おぜうさまロード (さろんぱす。)
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1本目:生える

初投稿です。頭を空っぽにして読む系。それでもよければよろしくお願いします。


「チンチンがほしい」

 

 チンチンというものをご存知だろうか?いや大抵の人は知っているだろう。

 チンチン、それは男たちの誇りであり女たちの希望。太古の昔から人々と共に在り、長さで、太さで、硬さで、常に人を魅了し続けてきた。そしてガチレズたちが虎視眈々と求めてきたものでもあり、つまりは私が女子高の教師という立場を利用し教え子たちとレズプレイに興じるたび、あるいは借りてきたAVを見るたびに『あればなー』と思ってしまうものである。

 

「あぁ~、チンチン……」

 

 私がそんなことを呟いたここはナザリック地下大墳墓。DMMO-RPG――ユグドラシル・オンラインにて悪として名を馳せたギルド、アインズ・ウール・ゴウンの本拠地。かつては数多の異形(変態)が集った悪の園。その地下9階層の1室、大きな円卓型テーブルが置かれた部屋に、3体の異形と1人の人間の姿があった。

 

「2人共どう思う?やっぱり必要だと思うわよね?」

 

「いやちょっと意味分からないです。また変な電波を受信しちゃったんですか?……いい加減にしないとまじでギルマス権限でBANしますよ?」

 

 まず私を電波チャン扱いしやがったのはこのギルドの長である『モモンガ』。骨だけの体に黒基調の豪華なローブを着た髑髏の魔法使い。だがその実態は魔王をロール・プレイするエンジョイ勢(ただし課金はガチ勢)であり、デスペナのきついこのゲームで容赦なく即死魔法を連発する様から『非公式魔王』と呼ばれる男。そして同時に頑なに童貞を守り続ける真の魔法使い予備軍(確定)でもある。

 

「というか、そもそもどういう意味の発言なんですかね?恐らく、ブチ込む、もしくはブチこまれたい、のどちらかだと思うんですけど。でもそのキャラもリアルも性別は女性でしたよね?やっぱり電波ですか?」

 

 2人目はギルドのシステム担当である『ヘロヘロ』。コールタールのような真っ黒なスライムであり、体の表面がゴポゴポいいそうな感じに波打っている。その強力な酸能力で主に女性の装備を狙い溶かしていたことから『害悪スライム』『エロスライム』『溶かしちゃうおじさん』『漆黒の紳士』と呼ばれていたプレイヤーだ。リアルではプログラマーでブラック企業に勤めているらしく、よほど辛いことが有ったのか2年ぶりにINしてきたと思ったら、

 

「今さら仕様変更で作り直しなんて無理に決まってるだろぉお!」

「ていうかもうほぼ完成してるんですけど!?」

「しかも新しい仕様って、これ漁船を10階層のビルに変えるレベルの変更なんですけどぉ!!?」

「『なにがやれば出来る』だ! ふざけんなSE!! 死ね!!!」

 

という感じで1時間ほど叫びまくってた。そんなリアル社畜である。

 

そして3人目がこの私。

 

「決まってるでしょ。もちろん私がぶっこむ為のチンチンよ。あと電波言うな。」

 

 プレイヤー名『おぜうさま』。過去に流行った同人ゲー、東方Project-東方紅魔郷-のラスボスであるお嬢様『レミリア・スカーレット』をロール・プレイするものにして、『電波吸血鬼』『アーパー』『バカ殿』『下ネタお姉さん』などの異名を持つ吸血鬼だ。

 

 その姿は青みのかかった銀髪にエルフのように尖った耳があり、眼は血のように赤く、背中からはコウモリのような羽が飛び出している。服は真っ白なワンピースを赤いリボンで締め、頭にはドアノブカバーのような被り物を付けた超超かわいい美少女。

 

 ただし原作のレミリアが見た目8~9歳ぐらいの幼な子なのに対して、私のレミリアは160cm程度まで身長が伸び、更にその胸には大きな双房が付いている。レミリアファンによって数多作れた創作の中でも、一部にカルト的人気を誇る通称『大人化レミリア』である。

 

「全く2人とも失礼よね。咲夜、――笑いなさい。」

 

 さらに私の指示を受け、斜め後ろに立っていたメイドが笑顔を浮かべる。私が作った人間のメイドNPC『十六夜咲夜』だ。

 このゲームでは拠点を持つと自分たちでNPCを作成することが可能であり、外見からクラス構成まで自由に設定することが出来る。それによって再現したのがこの子だ。東方Projectにおいてレミリアに仕えるメイド長。『完全で瀟洒な従者』の通り名を持つ銀の髪を3つ編みにした超美人。また胸の膨らみについてはファンによって諸説あるも、私の咲夜は巨乳長が採用されている。なんでって? だって私は大きなおっぱいが大好きだから!

 

 

■■■■■■

 

 

 以上がここに居る3体+1人だ。元は41人居たギルドメンバーがゲームの過疎に応じて徐々に居なくなる中、最後まで残った4人のうちの3人である。

 

「まぁおぜうさまさんが電波なのは最初からでしたけどね。……まさか最後までそのままとは思いませんでしたけど。」

 

「はっ?何言ってるのよモモンガ、かもすわよ?」

 

 ちなみに私のリアルは普通に女子高の体育教師であり、ちょっとおっぱいが大好きなだけのガチレズだ。電波扱いは原作のレミリアの能力『運命を操る程度の能力』のロールとして運命がどうのと言ってたせいであって、断じてリアル電波チャンではない。

 

「そういえばはっきりと聞いたことは無かったですけど、2人はいつから知り合いなんです?このギルドで1番付き合いが長いってホントですか?」

 

「ええ、残念なことに事実です。というのも俺がこのゲームを始めて最初に出会ったプレイヤーがおぜうさまさんなんですよ。なので知り合ってからの年月なら1番長いということになりますね。いやほんと残念ですが。」

 

「あー、確か最初に会ったのはどこぞのフィールドだったかしら?レベル上げしてたら動いてる骨がいたのよね」

 

「ああ、それでそのまま臨時PT組んだ感じですか?」

 

「よく覚えてないけど多分そうよ。ねっ、モモンガ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうです。初めて会ったのはフィールドでした。……ポップモンスターと間違えてPKされました。」

 

「えっ」

 

 だって初期装備のスケルトン系プレイヤーだったんだもん! フィールドのポップモンスターと区別つかないのはしょうがなくない?つまり私は悪くねぇ!

 

 

「そ、それで次に会ったのはレアアイテム狙いで狩りしてたときよ。私は8時間以上ぶっ続けで狩ってたのに全く出なかったわけ、なのに後から来たこの骨が10分ぐらいでポロっと出しやがってね」

 

「物欲センサーあるあるですねぇ」

 

「いやぁアレは笑ったわ。ね、モモンガ?」

 

 

 

 

 

 

 

「いや笑えませんよ。微塵も迷わずに俺をPKしてアイテム持っていきましたよね?」

 

「えっ」

 

よりにもよって私の目の前でドロップしやがったからね、仕方ないね。

 

「いや、返しましょうよ」

 

 すでに使用済みだぞ☆

 

 

 

「そして3回目の出会いはまたフィールドだったわ。軍服着てドイツ語で煽りながら逃げてる骨が居て、それを切れた人間種6人が追いかけててね。」

 

「何やってるんですかモモンガさん」

 

「違うんです、若いときの過ちっていうか」

 

「まぁゲームが始まったばっかりの頃は異形種への迫害がひどかったですし、煽りたくなった気持ちは分かりますよ。ドイツ語の方は意味分かりませんが」

 

「orz」

 

「ま、そんな訳でモモンガに夢中になってる間にさくっと人間共をPKしてやったわけ」

 

「お~、そこだけ聞くとまるでタッチさんみたいですね」

 

 たっち・みー、それはリアル警察官にしてカワイイ奥さんと子供がいたリア充。人助けを是とし、このギルド最強の実力を持つワールド・チャンピオンだった男。

 

「まぁほら、私も異形種で吸血鬼だし? たまには人(骨)助けもいいかなって」

 

「なるほどー。まぁタッチさんには憧れてる人も多かったですからねー」

 

 

 

 

 

 

「いや何を良い話風にしてるんですか。その後で俺までPKしましたよね?」

 

「えっ」

 

 フフッ、7人分のドロップはとても美味しゅうございました。

 

「いや、だから返しましょうよ」

 

 私のビルドには合わなかったからすぐ売っちゃった☆

 

 

■■■■■■

 

 

「それで2人とも最後はどうするの?」

 

 このままだと過去のやらかしにまで追求されそうなので無理矢理話題を変える。

 とはいえ私自身はすでに出来そうな事はすべて終わらせてある。装備の外装として使った3Dデータは自分のPCに保存したし、ギルド内の各施設もムービーで撮影済みだ。だからもはややるべきことはない。

 

「俺は……最後は玉座の間で迎えるつもりです。それでその、よければお2人もどうですか?あとあの時のアイテムは返してください。」

 

 玉座の間、それは地下10階層に作られた、この拠点でもっとも豪華な部屋。

 いずれ攻め込んでくるであろう勇者たちとの最終決戦の場として作られたその部屋は、結局9階層以降に攻め込んだ者が居なかったため、最後までその真価が発揮されることは無かった。だが最後を迎える場所としては相応しいだろう。

 

「おっ、いいですね。ボクも最後にメイドたちを見ておきたかったですし行きましょうか。」

 

 モモンガの提案にヘロヘロが同意する。私としても断る理由は無い。過去にぱくったアイテムは返さないが。

 

「私もいいわよ。でも意外ね、ヘロヘロはてっきり落ちると思ってたわ。眠気が限界とか言ってたけど大丈夫なの?」

 

「やだなぁ、ここで『もう落ちますね』なんて、そんな空気読めないこと言うのはおぜうさまさんぐらいですよ」

 

 あれ、こいつも私に失礼じゃね?いったい何なのコイツラ?私って結構ギルドに貢献してたと思うんですけど。

 

「それにココで落ちたらボクのメイド達が何されるか分かりませんし……」

 

「ああ、それは確かにありそうですね」

 

「失礼ね、せいぜい装備を変えてポージングさせるぐらいよ」

 

「エロ装備に変えるんですね、分かります。」

 

 さすがはヘロヘロ。このギルドのドスケベ四天王なだけあり理解が早い。

 

「ほどほどにしてくださいよ?このゲームはエロにやたらと厳しいんですから。」

 

 このゲームではR18どころかR15ですら禁止であり、そのためエロ関係は全く行うことが出来ない。そしてそれは恐ろしい程に徹底されており、ちょっと相手に触れるどころか下手をすればローアングルからの撮影ですら警告が来るほどだ。

 

「大丈夫よ。私たちを信じなさい。」

 

「そうですよモモンガさん、ボクたちだってそれぐらい弁えますよ。」

 

「いや前に同じこと言ってギルドごと警告食らいましたよね。忘れたとは言わせませんよ?」

 

 ギルド警告……それは9階層に娼館を作ろうとした時のことだ。部屋の中を透明の板でショーケースのように区切り、そこにエロ装備のメイド達を並べた。あとはポージング――M時開脚かY字バランスかそれ以外か、で議論していたところ急に運営から警告が来たのだ。それもギルドメンバー全員に対して。そのせいでその時は諦めざるをえなかったのだが……

 

「エロに走って崩壊する拠点が有ってもいい、それが自由というものではないかしら?」

 

 真の自由とは何か?それはきっと過去を振り返らないこと。リアルで調子にノリすぎて訴えられたときも、教え子に7股がバレて刺されたときも、私は態度を改めたりはしなかった。ならば突き進むことこそ真理ではなかろうか。

 

「その気持ちは分かります。ボクだって自分が作ったNPCたちとエロ出来るなら突っ走りますよ。モモンガさんもそうでしょ?」

 

「いや、ないです。マジでないです。それは流石に俺でもキレますからね?」

 

「始まってすぐの頃はまだ緩かったのにねぇ……」

 

 浅くてきれいな海エリアに出向き、海底の砂に潜り込んで下から女性キャラの食い込みを撮りまくった事もあった。あまりにも夢中になりすぎて呼吸を忘れた変態バードマンが溺死し、デスペナでドロップしたメイン武器が沖合に流れて失われたのは懐かしい思い出だ。

 

「ちなみにたっち・みーは最後までI字バランス押しだったわ。振り上げた足の膝裏がすごくそそるんですって。」

 

「何言ってんだリアル警察官……やったらモモンガ玉使いますからね?」

 

「エロでギルド崩壊→ブチギレて玉発動って色々な意味で伝説になりそうですね~。動画にするならタイトルは『ギルド長の玉が割れる日』かな?再生数めっちゃ稼げそう」

 

「止めてくださいよ、みんなで作ったナザリックじゃないですか」

 

「もちろん冗談ですよ。……ボクにとってココはとても大切な場所でしたから。」

 

「でもこうしてひっそり消えるぐらいなら最後にそれぐらいやっても良かったかもしれないわね……」

 

 どうせなら最後に何かパーッとやってもよかったかもしれない。うちは知名度だけならゲーム内でダントツだったのだ。きっと告知すれば来てくれる人も多かったはずだ。

 

 

■■■■■■

 

 

 そうしてやってきた玉座の間。そこにはココを守るために配置された複数のNPCたちの姿があった。黒髪の悪魔にしてギルドNPCの統括として作られたアルベド。白髪の執事であるセバス・チャンとその部下の男性使用人達。さらに戦闘用のメイドとして作られた各々が違ったタイプの美人が6人。――ただし、なぜか全員が女用のスクール水着を着ている。

 

「なんですかこれ? ……いや本当になにこれ?? 昨日見たときは普通の格好だったはずですけど!? うわ、セバスきもっ!!!」

 

 そう言えば忘れていた。半日前にタブラ・スマラグディナ――設定厨の触手野郎、がログインしたとき、2人でスク水に着せ替えたのを……

 

「おぜうさまさん?」

 

「……てへっ☆」

 

 私はなんとか誤魔化そうと出来る限り可愛らしい声とともに笑顔マークの感情アイコンを表示する。しかしそんな私に対し、ヘロヘロは空中からバケツのようなものを取り出し、躊躇なく中身をぶっかけた。

 

「そぉい☆」

 

 それは完全耐性すら貫通する強力な酸の塊。モンクであるヘロヘロが中距離攻撃用として作った自身の名を冠するアイテム『ヘロヘロの我慢汁』である。

 

「ほぎゃぁあああ!!」

 

 バシャァーという音と共にぶっかけられた私はずぶ濡れに……はならない。このゲームではフレンドリーファイヤは禁止されているので仲間の攻撃は影響を受けずダメージも0だ。しかしながらアイテムの名前を知っている私としては乙女的に大ダメージである。

 

「いきなり何ぶっかけてるのよ!?」

 

「こっちのセリフですよ! ボクの嫁にナニやってるんですか!?」

 

 ヘロヘロが言う嫁とは自身が作った戦闘用メイドのうちの1人、『ソリュシャン・イプシロン』だ。垂れ目系の金髪美人で胸もお尻もバインバイン。さらに普段装備のメイド服は上乳丸出しの上、スカートは超ミニスカでスリットまで入っている。まさに『ボクが考えた最強のエロメイド嫁』である。

 

「どう考えてもやったのおぜうさまさんですよね?なんでこんな格好に?」

 

「だってユグドラシルも最終日だし。もしここまで来る勇者が居たらなら喜ぶかなって。それにもしかしたらエロいことしようとしてBANされるかもしれないじゃない」

 

「ここまで来て垢BANトラップとかひどいと思うんですけど……。歓迎したいのかネタにしたいのかどっちですか?……とりあえず戻しますね。」

 

 『全員、装備変更、標準』とモモンガがギルド長権限で命令を下す。それを受け、予め設定された行動AIによって全員の装備が標準の物へと変更された。

 ……ちっ、スクール水着かわいいのに。いったい何がいけないというのか。ちゃんと胸に名前書いたんだぞ。

 

 

■■■■■■

 

 

「ところで今更ですけど、ボクがログイン出来なかった2年間はどんな感じだったんですか?何か驚くことってありました?」

 

「うーん、俺の方は特には。みんな徐々に引退して行って、ここ1年はギルドの運営資金を稼いで落ちる毎日でしたね。最近は攻め込んでくる人も居なかったですし」

 

「私も特に無かったわねぇ。自分用のカロリックストーンを作って、あとはNPC達の衣装を何着か作ったぐらいかしら。」

 

 このゲームは装備の見た目(外装)を自由にいじれるため、やろうと思えばどんな服だって再現できる。もちろんエロすぎるのは作れないが、だからこそギリギリを見極めるのが楽しいのだ。

 

「見たらきっとびっくりするわよ。昔の小説から再現した堕天使エロメイド……」

 

「いやちょっと待って下さい。ボク的にはその堕天使エロメイドも興味深いですけど、その前にカロリックストーン作ったって言いませんでした?まさか1人で?」

 

「いやー、自分でも作り始めたときはまさか完成するとは思わなかったわ。」

 

 カロリックストーン(熱素石)とは「ワールド・アイテム」と呼ばれる超級のレアアイテムの中の1つだ。その数はゲーム全体でたった200個しかなく、中には運営にシステムの変更を要請できるようなぶっ壊れ効果な物も存在する。

 ただしその希少性のため殺してでも奪おうとする者はとても多く、だからこそ取得しても公開するものは滅多にいない。このゲームは始まってから12年ほど立つが、ネットやWikiで調べても出てくる情報はせいぜいが数十個分ぐらいだろう。私が1人で入手できたのは前にギルドの活動で偶然手に入れたことが有り、取り方を知っていたからである。

 

「いったいどうやって鉱石集めたんですか?ていうかそんなことやってたなら教えて下さいよ。言ってくれれば俺だって手伝ったのに。」

 

「なに言ってるのよモモンガ、こういうのはコッソリやるから良いんでしょ」

 

 このアイテムの入手方法はある意味とても単純で、それは七色鉱――超希少金属を大量に集めて消滅させることだ。簡単そうに思えるが恐ろしい量の鉱石が必要であり、1度目の入手はギルドで鉱山を丸々占領した時だった。

 

ボクたち(アインズ・ウール・ゴウン)には売らないようにって言われてた金属はどうしたんです?」

 

「それなら自分で掘ったわ。」

 

 このゲームで鉱山とは金のなる木であり金策としては最高の場所だ。だからこそ見つけた場合はギルドで、場合によっては他と連合を組んでも占領する。

 しかし私達のギルド、アインズ・ウール・ゴウンはモモンガを筆頭に「悪の華」たらんと悪役をロールしていたギルドだ。そのため一部のプレイヤーからは蛇蝎のごとく嫌われ、超希少金属の鉱山を占領――私達から奪ったギルドよりずっと取引を拒否されていた。だがそんな連中もゲームが本格的に過疎ってくるとみんな姿を消してしまった。

 

「1年ぐらい前からかしらね。ほとんどの鉱山が放置されるようになって、行けば誰でも掘れるような状態だったのよ。」

 

 その日のスキルの使用回数が尽きるまで狩りをし、その後に採集用装備に着替えて鉱山へ。課金のピッケルでアポイタカラを掘り、ヒヒイロカネを掘り、スターシルバーを掘り……そうして毎日採掘し少しずつ鉱石を貯めていったのだ。

 

「それはそれで寂しいような……それで何に使う予定なんです? 運営にお願いも出来るタイプのアイテムですし、いっそのこと頭を良くしてもらう(知力上昇)とかどうです? もしくは電波を遮断してもらうとか。」

 

 ふざけんな。私のはロールの一環だぞ。ていうか私のビルドって指揮官系だし、INTが多少上がってもほぼ意味が無いんですけど。

 

「……まぁ使いみちは特に決めてないのよね。ぶっちゃけ最初はただの暇つぶしだったから」

 

 1年前の時点でやることはほぼ無くなったが、それでもこのゲームを止めたくなかった。だからこそ無理矢理に目的を作ったのだ。もとより達成できるかなんてどうでもよかった。

 

「ボクが言うのもなんですけど、なんともおぜうさまさんらしいですね~。無駄なことを無駄にやりきっちゃう所が特に」

 

「まっ、それももうすぐ全部消えちゃうけどねー。」

 

 このゲームは本日でサービスが終了する。そして現在時刻はもうすぐ23時59分だ。――つまりあと1分ちょいで全てが消える。

 

 

 サービス停止まであと60秒……

 

「モモンガさん、おぜうさまさん。2人ともありがとうございます。」

 

「はっきり言うと、ボクはもうココが無くなっていると思ってました。」

 

 ユグドラシル・オンラインというゲームは私にとって癒やしだった。リアルの仕事が辛いときも、ログインして自キャラやNPCを眺めれば生きる気力が湧いてきた。だがもうそれも出来なくなる。

 

 

 サービス停止まであと50秒……

 

「2年前、リアルで体調が悪化したせいで病院に通う事になって」

 

「医者にナノマシンの使用を止められたせいでINできなくなって」

 

 2人も同じ思いだったのだろう。表情は変わらないが、その言葉からは寂しさが伝わってくる。

 

 

 サービス停止まであと40秒……

 

「それでもずっと思ってたんです。もう1度この場所に立ちたいって」

 

「ヘロヘロさん……」

 

 

 サービス停止まであと30秒……

 

「そしてソリュシャンに思いっきり抱きつきたいって」

 

「ヘロヘロさん……?」

 

 

 サービス停止まであと20秒……

 

「出来ればスカートの中に潜り込んで、太ももをペロペロしながらBANされたいって」

 

「ヘロヘロさーーーん!!?」

 

 

 サービス停止まであと10秒……

 

「だから、だから最後ぐらいやっちゃってもいいですよね?」

 

「いや駄目に決まってますよ!! どうして最後に聞いてもいない性癖暴露してんの!? お願いだから最後ぐらい大人しくして下さいって!!」

 

「えっ、駄目なんですか!!?」

 

 まじかよ。私も最後は咲夜の胸で迎えたかったんだけどなぁ。まぁ今まで散々迷惑かけたし最後ぐらい従ってあげるべきか。でも咲夜の胸に手を伸ばすぐらいはいいわよね?

 

 

 そうしてサービス停止まで残り5秒を切り……

 

 

 

 4……

 

 

 

 3……

 

 

 

 2……

 

 

 

 1……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミ……

 

「あっ♥」

 

 それはいったい誰の声だったのか。私だったのかヘロヘロだったのか、それともモモンガか……気づけば私の手は何時の間にか咲夜の胸を捉え、その果実をフヨフヨと揉みしだいていた。

 

「柔らかい、それにすごくいい匂いがする……」

 

 でもまだ終わってないってどういう事だろう?それとユグドラシルでは匂いは実装されて無かったはずだ。それにこんなリアルな感触も。いったいなにがどうなっているのか……

 

 そうして混乱しながらもチラリと横を見れば、ヘロヘロも体から伸ばした触手でソリュシャンの胸をモニュモニュと揉みしだいている姿が目に入った。

 

「ちょっ、ちょっと2人共何やってるんですかBANされますよ!? ていうかヘロヘロさんの方からジュージュー音してるんですけど!? しかもなんか焦げ臭いんですけど!!?」

 

 そして最後の1名は盛大に取り乱し中だ。だが今はそれどころではない。私は慌てているモモンガを無視し、この中で1番PCに詳しい男へと問いかける。

 

「どういうことなのヘロヘロ? もしかしてユグドラシルⅡでも始まったの??」

 

 対して「ソリュシャン! ソリュシャン!! ウホオオオオオオ良いにほいいいいいいい!!!」などと叫んでいたヘロヘロは、それでも長年培われた社畜としての習性なのか、投げられた質問に対し律儀に自分なりの回答を述べ始める。

 

「ん~、それはたぶん無いです。やろうとするとサーバー側とユーザー側、両方のプログラムを更新する必要があるんで。うわぁ肌もスベスベェ! 仮にサーバーの方はコッソリやったとしても、ユーザーのPCへ勝手にプログラムを入れるのは犯罪なんですよ。おほぉ!!」

 

 恐らく長年の夢だったソリュシャンの胸へ接続した事で、彼の思考はこれまでになく冴え渡っているのだろう。賢者状態を飛び越し明鏡止水へと至ったであろう彼は的確に現状を分析していく。

 

「じゃあ今はどうなってるんですか?」

 

「ボクたちがこうしてココで会話できてることから、恐らくサーバーは落ちてません。もしかしたら糞運営でストライキでもあったのか、もしくはサボってるのかもしれませんね。」

 

 なんだいつもの糞運営か。

 

「なら感覚と匂いが感じられるのは?」

 

「ユグドラシルというか全てのDMMOはサーバーとユーザーのPCが電気的信号でやり取りし、受け取った情報をPCがナノマシンでユーザーに伝えるというシステムです。」

 

「ただし電脳法で味覚と嗅覚情報のやり取りは禁止されてますし、触覚も厳しい制限が有って、しかもハード的にも制限がかけられています。」

 

「なので現状で最も可能性が高いのはユグドラシルのプログラムにウィルスが入り込んだとかで、そのせいで諸々が変になっているのかもですね。まぁその場合、責任はサービスの提供元にあるはずですけど。」

 

「なるほど、全く分からないから3行でよろ」

 

「1.プログラム暴走中

 2.責任は運営が取る

 3.今ならエロやり放題」

 

 OK、把握した。なんだそんなことか。つまり慌てる必要は無いということだ。

 

「いやいやいや、つまり犯罪に巻き込まれてる可能性が高いってことじゃないですか!? 2人とも揉んでる場合じゃないですよ!? ていうか何時まで揉んでるんですか!!?」

 

「確かにそれどころじゃないわね。」

 

 そう、たしかに揉んでる場合ではない。その話が本当なら、つまり今はなんでも(・・・・)出来るということだ。

 再びちらりと横に視線を向ければ、なんと黒いスライムの一部、人間なら腰にあたるであろう部分がゆっくりと隆起し、細長い棒のようなものを形成していく。恐らくはスライムのスキルである触手生成、しかしてそれはまるで黒いチンコのようっ……! ――こいつ、やる気だ。

 

「ボクはね、ずっとこうしたかったんです……」

 

 その眼はまさに澄み切った殉職者の眼であり。同時にドロドロとした欲望に汚れきったコールタールのような黒さも併せ持っていた。

 

 対して、私も自身のスカートの中に手を入れ、中のモノを取り出そうとする。しかし……

 

「って、あああああああ!! これ女キャラだったああああああ!!!」

 

 そこには期待したモノは無かった。代わりに顔を見せたのは黒いアダルティーなパンティである。

 ちくしょぉおお、せっかくのチャンスなのに! こんな機会はもう無いかもしれないのに!! 今すぐキャラの容姿変更アイテムで男キャラに変えるか? いや駄目だ、ユグドラシルではたとえ装備を全て外しても強制的にインナーが表示されるだけ。それはつまり男キャラになってもデータ的に下着の下は作られていないということ。

 

「ああああああああ!!!!」

 

 絶望によって私の心が埋め尽くされそうになる。だが諦めるわけには行かない。これは恐らく2度と訪れない、ある意味で奇跡とも言うべきチャンスなのだ。諦めるな私! 頑張れ! 頑張れ!! 行けるいける!! そうして今までの人生の中で恐らく1番酷使されたであろう私の頭脳は、結果としてある1つの可能性を導き出すことに成功する。

 

 ……もしかしてこれなら!!!

 

 私はいそいそと空中に手を突っ込み(・・・・・・・・・)、黒い空間――アイテムボックスの中からとあるアイテムを取り出す。それは私の半年の暇つぶしの結晶。作っただけで満足して使っていなかった漬物石。ワールド・アイテム――カロリックストーン。

 

 「ちょっ、何使おうとしてるんですか!? えっ、待って、お願いだから待って!!」

 

 驚くモモンガをよそに、私は取り出したそれを頭上へと掲げる。

 

 ――そして叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チンチンおくれーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!」

 

 

 

 

 




Q.どうしてこんなものを書いたんですか?
A.暑すぎて頭が沸いたせいです。自分でもよく分からない……なんだこれ。

今のところまだ転移後の話は有りません。
でも感想欄に「チンチン」を沢山頂ければ続きが生えるかもしれません。チンチンだけに。
もちろん普通の感想も募集しております。

・追記(08/20)
誤字脱字を修整しました。指摘してくれた方々、有難うございました!
※―(ハイフン)等と区別しづらいため漢数字はあえて使わないようにしております。


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2本目:虹色

沢山の評価&感想ありがとうございます!
こんなにチンチンが集まるとは思いませんでした!ウヒョー!!

・連絡事項
微妙な描写があるのでタグに『R-17.9』と『残酷な描写』を追加しました。
初めてなのでどれぐらいまでOKなのか分かりません。もし削除されたらごめんなさい。
でも1話のモミモミは大丈夫だったのでたぶん今回もセーフはなず。
頼むすり抜けてくれっ! 頼む!!


 私がカロリックストーンを掲げ願いを叫んだ瞬間、玉座の間は虹色の光に包まれた。

 それはまるで小惑星すら押し返せそうな暖かな光。柔らかな亀頭を包み込もうとする皮のような優しい七色の輝きだ。

 そしてワールドアイテムによる世界の改変が行われたあと、私の股間には新たな力……直立する虹色の物体があった。

 

「これが……私のチンチン……!!」

 

 ゴクリッ。その姿に私たち(・・・)は思わず喉を鳴らす。それは大きく、太く、長く、そしてレインボー。先端からは透明な液のようなものが流れており、触れれば火傷してしまいそうなその熱量は、まさにワールド・チンチンとも言うべきもの。

 

「キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!」

 

 私はその完璧な出来に思わず叫び声を上げる。

 願った自分でもなんだが、まさかこんなデータが用意されてるとは思わなかった。運営様、いままでクソ運営クソ運営言ってすみませんでした! 公式で指揮官クラスの弱体化が発表されるたびに、掲示板に『死ね! まじで死ね!! その前にワールドチャンピオンの次元断層どうにかしろ! 絶対防御とかチートすぎんだろ!!?』とか書き込んでごめんなさい!! だが今なら言える、お前らが神だ!!!

 

 そうして私のテンションは人生における最大値――女学生を初めて落とした日(性的な意味で)をあっさり突破し、それでも止まらずに更に上昇し続けた。が、1周してしまったのか私は少しだけ冷静さを取り戻す。

 

 ――よく考えたら、この2人の前でやるのはちょっと恥ずかしいんじゃない?

 

 「咲夜、<転移門(ゲート)>、おぜうさまの部屋。」

 

 「はい、おぜうさまさま。」

 

 気づいた私は即座に命令を下し、設定されているAIにより咲夜が魔法を発動させる。それは2点間を繋ぎ、失敗確率0%で転移することが出来る門を作り出す魔法。

 

 「咲夜、付いてきなさい。」

 

 私は目の前に現れた楕円形の黒い塊へと足を踏み入れ、そのまま部屋に入ってベッド☆イン。

 その後は咲夜の初めてを奪い、そのたわわな果実を味わい、全身を隅々まで舐め尽くし、時間を忘れてただひたすらに求めあった。

 だって気持ちよすぎたのだ。ワールド・チンチンは最強だった。どれだけ扱っても決して折れず、曲がらず、ふにゃらず、そして幾らでも発射可能。さらに私たちはびっくりするほど相性が抜群だった。もしかしたら咲夜の設定に「おぜうさまとの相性は最高」と書いていたせいかもしれない。

 おまけにこのキャラは吸血鬼。飲食と睡眠は不要で、どれだけ活動しても疲労などは全くない。さらに咲夜もアイテムによって同じ特性を得ている。そのため何時までも溶け合うことが可能だった。あ~、咲夜、咲夜、咲夜、咲夜、咲夜、咲夜……

 

 

 それから私は引きこもりになった。

 

 叩かれるドアのノック音を無視し

 

 外から聞こえてくる『おぜうさまさま!』という声を無視し

 

 恐らくモモンガからであろう、<伝言(メッセージ)>を無視し

 

 ただひたすらに快楽を貪り続ける。

 

 

 ――そして5日目。

 

「いつまでやってんだ!!! このバカどもがぁぁああああ!!!!!」

 

「ぎょわぁあああああ!!!!!」

 

 ついにブチギレたモモンガにより部屋に最強化された魔法が撃ち込まれ、ボロボロになった私は強制的に連れ出されてしまったのだった……げせぬ。

 

 

■■■■■■

 

 

 そうして私達3人が数日ぶりに顔を合わせた場所は薄暗い部屋の中。

 ココは常に吹雪が舞う白銀の世界。ナザリックの第五階層『氷河』に存在する氷結牢獄。その中にある拷問室――真実の部屋。

 中には至るところに拷問具が在り、さらに雰囲気を出すためのオブジェクトだろう、恐怖で歪んだまま死んだような顔の死体が複数設置されている。

 特に中央のテーブルに四肢を拘束された形で載せられている『左頬に傷のある男』の全裸死体はまるで本物のような迫力だ。びびったせいか小さくなって被っちゃったチンチンまでも作り込まれており、それまさに匠の技。本来ならR18認定で削除されるはずだが匠すぎて見逃されたのかな?

