乙女ゲームに登場する文学少女である伯爵令嬢に転生していた..... (Brahma)
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第1話 出会い

もし生まれ変わることができるならもう一度あの子と友達になりたい....

 

私は佐々木敦子。小学校のころから、私は友達作りが苦手だった。家では、アニメを見たりまんがや本を読んでいるのが好きだったし、学校でもそれは同じ。運動が得意ではないし、将棋や囲碁にも関心がない。音楽が得意でもなく好きでもないから吹奏楽部にももちろんはいらない。結局クラブ活動はどこにもはいらなかった。その代わり学校図書館はわたしの楽園だった。

何時間でも誰もいない図書館で読書していられた。

読書に夢中になっていて気が付いたら橙色の西日が窓から差し込んできているなんてふつうにあった。

見回りの先生が

「佐々木さん、まだ図書館にいたの?下校時刻はとっくに過ぎてるわよ」

といわれて追い出されるのが珍しくなかった。

本の世界は素晴らしい。さまざまな物語、世界の様々な面白いもの、多くの偉人...わたしをいろんな場所へつれていってくれる。

読書のおかげで、成績はトップになることはなかったものの、5位~10位以内にははいるほどには、そこそこよかった。

しかし小学校のスクールカーストではとりたてて得意なものがないわたしは、下位だった。わたしは変り者あつかいで、気持ち悪いとか言われ続けた。

靴を隠されたり、笛やハーモニカ、はみがきセットなどいろんなものをいじわるで隠されたりした。ひどいときは好きでもない男の子の口にわたしの歯ブラシをつっこまれたことがある。

 

そういうことが繰り返され、わたしは、ますますだれとも話せなくなった。

そうして迎えた小学校の卒業式。下級生の

「もうすぐ中学、いいですね。6年生のお姉さん...。」

という送る歌を聴いていたときのわたしの気持ちはようやく終わったという安堵だった。

もしかしたら小学校区を超えた中学校ならわたしのような変り者がいて、気の合う友人ができるかもしれないとかすかな期待をいだいていた。

 

しかし、いよいよ中学校。1年3組になった。クラスメイトの自己紹介。覚える気がないからうわのそらで自分の番が終わると図書館に行くことや自宅に帰ってアニメやまんが、ゲームをやることばかり考えていた。

 

中学に入って数週間が過ぎる。ホームルームが終わると図書館に行く。小学校の時よりも高度な内容の、市立図書館にならぶような内容の本が並ぶ。

読書好きなわたしにとっては小学校の延長でむしろ喜ばしいくらいだ。

図書館から本を借りて玄関で靴を履き替える。

吹奏楽部の楽器の音が聞こえる。

(あ~この曲聞いたことがある。アニメの曲かな...演奏できたら面白いだろうけど...)

「何某中、ファイト...ファイト....。」

運動部の掛け声が聞こえる。

ポコーン、ポコーン

ラケットにはじかれるテニスボールの音。

それを聞き流して横目に見ながら校門へ向かう。

本当は部活に入ったほうが友人ができるのかもしれない。文学部、囲碁部、科学部などわたしが入ってもおかしくない文化部があっても、そもそも部室をたずねる勇気や気力がない。

帰宅部であっても放課後にファミレスや喫茶店に行こう、クレープ買いにに行こうという女の子たちの声を聴きながら、いいなぁ...楽しそうだな...と思っていた。

 

そんなときだった。

「うわあああああ....。」

女の子の声だった。その次の瞬間重いけどやわらかいものが体全体にぶつかる衝撃が走った。

一瞬意識が飛んだ。

気が付くと必死に

「ううう....ごめんなさい、本当にごめんなさい。死なないでえ~お尻で人を殺しちゃうなんて~」

涙と鼻水でぐちゃぐちゃな表情をした顔があった。

ぼさぼさなくせっ毛だが、どうやら女の子のようだった。

「だいじょうぶです....。」

「ごめんなさい。」

少女は深々と頭を下げる。

「あなたは...どうしたの??」

少女は恥ずかし気にもじもじしながら横向きにほおにゆびをあてて

「わたし、木の魅力に誘われてつい登りたくなっちゃって...はじめはうまく登れてたんだけど調子に乗って登ってたら...足を踏み外して...やっぱり靴をはいたままじゃ...じゃなかった...貴方を下敷きにしちゃって....本当にごめんなさい。」

「....わざとじゃないのだし...私は大丈夫なので....。」

よく見ると制服とスカートが汚れている。木から落ちた時にこすったんだろう、擦れた痕がある。

「あなたにけがは?」

と問い返す。

「ありがとう。佐々木さんは優しいんだね。」

ぐちゃぐちゃな顔がようやく笑顔になる。

「え...どうして私の名前を知ってるの?」

「え....知ってるよ。だってわたしたちクラスメイトじゃない。」

「....!?」

「わたし...同じクラスの子の顔も名前もあまり覚えていないの。ごめんなさい。」

 

「そうなんだ。わたしは同じ1年3組の内野真樹子。はじめはマッキーというあだ名だったけどいつのまにかモンキーになったりしてる。失礼しちゃう。確かにわたし木登りはすきだけどは猿じゃないのに...」

すこし口をとがらせ、かすかにほおをふくらませる。なんとも憎めない雰囲気だ。

その様子が愉快で、わたしは、おもわずほほえんでしまう。

「これからもよろしくね!」

笑顔で差し出された手を握り返すと、そのざらついた手はなんとも暖かく感じた。



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第2話 おせわがかり

それからわたし、佐々木敦子の一人ぼっちの学校生活は翌日から一変した。

「これからもよろしく」

という言葉通りになにくれとこのモンキー、内野さんはわたしにかまってくるようになった。

一カ月後、わたしは、彼女にいつのまにか「あっちゃん」と呼ばれるようになっていた。

「あっちゃん~」

「なあに」

「数学の宿題、わたしのあたるところが分からなくて...この問題教えて!」

「ん~本当にやってきたの?」

「実は半分やったら挫折して....。」

「しょうがないわねえ。見せて。」

「うんw」

たしかに半分までやって挫折したノートだった。しかし彼女にしてはまだいいほうだ。

一週間前なんてもっとたいへんだった。

「あっちゃん~助けて~」

と言って背後からだいきついてくるから

「なあに?どうしたの?」

って聞いたら

「英語の訳があたるんだけどすっかり忘れてて...」

すっかり忘れて全然やってこなかったのだという。そういえば罰掃除をさせるといわれてることだけ思い出して泣き出しそうな顔だ。

「しょうがないなあ。これノート。英語の授業の前には返してね。」

「ありがとう。あっちゃん様」

彼女は猛ダッシュで自席にもどると、カリカリと必死にノートを写し始める。

「佐々木さんはすっかり野猿のお世話係になってるね。」

彼女、内野さんとのやりとりを見ていたクラスメイトの女子が苦笑しながら話しかけてくる。

「野猿?」

「そ、内野さんのこと。真樹子は最初マッキーだったのが木登りするからモンキーになって苗字の野をつけて野猿。さすがに本人の前では言わないけど...わたし小学校のころいっしょだったの。」

わたしの疑問に彼女はそう答えて再び苦笑する。

「休み時間に校庭の木に登っては飛び移って、近くの野山でも同じように飛び移って遊んでいたものだから、マッキーがモンキーになって、あの山には巨大な猿がいるなんてうわさが流れたくらいなの。それでうちわでついたあだ名が野猿。」

「それはすごいね。」

「しかもあの通り課題、宿題はことごとく忘れてくるし。先生に叱られてその場はしょんぼりしてるんだけど、翌日にはけろっとして忘れてくるの。」

「それは周りはたいへんだったね。」

「うん。でも悪意とかまったくなくて素直だからだまされて痛い目にあってもけろっとしているの。いじわるで間違いだらけの課題を丸写しさせた人がいて彼女先生に叱られて、丸写しさせた人がさすがに悪いと思ってたら彼女、私が宿題忘れたからいけない、ありがとうとお礼を言ったことがあるの。それにほかの人が気が付かないようなアイディアを出して難題が解決したり。木に登って子供の風船をとったり、電柱にひっかかったたこをとったりとか。だからあれはあれで一緒にいるとなんか楽しいんだよね。」

にやりと微笑む彼女につられてわたしもわらってしまった。

そのほか彼女に遠足の途中で衝動的に花やキノコをみつけて走り出してたいへんなことになったとか川でおぼれそうになったり、川でおぼれかかった友人を助けたりとかそのたもろもろ内野さんの小学生時代の武勇伝を聞かされて盛り上がり、3か月後にはたくさんの友人ができていた。その後長い人生の中で野猿こと内野さんのそれが発達障害の一種だということを知ることになるのはかなり後である。

 

「あっちゃん。それなあに?」

表紙は紫髪のツインテールの女の子がコントローラーを持っているラノベだった。

「あ、『ビバ!ゲーム』の小説版。子どものころやったゲームが面白くて、ゲーム会社にはいるために努力する女の子の話。読んでみる?」

「うん、貸して。」

 

「あっちゃん、それは?」

「『デザリアム』っていって、SFなんだけど未来の地球が敵国デザリアムに侵略されて、そののイケメン少佐に地球の少女が惹かれるんだけど、地球の元恋人のことが忘れられなくてなやむの。」

「面白そうだね。」

「来月、映画封切でイベントあるんだ~行く?」

「うん、いくいく」

 

「あっちゃん、そのラノベは?表紙の黒いコートの男の子と白地に赤ラインのコートにミニスカの女の子かっこいいね。」

「これは、『アート・レイピア・オンライン』。主人公の女の子がゲーム世界に閉じ込められてしまうの。そこで黒い剣士の彼に出会って....」

 

「あっちゃん、それ面白そう」

「『リトル・ラブ・ラプソデイ』って言って...」

その後、「めぐりめぐる物語」「恋する振り子時計(オシスラトリ)」「純真ミリバール」など同じラノベとコラボゲームにはまっていき二人してすっかりオタクとして出来上がっていった。

 

内野さんのご両親ともすっかり仲良くなり、野山を飛び回って何をするか分からないと不安になっていたご両親からは、

「佐々木さん、猿みたいに飛び回っていた娘を人間にしてくれてありがとう、もうあの子も野猿なんて呼ばれないですむようになった。」

と意味不明なお礼を言われ

「はい...いえ、そんなことは...明るい真樹子さんのおかげでたくさん友人ができましたので。こちらのほうが感謝したいくらいで...。」

とお礼を返したこともあった。

 

そしていよいよ中3になり、高校受験をひかえることとなった。



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第3話 高校生活とFortune Lover

内野さんとわたしは、近隣の高校へ一緒に行こうということになったのだが、体育は5である内野さんは、わたしの影響でボキャブラリーと漢字は覚えて、多少国語の成績は改善したものの、本来あきっぽくて勉強はからっきしと言っていいくらいダメだった。興味がもてないことには打ち込めない性格のようだった。

「あっちゃん~、もうだめだ~あとのことはまかせた~」

私は内野さんのあたまをまるめたプリントのつつでぽこんと軽くたたく。

「何言ってるの...まだはじめてから10分経ってないじゃない。そんなんだと高校浪人になっちゃうよ。」

「だって~この分厚い参考書を見ていると、ヒュプノスがあ...きっとこの参考書には呪いがかけられているのにちがいないわ。」

「そのディスペルはちょっと難しいよ。」

二人にしかわからないゲーム用語で返しながら、わたしは、どうしたら内野さんがやる気を出すのか考え込んだ。

彼女は、こずかいなんか渡そうものなら考えなしにぱっぱと使うだろうと両親からみなされて、お年玉は強制的に貯金、ふだんのこづかいも必死に言い訳を考えてようやく学用品くらいしか買ったことがなくクラスメイトでおこづかい金額最下位をほこるほどで自分の意志で数千円単位の中学生にとっては高価な買い物ができない。ときどきわたしの家でゲームをしているといった感じだ。

「よし!じゃあこの受験を突破したら、わたし秘蔵の乙女ゲームをおもうぞんぶんやらせてあげる。」

「でも、あっちゃん、わたしゲーム機もってないよ。」

「貸すわ!。試験にちゃんと合格出来たらゲーム機ごとレンタルしてあげる!」

「ありがとう!あっちゃん様。あたし、乙女ゲームのために必ず高校に合格するよ。」

それからというもの、内野さんは、乙女ゲーというにんじんにくらいつく馬のようにそれこそ馬車馬のように受験勉強にいそしんだ。

わたしも、受験勉強中、ポイントと思われることを把握したら彼女に教えて彼女の受験勉強がすこしでも効率的に進むよう協力した。

そのかいあって、合格発表の当日、高校の掲示板に張り出された自分たちの番号をみつけると、ふたりでハイタッチをして喜びをわかちあった。

 

高校合格後、内野さんの部屋に目新しいゲーム機があることに気が付く。

「あれ??ゲーム機あったの?」

「ううん。驚け。高校合格祝いにゲーム機買ってもらったの。」

「あら、佐々木さん、いらっしゃい。ごめんね。この子のためにいろいろと...」

「いいえ。」

わたしは苦笑しながら答える。

彼女のお母さんがいなくなったときに訊いてみる。

「高校に合格したらわたしからゲームソフトをゲーム機ごとレンタルするって約束したって話して、そんなことまで友達にさせてはいけません、買ってあげるから借りるのはやめなさいといわれたんでしょう?」

「あはは....そのとおり。あっちゃんにはバレバレだね。でももともとわたしのお年玉なのに...。」

「じゃあさっそくやろう。」

 

高校では、友人たちもお小遣いをある程度もらえるようになっており、さらなるオタク友達ができた。漫画、アニメ設定本、DVD、ゲームソフトを買うためにバイトにいそしむようになった。ファミレス、メイド喫茶のウェイトレス、それがない日はゲームをやっていた。

 

Fortune Loverが発売されたのは高校1年の秋。

発売日の夜はなぜか星がよく見えた。普段見られない雲のようなものがぼんやり見えた。たまたまあった星座早見でみたらアンドロメダ銀河と書いてあった。

 

「内野さん、新作ゲーム出たよ、Fortune Loverっていうの。」

「あっちゃん、知ってるよ。とある国の魔法学園を舞台にした中世風のゲーム。面白そうだよね。」

「早速買って始めたんだ。」

「ふむふむ、主人公のマリア・キャンベルは、幼いころ光の魔力を発動。平民にもかかわらず魔法学園へ入学。成績優秀でいきなり学年2位になって生徒会へはいる。人柄もすごくいい子みたいだね。あ~こんな美少女に生まれ変わりたい。何でもうまくいきそうなのに....こんな狸顔じゃあ...。」

私は苦笑する。

「ゲームやってる時だけは、内野さんもマリアに変身できるんじゃない。思いっきり楽しみなよ」

「そうだね。まずは悪役令嬢の弟のチャラ男くんからいこうかな。」

その日から内野さんはスマホのアイコンをゲームのキャンペーンのLineスタンプのマリアに変えてきていた。何種類かありマリアのスタンプをその時の気持ちに合わせて送ってきてくれる。

 

チャラ男ことキース・クラエスは、クラエス家の親戚筋コールマン子爵家の妾の子でいじめられてきたものが、カタリナが第3王子ジオルドの婚約者になったためにクラエス家を継ぐために養子に入ったのだが、義母になったミリディアナとその娘カタリナに妾の子といじめられる。

その結果、ひねくれたイケメンとして多くの女性と浮名をながす。

 

ある日、キースは魔法学園で出会った主人公である金髪美少女マリアを口説こうとして断られ、偶然彼女のハンカチを拾う。

「これ、君のハンカチじゃない?」

「は、はい...ありがとうございます。」

「かえしてほしかったらぼくと付き合ってよ。」

「はい...。」

金髪の美少女マリアはハンカチを返してほしくてあいまいな返事をする。

マリアはその生来の人のよさでなんとなくキースともつきあうことになり、キースの良い面もみることになる。

キースは気位ばかり高い貴族令嬢と、さりげない心遣いのできるマリアとの差にひかれていく。

 

一方で、カタリナ・クラエスのいやがらせがはじまる。

「いやしいねずみが!キースに近づいて公爵家の財産をねらってるんでしょう?そんなの許さないわ!」

「この泥棒猫!キースから離れなさい!」

「いやしい身分で、どこの種ともわからないくせに魔法学園にはいったからといって公爵家の跡継ぎをねらうつもり?そんなの許さないわ。」

 

ある日、中庭のベンチで昼食をとろうとしているマリアをカタリナと手下の令嬢たちがみつける。

「ゴキブリにも金色がいるなんて初めてだわ。あなた、火の魔力でこのゴキブリを焼き払っておしまい。」

「はい、カタリナ様。」

黒いワンピースの令嬢はサディスティックな笑みを浮かべ、手から火を出してマリアを襲おうとする。

 

(いでよ!アーセン・ゴーレム)

そのときキースが手を伸ばして念じると、土人形が現れる。

令嬢たちはおどろく。土人形はマリアをかばってのしのしと歩いていき安全な場所までつれていく。

「キース様?」

「マリア、無事でよかった...。」

キースは不器用にマリアを抱きしめる。

「君は光の魔力を持っているだけの特別な子じゃなくて、すごく優しい子だってわかったよ。僕は君を守っていきたい。」

 

「チャラ男って実はピュアだよね。」

「うん、彼は、継母やカタリナにいじめられてきたけど陰で公爵家を継げるよう努力もしてきたこと、本音を話せるマリアに惹かれたんだなあって思うよね。」

そんなふうに感想を言い合ったのだった。



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第4話 転生

高2になってまもなくのある日、昼休みが半分終わったころ、わたしのクラスに内野さんがやってきた。今日はきゅうりだけを食べてきて、遅刻して呼び出されたのだという。

「また遅刻して呼び出されたってクラスの子に聞いたよ。どうせ、ゲームにのめりこんで夜更かししたんでしょう。」

えへへ...と内野さんは苦笑して見せる。

「で、Fortune Loverはどこまで進んだの?」

「いま俺様王子のアランを攻略できそう。」

「そうなんだ。」

「メアリって素敵だよね。すごく気が付いて、なかなか主人公にアランを渡さないの。」

「たしかにあそこまで気が付くのは本当にアランを愛しているからだよね。」

「でもなんとか糸口がつかめたから。苦労した~。あ~今朝はきゅうりしか食べてないからおなかぺこぺこ。」

「じゃあわたしの卵焼きあげる。」

「ありがとうあっちゃん様」

そんな風にその日も楽しく過ごした。

 

それから一週間後、今から思えば内野さんが事故に遭う2日前だった。

「Fortune Loverは、どこまで進んだの?」

「俺様王子とチャラ男は攻略できたんだけど、腹黒ドS王子がなかなか攻略できなくて...ライバルキャラの悪役令嬢カタリナのじゃまがすごくて。」

「カタリナは婚約者だからね。必死だよ。」

わたしはへへんと笑みを浮かべながら

「わたしは全部クリアしちゃったよ。」

とドヤ顔をする。内野さんはおどろいて

「えっ!?、もうクリアしちゃったの?」

「攻略キャラ4人はもちろん、隠しキャラも全員攻略しちゃった。」

「さすが。あっちゃん、早いね~、やっぱり隠しキャラもいたんだ~。」

「うん、攻略キャラを全員クリアすると攻略できるキャラとして出てくるわよ。ちなみにどのキャラだったか知りたい?」

「ちょっと~やめて~聞きたくない~~ネタばれ禁止~」

内野さんは耳をふさぐが、わたしはちょっと意地悪い笑みをうかべて

「隠しキャラの攻略はけっこうたいへんでね~、闇の魔力を持つ危険人物なんだよね。攻略が成功すれば主人公と甘々なハッピーエンドなんだけど、攻略が失敗したら主人公とその友人の生徒会メンバーが彼に殺されてしまうってひどいバットエンドなんだよ。ちなみにそのキャラは赤い髪に灰色の瞳をもっている童顔のキャラなんだ。」

このことが実は役に立つことになるとは夢にも思わない。

帰路彼女と一緒に変える帰り道

「どう、今日うちへ寄ってく?」

「ううん、帰るよ、なんとか腹黒ドS王子を攻略したいし。」

それが彼女に会う最後になるとは思いもよらなかった。

その翌日の明け方突然目が覚めた。春なのに冷え込んで星がよく見えた。

なぜかぼんやり小さな雲のようなものが見えたような気がした。それが高校1年の秋に夜空で見たものとおなじアンドロメダ銀河だと知ることになる。230万光年離れ、光速ロケットで往復56年で到達するという。窓をしめた直後にひときわ明るい赤みを帯びた流れ星があったことにも気が付かなかった。

 

 

わたしは、内野さんとのにぎやかで楽しい日々がずっと続くと思っていたが、その終わりは突然やってきた。

その日は、偶然スマホを自宅に忘れてきたこともあって、内野さんが登校していないことに気が付かなかった。

(今日は内野さん、遊びに来ないな~かぜでもひいたかな)と思っていた。

放課後に担任の教師がわたしを見て

「佐々木、4組の内野真樹子さんが登校中に交通事故に遭ったって聞いていないか?」

「え?」

「そうか。実はな、ここの交差点で自転車で飛び出して事故にあったんだ。あわてものだからいつかこんなことにならなければと思っていたのだが....」

わたしは一瞬固まってしまい、突然のことで信じきれなかった。

お通夜でもお葬式でも実感がなく泣くことができなかった。

また数日後ひょっこり昼休みにくるのではないかという感覚が残っていた。

お葬式が終わって数日後、スマホに未読メッセージがあることに気が付く。

時刻は、事故の前日の深夜。困り顔のマリアのアイコンに吹き出しがあり

「あっちゃん、腹黒ドS王子が攻略できない~」

と書かれていた。

最後のメッセージがこれって....わたしは、あの子らしいメッセージに思わず噴き出して涙が出るほどだったが、それが引き金になって悲しい気持ちが怒涛の津波のように襲ってきた。あの子がもう二度ともどってこない...そのことがその時になって心に突き刺さる痛覚、喪失感となり、津波におぼれたような息苦しさを覚えしゃくりあげた。

これからわたしはあの子のいない日常を生きていく。

あの子は、あの子以外の友人をはじめわたしにかけがえのないものをくれた。

 

しかし、わたしのその後の人生は、結婚し主婦兼限りなくフルタイムに近いパートとなって必死に家計と夫を支え、子どもを育てたが、子どもの就職、夫の退職を目の当たりにしたときにほっとした。もう私は楽になれると感じて過労で死亡した。

享年60歳。

 

もしこの世界で命が尽きて、新しく生まれ変わることができるならもう一度あの子と友達になりたい...

