大魔道士の異世界迷宮譚 (コント)
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その男は?
「盾ェ、構えぇッーー!」
号令と共に打ちあがる、数多の衝突音。
怪物たちの進撃を掲げられた何十枚もの大盾が受け止める。
その突撃の威力を物語るように、盾を構えた者達の踵が地に埋まった。
「前衛、密集陣形を崩すな!後衛組は攻撃を続行!」
凶悪獰猛な怪物(モンスター)を迎え撃つのは複数の種族からなるヒューマンと亜人の一団だった。
二枚の巨盾を構える筋骨隆々のドワーフ、矢と魔法を間断なく打ち込むエルフと獣人。
褐色の肌のアマゾネスの姉妹は戦場を駆け巡り、味方の射撃をかいくぐりながらモンスターへと切りかかる。
前衛後衛に二分される部隊の中、陣の中心でばさばさと風にあおられるのは、一本の旗だ。
刻まれているのは滑稽な笑みを浮かべる道化師のエンブレム。
一柱の『神』と契りを結んだ、「眷属」の証。
「――――――っっ!」
「ティオナ、ティオネ!左翼支援急げ!」
この戦場にて誰よりも小柄な少年(小人の団長)の指示が的確かつ矢継ぎ早に飛ぶ。
戦いの趨勢を見極める統率者の声は高く鋭い。目まぐるしく移ろい傾きかける戦況を、彼の指揮が幾度となく立て直す。
「あ~ん、もう体がいくつあってもたりな~いっ!」
「ごちゃごちゃ言ってないで働きなさい」
命を受けたアマゾネスの姉妹が疾走し、三体のモンスターを一瞬で切り伏せる。
事実、悪夢のような光景であった。
どこからともなく現れるモンスターの大群。屠れども屠れども途切れることなく押し寄せ、その数を持って呑み込もうと襲い掛かってくる。
一匹一匹が大のオトナを易々と越すその巨体は、化石の骨にも似たこん棒型の鈍器を振り回し、最前線で盾を構える者達の顔を苦悶に歪めた。
肩を並べ密集しあった彼らの防衛線はじりじりと交代していき、半円を描く陣形がその規模を小さくしていく。
「リヴェリア~ッ、まだぁー」
アマゾネスの少女の声が向かう先、前衛組が庇うその背後。
魔法と矢を連発する魔導士や弓使いに囲われた中心から、その美しい声は絶えず紡がれていた。
「【―まもなく、焔は放たれる】」
翡翠色の長髪に白を基調とした魔術。浅く水平に構えられるのは白銀の杖。
細く尖った耳を生やした、絶世の美貌を持つエルフ。
この戦場で誰よりも美しくある彼女は、その玲瓏な声で呪文を紡ぐ。
力強く、流麗な旋律を持つ『詠唱』。
足元に展開された魔法円は翡翠の色に輝き、無数の光粒を舞い上がらせる。
「【至れ、紅蓮の炎、無慈悲の猛火】」
「―ォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォゥッ!!」
流れる詠唱の一方でモンスターが吠える。
群れの中でもひと際巨体を誇る一体が仲間さえも蹴散らしながら驀進し、自らが持つ得物を大上段に構えた。
「【汝は業火の化身なり】」
「【ことごとくを一掃し、大いなる戦乱に幕引きを】」
紡がれていた長大な詠唱が完成へ至ろうとする。
「【焼き尽くせ、スルトの剣――我が名はアールヴ】!」
弾ける音響ととともに魔法円が拡大し、仲間達の、モンスター達の足元にまで広がった。
超広域の効果範囲。白銀の杖を振り上げ、エルフの魔導士、リヴェリアは己の『魔法』を発動させた。
「【レア・ラーヴァテイン】」
大焔。無数の炎柱が魔法円から噴き出し轟音と共に仲間達を避け、モンスター達を串刺しに、大上段に構え向かってきていた姿のまま
炎の中に消えていき、絶叫が折り重なる。熱気と火の粉に見たされ、世界が灼熱に包まれるかと思った矢先に一部の炎が不自然に途切れている箇所が表れる。
「うわぁ!あぶねー!!」
