この素晴らしい御坂美琴たちに祝福を! (景々)
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第1話 転生

「ようこそ死後の世界へ。私は、あなたに新たな道を案内する女神。御坂美琴さん、あなたはつい先ほど亡くなりました。辛いでしょうが、あなたの人生は終わったのです」

 

 目が覚めると、無機質で広い空間が広がっていた。

 目の前には自ら女神と名乗る人物が一人。

 

 正直、私が死んだことに対してはあまり違和感を感じなかった。なぜなら、私には死ぬ直前までの記憶が残っていたからだ。

 私は、大覇星祭の真っただ中、「妹達(シスターズ)」を狙っていた組織の黒幕である木原幻生(きはらげんせい)の目論見を潰すため、食蜂操祈と協力してとある研究所に潜入していた。屋上に登った所までは覚えているのだが、この時点を境に記憶があやふやになっていて思い出せない。恐らくこのあたりで何かが起こったのだろう。

 そうだ、この女神と名乗る人に聞いてみたら、もしかしたら私の死因を知ってるかもしれない。

 

「あの、研究所に上ってからの経緯って、どうなりましたか?」

 

 すると、目の前の女神は淡々と告げる。

「あなたは木原幻生の「絶対能力者進化計画(レベル6シフトけいかく)」に巻き込まれて強引に絶対能力者(レベル6)に到達した直後、体が崩壊したのと同時に学園都市もろとも消滅しました」

 

 え?

 ちょっと待って。

 いきなりすぎて心の整理ができないんですけど!

 とりあえず、想像以上に酷い事態になってしまっていたことだけは分かったけど……

 

 しかし、美琴が心の整理をする暇もなく、目の前の女神が話を続ける。

 

「いや~、残念でしたね。学園都市を救えなくて。でも大丈夫! 実は、そんなあなたにとっておきの話があるんだけど、聞いてみない?」

 

 いやいや、まだ心の整理が追い付いていないんですけど。

 

「あの~、ちょっといきなりすぎて心の整理が追い付かないんですけど」

 

「そうね。確かに心の準備ができないかもしれないわね。それならもう少しだけ待ってあげるわ。でもどうせいろいろ考えても元には戻らないから、あまり考えすぎてもダメよ?」

 

 そう言うと、目の前の女神は用意されていた椅子にふんぞり返り、足をぶらぶらしながらポテトチップスを食べ始める。

 

 その間に美琴が心の整理をしていると、十秒が経った頃だろうか、目の前の女神がいきなりしゃべりだす。

「ん~、まだ~? まだかな~? 早くして~?」

 

 正直な所、「あの、それでも女神ですか?」というセリフが脳裏に浮かんできた。他人が死因を告げられてショックになってるのに、この態度はいかがなものか。だが、さすがに初対面の女神相手に言うのはまずいので、1回目はなんとか我慢してあげよう。とはいえ、この失礼極まりない女神の姿を見てしまったせいで、もうどうでもよくなってしまった。

 

「あの、話の続きをしてもらってもいい?」

 

 

「あっ、やっと終わったのね」

 いやいや、そんなに長くなかったはずですが?

「んで実はね? 今、ある世界で大変な事になってるのよ。って言うのも、俗に言う魔王軍ってのがいてピンチなの。だけど、そこの世界で魔王に殺された人たちは『もう魔王になんか殺されたくない』とか言って、違う世界に行きたがるから、人口が減っちゃって大変なの。それで他の世界から行ってくれる人を集めてるってわけ」

 

 なるほど。

 

「でも、せっかく送ってもすぐに死んでもらっちゃったら困るから、何か1つだけ向こうの世界に持って行ってもいいことにしてるの。強力な武器だったり、固有スキルだったり。これであなただって前世で受けた屈辱を少しでも晴らせるかもしれないし、向こうの世界にとっても即戦力が来るわけで。ねえねえ、人助けだと思って引き受けてくれないかしら?」

 

 少し考えてはみたが、悪くない。いわゆる「異世界転生」ってやつだ。主人公がチート能力と共に転生して、世界を救ったりするやつ。

 

「そうね、そう言われると断れないわね。魔王軍を倒すってのも、なんだかゲームみたいで楽しそうだし」

 

 確かに、この時は楽しそうだと思っていた。そう、この時は。

 

「なら決まりね! んで、何持ってく?」

 

 どれにしようかな~?

 とはいえ、いきなり「来世に何持ってく?」とか言われても決められないものなのだなと美琴は実感した。よく見てみると、どの装備も強力そうだし、無難にステータス系の能力も強そうだ。

 

すると、目の前の女神は……

 

「え~、まだなの? 早く決めてほしいんですけど? こっちは学園都市からの案件がいっぱい来てて大変なんですけど~ ボリボリ」

 

 そう言いながら、またもや椅子にもたれて足をぶらぶらしてポテトチップスを貪り食っている。  

 なにあれ。女神どころかもはや完全にダメ人間にしか見えないんですけど。それこそ、さっきの「あの、それでも女神ですか?」というセリフが喉の手前まで出てきているのだが。

 

 しかしそんなこともつかの間、目の前の女神は何かひらめいたようで、嬉しそうな顔でこう告げる。

 

「そうだ、いいこと思いついた! 確か、あなたたちの世界って『超能力』ってのがあったわよね? あれをあっちの世界に持っていけば、チートの代わりになりそうね。私ってなんて天才なのかしら!」

 

「それじぁ、早速あっちの世界に送るわね~。魔法陣から出ないでね~」

 

 

 

 どうしてか分からないけど、何となく嫌な予感がするのは気のせいだろうか……?

 

 

  *   *

 

 

 目の前で魔法陣が展開されたと思いきや、いつの間にか目の前には草原が広がっている。どうやらすでに異世界に転移したようだ。

 

「ここから私の冒険が始まるのかしら~ なんだかワクワクしてくるわね!」

 彼女は、これから始まるであろう冒険に期待を寄せる。

 

「そういえば、ちゃんと電撃は使えるようになってるのかな?」

 

 ビリビリ……

 

 試しに軽い電流を体から出してみたものの、前よりも明らかに出しづらくなっていた。

 

 次に、遠い所に電撃を放ってみた。すると、前よりも射程が明らかに狭くなっていた。

 

「あれ、確かに能力は引き継がれてるけど、明らかに弱体化してるわね。どういうことかしら?」

 

 それにしても、他にもなにか大事ところを見落としてる気がするなあ。

 

 んん?

 そういえば、なんでいきなり草原なんだろう?

 

 そう。ここは草原。草木はあるが、裏を返せばそれくらいしかない。

 

 そして、重大なことに気づく。

 冒険するにはまず拠点となる街を見つけなければならないが、全く見当たらない。

 その上ここは全く土地勘のない異世界。街がどの方向にあるかすら分からない。

 さらに言うと、街にたどり着けない限り安定した衣食住は確保できない。前世はなんだかんだでお嬢様であったため、サバイバル術は当然身に着けていない。

 

「てかこれって、思ったよりもヤバいんじゃない……?」

 

 どうやら、御坂美琴は異世界転生をしていきなり人生最大のピンチに陥ってしまったようだ。

 

「てか、なんでいきなり草原から始まるわけよ!! 『せっかく送ってもすぐに死んでもらっちゃったら困る』とか言っといて、こんなところに送り付けるなんてどうかしてるわよ!!」

「次会ったら絶対に許さないからね!!」

 

 空に向かって空虚な叫び声が響く。

 

「まあいいわ。どうせあの女神にもう一度会えるわけなんてないんだし、こうなってしまった以上他人のせいにしても仕方がないしね。とりあえず水と食料を探した方が良さそうだわね」

 

 そう言うと、彼女は水と食料を探すため草原を歩き出した。

 

 

~つづく~



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第2話 出会い

 広い草原を少し進むと丘のような地形が広がっていて、丘の頂上の辺りに何やらカエルのようなものが1匹見えてくる。

 

「何だろう?」

 

 もう少し進んでみると、どうやら巨大なカエルの後ろ姿だということが分かった。前方で居座っている緑色の巨大カエルは、地面にしゃがんでいていつでも飛び跳ねる準備ができてそうだ。

 

 しかしよく見てみると、何となくゲコ太に見えるような気もしなくもない。サイズは全然違うけど、もしゲコ太が座ったらあんな感じなのだろうか?

 

 ゲコ太のことを考える美琴の目はこれまでになく輝いていた。

 

 

 

 とはいえ、彼女はすぐに正気に戻る。

 

 いやいや、何考えてるのよ私。

 

 さすがにあれがゲコ太じゃないことくらい、学園都市随一のゲコラーである私が見抜けないはずないわよ。もしあれがゲコ太というのなら、お隣の大国の三流遊園地に居そうな版権ガン無視パクりキャラは全て本物だって言うようなものよ。

 

 

 

 そんなことを考えていると、前方の巨大カエルが振りかえり、ぴょんぴょん跳ねながらこっちへと向かってくる。巨大カエルが着地すると同時に地面が揺れる。どうやら向こうから気づかれてしまったようだ。

 

「って、こっち来たぁぁぁぁぁ!」 

 

 彼女は不意を突かれて驚きはするものの、こういった戦闘は前世でも何度か経験していることもあってすぐに態勢を整え、持ち前の電撃を放つ。

 

「ああ、外しちゃった!」

 

 1発目は巨大カエルの着地と同時に放ったのだが、着地の衝撃で照準がずれてしまった。

 

「とはいっても、今私が持ってる力だとむやみに撃っても外しかねないわね。もっと近くで正確に撃つ必要がありそうね」

 

 先程は巨大カエルの着地が邪魔をした面があったが、彼女はあの一撃で、今の自分の力では目標物が遠ければ遠くなるほど電撃の精度が落ちてしまうことにいち早く気づいていた。

 

 しかし相手は想定以上に早く詰め寄って来る。1回のジャンプでの移動距離が意外と長い。

 

「思った以上に早く近寄って来るのね。てことは、次は絶対外せないわね」

 

 今度は相手のジャンプの周期や移動距離を見計らい、電撃を放つタイミングを窺う。

 

 相手はこちらの動向に構わずひたすら向かってくる。そして相手がそろそろこちらに到達しそうな距離にまで接近し、ジャンプして空中に浮かんでいる瞬間、彼女は電撃を放った。

 

 

 

 「ふう、なんとか相手の動きは止められたようね」

 

 目の前の巨大カエルは、彼女の前で泡を吹きながら倒れている。今のところ放っておいても命に別状はなさそうだが、あの状況をひっくり返すには十分だった。

 

 しかし、何やら向こうの方からドスドス言ってるような……

 

 丘の上の方を見上げる。

 

 んん?

