おじさん(童貞)魔法使いになっちゃった (サトシ16852)
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1話
突然だが俺は今日で30を超えてしまった。この世に生まれたからには必ず歳を取るのは必然であり、この日本に生まれたら皆30を過ぎるだろう。だが俺は違った
ただ皆との違いは、俺は童貞であることだろう
今まで生きてきて悲しい事に異性との関わりもなく、それどころか友人もいなかったし、会社に就職してただ真面目に働いていただけの人生であった。異性との関わりがなくともお金を払えば体験できる店もあるが、金を払ってまで童貞を捨てたいと強く願ったこともない
特に趣味があるわけでもなく今まで働いて得た金も余り、今年思い切って家を買った。そんな新居で一人寂しく過ごす俺は誕生日にも関わらず誰かが祝ってくれてるわけもなくいつもと変わらない毎日を過ごしていた
仕事をして、帰ってから本を読み飯を作って食べてからまた本を読む。同じ毎日の繰り返しで変化のない人生。若者から見たらもうおじさんなのである。今までの自分の生い立ち遠思い返して少しは趣味でも探してみるかと思っていると眠気を感じ読んでいた本を閉じ本棚に入れようとした
その瞬間自分の身体が異様に軽くなったような感覚になりなぜかなんでもできる気がした。あまりにも突然で自分でも何が起きたかわからないがものすごく気分が高揚しアホなことに昔読んだ少年誌で連載していた七つの玉を集めて願いを叶えるストーリーの主人公の技の何とか破の構えを取った
そん事をしてもビームが出るわけでもないのにそんな構えをとったことをひどく後悔した。一人でやったから良かったものの誰かが見ていたらあまりの恥ずかしさに首を吊るところだった
いつまでも恥ずかしいポーズをしても意味がないので構をやめようとした瞬間にものすごい光が手から前方に放出された。それはまるでさっき自分が思い描いた漫画の技であった
そのビームが自分の家を突き破り天に登っていったのを唖然として眺めていたが、ふと我に帰るとどでかい穴の空いた家の中にポツンと立ったおっさんの図があった
あまりにも非現実的な光景に混乱しながらも状況を確認するために壁に開いた穴二近づき何度も触ったり穴から外に出たりして確認をした。そしてようやく現実を受け止めた俺は絶望した
新居に馬鹿でかい穴が開いたのだ、誰でも絶望するだろう。体に力が入らず膝から崩れ落ちた。そしてただ願った
時を戻したい
次の瞬間時計の秒針が反対側に回り始めあたりの瓦礫が浮き始め開いた穴に戻っていき、しばらくすると壁の穴が完全に塞がった。本日n回目の驚きにまた固まる
そして思考停止した俺はベッドに横たわり寝た
あれから数日が経ち自分の不思議な力について色々検証してみたが結論何でもできる。時を戻したりだとか未来に行ったり、それだけでなく並行世界にも行けるし、しかも欲しいものがすぐ出せる。
むかし誰かが言っていたことを思い出した。童貞のまま30を過ぎると魔法使いになる。そんなの作り話に決まっているしあまり真剣に聞いていなかったが、現に不思議な現象が起きた原因がそれしか見当たらない。
そして魔法使いになったからか幽霊が見えるようになってしまった。幽霊は怖いイメージがあったが実際には見てみるとそこら辺の人奴あまり変わらない。最近は新しい発見だらけだ
そしてせっかくこんな能力が手に入って一番にやる事は決まっている。
俺は清々しい気分で会社に退職届を叩きつけた
退職した後、心の余裕ができた。自分を縛っていたものが無くなったからだろうか?それとも生きていくことが簡単になったからか?そんなことを考えていたら何故か急に体を動かしたくなってきたので散歩を始めた。
特に何の目的もない散歩であるがゆえに今まで見てきた道も細かなことに注目をしながら歩くとまるで別の道のように新しいものが見えてくる。見るもの全てが美しいとは聞いたことがあったが、まさに今がその瞬間だろう。