モンスターの後方、魔法の効果範囲内から人のものだと思われる声に眉根を寄せる。
一瞬の躊躇もなく、念のためにと団員の確認を素早くおこなわせると共に前衛に確認に向かわせる。
遊撃として大盾の傍まで下がっていたアイズ、ティオネ、ティオナ、ベートの4人が団長のフィンの声に反応して素早く駆けだす。
「なんだ?なんだ!?」
困惑した声が道化師の眷属達のもとにまで届く。
数秒の後に、オラぁ!という声と衝撃音が聞こえ先程の声がもう一度聞こえる。
「あっコラ、ベート!!」
「あんたちょっとは考えなさいよ、バカ狼」
「………ヒューマン?」
「は? 女の子と狼男!?」
不思議そうに響く男のものと思われる声に厄介ごとの予感で団長の親指がひとりでに動き出した。
狼の獣人でレベル5、第1級冒険者と言われるオラリオでも数えられる程度の人数しかいない強者である。
その足は世界の中心と呼ばれるオラリオでも1・2を争う素早さを持ち、その速さを生み出す強靭な脚から繰り出される一撃は大岩を砕き、モンスターを容易く殺す。
そんな彼の連続する攻撃は地面を抉りながら突然の闖入者を襲う。
「なんなんだテメェは!?」
「お前こそ何なんだ! …もしかして魔族かテメェ」
「あぁッ!何言ってやがんだテメェ!!」
ベートの攻撃が上下左右に振るわれるのを闖入者は避けて避けて避けて避ける…。
それは彼の強さを知る者からしたら驚愕すべきことであった。一緒に確認に来た少女達も闖入者がヒューマンであることと、実力を認めているベートが攻めあぐねている事実に動けないでいた。
「オラぁ!」
「くっッ!」
ベートの蹴りが闖入者の腹にめり込み吹き飛ぶ。
そのまま吹き飛んでいくと不自然に着地し闖入者が腕を振り下ろす。
「べタン」
その瞬間、ベートが上から押しつぶされるように前に倒れる。周辺の大地も一緒に上から巨大な質量でも乗っかったように陥没しその在り方を変えている。
「…ッ、くっ、テ、メェ」
「ったく、なんなんだテメェはよ。いきなり襲い掛かってきやがって、狼男」
服のほこりを払うかのように叩いた後、ゆっくりとベートの方へ向かっていく闖入者に再起動したアイズ達が慌てて動き出す。
「ちょ、ちょ、ちょっと待ったーー!バカ狼がごめんねー、私たち話をしたいだけなんだ」
「あんた、何者?」
「…ヒューマン?」
かしましいといった感じで近づいていくがそれでもすぐに対応できるような距離で話しかけてみると至って普通のヒューマンであり、オラリオで見た事のない強者であった。
外見はカッコいいわけでも、可愛いわけでもなく、その他大勢に埋もれる程度の普通さ。
だが、ベートとのやり取りで見せた近接戦闘と今もベートを地面に縫い付けている魔法の強固さは普通からは、かけ離れている。
「あんだぁ?この狼男の仲間で、後ろにいる団体さんもご一緒ってことでいいか?」
「そーなんだよねー。ほんとごめんね、このバカ狼が突然襲い掛かって」
「まぁ信じられないかもしれないけど、私たちはあなたと争うつもりはないのよ。そこのバカが勝手にしでかしたことなの謝るわ」
「……うん、そう、だと思う」
申し訳なさそうな雰囲気は一切ない。
「ホントかぁ? お前ら話に聞いた魔族のサキュバスとかっていうのじゃねぇのか? 2人はボイーンって感じだしよ」
にへへっと笑いながら上から下へと顔を動かし、揉み手をしながら3人の方へと進んでくるのを見て、1人は俯いて2人は「何言ってんだコイツ」って顔で近づいてくる男を見ている。
直接確かめさせて頂きますか~。と笑いながら近づいてくるヒューマンにティオナが俯きながら同じように近づき顔面に拳がクリティカルヒットする。
「へぶぅあ」
先ほどのベートに蹴られたよりもダメージを負ったように見える顔は地面とキスを尻が天に向かって伸びている。
