ゲート忍者 (ぼたん)
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1話

気が向いたら続きます


「あとは、外見はうちはイタチの外見で! あー、あと記憶見られると困るからそういうのも捏造したいな」

 

 この言動が全ての発端だった。

 

『なら、一回うちはイタチになっておいで』

 

「は?」

 

 ●

 

 うちはイタチを体験してきた。

 幸い『俺自身がうちはイタチになることだ』ってことにはならなかったが、考えなしの発言は控えようと思った。

 

「どうだった?」

 

「もうやりたくないです」

 

「でも、うちはイタチの記憶は刻まれたろ?」

 

「そりゃイタチと精神同居させられればね……」

 

 しかも本人に気づかれないようにされたから話もできねえの。

 技能も覚えられたが、代わりにあの人生の追体験とか……

 

「じゃあ、これで全部の望みは叶えたから、他の世界に送るよ?」

 

 顔は見えないが、話しぶりから悪いとも思ってないようだ。

 正直言って腹が立つが……まあ俺の不用意な発言が元だし、馬鹿をしてしまったということで飲み込んでおこう。

 

「わかった」

 

「うん。幸運を祈るよ」

 

 

 

 気づくと俺はどこかの都市の人混みの中にいた。

 

 雑踏に紛れた声から判断すると、日本に送ってくれたようだ。

 

 近くの窓ガラスを使って自分の服装を確認する。

 

 暁スタイルだった。

 笠を被っているのは視界からわかってたが、現代日本でこれは恥ずかしい。

 ここは秋葉原じゃないらしいし、尚更だ。

 

 笠を取ると、額当てはしていないようだ。

 

 その後持ち物の確認をしていると、遠くから悲鳴が聞こえた。

 痴漢にあった時の悲鳴とかではない、恐怖の感情が込められた悲鳴だ。

 

 あっちに何かいる。

 どんなにしょぼくても殺人鬼くらいはいるだろう。

 

「行ってみるか」

 

 そうして人混みをかき分けていくと、だんだんと周りの混乱度合いも強くなってくる。

 

 人混みが少なくなってくると、なんと人間の替わりにゴブリンやオークが見られるようになってきた。

 

 ゴブリンやオークが民間人を襲っている。

 

 ちょうどいい。

 この体の慣らし運転だ。

 最も使い勝手の良い分身である木遁分身を二十体ほど作り出し、辺りに散らす。

 

 ちなみに印は結んでいない。

 覚えられないから結ばなくてもいいように【特典】をもらったからだ。

 

 更に須佐之乎を顕現させると、【炎遁・加具土命】で作り出した剣をゴブリンたちに振るわせる。

 振るわせた後には死体だけが残っていた。

 

「おお……」

 

 初めての須佐之乎だったが、特に反動も無く運用できる。

 素晴らしい。

 

 それをきっかけに調子に乗った俺は、目に付いた鎧姿の連中や怪物達を片っ端から倒しながら奴らが来た方向へ進んでいく。

 

 

 

「なんだこれ……?」

 

 其処にあったのは大きな門のようなものだった。

 

 既に開いており、そこの部分だけ真っ暗闇。

 そして闇の中からは鎧姿の兵士たちがどんどん出てくる。

 

「これが原因か」

 

 自分の能力で壊せるのか試してみたい気もするが、門の先は恐らくファンタジー世界。

 壊すのはやめておく。

 

 ファンタジー世界に行ってみたい。

 俺の正直な想いだ。

 

「■■■■■!」

 

 敵の指揮官らしき人が何か叫んだ。

 言葉がわからん。

 当然か。

 

 よし……いや、その前に周りの連中が邪魔だな。

 

 敵はこの場にいる唯一の敵である俺に目を向けている。

 

 ならば……

 

【月読】! 

 

 月読の発動と同時に一斉に棒立ちになる敵の兵士たち。

 

 よし、これで邪魔者はいなくなった。

 

 改めて……【心転身の術】! 