 

「それでどうしたの?」

 

「その前に股間のソレをどうにかしてくれませんか? 虹色に光っててくっそウザいんですけど!?」

 

「イルミネーション代わりによくね?」

 

 勝手に見ておいてウザいなんて酷いやつである。しかしモモンガが本気で嫌そうなのでしょうがなくスキルをオフにし、股間のソレを消滅させる。

 

「あっ、オン/オフ出来るんですね。」

 

 そうなのだ。私が得たチンチンはなんとスキルの一種だった。

 オンにすればニョキニョキと生え、オフにすれば除草剤を撒かれたかのようにしなしなっと消滅していく。しかも1日に何度でも使用可能。そんな便利なチンチンだ。あえてスキルとしての名前を付けるとすれば<チンチン生成W(ワールド)>だろうか。

 

「で、こんなとこに連れてきてどうするの? もしかして私達を拷問する気?」

 

「くっころですか? くっころなんですか? それとも『絶対に負けたりしないっ!』って言えばいいですか? でもボクはスライムだからほとんどの道具は効かないと思いますよ?」

 

「どっちも違います。お願いだから今ぐらい真面目に話を聞いて下さい。いやマジで。」

 

 だって場所が拷問室なんだもん! そりゃエロい妄想しちゃうのはしょうがないでしょ!? エロゲー的に考えて!! エロゲー的に考えて!!!

 

「それと先に1つ聞いておきたいんですけど、2人ともここが現実になってるのは気づいてますか?」

 

なんだそんなことか。それはもちろん気づいて(・・・・)いる。

 

「もちろん。というかそれは流石に馬鹿にしすぎですよ。」

 

「ヘロヘロの言うとおりよ、当たり前じゃない。」

 

「えぇぇー……」

 

 私達は即座に回答するがモモンガは気づいてないと思っていたのだろう、そこには困惑した雰囲気がある。だがこれはDMMOのプレイヤーならすぐ気づくことだ。なぜならDMMOで使われるナノマシンは使った分だけ補充する必要があった。つまりそれは物理的な限界があるということであり、何日もぶっ続けのプレイは不可能ということ。そしてこれはいくらサーバーやプログラムを改変しようとどうにかなるものではない。

 

「じゃあどうして引き籠ってたんですか? 気づいてたなら出てきて下さいよ。」

 

「逆に聞くけど、長年思い続けた相手と結ばれた時に、別の男の呼び出しに応じると思う?」

 

 はっきり言おう、そんな奴はいない。

 

「モモンガさんってたまに非常識ですよね。」

 

「ええぇぇー……」

 

 ちなみに咲夜は一緒に来ていない。連日ぶっ続けだったせいで大変なことになった部屋を片付けているからだ。ヘロヘロもソリュシャンを連れていないが、恐らく同じ理由だろう。

 

「それでなにがあったんですか? 恐らく重要なことなんですよね?」

 

「あっ、はい、それはですね……」

 

 ヘロヘロからの質問を受け、モモンガは「急に真面目に質問されても違和感が……」と言いつつもこの4日間の出来事を語りだす。

 

 NPCたちが自我を持ち拠点の外に出られるようになっていたこと。

 

 セバスに外の探索を頼んだら周囲は草原が広がっていたこと。

 

 闘技場で試したらユグドラシルの能力は全て使えたこと。

 

 NPCたちが忠誠の儀を行ったこと。

 

「待って下さい、忠誠の儀って何したんですか? これはエロい匂いがしますよ。」

 

「まさかギルド長の権限でアルベドやシャルティアに全裸土下座を……!?」

 

「いやそんな事する訳ないでしょ!? 2人の中で俺どういうキャラになってるの!!?」

 

 むっつりスケベの変態予備軍(仮)かな? だってユグドラシル時代から私やNPCのおっぱいをチラチラ見てたし。女性は胸への視線に敏感なのだ。まぁギルドの女性陣はみんな気づいても何も言わなかったが。

 

「それでこの世界でついに本物の魔王になっちゃうんですか?」

 

「違うんですよ。俺は集合しろって言っただけなのに、アイツラいきなり跪いて『ご命令を!』とか言い出したんですって!!」

 

ほんとぉ? 実はこっそり世界征服始めてたりしない? いや流石にそれはないか。

 

「やられた俺だってビビりましたよ。でもまじだったんです。しかもめちゃ重いんです。」

 

「どれぐらい?」

 

「たぶん、命じられたら喜んで自害しちゃいますね……」

 

「うわぁ」

 

 重っ! さすがにそれは私でもびびるわ。でも言われてみれば咲夜も命じたことは1つも断らなかったような。あれっ、もしかして咲夜以外のメイドも全員頂けちゃうんじゃね?

 

「二人だって他人事じゃないですよ? あいつら、おぜうさまさんは『運命を操る吸血鬼』、ヘロヘロさんは『あらゆる物を消滅させる至高の粘体』とか言ってましたから。」

 

「「ふぁっ!?」」

 

「どうもユグドラシル時代のことも覚えているみたいですね。それでどうします? ロール続けますか? 俺は成行きで魔王ロール続行になっちゃいましたけど。」

 

 そんなの決まっている。

 

「もちろん続行よ。異世界でレミリアロールとか最高じゃないの!」

 

「ボクは状況に応じてとしか。でもそれが本当なら裏切られる心配をしなくて良いってことですよね。好き勝手暴れられるよりはマシだと思います。」

 

 この拠点には私達が作ったNPCを初め高レベルのモンスターが大量に配置されている。もし反乱など起こされた場合、PvPクソ雑魚の私としては逃げ出すしかないだろう。

 

「それで、その後はどうしたの?」

 

「えっと、それから騎士に襲われてる村を見つけたんです。それで戦闘力を試すついでに助けにいって……」

 

「タイミングよく襲われる村……飛び込むモモンガさん(主人公)……チュートリアルですか?」

 

 その後もモモンガの話は続いたが、それはまるでゲームのような展開だった。

 主人公の参戦によって救われる村(大半が死亡)、改心して去る騎士たち(デスナイト無双)、そこに遅れて現れる国のお偉いさん(王国戦士長)(物差し)、そして最後に出てくる国の特殊部隊(出落ち)……

 

 

■■■■■■

 

 

「……ということなんです。」

 

 話し終わったモモンガがゆっくり椅子に腰掛ける。その椅子は<上位道具創造(クリエイト・グレーター・アイテム)>によって作られた漆黒の玉座。座る本人が「あー、つかれた」などとオヤジ臭いことを言いながら肩を回していなければすごく様になっただろう。

 

「で、どのへんからギャグなの?」

 

「ギャグじゃないですよ。」

 

 ぶっちゃけ信じられない。特に驚くのはデスナイト無双だ。レベル35の防御特化モンスターに蹴散らされるってギャグよね? デスナイトが無双された(・・・)なら分かるんだけど。でも武技ってのはちょっと気になる。

 

「全部本当です。」

 

「マジですか。」

 

「ついでに言えば戦士長はレベル30ぐらいで、特殊部隊の隊長(ニグン)は第4位階の神官でした。」

 

 つまりレベル22~28ってことか。こんなことする前にもうちょいレベル上げするべきじゃね? それじゃGvGで役割持てないわ。

 

「う~ん、ボクは話を聞く限りモモンガさんの行動は特に問題無いと思いますよ。陽光聖典っていうのも全員捕まえたんですよね?」

 

「そうなんですけど、情報聞き出そうとしたら死んじゃったんですよ。どうも質問に3回答えると死ぬ魔法が掛かってたみたいで。そこの机に乗ってる死体がその隊長です。」

 

えっ、あれオブジェクトじゃなかったの? うわー、触らなくてよかった。

 

「ああ、それでボクたち……いえ、この場合はおぜうさまさんを呼んだわけですね。」

 

「ええ、蘇生したいんですけど、もし別の場所に飛ばれたら厄介なので。」

 

 ユグドラシルでは蘇生された場合、生き返る場所は4つの選択肢から選ぶことが出来た。それは自分のホームポイント、ダンジョンの入り口、近くの街の中、そして最後がその場――死体のある場所だ。そのことから恐らくモモンガが危惧しているのはココ以外の場所で生き返られること。つまりは私達の情報の持ち逃げだと分かる。しかし、幸か不幸か……相手にとっては確実に不幸だが、私にはそれを防ぐスキルが存在する。

 

「しょうがないわねぇ」

 

 やることを理解した私は全裸で横たわる陽光聖典隊長の死体に対しスキルを発動させる。

 瞬間、死体の真下から赤黒い腕のようなものが何本も伸び、そのまま死体へと絡みついて全身を覆っていく。これは私が収めているクラス『悪の将軍(イービル・ジェネラル)』の特殊能力(スキル)、『冒涜の呼び声(レイズ・オーダー)』だ。

 

「オッケー、掛かったわよ。」

 

 このスキルの効果は対象に『魔法やアイテムで蘇生効果を受けた場合、自動的にその場で生き返ってしまう』というデバフを与えること。一言で言えば『死んだ相手を殺し直す』ためのスキルであり、つまりは『えっ、もう死んじゃったの? じゃあ生き返してまた殺そうぜ!』という身も蓋もない邪悪なスキルである。

 

「さてどうでしょうね。」

 

 ユグドラシルでは死んでしまうと装備アイテムを1つドロップするため、相手を殺し直せるこのスキルはめちゃくちゃ凶悪だ。何ヶ月もかけて作った装備が追加で1つ奪われるというのはまさに悪夢であり、ユグドラシルの嫌いなスキルランキングでも常に上位だった。

 

「……ふむ、どうやら消えないみたいですね。」

 

 ただしこれはあくまで行動を制限するデバフを与えるだけであり、対象を蘇生する効果そのものはない。そのためこのスキルを知ってる者は使われると仲間による蘇生を諦め、5レベルダウンのデスペナを全て受け入れて自己蘇生(リスポーン)により安全な場所へ逃げるのが定石だ。

 

「つまりこの男はユグドラシルを知らない、もしくはユグドラシル的リスポーンシステムは存在しないってことですか。」

 

「いやもしかしたら死ぬのが趣味のドMかもしれないですよ? 昔居ましたよね『このくらいで俺が止まると思うなよ! 』とか言いながら裸でずっとゾンビアタックしてたやつ。」

 

「それってシャルティアに抱きついて消えていった(垢BANされた)やつよね。よく覚えてるわね。」

 

 シャルティアとはギルドの変態TOP―ペロロンチーノが作ったレベル100のNPCだ。銀髪・吸血鬼・おっぱいと私と完全に被っており、更にガチ構成で総合力最強。しかし創造主により設定にPADと書き込まれ、配置場所が浅い階層だった為にしょっちゅう変態共に絡まれていた可哀想な子である。

 

「でもこの男ってユグドラシルの魔法を使ってたんでしょ? もしかしてたまたま知らないだけなんじゃないの?」

 

「う~ん、ボク的には判断できませんね。考えたらどれもありそうですよ。」

 

「まぁそのへんは蘇生してから直接聞いてみましょう。じゃあワンド使いますね。」

 

 モモンガが死体へ向けて蘇生の短杖(ワンド・オブ・リザレクション)を使用する。蘇生魔法の発動に伴い、ニグンという男の体がビクンッ! と揺れ、さらに彼はそのまま腰を突き上げるようにビクンビクンと跳ね続ける。それはまるで死体がエア騎乗位をしているよう。

 

「うわっ、なにこれ。きもっ。」

 

 モモンガがドン引きしているが私も同意見だ。少なくともユグドラシルではこんなキモい演出はなかった。もしこれが蘇生を拒否しているのだとすれば、どれだけ嫌がってるのか想像もつかない。

 

「せめてパンツぐらい履かせるべきでしたね……」

 

 あとヘロヘロ、そういう事は先に言え。おかげで見たくもないチンチンが揺れてるじゃないの。ブルンブルンやぞ。

 

 

■■■■

 

 

 黒い世界があった。それは全てがドロドロに溶け合ったような空間であり、同時に全てが安らかに眠ることを許されるような神聖さも併せて存在していた。

 そんな中、ニグンは何かが自分の全身を覆って行くのを感じた。さらに誰かの手が自分をどこかへ運ぼうとする気配。

 しかしニグンはそれを振り払おうとする。それはあまりにも邪悪な気配を放っていたからだ。だが最初に自身を覆ったなにかのせいで、腕も足も動かすことが出来ない。それでも諦めず必死に抵抗しようとして全身に力を入れるが、出来たのはせいぜい腰を前後に動かすことだけだ。

 そうこうしているうちに眼の前で爆発したように光が広がった。そして重たい眼をゆっくりと開き――

 

「おはよう、ニグン。いい夢は見れたかな?」

 

「あ、ああああああああ」

 

 ニグンの顔が驚愕に歪む。眼の前には一番見たくなかった相手――豪華な玉座に座る、自分を捕らえたドクロの魔王の姿があった。さらにその左右には側近なのか別の存在までいる。

 

(いったいなにが……? 自分は確かに死んだはず。)

 

 ニグンは動揺しながらも必死に思考を巡らせようとした。しかしモモンガが発言の方が早い。

 

「聞きたいことが出来たのでな、生き返ってもらっただけだ。」

 

 ニグンは完全に思い出した。

 

 陽光聖典としてガゼフ・ストロノーフを抹殺する為の特殊任務。

 王国貴族を買収してガゼフの装備を剥ぎ取った。

 別働隊が辺境の村々を虐殺することでおびき出した。

 そして最後に大量の召喚天使による包囲殲滅。

 

 しかしモモンガと名乗る謎のマジックキャスターの出現により状況が一変した。

 召喚してあった天使たちはゴミのように消し飛ばされ、自分の安寧の権天使(プリンシパリティ・ピース)もあっさりやられた。

 最後に切り札(魔封じの水晶)を使って第7位階の天使を召喚したが、それも一撃で消滅した。

 

 そして拷問室のような部屋に連れ込まれて……

 

(いや待て、こいつは今なんと言った? 私を生き返らせ(・・・・・)た、だと? それはまさか……)

 

「クックック、どうやら理解出来たようだな。」

 

 ニグンの顔がさらなる驚愕へと変化する。

 その表情には深い絶望の色があった。

 

 

 

 

 

 うわー、モモンガの魔王ロールパナィわ。内面しらないと私でも騙されそう。

 

 このニグンってのもきっと『もし本当なら死んでも逃げることは出来ないのでは?』なんて思っているんでしょうね。まぁ実際は強制効果は私のスキルで蘇生はアイテム、つまりモモンガにそんな力はないけどね!

 

「さて、命乞いでピーピー叫ばれるのもめんどうだ。<支配(ドミネート)>……よし、ここに居る3人の質問に答えろ。」

 

「あっ……」

 

 モモンガが発動した魔法を受け、ニグンの瞳から光が消える。それは陵辱系エロゲでクリア直前のヒロインのような姿だ。

 

「これでもう質問して大丈夫なのよね?」

 

「ええ、大丈夫です。試しに何か聞いてみてください。」

 

 モモンガに確認を取り、私は質問を投げかける。対してニグンからはスムーズに答えが返ってくる。

 

「初体験いつ?」

 

「12のときです。」

 

「ちょっ、なに聞いてるんですか!?」

 

 12ってはやっ! もしかして昔はお姉さまに頂かれちゃった系のショタだっただろうか。まさか左頬の傷はお姉さまに付けられた所有物の証!?

 

「モモンガさん、こいつきっとヤリちんですよ。」

 

 即座にヘロヘロから判定が飛ぶ。長年のシステムテストにより鍛えられたその分析力から導き出されたその答えは、恐らく間違ってはいないだろう。

 

「そういうのは止めましょうよ。」

 

「えぇ~、ちょっとぐらい良いじゃない。」

 

 そして尋問が始まった。ニグンの口は自身でもびっくりするほど滑らかに動き、問われるままに知りうる限りの情報を吐き出していった。たとえそれが法国の秘密だろうと、そして恥ずかしい秘密だろうとお構いなしだ。

 

(くっ、いっそ殺せ!)

 

 ニグンはきっとそんなことを思っているのだろう。しかし私たちの質問は止まらない。初体験の相手、性感帯、好きな体位。そうしてあらゆることを根掘り葉掘り聞き出され……

 

「6大神、8欲王、13英雄、それから口だけの賢者……って来てるプレイヤー多すぎぃ!!!」

 

 この世界にきて5日目。私たちはようやく世界の現状を知った。

 

 

■■■■

 

 

「先に来てるとかずるい、ずるくない?」

 

 100年単位のアドバンテージとかずるすぎない? むかしのシミュレーション(C○v)でもそこまで露骨なハンデは無かったと思うんだけど。 これはガ○ジーだってガチギレして全面戦争しちゃいますわ。

 

「ほとんど滅んでるって話ですけど、でもそれだけ来てると間違いなくこっそり隠れてるのも居ますよね。」

 

 だろうなぁ。わたしだったらずっと拠点に引きこもってるわ。

 

「で、他に聞いておきたいことは無いですか? なければこの辺で切り上げますけど。」

 

 周辺国家の状況、政治形態、宗教、文化、通貨、魔法、地理、モンスター、それから大体の街の位置、その他色々……うん、もう聞くことは無い気がする。

 

「ボクはないです。ところでこの人はどうするんですか?」

 

「雑魚っぽいし死体に戻せば?」

 

「お、お待ちを! わたしは必ず役に立ちます!! どうかご再考を!!」

 

 私たちは尋問を切り上げようとするが、それに対し魔法を解除されたニグンが必死に売り込みをかける。ここまで必死になられれば普通なら多少は罪悪感が湧くだろう。しかし私達の決定は変わらない。

 

「レベル20代の神官はちょっとねぇ。」

 

「中途半端すぎますよね。」

 

 これが戦士なら武技の研究で使えたし、第5位階が可能なら蘇生役アルバイターでワンチャンあった。第6位階で<大治癒(ヒール)>が使えれば契約社員だ。しかしコイツが使えるのは第4位階まで。ぶっちゃけ役に立たない。まぁ必要になったらまた生き返せばいいだろう。デスペナがユグドラシルと同じならあと数回は蘇生できるから。

 

「というわけで今回は機会がなかったということね。」

 

「乙でーす^^」

 

「そぉい☆」

 

「ぎょわああああああ!!!!」

 

 ヘロヘロがぶっかけたアイテムによりニグンが悲鳴を上げならドロドロに溶けていく。それはヘロヘロの我慢汁が白色になったVer――『ヘロヘロの一番搾り』だ。白い液体が体中にかかったまま死んでるその姿は、オブジェクトとしてこの部屋の演出に1役買うこと間違いないだろう。個人的にはぜったいに近寄りたくない。

 

「ところでヘロヘロ、いま人間殺したけどどんな感じ? わたし全くなんとも思わなかったんだけど。」

 

「あっ、そういえばそうですね。いつものノリだったので気づきませんでした。ボク的には……うーん、なんともないです。」

 

「モモンガは?」

 

「俺もお2人と同じですね。というか人間自体が虫程度にしか感じられないみたいで。」

 

 つまり私達は身も心も異形になってしまったということなのだろう。モモンガの例えで言えば、先程のヘロヘロの行為は虫に殺虫スプレーしたような感じだろうか。うん、罪悪感なんて湧くわけないわ。

 

「じゃあボクはそろそろ部屋に戻りますね。次は明日…いや3日後…やっぱり3ヶ月後ぐらいに集まりましょう。」

 

「いや長すぎですよ。ここに来るとき、これからしばらくは1日毎に集まって会議しましょうって説明しましたよね?」

 

「その時はソリュシャンの事で頭がいっぱいでした。」

 

「正直に言うわ、ぶっちゃけ聞いてなかった。」

 

 だってチンチンを床ズリされた状態で連れてこられたのだ。まともに話を聞くなんて無☆理。

 

「じゃあ改めて聞いて下さい。これからしばらくは毎日会議しますからね? ギルド内も外も調べることが沢山ありそうなんですから。ほんと頼みますよ。」

 

「えー、もう何百年もアド取られてるんですし、今更焦る必要なくありませんか? おぜうさまさんも何か言ってやってくださいよ。」

 

「うーん、私はヘロヘロに賛成ね。というかモモンガこそ一旦休むべきよ。貴方のことだから4日間働きっぱなしだったんでしょ?」

 

「それはそうですけど。でももしかしたらって考えるとつい……」

 

 このギルド長は昔からこうだ。頑張りすぎな上に何かあると自分を犠牲にしようとするところがある。まったく、私達はだれもそんなこと望んでないというのに。

 

「モモンガさん、ボクが言うのもなんですが心というのは意外と疲弊するものなんです。だから休みましょう。というか4日ぶっ続け仕事とかドン引きです。」

 

「おふたりとも……心配する振りしてサボろうとしてません?」

 

 心配してるだけなのに疑うなんて酷いギルド長だ。私達はただ部屋に籠もっていたいだけなのに。

 

「そ、そんな訳ないじゃない。これは純粋に心配しているだけよ。……で、アンデッドだから飲食と睡眠は無理だとして、性欲の方はどうなの?」

 

「それは一応あるみたいです。けどモノが無いから意味ないですよ。」

 

「そこは好きな肋骨を突っ込めばいいじゃないですか。」

 

「なにに!!?」

 

 そんなやり取りをしつつも、私はだんだん咲夜のおっぱいが恋しくなってきていた。だから手っ取り早く済ますために装備していた指輪の効果を発動させる。それは引退したギルメン『やまいこ』からもらった流れ星の指輪(シューティングスター)。3度だけ経験値消費無しで超位魔法<星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)>を発動させることが出来る超レア指輪だ。

 そして私は発動した<星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)>へ望む効果を口にする。

 

「モモンガにチンチンを与えよ」

 

「ええええええ、なんで!!???」

 

 その後、私は指揮官クラスのスキルでアルベドへ連絡を取り、モモンガを任せて部屋へと戻った。モモンガを押し付けた時のアルベドの顔は長年の思いが成就した乙女の顔であり、餌を与えられたワンコのようであり、――同時に全てを喰らい尽くそうとする肉食獣のような笑顔だった。合掌。




変態's「シャルティアちゃんペロペロ!」
シャルティア「助けてペロロンチーノ様!」
ペロロンチーノ「俺のシャルティアがあんな奴らに……ウッ!!(ビクンビクン」

ご愛読ありがとうございます。
とりあえず建国までの大まかなプロットは作り終えました(書ききるかは不明)

モモンガさんの行動は4日目まで原作と同じです。つまり誤発注済み。
星空がきれいだったからね。しょうがないね。

・追記(08/24)
誤字脱字を修正しました。指摘してくれた方々、有難うございました!


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3本目:援軍

きゃああああお気に入りが1000超えてるぅうう!
評価&感想と併せてありがとうございます!!
誤字脱字のご指摘もすごく助かってます!!

・連絡事項
話数の表記を『~本目』に変更しました。
ちんちんの表記を『チンチン』で統一しました。
LVの表記を『レベル』で統一しました。


 モモンガにチンチンが生えてから4日後。

 私の頭は咲夜のスカートの中にあった。

 

「すぅ~、はぁ~~~」

 

 鼻をヒクヒクさせながら大きく息を吸い込み、それを吹きかけるようにゆっくりと吐き出す。

 さらに舌を出してスベスベの太ももをペロペロと舐めれば、咲夜からはその度に、はんっ♥ はぁん♥……などと色っぽい反応が返ってくる。

 幸せだ。幸せすぎる。桃源郷はここにあった。

 

 そんな現在、私達が乳繰り合っているのはゆっくり動く箱の中。

 それは全体が赤で塗装された豪華な馬車だ。車体は6人が楽に乗れるだろう大型のものであり、引いてる馬は4頭の真っ赤なスレイプニール。さらに御者まで真っ赤なローブを被っているその様は、遠くから見ればまるでトマトが動いている様に見えるだろう。

 

 これは私がアイテムによって召喚したものだ。手に入れたのはユグドラシル最初期の頃。まだプレイヤーたちのレベルが低く、移動に苦労していた時代。そのときに課金で売りに出されたPT用の移動馬車――ただし2人以上で乗るのはこれが始めて――である。

 

 そんな悲しくも懐かしい馬車が進む中で、私は2日前にあった事を思い出していた。

 それはモモンガをアルベドに捧げた2日後の出来事。ヘロヘロからソリュシャン経由で相談したいことがあると<伝言(メッセージ)>を受け取り、向こうの部屋へと赴いたときの事である。

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

 

「ヘロヘロ、入るわよー?」

 

「あいてますよー。」

 

 部屋主に許可を取り、咲夜が開けてくれた扉をくぐって中に踏み込む。部屋に入った私は嫌そうに顔を歪め、そのまま感想を口にした。

 

「この部屋も相変わらずね。」

 

「……っ!!」

 

 あまりにも意外だったのだろう。私に続いて入った咲夜がその部屋の有様をみて唖然とする。

 だがその気持はよく分かる、というか最初に入った時、ギルメン全員が同じ反応をしたからだ。

 

 そこはひたすらに白い空間だった。壁も床も天井も、あらゆる全てが病的なまでにただ白い。

 さらにその中に家具の類は全くなく、別の部屋へのドアすら見当たらない。つまりただただ広くて白いだけの空間だ。まるで精神病院の隔離部屋のようなココはヘロヘロの自室にして狂気の部屋。

 

「ふふ、ここにブラックなものは有りませんよ。そう、ブラックなのはボクだけです……なんちゃって☆テヘッ」

 

「ちょっと止めなさいよ。咲夜のSAN値が削れちゃうでしょ。」

 

 私はヘロヘロの持ちネタにツッコミを入れる。そう、この部屋の内装はこのネタ、ブラック企業のブラックジョークをブラックウーズがやるという、3重のブラック案件ギャグをやるためのものだ。

 

 しかしヘロヘロのリアル事情と相まり笑えた者は1人も居ない。

 そのあまりにもガチっぽすぎる部屋の有様は、もれなく入った全員にSAN値チェックを強制し、ギルドメンバー最大の問題児、ゴキブリのNPCを作った『るし★ふぁー』をして『あの部屋怖い。2度と入りたくない』と言わしめたほど。そんな訳でこの部屋に2回以上入ったことがあるのは私を含めて数名だけである。

 

好きなところに(・・・・・・・)座って下さい。」

 

 私はこれまた何時ものネタをスルーして、持ってきた(・・・・・)テーブルと2組の椅子を咲夜に設置するよう指示する。そしてその片方に腰掛けた。

 

「おっ、悪いですね~。」

 

「そう思うならいい加減に最低限の家具ぐらい用意しときなさいよ。私の咲夜がびっくりしちゃったでしょ。可愛すぎて襲いたくなったんだけど一旦帰っていい?」

 

「え~、ゆっくりしていって下さいよ。あと家具は今の所は何とかなってるから大丈夫です。ちなみにソリュシャンとの初夜は床でした。冷たくて気持ちいいんですよ?」

 

 ちがう、そういうことじゃない。なんだかこいつ思考までスライム化してね? なんなの? 脳みそまで溶けちゃったの? いやスライム化したから溶ける以前にもう無いのか。まぁ脳なんて単純で化学的な思考中枢が必要なのは人間だけらしいからなぁ。

 

「まぁいいわ、私の方も言っておくことがあったし。よければ先にこっちの話をしていい?」

 

「おっ、なんですか?」

 

「実はちょっと前から考えていたんだけど、名前を変えようと思うのよ。」

 

「えっ、それはどうして?」

 

「いやほら、NPCのみんなが私のことを『おぜうさまさま』って呼ぶじゃない?」

 

「それがどうしたんですか?」

 

「ぶっちゃけ、『さまさま』って言われるとすごいバカにされてる気がする。」

 

「えー、でもその呼び方ってユグドラシル時代は自分からネタにしてたじゃないですか。『わたしの事はおぜうさまさまと呼びなさい!』とか言ってましたよね?」

 

「そうなんだけどね。いやネタで呼ばれるのは良いのよ? でもまじめに呼ばれると違和感がすごくて……何度言っても止めてくれないし。ねっ、咲夜?」

 

「至高のお方々を呼び捨てにするなど、そのような不敬な者がナザリックにいるはずがございません。」

 

 これである。でも思い出せばリアルでも極稀に同じようなことがあった。純粋培養のお嬢様を相手にしたときだ。育ちが良い彼女たちは基本的にどんな発言もくそ真面目に受け止めてしまう。なので中々こちらのペースに持ち込めなくてかなり困った。まぁ最終的には壁ドン→顎クイッのコンボでどうにか落としたが。

 

「……確かに、言われてみるとそうですね。」

 

 というかそもそもプレイヤー名に『さま』を付けた馬鹿は誰よ? そのせいでこんなメンドクサいことになってるんですけど!!

 くっ、こんなことならせめて『さん』にしとくべきだったか? いやそれでも『おぜうさんさま』になるだけか。馬鹿っぽさがアップするだけだわ……。

 

「という訳で、今から私は『レミリア・スカーレット』よ! 咲夜とソリュシャンもいいわね?」

 

「「はっ、かしこまりました。レミリア様。」」

 

おほぉー! 改めて呼ばれると本当にレミリアになったみたいですごい気分が高揚する! よーし、いつか紅魔館とか立てちゃうぞ!! ……まずは良さげな湖を見つけるとこからね。

 

「その外見の元ネタでしたっけ?……分かりました。では丁度いいのでボクも今後は『ヘロヘロ・ノーブラック』と名乗ることにします。」

 

「ノーブラック?」

 

 本人が真っ黒なのにノーブラック(黒じゃない)とはこれいかに?

 

「ええ、実はこっそり考えてたんです。『二度とブラック企業に勤めない』という決意を込めています。」

 

 おおう、この部屋のこともそうだけどブラック企業に恨み有りすぎぃ。いやリアル事情を聞けば気持ちは分かるけどね。でももうちょっと過去より前を向いたほうがいいんじゃないかな?

 

「そして実はそれだけじゃないんです、ちょっと崩し読みすれば『ノーブ・ラック』、『はじめての幸運』という意味になります。お二人とこの世界に来れたことへの感謝を込めてですよ。」

 

 おっ、なんかオシャレになったぞ。むしろこっちのがよくね?

 

「そして一部をひらがなに変えれば『ヘロヘロ()ブラック』、つまりボクのチンチンは黒い、という意味に……」

 

「それは止めろ。」

 

 恨みなのか、おしゃれなのか、下ネタなのかはっきりしろ。いやたぶん全部込みなんだろうけど、もう最後の意味にしか聞こえないわ。

 

「全く、よくそんなの思いつくわね……」

 

「まぁこれでもプログラマーでしたからね、関数や変数で名前つけることは多かったですから。」

 

 でもやっぱり最後の下ネタはどうかと思うわ。白いチンチンとか生やせるようになったら、どうするつもりなんだろう? ザ・ホワイトチンチンとでも付け足すのかな?

 

「それでそっちの用事は何なの? 私以外にも隣の部屋(・・・・)に何人か居るみたいだけど。」

 

「おっ、分かるんですか?」

 

「まぁね、指揮官系クラスの探知パッシブよ。」

 

 ユグドラシルでは周囲の敵味方をミニマップに光点で表示するだけのものだったが、こちらでは感覚的に分かるようになっていた。

 最初は煩わしかったのでオフにしていたのだが、しかし使ってみるとこれがすごく便利であった。

 

「これで安心して野外プレイが出来るわ。」

 

「なにそれずるい。ボクにも下さい。」

 

 そう、周囲が把握できるということはギリギリのプレイが出来るということ。

 実は何度か部屋の外で咲夜とやってみたが、今のところアウラ(レベル100レンジャー)以外には気づかれたような感じはしなかった。まぁそのアウラもぶくぶく茶釜の声入り首輪(プレイ用)で買収したので、もはや私を止められるものは居ないだろう。たぶん。

 

「で、何の用なの?」

 

「実はこれからについて幾つか相談したことがありまして。それともうバレてるので1人目を呼ばせてもらいますね。」

 

えっ、1人目?

 

「――かもぉん! トップバッター!!」

 

 ヘロヘロがそう叫びつつパチンッ! と指を鳴らせば――どうやって音を出しているかは不明だが――部屋の壁の一部がガコンッ! 開き、続いて隣の部屋から1人の悪魔がこちらへとやってくる。

 

「お呼びとあらば御前に。デミウルゴス、参りました。」

 

 呼ばれた悪魔は優雅に礼をしつつ片膝を突いて敬服を示す。

 それは赤いスーツに丸メガネとオールバックの格好をした悪魔『デミウルゴス』。永遠の中二病患者だったウルベルトが作ったレベル100のNPCだ。

 

「それでまずモモンガさんの事なんですけど」

 

 どうかしたのだろうか、もしかしておかわりの要請でもあったのかな?

 

「モモンガがどうしたの?」

 

「部屋から出てきません。」

 

 知ってた。

 

 なんだそんなことか。だがそれは仕方ないだろう。なんせ初めての相手が性癖ドストライクな黒髪巨乳のアルベドだ。しかも彼女の種族は淫魔であり、おまけに作ったタブラによる設定では性格ビッチである。

 恐らく私がプレゼントしたモモンガの新品バット(仮)は、振る前に優しくアルベドのミットでキャッチされ、そのままシコシコと磨かれ続けてビュービュー出しまくっているに違いない。うん、もう33-4ぐらいになってるんじゃないかな?

