やはり教え子の青春ラブコメは間違っている。 (梵尻)
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あいかわらず比企谷八幡はくさっている。

「高校生活を振り返って」

 

 2年J組 百合ヶ丘百合

 

 青春は嘘と欺瞞で塗り固められている。

 青春を謳歌せし者たちは、本心と自己を欺き、与えられた社会的役割を演じているにすぎない。

 そもそもクラス分けの時から、彼らの役割は決まっているのだ。

 リーダーを演じる者、取り巻きを演じる者、奴隷を演じる者。それらは全て最初から規定されている。

 だが、決められた役割を演じている彼らは、自身のアイデンティティを失っている事に気がついていない。

 特徴や個性は演じる役割によって元々決まっているものである。それなのに彼らは「自分らしさ」が大事だと語り、あたかもそれが自分のものかのように横暴に振りかざすのだ。

 みんなを引っ張れる自分らしさ、友達が多い自分らしさ、頭がいい自分らしさ、程よく円滑に過ごす自分らしさ。

 それらは規定された自分らしさを、自分自身の役割から割り当てられてるにすぎないというのに。

 彼らは、自分自身に嘘をついて、他人まで騙しているのだ。

 

 嘘つきは泥棒の始まり、という言葉が存在する。

 その言葉の通りであれば、自己と他人を欺き嘘をつき続けなければならない青春を謳歌する彼らは、みな泥棒という事になる。言うなれば嘘をつき続ける彼らは青春という名の窃盗罪だ。

 

 結論。

 ウェイども、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処されろ(窃盗罪の刑罰より)。

 

 ・

 

 分煙スペースの引き戸に手をかけ、レポートをもう一度読み直す。

 職員室に隣接されているそのスペースは、外の世界からは隔絶されていた。独特な臭いが鼻をかすめ、耿々と照る日差しの眩しさと少し残った紫煙が目に染みる。

 10年近く前のある日、間違った青春ラブコメが始まったその日。

 今では国語科現代文教師となった俺はそんな昔のことを思い出し独り懐古の念を募らせた。昔のように独りぼっちで椅子に座ると、昔とは違い格好をつけるようにセブンスターの7mgをポケットから取り出す。

 全く、教え子にタバコを格好良く思わせてしまうのだから、あの女教師はおおよそ現代の教師像から程遠いな。

 などという考え浮かべては、すぐさま否定するようにタバコに火をつける。葉の甘い匂いを感じながら、重ったるい煙を肺へ送り込み、吐き出す。

 一筋の紫煙が上へ上へと登る様を目で追う。

 そのような、ある種間違えた教師像を肯定できないのならば、それを理想にしてここまで来てしまった自分も嘘になってしまう。

 少なからず大人になったと感じる今でも、あの時と変わらずに言えることがあるとするのならば、いや、昔よりも一段と格好の良い大人でありたいと願うからこそ、俺は素直に嘘を受け入れられるほど賢くはない。

 

「高校生活を振り返って」

 

 いつかの思い出に、恥ずかしながらも捕らわれたままこの課題を出し続けて早5年。生徒の数だけ多くの解答を見続けてきた。

 出題しておいてアレなのだが、おそらくこの課題に答えは無いのだろう。

 高校生はいくつ間違えても良い。何度も何度も、間違えるたびに問い直して、解が出るまで計算し尽くせば良い。例え、解に出会えなかったとしても、計算し尽くしてそうじゃなかったものが、真っ白なキャンバスを埋め尽くして残された余白が、解に近い何かになるのだから。俺自身が送られた言葉であるのだが、その通りだと当時よりも深く頷くことが出来る。

 故にこの課題には解は無く、そもそも解を出す必要などないのだ。

 たくさんの解答に嘘も欺瞞も真実も、無数に無限に見続けてきた。そしてついに、少しだけ期待していた間違えた解答に出会えることはなかったのだ。

 

 ──今日、この時までは。

 

 今この俺の手にあるレポート用紙。

 綺麗な字で書かれたそれは、汚く濁り、それでも光るものが書かれている。

 

「まったく、こんなレポートじゃ呼び出しだっつーの」

 

 口先のタバコは灰が崩れかかっている。そっと壊れないように灰皿のもとまで運び指で強く弾く。風化した何万年もの先のビルはこんな風に崩れるのだろうか。

 ふと目に映る窓ガラスに反射する俺の顔は、面倒臭そうに口角を上げていた。

 相変わらず、目が死んでるな……。

 

 ・

 

「で、なんだコレは」

 

「はあ、先生が出した課題ですけど」

 

「いや、そうじゃなくて、何で同級生を裁こうとしてるのこのレポートで」

 

「近頃の高校生はこういうものですよ」

 

 2年F組、百合ヶ丘由梨。

 俺が現代文を担当するクラスの生徒であり、知る限りではその美しさとコミュニケーション能力からいわゆる「陽キャ」に属されるはずの人物である。

 