「どうせ、ボイーンでも、バイーンでもないよ!こんにゃろ!何でみんな胸の話をするのさ!関係ないじゃんか!」
「ちょっと、ティオナ!話をややこしくするんじゃないわよ!!」
「関係なくないよ!ロキも言ってたもん。胸の話をしてくる男は喧嘩売ってるんやから、ぶっ飛ばせって!」
「…そうなんだ」
「そんな訳ないでしょ!あぁ、もう。取り敢えず団長を呼ぶから大人しくしてなさい、アイズもよ」
「………えっ」
ヒューマンの男がウーウー言いながら起き上がるときには「団長~♪」と呼んでいたティオネの傍にフィン、ガレス、リヴェリア、ラウル、アナキティ、それに数名が近くまで来ていた。
アイズは表情は変わらないが自分も一緒に注意されたことにガーン!といった背景を背負っている。
「っで。あんたが大将かい?」
さっきまで鼻の下を伸ばした姿を晒していた闖入者のヒューマンは胡坐をかいて道化の眷属達へと問いかける。
先程までのおちゃらけた雰囲気が一変していることに思わず息を飲んでしまうティオネ達は知らずに一歩さがり、頭を振って毅然とした態度を示す。
「ああ、ロキファミリアの団長をしているフィン・ディムナという。君は?」
「よっと! っとっとと」
胡坐をかいていた姿から立ち上がり羽織っていたマントが揺れ、悠然とした態度でフィンを見つめ告げる。
「俺の名前は『大魔道士』ポップ! さぁて、情報交換といこうぜ。団長さん。」
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ロキファミリア①
「かぁ~、ここがオラリオか!すんげ~、ベンガーナのデパートよりデケェ」
50階層で出会ってからロキファミリアの面々と一緒に行動することになりダンジョンを登ってきたがダンジョンは破邪の洞窟と違って建物が出入り口の上に建てられていて、それが信じられないくらいデカい!白い!綺麗!と見たこともない建物だった。
「はぁ~、信じらんないぜ」
「ホントに知らないんだね! どう?どう?オラリオは?」
「スゲェな、こんなスゲェ建物を人が建てられるなんて」
「でしょ、でしょ!」
「あんた、本当に…」
左右を固めている姉妹にダンジョンの中で色々聞かれたりしたがこの光景は圧巻だ。初めての街に心がワクワクする。
ちなみに、狼男は交渉が終わる前に魔法を解いてから変わらず睨んできているが団長のフィンとドワーフのガレスが抑えているのが見える。
まぁ、まだ情報が足りないがこのロキファミリアはとてもいいチームだ。
街の住民も彼らに対して好意的で、もしあの戦いにいてくれたら人々にとって頼もしい存在になったに違いない。
団長さんが少しの演説のあと、号令一つで周りを統制する姿はおっさんが獣系のモンスターを統制していたのを思い出すほどの統率力で安心して身を任せられると思える。その団長を支える周りも精鋭と呼べるメンバーが揃っていると言えることろをみると地上への道中で話を聞いていた通り都市最大派閥といえるかもしれない。
「じゃあ、ポップ。行こうか、僕たちのホームへ」
~~~
「うひゃぁぁあ」
「で、そっちが例の子供か?」
ロキやめて下さーい。と叫ぶレフィーヤというエルフの女の子が胸を揉まれているのをウォォォって見ていたらいつの間にか話が変わっていて、真剣な雰囲気になっていた。
まだ巨大過ぎる屋敷に入ってもいないのに、細眼のわびしい胸の女がレフィーヤの胸を揉みながら鋭いまなざしを向けてきていた。
「そっちは話に聞いていた女神様?見たらわかるって話だったけど女神様?」
「「「「「 !! 」」」」」
「ほぉ~。おもろいやんけ。フィン~、このままウチの執務室に連れてきてーや」