周りの物に感動して歩いていると軽い何かにぶつかり倒れた音がした。確認してみるとそこには目のハイライトの消えた紫髪の少女が仰向けで倒れて動かなかった。一瞬死んでしまっているのかと思ったが普通に呼吸をしていて安心した。
ランドセルを背負っているのが見えたから小学生なのだろう。倒れた時それがクッションになったみたいだ。小学生を殺してしまったら全国の紳士に処刑されかねないので焦ってしまった。ただ倒れた少女は一向に起き上がらずにこちらをただ見ていた。
よそ見をしていたこちらが明らかに悪いし、少女を突き飛ばして詫びの一つも入れないのは人としていかがなものかと思い彼女を起き上がらせてから謝った。今まで無表情だった彼女は俺が謝った瞬間に何故か泣き出してしまった。
俺はこの光景を客観的に見て冷や汗をかいた。おっさんが少女に話しかけて彼女がそれに怖がって泣いてしまっているみたいではないか。いや実際そうかも知れないが違うと思いたい。周りからの目が、世間の目が怖くて慌ててご機嫌を取るために能力で出した飴玉を渡して急いで帰った。
今度から散歩をする時は能力で人がいないか確認しながら歩こう
その後日行きたい場所に一瞬で行ける事に気がついた。折角いい能力を使えるなら遠くに行こうと思い海外に不法入国しまくっていた。ヨーロッパに中東など一週間程世界的を回った
世界旅行をしてまた新しい発見があった。当たり前だが幽霊が海外だと外国人なのだ。海外にも幽霊がいる事に感動したり、途上国に行った時は治安の悪さに驚いた。
一週間ぶりに日本に帰って食べた味噌汁は涙が出るほどうまかった。向こうでは美味しいものもたくさんあったが、やはり食べ慣れた味が一番だ。
新しいことに挑戦する楽しさと素晴らしさ知らないことを知る嬉しさ、いろいろ学べた有意義な旅だった。また旅行に行こう
完全にやりたいことを中心に生活をして過ごしていると、同じことを繰り返すことが本当に自分の好きなことだと理解できる。そんな俺が毎日やっていることは近場の大きな橋から街の景色を眺めることである。
近くの広場には親子揃って遊んでいたり、休憩中のサラリーマン、立ち並ぶ家々。このなんでもない景色が、この街が好きなのだろう。
数年前、この町で大規模な火災が起きた。流石に同じことは起きないと思うが念のためこの街の中で壁や家が事故などで壊れないように自分の魔法でこの街を覆った。
ふと、隣を見ると修道服かなんかを着た女の人の霊がこちらを見ていた。幽霊に見つめられたことは何度かあったがなぜか彼女の視線は背筋に嫌な汗が垂れた。
すぐに手に出した塩を全力で投げつける。すると修道服を着た女性の霊が消えた。
そしてさっきの霊が消えて一安心し完全に油断していた。こんなことを外でやったのだ誰かが見ている可能性があるにも関わらず。
「何をしているんですか?」
安心した瞬間に話しかけられ、変な声を上げて驚きながら振り向いた。そこにはこの前ぶつかってしまった少女がいた。
◼️
私はある家の養子になった。今まで世界の中心だった親がいきなり変わった。いきなり知らない人間が親となり今まで一緒にいた人間奴離れる。良く一緒に遊んだ姉とももう会っていない。
私がこの家に養子になってからはひどいものだった。私の体に無理やり魔術を適合させるために部屋一杯になるなるほどの甲殻類のような蟲が、私を包み込み、私に這い、私を犯した。
何度も何度もこの繰り返し、最初は気が狂うかと思った。むしろ狂ってしまった方が楽だったかもしれない。逃げようと思ったこともある。けれどお爺様と仲が悪かった雁夜おじさんか惨たらしく死んで行くのを目の当たりにして私は確信した。
お爺様には逆らえない。逃げられない。私は言いなりになるしかない。助けて欲しかったが魔術の家のことなんて誰にも会えない。八方塞がりな状態に気づいた私は幸せを諦め心を閉じた。