「んで、一応言い訳があれば聞いてやるけど」

 

「私、友達がいないんです」

 

 食い気味に一言。

 雪乃のように艶やかな黒く長い、そして美しい髪をたなびかせる。違いといえば、真っ直ぐ自然のままに伸ばしたストレートではなく、後ろに束ねたポニーテールにあるだろう。細く儚い雰囲気を纏う彼女は、高校生には似つかない程に美しかった。外すことなく見つめてくる釣り気味の目は、いつかの彼女を彷彿とさせる。

 その姿は間違えなく、美少女だった。

 ……まあ俺の彼女の方が綺麗だけどね。

 

「そりゃ良かったな」

 

「はい、……いや、え?」

 

「言い訳はしないのか、それなら書き直しで」

 

 手元の作文をほんの少しだけ雑に、彼女に叩きつけた。

 驚きを見せ、きょとんとしている彼女の表情とその口から漏れ出た疑問の言葉をどこ吹く風と受け流し話を進める。百合ヶ丘は見てわかるほどには動揺しているし、もし熱心な教師であるのならば友達がいない宣言をしてきた生徒に対してここまで興味を示さないはずがない。

 であればきっと、百合ヶ丘は的外れな教師像を俺に押し付けていたのだろう。

 

「私、自慢じゃないけど友達がいないんです。こんな悲劇のヒロインを塩対応で放置するのが先生の正しいあり方なんですか」

 

 自分のことヒロインって言ってるよこの子。ここまで自分の見た目と中身に自信満々な人間は、それこそ俺の彼女とかその姉とか、極めて少数の人物しか知らない。いや、自慢じゃ無いよ? 

 

「友達がいるかいないかはこのレポートの出来には関係しないだろ」

 

「出来は悪くないと思いますけど」

 

「普通は自分の生活を省みるものだろうが」

 

「だとしたらそう前書きしてください。先生の出題ミスのせいで罪状を書く羽目になって貴重な時間まで奪われてるのですから」

 

「まあ、このナメくさった感じは嫌いではない」

 

 そのおおよそ教師らしくもない言葉に呆然とした彼女を尻目に、ほんの少しの嬉しさを感じながらも言葉を続ける。

 

「別に友達はマストじゃねーよ。いらないと思うなら作らなくて良い。ただ、捻くれてねじ曲がりすぎると間違った青春送ることになるぞ」

 

「……間違った青春、て何ですか。いったい誰がいつ青春を規定したのですか。私はそもそも誰かの言う役割なんて演じたくないんですけど」

 

 青春、と言う言葉に彼女は不思議なほどに過剰な反応を見せた。

 彼女も『やはり私の青春ラブコメは間違っている』的な展開を送ってるのか? 目の前の彼女のようなこんなにひねくれた主人公を設定するライトノベルなんてガ○ガ文庫でもあり得ないだろう。……あれ? オレ何か言っちゃいました? もはや、俺の青春に至っては友達もできちゃったし彼女もできちゃったし笑。間違ってなかったんじゃないか笑。

 

「まあ、分からんでもない」

 

「──え?」

 

「百合ヶ丘、なんか悩み事でもあんのか」

 

「いや、はい?」

 

「いきなりなんて質問をしているのだこのクソ教師、会話のキャッチボールをしろよ」とでも言いたげな顔をしている。が、俺は引くつもりもないし、何度でも言うがこの捻くれたこの生徒、嫌いじゃない。

 

「いきなりなんですか気持ち悪いですセクハラですよ訴えます」

 

「それ、ハラハラだからね」

 

「ハラハラ?」

 

「ハラスメントハラスメント」

 

 死んだ眼差しにドヤ顔を乗せて送り届ける。

 百合ヶ丘は嫌そうな顔をラッピングして返品する。

 

「生徒指導というか、悩み相談というか、なんかそういう仕事押し付けられてんの。だから形だけでも聞いただけだ」

 

「つまり、何をしてるんですか?」

 

「端的に言えば、そうだな、奉仕活動」

 

「セクハラですか、ガチで訴えますよ」

 

「いや、それはやめてくれ」

 

 わざと大袈裟におどけてみせる。

 そんなこちらの様子を見つめる彼女の瞳には、呆れと好奇心と、案の定死んだ魚のような目をしたおおよそ一般的ではない教師が写っていた。

 それを見れて、少しだけ安堵する。あの時の俺もほんの少しだけ似たような目をしていたのだろうか。

 ……いや、それは無いな。なぜなら彼女の目は死んでおらず、俺とは天と地ほどの差がある。

 

「それにしてもお前はアレだな、捻くれた性格してんな」

 

 百合ヶ丘は表情こそ変えないものは、青筋を立てながら反論する。

 

「先生ほどではありませんよ」

 

「褒め言葉として受け取っておくよ」

 

 大人げないほどに鮮やかな返しに、不満げな様子を見せる。「……はあ」とため息をつくと、頭が痛いと主張するかのように手をひたいに持って行く。まったく、オーバーリアクションだろ。