…女神ってもっと神々しくて、豊かでメリハリがあると思ってたけんだけど。
ほなな。って言い残して踵を返し屋敷へと入っていく女神様を見送り、団員達へと指示を出している団長さんを待つ間にティオナやアイズから本当に女神だってわかんないの?って聞かれたり、うぅ、ロキに汚されましたと呟くレフィーヤが暗い目をしていたり、アホな行動しているけど私達の主神なのよね、あれでも一応。といったティオネからのフォローがあった後に、長い廊下を歩き、長い階段を上り、執務室へと案内される。
尖塔の上層にある執務室は酒瓶が転がっているところ以外は魔王軍に責められていた国々の王城の客間より良い部屋だ。
そこではダンジョンから先に戻っていたエルフのリヴェリアと先程の女神様が待っていた。
「おー、来たか。改めて、ロキや宜しくな」
「大魔道士ポップです。女神様」
「ほなリヴェリアから一通り聞いとるけど、ウチが直接聞きたいからフィンたちに話したこともう一度教えてや」
「ええ、こっちも何か知ってたら教えて欲しいので」
じゃあ、と話を始めるのはここに来るまでの経緯だ。
簡単に人間と魔王軍の争いが行われていること、国々についてを話をした後に、俺の話をする。
ダイが大魔王バーンと戦ってから数か月が経ち、マァムとメルルとダイを探して世界中を探している最中に地上に残っていた、いや、地上に出てきた魔族と交戦することが数回あって、その際に聞き流せないことをのたまわった奴がいたのが始まりだ。
そいつはグレムリン島で襲ってきてアバン先生の結界に阻まれたのと同じ魔族だった。
「ケケケーッ!貴様らがデカい顔をしてられるのも今のうちだけだ。準備は整った、後は時間だけだ。貴様らは我らの神によって殺される。キイイイイイッ!!」
そいつの残した言葉と各地を回った結果、世界中で魔族の目撃・交戦が少なからずあり、中には魔王軍との戦いの中で荒れた王城の宝物庫から何かが盗まれた形跡まであった。
何を盗まれたのかは侵略された際に管理していた者とリストが失われているため知ることはできなかったが、魔族が何かの目的のために動いているのは確かでも大魔王の脅威が去った各国は魔王軍の残党が悪足掻きしているとして処理されていたのか、共有されることもなかった未確認の脅威がその魔族の言葉で明確な形を成していく。
………魔界の神“ヴェルザー”の封印を解く準備が整った。いや、復活が決まり必要なのは時間のみ。
ダイの親父が倒し精霊たちが封印して、もし封印が解かれるのだとしてもずっと先の100年後1000年後の話だと誰もが疑ってさえいなかったヴェルザーの復活が近いかもしれないなんて全員がパニックになったね。
まぁ、どれだけパニックになっても俺たちのアバン先生が冷静に今できることをまとめてくれたからすぐに落ち着けた。あの戦いの中、大魔王バーンと冥竜王ヴェルザーの会話の中で“ヴェルザーの封印は天界に攻め入って解く”“魔界から動くことができない”と確かに言っていた。
天界にも、魔界にも行く手段がない俺たちは自分たちに出来ることをと、一緒に旅をしていたメルルはヴェルザー復活のタイミングを予言してみると王城内に先生が用意した部屋と施設を使って日々予言の為に時間を使い始める。マァムはチウとおっさん、ヒムと一緒にプロキーナ老師のもとで力をつけるべく修行の旅へと向かい、姫さんと女王は各国に対ヴェルザーについての協力を求め、ヒュンケル達がどこにいるかも分からないからダイ捜索と天界・魔界への移動方法の模索も合わせて世界規模で行う捜索・復興のために動き出した。
…アバン先生?24時間何重にも監視されながら王様としての仕事と特訓、対ヴェルザー部隊の兵士を鍛える先生をしている。
