北郷一刀の子供達 (surugana)
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登場人物紹介

備忘録もかねて、ざっくりとキャラを紹介していきたいと思います


北郷一刀 イメージcv:内田雄馬

ご存じ我らが天下の種馬王

白湯から禅譲を受け、新王朝和を樹立。初代皇帝として力の限り家族の為、民の未来の為に生き抜き、正史世界に再び転生、同じく転生していたかつての妻たちと再会し、貂蝉や卑弥呼が尽力したことで制定された一夫多妻法に基づき再び全員を妻として娶る

大学時代に外史世界の思い出を忘れないようにと自身の経験を元に執筆した小説『三国恋姫物語~蒼天の血旗~』が三国志ファンを中心に大ヒット。本場中国でも高い評価を受け、多額の印税が転がり込み、それを基に八王子に妻と息子たち全員と住む広大な豪邸と、北郷流剣術道場の支部を設立し、そこの師範代兼小説家として生計を立てている

人たらしぶりは健在で国内外問わず異様に顔が広い。とにかくお人好しでマイペース、しかし伊達に元皇帝ではなく、キメる時はカリスマ性に溢れた強靭な意思を垣間見せる

腕前も武将たちの暇つぶし愛の鞭の結果、上の下もしくは中の上程度までは上達

未だ若々しく、妻たちとは尚お盛んだとか

北郷家の家訓は『困ってる人が居たらとりあえず助けろ』『女性は死んでも幸せにしろ』

子供達は共通してこれを守っているので、来るべき未来に孫へのお年玉代で地獄を見ることを彼はまだ知らない

 

 

新田刀那(にった とうな) イメージcv

一刀の妹。大学卒業後、八王子市役所に努めている際に同僚であった新田和弘と結婚し、息子剣丞を授かる

お淑やかで優しく、母親似の物怖じしない性格で、兄が突然70人以上の女性と結婚しても特に驚くことなく受け入れている

新田家は一刀の屋敷の隣町にあり、一刀の子供達もたびたびに遊びに行くことがある

剣丞が外史に飛ばされた時には困惑したものの、卑弥呼達が仲間を向かわせたことを知ると取り合えず落ち着き、兄の様に沢山の伴侶を連れて帰ってくるのではないかと心配しつつ、帰って来た時には好きな料理を沢山ふるまってあげようと考えている

原作と違い現在も夫と共に存命。北郷流剣術から派生した護身術を収めており、拳銃を持った強盗程度ならば素手で制圧できる

 

 

北郷桃香 cv:安玖深音

ご存じ元心優しい蜀の王を務め、和王朝皇帝一刀の秘書として常に傍にいた劉備玄徳その人

正史世界の劉備直系である成都市の大家に転生。お嬢様として成長し、以前から親交が深かったかつての蜀の面々と共に記憶を取り戻す

必死の努力で日本語を覚え来日、両親や周辺家族も巻き込んだ大騒動の末に一刀の妻となり頼人を授かった

優しく思いやりに溢れ、一度決めたらとにかく頑固なのは相変わらず、頼人曰く親バカ度200%

頼人を始めとした子供達には分け隔てなく深い愛情を注いでおり、一刀の子供たちが基本的にお人好しなのは彼女の影響と言えるだろう

両親のしっかりとした躾もあって、外史と違い家事は難なくこなし、得意料理は餡掛けお焦げ

アクセサリーや小物を手作りする趣味が高じ、八王子駅前の複合施設で時折販売するハンドメイドジュエリーは手に入れるために海外から訪れる人物もいるほど

 

 

北郷桔梗 cv:白井綾乃

蜀漢時代からの古強者にして、和帝国軍歩兵部隊歴戦の将として常に最前線で奮闘した厳顔白封(字はオリジナル)その人

四川省東部達州市の出身。記憶を取り戻したのは成都市の音楽大学に通っている最中で、一刀との年齢差は外史時代よりも少ない。大学卒業後に一刀と結婚し息子紫雲を授かる。相変わらず紫苑とは親友の間柄

中国の伝統的な楽器である笛子の世界的奏者で、音楽学校での講師やサウンドトラック収録を行うスタジオミュージシャンとして活躍している

甘く切ない旋律で多くの人々を魅了するが、演奏の繊細さとは正反対に現世においても酒とバトルとどんちゃん騒ぎをこよなく愛する女傑であり、やんちゃな時期の子供達の多くが彼女の拳骨の餌食となった

一刀との年齢差が外史よりも小さいのは、彼女達年長組が無意識に抱いていたもっと長い間一刀と同じ時を過ごしたかった、と言う無念を外史が転生の際に汲んだため

 

 

北郷白蓮 cv:柚木かなめ

馬超共々劉備軍騎馬部隊の中核を成し、和国では国内治安維持に身を砕いた公孫瓚伯珪その人

成都市で競走馬の生産や養育を行う馬産の名門公孫家の令嬢。正史世界でも桃香と同じ学校の先輩で交流があり、外史時代の記憶を取り戻し一刀に嫁ぎ鳳清を授かった。外史時代は髪を結っていたがこちらではすっきりとしたショートヘアにしている

文武両道、何事も卒なくこなす秀才肌で、外史時代では華がないと自虐していたが現代ではあらゆるスポーツを準1線級でこなす鉄人として学生時代は称賛され、夏のオリンピックでは乗馬、冬のオリンピックではリュージュの中国女子代表選手として出場しどちらでも金メダルを獲得する大成果を上げた

現在は国際試合に出場するプロ選手のトレーナーとして世界各国からオファーが殺到する状態で、家にいる時間と仕事の時間の両立に苦労しながらも数多くのオリンピアンを今も育て続けている

育成者としての結果が出たことで性格にも自信が付き、一人前の母親として一刀や息子たちの尻を叩けるようになった

 

 

北郷秋蘭 cv:あじ秋刀魚

曹操の側近として魏の軍勢を率い、和国軍の突撃強襲部隊の長として名をはせた名将夏侯淵妙才その人

亳州市の名家夏候家の双子姉妹、春蘭の妹。正史世界でも華琳を自らの主と崇拝し、彼女と共に一刀に嫁ぎ、才斗を授かった。外史時代とは違い、姉春蘭と同じくらいまで髪を伸ばしている

弓の腕は外史の前世に違わず百発百中。学生時代には世界大会で数多くのメダルを獲得するが、大学卒業後は華琳が立ち上げた会社の幹部として辣腕を振るいながらも良き母として家族に愛を注いでいる

穏やかで優しい気質だが、怒るととんでもなく怖い怒らせてはいけない妻の一人

 

 

北郷凪 cv:五行なずな

和国首都警備隊副隊長を務めた防衛戦のエキスパートである三羽烏が一人、楽進文謙その人

河南省開封市の出身。卓越した身体能力を持ち、前世と同じく華琳を崇拝し真桜、沙和と共に彼女の当時通っていた学校に特待生として転校。記憶を取り戻し、来日後一刀と結婚して凪沙を授かった

外史時代よりもトレーニングの効率が良くなっている時代の為、顔以外の傷が皆無、髪の毛は結婚してからは編み込まずにストレートのままにしている

自己流の格闘術を獣似拳と名付けて体系化、一刀の道場で少数ながら弟子を取って教えを施し、時折警視庁で交流鍛錬も行っている

当初は前世と同じく一刀を隊長と呼んでいたが、結婚後はこの時代での関係を重視するとして呼び方をあなたに変えた。自分で言っておきながら当初は死ぬほど恥ずかしかったらしく噛んでは真桜と沙和に笑われていたようだ

 

 

北郷真桜 cv:春乃いろは

和国首都警備隊員にして兵器開発局長であった李典曼成その人

生まれて5歳まで京都大学で客員教授をしていた父に連れられ大阪で育ったため、流ちょうな関西弁を喋る。地元の中国開封市に移住してからは前世のつながりかいつの間にか凪、沙和と意気投合し華琳の元に集い、記憶を取り戻し一刀と結婚、真姫を授かった。結婚後は頭の左右でまとめていた髪を降ろし、前に流したセミロングにしている

学者一族の生まれで本人もフランチェスカ学園の大学科で博士号を取得し、今ではフリーランスのメカデザイナーとして主婦業の傍ら活躍中。大きい道に出れば1分に10台は自分がデザインした車が道を走るとのこと

子供達が愛用している武具は全て彼女が作ったもの。貂蝉や卑弥呼がどこからか手に入れたミスリルやヒヒイロカネ、オリハルコンを材料に己のセンスとシンパシーのままに子供たち一人一人に最適な武具を作り上げている

特徴にして自身の最大の強みであったバストサイズは、出産後祭や桔梗と張り合えるレベルにまで成長。張るし重いと愚痴っては明命から殺気を向けられる日々であった

 

 

北郷沙和 cv:春日アン

和国首都警備隊員にして和国陸軍教導隊隊長であった于禁文則その人

河南省開封市の出身。人並外れた動体視力と気を用いての瞬発加速能力を持つ

凪、真桜と共に華琳の元で前世の記憶を取り戻し、来日後一刀と結婚、沙斗花を授かった

大学には進まず、自分のファッションセンスを活かすために独学でデザインを学び、自らのブランド「Sour&suite」を立ち上げ日本を始めアジア各国の少女たちから絶大な支持を獲得。結婚後も定期的に自らのデザインを発表しているが、基本的には家庭を最優先としているため経営からは完全に手を引き、デザイナー一本で活動している

沙斗花を妊娠中にはマタニティブルーと悪阻が組み合わさって拒食症手前になるまで精神的に追い詰められるが、凪、真桜、一刀の献身的なフォローで乗り越えることに成功した

 

 

北郷風 cv:海原エレナ

元曹魏軍軍師にして、和国の法務を司り、厳正かつ温情ある運営を行った程昱仲徳その人

山東省聊城市の出身。幼くしてアメリカの大学通信課程を飛び級卒業する明晰な頭脳を持ち、幼馴染の稟と共に華琳の友人になってしばらくして外史の記憶を取り戻し、一刀と結婚、娘伊吹を授かる

大学在学中に日本人に帰化し、弁護士試験に合格。立川駅の近くに『サンライズ法律事務所」を設立、数多くの民事、刑事裁判で勝利を収める。徹底的に真実と弱者救済を追求し、手段の硬軟を織り交ぜ一切容赦のなく、それでいて常にマイペースなその姿は対決する検事達から非常に恐れられている

一方で権力欲は皆無であり、大企業から専任弁護士のオファーを受けても意に介さず、よほどのことが無い限りは身内びいきに取られないよう華琳や炎蓮からの依頼も受けないようにしている

背は伸びたが胸の成長は残念な結果に終わっており、半ば意地になって伊吹を母乳だけで育てることに成功。夜の一刀のシフト管理を行っており、時折イベントと称してとんでもない人数で彼の元を押しかけ撃沈させている

 

 

北郷思春 cv:一色ヒカル

孫権の直参筆頭にして和国連合水軍の大提督を務めた甘寧興覇その人

重慶市の出身。甘家は旧呉国発足当時から孫家と深いつながりがある名家であり、彼女も生まれたころから蓮華と共に育ってきた。南京市の高校に蓮華と通っている最中に外史の記憶を取り戻し、一刀に嫁ぎ息子春希を授かる

ホワイトタイガーセキュリティ社のエージェントとして会社発足当時から活躍し、要人警護、テロ組織殲滅、重犯罪者摘発と様々なミッションで活躍。裏社会の住人は彼女をヘルズ・ベルと呼んで恐れ戦いた

蓮華への忠義はそのままに、外史時代の苛烈さは幾分鳴りを潜め性格はだいぶ丸くなっている。一方で、信頼した人に尽くすことを好む気質が現代社会で変化したためか意外なほどに一刀、蓮華、春希等親しい人間相手には過保護。北郷家の財布のヒモを愛紗、桂花と共に握りしめており、莫大な資産を持つ家に生まれながらもゆがんだ金銭感覚を持った子供が誰一人いないのは彼女のお陰である

普段は長い髪を結ってまとめているが、一刀と特別な時間を過ごす時だけ降ろすため家族は大体察しがついてしまうという

 

 

北郷亞莎 cv:犬山遊々

和国の参謀として金融を一手に管理し円滑な経済を維持し続けた呂蒙子明その人

安徽省阜陽市の出身。文系学者を輩出する名門呂家に生まれ、明命とは幼い頃からの友人同士。南京の高校で蓮華と出会い意気投合、交流を深めるうちに外史の記憶を取り戻し一刀に嫁ぎ、亜彩を授かる

聖フランチェスカ学園大学部の東洋史研究室の客員教授を務めており、特に中国史における若き権威。常に勉強を忘れない謙虚な姿から学生たちの人気は高い

努力家で控えめな性格。常に相手目線で物事を考え導こうとする姿は教育者の鑑と言ってよく、受験で彼女の世話にならなかった子供はいない程

自分は上手に出産が出来るかと亞彩を身籠っていた時は不安になり、一刀や蓮華に泣きついていたが、つわりは皆無で安産な上に産後の肥立ちは良好と驚く程順調に出産を終え今では笑い話の種にされている

 

 

北郷明命 cv:桃井いちご

和国諜報隠密部隊『黒虎衆』の筆頭を務めた周泰幼平その人

安徽省淮南市の出身。南京の高校で出会った蓮華に惹かれ、孫家姉妹との交流を深めるうちに前世の記憶を取り戻し、一刀に嫁いで長男明楽を授かる

本職はアニマルシェルターを運営するNPO法人職員で、普段は数多くの動物たちを幸せにするために奮闘しており、ホワイトタイガーセキュリティサービスのエージェントとしては炎蓮からの要請か一刀の警護を任された時のみ活動している

朗らかで真面目な性格、動物と触れ合い何よりも命を大事にする彼女の姿を見て、一刀の子供達は小さい命の大切さを学んだと言っても過言ではない

隠密諜報とゲリラ戦のエキスパート。現代的な奇襲戦の知識を手に入れたことで、装甲車や戦車で武装した数百人のゲリラをたった一人で壊滅させ全員捕縛したこともある

 

 

北郷月 cv:木村あやか

和国皇帝の後宮を取り仕切る帝直侍従長を務めた董卓仲頼その人

陝西省西安市の大家賈家の娘に生まれる。中学時代に詠と同時に外史の記憶を取り戻し、桃香達とともに来日し一刀に嫁ぎ白夜を授かった

賈家の生まれだが彼女は正史において悪逆された董卓の血筋の末裔であり、洛陽で董一族が斬滅に処された際、賈詡の手でひそかに救い出された董白の子孫に当たる

八王子にある迎賓館で、結婚式に使われるブーケや装飾を彩るフラワーコーディネーターとして、新婚夫婦の未来を華やかにするために奮闘中。彼女に担当してもらったカップルは長続きすると噂になっているとか

誰かの笑顔と幸せを思い誠意を込めて接する姿は正史においても彼女を手助けしようと思う人を引き付ける一種のカリスマ性として発揮されている

一方自分が無茶をして他人に心配をかけやすい性格と言う自覚は持っており、白夜はそうならないよう周囲に上手に助けを求められる人物になるよう子育てで苦心していた

 

 

 

北郷頼人(ほんごう らいと) イメージcv:江口拓也

一刀と桃香の間に生まれた一人息子。年齢16歳、高校2年生

劉禅の位置に当たる存在で、父の努力家な面とたらし母の優しさを受け継いだ優しい少年

両親を敬愛する気持ちは強く、それに及ばない自分を時折暗愚と下卑するが、それは理想を現実に当てはめ実行すると言う一刀と桃香のハイブリッドであることを表している

大徳オーラは母譲りで、気が付いたら老若男女種族を問わず人々の注目を集めることで、結果世界中の神話勢力から目を付けられ冷や汗をかく日々だとか

両親と違って子供のころから身体能力は高く、気を操ることで人外相手にも大立ち回りすることが可能

愛用武器は双剣『龍斗双牙(りゅうとそうが)』。攻防自在の剣撃と気を雷撃に変換することで技の威力を上げ、複数の敵を薙ぎ払う

四霊の一柱応龍を体内に宿しその力を借りることで身体能力を飛躍的に向上させることが出来る

只管にやさしく他者の為に戦う頼人は応龍にとっても好ましい人物であり、関係性は良好。龍を宿した人間の宿命を聞いても自分を見失わない頼人には期待を寄せているらしい

 

 

北郷紫雲(ほんごう しうん) イメージcv:畠中祐

一刀と桔梗の間に生まれた一人息子。年齢23歳、表向きはフルート演奏者、裏では特務機関森羅のエージェントを務めている

外史時代の名は厳歴。父の優しさとたらし母の豪快さを受け継いだ

桔梗譲りのマイペースかつ豪快な性格、きょうだいの中でも年長者で弟妹達からの信頼も厚い

バトルマニアの気がありよく同僚や兄弟達と鍛錬しているが、一方で命のやり取りを嫌っており、彼にとって戦いとはコミュニケーション手段の一つに過ぎない

一方で本当の戦いとは護る為に行うべきと言う自負があり、彼が一刀の本質をしっかりと受け継いだ子供であることを示している

趣味と得意は母譲りの楽器演奏。特にフルートはプロ級で普段はこちらで生計を立てている

繊細な音色は紫雲の普段の性格を知る者は聴いて必ず驚くのだとか

標準語交じりの九州弁で喋るが、これは学生時代長期休みになるたびに一週間程度鹿児島の北郷本家に里帰りし、曾祖父帯刀と修行しているうちに移ってしまったため

愛用武器は機関銃、大剣、槍、リニアキャノンが一体化した複合兵器『アンビデクスト』。あらゆる距離と状況にこれ一本で対応できるように、と言うオーダーの元真桜が開発した一品で、紫雲はこれを手足のように扱い敵を蹴散らす

それぞれの形態に西洋の四大元素思想が当てはめられており、夫々の属性を極限まで開放することで第五元素であるエーテルの力を開放することが出来る

 

 

北郷才斗(ほんごう さいと) イメージcv:日野聡

一刀と秋蘭の間に生まれた一人息子。年齢20歳、大学2年生

夏候覇に当たる存在で、父の思慮深さたらしと母の的確な判断力を受け継いだ

秋蘭譲りの沈着冷静、物怖じしない落ち着いた性格で、的確な判断を下すことから周囲からの信頼も厚い

忍耐力と精神力は父親譲り。並大抵な事では感情を露にしないが、近しい人間を傷つけられるなどして我慢の限界を超えた場合には、静かに怒る母と違い凄まじい怒号を放つ

愛用武器は北斗七星の形状を模したトンファー『七星狼旋』、ハルケゲニアの戦いで片方が破壊されたため、現地で手に入れたインテリジェンスソードデルフリンガーを改造したインテリジェンスソードトンファー『七星龍旋』と合わせて使用している

気を炎に変換して纏わせることで火焔の旋風を相手に浴びせかけたり、打撃の瞬間に爆発を起こして破壊力を上げる等に応用する

ルイズに召喚されたことであらゆる武器を使いこなす虚無の使い魔ガンダールヴとなるが、本人は無粋な能力として本当に必要な時以外は意識的して使用しないようにしている

アルビオン軍との戦いではたった一人で総勢7万もの軍勢の内6万人以上を戦闘不能に追いやったことで各国から畏怖を込めて『トリステインの蒼い鬼』と呼ばれるようになった

 

 

北郷凪沙(ほんごう なぎさ) イメージcv:田野アサミ

一刀と凪の間に生まれた一人娘。年齢16歳、フランチェスカ学園高等部1年生

楽糸林に相当する人物で、両親の冷静な観察眼、母の格闘センスを受け継いだ

真面目でストイック、恋に恋する乙女ととまさに凪の生き写しで、母親と同じように沙斗花、真姫と特に仲が良く、誰が言ったか新生北郷三羽烏

三人の中ではまとめ役だが、年相応に誘惑に弱く流されることも多い

剣丞に好意を抱いており、真姫たちと共同戦線を張っているが状況は芳しくない

その上戦国の外史で多数の女性の心を射止める剣丞に頭の痛い日々を送っている

凪から継承した獣似拳の使い手で、蹴撃を重視した凪と違い、勁と気を多用した上半身による破壊力の高い打撃を得意とする

愛用の武器は両腕全体を肘まで覆う戦闘手甲『アウルゲルミル(閻王の元となったヒンズー教のヤマと同じ起源をもつ北欧神話の巨人)』、打撃が命中した瞬間に炸裂する気力を貯蔵するカートリッジが内蔵されており、打撃の威力を高め城すら一撃で粉砕する必殺の一撃に昇華させる

後部に気力を噴射するブースターがあり、カートリッジと合わせて打撃の威力強化に使われる

 

 

北郷沙斗花(ほんごう さとか) イメージcv:三浦千幸

一刀と沙和の間に生まれた一人娘。年齢16歳、フランチェスカ学園高等部1年生

于圭に相当する人物で、両親の育成者としての才能と母の超人的な動体視力を受け継いだ

楽しい事や流行を追いかけることを生きがいとする今どきの女子高生、しかし身持ちは固く一途な性格、しかも母譲りの毒舌で猛反撃されるため、彼女を狙って撃沈された軽薄な男は数知れず。語尾に「だよ」と付ける癖がある

人の長所短所を見抜くことが得意で、けんかの仲裁役や悩む友人の相談役を快く引き受ける世話焼きな一面もある

次々と恋する剣丞の周りの集まる女性に若干呆れつつ、時に立場に悩む彼女達を底抜けに明るい性格で聡し、間を取り持っている

愛用の武器は細長い刃を持つ双刀『双鷹(そうよう)』。鍔が鷹を思わせる意匠になっている、非常に軽い二振りの刀で、高速機動からの一撃離脱戦法を得意とする

気を発現することで残像を生み出す沙斗花の能力と相性が良く、地面を滑るように高速で駆け回りながら目にもとまらぬ連撃で一気に相手を切り刻む

 

 

北郷真姫(ほんごう まき) イメージcv:ルゥ・ティン

一刀と真桜の間に生まれた一人娘。年齢15歳。フランチェスカ学園高等部1年生

李禎に相当する人物で、父の高い発想力と、母の天才的な発明力と爆乳を受け継いだ

明るく誰にでも話しかけられるムードメーカータイプ。母譲りの関西弁で喋り、色々なものを発明しては時にありがたがられ時に爆発させている

お騒がせ者に見えて目聡く凪紗や剣丞のフォロー役でもあり、戦いに疲弊し苦悩する剣丞を優しく支えている

人間相手の戦闘には絶対に使わない、と言う条件でこの時代に存在している鉄砲よりも高性能な銃火器を発明しており、彼女が率いる新田隊第六小隊は弾倉式ライフル銃の使用が唯一許された支援射撃部隊である

愛用の武器は気を弾丸として発射するガトリング銃身式ライフル『サプレッサー壱式』。弾丸の発射レートを自由に変更することが出来、最大回転時には数十体の鬼を瞬時に制圧する威力を発揮するが、消費する気の量や機関部の過熱の問題から持続可能時間は短く、通常時には数発ずつ発射しバトルライフルの様に運用される

 

 

北郷伊吹(ほんごう いぶき) イメージcv:浜崎奈々

一刀と風の間に生まれた一人娘。年齢15歳。フランチェスカ学園中等部3年生

程武に相当する人物で、両親のマイペースさが合わさった超マイペース人間

変なタイミングで突飛な事を言い、場を乱すだけ乱しては自分は一歩引いた所で混乱を眺め楽しむタイプ

何も考えずのほほんとしているようで頭の回転は母親並みに早く、常に先手を取り相手の反撃を許さない

幼い頃は体が弱くたびたび熱を出しており、外で遊ぶこともできなかったため、家族や友人たちとは家の中でゲームで遊ぶことが多く、自分自身の人生と絆を培ってくれたゲームへの強い愛情を持ち、腕も一流

安全で誰もが楽しめるからこそゲームと言う哲学を持っており、これを悪用する人間には一切の容赦をせず、冷徹

数年前にプレイしていたThe worldを襲った事件から三崎亮=ハセヲと出会い、彼や伝説のハッカーヘルバと共に事件解決に尽力して以来、ネットワークやゲーム内で起こったトラブルを解決するホワイトハッカーサン・サポーターとして活動、多数の犯罪を未然に防いできた

亮の事はその頃から男性として好意を寄せており、目下奥手な彼をひとしきり弄ってライバルとなる少女達と一緒に篭絡しようと画策している

 

 

北郷春希(ほんごう はるき) イメージcv:永塚拓馬

一刀と思春の間に生まれた一人息子。年齢16歳、高校一年生で、ホワイトタイガーセキュリティサービスのバイト社員をしている

甘述に相当する人物で、父の強い使命感とたらし母の相手を信じる強さを受け継いだ

母譲りのクールな外見から近寄りがたい雰囲気を抱かれがちだが、実際には情に厚く親しみ易い、他人との交流を好む年相応の少年

一方で他人の人生全てを受け止め全力で守るSPと言う職業への誇りと矜持を持ち、いざとなれば自分自身の肉体を盾にすることも厭わない愛他的精神の持ち主

偽装盗聴器の発見や、建物の構造を一目見ただけで侵入と逃走に最適なルートと護衛に最適なポジションを洗い出すことが出来る近辺警護の達人ながら、学生の本分は恋と遊びと言う炎蓮の方針もあって基本的には春希の才能が必須とされる案件がない限りは呼び出されることはない

本人も将来の夢は未だ漠然としており、警護任務で出会った人との交流を経て何か人の役に立つ仕事に就ければそれでいいと思っている

得意スポーツはサッカー、趣味は部屋の掃除とテレビゲーム

愛用の武器はオリハルコンで出来た六角形の防御プレートが複数枚組み合わされた可変防刃『ヘキサトライブ』。両腕に装着されており、春希の気に反応して分裂・合体することで形状を変化させる。バックラータイプの小型盾から攻撃用のブレード、広範囲を防御するバリアフィールドと変形可能な形態は春希のイメージ次第で非常に多彩。気を変換させた風を制御して竜巻を起こすと言った荒業も可能とする

春希の趣味で小さい鈴をストラップで装着しており、それから鳴らされる音色には邪悪を祓う効果がある

 