 

「まあいくら死んだ目をしながら女子高生に奉仕とか言い出す犯罪者予備軍とは言え、紛いなりにも教師ではあるのですからとりあえずそれは置いときましょう」

 

「随分な言われようだな……」

 

「ともかく、別に私は特に親しくも無い先生に悩み事を話す理由なんて無いですよ」

 

 毅然とした態度で、明確な拒絶を見せる。

 ATフィールド全開だ。でも残念でした、ATフィールドの頑丈さに関しては俺もそんじょそこらのチルドレンよりは強い自信がある。あれなんでだろう言ってて悲しくなってきた。

 

「まあ、正直来ても来なくてもいいよ別に。押し付けられたから、あと少しだけ楽しそうだから勝手にやってるだけだし」

 

 口でそう言いながらも、自分では落胆を感じている事に気がついてはいた。

 高校生として、あの頃の俺に、いや、俺たちに似ているようなヤツに出会えたから。平塚先生の言う、手の届く範囲に置いておきたいと思えるような生徒に出会えたと思ったから。

 

「まあ、なんだ、とりあえず来たかったら来い。放課後に仕事と一緒にやってっから」

 

 そう言って場所の書かれた紙切れを机に乱雑に置いて、俺はこの場からスタコラサッサと退散する。

 去り際に、職員室に残された彼女をチラリと見つめる。

 思い詰めたその表情は、昔の俺なんかと決して同じではなく、まして雪乃とも程遠いものだった。

 来てくれたら嬉しい、なんて柄にも無く思う。柄に無くても仕方がない、どうやら最近は自分の捻くれ度合いが下降気味らしい。周りの人からもよく言われてる。丸くなった、と言うよりかは大人になったのだ。……そう思いたい。なんにせよ、先刻盗み見た百合ヶ丘の横顔は、月並みな表現ではあるのだがまるで一枚の絵画であるかのように美しく見えた。高校生だからこそ出来る悩み迷う時期。大人になってからでも、と思うかもしれないが遅いのだ。高校生という無限にも有限にも思える3年間と言うものは、人生の中でも特に濃度の濃い時間である。もちろん人によるのだが、それはかけがえの無い、決して代替のきくことが無い時間だ。刹那に見えるその期間は、後になってから、自身の永遠の期間となり得る。

 故に彼女の憂いを帯びた迷いの表情は、まるで昔の自分達を、大切な宝物を見ているかのようにとても美しく映るのだ。それは、俺たちとは似ても似つかぬ、彼女だけが持てる表情であり、彼女だけが迷える青春だ。

 ……なんてことを考えている俺も、まだまだ青いな。

 今日は、春と言うのには些か暑い。校舎の周りには、青々と新緑が力強く芽吹いているのだが、それを見て夏だと言うのには涼しいこの時期の廊下を悠々と歩き進む。

 その歩調は、不思議と……いや、自然と軽かった。



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たまに比企谷八幡はしどうする。

 俺がお悩み相談兼生徒指導を任されている場所は、中庭を囲んで見事に四角くなっている校舎の、教室棟の反対側にそびえた特別棟にあるなんとも思い出深い一室であった。殆ど誰も来ない教室で、4割は文学作品、6割はライトでポップでキャッチーなノベルを、生徒にバレないようにブックカバーをしっかりとつけて嗜んでいる。

 とは言え、それも常ではなく、大半は残された仕事に追われているのであり、他の教師や生徒たちにこれもまたバレないように、そこはかとなく授業の準備を行っているのだ。

 と言っても、まあそもそも活動をしていない時間の方が圧倒的に多いからここに来るのも稀なんですけどね。

 お悩み相談兼生徒指導(毎回会うのも面倒くさいので以降は奉仕活動とする)をしていると言えど、大々的に大衆に向けてコマーシャルをしているわけでもなく、自分から気にかけるような生徒がいた時だとか、他の先生が面倒になって俺に放り投げた時だけ、珍しく教師として任された職務を全うしていた。俺なんかが、正直な話、平塚先生のような素晴らしい先生になれたのかはわからない。わからないなりに、答えを出すべく言葉にして形にして、少しずつ日々を埋め尽くしていた。

 件の平塚先生とは、教師になった今だからこそ連絡を取るようになり「若造め、教師になってたかが数年なんだから、いきなり答えを掴めると思うなよ。そもそもこの職業に答えなどあるか分からないというのに」というありがたい言葉をいただいては、確かに今や先生にとって、俺は完全に若造であるなと思ったものの決して口にすることはない。流石に本気でかわいそう。

 ちなみに、いまだに独身である。

 本当に、なぜ誰も貰ってくれないのか。雪乃と付き合ってなかったら、俺が引き取ってたかもしれない。え? そんなこと言ってると、平塚先生が本気にしてしまう? まさか。流石に、元教え子の二人が付き合って未だに仲良くやっているというのに、その間に割って入るつもりは無いだろ。無いよね? 