兵士たちを眠らせて逃げようとしたこともあったんだけど、とんでもない遠距離から幾重にも別の監視者がいて一度逃げられたフローラ様の本気を見たね。
俺も大魔王バーンとの戦いは結局、相棒任せで舞台に上がることもできなかったからヴェルザーとの戦いにはダイの隣で相棒らしく最後まで戦えるように修行するために
アバン先生から教えて貰った破邪の洞窟に1人で挑戦することにしたんだ。神々が人への試練として作ったのか、もしかしたら魔族が地上への橋頭保として作ったのかは分からないが内部はモンスターにトラップ、隠し部屋まで存在するという不思議な場所だった。先生は150階層で破邪の秘宝を手に入れたわけだから、もっと深くまで潜れるように食糧を山積みにして修行を始めたんだ。
ああ、師匠の所に行ったら「ヴェルザー?俺は疲れたから知らねー。アバンにでも言え!」と追い出された。お菓子をつまみながら横になっている師匠をズルポン達が
うちわで仰いでいる姿のままで魔法を打ち込んで来るんだぞ。信じられるか!?
…話を戻すと、その破邪の洞窟で修行をするために潜ってだいたい250階くらいで宝箱を開けたら部屋全体が光って気が付いたら目の前はデカい芋虫の群れで、すぐさま魔法が飛んできて対処したら、カワイ子ちゃん達と狼男が襲ってきたっていうのがここまでの経緯だな。
「そっちの団長さんから話は聞いているがパプニカやベンガーナ、それに魔王軍、大魔王バーンにヴェルザー全部聞き覚えがないんだろう?」
「………ああ、うちも知らん。これまでにそないな戦いが起きたちゅうことも聞いたこともない。」
「…女神様ならちょちょいのちょーいってなんとか出来ないのか?」
「出来るわけないやろ、そもそもどこやパプニカちゅーのは!」
「…そうか。…じゃあ、まずはどうやったら戻れるのか調べないとな。」
「ああ、それなら僕たちも手伝おう。オラリオで君が個人で調べるよりは僕たちが手を貸した方がトラブルが少なくて済む」
「おっ!サンキュー」
「いや、ダンジョンでも言った通り僕達が協力する代わりに君にも僕達に協力してもらおうと思っているからお互いにメリットがあるだけだ」
「それでも助かるぜ。いやー、団長さん達に会えて良かった」
もし飛ばされて誰もいないダンジョンの中だったらどうなってたか。破邪の洞窟の続きだと思って更に潜っていったか、取り合えず地上に出てパニックを起こしていただろうな、実際。
「じゃあ、今日はここまでにしてまた明日、今後の方針を決めていこうか。ラウル、ポップを案内してやってくれ」
「は、はいっス。ポップさん案内するっスからついてきてほしいっス」
「おう、よろしく」
---sideロキファミリア
「それでどうだったんだい、ロキ?」
「ああ、フィンの予想通り本当の事しか言っとらん」
「えぇー!じゃあホントに大魔王とかがいたってこと!!」
「………すごい」
「にわかには信じられないわ」
「ロキ、テメェが担いでんじゃねぇだろうな」
「お前たちが言うこともわかるが…、だが…」
「ああ、ロキはともかくあやつが嘘をつく必要はないからな」
ポップという大魔道士と名乗る青年をラウルに案内させてからファミリアの方針を決めておくべく話し合いをする。彼はたった1人で50階層に居ることができる見たことのないヒューマンで新種のモンスターを操っている闇派閥のテイマーだと断定したベートが仕掛けるも手も足も出せずに敗北する結果に息を飲んだ。だからこそ情報を引き出しつつ“神に嘘はつけない”という主神を危険に晒してしまう手札を使い調べて貰った。
結果はシロ。興奮して彼に話を聞きに行こうとしてリヴェリアに怒られているティオナのように楽観視することはファミリアの団長として全くできない。…間違いなく、大問題に発展する。