 

 

 

 この心転身の術は相手の精神に入り込み、一時的に乗っ取る術である。

 

 本来は情報収集などに使う術なのだが、使い方次第で乗っ取った相手の知識──言語や知っている情報など──をコピーする事もできるのだ。

 

 その術の効果で必要な情報を抜き出した俺は眉をひそめた。

 

 要するに奴隷狩りと占領が目的かよ、コイツら……

 

 一気に胸くそ悪くなった。

 

 

 

 それからは欠片くらいはあった容赦しようという考えもなくなり、門から出てくる奴らを片っ端から殺していった。

 

 暫くすると警戒したのか、門から兵士たちが出てこなくなる。

 

 さて、どうしようかと須佐之乎を消して悩んでいると、軍で使われるような車が近づいてくるのを探知した。

 

 車は俺の近くで止まると、中から自衛隊員らしき人たちが出てくる。

 

 一斉に銃口を向けられた俺はちょっとビビりつつ、自衛隊に向かって話し掛ける。

 

「何のつもりだ?」

 

「な……!? あんたはさっき連れて行ったはず……」

 

 俺の木遁分身を拘束かなにかした人もいたらしい。

 

 困惑する自衛隊の人を見て少しずつ困惑が伝染していく。

 

「隊長、この人は敵ではないということですか?」

 

 さっきの人の言葉が聞こえた部下らしき人が隊長に聞く。

 

「ああ、恐らく」

 

 それを遮って話し掛ける。

 

「それで、結局俺にどうしてほしいんだ?」

 

 そう言うと、会話の余地があると判断したのか、隊長の人が銃を下ろすようにサインを送る。

 

「……事情を聞きたいので、ついてきて貰えますでしょうか?」

 

 日本と敵対する予定はないので、頷く。

 

「では、一度我々の基地にお越しください。ご案内します」

 

 ●

 

 あの後、俺はどこかの警察署に護送された。

 今は取調室にスーツ姿の警官と二人きりだ。

 

「お名前を」

 

「うちはイタチ」

 

 この名前を使うのは少し恥ずかしいが、前世の名前を使う事は憚られる。

 

 なのでイタチさんの名前を借りる事にした。

 

「うちはイタチさん……と。どこにお住まいで?」

 

「木の葉隠れの里」

 

「木の葉隠れの里……ですか」

 

「聞きたい事がある」

 

「こちらを先に」

 

 イラッときた。

 能力を見せるのにもちょうどいい。監視カメラくらいはあるだろ。

 写輪眼を使ってスーツの人に催眠をかける。

 

「ここはどこだ?」

 

「日本の……銀座」

 

 それをきっかけに色々聞いていく。

 

 途中で見張りらしき人も止めにきたようだが、まとめて催眠にかけた。

 

 粗方聞き終わると、最後に俺を帰らせるよう言う。

 

「……どうぞ、お帰りください」

 

「わかった」

 

 ●

 

 事情聴取を受けてから二日。

 イタチは銀座のスクランブル交差点にできた門の先、現地人からは『アルヌスの丘』と呼ばれる場所に来ていた。

 アルヌスの丘にはかなりの数の兵士たちが待機していたが、所詮は何の力も持たない兵士。何人いようとイタチの敵ではなかった。

 

 敵の「掃除」が終わった後は、【土遁・地動核】を使って地面を均す。

 

 術が終わった後には草も生えていない綺麗な地面が見えている。

 

 それを確認したイタチは一つ頷いて再びチャクラを練り、もう一つの術を発動する。

 

【木遁・四柱家の術】。何もない場所に家を作り出す忍術だ。

 作り出した木造の家には、当然家具は設置されていない。

 当然、ベッドも。

 

「あ、毛布……」

 

 ついでに言えば食料もない。

 かといって今更戻るのも格好悪い。

 第一お金を持ってない。

 イタチは途方に暮れた。

 

 ●

 

 次の日。

 固い、骨組みだけ作ったベッドの上でイタチは目覚めた。

 

 一応、本物のイタチと精神同居していた頃に、外で寝るということは体験済みだ。

 

 痛む体を治療しつつ起き上がる。

 眠気は残っていない。影分身に見張りは任せてあるので、寝ることに集中できたのだ。

 

 

 

 腹が減った。

 イタチは昨日から何も食べていないのだ。当然と言えた。

 まだ残っていた影分身に食料の調達を指示し、家の外にでる。

 

 さて、待っている間どうするかな、と思いながらイタチは昨日通ってきた門を観察していた。

 

 写輪眼で見てみると、門自体が微量のチャクラを纏っている。

 こんな量のチャクラで二つの世界を繋げられるのか、と思ったものの、そこはファンタジー特有の魔法の力で何とかしているのかもしれない、とイタチは自分なりに結論づけた。

 

