あ、これ公文さんのとこでやったところだ! (カツカレーカツカレーライス抜き)
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公文さんはお餅が食べたい

噴くぜぇ…この俺の…バッテリーが膨らんで機能しなくなったpspがなぁっ!


「あー、もうこんな時間だよもぉー…ねぇわーあの係長」

 

部屋の真ん中、雑に置かれたちゃぶ台の上でノートパソコンを開き、ディスプレイの隅に映る時間を見ながらぼやく。

予定通りに行かないのは仕方ない。けどそれが人災でしかもやった当人が解決に役立たないとなると、ちょっと暗い感情だって長くなる。

 

「あぁもうはい、切り替え切り替え」

 

そう呟いて馴染みの、雑談上手の押しVのつぶやいったーをチェックをしようとして…

 

全然違うモノがディスプレイに映っていた。

 

何となく古ぼけた屋内で壁には大根が二本吊るされ、その下には物騒なナタが置かれている。

大きく開かれたむしろからは透き通る様な青空が広がり…そして画面の中央には、白い着物に黒い袴、濡れた烏の羽を思わせる長い黒髪。綺麗と呼ぶより可愛いといった感じの顔立ちなのに、ディスプレイ越しに見つめてくる目は力強く、生命力に溢れるロリがドーンと居た。

 

周囲に映る物と比較すると凄いコンパクトサイズ。町中で話しかけたら一発でアウトなロリロリだった。

 

「ぅ、ぇぁ?」

 

裏がえった変な声が部屋に小さく響く。手を出せば人生終了、でもお近付きになりたいし友達になりたいしおまわりさんこいつですされてもまぁいいやと思わせるスーパーロリだった。

 

そのロリが画面の中で軽く頷き、小さな唇を開いた。

 

『うむ、時刻らしいので始めるでござる』

 

ロリござるっ子だった。

 

○ ○ ○

 

「まずは…うむ、自己紹介を。拙者、土佐の一豪族の公文でござる」

 

『なに…この…なに?』『あれ、俺アリスちゃんのファンアート見てた筈なんだけど』『おまおれ』『うわぁ、よく出来たモデリングだなぁー』『いやこれ…モデリングじゃ…』『え、マジか』『あマジだこれ。本物だ』

 

「本物?いや拙者本物とか言われても困るでござるが」

 

『いやいやそんな、こんなハチロクがちょっと育った感じの子がリアルとか…リアルだこれ』『ちょいつり目だな。ハチロクより』『ハチロク?』『大人のゲームの…まいてつってのがありまして』『把握した』『把握してないなこれ』『あー、えっと、公文、ちゃん?』

            

「ちゃん…」

 

『さんだろぉ!?落ちこんでるだるぉー!?かわいいだるぉー!』『落ち着け。気持ちは分かるが』『うむ』『じゃあ公文さん?』

 

「うむ!」

 

『かわいいかよ』『僕ここの子になりました』『なるな』『いやいや、なんだこの…なんなんだほんと』『あの公文さん、これはその、なんなんだろう?』

 

「実は、皆に助けてほしいのでござる」

 

『助け?』『えっ、この自宅警備員の俺達に?』『お前だけだぞ』『せやな』

 

「恥ずかしい話でござるが実は拙者…もう去年もその前も、その前のずっとずっと前も、新年のお餅を食べてないのでござる…」

 

『ほーん』『クリスマスプレゼントだ!カードもだ!』『ジョナサンはやめろ』『土佐…餅で公文って…いや、まさか』『あーいや、そういう設定、なんだろ?』『設定にしては部屋の中とかリアルすぎるけど…まあないよな』『ここの子だからその設定を信じるだけだなっ』『まあ色々やね。で公文さん、それで?』

 

「ん。それで困って知り合いの石村殿に相談したところ、配信とやらの一式を貰ったのでござる」

 

『すでに足長おじさんがいたでござる』『処?』『はやまるな』『何でそこで配信セット一式なのか』

 

「集合知がどうとかなんとかかんとかでござる」

 