 

と願ったようにそのようになった。

 

さて、わたしは、ソルシエ王国のアスカルト伯爵家に生まれ、ソフィアと名付けられた。父も母も聡明で美しく優しく、兄のニコルも同様だった。父は、領主としての経営手腕に優れていて、領地の商工業、鉱山開発で発展していた。それゆえに王様に媚びる輩に評判がよくなくて誹謗中傷されていた。現在のソルシェ王は、評判のいいはずの貴族の領地は治まっておらず、父の領地が治まっていることで宰相に抜擢した。そういう事情もあって家は裕福であり、父ダン・アスカルトは30台という若さでソルシエ王国を切り盛りする宰相になった。父は単純に優秀だったから宰相になったのだが、政争で宰相になれなかった貴族たちからはねたみも多く、わたしの容姿はかっこうの標的となって気持ち悪がられた。4歳の時にお披露目のお茶会の時に老人のように白い髪、血のように赤い瞳ということで呪われた子として、アスカルト伯爵は不正をしたからその呪いだと敵方の貴族たちからは陰口をたたかれた。

そのため、外へ出ることを避けるようになった。まるで小学校時代の佐々木敦子そのものだった。

 

わたしは、奇しくも前世と同じように自宅の中で本ばかり読む少女になっていた。

本の世界、ロマンス小説の世界ではわたしは自由になれた。活躍することもあれば、エスコートされる姫にもなった。ときには王子になることもできた。

お兄様はお父様やわたしを貶めようとする貴族たちの不正の情報を集めているようだった。




王様に媚びる輩に評判がよくなくて誹謗中傷されていた。現在のソルシェ王は、評判のいいはずの貴族の領地は治まっておらず、父の領地が治まっていることで宰相に抜擢した。

田敬仲完世家 
威王、即墨の大夫を召して、之に語げて曰く、「子の即墨に居りし自り、毀言日に至る。然れども吾、人をして即墨を視しむるに、田野は闢け、民人は給り、官は留事無く、東方は以て寧し。是れ、子の吾の左右に事え、以て誉れを求めざればなり。之に万家を封ず。阿の大夫を召し語げて曰く、「子の阿を守りし自り、誉の言、日に聞こゆ。然れども使いをして阿を視しむるに、田野は闢けず、民は貧苦す。昔日、趙、甄を攻むるや、子は救うこと能わず。衛、薛陵を取るや、子は知らず。是れは、子の幣を以て吾の左右に厚くし、以て誉れを求むればなり。」是の日、阿大夫を烹る。及びて左右の嘗て誉めし者は、皆并せて之を烹る。

(斉の威王は、即墨の大夫を召して、「貴殿に即墨を治めさせてから、誹謗中傷ばかり聞いてきたが、実際に監察官をひそかに送ってみたら、耕地はよく耕され、住民は満ち足りて、事務がとどこおりなくなく行われていて、心配事がない様子が見て取れた。それは貴殿が私の側近にわいろを贈るなどして称賛させなかったからだ。」そのため万戸侯にとりたてた。一方阿の大夫を召して「貴殿に阿を治めさせてから、ほめたたえる言葉ばかり聞いてきたが、実際に監察官をひそかに送ってみたら、耕地は荒れていて、住民は貧困に苦しんでいた。だから趙が甄を攻めきたとき、貴殿は出兵することができなかった。衛が薛陵を取ったときは、貴殿は気が付かなかった。それは、お前がわたしの側近たちにわいろを贈って、お前をほめるように仕向けたからだ。」そして、阿の大夫を煮殺す刑に処し、阿の大夫をほめた者どもも煮殺した。)


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第5話 再会

お茶会の前夜、ときどき見る夢の中の声が聞こえてきた。
「大丈夫よ。....に会えるから...。」
何が起こるのだろう。

わたし佐々木敦子は現世のわたしであるソフィアの潜在意識にはなしかける。
「大丈夫よ。前世のあの子に会えるから...。」
と。しかしソフィアには途切れ途切れに「聞こえている」ようだ。


ジオルド様とアラン様のお茶会が9歳のときにあった。

辛いのは、会場の外側の大木の下で運悪くアスカルト家の親戚筋なのにお父様と私を嫌う人々やお父様をねたむ貴族の令息や令嬢にかこまれて「呪われた娘、縁起が悪い、気持ちが悪い、なんでお前がお茶会に参加するんだ」、とののしられることで、予想通りわたしは会場の大木の隅によびだされた。

また不愉快な思いをするのかとおもったらその木の上から降りてきた人がいる。

びっくりして貴族の令息や令嬢たちは逃げるように去っていく。

そして思いがけなく私を助けてくれた紺のワンピースを着た令嬢?は、

「お花を摘みに...」と立ち去っていくが、お茶会の終わりに再会する。

彼女は私の髪を「絹のようなきれいな髪ね、一度さわらせてもらってもいいかしら」

とつぶやいた。

「エメラルド王女とソフィア」の一節だ。

エメラルド王女は、平民の娘ソフィアに出会い、楽しく町の中で休日をすごし、別れ際にソフィアの髪を「絹のようにきれいな髪ね。一度触らせてもらってもいいかしら」

ソフィアに話しかけるのだ。

 

わたしは、再会したその人に

「『エメラルド王女とソフィア』ですか?」

と尋ねた。その人は

「あなたは、『エメラルド王女とソフィア』をご存じなのですか?」

問い返してきた。わたしは、

「はい、好きな作品のひとつです。」

と応えるとその人は目を輝かせ大いに喜んでくれた。

その人は、

「カタリナ・クラエスと申します。」

と名乗った。公爵家の令嬢ではないか...

私は一瞬おどろいたが、

「ぜひ、うちへ遊びに来てください。」と手を握って懇願された。

「はい、わかりました。お伺いします。」

と答えた。それが運命を大きく変えるカタリナ様との出会いだった。

お茶会が閉会寸前であったこともあり、カタリナ様は、幼いながらも赤い髪をもつ気品のある令嬢や弟をなのった少年に連れ去られていかれた。

帰りの馬車の中でお兄様に友人ができて、それがクラエス公爵家の令嬢カタリナ様だと伝えると、魔性の美顔と呼ばれる顔の表情を緩めて

「よかったな」と言ってくださった。

 

その日の夢は、ソフィア本人は記憶から飛んでいるが、もう一人のソフィアである私佐々木敦子は知っている。木から降りてきたくせっ毛の少女がカタリナに変身して友人になった夢だ。すなわちカタリナこそ前世の友人内野真樹子であることを潜在意識に語りかける。

 

わたし、ソフィアは、その日から数日後、『エメラルド王女とソフィア』を読み返していたら、王女がソフィアにお忍びで会いに来る場面になって、わたしは、なぜか窓を開け、バルコニーから外を見たくなった。

そうしたら窓の正面にちかい木に登ったカタリナ様がなにやら合図をしてくるではないか。しばらくすると土人形が現れ、野菜を持ったカタリナ様が土人形に抱きかかえられて私の所へ来た。

「はい、ソフィア、うちの畑でとれた野菜よ。新鮮なうちに食べて」

野菜束を受け取る。

「あ、ありがとうございます。カタリナ様」

「うん、また約束の日に。」

メイドが野菜束をみてたずねる。

「お嬢様、その野菜束は?」

「エメラルド王女があらわれてプレゼントしてくださったの。」

と答えた。

その後、わたしとお兄様は、何度かクラエス家へ行き、

楽しい時間を過ごした。

アスカルト家の蔵書を見たいというカタリナ様の要望で、カタリナ様がアスカルト家にいらっしゃることになった。

両親がカタリナ様にソフィアと友人になってくれて感謝します、とお礼を言っているようだった。両親のあいさつが終わったタイミングをみはからい、わたしはカタリナ様に会いたい一心で駆け出していたようで息切れしていた。

「ようこそおいでくださいました。」とあいさつしたときになぜか顔が少々ほてっていたようだ。

そろそろ帰宅する時間になったということで、玄関口であいさつしているときに、わたしは思い出した。

「先ほどお話しした本を部屋に置いてきてしまいましたわ。」

「ああ、さっき話していた本ね。」

「そうです。すぐにとりに行ってきます。」

「ソフィア、また次の時でもいいわよ。」

「いえ、本当に素晴らしい本なのでぜひとも早く読んでいただきたいのです。待っていていただけますか?」

わたしは、ドレスをみっともなくない程度にたくし上げて早足でかけのぼる。

 

そのときに私自身であるソフィアとともにカタリナの心の中にわたし佐々木敦子のフラクトライトを感じた。彼女のなかにわたしがいる....

カタリナがソフィアとわたしを重ねていることが感じ取れたのだ。

 

わたしが戻ってきたときに、カタリナ様は兄の魔性の魅力にやられているようだった。

(お兄様は本当に「魔性の伯爵」みたいだわ...。)という思いがかすかに頭をかすめるが、それどころではない。

「カタリナ様、この本です。」

「ありがとう、ソフィア」

カタリナ様はお兄様の笑顔の呪縛から解放されたようだった。

その後、わたしはクラエス家にお兄様となんどかお伺いし、カタリナ様もキース様と一緒にアスカルト家にいらっしゃることが魔法学園時代まで続いた。

クラエス家には、ジオルド王子、アラン王子、メアリ・ハント様もいらっしゃることもあってすぐに親しくなった。

とくにメアリ様は四女で後妻の子であることから、先妻の娘である姉たちにいじめられていたという。

「わたしも、この茶色の髪も瞳は、姉たちに身分の卑しさが出ているとけなされてきてあまり好きではなかったのです。でも、カタリナ様がそんな私の髪も瞳もことを素敵だと、可愛いとほめてくださいました。それからハント家の庭園の花を絶賛してくださり、畑を手伝ってほしいとおっしゃったのでお手伝いに行きました。そしてみごとに野菜がいきいきとよみがえると、「メアリは『緑の手』をもつ素晴らしい存在だ」おっしゃってくれました。だから、きっとソフィア様も大丈夫ですわ」

メアリ様はそう言って私に微笑んだ。

私はとても驚いた。

堂々として、とても立派な令嬢にしかみえないメアリ様がご自分を嫌いだと思っていたなんて...

 

こうしてメアリ様とも大親友になって本の話をするようになると興味をお持ちになられた。

そして本をお貸ししたら感想を聞かせてくださり、カタリナ様とともに読書の楽しみを分かち合う友人をさらに得ることができた。

カタリナ様の15歳の誕生日パーティも招待された。パーティの終わりがけにメアリ様と一緒に「カタリナ様と踊るのが殿方ばかりで悲しい。」と話したら踊ってくれた。

 




次話と字数調整して魔法学園の記述を次話は持っていきました。


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第6話 魔法学園にて

魔法学園に入学して最初の試験は、アラン様に次いで4位でメアリ様は5位だった。

魔法の成績はメアリ様のほうがよく、学問のほうは、読書の蓄積がモノを言ってジオルド様に次いで2位だったが、お兄様のように魔法をうまく使えないこともあって魔法の成績がいまひとつだったので総合で4位になった。平民で光の魔力をもつマリア・キャンベルさんは総合2位、そしてメアリ様、キース様とともに生徒会に入ることになった。

マリアさんが、光の魔力を持ったがために貴族の隠し子と誤解され、努力に努力を重ねてきたという境遇をお聞きしたとき、メアリ様も私に話したように末の四女で母親が貴族でないことで卑しい身分の血が流れているとけなされ。つらい目にあってきたが努力してきたんですと話され、皆さんは、お互いに深く同情された。

 

さてある日カタリナ様から提案があった。

「みんなに話があるんだけど。」

「先日、キャンベルさんが、中庭で貴族令嬢たちに囲まれてハンド・フレイムで危害を加えられそうな場面をみたの。わたしが土ボコでとめたんだけど、どうやらそういうことが頻繁にあるようなの。」

「僕もそういえば見たことがあります。とめたんですけどね。困ったことです。」

会長が話をあわせてくる。

「そうでしたか、目が行き届かずすみませんでした。王族として責任を感じます。」

「そんなことがあったのか。気が付かないですまなかった。俺も王族だ。責任を感じる。しかしとんでもないことだな。」

アラン様が憤慨しメアリ様がかすかに顔をしかめてうなづく。

「身分差があるとはいえ、それをむやみに振りかざすことが許されるのなら国の法が成り立たない。」

二コル様が言うとジオルド様がうなづき、

「まったくそのとおりですね。」

と付け加える。

「義姉さんにも話したのですが、キャンベルさんを一人にしないほうがいいと思います。」

「そうですね。なるべくだれか一緒に行動しましょう。なにかあるときはキャンベルさんとペアになるとか...私たち全員がそろわないことはあってもキャンベルさんを一人にしないようにしましょう。」

「とくに昼食の時間は一人にしないほうがいいとおもうの。キャンベルさんが中庭で一人で昼食をとっているときにそのようなことがあったので。」

カタリナ様の発言をききながらわたしといっしょにメアリ様もうなづいている。

「マリアさん、私たちと一緒に食堂でめしあがりませんか?」

メアリ様が提案し、わたしも

「メアリ様のおっしゃるとおりです。それに皆といっしょのほうが楽しいし、おいしいですわ。」

と付け加え、メアリ様もうなづく。

「はい、ありがとうございます。」

「そうですね。メアリとソフィアが一緒なら安心です。」

「ん??ジオルドさまぁ~、なぜ私の名前がないのですか?」

「えっと、カタリナは私の婚約者ですから二人で食事する機会がもっとあったほうがいいのではということです。」

「いーえ、義姉さんのことは義弟のわたしに任せてください。王族に輿入れするにもまずマナーです。食事のマナーの練習もしないといけないので。」

なぜか話がそれて、わたしもマリアさんもメアリ様も苦笑してしまう。

 

夏休み。

わたしは、自宅に本を持って帰りたいので早々と夏休みの課題を片付けた。

このことを休み明けに話したら、夏休みの終わりごろになってキース様にも手伝ってもらったというカタリナ様だけでなく早々と夏休みの課題をかたずけたというメアリ様にも苦笑いされた。

 

わたし佐々木敦子は、今の私であるソフィアの意識に語りかける。

内野さんとTUTAYAなどで本やゲームやDVDを買ったり、喫茶店やファミレスで楽しく過ごした思い出だ。

Fortune Loverや乙女ゲーム以外にも、『アート・レイピア・オンライン』、刀のイケメン擬人化の『剣舞刀舞』、『天の川星雲英雄伝説』のラインホルト・フォン・エパミノンダスと親友ペロピダス・キルヒイース、そして彼らが率いる天の川星雲帝国軍には腐女子が夢中になるBL仕立ての「神聖槍騎兵」という勇猛なイケメン軍団をはじめとするハンサムな提督たちがいて人気があった。こうした好きな作品について話したり、グッズを集めたり、時にはグッズを買いすぎてクレープを半分こして食べたり、高校生なのでコラボカフェで一、二品しか頼めなくても楽しくすごした思い出だ。

 

そうしているうちに「魔性の伯爵」シリーズの新刊の発売予定日になった。

今日はカタリナ様といっしょに会うことになっている。

わたしは、目立たないように長い髪をまとめて結び帽子のなかにしまい、しまいきれなかった髪はポニーテール状にして背中にたらす。

お兄様も一緒だ。

お兄様は美形なので町へ出るとたくさんの視線をあびるようで何か注目されている。

カタリナ様が、

「ソフィア、あのお店はなんだろう。いってみようよ。」

というので入ったら素敵なアクセアリー店だった。

「これ、ソフィアに似合うんじゃない?」

カタリナ様がすすめてくれたのは、黄色い雄蕊をあしらった白い花のついたヘアピンで帽子にもつけられるものだ。非常に上品なもので私も気に入ってしまった。そして購入して帽子につける。

「カタリナ様にはこれがお似合いです。」

赤やピンクの小さな花をあしらったヘアピンだ。カタリナ様も気に入ったようで髪につける。上品なうえにアクセントになっている。それから目的の本屋を見つけると、お目あての「魔性の伯爵」シリーズ以外にも気にある本がいくつもあった。王子と敵国の王子の恋物語とか。

「なかなかディープね。」とカタリナ様は苦笑いをしていた。

お菓子屋さんもいろいろな種類があってわたしもカタリナ様も夢中になって何種類も購入した。

「はあ~今日は本当に楽しかったわ。」

カタリナ様が満足そうに話す。

本、お菓子、雑貨....

「はい、町へ出てこんな楽しく感じたのは初めてです。」

「さあ、帰りましょうか。」

と声がかかったとき、私は買い忘れがあったことと、昔カタリナ様と買い物に行ったような気がすることと、お兄様がもっとカタリナ様と親しくなって私の義姉になってほしいということを同時におもいだした。

「そういえば、なにかカタリナ様とはるか昔にこのように買い物したりしたような気がします。」

「え、町へ買い物にきたのははじめてだけど...。」

「そうですね、夢に見たのでしょう。ていうか、あまりのも楽しくてもうひとつの目的をわすれていたようです。」

「どうしたの?ソフィア?」

「買い忘れがあったので、もういちど買い物にもどります。」

「え~、それならわたしも一緒に行くわよ。」

「いえ、使用人について行ってもらうので大丈夫です。カタリナ様はここでお兄様とお待ちになっていてください。」

それからお兄様に小声で耳打ちする。

「お兄様、頑張ってください。」

わたしは買い物にいってもどってみると、カタリナ様はお兄様の魅力にすっかりめろめろになっている様子だった。馬車に乗っているうちに正気にもどったようで私は複雑な気持ちだった。



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第7話 続くカタリナの危機

期末試験の前日だった。

わたし佐々木敦子は、転生したわたしであるソフィアにカタリナに危機が迫っていることを自分の思い出を通して語りかける。

カタリナの前世である内野真樹子は母親にたたき起こされる。

ゲームに夢中になっていたカタリナの前世内野真樹子は、遅刻すれすれの時間に自転車で登校することが続いていた。夜遅くまで俺様王子(アラン)、腹黒ドS王子(ジオルド)攻略に励んでいたようだ。選択肢を選ぶと好感度が上がるのだが、好感度の組み合わせがよくてもそれぞれの選択肢による好感度の上がり方がランダムなためになかなかクリアにならなかったりする。その日は、腹黒ドS王子(ジオルド)攻略が中途であったにもかかわらず、見通しの悪い通りで運悪く出合い頭にトラックにはねられたのだった。

お葬式が終わって数日後、スマホに未読メッセージがあることに気が付く。

時刻は、事故の前日の深夜。困り顔のマリアのアイコンに吹き出しがあり

「あっちゃん、腹黒ドS王子が攻略できない~」

と書かれていた。わたしは、吹き出すほどお笑いした後にその10倍以上の時間をしゃくりあげて泣いた。

 

わたしソフィアは非常に悲しい夢をみた。

その夢をみたとき、ふと夜空を見たくなった。空には三つの「かすみ」のようなものが見えた。一番大きな「かすみ」は、光の速さで230万年かかるという「マゼラン棒渦巻銀河」、そのちかくにみえるものの、光の速度で16万8千年かかる距離に隣り合っている「大マゼラン雲」と「小マゼラン雲」。「マゼラン棒渦巻銀河」を見ていると、子どものころよりもずっと昔にあそこにいたような気がした。星までの距離は、風の魔力で空気の揺らぎを抑える望遠鏡と巨大なお椀状の電波を発する魔法装置でその大きさや距離がわかると授業で習ったことを思い出していた。

 

一方で夢の内容はほとんど覚えていないのに大切な人カタリナ様にかかわる夢のような胸騒ぎを覚えて、学園の畑で作業しているカタリナ様に会いに行った。試験が近いから緊張しているのよ、とカタリナ様はおっしゃったが、トゲのように心に引っかかる不安はぬぐい切れない。

 

期末試験は、主に魔法の習熟度をみるものだった。大魔法使いが魔法道具を盗まれないようにトラップを仕掛けたダンジョンで魔法の石を見つけるものであった。3~4人のグループで協力し合いながら進むようにという試験だった。

凍り付くような回廊をジオルド様の火属性魔法ファイア・ボルテックスでくぐり抜け、巨大な主のいる幅20mはあるだろう地下水路をキース様の土属性魔法アーセン・ブリッジとアーセン・ポストで渡る。

矢が襲ってきたときだった。ジオルド様がハンド・フレイムで矢を焼き払い、キース様がアーセン・ゴーレムでわたしたちの盾になってくれたほんの少しの間に、カタリナ様が行方不明になった。あとでわかったことだが隠し扉で別の通路に滑って投げ出されたこと明らかになった。お兄様とわたしは、風の魔力でカタリナ様の声を拾い、「キノコ」という言葉を拾って、その声の方角を目指してすすんだ。

最初にカタリナ様を発見したのは私だった。

カタリナ様は、崖から足を踏み外して落ちようとしている瞬間だった。

カタリナ様を喪いたくない私は必死だった。全身全霊でカタリナ様の腕をつかんだ。もう限界かと思ったときに下から竜巻のような風が起こってわたしたちを包み込んでくれた。

後でわかったことだが、ラファエル様(その時点では事情があってシリウス・デイーク様と名乗っていた)が救ってくれたのだった。

カタリナ様の危機はさらに繰り返して訪れる。その日はお昼休みの直前に生徒会役員が全員学内の困りごとの相談に駆り出されていた。

それを解決して、さて昼食と食堂へ行くと、そこは異様な雰囲気につつまれていた。

カタリナ様を普段から煙たがっていた令嬢たちがカタリナ様を取り囲んでいた。激しい口調からなにやら糾弾しているようだった。

ジオルド様が「こんな状況証拠で...。」、キース様が、「あなたたちは、本当に義姉さんがこんなことしているのをみたのか」と二人ともそろって令嬢たちを目の笑っていない笑顔で見すえた。マリアさんがカタリナ様をかばうように令嬢たちの前に割って入って「こんなのはすべてでたらめです。カタリナ様は何度もわたしをかばってくださいました。わたしの大切な方を侮辱しないでください。」と肩を震わせて憤慨していた。

証拠書類は、根拠から状況の描写など非常に具体的で、そのまま訴訟文書に使えるほどの完成度だったが、事実からはあまりにもかけ離れた描写にマリアさんが感じたのと同様な怒りを覚えた。「カタリナ様にこのような器用さや狡猾さはありません。」とわたしは証言した。

 

これでカタリナ様の危機は去ったのかと思っていたところ、マリアさんが用事があるといったので、あわてて皆でこんなことがあった後だからと止めたものの、たいしたことありませんからとおっしゃってたので止めずにそのまま行かせてしまった。

わたしたちは、このときにマリアさんと一緒に行動しなかったことを非常に後悔することになる。

 

マリアさんが行方不明になって4日後今度はカタリナ様が中庭のベンチで倒れた状態で発見され、身体に異常はないもののいくら音を立てても揺さぶっても起きない状態になっていた。

 

わたしソフィア・アスカルトは、ベッドでカタリナ様が目を覚まさない悲しみに打ちひしがれていた。

「絹のような美しい髪ね。さわってもいいかしら」

あのエメラルド王女とソフィアに出てきた名セリフ。

「ソフィア様の絹のような美しい髪もルビーのような瞳もすてきだとおもいますよ。」

「私とお友達になってくれませんか?」

明るい太陽のもとへ連れて行ってもらえたあの楽しい日々を、カタリナ様を喪う...