「…念のため、後でステイタスシーフを使用させてもらおう。まぁ、意味があるとは思えないけどね、ハハッ」
「………そうだな。本来であれば反対するところだが、彼はイレギュラー過ぎる。注意に注意を払うべきだと私も思う」
「そうじゃな」
「ええ~。本物の英雄だよ!英雄!冒険譚の中の、おとぎ話じゃない!本物の英雄!良い人に決まってるよ」
「ちょっとティオナ!団長に意見してんじゃないわよ!」
「…えぇ。だってティオネは気にならないの?本物なんだよ!さっきの話だってよくわかんなかったけど、凄かったし、良い人に決まってるよ」
「わかんなかったの?あんたねぇ…。はぁ~」
「まぁまぁ。ティオナは英雄譚が好きやからしゃーないやろ。それよりも今後どないしよ?」
そう。今後の方針によってロキファミリアの立ち回り方も大きく異なってくる。
ポップと協力するといったがはっきり言ってこちらのメリットはあまりないと言っていいだろう。逆にデメリットは山のように存在していて、派閥に引き入れた場合は内緒にしようとしても強さとレベルの乖離が大きすぎて問題になるので隠すこともできない、存在そのものが神々が興味を持たない理由がない。それは引き入れなくても同じで強さは隠せないし、帰還方法が判明するまでホームで大人しくしてくれていたら楽なんだが、彼の修行するという目的に合致しないため遠からずズレになるだろう。
まぁ、そんな心配も意味はないか…。
「で、ロキはもう決めているんだろう?」
「さすがやでフィンー。こんなおもろいことないやろ、ウチで預かんでー」
「賛成ー!!」
「チッ、盛んなクソアマゾネス」
「んだとー、負け狼!」
「あぁ!!」
ニヤニヤと笑うロキに喧嘩を始めるティオナとベート、そわそわしているアイズに呆れているリヴェリアたちといつも通りの光景に何が起きても大丈夫な安心感とこれから始まるかもしれない未知との遭遇にワクワクしている僕がいるのも確かだ。
「さて。これからの僕たちロキファミリアの方針は決まった!異界の英雄と未知の世界、新しい冒険を始めようじゃないか!」
ダイとポップ、レオナでバーンの経験値総取りでしょ。
メタキンの群れも真っ青なくらいめちゃくちゃレベル上がってるはず。
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ロキファミリア②
・クロコダイルが突破できないマホカトールの発動。
・離れた位置に点在する魔法石を利用する魔法の発動(マホカトール)
・マッドオックス?よりも足が速い
・ルーラを一発で使えるようになる
・フレイザード戦後にはトベルーラも操る
・話に聞いただけのフィンガーフレアボムズの成功(自身で証言)
・魔法力の向上がマトリフも褒めるほど
・契約で覚えるんじゃないと思われるマトリフオリジナル魔法べタンの習得
・アバンを倒したよりも強いハドラーのベギラマに初ベギラマで押し勝つ
・超魔生物ザムザに対して破壊力を収束したギラで竜の紋章発動時のダイと同様に砕く
「「「 レフィーヤ!! 」」」
「ここまでだな」
レフィーヤが横目で見るそこに死が迫っていた。
前衛にいたはずのアイズさん、ティオネさん、ティオナさん、それにベートさんまで私を助けるために駆けてくれている。
嬉しい気持ちと足手まといになってしまった申し訳ない気持ちがいっぺんに訪れる。同時に決して間に合わないだろうということもわかってしまった。
油断していた訳じゃない。それどころか考えられる最大限に警戒していたし、リヴェリア様のお力も借り受けて今の私が出来るありったけの力を出せたはずだ。
それでも足りなかった。今の私じゃベートさんが言ってたように役立たずだ…。
その瞬間、頭に衝撃が走った。
「さて、ポップの力はどうだったか聞いてもいいかな?」