 

北郷亞彩(ほんごう あや) イメージcv篠宮あすか

一刀と亜莎の間に生まれた一人娘。年齢15歳。私立フェネリア女子高等学校一年生

呂琮に相当する人物で、父の要領の良さと母の清廉さを受け継いだ

正義感が強く真面目な性格。面倒見がいい世話焼きだが、気が強いわけではないため、押し切られ貧乏くじを引かされることも多いところは母似

一方で他人の迷惑を顧みない悪質な人間や傲慢な人間相手では一歩も引かない芯の強さを併せ持ち、杓子定規に物事を考えない柔軟性も身に着けて、学業は勉強運動共に学年一位

小学生時代に白夜が誘拐されたのは彼女を庇ったからであり、命懸けで自分を救った白夜には兄妹を超えた愛情を抱いている。性格+血筋から数多の女性に惹かれる兄については焼きもちを妬くこともあるが、一方で多数の人間に性別問われず好かれる兄を誇っている

趣味は読書と白夜の淹れたコーヒーに合うお菓子作り。亞莎と同じく胡麻団子党だが好みのフレーバーはあんこではなくクリームチーズ

愛用武器は気を弾丸として発射する銃と対象を至近距離で切り裂く剣としての機能が融合したガンナイフ『ヴァイパーファング』。銃身から上向きにトリガーグリップが伸び、両手で逆手に構える。射程距離は短いが非常に軽く反動も小さいため乱戦で真価を発揮する。他にもつま先から刃が飛び出す靴や投げナイフ代わりになるボールペンなど多数の暗器を隠し持っている

 

 

北郷明楽(ほんごう あきら) イメージcv:大塚剛央

一刀と明命の間に生まれた一人息子。年齢19歳。世田谷にあるマジックバーでマジシャン見習いをしている

周邵に相当する人物で、父の勤勉さとたらし母の真面目さを受け継いだ

明るく溌剌とした性格。困っている人の為に突飛なことも平然と行う、北郷家男子の中でもトップクラスに無茶をするお人好し

一本気な気質だが頭の回転も速く、潜入、諜報、奇襲戦と言った情報処理能力がモノを言う任務を得意とする隠密としての才を持ち、大物相手の腹芸も臆することなく遂行、平穏に仇為す存在には冷徹

母程ではないが動物への愛情は深く、早朝から山に登って鳥や野生動物を眺めて過ごすのが趣味

将来の夢は誰をも驚かせ喜ばせるマジシャンで、忍の最上位であるカグラの称号に足る能力を持っているが、忍び務めは副業と言うスタンスを崩していない

愛用の武器は身の丈を超える刃渡りを持つ黒刃の長刀『瞬息(しゅんそく)』。気を変換させた風を纏い、目にもとまらぬ超高速の抜刀術を得意技とする

他にも飛刀と呼ばれる暗器を懐に忍ばせており、目標に向けて射出する撃剣術も会得している

 

 

北郷白夜(ほんごう びゃくや) イメージcv:福原 かつみ

一刀と月の間に生まれた一人息子。年齢21歳。大学に通いつつ、八王子にあるカフェTiger's Eyeでバリスタ見習いをしている

董承に相当する人物で、両親のひたむきさとたらしを受け継いだ

柔和な性格で物腰も穏やか、誰かを喜ばせることに幸福を感じる愛他的な好青年

中世的な外見と性格だが意外と目つきは鋭め、それ故怒るとかなり怖い

小学生の頃、炎蓮に壊滅させられた犯罪組織の残党に報復として誘拐され、彼女の伝手で依頼を受けた冴羽リョウと海坊主の手で救助、Cat's Eyeで飲んだコーヒーの味に感動したことからバリスタを目指し海坊主、信宏に弟子入り

大学では経営学と栄養について学んでおり、生来の人助け精神から華琳や雪蓮の依頼でボディーガードのアルバイトをしている

子供のころから長い休みの時期には海外にコーヒーを飲み歩く修行兼旅行に出ており、コーヒーの知識は非常に豊富。海坊主と信宏の鍛錬もあってバリスタとしてすくすくと成長している

愛用武器は気を帯びて自在に形状と大きさが変化する自在布『月齢』。普段は薄紫色の生地に金色の縁取りと銀色の三日月の刺繍が施されたポケットチーフで、気を込めることで最大で10m四方にまでサイズを自在に変化させることが出来る。硬質化させればライフル弾も弾く壁となり、鞭のようにしならせて打撃を与えたり相手に絡ませて姿勢を崩す、巻き付けて拘束、投擲武器にもなり戦う場所を選ばない

戦闘以外にも傷に巻き付けて気を流し込めば回復を早め、食品を包めば痛みを遅らせることが出来、戦いだけではなく日常生活でも活躍する

 

 

新田剣丞(にった けんすけ) イメージcv:斉藤壮馬

新田和弘と新田刀那の間に生まれた一人息子。一刀の甥、北郷家の子供たちの従兄弟。年齢17歳、高校2年生

聖フランチェスカ学園高等部に在籍、夏休みに帰省中実家の裏山の芝刈り中、見つけた刀と銅鏡から外史の突端となり、主だった武将が全員女性の戦国時代に凪沙達と共に飛ばされてしまう

久遠に拾われてからは織田家家臣として新田隊を率いて鬼と戦い、やがて日の本を救うカギを握る中心人物となり、一葉の鶴の一声で幕府公認の女たらしとなってしまった。久遠の喧伝や活躍もあり、田楽狭間の天上人、日輪の御使いともよばれている

見た目は一刀によく似ているが、落ち着いた面が強い一刀に比べて熱血漢。弱者を救うためなら平然と無鉄砲なことをやらかし、命を粗末に扱う人間は年上だろうと女性だろうと激怒し、琴や朔夜に平手打ちをしたこともある

いざという時には命を奪うこともいとわないが、できうる限りは殺めることなく戦いを納めることを望み、人の命が軽く犠牲を是とする戦国の世でも平然と理想論を展開し、自分の力でそれをゴリ押しし結果的に犠牲を最小限に収める、ある意味で一番厄介なタイプ

愛する妻達に重い業を背負わせないようにととことん自分を追い詰める事も厭わず、それが故に多くの人々から慕われるようになった

原作と違い両親は存命。生まれたころから一夫多妻制が公認されているため一刀にはそこまで苦手意識は持っておらず、外史の概念や彼らの戦いの歴史を知っており、むしろ尊敬している

元三国武将の暇つぶし修行を受けたことで戦闘力もかなり向上、魏武注孫子や六韜三略と言った兵法の知識も併せ持ち、織田軍の遊撃部隊新田隊として鬼との戦いで多大な戦果を挙げる

愛用する武器は真桜謹製、鞭の様な龍鱗剣態と直刃剣の龍骨剣態に変形する蛇腹剣『雲龍』

剣丞が流し込む気によって刃を連結・分離させ、二つの形態を使い分けることで距離と相手の数を択ばず戦うことが出来る

気を氷に変換して広範囲を凍結させる、氷の弾丸を発射する、水を制御して巨大な水流の刃とするなど水気を操る媒介としての役目も持っている

 

 

 

伊礼玲奈(いれい れな) cv:生天目仁美

頼人と同じ駒王学園に通う高校2年生。その正体は堕天使レイナーレで、名前は本名のアナグラム

本編数年前、応龍を宿した頼人に接近し抹殺と体内の応龍の強奪を企むが、一緒に過ごす時間の中で彼に絆され恋に落ちる

殺意を以って接近した自分に傍にいる資格はないと身を引こうとするが、その程度で揺るがない頼人に傍にいて欲しいと請われ以来彼の傍に侍ている

低級堕天使として冷遇された過去から当初は苛烈な性格、だが頼人の傍で頼人と桃香のダブル大徳オーラを浴び続けたことで、すっかり頼人命な世話焼きなお姉さんへと変貌した。今は堕天使時代の伝手を使って異変が起きると被害が出ないように頼人と共にイレギュラーハンティングを行っている

武器は両腕に生成する光の槍。槍を聞いては黙って居られない一部の一刀の妻から半ば無理やり手ほどきを加えられたため、今ではジャベリンの様に投げるだけではなく手に構えて格闘武具として扱えるようになってしまった

 

 

ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール cv:釘宮理恵

才斗を使い魔として召喚した異世界ハルケゲニアに生きる少女。年齢15歳

四大属性の魔法を一切使えないことから周囲よりゼロと呼ばれ生きてきた

一方で座学は非常に博識、徹底的な努力家でもあり、意思は強く思いやりもある

経歴が経歴の為非常に意地っ張りな所謂ツンデレ。ただし才斗が秋蘭並みの包容力の持ち主であるためいいように見透かされてツンツン出来なくなっている

紳士的な態度の才斗とは関係は最初から良好で、彼に好意を抱いたのも原作より早い

また、原作以上に精神的に疲弊していたところに現れた才斗への信頼は強く、彼から冷静に理論立てて思考する事の大切さを叩き込まれたため、ワルドの裏切りをどことなく察していたり、始祖ブリミルへの狂信的な崇拝もなく、戦争に参加する理由も無謀な戦いで犠牲になる兵と民を少しでも救うため、と徐々に落ち着いた献身的な性格に変化した

毅然とした柱をしっかりと持ち、冷静で貞淑な秋蘭はルイズの憧れる女性そのままの姿であり、後に秋蘭と邂逅したルイズは極端な男性嫌い意外な所はまるで桂花の様であったという

 

 

織田三郎久遠信長 (おだ ざぶろう くおん のぶなが) cv:森永有栖

尾張国主にして織田家棟梁を務める少女。年齢17歳

田楽狭間での今川家との戦い終了直後に天から落下した剣丞達を保護し、織田家の正当性と発揚を兼ねて剣丞を『夫』として織田家に匿う

豪胆で現実主義。仲間思いな性格で臣下からの信頼は厚い

常に苦境な立場にある自国を護る為に精神を擦り切らせ、リアリストで他人を信じきれなくなっていたが、どれだけの現実を突きつけられても理想を追い求め鬼の脅威から日ノ本の民を救おうとする剣丞に惹かれ、やがて本当に恋に落ちていく

性格から剣丞に素直に甘えられない事が多かったが、結奈や凪沙達のサポートもあって何とか心を開くことが出来たものの、気が付いた時には全国の名だたる武将が妻仲間と言うありさまであった

身分や格差を気にせずだれとも接し、時に宿命すらも打ち砕く剣丞を見て、今では彼こそが日ノ本の中心にいるべきと言う考えを持ち、一葉や光璃達と共有しそうなるように動き始めている

後に出会った華琳は久遠の心の在り方を見抜き、気持ちは素直に伝えなければ後に待っているのは死ぬほどの後悔と絶望だけだ、とアドバイスを送っている

 

 

飛鳥 (あすか) cv:原田ひとみ

国立半蔵学園の忍選抜科に在籍する善忍見習いの少女。年齢16歳

蛇女子学院の焔との交戦中に現れた明楽から、善と悪の対立の終結と隠密連合の結成を知らされ、喜んでそこに参加、忍の悲しい歴史を知り、自分たちの代でそれを終わらせることを決意した

努力家で明るく何事にも前向きに取り組む性格。人の悩みにも敏感で大なり小なり辛い過去を持つ仲間たちの悩みを、忍ではなく一人の人間としてアドバイスすることから徐々に半蔵学園チームのリーダー格となっていく

愛用武器は二振りの脇差で、得意の土遁術と組み合わせた高速戦闘で相手を翻弄する

地元は半蔵学園の近所浅草。隅田川に落ちた子猫を救うためにそこに飛び込み、ずぶ濡れになっても子猫の無事に満面の笑みを浮かべる明楽の事を覚えていた

自分のバストサイズにはそれなりに自信を持っていたが、文字通り次元の違う大きさを誇る明楽の母達の前にそれは喪失、明命と意気投合したという

 

 

三崎亮 (みさき りょう) cv:櫻井孝宏

早稲田大学の法学部に在籍する青年。年齢22歳

かつてオンラインMMORPG『The world R:2』にて伝説的PCハセヲを操っていた元プレイヤー

現在はカイト率いるギルド『黄昏の騎士団』の一員となっており、ネットとゲームの世界の壁を飛び越える憑神スケィスの力でネットワークの平穏を守りつつ、青春を満喫している

幼い頃から天才肌故人付き合いを苦手に思っていたが、事件と戦いの中で精神的に成長し、関わったすべての人々を守り抜くと言う信念を持つようになり、今ではぶっきらぼうだが細かい配慮を怠らない面倒見の良い人間となった

伊吹とはR2時代に出会って以来の付き合い。ネットワークでの人為的クライシスが起こると協力して事態を解決することも多い

伊吹以外にも多くの女性たちから好意を寄せられており、本人もそれを自覚しつつ誰か一人を選べず苦悩する日々を送る。全員が結託して罠にはめようなどとは思いつきもしていない

将来の夢は弁護士。インターン先のサンライズ法律事務所の主が伊吹の母と言う事は一切知らず、最初に訪れた時は伊吹にそっくりな風の姿に呆然となっていた

今は娘の思い寄せる相手と言う期待の新人おもちゃを手に入れた風に圧をかけられコキ使われる日々を送っている

ネット内での戦闘スタイルは、複数の武器に変形する多機能兵装『白黒滅槌(びゃっこくめっつい)』を状況に合わせ変形させる錬装士としてオーソドックスなもの

憑神は死の恐怖スケィス。リアルデジタライズを逆転したリアライズクォンタムを使用することで現実世界にPC状態で現れることも可能




一部のキャラの得意武器や特殊技能は三國無双をパk参考にしております

本編だとヒロインたち武将の具体的な強さってどんなものなのか不安定だったので(一人で数百人斬ったと思えば別イベントでは数十人相手に数の差で圧し負けたり)
子供達は基本無双キャラorBASARA武将並みの十数分で千人KO出来るような強さだと思ってください

文字数が増えてきたので後々分割しようと思います


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序ノ壱 百花王

調子に乗って別の作品も書きたいなと思います



「このまま寝たら……もう目が覚めないだろうな」

 

中国大陸を納める大帝国『和』の初代皇帝、北郷一刀にはそんな確信があった。

 

彼がこの中原の地に降臨して、80年近い時間が経過した。

後漢王朝末期の動乱の待っ最中に降り立ち、劉備、曹操、孫権、董卓等、後の妻になる英傑たちとの出会いがあった

大陸中に芽吹きかける戦乱の芽と、その裏側で蠢く、この外史の崩壊を目論む道士達、剪定者との戦いがあった

人々の願いは、世界の理を超え、末端の枝葉に過ぎなかったこの外史は、太く厚い一本の巨木へと成長したのだ

 

そして、彼は後漢王朝を継いだ新たな王朝、ユーラシア大陸東部を収める巨大帝国和の初代皇帝へと上り詰めた

民の為、妻の為、子供達の、孫たちの未来の為、一刀は懸命に生きた

 

外部民族からの侵攻

かつての剪定者たちとは別の外史否定派管理者に先導された、西洋諸国との大規模世界大戦を瀬戸際での勃発阻止

邪馬台国との国交樹立

 

 

本当に、本当にいろいろな事があった

何もかもが上手くいったわけではない。悲しい事も、つらい事もたくさんあった

でも、それと同じ、否それ以上に幸せな思い出が幾つも出来た

 

 

 

70人を超える妻たちは次々と身籠っては子供たちを産み、成長した子供たちも同様に、誰かに恋をして、愛し合い、夫婦となって、孫が産まれる

そしてその孫たちもまた……

 

永遠に続く命の連鎖、そしてそれは始まりだけではなく、終わりをも一刀へと齎す

一人、また一人、妻が一刀に見守られながら泰山へと旅立っていった

別離の悲しみは大きく、一刀が負った心の傷は決して小さくない

だが、だからこそ、妻達は全員俺が見送らなくてはならない、残される悲しみと痛みを誰にも味合わせたくない。歯を食いしばりって立ち上がり、皇としての自分を待つ民の元に向かいながらそう思った

唯一の救いだったのは、全員が病気や負傷が原因での死ではなく、寿命を精一杯に生きたうえでの終わりだったことだろう

 

そしてつい一週間前、最後の見送りを一刀は済ませたばかり

 

あわただしくも葬儀が終わり、子供達の心も落ち着いてきて、ふと思ったのだ

 

もう自分がするべき事は残っていないのだ、と

そしてそれが核心に変わったのは、今朝起きてすぐだった

 

全身に感じる、言葉にできない小さな違和感。それが何故だか所謂お迎えであると一刀は確信していた

死ぬことへの恐怖は、自分でも不思議に思うくらいに涌いてこず、逆に納得と、皆の元に迎えるという安心感を感じるほどだ

 

 

料理をしっかりと味わい

仕事をきっちりと終わらせ

兵達に交じって鍛錬し

城の天守から街並みを眺め

家族、臣下達と取り留めもない会話を繰り返す

一刀の最後の一日は、いつも通りだった

取り乱して家族に、部下たちに不安を与える必要はない

 

しばらく逡巡した後、一刀は寝台に身を潜らせた。今更残る未練などもう何もない

子供達は健やかに育ち、かわいい孫に囲まれ、優秀な武官文官が彼らを支えてくれてる

民たちは日々笑顔で、諸外国との関係も、少なくともすぐ何か有事に発展するような懸念もない

剪定者気取りの道士達が来ることももうない、と自分たち側に立って戦った管理者も言ってくれたし、何かあれば彼…彼女?達が助けになってくれるだろう

 

意識が遠ざかるのが分かる。普段の水に溶けていくような睡眠への導入ではない、急速にどこかに落ちていくような浮遊感。

そうか、これが死か

事ここに至っても、恐怖は感じなかった。

未練はない、穏やかに、静かに、すべてを受け入れて旅立つ…はずだった

 

あぁ、そう言えば……

 

一刀は、その時微かに、本当に一瞬の、数秒にも満たない時間、思い浮かべてしまったのだ

 

今ここにいない、遠い過去に永遠に離別してしまった、正史にいるであろう家族と、友人たちの事を

 

父さんと母さんは、ずっと心配しながら死んじゃったんだろうな……

 

刀奈も、きっと泣いてたんだろうな……ダメな兄ちゃんで、ごめんな

 

及川……悪い、ゲーム借りっぱなしだっけ、そう言えば……

 

思わず苦笑してしまう

人間一切の未練を持たずに逝くのは難しいと、昔何かの本で読んだ記憶がある

その通りだ。必死になって、皆が泣かない結末を迎えたいと思っていたはずなのに

こんな土壇場中の土壇場で、大切な人たちを泣かせっぱなしだったことに気づくなんて

 

まずいな…死にたく…なくな…ちまった、ぞ……

 

薄れゆく意識の中で、彼は誰にともなく願う

 

みんなで……みんなで……こんど、こそ……

 

自分が知っている人すべてが平和であって欲しいという願い、そして、ほんの少しばかりの我儘、その幸福な輪の中に、自分も入っていたい

 

誰にあてたわけでもなく、誰かに届くことがない事も知ったまま、彼は願い、そして旅立っていった

 

 

翌朝、城がある新都に住む人々は、空に向かって昇っていく白い龍と、まるで龍に寄り添い侍るように飛んでいく、幾つもの極彩色の光を目撃した

それは一刀の朝を任されている侍従が、既に冷たくなっている彼を寝台で見つけ、泣き崩れた時とほぼ同時であった

最期を迎えた一刀の顔は、穏やかで、まるで眠っているかのようであったと言う

 

天の御使い、天へと帰還す

 

大陸中の人々が、龍をはじめとした瑞獣たちがその報に嘆き悲しんだ

一刀の遺言で葬式こそ質素だったものの、その死を悼んだ人々が各地で手向けを行い

軍や警備隊は自分達の悲しみを飲み込みながら、殉死を禁ずると遺言に残されたにもかかわらず、一刀のもとに殉死しようとする文官達を抑える為に奔走した

 

 

やがて、人々は前を向いて、互いに手に手を取り歩き始めた

 

またいつかどこかで再び会えるのだ。ならば今は、賢明に日々を生きること、それこそがかの百花王への手向けとなるはず

悲しみの末に、誰もがそう思った

 

一刀は百花帝と言う諡を送られた

常に相手の目線に立ち、気を配ることを欠かさなかった彼の周囲には、いつも人々の笑顔が花咲いていた

 

歴史上最も優しく、最も愛された皇帝に相応しい諡であった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、北郷一刀は再び聖フランチェスカ学園の男子寮にある、自室のベッドの上で目を覚ました

 




誤字脱字などございましたらどんどんご指摘ください。


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序ノ弐 百花爛漫

予想以上に長くなったので前後編に分けました。
これでいったん序章はおしまいとなります。



「……んぁ?」

 

自分でも間抜けだなと思うほどに、情けない音が一刀の口から放たれた

見覚えが微かにある天井。重い頭ごと身を起こして周囲を見回すと、フローリングの床に薄い壁、気に入ったデザインのシーツのベッド、窓から入り込む月明かりに照らされて、買ったばかりの漫画本や参考書が詰め込まれた棚が目に入ってくる

 

「……俺の部屋、だよな………え?は?はあっ!?」

 

何十年かぶりに嗅いだ、文明社会の埃っぽい香りに一気に意識が覚醒し、全身に鳥肌が立つのがわかる

自分は今まで1800年前の中国、に似た外史で暮らし、天にとうとう召されたはずだ

何故こうして正史の、それもピンポイントに学生寮の自分の部屋なんかにいる?

 

ぐるぐると部屋の中を歩き回るうちに、テレビの上に置いてある時計に目が留まる

デジタル式のそれには、現在の時刻だけではなく、今日の日にちや曜日も表示される機能があった

 

「20××年、4月……15、日……?」

 

忘れもしない日にちが目に飛び込んでくる

そう、友人の及川祐に誘われ、フランチェスカ学園の講堂で行われていた三国志展を見に行き

あの男、左慈と出会い、戦い、外史の突端を開いたその日の日付そのままだ

向こうの事を忘れないように、とかつて一刀自身がしっかりと記憶したままの日付

そして時刻は23時過ぎ

 

「え…いや、ちょっと、ちょっと、待てよ……?」

 

思考が飽和して混乱する中で、必死になって状況をまとめようと頭脳をフル回転させる

と、一つのフレーズがフラッシュバックする

 

胡蝶の夢

 

起きている時に見ている現実、夢の中で見ている幻想。果たしてどちらが真実なのか?

 

「じゃ、じゃあ…今までの…あいつらも、戦いも、全部……?」

 

心が冷える、凍り付いていく。最悪の可能性がどんどんと肥大化していくのが分かる

あの時代で築いた絆も、愛も、文字通り血反吐をはかんばかりに願ったあの世界の平和も、何もかも、ほんの数時間の夢に見た、幻に過ぎない、のか……?

 

 

「それはちぃがうわよんご主人様ン♪」

 

背中からやけに野太い声がかけられ、思わず一刀が振り向くと、そこには唇を窄ませて目をつむり、頬を染めたスキンヘッドの巨漢の姿が!!

