Memory of the starlit sky (ワッタン2906)
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第一章 彼女たちとの出会い
プロローグ


どうも、初めましての方は初めまして。
知ってる方は、なにやってんの?の状態でしょうか。
ワッタンです。

二作目をついに書いてしまった。
楽しんでくれると幸いです。
それでは、記念すべきプロローグをどうぞ!!


あの日の出会いは、今でも覚えている。

 

 

三月下旬、新学期が始まる前の時期に、

俺──鳴宮蓮音(なるみやれおん)は、この街に一人で上京してきた。

 

上京初日、日付が変わる二時間前に引越しの荷物をあらかた片付け終えた。片付け終え、何気なしにテレビをつける。チャンネルを変え、最後にニュース番組を見る。ニュースキャスターが《おとめ座流星群》について説明していた。

 

 

そこで俺は気付く。

 

(そうか、今日だったか.......)

 

と。

俺は星を見る事が好きだった。なので俺は、そのニュースを見終えると、すぐに行動に移した。テレビを消しジャンバーを着ると、ある荷物を持ってマンションの部屋を後にした。

 

部屋を出ると、真っ先にスマホを取り出し、近くの天体観測スポットを検索する。すると何件かヒットし、スポットである近くの公園へと足を進めた。

 

 

公園の前に着いたが、人の気配はなかった。俺はそのまま中へと入り、公園の中央の広場まで足を進めた。広場に辿り着いても、人の気配はなかった。

 

(.......誰も星に興味がないのだろうか。)

 

そんなことを思いつつ、肩に背負っていた荷物を地面に下ろしながら、自分も座り空を見上げる。自分の地元程では無いが、星の輝きが見て取れた。

 

三十秒位見上げていたが、見上げるのをやめ、持ってきた荷物──ギターケースを開ける。中には、古びたアコースティックギターが入っている。

 

このアコースティックギターは、父親からの形見だった。俺の父親はもう居ない。何故死んだのかは俺も詳しくは知らない。

父親はアコギで、よく弾き語りをしていた。

満天の夜空の下で。そのお陰もあって、俺は小さい頃から父親のアコギをよく弾かせて貰っていた。父親が死んだ今でも、父親のアコギでほぼ毎日弾いている。

 

 

柄にもなくそんなことを思いつつ、ギターのチューニングを済ませ、ギターを鳴らし、曲を弾き始めた。

 

今弾いている曲は、『シルシ』という曲だ。この曲を歌っている人の、初のバラード曲で、この曲を聞いた瞬間俺は速攻、携帯にダウンロードした。

 

弾いていると、思わず口ずさんでしまう。最近この曲は俺のお気に入りだ。この曲を聞いていると、心が安らぐ。

最後まで弾き終わり、最後のフレーズを歌い終える。

 

歌い終え、ギターを仕舞おうとしたその時だった。背後から、拍手の音が聞こえてきた。俺は驚き、振り返る。そこには.......

 

小さな女の子と、帽子を被った女の子が居た。

俺が驚いていると、小さい女の子が話し掛けてきた。

 

「お兄ちゃん、ギター上手!!」

 

「あ、.....ありがとう.......」

 

何とか、声を出す。

すると帽子を被った女の子も話しかけてきた。

 

「すみません、急に。流星群を見に来てたのですが、うちの妹があなたの演奏を聞いた瞬間駆け出してしまって.......」

 

「ああ、.....なるほどね.......」

 

ようやく状況が飲み込める。どうやら、俺は演奏に集中していて、周りの状況に気づかなかったようだ。

 

(何と言うか.......聞かれてたのか.......恥ずい)

 

そんなことを思っていると、妹の方がまた話しかけてきた。

 

「ねぇ、もっと聞かせて!!」

 

目を輝かせながら、話す。

その光景に、過去の出来事がフラッシュバックする。

 

あれは、まだ俺の父親が居た時だった。

父親の弾き語りが終わると、父親にもっと聞かせてとせがんでいた俺。

あの時の目と、今目の前にいる子の目は多分同じだろう。

 

「ちょっと!!お兄さんが困ってるでしょ」

 

帽子の子が、妹を咎める。

 

「....!!いいよ、弾いてあげる」

 

俺はそう言うと、ギターを構える。

ギターのチューニングをすませ、曲を弾く。

弾く曲は、『奏』。

俺がギターを初めて一番最初に弾いた曲だ。今回は、聞いてくれる人が居てくれるので、弾き語りをする。

 

最初は、やさしく弾きつつも力強く引くイメージで、それに合わせ最初は、やさしく歌う。そしてサビの部分で力強く歌う。

最後のワンフレーズは、語りかけるように歌い上げる。

 

あっという間の五分間だった。ギターを引き終えると再び拍手が響いた。

今度は、帽子の女の子も拍手をしていた。

 

「すごーい!!ね、お姉ちゃん?」

 

「うん、本当だね。.......すごい、上手.......」

 

「.......ありがとう」

 

素直な賞賛の言葉に俺は照れ、何とかそれだけを口に出した。

その後、もう何曲かを弾いてあげた。

 

 

 

これが彼女との.......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奥沢美咲との出会い。

これから起こる色々な出来事の始まりの日だった。

 




バンドリ小説は、初めてなので色々とおかしいかもしれないですがご了承ください。


感想、評価、意見お待ちしております。



新作
「Amnesia Ghost」


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第一話 再び

第一話も出来たので投稿します。


それでは、1話目をどうぞ!!



「眠い.......」

 

昨日も遅くまで、ギターを弾いていたせいだ。夜遅くまでギターを弾いていても、親から怒られないことはいいのだが、逆にその分、熱中し続け睡眠時間が削れてしまう。

 

(しっかりしないとな.......)

 

俺はそんなことを思いつつ、壇上で話をしている校長の長い話を聞いていた。今日は、高校──星ヶ丘高校の入学式だった。

 

この高校を選んだ理由は至極単純、名前に星が入っていたからだ。

俺はあの場所から一刻も離れたかった。なので進学先の高校を探す際、試しに星の文字を入れて検索したらここの高校がヒットしたのだ。後はトントン拍子でここを受験し(幸い学力は足りた)、この高校に入学した。

 

周りから拍手が起こる。どうやら校長の話が終わったようだ。俺は、あくびを堪えつつ、残りの入学式を乗り越えた。

 

 

入学式後、自分のクラスにて担任から簡易的のHRを聞き、午前中で解散となった。解散になった瞬間、

 

「なあ、この後昼飯行こうぜ」

 

「一緒に帰ろうよ」

 

周りの連中が何人かのグループに別れて散っていく。

おそらく中学からの友達連中なんだろう。

 

「なあ、一緒に帰ろうぜ」

 

隣の席の奴が話しかけてくる。

 

「ああ、すまん。ちょっと俺今日用事があって早く帰らなきゃ行けないんだ」

 

「そっか。...じゃあな」

 

「おう、また明日な」

 

そう言うと、話しかけてきたやつは、教室を出て行った。

 

本当は用事なんか無い。入学早々、クラス内での孤立を避ける為に、一緒に帰りたいがどうにも眠気には抗えない。なので、俺はやんわりと断りを入れつつ、教室を脱兎のようなスピードで出ると、駐輪場に行き、上京する時に持ってきた自転車のロックを外すと、全力で漕いで家へと向かった。

 

自宅のマンションへ戻ると、駐輪場に自転車を止め、エレベーターで部屋へと戻る。部屋へ帰ると、まず制服から着替えた。自転車を漕いでいる時には、眠気は収まったが逆に今度は、腹が減っていた。

なので、お湯を沸かして実家から持ってきたカップラーメンを作りそれを昼食として食べた。十分程度で食べ終え、カップラーメンの後処理をし、ベットへと転がった。そして目線だけを立て掛けてるギターへと移し、あの日のことを思い浮かべる。

 

あの日以来、俺はあの場所で星を見ながらギターを弾いていた。

(元々上京してくる前も、外で星を見ながらギターを弾いていた)

 

だが、最初の初日以外あの二人に出会うことは無かった。帽子を被っていた女の子は、見た感じ高校生位の見た目をしていた。あの日弾いていた時は、いつもギターを弾いている時より楽しかった。

 

(また、会えるかな.......あの人に)

 

そんなことを思っているうちに、ウトウトし、蓮音は夢の世界へと旅立って行った。

 

 

窓から差し込み夕焼けの光で目を覚ます。目をしょぼつかせながら携帯で時間を確認する。画面に表示された時刻は、午後四時前だった。

 

(そろそろ、夕飯の支度をしないとな.......)

 

そう思い、ベットから起き上がる。ジャンバーを羽織り家を出る。

 

上京してきて一週間は経つが、親からの仕送りが四月からだったので、それまでは安いカップラーメンやコンビニのご飯で乗り越えていた。だが四月には入ったので、俺の口座には十万弱入っていた。

 

(今日はこのお金で、夕飯を作るかな.......だけど十万か、.......やっぱり心乏しいな。.......バイト探すかな)

 

そんなことを考えながら、スマホで近くのスーパーを検索した。するとスーパーでは無いが、近くに商店街があるらしい。

 

「商店街か、......行ってみるか」

 

俺は検索でヒットした商店街に行ってみることにした。

 

 

「さあ皆さん!!この商店街にも、ついにマスコットキャラが出来ました!!クマの『ミッシェル』です!!」

 

商店街の入口に着くや否や、そんな声が聞こえてきた。

どうやら男の人がピンク色のクマのキャラを、この商店街のマスコットとして紹介していた。

 

どうやら、クマのキャラはキグルミのようで中に人が居るようだ。

男性の紹介が終わると、子供たちがミッシェルに突撃していた。

 

「うわあ、悲惨だな。ありゃ」

 

心の中で、着ぐるみの中の人に合掌しつつ、俺は商店街の奥へと足を踏み入れた。

 

 

「さて、こんなものかな」

 

商店街での買い物を済ませ、レジ袋を持って商店街の入口方面へと戻る。

 

(今日は、カレーでも作るかな)

 

そんなことを思いながら、帰っていると、さっき通った時には無かったポスターが貼られていた。一人の女の人の顔をがアップされている何を伝えたいのか分からない謎のポスターだった。

 

「.......何だこれ?」

 

全く分からないが、何故だか関わってはいけなさそうなポスターな感じがしたので、スルーした。

 

歩くこと数分、商店街の入口へと戻って来た。

するとそこには、まだミッシェルと紹介されていたクマのキグルミが居た。どうやら、今日はここでミッシェルのイベントは終わりらしい。バイトの担当者らしき男の人と話していた。すると、男の人の携帯に電話がかかり何処かへと行ってしまった。

 

(おっ.......まだ居たのか.......って!?)

 

そんなことを考えていると、キグルミが何かに躓いたらしくコケた。

起き上がろうとするのだが、キグルミが重くて力が入らないようだ。

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

目の前でコケたこともあるが、人として見過ごせなかったので助けに入るり、何とかキグルミを起き上がらせる。すると.......

 

 

 

起き上がらせると同時に、クマの頭部分が取れた。中には、女の子が入っていた.......

 

「あ、ありがとうございま.......ってあなたは!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺があの日出会った少女が入っていた。

これが、彼女との二度目の出会いだった。

 

 

「はい、これ」

 

「あ、ありがとう.......」

 

俺は制服に着替えた少女に、そこの自販機で買ってきたスポーツドリンクを渡す。

少女は受け取ると、それを半分程飲み干した。

あの後、彼女がキグルミから着替え終わるまで俺は彼女が着替えに入っていた事務所の外で待っていた。

 

「所で君はなんで、あのクマの中に.......?」

 

「あ、えーと.......バイトの時給が良くて.......でも、バイトの内容がコレということは、全く知りませんでした.......」

 

「あー、そういうことね」

 

そこまで話すと、どちらも無言になる。

 

(き、気まずい.......)

 

そんなことを思っていると、少女の方から話しかけてきた。

 

「あ、あの」

 

「ん..な、何?」

 

「なんであの日、あの場所でギターを弾いてたんですか?」

 

少女が質問をしてくる。

 

「あ、えっと.......日課だからかな」

 

「日課.......ですか?」

 

少女が首を傾げる。俺は詳しく説明することにした。

 

「うん、そう。実は俺、上京してきたばっかでさ、上京する前も、よく外で星を見ながらギター弾いてたんだよ。あの日も同じようにギターを弾いてたら、君と君の妹があの場所に来たんだよ」

 

「なるほど、そういうことだったのね......」

 

「うん、そういうこと」

 

この話がきっかけに、二人ともいい感じに緊張がほぐれ、他愛もない話をした。

 

「こんな時間か、そろそろ帰ろっかな」

 

「そうだね」

 

話している内に二人ともタメ口になっていた。

二人揃って、商店街の入り口へと歩き出す。

 

「あ、そういえば.......」

 

俺はある事を思い出し、隣の少女に疑問をぶつける。

 

「そういえば、君の名前は?」

 

すると少女も、そういえばそうだな、というような声をする。

 

「あ、そういえばそうだね、言ってなかったね、名前。....てかそういう君もね」

 

「あっ.......ホントだ」

 

そう言うと、二人して苦い顔をする。

 

「じゃあ、俺から言うよ.......えと、鳴宮蓮音って言います」

 

「鳴宮、蓮音ね。あたしは、奥沢美咲です」

 

「奥沢、....美咲。うん、じゃあ奥沢、またな」

 

「うん、じゃあ」

 

そう言うと、俺達は自分の家へと帰って行った。

 

 

 

その日の夜。

また、いつものように公園でギターを弾いているとふと思った。

(あれ、またなって言っても、連絡先知らねーや)

 

そう思ったが、また今日みたいにばったりと会うこともあるだろうと思い、蓮音はギターを引き続けた。

 

尚、ギターを引き続け翌日の学校に、遅刻しそうになるのはまた別のお話だったりする。

 





バンドリって色々とストーリー作るの難しい.......

良ければ、意見、感想、評価お持ちしております。



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第二話 「CiRCIE」

どうも、ワッタンです。
早速、この小説をお気に入り登録してくれた方、
ありがとうございます!!

正直バンドリSSは好みが別れると思っていたので、
お気に入りつかないかと思ってましたが、ついて良かったです(笑)

それでは、第二話をどうぞ!!



美咲と再び出会った翌日、

 

「おっ今日は、意外に晴れてるな」

 

いつもの日課の為に、公園まで歩いている時だった。ふと、上を見上げると、星が昨日よりかは多く見えた。

 

(今日は、「春の大三角形」見えるかな)

 

そんなことを思いつつ、いつものように公園の広場に行くと、

俺のいつもの定位置に、帽子を被った人影が見えた。

だが、その帽子には見覚えがあった。

 

「ん?あれって.......」

 

そんなことを呟き、人影に近づいて見る。

どうやら、人影は上を見上げて星を見ているようだった。

そしてそこには、俺が予想した通りの人物が居た。

 

「え、奥沢!?」

 

俺が声に出すと呼ばれた本人は、

星を見るのを辞め、こちらに振り返る。

 

「あ、やっと来た。こんばんは、鳴宮」

 

振り返るや否や俺に向けて挨拶をしてくる。

 

「こんばんは.......って、おまえ、何でこんな時間にこの場所に居るんだ?」

 

「えっと.......ちょっと現実逃避を.......」

 

「現実逃避??.......何で?」

 

「実は.......」

 

美咲曰く、話は昨日に遡る。実は昨日俺と出会う前に、ミッシェルのバイト中に、どうやら何かあったらしい。その何かというのは.......。

 

「えっ、バンド!?」

 

「うん」

 

「バンドってあの、ライブハウスやドームとかで演奏するあの?」

 

「うん、そのバンド」

 

そんなやり取りを、俺はギターをチューニングしながら聞いていた。

そこまでやり取りをすると、美咲はため息をついた。

 

「で、まだ話の続きがあって.......」

 

そこまで言うと、美咲は話の続きを話し始めた。

 

バンドに誘われたが、そもそも美咲は、バンドをやるつもりはなく、今日誘った張本人にバンドをやらないと言おうとしたのだが、どうやらその張本人は、美咲の学校で『異空間』と言われてる名高い奇人らしく、とても話が通じる相手じゃなかったらしい。そして、あれよあれよのうちにバンドの正式メンバーとして、決定していたらしい。

 

さらに断れなかった理由として、美咲と同じように誘われた被害者が居た。なので一人だと辞めづらい雰囲気だったことも加え、断るのを諦めた、ということだった。

 

「.......その、なんだ.......ド、ドンマイ?」

 

美咲の説明を聞き終え、俺はそう言葉にした。

それは確かに、俺の目から見ても現実逃避をしたくなる話だった。バンドをする気も無いのに、無理やり誘われ、正式メンバーにさせられる。

もし、俺がそうなったその日には、ギターを弾き続け現実逃避をするだろう。

 

「ホントだよ、.......あたしは、セイシュンだー。とか、そんなアツいのには興味無いのに.......何事にも程々でいいのに.......」

 

「.......まあ、元気出せよ。決まった物は仕方ないよ」

 

「.......他人事みたいに言って.......」

 

「他人事だしな」

 

俺は苦笑しながらそう言うと、ギターのセッティングが完了したので、とりあえず美咲の為に、俺が良く気分転換する時に曲『シャルル』を演奏し始めた。

 

 

あの後、星を見ながら二、三曲程弾いて、公園から帰っていた。だが、自分の家に帰る前に、夜も遅いので美咲の家の途中まで送ることにした。

 

「ここでいいよ」

 

「ん、そっか、じゃあな」

 

「ありが.......って一つ聞きたいことがあったんだった」

 

「?、何だ?」

 

「鳴宮の連絡先教えてくれない?」

 

「いいけど、何で?」

 

俺はそう言いつつ、ポケットからスマホを取り出す。

 

「いや、今度からあたしの愚痴を聞いてもらおうと」

 

美咲の言葉に、再び苦笑する。

 

「あー、そういうことね。.......分かった、俺で良かったら聞いてやるよ」

 

「ありがと」

 

美咲がそう言うと、俺達は連絡先を交換し、お互いの家への帰路についた。

 

 

次の日、俺はバイトを探していた。ちなみに学校に関しては、新入生特有の学力テストの授業だった為、午前中で終わっている。作り置きのカレーを昼飯として食べながら、バイトの求人票をネットで検索していた。テストの手応えについては、中学の頃の復習の問題だった為、余裕でテストは解けていた。

 

(そういえば昨日、奥沢にバイト探してるって言ったら何か言われたな)

 

カレーを食べながらそう思い、昨日の事を思い出す。

 

──そっか、バイト探してんだ.......一つ忠告、怪しげなサイトのバイト募集は選ばない方がいいよ。───

 

という風に、妙に実感のこもった言葉を貰った。

 

(何だか、よく分からないけど.......大手の求人サイトから探そ.......)

 

こうして俺は、検索上位で出てきた求人サイトでバイトを探し始めた。

 

 

(うーん、中々いいバイト無いな.......)

 

三十分後、バイトを探しているのだが中々いいバイトがヒットしない。

実は、上京前はコンビニでちょこっとだけバイトしたことがあるのだが、今回は自分の知識を生かせる別のバイトをしてみよう、ということで、検索の条件からコンビニを除外している。

 

「どうしよかっなー」

 

そう言いながら、椅子にもたれ掛かり首を後ろに捻る。すると、目にギターが目に止まる。

 

(ギターか.......うん?待てよ.......)

 

ある事を思いつき、体制を元に戻し、机に向き直り、検索ワードの中に、()()()と打ち込む。

 

すると、予想した通りライブハウスの求人票がヒットする。ライブハウスのバイトを選んだのには理由があった。

 

「ビンゴ!!」

 

俺はそう言うと、求人票の内容を確認し始めた。

すると、ひとつの求人に目が止まる。

 

「ライブハウス、CiRCIE.......?」

 

 

次の日の放課後。

今日までがテストの最終日だったので、学校は昼で終わっていた。

家で昼飯を食べ、ライブハウス「CiRCIE」の前へ来る。

現在時刻は、午後14時前。

 

「何とか、間に合ったかな.......」

 

俺はそう呟き、昨日のことを思い出す。

昨日あのサイトでここの求人票を見つけ、即座に連絡を取った。すると、三コール以内で担当の方が電話に出た。バイトをしたいという旨を伝えると、とりあえず面接ということで今日の14時からしてもらうことになっている。

 

そんなことを考えていると、時刻はちょうど午後14時となった。

 

「よし!!行きますか!!」

 

俺は自分に気合いを入れ、

店の中へと入った。

 

 

「うん、分かった。鳴宮蓮音君、あなたをアルバイトとして働いてもらいます」

 

「ありがとうございます!!」

 

結果として、俺は「CiRCIE」でアルバイトとして働くこととなった。面接の担当者──「CiRCIE」のスタッフの月島まりなさんだ。本来はオーナーの方が、面接を担当するらしいだったのだが、急に来れなくなったらしく、まりなさんが面接を担当し、俺の採用もまりなさんが全権限を持ってるらしい。

 

「それじゃあ、早速働いてもらうね」

 

「.......はい?」

 

まりなさんに急に言われ、思わず素の対応をしてしまう。

 

「さあ、早速、ゴー、ゴー!!」

 

「えっ、ちょっと!!まりなさん!!」

 

まりなさんに手を引っ張られ、店の奥へと案内される。

 

 

 

 

こうして、「CiRCIE」でのアルバイトが始まった。

 

 

 

 

 

 

そしてこの後の、バイト初日。

俺は話題のガールズバンドと出会うのだった。

 

 

 

 




このSSは、私のメインのSSと比べで一話あたりの文字数を少なくして、なるべく高頻度で投稿しようと思います。
(メインの方もちゃんと執筆してますよ(震え声))

次回はいよいよ、あの五組のバンドの中で一組が登場します。

それでは、また次の話でお会いしましょう。

(バンドリのストーリーの時系列が分かんない.......)



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第三話 ガールズバンド

どうも、ワッタンです。

まずは、申し訳ございませんでしたm(_ _)m
更新頻度を早くすると、言っておきながら、1週間以上待たせてしまいました。

ほんと、すみませんでしたァァァァァァ!!

それでは、第三話をどうぞ!!



「お、重い.......」

 

そう言いながら、狭い廊下を歩く。

 

現在俺は、ライブとかで使う機材を一人で持たされている。

何故、こうなかったのかと言うと.......

 

「いやー、助かるよ。ちょうど男手が欲しかったのよねー」

 

そう呟いた女性、───月島まりなのせいだった。

あの後、まりなさんに奥に連れてかれ、機材の搬入を手伝わされたのだった。

 

「これで.......最後!!」

 

よろめきそうになりながらも、最後の機材を部屋へと運び入れた。

 

「お疲れ様、ありがとね」

 

まりなさんが言葉をかけてくれる。

 

「.......今度からは、ちゃんと説明して下さい.......」

 

息が絶え絶えながらも言葉を返す。

 

「ごめんねー、.......どうする今日はとりあえず、帰る?」

 

「.......いや、ここまでやりましたんで、最後までやりますよ」

 

「そう、じゃあコッチ来てくれるかな、仕事内容説明するから」

 

「分かりました」

 

そう言うと、まりなさんは部屋を出ていったので、

汗を拭いながら、まりなさんの後について行った。

 

 

主に、まりなさんに説明された仕事内容は、ロビーの清掃やお客様の対応や、電話応対、機材の搬入など色々と雑多な仕事内容だった。

どうやら、ライブハウスでのアルバイトが初心者な俺でもこなせそうな内容だ。

 

「説明は以上だけど.......何か質問ある?」

 

「いえ、大丈夫です」

 

「うん、了解。......それじゃあ今日は最後に部屋の案内をするよ」

 

そう言うと、目の前に座るまりなさんは立ちあがる。気づかなかったが、俺が「circle」の面接に来てから三時間経っており、窓の夕日が大きく傾いている。

 

まりなさんにつれられ、ついていきスタジオの前を通る、その時だった。

 

 

 

スタジオの中からバンドの演奏と思わしき音が聞こえてきた。

思わず、音の出どころを探す。どうやら、スダジオBと書かれた部屋から聞こえてるくるようだった。外の窓から中を見てみる。そこには、俺と同年代らしき女子高校生達(一人は中学生?)が居た。

 

普通の演奏だったら俺は足を止めていないだろう。

何せここはスタジオ。演奏の音が響くのは当たり前たがらだ。

だが、何故俺が足を止めたのかというと.......

 

(あの人.......ギター上手いな)

 

ただ単に、演奏の中でギターが一際上手だったからだ。

どうやら、水色の髪の子がギターを演奏しているようだった。

しばらく、その演奏を聞いていると.......、

 

「どしたの、鳴宮君?急に止まって」

 

先に歩いていたまりなさんが、怪訝そうな顔を浮かべながら近付いてきた。

 

「あ、すみません。つい、この演奏聞いてました」

 

「この演奏って.......」

 

そう言うと、まりなさんはスタジオBの中を見る。

 

「ああ、この子達ね。この子達は、「Roselia」って言う高校。最近結成されたばかりの、人気急上昇中のガールズバンドよ」

 

「Roselia.......、今、ガールズバンドが人気なんですか?」

 

「そうだよ。....ってそっか〜、鳴宮君ってこの街に来たばっかだから知らないのか〜。今この街はね、ガールズバンドが人気なんだよ。というかこの店も、オーナーがガールズバンドを応援したいということで、作ったんだよ」

 

「へぇー、そうなんですね!!」

 

そんな会話をしつつ、スタジオの前を後にし、部屋の案内へと戻った。

後ろからは、相変わらず演奏が続いていた。

 

 

 

部屋への案内が終わり、さっき通ったスダジオの前を通ると、そこはもぬけの殻だった。どうやら、Roseliaというバンドの利用時間が終了したらしい。

 

「あ、Roseliaの人達練習終わってるね.......じゃあ、蓮音君に初仕事。この部屋の後片付け頼める?」

 

まりなさんが、スタジオの中を覗き込み、俺に問いかけてくる。

俺はその言葉に頷き、

 

「分かりました」

 

と答え、部屋の中へと入った。

 

「ありがとう!!、基本は説明した通りだけど、分からなかったら聞いてね」

 

そう言うと、まりなさんは受付の所に戻って行った。

 

「よし、それじゃあ、やりますかね」

 

そう言いながら気合いを入れ、片付け始めた。

 

主に片付けの内容は、ドラムセットやアンプを定位置や使われた機材の設定を元に戻したり、中の掃除など様々だ。だが、結論から言うと、今回俺はそういったことをしなくてよかった。どうやら、Roseliaの人達がちゃんと片付けて帰ったらしい。

 

(どうやら、俺の仕事は無さそうだな.......)

 

そう思いながら、辺りを見渡す。

すると、壁際にアコギが立て掛けてあるのが目に入った。

 

壁へと近づき、そのギターを手に取る。

俺は正直、ウズウズしていた。先程、Roseliaのギターを聞き、あんなクオリティの高い音を出されたら、対抗心が燃え上がるのも必然だった。

 

(.......一曲だけ弾くか)

 

 

弾く曲は、この人の曲を初めて弾いた曲、『crossing field』。

弾く曲を決めると、俺は気持ちを演奏する時に切り替え、最初のフレーズを弾き始めた。

 

(とりあえずバレないようにしないと.......)

 

弾いていると、歌いそうになるがまりなさんにバレそうになるのでグッと堪え、最後まで曲を引き続けた。

 

 

(あの人、.......紗夜より、ううん、紗夜以上にギターが上手い.......)

 

後ろの扉から、見られてることに気づかないまま.......

 

 

 

 

無事に演奏欲を発散でき、まりなさんの居るロビーへと戻った。

 

「まりなさん、終わりましたよ」

 

「ああ、鳴宮君。お疲れ様。遅かったけど大丈夫だった?」

 

「...!!だ、大丈夫でしたよ」

 

片付けをサボって、ギターを弾いていたことを悟らせないように答えた。

幸いにも、まりなさんには、バレなかったようだ。

 

「そう、なら良かった。じゃあ、今日はもう上がっていいよ。次は、月曜日ね」

 

「分かりました、お疲れ様です」

 

俺はそう言うと、「circle」を後にした。

 

(今日の晩御飯は、うどんでも作るか)

今日の献立を考えながら。

 

 

「まりなさん、今の人って.......」

 

「ああ、──ちゃん、あの子はね新しく入った子だよ。鳴宮君って言うんだよ」

 

「へぇー、鳴宮君って言うのか.......」

 

そう言うと、まりなさんに尋ねた茶色の髪の少女は「circle」の出口の方を見ていた。

 

 

 

「.......てな感じで、アルバイトすることになった」

 

『ふーん、そうなんだ』

 

電話越しの、美咲の声が疲れた感じで聞こえてきた。

 

あのバイトの面接から数日が経っていた。

アルバイトの仕事は自分に合っていたらしく、仕事の方は楽しかった。

そして今日も今日とて、星を見ながらギターを弾くために公園へと来ていた。

 

公園に着いて、ギターのチューニングをしていると、美咲から電話が掛かってきた。

 

そこで軽く俺の近況報告をし、美咲の本題へと入った。

 

「で、何で電話してきたんだ?」

 

『ああ.......ちょっとさ、鳴宮にバンドのことで協力して欲しいことがあってさ』

 

「協力?.......というか奥沢ってバンドでなんの楽器やんの?」

 

『.......DJ』

 

「DJ?」

 

『うん、DJ』

 

しばらく沈黙が流れた。

 

「.......DJって、あのクラブとかで音楽流す、あのDJ?」

 

『そのDJ』

 

やっぱり合っていた。

美咲のDJをしている姿を想像してみたが、想像出来なかった。

 

「.......ま、まあいいんじゃないかな、.....で、協力って何をすればいいんだ?」

 

『?、えっとね、ちょっと曲作りと、後練習に手伝って欲しくて』

 

「曲作り?」

 

『うん、えっとね、.......あたしは()()()()()()()()んだけど、ライブに出たいってことになりましてね.......』

 

「.......ああ、なるほど、その為の曲作りに俺が必要なんだな。その曲の音を試しに弾いてみる為に」

 

『うん、そう。そしてできたら、その曲の練習に付き合って欲しくて』

 

「分かった、いいよ。手伝ってやるよ」

 

『ありがとう!!』

 

こうして、俺は美咲のバンドの曲作りと練習の為に力を貸すことになった。とりあえず美咲と相談し、明日放課後に一旦会うこととなった。

 

美咲との電話をきり、ギターをチューニングをしているとふと思う。

 

(.......心底やりたくないなら、普通練習とかしたいとか言わないんだけどな.......)

 

そんなことを思いながら、ギターのチューニングを済ませ、俺は今練習している曲、『HATENA』の練習をし始めた。

 

───まあ、でも作曲の手伝いね.......

 

───初めてだけど.......

 

 

 

 

 

 

────楽しくなりそうだ。





実は投稿が遅くなった原因は、私生活が忙しかったのもありますが、蓮音君をどうやってRoseliaのことを認知してもらおうか考えた結果遅くなりました。と言ってもこんな状態になってしまいましたが.......

バンドリのSSを書いてる人達を、本当に尊敬します。
キャラの口調や、ストーリーの構成等。自分もまだまだ学ばないといけないようです。

それでは、次の話でお会いしましょう!!


(蓮音君が最後に弾いた曲分かるかな?)




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第四話 作曲

どうも、ワッタンです。

バンドリ小説の総数とSAO小説の総数見てビックリしました。
バンドリの方が投稿総数上なんですね。
それほどまでに、バンドリというコンテツがすごいということを実感させられました。(笑)

それでは、第四話をどうぞ!!
※もしかしなくても、キャラ崩壊注意です


現在の状況を説明しよう。

 

学校が終わり美咲と合流する為に、一旦家へと帰り、壁に立て掛けてあるギターをいつものギターケースに入れ、美咲との合流場所であるスタジオへとチャリを走らせていた。が、そこで今日が漫画の新刊の発売であったことを思い出し、約束の時間まで余裕があったので少し寄り道をするために、駅前の本屋へとチャリを走らせた。するとそこには....

 

 

「ふぇぇぇ〜ここどこ〜?」

 

そこには制服を着た、迷子と思わしき高校生が居た。

髪の色は水色でサイドテール。制服を見てみると、どうやら花咲川の人のようだった。

彼女の近くを通りすぎる人は居るのだが、みんな少女にも目もくれず歩いている。

 

(どうしようか.......)

 

困っているみたいだったし、可哀想なので話しかけようか迷っていたその時だった。

 

ズボンのポケットに入れていた携帯が、着信の音を鳴らす。

ポケットから取りだし発信者を確認する。そこには、予想した通り、画面には『奥沢美咲』の名前が表示されていた。着信のボタンをタップし、電話に出る。

 

「もしもし?」

 

『...はぁはぁ、.....あ、繋がった。鳴宮?』

 

「ん、どした?」

 

どうやら、美咲は走りながら電話してるらしく、息が荒れていた。

 

『ちょっと、集合時間に遅れる!!.......はぁはぁ』

 

「お、おう。それはいいけど、どうして走ってんだ?」

 

『はぁはぁ.......ちょっとね.......連れの人が迷子になちゃって.......』

 

どうやら、美咲は迷子になった連れを、走り回って探しているようだ。

俺はその美咲の言葉に、目の前との状況が結びつく。そして思わず尋ねる。

 

「.......なあ、その人って制服着てて、水色の髪のサイドテールの子?」

 

『え!!、う.......うん、そうだけど。なんで、鳴宮知って.......、ま、まさか!!』

 

「そのまさかだ、今俺の目の前に居る.......ちょっと待ってろ」

 

そう言うと、美咲との電話を繋げたまま、目の前の少女に話し掛けた。

 

「あのー、すみません」

 

「....!!は、はい、な、何でしょうか?」

 

俺が話かけると、少女は体をビクッと震わせながら、恐る恐る怯えた感じで聞き返してきた。それは仕方がないことだろう、見ず知らずの男の人から急に話し掛けられたのだから。俺は、少女を怖がらせないように慎重に話し掛けた。

 

「あー、俺は怪しい人じゃないです。奥沢美咲の友人です」

 

「えっ.....美咲ちゃんの?」

 

「はい、そうです。とりあえずこれを、奥沢と繋がってます」

 

俺はそう言うと、自分のスマホを差し出す。すると、少女はおずおずといった感じでスマホを受け取り、美咲と会話をし始めた。

 

──五分後──

 

「じゃあ、後でね」

 

少女がそう言うと、電話を切りこちらへと振り返り、スマホを渡してくる。

 

「あの.......すみません、ありがとうございました。助かりました」

 

「いや、良かったです。それで、奥沢は何て言ってました?」

 

「は、はい。えーと、美咲ちゃんから一緒にあなたと行くようにって言われました」

 

「そうですか、じゃあ一緒に行きましょう。.......あっ!!まだ名前言ってませんでしたね」

 

自転車の準備をしながら、そう言うと少女の方に向き直る。

 

「俺は、鳴宮蓮音って言います」

 

「あ、.......えーと、私は松原花音です」

 

「松原花音.......じゃあ、松原さんね。よろしくです」

 

「!!は、はい、よろしくお願い.......します」

 

俺達はそう言うと、美咲に指定されたスタジオへとチャリを引きながら歩き始めた。

 

 

 

花音と歩くこと、十数分目的のスタジオへと辿り着いた。先に美咲はスタジオの中に入っているらしいので、受付の人にそのことを説明し、美咲が居るスタジオの所へと移動し、扉を開けた。そこには.......

 

 

 

 

 

商店街で見た、あのピンク色のクマ(ミッシェル)が居た。

思わず、扉を開けたまま固まっていると、ミッシェルがこちらを振り向き話しかけて来た。

 

「ああ、鳴宮来たんだ。ごめんね、花音さんを送って貰っちゃて.......」

 

「へ、あ.......その声、奥沢か!?何でそのキグルミ着てんだ!?」

 

「あ、ああー、そういや言ってなかったかぁー.......えっとね、それはね」

 

──五分後──

 

「.......なるほど、ミッシェルに入ってた状態でバンドに入れさせられて、挙句の果てには、松原さん以外のメンバーには、奥沢=ミッシェルという正体が認識されてない.......と」

 

「うん」

 

「.......なんというか、本当に苦労してんだな、二人共.......」

 

「ホントだよ.......」

 

「あはは.......」

 

美咲から、ミッシェルの説明を受け、思わずそんなやり取りをする。そして再び美咲に尋ねる。

 

「.......それで、奥沢は今日その格好で練習するのか?」

 

「いや、.....今日は、新調したスーツを試しに着てただけだから、このままではしないよ、.......ちょっと着替えてくる」

 

そう言うと、ミッシェル(美咲)はスタジオから出ていく。

取り残された俺は、思わず花音とこんな会話をしていた。

 

「.......すごいですよね、奥沢」

 

「えっ.......?」

 

「いや、だって、あいつバンド何かやりたくないとか言ってるけど、そう言いつつも、バンドの為に練習しようとか、作曲手伝ってとか普通できないと思いますよ」

 

「.......うん、そうだね、美咲ちゃんは嫌だとか言ってても優しいです.......」

 

「あっ!!、このことは、奥沢には言わないで下さいね、絶対あいつ怒ると思うから、「そんなことない!!」って」

 

「ふふふ.......分かりました」

 

 

二人で笑い合いながらそんな会話をしていると、着替え終えた美咲が戻って来た。そして部屋に入るなり怪訝そうな顔をしてくる。それもそうだ、部屋に入っくるなり、二人して笑っていたのだから。

 

「.......何話してたの?」

 

「いやいや、何でもないよ.......それより、さっさと作曲しようぜ」

 

俺はそう言うと、ギターケースから愛用のアコギを取り出した。

 

 

 

「一応これが、原曲なんだけど.......」

 

そう言って美咲が、スマホのボイスメモを再生する。すると、そこには見ず知らずの女の子が歌を歌ってる声が聞こえてきた。

 

「ちょっと、すまん」

 

俺は、美咲からスマホを預かると集中する為にポケットからイヤホンを取り出すと、美咲のスマホに繋げ作曲に集中する。ちなみに、俺は作曲に集中しているが、美咲と花音は二人で基礎練をしていた。

 

三回程、ボイスメモをリピートし、軽く、それに合わせて弾いてみる。そして弾いたメロディを修正し、再びボイスメモを聞き、また弾いてみる。要は、耳コピの要領で、聞く、弾くを繰り返し曲を作りあげていく。

 

三十分程である程度、曲全体を弾き終えたので、基礎練をしている二人に声をかける。

 

「.......おーい、大体完成したぞー」

 

俺の言葉に、基礎練をしていた二人がこちらに振り向く。

 

「えっ!!早っ!!」 「もう?.......ですか?」

 

二人が、同時に驚きの声を上げる。

 

「ああ、.......まあ、原曲もあったし、ギターのメロディだけだからあとはこれを好きなように弄ってくれ」

 

俺はそう言うと、スマホの録音ボタンを押し、たった今完成した曲のメロディをフルで弾き始めた。

 

 

四分程で弾き終え、二人に尋ねる。

「.......とまあ、こんな感じなんだけど、こんなんで大丈夫か?」

 

「.......うん、あたしは大丈夫だと思う、花音さんは?」

 

「わ、私も、良いと思うよ」

 

「そっか.......じゃああとはこれをCDに「ちょっとお借りします」....って、うわぁぁぁ!!」

 

二人と話していると、突然黒いスーツを着たサングラスを掛けた女性が自分のスマホを借りるとパソコンに接続し、何かをしている。

 

「だ、誰!?」

 

俺が驚いていると、後ろから、「「ああー.......」」と美咲と花音の二人分の声が聞こえてくる。後ろに振り返り二人に尋ねる。

 

「し、知ってんのかこの人?」

 

すると、二人が説明をしてくれる。

 

「えーと、.....こころちゃんの、えーと、何って言ったら.......」

 

花音がそこまで言うと、美咲が説明を引き継ぐ。

 

「えーと、あの人達は、弦巻こころの.......あたしをバンドに引きずり込んだ人の、ボディガード?みたいな人達.......かな」

 

「へ、へぇー、でも何でここに.......?」

 

そんなことを言ってると、パソコンの作業が終了したのか、先程俺のスマホを取った人がスマホを返してくる。

 

「すみません、鳴宮様。今日、奥沢様が作曲をするとの事で、私たちも微力ながら手伝おうと思った次第で、先程完成した曲をこちらのパソコンに取り込みましたので、これでCDに焼けます」

 

「は、はあ、なるほど.......」

 

「それでは、CDに焼いて来ます」

 

黒服の人はそう言うと、スタジオからパソコンを持って撤収して行った。

黒服の人が、出ていくのを確認すると、思わず美咲に、

 

「なあ、奥沢.......」

 

「何?」

 

「弦巻こころって、何者何だ.......?」

 

そう尋ねたのだった。

 

 

あの後、自分が録音した音があったのでそれを元に、花音と一緒にセッションをしてみた。花音の担当楽器はドラムで本人は最近叩いてないと言ってたが、充分に叩けていた。三回ほど、セッションした所でスタジオの利用時間が来たので、今日はお開きとなった。

 

「今日はありがとね、おかげで助かったよ」

 

美咲が今日のお礼を言ってくる。

 

「いやいや、そんなに大したことしてねーよ、.......まあ何か困った事があったら、俺が出来る範囲なら協力するよ」

 

「うん、そうしてもらう」

 

「躊躇無しかよ.......松原さんも、何か困ったことがあったら何時でも連絡してくださいね」

 

苦笑しつつ、花音にも話しかける。

 

「う、うん.......ありがとう、鳴宮君」

 

そんな会話をして二人と別れ、ライブスタジオを後にした。

 

 

家へと向けてチャリを走らせていると、視界の端にコンビニが見えた。

そういえばと、コンビニにも漫画売ってるよな.......と思い、淡い期待を抱きつつ、チャリを止めギターケースを背負いコンビニへと入った。

 

「いらっしゃいませー」

 

コンビニに入ると、店員からの挨拶が聞こえて.......

 

「さんしゃい〜ん」

 

.......今、明らかに、いらっしゃいませでは無い言葉が聞こえたような.......

 

「モカー、それはちょっと、ヤバいんじゃないかな」

 

「え〜、大丈夫ですよ、リサさん〜」

 

うん、聞き間違いじゃなかった。アルバイトらしき女子高生の二人がヒソヒソと話していた。でも俺は、気にすること無く漫画が陳列されている棚へと足を運ぶ。運良くそこには、俺が求めていた漫画の新刊が置いてあった。

 

「おっ、ラッキー」

 

それを持って行きレジへと持って行く。

 

「いらっしゃいませ、.......ん?」

 

レジへと持って行くと、担当の人にじーと見られた。

俺に見覚えあるのだろうか.......。かく言う俺もレジの人に見覚えがあった。

 

(何か見覚えあるな.......どっかで会ったことあるっけ.......)

 

そんなことを思っていると、店員の人から話しかけて来た。

 

「.......あのー、違ったらごめんなんだけど、君、「circle」の.......」

 

「circle」という単語が出てきて、俺の記憶のピースが脳内でカチリとハマる。

 

「ん?.......あっ!! Roseliaの.......!!」

 

今目の前にいる人は、この前スタジオの外から見た、Roseliaのベースの人だった。

 

「そうだよー、Roseliaのベーシスト、今井リサです!!よろしくね」

 

「あ、えっとー、「CiRCLE」で働かせてもらってます、鳴宮蓮音です.......っていうか、何で俺の事知ってんですか?」

 

「あ〜それは.......「リサさん〜誰ですかーその人?」」

 

リサと話していると、隣のレジに居た人もこちらの話へと入ってきた。

声から察するに、先程中々にふざけた挨拶をした子だった。

 

「あ、忘れてた。この人は、「circle」の新しく入ったアルバイトの蓮音君で、蓮音君この人は、青葉モカ」

 

「いえ〜い、天才少女のモカちゃんでーす。よろしく〜」

 

「あ、よろしくです」

 

(自分で天才って言うのか.......)

 

そんなことを思っていると、リサが話し出した。

 

「で、蓮音君を知った理由だっけ。それはねー、君が仕事中にサボってギターを弾いてたからだよ〜」

 

その言葉に一瞬、体が固まり背中に嫌な汗がダラダラと流れる。

 

(あ、やべ、見られてた.......)

 

「へぇ〜そうなんですか〜」

 

「うん、そうそう。しかも、ウチのギター担当より上手いんだよ〜」

 

「へぇ、紗夜さんよりもですか〜」

 

リサとモカがそんなことを話す。

そこで我に帰り、リサに話し掛ける。

 

「あ、あの〜、その事はどうか、まりなさんには内緒でお願いします.......」

 

「分かってるよ〜。でも、ただとではいかないなー」

 

「お、俺に、何させる気ですか.......!?」

 

思わず変な言葉が出た。するとリサさんが笑って、言葉を返してくれる。

 

「いやいや、そんな変な事させないよー、.......アタシが「circle」に来る日は、ギターを弾いて欲しいな〜」

 

「.......それは、嫌って言ったら?」

 

「ここにまりなさんの連絡先があり「喜んで弾かせて頂きます」オッケー、交渉成立〜」

 

こうして、俺は「circle」のバイトの日で尚且つ、リサさんが来る日には、ギターを弾くことになった。後ちなみに.......

 

「おお〜、それはモカちゃんも、聞いてみたいですな〜」

 

と、まりなさんの連絡先をチラつかせながら言ってきたので、モカが来る日にも聞かせる羽目になってしまった。.......というか、俺の知り合いバンドやってる人多すぎない.......?

 

とまあ、そんなこともあり、今日の一日は終わって行ったのだった。

後、新刊面白かったです。

 





今回は、ちょっと文字数多かったですね。
この小説は、このくらいの文字数でゆる〜く書いていこうと思います。今回から色々と、バンドリキャラが出て来ましたね。一応調べながら書いたのですが、口調がおかしいかもです。
口調が違うよと、感想欄とかで教えてくれると幸いです。

それでは、また次の話でお会いしましょう!!

(バンドリのローソンコラボ.......美咲はゲットせねば!!)



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第五話 ハロハピ

どうも、ワッタンです。

さて今回の話ですが、私のモチベにより、何を血迷ったか自分のメインの小説と、同じ位書いてしましいました。やっちゃったZE☆

それでは、第五話をどうぞ!!
(あ、今回オリキャラでます)




「おお~、やっぱり上手だね~」

 

リサさんが感心したように言ってくる。

このまえコンビニに行った際、お願いもとい脅迫的なことをされ、今日のバイトのシフトの終わり際、Roseliaの練習終えたリサさんに捕まり、こうして約束のギターを目の前で弾いていた。

ちなみに、まりなさんにはリサさんが話を通していたらしく、連れてかれる時にまりなさんに、「今日はもう上がっていいよ、お疲れ様」と言われた。

 

 

この前練習していた曲「HATENA」を最後まで弾き終え、ギターの手を止める。手を止めるとリサさんがパチパチと拍手してくれた。そしてリサさんが尋ねてきた。

 

「やっぱり、上手だね連音君.....ねぇ、いつからギターやってるの?」

 

「えーと、.....初めてギターに触ったのは、四歳の時で、曲を初めて弾いたのは五歳ですかね」

 

「へぇ、そんなに昔から....だから上手いのかー」

 

「まあ、でも正直練習すれば、誰でも上手に弾けますよ、俺以上にギターが上手な人なんていっぱい居ますから」

 

(父さんみたいに......な)

そんなことを思いつつ、今度は俺からリサさんに話しかける。

 

「というかリサさんも、頑張って練習すればすぐ弾けるようになりますよ、現にベース弾けてますから」

 

「ふ~ん、そうかな?.....じゃあもし、アタシがギター弾くことになったら、連音君に教えてもらおうかな~」

 

「......それくらいなら、お安い御用です」

 

そんな話をしていると、時刻は六時半となった。

すると、リサさんが焦ったように言葉を発した。

 

「あ、ごめん、連音君。アタシ今日、これからバイトなんだよね」

 

「あ、そうなんですね」

 

「うん、そうそう」

 

そう言いながら、リサさんは慌ただしく準備をすますと、ベースの入ったケースを肩にかけると、

スタジオの扉に手をかけ、こちらへと振り向く。

 

 

「じゃあ、またね連音君。またギター、聞かせてね」

 

リサさんはこちらにバイバイと手を振りながら、挨拶すると

颯爽と出て行ってしまった。

 

(行っちゃった......俺も帰るかな)

 

そう思うと、貸し出し用のギターを元の位置へと戻し、スタジオの扉を開けた。

 

 

 

「あ、出て来た。お疲れ、鳴宮」

 

「あれ、奥沢?なんで居んの、今日って練習じゃなかったけ?」

 

「うん、その帰り。.....ちょっと鳴宮に渡したいものがあって.....その前にハイ、これ」

 

美咲はそう言うと、俺に微糖の缶コーヒーを渡してくれる。

 

「おっ、サンキュー」

 

そういうと俺は、美咲から缶コーヒーを貰うと、一気に半分ほどあおる。

 

「....で、渡したいものって?」

 

「そうそう、はい、これ」

 

そういうと、美咲は何かのチケットを二枚渡してきた。

何のチケットかを確認すると、どうやらライブのチケットのようだ。

 

「...これは?」

 

美咲に尋ねる。

 

「実はさ、ライブが決まってさ。一応、鳴宮にも助けて貰ったし、そのお礼....かな」

 

「おおー、遂に決まったのか!!、.....分かった、見に行くよ」

 

「うん、ありがとう。日程は、今週の土曜日だからね」

 

「オッケー、了解」

 

(奥沢か.......)

 

こうして、俺の週末の予定が決まった。.......のだが、ここで問題が一つ発生した。

美咲がくれたチケットは二枚、俺が使っても一枚余る。さて、誰と行くべきか........

 

 

 

翌日の学校。

俺は自分の席に座り、美咲から貰ったチケット二枚を眺めていた。

 

(はてさて、誰と行くべきか......?)

 

俺は上京してきたばかりなので、そこまで友達が居ない。

さて、どうするか.......

そんなことを考えていると、

 

 

「よう、レオ何やってんだ?」

 

「亮か.......ちょっとな」

 

こいつの名前は、星川亮(ほしかわりょう)。俺がこの学校でできた比較的仲の良い友達だ。入学初日に話し掛けてくれたのもこいつだったりする。成績は、そこそこできる部類で、何処にも部活は所属してないが、よく色々な部活から勧誘が来るほどの運動神経抜群の持ち主だ。もちろんモテるらしいが、なぜだか彼女を作らない、そんなやつだ。ちなみに、俺の事は「蓮音」って呼びにくいとの事で、レオと読んでいる。

 

「ん、それ何?」

 

亮が俺の持ってるチケットに気が付く。

 

「ああ、これ知り合いに貰ったんだけど、二枚あるから誰と行こっかなーって考えてたんだよ」

 

「へー、.......なあ、行く人が見つからないならさ、俺と行こうぜ」

 

「え、いいのか?」

 

「ああ、.......というかレオ、俺と同じ位に仲のいいやつ居んの?」

 

亮の的を得た発言に、心を抉られ、ピシリと体が固まり、

 

「.......居ません」

 

と、かろうじて呟いた。

 

「だろ?」

 

「.......分かった、ほれ、チケット。日時は、今週の土曜だからな」

 

「オッケー、サンキュー」

 

そんな会話を終えると、チャイムが鳴り教室に、次の授業の担当の先生が入ってきた。生徒達が、それぞれ自分の席へと着く。

こうして、ライブに一人で行くことを避けたのだった。

 

 

「あ、そのライブ、アタシ達も出るよ」

 

「へ、マジですか?」

 

「うん、マジマジ」

 

翌日の、「CiRCLE」でのバイトの終盤、今日も今日とて、練習に来ていたリサさんに呼ばれ、ギターを弾いていた。そして話をしていると、土曜日にライブに行くことを話したら、リサさんにそう返された。

 

「あ、だから最近、ほぼ毎日練習に来るんですね」

 

俺の知る限りでは、ここ1週間程リサさんは毎日練習をしに来ていらしい。らしいというのは、まりなさんから聞いたからだ。そして多分、夜も帰ってから自主練をしているのだろう。

リサさんにそう話すと、少しだけ苦い顔をされる。

 

「うーん、それもあるけど.......アタシが、Roseliaの中で、一番技術が足りてないから.......頑張らないといけないんだ」

 

「.......そうなんですか、.......リサさんならきっと大丈夫ですよ、努力しているのは、俺が知ってますから」

 

少しだけ空気が、重くなってしまったので、あえて明るい声でリサさんに大丈夫と励ます。

 

「.......うん、ありがとう、連音君!!」

 

リサさんはそう言うと、俺と初めて出会った時と同じように、笑顔を浮かべた。

 

 

そして、ライブの当日。

俺は駅前にて、亮を待っていた。

 

「遅い.......」

 

待っていたのだが、亮からLI○Eで、「すまん、ちょっと遅れる!!」と、メッセージが来ていたので、駅前のス○バで時間を潰していた。

コーヒーを飲みながら、美咲から改めて貰ったチケットを眺める。どうやら、今日のライブは、五つのバンドが演奏するそうで、その中には美咲のバンド「ハロー、ハッピーワールド!」と、リサさんが所属してる「Roselia」の名前もあった。

 

(そういや、「Roselia」って、青薔薇って意味だよな.......何で青薔薇何だろう?)