 

 今日は珍しく仕事が殆ど溜まっていなかった。例の生徒に、ここの場所を教えていなければ今頃周りの教師たちの帰宅させぬという同調圧力の熱い視線を颯爽と交わしながら、愛しの恋人と楽しく優雅にディナーと洒落込んでいたところだ。

 いかんせん生徒に格好をつけてこの活動をしていると教えてしまった手前、帰るわけにもいかない。

 

 傾き始めた日差しを受けて、俺は太宰治の『斜陽』を読んでいた。あの時初めて雪ノ下雪乃と出会ったときの、世界が終わったあとも続きそうな、絵画のような光景と、そのタイトルと重ね合っているのだと俺は感じていた。

 しかし、今やもうその作品のような、破滅を感じさせる危うさと滅びの中にある美学というものとは到底縁がない。──惚気てしまえば、雪乃とはぶつかり合ったり少し離れたりを繰り返しながらも、順風満帆な付き合いをしていた。そもそもちょっとした言い合いは昔から俺が負けて終わるだけだからね。千葉の球団でももうちょい勝率高いよ。

 

 だが、そんな関係ももう直ぐで終わる。

 

 正確には新しい一歩を踏み出す、という表現が正しいのかもしれない。

 

 さて、そんな事はどうでも良くて。果たして百合ヶ丘百合はこの教室に訪れるのだろうか。

 

 今日はそのことだけがずっと心がかりであった。

 

 来なくても良い、といえば嘘になる。正直な話、ここに顔を出してくれれば嬉しいとすら感じる。平塚先生が、手のかかりそうな生徒を一箇所にかき集めて、手に届く範囲で見守っていたいといつか言っていたが、教師になった今だからこそ、その思いに痛く共感する。

 

 百合ヶ丘百合のその表情に、違和感を感じた。

 などと言うのは、格好つけ過ぎだろうか。

 

 例えばそれは、体と心が乖離されているようで。心がどんなに痛くとも、どんなに傷ついていても、表面的に現れることが大半の場合はないのと同じだ。体と心は一体であると言うのにも関わらずに、あっけなく分断されている。そんな様子に見えるのだ。

 

 俺もかつて、表面上では「青春とは嘘であり悪である」と嘯きつつも、本物の青春を焦がれていた。そのくせ自分さえも騙して、それを求めないでいた。

 理性の仮面と本能の素顔を誤謬して、被っていたペルソナを自己保身のためにそれこそが自分の本心だと偽っていたのだ。素顔だと錯覚していた理性の仮面を被ってる時の俺の腐った表情と、百合ヶ丘百合の、笑顔としての本質を失った張り付けられた能面のような笑顔が、どことなく似ていたのだ。

 安心すべきは、彼女の場合は目が腐っていなかったと言う事だろうか。

 

 あーもうだめだ。タバコが吸いたい。

 今や喫煙者は肩身の狭い存在であり、圧倒的な少数派だ。辞めたって構わないのだが、脳裏に焼き付いた恩師のカッコいい姿がすぐにでも思い浮かぶ。

 喫煙者の大半は格好つけで初めて、いつのまにかニコチン無しでは生きられなくなるのだ。ソースは俺。

 

 俺はそっと席を立ち、タバコを吸いに行くため教室を後にしようと引き戸に手をかける。しかし、力を入れる前に扉は勝手に開き始めた。少しの驚きとともに変な呻き声が溢れると、ガラガラと音を立てながら扉は開き、目の前には黒髪ポニテ美少女が居た。

 カエルの呻き声のように変な驚き方をした後に、かなりの美少女が目の前に現れたのだから、恥ずかしいことこの上無い。学校の先生だって1人の人間なのだ。

 子供にとっては先生は身近でありながら別の生き物にも感じられるかもしれないが俺のようなアンチ労働タイプの教師は、殊更1人の人間としての感性や価値観が強いのだ。前時代の産業革命期的な労働スタイルは苦手である。

 けれども、教師として大安売りされているくらいの安っいプライドも少しは持ち合わせており、生徒に対して無意識のうちに格好つけてしまったのは仕方がないだろ。

 

「百合ヶ丘か、丁度いいタイミングで来たもんだな」

 

 驚きを誤魔化す時ってアルコールが入ってる時と同じくらいに判断力が下がってるよね。取り付くようにして発した発言は、格好つけているはずなのに格好悪く、何が丁度いいのかわからないし、とりあえず不思議な発言となった。

 

「そうなんですか。なら良かったです」

 

 百合ヶ丘は気にした様子もなくあっさりと返事をする。なんと言う大人な対応。中学生の頃ならうっかり惚れちゃうレベル。

 

「まあ、とりあえずそこにかけてくれ」

 