 

「むっちゅううううん」

 

「ぎぃやああああああああああああああああ!?」

 

一刀は瞬間的に体を捻り、絶叫と共に全体重と筋肉運動を最適に結合させた強力な一撃を放っていた

 

「ぶるぅわああああぃっ!!」

 

横隔膜の近くに直撃を受けた魁偉な男?は空中に吹き飛ばされながらも素早く体勢を立て直し、膝を曲げながら着地する

 

「んっふふふふ~ん♪ご主人様の魂に響く一撃、久しぶりだわさ~♪」

 

「はぁっ!はぁっ!はぁっ!って、お前!?貂蝉!!」

 

思わず手が出てしまった一刀だが、普通の男なら意識を失うレベルの一撃を受けながらもほおを紅潮させてクネクネとしているその男?に見覚えがあった

 

いや、見覚えがあるなどと言うレベルではない。外史での長い王としての人生の中で、幾度となく救ってくれた頼もしい親友……向こうからすればソウルラヴァー?らしい相手、それがこの男、いや漢女だった

 

「お前……なんで、ここに?」

 

「そりゃあご主人様に現状を説明するために決まってるじゃなーい。現に大分パニクってたわけだしぃ?」

 

「そう、だな……うん。お前の顔見て大分頭が冷えた。お前がここにいるってことは、少なくとも俺は『夢を見ていた』わけじゃない、って事の証明にはなったからな」

 

貂蝉は外史と正史を管理する管理者の一人で、外史の存在を受け入れる肯定者だ

もし外史の存在が一刀の夢だったのなら、夢の中の登場人物に過ぎない彼?が今ここに存在できるはずもない

 

「そう言う事よん。貴方が開き、その存在を確固たるものにしたあの世界は、ちゃーんと存在し続けているわん。そこは安心してちょーだいねぃ。そ、れ、に。今の一撃だって、ご主人様が凪ちゃんから習った雷獣拳じゃないの。しっかり貴方の身体にはあの世界での経験が蓄積されちゃってるのよん」

 

「ははは……突発的だったから全然自覚なかったよ……でもよかったぁ……」

 

笑顔でうなづく貂蝉に、最低限最悪のオチだけは脱することが確定した一刀は大きくため息をついて脱力する

あの外史はちゃんと存在して、そこではきっと、自分たちの子や孫が、今でも顔を思い出せる人々が生き続けているのだ

 

その前提すら崩れてしまっていたならば、今頃一刀の精神は崩壊していただろう

 

「でだ。俺は確かにあの時、いや今が80年くらい前だから……?まぁいいや、とりあえず俺は、向こうで死んだはずだ。それがなんで、こっちの世界に、あっちに行く前に戻ってきてるんだ?」

 

「そうね。そこをまず説明しないといけないわね。と言っても、理由自体はシンプルなものなのよん」

 

「シンプル?」

 

「そう。外史と言うのはとても不安定で、いつ消滅してもおかしくない儚い泡のようなものなの。でもご主人様や皆が左慈ちゃん達を退けて、その後もずっとずっとあの外史を維持して、育て続けたの。小さな種から芽吹いた頼りない芽も、長い時間をかけて太く立派な幹を持つ巨木に育ったわ……もう一つの正史ともいえる存在にね」

 

「もうひとつの正史……」

 

「外史の存在が安定する事自体はそう珍しい事でもないんだけどね。そこから外史をさらに派生させる新しい正史になる確率なんて、それこそ文字通り天文学的な確率よ。ただ、絶対にありえない事でもないのよん。でね、正史同様にまで育った外史には、ある程度正史にも干渉できる力が生まれるわけ。ここまではいいわねん?」

 

「あぁ、于吉が言っていた外史が正史に影響云々ってそれだろ?」

 

もっとも運命の流れが正しいとされる時空が正史で、そこから派生したもしもの可能性が具現化した世界が外史、と一刀自身は記憶している

正史と複数の外史は一本の木の様な形で表すことが出来る

大地に根を張り、そこから延びる分厚い根幹が幹、そして幹から四方八方様々に伸びていく細い枝こそが外史

そして正史と言う木がまるで森の様に複数存在しているのが、並行世界の在り方なのだと言う

そして時に、大量に派生した外史は正史にも影響を及ぼす、過程と結果が逆転すると言うのだ

その在り方を肯定するのが貂蝉ら肯定者、否定し外史を破壊しようとするのが剪定者であると言う事も

 

「そうよん。そして、あの外史はその力を使って、貴方の魂をこの正史に送ったのよ。戻した、とも言うのかもしれないわねん。ねえご主人様、今わの際にこっちの世界の事……考えたでしょ?」

 

「……あぁ」

 

「だからね、あの外史は自分を育ててくれた恩返しと頑張ったご褒美に、貴方の最後の未練を解消させたくて、コッチの世界での北郷一刀としての人生を歩めるようにしたと言うわけね」

 

「……まるで子供からの恩返しみたいだな」

 

「うふふ。あながち間違いじゃないわねん」

 

事のあらましを聞いた一刀はベッドに身体を投げ出して、ため息をはきながら天井を見つめた

自分が今までやって来たことが無かったことになったわけではなく、むしろ今までの積み重ねがあるからこその今の自分がある

役目を終えて骨を埋めるだけだった自分が、こうしてまた二度と会えなかった家族や友人とやり直す機会を与えてくれたのだ

外史そのものへの感謝の気持ちこそあれ、文句を言うなんて言語道断なのはわかっている

だが……この世界には

 

「……桃香ちゃん達に会いたい?」

 

「……あぁ」

 

そうだ。この世界には、桃香が、蓮華が、華琳が、月が、恋が……

 

みんながいないんだ

 

愛しい女性たちが

 

家族が

 

ここにはいないんだ

 

自分はなんて傲慢なのだろう。満足して死を迎えたかと思えば未練を抱き

それを汲んでもらったと言うのに、また新たな、渇望と言っていい程の欲が胸の奥で猛烈に荒れ狂っている

情けなさと寂しさで目頭が熱くなり、思わず制服の袖で目元を覆う

 

「……ご主人様、そんな顔しないの。さっき言ったでしょう?恩返しとご褒美、って。スマホを見てごらんなさいな」

 

慈愛を感じさせる表情を浮かべた貂蝉は、目を隠し脱力していた一刀を促す

一刀の顔のすぐ近くに転がっているスマートフォン、これを見るのも何年ぶりだろうとぼんやりしていた一刀は、ランプに着信を知らせる青い明かりが灯っていることに気づく

 

「そっか。展示見に行ったからマナーモードにしてたんだっけ……え?」

 

スリープから再起動したスマートフォンには、凄い数のメッセージの着信履歴が残っていた

と言うか、さっきから断続的に振動し続けていて、それが止まらない

 

「え?何これ?イタ電?」

 

調べてみれば、メッセージアプリに『KH』と言う見覚えのないグループがある事に気づく、開けるべきか、消すべきか

恐ろしい勢いで増え続ける未読表示に、ええいままよとタップをしてみれば

 

「ぁ……」

 

白い羽根のアイコンがあった

 

「このアドレス、ご主人様のなんだよね!?お願い!早く声を聴かせて!」

 

赤い紋章のアイコンがあった

 

「夜分遅くに失礼いたします。北郷一刀様のトークアドレスでお間違いないでしょうか?蓮華です……覚えていたら、返信をください。お願いします」

 

銀の髑髏のアイコンがあった

 

「返事の一つもまともに返せないの?……早くしなさいよ、馬鹿」

 

「……ちょうせん、これ……?」

 

「そう言う事♪ネタバラシするとね、外史が貴方と一緒にあの子達も全員こっちに転生させていたのよん。そして貴方が目覚めると同時に記憶を取り戻す仕組みになっていたってわ、け♪あっちのフォローには今卑弥呼が行ってくれてるから、そっちの心配もご無用よん♪あ、そうだわ。そのグループはこうなるだろうって思ってたから私達で勝手に作っておいたの、ごめんちゃいねぃ」

 

「……っ」

 

もはや貂蝉の言葉も届いていないようだった。大きく見開かれた一刀の瞳は潤み、今にも涙が零れ落ちそうになっている

 

メッセージに既読表示が付いたことで、向こう側も一刀の存在に気づいたのだろう、ビデオチャットへの勧誘が表示され

一刀は震える指でそのボタンをタップする

 

「……ッ!」

 

 

 

 

「ご主人様ぁ……」

 

「桃香……」

 

桃香と、蜀の皆が

 

「一刀っ…!!」

 

「蓮華……」

 

蓮華と、呉の皆が

 

「……っ!かずとぉ!!」

 

「華琳……ッ!!」

 

華琳と、魏の皆が

 

みんなが、みんながいる。ずっと会いたかった、愛おしい皆が、いる

 

「……みんな、みんなぁ…ッ!!」

 

一人残された悲しみ、二度と会えない世界への別離と言う冷え切った絶望が、熱い涙と共に一刀の身体からあふれ出していく

正史に戻ってきたことも少なからず影響していたのだろう

一刀の精伸は老齢の皇帝から、再び17歳の少年のそれに引き戻されていた

俯き、声を上げて号泣する一刀をスマホ越しに、こちらも涙声の恋姫達が声をかけている

 

そんな姿を黙って見つめているほど、貂蝉は自分を無粋な漢女だとは思っていない

 

「どぅふふふふ。ヤボは抜き♪デキる漢女はクールに去るのよぉん。またねぃ、ご主人様♪」

 

 

目じりに感涙の涙を浮かべながら、そっと貂蝉は扉を閉める

これからは、一人の男の子と、沢山の女の子の、それなりに騒がしくて、それなりに日常的な、優しくて幸せな物語

 

自分は再び裏方に徹することにしよう

 

 

 

 

……とまぁ?こぉんな感じでご主人様と、お姫様たちの物語はぁ、ひと段落って感じなんだけどぉ?

 

『あの』ご主人様と、『あの』華琳ちゃんや桃香ちゃん達との子供達でしょう?

 

そりゃあもう、七転び八起き七転八倒酒池肉林天元突破な物語が待ち受けてぇ、いるわけなのよねぃ

 

……見たいかしらん?どぅふふふふ、じゃあ新しい外史を始めましょう!

 

ここからは、あの子達の物語、世界の在り方や、宿命すらも打ち砕く極天の子供達のお話の、始まり始まり~!




誤字脱字などございましたらどんどんご指摘ください。


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仁の継承者は種族を超えて

さあてはじまってしまいました、一刀君の子供たちの物語

見切り発車ですが、最初は王道的な感じでお送りします

2020/8/26 一部描写を修正しました


北郷一刀を父と出来たことを、僕は誇りに思う

 

優しくて、意志が強くて、皆の事を常に考えて、母を全員、子供達を全員平等に愛し、諦めることが無い、ちょっと弱くて、そして強い男性(ひと)

 

北郷桃香を母と呼べることを、僕は奇跡に思う

 

笑顔を絶やさず、困った人を見過ごさず、最初に決めた事は頑として貫き、悲しい時、辛い時にも自分以外を優先する、放っておけない女性(ひと)

 

そんな二人の血を受け継いだ僕は、平均以上には優しいし、平均以上に努力をすることが好きで、平均以上には頭が回る、と思う

だけど、父の様に機転も効かないし、母程の慈愛はきっと持っていない

 

父と母に比べれば……そう、きっと僕は暗愚なんだろう

でも、僕には僕なりに、他人に誇れるような何かがきっとある……はず

 

父や母の様にはなれないけれど、僕は僕として、誇れるような生き方をしていきたいと思う

 

今までも、これからも

 

だから、母さん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高校入試に合格したからって、ほかの子もいるのに抱き着くのはやめて欲しいかな

 

 

 

 

 

 

 

 

北郷頼人

駒王学園高等部2年生。年齢16歳。北郷一刀と北郷桃香の間に生まれた少年で、北郷家の一員だ

彼はお人好しである。同級生、後輩、先輩、果ては教師や学園の関係者飽き足らず、市中で困った人を見かけた時はすぐに声をかけ、悩みを共に解決しようとする

当然交友関係は広く、友人も多い

また、母親譲りの土耳古石(ターコイズ)色の大きい瞳や、整った容姿から、同級生の木場裕斗や匙元士郎と並んで駒王三王子の一角として女子人気も高いのだが、本人に自覚は一切ない。これまた父親譲りである

 

 

通学路途中で目が合ったクラスメイトや、友人たちとあいさつを交わしながら登校していると、背中に衝撃が走る

 

「らーいとくんっ!おはよっ!」

 

「おはよう、玲奈さん。駄目だよ?危ないことしちゃ」

 

肩越しに両腕で抱きつかれ、ふわりと優しい匂いに包まれる。そして背中には柔らかい何かの感触も

頬が熱を帯びるのが理解できるが、ここで取り乱すわけにはいかない。少しでも隙を見つければそこに一気呵成に攻め入ってくるのだ、この難敵は

 

伊礼玲奈、数年前にちょっとした一件から頼人と知り合い、それ以来何かにつけ彼を追いかけ、頼人自身も世話になっている少女だ

年齢は『一応』17歳で、クラスは違うが同級生である

腰まで延びる烏羽色の髪、紫水晶(アメジスト)色の縦長の瞳は、そのいたずらっ子の様な表情と合わせて、全体は清純でありながらもどこか蠱惑的な雰囲気を彼女に持たせ、ミステリアスに彩っている

 

「頼人くんならこれくらいどうってことないでしょ?しっかり抱きとめてくれるって信じてたもの、私!」

 

「いやそうじゃなくてさ…周りの目がさ…つかやめてその雪蓮母さんみたいな言い方…」

 

美男美女が絶賛登校時間中の通学路で密着していれば、嫌が応にも人の目は集まるものである

顔を赤くして目をそらすもの、まんじりとして見つめ続けるもの、くすくすと笑う者と反応は多種多様

道の反対では同級生の兵藤、元浜、松田の2年生変態トリオ

が呪詛の視線を放っているのが見えた

 

「ふふっ、わかったわよー。頼人ニウムはしっかり補給できたし、先に行くね?じゃあね!」

 

「はいはい……っかしーなぁ…玲奈さんって最初会った時あんなだったっけ……?」

 

ウィンクしながら足早に去っていく玲奈、さながら台風である。いや、先ほどの連想の通り、その奔放さは孫呉の小覇王で、今では犯罪者を叩きのめすことを趣味兼仕事にしている母親の一人の方が近しいだろうか

苦笑交じりにため息一つ、思い出される最初の玲奈との出会いは、それはもうシリアスな場面であったはずなのだが……

 

 

「……んっ?」

 

学園の敷地内に入り通用口を目指していると、視線を感じ立ち止まる

周囲を見回してみれば、体育館の向こう側に見える木造の旧校舎がその視線の大元らしい

開け放たれた窓に見える紅と黒。見覚えのあるメンツが二人いた

 

リアス・グレモリー

 

姫島朱乃

 

駒王学園の男性人気を二分し、二大お姉様と呼ばれている三年生の女子2名

視線の主は紅の髪を風になびかせているリアス嬢のようだ。遠目ながら値踏みするような、興味深いものを見つけたような視線

互いに目が合ったことが分かり、リアスはにっこりと笑って手を振り、頼人もしっかりと深く頭を下げて会釈を返す

 

「……ふむ?」

 

一瞬の邂逅、頼人の脳裏にはいくつかの疑問

彼女らとはそこまで親しいわけでもなく、会話を交わしたこともあまりない。それでいて先ほどの笑顔

どんな相手でも分け隔てないだけと言われればそれまでだが、疑問は疑問である

もう一つ、今旧校舎は必要のない教材などの物置となっており、彼女たちの様な人間がいるには似つかわしくない場所である。何やら奇妙な気配も放課後になると感じることもあり、人がいるべき場所ではない

だからと何だと言われれば、こちらも同じくそれまでなのだが

 

と、後ろからのクラスメイトの声にその疑問は一瞬で霧散してしまう頼人であった

憎らしいくらいに晴れやかな蒼穹が広がっている。今日も何事もない平和な一日でありますように、そう頼人は願った

 

 

 

放課後、授業でわからないところがあると言うクラスメイト達と簡単な復習会を開催し、そのまま駅前で遊ばないかと言う誘いを受けたが、スマホに入ったメッセージを見て頼人はそれをやんわりと断り、帰宅することにした

 

「で?間違いなくグリゴリは関与してないんだよね?今回のゴタゴタ」

 

「当たり前でしょ。三すくみ状態で宗教的な中立地帯の日本まで巻き込んで開戦準備なんてこと、バレたらそれこそアルマゲドンですもの」

 

「だよね」

 

住んでいるのは学園にほど近い1Kの学生向けアパートだ。今ぐらいから自立に慣れておいた方が後々気が楽と言う父親のアドバイスもあり、入学してから一年お世話になっているマイホームである

 

「しかしまあ…良く日本に入ってこれるよね。結構強い結界貼ってるはずなんだけどな、出雲の人達も」

 

「この町がそれだけ着火点として魅力的って事よ。高天原勢力の庇護下にある日本で唯一国外神話勢力、それも七十二柱の一族の姫君二人が、一時的とは借り上げて管理している一帯。そこでどちらかの命が奪われる…なんてあってみたらどうなるか?」

 

制服を脱ぐと、そのままクローゼットの奥にある二重扉を開け、そこから別の衣服を取り出す

 

「……日本神話勢力すら巻き込んでの霊的世界大戦か……ぞっとしないね」

 

白を基調に、緑と金のアクセントが入った上着、暗い赤色のボトムス。どちらも一見すればやや派手な意匠の学生服だが、実際は対弾、対刃仕様の特殊繊維で出来、更に対魔術処理の超微細な防御術式を封じられた于禁印、一級品の戦闘服である

 

「それだけじゃないわ。日本には仏教だって根強く入り込んでいるし、そこ経由で大陸とのつながりも太い。下手をすれば崑崙山から仙人たちすら降りてくるかも」

 

襟元まできっちりとボタンを閉め、最後に頼人は同じく扉の奥に立てかけてある、細長い布でくるまれたそれを掴み、紐をほどいて取り出していく

 

「仙人……ね」

 

<<朋友はやはり神仙の類は嫌いなようだな>>

 

現れたのは、碧色の鞘に納められた二振りの剣だ。鍔は龍の形を模し、金色に縁どられている。片方ずつを手に取り、鞘から引き抜き、脳内に響いた声に応えながら、刃の状態を確認する

 

「僕自身が何かされたわけじゃないんだけど、ね」

 

<<外史での因縁か。まあ好めるものでもあるまいよ>>

 

刀身には欠けの一つもなく、磨き抜かれた表面には頼人自身が反射している

 

「私はいまだに信じられないなあ……頼人君のお父さんたちのお話」

 

「堕天使がそれ言うかなあ……(ハオ)

 

どちらも問題ないと判断し、その両方を再び布で包むと、頼人は家を飛び出していった

 

 

 

「今家を出たよ。ナビはお願いね、レナさん」

 

人気のない裏道に来た頼人は、周囲に人の気配がない事を改めて確認すると、その場から大きく跳躍し、住宅街の屋根の上を軽やかに飛びぬけていく

目的地はスマートフォンの向こうから、戦いのパートナーによって説明され、脳内の駒王町の地図と照らし合わせ、並行しながらも進む脚は止めない

 

目指す場所は郊外の廃工場。このままなら5分もしないで到着できる

 

「早く終わらせないと」

 

口調は軽やかに、だがその表情は鋭く、戦う覚悟を帯びた戦士の顔つきになっていた

 

<<はて、宿題の一つでも出されたか?>>

 

「いや?レナさんが早寝できるようにね。夜更かしは乙女の敵だ」

 

<<……やはり其方は親父殿の息子だよ。朋友>>

 

「?」

 

 

 

一瞬の出来事であった

駒王町の管理を任されている、ソロモン72柱がグレモリー家の娘であるリアスは、自らの仲間たち、朱乃、木場祐斗、塔城白音、 塔城黒歌と共に駒王町に潜入したはぐれ悪魔バイサーの討伐の任に就いていた

バイサーの殲滅自体は、いつも通りの簡単な内容だった

クイーン、ナイト、ビショップ、ルーク。それぞれの特性に合わせた戦法で相手を追い詰め、最後はリアス自身が滅びの魔法で引導を渡す。傘下に入ったばかりの兵藤は見学に徹し、各々の能力と思わず見れた裏の顔に驚愕やらドン引きやらをしていて今回は出番なし

跡形もなく消滅したバイサー。戦術も作戦も完ぺきであった、リアス自身に非はない

ただしそれは、予想不可能な個所から、予想不可能な相手からの攻撃がなければ、であるが

 

「っ!?リアスッ!!」

 

やや後方に陣取っていた朱乃が最初にそれに気づいた。バイサーにとどめを刺し、息を吐いて脱力したリアスに、工場の物陰から高速で接近する存在があった

 

「グレモリーが娘ぇ!その首級をいただくぞお!!」

 

烏の如き黒い両翼、バイクスーツ姿の男――堕天使が、両腕に生み出した光の槍をリアス目掛けて投擲したのだ

 

「ぁっ……!」

 

対応するには戦闘経験がほぼない浅い兵藤はもちろんの事、、木場も白音も遠すぎた。唯一反応できた黒歌だけは、気を練る動作に入れていたが、それでも遅い

リアス自身も回避が絶対に不可能だと言う事が理解できる間合いだった

軌道が目掛けているのは心臓。多少動いたところで二発目の槍までは回避できない

 

(こんなところで…こんなやつに……っ!!)

 

向かってくる確実な死に、せめて最後まで目は反らすまいと覚悟を決めた、その時だ

 

「でえええええええいっ!!!」

 

堕天使の後ろの壁が爆音とともにはじけ飛び、緑色の電光、としか表現できない何かがそのまま堕天使にぶつかり

その身体を超高速でスピンさせた

 

「……はへゃ?」

 

状況が理解できず、間抜けな断末魔を上げた堕天使の男は、そのまま超高温の雷撃の本流によって天高く吹き飛ばされ、重力に従って落下し意識を失う

その光は弧を描くような軌道でリアスの面前に飛び込み、そこから頼人が現れて、リアスに向かっていた光の槍を交差させた両腕の剣で切り砕いた

 

「っ!?」

 

理解が追い付かず、硬直するリアス

着地と同時の斬撃の残心から、呼吸を整えつつ目の前の男、頼人は立ち上がると、剣を振り払って鞘に戻し

ゆっくりとリアスの方へ振り返る

 

「あ、貴方……北郷、頼人、くん……?」

 

「はい、無事でよかったです。グレモリー先輩」

 

はにかんだような笑顔、土耳古石《ターコイズ》色の大きい瞳に吸い込まれそうになる自分を、リアスは自覚した

そして、何となくではあるが、胸の奥に熱が芽生えたことも、自覚してしまった

 

 

「……あーあ、やっぱ増えるよね、ライバル……頼人君がいるかぎり、そう簡単に戦争なんて起こさせませんからね。コカビエル様」

 

見つめあう剣士と姫君。おとぎ話の始まりにしては剣呑な風景を、屋上から黒い翼を揺らして、一人の女性が見つめ、ため息を一つはいた

そこには諸々な将来に起きるであろう問題を混ぜ込み、この騒動の元凶相手に八つ当たりしてやると言う気持ちも籠っている

 

 

 

 

 

 

「クハハハハッ!そうか…翼を持った蒼き龍!貴様、宿す神器は応龍か!面白い、やはり戦争は面白いなあ!」

 

「……時流も読めない三流相手に喋る口はないよ。戦争狂!」

 

 

 

 

 

「極東の学校に世界に影響を与える龍が三匹。やはり龍は龍と惹かれ合い、殺し合う定めか」

 

「こいつが…白龍皇…っ」

 

「戦う気はない…って言っても、聞く耳持たないか。母さんや父さんなら、もう少し上手に事を進めるんだろうな」

 

 

 

 

 

 

「らーいっとちゃーん!!!」

 

「母さん!流石に僕高校生!高校生だから!!」

 

「はじめまして、だね?頼人の母の、北郷桃香です!何時も息子がお世話になってまーす」

 

「……私、胸にはそれなりに自信があったんだけどなあ…」

 

「私もですわ、リアス……」

 

「うおおおおっ!?す、すっげえなぁ北郷!お前のお母さん!!」

 

 

 

 

 

「なるほど、君が異世界の劉備玄徳の息子か……はじめまして、俺の名はそ」

 

「お前の名前なんてどうでもいいよ……親と子の互いを想い合う心を利用した悪逆の名前なんて。覚える価値もない」

 

「ふっ。憤義に怒れば烈火のごとく、か…かつての劉備のごとくだなっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

どうだったかしらん?ご主人様と桃香ちゃんの子供、頼人君のお話が、ここから始まっていくのよん

頼人君はねぃ…自己評価が低いのよねえ…本人は両親に及ばないって思っているみたいだけれども

優しいって意味では、あの二人にだって負けてないと私は思うんだけど、皆さんはどう思うかしらん?

 

 

じゃあ、今回はここまでよん

新しい外史の扉が開いた時に、またお会いしましょうねん♪

 

 

 

 

 




誤字、脱字などございましたらどんどん指摘くださいませ


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願った才は誰が為か?

2人目の一刀の子供の登場になります

今回は先に言っておきますとゼロ魔とのクロス。本編の合間の短編、と言う形でお送りします

ただ終盤書いていて大分詰まったので今後改訂するかもです……


ガリアでのタバサを巡っての戦いがひと段落してしばらく経ったある日

何時もの様にトリステイン魔法学園の庭にあるテラスに集まっていた才斗達、そこでルイズは昔から気になっていたことを才斗に尋ねるのだった

 

「俺が昔言った台詞?」

 

「ええ。召喚してすぐ位の時よ、私がふさぎ込んだ時に、貴方言っていたじゃない。才能があるかどうかは見方次第だ、って。貴方も何かあったの?昔」

 

そう言えば…と才斗は思考を巡らせる。確かに、授業で教室を爆破してしまったルイズに対してそんなことを喋った記憶があった

 

「まあね。昔の俺とあの頃のルイズは似ていたと思う…才能なんて何もない、ってふさぎ込んでた時期が俺にもあったんだ」

 

「ええ?ダーリンが?信じられないわ」

 

「まったくだね。文武両道、冷静沈着を地で行く君に才が何もないなんて」

 

ギーシュとキュルケが驚きの声を上げる。他の面々も口には出さないが、顔には驚きが浮かんでいた

 

「俺の母親は弓矢の天才でね。それこそ動かない的なら1リーグ先だって百発百中だ」

 

「…サイト『の』母親?それとも別の母親?」

 

の、を強調して質問したのはタバサだ。何せ才斗には70人以上の母親がいる、軽く話題に出してみたら内容が食い違っていたことも一回ではない

 

「ああ。俺の直接の母親さ。確かスマホに写真が……あった。この右側に立っているのが俺の母。北郷秋蘭だ」

 

スマートフォンを操作して表示したのは、才斗が大学受験に合格した時、大学の正門前で一刀と秋蘭の三人で記念撮影した写真だ

照れくさそうにはにかんだ才斗を挟んで左に、才斗の肩に手をまわして笑顔を浮かべる一刀が、右には涼やかにほほ笑む秋蘭が写っている

 

「うわあ……綺麗な人……」

 

「うむ、目が覚めるような美女だ。サイト、君の父君が羨ましい!……いやでも70人は流石になあ」

 

「この人が……確かに、髪の色と目元は貴方に似ているわね」

 

「……口元は、お父さんの方にそっくり」

 

それぞれがなかなか知りえないこの集まりの中心人物の両親の姿に興味津々な中、才斗は話を進めていく

 

「で。俺はそんな格好良くて綺麗な母に憧れていたわけだ。物心がついてしばらくして、母の様に弓の腕を鍛えたいと思ってそれを父と母に申し出たのさ」

 

才斗がその話を秋蘭たちにしたのは小学校低学年くらいの頃、自分の後を継がんとする息子は、冷静沈着を信条とする母も喜ばしかったのだろう

普段よりも笑顔に熱が入っていたのを才斗は覚えている

 

「だが、結論で言えば俺にはびっくりするくらい弓の腕はなかった。毎日毎日何時間、それこそ掌の皮が捲れても何回も弓を弾き、数えきれない数矢を射ったよ……どれもこれもへろへろと情けない軌道で地面に吸い込まれ、的に届きすらしなかった」

 

「サイトさんが……信じられません……」

 

「そうね。ダーリンって何でもできるって印象だから、ちょっと想像つかないわ」

 

「俺だって人の子さ。出来ることも出来ないこともある。ただ、それには思いが至らなかったんだ。まあ、小僧だったからな」

 

悔しかった、腹立たしかった、涙が止まらなくて、かんしゃくを起こしたように叫んで

両親を大分困らせてしまった。尊敬している二人の様になりたかっただけなのに

 

泣き疲れて父に背負われた帰り道、父の隣に並んで歩く母が俺の頭を撫でてくれていた

 

「その時、父さんに言われたんだ。俺が母に憧れているのは、どういう所だったのか。どういう自分になりたいのか、ゆっくり考えて結論を出せ、ってね」

 