それからは楽だった。何をされても苦ではなく、言われた通りに生きていけば良い。それが私の全てになってしまった。
学校で他人が楽しそうに家の話をしているのを聞いてももう何も感じない、感じれない人を恨むことも人を羨むこともやめてしまった。
そしていつもと変わらない毎日、私は学校の帰り道人にぶつかった。避けようと思えば避けれた、ただそんな気が湧かなかった。今まで人を避けたことがないし勝手に相手が避けてくれていたので彼も避けるだろうと思っていた。
けれど彼は私に気づかず辺りをまるで輝いた物を見るかのような目をしていた。私には理解できなかった。道の隅に生えている草や花そんなものを見ても感動しない。何よりあの日から私の世界から色が消えてしまった。
私は何もする気が起きずただ彼とぶつかった。体格差のせいか私はすぐに後ろに倒れた。それに気づいた彼は私を見て手を伸ばしてきた、その光景が私のトラウマを刺激する。
伯父様に弄ばれたように彼もまた私の体を弄ぶのだろう。そう思っていた。
だが彼は両手で寝たままの私を持ち上げて立たせた。それが私にとってとても新鮮な体験だった。お爺様の連れてきた男の人は皆私を殴ったり、泣き顔を見て笑ったり、そんな男性しか関わったことしかなかった私には彼の行動がとても特別に感じた。
そして彼は心配そうな顔をして私に言った
「大丈夫?怪我とかしてない?」
彼が何と言ったか理解するのに時間がかかった。数年前に養子になってから聞いたことのなかった私を心配する言葉。忘れかけていた人としての優しさをこの瞬間私は思い出した。
涙が止まらなかった。今まで誰一人として心配してくれた人がいなかったのだから。人に心配されることの喜び、人に認識されたと言う事実が私の心を揺らす。
勝手に泣き始めた私を見た彼はどうしたらいいのかわからないように当たりを見渡しあたふたしていた。そして彼は何かを思いついたようにハッとして握り拳を私の前に出し、その拳を開くと何処から出したのかわからない飴玉が手のひらにあった。その飴玉を強引に私に渡し彼はまた私に謝った後に走って何処かに行ってしまった。
残された私はただ走り去っていく彼の背中を見続けた。そして完全に姿が見えなくなり私は手に持っている飴玉を眺める。何の変哲もない青色で透明な、まるで宝石のような美しい飴玉だった。
そしてその飴玉を自然と口に運んだ。そして口いっぱいに広がる甘い味。美味しい、素直にそう思えた。もう私にとって食事なんて辛いものでしかなかった。料理の中に毒や得体の知れないモノが入れられ美味しいなんて感じたことがなかった。
口の中でコロコロと転がる飴玉がどんどん小さくなっていった。飴玉を舐めれば無くなってしまう。当たり前のことだけれども私にはたまらなく悲しく感じた。
この飴玉がなくなれば彼がくれた優しさの証が消えてしまうような気がして、せっかく見つけた人の温もりがなくなってしまうような気がしてならなかった。ついに飴玉が口の中から消え私は酷い喪失感に襲われた。
勝手にこの世界に絶望し勝手に諦め心を閉ざした私に、彼は私に希望を見せた。その希望を見た瞬間、世界に色が戻った気がした。ただ今また色の無い世界の中私は一人残された。
そして私は初めて自分の意思で自分の行動を決めた。彼を探す。一度知ってしまった感覚は忘れられず、人の暖かさ、優しさを感じさせた彼を。もう一度会ってこの世界に希望がある事を確かめたかった。彼の優しさはあの飴玉のように甘かった
それから私は毎日彼を探した。私も馬鹿なことをしている自覚もあるし無謀だということはわかってる。一度会っただけの普段なにをしているのか何処に住んでいるのかすら知らない。
ただ私は諦めなかった。諦めたくなかった。世界に色が戻った瞬間、もう一度あの瞬間を見たかった。色を見た今ならわかる。私にぶつかる前に彼がしていた目は彼もまた色を見つけ、感動していた。それなら彼はその世界を見るために外を歩いていると確信した。