 

そんなことを思っていると、店の外からこちらに手を降っている亮が見えた。

 

「やっと来たか」

 

俺は椅子から立ち上がり、店の外にいる亮と合流する。

 

「すまんレオ、遅れた。中々、妹が泣き止まなくって.......」

 

「ああ、なるほど。それなら仕方ないか.......よし、じゃあ行こうぜ」

 

「おう」

 

そう言うと、俺達はライブハウスに向けて歩き出した。

 

ライブハウスに着き、受け付けにチケットを見せ、会場の扉を開けると人の熱気が、俺と亮を包んだ。みんながそれぞれ、今日のライブの事について騒いでいる。

 

「すげぇ.......」

 

「ああ、.......ほんとだな」

 

俺と亮は、思わずそんな声を呟いた。よくよく会場見回してみると、壁際にはスーツを来た男の人が、居るのが見えた。

 

(うわ、アレってスカウトマンとか、雑誌のライターって奴か?.......美咲達、大丈夫かなぁ)

 

そんなことを思っていると、突然ほっペたに冷たい感触が伝わってきた。

 

「冷た!!」

 

「あ、わりぃ。ほれ、飲みもん買ってきた」

 

隣を見ると、どうやら涼は飲み物を買ってきたらしく、両手にはミネラルウォーターが、握られていた。

 

「あ、サンキュー」

 

そう言って、ミネラルウォーターを受け取った瞬間─────。

 

 

ライブハウスの中の照明が消えた。どうやら、ライブの開始時間になったようだ。騒いでいたお客さんも私語を止め、俺達を含めたお客さんの視線が、ライブのステージへと集まる。

 

そして現れたのは、あの日「CiRCLE」に初めて行った時に見たガールズバンド、Roseliaが現れた。Roseliaが全員それぞれの立ち位置へと着き、ボーカルの銀髪の子が1歩前へと踏み出すと─────、

 

 

周りの空気が一瞬で変わった。そして、何の前触れもなく、演奏が始まる。その瞬間、周りから歓声が上がる。その歓声はまるで、会場に居る人達全員が、心が一つになったような歓声だった。

 

そして曲のイントロ部分が終わり、ボーカルの子が歌を歌い出し、その瞬間、更なる歓声がライブハウスを包んだ。それもそのはずだ、何故なら.......。

 

(本当に、高校生か.......!?)

 

下手なプロ、いや、下手すればプロレベルの歌声が会場の全員を包んだからだ。そしてそれだけではなく、ボーカル以外のメンバーも、全員の演奏技術も高かった。もちろん、リサさんも。

 

「.......なんだ、リサさんちゃんと、上手いじゃないですか」

 

思わず、そう呟く。この前は、自分には技術が足りない言っていたが、今の彼女からは、そんな不安は感じ取れずむしろ、

 

「楽しそうだなぁ」

 

リサさんの顔には、笑顔が浮かんでいた。

ちなみに隣の亮は、ライブに引き込まれていて、俺の言葉には気付かなかった。

 

 

あっという間に、Roseliaの演奏が二曲三曲と終わり、Roseliaの演奏が終わり、ステージの照明が消え最後に大きな歓声が起こった。

 

「.......これがバンド、ライブ!!」

 

ただすごい、それしか言えなかった。すると、隣の亮が話し掛けてきた。

 

「なあ、ライブって凄いな、レオ!!」

 

「.......ああ!!」

 

「所でレオの知り合いって、いつ出るんだ?」

 

「えっと、.......次だな」

 

亮に聞かれ、受付で貰ったライブのプログラムを見ながら答える。すると、答えた瞬間、ステージに照明が灯る。どうやら、「ハロー、ハッピーワールド!」.......美咲達の準備が終わったらしい、ステージの方へと目線を向ける。すると、予想した通り、ステージに向けたお客さんが驚きの声を上げる。それはそうだろう、ステージの上にクマのキグルミが居たのだから。

 

「何だアレ?」

 

「あはは、クマが居るぞ」

 

お客さんが、それぞれ驚きの声を上げる中、その例にも埋もれず隣の亮が話しかけてくる。

 

「なあレオ、あれって?」

 

「.......クマのミッシェル、担当はDJ.......そして俺の知り合い」

 

それだけを告げると、金髪のボーカルの子が話し始めた。

 

「みんな元気ーーっ?あたし達、ハロー、ハッピーワールドよっ!!みんな笑顔になる準備はいいかしら?それじゃあゴー!!」

 

そう言うと、ボーカルの子はいきなり客席へとダイブしてきた。

 

(なっ.......!?)

 

「うわっ、なに、いきなり客席にダイブしてきた!?禁止行為じゃないの?これ!!」

 

近くに居た観客が、困惑の声を上げる。

 

「こころ、バカ!!戻って!!バンドはステージで演奏しないと駄目なの!!」

 

「えー?そうなのミッシェル。仕方ないわね、えいっ!!」

 

「のわあ!?」

 

そんなやり取りがあったかと思うと、ボーカルの子は、ミッシェルへとダイブした。

 

「ははは、何だあのクマ?押し倒されてるー」

 

隣の亮がそんな声を上げるが、俺は今の行動で大体察した。

 

(.......多分、あのボーカルの子が、「弦巻こころ」って子だな、うん。とりあえず.......美咲ご愁傷さまです)

 

「さあ、子猫ちゃん達。私のギターを楽しんでくれ」

 

「根性っ。根性〜っ」

 

「ふえぇぇ.......!」

 

松原さん達の声が聞こえてきたかと思うと、演奏が再開され、ミッシェルがCDをかける。もちろんかかっている曲は、多少のアレンジが入っているが、俺が弾いたあの曲だった。

 

ミッシェルが、CDを流しながらアレンジを掛け、他のメンバーがそれに合わせ、演奏する。ボーカルの子はと言うと、

 

「いえーーい!!みんな盛り上がってるっ?」

 

ステージ上でバク転していた。そんな様子を見たお客さん達は、最初は困惑していたが、徐々に笑顔になっていた。

 

「なんかいーね。このバンド。見てるとつい、笑っちゃう」

 

そんな声が聞こえてきた。

 

(これが、美咲のバンド、「ハロー、ハッピーワールド!」.......なんと言うか、美咲が入ることによってこんなに、音が楽しく感じる.......そんな気がする。言わば、必要不可欠の存在.......かな?)

 

柄にもなく、そんなことを思った。

 

 

それから、あっという間に時間は過ぎ、ライブの終了時刻となった。お客さんが、それぞれ外のドアへと歩き始めた。

 

「いやー楽しかった。ありがとな、レオ」

 

「いやいや、亮こそ、来てくれてありがとな」

 

そんなやり取りをしながらライブハウスのドアをくぐり、受け付けへと戻ってきたその時、

 

「鳴宮様」

 

そんな声が、廊下の端から聞こえ、そちらを振り向く。

そこには、この前会った黒のスーツを着た女性が立っていた。

 

「あれ、あなたは.......弦巻こころの、黒服さん?」

 

「はい、突然すみません。こころ様があなたとお会いしたいとの事で.......」

 

「.......へ?」

 

 

とりあえず、亮には先には帰ってもらい、黒服さんと一緒に、関係者以外立ち入り禁止と書かれた廊下を歩く。黒服さんと歩いていると、

 

「────事──しま─────せ──?」

 

誰かが、話している声が聞こえてきた。話し声からして、一人で話しているようでは無いようだが.......

 

「──には、───せん。──自分────で────たいから」

 

やはり、誰かと話しているようだ。そして俺はこの声を、体感的には、一時間前に聞いていた。

 

(Roseliaのボーカルの子.......?)

 

どうやら、何処かの部屋で何かを話しているようだ。俺はそのまま特に気に止めずに黒服さんの後へとついて行った。この後、これがある事件を起こすとは、この時の俺はまだ知らない.......。

 

 

「ここです、鳴宮様」

 

黒服さんに案内され、一つのドアの前へと来る。

 

「あ、ありがとうございます.......」

 

俺は一応お礼を言うと、恐る恐るドアを開ける。

 

「失礼しま.......「来たわね!!」って、ちょっとぉぉぉ!?」

 

扉を開けると同時に、中から手を引っ張られ中に引きずり込まれる。

そして扉の先に居たのは、まあ予想通り.......

 

「かのちゃん先輩、この人が!!」

 

「う、うん、そうだよ」

 

「ふっ、彼がそうか。ああ、儚い.......」

 

先程初めてのライブをしたバンド「ハロー、ハッピーワールド!」のメンバーだった。

 

「えーと、とりあえず松原さん。なんで俺はここに.......?」

 

「あ、えーと、それは.......」

 

松原さん曰く、俺が弦巻こころの録音した声を基に、ギターでメロディを弾いて、CDに焼いた事を(といっても、焼いたのは黒服さんだが)、話の流れで知ってこころが、「会ってお礼を言いたいわ!!」と、言った為俺はこうして黒服さんに連行させられたらしい。

 

「あー、なるほど.......」

 

(こりゃ、美咲が手を焼くわけだ.......)

 

そんなことを改めて思ってると、ガシッと両手を弦巻こころに掴まれ、腕を掴まれたままブンブンと腕を降った。

 

「今日は、アナタにお礼を言いたかったの!!アナタのおかげで初ライブ成功できたわ!!え〜と.......」

 

「?」

 

突然何かを思い出そうとする仕草の弦巻こころに、疑問を浮かべたが、俺はすぐにその理由を気付く。

 

「.....ああー、俺の名前は鳴宮連音だ。それと、弦巻さん。ライブが成功出来たのは、君達の力だよ。俺は.......ただその後押しをした.......それだけだよ」

 

「.......!!そんなことないわ、レオン!!ねぇ、みんなもそう思うでしょ!?」

 

こころが、ハロハピのメンバーを見回す。

 

「ああ、こころの言う通りだ連音。君のギターのお陰で私の練習が捗ったよ」

 

「そんなことないよ、レオ君!!ね、かのちゃん先輩もそう思うでしょ!!」

 

「う、うん。鳴宮君のお陰で助かったよ、ありがとう」

 

 

口々に、感謝の言葉を本人の目の前で言われ、俺の顔が照れで赤く染まっていくことを感じ、思わず目を逸らし、

 

「ど、.......どういたしまして」

 

かろうじてそう呟いた。

俺が呟くと、再びこころが話し掛けてきた。

 

「それと、あたしの名前はこころでいいわ!!」

 

「.......分かった、これからよろしくな、こころ」

 

「ええ、連音!!」

 

そんな会話をしていると、控え室の扉が空いた。そして、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「や、やっと、終わったぁー.......」

 

そう言いながら入ってきた人物に、労いの言葉をかける。

 

「お疲れ、奥沢」

 

「う、うん。.......って!!鳴宮、何でここに居るの!?」

 

「まあ、ちょっとな」

 

そんな会話をすると、

 

「あ、キグルミの人も来たのね!!ね、どうだったかしら?あたし達とミッシェルのライブは!!」

 

こころがそう言いながら、美咲へと駆け寄る。そんなこころへと美咲が、力無しに呟いた。

 

「.......だからぁ、あたしがミッシェル何だってばぁ.......」

 

そんな様子を俺は、苦笑いを浮かべながら眺めていた。

 

 

 

 

 

ライブが終わり、明くる日の月曜日、俺は「CiRCLE」でのアルバイトへと精を出していた。今日はどうやら、お客さんが少なくとても暇な時間が多かった。

 

(うーん、今日は楽だな.......。偶にはこういう日もサイコーだな)

 

レジでの作業をしながら、今日の晩飯を何を作ろかなと考えていると、

 

「見つけたわ!!」

 

一昨日、俺をハロハピの楽屋へと引き入れた声が聞こえてきた。

(こころ.......か?)

そんなことを思いつつ、作業の手を止め、声のした方へと向くと、ハロハピの五人が勢揃いしていた。

 

「.......何で居んの?」

 

しばらくは会わないと思っていた為、そんな失礼な事を言ってしまう。それに対してこころは、俺の言葉なんか気にせずに答えた。

 

「花音から聞いたの!!、連音がここでバイトしてるって。それにしてもカッコイイ、ライブハウスね!!.......決めたわ!!アタシ達今度からここで練習するわ、そうと決まったらみんな早速練習しましょ!!」

 

「「おー!!」」

 

そう言うと、こころ、はぐみ、薫さんが勝手に奥へと入っててしまう。

 

「ちょっと、こころ!?待って、待って受付は!?」

 

「こころちゃん待ってぇ〜、まだダメだよう.......ふえぇぇぇ.......」

 

俺はそう叫び、松原さんはこころちゃんを追って行った。そして、受付へと残されたのは、美咲と俺だけだった。

 

「はあ、全くあの3バカは.......ねぇ鳴宮、受付ってどうするの?」

 

「へ?、ああ、この紙に.......」

 

美咲がそう訪ねてきたので、受付の紙を渡し、サラサラと必要事項を書いていく。

 

「はい。これで大丈夫?」

 

「ああ、大丈夫だけど.......というか、奥沢何で居んの?バンド嫌じゃなかったのか?」

 

そう尋ねると、美咲は少しだけ考える素振りを見せ、俺の質問に答えた。

 

「.......嫌だけど何というか、.......ちょっともうちょっと考えたくてさ.......」

 

「そっか」

 

そんな会話をしてると、奥の方からこころが、こちらにも聞こえる声で、

 

「ミッシェル、どこー!!」

 

と、ミッシェルのことを呼んでいた。

 

「はぁ、呼ばれたから、行ってくるね」

 

「ああ、行ってら.......と、その前になあ、奥沢」

 

「何?」

 

美咲を呼び止め、この前から考えていたことを話す。

 

「お前のこと、美咲って呼んでいいか?普通にもう友達なんだし」

 

「ああー、......何だそんなことか.......」

 

そう言うと美咲は、俺が話した事には答えず、廊下の方へと歩いていき、こちらを見ずに答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「後で、飲み物奢ってね。()()

そう言うと美咲は、こころの元へと向かった。

 




何かリサさんが、ヒロインぽくなってしまいましたが、この小説のヒロインは美咲です。次の話の伏線を出すには、リサさんを出すしかなかったんです。悪気はありませんでした!!
後、別にサブヒロインは考えてますので登場までお待ちを。さて、とりあえずこの話で、ハロハピが結成しましたので、色々と、次の話以降から色んなキャラを出せるようになったので、どうか楽しみにお持ち下さい。

それでは、次の話でお会いしましょう

(バンドリ×ローソン!!美咲はゲットしなければ.......)


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第六話 パンは美味しい

どうも、ワッタンです。
ようやく最近自分の文章の癖が若干分かるようになってきました。

実は、今週は投稿できないかなと思ってたんですが、(主にボックスガチャのせい)、何とか書けました。字数は相変わらず、ちょっと少ないですが.......

それでは気を取り直して、第六話をどうぞ!!



「おお〜、確かにこれはうまいですな〜」

 

モカが俺のギターを聴きながら、そんなことを呟き、パンを頬張る。そんな様子を見た俺は、ギターの手を止め思わずモカに、

 

「それは、俺のギターとパンの味どっちなんだ?」

 

と、尋ねていた。

ライブの日から一週間が経っていた。美咲曰く、「ハロハピ」は、ライブハウスでライブをする為に、路上とか公園でのライブをしているようだ。俺はその目で見た訳ではないが、どうやら結構人気のようだ。近々また、ライブハウスでライブが出来るだろう.......と、俺はそう考えている。

 

そんな感じで、今日は俺がCiRCLEのシフトの日だった。そしたら、たまたま初めて、モカが所属しているバンド「Afterglow」が俺がシフトに入っている時に、初めて練習に来た。そして、俺のシフトが終わる間際リサさんと同じように、ギターをモカの目の前で弾いてるのだった。

 

「というかモカ、お前それでパン何個目なんだ?」

 

リサさんとは違い、タメ口で話す。聞くところによるとリサさんは、俺の一個上だそうで、(何となく雰囲気で分かったが)モカは俺と同学年だった。

 

「ん~.....七個目?」

 

そんな答えが返ってくる。

 

「それは流石に、食い過ぎじゃないのか?」

 

(流石に七個て.....成人男性でもそんなに食えねぇぞ)

そんなことを思いつつ、モカに尋ねると、

 

「フフフ、モカちゃんはひーちゃんにカロリーを送ってるから大丈夫なのだ〜」

 

と、そんな答えが帰ってきた。

 

──────────────────────

 

「へっくしゅん!!」

 

「ひまりちゃん、大丈夫?」

 

「ひまり、風邪引いたのか?」

 

「.......大丈夫?」

 

幼なじみの少女三人に心配される。

 

「うん、大丈夫.......これは多分、きっとモカがまた良からぬ事を話してるに違いないよ!!」

 

心配されながら少女は、恐らくこのクシャミの原因であろう、幼なじみの少女の事を話した。

 

「そういえばモカのやつ、「先帰ってて」って言ってたけど、なんかあんのかな?」

 

「うーん、.......バイトじゃない?」

 

「.......でも、それだといつもみたいに、途中まで一緒に帰るよね」

 

「あ、確かに!!」

 

「「「「うーん.......」」」」

 

そんな会話を、モカの幼なじみ四人は、帰りながらしていた。

 

──────────────────────

 

「ひーちゃん?」

 

モカの口から、俺が知らない名前の人が出てきたので思わず尋ねる。

 

「ひーちゃんは、うちのバンドリーダーだよ」

 

話を聞くと「Afterglow」は、そのひーちゃんが、モカ達の幼なじみと一緒に居る為に、作ったバンドらしい。そしてAfterglowの意味.......夕焼け。それは、バンド結成した時によく練習していた場所が、夕焼けが照らす屋上の上だったから.......だそうだ。

 

「ふーん、そうなのか」

 

モカの話を聞き、俺は思う。

 

美咲達のバンド「ハロハピ」は、世界を笑顔にする為に結成したバンド。そしてモカ達のバンド「Afterglow」は、居場所を作る為に作ったバンド。こうして聞くと、バンドの結成する理由は色々とあるようだ。

 

(Roseliaには、どういう理由があんのかな?)

 

そんなことを思っていると、

 

「ほうなんでふ(訳:そうなんです)」

 

モカが、パンを食べながら喋る。

 

「いや、飲み込んでから喋れよ」

 

そう言うと、モカはパンを食べ終え呟く。

 

「早く食べないと、鮮度が落ちるのだよ連音君」

 

「何だよそれ、魚じゃあるまいし.......」

 

苦笑いを浮かべながら、そんな会話をしつつ、モカがパンを「山吹ベーカリー」と書かれた袋からパンを取り出して、パンを食べるのを横目で見ながら今練習している曲を、練習する為ギターを構えた。

 

──────────────────────

 

「病院?」

 

今日も日課の星空の下でギターを弾いていると、恐らくバンドの練習の帰りである美咲がやって来た。そして、美咲から病院でライブしたことを告げられた。

 

「いやいや美咲、病院でライブって何で?」

 

「あーと一応、連音もウチらの関係者だからいいか、えっとね」

 

美咲によると、「ハロハピ」のベースの子.......はぐみは、ソフトボールのチームに入っているらしい。実はそのチームのメンバーが、車の事故にあい病院に足の手術の為に入院したそうだ。 その結果、手術は何の問題もなく、成功したそうなのだが、その子はまだ車椅子で過ごしており、未だに自分の足で歩いておらず、なおかつ笑顔が戻ってない。そして、そんな状況を、こころが見逃せるはずもなく.......、あれやこれやと、その子の為に、何かと手を尽くしているそうだ。

 

「んー、なるほどなぁ......その子は怖いんだろうなぁ」

 

「.......うん」

 

美咲が、俺の言葉に相槌を打ってくれる。

 

「そんな怖い経験をしたから、自分の足はもう歩けない.......だから、リハビリをする意味もない.......だから、笑うこともできない.......」

 

そこまで言うとふと思う。自分がその子の立場だったら、どうするだろうか。事故で利き手が怪我をしたとして、またギターを弾こうとするだろうか。.......いや、考えるでもない。そうなったら俺は.......

 

「きっと勇気が出ないんだよ」

 

「へっ.......?」

 

そんなことを考えると、美咲がポツリと呟く。美咲の方に顔を向けると、美咲は星空を見上げながら、再び呟く。

 

「.......きっとあかりちゃんは、連音の言う通り怖くて歩けなくて.......自信がないんだよ。だからあたし達は、あかりちゃんの為に、勇気を出す演奏をする、そう思ってるんだ.......まぁ、精神論なんだけどね」

 

「そっか、うん。美咲達のバンドなら出来るよ」

 

「ありがと.......っていうか、あたしはバンドに入らないからね!!今回のこれでコレっきり!!」

 

「あー、はいはい。ソウデシタネー」

 

俺はそう言うと、新しい曲を練習し始める。俺の言葉に少し拗ねていた美咲が尋ねてくる。

 

「それって、新しい曲?」

 

ギターを弾きながら、美咲に答える。

 

「うん、そうそう。聞いた事ある?」

 

「いや、聞いたことない。どんな曲なの?」

 

「うーん、強いて言えば、()()()()()()()()()().......って感じの曲かな」

 

「へぇ.......今度、ちゃんと全部聞かせてよ」

 

「りょーかい」

 

そう言いながら、俺は新しい曲の練習へと集中した。そんな様子を、美咲は黙って見入り、その二人の様子を星空の光が照らしていた。

 

──────────────────────

 

二人がギターを弾いて聞いていた頃────

 

「CiRCLE」からの帰り道、ある少女が家へと帰っていた。その少女は、月明かりの光によって長い銀髪を照らしていた。少女の名は、「湊友希那」。Roseliaのボーカルであり、プロ顔負けの歌唱力を持つ少女。

 

(私.......何故.......引き受けなかったの?待たせて、どうするの.......?)

 

そんなことを思いつつ自宅へと着くと、隣の家の前に誰かが居た。その人物は、よく知ってるも何も、幼なじみの少女。

 

「リサ.......」

 

「あれ?友希那じゃん。おかえり〜、今帰り?」

 

「ええ、.......所でリサ、今日はあこと燐子でお茶会だったそうね。あなた達、今日練習しないつもりなの?」

 

友希那は疑問に思いリサに尋ねる。

するとリサは、いつものように笑顔を浮かべ答える。

 

「みんな家でやってるってさ。アタシもこれから!!」

 

「そう、ならいいわ。.......私は何をしても、《FUTURE WORLD FES.》に出る。私はそれしか考えてないから」

 

(私にとっての音楽は、Roseliaだけじゃない.......Roseliaはフェス、ひいてはコンテスト出場の手段だったはずよ.......)

──────────────────────

 

友希那はそれだけを言うと、玄関の扉をあけ自宅へと入った。その場には、リサだけが取り残される。

 

(友希那、顔色が悪かった.......それに、聞いてもないことを話すなんて変.......)

 

「友希那.......」

 

リサはそう呟き、隣の家を見上げる。と、同時に友希那の部屋に明かりが灯る。きっと友希那はこれから、寝るまで歌の練習をするのだろう。

 

「.......中、入ろ」

 

リサはそう呟き、玄関の扉を開け自宅へと入った。

 





ここから、シリアスなパートに入ってきます。まあ、概ね原作通りなんで、そこまでシリアスチックにはならないと思います。

そして、今回試験的に、
──────────────────────
↑をちょっと活用してみました。多少これで見やすくなったはず.......

それでは、次の話でお会いしましょう。
(ローソンコラボの美咲のキーホルダーが全然当たらん!!)




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第七話 崩壊

どうも、ワッタンです。

さて、今回からシリアスパートです。
そして、もうひとつ今回、美咲出てきません!!ヒロインなのに!!


それでは、第七話をどうぞ!!




「なあレオ、コレ見たか?」

 

HRが始まる前に、自分の机でイヤホンを耳につけ曲を聴きながら、宿題をしていると、亮が俺に話しかけてくる。

イヤホンを片耳だけ外し、宿題から亮へと目を向けた。そこには、珍しく何かの雑誌を持った亮が居た。

 

「コレって.......音楽雑誌?」

 

「そうそう、これ妹が持ってたんだけど、これにこの前聞いた、えーと、.......そうそう、Roselia!! Roseliaが載ってたよ」

 

「ほらここ」と言いながら、亮が雑誌を渡してくるのでもう片方のイヤホンを外し、亮から音楽雑誌を受け取り目を通す。

 

そこには、亮の言った通り「Roselia」のライブの時の写真が載ってあり、そこに大きな見出しで『──新星バンド、Roselia!!』と書かれており、その下には、『孤高の歌姫(ティーヴァ)友希那が遂にバンドを結成』.......

と書かれていた。

 

「へぇ、やっぱりRoseliaって凄いんだな。雑誌の見開きに載るなんて......でも、孤高の歌姫ってのどういうことだ?」

 

「それ、俺も気になって調べてみたんだけど、このボーカルの友希那って人は、どうやらRoseliaを結成する前は、ソロで活動してたらしい。んで、その時についた名前が、『孤高の歌姫(ティーヴァ)』らしいよ」

 

「ほぉー、なるほど」

 

亮に、友希那の説明してもらい、改めて雑誌に目を通す。使われている写真は、どうやらこの前のライブのようだった。ライブの写真を見ていると、あることに気づく。

 

(リサさん.....浮いてんなぁ)

 

写真を見ると、リサさん以外の四人は割と普通の見た目をしているのだが、リサさんだけ正直ギャルっぽくて浮いていた。リサさんとは、あの日のライブ以来、たまたま会っておらず、LI〇Eでのやり取りが続いていた。まあ、リサさんがCiRCLEに来ない、その分モカとはよく会うのだが.......。

 

そんなことを思っていると、HRの予鈴が鳴り、続々とクラスメイト達が、自分の席へと座り始めた。

 

「お、もうそんな時間か。その雑誌は貸しといてやるよ」

 

そう言うと、亮は自分の席へと戻る。と同時に、担任の先生が教室へと入ってくる。

 

「サンキュー」

 

俺はそう言うと、先生の朝の会話に、耳だけ傾け残りの宿題を、片付け始めた。

 

──────────────────────

 

「ねぇ、れーくん?」

 

「どしたー?.......って、ちょっと待て、れーくんって俺の事か!? .....初めてそんな名前で呼ばれたぞ.......」

 

明くる日の木曜日、今日もモカの目の前でギターを弾いていた時に、そう呼び掛けられる。

 

「だってー、連音って呼びにくいんだよね〜。まあ、それは置いといて、れーくんって、毎日ギター弾いてるの?」

 

「まあ、名前は呼びやすければ何でもいいよ。それより、その質問はYESだ、毎日夜の公園で弾いてる」

 

「.......公園で?」

 

モカが珍しく怪訝そうな顔で尋ねてくる。

 

「ああ、.......まあ、あれだよ。俺がこの街に上京してくる前にも、ずっと星空見ながら毎日弾いてたから、もう日課もとい趣味みたいになってんだよ」

 

「ふーん、変な趣味ですな〜」

 

「.......ポイントカード集めが趣味な人には言われたくない」

 

「失礼ですな〜」

 

そんな会話をしていると、自分も前々から聞きたいことがあったことを思い出し、これ幸いということでモカに尋ねる。

 

「なあモカ、俺も聞きたいことがあるんだけど?」

 

「何だね、れーくん。この天才少女モカちゃんが答えてしんぜよう」

 

「はいはい、......で聞きたいことってのは、リサさんもだけど、何でそんなに俺のギター聞きたいんだ?そんなに特別な弾き方をしてる訳じゃないんだけど.......」

 

モカに尋ねると、当の本人は目をパチクリとさせ、答えてくれた。

 

「.......うーん、それはまた答えにくい質問ですな〜.......まあ、強いて言えばモカちゃんのギターの演奏が、メロンパンだとしたら、れーくんの演奏は、焼きたてのカリカリモフモフのメロンパンの演奏.......って事ですかな〜」

 

「.....?どゆこと?」

 

「まあ要するに、れーくんはれーくんのままで、居て欲しいってことですかな」

 

モカはそう言いながら、自分のカバンをガザゴソと漁る。

 

「.......よく分からんけど分かった」

 

「うん、それでいいよ。.......っと、あった、あった」

 

モカがカバンから、クッキーが入った袋を取り出し袋をあけ、中のクッキーを頬張った。

 

「あれ、今日はクッキーなのか?いつもは、パンなのに」

 

「ああ、それはね〜」

 

クッキーをポリポリと食べながら、答えてくれる。

 

「うちのバンドメンバーが、メンバー全員にクッキーを作ってくれてんだよ〜」

 

──────────────────────

 

「くちゅん」

 

「つぐ、大丈夫か?」

 

「つぐみ、大丈夫?」

 

「つぐ、大丈夫!?」

 

幼なじみ三人が、くしゃみをした少女に対して、声をかける。

 

「うん、大丈夫.......うーん、風邪かなあ?」

 

鼻を擦りながら、くしゃみをした少女は呟く。

すると、幼なじみの1人が、

 

「最近は春と言っても、まだ夜は冷え込むからな。ちゃんと暖かくして、寝ないとな」

 

そんなふうに、話し掛けてくる。

 

「うん、そうだね。ありがとう、巴ちゃん」

 

そんな話をしていると、ピンク色の髪色の幼なじみが、言葉を呟く。

 

「それにしても、モカはまた今日も「先帰ってて〜」って言ってたけど、やっぱり何か用事があるのかな?」

 

「どうだろうな。なあ、蘭はどう思う?」

 

「さあ」

 

今日も、モカの幼なじみの少女達は、モカの行動に疑問を思いつつ、帰路へと着く。

 

──────────────────────

 

「うん、美味しい〜」そう言いながら、モカはクッキーを頬張り続ける。そんな様子を見ていると、俺もクッキーが食べたくなってきた。

 

(今度、作って見るか.......作ったことないけど、)

 

そう思い、ギターを弾きながら次の休みの予定に思考を巡らせた。

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

──そして、事件は起きる。

 

 

その次の日、今日も「CiRCLE」でのバイトだったので、学校帰りに「CiRCLE」へと立ち寄る。中へと入り、スタッフオンリーの事務所の扉を開き、「CiRCLE」の制服へと着替え、事務所の扉を開け、今日のアルバイトを開始する。

 

(とりあえず、清掃からだな)

 

そう思い、倉庫となってる部屋に行く為に、スタジオの前の廊下を通る。すると、

 

「.......まりなさん、何やってるんですか?」

 

まりなさんが、スタジオの扉の前で、耳を当てて聞き耳を立てていた。

 

「あ、連音君ちょっとこっち来て」

 

まりなさんが、俺に気づき手招きをしてくる。言われた通りに、まりなさんの側へと近づく。

 

「いやいや、まりなさん。聞き耳立てちゃ不味いんじゃないんですか?そもそも、今ここ誰が使ってるんです?」

 

まりなさんへと尋ねる。

 

「そう!!そこ何だよ連音君。ここ今使ってるのは、十分前くらいに来た「Roselia」さん何だけどね、さっきから演奏の音が聞こえないんだよね。だから、ちょっとおかしいなって思ってさ」

 

「へぇー、リサさん達が.......確かにそれはちょっとおかしいですね」

 

「Roselia」が練習に来ると、遅くても五分以内には、練習を開始するのだが、今のスタジオから演奏の音が聞こえない。

 

「うん、だからこうやって聞き耳立てるんだけど、どうやら何か言い争い?してるみたいなんだけど.......」

 

「言い争いですか?」

 

「そうそう、ちょっと連音君も、一緒に聞き耳立ててみてよ」

 

まりなさんはそう言うと、中の様子に聞き耳を立てる。

俺は、まりなさんの右へと行き、一緒に聞き耳を立てた。

 

「『私達────せる』───言って、『───音楽を』──つけて──────────────────────そういうことじゃないですか!!」

 

確かに全部は聞き取れないが、まりなさんの言う通り言い争いをしているようだ。

 

「あこ達の技術─────────ったの?────ッ!!!!!」

 

しばらく、言い争いが聞こえなかったが、そんな声を聞こえた内、部屋の内側から、結構な速度で近づいて.......うん?近づいて.......?

 

(.......ッやべ!!)

 

俺はある不安に襲われ、慌て扉から飛び退く.......としたのだが、気づいたのがどうやら遅かったようだ。()()から扉が思い切り開け放たれた。そして、飛び退くのが遅れた俺は案の定、思い切り開け放たれた扉を避ける暇もなく、「ビターン」と、さながらギャグ漫画のように扉と壁に、挟まれた。

 

「痛ってぇ───────!?」

 

壁へと打ち付けられ、廊下へと倒れ込んだ。

 

「だ、大丈夫、連音君!?」

 

「だ、大丈夫ッス.......」

 

まりなさんが心配して、俺の傍に駆け寄る。どうやら、まりなさんは無事のようだ。そして、扉を思い切り開けた張本人は、俺達に気づかず、出口へと走り去っていた。そしてその後を、メンバー一人が追っていた。

 

(.......ホントになんかあったんだな)

 

そんなことを思い、体制を建て直し、扉の方へと目線を移すと、

 

「──────申し訳ないけど、失礼するわ」

 

そんな声が聞こえ、「Roselia」のギターの人が部屋から出てきた。そして、他のメンバー二人同様、出口へと向かって歩いていく。そして、俺は隣のまりなさんに話しかける。

 

「.......まりなさん、コレって.......」

 

「うん、言いたいことは分かるよ。連音君」

 

「「コレって、ちょっとまずいことになってるんじゃあ.......」」

 

二人同時に呟くと、また部屋から足音が聞こえてくる。そして、今度出てきたのは、朝の雑誌で見た、「孤高の歌姫」.......湊友希那だった。湊友希那もやはり、出口へと向かって歩いていく。そして消去法で今部屋に残ってるのは.......。

 

俺は、立ち上がり部屋の中へと入る。そこに居たのはやはり予想通り.......。

 

「.......リサさん」

 

「Roselia」のベーシスト、リサさんだった。リサさんは俯いていたが、俺の言葉に気付き、顔をあげ俺の方を見る。その顔は.......

 

「連音.......君?」

 

 

 

涙で濡れていた。

 





何故自分が、Roseliaのこのイベントをやろうかと思ったのかと言いますと、サブヒロインを登場させる際に、このイベントを挟んでおいた方が何かと都合がいいんですよね。
最近色々な、バンドリの小説読んでるんですけど、やっぱり皆さんすごいですわ。

それでは、次の話でお会いしましょう!!

(実はこの前、この小説が原作バンドリでの、日間総合評価11位に入ってました!!ありがとうございます!!)



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第八話 後悔と夜空

どうも、ワッタンです。

最近このSSが、週一投稿が安定してきてますね。
多分自分がこの執筆ペースに慣れれば、週一でバンドリSSの方は投稿出来そうです。
そして今回、私ワッタン初めてのまるまる主人公以外の視点で執筆しました。多分変になってるところがあるかも

それでは、第八話をどうぞ!!



(どうして、こんなことに.......)

 

アタシ、今井リサは人生の中でも、トップの絶望感にかられていた。

あの時、友希那の異変に気づけてあげれば.......そんな葛藤が頭の中をグルグルと渦巻いていた。

 

何故こうなったのかと、数十分前に遡る。

 

──────────────────────

 

今日アタシは遅刻もせずに、Roseliaの練習時間に定刻通りに来たのだが、スタジオの扉を開けて居たのは、紗夜────Roseliaのギター、氷川紗夜だけだった。友希那どころか、他の二人もまだ来ていなかった。

 

「おはよ〜.......って、あれ?紗夜だけ、友希那達は?」

 

「おはようございます、今井さん。今日はまだ私だけです」

 

「ふ〜ん、そっか」

 

その時はまだ、

(友希那が遅刻するなんて、珍しいな)

と思っていた。一瞬だけこの前の友希那の、顔色が悪かったことが頭をチラついたが、すぐに頭を振り考えを断ち切った。

 

──────────────────────

 

「ごめんなさい、遅れたわ」

 

結局、友希那が来たのは本来の時間の、十五分後だった。

 

「友希那、遅かったじゃん。何かあった?」

 

「.......別に、ちょっと遅れただけよ」

 

アタシの心配する質問に、友希那はぶっきらぼうに答えた。すると紗夜が、

 

「湊さん。貴方はこのバンドのリーダーなのですから、しっかりして下さい」

 

と、少し怒った感じで話しかけた。それに対して友希那は、アタシの時と同じように、

 

「.......ごめんなさい」

 

ぶっきらぼうに答えた。そしてこの時に、アタシはあることに気が付いた。

 

(友希那.......なんか、今日もおかしい.......?)

 

これは完全なる幼なじみの勘なのだか、明らかにあの時と違って、顔色は悪くはなかったが、目の前にいる幼なじみはどこか、今日も少し様子がおかしかった。

 

 

この時に友希那の様子に気づいて声を掛けていれば、この後の出来事が少し変わったのかもしれない.......

 

──────────────────────

 

残りの二人、───白金燐子と、宇田川あこがスタジオの扉を開けたのは、友希那が来てから十五分後、つまり二人は三十分の遅刻だった。

 

「.......三十分の遅刻よ、やる気はあるの?」

 

「そういう友希那も、十五分遅れたけどね〜」

 

「.......」

 

アタシの言葉に友希那は、遅れたことの後ろめたさか、バツの悪そうな顔を浮かべる。

 

「いいから、はやく準備してください。ロスした分を取り戻さなくては」

 

「「.......」」

 

紗夜が遅れた二人に対してそう言うが、二人は辛気くさそうな顔をして、言葉を返さない。

 

「なーに二人して、辛気くさい顔してんの?紗夜が怒るなんていつものことじゃん」

 

「今井さんも、真面目にやって下さい。コンテストは刻一刻と近づいているのよ」

 

紗夜と会話している間にも、二人は何も言葉を発さない。

 

「.......あこ、燐子早くして」

 

友希那がそう二人に声をかけるが、友希那の声にも二人は反応を返さなかった。

 

「え、ちょっとなに?どうしちゃったの、二人とも?」

 

たまらず、アタシも声を掛けるも、やっぱり二人とも何の反応も返さなかった。

そして、紗夜が痺れを切らして、言葉を放った瞬間、

 

「宇田川さん、やる気がないなら帰っ.......「あ、あのっ.......!!」」

 

ようやく、あこが反応を返した。

 

「あ、あこちゃん.......」

 

そして、燐子もようやく言葉を発し、あこを心配する。

 

「ごめん、りんりん。.......あこ、見ちゃったの.......」

 

そこから、あこの口から何故二人が、そんな辛気くさい顔をしていたのかの理由が発せられた。

 

今日の練習の為に、あこと燐子が待ち合わせをしていたらしい。そして、一緒に「CiRCLE」へ向かおうとすると、友希那がスーツの女の人と一緒に居たのを見たらしい。そして、そのまま二人がホテルのロビーに入っていた。二人は後をつけ、友希那と女の人の話を盗み聞きした。そして、それが二人がこんな態度をしている原因だった。

 

「それがどうしたって言うの?湊さんにだってプライベートがあるでしょう?」

 

「.......だ、.......だけど、気になるんだもん!!あ、あこだって、この五人だけのっ、『自分だけのカッコイイ』の為に頑張ってきたし.......、」

 

そこであこは一旦話すのを止め、意を決したように呟いた。

 

「だから.......コンテストに出られないなんて、ぜったいイヤなんだもん!!」

 

「「「!!」」」

 

あこと燐子以外の三人が驚いた顔をし、静寂が五人が包む。

 

(やっぱり.......友希那は何か隠してた.......でも、なんで?)

 

そんなことを思っていると、

最初に口を開いたのは紗夜だった。

 

「.......どういうことですか?」

 

そして、あこの口から友希那とスーツの人の会話の内容が発せられた。

どうやら、友希那はスーツの人からスカウトを受けていたらしい。所々聞き取れない所があったようだが、友希那の言ったある一言だけはハッキリと聞こえたそうだ。

 

「.......私は、フェスに出るのなら何でもするわ!!.......」

 

という部分だけが。

 

「.......宇田川さん達の言い分は分かったわ。.......湊さん。認識に相違はないんですか?」

 

「.......」

 

紗夜の質問に、友希那は無言を返す。

 

「友希那.......」

 

心配になり、友希那に声を掛けるもアタシの言葉にも、何の反応も示さなかった。

 

「無言は肯定とみなしますが?」

 

紗夜が再び友希那に問いただす。その声は、アタシには怒気をはらんでいるように聞こえた。だが.......、

 

「.......」

 

友希那は、その言葉を聞いても無言を貫いていた。

 

「っ.......私達とコンテストなんかに出場せずに、自分一人本番のステージに立てればいいそういう事ですか!!」

 

「.......!.......私っ、は」

 

紗夜の叫び声に、ようやく友希那は言葉を発するが、その言葉はたどたどしかった。

 

「.......否定しないんですね、だったら.......」

 

紗夜がそこまで言うと、アタシは慌てて、紗夜に話しかける。だがそれは、逆に火に油を注ぐ結果になってしまった。

 

「ちょ、ちょっと待って紗夜、まだ何も言ってないじゃん。友希那の言い分も、ね?」

 

「答えないことが最大の答えだわ!」

 

紗夜が叫ぶ。

 

「っ、友希那.......」

 

思わず、隣の幼なじみに目線を移す。

が、友希那は俯いていた。

 

「.......ちょっと、なにか.......!!」

 

そう言ったが、友希那の反応を確認する前に紗夜が言葉を発した。

 

「『私達なら、音楽の頂点を目指せる』なんて言って.......『自分達の音楽を』なんてメンバーを焚き付けて.......」

 

そこで一旦言葉を止め、息を吸い込み叫んだ。

 

「結局……自分一人がフェスに出られれば、なんでも、誰でもよかった……そういう事じゃないですか!!」

 

「ッ.......!!」

 

紗夜の本音の叫びに、一瞬友希那はたじろぐが、何も言葉を発さなかった。無言.......つまり、それは紗夜の言った通り肯定と取れるということだ。

 

本来ならばアタシは、もっと前に友希那がフェスに出たいという本当の訳を皆に告げるべきだった。そうすれば、今この状況にはなることは無かった.......。

 

アタシは、何も喋れず立ち尽くしていると、あこが言葉を発する。

 

「.......え?それじゃ、あこたちが集められたのってその為だけに.......?」

 

「.......あこちゃん、何もそうとは.......」

 

あこもそう言うが、相変わらず帰ってくるのは無言、それだけだった。

 

「.......っ、あこ達の実力を認めてくれたのも!Roseliaに全部かけるって言ったのも!みんな.......みんな嘘だったの……?──────ッ!!」

 

あこはそう叫び、ドアを大きく開け放ち、スタジオから飛び出して行った。

 

「あこちゃん.......っ、待って.......どこに.......」

 

「ちょっ、二人とも.......」

 

燐子も、アタシの制止も聞かずに、あこを追いかけるように飛び出して行った。

紗夜はそんなことなど気にせず、友希那に話し掛けていた。

 

「湊さん。私は本当に貴方の信念を尊敬していました。だからこそ、私も……っ!」

 

そこまで言うと、息を吸い込みしっかりと告げた。

 

「……とても、失望したわ」

 

「紗夜……お願い、少し待ってよ。友希那の話を……」

 

「先程も言いましたが、答えないことが最大の答えです。.......申し訳ないけど、失礼するわ」

 

紗夜はアタシの言葉にも聞く耳持たずに、ギターケースを背負いスタジオから出て行った。

 

残されたのは、アタシと友希那のみ。

そして、友希那に恐る恐る話し掛ける。

 

「.......友希那っ。今の話は全部.......本当なの.......?」

 

「.......本来だったら、何.......?」

 

「.......!!なにって、このままでいいの?このままじゃ.......Roseliaは.......ねぇ、本当はメンバーに何か言いたいことがあるんじゃ.......」

 

「───ッ、知らない!!私は、.......私はお父さんの為にフェスに出るの!!そのためだったら、何で.......何.......でも、利用するだけよ」

 

アタシの質問に、友希那はそう叫び返す。

 

(.......嘘つき、嘘だったらそんな顔しないよ.......友希那ぁ.......)

 

友希那が叫んだ後、涙を流しながらへなへなと床に座り込むと、友希那から一言、

 

「帰るわ」

 

そうアタシに告げ、スタジオを出ていった。

 

──────────────────────

 

「.......リサさん」

 

友希那が出て行った後、聞き覚えのある声が聞こえてくる。

ドアの方を振り向き、誰かなのかを確認する。それは、予想通り連音君だった。

 

「連音君.......」

 

そう呟くと、連音君が近づいて来るが、途中で止まる。きっとアタシの頬に流れてる涙を見て、近づくのを躊躇ったのだろう。そして、連音君は優しい声で話し掛けてくる。

 

「.......大丈夫ですかリサさん?」

 

ここで、「何があったんですかと」理由を聞いてこないのは、彼なりの優しさだろう。

 

(ホント優しいね.......)

 

アタシは涙を拭うと、笑顔を浮かべながら、彼に話し掛けた。

 

「大丈夫だよ、連音君。心配かけてごめんね。ちょっと.......いざこざがあってさ、それでちょっと泣いただけだよ」

 

そうは言ったものの、内心では心が後悔や、悲しさが嵐のように、渦巻いていた。きっと浮かべてる笑顔も、酷い笑顔だろう。

 

アタシの言葉に、連音君は戸惑っていた。

何も無いわけがないのだから。

駄目だ、これ以上はもう耐えられない。これ以上彼を見てると、また泣き出してしまう。

そう判断したアタシは.......、

 

「.......あ、ごめんね。今日バイトがあるからもう行くね、ギターはまた今度聞かせてね」

 

そうまくし立て、ベースケースを背負いスタジオから飛び出して行った。

 

──────────────────────

 

(やっと終わった.......)

 

コンビニのバイトを終え、事務所の椅子に座り込み、一息つく。

今日の仕事は、酷かった。お釣りを渡し間違えたり、弁当などの賞味期限のチェック忘れや、揚げ物の廃棄の落とし忘れなど、度重なるミスが目立った。

 

「リサさ〜ん、お疲れ様でーす」

 

「.......あ、モカ、お疲れ〜」

 

椅子に座っていると、今日一緒のシフトだったモカが話し掛けてきたので、挨拶を返す。

 

(今日はもう帰ろ.......)

 

そう思い、コンビニの制服を着替える為に、椅子から立ち上がろうとすると、

 

「リサさん、今日何かあったんですか?」

 

モカから、いつものような間延びした声ではなく、真面目な声のトーンで再び話しかけて来た。

 

「えっ.......な、何もないよ。急にどしたの?」

 

「.......リサさん、頬の後に涙の跡ありますよ。多分他の人だったら誤魔化せますけど、モカちゃんには、誤魔化せませんよ〜、.......何かあったんですか?」

 

モカはこうやって偶に、勘が鋭い時があることを、アタシは最近知った。

 

「.......うん、ちょっとね。.......今日バンド内でいざこざが少しあってね。その時に、泣いちゃたんだ.......」

 

やばい、今日のことを考えるとまた泣きそうになってしまう。涙が出そうになるのを堪えていると、

 

「そう、.......なんですか.......ごめんなさい〜リサさん。辛いことを聞いてしまって.......」

 

「.......あはは、大丈夫だよモカ。アタシは気にしてないからさ.......だから、ごめん今日はもう帰るから」

 

モカには悪気がないのは分かっていたが、今日はどうしてもすぐに泣きだそうに、なってしまう。そして今度こそ、帰る為に制服を着替えようとした時、

 

「.......リサさん、今日夜の公園に行ってみて下さい〜。星空とか見たら気分が晴れるかもしれません」

 

と、モカが話し掛けてきたので、

 

「.......うん、分かった。ありがとね、モカ」

 

かろうじてそう返した。

 

──────────────────────

 

「.......キレイな夜空.......」

 

そっと呟く。

いつもは気にして夜空なんて見ないから、こうやって改めて見ると、キレイに感じるとは不思議な感覚だった。

 

結局アタシは、夜の公園へと来ていた。

 

(来る気は無かったのにな.......)

 

バイトが終わった後、モカには悪いが公園に寄らずそのまま家に帰ろうとしたのだが、家へと着く曲がり角に差し掛かかり、角を曲がりふと自分の家の隣を見上げたら、二階には電気がついていた。

 

「友希那.......」

 

そう呟いていた。友希那の家の前で立ち止まり、そしてアタシはいたたまれず、家へとは逆の方向へ.......夜の公園へと歩き始めていた。

 

──────────────────────

 

夜の公園は、昼間と違ってすごく静かだった。まるで、世界に自分一人が取り残されたように感じる。

 

「.......にしても、ホントにキレイな夜空だなぁ。.......けど、ごめんね、モカ。こんなんじゃ羽休めにしかならないよ」

 

今だけは心は休まるだろう。だけど、家へと帰ると、きっと隣の家の二階は電気が着いているだろう。そしてアタシはそれを見ると、.......

 

 

そんなことを思いながら、夜空を見ていると自分の耳に、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギターの音色が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

聞こえた瞬間、アタシは音のした方へと目線を向ける。どうやら、この先の公園の中にある、芝生の広場から聞こえているようだ。

 

(誰か.......いる?)

 

 

アタシは少し迷ったが、意を決して広場へと、足を向けた。

広場へと近づくことに、ギターの音色が強くなり、そして歌声が聞こえてくる。

 

(弾き語り、それも歌とギターどっちも凄い.......?でも、この声は.......聞いたことある?)

 

そう思いながら歩みを進め、広場へと出る。

そこに居たのは、多分アタシと同年代の女の子。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、連音君だった。




この話を書いていて思ったことは、私にシリアスは書けねぇということがわかりましたね(笑)。それはさておき、ようやくRoseliaのメンバーの名前全員分出せました。まあ、まだ連音君とは絡ませてないんですけどね。

それと次回なんですけど、また初めての書き方に挑戦してみようと思いますので、少々時間がかかるかもです。
それでは次の話でお会いしましょう!!








次回












『その瞬間を掴め』


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第九話 Catch the Moment

どうも、ワッタンです

プロローグから数えて、十話目でこざいます!!
そして今回、初めて楽曲を使ってますので、所々おかしい所があるかもしれないので、そこの所はご了承ください。

それでは、第九話目をどうぞ!!




「はぁ──」

 

「どしたの、ため息なんてついて、何かあった?」

 

「.......まあ、色々と」

 

「大丈夫?」

 

俺は盛大にため息をつき、それに関して隣に座っている美咲が尋ねてきた。

ため息の原因は、もちろん夕方のあれだ。

 

──────────────────────

 

あの時、リサさんは泣いていた。それに俺はなんて声を掛けるべきか分からず、とりあえず理由は聞かない方が良いと判断した為、「大丈夫です」か、と声を掛けた。それに対しリサさんは、明らかに空元気の笑みを浮かべ、「大丈夫」と言った。やっぱり何かあったんだと、思うと同時に、なんて声を掛けるべきかとまとまらない思考で考えていると、リサさんはその後すぐに帰ってしまった。

 

勿論リサさんのことは凄い気掛かりだったが、まだ「CiRCLE」のバイト中だった為、後を追うことも出来ず、そのまま心ここにあらずと感じで、残りのバイトを過ごした。

 

正直バイトから帰った後も、(あの時、何かできたんじゃないか)と、自分の行動に病んでいたが、美咲と約束をしていた()()()が、此処へ来る前に全部ミスなく弾けた為、こうして多少病みつつも、夜の公園へと来ていた。

 

──────────────────────

 

「.......そういえば、病院のライブってどうなったんだ?」

 

ふと、美咲がこの前言っていた病院でのライブが気になり、座りながらギターのチューニングしながら尋ねた。

 

「え、ああ、ライブは成功したよ、あの子も元気になったしね」

 

「おお、それは良かった」

 

正直その子のことも気になっていたので、ライブが成功した事に安堵した。

 

「うん、ほんと良かったよ。.......それで、その子からお礼の手紙が届いたんだ」

 

「へぇー、なんて書いてあったんだ?」

 

美咲に尋ねる。

 

「えっとね、.....お礼の言葉と、大きなくなったら誰かに元気や勇気をあげたい.......って書いてあったよ」

 

「勇気をあげる.......」

 

その言葉を、口に出してみることは凄い簡単だが、実際はすごく難しい。それこそ、そんなことを簡単にできるのは、()()()()()()()()()()()()()()()位なもの.......

 

そこまで考えていると、美咲が再び話し出した。

その言葉は、

 

「.......こころが言ってたんだけどさ、世界の人達はみんながヒーローだって」

 

「.......こころが?」

 

「うん、ヒーローはさ。色んな人を救うわけじゃん。できるできないはともかく。.......でもこころが言うには、自分が.......自分自信ができないって決めつけない限り何でもできる。.......それが例え、みんなを救うヒーローであっても」

 

美咲はそこまで言うと、星空を見上げる。

 

「.............」

 

俺は、何も口を挟まない。

美咲は星空を見上げた後、こちらに向かって最後の言葉を話す。

 

「なーんか、おとぎ話っぽい気もするけどね.......

まあでもあたしは、

 

.......そういうの嫌いじゃないけどね」

 

その言葉は、正確にはこころが言っていた言葉は、俺の考えをいとも簡単に吹き飛ばした。

 

(そっか......そうだよな。決めつけるのは早いよな.......ようやく分かった。俺のすべきことは.......)

 

「.......やっと、顔色が戻ったね」

 

「え?」

 

「連音の顔。今日会った時から、酷い顔してたよ」

 

「え、嘘!?」

 

そう言いながら自分の顔をさする。

どうやら、自分の顔はバイトが終わった時から酷い顔だったようだ。

「そうそう」と言いながら美咲は頷く。

 

「.......で、もう大丈夫?」

 

「.......ああ、大丈夫だよ。ありがとな、美咲」

 

「うん、良かった良かった。.......この報酬は甘いものを奢ってくれるだけでいーよ」

 

美咲がそう言うので、失笑しながら

 

「.......フッ、分かったよ」

 

と答えた。

 

──────────────────────

 

「じゃあ、早速俺が元気になった所で、遂に全部弾けたこの曲を約束通り聞かせてやるよ」

 

そう言いながらセッティングの終えたギターを構える。

 

「準備はいいか?」

 

「うん、いつでもどーぞ」

 

「オッケー.......じゃあいくぜ、『──────』」

 

 

そう言うと、俺は曲を奏で始める。

そして今日は、歌いたい気分なので弾き語りの形で奏でる

 

 

──五分後──

 

 

最後のフレーズも気を抜くことなく弾き語りを終え、

手元を見ていた顔をあげる。奏終えると同時に、目の前の彼女から拍手を貰う。

 

「.......凄いね、連音。なんというか.......