 

 何だかカラフルなカエルがいっぱいいるような……

 

「って、なんでぇぇぇぇぇ!!」

 

 

 

 どうやら、丘の向こうの方から巨大カエルの群れが来たようだ。その数6体。ピンクやら青やら赤やら、様々な色の巨大カエルがこっちに迫って来る。

 

 美琴はすぐに電撃を放とうと構えるものの、カエル達はどんどん近づいてくる。今の力では各個撃破が精一杯な上に、今回は数が多すぎて対処しきれない。

 

 これはさすがに無理だ。ここで私の2度目の人生が終わってしまうの? こんなにもあっけなく終わってしまうの?

 

 

 

 そう思ったその時。

 

「ライトニングセイバー!!」

 

 右の方から突然の叫び声が放たれると同時に、直線状の光が輝きだした。その光は瞬く間に巨大カエルの群れを包み、カエル達をなぎ倒していく。それは一瞬の出来事であった。

 

 この世界にもすごい能力を持つ人がいるものだなと彼女は思った。

 

 

 

 光が止む頃には、巨大カエル達は皆ひっくり返っていた。それを確認した美琴は安心して「ふう」とため息をつく。

 

 …………。

 

 しかし何だろう? 先程の叫び声ってどこかで聞いたことがあるような気がする。もしかして……。

 

「初春さん?」

 

 しかし、光が生じた方向に目をやると、そこには初春ではなく、何やら黒い服にピンク色のスカートをはいた女の子が居た。

 

「やっぱ違うか……」

 

 すると、先程の女の子がこちらの方に駆け寄って来る。よく見るとかなり胸が大きいし、私より年上かな?

 

「おケガはありませんか?」

 

「全然大丈夫です。あなたのおかげで助かりました。ありがとうございます」

 

「間に合ってよかったぁ~」

 

 美琴が無事であることを告げると、目の前の女の子は安心したようで表情が柔らかくなった。見た目は全然違うけど、なんだか本当に初春さんみたいだわね。

 

「あの、せっかく助けていただいたので、せめて名前だけでも伺ってよろしいですか?」

 

 美琴が名前を聞こうとすると、先程の安堵の表情が一変して少し恥ずかしそうな顔になる。

 

「あの……。私はただ困っている人を助けただけで、名乗るほどのことはしてません……」

 

 なんだか、本当に初春さんが言いそうなセリフだ……。

 

「何言ってるの! あなたがあのピンチを助けてくれなかったら私は死んでたのかもしれないのよ? お礼もしたいし、名前くらい聞かせて?」

 

「そ、そこまで言うなら……」

 

「わ……、我が名はゆんゆん! 紅魔族(こうまぞく)随一の魔法使いにして、やがて長となる者!」

 

 ………………。

 

 え?

 

 いやいや、初対面の人相手にこんな自己紹介をされるのは正直言って初めてだ。

 いくら人口230万人の学園都市とはいえ、ここまで中二病をこじらせた人は見たことがない。いや、面識がないだけで実際は居るのかもしれないが……。

 それにしても、第一印象では初春さんのようにほんわかな雰囲気だったのに、これほどまでの裏があるとは……。

 

 美琴があまりの衝撃にあれこれと考えていると、ゆんゆんはとてつもなく落胆した顔をする。

 

「あ、あの。無視しないでください……。私だってこの自己紹介するの恥ずかしいんですから……」

 

「あっ、ごめんなさい。今までこのようなスタイルで自己紹介をされることが無かったのでつい……。そういえば、この世界ではそのような自己紹介をするのが普通だったりするの?」

 

 率直に疑問に思ったので聞いてみた。

 

「安心して下さい。このような自己紹介をするのは紅魔族だけです。他の人たちはごく普通なので……」

 

 それを聞いて美琴はとても安心した。いざ聞いてみたはいいものの、もし「この世界ではこれが当たり前だ」とか言われたらたまったものじゃない。あんなのを何回もやらされるくらいなら死んだ方がマシかもしれない。

 

「てことは、さっきあのような自己紹介をしたということは、ゆんゆんは『紅魔族』ということで合ってる?」

 

「はいそうです。でも私なんかは紅魔族の中ではむしろ『変だ』とか言われる方なんですけどね……。自己紹介を恥ずかしいとか思ってるくらいだし……」

 

「一応聞くけど、ゆんゆんが『一般人寄り』って認識で合ってるよね?」

 

「うん……、そういうことになるかなぁ……」

 

 てか、あれですら『一般人寄り』てことは、紅魔族ってどんだけイカてた集団なのよ!

 

 美琴がそう考えていると、いきなりゆんゆんがもじもじし始める。

 

 トイレにでも行きたいのかな? 確かにここは草原だし、場所には困りそうだ。

 

「あの……、そういえば、名前をまだ聞いていませんでしたね……?」

 

 なんだ、名前を聞きたかっただけか。確かに私の方からは名乗ってなかったよね。

 

「私? 御坂美琴。よろしくね!」

 

 やったぁ!

 ついに他の人から名前を聞き出せた!

 もしかしたら、初めての「お友だち」ができるかも! 

 

 とゆんゆんはこの時、心の中で喜んでいた。

 

 しかし、ゆんゆんの黒歴史を1ミリたりとも知らない美琴には、このことを知る由もなかった……。

 

 

 

「そういえば、この近くに街とかあったりする? 私、実は道に迷ってしまって。ここの土地勘とか分からないから、案内してくれたりすると助かるなぁって」

 

「それならお安い御用ですよ! 私もちょうど近くのアクセルの街に帰るところだったので、一緒に来ませんか?」

 やったぁ! またもや友達イベントだぁ!

 

「ありがとね。借りを作ってばっかで何だか申し訳ないね」

 

「いえいえ、気にしないでください……」

 

 ゆんゆんの方に目をやると、頬が赤らめているように見えた。

 

 

~つづく~




 御坂美琴が異世界で最初に出会った人がゆんゆん以外の紅魔族だったら「あの、この世界ではそのような自己紹介をするのが普通なのですか?」と聞いて「はい、そうです」とか言われてただろうな……

「我が名は御坂美琴! 学園都市随一の電撃使い(エレクトロマスター)にして、超電磁砲(レールガン)の異名を持ちし者!」

 
 いや、これはこれで悪くないかも(笑)


 あと、御坂美琴以外の超電磁砲主要キャラの登場はもう少しお待ちください。


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第3話 出会い2

 御坂美琴とゆんゆんは、先程狩った巨大カエルの肉を運びながら一緒にアクセルの街に向かっていた。

 

 今のこの状況は、正直なところ奇跡なのではないかと思ってしまう。あのいかにも駄目さ全開の女神によって何もない草原に放り出された時は命の危機さえ感じてしまったが、数時間も経たずにゆんゆんと出会えたことで、「アクセルの街」というところに案内してもらうことができた。もし私が巨大カエルに追っかけられてるところをゆんゆんが見ていなかったらと思うと……。

 

 ちなみに、美琴が追っかけられてた巨大カエルの正式名称は「ジャイアントトード」というらしい。

 

 ゆんゆんの話によると、あまり強くなく初心者が狩るには向いているが、物理攻撃が効きにくいらしい。一人で狩る場合、群れから一斉に攻撃されると先程のように詰んでしまう場合があるので、通常は複数人でパーティーを組んで討伐に向かうようだ。

 

 あと、アクセルの街に移動する途中で運んでいたジャイアントトードの肉の一部を使って食事をとったのだが、鶏肉みたいでなかなか美味しかった。冒険中の食事だったため香辛料や調味料がなかったのは残念だったが。

 

 

  *   *

 

 

 そして、2人はアクセルの街に到着した。

 

 近くとは言ったものの、美琴のスタート地点からは2時間程かかった。

 

 入口の門を抜けるとそこには西洋ファンタジーによくある街並みが広がっていた。大通りには商店が立ち並び、奥には広場が見えている。露店も多く出ているようだ。

 

 美琴が初めて見る街並みに見とれていると、ゆんゆんが突然話を切り出してくる。

 

「あの……、私はこれからジャイアントトードの肉を換金しに行くのですが、美琴さんはどうされますか?」

 

「私は特に行く当てもないけど……」

 

「そ、それなら……、私と一緒に来てくれませんか?」

 

「そ、そうね。どうせ特に何をすればいいか分からないし、それなら一緒に行くわ。あと、ついでにこの街の案内も頼める? ここに来るの初めてだし」

 

「あ、ありがとう! 街の案内なら私に任せて!」

 

 なんだかゆんゆんの頬が赤くなっているのは気のせいかな? まあいいや。

 

 

  *   *

 

 

 まず2人はジャイアントトードの肉を換金するため、肉屋へと辿り着いた。

 

「へい、いらっしゃい! 今日は珍しく連れがいるけど、一体どういう成り行きだい?」

 

 肉屋の店主が威勢よく呼びかける。この感じだとゆんゆんと肉屋の店主は顔なじみなのかな?