団長が私達を集めて先程の戦闘を振り返るために参加した私にアイズさん、ティオネさん、ティオナさん、ベートさんの他に室内訓練場に一緒に来たリヴェリア様にガレスさん、ラウルさん、アキさんやロキファミリアの高レベルの皆さんがそれぞれ思い思いに口にしたのは私達には辛い現実だ。
「経験の差かの?動きを先回りされておったわい」
「そうだな。戦闘中に見た手札には対応が出来ていたがそちらに目が行き過ぎていたな」
「化物っすね。でも、あのまま続けていたらどうなったっすかね?ベートさん達は無傷ですし」
「この場合、ポップさんを階層主として考えるなら後衛であるレフィーヤを制圧された時点で敗走じゃないかしら」
「まぁ、前衛が抜かれた時点で負けじゃろ」
「そうだな。4人も前衛がいて後衛の下まで来られるのは魔術師としては安心して詠唱できんからな。 …それより、やはり」
「ああ、50階層で不自然にリヴェリアの魔法が途切れたのは彼の仕業だね」
「そうじゃな、大魔道士…。いや、魔術師殺しと言ってもいいかもしれん」
「……速攻魔法と言っていい多彩な魔法に加えて、両手で別々の魔法を行使が可能な上に、こちらの魔法は無力化される。それにレフィーヤに迫った速度、レベル5を4人相手にできる立ち回りと近接戦闘能力…。 …正しく英雄といった強さだった。」
そう、私がポップさんにやられた以外は皆さんは大した傷を負ってないのがこの模擬戦の結末なんです。迷惑を掛けてしまって申し訳なくて俯いているとリヴェリア様から「お前たちはどう感じた」と声が掛けられた。
なんでこんな状況になったのか現実逃避しながら考える。
えっと確か、始まりは食堂で帰還の祝いをしていたのとポップさんの紹介で食堂が地震でも起きたのかと思うくらいに揺れて、ロキがポップさんの事をオラリオ中に広めながらウチの客人であること知らしめていくことを言って一瞬の沈黙が出来たときに
誰かが『本当に強いのかよ』って言ったのが悪いんですよね。
そりゃ、ポップさんが御伽噺の登場人物みたいな人で、凄い人だから興奮していたところに神々や他派閥からのちょっかいが幻視できるような決定を突然伝えられて動揺したのはわかります。わかりますけど…。団長達の決定ですよ!それに意見するなんてありえません。犯人を見つけたい。見つけたいけど…、くぅ~~。
ティオネさんが怖いから大人しくしてたら、あれよあれよと模擬戦をすることに。
ポップさんの強さに興味深々だったアイズさん、因縁のあるベートさん、リヴェリア様に言われた私だったんですけど、ティオナさんが参加したいと申し出たティオナさん、ティオネさんも加わった1対5のハンデ戦。
ポップさんは短い杖の一本だけ。
さすがにコレわ…
どう考えても私達が負ける未来が見えない。というか、アイズさんがいて負けるはずがない。
「うわぁ~、楽しみ!」
「ティオナはしゃいでないで作戦を聞きなさい」
「ごちゃごちゃ言ってねぇで、速攻で終わらせんぞ!」
「……ん」
作戦は単純なもので人数差があるんだから正面左右からティオナさん、ベートさん、アイズさんが50階層で見た魔法に複数で捕えられないように距離をとりながら開幕すぐに突撃を掛けてティオナさんのウルガの一撃を躱したところにベートさん、アイズさんが攻撃を仕掛けて、ティオネさんが中近距離でサポートしながら指揮をとる。連続した攻撃で絡めて倒しきる。倒しきれなかったら私がレア・ラーヴァテインで使って避けるにしろ、防ぐにしろ、その隙をついて倒す。
…もし、当たってもエリクサーを使うから大丈夫だから使っていいとリヴェリア様もいっていたことですし。私の魔法だと威力が足りなくて撃ち落される可能性がありますからね…。 …うぅ、大丈夫でしょうか?
