいたずらっ子の彼女らしくない狼狽した様子に、ヨークタウンは小さく眉根を寄せた。

 

「どうしたのシムスちゃん? そんなに慌てて」

 

「た、大変だよ! この保養地から少し離れた所にある研究所は知ってるよね!?」

 

「ええ。確か先日、ユニオンの領地に落下した隕石の研究をしているって聞いたわね?」

 

「ちょっと、偵察任務でその研究所の近くを通ったら、その研究所からーーーー怪物が現れたのッ!!」

 

「えっ?」

 

ーーーーギシャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッ!!!!

 

「っ!?」

 

「来たぁ!」

 

ヨークタウンが遠くから聞こえる声に目を向けると、数十メートルはあろう巨大な身体に発達し、筋骨隆々な逞しい筋肉の鎧のようなマッチョな姿になり、尻尾に先にキバが生えた口がある怪物。

まるでーーーーおとぎ話に出てくる悪魔のような姿であった。

 

「あれはまさかーーーー怪獣っ!?」

 

ヨークタウンは、初めて見る怪獣を見て、驚愕に目を見開いた。

 

ーーーーババババババババババババババババ!!

 

と、ソコで、その怪獣に向かって、艦載機が飛んで来て、機銃の弾丸を叩き込んだ。

 

「あれはーーーー」

 

ヨークタウンは艦載機が飛んできた方向に目を向けると、艦隊と共にやって来たーーーー大切な妹達が見つけた。

 

「っ! エンタープライズちゃん!? ホーネットちゃん!? ハムマンちゃん! ヴェスタルちゃん!」

 

そう。エンタープライズとホーネット、ハムマンにヴェスタル。そしてアズールレーン艦隊だった。

 

 

 

 

ーカインsideー

 

「何だぁ!? あのムキムキな怪獣は!?」

 

カイン指揮官達アズールレーン艦隊は、ユニオンの研究所の近くに到着し、研究所に訪問の連絡を入れようとした矢先。

 

【《助けてくぇっ!! ば、化け物がーーーー(ドガァァァァァァァァァンン!! ブツッ・・・・)》】

 

と、ソコで、何かが崩れ落ちるような激しい音と共に通信が途切れ、嫌な予感が的中したと確信したカイン指揮官は、エンタープライズとホーネットとハムマンとヴェスタルを先行させようとしたその時、研究所から紫色の筋骨隆々の怪獣が現れ、エンタープライズとホーネットが艦載機を飛ばして先制攻撃を与えた。

 

「うわぁ~! 顔もスッゴく恐いです!」

 

「・・・・何か大きくなってる?」

 

「指揮官。あの怪獣は何なんです?」

 

ジャベリンとラフィーと綾波(今回ユニコーンは別任務で不在)が、紫色の怪獣を見上げながらカイン指揮官に問うと、カイン指揮官の肩の上に、タイタスが現れた。

 

≪あの怪獣は! 『ソーキン・モンスター』!≫

 

「えっ? 『ゾウキン・モンスター』?」

 

「『ソーキン・モンスター』」

 

ジャベリンが雑巾を持って言うと、ラフィーは静かにツッコんだ。

 

≪『ソーキン・モンスター』は、邪悪な生命体が跋扈する『怪獣惑星』と呼ばれるほどの危険地帯である『惑星ソーキン』の怪獣だ! その中でも特に凶悪な怪獣が奴、『超変身怪獣 キングマイラ』だ!≫

 

『ギシャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッ!!!!』

 

タイタスがそう言うと、『超変身怪獣 キングマイラ』は両手を上げて雄叫びを上げた。




次回、無限に成長する怪獣に、ウルトラマンタイガが苦戦!?


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【成長】変貌するその姿

ーカインsideー

 

「全艦に通達! 前方の怪獣は『超変身怪獣 キングマイラ』と呼称! 奴の進行を止めるんだ! 全艦、攻撃開始!」

 

『了解!!』

 

カイン指揮官が指示すると、クリーブランド姉妹、『海上騎士団<ソロモンネイビーキャバリアーズ>』が先陣を切って、砲撃をキングマイラを叩きつけた。

 

『ギシャァァァァァァァッ!!』

 

キングマイラは砲撃のダメージで悲鳴を上げる。

 

「行くわよセントルイス!」

 

「ええ、ホノルル!」

 

クリーブランドに続くようにセントルイスとホノルルが続いて攻撃を繰り出す。

さらに、右サイドに編み込まれた茶髪のショートヘアーに金色の瞳をし、頼れるお姉さんな雰囲気をした『ユニオン所属 重巡洋艦 ボルチモア』と、黒いメッシュがついたピンク色のツインテールにスポーツ用のサングラスを頭に掛け、何処と無くギャルの雰囲気をした『ユニオン所属 重巡洋艦 ブレマートン』も、遅れてなるものか、と駆け出し、砲撃を放つ。他のユニオン艦船<KAN-SEN>達も参加していく。

 

「エンタープライズ! ホーネット! ハムマン! ヴェスタル! 向こうにいる艦船<KAN-SEN>達と救援に向かってくれ」

 

《『っ、了解!』》

 

ソコにいるのはヨークタウンである事を察していたカイン指揮官は、エンタープライズ達を向かわせると、隣にいるラフィーの肩に飛び移ったタイタスに目を向けた。

 

「タイタス。あの怪獣、キングマイラってのは一体なんなんだ?」

 

『惑星ソーキンに生息している怪獣で、ウルトラ戦士の間では、その惑星で独自に進化した怪獣達を『ソーキン・モンスター』と称されているのだ。中でもキングマイラは数十分毎に成長する特異な怪獣だ』

 

「成長する怪獣・・・・です?」

 

「どんな成長をするんですか?」

 

そのラフィーの隣に立つ綾波とジャベリンが首を傾げながら聞くと、タイタスは難し気に息を吐き出しながら答える。

 

『ただ、身体が大きくなるだけではない。見て見なさい』

 

『グゥゥゥ・・・・ギシャァァァァァァァッ!!』

 

タイタスがキングマイラを指差すと、キングマイラの身体が弱冠大きくなり、筋肉も肥大化したのが分かる。

 

「成る程。成長と言うよりも、進化する怪獣って訳ね・・・・」

 

《指揮官。こちらヘレナ》

 

「ん、どうした?」

 

通信インカムから、キングマイラが現れた研究所に向かわせた部隊に編成されたヘレナの声が聞こえてくる。

 

《研究所の方に、着きました》

 

「っ、そうか。職員達は?」

 

《・・・・・・・・・・・・》

 

索敵能力のあるヘレナが無言になり、その意図を汲み取ったカイン指揮官は一瞬悲痛な顔になると、すぐに顔を引き締めた。

 

「ーーーー分かった。ヘレナ達も戻って来てくれ。相手は数十分毎に成長する怪獣だ。放っておけば、数日後にはこの星よりも巨大になってしまうかも知れないからね」

 

《『了解!』》

 

カイン指揮官の指示に、ヘレナ達は力強く返答した。

 

 

 

ーヨークタウンsideー

 

「皆・・・・来てくれたんだぁ・・・・!」

 

シムスが、嬉しそうに呟くと、

 

「シムスー! ヨークタウン姉さーん!!」

 

「「ハムマン(ちゃん)!」」

 

感極まったハムマンが、ヨークタウンに抱きついた。

 

「ヨークタウン姉さん! また動けるようになったのだ! 良かったのだー!」

 

「ハムマンちゃん」

 

ハムマンが泣きながら喜ぶ姿を見て、ヨークタウンも笑みを浮かべると、エンタープライズとホーネットが近づく。

 

「エンタープライズ。ホーネット」

 

「ーーーー久しぶりだな。ヨークタウン姉さん」

 

「ヨークタウン姉、ひっさしぶり~♪」

 

久しぶりに出会った姉妹達、特にエンタープライズが気がかりだったのだが、目を見た瞬間、ヨークタウンは察したように笑みを浮かべる。

 

「『迷い』、晴れたの?」

 

「・・・・ああ、心配をかけてすまなかったね姉さん。指揮官と、仲間達のお陰で、私の『戦う理由』ができた」

 

小さく笑みを浮かべて答えるエンタープライズ。

がーーーー。

 

『ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!』

 

そんな空気を打ち砕くように、キングマイラが雄叫びを上げた。

 

『っ!』

 

それを見上げて、エンタープライズ達は目を鋭くする。

 

「姉さんはまだリハビリ中だ。無理はしないでくれ。指揮官の艦に退避を。シムスもな。ヴェスタルとハムマンは二人を護衛を」

 

「「了解(なのだ)!」」

 

「ちょっーーーーエンタープライズにホーネットは!?」

 

「私達は、あの怪獣と戦うよ。指揮官からの連絡だと、あの怪獣放っておくと、この星よりも大きくなっちゃうようだからね」

 

「行くぞ、ホーネット!」

 

「OK! エンプラ姉!!」

 

エンタープライズとホーネットが艦載機を飛ばすとその操縦席の上に立ち乗りし、キングマイラを上から機関銃で攻撃した。

 

「さ、ヨークタウンさん。シムスちゃん。こっちよ」

 

「急いで離れるのだ!」

 

ヴェスタルとハムマンに連れられ、ヨークタウンとシムスは、カイン指揮官の艦に向かった。

 

 

 

 

 

ーエンタープライズsideー

 

『ギシャァァァァァァァッ!!』

 

「っ!」

 

「アタック!」

 

エンタープライズがアーチェリーを放ち、キングマイラを攻撃し、ホーネットは巧みな操作で艦載機を動かして、撹乱し機銃で攻撃する。

キングマイラの足元では、他のユニオン艦船<KAN-SEN>達が砲撃を放ち続けていた。

 

『グゥゥゥゥ、ギシャァッ!!』

 

鬱陶しく感じたのか、キングマイラが唸ると、長く太く伸びた尻尾を上げた次の瞬間、尻尾が三股に裂け、その先端にキバを生やした口が現れた。

 

「「!?」」

 

エンタープライズとホーネットが驚くと、キングマイラは三股となった尻尾を動かし、エンタープライズ達を捕らえようとした。

 

「ホーネット!」

 

「オーライ!」

 

エンタープライズが声を掛けると、ホーネットの乗る艦載機が迫り来る尻尾のキバから回避した。

その時ーーーー。

 

ーーーーグチュグチュグチュグチュ・・・・グパァッ!

 

『『シャァァァ・・・・!』』

 

なんと、キングマイラの両肩の筋肉がうねるように動くと、肩を突き破って、キバのある口が着いた触手が伸び、更に両肩の周り、脇腹、太ももにも小さな角が生え、頭の角も左右の角が枝分かれし、前頭部にまで湾曲して生え、さらに胴体の胸元に、爪が生えた小さな手まで現れた。

 

『ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!』

 

『うわあぁっ!?』

 

更に禍々しい姿になったキングマイラに、艦船<KAN-SEN>達はドン引きした。

 

『ギシャァァァァァァァッ!!』

 

キングマイラは口から、肩の触手から火炎を放射し、口から、たの火炎を空中のエンタープライズとホーネットに、触手の火炎をクリーブランド達に放つ。

 

「くっ!」

 

「わぉっ!」

 

エンタープライズとホーネットは艦載機を操作して火炎を回避すると、海面にいるクリーブランド達も回避すると、海面に火炎が当たり、ジュワァ~・・・・と言う音ともに、白い煙が辺りに立ち込めた。

 

「うわっ! 何これ!?」

 

「海面が炎に蒸発されて、水蒸気を生み出したんだわ!」

 

煙、水蒸気に視界を奪われ、驚くクリーブランドに、セントルイスが声を発した。

 

「エンプラ姉! 皆が!」

 

「っ!」

 

エンタープライズとホーネットは、水蒸気に包まれてしまったクリーブランドに目を向けたその瞬間。

 

『ギシャァァァァァァァッ!!』

 

「「はっ!」」

 

二人は自分達に襲いくるキングマイラの三つの尻尾から、艦載機を動かして回避した。

が、三つの尻尾は鞭のように撓りながら、エンタープライズとホーネットに襲い掛かる。

 

『ギィィィィィィィィ!』

 

キングマイラはエンタープライズとホーネットの相手を尻尾にさせながら、水蒸気に包まれたクリーブランド達の元へと歩みだした。

 

「アイツまさか! エンプラ姉! アイツ、水蒸気で視界が封じられた皆の所にいくつもりだよ!」

 

「っ!」

 

今クリーブランド達は水蒸気で視界が聞かない。セレナのような索敵能力があれば、風上に逃げて水蒸気から逃れられるだろうが、その前にキングマイラに踏み潰されてしまう。

 

「不味いな・・・・! 指揮官!!」

 

エンタープライズは、カイン指揮官に連絡をいれた。

 

 

 

 

ーカインsideー

 

「分かっている! クリーブランド! キングマイラがそっちに向かっている! 風の動きを読んで、風上に逃げて水蒸気から脱出するんだ!」

 

エンタープライズの通信に返答したカイン指揮官が、クリーブランド達に脱出を指示するが。

 

《了解・・・・って言いたいけど! 私達が脱出する前に怪獣の方が来ちゃうかも!》

 

「分かった! それならーーーー」

 

「「指揮官!!」」

 

「ととっ!ハムマン! ヴェスタル! それに・・・・」

 

タイガスパークを起動させようとするカイン指揮官の後方から、ハムマンとヴェスタルの声が響いて後ろを振り向くと、ソコにはヨークタウンとシムス、それに保養地ですいた艦船<KAN-SEN>達が、指揮官専用艦に避難したようだ。

 

「こんな形だが、はじめましてヨークタウン。俺がアズールレーン母港の指揮官。カイン・オーシャンだ」

 

「はい。お名前は、ハムマンちゃんからのメールでご存知ですよ」

 

「ハムマンちゃんが?」

 

ジャベリンとラフィーと綾波がハムマンに半眼でジト目になる。普段からカイン指揮官への態度は、お世辞にも良いとは言えないハムマンのメールだ。カイン指揮官のあらぬ事を言いふらしている可能性があると思ったのだろう。

 

「ち、ちゃんと事実を報告しているのだ!/////」

 

綾波達の視線の意味を察したのか、ハムマンは頬を紅潮させながらそう声を上げた。

 

「・・・・まぁ、今はそれよりも、アイツをどうにかしないとな(だが・・・・)」

 

「安心して指揮官。ハムマンちゃんが、“彼ら三人の事”もメールで話しちゃっていたみたいだから」

 

『ハムマン(ちゃん)・・・・』

 

「あうぅぅぅ~・・・・」

 

ヴェスタルの言葉に、カイン指揮官に綾波達、さらにタイガ達からもジト目を向けられたハムマンは、バツが悪そうにヨークタウンの背中に隠れた。

カイン指揮官はやれやれと肩を落とすと、気を取り直した。

 

「ーーーー全くもう。・・・・行くぞタイガ!」

 

≪ああ!≫

 

カイン指揮官はタイガスパークを起動させる。

 

[カモン!]

 

腰につけた『タイガキーホルダーを左手に掴むと、赤い宇宙のようなインナースペースが広がる。

 

「光の勇者! タイガ!!」

 

カイン指揮官は左手に持ったタイガキーホルダーを突き出すと、右掌に翳すように持ってくると、タイガキーホルダー』の中心の水晶から、赤いエネルギーが右掌を通して、手甲の水晶に吸収されると、水晶が赤く輝き、タイガキーホルダーを握る。

 

「バディィィィィィィゴーーーーーー!!」

 

[ウルトラマンタイガ!]

 

『ーーーーシュアッ!!』

 

ウルトラマンタイガが飛び出していった。

 

 

 

 

 

ーエンタープライズsideー

 

カイン指揮官がタイガスパークを起動させてすぐの時、キングマイラの尻尾から回避していたエンタープライズとホーネットは。

 

「ーーーーっ、しまった!」

 

「エンプラ姉うわっ!?」

 

二人の艦載機が、とうとう捕まってしまい。キングマイラがニヤリ、と笑みを浮かべるように口の端を小さく上げると、

 

『ギシャァァァァァァァッ!!』

 

尻尾を大きく振って、エンタープライズとホーネットを振り下ろした。

 

「「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」

 

悲鳴を上げる二人。その時ーーーー。

 

『タイガキック!!』

 

丁度駆けつけたタイガが二人を両手で優しく受け止めると、そのままキングマイラに向けて蹴りを叩き込んだ。

 

『ギシャァァァァァァァッ!?』

 

ーーーーザパァァァァァァァァァァァァンンッ!!

 

キングマイラは突然の攻撃にバランスを崩して倒れると、大きな波を上げた。

 

『っと、エンタープライズ! ホーネット! 大丈夫か!?』

 

タイガが掌に乗せたエンタープライズとホーネットに声をかけると、二人とも頭を数回横に振ると、顔を上げてきた。

 

「あぁ・・・・大丈夫だタイガ」

 

「アタシ達の事よりも、アイツを!」

 

『ああ!』

 

タイガはエンタープライズとホーネットを、水蒸気から脱出したクリーブランド達に任せると、起き上がったキングマイラを見据えた。

 

『ギシャアアアアアアアアアアッ!!』

 

『シャッ!』

 

キングマイラが両手を上げてタイガに突き出しながら迫りくると、タイガもキングマイラの両手を掴んで押し合いを始める。

 

『くぅぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・・!!』

 

『ギィィィィィィィィィ・・・・!!』

 

お互いにグググググっと、音を鳴らしながら力比べをする。

 

 

 

 

 

ーヨークタウンsideー

 

「あれが・・・・ウルトラマン・・・・!」

 

「そうなのだ! ハムマン達と一緒に戦ってくれる仲間なんだよ!」

 

ヨークタウンが生で初めて見るウルトラマンの姿に、少し目を見開いて見ていた。シムスに他のユニオン艦船<KAN-SEN>達も、ウルトラマンタイガを見据えていた。

 

「・・・・・・・・・・・・駄目かも」

 

「えっ? どうしたのラフィーちゃん?」

 

ラフィーがボゥと呟くと、ジャベリンがどういう事なのかと聞くと、ラフィーが淡々と答える。

 

「・・・・そろそろあの怪獣、また成長する」

 

『えっ!?』

 

ラフィーの言葉に一同が目を向けたその瞬間、

 

『ギシャアアアアアアアアアアッ!!』

 

『っ!』

 

キングマイラの雄叫びが聞こえ、再び目を向けると、タイガと同じくらいの大きさだったキングマイラの身体が、タイガよりも一回りも大きくなった。

 

 

 

ータイガsideー

 

『うおっ!? こ、コイツ・・・・!!』

 

『「また成長したか!?」』

 

『ギシャアアアアアアアアアアアアアアッ!!』

 

タイガも、突然大きく成長したキングマイラに驚きを隠せなかった。

 

『ギシャアアアアアアアアアアアアアアッ!!』

 

すると、キングマイラは口と触手から火炎をタイガに向けて放った。

 

『なっ!? うわぁあああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!!』

 

炎に包まれたタイガの悲鳴が、ユニオン海域の空に響いた。



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【猛威】おぞましき成長

ーヨークタウンsideー

 

『うわぁああああああああああああああああああああああああっっっ!!!!』

 

「っ!」

 

ウルトラマンタイガがキングマイラの炎に包まれる姿を、指揮官専用艦の上で見ていたヨークタウン達が目を見開いた。

 

「は、ハムマン! ウルトラマンが!!」

 

「お、おおお、おちおちおち、落ち着きなさささいいよよよよよ、シシシシムススススス!!」

 

シムスがハムマンの両肩を掴んでグワングワン揺すり、ハムマンは目を回しながらシムスを落ち着かせようと声を発した。

 

「大丈夫よシムスちゃん。指揮官とタイガさんなら」

 

ヴェスタルがにこやかにそう言ってシムスの両肩に手を置いて落ち着かせると、ヨークタウン達は再びタイガに目を向けた。

 

 

 

 

ータイガsideー

 

『「た、タイガ・・・・! こんな炎なんかに、負けないよなぁっ!?」』

 

『当たり、前だぁっ!!』

 

タイガが両足を上げて、キングマイラの鳩尾に両足蹴りを叩き込んだ。

 

『ギシャァァッ!』

 

『はぁっ!』

 

一瞬、手の力が緩み、炎に包まれたタイガはキングマイラの両手から手を脱出させた。

 

『トモユキ!』

 

『「ああ! 『ロッソレット』だな!」』

 

[カモン!]

 

カイン指揮官はタイガスパークを起動させ、左手首に『ロッソレット』を召喚し、タイガスパークに読み込ませた。

 

[ロッソレット! コネクトオン!!]

 

『ロッソレット』から3筋の赤い色の光がタイガスパークの中心に集まり、ウルトラマンロッソ・フレイムの幻影が現れタイガと重なった。

 

『フッ、倍返しだッ! 『フレイムブラスター』!!』

 

構えるタイガは、身体を包んだ炎の全てを『フレイムブラスター』に乗せて放った。

 

『ーーーーギシャアアアアアアアアアアッ!!』

 

キングマイラは炎の光線をその身に受けて、逆に炎に包まれ、海に倒れて鎮火させた。

 

『「攻めろ! タイガ!」』

 

『はぁっ!!』

 

カイン指揮官の指示に動くように、タイガは起き上がったキングマイラに近づくと、ローリングソバットを叩き込んだ。

 

『ギハァッ!!』

 

キングマイラ少し後ろに後退すると、尻尾を振り、三股の尻尾がタイガの腕と首に巻き付いた。

 

『くぅぅっ!』

 

『ギィィィィ、ギシャァァァァァ!』

 

『うわぁっ!』

 

キングマイラが尻尾を振ると、腕と首に引っ張られ、タイガは海面に転ばされる。

 

『くそっ!』

 

『ギィィィィ!』

 

『のわっ!』

 

両腕に巻き付いた尻尾を取ろうとするが、キングマイラは、そうはさせまいと、尻尾を振り回し、タイガを転げさせる。

 

「タイガっ!!」

 

タイガの足元から、クリーブランドの声が響くと、艦船<KAN-SEN>達が砲撃を三股の尻尾の根元を攻撃した。

火花が散ると、ブチッと言う音と共に、三股の根元から切れた。

 

『ギシャアアアアアアアアアアッ!!』

 

キングマイラが尻尾が切れた痛みに悶え、タイガは首と両腕に巻き付いた尻尾を外して海面に叩きつけると、三つの尻尾はグネグネと動いていた。

 

『「ありがとう皆!」』

 

『助かったぜ、サンキュー!』

 

『(グッ!)』

 

カイン指揮官とタイガが礼を言うと、クリーブランド達はサムズアップして答えた。

 

『ギシャァァッ!!』

 

キングマイラは口と両肩の触手から、炎を放射するかのように構えた。

 

『トモユキ! 今度は『ブルレット』だ!』

 

『「ああ!」』

 

カイン指揮官は『ブルレット』を召喚してタイガスパークに読み込ませた。

 

[ブルレット、コネクトオン]

 

青い光が迸り、タイガの身体がウルトラマンブルの幻影と重なった。

 

『グゥゥゥゥゥ・・・・! ギシャアアアアアアアアアアッ!!』

 

再び口と両肩の触手から火炎を放ったキングマイラ。口からの火炎と両肩の触手の火炎が重なると、更なる熱量と大きさの炎がタイガに迫った。

 

『「全力で行くぞタイガ!」』

 

『炎には水だっ! 『アクアブラスター』!!』

 

水を纏った光線を最大出力で放ち、キングマイラの火炎とぶつかり合うと、ジュワァァァァ・・・・! と音をたてながら、『アクアブラスター』が火炎を突き抜けて、キングマイラに放たれた。

 

『ギシャアアアアアアアアアアッ!!』

 

キングマイラの口と触手の口が水の光線を受けて炎が消えた。

 

『トモユキ! 最後は『オーブレット』だっ!!』

 

『「ああ!」』

 

[カモン!]

