アリスギアSS (セヲハヤミ)
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とあるアマルテアの一日
「コロちゃ~ん! 助けて~!」
「え? な、ナデちゃんっ?」
「……どういう状況かしらこれは」
昼休み、地衛理が生徒会室の扉を開くと奏が椎奈に泣きついていた。
――聖アマルテア女学院。東京シャードは白金エリアに有る由緒正しきお嬢様学校である。
「「宿題を忘れた?」」
「そうなんだよ~……」
その生徒達の代表である生徒会のメンバーこそ先の三人。仁紀藤奏、州天頃椎奈、そして生徒会長の紺堂地衛理なのだが――
生徒会室の一角、普段は書類が乗ってあるテーブルに今日は紅茶の湯気が揺れていた。
「自宅に取りに戻ってはどうかしら」
「提出期限が今日の六時まででね……放課後に往復だと間に合わないかな……」
ぺたり。奏の顔もテーブルの上へ追加。ひんやりとした木の質感が頬を撫でる。「はしたないですよ」という地衛理の声も聞こえない様子だ。
「仮にも風紀委員長ともあろうものが宿題を忘れたー、なんて知れたら大問題だよ……」
「なるほど……」
「宿題自体はやってるんだよね、説明すれば一日くらい待ってくれるんじゃないかな」
「相手が小林先生なんだよねー……間違いなくお説教コースだね」
「……しょうがないなぁ」
椎奈はハァと小さくため息をひとつ。鞄から携帯端末を取り出すとその表面に指を滑らせた。すっ、すっ、とガラスの上で指が滑らかに踊るのを眺めていた奏と地衛理だったが、しばらくするとそれも終わったようで静かに端末をテーブルの上に置いた。
「椎奈、なにか考えでも?」
「それは後でのお楽しみだよっ」
悪戯気に椎奈が目を細める。ぴろん、と端末の通知音が鳴った。
「お姉ちゃん、頼まれたものだよ」
「ありがとうね舜、わざわざ届けてもらっちゃって」
「舜君っ?」
放課後になってすぐ、椎奈に連れられて来賓者受付へと奏は足を運んでいた。椎奈の弟の舜が手持ち無沙汰に立っているのを認めると奏はすぐに駆け寄った。
「はい、奏さん。裕子おばさんに頼んで貰ってきましたよ、机の上に置いてあったのですぐに分かったそうです」
「えっこれって……」
渡された紙袋をのぞき込むと確かに件の宿題がそこには入っていた。
「ほーらなでちゃん! 早く先生に渡しておいでよっ」
「裕子おばさんが『帰ったらお説教だ』って言ってましたよ」
苦笑する椎奈と舜の二人。ああ、本当にこの幼馴染たちには頭が上がらない。
「……ああもうっ、二人ともありがとっ!大好き!」
ステップを踏んで、は風紀委員としていけないので少しだけ速足で職員室へ向かう奏。二人へのお返しは何にしようかと考えるその足取りは軽やかだった。
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