 

「それでモモンガさんはまず周囲の情報を集めようと計画してたらしいんですけど、それをデミウルゴスに任せようと思うんですよ。」

 

「ふーん」

 

 その提案を聞き、私はチラリとデミウルゴスに視線を向ける。

 ダイヤの瞳がキラリと光り自信に満ち溢れたその顔はどう見ても私より賢そう。

 たしか設定には『防衛指揮官』だの『天才』だのたっぷり書き込まれていたはずで、ウルベルトが製作時にギルメンを玉座の間に集めてノリノリで語っていたからよく覚えている。その後『これあなたのリアル願望では?』と突っ込まれてプルプル震えてたのも含めて。よし、ちょっと試してみよう。

 

「12345×123456は?」

 

「1524064320でございます。」

 

 私がデミウルゴスに対して問を投げると彼は即座に答えを返してみせる。

 ハイ確定ー。こいつ確実に私より頭いいわ。これなんなの? 設定にちょろっと書くだけで天才になれるとかズルすぎない? どうして私の設定には誰も書き込んでくれなかったのか……。

 ちなみに計算問題なのは暗算が早い人=頭が良いという単純なイメージだ。あと私は2桁の乗算なんて無理なのでこれで合ってるかは不明である。

 

「フフ、さすがデミウルゴスね。私が見た運命でも貴方に任せるのが最適だと出ているわ。NPCもアイテムも好きにしていいから全力で(・・・)やりなさい。」

 

「かしこまりました。至高のお方々に比べれば私の力など些細なものですが……このデミウルゴス、全力をもって当たらせて頂きます。」

 

 答えを聞かれても困るのでとりあえず原作レミリアロールでごまかしておく。経験上、こういうタイプは適当なことを言っていれば勝手に仕事をしてくれるのだ。リアルでも授業計画とかめんどうなのは全部後輩に丸投げしていた私が言うのだから間違いない。えっ、私は何をしていたのかって? それはもちろん女の子のお尻を追いかけていた。

 

「ええ、期待しているわ。あと今日から私は『レミリア・スカーレット』だから。他のみんなにも言っておいて。」

 

 それとこれはニグンを尋問したあとに咲夜から聞いて分かった事なのだが、どうもNPCたちはユグドラシル時代の会話を覚えているらしい。

 つまりモモンガの魔王ロールや私のレミリアロールも知っているということだ。なので私はこっちでもレミリアロールを続けることにした。なぜならその方が面白そうだから!

 

「で情報収集についてはこれでいいとして、モモンガの方はどうするの?」

 

「それなら大丈夫ですよ。」

 

「?」

 

 私の問に、ヘロヘロは顔の部分をくいっと少しだけ斜め下に向け、目を細めてキリッっとした表情を作り、まるでCV間島○司のような声を無理矢理絞り出しつつ叫んだ。

 

「こんなこともあろうかと……そう、こ ん な こ と も あろぅ↑か↓と↑!!! ボクが対策を考えておきました。」

 

 そうしてドヤァとキメ顔(?)を作る黒いスライム。

 それを見た瞬間、私はやっと理解する。コイツ、このセリフが言いたくて私を呼びやがった……ッ!!!

 

 そしてヘロヘロは次に、テーブルについた両手に顎だと思われる部分を載せて話し出す。その姿はいきなり息子を呼び出したうえ何も説明せず巨大ロボに乗せるグラサンのよう。

 

「まずは現状確認です。現在、モモンガさんは初めてのモモンガ棒(仮)だけを頼りにして種族的ラスボス(アルベド)を相手に孤軍奮闘してると思われます。」

 

 だが言ってることは間違っていないだろう。すでに捕まって捕食されてるという事以外は。あれから2日経った現在、恐らくM字開脚で固定されたギャルゲの女スナイパーみたいに成っているはずだ。きっと今頃は開き直って『何をされても私は負けない!(キリッ』とか言って楽しんでいるのではなかろうか。

 

「しかしボクは戦友である彼を見捨てることはできません。そこで援軍を送り込みます。まず1日目(今日)は……シャルティア・ブラッドフォールン!!」

 

「はっ!!」

 

 ヘロヘロの号令を受け、隣の部屋から銀髪の吸血鬼が私達の前へと歩み出る。

 その眼はヤル気に満ちており、顔には「アルベド絶対ぶっ殺す」と書かれている。こわっ!!

 

「シャルティア・ブラッドフォールン、御前に。」

 

 シャルティアはデミウルゴスと同じように片膝をつくが、私の眼はぶるんっ、と揺れた胸に釘付けだった。くっ、でかいっ! ……しかし残念ながらそれは複数のPADを重ねた偽物だ。

 キャラの3Dモデルにおいてはしっかりと巨乳として設計されていたそれは、ロリコンだったペロロンチーノが書き込んでいた設定によってあっさりと消滅してしまったのである。

 

「君の役目はモモンガさんを癒やすことだ。戦士系のアルベドと慣れない0距離で戦っているモモンガさんは、恐らく赤玉がドピュドピュ出た状態で必死に耐えているはず。しかし君ならそれを止めることが出来る。」

 

「はっ、お任せ下さい!!」

 

 すごい気迫である。さらに体を動かす度に胸が揺れる。だが偽物だ。

 私はもしペロロンチーノに再会することがあったら奴を必ず土に埋めることを心に誓う。何時まで? もちろんシャルティアに立派なメロンが実るまでだ。おっぱいを消し去った罪はとても重い。

 

「これでも私は神官でありんす。アルベドによって負わされた傷など完璧に! そう、完璧に癒やしてご覧にいれます!」

 

 そんなシャルティアの返事に対し「うむ、任せたよ」とヘロヘロは告げる。

 しかしなぜだろう、どうにも泥沼になりそうな予感がする。ていうか癒やしたらさらに搾り取られるだけじゃね?

 

「そして2日目、ユリ・アルファ、ナーベラル・ガンマ!!」

 

「「はっ!!」」

 

 次に出てきたのは2人のメイドNPCだ。9階層を守るために作られた戦闘用ボディはどちらも黒髪で巨乳。……どっちか私にくれないかな。

 

「君たち2人には先の3人の後始末を頼みたい。恐らく部屋は酷いことになってるはずだからね。メイドである君たちならそのへんを上手くやれるだろう」

 

 はいっ! と2人が勢いよく返事をする。しかしほんとに大丈夫だろうか? どう考えてもミイラ取りがミイラになる未来しか想像できない。

 もしアルベドと併せて黒い3連星にでもなり、ジェットストリームパイズリで攻撃してきた場合はどうするのか……果たしてモモンガは耐えることが出来るのだろうか? 私なら絶対ムリ。

 

「そして3日目ですが、ここで最終兵器を投入します。」

 

「最終兵器?」

 

聞きたくないなぁ。ていうかもう帰りたい。私の心のチンチンも『このままだとマズイよ~』と告げている。

 

「そう最終兵器、その名は……パンドラズ・アクター!」

 

「あっ(察し」

 

 それを聞いた瞬間、私はモモンガが部屋から出てくることを確信した。

 

「ふふ、どうですか、おぜうさまさん……じゃなかったレミリアさん。完璧な布陣でしょう? 残念ながらパンドラはまだ宝物殿ですが。」

 

「そうね、モモンガを部屋から出すという点においては完璧だと思うわ。」

 

 パンドラズ・アクター、それはモモンガが作ったレベル100NPCにして彼の黒歴史。黄色い軍服を着てドイツ語を話す、オーバーアクションなハニワ。

 ある意味で息子とも言える彼に部屋に突入されれば、それはもうドビューン! と勢いよくモモンガは飛び出すだろう。ただし間違いなくガチギレした状態で。

 

「ふふ、さぁミッションスタートですよ!」

 

「「「「いえっさー!!!」」」」

 

 ヘロヘロの号令に対して、NPCたちが一斉に返事をする。

 その後も細かいやり取りがあったが、私はよく覚えていない。巻き込まれないようにこの墳墓から脱出することを決意していたからだ。だってこんな茶番でぶち殺されるのはゴメンである。

 

「しかし、昔の女(ギルメン)の指輪でチンチン生やすって、字面にするとひどすぎますよね。」

 

「字面じゃなくても酷いと思う。」

 

使って生やしたのは私だけどね!!!

 

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

 

 というのが2日前の出来事だ。

 それから予想通りモモンガが部屋から出てこなかったのを知った私は、「パンドラズ・アクター、いき↑まー↓す↑!!」という最終兵器の投入シーケンスを聞いてすぐ地上へと逃げ出した。

 

 




たっち・みー「これあなたのリアル願望では?」
うるべると(ぷるぷるぷるぷる)

3話目は墳墓の外の話の予定だったのですが、出る理由の
説明だけで7千字を超えてしまったので先に投下することに。


・次回予告
主人公「という訳で遊びに来ました。テヘペロ^^」
ジルクニフ「くるなぁぁあ!!」

・追記(08/27)
誤字脱字を修正しました。指摘有難うございました。


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4本目:収納

・連絡事項
漢数字を使わないようにしていましたがぶっちゃけ無理でした。
今後は普通に使っていくと思いますのでご了承下さい。


 真っ白な部屋の中に黒い物体が浮いていた。

 それは頭の上に白く輝く輪っかを載せ、身に纏っているのは白い布のようなもののみ。足は床から10cmほど離れ、体はプカプカ浮いている。顔と思われる部分からは長くて白い顎髭が伸び、手に持っているのは木の棒のような杖だ。

 

「残念ながら君は死んでしまった。いやぁ~めんごめんご……でよかったかな?」

 

 ヘロヘロはボソリとつぶやく。

 これは自室を使った2つ目のネタ、『ブラックな仕事中に死んだらなんと転生チャンス! ただし神様は真っ黒い!! もしかして犯人は!!?』をやる時の格好だ。自分としては中々イカしてるんじゃないかと思うが、しかし誘っても2回目以降は部屋に来てくれない人が多かったので、このネタを披露したことがあるのはギルドメンバーでも数名だけである。

 

 そんな神というよりは、ミルクをぶち撒けて形の崩れたコーヒーゼリーと間違われそうな姿でヘロヘロは思考に没頭していた。考えていたのはこのギルドのこと、そしてこれからの自分のことだ。

 

「ソリュシャン、ボクはこのギルドの役に立ちたいんだ。」

 

「ヘロヘロ様は居てくださるだけで十分お役に立っていると思われます。」

 

 続けて呟けば、それに相槌を返すのは斜め後ろに控えていたソリュシャンだ。

 主と同じく頭上に光る輪っかを浮かばせており、更に背中からは3対6枚の羽を伸ばしている姿は主に追従する天使のように見えるだろう。しかし纏っている白い布は元々がヘロヘロ用のためか非常に面積が小さく、横巻きにした状態ではほとんど隠せていない。乳首と股間が丸見えになっている姿は控えめに言ってもコスプレしてる風俗嬢のようであった。

 

「ああソリュシャン……ウッ!……それで話の続きだけど」

 

 賢者タイムをはさみつつヘロヘロは話を続ける。

 

「ボクが2年間ここに来れなかったのは知っているね?」

 

「はい……私としても胸が張り裂けんばかりの日々でした。」

 

「そうか、ボクも君にずっと会いたかった。……そして本当に会えたのは、ここを維持してくれていたあの2人のおかげだ。」

 

「はい、私もあのお2人には心から感謝しております。」

 

「確かに2人は今でもボクを同格、同じギルドメンバーとして扱ってくれる。でもね、自分の都合でここを放ったらかしにした身としては、あの2人に負い目を感じずにはいられないんだよ。」

 

「そんなことは……」

 

 あのお二人は気にしないのでは? と告げられる言葉をうけてヘロヘロは思う。2年も勝手にいなくなっておいて、帰ったら我がもの顔で仲間面なんてとても出来ないと。

 

「だからこそボクはあの2人の役に立ちたいんだ。」

 

「今回、モモンガ様に援軍を送ったのもその為でしょうか?」

 

「そのとおりだよ。」

 

 最初の3人、シャルティア、ユリ、ナーベは援軍というより楽しんでもらうためだ。異世界といえばハーレム、ハーレムといえば異世界である。若干自分の趣味が入っているような気もするが、今まで頑張ってきたモモンガに楽しんで欲しいと思うのは本当だ。

 そして最後のパンドラは不測の事態が起きていた時のため。ドッペルゲンガーとしてギルドメンバー41人の能力と外見を使えるパンドラならどんな事態でも対処できるだろう。あとギルメンは自分と同じスライム(ぶくぶく茶釜)からハーフゴーレム(弐式炎雷)、はてはカニ(あまのまひとつ)タコ(タブラ)その他と幅広く揃っていたので、モモンガが特殊な性癖を持っていたときも安心である。個人的にはスライム姦はちょっと止めて欲しいところだが。

 

「パンドラはもう?」

 

「はい、さきほどモモンガ様の部屋に向かわれました。」

 

「OK、じゃあモモンガさんの方はこれで良しとしよう。」

 

 さて、それじゃあ……とヘロヘロが後ろを振り向けば、そこに居るのは41人の一般メイド達。

 

「みんな待たせたね。一応聞くけど、全員揃ってるかい?」

 

「「「はい、ヘロヘロ様! 全員揃っております!!」」」

 

 聞けばメイドたちから一斉に返事が帰ってくる。

 なぜ一般メイドが全員集合しているのか? それはヘロへロが呼んだからだ。

 ヘロヘロはこの世界に来てから彼女たちの事をずっと考えていた。ソリュシャンとは結ばれた、しかし自分が作ったNPCはまだまだいる。そう、一般のメイドたちだ。彼女たちは合計で41人もいるが、そのうち1/3はヘロヘロが作ったNPCなのだ。

 もちろんヘロヘロはその子達とも真摯に向き合うつもりだった。最初はソリュシャンと同じように1人ずつ相手をしようと思った。しかし思い出してしまったのだ、それは「今やってるギャルゲのハーレムルート最高!」と熱く語るぺロロンチーノに対して、レミリアさんと姉のぶくぶく茶釜さんが言っていた事。

 

「女って怖いわよ~? 抱かれた順番だの何だのですーぐ序列を作るんだから。貴方のハーレムの裏は女達が罵り合ってきっとドロドロじゃないかしらね~?」

 

「てかそのルートは好感度を揃えてないとバッドエンド行きだぞ? お前のガバガバヘイト管理でハーレムは無理じゃね? えっ、そんなの知らない? 刺突エンド乙。」と。

 

 その時はまーたペロロンチーノさんが発狂してるよ、なんて軽く笑っていたが、いざ自分の事になると流石に笑えない。

 考えてみれば確かに一人ずつでは順番で不平等が起きてしまう。それに自分以外が作ったメイドたちは? もしかしたらメイド達の中で不和が生まれてしまうのではなかろうか? それはギルドの役に立つどころか足を引っ張る行為では?

 そうしてそれに気づいた時からヘロヘロは解決策をずっと考えてきた。悩んで悩んで悩んで……そしてついに答えに至った。そう、抱いた順番で序列が決まるのならば、全員同時にやればいいのである。――つまり答えは42P。

 

「それじゃあ始めようか。」

 

 そう声をかけて、ヘロヘロは収めている特殊技術を発動させる。

 それはスライム種が持つ能力の1つ――『分裂』。

 

 スキルを発動したヘロヘロの体はゴポゴポと盛り上がる。それは自分と同じサイズに膨れ上がると、ゴポンッ!と分離しヘロヘロと同じ姿になった。さらにそれが何度も繰り返され、どんどんヘロヘロが増えていく。

 これは自分のステータスを分割することで分割数-1の分身を生み出すスキルだ。今回行ったのは41分割、つまり40体の分身を生み出したのである。

 

 そして41体となったヘロヘロの前にメイド達が一人ずつ並ぶ。対してヘロヘロは全ての自分からニュルニュルと触手を伸ばす。だがその触手には力がない。

 

「ヘロヘロさま……」

 

 不安そうなソリュシャンの声、しかしヘロヘロは大丈夫だと告げる。

 確かにステータスが41分割されているため触手はヘニャヘニャだ。もう見るからにフニョフニョであり、その姿は精神薬を飲んでED(仮)になっていた時のよう。このままではメイドたちの相手はとても務まらないだろう。

 しかし思い出して欲しい、自分のクラスを。そう、モンクである。そしてモンクのスキルには一時的に自身を硬質化するものが存在する。

 

 つまり出来る、出来るのだ!! 一般メイド41人、その同時卒業式が!!!

 

「ソリュシャン、自分で言うのもなんだけど、ボクは天才だったのかもしれない。」

 

「何をおっしゃいますか、ヘロヘロ様は最初から天才であられました。」

 

 このビルドを組んだ過去の自分を褒めてやりたい! 踊りたい! 歌いたい!! しかし今はこの場をやり切ることが重要だ。

 

「ごめんね、みんな。じゃあそろそろ始めようか。」

 

 そう言いつつヘロヘロはモンクのスキルを発動させる。それによりフニャっていたヘロヘロ棒(仮)はビキビキとその表皮を硬質化。雄々しくそそり立つその姿はまさに黒いグレートクラブのよう。

 

 長さよしっ! 角度よしっ! 硬度……クリアーッ!!

 

「シグナルオールグリーン!!……ヘロへロ様、いけます!!」

 

 ソリュシャンのGOサインを聞いたヘロヘロはメイド達の股間にソレを添える。そして一気に貫こうとし……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――何をやろうとしてるんですか?」

 

「……えっ?」

 

 突然の声に慌てて振り向けば、そこに居たのは漆黒の後光を背負ったモモンガだった。

 ただし普段着のローブは身につけておらず、代わりに正面に全裸のアルベドが抱きついている。首に手をまわし、足を絡ませ全身で抱きつくその姿はまさにビッチ。さらに根本までガッツリ収納されているのだろう、股間の光――モモンガ棒の輝き――はまったく周囲に漏れていない。

 

「どうしてここに? 何かあったんですか? でも今は取り込んでるので後にしてくれません?」

 

 ヘロヘロはモモンガに問いかける。そんな破廉恥な姿で人の部屋に来るなんてどれほどの緊急事態なのかと。しかし今はこちらも良いとこなのだ。ていうかイカ臭いから出ていって欲しい。

 

 対してモモンガの答えはシンプルだ。

 

「いえ、色々言いたいことはあるんですが……とりあえず1発だけ殴らせて下さい。」

 

「えっ? いやそれは……へぶしっ!!!」

 

 そうしてモモンガに殴られたヘロヘロはステータスが低下していたためそのままダウン。

残った分身体は魔法で丸ごと薙ぎ払われ、一般メイドたちの卒業式は延期となった。

 

「モモンガ様♥ モモンガ様♥」

 

「アルベド、今は忙し……あっ、そんなに締めたら……ウッ!!」

 

 なお、アルベドはヘロヘロの部屋に来てからもずっと腰を振っていた模様。サキュバスでビッチだからね、しょうがないね。

 

 

 

 

 

■■■■■■■

 

 

 

 

 

「ヘロヘロが死んだ! なぜだ!!」

 

「は?」

 

「……冗談よ。」

 

 私は唐突に頭に浮かんだ映像、竜巻で巻き上げられた複数の黒い物体がサメにバクバク食われているシーンを頭を振って掻き消す。

 現在、私達の乗っている馬車が進むのはナザリック地下大墳墓から東にある国――バハルス帝国。その首都『アーウィンタール』。

 

 ニグンの情報によれば鮮血帝と呼ばれる皇帝により大改革が行われてる最中であり、法国を除き近隣で最も栄えている都とのこと。来てみればまさに言っていたとおりで、試しにちょっと馬車の小窓から外を覗いてみれば、街の人々の顔はとても明るく明日への希望に満ち満ちていた。

 

 ちなみに西と南にも別の国があるらしいのだが、西にある国『リ・エスティーゼ王国』は腐敗貴族がわらわら湧いているうえにお互いを腐らせ続けている生ゴミの集積場のような国。

 そして南の法国は『人間は最高で最強なんや!だから他は死ね(^^』をマジでやってるレイプ魔のような国、と見せかけて実態はドM(人間)が苛められないためにドS(強者)のフリをしているという、なんとも頭が沸騰しそうな国らしい。つまりどっちもオワコン。

 

「そろそろ到着いたします。」

 

 と、そんなことを考えてると外から声がかかる。

 私を呼んだのは御者を任せるために金貨で召喚した人間型のモンスター『フウマ』だ。

 忍者タイプの中でも特に素手戦闘や特殊技術に長けるモンスターで、そのレベルは80を超える。

 私と咲夜が持っていない探知系の技能を補ってくれるこのモンスターはかなり頼りになるのだが、しかし流石にここまで高レベルだと召喚費用もお高くなるので呼び出したのは1体だけだ。

 あと連れてきているのはナザリック内にもともと存在していたシャドウデーモンを10体ほど。

 しかしこちらの世界のレベルを考えるとデーモンは必要なかったかもしれない。

 

 そうこうしているうちに馬車が止まり、フウマが開いてくれたドアから外へ出る。

 出迎えてくれたのは暖かな陽の光。見上げればそこに雲は無く、どこまでも広がっていそうな青い空があった。

 周囲は気にせず歩いていることから、この世界の人間にとってこの空は当たり前のことなのだろう。しかしディストピアのリアルで分厚い雲に覆われた空しか知らない私には、たったこれだけの事でも随分と胸に来るものがある。

 私はタラップの上で立ち尽くし、しばらくそのまま優しい光を全身に浴び続けた。なお、私の種族、吸血鬼は日光に脆弱性を持つが、そのへんは装備で対策済みである。

 

 そうしてそれから先に進めば、そこにあったのは大きな円形の建物。帝都の名物であるらしい巨大闘技場だ。

 

 「ふーん、確かに大きい。でもうちの闘技場よりは小さいわよね? パチュリー(・・・・・)。」

 

 「ええ、確かにその通りよフラン(・・・)。」

 

 今回ナザリックから出るにあたって、私たちは簡単に探されないように変装している。さらに占術対策に探知系から完全に身を隠す指輪を装備し、その上で咲夜の幻術で別の姿になり、念のため名前も偽名にすることにした。じゃないとモモンガなら魔法ですぐ見つけられそうだからだ。

 

 変装の方は私が金髪の幼女姿に真っ赤な服を着た『フラン』、咲夜は紫の髪に薄紫の服の『パチュリー』だ。元ネタは東方Projectに出てくるレミリアの親友と妹。さらに私は幼女っぽく、そして咲夜にはお姉さんっぽく振る舞うよう言い含めてある。

 

「それにしても、ものすごい活気ね。」

 

「そうねー。人がいっぱーい!」

 

 咲夜に言われ、私は周りをぐるっと見渡す。そこにあるのは人人人人……祭りかと言わんばかりの人の群れだ。

 

「フウマはここまでで良いわ。あとは馬車をみておいて。」

 

 私の指示にかしこまりました。と答えて下がるフウマを残し、私たちは2人並んで入り口へと進む。

 

「帝国が誇る闘技場へようこそ。」

 

 すると恐らく係員だろう。執事服のようなものをきっちりと着こなした人物が声をかけてくる。

 

「中に入るには席に応じた入場料が必要になりますが?」

 

「一番高い席ー!」

 

 係員の質問に対し、当たり前のように一番高い席を指定する。そのまま驚いた係員に咲夜が金を支払うと、私たちはにっこり笑顔で専用のロビーへと案内された。

 

 そうして入ったそこは中央に受付のような場所があり、左右に通路が広がっている。まるで昔の野球場を思わせる作りだった。

 壁には大きな張り紙がされていて、書かれているのは恐らく今日の予定表だろう。

事前に準備してきた魔法のメガネ――どんな文字でも解読できる――をかけて読めば、そこには

 

第1試合:モンスターの群れvs新人冒険者たち(8名)

第2試合:アゼルリシア・アイアン・タートルvsフォーサイト(4名)

第3試合:武王vs元オリハルコン級冒険者チーム(3名)

 

と書かれている。当たり前だがこれだけでは内容が分からない。

 

「ここでは賭けとかやっていないの?」

 

 質問を咲夜に任せ、私は話を聞くことに専念する。今の私は見かけが幼女なのであまり難しいことは言えないからだ。

 

「もちろんやっております。お賭けになりますか?」

 

 ちなみに資金はたっぷりある。ここに来る前に銀行で換金してきたからだ。

 元は私がカロリックストーンを作る為の採掘で手に入れた金のインゴット。使っていた課金ピッケルの効果でランダムドロップしていたそれは、見た目が好きだったので毎回持って帰っていたのだが、気づけば私の部屋には1000本以上が積み上がっていた。

 それをこの街の銀行で換金したいと告げたところ、なんと1本で金貨数千枚の価値があるという。そこで今回は持ってきた中から10本ほど換金しておいたのだ。

 

「一番オッズが高いのは?」

 

「オッズだけなら第3試合の挑戦者である元オリハルコン級冒険者チームです。」

 

 オリハルコン。たしか冒険者のランクで上から2番目だったかな? 現地民としては割と強いらしいが、それでも結局はニグン以下らしい。

 

「これは聖騎士・神官・魔法詠唱者の3人組なのですが、相手が武王ということで、何とオッズが200倍となっております。」

 

 ふむ、やはりメインは3試合目か。そして武王……名前といい挑戦者のオッズといい、恐らくここではとても強いのだろう。

 

「ただこちらはチャリティとしての見世物のようなものです。なのでお賭けになるのは止めたほうがよろしいかと。」

 

「ん、どういうこと?」

 

「元と付いている通り、この者たちはすでに冒険者の資格を剥奪されております。」

 

ふむふむ。まぁそれは言われなくても分かる。

 

「というのもこの3人組はとても女癖が悪かったようなのです。沢山の女を取っ替え引っ替えし、最後はボロボロにして捨てていたようでして。」

 

「そう、それは控えめにいってもクズね……」

 

 咲夜が辛辣な感想を述べる。しかしそれには私も同意見だ。捨てるときは後腐れないように別れないと後がめんどうなのだ。そこをしっかりやらないと大抵は刺されることになる。そう、この私のように。

 

「それでギルドからの注意も全く聞かず……最後は侯爵家のご令嬢にまで手を出してしまい、今回の出場になったという訳でございます。」

 

 あれ、たしか侯爵ってすごい御偉いさんじゃなかったっけ? その娘に手を出すってまじで?……ちょっとだけ親近感湧いてきた。そのご令嬢さんの友達とか紹介してくれないかな? 出来ればちょろい子がいい。

 

「それとこれはココだけの話ですが、挑戦者側に賭けられた金額の半分は被害にあった女性達へ渡る手はずとなっております。」

 

「ちなみに武王側のオッズは?」

 

「1倍です。」

 

 なるほど、武王側が絶対に勝つと思われている訳だ。つまりこれはボロボロの女達を援助するための見世物の試合、まさにチャリティだ。話の流れからして恐らく持ちかけたのは侯爵家だろう。

 

「それでどうなさいますか?」

 

 もちろん賭ける。ま、どうせ元々暇つぶしだし、なら軽く賭けとけばいいだろう。

 私は咲夜に金貨を取り出させながら係員に告げる。

 

「じゃあその元オリハルコン級冒険者に10k(金貨1万枚)で。」

 

「ふぁっ!?」

 

 おお、驚いてる驚いてる。だがしかし今の私はお金持ちなのだ。ボロボロの女達がいるというならこれぐらい寄付してもいいだろう。ていうか驚かせて悪いけど、ユグドラシルでは10kとか端金だ。私はやってなかったが、確かリアルマネートレードだと10円以下だし。

 




へろへろ「42Pだ!」
モモンガ「殴りますね。」
レミリア「10kブッパ!」
係員「!!?」


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5本目:爆発

今日2本目だけど書けちゃったからこっちも投下ー。

Q.ヘロヘロさんは殴られて大丈夫だったの? 
A.大丈夫です。なぜならここのナザリックはギャグ空間だから。

Q.モモンガさんのチンチンどうなってるの?
A.輝いてます。詳しい説明は7話か8話で出る予定。


 闘技場へ遊びに来た私は軽く賭けて遊ぶことにした。

 対象は第3試合の元オリハルコン級冒険者チームだ。賭けた額は金貨1万枚。オッズは200倍なので当たればかなりの額になるだろう。ただしチャリティー試合のようなのでぶっちゃけ期待はしていない。

 

「パチュリー、係員さんに金貨を渡してあげて。」

 

「はいはい。」

 

 私たちは金貨を係員へ無理矢理に押し付け、代わりに賭け券のようなものをもらって部屋へと移動した。一番高い所を指定したため案内されたのは貴賓室と呼ばれる部屋であり、中はとても闘技場とは思えない上品な作りになっていた。もちろん席ごとの間隔も広くとられている。

 

 そんな部屋で私が座ったのはもちろん一番前の席だ。残念ながら私たちが入った時に最前列は全て埋まっていたが、仲良く並んで座っていた3人の女の子、その内の2人に金貨を100枚ずつを渡すと喜んで譲ってくれた。えっ、残った一人? 残念ながら女の友情はぺらぺらだったよ。

 

『皆様、ご来場有難うございます。本日の司会を務めさせて頂きます、ルナマリア・ポークです。』

 

『同じく解説を務めさせて頂きます、レイ・ザ・ホレルです。よろしくおねがいします。』

 

 しばらく待つと司会と解説の挨拶があり、それからようやく試合が始まった。

 

 1戦目はモンスターの群れvs新人冒険者たち(8名)。

 試合が始まると冒険者達が先に入ってくる。彼らは新人というだけあって碌な装備がなく、よくて革鎧に片手剣といった出で立ちだ。

 

 それから時間を置いてゴブリンとオーガが複数放たれ戦闘が始まった。

 だが冒険者たちは戦い自体が初めてだったのか連携も何もない。戦いはオーガが無双して冒険者側が一人ずつ数を減らしていき、そのまま番狂わせもなくあっさり全滅で終了となった。

 はっきり言って見るべきとこは何もなかった。ただ解説の人の『やはりフルアーマー・オーガはきつかったようですね』というセリフだけが耳に残っている。もう少し難易度を合わせる努力をしろ!

 

 2戦目はアゼルリシア・アイアン・タートルvsフォーサイト(4名)。

 こちらは苦戦の末にフォーサイトというチームが勝った。

 特に活躍していたのは金髪のカワイイ魔法詠唱者の子だ。

 

 アゼルリシア・アイアン・タートルは全長4mもある大きな亀だ。甲羅から頭がニュポニュポ出入りする様はとっても卑猥で素晴らしい。しかも亀系モンスターの例にもれずとても物理防御力が高い。それは甲羅だけではなく頭と手足の外皮もである。さらに闘技場の床が水場ではないため動きが鈍っているとはいえ、その筋力から繰り出される一撃は強烈だ。

 

 最初は2刀流の軽戦士とツインテールの弓の攻撃で始まった。しかしいくら攻撃してもその防御力が壁となりそれほどダメージが入らない。

 そこで結局は魔法詠唱者の子が奮闘することになったのだ。それは金髪にヘッドバンドをつけた15~18歳ぐらいの女の子だ。よほど勝ちたいのだろう、彼女は必死に魔法を連発する。その姿は観客を味方につけることに成功し、周りは一斉にエールを送った。

 

 しかし私は別の事を考えていた。汗だくになりながらも迫りくる亀の頭に向かって魔法をぶっ放すその様は、捕まった魔法少女がこれから襲いくる痛みを少しでも減らそうと、必死に敵のチンチンに唾液を塗りたくる姿によく似ていたのだ。これには私も大興奮である。

 

「きゃー、アルシェお姉ちゃーん!!」

 

 私は席から身を乗り出して手を振りつつ、司会が紹介した魔法詠唱者の子の名前を呼ぶ。

 対して向こうもこちらに気づいたのか、にっこり笑顔で手を振り返してくれる。おお、やっぱりカワイイ! 死ぬ間際に亀が吐き出した、特に効果がなかった白濁液を全身に浴びテカテカしてる姿はとても劣情を煽り立てる。

 そしてこれはあくまで個人的な主観だが、ものすごく虐められるのが似合いそうな気がするのだ。纏っている雰囲気は確実にドM。出来れば持って帰って飼いたい。駄目かな? でもモモンガあたりは捨ててきなさいとか言いそうだ。

 うーむ、どこかに牧場でもあればこっそり飼うんだけどなぁ。あ~、<透明化(インヴィジビリティ)>の呪文を掛けて全裸で街中をお散歩させたい……。

 

「首輪とか似合いそう!!!」

 

「!!?」

 

 思わず私が言ってしまった言葉に隣の客が驚いた顔でこちらを振り向く。だが私は気にしない。ていうかさっきからチラチラこっちを見てるけど、どれだけ見ても金貨100枚はあげねーぞ。

 

「フラン。考えてるところ悪いけど、そろそろ最後の試合が始まりそうよ。」

 

「はーい。」

 

 おっと、アルシェちゃんでの妄想に浸りすぎたようだ。見ればすでに闘技場からは亀の死体が運び出されており、飛び散った血なども掃除が終わっている。

 

『皆様お待たせいたしました。これより本日の最終試合を行います。』

 

『まずは武王に挑む3人の勇者! 帝国の元オリハルコン級冒険者チーム、スクール・ズイデの入場です!!!』

 

 司会の言葉を受け、大歓声を浴びながら3人の男たちが闘技場へと入ってくる。私からすれば全然強そうに見えないが、解説の話によればこの世界では中々の強者たちらしい。

 

『一人ずつ紹介しましょう。まずは火神を信仰する聖騎士、ヤリステーノ・ヴァンザイン!』

 

 先頭に居た男が片手を上げる。チャラそうな男だ。その顔には軽薄そうな笑顔が張り付き、この世界では珍しく髪の毛が黒い。その見た目は最近復刻されたバッドエンド大盛りギャルゲの主人公によく似ている。装備は顔が出るタイプのフルアーマーに、片手剣と大型の盾というオーソドックスな組み合わせだ。

 

『さらに精神操作系の魔法を得意とする魔力系魔法詠唱者、ネートリー・ダイスキーニ!!』

 

 こちらも見た目はチャラい。茶髪に顎髭、さらに色眼鏡とピアスを付けている。先程のギャルゲの主人公の父親にそっくりだ。装備の方は魔法詠唱者らしく黒いローブを着、腰には液体が入った細い瓶を何本も吊るしている。それから背中に背負っている大型の盾。

 

『そして最後が地神の神官であるロリーガー・インーダン!!!』

 

 最後は茶髪を立てた髪型をしているチャラそうな男。イメージは同ギャルゲに出てくる主人公の親友。こいつら本当に現地民なのか? 装備は鎧の上から神官衣を着、手にはごっついハンマーと大型の盾だ。

 

「全員が盾を持ってるわね。聖騎士と神官はともかく、魔法詠唱者は必要無いと思うけど。」

 

「ん~、たぶん味方を信用してないんだろうねー。」

 

 つまり自分の身は自分で守るってことだ。そこには信用なんて欠片もない。まぁ庇っても確実に後ろから突き飛ばしそうな面々だしな。

 

『しかしよく3人だけで戦う気になりましたね。元オリハルコンとは言え、現在の武王と戦うのはいささか無謀だと思いますが?』

 

『え~、資料によりますと3人とも複数の女性から訴えられた裁判で敗けており、今回はその相手への慰謝料を稼ぐための出場(強制)のようですね。』

 

『おっと、どういうことでしょうか?』

 

『聖騎士ヤリステーノは複数の女性を孕ませた挙げ句に逃亡しようとして捕まっており。』

 

『これはひどいクズですね。』

 

『魔術師ネートリは、こちらも複数の女性、それも恋人や結婚してる相手がいる女性に手を出して逃げようとして捕まったそうで。』

 

『なんというゲス。』

 

『最後の神官ロリーは、立場を利用して沢山の子供に売春まがいの行為をして捕まったそうです。』

 

『あのさぁ……』

 

『ちなみに今回の出場料および掛金の一部はすでに女性達へ渡っておりますのでご安心下さい。』

 

『つまりもう死んでいいってことですね?』

 

『その通りです。さぁ続いて武王の入場です!』

 

 紹介がひどい! でもそれ以上に挑戦者の経歴がひどい!! コイツらどういう人生送ってるんだ?? 武王よりこっちの方が気になるんですけど!!!