そして彼を探して一週間が経った。私が学校の帰りに行く必要もない場所に赴いて辺りを見渡す。相変わらず彼は見つからない。ふと視界に大きな橋が入った。あの橋はこの街を見渡せるからあそこに行き彼を探すことにした。
橋に着いた時町を見下ろす前に彼を見つけた。間違うはずもない。特別優れている容姿をしているわけでもなかったけれど私には忘れられない人。
ただ私が見つめた時に彼はとても優しい目をして街を見下ろしていた。そんな彼に話しかけようとした瞬間、彼はいきなり大量の白い粉なのようなものを何もない空間に全力で振りまいた。
あまりに突然な行動に驚いてしまった。彼は一体何をしているのだろうか。そんな興味が尽きなかった。彼が息を吐いて落ち着いた頃を見計らって声をかけた。
「何をしているんですか?」
ヒエッ!と変な声を上げて驚きながらこちらを確認した彼は何故かホッと安心していた。
「君は確かこの前ぶつかった、、」
「間桐桜です」
「桜ちゃんか。あの時はごめんね、ぶつかる時丁度よそ見をしていてね。それとさっきの事は忘れてくれると嬉しいかな」
彼はあまりさっきのことは触れてほしくはないようだ。私もいくら気になることでも触れて欲しくないことまで聞く気はない。そのかわり私はまた気になったことを聞いてみた。
「この一週間ほど何をしていたんですか?」
私が彼を探していた間彼が何をしていたのか、何をみたのかそれを知りたかった
「ああ、この一週間海外旅行に行ってきたんだけどなかなか楽しかったよ」
「海外ですか?国内ではなく?」
「うん、国内でも良かったんだけどなんだか海外に行ってみたくなってね。いろいろ勉強になったよ。人の価値観の違いや文化の違いとか実際に行ってみないとわからないことはたくさんあるんだ。ってごめんねこんなこと言ってもまだわからないかな?そうだ、トルコに行った時に食べたトルコアイスがすごく美味しかったからたくさん買ったんだけど食べるかい?」
話していることは小学生の私にはわからなかったけれど彼が好きなことをして生きていることが話している彼の顔からもわかった。
そして彼を見ていると久しく忘れていた感情が顔を出す。羨ましい。妬ましい。そんなことを思ってはいけない、そんなことはわかってる。けれどもそう思わずにはいられない。
この時私は何故彼にだけこんなに感情が出たのか疑問にも思わなかった
一旦落ち着いてから、また何処から出したのか分からないアイスを受け取りプラスチック製のスプーンでアイスを持ち上げるととっても伸びた。
それを見ていた彼は楽しそうに笑った
「それ、面白いよね。俺も初めて見たときは驚いたよ」
まるでイタズラがうまくいった時の少年のような無邪気な笑みで私を見る。そんな彼を無視してアイスを頬張る。
「美味しい」
自然と言葉が出た。それからは私は無言で黙々とアイスを食べ始めた。それをみた彼も満足そうに笑い黙々と食べ始めた。
「普段は何をされてるんですか?」
「今までとってもつまらない毎日の繰り返しだったんだけどあることをきっかけに好きなように生きようと思ってね。ついこの前仕事を辞めたんだ。それから気分でやりたいことをやってるかな」
「お金とか大丈夫なんですか?」
「あー、まあ、大丈夫。あまり大声で言えないけどね」
果たしてそれは大丈夫なのだろうか?
「おじさんそろそろ帰ろうかな」
せっかく会えたのにまたまた会えなくなってしまったら困る
「またお話聞かせてもらってもよろしいですか?」
「こんな話だったらいくらでも」
また会う約束をし聞き忘れたことがあった
「それと何とお呼びすれば」
「あー、おじさんでいいよ。それじゃーまた話そうね桜ちゃん」
最後ははぐらかされてしまったけれどまた今度聞けばいい。そう、今度
そして私は確信した。彼は私を見てくれるその間だけ私の世界に色が戻ると。
桜ちゃん設定重くね?