耐えられないと思った。そのとき

「そうよ、もう一度失うなんて耐えられない」

と聞いたことのあるような少女の声が脳裏に響いた。

 

ソフィアのなかにいる私佐々木敦子は叫ぶ。

「せっかく出会えたのにまた失うなんて絶対に嫌」

「こんなところでめそめそしていないでわたしをあの子のところへ連れて行って」

ソフィアに脳内会議があるならわたしはその一員だ。

大人しくて弱気な彼女、まさしく前世のわたしの生き写しのような彼女に行動を起こさせるのはわたし佐々木敦子だ。

ソフィアは決心してくれたようでカタリナのベッドのもとへ向かっていった。



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第8話 救出(前編)

書き直しや、大幅な加筆修正があってすみません。6話から大幅に加筆(夏休みの話)を加筆修正して、記述を動かして、送っています。


「ソフィア様、こんな時間に??」

カタリナ様のメイドであるアン・シェリーは驚いて息を切らしているわたしをみる。

「カタリナ様が目を覚ますまで呼びかけます。」

ジオルド様、お兄様、メアリ様、アラン様、キース様がやってくる。

行方不明なマリアさんを除く全員がカタリナ様を呼びかける。

 

「どうか、助けてください。」

ソフィアをはじめ皆の祈りを私は受け止めて、ソフィアの心に呼びかける。

「任せておいて、必ず連れ戻してくるから。あなたたちは、カタリナをここで呼び続けて...。」

 

前世で、路傍礫という方が書いたアート・レイピア・オンラインというラノベがあった。世界で1500万部を売り上げ、全25巻が出て第20巻までアニメ化もされ、まだ続いているヒット作。

わたしは、カタリナの意識が内野さんになってそのラノベと酷似した仮想的なVRMMO世界に閉じ込められていることを知っていた。

シリウス・ディーク、本名ラファエル・ウォルトが本気でカタリナを殺す気がないために闇魔法で永遠の眠りにつかせるためには、カタリナの意識をどこかへ閉じ込めないといけない。それは奇しくもアート・レイピア・オンラインのナーブ・ヘッドギアが着脱不能な場合に酷似した状態、すなわち1~2巻のベルクラッド編と同じ状態を生理的に生み出すものだったのだ。闇魔法なので装置のようにオン・オフ、ログイン・ログアウトできないという大きな違いはあったが。わたしは、その仮想VRMMOが作り出した世界でカタリナの意識である内野さんに会うことができる。

夕暮れ時に、内野さんはわたしの教室にやってくる。

「あっちゃん、おまたせ。」

「Fortune Loverはどこまで進んだ?」

わたしは、内野さんに話しかける。

「う~ん、いま腹黒ドS王子を攻略中。」

わたしは少し困った顔を彼女に見せてから

「学校はどう?楽しい?」

内野さんはとまどったように

「あ...え....うん、楽しいよ」

と答える。

その直後だった。内野さんは、驚いたように目をこすりはじめる。

ああ、彼女に今のソフィアの姿が見えたんだなとわたしは悟った。

「私はとっても楽しいよ。あなたにあえて、こうやって過ごすことができて。

だけど、あなたの世界はもうここじゃないでしょう。」

内野さんの表情は驚きと疑問符をないまぜにした表情になる。

「あなたの世界は別にあるでしょう。そこにはあなたを待っている人たちがたくさんいる。」

「あっちゃん?何のこと?」

「ほら、ねえ、聞いて。みんながあなたを呼んでいるから。」

 

「カタリナ、起きてください!もう君のいない人生は考えられない。」

「起きてよ。義姉さん!ずっと一緒にいてくれるって約束しただろう。」

「カタリナ様、起きてください。あなたがいないと私は頑張れないのです。

「起きろ!いつまでそうやって寝ているつもりだ。このアホ令嬢!」

「カタリナ、目を覚ましてくれ」

「カタリナ様、起きてください。」

 

そのとき内野さんの姿が細面で長髪、切れ長の目、青と白が組み合わされた幾何学文様のワンピース、ゲームで見慣れた悪役令嬢カタリナの姿に変わった。

そして教室の壁と床が崩れ始めた。

 

「元の世界へ戻らないと...あっちゃん、実はマリアが行方不明なの。もしかしたらどこにいるか知っている?」

「マリアは無事よ。学園の敷地内にある昔ディーク侯爵家が建てた倉庫があるの。」

私の脳内の記憶が空中に立体画像となり、魔法学園と魔法省の敷地が映し出された。倉庫の平面図と断面図が映し出される。

「この地下一階の隠し部屋にマリアは閉じ込められているわ。そしてここに地下室をあけるボタンがある。」

倉庫の奥の棚のわきにあるボタンが映し出される。

「それから、生徒会長は....凄く悲しそうな眼をしていた。どうして....あああっ...。」

カタリナになった内野さんの立っている床が細かいダイスのようになって崩れ落ちかける。

必死に彼女は手を伸ばす。

「あなたは、わたしたちを救ってくれたように、きっと会長のことも救うことができるわ。シリウスを救うのに光の魔力はいらないの。」

「光の魔力がいらないってどういうこと?」

わたしは、カタリナの意識に語りかける。

カタリナの脳裏にシリウスルートの画面を映し出す。

「あれ?あっちゃん、これは?」

「シリウスルートだよ。」

「シリウスが母親との思い出を語っているでしょ、それがヒントになるんだよ。

母親との思い出、彼の本当の名前を呼ぶことで彼を救うことになる。彼の本当の名は、ラファエル・ウォルト」

「救うって?本当の名がラファエル??」

「そう。ラファエルだよ。覚えておいて。きっと役に立つから。」

わたしの言葉は疑問に思ったことだろう。

カタリナである内野さんは崩れた床の下からまばゆい光の穴にすいこまれていく。

彼女の瞳からは大粒の涙が流れている。

「あっちゃん、久しぶりに会えてうれしかったよ。事故で何も言えなくてごめん。さようなら。本当にありがとう。」

彼女が光の穴に完全に吸い込まれて消えようとしたときに

「わたしもとてもうれしかった。今度はソフィアとしてずっとそばにいるから。さようなら、ありがとう。私の大切な親友。」

とつぶやいた。叫びたかったのに叫び声にならなかった。

彼女はあの世界にもどったのだろう。ソフィアのいる世界に。

 

ソフィアは、カタリナの枕もとで泣いていた。

カタリナは目を覚まし、

「泣かないでソフィア。おはよう」と笑顔でつぶやき、おきあがった。

「カタリナ様」

ソフィアが抱き着いたのに続き、普段令嬢中の令嬢と評されるほど堂々としているメアリが涙を流して

「カタリナ様、とても心配したのですよ」

だきついていた。

 

ディーク家の倉庫へ向かう道中でソフィアとしては思わず「お優しい方だと思っていたのに。」とつぶやいてしまうが、ソフィアの脳裏に佐々木敦子としては、闇の魔力も持つ存在だと警鐘を鳴らしていた。

前世のわたしがゲームで知っている記憶の通りディーク家の倉庫地下の隠し部屋にマリアがいた。その先の奥の部屋に会長シリウスがいるのだろう。

マリアの繋がれた鎖を断ち切って、シリウスがどこにいるか尋ねる。

「この部屋のある廊下の突き当りに黒い扉があります。そこに会長はいます。わたしも行きます。」

皆危険だからと止めたが、マリアは、「会長の持っている不思議な力は闇の魔力です。光の魔力をもっているわたしも行ったほうがいいですよね。」

と強い意志の瞳で皆をみつめたので一緒に行こうという空気になった。

皆警戒をしながらその扉を開けた。

 

そのときだった。わたしソフィアですらもどす黒い雰囲気を感じたがマリアさんはいっそう敏感に感じているようで顔色が悪い。

部屋の壁には呪文のようなまがまがしい文字がぎっしり書かれ、紫色のろうそくが無数ともっていた。

 



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第9話 救出(後編)と卒業パーティ

会長は、部屋の真ん中にいらっしゃった。

 

さてFortune Loverのシリウスルートでは、ハッピーエンドに至るまでいくつかの分岐がある。

生徒会室で、会長の入れた紅茶は優しい味がする、と言っていたのは、Fortune Loverではマリアだった。シリウスの気持ちはそれで揺れ動いて、マリアが倉庫の地下室にとじこめられずにハッピーエンドになる分岐もあったのだが、シリウスルートを初めてクリアしたときには、ディーク家の倉庫地下室に閉じ込められる展開になった。そこで光の魔力を直接使おうとするのは愚策だった。

 

「この偽善者が...それで他の他の奴らのように僕のことも救ってくれるというのか?聖女カタリナ・クラエス様」

 

ゲームで、シリウスのこのセリフの末尾は、「光の聖女マリア・キャンベル様」だったのだが、なぜかカタリナになっている。

ちなみに、シリウスルートでのマリアのセリフは、

手を合わせて、「わたしは普通の平民の少女にすぎません。光の魔力も傷をいやすことはできますが、『伝説の光の契約の書』を習得しなければ人を救うことはできない、と聞いています。」

「だから私のできることは、あなたが苦しんでいるときに救ってあげることはできないけどそばにいることはできます。」

「そばにいて、悲しいとき辛いときに話を聞いて、元気が出るまでいっしょにいますから。

だから、泣かないで、ラファエル」

という感じになる。カタリナはそれをうまくやってのけ、闇の魔力は消えていった。

 

わたしソフィアは、呆然とその場の成り行きの一部始終をみていたが、なぜか不思議ななつかしさを感じた。あたかもその場面に居合わせたかのように。そのときわたしはソフィアではなく、透明な衝立の向こうに私の分身がカタリナ様のように会長によりそい、話しかけていたように感じていた。

この不思議な感覚はなんなのだろう。

 

ラファエル様については、闇の魔法が使われた事情で魔法省の捜査が入った。魔法省は魔法に関して犯罪が行われた場合は警察権がある。デイーク侯爵家一族に捜査の手が入り、デイーク侯爵夫人をはじめ闇魔法にかた首謀者たちがラファエル様の証言によって逮捕され、ラファエル様は魔法学園を退学になった。しかしラファエル様自身は基本的には親族を殺された被害者である事情から、その身分は魔法省預かりとなった。

 

二コルの学年の卒業パーティーの日がやってきた。

わたし佐々木敦子の意識はカタリナに向いているが、破滅エンドは回避しているという見立てだ。

しかし、カタリナは何となく落ち着かない様子だ。

二コルに「渾身の野菜束」をわたし、アランが爆笑している。

なにやらマリアのほうに意識が向いている。

たくさんケーキを食べているところもいつもどおりだ。

 

わたしソフィアは、カタリナ様がたくさんケーキを食べ、キース様に食べすぎを注意されているところをみたが、なにかまだ食べ足りなそうだ。

メアリ様が、「私のケーキも召し上がってください。」

と話しかけられているので、わたしも

「私のケーキも召し上がってください。」

とカタリナ様に話しかけた。

「ありがとう、飲み物をとってくるわね。」

と言ってなぜかマリアさんのほうへ向かっている。

 

カタリナはしびれをきらしてマリアのところへいったようだ。

「マリア、好きな人はいないの?」

マリアはかすかにほおをあからめて

「わたしは、カタリナ様をお慕いております。」

と答える。

「それはうれしいのだけれど、そうじゃなくて気になる男性はいないの?」

カタリナの問いにマリアは思案顔になって

「気になる男性....。」

とつぶやくものの、結局1分もたたないうちに

「いませんね。」

と言い切り、「私が気になるのも、お慕いしているのもカタリナ様なのです。これからもずっとおそばにいさせてください。」

とほんのりほおをあからめて微笑みながら

カタリナの質問に答えている。

(よかったね、カタリナ、破滅エンドを回避できて)

 

さて、マリアさんとカタリナ様の会話が聞こえ

メアリ様がふたりに近づいていく。

「マリアさん、ぬけがけはいけませんわ。わたしもカタリナ様とずっとおそばにいさせてください。」

そしてわたしも、

「わたしもですわ。カタリナ様、ずっとずっとおそばにいさせてください。」

そうしたらアラン様、お兄様、ジオルド様、キース様もいらっしゃった。

「大切な義姉をジオルド様だけに独占させるわけにはいきません。義姉に王子様のお妃がつとまるとはおもえませんし、必ず婚約は解消させていただきます。」

「キース様、このメアリ・ハントも協力させていただきますわ。」

わたしもカタリナ様が独占されてしまうのはつらい。ロマンス小説を語り合える大親友。

大昔から友人だったような人をだれかに独占されるのは耐えられない。

「そうですわね。メアリ様わたしにもお手伝いさせてください。お兄様もカタリナ様を独占されたくないですよね。」

お兄様は無言でうなづいた。

アラン様や、マリアさんもわれこそと加わり、いつのまにか生徒会メンバーで雑談の輪ができていた。

 

卒業パーティが終わって、生徒会室でささやかなお茶会をする。お兄様のお別れ会を兼ねている。

マリアさんの新作お菓子のお目見えだ。お母様と一緒に新しいレシピをつくったのだという。カタリナ様は大喜びで、マリアさんのお母様にもぜひお礼をお伝えして。と話していた。

「カタリナ様、お茶もいかがですか。」

メアリ様が微笑んで紅茶をさしだす。

カタリナ様は、それを口にすると、はっとしたようだ。

そのときドアが開いてラファエル様があらわれる。

カタリナ様は一瞬驚いたようだが、笑顔になる。

メアリ様とアラン様がカタリナ様をサプライズで喜ばせようとだまっていたようだ。これからもいっしょにいさせていただけますか、とおっしゃるラファエル様に

カタリナ様はもちろんですわと言って手をとる。

またライバルが増えましたわ、何人たらしこんだら気が済むんだ、婚約者の前でどうどうと...といった小声が聞こえたような気がするが気のせいだろう。

わたしは、「カタリナ様、最近新しくおもしろい小説のシリーズを見つけましたの。いかがですか?」

とお見せする。

目次をごらんになって

「おもしろそうね。ソフィア」

「とってもいいお話なので。おすすめです。ぜひまた一緒に読みましょう。1巻をもってきたのでお貸ししますわ。」

「ありがとう、ソフィア」

「しばらく会えなくなるが妹をたのむ。」

「いえいえ、こちらこそよろしく頼みます。」

お兄様が笑みをうかべる。

「お兄様、いつでもたずねてきてください。また1年も蚊帳の外では、ほかの方におくれをとってしまいますから。」

わたしは、お兄様がご自分の気持ちに正直になって、カタリナ様とむすばれ、わたしは義妹になっていつでもいっしょにいたいのだ。

 

そうわたし佐々木敦子もカタリナである内野さんと同じ時間を過ごしたい。

 

「さあ、皆さんめしあがりましょう。」

マリアさんの合図で、カタリナ様以外もお茶とお菓子に手を伸ばす。

楽しい時間が過ぎていった。



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第10話 学園祭

2年に一度の学園祭の季節が来た。

生徒会メンバーは美男美女が多いこともあって人気があるので、演劇をしてほしいという署名がかなりあつまっている。

「これは、無視できる数じゃないですね。やるしかないですか...。」

ジオルド様は思案顔だ。貴族の生徒でも平民であるはずのマリアさんを疎ましく考える人ばかりではなく、美人で優秀だからと潜在的に敬意や好意をもっている人はかない多い。ときどき男性に口説かれることもあるらしく、カタリナ様が追い払っているそうだ。またカタリナ様のクラスメートでマリアさんにも好意を持っている人は普通にいる。またカタリナ様が生徒会室に出入りすることについて、疎ましく思っている人以上にその人柄から聖女として慕っているファンも多いので出演することを期待されているのは間違いない。

だから無視できない数の署名があつまるのは自然なことだった。

私は手を挙げる。

「わたしが、シナリオを考えます。カタリナ様も参加しませんか?」

「そうです。ぜひ一緒にやりませんか?」

わたしとメアリ様は目を輝かしてしまう。

「え~私はセリフ覚えられないから、木か石の役とかないかなあ...。」

「え~、そんなあ」

「舞台にあがるカタリナ様を見てみたいです。」

「じゃあ、いつも入り浸っているから裏方ならやるわ。畑仕事で鍛えてるし、大道具係とか、掃除とか黒子とか。」

「そうですか...。」

 

「生徒会メンバーは人気があるので分散配置しましょう。」

わたしは、ジオルド様の指示でお兄様といっしょにあるイベントの呼び込み要員としていったのだが...。

(あれ....皆さんお兄様しかみていない??)

「すみません。皆さんニコル様しか見ていないのでこちらへいらっしゃいません。」

もっともな苦情が来た。

「お兄様、すみません、場所移したほうが良いようです。」

「そうだな...何かかえって迷惑かけてるようだし...。」

わたしたちは、なるべく人目のつかない場所に移動した。

しばらくするとカタリナ様が生徒会メンバーの次に仲の良いクラスメートたちとやってきた。

「ソフィア~ソフィアどこ~」

わたしを探しているようだ。

「こちらです、カタリナ様。来てくださったのですね。」

「久しぶりだな、カタリナ。」

気のせいかカタリナ様の視線がなんとなく明後日の方向、お兄様をさけるように泳いだ感じになっている。

「どうしてこんなところにいたの?」

実は...とお兄様の魅力でお客様がお兄様しかみなくなるので...と説明するとカタリナ様は苦笑する。

「そうなんだ、ソフィア。おなかすいてない?差し入れ持ってきたわよ。けっこうおいしいお店でているから。」

そう、魔法学園の学園祭は、サンドイッチ、パン、お菓子、軽食の一流店が廉価で新作を出す場所になっているのだ。今後の売り上げにつなげるために各店自信作をだしていて、食の祭典ともいわれている。

「ありがとうございます。でもカタリナ様。どうしても演劇はでていただけないのですか?」

わたしは、ほんのりほおをふくらませる。

「わたしは、生徒会メンバーじゃないし...。」

と判で押したような言い訳がかえってくる。

「舞台でのカタリナ様を見たいです。」

「カタリナは出ないのか....。」

お兄様の美しさにカタリナ様はよろけているようだ。

「ニコル様が出た方がお客様が喜ぶと思いますよ。」

とおっしゃるけど致命的な問題がある。

それはその表情の変化が微妙すぎて家族とごく一部の人間、たとえばラファエル様くらいしかお兄様の表情の変化を読み取れないということだ。

「俺には、演技ができない。」

「お兄様は身内からのひいき目を差し引いても魔性の伯爵といっていいほどの魅力をおもちですけれど....顔の表情が誰にでもわかるように動かせないのです。カタリナ様が1年生の夏休みのボート遊びの時、皆様がお兄様の表情がわからなかったので、あれ皆様は分からないんだということがわかりました。」

「でも相手がカタリナ様なら笑顔を浮かべることができるかもしれません。」

「え~ソフィアが出ればいいじゃない。ニコル様は、シスコン級と言っていいほどの妹想いだし...。」

「たしかにそうですけど、カタリナ様だけは特別なのです。そうだ!お兄様にあの劇のせりふを言ってもらいましょう。」

わたしは台本を取り出す。

「相手役がカタリナ様なら、お兄様も笑顔でせりふを言えるはずです!」

「お兄様、台本はこちらです。」

カタリナ様はなにやら覚悟を決めたようだ。嬉しいことに顔に(ソフィアは、大好きなお兄様の演技が見たいのね。わたし親友の願いを叶えられるよう頑張るから。)と書いてある。

お兄様は

「ソフィア、やはりまずくないか?カタリナはジオルド王子の婚約者だし。」

「形だけの婚約ですし、お兄様は卒業してしまって不利なのですからこんなときこそアプローチしないと!」

お兄様は覚悟を決めたようで、台本を手に取ると

「それでは...。」

と演技をはじめる。

「貴女を愛している。」

それはそれは素晴らしい魔性の笑みを浮かべて、カタリナ様がふらついている。

「わっ、私もです。ニコル様」

これは頭からせりふがとんでいるやつだ。

お兄様もかたまっている。

カタリナ様はようやくせりふの誤りにきがついたようだが、お兄様は王子様の演技を続けてカタリナ様をだきしめる。

この場面を一瞬を絵にできないだろうかと一瞬考える。

むかしそんな道具があったような...

魔法省だろうか...

 

わたし佐々木敦子はこの場面をスチールにしたいと思った。Fortune Loverにはなかった画面だ。内野さんが幸せそうな様子を見たいのだ。しかしこの世界にはカメラはない。ただもしかしたら魔法省で開発されるのではないか...そんなことを考えた。

 

「カタリナ....たとえあなたが別の人のものになっても、俺はきっと...」

(お兄様、やりましたね。)

わたしはうれしくなって思わず満面の笑みをうかべてしまう。

クラスメートの皆さんもお兄様が微笑んだときにその美しさにくらくらしたようで、瞳がうつろで顔を桃色に染めて千鳥足になっている。

 

ようやく正気に戻ると、カタリナ様は、マリアさんのお店にいくけどと話している。クラスメートの皆さんは刺繍の展示を見に行きたいようだ。

 

しばらくして生徒会劇の時間が近づいてきたので、わたしは、舞台のある場所へ移動した。

「義姉役の人が腹痛と頭痛でとてもやれないということです。ジオルド様どうしましょう。」

という声が聞こえた。



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第11話 生徒会劇と脅迫状

カタリナ様のクラスメートたちや裏方をする令嬢は「カタリナ様がいいと思います。」「カタリナ様がするのあれば皆納得すると思います。」と口々にカタリナ様の名を挙げる。しかも善意でカタリナ様の演技が見たいと推薦しているのだ。ジオルド様は笑みを浮かべ、カタリナ様に台本をわたしている。

「せりふはそんなに多くないですし....たとえば最初の出番のせりふをカンペに書いておけばどうですか?テストじゃないんだからだいじょうぶですよ。」

(そんな...優秀なあなたといっしょにしないでよ。)

そんなふうに言いたげなカタリナ様は少々蒼くなっている。

学園祭には、小さい子もいっぱいくるので誰でも知っているお話にした。

大昔同じような話を読んだことがある気がする。時々見る悲しい夢とワンセットだ。

 

わたし佐々木敦子は、知っている。継母と義姉にいじめられる女の子の話。シンデレラと酷似した話だ。魔法使いとガラスの靴は出てこないが。ピンチヒッターはカタリナだが破滅フラグを回避したのに、ここへきてマリアをいじめる役。なんとも皮肉だが中身は内野さんだ。せりふとか覚えられるのだろうか....