 

『皆様、北門を御覧ください。彼こそがこの闘技場の8代目武王! ウォートロールのゴ・ギンです!!』

 

 次に闘技場に入ってきたのは3mを超えているだろう大きな人型だ。全身にフルプレートのアーマーを装備し、手には巨大な棍棒を持っている。

 おまけに人気もすごいのだろう。観客からも途切れなく武王コールが続いている。そしてそれに堂々と手を上げて応えるその姿はまさにチャンピオン。

 

 う~ん、どうみても挑戦者より強そう。どうにかなるとしたら魔法詠唱者が飛んで空から魔法連射ぐらいかな?

 

『なお、今回の戦いは地上戦限定ということで飛行の魔法は禁止。さらにデスマッチとして勝敗はどちらかが全滅するまでとなっております。ただし武王には種族としての再生能力が御座いますので、気絶した場合は10秒の経過で負けとさせて頂きます。』

 

 挑戦者おわた。飛行魔法禁止とかこれ最初から勝ち目なくね?

 

「主催者はどうあっても挑戦者に死んでほしいようね。」

 

 だろうなぁ。もしかしたら勝った場合は侯爵家の令嬢とゴールインとか約束してるのかもしれない。まぁ現状からは絶対に無理そうだけど。3人共ビビって盾の裏に隠れてるし。

 

『では本日の最終試合、スタート!!!』

 

 そうしているうちに司会がスタートを告げる。

 

 

――そして試合が開始した瞬間、挑戦者たちの顔つきが変わった。

 

 それは私に、もしかして実力を見誤っていたのだろうか? と思わせるほどの急激な変化だ。

 そこには今までのニヤついた笑顔などどこにもなかった。あったのは数え切れないほどの死地をくぐり抜けてきたであろう歴戦の猛者の顔である。

 紹介時にビビっていたのは演技だったのか、彼ら3人は堂々と歩いて武王の前へと進む。

 

 そして名乗りを上げると統制の取れた動きで横一列に並び

 

 

 

 

 

――そのまま武器を捨てて土下座した。

 

 

「え~……」

 

 これには流石の武王も困惑。ていうか闘技場全体が困惑している。『何あれ?』『カッコ悪っ!』『立って戦え!』など言う声が闘技場全部から聞こえてくる。当然だろう、観客たちは戦いによる派手な殺戮劇を見たいのであって、無抵抗のままプチプチ潰されるところを見たいわけではない。

 しかし私たちは気づいている。土下座しながらも魔法詠唱者と神官の口が微妙に動いていることを。

 

「こっそりバフを掛けまくってるわね。」

 

 つまりあの土下座はただの時間稼ぎだ! こいつらプライドのかけらもねぇ!!!

 

 そうしてしばらく土下座していた3人だが、必要な魔法を掛け終わると武器を拾って普通に起き上がった。それは自分たちに非は全くないと言わんばかりの堂々とした姿。

 彼らは体についた土をパンパン払うと、武王に向かってニヤァと笑う。まるで寝取った女を前の彼氏に見せつけるような、そんな邪悪な笑顔だった。しかもそのまま器用に足だけを動かして徐々に後ろに下がっていく。うざっ!!

 

 対して武王は何を思うのか――恐らく、いや間違いなく呆れたのだろう――軽く空を見上げ、ゆっくりと息を吐き出した。その姿からは『もうちょっとマシな相手いなかったの? おれ処刑人じゃないんですけど??』といった感情がありありと伺える。

 

 それから再び挑戦者に視線を戻した武王は、やる気のなさそうに一歩前に出ながら棍棒を持った右手を大きく振り上げ、そのまま勢いよく棍棒を振り下ろす……途中で手を放して投擲した。

 

――グチャ。

 

 「えっ」

 

 それは誰の言葉だったのか。手からスッポ抜けるように投げられた棍棒は地面と水平に飛んでいき、その先にいた神官の頭にクリーンヒット。余裕こいて髪をいじっていた神官は、何かが潰れたような音と共にゆっくりとその場に倒れ、そして動かなくなった。

 

『おぉーと、まずはロリコンが倒れたぁ!!』

 

『集団戦で回復役を狙うのは常識です。さすがは武王。これで挑戦者側はますます厳しくなりましたね。』

 

 司会と解説のそんな声に観客から歓声が上がる。

 さらに武王は棍棒を拾おうともせず、そのまま歩いて魔法詠唱者へと近づいていく。

 

「ふ、ふざけんなよっ!」

 

 魔法詠唱者は恐らく何らかの精神操作系魔法を使ったのだろう、しかし武王はそれをあっさりレジストする。さらに魔法詠唱者を捕まえると、その体を両手で枯れ木のようにへし折った。

 ボキンッ!と、そんな音と共に魔法詠唱者の反応が無くなる。ちなみに持っていた盾は全く役に立たなかった。

 

『おおーと、寝取り野郎もイったー! さぁこれであとは一人です!!』

 

 そうして気づけば残っているのは聖騎士だけだ。闘技場はすでに武王コールでいっぱいになっている。もはやココからの逆転は無理だろう。

 

「もう勝負付いたわね。」

 

 最初の難易度がLunaticだとすれば、今の難易度はExtra……いやExtraナイトメアとでも言うべきか。東方で言えばレミリアとフランが揃って最終スペルをぶっぱしてくるようなものである。どう考えても無理ゲー。

 

「えー、もう終わりー? それにしてもこの程度の劇で金貨1万枚は安いのか高いのか。この世界ではどっちなのかしらねー。」

 

「さぁ、私にはよく分からないわ。ただこれはソリュシャンからの又聞きなのだけど、デミウルゴスから報告を聞いたヘロヘロ様はここの金貨1枚でリアル10万円ぐらいだと言っていたそうよ。」

 

「はっ? 1枚で??」

 

「そう、金貨1枚で。」

 

 ココに来る前、つまりリアルでのユグドラシル金貨の価値は、リアルマネートレードで10k(万枚)=数十円の価値しか無かった。それが1枚で10万だと?

 

……えっ、じゃあ私この席に座るために1000万払ったの? えっ、まじで??

いやまて、ってことは私がこの試合で賭けてるのって10億円!!? ふぁっ!!!??

 

「どうして先に言わないのよ!!?」

 

「だって聞かれなかったから。それでどうするの?」

 

 私は咲夜の言葉を聞きつつ闘技場内へと目を戻す。すると最後の一人はひたすら武王から逃げ回っていた。

 すでに剣は投げ捨てられており、盾だけもって闘技場内を必死に走り回る。そこには勝とうという意思など微塵もない。あるのはただ1秒でも長く生きたいという人間の本能だ。しかしいずれは疲れて捕まり、前の2人と同じようにぷちっと潰されて終わりだろう。

 

――ここに居たのが私たちでなければ。

 

「挑戦者にバフをありったけ掛けろ。」

 

「かしこまりました。」

 

「!!?」

 

 急に口調が変わったからだろう、私たちを見て隣の席の客が再び驚く。だが今はそんな事は気にしている場合ではない。ていうかよく考えれば、どうして知りもしない女共に金貨1万枚もくれてやらねばならないのか。

 私は魅了の魔眼でさくっと隣の客を黙らせると、挑戦者を対象にしてスキルを発動させる。

 

『おぉーっと、どうしたことだぁ!? 聖騎士ヤリステーノの様子がおかしいぞ!?』

 

 逃げ回っていた聖騎士がピタリと急停止した。体は突然ビクビクと震えだし、足元からは黒いオーラのようなものが溢れ出す。そしてそれはゆっくりと聖騎士の体へ吸い込まれていった。終わってみれば、そこに居たのはまるで存在そのものを塗り替えられたように全身が黒く染まった聖騎士だ。

 

『どういう事でしょう、解説のレイさん?』

 

『分かりません。ですが恐らく隠していた何らかのスキルでしょう。もしかしたら今までの行動はこの為の布石だったのかもしれませんね。』

 

 闘技場全体から驚愕の声が上がる。対して武王は追うのを止め、その場から注意深くそれを観察している。恐らく今までとは何かが違うことを悟ったのだろう。もしかしたら単にキモくて近寄りたくないだけかもしれないが。

 

「手駒化完了。」

 

 私が使ったこのスキルはクラス『地獄の軍団長(アビス・ロード)』で得た『地獄の徴集令(レッド・オーダー)』だ。対象を強制的に支配下に置くこの能力は一時的とはいえ敵をそのまま味方にすることを可能とする便利なもの。

 効果的には<人間種魅了(チャームパーソン)>などの呪文とほぼ同じだが、こちらは魔法ではないため魔法の無効化能力を受けず、更に抵抗(レジスト)の難度がめちゃくちゃ高い。おまけに精神作用ではないためアンデッドにも効くという割とチートな能力だ。

 ただし持続時間がかなり短い上に操れるのは1体だけであり、掛けられた対象は24時間耐性を得るので同じ相手に連続しては使えない。

 

「バフ掛け完了しました。」

 

よっしゃいけぇええ(全力突撃)!!!」

 

 周囲にバレないよう無詠唱化して行われていた咲夜のバフ掛け、その終わりを聞いた私は手駒へと指示を下す。現在の闘技場は歓声でうるさいが、私の声はその中でも不思議とよく通った。

 聖騎士が剣を拾って武王へ突撃する。それは今までとは桁違いの速度だ。武王は慌てて棍棒を振ろうとするが、しかし

 

もっと早く(速度上昇)! & 痺れぇ(麻痺化付与)!!」

 

 私の追加バフを受けた聖騎士は更に速度を上げ棍棒の下へと潜り込み、両手で持ったロングソードで武王の足を斬りつける。

 

「ぐおぉおっ!」

 

 今日はじめて武王が悲鳴をあげる。しかしこの程度で逃したりはしない。

 私のクラス構成は指揮官系だ。それも『悪の将軍(イービル・ジェネラル)』『地獄の軍団長(アビス・ロード)』など悪役っぽいものばかりを取っている。なのでそこから得られるスキルもまた悪役が使いそうなものばかり。

 

 つまり私は攻撃と嫌がらせに特化しているのだ。他の指揮官系がよく使っていたスキル、避けろだの守れだのはまったくない。いや一応似たようなものは有るのだが、それは瀕死や状態異常の体を無視して動かす、言ってみれば悪役が下僕を鞭で叩いて無理矢理に働かせるようなイメージのスキルしかない。

 

 という訳で持久戦は不利なのでここでケリを付けさせてもらうことにする。

 

やれ!(威力上昇) 穿て!(貫通付与) 狙え!(急所確定) 堕とせ!(負属性化) 散らせ!(爆散追加) 育て!!(経験値上昇)

 

「おおおおおおおおお!!!」

 

 挑戦者が咆哮を上げ、バフを載せまくった全力の突きを武王へと繰り出す!

 負属性化により真っ黒に染まったロングソードはまさに黒光りのチンチンのようであり、

 そしてそれがバフの誘導(急所確定)により差し込まれようとしてる場所もまた男に共通する急所――つまりチンチンだ。

 

「ウォオオオオオ!!!」

 

 これから起こることを悟ったのか、武王はここまでで一番必死そうな声を上げ、麻痺化した身ながらもなんとか腰を引いて逃げようとする。しかし挑戦者が放つ全力の突きはその程度で逃げることは出来ない。

 

届けぇええ(射程延長)!!!」

 

 更に私の追加バフを受け、黒い光と化した刀身は勃起するように一回り大きくニョキっと伸び……

 

「ヨセッ!! ヤメロォオオオ!!!!!」

 

 武王の悲痛な叫びと共に、まるで無かったかのように鎧を貫通、そのまま武王のチンチンへと吸い込まれ……

 

 

 

 

 

――そして剣が爆発した。

 

 

「ぐぉぉおおぉぉぉおおおお!!!」

 

 闘技場全体が黒い光に包まれ、光が収まった時には武王と挑戦者の両方が吹き飛んでいた。

 あまりにも痛かったのだろう、武王は悲鳴を上げ倒れたままビクンビクンと身を仰け反らせていた。そこに咲夜が<時間停滞(テンポラル・ステイシス)>を使い武王の時間を固定する。これで傍から見れば武王が気絶したように見えるはずだ。

 

 対して挑戦者は私のスキル『最後の抵抗指令(オーダー・オブ・ラスト・スタンド)』によりゆっくりと立ち上がる。その効果は短い時間だけだがHPが0、つまり死んでいる味方を無理矢理に立ち上がらせて戦わせるというもの。そしてそのまま数秒が経過し……

 

『勝者! 聖騎士ヤリステーノ!!!』

 

「「「うぉおおおおおおおお!!!!!」」」

 

 司会の試合終了を告げる言葉とともに闘技場は今日最大の歓声に包まれた。もちろん私も思いっきり叫んでいる。だって金貨200万枚だ!! やったぜヒャッホー!!!

 




レミリア「武王は犠牲になったのだ。私のスキル紹介回。その犠牲の犠牲に。あと帝国も。」
武王「おい」
ジル「おい」


・人物紹介(たぶん二度と出てきません)
ルナマリア・ポーク&レイ・ザ・ホレル =種○死
オリハルコン級チーム:スクール・ズイデ =スク○ルデイズ
聖騎士ヤリステーノ・ヴァンザイン =やり捨て万歳(イメージは伊○誠)
魔力系魔法詠唱者ネートリー・ダイスキーニ =寝取り大好き(イメージは沢○止)
神官ロリーガー・インーダン =ロリが良いんだ(イメージは澤○泰介)


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6本目:黄金

誤字脱字の指摘と感想、有難うございます。
こんな頭がおかしな話に温かい感想が多くて嬉ションしそうです。

それとタイトルに黄金とありますがラナー王女は関係ありません。


 最後の試合に決着が付いた。

 武王は敗れ、闘技場には新たな王者が誕生した。

 

『皆様、今一度、挑戦者にエールを! 闘技場の新たなる王者、9代目武王の誕生です!!』

 

『まさかこんな展開になるとは。すごく嫌な勝ち方でしたが、それでも勝ちは勝ちですね。』

 

 試合が終わり、ゴ・ギンと呼ばれたトロールがゆっくり起き上がる。

 対して勝った挑戦者、聖騎士ヤリステーノは私のバフが切れた瞬間、まるで糸が切れた人形のように崩れ落ちた。

 

『闘技場の歴史に残る一戦でした。ところで今回の戦いで挑戦者が新しい武王となったわけですが、もし二つ名が付くとすればどうなると思いますか?』

 

『そうですね、恐らく「最低王」、もしくは「ヤリ捨て王」でしょうか。……いや、やはりここは最後の攻撃から取って「珍王」でどうでしょう?』

 

 観客は大いに喜び、闘技場は歓喜に包まれている。そんな時である。

 

「お二人ともちょっとよろしいですか?」

 

「「えっ」」

 

 最前線で歓声を上げていた私たちは急に声をかけられ、同時に後ろへと振り返った。

 

「失礼、少し聞きたいことがございまして。」

 

 そこにいたのは顔の半分を髪で隠した女性騎士だ。

 思わず上から下までじっくり見てみれば中々の美人だった。

 おっぱいは鎧を着ているせいでちょっと判断がつかないが、少なくとも貧乳ということは無いだろう。

 しかもその鎧も他の騎士より確実に高価な物のように見える。恐らく高い地位にいるのではなかろうか。

 

「なんでしょう?」

 

 私の代わりに咲夜が答える。

 

「さきほど闘技場専属の魔法詠唱者(マジックキャスター)から連絡を受けまして。なんでも『この辺から魔法の反応が出まくっててやばい!』と言っているのですが。」

 

 そんなに魔法使ったっけ? ……あっ。

 

「なにか心当たりがありませんか?」

 

「「知らない。」」

 

 女騎士の問に2人揃って真摯に答える。

 えっ、咲夜が掛けてたバフ? なんのことですかね??

 だってバレなければイカサマじゃないって、復刻されたジョ○ョのバービーさんが言ってたし。

 あと私のバフは魔法じゃないからセーフ!!

 

「貴方もなにも知らないわよね?」

 

「はい、私はなにも知りません。」

 

 念の為に隣の女の子に魅了の魔眼を上書きし、私たちのことを答えられないようにする。

 それから私たちは急いで帰る支度を整えた。

 とにかくギリギリの戦いだったが勝ったのだ。ならばもはや長居は不要である。

 

「帰りますのでこれで失礼しますね。」

 

「えっ、ちょっと……」

 

 私たちは女騎士に別れを告げ、そそくさとこの場を後にした。

 

 

 

■■■■■■

 

 

 

「残念ですが、ここで換金することは出来ません。」

 

 ニコニコ笑顔で受付に行った私たちを待っていたのは係員の冷たい言葉だった。

 

「ほんとうに申し訳ありません。」

 

 受付の人が心から申し訳無さそうに頭を下げる。

 しかし話を聞いてみるとそれもしょうがないと思えた。

 だって私たちが勝った額は金貨200万枚だ。流石にここにありませんと言われれば納得するしか無い。むしろ置いてあったほうがびっくりである。

 

 問題はその後に訪れた銀行だった。換金を求める私たちに対して、『確認を取る』だの『私の一存では』だの、何時まで待っても話が進まない。

 しかも黙って聞いていれば相手は徐々に調子に乗り出し、挙げ句には換金に1ヶ月はかかるなどと言い出す始末。

 もはや出来るだけこの件を引き延ばそうとしているのは明白であり、そこにはどうにかして支払いを有耶無耶にしたいという意思が透けて見えていた。

 

 しかしそんな事は許されない。どんな理由であれ賭け金1万枚をオッズ200倍で受けたのだ。ならば何がなんでも払ってもらう。そう、絶対に。

 

 「分かったわ。そちらがそういう態度を取るなら、こちらも好きにさせてもらいます。」

 

 そんな訳で埒が明かないと判断した私は直接的な手段で換金することにした。

 

「準備は?」

 

「抜かり無く。」

 

 いったん馬車まで戻ると私たちは魔法とアイテムを使って透明化。

 それから改めて銀行に入ると、金庫へ続いていると思われる道――警備が厳重な方――を進む。

 通路の途中には全身にマジックアイテムを装備した騎士が複数待機しており、さらに分厚い円形の扉が3回もあった。

 咲夜に魔法で調べさせたところ、扉には複数の魔法が掛かっており、手順を踏まずに触れば何かしらの魔法が発動する可能性が高いということだった。

 

「少々お待ちを。」

 

 しかし私たちにとってその程度の障害は問題にならない。

 特に咲夜は時間と空間に特化したレベル100の魔力系魔法詠唱者だ。攻撃系の魔法はほとんどないが、こういう移動系にはめっぽう強い。

 私たちは進むだけ進むと透明化を解除し、待機していた騎士をあっさりと全員昏倒させる。

 そして咲夜が扉の隣の壁(・・・)に向かって魔法を発動させた。

 

 「<秘密の抜け道(シークレット・パス)>。」

 

 すると壁は一度波が起こったように揺れ、その中に透明な、咲夜と指定した人物だけが通れる秘密の抜け道が出来た。

 私たちは出来たばかりの抜け道を通ることで扉には指一本触れることなく先へ進む。あとはこれを2回繰り返すだけ。

 それで何の問題もなく金庫の中へとたどり付いた。

 

「ここがあの女のハウスね。」

 

「あの女?」

 

 私はギャルゲネタ発言へ律儀に相槌を入れる咲夜をスルーし周囲をぐるっと見渡す。

 明かりの類は全く見当たらなかった。恐らく外から何らかの操作が必要なのだろう。

 しかしここに居る者はみんな暗視能力を持っているため問題は無い。

 

 そこは驚くほど広く、無数の財貨が綺麗に整頓された状態で置かれていた。

 特に目を引くのは中央に飾られている品だ。

 

「へぇ、いい趣味してるわね。」

 

 それは黄金で出来たチンチン。

 太さは直径10cm、長さはおよそ30cmもあるだろうか。それはまさに巨珍といった出で立ちだ。

 

「これは……マジックアイテム!?」

 

 私に続いて咲夜が驚きの声を上げる。

 よく見ればそれは内側から光を放っているようにも見える。それはつまり魔法が込められているということ。

 一体何のためにこんなものを作ったのか? もしかして最終試合に出てたゴ・ギンというトロールから型をとったのかな? それで銀行に寄付してしょうがなくココに飾られてるとか?

 そう考えるとこの国も業が深い。深くない??

 

「持って帰っていいかな?」

 

「止めたほうがよろしいかと。もしかしたら使用済み(・・・・)かもしれません。それに必要ならナザリックの工房長に命じれば作れると思いますよ。」

 

……ちっ! だが中古品の可能性を指摘されれば持って帰るのは諦めざるを得ない。それによく考えれば私にはもう七色のチンチンがあるのだ。いまさら金色のチンチン程度は必要ない。

 

「シャドウデーモン、出てきなさい。」

 

「はっ!」

 

 と私が声をかければ、返事をしながら影から10体の悪魔、シャドウデーモンがウニョウニョと飛び出してくる。

 

「この袋に限界まで白金貨を詰めろ。できるだけ新しいものを選ぶように。」

 

「かしこまりました。」

 

 私はアイテムボックスから袋を取り出し、姿を見せたシャドウデーモンへ白金貨を詰め込むように指示する。無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァザック)と呼ばれるこの袋は、重量500kgまでならどんなものでも収納することが出来るというアイテムだ。

 

 つまり白金貨1枚の重ささえ分かっていれば、あとは袋に限界まで詰めるだけでいい。そうすれば一々数えなくても枚数が分かるということである。

 さらに空の袋は複数個、カロリックストーンを作るためくっそ重い鉱石を持ち帰るのに使っていたものが沢山あるので、いちいち満ぱんになる度に<転移門(ゲート)>で別の場所へ移す必要もない。

 

 個人的にはここにある全てを持って帰っても良い気がするが、しかし流石にそれは止めておいた。やってしまうと自分の中の枷――自重など――が外れそうで怖かったからだ。なので回収は闘技場の勝ち分のみで止めておく。

 

 それから私が部屋の中央で優雅に佇んでいると、デーモンたちはすごい勢いで白金貨を袋に仕舞っていった。1袋、2袋、3袋……あっという間に袋が一杯になっていき、驚くほど短い時間で作業が完了した。

 

「終わりました。」

 

「ご苦労。あとはこれをっと……」

 

 私はシャドウデーモンが差し出す袋を回収すると、()()()()から闘技場の賭け券を取り出して金庫の扉へと貼り付ける。

 これでなぜ金貨が無くなっているのかすぐ理解出来るだろう。

 

「よし、これで換金は終了ね。じゃあ帰りましょうか。」

 

 

 

 

 

■■■■■■

 

 

 

 

 

 そうして咲夜の魔法により私たちは馬車へと戻ってきた。

 だがしかし、馬車に乗り込もうとする私に一人の女の子の姿が目についた。

 

 よく見れば、そこに居たのは第2試合で意味のない白濁液を全身に浴びていた魔法少女のアルシェちゃんだった。

 それが両手と膝を地面につき四つん這いになって涙をこらえている。なにこれ? 誘ってるのかな? 無茶苦茶にしてくださいってこと? もう押し倒してもいいよね? 

 

 と私はそう思ったのだが、しかしこっそり聞き耳を立ててみれば、「借金……期限……ごめんなさい……クーデリカ、ウレイリカ……」などという怪しい単語が聞こえてくる。まさか借金系の魔法少女調教物!??

 

「如何なさいますか?」

 

「連れてきて。」

 

「かしこまりました。」

 

 気になった私は咲夜に頼んでアルシェを馬車の中へと引き込んだ。こんなカワイイ子をこのままにしておくなんて私には出きない。ほんとだよ?

 

「あの、私……」

 

「試合に出てたおねーちゃんだー!」

 

 咲夜に連れられて馬車に入ってきたアルシェに対し、私は幻術で9歳ぐらいの幼女――フラン――になってることを利用して正面から抱きつく。

 

 くぅー、いい匂い! 年ごろの女の子の甘い匂いと戦いの汗が混じった香りは、私の心のチンチンをニョキニョキと勃起させていく。

 

「どうしたのー?」

 

 質問しながら更に強くアルシェに抱きつき、顔を胸に埋めて左右にスリスリ。ん~、この感じはCに届かないぐらいかな? しかし私の勘によればまだ成長の余地は有るように思える。

 

 そうして馬車の中で話を聞いてみれば、なんでも急に銀行の業務が停止になったらしい。

 そのせいで金券版――この国での小切手のようなもの――の交換が出来ず困っていたとのこと。

 

 なんということだろう。私たちにあんな対応をとった挙げ句に業務すら満足にこなせないとは。

 公人の自覚がないのではなかろうか?

 

 (いや、これどう考えても私たちのせいですよね。)

 

 私の発言に咲夜がツッコミを入れるが、私には何も聞こえない。

 

「そう、それは何があったのかしらね。」

 

 そのまま相槌は咲夜にまかせ、私はアルシェの胸へと顔を押し付ける。

 さらに見つけ出した乳首の位置に併せて鼻先でのグリグリを開始。

 

「それで今日中に金貨が手に入らないと困るわけね?」

 

「んんっ! そう……ですっ! はぁっ……」

 

 そうしてスリスリとグリグリを繰り返せば、アルシェの声には甘いものが混じってきた。

 年頃の少女が快楽に戸惑っている姿はどうにも情欲を掻き立てる。いいぞ~。

 

「ふーん、お姉ちゃん大変なんだー。」

 

 だんだん我慢できなくなってきた私は両手を添えておっぱいを揉む。

 そのまま幼女が戯れてる様を演じながら未成熟な果実をモミモミしていると、徐々にアルシェの乳首が存在を主張してくる。キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

 

「どうするフラン?」

 

 すると唐突に咲夜が私に話を振ってきた。恐らくこの辺にしておいた方がいいということだろう。もしかしたら若干、嫉妬も入っているのかもしれないが。しょうがないにゃぁ。

 

「うーん、じゃあ私たちが換金して上げる。パチュリー(咲夜)。」

 

「しょうがないわねぇ。」

 

 まぁたまには人助けもいいだろう。

 咲夜は驚くアルシェから金券版の額を聞き出すと、回収に使っていた袋から同じだけの白金貨を取り出してアルシェの手へと握らせた。

 

「じゃあ私たちはもう行くから。お姉ちゃんも頑張ってね!」

 

「えっ、あの……」

 

 そうして驚くアルシェを降ろし、私たちは馬車を出発させる。

 

 整備された道を進む馬車の小窓から外を見れば、すでに暗くなり始めた空にはちらほらと星が輝いていた。

 それはこの私の心、恐らく吸血鬼になったせいで人間(カワイイ女は例外)に情が湧かなくなった、にも綺麗だという素直な感情を湧き立たせる。

 

「暇になったらまた遊びに来ましょう。」

 

「はい。レミリア様が望むのでしたら何時でも。」

 

 それにしても、この世界の空はすごい。

 しばらく馬車を走らせ周囲の明かりが少なくなってくると空の星は更に数をまして輝き出した。

 その星空を見ながら私は考える、一緒にこの世界にきた2人ならどんな事を思うのだろうか。

 魔王のくせに意外とロマンチックなモモンガなら『宝石箱みたいだ』なんて事を言うだろうか。

 ヘロヘロなら『あれ全部メイドだったら絶頂しちゃいますよ~、でもチンチンが足りなくなっちゃいますね~』なんて言うかもしれない。

 

「帝国、楽しい国だったわ。」

 

 賭けでの大勝、胸の谷間からアイテムを出す、幼女になって女の子に悪戯と、リアルでやりたいと思っていたことが色々出来た。おまけに最後は人助けで締められたのでとても気分がいい。

 すぐに帰るのはもったいないと思った私は満足するまで馬車を走らせ、十分に星空を堪能してからナザリックへと転移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかえりなさい、レミリアさん。」

 

「えっ……」

 

 ナザリックの自室のドアを開けると、そこにはこのギルドの長。髑髏の魔王様がまるで全てを振り切ったかのような堂々とした姿で椅子になったシャルティアに座っていた。

 さらに斜め後ろに控えているメイドが一人。恐らくユリ・アルファだろう。首なし騎士(デュラハン)という種族である彼女は首から下のみで立っており、その頭はなんとモモンガの股間に張り付いている。

 

 ……なにこれ? 私の頭が混乱する。吸血鬼である私は精神作用は無効のはずだ。なのに時間が経つほど混乱は深まるばかり。

 

 どうして私の部屋に勝手に入っているのか? 何かあったのか? ていうか部下とはいえユリの頭をチンチンケースに使うのは流石に酷いのでは? それとも、もしかしてそんな事が気にならないほどの緊急事態なのだろうか? あと椅子のシャルティアはぁはぁうるせぇ。

 

 混乱した私はそんな事をつらつらと考えつつモモンガに質問しようとするが、しかしそれよりモモンガが口を開くほうが早かった。

 

「チンチンとパンドラの件です。まさか忘れていたなんて言いませんよね?」

 

「……あっ。」

 

 それを聞いて私は今日出かけていた理由を思い出す。もう完全に忘れていた。だってすごく楽しかったんだもん。

 

「何か言い残す事はありますか?」

 

 モモンガは私に最終勧告を告げてくる。

 その姿からは魔王としての貫禄が溢れ出ており、背景にチュパチュパ音とハァハァ声が響いていなければ私ですらビビってしまっただろう。

 

 しかし私は同時に思い出した。

 それはぶくぶく茶釜が『男(弟)には特攻だぞ☆』と言っていた魔法の言葉。

 投げかければ全ての男性は恥ずかしさとともに下を向いて黙り込む。

 そう、一言で全てを許される。まさにこういう時の為の言葉だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「昨日はお楽しみでしたね!!」

 

「<魔法二重化(ツインマジック)内部爆散(インプロージョン)>」

 

 モモンガの魔法によって私の二つのオッパイが急拡張する。

 メロンのようだったそれはスイカになり、かぼちゃへと変化し

 

 ――ついに内側から弾け飛んだ。

 

「レミリア様ぁ!!!!」

 

 咲夜の悲鳴が聞こえてくる。しかし私は薄れゆく意識の中で別の事を考えていた。

 

 

 茶釜――これ、魔王には効かないじゃん……

 

 

 

 

 

■■■■■■

 

 

 

 

 