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2話
毎日のようにこの街を散歩しているため、この街の知らない場所はほとんどないと思う。それを確かめるために自分で地図を作ってみた。既存の地図を見るのではなく、自分で見たものを自分で作る楽しさというものがある。
地図を作ってみると都市部はほとんど埋まっているが一部空白のままである。確かこの部分は森の様な場所だった気がする。今日はそこへ行ってみることにしよう。
この森は街の端のほうにあるため結構歩くことになってしまった。魔法使いになってからあまり疲れたことはないがここまで歩くと精神的に疲れてくるのはやはり歳を取ったからだろうか?
何だかんだで森についてしまった。あまり考えずにきたけれども普通の靴で大丈夫なのか?泥だらけになってしまうかもしれない、そう思ったが魔法を使えば一瞬で綺麗にできることに気づいた。
もう靴の心配はしなくていいのどんどん森の中へ進んでいく。さっきまで明るかった筈が今では薄暗い。
ここまで来てふと思ったが、猪とか熊とかいるかもしれない。あまりにも深い森だから動物がいても不思議ではない。
今こそどんな魔法があるのかアニメや映画、小説を読みまくった成果を見せる時。いくぞ初の探知魔法発動
うわ、気持ち悪い。脳に直接情報が入ってきて変な感じがする。この魔法ダメだ。視覚化する魔法に変えた方が良いな
それはいいとして、さっきの魔法で確認した感じ大きい動物はいないようだが、なぜか人の反応が三つもあった。こんな森の中で人がいるとは思わなかった。キャンプかな?もしかしたら遭難してるのかもしれないと思い急いで向かう
反応があった場所の近くまで来たらひらけた場所に出た。そして正面には物凄い立派なお城があり自分の目を疑った。遭難ではなかった
何故こんなところに立派なお城を構えているのかとても気になった。食糧を買いに行くときなんか特に
内装とか見てみたいな。中の人に聞いてみよ
お城の正面に移動し、インターホンがないか探してみたが特になかったので、大きな扉を軽く叩いてみる
しばらくすると赤目のキリッとした感じの赤目の外国人メイドさんが警戒しながら出てきた。本物のメイドさん?マジ?初めて見た。てかすげー美人
「どうぞお入りください」と言いながら扉を押さえてお城の中に入れてくれた。
中に入った瞬間、見た光景にあまりの感動に絶句してしまった。
正面の大きな階段、天井の絵、ホコリ一つない綺麗な大理石の床の上に真紅のカーペットこんなに綺麗な物を見たのは初めてだった
カーペットの上を歩こうとしたが自分の方が結構泥に汚れていることに気づき、すぐさま魔法で綺麗にした。念には念を入れこれ以上ないほど綺麗にする。なんか緊張してきた。軽い気持ちで見に来ただけなのに
こちらを待たずにどんどんと奥に進んでいくメイドさんに気づき、追いかけようとするも、この綺麗なカーペットの上を歩くのは気が引ける。ただ進まないと内装が見れない
意を決して一歩を踏み出す。足の裏に伝わる柔らかな感覚を感じ彼女を追いかけた。自分の足跡がついていないかを気になりすぎて何度も後ろを確認したのは言うまでもない
歩いている途中メイドさんと話をしたけれど、警戒されてあまり話してくれなかった。悲しくなってきた
しばらく後ろを歩いていると綺麗に装飾された扉の前に着いた。そこにはもう一人メイドさんがいて「こちらで城主がお待ちです」と言って扉を開けてくれた。三人しかいないはずなのに二人メイドさんか。怖いおじさんじゃなきゃ良いけど、と思いながら取り敢えずお礼を言って中に入る。
そして待っていたのはヒゲの生えた怖いおじさんではなく可愛らしい女の子だった。これには自分の目が点になっり固まってしまった。想像していたことと正反対だし