 物が少ないせいか広く見える教室の真ん中に、あの頃と同じように長机か一つ置いてある。黒板側にポツンと佇む椅子を指し示す。彼女は、わかりましたとだけ答えて颯爽とその椅子に腰をかけた。

 俺は意外にも素直な彼女の反応に目を丸くしながら、机を挟んで向かい側の椅子へと足を向ける。昼の彼女の様子を見るに憎まれ口のひとつやふたつが飛び出してくるものかと睨んでいたため肩透かしを食らった気分だ。

 ……いや、むしろ俺のややキモめな反応に心底侮蔑しているだけなんじゃ。

 すらりと整った彼女の横顔を見てみると、やはりそうなのでは無いかと思えてきた。

 オーケー、気にしたら負けだ。俺はかつて理性の化物と呼ばれた男だ。辱められても屈しない。くっ殺くっ殺。それにしても今考えれば理性の化物という言葉は言い得て妙だなと思いつつ、陽乃さんはよくこんな厨二チックな言葉を臆面もなく言えたな。ちょっと恥ずかしいよ理性の化物なんて口に出すの。まあ、あの人が言ったから格好良く聞こえたのだろう。世の中は「何を言った」より「誰が言った」かの方が大事なんだなとよく分かる。

 

 理性の仮面(笑)をいつものように被って、平然と百合ヶ丘の前に座る。ここに来たのだから何か話すのだろうと待ち惚けると、ぼっちコミュ障お得意の沈黙が訪れた。

 話し辛さでも感じているのか、能面を張り付けたように無表情な彼女を見てもその真意は測れなかった。とりあえず、教師なのだから会話を促すのは当然のことだろう。先行は貰った。俺のターンドロー! 

 

「……ここに来たってことは、なんか話でもあるって事だな」

 

 そう言えば今は先行ドロー出来ないんだっけ。

 でも最近始まったアニメだと先行でドローしてた気がする。先行はドローしたいよね。俺のターンドロー! って言いたいよね。

 

「先生は」

 

 言葉尻を窄めることなく、彼女は一音一音を丁寧に口にする。

 

「変ですから、他の人とは違う気がして」

 

「それ褒めてるの? ディスってるの?」

 

 丁寧に紡がれたのは不思議な罵倒だった。

 

「一応褒めてます」

 

「心から褒めてる人は一応とか使わないからね」

 

 調子を取り戻した彼女の語り口に安堵する。

 

「んで俺が変だとなんなんだ?」

 

「ありきたりな一般論だとか、つまらない返答で私の話を聞かない気がしました」

 

「やっぱディスってるだろ」

 

「先生なら、もしかしたら解をくれる気がして」

 

 先ほどまでの彼女から、打って変わって弱気な心情を推し測る。

 

 解。

 問題をといて得た答え。

 それは、きっと自分で解くから意味があるのだ。

 だから、誰から貰う解なんて、それはきっと答えじゃ無いと言うことを俺は知っていた。

 

「解はもらうもんでも渡すもんでもねえ、導き出すもんだよ」

 

 きっと誰もが悩んでいて、誰もが明確でわかりやすい解を求めているのだ。聞こえのいい宗教や明朗で過激な主義主張。世の中にごった返すこれらを見れば明白だ。

 だけれど、きっとそれではいけない。それは解じゃ無い。

 

 奉仕部風に言わせて貰えば、飢えた人がいる時に魚を与えずに釣り方を押してやると言うべきか。今の論題からは少しずれているが、当たらずとも遠からずだろう。魚を与えて一時的に満たしたところで、根本的には何も解決していない。それは、悩んでいる人間にも通ずる。悩み迷う人に一時的な解を用意しても、それがその人にとっての正解である可能性は限りなく低いばかりか、次にまた別の悩みを持った時に解決することはできない。

 

 本当に大事なのは悩みの解じゃなくて、悩みの解を見つけられる自分を手に入れる事なのだ。

 

 百合ヶ丘の表情は、やはり高校生だった俺たちとは似ても似つかぬものだった。

 だけれども、本質的には同一のものなのかもしれない。

 

「だから俺ができるのはあくまで相談を受けることだけだ。高校生なんだから動くのも決めるのも、もちろん変えるのも自分の責任だ。ただまあ、別の視点を用意してやったり、行動に手を貸してやったり、決断の背中を押してやったり、そんくらいならする。ここはそう言う場所」

 

 百合ヶ丘は一瞬だけ呆気にとられたような表情になり、

 

「先生、詐欺師みたいですね」

 

「えぇ……、いきなり何……」

 

「自分からここに来るように行っておいて、悩み相談してるとか言ってたくせに答えは渡しませんなんて。詐欺ですよ、詐欺」

 

 俺の知る限りでは初めて彼女は顔を綻ばせた。

 その笑みは妙に人懐っこいものであり、やはり俺や雪乃とは、また根本的に違うものなのだと深く実感させられた。

 

「まぁ、なんだ、お前みたいな面白そうな生徒は嫌いじゃなくてだな。問題児ほど可愛く見えるだろ? そう言うあれだよ」

 