 

王子様役はもちろんジオルド様、主人公役はマリアさんだ。この二人は本当に絵になる。カタリナ様も時々マリアはすてきだ、ジオルド様とくっつけばいいのにとつぶやいていたのを聞いたことがある。メアリ様も同意見だ。魔法学園でメアリ様をはじめ貴族で比較的好意を持っている人がいろいろ教えているおかげでマリアさんは普通に貴族令嬢といっていいほど振る舞いが板につくようになった。それに美人で優秀で光の魔力保持者である上に人柄も申し分ない。ジオルド様はさほど身分差を気になさる方ではないから王子のお相手にふさわしいと思うのだが。

 

それはさておき配役はいじわるな義母がメアリ様、そして義姉役が代役でカタリナ様

だ。義母であるメアリ様が、いじわるな義姉を呼ぶ場面になった。カタリナ様がいそいそと現れるが、一瞬様子がおかしい。何かを忘れてしまった~という顔をして手をドレスの腰ポケットにつっこんでいて、きょろきょろしはじめた。

メアリ様とマリアさんもなにやら異変があったことに気付いたようだ。

その瞬間カタリナ様の態度が変わった。何か決意したような顔だ。

それからの演技は凄かった。

「本当に身の程知らずですこと。あなたなんかがこの家にいさせてもらえるだけありがたくおもいなさい。」

「そこで床にはいつくばっていなさい。」

メアリ様とマリアさんは、せりふが違うことに気が付いてほんの一瞬顔を見合わせる。

しかしわたしたち4人は親友同士。二人は、何が起こったか瞬時に悟ったのだろう。

言葉にするなら

(カタリナ様....これは全部せりふがぬけちゃったってやつですわね。)

(メアリ様、私もそう思います)

といったところだろうか。

二人のフォローもみごとだった。

「ほ~んとそのとおりね。虫のくせに金色してるとか。その髪をそってしまったほうがいいのでは?」

「そのとおりですわ。お母様」

「な、なんてひどい。」

カタリナ様は舞台そでにもどりほっとしているようだが見事な演技に拍手がパラパラ起こっていた。

 

その後の演技はせりふも完璧だった。後で聞くとどうやら手にせりふを書いてのりきったらしい。

「カタリナ様お疲れ様です。」

「見事な演技でしたわ。」

「メアリ様もそう思いますか?わたしもです。」

マリアさんが同意を示す。

「??え~そうなの?」

「わたしもそう思います。見事な演技でした。」

「主人公をいじめる演技に鬼気迫るものがありました。」

「まるで別人でしたわ。」

「カタリナ様には演技の才能もおありなのですね。」

しばらくしてカタリナ様は楽屋にこもっていた。

舞踏会がはじまるとマリアさんが呼びにいったようだ。

「まだ片づけをしている子がいるのであとでいっしょにいらしてください。」

と伝えたが、わたしはその時近くで待たなかったことを後悔する。

これを最後にカタリナ様は誘拐されて行方不明になってしまうのだ。

しかし、そんなことを思いもよらないわたしたちは舞踏会会場でカタリナ様の演技がすばらしかったので感想を言い合っていた。

キース様が

「義姉さんの演技にはおどろかされたよ。」

「本当ですわ。いつものお優しくて朗らかな雰囲気とは別人のようで。」

「あいつにあんな演技の才能があったとはな...」

「カタリナ様は、多才な方ですわ。」

「それにしても....すこし遅すぎる気もするのですが....。」

ジオルド様が異常を感づいたようだ。

「そういえば、遅すぎますね。義姉さんどうしたんだろう...。」

「後片付けをしている方もいますから一緒に行きますと言っていたのですけれど...。」

カタリナ様は行方不明のままみつからない。

数日後、ジオルド様のところに脅迫状が届いた。

「カタリナ・クラエスの身柄は預かった。無事に返してほしくば王位継承権を放棄せよ。」と書かれていた。

 

翌日の生徒会室は重苦しい雰囲気でのカタリナ様救出作戦会議が行われることになった。

「カタリナが無事に戻ってくるなら王位継承権などいくらでも放棄するのですが...。」

「ただ、ジオルドが王位継承権を放棄したからと言って人質になったカタリナが無事に戻って来るとは限らない。顔を見られたからと口封じに殺されてもおかしくない。」

「そ、そんな...勝手にさらっておいて顔を見られたから殺すなんて....。」

わたしは思わず叫んでしまう。

「しかし脅迫状でかなり首謀者が絞られましたわね。」

メアリ様がつぶやく。

「王族若しくはその支持者ってことだろう。」

「そういうことだとアラン様も候補になりかねませんが...。」

「冗談いうな。俺はそんな方法で王位を狙おうなんて考えないぞ。そもそも俺自身がが王を継ぐにふさわしいのかどうか考えないといけないのに....」

「あ、あの...」

マリアさんがいささか遠慮がちながらやむにやまれぬという感じで議論にはいってくる。

あからさまに(カタリナ様がとても心配です)と顔に書いてある。

「事件には闇の魔力がかかわっているのですよね?もし、闇の魔力がつかわれているならわたしが怪しげな人を探っていったらわかるかもしれません。」

「大変残念で悔しい話なのですが、事が起こってから半日経っています。数時間以内ならともかく、さすがにこれだけ時間が経っていたらわからなくなってしまっているのでは?」

「そうですね.....。」

マリアさんは顔を曇らせた。

 



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第12話 カタリナ誘拐

「そうなるとジェフリー王子かイアン王子ということになるが...どうも本人たちとは考えにくいな。」お兄様のおっしゃるようにジェフリー様は本気で王になるつもりがあるとは思えないという評判で、相当な弟大好きと聞いている。宰相家だからこその情報だ。そういう状況でイアン様本人ががつがつ王位を狙う工作をするとは考えにくい。

「とりまきとか支持者でしょうか....。」

「どちらかに王位を継いでもらって権勢を得たいと思う人物ということだろうな。」

「そうなると....怪しい人物や施設を片っ端から洗うしかないってことですわね。」

メアリ様の笑みがどんどん黒くなっているとかんじるのはわたしだけだろうか....

「メアリ、落ち着け」

アラン様が制止しようとするが、メアリ様は立ち上がって出ていこうとする。するとその前の扉が開いた。

入ってきたのはラファェル様だ。

「?メアリ様、どこへいらっしゃるのですか?」

「カタリナ様をさがしにいくつもりですわ」

「あてはあるんですか?」

「怪しげな人や場所を片端から洗うつもりです。」

ラファエル様はため息をつかれ

「それはさすがに無謀でしょう」

「でも、こうしている間にカタリナ様に危険が迫っているのですよ。どうしろとおっしゃるのですか。」

貴族令嬢の鏡、社交界の華ともうたわれるメアリ様が感情的になられ目に涙を浮かべている。強気にみせていて実は不安だったのだろう。

「大丈夫ですよ。カタリナ様に危害が及ぶことはありません。」

「どういうことですか?」

「カタリナ様には最強の護衛がついています。ここには盗聴用の魔法道具が仕掛けられていないから話しますが、魔法省では直接の犯人を現時点では把握していませんが、すでに犯人の足元を捕まえ始めているということです。だから危害が及ぶことはありませんのでもう少しお待ちください。カタリナ様は必ず助け出します。」

 

わたし佐々木敦子は思い出す。ジオルドルート達成後の外伝ストーリーでよく似た話がある。マリアが誘拐され、闇の魔力で操られるのはイアン王子の婚約者セリーナ・バーグだが、セリーナに闇魔法をかけた執事風の好青年である闇の魔力保持者を裏から操っているのは貴族だ。誰なのか正確に思い出せない。しかし選択肢を選んでいくと大切な光の魔力保持者を守るために魔法省が動いて解決していく話になっていた気がする。まもなく魔法省のガサ入れがその貴族のところに入るはずだ。

 

カタリナ様の誘拐事件は、魔法省の捜査が進み、デイビッド・メイスンというジェフリー派の貴族に対して行われた。魔法省は魔法に絡んだ犯罪が行われた場合は,通常の警察の捜査では魔法が使われるために捜査が混乱させられたり、相手は貴族であることが多く、誇り高い彼らは捜査員、警察官に逮捕される屈辱に耐えられず、魔法を使って抵抗し、殺害する危険性があるという事情から警察権を付与されている。したがって容疑者を逮捕する場合は、サイレンスを唱えて抵抗を抑えるため、複数の捜査員が逮捕に携わる。

今回の誘拐事件は,デイビッド・メイスン主犯がほぼ確定だということで、魔法省のラーナ・スミス様がやってきた。

「これで安全が確保されたからカタリナのところへ行くぞ。皆準備はできたか?」

そしてデイビッド・メイスンがカタリナ様を幽閉していた部屋の前まできた。

ドアが開かれると、執事のような姿をした青年とカタリナ様がいた。

カタリナ様は不思議そうな顔をしてラーナ様を

「もしかしてラナ?」

と尋ねていた。

「確かに先ほどまでそう名乗っていたが、魔法省魔法道具研究室部署長のラーナ・スミスだ。ラファエルの上司にあたる。以後よろしく頼む。」

「さてルーファス・ブロードとやら、こうなった以上は覚悟出来ているんだろうな。ただお前にはやむない事情があったこともわかっている。ただし、けじめはつけなければならない。」

ラーナ様の部下たちはサイレンスの呪文を唱え始めた。

「わかりました。あなた方にすべてを話しましょう。」

執事風の青年がそう答えると、ラーナ様は、サイレンスを詠唱し始めた部下たちを制止する。

「魔法を使って抵抗しないのだな。いい心がけだ。手間が省ける。さて、カタリナ・クラエス誘拐の実行犯として逮捕する。これから魔法省へ来てもらおう。」

ラーナ様は部下たちに命じる。

「連れていけ。」

ルーファス・ブロードという執事風の青年は魔法省に連行されていった。

 

さて、誘拐事件が解決してから、わたしやマリアさん、メアリ様、キース様、アラン様は、カタリナ様が危ないことをしたり、ヘンな場所にいかないよう見張っていくことにした。カタリナ様が生徒会の仕事は大丈夫なのかお聞きになるが皆「もうかたづけましたから。」「もうかたづけましたわ。」「カタリナ様、ご心配いりません。」という感じでお返事している。実際もうこの時期になると1年生に引き継がなければいけないし、何から何までやらない方がいいというのもある。例外的に誘拐事件以来姿を見せていなかったのはジオルド様だ。

ある日の夕方、カタリナ様がいなくなった。きっと畑だろうということになった。

するとジオルド様がカタリナ様の肩をだいて顔を近づけている。

最初に声をかけたのはキース様だ。

「これ以上義姉さんに近づかないでいただけますか?」

「どいてください。キース様、私が魔法で...。」

「ち、ちょっとまて、メアリ何するつもりだ!」

「メアリ様、ここはわたしが....。」

わたしが叫んだところ、マリアさんが

「ソ、ソフィア様まで....そんなものを投げつけたら危険です。せめてけがが私の魔法で治せる程度になるようにしてください。」

マリアさん、投げることと、けがさせること自体は阻止しないんだ....

カタリナ様を皆でジオルド様からひきはがしたとき、わたしの脳裏に

「ジオルド王子攻略おめでとう。」

という声が響いてきた気がした。同じ声がカタリナ様にも聞こえているような不思議な感覚だった。

 

わたし佐々木敦子は内野さんを祝福する。やっとジオルドを攻略したね。おめでとうと私自身であるソフィアとカタリナの脳裏にささやいた。

 

さて魔法学園の授業も残り少なくなってきたある早朝、学舎へ向かう王族・貴族寮の廊下で、メアリ様とジオルド様が含みのある笑みを浮かべながら話しているところへ出くわした。



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第13話 キース・クラエス誘拐事件

ジオルド様とメアリ様の周囲には腹黒い空気がただよっている、カタリナ様とキース様、アラン様は所在なさげに歩いている。

 

わたしは、そんなことにかまっていられないので5人に声をかける。

「おはようございます。皆様そろそろ学舎へ行きましょう。遅刻していまいますわ。」

「ソフィア、ずいぶんゆっくりね。」

「実は、昨日読んでいたロマンス小説がおもしろくて、気が付いたら夜明けになってしまっていて。」

「え~どんな作品なの?」

「長い黒髪が美しいサッフォー・フォン・ミスティと金髪ツインテールが美しいエリカ・フォン・スペンサーという二人の貴族令嬢が同じ平民の男性セイジ・タキを好きになってしまって恋のかけひきをする話ですわ。」

「おもしろそうね。今度貸してもらえたら。」

「はい。喜んで。」

「あ~マリア~おはよう!」

「おはようございます。皆さん。」

 

授業が終わるとマリアさんがカタリナ様に話しかけている。

「昨日、魔法省に行きましたら、ラーナ様が今度はカタリナ様にもきてもらいたいとおっしゃっていました。」

どうやら進路の話のようだ、わたしとしてもカタリナ様の魔法省入りには賛成だ。なにしろこのまま放っておくと、婚約を断る理由がないので、ジオルド様と結婚してしまう可能性がある。クラエス夫人とキース様は王族は務まらないと反対しているが決定的になりえない。それよりも王に次ぐ権力を握っている魔法省にはいればおいそれと結婚するのは難しくなる。そのためカタリナ様の心は動いてはいるものの、魔法省はエリート集団だ。学力も魔力もこころもとないからコネで入るのは....とだいぶ悩んでいるようだった。

 

そんなことがあってから数日後、今度はキース様が行方不明になった。置手紙があったというがなんかきな臭い気がした。最初にカタリナ様に同行すると言い始めたのはジオルド様だ。それからなぜか魔法省のラーナ様が「新人教育を兼ねて同行させてくれ」と名乗り出て、魔法省預かりの身分となっている闇の魔力保持者のソラさんとマリアさんも行くことになった。ラーナ様はなにやらかぎつけているようだ。魔力を持った人間を探すことができる魔法道具である「アレクサンダー」とかいうクマのぬいぐるみも持っていくという話だった。

 

キース様をさがすということで、カタリナ様とジオルド様は公休が許可され、魔法学園の入り口で魔法省からラーナ様とソラさんがやってくるのを待っていた。

わたしとお兄様、アラン様、メアリ様は見送りだ。

「わたしだってカタリナ様と一緒に行きたかったのに...。」

とメアリ様はさびしそうに言う。

「わたしも行きたいです。カタリナ様」

さびしいときやつらいときにほおの筋肉がつっぱり、目頭があつくなる。

「この忙しい時期に生徒会メンバーが一気にぬけるわけにいかないだろう。」

とお兄様がわたしを諭す。

「そうですよ。この卒業式前の忙しい時期に生徒会長が抜けるなんて信じられません。」とメアリ様が眉をつりあげて厳しい視線でジオルド様に言うか、ジオルド様は「もう僕にできることは片付けてありますし、なにかあったらニコルに協力してもらえるよう手配済みです。」と平然と言ってのける。

すると「す、すみません。わたしこそ副会長なのに大変な時に抜けてしまって...。」

とマリアさんが恐縮して謝り始めたので

「マリアさんはいいんですよ。今後のお仕事にかかわることだから。」

とメアリ様は必死にフォローし始める。

「カタリナは、僕がしっかり守りますから」

とジオルド様はカタリナ様にほほえみかけるがカタリナ様は、

「は.....はぁ...。」

と何のことやらという感じだ。

(あーこれはキース様のことで頭がいっぱいなんだな)

ジオルド様ががっかりする一方、メアリ様はご機嫌だ。

不思議そうに聞くカタリナ様にメアリ様は

「たいしたことはないのですわ。カタリナ様はお気になさらないでください。」

「ふ~ん、そうなんだ。」

「カタリナ様、お久しぶりです。」

青みがかった髪の好青年だ。誘拐事件以来である。

「ええ、ソラ、お久しぶりです。」

「待たせてすまない。そろそろ出発するぞ。」

 

そうしてラーナ様にひきつれられて、旅というかキース様捜索に出発された。

 

その後、わたしは、カタリナ様が心配でならなかった。大好きなはずの本の世界に入り込めない。気が付くとため息をついている。

カタリナ様とは十歳でお茶会で出会って以来の大のロマンス小説仲間。感想を分かちなえない日々は辛すぎる。わたしはジオルド様やマリアさんのように強く役立つほどの魔力はない。理性ではわかっていても気持ちが納得していない。マリアさんならともかくジオルド様はなにかと「危険」すぎる。ジオルド様は決して悪人ではないが腹黒いところがある。学園を卒業したらすぐに結婚しようとするだろう。そうなったらカタリナ様を独占されてしまう。そんなのは嫌だ、受け入れられない。メアリ様やアラン様と組んでカタリナ様がジオルド様の気持ちに気が付かないように邪魔してきたが、先日の行方不明の際の出来事からついに気が付いてしまった。それゆえジオルド様の猛アプローチが始まったやさきにキース様の行方不明が重なった。もしこの旅がきっかけでカタリナ様とジオルド様が親密になったりして結婚まで進んだらもう今までのように会えなくなってしまう。

 

そんなの受け入れられない。わたしの望みはカタリナ様がお兄様と結婚し、わたしは、その義妹になることだ。そのためにはお兄様に頑張ってほしいのだが...、お兄様は魔性というべき笑みを持つ方で、ハンサムで成績優秀、しかも気遣いもできる方で魔法の力もトップクラスの方だし、お兄様の魅力であれば落とせない女性はいないはずなのだが、お兄様は常識人すぎていくらカタリナ様と結ばれるように促しても首を縦に振らない。お兄様は「ちゃんとした婚約者がいる。」というが正直カタリナ様はジオルド様の女性除けの婚約と考えていて、しかも裏表のない優しく朗らかな性格から皆に好かれているのに本人には全くその自覚がない。

 

ロマンス小説は、ほぼ恋物語といってもよいくらいで、カタリナ様は「小説の中の○○王子はすてきだった、△×騎士はすてきだった。」という感想をいいつつ「わたしには縁がない」という。なぜですかと聞けば「だって私はしょせん悪役令嬢だから」と意味不明なことをおっしゃる。捜索中はキース様のことで頭いっぱいであることが考えられるけど、ほんの小さなきっかけでジオルド様の気持ちに気が付いたことを思い出すかもしれない。そうなったらと思うと、私ソフィアは、じっとしていることができず部屋の中をうろうろしてしまう。

 



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第14話 卒業式

メアリ様のいうとおり、ジオルド様はいざとなれば手が早いだろう。わたしはこれまで読んできた小説のせいでいろいろな妄想がうかんでしまう。王女と護衛騎士の禁断のラブロマンスがある。王女のそばになにくれとさりげなく護衛する騎士、街中で王女と知らずからむ酔っ払いや盗賊などさまざまな輩から王女を守る騎士。旅が終わると一緒にいられない二人。王女は旅が終わりに近づいたある晩に騎士のもとへいく。

わたしはおもわず「ダメ~」と叫んでしまう。すると「なにがダメなんだ。寮の中で大声をだすな。」とお兄様にそのたびにたしなめられてしまう。

「生徒会から頼まれた仕事をもってきたんだ。お前は、いくら呼んでも返事はないし、気が付かない。いいかげんその空想に入る癖を治せ。」

「ごめんなさい。」

わたしはシュンとなってうなだれる。たしかに空想に入って周りが見えなくなったり、その結果なにも聞こえなくなることがある。

「それでお前はなぜ部屋の中をぐるぐる回っているんだ?」

とたずねられる。

「カタリナ様がおられないのでとても寂しいです。ジオルド様ともっと親しくなるとこの旅から帰ったら結婚してしまう思うととても不安です。」

お兄様は、「カタリナがいなくて寂しいのは分かるが、ジオルドとカタリナは婚約者なのだから仲が良くなるのはいいことだろう。」と正論をいってくるが、顔に浮かぶ表情はつらそうだ。生まれてこの方妹をやっているわたしはごまかせない。

「本当はお兄様も心配なくせに。意地を張って。もっと素直になればいいのに。」と言い返す。

「何を言ってるんだか。」と反論するが、その顔はやはりつらそうだ。

そのとき来訪者がいらっしゃる。

「こんにちは。」と挨拶するのはメアリ様。

「カタリナ様からの手紙ですわ。」

「どれどれ」

「旅が楽しい?」

「ジオルド様との仲が進展したことをうかがわせるようなことは書いていないようですね。」

わたしはほっと息をはいてお兄様をみつめる。

お兄様はなにか安心しているように見えた。お兄様素直じゃないなあと感じた。

 

そしてキース様が無事に保護され、お屋敷で目を覚まされたという報告を受けたので、クラエス邸へ行くことにした。

クラエス邸には先客がいた。ジオルド様だ。メアリ様やキース様と口論になっている。

「キース、何勝手に告白しているんですか。カタリナは僕のモノですよ。」

「ジオルド様、なにをおっしゃってるんですか?カタリナ様はあなたのものではありません。」

わたしも思わず叫ぶ。

「そのとおりです。カタリナ様はだれのものでもありません。カタリナ様お見舞いにおすすめの小説を持ってきましたわ。」

「ソフィア、具合が悪いのは、カタリナではなくキースだぞ。お見舞いの品の選び方がおかしくないか?」

「わたしは喜んでいただけるようにお菓子をもってきました。」

ジオルド様はカタリナ様の枕元に近づいて耳元で何やらささやいている。

カタリナ様はほおを赤く染められている。

キース様はカタリナ様をひきよせる。

「ダメです。ジオルド様に義姉をお渡しするわけにはいきません。」

「へえ~言うようになりましたね。キース」

「わたしは自分に正直になろうと思っただけです。」

そのときあの不思議な少女の声とうれしそうな表情が脳裏に浮かんだ気がした。

それはどうやらカタリナ様へ向けて語られた言葉と思われた。

(キース・クラエスの攻略おめでとう。)

 

わたし佐々木敦子は、カタリナとソフィアの脳裏に語りかける。

(ついにキース・クラエスも攻略したね。おめでとう。)

と。

 

さて魔法学園のわたしたちの卒業式だ。ジオルド様が卒業生代表、生徒会長としてあいさつをしている。7割近くの女生徒たちは、頬を染めて見つめている。

卒業式はわりとあっさりだったが、例によって卒業パーティの盛り上がりはすごい。ジオルド様なんかどこにいるかわからない感じだが圧倒的な女子生徒のひとだかりが目印になっている。アラン様の場合、2割ほど男性が混じるがその周囲から漏れてくる話の内容はその演奏をたたえる声が多く聞こえてくるのが大きな違いだ。メアリ様、マリアさんの周りのにも多くの生徒たちが取り囲んで卒業を名残惜しむ会話が聞こえてくる。わたしとメアリ様は、男女半々くらいだがマリアさんのまわりは、男性3:女性1という感じだ。わたしをはじめ前生徒会メンバーは人気で、その周りには多くの後輩やクラスメートがあつまってきていて会話を楽しんでいた。

「読書家でいらっしゃるので尊敬していました。」「知識と教養が深くいらっしゃるので尊敬していました。」「なんであの難しい詩をご存じなのですか?」

「ダンジョンの魔石探索試験であの詩をお読みになられるなんてすごいです。」

「○○のロマンス小説面白いですよね。わたしも読んでいます。」

後輩の男の子や女の子に尊敬のまなざしで見つめられて気恥ずかしい感じだ。とくに男の子については、尊敬と多少の恋愛感情が混じった視線で見つめられるから気恥ずかしさ倍増だ。