「それでは、模擬戦を始める。両者準備はいいか?」
「おう」
「うん!」
「はい、団長」
「…ふぅー」
「はい!」
「はやく始めろフィン!!」
「………始め!」
号令と同時に3人が駆けだして、私は詠唱に入る。
ティオナさんが半分くらいの距離を即座に潰したのに「ギラ!」とポップさんが叫んだ瞬間に右手の杖から熱線のような魔法が着地点向かうと避けるために空中で身を捩って躱す。
間髪入れずに左右から向かっていたアイズさん、ベートさんに「ヒャダルコ!」と地面を凍らせながら向かう魔法が放たれた。それぞれが対処しているうちにポップさんに空中で態勢を崩したティオナさんが大上段から「オラぁぁぁ」とウルガを振り下ろすと一瞬長くなった杖で側面からウルガを弾き飛ばした。
自分でも目を疑う光景を詠唱をやめないように冷や汗をかきながら唱え続けるとティオネさんも加わって追い詰めようと動くけれど速攻魔法よりも更に早い一言で発動して地面を抉り戦況を変えるような一撃一撃の魔法の威力とウルガさえ弾く驚愕する
膂力に迂闊に飛び込めない。 …いや、地面に縛り付ける魔法のほかに熱線の魔法、凍らせる魔法と連続して火の魔法まで使っているから先ずは手札を把握しようという気持ちもあるのかも。
両手で別々の魔法を飛ばしながら、近距離では杖で迎撃。
それに、ベートさんが一撃当てて吹き飛ばしても牽制の魔法を放ちながらなんでもないように立ち上がってくる防御力。
「えぇ!!そんなのあり!?」
「ちょっと、それは…」
「ちっ!どうなってやがんだクソがっ!」
「……すごい」
えぇーーー!
空中で静止してるんですけど。
魔法?魔法ですよね?魔法なんですよね?
ありえない態勢と軌道で魔法を放って4人と同時に対峙しないように立ち回りながら魔法を私にも放ってくるようになったのをアイズさん達が防いでくれてるけど、代わりに意識をこちらに割いてくれている分、先程までのように攻撃に回れていない。ポップさんの魔法力が無くなるのを待つか、魔法への対処をしくじってこちらの戦力が削られるか、一進一退の攻防が続くなら戦況を変えるリヴェリア様の一撃で…。
「皆さん、撃ちます!」
「【汝は業火の化身なり】」
「【ことごとくを一掃し、大いなる戦乱に幕引きを】」
「【焼き尽くせ、スルトの剣――我が名はアールヴ】!」
弾ける音響ととともに魔法円が拡大した超広域の効果範囲。エルフの王族、リヴェリア様の魔法を発動させた。
「【レア・ラーヴァテイン】」」
即座にウルガがとんでもない速度でポップさんの頭へ飛び、ティオネさんが牽制の為にゾルアスを投げて同時に攻撃を仕掛けると同時に離脱を図る。
「うわぁぁぁ」と叫びながら飛んでいたポップさんが尻餅をつくように地面に落ちて、そこへ私が発動した魔法が全てを飲み込み勝負がついたと安堵の息を吐いたら放ったレア・ラーヴァテインが割けた。
見えるのは、片膝で立つポップさんが拡げた両手に炎が逆巻きながら消えていく光景。
頭が理解するよりも早く光ったと思ったら後ろから声が聞こえて、あとはアイズさん達が向かってきてくれるのを最後に軽く叩かれて終わり。
団長が終了を宣言して、今リヴェリア様に質問されている。
「えっと、皆さんごめんなさい!」
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