『(あっこれ分かってないパターンだ)』『でもドヤ顔かわいいじゃん』『それな』『でもさ、設定上その時代だと配信とかセットとかオーパーツじゃん?どーなってんの?』『その時代?』『餅 公文でぐぐれ』『うむ』『公文さん、石村殿ってどんな人?』

 

「どんな…痩せた感じの、南蛮の方から来た人でござる」

 

『消防署の方から来ました』『警察署の方から来ました』『絶対部外者だゾ』

 

「南蛮は凄いでござるな。この前石村殿から聞いたでござるが、近江のどこそこ村にからくり侍女の作り方を教えて、しかも成功したそうでござる。あと…鉄砲とかいうのも」

 

『とかいうの』『重要な歴史の分岐点が…』『国友村か?』『からくり侍女さんはどのくらい侍女さんでどのくらいからくりなんですか!?』『必死で草』『必死にもなるだろ!お前に人の心はないのか!?』

 

「石村殿の所にも居るでござるが、ほとんど人間でござるな。少し冷たい感じで…あ、後耳の所が鉄とかそんな感じでにょきっとしているでござる」

 

『にょきっと』『ああああぁあぁー!ちょっと滋賀いってくる!』『長浜市にからくり侍女様は…おられませぬ!』『…そうだな。うん落ち着いた。ちょっとディスプレイの向こうに行く方法考えてくる』『欠片も落ち着けてないんですがそれは』『見つけたら俺にも教えてくれ』

 

「…で、話を戻してもいいでござるか?」

 

『餅ですか』『餅ですな』『他の話がインパクトでかすぎてすっかり忘れてた』『からくり侍女と配信セットと南蛮の方だからな…』

 

「忘れないでほしいでござる。それで何か知恵とか方法とかないでござるか?」

 

『あーまずどの位人いる?』『豪族なら配下とか村とかあるよね』『それ次第だなー』

 

「…」

 

『公文さん?』『今凄い綺麗な目そらしが』『いやいやそんな』

 

「村が一つと…狐と犬が合わせて二十…」

 

『解散!』『終了!』『閉廷!』

 

「ま、待つでござる!解散も終了もへーてーも待つでござる!」

 

『その時代の農政は大でも小でもマンパワーありきでして』『ド正論が』『あれ、石村殿とかからくり侍女様は?』

 

「彼らはひきこも…んん、姫の客人ゆえ…相談は出来ても…」

 

『でも凄い技術あるじゃん?なんかあるんじゃ?』『それだと最初から配信道具一式は渡してないと思うぞ』『あー、そっか』『軍事技術ツリーは進んでても農業技術ツリーは全然って感じか』『それかオーバー過ぎて渡せない、とか』

 

「んぐぅー…次の新年も餅はないでござるか…」

 

『レイプ目の公文さん…至高ぃな!』『処?』『処』『草…ってあれ?』『なんか画面が歪み始めてないか?』『こっちも歪んでる』『びびったぁ…モニター死んだかと…』

 

「あ…そろそろ危ないでござるな」

 

『危ない?』

 

○ ○ ○

 

『しばし待ってほしいでござる』

 

そう言うと彼女は開かれたむしろに近づき外に向かって声を上げた。

 

『とよー、今手が空いてる皆でネットとかいうのをもたせてほしいでござるー』

 

彼女のその言葉から少しして、狐と犬が数人屋内に入ってきた。数人。人。

ふさふさ尻尾でもふもふ耳で巫女衣装に身を包んだ、公文さんより頭一つ背の低い…スーパーけもっ子ロリだった。

 

そして彼女達は画面前に整列すると、せーのと声を合わせ踊り始めた。ロリロリしたスペッシャルなロリダンスだ。完全に有料コンテンツだ。

 

それが今無料で放映されている。

 

お試し期間かな。次からは有料かな。月額おいくら万円かな。

 

そんな画面向こうの人々の欲張りロリセットおいしいれす、な状況をよそにロリダンスは終わった。

  

 

『とよも皆も助かったでござる。ありがとうでござる』

 

その言葉に彼女達はにぱーっと笑い手を振りながら外へ出ていった。

 

『さて、続きでござる』

 

ロリけもっ子達を見送ったロリっ子がふつーの顔して安定した画面の中にいた。

 

○ ○ ○

 

『公文さん』

 