 

「み、美琴ちゃんがジャイアントトードに襲われているのを見かけたのでそれで……。

 

「ほう、その美琴ちゃんってのはそこの連れのことかい?」

 

「はい……」

 

「んで、今日は何をしに来たんだい?」

 

「助けた時にジャイアントトードを何匹か倒したので、その肉を売りに来ました……」

 

「ほう、そういうことか。それじゃあ早速見せてみ?」

 

 2人で運んだジャイアントトードの肉を肉屋の店主に見せる。

 

「2人で運ぶのは大変だっただろ? 1匹だけでもかなりの重さがあるからなぁ」

 

「はい、さすがに全部は持ち切れなかったので、美味しい部位だけ持ってきました」

 

 肉屋の店主が肉をじっくり見て査定をしているところに、美琴が問いかける。

 

「あの~、ところでゆんゆんとあなたは顔見知りなのですか?」

 

「この子はうちの常連さんでね。どこか討伐に行った時の戦利品をよく持ってきてくれるんだ。なかなか友達ができずにいつも一人で寂しそうにしてたから、仲良くしてやれよ」

 

「そうなんだ……。じゃあ私が仲良くしてあげるね! これからもよろしく!」

 

「あ、ありがとう。美琴ちゃん!」

 

 こうして3人がべらべらと会話をしている間に、肉屋の店主は査定を済ませたようで、代金を奥から用意してやって来た。ゆんゆんが代表して受け取る。

 

「それじゃあ、これからもごひいきにな!」

 

「「ありがとうございました」」

 

 2人は肉屋を出て、街を歩き始める。

 

「それじゃあ、この街の観光といきますか! そういえば、この街に観光名所とかってある?」

 

「そうねぇ……。強いて言えば街の中央の噴水広場でしょうか」

 

「じゃあそこまで案内してくれる?」

 

「了解!」

 

 

   *   *

 

 

 ジャイアントトードの肉から解放された2人は、大いに肉体的開放感を得ている。さすがに2時間もの間重たい肉を背負い続けたのは、体にかかる負担が大きかったようだ。肉屋は街の中心部から少し離れた場所にあったので、中央に向かって歩いている。

 

「そういえば、この街ってどういう街なの?」

 

「この街は魔王の城から最も離れた、世界でも有数の安全な街です。なので、冒険者を始めたばかりの人がトレーニングとしてこの街で修業することもありますし、商売も盛んです。私たち紅魔の里からもあまり遠くないので、紅魔族の人たちを見かけることもありますよ」

 

 ゆんゆんが説明をしていると、2人は噴水広場に辿り着いた。

 

 そして、ここで御坂美琴はどこかで見覚えのある光景を目にする。

 

「う~い~は~~るぅ!!」

 

「ひゃあああああ!!」

 

 そこには、ショートカットで頭に花飾りのカチューシャを付けた、制服のスカートをめくられて悲鳴を上げている少女と、その少女のスカートをめくって楽しそうにしている黒髪ロングの少女がいた。スカートがめくりあがるという珍しい光景に多くの人の注目を浴び、中にはじっと目を凝らす者もいた。

 

「あれ? なんだかどこかで見たことがあるような……。って、初春さんと佐天さん!?」

 

「も、もしかして、美琴ちゃんのお友達?」

 

「そうそう。前世で……って、ああっ、いやなんでもないわ。とにかく私の住んでた街での友達!」

 

 さすがに、いくらなんでもこの世界の人に前世の話をするのはまずいかもしれない。あのポテチ女神からは特に「前世の記憶を話してはいけない」とか言われてないけど、いきなりよく分からない話をされたら混乱してしまうだろうし。

 

 ゆんゆんに軽い説明をし終えると、初春さんと佐天さんの元へ向かう。

 

「もしかして初春さんと佐天さん?」

 

「はいそうですが……って、御坂さん!?」

 

「御坂さんもこの世界に来ていたのですか!?」

 

 突然の登場に2人とも驚いている様子だった。

 

「御坂さん、大丈夫でしたか? 私、気づいたら大きな金庫の中にいて、持ち主に泥棒と勘違いされてしまって。事情を説明するのが大変でした……。まあなんだかんだありましたが、御坂さんと初春を見つけて本当に安心しました」

 

「私も全然大丈夫じゃなかったわよ! いきなり何もない草原に放り込まれるわ大量の巨大なカエルに追いかけられるわ。ゆんゆんが居なかったら今頃カエルに食われてたわ!」

 

「私も、転生したと思ったらいきなりこの街の花屋さんの花瓶の中に入ってました。花瓶から抜けるのが本当に大変で大変で、街の人総出で助けてもらいました……」

 

「そ、それはさすがに草だなぁ」

 

 佐天さんが妙に納得したような様子で応える。

 

「さ、佐天さん、何納得したような感じになってるんですか! 私だって大変だったんですからね!」

 

 初春の顔がとても赤らめている。

 

「いや~、なんだか初春らしいなって」

 

「全然らしくありませんよ! それを言えば、佐天さんの方も佐天さんらしいじゃないですか!」

 

「そうだね。確かに『私』って感じかもしれないね~。ていうか、御坂さんが言ってた『ゆんゆん』ってのは何のことですか? もしかして都市伝説に出てくる謎のロボットだったりして!?」

 

「ああ、『ゆんゆん』ってのはこの子のことよ」

 

 そう言ってゆんゆんの方を指さす。もうこちらの方に寄っては来ていたが、会話の中に入りこめてはいなかった。

 

(ほら、自己紹介してみて)

 

 ゆんゆんの耳元で、2人には聞こえないくらいの声量でささやく。

 

「わ、私はゆんゆんと申します。よろしくお願いします……」

 

「あれ? 私と会った時のやつはやらないの? 『紅魔族』の習わしなんじゃなかったっけ?」

 

「あ、あの……」

 

「へえ~、気になるなぁ~。何をやってくれるの?」

 

「私も『紅魔族』の習わしっていうのが気になります!」

 

 こらこら3人とも。ハードルを上げるでない。

 

 

「ふへぇぇ……、そ、それなら仕方ないですが……。あの、絶対に笑わないでくださいね?」

 

 ゆんゆんは、顔を真っ赤にしながら恥ずかしそうにあの自己紹介を放つ。

 

「わ、我が名はゆんゆん! 紅魔族随一の魔法使いにして、やがて長となる者!」

 

「………………」

「………………」

「………ぷっw」

 

「さ、佐天さん、笑わないでって言いましたよね! はぁ……」

 

 4人の間には、何とも言えない微妙な空気が流れていた。

 

 

~つづく~




あとがき

やっぱゆんゆんと初春って、雰囲気とか色々似てる気がする。


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第4話 出会い3

「あ、ありがとうゆんゆん、なんかいじっちゃってごめんね。まあ、これからもよろしくね!」

 

「私の方からもよろしくお願いします。あの~、まさかのまさかですが『ゆんゆん』ってのは本名じゃありませんよね……?」

 

「こ、これが本名です……」

 

 佐天は、思わぬ地雷を踏んでしまったようだ……。

 

「そ、そうですか……。それにしても、なんだかちょっと面白い人ですねぇ。初春みたいにいじり甲斐がありそうだな~って」

 

「ちょっと佐天さん、それはひどいですぅ……」

 

「そ、そうなの……?」

 

 ゆんゆんは突然の「いじられキャラ宣告」に戸惑うばかりであった。

 

「あの、ところで『紅魔族』って何ですか?」

 

 初春がゆんゆんに対して質問する。

 

「紅魔族っていうのはこの世界に住む種族のことで、赤い瞳をしているのと魔法が得意なのが特徴です」

 

 ゆんゆんが大まかな解説をする。本当は『頭のおかしな連中が集まっている』という大事な項目が足りないが、本人たちにとってはむしろあれが『普通』なのと、ゆんゆんが紅魔族としては珍しく名前以外は普通の意味で『普通』なので、この場においてこの項目がない事に違和感を感じる者はいなかった。

 

 ここで、美琴が次の話題を持ち出す。

 

「あとさ、これからの事についてなんだけど、どうしよう? 初春さんや佐天さんはこれから何か用事があったりする?」

 

「いえ、特に予定はないんですけど、あの女神が言ってた『魔王を倒す』というというのが、具体的に何をしたらいいか分からないというか……。ゲームだとチュートリアルとかであれこれ全部説明してくれる所だと思うんですけどね……」

 

 佐天が投げかけた疑問に対して3人が熟考している。ゆんゆんはというと、いきなり『女神がー』と言われても何のことか分からなかったので、会話についていけず突っ立っている。

 しばらくすると、突然初春があるアイデアを思いつく。

 

「そうだ! ゆんゆんだったらこの世界の住人だし、何か分かるかもしれないよ!」

 

「さっすが初春~! それは名案だね!」

 

「私もそれでいいと思うわ!」

 

 初春のアイデアに2人は、まるで頭での上で電球が光ったかのような様子で賛成する。こうして3人がゆんゆんに『魔王を倒すにはどうすればいいか』について相談すると、さすがにある程度は頭の整理ができたのであろうか、こんな答えが返ってきた。

 

「あの、女神がどうたらこうたらとか、具体的に魔王を倒す方法がとかは分かりませんが、もう冒険者ギルドに行って冒険者登録は済ませてありますか? もししていないのであれば登録しておいた方がいいと思いますよ。冒険者登録すれば、冒険者カードがもらえるので自分のステータスとか取得したスキルとかを見れますし、冒険者向けのクエストを斡旋してもらえるのでお金を稼ぎながらレベルアップできますよ。あちらの方に向かってしばらく歩けばたどり着けます」

 

 そう言って、もう一つの街の中心部の方を指さす。

 

「私はまだだけど、初春さんや佐天さんはもう済ませてある?」

 

「「いえ、まだです」」

 

 2人は偶然にも返事と首を振る動作をハモらせる。

 

「そうとなれば行くしかないわね! ゆんゆん、ありがとう!」

 

 こうして3人は冒険者ギルドへと向かうこととなった。

 

 

 

 3人は冒険者ギルドに到着する。噴水広場からもう少し離れた所に位置しており、ここも街の中心部の一部だと言っても差し支えないだろう。ゲームでよく出てくる、酒場と冒険者ギルドを兼ねた形態である。今は昼も過ぎて夕方に差し迫る頃となり、クエストに出かけたパーティーが依頼達成報告をするのにちらほらと訪ねているといった所だろうか。中にいる人の数はまばらである。

 

「ようこそアクセルの街の冒険者ギルドへ! ご用件は何でしょうか?」

 

 金髪美人でスタイルの良い受付嬢が応接してくれる。しかし、美琴はこの受付嬢からあのコンプレックスを思い出したのか、何か拍子抜けしたような様子をしている。

 

(あれ? 食蜂操祈? …………ああっ! あのいけ好かない奴を思い出させてくれるわねこの受付嬢! 所々のパーツが似てるし、特に胸……)

 

 唐突に頭の中に食蜂操祈が襲来して大変なことになっている美琴に代わって、初春が答える。

 