 氷のように静かで冷たい部屋があった。

 バハルス帝国の帝城、その中にある皇帝の執務室だ。 

 普段なら熱気が漂い、国の重要な政策について話し合いが行われる場所であるが、しかしこの日は逆に静かで重苦しい雰囲気に包まれていた。

 

 そんな部屋の中でもっとも豪華な椅子に腰掛けるのは今代の皇帝である。

 数々の粛清を断行したことで鮮血帝の異名を持つ皇帝、ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスは部屋の者たちをゆっくりと見渡す。

 そこには今回の件で集められた大勢の者たちの姿があった。

 

 集められた者たちは大きく2つに分けられる。

 片方はジルクニフの後ろに立っている者。今回の件の調査を行っていた内政官達。

 そしてもう片方は前方で顔を真っ青にして伏している者。闘技場と銀行、そしてその守備に関わる者たちである。

 

 ジルクニフは呼び出した全員が揃ったことを確認し口を開く。

 

「では順番に報告を聞こう。」

 

「1つ、なぜ200倍なんてトチ狂ったオッズを付けたのか?」

 

「2つ、なぜ金貨1万枚なんて賭け金を受けたのか?」

 

「3つ、関係していると思われる女2人の行方は?」

 

「そして4つ、なにより」

 

「――なぜ、払う前に止めなかった!!!」

 

 バンッ! と執務室に大きな音が響いた。それは皇帝が右手を目の前のテーブルへと叩きつけた音だ。

 

 その姿に周囲の者たちは――伏していた者たちは更に――顔を青ざめる。

 鮮血帝という名で知られるこの皇帝は滅多に声を荒げたりしない。

 今まではどんなときだって氷のような冷たさで淡々と処分を下してきた。

 それが声を荒げ、怒りをテーブルに叩きつけている。つまり今回の件はそれほど腹に据えかねてるということだ。

 

「金貨200万枚! 金貨200万枚だぞ!! 分かっているのか!? これがどれほどの損失か!!!」

 

 その言葉に周囲の者、特に財務の関係者が一斉に嫌な顔をする。

 それもそうだろう、金貨200万枚とは国という大きな枠から見ても無視することは出来ないほどの膨大な額だ。

 仮に騎士の給料を平均月金貨4枚だとすれば、約4万人を1年間も養えるだけの額が丸々無くなったことになるのだ。これで笑っているような頭の軽い者はこの部屋には居ないし、もし居たとしても即座に目の前の鮮血帝によって首を刎ねられ居なくなるだろう。

 

「ということで全員、私がどれほど頭に来ているかは理解できたな? では報告を聞こう。ロウネ。」

 

「はっ! では現在分かったことを報告させて頂きます。」

 

 鮮血帝にロウネと呼ばれた男、皇帝の秘書官であるロウネ・ヴァミリネンが前に出る。

 

「まずはオッズと賭け金からですが、関係者から聞き取りを行った結果、伝統だということが分かりました。」

 

「伝統だと?」

 

 そんなのあったか? と記憶を思い出そうとするが、しかしジルクニフが思い出すよりもロウネの説明のほうが早かった。

 

「はい陛下。始まりは帝国暦30年の頃です。今回と同じような催し――公開処刑――がありました。その時に帝国の歴史を知らしめるという意味でオッズに帝国の建国年数が使われたそうで。あとは同じような催し物が起こる際にそれに倣い、何時からか伝統になったそうです。」

 

「ではなにか? 今年が帝国暦200年だからオッズも200倍にしたと?」

 

「そのようでございます。」

 

 なんだそれは。とジルクニフは思うが、今はそれを言っても話が進まない。しょうがなく顎をしゃくって先を促す。

 

「それから賭け金の方です。まず最初に報告しておかなければならないのは、今までは賭け金の制限はしていなかったということです。」

 

「これは怠慢というわけではなく、そもそもが大量の金貨を持ち込もうとした場合は目立ちます。そしてそんな事をするのは貴族か大商人のどちらかでしたので、闘技場に入る際に専門の人員が付いて対応――賭けを止める――ことになっていたようです。」

 

「さらに調べた結果、過去に何度か今回以上の金額が賭けられたことがございました。例としては貴族同士の代理闘争などです。なので今回の賭けについてもそちらと勘違いして受けたのではないかと思われます。」

 

「そうか、ではそんな詰まらない伝統と勘違いでこれほどの損失を出したのだな。」

 

 そう言いつつもジルクニフは頭の中の一部では仕方ないかと考えていた。

 闘技場は皇室の直轄であり、昔からそのままということは代々の皇室が認めていたということ。

 普通なら目をつけられる可能性を考え、わざわざ進言などしようと思わないだろう。

 むろん、それはそれとして関係者共には責任をとってもらうが。

 

「最後に今回の件を引き起こしたと思われる者たち、そして支払った者ですが……どちらもおりませんでした。」

 

「ん?」

 

 どういうことだ? と目で問いかければ、それを理解したロウネが報告を続ける。

 

「緊急事態ということで帝国魔法省の方々の手を借り、魔法まで含めた調査を行いました。しかしパチュリーとフラン、この2人については帝国の名簿および入国記録のどちらにも記載が無く。さらに銀行で支払いをした者はおりませんでした。」

 

「どういうことだ?」

 

「はっ、それがその……結論から申しますと、先の2人は不法入国。そして金貨の方は直に金庫から持ち出されたのではないかと……」

 

「はぁ?」

 

ジルクニフは驚きの声を上げる。それはこれが本当なら由々しき事態だからだ。

 

「つまり何か、今回の犯人は帝国魔法省が技術の粋を集めて作った銀行の金庫へ勝手に出入りし、さらに気づかれること無く金貨を持ち出したということか?」

 

「あくまで現状の調査から考えた場合ですが、おそらくは。」

 

 なんだそれは。それが本当なら奴らはこの国のどこだろうと自由に入り込めることになってしまう。それは断じて許していいことではない。

 

「しかしご安心下さい。先代の皇帝の遺産、『黄金のチンチン像』は無事でございます。」

 

「そんな事は聞いていない!!!」

 

 さらっと告げられたどうでもいい報告を聞き、ジルクニフは思わず声を荒げる。

 黄金のチンチン像……前皇帝が酒で酔って作るのを命じてしまったという負の遺産だ。

 個人的にはとっとと崩して金貨に変えてしまいたいのだが、ご丁寧に魔法化まで行われているためそれも出来ない。

 本来なら帝城内の国庫に保管しておくべきなのだが、ぶっちゃけ見たくなかったので無理矢理に銀行に押し付けた品である。

 ちなみに効果は単純な筋力の上昇だ。何のためにこんな魔法を込めたのか? 持って殴れとでもいうのか?? チンチンで???

 

「つまり現状では大事な部分は何も分かっていないということだな?」

 

「大事な部分……チンチンだけに、ですね。」

 

「おい。今ふざけた発言をしたものをつまみ出せ。」

 

 不用意な発言を行った内政官の一人が、騎士によって部屋から外へ放り投げられる。

 その光景を見ながらジルクニフは思考する。

 

 あまりにも分からないことだらけだ。

 その2人はどこから来たのか? なぜ武王は負けたのか? どうやって金庫に入り込んだのか?

 今回の件はこれらを1つずつ紐解かなければ全体像は見えてこないだろう。

 しかし解けるのか、と言われれば恐らく無理だという予感がする。

 

 更にこの損失をどこから補填すればいいのか?

 もし補填出来ないとすれば催し物等の費用を下げるしか無いだろうが、しかしその場合は関係する全ての計画の見直しが必要になる。

 その手間を考えるだけで頭が痛くなりそうだった。

 

 しかし今はできる限りのことをやるしかない。

 

「とりあえずオッズに帝国歴を使う伝統は廃止。それと賭け金に制限を設けろ。どれぐらいが妥当かはお前たちで考えろ。それからフランとパチュリーという女の2人組を指名手配しておけ。懸賞金付きでだ。この件は帝室の威信などと言ってる場合ではない。」

 

「はっ、すぐに似顔絵付きの指名書を作り、各所に配布いたします。」

 

今やれることはこれぐらいだろうか。

そうしてこれ以上に出来ることがないか考えていると、再びロウネが口を開いた。

 

 

「陛下、銀行の件ですが進展がございました。今来ました<伝言(メッセージ)>によれば奪われた白金貨の一部が見つかったとにございます。」

 

「ほう! 確かか? しかしどうやって他の物と区別したのだ?」

 

 それを聞いたジルクニフの顔が今日はじめて笑顔へと変わった。

 無理そうな事件が急に進展したのだ。喜ぶなというのは無理な相談だ。

 

「はい、実は今回盗まれた物の中の1/3は再鋳造する予定の物でした。つまり鋳造に失敗した金貨です。見るものが見ればはっきりと分かる違いがございまして。使われた際に不審に思ったのか、店の店主が通報してきたとのことです。」

 

「なるほど。これほど大胆に盗みを働いておきながら最後に墓穴を掘ったな。おまけにこの帝国で使っただと?」

 

 どれだけコチラを舐めているのか。

 ジルクニフの顔から再び笑顔が消える。

 あと残ったのはどんな手段を使ってでも情報を吐かせる、そんな漆黒の意思を宿したような表情だった。

 その顔をみて部屋の全員が理解する。もし使った者が素直に話に応じなければ、ありとあらゆる拷問が行われることになるだろうことを。

 

「それでその使った者の名前は? 調べは付いているのか?」

 

「はい、すでに名前も分かっております。その者は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アルシェ・イーブ・リイル・フルトという娘です。」

 

 その日、貴族位を剥奪された家の娘が銀行強盗で捕まったという噂が帝都中を駆け巡った。




アルシェ「これでしばらく時間が稼げる!」
帝国騎士「それ盗まれた金貨だから。たいーほ!!」
アルシェ「えっ……」

ぶくぶく茶釜「昨日は(オナニーで)お楽しみでしたね。」
ペロロンチーノ「orz」


アルシェちゃんが捕まりました。でも大丈夫、正直に話せば酷いことにはならないよ!(たぶん


・オマケ@ボツにしたオチパターン。
「それと最後に闘技場の司会と実況から質問が来ております。」
「なんだ? 司会と実況だと……?」

 ジルクニフは一体どういうことだ、という思いを懐きながらロウネに対して先を促す。

「はい、それが……9代目武王の二つ名は『珍王』でよろしいですか?、と」
「勝手にしろ!!!」

 ジルクニフは手に持っていた書類を握りつぶし、そのまま床へと投げつけた。


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7本目:新たな力

チンチンチンチン書きすぎてチンチンがゲシュタルト崩壊しそう。
あと台風で家の屋根が吹き飛びました。えっ10号きてる? ハハッ、ワロス……


「チンチンが消えないんです。」

 

「何言ってるんですかモモンガさん。さっきルプスレギナを食べた(意味深)でしょ。」

 

 おっぱいを爆破された次の日の早朝。

 緊急事態なので3人だけで話がしたいという<伝言(メッセージ)>を受け、向かった先の会議室で聞かされたのは一緒に転移した2人の目を覆いたくなるような発言だった。

 ボケたおじいちゃんと介護するおばあちゃんかな?

 

「何か取り込み中みたいだし私は帰るわね? 覚えてたら次は1ヶ月後ぐらいに来るから。」

 

 2人の発言からどうでもいい話だと悟った私は席を立ってドアへ向かう。

 しかしこの程度で逃してくれるほどこの2人は甘くなかった。

 

「駄目ですよ。元はと言えばレミリアさんのせいなんですからね。」

 

「そうですよ。モモンガさんの下の世話をボクだけに押し付けないで下さいよ。」

 

 えー、だってそんな男同士で連れションして友情高めるみたいな話に私は要らなくない?

 部屋には私たち3人だけみたいだし帰ってもいいと思うんだけどなぁ。ていうか咲夜に外出用のボディペイントを施してる途中だったんだけど……

 

「それでさっきの『ルプスレギナを真っ白にしてやったぜガハハハハ! やはり褐色肌には白濁液が似合うのぉ。』というモモンガさんの発言についてですけど……」

 

「いや言ってませんよ!? なんでギャルゲに出てくる敵怪人みたいな事になってるの!!?」

 

 今のモモンガなら割と言いそうだと思ったのは間違いだろうか? いやココ数日ではっちゃけだしたこの魔王ならあり得る。

 

「そっか。ルプスレギナも食べちゃったのね。戦闘メイド(プレイアデス)はもう駄目そうね。」

 

 ルプスレギナは割と狙ってたんだけどなぁ。これで残りはエントマとシズ。種族は蜘蛛人(アラクノイド)自動人形(オートマトン)だ……うん、駄目みたいですね。

 

「ちなみに一般メイドは全員ボクが頂きましたから。手を出さないでくださいね?」

 

「ふざけんなエロスライム! 何さらっと言ってるのよ!! 私の分は!?」

 

 ていうかモモンガも止めなさいよ!

 

「一度は止めたんですけど目を離した隙に……そういう訳で色々話すことがあるのでレミリアさんはとっとと座ってください。逃げたらそっちの部屋に押しかけますから。」

 

 くそっ、なんだこいつら! だんだん遠慮がなくなってきてね? もしかして私が女だって忘れてるんじゃなかろうか。

 しかしとりあえず帰れそうにない事を理解した私は嫌々ながら自分の席に座ることにした。

 

「じゃあ揃ったことですし、そろそろ真面目に聞いてもらっていいですか? もしまたふざけたら無理矢理に転移させますからね? 方法は幾らでもあるんですから。」

 

「モモンガさん、まさか今更その程度が脅しになるとでも?」

 

「恐怖公の部屋にぶち込みますよ?」

 

「「ひぃっ!!!」」

 

 そう言われた瞬間、私とヘロヘロは椅子ごと仰け反った。

 恐怖公、それはギルド1の問題児『るし★ふぁー』が作った体長30cmの巨大なゴキブリ。

 彼(?)はある意味、この墳墓で最も恐れられているNPCだろう。レベルこそ30台と低いものの同族の無限召喚という最悪の能力を持っており、その部屋は何千、何万匹のゴキブリが共食いしあう最悪の環境。

 さらにこの部屋は墳墓内にある転移の罠の移動先の1つであり、ユグドラシル時代はその精神的ブラクラにより数多のプレイヤーを引退に追い込んだ。

 ちなみに私は絶対に入りたくない。どれだけキャラと装備を強化しても人はゴキブリには勝てないんだって、はっきり分かんだよね。

 

「で、チンチンですよ。チンチン。消えないんです。」

 

消えない? それはひょっとして消したくないの間違いでは?

 

「素直にドハマリしたって言ってもいいのよ? 覚えたばかりなんだから別に笑ったりしないわ。」

 

 だって私もかなりドハマリしてるし。こんな気持ちいいの知っちゃったら止めるとか無理だよぉ。

 

「違いますよ、人を性欲魔神にしようとするの止めて下さい。……レミリアさんみたいにオフに出来ないんです。それに他にも色々おかしいんですよ。」

 

 チンチンがおかしい……性病かな? でもアンデッドって病気無効じゃなかったっけ?

 

「例えばどんな風にですか?」

 

「どうも1日に出せる回数が決まってるらしくて。それ以上に出すとHPが減るんです。」

 

 うわまじで。アルベドに2日も搾られ続けてよく死ななかったわね。

 ちなみに私のは回数制限など無い。さすがはワールド・チンチンである。

 

「装備で回復魔法を使えるようにしてなかったら危なかったですよ。」

 

「初日にシャルティアを送り込んだのはファインプレーだったのね。」

 

 モモンガが絞り殺されたら流石に他のNPCは黙っていないだろう。もしかして地味にナザリック崩壊の危機だったのでは。

 

「それからどうも感情の沈静化が無効になってるみたいなんです。」

 

 感情の沈静化? なにそれ?

 

「実は生やされるまでは感情が一定ラインを超えると強制的に沈静化されてたんです。」

 

「ああ、アンデッドの精神作用無効がそういう形になってるんですね。」

 

 えっ、そうなの?

 

「わたし生やしてないときも沈静化なんてされないんだけど。」

 

「うーん、おそらくモンスター種族の違いなんでしょうね。ほら、吸血鬼って処女の血を飲んでハジけたりとか元から感情豊富そうじゃないですか。」

 

 なーる。同じスキルでも種族毎に違った形になってるってことか。

 そういやモモンガのスケルトン系は淡々と人を襲ってそうなイメージだな。

 

「うーん、でも変ね。生やす時の願いはほぼ同じだったのに、こんなに違うチンチンになってるだなんて。」

 

「そうなんですよ。だからお二人に相談したくて呼んだんですけど、何か分かりませんか?」

 

 んなこと言われてもこれだけで分かるのは無理じゃね? 私たちはチンチンの専門家じゃないのよ。

 

「いや大体分かりました。」

 

 なん、だと……まさかヘロヘロはチンチンの専門家だった……?

 

 そう言うとヘロヘロは両肘をテーブルにつけ、組んだ手の上に顎を乗せるいつかのマダオポーズで語りだした。オマケに今回はしっかりとサングラスまで装備してやがる。体が黒いせいで全く意味なさそうだが。

 

「願った言葉はほぼ同じ、しかし光り方から機能まで二つのチンチンには明確な違いがあります。」

 

「ここから推測されるのは、言葉にしていない部分は願った者のイメージ、もしくは無意識の思いをアイテムが汲み取ってしまったのではないか? ということです。」

 

 どういうことなの?

 

「レミリアさんは女性です、チンチンは無いのが普通であり、必要な時だけアレば良い(・・・・・・・・・・・)という思いがあった。だからオン/オフ機能が付いた。」

 

「対してモモンガさんは男性です。チンチンは常に有り(・・・・)使いすぎると疲労する(・・・・・・・・・・)という認識がレミリアさんの中にあった。だからオン/オフ機能は無く、使えばHPを消費する形になった。」

 

 なるほど、そういうことだったのか。さすがは元プログラマーのヘロヘロ。状況の解析は手慣れてる。でもプログラマーってチンチンの分析までやらされるの? やだ、ブラック企業こわい。

 

「ってことは願いを叶える系のアイテムはしっかり詳細まで言葉にしないと駄目ってこと?」

 

「その方がいいでしょうね。」

 

「待って下さい、と言うことはつまり……」

 

 

 

 

 

 

「モモンガさんのチンチンはずっとそのままですね☆」

 

「はぁぁぁああああああ!!!?」

 

 ヘロヘロから最終告知を受けたモモンガが絶叫する。

 ぶっちゃけズボン履けばよくね? と思うが、男には譲れない何かがあるのだろう。世界の窓は開けてないと駄目とかそういう女には分からない理屈が。まぁ履いても内側から光が漏れて余計に恥ずかしい感じになりそうだけど。

 

「オフ機能が欲しいならまた流れ星の指輪(シューティングスター)を使うしかないでしょうね」

 

「いやそんな事に使いたくないですよ。はは、これじゃもうNPCたちの前に出れない……ギルド長としての仕事は無理そうですね……」

 

 そう言ってものすごい負のオーラを放出するモモンガ。しかし善意であげたチンチンで絶望されるのはコチラとしても気分が良くない。っち、しょうがないなあ。

 

 私はこっそりと流れ星の指輪(シューティングスター)を起動させる。

 それにより発動した<星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)>によって部屋中を青い光が満たす中、2人が驚いた顔でコチラに視線を向けているのを見つつ、指摘されたように思った願いをはっきりと口にする。

 

「モモンガのチンチンにオン/オフ機能をつけよ。ただしオフにしてると性欲マシマシになる感じで!」

 

「ちょっ、なに余計な機能付けてるんですか!!?」

 

 その瞬間、部屋に満ちていた青い光は閃光となり、渦のようにぐるぐる回りながらモモンガのチンチンへ吸い込まれていった。その様はまるで射精の逆再生みたいでとてもキモい。

 

「えっ? だってさっき言葉にしたほうがいいって言ったじゃない。」

 

確かに言ったはずだ。何か間違っていたのだろうか? いや私に間違いなどあろうはずがない。

 

「違うでしょ!? さっきの話は勝手に付きそうな機能は言葉で否定しておくって意味でしょう!? 思ってることと同じこと言ったら意味ないですよ!!!」

 

 え~、なにそれめんどくさい。

 う~ん、他に何か願うことあったかな? チンチンと言えば性欲だから……つまり三大欲求だ。残りは睡眠と食欲、ならば……

 

「私たち3人を飲食可能にせよ。味覚は人間と同じで。バフ効果など余計なものは要らない。」

 

 再び流れ星の指輪(シューティングスター)を起動。今度はしっかりと余計な効果が付きそうなところを否定しておく。

 本日2回目の青い光が部屋を埋め尽くし、光が収まった後に指輪はボロボロと空間に溶けるように消えていった。……ありがとう、やまいこ。貴方が残した指輪は主にモモンガのチンチンの為に使われたわ。

 

「……こんな感じでどう?」

 

「素晴らしい、完璧ですよレミリアさん! やれば出来るじゃないですか!!」

 

 私の行動にヘロヘロが喝采を上げる。そうだろうそうだろう。私だってやれば出来るのだ。これでもう女の子のこと以外は頭アーパーなんて呼ばれないはずだ。

 

「いやいやいやいや!!! 何あっさり最後の1回使ってるんですか!!? ていうか今のは流れ的にチンチンからムラムラを取り除くために使うとこでしょう!!?」

 

「モモンガさん、自分のチンチンのことだけ考えるのはどうかと思いますよ?」

 

「そうよ、それは流石にやまいこもキレると思うわよ?」

 

「ア”ア”ア”ア”ア”ア”!!!!!……ふぅ」

 

 モモンガが再び絶叫する。しかしチンチンをオフにしたせいか途中でテンションがもとに戻った。恐らくさっき言ってた精神の沈静化が発動したのだろう。傍からだとどう見ても賢者タイムに入ったようにしか見えない。

 

「それでボクたちを呼んだのはチンチンのためだけですか?」

 

 その一瞬の隙(沈静化)を突いてヘロヘロが話を進めようとする。さすがはヘロヘロだ。このギルドを作る前からモモンガとPTを組んでただけあってタイミングをよく分かっている。まぁ人のチンチンの話なんてこれ以上聞きたくないからね。

 

「あっ、いえ。デミウルゴスから報告が上がってきているので、その確認と情報の共有をしておこうと思って。詳しくは(デミウルゴスが)書類にまとめてあります。あと指輪の件については後でしっかり話しますからね?」

 

 そう言ってアイテムボックスから書類を取り出すモモンガ。

 しっかり3人分用意されていたそれは私とヘロヘロの前へ配られた。

 ちっ、誤魔化せなかったか。

 

 

 

 

■■■■■■

 

 

 

 

 

 私たちは黙って渡された書類を読む。

 書類はそこそこの量があったが、しかし私とヘロヘロがデミウルゴスに情報の収集を命じたのは3日前だ。ならばまだそれほど詳しいことは分かっていないだろう。

 

 えーと、なになに……墳墓から一番近くにある街エ・ランテル、及び西に有る大森林の調査書?

 

 まずはコキュートス、エントマ、恐怖公を始めとした昆虫たちによる街と周辺の一斉探索。

 目的はLV15を超えてそうで、かつ居なくなっても問題なさそうな者の捕獲。

 結果、捕獲したのは72名。内訳は風花聖典、ズーラーノーン、死を撒く剣団、その他色々。

 

 それから隠蔽に特化した者たちによる情報の収集。

 目的は各拠点の重要そうな書類の入手および写しの作成。

 結果、都市長宅、冒険者組合、魔術師組合、神殿各種から裏帳簿まで入手済み。

 

 最後がアウラを始めとした大森林の探索。

 魔獣100匹+移動能力の高いシモベ複数による森の一斉探索。

 結果、脅威になりそうなモンスターは発見されず。ただし現地で得た協力者の言によればずっと昔、北の端に高レベルの魔樹のようなものが封印されており、そろそろ出てきそうだとのこと。対処出来ない可能性がある為、現在は調査を保留中。

 

「ふむふむ、なるほどなるほど。」

 

 えっ、これ3日で終わらせたの? マジで??

 

「フフ、さすがはデミウルゴス(震え声。私の目に間違いは無かったようね。」

 

「恐らくボクたち3人がやってたらこの3割も終わってませんよ。」

 

 ウルベルトの息子さん有能すぎワロタ。もう全部アイツでいいんじゃないかな? 全権預けて引き籠っていたら全部終わってそうな気がする。

 

「でも面白そうな情報は特に無いわね。レベル30超えが1人だけとか。」

 

「ボク思ったんですけど、もしかしたらこの世界はレベルに上限……才能限界とでも言うべきもの? が有るんじゃないでしょうか。しかもそれがものすごく低いのでは。」

 

「言われてみればそうかもしれませんね。この風花聖典ってのも特殊部隊って割には弱いですし。」

 

 特殊部隊ってのは国の精鋭のはずだ。それが低レベルってことは才能上限の話はほぼ確定ではなかろうか? ってことは私たち超強いんじゃね??

 

「あっ、それと武技が使えるのが何人か居たみたいですよ? 他人と同じ武技しか使えないのは始末済みみたいですけど。」

 

 武技かー、ちょっと気になるかな。資料によると魔法とも重複するみたいだし、覚えられたらモモンガとのPvでもワンチャンありそう。ちなみに今は95:5ぐらいだ。もちろん5のほうが私。

 

「話はこれで終わり? なら私は武技ってのを見に行ってみるわ。2人はどうするの?」

 

「ボクはこれから出かけるのでそっちはお願いします。」

 

「俺は久しぶりに部屋でゆっくりしてますよ。チンチンオフのムラムラがどれぐらいで増えるのか検証しないといけませんし。」

 

 部屋でゆっくりと言いつつ考えるのはチンチンのことか。最近こいつ何時もチンチンのことばっかりだな。

 まぁよかった。チンチンをムラムラさせた責任を! とか言われないで。そしたらまたアルベドを呼ばなければいけないとこだった。

 

「ところでこの武技を使える2人……ブレインとクレマンティーヌってのはどこにいるの?」

 

 私の質問に対してヘロヘロは資料をペラペラとめくる。

 

「えーと、王国戦士長と互角と言われる男、それと法国の元漆黒聖典だった女。資料によれば尋問後は捕虜になってるみたいですね。そして捕虜の管理は捕獲した者に一任とあるので……」

 

「つまり?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「恐怖公の部屋です。」

 

「「えっ」」

 

捕……虜……?

 

 

 

 

 

■■■■■■

 

 

 

 

 

 

カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ

 

 

 リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンの力で私たちが転移してきた第二階層の一角。

 そこはまさに地獄だった。まだ部屋に入っていないにも関わらずドア越しに聞こえてくる音だけで全身の鳥肌が止まらない。一体どれだけの数が中にいるのか? モモンガが言うには召喚した眷属が消えずに一度溢れ出したらしいのだ。中は10畳以上の広い空間だったはずなので、ホントだとすれば万でも足りない数が居ることになる。

 

「よろしければ私が行ってまいりますが?」

 

 一緒に来た咲夜はそんな事を言ってくれるが、しかし行かせる訳にはいかない。

 

「駄目よ。ゴキブリなんかに貴方が汚されるのは耐えられないわ。それは私自身が汚れる以上によ。貴方はここで待っていなさい。」

 

「レミリア様……」

 

 私の発言を聞いて咲夜が顔を赤らめる。私は勇気をもらうため、咲夜に正面から抱きつきおっぱいに顔を埋めてスリスリ、更にお尻をサワサワしながら揉みしだく。本来ならここで心のチンチンがムクムクと立ち上がるはずだが、しかし背後のカサカサ音のせいでとてもそんな気分にはなれなかった。

 

「大丈夫よ、部屋に入らなくても外から呼びかけて連れ出せばいいの。」

 

 幸い私が持ってるスキルの中には、どんな騒音の中でも味方に声を届けることが出来るようになるパッシブがある。大声援だった帝国の闘技場の中ですんなりと指示を出せたのはこのスキルのおかげだ。

 

 しかし、私たちがそんな事をやってると『ガコンッ』とドアが開く音がした。

 

「「ひっ……!」」

 

 その音に私と咲夜は抱き合ったまま大きく後ろへと下がる。

 そしてそのまま注意深く観察していると、部屋のドアはまるで時間切れだと言わんばかりに()()()()()()()()ゆっくりと開いていった。

 

「ああああぁぁぁぁ……!!」

 

 私はゴキブリが雪崩のように飛び出てくる様を幻視して悲鳴を挙げる。しかし予想に反してそこから這い出てきたのは30cmほどのゴキブリが一匹だけだった。

 

「これはこれはレミリア様。お久しぶりでございます。忠義の士、恐怖公でございます。」

 

 そう言いながら丁寧なお辞儀をするゴキブリ。それは頭に王冠を被り、背にマントを羽織って手に王笏のようなものを持っている。彼こそがこの墳墓最恐のNPC、恐怖公だ。

 

「ひ、久しぶりね。」

 

 私はその姿を直視しないようにしながら恐怖公へと挨拶を返す。

 リアルではゴキブリ一匹ぐらいなら余裕で叩き潰せた。それは女に受けが良かったからだ。

 しかしこの大きさは無理。こっちに向かって走り出されるだけで心が折れる気がする。

 

「ところで1つ聞いていい? どうして私たちに気づいたの?」

 

 もしかして部屋の外にも眷属がいたのかな? もしそうなら私はもう二度とこの階に来ることはないだろう。いや居なくても二度と来たくないが。

 

「それなら先程モモンガ様より<伝言(メッセージ)>で連絡を頂きまして。なんでもレミリア様たちが捕虜を受け取りにいくので眷属を挙げて歓迎してほしいとの事。なので吾輩、魔法で中から外が分かるようにしてお待ちしておりました。」

 

「モモンガァアアアア!!!!!!」

 

 それを聞いて私は絶叫する。

 あの骨野郎やりやがった! 下手したら私たちゴキブリに囲まれてたじゃねーか!! 絶対許さねぇ!!! 

 私は帰ったらニューロスト(水死体のようなNPC)をモモンガにけしかける事を心に誓う。あとニグレド(顔に表皮が無いNPC)にも許可を出しておこう。

 

「それで捕虜の件ですが。」

 

「え、ええ。実は武技ってのを見てみたくなってね。貴方の部屋から2人連れ出したいんだけどいいかしら?」

 

「もちろんでございます。この墳墓の全ては至高のお方々の物。何を持ち出そうと一切文句などあるはずがございませんぞ。」

 

 そう言って再び礼をするゴキブリ。なんだろう、動作と発言だけならすごい有能そうなんだけどなぁ。

 

 そんな恐怖公に私は「お邪魔するわね」と返し、目をつぶって少しだけ開いたドアの隙間から中へ叫んだ。

 

「おい、ココから出たかったら答えろ! ブレインとクレマンティーヌは居るか!?」

 

「私です!」「私です!」「私です!」「俺です!」「俺です!」「俺です!」「俺だ!!」「おれぇ!!!!」「くわjsこうれ!!!」……

 

 私の問いかけに対して、恐らく部屋の中にいた全員から絶叫にも近い声が起きる。

 それは地獄に垂らされた一本の糸を必死につかもうとする亡者達を想像させる返事だ。

 

「どういうことなの? もしかして回復魔法を使ってたら分裂しちゃったの?」

 

「創造主である『るし★ふぁー』様に誓って、そんなことは行っておりません。捕虜を傷つけるなど紳士の行いとは言えませんからな。あとちぎれた部分は眷属どもが全て平らげておりますし。」

 

 えっ、ちぎれたの? どこがどんなふうに? ……いや考えるのはよそう。

 

「何か特徴はございませんか? 教えて頂ければ我輩が見つけ出してご覧にいれますが?」

 

 あくまで真摯に対応しようとする恐怖公。

 それを姿を見て私は必死に記憶から書類の内容を思い出した。

 

「青髪の男と猫っぽいボブカット、だったかしらね。」

 

 私の答えに対し、しかし恐怖公はさらに丁寧にお辞儀をしつつ謝罪を述べる。

 

「申し訳ございません。体毛はその、眷属共がモグモグと……」

 

「……もしかして食べちゃったの?」

 

「はい、共食いには飽きたようでして。傷付けるなと厳命はしていたのですが、どうも体毛と衣類はそれに当たらないと判断したのかバクバクと。」

 

 おお~と、何ということだ。ここまで来ておいて探す方法がなくなったぞ~。めんどくさっ!

 

「ちなみになかなか美味しかったそうでございます。」

 

「そっかー。……もう置いて帰って良い気がしてきた。」

 

 すでに私のヤル気は0になりつつあった。対して中からは先の発言が聞こえたのか『待って!』『置いていかないで!!』等と叫びが聞こえてくる。どうしたもんかなぁ。

 

「よろしければ私が連れ出しますが?」

 

「どうやって?」

 

 おっと、ここで我がパーフェクトメイドのエントリーだ! そうだ、こんな状況でも咲夜なら! きっと咲夜ならなんとかしてくれる!!