そんなときにどうやらカタリナ様と次期会長のフレイ嬢と副会長のジンジャー嬢が話している。ジンジャーにフレイのドレスが本人のプロポーションが良すぎて着れないとかいう会話の後、

「わたしのドレスをかしてあげるわよ。」

というカタリナ様の声が耳に飛び込んできた。

「え~カタリナ様の??」

「ジンジャーなら私のサイズで問題なく入りそうだし...。」

「パーティが終わったらドレスを合わせましよう。」

どこから聞きつけたのかメアリ様が

「カタリナ様、今ドレスを貸すという話が聞こえたのですが...。」

3人のもとへ息を切らしながら走っていく。

「わたしにも、わたしにもドレスを貸してくださいませ。」

うわあ...これは...わたしもお借りしたい、という気持ちが頭をもたげる。

気が付いたら私も息をきらして

「メアリ様ばかりずるいですわ。わたしもお借りしたいです。」

思わず叫んでしまっていた。するとほかの女生徒たちも

わたしもわたしもと言い出しパニック状態になってもみくちゃの状態になった。

それを見たのかキース様、ジオルド様、アラン様、ニコル様がいらっしゃる。後輩のフレイ嬢もいる。

「どうか皆さん落ち着いてください。」

「メアリ、落ち着け。」

「ソフィア、落ち着いてくれ。」

「どうか皆さん冷静になってください。」

「皆さん、わたしはパーティに来ていくドレスがないんです。すみません。」

「ジンジャーは努力して生徒会副会長になったんです。マリア先輩と同じです。」

フレイもなだめる側に加わる。

「それにわたしのが合わないので...」

恥ずかしそうにうつむいた。



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第15話  卒業パーティ

「パーティは今晩ですし、今からカンパしても間に合いません。もしカンパしてくださっても皆さんもご実家に「そんなお金なににつかうの?」ってきかれたら説明が難しいと思います。ジンジャーさんのご実家の面目や事情もありますので、僕の婚約者のカタリナが後輩がパーティに出られるよう何とかしようと考えた結論なのです、どうかここは僕に免じてどうか目をつぶってください。」

ジオルド様が頭をさげる。

 

「わたしとしたことが....とりみだしてすみません。」

メアリ様がそうそっしゃってわたしも冷静になって謝罪した。

なんとか騒ぎはおちついた。わたしとしたことが恥ずかしい。

しかし今晩は待ちに待ったお城でカタリナ様、メアリ様、マリアさんとのパジャマでのお泊り会だ。はやる気持ちが抑えきれない。

 

さてお城でジオルド様とアラン様の卒業記念パーティだ。

カタリナ様、メアリ様が一番似合うと言ってくれたかわいいドレスを着ていく。

メアリ様がカタリナ様のところへ来て何やら話し込んでいる。

「お兄様、行きましょう。」

お兄様を引っ張るようにして二人の輪に加わる。

「わたしもお気に入りのロマンス小説を持参してきましたわ。」

「ソフィア!」

「ごきげんようです。カタリナ様、メアリ様」

わたしはお二人に淑女の礼をする。

「わたし、今日のお泊り会がもう何日も前から楽しみで....。」

「お城の客室に留めていただくんだからあまりはしゃぎすぎるな、ソフィア」

お兄様にやんわりとたしなめられる。

「そういえばニコル様も泊まるんですよね」

「ああ、ソフィアだけを外泊させるのはいろいろ心配だからな。」

「妹思いですわね。そういえばうちのキースも泊まることになりました。」

「そういうことは皆でお泊りってことですね。お城に昨年度の生徒会メンバー勢ぞろいですね。」

わたしは、ほおがゆるんでしまう。

カタリナ様は男子会をすればといいだし、キース様がなにを言ってるのと嫌そうな顔をしている。

お兄様は

「男同士で語り明かすか....」

お兄様は何やら楽しそうだ。

わたしは、王子と敵国の王子の物語とかロマンス小説の題名が脳裏を駆け巡る。どんなお話をするんだろう....

「男性だけで朝まで語り明かす...新しいロマンス小説のようなことが実際に起こるのですね。」とわたしは妄想してほおが染まってしまう。

そこへジンジャーとフレイがマリアさんを連れてやってくる。

マリアさんはなにやら疲れた様子だ。

「男性たちに囲まれて困っていたマリア先輩を保護してお連れしました。」

「エスコート役がいないので男性たちがわれこそはとマリア先輩に迫って、優しいマリア先輩は断り切れない様子でしたので...。」

お兄様が思案顔になりマリアさんに謝る。

「なるほど....そういう事態は予測できたな。こちらでエスコート役を見繕っておくべきだった。すまないマリア」

マリアさんは首を横に振る。

「エスコートの要らない会ということで軽く考えたわたしがいけなかったんです。誰かにお願いすべきだったんですが....。よく知らない方に声をかけられたのでかたっぱしからお断りすることになってしまいました。」

「ジンジャーさんがお召しになっているドレスはカタリナ様のものだったんですね。わたしも着たかったんです。」

マリアさんがそうおっしゃると

「わたしもです。」

メアリ様もおっしゃる。

マリアさんがドレスのプレゼントをもらい、そのサイズがぴったりだったと聞いてカタリナ様の表情が変わる。なにやら番犬のように周囲ににらみを利かせ始めた。

公爵令嬢でいらっしゃるのになぜか平民のマリアさんの番犬のようだ。

「義姉さん、義姉さんてば.....こっちの話聞いていないし....。」

キース様がぼやく。

そうしているうちにカタリナ様は後ろのテーブルにぶつかって、

あっというまにソースチューリンのソースがべっとりカタリナ様のドレスについてしまった。キース様は大きなため息をつかれた。

「汚れ取りの方にふきとっていただいたほうがいいのでは?」

「そうするわ。ソフィア、ありがとう。キース、マリアの護衛をたのむわよ。ちゃらいのが近づいてきたら追い払って。」

「義姉さん、それはいいけど、寄り道したりしないで、汚れとったらすぐもどってきて。」

「わかったってば。」

カタリナ様は会場の外へ出られた。

かなり時間がたってダンスの時間になった。カタリナ様はジオルド様とそのつぎはキース様と踊っている。

そのつぎにはお兄様が「空いているなら俺と踊ってくれないか」と誘った。

お兄様、がんばれと思ってしまう。

 

カタリナはいつもの通りよく食べている。サラダに肉。王子たちの卒業パーティだから出る料理も豪華だ。目移りしているんだろう。アランがカタリナの食べっぷりに爆笑している。今度はアランに肉を食べさせ、アランがもがもがいっている。

ゲームやアンソロにもなかった場面で新鮮だ。そもそもカタリナは悪役だからこんな場面ないのだから...

 

アラン様にカタリナ様がお肉を食べさせている。それを見咎めたのかメアリ様が

「カ、カタリナ様、わたしにもそれをしてください。」

なぜか息をきらしているご様子だ。カタリナ様は料理をとってこようとする。

「そうではなくて、アラン様にしたようにわたしにも、その....フォークで食べさせて下さるのを....」

メアリ様をロマンス小説仲間にしたことはよかったと思っているが、唯一後悔しているのはこういう場面だ。わたしも食べさせていただきたい。

「ずるいですわ。メアリ様、わたしにも。」

「あれ??ソフィア、ニコル様はいっしょじゃないの?」

「お兄様はさきほどお父様くらいのお年の紳士にお声をかけられ、テラスのほうへいきましたわ。」

カタリナ様はなにやら心配されている。わからなくはないがお兄様はもてすぎるせいでかわす術もかなりお持ちだ。

「商談か何かだと思います。お兄様はいろいろと慣れていらっしゃいますからだいじょうぶですわ。」

メアリ様がアラン様と話している。使用人が待っているということだった。

「メアリやソフィアはあいさつやダンスはいいの?」

「もう必要な相手とは終わりました。」

「わたしもです。」

「じゃあ二人もいっしょに食事しない?ちょっとづつシェアして。」

「「よろしいですわ」」

そこへ疲れたご様子のマリアさんがやってくる。

「?マリアさん?」

「カタリナ様、メアリ様、ソフィア様」

「お疲れの様子ですわね。」

「はい、疲れました。」

「こっちで食べない?」

「はい。」

マリアさんは、解放感で笑顔になる。

わたしたちは楽しく食べ物をわけあって食べていたが、その間にもマリアさんへ向けられる視線があって、カタリナ様はそれをみとがめて番犬状態になる。

しばらくしてお兄様が戻ってきた。



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第16話 パジャマパーティ

お兄様はなにやらお疲れのご様子だ。

「だいじょうぶですか?お兄様」

「ああ...。」

力のない返事だ。わたしはほんの少し罪悪感を感じた。

 

さて今晩は、メアリ様のお部屋でパジャマパーティーだ。

しかし、カタリナ様の姿が見えない。

廊下でぼうっとあるいていたところをメアリ様が声をかけられたようで全員そろうことができた。

「どこか具合がお悪いのですか?」

「あ、いいえ、卒業式、パーティと続いたから少し疲れたみたい。」

「「カタリナ様、お菓子ありますよ、召し上がりますか?」」

マリアさんとわたしの声がはもる。

「お茶もジュースもありますよ。」

メアリ様が付け足す。

「ありがとう。」

「うん、おいしい!元気が出たわ。」

カタリナ様が元気になってうれしい。

「確かに今日は予定びっしりでつかれましたわ。」

わたしがそういうとみんな頷く。

マリアさんも

「そうですね。わたしはこのようなパーティは出たことがなかったのでくたくたになりました。」

「あ~そうか、マリアは学園以外のパーティは初めてだったものね。」

「はい。皆様に教えてもらったように気を付けてふるまったつもりですたけど、たくさん失敗していたのかもと心配で...。」

そう顔を曇らせる。

「いえ、とても素晴らしい立ち居振る舞いでした。本当にパーティが初めてとは思えないくらい完璧でしたわ。」

メアリ様がほめていた。

「そういっていただけると嬉しいです。思ったよりたくさんの方に声をかけていただいて、いっぱいいっぱいでしたので。」

「本当にすごい人数が声をかけてきてましたね。」

マリアさんはうなづく。

「でも、どの方のお誘いもお受けにならなかったのですよね。」

メアリ様がそういうと、カタリナ様が問い返す。

「え~そうなのマリア?」

「......はい、ちゃんと踊れる自信がなかったので。」

マリアさんは恥ずかしそうに答える。

「え~私もダンスは苦手だけど相手がリードしてくれるからそれなりになるわよ。」

「カタリナ様のお相手はジオルド様やキース様で上手でいらっしゃるからですが、男性の方のリードにゆだねればそれなりに踊れますわよ。マリアさんも学園でのレッスンには参加なさっているはずですから。」

「はい、おっしゃることは確かなのですが....やはりよく知らない方に身をゆだねるのは....。」

「確かにそうですわね。わたしも面識のない方はお断りしますからわかりますわ。その気持ち。」

「でも、素敵な方なら一度くらい踊ってみてもよかったのでは?そういう方はいらっしゃらなかったのですか?」

わたしはマリアさんをみつめてしまう。ロマンス小説のような出会い、うっとりしてしまう。こんな素敵なマリアさんだ。だれかそれに釣り合うほどの方が声をかけてもおかしくない。

「素敵な方ですか....。」

マリアさんは考え込む。

カタリナ様が

「マリアはどういう人が好みなの?」

とお聞きになる。マリアさんは、

「好みの方ですか?」

と問い返してしばらく考えると

「いつも笑顔で太陽のように明るい方がいいですね。それからわたしの作ったお菓子をおいしそうに食べてくださる方、でしょうか。」

「そ、そうなの?」

「わたしも明るくて元気な方がいいですわ。髪は茶色で瞳は水色の方がいいです。」

メアリ様が便乗してそう答える。え....もしかしてカタリナ様?アラン様は??

「カタリナ様はどのような方がいいのですか?」

「わたしは....。う~ん、具体的に考えたことがなくて.....そうだ、ソフィアはどうなの?」

「わたしですか?わたしはですね~失われた国の元王子様とか、ペガサスにのった金髪の騎士、たとえばこの小説のフェルデイナンド様なんかすてきです。主人公の少女がローゼリッテって言ってわたしのように大の読書家なんですよ。それから....」

わたしは夢中になって話していた。

「最近、恋する振り子時計(オシスラトリ)の新刊がでましたわ。」

「どんなお話だっけ?」

「平民の少年ナオトー・タキを巡ってミスティ家の令嬢サッフォーとサガラー家の令嬢マユが恋の駆け引きをする話です。マユの性格がよすぎるのでサッフォーがマユのことも友人として好きになってしまうんです。」

「へええ、おもしろそうね。」

このときわたしは小説の話をかなり力説していたようだ。

何冊かカタリナ様、メアリ様、ソフィア様、マリアさんにお貸しした。ロマンス小説を語る会が近いうちにできそうで楽しみだ。魔法学園に2年も通学するとその周囲の地理に詳しくなる。あそこのお菓子屋さんは、そうそう、あのお菓子がおいしい、あの雑貨屋さんは、イアリングが、ヘアピンが、ブレスレッドが、ネックレスが...という話になってもりあがる。

 

しかしみんな話疲れてくる。

「そろそろ眠くなったわね。」

「そうですわね。」

そしてメアリ様の部屋で寝てしまった。

わたしは、夢を見た。かなり後になって知ったのだが、どうやらカタリナ様と同じ夢をみたようだ。

薄いピンク色の壁。黒いテーブル、金属製と思われるパイプを組み合わせたベッドがあって水色のカバーがかかっている。ベッドの上に青いクッション。

そこには、あの茶色い長髪の少女。

「あの子が最後にやっていたゲームの続きだからクリアしたら報告に行かなきゃな」

知らない言葉で話しているのにわたしにはその意味がなぜかわかる。

目の前には長方形の板のようなものがあり、マス目が交互にあって文字のような記号のようなものがマス目の上に書かれている。その道具は、円盤のようなものを横から入れると動き出す。

魔法の道具みたいだ。

ウィーンという音がしてヒューヒューと風のような音がする。その円盤を読み取っているようだ。

長方形の板の表面には絵が表示される。そこにはなぜかよく知っている人物が映し出される。

これってジオルド様?キース様....メアリ様、それに私?マリアさんもいる。クラエスご夫妻やうちの両親....これはいったい何だろう??

見たことのない文字、Fortune LoverⅡと長方形の板に表示される。

え?これはラファエルさん、それにキースさん救出に協力してくれたソラさん、それから見たこともない壮年の男性と少年。

 

再びFortune LoverⅡの文字と「魔法省の恋」という文字が映し出される。

わたしには、初めての文字で読めないはずなのに、それがまさしく魔法省での恋物語であることが瞬時に分かった。長方形の板の上に→のようなものが動いている。




※ウィーンという音がしてヒューヒューと風のような音=パソコン、もしくはゲーム機の駆動音とファンの音
※長方形の板=デイスプレイ
※マス目が交互にあって文字のような記号=キーボード、アルファベットのキー
※→のようなもの=カーソルの表示


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第17話 Fortune LoverⅡ

長方形の板には、茶色のソーセージのようなものが縦に複数表示される。

茶色の髪の少女は、楕円形のものを→で卵のようなものをさわってカチカチと動かしてそのたびに、長方形の板に表示される絵が切り替わっていく。

見知らぬ男性は、サイラス・ランチェスターというらしい。少年のほうは、デユーイというらしい。どうやらマリアさんが恋をする物語を魔法で動く紙芝居であらわしているように思われた。その紙芝居は、ソーセージ状のもの(選択肢)の選び方によって場面が変わるようだった。

しかしあるとき黒いフードをかぶった陰気そうな女があらわれる。名前と思われる部分には「???」と書かれている。

「あ~またこの悪役が出てきた。名前隠されていたけど、これ「ワン」に出てきたジオルドの婚約者カタリナだよね。」と少女がつぶやく。

「「ワン」で完全にやっつけたのにまた戻ってきて悪事を働くなんて本当に懲りない女だな。」

とぼやいていた。

「今度は国外追放よりももっと重い刑罰になるんだろうな。」

カタリナ様が刑罰?なにを悪いことをしたんだろう。どうやらこの紙芝居では、カタリナ様が悪役でマリアさんの恋をじゃまをするらしい。

カタリナ様がそんなことをするはずがない。

あんなにマリアさんのことを大切にしているのに、そしてあんなにお優しい方なのに....

「そう、今のカタリナはこんな女じゃない。助けないと。」あの少女の声が聞こえて、その瞬間夢がとぎれ、わたしの意識もふっと消えた。

 

わたし佐々木敦子はソフィアの身体を借りて、Fortune LoverⅡについて日本語で書き綴っていく。前世では自動書記と呼ばれる現象なのだろう。

わたしは親友内野さんの転生した姿であるカタリナを救うために彼女の中の佐々木敦子のフラクトライトとしてカタリナの夢の中で語りかけるだけでなくソフィアを使ってこのように自動書記を行う。

Fortune LoverⅡについて書き綴っていく。

平民で主人公であるマリアが魔法学園を卒業後魔法省に就職する、生真面目な上司、くせのある同僚、一筋縄ではいかない魔法省の仕事の数々、新たな恋の物語がはじまる、

登場人物、新たな攻略対象サイラス・ランチェスター、デューイ・パーシー、ソラ....

前回からの攻略キャラには、それぞれのライバルキャラがかかわり、その子たちとうまく付き合うか、認めてもらって恋が進展していく。今回の3人の攻略キャラをクリアするには、謎の女のいやがらせをどう乗り越えるかがキーとなる。

謎の女の正体は、国外追放されたカタリナ・クラエスであることがのちに判明するが、今回のカタリナは、禁忌とされた闇の魔力を手に入れて国内、しかも魔法省に潜入して主人公マリアへの復讐を企てる。カタリナの嫌がらせを攻略対象の男性と協力して克服し、その正体をつきとめて役人に突き出して監獄に投獄させられればハッピーエンド、役人に突き出せない場合には、カタリナと相打ちになり、攻略対象は闇の魔力で廃人となってしまう、

そういったことを書き連ねた。そしてソフィアがカタリナに貸した本に挟み込んだ。

そしてソフィアの身体をベッドに戻した。

後で聞いたことだがこのときカタリナがわたしのフラクトライトが語った夢のせいでうなされて、ソフィアが貸した本をお城の廊下に忘れたということだが、じつはわたしがこのメモを入れるために廊下へ移動したせいでもある。カタリナごめんなさい。

 

「退場でいいでしょう~~~~~~~~~」

カタリナ様が悪い夢でもみたようで絶叫している。

「カ、カタリナ様、大丈夫ですか?」

眠い目をこすりながらおそるおそるたずねる。

「だ、大丈夫よ、ちょっと怖い夢を見て....それより騒いで起こしてしまってごめんね。」

「いいえ、もうすぐ起床する時間でしたから、ちょうどよかったです。」

わたしはほほえんだ。

「きっと疲れて怖い夢でも見たんですよ。昨日はいろいろ忙しかったですし.....。」

「カタリナ様、魔法省の入省日までは、まだ数日あります。いったん入省したら忙しいですから今のうちに休まれてください。」

 

わたしたち4人は、ジオルド様とアラン様に会いに行き、「自宅に戻ります。お城に泊めていただきありがとうございました。」とあいさつをする。

なぜかジオルド様は不機嫌な感じで、キース様はげっそりしていた。

 

さてカタリナ様とマリアさんの入省式の日になった。わたしとメアリ様も、それぞれお父様にお願いして社会勉強ということで魔法省のパート勤務をすることになったが、初日なのにカタリナ様が新人研修の省内案内で気絶されたという。心配になってメアリ様とお見舞いへ行った。どうやら生物研究室のサルが引き抜いた新種の植物の声を聞いておどろいて気絶されたらしい。

 

さて、カタリナの入省式がおわって、サイラスとデューイと出会ったようだ。

わたし佐々木敦子のフラクトライトは、カタリナの脳裏に前世のわたしの思い出を語りかける。

 

「なかなかすすまないな。」

わたしがゲームを操作してる場面だ。このときは好感度にあまりいい数値がでずに苦戦していた。

「う~ん、気分転換にスチルでも見るか。」

わたしは、スチルがストックされているファイルを開く

サイラス・ランチェスターと見つめあうシーン、デューイ・パーシーを抱きしめるシーン、ソラに壁ドンされているシーンなどをひらいていく。スチルには、メアリとソフィアが映りこんでいるが、気が付いたろうか。

「さてと。」

わたしは飲み物をとろうとする。

「Fortune Lover Ⅱ」のパンフにライバル、友人キャラとしてメアリとソフィアが描かれている。

「こうしてみると、「ワン」ででたキャラもだいたい出しているんだよね。」

「もしかして、追放されたはずのカタリナも出てくるのかな?仲間はずれにしちゃ悪いと思ったのかな。」

「それにしてもカタリナは出すぎよね。どの攻略対象でもちょいちょい邪魔しに出てくるんだから。」

「実は制作スタッフが気に入ってたりして。」

「でもその割にはどのルートも最後が悲惨だしな~」

 

カタリナ様が「詳しく教えて~~~~~~」

と絶叫して飛び起きた。

わたしソフィアは語りかける。

「カ、カタリナ様、大丈夫ですか?」

「ここはどこなの?」

「魔法省の医務室です。カタリナ様は、サルが引き抜いた新種の植物の声をきいて気絶されていたのです。」メアリ様が答えた。




※茶色のソーセージのようなもの=ゲーム画面の選択肢
※卵のようなもの=マウス


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第18話 カタリナ様の初出張

今この医務室には、お兄様とジオルド様、アラン様もいらっしゃっているが、わたしたちと同じような理由で研修として来ているらしい。

しばらくして勤務時間も閉庁時間になったので、カタリナ様はキース様につきそわれてご自宅へ帰られた。

 

魔法省での二日目、カタリナ様とマリアさん、ソラさんは、新人の部署配置の試験もかねて明日から主張で狸退治にいくとのことで、三日目に支所へ出張されていった。

 