いきなり失礼なことを聞いてしまって彼女を怒らせてしまったけれど謝ったら許してくれた。彼女のりょうしんはすでに他界してしまったらしく、正真正銘の城主だそうだ
彼女は何故か俺が魔法使いだと知っていたようで魔術師さんなんて呼ばれた。もしかして彼女も魔法使いなのだろうか?聞いてみたが怪訝な顔をしながら違うと言われた。
魔法と魔術は違うらしい。魔法は根元とか言うよくわからないものに到達したものだけが使用できるものらしい。素人の人間が使えるようなものじゃないから、あなたの使っているものは魔術だって言っていた。初めて知ったな、そんなこと
彼女、イリヤと言うらしいが俺の知識のなさを知り魔術について様々なことを教えてくれた。大半のことはよくわからなかったが魔術師はこの街に結構いるらしい。
魔術師の家系の生まれであるらしく幼い頃から英才教育を受けてきた彼女は人間とホムンクルスのハーフらしい。ホムンクルスってのは人造人間。ハーフだから成長しないらしい。大きくなったら絶対に美女になるのに残念
暫く世間話ををしていたらメイドさんが紅茶とお菓子を持ってきてくれた。何というか年中麦茶を飲んでいる俺にとってお上品すぎて少し困惑したものの紅茶もお菓子もとても美味しかった。お菓子作りでも始めてみるか
話をした後にお城の中を見せてもらった。
すごかったです(小並感)
もう外は真っ暗だ。そろそろ帰る事にした。ディナーまでご馳走してもらたのでお返しの品を送ろうと思ったけれど良いもの持ってたかな?そういえば宝石に魔術を込める魔術しがいるって言ってたな。それにしよう
宝石は持っていなかったから魔術で生成しよう、形は身に付けられるやつのがいいかな?子供だしブレスレットでいいか
魔術はバレちゃいけないみたいだから、彼女にバレないように鎖型の鉄に生成した宝石を埋め込み魔術を込める。魔術師は危ないみたいだから身代わりみたいな能力を付けとけばいいだろう。
渡したらイリヤちゃんは受け取ってくれたけど、今思うとおじさんが生成した結晶とかいう汚い物を渡してしまった気がする。よく受け取ってくれたな
メイドさんに送り迎えをしてもらってお城を出る。振り返ると明かりのついたお城が見えて、昼には見えなかった一面を見ることができた。
帰りは暗いから歩かずに魔術でワープして帰る。けどその前にいつもの橋からの景色が見たくなったので橋にワープ
いつもの橋に移動して夜景を眺める。さっき見たアインツベルン城に比べたら見劣りしてしまうがこの平凡な夜景が大好きだ
明日は公園で桜ちゃんとお話しする約束したしそろそろ帰るか
◼️
この街に来て一年ほどたち、私はいつもと変わらない毎日を過ごしていた。前回の聖杯戦の続きをするために私はここに来た。ただ聖杯戦争は始まらない。他の魔術師を殺すように教育された私にはこの平穏な変わらない毎日がつまらなかった
自室のベットにうつ伏せになりながらある人物の事を考える。衛宮士郎。私の父である衛宮切嗣が養子として育てた義理の兄弟であり最後の家族。切嗣が私を捨てて養子として育てた人間にとても会ってみたい
そんな時、何処からかわからないけれど確実に見られていると感じた。まるで心臓を鷲掴みにされたような感覚に陥る。この城には魔術対策の結界を張ってある。それを突破してくるなんて只者じゃない
冷や汗をかいていると、が扉を勢いよく空いた。
「大丈夫ですか!」
「大丈夫よ、セラ。ただの索敵魔術みたい。それにしてもいきなりアイツベンルンに魔術を仕掛けるなんて、とんだ命知らずね」
「ええ、ですが御相手は相当の手練と見た方がいいでしょう。この結界を突破する魔術の使い手ですから」
動揺するセラ、それも仕方のないことかもしれない。アインツベルンの結界を破るほどの手練れなら、聖杯戦争も始まってすらいない状態で仕掛けてくるなんて愚行を犯すとは思えない
あまりにも理解不能な相手の行動に私たちはとりあえず城の中から周囲の警戒を行った。