 

「範囲を拡大した<集団人間種魅了(マス・チャームパーソン)>を使おうと思います。この魔法なら人間にしか効きませんので違うものまで出てくる心配はないかと。」

 

 さすがは咲夜だ。確かにそれなら一発ですべて解決することが出来る。でも出来れば最初に言ってほしかった。

 

「しょうがないわね、お願いするわ。」

 

「かしこまりました。」

 

 そうして咲夜の魔法によってようやくブレインとクレマンティーヌが部屋から出てきた。

 しかし2人は目にはハイライトが無くフラフラしており、さらに体毛を全て食われていて全裸なのでかなり不気味だ。

 とりあえず武技の前に水にぶちこんで汚れを落とし、それから飯も食わせる必要があるだろう。ん、飯といえば。

 

「そう言えば食事とかはどうしてたの? デミウルゴスからは捕虜として扱うように言われたと思うけど。」

 

「ご安心下さい。食事はしっかり1日2回与えております。食料はデミウルゴス様が外の物を用意してくれましたので。ただ何故かどなたも口にしてくれないのです。」

 

 誰も口にしない……あっ(察し

 

「一応聞くけど、その食事は誰が運んでたのかしら?」

 

「もちろん我輩の眷属ですが? 中には1mを超える眷属もおりますので、食事を運ぶぐらい簡単でございます。こぼれないように上からもしっかり抑えて運んでますぞ。」

 

 そっかー。眷属が運んでたのかぁ。しかも上下からプッシュして……そりゃ誰も食べないわ。

 

「それじゃあブレインとクレマンティーヌの2人は私が連れて行くから。」

 

「かしこまりました。」

 

「あっ、そうそう、捕虜共がもし今日も食事を食べそうになかったら無理矢理口に詰めてやりなさい。」

 

 私の指示に丁寧なお辞儀で答える恐怖公。部屋の中からはものすごい悲鳴が上がっていたが気にする必要はないだろう。嘘の返事をして私を手間取らせたのだ、ならばこれぐらいは許されるはず。嫌なら自分で食べてどうぞ。

 

「とりあえず6階層に行くわよ。まずは湖でこの2人を本格的に洗わないと。」

 

 私たちは恐怖公に別れを告げると、死んだ目をしている二人を連れ、まっすぐ6階層へ向かうのだった。




モモンガ「ちっ、ゴキブリアーマーは装備されなかったか。」

レミリア「絶対に許さない。絶対にだ。」

恐怖公「さぁ今日の食事ですぞ。食べなければ眷属に胃の中まで(・・・・・)運ばせますので。」

残された捕虜s「ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”!!!!!」


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8本目:揺れる

今見たら感想が100件を超えてるぅううう! ひゃっほー!!
書き込んでくれた方もそうでない方もありがとうございます。
また誤字脱字の指摘も大変助かっております。


「アタタタタタタタタターッ!!!!」

 

 暗い闇の中を疾走する影があった。

 それは体から2本の触腕を生やした黒いスライム。

 ナザリックにおける3人の支配者の内の一人であるヘロヘロだ。

 

 ヘロヘロはぎりぎり一人が通れる程度の細い通路を走りながら、掛け声と共に触腕を左右の壁に叩きつける。スキルによって物体の硬度を無視する効果を得ている拳は、まるでバターに加熱したナイフを刺すかの如く容易く壁に突き刺さった。

 

「ホアタァ!!!!」

 

 更に通路の行き止まりにたどり着くとぐぐっと屈み、そこから真上に大きく跳躍。信じられない距離を飛び上がると、横にぐるぐると回転しながら周囲の壁に両の触腕を何度も叩きつけながら降下。最後は着地と同時に前の壁に左手を突き刺し、更に別のスキルを発動した。

 

「……お前はもう死んでいる。」

 

 ヘロヘロは腕を抜き、クルっとかっこよく後ろを振り向きながら考えていた決め台詞を口にする。するとそれを待っていたかのように拳を突き入れた周りの壁にヒビが入る。そのヒビはピシピシという音を立てて徐々に広がり続け、ある程度の大きな亀裂になるとガラガラと一斉に崩れ落ちた。

 

「きゃ~、ヘロヘロ様~。カッコいい~~♥」

 

 そんなヘロヘロへ少し離れたところから声援を送る者がいる。

 ヘロヘロの嫁兼メイドであるソリュシャンだ。

 

 ただし格好は何時ものメイド服ではない。

 頭にはリボンの付いたカチューシャをつけ、へそ丸出しの上着にフワフワしたミニスカート。さらに手には黄色いボンボンを持っている。

 その姿はリアルでチアガールと呼ばれていた格好だ。この2人にしては割と普通であるが、だがしかしよく見れば気づくだろう。体を動かすと胸は盛大に上下し、振り上げた足の根元には何の生地も無いことに。つまりそれはノーブラ・ノーパンだということ。完全に痴女ガールです本当にありがとうございました。

 

「ふぅ~。ありがとうソリュシャン。しかしやっぱりモンクコンボは細かい部分を忘れてしまってるね。」

 

「心配しなくともヘロヘロ様ならきっとすぐに思い出されるはずです。」

 

 忘れた事が多いというヘロヘロに対して、大丈夫ですと告げるソリュシャン。

 彼女は確信しているのだ。

 

「一度見ればあらゆる全てを理解・分解・再構築してしまわれる。そんな叡智あふれるヘロヘロ様ならすぐに全て取り戻せます。」

 

 それを聞き、『えっ、なにその高評価!?』と思ったがヘロヘロは口には出さなかった。

 ナザリックの者たちは忠誠心が篤すぎて言っても無駄だと分かっているからだ。

 

「しかし本当にこの格好でよろしかったのですか? ヘロヘロ様が望むのでしたら今すぐ全て脱ぎますが?」

 

「大丈夫だよソリュシャン。それは昔から伝わる由緒正しい衣装――チアガール、だからね。特にここ一番の勝負ではみんなその格好で応援をしたらしいんだ。あっ、でも下着を着けないのは愛する男の前だけらしいよ?」

 

 だから気をつけてね? と、そんなソリュシャンにさらりと嘘を吹き込むヘロヘロ。

 前半はともかく後半は完全に彼の趣味である。

 

 この格好は飛び上がることで上着が捲れ上がりチラチラと下乳が見える。

 さらに足を振り上げればそこには数瞬だけ股間がこんにちは。

 それは大好きなチラリズムと露出の融合。

 諦めず両方を追い求めた末にヘロヘロがたどり着いた一つの真理の形だった。

 

「分かりました。ではこのまま応援させてもらいます。」

 

 そして純粋なソリュシャンは完全にそれを信じ込んだ。

 元よりナザリックのNPCたちにとって創造主を疑うことなど有り得ない。

 造物主がそうだと言えばたとえパンティーだって履かない事になる。それがナザリックという組織の日常なのだ。

 さらにそんな嫁に対してヘロヘロには一片の悔いも見当たらない。それはまさに拳を振り上げて大往生する覇王のような潔さであった。

 

 なお後日、ソリュシャンからチアガールの話を聞いたアルベドたちが嬉々としてこの格好に身を包んでモモンガを応援に行き。それにより執務中に股間からモモンガ棒が飛び出してしまう事になるのだが、それはまた別のお話である。股だけに。

 

 

 

 ヘロヘロはふぅーと息を吐きながら周囲を見渡す。先ほどのスキル乱舞で3方の壁は大きく崩れ落ち、一人が通れる程度だった通路は楽に4~5人が通れるほどに広がった。

 

 現在、ヘロヘロたちが居る場所はとある鉱山の地下500m。 

 こんな場所でスキルをぶっ放しているのは複数の理由があるが、そのうちの一つはブランクを埋めるためである。

 ヘロヘロは2年間もユグドラシルにログインせず、病院と会社を往復する生活を送っていた。そのためスキル等で思い出せない部分がちらほらあった。 

 

「これでモンクのスキルは一通り使ったかな? でもやっぱりコンボは半分も覚えていなかったね。これは急いでどうにかしないとマズイ……」

 

 流石に良く使っていたコンボは覚えているのだが、細かい派生や分岐させる判断材料などは忘れてしまっていた。

 別に訓練ならナザリックでも出来たが、しかしどうせなら何かを壊しつつ感触を確かめたかった。だからこそわざわざこんなところまで出向いてきたのだ。

 

 それからココに来た理由がもう一つ。

 

「じゃあアンデッドたちを呼んでこの岩石を運ばせようか。」

 

「はい、ヘロヘロ様。 ナザリック・オールド・ガーダー! こっちに来て岩石を運びなさい!!」

 

 呼びつければ待機していたアンデッドたちが一斉に駆けつけてくる。

 それはナザリックにしか存在しないアンデッドだ。

 普段は魔法の武具に身を包むそれらは、しかし今は手には何も持っていない。

 代わりに腰にピッケルを吊り下げ頭には黄色いヘルメットを被っていた。

 さらにその後ろには似たような格好のゴーレムが沢山いる。

 

 アンデッドたちは先頭の1体がシュレッダーのような箱を通路の入口横の床に置くと、後続はヘロヘロが崩した岩石を拾ってきてその箱の上へ載せ始めた。

 すると岩石は見る見る箱に吸い込まれていき、砕いた岩石の全てが消えると箱からは1枚の金貨が飛び出してきた。

 

「うーん、これだけ入れても金貨1枚程度か。やはりこの世界の品は材質でしか評価されないみたいだね。」

 

 これがヘロヘロがココにきた理由の2つ目。要はユグドラシル金貨の調達だ。

 言わずもがなナザリック地下大墳墓は難攻不落のダンジョンである。

 しかし墳墓内のギミックや下僕たちの維持にはユグドラシル金貨が必要。

 それをこの世界でどうやって手に入れるか?と考えた時、真っ先に浮かんだのが目の前のシュレッダーのような箱――エクスチェンジ・ボックスだ。

 

 このアイテムは投入した物の価値に応じてユグドラシル金貨を吐き出す。

 そこで試しにレミリアが持って帰ってきたこの世界の白金貨を何枚か入れてみると、きちんとユグドラシル金貨が吐き出されることが確認された。

 それからさらに色々な物で試し続けながらパンドラと検証を重ねたところ、もしかして価値の判断は材質だけで行われているのでは? という推測に至ったのだ。そこまで分かればあとは簡単だ。

 

「結局レミリアさんの白金貨が一番変換率が良かったからね。」

 

 ニグンの自白とデミウルゴスが調べた情報から良さげな金鉱山に乗り込み、人間が来れないぐらいの深さまで掘り進む。

 良い感じの深さまで到達したらある程度の空間を掘り、それから進んできた穴を埋める。

 もちろん地上への穴を埋めることで空気が循環しなくなるが、そこはアンデッドとゴーレムを連れてきて採掘させればいい。この2種類のモンスターは空気も食事も要らず疲労もせずに黙々と働き続ける。更にナザリックから持ってきたエクスチェンジ・ボックスの予備を設置する。

 あとは指示を出してそのままにしておけば自動でユグドラシル金貨が量産されるという寸法だ。

 もちろんユグドラシル金貨は後で誰かが回収に来る必要があるが、逆に言えば手間はそれぐらいである。

 

 「本来なら金を取り出すためには溶解なんかの処理が必要になるけど、エクスチェンジ・ボックスは鉱石のままでも含まれる金を評価してくれるみたいだからね。」

 

 鉱石から直接に金を取り出せるこの方法は間違いなくチートだろう。

 問題が有るとすればエクスチェンジ・ボックスを奪われることだが、それも採掘が進み鉱石を保存して置く場所ができれば解決する。必要なときだけ持ってくるようにすればいいのだ。

 

「もしこれが上手く行けば、ナザリックを支える重要な仕事になるね。」

 

「流石ヘロヘロ様です。しかしこんなに掘ってしまっても大丈夫なのですか? 余り掘りすぎると地上の鉱山が崩落するのでは?」

 

「大丈夫だよ。今回連れてきた人数ではそこまで掘ることは出来ないさ。じゃあそろそろ僕たちは帰ろうか。」

 

 はい、ヘロヘロ様♥と、そう答えるソリュシャンに抱きついて2人は指輪の力でナザリックへと帰還した。

 

 だがココでヘロヘロが読み間違えていたことが一つだけあった。

 それは勅命を与えたアンデッドたちのヤル気。

 二人の会話からこれがナザリックを支える重要な仕事だと聞いた彼ら(?)は、その瞬間から士気が天元を突破していた。

 さらにヘロヘロがアンデッドとゴーレムに持たせたのは、レミリアが課金ピッケルを買う前に作りまくって宝物庫に放り込んでいた魔法の魔改造ピッケルだった。

 

 数日後、そこには有り得ないくらいに掘られまくった巨大な空洞が出来上がっており、その上からはミシミシと嫌な音が響き続けていたのだった……。

 

 

 

 

 

 

■■■■■■

 

 

 

 

 

 

「武技、<斬撃>! 武技、<瞬閃>!! 武技、<神閃>!!!」

 

 男が刀を振るう。

 この世界独自の力によって増幅されたそれは用意した土人形を容易く断ち切る威力だ。

 さらにその剣速はすさまじい豪風を巻き起こし、それにより周囲の草を揺らし、その勢いは使い手のチンチンすらプラプラと揺らしている。

 

「武技、<能力向上>! 武技、<能力超向上>!! 武技、<疾風走破>!!!」

 

 女が地を駆ける。

 武技を重ねる度に速度が上がる。最後は名前通りに疾風のような速度だ。

 さらに女はそのとてつもない速度のまま縦横無尽に動き続け、その度におっぱいもタプンタプンと上下左右に揺れまくる。その姿はまるで警察官から逃亡中の痴女のよう。

 

「ドウデスカ、レミリア様?」

 

「ふーん、なるほどね。」

 

 あの後、私たちは恐怖公に別れを告げ、死んだ魚の目をした捕虜2人を連れてそそくさと彼の守護領域を離脱した。

 恐怖公は「お呼びとあらば何時でも駆けつけますぞ!」と言っていたが、しかし私たちは一度も振り返れなかった。だって怖かったのだ。実は相談したいことが……などと言われたらどうすればいいのか? もし眷属(ゴキブリ)がお茶を運んできたら? そう考えるともう振り返ることは出来なかった。

 

 それから何度か咲夜の<転移門(ゲート)>を乗り継いで6階層にある唯一の湖へと移動した。

 本来ならリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを使ってさくっと目的地へ転移するところだが、しかし捕虜2人をつれた状態でそれは出来ない。

 ナザリック地下大墳墓は階層間の転移が阻害されているので1階層ずつ降りていく必要があるためだ。

 

(ここを作った私たちが言うのもなんだけど、指輪が使えないと本当に移動がめんどうだわ。)

 

 ついてからは捕虜の2人、ブレインとクレマンティーヌを湖へ叩き込んで全身を洗った。

 それからペストーニャ――ナザリックの副メイド長に持ってきてもらったお粥を食わせ、一休みしてから武技の鑑賞タイムに入って今に至る。

 

「もういいわ、だいたい分かった。」

 

 2人から一通りの武技を見せてもらい、私の崇高な頭脳はすぐさま答えをはじき出した。

 

 ――そう、何も全く分からないということを!

 

 残念だが元が弱すぎるせいで強化? なにそれ? 状態だ。

 なにより私には武技よりも気になっていることがあった。

 

 それはこの2人の格好。なんと未だに全裸なのだ。

 なんでコイツら何も言わずに裸で剣を振ってるの? しかもすげーマジ顔なんですけど?

 

 ブレインは剣を振る度にチンチンがブルンブルン揺れていて、それはいつかのニグンのよう。

 クレマンティーヌは武技を使う時の走り方――クラウチングスタートのような構えでお尻の穴まで丸見えだった。犯してほしいのかな?

 

 いちおう体を拭く時にバスローブは与えたはずなのだが、何故かそれも身に着けずに2人は頑なに全裸スタイルを維持している。

 しかし誰も何も言わない。咲夜も食事を持ってきたペストーニャもだ。

 まぁこの2人はメイドなので私が黙っているから言わないだけかもしれないが。

 

 私は必死に頭を切り替え、今見せてもらった武技を思い出す。

 

「最初のは<神閃>だったかしら。」

 

 私に向かって<神閃>という武技を打たせてみた。

 ゆっくり歩いて間合いを詰める私に対して、ブレインは3mの地点で抜刀してきた。

 説明によれば「剣速がものすごく速くなる」らしいのだが、しかし普通に指で掴めてしまった。それもゲームをしながらポテトチップスを摘むような気軽さで。

 ブレインはかなりびっくりしていたが、しかし私からすれば欠伸が出る遅さだった。

 余りにも遅かったので手加減されてると勘違いした私は2刀目を避けつつ、ブラブラゆれるチンチンにデコピンをしたのだが、ブレインは刀を繰り出すことが出来ずにそのまま受け泡を噴いて倒れてしまった。

 

「次が<疾風走破>だったわね。」

 

 <疾風走破>という武技もそうだ。

 試しに5mほど間を開けて追いかけっこをしてみた。

 「めちゃくちゃ素早くなります」と言われたが、しかし私からすればとても遅い。

 クレマンティーヌは全力で走っていたのだろうが、何度か軽く地面を蹴るとあっさりと追いついてしまった。

 その後もどうにか逃げようとクレマンティーヌはフェイントを交えて前後に動き回るが、しかし私は彼女の動きに併せて0距離を維持し、そのまま乳首とクリ○リスを摘んで優しく愛撫をするとこちらもその場に倒れてしまった。

 

「どっちも微妙だったわね。」

 

「確かに。」

 

 私の発言に周囲のナザリック勢がみんな頷く。

 もちろん、これはこのレミリアボディがチートということもあるのだろう。

 指揮官系はスキルを除いた戦闘能力は基本的に戦士系と同じだ。

 この世界に来てから試してなかったため今までは気づかなかったが、レベル100である私は動体視力や反射神経がとんでもない事になっていた。

 恐らく今の私であれば、自身に降り注ぐ全ての雨粒を乳首で弾きながらコサックダンスを踊ることすら可能なはずだ。それほどのスペックだ。

 

「コキュートス、貴方はどう思う?」

 

 私は何一つ理解出来なかった事を誤魔化すため、ここに来る途中で拾ってきたNPC『コキュートス』に質問を投げかける。

 彼は5階層の守護を命じられたレベル100NPCであり、武器を用いた攻撃はナザリック随一。

 さらに性格は武人系なので何か分かるかなと思って連れてきたのだ。

 

「ハッ、タシカニ多少ハ強クナッテイルヨウデス。シカシ元ガ弱スギルカト。」

 

「やっぱりそう思う? せめてレベル70……いや50ぐらいあればねぇ」

 

 話を聞く限り確かに強化はされているのだろう。

 しかし私には違いが良くわからない。

 例えるなら100ダメージ単位でやり取りしてるところに10ダメージが11ダメージぐらいになる様を見せられた感じだろうか。

 1ダメージ増えてます! なんて言われても、それ誤差じゃね? としか思えないのはしょうがない事だろう。

 

「この2人の戦い方にも問題があると思いますが。」

 

 咲夜の言うことも一理ある。

 この2人はガン待ちのカウンター剣士と速度特化フェンサーだった。

 正当派の剣士に比べてかなり毛色が違うらしく、使える武技は攻撃系のものが少なく他は地味な物ばかりだ。

 

「まぁクレマンティーヌの方は分かるわ。速度は奇襲にも逃亡にも使えるものね。」

 

「でもブレインだっけ? 貴方の『領域』は使ってる間は自分が動けなくなるんでしょ? 魔法とか撃ち込まれたらどうするの?」

 

 大抵のゲームにおいて、足を止めてどっしり構えるのは盾をもったタンク役だ。

 対して武器を両手持ちするクラスというのは大体がアタッカーになる。

 しかし、このブレインは刀を両手持ちしながら動かずにガン待ちするという。

 

 剣士、それも盾を持っていない軽戦士が足を止めてどうするのか?

 普通なら遠距離から魔法と弓を撃ち込まれてゲームオーバーだ。

 だがもしかしたら、そんな常識を覆す武技があるのかもしれない。そしてそういうモノこそ私たちが求めているものだろう。

 しかし、そんな私の気持ちはあっさり裏切られる。

 

「解除して逃げます。」

 

 これである。尋問の資料には『最強を目指している』って書いてあった覚えがあるんですけど。もしかして私と同じエンジョイ勢か?

 

「俺の目標はガゼフ・ストロノーフだ……あっ、です。あいつなら堂々と切り込んで来てくれるはず。」

 

「無理に敬語を使わなくていいわよ。普通にしゃべりなさい。」

 

 慣れてなさそうなので敬語は使わなくていいと告げておく。あとはコキュートスに任せれば勝手に質問してくれるだろう。

 

「フム、少々火力不足ノヨウニ思エルガ、ソコハドウスルノダ?」

 

「ガゼフの首さえ落とせればいい。そのための神閃だ。」

 

「四光連斬トイウモノヲ使ワナイノハナゼダ?」

 

「ガゼフのオリジナルだから覚えただけだ。アイツに勝つまでそれは封印することに決めた。」

 

 なんだこいつ?

 つまりガゼフが切り込んできてくれると信じての<領域>であり、

 ガゼフの首を取るための<神閃>であり、

 ガゼフの武技だから<四光連斬>を覚えたのか……これはちょっとアレじゃね??

 

「ブレちゃん、ガゼフ・ストロノーフ好き過ぎでしょ。ぶっちゃけキモいわー。」

 

 私があえて言わなかったことをクレマンティーヌがぶっちゃける。

 だが私も同意見だ。こいつガゼフに人生賭けすぎだろう。恋する乙女かな?

 

 これがもしギャルゲであればガゼフは間違いなく女だろう。

 イメージは美しいポニーテールの天才剣士。一目惚れした主人公に「私に勝てたら結婚してあげるわよ!」なんて勇ましい発言をすることでストーリーが始まるのだ。

 その後、主人公は騎士団に入って様々なイベントをこなしながら腕を磨き、最後はガゼフに勝って団長の座を受け継ぎ2人は幸せなキスをしてハッピーエンドだ。

 

「つまりガゼフは美少女剣士だった?」

 

「いえ、違います。報告書によれば40代前後の男とのことです。」

 

 私の発言に咲夜が容赦なく突っ込みを入れる。

 そう、残念ながらココは現実。モモンガから聞いた話でもガゼフは暑苦しいおっさんだったはずで、そんなのに人生賭けてます! なんて言われてもキモいだけである。

 

「一人ノ男ニ勝ツタメ全テヲ賭ケテイルノカ。ソレハスバラシイ。」

 

 だがコキュートスはその生き方に感じるものがあったのか称賛を送っている。

 うーむ、しかしそういう物なのだろうか。当たり前だが女の私にはそういう男の考えは理解できない。ふレんズとおホモ達は近いようでものすごく遠い世界なのだ。

 

 更にそのままさり気なくコキュートスの様子を窺えば、こちらも2人の衣服を気にする様子は全く無かった。しかしよくよく考えてみればコキュートスの鎧は外皮鎧。それはぶっちゃけるとただの分厚い皮な訳で、つまり彼もまた全裸ということ。

 それもこの2人と違い、どんな場所でも常に全裸という全裸のベテラン。気にしろという方が無理だった。

 

 私は6階層の空――ギルメンだったブルー・プラネットが作った偽物、を見上げつつ思う。

 恐怖公の部屋へ出向いて怖い思いをして2人を連れてきた、しかし結果は全裸ユーザーが3人に増えただけで収穫は0だ。つまり。

 

「完全に無駄だったわね。2人を部屋に戻しましょう。」 

 

 私は後ろで上がった悲鳴を聞きながらそのまま空を見続けた。

 

 

 

 

 

 

■■■■■■

 

 

 

 

 

 

 私はガタガタ震える2人を無視して考える。

 あの後、なぜ全裸なのか聞いてみたら「体に何かが触れているとアレが全身を這い回っている感じを思い出すから。」ということだった。ああ、そりゃ服とか着れないわ。ていうかこれはもう一生全裸じゃね? やったねコキュートス! 仲間が増えるよ!!

 

 それからとりあえず武技は私たちには使えそうにないことが分かった。

 ただし現地人は低レベルなようなので今の所はあまり気にする必要はないだろう。

 それより重要なのは自身の戦闘力の確認だ。

 

 武技を試させた最中に気づいたスペックを考えれば、恐らく攻撃力なんかも同じくやばいことになってるはずで、そうするとナザリックの中では試しづらい。もし何かを壊してしまうと修復に金貨が掛かるからだ。ならば外でということになるが、できれば見られたくないので誰も居ない所を探す必要がある。

 

「出来れば人の居ない山奥なんかがいいのだけどね。」

 

 レミリアをロールしていた私のメイン武器はもちろん槍だ。それも持って戦うのではなくぶん投げるタイプの、いわば投擲兵スタイルである。

 ユグドラシルでは無理せず狙えるのは100mぐらいが限界で、届くのは最大でも500mぐらいまでだった。しかしコチラの世界ではどこまで飛んでいくのか見当が付かない。だからその辺を調べるためにもある程度は広さも必要だ。それからもう一つ。

 

「出来ればこの子(・・・)も連れて行きたいところね。」

 

「コノ子? ソレハモシヤ、レミリア様ガ使役サレテイル、モンスターノ事デショウカ?」

 

 私が湖の底を見ながら(・・・・・・・・)呟いた独り言にコキュートスが食いつく。でもこっちは気にせず全裸講談してていいのよ?

 

「そう言えば貴方は見たことが無かったかしら?」

 

「ハイ。私ハ自身ノ階層ヨリ下ニ行ッタコトハ有リマセンデシタノデ。」

 

 なるほど。そういえばコキュートスはずっと5階層に配置されていたんだっけ? ならば6階層に置いてあった私のペットを見たことが無いのも道理だろう。

 

 ユグドラシルにはモンスターを連れ歩くことが可能になるクラスがあった。

 代表的なものはアウラのテイマー、マーレのドルイド。若干変則的なところでは自身が乗る乗騎モンスターを呼び出す聖騎士や闇騎士だ。そして私の指揮官系もその内の1つ。

 

「それなら丁度いい機会だから紹介しておくわ。――出てきなさい! メイリン!!」

 

「おおおおおおおおん!!!」

 

 私が呼びかけた瞬間、雄叫びとともに湖から巨大な何かが湧き上がってくる。

 大きな水柱を上げ、咆哮と共に飛び出してきたのは体の長い龍。

 それも全長40mはあろうかという巨大なドラゴンだ。

 

 あまりにも巨体だったため巻き上げられた水が雨のように降り注ぎ、短い滝のような勢いであたり一面をずぶ濡れにしていく。

 しかし私が濡れることはない。こうなることを察知した咲夜が何時の間にか傘をさしてくれていたためだ。

 

「オオ! コレガ、レミリア様ノ……」

 

 コキュートスが驚愕とともに龍を見上げる。

 

 それは蛇のような細長い体に黒い鱗と赤い光のような模様があった。

 背中には短いヒレのような翼が1対有り、四肢は3本指の両手だけで足はない。

 額からは2本の角が後方へ伸び、口の横からは尖った顎が前方へと飛び出している。

 さらに体中から紐のように後ろへ伸びている赤い光。

 

 その姿はユグドラシルのスレにおいて『赤びかりの黒メガレッ○ウザじゃねーか! 任○堂とゲー○リ来ちゃう!!』『もう著作権切れてるよw』『馬鹿野郎、切れてても奴らは来るぞ!!!』等の議論を巻き起こした事がある。

 

 これが私のペットである『メイリン』。

 『黒天龍(ブラック・シェン・ドラゴン)』と呼ばれる龍であり、主に霧と酸を操る力を持つ特殊なドラゴンだ。

 使役モンスターの枠を2体分使うがそれだけに強力で、そのレベルは元々90を超え、さらに私のクラススキルでレベル100相当まで強化されている。

 ちなみに名前は原作東方Projectでレミリアの館の門番だった紅美鈴(ホン・メイリン)から取った。

 

「スバラシイ。流石レミリア様。コレホドノモンスターヲ使役ナサルトハ。」

 

「フフ、もっと褒めていいのよ?」

 

 私はコキュートスの称賛を聞いて体の一部が熱くなるのを感じた。

 それはこの子を使うための超レアアイテムを当てるために回した課金ガチャ、そしてそのせいでリアルのデート代が足りなくなりブチギレた女生徒から刺された部分だ。

 

(確か最初に刺されたのは左肩だったっけ? それから右脇腹と左太モモ……相手が刃物を扱ったことがないお嬢様だったからギリギリ急所は外れて助かった……いやぁ懐かしいわね。)

 

 そのカッコよさに一目見惚れした私は夢中で回したので一体いくら使ったのか覚えていない。

 だが上級市民(ガチ)だった私が一時的に金欠になった事からやばい額が注ぎ込まれたはずで、そういう意味でも私にとってはとても思い出深い存在である。

 

「久しぶりね、メイリン。」

 

 私の呼びかけ対してメイリンは「ぐるるぅ!!」と鳴きながらゆっくり頭を擦り付けてくる。

 くぅ~、カッコかわいいいい!!!

 ユグドラシルでもカッコよかったが、こうして現実になると一層カッコよくなって見える。何より大きさからくる迫力が最高だ。

 本来なら全長20mのところを課金指輪によって2倍の大きさにしたかいがあったというもの。

 

 さらにさり気なく周囲を窺えば、メイリンを見たブレインとクレマンティーヌは顎が外れるほど大きく口を開いてびっくりしている。

 

「フフ、私のメイリンに驚いたようね。」

 

 そうそう、それだよ! その反応が見たかった(愉悦)。

 2人の反応に私は深い満足感を得る。

 

 実は私がメイリンに装備させているこの指輪は純粋に大きくなるだけで能力値は変わらない。

 つまり装備箇所を1箇所潰して被弾面積が大きくなるだけという、実質弱体化するだけの、ほとんど使ってる者がいなかったゴミ指輪だ。

 しかし私はユグドラシルの時からずっとこの指輪を装備させたままにしてきた。なぜなら大きなモンスターはカッコイイからだ! そしてそれがこの世界に来てついに証明されたのだ!! ブラボー!!! やはり私は間違っていなかった!!!!(確信)。

 

「今度ゆっくりと外の空を飛びましょうね。」

 

 私の声にメイリンはぐるるるる~♪と嬉しそうに返事をする。

 街の上とか飛ばせても平気かな? とりあえず今度一緒にどこか遊びに行ってみよう。この子ともう一度帝国に行くのも面白そうだ。

 

 それからペットを自慢できて満足した私は休憩を兼ねて食事にすることにした。

 せっかく流れ星の指輪(シューティングスター)の力で食事が出来るようになったのだ、ならばしっかり食べないと損だろう。

 

「ご注文の料理をお持ちしました、ワン。」

 

「ありがとうペス。」

 

 運ばれてきたエンシェント・フロスト・ドラゴンのステーキは超が3つ付くほど美味しく、私は夢中になって食べ続けた。

 

 ちなみに捕虜の2人は私が視線を向ける度に「ひぃいい!!!」と叫んでガタガタ震えていたが、しかし私のステーキが運ばれてくると涎を垂らしながら見つめ続け、しょうがなく2人の分も用意してやると何も言わずに無心で食いだした。

 ちょっとサービスしすぎかと思ったが、しかし武技について得るものがないと分かった以上、恐らくこれがシャバでの最後の食事だ。だからまぁ、ゆっくり味わって食え。

 

 そんな感じで私たちはダラダラしていたが、しかしささやかな休憩は長く続かなかった。

 その原因は急に届いたアルベドからの<伝言(メッセージ)>。その内容が余りにもびっくりだったからだ。

 

『――レミリア様。アウラが離反しました。』

 

 ……はっ?

 

『森の中央の湖で休憩してから帰るとのことだったのですが連絡が取れません。マスターコンソールの表示も白い文字から黒へと変わっております。……つまり離反と考えて間違いないかと。』

 

 私は言われた内容が全く理解できず。しばらく経ってからようやく声を出した。

 

「はぁああああ!!?」

 




@次回予告
モモンガ「おい、ここの責任者を出せ。おう、あくすんだよ。」
ザリュース「えっ、いやあの……」

平穏に暮らしてたトカゲ村に突如ガチ切れしたナザリック勢が現れる。
それは黒い巨龍に乗った漆黒の後光を輝かせる死の神に率いられた神話の軍団だった。
果たしてトカゲたちは生き残れるのか?

やめて! ナザリックの総軍(ガチ)で襲われたらトカゲの村が燃え尽きちゃう!
お願い、死なないでザリュース! 貴方が倒れたら一部ファンに大好評のトカゲックスはどうなっちゃうの?

次回、「トカゲ絶滅」。デュエルスタンバイ!


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9本目:ぶっかけ

ちょっと遅れましたが9話目です。
感想、誤字脱字の指摘ありがとうございます!


 ――どうしてこんな事になったのだろう?