......今日のギターは何かいつもより、.......ごめん、言葉に出来ないくらい凄かった」

 

「おう、ありがとな。多分その凄い理由は.......」

 

その理由は最後まで言えなかった。

なぜなら───、

 

 

 

 

 

 

 

 

なぜなら、後ろから急にリサさんから抱きつかれていたからだ。

 

──────────────────────

 

モカに言われ夜の公園へと行き、公園の中を歩いていると、ギターの音色が聞こえ、その場所へと行くと連音君とアタシの見知らぬ女の子が居た。

そして、連音君は弾き語りの形でギターを弾いていた。

 

 

最初は声を掛けようか迷った。

だけど、........彼の歌っていた歌。.......その最後のフレーズを聴いた瞬間、アタシは駆け出していて、.......後ろから連音君へと抱き着いていた。

 

 

 

───彼の背中は大きくて、今のアタシには凄く暖かった。

 

そして、アタシは彼の背中で、夕方から我慢していた涙を流した。

 

──────────────────────

 

「リ、リサさん!?」

 

急に後ろから衝撃が来て自分の前に手が通された。

誰かに後ろから抱きつかれたことに気付き、後ろを見ると制服姿のリサさんに抱き着かれてた。

 

 

「.......お願いだから、連音君。ちょっとこのままにさせて.......」

 

 

「え.......わ、分かりました.......?」

 

リサさんに涙声でそう言われたので、抱き着いていた理由は分からないが、とりあえずこのままの姿勢でいることにした。

 

「.......ねえ、鳴宮。その人誰?」

 

そのままの姿勢でいることに決めた俺に、状況が掴めてない美咲が困惑し風に小声で訪ねてくる。

 

「あ、.......ええと、この人はRoseliaのベーシストの今井リサさんです。そして、抱き着かれてる理由は分からないです、ハイ」

 

「.......そうなの?」

 

 

そう美咲と小声で会話している間も、リサさんは俺から離れなかった。というか、むしろ抱きしめる力が強くなっていってる気がする。

 

 

きっと、いや、やっぱりリサさんは、俺の想像がつかないほど夕方の件が応え、この時間まで泣くのを我慢していたのだろう。

なら、ここでリサさんが泣き終わるまではこのまま、抱き着かれたままでいよう。

 

 

そう思い俺は、リサさんが泣き止むまで、このままの姿勢で居続けた。

 

──────────────────────

 

背中からの泣き声が落ち着いて来た頃、

リサさんは俺の前に回していた手を解き、抱きつくのを止め俺から離れた。

リサさんが離れたので、俺はリサさんの方へと向き直る。向き直るとリサさんは涙を拭っていた。

 

「.......ごめんね連音君、でもありがとね」

 

「いやいや、俺は何もしてないですって。それより、リサさんはどうして此処に?」

 

「ん、モカが.....モカが夜の公園に行ってみてって言ってたから、来たんだけど.......」

 

「モカが?」

 

どうやらリサさんは、モカに言われてこの公園に来たようだ。

そして、モカが何故リサさんにそう言ったのかを悟る。

そしてモカの考えは、俺がリサさんにすべき事と一緒の筈だ。

 

「ところで連音君」

 

リサさんに話し掛けられる。

 

「....!!どうしました?」

 

「いや.......」

 

リサさんはそう言うと俺の隣にいる、美咲の方を見る。

 

(あ、そうか。リサさんには美咲のことを説明してないな)

 

そう思ってると、美咲の方からリサさんへと自己紹介をする。

 

「えーと、初めまして奥沢美咲です。一応鳴宮の友達です。よろしくです」

 

(あ、一応なのね、俺って)

 

ちょっと悲しいが、顔には出さない。

 

「あ、初めまして。今井リサです」

 

二人が自己紹介し、お辞儀を交わした。

すると、お辞儀を交わした後、美咲は立ち上がりリサさんの前まで行くと被っていた自分の帽子をリサさんに被せた。

 

「え、あの.......?」

 

「.......すみませんリサさん、.......そんな顔をやすやすと見せてはいけないです」

 

 

美咲は泣き腫らした顔のリサさんに帽子を被せると、俺の方に向くと「ちょっと飲み物買ってくるね」と言うと、公園の外にある自販機へと向かった。

 

 

.......多分美咲は、気を効かせたのだろう。

何故なら、買ってくるねと言った時に俺に向けた美咲の目は、

 

(頑張ってね)

 

そんな目をしていたからだ。

 

(了解、美咲.......俺は)

 

美咲が行った後、俺はリサさんに話し掛ける。

 

「ねえ、リサさん」

 

きっとモカも分かってて、リサさんをここに呼んだのだろう。

リサさんを元気にする方法。

(俺はリサさんを.......)

 

 

「俺のギター聞いてくれませんか」

 

 

 

 

(元気にして(救って)みせる)

 

──────────────────────

 

奥沢さんが飲み物を買いに行った後、連音君から「ギターを聞いてくれませんか」と言われアタシは、その申し出を了承し、連音君から少し離れた所に座った。何故近くに座らないかというと連音君から、

 

「ちょっと、今日は歌うので離れててください」

 

そう言われたので今、連音君は座ってるアタシから離れ、自分のアコギを肩からかけ、立っている。

 

「じゃあ、行きますよ。リサさん」

 

「う、うん」

 

アタシがそう言った瞬間、

 

 

彼の雰囲気が変わった。

その雰囲気に圧倒され背筋が震える。

友希那が歌を歌う時に雰囲気が変わるように、

恐ろく今からの彼の演奏は、CiRCLEで聞いた時よりも、本気の演奏をするのだろう。

そして、彼の口から曲名が語られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──Catch the Moment」

 

──────────────────────

 

彼のギターから音色が響き、伴奏部分が奏でられる。

伴奏部分はまるで、軽快なリズムでスキップしながら歩いているような感じだった。

そして、伴奏部分が終わり歌い始める。

 

 

『そっと 吐き出す ため息を吸い込んだ 後悔は苦い味残して』

 

 

その歌声を聞いた瞬間、アタシに二つの衝撃が訪れた。

一つは、彼の歌声。

 

初めて聞いた彼の歌声は友希那と一緒で、とてつもなく力強かった。そして、彼の歌声は友希那よりかは.......いや同じくらいに上手で、そして曲に惹き込まれた。

 

二つ目の衝撃は、その惹き込まれる声に起因するもので、アタシの脳裏に一つの思い出がフラッシュバックする。

 

 

(あれ、なんだっけ.......この思い出?)

 

 

『いつも なんで? 肝心なこと言えないまま 次の朝日が顔だしてる』

 

 

(ああ、そうか思い出した。この記憶は.......昔のアタシと友希那だ)

 

正確には中学生の頃のアタシと友希那、

アタシが友希那から離れる前の出来事だ。友希那があの時、()()を決意し、アタシはその時何も言えなくて後悔した。そして、その後も、友希那には言いたいことがいっぱいあったはずなのに何も言えなかった。

 

 

『嫌になった運命を ナイフで切り刻んでもう一度 やり直したら キミに出会えないかも』

 

 

あの時は、色々と嫌になった。何も言えない自分に嫌気が指した。だけど、アタシは、そんなことがあっても友希那とは離れなかった。.......だって、幼なじみだから。それだけで離れない理由は十分だった。友希那を見守ろうと思った。

 

 

『僕の声が響いた瞬間に始まる 命のリミット 心臓がカウントしてる

叶えても叶えても 終わらない願い

汗をかいて走った 世界の秒針は いつか止まった僕を置いていく

あと何回キミと笑えるの?』

 

 

そして、友希那はRoseliaを立ち上げて、またアタシの前で、少しだけど.......音楽で笑ってくれるようになった。フェスに向けて自分の夢(復讐)を叶える為に、アタシもRoseliaに入り、一緒に頑張って友希那の夢に向けて走った。アタシはそんな友希那の隣に居れたこと、もっと近くで見守れることが嬉しかった。また一緒に音楽が出来ることが.......だけど、

 

 

『試してるんだ 僕を Catch the Moment』

 

 

気づいたらアタシは、また涙を流していた。

そして、二番の伴奏が始まり、連音君は二番を歌い出した。

 

 

『一個幸せを数えるたびに 変わっていく未来に怯えてしまうけど』

 

 

.......だけどアタシは、不安だった。

 

 

『愛情の種を大切に育てよう 分厚い雲も やがて突き破るかな』

 

 

Roselia一緒に.......友希那と音楽をまたできることは、幸せだった。

でも、いつかこの幸せが壊れるんじゃないかと.......アタシはそう思ってた。

 

 

『キミの声が響いた 僕の全身を通って 心臓のドアをノックしてる

「臆病」でも開けちゃうんだよ 信じたいから』

 

 

でも、そんな風に思ってる中でも友希那の歌声は、友希那が一人でライブハウスで歌っていた時よりも、Roseliaの皆と音楽を奏でた時の方が凄く良くて.......

 

 

『何にもないと思ったはずの足元に いつか深く確かな根を生やす

嵐の夜が来たとしても 揺らいだりはしない』

 

 

そうだ.......アタシは、やっぱり友希那と.......Roseliaの皆と一緒に、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───()()()()()()()()()()()()()()!()!()

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

二番まで一気に歌いあげる。

だが、正直ギターの奏でる手が痛い。でも、そんなことは、言ってられない。だって.......

 

 

 

(だって、リサさんの心はもっと痛いはず.......傷ついているはず.......だったらこんな弱音は吐いてはダメだ!!)

 

 

 

 

そう決意し、二番を歌い終わり、ラスサビに向けてその前のフレーズを歌いあげる。

リサさんに、俺の想いが届くように.......。

 

 

 

──────────────────────

 

『何度でも

追いついたり 追い越したり キミがふいに分かんなくなって

息をしたタイミングが合うだけで 嬉しくなったりして

集めた一秒を 永遠にして行けるかな』

 

 

Roseliaで過ごした時間はまだ短いが、音楽を奏で自分達の音がカチッとハマった瞬間、このバンドは何処までもいけるそう確信した。でも、Roseliaは、今解散の危機に瀕している.......。

 

 

だったら、アタシのすべき事は.......!!

 

 

『僕の声が響いた瞬間に始まる 命のリミット 心臓がカウントしてる

叶えても叶えても 終わらない願い』

 

 

すべき事は─────

 

 

 

 

 

 

 

────友希那を見守るだけでは、ダメだ。アタシが.......友希那が後悔しないように、友希那とぶつかることになっても、友希那と向き合い、友希那を正しい方向へと導こう、それが今アタシが、すべき事だから.......

 

 

 

 

 

 

 

 

─────もう後悔はしない。

 

 

 

──────────────────────

 

 

『汗をかいて走った 世界の秒針が いつか止まった僕を置いていく

あと何回キミと笑えるの?』

 

 

ラスサビを歌う。もっと気持ちを高めながら。

リサさんの顔は美咲の帽子を被っているので見えないが、手を口で抑えてる為、恐らく泣き声を抑えている。

 

 

(.......ごめんなさい、リサさん。泣かしてしまって.......だけど.......)

 

 

 

(今俺は.......)

 

 

 

 

 

 

 

 

(凄い、楽しいんです!!)

 

 

 

『試してるんだ 僕を Catch the Moment』

 

 

『逃がさないよ僕は この瞬間(とき)を掴め』

 

 

 

そこまで歌うと、俺はわざとギターの音色を響かす。そして、右手を前に出し、何かを掴むような動作をしながら、最後のフレーズを歌いきる。

 

 

『───Catch the Moment(瞬間をつかめ)

 

 

 

そして最後の伴奏までギターを弾ききった。

弾ききり上を見ると星空が見え、遠くの方で流れ星が流れた気がした。

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弾ききっても、リサさんは泣いていた。

久しぶりに本気で歌ったので、喉が少々痛むし、弾いていた手が痛いので座りこんで今すぐにでも家に帰りたいが、リサさんを放ってはおけない。

俺はギターを肩から外しリサさんへと近づく。

 

 

「リサさん.......」

 

リサさんの前で膝立ちになり声を掛けると、彼女は顔をあげる。涙を流しながら.......。

そして、俺は自分の思っていたことを伝える。

 

「.......ごめんなさい、泣かせてし.......」

 

最後まで謝ることは出来なかった。

リサさんが抱き着いて来たからだ。よろめきそうになりながら何とか受け止め、自分も地面へと座る。

 

 

「リ、リリ、リサさん!?」

 

 

困惑してそんな声を出すと、リサさんが泣きながらかぶりを振った。

 

 

「違うの.......ありがと.......ありがと連音君.......」

 

 

「.......」

 

 

正直何を返せば、いいのか分からなかった。

だから、俺は思ったことをリサさんの背中を摩りながら口に出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.......どういたしまして、リサさん」

 

「....!!......うん!!」

 

そう言うと、リサさんは俺の体に全体重を預けてきて俺の胸で泣いていた。俺は、そんなリサさんの背中をずっと摩っていた。そんな二人を月明かりが照らしていた。

 

 

 

 

この後も大変なことというか、ちょっと焦ることがあるのだが、その時の俺はそんなことを微塵も思っていなかった。

 




多分この曲を、バンドリのSSで使ったのは僕が初めてなのかな(笑)
そうだと嬉しいです。
そして、思った以上にリサさんがヒロインしてしまってるな.......
まぁ何とかなるでしょう(未来の自分にまる投げ)

それでは、次の話でお会いしましょう。


(そろそろタグに、今井リサを追加しようか悩み中)



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第十話 伝える思い

どうも、ワッタンです。

最近、寒くなりましたね。
おかげで日中は、少し過ごしやすくなりましたが、夜は布団無しではもう寝られませんね。

それでは、第十話をどうぞ!!



夢を見ていた。

アタシの幼い頃.......幼稚園の時の夢だ。

夢の内容は、アタシと友希那、そして友希那の父さんでセッションをしている夢だった。拙い演奏だったが、アタシと友希那は笑顔だった。そして、セッションが終わって友希那が話しかけて来て.......。

 

「─────────」

 

その言葉にアタシは.......

 

 

──────────────────────

 

「んっ.......」

 

朝焼けの光が閉じていた瞼を照らした。

眩しくてそんな声を発し、ゆっくりと瞼を開けた。

まず目に入ったのは天井、.......だがその今はアタシの部屋の天井の色ではなく、違う色の天井だった。

 

(.......知らない天井だ.......)

 

まずこの人生、生きてきて初めて思った感情と共に、上体を起こした。

上体を起こすと掛けられてた布団がずれ、自分の着ている衣服が見えた。

 

(あれ、アタシ制服のままだ.......)

 

自分の着ている制服に目を通した後、辺りを見渡す。そして、また人生で初めて言う言葉を口にした。

 

「.......此処.......どこ?」

 

今、自分のいる場所は明らかに自分の部屋ではなかった。部屋の中は、本棚が二つと、パソコンが置いてある勉強机と、小さな机、そして.......どこかで見かけた古びたギターがスタンドへと掛けられていた。

 

「やっぱり.......知らない部屋だ.......」

 

そこまで認識したところで、香ばしい匂いが鼻腔をくすぐった。どうやら、部屋の外からその匂いは漂って来ているようだ。アタシはベッドから体を降ろすと、恐る恐る部屋のドアを開けた。するとそこには.......、

 

 

 

 

「あ、リサさん、おはようございます」

 

 

エプロンを着けて、料理している連音君が居た。

そして、机の上には色々な品々が置いてあった。

 

──────────────────────

 

「.......上手くいったみたいだね」

 

リサさんに抱き着かれ、ぎこちなく目の前の頭を撫でていると、後ろからそんな声が聞こえる。

声が聞こえた瞬間、撫でるのを止め首だけを逸らし何とか後ろを見ると、五分程前に、席を外した美咲がいた。.......その手には何も持ってなかった。

 

「ああ、.......美咲あんがとな。お前のおかげで、リサさんを助けられたよ」

 

「うん、どういたしまして。.......それと、報酬については、駅前のお店のパンケーキでお願いね」

 

「えっ.......あれって確か、一つで七千円の.......」

 

駅前のパンケーキというのは、パンケーキが五枚積み重なり、その上にホイップクリームやフルーツがこれまでかと乗っており、おいそれと注文はできないパンケーキなのだ。

 

「そうそれ、一度でもいいから食べて見たかったんだよね。でもこういう機会ぐらいじゃないと、食べれないからさ」

 

「.......アハハ.......分かったよ。思う存分食べちゃって下さい.......」

 

「うん、そうする.......所で連音、.......何時まで、リサさんとそうしてるの.......?」

 

「あっ.......」

 

美咲にそう言われ気付く。こう話している間にも、リサさんは未だに抱き着いていた。

さっきまでは、ギターを引き終わった直後だった為何も感じなかったが、時間が経つにつれ、冷静になりだんだんと恥ずかしくなってきた。

 

「あのー、リサさん?」

 

リサさんに離れてもらう為に声を掛ける。

だが、返事は帰ってこず、代わりに返ってきたのは.......、

 

 

 

「スゥ.......」

 

 

という寝息だった。

 

(あ、寝てる.......)

 

とそれと同時に、携帯の着信音が鳴る。だが、鳴ったのは俺の携帯では無い。だったら、美咲かと思い美咲の方を見る。しかし美咲はふるふると首を振った。ということは今鳴ってる携帯は.......。

そう思案している間も、携帯が鳴り続けている。

 

「どどど、どうしよう?美咲?」

 

「どど、どうするって.......?」

 

と、美咲に話し掛ける。

本来ならリサさんを起こし、電話に出てもらうのが一番なのだが、寝ているリサさんを無理やり起こすのも悪い.......

 

「あー、もう、分かった!!」

 

美咲はそう言うと、リサさんの方に近寄り、リサさんのカバンを開け、携帯を取り出し、代わりに電話を出る。

 

「はい、今井リサの電話です.......ええ、はい友達です.......はい」

 

美咲が電話に出るまで、二人で慌てて結構大きな声を出していたのだが、.......泣き疲れたのだろう。リサさんは全く起きる気配はなかった。

 

「.......えっ.......ちょっと、それは.......あ、切れた.......」

 

美咲はそう言った後、携帯を耳に当てるのを止め、携帯をリサさんのカバンへと戻す。

 

「.......どうだった?」

 

美咲へと話し掛ける。

そして、返ってきたのは、衝撃的な返事で

 

「あー、そのー、.......もう遅いから、家に泊めてあげてだって.......」

 

「.......はい?」

 

──────────────────────

 

「.......という訳で、美咲の家は泊めれないということで、こうしてリサさんを俺の家に泊めたって訳です」

 

リサさんに、昨日あった出来事を話した。

あの電話の後、俺がリサさんを背負い、美咲に自分のギターケースとリサさんのベースケースと荷物を持ってもらい、俺の家へと運んだのだった。

 

ちなみに、ベッドはリサさんに使ってもらったので、俺は某主人公の様に、お風呂場の浴槽で一晩を明かした。おかげで体のあちこちが痛かった。

 

昨日の出来事を聞いたリサさんはというと.......、

 

「.......」

 

俺の作った味噌汁が入ったお椀を両手で持ち、味噌汁を飲んでいる体制のままで固まってしまっていた。

 

「.......あのー、リサさん?」

 

俺はそうリサさんに声を掛けると、リサさんは味噌汁のお椀を机へと下ろし、ただ一言、

 

「.......本当にご迷惑をお掛けしました.......」

 

そう呟いたのだった。

 

──────────────────────

 

あの後、俺の作った朝ごはんを食べ終えたリサさんを自宅へと送り届ける為に、一緒に歩いていた。そして、そこで昨日「CiRCLE」で起こった出来事を全て聞いた。Roseliaに亀裂が入ったことを.......。

 

「.......そうなんですか.......」

 

そんな言葉しか出ない。昨日の夜といい、もっと気の利いた人だったら、リサさんを慰めるような言葉が言えるのだろうが、俺には無理だった。

 

「うん、.......でもね、連音君の音楽を聴いて.......アタシのやるべき事が分かったから.......もう迷わないよ」

 

リサさんがそう言う。

良かった、どうやら俺の昨日の演奏は、ちゃんとリサさんの心を救えたようだ。もっとも、美咲が居なかったら救えたかは分からなかったが.......けど、

 

「.......本当に良かったです」

 

そう言葉を返した。

そんな会話をしていると、リサさんがとある家の前で立ち止まった。どうやら、ここがリサさんの自宅のようだ。そして、どちらか隣の家が──Roseliaのボーカル『湊友希那』の家。

 

「それじゃあ、連音君。アタシの家ここだから」

 

「あ、分かりました。.......リサさん、最後に一つだけ」

 

「うん?.....何?」

 

別れる前に、一つだけある事を告げる。

リサさんを応援する為に.......。

 

「.......リサさんなら、絶対出来ます!!絶対Roseliaを元に戻せますから!!」

 

俺の本心。

対するリサさんは、いつも見せてくれる笑顔をしながら、

 

「.......うん、ありがと」

 

と返してくれた。

 

 

マンションへとたどり着き、エレベーターで自分の部屋まで行くと、扉の前に見覚えのある顔────それも二人分いた。

 

「あれ?美咲にこころ?」

 

俺の声に、二人がこちらへと振り向く。

 

「あ、来たわね!!レオン!!」

 

「おはよう、連音」

 

「あ、おはよう.......じゃなくて何でここに?」

 

「.......ああ、それは.......」

 

あっ、察した。

美咲がそんな気だるそうな声をする時は、絶対こころが関わってる.......

 

「レオン!!今から、ライブするから見に来てちょーだいっ!!」

 

やっぱりこころ関連だった。

そして美咲は大方、ついさっきライブをするって事を知らされたに違いない。というか、百パーセントそうだろう。

 

こうして、今日は丸一日色んな所でハロハピのライブを一日見ることになるのは、また別のお話。

 

──────────────────────

 

(あああああああああ!!!!)

 

シャワーを浴びながら、アタシは悶える。

アタシは昨日の出来事.......連音君に抱きついて寝る前までに、自分が何をしたのかはちゃんと覚えていた。

 

(ア、アタシは.......連音君になんて事をぉぉぉ!!)

 

勿論、連音君に抱きついたことも.......。

あの時抱きついた理由は、.......多分アタシは、誰かに縋りたかった、自分の気持ちを誰かに分かってほしかったのだろう.......だけど。

 

(だけど、.......だからといって、連音君に抱きつくなんて.......しかも、その後連音君があんなことぉぉぉ!!)

 

シャワーを浴びるのを止め、

湯が貼られた浴槽へと浸かる。

そして、思い出すのは二つ。

 

一つ目は、さっきの言葉。

 

「リサさんなら、絶対出来ます!!絶対Roseliaを元に戻せますから!!」

 

そして二つ目は、昨日の頭を撫でられた感覚。

 

(.......温かったなぁ)

 

頭を撫でられた感覚も、さっき言われた言葉も、どちらとも温かくアタシの心へと拡がっていた。

 

しばらく浴槽に浸かった後、自分の頬を両手で叩き、浴槽から出た。そして、服に着替えまっすぐに自分の部屋へと向かう。そして、窓へと手をかける前に、脳裏に二人分の顔が思い浮かぶ。一人は連音君、そしてもう一人は.......友希那。

 

ゆっくりと深呼吸する。

 

(アタシに出来ること........頑張れ、アタシ)

 

そして窓へ、────友希那の部屋が見えるベランダの窓へと手をかけた。

 

──────────────────────

 

ベッドへと転がっていると、枕元に置いてある携帯が着信音を鳴らす。

携帯を手に取り宛先をみると、そこに表示されている名前は、隣に住んでいる幼なじみ───今井リサからだった。

私は、着信ボタンを押す。

 

「もしもし?」

 

『あ、友希那〜! 窓開けて!!』

 

(何、急に.......?)

 

『忙しいから無理』

 

今は誰とも会いたくなかったら冷たく返す。だけどそれはリサにには無意味で.......。

 

『寝っ転がって、何に忙しいのかな〜?カーテン空いてるぞ☆』

 

「.......!!」

 

そう言われ、窓からリサの家を覗くとこちらに手を降っているリサが居た。

 

(.......全部隣の家から丸見えで.......)

 

「.......はあ.......」

 

私はそう溜息をつき、部屋の窓を開けた。

 

──────────────────────

 

ベランダから隣の窓へと移り、友希那の部屋へと降り立った。

友希那の部屋の窓を閉め、背後へと振り返り、友希那と向き合う。

 

「やっほー。友希那の部屋に来るの、ひっさしぶりだな〜!家が隣同士なんだから、友希那ももっとうちに来てもいいんだよ?」

 

とりあえず明るい声で友希那に話し掛ける。

しかし友希那は素っ気なく、

 

「.......毎日会ってるのに、何か用?」

 

と返した。

 

(友希那.......その様子じゃあ、まだ迷ってるんだね.......)

アタシはまず、友希那へと謝る。

 

「.......ん、.......あのさ。まずはごめんねっ。今回のスカウトのこと。アタシ、何にも気づけなかった.......家の前でたまたま会った時、あの時から友希那は.......ずっと一人で悩んでたんだよね.......」

 

「.......」

 

友希那は何も言わない。

 

「友希那が幸せなら、とか言っておいて、.......アタシは今まで.......っ、ただ見ていただけだった.........本当にごめん!! お父さんのことや、Roseliaやフェスのことも、ずっと一人で背負わせてごめん!!」

 

そう言うとアタシは友希那に向けて頭を下げる。

 

「これからは、アタシももっと一緒に「何で.......っ!!」.......え?」

 

アタシは頭を上げ、友希那の顔を見る。

友希那の顔は少しだけ涙ぐんでいた。

 

「リサは何で、いつもそうなの!! 何で優しくするの!! 全部悪いのは私じゃない!!.......なのにバンドもフェスも、.......お父さんのことも!!.......なのに、リサは私が何をしても、いつも笑って「それは違うよ、友希那」.......え?」

 

友希那の話をアタシの言葉で遮る。

そして、アタシは自分の弱さ(本心)を語る。

 

「アタシが友希那が何をしても笑っていたのは.......怖かったんだ。もし、友希那とぶつかって.......またあの時みたいに、友希那と距離を置くようになったら、.......そう考えると、笑う事しか出来なかった。本気で友希那と向き合おうとしてなかった」

 

「リサ.......」

 

友希那が呟く。

アタシは言葉を.......アタシの思っていることの全てをぶつける。

 

「でもね、.......友希那がRoseliaを作って、その中でアタシも演奏するのは楽しかった。.......五人で演奏していたら、友希那のお父さんと一緒にセッションしてた頃の友希那が戻ってきて嬉しかった.......少なくともアタシは、友希那が幸せそうに見えた。だから.......アタシは友希那にはRoseliaを捨てないで欲しいな」

 

「.......っ!!」

 

本心を友希那へと告げる。

包み隠さず、思っていたこと、思っていることを全て.......。

その上で友希那に尋ねる。

 

「.......ねぇ、友希那はどうしたいの?」

 

「私.......は.......」

 

そう言った瞬間、二人の携帯から同時に、メッセージの通知音が鳴った。

メッセージを開いてみると、あこからだった。だが、メッセージはなく届いたのは一本の動画。

 

(動画.......?)

 

送られた動画をタップすると、動画はすぐに再生された。

その動画には、.......アタシ達、Roseliaの練習動画だった。そして、アタシ達全員の顔は、

 

 

 

─────────()()()()()

 

 

 

 

「.......私は」

 

しばらく、無音だった部屋に声が響く。

その声に、携帯に目線を落としていたアタシは友希那の顔を見る。

 

「.......私は、責められて当然のことをした。Roseliaを.......リサを()()のために音楽を利用してきた人間よ」

 

「.......っ!!、友希「だけど」.......!?」

 

 

「.......だけど、私は.......私は!! Roseliaを.......元をただせばただの私情から集めたバンドだけど!!.......五人で音楽がしたい!! リサと、.......()()で音楽を奏でたい.......Roseliaを続けたい.......」

 

(友希那.......それが本心なんだね)

 

今の言葉から察するに、友希那はRoseliaを続けたいと思っている。

事務所のスカウトを断って.......。

それを聞けただけで、十分だった。

 

「でも.......こんな事をしといて都合が良すぎ.......!!リサ!?」

 

友希那の言葉は最後まで、発せられることはなかった。

何故なら、アタシが友希那を抱き締めていたからだ。

 

「.......友希那、いいんだよ.......Roseliaを続けていいんだよ.......また、五人で演奏しようよ.......」

 

(良かった.......友希那ぁ.......連音君.......)

 

「.......リサ、苦しい.......」

 

アタシはそのまま、友希那が離してと言うまで離れなかった。

 

──────────────────────

 

 

「ね、友希那、いい演奏でしょ」

 

「.......ええ、そうね。紗夜と同じ位ギターが上手ね」

 

「うん、そうでしょ、そうでしょ.......でも、連音君は歌も上手なんだよ〜」

 

「.......何で、湊友希那さんが居るんですか?」

 

週明けの月曜日、今日は別に「CiRCLE」のバイトの日ではなかったのだが、俺はリサさんに呼ばれ、「CiRCLE」へと来て、自分のギターで「Catch the Moment」を演奏していた。.......何故かRoseliaのボーカル「湊友希那」も居た。

 

ちなみにだが、リサさんからは土曜日別れた後の顛末は聞いた。

友希那さんは、あの日スカウトをリサさんの目の前で断ったそうだ。そして、今日Roseliaのメンバーを集めて謝罪をするそうなのだが.......

 

「.......友希那でいいわよ。今日来たのは、あなたにお礼を言う為よ、連音」

 

「お礼?」

 

「ええ.......、リサから聞いたのよ」

 

「ゆ、友希那!?」

 

「リサから聞いた」と言った友希那さんの言葉に、リサさんが反応するが、気にせず友希那さんは言葉を続ける。

 

「あんな行動をしたのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って、だから間接的にRoseliaの危機を救ってくれた。.......だから、ありがとう」

 

と、そう言った。

チラリとリサさんを見ると、顔が赤くなって俯いている。かくいう俺も、その言葉に顔が赤くなり照れていた。ぶっきらぼうに言葉を返す。

 

「.......俺は何もしてませんよ?ただ、ギターを弾いただけです」

 

「それでも、お礼を言いたかったのよ」

 

そこまで話すと、Roseliaが集合する時間となった。

 

「.......そろそろ時間だから、私達はもう行くわね」

 

そう言って、友希那さんは部屋から出て行った。

残されたのは、リサさんと俺だけになった。

 

「あ、アタシも行くね」

 

「あ、はい、行ってらっしゃい」

 

リサさんはそう言って、部屋へと出て行こうとする。

だが、扉に手をかける前にこちらへと振り返った。

 

「.......ねぇ、連音君」

 

「どしました?」

 

「そのー、頭撫でてくれない?」

 

「.......?まあ、いいですけど」

 

リサさんにそう言われ、特に疑問を持たずあの夜と同じように、リサさんの頭を撫でる。五回くらい撫でたところで、「もう、いいよ」という声がしたので、撫でるのを止める。

 

「うん、ありがと.......じゃあ、行ってくるね」

 

そう言うと、リサさんは出て行ってしまった。

 

(.......何だったんだ一体?)

 

──────────────────────

 

「.......リサ、顔が真っ赤よ?」

 

「.......へ、.......あ、大丈夫だから」

 

「そう?」

 

友希那に心配される。

それほど今のアタシの顔は真っ赤なのだろう。

そしてその原因はさっきの、頭を撫でられたことによるものだ。

 

(.......やっぱり、温かったなぁ)

 

やっぱり、連音君に撫でられると心が温かくなる。

何故かは分からないが。

そして、連音君に頭を撫でられると、何でも出来るそんな気がする。

 

「.......ねえ、友希那?」

 

友希那に話し掛ける。

 

「何?」

 

ほらこんな風に、普段は言わないことを言ってしまう。

 

「.......改めてありがとね。アタシを.......Roseliaに誘ってくれて.......また、一緒に音楽出来て、嬉しいんだ」

 

「.......!! .......ええ、これからもずっと、一緒に音楽をやるわよ(頂点を目指すわよ)

 

「.......!!うん!!」

 

そう言うと、二人で笑いあった。

他のメンバーが来るまで、幼きのあの日の様に.......。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢の内容は、アタシと友希那、そして友希那の父さんでセッションをしている夢だった。拙い演奏だったが、アタシと友希那は笑顔だった。そして、セッションが終わって友希那が話しかけて来て.......。

 

「ねぇリサ、またいっしょにやろうね(演奏しようね)!!」

 

「...!!、うん!!」

 

幼き日の二人は、お互いに笑いあった。




まず、読者の皆さんにお知らせがあります。
リサさんに関してなんですがこの度、サブヒロインに昇格させることを決定致しました。主な理由に関しては、所々ヒロインより、ヒロインっぽくさせてしまったこともあり、そして何より、書いてて楽しかったのでこの度、この決断をさせて頂きました。

なので方針としては、ヒロイン:美咲 サブヒロイン:リサ&???

という感じで進めていこうと思います。

さてお知らせはこの辺にして、今回でRoseliaの一章は完結です。
これからは、何話か日常の話を挟んで、最後のサブヒロインのエピソードをしたいと思ってます。ですが、そろそろSAOの方を更新しないといけないので、来週は投稿出来ないかもです。まあ、気長に待っといてくだせぇ。

それでは、また次の話でお会いしましょう!!

(今週は、冠の雪原!! いつかハーメルン作家同士でのゲーム大会開いてみたい)


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第十一話 パンケーキは1枚大体235kcal

どうも、ワッタンです。

祝え!!
十月三十日からの「おジャ魔女」コラボを!!

はい、まさかのコラボですね。
しかも、コラボバンドはハロハピというね。
これは美咲は絶対ゲットしないといけないかな。

それでは、第11話をどうぞ!!
(今日は後書きまで見てね)



平日水曜日の放課後。

俺は学校終わった後、自転車を漕いで駅前へと行き、美咲を待っていた。

理由は勿論、この前約束した駅前の全てにおいて規格外の(値段含む)パンケーキを奢る為だ。

 

一人暮らしにとって、外で何かを食べることや何か買うというのは結構な痛手になるのだが、.......美咲が居なかったら、Roseliaがどうなってたかは分からないので、まあ、ここは潔く奢るとしよう。

 

......ちなみにあともう一つ奢る理由があったりする。それは.......

 

そう考えていると、件の待ち人が花咲川の方面からやって来た。

しかしその姿は一人ではなく.......、

 

「ごめん、連音。待たせた」

 

「こ、こんにちは、連音君」

 

何故か美咲だけではなく松原さんも居た。

 

──────────────────────

 

「お持たせしました、こちらパンケーキになります。」

 

「.......うへぇ」

 

やって来たパンケーキを見てそんな言葉を口に出す。

いざ実物を見ると、店頭で食品サンプルとして置かれている物よりさらに圧倒的なボリュームを感じる。パンケーキ五枚が積み重なり、クリームと色とりどりのフルーツが乗っていて、その更に上からシロップなどのソースが.......、もし、これを食べたら1ヶ月は甘い物は食べたく無くなるだろう。

 

そして、俺は別の意味で恐怖を感じていた。その理由は店の外のチラシに書いてあり、その内容は今日奢るパンケーキが明日から期間限定で、ボリュームが倍になり、更に値段が諭吉さんが二枚必要となる値段にはね上がる事が書いてあった。

 

(本当に今日で良かった.......美咲がこのチラシを見た時、ちょっと悔しそうな顔をしていたのは、きっと気のせいだろう、うん)

 

「あ、きたきた。それじゃあ連音、ゴチになりまーす」

 

「.......おー、食え食え。どうぞ召し上がってくださーい.......」

 

美咲がそう言ってきたので、

俺はもうヤケクソになりながらそう返した。

 

ちなみに俺はコーヒーを、美咲はパンケーキ(俺のお金)、松原さんはイチゴのショートケーキと、紅茶を頼んでいた。

 

ちなみに何故、松原さんが居るのかというと、ホントは別の友達と今日お茶をする予定だったらしい。しかし、その友達が用事で今日来れなくなりどうしようかと悩んでいた時に、ちょうど美咲に声をかけられ、現在に至る。

 

「そういえば今日、こころ達は?」

 

パンケーキを幸せそうに(俺の金で)、幸せそうな笑顔で頬張る美咲へと話し掛ける。

というか、カロリーとか大丈夫なのか?まあ、美咲はミッシェルの中で激しく動いてるから、大丈夫だと思うが.......

美咲は口の中のパンケーキを飲み込むと俺の質問には松原さんと一緒にと答えた。

 

「んー?.......ああ、薫さんは演劇部の練習で、こころはいつも通り、楽しいことを探しに行って.......」

 

「はぐみちゃんは、ソフトボールの集まりがあるって言ってたよ」

 

「ふーん、そうなのか.......というか思ってたんだけど、バンド活動の他の活動やってるなんてスゲーな.......二人は何かやってるの?」

 

ちなみに俺は部活には入る気はない.......というか、一人暮らしなのでアルバイトをしないと、生活がキツくなるので(といっても仕送りは毎月して貰っている)、部活には入っていない。

 

「私は、茶道部に入ってるよ」

 

「あたしは、テニス部に入ってるよ」

 

「へぇー。二人共、部活に入ってるんですね」

 

俺の質問に、二人が答えてくれる。というか、美咲はパンケーキをもう半分程食べていた。まだパンケーキが来てから、五分程しか経っていないのだが.......。

 

そんなことを思っていると、今度は美咲が尋ねてくる。

 

「連音は、部活とか入らないの?」

 

「あー、入っては見たいけど、バイトで忙しいからなぁ、今は入る気ないかなぁ」

 

「へぇー、そうなんだ」

 

「うん、まあ入るなら、運動部じゃなくて、文化部かなぁー」

 

そう話していると、松原さんが話に入ってくる。

 

「あ、じゃあ、バンドは?」

 

「バンドですか.......」

 

「あ、いいじゃないですかそれ。連音はギター弾けるんだし」

 

「いやいや、ギター弾けると言っても、エレキとアコギだと弾き方は違うからね、弾くんだったらすぐには弾けねーよ。」

 

アコギを弾いていた人がエレキを弾くとなるのを、簡単に表すと、「テニスの経験者が卓球をする」という感じで、弾くのは似ているようで根本的に似ていないという感じなのだ。

 

「そうなの?」

 

「うん、......まあ、でもバンドは関係無しにエレキギターは弾いてみたいけどな.......ギター買わないといけないけど」

 

そこまで喋ると、コーヒーを口につけ渇きを潤す。

 

実在エレキギターを弾いてみたいのは本心だ。

この前弾いた「Catch the Moment」は、アコギで弾くよりエレキで弾いた方が数段カッコイイし、エレキはその性質上、ギターの音を変えられるので、これまでアコギで弾けなかった曲を弾けることが出来るようになる。

 

だから、エレキを弾くことはそこまで抵抗は無い。何ならいつかエレキギターを買いたいと思っている。でも自分の性格上、本当に気に入ったギターを使いたいのと、父さんからの言葉等があるので、買うのは先になるのだろうが.......。

 

 

「ま、俺のことを気にするより、二人はバンド活動に専念して下さいな、美咲も松原さんも、応援してるんで」

 

「うん、ありがとう。連音君。」

 

「.......あたしは、こころがバンドを飽きるまでだけどね.......。まあ、ありがとね」

 

美咲は照れ隠しの為か、俺から目線を逸らしながらそう言った。

 

──────────────────────

 

これが美咲にパンケーキを奢ったもう一の理由、ホントは何とかいちゃもんをつけて普通のパンケーキを奢ろうとしてたのだが、この事があったので辞めておいた。

 

一昨日、美咲から連絡が来て、内容はハロハピの活動を続けるということだった。理由は教えてくれなかったが、まあ最近の美咲の様子を見ていれば、何となく分かった。

 

美咲は、この前も思ったが、口では「嫌だー」とか言いながら、何やかんやで元からバンドには肯定的な気持ちがあって、それがこころ達と関わっていくうちに、(ほだ)されていき、バンド活動を続けることに踏み切ったのだろう。まあ、この事を本人に言ったら、奢るパンケーキが増えそうなので黙っておく。

 

それに何というか、皆の為に.......ハロハピの為に頑張る美咲をもっと見たかったのもある。理由は分からないが.......。

 

というような理由で、美咲がバンドを続ける記念というわけで、

結果七千円のパンケーキを奢ることになったのだ。

 

──────────────────────

 

「.......さて、そろそろいい時間だし、帰りましょうか」

 

「そうだな」

 

「うん、そうしようか」

 

美咲がそう言うと、三人共荷物を纏め席を立ち、レジへと向かった。

あの後、美咲がパンケーキを食べ終え、時間も忘れ談笑をしていた。

それぞれの学校生活や、他のガールズバンドの話を聞いたりしたり、とても楽しかった。

そんな中、ふと外を見ると、空の色が赤から夜の色へと染まりつつあったので、そろそろ帰る事にした。

 

ちなみに会計に関しては、ちゃんと美咲の分も払った。

勿論破格的な値段(八千円弱)だった。

 

懐が軽くなった財布と共に、店の外へと出る。

 

「パンケーキ、ご馳走様。連音」

 

「.......どーいたしまして」

 

「連音君、大丈夫?」

 

「あはは.......大丈夫ですよ、松原さん。ただちょっと明日から食事が次の仕送りまで、質素になるだけですから.......」

 

「ホントに大丈夫?」

 

「.......んー、ちょっと悪いことしたかな?」

 

松原さんと美咲に心配される会話をしつつ、店の前で二人と別れた。

 

──────────────────────

 

帰り道、自転車を漕いでいると、俺のLI○Eへとメッセージを受信した通知が入った。

 

自転車を道横に止め、スマホを取り出し画面を見ると、勿論さっきのは二人からで、それぞれ今日はありがとうの旨のメッセージが入っていた。俺は、その二人にメッセージを返すと、自転車を思い切り漕ぎながら、家へと帰った。

 

(今日は「空色デイズ」でも弾くか!!)

 

そんなことを思いながら.......。

真上には、この後の夜空を、煌びやかに照らす前準備として、一番星が輝いていた。




本当はポケモンをしてて、今週は投稿できないかなぁと思ってたんですけど、ちょっと事情が変わりました。なんとですね.......


この小説「Memory of the starlit sky」が十月二十日を持って、
評価バーに色が着きました!!本当にありがとうございます!!
まさか、色が着くなんて思ってなかったらびっくりしました。

なのでこの場でお礼を。
評価を下さった皆様、お気に入り登録をして下さった皆様、そして、この度評価報告をTwitterでした時に、フォローしてくださった皆様、
本当にありがとうございます!!
バンドリ小説の投稿者としてはまだまだ未熟ですが、これからもこの小説をよろしくお願い致します。

それでは次のお話でお会いしましょう!!

↓(リクエスト箱設置したので覗いてみてね)
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=248837&uid=278469










次回「Afterglow回」



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第十二話 Afterglowのいつも通り

どうも、ワッタンです。

最近色々なゲームが発売され、圧倒的に時間不足でございます。

そして、詳しいことは言えないのですが、どうやら新しい美咲ヒロインの小説が出たみたいなんで、良かったら検索してみてください。

それでは、第十二話どうぞ!!



「これは、絶対におかしいと思うんだよ」

 

「.......うん、あたしもそう思う」

 

「ああ、二人の言う通りだ。ここ最近、一緒に帰れない時があるって言って、おかしいと思って、モカの後を付けてみれば.......」

 

赤い髪の少女がそう言うと、あたし達は、モカが入って行った場所.......「CiRCLE」を外から見上げた。

 

「で、でも、一緒に帰れないって、言って、モカちゃんが一人で、こっそり自主練している可能性も、あるんじゃないかな?」

 

「.......つぐ、あたしさ、今日モカに一緒に帰ろうって言ったら、バイトがあるから無理って言われたんだ。.......モカのシフトは16時から。つぐ、時間確認してみなよ」

 

「え、えーと」

 

赤いメッシュが入った少女が、つぐと言われた少女にそう言うと、言われた少女は、スマホを取り出して時間を確認する。

そこに表示されていた時刻は───16時4分。

 

「つぐ、今言えるのは、モカが何かあたし達に隠し事してるんだよ」

 

「そ、そんな.......」

 

つぐと呼ばれた少女がそう言うと、信じられないという風に呟く。

すると、ピンク色の髪をした少女が、

 

「こうなったら、モカが何を隠してるのか、ちゃんと言ってもらわないと!!みんな、いくよー!えい、えい、おー!」

 

そう言って、腕を掲げるが、他の三人はというと、

 

「「「.............」」」

 

無言だった。

 

「なんでぇぇ!?」

 

 

───四人が連音に会うまで、あと数分。

 

──────────────────────

 

「....という訳で、リサさんの件はもう大丈夫だ」

 

今日はいつもなら「CiRCLE」でのバイトの日だったが、今日はオフだった。なのに今現在俺は「CiRCLE」に今日は利用者として来ている。というのも、

 

 

「ほへは、よはった、よはった」

 

目の前にいるモカに呼ばれたからだ。......というか、

 

「というか、食ってから喋ろよ」

 

一応、リサさんの件に関して、モカは協力(リサさんをあの公園に行くように仕向けたため)してくれたので、お礼を兼ねて、モカがおすすめしてくれた、商店街のパン屋さんでパンを買ってきていた。

 

そしてこの部屋の扉を開けた瞬間、モカに恐ろしい速さの速度で、パンの入った紙袋をひったくられ、今に至る。

 

 

モカが最後のパンを口に入れる。

あれ?俺って結構パン買ったよな......?

 

リサさんからモカはよく食べるということを聞いていたので、

五つくらいパンを買っておいたのだが、俺が5分足らずであの日の出来事を語っている内に、モカは全部食べていた。

 

.......今度買ってくる時は、7つくらい買ってこよう。

そう決めたのだった。

 

──────────────────────

 

「ふー、おいしかったですなー」

 

「それはそれは、良かった」

 

俺はそう言うと、自分のギターケースから、ギターを取り出す。

別に今日は「CiRCLE」で弾くつもりはなかったが、モカが聞きたいと言ったのでここへ来る時に、自分のギターを持ってきていた。

 

「......で、モカ、今日は何聞きたい?」

 

「うーん、.......あ〜、そうだ、そのリサさんに弾いた曲、《Catch the Moment》だっけ、あれを弾いて欲しいですな〜」

 

「あー、あれか.......分かった、今日はそれを弾こう」

 

そう言いながら、ギターのチューニングを始める。

.......正直、あの曲は弾くのに結構疲れる。

何故なら、あの曲は.......、俺はあの曲を、

()()()()()()()()()()()をしているからだ。

 

まあ、だからと言って手は抜かない。ギターの前では嘘を着きたくない。

 

そんなこんなで、ギターのセッティングをしてると、

 

「.......ねえ、れー君」

 

モカが話し掛けてくる。

 

「んー、どした?」

 

「最近モカちゃんは何かと忙しかったのですよー、本当に色々と。なので、もうちょっと甘い物が食べたいのですな」

 

「.......いやいや、さっきパン食べただろ」

 

「甘い物(パン)は別腹なのですよ〜」

 

モカは得意気にそう言う。

 

というかこれ以上に、散財をする訳にはいかない。

この前、美咲にパンケーキを奢って財布の中は軽くなってしまっている。

一応貯金はしてあるのだが、奢るとなったら下ろしに行かないといけなくなり、少々面倒くさい。

 

すると思い付いたように、モカはポンと手を合わす。

 

「じゃあ、この部屋に人が入って来たら、甘い物奢って〜」

 

「.......なんだよ、それ。圧倒的にモカが不利じゃねーの?」

 

「だいじょーぶです。.......それにモカちゃんの計算だとそろそろ(ボソッ」

 

最後の方は聞こえなかったが、モカが提案してきた賭けは、圧倒的に自分に有利な賭けだった。

だったらどうするか、その答えは勿論、

 

「.....分かった、その賭けに乗るよ」

 

勿論俺は賭けに乗る。

何せ、そう簡単にこの部屋に俺達以外に人が入ってくるわけ.......。

 

──ガチャ

 

「モカー!!今日という今日は説明してもらうよ!!」

 

そう思ってた時期も俺にありました.......。

 

──────────────────────

 

まりなさんにモカが居る部屋を聞いた後、

その部屋の前まで来た。

 

「.......行くよ、みんな」

 

「うん」

 

「ああ」

 

「う、うん.......」

 

ひまりの言葉にわたし達は頷き、

そしてひまりは、部屋のドアを開けた。

 

「モカー!!今日という今日は説明してもらうよ!!」

 

そう言いながら、ひまりがドアを開けて中へと突入する。

ひまり以外の三人も、後へと続き中へと入る。

そこには、

 

アコギを持った男の人と(何故か顔が青ざめていた)、

 

「やっほー、みんなー.......あ、れー君。賭けはモカちゃんの勝ち〜」

 

と、この状況でも呑気にしているモカが居た。

そして、れー君と言われた男の人は、

 

椅子から崩れ落ち、こんな(OTZ)ポーズをしていた。

 

(((どういう状況なの.......?)))

 

恐らく、他の二人もそう思っただろう。

 

──────────────────────

 

──五分後───

 

「.......という事はモカは、このれー君なる人物から、ギターの演奏を聴いていたと.......」

 

「そーなのです、ごめんね〜。ホントは皆にもちゃんと、言うべきだったんだけどー、ほら、最近ガルジャムとかで〜、みんな、忙しかったからね〜」

 

モカに根掘り葉掘り事情を聞き、そんな大事な隠し事では無かったので、ホッと安堵する。

 

ちなみにれー君.......鳴宮連音なる人物は、部屋の隅でまだ先程のポーズをしていた。そんな様子をつぐが、心配そうにチラチラと見ていた。

 

「.......ま、そういうことなら、安心した.......でも、モカこういうことは、今度からは、早めに言ってくれよな、.......一緒に帰れなくて蘭が寂しがってたから」

 

「.......!!と、巴!!.......あたしは別に寂しがってなんか.......」

 

モカにそう言うと、蘭が顔を赤くしながら反論してくる。

全く.......、

 

「あー、蘭。ごめんね〜、モカちゃん居なくて寂しかった?」

 

「ち、違っ!! 別に寂しくなんか.......」

 

そんな一番付き合いの長い二人のやり取りを、蘭とモカ以外の三人は笑顔を浮かべながら見ていた。

 

───いつも通りだな。

巴はそんなことを思っていた。

 

──────────────────────

 

「あー、ホントに酷い目にあった」

 

そんなことを呟きながら、マンションのエントランスを歩き、エレベーターに乗り込む。

 

あの後、立ち直った俺はあの部屋に突撃してきた、

モカから話を聞いていた幼馴染.......「Afterglow」のメンツと顔を合わせた。

 

(.......何故かボーカルの「美竹蘭」に終始、睨まれていたが.......)

 

その後、「Catch the Moment」を全員の前で披露し、リーダーの「上原ひまり」から、「皆でお茶しよう」ということになり、「CiRCLE」を後にした。そして、来たのは駅前のパンケーキの店だった。

 

俺は冷や汗をダラダラとながし、モカに関してはショーウィンドウのパンケーキの広告を見て、小悪魔的な笑いを浮かべていた。

 

結局モカに、期間限定で全てが倍になってるパンケーキを奢る羽目になった。

 

(ちなみに俺は何も頼まなかった.......その様子を見たAfterglowのキーボードの子「羽沢つぐみ」が心配してくれた)

 

そして俺を驚かされたのは、そんなパンケーキを、モカは5分足らずで平らげたことだった。モカ曰く、「カロリーはひーちゃんに送ってるから、だいじょーぶ」と言って、対するひまりちゃんは、「モカー!!」と、割とガチの涙目で怒っていた。

 

その後、しばしの談笑を楽しみ、Afterglowの全員と一応連絡先を交換し、今日は解散となった。

 

(しばらくはもやし生活かな.......)

 

エレベーターを降り、自分の部屋の前へと行くと.......、

 

 

「あ、やっと帰ってきた!!」

 

「ホントね、.......結構待ったわね」

 

そこには何故か、リサさんと友希那さんが何故か俺の部屋の前に居た。

リサさんに関しては、スーパーのレジ袋を持っていた。

 

(.......何で?)

 

 





今回は、Afterglow回という事で、Afterglowのメンツが全員登場でございます。ちょっと早足気味だったのはすみません。自分の力不足でございます。

これから自分の小説にAfterglowが出てくる時は、全員で出るか、
モカ+他のメンバーという形になるかもです。
.......というか美咲は何処行ったんだ?(笑)

それでは、次の話でお会いしましょう!!
(無事、コラボ美咲手に入れましたー)




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第十三話 もう一度

どうも、ワッタンです。

最近Twitter上では、色々なバンドリ作家さん達で、バンドリキャラのなりきり戦争があったりして楽しかったです。
そして、今回はほぼ原作通りとなってます。

それでは、第十三話をどうぞ!!