 観察が終わると、イタチは再び暇になった。

 それから少しすると、影分身が解除されたのか分身の経験が還元される。

 

 どうやら影分身は取った獲物を神威空間に送ったようだ。

 

 分身と本体で神威空間は共有しているのか、とイタチは驚きつつも神威空間から獲物を転送する。

 

 よくわからない果物に猪らしき動物。

 猪の方は血抜きだけは影分身が済ませてある。

 

 意外と言ってはなんだが、イタチとの精神同居時代に動物の狩りを経験する事はなかった。

 

 考えてみると、狩っても捌いても血の匂いで敵などに見つかりやすくなるだろう。

 血の匂いに敏感な忍は多い。

 見つかりやすくなっていいことなど無いだろう。

 

 猪もどきを四苦八苦して解体すると、確実に食えるであろう部分を少し取り出し、土遁で作り出したフライパンの上に載せ、火遁を使って火をおこして焼き上げる。

 

 漸く飯にありつける。

 もうすぐ焼き上がるだろうか、いやまだかな、などとイタチがやっていると、イタチの感知範囲に人間が唐突に現れる。

 門の方だ。

 日本からの訪問者だろう。その証拠にイタチが最初に人間を感知した場所からどんどん反応が沸いて出てくる。

 

 イタチが肉を頬張り、口をモゴモゴさせながら門の方に振り返ると、遠くに自衛隊らしき人たちが見えた。

 

 自衛隊には詳しくないが、迷彩服に身を包んだ軍隊は自衛隊であるという偏見をイタチは持っていた。

 

「隊長、あそこに人が……」

 

『特典』の影響か、忍の一生の経験からか、イタチは五感が鋭敏になっていた。

 わざわざチャクラを練らなくとも、聞き耳をたてていれば遠くからでも話し声くらいは聞こえる。

 

 どうやら自衛隊がイタチを発見したようだ。

 堂々と建てられた家の近くで火まで使っているのだから当然である。

 

 近づいてくるのを見て、イタチは口の中にある肉を飲み込んで立ち上がった。

 ちなみに食べていた肉はこれといった味がなかった。

 

「あー、こんにちは。言葉はわかりますか?」

 

 恐る恐る話し掛けてくるのをみて、イタチは悪戯してみたくなった。

 

「【なんだ? あんたら誰だ?】」

 

 今イタチが使ったのは此方の世界の言葉だ。

 銀座で敵の指揮官に【心転身の術】を使った時に覚えた。

 

 イタチが話すと、話し掛けてきた自衛官は困ったようにボディランゲージを使い始めた。

 

 イタチが目を細めると自衛官はますます困ったようで、一緒についてきた彼の部下らしき人に話し掛ける。

 

「どうするといいと思う?」

 

 部下の人は慌てたように首を振る。

 

「いやいや、俺に聞かないで下さいよ!?」

 

 悪戯はこの辺にしておくか。

 これを続けてみたいとは思うが、嘘がバレたときが面倒なので、イタチは日本語で話し掛ける。

 

「冗談だ。日本語は使える」

 

 そう言うと、自衛官はホッとしたように息をついた。

 

「なんだ、脅かさないで下さいよ……ん?」

 

 自衛官は「あれ?」と疑問を顔に浮かべる。

 部下の人はそれをそのままぶつけてきた。

 

「えと、特地の言葉が使えるのにどうして日本語も使えるんですか?」

 

「覚えた」

 

【心転身の術】で、という言葉は飲み込む。

 自衛官の人たちは絶句したようだった。

 

 暫くすると、事情を飲み込めたようで、再び話し掛けてきた。

 

「えっと、あなたはどっちの世界の住民なんですか?」

 

「戸籍を持っていないから、強いていえばこっちの住民だ」

 

 イタチがそう言うと、自衛官は困惑したように曖昧に笑う。

 

「あー、我々について来てもらえますか? あなたが日本語も、特地の言葉も使えるというなら、現地協力者として遇することができますので」

 

 それは元々日本人だったイタチにとっては渡りに船の提案だった。

 

 



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2話

さんざん時間かけてゴミみたいな文章しかできなかった
もう戦闘描写とかしない

あ、作者は考える頭が無いので駄目な点を見つけたら改善策も一緒に出してくれると嬉しいです
なお設定が違いすぎる場合「これが今作の設定です」でごり押す模様


 イタチが自衛隊員数名に連れてこられたのは自衛隊の陣地の中。

 