「ん?なんでござるか?」

 

『今の巫女さん達は…』

 

「拙者の村に住む狐と犬でござるが?」

 

『そ、そうなんだ…で、あのなんで踊って?』

 

「ネットとかに繋げる?為でござるが…皆は違うでござるか?」

 

『光とかよりけもロリ最高かよ…』『サービス始めろよ、無能かよぉ!』『モニターの向こうに行く方法、か…』『どうやら俺の本気を出すしかないようだな…』『録画しといた』『有能』『有能』『初めて人を尊敬した』

「それで餅でござるが…本当に無理でござろうか?」

 

『任せとけ!』『安心しな!』『大丈夫だ!』『公文さんのけもロリ村…俺達に任せろ!』

 

「なにか釈然としないでござる…」

 

○ ○ ○

 

ディスプレイには押しVのつぶやいったーが映っている。黒髪ロングの着物袴姿のロリも、狐や犬のけもロリ巫女も映っていない。

 

なんとなく、餅 公文で検索し該当する人物を調べてみた。

 

マイナー寄りで、知らない人は全く知らない戦国時代の武将。某学習塾を考え広めた人のご先祖様だが、やっぱりメジャーとは言えない。

 

それなりに歴戦の武将だった様だが、余り政は得意ではなかったらしく、新年の餅を用意出来なかった話が残っている。そこは一緒なのだろう。

けれど間違っても女性じゃないしロリでもない。

 

何度も何度も、履歴からページを開いたがつながらない。つながってもそれは押しのつぶやいったーだ。まるでそれは夢なんだ、なんて言われている様で無性に寂しくなる。子供の頃公園で聞いた十七時のお知らせみたいだ。だけれど、と思った。

 

彼女の悩みは解決していない。

あれがなんであれ、どこかの企業の宣伝であっても、ただの設定であっても、また会いたいと思った。

 

ネット検索で農業関連のページを片っ端からあたりながら、一人の…まあまあそこそこの人達の夜は更けていった。

 




文字入力大変だけどなんかたのしいれす


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公文さんは姫様がそんなに好きじゃない

味気ないコンビニ弁当を食べ終え割り箸を捨てる様に空になった容器へ置いた。

なんとなく着けていたノートパソコンをなんの感情もなく眺める。

 

あの不思議な体験からすでに一週間が過ぎた。

あれ以来あのページに飛ぶことも、それらしい噂をまとめたサイトを見つける事も出来ないでいた。

 

(多分、自分以外の奴等もおんなじ様な気分を味わってるんだろうなー)

 

やはり夢だと諦めそうになりながら、でもあれは確かな現実だったと繰り返す。

不毛ではあるのだけれど、彼女の姿とけも耳尻尾のロリ巫女達の学芸会的ダンスが脳裏に頑固にこびり付いてはなれやしない。

 

元々ロリコンぽかったのにあれで完全にこじらせた。

 

受け入れ難い事実では、あるのだけれど。

 

大きなため息一つ。手で包み込んだマウスを動かして、少しオーバーなアクションで巡回サイトの一つをクリックし…それはまたやって来た。

 

『うむ、時刻の様でござるな。皆、久しぶりでござる』

 

○ ○ ○

 

『だよな…だよな!あれやっぱあったことなんだよなぁ!』『おう公文さんもおまえらも久しぶりやで』『一週間に一度なのか?いや、まだ判断するには早計だな…』『公文さん、俺あれから公文さんの事沢山調べたよ』『…公文さん位の少女にそれって、かなり怖い言葉だよな』『うん』『でもおまえらも調べてるんでしょ?』『うん』

 

「ふむ、拙者を調べて…ネットとかいうのは不思議な物でござるなぁ」

 

なお当人は特に気にしてない模様。

 

『調べたなら分かっていると思うが、いみなで呼ぶんじゃないぞ』『いやいや、違う世界線だろうし大丈夫でない?』『…いみなって何?』『調べとけよそこは』『でも個人を調べた位じゃ見落とすとこかも』『あー…公文さん?』

 

「任されたでござる。拙者の場合、公文…ぐふんぐふんっ!…重忠というのでござるが、この重忠がいみなでござるな」

 