「私問題児じゃ無いんですけど」

 

「問題児はみんなそう言うらしいぞ」

 

 軽口を叩き合っていても悪い気がしなかった。それは偏に、全く似ていない彼女が俺たちに似ているからなのだろう。

 改めて軽く咳払いをすると、本題に入る。

 

「で、結局何が悩みなんだ」

 

「悩み……、と言うほどのことじゃ無いかも知れませんが」

 

 彼女は再び表情を無に戻して俺を見る。視線でその続きを促すように彼女を見つめた。放課後のこの教室はとても静かで、静寂だけが満ちていた。それ故に人の声ははっきりと聞こえ、喉を鳴らす音でさえも過敏に察知できてしまうほどだ。

 

「私、楽しいことが無いんです」

 

 やはり彼女の言葉は一音一句が正確にかつ綺麗に発音されており、真夜中のプールのように無駄な波が一つもなく澄んでいた。

 だと言うのに、少しだけその声が揺れているようにも感じた。

 それはきっと、この静かな教室だからこそ微かに感じ取れるものなのだろう。

 それはきっと、彼女の心の奥で本当に悩んでいるからこそ僅かな揺れとして音に現れていた。

 

 本当に悩んでいる人間は心の底では助けを求めてもがき苦しんでいるからこそ、表面上はそうじゃ無いように取り繕う。だからこそ、ちょっとした揺らぎが表面に出る。

 

 俺にはその解なんて当然わからない。わかってたまるか。

 これは彼女だけの悩みだ。

 だからこそ近くで見守りたくなるのだ。

 救済だとか更生だとか、そんな大層なもんはできないし彼女は求めていないだろう。

 俺は彼女の背中を何処かで少しでも押してあげられれば、無限にある道のいくつかを提示してあげればそれでいい。

 ただ、そうしたいと思うのだ。



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だからこそ百合ヶ丘百合はえんじている。

 ゲーム最高。ちょー楽しい。

 無駄な会話とかしなくていいし、自分のペースで進められるし。オンラインゲームはコミュニケーションが難しいから苦手です。あんまチャットとか盛んじゃ無いやつなら良いんだけどね。

 

「楽しいことが無い、ねえ……」

 

 おそらく、その言葉が指し示しているのはそう言うことじゃ無いだろう。

 ただ単に趣味がないだけでは無くて、例えば学生生活に意味を見出せなかったり、友人や家族と良好な関係を築けていなかったりする際に使う「楽しくない」に近い意味なのだろう。実際に俺がそれだったからよく分かる。

 だが、その意味は個人によって異なるのだろう。簡単に一括りにして纏められるほど、きっと人間の感情や精神というものは単純にできていない。そんな簡単ならとっくに人類はAIにでも越されてる。狸と言われれば怒る猫型ロボットもとっくに完成しているはずだ。

 ましてや彼女は感情のないロボットでも、未完成のAIでも無い。

 

「んで、俺にどうしろと」

 

「だからそれを聞きにきたんですけど」

 

 その通りだった。

 俺から格好つけて話を聞くように言ったというのだから何か言うのが道理だろう。……いやでも難しく無い? 楽しいことないって急に言われてたらどう考えても答えづらいでしょ。

 

「楽しいことが無いって、具体的にどういう事だ。例えば俺の知り合いの話なんだけど、趣味が無いから楽しく無いとか、ハブられてて学校が楽しく無いとかそういうのは聞いたことあるけど」

 

「私、実は完璧美少女優等生だったんです」

 

「自分で美少女とか言っちゃってるよ」

 

 完璧とも優等生とも言っていたが、全てを取り上げて突っ込むのは野暮ったい。

 

「それは、事実ですから。モテますし」

 

「別に否定はしてないだろ」

 

「なら先生私のこと生徒なのに恋愛対象としてみてるんですか、ごめんなさい無理です」

 

「告白もしてないのに振られたんだけど……」

 

 既視感を覚えることこの上無い。

 生意気な小悪魔系後輩も、そういえばこんな感じだったな。

 

「まあもし仮にだ、お前が完璧美少女優等生だとして、それが楽しくないのにどうつながるんだ」

 

 先程まで淀みなく軽口を叩いていた彼女が、その時だけ一瞬言葉を詰まらせたのを見落とさなかった。2、3秒だけ彼女は言葉を探すと薄気味の悪い貼り付けた笑顔を見せて口角を上げた。

 

「私、そうやって誰かに自分を決めつけられるの嫌いだったんです」

 

 表面だけの笑顔は今にも壊れてしまいそうだった。

 

「私は完璧美少女優等生なんかに、なりたく無かった。別にモテても変な恨み買うだけで嬉しくなんて無いし、優等生だって好きでやってるわけじゃないのに勝手にそう呼んで」

 

 一度口火を切ってしまえば、胸中に泥のように溜まった不満不平は溢れ出る。

 