もしあの時、自分がそのまま弓の鍛錬を続けると言っても、一刀も秋蘭もそれを否定はしなかっただろう。ただ、才斗には理解してほしかったのだ

生き方なんて千差万別、好きな道を進むべきだし、したいことをするべきだと

立場に縛られて苦しい思いをしていた妻を何人も救ってきた一刀だからこその配慮であり

後漢時代と違う自由な価値観の現代で生きているからこそ、秋蘭もそれをなおのこと望んでいた

 

「それで、君はあれを使う道を選んだ、と言う事かい?」

 

「ああ。俺が憧れていたのは、自分の全力で世のため人の為、家族のために戦う母達や父の姿だったんだ。だから、何を使うか、何が出来るかの方法までは捕らわれるのは間違い。色んな武具を試し、一番俺にあってたのは旋根、トンファーだった。だからそれを使っている、無理に執着はしない。それだけの話なんだよ」

 

才斗が選んだ武器は、空手道の武具、トンファーであった。武器と防具両方の側面を持ち、自在にそれを変化させあらゆる戦況に対応できるその装備は、弓の才では及ばないながらも、戦術眼では秋蘭に匹敵する彼の取っては最適な相棒であった

元々は両腕に七星狼旋と名付けたトンファーを装備して愛用していた才斗だったが、ハルケゲニアに召喚されて間もなくの土くれのフーケとの戦いで右手で装備する側の七星狼旋が破壊され、間もなく入手したインテリジェンスソード、デルフリンガーの鍔の部分に七星狼旋の残骸を組み合わせ改造したインテリジェントブレードトンファー七星龍旋を使用している

 

「けっ、俺をこんな姿にしておいてよく言うぜ、相棒」

 

カタカタと鎺を鳴らし、才斗の足元でデルフリンガーがボヤく

 

「まあ…虚無の力がこの世界で持つ特別な意味合いを考慮すると、俺の言葉は無責任だったかもしれんが、な」

 

「いえ、そう言い切ってくれた方が、私は安心できます。サイトさん」

 

ルイズやテファニアが背負うものの重さは、一人の少女には荷が勝ちすぎるだろうと才斗は考えている

自分の存在が少しでも支えになればいいと思っているが、それだけでは不十分だ

かつて父が覇王の宿命に会った少女を介抱したような、宿命そのものを打ち砕くようなことが出来れば…と静かに悩んでいるのもある

 

「そう言う事だったのね。貴方にはお母様とは違う才能があって、私も虚無の力があった……」

 

胸の前で手を握りしめ、瞑目するルイズ

助けを求め、縋るように呼んだ才斗と自分にあった、自分では気づかなかった才能と言う共通点。運命的な出会い、と言えばロマンチックではあるが……

 

「まあ君の場合。少なくとも父君の才能だけはほぼ完ぺきに受け継いでいるとは思うけれどもね……」

 

「ぶっ!あ、あのなあ」

 

そう、ギーシュの言うとおりだ。と紅茶を噴き出して蒸せる才斗をじとりと睨んでルイズはうなづく

70人以上の女性を侍らせた才斗の父親の、その女たらし人たらしな所だけは見事に才斗は受け継いでいると言わざるを得ない

今や彼は学園内の中心的人物であり、ここに集まっている女性陣の殆ども今や彼の恋人だ。該当者はギーシュの台詞に顔を赤くして目をそらしている、無論ルイズ自身も

 

主人である自分を差し置いて、とか。そもそもなんでなし崩し的に一夫多妻状態になっているのだ、と言う突っ込みが胸に浮かぶものの

何だかんだで受け入れている自分もいる。少なくとも才斗は外見的特徴で相手をからかったり露骨に贔屓したりはしないし、優しいし、格好いいし

 

「君も大変だねルイぐへぅ!」

 

「ま、まあ私は寛大なご主人様なわけだし!?多少の目移りくらいはゆゆゆゆ許さないこともないわよ!?」

 

ギーシュに杖を食らわせて黙殺するルイズ、その顔は誰から見てもわかるとおりに赤い

 

「有難き幸せにございます、ご主人様……これから先何があろうと、俺はルイズを裏切らん。主従とかは関係ない、男として、絶対にだ」

 

「うっ……」

 

「まぁ。返り討ちですわね、ミス・ヴァリエール?」

 

「う、うるさ-い!」

 

「ははは。ルイズは可愛いなぁ」

 

才斗の真剣な表情にシエスタの口撃と言うコンボでルイズの羞恥心も限界に達してしまった

 

いつも通りに爆発するルイズの頭をいつも通りに才斗が撫で、周囲で笑う仲間たち。これからも続いて欲しいと才斗が願う風景がここにはあった

この風景を守りたい、だから自分は力を求めた。だから、あの時の選択は間違いなかったのだろう

 

青く澄んだ空を見上げ、その先で、母も父も同じように空を見上げているのだろうか

 

(いつか必ず帰ります。でも今はまだその時じゃない。こちらは何とかやっていますから、心配しないでくださいね)

 

届かぬと知りながら、心の中で、家族に届けと念じてみる

一瞬空に、筋骨隆々な漢女の幻影が見えた気がしたが気のせいだ。絶対に、多分、きっと



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戦国を駆ける龍と烏

今回は凪達三羽烏の娘達…と言うか、彼女たちが出てくる剣丞君のお話、と言う形になります

当然剣丞君も原作に比べて大分パワーアップしておりますぞ


「ふあ…ぁ……」

 

ごしごしと眠い目を擦りながら北郷一刀はリビングへ姿を現した

連載中の春愁戦国時代を題材とした小説の原稿を朝一番で出版社へと送り、今月はしばらく締め切りから解放される

気怠そうだがその足取りは軽い

 

「おはようございます、あなた」

 

「たいちょ~、おはようなの。あ、寝ぐせ凄いよ?」

 

「おっはようさーん。今凪が朝飯作ってくれとるよ。隊長も一緒に食べえや?」

 

出迎えたのは三人の妻

銀色の髪に浅黒い肌、左目に薄く縦に傷跡が残る女性がキッチンからひょっこりと顔を出し

橙色の明るいウェーブした髪に眼鏡の女性、菖蒲(しょうぶ)色の髪の関西弁の女性が一刀の姿に気づいてテーブルへと誘っていく

 

「おはよう。凪、沙和、真桜。帰って来てたんだな。起こしてくれりゃよかったのに」

 

椅子に座った一刀の傍にそそくさと沙和と呼ばれた女性が近寄り、あちこちに跳ねている髪の毛を丁寧に梳いていく

彼女達も一刀の妻だ。朝食を作っているのは楽進こと凪、一刀の髪を整えているのは于禁こと沙和、タブレットPCと睨み合って何やら入力しているのは李典こと真桜

かつて和の三羽烏と呼ばれ、一刀の親衛隊を務めていた武人たちである

 

「……そうはおっしゃいますが」

 

「昨日の夜は華琳様となーんやお楽しみだったみたいやし?」

 

「割り込める空気じゃなかったよ~?」

 

「あ、あははは……」

 

毎日毎晩未だにご盛んなのが北郷家である、凪達がそれぞれの仕事先から合流して帰宅したのは午前近く、帰宅の挨拶を…と思い赴いた一刀の部屋からは甘い声が漏れていたのである

華琳派閥のトップのお楽しみに割り込む勇気は三人にはなかった

ちなみに、当の華琳は現在満足気な笑顔でご就寝中である。昨夜の戦果からして昼過ぎまでは起きてこないだろう

 

「で、でだ。刀那の家には何時ごろ行くつもりなんだ?」

 

「正午前までには迎えに行こうと思います。流石に昼食までお世話になっては申し訳ありませんから」

 

今彼女たち三人の娘は、一刀の妹である新田刀那(にった とうな)の家に遊びに行っている

夏休みも終盤、相手の家にも同じ年頃の男子がいるのだ。親戚家族とは言え何時までいるわけにもいかないと凪は思っているのだ

 

「真姫たちはどこまで進んだんやろなー?」

 

「剣丞ちゃん、隊長に負けず劣らず朴念仁だからね~。そろそろ実力行使しちゃうかも?」

 

「おいおい、父親の前で娘の色恋事情で花咲かせないでくれ」

 

きゃいきゃいと娘たちの将来について話し合う真桜と沙和に一刀はため息をつく

彼女たち三人の娘、凪紗、真姫、沙斗花の三人は従兄に当たる刀那の息子、新田剣丞に恋心を抱いている

一人の男の周りを三人で取り囲んで騒いでいる姿は、かつての自分たちの様で母親三人は当然娘達の恋路を応援しているし、一刀自身も剣丞の事は身内贔屓を抜きにしても気に入っている

気に入ってはいるのだが……

 

「第三者的に見ると、男一人に女性複数って、すっごいヴィジュアルだよな……」

 

「うわ。たいちょー今更なの」

 

「世間からはああ見られているんですよ、もう何年も」

 

「ウチ等以外にも奥さん何人か囲っとるお人は見た事あるけど、70人超えは流石に見た事ないなあ」

 

「……」

 

藪蛇に轟沈する男一人。いいんだ、世間の荒波に耐えてでも皆と所帯を持ったんだから、くすん

 

「さ。出来ましたよ。冷めないうちにどうぞ」

 

「おおー!相変わらず美味しそうやなあ凪の朝飯!」

 

「お腹ぺこぺこなの。早く食べたいなあ」

 

「味噌汁、白米、お漬物に大根おろし。そして卵焼き……いやあいいなあやっぱり日本食って」

 

自分の分の朝食が乗ったトレーをそれぞれにもってテーブルに着く4人。おいしそうな香りが湯気と共に立ち上って食欲をそそり、胃が早く食べさせろと催促をしているのが分かる

 

「では皆さんご一緒に、いただきま……ん?」

 

一刀が合掌を作ると同時に、テレビ前のガラステーブルに乗っていた一刀のスマートフォンから音楽が鳴りひびく

 

「なんやあ?隊長、まだ原稿出してなかったん?」

 

「んなわけあるか。この着歌は……もしもし、刀那?どうした?」

 

一刀は電話帳に登録している相手は全員別の着信音楽を振り分けている。鳴った音楽は妹刀那からのものであった。娘たちが何か騒動でも起こしたかと思い出てみた一刀であったが……

 

「落ち着け刀那、何言ってるのか全然わからないぞ……剣丞が?……ああ、ああ、そうか…わかった。丁度今家に凪達がいる、貂蝉達もつれてすぐそっちに行く。いいか刀那、呼吸を整えろ。慌てるな?いいか?すぐに行くからな?」

 

会話が進むにつれ深刻さを増していく一刀の声と表情、凪達もそれは伝わり、すぐ動けるようにと椅子から腰を上げている

 

「……はぁ、マジか……」

 

「どうされたのですか?あなた……」

 

「剣丞に、何かあったん?」

 

「声が漏れてたけど、刀那ちゃんなんだか深刻そうだったの~」

 

「……剣丞と、凪沙達がどこかの外史に飛ばされたみたいだ」

 

 

 

 

 

「「「ええーーーーーー!?」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

「剣丞君。どんな時でも、胸に抱いた理想をあきらめちゃダメだよ?」

 

「剣丞、貴方は一人じゃない。周りには沢山の仲間がいる、それを忘れないで」

 

「剣丞、優しく在りたいと言うなら、強くなりなさい。どんな時でも理想を貫けるように、仲間を護れるように。自分が誰かの重荷にならないように」

 

「剣丞。無理なものは無理だ。そんな時は仲間に頼ればいい。でも無茶で出来るなら、やれるだけやってみろ。ただ絶対に諦めちゃ駄目だ。留まって、後ろを向いて、考えて、藻掻いて、足掻いて、全部やっていい。でもあきらめることだけはしちゃだめだ。そしてもう一回だけ無理かどうか考えるんだ、その時無理じゃないと思えたなら、剣丞と仲間たちならきっと出来る。俺はそう思う。後は……」

 

 

「「「「女は(女性は)(女を)絶対に泣かせるなよ?(泣かせちゃ駄目だよ?)(泣かせないようにね?)(泣かせるような男にはならない事ね)」」」」

 

 

 

「っ……」

 

遠い昔の懐かしい記憶、どこからか聞こえる小鳥の囀り。子供の頃に舐めた飴の様な懐かしいミントの匂いに、意識が段々と覚醒していく

思考の回転が遅くまだるっこしく感じる、早く起きねばと急かすがそれに体は中々答えず、しかして自分が横たわり、布団の中にいるという認識を脳が処理した瞬間、一気に思考が加速した

 

重くだるい瞼を何とか開いて、シバつく目を何度か瞑っては開いてピントを合わせる

と、ここがどこなのかと周囲を見回すよりも先に、目の前に琥珀色の瞳があった

 

「は……?」

 

「おお。目が覚めおったか」

 

横たわっている自分を、見知らぬ女の子が興味深そうにのぞき込んでいる

綺麗な黒髪、琥珀色の瞳。キリっと結ばれた唇の怜悧な雰囲気は、伯母の一人に似ているけれど、彼女ほどの硬質さは感じられない

 

 

「…え………っと」

 

「貴様だけ、三日も眠りっぱなしであったぞ?壮健なのか?医者が言うには特に怪我はなく健康体だとのことであったが」

 

一応剣丞の体調を気にしている言葉は口にしたが、それに剣丞が返答する間もなく少女はまるで機関銃のように言葉を紡ぎ続ける

 

「それよりも、貴様にききたいことがある、貴様等はどうやって天からおちてきた?そもそもどうやって天に昇った?あれか、貴様はいわゆる幽霊という奴か、いや幽霊ならば触れないと聞くが貴様はちゃんと触れているな。他にも聞きたいことがあるぞ、あの光の玉は何なんだ?どのような手妻を使ったのだ?あれほど強い光を我は初めて見ぞ。燃料は何だ?荏胡麻か?それとも昨今流行りだしたという、新しい菜種油というやつか?」

 

「ちょ、待って、待って!」

 

「うむ、なんだ?なんでも申してみるがいい」

 

やっとカットインに成功した剣丞。重い体を何とか起こして少女と向かい合う

 

「えっと……君、どちら様?」

 

「ふむ。確かに自己紹介はしておらなんだな。しかし、人に名を訪ねるならば、まずは自分から先に述べるのが礼儀と言うものではないか?」

 

こっちに喋らせる気なかっただろうに…と思いつつも口に出すことはしなかった

そのような余計な一言が地獄の入り口になると女系家族出身の剣丞は熟知していたからだ

 

「俺は新田、新田剣丞」

 

「新田だと?ほお、新田氏の出身か」

 

「新田市?いや、俺別に群馬産まれじゃないけど」

 

「む?自分で今言ったのではないか。新田氏がお前の出身ではないのか?では山城か?備前か?それとも土佐か陸奥の様な辺境か?」

 

少女が口にするのはどれも既になじみがない、古い地方名だ。心の中に小さく嫌な予感を感じ始めた剣丞ではあるが、それを無視するように自分の生まれは旧国名でどういうのかを思い出そうとする

 

「そっちの事?えっと……一応武蔵……なのか?とりあえず八王子だけど」

 

「八王子……わからんな。しかし、言っていることは一致しているか」

 

「一致って…?」

 

「おお、そうであったな。そろそろ来るはずだ」

 

少女が言う通りに、部屋の外が俄かに騒がしくなる。数人の駆け足に近い足音が聞こえ、それが部屋の前に留まり、襖が開いた

 

「剣丞!」

 

「剣ちゃん!」

 

「お兄!」

 

「凪沙!沙斗花!真姫!?」

 

転がり込むように部屋に入ってきたのは、剣丞の記憶が吹き飛ぶ直前まで一緒に裏山にいた三人の少女

剣丞が入っている布団を取り囲むように座り、目が覚めた剣丞を見て顔を綻ばせる

 

「目が覚めたんですね…三日も生きた心地がしませんでした」

 

「大丈夫?どこか痛んだりしない?」

 

「お兄なら大丈夫やって信じとったけど、顔見れてやっと一心地やわあ」

 

「これらも貴様と同じ場所に落ちてきたのだ。次の日には目が覚めてな。かいがいしく貴様を世話していたのだぞ、お礼はちゃんと言っておくがよい」

 

「あ、ああ……ありがとう、三人とも」

 

三人の頭を剣丞は順番に、優しくなでていく。彼女たちは剣丞にとって特に守りたいと願う女性だ

不測の事態とは言え、何日も心配をかけてしまった事実には申し訳なくなってしまう

 

「あ、そうだ。まだ聞けてなかったけど、君の名前は……」

 

「おお、そうであったな。我の名は織田三郎久遠信長!尾田家当主にして未来の日の本の統一者よ!」

 

「……へ?お、織田、信長、さん?」

 

「然り」

 

「今、永禄3年?」

 

「左様」

 

「今川義元さんと戦った?それとも戦う予定、あった?」

 

「予定も何も、田楽狭間での戦い終わりに貴様が天から落ちてきたのであろうが」

 

「……もしかして、群雄の長って、大体女性?」

 

「うむ!」

 

「剣丞、すべて事実です」

 

「沙斗花達も最初はびっくりしたよー」

 

「話は散々聞いとったけど、いざ自分の身に降りかかるなんてなあ……」

 

 

過去

 

異世界

 

転移

 

出会った相手は本来男性

 

他の有名人もおそらく女性

 

 

「このパターンかああああ……っ」

 

「おい凪沙、なぜ貴様らは目が覚めると同じような反応を返すのだ」

 

「あはははは………」

 

 

 

織田久遠信長

 

新田剣丞

 

2人は出会った。かつての北郷一刀の様に

そして二人は歩き始める。手を取り合って、同じ目的、違う目的、すべてを叶えるために

人々の為に

 

その周りには、常に三羽の気高い烏が居たという

 

 

 

 

 

「お前、我の夫となれ!」

 

「わーお積極的ー……って3人とも?何、その目」

 

「……剣丞はやっぱり父さんに似ているな、と」

 

「うん、沙斗花覚悟してた。好きになった時からずーっと覚悟してた、でも当たってほしくなかったよー……」

 

「北郷の宿命、なんやろなあ」

 

「ええい貴様等!話の腰を折った挙句我を無視するでないわ!!」

 

 

 

「っ!っとお……」

 

「壬月様の五臓六腑が…」

 

「受け止められるなんて……!」

 

「それなりに力は込めたつもりだ、それを受け止めるとは…孺子やるな!」

 

「沢山の良い先生(あね)がいるもので…それに、アイツ等の前で無様は見せられませんよ、男ですから!」

 

「ふっ!良う言うた!」

 

 

 

 

 

 

「詩乃ォーッ!!」

 

「っ!剣丞様!?な、なぜ……」

 

「言っただろ?君は俺が貰う、って。とりあえず、女を泣かせた輩はぶちのめーす!」

 

 

 

 

「……ごめん、桐琴さん。やっぱり俺達が殿、やるよ」

 

「孺子!お前まだ!」

 

「ああそうだよ。何度も何十回も何百回も綺麗事をほざかせてもらう。だってこれはまだ『無茶』だ、『無理』じゃない。俺と凪沙達なら、いや、皆が一緒なら連携して被害を大きくしないまま後退が出来る。心配してくれるのは嬉しい、希望を見出してくれているのもありがたい。でもこれは、貴方が命を懸けてまでするような、子夜叉を置いて逝く価値なんてない戦なんだ!いや、戦にそんな価値なんて最初から無い!」

 

「……」

 

「少なくとも、俺が生きている間は武士らしい見事な最期なんて迎えられるとは思わないでください。皆で生きて帰ります。それだけです。だから、そのために皆で無茶しましょうよ、桐琴さん」

 

「……チッ、どこまでも調子が狂う。だが、確かにここで死んじまうのは、鬼を殺したりなくて未練が残りそうだ。いいぜ、その無茶乗ってやろうじゃねえか」

 

 

 

 

「ねえ、剣丞」

 

「ん?なんだ美空」

 

「貴方の叔父上って…話を聞く限り無茶苦茶な人に思えるけど…何をしてたの?」

 

「ん?皇帝」

 

「……は?」

 

「だから、皇帝。俺と同じように元居た世界から、えーっとこの時代で計算すると…1000年ちょっと前の、ちょうど三国志時代の大陸に落っこちて、そっちであれこれ頑張って気が付いたら皇帝だったんだってさ。だから奥さんも70人以上いるわけ」

 

「……やっぱりしようかな、出家」

 

 

 

 

「あああああああもう!!どいつもこいつも役目役目役目役目!馬鹿なんじゃねえのか!?」

 

「主様?」

 

「いいかエーリカ!俺達はな!自分の意思で決めて!自分の意思でうごいて!自分の意思で生きてるんだ!」

 

「それはそう思い込み縋りたいが為の甘言に」

 

「統一帝国和!」

 

「ッ」

 

「俺の叔父が1200年前!後漢王朝に次いで中国に建国した巨大帝国だ!東は三韓倭国と同盟!西はクシャーナサータヴァーハナ両王朝と同盟を組んでパルティアやローマ帝国と世界大戦一歩手前まで進んだ大帝国!封建制度が絶対な時代にみんな平等に笑って泣いて歌って踊った大帝国!皆知らないだろ!そんな国!だがな!作ったんだよ!俺の叔父と!姉さんたちは!運命なんてくだらないもんを殴り飛ばして!神様気どりの黒幕を叩き潰して!皆で一緒に生きていくためにな!……そうだな、俺が将軍やるってのも悪くないかもしれない。官位なんてもんぜーんぶ取っ払っての四民平等だ。津々浦々の武将たちを嫁に娶った男が、明治維新300年先取り、最高だろ?真姫たちと頑張ればこの時代にスカイツリー建てるのだって夢じゃねえさ」

 

「……そんなことが本当に」

 

「出来る!『無茶』だが『無理』じゃない!」

 

「!?」

 

「そうだな…まずはエーリカ!君を嫁にもらう!」

 

 

 

 

「あきらめない…あきらめない、あきらめない!あきらめない!!あきらめない!!絶対に!!」

 

「この程度のピンチなんて、ママやパパたちは何度だって乗り越えてきたんだもん。沙斗花だって!超えてみせるんだよー!」

 

「守る者の誇り!護るべきものの儚さ!衛るための戦い方!おとんとおかんから受け継いだ全部!今ここの為にあったんや!惚れた男も!友達も!何もかも守ってみせる!恋する乙女舐めるんやないでー!」

 

「剣丞!我はまだ!お前としたいことがたくさんあるのだ!夫婦(めおと)らしい事なぞ何一つできておらぬのだぞ!だから死ぬことなど絶対に許さん!帰ってこないなど許さんからな!剣丞!!」

 

「今ある世界に生きている命を否定することは誰にだって出来はしないんだ!お前が抱いた憎しみがどれだけ大きいとしても!俺がすべてを浄化する!この世界の!皆の!久遠の未来の為に!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっと…やあっと出会えたわねぃ!マイスウィート!!」

 

「ええっと……ど、どちら様ですか?」

 

「あら?あらあらあら?自己紹介まだだったかしら?アテクシの名前は壱与。漢女道太平洋方面師範よん。よろしくねぃ、マイスウィート!」

 

「…け、剣丞よ…貴様、この妖しを知っておるのか?」

 

「ンッマーーーーーーーーーー!!!!どぅあーれが見たが最後1週間後には発狂した末に死んでしまうだろう悍ましい悪鬼にして羅刹ですってえええええええ!!」

 

「ひいい!?そ、そこまで我は言っておらぬ!た、助けよ剣丞ぇ……」

 

「あ、あはは……えっと、卑弥呼さんの、知り合い…で?」

 

「イッエエエエエエエス!アテクシは卑弥呼、マイシスターの妹なのよん!この外史でのサポートはアテクシにお・ま・か・せ♪」

 

「……ごめん、トイレ」

 

「剣丞ぇ!?」



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闇に沈みて光を成す

さてさて今回は呉の恋姫の息子が登場いたします

しかし結果的に出番が一刀君たちの方が多くなってしまうと言う…


古来より、日本の裏社会では二つの勢力が激しくしのぎを削っている

 

一方は善忍、公的権力の手足となって治安維持を主目的に活動する隠密集団

 

一方は悪忍、個人、企業と言った非公的な依頼主の利益を獲得するために暗躍する隠密集団

 

本来、二つに分かたれた忍は一つであり、敢えて敵味方に別れ、例えどれだけの血を流そうとも互いを研鑽し、強さを高め、ある目的を果たそうとしていた

 

だが、数千数百年の長い月日の中で当時は高尚であっただろう目的は忘れ去られ、血で錆び付いた善と悪は敵であると言う概念、呪いだけが残された

 

忍の運命は死の運命

 

華の如し少女達は華の如く散る定め

 

美しく死ぬからこそ死の美

 

 

だが、本当にそうだろうか?

 

死に美しさなどあるだろうか?

 

儚さが至上の美だと誰が決めた?

 

本当に美しいのは̪夢を持ち、日々を懸命に生きる人の心そのもの

 

すなわち『志乃日(しのび)』ではないのか?