しばらくすると一人の男性が森から走って出てきた。
「ねぇ、セラ?あれが魔術師?」
「わかりません、、こんな所に一般人が入ってくるなんてあり得ないはずですが、彼の服装は魔術師と言うよりも健康を気にしてウォーキングをしている一般人にしか見えませんね」
そう、とても魔術師とは思えなかった。
開けた場所に出た彼は私たちの城を見ると唖然として立ち止まってから何故か安心したようで、しばらくすると城の周りを回り始めた。
いまだに敵の行動が理解できない。周囲を回っているだけで魔術で陣を書いているわけでもなく、ただ様々な角度から城を見ていた。
一周回った後、彼はどんどんと城に近づいてきて、私たちは敵が仕掛けてきたのかと思って身構えていると扉を叩かれた。それも壊すためではなく呼び出すための
これには、皆が肩透かしを食らった。律儀にもノックをしてきたのだ
「どういうことでしょう?まさか彼は私達を倒しに来たわけではない?」
「狙いは分からないわ、けれどもあんな律儀にノックされたらこちらも出迎えるべきね。セラ、私は客室で待つから彼を連れてきて」
「よろしいのですか?」
「イリヤ、私も反対」
「セラもリズも心配しすぎよ、もし彼が何かしてきても人間が私たちに敵うはずがないじゃない」
こう言ったけれど私は少しこの状況を楽しんでいた。いつもと変わらない平凡な毎日に飽きていた私はこの不測の事態に胸を躍らせていた。
「、、、わかりました」
渋々私の言うことをきいてくれたセラは扉をノックした彼の元に向う。そして私は客室へ向かった
私は言われた通り、いきなり現れた男性の元へ向かう
戦闘タイプではないがホムンクルスある私に人間では敵わないだろう
扉の前に着くと私は覚悟を決めて扉を開いた
「え、外国人?えっと、、ハロー、ナイストゥミートゥー」
あまりにも間抜けな挨拶に困惑してしまった。慌ててあまりにも下手な英語で挨拶をしてきたら誰でも困惑するだろう。しかもアインツベルンの本拠地はドイツである。英語がわかない訳ではないが彼の挨拶はあまりにも滑稽だった
「日本語で通じます」
「あ、ありがとうございます」
恥ずかしそうに笑う彼はまるで少年のような笑みだった
「本日のご用件は?」
「えーと、このお城の中を見てみたいのですが、よろしいでしょうか?」
「中ですか?」
思わず聞き返してしまう
「はい、偶々この城を見つけて周りを見ていたんですがとても良いデザインだったので内装も見てみたいと思ったんですよ」
私は確信した。彼はおそらく一般人だ。こんな魔術師は存在しない。ただ万が一ということもあるので警戒は解かない
「わかりました。どうぞお入りください」
「良いんですか?ありがとうございます」
「その前に、この城の主人があなたと会いたいそうなので客室までご案内いたします」
城の中に入り私は彼の前を歩く。
何故か後ろから足音がしないので振り返ると、ゆっくりとカーペットに足を乗せて自分の足元をチラチラと見て足跡が付いていないかを確認していた。
少し歩くと慣れたのか私の後ろにぴったりとついて話しかけてくる
「メイドってお休みとかあるんですか?」
「ありません」
「え、ブラック?」
「違います」
「掃除とか買い物とか大変じゃないですか?」
「いいえ」
何故こんなにも下らない質問ばかりするのだろうか?適当に返事をして歩いていると客室に着く
「ここで城主がお待ちです」
扉を開けて彼が入れるようにする
「ありがとうございました」
彼がそう言って中に入った後扉を閉めた。
「あの人、どんな感じだった?」
扉の隣にいたリズからの質問に私はこう答えた
「わかりません」
本当に変わった人間ですね
しばらく待っていると扉が空いた。
そして開いた扉から入ってきた人間は一度も見たことがない男。変わらない毎日にはいるはずのない人間が目の前にいる。
「ようこそアイツベルン城へ、歓迎するわ魔術師さん」
あなたは一体何者なの?