 

カイン指揮官は、今度は『オーブレット』を召喚して、カインはタイガスパークをオーブレットに翳す。

 

[オーブレット! コネクトオン!!]

 

タイガの姿がウルトラマンオーブの幻影と重なった。

 

『フッ!ハァァァァァ・・・・『スプリウムブラスター』!!』

 

前方に光の輪を展開させると、『スプリウムブラスター』を放った。

 

『ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』

 

『スプリウムブラスター』を受け、連続の光線技による攻撃で、キングマイラは盛大に水飛沫を上げながら倒れる。

 

『よっしゃ!』

 

『「タイガ! コイツは時間を掛ければ掛けれる程、成長して巨大になる。手がつけられなくなる前に、一気に終わらせるんだ!」』

 

『よしっ! 『トライストリウム』だっ!』

 

≪うむ!≫

 

≪応よ!≫

 

『「ああ!」』

 

[カモン!]

 

カイン指揮官がタイガスパークを起動させ、『トライススクワッドレット』を召喚し、タイガスパークで読み込む。

 

[トライスクワッドレット! コネクトオン! トライスクワッドミラクル!]

 

トライブレードが現れ、カイン指揮官は握ろうとした次の瞬間ーーーー。

 

 

 

 

ー霧崎sideー

 

ユニオン保養地の島の一角、断崖絶壁の丘の上でタイガとキングマイラの戦いを眺めている人影があった。

ーーーー霧崎だ。

 

「ふふふ・・・・」

 

そして、霧崎はトレギアアイを展開して目に翳し、トレギアに変身し、回転盤を回そうとするタイガに向けて。両腕から放つ十本のカッター光線、『トレラテムノー』を放った。

 

 

 

 

ータイガsideー

 

『「っ! タイガ! 右だ!!」』

 

『えっ? うわぁあああっ!!』

 

タイガは、何かに気づいたカイン指揮官の言葉に、思わずトライブレードを盾にするように構えて振り向くと、十本のカッター状の光線が迫りトライブレードの刀身で防ぐが、技の威力に倒れ、トライブレードは近くの砂浜に突き刺さった。

 

『なっ!』

 

が、タイガもカイン指揮官も、タイタスもフーマも、そして、アズールレーン艦船<KAN-SEN>達も、砂浜に突き刺さったトライブレードよりも、カッター状の光線を放った相手を見て、驚愕に目を見開いて声を発した。

 

『と、トレギアっっ!!?』

 

『メガオロチ戦役』から一ヶ月以上、行方を眩ませていた、否、一部艦船<KAN-SEN>達からは死んだとも思われていた存在、ウルトラマントレギアの姿に驚きを隠せなかった。

 

『フフフフ、お久しぶり・・・・私にまた会えて嬉しいだろう?』

 

そんな一同の様子を見て、トレギアは嘲弄するように肩を震わせていた。

 

 

 

ーヨークタウンsideー

 

「と、トレギア・・・・!!」

 

「・・・・やっぱり生きてた」

 

「・・・・!」

 

ジャベリンとラフィーと綾波が、生きていたトレギアに驚愕に目を見開いて睨んでいた。

 

「と、とととと、トレギアなのだぁっ!!」

 

「そんな・・・・!」

 

「あれで終わったとは思わなかったけど・・・・!」

 

「指揮官の言うとおり、死んではいなかったか・・・・!」

 

ハムマンとヴェスタルも驚きを隠せず、ホーネットは帽子を少し上げて、エンタープライズも視線を鋭くして、トレギアを見上げて睨んだ。

 

「え、エンタープライズ、あのウルトラマン、は?」

 

「奴はトレギア・・・・セイレーンと並ぶ、我々の敵だっ!」

 

ヨークタウンはトレギアから醸し出る禍々しいオーラに身構えながらエンタープライズに問うと、エンタープライズは臨戦態勢になる。

 

 

 

 

 

ータイガsideー

 

『やっぱり生きていたのか!』

 

『フフフフ、可愛いなぁ。あの程度で私が死んだとおもっていたのかい?』

 

≪キングマイラをこの星に連れてきたのはお前か!?≫

 

≪テメェ、またタイガを使って陰険な事を企んでんのか!?≫

 

トライスクワッドが、トレギアに厳しい視線を向けた。勿論カイン指揮官もだ。

トレギアはそんな視線に気にする素振りを見せず、ゆっくりと歩きながら言葉を発する。

 

『フッ、あの怪獣がこの星に来たのは偶然さ。私も驚いたよ。ソーキン・モンスターの中でも特に凶暴かつ残忍な怪獣が、こんな辺境の星にやってきたのはね。あぁ、それと、もう私はそのボウヤには何もしないよ。ーーーー“別のヤツに興味を抱いたんだ”』

 

トレギアはタイガをジッと見据えて言った。否、正確には、“タイガの中にいる人間に向かって”。

 

『誰を狙っているんだ!?』

 

『それを言っては面白くないだろう? さて、これからの展開を見物させてもらうよ』

 

トレギアはそう言うと、魔法陣を展開し、その中に入り、戦場から去っていった。

 

『待てトレギア! お前は何を・・・・!』

 

『ギシャアアアアアアアアアアッ!!』

 

『「タイガ! キングマイラが起き上がった!」』

 

『っ!』

 

タイガが目を向けると、キングマイラが起き上がり、雄叫びを上げた。

しかも、トライブレードの突き刺さった砂浜を背にして。

 

≪野郎! これじゃトライストリウムになれねぇ!≫

 

≪ヤツの身体の傷も少しずつ癒されている! 何と言う回復速度だ!≫

 

『「仕方ない。・・・・タイガ! フォトンアースで決めるよ!」』

 

『分かった!』

 

[カモン!]

 

カイン指揮官は『フォトンアースキーホルダー』を手に取り、タイガスパークを翳した。

 

[アース!][シャイン!]

 

『「輝きの力を手に!」』

 

キーホルダーを握ると上部が二又に開いて光り輝く。

 

『はぁぁぁぁぁっ!!』

 

タイガの身体に、フォトンアースの鎧が纏う。

 

「バディーーーーゴー!」

 

[ウルトラマンタイガ フォトンアース]

 

『はぁっ!!』

 

『ギシャアアアアアアアアアアッ!』

 

キングマイラがタイガに迫る。

 

『『スワローバレット』!!』

 

タイガも進みながら『スワローバレット』でキングマイラを攻撃すると、電光を纏ったストレートパンチにボディブロー、回し蹴りにドロップキックを叩き込み、キングマイラを怯ませ後退させると、必殺光線の構えを取り、頭上にオーロラを形成した。

 

『はぁぁぁぁぁ・・・・『オーラムストリウム』!!』

 

タイガは金色の長剣の形状をした光線を、キングマイラに放った。その時。

 

『ギィィィィィィィ・・・・!!』

 

キングマイラの血のように真っ赤な瞳が点滅するかのように光ると、『オーラムストリウム』が当たった。

だが・・・・。

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

何と、『オーラムストリウム』が、キングマイラの身体をすり抜けてしまった。

 

『なっ!?』

 

≪≪「っ!?」≫≫

 

タイガとカイン指揮官達はそれを言っては見て、『オーラムストリウム』を中断すると、キングマイラの身体が徐々に薄れていき、完全に姿が消えてしまった。

 

 

 

 

ー綾波sideー

 

「キングマイラが・・・・!」

 

「き、消えちゃった・・・・!?」

 

「・・・・テレポート?」

 

綾波にジャベリンにラフィー、さらにヨークタウン達も驚きに目を見開く。

戦場にいるエンタープライズ達も同様であった。

 

 

 

 

 

ータイガsideー

 

『っ・・・・何処に行ったんだ!?』

 

『「・・・・ん?」』

 

タイガが辺りを見回すが、キングマイラの姿形も無い。

と、その時、カイン指揮官は視界の端に、ビクッビクッと動いていたキングマイラの三つの尻尾が突如として消えたのを捉えた。

 

『「・・・・尻尾が・・・・まさか! タイガ!」』

 

カイン指揮官がタイガに指示を出そうとしたその瞬間、背後から大きな黒い影が現れ、タイガが振り向いたソコにはーーーーキングマイラがいた。

 

『なっ!』

 

『ギシアァァァァァァァァァァっ!!』

 

キングマイラが尻尾を振るうと、三つの尻尾の内二つがタイガの両足を、残った一つが腰に巻き付くと、キングマイラは瞬時にタイガを引き寄せる。

タイガはキングマイラの背にして、両腕をキングマイラの豪腕に捕まれ、磔にされたかのように両腕を上げられ、首を胸元の小さな手に絡まれ、キングマイラは片足でタイガの背中を押し出す。

 

『ぐぅ・・・・うぉああああああああ・・・・!!』

 

ギチギチギチギチと、背骨折りをように身体を極められたタイガが悲鳴を上げる。

 

ーーーーピコン! ピコン! ピコン! ピコン! ピコン! ピコン! ピコン!・・・・。

 

カラータイマーを鳴り響き出した。

 

『指揮官! タイガ!!』

 

クリーブランド姉妹とセントルイスとホノルル、ボルチモアとプレマートン達が助けようと動くが・・・・。

 

『ギィィィィィィィ!!』

 

『『カァァァァァァァァァァ!!』』

 

キングマイラの両肩の触手が火炎放射を放ち、クリーブランド達の行く手を遮った。

 

『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』

 

全員が炎に遮られ、その場に止まった。

 

『「み、皆・・・・!!」』

 

≪兄ちゃん! タイガ! 俺と交代しろ! こんなデカブツの極技なんて簡単に脱出してやるっ!≫

 

『「そ、そうしたいけど・・・・! だ、駄目だ・・・・! 俺の身体も、固定されて、動けないんだ・・・・!」』

 

『く、くそぉ・・・・! ああああぁっ!!』

 

タイガとカイン指揮官も、タイタスとフーマに交代する事ができず、キングマイラは更に力を込めると、フォトンアースの鎧にビキビキっ、とヒビが走っていった。

 

 

 

ーヨークタウンsideー

 

「指揮官!」

 

「綾波ちゃん! 私も!」

 

綾波が艤装を展開して、キングマイラに捕らわれたタイガの元へと向かい、ジャベリンも艤装を展開してそれに続いた。

 

「・・・・・・・・」

 

「待ってラフィー!」

 

「・・・・ん?」

 

勿論ラフィーも艤装を展開して向かおうとすると、ヨークタウンが声をかけて止めた。

 

「どうして、ソコまで戦うの?」

 

「?」

 

ヨークタウンの言葉の意味が分からず、首を傾げるラフィーに、ヨークタウンは話を続ける。

 

「あれほどの戦いができるウルトラマンと怪獣、それにーーーー指揮官の為に、あなた達は何故戦うの?」

 

ヨークタウンは、本心ではカイン指揮官の事をーーーー信じられないのだ。それは自分のカンレキが由来しているのだ。

ホーネットとハムマンから、何度もメールでその人柄を伝えられても、心の何処かで信じられなかった。だから、ラフィーに聞いてみたのだ。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

ラフィーはタイガを一瞥してから、ヨークタウンに話しかけた。

 

「ラフィー。指揮官が好き」

 

「えっ?」

 

『えぇっ!?/////』

 

こんな時に愛の告白的な台詞を言ったラフィーに、ヨークタウンだけでなく、他の艦船<KAN-SEN>達も頬を赤らめた。

 

「タイガも好き」

 

『は?』

 

「タイタスも好き。フーマも好き。ラフィーは指揮官達が好き。だから、指揮官達が危ないなら助けたい。それだけ・・・・」

 

「それだけ、なの?」

 

「ヨークタウン。指揮官達の事、良く分かってない」

 

「えっ?」

 

「だからね、これから知って欲しい。指揮官達の事。じゃあね」

 

ラフィーはそう言い残すと、今度こそ艤装を展開して、綾波とジャベリンを追いかけた。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・知る、指揮官の事を・・・・ウルトラマン達の事を・・・・」

 

ヨークタウンは、ラフィーに言われた事を復唱しながら、キングマイラに捕らわれたウルトラマンタイガとカイン指揮官を見上げた。



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【撤退】明日の勝利の為に

キングマイラにオリジナル設定を付けます。


ータイガsideー

 

『ギシャァァァァァァァァッ!!』

 

『ぐぁあああああああああっ・・・・!!』

 

キングマイラに捕まり、背骨折りを受けているタイガ。

 

『「くそっ、このままじゃ、不味いな・・・・!」』

 

《(ジジ・・・・)指揮官!》

 

『「っ! 綾波!?」』

 

《今、ジャベリン達と向かっているです!》

 

下の方に目を向けると、キングマイラの肩の触手達が、クリーブランド達に向いている隙に、綾波とジャベリン、少し遅れてラフィーも向かってきた。

 

≪よしこれなら! カイン! 私に考えがある!≫

 

『「た、頼む、タイタス・・・・!」』

 

≪うむ! ジャベリンくん! 綾波くん! ラフィーくん! キングマイラの足元に行けば火炎放射は届かない! 先ずはタイガの足を縛っている尻尾を切り離してくれ!!≫

 

()()()(()()())()()

 

≪エンタープライズ嬢とホーネット嬢は空から! クリーブランド嬢達は下から攻撃して、キングマイラの注意を逸らしてくれ!≫

 

《『了解!』》

 

タイタスの指示にエンタープライズ達が力強く返答した。

 

≪タイガ! 彼女達が助けてくれるまで耐えるんだ!≫

 

『わ、分かった・・・・! ぐぅぅぅぅっ!』

 

タイタスの言葉に頷きながら背骨折りに耐えていた。

 

 

 

 

ー艦船<KAN-SEN>sideー

 

「「「〈ノブレス・ドライブ〉!!」」」

 

綾波とジャベリンとラフィーが〈ノブレス・ドライブ〉をすると、三人はタイガの足元にまで移動し、綾波とジャベリンが左右に別れ、ラフィーは艤装の砲口を先ずは左足に巻き付いた尻尾に向けて光弾を放つ。

 

「発射・・・・」

 

ーーーードンッ! ドガンッ!

 

「はぁっ!!」

 

ラフィーの光弾で尻尾に僅かな亀裂が生まれると、すかさず綾波が対艦刀で尻尾の亀裂に刃を振り下ろし、尻尾を切り裂いた。

 

「もう一つ・・・・!」

 

ーーーードンッ! ドガンッ!

 

「えーいっ!」

 

ラフィーは次に右足に巻き付いた尻尾に光弾を放ち、同じく亀裂を生み出しと、ジャベリンが槍で切り裂いた。

 

『ギシャァァァァァァァァッ!!』

 

キングマイラが悲鳴をあげると、胴体に巻き付いていた尻尾に向けて、艦載機に乗って飛行するエンタープライズとホーネットが機関銃で尻尾を攻撃する。

 

「くぅっ! やっぱり機関銃じゃ千切れないか!」

 

「ホーネット! 私達も〈ノブレス・ドライブ〉をーーーー」

 

と、〈ノブレス・ドライブ〉を発動させようとしたその時ーーーー。

二人の横を一機の艦載機が横切った。そしてその上に乗っているのは。

 

「っ! ヨークタウン姉さん!」

 

「まだ病み上がりなのにっ!」

 

そう。二人の姉であるヨークタウンであった。ヨークタウンは妹達が戦っているのを黙って見ていられなくなり、止めるハムマンにシムスにヴェスタルを降りきって、飛んできたのだ。

 

「・・・・!」

 

ヨークタウンは巧みに艦載機を操り、タイガの腰に巻き付いた尻尾を機関銃で撃つが、まるで手応えがない。

 

『ギシャァァァァ!!』

 

「っ!」

 

キングマイラの触手が火炎放射を放ち、ヨークタウンは艦載機を操って上昇して回避した。

そして上昇していくとソコには。

 

『グルルルルル・・・・!』

 

キングマイラに恐ろしい顔が目の前に現れた。

 

「ぁ・・・・!!」

 

『ギシャァァァァァァァァッ!!』

 

キングマイラが大口を開いて、その奥から、火炎の玉が発射された。

 

ーーーードシュンッ!ー・・・・ドオオオオオオオオオオオオオオオオン!!

 

放たれた火炎弾は海の向こうへと飛び、海面に着水すると、ドームのような爆発はを生んだ。

 

「「「ヨークタウン(姉さん)!」」」

 

指揮官の船に乗っていたハムマン達が悲痛な声を上げるが、ヨークタウンは寸前でさらに上昇し、キングマイラの頭上にまで飛んで火炎弾を回避していた。

しかし、艦載機の一部が火炎弾を受けていたのか、今にも堕ちてしまいそうな頼りない飛びだった。

 

「くっ・・・・!」

 

ヨークタウンは機体を安定させようとするが、風で流された機体はキングマイラの頭上に落下しそうになる。

 

「きゃっ!」

 

機体が煽られ、ヨークタウンは艦載機から振り落とされた。

 

「っ!」

 

「エンタープライズちゃん!」

 

が、寸前でエンタープライズがヨークタウンを抱えて離脱した。

 

ーーーーチュドンッ!! バキッ・・・・!

 

ヨークタウンを失った艦載機は、キングマイラの頭に落下し、キングマイラの角を一本折った。

その時ーーーー。

 

『ギジャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!』

 

キングマイラが辺りにいた艦船<KAN-SEN>達、さらに拘束していたタイガ達が顔をしかめて耳を塞ぐ程の声量で悲鳴をあげると、タイガを拘束していた腕と腰に巻き付いた尻尾を離して、頭を押さえて身悶えて、肩にいた触手達も身体をグネグネと動かしていた。

 

「ヨーク姉! エンプラ姉!」

 

「ホーネット! すぐに離脱だ!」

 

「OK!」

 

ヨークタウンを抱えたまま、エンタープライズの艦載機とホーネットの艦載機はその場から離れた。

 

 

 

 

ータイガsideー

 

『うぁぁぁ・・・・!』

 

そして、拘束から解放されたタイガはヨロヨロになりその場で両膝をつき、耳を両手で塞ぎながら未だに痛み身悶えながら後退しているキングマイラを睨んだ。

 

≪コイツ、たかが飛行機が頭に落ちた程度でなんであんなに痛がってんだ?≫

 

≪分からん・・・・しかし、まさか・・・・≫

 

タイタスはキングマイラの様子を訝しそうに見ると、キングマイラの身体が突如、ズボンっと、下半身だけが海に沈んだ。

 

『ギシャァァァァァァァァッ!?』

 

キングマイラは戸惑いながら雄叫びをあげる。

 

『「な、何だ・・・・?」』

 

《指揮官!》

 

『「っ、ヘレナか・・・・?」』

 

カイン指揮官のインカムに、ヘレナからの通信が入った。

 

《今怪獣がいる海域は、とても深い海溝になっているんです!》

 

『「っ! そうか、奴はその海溝に下半身が挟まって動けなくなったのか・・・・!」』

 

今なら倒せるだろうが、再び奴がテレポートを使われたらまた同じようになると考えたカイン指揮官は。

 

『「タイガ! 『ウルトラフリーザー』だっ!」』

 

『っ! 良し・・・・! ウルトラ、フリーザー!!』

 

『ギシャァァァァァァァ・・・・ッ!!』

 

タイガは手から冷凍光線を放つと、キングマイラの身体を氷に固めた。周りは海、キングマイラ自身の身体も海水まみれになっており、一瞬で巨大な氷山となってしまうと、目から光が失われ、完全に沈黙した。

 

『こ、これで・・・・、時間、稼ぎには・・・・』

 

『「な、ったな・・・・!」』

 

ーーーーピコン! ピコン! ピコン!・・・・

 

タイガは倒れるようにその姿を粒子状にすると、姿はカイン指揮官に戻っていった。

 

「指揮官っ!」

 

海に落ちそうになるカイン指揮官を、ホーネットがキャッチした。

 

「指揮官! 指揮官!」

 

「皆! 一度保養所に撤退するぞ!」

 

エンタープライズがそう言うと、全艦船<KAN-SEN>達は、ユニオンの保養所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

ートレギアsideー

 

『フフフフフフ・・・・! さぁ、君はどうやってこの危機的状況を打破するのかなぁ? カイン・オーシャン指揮官?』

 

トレギアは空の彼方の宇宙から、地上の戦闘を見て、ほくそ笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ージョーニアスsideー

 

ここは〈惑星ジー〉の科学格納庫。ソコには、ウルトラマンジョーニアスとアウサル13世が完成した『ソレ』を見て、満足そうに頷いた。

 

『ーーーー完成しましたなアウサル王』

 

「うむ。我が〈惑星ジー〉と貴殿ら〈U-40〉の叡智と技術の結晶だ。ーーーーすぐに『コレ』を平行世界にいるタイタスに届けよう! 発射準備に取りかかれ!」

 

『はっ!』

 

アウサル13世の指示を出すと、ソコにいた兵士達が、急いで平行世界に行く事ができる『平行世界ゲート』を作動させようとしていた。

 

「お待ち下さい!」

 

「っ! ネフティ!」

 

『ネフティ王女殿下!?』

 

と、ソコで、タイタスが行方不明になってから部屋に閉じこもっていたアウサル13世の妹、『ネフティ王女』が駆けつけた。

 

「兄上! 暫しお待ち下さい」

 

「・・・・うむ。すぐに終わらせるのだぞ」

 

「はい!」

 

妹の目を見てその意図を察し、アウサル13世は了承するように頷くと、ネフティ王女は完成した『ソレ』に一つの“小さな宝石”を組み込んだ。

それを終えると、ネフティはアウサル13世とジョーニアスの所にまで離れ、それを確認したアウサル13世は、再び兵士達に指示を飛ばした。

〈惑星ジー〉の空に、『平行世界ゲート』が開き、光のカプセルに包まれた『ソレ』が射出されゲートをくぐっていった。

 

『頼んだぞ。『新星の闘志』よ』

 

飛んでいった『ソレ』に向けて、ジョーニアスは静かに呟いた。

 

 

 

 

 

 

ーカイン指揮官sideー

 

カイン指揮官は宇宙空間の中を浮遊していた。

 

『・・・・あぁ、これは夢だなぁ・・・・』

 

うっすらと目を開けて周りを見て、これは夢であると察したカイン指揮官は、「早く目を冷まさないとなぁ。でも、夢とは言え、宇宙空間を漂っているなんて中々見られないものだよなぁ・・・・もう少し見てようかなぁ?」と暢気に考えているとーーーー前方から自分に向かって巨大な流れ星が飛んできた。

 

『な、なんだぁ・・・・!?』

 

カイン指揮官が驚くが、カイン指揮官の近くに来ると、流れ星が目映い程に煌めきだした。

 

『こ、これは・・・・』

 

あまりの輝きに目をほぼ閉じたカイン指揮官は、思わず両手を伸ばして、その流れ星を掴もうとしたその瞬間。

 

ーーーームニュン・・・・♥️

 

ーーーーフニュン・・・・♥️

 

「「あん♥️」」

 

両の手の平が、柔らかくも弾力と張りがある感触に触れ、可愛い声が響くと、カイン指揮官は目を開けるとソコにはーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーん?」

 

目を覚ましたカイン指揮官は見知らぬ天井に目をパチクリさせた。どうやら自分はヘッドで寝ていたようだ。

 

ーーーームニュンムニュン♥️

 

ーーーーフニュンフニュン♥️

 

「んん?」

 

カイン指揮官が両手に感じる感触に訝しそうに眉根を寄せながら手の方を見ると。

 

「し、指揮官、何してンの・・・・!?」

 

「あのさぁ指揮官。別にセクハラは良いんだけど、状況が状況だがら少しは自重したら?」

 

右手には、グリープランドの小ぶりだが、引き締まり桃のような可愛らしいお尻を掴み。

左手には、ホーネットの適度な大きさと引き締まったハート型のお尻を掴んでいた。

 

「ーーーーおぉ。二人共、マーベラスなお尻をしているなぁ・・・・」

 

ーーーーゴンッ!!