「.......意外とキレイにしてるのね」

 

俺の部屋に入ると開口一番、友希那さんが辺りを見回しながら呟く。

 

リサさんに関しては、この部屋に入るのは二回目なので、そんなにキョロキョロしなかったが、それでも少しは部屋をを見回していた。

 

「まあ、一応キレイにはしてますね。一人暮らしなんで気を付けておかないと、すぐ汚くなっちゃうので」

 

そう言いながら、ギターをケースから取り出し、壁際にあるスタンドへと立て掛け、忘れずにギター弦を緩める。

 

そして、突然の来訪者へと向き直り、本題へと入る。

 

「.......というか、勢いで入れちゃいましたけど、何か用だったんですか?」

 

「ああ、それは.....」

 

と、友希那さんがそう言ったが、

 

「あ、それは、アタシから先に説明するよ」

 

リサさんが、両手の買い物袋を掲げながら、そう言った。

 

 

──────────────────────

 

五分後、付けたテレビからは、何かと有名になってきているアイドルバンドが特集されていて、台所からは料理する音が聞こえていた。

 

というのも、リサさんが俺の家に来た目的が、

 

「結局、あの時のお礼もまだ十分にしてないから、改めて......その、お礼させて」

 

ということだったので、現在台所に立って料理しているのリサさんである。

 

正直に言うと、最初は遠慮しようかと思ったが、現在俺の財布事情は、主にあのパンケーキのせいで非常に軽くなってしまっている。

そして俺の心に追い打ちをかけるようにリサさんから、

 

「作り置きもしといてあげるから」

 

と言われてしまったので、俺はあえなくその言葉に撃沈し、リサさんのありがたいご厚意に預かることにした。

 

だが、客人に料理を作らせる訳にももいかないので、リサさんを手伝おうとした所、「待っててね」と強く言われてしまった。

 

という事で現在、俺はリビングで机を挟んで、友希那さんと向かい合っていて、両者の手元には、紅茶が置かれている。

と、友希那さんが一口紅茶を飲み、一言呟く。

 

「.......久しぶりに、紅茶もいいわね」

 

「.......というか、友希那さん。リサさんがここに来た目的は分かりましたけど、あなたは何で来たんですか?」

 

リサさんが来た理由は分かったが、友希那さんがここへ来た理由が、まだ分かっていなかったので、改めて尋ねる。

 

「ああ、それは.......」

 

尋ねると、友希那さんはそう呟き、自分のポーチからある物取り出し、俺の前へと置く。

それは、一つの封筒だった。

 

俺はそれを手に取り、裏表を見回すが、特に何も書かれていなかった。

 

「.......開けても?」

 

「ええ」

 

念の為に、友希那さんに確認をとり、了承を得たので俺は封を破り中に入っていた物を取り出した。

 

入っていたのは一枚のチケット、そこには「FUTURE WORLD FES.」と書かれていた。

 

「.......これは?」

 

友希那さんに問う。

何故こんなものを、俺に見せたのだろう?

 

「今度の土曜日にある「FUTURE WORLD FES.」の予選.......そのチケットよ。単刀直入に言うわ、あなたに見に来てもらいたいの」

 

サラッと本題を言いのける友希那さん。

 

「え、な、何でですか!?」

 

「客観的な意見が欲しいのよ」

 

「いやいや俺、バンドの音楽に関してはど素人.......って訳でもないけど、それでも素人に毛が生えたぐらいの知識ですよ!?」

 

友希那さんの本題に、俺は全力で否定した。

たが、そんなことを構わないというように、友希那さんはあっさりと、

 

「むしろ、素人からの感想も欲しいわ」

 

そう言いのけた。

 

「.......はあ、分かりました、聞きに行きます」

 

どうやら、友希那さんは折れてはくれないらしい。

仕方なく、俺は行くことに決めた。

 

別に行くことには、嫌では無いのだが、プロ顔負けの演奏をするRoseliaに、自分の感想を提言するのに、少々後ろめたさがあった。

 

.......まあでも、行くことになってしまったのは仕方ない。ちょっと、バンドの音楽を勉強しよう。

 

「ええ、助かるわ.......それに、あなたが居た方が、数倍やる気出しそうな人が居るもの」

 

「ん、今なんか、言いました?」

 

「.......いや、こっちの話よ」

 

そんな会話をしていると、

 

「.......はーい、お待たせ〜」

 

料理を終えたリサさんが、俺と友希那さんを呼ぶ。

匂いを嗅いでみると、美味しそな匂いが鼻腔をくすぐる。

.......とりあえず、難しいことはリサさんの手料理を食べてからにしよう。

そう思い、料理が並べられた机へと向かった。

 

──────────────────────

 

そして、一気に時間は進む。

「FUTURE WORLD FES.」の予選が終わった次の日、つまり日曜日。

俺は、ファミレスに赴いていた。

だが俺一人ではなく.......、

 

「「.............」」

 

「ちょっともー、二人とも〜.......、相変わらずクールだなーっ」

 

「そうですよっ!!友希那さんも紗夜さんもWハンバーグ&エビフライ&チキンソテーのプレート、ご飯大盛りデザート付きでいいですか?」

 

「「.......」」

 

何故かRoseliaの人達と一緒に来ていた。

昨日、俺は友希那さんの約束通りに、「FUTURE WORLD FES.」の予選会場にしっかりと足を運んでいた。

 

色々なバンドがいる中で、Roseliaはしっかりと目立っていた。なんでも今回の「FUTURE WORLD FES.」には出場確定と噂されていた。そして、Roseliaはその前評判に泥を塗らないように、観客に居た人々をそのプロ顔負けの演奏で圧倒していた。

 

正直俺は、お世辞抜きで全バンドの中で一番、クオリティが高かったと思う。勿論、前回ライブハウスで聞いた時よりも、さらに成長していた。

だが、Roseliaの結果は.......落選だった。

 

「連音君はどうするの?」

 

「あー、じゃあ、俺もそれでお願いします」

 

一応金曜日に、お金が振り込まれたので当面はお金の心配はする必要は無い。

遠慮なく今日は食べるとしよう。

 

「オッケー、じゃあ六人ともそれでっ!! 燐子よろっ!!」

 

「はい。.......スーパーやけ食いセット.......六人前ですね.......」

 

リサさんがそう言うと、Roseliaのキーボード担当、「白金燐子」さんが、店員さんを呼び、六人分のセットを注文した。

 

ちなみに、俺がここへ来た目的は反省会という事で、俺の意見を聞く為に呼ばれたようだ。

 

ちなみに、Roseliaのメンバーとは昨日の夜に自己紹介を済ませていた。

 

ギター担当の.......「氷川紗夜」さんには、訝しむような目線を向けられていたが、俺がギターを上手だということを知ると、「いつかセッションしましょう」と言われた。

 

「その、落選したけど、でも凄く認めて貰えたし、アタシ的には悪くないのかな~、って」

 

「私は認めないわ」

 

と、紗夜さん。

 

「そうよ、このジャンルを育てていきたいのなら、私たちを優勝させて、もっと大きな活動を.......」

 

と、友希那さんがそれぞれ言う。

 

(あらら、これは相当ご立腹のご様子だな.......ま、仕方ないな。.......何せ断られた理由が、理由だもんな)

 

Roseliaは結成されてから日が浅いのに、観客や審査員を魅了した。だが、日が浅いというのにこんなプロレベルの演奏をしたとなれば、なら一年後更に成長した演奏がみたい。予選の結果を入賞という形ではなく、優勝で突破して欲しい.......ということを運営から言われたそうだ。

 

「.......ところで連音、そろそろあなたの感想が聞かせて頂戴」

 

と、ここで目の前にいる友希那さんが、俺へと話を降ってきた。

そして、視線から俺へと集まる。

 

一応この日までに、色々なバンドの曲を聞いてききたのだが、所詮は付け焼き刃。

俺なんてギターのことしか良し悪しなんて分からない。

悪いところなんて実際無いと思う。なので俺は主に自分が感じた事を話すことにした。

 

「.......まあ俺は、ギターの事だけしか分からない素人ですから、音がズレてるとか、タイミングが合ってないとか分からないですけど.......」

 

「「「「「.......」」」」」

 

そこで一旦止め、再び話し出す。

五人は黙って俺の話を聞いている。

 

「.......何か、惹き込まれる感じはしました。友希那さん達の音楽に、.......それと皆さん演奏がとにかく楽しいって感じでした」

 

「あ、あこもっ.......!!」

 

俺がそう話すと、ドラム担当の子あこちゃん(宇田川あこ)が声を上げる。

苗字からもわかるように、何とあこちゃんは先日知り合った、Afterglowのドラム担当「宇田川巴」と姉妹だった。

いやー世間って狭いな。

 

「確かにすっごい悔しけど、でもっ、それがどうでもなくなるくらい、あこ、.......楽しかった!!」

 

「あー、.......ちょっと、分かっちゃうなぁ」

 

「わたしも.......今まで一番.......」

 

あこちゃんが「楽しかった」と言うと、それにつられて、リサさんと白金さんも、口々に楽しかったと声を上げた。

 

「あ、あなた達っ。何のために練習してきたと思ってるのよ.......」

 

紗夜さんが呆れてそう言うが、よく見てみると、その顔は少し笑っていた。

 

「.......紗夜の言う通りよ。私は、あのステージに立つまでは、自分で自分を認められないわ。.......でも、あのステージに立つ時は()()()()()()でよ」

 

「友希那.......」

 

友希那さんがそう言うと、Roseliaのメンバー達はそれぞれ、Roseliaを続けたいという意思表明をしていた。

かく言う俺は、そんなやり取りを黙って眺めながら、ある言葉を思い出していた。

 

(『.......音楽を始める理由なんて何でもいい、ただ()()()()』.......だったけな、父さん。だったら俺は大丈夫かな。.......というか、)

 

「.......料理来るの遅くね?」

 

俺はそんなことを思いながら、コップに入っていた水を飲み干した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.......改めてもう一度、言うわ。.......あなた達、Roseliaに全てを賭ける覚悟はある?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日のリサ姉、凄かったね!!何か、いつもと違ってノリノリだったよー!!」

 

「......ええ、宇田川さんの言う通りね。今井さん、何かあったんですか?」

 

「え、ええ?そ、そうかなぁー?別に何もないよ?」

 

ライブ終了後のそんな幼なじみの姿をみて、

(.......嘘ね)

と、思う。

 

.......ただまぁ、彼を連れて来たのは成功だったようだ。おかげで、いつも以上に発揮出来たように思える。.......ちなみに昨日頭を撫でられたおかげでもあるのだろう。

 

 

(.......今度から、ライブの時は彼を呼ぼうかしら?)

 

そう思う友希那だった。

 

 




自分が友希那さんを書くと、ポンコツに出来なさそうな気配がしてます(笑)。

そして、これにてRoselia1章は終了でございます。
一応この裏で全バンド分の1章はほぼ終了してる設定でございます。
尚、連音くんは、まだ全員に会ってない模様.......。

それでは、次の話でお会いしましょう!!







次回、


















「最後のヒロイン登場」


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第十四話 その少女は星空の下で

宝生永夢ゥ!
何故私がハロハピにあまり関係ない、Roseliaのイベントをやったのか。
何故リサさんをサブヒロインにしたのか。
何故この小説を描き始めたのかぁ!
その答えはただ一つ…。ハァ…。
宝生永夢ゥ!
それは、全てはこの話.......最後のヒロインを出す為だぁ―――っははははははっ!
はぁーはははは!!




すみませんでした。
どうも、ワッタンです。上の茶番?の通り、今回は最初からヒロイン予定だった子が出ます。
最後のヒロインは誰なのか?考えながらご覧下さい。

それでは、第十四話をどうぞ!!



「ドルオタ」なる言葉を知っているだろうか。

ドルオタ.....通称、アイドルオタク。しかし、ひとえに言っても「ドルオタ」も色々な種類がある。

 

.......だが、色々な種類があるにしても、思っていることはただ一つ、

 

「推しが幸せならそれだけで、十分です.......」

 

と、昼の休憩時間に、そのアイドルバンドが特集された雑誌を見せながら、力説しているのは、俺の友達、「榊原集(さかきばらしゅう)」だ。

 

リサさんが作り置きしてくれた筑前煮を口へと運び、榊原に向かって尋ねた。

 

「で、その話を俺達にして、どうする気だ?」

 

「亮から聞いたぞ連音。お前、「CiRCLE」でバイトしてるんだよな」

 

その声を聞いた瞬間、亮の方を見る。

亮はというと、こちらとはあらぬ方向を見ながら、いちご牛乳を飲んでいた。

 

(.......後で、ジュース奢ってもらおう)

 

「.......はあ、まあ一応バイトしてるな」

 

榊原の方に目線を戻すと、そう答える。

答えると、榊原がずいっというような効果音が出そうな勢いで近づいてきた。

 

「単刀直入に言う!!Pastel*Palettesのライブの時のチケットは俺にくれ!!」

 

なるほど、つまり目の前にいるコイツは、自分の推しのアイドルのライブのチケットを、どうにか俺に入手してもらいたい.......と。

 

結論から言おう。

 

「無理」

 

「即答かよ!!」

 

「当たり前だろ、そもそも俺はただのアルバイトだから、チケットなんて貰えるわけないだろ。.......チケットが当選している事を祈っといてやるよ」

 

「それ、絶対祈ってないだろ!!」

 

「「当たり前だ」」

 

「亮まで!?」

 

とまあ、こいつとのこういうやり取りは日常茶飯事だ。

大抵、コイツが何かよからぬことを話し始め、それを俺と亮がツッコミ、辛辣な言葉を返す。

 

.......でもこいつのために言っておくと、いつもこんな感じでは無い。しっかりしてる時は、こいつはしっかりとしているし、人望も生徒、教師問わず、しっかりとしている。ただ、ONとOFFの差が激しいだけだ。

 

「ああ、俺のイヴたんがぁー」

 

集が、そんなことを言いながら崩れ落ちる。

おそらく、口にした「イヴたん」というのは、彼の推しであるアイドルの名称だろう。

 

筑前煮を全て食べきり、手を合わせ、

弁当の空き箱を鞄へとしまう。

 

「あっ、そうだ!!」

 

と俺が、弁当箱を仕舞うと同時に、集が何か思いついたように、

声を上げる。

 

「今度はどした?」

 

亮が集へと尋ねる。

 

「いい案思いついたぜ。俺が「CiRCLE」にアルバイトすれば.......」

 

「「それは無理」」

 

「今度も即答かよ!!というかこれに関しては、やってみないと分かんねぇだろ!!」

 

集の言う通りなのだが.......。

まあ、間の悪いことで。

 

「いや、その言い難いんだが.....お前が来る前に、亮の事を紹介しちゃった」

 

「あー、ごめんな。集」

 

「ウゾダドンドコドーン!」

 

こうして、ちょっとやかましい野郎三人組の昼休憩は過ぎてゆく。

 

──────────────────────

 

場所は変わって「CiRCLE」。

本日もアルバイトです。

 

今日は「ハロハピ」のメンバーが、「CiRCLE」へと練習しに来ていた。

何故か、来る前に美咲は凄い疲れた様子だったが.......。

 

「ぐでー」と、そんな効果音が聞こえそうになるほど、目の前に座っているハロハピの練習を終えた美咲は机へと突っ伏していた。

そんな美咲の目の前に、自販機で勝ってきたスポドリを置き、美咲の隣に座っている、松原さんへと尋ねる。

 

「なあ、松原さん。今日は何かいつも以上に、こいつぐったりと、してますけど、今日何かあったんですか?」

 

「えーと、実は.......」

 

──五分後──

 

「つまり要約すると、別のガールズバンドにこころやはぐみみたいな、元気いっぱいな人がいて、その人とこころが出会っちゃって、散々振り回され、ああなったと」

 

「うん、そんな感じかな」

 

と二人で会話してる間も、美咲は机に突っ伏して、ピクリとも動かない。

.......そろそろ心配になってきたぞ。

 

「おーい、美咲大丈夫か?」

 

「.......大丈夫に見える?」

 

「ごめん、全然見えない」

 

正直に答える。

すると、美咲はようやく体を机から起こし、俺の買ったスポドリを飲んだ。

 

「.......ふぅ。まさか花咲川にもう一人、こころみたいな人が居るとは.......盲点だった」

 

「.......ほんとにいつもお疲れ様です」

 

「あはは.......」

 

いやほんとうに、お疲れ様です。

今度またなにか奢ってあげるとしよう.......駅前のパンケーキ以外で。

 

と、比較的呑気に考えていた俺だったが、遠くない未来に、俺も色々と.......その例のバンドメンバーや他のバンドメンバーに振り回されることになるのだが、この時の俺はまだ知らない。

 

──────────────────────

 

「お疲れ様でしたー」

 

「お疲れー、連音君」

 

今日のアルバイト業務を終え、まりなさんに挨拶をすると、

「CiRCLE」を後にする。

 

(さてと、今日も終わった、終わった。晩飯どうすっかなー)

 

そんなことを考えながら歩いていると、ファストフード店の前を通り、そこで一旦立ち止まる。

 

「.......よし、今日の晩飯は外で食べよう」

 

そう呟き、店内へと入る。

中へと入ると、そこは時間も時間なので、人でごった返していた。

 

(うわっ、人多いな)

 

とりあえず、すぐにレジへと並ぶ。

意外にも、お客の数に対し、レジの回転率は早く、すぐにチーズバーガーのセットを頼めた。

 

(さてと、無事に頼めたけど.......どこかに空いてる席は?)

 

と、自分の頼んだ物をお盆に乗せ、店の中を歩く。

すると、ボックスの席に一人の女性が座っていた。というか、この人見覚えが.......。

 

「.......あれ、紗夜さん?」

 

「....!!な、鳴宮さん!?」

 

ボックス席に座っていたのは、Roseliaのギター担当、「氷川紗夜」さんだった。そんな紗夜さんのお盆には、山盛りのポテトが乗せられていた。

 

 

 

「えーと、ポテト好きなんですか?」

 

紗夜さんに相席の許可を貰い、一緒のボックス席に座る。

と、座ったのはいいのだが、目の前にいる紗夜さんがそれはもう、幸せそうにポテトを食べていたので、そう尋ねってしまった。

 

「ち、違います!!これは、.......そう、たまたまポテトのクーポンが余ってたので仕方なくですね」

 

と紗夜さんはそう俺に行ってる間も、ポテトを食べる手を止めていはいない。

 

「あー、分かりました。そういうことにしておきます」

 

俺はそう言うと、チーズバーガーを一口頬張る。

うん、美味い。久しぶりに食べたが、たまにはこういう風にジャンクフードを食べるのもいい。

と、俺が久しぶりのハンバーガーを味わって食べていると、

 

「.......あの、鳴宮さん、少し尋ねてもいいでしょうか?」

 

と、紗夜さんが何やら難しい顔で話し掛けてくる。

 

「え、はい。いいですけど.......?」

 

「ありがとうございます.......、仮定の話何ですけれど、もしあなたよりギターの才能がある人が、あなたを目標にして.......そして、その才能のある人に追い抜かれそうになったら、あなたはギターを続けられますか?」

 

「.......」

 

少し考える。俺より才能がある人が俺を追いかけ.......目標にし、ギターの演奏を越えられたら.......、まあ、考えるまでもない。

 

「答えは.......俺だったら続けます」

 

「.......理由をお聞きしても?」

 

「まあ、簡単ですよ。俺を目標にしてギターを始めてくれたら嬉しいですし、.......追い抜かれそうになっても、俺は俺ですから。ギターの音色は人それぞれです、どんなに自分の音色を目標や真似しようしても、絶対真似出来ないですから」

 

俺の自分なりの答えを、紗夜さんへと告げる。

「そうですか.......」と紗夜さんは、そう呟き何かを考える。

そんな紗夜さんが一言、呟く。

 

「.......自分の音色.......」

 

「紗夜さん?」

 

「......!!すみません、ちょっと考え事してました」

 

そう言われ、紗夜さんは頭を下げる。

 

「えーと、それは気にしてないですけど.......俺の話は、何か参考になりました?」

 

「ええ、参考になりました。ありがとうございます」

 

そう言った紗夜さんは、尋ねてきた顔の時より、腫れ物が落ちたようなどこか、清々しい顔だった。

 

 

 

──────────────────────

 

ギターを背負い、公園へと向かう。

今日の月は満月。

今この時期は、しし座やふたご座、おとめ座などの星座がよく見える。

さらには、今年のゴールデンウィークの初め頃には、みずがめ座流星群がよく見えるそうだ。

 

(流星群の日はここじゃなくて、山にでも行こうか.......)

 

そんなことを思っているうちに、公園の前へと辿り着く。

ただ今日は、公園の前に車が一台止まっていた。

 

(珍しいな)

 

だが特に気にすることもなく、公園の中へと入り、

いつもの広場へと辿り着く。

そこには.......、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一人の少女が居た。

 

 

 

少女は、俺に背後を向けている為、顔は見えなかった。

そしてその少女は、熱心に星空を眺めていた。

だがその佇まいは、先程会っていた人に似ていて.....。

 

「.......紗夜さん?」

 

 

紗夜さんにそっくりで、思わずそうつぶや.......「違うよ」。

と、俺の声は相手に届いていたようだ。

少女が星空から目線を下ろし、ゆっくりこちらへと、振り向く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すごく綺麗だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

それが少女を初めて見た感想だった、

アイスグリーンの髪色は、月明かりに照らせれ、夜風になびいていて、それだけで絵になりそうなくらい、その場所だけ神秘的な雰囲気だった。

夜風でなびく髪を耳にかけ、少女が呟く。

 

「.......氷川紗夜はあたしの、おねーちゃんなんだ」

 

「おねーちゃん?」

 

「うん、あたしは.......」

 

知らなかった。

紗夜さんに、妹が居るなんて.......。

そして自称、紗夜さんの妹は、自己紹介をする。

 

「あたしは、氷川日菜!! よろしくね〜!!」

 

これが、俺と氷川日菜の出会いだった。

美咲との出会いが俺の物語のプロローグとするなら、

 

 

 

 

 

氷川日菜との出会いも、俺の物語のプロローグとも言えるだろう。

 

 

「.......何かるんっ♪って来た!!」




はい、答えは日菜でした!!
多分、勘のいい人なら気づいてたかもしれませがどうだったでしょうか?

何故日菜をヒロインにしたのかというと.......特に理由はありません!!
ただ振り回すヒロインが書きたかったからです。
それで何はともあれ、これで役者は全員揃いました。
これからもこの小説をよろしくお願い致します。

それでは、次の話でお会いしましょう!!
それでは!!

(剣盾一周年なんで、今からポケモンしてきます)



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第十五話 アイドルは変装するべき

どうも、ワッタンです。

最近とあるゲームにて、かなりの金額を課金し、ようやくお目当てのキャラを当てたワッタンです。
おかげで、お金がすっからかんです(笑)

それでは、気を取り直して第十五話をどうぞ!!



終礼のチャイムが鳴り、続々と生徒たちが教室から出ていき、ある者は部活へと、ある者はそのまま家へと直行していく。

 

「ふぅ、やっと終わった.....」

 

かく言う俺は、後者であり、

家へと変える準備をする。

今日は、CiRCLEのシフトも入っておらず、ゆっくりできそうだ。

 

(っと、忘れずに....)

 

帰りの準備中にあることを思い出し、

教室の後ろの自分のロッカーへと行き、普段授業では使わない

参考書を取り出す。

 

明日からはゴールデンウイークなのだが、その連休後には、中間テストが控えている。

人によっては、準備が早いと思うかもしれないが、念には念だ。

自分は、連休中に少しでも勉強を進めておこう。

 

参考書を鞄へとしまい、教室を後にする。

窓から見えるグラウンドには、スポーツ系の部活の人達がグラウンドの外周を走っていた。

 

階段で一階の下駄箱へと向かい、上履きを靴へと履き替え、自分のチャリが置いてある、駐輪場へと向かおうとして.......。

 

 

と、ここで俺はふと首を傾げた。

校門の方が少し騒がしい。

いや、いつもこの時間になると騒がしいのだが、今日はいつもより騒がしく、何故か人だまりもできていた。

 

疑問に思い、駐輪場へと行く前に校門の方へと足を向ける。

と、ここで気づいたのだが、人だまりの大半はどうやら、男子生徒のようだ。.......しかもそこには亮も居た。

 

「.......何だんだこの騒ぎは?」

 

「あ、レオ」

 

近くに居た亮に騒ぎの原因を尋ねる。

 

「いや、なんかな。校門のところに、羽丘の制服を来た子がいるんだよ。しかもどうやらその子.......

P()a()s()t()e()l()()P()a()l()e()t()t()e()s()の子だってさ、なんでまたこんな所に......って、レオ?」

 

その言葉に、俺はサーっと顔から血の気が引いていった。

 

(.......いや、まさかな.......いやでも、あの人なら)

そう思いながら、昨日の夜を思い出す。

 

──────────────────────

 

──昨日の公園にて──

 

「何か、るんっ♪って来た!!」

 

「る、るんって来た?」

 

目の前の少女──「氷川日菜」が、よく分からない擬音語?なのかも分からないが、そんな言葉を言ったので思わず聞き返す。

 

「うん、何か、君ってるんっ♪っくるんだ〜」

 

「.......それって、つまりどんな感じですか?」

 

「えーとね、ピってなって、フワーって感じかな」

 

「えーと.......」

 

なるほど、よく分からん。

でも多分、楽しいとか嬉しいというような、ポジティブな言葉なのだろうか?

 

そういえばよくモカも、「ツグってる」とか、「モカってる」とか分からない言葉を使ってるので、それと似たような感じだろう。

というか、どことなくモカに似ている気がする。

 

「ね、それより、君の名前は?」

 

「え、.......ああ、えーと、俺の名前は鳴宮連音です」

 

「鳴宮連音.......うん、じゃあ、連音君って呼ぶね!!あたしは、日菜でいいから」

 

「わ、分かった.......」

 

紗夜さんと違って随分とグイグイくる子だな。

ん、待てよ.......今更だけど、氷川日菜って確か.......。

 

「あの、日菜さん?」

 

「.............」

 

「.......日菜?」

 

「うん、なあに?」

 

.......これは、もしかして呼び捨てにしないといけない感じか?

それはちょっと.......。

 

「.......さすがに、呼び捨ては厳しいですよ?」

 

「え〜、なんで?」

 

なんでって言われても、さすがに会った数分で呼び捨ては厳しい。

.......まあ、Afterglowやハロハピの連中はちょっと、特殊だったけど。

特に、ハロハピの連中は。

 

「だって、初対面ですし、流石に無理ですよ」

 

「.......?そうなの?」

 

日菜さんがコテンと首を傾げる。

 

「そんなものです。.......って話が逸れました、えーと実は.......」

 

と、本題に入ろうとした瞬間、日菜さんのポケットから、スマホの着信音が鳴る。

 

「あ、ちょっとごめんね」

 

そう言うと、日菜さんは俺に背を向け、通話を始めた。

 

「もしもし?.......うん、.......うん、分かったよ、今から帰るね」

 

そう言うと、スマホの通話を切り、日菜さんは俺の方へと振り返り、俺へと話し掛ける。

 

「ごめんね、連音君。マネージャーに呼ばれちゃったから、また今度ね!!」

 

「あ、ちょっ」

 

俺が何か言う前に、日菜さんは走り出して公園の外へと走って行ってしまった。

 

「.......行っちゃた.......というか、マネージャーってやっぱりそういうことなのか?」

 

俺が聞こうとしていたのはズバリ、「Pastel*Palettesの氷川日菜ですか?」ということだった。今日の昼に、集が見ていた雑誌の中に氷川日菜という名前が書いてあった。

 

最初に本人から名前を聞いた時は分からなかったが、さっきの日菜さんのマネージャーという言葉で、疑問はほぼ確信へと変わった。

彼女はきっと、アイドルバンド「Pastel*Palettes」の氷川日菜だろう。

というか、なんというか.......。

 

「嵐みたいな.......いや猫かな。そんな人だったな」

 

そう呟くと、俺はギターのチューニングをし始めた。

 

──────────────────────

 

「.......レ.......レオ.......連音!!」

 

「.......は!!わ、悪い、ちょっと考え事してた」

 

亮に、大声で呼ばれ我へと帰る。

周りを見てみると、先程より生徒が多くなり校門へと集まっていた。

 

「.......なあ、レオ?まさかとは思うが.......校門にいる人って.......」

 

「.......多分、俺の知り合いかもしれん」

 

「.......マジで?」

 

そんな会話を亮とすると、俺は恐る恐ると校門の塀に体によせる。

 

(いやでも、まだ日菜さんと決まった訳ではないか.......?)

 

と、そんな淡い期待を浮かべ、校門の向こう側へと覗き見る。

するとそこには、

 

「日菜たん!!握手してください!!」

 

「うん、いーよー」

 

俺の予想していた通り、そこには.......制服を着た()()()()()()()()()日菜さんが居た。

と何故か.......あのバカ(集)が握手を求めていた。

 

「.......やっぱし、というか」

 

(というか、日菜さん。せめて変装くらいしてくださいよぉぉぉ!!)

 

多分というか、ほぼ確定的に日菜さんがここに来た理由は、俺に会うためだろう。

 

だってあの時、「また今度ね」と言ってたからね。でも普通、昨日の今日で来ますかね。それより、どうやって俺の高校を知ったのだろう。

いやそんなこと言って、来てしまったのなら仕方がない。何か対策をしなければ。

 

このまま俺が出ていくと、おそらく人だまりの中にいる、Pastel*Palettesのファンの人達に、目線で殺されるだろう。

さて、どうするべきか.......。

 

「あ、連音君だ!!おーい!!」

 

.......どうやら、俺に神様はいないようだ。

日菜さんが俺に気づき、笑顔を浮かべながら、俺へと手を振ってくる。

 

恐る恐る後ろを振り返る。そこには、嫉妬や憤怒の色が混ざった目をした、Pastel*Palettesのファンであろう、生徒達が居た。

そして、何より一番怖かったのは.......、

 

 

 

「おいてめぇ、連音。貴様、日菜たんとどういう関係だ、あ?」

 

 

般若のような顔をした集だった。

俺はあえてもう一度叫ぶ。

 

「日菜さんホントに.......変装くらいしてくださいよぉぉぉ!!」

 

──────────────────────

 

俺は机へと突っ伏していた。

対する日菜さんは、ポテトを食べていた手を止め尋ねてくる。

 

「連音君、だいじょーぶ?」

 

「.......大丈夫に見えますか?」

 

「全然見えないよ」

 

いつぞやかの、美咲と俺みたいなやり取りを日菜さんとした。

まあ、立場は逆なのだが。

そう言う日菜は、注文したポテトを口へと運ぶ。

 

 

あの後、日菜さんの手を掴み俺は走った。

それはもう脱兎のごとく。

.......途中日菜さんから楽しそうな声がしたのは気の際だろう。

 

ともかく、久しぶりに全力疾走しこうして何とか集達を巻いた。

そして幸いの事に明日からゴールデンウィーク。しばらくは集達とは会わないため、事態が少しは沈静化するだろう。

 

それと、逃走に協力してくれた亮にも感謝だ。

幸いにも、亮はCiRCLEの面接に受かり、ゴールデンウィークにシフトを入れているらしいので、その時にでもお礼を言っておこう。

 

と、希望的観測をしながら頼んだコーヒーシェイクを飲む。

そして俺達が今いるのは、昨日訪れたファストフード店だった。

コーヒーシェイクを飲みながら、日菜さんへと尋ねる。

 

「.......というか、日菜さん。どうして、俺の高校知ってたんですか?」

 

「.............」

 

「.......日菜さん?.............はぁ、日菜?」

 

「うん、正解だよ!!」

 

と、日菜さんが笑顔で頷く。

 

「.......日菜さん、昨日も言いましたけど.......」

 

「え、でも、もう初対面じゃないよ?.......それとも、連音君は呼び捨てするの嫌?」

 

と、日菜さんが俺の顔を覗きこみながら尋ねてくる。

 

(ち、近い.......やっぱりグイグイくるなぁ)

 

「いや、そういう訳じゃ.......分かりましたよ、.......日菜、これでいい?」

 

一応言っておくと、別に呼び捨てに抵抗はない。

でも、これは俺が折れないと、ずっと言ってくるやつだと直感し、素直に折れることにする。

 

「うん、いーよ。それで、高校を知ったきっかけだっけ?」

 

「うん、そう。どうやって、知ったの?」

 

「うーん、そうだなぁ。.......うん、連音君ならいいや、この際だから全部言うね?」

 

「.......?わ、分かった」

 

俺はそう呟くと、コーヒーシェイクを口に含んだ。

(これは、長くなるかな?)

こうして、日菜は語り出した。




個人的に、日菜を書くのは美咲を書くのと同じくらい楽しいです。
日菜が皆さんの目から可愛く見えていると嬉しいです。
それと、今日はいい夫婦だそうで、皆さんはちゃんと推しカプ愛でましたか?勿論私は、マリアリを愛でました(笑)

それでは、次のお話でお会いしましょう。

(最近、セブンの蒙古タンメンにどはまってます)


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第十六話 回想と才能

どうも、ワッタンです。

大変お待たせしました。先週は忙しくて投稿出来ませんでしたが、今週は投稿出来ました.......が、今回の話はちょっと短いです。(私にさよひな氷河期は無理だ.......)

なのでご了承ください。

それでは、第十六話をどうぞ!!



───あたし、多分.......ううん、おねーちゃんに嫌われてたんだ。

 

日菜は前置きにそう言って語り始めた。

 

──────────────────────

 

あたしとおねーちゃんが小さい時はね、現在(いま)みたいに壁を感じることはなかったんだ。何処にでもいるような姉妹.......いや、それ以上に仲良しだったかも。

 

いつもね、あたしがおねーちゃんの後ろを追いかけてたんだ。

それとね、おねーちゃんはね、何でもこなすことが出来て、あたしが人参をいらないって言ったらおねーちゃんが代わりに食べてくれて、おねーちゃんがやることをあたしが真似をしても、すぐに上達はするんだけど.......おねーちゃんみたいには出来なくて、だから.......憧れてたんだー。

 

.......だけどね、中学生の頃くらいかな、そんなおねーちゃんとの関係が変わりだしたのは。

 

──────────────────────

 

「.......ただいま」

 

リビングで過ごしていると、ガチャっと音が玄関から聞こえ、おねーちゃんがリビングへの扉を開け、部屋と入ってくる。

 

「あ、おねーちゃん、おかえり!!」

 

ドアが開けられた瞬間に、ドアの方へ振り返り、おねーちゃんの方へと近寄る。そしておねーちゃんの後ろに近寄って、今日学校であったことや、昨日見た星空がどうだとか、とにかくおねーちゃんに小さい頃みたいに話し掛ける。

 

だけどおねーちゃんは、そんなあたしを振り切るように、キッチンへと行き、冷蔵庫に入ってる水をコップで飲み、おねーちゃんは.......。

 

「.......はぁ」

 

「.......!!ご、ごめんなさい.......うるさかったかな」

 

大きなため息をつかれた。

慌てておねーちゃんに謝ると、おねーちゃんはそのまま自分の部屋へと入って行き、あたしはその場で立ち尽くしていた。

 

『.....こんな感じでね、中学生の頃からおねーちゃんとの仲に溝が入ってね、家に居ても必要最低限位の会話になっちゃったんだ.......そうなった原因は、多分あたしなんだけどね......それとね、あともう一つ中学の頃から変わった事があってね、それは.......おねーちゃんがギターを始めたんだ』

 

── ── ──♪

 

 

(あ、まただ.......)

 

 

おねーちゃんが自分は部屋へと戻ると、その部屋からギターの音色が聞こえてくる。ここ最近はずっとこんな感じで、おねーちゃんが家から帰ると自分の部屋へと籠り、ご飯や風呂の時以外ずーっとギターを弾いている。

でもその音色は、全然るんっ♪って感じではなく.......、

 

(.......おねーちゃんの音、悲しい感じがする.......)

 

絶望、悲しい、悲壮感、どう言い表したらいいのか分からないけどそんな感じのギターの音をおねーちゃんは、毎日のように奏でいた。

そしてその音を聞く度に、あたしの心は締め付けられていた。そんな音を奏でさせる原因となったのはあたし.......だと思うから。

 

 

『そんな生活が三年間ほど続いたんだけどね、.......つい一ヶ月ほど前のことだったかな?』

 

いつものようにおねーちゃんは、あたしに話し掛けられてもあたしを避け、部屋に籠った。

 

(.......今日も弾くのかな?)

 

最近あたしは、おねーちゃんがギターを弾いている時は、アロマオイルを作っている。今日はどんな香りのするアロマオイルを作ろうかと悩んでいると、おねーちゃんの部屋からギターの音色が聞こえてきた。

 

(.......あれ?今日の音.......なんか違う?)

 

思わずおねーちゃんの部屋の方を見つめる。

 

おねーちゃんが最近新しいバンドを組んでいたのは知っていた、だけどおねーちゃんはそのバンドの前にも、バンドを組んでいてその時はこんな感じの音はしていなかった。なんというのだろうか?この音は.......そう、前までは、苦しいって感じの音だったが今の音はそんな感じの音じゃなくて、

 

楽しい.......

 

るんっ♪ってくるそんな音に今日は感じたんだ。

 

「ねー、リサちー。うちのおねーちゃんとバンド組んだってほんとー?」

 

「えっ、お姉ちゃんって.......あ、そっか、ヒナって双子なんだっけ。.......ってあれ?紗夜の名字ってたしか.......」

 

「そー、氷川紗夜。あたしのお姉ちゃん。あたしには何も話してくれないから.......いろいろ教えてほしーなって」

 

後から分かったことだけど、おねーちゃんの入ったバンドはRoseliaというバンドだった。Roseliaに入ってからおねーちゃんのギターの音色は中学の頃と比べてすごく変わった。

.......きっとおねーちゃんはそんな自分の音の変化に気づいてないだろうけど。

 

『.......そしてこの頃にね。あたし、「Pastel*Palettes」のギターオーディション受けたんだー、ギターを弾くおねーちゃんに憧れたから.......そしてそんなある日ね.......』

 

そんなある日、あたしが学校から帰ると玄関に珍しくおねーちゃんの靴があった。

 

(あれ?珍しーな、おねーちゃんがこんな時間に帰ってるの)

 

そんなことを思いながら自分の部屋へと向かうとその隣、おねーちゃんの部屋の扉が開いていた。そしてそこから洩れるのはギターの音。

その音色は、最近聞く事がなかったギターの音だった。

 

(.......おねーちゃん?)

気がつくと、あたしはおねーちゃんの部屋へと入っていた。

 

「.......あれ、やめちゃうの?」

 

あたしの言葉に、ギターの手を止めたおねーちゃんがこちらへと振り向く。その顔は、とても苦しそうな表情をしていた。

 

「.......っ、日菜。勝手に入ってこないでって言ってるでしょ」

 

「入ってないよ。ほら、ドアが開いてたから.......ねえ、おねーちゃんの音、また何か変わった?」

 

「.......何かってなによ、あなたの言葉は分かりづらいの」

 

「.......おねーちゃんの音、中学の頃みたいに戻ってるんだよ」

 

「.......中学の頃?」

 

おねーちゃんがあたしの言葉に、首を傾げる。

 

「うん、最近まではおねーちゃんの音、楽しそうだったのに、今の音は.......苦しんでる」

 

「......!!」

 

おねーちゃんにそう告げると、少しだけおねーちゃんはハッとしたような顔になる。

(.....やっぱり、自分で音が変わったことに気づいてなかったんだ.......)

 

そんなことを思っていると、おねーちゃんの携帯から何かの通知音が鳴った。おねーちゃんは黙ってそれに目を通す。そのおねーちゃんの顔はまた驚いたような顔をする。そして、あたしに向かって一言告げる。

 

「.......なによ、それ。私の音は、ずっと同じよ。はやく出て行って。忙しいんだから」

 

「ん?.......うん?」

 

そう言うと、あたしはおねーちゃんの部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.......ありがとう、日菜」

 

 

 

 

 

『その日のおねーちゃんは、ちょっとだけ優しかったんだ〜。いつもは、全然あたしと話してくれないんだけど、その日は結構話してくれて嬉しかった。.......でもね、嬉しかったのはそれだけじゃなかったんだ』

 

──────────────────────

 

日菜はそこまで言うと、シェイクを一口、口に含んだ。

俺もそれにつられて、コーヒーシェイクを口に含む。

そしてこれまでの話を聞いていて、昨日の紗夜さんの話を思い出す。

 

───もしあなたよりギターの才能がある人が、あなたを目標にして.......そして、その才能のある人に追い抜かれそうになったら、あなたはギターを続けられますか?

 

おそらく、その才能のある人は日菜のことだろう。日菜の話が本当なら、ギターを始めたのは一ヶ月ほど前ということになる。そしてあのギターの腕前の紗夜さんが、そこまで言うのだから日菜のギターの才能は.......。

 

「ねー、連音くん、聞いてる?」

 

「.......あ、悪い、考え事してた」

 

「もう、ちゃんと聞いてよ〜」

 

「悪い悪い、でなにが嬉しかったんだっけ?」

 

「ん〜、疲れちゃたから、また今度ね!!」

 

日菜は笑いながらそう言う。

 

「なんだよ、それ」

 

対する俺も笑いながらそう言う。

とここで、俺は本来の目的を思い出す。

 

「ところで、日菜。結局俺の高校のこと誰から教えて貰ったんだ?」

 

「ん〜とね、リサちーから教えて貰ったんだ」

 

「リサちー.......リサさんの事か?」

 

「うん、そうだよ!! 最近おねーちゃんが、男の子とギターのセッションしたって言ってたからどんな人かな〜と思ってね。それで、リサちーなら、何か知ってるかなって思ったんだ〜」

 

その様子を見て、もう一つあることを確信する。

それは日菜の冒頭の発言、

 

───おねーちゃんに嫌われてたんだ。

 

.......日菜は紗夜さんに嫌われてないと思う。だって、嫌われてるんならこんな楽しそうに紗夜さんの事を話さない筈だから。

 

「あ、そうそう連音くん!! 明日、暇?」

 

ポテトを食べていた日菜が、ふと思い出したかように聞いてくる。

 

「ん、一応暇だけど?」

 

そう言うと、日菜が俺の目の前に自分の顔を寄せてくる。

 

「じゃあ明日、流星群見に行こうよ!!」

 

「.......へ?」

こうして明日の天体観測は、アイドルと見に行く事になりました。




この話を書くにあたって色々調べたのですが、さよひな氷河期の日菜視点の資料が少なくて、挫折しかけましたよ、ほんと。
少しでも、さよひな氷河期の雰囲気が伝わっているといいな.......

さて分かる人には分かると思いますが、実はこの日菜邂逅編とあるイベントを元に進めていくので、よろしくお願いします

それでは今回もお読み頂きありがとうございました。
また、次の話でお会いしましょう。

(実はこの小説、11/27に全体ランキング26位にランクインしました!!これも皆さんのおかげです。ありがとうございます!!)



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第十七話 星降る夜に 前編

どうもワッタンです。

さてまずはすみませんでしたぁぁぁ。
二週間振りの更新をお許し下さい。
仕方がなかったんや、疲れてたんです。許してください。

さて、今回は作者初の前後編物であり、イベントストーリーを基にしてます。

それでは、第十七話をどうぞ!!



日菜と話した次の日、ゴールデンウィーク初日。

駅前は色々な人でごった返していた。

キャリーバッグを引きながら駅構内へと向かう人、スマホをいじりながら駅の柱へと寄りかかって誰かを待っている人、家族連れで歩いてる人。

 

そんな中、俺は駅前のコンビニにで立ち読みしていた。

そんな俺の荷物は、泊り込みと聞いていたので一日分の着替え等、せっかく流星群が見れるので、それを撮る割とお高めのカメラ。

そして自分の肩にはギターケースがかかっている。

これは日菜から、

 

(「連音君のギター、あたしも聞きたいなあ.......ねえ、明日聞かせてよ!!」)

 

と言われ、ギターを持参していた。

まあ、はなから俺は持ってくる気満々だったので、二つ返事で了承した。

というか、天体観測にギターを持ってくるのは俺ぐらいしか居ないと思う。

 

読んでいた週刊誌を本棚へと収め、カフェオレを買ってからコンビニへと出ると腕時計で時間を確認する。

表示されている時間は、日菜と約束した時間を十分は過ぎていた。

 

「遅いな.......」

 

何かトラブルでもあったのだろうか?

そういえば日菜から、「明日はもう一人連れてくるね」と言ってたから、

その人を迎えにでも行ってるのかもしれない。

 

「.......ま、気長に待ちますかね」

 

そう言って、先程見かけた人のように駅前の柱へと寄りかかって待つことに決め、柱のある方へと向かおうとしたその時。

 

駅前のロータリーにテレビとかでよく見る、一台の高級車──ベンツが入って来た。心做しか駅前に居る人達がそのベンツへと目線を向けている気がした。

 

(ベ、ベンツだと.......!?)

 

そしてそのまま俺の傍で止まり後部座席の窓が開かれそこに乗っていたのは.......。

 

「おはよー!! 連音君!!」

 

「待たせたわね、レオン!!」

 

「日菜!? こころ!?」

 

天体観測の約束していたアイドルと、無邪気のお嬢様でした。

 

──────────────────────

 

駅前を出発してから数十分、黒服さんが運転する車に揺られていると、窓からの景色が都会のビル群から緑色へと変わり始めていた。こころによると、向かっている場所は山の上にある別荘だそうだ。

 

「.......というか、日菜が連れてくる相手ってこころだったんだな、驚いたよ」

 

「うん、そだよー。でもあたしも驚いたよ〜、連音君とこころちゃんが知り合いだったなんて〜」

 

日菜から聞いたのだが、なぜこころが居るのかというと元々二人で天体観測に行くという計画を立てていたらしい。

そしてその流れで俺も誘われたという訳だ。

 

それと、二人が天体観測に行く理由が「新しい星」を探すという理由を聞かされた時は、俺の思考は停止した。

 

「あたしも驚いたわ!!.......ところでレオン、ずっと気になっていたのだけれど.......」

 

こころはそう言うと俺の膝の上に置かれているギターケースを指さす。

 

「それってギターよね!!」

 

そう言いながらキラキラした目で見てくる。

そうか、こころの前では弾いたこと無かったけ?

 

「ああ、ギターだよ。日菜が俺のギター聞きたいって言うからさ」

 

「うんそうそう!!あたしが頼んだんだ〜」

 

「そうなのね!!ねえ、レオン。あたしもあなたのギター聞きたいわ!!」

 

「りょーかい、.......なら、今から弾くか!!」

 

「「おおっ!!」」

 

俺はそう言うと、ギターをケースから取り出す。

そしてギターのセッティングをすると、どんな曲を弾くか少し考える。

俺が考えている時も日菜とこころはワクワクという感じの眼でこちらを見ている。

 

(うーん、.......よし、あれを弾くか!!)

 

そして、ある曲を思いつきこころに声をかける。

 

「なあ、こころ」

 

「うん? 何かしら?」

 

「今から弾く曲、歌ってくれよな」

 

そしてこころの返事を聞かずに最初の伴奏を奏で始める。

俺が最初に弾いた曲は...........「えがおのオーケストラっ!」。

「ハロハピ」の初めての曲であり、作曲を初めて手伝った曲。

 

「?」

 

「.......!!この曲は.......」

 

「さ、こころ!!」

 

弾きながらこころに声を掛ける。

 

「.....!! ええ、分かったわレオン!! それじゃあ行くわ!! ──────」

 

結局この後、別荘に着くまで「えがおのオーケストラ!」だけではなく、日菜とこころから色々なリクエストを受け曲を弾く.......ちょっとしたライブ会場となった。

 

──────────────────────

 

車での移動を終え、こころの別荘へと着いた。

別荘は、正直こころのことだから豪邸みたいなものを想像していたのだが、普通のコテージだった。と言っても、一般的なコテージよりかは大きかったのだが。

 

「さあ、入りましょ!!」

 

こころにそう言われコテージの中へと入る。

だが、コテージに入って思わず「うへぇ.......」と俺は思わず呟いた。

中に入って見渡すとがまず目の前に居間があり、そしてその奥に外の景色を一望できるバルコニーが存在した。

 

だが驚いたのはそれではない。居間の奥.......そこにはテレビの中でしか見た事がない、すごく高そうな暖炉が置いてあった。

 

「わあ、暖炉だ〜!!」

 

そしてすぐに日菜が暖炉へと駆け寄っていた。

居間へ突っ立って、その様子を見ていたらいつもの黒服さんが現れた。

 

「鳴宮様、氷川様、お二人のお部屋とご案内致します」

 

「あ、すいません。ありがとうございます」

 

「ありがとう、黒服さん」

 

黒服さんがそう言うと、日菜がすぐにこちらへと戻ってきて黒服さんにお礼の言葉を言った。

そして、黒服さんに二階の客室へと案内される。

二階を上がってのすぐの部屋が俺、奥の部屋が日菜とこころの部屋だそうだ。

 

客室の扉を開ける。

部屋の大きさは勿論俺の自室より大きかった。

そして中には、すごく寝心地の良さそうなベット、クローゼット、少し小さめなデスク、そして驚いたことに窓を開けるとここにも小さなバルコニーがあった。

 

持ってきたキャリーバッグとカメラをベットの傍へと置き、ギターケースを肩から外し、ベットの上へと下ろす。

そしてバルコニーへと通じる窓を開ける。

 

窓を開けて飛び込んできたのは、見渡す限り山々の緑だった。そして遠くの方に山の透き通った空に野鳥が飛んでいた。

決して都会では見ることが出来ない景色。

そしてその景色は、俺に懐かしさを確かに感じさせていた。

 

「.......キレイだなぁ」

 

「んー?そう?」

 

「うん、こう懐かしさを感じるというか、自然の雄大さ.......って日菜!?」

 

バルコニーから外を見ていると、いつの間にか日菜が俺の隣に居た。

 

「わ、びっくりした」

 

「いや、俺もびっくりしたんだけど.......いつから居たの?」

 

「うーん、連音君がバルコニーに出た辺りから?」

 

「そんな最初から!?」

 

とりあえず日菜と一緒に部屋の中へと入る。

俺が最後にバルコニーから中へと入り窓を閉める。

窓を閉め振り返ると日菜はベットの端にちょこんと座り、俺のギターケースを眺めていた。

 

「.......ギター触ってみる?」

 

「え、いいの!?」

 

「うんいいよ、なんか触りたそうな感じしてたから」

 

日菜にそう言ってギターケースからギターを取り出し日菜に手渡した。

 

「ほい、日菜」

 

「ありがと、.......っと、大きいねこのギター」

 

「あー、そうかもな」

 

俺のギターは普通のアコースティックギター、逆にバンドとかで使うエレキギターは、アコースティックギターと比べて厚さが違う。エレキギターはアンプなど繋いで音を出す為厚さは薄い。逆にアコースティックギターは、弦での振動をボディの空洞で増幅させ音を出す為ギターは厚い。

 

そんなことを思っている間も、日菜は俺のアコースティックギターを色々と触っていた。

 

「.......ねえ、連音君」

 

「んー、どしたの日菜?」

 

「このギター.......」

 

と話掛けてきたが、その言葉が言い終わる前に、部屋の扉が開け放たれた。

 

「日菜、レオン!! 二人共、お昼ご飯にしましょ!!」

 

部屋に入って来たのはこころだった。

今の時刻は大体お昼すぎと言われる時間帯だった。

そしてこころは降りてこない俺達を呼びに来てくれたらしい。

 

「おー、分かった。すぐ降りる」

 

「ええ、早くして頂戴ね」

 

そう言うと、こころは部屋から出て行った。

 

「.......じゃあ降りるか、日菜」

 

「うん、そだねー。あたし、お腹ぺこぺこだよー.......あ、連音君ギター返すね」

 

「どういたしまして」

 

そう言うと日菜は俺にギターを返し、先に1階へと降りて行った。

俺は降りる前にギターケースをギターに収めた。

 

「.......日菜、何て言おうとしたのかな?」

 

一人そう呟くと、俺も先に降りて行った二人を追いかけた。

ちなみに昼飯は一階のバルコニーでのバーベキューでした。

予想通りお肉は最高級でした。

美味しかったです。




読んでもらったら分かったと思いますように、この話は「星を探しに」を基になってます。
ということは、あと三キャラほどバンドリのキャラが出ますんで、お楽しみにー。
後、これを執筆している時にAfterglowのライブ配信見てて語彙力を失いました。次はPastel*Palettes楽しみですねー。

それでは、次の話でお会いしましょう!!

(今から、ボックスガチャ周回してきます)


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第十八話 星降る夜に 中編

どうもワッタンです。
あと六時間で2020年も終わりますね。
何とか年内に最新話間に合いました。
年内最後のお話お楽しみください。

それでは、第十八話をどうぞ!!