『意外とあっさり言ったな…』『やっぱりこっちのとは違うんじゃない?』『どうだろうな…まだ途中だし…』

 

「少し前の事でござるが、ドクペ宴に呼ばれたのでござるが」

 

『待って』『ドクペ宴って何!?』『まさかあれなのか…?』

 

「ドクペを飲む宴会でござる。あの、んー…なんか不思議な味のあれでござる」

 

『ドクペだこれ!』『なんであるんですかねぇ…』『どうなってるのそっち!?』

 

「南蛮の方から来た人達が作り方を教えてくれたでござる」

 

『知ってた』『フリーダム過ぎる…』『そういう設定だろ?力抜いて眺めとけって』『…そうなのかな』

 

「まぁその席で主家のひきこも、んんっ、姫様の隣になったのでござる。それでその姫様がまぁ土佐人らしいドクペ豪でござってな…」

 

『なんだよ、ドクペ豪って…』『この日本号欲しかったらドクペ飲み干せよ!』『母里さんかわいそう…』『長政はそれ見ながら笑いころげてそう』

 

「で、酔ったらしく拙者の肩を叩きながらいみなで呼んだのでござるな…」

 

『あ、これいみなの話だった』『ドクペ強いな…』『つよい』『ドクペで酔うとか土佐人大丈夫か…』

 

「一度目は酔っているからと流したのでござるが、二度もいみなを呼ばれたので…つい」

 

『…つい?』

 

「姫様をボコボコに」

 

『ボコボコに』『姫様って言葉にくっそ合ってなくて草』『いうか公文さん武闘派すぎへん?』『戦国激戦区の一つ、土佐で最後まで生き残った人ですけぇ』『あぁそういやそうだった』『…つまり、主家の姫様をそのなんだ…叩いても許されるくらい、いみな呼びは駄目という事だ』『この辺は時代もあるやで。自分の土地守ってくれへんやったら平気で寝返ったり、軍議の席でも主に掴み掛かったりやしね』『へー』

 

「実際はもっと色々でござるが、そこは各々でネットとかいうので調べて欲しいでござる。拙者を調べるより有意義でござろうし…まぁ一番はお餅関係を調べて欲しいでござるが…」

 

『ごめんなさい』『狐とか犬とかの耳と尻尾はやしたロリ巫女さん達が主戦力の農政って無理どす』『…喫茶?』『先取り過ぎる…』『ここではあの子達が当たり前だとしたら、茶屋なんて無謀だぞ』『あー…』『どうなんです、公文さん?』

 

「どこの村にもある程度いるでござるよ?」

 

『まいったな…早くモニターの向こうに行ける様にならなきゃな』『当たり前みたいに言ってて草』『草とかいいからお前も一緒に考えろ、な?』『情念が文字からにじみ出てて草』『こいつメンタル強いな』『あ、そだそだ公文さん』

 

「なんでござる?」

 

『公文さんのいみなは分かったけど、官位とか通称は?』

 

「…」

 

『…おや?』『同じなら確か…将監だが』『将監?』『近衛府の三等官やね。読みはしょうげん。朝廷の警護とかの役職やね』『ほーん』『で、なんで公文さんは固まってんの?』『なんでだろうな…』

 

「その…」

 

『うん?』『なんか可愛いぞ』『公文さんはいつも可愛いが?』

 

「…笑ったり、呆れたりしないでござる?」

 

『上目遣いとか最高かよ…』『でもこの子主家の姫様ドクペの席でボコボコにしてるんですよ』『字面酷すぎて草もはえない』『まぁ…笑える官位とか通称ってないでしょ?』『…』『あ』

「かみ…」

 

『ん?』『なんて?』

 

「か…上総守でござる」

 

『ノッブ!!』『ノッブだこれ!!』『公文って桓武平氏だっけ?』『いや…そういった話は聞いた事はないが…』

 

「なんで突然平氏が出て来たのでござる?」

 