 

「ほがっ!?」

 

「いつまで姉貴のお尻に触ってんだこのスケベ指揮官っ!!」

 

モントピリアが仲間と尊敬する姉の美尻を掴んでいるカイン指揮官の頭を思いっきり殴り、カイン指揮官はベッドから転げ落ちた。

 

「わ、わざとではないのに・・・・」

 

頭に大きなタンコブを作るカイン指揮官。その様子に苦笑したり呆れたような艦船<KAN-SEN>達。

そんな中、ヴェスタルが声をかける。

 

「指揮官。そんな事をしている場合じゃないでしょう?」

 

「ん・・・・・・・・!!」

 

ヴェスタルの言葉を聞いて、眠る前の記憶が徐々に甦っていくと、カイン指揮官のが少しずつ開いていく。

 

「指揮官・・・・?」

 

「モントピリア! あれから何時間経った!? 俺が気絶してから何時間経ったんだ!?」

 

「ご、ごご、五時間だよ・・・・!///////」

 

ガバッと起き上がったカイン指揮官がモントピリアの両肩を掴んで唇が触れそうなくらいの距離に顔を近づけると、モントピリアは頬を赤くしながら答えた。が、カイン指揮官は時間を聞いて、窓の外を見ると既に日は完全に沈んでいるのが分かり顔をしかめた。

 

「五時間だって! じゃヤツの身体はもう四倍近くは大きく成長しているじゃないか! こうしちゃ(ビキッ!) ぐぅあっ!!」

 

急いでキングマイラの所に向かおうとするが、先ほどの鯖折りでのダメージが抜けきれておらず、痛みが走ってその場に蹲った。

 

「無茶しちゃダメだよ指揮官。ヴェスタルの見立てでは、あと数時間は安静にしてなきゃ」

 

「だ、だが・・・・キングマイラは・・・・?」

 

「まだ凍っているよ。監視をしている皆からの報告では、まだ氷は溶けてないし、成長もしていないから安心して」

 

『つーか、動けたとしても、タイガがこれじゃあな』

 

ホーネットの肩に座っていたフーマが指差すと、カイン指揮官のベッドの近くの小さなテーブルに、ミニチュアのベッドが置かれ、そのベッドに横になっているタイガがいた。

 

「タイガ・・・・! 無事なのか!?」

 

『トモユキ・・・・。悪いな。俺がヘマしちゃってお前まで・・・・』

 

「バカ。俺達は運命共同体だ。お前だけが悪い訳じゃないだろう」

 

『・・・・そうだな。弱気を言っちまったな』

 

カイン指揮官に叱咤され、タイガは笑みを浮かべたように話した。

 

「ーーーー気にするな。さて、皆。俺が気絶している間に何があったか、詳細に頼む」

 

『(コクン)』

 

カイン指揮官の言葉に頷いたグリープランド達が説明した。

カイン指揮官を回収し、キングマイラが氷付けになり、一旦体勢を整える為に保養所へと撤退した。

保養所のベッドにカイン指揮官を眠らせ、アズールレーン母港に連絡を入れて、援軍要請をした。

キングマイラの監視を交代しながら行い、現在に至る。今監視には、セレナと綾波、ジャベリンとラフィーが行っている。

 

「・・・・大まかな状況は分かった。キングマイラの氷は溶けているのかい?」

 

「少しずつだけど溶けているよ。今は冷凍状態だから生体活動を停止しているようだけど、氷が溶けていけばまた動き出すって・・・・」

 

「氷が溶けるのはどれくらいかかる? 援軍は間に合うかい?」

 

「氷の方は海の水温と気温を計算して、早ければ今日の未明辺りに溶けるそうよ」

 

「援軍の皆が到着するのは、ギリギリのようだよ」

 

グリープランドとヴェスタル、そしてホーネットが報告するとカイン指揮官は小さく頷いた。

 

「・・・・タイタス。タイガの容態は?」

 

『ウルトラマンの回復力をもっても、まだ時間がかかる。ヤツと戦うのは、私かフーマしかいない』

 

『はっ! 上等だぜ、ぶちのめしてやらぁ!』

 

と、タイタスとフーマが気合いを入れると、部屋のドアが開き、綾波にジャベリンにラフィーにエンタープライズ、そしてヨークタウンが入ってきた。

 

「おぉっ、皆・・・・!」

 

「指揮官・・・・!」

 

「目が覚めて何よりだ指揮官」

 

「キングマイラは?」

 

「冷凍睡眠状態のままだ。氷も少しずつだが解けだしている。今のうちに、対策を練らねばな」

 

≪・・・・実は、気になる事がある≫

 

エンタープライズからの報告を聞いて、タイタスがそう言いだし、全員の目がタイタスに向いた。

 

「タイタス。どうした?」

 

≪以前から、私はソーキンモンスター・キングマイラの生体メカニズムに疑問を持っていた。生物の成長、進化には長い年月を必要とする。しかし、奴はあまりにも急激に成長し過ぎている≫

 

「でもそれって、特殊な怪獣だからじゃないんですか?」

 

≪いや、そうとも限らないジャベリン嬢。怪獣もそうだが、そう言った特異な能力には、必ず生体メカニズムを制御する、『核』のような存在があると思うのだ≫

 

「『核』?」

 

≪そう。実はヨークタウン嬢の艦載機が、キングマイラの頭に落下した時、奴はタイガの拘束を解いて痛みに悶えていただろう≫

 

タイタスの言葉に、その場にいる全員がヨークタウンに目を向け、ヨークタウンはビクッと身体を震わせた。

 

≪もしかしたら、奴の『核』は頭、もっと正確に言えば、『角』がそうなのではないか?≫

 

「『角』のへし折れば、奴は成長する自分の体細胞の制御ができなくなる?」

 

≪確実とはいかないが、可能性はある。こういう時こそ、明石嬢が頼りになるのだがな≫

 

≪あの銭ゼバにゃんこ、解析能力はマジで頼りになるからな≫

 

普段はお金に汚い性格だが、解析・分析能力はアズールレーン母港で一番と言ってもいい明石の不在がいたかった。

 

「ーーーー明石も増援部隊でやって来るが、明石が来る前にキングマイラが活動を開始かもな。・・・・良し。タイタスの提案でいこう」

 

≪良いのかカイン。確実と言う訳ではないのだぞ?≫

 

「どの道、俺達とソーキンモンスターは初遭遇なんだ。だったら、色々な方法を使って、対抗手段を模索していくしかない。ーーーーそれに、タイタスが見つけた方法なら、信頼できるさ」

 

≪カイン・・・・≫

 

≪へっ! つー訳だな旦那。タイガ、もしもって時はトライスクワッドで戦うからよ。ちゃんと回復しとけよ≫

 

≪ああ。当然だぜ!≫

 

カイン指揮官は、艦船<KAN-SEN>達に向き直る。

 

「皆。そう言う訳だ。タイタスの提案通り、キングマイラの角を重点的に狙う。作戦を考えるぞ!」

 

『了解!!』

 

エンタープライズ達は笑みを浮かべて頷き、ヨークタウンも少し遠慮がちに頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーキングマイラsideー

 

ーーーードクン・・・・ドクン・・・・ドクン・・・・ドクン・・・・!

 

氷付けになったキングマイラは、仮死状態となったいたが、徐々に心音が鼓動が高くなっていったーーーー。



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【信頼】信じて頼るは己から

ーカイン指揮官sideー

 

空が明るくなり始める時。カイン指揮官と艦船<KAN-SEN>達は氷付けになったキングマイラを見上げていた。

 

「ヴェスタル。ヤツの状態は?」

 

カイン指揮官が指揮官専用艦の艦橋からヘレナに通信で聞くと、ホーネットと艦載機に乗り、キングマイラの上に降り立ち、氷越しだが状態を検査していた。

明石が機械系に強ければ、ヴェスタルは医療系に強く、最近ではタイタスから知識を借りながら怪獣の精神状態の解析作業の道具を明石と、『重桜所属 軽巡洋艦 夕張』が作ったアズールレーンの新兵装や道具を作る〈アズールレーン・科学部〉に依頼して造り上げたのだ。

 

《・・・・・・・・バイタルが少しずつ安定してきてるわ。多分後四十分・・・・イエ、三十分で目を覚ますわね・・・・》

 

「・・・・分かった。すぐにホーネットとその場を離脱。ヴェスタルは艦に戻ってくれ。ホーネットはヴェスタルを戻したら所定位置へ」

 

()()

 

二人の返事を聞いた後、カイン指揮官は此方の海域に向かっているアズールレーン母港の増援部隊に連絡を入れた。

 

「ベル。聞こえるかい?」

 

《はい。ご主人様》

 

勿論、増援部隊の旗艦は、ロイヤルでカイン指揮官が最も頼りにしているベルファストだ。

 

「もうすぐ怪獣が目を覚ます。後どの位だい?」

 

《ーーーー申し訳ありません。全員全速力で向かっているのですが、まだ後五十分は掛かります》

 

「分かった。が、四十分で来てくれ。此方も手が足りないんだ」

 

《承知致しました》

 

カイン指揮官も無理な指示を言っていると言う自覚はある。しかし、目の前の強敵を相手に甘い事を言っていられない。ベルファストはそんな主の心中を理解しているから、了承したのだ。

連絡を切ったカイン指揮官は、近くの砂浜で突き刺さったままになったトライブレード(巨大サイズ)を見据える。

 

「(『トライストリウム』になる事ができれば、勝機はあるかもしれないが・・・・タイガ、どうだ?)」

 

≪ぜ、全然よゆぐぁっ!!≫

 

余裕だと言いそうになるタイガだが、やはり身体のダメージが消えておらず、悲鳴を上げた。

 

≪無理をするなタイガ。今のお前のコンディションでは、トライストリウムになる事はできん≫

 

≪俺らで何とかすっから、お前は身体を癒やす事に専念してな!≫

 

『トライストリウム』はトライスクワッドが合体する形態。が、チームの一人でもコンディションが悪くなれば変身する事ができないのだ。

先日の戦いのダメージがまだ抜けきれていないタイガは、タイタスとフーマに押さえられ、大人しく引っ込んだ。

それを確認したカイン指揮官は、艦船<KAN-SEN>達に指示を飛ばした。

 

「よし、皆頼むぞ! 作戦名はーーーー『ストップ・エヴォリューション』! 開始!」

 

《『了解!!』》

 

『進化を止める』と言う意味の作戦名に、異口同音でイントネーションもかなり違う返答が返ってくると、即座に艦船<KAN-SEN>達が行動を開始するのとほぼ同時にーーーー。

 

ーーーーピシッ! ビギビギビギビギビギビギビギビギビギビギ・・・・!!

 

キングマイラを包んでいた氷塊に、一筋の罅が入ると、ソコから連鎖するように罅が広がっていき、遂には氷塊全体が罅に覆われた。

そして・・・・。

 

ーーーーグワシャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンッッ!!!

 

『ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!』

 

氷塊をぶち破り、海溝からも脱出したキングマイラが、復活の歓喜か、コケにされた憤怒か判断しづらい雄叫びを上げた。

 

 

 

ークリーブランドsideー

 

『っっっ!!!!』

 

大気が震え、海面も波打ち、身体もビリビリと振るえる程の大音量が、怪獣との戦闘が乏しいユニオン艦船<KAN-SEN>達の身体をすくませる。

が、アズールレーン母港出身である艦船<KAN-SEN>達が背中を押して、正気に戻ると、再び行動に出る。

まずは攻撃力と機動力があるクリーブランド姉妹とボルチモアとブレマートン。

 

「行くよ皆!」

 

『オーケー!』

 

『〈ノブレス・ドライブ〉!!』

 

一斉に声を上げて金色のオーラを纏うと、一気に加速し、光弾と光線の砲撃をキングマイラに浴びせていく。

 

『ギシャァァァァァァァァッ!!』

 

身体に火花を散らすキングマイラは、踏み潰そうと足を伸ばすが、〈ノブレス・ドライブ〉をした艦船<KAN-SEN>達はすぐに回避していき、口や肩の触手からの火炎放射、三股の尻尾を使って捕らえようとする。

 

 

 

 

ーホーネットsideー

 

《航空部隊、発進!》

 

『了解!』

 

すると次にカイン指揮官からの指示が飛ぶと、エンタープライズとホーネットだけでなく、『ユニオン所属 空母 サラトガ』とロング・アイランドも共に艦載機に乗って空から迫った。

 

「ふぇぇ~! 『幽霊』さんはこんなアグレッシブな事したくないよぉ~!」

 

《文句言うなロング・アイランド。コレが終わったら新作ゲームをユニオンから大量に取り寄せてやる》

 

「ホント! じゃあ頑張る!」

 

干物なロング・アイランドがボヤくがユニオンの新作ゲーム欲しさに着いてきたので、カイン指揮官から言われた言葉でやる気を出した。

サラトガは近くを飛んでいるエンタープライズとホーネットの大きく、形も整っている美巨乳を横目で見ると、

 

「・・・・何であんなに育ってるのよ・・・・」

 

と、ボソリと呟いた。

 

《何か言ったかサラトガ?》

 

「っ、な、何でもないわ指揮官! サラトガちゃんの活躍、見せて上げるんだから!」

 

カイン指揮官に聞かれたと思い誤魔化すと、四機の艦載機は旋回しながら、キングマイラに迫り。

 

『〈ノブレス・ドライブ〉!』

 

四人の身体も金色に光る。

 

「はぁっ!!」

 

「ゴーゴー!」

 

「行っくよー!」

 

「よっと」

 

エンタープライズがアーチェリーを引くと、光が凝縮された矢が放たれ、キングマイラの肩の触手を攻撃する。

ホーネットが更に艦載機を発進させると、光に包まれた艦載機が蜂の形になり、光の軌跡を描きながら凄まじい速度でもう片方の肩の触手を攻撃する。

サラトガも加速すると、キングマイラの火炎を回避し、顔面に向けて機銃で光弾を放っていく。

ロング・アイランドは一瞬姿が消えると、キングマイラの真正面に着き、キングマイラの目に光の弾丸を放った。

 

『ギシャアアアアアアアアアアッ!』

 

顔に放たれた攻撃のよるダメージで顔を押さえると、キングマイラはその血のように真っ赤な両眼で、ギロリッとサラトガとロング・アイランドを睨んだ。

 

「ひっ!」

 

「ふぇえ、じゃ幽霊さんはこれで~」

 

「あっ! ロング・アイランドズルい!」

 

ロング・アイランドがス~・・・・と、姿を消すと、一人残されたサラトガに、キングマイラと触手が口から炎を溜め始めた。

 

「サラトガ!」

 

「今行くよ!」

 

エンタープライズとホーネットが援護に向かおうとするが、尻尾に遮られ、旋回して回避せざる得なく、中々向かえなかった。

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! 指揮かーーーーんっ!!」

 

サラトガが漫画のような涙の滝を流しながら叫んだ。

 

 

 

ーカインsideー

 

サラトガの声が聞こえたのか、戦況を見て判断したのか、カイン指揮官は迅速に行動した。

 

「行くぞフーマ!」

 

≪応よっ!≫

 

[カモン!]

 

タイガスパークを起動されると、フーマキーホルダーを掴む。

 

「風の覇者! フーマ!」

 

≪はぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・セヤッ!≫

 

「バディィィィ・・・・ゴーーーー!!」

 

[ウルトラマンフーマ!]

 

『セイヤッ!』

 

青い光に包まれたカイン指揮官の姿が変貌し、旋風を纏ったウルトラマンフーマが飛び出すと、『極星光波手裏剣』を展開し、サラトガとキングマイラの間に入ると、キングマイラの火炎放射を極星光波手裏剣を盾にして防いだ。

 

『アチチチチチチチチチチチチチッ!!ーーーー忍っ!』

 

ーーーーポンッ!

 

火炎放射の熱気に悲鳴を上げるフーマが印を結ぶと、その場から小さな煙を出してサラトガも連れて少し離れた位置に離脱した。

 

『サラトガ嬢ちゃん、少し離れてな』

 

「うん!」

 

サラトガは艦載機を旋回させ、エンタープライズ達と合流する。

 

『『光波剣』!!』

 

右手のタイガスパークから光の剣を生み出し、加速してキングマイラの周りを駆け抜ける。

 

『ギシャァァァァ・・・・!!』

 

『へっ! どうしたよデカブツ! 俺のスピードには着いて来られないってか!? オリャッ!!』

 

『ギシャァァァ!?』

 

駆け抜けながら、フーマは光波剣でキングマイラの身体を切りつけていく。

 

『ギシャァァァァァァァァッ!!』

 

『よっ! はっ! おっと! わっと! そらよっと! あらよっと!』

 

フーマに向けて火炎放射を放つが、フーマは緩急を着けながら回避する。

そして・・・・。

 

『『光波剣・大蛇』!! セヤッ! デヤッ!!』

 

『光波剣』を蛇腹剣のように伸ばし、鞭のようにしならせ振り回すと、キングマイラの両肩の触手を根元から切り捨てた。

 

『ギシャァァァァァァァァッ!!』

 

出血する両肩を押さえて激痛に身悶えるキングマイラ。二つの触手はーーーー。

 

『『共鳴<レゾナンス>』!!』

 

〈ノブレス・ドライブ〉した綾波にジャベリン、ラフィーにハムマンによって破壊された。

 

『よっしゃ!』

 

フーマが触手が破壊されたのを見たほんの刹那の瞬間、キングマイラは尻尾を振り、三股の尻尾がフーマの両手と腰に巻き付いた。

 

『うわっ!』

 

『ギシャァァァァァァァァッ!』

 

タイガと同じように捕らえ、再び背骨折りでもしようと考えているのか、フーマの身体を引き寄せた。

 

『へっ! 同じ手に掛かるかよ! ダンナ!!』

 

≪うむ! トモユキ!≫

 

『「よしっ!」』

 

[カモン!]

 

『「力の賢者、タイタス!」』

 

[ウルトラマンタイタス!]