昼食を食べた後、日菜とこころの二人は別荘の外に散歩に行ってしまった。

俺はというと、部屋で天体観測の時間になるまで部屋でゆっくりしようと思ったのだが、

 

(.....暇すぎる)

 

そう暇なのだ。

勿論部屋に帰ってからギターを弾いているのだが、如何せんギターを弾くことしかない。

ゆえに、徐々に暇と感じてきている。

 

「.....仕方ないか。俺も外に出よう」

 

せっかくこんな場所に来たのだからと、そう思いギターを部屋に置いて外に出た。

一応その時に、一階に居た黒服さんに一言声を掛けたので心配はないだろう。

 

外をフラフラすること数分。

近くに森.......とは言えないが小さな林を見つけた。

林のほうに近づいてみると、少しだけ舗装された林道が見えた。

 

「行ってみるか」

 

俺は迷うことなく林道へと入って行った。

 

外に出て数十分、林道に入ってから数分ようやく開けた場所へと辿り着いた。

そして辿り着いた瞬間、なぜ林道が舗装されているのか悟った。

 

──この景色を見させる為だ。

 

そこは不思議な場所だった。

一面に広がる景色は色とりどりの花で溢れていて

一言で言えばそう、森の奥にひっそりと存在する花畑だった。

花畑の中にある道を歩いていると、どうぞ寝転がってくださいと言わんばかりに、

人が寝転がるのにちょうど良さそうな芝を見つけた。しかも丁度そこだけ日が当たって気持ちよさそうだった。

.....そういえば、昨日も寝るの遅かったんだよなあ。

 

「.......もうこれはそう言うことだよね、うん」

 

ちょっとだけ、ちょっとだけ。

 

俺はそう呟くと、芝に寝転んだ。

そして、ゆっくりと目を閉じた。

 

──────────────────────

 

「───!!」

 

誰かが何かを喋っている。

そのことをぼんやりと感じれるが、いまだに俺の意識は完全覚醒と至らない。

 

「──て、──て、──君!!」

 

「起─て、─きて、連─君!!」

 

ん、この声は.......。

とここで、俺の意識はようやく覚醒へと至り、同時に目を開けていく。

目を開け、俺の目に映ったのはこちらをのぞき込んでいる顔、その髪色はアイスグリーン。

 

「起きて、起きて、連音君!!」

 

「.....日菜?」

 

「あ、やっと起きたー!!連音君が中々帰ってこないから、探しに来たんだ~。もう、ご飯の時間だよ?」

 

日菜にそう言われ、俺は体を起こし体を伸ばした。

当たりを見ると確かに、空は茜色に染まっていた。

 

「うーん、よく寝た.....日菜、今何時?」

 

「えとね~、.....今、ちょうど十七時半分だね」

 

俺がここに大体来た時間は、14時だったはず。

うん、いくら眠いからといって寝すぎだわ俺。

 

「わりぃ、寝すぎたわ......よし、じゃあ帰るか」

 

「うん」

 

そう言うと、俺たちは夕日で照らされるお花畑を後にした。

 

──────────────────────

 

「さあ、星を探しにいくわよ!!」

 

「うん、行こうか!!」

 

晩御飯の後、こころがそう言うと、

日菜と一緒にまたしても、外へと行ってしまった。

だけど今度は、俺も最初から一緒だ。

 

「.....そんな簡単に見つかるとは思わないけど....」

 

そう呟くと、外へとつながる扉を開けた。

扉を開けると、日菜とこころは二人揃って夜空を見上げていた。

 

「キレイだわ.....」

 

「うん、....あたし、こんなにキレイな星空始めて見たよ」

 

そんな二人に近づく前に、俺も夜空を見上げる。

 

「おお、確かに.....これは凄いな」

 

見上げた先には、時間的にはまだ満天と言えないがそれでも、満点の星空と呼ぶにふさわしい

星々を脅かす曇もない夜空が広がっていた。

 

「....久しぶりにこんな夜空見たな.....」

 

しばらく、俺はそのまま夜空を見上げていたが、

目線を空から落とし、いまだ空を見上げている二人に声を掛けた。

 

「二人とも、星探すんだろ?流星群が始まるまで探そうぜ」

 

俺がそう声を掛けると、二人は目線を空から落とし、

こちらに振り返った。

 

「ええ、そうね!!」

 

「うん!!」

 

──────────────────────

 

二人と歩きながら、こころに日菜と一緒に星座のことを教えたり、二人の本来の目的である、新しい星を探しながら森の中を歩いていた時だった。

 

──♪

 

「「「....!!」」」

 

森の反対側.......茂みの向こう側から、夜の山に相応しくない音が聞こえてきた。

一瞬何かの動物かと思ったが、すぐに頭を振る。

この聞こえてくる音.......いや、音色は.......。

 

「ギター.......か?」

 

そう、ギターの音色だった。

ただ、こんな山奥でギターを鳴らすとはいかにも怪しい.......

 

「誰かがギターを弾いてるのね!! 行ってみましょ!!」

 

そう言うと、こころは茂みの中を突っ切て行った。

 

「あっ、待ってこころちゃん」

 

それに日菜が続く。

 

「あ、おい二人共!! 危ないって」

 

だが、俺の制止も虚しく二人は、ギターの音色の発生源に向かって走って行った。

 

「.......はあ、行くしかないか」

 

流石に二人を放っおくわけにもいかず、もし二人に何かあったら、黒服さんや紗夜さんに顔向けできない。

俺は茂みの中に入り、二人の後を追った。

 

(.....というか、俺も夜の公園でギター鳴らしてるから、怪しい人なのか?)

 

いや、そんな疑問はさておき二人に追いつかないと。

幸いなことに、茂みはそんなに深くなく、すぐに開けた場所へと出た。

茂みから出ると、日菜とこころは誰かと.....三人?位の人と話しているようだった。

 

「二人共、急に走.......「「あっ...」」ん.....?」

 

茂みから出ながら、日菜とこころの二人を声を掛けたのだが、

帰ってきた声は二人の声ではなく、

 

「えっ.......つぐみと蘭?」

 

Afterglowの羽沢つぐみと、美竹蘭がそこに居た。

 

なんで二人が.......という疑問より先に、一人の女の子が前に出てきた。

まず、目を引くのは髪型だった。なんというか、猫耳?の髪型をしていて、星の形をした髪で前髪を止め、

そしておそらく先程、耳にしたギターの音色、その根源と思われる赤色のギターを女の子は持っていた。

 

「わぁ、また人が出て来た!! あなたも星を探しに来たんですか?」

 

女の子が話し掛けてきた。

 

「えーと、そうだけど.....君の名前は?」

 

「あ、戸山香澄です!!」

 

 

「戸山香澄.....うん、戸山さんね。鳴宮連音です、よろしく」

 

「はい!!あと香澄で大丈夫です!!」

 

ちなみに、美咲が言っていた花咲川に居るもう一人のこころみたいな人が

香澄ということが分かるのは、もう少し後だったりする。

 

──────────────────────

 

香澄達との邂逅が終わると、日菜の

「香澄ちゃん達も山の上にあるこころちゃんの別荘に来なよ」

という言葉によって、香澄たちはこころの別荘に来ることになった。

ちなみに香澄達も今日の流星群をツアーに申し込んで、この山に見に来たらしい。

 

「というか、あいつら元気すぎ.....」

 

「....同感...だね」

 

「....あはは」

 

香澄たちがこころの別荘に来るってなった瞬間、

日菜とこころと香澄は俺たち三人を置いて山の上にある別荘へと走って行ってしまった。

もうそれこそ、バビューンというような効果音が出る感じで。

 

というわけで俺たち三人....蘭とつぐみと俺の三人は、

夜なので走ることはせずゆっくりと別荘に向かっていた。

 

「....あの、連音君」

 

「ん?どうした、つぐみ?」

 

歩いているとつぐみから、話しかけられる。

 

「その、.....榊原集君って知ってる?」

 

「えっ、集!?」

 

つぐみから出た言葉に驚く。

何故、つぐみから集の名前が出たのか。

もしかして、あのバカ(集)が何かをやらかしたのか......。

 

「えーと、つぐみ」

 

「は、はい?」

 

仕方ない、ここは一応俺から謝っておこう。

 

「あのバカが、ごめんなさい」

 

「え、え?」

 

「.....なんで、アンタが謝ってるのよ」

 

つぐみ達から話を聞いてみると、集のことを俺に尋ねた理由は、

どうやら集の連絡先を知りたかったそうだ。

なんでも集に、つぐみが困っていた時に本当にすごく助けられたらしい。

けど、その時にお礼も言えずに最近会えてないから、お礼を言いたいそうだ。

 

「あの集に~?」

 

あえて、もう一度言おう。

あの集に~?

真面目な時は真面目なのに、オフの時は凄く抜けてるあの集にか?

 

「正直信じられないんだけど......」

 

「アンタ、自分の友達なのに信じられないの....?」

 

「いや、まあ一応信頼における人物なんだけど、いかんせん俺の前でみせる言動とのギャップの差がなぁ」

 

「何それ.....」

 

まあ、つぐみが連絡先を知りたいのなら、教えても大丈夫か。逆の場合は絶対教えないけど。

そう思い、蘭の隣で歩いているつぐみに話しかける。

 

「分かった、教えるよ。集の連絡先......けどスマホ別荘にあるからその後で大丈夫か?」

 

「...!!うん、ありがとう!!連音君!!」

 

そんな話をしながらこころの別荘へと向かう。

流星群まで、あと数時間。

 




さてようやく、バンドリの主人公とこの作品の主人公が出会いました。
実は香澄はもうちょっと後での登場予定だったのですが、ちょっと早く出しました。
最後の下りは、そういうことです←どういうこと?

さて、今年の投稿はこれで最後です。まさか自分がバンドリ小説を書くことになるとは思いもよりませんでした。
決して万人受けする小説ではないことをわかってますが、今年この小説を見てくださった皆様ありがとうございました!!

来年も精進して参りますので、応援よろしくお願い致します。
それでは皆様、次のお話でお会いしましょう!!
しゃーしたー


(巫女友希那当たりましたー)



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第十九話 星降る夜に 後編

あけましておめでとうございます!!
今年も、よろしくお願い致します.......。
ということで、どうもワッタンです。

新年一発目がこんなに遅くなって申し訳ございません!!
さて、今回で「星を探しに」のストーリーは、終了です。
最後まで読んでくれると幸いです。

それでは、第十九話をどうぞ!!



「わぁ、暖炉だぁー!!」

 

コテージの扉を開けると、先に着いていた香澄が暖炉に近づいているのが見えた。

その光景に午前中の日菜と姿が重なり、自然と笑みを浮かべる。

 

「広っ.....!!」

 

「す、すごいね蘭ちゃん.....」

 

蘭とつぐみは、コテージに入ってから辺りを見渡している。

 

(やっぱり、あんな反応になるよな。広すぎだよ、ここのコテージ)

 

壁に掛かっている時計を見ると、時刻は午後九時を回っていた。

流星群の時間は午前零時にかけてから......つまり、あと三時間は暇になる。

一瞬だけ考え事をし、そして皆に流星群までの暇つぶしとして、ある提案をする。

 

「.....とりあえず、流星群まで時間あるし皆でなにか話そうぜ」

 

──────────────────────

 

「.....起きませんね」

 

蘭がぼそりと呟く。

その目の先には、香澄とつぐみが仲良く夢の世界に旅立っていた。

 

こころに関しては、辛うじて起きているが首がカクンとなって夢の世界へと旅立ちそうだ。

 

ちなみに、眠くならないように香澄が言っていた「星の鼓動」など、皆と色々と話していたが、結果的にこうなっていた。

 

今の時刻は、午前零時前。

 

「まあ、もう普通寝てるもんな。こんな時間は」

 

ちなみに俺は昼に寝たおかげで、いつもより快調そのものだ。

 

「つぐちゃんは頑張ってたけど、やっぱり睡魔に勝てなかったかー」

 

そして、日菜と蘭もピンピンしている。

 

「そろそろ、星を見に行くのにいい時間だと思うんですけど.......」

 

「そうだね!! ちょっと見てみるよー」

 

どんな風に笑っているのかなー、と言いながら日菜は窓のほうに向かい、カーテンを開けた。

 

「.....わあ~! すっごーい! 見てみて、星がキラキラだよ!! 香澄ちゃん、つぐちゃん、こころちゃん! 皆、起きて起きて-!!」

 

窓の外を見た日菜が寝ている三人に対して起きるように呼び掛ける。

 

「うぅ.....眠い.....」

 

「つぐみ、ほら、外見て。眠気覚めるから」

 

蘭はつぐみを起こし、俺は隣に座っていたこころを揺さぶった。

 

「おーい、こころ起きろー。流れ星見えるぞー」

 

「え、流れ星?」

 

お、すぐ起きた。

 

「.....ん....むにゃ....どしたの、みんな?」

 

そうこうしていると、香澄もようやく起きた。

香澄に今の状況を伝えると日菜が、

「折角だし、外で星を見ようよ!」という言葉で、俺達は全員外へと出た。

そして、全員で夜空を見上げる。

 

「わぁ........っ!!」

 

そう言ったのは香澄か、こころか或いは全員だったのかもしれない。

 

夕食後に一回夜空を見た時も、すごい星が見えていたのだが、この時間帯の空はあの時の空と比べ物にならないくらい、空が星々で溢れていた。

 

そして流れ星が幾筋も輝きはじめており、星が降ってくるようだった。

いや、それは実際に星が降る夜だった。まるで夢の景色のように、それは噓みたいに綺麗な夜空だった。

 

「見て!空のどこ見ても星っ!! ....キレイだなぁ.....」

 

「すごい.....!」

 

「ホントだ.....!こんなにたくさんの流れ星、初めて見た」

 

香澄につぐみ、そして蘭がそれぞれそう呟く。

すると日菜が話し出した。

 

「前に本で読んだんだけど、今輝いてる星の光って何年も.....うん、何百年、何千年も前のものなんだって」

 

「な、何千年.....!?」

 

つぐみが驚いた声を出す。俺以外の皆が驚いた声を出していた。

 

「うん、そうだよー......ってもしかして連音君は知ってた?」

 

「うん、知ってたよ.....まあ、伊達に星空を見てないからな」

 

「さすがだね、連音君!!」

 

日菜に褒められた。

このように自然に光る星を「恒星」という。

 

「恒星」は必ず「星雲」からできるのだが、まあこれについては、皆に言わなくてもいいだろう。

今はこの夜空を堪能することにする。

 

 

「素敵ね! あの星たちからは、どんな風に見えてるのかしら?」

 

こころがそう呟く。

 

「それは......未来人?」

 

こころの疑問にそう答える。

すると皆が口々に「それだ」と答え、皆で笑いあった。

 

──────────────────────

 

「.....何だかランダムスターを弾きたくなってきちゃった!」

 

そう言うと香澄が、自分のギターを掲げた。

それを見たこころが、「じゃあ、一緒に歌いましょ!」と言い、一緒にセッションしだそうとする。

 

「だ、ダメだよ、こんな時間じゃ管理人さんに迷惑になっちゃう!」

 

「.....香澄、夜はやめときな」

 

「え~、でもでも、今すっごく弾きたいの!」

 

「今はもう少しだけ楽しんでいよ、この星空を......」

 

「そうだよ、せっかくの夜空なんだから。ね?」

 

「あ、そっか......うん、そうだね」

 

「そうね!楽しみましょう!!星が降り注ぐ夜空を.......!」

 

蘭とつぐみにギターを弾くのを止められ、降り注ぐ星を皆で見始めた。

ただ一人を除いてだが......。

 

──────────────────────

 

「......夜来ても綺麗だな、此処は」

 

昼間とはうって雰囲気が違う花畑に、あの時とは違い自分のギターを持ち訪れていた。

 

まあ、何故一人で来たかというと、いつもの日課をする為だ、だけどコテージから近いと迷惑がかかる為、こうして花畑に足を伸ばしている。

 

ここなら、コテージから遠い為、迷惑をかけることはほぼないと判断したからだ。

 

ちなみに、ちゃんと黒服さんには話を通している。

 

昼間に寝転がっていたスペースへと座り、ギターケースからギターを取り出す。

そして慣れた手つきで、もう体に染み付いてるギターのチューニングを済ましていく。

 

「よし、こんなもんか」

 

チューニングを済ませ、ギターを構える。

 

「よし、弾きますか!!」

 

「何、弾くの?」

 

「うーん、まだ決めて.......え?」

 

ギターを弾く格好のまま俺の隣へと首を動かす。

そこには、この場所に居るはずのない人物.......

 

 

日菜が居た。

 

 

「え、.......えええええええええええ!?」

 

「.......?どうしたの、そんな驚いて?」

 

そう言いながら、日菜は首を傾げる。

その光景にデジャヴを感じる。

 

「いやいや、驚くよ!! みんなと流星群見てたんじゃないの!?」

 

「うん、見てたんだけど、連音君がこっそりどこか行ったの見えたから、後をつけてきたんだ〜」

 

「な、なるほど.......」

 

「うん!!.......で、ギター弾くの連音君?」

 

と、日菜はキラキラした目で尋ねてくる。

 

「ああ、うん、弾くよ。日課だからな.......なにかリクエストある?」

 

「うーん.......思いつかないから、連音君が好きなように弾いて?」

 

「分かった」

 

日菜がそう言ってくれたので、自分の弾きたい曲を弾くことにする。

だけど、まだ何を弾くか決めていない。

 

(さて、何を弾くか.......あ、そういえば.......)

 

と、ここで香澄が言っていたある言葉を思い出す。

それは香澄が昔聞いた星の鼓動について話していた時、香澄がこう言っていた。

 

「あの音は、私の始まりの音.......私はあの音を聞いて、何かが始まる気がしたんだ.......」

 

始まりの音───、つまり香澄にとっては自分の原点の音。

俺にとっての原点の音.......、

 

そこまで考え、俺は最初の音を奏でた。

俺がギターを教えて貰ってから、初めて全部弾いた曲.......、

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

良い意味でも、悪い意味でも印象に残っている.......

 

その曲の名前は、「ニブンノイチ」。

 

(よし、決めた)

 

そうして、何千回、何万回と弾いた曲を奏で始めた。

 

──────────────────────

 

最後の音を奏終え、ギターの手を止め、目線を日菜へと移す。

 

日菜はと言うと、俺がギターを弾き終えてから拍手をしていた。

 

「ふー、どうだった?」

 

「うん、すごく良かったよ。やっぱり、連音君の音ってるんっ♪ってくるね!!」

 

日菜にそう尋ねると、日菜はいつものよく分からない言葉と共に褒めてくれた。

ただ、まあ悪い気はしない。

 

空を見上げると、流星群は相変わらずその光を降らせていた。

だが、時間的にそろそろ流星群が終わる時間帯だ。

そろそろ帰ろう.......、

 

「ねぇ、連音君」

 

か、と言い出そうとした時に、日菜から話かけられた。

 

「うん?どし.....「ありがとね」.....へ?」

 

日菜に突然、「ありがとう」と言われ、思わず変な声が出る。

 

「ど、どういたしまして.....? 何か分かんないけど......」

 

「ありがとう」と言われるが、別段日菜にお礼を言われることは、特にしていない。

お礼を言われる理由を探していると、日菜が再び言葉を紡いだ。

 

「.....あのね、あたしから言うのも変なんだけど.....おねーちゃんのバンドを..........「Roselia」を助けてくれて........もしあのまま、「Roselia」が解散してたら、おねーちゃんはギターを......また、辛い思いで続けちゃうとこだったと思う....だからおねーちゃんを助けてくれたことのお礼だよ」

 

そう言った。

そういうことか.......、紗夜さんへのお礼か。

でも、それは.......、

 

「.....俺は別に......ただあの時は何とかしなきゃって思って.........、リサさんが泣いたままが嫌だったから、.......元気になって欲しくて.......体が動いただけだよ」

 

そうあの時はその為の理由だけに、

もう目の前の人に悲しんで欲しくないから.......

動いただけだった。

そして結果的に、「Roselia」の解散を防げただけだ。

 

でも、日菜は、

 

「ううん、それでもいいの。ありがとね!!」

 

顔に笑顔を浮かべながら、そう言った。

その顔は、

 

 

 

 

 

初めて会った時に感じたように綺麗に感じた。

 

──────────────────────

 

そして、花畑からのコテージへの帰り道、

もう空には、流星群の光は見えなかった。

現在、俺は........

 

 

 

 

「......んぅ.......すぅ」

 

日菜と一緒に帰っていた。

だが、日菜の場所は俺の隣ではなく、背中の上だった。

 

.....どうしてこうなった。

 

なぜこうなったのかというと、それは十分前に遡る。

 

十分前、コテージに帰ろうとしたら、日菜にもう一曲だけとせがまれて、

仕方なく一曲だけ弾いたのだが、その弾いてる最中に、隣の日菜が俺の肩に寄りかかってきた。

 

「日菜?」

 

日菜に呼びかけるが、寄りかかってきた日菜は何の反応も示さない。

それよりか、寝息を立てていた。

それはもう、規則正しく。

 

(あれ、これって......デジャヴ?)

 

 

 

とまあ、こんな感じでいつぞやかのリサさんみたいに、

俺は日菜をおぶっている。

ただ、あの時と違ってギターケースを自分が持っている。

なので重量的には、あの時より重い筈なのだが.......、

 

(というか、日菜さんといいリサさんといい、女の子って軽いな)

 

物凄く軽かった。

ちゃんと、ご飯食べてるのか?

とまあ一瞬そんなことを考え、ふと夜空を見上げる。

相変わらず空の星々は、爛々と輝いていた。

 

(.......まあ、こういうのも悪くないかな.......また来れたらいいな.......今度は.......と)

 

と、そんなことを考えながら、コテージへの帰路を急いだ。

コテージについた時、蘭からとんでもない目で見られたのが、怖かったです。

 

 

 

 

 

ちなみに、帰るときに色々と俺の中の煩悩が邪魔していたことは割愛しておく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.......あれ、連音から連絡入ってる........画像?」

 

昨日からゴールデンウイークということもあり、

羊毛フェルトをつい夜遅くまで作って、いつもより遅めに起き、ベットのスマホを手に取ると、連音からメッセージが届いていた。

 

(珍しいな.....?)

 

送られてきたメッセージを開き、

添付されてた画像を開く。

そこにあったのは.......。

 

「わぁ........綺麗」

 

送られてきた画像は、星空の画像だった。

きっと昨日は流星群の画像だろう。一応、自分の部屋から少しだけ見えたが、送られてきた画像は、その部屋から見えた星空よりとてつもなく、壮大で綺麗だった。

 

「.......そして、もう一枚は?」

 

と、もう一枚の画像を開く。

その画像は車でこころや、他の人達が眠っている画像だった。

 

「ふっ.....何このメンバー.....まあ、でもみんなよく寝てるね.....」

 

 

笑いながらそう言うと、あたしは星空の画像をスマホの待ち受けへと設定した。

そして朝ご飯を食べる為、一階へと降りる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

........今度は、あたしも連れて行ってもらおう。




新年一発目なんでちょいと文字数多めでした。
とにかくこれで、「星を探しに」のストーリーは終了です。
楽しめてくれたら幸いです。

相変わらず、更新遅めのこの小説ですが、気長に待ってくれると有難いです。それでは今回も読んでくれてありがとうございました。

また次のお話でお会いしましょう!!

(モンハンの体験版おもろいね.......ところで僕が劇中で使う曲、皆さん分かってるのかな?)



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第二十話 報連相はしっかりと

どうも、2週連続土曜出勤でへとへとになっていたワッタンです。
おかげで、執筆する時間が削られてすごく大変でした.......。
でも、何とか完成したので投稿します。

それでは、祝二十話目をどうぞ!!
した


「おお!! よく撮れてるな」

 

「だろ?」

 

亮が、先日俺が撮った流星群の写真を見ながら感嘆の声を漏らす。

現在は月曜の午前中、だが今世間はゴールデンウィークの真っ最中、俺達の居る場所はCiRCLEの受付.......つまりアルバイト中だ。

 

今日の仕事内容は主に受付業務で、この前CiRCLEのアルバイトに入ったばっかの亮と一緒に業務をこなしていた。だが、休日にしては比較的、客の入りが少ないためこうやって、亮と話している。

それともうひとつ、ここに居るのは亮だけではなく.......。

 

「どれどれ?俺にも見せてくれよ」

 

なぜだか、集も居た。

 

「なんで居るんだよ.......」

ため息をしながらそう呟く。

 

「いやー、この後ちょっと早めのバイト何だけどそれまでお前らに冷やかしを.......」

 

「「帰れ、さっさとバイト行け」」

 

集が言い終わらぬうちに、亮と二人で言葉を言い放つ。

 

「酷っ!! しかも二人揃って.......」

 

「いや、当たり前だろ。誰が好き好んで冷やかしの客を相手しないといけないんだよ」

 

亮が集に言葉を返す。

全く持ってど正論である。

それを聞いた集がバツの悪そうな顔をする。

 

「それは、.......まあ、そうだな。というか冷やかしに来たわけじゃなくて、.......ライブハウスってどういう所かなぁって思って、バイトの前にちょっと来てみたわけさ、ちょうどお前らが働いてるし.......」

 

「ライブハウスが気になる? なんでまた?」

 

ライブハウスが気になると答えた集に、思わず聞き返す。

 

何故、ライブハウスなんか気になるのだろうか?

という俺の疑問は、次の集の言葉によって解決した。

 

「いやぁ、知り合いがバンドやってるんだけどさ。 しかも話題のガールズバンドとやらでよ、まぁそれでどういうとこで演奏するのかなって気になった訳で.......」

 

「ガールズバンドの知り合い.......ああ」

 

(ああ、あの人達(Afterglow)か)

 

なるほどな、と心の中で納得する。

流星群の翌日、つぐみに頼まれて集に連絡をして確認した所、どうやら本当に集はつぐみと知り合いだったようだ。

 

つぐみに頼まれた集の連絡先を渡し、そして今、集は「羽沢珈琲店」.......つまり、つぐみの実家でアルバイトとして働いている。

集曰く、「頼まれたから」と言う理由で働いているそうだ。

 

「ふーん、なるほど。 お前にそんな知り合いが居るとはな」

 

亮が集の理由を聞いてそう呟く。

 

「まあ、色々あったんだよ、.......と、もうこんな時間か、俺もう行くわ。 どうやら今日新人の子が来るらしいんだけど......つぐみは用事があるみたいで、新人の子に色々と、つぐみの代わりに教えてあげないといけなくて、早めに行かないとさ」

 

そう言うと集は、受付の前から離れ背後の自動ドアへと歩き出した。

その後ろ姿に俺は声を掛ける。

 

「つぐみに、迷惑掛けるなよー」

 

「おうー」

 

そのような返答が帰ってくると、集は自動ドアの向こうへと消えてった。

 

ちなみに、その新人の子がPastel*Palettesのキーボード担当であり、集の推しアイドルの「若宮 イヴ」だということは、また別のお話。

 

──────────────────────

 

現在時刻は午後2時。

今日は、午前9時からシフトに入っているので、もうそろそろアルバイト終了の時間だ。

 

「しっかし、今日そんなに客来なかったな」

 

「ああ、そうだな.......いつもこんな感じなのか?」

 

「いやぁ、本来ならもうちょっとお客さん居るんだけど......まあ、ゴールデンウイークだからみんなどこかに、行ってるのかもな」

 

「そんもんか.......じゃあ、お先にお疲れ」

 

「おう、お疲れー」

 

そう言うと、亮は先に事務所へと姿を消した。

 

(さて、俺もそろそろ引継ぎしないと......)

 

次のシフトの人の為に色々と準備していると、CiRCLE入口のドアが開く。

お客さんに挨拶をしようと入口の方に目線へと移す。

 

「ついたわ!! ......って、今日はレオンが居るわ」

 

「あ、ホントだ。 久しぶり、レオくん!!」

 

「こ、こんにちは.......」

 

「いらっしゃい、なんか久しぶりにこころ以外、見た気がする」

 

来たのは、こころ達「ハロー、ハッピーワールド!」だった。

そして、先程の俺の失礼な発言に対して美咲が反応する。

 

「それはちょうど連音が、あたしらが来る日に居ないだけでしょ」

 

「.......確かにな。 で今日は何時間?」

 

といつものように、スタジオの利用時間を尋ねるが、

美咲がきょとんとした顔をする。

 

「あれ連音? もしかして聞いてない?」

 

「え? 何が?」

 

美咲の言葉に首を傾げる。

 

「その様子だと聞いてみたいだね......合同練習のこと」

 

「合同練習?」

 

CiRCLEの受付にて、俺の素っ頓狂な声が響き渡った。

 

──────────────────────

 

「......つまりこの店(CiRCLE)を盛り上げるために、ガールズバンドを集めたライブイベントをすることになったと.......そしてそれで出演が決まったのは、五バンド......」

 

「Poppin' Party」、「Afterglow」、「Pastel*Palette」、「Roselia」、そしてこころ達「ハロー、ハッピーワールド!」の五つのバンドが参加すらしい。

そしてこのメンバーを集めたのは、香澄らしい。

ホント、行動力すごいあるなあいつ。

 

「んで、そのイベントの前にミニライブをすることになって、その練習は五バンド同士で練習することになったと......」

 

「うん、そういうことだね」

 

「ふむ......」

 

一言そう呟き、オムライスを一口頬張る。

 

 

「まあ、話は分かった。じゃあそれを踏まえての一言」

 

「うん、どうぞ」

 

 

「俺、今日の今日までその話聞いてません」

 

全くもっての初耳です。

それを聞いた美咲は苦い笑いを浮かべた。

 

「あー、やっぱりそうなんだ」

 

「うん、聞いてない......後でまりなさんに問い詰めよう」

 

そう言うと、オムライスを食べ始める。

アルバイトを終えた後、俺は外のCiRCLEに隣接されている外のカフェテリアで

遅めの昼飯を食べながら、美咲の説明を聞いていた。

 

「というか、よく日........「Pastel*Palette」の出演の許可とれたな」

 

「ああ、なんか事務所の方も乗り気だったらしいよ?」

 

美咲はそういうと、自分で頼んだコーヒーを口につける。

そしてふと気になったことを尋ねる。

 

「ところで、今日どこのバンドで練習すんの?」

 

「えーとね、「Afterglow」の人達とやることになってるよ」

 

「へー、「Afterglow」とかぁ」

 

とここで、先程「CiRCLE」へと来ていた、集の言葉を思い出す。

集は、今日つぐみが用事があるっと言っていた。そしてその用事は恐らく、今日の合同練習の用事なのだろう。

 

「あれ、知ってるの?」

 

「まあ、何回か見かけたことも.......というかAfterglowに知り合い居るからな」

 

「ふーん、そうなんだ.......もしかして、今回参加するバンドの人達って知り合いだったりするの?」

 

「あー.......まあ、全員知り合いって訳じゃないけど.......」

 

「.......どうなってるのよ、あんたの人脈.......」

 

そうこうしてるうちに、オムライスを食べ終わる。

 

「.......ま、合同練習頑張ってくれよ。ご馳走様」

 

そう言ってオムライスの食器を返却口へと持ってい.......、

 

「え、何言ってんの? 連音も出て、合同練習」

 

ガシッと立ち上がろうとした、俺の手を美咲が掴んでいた。

 

.......今、何て言ったんだ?

 

「.......ごめん、俺の聞き間違いかな。 今何て?」

 

「連音も出て、練習に」

 

うん、聞き間違いじゃなかった。

 

「俺、バイト終わりなんだけど」

 

「大丈夫。 あたしも、昨日部活の後にバイトしたから」

 

「.......この後実は用事が.......」

 

「へー? バイトしてた人が用事があるのにも関わらず、カフェテリアでゆっくりしてるんだね?」

 

.......うん、完全に詰んでるねこれ。

まあ、うすうすこんな予感はしてたよ.......。

 

「.......俺が居ても、何も出来ない気が.......」

 

「大丈夫、居るだけで、こころ達が暴走してもあたしへの負担が少し減るから」

 

と、ここまで美咲はニコニコと顔は笑っているが、本心からは笑っていないような顔で話してくる。

 

「.......はあ、分かった。 合同練習に付き合ってやるよ.......」

 

「うん、ありがと。 助かるよ」

 

仕方ない。

どうせこの後、美咲の言う通り本当に暇だったし、それと久々にハロハピの演奏も見たいしな。

と、そんなことを思いながら、今度こそ返却口へと食べ終わった皿を返却しに行った。

 

 

この後、三十分後にAfterglowも来るのだが、なんというか、薫さんがスタジオの扉を引き戸なのに、押して入ろうとして、Afterglowの人達がそれを見て困惑したり、俺もハロハピの演奏に貸し出しのアコギで参加されられ、ハロハピのその雰囲気に感化されつぐみが自分の担当楽器を変更宣言.......と、本当に色々なことがありましたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

あ、ちゃんとまりなさんには怒っておきました。

ホントにしっかりしてください.......。




今回は一話完結のほのぼの回でした。
そして、一つ。
実は僕がオリキャラを作る時は、そのキャラが主人公になれることも想定してます。ということはこの小説完結したら、亮か集の外伝.......書くかもね?

さて、いよいよ次回はハロハピがメインのイベストです!!
気長にお待ちください。
それでは、次の話でお会いしましょう!!

(実は一月十五日に、この小説が再び日間ランキングの26位にランクインしました。そしてお気に入りも遂に100超えました!!これも読者の皆様のおかげです。ありがとうございました!!)


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第二十一話 大体犯人の正体は知り合いだったりする

どうも、ワッタンです。
ここしばらくは、どうにか日曜日に投稿できそうです。
ほんと更新頻度が高い人は尊敬します。
まあ、これでもいつかは週二投稿しようと頑張ってるんですけどね......


そんなことはさておき、第二十一話をどうぞ!!



......どうして、こうなった?

あたしこと、奥沢美咲はただ目の前の光景に困惑していた。

あたし達、ハロハピのメンバーが船に乗ったら、突然停電が起きた。

そして、電力が復活するとあたし達の目の前には、

 

「ふふ、私の名は怪盗ハロハッピー、今宵、私の欲しいものをいただきにきたのさ.......突然だが、この麗しいお嬢様を攫わせて貰うよ」

 

怪盗の格好をした薫さんが居たからだ。

そして、怪盗ハロハッピー(薫さん)は服を着替えてきた花音さん(何故か着替えてきた服装は、どこかのお嬢様みたいだった)を自分の元へと抱き寄せる。

 

.......だけどそれだけで終わることなく、

 

「ひゃっ!? 」

 

「ああ、そんな不安そうな顔をしないで、お嬢様....... さて、あと一人私の助手を紹介しよう!!」

 

そう言うと、怪盗ハロハッピーは手を頭上へと掲げる。

 

そして掲げると同時に、黒い影が二階から飛び降りてきた。

飛び降りてきた人は見事に着地し、姿勢を正すとマントを翻す。

 

「レディース、アンドジェントルメン!! 紹介に預かり参上した。怪盗スマイルスター!! さあ、今宵。船上で華麗なるショーをお見せしよう!!」

 

.......飛び降りてきた人は、怪盗ハロハッピーの色違い衣装を着た、連音だった。

 

頭を抑えあたしは、更に困惑する。

 

.......ほんと、どうしてこうなった.......?

 

──────────────────────

 

そもそも何故、あたし達が船の上に居るのか、それは三時間前に遡る。

あたし達は、こころの家へと集まっていた。

 

「はいはい、ちゅうもーく。次のスタジオ練習の日を決めたいんだけど、みんなこの日はどう?」

 

普段個人練習の時は、スタジオを一人で借りるか、膨大な敷地面積を誇る弦巻家の一室を使わせてもらっているのだが、全員の都合が悪くない時はスタジオで練習をしている。

ただ.....、

 

「すまない美咲、その日は演劇部の発表会なんだ....... 主演の私が出ないわけにはいかないからね。 練習には参加できないな」

 

と、薫さん。

 

「はぐみもこの日はソフトボールの試合があるから、出られないや!! みーくんゴメン!! 」

 

続いて、はぐみ。

 

「うーん.......私もこの日はバイトがあるからダメかも......」

 

そして最後に、花音さん。

とまあ、意外にもうちのバンドはこんな感じで、色々とメンバーが多忙で最近はしばらく一緒に練習できていない。

かくいうあたしも、部活やバイトなどをしているので割と多忙な方だ。

 

「やっぱ、全員の都合揃えるの難しいかぁ........ホントはそろそろスタジオで合わせたいけど」

 

あたしがそうぼやくと、

 

「そういえば、前にスタジオに入ってから、練習できてないよね」

 

「今日ぐらいしか、全員が集まれる日なかったもんね。どんなに早くて集まれても二週間後かぁ....」

 

はぐみがそう呟き、花音さんも口を開く。

どうやらメンバー全員、最近集まれないことを気にしてたみたいだった。

 

「....まあ、それまでは今まで通り各自で練習したり、時間がある人同士で集まって練習するしかないんじゃないかな?」

 

「そうだよね、それがいいかも。こころちゃん、どうかな?」

 

と花音さんが、こころにこれからの方針について確認を取った....のだが。

対するこころは、花音さんが尋ねても何の反応も返さない。何か考え事をしているようだった。

 

「こころ....ちゃn「決めたわ!!」ふ、ふえぇぇぇっ!?」

 

何の反応も示さないこころに心配になった花音さんが、再びこころに話し掛けた瞬間、こころが何かを閃いたかのように、大声を出した。

そして、こころが言葉を続けた。

 

「そうよ、決めたわ!! 船に乗りましょう!!」

 

と、宣言する。

 

(.....はあ、またですか)

 

あたしはため息をつく。

こころと出会ってから、このようにこころはいつも突発的に何かしらの行動を起こすということが分かった。

 

そして、こころがそのような行動をするときはいつも必ず理由がある。といっても、それが常識的な目線で見て、ちゃんとした理由になってるかどうかとは別にだが.....。

 

とにかく、冷静にこころに聞き返す。

 

「は? 答えになってないんだけど......いきなり何?」

 

今度はあたしが尋ねると、こころはとびきりの笑顔とともに答えを返した。

 

「船よ、船。 大きな船がいいわね!! みんな、今日はまだ時間あるわよね? こーんないに天気がいいんだもの!! ナイトクルーズに行きましょう!!」

 

つまり、こころは今日の天気が良いからみんなと船に乗りたい....。ということだった。

そんなこころの船に乗りたいに対してメンバーの反応は、

 

「船!? こころんサイコー!! はぐみ乗りたいっ!!」

 

「心地よい潮風に吹かれ、物思いにふける夜....... うん、悪くない」

 

「ふっ、ふえぇぇぇ〜」

 

花音さんはともかく、あと二人の反応は何となく予想できていた。

 

薫さんとはぐみの行動を予想できるようになったということは、素直に喜ぶべきなことのか.......。

いやいや、そんなことより。

 

「いやいや、ちょっと待ってて。 そもそも今日は次の練習を決める会議の日でしょ? それがなんで船.......」

 

「だって、久しぶり全員揃ったのに、話してるだけなんてつまらないじゃない!!」

 

「そもそも、楽しむ前提で集まってないから」

 

結局その後、こころの号令により会議はすぐにお開きとなり、黒服さんの運転する車によって、あたし達五人は港へと連れてかれた。

 

てっきりあたしは、乗る船はクルーザーみたいな船かと思っていたのだが、目の前に停泊していたのは、豪華客船「スマイル号」だった。

 

(いやいや、めちゃくちゃ大きな客船じゃん!! .......相変わらずとんでもない金持ち.......)

 

「さあ、乗り込みましょ!!」

 

いつの間にか、こころは赤いドレスに着替えていた。

こころ曰く、いつも船に乗るときはこの服だそうだ。

 

「.....前からだけど、ほんとにこころが何考えているのか分からないよ」

 

「理由なんていらないんだよ。 考えるより感じろ....そういうことさ」

 

確かに、薫さんの言う通りかもしれない。

そしてそれがこころ達、三バカと上手く付き合う秘訣だったりするのかも。

ただ、あたしには感覚で感じることが出来ていないのだけれども

 

「はぐみビシビシ感じちゃうよ!! 船、乗りたいもん!! 」

 

「その意気よ、はぐみ!! ビシビシ感じて船に乗っちゃてちょうだい!! 」

 

「やった~!! はぐみがいっちばーん」

 

そう言いながら、はぐみを先頭にこころと一緒に船内へと乗り込んでいく。

 

「美咲ちゃん、私達も乗ろう」

 

「さて、行きますかー」

 

まあ、あたしもこんな船に乗るのは初めてだし、内心少しだけワクワクしている。

 

(おかしなこと起きませんように.....)

そう思いながら、花音さんと一緒に船内へと乗り込んだ。

 

──────────────────────

 

というのが、大体三十分前の出来事だった。

あたしはとりあえず、この船に乗るときに居なかった六人目の人物へと声を掛ける。

 

「えーと、....連音? なにやってるの?」

 

「..........鳴宮連音ハシラナイデス」

 

「いやいや、絶対知ってるよね!? なんか変な間あったし、というか本人だよね!?」

 

「......ノーコメントで」

 

うん、やっぱり連音でした。

というか、今日はあなたがそっち側ですか.....そうですか。

.......ホントに何やってんの.......。

 

そんな会話をしていると、こころが言葉を怪盗ハロハッピーに向けて言い放つ。

 

「怪盗さん達!! 花音に何をするつもりなの?」

 

「何もするつもりはない。 ただ、君達には私達と戯れてもらうだけだよ いいかい? 君達が私達を捕まえることができれば、このお姫様は返そう」

 

「ひゃあ....!!」

 

怪盗ハロハッピーはそう言うと、花音さんをお姫様抱っこにして抱える。

そしていつの間にか、花音さんを抱えたハロハッピーの隣に、スマイルスターが立っていた。

 

「まずはカジノで待つ、それでは」

 

「「さらばっ!!」」

 

ハロハッピーとスマイルスターが同時に宣言すると、

恐らくカジノのある方向へと、走り去っていく。

走り去っていく中、花音さんの悲鳴が聞こえる。

 

「か、かのちゃん先輩抱えたまま、行っちゃったよ!? 」

 

「急いで追いかけるわよ!! 」

 

「みーくん!! 一緒に来て!! 怪盗を捕まえよう!!」

 

「....はぁ、はいはい」

 

残されたあたし達も、怪盗ハロ.....薫さん達を追いかけた。

こうして、船内での怪盗達との追いかけっこが始まったのだった。

 




さて、今回から怪盗ハロハッピーのイベント、スタートです。
今絶賛、構想練ってるんで、楽しんでくださると嬉しいです。
それと、今日はアンケートがあるんで目通してみてね。

それでは、次回のお話でお会いしましょう。

(連音君の怪盗名は、私のフォロワーのあの方とは無関係です(笑))


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第二十二話 カジノ側はイカサマしなくても儲かる 

どうも、お久しぶりです。
ワッタンです。

お待たせしました。
ようやく投稿再開します。
休み明けなんで、文章の質は悪いと思いますがご了承ください。
ほんと、すみません。


それでは二十二話をどうぞ!!



「全く、二人とも早いんだから.......」

 

薫さん達が花音さんを連れ去った方向に、進むこと十分、

途中迷いながらも、船内のマップが書かれたパンフレットを手に入れ、客船の中にあるカジノへと辿り着いた。

 

ちなみにこころとはぐみはあたしを置いてってさっさとカジノへと走って行っていた。

カジノの中は、一目見ただけで高級感溢れるようなフロアだった。それぞれのテーブルに、色々なゲームがプレイできるようになっており、部屋の窓からは、月明かりに照らされた海平線が写っていた。

 

「さて、二人はどこに」

 

「「怪盗さん!! 花音を返しなさい!! 」」

 

「あそこか」

 

声のした方へと歩みを進める。

こころとはぐみは、ルーレットが置かれているテーブルの近くで叫んでいた。

 

「いたいた。 二人とも足速いんだから.......やっと追い付いた」

 

「美咲!! 怪盗さん達と花音が居ないの!! どこ!?」

 

「ええ? あたしに聞かれても.......今来た所だし」

 

周りを見てみると確かに薫さん達らしき人影は、まるで見えない。

一体どこに、

 

 

「待たせたね。花音は別の場所で待っていてもらってるよ」

 

居た....。

声のする方を向くと、薫さんが立っていた。

 

 

「黒色の怪盗さん!! カジノへ約束通り来たわよ!! 花音を返してくれるんでしょう?」

 

「ふっ、それだけで返してもらうのはつまらないね、もう少しだけ私達に付き合ってもらおうか」

 

そう言うと、怪盗ハロハッピーがカジノの奥へと進んでいく。

あたし達もその後ろに続いた。

そんな怪盗ハロハッピーに向かって言葉を後ろから投げかける。

 

「えーと、怪盗さん。 それで一体何をしたら花音さんを返してくれるんです?」

 

「簡単なことさ、せっかくカジノに来たのだから、私たちと勝負しよう」

 

勝負ねぇ.......。

 

「いいよ、ソフトボールでいい!?」

 

「ふむ、それも一興だけど、もう生憎勝負の内容は決まっているんだ」

 

怪盗ハロハッピーはそう言うと、立ち止まりこちら側を向いた。

その後ろには、巨大なルーレットが置いてありその中心に、

 

「ようこそ、探偵さん達」

 

聞き覚えのある声。

先程の服装とは違い、白いシャツにベストという格好ではあるが、

白いマスクを付けてる、連.....怪盗スマイルスターだった。

 

「待たせたね、スマイルスター。かわいい探偵さん達を連れてきたよ」

 

「探偵!? はぐみ、探偵なの!?」

 

「いいわね!! かっこいいわ、探偵なんて!!」

 

「そんな定義初めて聞いたんですけど」

 

はぐみが、ハロハッピーの言葉に驚き、

こころが探偵と聞いてはしゃぐ。

かくいうあたしは、目の前に居る、何故かこの船に乗っている連音の事を考えていた。

 

(まあ、おそらく何かしらに巻き込まれたんだろうな)

 

「ああ、そうだよ。怪盗とは探偵に追われる存在だからね.....。 さて、肝心なゲームの内容だけどルーレットでいいかい?」

 

「ルーレットって何?」

 

「あー、あまり複雑なルールにしないで下さいね。 はぐみやこころでも分かるようなやつでお願いしますね?」

 

あたしがそう言うと、ハロハッピーは笑い、

 

「大丈夫、赤か黒のどちらかを選んで、ボールが落ちた方が勝ちだ」

 

「どっちか選べばいいだけ? なら簡単だね!!」

 

「そうだろう? 探偵さん達は三人居るから、私との三回勝負にしよう。それで勝利数の高い陣営が勝だ。 それじゃあスマイルスター、ディーラー任せたよ」

 

「了解!!」

 

そう言うと、スマイルスターはルーレットの準備をし始める。

こころとはぐみは相変わらずはしゃいでいる。

ん、ちょっと待って。

 

「えっ、ちょっと待って? この怪盗がディーラーをするの?」

 

「ん、そうだけど、何か問題でもあるのかな探偵さん?」

 

「大ありです。もしイカサマされたら勝ち目がありませんから」

 

「いやいや、ちょっと待て美.....探偵さん俺がそんなことをするわけないだろ」

 

ハロハッピーと話していると、準備中のスマイルスターが会話へと入ってくる。

てゆうか、あたしの名前今言いかけたよね。

 

「ふむ確かに、それは一理あるね。 ただ探偵さんは知らないようだね、カジノ側はイカサマをしなくても利益が出るようになってるのさ」

 

「え、そうなの?」

 

「ああ、そうさ。それにカジノっては、国がしっかりと管理してるからそうゆう類の心配はないよ」

 

「「へぇー」」

 

美咲とスマイルスターの声が重なる。

二人の言葉にハロハッピーが満足そうに頷く。

 

「さて、二人の知識が増えたことだし、ルーレットの方は大丈夫かい、スマイルスター?」

 

「ああ、大丈夫。いつでもできる」

 

「オーケー、さあ始めようか」

 

 

──────────────────────

 

「さて、次は君の番だ、帽子を被った探偵さん」

 

「みーくん、頑張って!!」

 

「頑張って、美咲!!」

 

「.....はあ、分かりましたよ」

 

こころとはぐみに応援されながら、美咲は二人が先程まで座っていたルーレットの席へと座る。

 

 

ハロハッピーとのルーレット三回戦目。

一回戦目、はぐみが先にゲームに参加して赤を選択。

そして結果は黒でハロハッピーの勝利。

二回目、こころがはぐみと同じ赤を選択。

結果は赤。

これにより一勝一敗。つまりこれで勝負が決まる。

 

(うわあ、責任重大だなー)

 

「さて、帽子を被った探偵さん。 君はどちらの色を選ぶんだい?」

 

ハロハッピーがこちらへと、質問をしてくる。

 

「うーん、....じゃあ、あたしは黒でお願いします」

 

「わかった。 では、私は赤にしよう。 それじゃあスマイルスター、回してもらえるかな」

 

「了解、ではいきます」

 

そう言うと、スマイルスターはルーレットを回す。

そしてその中に、銀色の鉄球を放り込む。

ルーレットの回転方向とは逆に放り込まれた球は一瞬だけ目で追えなくなる。

だが徐々に、ルーレットの回転が落ちていき玉の軌跡が目で追えるようになり、

やがてポケットに落ちる。

 

「さて、止まったようだね。 ボールは........」

 

ハロハッピーがそう呟き、

全員がルーレットの落ちた箇所を覗き込む。

結果は......赤だった。

 

「ふふふ、私たちの勝ちだ。というわけで、お姫様はまだ返せないね」

 

「えー!! そんなぁ」

 

なんだろ、別に悪いことをした訳ではないのに凄い罪悪感が.....。

あたしがそう感じてるなか、ハロハッピーが言葉を呟く。

 

「次は.....そうだね、この船内で唯一、儚いものが手に入る場所で探偵さん達を待つとしよう。 ではさらばだ!! 」

 

そう言うと、ハロハッピーはどこかへと走り去ってしまう。

その様子を見た瞬間、サッと後ろを振り返る。

後ろにいるはずのスマイルスターは、その場から消えていた。

 

(ははーん、なるほど......無理やり連れて来られたかと思ったけど、これは完全に薫さんとグルだな)

 

「あ、また行っちゃった!! 儚いものが手に入る場所ってどこ?」

 

「ギフトショップね!! 行くわよ!!」

 

そう言うと、こころとはぐみは走り去ってしまった。

 

「あ、ちょっと。......また置いてかれた。よく儚いものってだけで分かったね....というか、『儚い』って言ってる時点で誰だか気付くでしょ」

 

そう言いながら、先程手に入れた船内マップを拡げる。

 

(えーと、ここがカジノで、ギフトショップは......あ、ここか。 って!!)

 

「って、二人ともそっちはギフトショップじゃないよ!! こっちだってばー!!」

 

そう叫ぶと、地図を慌てて仕舞い二人の元へと駆け出した。

 

 

──────────────────────

 

「お、迷わずここまで来られたようだね、探偵さん達」

 

「お、そのようだね........ってあれ?」

 

(あれ? なんか美咲疲れてない?)

 

黒服さんの協力のもと、ギフトショップに先回りした薫さんと俺だったが、

その五分後に、美咲達がギフトショップに来たのだが、何故かこころとはぐみが元気なのに対し、

美咲は肩で息をしていた。

 

(あー、なるほど。恐らくこころとはぐみが迷ったのかな?.....ご愁傷様です)

 

本来ならあちら側に回っていたかもしれない自分のことを棚にあげ、美咲へと謝る。

だがこの時の連音は知らない、全てが解決した後にあんなことになるとは.....。

 

「うん!! だって、はぐみ、探偵だからね!!」

 

「ここでも何か勝負をするのかしら? 楽しい勝負ならしたいわ!!」

 

「そうだね.......では、ここのギフトショップで私ではなく「スマイルスター」が気に入りそうなものを選んでくれるかい?」

 

 

客船の夜は長い.....。

こうして、探偵たちと怪盗の饗宴はまだまだ続いていく。




恐らく皆さん内容忘れてたんじゃないかな?
僕も読み直しました(笑)。

まあ、というわけなんで、ガイドラインは怖いですけどとりあえずガイドラインは守りつつ続きを書いていこうかな。

あ、それとお待たせしました。
遂に新作完成しました。
下から行けるようになってますんで、暇だったら読んでくれると幸いです。


それでは次のお話でお会いしましょう。


(エヴァがすごく見たいです、そしてダイパリメイクでガチ泣きしました)

新作
「Amnesia Ghost」


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第二十三話 ギターの値段は関係ない

どうも、ワッタンです。
ふー、危ない危ない、危うく一か月振りの更新になるとこでした。
ということで、時間はかかりましたけど最新話書けました。

そして今回、僕の小説では珍しくギャグ色が強めです。
そこはご了承ください。

それでは、第二十三話どうぞ!!


今、俺は自分の中の天使と悪魔と戦っている。

何故かというと、

 

「さあ、花音さんを返してもらおうか、連.....スマイルスター?」

 

この悪魔(美咲)というよりかは小悪魔だが

高級品のギターを俺に差し出し、花音さんを返してもらおうと迫っているからだ。

 

──────────────────────

 

「そうだね.......では、ここのギフトショップで私ではなく「スマイルスター」が気に入りそうなものを選んでくれるかい?」

 

ギフトショップに着くなり、次の勝負が始まった。

ただこれは、簡単なのでは?