『そっちが聞くのか(驚愕)』『桓武天皇の孫…曾孫という説もあるんだが、その孫だか曾孫だかの高望王が平姓と上総介の官位を貰って上総の地に土着したんだ。それからまぁ…有力な将やら…謀反人やらを輩出してな』『ワイが天皇でもええやろ』『平氏じゃないから人じゃないなっ』『ま、まぁそれだ。それもあって、上総介は平氏を称する武家にとっては棟梁の証、の様な時代があった訳だ』『はー』

 

「ほー…」

 

『草』『感心かよ』『で、続きだが…上総守という官位は、ない』『えっ』

 

「えっ」

 

『上総、上野、常陸は親王任国ではあるんだが…通例的に親王が赴任しなくてな。四等官である長官…守が役職として存在しない。次の介からなんだ』『ほーん』『でも、ノッブって?』『ノッブも自称平氏でな、まーそれで上総守て手紙に書いて残してまいよったやで』『ノッブ…』『武田のホモ手紙並だな』『…あの時代男色は上級武家の嗜みだからな…信長の方が実は…だな』『マジか』『毘沙門天ホモは許された…?』『いやお前はガチホモすぎてアウト』『そんなー』

 

「そ、そんな…拙者はなんて事を…」

『えっ…く、公文さん、どうしたの?』『大丈夫か上総守』『やめてさしあげろ』

 

「す、少し前に…」

 

『少し前に?』

 

「拙者の官位について、ひきこも、げふっ、んんっ、姫様が指をさしながらバカ笑いしてくるから、つい…」

 

『…つい?』

 

「ボコボコに…っ」

 

『姫様かわいそう…』『また姫様がぼこぼこに!』『公文さんマジか』

 

「…まぁ姫様だからいいでござる」

 

『えぇぇ…』『これが戦国武将…』『極例の一つだ…その筈だ…』『森さんとこのとかにくらべたら可愛いもんやで?』『…そうだな』『マジかよ…』『あ、でもさ…公文さんは何でその官位…官位?名乗ったの?』

 

「たかもちって名前を聞いた時、美味しそうでそれで決めたでござる」

 

『聞いたのか…そいつが戦犯だな』『黒幕じゃね?』『姫様…そいつのせいで…』『で、誰なの公文さん?友達?』

 

「拙者の大親友七条殿でござる!」

 

『…四国の餅コンビ、だと…?』『脳筋コンビやね…』『なんか分かってる人達が黄昏てる…』

 



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公文さんは配信中でも躊躇しない

今回短いです、すいません。
家の手伝いとかおぬこ様のお世話で時間が…


様々な情報が頭に放り込まれていく。彼女のいみなだとか、官位だとか武闘派だとか姫様の扱いが雑だとか。

他に歴史のあれこれも。

 

頭との付き合いは二十年以上だ。そろそろ右から左になる頃だから、テーブルに置いてある午後なティーを優雅に飲む。

 

何故かドクペの味がした様な気がした。

そして少しばかりげんなりしていると…ディスプレイが歪み始める。

 

秒で手にあった午後なティーをテーブルに戻してマウスを掴み残像も残さず動かす。

録画の画質を上げ、クリアにする為の作業。

 

あの日、最初のあの日録画出来た人間は僅かだ。もたざる者達はあの日の悲劇を忘れられず、それ以降多くの者達が自らに試練を課した。

 

ある者は明かり一つない暗闇の中で、音もなくマウスを掴み録画ツールをクリックする術を磨き、またある者は親の顔と彼女と妹の誕生日の記憶を生け贄に捧げ録画ツールの瞬間展開の術を得た。

そして今ここにいる人間は、ロリロリした大人のゲームをする時間を犠牲にノートパソコンの性能と機能、どちらのパフォーマンスも損なわないギリギリの録画ツールの高画質を理解するに至った。

 

言えることは一つ。きめぇ。

 

「さあ!来い!」

 

最高に決め顔だ。ほんとにきめぇ。

 

画面はぐにょんぐにょんと歪む。何も知らなければ保証まだ効いたかな、と心配するか隣の部屋とかに住む機械に強い人に泣きつくレベルだ。

修理が終わってから何事なかった様に帰ろうとするその人を呼び止めて一緒にお夕飯?

あると思う、それ?