 

『ヌウゥンッ!!』

 

フーマが交代の合図をすると、カイン指揮官はタイタスキーホルダーを握って、ウルトラマンタイタスへと変わった。

 

『ムゥンッ!!』

 

『ギィィィィィィィィィッッ!!』

 

両手で捕まえようとするキングマイラの手を掴んだタイタスが、逆に力比べを始めた。

パワーに優れたタイタスを相手にし、キングマイラはその場から動けなくなった。

 

『ヌゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッ!!』

 

『ギィィィィィィィィィッッ!!』

 

タイタスとキングマイラの力が拮抗させると、カイン指揮官が声を張り上げた。

 

『「耐えろよ・・・・! タイタス・・・・! 今だっ! ーーーーヨークタウンっっ!!」』

 

カイン指揮官が頭上を見上げると、青空の雲から、艦載機である爆撃機に乗ったヨークタウンが急降下しながらやって来た。

 

 

 

 

 

ーヨークタウンsideー

 

「・・・・・・・・」

 

爆撃機に乗ったヨークタウンは、無言でキングマイラの頭上に向かいながら、先刻の作戦会議を思い出していた。

 

 

 

***

 

 

キングマイラの弱点を突く作戦の中、カイン指揮官はヨークタウンに向けて声を発した。

 

【今回の作戦の要であるキングマイラの頭上への攻撃を決めるのはーーーーヨークタウン。君だ】

 

【えっ!?】

 

ヨークタウンは突然重要な役割を与えられて、一瞬だけ間の抜けた顔をするが、すぐに顔を戻して、カイン指揮官に問いかけた。

 

【し、指揮官! 何故そのような重要な役目を私にっ!? 私より全然優秀なエンタープライズか、ホーネットの方が・・・・!】

 

【今回の戦闘には、あのトレギアが一枚噛んでいます】

 

【私もエンプラ姉も、空から攻めるならアイツに注意されているからさぁ。ヨークタウン姉ならまだ警戒されてないから意表を突けるでしょ】

 

【で、でも・・・・私なんかが・・・・】

 

【ヨークタウン姉さんなら大丈夫なのだ!】

 

弱気になるヨークタウンに、ハムマンが声を張り上げた。

 

【ヨークタウン姉さんは、ユニオンの英雄であるエンタープライズにだって負けないくらいすっっごく強いのだ!】

 

【・・・・・・・・】

 

【私も、ハムマンに賛成です】

 

【エンタープライズ・・・・】

 

【ヨークタウン姉。もっと自信持ちなって。私達の一番上の姉は、とっても頼りなる姉なんだよ】

 

【ホーネット・・・・】

 

妹達にまで言われ、ヨークタウンは困った顔になると、カイン指揮官が声を発した。

 

【ヨークタウン。エンタープライズに艦載機に乗っての戦闘と操作技術を叩き込んだのは君だって聞いている。だからこそ、任せたい】

 

【ですが・・・・】

 

【君を信じている】

 

【っ】

 

ヨークタウンはカンレキから、指揮官に信じられない。だが、カイン指揮官はそれでも声を発する。

 

【君が俺を信じていないのは分かっている。だからーーーー先ずは俺の方が君を信じる】

 

【えっ・・・・?】

 

意外な言葉に、ヨークタウンはまた一瞬、間の抜けた顔を晒した。

 

【相手に信じて貰う為には、先ず自分から相手を信じる事から。ヨークタウンが俺を信じなくても良い。だが、俺はヨークタウンを信じる。ーーーーヨークタウンなら、できると信じる】

 

【指揮官・・・・】

 

【ヨークタウン。自分ができるか不安なら、自分を信じるな】

 

『【えっ?】』

 

ソコは自分を信じろと言うだろう。と、全員がツッコミを入れそうになるが、カイン指揮官は言葉を続ける。

 

【君ならできると信じているーーーー皆を信じろ】

 

【っ・・・・】

 

ヨークタウンが周りを見回すと、ヨークタウンを信じていると言わんばかりの視線を向けるアズールレーンの仲間達がいた。

 

【私達もバックアップをするから!】

 

【やってやろうよヨークタウン!】

 

【ヨークタウンさん!】

 

口々にヨークタウンを応援する仲間達の声に、ヨークタウンは少しの間目を閉じると、すぐに開いた。その眼には、確かな『覚悟』が備わっていた。

 

【ーーーーやらせて下さい、カイン指揮官!】

 

【ああ。次いでに、コレも持っていけ】

 

カイン指揮官がヨークタウンに『ウルトラマンエックスレット』を渡した。

 

 

 

***

 

 

 

「・・・・“相手に信じて貰う為には、先ず自分から相手を信じる”、か。・・・・不思議ね。あの人がそう言うと、何でもできる気がしてくるわ・・・・」

 

ヨークタウンの身体から、金色の光が漏れ出してくると、ヨークタウンは顔を上げて、『エックスレット』を構えたその瞬間、脳裏に一人の青年と、メカメカしい身体をしたX字のカラータイマーを着けたウルトラマンの姿が浮かび、彼ら二人が腕を合わせている姿が浮かんだ。

その姿は、誰よりもお互いを信頼している事を表していた。

 

「私も信じて見ますーーーー指揮官、あなたを!」

 

その瞬間、ヨークタウンの身体が金色に輝き始めた。

 

「〈ノブレス・ドライブ〉!!」

 

光輝いたヨークタウンの身体と連動するように、爆撃機も金色に輝き、更に緑色の雷を迸らせていた。

 

『ギィィィィィィィィィッッ!?』

 

キングマイラが頭上が光ったのを見て、ヨークタウンの存在に気付くがもう遅かった。

 

 

 

 

 

ートレギアsideー

 

『へぇ~。考えたねぇ。で・も、それで上手く行く訳が』

 

トレギアがタイタスとキングマイラの力比べしている所に近づき、ヨークタウンを妨害しようとしたその時。

 

「うわ~・・・・やっぱり出たよ」

 

『ん?』

 

後ろから声が聞こえ振り向くと、ロング・アイランドが滞空しながらトレギアを見据えている姿だった。

 

『あれ、お嬢ちゃん。私の相手をするのかね? 君ごときが?』

 

随分と舐められた物だと思うトレギアだが、ロング・アイランドはベーと舌を出した。

 

「まさか。幽霊さんは、この子を連れてきただけ!」

 

ロング・アイランドがそう言った瞬間、ロング・アイランドの背後から頭上を飛び越えて、ある駆逐艦が現れた。

 

『っ! ジャベリンっ!?』

 

「邪魔させません! 『ジードさん』っ!!」

 

何と、〈ノブレス・ドライブ〉したジャベリンの腕に『ウルトラマンジードレット』が巻かれており、ソコから紫色のオーラがジャベリンの槍に纏い、ジャベリンの後ろに、ウルトラマンジードの幻影が現れた。

 

『ウルトラマンジード・・・・! 暁月、理巧・・・・!!』

 

トレギアは一瞬、その幻影を忌々しそうに睨んで、その名を呟いた。

トレギアはウルトラマンジードが気に食わなかった。何が不愉快に感じると言われれば、彼のーーーー光も闇も混合しているのに、僅かな光明でも貫き進む意志の強さが宿る瞳が、トレギアは果てしない不快感を感じてならなかった。

が、ジードの幻影に意識が向きすぎていたのが、敗因であった。

 

「いっけーーーー!」

 

ジャベリンが槍を槍投げのように投擲すると、紫色の力の奔流に包まれた槍が、凄まじい勢いで突っ込んでくる。

 

ーーーードシュンッ!!

 

『ぐああああああああああっ!!』

 

それをマトモに受けたトレギアは、海に盛大に倒れ、凄まじい水飛沫を上げた。

 

 

 

 

 

 

ーヨークタウンsideー

 

「ーーーー行きなさいっ!!」

 

トレギアが綾波の斬撃を受けるのとほぼ同時に、ヨークタウンが電撃を纏った爆撃をキングマイラの脳天に叩き落とした。

 

『ーーーー!! グギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっっ!!』

 

キングマイラはタイタスを離すと、頭を押さえて凄まじい声量の悲鳴を上げると、身体に異変が起こった。

ちょうど成長する時間だったのだが、キングマイラの全身から血管が浮かび、骨が軋むような音が鳴り、筋肉がボコボコと蠢くように動く。

 

『ギャアアアアアアアアアアアアアアッッ!!』

 

『やはり、キングマイラの弱点は角に覆われた頭部だったか』

 

解放されたタイタスは少し距離を空け、自分の周りを滞空するヨークタウン達にも聞こえるように声を発した。

 

『生物の進化は緩やかなに行われる物。だが、キングマイラは急成長し過ぎている。その急成長に肉体が耐えられる筈がないのだ。成長する肉体の破壊と再生がコントロールできず、とてつもない激痛に襲われているのだ』

 

「人間で言う所の成長痛のような物ね」

 

医療に詳しいヴェスタルが補足した。

それを聞いて、トレギアがゆっくりと身体を起こし、身悶えているキングマイラを一瞥してから、タイタス達を見据える。

 

『ふっ。これもカイン・オーシャンの指示って訳か・・・・だが、代償もあったな?』

 

『ーーーーぐぅっ!!』

 

『タイタス(さん)!!』

 

ーーーーピコン、ピコン、ピコン、ピコン、ピコン、ピコン・・・・。

 

タイタスの身体が膝を付き、カラータイマーが点滅を始めた。

 

『キングマイラのパワーは凄まじい。流石の力自慢も形無しだったようだねぇ?』

 

言われて艦船<KAN-SEN>達も気づいた。タイタスより一回りも巨体のキングマイラをあの場に留めていたのだ。タイタスにだって相当の疲労と負担があった筈だ。

 

『ーーーーまだだっ!』

 

『っ!』

 

か、それでもタイタスは立ち上がり、身体の成長の暴走で身悶えるキングマイラに立ち向かおうとする。

 

『「タイタス・・・・! 諦めないよな!」』

 

『当然だ! ヨークタウン嬢が作ってくれたこの勝機! 決して無駄にはしない!』

 

『クククク、賢者と呼ばれるにしては、愚かだねぇ? そんな満身創痍で何ができる?』

 

『愚かなのは貴様だトレギア!』

 

『何?』

 

言い返されたトレギアに、タイタスは毅然と叫ぶ。

 

『戦いの流れは確実に変わった! この流れを逃さず、勝利と未来を掴み取る! ソレがーーーー『力の賢者』の戦いだっ!!』

 

タイタスがそう叫んだのと同時に、空の彼方から『光の流星』が落下してきた。

 

『むっ!』

 

『流星』はタイタスのカラータイマーに吸い込まれるように入り込むと、赤く点滅していたカラータイマーが、元の青に戻った。

 

 

 

 

ーカインsideー

 

そして、流星はカイン指揮官の腰のベルトに光が収まり、五角形のバックルになった。

 

『「これは・・・・」』

 

≪まさか、新しい力かよっ!?≫

 

≪タイタスのか・・・・!≫

 

『トモユキ! これを使おう!』

 

『「ああ! 行くぜタイタス!」』

 

[カモン!]

 

『「煌めきの力を拳にっ!!」』

 

[スターライト!]

 

タイガスパークをバックルに翳すと、バックルから光が放出され、タイガスパークの水晶がオレンジ色に輝く。

 

『ムゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンンッ!!』

 

タイタスの頭にヘッドギアが、胴体にアーマーが、両肩に大きなショルダーが、背中に小さなバーニアが、両手に手甲が、両足にグリーブか装備された。

 

[ウルトラマンタイタス ファイティングノヴァ]

 

『フンンッ!!』

 

ーーーープシュゥゥゥゥ・・・・!

 

オレンジ色の鎧を纏った『力の賢者』は、仁王立ちをすると、鎧のアチコチから蒸気が噴射された。

 




次回、新たな姿となったタイタスが、キングマイラに立ち向かう。


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【新星】賢者の拳は勝利を掴む!

ーベルファストsideー

 

「あれは・・・・!」

 

ベルファストを旗艦としたアズールレーンの増援艦隊が目にしたのは、キングマイラとトレギア、そしてーーーー新たな鎧を纏ったタイタスの姿だった。

 

 

 

 

 

 

ータイタスsideー

 

『な、何だその姿はっ!?』

 

トレギアが狼狽えたように声を荒げ、ヨークタウン達も目を見開いた。

新たな姿となったタイタスの姿、『ウルトラマンタイタス ファイティングノヴァ』の姿を。

 

『この鎧は・・・・むっ!』

 

タイタス自身も驚いていたが、ヘッドギアからバイザーゴーグルが展開されると視界の半分に、ウルトラマンジョーニアスの姿が現れた。

 

『ジョーニアスっ!?』

 

『「この人が、タイタスの故郷〈U-40〉の英雄、ウルトラマンジョーニアスか・・・・」』

 

《タイタス。これが君に送られている事を願い、このメッセージを伝える。これ我が〈U-40〉と〈惑星ジー〉が共同で開発したタイタス専用の装備だ》

 

『我が〈Uー40〉と友好関係にある〈惑星ジー〉が共同で開発・・・・!?』

 

《タイタスよ。君がどんな過酷な戦いをしているのかは、私達には分からない。だが、君は一人ではない。遠くから君を思う私達。そして、君と共に戦う仲間達がいる。それを忘れず戦うのだ。君の知識、そして鍛えた肉体は、敵を倒す為だけにあるのではない。弱き者達を守る為にあるのだ。忘れるな。その拳を振るう意味を!》

 

《タイタス様・・・・》

 

と、次に、褐色の肌に美しい黒髪をストレートに流した、優麗な美女が現れた。

 

『ネフティ王女殿下!?』

 

《御武運を祈っています。どうか、ご無事で。またお会いになる時を、心から待っています》

 

そう言い残し、映像が消えると、ヨロヨロと起き上がるトレギア、漸く細胞の暴走が収まり出したキングマイラがいた。

 

『「・・・・・・・・行こう、タイタス!」』

 

『ーーーーあぁ!! 私のウルトラマッスルが唸りを上げているっ!』

 

タイタスが構えると、トレギアが気持ちを落ち着かせたのか、声を発する。

 

『ーーーーふん・・・・新しい玩具を手に入れたからと言って、調子に乗らない事だねぇ、『力の賢者』殿。また打ってごらんよ。賢者の拳とやらを!』

 

『もう一度言おう。その挑発、敢えて乗る!ーーーーヌゥンッ!』

 

初めてタイタスと共に戦った日のように、トレギアが嘲笑しながら挑発するように言うと、タイタスがファイティングポーズを取り、足と背面のブースター、そして両肩のショルダーからもブースターが噴射され、フーマ程では無いが、かなりの加速をつけてトレギアに迫る。

 

『ーーーーフンッ!』

 

『ーーーーフッ』

 

ーーーーバシィィィンッ!!

 

タイタスが拳を突きだすが、トレギアは片手で軽々と掴んだ。

 

『おいおい、全てを砕くんじゃ(グギリッ!)・・・・はぁ??』

 

嘲弄するトレギアの腕から、骨の砕ける音が、少し離れた位置にいるエンタープライズ達や、こちらに向かってきているベルファスト達にも聞こえるくらいに聞こえ、トレギアがタイタスの腕を掴んだ手を見ると・・・・。

 

『ーーーーぐっ、がぁ、あぁあぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!』

 

トレギアが辺り一帯にまで響く程の悲鳴をあげた。

何と、トレギアの手首かダランと力なく垂れ、それだけでなく、肘まであらぬ方向に曲がり、さらに五本の指が全て、グチャグチャに折れ曲がっており、見るも無惨な状態になっていた。

 

『う、腕がぁっ!? 私の腕がぁぁぁぁああああああああああああっっ!!!』

 

トレギアが激痛に悶えていると、タイタスは冷静に声を発する。

 

『トレギア。さらにもう一度言おう。お前の相手をしている暇はーーーー』

 

タイタスがフルスイングでアッパーカットをすると、その拳がトレギアの顎にクリティカルヒットした。

 

『無いッ!!』

 

『ぐぶぅっ!? ごわぉおおおおああああああああああああああああーーーー』

 

そのままトレギアは、天高く殴り飛ばされた。

 

 

 

 

ーエンタープライズsideー

 

「トレギアを一撃でぶっ飛ばしたです!」

 

「凄いですー! タイタスさんもパワーアップだね!」

 

「勝利確信(グッ!)」

 

綾波、ジャベリン、ラフィーがそう言うのと同時に、増援艦隊のベルファスト達が到着した。

 

「エンタープライズ様!」

 

「ベルファスト! 来てくれたか!」

 

「はい。しかし、どうやら徒労に終わりそうです」

 

ベルファストもまた、勝敗が見えたように笑みを浮かべた。

 

「あっ! キングマイラがっ!」

 

ホーネットが指差すと、キングマイラが再びテレポートをすると、タイタスの後ろに姿を現した。

 

 

 

 

 

ータイタスsideー

 

『ギシャァアアアアアッ!』

 

キングマイラは三股の尻尾を振ると、タイガの時のように、タイタスの両足と腰に尻尾の巻き付けて自分に近づけ、両腕を掴み、胸の鉤爪でタイタスの首を絞め、さば折りを繰り出した。

 

『ギシャァアアアアアアアアアアッ!!』

 

『ーーーーぐぅぅぅぅっ! 同じ技で倒せる程、我々は甘くないぞ、キングマイラ! フンッ!』

 

タイタスが力を込めると、背面と両肩のブースターが噴射され、キングマイラの身体を焼き付ける。

 

『ギシャアアアアアアアアアアッ!?』

 

熱さに悲鳴をあげるキングマイラに、さば折り状態のタイタスは更なる一撃を加える。

 

『刮目せよっ! 進化した星の一閃、『スーパーアストロビーム』!!』

 

額のアストロスポットをヘッドギアで強化された黄色い星型のビームがあらぬ方向に発射されるが、何とーーーービームが空中でジグザグに動き戻ってくると、キングマイラの顔面に当たった。

 

『ギシャアアアアアアアアアアアアアアッッ!!?』

 

更に悲鳴をあげたキングマイラは両腕を掴んでいた手と腰と両足を拘束していた尻尾を緩めてしまい、そしてーーーー。

 

『フウンッッ!!』

 

タイタスは拘束から脱出した。

 

『『カァァァァーーーー』』

 

すると、キングマイラの両肩の触手が口から火炎を放とうとする。

 

『ヌンッ!!』

 

『『ガフッ!?』』

 

ーーーーバオォォォンッ!!

 

が、タイタスの両肩に装備したショルダーアーマーが飛び出し、火炎を発射する寸前の触手の口を塞ぐと、行き場を失った火炎が触手の中で貯まり爆発し、触手も爆散した。

 

『ギシャァアアアアアアアアアアッ!?』

 

顔のダメージだけでなく、両肩からもダメージで痛みが増大し、キングマイラがさらに悲鳴をあげる。

 

『ムンッ!』

 

タイタスが両手を突きだすと、飛んでいたショルダーアーマーが両手にグローブのように装備する。

そして、右手で宙にを殴るようにラッシュを繰り出していると、右手のグローブにエネルギーが貯まったように光りだし、顔を押さえて悶えるキングマイラに向けて拳を突き出した。

 

『受けよ! 流星の拳、『シューティングフィスト』!!』

 

突き出した拳から、黄色の拳形のエネルギーが流星のように幾つも放たれ、がら空きになったキングマイラの腹部に叩き込まれた。

 

『ギブバァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!』

 

キングマイラが口から空気と唾を吐き出しながら後方に吹き飛び、大量の水飛沫を上げながら倒れる。

 

『フンッ!』

 

次にタイタスが倒れたキングマイラの上空に飛ぶと左のグローブもラッシュするように宙に連続で突き出すと、エネルギーがチャージされる。

 

『とどめだっ! 彗星の一撃、『コメットフィスト』ッ!!』

 

チャージされたエネルギーを拳に一点に集中してから放つと、極大の黄色の拳の形のエネルギーが、彗星のようにキングマイラの上から放たれる。

 

『ギ・・・・ギギ・・・・!!』

 

ボロボロになったキングマイラには、もうテレポートする余力も残っておらず、その黄色い彗星の拳に呑み込まれた。

 

『ギガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!』

 

『ーーーーぁぁぁぁあああああああ!!!』

 

ーーーーチュドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンッ!!

 

ーーーーザバァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンンッ!!

 

キングマイラは悲鳴をあげて、尻尾でその拳の彗星を受け止めようとするが、尻尾はそのエネルギーに呑まれ、焼き付くされ、最後にキングマイラの身体も呑み込まれ巨大な水の柱を上げながら大爆発した。

そしてそれに合わせるように、上空からトレギアが落下し、海面にキングマイラの爆発にも負けない巨大な水の柱をあげた。

 

『フゥンッ! 賢者の拳は勝利を掴む!』

 

『きれてる! きれてるぅっ!』

 

マッスルポーズを取るタイタスに、大半の艦船<KAN-SEN>達から歓声が上がった。

 

『ぐぅっ!! こんな、馬鹿な・・・・!!』

 

「トレギアっ!!」

 

「うわっ、本当にしつこいのだっ!」

 

グシャグシャになった腕を押さえながら立ち上がるトレギアを見て、エンタープライズがアーチェリーを構え、ハムマンが引き、他の艦船<KAN-SEN>達も臨戦態勢ち入った。

 

『何だその鎧は・・・・!? たかがそんな鎧で、何故これほどの力を!?』

 

『これはただの鎧などではない!』

 

『っ!』

 

タイタスが敢然とした姿勢で話し出した。

 

『この鎧こそ! 我が〈Uー40〉と〈惑星ジー〉の技術の粋を集めた鎧! 云わば二つの星の『絆』によって造られた叡智の結晶なのだ!』

 

そう宣言するタイタスの威風堂々とした姿は、まさに賢者や風格があった。

 

『・・・・『絆』・・・・『絆』『絆』『絆』と! そんなくだらない物を自慢気に話してっ!!』

 

トレギアが憤懣収まらない様子で、怒号をあげると、周囲に凄まじい風圧が広がった。

が、タイタスはそんな怒りの雄叫びを諸せず、トレギアに向けて声を発する。

 

『トレギアよ。何故ソコまで『絆』を嫌悪する? 何故ソコまで『光』も『闇』も無意味だと喚くのだ?』

 

『だまれっ! この宇宙に『光』も『闇』もない! 貴様ごとき弱者に! 私の何が分かるっ!?』

 

『ああ分からん! だが、お前がソコまで『絆』や『光』と『闇』を否定するのは、お前がそれをーーーー“捨てたからではないのか”?』

 

『っ!』

 

タイタスの言葉に、トレギアは息を詰まらせたような挙動をする。

 

『お前がソコまで強大な力を得る事ができたのは、お前は多くの物を捨てたからなのか? 『仲間』も、『絆』も、『光』も、『闇』も。だからお前は認めたくないのではないのか? 自分が捨てた物から、これほどの『奇跡』を生み出す事を、お前は認めたくないから頑なに否定しているのでないのか?』

 

『・・・・・・・・まれ・・・・!』

 

トレギアは一瞬顔を俯かせると、プルプルと震えながら、地獄から響くようなドス黒い声を発した。

 

『黙れ! 黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!』

 

トレギアが怒りを爆発させたかように吠えると、瞳からの破壊光線『オプトダクリス』を最大出力で放った。

 

『ヌンッ!』

 

が、タイタスは必殺光線、『プラニウムバスター』を形成するようにエネルギー光球を形成していくが、その大きさは『プラニウムバスター』から二回りの大きさと、凄まじいエネルギーを内包していた。

 

『『ギガントニウムバスター』!!』

 

タイタスが背後に流星群が降り注ぐ夜空を現すと、巨大光球を両手で打ち出し、『ギガントニウムバスター』が『オプトダクリス』をものともせず突き進む。

 

『なっ!?ーーーーぐぉあああああああああああああああああああああああっっ!!』

 

『ギガントニウムバスター』の威力に、トレギアが悲鳴を上げるが、背面に魔法陣を展開すると、転移して逃げた。

 

『ふむ、逃げたか』

 

タイタスは、砂浜に突き刺さったトライブレードに近づき、その柄を握って引き抜くと、トライブレードは光子になり、タイガスパークへと入っていった。

 

『「これで、一件落着、だね」』

 

『うむ』

 

カイン指揮官の言葉に、タイタスは頷いた。

 