だって連音の好きなものって。

 

 

「怪盗が好きそうなもの? ねえねえ、どんなものが好きなの?」

 

「あ、えっとそれは.....」

 

はぐみが好きなものを、スマイルスターに尋ねたが、

その瞬間、ハロハッピーがスマイルスターの前に手を出し遮った。

 

「スマイルスターが好きなものは私と同じ、....儚いものだよ」

 

ハロハッピーがスマイルスターに代わりそう答えた。

その光景はまるで、

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

そしてその行動によってあたしは確信した。

そうだようね、連音の好きなものって。

 

「分かったわ!! 儚いものを探せばいいのね!! 行きましょ、はぐみ!!」

 

「うん、分かったよ。こころん!!」

 

はぐみとこころはそんな会話をすると、

二人で先に行ってしまった。

 

「あ、待って二人とも!!」

 

実はもうスマイルスターの好きなものは分かっている。

ただその好きな物を渡す前に、二人がスマイルスターに渡したらマズイ。

慌ててその二人の後を追いかけた。

 

 

「儚いものって何だろ? あ、このぬいぐるみは!?」

 

はぐみが右手にまるで深海魚みたいなぬいぐるみを持って、

こっちへとやってきた。

 

「何その深海魚みたいなぬいぐるみ....」

 

「えー.....でもでもかわいいよ1?」

 

持ってきたぬいぐるみを受け取りまじまじと見つめた。

はぐみが持ってきたぬいぐるみは、

アンコウ?をデフォルメしたぬいぐるみだった。

確かに見方を変えれば可愛いかもしれないけど。

 

と、そんな事を思いながら、不意に付いていた値札のタグを見てみた。

 

「ゲッ!! 高っ!!」

 

そこに書かれていた値段は、あたしが想像していた値段より、

0が二つほど多く付いていた。

 

(こ、こんなぬいぐるみが二桁万円!? そ、そうか一応この船は、こころの家が所有してる船だから.....)

 

急に背筋がぞっとして、慌ててぬいぐるみを元の場所に戻した。

 

「じゃあ、このスノードームはどうかしら?」

 

「ね、じゃあその隣のこれは!? あ、この船の柄がついた靴下かわいい!! 走りやすそう!!」

 

とそんな中、二人はあたしの心配をよそに、

色々と儚いもの(商品)を吟味していた。

 

良いよねー二人共は気楽で....ってこんな場合をしている場合じゃない。

 

「ねえ、二人共ちょっと聞いてくれる?」

 

儚いものを吟味している二人の背中に声を掛けた。

すると手を止め二人は振り返った。

 

「何かしら?」「なに、みーくん?」

 

そんな二人にあたしは笑顔を浮かべ、

 

「怪盗さんの儚いもの分かったよ」

 

そう告げた。

 

──────────────────────

 

「さあ、観念しようかスマイルスター? ギターが好きってのは分かってるんだからさ?」

 

「ナ、ナンノコトカナー」

 

頭の中で天使と悪魔が戦っている中、

美咲がさらに言葉を投げかけてきた。

 

そ、そうだよな。

美咲はもう俺の正体が分かってるんだから、ギターを持ってくるよなそりゃ。

でもなんで....持ってきたギターがなんでそんな高級品なんだよ!?

と心の中で絶叫する。

 

美咲が持ってきたギターが、学生の俺でも買えるものだったら、即刻拒否していただろう。

だけどそのギターは、一流のアーティストが使っているような代物、しかも値段が家が一軒建つほどのものだった。

 

それに黒服さんからこの第二勝負を始める前に言った一言が....。

 

「あ、ちなみに黒服さんから、これで渡した物は貰えるらしいから値段は気にしなくて大丈夫だよ?」

 

その言葉で戦況は一気に悪魔側へと傾いた。

美咲が言った事はその通りで、黒服さんから、

 

『別に貰っても構わないよ、日頃のお礼も兼ねて....と私達の雇い主もといこころ様のお父様から伺っております』

 

と実は言われてる。

こころのお父さんについては、敢えて今は触れないでおいて、

問題は貰っても良いということだ。

 

正直、すごく欲しい。

ただここで貰ってしまえば、薫さんの準備もとい()()()()の作戦が失敗してしまう。

....仕方ない、ここは泣く泣く諦めよう。

いいさ、ギターの値段なんかに左右されてたら良い音色なんて奏でられないんだから。

そう自分に無理やり言い聞かせて口を開いた。

 

「......ざ「ちなみに断ったら、以後ギターは触らないでね?」......は?」

 

なんかサラッと不吉な言葉が聞こえた。

恐る恐る聞き返す。

 

「えーと、美咲さん。今なんて?」

 

「うん?、だってそうでしょ?ギターが好きじゃないんなら、もうギターには触っちゃいけないよね?」

 

その場の空気が一旦凍り付いた。

だが、それも一瞬のことで即座に美咲に反論した。

 

「待て待て、それはいけないと思います。お前は悪魔ですか?」

 

慌てていたので変な言葉になってしまった。

 

「悪魔って......というかそもそも、連音達がこんなめんどくさい事をしなければ、こんなことにはなってないからね!? お陰であたしがどれだけ酷い目にあったことか......なので連音にも酷い目に合ってもらわないと」

 

「理不尽!?」

 

とまあ、この時は二人とも気づかなかったが、もうお互い怪盗の設定ガン無視で、言い合っていた。

 

「あら怪盗さん、このギター気に入らなかったのかしら?儚いわよね?」

 

「よく分かんないけど儚いよ!!」

 

「ああ、そうだね。そのギターも儚いけど、彼の求めてる物では無いね」

 

「「「!!」」」

 

美咲と言い合っていると、それまで居なかった人の、俺が待ち望んでいた声が聞こえてきた。

俺以外の三人は、驚いた様子でその声の主の方を振り向いたが、かくいう俺はホッとしながら振り向いた。

そこに居たのは怪盗ハロハッピーだった。

 

──────────────────────

 

目の前の連音と言い争いをしていると、ここ三十分ほど聞いていなかった声が聞こえてきた。

声の主の方を振り向く。

そこには案の定、こんな事になった元凶のもう一人......怪盗ハロハッピーこと薫さんが居た。

 

「待たせたね、スマイルスター。 準備が出来たよ」

 

「準備? それって」

 

いったい何の事....。

と言いかけたその時、こころが口を開いた。

 

「ねえ、怪盗さん。ギターはこっちの怪盗さん(スマイルスター)が欲しい儚いものではないのかしら?」

 

こころのその確信めいた質問に、スマイルスターは顔に微笑を浮かべながら答えた。

 

「ふっ.....確かにそれ(ギター)は彼が欲しくて儚いものだろう。だけどそれは、()()()()()()()()()()ではないね」

 

「今欲しい儚いもの.....?」

 

ハロハッピーが口にした言葉を呟く。

連音の今欲しいもの......

 

「....ああ、そうだね」

 

そこまで考えた所で、

ハロハッピーに尋ねられた、連音.....ではなくいつの間にかキャラに戻っていたスマイルスターは

マントを翻しながら答えた。

 

「確かにそのギターは儚いものだから欲しいさ。だけどギターという名の儚いものは、他人から貰うものではなく、いつか自分の力で手に入れるさ」

 

そういい言い放った、スマイルスターの目はいつもギターを弾いてる時に、見せる真剣な眼差しだった。

ギターと真摯に嘘偽りなく向き合ってる、そんな眼差し.....。

 

「ということで、勝負は次までお預けさ。 ハロハッピー!!」

 

「ああ、準備は整った。探偵さん達、次はシアターで待ってるよ。そこでお姫様を取り戻してごらん」

 

そう言うと、二人の怪盗はシアターへと向けて走り出した。

 

「あっ!! 行っちゃった。次はシアターか......というかまだ続くの...」

 

「あの怪盗さん(スマイルスター)が今欲しい儚いものって結局何だったのかしら?」

 

「うーん、なんだろうね?」

 

結局薫さん達の目的はまだ分からないけど、

今分かったのは、やっぱり連音はギターが好きなんだなってことかな。

 

「はいはい、おしゃべりはこのくらいにして、シアターに行くよ。早く行かないと待ちぼうけの花音さんが可哀そうだし」

 

「そうね、美咲の言う通りだわ!! さあ、はぐみ、美咲、シアターへ行くわよ!!」

 

こうしてこころの号令の下、シアターへと向かった。

のはいいのだが....。

 

 

「ここに座っているお姫様に、愛の告白をしてみてくれないか、黒髪の探偵さん?」

 

どうしてこうなった。




最近忙しくて、中々執筆の時間が取れなかったんでクオリティは低いと思ます。
ここからも、忙しくて投稿が遅くなるかもしれないですけど、長い目で見守ってくれると幸いです。

さて、次回はやっとハロハッピー編が終了でございます。
完成までお待ちください。

それでは、次のお話でお会いしましょう。

(モンハンやっと集会所クリアしました!!)

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第二十四話 PhantomThief

どうも、ワッタンです。
今回で、ファントムシーフ編完結です!!

長かったこのイベントですが、期待通りの結末になってると幸いです。

それでは、第二十四話をどうぞ!!

(今回はあとがきまで読んでね)


船内のシアタールーム、その場所に怪盗たちを追いかけてたどり着いた。

のはいいいのだが、現在あたしは、

 

「え、えと......麗しいお姫様、あ、あなたが......好き、です......」

 

シアターの檀上に上がって、

人生初の告白を花音さんに向けてしていた。

 

(ど、どうして、こんなことに!?)

 

──────────────────────

 

事の発端はシアターに着いた直後に遡る。

あたし達三人がシアターにたどり着いた瞬間、

何かの機械音と舞台がせり上がってきた。

 

そしてその上がってきた舞台には、何故か不自然に置かれな椅子が一つとその椅子の背もたれに手を掛けている、怪盗ハロハッピーが居た。

 

(随分と派手な登場なことで......)

 

「探偵さん達、開演まで間もなくだよ。早く座席に着きたまえ」

 

そう言うと、ハロハッピーはマントを翻しながら、あたし達三人の着席を促した。

 

「二人とも、最前列に行きましょ!! 怪盗さんのお手並み拝見よ!!」

 

「もしかして、今から舞台!? 舞台見るの初めてー!! 手品とかするのかな!?」

 

「うん、はぐみのそれはマジックショーだよ......」

 

そう言いながら、あたし達は舞台の最前列席へと、そそくさと階段を降りた。

折り畳み式の椅子を広げ着席したと同時に、ふと疑問が沸いた。

 

(あれ、スマイルスターは......?)

 

舞台の上には、ハロハッピーしか居ない。

シアターへと辿り着いた時には気付かなかったが、もう一人の怪盗の姿が見えない。

一体何処へ......。

と思ったのも束の間、ハロハッピーが再び言葉を紡いだ。

 

「おっと、時間になったね。 さあそれでは、勝負を始めようか。でも今回は、ちょっと趣向を変えて、囚われのお姫様に手伝ってもらおうかな」

 

「お姫様......?」

 

そう言うと、ハロハッピーは舞台袖の方を見た。

すると舞台袖から一人の人影が出てくる。

舞台袖から出てきたのは、一時間前に見かけたっきりの花音さんだった。

 

(あ、花音さん。良かった.....)

と、少しだけ胸を撫で下ろした。

やっぱり、短時間だけ人を見なくてもそれが、もし親しい人だったら、心配するもんだなと思った。

例えそれが、安全を保証されてるって頭で分かっていたとしても。

 

「かのちゃん先輩だ!! 無事だったよ、こころん!!」

 

「花音、待ってなさい!!今、助けるわ!!」

 

「う、うん......」

 

......まあ、この2人は純粋さゆえの心配かもしれないけど。

 

「はあ、で今度は何をするんですか?」

 

「それはだね、さっきも言った通りちょっと趣向を変えた勝負をしようと思っているんだ。具体的には挑戦者はさっきまでと違って一人のみだ、......そして挑戦者は君だ。黒髪の探偵さん?」

 

と言いながら、ハロハッピーはあたしの目の前に指を突きつけ......ってあたしだけ!?

 

「ちょっ、ちょっと待って、なんであたしだけ!?」

 

「ふむ、そういう反応をするだろうね、ただ次の勝負は君が適任だと思ったからさ。ほら、お姫様も彼女に挨拶したまえ」

 

「えっ......は、はい、えっとお願い、美咲ちゃん」

 

「......はあ、分かりましたよ」

 

とこんな感じで、あたしはハロハッピーとのゲームに挑戦することにした。その時のあたしは早くこの茶番をさっさと終わらせようと思っていた。

勝負の内容が「花音さんに告白をして、演技が上手かったら返す」と聞くまでは。

 

──────────────────────

 

「そんなものかい? もっと愛を伝えてごらん?」

 

と、告白の続きを促してくる。

花音さんに至っては、何故か嬉しそうな目でこちらを見てくる。

 

(そんな目で見ないで花音さん!!)

 

もちろんあたしは最初は断固拒否した。

もうそれはキッパリと。

だけど、

 

『みーくん、お願い!! かのちゃん先輩に告白して!!』

 

とはぐみから、

 

『はぐみの言う通りだわ!! ここで花音が戻ってくるか決まるの!! お願い、美咲!!』

 

とこころから言われ、花音さんからも『頑張って......!!』と言われ、まるであたしが悪者になったかのように感じ、そんな罪悪感から勝負を受けてしまっていた。

そして皆の前で告白というのは、

 

「う......えと、一目あった時から、心を奪われて......」

分かっていたけど、

 

「もっと真剣に」

 

「あなたを常に思ってて、と、とにかく好き......です......も、これでいいでしょ!? いきなりこんなこと言われたって分かんないし!!」

 

とてつもなく、恥ずかしい。

最後は、言葉として可笑しかったが、半場無理やり告白を切り上げた。

 

「はぐみ、全然演技分からないど、ダメだと思う」

 

「ええ、全然心に響かなったわね。これじゃあ負けかしら」

 

とこころとはぐみから、辛辣なコメントを頂いた。

しかし、花音さんだけは、

 

「そ、そんなことないよ!? 美咲ちゃんは凄く頑張ったよ?」

 

あたしのフォローをしてくれた。

(あー、もう花音さんが良ければそれでいいや......)

 

「ふむ、黄色の髪の探偵さんの言う通り、あんまり心に響かなかったね、告白というのはスマートにしなければならないよ。ホントは私がお手本を見せたいのだけど、時間が無い。また次の機会にしよう」

 

ハロハッピーがそう言った直後だった。

明らかに異質な音......例えるならば、何かと何かが擦れ合うようなそんな音がシアターに響いた。

そして、上から白い物体が

 

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

「っ!!」

 

驚いて反応が出来ない。

その白い物体は、シアターに着いた時から見てなかった、怪盗スマイルスター。

「「もう一人の怪盗さん!!」」

 

驚いて声が出ない中、

こころとはぐみが声を合わせて、叫んだ。

 

「やあ、探偵達、また俺たちの勝ちだね。このお姫様はまだ返す訳にはいかない」

 

そう言うとスマイルスターは、花音さんに近づいた。

一体何をする......

と思った瞬間だった。

 

「失礼するよ、お姫様」

 

「きゃあ!?」

 

「な......!?」

 

スマイルスターは花音さんの胴を右腕で、膝裏を左腕で支えるように持ち上げ、横抱き......一般的に言う所のお姫様抱っこをしていた。

花音さんと連音の格好が格好ということもあり、中々に様になっていた。

って吞気に、そんな事を考えている場合じゃない。

 

スマイルスターの言葉から察するに、彼らはまた逃げるきだ。

しかしそれは現実的ではないと思う。

シアターの構造上、此処の舞台の出口はあたし達が入ってきた場所しかない。

だけどその前に、あたしたち三人がいる。

 

(どうやって、逃げるつもりなんだろ)

 

 

「それじゃあ、探偵たち最後のゲームだ。先に行って待ってるよ」

 

そう言うとスマイルスターは花音さんを抱えたまま、舞台上から飛んだ。

本来なら重力運動に従って、着地するはずだった。

 

スマイルスターが飛んだ瞬間、またさっきの機械音が鳴り響いた。

そしてあたしは見た。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

そしてその線は天井につながっている。

その線は二人分の体重をしっかりと空中へと浮かせ、さながらアニメのような感じに、

空中を駆け抜けて、出口の前へと降り立った。

 

「はっ、え、え?」

 

「すごいわ、怪盗さん!! 空を飛んでいたわ、なにかしらあれ!!」

 

「はぐみ、知ってる!! あれ、ワイヤーアクションだよ!!」

 

ワイヤーアクション。

まず、一般人が普通に暮らしていて、経験することのない物。

スマイルスターはそれを使って、舞台上から脱出をしていた。

 

「さすがだね、スマイルスター。それじゃあ、私も....よっと」

 

背後からハロハッピーのその声が聞えて振り返ろうとした。

だが、そうしたときにはもう遅かった。

ハロハッピーは横を駆け抜けて、スマイルスターと同じように飛び、出口へと降りたった。

そして二人の怪盗はあたしたちの方を、振り返る。

 

「それでは、探偵さんたち、私たちを捕まえてごらん!!」

 

「では、Au revoir(ごきげんよう)!」

 

「ふ、ふぇぇ──!!」

 

二人の怪盗はそれぞれ、言葉を言うとシアターから出て行った。

花音さんの悲鳴を響かせながら。

 

「ええ!? 行き先告げないで、行っちゃったよ!?」

 

「逃がさないわよ!! 追いかけましょう!!」

 

そう言うとこころとはぐみは、怪盗たちを追いかけるように出口へと向かって行った。

 

「まさか、ワイヤーアクションなんて使うなんて思わなかったよ.....というかもう終わりにしたい....」

 

とあたしは、そうぼやいた。

豪華客船に乗ってから、かれこれ約一時間休みなしで動いている。

正直疲れている。

 

(というかあの二人は体力底なしなんじゃないの.....?)

 

こころとはぐみはヘロヘロになるどころか、ずっと動き回っている。

いや、違うか。

そもそもあたしが疲れてる原因は、体力的にじゃなくて精神的にだ。

その元凶は、あの怪盗二人だ。

そもそもギフトショップの時点で、連音は負けていたはずだ。

そしてこの茶番は終わっていた....。

 

「.....よし、あとで連音になにかしてもらおう」

 

そう決意し、あの二人の後を追いかけた。

 

──────────────────────

 

怪盗たちを追いかけ、扉を開けた。

扉を開け、辿り着いた場所は、船上のデッキだった。

走って火照っていた体に、海の潮風が当たり、体が心地よさに包まれた。

 

「いたわ!!」

 

デッキへと上がった瞬間、先にたどり着いていたこころが、

船首に向けて指を指しながらそう叫んでいた。

船首の方に目線を向ける。

そこには、怪盗二人とお姫様抱っこで攫われていた、花音さんの三人が佇んでいた。

そちらの方へと、あたしたち三人は近づいていく。

 

「はっはっはー!! よくぞ追いついたね!!」

 

だんだんと近づいていく船首の方から、ハロハッピーの声が聞こえてきた。

そして、船首の方へと辿り着いた。

 

「ここまでよ!! 花音を返しなさい!! 花音は大切な仲間なんだから!! 」

 

「そうだよ!! かのちゃん先輩は大切な仲間だから、絶対に取り戻すもん!!」

 

こころとはぐみが、それぞれ口々に怪盗に向けて啖呵を切った。

 

「ふむ、大切な仲間....いい言葉だ、そちらの...黒髪の探偵はどう思う」

 

それまで沈黙していた、スマイルスターがこちらへと尋ねてくる。

そんな問い、答えはもう決まってる。

 

「花音さんは大切な仲間だよ、これからもずっと」

 

最初はこころに無理やり連れられてきた、同じ境遇の人だと考えていた。

でも、今はそんな認識ではない。

バンドを....ハロハピをやるうえでもう大切な仲間だ。

もちろんこころも、はぐみも薫さんも。

 

 

「そうか....じゃあ最後に一つ質問、()()()()()()()()()?」

 

「そうだね....ちょっと大変だったけど、()()()()()

 

スマイルスターのもう一つの質問にも、即答で答える。

答えた後、沈黙が流れ潮風の音しか聞こえない。

沈黙を破ったのは「そっか」というスマイルスターの一言だった。

 

「うん、分かった。俺の欲しいものは聞けた....。ほれ、やるよ」

 

そう言ったスマイルスターは、何かをあたしに向かって投げた。

受け取ったそれはUSBメモリだった。

 

「うわあ、っと、っと。 ....これは? 」

 

「今日のお詫びとお礼、その中にあるデータは好きに使ってくれ。」

 

 

「さあ、あとは任せたよ。ハロハッピー」そういうと、ハロハッピーへとバトンをパスした。

どうやら、スマイルスター....連音はあたしの言葉の中に、

求めていた答えがあったようだ。

ただ、何の答えを求めていたのかは、分からなかったけれども。

 

「ああ、任された。 スマイルスター。じゃあ最後の勝負だよ、探偵さんたち。最後はクイズだよ、私が欲しかったものは、なんだと思う? といっても、私の欲しいものも少々、スマイルスターに似ているのだけれども」

 

連音と欲しいものが似ている?

なんだろうか、と考えを巡らせたときだった。

「分かったわ!! 」と心が叫んだ。

 

「えっ、こころん、もう分かったの?」

 

はぐみと同意見だった。

そしてこころは、答えをハロハッピーに叩きつけた。

 

「怪盗さん、あなたが欲しかったものは『みんなと楽しく過ごす時間』よ!! 怪盗さん、あなたも楽しかったんでしょ? あたしは、すっ──ごく楽しかったわ!!」

 

「....すばらしい、正解だ!! とても楽しい時間を過ごす事が出来たよ、ありがとう。お礼にこのお姫様は返そう。さ、仲間の元へお戻り」

 

「は、はい」

 

どうやら、こころの答えは正解だったようだ。

花音さんは解放され、ようやくあたしたちのもとへと戻ってきた。

 

「じゃあね。子猫ちゃんとの逃避行……とても楽しかったよ」

 

「え.....?」

 

怪盗たちから去って行くときに、花音さんは何かに気づいたのか、振り返ったその時だった、

 

「それでは良い旅を!! また会えることを楽しみにしてるよ」

 

「それでは探偵たち!! また輝く夜にお会いしましょう」

 

怪盗たちがそう言った瞬間、あたりが白い煙へと包まれた。

突然の出来事に、あたしも、他のみんなも咳き込んだ。

 

「わっ、何この煙! なんにも見えないよ~!?」

 

「こほっ....シアターの時といい凝った演出するね」

 

そしてようやく煙が晴れた時、そこには怪盗の姿は見えなかった。

 

「あら、怪盗さんがいないわ!!」

 

「えぇ、消えちゃったの!?」

 

「せっかくここまで追い詰めたのに、捕まえられなかったわ……!」

 

「ま、別にいんじゃない? それより、花音さんも疲れてるだろうし、とりあえず中に戻ろう」

 

「うん、ありがと、美咲ちゃん」

 

そんな会話をした後、あたしたちは船内へと戻った。

こうしてようやく船内での、怪盗騒動は幕を閉じたのだった。

ちなみに渡されたUSBメモリの中にあったギターだけのフレーズが、

 

『ゴーカ! ごーかい!? ファントムシーフ!』

 

として生まれ変わるのは、もう少し後の話だったりする。

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふと何かの音で美咲は目覚めた。

眠たい目をこすりながら、彼女は部屋に掛かってある時計を反射的に見る。

時刻は午前0時過ぎ。

普通ならほどんどの人が寝てる時間、なのに先程の音は彼女の鼓膜を揺らしていた。

 

(これは....ピアノ? こんな時間に....?)

 

美咲は不思議に思いゆっくりとベットから降りた。

彼女がいる場所は自宅ではない。

まだ船の中だ。

 

花音の騒動が解決した後、怪盗役だった連音と薫は美咲たちに何食わぬ顔をして合流した。

そもそも、彼らが怪盗役をしていたのは、「こころ様たちを余興で楽しませてください」と言われたからのが、今回の追いかけっこの始まりだった。

最初は、薫だけが頼まれたのだが薫が、「連音も誘ってみよう」ということになり、話を聞いた連音は二つ返事で了承した。

そして二人は、こころを無事に楽しませた。

のはいいのだが、想像以上に時間を使ってしまい、余興が終わった頃の時間では、本土に戻ると確実に日を跨ぐ。

とそれならば、こころが「泊まったらどうかしら!! きっと楽しいわよ!! 」と言い出し、それに全員が了承しこの船に一泊することになった。

 

 

「静か.....」

 

部屋から出た美咲はそうつぶやいた。

時間帯も時間帯。

豪華客船に乗っているのは、彼女一人だけといわれても納得するくらいあたりは静寂に包まれていた。

がしかし、そんな静寂を破るかのようにピアノらしき音が船内の、空気を響かせた。

 

「こっちから聞こえる.....」

 

美咲は音が聞こえる方向へと歩き出す。

彼女が歩き出した方向には、ロビーがある。

そしてロビーにはグランドピアノが置いてある。

きっとそのピアノを誰かが弾いてるのだろうと算段をつけた。

そして近づく、ピアノの音。

 

(誰なんだろ....すごく上手....)

 

ピアノ経験者の美咲が上手だと唸るほどの音。

プロが聞けば、まだ荒いといわれるが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()だった。

 

その、演奏を聴きながら彼女はロビーへと、辿り着いた。

そこに居たのは......

 

「連音.....?」

 

数時間前に怪盗スマイルスターを演じていた、連音だった。

 

「っ、....なんだ、美咲か?」

 

連音が美咲に気付き、演奏していた手が止まりピアノの音も止まる。

 

「うん、驚かしてごめん。 連音ってピアノ弾けたんだね」

 

美咲が連音にそう尋ねた時だった、彼の目に曇りが灯った。

彼女は気付かなかったが、その目はいつもの連音からは考えられない、

哀しみの目だった。

 

「....うん、()()()()()()()()()()()()()と決めたのに、今日の美咲を見たらな」

 

「えっ...!?」

 

「....ゴメン、もう部屋戻るわ」

 

「あっ.....」

 

そう言うと連音は、鍵盤蓋を閉め、美咲が来た方向へと向かい出した。

その間美咲は、一歩も動けなかった。

彼女は彼に話し掛けることさえ出来なかった、それほどまでに連音から

 

 

()()()()()()()()()()()()

 

そんな風に美咲は感じていた。

彼が去った後に残ったのは、後味が悪い空気だった。

 

 

 

 

「Memory of the starlit sky」 第一章 了




ということで、「Memory of the starlit sky」第一章終了です。
いやー、ここまで長かった。
本当は、去年の年末までに第一章終わらせる予定だったんですけどね.....

ということでこの小説の、起承転結の"起"が終わりました。
あらかた、連音君の設定は出せるところは出し切りました。
これで、お父さんの正体が完璧に分かったら、もう作家目指してください。
僕より才能ありますよ?

ここから第二章に入ってきます。まだまだ更新していくのでお付き合いお願いします!!
あ、紗綾の方も忘れてないですよ?(恐らく明日更新予定)

それと、今回アンケート実施してますので、解答してくれたら有り難いです。
それでは次のお話でお会いしましょう。

(モンハンが楽しー)

紗綾のやつ


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第二章 それぞれの■■■■
第二十五話 なんてことのない日常


どうも、ワッタンです。
さて、今回から新章です。
徐々にストーリー進めてくよ。

それでは、第二十五話をどうぞ!!


 

とあるホールの観客席、俺はそこにいた。

舞台上の真ん中にはグランドピアノ。

そして、そこに用意された椅子に座る幼い人影。

 

────ああ、間違いない。あれは自分だ。

 

幼い人影は椅子に座ると、弾く体制を整え弾き始めた瞬間、

 

 

今まで風景だったピアノが呼吸をし始めた。

幼い俺が音を奏でる度に、奏でられた音はピアノに存在感を徐々へと与えていく。

その存在感は、こちらの観客席へと音の奔流に変わって伝えてくる。

 

────やめてくれ

 

幼子の拙い手から奏でる音は、見るもの全てを魅了していた。

少年はある一つだけの色をイメージして演奏する。

その音に色があるとするならば、この色は透明だ、それもまだごくわずかの。

 

透明、少年がイメージして弾いている音色

聞き手によっては、どんな色とも捉えられる音色。

一見透明な音色は物凄く、羨望的な憧れる目で見られるかと思うが実は違う。 

 

フランス音楽などは主に自然を表現する音楽がとても多い、

そしてその自然を表現するには、音色によっての色で表現する。

つまり、透明な色ではそれらを表現するには到底足りえない。

 

────その演奏は、

 

だが透明は逆を言い換えれば、全ての色を表現できるということだ。

ピアノを奏でるものは、その色の音を奏でようとしても、どこかに必ず雑色が混じってしまう。

百パーセントその色を表現することは不可能。

これはその人の引き癖、性格によって左右されるからだ。

 

だがこの音色を聞いた観客は、全員自分の音色を寸分の狂いなく透明と答えた。

つまりだこの幼子は経験を積めば理論上、

自分がイメージした音色を弾けば必ずその音色のイメージが聞き手に伝わるという事だ。

 

そして皮肉にもその少年には才能があった。

同年代より遥かにも秀でた演奏技術を持っていた。

イメージした音の色を不完全ながらにも、演奏を聴いている人達全てに自分のイメージを、雑色なく伝えられている。

まさしく神童、そう呼ばれた。

 

演奏が終わり、辺りから万雷の拍手が響く。

ゆっくりと椅子から立ち上がる。

観客にお辞儀をするもその表情は、

 

────()()()()().().().().()()()()()()()

 

少年とは思えない死んだ表情だった。

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

「はっ......!!」

 

目が覚め、荒い息を繰り返す。

体全体が汗でぐっしょりと濡れている。

 

「なんつー、夢見てんだ....」

 

自虐的に吐き出す。

寝起きは最悪だった。

ゆっくりと体を起こす。

 

「寒いな」

 

窓からは、太陽の光は入ってきてない。

代わりに窓の外からは雨音が響いていた。

 

ゴールデンウィークも終わり、時期は梅雨に入ろうとしていた。

予報では、今日の天気は明日の朝まで雨が降る予報だった。

ベットから起き上がり、窓へと近づきカーテンを全開にする。

 

「あー、全然晴れる気配ないな」

 

あくまで予報なので、晴れないかなと少し期待していたのだが、そんな期待虚しく、窓から見える雲は、どんよりとした雨雲だった。

 

「これは、夜星見れないな。....よし、起きるか!!」

 

生活バランスを崩すのはよくない。

そうポツリと呟き、恐らく酷い状態の顔を整えるべく、洗面所へと向かった。

 

「いただきます」

 

そう言ってから自分で用意した朝食を食べる。

片手でトーストを持ち、もう片方の手でリモコンを使いテレビを付ける。

 

豪華客船に乗り込んだあの日から、二週間近く経過していた。

この二週間で色々なことがあった。

Roseliaの皆がリサさんに抱き着いてる現場に遭遇し、何故かリサさんの頭を撫でる羽目になったり、商店街を歩いていたら、Pastel*Palettesの生放送現場にも出くわし、日菜にカメラの前に出さされそうになったりした。

 

とまあ、思い出しただけでも、絶対二週間で体験する内容ではない気もする。

そして最近の出来事。

 

「....ごちそうさま。 さて、早く準備しないと」

 

朝食を手短に済ませ、食器類をキッチンのシンクへと持っていく。

洗剤をスポンジにつけ、洗い残しがないように洗っていく。

そして食器を洗っている中、思考はこの前の勉強会について戻っていく。

 

そもそも勉強会を開くきっかけになったのは中間考査。

これはまあ、ちょくちょく準備をしていたので問題なかったが、問題は亮だった。

意外に驚く....ではなく凄く驚いたのだが亮は勉強できない。

そしてあのバカ()の方が勉強が出来る。

 

『....どうか、勉強を教えて下さい』

 

ということで、

亮が俺たちに頭を下げてきた為、集のアルバイト先で亮の勉強を教えることになったのだが、

そこには先客達が居た。

 

洗い物を終えて、自室へと向かう。

そして筆記用具と勉強道具を取り出し、リビングへと戻ってくる。

リビングの机に、勉強道具を置いた瞬間、家のチャイムが鳴る。

 

「あ、もう来たか」

 

急いで玄関へと向かい、扉を開けた。

今日はある約束をしていた。

そこに居たのは....。

 

「やっほー、連音連れてきたよ」

 

「おはよう、連音!!」

 

「.....」

 

リサさんと日菜。

そして今日の主役。

この無愛想にしている、Roseliaの歌姫様こと、友希那さんに勉強を教える約束だ。

 

──────────────────────

 

「ほら、そこはこの公式使うんですよ」

 

「なるほど.....分からないわ」

 

「ほら、友希那まずは、そこのYを消すんだよ」

 

なぜこうなったのかというと、話は簡単友希那さんだけ、Roseliaの中で赤点を取ったからだ。

今は数学を、リサさんと一緒に教えている。

 

 

ちなみに勉強会の先客達というのはRoseliaの人達。

Roseliaの中で勉強が苦手だったのは、あこちゃんと友希那さん。

その二人の為に、残りの三人が勉強を教えていた。

そしてなし崩し的に俺も勉強を教える羽目になった。

 

だが、その時の努力虚しく、テストの結果は惨敗。

追試になってしまってしまい、そのための勉強会というのが今回の全容だった。

 

「勉強なんて出来なくても、何も問題ないわ」

 

「....友希那さん、そういうことは学年が一個下の僕に教えられることがない位、勉強が出来るようになって言って下さい」

 

「あはは.....辛辣だね、連音君」

 

リサさんにそう言われる。

そんな友希那さんの屁理屈を聞き流しながら、勉強会の時間は過ぎ去ってゆく。

数学を一時間勉強して、英語の勉強に入った時だった。

 

「ねぇー、連音君、この続きって何処にあるのー?」

 

ソファーに寝転がって俺の漫画を読んでいた、日菜が話し掛けてきた。

いや、というか....

 

「というか、何で日菜は来たんだ?」

 

「うん?おねーちゃんの代わり」

 

「紗夜さんの?」

 

寝転がっていた日菜が、ソファーから体を起こす。

というか、くつろぎすぎなのでは。

 

「うん、ほんとはおねーちゃんがくるはずだったんだけど、委員会の仕事で急遽来れなくなったら、その代わり」

 

「そうなのか」

 

「うん、そうだよ。おねーちゃん的にはどうしても来たかったみたけど」

 

「あー、だろうな」

 

チラッと友希那さんの方を見る。

友希那さんが追試になった時、もうそれは般若の顔をした紗夜さんに友希那さんはこってりと絞られていた。

あの光景を思い出すだけで、関係のない俺は震え上がる。

それほど紗夜さんを怒らしてはいけないという教訓になった。

 

「.....ところで、日菜そろそろ友希那さんに勉強教えようか」

 

そろそろ日菜にも、働かせようと言葉を掛ける。

 

「うーん....分かった。ちゃんとしないと、おねーちゃんに怒られるからね」

 

そう言うと、日菜はソファーから降りて机の前に座った。

日菜と紗夜さんの関係性については、この前紗夜さんとギターのセッションした時に改めて聞かされた。

この前、日菜から聞いていたとはいえ、普段の紗夜さんからは考えられない事だったが、

 

「時間はかかるかもしれませんが、日菜と向き合っていきます。鳴宮さん、日菜がこれからも迷惑を掛けるかもしれないですが、よろしくお願いしますね」

 

と、紗夜さんは徐々に昔のように向き合っていくと俺に告げた。

その顔は長年の悩みが晴れた顔のように感じた。

 

「....そっか」

 

壊れた人間関係ほど、直すものは容易ではない。

でもそれでも、日菜と紗夜さんはやり遂げるだろう。

そんな二人は俺には眩しく感じる。

何故なら、

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「じゃあ、連音君!! 友希那ちゃんに勉強教えるから、後でご褒美頂戴?」

 

「え、ご褒美?」

 

「うん、あとでギター弾いて、連音君の音好きだから!!」

 

と、日菜が言う。

まあ、それくらいならと了承する。

どのみち今日は夜にギターを弾きにいけない。

 

「あ、ついでだから、リサちーも何かご褒美もらったらどう!?」

 

「えっ!! ....ご褒美かぁー、いいの連音君?」

 

「うーん、まあ、できる範囲なら」

 

「やった、()()だからね」

 

リサさんに、そう尋ねられが、これもあっさりと了承する。

普段からこころ等の、とんでも発言に美咲と一緒に振り回せれてるため、

多少の無茶ぶりに慣れている。

 

「じゃあ、決まりだね。早速終わらせようか、覚悟してよね友希那ちゃん?」

 

「....お手柔らかに頼むわ」

 

友希那さんの凄く嫌そうな声が響く。

このあと、やる気を出した日菜の手によってスパルタに問題を解かされ、

その分の解説は、俺とリサさんが解説をする。

 

こうして勉強会の時間は過ぎ去っていく、

なんてことのない、休日だった。





冒頭の描写なんですが、恐らく不満がいっぱいあることでしょう。
でも、この小説ではそういうもんだと、目をつぶってくださいませ。
(原因は僕の文章力不足)

さて、今回は勉強会でした。
やっぱり、僕はそんなに友希那さんをポンコツにできないねー。
まあ、無理にポンコツにしなくてもいいかなと思う今日この頃。

それでは、今回もお読みいただきありがとうございました。
感想、評価等貰えると凄くやる気出るので、是非とも清き一票を。

では、次のお話でお会いしましょう。

(約束、公開おめでとうございます!!)



祝!! 同時刻更新!!


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第二十六話 向き合う苦さ


どうも、ワッタンです。
GWに毎日投稿をしようとしてた人です。
結局できませんでした。
いやー、ほんとは投稿したかったんですけど、
ちょっと、古龍を倒さないといけなかったんで(笑)


まあ、そんなことは置いといて、
第二十六話をどうぞ!!


時刻は午前八時三十分。

俺は駅前にある噴水の前である人物を待っている。

待ち合わせの時刻は午前九時。

 

「ちょっと早すぎたか」

 

一応待ち合わせの三十分前に来たのだが、

案の定、待ち合わせの場所には、約束の人物は居なかった。

それどころか、休日で割と早い時間帯ということもあり、街には人影がそんなに見当たらない。

どこか店の中で暇を潰そうにも、まだ店は開いていない。

 

ただ、早く来ることには越したことはない。

そう思うことにし、噴水の前のベンチに座りこの前買った小説を読みながら約束の人物を待つことにした。

 

 

 

「ゴメン、待った? 」

 

小説を読みだしてから、体感二十分は経った頃だろうか。

小説を読んでいた俺は、言葉を掛けられた。

ただ、俺は誰が声を掛けてきたのかは分かっている。

開いている小説から目をそらし、話し掛けてきた人物の顔を見ながら答えた。

 

「いや、そんなに待ってないよ。 俺も今来たとこだから」

 

「....本当に?」

 

「本当、本当」

 

そう言いながら、読んでいた小説をショルダーバッグへと収め、

ベンチから立ち上がる。

 

「それじゃあ、行くか。 美咲」

 

「うん、分かった。今日はいっぱい付き合ってもらうよ」

 

「....ガンバリマス」

 

美咲の言葉に苦い顔をしながら言葉を返す。

そして俺たちは、目的地へと向けて歩き始めた。

そもそも何故、美咲と出掛ける羽目になったのかは数日前に遡る。

 

──────────────────────

 

「で、連音? 何か言いたいことは?」

 

「み、美咲? お、怒ってる?」

 

「さあ、どうだろうねー」

 

「いや、絶対怒ってるって!?」

 

「CiRCIE」に併設されている外のカフェスペースに俺は座っている。

俺の手元には、カフェで頼んだコーヒーが置かれている。

そして俺の前に座っているのは美咲。

彼女の手元にも俺と同じ、無糖のコーヒーが置かれている。

 

美咲の今の顔は笑っているが、心の底からは完全に怒っている顔だった。

そして幸か不幸か美咲が怒っている理由は完全に分かっている。

絶対、豪華客船での出来事だ。

背中に嫌な汗が流れる。

あの時は確かに色々と、いくら頼まれたとはいえ色々と美咲に迷惑を掛けていたと思う。

ということはやることは一つ。

 

 

「....なあ、美咲」

 

「何?」

 

美咲はコーヒーの入ったティーカップに手を付け、

その液体を流し込む。

 

「すみませんでした!!」

 

テーブルに、頭をつけながら美咲に謝ることだった。

十中八九俺が、悪いのだから。

 

「.....はあ」

 

美咲はため息をつきながら、ティーカップを机に置いた。

まずい、これは相当怒ってるのでは、

 

「船での件は怒ってないよ」

 

「えっ?」

 

テーブルから顔上げる。

見上げた美咲の顔は、困ったように笑っていた。

 

「本当に?」

 

「うん、本当だよ。 ...ねえ、連音。一ついい?」

 

「え? 何だ?」

 

すると美咲は、暫し目線をテーブルへと移した。

そして彼女はようやく、意を決したように彼女は口を開いた。

 

「....あの船の夜、あたしがロビーに聞いて、ピアノを連音が弾いてるのをやめた時」

 

「っ..!!」

 

ピアノと聞いて、体が固まる。

そして急激に世界から色が失われる。

俺の心が悲鳴を上げる。

 

あの時はどうかしていた。

二度と引かないと誓ったピアノを弾いてしまった。

理由は分かっている。

 

『花音さんは大切な仲間だよ、これからもずっと』

 

『そうだね....ちょっと大変だったけど、楽しかった』

 

楽しかった、その言葉を彼女から聞いたから。

大変なことがあっても、楽しく音楽をすると決めた彼女の言葉を聞いたから、自分も前へと進めようと思ったから。

だからピアノを弾いた。

 

だけど、あの日の弾いた音は、

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だった。

そして弾いたと同時に悟った。

俺はまだ過去と向き合うことができない....と。

過去の出来事が俺の心に根強く絡みあい深く根付いている。

俺を逃がさないように。

 

色が完全に失われようとした時だった。

自分の耳に美咲の言葉が響く。

 

「あの時の事を謝ろうと思って」

 

「えっ?」

 

その言葉に驚く。

視界から色が徐々に戻っていく。

 

「あの時さ、あたしがピアノ弾けるんだね、って尋ねた時に連音、悲しそうな顔してた。もしその原因があたしなら謝らないといけないと思ったから。 だから、ゴメン」

 

美咲が俺に向けて頭を下げる。

俺はそんな美咲に、言葉を投げかけた。

 

「....なあ、美咲。 一つ聞いてもいいか?」

 

「えっ、何?」

 

「....トラウマにどうしても向き合わないといけない時、美咲だったらどうする?」

 

何故こんなことを美咲に聞いたのか分からなかった。

だけど、今ここで聞いとかないと、後々後悔することになるそう思った。

 

「トラウマに向き合う.....うーん、あたしは経験したことないから分かんないけど、多分すぐには向き合えないと思う」

 

「....」

 

「でも、いつかは向き合わないといけないと思う。悩んで、悩んで、そのことを忘れないように。そうやって生きていかないといけないと思う。けど、あたしは.....一人で抱えこみそうだから素直に助けを求めるかな....ゴメン、らしくないこと言ったかも」

 

「....ふっ...そうかも、美咲らしくないかも」

 

美咲の言葉に俺は笑った。

彼女らしくない言葉を聞いたからではない。

俺は....過去と向き合うのに焦っていたのかも。

そう思えたからだ。

ゆっくりでいい、向き合っていこう。

 

「あー、笑った。ありがと、美咲おかげで吹っ切れたよ」

 

「....そんなに笑わなくてもいいと思うんだけど、まあ助けになったのなら良かったかな」

 

そう言うと、美咲は笑う。

今度の笑顔は心から笑っていたように見えた。

 

「うん、それじゃあ帰る...「あ、話は終わってないよ」...へ?」

 

ティーカップを片付けようとすると、美咲に腕を掴まれていた。

そしてあることが脳裏をよぎる。

こんな感じ前にもなかったけ...?

 

「船の事は許すけど、その後のことは許さないよ?」

 

そう話す美咲の顔は、ここへ来た時と同じ笑ってはいるが心の底から怒っている顔だった。

 

「そ、その後の事って....?」

 

「うん? この前のライブだよ?」

 

「ら、ライブがどうし...「ワイヤーアクション」...あっ...」

 

ワイヤーアクションという言葉に、止まっていた嫌な汗が再び流れる。

実はつい先日、ハロハピのライブがあった。

そしてその時にこころが....。

 

「連音があの船でワイヤーアクションをしようって、言ったんだよね? 」

 

「は、はい」

 

「それでこころがワイヤーアクションをしたいと言ったのは、まあ予想はしてた。だけどね...」

 

そこまで言うと、美咲は俺の肩を両手でしっかりと掴んだ。

それはもう凄い勢いで。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

はい、美咲のおっしゃる通りです。

ライブがあった日。

こころは文字通り、観客席をワイヤーアクションで飛んだ。

だけど、問題はその後。

 

『ミッシェルも飛びましょ!! 』

 

という言葉が放たれた。

そして目の前の、ミッシェルの中の常識人さんは、

こころと同じく観客席を飛んだ。

勿論、体を思うように動かせなくなるキグルミを着たままで。

 

「あはは...それは災難でしたね、美咲さん。 じゃあ、そういうことで」

 

「逃がさないよ」

 

肩にのしかかる手に更に力が入る。

あ、これは逃げられない。

 

「それで連音、黒服さんから聞いたんだけど、あの船での出来事でバイト代貰ったんだよね?」

 

「...はい、貰いました」

 

「実はあたし、駅前にできたショッピングモールで欲しいものがあるんだけど....ねえ、連音?」

 

そう言われた俺は、最早抵抗する気力なく頷いていた。

その後の記憶はおぼろげだ。

 

──────────────────────

 

これが俺が、休日に美咲とショッピングモールに来ることになった出来事。

そして今俺たちの目の前にあるのは、出来たばっかのショッピングモール。

 

「じゃあ、行こっか。連音」

 

「はい、はい、分かりました」

 

そう言うと、俺たちはショッピングモールの中へと入って行った。

 

 

 

 

 

 

その日、ある物との出会いがあることを俺は知らなかった。






今回はシリアス多めです。
ただ、僕の作風はシリアスはシリアルになりますね、やっぱ。
さて、次の話はデート回....と行きたいですけど。
上手く書けるか分かんないですね(笑)
まあ、頑張ります。

それでは、今回もお読みいただきありがとうございました。
感想、評価等貰えると凄くやる気出るので、是非とも清き一票を。

では、次のお話でお会いしましょう。

(近々、何か発表があるかも?)


進みが遅い小説


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第二十七話 惹かれるもの


どうも、ワッタンです。
さて、まずはお知らせからです。
知ってる人も多いと思いますが改めてお知らせです。

この度実は新しい小説を書き始めました。
そしてしばらくは、その小説を優先的に進めていきます。

なので、
週週一投稿で、

新作+Memory or Ghost
をすると思われるので、誠に身勝手ですがご理解の程よろしくお願いします。

それでは、第二十七話をどうぞ!!



休日のショッピングモールは人が多かった。

見渡す限り人に人。

 

おそらくこのショッピングモークが出来たばっかということもあり、一般的なショッピングモールの集客数より多いと思う。

そんな人混みの中を、美咲先導の元歩いていた。

 

「あの、美咲さん? やっぱり一人暮らしにお金を使わすのはいけないと思うんです」

 

目の前を歩く、美咲に声を掛ける......が、

美咲は足を止めない。

 

「大丈夫、大丈夫。そんなに高いものじゃないから」

 

そんなことを俺に言いながら。

それに若干の不安を抱きつつ歩き続け、

エスカレーターに二人で乗る。

(ま、良い機会かもな......)

 

とはいえ、一人暮らしだと言っても金銭の余裕はかなりある。

仕送りは相変わらず来ているし、何より例の豪華客船のバイト代。

 

実はあの中には、新社会人もビックリな程の値段が入っていた。

流石に三桁はいってなかったが、明らかに平凡な高校生が貰ってはいい値段ではない。

 

封筒をもらって中身を確認した瞬間、真っ先に黒服さんへと返したのだが、

「日頃のお礼です、何時もこころお嬢様をありがとうございます」と、頭を下げられたら強くは出れず、渋々受け取ったのだった。

 

とはいえ、今現在欲しい物がなかった俺はこのまま貯金をしようかと、思っていた。

だけどその矢先、美咲に詰め寄られ今日のショッピング。

 

これ幸いと。

どうせ使わないのだから、誰かの為に使おう。

と先程美咲に話した消極的な考えを改める、とはいえ、

 

(とはいえ、あんなパンケーキみたいなのはコリゴリだけどな)

 

何時ぞやか美咲に奢ったパンケーキ。

あれを奢った後にもやし生活になったのは記憶に新しい。

あんな感じのように色々な規格外の物を奢りたくはないなと思う。

あれは若干トラウマだ。

 

一つ上の階へと辿り着き、美咲がエスカレーターを降りたので俺も降りる。一直線に目的地に向かっていることから、どうやら行きたい所はもう決めてたらしい。

 

脇目も振らず歩いていく美咲の後を見失わないように後を追う。

人の波をかき分け歩くこと数分。

一つの店の前で立ち止まる。

その店はほどんどの男子高校生が入らないと思われる店の名前だった。

 

「着いたよ、ここだよ」

 

──────────────────────

 

 

「なんというか、意外なんだけど」

 

「何が?」

 

「いや、美咲がこんな趣味をやってるとは思ってなかった」

 

「うーん、なんだろうね。日頃のドタバタから解放されたくて、頭空っぽで出来るやつ趣味がないかなーって、そして惹かれたのがこれだった」

 

そんな会話をしている間も、彼女は商品を取って品定めしている。

美咲が眺めている商品......それは羊毛。

美咲に連れられ、辿り着いた店は『手芸店』だった。

何故、この店に着たのかそれは。

 

「あー、......なるほど、だから羊毛フェルトか」

 

それは美咲の趣味が羊毛フェルト作りだったからだ。

本当に意外。

美咲がそういうハンドメイドが趣味ということに。

人は見かけによらないというのはこういうことなのだろうか。

そんなちょっとだけ失礼なことを考えている間も、美咲は真剣に羊毛を眺めている。

 

「というか、羊毛って値段どれくらいなの?」

 

「物にもよるけど、安いのだったら百円かな」

 

「へー、普通に安いな」

 

「うん、後はニードルとかだけど。これもそんなに高くないよ。全部そろえて......五千円あれば余裕で出来るよ。 連音もやってみたら?」

 

「うーん......、考えとく」

 

「それ、絶対しないやつじゃん」

 

とまあ、こんなやり取りをしながら美咲の買い物を俺は眺めていた。

そして店に入ってから三十分後に店から二人とも出た。

店から出た美咲の手には、紙袋が握られている。

勿論、支払いは俺だ。

 

「んで、買いたい物は買えたのか?」

 

「うん、一応。ココの店でしか売ってない限定品があったからよかった、よかった」

 

そう言いながら、美咲は買ったものを肩から掛けているショルダーバックに入れていた。

バックへと買ったものをしまうと、美咲が口を開く。

 

「さてと、お目当ての物も買えたし、次の店行こっか」

 

「......やっぱり?」

 

何となく想像は出来ていた。

折角ショッピングモールに来たのだから、

流石に一つの店で終わるわけないなと。

 

そして仮にも俺達は高校生だ、欲しい物なんてごまんとある。

 

「うん、当然でしょ。一応これでも華の女子高生だからね、あたし」

 

「......はあ、分かりましたよ。とことん付き合うよ」

 

「うん、じゃあ行こ」

 

「分かった」

 

そう言うと、再び美咲は歩き出した。

今度もはぐれないように、美咲先導の元新しい目的地へと歩き出した。

 

──────────────────────

 

「ほい、美咲」

 

「ありがと、いやーありがとね、連音。」

 

買ってきたシェイクをベンチへと座っている美咲へと手渡す。

手芸店を出てから二時間ほど経っていた。

あれから、服屋やアクセサリーショップを回り、

美咲の横に置かれているショルダーバックは、買ったもので膨れていた。

 

「......いやまあ、今回に関してはこっちにも非があったからな、気にすんな」

 

「......もうキグルミつけたままでは飛びたくないな......」

 

そんなことを言う美咲は、どこか虚ろな目で遠くを見ていた。

これは相当トラウマになっているようだ。

 

「......ほんとにすまんかった」

 

そう言うと同時に空腹感を感じる。咄嗟に現在時刻を確認した。

ここに来たのが9時前。

そしてショッピングモールに着いてから二時間ほど経っていた、

つまり昼時。

それはお腹も空く。

 

「......さてと、そろそろ時間もいい感じだし、何か食べるか?」

 

美咲にそう尋ねると、

彼女は飲んでいたシェイクを口から離した。

 

「......ぷはぁ。うん、そうしよっか」

 

「何食べる? あ、勿論お代は払うよ?」

 

「えっ、いいの?」

 

「おう。 というか美咲の方こそ良かったのか? 俺がお金出したのは手芸店だけだし.....」

 

そうなのである。

俺がお金を出したのは、手芸店で買った物のみだった。

てっきり、他の店でも俺が奢るのかと思っていたので驚いた。

 

「いやまあ、流石にそこまであたしは酷くないよ。 ....それに連音に奢ってもらうのは一つだけって決めてたし」

 

「へ? そうなのか?」

 

「うん、それに幾らお金があるとはいえ、まだあたしら学生だし。そうやすやすとお金を出してもらうのは悪いよ。....まあ、食事は奢ってもらえるなら、そのほうが嬉しいけど」

 

(あ、食事は別なんだ)

 

その言葉に少しだけ苦笑する。

美咲はというと、飲みかけだったシェイクを口につけていた。

 

「.....そっか。 よし、分かった。それじゃあ食べに行こうか」

 

俺がそう言うのと同時に、美咲がシェイクから口を離し、ベンチの横にあったゴミ箱にシェイクのごみを入れていた。

どうやらのみ終わったらしい。

 

「分かった、じゃあ連音、ゴチになりまーす」

 

「はいはい、任せれた」

 

そう言うと、俺たちはそのままショッピングモールにあるフードコートへと一直線に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

筈だったのだが、

その店の前に通りすぎようとした時、俺は足を止めていた。

 

 

「連音?」

 

先程と変わり、俺が美咲の先を歩いていた為、

俺の後ろから、美咲が訝しげな声で話しかけてきた。

だけど、俺の耳にはその声が聞こえてこなかった。

 

 

なぜその店の前で止まったのか分からなかった。

人に言えば笑われるかもしれない。

だけど、俺はその時感じた。

 

()()()()()()()()()

 

「......」

 

ゆっくり足取りでその店の中へと入る。

後ろから、驚きの声を聞こえた気がしたが、そんなの関係なしに店の中を歩く。

その店の中は、人々に色々な音を聞かせる物がいっぱい並んでいた。

本来なら少しは立ち止まって吟味をするのだろうが、俺はそれにも目をくれず、

店の奥へと進む。

 

 

 

そして見つけた。

と同時に直感する。

 

 

このギターが俺を呼んでいたのだと。

まず目に引かれるのは、その形。

いわゆる変形ギターと呼ばれる形だった。

ボディの色は、日菜と見たあの星空の色だった。

どこか明るく感じる夜空の色。

 

「....」

 

「あれ、そのギターって....香澄の....」

 

後ろから声がする。

どうやら美咲は後を追いかけて来たようだ。

 

「....お前が呼んだのか?」

 

そのギターに手を伸ばす。

その値札には、

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

『ランダムスター』

 

たった七文字のギターの名前。

その名前にどうしようもなく運命を感じていた。





はい、ということで遂に連音君の新しいギターです。
さて、ここで注意事項。
実際に作中色のランダムスターは恐らくないです。
なので、そこはご了承ください。

今回はデート回のような何かでした。
次の話もデート回っぽい何かなのでよろしくお願いします。


それでは、今回もお読みいただきありがとうございました。
感想、評価等貰えると凄くやる気出るので、是非とも清き一票を。

それでは、次のお話でお会いしましょう。

(「うぇるかむ to OUR MUSIC♪」最高でした!! 美咲が可愛かったよー!!)