 

 

 

多くの無駄な血が流れ、その中でも今ある世界の危機に気づいた者達が、善と悪、表と裏にも極僅かながら存在する

彼らは異音同義に言う、今の忍の在り方を変えねばならぬ

命の灯を消すなどあってはならぬと

 

そして、彼らのその目的にとって大きな影響力を持つだろう一人の男は、既に夜の闇の中で活動を開始していたのである

 

 

丸の内のオフィス街。都心全域を見下ろす高層ビルの1フロア、そこは浅草にある巨大一貫校国立半蔵学院の経営オフィスとなっている

静かにPCの作業音だけが響くそこは、一見すればただの企業スペースであるが、実際には様々なトラップによって防御された難攻不落の要塞である

何故なら善忍を育成する忍育成学校としての側面を半蔵学院は持ち合わせており、数ある育成校の中でも最高峰の規模を持つ、国家からしても重要な組織、団体であるからだ

 

そのオフィスの一角にある会議室。そこには数人の老人と一人の男性、そして二人の女性の姿があった

一番奥の上座に座するのは、半蔵学院の名前の元となった伝説的な存在である元忍の老人半蔵

半蔵学院の現学院長である工藤、死塾月閃女学館の学館長黒影、秘立蛇女子学園学長平田、その他にも、川崎市立咲芸大学附属高校、千葉県立志野塚工業高校、私立舞扇大学附属高校、都立薄桜女学院、遠野天狗ノ忍衆、ゾディアック星導会と言った善、悪各忍者勢力の責任者たちが一堂に会している

 

 

そして、彼らと向かい合う下座に座る一人の男

スーツ姿、30だてらに見えるこの場では若い部類に入る男は、左右に二人の女性を従えている

2人ともにやや暗い肌色、小柄だが右の女性は鷹の様に眼光は鋭く、左の女性は大きく綺麗な瞳に強い意志を携えているのが分かる

 

「さて……勢力を超えて、これ程の御歴々に集まっていただけたことまずはこの半蔵、心より感謝申し上げる」

 

「いや半蔵殿。我ら一同、立場主張は違えど迎えたいと願う未来は皆同じ。こうして雁首をそろえることこそ、本来あってしかるべきでありましょう。招集の声に応えられなんだ儂等の方こそ怠慢であったのじゃよ」

 

「然り。それに、この集いの発起人が北郷殿であるならば猶の事だ。私は彼に返しきれない恩があるからな」

 

「うむ。歳を取ると無駄に頑固となり、過ちを認められぬ様になってしまう。彼の様な若者に喝を入れてもらえなければ、こうして貴様と雁首をそろえることも出来んかったろうよ」

 

深々と頭を下げる半蔵。実際彼らは敵対する勢力の中でも重要な地位に居る要人。主張的にも私的な感情的にも、こうやって全員が招集に応え一堂に会する等本来はまずありえない事である

それこそ戦争中の双方の指揮官が同じ場に集まるようなものだ、即座に戦闘が開始されても不思議ではない

 

だが、それを成功に導いたのが、下座で恐縮し、左右の女性にくすりと笑われている男、北郷一刀である

 

「やれやれ、昔から一坊(かずぼう)はやけに顔が広いと思っておったが、これ程とはのう。何度驚かされるかわかったもんではないな」

 

「ははは……実家が実家だし、かみさんの仕事が仕事だからね。伝手だけは沢山あるよ。それで、こうして集まってくださったと言う事は、俺と半蔵さんの提案……『隠密連合』に、皆さまとも乗ってくださる……と考えてよろしいのでしょうか?」

 

一瞬で一刀の雰囲気が変化する。すっと細められた目はこの場にいる全員を推し量る用であり、全員が一瞬息をのむ

 

(むぅ…相変わらず一介の道場主とは思えん。まるでいずこかの国の王の様じゃ)

 

「私は、半蔵殿と北郷殿の提案に同意する」

 

「私もだ」

 

一刀の質問に即答、と言えるほど早く首を縦に振ったのは、黒影と平田であった

それに他の一同は驚く、何せ黒影、平田ともに第一線を退き、後進を育成する立場となって丸くなったとは言え

かつては善忍悪忍双方の過激派急先鋒であった男たちだ、それが融和政策と言える提案に同意するとは思えなかったのである

 

「ふふ、皆さまともに驚かれておいでだろう……だがな、私はもう疲れたのだ。血で血を洗う善と悪の争いに」

 

「忍を二つの勢力に別け、命懸けの戦いで互いを鍛え上げ、来るべきシンとの戦いに備える……それがはるか昔に我々の祖先が考えたやり方だったのでしょう」

 

「じゃが、今や善と悪はその目的を忘れ、互いを罵り、見下し、憎み、倒すことしか考えておらん」

 

「痛みと血を伴う統制は、その時代だからこそ必須ではあったのかもしれません。ですが、既にそんなものが通用する時代ではない」

 

「そして、悪辣なる外道共は狡猾に掟と定めを利用し己が私腹を肥やそうと暗躍する。善忍の強烈な風紀を以って政敵を退けんとする政治家、悪忍の自由なるを利用しただただ罪を重ねる忍も数知れず……」

 

「その全てのしわ寄せは、必ず若い者たちに降りかかる。彼らの未来は貪り食われているのだ」

 

「既に何のために敷かれた掟なのかを覚えている者すら久しい。時代に取り残された存在程哀れなものもない」

 

社会と民意は常に変化するものである。情勢を顧みず古い規律と掟に固執すれば、硬直したルールは腐敗の温床となっていく

それは今の忍情勢そのものだ。恣意的な解釈とこじ付けで自らの思い通りに忍を動かす権力者は多く、また過激な思想の免罪符に利用している極論者も数知れない

 

 

「じゃから、ワシが声を上げたのだ。今の忍社会を作ってきた者としての最後のけじめ。より良き明日を若者に託してからでなければ死んでも死に切れんからの。はっきりと言う……もういらんじゃろう、善だ悪だなどと言う区分けは」

 

「なるほど…ならば我々も覚悟を決めると致しましょう。主義主張ではなく、後の世の若者たちの為に」

 

会議参加者全員から次々と承諾の声が挙がる。誰もが体制への疑問を持ちながらもそれを動かすことが出来ぬままに今に至ったことを内心で後悔していた

多少強引でも今流れを変えなければ、永遠に無駄に血が流れ、多くの悲しみだけが繰り返される

変革の時は今こそ来たれり、との確信が、加齢とともに濁っていた忍達の瞳に澄んだ炎を灯していく

 

「しかして半蔵殿。音頭はいったい誰が取られるのだ?やはり貴殿か?」

 

「いいや。善と悪どちらが頂点となってもならぬ。それでは何も変わらぬのだ、一番大事なのは全く新しい、それでいて強烈な印象を持った人物の存在が不可欠」

 

「確かに…しかしおられるのか?そのような人物が、この閉鎖的な忍の社会に」

 

「アテならばある。だからこそ、こやつを呼んだのじゃ。のう一坊」

 

「はい。改めて自己紹介いたします。北郷一刀ともうします。皆様とはそれぞれ面識がありますので細かい部分は省略しますが、今回は隠密連合結成に当たり、妻と共にお手伝いさせていただくこととなりました」

 

礼して自己紹介する一刀の言葉に次いで、左右に控えていた女性が前に出て一礼する

 

「姓を北郷、名を思春と申します。ホワイトタイガーセキュリティサービスにてエージェントの任に就いております。此度は夫北郷一刀と皆様の護衛役を任されました、見知り置きください」

 

「同じく姓を北郷、名を明命と申します!思春殿と同じくホワイトタイガーセキュリティのエージェントを務めさせていただいております!」

 

「ホワイトタイガーセキュリティ…!」

 

「最強にして最凶の警備保障会社…」

 

ホワイトタイガーセキュリティ、通称WTSは正史において孫家4姉妹の長女となった炎蓮と次女の雪蓮が趣味と実益を兼ねて設立した民間の警備保障会社である

現金輸送や施設警備も行っているが、主だった職務内容は重犯罪者や危険思想集団に狙われた人物、団体の警護護衛、敷いては懸賞金付きの重大犯罪者を仕留めて警察に突き出す賞金稼ぎ業で、これまでに数多くのテロ組織やカルト団体を容赦なく壊滅に追いやり、裏の世界からは最凶の護衛集団として恐れられ、現在は華琳が立ち上げた国際人材派遣会社の子会社となっていて炎蓮が取締役を務めている

当然そこの社員となればあらゆる場面において要人警護のスペシャリストであることを意味しており、善忍悪忍関わらず幾度となく返り討ちとなっていることもあって、自らの職務を明かした思春と明命へ向けられる視線には畏敬の感情が混ざるのは当然であった

 

「そして…明命、あれを着けて見せて」

 

「はいなのです!」

 

一刀の言葉に頷いた明命は、スっと顔の前に掌をかざす。するとどうだろう、まるで変面の様に明命の顔に一瞬である仮面が装着される

それは猛々しく顎を開き、牙を輝かせた黒豹の面。そしてここにいる忍達はその姿に見覚えがあった

 

「そ、その面は…まさか!?」

 

「……豹子頭!」

 

豹子頭、それは十数年前の一時期裏の世界で活躍していた伝説的な謎の忍。常に顔に黒豹の面を着けていたことから水滸伝の登場人物になぞらえてその名でよばれていた

性別不明、所属不明、目的不明

ただ善忍と悪忍の犯罪的所業を明らかにしては下手人をとらえて連行し、時には妖魔に敢然と立ち向かい、カグラと呼ばれた最上位忍ですら打倒が難しい凶悪な妖魔すら次々と黒く長い刀で仕留め続けた

 

非合法な手段で正しい事を成す、悪を以って善を成した忍、それが豹子頭であった

 

数年前から活動報告が激減し、その正体もつかめないままに伝説となった存在が、今目の前にいる

素性を知っている半蔵以下数人は愕然とした表情のまま固まっている

 

「はい、私は以前この面を被って皆さまと刃を交えることもございました。でもそれは、不要な戦いを止めようと思っていたからなのです!何のための力なのか、誰と戦わねばいけないのか、はき違えてはいけないのです!」

 

「……なんと、北郷殿の奥方の一人が豹子頭とは……確かに、豹子頭の雷名は善忍悪忍どちらに対しても多大な影響力を持っております」

 

「かつて豹子頭に救われた忍はただ正義を成すその姿に感銘を受け、信奉者のようになったと聞きますしな」

 

「今や彼らの殆どが各派閥の良識派となっている」

 

「いえ。俺も明命ももちろん協力しますが、台風の目になるのは……俺と明命の息子ですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秘伝忍法帳を巡って激突する半蔵学園と蛇女子学園の忍候補生たち

自分たちの譲れないものをかけて戦う彼女達も、視点を変えてしまえば今ある忍の掟の被害者である

剣と剣がぶつかり合い、叫び声が共鳴する戦場に現れた異形

 

妖魔

 

人の本能的な恐怖を具現化したかのような姿の怪物は、少女たちを一蹴する

類まれな性能を持っていたとしても、実戦経験など殆どない少女たちが勝てる道理もなく、地に倒れ伏す彼女達に妖魔の毒牙が迫っていた

異臭を放つ大きな口を開き、不快な肉ひだを蠢かせながら誰を一番最初にかみ砕くかを迷っていた妖魔の身体は、右半分を凍結させられ、左半分を黒い炎が灼いていた

 

「■■■■■■■■■■■■------ッ!!!」

 

熱されながら凍らされる痛みに絶叫し悶絶する怪躯、気が付けば妖魔の左右に二人の人影があった

 

白い和装に身を包み、身の丈ほどもある扇を持った少女と、黒い炎を纏った刀を構える女性

 

そして、まるで最初からそこに居たかのように、誰にも気づかれないままに妖魔の面前に立っている一人の男

トン、トン、と腰に佩いた長大な刀の柄を人差し指で叩き、呼吸と鼓動を落ち着かせた、次の瞬間

 

 

 

 

 

「死になさい。現世に仇為す邪鬼外道」

 

 

 

 

 

 

その場にいる誰もが、一瞬だけその男の刀が光った、そう見えた。そうとしか見えなかった

 

気が付けば男は太刀を抜刀して振り抜いており、美しい所作で血を払い、静かに納刀する

チン、と完全に刃を納めると同時に、妖魔の全身がバラバラに別け落ちて黒い煙のようになり空気に溶け消えていった

 

少女たちは戦慄する。たった一瞬の剣閃しか自分たちは近くできなかったのに、その間に何閃したらあんな事になるのか

 

妖魔を一撃で滅した男は仲間だろう女性二人と一言二言を交わすと、こちらに振り向いて歩きよってくる

その顔には黒い豹の面があり、目の前に立たれ、手を差し出された飛鳥は目を見開いて驚いた

 

「立てますか?」

 

「あ、はい……あの、ありがとうございましたっ。えっと…覆面レスラーさん?」

 

「ふくめ…?あぁ、これは失礼いたしました!無礼ですよね、人前で」

 

胸の前でパチンと手と手を合わせると、男はその黒い豹の面を外す

日に焼けたような濃い肌の色、紫色の大きな瞳の、人懐こそうな整った顔がそこにあった

 

「ご無事でなによりです。飛鳥殿も!皆様も!」

 

「あ、はい…おかげさまで…」

 

妖魔に向かい合っていた時の剣呑さが全く感じられない、おそらく何歳か年上だろう男の朴訥な雰囲気に、却って飛鳥はあっけにとられる

 

その間に、ほかの仲間たち、蛇女子学園の生徒たちも青年の仲間の女性に助け起こされ、周囲に集まっていた

 

「命を救ってくれたことは感謝するが…お前は何者だ?私達と同じ忍なのか?」

 

「おっと!申し遅れましたね!自分は北郷明楽(あきら)と申します!隠密連合結成の報を皆様に伝えるため!半蔵様より派遣されました!」

 

 

「隠密…」

 

「連合?」

 

「北郷殿、隠密連合とは、いったい?」

 

「はい!この度、善忍と悪忍の垣根を取り払い、本当の打倒するべき存在に立ち向かうことを双方の上層部の方々が取り決めました!そして結成されるのが、あらゆる忍を一堂に会した忍の大連合、隠密連合なのです!秘伝忍法帳を巡っての忍び務めはこれにて終了!これ以後忍同士の同士討ちはご法度となります!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『えええーーーーーーっ!?』

 

 

 

全ての命が、彩ある世界で健やかに生きていけるように

 

影に血が流れ、悲しい涙を塗りつぶす歴史に終止符を打つために

 

二代目豹子頭、北郷明楽の戦いはこの日から始まる




誤字脱字などございましたらどんどんご指摘くださいませ


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電子知略遊戯(?)

今回は魏のある恋姫の娘さんの物語
クロスオーバー…でありながらクロス先を出オチにするという暴挙

そしてそして短くてごめんなさい!もしかしたら後々加筆するかもしれません!


私はゲームが好きなのです

 

小さいころ体が弱かった私は、兄や姉や妹たちと一緒に外に出て遊ぶことは中々できませんでした

そんな私が、皆と思い出を共有できたのは、ゲームがあったからなのです

家族と、友達と、毎日のようにゲームをしました

旅をして、戦って、仲間を集め、強くなり、世界を救いました

 

喜びも、悲しみも、怒りも、ゲームは教えてくれる

それでいて、ゲームは安全なのです。何度負けて全滅しても、また立ち上がり、やり直すことが出来る

誰もが安全に、笑顔で、現実ではありえない冒険を、物語を、世界を楽しめるもの

それがゲーム

 

かりそめのデータだから、と言う人はいます。でも、例えば映画や絵画と、ゲームは何が違うのでしょう?

作り手の思いが籠った作品であることに変わりはないはずなのです

 

だから私は、ゲームクリエイターの人達を尊敬していたのです。須らく

 

……その時までは

 

命を弄び、ゲームを穢し、欲望のままに神を気取ろうとする男

 

大恥をかかせてやろうではありませんか

 

 

VRMMORPG『ソードアート・オンライン』

 

発売前から高い期待値を持つVRMMORPGのニューフェイス。予約開始からわずか数秒で初期ロット1万枚が完売したそのゲームがようやく発売され

幸運に選ばれた1万人のユーザーが、その世界を存分に堪能していた

その時までは

 

「幸運にもソードアート・オンラインの初期ロット購入を果たし、ログインしてくれたプレイヤーの諸君。まずはおめでとう、そしてありがとうと言わせていただこう。私の名前は茅場晶彦」

 

チュートリアルの村に集められたプレイヤー達が向ける先、夕暮れの空にローブ姿の巨人が浮かび上がっていた

 

「諸君等は、既に、メニューからログアウトボタンが消滅している事に気付いていると思う。しかし、これはゲームの不具合ではない。これは紛れもないソードアート・オンライン本来の…仕様である」

 

どよどよと、プレイヤー達のざわめきが大きくなっていく

個々人の不安は集団の中で共鳴・増幅されて一つの大きなうねりになる

それを見て、ローブの内側で茅場は満足そうに頷き、同じように口を開いた

 

「これはゲームであって遊びではない。諸君等は自発的にログアウトする事は出来ない。そして外部の人間の手によるナーヴギアの停止、あるいは解除も有り得ない。諸君らがこのゲームから解放される条件はただ一つ。このゲームをクリアすれば良い。各フロアの迷宮を攻略し、フロアボスを突破、第百層にいる最終ボスを倒せばクリア…それが出来ず、HPがゼロになってしまえば、ナーヴギアからマイクロウェーブが放出され、諸君等の脳を焼……」

 

「くわけないじゃないですか~」

 

突如として、ローブ姿の巨人にノイズが走り、あわてて周囲を見回すような動きをした後に空中から姿を消した

代わりにそこに現れたのは、何とも奇妙な何か、であった

 

金色の胴体に白い楕円形の顔、頭の上には三角帽子が乗ったそれは、幼い子供がつたないままに作った人形の様にも、大阪万博で有名な太陽の塔を横に広げたような姿をしている

 

腕をぱたぱたと振りながら、その像、おそらくアバターは少女らしき声で急展開についていけないプレイヤー達に語り掛ける

 

「え~テステス、テステス…皆さんどうも、知っている方はお久しぶり、知らない方ははじめまして。私S.S.サン・サポーターと言う名前のおせっかいなしがないハッカーなのです」

 

「サン・サポーター!?」

 

「あの、ヘルバの後継者か!」

 

ネット事情に詳しい何人かのプレイヤーは、人形が名乗ったその名前に驚きの声を上げる

サン・サポーター。太陽を支えるものと自称するそれはは、ここ数年の間にネットの噂話に登場するようになった正体不明のハッカーの名だ

だがハッカーと言っても、電子世界において犯罪を行っているわけではない

企業や公的機関の不正のリーク、何らかの事件を引き起こそうとする人間の行動を阻止するなど、ホワイトハッカー的な活動しか行っていないとされ、自称通りのおせっかい焼きだ

かつてのイモータルダスク事件やGU事件等の背後でも活躍し、解決に貢献したとされている

 

「さっき茅場さんが良くわからない事をぺちゃくちゃと喋っておりましたが、皆さんはどうぞ気にせずこのままお好きになさって構いませんよ~。今ちょちょっと手を加えたので、消えているメニュー画面のログアウトボタンも復帰していると思うのです。私だけないんだけどーって方はヘルプデスクにメッセージを送ってくだされば適時対応いたしますのでご安心を~。まあおそらく警察の方がご自宅にお伺いする可能性もありますので、一度ログアウトしたほうがいいかもしれませんね~」

 

フムフム、とうなずくようなしぐさでサン・サポーターは言う

 

「まあ今回の事は、変な夢でも見たと思って忘れた方がいいと思います~。ゲームはゲーム、ゲームは遊びであるべきですからね~。魅力的なゲームが一つ減るのは残念ですが、しっかりと返金には対応させていただきますので。それでは皆さんさようなら~」

 

パタパタと手を振り、サン・サポーターのアバターは消えていく

そこには静寂だけが残った、さっきの茅場を名乗ったローブ姿のアバターも、二度と現れることはなかった

 

「なんだったんだ…結局」

 

剣を背中に担いだ黒髪黒装束の剣士が、呆れたようにつぶやいた言葉は、誰に聞かれることもなくデータの海に消えていく

 

殺人容疑、準備罪で茅場彰彦が逮捕され、ソードアート・オンラインの全ソフトが回収されるというニュースが世界を駆け巡るのは、その数時間後の事である

 

 

 

 

 

「……ふぅ、こんな感じですかね~」

 

「お疲れさん。伊吹(いぶき)

 

夕方の心地よい風が通る自室の中で、北郷伊吹はHMDを顔から外し、一つため息をついた

やれるだけの事はやった、サービス開始直後の回線混乱の最中、ソードアート・オンラインの内部に潜入、ありとあらゆるデータを総ざらいし、プレイヤーキャラクターのHP残量が1から減らないように細工し、そこから経由して全プレイヤーのナーヴギアのプログラムを正常に書き換え、自己顕示欲に推されて現れた茅場彰彦の長野県にある隠れ家を見つけ出し、自殺させないように拘束する

ギリギリのタイミングだったが、自分と、仲間たちの尽力のお陰で何とか間に合った

脱力する伊吹のはちみつ色の髪を、隣に居た銀髪の青年が少しだけ乱暴に撫でる

 

「おお~、亮お兄さんの手は大きいですねー。撫でられるとやはり癒されるのです」

 

「功労者だからな、お前が……もうちょっとこっちが気付くのが早かったら、先に俺達が潜り込んで何とか出来て、お前に危ない橋わたってもらうこともなかったんだけど」

 

ネットワークの中で起きるトラブルや悪事に対応するだけの力を青年、三崎亮は手に入れている。巨大企業CC社の中にいる仲間たちと協力すれば、今回の事件にもゲームの中に文字通り突入して対応することも可能ではあった

だが事態を知るのが遅すぎた。「歪み」を生み出さずに、自身の持つ力を別のゲームの中に入れるには時間がかかる、一人の犠牲者も出さないようにするには、伊吹の力を借りるしかなかった

もう四日も伊吹は寝ていない。元から細く白いその体が、猶の事透き通ってしまったように見えて、亮の顔は暗い

 

「いえいえー。出来ることを全力でする、関わったなら最後まで、が伊吹の性分ですから。それに、ネットワークで貢献できたぶん、千草ちゃんや智香ちゃんや志乃ちゃん、ニナちゃんに一歩リードできましたしね~」

 

「そ、そうかよ……でも、それだけじゃねえだろ?事情を知った時の伊吹の顔、凄かったぞ」

 

こう言う女性心を擽る妙な鋭さが、四六時中母に撃沈させられているくせに、大事な時にはしっかりと母の気持ちを察する父親にそっくりに思えて伊吹は心中で苦笑いを浮かべる

 

「……伊吹は、ゲームは安全安心でなければいけないと思っているのです。レーティングの話じゃないですよ?昔のThe worldのような、そして今回のソードアート・オンラインの様な、人の命を危機にさらすゲームなんて、あってはならないのです。ゲームは遊びで十分。そこから先に意味を見出すのは、ユーザー個人個人の人生ですからね」

 

安全で、それでいて心躍る大冒険を繰り広げた幼い日の思い出が、己が知で多くの人の命を奪う立場にあり、そしてそこから解放された母の姿が

伊吹の今を作り上げ、そして行動させる

ゲームを穢すもの、人の命を弄ぶ者への怒り。それが北郷伊吹をサン・サポーターに変身させる原動力

武芸で戦う力も体力もない自分にできる、自分だけの悪との戦い方。お人好しが、お節介をすることが出来る、誇るべき手段

知で、多くの人の夢を、憧れを、居場所を護る事

 

彼女もまた、母と同じく、知で人を救う軍師なのである

 

 

 

 

 

「……普段からそんな顔してりゃいいのによ。ったく」

 

「おやおや~?惚れ直しましたか?亮お兄さん」

 

「ばっ!そ、そんなんじゃねえよ!」

 

そして、一人の男を想い、多くの女性としのぎを削り、そして最終的には全員で……と考える策士でもあるのだ




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無限の荒野に豪砲は鳴り響く

お久しぶりです、ネタが形になるまでかなり時間を要しました…
今回は蜀の子供のお話です、宜しければどうぞ

そしていつも感想や評価を皆様ありがとうございます!本当に励みになります


東京都青梅市、御嶽山

古くから山岳信仰の対象として崇められていた奥多摩地方でも有数の霊山の頂上近く、登山道からもケーブルカーの線路からも離れた森の中に、三人の男女の姿があった

 

屈強な体躯の青年と、小柄、大胆なチャイナドレス姿の女性、そして最後に着流しを思わせる改造和装姿の青年

共通しているのは黒いインナーと赤いジャケットだ

 

彼等は日本国の特務退魔機関『森羅』の実働エージェントだ。奥多摩のこの地での妖魔の目撃情報から、現地調査のために派遣されたのである

 

地面にしゃがみ込んでいる女性、小牟(シャオムゥ)は手を地面に翳している

薄らと掌は燐光を帯びており、周囲の雑草や特徴的な、尾の様に束ねられた房の金髪が風もないのに揺れていた

 

「矢張り結界か?小牟」

 

一見すれば10代後半の少女にしか見えないこの小牟と言う女性は、実は齢765歳にもなる狐の化生、仙狐なのだ

仙術道術の知識は三人の中でも群を抜いており、自身の妖力を応用すれば術そのものに介入し、構築を変化させたり、施した相手を逆探知することだって可能だ

今行っているのも山全体を包む結界から情報を引き出すためのいわばハッキングである

 

「うむ。しかもなかなかに巧妙じゃぞ零児(れいじ)、見てみぃ。炭の中に灰を混ぜた塗料で文言を地面に書いておる。しかも文言の周囲にあるのは……」

 

「ふむ…粘土と砂の化合物で炭の周りを縁取りしとるんやね。灰之即ち火、理想的な火生土の関係じゃし、火で強化された土でしっかりと水に克っとっとね」

 

それに続いたのは白いメッシュ状の前髪を持つ偉丈夫、有栖零児(ありす れいじ)

同じく、淡藤色の髪に金色の瞳、挑発的な微笑で結界を見つめる九州弁で喋る男、北郷紫雲(ほんごう しうん)

彼等も森羅の実働エージェントだ。インナーの上に羽織っている赤いジャケットはそれの証明であり、対刃、対弾、対魔力処理が施された戦闘衣装となっている

 

「うむ。しかも、その吸収した水気を用いて周囲の木々や雑草を活性化させ、結界が見つかりにくいように隠し、同時に木侮金の相侮でセンサー類の機能に干渉しておるでな。上手に五行を活用する、厄介な相手じゃ」

 

「山に入った瞬間に電子機器の殆どが使えなくなったのは、そういう絡繰りか」

 

五行思想とは、木、金、火、水、土の5つの元素でこの世は構築され、夫々の属性の生滅盛衰によって様々な事象が発生する。と言う概念の事だ

 