 

ディスプレイは歪み、なのにコメントは流れしかも読める。

 

『総員、用意!』『来るぞ!』『この日の為に…この瞬間の為に、今までがあった!』

 

人々の様々な思惟と情念と怨念と呪いとチンイラが混ざりあい頂点へと達した時。

 

それは光臨した。

 

狐の耳と尻尾、犬の耳と尻尾。それらを違和感なく頭とお尻につけた美ロリ達が、チア風ミニ袴巫女服を身に纏って現れる。当然手には色とりどりのポンポンだ。

 

えらい格好したちんちんに優しくないロリけも娘達は、せーのと声を合わせ、がんばえー!ぱそこんさんがんばえー!とか言いながらポンポンを振ったり片足を上げたりする。

 

ある者は彼女達を見つめたまま祈り、またぼやける視界に映る少女達の姿を眼に焼き付けようとする。さらに幾人かはもうちょい…足もうちょい!とか言いながらモニターを下の角度から攻めていた。

 

やがて画面の歪みは直りけもロリっ子達は画面の外へと去っていった。

なお性癖の歪みは直っていない模様。

 

ふぅ、と息をつきモニターを下の角度から攻める仕事を終える。こんなすがすがしい気持ちは初めてだ、等と考えていると、一人のけもロリっ子が公文に近づいていく。先ほどのネット修復作業では見なかった顔だが、記憶している顔だ。

公文にとよと呼ばれていた狐ロリ巫女。彼女は公文の耳元へ口をよせて何か囁き始めた。

ふむふむと頷いていた公文は、とよが離れてからモニターに向かって頭を下げた。

 

『すまぬでござる、買い出し用のケッタマシーンのサドルがなくなったらしく…すぐ戻るゆえ暫しごめんでござる』

 

また変な情報を放り投げて、公文ととよも画面の外に出ていった。

 

『けった…なに?』

 

それでもコメントはぽんと出る。

 

『ケッタマシーン』『なにそれ?』『自転車の事だぞ。岐阜とか名古屋でそう呼ぶ』『土佐なんですがここ』『それ以前になんで自転車が』

 

分かりきった事だ、とまた優雅に午後なティーを飲む。

どうせあいつらしかいない。

 

『南蛮の方から来た人達だろ』『それ以外ないか…』『でもサドルか…そんなのいる?』『公文さんとかあの子達の自転車のサドルだよ?』『いるわこれ』

 

綺麗な手のひら返しだ。

 

『そーいやさーここ平行?とかの昔って設定だろ?あん時そんな官位ないって言ってた奴いたけど、そーとも言いきれなくね?』『上総守に限ってはないな』『だからなんで言いきんの?』『公文さんは口にする前に、笑ったり呆れたりしないでほしいといった』『あ、そか…言ってたな、ごめん』『いや気にしていない』

 

しかしサドル…公文や彼女達のサドル。自分ならどうするか、とそれを皆にもコメントで聞いてみる。

 

『部屋に飾る』『神棚に奉る』『なめる』『ちょっと書けないかな』『なめる』『気持ちは分かるがなめるな』

 

ちょっと書けない人は何をするのだろうか…

 

『それにしても…この狐っ子やら犬っ子ほんま違和感ないで』『もう鑑賞っすか』『当たり前なんだよなぁ』『チアコス風巫女衣装に自転車、パソコンに配信に必要な諸々にドクペか…意味が分からないな』『からくり侍女様わすれんなよぉー!』『あぁ、そうだった、すまない』『鉄砲「あの…!」』『…完全に忘れていた、本当にすまない』『しかたないとおもうの』『ほんとにな…』

 

なんとも言えない空気になりかけた時、公文がとととっ、と小走りに戻ってきた。

どこかやりきった様な、少し満足気な顔だ。

 

『いやーうちの殿がとよのケッタマシーンのサドルをまたペロペロしていたのでまたボコボコにしてきたでござる』

 

さわやかに笑いながら額の汗を手で拭う彼女の姿に、更になんとも言えない空気が濃くなった。

 




この時期は何度も洗濯が…


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公文さんはその頃ツインヘッドフカを船上で殴ってた

あんまりお餅関係ないな、って事でタイトル変えました


『どうも、初めまして』

 

画面の中で女が綺麗に一礼する。

それに対する反応はというと。

 