 陣地に入ると、先に入っていた先ほどの自衛官が椅子に向けて掌を差し出す。

 

「どうぞ、お座り下さい」

 

 イタチが椅子に座ると、自衛官も向かい側に座る。

 

「まずは御足労いただきましてありがとうございます」

 

 頭を軽く下げる自衛官。

 

「すまないが、こういうのは苦手だから手短に頼む」

 

 それに対してイタチがそう言うと、相手は頷いて話を纏めるため少しの間黙り込んだ。

 

「我々が聞きたい事は二つ。あなたのお名前と、翻訳以外に何かできることはあるか、です」

 

「名前はうちはイタチ。できることというと、特技でいいのか?」

 

 頷く。

 

「忍術だ」

 

「は?」

 

「……諜報活動だ、戦闘もできる」

 

 イタチが言い直すと、自衛官は慌てたように首を振った。

 

「いや、そうではなくてですね……ええと、あなたは忍者なんですか?」

 

「そうだ」

 

 自衛官は頭に手をやった。

 

「……しかも『うちはイタチ』と名乗ったということは、あなたは銀座で民間人を守ってくれた方という事ですか?」

 

「別に守った訳ではないが」

 

 イタチはそう答える。

 あれはあくまで自分の体の試運転。

 民間人の事は「守れるなら守る」くらいにしか考えていなかった。

 

「……お答え下さりありがとうございます。『戦闘もできる』ということは、何かしら戦闘が起きても自衛ができるととってもよろしいですか?」

 

 イタチは忍術について聞かれなかった事を意外に思いつつ返事をした。

 

「ああ」

 

「……ありがとうございます。話は以上です」

 

「一ついいか?」

 

「はい、なんですか?」

 

「毛布と調味料を融通してくれないか」

 

 ●

 

 名前登録とやらをした後、自衛隊から布団と毛布に塩胡椒などの調味料を融通してもらったイタチは、『帝国』と呼ばれる国に思いを馳せていた。

 

 イタチが知識をコピーした元の指揮官は指揮官としては下の方だったのか、詳しい内情は知ることができなかった。

 

 しかし、帝国という国の性格を知ることはできた。

 

 連中は簡単にいえば自分勝手、傲慢、冷酷。

 

 いいところなど探そうと思わないと見つからないくらい酷い国だ。

 

 そんな国が一度負けたくらいで日本が帝国よりも上であると認めるだろうか? 

 

 イタチがこのアルヌスの丘で蹴散らした帝国の兵士たちは全てが死んだわけではない。

 逃げ出した奴らも少なくないだろう。

 そして、逃げ出した兵士たちから情報を得た場合、帝国の上層部は我慢できるだろうか? 

 たった一人のヒト種に数万の兵士がやられた、ということに。

 

 恐らく連中はまた来るだろう。

 

 

 

 まあいいか。

 イタチはそこまで考えて、考えるのが面倒くさくなった。

 

 木遁で新しく作り出したテーブルに一度、融通してもらった物を纏めて置き、布団と毛布だけを持ってベッドへ向かう。

 

 ベッドに布団と毛布を敷くと、イタチの予定は終了した。

 まだ昼にもなっていない。

 

 ●

 

 自衛隊の隊員たちに「手伝えることはないか」と聞いても「まだありません」の返答ばかり。

 暇つぶしを諦めたイタチは、忍術の訓練をする事にした。

 力を見せることで「すげえ」と言われたい気持ちも多少……いや、結構あった。

 

 とはいえ今の此処は自衛隊の領域。

 許可は得た方がいいだろう。

 

 

 

 とりあえずということで、使用許可を得られたイタチは、うるさい工事の音の中移動する。

 使う場所は基地の外。

 どんなことができるかわからない人に出来たばかりの施設を訓練で貸し出すことはできない、とのことだ。

 

 俺SUGEEEEがしたかったイタチはがっかりした。

 

 しかし、『自分の能力を自慢できないならやらない』なんて事が言えるはずもなく。

 イタチ自身、自分がどの程度戦えるのか知りたかったのもあって、訓練を実行することにした。

 

 

 

 忍者の訓練であるが、相手がいない。

 仕方がないので使える術を確かめたり、仙人モードになってからの仙人モードの解除を短時間で繰り返したり。

 須佐之乎を顕現させたあたりでたまたま見ていた自衛隊員がひっくり返りそうになったり。

 ちなみにそれを感知したイタチは機嫌がよくなった。

 