新作

こっちも更新したよ


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第二十八話 気持ち


どうも、ワッタンです。
さて今回もお知らせからです。
えー、この度この小説が、
ハーメルンでの奥沢美咲タグ小説にて、TOP10入りしました!!
本当にありがとうございます!!
遅筆で有名なこの小説ですが、見守ってくれると幸いです。


それでは、第二十八話をどうぞ!!


目の前のうどんを口へと運ぶ。

もちもちとした食感があたしの口内を支配する。

そして後味をひくダシの風味。

それはあたしの胃袋に食欲という名の刺激をかけ、夢中で箸を進める。

 

お昼時のフードコートは人がいっぱいで溢れかえっていた。

座れないかと思ったその矢先、

奇跡的にテーブル席が開いていた。

 

 

これ幸いと、そのテーブル席へと連音と一緒に座り込んだ。

そして連音はというと、何も頼んではいない。

その代わり自販機で買った缶ジュースが置かれていた。

そして連音の隣には、買ったばかりのギターケースが置かれていた。

 

「....それ、勢いで買ってよかったの?」

 

「えっ....あー、うん」

 

そう言いながら、連音はギターケースに手を触れる。

その中には先程、連音が手にしていたギター、

『ランダムスター』が入っている。

 

ちなみに連音は結局、あの後ギターを買った。

値段はというと、あたしのバイト代を半年以上使わずにして、

ようやく買える値段だ。

ぶっちゃけ、高校生が手にしてはいけないギターだろうと思う。

でも連音はそれを躊躇することなく払った。

 

 

目の前のうどんをすすり終え、うどんのダシを

口につける。

かつお節の風味が口いっぱいに広がる。

 

「.....このギターを手にした時さ、なんか運命を感じたんだ」

 

「運命?」

 

「うん、なんかこう.....このギターが俺を呼んでいるような感じ? 」

 

そんな訳ないでしょ。

そう返すことは簡単だった。

だけど、あたしはその言葉にただ一言。

 

「そっか」

 

そう返したのだった。

 

──────────────────────

 

連音がピアノを弾いていたあの時、

普段の様子から想像できないほど、彼は辛い顔をしていた。

なんかこう......。

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

というような表情。

その表情はあたしの心を締め付けた。

 

 

連音と出会ったのは、あの流星群の夜。

妹と一緒に公園で出会った。

第一印象は、ただギターが上手に弾ける人という印象だった。

 

 

次に出会った時は、商店街で。

あたしがキグルミのアルバイトをしている時だった。

今思えばあの日から、あたしの人生は180度変わった。

思えばそこからだ。

連音とよく関わりだしたのは。

 

「....重い」

 

「そりゃあ、そんなに買えばね?」

 

そう言うと、連音が抱えている荷物を見ながらそう呟く。

連音が抱えている荷物。

それはランダムスターを弾くために必要な機材だった。

ちなみにあたしも少しだけ、荷物を持ってあげている。

 

現在、あたしたちはショッピングモールを後にして、

帰路についていた。

時刻は午後三時過ぎ、少し小腹がすく時間帯だ。

 

「いやあ、だってさ早くこいつを弾いてみたくてさ」

 

連音はそう言いながら、肩に掛けているギターケースを

見やった。

その顔は、楽しくてしょうがないそんな顔だった。

 

「.....そっか」

 

ああ、その顔だ。

あたしは連音にそんな顔をしていて欲しい。

 

連音と関わりだした直後、

あたしは彼の事をただのギターが上手なギター馬鹿だった。

きっと、公園で出会わなければ、

あたしの人生に関わることはなかったと思う。

そんな事を思っていた。

 

だけど、

 

ハロハピを通して、彼とかかわっていくうちに、

 

()()()()()()()()()()()()()()

だけど、それもつい最近だ。

 

 

「お、そうだ」

 

突然、連音が立ち止まる。

 

「どうしたの?」

 

「ちょっと、寄り道したいんだけどさ、美咲は時間大丈夫か? 」

 

「別に大丈夫だけど.....何処行くの? 」

 

「いやさ、小腹がすいたからさ、何か買おうと思って」

 

連音にそう言われると、お腹の方に意識がシフトしてしまう。

時間帯も時間帯なので、小腹は少しすいていた。

 

「あー、なるほど。 うん、分かった良いよ。 だけど、何買うの?」

 

連音はにやりと笑う。

そしてある場所の方に指を差す。

 

「それは勿論、あそこでさ」

 

連音の指の先。

そこはあたしと連音が二回目に出会った、あの商店街だった。

 

──────────────────────

 

「なるほどー、ということは二人で買い物デートしてたと」

 

「違うな」「絶対、違う」

 

「あはは、即答だね。まあ、確かに二人の関係は、悪友って感じかもね」

 

そう言われ、連音と目を合わせる。

 

「「そうかも(な)」」

 

「ふふふ、息ぴったりだね、二人共」

 

連音につられてきた場所、そこは商店街にある小さなパン屋。

『やまぶきベーカリー』だった。

そしてあたしと連音の関係を悪友って言った人物は、

 

山吹沙綾。

 

あたしと同じ、ガールズバンドをやっている。

そしてこの店の看板娘だ。

 

「それで、どうしてうちに来たの?」

 

「いや、小腹がすいたからさ、なにかつまめる物って思ったら、この店を思い浮かんだ」

 

「あー、確かに今はおやつ時だもんね」

 

「そうそう、ということでなんか良いパンあるか?」

 

「うーんとね、今日は.....これとこれかな」

 

沙綾はそう言うと、二つのパンを指差す。

指を差したパンはどうやら、焼き立てのようだ。

香ばしい匂いが漂ってくる。

そのパンのPOP(ポップ)には期間限定と書かれている。

 

「そっか、じゃあ、それを貰おうかな」

 

「毎度あり!! 袋に詰めるからちょっと待てってね」

 

沙綾はそう言うと、おすすめしたパンを紙袋へと詰めていく。

そんな様子を眺めていると、ふと気になったことを連音に尋ねた。

 

「ねえ、連音。この店にはよく来るの?」

 

「まあ、それなりには。流石に毎日は来ないけど」

 

「そうなんだ」

 

「そうそう、大体いっつも沙綾におすすめのパンを選んでもらってるな」

 

そんな当たり障りのない会話をしていると、

沙綾が袋詰めを終えたらしく声を掛けてきた。

 

「はい、お待ち同様。 四点で、千円ね」

 

「ありがとう、ほい千円」

 

そう言うと、連音は千円を出そうする....が、

あたしはそれを呼び止める。

 

「あ、待って。あたしの分は自分で払う.....」

 

と口を開いたが、それを言い終える前に、

連音がさっさとお金を払ってしまう。

 

「いいよ、これくらい。 それに今日のお礼だから」

 

「.....お礼?」

 

何か連音にお礼を言われるようなことをしただろうか。

そんな事をした覚えはない。

逆にあたしが、無理やり買い物につきあわせてたりしてた。

 

 

()()()()()()()()()()()()()

 

 

「よし、それじゃあ行こうぜ、美咲」

 

「あ....うん」

 

取り敢えず、あとで聞いてみよう。

 

「じゃあな沙綾」

 

「また来るね、山吹さん」

 

「うん、ありがとね。 二人共!!」

 

そういうと、あたし達はやまぶきベーカリーの扉をくぐった。

 

 

 

 

「....お似合いだと思うんだけどね、あの二人」

 

──────────────────────

 

「で、どうしてお礼なの?」

 

「あー.....」

 

歯切れが悪そうに連音は言葉を発する。

今向かっているのは、連音の家。

あたしが持ってる連音の荷物の関係上、先にあたしが自分の家に帰ってしまうと、

連音が荷物を持って帰るのに、二度手間になってしまうからだ。

 

そしてパンは、折角焼き立てだったので、食べながら帰っている。

 

「......大事な事に気づかされたからかな」

 

「気づかれた?」

 

「うん、そう。 言ってしまえばピアノのことで悩んでたんだよな。」

 

「.....」

 

連音の言葉に口を挟むことなく、耳を傾ける。

 

「だからさ、この前の美咲の言葉で救われた気がしたんだよ、その時にさ、思ったんだよ。時間がかかってもいいゆっくりと前へと歩いていこうって。 だから.....」

 

横に居る連音が立ち止まり、

あたしの方へと向いた。

 

「だからさ、ありがとな美咲」

 

ああ、その笑顔だ。

その顔....何かが好きでたまらないと感じさせるその顔が見たかった。

 

あたしはきっと、連音と出会わなければ、

普通に高校生活を過ごすという、「青春」という文字がない人生だっただろう。

それにあたしは悩んでいた。

 

ハロハピに入ると決める前、

こころが世界を笑顔にする。

その活動が失敗した時に、みんなが落ち込むのが、涙が見るのが怖かった。

だけど連音が.....連音がギターを奏でている時は、それを聞いているみんなが笑顔になっていた。

勿論、あたしも。

 

そして、そんな様子を見ていつしか思ってしまったんだ。

音楽で世界を笑顔にできるかもしれないって。

 

その可能性を連音はあたしの前で見せてくれた。

だから、ハロハピに入ると決めたんだ。

あたしも、連音と同じように人々を笑顔にさせてみたい、そう思ってしまったから。

 

連音は.....

あたしを照らしてくれる光.....じゃなくて、包み込んでくれる星の光。

きっと、あたしは彼に憧れている。

そう思う。

 

だからそんな人の悲しむ顔は見たくなかった。

あたしを導いてくれる人の。

だけど、今日の出来事で笑ってくれるのなら、あたしは.....。

 

 

「....うん、どういたしまして」

笑顔でそう返す。

 

今日のデートを誘って良かったと思う。





さーや誕生日おめでとう!!
ということでこっちの小説に沙綾初登場でございます。
(たまたま)

といことで、デート編的ななにか終了でございます。
期待通りの結果になってると幸いです。

それでは、今回もお読みいただきありがとうございました。
感想、評価等貰えると凄くやる気出るので、是非とも清き一票を。

では、次のお話でお会いしましょう。

(HR200なりましたー)

同時更新

誕生日だったのに更新出来なかったよ....


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第二十九話 エレキと女優と照れ


どうも、ワッタンです。
危うく一か月前になるところでした。
本来なら先週投稿したかったんですが、遅くなりました。
申し訳ないです。
ということで、今週はその君はお休みです。


それでは、第二十九話をどうぞ!!


部屋にはギターの音が鳴り響いている。

それはこの部屋の中では日常的に俺が響かせている音。

 

だけど、その音はいつものアコギから出される音ではなく、電子的な響きが混じっている。

それもその筈、今俺が構えているのはアコースティックギターではない。

今構えているのは、俺を呼んでいた....ような気がしたエレキギター、『ランダムスター』。

それを土曜の朝っぱらから、かき鳴らしていた。

 

「.....ふー、大分ピック弾きのカンが取り戻せてきたな」

 

長いこと、ピックでギターを弾いてなかったので、

最初にランダムスターを弾いた時はそれはもう酷かった。

しかしこの一週間で、人前で弾いても問題にはないくらいには上達した。

アコギ経験者とはいえ、一週間でここまで仕上れば、上等だろう。

 

「よし、今日も一日中弾きますか!!」

 

幸か不幸かこの時期は梅雨。

この前の勉強会の日と同じように、窓からは雨の降る街並みが見えている。

こんな天気じゃどこにも行きたくならない。

ということで、今日はギターを弾きまくろう.....と、決心したのが二時間前の出来事。

 

二時間後、今現在俺は。

 

 

「初めまして、白鷺千聖です。と、.......貴方が、鳴宮連音君ね、少しお話しましょうか?」

 

喫茶店で女優と話していた。

──どうしてこうなったんだ?

 

──────────────────────

 

事の発端は一時間前。

ギターを弾いていて、お昼ご飯の準備を何もしてなかったため、

久しぶりにコンビニの弁当で済まそうとして、傘を指しながらコンビニに向かって歩いていた時だった。

 

「あれ、松原さん?」

 

「ふぇ....あ、連音君?」

 

あちらこちらを見渡している、

花音さんを見かけたのだ。

 

 

「昨日振りですね、どうしたんですかこんなところに?」

 

「あ、そのちょっとね.....」

 

なんだろうか。

松原さんがいつもより、おどおどしているように見える。

が、ここでピンとくる。

松原さんが大抵こんなになっている時は、

 

「松原さん、もしかしてまた迷子ですか?」

 

「え....あ、そのぉ、はい...そうです」

 

迷子になっている時である。

「やっぱりですか」と呟く。

 

実は松原さんは、方向音痴である。

地図アプリを見ていても、道に迷ってしまい、

初めて行く場所には決まって、道に迷うという羽目にあっているらしい。

らしいというのは実際に、松原さんから聞いた話だ。

 

「えーと、連音君? ホントに悪いんだけど、そのぉ...」

 

心配そうな顔を浮かべながら松原さんが、話しかけてくる。

 

「あー、そんな心配そうな顔をしないで下さい。安心してください、俺がちゃんとエスコートしますから」

そもそも、端から断る気はない。

ちょっと昼飯が遅くなるだけだ、そんなちっぽけな悩みよりこっちのほうが重要だ。

それに断ったりしたら美咲に怒られてしまう。

 

「あ、ありがとう、連音君。それで、ここに行きたいんだけど...」

 

そう言いながら、自分のスマホを見せてきたので、画面に目を通す。

それはとある喫茶店のホームページだった。

 

「ええと、この場所は....こっから真反対ですね」

 

「え?」

 

そう告げると、二人の間に何とも言えない空気が訪れる。

が、俺はその空気を割くように口を開く。

 

「とりあえず、行きましょうか?」

 

「う、うん」

 

そして喫茶店へと歩き出した。

 

──────────────────────

 

とこれが、事の発端。

道中で松原さんか、待ち合わせの人物が居ると聞いていたが、

まさかそれが、女優のそして『Pastel*Palettes』の白鷺千聖とは夢にも思わなかった。

 

「それで、お話どうかしら?」

 

「え、いや、その別に大丈夫ですけど....でもなんで急に?」

 

「千聖ちゃん?」

 

目の前の女優の言葉に、

俺のみもならず、松原さんまで困惑している。

 

「気になったからっていうのが、理由かしらね。 度々あなたの話を聞くのよ、花音と.....日菜ちゃんから」

 

「日菜から?」

白鷺さんの言葉で、あの水色の子を思い浮かべる。

どこから嗅ぎ付けたのかは分からないけど、

 

『連音君、ギター買ったんだって!? 聞きに来たよー、それと一緒に弾こっ!! 』

 

という感じで、自分のギターと共に来たっけ。

結局そのまま紗夜さんに、帰ってきなさいと言われるまで一緒にギターを弾いていた。

 

「あら、日菜ちゃんの事、呼び捨てなのね」

 

「あー、日菜からそう呼べって言われました。さん付けで呼んだら俺の言葉は無視されました」

 

「....なるほど、それは大変ね。とりあえず座ったら?」

 

と向かい側の席を指差す。

 

「あ、分かり....「それと、私も名前だけで結構よ」...マジですか?」

 

「おおマジよ、プライベートの時くらいは素で居たいのよ」

 

そう言いながら、目の前の女優さんは微笑んだ。

 

──────────────────────

 

「なるほどね、夜の公園で日菜ちゃんに会って、今のような関係に至る...と」

 

「言い方に悪意ありません?」

 

「気のせいよ」

 

そう言うと、目の前の女優さん──ではなく、千聖がコーヒーに口を付ける。

それだけで絵になるんだから、芸能人はすごいと思う。

そんな事を思いながら、俺もコーヒーへと口を付け....。

 

「それで、連音君は好きな人は居るのかしら?」

 

「んぐっ!?、.....ゲホゲホ」

 

「れ、連音君大丈夫!?」

 

突然の地雷発言に、コーヒーを飲んでいた俺はむせかける。

隣の松原さんが、心配そうに声を挙げる。

 

「ゲホッ、だ、大丈夫です.....イ、イキナリ、何言うんですか!?」

 

「あら、別に私は変なことは聞いてないのだけれど」

 

呼吸を整えた後、千聖に問い掛けるが、

当の本人は、笑顔のまま表情を崩さない。

それどころか、この状況を楽しんでいる気がする。

 

「それで、居るのかしら?」

 

「....居ませんね」

 

「ふーん、そうなのね」

 

俺が千聖にそう返すと、彼女は口に手を当てていた。

その姿は、何かを考えているかのように俺は見えた。

 

「ま、この話はもういいわ。やっと、謎が解けたから」

 

「...? 謎って何ですか?」

 

「日菜ちゃんが最近、調子いいのよ」

 

「日菜が? いっつも調子がいいように見えますけど?」

 

逆に日菜が調子が悪い日などがあるのかと思ってしまう。

だから、千聖の言う事がにわかには、信じられなかった。

 

「うーん、なんていうのかしらね。以前の日菜ちゃんは、あまり他人の事を理解しようと....いうよりかは、理解しようとしてなかったと言えば、正しいかしら」

 

「....今は違うんですか?」

 

「そうね、丁度一か月前くらいかしらね、日菜ちゃんが他人の事を理解するようになったの、 そしてその頃に、日菜ちゃんがこう言ったのよ」

 

──日菜ちゃん、最近変わったかしら?

 

──んーそうかな?

 

──ええ、初めて会った時よりも、周りをよく見てるって言えばいいのかしらね?

 

──んー、そう.....あ、きっとあれだ!! 千聖ちゃん!! 聞いて、聞いて、面白い人に出会ったんだ!!

 

──面白い人?

 

──うん!! おねーちゃんみたいにギターが上手なんだー!! それに凄くるんっ♪て来る人なんだー!!

 

──へー、そうなのね。私も会ってみたいわ。

 

──千聖ちゃんも、絶対気に入るよ!! それにギターを弾いてる時の連音君、すっごくカッコイイんだから!!

 

 

「とまあ、こんな事を言われたの。だから貴方がどんな人物か気になったのよ、日菜ちゃんが行動を変えるきっかけになった人が、どんな人なのかをね」

 

そこまで言うと千聖は、飲みかけだったコーヒーに口を付ける。

 

「そうだったんだ」

松原さんはというと、千聖の言葉に納得がいったと言わんばかりに、千聖の方を見ていた。

 

「まあでも、まさか花音が今日連れて来るなんて思いもよらなかったけれどね」

 

「うっ、そのごめんね、千聖ちゃん」

 

「花音は悪くないわよ、私がもうちょっと場所を分かりやすく、伝えれば良かったわね、ごめんなさい。....それで、アイドルに格好いいと言われた感想はどう?」

 

「.....日菜の奴め」

 

そう言いながら、おでこに手を当てる。

千聖さんの言葉に、顔に血が集まるのを感じる。

 

「あら、意外と可愛い反応するのね、まるでうちの犬みたいね。 そういえば、貴方と名前も一緒ね」

 

「.....性格悪いですよ」

 

「この業界にいれば、こうもなるわよ」

 

俺の皮肉めいた言葉に、

千聖はそんな事はもう知ってますと言わんばかりに、軽く言葉を返す。

 

「これで、納得したかしら」

 

「....ええ、納得しましたよ」

 

「そう、それは良かったわ。....少し小腹が空いてきたかしらね、ケーキでも頼もうかしら。 連音君はどう? 今なら迷惑を掛けたお詫びとして奢ってあげるわよ」

 

「....いただきます」

 

「分かったわ、...女性からの好意を素直に受け取るのは好ポイントよ」

そこまで言うと、千聖は店員に声を掛けた。

 

「.....苦い」

 

ぬるくなってしまったコーヒーの苦さは、今の俺には丁度良かった。

こうして、女優とのお茶会はこの後一時間も続いたのだった。





ということで、初めて千聖さん書きました!!
なんか書いてて、凄く楽しかったですね。
千聖さんは割と書きやすい部類でした。
反応良かったら、千聖さんヒロインの小説書いてみたいですね(フラグ)

それでは、今回もお読みいただきありがとうございました。
感想、評価等貰えると凄くやる気出るので、是非とも清き一票を。

では、次のお話でお会いしましょう。

(虹学のせつ菜ちゃんがカワイイです)

今週はお休み

誕生日おめでとう!!(一か月前)


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第三十話 風邪と看病 前編


どうも、ワッタンです。
さて、今回で祝!! 三十話でございます。

といって特に特別なことはしてないですけどね。
今回は前回とったアンケートの票数が高かった子のお話です。

まさか、この子が一位とは思わなかったですね。


それでは、第三十話をどうぞ!!


『ねえ、友希那ぁ、どうしたらいいと思う?』

 

開口一番。

スマホのスピーカーから、リサの泣きそうな声が聞こえてくる。

 

「......知らないわよ、それにあなた、今何時だと思ってるの?」

 

通話をしながら、壁に掛けられている時計をチラリと見る。

表示されている時間は、もう一日が終わろうとしている時間だった。

電話を掛けてくるには非常識な時間帯だ。

 

『えーと、友希那......怒ってる?』

 

「当たり前でしょ、こっちはもう、明日に備えて寝る所だったんだから」

 

『ご、ごめんね』

 

「はあ、......で、私に何の用?」

 

流石に泣きそうな幼馴染の声を聞いて、

電話を切るという選択肢はなかった。

それに、明日は朝早くから生憎と出かける用事がある。

だから、今日は早めに寝なければ明日に響く。

反論もそこそこにため息をつきながら、リサに話の続きを促す。

 

『......!! あ、ありがと、友希那!! そのぉ、じつは明日、連音君と出かけ......』

 

「切るわね」

 

前言撤回。

今日はもう寝ることに....。

 

『ああ!! 待って、待って、友希那ぁぁぁ!! って......わわわ!!』

 

スピーカーからドタバタする声が聴こえてくる。

そんな様子に頭が痛くなり、おでこを手で抑える。

大方、明日着ていく服で電話してきたのだろう。......私に分かると思っているのかしら。

 

「というか、リサ。 あなた、一週間前もこんな調子だったわよね? 流石に呆れるわよ」

 

『う......だ、だって、初めて二人きりで、男の子とお出掛けするし......お、落ち着かないよ!!』

 

「そんなものかしら」

 

『そんなものなの!!』

 

耳に当てたスマホのスピーカーからリサの大声が鳴り響く。

おかげで耳がキーンとしてくる。

 

「分かったから声を抑えて頂戴、近所迷惑よ」

 

『あ、ご、ごめん......』

 

「......別に、着ていく服なんていつも通りでいいんじゃないかしら」

 

『で、でもぉ......』

 

リサの不満そうな声が聞こえてくる。

 

「それにリサ、今日くらいしっかり寝なさい。 昨日も一昨日も夜遅くまで起きてたでしょ?」

 

『ど、どうしてそれを......』

 

「窓から見えるのよ、明かりの付いているリサの部屋がね」

 

そう言いながら、窓際へと近寄りながらカーテンを開ける。

そこには昨日と変わらない光景の、明かりのついたリサの部屋がよく見える。

 

「.....リサ、私が言えた事ではないかもしれないけど根を詰めすぎよ。 もしそれで、体調を崩したりして、バンドの練習に参加できないってなったら怒るわよ 」

 

『友希那....』

 

「兎に角リサももう寝なさい、明日遅れたりしても知らないわよ」

 

『う、うん』

 

「それじゃあ、切るわね」

 

そう言って通話終了のボタンを押した。

と同時に、リサと通話していた時に、せき止められていた眠気が襲ってくる。

いそいそと、スマホを充電器へとさす。

明日はいっぱい写真を撮るのだから。

そう思いしっかりと充電をされることを確認したら、部屋の電気を消しベットへと潜り込んだ。

明日が何事もないようにそう思いながら......,

 

 

 

と思っていたのだが、現在私の目の前には、

 

「うー、友希那ぁ.....」

 

ベッドでうなされている幼馴染が居た。

 

 

──────────────────────

 

朝起きた時に感じたのは、倦怠感だった。

それに心なしか体が熱い。

 

──なんか、ボーっとする....

 

ゆっくりと体を起こす。

そして続いて襲ったのは寒さだった。

 

──あ、これ....もしかして.....風邪?

そう悟った瞬間、

 

 

罪悪感と後悔と、いろいろなもので胸がぎゅうぎゅうとつぶされるような感覚。

そんな感覚に襲われる。

これでは、デートには行けない。

 

友希那に言われた通り、アタシは無理をしていた。

 

バイトや部活が終わってからも、デートの日......つまり今日に至るまで、

色々と準備をしていた。

 

そもそもデートに行くことになったキッカケは、あのお勉強会の日。

連音君に頼んだご褒美だった。

その頼んだ内容というのは、

 

『一緒にお出掛けがしたい』

 

だった。

そのことをドキドキしながら、連音に伝えた。

彼の返事はあっさりとOKだった。

 

それを聞いてから、アタシは張り切った。

アタシから頼んだ手前、デートコースはしっかりと計画を立てたかった。

だから、部活や練習が終わって家に帰ってから寝るまで、ずっとこの日の為に考えていた。

連音君が満足してもらえるように。

 

でもそれが.....このざまだ。

そして自業自得だった。

 

──ゴメンね連音君....今日行けないや。

 

それを認識した瞬間。

アタシはもうダメだった。

 

掛け布団に涙がこぼれ、静かに嗚咽を漏らす。

泣いてはダメ、頭では理解をしている。

だけど、そうやって自分を律するほど涙が溢れてくる。

涙を流すほど、体力が削られ、意識が朦朧としていく。

気が付いた時には、アタシは再び意識が夢の中へと沈んでいった。

 

 

 

そして今、目覚めた時には幼馴染が居た。

 

「....三十八度九分。 風邪ね」

 

「友希....那?」

 

体をベットから起こす。

相変わらず、体には倦怠感がある。

それどころかさっきより、悪化している感じがする。

 

「リサ、起きたのね」

 

「ど、どうしてここに?」

 

「リサがこんなメッセージを送ってくるからでしょ」

 

そう言いながら見せてきたのは彼女のスマホ画面。

映っていたのは、私とのトーク画面。

そこには、

 

「助けて」

 

と、私がメッセージを送っていた。

 

 

「えっ、アタシ....送った覚え無いんだけど.....」

 

頭がボーっとしながらも、枕元にあるスマホを手に取る。

ロックが解除され、スマホの画面が出てくる。

映し出された画面は、友希那とのトーク画面だった。

 

 

「あれ、...送って...ある?」

 

「リサが寝ぼけて送ったんじゃないの? ....それよりも、リサの両親は?」

 

「えーと、昨日から二人で出掛けてて...今日の夜に帰ってくる...」

 

「そう、とりあえずこれを飲みなさい」

 

友希那が何かを差し出してくる。

それはコップに入った水と、何かの錠剤──恐らく風邪薬だろう。

「ありがと」一言そう言うと、友希那から受け取り錠剤を口に入れ水で流し込む。

 

 

「....リサ、あれこれ言いたいことがあるけれど、今日は何も、もう言わないわ」

 

コップを友希那に返す時にそう言われる。

それは幼馴染だからこを分かること。

これは相当に怒っている時の、友希那だ。

 

「....うん。 ゴメン....友希那」

 

「その代わり。体調が治った後のバンド練習は厳しくいくわ」

 

「あはは....お手柔らかに」

 

これはいっぱいしごかれるだろうなあ。

ボーっとする頭の隅でそんなことを考える。

 

「とにかく今日は安静にすることね」

 

そう言うと、幼馴染はベッドの横に置かれた

椅子から立ち上がる。

 

「それじゃあ、私行くわね」

 

「あ....うん。ありがと、友希那」

 

「....取り敢えず、用事が終わったら寄るから」

 

 

「それじゃあ、お大事に」

部屋から出る前に一言、友希那はそう言うと、

扉を閉めて出っていた。

部屋には、私だけが取り残される。

 

薬のおかげか、少しだけ体調が良くなった.....様な気がする。

 

「あっ....連音君に、言わなきゃ」

 

スマホを手に取り、トークアプリを開き、

連音君の連絡先を開く。

 

──ゴメン、用事が出来たから行けなくなちゃった、ゴメンね。

──この埋め合わせは絶対するから。

 

風邪になったということは伝えない。

余計な心配を掛けたくない。

それにこれは、体に無理をさせた罰だ。

 

連音君にメッセージを送信し、スマホの電源を切る。

それと同時に、程よい眠気が襲ってくる。

友希那に言われた通りに、今日は大人しくしていよう。

そう思ったわアタシは、その眠気には逆らわずに、夢の世界へと

へと旅立っていった。

 

 

少しの寂しさを抱きながら。

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

部屋から出た時、本人は気づいていないようだけど、

寂しそうな顔を浮かべていた。

 

出来る事なら看病はしてあげたかった。

だけど今日は絶対に無理だった。

何故なら───、

 

 

テレビに取り上げられるほど有名な猫カフェに行くのだから。

しかもわざわざ、その店は完全予約制。

次逃したら、にゃーんちゃんにはもう会えないかもしれない。

だけど、それを理由にしてリサを置いて行くというのは、

後ろめたさを感じる。

 

 

「....仕方ないわね」

 

そう呟き、連絡先を開く。

そしてとある人物の名前を探し、その人に連絡を取る。

 

『鳴宮連音』

 

その名前の連絡先が、スマホ表示されていた。






ということで、リサさん回です。
まさかメインヒロインを抑えて、一位になるとは驚きました。
そしてこの結果から、ワッタンは奥沢美咲作家ではなく、今井リサ作家として有名なのかもと思ってしまってます......。

それでは、今回もお読みいただきありがとうございました。
感想、評価等貰えると凄くやる気出るので、是非とも清き一票を。

では、次のお話でお会いしましょう。

(今週はSong I am ですねー、みんな見に行きましょー)

お休みその①

お休みその②


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第三十一話 風邪と看病 中編

どうも、ワッタンです。
疲れてダウンしてました。

めちゃくちゃ、体調もメンタルも酷かったです(笑)
多分これからも、週一投稿難しい時もあるけど許してね。



それでは、第三十一話をどうぞ!!


 

(あれ?なんか......気持ちいい)

 

意識が覚醒する感覚を覚える。

 

相変わらず発熱によって体は暑い......が。

一箇所だけ、冷たくて気持ち良い箇所があった。

それはおでこだった。

だけど、寝る前に冷却シートを貼った覚えがない。

 

(なんで......? もしかして、友希那?)

 

「今日は用事があるから、一緒に居られない」と彼女は言っていたが、

もしかしたら、アタシの為に居てくれた......?

そんな予感が頭をよぎる。

だとしたら、謝らないと。

 

友希那がアタシの為に犠牲になる必要なんてない。

覚醒する感覚に身を任せ、ゆっくりと目を開ける。

だけど、アタシの目に映ったのは......、

 

「あ、気が付いたんですか。 リサさん」

 

「......え? なん....で?」

 

今日アタシが出会う予定だった人物だった。

不意打ちだ。

何でここに連音君が!?

そう問いただそうとするが、驚いて上手く言葉にならない。

 

「あ、ゆっくりと寝てて下さい。 今、紗夜さんがお粥作ってくれてますから」

 

「え、紗夜も居るの!?」

 

更なる驚愕をアタシを襲う。

連音君だけではなく、紗夜も居るなんて。

頭はこの状況を理解しようとしているが、寝起きの頭では理解不能。

少しだけ軽くパニックになっていた。

そして結局、

 

「えとごめん、色々と聞いてもいい?」

 

考えることを放棄し、連音君に現状を求めた。

 

──────────────────────

 

「何かあったのかな?」

 

疑問に思うが行けなくなったのなら、仕方ない。

リサさんに、「分かりました」という旨の返事を返しておく。

 

「さて......これからどうしよう」

 

現在はリサさんとの待ち合わせ場所の駅前。

そして時刻は待ち合わせの三十分前。

リサさんを待たせる訳には行かないのでこの時間に来たのだが、

完全に手持ち無沙汰になってしまった。

 

「とりあえず、ぶらつこうかな」

 

結局俺はそのまま家に帰ることはせず、他の店が開くまでぶらつくことにした。

折角、駅前まで来たのだから何か買い物でもして──そう思った時。

ポケットに入れていたスマホが連絡アプリの通知音を響かせる。

 

──誰からだろ?

 

取り出して、相手の名前を確認する。

表示されている名前は、『湊友希那』

 

「友希那さん?」

 

彼女から連絡が来るというのは珍しい。

来たとしても、Roseliaの曲をどのようにしたらいいか。

というような音楽関連の連絡ばかりだ。

 

しかしそれを差し置いても、朝早くから連絡が来るのとしても不思議だった。

 

スマホのロックを解除し、送られてきたメッセージを確認する。

送られてきたメッセージには。

 

『今から会えるかしら』

 

そう書かれていた。

 

 

 

「待たせたわね」

 

連絡が来て五分後。

友希那さんと駅前で会っていた。

 

「いやまあ、大丈夫ですけど....どうしたんですか、こんな朝早くから」

 

連絡が来ていた時から思っていた疑問を、友希那さんに尋ねる。

それに対し友希那さんが肩をすくめながら、「ちょっと出掛けるのよ」と返された。

そして今度は逆に友希那さんから、

 

「貴方、今日リサと出掛けるらしいわね」

 

質問を返された。

何で友希那さんからこんな事を聞いてくるのか分からなかったが、別に答えることを渋る内容でもないので、直ぐにその質問に答える。

 

「そうだったんですけど、リサさんに今日行けなくなったって、連絡が来ました」

 

そう言葉を返すと、友希那さんは明らかに怪訝そうな顔を浮かべた。

 

「.....ちなみにその行けなくなった理由は聞いたのかしら?」

 

「特には聞いてないですけど.....」

 

そこまで話すと友希那さんがおでこの手を当てながらため息をついていた。

よくよく見れば友希那さんの顔はどこか、焦燥しきった顔をしているように見える。

 

「はあ、全く不器用なんだから.....」

 

「不器用?」

 

「こっちの話よ。それより連音、今からリサが行けなくなった理由を話すわ」

 

 

 

「───ということで、リサは今寝込んでいるわ」

 

「そう、だったんですか....」

 

「ええ。まあ、百パーセント自業自得よ」

 

友希那さんが肩をすくめながら呟く。

そんな友希那さんに疑問をぶつける。

 

 

「リサさんは大丈夫なんですか? 」

 

「取り敢えず薬は飲ませたから、直に良くなると思うわ。.....はい、これ」

 

「これは? 」

 

友希那さんからある物を渡される。

それは──猫のキーホルダーが付いた鍵だった。

 

「リサの家の鍵よ」

 

「リサさんの家の?」

 

そう言いながら、渡された鍵を眺める。

 

「ええ、実は連音。 貴方にリサの看病を頼みたいの」

 

一瞬、時間が止まる。

何を言ってるんだ、この人は?

 

「ええと、友希那さん。 何を言ってるんですか?」

 

「...? 変な事言ったかしら」

 

目の前の彼女は、可笑しそうに首を傾げる。

どうやら、彼女が自分の言った事を理解していないらしい。

彼女が言った事を要約すると、

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

を頼んでいる。

 

つまり大問題である。

 

「そもそも何で、俺がリサさんの看病を? 」

 

「.....きっと、貴方じゃないとあの子を慰められないからよ」

 

──慰める?

 

「それってどういう....「湊さんに、鳴宮さん?」..!!」

 

湊さんと話をしていると、検討違いの方向から声へを掛けられる。

驚いてその声が聞こえてきた方向へと目線を向ける。

そこに居たのは、ギターケースを背負った紗夜さんだった。

 

「えっ、紗夜さん?」「....紗夜」

 

思わず友希那さんと一緒に、驚きの声を挙げる。

友希那さんもそうだが、何故こんな朝早くに居るんだろうか。

 

「えっと....、お二人はこんな朝早くに何をしてらっしゃるんですか?」

 

「リサについて、話してたのよ。 紗夜こそ、こんな朝早くから何をしてるのかしら?」

 

友希那さんが紗夜さんの質問に答える。

『リサ』という言葉に、

そこだけ引っ掛かったのだろうか、一瞬だけ紗夜さんの顔が困惑したように見えた。

 

「スタジオに行って、ギターの練習をしようと思いまして。 それより、今井さんに何かあったんですか?」

 

そして案の定、紗夜さんがリサさんの事について尋ねてくる。

 

「リサが風邪をひいたのよ」

 

「今井さんが? 大丈夫なんですか?」

 

その言葉に、友希那さんが頷く。

 

「ええ、今のところは大丈夫だと思うわ。 でも流石に一人だと心配だから、連音に看病を頼もうとしたのよ」

 

「鳴宮さんに? 」

 

紗夜さんの目線がこちらへと向いてくる。

その目線に、何も悪い事をしていないのに冷や汗が流れる。

きっと、紗夜さんの事だ。

さっき俺が危惧したような事にも直ぐに思いつくだろう。

暫く、紗夜さんに目線を向けられる。

 

「......湊さん」

 

「何かしら?」

 

ゆっくりと友希那さんの方へと視線を戻し、

紗夜さんが呟く。

 

「私も、今井さんの看病に付き添ってもよろしいでしょうか」

 

「「え?」」

 

友希那さんと俺の間抜けな声が重なった。

 

──────────────────────

 

「というような事があって、ここに来てます」

 

「そうだったんだ.....、ところで紗夜は?」

 

「下でお粥を作ってますよ」

 

そう言いながら、連音君はいつの間にか林檎を手に持って、皮を剝いていた。

皮の下から、林檎特融の色を綺麗な果実の色が覗いている。

そして一人暮らしをしている影響だろうか、剝いた皮が千切れることはなく綺麗に一直線になっていた。

 

そんな器用に剝いている連音君の真剣な横顔を、

ベッドから起き上がって、熱の侵された頭でボケーっと見詰める。

 

 

「ところでリサさん」

 

「......」

 

──キレイな横顔....

 

「リサさん?」

 

「....え? あ、うん。 な、何かな、連音君!?」

 

「大丈夫ですか、しんどいなら寝ててもらっても」

 

「だ、大丈夫だから」

 

そこまで言った時だった。

下の階から大きな物音が聞こえてくる。

 

「「.....!!」」

 

それは数秒間続いた後家の中が、

不気味な程静寂に包まれる。

 

「....ねぇ、リサさん」

 

「....言いたい事は分かるよ、連音君」

 

 

 

 

 

「「紗夜(さん)って料理できるっけ?」」





はい、前回に続いて看病回です。
今回は連音君目線。
看病回は次でおしまいの予定。
そして、実は別の原作で新作書きました。
リンク貼ってるから、良ければ読んでみて下さいな。

それでは、今回もお読みいただきありがとうございました。
感想、評価等貰えると凄くやる気出るので、是非とも清き一票を。

では、次のお話でお会いしましょう。

(Song I am も、感謝キャラバンも最高でした....)

お休みその①

お休みその②

例の新作

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第三十二話 風邪と看病 後編

どうも、ワッタンです。
いやはや二週間ぶりです。
最近、執筆が取れる時間がドンドン減っていますね。
え?ないなら作れ? 
ごもっともです。


それでは、第三十二話をどうぞ!!


 

「紗夜さん」

 

「....はい」

 

「どうやったらこの状況になるんですか?」

 

紗夜さんは一応、先輩だが少しだけ語気が強くなってしまう。

でもそれは仕方ないとは思う。

 

一階から結構な物音がし、降りてみれば目の前に広がるこの惨状。

土鍋からは米が吹きこぼれている。

しかもそれだけではなく、シンクには泡まみれになっている。

そして床には皿などの食器類が散乱している。

一目見たらまるでキッチンをいたずらされたかのような光景。

これは自然と語気が強くなってしまう。

 

「すみませんでした」

 

「紗夜さんって、料理出来なかったんですか?」

 

「....出来ます」

 

「目を逸らさないで下さい」

 

露骨に俺から目線を逸らす紗夜さん。

その行動はもう、料理ができないという事を肯定しているようなものだが、

敢えてそれを言葉を出さずに彼女を見つめる。

 

そんな彼女は数秒間ほど目を逸らしたが、

やがてこちらへと向き直り、小さい声で。

俺の想像した通り。

 

「....申し訳ながら、あまり得意ではないです」

 

そう呟いたのだった。

 

──────────────────────

 

『取り敢えず片づけましょう』

 

そう言ってから、キッチンを片づけ始めてから約十分。

キッチンの惨状は元の姿に戻りつつあった。

幸いにも床に散乱していた皿は一つも割れてはおらず、

水洗いをして元の場所に戻している。

 

「よし、こっちは終わりました、紗夜さんはどうですか?」

 

「はい、こっちも何とか終わりそうです」

 

先程まで彼女には俺と一緒に皿を片づけていたが、

今は鍋から吹きこぼれ、コンロに落ちてしまったお粥の処理をして貰っていた。

 

「了解です。こっちもこれで──最後です」

 

最後の皿を拭き終わり、食器乾燥機に皿を掛ける。

サッと手を洗い、紗夜さんに向き直る。

 

「さて、紗夜さん」

 

「──はい」

そう応える紗夜さんは先程と同じで少し後ろめたさを感じているのだろうか、

少し素っ気ないように見える。

もしかしたら俺に何か咎められるという事を考えているかもしれない。

 

そんな推測をしながら、次の行動に移る前に彼女に質問する。

 

「買ってきたお粥の材料って、まだあります?」

 

「えっ?」

紗夜さんが驚いたような声を出す。

そんな彼女に俺はある提案をする。

 

「材料余ってるなら、作り直しましょうか」

 

その提案に彼女は驚いたような表情を見せた。

 

 

 

「まず、米と水のバランスは1:7にして分量を計りましょうか」

お粥を作る時にはそのバランスで作ると米の硬さが丁度良い。

 

「はい、分かりました」

 

紗夜さんが目の前に置かれている計量カップとボールを手に取った。

そのたどたどしい様子を見て、

紗夜さんは料理が出来ないというよりあまり料理をした経験がなくて、

苦手意識を持っているのかもしれない。

 

正直料理は慣れだと思う。

かくいう自分も、最初のころはただ具材を切って炒めるぐらいしか出来なかった。

所謂、雑飯みたいなものだった。

それこそ胸を張って料理と呼ぶ物が出来たのは割と最近だったりする。

 

「これくらいで大丈夫ですかね?」

とそんな事を考えていると、計り終えた紗夜さんから声を掛けられる。

 

「えーと。....うん、大丈夫そうですかね。 それじゃあ次は米を研いで....」

 

とこんな感じで紗夜さんに教えながら、

お粥を作っていく。

そしてやっぱり紗夜さんは思った通り、

料理の経験がそんなになかったようだ。

それどころか俺が教えたことをすぐに吸収していくから驚いた。

もしかしたらその気になれば、俺なんて直ぐに料理の腕は抜かされるかもしれない。

 

「よし、後はこのまま煮立つの待ちましょう」

 

「分かりました、ところで何で味噌をお粥に?」

 

紗夜さんが俺が、味変として入れた調味料について不思議に思っているらしい。

まあ、普通はお粥に入れないから仕方ない。

 

「あー、お粥って味が薄いじゃないですか。 でも見た感じ、リサさん元気そうだったんで味を濃くした方がいいかなーって思いまして」

 

「そうだったんですか。 それじゃあこの溶いた卵も?」

 

「そうですね、煮込み終わったらこれをお粥の上に掛けて完成です」

 

「なるほど、食べる人の事も考えて。 流石ですね、鳴宮さん」

 

「いやいや、紗夜さんの方もすごいですよ。俺が教えたことをすぐに吸収していくんですから、練習すれば俺より料理がうまくなると思いますよ?」

 

「そう....でしょうか?」

 

そう言いながら、首を傾げる紗夜さん。

その様子にハッと気付く。

首を傾げる動作。

その姿は俺の知るあの人の姿と重なる。

 

やっぱり双子なんですね....

 

「....? 何か言いました?」

 

「いや、何でもないです。 っと、そろそろお粥もいい感じでしょうから、リサさんのところに持っていきましょうか」

 

 

──────────────────────

 

「あ、お帰り。って凄い、いい匂いするんだけど」

 

部屋を開けると、リサさんがベットから起き上がっていた。

そして自分の赤いベースを構えていた。

ベッドの傍には、林檎が入っていた皿が置かれている。

 

「今井さん、風邪をひいてるんだから大人しくしてて下さい」

 

「あ、紗夜おはよー。いやぁ、薬が効いてきたのか、大分楽になったら、暇が襲ってきちゃって」

 

リサさんの言葉に紗夜さんがため息をつく。

「あ、そういえば」

少し呆れたような紗夜さんに、リサさんが話しかける。

 

「それより、さっき凄い音がしてたけど、紗夜、何かあった?」

 

「....えーとですね」

 

善意百パーセントの質問。

その視線に紗夜さんの表情が変わることがなかったが、

騒ぎを起こした張本人なためきっと内心では大慌てかもしれない。

なので、素早く助け舟を出す。

 

「あ、それなら大丈夫ですよ。 もう解決しました 」

 

ここではあえて理由は言わない。

とは言ってもリサさんは薄々、理由に感づいていると思う。

だってその証拠に紗夜さんをじっくりと見詰めて、彼女の反応を伺っている。

そして見詰められている紗夜さんはというと、

目線をあちらこちらに動かしている。

 

「....まあ、そういうことにしておきますか」

そう言うリサさんの顔は、「全て分かりました」というような表情を浮かべていた。

 

「ところでそれが作ったお粥? 」

 

「ああ、そうです。 リサさん食べれます?」

 

「うん、食べれる。 実はお腹空いちゃって」

 

そう言いながら、

リサさんがベッドから這い出てくる。

そして部屋に置かれてる小さい机の前へと座る。

その間に机の上に鍋敷きを敷き、

持って来た土鍋をその上に置く。

 

「それじゃあ、頂き...「「その前にストップです」」へ?」

 

リサさんの手が止まり、

こちらの方に目線を向ける。

そして隣の紗夜さんが口を開く。

 

「今井さん」

 

「さ、紗夜?」

 

「何か言う事があるでしょう?」

 

その言葉を聞いたリサさんは、

分かりやすく顔色を変えた。

そしてすぐに紗夜さんと頭を下げる。

 

「あ、そのぉ、この度は私の自己管理不足で迷惑を掛けてしまい、申し訳ございませんでした」

 

見事な謝罪だった。

 

「はあ、取り敢えず今は何も言いませんが、治ったら湊さんと一緒に話し合いをしましょうか」

 

「え、....友希那と一緒? 」

 

「いいですね?」

 

「は、はい」

 

「それじゃあ、次は鳴宮さ「連音君も!?」」

 

今度は逆に紗夜さんから俺にと目線を移す。

その目は少しだけ涙ぐんでいた。

 

──────────────────────

 

「.....そうですね。 僕も少しだけ怒ってます」

 

「そんなぁ.....」

 

連音君にそんな事を言われる...が、

その目からは怒っているようには感じられない。

 

「怒ってます。俺に本当の理由を言わなかったんですから、信用されてないのかなと思って、ちょっと傷つきました」

 

「っ.....」

心が痛む。

それと同時に朝に封印した感情の波が溢れだそうとしてくる。

だけど今はダメだ。

それを必死に抑える。

 

「だから、リサさんに一つだけ命令します」

 

「め、命令?」

 

その二文字に身構えてしまう。

一体アタシに何を.....

 

「ええ、リサさんには」

ゆっくりと口を開く。

だけど彼の言葉に、

 

──リサさんの料理を食べさせてください。

 

「へ? 」

拍子抜けする。

 

「あ、ちなみにこれはあくまで今日迷惑を掛けた分ですので、リサさん今日の埋め合わせはしてくれるんですよね?」

 

「え、え? う、うん、そうだけど。 というかちょっと待って?」

 

「え、駄目でした?」

 

「いや、駄目じゃないけど、なんで料理を?」

 

ちょっと混乱している。

正直、もうそれこそ絶縁....とまではいかないけど、それレベルの事を要求してくると思っていたのが、

全然そうじゃなかった。

 

──なぜ、料理?

 

「ああ、それはですね。この前の筑前煮が美味しかったからですね、また作ってください」

 

「....うん、分かった」

 

「それと埋め合わせの件ですけど、埋め合わせについては」

 

そこまで言うと、連音君はポケットからあるものを取り出す。

それは何かの紙切れそして二枚。

それをこちらへと差し出して来る。

 

「これ....!!」

 

それは『プラネタリウム』のチケット。

 

「本当は今日行くつもりだったんですけど、風邪を治したら行きましょうか 」

 

「え、でも...」

 

迷惑をかけたのに。

とその言葉は続かなかった。

何故なら、アタシの頭に手を置かれたから。

そして大好きな手がゆっくりと頭を撫でられる。

 

 

「『でも』、じゃないです。」

──俺はリサさんと行きたいんですから。

 

そう言われて、その行動でアタシのせき止められた感情は収まった。

それどころか別の感情が込みあがってくる。

その感情は今までも、いや気づいてこようとはしなかった。

だけど、今日ハッキリと分かった。

 

──そっか、アタシ。連音君に.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──恋をしたみたいだ。




はい、ということで。
ストーリーが動きました。
ちょっと急展開かなと思いましたが、今後はこのようなことはないようにしていきたいです。
そして作中で作ったお粥ですが、実際に作ってみたら美味しかったです。
風邪の時はぜひ?

それでは、今回もお読みいただきありがとうございました。
感想、評価等貰えると凄くやる気出るので、是非とも清き一票を。

では、次のお話でお会いしましょう。

(誕生日の香澄と六花当たりましたー)

そろそろ怒られるその①

そろそろ怒られるその②

絶賛執筆中

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第三十三話 羽沢珈琲店にて


どうも、ワッタンです。
今回はあとがきまで読んでね。

それと総合評価900ありがとうございます!!
1000までの長いカウントダウンが始まりました、これからも読んでくれると幸いです。


それでは第三十三話目をどうぞ!!