『え…誰?』

 

だった。

 

○ ○ ○

 

「申し訳ありません、公文殿は主家から用事を仰せつかりましたので、こうして私が配信という物をやらせて貰っております。ご不快かも知れませんがお許し下さい」

 

また綺麗な一礼。

 

『あ…すまない、貴方はその、誰なのだろうか?』

 

「あぁ…これはこれは大変失礼を。私公文殿の友人で、七条常陸守と申します」

 

『力餅の人か!』『黒幕の人か!』『常陸守て』

 

流れるコメントに、七条と名乗ったほんわか系眼鏡お姉さんはニコニコと微笑んだ。

 

○ ○ ○

 

七条兼仲という人物は武将と呼ぶよりは勇士で、武者と称すべき者だ。

 

そしてなかなか困った人物でもある。

主家は三好家に仕える小笠原という家だ。サンキューカッス?割とかわいそうな人なので止めて上げなさい。

 

とにかく、カッスに仕えた七条兼仲は実は生来からの剛力という訳でもなく、彼は地元のお寺にある観音菩薩に二十一日間、しかも深夜にやって来て祈り倒した。

その結果彼は剛力を得たのだ。観音菩薩様としては、

 

え、何この人。なんで毎日深夜に来てるん?これなんかあげないと帰らないパターン?マジで?

 

とかな感じで怖かったと思うんです。

 

さて、こうして大力剛腕を得た彼は大変喜び、お寺に石塔と大きな鏡餅を自分で背負って持っていった。

そこまではいい。まぁよくあるかな、だ。

 

この人、石塔と鏡餅をお寺に奉納する前に、ほんまに力持ちになったんやろか…よっしゃ、試したろ!とお寺にあった大きな石を持って歩き、あこれほんまや!と確信すると、持っていた石をたんぼの中にぽいしたのだ。

 

やめなさい、お百姓さん困るから。

もうちょっとこう、道の脇とかにしなさい君。

 

この時の石は現存しているので非力なぼでーにお嘆きの方は一度お参りして撫でてみてはどうだろうか。

伝承では大力を得た人もいるとか。

でも石はたんぼにぽいしない様に。ほんと石とか困るので。

 

○ ○ ○

 

「ところで…」

 

『うん?』

 

「配信というのは何をすれば?」

 

『そこからか…』『公文さんはなんて?』

 

「いえ、突然家に来て、急用が出来たからお願いしたいと頼まれまして」

 

『それで受けたのか…』『もうちょい説明を…』『そも七条…さんは他家の人なんですが。あの、さんでいいです?』

 

「はい、構いませんよ。他家と言いましても親友からの頼みでしたので、ついつい何も考えず…でして」

 

ちょっと俯いて、うふふと困った顔で笑う眼鏡が似合うお姉さんだった。

 

『この時代なら他家でも…それこそ戦時中でも付き合いは続くからな…』『そうなん、説明ニキ』『説明…いやいい…ある程度手を延ばしておかないと消耗戦になってしまうし、主家が頼りなくなった時に次の事を考えると…つながりは多い方がいいんだ』『どゆこと?』『あの砦堅いなぁ。あ、誰か勧誘に行かして味方にするか中立にしよ!って思った時に伝がないのはやばい』『でもなんか信用できない感じじゃない、それ?忠義とか仁義とか』『まだまだ一所懸命の時代やで。領地を安堵してくれへんなら返り忠もやむなし、やからね』『はー、そんなモンかぁ…』

 

「へー、そうなんですか…」

 

『感心か』『さすが公文さんの親友やで』『そういうの抜きで親友か…憧れるな』『やめろ辛くなる…』『それはそうと…公文さんの急用って?あ、聞いてないとか言えないならいいんで』

 

「いえ、聞いていますし普通の事ですから問題ありませんよ?」

 

『普通の事?』『なんだろな?』

 

「先日七つになられた末の姫様に連れられて、天神社にお札を納めに行かれました」

 

『公文さんがお札を納めに?』『公文さん七つか…』『いや十にはなんとか届いてるだろ』

 

「いえいえ、長宗我部の末姫様です」

 

『連れられてとか言うからてっきり…』

 