数日後、カタリナ様とマリアさんがその出張から帰ってきた。

無事に狸退治を終えたということだが、ただ狸退治だけでは済まなかったらしく洞窟にいかねばならなくなってたいへんなことがあったらしい。

「けがなどありませんでしたか?」

「もしものことがあったらと思って薬箱を持参しましたわ。」

わたしとメアリ様が口々に申し上げる。

「大丈夫よ、かすり傷ひとつないわ。」

カタリナ様はスカートまでたくしあげようとする。

それを見て驚いたキース様とアラン様が怒ってたしなめる。

カタリナ様はしゅんとして二人に謝る。

ジオルド様が

「まあ、けががなくて何よりです。しかし、はじめから泊りがけの任務とはたいへんでしたね。どんな任務だったんですか?」

「狸退治からのドラゴン退治です。」

わたしは絶句したが皆さんも同じようだ。

お兄様が

「狸はともかく....ドラゴンと言うのは強大なトカゲに翼が付いたような....例の伝説上の動物か?」

とたずねる。

「あ~はい、そうです。でかいトカゲと言うか大昔の恐竜に翼がはえたようなそれです。」

皆きょとんとした感じだ。

「?もしかしてあんまりいないものなのですか?」

カタリナ様は不思議そうな顔をして尋ねる。

「いないも何も....ほんとうにそんなものいたのかよ....。」

「さっきも言ったが伝説上のもので実在するとは驚きだ。」

アラン様とお兄様はそう答える。わたしもドラゴンが実在するのは驚きだというのは同感だ。

「で、義姉さん、どうやってそのドラゴンを倒したの?」

「あ、うん、それはね。ポチが大きくなって、えい、やあ、がぶりってドラゴンを倒したのよ。」

カタリナ様はここぞとばかり使い魔の犬のポチちゃんが巨大化してドラゴンを倒したと身振りを手振りでポチちゃんの活躍を熱弁する。

「え~と、カタリナ、ポチと言うのは君の影に棲みついている闇の使い魔のことだよね、それが大きくなったってどういうことですか?」

ジオルド様がやや固い表情で尋ねる。

「こういう虫眼鏡みたいな魔法道具を借りていったの。そうしたらその道具が熱くなってポチがドラゴンくらい巨大化したのよ。」

「....まあ、なんとなくわかりました。なんとなくですが...。」

ジオルド様が何かあきらめたような表情で話される。

「じゃあ、そのドラゴンはポチが倒したんだから義姉さんは危険なことはなかったんだよね?」

キース様が確認するように言うとカタリナ様は

「もちろんよ」と言うが同時にマリアさんが「とても危なかったんです。」と話されその声が被る。

「カタリナ様は、わたしたちを守るために石を投げてご自分のほうに引き寄せて下さったのです。偶然ポチちゃんが大きくなってドラゴンを倒したので助かりましたが、本当に危なかったのです。わたしたちのせいでカタリナ様がと思うと...」

マリアさんはその時のことをおもいだしたのか泣き出しそうになっている。マリアさんの気持ちはそのままわたしとメアリ様にうつっていく。親友の命が危なかったと思うとたまらない気持ちになる。

「マリアさん、その時の状況をくわしく話してください。」

「カタリナ様は石をドラゴンに投げつけてお逃げになったのですがドラゴンが大股にあるいてすぐに追いついてしまったようでした。そのときカタリナ様の影がうねってポチちゃんが巨大なオオカミのようになったのです。ドラゴンが前脚をあげるとポチちゃんががぶりと噛みつき、今度はドラゴンがポチちゃんにかみつこうとします。

ポチちゃんはそれをかわしますが、あの巨大なしっぽにたたきつけられてしまいます。ポチちゃんが倒れかかっているところをドラゴンが迫ってくるので、カタリナ様が石や枝をなげてドラゴンの気を引きます。そのすきに、ポチちゃんが立ち上がってドラゴンの首筋にかみついてドラゴンを倒したのです。結果としては、それで無事に戻れて狸退治をして終ったのですが、とても危なかったんです。」

わたしも皆さんも心配な気持ちで表情が険しくなっている。

カタリナ様は焦った感じで両手を顔の前で振りながら

「マリアたちが危なかったからとっさにね。無事に帰れたんだからいいでしょう。」

とおっしゃる。

キース様が口火を切った。

「義姉さん、あれだけ言ったのに....。」

「カタリナ様、もっとご自分を大切になさってください。」

「本の感動を分かち合うカタリナ様がいなくなったらわたしはつらいです。」

「カタリナ、僕はあなたをうしないたくないのです。」

「演奏会にお前がいないと思うとつらいんだ。もっと気を付けてくれ。」

「カタリナ、無茶はしないでくれ。」

カタリナ様は、「はい...。」と力ない返事をしてキース様と一緒にご自宅へ帰られた。

翌朝、わたしはお兄様の用があるので一緒に魔法省に出勤した。講堂でカタリナ様やマリアさんの職場発表があるはずだ。

わたしが荷物を運んでいるとカタリナ様をみかけたので声をかける。

「カタリナ様、おはようございます。」

「おはよう、ソフィア。今日もお手伝いする日なの?」

と聞かれた。

「はい。お兄様も用があるので来たのですが、こうして二日続けてカタリナ様にお会いできてうれしいです。」

「学園ではほとんど毎日会っていたのにね。働き始めてからなかなか会えなくなってさびしいわ。」

「わたしもです。ぜひ休みの日には遊びにいらしてください。またえりすぐりの小説を用意しておきますから。」

「ありがとう。」

カタリナ様はなにやらカバンをごそごそしている。なにか私にすぐ話したいことがありそうな感じだ。カタリナ様は、ようやくみつかったと安堵の表情になると一枚の紙を取り出して、

「あ、あのね。ソフィアに聞きたいことがあるんだけど...。」

「何ですか?」

「ソフィアに借りた小説の中にこんな紙がはさまっていたんだけど....。なんだかわかる?」

その紙には見慣れない文字のようなものが書かれていた。



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第19話 契約の書(前編)

「あの、これは文字なのですか?」

「え?」

「異国の文字ですか?」

わたしは首をかしげてしまう。その様子を見てどうやらカタリナ様は、何かに気が付いたようだ。かなり後できがついたのだが卒業パーティの後メアリ様の部屋に泊まった時に不思議な夢を見て、その文字を見ていたのだがこのときのわたしはすっかり忘れていた。

カタリナ様はなにやら固まっている様子だ。わたしは心配になって

「あの?カタリナ様?」

と声をかける。

「あ、ちょっと混乱していて....ほんとうにソフィアはこのようなメモは見たことないんだ...。」

「はい、初めて見ました。」

 

ソフィアは全く覚えていないのはしかたない。全部わたし佐々木敦子がしたことだから。カタリナを内野さんを何とか助けたかった。カタリナの中の内野さんに刻まれているわたしのフラクトライトを増幅させわたしの生前の記憶を注ぎ込む。そしてソフィアを動かしてあのメモを書かせた。ソフィアに記憶が残らない状態で。

 

講堂からマリアさんとソラさんが

「カタリナ様、もう皆そろっていますよ。」

と呼びに来た。

「ソフィア、お休みの日にはぜひ遊びに行かせてね。」

「はい。お待ちしています。」

マリアさんとソラさんは一礼してカタリナ様をつれて講堂のほうへ行った。

 

わたしソフィアは魔法省で主に医務室で手伝いをしている。

カタリナ様は魔法道具研究室に無事に配属が決まったことをお聞きしていたが、ある日カタリナ様は、体調を崩して運びこまれてきた。

 

さてわたし佐々木敦子は、ソフィアがカタリナを看病するという絶好の機会にめぐ

り合わせた。Fortune LoverⅡのカタリナは、闇の魔法を持ちマリアと攻略対象を攻撃するが内野さんの転生したカタリナはそうではない。わたしは内野さんの転生したカタリナの心に存在する私のフラクトライトに前世でのFortune LoverⅡの知識を注ぎ込む。

カタリナが夢を見る。

わたしの部屋が彼女の夢に映し出される。パイプベットに水色のカバー、ベッドの上の青いクッション、薄いピンク色の壁、黒いテーブル。ゲーム画面が映し出される。

Ⅱの攻略対象、サイラス・ランチェスターが少々困った顔で映し出される。

画面の下にサイラスのセリフが表示される。

『マリア、君があえて危険な目にあう必要はない。どうか私に守らせてくれ。』

画面のなかのサイラスの表情は憂いを含み、いっそうイケメン顔が引き立っている。

しばらくするとサイラスのセリフが消え、マリアのセリフが表示される、

『わたしだってサイラス様を危険な目にあわせたくありません。だから私も戦います。守られるだけなのはいやなのです。』

サイラスはマリアに手を差し伸べる、

『そうか...わかった。では一緒にいこう。』

画面が切り替わる。

画面に現れたのはローブを深くかぶった謎の女。悪役令嬢カタリナ・クラエスだ。

『くくく、ようやくあの忌々しい女に復讐できる。だってわたしはこの力を手に入れたのだから。』

カタリナは不気味な笑い声をあげた。その手には黒い本。そして巨大で黒いオオカミのような影。

カタリナ・クラエスは、マリアやサイラスと戦うのだ。

わたしのフラクトライトへの増幅はそこで力尽きた。

同時にカタリナが目覚めたようだ。

 

がばっとカタリナ様が起きた音がする。

カーテンを開けるとカタリナ様が起き上がっていた。

「あっ、カタリナ様、お目覚めになられたのですね。」

「ソフィア、ここはどこ?」

「ここは魔法省の医務室です。カタリナ様は、魔法省の敷地にある岩の近くで体調を崩して倒れてしまったんです。だからここへ運びこまれてきたんです。」

「義姉さん大丈夫?」「カタリナ嬢大丈夫か?」「カタリナ様、大丈夫ですか?」

キース様、ラーナ様、マリアさんが心配そうな顔をのぞかせる。その後ろにはやはり心配そうな顔をしたサイラス様、ソラさん、デューイくんがいる。

「あれ?みんなもう失われた魔法は手に入ったの?」

とカタリナ様がおっしゃるとマリアさんが

「はい。おかげさまで無事に失われた光の魔法を得ることができました。それで戻ってきたらカタリナ様が岩の反対側で倒れておられたんです。あの,,,本当に大丈夫ですか?」

「あの、なんで私は倒れていたの?」

「キャンベルさんが消えた後にクラエス様は岩を観察したいと部署長たちとしばらく岩の周りを回っていたんですが、声が途絶えたと同時に姿が消えて、あわてて周囲を探しているうちに再び岩の近くに現れたとおもったらそのまま倒れてしまったんです。」

「カタリナ様、お顔が真っ青です。大丈夫ですか?」

マリアさんの表情からは心から心配している様子がにじみ出ている。

「すこしだけ気分が悪くなってしまって...だけどもう大丈夫。あの。わたし本を持っていなかった?」

「あ、はい。それでしたらこの本でしょうか?倒れた時もかかえていたということです。」

わたしはその本をさしだした。

今度はラーナ様がカタリナ様に話し掛ける。

「カタリナ嬢、マリア嬢はあの白い空間で失われた光の魔法を手に入れた。それはマリアが昨日手に入れた光の魔法の契約の書に書かれている。ただし光の魔力を発動しないと見えないのだ。マリア嬢すこしやってみてくれ。」

マリアさんは少し戸惑っている様子だったが、「はい。」と返事をして

カバンから本を取り出し、魔力を発動させた。すると本が光り輝いた。カタリナ様はマリアさんの本をのぞきこむ。

「わたしには、光の文字が浮き上がって見えるのですが、ほかの方には見えないようなんです。」

「なるほど...ほんとうに魔法の本なのね。」

とカタリナ様がマリアさんの本をみつめる。今度はラーナ様が

「では、カタリナ嬢。あの闇の使い魔を出してくれないか?」

とおっしゃり、カタリナ様はとまどいながら

「どうしてですか?」

とぽかんとした印象で問い返す。

「マリア嬢の話を聞いていただろう。本に魔法の文字が現れるかどうかは魔力を発動しないとわからないのだ。だから君の持っている闇の契約の書も魔力を発動してみないと書かれているかどうかわからないということなのだ。」

「え?あ?なんでこの本が??」

「ああ、なぜ君が持っている本が闇の契約の書とわかったのかということか。まずその契約の書がマリアの契約書に似て古字で書かれた基礎魔法の本だったということ、マリア嬢があの巨石に埋め込まれた白い石に触って消えたようにその裏側には黒い石があったのだ。覚えているか?」とラーナ様はカタリナ様に尋ねられた。



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第20話 契約の書(後編)

「いえ、それは気が付きませんでした。」

「うむ。カタリナ嬢、君の姿も消えてしまったのだ。おそらくその黒い石に触れてしまったからだろう。その消えた後に闇の魔法を得たのではないか考えたのだが...。カタリナ嬢、その推測は正しいと思うか?」

ラーナ様が小首をかしげて回答をうながした。カタリナ様は腑に落ちないが何にやら納得したようなあきらめたような表情でお答えになる。

「黒い石には気が付きませんでしたが、おそらくその通りだと思います...。昨日あの岩の裏側に耳をあててみたらポチが出てきたんです。そしていつの間にかわたしは真っ黒な空間にいました。そこにはマリアと一緒の空間のように空中に球があったのですが、光り輝く球ではなくどす黒い球が浮かんでいて一方的に話しかけられました。その黒い球はわたしが契約の書を持っているというんです。それが偶然倉庫から持ってきた本だったのです。本は鞄からふわふわ浮きあがって、本をめがけて黒い矢のように文字が降り注ぎました。わたしは、まがまがしい文字が容赦なく降り注ぐので頭がくらくらし吐き気をもよおし意識をうしなったのです。....でも、あまりにも現実味がないので夢だったのではないかと思っていたところです。」

カタリナ様はそうお答えになり、

「やっぱりそう考えていたのか。だからこの本を倉庫に戻しておしまいにしようと考えているんじゃないのか?」

と改めてラーナ様がおたずねになると、カタリナ様は、いかにも図星ですと驚いている様子だった。

「カタリナ、君は顔に出ているからわかりやすい。だが、ただの夢ならともかく、そうでないなら今後の魔法省のためにその本を役立てたい。試してくれないか?」

「はい、わかりました。ポチ、出てきて」

ポチちゃんが現れ、「ワン」と吠えると、本に黒い霞がかかった。カタリナ様は、驚きと恐怖の入り混じったような表情になる。

「その顔は文字が見えたようだな。」

「はい...。」

「よし、それが分かったのなら今日はここまでだ。」ラーナ様は、カタリナ様の本を閉じた。

「マリア嬢とカタリナ嬢は、失われた魔法を直接受け取った立場にあるからか身体に負担がかかっているようだな。カタリナの顔色もよくないが、マリア、君の顔色もいいとはいえないな。」

「契約の書が逃げることはないだろうから、その解析は休み明けからでいいだろう。二人とも今日は帰ったらしっかり休むように。」

カタリナ様はキース様とソラさんにつきそわれ、自宅へ戻る帰り支度をはじめる。魔法省の寮に戻るマリアさんは、デユーイくんとサイラス様に付き添われていった。

 

ソラとキースに小言をいわれつつ、「失われた魔法が見つかったんだからいいじゃない。」と言っているカタリナを背後から刺すような冷たい視線があるのをわたし佐々木敦子は感じた。カタリナも腕に鳥肌がたっているようすがうかがわれ、おそらくその不気味な視線を感じていると思われた。

 

わたしはキース様にカタリナ様が倒れたことを伝え、お見舞をもってくるならお屋敷で確認するから待っていてくれと言われていたのをお兄様に伝えていた。

クラエス邸の茂みに隠れて様子をみているとカタリナ様とキース様はいい雰囲気になっている。

「キース様、義弟という特権を利用しすぎです。」とぼそりとつぶやくとお兄様が

「カタリナがどんな様子か確認してくるから待っていてくれていいと言ったキースに敬意を表して、もうすこし待つべきだ。」

「うっ、少し悔しいですがここはお兄様の言うとおりにいたします。」

「もう十分待ったでしょう。このままにしておくつもりはありません。僕は行きますよ。」

「ジオルド様、お一人で団体行動を乱さないでください。それにここについたのはわたしが最初ですからわたしが一番に行きます。」

「到着に大した差はなかったじゃないですか。それに僕はカタリナの婚約者ですので。」

「婚約者といっても形だけですわよね。わたしは、親友ですよ。この間はお城で一緒の部屋で眠った仲ですわ。」

「そんなことはありません。僕はカタリナを愛していますから。それに、あのときは、せっかくの僕たちの時間を全力で邪魔していただいて。」

「あら。あの程度のことをお気になさるとは。度量の狭い男はきらわれますわ。」

「ちょっとジオルドもメアリも落ち着け。こんなとこでもめるなよ。うわ....。」

アラン様がバランスをくずして茂みからでてきてしまう。

「アラン様?」

カタリナ様にみとがめられる。

「....あ~、よう、カタリナ」

気まずそうにあたまをかきながら返事をされていた。

「アラン様、先にずるいです。」

「アラン、兄をさしおいて何先に行ってるんですか」

「いや、どう考えてもお前らがあんなせまいところで身を乗り出してもめていたせいだろ。なんで俺が怒られるんだ。」

隠れていても仕方ないので私も姿を現し、お兄様もそれに続く。

「カタリナ様、こんにちわ。ごきげんいかがですか?」

「カタリナ、大丈夫か?」

キース様がぼそりとつぶやく。「もう少しまっていてくれればいいのに」とおっしゃってるように思えた。

「あの、なんで皆がここに?」

とカタリナ様がたずねるとキース様が皆がお見舞を持ってきてくれたんだと伝えている。

まずジオルド様がカタリナ様の手を取って

「カタリナ、君は僕の婚約者ですからどんなことがあろうと僕は命尽きるまで君のそばにいますから」と笑顔で話しかけてくる。それをメアリ様が押しのけて

「私もです。カタリナ様。絶対に離れてなんか行きませんわ。もしカタリナ様が悪事に手をそめるようになったら叱って差し上げますわ。」

「叱るだけじゃなくて菓子をおあづけにすればさらに効果があるとおもうぞ。」

アラン様がいたずら小僧の様な笑みをうかべる。

わたしにとってもつらい決断だがカタリナ様がもしそういうことになったら更生してほしい。

だから

「わ、わたしも心を鬼にして小説をお貸ししないことにします。」

と吐き出すように宣言する。

「そういうことだ。ここにいる者は皆君がどんな風になろうと見捨てて離れて行ったりしない。そばで支え続ける。」

お兄様が魔性の伯爵ともいうべきとても優しい魅力的な笑みをうかべた。

カタリナ様は

「みんな、ありがとう。」

とお礼を言ってきた。その表情からは安心した様子がうかがえた。わたしたちは、カタリナ様としばらくおしゃべりした後夕方になったのでそれぞれ帰っていった。

 



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第21話 お城での合宿講義

不思議な岩の近くで倒れた日の夜、カタリナ様からは、あの晩よく眠れたこと、闇の魔法の契約の書を解析しなければならないので大変だというお話をため息交じりにお聞きした。

 

さて、2年に一度のソルシェ王国を含む近隣5か国の会合の時期がやってきた。今年はソルシェ王国が主催国となる。ソルシェは治安が良く経済的にも豊かなので多くの国が参加する可能性がある。

さてカタリナ様がジオルド様からマナーや諸国の歴史などを集中的に学ぶ合宿講義をお城でなさるよう指示を受けたそうだ。わたしも行きたいとお兄様に話すとお兄様は同意してくれただけでなく

「キースからカタリナの部屋の場所を聞いたからその近くに部屋をとってやろう。」

と言って部屋もとってくださった。

そうそう、カタリナ様とお泊りで楽しむための小説をごっそりもっていこうとトランクに詰めた。

お兄様といっしょに合宿講義を行う部屋につくとジオルド様だけでなくメアリ様やアラン様もいらっしゃる。ジオルド様はなにやら不機嫌そうだ。

カタリナ様の馬車がついて、カタリナ様が少々驚いた表情で私たちの名前を呼ぶ。

メアリ様が「カタリナ様、お待ちしていました。」

と満面の笑みで出迎える。わたしもメアリ様についていく。

「会えたのはうれしいけど、どうしてここにいるの?」

「わたしたちもお城に泊まり込みでこの合宿に参加するからですわ。」

「メアリたちも参加するの?」

「社交界の華と呼ばれるメアリ嬢には今更講義など必要ないと思いますけどね。」

ジオルド様はにこやかにおっしゃるが目が笑っていない。

「いえいえ私などまだまだですわ。ね、アラン様」

「ああ...」

アラン様がそっけなく応える。その顔は明後日の方向を向いている。

「カタリナ様、わたし、お泊りのためにたくさん小説をもってまいりましたわ。」

お兄様はそれをみとがめ、トランクを取り上げられる。

「何の荷物かと思ったら。合宿講義を受けるのに小説を読んでいる場合じゃないだろう。これは俺が預かっておく。」

わたしはショックでしょぼくれるしかない。

「ソフィアはこの通りやる気に欠けるようだがよろしく頼む。俺も仕事で城に泊まり込むことになっている。もし何かあったら知らせてくれ。」

とカタリナ様に頭を下げる。

「いえいえわたしこそよろしくお願いします。」

と返事をされた。するとジオルド様が

「もうあいさつはいいですね。カタリナ、さっそく僕がカタリナの部屋までご案内しましょう。」

というとキース様が

「いえいえ義姉さんの部屋はこちらで手配しましたので大丈夫です。」

といってカタリナ様をひきよせる。

「わたしたちもその部屋の隣りの棟に部屋をかりましたの。」

とメアリ様がおっしゃる。ジオルド様は暗い表情でなにやらぶつぶつつぶやいている。その日は用意された部屋に泊まった。翌日は、メアリ様とカタリナ様と一緒に合宿講義のオリエンテーションだ。

翌朝お兄様やキース様、お二人の王子様はお仕事に向かわれ、わたしたち女性3人は、オリエンテーションをする部屋へ行く。

その部屋には、わたしたちのほかにも貴族の令息令嬢たちがいくにんかいらっしゃった。

講師のおじいさんの説明によると朝から晩までみっちり講義をするようだった。

なにやらカタリナ様がぼうっとしている。

「カタリナ様?だいじょうぶですか?」

「ご気分でも悪いのですか?」

わたしとメアリ様はおなじことを考えていたようでカタリナ様に声をかける。

「あ~本当にびっしり勉強するんだなあ...大変だあと思って」

「確かにそうですね。でも一緒にがんばりましょう。」

「協力すれば大丈夫です。」

「ありがとう。がんばりましょう。」

「じゃあ部屋に戻って身支度してから夕食に行きましょう。」

「そうですわね。」

わたしたちはいったん自分の部屋に戻ってから3人で食堂へ向かう。

城のT字路になっている廊下でジオルド様にでくわした。

「やあ、カタリナ、ちょうどよかったです。一緒に食事はいかがですか?」

「王族の方も一緒に食事をするんですか?」

「いえ、他の家族はその家族だけで食事をします。王族も同じですが、僕はカタリナと食事をしたくてこちらで食べられるよう手配したのです。」

ジオルド様がカタリナ様をエスコートしようと手を伸ばす、

しかしメアリ様がすっとはいってくる。

「ジオルド様、目に入っておられないようですがカタリナ様はわたくしたちと一緒に食事をしますのよ。」

「ああ、メアリ、いらしたのですね。カタリナとは久しぶりですので今日は遠慮してください。よかったらあなたは、うちの家族の食事に交じって婚約者のアランと親交を深めてはいかがですか。席も空いていますし。」