 

 

 

 

 

タイタスから元に戻ったカイン指揮官は、エンタープライズ達と合流し、お互いに労っていると、ヨークタウンが話しかけた。

 

「・・・・指揮官」

 

「ん? なんだい?」

 

「あなたはーーーー平和な世界がくると、思っていますか?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

ヨークタウンの問いかけに、カイン指揮官は少し思案すると声を発した。

 

「・・・・難しいだろうな。簡単な道ではないだろう。多分、俺が生きている内にできるか分からない。ーーーーだが、それでも歩んで行こうと思う」

 

「歩む・・・・?」

 

「そう。困難な道だろうけど、俺一人で成そうとするんじゃない。ーーーーこんなに、頼りになる皆がいるんだからな」

 

カイン指揮官が艦船<KAN-SEN>達を見渡して言うと、艦船<KAN-SEN>達も頷いた。

 

「平和な世界は簡単には造れない。だが、小さくても、一歩ずつ踏みしめて行く。その『過程』が大事なんだ。だろタイタス?」

 

『うむ! その! 通り! だ!』

 

「ちょっと重い・・・・」

 

ラフィーの肩の上でスクワットをしているタイタスが頷いた。

 

『あのなタイタス・・・・』

 

『こんな重要な話の最中になんでトレーニングしてんだよ?』

 

綾波の頭の上で療養しているタイガと、ジャベリンの肩に座っているフーマが、呆れ交じりに言う。

 

『日課の! トレーニングの! 時間! だから! な! それに! 平和も! トレーニングと! 同じ! だ! たゆまぬ! 努力を! 怠らない! 事で!! 導かれる物なのだ! マッスル! マッスル!』

 

スクワットを終えたタイタスが、サイドチェストをし、胸筋をピクピクさせ、トレーニングによって培われた筋肉でできた鎧のような肉体を見せた。

 

『た、確かに凄い身体・・・・!!』

 

『ナイスバルク!』

 

艦船<KAN-SEN>達は絶大な説得力に溢れたタイタスの肉体を見て、納得し、中には逞しい筋肉が好きな艦船<KAN-SEN>達は称賛した。

そしてそれを見て、ヨークタウンはクスクスと、笑みを浮かべる。

 

「フフフ・・・・。たゆまぬ努力で一歩ずつ、ですか。では私も、その歩みにお付き合いましょう」

 

「えっ、それって・・・・」

 

カイン指揮官の問いに、ヨークタウンは意を決して応える。

 

「我々〈ユニオン〉艦船<KAN-SEN>は、アズールレーン母港に着任します」

 

〈ユニオン〉でも重鎮のヨークタウンがそう言うと、他の〈ユニオン〉艦船<KAN-SEN>達も頷いた。

 

「ーーーー歓迎する。ヨークタウン!」

 

「よろしくお願いします。カイン・オーシャン指揮官様。そして、トライスクワッドの皆さん」

 

カイン指揮官とヨークタウンが固く握手し、タイガ達にも声をかけた。

 

『ああ、よろしくな、ヨークタウンさん』

 

『頼むぜヨークタウンの姉さん!』

 

『頼りにさせて貰います。ヨークタウン嬢』

 

ヨークタウンはタイタスは見ると、小さく笑みを浮かべる。

 

「ーーーー私も、タイタスさんのように身体を鍛えようかしら?」

 

『え”っ?』

 

『おおっ! それは素晴らしい! 私がヨークタウン嬢にあった理論的なトレーニング方法を考えよう! マッスル! マッスル!』

 

それを聞いてタイタスは意気揚々となるが、カイン指揮官とタイガとフーマ、妹のエンタープライズにホーネット、そして他の艦船<KAN-SEN>達はーーーー首から下がタイタスのようなゴリゴリマッチョになったヨークタウンを想像し、

 

『ブッ!!』

 

可笑しさか強烈なインパクトにか、大半が思わず吹き出してしまった。

 

「だ、ダメなのだーーーー! ヨークタウン姉さんがタイタスみたいなゴリゴリマッチョになるなんて、ダメなのだーーーー!!」

 

『あははははははははははは!!』

 

ハムマンが慌ててヨークタウンを引き留めようとする姿に、一同の笑いが響いたのであった。

 

 

 

 

 

ー霧崎sideー

 

「ぐぅ・・・・うぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・・!!」

 

時間は夕暮れ。

カイン指揮官達がいる場所から遠く離れた無人の古城がある小島で、右腕を複雑骨折した霧崎が痛みに悶えていた。彼の回復力を以てしても、元通りになるには相当の時間が必要のようだ。

 

ーーーーおやおや、随分と痛々しい姿ではないかね、Mr.霧崎?

 

「?・・・・お前は」

 

突然の声に霧崎が振り向くと、幾つもの勲章を着けた軍服を着用し、“鉄血艦隊を率いる一人の軍人”が現れた。

その軍人は、にこやかな笑みを浮かべながら、霧崎に向けて左手を差し出す。

 

「我々と共に行こう! 我々は君と手を取り合える! 共にあの“偽トラマントリオ”を倒そうではないか!」

 

「お前の、名は、まさかーーーー」

 

霧崎の言葉を遮るように、軍人が周りにいる艦隊に乗る鉄血艦船<KAN-SEN>達にも聞こえるように、両手を広げ高らかに宣言した。

 

「そう! 我々は! 愛と正義を伝導する誇り高き鉄血艦隊!! そしてこの私こそ! この世界に『真の希望』で照らすオンリーワンな存在! 『アイゼーン・マコットラー』総統閣下であーーーーる!!! アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハっっ!!!」

 

鉄血総統、アイゼーン・マコットラーの哄笑が、夕暮れの空に不気味に響いた。




次回、鉄血が動く!



ー『ウルトラマンタイタス ファイティングノヴァ』ー

『ウルトラマンジード ソリッドバーニング』のようなアーマーを着て、肩には『仮面ライダーパラドクス パズルゲーマーレベル50』のようなアーマー『ナックルスター』からバーニアが噴射され両手に装備する。



ー『スーパーアストロビーム』ー

『アストロビーム』の強化版。威力は上がっており、ジグザグに動きながら相手にむかう。


ー『シューティングフィスト』ー

『ナックルスター』にエネルギーをチャージして拳を突き出すと、黄色のエネルギー状の拳が流星群のように発射される。タイタスは宙をラッシュしていたが、これはタイタスなりのルーティーン。両方の手で使用可能。


ー『コメットフィスト』ー

チャージしたエネルギーを一点に集中して放つ技。『シューティングフィスト』のように広範囲ではないが、威力は絶大。両方の手で使用可能。



ー『ギガントニウムバスター』ー

『プラニウムバスター』の強化版。大きさ、威力、スピードと『プラニウムバスター』を上回っており、発射の際には、流星群が現れる。


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【蠢動】動く鉄血

ー???sideー

 

ここは、トライスクワッドがいる宇宙とは別の平行宇宙にある『地球』と言う銀河の辺境。その星の『日本』と言う重桜に良く似た国で怪獣や異星人と戦う『光の戦士』がいた。

 

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「うん。そうなんだ」

 

リモート通話でその話を聞いて驚いたのは、“アメリカに留学している長兄”と、“オーストラリアに留学している次兄”に話をする“末妹”。

この末妹こそ、外交官になる為に留学した長兄と、宇宙考古学を学ぶ為にオーストラリアに留学した次兄、『二人の兄達』が不在の間、宇宙と地球の友好の要となっている日本で戦う『光の戦士』となって戦っているのだ。

 

《あのジャイロって確か、故障して『愛染』が、と言うか、『彼女』が倉庫に捨て置いてあったんだよな?》

 

「うん。あれでも、一応宇宙人の技術で作られているから、『伯父さん』が研究に使おうと保管していたの。でも、いつの間にか無くなっていたんだ」

 

《あんな物、一体何処の誰が欲しがるって言うんだ?》

 

『光の戦士』となる三兄妹が、首を傾げていた。

何故なら件の『ジャイロ』は、自分達の住む街を、“自分のウルトラマンごっこの為に散々利用した男”が、『偽物の光の戦士』となる為に必要なアイテムなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーカインsideー

 

そして、場所はウルトラマンタイガ達のいる平行宇宙。

 

『シャァッ!!』

 

『ピギュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!』

 

アズールレーン母港から四十キロ程離れた無人島でタイガが戦っているのはーーーー。

頭と鼻に赤い大小の角が生え、右手のムチ、左手の鎌、腹部には巨大な花が胴体その物のようになり、その花から出される液が、無人島の森や援護している艦船<KAN-SEN>達の艤装の一部を溶かす程に強力な溶解液となっている怪獣ーーーー『宇宙大怪獣 アストロモンス』である。

 

『ピギュウウウウウッ!!』

 

何故こんな状況になっているのかと言うと、ほんの五時間前。

ヨークタウン達ユニオン艦船<KAN-SEN>達がアズールレーン母港に着任してから一週間が経ち。

哨戒任務に出ていた夕立と時雨と雪風、シリアスとダイドー、そしてダイドーとシリアスの姉妹艦である、銀色の長髪に豊満な胸元の上が大きく開いている以外は正統派のメイド服を着た緩やかな雰囲気の艦船<KAN-SEN>『ロイヤル所属 軽巡洋艦 ハーマイオニー』が、無人島を発見した。

その時、浜辺から島の動物らしき猿が、“ナニか”から逃げるように粟食って飛び出してきた。何事かと思った一同だが次の瞬間、森から木のように太くて長い、蔦のようなモノが鞭のようにしなりながら飛び出してきて猿を捕獲し、そのまま森へと引きずり込んでいった。

ギョッ、と目を見開いた夕立達は、急いでその後を追うと、無人島の中心らしき一角にたどり着くとソコにはーーーー見た事の無い美しい赤い花が幾つも咲き誇る花畑だった。

その美しさに一瞬見惚れた一同だが、突如、猿を捕まえた蔦が飛び出し、夕立を捕まえた。そのまま引きずり込まれそうになった夕立を助けようと、時雨と雪風が枝にしがみつき、シリアスとダイドーが剣を使って枝を切り裂きハーマイオニーが救出した。

助けられた夕立が涙目で、拳大の石を花畑に思いッきり投げ込むと、花畑の中央から“ナニか”が吐き出されるように飛び出し、夕立達の前に落ちてきたそれを見た瞬間、夕立達は背筋が凍った。

何故ならそれはーーーー先ほどの猿が、全身の体液が抜かれたような、干からびた状態になって死んでいたからだ。

顔面蒼白になった夕立達は、それはもう、全力全開の全速力で逃げて、母港に戻ると大急ぎで、執務室にて蒼龍と飛竜に監視されながら山のような書類を片付けていたカイン指揮官にその島と花の事を報告し、全員の証言から花の絵を作って、タイタスに見せると、その花が宇宙の植物である『吸血植物 チグリスフラワー』であると知った。

放っておけば辺り一体の生物を全て喰らい、怪獣を生み出してしまう、怪獣の幼体であるとと知ったカイン指揮官は、ただちに艦隊の編成を行い、その島に急行し到着すると、花畑からアストロモンスが出てきた。

『チグリスフラワー』は、アストロモンスが生まれる為の幼体であったのだ。アストロモンスは自分の鞭『スネークビュート』で近くにいた鯨を一本釣りすると、腹部の巨大なチグリスフラワーが捕食器官にもなっているようで、そのまま一飲みで鯨を飲み込んでしまった。

ギョッと艦船<KAN-SEN>達の大半が目を見開き、このままでは被害が増えると見たカイン指揮官がウルトラマンタイガに変身して、現在に至った。

 

『ピギュウウウウウッ!!』

 

『ぐぉぉぉっ!!』

 

タイガはアストロモンスの鎌で身体を斬られ、火花を散らせて倒れる。

 

『っ~~! このっ!ーーーー『ストリウムブラスター』!!』

 

タイガが『ストリウムブラスター』を放つが、アストロモンスは、その鈍重そうな見た目からは想像できない程の俊敏な動きで回避すると、『スネークビュート』でタイガの首を締め上げる。

 

『グゥゥゥゥゥゥゥ・・・・!!』

 

≪タイガ! まだ本調子ではないのに、無茶をしてはいけない!≫

 

≪俺かダンナに任せろ!≫

 

タイタスとフーマがそう言うが、タイガはズルズルと引っ張られると、アストロモンスの腹部の『チグリスフラワー』が呼吸をするように動いた。

 

≪げぇっ! あのヤロウ! 俺らを喰うつもりだぜっ!?≫

 

≪カイン! 君も我々と交代するように、タイガを説得してくれ!≫

 

『「ーーーータイガ・・・・」』

 

『トモユキ・・・・! やらせてくれ・・・・! キングマイラの時、俺はほとんど何もかもできなかった・・・・! ここで挽回させてくれ・・・・!』

 

『「・・・・・・・・分かった」』

 

≪カイン!!≫

 

≪良いのかよ兄ちゃん!≫

 

『「男が自分の意地を張ろうと挑んでいるんだ。野暮な事は言えないさ。それに、戦っているのは俺達だけじゃない!」』

 

カイン指揮官がそう言うと、足元にいる艦船<KAN-SEN>達に目を向けた。

 

 

 

 

 

 

ー綾波sideー

 

「た、タイガさん、苦戦してる、ね?」

 

「・・・・タイガ、何か不調、っぽい?」

 

「まだキングマイラとの戦いでのダメージが抜けきれてないです?」

 

ユニコーンとラフィーと綾波が、心配するような顔となる。が、後ろから複数の少女の声が聞こえた。

 

「ーーーーならば、余らが出ようぞ」

 

「わぁい! わぁい! 久しぶりにガンバるぞ~!」

 

「まだ傷が癒えてないヤツを選ぶなんて、指揮官の選考ミスね!」

 

「まぁまぁ姉さん。その話は怪獣を倒してからにしましょう」

 

「この日を待ちわびていた。怪獣に我らの力を見せようぞ」

 

「良いぜ! 良いぜ! こんなデカい怪獣<ヤロウ>と戦り合えるなんてよぉ!」

 

「ようやく、私達の実力を見せる時が来たようだ・・・・」

 

「あ、貴女達はっ!?」

 

ジャベリンがオーバーリアクション気味に声を張り上げるが、ある意味では仕方ないと言えるかもしれない。

何故なら、〈重桜〉の旗艦である二人に、ロイヤルの戦艦二人。そしてーーーー先日着任したユニオンの戦艦達が現れたのだ。

一人は左目が前髪に隠れた長い銀髪で、赤いカチューシャを付けており、襟部分に錨状の装飾が付いた衣装を身に着けている艦船<KAN-SEN>の少女。

一人はツリ目でダークレッドの長い髪をポニーテールにし、錨状の装飾が着いた黒を基調とした衣装に身を包み、好戦的な笑みを浮かべる艦船<KAN-SEN>の少女。

一人はハーフアップに結った長い黒髪に、左目には泣きぼくろが付いており、これまた錨状の装飾が着いた黒を基調とする衣装を着る艦船<KAN-SEN>の少女。

 

「わぁー! 凄い凄い! 『ビックセブン』が揃い踏みですねー!」

 

その艦船<KAN-SEN>達を見て、ジャベリンが目を輝かせながら、はしゃいだようにまた声を張り上げたが、それも仕方ない。何故なら、ここにいる艦船<KAN-SEN>達のほぼ全てが、この七人の艦船<KAN-SEN>達に注目しているのだ。

『重桜所属 戦艦 長門』。

『重桜所属 戦艦 陸奥』。

『ロイヤル所属 戦艦 ネルソン』。

『ロイヤル所属 戦艦 ロドニー』。

『ユニオン所属 戦艦 コロラド』。

『ユニオン所属 戦艦 メリーランド』。

『ユニオン所属 戦艦 ウェストバージニア』。

世界でも指折りの戦闘力を持つ戦艦である七人の艦船<KAN-SEN>ーーーーそれが『ビックセブン』である。

長門と陸奥は母港を散歩していると、ちょうどお茶をしていたネルソンとロドニーに出会い、さらに偶然か、綾波達に母港を案内されていたコロラド達と出会ったのだ。

そんな時、夕立と達が慌てた様子で戻ってきたのを見かけて一同が訝しそうにしていると、カイン指揮官が調査の為に綾波達四人に出撃を命じた。

ーーーーのだが、たまには自分達も出撃したいと言った長門と陸奥、周辺の海域を見てみたいと言ったコロラド達、そして自分達も行くと言い出したネルソンとロドニーも来たのだ。

 

「壮観、でございますね。『ビックセブン』が揃い踏みとは」

 

「ああ、頼もしい限りだ」

 

「でもーーーー“ビック”って・・・・」

 

一緒に来たエンタープライズとベルファストも笑みを浮かべた。まあ、ホーネットが苦笑しながら、幼い容姿の長門と陸奥を見た後、“色々な部分が大きい”、ネルソン達、他の『ビックセブン』と比べたのはご愛嬌だろう。

すると、ホーネットの視線に気づかず、長門が前に出る。

 

「では各々がた参ろうぞ。我ら『ビックセブン』の威光を示そうではないか!」

 

『うん!/ええ!/ああ!/(コクン)』

 

長門の号令に、他の『ビックセブン』が頷くと、アストロモンスに引き寄せられるタイガへと向かい、そして艤装の砲口をアストロモンスへと向けーーーー。

 

「てぇーーーーい!」

 

長門の叫ぶと、『ビックセブン』の砲口から火が吹き、

 

ーーーードガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガァァァァァァァァァァァァァァァンンッ!!

 

激しい砲撃の炎がアストロモンスの身体から舞い上がる。

 

『ピギュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!』

 

身体から炎の塊を叩きつけられ、元が植物のせいか、アストロモンスは悲鳴を上げると、タイガを捕まえていた『スネークビュート』の力を緩めてしまった。

 

『「っ! タイガ!」』

 

『よぉしっ! 『スワローバレット』!!』

 

好機と見たタイガは光弾を放ち、アストロモンスを後退させる。

 

『「これで決めるぞ! タイガ!」』

 

『よし!』

 

[カモン!]

 

カイン指揮官はタイガスパークを起動させ、『フォトンアースキーホルダー』を手に取り、タイガスパークを翳した。

 

[アース!][シャイン!]

 

『「輝きの力を手に!」』

 

キーホルダーを握ると上部が二又に開いて光り輝く。

 

『はぁぁぁぁぁっ!!』

 

タイガの身体に、フォトンアースの鎧が纏う。

 

「バディーーーーゴー!」

 

[ウルトラマンタイガ フォトンアース]

 

『シャァっ!!ーーーーハァァァァァァァッ!』

 

電光を纏った回し蹴りを叩き込み、更に拳でのラッシュでアストロモンスを後退させると、長門と陸奥、ネルソンとロドニーが。

 

「「「「〈ノブレス・ドライブ〉!!」」」」

 

四人の身体が金色に光り、更に『光の艦隊』を生み出す。

 

「「「「『共鳴<レゾナンス>』!」」」」

 

『光の艦隊』から光線の砲撃がアストロモンスの両腕を粉砕した。

 

『ピギュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!』

 

アストロモンスが痛みでそこら辺を走り回る。

 

「・・・・やはり〈ノブレス・ドライブ〉ができる者達は凄いな」

 

「ちっ、あたし達も早く到達したいもんだねぇ」

 

「・・・・いつか必ず到達してみせる」

 

ついこの間着任したばかりだが、〈ノブレス・ドライブ〉の凄まじさを見て、いつか自分もと考えるコロラド姉妹。

と、タイガは必殺光線の構えを取り、頭上にオーロラを形成した。

 

『フゥゥゥ・・・・『オーラムストリウム』!!』

 

タイガは金色の長剣の形状をした光線を、アストロモンスの腹部の『チグリスフラワー』に向けて放った。

 

『ピギュゥアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』

 

光線を呑み込んだアストロモンスは、身体が膨張していき、空気の入れすぎた風船のように、内部から破壊されそしてーーーー。

 

ーーーーバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンンッ!!!