「あの~、冒険者登録をしたいのですが……」

 

「えーと、見慣れない顔に見慣れない格好をしていますね? 皆さんは新しくこの街にいらした方々でしょうか?」

 

 実を言うと、この3人は学園都市で暮らしていた時の学生服を着ている。この反応を見る限り、西洋ファンタジー風のこの世界では馴染みのない代物なのかもしれない。

 

「はい、そうです」

 

「冒険者登録は3人分ですか?」

 

「はい」

 

「まず、冒険者ギルドでは冒険者登録をする際に登録料として一人1000エリスを頂くことになっているのですが、大丈夫ですか?」

 

「ええっと、お金は…………、あれ?」

 

「確か私たちってお金持ってなかったよね? 御坂さんは持ってますか?」

 

「私も持ってないけど……」

 

「「「…………えええええっっっ!!」」」

 

 

   *   *

 

 

「まさか、全員がお金を持っていなかったとはね。意外な盲点だったわ」

 

「そうですね。とはいえ、このままだと冒険者登録すらできないわけですが……」

 

「ねえ初春、そこを何とかする方法とかあったりしない?」

 

「ええ、いい方法がありますよ。ゆんゆんさんに『あの~、冒険者登録しようとしたら登録料を要求されたのですが、私たちここの国のお金を持ってないんですよ~。冒険者ギルドで冒険者登録してって言ったのはあなたですよね~? 何か渡すものがあるのではないでしょうか? ドンチュウ?』と言って怖い顔をするんですよ。そうすれば、あのおどおどした方であれば……」

 

 初春が突然の猛毒を吐き出し、謎の満足感を示す。それにしても、妙に人物の観察能力が高い初春であった。

 

「さ、さすがにそれはダメでしょ初春……。しかもゆんゆんさんは冒険者登録を強制してきた訳ではないし……」

 

「ええ、もちろん冗談ですよ?」

 

「でもさ、方法を少し変えればうまくいきそうじゃない? 例えば登録料を少しの間貸してもらうようにお願いするとか。ゆんゆんなら人も良さそうだし、街の見知らぬ人に声をかけるよりかはよっぽど確実だと思うわ」

 

 美琴がナイスな提案を入れる。

 

「おお、さすが御坂さん! それでいきましょう!」

 

「ええ、そうですね!」 

 

 

 

 3人はアクセルの街の人に声をかけ、ゆんゆんの家の場所を尋ねた。最初は通りを歩いている人に声をかけていたのだが、ゆんゆんのことは知っていても住所までは知らない人が多く、探すのに手間取ってしまった。

 そして夕日が沈みかける頃、ようやくゆんゆんの家の近所に住んでいる人に会うことができ、無事にゆんゆんの家に到着した。見た感じそこそこ広い家のようだが、他の冒険者と共同生活でもしているのだろうか。もしかしたら、同じ紅魔の里から来た仲間たちかもしれない。

 

「ここがゆんゆんの家か~、結構大きな家だなあ。探検のし甲斐がありそうだねぇ」

 

「あの~、あくまでお金を借りるだけですよ佐天さん?」

 

「分かってるわよそれくらい。も~、心配し過ぎなんだから初春は」

 

「まあ、とりあえずドアベルを鳴らしてみよか」

 

 美琴がそう言うと3人は玄関に向かって歩き出し、ドアに据え付けられているベルを見つけると早速鳴らしてみる。しばらくするとドアが開き、ゆんゆんが応じてくれる。

 

「はい、何の御用でしょうか……って、美琴ちゃんたちじゃない! ど、どうしたの?」

 

「あの~、ゆんゆんに言われて冒険者登録しようとしたら登録料を要求されちゃって。まあそれ自体はいいんだけど、実は私たちお金を持ってなくて……」

 

「冒険者ギルドで冒険者登録してって言ったのはあなたですよね~? 何かわ……あうぅぅ!」

 

「こらこら初春! それはダメって言ったでしょ?」

 

 初春が猛毒を吐きかけた(というか既に一部吐いた)所で佐天が初春の口を手で塞ぎ、なんとか無かったことにしようとする。

 

「そ、そうでした。ついうっかり……」

 

「そ、それで……どうしたの?」

 

 幸いにも、ゆんゆんは初春の発言の趣旨を察していない様子だった。いや、敢えて考えなかったのかもしれないが……

 

「それで、お金を少し貸して欲しいんだけど、いいかな? もちろんこのお金はクエストをこなせるようになったら報酬分で返すから。お願い!」

 

「そ、それなら……いいけど……。ちゃんと返してね……」

 

 とてももじもじした様子で財布から3000エリスを出すゆんゆんであった。この様子を見た初春は、「これはきっと、過去に同じようなことをしてお金が返ってこなかったことがあったんですね……」と察した。

 

 そして、3000エリスが美琴の財布に渡った所で佐天が思わぬ提案をする。

 

「そうだ、せっかく友達になったことだし、遊んでっていいですか?」

 

「え、何言ってるんですか佐天さん。これから冒険者登録しに行くんですよ?」

 

 初春が本来の目的を告げて佐天を諭そうとすると、逆に佐天が新たな提案をする。

 

「てか、もういっその事泊ってっていいですか?」

 

「「ぎゃ、逆にエスカレートしてない……?」」

 

 美琴と初春が佐天の考えに少し引き気味になる。

 

「てかさ、今日はどのみち日が暮れているし受付業務はもう終わっているんじゃない? それにお金がなければ泊まる所もないでしょ? それならもう今日はここで泊っていって、明日の朝に改めて出直した方がいいかな~って」 

 

「ああ、でも言われてみると佐天さんの言う通りね。せっかくだしここで泊めてもらえるならそれが一番いいと思うわ。宿屋に泊まるお金もないし」

 

「そうですね。それが一番合理的だと思います」

 

 一変して美琴と初春が佐天の提案に納得すると、ゆんゆんがいきなり顔を真っ赤にして話す。

 

「い、いいの……? わ、私なんかの家に、お、お泊りしていくの?」

 

「「「もちろん!」」」




あとがき

黒子を出そうと思ったら、思ったより前置きが長くなってしまいました。

黒子をお待ちの方はもう少しお待ちください……


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第5話 出会い4

 美琴たち3人はゆんゆんの家の中へと案内される。3人はゆんゆんの案内に従ってついていくと、いくつかのドアが配置された廊下を通り抜け、リビングへと入っていった。

 

「まずはお茶を用意しますので、そこのソファーにお座りになってください」

 

 ゆんゆんがやけに礼儀正しく案内すると、3人はリビングに設置されたソファーに座る。

 

「このソファー、フッカフカだねぇ! 新品みたい!」

 

 佐天がソファーの率直な感想を述べる。

 

「そうね、確かに状態はいいみたいね」

 

「このソファーって、実際いつ買ったものなのですか?」

 

 初春がゆんゆんに対して質問をする。すると、お茶を入れている最中のゆんゆんが台所から返事をする。

 

「数年前に買って、実家の私の部屋で使っていた物です」

 

「へえ~、ゆんゆんさんって物持ちがいいんですね」

 

 ここだけの話、ぱっと聞いただけでは「物持ちが良い」程度の話なのだが、ソファーが綺麗な原因が「ゆんゆんしか使わないから」であることに3人が気づくには少し早すぎたようだ。

 

 

 

 しばらくすると、奥から3杯の紅茶が用意され、美琴たち3人が座るソファーに併設された机の上に置かれた。

 

「私はこれから皆さんへ料理を振舞いますので、それまでゆっくりしていってください」

 

 ゆんゆんが3人分のお茶をソファーの前のテーブルに持っていくと、調理の準備を始める。

 

 それにしても、もう夕暮れの刻ということもあって、そろそろこの家の他の住人が帰って来ていてもいい頃なのだが、まだ誰も帰って来ていないようだ。このことに気づいた美琴が、ゆんゆんに率直な質問を投げかける。

 

「あのさゆんゆん、この家結構広いけど、一緒に他の冒険者仲間とか住んでたりはしないの?」

 

「いえ、私1人ですよ」

 

「な、何と贅沢なぁぁ……!」

 

「す、すごいですね……」

 

「(そ、そっかぁ……)」

 

 『セレブ』に対する憧れを持つ初春は、広い家を一人だけで独占して使えるゆんゆんに対して非常に輝かしい目を向けていた。佐天も、初春の発言でそう思い込んでしまったのか、『広い家で一人で優雅に暮らす貴族系冒険者』という印象を持ってしまったようだ。

 

 しかし美琴はというと、広い家に一人で住んでいることと、肉屋で得た「ゆんゆんには友達がいない」という情報に整合性がある事に気づいていた。しかし、初春と佐天のあの発言の後にこのことを言い出すのはさすがに憚られたようだ。彼女たちは完全に逆の意味の方だと思っているので言いにくいし、何よりも今日ゆんゆんと出会ったばかりの美琴がいきなり「ゆんゆんはぼっち属性持ちだ」とか言っても信憑性に欠けるだろう。

 

 というわけで、この場では美琴は何も言わずに無言を貫くことにした。

 

 一方でゆんゆんはというと、3人から特に返事が帰ってこない様子を見て、何とも言えない微妙な空気を感じるものの、いつもの事で慣れているのか、何もなかったかのように調理を再開する。

 

 

 

 ゆんゆんが調理を再開してしばらく経った頃、美琴を初春はお茶を飲んでゆっくりしていたのだが、見知らぬうちに佐天の姿が見当たらなくなっていた。2人がリビングの周りを見渡すと、佐天が「ガサガサ」と音を立ててリビングの収納庫から何か物を漁っている様子を発見する。

 

「さ、佐天さん。いきなり何やってるんですか!」

 

 初春が佐天の奇行に対して声をかける。

 

「やっぱ友達の家に来たらガサ入れかな~って」

 

((あぁ…………))

 

「が、ガサ入れって……?」

 

 ゆんゆんが言葉の意味を聞き出そうとするが、佐天は『ガサ入れ』を止めずに続けていた。

 そして美琴と初春の方はというと、初春と佐天が美琴と黒子の寮を訪問しに来た時の佐天の行動を思い出し、妙に納得してしまうのと同時に、なぜかやって来る嫌な予感を感じていた。