 訓練を何日か続けていると、空いた時間を使って訓練を見物しにくる人も出てくる。

 

 そういう人は大体が『忍者っぽい』術を使うところを見せると満足した。

 術のリクエストをしてくる人もいた。

 

 その中でイタチが珍しいと思ったのが、自分との訓練を希望してくる人だ。

 

 流石に体術のみでやってほしい、とはいわれたが、それ以外に制限を課すようなことを彼女は言わなかった。

 

 イタチにとっても自分以外の人との体術での戦闘は初めてだったので、その提案はありがたい。

 

 行った訓練の結果としては、自分の実力……いや、忍術の力を知ることができた。

 後から聞いた話によると、彼女……「栗林志乃」は『かくとうきしょう』というのを持っていて、自衛隊の中では高い実力を持っているそうだ。

 

 その彼女を一方的に倒した事から言っても、忍術の力が伺いしれる。

 

 尚、その訓練の後から妙に栗林さんがよくイタチの下に顔を出すようになったとか。

 

 ●

 

 訓練の日々を送り、衣食住の衣食を自衛隊に頼っての生活を二ヶ月と少し。

 

 アルヌスの丘へと軍を進める者たちがいた。

 彼らの名は連合諸王国軍、数は約6万。

 

 その存在を知った自衛隊は、迎撃の準備に入っていた。

 

「上に報告! 地面三分に敵が七分!」

 

 見張りからのその報告を聞いた上層部は迫撃砲や戦車による遠距離攻撃を行い、討ち漏らしは小銃による迎撃という作戦とも言えない単純な方法での対処を行う事を決定。

 

 自衛隊が連合諸王国軍の迎撃準備に追われるなか、元日本人のイタチは勝手に個人での迎撃を行おうとしていた。

 

 自衛隊の性格から言って、特に危機的状況でもないのに、民間人の分類に入ってしまうイタチを迎撃に使おうなど考えるはずがない。

 

 しかしイタチとしてはまだ試していない大規模忍術を試したかった。

 

 駄目なら後でお叱りがあるだろう、という悪い意味で馬鹿な考えをしていたのだ。

 

 

 

 同時刻、襲撃があるとのことで叩き起こされた伊丹耀司二等陸尉が欠伸をかみ殺しながら迎撃の準備をしていると、唐突に辺りが赤い光で照らされた。

 

「なんだこの光? 上から?」

 

 不審に思った伊丹が見上げると、そこには赤く光る巨大な鎧武者がいた。

 

 浮いてる。

 なんだこれ。

 え、味方なの? 

 

 伊丹の感想をよそに、鎧武者は敵……連合諸王国軍の方を向いていた。

 

「ええと……味方?」

 

 そんな伊丹の呟きが響く。

 

「そう……なんですかねぇ?」

 

 だって、敵方から自衛隊にむかって来るんじゃなくて自衛隊から敵方に向かっているのだ。

 

「てことは……もしかしてあれイタチさん?」

 

 伊丹が力ない笑みと共に呟いた。

 

「……イタチさんが言ってた『大規模忍術』ってアレのことなんですかね?」

 

「……確かにありゃ『大規模』だな」

 

 伊丹が周りの隊員たちと見上げている間に鎧武者が背中の翼をはためかす。

 

 もしやイタチさんはあの軍勢と戦うつもりなのだろうか。

 

「ちょちょちょ! イタチさーん! うちはイタチさーん!?」

 

 ●

 

「ん?」

 

 赤い完成体須佐之乎の頭部に位置する場所にいたイタチは下の方から自分を呼ぶ声が聞こえて視線をそちらに向けた。

 

 ここからでは声が届かないため、イタチはこの間作った【音送りの術】で話し掛ける。

 

「何ですか? ええと、確か伊丹さん」

 

 伊丹はまるでイタチが近くにいるかのような声に驚きつつも、イタチを止めようと話す。

 

「イタチさん? あのですね、戦闘行動は我々が行いますので、イタチさんが戦う必要は無いんですよ?」

 

 そう言われても、この巨体だ。向こうさんからも見えてるだろうし、今引っ込めたら完成体須佐之乎が見掛け倒しみたいなイメージつきそうだし、何よりここで引っ込めたらなんか格好悪い。

 そんな事をイタチは考えていた。

 

「大丈夫ですよ、すぐ終わりますから」

 