 

大爆散した。

 

『フゥゥゥ・・・・』

 

タイガはアストロモンスを撃破すると、構えを解いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

変身を解除したカインは、一同を連れて無人島に上陸すると、アストロモンスが出てきた、『チグリスフラワー』の群生地に赴いた。

 

「これはーーーー酷いな・・・・」

 

ソコは巨大なクレーター、おそらくアストロモンスが誕生した跡であろう。しかし、その場はアストロモンスのような巨大な生物が這い出たせいか、島の大半が巨大なすり鉢状の穴が形成され、もはや島の体裁を保てない状態だった。

さらに悪い事に、僅かに残った近くの森で『チグリスフラワー』が幾つかが発見された。

 

≪カイン。『チグリスフラワー』はたった一輪でも残っていればすぐに成長し、爆発的に増殖する。≫

 

 

「・・・・指揮官。この花は?」

 

「ーーーー全て燃やす。害虫ならぬ、害花は徹底的に駆除だ」

 

『了解!』

 

長門と陸奥は従者の江風を連れて、ネルソンとロドニーも、コロラド達も、エンタープライズとベルファストも、綾波達も、『チグリスフラワー』を燃やしていく。がーーーー。

 

「あの、指揮官さん・・・・」

 

「ん?、『花月』に『オーロラ』?」

 

カイン指揮官に話しかけてきたのは、ピンク髪にエメラルドグリーンの瞳に大きな獣耳に袴姿をし、番傘を手にしている艦船<KAN-SEN>『重桜所属 駆逐艦 花月』と金髪の長髪にリボンを結び、胸元と肩を露出したロングコートの軍服とスカートから伸びる、スラリとした美脚を白いハイニーソックスを着用した艦船<KAN-SEN>『ロイヤル所属 軽巡洋艦 オーロラ』だった。

 

「指揮官さん。このお花、全て燃やすの?」

 

言い淀む花月に変わって、オーロラが一歩前に出てカイン指揮官に声を発した。花を愛するこの二人にとって、危険な『チグリスフラワー』とは言え、花を駆除するのは難色を示しているのだろう。

 

「・・・・・・・・君達の気持ちは分かる。けどな、チグリスフラワーを放っておけば、この島のような惨状がこれからも広がっていく。それにーーーーこれを見てくれ」

 

カイン指揮官は二人の気持ちを汲むが、それでも、厳しい言葉を発しながら、森の木や地面を指差すと、ソコには爪痕や血痕が所々に残っていた。

 

「この痕を見れば分かるだろう。この島に生きていた動物達や、周辺の魚達は悉く、チグリスフラワーに血を吸い付くされていった。ここが動物しかいない無人島だったのが不幸中の幸い、とは言いたくないが、これがもしも、俺達の母港や人が住んでいたりしていたら、どうなっていたと思う?」

 

「「っ!」」

 

想像するのも恐ろしい事態になっていたであろうと考え、オーロラと花月は息を詰まらせた。

 

「俺達がチグリスフラワーを燃やす事は、そんな悲劇が起こらないようにする事だ。それが、力を持った俺達の『責任』だと思う。オーロラ。花月。花が好きな君達には酷な事だろうけど、分かってくれ」

 

カイン指揮官は、二人の肩に手を置いて諭すと、二人は悲痛な顔色を浮かべながらも、決意を込めて顔を引き締める。

 

「・・・・・・・・はい。分かりました」

 

「・・・・私達も、こんな事しては駄目だと思います」

 

「・・・・ありがとう」

 

カイン指揮官は二人にお礼を言うと二人の頭を優しく撫でた。オーロラと花月が顔を赤らめるが。

改めて、チグリスフラワーの焼却処分を再開させて。

ーーーーしかし、カイン指揮官達は気づいていない。自分達の様子を伺っている、ドローンがいた事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーアイゼーンsideー

 

「ダメ! ダメダメダメ! なっちゃいなーーーーい!」

 

ここは鉄血本国にある鉄血軍司令部の総統室。

カイン指揮官達の様子を眺めていたドローンからの映像を見ていた鉄血の総統『アイゼーン・マコットラー』は、ウルトラマンタイガとアストロモンスの戦いを見て、ヒステリックに叫びながらダメ出しをしていた。

 

「何で艦船<KAN-SEN>達に助けられているんだ! あの無人島の近くには人がいる島もあったんだ! その島が襲われてから戦えば良いのに・・・・もう! ダメ! 全然なってない! 〈光の国〉出身の癖に! あの『ウルトラマンタロウ』の息子の癖に! 全くまるでなってない! 『出来損ないの七光りのお坊ちゃん』めがっ!」

 

タイガの戦い方に酷評するアイゼーンが、我慢ならなくなってバッと立ち上がると、総統の執務机の椅子が盛大に倒れ、机をバンバン! と叩きまくった。

 

「ーーーーああもう! 痒い処に手が届かない、あの『偽ウルトラマン兄弟』を見た時と同じか、それ以上のもどかしさッ! もう何て言うか・・・・全てが雑なんだよッ!!」

 

身体中を掻き毟るアイゼーンは、大人げなく、ヒステリックに喚き散らかした。

そして、その背後から、右腕にギブスをし、半眼で冷めた目をした霧崎が現れた。

 

「・・・・Mr.マコットラー」

 

「ん?ーーーーーおおっ! Mr.霧崎! 戻ったのかね!? それでそれで! 『例の物』はっ!?」

 

アイゼーンがまるでオモチャを急かす子供のようにはしゃぎながら両手を差し出すと、霧崎は半ば呆れながら『例の物』を出した。

 

「はい。“君が『向こうの星』に残してきた『AZジャイロ』だよ”」

 

「おぉぉぉぉっ!! やっと・・・・! やっと私の手元に戻ってきてくれたねぇ! あの“卑劣なぺてん師の小娘”のせいで君を手離してしまったが! やはり私には君が必要だっ!」

 

まるで愛しい恋人に再会したような物言いに、霧崎の目はさらに冷めていくが、アイゼーンはそんな視線を全く気にも止めず、さらに言葉を続けながら、執務机の下から大きなアタッシュケースを取り出し、開けると、中から機械的な首輪のような『チョーカー』がズラリと並べられていた。。

 

「さて! 我が〈鉄血〉の世界一の科学力でジャイロを修理し終えたら!ーーーーこの『チョーカー』を我が〈鉄血〉艦船<KAN-SEN>達にプレゼントしようじゃあないか! そしてあの『偽ウルトラマン達』と! そんな奴らに協力している『無知蒙昧なアズールレーン』に教えてやろうじゃあないか!」

 

アイゼーンは机の上に立つと、天に向かって人差し指を立てた。

 

「ーーーー『真のヒーロー』にして! 『真のウルトラマン』が誰であるかを!! アッハハハハハハハ! ハーッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

大仰に騒ぎ、更にやかましい程に高笑いを上げるアイゼーンを見て、霧崎は最早相手をするのも面倒臭くなったのか、静かにその場から去っていくのを察したアイゼーンはーーーー。

 

「・・・・・・・・君も、私の力になってくれよ? Mr.霧崎、嫌、トレギア」

 

ピタッと高笑いを止め、ニンマリと口角を上げて、歪んだ笑みを浮かべていた。




次回、〈鉄血〉の総統と対峙する!


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【総統】世界中が俺を待っていた!

今回で、あの!懐古病のヤツが登場!


ーカイン指揮官sideー

 

「ーーーーう~~~~む・・・・」

 

「ご主人様。如何されました?」

 

執務を終え、母港のビーチでビーチチェアに座りながら双眼鏡を覗いていたカイン指揮官が、難しげな声をあげている事に気づいたベルファスト(水着ver.)が声をかけた。

 

「どうせいかがわしい物でも見てるんでしょ」

 

「ウフフ」

 

隣のビーチチェアに寝そべるネルソン(水着ver.)が呆れ交じりにそう言うと、ロドニー(水着ver.)が淑やかに微笑む。

 

「失礼だなネルソン。考え事を纏めたいからこうして双眼鏡で色々な物を眺めてーーーー」

 

そう言いながらカイン指揮官は、ネルソンとロドニーの雄大な胸元に双眼鏡を向けており。

 

「ーーーーふん!」

 

ネルソンが双眼鏡を押し出して、カイン指揮官はビーチチェアから仰向けに倒れた。

 

「何を眺めていたのよ?」

 

「二つ、いや、四つの雄大なお山が壮観で・・・・むっ! おぉ、ベルの二つのお山の美しさに、ついつい目がーーーー」

 

《こりないヤツ》

 

《ある意味大物だぜ兄ちゃん》

 

《悪い! 意味で! な!》

 

「何をしているんだ指揮官」

 

と、懲りずにベルファストの胸元を眺めていたカイン指揮官に呆れるタイガとフーマはビーチテーブルに置かれたビーチチェアのミニチュアに寝そべり、タイタスは近くでトレーニングをしていた。

そしてカイン指揮官に話しかけてきたのは、ホーネットと同じ、メリハリの効いたナイスバディを晒す黒のビキニ姿を着たエンタープライズと、同じ水着のホーネット、そしてセパレートを着けたヨークタウン。そして、可愛らしい水着を着たハムマンとヴェスタルだった。

 

「おおっエンタープライズ。コロラド達に〈ノブレス・ドライブ〉のアドバイスでも教えてきたかい?」

 

あのアストロモンスとの戦いから、コロラド、メリーランド、ウェストバージニア。まだ『ビックセブン』の中で、〈ノブレス・ドライブ〉を発現させていない〈ノブレス・ドライブ〉を会得したいと、ユニオンの発現した艦船<KAN-SEN>達に聞いて回っていた。

 

「いや、私達もほとんどその場の勢いで到達したようなものだからな。あまりアドバイスにはならなかった」

 

エンタープライズが苦笑していると、ビーチボールがカイン指揮官の元に転がりこんできた。

 

「指揮官!」

 

水着の綾波とジャベリン、ラフィーにユニコーンがビーチボールで戯れていたのだ。カイン指揮官は笑みを浮かべてボールを投げ渡した。

綾波達が礼を言うと、再びビーチボールで遊ぶ。

 

「ま、〈ノブレス・ドライブ〉の方は追々として、先ず俺達がやるべき事はーーーー」

 

「〈鉄血〉を含めた他の陣営の事、ですわね。指揮官様」

 

カイン指揮官の言葉を続いたのは、エンタープライズ並のバストとプロポーションを晒す水着を着た赤城と加賀であった。

一瞬鼻の下を伸ばしたカイン指揮官は、頭を振って真面目に戻ると、説明を続けた。

 

「〈ロイヤル〉。〈ユニオン〉。〈重桜〉の四大国家の三国。さらに〈東煌〉はアズールレーンに参加した。〈アイリス・ヴィシア〉と交渉は続いているが、〈サディア〉と〈北方連合〉は未だに音沙汰なく。そしてーーーー『オロチ事変』から〈鉄血〉は動きを見せない。これは少々気持ちが悪い気がしてね」

 

「また〈レッドアクシズ〉を結成しようとしているとか?」

 

「それはないわね。私達〈重桜〉との同盟をほぼ一方的に破棄した事は既に他陣営にも伝わっているわ。同盟は打算を含めてだけどメリットが優先。すぐに相手を切り捨てるような陣営と同盟を結ぶなど、デメリットの方が大きいわ」

 

ネルソンの言葉を赤城が冷静に否定すると、エンタープライズが口を開く。

 

「指揮官の方でも、何度かアズールレーンに参加して欲しいと、コンタクトを取っているのだが」  

 

「全く相手にしてくれないんだよなぁ。あぁ、こんな事なら、ニーミちゃんか、プリンツ・オイゲンの連絡先でも貰ってれば良かったなぁ」

 

ビーチチェアに座るカイン指揮官が、仰々しく肩を落とした。

と、その時ーーーー。

 

 

 

「あら♪ 私達とお近づきになりたいの? カイン・オーシャン指揮官?」

 

 

 

『っ!』

 

と、カイン指揮官達の上空からそんな声が響くと、エンタープライズ達は直ぐに艤装を展開して、声の主に向けて武器を構えた。

ソコには、件の〈鉄血〉でNo.2の艦船‹KAN-SEN›プリンツ・オイゲンが、空中に座るように浮遊しており、その太腿の先が見えそうな際どい格好で、蠱惑的な笑みを浮かべていた。

 

「プリンツ・オイゲン!?」

 

「一体何の御用でしょうか?」 

 

「アポイントメントを抜いて来るのは無作法ね」

 

加賀とベルファスト、そしてネルソンが視線を鋭くして睨む。その睨みに欠片も臆さず、オイゲンは脚を組み替えた。

 

《・・・・・・・・》

 

()()()() ()()()()()()() ()()()()()()()

 

「(う~む、後ちょっと見極められそうなのに!)」

 

タイタスは視線を反らし、タイガとフーマは顔を背けて狼狽し、カイン指揮官は目を凝らしていたが、見えなかった。

 

「オイゲンさん! そんな事をしに来た訳ではないですよ!」

 

海辺からコチラに近づいて来たのは、Z23‹ニーミ›であった。ニーミに怒られ、オイゲンがゆっくりと着地する。

 

「(ん? なんだあれ? チョーカーか?)」

 

カイン指揮官は、以前の二人が着けていない首の“黒いチョーカー”を訝しそうな目で見ていた。

 

「ニーミちゃん!」

 

「ニーミ。遊びに来たです?」

 

「そんな訳ないでしょう!」

 

ジャベリンと綾波が浜辺を歩くニーミを歓迎しているが、ニーミは顔を顰めながら否定すると、懐から大判封筒を取り出し、さらに手紙を差し出した。

 

「遅れてしまって申し訳ありませんカイン・オーシャン指揮官。此方、私達〈鉄血〉の総統閣下からお手紙です。先ずは封筒の中身を見て下さい。その後、手紙を拝見してください」

 

「ふむ・・・・」

 

「ご主人様」

 

「ベル?」

 

カイン指揮官がニーミが渡した大判封筒を訝しそうに見ていると、ベルファストが後ろから前に出る。

 

「封筒に何が入っているのか、私が拝見させて頂いても?」

 

「・・・・分かった」

 

封筒に何かしらの仕掛けが施されているのかと考えたのか、カイン指揮官はベルファストに手渡すと、ベルファストが封筒の外側と内側に仕掛けが無い事を確認してから、『三枚の紙』を取り出した。

 

「ご主人様。このような物が」

 

「ん?ーーーー何だこりゃ? 『ウルトラ通信簿』?」

 

『『ウルトラ通信簿』??』

 

カイン指揮官の言葉に、綾波達やエンタープライズ達だけでなく、ニーミやオイゲンまで、眉根を寄せた。

 

「しかもご丁寧に、タイガやタイタス、フーマと個別に分けてる」

 

《はぁっ? 俺達の通信簿って・・・・》

 

《何でンな物を〈鉄血〉のお偉いさんが・・・・》

 

《彼女達が、私達の事を報告したからかも知れないな》

 

タイガ達がカイン指揮官の肩に乗って、オイゲンやニーミに向かって小さく手を振るが、二人には見えていないようであった。カイン指揮官がトライスクワッドと共に戦っているのは、『オロチ事変』で二人も見ていたから、正体がバレているのは仕方ないとして。

カイン指揮官が一枚の通信簿を開き、ベルファスト、加賀がもう二枚の通信簿をそれぞれ持ち、カイン指揮官に見せるように広げた。そしてソコにはーーーー。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()》」

 

カイン指揮官とトライスクワッドが同時に叫び声を上げた。

ソコに書かれている内容は、タイガ達トライスクワッドの事を『ウルトラ一年生』とされ、『日常』、『戦闘中』、『戦闘後』の態度に対する評価は『だめ』と評価され、『スキル』と『スキルグラフ』、『ポテンシャル』と『ポテンシャルグラフ』も散々。さらに『特記事項』での評価も『艦船‹KAN-SEN›達に助けられて恥ずかしいと思っていないのかなぁ』とか、『正体を隠す努力をしていないヒーローの自覚無し!』とダメ出し。さらに『ひとこと』では。

タイガは【〈光の国〉出身ウルトラマンの恥!】。

タイタスは【マイナーな星の出身なんだから、もっと自分の存在をアピールしろ!】。

フーマに至っては【〈O-50〉のウルトラマンとしての自覚が無さ過ぎる! ウルトラマン辞めろ!】。

と、酷評過ぎる内容だった。『評価者』は〈鉄血〉総統である『アイゼーン・マコットラー』の名が記されていた。

 

『うっわ、ひっどい・・・・』

 

カイン指揮官の後に通信簿を見てから、ジャベリン達をヒョコっと、通信簿を見て、半眼になって苦笑した。

 

「ちょっと! これどういう事なんだいニーミちゃん!」

 

「えっ?・・・・えぇぇぇ〜!? な、何ですかこれっ!?」

 

ニーミもその通信簿を見て、驚いたように声を張り上げた。オイゲンはフゥンと、眺める。

 

「ウチの総統。前からあなた達ウルトラマンの事を調査していたけど、こんな事をしていたのね」

 

「いやいやいやいや! それにしても、この評価は一体何っ!?」

 

「もう一方の手紙には、何が書かれているの?」

 

オイゲンが、封筒と一緒に渡された手紙を指差すと、カイン指揮官は手紙の封を切って、内容に目を走らせる。

そして、手紙を持つカイン指揮官の手がプルプルと震える。綾波が口を開く。

 

「指揮官。手紙にはなんて書いてあったです?」

 

「要約すると、『通信簿の評価に文句があるなら、オイゲンとニーミが案内するから来い』、ってさ!」

 

エンタープライズにシワが付いた手紙を渡すカイン指揮官は、オイゲンとニーミにジロリと視線を向ける。

 

「今から着替えてくるから、案内を任せる!」

 

「ええ」

 

「は、はい」

 

そう言うと、着替える為にノシノシと歩を進めるカイン指揮官。そしてその後をベルファストが着いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

オイゲンとニーミに案内され、指揮官専用艦が水平線を進む。それに乗るカイン指揮官とその後ろに控えるベルファスト。会合に同席する〈重桜〉代表として赤城と加賀。〈ユニオン〉代表としてエンタープライズとクリーブランド。〈ロイヤル〉代表としてフッドとシグニット。そして何故か綾波とジャベリンとラフィーがいた。

母港から100キロ離れた民間人が住む少し大きめな島と、その島の近くに小島が見えた。

 

「あの小島に、総統が待っています」

 

ニーミが指差すと、艦は進路を小島に向けた。

 

「オイゲン、だな。君達の総統閣下殿は、どんな人物なんだ?」

 

「・・・・・・・・マトモに相手するのが疲れるような人よ」

 

オイゲンが何処となく、うんざりしたような貌でため息交じりにそう言うと、ニーミも困った顔になっていた。

そうこう言っている内に、小島に到着すると、ニーミ達に案内され、開けた場所に立つ、勲章を軍服に所狭しと無駄に付けた『〈鉄血〉の総統閣下』が立っており、その後ろには、〈鉄血〉の旗艦・ビスマルクと〈鉄血〉の軍服をキッチリと着込み、軍帽を目深に被った男性が、まるでカイン指揮官の側で控えるベルファストと赤城のように控えていた。しかし、ビスマルクには、オイゲンとニーミと同じチョーカーを首に付けているのが気になるが。

オイゲンとニーミが、その総統閣下らしき人物の近くに控えながら、カイン指揮官達を紹介した。

 

「総統。アズールレーン艦隊指揮官、カイン・オーシャン殿と、各陣営の艦船‹KAN-SEN›達です」

 

「やぁアズールレーン指揮官、カイン・オーシャン殿。お初にお目にかかる。私は、〈鉄血〉の偉大なる! 総統閣下! 『アイゼーン・マコットラー』総統閣下であるっ!!」

 

自分で自分を偉大なるや総統閣下を二度も、それも強調して言ったりと、綾波達の事を無視したりと、少々品性が欠けるような言い分だが、カイン指揮官は冷静に応えた。

 

「お初です。〈鉄血〉総統アイゼーン・マコットラー殿。早速で悪いのですがーーーー」

 

カイン指揮官は、『ウルトラ通信簿』を手に持って、アイゼーン・マコットラーの目の前に突き出す。

 

「これは一体どういう事なのでしょう? ウルトラマンの事を知っているのですか? それに、このあまりにも酷い評価は?」

 

「あぁ、それは・・・・」

 

すると、アイゼーン・マコットラーは、にこやかな笑みを浮かべたまま、その通信簿に手を伸ばしーーーーた手が通り過ぎ、カイン指揮官の鼻をつまんで思いっきり引っ張った。

 

「ふがっ!?」

 

()()()()()()()

 

《兄ちゃんっ!?》

 

『指揮官(様)っ!?』

 

「ご主人様!」

 

「そ、総統! 何をっ!?」

 

「「っ!?」」

 

その場にいた全員が驚愕に目を見開いた。対談している相手の鼻をつまんだのだから当然だ。しかし、アイゼーン・マコットラーは、そんな周囲の反応に構わず、顔を憤怒の様相に変えて、怒鳴り出した。

 

「どういう事もこういう事もない! お前達はウルトラマンとしてなってなさ過ぎる! 戦い方も! あり方も! ヒーローとしての自覚がなさ過ぎて、もうイライラが止まらなかった!!」

 

「あ痛たたたたたっ!!」

 

「悪者の策略に嵌って闇に堕ちるなど! 『光の国』出身で、『宇宙警備隊大隊長』と『銀十字軍隊長』の孫! ウルトラマンタロウの息子の癖に情けない! まさに『親の七光りのロクデナシなボンボン』であるウルトラマンタイガ!!」

 

《何ぃっ!》

 

「〈U-40〉なんて、マイナーで大半の人が知らない影の薄〜いっ星の出身だけでなく! 『裏切り者』の血を受け継ぐ汚らわしい血筋をしている! 『賢者気取りの筋肉達磨』であるウルトラマンタイタス!!」

 

《むぅっ!》

 

「『負け犬の息子』の癖に! ウルトラマンオーブさんと同じ〈O-50〉のウルトラマンになり! 『風の覇者』だなんて御大層な二つ名で呼ばれ! その癖ウルトラマンとしての品位がまるでなっていない! 正に『ウルトラマンの面汚し』と言っても差し支えない! いいや! 最早『ウルトラマン』を名乗る価値が無いゲス野郎! ウルトラマンフーマ!!」

 

《あんだとぉっ!》

 

「そして何より! 貴様だカイン・オーシャン!!」

 

「な、何だぁっ!?」

 

アイゼーン・マコットラーがカイン指揮官の鼻を引っ張ると、後ろに控えていた男性軍人が前に出て、カイン指揮官の服を弄る。

 

「偶然ボンボンウルトラマンと融合して! 筋肉達磨やゲス野郎と一緒になって! ウルトラマンとしてまるでなっていない戦いをして! 大勢の艦船‹KAN-SEN›達の騙す最悪のペテン師めっ!! 貴様ごときが『光の戦士ウルトラマン』を気取って活躍するなど! 最早我慢の限・界・だっ!!」

 

「うわっ!!」

 

『指揮官(ご主人様/様⁠)!!』

 

押し出すようにして鼻を離すと、カイン指揮官はバランスを崩して地面に腰を落とし、エンタープライズ達が駆け寄る。

と、綾波が対艦刀を、赤城と加賀が札を構えて、アイゼーン・マコットラーに鋭い視線を向けた。

 

「あなた! 何をするです!?」

 

「指揮官様に対して無礼な!」

 

「そこの〈鉄血〉の士官! 貴様も指揮官から何を盗んだ!?」

 

綾波と赤城が、今にもアイゼーン・マコットラーを攻撃しそうな殺気を放ち、加賀はカイン指揮官の服から何かを盗んでいった〈鉄血〉軍人を睨むと、その軍人はアイゼーン・マコットラーに、『ブレスレット』を渡していた。

 

「あのブレスレットは・・・・?」

 

「んーーーーなっ!? 『オーブレット』がないっ!」

 

『っ!』

 

カイン指揮官の言葉に、アズールレーン艦船‹KAN-SEN›達は、アイゼーン・マコットラーに渡されたブレスレットを良く見ると、それは『ウルトラマンオーブ』の力が宿った『オーブレット』であった。

 

「これは偉大なるウルトラマン! ウルトラマンオーブさんの力の証である! それをお前達のような『偽物』が使うなど! ウルトラマンオーブさんにとって名誉を穢す行為なんだよっ!」

 

アイゼーン・マコットラーは立ち上がるカイン指揮官を指さして貶すと、

 

「偽物のウルトラマン達と、今から愚か者にお見せしよう! 宣言しよう! この、『AZジャイロ』で!!」

 

懐からジャイロの形をしたアイテムを取り出して、『オーブレット』を持った手と交差させた。

 

「私こそ! 真のウルトラマンだっ!!」

 

アイゼーン・マコットラーの両目が赤く光ると、『オーブレット』をAZジャイロの中心に嵌め込んだ。

 

[ウルトラマンオーブ!]