ファンタジーの題材として有名な概念ではあるが、知名度が高いのは、順送りによって属性が循環し増幅する相性と、苦手とする属性が打ち滅ぼしていく相克の二種類だ

だが、五行が作用する関係はそれだけではない

同じ属性が重なり合うことで共鳴し、増幅される比和

相克するべき関係性が、力の差から逆転した逆相克とも言える相侮

相性が克ちすぎ、過剰相克関係が起こってしまっている相乗

五行を使う人間はそう言った様々な関わり合いを計算しながら森羅万象を制御し様々な不可思議を具現化する。それでも、相侮関係や相乗関係すら計算に入れられる者は非常に稀で、豊富な知識と実力を持った相手だと言う事が、それだけで三人には理解できた

実際これまでの数時間、彼らは山の中腹付近で立ち往生していたのである

霊的な事件に慣れた森羅のエージェントすら容易に突破できない結界を使いこなす人物、油断できる相手ではない

 

「ま、種と仕掛けを見抜かれたマジックなんじゃ、どうとでもなろうとね」

 

「うむ。この結界を維持するための力、どうやら山頂にある神社の霊脈よりラインを引いて確保しているようじゃ、流れはまっすぐ山頂に伸びておる。ここを辿れば一気に天守閣じゃな!」

 

「それは重畳。油断せず、速やかに仕事果たすぞ」

 

「あいあい。定時で帰れるように頑張るとしようかね」

 

「なんじゃ紫雲。若いくせに随分と覇気のない事を言うのぉ。もっとガッツいてこそじゃぞ?」

 

「はっはっは。時代はライフワークバランスじゃぞ婆様(ばばさま)。無理して金を稼いでも、使う時間が無きゃ意味なんてなかったい」

 

「婆様言うな言うておろうが貴様は!零児!仮にも妻がひどい物言いをされておると言うのに何故ノータッチなのじゃ!?」

 

「年齢が年齢なのは事実だろう」

 

藪を切り開きながら、緊張感がない会話が続く。とても命のやり取りを前にした戦士たちのそれとは思えないが、これが彼らにとっての日常である

あくまで自然体、常にベストを尽くす。それをずっと続けているに過ぎない

 

「面倒がないのが一番じゃしな」

 

「しかしお前も珍しい人間だな、鍛錬では積極的に相手を誘う割に、実戦では鍛錬の時ほど楽しそうに見えん」

 

「そりゃそうじゃろうて零児。俺が好きなんはあと腐れの無い勝負であって戦争じゃなか。命の奪い合いに楽しさなんざ見出したことは一回もありゃせんよ」

 

「バトルマニアだと言う所は否定せんのだな」

 

「お袋さんの遺伝じゃてな?」

 

 

 

 

頂上の神社の境内に到着するまで、彼らの健脚では十分もかからなかった

広い境内はひっそりと静まり返っており、人の気配は感じられない

それどころか生物の気配自体が感じられなかった。初夏の山中ともなれば鳥の声があちこちに響き渡っており、地面に目を向ければ蟻を始めとした昆虫たちもせわしなく動き回っているはずである

 

「……誰もおらんのぅ」

 

「ああ。ここは神主や職員が常駐している神社だ。それに関東の山岳信仰の要所。平日だとしても誰頭参拝客が居なければおかしい」

 

「それがいない、ちう言う事は……」

 

其達はその時現れた。音もなく地面から沸き出し、空中から染み出す様に

両腕が鎌になり、足がなく空中に浮く其れの名は鎌鼬(かまいたち)

地を走り回り幾つもの腕を伸ばし威嚇する其の名は絡新婦(じょろうぐも)

 

何れも零児達が幾度も祓い滅した低級妖怪たちである

 

「出おった出おったぞう」

 

「これだけの霊山の境内に妖魔が出るとは…結界で神力が抑え込まれている様だな」

 

「罰当たりもんもいたもんじゃなあ。しゃあない、ここは神さんに変わって天罰覿面と行こうかね?」

 

殺気を高める怪物たちに、紫雲達も各々の得物を構える

 

3戦士共に得物はそれぞれ特徴的だ

 

「神社は厳かにするものじゃ!お姉さんとの約束じゃぞぅ!」

 

小牟が普段携えている錫杖は、水行の力を内包する仕込み刀水蓮(すいれん)

上下2連の銃身を持ち、小牟自身の魔力を弾丸に変換する小型散弾銃(シルバー)

マガジン下部に発電ブレードを持つ電磁弾丸を発射するロングバレルリボルバーけん銃白銀(プラチナ)

この三種類に会得している様々な妖術、そして愛してやまないプロレスから再現した格闘術を組み合わせ、零児と互いの隙を補い合うのが彼女の戦法

 

「雑魚に構っている暇はない!引かないなら刀の錆にするまでだ!」

 

零児の武器は一際に独特だ。護業(ごぎょう)と呼ばれるマウント式の刀掛けに火行を宿す日本刀火燐(かりん)、地行を宿す小太刀地禮(ちらい)、水行を宿す脇差霜鱗(そうりん)の3振りの刀を、そこにさらにガンホルダーが連結され、木行を宿す大型オートマチックショットガン柊樹(はりうっど)が差し込まれている

それと金行を宿す大口径マグナムリボルバー(ごーるど)を装備

有栖流の陰陽術と組み合わせ、陰陽五行を制御する護業抜刀法が彼の戦法だ。連続抜刀から、銃撃と体術を組み合わせ、複数の敵を相手取っても臆することなく戦い抜く。代々伝わった技術を自身の手で昇華する。型の上護業を地に置かなければいかない時もあるが

それで彼が臆することもない、死角は常に愛する女性が守ってくれているのだから

 

「なあんか嫌な予感がするのお……手早く終わらせったいね!」

 

零児に輪をかけて奇抜な得物を持つのが紫雲である。両腕で抱える武器は身の丈ほどの大きさがあり、前方に向かって伸びる長方形、薄紫色の刀身を持つ大剣の中央が分割され、そこに機関砲の銃身が。機関部を挟んで反対側には気を弾丸として発射する二連装霊子リニアキャノンを線対称に白銀の刃を持つ大型の槍となっている

名を多用途決戦重斬銃『アンビデクスト』、両手効き転じてあらゆる状況に対応できる器用者と言う意味合いで彼の母、北郷桔梗が持つ大口径砲『豪天砲』を設計母体にもっと攻撃力と多用途性を、と言う紫雲のオーダーに従い、北郷家の発明大魔王北郷真桜が制作した多機能複合兵装である

自在に稼働するグリップを起点に大剣と大槍を回転させて武装形態を切り替え、ありとあらゆる敵を倒すための重装備だ

剣で薙ぎ、槍で突き、遠距離の敵を砲撃し、周囲を囲まれれば機関砲で蹴散らす

周囲に風が起きる勢いでアンビデクストを振り回し、器用に敵を滅していく姿には小牟も呆れ半分な目を向けている

 

「しっかし、何故森羅のエージェントは大道芸人ばっかりなのかのう。呆れるほど派手な面子しかおらんぞ」

 

「俺達も大概だという自覚はないのか、お前は」

 

 

 

本能でうごくしかない下級妖魔など、幾多の戦いを潜り抜けた三人のエージェントの前では物の数ではない

境内にある建築物に傷を付けないように加減をしながらでも全滅させるまで時間は掛からなかった

 

「うむ、ちゃちゃちゃちゃ~ちゃ~ちゃ~ちゃ~、ちゃっちゃちゃ~ん♪と言うやつじゃな」

 

「敵影無し、一先ずは凌いだか」

 

「じゃのう。つ、う、わ、け、でっ!」

 

振りむいた紫雲達は手に持った銃器の照準を同じ場所にむける。社殿の角、いやその後ろ側にいるだろう『誰か』に向けてだ

 

「そこにおるのはわかっとるんじゃ。てげてげ出て来んね、がんたれが!」

 

紫雲の声に応えたか、乾いた拍手の音が照準の先から聞こえてくる

音は大きくなり、社の影から一人の影が現れた

 

「見事な手前、御見それしもうしたぞ?森羅が誇る精鋭、有栖夫妻。そして……北郷一刀が子息、北郷紫雲殿」

 

透き通るような白いゆったりとしたワンピースの上に緑色の羽織を重ねた、奇妙な色気を放つ人物が手をたたきながら現れる

ゆったりと花魁のように科を作り、円を描くような歩き方には優雅さと言うよりも不快感を感じさせ、何より放つ声が男の声にも女の声にも、そして頭の中に響くように聞こえてくる

明らかにこの世の存在ではない。三人は大きく長い呼吸で丹田に力を入れ、飲まれないように気を強く練り上げていく

 

「俺たちの事を知っているのか?」

 

「それはもう。幾度もの戦いを経て現世を救った有名人でございますからなあ」

 

慇懃だが尊敬とは程遠い声色、敵意を隠す努力すらしない相手に小牟は眉を吊り上げる

 

「持って回ったような言い方をしおって白々しい。簡潔に話さんかい、ぬしは何者でここで何を…紫雲?」

 

小牟と零児の一歩前に、リニアキャノンを構えたままの紫雲が歩き出る

表情に浮かぶのは緊張、と言うよりも脅えに近いほどの警戒。汗が一筋流れているのが分かる

 

「どうした紫雲?こいつを知っているのか?」

 

「知ってると言うかなんというか…ためらいなくぶっ放しても良か思っとったけど、一応聞く。おまはん、否定するんと肯定するん、どっちね?」

 

外史に幸あれとするもの、肯定者

外史に消滅あれとするもの、否定者

かつて自分の父と母達の前に立ちふさがった強大な敵が後者の否定者であり、様々な策略で大陸に暗雲をもたらし、多くの命を奪った宿敵である

 

「ご安心なされませ。わたくしめは外史の破壊剪定には否定的な立場を取っております故。もっとも……」

 

顔を伏せ、怯えた花魁のような演技をする管理者。だが、流し見られた瞳に宿る邪悪な気配に紫雲の肌が総毛立ち、リニアキャノンの銃口を向けトリガーを握る

矢張り攻撃をためらったのは間違いだった!

だが

 

 

 

 

 

「貴方がたの敵である事は、否定いたしませぬぞ?」

 

 

 

一手遅かった

管理者は後ろ手に隠していたモノを胸の前に掲げる。それは鏡だ、円形の青銅製、古代中国などでよく作られていた銅の鏡

かつて一刀や剣丞が外史に飛ばされた時と同じ、世界の壁を切り開く力を持った神器だった

 

「くっ!?」

 

「な、なんじゃ!あの鏡から、凄まじい波動が…っ!?」

 

「しもたっ!新しか、外史が……!?」

 

「いんや。この鏡に映るは主らも知っておろう世界よ。見覚えもあろう?有栖のよ」

 

天にそびえる青い巨艦

砂漠を貫く塔

島か山と見まごう程の桜の大木

天空に浮かぶ迷路のような黒い通路

次々に移り変わる不可思議な光景に、零児と小牟の顔が驚愕に染まる

かつて訪れた果てしなく遠く限りなく近い地、そこの風景に間違いなかった

 

「れ、零児!あそこに映っておるのは…!」

 

「エンドレス・フロンティア……!」

 

「おんし!何が目的じゃ!?」

 

「我もまた数多の外史を望んでおる。その為にこの地と其方等の存在が必要だというだけの事。申し遅れましたな。我の名は李意期。見知り置きくだされ」

 

意識が光に飲み込まれていく。もっと的確な対応ができたはずなのに、何もできないまま策に飲まれた無念さも、光に溶けて紫雲は何も感じられなくなっていた

 

「こん借りは…必、ず……っ!」

 

「ええ。世界を創り、世界を動かす存在となる者……またお会いいたそうぞ、時の彼方の勇者たちよ。ふ、ふふふっ」

 

策の成就を知り、李意期は溢れ来る愉悦を堪えきれず、くつくつと笑いを零し、現れた時と同じようなゆったりとした歩みのまま、社の影に音もなく消えていくのだった

 

 

 

 

 

森羅の精鋭も、管理者も、誰もいなくなった後の神社に、ふもとの階段から飛び上がった影が着地する

その影は周囲を見回し、微かに残っていた戦闘の痕跡を見やると中央にまで移動し、地面に手をかざして瞑目した

 

「……ちっ、遅かったか。だがつながりの残滓はまだ辿れる。記録するには十分だ。だが、急がねばならないな」

 

影は舌打ちすると立ち上がり、踵を返して駆けだして、またその身体を宙に躍らせる

 

「まったく、手間を掛けさせてくれる。貴様の子供はどいつもこいつも呆れるほどにトラブルメーカーだな、北郷」

 

山を飛ぶように駆け降りる影。その男が何を思い、どんな役割を果たすのか、今はだれにもわからない

 

 

 

 

 

エンドレス・フロンティア 渾然大地

 

オルケストル・アーミーの一員であるヘンネ・ヴァルキュリアとキュオン・フーリオンは、時空の乱れを感知し、フォルミッドヘイムの王、エイゼル・グラナーダよりエンドレス・フロンティアに新たに起こりうるであろう異変の調査を命じられていた

 

砂漠地帯の中央付近を訪れた二人は、そこでその砂漠を根城にする盗賊団の襲撃を受ける

 

特殊部隊員の二人からすれば一人一人は物の数ではないが、いかんせんかなりの数である

流石に面倒だと舌打ちしていた彼女達の周囲が、不意に大爆発を起こし、二人を囲んでいた盗賊団の面々が天高く吹き飛ばされる

上空から叩き落されてうめき声を上げる男たちに唖然としていると、砂嵐の向こう側から歩いてくる影があった

 

 

「女の子二人相手にこんだけの男が揃いも揃って情けなかねえ……ちょいとすまんがお嬢さん等、ここがどこか教えてくれんね?」

 

巨大な何かを担いだ優男。キュオン達が北郷紫雲に抱いた第一印象はそれであった

 




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鈴鳴らす護り手

お待たせしました。新しく一話投稿させていただきますー

もうすぐ今年もおしまいですね。次回今年中に投稿できるかわかりませんので、年末の挨拶とさせていただきます
一年お世話になりました。皆様の感想と評価が原動力となっております!


「いやぁ楽しい時が経つのは早い、一週間前に来日したと思ったらもう最終日だ。つきっきりでアレコレコーディネイトしてもらって悪かったね、北郷君」

「俺も楽しい一週間を過ごせましたよ。工藤先生」

 

成田空港の中央ビル。国外線出発口のすぐ近くで会話する二人の男性

片方は我らが北郷一刀であり、相手は世界的な推理小説家の工藤優作だ。今回彼の新作の発表と一刀の新作の発表が重なり

予てから二人に親交がある事を知っていた出版社役員の提案で、合同で都内の書店で行われることとなったのだ

優作の日本での出版社が一刀と同じで、作家デビューも近かったこともあり二人の友人としての付き合いはかなり長い

こうして優作が来日する時には暇を見て交流を深めるのは恒例行事となっている

 

「君にも苦労を掛けたね。アメリカじゃあるまいし、SPなんて雇うこともなかったんだが…僕のマネージャーは心配性でね」

「いえ、これも仕事ですから。お気になさらないで下さい、工藤先生」

「……おいおいおいおいおいおいおい。最終日なんだからさあ。そんな他人行儀な接し方はやめてくれないかい?春希(はるき)君」

 

優作が大げさな仕草で、一刀の隣に控えていた少年の肩に腕を回す

二藍色の短い髪、スーツに身を包んだ鷹を思わせる鋭い目つきの少年は、ぎょっとした顔で優作を見つめ慌てる

 

「え、しかしまだ勤務中ですし…」

「春希。今工藤先生は優作おじさんとして春希に接してるんだから。お前も高校生の春希君として返してあげないと」

「父さん、そうは言っても……はぁ、わかったよ。俺も久しぶりにおじさんに会えて楽しかった。これでいいでしょ?二人とも」

 

ため息をついて春希の雰囲気が柔らかくなり、剣呑さを含んでいた瞳も年相応の穏やかな丸みを取り戻す

優作と一刀もそれに満足し、優作はお腹を拳でぐりぐりと、一刀は少し乱暴に頭を撫でる

 

「そうそう。君のその職務に対して真摯な所は思春さんに似て素晴らしい美徳だとは思うが、往々にして真面目な人間と言うのは人生の時間を損してしまいがちだ。もう少し肩の力を抜くと言い、君はまだまだ我儘が許される世代なのだからね。まったく、君の真面目さの2割でいいから新一の奴に別けて欲しいくらいだ」

「まだ復学していないんですか?新一君」

「ん?んー……まあアイツも忙しい様だからね。何せ高校生名探偵だ」

 

新一とは、優作の息子工藤新一の事である。春希の友人でもある彼は、父譲りの推理力を活かして高校生でありながら、警察に捜査協力を求められ現場に臨場する探偵としての一面も持っている

ここ最近関わっている事件が厄介だと言う事で連絡が取れなくなっていた

そう簡単に最悪な事態になる軟な男ではないと春希も信じているが、それはそれとしてやはり心配である

最悪自分たちの様に別の世界に飛ばされている可能性だって否定できない

 

「時々オレの所には連絡が来るし、そこまで心配はしてはいないけれどね。っと、そろそろ時間だ。マネージャーもあの顔だし、行かせてもらうよ。改めてありがとう、北郷君。春希君も、本当に楽しかった」

「アイツに伝えておいてください。次のPK勝負は俺が勝つって」

「また来ることがあったら連絡ください。色々準備しておきますから」

 

固く握手を交わす一刀と優作

そして笑顔のまま優作は搭乗口に消えていった

 

 

 

 

 

「行っちゃったなあ。帰ったらすぐ次の作品に取り掛かるって言ってたし、大変だよなあ。国際派執筆家はさ」

「父さんだって定期的に中国行ってるじゃん。大変なんでしょ?山の中の古戦場とか取材するの」

「まあ俺の場合お義父さん方のコネでだいぶ楽させてもらってっからねえ…」

 

優作を送り、ターミナル内のカフェに移動した一刀親子。あまり来た事のない場所で普段通りの会話を交わすのは中々新鮮で、二人とも口数は普段以上に多かった

春希ももう16歳。思春期に差し掛かり、極端な反抗期こそないもののこうして面と向かって話し合う時間は少なくなっていたため、一刀にとっては非常にありがたかった

どんどん成長していく息子娘達、何れあの家から皆巣立つのか…などとも一抹頭によぎる

 

「さて。あんまここに缶詰もよくないし、どうだ?偶にはどっかで美味いもんでも食べて帰らないか?」

「お誘いありがとう。でも会社から呼び出し受けててさ。そっち寄ってから八王子帰るから」

「おいおい今終わったばっかだろ?炎蓮の奴コキ使いすぎじゃないのか?」

「ま、しょうがないでしょ。俺が呼ばれるってことはそれなりに大変な事態だってことだし。それより、父さんが誘うべき相手はあっち」

「あっち?あ…」

 

春希の指さす先、そこには春希の母思春の姿。それも彼女は普段のラフなコーディネイトから一転、柔らかくも鮮やかな美しさを感じさせるワンピースにショール。耳には一刀がかつて送ったフェイクピアスが揺れていて

不安そうに瞳が揺れている

 

「思春……」

「俺等との会話は家でも出来るんだから。まずはお相手さん大事にしなよ?色男」

 

ニヤリと不敵に息子が笑う。すべて彼のお膳立ての結果だ。何となく母親が寂しそうな雰囲気を纏っていて、どうせ父親はそれにすぐに気づくだろうが、敢えてこちらから仕掛けさせて驚かせるという親思いのサプライズは大成功に終わる

 

「こっ、の…マセガキっ!」

「っと!じゃあ俺は一足お先っ!こんな時くらい楽しんできてよお二人さん。あ、でも燃え上がり過ぎて、火傷しないようにね?」

 

「「は、春希っ!!」

 

シンクロする両親を尻目に、次の瞬間に少年は人混みの中に消えていた

 

 

 

 

バイオレット・アークス・エージェンシー(VAA)社は、一刀の妻の一人、華琳が学生時代にもともと持っていた洛陽市の知識人、上流階級ネットワークを基盤に設立した国際人材派遣企業である

人材派遣と言っても、日本で主流な非正規雇用契約の一つではない

専門的に深い知識を持つプロフェッショナルを現場に派遣することを絶対としている『知る人ぞ知る』会社だ

華琳自身が直接見極め価値を見出した一流の企業や大学と業務提携を結んでおり、学問の各分野における専門家から育児やハウスキーパー、メンタルカウンセラー、音楽アーティスト、役者、はたまた漫画執筆のアシスタントまで幅広い人材が集結しており、依頼額の高さに比例した迅速かつ正確な依頼の達成、人材の派遣で各企業からの評価も高い

 

そして提携先の企業には、炎蓮と雪蓮が立ち上げた国際警備・要人警護企業ホワイトタイガーセキュリティも属しており、自社が直接受けた案件の他、VAAを経由して依頼を受けることもある

 

 

西新宿の一等地にあるVAAの本社ビル。地上20階建て、高さ80mの高層ビルのエレベーターに、春希の姿があった

エレベーターが停止し、到着したのは18階の会議室エリア。エレベーターの操作盤の下にあるパネルに手を合わせると、光が春希の掌を走査し指紋を読み取る

企業秘密にかかわる会議やミーティングが行われるこのフロアのセキュリティは特に厳重だ

春希はWTS社ではバイトと言う扱いであるが、メンバーとしての重要性は大きくこう言った場所にも赴ける権限を持たされている

セキュリティが認証され、ドアが開きフロアに出る。歩き心地のいい絨毯の上を静かに進み、WTSのミーティングルームとして振り分けられている部屋をノックする

 

「失礼します。北郷春希です」

「どうぞー?」

 

室内からの声に応えて入室する。30人は集まれるだろう広々とした会議室の奥、ノートPCを前に何人かが集まっていた

 

「や。お疲れ様、春希君」

白夜(びゃくや)兄さん」

 

サマージャケット姿のスリムな体型。紅掛空色のややウェーブがかかった髪をリボンで一本結びにし、胸の前に流している青年は北郷白夜、北郷月の息子の大学生だ

 

「白夜兄さんも仕事で呼ばれて?」

「うん。バイトの帰りにね」

 

彼は将来自分の喫茶店を持つことを夢としており、大学で経営を学びつつ八王子駅近くにあるカフェでバリスタとして修業している

休日と言う事もあり、午前だけ出ていたバイトの終わりに御呼びが掛かってここに来たと言うわけだ

 

「悪いわね二人とも。仕事終わった直後に呼び出しちゃって」

「いえ。俺…自分達が呼ばれると言う事は、それなりに厄介な事態と言う事でしょうからね。社長?」

 

エキゾチックさを感じさせる色黒の肌、折り目ないスーツ姿、全身に色気と覇気を纏う女性

中国の江南地方に多大な影響力を持つ名家、孫家四姉妹の次女にしてWTS社の二代目社長、そして春希の母の一人にして一刀の妻が一人、北郷雪蓮だ

 

「そのとーり。めーんどくさい依頼が舞い込んできちゃたのよ」

「雪蓮、そう言わないの。星那(せな)達が私達紹介してくれたんだから。ありがたい事じゃん」

「星那姉が…じゃあ、芸能周りのボディーガード?」

 

呆れ顔でひらひらと手を振る雪蓮に苦笑しながらツッコミを入れる傍らの女性。雪蓮の右腕として辣腕を振るう敏腕秘書であり、雪蓮と同じく春希の母の一人にして一刀の妻が一人北郷梨晏

マイペースなムードメーカーに見えて一度怒れば雪蓮でも口では勝てない怒られてはいけない人物である

 

そして、今ここにいないが、雪蓮と梨晏の口から出た星那とは、かつて中国と日本で一世風靡した三姉妹アイドルユニット数え役萬☆姉妹のリーダーにしてこれまた春希の母、一刀の妻である北郷天和の娘であり、ガールズバンドグループ『プライマルワールズ』の一員北郷星那の事だ

 

「そそ。じゃあ面子は揃った事だし、お仕事のお話を始めましょうか?」

 

雪蓮の纏う覇気が強まり、緩けていた顔が引き締まる。今この瞬間から彼女たちは猛獣となるのだ

悪なる者から弱者を護る、牙を持った猛獣に

 

 

 

 

 

平和を憎む者(ピースヘイターズ)?聞いたことが無いな…」

「最近になって活動を開始した国際的なテログループよ。欧州や中東を中心に、かつて戦争関係にあった国同士の平和交流や終戦記念イベントなんかを専門に爆破したり、要人を殺害したりしてる下衆共」

「…資料を読む限りだと、どうにも活動目的が読めませんね」

「そりゃそうだよ。そいつ等、別にイデオロギーや利益目的で動いてるわけじゃないもん」

「……は?」

「世界各国に潜伏してる色々なテロ組織、その中でも極端すぎて組織内でも扱いきれずに追い出されたイカモノ同士が手を組んだのよ。自分たちがこんな目にあっているのはこの世界そのものが悪いんだーって、全世界相手に逆恨みして、国同士の憎悪を煽って滅茶苦茶にしたいんだって。だから平和を憎む者(ピースヘイターズ)って名乗ってるわけ」

「……ふざけてんな」

 

 

 

 

 

「そんな連中がアイドルグループの合同ライブなんて狙うんですか?」

「去年、東欧にあった二国の終戦記念式典が日本で行われて、そこに招待されて親善大使を務めたのよ、その765プロと346プロって二つのプロダクションのアイドルが、その縁で今年もオファーを受けたところに犯行予告が送られてきたってワケ」

「……バラバラにされたハトの死骸で出来たオブジェ、か……恋母さんや明命母さんが見たらこの世の地獄が生まれているところだ」

「で、キミ達二人には、それぞれの事務所のアイドルのボディーガードをやってほしいわけなのね?頼まれてくれる?」

「はい。これを見て聞いた以上、放っておけませんから」

「……胸糞悪い下衆はブチのめす。WTS(ウチ)はずっとそうやってきましたからね。これからだってその通りにするだけですよ」

「そう。じゃあ頑張って頂戴ね二人とも。ライブに参加するアイドルは2つのプロダクションから15人ずつ30人。一人だって柔肌に傷を付けちゃ駄目。責任もって守ってあげなさい。あと迂闊にオイタはしないようにね」

「いや父さんじゃないんだから…」

「ははは……流石にそれは…」

「ふーん…へぇー…私の勘が数十年ぶりに外れるかもしれないんだー?それはそれで面白いわねー」

「二人が一刀の子じゃなかったら、もうちょっとは信じられるんだけどなー?」

 