 

 そしてついに、佐天がアルバムのようなものを発見する。表紙には、可愛い文字で「ゆんゆんの記録」と書かれている。

 

「あ~! これってもしかしてゆんゆんさんの昔のアルバムだったりします!? 見ていいですか!?」

 

「あ、あの……」

 

 ここでゆんゆんは、もじもじしながら「見てほしくない」と言いたげな様子でアイコンタクトを取ろうとするのだが、アルバムに夢中の佐天には全く気づいてもらえなかった。

 

「あれ? ページが開かないよ? ん~、これってもしかして普通のアルバムとは違うのかな…… とりあえずこのボタンを押してみたら……って、開いちゃった!」

 

 本当は、このアルバム(仮)は重要な場面を記録してアルバムのようにまとめて表示する魔道具なのだが、佐天がそれを知る由はなかった。

 

「ん~、どれどれ~? って、どれもゆんゆんさんしか映ってないじゃないですか! しかもこのシーンチョイス…………っぷぷ!」

 

 アルバム(仮)の中身はというと、ゆんゆんが1人オセロをしていたり、1人パーティーをしてたり、何か禍々しい魔法陣に向かって魔法を唱えるゆんゆんだったりが写っていた。あまりに滑稽に見えてしまったのか、佐天はついうっかり笑ってしまった。

 

「へー、見せて見せて。……って、何この写真……」

 

 美琴はこれらの写真に対するコメントに困ってしまったのか、何とも言えない微妙な顔をする。それもそのはず、これでゆんゆんの『ぼっち属性』が確定してしまったのだ。下手にこの状況で慰めようとすると佐天さんみたいにうっかりやらかしてしまうかもしれないので、この場でもこれ以上は言わないことにした。

 

「どんな写真なのですか~? って、あれ? すごく寂しそうな顔をしてますね……」

 

 初春はついうっかり、これらの写真が意味する真実を突いた発言をしてしまった。ちなみに事前情報がないので、本人にはその自覚はないのだが……

 

 そして、佐天が 友人たち3人の発言や様子から 「何かがおかしい」と感じ、ゆんゆんの方を確認してみたのだが、それはそれは真っ赤な顔をして恥ずかしそうにしているいるゆんゆんが居たのであった。

 ここで、自分がパンドラの箱を開けてしまったことにようやく気付いてしまう。

 

「あっ、これってもしかして、開けてはいけなかったやつだったりして……」

 

 3人とも無言を貫いているが、その様子が逆に「はい、そうです」と言わんばかりの空気を醸し出していた。

 

「す、すみませんでしたぁぁ!!!」

 

 

佐天が大覇星祭の『シャドウメタル探し』の時と同じように、自分の『やらかし』に対して深々と頭を下げて土下座する。

 

「と、ともだちだから、き、気にしないで……」

 

 こうして、ゆんゆん初(?)の複数人お泊り会兼、美琴たち初の異世界で過ごす夜が始まったのであった……

 

 

   *   *

 

 

 最初は佐天がパンドラの箱を開けてしまって大変なことになってしまったが、その後はなんだかんだでお互いに楽しい時間を過ごすことができた。

 夕食でゆんゆんが「お祝いだ」ということで豚の丸焼きを焼いてきた事にはさすがに3人とも驚いてしまったが、味はとても美味しかったので大満足であった。

 とはいえ、ゆんゆんが「ジャイアントトードの分のお金がすっからかんに……」とか言ってたのは聞かなかったことにしよう。

 

 それからも、4人でトランプをして遊んだり、一緒に風呂に入ってはしゃいだりした。それにしてもこの家の設備って、一人で使うには広すぎるような気がするような……。

 

 そういえばゆんゆんから聞いた話によると、この世界には私たち以外にも日本から転生してきた人たちがいて、その人たちがこの世界に伝えていった物が残っているらしい。このトランプも、かつて日本からの転生者が紅魔の里に残していった物らしい。とはいえ、遊び方までは本来のものが残っている訳ではないようで、どうやら途中でルールが変わっていったみたいだ。なので、最初はお互いに戸惑っていたが、徐々にこの世界の方のルールに慣れていった。

 

 そして、そろそろ就寝時刻が迫っている。特に何時何分に寝ないといけないと決まっているわけではないが、もう夜も遅いのでそろそろ眠くなってきた。ちなみに、なぜか個室もベッドも家に余っているものがいくつかあったということで、借りさせてもらっている。なので、この回想も余っている個室のうちの1つでの出来事である。

 

「まあ、最初はどうなることやらと思ったけど、意外と何とかなったわね。初春さんや佐天さんとも再起できたし、このままこの世界で暮らしていくのも悪くはないかもね」

 

「って、あれ? そういえば黒子とはまだ再開していないような……」

 

 御坂美琴は黒子とまだ再開していない事に疑問を感じたものの、あれこれと考えているうちにそのまま眠りについてしまった。

 

 

 

 翌日。そろそろ日の出が差し迫った頃だろうか、外は薄っすらと明るくなってきている。御坂美琴は、ベッドの中に何かが居るような感触を受けて目を覚ます。

 

「ん~~、何だろう?」

 

 目覚めてベッドの方に目をやると、布団が妙に膨らんでいる。この時点では何が起きたのかさっぱりと理解できなかった美琴であったが、ある要因がきっかけで納得してしまう。

 

 そう、ベッドの中から何度も嗅いだことのある懐かしい匂いを感じるのだ。

 

 もしかしてと思い、ベッドの中を確認してみると……

 

 

「お、お姉さまぁ~~! ついにお目覚めになられたのですね!(ハァハァ) 」

 

 

 ベッドの中には、発情して顔を真っ赤にした黒子が居た。

 本来であれば黒子との再会を純粋に喜ぶべきなのだが、まずはこのあからさまな迷惑行為を諌めなければならない。物理的に。

 

 

「な、なに勝手に人の寝床に潜り込んでんのよ!」

 

 バチバチバチッ!

 

 

 美琴が黒子に電撃を放つと、黒子はいつものようにむしろ喜んでいる様子を見せる。

 

「お、お姉さまの厳しい愛も、私にとってはご褒美ですのよ~~、あぅ! そ、そろそろお止めになって……、あぅ!!」

 

「まずはあんたのその変態感情を止めなさいよね!」

 

「あぅ!!」

 

 何発もの電撃を受けた黒子は、体をその名の通り真っ黒こげにして地面に横たわってしまった。電撃の衝撃のせいだろうか、体がぴくぴくと動いている。

 

「はあ……、せっかく黒子と再会できたと思ったら、いきなりあんな事をしてくるなんて、台無しだわ」

 

 美琴が寝室の中で捨て台詞を吐くと、その場を立ち去っていった。

 

 

   *   *

 

 

 美琴たちにゆんゆん、そして今日この世界にやって来た黒子の5人は、朝ごはんとして、ゆんゆんが大盤振る舞いした昨日の夕食の残りを食べている。

 勿論、話題は美琴が朝起きたらいつの間にか居たという黒子のことについてだ。初春が早速議題に出す。

 

「あの……、白井さん? なぜ私たちがここに居ると分かったのですか?」

 

「 私、いきなり魔法陣に囲まれて別の世界に飛ばされたと思ったら、そこは何と、お姉さまがお眠りになられている部屋でしたの! 何という幸運! さすがの女神様ですわ! 私の事がよ~くお分かりだったのかしら!」

 

「「「………………」」」

 

「あら? 何だか反応が微妙ですわね?」

 

 それもそう、黒子以外の3人は転生時に多大なる苦労を背負ったのだ。微妙な空気になるのも仕方がない。

 

「私なんか、スタート地点が何もない草原だったんだからね? いきなりロビンソン・クルーソーになるかと思ったわ」

 

「私だって、転生してきたらいきなり街の花屋の花瓶の中だったんですからね? 抜け出すのに大変だったんですよ?」

 

「私も、転生してきたらいきなり金庫室の中だったから、盗賊扱いされて大変だったんですよ?」

 

「皆さん大変な苦労をなされましたのね……。でも、初春のは何だか子供みたいで可愛いですわね……ぷっ」

 

「わ、笑わないでください白井さん!」

 

「こ、これは失礼。『親しき中にも礼儀あり』ですわね」

 

「人をからかっておいて急にためになるような事を言わないでください……」

 

 ちなみにゆんゆんはというと、勿論『転生』の話題についていくことは出来ないので、ただただ話を聞いているだけであった。

 しかし、話に一区切りがついた所で勇気を出して割って話しかける。

 

「あの~、白井さんって、要するにダクネスさんみたいな感じですか?」

 

 ゆんゆんが例えを使ってまとめようとするが、残念ながら『ダクネス』にまだ出会っていない彼女たちには通じない例えであった。

 

 

 そういう所だぞ? ゆんゆん。

 

 

「んー、『ダクネスさん』がどんな人かは知らないけど、そうなのかもしれないわね」

 

 美琴が、荒波を立てないよう当たり障りない返しをする。

 

「へ~、『ダクネス』さんってどんな人なんだろうな~」

 

「とは言っても、どうせ白井さんみたいに変な人なんでしょうね」

 

 初春が唐突の腹黒発言を吐き出すと、それを聞いた黒子が動揺する。

 

「変な人呼ばわりしないでくださいまし! これでもれっきとした『風紀委員』ですのよ!」

 

「初春が言いたいのはそういうことじゃないと思いますけど……」

 

「ま、まあいいですわ。それよりも皆さん、今日はこの後何をするご予定ですの?」

 

「そうね、今日は冒険者ギルドで冒険者登録するつもりよ」

 

「……冒険者?」

 

「ええ。転生してきた時に女神に魔王を討伐するように言われたでしょ? この世界には『冒険者』というシステムがあって、魔王を倒すにはそれを利用するのが一番早いそうよ」

 

「なるほど、そういう訳ですのね。とりあえず了解ですの」

 

「あっ、そうだ。ゆんゆん、黒子が来たからもう1000エリス貸してくれない?」

 

 ゆんゆんが奥から財布を取り出し、追加で1000エリスを取り出す

 

「は、はい、どうぞ……」

 

 美琴がゆんゆんから1000エリスを受け取ると、4人は支度を済ませ、冒険者ギルドへと出発していった。




あとがき

そういえば、今ちょうどとあるIFでこのすばコラボやってるんですよね。
一通りストーリーは読んだんですけど、やっぱりカオスですね(誉め言葉)

あと、公式でも初春とゆんゆんの声優ネタは使うのねw


(2020/10/3追記)
話のキリが悪かったので、元々6話にあった部分の一部をこちらに移しました。
初めて読んでくださった方にはあまり関係ありませんが、一度読んでくださった方で混乱してしまうといけませんのでご報告した次第です。


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第6話 この神聖なる冒険者登録に混沌を!