 

そしてジャイロのグリップを一回引いていく。

 

「真‹マコト›の正義ッ!」

 

左を向いて一回引く。

 

「真‹マコト›の希望ッ!」 

 

右を向いて一回引く。

 

「そしてこの私こそがッ!!」

 

そして正面を向いて一回引き、エネルギーフルチャージされた。 するとジャイロから、“奇妙なアイテム”が生まれた。

 

《ありゃぁ、まるで『ウルトラマンオーブ』のアイテムの『オーブリング』みてぇだぜ!?》

 

「これぞ! 『ウルトラマンオーブ』の後継者である! この私に相応しきアイテム! 『オーブリングNEOⅡ‹ツヴァイ›』であるっ!!」

 

アイゼーン・マコットラーがそれを握ると、リングが闇に染まり、リングの中心のボタンを押し、円を描くようにリングを振って高々と掲げた。

 

「絆の力・・・・お借りしまぁすっ!!」

 

アイゼーン・マコットラーの左右と正面にオーブリングNEOⅡのビジョンが現れて彼を囲み、漆黒の巨人の姿に変える。

 

[ウルトラマンオーブダーク!]

 

『デュワッ!』

 

漆黒の巨人が両手でハートマークを作りながら、右腕を振り上げて飛び出していき、その姿を露わにした。

 

「な、何ぃっ!?」

 

「まさか、です・・・・!?」

 

「あら」

 

「総統・・・・!」

 

「ーーーーん?」

 

驚く一同だが、ラフィーはニーミとオイゲンの首に巻かれていたチョーカーが赤い光のラインが走ったのを見て、首を傾げていたが。

 

『さぁかかってこい偽トラマン軍団! 真のウルトラマンであるこの私! 銀河の光が我を呼ぶぅッ! 『ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツ』の超絶無比なその力を見せてやるぅっ!!!』

 

『・・・・・・・・・・・・名前長過ぎてダサい』

 

半眼になったアズールレーン艦船‹KAN-SEN›にニーミにオイゲンが、無駄に長く、さらに重桜の言葉で言うと、『ウルトラマンオーブダーク黒黒黒』と言う名前をダサいと思ったようだ。

 

《好き勝手言ってくれちゃって! 俺がブッ倒してやる!》

 

《いやタイガ! ここは私が!》

 

好き放題批判されて腹を立てたタイガとタイタスが自分が出ると言うが。

 

《いやタイガ、旦那。野郎の事、実はロッソとブルから聞いた事があんだ。野郎とは、〈O−50〉のウルトラマンとしてよぉ! このウルトラマンフーマが叩きのめしてやるぜ!!》

 

「・・・・・・・・フーマ。行くよ!」

 

()()()()()()

 

「タイガ。タイタス。ここはフーマに任せて見よう」

 

カイン指揮官がそう言うと、渋々だが、タイガとタイタスは引いてくれた。

 

「皆。何が起こるか分からない。注意してくれ」

 

エンタープライズ達が頷くのを確認してから、カイン指揮官はタイガスパークの引き金を引き、フーマキーホルダーを掴んだ。

 

[カモン!]

 

「風の覇者、フーマ!!」

 

フーマキーホルダーを右手に持ち替えると、青いエネルギーが出てる。タイガスパークの中心のランプに吸い込まれ、ランプが青く光った。

 

『ハァアアアッ!! フッ!』

 

「バディーゴー!!」

 

叫び、腕を思いっきり突き上げると、青い光が眩く輝き、カイン指揮官の身体を包み込むと、青い竜巻が巻き起こり、そのここは身体が変わっていく。

 

[ウルトラマンフーマ!]

 

『セェヤッ!』

 

ウルトラマンフーマがウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツ(略してオーブダーク)と対峙した。

オーブダークは、全体が黒を基調とし、中心に属性を示すマークが『炎』、『氷』、『岩』、『嵐』と属性の紋章が示された大剣を持った。

 

『クククッ、やはり貴様が来たか。〈Oー50〉の偽トラマン! この『オーブダークカリバー』で! 貴様の化けの皮を剥がしてくれるっ!!』

 

『テメェ! 人の事を勝手に偽物扱いしてんじゃねえ! 『光波剣』! セェヤッ!』

 

フーマが『光波剣』を伸ばして、オーブダークの『オーブダークカリバー』と切り結んだ。

 

『ハァァ・・・・セヤッ!!』

 

が、大振りな大剣を受け流すと、フーマはオーブダークの腹部に回し蹴りを叩き込んだ。

 

『うっ!』

 

蹴りを叩き込まれたオーブダークは後退した。

がーーーー。

 

『ーーーーフハハハハハハハ!! この程度か! 所詮偽物の攻撃など、真のウルトラマンであるこの私には通じないのだ!! アハハハハハハっゲホッゲホッ! むせちゃった!』

 

オーブダークは『オーブダークカリバー』を肩に乗せて高笑いをした。

 

『何だと!?』

 

『さぁ! 次はコチラからだ! デュワァァッ!!』

 

オーブダークが大剣を振りかぶって、再びフーマに向かっていった。

 

 

 

 

ー綾波sideー

 

フーマの回し蹴りが、オーブダークの腹部に叩き込まれたのと同じ瞬間ーーーー。

 

「「「うぅっ!!?」」」

 

突然、ビスマルクとオイゲンとニーミがお腹を抑えて蹲った。

 

「ニーミ! どうしたのです!?」

 

「な、何でもありません! それよりも、馴れ馴れしくしないで下さい! もう私達〈鉄血〉と、あなた達〈アズールレーン〉の関係は、決定されたようなものなのですから!」

 

「え・・・・?」

 

〈鉄血〉の総統閣下が〈アズールレーン〉の指揮官と戦い始めた。これはもう、〈鉄血〉が〈アズールレーン〉にーーーー『宣戦布告』をしたようなものである。

 

「ーーーー極めて不本意で遺憾ではあるが、我ら〈鉄血〉は、〈アズールレーン〉に宣戦布告をする!」

 

〈鉄血〉旗艦ビスマルクがそう宣言すると、オイゲンとニーミと共に艤装を展開し、エンタープライズ達も艤装の矛先をビスマルク達に向けた。

綾波とジャベリンとラフィーは、艤装を構えず、戸惑いがちに両陣営を見ていた。

 

 

 

 

ー???sideー

 

そして、〈鉄血〉の軍人らしき青年は、そんな一同から離れていき、懐からアイテムを出してほくそ笑んでいた。

ーーーー『トレギアアイ』を持って。




さあ、オーブダークとフーマがガチンコ勝負!


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【対決】風の覇者VS黒の総統

原作のオーブダークより悪にしました。


ーフーマsideー

 

『デュワァッ!!』

 

オーブダークが横薙ぎの一閃で斬りかかるが、フーマはその太刀を飛んで回避すると、オーブダークの胸筋に連続蹴りを叩き込む。

 

『セヤッ!! オラオラオラオラオラオラオラ!!』

 

『フゥンっ!!』

 

が、オーブダークはその蹴りを全て不動の姿勢で受けきった。

 

『フハハハハハハハ! 無駄無駄無駄無駄ぁっ! 所詮貴様ごとき偽トラマンのヘボ攻撃など! この真のウルトラマンである、ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツの前には蚊に刺されたにも感じないわ!』

 

『野郎! 『光波手裏剣』!!』

 

フーマは小さな『光波手裏剣』を複数作り、オーブダークに向けて発射するが。

 

『ヌゥンっ!!』

 

オーブダークはまた仁王立ちでその手裏剣を大胸筋に突き刺さり受け続ける。

 

『フッフッフッフッフッフ! 言った筈だぞ偽トラマン! 偽物の攻撃など、私に通じんとな!』

 

しかし、まるで効いていないように高笑いを繰り広げる。

 

『なら! 兄ちゃん! 『ギンガレット』だ! 一気にトドメをさしてやらぁ!』

 

『「・・・・・・・・・・・・・・・・」』

 

『どうしたんだよ兄ちゃん!?』

 

『「フーマ。妙じゃないか?」』

 

『あん?』

 

カイン指揮官の言葉に、フーマはピクリと反応した。

 

『「完全に手応えはあった。でも、流石に光波手裏剣をアソコまで身体に突き刺さっているのに、まるで効いていないなんてあり得ない。まるでヤツはーーーー"痛みを感じていないような"」』

 

《そんな事、可能なのか?》

 

《痛覚を遮断やサイボーグ化など、痛みを感じないようにする方法はいくらでもある。しかし、確かに妙だ》

 

『ゴチャゴチャ言ってたってしゃあねえ! カラクリを暴いて「フーマさーん! 指揮かーん!」ととっ! ジャベリン嬢ちゃん?』

 

フーマが駆け出そうとした瞬間、ジャベリンが大声を張り上げ、フーマはつんのめりそうになるが持ち直した。

 

『どうした嬢ちゃん?』

 

フーマが目を向けると、ジャベリン達がいつの間にか、その場に蹲っているビスマルクとオイゲン、そしてニーミに駆け寄っていた。

 

『お、おい! 鉄血の姉ちゃん達と嬢ちゃん、一体どうしちまったんだ!?』

 

『「エンタープライズ! 何が起こったんだ!?」』

 

「分からない! 突然三人が痛みを堪えるように蹲ってしまったんだ!」

 

敵対する事になった相手とは言え、こんな状態になったので、一時中断したのだろう。

 

『こらぁ! 戦闘中に余所見をするとは! 偽トラマンが自惚れるなぁ!』

 

オーブダークがオーブダークカリバーを振りかぶってフーマに斬りかかるが、

 

『うるせぇ! セヤッ!!』

 

ヒラリと回避したフーマはカウンターとして回し蹴りをオーブダークの胸元に叩きつけた。

 

『おっとっとぉ!』

 

「「「ああっ!?」」」

 

《むっ!?・・・・・・・・はっ!》

 

その瞬間、痛みに悶えるような悲鳴を上げる鉄血の三人がまたも突然苦しみ出し、タイタスが目を鋭くし、思考を巡らせるように黙ると、すぐに何かを察したような声を発する。

 

《ーーーーまさか、フーマ! オーブダークにもう一度攻撃をしてくれ! しかし、軽くだ!》

 

『お、おおっ!』

 

タイタスの剣幕に気後れしそうになったフーマだが、

 

『シュワッ!!』

 

オーブダークがオーブダークカリバーを振ってフーマを攻撃しようとするが、フーマは印を結ぶと、

 

『ニン!』

 

と煙を上げてその攻撃を回避し、

 

『あらよっと!』

 

『おわっ!』

 

オーブダークの背中を踏みつけるように蹴った。

 

「「「くあっ!?」」」

 

が、また鉄血の三人がうめき声を上げた。

 

《やはり! そう言う事か!》

 

《何か分かったのかタイタス?》

 

《フーマ! ヤツをそれ以上攻撃してはいけない!》

 

『はぁっ!? 何言ってんだよ旦那!?』

 

オーブダークカリバーを回避しながらフーマが問うと。タイタスが大声を張り上げた。

 

《ヤツを攻撃すれば! そのダメージは全て! ニーミくん達が受ける事になるのだ!》

 

『「っ! そう言う事かっ!!」』

 

『どういう事だよ兄ちゃん!?』

 

タイタス乃言葉で疑問が晴れたカイン指揮官は、そのままキッとオーブダークを睨み、フーマと問いに答える。

 

『「ヤツが攻撃を与えてもダメージを受けた様子が無かったのは、そのダメージを全て、ニーミにオイゲン、ビスマルクに肩代わりさせていたんだ! 俺達がヤツに攻撃すればするほど、そのダメージは全てーーーーニーミ達が受けるんだ!」』

 

《なんだってッ!?》

 

『それって、あの姉ちゃん達と嬢ちゃんを盾にしているって事じゃねえかっ! おいテメェ! それが真のウルトラマンってヤツのやる事なのかよっ!?』

 

フーマが怒りを込めて指差すが、オーブダークはオーブダークカリバーを肩に担いで、空いた手の小指で耳をほじりながら答える。

 

『う〜ん、分からないかなぁ? アズールレーンと言うのは『防衛チーム』のようなものだろう? この星の正義と平和を守る希望の存在たるこの! わ・た・し・の! "役に立てる"ならば、彼女達も本望というものじゃないか?』

 

『「ーーーーなんだと?」』

 

悪びれる様子など皆無なオーブダークの物言いに、カイン指揮官は声が低く、静かになる。

 

『ウルトラマンが活躍する為には、『防戦チームと言う名の引き立て役』が必要だ。艦船‹KAN-SEN›の少女達にはーーーーこの! 誠の正義と誠の希望を持った真の光の戦士! ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツに協力する義務がある!』

 

《『引き立て役』だと!? ふざけるな! 父さん達が共に戦った防衛チームは、皆ウルトラマンと共に戦ってきたんだ!》

 

『だぁかぁらぁっ! 彼女達には共に戦って貰っているんだよ! 私にはこのオーブダークカリバーという剣があり! そして! 鉄血艦船‹KAN-SEN›達には! 私を守る『盾』として共に戦っているのだ!』

 

艦船‹KAN-SEN›達に聞こえないのを良い事に、声高々と『盾』と言ってのけるオーブダーク。

そして、静かにオーブダークを睨み付ける一人の青年がいた。

無論ーーーーカイン指揮官である。

 

『「アンタ・・・・鉄血の艦船‹KAN-SEN›達を何だと思っている・・・・!」』

 

必死に怒りを抑えているように声を発するカイン指揮官。が、オーブダークは自信満々な態度で言う。

 

『勿論! この真の光の戦士となる英雄‹ヒーロー›! ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツの『仲間』だよ! ワン・フォー・オール、オール・フォー・ワン! 私はこの世界の希望となり! そして彼女達はその私を守るのは当然なのである!』

 

『ふざけんなテメェーーーー!!』

 

フーマが攻めようと光波剣を蛇複状にして振りかぶるが、

 

『「駄目だフーマ!!」』

 

『なっ!?』

 

フーマが振ろうとした腕を、もう片方の腕をカイン指揮官が操作し止めた。

 

『何すんだよ兄ちゃん!?』

 

『「今ヤツを攻撃すれば、そのダメージは全部ニーミ達に行く! 必殺技なんて放ったらニーミ達もタダじゃ済まない!」』

 

フーマが悔しそうに歯噛みすると、振ろうとした腕を下ろし、光波剣も霧散させた。

 

『おいおい、躊躇して攻撃できないとは情けない! 所詮貴様は偽物のウルトラマン! 一流のヒーローは決して迷わない! ためらわない! 諦めない! それができないからお前はーーーー『負け犬』なんだよっ!!』

 

『テメェーーーー!!』

 

オーブダークの見下した言葉に、フーマは怒りが爆発し、『極星光波手裏剣』を構えた。

 

『「やめろフーマ!! 挑発に乗るなっ!!」』

 

《冷静になれ! ヤツの口車に乗ってはいけない!》

 

《フーマ!!》

 

『ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!!』

 

カイン指揮官達に止めらるが、フーマは『極星光波手裏剣』を消さずにいた。それを見て、オーブダークはさらに言葉を続ける。

 

『私に必殺技を放ちたければ放てば良い。ーーーーしかぁし! 私の『盾』になってくれている艦船‹KAN-SEN›が彼女達だけだと思っているのかなぁ?』

 

『ーーーー何?』

 

オーブダークの言葉が奇しくも、フーマが頭に冷水をかけられたかのように冷静にさせた。

 

『「まさかお前・・・・!」』

 

『その通り!! 鉄血艦船‹KAN-SEN›全員が! 私の『盾』になってくれているのだからね!』

 

『『『『「っっ!!?」』』』』

 

 

オーブダークの言葉に、またしてもカイン指揮官達は驚愕する。つまり、今こうして戦い、オーブダークにダメージを与えていると、鉄血艦船‹KAN-SEN›達がニーミ達のように痛みに悶え苦しんでいるという事なのだ。

 

『「貴様ぁ! どれだけ艦船‹KAN-SEN›達を利用すれば気が済むんだっ!?」』

 

『う〜ん! 偽物には理解できないよなぁ! 大義を成す為には犠牲は必要! こんな戦争ばかりにしている"混乱する世界"には英雄‹ヒーロー›が必要なんだよ! 闇を砕き、光を与えてくれる存在が! そう! それはこの私! ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツなのだ!』

 

『「ふざけーーーー」』

 

『おっとぉ! 私を攻撃してもイイのかな? 私は一向に構わんよ?』  

 

「ふざけるな!」と怒鳴りつけたかったカイン指揮官だが、自分達が攻撃すればニーミ達だけでなく、鉄血の艦船‹KAN-SEN›達まで危害が及ぶと分かっているので、ブルブルと震える拳を下ろした。

 

『クソっ・・・・!』

 

フーマも『極星光波手裏剣』を霧散させた。それを見て、オーブダークはほくそ笑みを浮かべているように声を発する。

 

『くくくくく・・・・! さぁ、そろそろ時間も押しているし、終わらせてあげよう! 偽トラマン共!!』

 

オーブダークの中のインナースペースで、アイゼーン・マコットラーは、オーブリングNEOのボタンを押すと、オーブダークの身体が炎を纏う。

 

《あれはまさか!?》

 

『喰らうが良い偽トラマン共よ! 真の正義の炎にその身を焼かれて!! 紅にぃ〜燃えてしまえぇ〜! 『ダークストビュームダイナマイト』!!』

 

炎を纏ったオーブダークが、フーマに突撃する。

 

『っーーーー「ニーミちゃん!!」っ!!?』

 

避けて反撃しようとするフーマだが、ジャベリンの声でチラッとニーミ達を見ると、苦しそうに蹲るニーミ達が目に入り動けずそしてーーーー。

 

『デュゥワァ!!』

 

『うわああああああああああああああああっっ!!!』

 

ーーーーチュドォォォォォォォンンッ!!

 

火だるまのオーブダークに突撃され、フーマはもろとも爆発してしまった。

 

『指揮かーーーーんっ!!』

 

綾波達の叫びが、晴天の空へと響いた。

 

『ーーーーデュワァ!』

 

そしてソコに立っていたは、オーブダークカリバーを天に向けて突き立てたオーブダークであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ー霧崎sideー

 

時間は少し戻り、フーマがオーブダークに『極星光波手裏剣』を構えた時の頃。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

『久しぶりね、トレギア』

 

ビスマルク達から離れた鉄血軍人、否、霧崎‹トレギア›の近くに現れたのは、『セイレーン オブサーバー』であった。

 

「ーーーーやぁオブサーバー。久しぶりだね、『オロチ事変』以来、かな?」

 

『そうね。あなたのお陰で私達の戦力をかなり消費したから、立て直しにかなりの時間を使わされたわ』

 

『オロチ事変』から暫く、〈セイレーン〉が動きを見せなかったのは失った戦力の補充をしていたからだ。やんわりと皮肉を言われても、霧崎は小さく笑みを浮かべたまま、フーマに必殺技を放とうとするオーブダークを見上げた。

 

『・・・・・・・あんな『小物』と手を組んだの?』

 

オブサーバーが眉根を寄せ、半眼になりながらオーブダークを見上げる。しかし霧崎は、『魔』の一文字が書かれ、怪獣の姿が描かれた円形のクリスタルを手の平に乗せた、小さく笑みを浮かべる。

 

「フフフフフ、何とかとハサミは使いようってね」

 

霧崎は怪獣のクリスタルを強く握りしめると、クリスタルがバキバキッ! と、砕けるような音が響き、すぐにその手が妖しく光りだした。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

そして、霧崎が手を開くと、クリスタルが描かれた怪獣の形をしたリング、『怪獣リング』へと変貌していた。

 

「・・・・・・・・さぁ、ショーの始まりだ!」

 

『怪獣リング』をポイッと、海へと放り投げる霧崎。

すると次の瞬間ーーーー。

 

ーーーーバチ! バチチチチチチチチチチッ!!

 

海の一部が赤い稲妻を放出し、海の中から『何か』がせり上がりそして・・・・。

 

ーーーーザパァアアアアアアアアンンッ!!

 

『ギュワァァァァァァァァッ!!』

 

突如海の中から、血のように赤黒で禍々しく、恐竜の骨格のような容貌に、瞳は身体と同じ赤い怪獣ーーーー『火炎骨獣グルジオボーン』である。

 

「さて、『オモチャ』は出来たよ、アイゼーン・マコットラー。存分に遊ぶんだね」

 

霧崎はそう言うと魔法陣を展開し、オブサーバーと共に魔法陣を潜ってその場から去っていった。

 

 

 

 

 

ー綾波sideー

 

『指揮官(様)!!』

 

「ご主人様!!」

 

綾波とエンタープライズ、赤城と加賀、そしてベルファストが艤装を展開して飛び出し、海の上を滑りながらカイン指揮官を捜索し始める。

しかしその時・・・・。

 

『ギュワァァァァァァァァッ!!』

 

赤い骨格の恐竜のような怪獣が海の中から出てきた。

 

「怪獣だとっ!?」

 

「こんな時に!」

 

クリーブランドと加賀が苦々しく顔を歪めると、ベルファストと綾波が前に出る。エンタープライズが艦載機を発進させると、それに乗り、クリーブランドに手を差し出した。

 

「クリーブランド! 私と島にいる島民達を避難させるぞ!」

 

「分かったよ!」

 

「怪獣は綾波達が!」

 

「赤城様と加賀様はご主人様の捜索を!」

 

エンタープライズとクリーブランドは艦載機で島に向かい、綾波とベルファストが前に出て、『ノブレス・ドライブ』を発動させようとしたその瞬間、

 

『ーーーー待ちたまえ』

 

何と、先ほどカイン指揮官達を撃破したオーブダークが二人のさらに前に出る。

 

「アイゼーン・マコットラー!」

 

『ノンノン! 今の私は鉄血の偉大なる総統閣下アイゼーン・マコットラーではない! この星に真の正義と希望を示す真の光の戦士! ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツ!!』

 

敵意剥き出しの赤城の視線を全く気にせず、オーブダークはオーブダークカリバーを肩に担いでふんぞり返る。

 

「一体、何のおつもりですか? わたくし達はあの怪獣の相手をしなければならないのです。あなた様の相手をしている暇などありませんのですが?」

 

ベルファストが警戒心と嫌悪感を欠片も隠さず、遠回しに邪魔と言っているが、オーブダークはそんな事お構いなしに話をする。

 

『フッフッフ。偽トラマンやペテン師指揮官に騙されている君達に教えてあげよう。ーーーー真のウルトラマンの戦いをねぇ!』

 

オーブダークはオーブダークカリバーを構え怪獣、グルジオボーンへと向かっていった。

 

 

 

 

 

ーオーブダークsideー

 

『デュワァッ!』

 

『ギュワァァッ!』

 

オーブダークはオーブダークカリバーをグルジオボーンへと振り下ろすと刃を叩きつける。

グルジオボーンは悲鳴を上げると、口から炎がせり上がり、火炎を放ってきた。

 

『ムン!』

 

が、オーブダークはオーブダークカリバーを盾にするように防ぐと、その火炎を防ぎつつ前に前進する。塞がれている炎が辺りに飛び火するが、それに構わずオーブダークはグルジオボーンに近づくと、

 

『シュワッ!!』

 

一旦炎から離れ、熱で真っ赤になったオーブダークカリバーでグルジオボーンを切る。

 

『ギュワァァァァァァァッ!!』

 

『デェイッ!!』

 

オーブダークが更に斬りつけると、グルジオボーンが倒れ、その拍子にザバァァァァンンと、大きな水飛沫と波が広がる。

 

『「うわぁアチチチ! 海で冷やさないと!」』

 

オーブダークカリバーを海面に当てると、ジュワァ〜、と音と水蒸気が上がり、風で周りに広がる。

 

『フゥ~・・・・!』

 

オーブダークがオーブダークカリバーを海面から取り出して地面に突き刺すと、汗を拭うような動作をした。

 

『ギュワァァアアアアアアアアアアアアっ!!』

 

すると、グルジオボーンが起き上がり、目を真っ赤に光らせてオーブダークにタックルをしてくる。

 

『ムゥ!』

 

が、オーブダークは巴投げの要領で倒れると、またも水飛沫と波が広がり、グルジオボーンは島の近くまで投げ飛ばされた。

 

『ギュワァァアアアアアアッ!』

 

ーーーーザパァァアアアアアアアン!