「えっと、君のお父さんかお母さんは何処かな?」
「なんでそーなるのー!」
「うわっ」
「私よ!私がこの城の主人!両親はもう死んじゃったから私が正真正銘の城主なの!」
「、、ごめん」
いけない、つい頭に来て叫んじゃった。相手もドン引きしてるじゃない!
「ま、まあ良いわ、寛大な私は許してあげる。感謝しなさい」
「うん、ありがとう」
ノータイムでの返事?彼プライドがないの?変わった人間
「ところで俺のこと魔術師って言ってたけど何でわかったの?もしかして君も魔法使えたり?」
魔法?
「貴方もしかして魔法と魔術の違いを知らないの?」
「え?違うの?」
呆れた。そんな知識もなくアインツベルンの結界を破るほどの魔術を使ってるなんて
「誰に魔術を教わったの?」
「誰にも教わってないけど、気づいたら勝手に使えるようになってた」
「それはいつ頃からかしら」
「えっと、先月くらいかな」
「ふざけないで!それが本当なら魔術師なんてそこら中にいる事になるじゃない!」
「ご、ごめんなさい」
嘘をついているわけではなさそうね。その方がおかしいけれど
「貴方、素人みたいだから教えてあげるけど魔術はそう簡単ににできるものじゃないの、自分の一族が数十世代もかけて少しずつ成果をだしていくもので、たかが先月使えるようになったからってそんなに使えるものじゃないわ」
「それに魔法なんて夢のまた夢ね。覚えたての魔術師が魔法なんて使えるわけないわ」
「ヘェー、そうなんだ」
こっちは存在自体認めたくないような輩だと言っているのに、本人はこんな適当な返事をしているけれど、私の話をちゃんと聞いているのかしら?
「君達の他には魔術師はどの位いるの?」
「今この街には主に三つの勢力があって、私たちアインツベルンに遠坂、そして間桐、その他にもいるけれどそこまで大きな力はないわね」
「アインツベルンにトオサカ、マキリね、覚えた」
本当に何も知らないみたいね。と言うかまず相手の目的を聞かなきゃいけないじゃない。
「本当は最初に聞きたかったけど、貴方、何のためにこの城に来たの?」
「えーと、今地図作ってるんだけど、この森の方を書いてなかったから歩いてて、そしたらこんな大きな城があっだから、せっかくだし中に入りたいと思ったから」
「じゃあ、私たちに危害を加える気はないってこと?」
「うん」
まあ、そんな気はしてたけど
「さらにしても何故地図なんか作ってるの?このご時世簡単に地図なんて手に入るのに」
私は彼の行動を理解できなかった
「楽しいからだよ。歳をとるとね周りのものが美しく見えたり、自分で何かをするのがたまらなく楽しくなってくるんだ。君はまだわからないかもしれないけどね」
彼は楽しそうに言った。子供が新しいおもちゃをもらった時のように
それから、私は彼に魔術士について教えたり、世間話や城の案内、ディナーをご馳走した。
「外も暗くなってきたし、そろそろ帰るよ」
「そう、あなた一人で帰れる?もし駄目そうならメイドが送るけれど」
「大丈夫、一人で帰れるから。そうだ、これ今日のお返しって事で」
そう言って彼は私にブレスレットを渡してきた。私はあまりつけたことはないけれどこれを機につけてみても良いかもしれない。
「気が向いたらここへきて良いわ、あなたの話とても面白いもの」
「ありがとう、気が向いたらまた来るよ。じゃ、今日はお邪魔しました」
私は部屋に戻った後、彼から貰ったブレスレットを眺めていた。綺麗な宝石が埋め込まれていて素敵なデザインをしている
これは証しだ。変わらない毎日から、少しだけ変わり行く毎日への
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