 美琴たち4人は、アクセルの街の冒険者ギルドへと到着した。今は朝ということもあり、これからクエストを受ける冒険者でごった返していた。

 

「おはようございます。冒険者ギルドへようこそ!」

 

 昨日と同じ金髪美人の受付嬢が、美琴たちに気づいて挨拶をする。

 

「すみません、昨日お金が無くて帰っていった者ですけど、用意ができたので冒険者登録できますでしょうか?」

 

「はい。ええっと、昨日よりも一名増えているようですが、この方も冒険者登録なされますか?」

 

「ええ、お願いしますの」

 

「分かりました。ええっと、はい。確かに4000エリスを受け取りました。それでは冒険者登録を始めさせて頂きます」

 

 すると、ルナが冒険者ギルド内の人々に向けて大声でこう呼びかける。

 

「皆さ~ん、今日ここで新たなる冒険者の卵が4名誕生します。盛大な拍手を!」

 

 建物内に響き渡る拍手の音。

 

 中には、自分たちの作業を中断してこちらを凝視する者や、「おお~、いいぞいいぞ、もっとやれ!」とはやし立てる者も居る。

 

 しかし、美琴たち4人は唐突に行われたこの行為に対して、きょとんとせざるを得なかった。それを見かねた受付嬢は、補足説明を行う。

 

「このギルドでは、新たに冒険者登録する際には盛大に祝福する習慣がありまして。皆さん驚かれたかもしれませんが、今後このような機会がありましたら皆さんも祝福してあげて下さいね。あと、私はアクセルの街の冒険者ギルドで受付嬢をしております、ルナと申します。以後よろしくお願いします」

 

 続けて、ルナが冒険者登録の説明を行う。

 

「まず皆さんにはこの水晶玉に触れてもらいます。この水晶玉に触れますと、自動で皆さんの能力値が算出され、冒険者カードが作成されます。また、その能力値によって就くことのできる職業が決定します。職業の候補が複数ある場合は、皆さんに決めてもらうことになります。それでは皆さん、順番に触れていってください」

 

「さて、誰から触れてみる?」

 

 美琴が3人に対して誰から行くかの相談を促す。

 

「いや~、私にはどんな秘められた能力が眠っているのかな~!」

 

 期待に胸が膨らんでいるからか、佐天が張り切って堂々と宣言する。

 

「何故だか知りませんが、とてつもなくフラグ臭がしますわね……」

 

「いやいや白井さん、そんなことないですよ。異世界転生者ってチート持ってるのが定番じゃないですか! だったら……」

 

「佐天さん、それを『フラグ』と言うのですよ?」

 

「まったく、初春まで……」

 

 佐天は2人から思わぬ冷や水をかけられ、落胆する。

 

「じゃあ言い出しっぺの佐天さんが最初に触ってみる?」

 

 美琴が佐天に行くよう促してみる。

 

「いやいや御坂さん、この流れで言います?」

 

「いや~、佐天さんの能力、気になるな~~」

 

「なんかすごく不安になってきたぁ……」

 

 そう言いつつも、やはり早く自分の能力について知りたいのか、なんだかんだで佐天が水晶玉を触りに行こうとする。

 

「それじゃあ触りますよ?」

 

 佐天が水晶玉に触れると、水晶玉から白い光が輝いて佐天の周りを包み、しばらくすると収まっていく。すると、水晶玉の上で佐天の冒険者カードが作成され、そのカードの中の欄に能力値が刻まれていく。

 全ての能力値が刻まれると、ルナが能力値と職業の概要について佐天に告げる。

 

「えっと……、幸運値は高いのですが、その他の値が平凡ですね。となると……、これは最弱職の『冒険者』にしかなれませんね……」

 

「え…………」

 

 佐天は、直前に期待値を上げたこともあって、相当なショックを受けているようだ。

 

 前世で学園都市に暮らしていた時も、才能がないと告げられて無能力者(レベル0)として暮らしてきた。それもあってか、人一倍『能力』に対しての憧れがあったのだろう。レベルアッパーの一件で落ち着いたと思われたが、異世界に転生したということで再びその思いが再燃してしまったのだろう。そして、前世での記憶も相まってこう告げてしまう。

 

「やっぱり私って、異世界でも才能ないのかな……」

 

「ま、まあ、最弱職の冒険者でも、サトウカズマさんのように仲間と協力して魔王軍の幹部を討伐する方もいらっしゃいますし、レベルを上げて能力値が上がれば転職もできますし、めげずに頑張ってくださいね」

 

 そこには、落胆して頭が下がり、動けなくなっている佐天だった……

 

 

 

 すると、冒険者ギルドの中で誰かの足音が響きだす。足音は徐々に大きくなり、近づいてくるように感じられた。しばらくすると、緑色のマントを着た軽装の冒険者らしき男性が現れた。

 

「おっと、誰か呼んだかい?」

 

「サ、サトウカズマさんじゃないですか! 何というタイミングでしょうか! でもまあ、今回はあなたの功績をお褒めして新人冒険者さんに紹介しただけで、特に何もありませんよ」

 

 ルナがサトウカズマの話題に触れた経緯を軽く話す。

 

「『今回は』ってのが気にはなるが、まあいいとするか。ちょっとクエストボード見てたら俺の名前が呼ばれた気がしたから様子を見に来たんだ。んで、そこの4人がその『新人冒険者』かい?」

 

「はい、そうですけど……」

 

 佐天が返事をする。

 

「俺はサトウカズマ。最初のうちはいろいろと大変だろうけど、もしよかったら俺なんかでもサポートしてあげるから、よろしくな!」

 

(おお! 今度はまともそうでしかもかわいい女の子たちだ! これは俺の異世界ハーレムがより充実したものになりそうだな! これは名前だけでも売っておいて仲良くしておかねば!)

 

 サトウカズマは、新たに4人ものかわいい後輩達に会えたからか、挨拶しながらも浮かれて色めき立った様子を見せる。言葉には出していないものの、頬が照れて赤くなっているいることからその様子が少しにじみ出ていた。

 

「それで、カズマさんでしたっけ? あなたは何用でいらしたですの?」

 

「今日は割のいいクエストがあるかどうかを見に来ただけさ。まあでも、面白そうな君たちを見つけちゃったからしばらくはこっちでも見ていようかな……って、アクア!?」

 

 そして、カズマの話がちょうど終わる頃、青色ベースの服に清らかな水色の髪をした新たな冒険者が割り込んでやって来た。カズマの反応からして、『アクア』という名前なのだろう。

 

「あれ~、カズマカズマ~? かわいい子たちを見つめて色めき立っちゃってるけど、どうかしたの~? 前世のヒキニート引きずってるんじゃないわよ~!」

 

「うっせーな。お前こそ、女神は人を馬鹿にするようなことを言わないものなんだけどなぁ~♪」

 

 カズマが、『アクア』に対してわざとらしく高みの見物をして反旗を翻す。

 

「あんたこそ、女神を地上に引きづり降ろすとか神経なめ腐ってんじゃないの!?!?」

 

「いいや、お前こそ女神なら女神らしくまともに金を使えよ。魔王軍の幹部を倒したからって、打ち上げであんなにお金使ったら俺たちの生活費がなくなるだろ!」

 

「あの~、喧嘩するなら外で……」

 

 ルナが、本来の業務を妨げて個人的なケンカをする2人に対し制止を試みる。しかし、話題の中心から少しそれていた美琴、初春、佐天の3人が、同時に『アクア』目がけて指を指し、あのワードを口に出してしまう。

 

「「「あっ、あの時の駄女神だ!!」」」

 

 この3人はどうやら、本人たちから『前世』やら『女神』やらの単語が出てきたことや、この『アクア』という人物が転生時に出会った女神とそっくりの見た目をしていることから、目の前の『アクア』が転生時に出会った女神だという事に気が付いたようだ。

 

 ちなみに黒子はというと、先程の言動や見た目からして3人が発言したこと自体は納得しているものの、転生時にいい思いをさせてくれた恩があったため、ここで駄女神発言するのは控えたようだ。

 

 するとアクアが、今度は先程まであれだけ(けな)していたカズマにべったりとくっついて愚痴をこぼしだす。

 

「ねえねえカズマカズマ~! この子たち私のことを『駄女神』とか言ってくるんですけど! 超傷つくんですけど!」

 

「それは自業自得だろ? どうせまた余計なことをやらかしたんだろ? てかいきなりべったりくっつくなよ!」

 

「うわ~~~ん!! カズマまでぇぇ~~!」

 

 

~つづく~




(2020/10/3追記)
元々6話にあった部分の一部を、話のキリが悪かったので5話の方に移しました。
初めて読んでくださった方にはあまり関係ありませんが、一度読んでくださった方が混乱させてしまうといけないのでご報告した次第です。

あと、今更ながら途中で文が途切れている所を発見してあせってしまった(笑)


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第7話 この神聖なる冒険者登録に混沌を!2

 アクアがカズマにべたつきながら泣いていると、今度は赤い服と黒いマントに包まれた、少し背の低い赤目の女の子がカズマのもとへやって来た。片方の目には独特なデザインの眼帯を付けていた。

 

「お二人とも何をしているのですか? 皆が迷惑そうな目をしていますよ? ほらカズマさん、このクエスト受けませんか?」

 

「そ、それはすまないな。って、めぐみんか。って、こら! そんなクエスト危険過ぎて死んでしまうだろ! いくら爆裂欲満たしたいからって、ドラゴンの群れはやりすぎだろ! てかアクアも、もう泣いて抱きつくのはのはやめろ!」

 