 

 ナザリック地下大墳墓の西に広がるトブの大森林。

 その中央には北のアゼルリシア大山脈から流れ込む水により作られる湖がある。

 横長の楕円を上下に二つくっつけた瓢箪のような形の、20km四方にも及ぶ巨大な湖だ。

 

 そんな湖の近くに棲むリザードマンの一人、ザリュース・シャシャ。

 彼はリザードマン屈指の雄であり、また村を出て世界を見聞してきた経験を持つ賢者でもある。

 

 しかし今は地面に両膝を突き顔を伏せたまま必死に震える体を抑えていた。

 その有様は少しでもアレら(・・・)の気を引いてしまえば自分の命は無いという、そんな心の内を物語っているようだった。

 

 ザリュースは伏せたままチラリと前方を窺う。

 数十mも離れた場所を見れば、そこには今の状況を作り出した元凶たちの集団があった。

 

 まずはもっとも高い立場にいると思われるのが中央の3人。

 死の支配者を思わせるスケルトン、蝙蝠のような羽を生やした女性、そして黒いスライム。

 そのすぐ側にはお付きなのか4人の女性がいる。黒い鎧と赤い鎧の女性、銀髪と金髪のメイド。

 

 そこから少し離れた所に黒くすらりとした服をきた老人がおり、横に4本の手に武器を持った武人のような蟲人、杖を持ったダークエルフ、羽の生えた赤子が並んでいる。

 

 さらに上空には村にやってきた黒いドラゴン。

 他にも周囲を見渡せば、胸から赤い光が漏れているゴーレム、真っ赤に燃える巨大スライム、森の木々より高い蜘蛛、万を超えるゴキブリの塊、などがいる。

 

 一体で世界を滅ぼせそうなモンスターが勢揃いしている様は、まるで世界に終わりを告げる魔王軍のようだった。

 

 オマケにそんな死の支配者の軍勢と対峙しているもう一つの軍勢がある。

 

 それはダークエルフの子供を中心とした魔獣達の群れ。

 恐らく100匹はいるだろう。こちらも一匹一匹が有り得ないほどの強さを匂わせている。

 

 ザリュースは震えながら必死に頭を働かせる。

 それはここに来てから何度も繰り返し考えたことだ。

 

 ――どうしてこんな事になった? 自分たちが何か悪いことでもしたのだろうか? と。

 

 

 

 ことの始まりは数時間前。

 一体の黒いドラゴンが自分たちの村へ突然やってきたことだ。

 そのドラゴンは全長が40mはあろうかというほどの巨大さだった。

 外で得た知識によればドラゴンは年を重ね体が大きくなるほど強くなっていくという。

 ならばこのドラゴンはどれだけ強さを持つのか。間違いなく名のある竜王に違いない。

 

 ドラゴンはゆっくりと村へ降り立ち、リザードマン達は恐怖で身をすくませた。

 一瞬、食われるのか!? と思ったが、予想に反してそんな事はなかった。

 代わりにその頭上に乗っていた背中から蝙蝠のような羽を生やした者は

 

『ここの責任者を出しなさい。早く。……いややっぱり湖の東側の中間地点まで来なさい。遅れたら全員エサにするから。』

 

 と言うとあっさり去っていった。

 

「どうする兄者?」

 

「どうもこうも、行くしかあるまい。」

 

 当然、ドラゴンに乗る存在の言葉を無視出来るはずがない。

 そのため村の者達を避難させつつ、族長である兄と自分の2人が指定された地点へ駆けつけた。

 

 しかしそこで見たのはさらなる絶望。

 化け物の中の化け物と思われる者達の集まりだ。

 さらにその化け物たちの前に連れて行かれ……

 

「ア、ア、ァ、ァ、ァ……。」

 

 その時のことを思い出すだけでガクガクと体が震え呼吸が荒くなる。

 ここには自分以外にも同じように集められたリザードマン5部族の族長がいる。

 彼らは部族のトップを務めるだけあって自分から見てもかなりの猛者だ。

 しかしこの場でそんな事は全く意味をなさない。恐らくあの黒いドラゴンが軽くくしゃみをしただけで自分たちの命は鼻水のように吹き飛ぶだろうから。

 

「ザリュース、しっかりしろ。ゆっくり深呼吸するんだ。ゆっくりだぞ。」

 

 声をかけてくれたのは兄であるシャースーリュー・シャシャだ。

 声に従い何度か深呼吸を繰り返す。すると若干であるが恐怖が薄れたような気がした。

 

「すまない、兄者。」

 

 こんな状況でも他者を心配できるなんて流石は兄だ。

 しかしよく見れば兄も体が時折ビクビクしてるので、やはり怖いものは怖いのだろう。

 

 幸いにして今のところは幾つか質問をされただけですんでいる。

 しかしこれからどうなるかは分からない。

 

「兄者はどうなると思う?」

 

「もはや俺たちではどうにもならん。……託すしかあるまい。」

 

 兄の言葉に周囲の族長たち全員が頷く。

 確かに自分たちが出来ることはなにもないだろう。

 しかしまだ希望は残されている。

 

 そう、あの大魔獣なら!

 瞳に深い叡智を宿したあの大魔獣ならきっと! きっとなんとかしてくれる!!

 

 ザリュースは死の支配者の前にいる一体の魔獣へ視線を向ける。

 そこにはリザードマンの最後の希望があった。

 それは白銀の体毛に蛇のような尾を持つ魔獣――森の賢王(自称)。

 

 当初、森の賢王は魔獣の群れの中に居た。それも縄でぐるぐる巻きにされて。

 恐らく捕まっていたのだろう。しかしそのままゴロゴロと群れから転がり出ると、自らを『森の賢王』だと名乗り死の王へ話しかけ、ここで起こったことを話せると言ったのだ。

 

 今までの出来事の流れを考えれば、こうして自分たちが集められたのは恐らくあの魔獣の群れについて情報を集めるため。ならばそれさえ達成されれば自分たちも解放されるのではないか? というのがここにいるリザードマン6人の思い――希望だ。

 

「上手く話がまとまってくれると良いが……」

 

「全くだ。もしかしたら信仰先が変わるかもしれんな。」

 

 リザードマンが信仰するのは基本的に祖霊だ。

 しかしこの場をうまく収めてくれたのなら、今後はあの森の賢王が神として語り継がれることになるだろう。

 

 兄の言葉を聞きつつ、こっそりと知覚強化の武技を発動させる。

 それから耳をすまし、風にのってやってくる音へ意識を集中させた。

 

『白い服から光の龍が飛び出したって、もしかして傾城傾国じゃないですか? 効果がエグすぎて使われた相手がWikiに情報載せたワールド・アイテムですよ。』

 

『ああ、完全耐性ぶち抜いて支配出来るやつね! しかも制限時間無しで。ペロロンチーノがものすごく欲しがってたアイテムじゃない(エロポーズの撮影的な意味で。』

 

『はぁ!? ワールド・アイテムって嘘でしょう!!? おい、どうしてもっと早く言わないんだ!! もう指輪使っちゃったじゃねーか!!!』

 

『ご、ごめんなさいでござる~。申し訳ないでござるよ……。』

 

『あぁ~、俺のボーナスが……。』

 

『モモンガのチンチンパワーアップが1回分無くなっちゃったわね。』

 

『モモンガさん、逆に考えるんです。チンチンの可能性をアウラにぶっかけたのだと。』

 

『逆ってなにが!? ていうか俺の流れ星の指輪(シューティングスター)はチンチンの為に残してる訳じゃないですよ!!?』

 

『『えっ』』

 

 ここからは距離があるせいで一部しか聞き取れない。

 それでも何とか推理すれば、恐らくはチンチンと指輪で対峙している魔獣の群れをどうにかするつもりなのだろう。

 

 正直かなり意味不明だ。だがそれはきっと俺がただのリザードマンだからだ。

 視線の先にはアレだけの超越者達が揃っている。ならばそのチンチンと指輪だって並ではないはずだ。チンチンに付けることで指輪の力を解放するのか、もしくは逆か……

 

「可能性のチンチン・オブ・リング、か。それにしても……」

 

「ザリュース!?」

 

 兄が何言ってんだコイツ? という顔でこっちを見てくる。

 しかし今は少しでも向こうの会話を聞き取ることが優先だ。

 

「兄者、出来れば静かにしてくれ。どうやら死の支配者のチンチンが重要な鍵のようだ。」

 

「「「「「!!?」」」」」

 

 俺は驚く族長たちを無視しさらに耳へと意識を集中させた。

 

『ひぃっ、ソレガシは食べても美味しくないでござるよ!!』

 

『あぁん!? お前を食ったら俺のムラムラが収まるのか!!? チンチンオフにしてもこれだけ何故か沈静化されないんだぞ!!!』 

 

『うーん、ここは剥製にしてオナホとして使うのはどうでしょう?』

 

『え~、ここまで大きいとどの穴もガバガバじゃない? それより皮だけ剥いで飾りにした方がいいと思うわ。貴方はどっちがいい?』

 

『どっちも嫌でござるぅううう~~~!!!』

 

 

「……ダメそうだな。」

 

 どうやら森の賢王はすでに死の支配者たちを不愉快にさせてしまったようだった。

 最後の希望は絶望へと変わったと言うことだ。おわった……。

 

「兄者、もし生き残れたら嫁になってくれる相手を探そうと思う。」

 

「……そうか。いやそうしろ。」

 

 これまで兄には『俺は結婚なんて出来ないさ』と言い続けてきた。

 しかし実は興味があったのだ。今まではそんなふうに思える相手が居なかったが、怪我の功名なのかこうしてこの場に来たことでその相手に巡り会えた。

 

 兄とは別のリザードマンに視線を移す。

 そこに居るのはリザードマンの中でも珍しい白い鱗を持つもの。

 自分とは違う部族の族長代理であるクルシュ・ルールーだ。

 その色はここから見える山脈にかかる雪のようでとても美しい。

 

「という訳でクルシュ、結婚してくれ。」

 

「はぁっ!?」

 

 クルシュが有り得ないというような顔でコチラを見てくる。

 たしかにこんな状況で告白されても迷惑だろう。しかし生きて帰れるかどうか分からないのだ。だからここは自分の心を素直に伝えることにした。

 

「生存本能が刺激されているからだろうか? 実は一目見た時からチンチンがムズムズしてたまらないんだ。」

 

「お 前 は 何 を 言 っ て い る ん だ。」

 

 兄がものすごく驚いた顔で突っ込みを入れてくる。

 たしかに自分はこんな事を言うキャラでは無かったような気がする。恐らく恐怖によって頭がおかしくなっているのだろう。あと死の支配者たちが今だにチンチンチンチン言ってるせいだ。

 

「駄目か?」

 

 気にせずクルシュへと顔を向ける。

 よく見れば瞳からは驚きの色が薄れ、代わりに軽蔑の色が強くなっている。

 

「――最低。」

 

 しかし不思議なことにそんな瞳で見られると、自分の心臓の鼓動はさらに早くなっていった。

 

 

 

 

 

 

■■■■■■

 

 

 

 

 

 

 

「マジなのね……」

 

 アルベドから連絡をもらった私は咲夜を伴いすぐに玉座の間へ向かった。

 すでに主要なNPCたちは勢揃いしており、今回の件について改めて詳しい話を聞かされた。

 

 個人的には絶対に有り得ないと思ったが、しかしマスターコンソール(ギルドの管理ツール)の画面を見てみると、確かにアウラの名前の表示だけが黒色(敵対)へと変わっていたので信じざるを得ない。

 

「とりあえずアウラの居場所を見つけましょう。」

 

 それから私たちはモモンガに指示にそって占術を使いアウラの位置を特定。

 その場にいた全員で発見された場所へ向かった。しかし見つかったアウラは目に光がない。

 まるで催眠系エロゲでやられる寸前の女の子みたいな感じであり、周囲にいた魔獣達も今の状況に戸惑っているようだった。

 

 そこで手っ取り早く状態異常を解除するためモモンガが流れ星の指輪(シューティングスター)を使うも結果は空振り。

 私たちはようやくワールド・アイテムが使われた可能性に気づき、一旦ナザリックに戻って装備を変更。

 さらに湖の周囲にいたリザードマン等から情報を収集し、魔獣対策として出来る限りの戦力を率いて再びアウラと対峙するに至る。

 

「さて、問題はここからね。」

 

「そうですね。どうにかしてアウラを助けないと。こんな時にデミウルゴスが居ないのは痛いな。」

 

 今回、ここにデミウルゴスは来ていない。

 この状況で最も頼りになるであろう彼は、アウラの離反が判明すると『責任は全て指示を出した自分にある』と言って自害しようとしたのだ。

 

 個人的にこの状態は私たち3人にも完全に想定外なので責任なんて取らなくて良いと思ったが、しかし私にはどうすることも出来なかった。

 

 だって本を正せば運命がどうのと適当なこと言った私が原因だし……

 

 その時、私に出来たのは存在感を薄くして気付かれないように黙っていることぐらいだった。

 えっ、代わりに責任取ってくれるの!? 神か!! なんてこっそり思ってたのは内緒である。

 

 という訳でデミウルゴスは取らなくても良い責任を取ってナザリックで謹慎中だ。ちなみに監視はパンドラ。あのハニワと二人っきりとか、もうそれが罰ってことで良いんじゃないかな?

 

「はぁ~、なんとも困ったことになりましたね~。チラッ」

 

 そう言いつつもヘロヘロがチラチラとコチラを見てくる。その顔からは『モモンガさんに言っちゃおうかな?』という思いが見て取れる。おい馬鹿止めろ。責任を蒸し返すな。マジやめて!!

 

「それにしても、どうしてアウラ様はその傾城傾国の射程に入ったのでしょうか? そこのハムスターの話では多種多様な格好をした変な集団が近づいてきた、とのことでしたが。」

 

 ソリュシャンが疑問を投げかける。

 確かに言われてみればそうだ。アウラはレンジャーのクラスも収めている。その感知能力はナザリックの誰よりも高い。さらに性格も慎重である。

 本来なら1km先からでも気配を察知し、少しでも相手が強そうなら距離を取って情報収集へと切り替えたはずだ。

 

「それは恐らく勘違いしてしまったのではないかしら。」

 

「ふむ、どういうことだアルベド?」

 

 アルベドの発言にモモンガが先を促す。

 

「先日回ってきた報告書には『森に魔樹が封印されている』という記載がございました。さらに『封印を行った者たちはいずれ戻ってくると言っていた』ともありましたので。」

 

「封印を行った者……13英雄だったか? ではアウラはそれと誤解して近づいてしまったと?」

 

「はい。魔樹の情報収集は最優先になっていたようでございます。ただ途中で気づいて反撃したのでございましょう。」

 

「ふむ、命令が下される前に使用者を行動不能にした。だから今のような状況――その場に立ったまま、になっているということか。」

 

 なるほど。つまりそいつらは話を聞こうとした優しいアウラに、卑怯にも不意打ちで傾城傾国をぶっぱしたという訳ね? おのれ! どこのどいつだか知らんが絶対にゆるさんんん!!!

 

 アルベドの話が終わると心もち周囲の温度が10度ぐらいぐぐっと下がった。

 恐らくナザリックの者たちがみんなキレそうになったせいだろう。

 後ろの方からは噛み殺したような震え声とガチガチガチガチと歯を鳴らしているような音が聞こえてくる。

 

「それでどうしますモモンガさん? やはり予定通りですか?」

 

「それしか無いでしょうね。」

 

 モモンガが忌々しそうな声でヘロヘロに同意する。

 恐らく顔に肉があれば苦虫を噛み潰したような表情になっていることだろう。

 というのも支配から解放するためにはアウラを殺さなければいけないからだ。

 

 アウラ――正式名、アウラ・ベラ・フィオーラ。

 ナザリックに4人しか居なかった女性プレイヤーの一人、ぶくぶく茶釜が作った少女型のNPCであり、その種族はダークエルフ。

 古今東西の創作物におけるオークが竿役としてのレジェンド種族なら、ダークエルフはエッチなお姉さんとしての殿堂入り種族だ。

 

 今はスラリとした体躯でボーイッシュな見た目だが、きっと将来はムチムチバインバインになってビキニアーマーみたいな装備でイケイケになるに決まっている。

 さらにギルドでも数少ないリアル女同士ということもあって私はぶくぶく茶釜とはかなり仲が良かった。そのため友人の子供としても私の将来のハーレム要員としても今回の作戦は失敗など許されない。

 

「それで準備は終わったの?」

 

「自己バフは掛け終わりました。」

 

 実は今回の件で問題なのはアウラ本人ではなく周囲の魔獣達だ。

 ユグドラシルでは先にテイマーが殺された場合、使役されていたモンスターは最後の命令に従って動き続けた。しかしコチラの世界ではどうなるか分からない。

 もし暴れだしたら戦わざるを得ないが、しかし殺してしまった場合は別の問題が発生する。

 

 テイムしたモンスターはレベルダウンの代わりに能力値ペナルティを受けることで蘇生魔法などで蘇生できる。だが100匹分になると結構なリソース――アイテムもしくは蘇生魔法の費用、が必要になるわけで。

 ならば出来るだけ殺さずに弱らせて捕獲しようというのが今回の肝である。

 

「ではそろそろ始めようと思います。山河社稷図の準備は?」

 

「バッチリですよ~。」

 

 ヘロヘロが手に持っていた大きな巻物のようなアイテムをぶんぶん振る。

 

 山河社稷図(さんがしゃしょくず)

 それは私たちが集めたワールド・アイテムの一つ。

 その効果は対象を巻物の中に隔離すること。今回の場合は魔獣達を逃さないために使う。

 ただし効果がめちゃくちゃ広いので恐らく湖とその周辺まで丸ごと隔離されるだろう。

 

「……行きます!」

 

「そっちは任せたわね。“戦場の魔法(オーダー・オブ・バトル・マジック)”。」

 

 私のバフを受けたモモンガは気合を入れる為なのか両手で顔を叩き、ついで魔法を行使する。

 するとアウラの姿だけがその場から消えていった。

 複数の方法で強化され、抵抗を突破したモモンガの魔法により強制的に転移されたのだ。

 

「ではこっちはお願いします。<上位転移(グレーター・テレポーテーション)>。」

 

 続いてモモンガ、アルベド、シャルティアの姿が消える。

 予定通りならナザリックの地表部分へ転移が行われたはずで、そこでアウラと戦闘が始まるだろう。

 

「さーて、こっちはどうかしらね?」

 

「これは……駄目そうですね。」

 

 モモンガを見送った私は魔獣の群れへと視線を向ける。

 そこには主が攫われた事で戦闘状態に入った魔獣達の姿があった。

 

「全く、大人しくしててくれればいいのに。」

 

 そう言いつつ私は左手(・・)に持った真っ赤な槍『スピア・ザ・グングニルMkⅦ』の効果を発動させる。すると何も持っていなかった右手(・・)に赤い光で出来た同じような槍が出現した。

 

 これが私のメイン武器の能力。

 その効果は『同じ性能の武器をもう一つ作り出す』こと。

 こんな事をする用途はもちろんレミリアロールの一環としてぶん投げるためだ。

 ユグドラシルではモンクなど一部クラスは投げられた物をキャッチ出来た。

 なので投擲にはこういった工夫が必要なのである。

 

「間違えて左手の方を投げないでくださいよ? ユグドラシルのいつかの時みたいに武器が無くなって戦力外とかマズイですからね?」

 

「わ、分かってるわよ。流石にもう間違えないわ。」

 

 実際、Ⅰ~Ⅵまでのグングニルは実物の方を投げてしまい、そのままパクられて紛失している。

 

「だといいですけど。じゃあ山河社稷図を使いますね。」

 

 そう言ってヘロヘロが山河社稷図の効果を発動させる。

 すると周囲の全てが巻物の中へと吸い込まれた。

 もちろん私たちも対象な訳だが、しかしその中の風景は前にいた場所と全く同じ。

 これはこのアイテムが周囲の地形ごと取り込んだ為だ。

 

 するとそれが合図になったのか、魔獣たちは主の元へ帰せと言わんばかりに襲いかかってきた。

 しかし恐れることはない。アウラのスキル範囲から出た魔獣たちはせいぜいレベル70程度の力しか無いのだ。たいしてコチラはレベル80を超えるシモベが何十体もいる。

 

 あとよく見れば後ろに居たリザードマンたちも巻き込まれているがこれはしょうがない。

 元よりこのアイテムは一部だけ効果から除外するなんて器用な使い方は出来ないのだ。

 まっ、放っておけば魔獣たちの餌ぐらいにはなるだろう。ちょっとでも隙ができれば御の字だ。別に守ってやる義理も無いし。

 

「やるわよ。」

 

「「「「はっ!」」」」

 

 コキュートスが全ての手に持った武器を構える。

 咲夜がマジカル☆さくやちゃんスターを展開し、マーレとセバスも戦闘態勢に入った。

 後ろにいたメイリン(黒龍)がブレスを吐かんと大きく息を吸い、他の者もそれぞれ必殺の構えを取る。

 

「いくぞぉおおお!!!」

 

「「「「うぉおおおおおお!!!!」」」」

 

 私は叫び声をあげながらスキルを初動させる。ここで出し惜しみする意味はない。

 周囲の味方がまとめて強化され、指定した1人(コキュートス)の物理ダメージと命中が超パワーアップされる。

 さらに前へ軽くステップを踏ながら自己強化スキルをありったけ使うと、それから先頭を駆けてくる魔獣へ向け、強化した左手(・・)の武器を渾身の力で投擲した。

 

 

「……あっ。」

 

 

 

 だ れ か ひ ろ っ て き て 。

 

 

 

 

 

■■■■■■

 

 

 

 

 

「えぇ~……」

 

 アウラを追って転移したモモンガは目の前の光景に困惑していた。

 魔獣をヘロヘロたちに任せナザリック地表部へ。

 しかしその先で繰り広げられた戦闘は彼にとって余りにも衝撃だった。

 

「シャルティア! そっちに行ったわよ!!」

 

「任せるでありんすぅー!!」

 

 それは黒と赤のフルプレートメイルが、幼い子どもを二人がかりでボコボコにしている光景だ。

 

「ああもう! うっとおしいなぁ!!」

 

 アウラは泣き言を言いながらも鞭を振るう。

 

「……ふんっ!」

 

 しかしそれはアルベドというナザリック最高の盾にあっさりと阻まれる。

 

「今でありんす!!」

 

 そこにシャルティが魔法を撃ちながら突っ込み、容赦なくスポイトランスを振り回す。

 

「くうううぅっ、シャルティアのくせにぃ!!」

 

 ビーストテイマー兼レンジャーであるアウラが魔獣を奪われ距離を詰められているのだ。

 もはやこのまま見ているだけで決着がつきそうだった。

 

(ここに転移する前の俺の葛藤はなんだったんだ? 強制的に転移させるだけでも罪悪感がすごかったのに。)

 

 なのにアルベドとシャルティアの2人にはそんな葛藤がまったく見当たらない。

 

(もしかして女ってみんなこうなの? それともこの2人だけなのか??)

 

 実際は敬愛する主であり旦那(予定)であるモモンガの気苦労を少しでも減らそうと2人は頑張っているだけなのだが、しかし数日前に童貞を捨てたばかりのモモンガはその事に気づくことが出来なかった。

 

(もうこれ俺の魔法とかいらないよね? あっ、気が抜けたらちょっとムラムラしてきた。)

 

 モモンガがそんな場違いなことを考えている間もアウラのHPはもりもり減っていく。

 シャルティアは自分の分身を生み出す死せる勇者の魂(エインヘリヤル)をすでに使用済みであり、アルベドも騎獣召喚によりレベル100相当に強化された双角獣(バイコーン)を召喚済み。つまり実質4対1だ。

 

(ていうか何なの? どうしてそんな遠慮なくボコボコに出来るの?)

 

 モモンガは2人の余りにも容赦のない猛攻にドン引きである。

 このままならあと数分もすれば戦いは終わるだろう。

 一応、何かの為にこうして控えているが、恐らくもう玉座の間へ向かっても問題ない気がする。

 

(しかも2人とも普段は喧嘩腰なのにめっちゃ息あってるし。……女ってこわっ!)

 

 モモンガは思った。今後この2人を怒らせるのは絶対に止めようと。

 

 

 

 

 それから数分後。

 特に何事もなく戦いは終わり、アウラはHPが0になると装備を残して消えていった。

 しかし金貨(5億枚)を支払うことで無事に復活。

 

(復活したアウラが生まれた時の姿(ぜんら)だったのはびっくりしたな。思わずチンチンが飛び出そうになったし……。)

 

「モモンガさま?」

 

「すまないアウラ。聞きたいことはたくさんあるだろうが、しかし今はお前の魔獣達を迎えに行ってくれないか?」

 

「……えっと、はい分かりました。モモンガ様がそういうのでしたら。」

 

(いやほんとごめん。一回抜いたら俺もすぐ追うから。)

 

 そして魔獣たちは戻ってきたアウラによって再びテイムされた。

 こうして一連その騒動は一旦終了し、ナザリックには元の平穏が戻ったのだった。

 なお、アウラは自分を助けるために貴重な指輪を使ったと聞き、そのままモモンガハーレムに入った模様。




@オマケ・アウラが支配された時のやり取り(森の賢王訳)
隊長 「この魔獣たちは全部君の?」
アウラ「そうだよ!」

隊長 「君が一人で支配してるの?」
アウラ「そうだよ!!」

隊長 「君の言うことは絶対に聞く?」
アウラ「そうだよ!!!」

隊長 「よし使えッ!」
アウラ「えっ!!?」
老婆 「きぇえええ!!!」

やったね隊長! 漆黒聖典はみんなナザリックの絶対ぶっ殺すリストに乗ったよ!!

それからザリュースは恐怖で一時的におかしくなっただけです。
あとリザードマン6人+賢王はみんな死にました(蘇生済み)


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10本目:ヌく

遅くなりましたが10話目です。よろしくお願いします!!


 その日は雲一つ無い晴天だった。

 真上へ昇った太陽から暖かな光が降り注ぐ。

 心地よい気温となった空は鳥たちが飛び周り、草木は嬉しそうに揺れている。

 

「はぁ~~~。疲れた……」

 

 吹いている風が火照った肌を優しく撫でる。

 カルネ村に済む農民の1人、エンリ・エモット。

 彼女は外が見える村の最外周で、横にした丸太に腰掛けていた。

 その顔は心底疲れたという表情をしている。

 

「お疲れ様です姐さん!」

 

「あっ、ジュゲムさん達。」

 

 そんなエンリに話しかけたのは5人からなる緑の小人達の集団だ。

 それはゴブリンと呼ばれる亜人。ただし一般的なゴブリンとは違う。

 肉体は鍛え上げられた屈強な筋肉に覆われており、装備は鉄で出来たブレストプレート。

 さらにどこから持ってきたのか、全員が顔に黒い色眼鏡のような物をかけている。

 

「こっちの作業は終わったんですが……。いや、ほんと疲れてるみたいですね。」

 

「だってモモンガ様がせっかくまた来てくださったのに、村のみんなが対応を私に押し付けたんですよ? ひどくないですか?」

 

「しょうがないんじゃないですかね? 一番関わりがあるのはエンリの姐さんなんですし。俺たちを召喚したアイテムをくれたのもあの方々なんでしょう?」

 

「それはそうですけど。でもちょっと腑に落ちないっていうか。」

 

 そう言いつつエンリは村の外の方を見渡す。

 そこにいるのはエンリが“ゴブリン将軍の角笛”というアイテムで呼び出したゴブリン達だ。

 その総数は側にいる5体と併せて計19体。

 それらは各々が離れた場所で石の巨人に指示を出し、村の外周に強固な柵を作っていた。

 

(また助けられちゃったな……)

 

 カルネ村は少し前に法国の兵から襲撃された。

 村人が大勢が殺され、エンリ自身も死ぬところだった。

 その時に助けてくれたのがモモンガと名乗る旅のマジックキャスター様だ。

 

 おかげでエンリはなんとか生き残ることができたのだが、しかし助かったのは数十人だけであり、その後の村は色々と困ることが出てきた。特に一番は森から出てくるモンスターの対応だ。

 

(今までは人が沢山居たせいか全然見なかったのに。野伏(レンジャー)の人が最近は森の近くでモンスターをよく見かけるようになったって言ってたものね。)

 

 そんな時に再び村を訪れてくれたのがモモンガだ。

 エンリは思い出す。アンデッドとスライムが神輿に乗り、白い鉢巻を巻いた蜥蜴のような鱗の生えた亜人たちにワッショイ! ワッショイ! と担がれながら村にやってきた時のことを。

 

(あの時は村中が大騒ぎになったなぁ……)

 

 モモンガは最初に助けてくれた時は仮面をしていたが今回は素のまま、アンデッドの顔を丸出しにしていた。そのためモンスターが攻めてきたと勘違いした村人たちはパニックに陥った。

 当然だろう、ただのスケルトンならまだしも、神輿に乗るような知性の有るアンデッドに勝てるはずがないからだ。

 

 だがそのアンデッドが村を救ってくれたモモンガだと分かると騒ぎは次第に収まった。

 さらにモモンガは驚くことに『農業を教えてほしい』と願い、村の事情を聞くと、ならば代わりにと石の巨人を貸し出してくれた。

 

(畑を耕すアンデッドとスライムって、よく考えたらすごい光景よね。)

 

 種籾や道具など、ついでにと村の分まで買ってきてくれたので絶対に文句など言えないが。

 

「でも対価にしてはもらい過ぎな気がする。」

 

「そうだね。でもここは甘えておいたほうがいいと思うよ。」

 

「あっ、ンフィー。」

 

 村の外から1人の人間が歩いてくる。

 伸ばした前髪で目を隠しており、腰には錬金術用具とポーション瓶を下げている。

 それはエンリの幼馴染。村のことを知り別の街から駆けつけたンフィーレアという少年だ。

 

 

 

 歩いてきたンフィーレアは少し迷ってからエンリの横に腰掛けた。

 その顔は若干赤みがかかっていたが、しかし日差しのためかエンリはその事に気づいていない。

 

「おかえりンフィー。それでヘロヘロ様に弟子入り出来たの?」

 

「なんとか認めてもらえたよ。向こうも僕のタレントに興味があったみたいでね。」

 

 ンフィーレアは錬金術師だ。

 それもエ・ランテルで一番の薬師を祖母に持つ。

 さらに持って生まれたタレントは“全てのマジックアイテムを使える”という破格のものだ。

 

「ふーん。良かったね。」

 

「おばあちゃんに話しても絶対に信じないだろうけどね。僕もまさかスライムに弟子入りするとは思わなかった。」

 

「それなら私だって。恩人とは言えアンデッドに畑の作り方を教えるなんて思わなかったわ。」

 

 そう言いつつもンフィーレアの顔ははっきりと分かるほど喜んでいた。

 なんせ自分が今しがた弟子入りを許可されたのは錬金術師の夢である赤いポーション、その製造方法を知る人たちである。

 話せばきっと祖母だって許してくれるはず。それどころか自分も弟子入りしようとするだろう。

 それに弟子入りした理由はもう一つ有る。それは目の前の少女を守ること。

 

「それでさっきの話だけど、この先の事を考えると柵は絶対に必要だと思う。あんまりこんな事は言いたくないけど、この国の上層部は当てにならないみたいだからね。」

 

 この国の貴族たちは腐っている。私腹を肥やす者たちばかりだ。というのはよく聞く話だ。

 それでもンフィーレアは自分の住むエ・ランテルやこの辺りの村は大丈夫だと思っていた。

 なぜなら王の直轄領だからだ。しかしそれは幻想だった。村は襲われ沢山の人たちが殺された。

 その中には小さい頃、自分に良くしてくれたエンリの両親もいる。

 

「でも戦士長って人は来てくれたよ? それに今年の年貢も減税してくれるって。」

 

 王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ。周辺国家最強と名高い戦士。

 平民から成り上がった彼は平民の為に戦う義の人ともっぱらの噂だ。

 

「村のために戦ってくれた戦士長様たちは信用してもいいと思うよ。でもその戦士長は魔法の武具――物自体が光ってるような装備はしてなかったんだよね?」

 

「たぶんそうだったと思うけど。」

 

 店に来る傭兵たちの話では、戦争で戦士長は王国に伝わる秘宝で身を包んでいると言っていた。

 なのに今回の装備は恐らく普通の武具。どう考えても嫌々出撃させたようにしか思えない。

 

(つまり王様は、この辺の村はしっかりした装備で送り出す程の価値は無い、と思ってるってことだよね。)

 

 年貢にしてもそうだ。減税すると聞けば一見慈悲深そうに思える。

 でも特産の無い村で数十人だけの収穫なんてたかが知れている。

 仮に税を1割減らしたのだとしても、お金にすれば銀貨で数十枚程度でしかないはずだ。

 

 今まで税金として毎年徴収しておいて、いざという時に助けず、村人が殺されてから銀貨数枚分を減税するだけ。それは果たして優しいと言えるのだろうか?