 

リサさんの看病の件から一週間たった、とある日の火曜日。

期末考査も終わり学生は夏休みまで日々を消化する毎日になる時期。

俺は放課後に商店街の方に足を運んでいた。

何故、真っ直ぐ家に帰らず寄り道をしているのかというとその原因は俺の手に握られている、『羽沢珈琲店』の割引券が今日で期限が切れるからである。

 

ちなみにこれを俺に渡した張本人であり使うはずだった集は、今日は行く所が出来たらしくこの券を俺に颯爽と渡した後、すぐに帰ってしまい現在に至る。

 

「いらっしゃいませ!! ....って連音君」

 

扉を開けてまず感じるのはエアコンの冷気。

その冷気はここまで歩いて火照った体に心地よい。

  

目に入るのは、店内を見渡すことができるカウンターに、この店の雰囲気に合うように木製のテーブルが置かれている。そしてカウンターからはコーヒーのいい匂いが鼻孔をくすぐる。まさしく憩いの場、そう呼ぶにふさわしい空間がそこには広がっていた。

そして出迎えてくれたのはこの店の一人娘、Afterglowの『羽沢つぐみ』だった。

 

「こんにちは、つぐみ。 今日はAfterglowの練習は無いのか? 」

 

「うん、今日はみんなアルバイトとか用事とかで、今日はお休みなんだ。でも珍しいね、連音君が来るなんて」

  

「ああ、集からこれを貰ってな」

ポケットから取り出した割引券をつぐみに見せる。

 

「あ、うちの割引券だね。 ありがとう 」

 

つぐみがお礼を言われテーブル席に案内される。

カウンター席で良いといったのが、空いてますからという理由で無理やり押し切られた。

席に座り、つぐみにコーヒーを注文する。

 

「ところで今日イヴは居ないのか?」

 

店内を見回し、あの雪色の髪色をしたブシドー少女を思い浮かべる。

彼女が居ると、店内は騒がしく楽しくなるのだが、今の店内にはその面影がない。

 

「イヴちゃんは今日仕事らしいですよ。なんかラジオの公開収録?だそうで」

 

「へえ、公開収録.....それってどこで?」

興味本位で場所を聞いてみる。 

 

「駅前です」

 

「なるほど駅...前....あっ」 

 

思わず間抜けな声が出てしまう。

つぐみの言葉で集が何故来れないか、すべてが繋がった。

 

集の用事──それはおそらくその、イヴが出演する──自分の推しアイドルが出演するラジオの公開収録を聞きに行く事だったのだろう。わざわざ羽沢珈琲店に行かずに。

彼女はこの事を知っているのだろうか。

チラリとつぐみの方を見る。

 

「.....? 連音君どうしたの? 」

 

「──いや、ちょっとね。.....ちなみに集も元から休みなのか? 」

 

「えっ、集に....いや....うん、集君も今日お休みって、連絡があったよ? 」

 

俺の質問に動揺するつぐみ。

その様子に少しだけ違和感を覚えたが、つぐみのその言葉と一瞬だけ浮かべた悲しい表情で確信し心に決める。

 

──これはあいつら(Afterglow(つぐみを除く))に報告だな

 

「ごめん、つぐみ。 明日、あいつぶん殴っておくから」

 

「え? 連音さん!? 」

 

俺の言葉に驚くつぐみ。きっと心優しい彼女の事だから俺がやろうとしている行動に内心、穏やかではないのだろう。その証拠に少し言葉がおかしくなっている。これは説明が必要か.....いやでもこの憶測を告げるのに心が痛む──そう思っていた時だった。

 

カラン、とドアベルが鳴る音がする。

俺とつぐみがド反射的にアの方を振り返る、そこに居たのは。

  

「あ、連音だ」

 

制服姿の美咲だった。

 

──────────────────────

 

「ごゆっくりどうぞ」

 

お盆に乗せたアイスコーヒーとホットコーヒーをテーブルに置き、つぐみはのお店の奥へと引っ込んでいく。

 

「で、美咲は何でここに? 」

 

普段入れないはずのガムシロップをアイスコーヒーに入れている目の前の美咲に尋ねる。

 

「あー、花音さんにここの割引券貰ったんだこの前、もう持ってるからお裾分けだってさ」

 

アイスコーヒーに全て入れ終えた美咲はストローでゆっくりと中をかき混ぜる。やがてコーヒーはその茶色みがかった色から、カフェオレ色へと変えていく。

 

「なるほどな、俺と同じわけか」

 

「連音もなんだ」

 

「そうそう」

 

そんな会話をするとお互い、コーヒーに口を付ける。口に含むとコーヒー独特の苦みと香ばしさが拡がる。普段家では紅茶なので、コーヒーの風味は少し新鮮に感じる。

 

「ところで、美咲が砂糖とミルクを入れるなんて珍しいな、何かあった? 」

 

「あー、あるにはあったかな。ほらこの前まで期末考査だったじゃん。それでその結果が、月曜帰ってきたんだよね」

 

「もしかして....赤点で補習になったとか?」

 

「いやいや、あたしは赤点じゃないよ。 赤点なのはあたしじゃなくてはぐみだよ」

 

美咲が手をイヤイヤと振る。

詳しく話を聞いてみると、期末考査でものの見事に赤点に引っ掛かてしまったのははぐみで、美咲に泣きながら「みーくん、助けてぇー!! 」と言いながら、彼女に泣きついてきたらしい。

 

そして泣きついてきたや否や、美咲のそのまま図書室へと連行されてはぐみに勉強を教えることになったらしく、そして更に俺のよく知ってるポピパに居る猫耳の彼女も同じく補習を受けることになったらしく、美咲はポピパのキーボード担当と一緒に二人がかりで昨日は教えていたらしい。

 

「ポピパのキーボード担当って、あのツインテールの子か?」

 

「うん、何かポピパの中で彼女が一番頭が良いらしいんだよね」

 

「へー、そうなのか」

 

ポピパのキーボード担当とは以前に「CiRCIE」のバイトの時に、一度見かけた事がある。香澄に振り回される彼女を見ると、どことなく美咲と同じような雰囲気を感じた事を覚えている。

 

「という事は、その二人に教えた疲れから、甘い物がないとやってられないと」

 

へえはい(正解)

ストローを咥えながら美咲が呟き、

そしてそのままコーヒーを口に運んでいく。

 

「いや、飲むか、喋るかどっちかにしろよ」

 

「ん、ごめんごめん。 そういや連音って──」

 

そのまま別の話題へと移っていく。

本当に下らない会話。

最近調子はどうだとか、この時期は何の星が見えるのか、何の一貫性も無い終着点の見えない会話を美咲と続ける。

 

──正直楽しい 

ちらりと美咲の顔をうかがう。

 

美咲も笑っていた

 

異性ではあるが常日頃から、こころとか個性が強い子達に振り回されているからだろうか、こんな普通のような些細なことが、お互いに癒しだと感じているのかもしれない。

そんな事を思っていた時だった。

 

「二人共、これどうぞ」

 

突然つぐみがやってきて、テーブルにある物を置いた。

 

置いたのは一つの皿、そこには色とりどりのクッキーが入っていた。

 

焼き立てなのだろうか?

クッキーからはとてつもなく美味そうな匂いを漂わせている。

その匂いは放課後で小腹が空いてる胃に刺激を与えてくる。

だけど、そのクッキーを見て疑問が湧く。

 

俺も美咲もクッキーは頼んでいない。

そのことに関して美咲も俺と同じような事を思ったのだろう。

 

「羽沢さん、その....あたし達、何も頼んでないんだけど....? 」

 

遠慮がちにつぐみへと声を掛けていた。

 

「あ、ごめんね。 二人にはちょっと、味見をして欲しくて」

 

「「味見? 」」

 

俺と美咲の言葉が重なる。

 

「実は今度お菓子教室を開く事になってね? それでクッキーを作る事になったから、試しに焼いてみたんだけど、こういうのってお客さんの意見が大事だから──」

 

「なるほど、俺達に意見を聞きたいと」

俺のその言葉につぐみが頷く。

 

「あー、なるほど。 そういうことなら頂くね」

 

美咲がクッキーへと手を伸ばし一口齧る。その瞬間、美咲の顔はみるみるうちに笑顔になり美味しそうにクッキーを頬張る。

俺もその表情につられてクッキーへと手を伸ばす。クッキー特有のさくさくとした食感と、甘さが口に拡がっていく、先程までコーヒーを飲んでいたため、甘さが通常より引き立っていた。

 

「すげー、美味い 」

 

「うん、凄く美味しいよ」

 

「...!! ほんと? 良かったぁ」

 

俺達の感想に笑顔を浮かべるつぐみ。

そんなつぐみの笑顔を見て、ふと思った事は──

 

 

「ツグってるなぁ」

──そんな事だった。

 

 

そしてそのまま俺達は、なんてことのない普通のひと時を過ごした。

後日、集がフルボッコされたのは別のお話。





あとがきです。
このたび「Memory of the starlit sky」は8/16日午前0時をもちまして、一周年になりました!!
本当はその時間に投稿できればよかったんだけど許してください。

一年前に始まったこの物語ですが、何とかここまで続けられたの皆様のおかげです。本当にありがとうございます!!

本当は休まずに週一投稿を目指したいのですが、如何せん大変ですね。
一年で三十話位しか進まない、文字数も少ないおそおその作品ですがこれからも読んでくれると幸いです。

それでは、今回もお読みいただきありがとうございました。
感想、評価等貰えると凄くやる気出るので、是非とも清き一票を。
(一周年だから来てもいいんだよ?チラチラ)

では、次のお話でお会いしましょう。

(誕生日のこころ、ゲット!!)

しばらく休止かも

さて、書くか....

タイシン可愛い

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第三十四話 キューッとチケット

どうも、ワッタンです。
最近は週一投稿はできてるけど投稿作品がバラバラなのが悩みです。
やっぱり土日に二本更新は厳しいかもですね。

さてそんな暗いお話はさておいて、
それでは第三十四話目をどうぞ!!


放課後の喫茶店。

『羽沢珈琲店』にも負けず劣らず、憩いの場と呼ぶにふさわしい空間....だったが、

 

「ずーるいっ!!」

 

そこに広がる場違いのの声。

と同時に、俺が声の主に両方の頬っぺたを捕まれ引っ張られる。

 

「痛い、痛い!! 日菜、痛いって!!」

 

思わず大きな声を出してしまう俺。

だけど目の前にいる少女──氷川日菜は手を離さない。 

 

「あたしも、プラネタリウム行きたかったのにー!! 連音君のアホー!!」

 

そうぼやく日菜。

 

どこからか俺がリサさんと一緒にプラネタリウムを行ったことを知ったようで、日菜の顔はいつもより少しムッとした表情だった。

良くも悪くも感情豊かな日菜だから、行けなかった事が相当悔しいのだろう、徐々に引っ張る力が強くなってくる。

というか流石に痛くなってきた、そろそろ日菜を止めようと口を開くが、その前に別方向から声が掛かる。

 

「日菜ちゃん、もうそれ位にしたら? 」

 

日菜に引っ張られながらも目線を声のした方向へと向ける。そこに居たのはこの前知り合ったばっかの女優──白鷺千聖。

「仲がいいわね」なんて言いながら、優雅にティータイムを楽しんでいた。着ている服は花咲川の制服なのに、紅茶を飲んでいるよう様子は絵になるような雰囲気を漂わせている。

 

そして今日この場所に俺を呼んだ張本人だ。

 

「むー」

 

別方向からの声により日菜が俺の頬っぺたから手を放した。

 

「いてて。日菜、力強すぎ......」

 

引っ張られた所の痛みを和らげる為にその場所を撫でる。もしかしたら痕になっているかもしれない。そのような事を思わせるくらいには痛みを感じていた。

 

「だって連音君がリサちーだけを誘ったからだよ!! 何であたしも誘ってくれなかったの!? 」

 

「そ、それはその、元々リサさんとお出かけするって約束してたし.....」

 

日菜のその言葉に若干の後ろめたさを感じる。実はというとプラネタリウムのチケットは最初は日菜に上げようとしていた。丁度、二枚手に入ったので紗夜さんと一緒に見に行ってもらえればいいな....と思っていたのだが、その矢先にリサさんとのお出掛けの約束が入ってしまった。

 

──うーん、この際だから使おうか。丁度いいタイミングだし

 

というのが俺がリサさんとプラネタリウムに行くことになった経緯。つまり本来なら日菜はプラネタリウムに行けてたかもしれない、そんな理由から後ろめたさを感じていた。

 

「むー.....まあ、仕方がないかー....あーあ、あたしも行きたかったのに 」

 

そう言葉を零し、少し不機嫌そうな顔をしながら日菜はさっき注文したケーキを口へと運ぶ。だけど口にした瞬間、

 

「....う~ん、美味しい!! このケーキ!! ね、ね連音君も早く食べてみてよ!! 」

 

先程の顔はどこにいったか、美味しくて仕方ないというような嬉しい表情を日菜は浮かべていた。逆に俺はこの切り替えの速さにたじろぎ、困惑の顔を浮かべているだろう。

 

「あー、 確かにここのケーキは美味しいもんな」

 

そう返すとケーキを一口、クリームの滑らかな甘さとほのかに香る苺の香りが口の中に拡がる。

 

「でしょー....って、うん? 連音君、ここのケーキ食べた事あるの?」

日菜が不思議な表情を浮かべながら尋ねてくる。

 

ケーキが美味しいから食べてという日菜の言葉に、俺がまるで食べた事があるような言葉を返した事に疑問を感じた日菜は首を傾げていた。

 

「うん、ある。 実はこの前来たんだよここに」

 

「へ~、何で? 」

 

「まあ色々とあって、強いて言うならここにいる女優様のおかげでこの店を知ったていう感じかな」

 

「千聖ちゃんに? 」

 

日菜の目線が俺から外れ千聖の方に移り、目線を向けられた千聖は肩をすくめた。

「まあ、そういうことになるのかしらね。 あの日は久しぶりにいいオフだったわ」

 

「へー.....というか千聖ちゃんってどうやって連音君の事を知ったの? 」

 

「ああ、それは──」

 

日菜と千聖があの日の事を語りだす。俺はそんな二人の会話を聞きつつ、ミルクティーに口を付けた。牛乳をたっぷり注いだ紅茶のまろやかな味が口の中に広がり普段コーヒーよりも紅茶派の俺は、喫茶店の本場の味に舌鼓を打つ。

そして俺とあの日の話を日菜に語った後、「そういえば」と、俺は千聖に気になったことを聞く。

 

「というか千聖。 なんで、俺を今日呼んだんだ?」

 

俺が今日呼ばれた理由、そのことについて俺はまだ聞いてなかった。更にをいったら日菜が居る事も千聖からは聞いてなかった事に気が付き、千聖に聞いたのだった。

 

「ああそれは、花音が今日来れなくなったから、一人でお茶するのもあれだと思ってあなたを呼んだのよ。 そしたらその様子を見ていた....」

 

「アタシが千聖ちゃんと、一緒に行きたいって言ったんだよ!! 最近、全然連音君と会ってなくて心がキューッとしてたから、会いたかったんだよ!! 」

 

「キュー....? 」

日菜のよく分からない言葉に傾げる俺、千聖はその言葉に何か心当たりがあったのか笑みを浮かべながら、

言葉を呟く。

 

「.....ええ、そうね。 日菜ちゃんキューッとしてたものね」

 

「よ、よく分からないけど.....呼ばれた理由は分かりました」

 

そう呟きミルクティーで喉を潤し、千聖に一言返す。

 

「まあ、こんな俺でも呼ばれたら付き合いますよ」

その言葉に千聖は一瞬だけ驚いたような顔をした後、すぐに微笑んだ。

 

「ええ、今度から花音が呼べない時はそうするわ」

 

その微笑みは、いつもの彼女の笑顔とは少し違うような、いつもより少しだけ晴れやかな笑顔に俺は見えた。

 

──────────────────────

 

「あ、そう言えば」

 

「どしたの千聖ちゃん? 」 「どうしたんだ? 」

 

日菜と俺の声が重なる。

喫茶店に入ってから一時間ほど、夏だからまだ外は明るいが時刻は午後六時前。

そろそろお開きにしようかと考えていた矢先に千聖がそんな声を上げる。

 

「実は花音に上げようかと思っていたのだけれど....」

 

そう言いながら、千聖はカバンからあるものを取り出し机の上に置いた。

千聖が取り出した物──それは水族館のチケットだった、しかも二枚。

 

「あー、知ってるこれ!! この前リニューアルオープンしたってテレビでやってたやつだ」

 

日菜はそう言うとチケットを手に取り眺める。

 

「ええ、スタッフさんに貰った物なんだけれど、私は行けそうにないから花音に渡そうと思ったのだけれど、あなた達にあげるわ」

 

──あなた達?

 

「えっ....いいの!? 」

 

日菜が千聖に聞き返す。対する千聖はは日菜の言葉に頷いた。

 

「ええ。日菜ちゃん、プラネタリウムに行けなかったんでしょう? その代わりに連音と一緒に行ってらっしゃい」

 

「えっ、ちょ....「うん、そーするね!!」日菜!? 」

 

勝手に話を進めていく日菜と千聖。そして隣の日菜に腕を掴まれ横を見た。

身長の問題で必然的に日菜がこちらを見上げる形、所謂上目遣いになっていた。アイスグリーンの綺麗な髪が揺れ、キラキラと目を輝かせていた。

そして日菜は同年代の中でもかなり可愛い部類に入ると思う程の美少女、詰る所──

 

「ね、行こうよ連音君!! 」

 

日菜のその仕草にドキリとしていた。

 

「い、いやでも、紗夜さんとは行かなくて大丈夫なのか? 」

ドギマギしながらも言葉を返す俺。

 

「うん、だいじょーぶだよ!! おねーちゃんとはまたいつか行くから!!」

 

「そういう問題....?」

 

俺の腕を掴んでる手の力が強くなる、日菜はどうしても俺と行きたいらしい。

俺としては別に行くことに関しては問題ない....なのだが、仮にも日菜は今をときめくガールズバンドの一人。そうそう二人きりで人の多い水族館に行くべきではないと思ってしまう。

 

──これは断るべきか?

 

そう思っていたのだが、チケットを渡してきた張本人から最後のダメ押し。その表情はいつも俺の事をからかうような微笑を浮かべた表情で.....。

 

「....前にも言ったと思うのだけれど、女性からの好意は素直に受け取りなさいよ」

 

その言葉により断るという選択肢は消え、隣にいる日菜はその間も俺の事を見つめ続け、何かを期待するような目。

 

──ふー、降参です

 

数秒後、

俺の手元にはチケットがしっかりと握られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、疲れた」

 

家の鍵を開け、学校の鞄をリビングのソファに投げる。

そしてそのまま自室へと行き制服から部屋着へと着替え、リビングへと戻ってくる。その時にランダムスターを持ってくることも忘れない。

 

「とりあえず一時間だけ弾くか.....」

 

そう決め、テレビをつける。これがここ最近のルーティンだった。テレビから音が流れ、その中のある単語が耳に残り、テレビの画面へと向けた。

 

「七夕か.....」

 





という事で日菜編スタートです。
日菜編に関して最後まで読んだら分かると思うのですが、さよひなを語るのには必須な()()()()()()を参考にします。
でも普通じゃあ面白くないので、Memory流に変えてやるのでお楽しみを。

それでは、今回もお読みいただきありがとうございました。
感想、評価等貰えると凄くやる気出るので、是非とも清き一票を。

では、次のお話でお会いしましょう。

(勿論皆さんはラスボスバンドに投票しようね?)

来週はこっちかも

ネタが思いつかない

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第三十五話 踏み出せない気持ち

どうも、ワッタンです。
お待たせしましたー。
前にも言った通り週一投稿はできてるけど、そうすると三週間振りになっちゃいますね。
ほんとどーしよ。

さてまたまた、そんな暗いお話はさておいて、
それでは第三十四話目をどうぞ!!


 

それは商店街の近くを歩いていた時だった。

ほとんどのお店にその貼り紙がしてあり、それにはこの時期、どこの地域でもよくある行事の案内が書かれていた。

 

『七夕祭り』

 

その案内を見た時は、

 

──ああ、もうそんな時期かー、最近行ってないなー

 

程度にしか考えず、そのまま真っ直ぐに帰宅した。

玄関のはいつものように先に帰っているおねーちゃんの靴がきれいに脱がれている。あたしも靴を脱ぎ、リビングへと直行する。

 

そこには予想通りソファーに座りながら雑誌を読んでいるおねーちゃん。そんなおねーちゃんにいつものように「ただいま」と挨拶を返した時に気が付いた。

 

──今年は二人で行けるのでは?

 

以前までのおねーちゃんとあたしの関係は決して良好とはいえなくて、その原因を起こしていたのは恐らくあたしだ。だから、あたしは何とかおねーちゃんとの仲を戻したくて....前の様な関係に戻りたくて、去年の今頃にも言ったのだ。

 

『おねーちゃん、一緒に七夕祭り行こ』

って。

 

だけどおねーちゃんから返ってきたのは冷たい言葉で

 

『....行く訳ないでしょ、子供じゃないんだから、行くなら一人で行きなさい』

あたしは拒絶された。

 

けどそれはあくまで去年の話。

 

今のあたしとおねーちゃんの関係....以前の関係にはまだ戻れてないけど、それでも近くなったような気がする今なら....。

 

「お帰り、日菜。 今日は早いのね」

 

あたしの挨拶にちゃんと返してくれるおねーちゃん。

こんな様子を見たらこの前までのあたしは驚き、うれし涙を流すかもしれない。

だからこそこうも思う。

 

また、ああなるのは嫌だと。

 

例えるなら、やっとかみ合いだした歯車が何らかの要因で、再びその動きを止めてしまったように、またあたしが何かをやらかしてしまい、おねーちゃんとの関係がもう二度と戻れなくなるようにな事態になってしまう....それだけは避けないと。

 

「.....うん、きょうはアイドルの仕事はないんだー!!」

 

一息呼吸をついて『七夕祭り』の事を頭から追い出し、いつものようにおねーちゃんに今日何があったかを話し始めた。

 

──────────────────────

 

「ああー....どうしようかぁー」

 

と昨日はそう思ったのも束の間。

翌日には再びおねーちゃんと一緒に『七夕祭り』に行きたいという欲が出てきていた。一瞬、他の人と行く事も考えた。だけど、やっぱりどうしてもあたしの隣はおねーちゃんに居てほしかった。

 

「うーん」

 

現在は学校。

休憩時間に廊下に出てぼんやりと空を浮かべながらどうにか、おねーちゃんと行けないかなと考える。

たった一言例年通り告げるだけなのに、そんな簡単なことなのに決心がつかない。

どうしようか、そう悩んでいた時だった。誰かに肩を叩かれる。

 

「やっほ、ヒナ!! どしたの? そんな顔して? 」

 

「あ、リサちー!! 」

 

そこに居たのはリサちーだった。

あたしがいつものような顔じゃないからか首を傾げている。

そんな彼女にあたしは事の顛末を話し出す。

 

「えーとね、リサちー。今週末に七夕祭りがあるのって知ってる? 」

 

「七夕祭り......あー、知ってる、知ってる。 商店街で毎年やってるやつでしょ?」

 

少し考える素振りを見せたリサちー、だったけどすぐに思い当たったのか、うんうんと頷いてくる。

 

「あれにね、おねーちゃんと一緒に行きたいなーって思ってるんだけどね......」

 

あたしはリサちーに『七夕祭り』の事を話した。今度のリサちーはあたしの話を聞いてすぐ、あたしが伝えたい事を理解してくれたのかすぐに反応が返ってきた。

 

「なるほどね。誘いたいけど、断られそうって事で悩んでるって所かな? 」

 

「すごーい!! なんで分かったの、リサちー!?」

 

「あはは、ヒナがそんな顔するのは、紗夜関連なものだからさー、それくらい分かるって!! 」

 

あたしは驚きの声をあげ、リサちーは、ふふんって感じでドヤ顔をしている。

リサちーらしいと思う。

 

「流石リサちーだね、うんそうだよ、きっとおねーちゃんは、バンドやギターの練習で忙しいよね....」

 

「うーん....」

 

「おねーちゃんとは一緒に行きたいけど、それ以上におねーちゃんを困らせたくないから....」

 

──ああ、ダメだ。

 

リサちーと話している内に昨日思った事を鮮明に思い出してしまい、段々とおねーちゃんと行きたいという気持ちは困らせたくないという気持ちが強くなってしまう。

 

リサちーは、あたしが続いて発した言葉には流石に少しだけ困ったように笑っていた。

 

「ヒナ.....あ、そうだ!!」

 

そんなリサちーだったが突然何かを思いついたらしく先程とは打って変わって笑顔になる。

 

「ねぇ、ヒナ。実は今日、Roseliaの練習があるから紗夜に聞いてみてあげるよ」

 

その言葉を聞いた途端に自分の顔が少しだけ明るくなるのを感じる。

それは思ってもいない願いだった、リサちーがおねーちゃんに『七夕祭り』の事を聞いてもらえば、少なくともあたしがそのままおねーちゃんに誘うよりかは成功率が上がるかもしれない、正に妙案だった。

 

「ホント!! リサちー、ありがと....!! 」

 

「うん、任せて!! ちゃんと紗夜に聞いてくるから!! 」

リサちーが笑顔でそう言ってきて思わず二人で笑いあう。

 

「それにしても、『七夕祭り』かー、いっつも友希那と行ってるの? 」

 

「へー、そうなんだ。じゃあ今年も友希那ちゃんと行く感じなの? 」

 

「えっ? あー....今年は、えと....」

 

 

思っていた疑問をリサちーにぶつけると、当の本人は歯切れが悪そうに言葉を濁す。

その様子から、今年は行かないかもしくは、違う人と行くのかなーと算段をつけてみる。前者だった場合、別に歯切れが悪くなる必要はないから、恐らく理由は後者かな。

 

「もしかして友希那ちゃんとは、今年は行かない感じなの、リサちー? 」

  

「えっ....1? ヒナ、何で分かったの1?」

 

「んー、何となく? 」

 

といってもこれはあたし以外でもリサちーの反応を見ていると、勘のいい人だったら分かると思う。彩ちゃんは無理だろうけど、千聖ちゃんとかなら。

リサちーは暫く、あたしに核心を疲れ暫く

 

「...アハハ、ヒナには敵わないね、うんそうだよ。 今年は友希那以外を誘おうかなーって」

 

「ホントっ!? 誰々!?」

 

誰だろうか、リサちーは交友関係が広いだろうから、もしかしたらあたしの知らない人物かもしれない....。と思っていたのだが、リサちーの口から発した人物はあたしがよく知ってる人物だった。

 

「えーと、連音君....」

 

「......へ、連音君? 」

 

驚いて、間抜けな声が出てしまう。

まさかリサちーが『七夕祭り』に誘う人物が知り合いで、しかも連音君ときた。

 

「うん、まだ声は掛けてないんだけどね? 」

 

「.....そーなんだ」

 

リサちーが少し照れながらそう話す。

それにしても連音君とかぁ、彼と行く事は考えなかったな....試しに連音君の隣にあたしが居る事を想像してみる。確かに一緒に行けたらるんっ♪ってするかもしれない。次に連音君がリサちーと居るのを想像してみる......それは、

 

「リサちーって連音君の事好きなの? 」

 

「へぁ!? ヒ、ヒナ、ど、どしたの急に1? 」

 

慌てるリサちー。

その反応はもう、そういう事だと思うんだけど、敢えて口には出さない事にする。

そっか、リサちーは連音君の事を──。

 

とここで、予鈴が鳴り響いた。 

 

「あ、チャイム鳴ったね、早く入ろーよ、リサちー」

 

「え、あ。ま、待って、ヒナ!! 」

 

リサちーを置いて先に教室へと入る。

席へと着き、先程の事を思い出す。

連音君は優しいからきっと、リサちーに誘われたら一緒に行くのだと思う、だけどそれをさっき想像した時に何故だかは分からないけれど。

 

 

 

 

 

 

──るんっ♪てはしないな

そう感じたのだった。




という事であのイベントです。
そして今回わりと文章がうまく書けた気がしますね。
さーて次回は紗夜さん側の方を進めてく感じですね。
気長にお待ちください。


それでは、今回もお読みいただきありがとうございました。
感想、評価等貰えると凄くやる気出るので、是非とも清き一票を。

では、次のお話でお会いしましょう。

(あと五日で誕生日美咲.....グヘヘ)

お休み

来週はこっち

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第三十六話 歩み寄れない自分

どうも、ワッタンです。
お待たせしましたー。
今回は順番を変えてMemoryの更新です。
そして超久しぶりのシリアスなのでお楽しみ頂ければ幸いです。

それでは第三十四話目をどうぞ!!

※今回はあとがきまで読んでね


 

学校も終わって家から帰宅してリビングでくつろいでテレビを見ている時に、それはテレビから流れてきた。

七月七日。つまり七夕、彦星と織姫が一年に一度、天の川を越えて会える日。

 

「....もうそんな時期なのね」

 

テレビを見ながらそんな言葉を零す。

七夕と聞いて思い出すのは日菜の事、あの子は毎年この時期になると商店街で開催される『七夕祭り』に私を誘ってくる。

だけど私はそれを毎回のごとく断っていた、理由は私が日菜を拒絶していたから。

 

テレビの画面を消し、部屋から持ってきていた音楽雑誌を手に取る。

が内容は頭にはあまり入ってこない。

 

あの子は今年も私を『七夕祭り』に誘うのだろうか。

私に拒絶されてもずっと私の事を、『おねーちゃん』として慕っているような子だ、もしかしたら今日辺りにでも誘ってくるかもしれない。

だけど私に、その誘いを受ける資格は....きっとない。

 

今でこそ....私自身は日菜とあの時よりかは、寄り添えるようにはなっていると思っている、だけどそれはあくまでも小さな歩幅。

だから、急に昔みたいに一緒にお出かけをするという、日菜の気持ちの奥底に、深く食い込んでしまう行動に躊躇ってしまう。

 

そんな事をぼんやりと考えていると、玄関から物音が聞こえてくる。

日菜が帰ってきたようだ、頭から先程まで考えていたのを追い出し、音楽雑誌の内容を頭に入れることに努める。

リビングの扉が開き、「ただいま」と日菜が口を開く。

そんな妹に対し、私はいつも通りに挨拶を返す。

 

「お帰り、日菜。今日は早いのね」

 

──────────────────────

  

「──という訳なんだけど、こういう機会にどうかな? ほら、丁度休みの日だし」

 

「......」

 

今井さんがそう言いながら、私の顔を覗きこんでくる。私はというと、その目線に耐えられずに、逸らしてしまう。

 

日が変わって次の日。

今日は昨日と違って放課後にはRoseliaの練習があった。

いつも通りの練習をこなし、いつも通り居残りの練習をしようとした、その時に今井さんに話があると言われて呼び止められた。

 

──今井さんが私に話?

 

そう言われ、考えてみたが今井さんが私に何の話があるのか見当がつかなかった。

 

今井さんの話。

その内容はヒナと『七夕祭り』に行かないのかという事だった。

それを聞いていた私は少しだけ顔をしかめてしまう。

きっと、今井さんは日菜から『七夕祭り』事を聞いたのだろうが、タイミングが良いのか悪いのか、その話を聞いた瞬間、昨日家で考えていた事が頭の中で蘇る。

 

「...わ、私はそういう催しには興味がありませんから」

 

少しだけの沈黙が流れ、今井さんに向かってそう返す。

考えは変わらない。私はには日菜の隣に居る資格はまだないのだ。

だからこれでいい。 

 

──本当に?

 

「...紗夜、本当にいいの? 」

 

「......何がですか? 」

 

思わず今井さんに強く当たってしまう。

いつの間にか床に落としていた目線を上げ、今井さんを見やる。

隣に座っている彼女はというと私の事を心配そうに見つめている。

 

「だって、紗夜の顔、苦しそうだよ?」

 

「っ...」

 

──今井さんに何が分かるの!!

そう大声で、言い返したかった。

 

「それが本当に紗夜の気持ちなの?」

 

だけどそれは出来なかった、何故なら今井さんの発した言葉は図星だったからだ。今しがた私が発した言葉は......自分自身の気持ちでは無い事が分かっているから。本当の私は......。

 

「...ねぇ、紗夜」

 

しばらく沈黙が流れた後、今井さんが口を開いた。

 

「......何ですか」

 

それに対し私はぶっきらぼうに返してしまう。

違う、彼女は悪くないのに、悪いのは素直になれない自分なのに。

そんな自分に嫌気がさしてくる。

 

「これは...アタシの独り言だけどさ、自分の気持ちは伝える時に伝えておかないと、きっと後悔すると思うんだ」

 

彼女が私にそう告げる。

 

「......今井さんは、あるんですか? 自分の気持ちが伝えれなかった時みたいな事が......」

 

「──うん、ついこの前似たような事はあったよ、アタシは何とか伝えれたけど......もし伝えれなかった時を考えると、やっぱりアタシは紗夜にはちゃんとヒナと向き合って欲しい」

 

『向き合って欲しい』

 

その言葉が私の中で繰り返される。

私の気持ちも、何をすべきかは答えは出ている、きっとそれが、氷川紗夜と氷川日菜にとっての最前の道。だけど──。

 

「......すみません、今井さん。少し考えさせて下さい」

 

今はこう答えるのが精一杯だった。

それと同時に、自分がこんな風にしか答えられないことも嫌だった。

 

──────────────────────

 

「ただいま」

 

あの後、今井さんが私の言葉にどんな風に答えたか、どんな風に練習をして過ごしたのかは頭の中にモヤがかかって思い出せず、気がついたら玄関の扉を開けていた。

 

──とりあえず、今日は早めに寝ましょう、でもその前に風紀委員の資料を......

 

疲れもあるがこんな様子を日菜に見せたらまたなんか言われるかもしれない。何とか気力を振り絞りいつも通りに振る舞おうと自分自身に気合いを入れ、リビングの扉を開ける。

 

「あ、おねーちゃん、お帰り!1 」

 

どうやら今日は日菜の方が先に帰っていたらしい。

リビングの扉を開けた私に気づき、近づいてくる。

 

「日菜....ただいま」

 

だけど珍しい。

私が日菜より遅く帰宅する時は、大抵日菜は自分の部屋で待っている事が多い。

 

──もしかして...

 

私の頭の中に一つの考えがよぎる。

昨日まで考えていた私の推測とさっきの今井さんの話、その二つを合わせて考えらればそう考えるのは必然だった。

 

「....話って?」

 

日菜には何も知らないようにそう返すが、私は既に日菜が言ってくるであろう言葉に対する回答を考えていた。

 

「あ、あのね。 今度の日曜日!! 商店街で七夕祭りがあるんだけど.....一緒に行かない? 」

 

──やっぱり.....

 

日菜がそう私に告げた。 

それを聞いても私は驚かない、やっぱりそうか程度の感想。

あらかじめ考えていた言葉を日菜に告げる。

 

「.....そういうお祭りってたくさん人が来るのよね? 」

 

「そ、それは...」

 

私が人混みがあまり好きではない事を知っているのか日菜の表情が少しバツが悪そうな表情に変わった。

その様子に心が痛む。

私は、私は好きでこんな事を、

 

「で、でも、商店街の人たちがいーっぱい頑張ってるんだって!!それにね、ライトアップとかもあってね?きっと、おねーちゃんも楽しめると思うんだ、だから....」

 

その言葉に、どうしても私と行きたいという日菜の必死の気持ちが伝わってくる。

でもその必死さが伝わると同時に、私の心は比例してズキズキと心を黒い何かに浸食されていく。

ダメだ、これ以上は日菜を...、

 

「──悪いけど、私は遠慮しておくわ、今井さんや他の人たちを誘ったらその方がきっと楽しいわよ」

 

傷付けてしまう、この場所に居たら。

そう判断した私は日菜にそう告げ、一刻も早自室に戻ることを考え足を、まるで逃げるかのように自室の方に足を動かす。

 

「っ、....うん、そっか。ごめんね? 無理に誘っちゃって....」

 

背後から日菜の悲しそうな声が聞こえる。

だけど私はその声を聞こえない振りを、日菜の気持ちを理解してながら、自分の勝手な理由で拒絶した。

部屋に入り、扉を閉める。

そしてそのまま、ベッドの上へと転がった。

普段なら制服を着替えずにこんな真似はしないが、今だけはこうしたかった。

 

「....ごめんね日菜。私はまだ、あなたの隣に立つ資格はない」

 

──私はまだあなたの気持ちに寄り添う覚悟なんて....

 

その呟きは誰にも聞かれることなく、私はそのまま意識を夢の中へと旅立たせた。




という事で紗夜さんパートでした。
この日菜編の話数を概算したところ10話は超えないかもですけど、近い数にはなりそうですね、どーしよ。

そしてお知らせです。
この小説「Memory of the starlit sky」が9月29日を持って、奥沢美咲タグ5位、
そして総合評価1000を越えました!!

なのでこの場でお礼を。
評価を下さった皆様、お気に入り登録をして下さった皆様、そして、投稿から一年経っても読み続けてくれる読者の皆様。
本当にありがとうございます!!
はまだまだ未熟ですが、これからもこの小説をよろしくお願い致します。

それでは、今回もお読みいただきありがとうございました。
感想、評価等貰えると凄くやる気出るので、是非とも清き一票を。

では、次のお話でお会いしましょう。

(美咲のドレス姿はアカンて.....)

来週はこっちかも

タイシンかわいい

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第三十七話 似た者同士

どうも、ワッタンです。
遅れてすまないですー。

本当は日曜に投稿予定だったんですけど、ちょっと遅れました。
体力が無くて書き上げる気力が無かったので、申し訳ないです。
これからも度々こんな事があるかもしれませんけど、待っていただけると幸いです。
 
それでは第三十七話目をどうぞ!!




 

おねーちゃんと一緒に行きたいと言ったあの日から三日が過ぎた。

その間のおねーちゃんにあたしはどこか避けられていた。

でも昔みたいに拒絶されている訳でもなくって...アタシが話し掛けても『ごめん』とか『忙しい』とかで話を済ます。

 

原因は間違いなくアタシのあの時の言葉...なんだろうけどまさかあの時は、断られるだけど、おねーちゃんがこんな余所余所しくなるとは思っても見なくて、

だから今のアタシは...。

 

「全っ然、るんっ♪ってしないよ...」

机に突っ伏して非常に落ち込んでいた。

 

「...急にそんな事を言われても困るんだけど? 」

 

思わず自分の気持ちを口に出していたらしい。

机に突っ伏したまま顔だけを横に向け、二人分の注文が出来上がるまで、レジ近くで待っていた連音君に愚直を零す。

 

「だってさー、まさかそうなるとは思わなかったんだよぉ」

 

「そうなるって...何かあったの日菜? 」

 

二人分の注文のトレーをテーブルに載せ、アタシの向かい側の席へと連音君は座った。

現在、アタシが居るのは駅前のファストフード店だった、やけ食いでもしてこの気持ちを忘れようと思って来たのだが、お店の前で連音君とバッタリと出くわした。

そしてそのまま二人でここに来たという訳だ。

 

「...うん、ちょっとねー。 とりあえず食べながら話すよ」

 

そう言って、頼んだポテトをつまみながら、昨日までの出来事を掻い摘んで話した。全てを話し終える頃には、三個頼んだLサイズのポテトの内一つが消えていた。

 

「──という訳なんだけど、連音君どう思う? 」

 

「うーん、そうだな......」

 

ポテトのゴミをトレイの上に置いて、二つ目のポテトを摘みながら連音君にそう尋ねる。連音君はと言うとあたしが話している間、口を挟まずにじっと黙って聞いてくれていた。頼んでまだ口に付けていなかったドリンクを一口飲む連音君。 そしてそれを飲み終わった後、連音君が話し始めた。

 

「──とりあえず、ポテト食べすぎじゃないか?」

 

「へ、そう?」

 

「そうって、普通男子高校生でもそんなに食べないけど?」

 

そう言われて連音君のトレイの方を見る。連音君のトレイの上には、頼んだドリンクと......ポテトが三つ置いてあった。

 

「いやいや、連音君だってあたしと同じ数買ってるじゃん」

 

連音君の方のポテトを指差しながら口を開く。

 

「いやいや、よく見て?俺が買ったのはSサイズ三つ。日菜とはサイズが違うから、そんなに量はないよ」

 

だがすぐさまに反論された。

連音君曰く、「アプリで貰えるポテトの半額クーポンが溜まっていた」という理由らしい。更にをいうと、そのクーポンの期限が今日までという理由からファストフード店に来ていたらしい。

 

「というかこの店ってアプリがあったんだね? 」

 

「ああ、松原さんから教えて貰ったんだよ、ちなみに今登録するとポテトの無料券が貰えるぞ」

 

「えっ、ホント!? じゃあ登録しよーっと....って、そうじゃなくて!! 」

 

テーブルをバンっと叩く。

いつの間にか連音君に話の論点をずらされていた。

 

「連音君、ちゃんと答えてよ!!」

 

「ごめん、ごめん。冗談だって」

 

連音君が笑いながら頼んだポテトを二本纏めて口に入れていた。それを見ながら、一口ポテトを齧る。

 

「で、紗夜さんの話か・・・うーん、何となく、紗夜さんの気持ちも分かる気がするんだけどな」

 

「えっ、本当に!? 」

 

「多分だけどね」

 

そうポツリと呟く連音君。そしてちょっとだけ、自信が無さそうな声で続ける。

 

「紗夜さんは...怖かったんじゃないか? 」

 

「おねーちゃんが...怖い? 」

 

連音君のその言葉に心当たりがなく首を傾げるアタシ。連音君はあたしが発したその言葉にゆっくりと頷いた。

 

「うん。紗夜さんはきっと...まだ日菜にさ、歩み寄るのが怖いんだと思う」

 

「おねーちゃんが?」

 

「うん。一応紗夜さんからも......二人の関係は聞いた。だから、それを踏まえての推測だけど...」

 

そう連音君は前置きした上であたしに説明してくれた。

おねーちゃんがあたしが原因で避けていた時から、今でこそ徐々に普通に話せるようになってきた。例えるなら、コップがあって、そこに少しだけ蛇口を捻り水滴を貯めていくイメージ。少しずつ貯めていきながら、やがてコップ一杯にかつ、水面に何の揺らぎもない状態が、おねーちゃん

が昔のようにあたしと、些細な事で笑い合って話せる状態。

 

「──でも、今の紗夜さん状態はコップに貯まる水滴の量が途轍もなく早くて、コップ(心)の中の水が溢れそうになってる状態なんじゃないかな? それを紗夜さんはそれを必死に押し留めて水面を揺らさないようにしてるんだと思う」

 

「......」

 

連音君の例えは彼らしい独特な例えだった。

だけど──、

 

(そっか)

あたしにとって、連音君の言葉で今更ながらに理解出来た。

 

おねーちゃんは怖かったから自分に対してあんな態度を──おねーちゃんはあたしに、あたしはおねーちゃんに、お互いがお互いに対しての感情が怖かったんだ...。

 

「...だけど俺は心配は要らないと思う。紗夜さんにとっては、日菜は家族でありたった1人の姉妹だから大切なんじゃないかな。だから、そんな状態でも日菜を以前のようには拒絶してないだろ? 」 

 

「──うん」

 

そう告げる連音君に頷くあたし。

おねーちゃんと同じようにあたしもおねーちゃんが大切、つまりは似た者同士。よく双子だったらお互いの好みや思考が似るとか言うが、あたしとおねーちゃんは...きっと正反対。

 

だけど、今の連音君の言葉で分かった......あたしとおねーちゃんは似ていないようで似ているんだ。表面的ではなく、目に見えない所で、きっとどこか繋がっている。

 

──だから今のおねーちゃんの気持ちは今のあたしと同じ事を思っている...そんな気がする。

 

「それにいつか二人の関係が元のようには戻るって、だから....その」

 

そこで一旦、話すのを止める連音君。どうしたのだろうかと思った瞬間だった。

 

「あっ...」

 

あたしの口からそんな声が洩れる。

その原因はあたしの頭。

連音君が腕を伸ばしてあたしの頭に触れてきていた、そのままゆっくりとあたしの頭を撫でていた。

男の人だからか、連音君の手は大きくて、軽めにセットしてある髪を崩さないように優しく、それでいて....凄く暖かった。

 

「──日菜なら大丈夫って、俺は信じてる」

 

「...うん、ありがと連音君」

 

そのまま暫く連音君は黙ってあたしの頭を、まるであたしを元気づけるかのように撫でてくれた。

 

「あっ...」

 

連音君の撫でていた手があたしの頭から離れた。

時間にしては数秒にも満たない、だけどそれはあたしにとって、この時間がもっと永く続けば良いとそう思えた。

 

──まだやって欲しかったな...それにしても...

 

「ねえ、連音君。なんか頭、撫でるの慣れてなかった?」

 

何か妙に撫で慣れているような気がした。

 

「えっ、そうか?」

 

「うん、なんか初めて撫でるような、ぎこちなさ?がなかったと思う」

 

「あー、ならあれかな...リサさんに撫でてるからかな」

 

──えっ...

 

「...リサちーに? 」

  

「ああ、何かよく撫でてくれないかって言われるんだよな」

 

「...ふーん」

 

あたしの口からそんな言葉が出る。

そっかぁ、リサちーに....ね。ということはやっぱり、リサちーは。

 

「日菜、どうかしたのか? 」 

 

連音君が首を傾げながらこちらを覗き込んでくる。

この様子だと彼はリサちーからの気持ちに気づいていないらしい。

 

「....ううん、何でもない。ポテトもらうねー」

 

「いや、まだ食べるのかよ!!」

 

連音君が注文したもう冷めているポテトを口へと入れる。

リサちー(親友)が幸せになるのはあたしとしても嬉しい、だけどその隣に居るのが...連音君なのはやっぱり──

 

 

「だって『好き』なんだもん」

──嫌だった。





ということで日菜サイドでした。
次回は紗夜さん回の予定ですかね。


それでは、今回もお読みいただきありがとうございました。
感想、評価等貰えると凄くやる気出るので、是非とも清き一票を。

では、次のお話でお会いしましょう。

(さよつぐ...あやちさ...)

お休み

来週はこっち

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第三十八話 ジレンマ

どうも、ワッタンです。

一ヶ月振りの投稿、すみませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
体調を(メンタル方面)を崩していたので、書けませんでした。
けど、何とか回復したので安心して下さい(笑)

それでは、年内最後の投稿。
第十四話をどうぞ!!


日菜に行かないとキッパリ告げてから四日が過ぎた、七夕祭りの日まであと二日。

 

あの日から自分の暗く沈んでいた。再び日菜と寄り添えるようになってきているのに、自分の心の弱さが原因で日菜の思いを、私へと差し伸べてくれる手を拒絶してしまった、そんな自分が嫌になる。更にその感情に拍車をかけるかのように、私が日菜の心を傷つけたにも関わらず、あの日の事起きた出来事なんて全くなかったかのように、いつも通りの雰囲気で話し掛けてくる。

 

それが私に気を使っての行動は分かる、だけど日菜がいつも通りに私に接すればするほど、あの日の出来事がフラッシュバックして、まともに日菜の眩しい顔が見れなくなり心が締め付けていた。

 

「──,─夜、紗夜?」

 

「っ...1?」

 

自分の名前を呼ぶ声に驚き、何時の間にか下げていた顔を上げる。顔を上げた先に居たのは、自分の顔を心配そうに覗き込んでいる今井さんの顔、その顔で私は物思いから現実に引き戻される、そうだ今は。

 

「....紗夜、大丈夫なの?体調が悪いようなら──」

 

そんな声を上げたのは湊さん。

今井さんと同じ様に湊さんもに自分の方を覗き込んでいた。普段あまり感情を顔に出さない彼女だが、今の彼女の顔はどこか私の事を気遣しげに見ているように感じた。よくよく見たら、宇田川さんも白金さんも全員私を心配そうに見ている、いけないこんな事では。

 

「いえ、大丈夫です...ただ考え事をしてただけですから」

 

心の中の動揺を悟られないよう表情を崩さず、いつもの私の様に湊さんにそう言葉を返す。

 

「そう。なら、二パート前から再開するわよ」

 

特に私の言葉に何の疑問を持たないまま、湊さんの号令の元、再び練習が再開される。

と同時に、深く深呼吸をする。体内の酸素を入れ替えると同時に、自分の考えていた事も自分の脳から追い出すように深く深く。

 

自分のプライベートの問題のせいで、バンドの練習にも支障をきたして、他のメンバーにも迷惑を掛けているこの状況は流石に申し訳なかった。

 

深呼吸を終え、最善の演奏をする自分を思い浮かべる。『練習は本番の様に』そうイメージしながらギターを構え、いつもの演奏をしようと自身に活を入れる...だが。

 

「紗夜!! ワンテンポ遅れてるわよ!! 」

 

「っ...すみません」

いつもは演奏が出来ている筈のフレーズで初歩的なミスをしてしまう。ミスをしてさっき以上の熱意でギターの演奏に集中して臨むが、最初のミスでもう駄目だった、引っ張られ次々とミスをしてしまい、それぞれの演奏の手が止まってしまう。

流石にこれはただ事ではないかと思ったのか、今度はハッキリと湊さんが心配そうな表情をしていた。

 

「紗夜、本当に大丈夫なの? 調子が悪いのなら今日はもう──」

 

湊さんのその言葉に自分がどうやって返したのかは分からなかった、ハッと、気が付いた時には日が暮れていて、私はギターケースを持って外に居た。いつの間にか自分が外に居た事に気付かない程に精神的にやられていた事に、自虐的な笑みを浮かべてしまう。

 

自分がこんなにも弱いなんて思いもしなかった、たったあれだけの事なのにこんなにも心も体に不調が出るなんて、一体どうしてしまったのだろうか。

いや、この不調の原因は分かる。

 

全ては拒絶した日菜の事を再び受け入れようとしたからだ、いつも私の事を"おねーちゃん"と呼んでくれて、私を軽々しく飛び越えそして......気が付いたれいつも私の隣で一緒に歩む日菜。

 

 

最初、私は日菜が成長していくのを見て最初は嬉しかった。

だけどそれは何時しか負の感情に...嫉妬や怒りに変わった。

日菜に負けないように、周りに比べれれても氷川紗夜が氷川日菜より優秀であることを証明したかった、、そんな時に見つけたのがギターだった。幸いなことに私とギターは相性が良かったのか、努力した分だけ実力が身に付きメキメキと上達した。だけど、ギターが上達してもステージに立ち周りからその演奏技術を認められても、称賛の声が私を包んでも、私の心は晴れなかった。

 

その理由は今なら分かる。

そっと目を閉じ、当時の情景を思い浮かべる、思い浮かぶのは、日菜の悲しげな表情と、反射的に隣を振り向いても誰もいないその空間、つまり心が晴れなかった理由は日菜が...たった一人の妹が隣に居なかったから。あんなに拒絶していたのに、どうしても心を修羅に出来なかった、やっぱり日菜は私にとってかけがえのない存在、失ってはいけない存在だった。

 

──だから、私はこんなにも悩んでいる......

 

今はもうそんなに感じていない日菜との才能の差によって生まれた、自分の醜い嫉妬心や嫌悪感といった感情が、再び私の心から溢れてしまいそうになってしまうかもしれないから。それを避ける為に、私は日菜と寄り添う事

に凄く慎重になっていた。拒絶した時は何も心が痛まなかったのに、今は逆に日菜に寄り添い向き合おうとすると弱気になってしまい、心が締め付けられてしまう、ジレンマのように。

 

何気なしに立ち止まって空を見上げる。

そこにあったのは、何も遮るものはない燃えるような真っ赤な夕焼けではなく、太陽は雲に隠れ真っ赤な空は所々雲で覆われて、本来の燃えるような赤さはなかった。

 

「...まるで、今の私の心みたいね」

 

ポツリと、空を見ているとそんな言葉が出てしまう。

あの夕焼け空が私の心の中だとすると周りの雲は、私の心を覆う負の感情。

雲一つない空の時は、特に何も悩んでいなくて心の中の空模様は快晴状態だとしたら、今の私の心の中の空模様は、この空と同じで曇り模様だと、どこか自分らしくない例えが思い浮かんだ。

 

「紗夜さん?」

 

「えっ?」

 

数分ぐらい空を見上げていると、聞き覚えのある声が私の耳にきこえてくる。見上げていた顔を戻し声が聞こえていた方向へと顔を向ける。そこに居たのは、いつもの学校や『CiRCLE』の制服姿ではなく、私服姿に身を包み、ギターケースを持っている人物。

 

「鳴宮...さん? 」

 

そう発した私の声はどこか戸惑いを隠せないような声だった。

 

 

──────────────────────

 

「紗夜さん、コーヒーはブラックで大丈夫ですか?」

 

「あ、はい。大丈夫ですよ」

 

「分かりました」

 

初めて入る鳴宮さんのお部屋に緊張し、色々と視線を動かしそうになるのを堪え、キッチンから聞こえてくる鳴宮さんの質問に答える。

 

鳴宮さんと出会った後、私は彼のお部屋へとお邪魔していた。「話をしませんか」と、そう誘われて。いつもの私なら断っているか、その場で話をしていただろう。現に最初は断ろうとした、だけど、その直後の彼からの言葉「日菜の事について」というその言葉で、私は彼の提案に首を縦に降っていた。

 

「お待たせしました」

 

そう言いながらキッチンから淹れたてのコーヒーを持ってきた私の前に送る鳴宮さん。

「ありがとうございます」と、お礼を言ってからそのコーヒーに口をつける、コーヒーの苦さが体に染み渡り頭をスッキリとさせる。

 

「それで紗夜さん。丁度、昨日に日菜から最近の紗夜さんの事について、ちょっと心配になったので...突然、連れてきてすみません」

 

その言葉を聞き、鳴宮さんにも迷惑を掛けていた事を知り申し訳なさでいっぱいになってしまう。だから私も鳴宮さんへと頭を下げる。

 

「私の方こそすみません。鳴宮さんにも心配を掛けてしまって」

 

「いえ、別に迷惑ではないですよ、ただ日菜が悲しそうにしてたので......だから、紗夜さんの気持ちを聞かせてくれませんか?」

 

真剣な表情で私に尋ねてくる鳴宮さん。

が、その言葉に少し躊躇ってしまう自分がいた、今、私のこの気持ちを醜い自分の気持ちを伝えるのは、憚られる。でも、伝えれば何か見つかるかもしれない、どこかそう思う自分も居た。

 

「鳴宮さ──」

 

そう口を開いた瞬間だった。玄関からインターホンの音が部屋に鳴り響く。来客?そう思い、玄関の方へと視線が向く。

 

「誰だろう?」

 

首を傾げながら呟く鳴宮さん。その様子からこの来客は彼が予想していない事だと悟る、「ちょっと行ってきますね」そう言って、玄関の方へと向かう鳴宮さん。玄関の扉が開ける音が聞こえてきた瞬間、私の耳に聞こえてきたのは。

 

「やっほー、連音君。遊びに来たよー!! 」

 

私にとって今一番、会いたくない人物であり、向き合わないといけない人物だった。




ということで今回は紗夜さんサイドでした。
次回はクライマックス(予定)ですかね。


それでは、今回もお読みいただきありがとうございました。
感想、評価等貰えると凄くやる気出るので、是非とも清き一票を。
(実は後二人で評価者50人何です、どうか自分に年内最後の夢を....(笑))

これで、年内の投稿は最後です!!来年も精進してまいりますのでよろしくお願いいたします。
それでは、皆様よいお年を!!

(来年はラスボス系バンド...)

お読みいただき

ありがとうございましたー。

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