 カズマは、めぐみんが渡してきたクエスト用紙を見るとすぐに、危険すぎると言って返す。

 

 そしてアクアに対して制止を促すと、めぐみんのフォローもあってか、何とかアクアは元の様子に戻った。

 

「もっとまともな女神だったら、この泣き顔だってもっと可愛く見えるんだろうな」と思ってしまったが、これ以上アクアに泣かれると逆にこっちが困ってしまうので、もちろん頭の中に留めておいた。

 

 すると、今度はアクアの方から美琴達に話しかける。

 

「そうね、そういえばこの子たちの名前ってなんだったっけ?」

 

「「「「えっ……」」」」

 

 4人とも呆然である。普通なら女神とは人智を超えた存在であるが故に、一人一人の名前くらい覚えていてもおかしくはない。まあ、この女神の素性を知っている人であれば、そんな事を求める方が悪いのであるが。

 

 ちなみにカズマとめぐみんはというと、いつもの事なのだろうか、特に不思議がるような様子はない。

 

「ま、まあそうですよね。いくら女神だからといっても、一人一人の顔までは覚えてられないですよね」

 

 さすがに女神に対して求め過ぎだと思ったのだろうか、佐天がアクアに対してフォローを入れる。

 

「そうそう、女神って意外と大変なんだよね。ほら、女神って色んな人と出会うから、一人一人の顔と名前が一致しないことって結構あるのよね」

 

 まあ、ポテチ食いながら仕事してる女神に言われても説得力はないのだが、一応この説明で4人はそれなりに納得したようだ。

 

「そうそう! でさ、また忘れるといけないから、よかったらこの紙に名前を書いておいてくれないかな?」

 

 アクアがそう言うと、名前を書くだけにしてはやたらと大きなA4サイズ程度の紙を一人一人に対して渡していく。

 

 これに対して4人は少し不信に思った。何といっても、辻褄が合わないからだ。

 名前を書くだけであれば小さなメモ用紙1枚で十分である。わざわざここまで大きな紙を何枚も用意する必要はない。となると、何か別の思惑があるに違いない。まだ悪い方向だとは限らないが、警戒しておくに越したことはない。

 特に風紀委員(ジャッジメント)の経験がある初春と黒子にとっては、怪しさを見抜くにはあまりに簡単な案件であった。

 

 こうして警戒心を高めた4人は、渡されたこの紙を確認する。すると、何かが書かれていることに気づく。小さな文字で「アクシズ教入信書」と書いてあり、それに続いて契約のための注意事項等を記した文章が書いてあった。

 

「あの~? これ、『アクシズ教入信書』って書いてありますけど、どういうことですか?」

 初春がアクアに対してド直球のツッコミを入れる。

 

「あら? まさか、この後に及んで怪しい新興宗教の勧誘ですの? これは風紀委員(ジャッジメント)として見逃す訳にはいきませんわね!」

 黒子は、まるで風紀委員(ジャッジメント)のお仕事をしているかのように、悪者を懲らしめるような態度でアクアに立ち向かう。

 

「ちょっと仕事ができないだけの女神かと思っていましたが、性格も相当ねじ曲がっているようですね……」

 佐天は、残念そうにしながらも、ゴミを見るような目でアクアを見つめる。

 

「アンタね……、私を何もない所に放り出しておいて謝りもせず、今度は怪しい宗教の勧誘? ふざけるんじゃないわよ!!

 

 ビリビリビリ!

 

  そして美琴は、つい怒りの沸点に達してしまい、うっかり建物内で電撃を放ってしまう。もちろん手加減はしているが、冒険者ギルドの建物中に電撃の音が鳴り響く。周りの人々の空気が一斉に凍り付き、逆に静寂が漂っている。

 

 アクアはというと、感電して体がピクピク動いていたものの、しばらくするとまるで何もなかったかのように動き出す。そしてカズマは、アクアがまた余計なことをやって周りの空気がおかしくなったのを見かねて、急いでアクアの元に駆け付けて叱る。

 

「こらアクア! また余計なことして俺たちの名声を下げるんじゃねぇ! しかもこんな場所でこんなタイミングでやるな!」

 

「ねえねえ、私の敬虔なる信者たちがこの方法で勧誘してるのを見習ってやってみただけなのに、いきなり攻撃してくるなんてどうかしてるわ! 私だって真剣にやってるのよ!?」

 

「いやいや、こんなセコいやり方を見習うお前もどうかしてるぞ!? さすがに電撃はどうかと俺も思うけど、この子たちを戸惑わせたお前も同罪だぞ!?」

 

 アクアは、カズマに正論を突き付けられて涙目になっている。こうなってしまった以上、さすがに言い返す言葉が見当たらなかった。

 

 そして美琴たちの方はというと、美琴はさすがにやりすぎたと自省しているのか、アクアに近寄って謝ろうとする。黒子たち3人の方も、言い過ぎたと少し反省した様子である。

 

「……、いくらなんでも、さすがにさっきのはやりすぎたと思うわ。ごめんね」

 

「こんなことしてしまったけど、許してくれる……?」

 涙目になりながら、アクアが答える。

 

「まあ、今までにされたことが消えてなくなる訳じゃないけど、今更掘り返しても仕方ないわよね? 私は御坂美琴。よろしくね」

 

 美琴がそう言うと、アクシズ教入信書の端切れに名前を書いて渡す。

 

「まあ、アクシズ教に入信するわけじゃないけど、名前くらい覚えておきなさいよ?」

 

 アクアにそう告げると、美琴はその場から離れようとする。

 

 すると、美琴のやり方に賛同したのか、黒子たちも同じように入信書の端の方に名前を書いて手渡す。

 

「私は白井黒子。疑いの方は本当のようでしたが、悪気はなく反省していることですし今回はお咎めなしとしますわ」

 黒子は、風紀委員(ジャッジメント)の時の風格を保ちながらも、やさしく声をかける。

 

「私は初春飾利です。私もいろいろと迷惑かけられたことがあると言えばありますが、これからは水に流して仲良くやっていきませんか?」

 初春は、アクアに向かって手を差し伸べる。もちろん、アクアもそれに応じた。

 

「私は佐天涙子。さっきは傷つけるようなこと言ってごめんなさい! まあ、これからはいっしょにクエスト行ったりして仲良くしませんか?」

 佐天は、名前を告げて礼儀正しく体を斜めに傾けて謝罪したのち、アクアにやさしい笑顔をむける。

 

「まあ過程はともかく、仲良くなったのなら結果オーライだな!」

 

 カズマが、アクアに対して右手でグーに親指を立てた「いいね」サインを示し、笑顔をこぼす。

 

 こうして凍り付いた空気から一変して朗らかな空気に戻り、しばらくして落ち着いたところで、カズマは美琴たち4人に話しかける。

 

「そうだ、邪魔をしてすまなかったな。君たちに迷惑をかけただけだとバツが悪いから、今度飯でもおごってやるよ。俺たちからはもう言うことはないから、元の冒険者登録の方を進めてもらって大丈夫だぜ。それでいいよな? アクア、めぐみん?」

 

 

「あの借金持ちが飯をおごるだなんて、何かあったのかしら?」

 

「そうですね。きっと女の子たちに囲まれてウハウハしたいのでしょう」

 

「これ以上俺のヘイト集めるのやめろ? まあ、今回は見逃してやるけどな?」

 

 

「ちょっと待ったぁぁぁ!!」

 

 いきなり何が起きたのかと周りがざわつき始めると、黄色と白が基調の鎧を着た、品格のある美しい女騎士がやって来る。

 

「その前に、ぜひとも先程の電撃を私に浴びさせてくれ!! どうやら通常の魔法とは異なる電撃のようだな? ぜひともその感触を味わせてもらえないだろうか!?」

 

 

「ダクネス! お前はこれ以上この場の話をややこしくするな!!」

 

 

~つづく~



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第8話 この神聖なる冒険者登録に混沌を!3

「いや、カズマらだって相当騒いでいたではないか! なぜ私にはそんなにも厳しいのだ!?」

 

「ん~、なんのことかなぁ~?♪」

 

 カズマは口笛をふふんと鳴らしながらしらを切った。ちなみに言うと、めぐみんもカズマの右にならえであえて知らないふりをしているようだった。さすがに口笛までは鳴らしていないが。アクアはというと……。まあ、何も気づいていなさそうだった。

 

「なに!?、今までの行いを棚に上げるだと!? これだからクズマとか言われるんだぞ!」

 

「いきなりクズマ言うのやめろ? てか、なんで俺だけなんだ。他にもワイワイ騒いでたやつとか居ただろ?」

 

「このパーティーのリーダーはカズマだろ?」

 

「あああああああ、それだけはやめろ! この子たちに知れ渡ったらどうしてくれるんだぁぁ!」

 

 カズマがダクネスに寄りかかって彼女の体をぶんぶんと揺さぶる。カズマにとってよっぽど「クズマ」とは言われたくないということは美琴たち4人も理解できたが、これに関しては自業自得なのだろう、というのが4人の共通認識だった。そしてダクネスはというと、いきなりの奇行に彼女は混乱するかと思いきや、逆にものすごく興奮しているように見えた。

 

「それはカズマの自業自得では……、はあ、はあ、さすがカズマは貴族の娘にも鬼畜な所業をしてくれるものだな! こんな体揺さぶりプレイでいっちゃうほど私は弱くないんだから……、あぁぁぁぁぁん!!」

 

 どうやら、カズマを諫めるのすら忘れてずいぶんとご満悦のようだ。

 

「あらら、これはまたキャラの濃い方がいらっしゃったようですわね、お姉さま」

 

「黒子も大概だけどね?」

 

「なんですって!!?」

 

 声が裏返って急にオバサン声になる黒子だった。

 

 そうこうしていると、さすがに我慢の限界に近かったのか、この場から置いてけぼりとなりつつあった佐天と初春が割って出ようとする。

 

「あの、みなさん。そろそろ本題の方に移りませんか?」

 

「まだ佐天さんしか冒険者登録済んでませんよね? これ以上よそ事に付き合っていたら受付の方に迷惑がかかりますよ?」

 

 この時の2人は、かなり真剣な眼差しでピリッとしたオーラを放っていた。この場にいる人々は、混沌の道へと突き進んでいた冒険者ギルド内が急速に静かになりだすのが感じ取れた。