「いや、そういうことじゃなくてですね……」

 

 長くなりそうなのでイタチは話を切り上げて完成体須佐之乎を連合軍へ向かわせた。

 

 ●

 

「な、なんだ……あれ……!?」

 

 アルヌスの丘に向けて進んでいた連合諸王国軍の兵士たちに動揺が瞬く間に広がっていく。

 

 当然だ。

 自分たちの進軍目標……アルヌスの丘に鎧姿の赤く光る巨人が出現したのだ。

 

 動いてもいないのに体が重苦しく感じる程の威圧感。

 

 その威圧感に進軍は止まり、ざわめきが辺りに広がる。

 

 まさかアレは神の化身ではないのか? 

 アレは何の神なのだ? 

 我等は神と戦わねばならんのか? 

 

 様々な話が兵士たちの口をついて出て、それは彼等にとっての真実となり、精神的な重石となる。

 

 そうこうしているうちに巨人が動いた。

 

 巨人はこちらに近づきつつゆっくりと腰に携えられた剣に手をかける。

 

 その後のことなど、兵士たちでもわざわざ考えなくともわかった。

 

 鞘から抜かれた剣は巨大な刀身に見合わない速度で空気を切り裂きながら軍勢に迫る。

 

『うわああああああぁぁ!!!』

 

 殆どの兵士たちが叫び声を皮切りに巨人に背を向け、逃走を図る。

 

 しかし、もう遅い。

 

 巨人がその剣を『ずぞぞぞ』といった地面ごと人間がすり潰されたような轟音とともに振り切れば、そこには抉られた大地に赤い『なにか』の道が弧を描いていた。

 

 巨人が手に持った巨大な片刃の剣を返した。

 

 アレがもう一度くる。

 

 死にたくない──! 

 

 そんな一兵士の思いは天には届かず、巨人はまたも剣を振る。

 

 

 

 巨人が剣を振った跡で、血肉でできたつづら折りの道を作り出した頃。

 

 連合諸王国軍の指揮官は必死に馬を走らせながら呟いた。

 

「ふざけるな……! あれではまるで草刈りではないか!」

 

 あんなものがいると知っていたらアルヌスの丘になど行かなかった。帝国からの命令でも、だ。

 

 しかもいつの間にか帝国の兵士たちは戦場から消えていた。

 捨て石……連中の力をはかる試金石にされたと気づいたのはアルヌスの丘から逃げ出して頭が少しずつ冷えてきた頃。

 

「クソっ! 儂が帝国の思惑に気づいていれば……」

 

 追撃があるかもしれない。

 殿を勤めるので国へ戻ってくれ。

 

 そう言った部下は……死を覚悟していた。

 

『エルベ藩王国の王としての責務を果たされよ!』

 

 つい先程聞いた部下の叱責が脳裏をよぎる。

 

「情報を集めるのだ……!」

 

 少数の部下と共にエルベ藩王国への道を急ぐ。

 

 帝国への憎悪を胸に。

 

 ●

 

「終わった……」

 

 イタチは完成体須佐之乎を使っての連合諸王国軍迎撃で精神的に疲弊していた。

 

「何というか、後味わりいなー」

 

 これが強敵であればそんな事を考える暇もないのだろうが、敵と呼ぶにも連中は弱過ぎた。

 

「イタチさーん……! 戻ってきてくださーい……!」

 

 基地の方からイタチを呼ぶ声が聞こえてくる。

 イタチが基地上空に戻って完成体須佐之乎を解き、地上に降りると、自衛官がイタチの下に走ってきていた。

 

「イタチさん……! 私の言いたいことがわかりますかな?」

 

 周りについている自衛官の態度からしてえらい人のようだ。

 イタチも丁寧な言葉遣いを心がける。

 

「次からは勝手に戦いに赴かないように、ということですか?」

 

 イタチが言うと、えらい自衛官の人は頭をバリバリとかく。

 

「惜しいですな。……いいですか、現状では齟齬の少ない通訳をできる方はイタチさん、貴方しかいないんです」

 

 他にもイタチが死んでしまうと特地の調査の進捗に関わるし、世間にも叩かれるだろう。

 それを懇々と説明され、イタチも自分が悪いということを実感できた。

 

「ですから、貴方には余程がない限り戦闘行為は控えて欲しいのです」

 

「わかりました。勝手な行動をしてしまい、申し訳ありません……」



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