「あら、わたしとアラン様は充分に親交を深めているのはご存じではないですか?それにわたしたちもカタリナ様とは久しぶりなのです。ジオルド様こそ、女性同士の楽しい語らいの場ですので遠慮していただいて、ご家族の席にお戻り下さい。アラン様も寂しがっておいでですし、ご家族の方も本音では戻ってきてほしいとお考えですわ。」

ジオルド様とメアリ様が黒い作り笑顔でお話しされている。そのときお兄様が廊下の先からこちらへ向かってくるのが見えた。

「あ、お兄様」

「ん、これから皆食事なのか?」

「はい。これから夕食へ向かうところです。」

「そうか。じゃあ皆で一緒に食べよう。」

お兄様ははにかみながらほかの人には見せないうれしそうな表情をみせる。妹を何年もやっていると表情が乏しく見えるお兄様がどれほどうれしく感じているのかじわりと感じられる。魔性の魅力のせいで男性も女性もめろめろになってしまうためにかえって友人が少ないお兄様は。元生徒会メンバーのように子どものころから耐性のある親しい友人たちとの食事をとても楽しみにしているのだ。

お兄様の表情をみてジオルド様もメアリ様も何も言えなくなってしまい。大きなテーブルを囲んで食事をすることになった。そのときにキース様もいらっしゃってこの場にはアラン様と平民であるため会合に参加しないマリアさん以外の元生徒会メンバーが勢ぞろいすることになった。

お兄様はとてもうれしそうでうきうきしている。これだけでもわたしは声をかけてよかったとうれしくなった。食事がすむとメアリ様とキース様が自室へ戻るカタリナ様についていって危険だから鍵をかけるようにとかなり必死な表情で訴えかけてカタリナ様の部屋には厳重に鍵がかけられた。

言うまでもないジオルド様対策だ。



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第22話 大浴場とダンスのレッスン

翌日はみっちり講義で夕食の後わたしはつかれて部屋へ戻る。メアリ様はカタリナ様を大浴場へお誘いしたようだが、カタリナ様もかなりお疲れでお断りしていたようだ。

さらにその翌日、午前の講義が終わるとカタリナ様とメアリ様と食事をしたあとカタリナ様がいなくなった。

メアリ様が

「もうすぐ午後の講義が始まるのにカタリナ様がいない。どこにいらっしゃるかわかりますか?」

とおっしゃるので

「すみません。わたしもわかりません。」と答えてから探しに行かれてようやく居場所をみつけたらしい。カタリナ様は会合で使われる広間でピアノの練習をしているアラン様にお会いになったようで、リクエストしたら気持ちよさそうに寝てしまったそうだ。

昼寝をしたせいかカタリナ様は疲れた様子もなく講義を受けられたようた。

「メアリ、ソフィア大浴場へ行かない?」

「いいですね。」

わたしは即答だ。しかし、メアリ様はとまどったご様子だ。

「カ、カタリナ様のお誘い、心の準備が...。」

とおっしゃる。

「?メアリはダメそう?」

「いえ、お供いたします。」

とお返事された。

それぞれいったん部屋に戻り支度して大浴場に向かう。

大浴場は、だいたい10人くらいの人がゆったりはいれる感じの場所だった。

カタリナ様がながめていらっつしゃる。

「わたし、こういう大きなお風呂に入るのは初めてなんです。それにしてもおおきいし、内装もすばらしいですね~。」

しばらくメアリ様を待つがなかなかやってこない。

「メアリ様、ふだん遅刻なんかしてこないのに遅いですね。」

「そうね~珍しい、何かあったのかな」

メアリ様付きのメイドさんがやってきた。

「すみません。メアリ様は体調を崩されたので本日はご一緒出来なくて残念だとおっしゃっていました。」

「ええ!メアリ具合が悪いの??」

わたしは、カタリナ様のほうを向く。

「メアリ様が体調悪いのに私たちだけでお風呂を楽しむのは、申し訳ないし、寂しいですね。」

「そうね。今日はお風呂はやめて、次の機会に入るとしてメアリの様子を見に行きましょうか?」

そんなことを話していると、メアリ様のメイドさんは首を横に振って見せる。

「いいえ、メアリ様は今たまたま具合が悪いので一晩お休みになれば回復します。ですからカタリナ様方はお風呂をお楽しみください。メアリ様もそれを望んでおられます。」

「「わかりました。そうですか。じゃあメアリ(様)にはくれぐれもお大事にとお伝えください。」」

二人でそう伝えるとさっそく入ることにした。

「わあ、ほんとうに大きいですね。」

「泳げそうね。」

カタリナ様がそう口に出した途端、アンさんが顔をしかめて

「カタリナ様、くれぐれも泳がないでください。」

という。

「アン、心配しないで。そのくらいはわきまえてるわ。」

カタリナ様はそうお答えになるが顔色はかすかに残念そうだ。

わたしとカタリナ様はタオルを巻いて浴槽につかる。

「カタリナ様、お湯からいい香りがしませんか?」

「あ、本当ね。これバラの香りがするわね。」

「香油をお湯に入れているようですね。」

とアンさんが教えてくれる。

さすがお城のお風呂、わたしとカタリナ様はバラの香りのお風呂を楽しみ、お湯で身体を流すとつかれも洗い流されるような心地よさを味わって浴場を満喫した。

 

わたし佐々木敦子もソフィアとしてお城の浴場を満喫した。この世界の泡立ちの良いボディシャンプーは最高に気持ちよかった。メアリがこれなかったのはつくづく残念だ。

 

3日目、メアリ様は合宿講義に元気な姿をみせたので一安心した。講義は午前のみで午後はダンスのレッスンだ。

ダンスのレッスンのフロアへ行く。なんとそこにはジオルド様がいた。

わたしは、ダンスのレッスンは講義を受けている者たちで行う予定なのになぜ当たり前のようにいるのだろうと思っていたので少々驚いたが、カタリナ様も不思議に思ったようで、がなぜここにいらっしゃるのか尋ねると、

カタリナ様のダンスの相手を務めるためだという。しかし踊っているうちにカタリナ様の身体を巧みに引き寄せる。なにかささやいているようだ。かなり密着して踊っている。カタリナ様がだんだん上気して顔が赤くなり、足が少々ふらつき気味になっている。わたしはあぜんとながめてしまったが。

メアリ様がみとがめて

「カタリナ様が困っているわ。助けに行かなくては。」

とおっしゃったので二人で助けに行くことにした。

メアリ様が「ジオルド様、曲が変わりますので今度はわたしのお相手をお願いできますか?」

「ああ、メアリ嬢、僕たちは婚約者として久しぶりのダンスを楽しんでいるのですよ。遠慮していただけませんか。」

メアリ様はにっこり微笑み、

「今はダンスの練習の時間ですので、たくさんの方と踊ってこそ意味がありますわ。」

さすが社交界の華とうたわれるメアリ様だ。流れるような優雅な動作でジオルド様の手を取ってダンスの相手役になる。

「カタリナ様は、少しお疲れのようですから、ソフィアさん、あちらへお連れして下さるようお願いします。」

わたしは、カタリナ様をホールの隅に置かれた椅子のところまでお連れした。

そして飲み物をお渡しする。

飲み物で落ち着いたのか、赤くほてりぎみの顔色がもとにもどっていく。

「カタリナ様、大丈夫ですか?」

「ええ、ありがとう。少し疲れただけよ。」とお返事が返ってくる。

「ならよかったです。」とわたしは微笑んでみせる。

しかし「あのエロ王子め。あんなにベタベタと....許すまじ」と小声のつぶやきがもれてしまう。

カタリナ様が

「え?ソフィア?」

「なんでもありませんわ。」とわたしは再びにっこりと笑みをうかべてみせる。

再びカタリナ様は飲み物を口にし、

「メアリとジオルド様のダンスはやっぱり素敵ね。美男美女でお似合いだわ。」

とのんきに呟いている。

しかし、わたしは一見優雅にステップを踏む二人の足もとは、メアリ様がヒールでジオルド様の足を踏みつけようとしてジオルド様が巧みにかわすという攻防戦にしかみえない。

わたしも、恋愛ごとはよくわからないが、カタリナ様の鈍さはわたし以上だ。

ジオルド様やキース様の気持ちに気が付いたのは二人があからさまに告白したからで、お兄様の気持ちには全く気が付いていただけない。

お兄様は常識人過ぎるところがあるのでカタリナ様にご自分の気持をお伝えすることはないだろう。そうするとお兄様とカタリナ様が結ばれる可能性は限りなく低くなるということだ。

 



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第23話 朝のお茶会(前編)

お兄様の長年の恋が報われることもないということは、わたしの義姉にもなっていただけないということだ。、

そう考えるとすごく悲しくなってきた。お兄様はあんなに素敵な方なのに。あのエロ王子よりも絶対に素敵なのに。ちょっと先に婚約したからといってジオルド様ばかりずるい!と感じる。

今回のお城のお泊りも魔法省に入省してしまってなかなか会えないカタリナ様と接するチャンスなのにお兄様ばかり会えていない。ジオルド様は本来来ないはずの夕食やダンスの練習に来たりとかして、キース様は義弟の特権で会う機会が多い。お兄様だけ会えないなんて不公平。

お兄様にもカタリナ様と親交を深めてほしいけど、お兄様の性格から自分から動くことを躊躇するだろう。ここは妹のわたしが一肌脱いであげなくては!

そう決心するとわたしは作戦を考えた。

夕食の後、カタリナ様の部屋をたずねる。

ドアをノックすると、カタリナ様が直接いらっしゃった。

「ソフィア?さあ入って」

「突然お伺いしてすみません。」

わたしはぺこりと頭を下げる。

「別にいいのよ。ちょうどひまで本をめくっていたところなの。ところでソフィアは何の用事かしら。」

カタリナ様が微笑みながらたずねてくる。

「あ、はい。実はカタリナ様を朝のお茶会にお誘いしようと思いまして。」

「朝のお茶会??」

カタリナ様は小首をかしげて聞き返される。

「はい。実はお城に泊まらせていただいている部屋の近くにすごく素敵な場所をみつけたんです。朝日が差してくるとまわりの緑がきらきら光ってまるでおとぎ話の場所みたいなのです。なのでぜひカタリナ様にもおみせししたくて。朝のお茶会を楽しむにはぴったりだなあと思ったんです。」

「そうなの?じゃあぜひお願いするわ。」

カタリナ様は微笑み、二つ返事で来て下さることになった。わたしはうれしくて

「はい!準備はおまかせください。」

と元気にお答えする。翌朝が楽しみだ。お兄様にも来ていただこう。

翌朝わたしははやめにおきてうきうきとお茶会の準備をする。

準備が終わってまもなくドアをノックする音がする。

おそらくカタリナ様だ。

「どうぞ。」

言うとドアが開く。

「おはようございます、カタリナ様、今日は朝のお茶会に来ていただきありがとうございます。」

わたしはドレスのすそをつまんで淑女の礼をする。

「お招きいただきありがとうございます。」

とカタリナ様も答礼される。

「こちらです。」とお招きする。歩調がうきうきしてしまう。

朝日が絶妙に差し込み、きらきら輝くようだ。遠くに羊かやぎのような動物が数頭たたずんでいる。何度見ても美しい。カタリナ様もほおお...と見とれているようだった。

お誘いして正解だった。

たぶん私の顔には(いったとおりでしょう)という文字が書かれているんだろうなとおもいつつ微笑んでしまう。

「お茶会はここでしようと思います。」

テーブルの周りには椅子が3つある。わたしとカタリナ様、お兄様の席だ。

「お茶会のメンバーは3人なの?」

とカタリナ様がおたずねになる。わたしは少々小声になる。

「実は、お兄様をサプライズで招待しようと思っているのですけど、いいですか?。」

カタリナ様はほほえんで

「いいわよ。なんか逆に兄妹水入らずをお邪魔するようで、それこそわたしがお邪魔していいの?」

「お邪魔だなんてとんでもないです。むしろカタリナ様がごいっしょならお兄様も喜びますわ。」

わたしは首を強く横に振る。これは6割がたお兄様をおさそいする作戦なのだ。

「ところでなんでサプライズなの?」

「お兄様は、会合が迫ってお忙しそうなので、気晴らしにこっそりと喜ばせて差し上げたいのです。」

お兄様の部屋へ行きノックして声をかける。

「お兄様、ソフィアです。」と呼びかけるがお返事がない。

「いつもなら起きている時間なのですが...。」

「お兄様」

「ああ...開いている。」

ぼやっとしたお声だ。

しかし承諾をいただいたと考え、カタリナ様を部屋へ引っ張り込んでしまう。

お兄様は寝間着をお召しになってソファの上で背もたれにもたれている。目は閉じた状態でお休みになられているようだ。しかしいつもならこの時間お目覚めになられているのに...

「お兄様いつもならもうしっかり起きている時間なのです。だいぶお疲れなのかしら。」

わたしは不安になってお兄様の顔を覗き込む。

「う...まさかまだお休みになられているとは予想外です。せっかく中庭でカタリナ様と素敵なティータイムをと思ったのに....お兄様、起きてください。」

わたしは、お兄様に手を伸ばしかけてはっと気が付く。

「そうだ!カタリナ様、お兄様を起こしてあげてください。」

もともとは6割がたお兄様を喜ばせようと考えたことなのだ。本当に気が付いてよかった。

「え?なんで?」

カタリナ様は問い返される。わかってはいたけど本当ににぶい方だ。

「カタリナ様が起こしてくだされば、きっとお兄様も喜びますわ。お兄様はあまり朝が強くないのです。どうかお願いします。」

わたしは、カタリナ様をお兄様の枕元まで引っ張っていく。

カタリナ様はお兄様の顔をまじまじと見つめ、くすりと軽く笑みをうかべたが、やがて決心したように声をかける。

「二コル様、起きてください。」

カタリナ様は、腰をかがめてお兄様の肩へ手をかけて何度かゆすった。

お兄様の瞼が持ち上がって、黒い瞳がぼんやりした感じだ。

「あの二コル様、ソフィアがお茶会を...。」

カタリナ様がそう言いかけた時、お兄様の腕が伸びてきてカタリナ様の腕を引っ張る。

「ふえ?」

カタリナ様の身体がぐらりと傾き、カタリナ様とお兄様の顔が近づく。

「うひゃあ」

カタリナ様は驚いている。お兄様の両手がカタリナ様の身体を横倒しでダンスするかのようにつかんでいる。お兄様はぼんやりした感じなのにカタリナ様のほおにふれた、とおもったらやさしくなでる。

カタリナ様の顔は上気してあかくなっていく。

「いい夢だな」

お兄様は独り言、というかほとんど寝言をつぶやく。カタリナ様は

「二コル様、私はカタリナです。カタリナ・クラエスです。」

と訴えかけるように話す。カタリナ様は、妹や好きな女性ではなくカタリナ様ご自身だとなのることによってどうやら解放されると考えたようだ。カタリナ様はこういうところ本当に鈍い。お兄様は実のところ夢の中でカタリナ様と出会ったと考えているのだ。




ソフィアの朝のお茶会(8巻)の場所ってこんな感じと想像
https://www.bing.com/images/search?view=detailV2&ccid=qwnYv5Mw&id=5E81788D43B64DCD81DCFA68447954AA6A21FCE1&thid=OIP.qwnYv5MwI7peFYA7jiUWlwAAAA&mediaurl=http%3A%2F%2Fwww.jcbourdais.net%2Fjournal%2Fimages_journal%2Fchintreuil%2Fchin6.jpg&exph=165&expw=273&q=antoine+chintreuil&simid=608025768754614032&ck=7B432E73A71278F7F17B52476B339E8A&selectedindex=614&form=IRPRST&ajaxhist=0&vt=0&sim=11


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第24話 朝のお茶会(後編)

お兄様の笑みはますます甘く幸せそうでかつ魔性の色気のある笑みになっていく。

カタリナ様はたまらなくなったようで、目を閉じる。お兄様はその耳元に

「愛してる」とささやいた。

カタリナ様が力が抜けたようにお兄様によりかかっていく。

どうやらお兄様の魅力に意識がとんでいかれたようだ。

そうしているうちにお兄様が本当に目を覚まされる。

ご自分がカタリナ様を抱きかかえているのにお気づきになるが、わたしはそれを呆然と眺めてかたまってしまう。

ぼうっとしているカタリナ様をお兄様はソファに横たえて私に向き合って質問してくる。

「ソフィア、いったいこれはどういうことなのか説明してくれ。」

わたしは、その声がかかったとき、はっとしてバツの悪い気持になるが言葉を紡ぐようにして事情を話し始める。

「お兄様、素敵な景色を見つけたので、カタリナ様と朝のお茶会をしたいと考え、お兄様にも喜んでもらおうとサプライズで声をかけようとしたのです。そしたらお兄様は寝ていらしたのでカタリナ様に起こしていただければ、お兄様はうれしいかと考えたのです。」

「わかった。だけど寝ている男性の部屋に勝手に入ってくるのは淑女としてどうかと思うぞ。」

「...あの...お兄様が入ってよいとおっしゃられたので....。」

お兄様は無言になられた。

「そうか...ソフィアとカタリナがそうして一緒に部屋に入ってきてカタリナが俺を起こしたってことか...それからどうなったんだ?」

「あの...その....。」

わたしは、つっかえながら目の前で起こった出来事を詳細に話した。顔から湯気が出そうな感じだがお兄様の恋が実ったような感覚で嬉しさとほてりと理由もないのになぜか恥ずかしい感じが全身をおおう。

今度はわたしの話を聞きながらお兄様がかたまった。頭の良いお兄様には珍しく思考が停止している感じだ。しかししばらくして

「ソフィア」

と声をかけられた。

「はい。」

とわたしは背筋をのばす。顔がまだほてっているが不思議なことに何か失敗したような感覚が身体にじわじわとのしかかってくる。

「ソフィア、お茶会で俺を誘いに来たところでカタリナが貧血を起こして倒れてしまった。だからソフィアの部屋で休ませることにした。そういうことだな?」

「え?お兄様、それは...どういうことですか?」

わたしはおもわず意識してまばたきしてしまう。

「ここで起こったことが知られると俺もそうだが、カタリナも経歴に傷がつくことになる。下手をすれば社交界から爪はじきになる可能性がある。」

「え、お兄様やカタリナ様の経歴に傷がついて爪はじきに...なってしまうんですか?」

わたしの顔からすうっと血が引いていく。それは最悪だ。悲しい。お兄様は続ける。

「そうだ。だから、今日はお前たちは俺の部屋の奥まではこなかった。来る直前に貧血になって休んでいた。もしカタリナが何か覚えていても夢だと言い張ってくれ。ソフィアと俺が言うならそれが正しいんだろうと素直な彼女は信じるだろうから。」

「はい、わかりました。」

お兄様と私は、カタリナ様の身体を自分の部屋へうつした。

 

さてわたし佐々木敦子は、内野さんの転生した姿であるカタリナを守るため、また二コルの経歴に傷をつけないために、もう一人の私であるソフィアがそばにいることによりカタリナの中にあるわたしのフラクトライトを増幅させ前世の記憶を流し込む。カタリナはわたしの中に自分がいるような感覚になるだろう。

黒いテーブル、薄いピンク色の壁。パイプベッドには水色のカバーがかけられ、青いクッションが置かれている。前世おなじみのわたしの高校時代の部屋だ。

『よし、続きをやろう』

ゲームのオープニングが流れる。

このときはジオルドルートの続きをしていた。Iのクリア履歴を保存しておきながらⅡをダウンロードすると、Ⅰのクリア履歴にシリアルナンバーがつけられ続きをプレイすることができるようになっている。

画面には茶色いソーセージ状のアイコンが複数表示される。

わたしが選択肢を選ぶと笑みをうかべたジオルドの顔が映し出される。

「困ったことがあったらいつでも相談してください。」

画面の下には、

「なんだかいつもよりジオルド様が積極的な気がする。私も同じお城に寝泊まりしていると思うと照れてしまう。」

とマリアのモノローグが流れる。

「ううん、でも今はまず近隣会合でのお仕事をしっかり頑張らなくちゃ」

マリアはジオルドの婚約者なので半ばプリンセスとして近隣会合に参加することになるのだ。

アイキャッチのような大きな文字だ。

「近隣会合がいよいよはじまる」

と表示される。

 

カタリナ様は起き上がる

「どういうことなの~~」

寝言のはずなのにかなり大きな声で叫んでいる。

「カ、カタリナ様、大丈夫ですか?」

「あれ?ソフィア?ここはどこ?」

「カタリナ様を朝のお茶会におさそいしたのですが、お兄様をサプライズでお呼びしようとしたのですが、お兄様の部屋の前まで来たら貧血を起こされて倒れてしまわれたのです。なのでアスカルト家の使用人にわたしの部屋まで運んでいただきました。」

「そうなの?ありがとう。」

 

どうやらうまくいったようだ。わたし佐々木敦子の見せた夢が彼女にとって重大すぎるがゆえに今朝起こったことが完全に記憶から消えたようだ。

 

カタリナ様は貧血を起こしたということで、午前中は休まれた。

わたしはメアリ様と午後の講義へ行こうとすると、遠くでカタリナ様とジオルド様が話しているのが見える。

ジオルド様は真剣そうな表情だったが、やがて笑顔になりカタリナ様の頭をなでる。

「カタリナ様、そろそろ午後の講義の時間ですわ。」

「うん、ありがとう、メアリ、ソフィア」

そして3人で講座室へはいる。

 

さて、ソルシエ、エテェネル、ルーサブルなど近隣5か国会合はいよいよ今日から開幕だ。

昨日から各国の代表団が集まってきていて、来賓の受付が行われている。

わたしとお兄様は宰相の息子と娘と言うことで参加している。

カタリナ様はキース様とご一緒だ。

ジオルド様とアラン様は王族であるため、近隣諸国の王族用の別室があってそっちで対応している。

 

わたし佐々木敦子もソフィアの意識のかたすみで、近隣会合の様子を眺めていた。近隣諸国の代表の来ている衣裳は東南アジア風、日本風などさまざまだ。異国感あふれる風景だがゲームと同様言葉が同じなのには驚いた。

 

近隣会合がはじまった。メアリ様とわたしはさかんに男性から声をかけられる。リアルの恋愛にあまり関心のない私は複雑な気分だ、

 



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第25話 近隣5か国会合

近隣会合がたいへんな状況になったのは会合の二日目だ。理由はお兄様に特定の相手がいないことがわかってきて、わたしのところに他国の女性たちがむらがるようにお兄様のことを聞きに来たのだ。