 

「そうね、私たち何でこんなことやってたのかしら?」

 

「そうですわね。私たち、そういえばまだ冒険者登録の手続きが済んでおりませんでしたわね」

 

 美琴と黒子はこの2人のおかげでまた本題を思い出したようだ。

 

((はあ、なんとか元の流れに戻ってくれた……))

 

 そしてカズマたちも、さすがにこれ以上いるとみんなの邪魔になるというのを感じ取ったようで、少しバチが悪そうにしながら立ち去ろうとする。

 

「そういえばそうだったな。じゃあ俺たちはここで離れるとするか」

 

「そうね。まあいくら女神だといっても、さすがにこれ以上邪魔をするわけにはいかないわね」

 

 それにしても、アクアだけはこの場の気まずさにあまり気づいていなかったようだ。

 

 

 カズマたち4人が美琴たちの元から去っていった後、ようやく元の冒険者登録の話題に戻る。

 

「じゃあ、次は誰が水晶玉に触る?」

 

「それじゃあ、次は私が行ってもいいですか?」

 

 初春が手を挙げる。

 

「そうね、それじゃあ初春さん、行ってらっしゃい!」

 

     *   *

 

 お次の方はお決まりでしょうか? と受付嬢のルナが美琴達に告げると、初春がそれに答えた。するとルナは、先程までの騒ぎで傷が付いたりしないようにカウンターの奥に移していた水晶玉を再び持ち出し、初春の前に差し出して触るように促した。

 

「確か、これに触ると冒険者カードが作成されるんでしたよね?」

 

 そう言って初春が水晶玉に手を触れると、水晶玉から白い光が輝いて初春の周りを包む。

しばらくすると、初春の周りを包んでいた白い光が薄れてなくなるとともに冒険者カードが浮き上がってくる。

 

「おっと、体力は全然ないみたいですが、知力が相当高いようですね。この能力値のパターンだと、魔法職のウィザードやプリーストをお勧めします」

 

「あの、ウィザードとプリーストの違いってどのあたりにあるのですか?」

 

「簡単に言うと、ウィザードが攻撃系、プリーストが回復援護系です。ただ、悪魔やアンデッドに対してはプリーストも攻撃役に回ることができます」

 

「なるほど~、説明ありがとうございます。ただ、私は御坂さんや白井さんのステータスを見てから決めたいと思います」

 

「そうですか、分かりました。それでは、先に御坂さんと白井さんの冒険者カードを作成してみましょう」

 

 初春とルナのやり取りを聞いて、美琴と黒子はいきなり自分たちが冒険者カードを作る展開になったことに驚きつつも、初春の考えていることの合理性にすぐに納得し、2人は水晶玉を触ろうとする。

 

「「あっ」」

 

 しかし、タイミングが偶然にも一致したことで、美琴の手と黒子の手が重なってしまった。美琴が先に水晶玉に触れているが、その上に黒子の手が重なってしまっている。

 

「ああっっ! 私の手の先にお姉さまの手がぁぁ!! こ、これは当分の間洗うことができませんわね! えへ、えへへへへへ~~!」

 

「あんたね、私はアイドルじゃないんだから。手くらい洗いなさいよね」

 

「お姉さまは常盤台一の電撃姫なのですよ? その自覚がおありですの?」

 

「何言ってんの? ここは学園都市じゃないのよ?」

 

「少なくとも私にとっては永遠の『アイドル』なのですわよ~! さあ、お姉さまのその手をもう一度触らせてくださいまし~~! あぅ!」

 

ビリビリ!

 

「お、お姉さま、なんてお厳しい言葉ですの……! そんなツンデレな所も私は大好きなのですよ~~! あぅ!!」

 

 ビリビリビリビリ!!

 

 

 

「あんた、自分の欲望のためにわざとタイミングかぶらせたわよね?」

 

 初春と佐天は前世からの付き合いで何となく分かってしまったのか、うんうんとうなづいている。ちなみに黒子はというと、その名の通り真っ黒こげになって冒険者ギルドのカウンターの前に横たわっている。

 

「あの、ルナさん。これってちゃんと冒険者カード出てます?」

 

「いえ、光が出ていないのでちゃんと作動していないようですね……。もう一度御坂美琴さんだけで触れてみてください」

 

     *   * 

 

「えっと、体力に関わるステータスが全体的に高いですね。職業としては……、あれ? 既に電撃使いと書いてありますね。それにしても、電撃使いという職業はこのような仕事をしていても見かけたことがありませんが……」

 

 ………………。

 

 えっ?

 

 私、職業選び楽しみにしてたんですけど?

 

 ステータスの方はなんとなくこうなるのが分かっていたけど、職業くらい前世とは関係ないことをやってみたかったんだけどな……。

 

 相当に落胆している美琴を見かねてか、ルナがフォローに入る。

 

「あの……? どうなさりましたか?」

 

「せっかくこの世界に来たんだから、前世には関係のないことやってみたかったんだけどな……」

 

「前世がどうこうというのは私には分かりませんが、カードを見てみると電撃以外のスキルも一部ですが取れるみたいなので、そこまで落ち込まなくてもいいのではないですか?」

 

「そ、そうなの!!?」

 

「ええ。例えば砂鉄で剣を作ったり、電気系の特殊な罠を解除したり、銃を使わずに超高速で弾丸を発射したりするスキルがあるようです」

 

「それ全部前世でもやってました」

 

「そ、そうですか……。それなら……、あっ。これはどうですか?」

 

 ルナがそう言うと、美琴の冒険者カードのある項目に指を指す。それは、電気信号を利用して離れた地点から通信を行うというものだった。

 

「確かに、これはやったことないかも」

 

「でもこれ、確かに電撃じゃないけど、全部電撃に関係する特技ですよね?」

 

「まあ、そう言われるとそうなのですが……。ですが、頑張ってレベルを上げたら転職……、あらら、職業名の所に『転職不可』って書いてありますね……」

 

 『転職』という言葉に一瞬目がキラキラしていた美琴であったが、結局は落胆することに変わりなかったようだ。

 

「すみません。ちょっとからかいすぎたようですね。実を言うとどの職業でも取得できる汎用スキルがありますので、もし前世でやったことのないことがやりたいのでしたらそちらの中のスキルを取得されることをお勧めします」

 

「そ、そうですか……」

 

 とはいえ、立ち直るには少し時間がかかりそうな美琴であった。

 

     *   *

 

 今度は、いまだにダメージを受けて立ち直れなくなっている美琴に代わって、もうすっかり元通りの黒子が声を上げる。

 

「あの、私も冒険者登録の手続きをしてもよろしいですの?」

 

「はい、それでは白井黒子さんですね。こちらの水晶玉に手を触れてみて下さい」

 

 黒子が水晶玉に手を触れると、先程と同じように水晶玉から白い光が輝いた後に冒険者カードが浮き上がってくる。

 

「えっと……、ステータスは敏捷性と知力が高く、職業は……、あらら。美琴さんと同じように既に空間移動という職業になってますね。あと、こちらにも『転職不可』の文字が書いてあります。どんな職業なのでしょう……」

 

「一つ申し出たいのですが、それ、読み方は『テレポーター』ですわよ。ちなみに美琴お姉さまの能力は『でんげきつかい』ではなく『エレクトロマスター』と呼んでくださいな。この世界ではほとんど見かけないであろう職業なのであれば分からなくても仕方ないことではあるのですけど」

 

「は、はい、そうなのですね。それにしても、紅魔族の方々が喜びそうな読み方ですね」

 

「まあ、そうかもしれませんわね」

 

「えっと、職業の説明ですが……」

 

 しかし、知らない職業について説明をするというのはやはり難しいようであった。そうやってルナが対応にあたふたしているのを見かねて、黒子はこう伝える。

 

「お姉さまと同じように、私が前世でやってたことと同じですので、無理に説明なさらなくても大丈夫ですわよ?」

 

「いえ、これは私の仕事でもありますので、そういう訳にはいきません。それに、知らない職業について知見を深めることも大事な仕事です」

 

「それなら無理に止めることはしませんが……」

 

 さすがに相手の仕事を奪ってしまうのは良くないと思ったのか、黒子もこれ以上は言わなかった。

 

 そうしてルナがしばらく黒子の冒険者カードを眺め続けていると、頭の中で合点がいったところで黒子に説明を加える。

 

「大体分かりました。自分の持っている物を別の場所に移動させる特技がメインの職業なのですね。強化スキルを取得していくことで扱える重さや範囲などが強化されるようです。まあ、実際の使い方はあなたの応用力次第といった所でしょうか」

 

 まあ、自分の方が応用法についてはたくさん知ってますわよ? と頭の中で思いつつも、ルナの『仕事』というのに付き合ってあげた黒子であった。とはいえ、能力強化方法が前世とは異なっているのを知ることができただけでも、本心ではやはり聞いてよかったと思っているのであった。

 

「さて初春、あなたはどうするのですか?」

 

「そうですね、御坂さんも白井さんも攻撃系のようですので、私はいつも通り援護に入りたいと思います」

 

「それでは、プリーストということでよろしいでしょうか?」

 

 初春がはい、と答えたところで、ルナは初春の冒険者カードをちょこっといじって職業欄の所にプリーストの文字が刻まれたのであった。

 

「さあ、これでみなさんもこの街の冒険者の仲間入りですね。ところで皆さん、冒険者はパーティーを組んでクエストに挑むことが多いのですが、皆さんはどうなされますか?」

 

「まあ、とりあえず私たち4人で組むのが一番良さそうだわよね?」

 

「そうですわね。変に殿方に入り込まれても面倒ですし」

 

「まあ、仲の知れた人同士ですしね」

 

「私もそのつもりでしたよ~」

 

 

 

 こうして、御坂美琴、白井黒子、初春飾利、佐天涙子の4人は、この素晴らしい世界で冒険者として旅をしていくのであった。

 

 

~つづく~




やっと冒険の礎ができましたね。今後の美琴達の冒険をどうぞお楽しみください。

しばらく忙しかったこともあり投稿できていませんでしたが、今後は可能な範囲で不定期更新していこうと思います。


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