「私が少しでも優等生像から外れた行為をするとおかしいとでも言いたげな表情で見てくるんですよ」

 

 それでも彼女は笑顔を作り続けていた。その表情もきっと自分でやりたいと思ってやってるものじゃ無いのだろう。

 

「完璧な自分を常に演じてきた自負はあります。誰からも期待されて、誰からの期待にも応えてきました。友達もたくさんいて、家族ともうまくいっていた」

 

 マルセル・マルソーの『ペルソナ』を思い出した。それは、彼が様々なお面をパントマイムで付け替えてくうちに、道化の面をかぶると取れなくなってしまうのだ。その面を取ろうと苦労して、身体はもがき苦しむが、どんなに苦しんでも顔のほうは道化の笑い顔であり、それはまさにペルソナが産む悲劇に他ならなかった。

 自分の行動から生まれた表情の一部分が、他人に規定され決めつけられて、それが本当の表情だとされる。一部分のたった一つの表情で、全てを決めつけられてしまう。

 そして、きっとそれから逃れられない人もいるのだ。

 

「でも、それが苦痛に感じるようになったんです」

 

 築き上げられた優等生像。

 先生は、友達は、親は、全てその像を見ている。

 そして、無意識のうちに彼女はその像の仮面を被り彼らの期待のままに「本当の自分」を隠してパントマイムをしているのだろう。

 

「自身の振る舞いと、みんなが求める期待のギャップ。それらが嫌になって、全て投げ出してみたんです」

 

 そこから先は、俺にでも分かる。

 

 それこそ、どこか似ているから。

 仮面を付け替えられるほど器用じゃ無い人間は、無理やり剥がしたところで今度はその下にある別の仮面を替えられ無くなるのだ。器用なら、そもそも最初の段階で社会に溶け込むためにうまく仮面を使い分けられる。

 

 一番いけないのは、周囲によって生み出された仮面を本質のように縛り被り続けてしまうことだ。

 

「友達とも遊ばなくなったし、家族に対してもいい子を演じなりました。……成績は下げたくないから勉強は手を抜いてませんけど、まあ優等生然とした態度はもう取ってません。それでも、まだ楽しくないんです」

 

 ……あのふざけた「高校生活を振り返って」の文章は彼女なりの反骨心からきたものだったのか。

 優等生になんてなりたく無かったからこそ、あの文章を書き上げた。そして、あわよくば誰かに救って欲しかった。

 

 間違えた青春、と言う単語に反応したのも、一般的に規定された青春像に当てはめられることが嫌だったのだろう。

 

「……優等生を押し付けられて演じてる時は苦痛だった。今の孤高の完璧美少女って言うのも、優等生をやめてみとうとしたらまた周囲から押し付けられたってことか」

 

 それは結局、いままでと変わらずに、別の自分を演じているだけであった。友達も作らずに毅然とした態度で孤高の一匹狼であること、高嶺の花であることを無意識のうちに自分に強いていた。でないと、友達や家族との関係を変えた自分を定義できないから。

 

 要するに、彼女は仮面の付け替えが下手なのだ。

 良くも悪くも、裏表がない。

 誰かだけにいい顔をみせたり、人によって態度を変えてみせたりすることが出来ないのだ。

 

 家での自分や職場、学校での自分、ある友達グループでの自分、親友の前での自分、恋人の前での自分。

 普通の人間は、無意識化でこれらに接するときに画面を付け替えているのだ。

 一面しか持たない人は殆どいなくて、気がついていなくても自己防衛的にそれを行う。

 

 だが、仮面を張り替えられなければどうなるのか。

 

 仮面を張り替える人は、大抵本来の自分の顔を何処かに持っている。それは、親友の前でも良いし、家族の前でも良いし、一人きりの時でも良い。そもそも、本当の顔は自覚している必要は無いのだ。仮面を張り替えてると言う事実だけは、意識こそしていないものの把握できているはずであり、それが出来ているかどうかが重要なのだ。

 

 しかし、付け替えられない人はどうなるのか。

 

 それは自分がどこにいても、何をしていても、本心ではない何処かで付けた仮面を常に被らなければならないのだ、

 自身の本心が誰にも拾われることなく磨耗し続ける。場違いな仮面は徐々に不調を生む。

 

「これ言うの恥ずかしいんですけど、本当の私が分からないと言いますか……」

 

「自分探しの旅の途中ってことか」

 

「その『うわ〜青臭い、自分探しの旅なんて言えちゃうなんて恥ずかしいよ高校生』みたいな顔やめて貰えせんか」

 

「してないしてない」

 

 しかし、残念ながら俺は心理学の専門家ではないので解決方法はやはり分からない。

 だからこれは当然正当な解ではない。かと言って、昔のような切れ味の良い捻くれた解でも無い。

 

「よし、百合ヶ丘」

 

 彼女の名前を仰々しく呼ぶと、何かを察したのか正面からこちらを見据えた百合ヶ丘は静かに返事をする。

 