 

「エ・ランテルも墓地から大量のアンデッドが溢れ出して大騒ぎだったからね。」

 

「そっか、そっちも大変だったんだね。」

 

 祖母経由で聞いた話によれば共同墓地に巨大な穴があり、そこにアンデッドが沢山生まれていたという。しかし今まで全く気づかなかったというのはおかしな話だ。

 

(都市長様は立派な人だと思っていたけど違ったのかな。)

 

 実際は墓地の担当者が真面目にやらなかっただけ、なのかもしれない。

 しかしエ・ランテルは王の直轄地で3国が交わる超重要な街だ。

 なのにこんなことが起きるとなると、どうしてもこの国はもう駄目だと思ってしまう。

 ならば力のある人たちとコネを持つことは自分たちを……エンリを守ることに繋がるはずだ。

 

「ところで一つ聞いていいかな?」

 

「ん、改めてどうしたの?」

 

 ンフィーレアは改めてエンリの顔を正面から見つめ、彼女の真っ直ぐな視線に少し照れながらも質問を投げた。

 

「どうして君達はその……エンリまでみんな黒い色眼鏡(?)を掛けてるの?」

 

 エンリとゴブリン達はみんな黒い眼鏡を付けていた。

 来てからずっと気になっていたのだ。しかしなかなか言い出すことが出来なかった。

 

「ああ、これはヘロヘロ様からのプレゼントだよ。サングラスって言うんだって。付けると太陽が眩しくないの。」

 

「カッコいいでしょう? ンフィーの兄さん。外での作業が捗るんですぜ!」

 

「そ、そうなんだ。」

 

 ムキムキマッチョな男達を背後に従え、サングラスを付けて佇むエンリはどう見てもどこかの組織のボスにしか見えない。

 

(これなら八本指――王国最大の犯罪組織も逃げ出すんじゃないかな? うん、やっぱりモモンガ様たちの対応をするのは君で間違いないと思うよ。)

 

 武力的な意味でも威圧的な意味でも、現在この村で最強なのは間違いなくエンリだ。

 モモンガ様たちの相手の件も、もしかしたら村長さんはこの姿を見て譲っただけかもしれない。

 しかしそれを告げることは出来なかった。だって怖いし。

 

「ンフィーの分もあるよ? 付ける?」

 

「あるんだ……。じゃあせっかくだから貰おうかな。」

 

 ンフィーレアは諦めて渡されたサングラスを着用した。

 しかしその姿は細い体と長い前髪のせいで、全くと言っていいほど似合っていなかった。

 

 

 

 

 

■■■■■■

 

 

 

 

 

 村の外で一塊となってナニかを行っている3人がいた。

 

「ああぁ! モモンガ様ぁ! わ、私もう限界です!!」

 

「お、お姉ちゃんボクも! ボクももう駄目!!」

 

「んんんっ! 頑張れ2人とも! もう少し、もう少しだ!!」

 

 ナザリック地下大墳墓の支配者であるモモンガ、そしてダークエルフの双子であるアウラとマーレである。

 3人はそろって中腰になりながら、まるで割れ物を扱うかのような繊細さで腰の位置を調整していた。

 

「そ、そんな……これ以上なんてっ……!!」

 

「お、おねえちゃ~ん!!」

 

「よ、よし2人とも、そろそろイくぞ! さぁ一緒に!!!

 

 3人はおっかなビックリしながら手に力を入れる。大事なナニかを握りしめて。

 

「「「せーの!!」」」

 

 3人はそう言いながら千切れないよう絶妙な力加減で握っていた蔓を引っ張った。

 

「「「んああああああ~~~~!!!」」」

 

 すると地面から大きな芋が飛び出してきた。

 

「うわっ! すごいお芋ですモモンガ様!!」

 

「や、やったねお姉ちゃん!」

 

「おお、すごいのを掘り当てたな!」

 

 3人は現在、芋を掘っていたのだ。

 

「いやぁ、上手くヌけてよかったなアウラ。」

 

「はい!」

 

「マーレもご苦労だった。」

 

「あ、ありがとうございます。モモンガさま。」

 

 褒められた2人がエヘヘと喜ぶ。

 そんな2人をモモンガは優しいパパのような瞳で見る。

 

(フフ、来て正解だったな。ヘロヘロさんが急に『農業をやりましょう! 時代は野外プレイですよ!!』とか言い出した時は意味が分からなかったけど。アウラもこんなに喜んでるし。)

 

 農作業を習い畑を作ったのは朝方だ。

 だがまだ数時間しか経っていないにも関わらず、モモンガ達はすでに何度も収穫を行っていた。

 

 これはドルイドのクラスを収めているマーレのおかげだ。

 ドルイドとは森を始めとする自然に関する力を持つ祭司。

 今回はその魔法の中にある、植物の成長を早めるものを使っての促成栽培だ。

 ただし促進している間は常に魔力を消費し続けるので、そろそろ切り上げたほうが良いだろう。

 

「モモンガ様、次はどうします?」

 

「そうだな、今日はこの辺にしておこう。ソリュシャンと協力して帰る支度をしておいてくれるか?」

 

 はーい。と言いつつ2人は収穫物を1箇所に集める為に離れていく。

 

(やってみると農業もなかなか楽しいな。それに飲食出来るようになったから、帰ったら収穫したものを料理して食べれるし。楽しみだなぁ。)

 

「お疲れ様ですパパンガさん。どうです、上手くいきましたか?」

 

 そんなモモンガに、少し離れて3人を見守っていたヘロヘロが話しかける。

 

「あっ、ヘロヘロさん。おかげでアウラもだいぶ気が楽になったみたいです。あとその呼び方は止めてください。」

 

「そうですか、それは良かった。でもどうみても休日のパパさんでしたよ。」

 

 ただしすでに5股してる上に先の2人も近い将来に食べちゃいそう(意味深)なパパさんだ。

 

「それでンフィーレア君はどうだったんですか?」

 

「結局は弟子って形で確保しました。報告書にもありましたけど、あの子のタレントは危険ですからね。」

 

「どんなマジックアイテムでも使えるって、ならギルマス専用の武器も使えるんですよね。」

 

 つまりアインズ・ウール・ゴウンのギルド武器も使えるということだ。

 下手をすればギルドの乗っ取りすら可能なため、とても放っておく訳には行かない。

 

「話が本当ならそうでしょうね。それがポーション程度で確保できるなら安いものです。それと今住んでるエ・ランテルって街がやばいらしくて、この村に引っ越してくるとも言ってました。」

 

「あ~、確かアンデッドが何千体も溢れたんでしたっけ? そりゃ住みたくないですよね……」

 

「実際は恐怖公がズーラーノーン――犯罪組織が作っていた低レベルのアンデッドを放置したせい……つまり半分はボクたちのせいですけどね!」

 

 最初の調査で分かったことだが、エ・ランテルではズーラーノーンが5年もかけてアンデッドを溜め込んでいた。その首謀者達は恐怖公が捕まえて捕虜にしたが、しかしレベル10以下のアンデッドは放置してしまったのだ。

 

「あくまでボクの想像ですけど、きっと恐怖公は被害が出るなんて思わなかったんでしょうね。」

 

 その証拠にスケリトル・ドラゴンのようなレベル10超えはしっかり退治されている。

 それにズーラーノーン自体はいなくなったのだから、アンデッドが溜め込まれた穴はすぐに見つかると思ったはずだ。あとは穴から油でも流し込んで火をつければ簡単に一網打尽にできる。

 

 しかし悲しいかな、実際は溢れるまで誰も気づかなかったようだ。

 

「おかげで街の上層部は責任の押し付けあいで大変らしいですよ?」

 

「それはそれは。ぐだぐだになってそうですね……」

 

 ほんとは全てズーラーノーンのせいなのだが、そいつらは恐怖公が秘密裏に確保してしまった。

 結果、残ったのは自然発生(・・・・)したと勘違いされた大量の雑魚アンデッド。

 そしてそれらが居た穴はどうして放置していたのか、という責任問題だ。

 

「まぁ都市の経営なんて俺らは一生関わらないでしょうから放っときましょう。それよりも農業って意外と難しいですね。最初は何度もヌくのに失敗しちゃいましたよ。」

 

「ボクら力がありすぎてすぐ蔓が千切れちゃいますから。いきなり完璧に出来る方が珍しいですよ。まぁ失敗を繰り返してデータを積み上げるのも大切ってことで。」

 

 ヘロヘロはそう言いつつ首に巻いた白いタオルで汗を拭う振りをする。

 今回こうしてモモンガをココに誘ったのはヘロヘロだ。

 

 最初はモモンガが救った村だと聞いていたので、てっきり異形種もOKだと勘違いして素のまま来てしまい驚かれた。

 それでも最終的に村の人たちには受け入れられ、モモンガに告げていた目的、アウラの気分転換は無事に成し遂げることが出来た。

 

 しかしヘロヘロにはもう2つ考えていたことがあった。

 一つは先程言ったンフィーレアという少年の確保。

 そしもう一つは農業によるユグドラシル金貨の獲得である。

 

 鉱物を金貨に替えることには成功した。

 最初は掘りすぎて鉱山が崩れてしまった。だが使った道具やゴーレムはなんとか回収出来た。

 さらに近くに別の鉱山、それもオリハルコンが掘れる山があった為、現在はそっちに場所を移して作業を進めている。

 

(まぁ失敗は成功の母っていうし。それにボクの経験からすれば一度で上手くいく方が怖いからなぁ。)

 

 もし組んだプログラムをテストしてバグが出なかったらどう思うだろうか?

 一般人なら『すごーい! 完璧なプログラムなんですね!』なんて喜ぶだろう。

 しかしプログラマーは違う。

 ああ、見つけきれないほどやばいバグが潜んでるんだな……と思うのだ。

 

 むしろ失敗しない方が不安になる、それがプログラマーという職業だった。

 

(だから最初に失敗しちゃった鉱山のことはモモンガさんに言う必要はないよね! 掘りすぎて地上部分が全部崩落しちゃったみたいだけど。でも死人は出なかったみたいだし、次の鉱山は上手くいってるからセーフ!!)

 

 しかし鉱物は掘れる箇所が限定されてしまう。そこで目をつけたのが農作物だ。

 鉱物と同じようにエクスチェンジ・ボックスでユグドラシル金貨に変わるが、こちらは畑を広げれば幾らでも収穫量を増やすことが出来る。

 ただしナザリックには農作業の経験者が居なかったので、こうしてカルネ村まで習いに来たのだ。

 

「ボクとしては収穫まで漕ぎつけたので成功です。あとは帰ったら墳墓の6階層にも畑を作りましょう。それからもうこの辺も全部畑にしちゃっていいですよね?」

 

「別にいいんじゃないですか? 村の人達は誰も使ってない土地だって言ってましたし。でも税とか大丈夫なんでしょうか?」

 

「なんか収穫期に徴税官が来るらしいですけど、その前にマーレの魔法で成長を早めて収穫しましょう。そうすれば税を払えなんて言われないはずですよ。」

 

「じゃあ問題ないですね。とりあえずしばらくはアンデッドをフル稼働させておきますね。」

 

 モモンガの指示をうけ、連れてこられたアンデッド――20体のデス・ナイトが担いでいた鍬を振り下ろす。デス・ナイトたちは崇高な主からの命令に喜び、ウキウキしながら土を耕していく。

 

「ところで話は変わりますけど、チンチンのムラムラは大丈夫ですか? さすがにこんなところで、コンニ☆チンチン! なんて嫌ですよ? こんなふうに。」

 

 ヘロヘロは両手を腰に当てるとさらに3本目の触手を股間から生やし、ソレを強調するように後ろに仰け反った。さらに生やした触腕を波のようにプルプルと揺らす。

 

「ちょっ何やってるんですかw」

 

「えー、誰も見てないし別にいいじゃないですかw」

 

 そんな事を話しながら2人は残った芋を引き抜いていく。

 

「ムラムラならもう大丈夫ですよ。最近やっとコツを掴みましたから。それに夜はアルベドたちのおかげでしっかり解消出来てますし。」

 

「はっはっはっ。もう完全にリア充ですねモモンガさん。異世界でハーレムなんて、ペロロンチーノさんがいたら殴られてますよ? レミリアさんにお礼言わないと。」

 

 モモンガがハーレムを築くことに成ったのはチンチンが生えたからだ。

 そしてモモンガにチンチンを生やしたのはレミリア。つまり彼女こそモモンガハーレムの立役者と言える。

 

「いやそれはちょっと。言ったら逆ギレしてチンチン取り上げられちゃいそうなんで。」

 

「……言われてみれば確かに。レミリアさんならもう一つぐらい流れ星の指輪(シューティングスター)を隠し持っててもおかしくないですね。」

 

「ですよねー。」

 

 成り行きとはいえ、すでにモモンガは5人の女性に手を出してしまっている。

 いまさら夜の相手が出来なくなりました、なんて言ったらどうなるのか?

 

(プレイアデスの3人は大人しく引いてくれそうな気がするんだけどな。)

 

 しかしアルベドとシャルティアは分からない。

 

(アウラを遠慮なくボコボコにしてたし、もしかしたら俺もヤられるかもしれないな……)

 

 そう考えると絶対にチンチンを失うわけにはいかない。チンチンこそが生命線だ。

 

「最近、廊下ですれ違うとレミリアさんが睨んできて怖いんですよ。」

 

「ただの嫉妬でしょうから放っとけば収まるんじゃないですか? さすがに寝取りは自重すると思いますよ。まぁアイテム使って何かやってくるかもしれませんけど。」

 

「出来ればもうちょっと考えて行動してほしいんですけどね。課金アイテムはもう補給出来ないんですから。」

 

 学歴だけ見れば、モモンガは小卒。対してレミリアは大卒であり、さらに現役の高校教師だ。本来ならもっとも教養があるはずなのだ。

 

「『体育教師が数学や理科なんて分かるわけないでしょ! 私の専門は女の子と性知識よ!!』 ですからね。」

 

「ボクが言うのもなんですけど、役に立ちそうで役に立ちませんよね……」

 

「レミリアさんが微妙に役に立たないのは昔からですよ……」

 

 保健体育といえば思いつくのはアウラとマーレの性教育だが、しかし間違ってもあんな性癖の人に任せるわけには行かない。しかし専門の科目が駄目とくれば、一体何を任せればいいのか。

 

「まぁあまり気にしなくていいと思いますよ。最近はレミリアさんも大人しいですし。」

 

「敵(?)に洗脳系のワールドアイテム持ちがいるって分かりましたから。さすがのレミリアさんでも考えなしに外出はしないですよね。」

 

「はっはっは、そうですよね! じゃあボクらもとっとと帰りましょう。」

 

 もはやココでの目的は全て達成した。あとは育てた芋を全て引き抜くだけである。

 

「あとちょっとキモいんで仰け反ったまま股間の触手で芋を引き抜くの止めてくれません?」

 

「おっと、しつれい。ではお尻から生やしましょうか。」

 

「ちがう。そうじゃない。」

 

 そんな2人の周りではデス・ナイトたちが黙々と畑を広げていた。

 

 どこまでも、どこまでも……

 

 ――村から見える範囲が全て畑に変わったのはこれからたった3日後のことだった。




王様「村が襲われた? かわいそうだから減税したるわ」
村人「あの、生き残りって数十人だけなんですけど……」

王様「他の支援は無いんですまんな。あっ、戦争も来なくていいぞ。」
村人「あの、生き残りってほとんど女子供老人だから元々出れない……」

遅れて来た上に装備は適当な戦士団→きっと嫌々出撃させたんやろなぁ
見回りしてたはずがアンデッド溢れ→ふざけんな、しっかり仕事しろ

事情を知らない人から見れば多分こんな感じになるんじゃないかなって。
とくに2つ目はズラノが秘密裏にナザリック送りされてるんで責任問題不可避。

どっちにしろ遅れてくる&カジッちゃんに5年も気づかない、なんて駄目そうですけどね!
という訳で日常回&一般人から見た王国の現状でした。


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11本目:お礼

誤字脱字報告ありがとうございます。大変助かっております。
また感想の方も随時募集中です(ログインしなくても感想可に変更しました)


 ナザリックの地下9階層にはバーがある。

 副料理長が夜にだけ開けている趣味の店だ。

 シックなカウンターに少数の席が並ぶショットバーのような部屋。

 そこにこの墳墓の支配者の一人、レミリアの姿があった。

 

「――うん、すごくいい味ね。」

 

 身を包んでいるのは普段と違う、胸元のざっくりと開いた漆黒のドレス。

 頭のドアノブカバーは外されており、耳には赤い三日月型のイヤリング。

 さらに首からは真っ赤な宝石の付いたネックレスを付け、それは豊満な胸の谷間をこれでもかと強調していた。

 

 レミリアはテーブルについた左手に頬を載せ静かにグラスを傾ける。

 中の氷がカランと音を立て、琥珀色の液体が静かに口へと運ばれる。

 その姿は落ち着いた部屋の内装と相まり、まるで別人のように様になっていた。

 

「恐れ入ります。」

 

 副料理長は感動していた。

 この飲み方こそまさに自分が理想とするバーの在り方。

 それをあっさりと実践してしまわれるとは、まさに至高の御方のお一人だと。

 

(レミリア様は最近よくいらっしゃる。恐らくアウラ様の件で思う所があったのだろう。)

 

 副調理長は失礼にならないよう気をつけながら目の前の支配者について考える。

 

(しかし守護者の方々から聞いたこの御方の力は運命を操るほどだという。)

 

(ならばココに来たのはきっと未来を静かに思考するため。)

 

 私も何かお力になれるとよいが、と副料理長はそんな事を考えたが決して口には出さない。

 静かに客を持て成すこと。それこそが今の自分に求められている役割だと理解しているからだ。

 

「そろそろおかわりは如何でしょうか?」

 

「ええ、いただくわ。」

 

 副料理長は思う。確かにアウラ様の件はこの地に住まう多くの者たちが驚いた。

 しかし心配することはないだろう。自分たちにはこの御方々が居てくださるのだから。

 きっとよりよくナザリックを導いてくれるはずだ、と。

 

 

 

 

 

 しかしそんな外面とは逆に、レミリアの脳内は愚痴で埋め尽くされていた。

 

 ――はぁ~、やってらんないわ~。まじなんなのもう。あああああああ!!! 

 

 アウラ洗脳異伝から5日経った。

 アルベドとシャルティアによって倒されたアウラは無事に蘇生。

 魔獣たちは再びテイムされて元の形へと戻った。

 

 復活したアウラは一部の記憶を失っていたが、こちらは森の賢王――現在はハムスケ(モモンガ命名)によりある程度の事情は分かっている。

 さらに改めて捕虜への尋問が行われたところ、クレマンティーヌにより洗脳アイテムを使った集団は法国の漆黒聖典だと判明した。

 

 ここまではいい、問題はこのあとだ。

 全ての魔獣を再テイムし終わると、なんとアウラは私ではなくモモンガに抱きついたのだ。

 

「モモンガさまぁ~~!!!」

 

 泣きながら笑顔でモモンガの胸へ飛び込むアウラ。

 しょうがないな、と笑いながら受け止めるモモンガ。

 それは失敗した娘を慰める温かい光景だ。

 しかし本来ならアウラは私のハーレムに入るはずだった。

 そのために大事なペット(魔獣)だって頑張って殺さずに確保したのだ。

 

 もちろんその事について私は抗議したが、しかし現実は非情だった。

 

「ちょっとヘロヘロどうなってるのよ? 私のムチムチダークエルフ(予定)は?」

 

「(そのルートは)最初から無いです。槍を拾えずに置物化してた人は反省してどうぞ。ていうかサブ武器を持ってきてないって、どういうことですかね? ボクもキレそうだったんですけど?」

 

「(サブ武器を入れてた背負い袋は)に、荷物整理で出したまま忘れてただだけだし。」

 

 ちくしょう! あのとき一緒に戦ったNPC一同からは

 

『自らの武器を敵中に投げることで不退転の覚悟を示すとは! さすがはレミリア様です!!』

 

 なんて高評価だったのに!!

 

 でもアウラがデレた先はモモンガだった。

 両手を広げて飛び込んでくるのを待っていた私は完全にスルーだった。

 そう、私はアウラを寝取られてしまったのだ。まじでちょっと泣きそうになった。

 

 なので連日このバーに押しかけ、ひたすら酒を呷っている。

 

(モモンガのばかばかばか! 貴方にはすでに綺麗どころが沢山居るでしょ!? なのにどうしてアウラまで囲ってるのよ!? ふぁっきん!!!)

 

 個人的には今すぐモモンガのチンチンをもぎたかった。

 しかしそれは出来ない。やろうにももう流れ星の指輪(シューティングスター)は残っていない。

 さらに数日前にアルベド含むモモンガハーレム勢がお礼を言いに来たのだ。

 

『モモンガ様におチンチンを与えて下さりありがとうございました! 我々一同、レミリア様への感謝の念に堪えまチンチン!!』『ありがとうございましたチンチン!!』 と。

 

 お礼の語尾にチンチンを付けるだなんて、どれだけ頭がチンチンだったのか。

 流石にこんな状況では『あのチンチンは間違だった。今はもぎ取りたいと思ってチンチン』なんてとても言えない。

 

(もしかするとこんなお礼を言われたのはこの世界で私が初めてかもしれないわね。)

 

 いや間違いないだろう。

 しかしこの時に出来たのはせいぜいカッコつけるぐらいだった。

 本心を隠した私は、代わりに

 

『フフ、良いのよ。貴方達は私にとって娘みたいな存在だもの。沢山幸せになりなさい(キリッ』

 

 なんて言ったのだが、結果ものすごくキラキラした眼で見られることになった。

 おかげで私の女性陣からの支持は鰻登りだ。ただし恋のキューピッド扱いで。

 

(はぁ~。ままならないものね。)

 

 現実は非情だ(2回目)

 

 さらに悩んでいることがもう一つある。

 私は眼だけを動かして左右に視線を向ける。

 今この部屋にいるのはアウラの件から何故か私の周囲に(・・・・・)集まるようになったメンバーだ。

 

 まず私の側にいるメイド兼嫁である咲夜。

 執事服で給仕をしてくれてるフウマ。

 

 ココまでは良い。むしろ居てもらわないと困る2人だ。

 

 しかしさらに左の席ではコキュートスが静かに飲んでおり。

 それにクールな相槌を打っているのが恐怖公。

 右の席を見ればエントマがオヤツをバリバリ食べていて。

 そして天井には透明になったエイトエッジ・アサシンたちが張り付いている。

 

 正面戦闘から集団戦、さらには暗殺まで何でも出来る頼もしいメンバー達だ。

 だが一つだけ言っていいだろうか?

 

 ――蟲の比率高すぎぃ!!! 

 

(あっれぇー、モモンガとヘロヘロはハーレムパだったよね? なのにどうして私のパーティだけ蟲パになってるの?)

 

 ちょっと前に復刻されたポケット○ンスター・ギエピー! だとこんな感じかな?

 

 サーナ○トLv100(咲夜) 超・妖

 アギ○ダーLv85(フウマ) 虫

 グ○クムシャLv100(コキュートス) 虫・水

 フェ○ーチェLv70(恐怖公) 虫・格

 オニシ○クモLv51(エントマ) 虫・水

 アリ○ドスLv49(エイトエッジ・アサシン) 虫・毒

 

 ……上からブレバで全員死にそう(耐性持ち不在

 

(どうしてこうなった?)

 

 いや冷静に考えれば理由は分かるのだ。

 はっきり言ってしまえば前の戦いで私が調子に乗りすぎたせいだ。

 

 あの戦いは全力を出せるということもあり各々が奮闘していた。

 特に私は最初に武器を手放してしまったので代わりに全力でバフを掛けまくっていた。

 それにより特に目立っていたのがコキュートスと恐怖公の2人だ。

 

 4本腕の魔法剣士であるコキュートスは元々手数に長けている。

 それは攻撃回数だけバフ効果を乗せられるということ。

 物理・魔法の両面で火力が強化された彼は一人だけ無双ゲーになっていた。

 

 さらにもっとやばかったのが恐怖公だ。

 一定範囲内をまとめて強化する私の能力と恐怖公の物量戦術は残念ながら相性がよかった。

 

 もともと恐怖公の眷属は精神的ブラクラをメインとしており攻撃力はほとんどない。

 本来であれば全くダメージを与えられないので何万匹いても無視されたら終わりだ。

 しかしそこに1ダメージを追加で与えるバフ、それも防御無視のもの、が付与されたら?

 

 むろん魔獣たちも反撃はしていた。

 せまりくるゴキブリの群れに対してその爪を牙を尻尾を振り回した。

 しかしユグドラシルにおいて、群れ(スウォーム)となった蟲に物理攻撃はほとんど効果がない。

 さらに精神効果も無効なので、魔獣がどれだけ咆哮を上げてもビビって逃げ出すことがない。

 そんな蟲達は魔獣たちにとってあまりにも相性が悪すぎた。

 中には特殊能力で対応する魔獣もいたが、しかし恐怖公の召喚で増える方が早かった。

 

『フハハハハ! レミリア様のお力が注がれた吾輩の眷属は最強ですぞぉ!!』

 

 そう言いつつ銀色のゴキブリ型ゴーレムに乗り、私の真横で(・・・・・)続々と眷属を召喚する恐怖公。

 魔獣たちは全身をゴキブリに覆われ、一匹一匹とその場に倒れていった。

 その時の鳴き声は今でもはっきりと思い出せる。

 

『クゥ"ウ"ゥ"ゥ"ーン!!!(こんなのやだー!!!)』

 

 そんな鳴き声だった。

 聞いたみんなが目を伏せ、戦いが終わった後には黙祷を捧げていた。

 

(たぶん、この子たちは私の側にいた方が活躍できると思っているんでしょうね。)

 

 それは間違いではない。私は指揮官系クラスの中でもさらに攻撃強化に特化している。

 だから手数が多かったり、数を用意できるこの2人はとても相性がいい。

 エントマはちょっとわからないが、恐らくは私のカリスマに引かれてしまったのだろう。

 ならば蟲ハーレムになるのも当たり前なのだろうか……

 

「いや、やっぱりおかしいわ。そうよね咲夜?」

 

 あぶないあぶない。危うく納得してしまうところだった。

 よく考えれば戦闘の相性とハーレムメンバーは別の話だ。

 蟲ハーレムなんて断じて認める訳にはいかない。

 

「申し訳ございません。それだけでは何のことか判断出来ず。」

 

 頭を下げる咲夜に併せて巨乳長として設定された巨大なおっぱいが上下に揺れる。

 もちろん私の目はそのおっぱいに釘付けだ。ここがBARでなければむしゃぶりついていただろう。部屋に戻ったらあの胸で谷間酒とかいいなぁ。

 

「……もしかして私の忠誠心をお望みでしょうか?」

 

「忠誠心?」

 

 どういうことだ? 今更そんなの疑う必要なんて無いと思うけど。

 まさか伝説の武技・忠誠心パフパフを習得したとでも言うのだろうか?

 

「はい。レミリア様がそうあれと決められた事柄では『忠誠心は鼻から出る』との事でした。しかし無能なこの身では未だに出すことが出来ず……」

 

 んんん、設定にそんな事書いたか? いや書いた気がする。

 確か咲夜の設定は

 

 『ナザリック地下大墳墓のメイド長。

  完璧で瀟洒な従者。

  おぜうさまの嫁。二人の相性は抜群。

  あと忠誠心は鼻から出る。』

 

 だったかな? 他にも色々書いたな。

 『うなじが弱点』『お散歩大好き(意味深』『乳首を押しながら↑↑↓↓→←→←BAでHモード突入』とか。そういえば調べて出てきた設定と私の趣味を詰め込みまくったんだった。

 

(あれ、じゃあもしかして今までたまにモジモジしてたのは鼻から出そうと頑張ってたって事?)

 

 なにそれかわいい。今日は犬耳と尻尾をつけてお散歩しなきゃ(使命感

 

「それなら気にしなくていいわ。フフ、忠誠心というのは気づいたら溢れているものなのよ。」

 

「さようですか。」

 

 鼻血が出るとか書かなくてよかった。ボタボタやられたら色々と台無しだった。

 あれはギャグだからいいのであって、現実だとものすごく迷惑だ。

 いや、どうせなら忠誠心は乳首から出るって書いておけばよかった……。

 母乳でミルクティーとか最高じゃね?

 

「フム、忠誠心デスカ。私ナラバ何時デモゴ覧ニイレテミセマス。」

 

 げぇ! 忠誠心というナザリックでもっともホットそうな単語でコキュートスが釣れちゃった! 馬鹿野郎、お前がこっちの会話に加わったら……

 

「忠誠心ならば、吾輩も負けませんぞ。」

 

 ぎゃあああ、恐怖公がこっちに交ざってきたぁあああ!!

 

「フフ、このナザリックに忠誠心無き者など居るはずがございません。ですがそれでも目に見える形で、と言われるのであれば吾輩すぐに示してご覧にいれます。」

 

 そう言いつつ、複数ある左手の一本を胸、もう一本を腹に当てて見事な礼をする恐怖公。

 

 うん、そんなこと言うなら自分の部屋に帰ってくれないかな?

 最近毎日顔を合わせているせいで微妙に慣れてしまった自分が憎い。

 

「そ、それなら私ではなくモモンガの力になってあげてはどうかしら? ほら、最近はアウラもべったりになっちゃったし大変そうでしょ?」

 

 私はなんとか恐怖公をモモンガに押し付けようとする。しかし現実は非情だった(3回目

 

「それならご心配なく。モモンガ様からはしばらくコキュートス殿と共にレミリア様の下で学んでこいと言われておりますので。」

 

「ソノトオリデス。」

 

 モモンガァアアアアア!!!

 あの野郎、恐怖公が超有能だけど見た目がアレだからって私に押し付けやがった!!!

 どうやらニューロニスト&ニグレドはお気に召さなかったみたいね。

 

 しかしどうすればいいんだ?

 ここからハーレムを作ろうにも、もはやナザリックに綺麗どころは残っていない。

 強いて言えばマーレだが、流石に男の娘は範囲外だ。茶釜の趣味にはついて行けないわ。

 

「ちなみにシズはどうしてるの?」

 

「シズはヘロヘロ様の方にいってますぅ。でも今はヘロヘロ様はモモンガ様と共に外に出かけてるので、自分はお留守番だって言ってましたぁ。」

 

 ぐぬぬぬ、シズはヘロヘロか。

 

「ん、2人で外出してる?」

 

「はい。アウラ様とマーレ様をつれてカルネ村で畑を作ってるみたいですぅ。」

 

 えっ、なにそれ? 私誘われてないんですけど??

 いやまて外に出てる…? 外、外、外……そうか!

 ナザリックにいないなら他から連れてくればいいじゃないか!!

 

(フフ、なんという……。これほどの事にあっさり気づいてしまうなんて! やはり私は天才だったようね!!)

 

 どうもこの世界は顔面偏差値が高いようだし探せばいい子がいるはずだ。

 そして私は自他ともに認める過去を振り返らない女。ならば前進あるのみ。

 よし、そうと決まれば。

 

「娼館に行こう。」

 

「はぁ、娼館ですか。」

 

 咲夜が驚いた顔でこちらを見てくる。

 そう、娼館だ。恋愛のように1から少しずつ口説き落とすのもいいが、ここはこの世界の性のレベルを調べる意味でも遊びながら気に入った子を身請けするスタイルが良いだろう。

 

「帝国は前に一度行ったから今度は王国がいいわね。」

 

 ただ、回ってきた報告書によれば近くの街(エ・ランテル)はアンデッドでゴチャゴチャしてるらしい。

 なので行くなら王都のほうが良いだろう。それに八本指とかいう犯罪組織(たからばこ)も有るらしいし。

 

「今、仕事で外に出てる者はいたかしら?」

 

「はい。セバス様が情報収集で王都へ。それとデミウルゴス様も謹慎を解かれて聖王国方面へ向かっていたかと。」

 

 あー、王都はセバスか。

 たっちが作ったNPCでカルマ値は極善。

 うーん、私とはなんとなく話が合わなそうな気がする。

 それに見た目と執事って役職から几帳面そうだし。

 報告もこまめにしてるだろうからバレると面倒くさいかな?

 

 しょうがない、ここは気付かれないようにまた変装しよう。

 それからあの2人も連れて行こう。

 漆黒聖典についての情報提供で6階層に住まいを与えられたクレマンティーヌと、オマケで一緒に住んでいるブレインだ。

 咲夜とフウマで大抵は何とかなるけど、しかし人手は多いほうが良い(雑用的な意味で)。

 

「あと奴隷も購入したいわね。」

 

 異世界ハーレムの王道といえばやはり奴隷だ。

 王国は平民の扱いが酷いらしいのできっと売られているに違いない。

 

(ボロボロの女の子を買って治療したら超美人。しかも別の国の高貴な出とかお約束よね!)

 

 そして奴隷に落ちることになった原因を聞き、復讐を手伝うことで身も心もトロトロに。最後は母乳でミルクティーを作ってハッピーエンドだ。

 よーし、想像したら楽しくなってきたぞ!!

 

「副料理長、今日はここまでにしておくわ。」

 

 考えがまとまった私は飲み干したグラスを置き、ゆっくりと椅子から立ち上がる。

 するとまるでそれを待っていたかのように部屋の全員(・・・・・)が一斉に立ち上がった。

 

「護衛ナラバオ任セ下サイ!」

 

「再び吾輩の眷属の力をお見せする時のようですな!」

 

「おやつが沢山有るとうれしいですぅ~!」

 

「周囲の警戒ならばぜひ我らアサシンズに!」

 

「えっ」

 

 もしかしてお前らも来る気なの!?




モモンガ「気づいたら美女ハーレムだった。」
ヘロヘロ「気づいたらメイドハーレムだった。」
レミリア「気づいたら蟲ハーレムだった。oi……おい。」

ちょっと短いですが王国編の導入部でした。
次から蟲パのドキドキ王都見学はっじまっるよー!


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