ニヤニヤ+ジト目でこちらを見つめる母二人、流石に曹操、じゃない早々父ほどの大騒動を起こして溜まるかと少し憮然としながら春希と白夜は手渡された資料を頭に叩き込むべく目を通し始めるのだった

 

 

 

雪蓮の勘が当たったことが分かるのは事件が終わった後の事である




感想・誤字脱字などの指摘などどしどしお待ちしておりますー


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黎明に誓う決意

こんばんは、今回は子供たちではなく一刀君たち親サイドのお話
それ+簡単な状況説明回でございます
…書いていて思いましたがやっぱり自分は一刀君が凄く好きですね…


「ふっ!はっ!せっ!やっ!」

 

八王子にある北郷流道場。時刻はまもなく早朝5時、静かな夜明け前の帳の中、裂ぱくの呼吸と刀が振るわれる音だけが鳴り響いていた

中にいるのは北郷一刀ただ一人。胴着に身を包み、愛刀『北辰一生』を振るい続ける

 

 

太刀筋は鋭く正確で、その動きには途切れがなく、体幹のぶれも皆無

一手一手を止めることなくつなげ続け、想像の中の相手の攻撃を僅かな足さばきでかわし続ける

見る人が見れば感嘆の息を吐くだろう剣の舞

 

「いぃやあああああぁぁぁぁぃっ!!!!!!」

 

だが

 

 

「……いやはや、鈍っちまったなあ。今の動きじゃ、春蘭相手なら1仕合の間に3回は殺される」

 

残心を解いた一刀に満足感は皆無である

かつての外史での皇帝時代。彼自身が最前線に立って敵と刃を切り結ぶことは殆どなかった。だが戦に身を投じ兵の命を危険にさらす者の義務として、そしていずれ来るだろう道士達との決戦に備え、自身の技量を高めるための修行は欠かしていなかった

愛紗、春蘭、思春、霞。各国の猛者達の教授を賜った結果、彼自身の剣の腕は武将たちに勝るとも劣らない一線級の武芸者のソレへと磨き上げられた

 

元々剣術を納める武家の末裔の生まれと言う事もあって少なからず武の才は有しており、趙雲こと星曰く『5年鍛えれば我等と同格』と言う見立ても間違っていなかったと言えよう

 

そして正史世界への転生後も、だらけた男では恋姫達全員の夫に相応しくないと、かつての様に武将達と自らを高めることは欠かしていない

最も、作家として大成し、家庭を持ってからはどうしても執筆や取材、家事子育てと忙しく、道場での門下生への教授をする時以外に鍛錬に割く時間は如実に減ってはいたのだが

 

「いや、言い訳だな。それは」

 

少なくとも一刀はそれをしょうがないからと認めることはできなかった

妻たちは育児仕事と忙しい最中でも鍛錬を欠かさず、今でも見目麗しく全盛期の頃とそん色ない実力を維持しており、子供達も自分だけの一番を見つけてはそれを弛まぬ努力で磨き上げている

そんな彼、彼女たちを見つめて、気が付けば自分だけがまた少しだけ後ろにいた

護られる存在になっていた

そんな自分が情けなくて、そして今の北郷家を取り巻く状況からそれを良しと出来ない一刀は、再び己を鍛え上げる時間を増やしていた

 

「極天、か……」

 

貂蝉や卑弥呼から教えられたことが頭をよぎる

自分の様に外史に干渉し、寄る辺ない枝葉から立派な大樹の様な存在にまで育て上げ、滅びの宿命から解放した人間。それを管理者たちは天を超越した存在と言う意味で極天と呼んでいる

そしてあの外史を救い育て極天となった一刀の子供達もまた、極天に至る可能性があると言う事も

 

無論生まれた時点でそれが出来るほど甘い話ではない。かつての一刀の様に世界を愛し、世界に愛され、世界に住む人々の心を束ね、強大な精神で世界の存続を神器に願い届ける必要がある

だが、だとしても極天足りえる人物が70人以上同じ世界に存在している。本来ならばそれはまずありえない事であるという

だが、外史世界からの転生と言う形で本来ならばあり得ないご都合主義の様な奇跡は起きてしまった

 

「だから、俺の子供達の助けを外史が求めている、ってわけか」

 

不安定な自分自身を確固たる世界に定めてくれるかもしれない。それ故外史自身が子供達を呼び込み、かつての自分の様に次元を超える可能性がある、と言うか、実際に既にそれは起こっている

 

「凪沙、沙斗花、真姫…才斗と紫雲はちょっと事情が違うとは言ってたけど、あと剣丞も……」

 

ここ最近、何人かの子供たちが今いる世界から姿を消している。貂蝉達が言うには、外史あるいは別の時空に呼ばれそこに飛んだと言うのだ。それだけではなく、正史世界においても何かしらの大きい戦いや騒動に関わっている子供たちは多い

運命と言う言葉を安易に口にしたくはないが、何か大きなうねりが自分達家族を取り囲んでいるのは間違いない

貂蝉達はこの正史世界と外史世界を繋げる『門』を作り、必ず子供達と一刀を再会させてみせると外史肯定派の管理者を総動員して子供達を探している

だから安心しろと彼は言っていたが、そんな時に、すべてを子供たちと仲間だけに任せて、自分だけが座して待っていられるほど、北郷一刀は歳を取ったつもりも、衰えたつもりもない

 

「お節介かもしれないけど、子供の窮地を黙ってたら親が廃るよな…うし」

 

じっと刀を見つめていた視線を上げ、道場の脇まで進んでタオルで汗をぬぐっていると、そこにコップが差し出された

 

「ん…?」

 

「お疲れ様でした」

 

コップを掴む白く細い、美しい手

持ち主は彼の妻の一人、かつての蜀の軍神関羽雲長こと愛紗だった

寝起き直ぐなのだろう、柔らかさと温もりを感じさせるパジャマ姿で、彼女自慢の長い髪は頭の上でまとめられている。左手でコップの底をを支える丁寧な仕草が彼女らしかった

 

「おはよう愛紗。起こしちゃったかな?」

「いえ。水を飲みに起きたら、偶々道場に向かって歩く一刀さんが見えましたので…どうぞ」

「うん。んっ、ごくっ…ぷはっ!美味しいや」

 

そのまま道場を抜け、裏庭に一刀たちは立っていた。季節は夏間近、爽やかな朝の風が汗ばんだ体に心地よく、見上げれば東の空がわずかに白んで来ている

 

「心配ですか?凪沙達の事が」

「父親だからね。今更になって思うよ、父さんたちはこの感情をずっと抱いたまま一度死んだなんて…辛すぎるな」

「…」

 

胸の前で強く拳を握る。自分の前例があるのだから、と自分の子供達も同じような立場に立った時ある程度何とかできるよう、母達と知識と技術を教えてきた

だからこそ、どんな時代でもきっと無事に生きているだろうという確信はある。だが、そんなもので親心が抑え込められるわけがない

一刀は思い出す。かつて剪定者によって操られたクシャーナ朝と和国の戦争が勃発した時、敦煌に攻め込んでくるクシャーナの軍団を迎撃するために出撃した部隊の指揮、それが外史時代の子供たちの初陣だった

結果的には大勝利に終わったその戦いだが、実際に帰参した子供達の顔を見るまで生きた心地がしなかった。あの時の焦燥感と不安感に似ている

だがあの時と全く違うことがある、今子供たちはこの世界にすらいないのだ

 

「愛紗、俺は…俺の天命は、外史で三国の戦いを終わらせて、和の国を作って、そして向こうで一度死んで……そこでもう終わった気がしていたんだ。物語をハッピーエンドで終わらせたんだから、それでもう文句はないだろうって、あとの主役はあいつ等だって、自分でも思ってた」

「……」

「でもそうじゃなかったんだ。そりゃそうだよな。めでたしめでたしで物語が終わったところで、俺達はまだ生きているんだ。生きる事をあの世界が許してくれたんだ。だったら、顔向け出来ない生き方はしたくないよな」

「それが貴方の新しい天命だと」

「ううん。そうじゃない、俺が自分で選んだ、俺の生き方だ。物語の主役は外史に呼ばれたあいつ等かもしれない。でも脇役が活躍しちゃいけないなんて道理はないだろ?」

 

夜が明ける。太陽の光が遠くの山を、庭を、一刀たちを明るく照らす

 

「出来る事なんてまだまだ分かってないし、もしかしたらないのかもしれない。でも、もしあるのだとしたら、その時に何もできませんでしたーなんてことはしたくない。俺の人生の主役は俺だからね。情けない姿は妻にも子供にも晒せないよ」

「……思い出しますね、幽州の頃を」

 

桃園の誓い、義勇軍、伏龍鳳雛、朱里と雛里との、白蓮と星との出会い

それがすべての始まりだった

何が出来るかは分からない、でもきっと自分達には何かが出来るはず。そんな思いを抱えて、必死になって戦い、駆け抜けていたあの頃

それは遠い昔の出来事で、自分達も随分歳を取った。でも胸の中にあの時抱いた、未来を掴みたいと願う魂の熱(HE∀tingSφul)は、まだ燃え尽きていない

 

「出来ることを一個一個、少しずつやってくしかなかったからね、あの時も……いい歳したおっさんの強がりだけどさ。愛紗は付き合ってくれるかな?」

「愚問です!我が身も心も、そして刃も!あの時からご主人様と桃香様をお守りするために、一度たりとも曇らせたことはございません!」

 

愛紗だけではない。戦乱の世には程遠いこの正史にて、何故かつての武将たちは全盛と同じように自らを鍛え、軍師達はその知に研きをかけてきたのか

一刀との再会を魂が予見していたから?それもあるだろう、だが愛紗は思う

それはきっとこれからの為だったのだろう、と。大人は大人として、子供たちの為に戦うために、その準備をずっとしてきたのだ

そして、朝焼けに浮かぶ精気溢れる一刀の顔に、かつて少年だったころの彼の顔が重なって、間違いでないという確信が浮かんだ

 

「ありがとう。ふふっ、それにしても、何年ぶりかな?愛紗が『ご主人様』って呼んでくれたのは?」

「え、ええっ!?」

 

外史時代、蜀漢の大半の人物は一刀を目上として様々に呼んでいた。ご主人様と呼ぶ者もいれば、御館様と呼ぶ者もいた

だが現代の正史において、十数人の女性にそう呼ばれている男がいればどうなるか

一刀は記憶が戻り、来日する愛紗たちを迎えに行った羽田空港で痛いほど味わっている

泣きながら自分にしがみつく70有余名の見目麗しい女性たち、そのうち何人かは自分をご主人様と呼んでいる

あの時の文字通り空気が凍った感覚と周囲から向けられる自分を滅多切りにせんばかりの視線は忘れることが出来ない

 

「申し訳ありません…つい……」

「ははっ、いいよ、俺も嬉しかったし。うん、いいな。今度桃香や鈴々と一緒にあの頃みたいに誓い合うのも、いいかもしれないね」

「ふふふ。では今の一刀さんに合うサイズのフランチェスカの制服を用意しないといけませんね」

「ちょ!それは流石に羞恥プレイすぎるって!」

 

一刀と愛紗の笑い声が重なる。誓いを新たにしたことで、一刀の心から不安は消えていた

まるであの頃に若返ったようで、きっと魂まで歳を取ったと勝手に自分たちが勘違いしていただけなのだろう

物語の主役は務められないけれど、素晴らしいものに出来るための手伝いは出来るから。親は親らしく、子供達のために全力を尽くそう

 

その誓いは後に一刀から妻たち全員に伝えられ、夫々が自分に出来る事を全力で、と前に向かい進み始めるのだった

親は強いのである

 




誤字脱字などございましたらどしどしご指摘くださいませ


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人にやさしく、天元の月の様に

21年一発目の投稿したいと思います
今回は前回の春希君と繋がったお話、ちょろっとまた別の作品ともつながりが発生いたしました


八王子駅から桑並木通りをまっすぐ北に進むと、市内を東西に貫く国道20号線にぶつかる

そこから浅川方向に右折、数分もしないうちに見えてくるのは、平屋建て、ロッジ風のお洒落な外観の喫茶店『Coffee Spot Tiger's Eye』

新宿で地元民に愛される喫茶店Cat's Eyeの姉妹店で、コーヒーとスイーツの味にうるさく、洗練された八王子市民の味覚を唸らせる名店である

 

午後16時過ぎ、暇を持て余す八王子マダムたちも家事と子供の迎えに出払って閑散とする店内には、かぐわしいコーヒーの香りとマスターの青年が吟味した店内放送のジャズの音色だけが広がっている

 

「ピース・ヘイターか……また面倒な連中を相手にしているな、お前は」

「はは。どうも厄介ごとに愛されてる家系のようで」

 

今店内にいる客は二人、筋骨隆々の肉体、サングラスにスキンヘッドと言ういで立ちの偉丈夫と、それに寄り添うパーマヘアーの美女

 

向かい合うカウンターには、エプロン姿の店長と店員の二人。黒髪の青年、この店のマスター劉信宏は厨房に向かって食器類を片付け、もう一人の店員、北郷白夜はサイフォンでコーヒーの準備をしている

 

「思想や利益の為じゃない、自分たちの破滅願望を満たすためだけに活動するテロリスト。目的の為なら手段を択ばないだけあって一番厄介だわ…白夜君、本当に大丈夫?」

「油断はしていないつもりです。それに、何かあれば皆さんにも頼りますから」

「ホントかなぁ?白夜は無理をするところがあるからなあ。ねえファルコン?」

「フン。昔のお前たちよりはよっぽど柔軟に物事を考えているぞ、こいつは」

「ぐっ…」

 

女性客の美樹、海坊主と呼ばれた男、そして背中越しに首をすくめているマスターの信宏

彼等には表向きの喫茶店経営者とは別の、もう一つの顔がある

それは暗殺、探偵、ボディーガード等銃規制の厳しい日本で敢えて裏街道を進みながら弱者を悪党から守るスイーパー

――つまりは始末屋

 

海坊主、ファルコンと呼ばれるこの男。伊集院隼人は裏稼業の人間では知らぬものはいない凄腕のスイーパーだ

銃火器の扱いに戦闘術、サバイバル術を極め、たった一人で一国の軍隊とも渡り合うと言われている

同席している美樹は彼のパートナー、信宏は紆余曲折の末に出来た彼の弟子に当たり

白夜自身もバリスタとして、戦闘技術のアドバイザーとして彼らの世話になり、実質的な孫弟子になる

 

「それよりも、です。こちらの味見を最優先してください。わざわざファルコンと美樹さんにお越しいただいたんですから」

 

3人の前に白夜がカップを置く。そこには湯気を立てるカフェオレが注がれていた。雲の様なふわりとしたミルクが浮かび、柔らかいコーヒーの香りが浮かび上がってくる

 

「カフェオレか」

「はい。頑張ってる皆に差し入れを、と思いまして」

「水筒に入れて持ち歩くのは感心せんぞ」

「用具一式は車に入れて現地で淹れます。本当ならお店で飲むのが一番ですけど、スタジオ港区なので」

「私達もいただいていいのかしら?」

「どうぞ」

 

白夜に促され、三人はカップを手に口に運ぶ

喉を通り抜けるキレのある苦みと、それを包み込むまろやかなミルクの甘さ。果実を思わせる香りが鼻に抜ける

 

「美味しい…!」

「うん、確かにおいしい。味わいが丸くて苦みがすぐに抜けるから、女の子にも飲みやすそうだ」

 

信宏と美樹の感想は好評で、一方海坊主だけは水で口を漱いではカップに口を付けるを何度も繰り返し、より深く慎重に白夜のコーヒーの味の構築を探ろうとしている

それを見守る白夜の目に浮かぶ熱も強い

海坊主は屈強かつワイルドな見た目に反してフードとドリンクの味の追求には非常にストイックだ

日々研鑽を怠らず、時には素材の原産国にまで直接赴く行動力を持ち、だからこそ彼は新宿の一等地で30年以上の長きにわたって、自身の店を持ち続けることが出来ている

紳士的な性格ゆえ物腰は孫弟子の白夜にも柔らかいが、ことコーヒーに関しては妥協は一切なく、幾度となく彼が作ったブレンドの味に厳しい感想を下している

 

だがそれは白夜からすれば願ってもいない環境だ。母月、父一刀共に向上心が強い人間であり、成長する為に厳しい環境に身を置くことに抵抗はない

2人の血を引く白夜も同等だ。厳しいが適切な海坊主のアドバイスは白夜にとっては紛れもない金言なのである

 

「…果実に似た香り、ミルクに負けない味の主張がありながら喉の奥にすっと味が消えていくキレの良さ…バリアラビカにニカラグアを5:5、と言ったところか」

「……流石ですねファルコン、当たりです。女の子が飲むカフェオレなので、後味とコクが強すぎても喉の奥が重くなってしまうと思ったので、味のキレを重視したブレンドにしてみました。どうでしょうか…?」

 

一杯分を飲み干すだけで自身会心のブレンド比率と豆の原産国を読み取った海坊主に白夜は感服する

海坊主は腕を組み、顎に指をあててしばし逡巡した後、白夜に判定を下した

 

「70点ってとこだな。豆の焙煎時間、ブレンドの比率、どの牛乳を使うか、湯の温度。まだまだ詰められるところはあるだろうが、上等だろう」

「あ、ありがとうございます!」

 

深々頭を下げる白夜、その顔に浮かぶ高揚した笑み

低く思えるだろうが、海坊主の下す評価として大分甘いものだ

実際もっと追及、改善できる点はいくつも海坊主の頭には浮かんでくる、だが飲んで欲しいと思う相手の好み、ニーズを正確に把握する白夜のセンスを評価するべきと彼は判断した

コーヒーそのものの味はやや薄め、甘さはしっかり。飲んだ後味がすぐに消えていく飲みやすさは、苦みを嫌うことが多い10代女子の子の身にも合致し、全身を動かし疲労するアイドルと言う職業を鑑みれば、疲れを取るための甘味補給としても最適だ

 

「早速スタジオに持って行って皆さんに差し入れしてきますね」

「頑張るわねえ…無理して体壊したら駄目よ?」

「体調管理もプロの義務だ。味覚も肉体のコンディションも、妥協できない世界にいると言うことは忘れるな」

「はい。自分の体も大事に出来ない人間が、誰かの人生を支えるなんてできませんからね。ボディガードもバリスタも、そこだけは同じだって理解しています」

 

人間は自分への行いを他者へも施す動物だ。自分を蔑ろにしてしまう人間は、何れ誰かを救えなくなり壊れていくだろう

特に海坊主たちの様な、直接的に人の生き死にに関わる人間は猶更だ

身近な大切な人を思っての行動が出来ない人間に、見知ったばかりの依頼者を守り救うことなど出来るはずがない

かつて母月から何度も言われたことを白夜は思い出す。自分は何度も無茶をして一刀や詠に迷惑をかけたから、あなたはそうならないように、と

 

「それに、僕にもファルコンにとっての美樹さんの様な、しっかりお尻を叩いてくれる人はいますから」

 

サイフォンを笑顔で片づける白夜の言葉が終わるが早いか、大きく鈴の音を鳴り響かせながら店の玄関が開く

 

「お邪魔します」

 

全員が視線を玄関に向けると、灰色のカーディガンに制服姿の少女の姿が

灰色がかった栗色の髪が腰まで延び、意志の強さを感じさせるキリっとした綺麗な黒い釣り目

身長は平均的だがYシャツの袖が余り気味で、指の第一関節がやっと見え隠れしている

北郷亜彩。一刀と亞莎の間に生まれた一人娘で、八王子市内の私立フェネリア女子高等学校に通っている

 

「いらっしゃい」

「こんにちわ、信宏さん。伊集院さんに美樹さんも」

「こんにちわ亞彩ちゃん」

「……亞彩、海坊主でいいと言っているだろう」

「駄目です。兄の恩人をそんな失礼な名前で呼ぶなんて出来ません」

「むう……」

「ふふっ。もう恒例行事ですね、ファルコンと亞彩のこのやり取りは」

「駄目ですよ白夜兄さん。恩がある年上の人を呼び捨てにするなんて」

「いや、それは俺がいいとだな……」

 

強面の海坊主相手でも亞彩は一歩も引くことはない

真面目な性格らしく懇々と正論で説教する亞彩と小さくなってそれに甘んじる海坊主の姿に他の面々も思わず破顔してしまう

 

「伝説の傭兵も、亞彩ちゃんの前では形無しか…っと、亞彩ちゃんも来た事だし、そろそろスタジオ向かった方がいいんじゃない?」

「あ、もうこんな時間か…もうすぐ片付くのですぐに」

「あーいいよいいよ。後は俺がやっておくから、せっかく亞彩ちゃん迎えに来たんだし、行った行った」

「…宜しいんですか?」

「困ったときはちゃんと頼る、自分で言ったんだろ?」

 

ぐしぐしと信宏に頭を撫でられる白夜の顔は少しだけ赤くなっている

20を超えて頭を撫でられることなど殆どなく、小さい頃に兄たちがしてくれた時の記憶が蘇り、くすぐったい恥ずかしさの中に嬉しさがにじんでいた

 

「では、お言葉に甘えて」

「すみません信宏さん。ほら白夜兄さん!早く着替えて、車車!」

「はいはい」

 

カウンターから出てきた白夜を亞彩が引っ張ってバックヤードに消えていく。彼女もここでバイトしており店内の地理は慣れたものだ

 

「相変わらず、亞彩ちゃんが相手だとここの男どもは誰も勝てないわね」

「控えめに見えて押しの強さは香さんレベルですからねえ…このファルコン相手に強く出れるなんて、あの子招来大物に痛え!?」

「…一言余計だ。黙って夜の仕込みを始めるぞ」

「え?手伝ってくれるんですか?」

 

ここTiger's Eyeは、夜になるとお酒と料理をメインとしたバルとしての顔を見せる。夜シフトに入るスタッフの数は昼よりも多く、静かでのんびりとした時間が流れる昼と違い、常連客と評判に惹かれてやってきた新規客のお酒と料理を楽しむ笑顔があふれる騒がしい店へと変わる

 

「今日はあのバカ共も来るからな、好き放題騒がれてはお前だけでは荷が重いだろう」

「あ~…冴羽さん高いお酒も頼んでくれるのは嬉しいんだけどなあ……」

「Cat's Eyeの方は丸一日お休みにしてあるし、今日は信宏君がどれだけ成長したか見せてもらうとするわね」

「うわー責任重大…白夜戻ってこないかな…」

「泣き言を言うんじゃない。自分だ選んだ道だ、突き進んで見せろ。白夜も同じころには戦っているんだからな」

 

海坊主に首根っこを掴まれて厨房に引きずられて行く信宏、それを美樹は笑顔で見送っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、2つのプロダクションが合同で行われるライブイベントのトレーニングが行われているスタジオの裏手

数人の日本人には見えない男たちがある者は地面に倒れ、ある者は車の上に叩きつけられ、意識を喪ったりうめき声を上げていた

 

「ブラボーよりセントラル。5人処理しました、全員制圧しています。対応要員をお願いします。ええ、僕は大丈夫です、怪我なんてしていませんよ、亞彩」

 

その中央には白夜がいた。右手には髪の毛と同じうす紫色の、ポケットチーフと同じ大きさの布が握られており、それを手首のスナップに合わせて一回振るうと、慣れた手つきで胸ポケットに畳んでしまいこむ

 

 

今白夜が打ち倒した男たちはピース・ヘイターの構成員だ。顔立ちから推測される国籍は中東欧米アジアとまちまちで統一性がなく、噂通りあちこちの過激派が混ざり合っているのだろう

どうやったのかアサルトライフルやサブマシンガンを持ち込んでおり、意気揚々とアイドル達を相手に不埒を働こうとした末、白夜達ホワイトタイガーセキュリティの網に引っかかり一網打尽となったのだ

 

「まったく、性懲りもなく騒動を持ち込んで……あんなに月が綺麗な夜だと言うのに」

 

白夜が見上げる先、薄青い満月が都会の街明かりにも負けずに優しく地上を見守っていた

 




お読みいただきありがとうございます。誤字脱字報告、感想などお待ちしております


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平穏と言う普通を守る使命

大変ご無沙汰しております……今回のクロスオーバー先でご察し着いて下さると思いますが
ちょっとお馬さんを育てたりもう一つの小説のネタいじってたりでうんうん唸ってて大分時間が過ぎてしまいました
もしそれでもお読みいただけるなら望外の喜びでございます!