「はい」

 

 時刻は4時36分。

 放課後真っ盛りである。

 俺はギュッと首元をネクタイを締めるようにして握り込み、自信と虚勢を込めて言った。

 

「あれだ、自分探しの旅に出よう」

 

 ・

 

 昨晩は久々に寝付きの悪い夜となった。

 よくよく思い返してみると、俺は生徒に対して相当恥ずかしいことを口走っていたのだから。

 だが、彼女も小っ恥ずかしいことを口にしていたのでおあいこだ。なんなら教師は多少臭いことを言っても許されるのだから。生徒から見る教師にはそのようなフィルターがかかってる気がする。

 平塚先生はなぜああも格好良かったのだろうか。マネして始めたタバコも最悪の評判で、雪乃と居る時は吸わないようにしているし小町にまでボロクソ言われる始末だ。キザな台詞もあの人が言えばやはり恥ずかしさも感じないし、威風堂々とした態度はむしろ好印象だ。

 

 結局のところ、何を言ったかより誰が言ったかが大事なのだろう。

 

「先生」

 

「なんだ」

 

 今日も今日とて放課後の元奉仕部部室。仕事はあるが後回し。目の前の生徒のお悩み相談が優先だ。これは見事な残業コースだな、俺って立派な社畜だよね。

 

「じ、じぶんさがしのた……」

 

「え?」

 

「き、昨日悩みの解決を手伝ってくれるみたいなこと言ってましたよね」

 

「あー、自分探しの旅の手伝いするって言ったな」

 

「自分探しの旅とは私言ってないから……」

 

 ふいっ、と猫のようにそっぽを向く。その横顔は少しだけ紅くなっていた。

 どうやら百合ヶ丘も昨日の会話を思い出して恥ずかしく思っているらしい。普段わりとツン気味の人が恥ずかしがるのっていいよね。雪乃には及ばないが中々かわいい反応だ。

 

「それは良いけど、その、手伝いって何をしてくれるんですか」

 

「そうだな……」

 

 自分探しの旅のお手伝い。

 そもそも俺に自分探しの経験がないものだから、到底何から手をつけて良いか全くもって分からない。自転車と財布だけ持ってあてもなく走り回ってみたり、ダーツの旅形式で見知らぬ地へ飛んでみたり、はたまたひのきのぼうと数百ゴールドを持って魔王を倒しに行くのも当人が「自分探しの旅」だと言い張ればきっとそうなるのだろう。それ自体否定はしないが、この類の旅をするのは大抵の場合は自己満足か自分が見つかってる人間がやるものだ。

 そして、今回やるべき自分探しの旅とはあくまで比喩的な言い回しだ。

 もちろん決して本当に旅立つわけではない。

 

 彼女が楽しいと思えるように、彼女の心が摩耗しない生き方を見つけるという、自分を変えるという話なのだ。しかし、必ずしも変わる事は正しいとは限らない。進化とは退化と同義であり、知能を手に入れた人間は力を失った。誰かがいつか、変わらない事は甘えとも逃げとも言っていた。俺は変わらない勇気や自己肯定もまた正しいと言った。結局答えは、よく分からない。今でもよくわからないままだ。

 だけど、今だからこそ言えるのは自分を変えるのも自分を変えないのも、そう大差ない。変わるためにとうするか、変わらないためにどうするか、簡単に出せる結論よりそれまでの過程で得られるものがきっと大事なのだろう。

 

 さて長々と考えた結論として。

 

「自分探しって、何すればいいんだ?」

 

「……先生、質問を質問で返してはいけないと教わらなかったんですか」

 

 百合ヶ丘は慣れてきたのか、呆れながらも適応してきたのかキレの良いツッコミを返してくる。

 

「昨日も最初にここにきた時、先生は今みたいに適当に返してたし」

 

「そうだっけか」

 

 惚けたふりをすると、冷たい視線をこちらに返す。つり気味の目は完璧な二重瞼の天井で麗しく形付いており、若さの裏支えであるキメの細かい肌は薄化粧も相まってよく見える。やはり凛とした美女が真顔になると迫力がある。

 

 それにしてもどうしたものか。

 こいつの場合、文化祭時の相模何某みたいに役職が欲しかったり頑張る自分に酔ったりするタイプではなさそうだ。失敗体験や成功体験で荒治療をするような悩みでもなく、何から手をつけていいのか分からない。

 

 このまま考え続けても答えは出ないと思った。

 俺はそっと視線を彼女に向けて、何か考えてくるからとりあえず今日のところは帰ろうじゃないかと言おうとした時だった。

 

「はっちーがお悩み相談やってるって聞いたんですけどー」

 

 ノックも無ければ躊躇も無かった。静かだった教室に突然の音。ドアは勢いよく開け放たれて、向かい側にはゆるふわウェーブの現代風清楚系ギャルが立っていた。



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