「いえいえ、連れられてなんですよ。公文殿一人だとまた迷ってしまうので…」

 

『草』『七つの子に手を引かれてるのか…公文さん…』『ありだなっ』『実際には他にも護衛がいるでしょ』『夢がないな』

 

「あと、ついでだから怨敵調伏の祈願文を納めてくるとか…」

 

『天神様に怨敵調伏の祈願文か…長宗我部家でこの時期辺りだと…一条は早すぎるか』『安芸とか本山とかじゃ?』『その辺やろなぁ』

 

「あ、いえいえ、サドルをよく盗っていく人の事を、公文殿が」

 

『主家の主が怨敵なのか…』『道真様困りそう…』『案外喜んで雷落としてそう』『道真様?』『天神様=菅原道真公だぞ』『へー…』

 

「戦勝祈願や鎮護の神様ですね、よくみんな拝んでますよ?私は観音菩薩様一筋ですが」

 

『まぁ七条さんはそうやろなぁ』『でも観音菩薩様も毎日深夜に来るから怖かったと思うの』『やめてさしあげろ』

 

「うふふふ…でもそうだったかもしれませんね」

 

『寛容やで…』『でもこの人も四国でも有数の武闘派なんですよ』『公文さんといい、この人といい、ぱっと見だとただの美人と美ロリなんだけどな』

 

「ありがとうございます。で、先ほど出ていましたけれど、天神様なら本当に喜んで雷を落としそうですよね」

 

『え、なして?』『あぁ…将門記か?』『まさかどき?』『しょうもんき。ノッブのはしんちょうこうき、八艘飛びの人のはぎけいき、だからな』『俺ずっとのぶながこうき、だと思ってた…』

 

「私もお寺でちゃんと将門記を学ぶまで、読み間違えてましたよ」

 

『女神か』『力餅の人です』『パワー系女神か…』『しかも石をそいします』『んで七条さん、何で天神様が喜んでって?』

 

「あ、そうですそうです。えーっと、将門公が国司をこう、あれしてからですね、八幡大菩薩の遣いを名乗る巫女が出てくるんですよね」

 

『あれする』『隠してるのになんかボコボコより怖い』『国外追放されただけやで』『よかった…あれされた国司はいないんだ…』『ごめん、国司ってなんだっけ?』『朝廷から派遣される、もしくはその土地の人間が任じられる地方行政官』『ありがとやで』

 

「それでですね、巫女が八幡大菩薩様からのお言葉だから、って言うんですね、新皇になっていいよーって」

 

『軽っ』『なっていいのか…』『この辺りは何というか唐突なんだ、実際。王権神授を無理矢理演出した不自然さがな…』『なるほどなぁ』

 

「それで、これについては菅原に書いて貰ったよ、と記されてるんですよね」

 

『書いてって…なにを書いたんだろ?』『位記やで。朝廷から官位を貰う際に書かれる辞令とかそんなんよ』『あぁ…つまり天神様も同意してますよ、と』『道真公もまぁほれあれ、上に翻弄された人生だから、故あれば下、上に剋つをよしとするというか、なんというか』『なんとなく分かった』

 

「うふふふ、私常陸守ですから将門記は得意なんですよ」

 

『何故に常陸守にしたのか…』『公文さんと違って、知ってて名乗ってるんだよね?』

 

「それは知っていましたよ…でも公文殿がその…凄くきらきらした顔でですね?上総守にする、って言うんですね?」

 

『うん、それは仕方ないな』『まずとめられないしな』『ほんまにな』

 

「それで…友達一人だけでそういうのは、と思いまして、常陸守に…しました」

 

『友達だな…』『友情かぁ…』『昔の友達に電話してみるかな…』『んで、七条さんは官位バカにされたらどうしてるやで?』

 

「投げますけど?」

 

『なげ…?』

 

「はい。バカにした当人をこう…上とか横とか下とか、気分次第ですけれど」

 

『友達か…』『類友か…』

 




天神様に七つなったらお札を納めにいく風習ですが…
唄は明らかに江戸時代のものなんですけど、風習そのものの成立がはっきりとさせられませんでした。
戦国後期ならあるかなぁ…どうなんでしょう?


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