 

倒れた拍子に大きな波が島にある港町の船や町を飲み込み、水浸しにする。

 

『フン!』

 

オーブダークカリバーを引き抜いたオーブダークが、悠然とグルジオボーンに近づく。

その際、艦載機に乗って島の島民らしき幼い子供二人を抱えたエンタープライズがコチラを睨んでいた。

 

『「ほうほう、流石はユニオンの英雄エンタープライズ。避難民の誘導とは中々のものだ」』

 

エンタープライズの行動に頷くオーブダークだが、エンタープライズは目を逸し、港町から離れた丘に避難した島民達とクリーブランドの元に飛んでいく。

 

『ギュワァァッ!!』

 

『フン!』

 

ーーーーピコン! ピコン! ピコン・・・・。

 

起き上がったグルジオボーンに構えようとするが、オーブダークのカラータイマーが激しく点滅し出した。

 

『うぅっ!』

 

『ギュワァァァァァァァァッ!!』

 

『ぐぁぁぁぁっ!』

 

カラータイマーが点滅し、苦しそうになるオーブダークに、グルジオボーンが腕を振り下ろして殴りまくる。

 

『「チッ、偽トラマンに余計なエネルギーを使わされたか。もっと派手に演出してからにしようと思っていたのに。つくづく私の邪魔をするはた迷惑な奴らだ・・・・!」)』

 

『ギュワァァァァァァッ!!』

 

『「はい、ちょっとストップ!!」』

 

さらに攻撃として火炎を放とうとするグルジオボーンの胸元に、オーブダークが手を押し当てた。

その瞬間ーーーー。

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

何と、グルジオボーンがまるで時が止まったかのように動かなくなった。

 

『デュワァ!』

 

その隙にオーブダークは距離を開けると、インナースペースのアイゼーン・マコットラーは、オーブリングNEOのボタンを押し『AZジャイロ』と合体させ、レバーを三回引いた。

 

『フン!』

 

オーブダークは腕を広げるように動かすと、光の軌跡が紫色のハートマークを描き、両手十字になるように合わせるとハートマークが両手に吸い込まれ、紫色の光波熱線を放った。

 

『『ダークオリジウム光線』!!』

 

光線を浴びたグルジオボーンは、身体に凄まじい勢いで亀裂が走っていき遂に・・・・。

 

ーーーーチュドォォォォォォォォォォォォォォンン!!

 

大爆破した。そして近くにあった港町の建物の一部や窓ガラスが全て爆風で破壊された。

 

『・・・・・・・・』

 

オーブダークが島民達を見ると、島民達は唖然とした顔でオーブダークを見ていた。

 

『「うんうん。私の勇姿に言葉が出ないと言った所か♪ さて、アズールレーンの少女達も真のウルトラマンの偉大さを見てーーーーんん?」』

 

艦船‹KDN-SEN›達のいる地点に目をやるとソコには、ヨロヨロになりながらも起き上がる・・・・ズブ濡れになったビスマルクしかいなかった。

視線を外すと、艦に乗ったアズールレーン艦船‹KAN-SEN›達が、この場から離れようとしていた。

ーーーー"ニーミとオイゲンを連れて"。

 

『「フフフフフ、逃げたか。しかぁし! 彼女達もいずれ気づくだろう! この世界に真の平和と希望をもたらすウルトラマン! それはこの私であると!・・・・くぅ〜! 長かったぁ! あの『偽ウルトラマン兄妹』と『ペテン師小娘』によって成せなかった我が夢が! 今ここから漸く新たに始まるのだ! ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツの英雄譚がっ!!!」』

 

インナースペースにいるアイゼーン・マコットラーのその手には、『ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツ THE ORIGIN SAGA』と書かれた台本が握られ、その手首には、『オーブレット』を付けていた。

 

『「見ていてくださいウルトラマンオーブさん! あなたの真の後継者である! この私の活躍を!!」』

 

アイゼーン・マコットラーは、オーブレットを愛おしそうに撫でる。

 

『・・・・フハハハハハ! アーッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!』

 

そして、オーブダークは海に刺したオーブダークカリバーを肩に担いで、高笑いを上げるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

ー霧崎sideー

 

「どうだいオブサーバー? 面白いだろう、彼?」

 

『ええ。とても愉快だわ』

 

オーブダークがグルジオボーンと戦っていた島の上空。

空中を浮遊する霧崎とオブサーバーは、眼下で高笑いを上げているような挙動をするオーブダークを見下ろしながら、薄い笑みを浮かべるのであった。




次回、オーブダークがグルジオボーンと戦っている間、周囲の人達はどうだったのでしょう?


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【幕間】巻き込まれる人々

オーブダークが戦っている間、周りは何をしていたのか。


ー赤城sideー

 

「加賀! 急ぐわよ!」

 

「ああ!」

 

赤城と加賀が、ウルトラマンフーマが、カイン指揮官がやられた地点に急いだ。がーーーー。 

 

『ギュワァァァァァっ!!』

 

グルジアボーンが口から火炎を放ち、オーブダークは剣を盾にするように防ぐと、火炎が辺りに飛び散り、赤城と加賀にも飛び火してくる。

 

「くっ!」

 

「邪魔をするな!」

 

赤城の加賀が飛び火する炎を回避し、加賀が聞こえないだろうが、オーブダークに向けて叫び声を上げた。

 

「加賀! あそこよ!」

 

「指揮官!」

 

赤城が指差した方に目を向けると、海面に上半身だけで浮いているカイン指揮官がいた。動いている様子がなく、気を失っているのは明らかだった。

このままではオーブダークとグルジオボーンの戦いに巻き込まれると思い、赤城と加賀は急いで向かおうとした。 

 

『ギュワァァァァァァァッ!!』

 

『デェイッ!!』

 

「「なっ!? あぁっ!!」」

 

オーブが剣でグルジオボーンが斬りつけ、グルジオボーンが倒れた拍子にザバァァァァンンと、大きな波と水飛沫と波が赤城と加賀を襲った。

 

「邪魔を・・・・!」

 

「っ! 指揮官は!?」

 

赤城がギロッとオーブダークを睨み、加賀も睨みそうになったが指揮官を優先と考え、今さっきまで指揮官が浮いていた地点には指揮官がおらず、目を動かすと波に流され離された位置にいた。

加賀が舌打ちをすると、綾波とベルファストが指揮官の元に向かっていた。

 

ーーーージュワァ〜〜〜〜〜〜〜・・・・。

 

「「なっ!?」」 

 

オーブダークが熱で真っ赤になった剣を海面に押し当てると、焼けた鉄を冷やした音と水蒸気が上がり、風で周りに広がって、綾波とベルファスト、赤城と加賀の視界を白く塗り潰した。

 

『フゥ~・・・・!』

 

視界が水蒸気に包まれてしまった艦船‹KAN-SEN›達の耳に、オーブダークの息を吐く声が聞こえた。

 

『ギュワァァアアアアアアアアアアアアっ!!』

 

すると加賀の視界に、水蒸気の隙間からグルジオボーンが起き上がり、目を真っ赤に光らせてオーブダークにタックルをしてくる姿が見えた。

 

『ムゥ!』

 

が、オーブダークは巴投げの要領で倒れると、またも水飛沫と波が広がり、

 

「わぷっ!?」

 

「うっ!?」

 

「くっ!?」

 

「あぁっ!?」

 

そしてまたも水飛沫と波に呑まれ、ずぶ濡れになる綾波とベルファスト、赤城と加賀。

ベルファストと赤城が身体に張り付いた髪を払い、綾波と加賀も海水で張り付いてくる衣服に僅かな不快感を感じていると、

 

『綾波! ベルファスト! こっちだ!』

 

『赤城殿! 加賀殿! 急いでくれ!』

 

タイガとタイタスの声が聞こえ、ソチラに目を向けると、波に流されていくカイン指揮官の胸元にタイガとタイタスの思念体がいた。

急いでカイン指揮官の元に向かい、脈と心音を調べると、正常に動いていた。しかし、意識がない状態である。赤城とベルファストがカイン指揮官を二人で支えながら抱え、綾波と加賀が誘導して避難した。

 

 

 

 

 

 

 

ークリーブランドsideー

 

オーブダークがグルジオボーンと戦っている間。

 

「急いで! でも慌てないで! 押さず、走らず、喋らず、戻らずだよ!」

 

「皆、騒がなくて良いからな。落ち着いて移動するんだ」

 

エンタープライズはクリーブランドと共に、ウルトラマンオーブダークとグルジオボーンが戦っている地点から離れた島で、島民達を海岸町から近くの山に避難させていた。

 

「すみません!!」

 

「っ、どうした?」

 

と、ソコで、エンタープライズ達に近づいてくる年若い夫婦がいた。

 

「う、ウチの娘が! 避難する途中でハグレてしまって!」

 

「なんだって!?」

 

「ーーーークリーブランド。ここは任せる。私が町の方を見てくる」

 

エンタープライズが艦載機を呼び出して乗り込む。

 

「エンタープライズ! 私も!」

 

「まだ避難は終わっていない。艦載機を使える私の方が適任だ」

 

「うっ・・・・そりゃあ、そうだけどさ・・・・」

 

「大丈夫だ。すぐに戻る」

 

そう言って、エンタープライズを載せた艦載機が飛んでいき、クリーブランドは若夫婦を近くにいさせ、そのまま避難を続けた。

漸く避難が終わったと思い、クリーブランドは町の方を見ると、幼い女の子を抱えたエンタープライズを乗せた艦載機がコチラに向かってきた。

若夫婦を見ると、安心しきった顔をしており、クリーブランドはホッと一息吐いた次の瞬間ーーーー。

 

『ギュワァァアアアアアアッ!』

 

ーーーーザパァァアアアアアアアン!

 

「なっ!!?」

 

投げ飛ばされたグルジオボーンが倒れた拍子に大きな波が島にある港町の船や町を、エンタープライズと少女を乗せた艦載機を飲み込み、水浸しになった。

 

「エンタープライズ!!」

 

「あぁっ! 儂の船がぁっ!!」

 

「ウチの家がぁっ! まだローンが残ってるのにっ!!」

 

漁師らしいおじいさんと、何人かが自分の船と家が被害に遭い、悲鳴を上げた。

 

『フン!』

 

オーブダークカリバーを引き抜いたオーブダークが、悠然とグルジオボーンに近づく。

クリーブランドはオーブダークよりも、エンタープライズを探そうと視線を動かしていると、ギリギリで回避したようで、少女を抱えたエンタープライズが艦載機に乗ってコチラに向かってきていた。

エンタープライズはキッとオーブダークを睨むと、すぐに視線を戻し、港町から離れた丘に避難した島民達とクリーブランドの元に戻って来た。少女は両親を見つけて、泣きながら抱き合っていた。

 

『ギュワァァッ!!』

 

『フン!』

 

ーーーーピコン! ピコン! ピコン・・・・。

 

すると、起き上がったグルジオボーンにオーブダークが構えるが、カラータイマーが激しく点滅し出したのが見えた。

 

『うぅっ!』

 

『ギュワァァァァァァァァッ!!』

 

『ぐぁぁぁぁっ!』

 

カラータイマーが点滅し、苦しそうになるオーブダークに、グルジオボーンが腕を振り下ろして殴りまくる。

 

『ギュワァァァァァァッ!!』

 

止めを刺そうとしているのか、口から火炎を放とうとするグルジオボーン。

苦し紛れに、オーブダークがグルジオボーンの胸元に手を押し当てた。

その瞬間ーーーー。

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

「何だ? 怪獣の動きが、止まった・・・・?」

 

エンタープライズは、否、クリーブランドや他の島民達も、訝しげな視線を向けた。何と、グルジオボーンがまるで時が止まったかのように動かなくなったのだ。

 

『デュワァ!』

 

その隙にオーブダークは距離を開けると、オーブダークカリバーを地面に突き刺しと、力を込めて、光のエネルギーが迸っていく。

 

『フン!』

 

オーブダークは腕を広げるように動かすと、光の軌跡が紫色のハートマークを描き、両手十字になるように合わせるとハートマークが両手に吸い込まれ、紫色の光波熱線を放った。

 

『『ダークオリジウム光線』!!』

 

必殺の熱光線を受けたグルジオボーンの身体に、凄まじい勢いで亀裂が走っていってそして・・・・。

 

ーーーーチュドォォォォォォォォォォォォォォンン!!

 

大爆破した。そして近くにあった港町の建物の一部や窓ガラスが全て爆風で破壊された。

 

『あぁ・・・・っ!!』

 

島民達が、破壊されていく自分達の町を見て、愕然と悲鳴を上げた。

 

『・・・・・・・・』

 

オーブダークが島民達を見ると、島民達は唖然とした顔を見ていた。その際に、鋭い、責めるような視線を向けているエンタープライズとクリーブランドの視線に気づかず。

 

《エンタープライズ様。クリーブランド様》

 

と、ソコでエンタープライズとクリーブランドの耳に、ベルファストからの通信が入った。

 

「ーーーーベルファストか? 指揮官は?」

 

《救助を終えました。フッド様達はプリンツ・オイゲンとニーミを捕虜として連れて行くそうです。鉄血総統に、ご主人様が生きている事を知られる訳にはいきませんから、別地点で合流する事になりました》

 

「えっ? 何でそんな事を?」

 

《ご主人様が無事だと知られれば、あの男が何をするか分かりません。今はこの場を離れなければなりません》

 

「・・・・分かった。指揮官は無事か?」

 

《・・・・脈も呼吸もありますが、負傷が大きいです。母港の方で救援部隊を編成し、コチラに向かわせようと思います。お二人も合流してください》

 

ベルファストの話を聞いて、エンタープライズとクリーブランドはお互いに目配せをすると、コクンと頷きあった。

 

「すまないベルファスト。私達は島民達を放っておけない。救援部隊が来るまでの間、この島で島民達を助けたいのだが・・・・」

 

「私も残るよ! この島の人達を放っておけないよ!」

 

《・・・・分かりました。しかし、何かあったら、すぐに連絡を》

 

「「了解!」」

 

エンタープライズ達の話を聞いて、ベルファストが了承し、通信を切った。

 

 

 

 

ージャベリンsideー

 

ベルファストがエンタープライズ達に通信を送る少し前。ジャベリン達がいる小島では、

 

「うっ・・・・ううっ・・・・!」

 

「くっ・・・・!」

 

「あぁ・・・・!」

 

オーブダークがダメージを受ける度に、何やら苦痛で悶絶している鉄血艦船‹KAN-SEN›達の様子を心配し駆け寄っていた。

 

「ニーミちゃん!」

 

「ち、ちか、づかないで、と・・・・言った、で・・・・」

 

「そんな場合じゃない」

 

ジャベリンとラフィーがニーミの腕を肩に回して、連れて行こうとする。

 

「フッドさん!」

 

「・・・・皆。鉄血の子達を母港に連れていきましょう。流石に放ってはおけないわ。シグニットちゃん。プリンツ・オイゲンをお願い」

 

「は、はい! フッドお姉様!」

 

シグニットがオイゲンを支えると、フッドはビスマルクに近づき、手に差し伸べた。

 

「・・・・ビスマルク」

 

「・・・・っ・・・・!」

 

ーーーーパシッ!

 

「っ」

 

ビスマルクはその手を叩くように振り払うと、フッドは一瞬目を見張った。

 

「わ、私は・・・・〈鉄血〉の旗艦だ・・・・! 敵に情けをかけられる、言われは、無い!」

 

ビスマルクはキッとフッドを見据える。

ビスマルクはフッドに死出の旅をさせられた『カンレキ』があるので、フッドを嫌っているのだ。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

フッドは叩かれた手を一瞬見ると、ビスマルクから離れる。

 

「ーーーー分かりました。あなたは“偉大なる鉄血総統閣下”の元にいれば良いです」

 

フッドはそれだけ言うと、シグニットに手を貸すようにオイゲンの腕を肩に回して、ビスマルクをその場に置いて、指揮官専用艦にジャベリン達と乗り込み、ベルファストに連絡を入れてその小島から去っていった。

 

「フッドさん! ビスマルクさんを置いてきて良かったんですか!?」

 

「・・・・・・・・・・・・仕方ないのよ。本人が行きたくないと言ったからには、ね。とりあえず、プリンツ・オイゲンとニーミ。彼女達を一応捕虜として連れていきます」

 

ジャベリンが声高に言うと、フッドはビスマルクに叩かれた手の中にある一枚の紙を見せながら、人差し指を立て口に当て、シーっと言うジェスチャーをする。

ジャベリン達の視線は、フッドの手の中の紙に注がれていた。鉄血の文字で書かれており、ジャベリンが紙の事を聞こうと声を上げそうになったが、ラフィーが止めた。

オーブダークが追って来ないかと一同が目を向けると。

 

『・・・・フハハハハハ! アーッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!』

 

オーブダークはこちらを一瞥してから、海に刺したオーブダークカリバーを肩に担いで、高笑いを上げていた。

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

ジャベリン達は、そんなオーブダークに鋭い視線を向けるしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

ービスマルクsideー

 

「やぁビスマルク!」

 

「・・・・・・・・」

 

漸く身体の痛みが収まり、海水と汗でずぶ濡れになった服を少し絞り、水気を抜いていたビスマルクに、アイゼーン・マコットラーと霧崎がやって来る。

 

「・・・・・・・・」

 

「そんなに怖い顔しないでくれたまえ! これも全ては、我ら〈鉄血〉が、この星の頂点に立つ為の大事な布石なのだよ!」

 

ビスマルクの責めるような視線を受け、アイゼーン・マコットラーはいけしゃあしゃあと弁解する。

 

「本当に、コレが〈鉄血〉の為になるのか? あなたがウルトラマンに「ノンノン! ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツ!!」・・・・ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツになっただけで」

 

「なれる!」

 

ビスマルクの言葉に、アイゼーン・マコットラーは大仰な身振り手振りで断言する。

 

「この混沌とした世界に必要なのは、闇を討ち破り、光をもたらすヒーローなのだ!」

 

しかぁし! と、アイゼーン・マコットラーがその言葉を止める。

 

「我々にとって強大な障害となる存在がある! 先ずは、その存在を排除しなくてはならない!」

 

「・・・・それは、アズールレーンのウルトラマン達か?」

 

ビスマルクが言うと、アイゼーン・マコットラーは、ハッと鼻を鳴らして嘲弄に満ちた笑みを浮かべる。

 

「あ~んな偽トラマン共など、私の敵ではない! その証拠に、この真のウルトラマン! ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツの前に、無様な敗北を喫したのだからな!」

 

そう言うと、アイゼーン・マコットラーは懐に手を突っ込むとーーーー。

 

「そう、君だよーーーーウルトラマントレギア!」

 

ーーーーダァン!

 

「っっ!?」

 

取り出した金色の拳銃で霧崎の心臓に弾丸を撃ち込んだ。

 

「ーーーーき、貴様・・・・!」

 

ーーーーダァン! ダァン! ダァン! ダァン! ダァン!

 

苦しむ霧崎の身体が、ウルトラマントレギアに変わると、アイゼーン・マコットラーは躊躇も情けもなく、次々と弾丸をトレギアの身体に撃ち込んでいく。

トレギアはヨロヨロとおぼつかない足取りで動きながら、海に落ちそうなる。

 

「Mr.霧崎。嫌、ウルトラマントレギア。君のおかげで私の『AZジャイロ』を取り戻し、さらに修理までしてもらったが。ーーーーもう邪魔なんだよ君は。私がコレから作る英雄譚、『ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツ THE ORIGIN SAGA』には、ね」

 

ーーーードォォン!!

 

「っっっ・・・・!!!」

 

ーーーーザパァァァァァァァァァァァンン!!

 

最後の一発でトレギアの眉間にあたる部分を撃つと、トレギアは海の中に消えていった。

 

「くくくくく・・・・これで私の邪魔になる者はいない! 私こそが! 真の光の戦士! 真のウルトラマンだっ!! アーハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハっっ!!」

 

ビスマルクは、高笑いを繰り広げるアイゼーン・マコットラーを見て、危機感を感じてならなかった。

 

「(この男に付き合っていては、〈鉄血〉は滅びる・・・・。望みがあるもすれば、あなた達だけだ。頼んたぞ。カイン・オーシャン指揮官。アズールレーンの艦船‹KAN-SEN›達。そして、トライスクワッドよ!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ージャベリンsideー

 

後に、オーブダークの姿が見えなくなり、プリンツ・オイゲンとニーミを営倉に入れた後に、フッドが紙に書かれていた文字を訳した。

 

【我々のチョーカーに秘密がある。チョーカーには発信機と盗聴機能があるから注意せよ】

 

と。

 




コレからオーブダークが戦う度に、二次被害に合う人達が現れるでしょうね・・・・。


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