さて今回の一刀君の子供は誰との愛の結晶でしょうか、はじまりはじまりー



和王朝設立当時、帝国最大の脅威とされていたのは五胡を筆頭とした北西の高原地帯から侵入してくる騎馬異民族であった

生まれたころより馬と接し、鐙や鞍と言った馬具もなく人馬一体となった彼等に対し、中原の戦場の主体は歩兵同士による白兵戦

皇帝北郷一刀はその圧倒的な突進力を危惧し、いち早い騎馬戦力の増強を軍事上の最大課題とした

 

その命題に対し最大の活躍をしたのは、やはり馬と共に生きていた西涼地方出身の武将達だ

神速の騎将張遼こと霞

道士との戦いで散り散りになっていた馬家の生き残りと共に西涼連合を再編し、その筆頭となった馬超こと翠率いる馬家の4姉妹

 

和帝国の精鋭騎馬部隊は彼女達を中心に再編成され、遊牧民族の騎兵とも互角に渡り合い、数多くの武勇を建てたとされている

 

ところで、後世和帝国の騎馬戦力拡充施策において、上記された将に加え、もう一人将の名が貢献した人物として挙げられることが多くなる

 

公孫瓚伯珪。元幽州太守にして、和帝国では現在の警視総監に当たる国内治安維持のトップに立っていた皇帝北郷一刀の妻の一人、真名を白蓮

かつて幽州太守時代には、烏垣を筆頭とした北方異民族の襲来を幾度となく返り討ちにし、白い馬で揃えられた精鋭騎馬部隊「白馬義従」を自ら率いて戦う姿は後に彼女に勝利した袁紹こと麗羽、曹操こと華琳も警戒していたとされる

ネームバリューでは馬家姉妹や張遼将軍には劣るとも、彼女も立派な騎馬戦術のエキスパートだったのだ

彼女は自ら騎馬隊増強の補助に名乗り上げ、蜀地方に集結しつつあった親族や旧臣と共に、主に翠や霞が手を回せない指導のフォローや、彼女らがあまり経験できていない南方や蜀地方などでの有効な機動戦術を指南し、裏から的確に土台単位で軍の補強を実施

一刀は彼女を高く評価したという

 

 

 

 

 

……そんな人物を母に持つこともあってか、俺北郷鳳清は人の夢を支えるトレーナー職につきたいと思っていた

武術の道でスポーツ医学に詳しい凪母さん、栄養学に詳しい朱里母さんとうちにはとにかく偉大な先達がたくさんいるので、その人たちの知恵と技術を継承し、自身も兄や弟たちと同じくそれなりに戦えるようにと鍛錬を欠かさずいたらですね……

 

まあ来てしまったわけですよ、俺にも。外史への旅立ちの時ってやつが

いや別に北郷家の恒例行事ってわけでもないんですけどね?多分

 

記憶は大学の友達と遊びに川崎へ向かうため電車に乗った所で途切れ、目が覚めた時には目の前に青空。公園のベンチに座って寝ている状態でありました、と

 

しばらく心地いい風に身を任せ空を仰いで呆然としてたけど、なんとか体を動かすだけの気力を取り戻して歩きだす

ぐったりしてたってどうにもならないし、ワンチャン同じ世界のどこかかもしれないとこの時は思ったんですよ。一応周りの景色そこまで異世界っぽくもないわけですし

まあ実家も両親もきょうだいも友達もだーれも電話通じなかったんですけどね

 

一時間ほど歩くうちにわかりました、ここ日本じゃねえ。んでもってやっぱ異世界だわ

回り中国語と英語ばっか、中国語は繁体字が多いし、高層ビルの高さからして香港かマカオ?のどこかっぽい

何で中国語分かるかって?いや仮にもハーフですし母親全員バリッバリに中国人ですし

それに何か知らないけどめっちゃ可愛い馬みたいな耳と尻尾生えた女の人があっちこっちを普通に歩いてる

コスプレ?いや安っぽい人工繊維で再現できる質感じゃないよあれ。がっつり手入れされた本物の馬の耳と尾だよ

そんな人が街中を平然と歩いて暮らしてるわけだ。しかも時々ものすごい速さで段ボールとか持って走ってる。運送屋さん?

こんな光景絶対正史世界じゃ見れないよね、外史か異世界かくてーい、はあ

最悪な事態の最悪さがパワーアップしただけじゃねーかちくせう

 

 

ぽやぽや何度も思考をループさせていたら見覚えがある場所に出た

海を望む海浜公園、いやー潮風が気持ちいいね。そして顔を見上げれば天を衝くでかーいビルに奥に観覧車

あー中環海浜活動空間だわあれ。つーことはここ香港か。中学の頃に雪蓮母さんに南京の孫家に遊び行く序に連れられて以来だわなつかしー

 

…ってそれどこじゃねえよ俺完全に不法入国者じゃん!パスポート家の金庫の中だよ!

日本円はそれなりに持ってるけど香港ドルなんて持ってねえぞ!?

 

あーくそっ、考えれば考えるほどドツボだ……最悪言葉は通じるし、貂蝉おじさんが見つけてくれるまでなんとか肉体労働で日銭稼げるとは思うけど、違法な仕事は嫌だよなあ……普通に生きたいよ普通に

 

もう何度ついたかわからないため息をもう一つ。いかんいかん、気持ちが折れた人間からサバイバルは落ちていくんだ。顔だけでも前向けないと

 

 

気を取り直す。顔を上げる。視線の先には一人の女性

腰まで延びた黒い髪。馬の耳と尻尾。風にたなびく髪を抑えている

 

その背中に向かっていく男。パーカーにスウェット、ポケットから取り出された手

そこにはスタンガン

 

 

 

 

 

スタンガン!?

 

 

 

 

 

男が腰を落とす

 

小さく呼吸。古い息を全て吐き出し

 

両腕でスタンガンを腰だめに構える

 

一秒以下で吸い切ることで全身の筋肉を活性化

 

一歩、二歩と大きく踏み出し、加速

 

走り出しながら、更に肉体の運動能力を気を張り巡らせて強化して

 

一気に女性の背中に向かって

 

一瞬で男の背中に飛び掛かって

 

「何してんだお前っ!?」

「ぐあっ!」

 

飛びつくと同時に相手のスタンガンを握っている腕を、間接に負荷がかかる方向に捻り上げ叩き落し、再び掴まれることがないように蹴り飛ばす

勢いのままに地面を転がり、速度を利用して男をうつ伏せで地面に押し付け、腕を背中に回して関節をロックする

 

「がああっ!」

「女性相手に不埒な真似しやがって!君!早く警察に通報!」

 

藻掻く悪漢を押さえつける。糞っ、結構パワーあるじゃねえか神妙にしやがれ

あいにく香港の緊急通報先なんて覚えてないので、俺が男に突っ込んだ音で驚いて振り向いた、危うく被害者になりえた女性に警察への通報を促す

 

「……」

「え、えっと……俺の中国語変じゃないよね?通じてるよね?今君襲われそうになったんだ。だから警察呼んでくれないかな?」

 

ぎょっとした顔から落ち着いているのだろうが、女性の反応は芳しくない

太陽の光を受けて青く反射する綺麗な黒髪、前髪の真ん中あたりから白いメッシュが入っているセンスは独特だが、シャープな顔立ちに良くあって冷ややかな印象を受ける

……なんだろう、なんだか見覚えあるぞ、この子の雰囲気

 

「……あの」

「ねえ貴方。公孫瓚って人、白蓮って人、知ってる?」

 

鈴が鳴るような綺麗な声。青い瞳を大きく開いて、膝に手を乗せ俺をのぞき込んでくる

……何で、俺の、母の、名を?

 

「お、俺の母さん、だけど……」

「やっぱり!目つきは父様似だけど、顔立ちや髪の色は思い出の白蓮そっくりですもの!んーそう、息子なのね。まさかこんなところで縁が再び結びつくなんて、的蘆も

快航も喜ぶわ」

「えっと、ど、どちら様……?」

「え?あぁ、そうね、わかるはずもないか。私の名は絶影、華琳母様の愛馬として中原を駆け抜けた絶影よ!」

 

……ウマ、何?つか、絶影って……華琳母さんがあの外史で生涯の愛馬にしていたって言う、絶影、さん……?

 

「ええ、そうよ。他にも的蘆も快航も麒麟も、白竜達もいるわ。ついてこない?貴方の話、聞いてみたいの」

 

そう言って手を差し伸べてくる自称絶影さん。ああ、この笑顔で思い出した

最初に感じたデジャヴの正体。この人の笑顔、華琳母さんにそっくりなんだ

 

 

 

 

こんな出会いを経て、気が付いたら俺は今、この外史の府中にあるトレセン学園でウマ娘達のトレーナーをさせてもらっています

父さんの愛馬だった黄爪飛電、母さんの愛馬だった白雲もこちらでは元気にウマ娘として走ってますよ。今度そちらに戻れたら連れて行こうと思います

俺?俺はそれなりに普通に平和です。まあしなきゃいけない事って言うのはできていますけど、彼女たちの普通の日常を守る戦いなわけですから、逃げるわけにはいきませんよね。それではこれで、必ず帰ります。鳳清より

 

 

 

 

 

「ほらー!ペース落ちてきてるぞー!あと1300m1本だ!俺も一緒に走るから頑張れー!」

「な、なんでトレーナー私達より早く走れるんですかあ!」

「これくらいウチじゃ普通なんだ!ほらファイトファイト―!」




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花芽吹く帝都、麗しの戦乙女達

こちらの投降もお久しぶりです…お待ちになってらっしゃる方は少ないと思いますがネタが浮かび次第ぽつぽつ投稿させていただきたいと思います


時は太正19年、場所はハイカラな紳士淑女の皆々様が集まる帝都東京は一番地銀座

その中心、大十字路に鎮座する日本エンターテイメント業界の最先端大帝国劇場

 

麗しき女優たちが魅せる夢の舞台は連日満員御礼、夏公演真っただ中の現在、一風変わった演目が演じられていた

 

題は『三国乙女武将爛漫記』

帝国大学の書生島津剣一は、ある日謎の仙人の手で有名な登場人物が全員女性の三国時代に連れ去られ、そこで劉備、孫権、曹操の三人の女王と出会う

平和を願いながら戦い合う宿命にある三人の女王の友情と葛藤

時代と戦乱、理不尽に揉まれながらも真実と戦いの終わりを目指して青年は足掻いていく

と言ったあらすじだ

 

聞く限りではかなり奇天烈な内容であり、当初は帝劇の正統派脚本に慣れていた花組フアン達も面を食らったが、意外や意外、これが中々の大当たりであった

 

理由は何より、物語の主役と言える三国の英傑が女性であったこと

この時代、本来なら女性は社会的弱者の立場にあり、それでありながら国と人々の未来を憂いて、王として立ち上がる

三人の王は同じ平和と言うゴールを夢見ながらそれでいて各々別の道を進んでいく

それ故に時に彼女らは友情を育み、時に刃で、時に言葉でぶつかり合う

そんな姿が女性の社会進出が加速した太正と言う時代背景にマッチした

そしてそこに追加される剣一と言う男の存在

剣一と言う男は優しく前向きで、三人の女王をどんな時も一人の女性として扱う

王としての責務に潰されそうになる彼女らは、当然剣一に恋をする。そして、戦いの動機の中に少なからず剣一と言う存在が入り込んでくる

そこで生まれる友情と恋の争いの中で揺れ動く女王たちの葛藤もまた、メロドラマに飢えた女性たちの心をつかんだと言えよう

そして女王を始めとした女性たちの為に傷つくこともためらわず運命に立ち向かう剣一の姿は、男性層からの支持も厚い

 

もう一つの理由は、斬新なキャラクター解釈である

三国志の人気キャラである関羽や趙雲にも負けない、慈愛を持った女性として描かれる劉備

偉大な母と姉より国を託され、懸命に国と仲間の為に王であろうとする孫権

支配者と一人の少女の間で揺れる曹操

悪漢の汚名を着せられながらも皇帝を守ろうとする董卓

董卓との友情に応え死地に赴くことも辞さない忠臣呂布

 

各々のドラマが集結した第二部、三国大乱編のクライマックスと言える赤壁大決戦のパートは、帝劇が誇る技術スタッフが総力を結集し、川の水と燃え盛る炎そして巨大な戦船を再現

まるで本物の戦場さながらの迫力に、観客たちはただただ圧倒され息をのんだ

 

「これで終わりです。曹操さん」

「兵を下がらせて、聡明な貴女ならわかるはずよ。この場で戦えば、どれだけの兵の命が無駄に散っていくか」

 

フランスは巴里から今回の特別講演の為に招かれたエリカ・フォンティーヌ扮する劉備、帝劇花形女優の一人、真宮寺さくら演じる孫権が、大敗を喫し力なく座り込む曹操に刃を向ける

 

「……」

 

そして二人に庇われるように立つ剣一、演ずるは帝劇花組男役スリートップを務める桐島カンナ

曹操を見つめる愁いを込めた瞳は、普段溌剌とした男子役が多いカンナには珍しく、最前列で観劇する紳士淑女の心をそれだけで魅了する

 

「ふ、ふふ……我が覇道もこれまで、か。見事なり劉備、そして孫権。我が歩みはここで終わり。首でもなんでも持っていくがいいわ」

 

ゆらり、と色気ある仕草で立ち上がる覇王曹操、演ずるは花組唯一無二のトップスタァ、神崎すみれ

全身に纏う覇気と色気は、彼女が役者であることを観客に忘れさせ、実際の王の様に傅きたいとすら思わせてみせる

 

「違うよ曹操。俺達が欲しいのはお前の命でも、首でもない。わからないわけじゃないだろう?」

 

そこで剣一が劉備、孫権の間をすり抜け、曹操の前に立つ

 

「今この大陸は、悪意を持った仙人に滅ぼされかけている。俺達が争ったって、あいつらの思う壺だ。俺達は手を取り合って、協力して戦っていかなきゃいけない」

「フン。顔を合わせればいつもそう、劉備も孫権も貴方も理想論ばかり。それで本当に国が救えると?」

「出来るさ!俺達と、曹操!君となら」

 

剣一が曹操に手を差し伸べる。腕を組んで顔を背ける曹操に、剣一が揚々と歌いかけるミュージカルパートが始まった

皆の為に、未来の為に一緒に歩みたいと語り掛ける剣一

最初はそれを拒絶する曹操、だがやがて、彼女も思いの丈を歌に乗せて剣一に応える

自分も貴方の傍にいたい、でもそれを私自身が口には出せない。だから貴方に、貴方自身の意思で傍に来いと

なら俺は自分の言葉で伝えよう、君が欲しい、君と一緒に歩んでいきたい。俺たちの未来の為に

なら私も答えましょう。王として、一人の女として、貴方の傍で共に生きると

くるくると円を描いて舞う二人

やがて劉備が、孫権が、東京で、巴里で、紐育で一世を風靡する女優達が扮する三国の英傑達が次々に二人の歌に声を重ね、煌びやかな合唱へと物語を紡ぎあげていく

 

「一応ここが、三国が同盟を組み、仙人達に立ち向かっていくことを決める第二部のクライマックスパートになるんだけど……どうかな?」

 

 

観客全員を飲み込む歌と踊りと音楽の最高潮

それを劇場の支配人大神一郎が見下ろしていた、その後ろには、似た顔立ちの三人の女性

 

「一演劇としてはすごいと思うよ?大神さん。でもまあ……」

「華琳母さんはあんな素直じゃないよねー。特にこの頃は」

「観劇してたら悶えて絶叫するか舞台に怒鳴り込むと思う。と言うか何でこんな仰々しい話になったんですか?正直喜劇にしかならないと思うんですけど、ボク等の両親のネタなんて」

「あはは。赤堀先生がね、君達の原案を読んで大分無茶をしたみたいなんだ……すまない」

 

 

かつての両親達をモデルにした舞台を目にして苦笑いする北郷三姉妹の姿がそこにあった

 

 

 

 

北郷星那、花那、愛那の三姉妹がこの外史に飛ばされたのは半年ほど前の事

ライブツアーを終え、久しぶりの纏まった休みを楽しむために八王子の北郷邸に帰り玄関の門を開けた次の瞬間には、三人揃って帝劇の中庭に倒れていた

帝劇のマスコット犬フントに顔を舐められていた三人を最初に見つけたのは、帝劇の男役3人のうち最年少、フントの世話を主に焼いているレニ・ミルヒシュトラーセと、彼女と年齢が近く仲が良い、フランスの伯爵家の令嬢にして名子役のイリス・シャトーブリアン、通称アイリスの二人

 

右も左もわからず混乱していた三人を二人はとりあえず落ち着かせると、支配人室にいる大帝国劇場の支配人にしてグリーティング責任者である大神一郎に引き合わせた

混乱していた星那達も、「ある事情」からそう言った手合いの相手には慣れていた大神と会話を交えるうちに大分落ち着きを取り戻し、意外にも話はスムーズに進むことになった

当の大神自身がこういった緊急事態には慣れている事も、彼女らの兄である北郷白夜が務めている機関、森羅と大神に少なからず縁がある事もその一助となっていた

 

大神の説明を受ける中で、星那達は自分達の境遇を理解することになる

そう、自分達も父やきょうだいたちと同じく、超大規模な迷子になってしまったのだと

そして彼女たちは、大帝国劇場預かりの居候の身となる

当初は遠慮していた三人だが、異世界に伝手などあるはずもなく、大神の好意を受け入れる以外の選択肢など存在しない

困ったときはお互い様、とにこやかに笑う大神を見て、星那は目の前の男性が自分の父の同類、即ちお人好しである事を理解するのだった

 

 

「あれから半年かあ、早いものね」

「仕方ないんじゃない?調べてどうにかなるもんでもないだろうしさ」

「それにボク達も、帝劇の暮らしは気に入っている」

 

今、三姉妹は帝劇で公演中に奏でられる劇中音楽の作曲や音響の仕事を行っている

当初は下積み時代よろしく劇場の事務仕事を手伝っていたりしたのだが、偶々劇場の音楽練習室にあるピアノを星那が弾いている所をソレッタ・織姫に見初められたのがきっかけだった

彼女はオペラの本場イタリアで太陽の貴族と呼ばれたほどの一流の女優でありながら、ピアニストとしても高い実力を兼ね備えている

星那からすればストレス解消に過ぎなかったのだが、その高い音楽的センスを見逃す織姫ではなかった

結果、3人は花組や帝劇のスタッフ一同の前で生歌を披露する羽目となったのである

 

星那は凛星モノローグ、花那はドリーム・フェザー、愛那はTwilight Flareのそれぞれ3曲

かつて王として生きていた桃香、華琳、蓮華の生きざまをモチーフに作詞担当の花那が作曲したプライマルワールズのラインナップの中でも特に人気の3選だ

 

 

 

星那は普段の姉御肌で底抜けに明るい性格からは思いもしない繊細で透き通った声で歌う、頂点に立ってしまった孤独に負けない覇王の気高さを

 

 

花那はどこか冷たささすら感じさせる美貌から、甘くとろけるような歌声で理想を追い求める心優しい王の覚悟を謡う

 

 

一見リアリストで自分を前に出さない愛那も、小柄な体の何倍ものパワーを感じさせる熱い歌声で悲しみに立ち向かう、多くの人々を束ね進む王の願いを歌いあげた

 

 

この時代の日本人にも判りやすいように、英語の歌詞の部分や現代的な言い回しをアドリブで変更などの工夫をこなしながら、数か月ぶりに全力を傾けた3人の熱唱が終わると、周囲からは拍手が嵐の様に巻き起こる

さくらや紅蘭は興奮した面持ちで3人の歌を絶賛し、厳しく判定しようとしていた織姫も、言葉こそ強いがしっかりとその実力を認めているようで

大神も、3姉妹の歌の熱でドクドクと強く脈打つ鼓動のままに星那達に提案する

君達が元の世界に戻るまででいい、帝劇の舞台に、君達の音楽を加えさせてくれないか、と

 

それ以来、プライマルワールズは太正時代限定で大帝国劇場のホールミュージシャンとして活躍している

星那が作詞の才能に秀でているならば、花那は作曲、愛那は編曲と演出に優れていた

それは歌唱用とは勝手が違う劇伴の作成でも存分に発揮され、この時代には無い伝統的な楽器をロック調、ポップ調なリズムに合わせて使用すると言う斬新な試みは劇場のファンたちにも好意的に受け入れられた

 

 

 

 

「あの時、あたし達は帝劇の一員になったんだって思った。私達の音楽が、全く違う世界でも受け入れられて、居場所を作る力を持ってるってわかったのは嬉しかったよ」

「そしてこれからは、受け入れてくれたこの世界の…花組の為に歌う番、か」

「舞台でも、部隊でも」

 

大帝国劇場の地下深く。何重ものセキュリティを超えた先には、劇場の地下には似つかわしくない、コンクリートで打ちっぱなしとなり、幾つもの複雑で緻密な機械が配置された物々しい空間があった

 

大帝国劇場にて日夜鍛錬に励み、麗しき極上の舞台を演じる帝国歌劇団・花組。彼女達には知られざるもう一つの姿があった

 

「来はったな」

「待ってたよ、3人とも。準備はできているみたいだね」

 

その地下の中でも最重要機密区画に、星那達はやってきた。3人はかつての戦闘機パイロットの飛行服、もしくは乗馬服を煌びやかに染め上げたような衣装に身を包んでいた

星那は桜色、花那は碧色、愛那は藍色。一見すればカラーガードの様にも思えるが、実際には対弾、対刃等の各種特殊処理が施された、戦うための戦衣装だ

 

「ええ。準備万全!何時でも行けるわ」

「服も誂えてもらえて嬉しいよ。かわいいデザインで好きだなー私」

「気持ちが逸ってくるのが分かる。戦うのは怖いはずなのに、不思議」

 

大型の機械を置いておく格納庫のようなその場所には、既に大神と花組一のコメディスターであり、劇で使用される大道具を一手に制作している李紅蘭も、普段の目に眩しい深紅のチャイナドレスからくらいオリーヴ色のつなぎ姿になっている

 

「この中に?」

「ああ。紅蘭、そっちを」

 

大神と紅蘭は目の前に鎮座している、カバーをかぶせられていたものに向かって歩く

大きさは5m程だろうか、見上げるほどに巨大な何かからカバーをはがすと、そこには一体の巨大な人型ロボット、否甲冑が鎮座していた

1対のモノアイレール。銀色の機体に桜、碧、藍のラインが奔り、背中には大型のバックパックを背負う姿は神々しい神像にも見える

 

「試製牛型霊子甲冑『麗武』。史上初の3人乗り霊子甲冑や。双武からさらに乗員を増やすことで、個々人の負担を減らしつつ霊力同調の許容誤差も増やした発展試作機。本来なら実戦投入は考慮されてへん子やけど、ウチと整備班の皆で徹底的に整備してあるから、そこは問題あらへんよ」

「最後の確認だ、星那くん、花那、愛那。本当にこれに乗って、俺達と一緒に戦う。その道を選ぶというんだね?」

 

帝国歌劇団のもう一つの姿。それは急速に発展する文明の負の一面。都市が発展するにしたがって生じる霊的なバランスの崩れから、ひそかに生み出される人ならざる脅威、魔の者達から人々を守るために戦う秘密部隊、帝国華撃団

そして、普段は舞台の上で歌と演技で花を咲かせるさくら達も同じく、有事には霊子甲冑と言う鋼鉄で心まで武装し、悪を切り裂く乙女にして、帝国華撃団の実戦実働部隊・花組なのである!

 

星那達は一か月ほど前に日本橋で怨念の集合体である降魔に遭遇。逃げ惑う人々を守るために気を練り上げ、3姉妹の能力である気の共鳴を行って巨大な精神力の壁を作り、大神が現れるまで降魔の恐ろしい爪から人々を庇っていた

そして大神が降魔の説明を行い、同時に華撃団の存在を彼女達に示したのだ

 

 

「歌で誰かの助けになる。変な事言ってるかもしれないけど、それが夢なのよ。あたし達姉妹の」

「歌で世界が救えるとまでは言わないけど、一人でも多くの人の心に届いて、その人の人生がいい方になればいい。そう思ってる」

「そう言うのに比べるとちょっと武骨な意味合いだけどね。でも歌が関わっていることは変わらないし」

 

不敵に笑う三姉妹。戦いを前に静かに高揚する精神は、北郷に流れる古き薩摩隼人の血故か

 

「よし。じゃあ君達は今日から歌劇団だけでなく、華撃団の一員としても一緒に頑張ってもらうとするか。三人とも、改めて皆にも話を…」

 

瞬間、鋭い警報音が鳴り響き格納庫中のパトランプが赤々と輝きながら旋回を始める

緊急出撃を告げる警報だ

 

『総員緊急配備、繰り返します、総員緊急配備八王子市高尾山にて霊力測定器が魔力の異常上昇を感知、華撃団各員は緊急出撃体制に入ってください。繰り返します…』

 

劇場スタッフにして帝国華撃団のメンバー榊原由里のアナウンスが格納庫に木霊する

霊力異常は即ち魔なるものが人々に牙をむいたと言う事、帝国華撃団が本会を遂げる時が来たのだ

 

「こんな時に…星那くんたちは…」

「出るよ。もうあたし達だって花組の一員なんだ。新人だからってえこひいきは無しだよ、『隊長さん』」

「……わかった。紅蘭、三人を司令室に」

「了解!こっちやで、3人とも!」

 

紅蘭に連れられ一階上の中央司令室に駆けていく姉妹たち。その後ろ姿を見送った後、再び大神は麗武に振り無く

既に機体はレールに沿って発進待機ポジションに移動し、整備スタッフが直前の最終調節に入っている

この新たな力が帝都に何を呼び込むのか、見えぬ未来に不安と希望を抱き、大神も星那達を追うのだった

 

 

 

八王子市 高尾山

 

元々は修験道の霊場とされていた都内随一の霊山であり、観光スポットとして開発が進められている今でもその山体に宿す霊力の強さは都市部の気脈の比ではない

 

「流石は帝国華撃団。銀座から離れておるに手早いわ」

 

山頂付近の広場、赤い文様が描かれたそこに一人の神仙の姿が

緑と黒と白を基調とした道服は紛れもなく管理者のそれ、年のころは少年にも見えるが、伸びるに任せたボサついた髪は老人のように白く嫌らしい笑みを浮かべている

この男の名は紫虚、李意期と志を同じくし、今様々な外史で暗躍している道士の一人である

 

「来るが好い英傑どもよ。そしてことと外史を広げていくがいい。ク、ククク……」

 

乾燥した木の実がはじける様な不快さを感じる紫虚の笑い声。まるでそれに応えるかのように、文様の中心から何かが浮かび上がってきた

それは建物程の大きさがある紫がかった黒い、悪魔の様な獣

降魔。古より人に仇為す負の霊力が具現化した人類の天敵。だがワラスボの様な頭部の下、首の付け根部分からぬるりと何かが付きだしている

それは男の上半身だ。まるで磔刑にかけられた罪人の様に降魔の体に埋まった両腕に体重をかけ、だらりと長い髪を垂らし俯いている

 

「ふむ、融合は5割と言ったところか。良い良い、宴の余興ならば十分じゃろうて。派手に暴れるのじゃぞ?ク、クククク…」

 

降魔に融合した男の顎に手をやり顔を上に向かせる。その人相を見れば、華撃団の面々は驚愕したことだろう

その男こそ、かつて太正維新を合言葉に花組を壊滅寸前まで追いやった黒鬼会の首魁。元陸軍卿京極 慶吾であったのだから

 

「テイコク、カゲキ、ダン……」




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