「お兄様の二コル様に婚約者がいらっしゃらないというのは本当ですか?」

「はい、ただ兄には心に決めた方がいるようです。」

「どのような方が好みなのですか?」

「明るく分け隔てない方です。」

「ご趣味はなんでしょうか?」

「どのようなものをお送りすれば喜んでいただけるでしょうか?」

お兄様の趣味や好みなどを聞かれる。次から次へといらっしゃって、自分がどんな身分の者で結婚すればどのように有利になるかのアピールもわすれない。わたしは、同じことを応えなければならないし、他国の方に失礼はできないから気疲れでへとへとになった。

後でお聞きするとカタリナ様も同じように女性たちにキース様のことで質問攻めにあったようだ。メアリ様も

「昨日の会合は、お父上やパートナーもいらしたので大人しくされていたのでしょうが、今日は女性ばかりの会合なのでタガがはずれてしまったんでしょう。とくにキース様と二コル様は容姿、身分からいっても人気ありますし、実際お二人とも生徒会メンバーを務めた優秀な方ですから。」

とおっしゃる。女性同士は恋バナが好きなのは経験でなんとなくわかる。わたしは、ロマンス小説のほうがおもしろいのでそういう話になってしまうが。

わたしはぐったりしてしまった。

向こうから同じように疲れた様子のカタリナ様がやってくる。

どうやらキース様のことで質問攻めにあったのだろう。

「ソフィア、大丈夫?」

それを言うのが精いっぱいのようだ。

「疲れました....。」

わたしは笑みを浮かべてカタリナ様と握手して自分の部屋に戻る。

しかし、その翌日カタリナ様が行方不明になった、なにか事件に巻き込まれたのではないかという話になった。

「舞踏会で食事をしているところまでは見ているのですが....。」

「どこへいったんだろうな。」

「カタリナ様が行方不明なのですか。」

「そうだ。」

「「わたしたちも探しに行きたいのですが。」」

わたしとメアリ様はなんとかしたいと強く感じた。

「他国がらみかもしれない。あからさまにはできないが人身売買を行っている国もある。」

「「人数がおおいほうが目が行き届くのではないですか?わたしたちにも探しに行かせてください。」」

わたしとメアリ様はこんなかんじでくいさがる。

「不正がばれないよuうに屈強な用心棒を雇っている可能性もある。危険だから待っていてくれ。」

「「じゃあ、せめていっしょに連れて行っていただけませんか。」」

わたしとメアリ様はダメ押しでくいさがる。

「いつも見張れるわけじゃないからな。」

「カタリナもほんの少しの時間で行方不明になったのです。くやんでも悔やみきれない。」

「このうえソフィアやメアリまで行方不明になったら義姉さんが無事だったら悲しむよ。」

「ソフィア、落ち着いて俺たちを信用して待っていてくれ。」

「わかりました。」

後で聞いた話だが当日のうちに人身売買にかかわってマリアさんをさらったルーサブルの中級貴族の客室棟をつきとめてエテエネル国の王子セザール様が皆に知らせて下さったらしい。

ジオルド様とキース様が怒り狂っていたのをアラン様がおちつかせ、その貴族どもは気絶させせられ二コル様も加わってお城の一室に閉じ込められたらしい。

なので

「まあということで、カタリナはとにかく....無事だ。」

とお兄様に含みのある言い方をされた。なにやらうなじをかいている。

翌日で近隣会合は終りだ。

わたしとメアリ様は、カタリナ様にお会いしようとクラエス邸に向かう。

門で使用人におとづれたことを知らせる。

メイドのアンさんがいらっしゃった。

「メアリ様、ソフィア様、お越しいただきありがとうございます。」

「カタリナ様はいらっしゃいますか。」

「はい、こちらです。ご案内します。」

「カタリナ様、メアリ様とソフィア様がいらっしゃいました。」

「開けて、二人をお招きして。」

「はい。」

メアリ様が開口一番、「カタリナ様、もう大丈夫なのですか?」

「けがもないし、大丈夫よ。」

メアリ様はほっとしたご様子だ。

「昨日二コル様から大丈夫だとはお聞きしていたのですが」

と一言いうとわたしのほうに一瞬笑みを向ける。

「どうしてもちゃんとお顔を拝見するまでは心配で心配で...。こんなに早くお伺いしてはご迷惑かもとは思ったのですが....。」

カタリナ様の顔には申し訳ないと書いてある。

「いっぱい心配かけでごめんなさい。それからこんなに心配してくれてありがとう。」

カタリナ様は頭を下げられる。

「いいえ、私はなにもできなくてくやしいです。」

「私も探しに行くのはダメだと言われて待っているしかありませんでした。」

メアリ様はくやしそうだ。

「わたしは、二人が私のためにこんなに心配してくれただけでうれしいの。むしろ二人がわたしのために危険な目にあわないですんでよかったと思うと、探さないで正解よ。」

カタリナ様はわたしとメアリ様の手を取って

「私は本当に素敵な友達をもって幸せよ。二人とも大好き。今日はわざわざ心配してきてくれてありがとう、」

わたしは思わずうなづく。てれと嬉しさでかおがほてって、うれし涙が目ににじむ。メアリ様もそんな感じなようで赤くなっていて、目に光るものがあり、うなづいている。

「あの、それではお互い支度があるのでおいとまします。」

「ええ、ありがとう。」

「それでは、メアリ様、また会合で。」

「ええ、それではまた。」

わたしとメアリ様は軽く挨拶して頷きあって。それぞれの馬車に乗り込む。

最終日は、王族と高位の貴族だけがあつまって挨拶をするので、ソルシェでは、伯爵家は、宰相のアスカルト家だけで侯爵家以上だ。

 

翌々日は、クラエス邸で会合お疲れ様お茶会が行われる。わたしの世代の元生徒会メンバーが招待されている。

読書が解禁になってわたしはおすすめの本をもっていく。

クラエス邸に着くとジオルド様、アラン様、メアリ様が先についていた。

わたしはうれしくて、メアリ様のあいさつが終わるや否や

「お招きありがとうございます。カタリナ様。また新作の小説をもってまいりました。このお話もとても素晴らしくて...。」

と話しかけた。



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第26話 会合お疲れ様お茶会(前編)

お兄様は、そんな私に対して

「ソフィア、少し落ち着け。本の話はお茶会がはじまってからでいいだろう。」

とおっしゃる。合宿講義でとめられていたのでうれしくて暴走気味になっているのは認めるけれど...

 

お兄様は微笑んで

「本日は招待ありがとう。」とおっしゃると、カタリナ様の様子が見とれている感じになる。

(お兄様の魅力はすごいんだから。カタリナ様、お兄様を選んでください)

心の中でつぶやく。

「カタリナ様、お招きありがとうございます。これ少し作ってきましたのでよかったらどうぞ。」

マリアさんが自作のお菓子をお持ちになった。カタリナ様はうれしいだろうし、マリアさんのお菓子は美味しいので楽しみが増えた。

「ありがとう。さっそくいただくわ。」

「会合、お疲れ様でした。」

カタリナ様はカップを高く掲げる。

わたしは、不思議な懐かしさを感じる。後で聞いた話だがカタリナ様の前世の記憶でこのような習慣があったという話だ。

ジオルド様とキース様は苦笑してカップを掲げる。アラン様は、なんだそれと怪訝な顔をされる。

メアリ様とマリアさんは微笑みながらカタリナ様に習い、お兄様も無表情でそれに習う。

わたしは、うれしくて皆よりも高くカップをかかげてしまった。

「いや~でも大したことなく会合が終わってよかったわ。」

とカタリナ様がお菓子をほおばりながらおっしゃる。

それを聞いた皆さんは、マリアさん以外かたまる。

キース様があきれてぼやくように

「義姉さん、最終日の帰りの馬車で僕がなんて言ったか覚えている?お母様に叱られたばかりでしょ。」

カタリナ様は顎に指をあて思い出すように

「ドレスを破ってまで木に登ったのはっていう話?」

「覚えてくれて何よりだよ。」

「カタリナにとっては、そうまでして誘拐犯のところへ一人で乗り込んだのは大したことではないんですね。僕らの見解と大きな隔たりを感じます。」

ジオルド様が遠い目をしている。

「ああ、そこは同意する。ドレスを破ってまで木に登って誘拐犯のところへ一人で乗り込むのは充分大したことだからな。」

アラン様は大きく頷く。

カタリナ様はいろいろ考えを巡らせていたようだが、やがてばつがわるい表情になった。

「その節はみんなにたくさん心配かけてごめんなさい。」

するとマリアさんが

「わたしのせいでカタリナ様にまで危険にまきこんですみませんでした。」

といって深く頭をさげられた。

「マリアが、謝る必要なんてないわ」

カタリナ様は大きな声で否定する。そのとおりマリアさんは一方的な被害者だ。

「そうですよ、マリア。あなたは被害者なんですから謝る必要は全くありません。」

「そうだよ。マリア、君が気にする必要はないよ。義姉さんが勝手に暴走しただけだから。」

「ああ、その通りだ。このバカは一人で勝手に暴走したんだから自業自得だ。気にしなくていい。」

「その通りだ。」

ジオルド様、キース様、アラン様に続いてお兄様も同意する。

(マリアさん、謝る必要ないですよ)という意味でわたしとメアリ様はうなづく。

カタリナ様もマリアさんに全く非がないという意味でみんなにあわせてうんうんと頷いている。

うつむき気味なマリアさんは、顔をあげて

「ありがとうございます。」

とてれと嬉しさのまじった笑顔をみせてくれる。

「マリア~大丈夫よ。また何かあったらかならず助けに行くから。」

とカタリナ様がおっしゃると

「義姉さん、またそういうことを」

「もう危険なことはしないと言ったろう」

男性陣からブーイングだ。

わたしやメアリ様は両手をにぎりしめて

「くれぐれも危険なことはしないでください。」

と伝えた。

「それにしても合宿講義は、たいへんだったけどみんなと一緒に過ごせたのは楽しかったわ。」

「そうですわね。お勉強は大変でしたけど、一緒に過ごせたのは楽しかったです。」

「ええ、久しぶりにずっとカタリナ様とご一緒できてうれしかったですわ。」

「学園の寮生活みたいで楽しかったわね。」

「それはもう。」

「お城の大浴場にも入ったしね。楽しかったわ。」

カタリナ様がそういうと、メアリ様がかたまる。

あ、これは言ってはダメなやつだった。

「どうしたの、メアリ」

「いえ、ちょっとふがいない出来事を思い出してしまって。」

 

その様子をごらんになって思うところあったらしく、カタリナ様は今度はキース様に話をふった。どうやら頭をなでてもらったから頑張れたとおっしゃっている。キース様は恥ずかしそうに首を振ってまた別の時にしてくれとおっしゃる。

ジオルド様から黒くひんやりしたオーラが漂っているように感じるがおそらく気のせいだろう。

カタリナ様は、今度は、アラン様の演奏を聞いて感動したので、リクエストしたら気持ちよくなってねてしまってすみませんと謝っていた。

アラン様は、「ああ、あのことか、別に」とあっさりそっぽを向くが顔がやや赤くなっている。メアリ様がそんなアラン様をじっと見ている。ロマンス小説の挿絵なら左側に横を向いて顔を赤らめたアラン様を右側に正面を向いたメアリ様が見つめるような構図だ。

カタリナ様はしょざいなくなったという感じでわたしたち兄妹に話をふってくる。

「ソフィアには、お茶会に招待してもらったのに結局倒れてしまってごめんなさい。あんなに素敵な席を用意してもらったのに。」

わたしは一瞬どう答えていいかパニックになり、

「あの、いえ、あのときはすみません。」

と言って頭を下げる。下手なことを言ったらお兄様とカタリナ様の経歴に傷がつく。皆さんとは気の置けない友人関係にあるわたしたち兄妹だが、ことカタリナ様に関しては皆さんが大好きだという一点においては用心しないわけにはいかない。

「え、なんでソフィアが謝るの?」

「あ、いえ...。それはその」

わたしはいいわけを考えるがお兄様が静かな声で

「ソフィアは体調が悪いのに気が付かずにひっぱりまわしてすまないと言ってるんだろう。」

とおっしゃったのでほっとして

「そ、そうなんです。」

と答え繰り返し頷いた。

「そうなんだ、でもわたしも体調が悪かったなんて気が付かなかったし、気にしないで。むしろ元気だったと思うんだけど、倒れた時のこともよく覚えていないし、私、二コル様のお部屋にはいったんでしたっけ?」

「たしかに来たが開けた途端に倒れたんだ。だからあのときはびっくりした。合宿の疲れが意識しないうちにたまっていたんじゃないか。だからソフィアの部屋に運んだんだ。」

お兄様がそうおっしゃるとカタリナ様は納得した様子だった。

 



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第27話 会合お疲れ様お茶会(後編)、オセアンへの出張(前編)

「いろいろあったけど久しぶりにみんなと過ごせて楽しかったわ。」

カタリナ様がそうおっしゃるように学園時代は毎日のように会えていたが、カタリナ様は魔法省、わたしたちはそれぞれの家の仕事で会う機会がぐっと減ってしまった。

「でしたら今度王家の別荘へ泊りに来ませんか。自然豊かで素晴らしい場所ですよ。」

「本当?じゃあぜひ行ってみたいです。」

「そうですね。義姉さん、ぜひここにいるみんなで別荘にお邪魔させてもらいましょう。」

「ええ、そうですわね。アラン様、ぜひみんなで行きましょ」

「あ、ああ、そうだな。」

「楽しみですね。」

「そうだな。」

「王家の別荘ですか。楽しみです。」

ふとみると提案したはずのジオルド様の目はわらっていないように思えた。

 

さて近隣会合の際に、魔法省で捜査を進めている田舎の男爵家の令嬢がさらわれた事件にからみ、マリアさんまでさらわれかけていたが、そのことでカタリナ様がエテェネルの王子セザール様とご一緒したためにソルシェでは禁じられている人身売買が行われていることが明らかになった。そのため魔法省の任務としてさらなる情報収集と組織摘発のためオセアンという港町に潜入捜査する必要が出てきたという。これまでの捜査の過程で闇の魔力がからんでいるということで、闇の魔力の捜査に適しているカタリナ様、マリアさん、ソラさんがオセアンへ行って町民にまぎれて潜入捜査をするとのことだ。要するに町民に身をやつしての情報収集で危険なことはないとのことだった。

みおくりにはジオルド様、キース様、アラン様、メアリ様、わたしくたち兄妹が参加した。

ジオルド様が余計なことに首を突っ込むなと言えば、キース様は。お菓子をくれるからとついていくなといい、メアリ様が護身用の薬瓶をすすめている。目つぶしと麻痺薬だという。

アラン様がかえって危険だからととりあげる。

わたしは、最近のお気に入りのロマンス小説を何冊か持ってきた。

「あの、カタリナ様、道中おひまだったらこれを....。」

するとお兄様が

「ソフィア、カタリナは遊びに行くんじゃないんだ、仕事に行くんだぞ。そんなものを読んでいる暇はない。それは家に持って帰りなさい。」

とおっしゃりとりあげる。カタリナ様は少々残念そうなお顔だったが仕方なくわたしはあきらめた。

ソラさんが

「そろそろ馬車を出しますよ」と言って顔を出す。

「くれぐれもカタリナを頼みますよ。どうかおかしなことにならないようお願いします。」

ジオルド様の笑みが何となく黒く感じる。ソラさんは少し引き気味にうなづいて馬車を出した。

 

カタリナ様がオセアンへの出張の間、ジオルド様がいっしょではないこと、魔法学園時代のように毎日お会いできないことにも慣れてきたので読書が手につかないことはなかったが、それでもお会いしたい気持ちは心のどこかしらにある。不安な気持ちと楽しみな気持ちとが交錯する。風の魔法道具で遠くの声が聞こえたり、遠くと通話できたりする道具があるらしい。早く誰もが便利に使えるようになってほしいものだ。

 

わたし佐々木敦子は、転生した内野さんであるカタリナと話せないことが少々寂しく感じた。前の世界にはスマホがあり、LINEで気軽に話せたのに...魔法道具研究室ではやく風の魔力によるケータイなりスマホを開発してもらいたいものだ。

 

 

さて一週間後、首を長くして待っていた。ようやくカタリナ様たちが帰ってくるという。

カタリナ様たちの馬車が着くとさっそく魔法省の客間に来ていただく。

「オセアンの港町では、レジーナさんのところの『港のレストラン』でウェイトレスをやったのよ。

例の誘拐犯のアジトがわかったけど、ちょっとつかまちゃって。でもポチやソラ、マリアの魔法で無事に誘拐犯のアジトから脱出して、誘拐犯たちはつかまって事件は解決したからみんな安心して。」

わたしは、一瞬言葉がでなかった。皆さんも多かれ少なかれそんな感じで複雑な顔をしている。

「ちょっと待って義姉さん、情報収集するだけだから危険のない任務のはずじゃなかったの?なぜ敵につかまるようなことになったの?」

キース様が眉を寄せて表情を険しくする。どうやらソラさんを追いかけていたら敵のアジトの前にい合わせることになってしまったらしい。ジオルド様は目をいからせている。キース様はなぜそんな危険なことをするのかと眉をあげる。

カタリナ様はメアリ様と私のほうへ顔をむける。その表情は、眉をさげ、たすけてくれと顔に書いてある。

「まさか。何かされたのですか?」

メアリ様は顔を青くする。

「なにもされてないわ。閉じ込められはしたけど。」

わたしはたまらず

「閉じ込められたって...大変なことじゃないですか。暗くて汚い牢屋にでも入れられたのですか?」

と申し上げると、

「広い部屋じゃなかったけど牢屋じゃなかったし、無事に何事もなく脱出できたんだから。」

カタリナ様は必死に弁明する。

「それで、どうやって脱出したんだ?」

アラン様が不思議そうにたずねている。ポチちゃんやソラさんの活躍で脱出できたらしいが、それは結果的に無事に脱出できたといっても何事もなく脱出できたとは言わないだろう、とたしなめられていた。

「そんなに強引に逃げてきて、危険なことはけがはなかったのですか?」

ジオルド様の表情は険しいままだ。カタリナ様はけが一つもなかったと腕を見せて弁解する。

「しかし、その言い方だと危険なことがあったんじゃないか?」

いままで黙っていたお兄様が口を開いた。お兄様に見つめられたカタリナ様は降参ですという感じで、逃げる途中に子どもたちをかばってつかまってしまった、とおっしゃる。

するとメアリ様がさらに蒼くなり、

「あの、捕まったって....それで大丈夫だったのですか?」

「うん、大丈夫。少し首を絞められたくらいで...。」

「つかまって首を絞められたって...すごく危なかったんじゃないか、義姉さん」

「首は、けがは大丈夫だったんですか?」

「ほんの一瞬のことだったから大丈夫よ。ほんとうにたいしたことなかったんだから。ほら」

カタリナ様は首筋をおみせになって、皆さんはほっと息をついて安堵したようだった。

「カタリナ(様)、それで危険はなかったとは言えないのでは?」

「ものすごく危険だったんじゃないか、義姉さん。」

皆さんはため息交じりな感じだった。



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第28話 オセアンへの出張(後編)

カタリナ様は弁明される。

「でもね。すぐに、マリアが魔法で助けてくれて、なんともなかったのよ。マリアが『光の契約の書』で新しい魔法を覚えて、それがすごくて。」

とお話を変える。わたしは、マリアさんの魔法についてお聞きしたいとは思ったものの危険なことははなさらないでくださいという気持ちも強くある。

「義姉さんのいう危険と僕たちが考える危険の間には大きな隔たりがあるね。」

「そうですね。カタリナのいう危険の度合いは、僕たちよりもだいぶ高い位置にあるようです。」

皆さんが頷いている。ジオルド様が勝手に動き回れないように閉じ込めたほうがいいと言い出し、キース様がそれに同意し、家族でどうにかしますとおっしゃりはじめた。

「そこは婚約者である僕が責任を持って対処しますので。なんでしたらもうカタリナはお城へ連れていきましょうか?」

ああついに来たかという感じだ。

「義姉さんのことは家族で何とかしますので。お城にはいかせませんので。」

「キース様、よろしければ私たちも協力しますわ。ねえ。アラン様。」

「ああ。」

さすがメアリ様、そう、ジオルド様の思い通りにはさせない。

「なら、私たちも。ねえ、お兄様。」

「そうだな。」

「あなたたちは関係ないでしょう。これは僕とカタリナの結婚の話ですよ。」

「いえ、ジオルド様、そんなお話はしていませんから。」

カタリナ様は逃げようとされるが、ドアを開けたところで

「義姉さん、まだ話は終わっていないよ。」

「カタリナ、どこへ行くつもりですか?」

そのときマリアさんが上司への報告から戻ってきた。

「カタリナ様、ラーナ様とサイラス様がお待ちです。」

カタリナ様はほっとしたように

「では、わたしも報告へ行ってきます。」

と部屋を出ていかれた。

 

「マリアさん、お帰りなさい。どうだったのですか、詳しいお話を聞かせてください。」

マリアさんはうなづくとお話をはじめた。

「わたしは、カタリナ様の居場所や敵のアジトを知っているという男がお金を無心して、ラーナ様になかなかお話にならないので、試しに『光の契約の書』にかかれた魔法リペント(悔い改め)を使ったら、アジトとカタリナ様たちの居場所をすらすらと話し始めたんです。」

「カタリナが、マリアの魔法がすごいって話してましたが、その魔法ですか。」

「恐らくそういうことだと思います。よからぬことを考えている者の気持ちをただす魔法なので。」

「それはすごいですね。」

「でも効果は一時的でしばらくすると元に戻ってしまうのです。ただそのおかげで場所が分かったのでそこへかけつけました。アジトの路地にはガラの悪い男たちいたので、ラーナ様とレジーナ様がそこにいる男のうち何人かを捕まえて白状させたところ、子どもをつれだそうとする男と女がいるのでそれをおさえておけと指示されているとのことでした。その特徴は青い髪に瞳、茶色の髪に水色の瞳と言うことでソラさんとカタリナ様がいるということが分かったのですが、なにしろ人数が多いのでラーナ様とレジーナ様が魔法と護身術で倒してもきりがないという状態でした。わたしは、またリペントを使おうと強く想いをこめました。すると光の霧があたり一面にひろがり、男たちは大人しくなったのです。そのわきをとおりすぎてカタリナ様を見つけました。とても安心しました。」

「大人しくなった男たちは、ラーナ様達が捕えました。そこへエテェネルの王子セザール様と部下の方たちが応援に来て下さり、すべて男たちは縛り上げられて連行されました。子どもたちも無事に保護されました。」

皆さんから安堵の息がもれる。

「ところがソラさんがアジトの建物の中に知り合いがいるので行かせてくださいとおっしゃったので、ラーナ様はすこしお考えになられた後、無茶をしないようにと条件をつけて許可されました。そのときカタリナ様が『わたしも行かせてください』とおっしゃられ、ソラさんが待っているようにおっしゃられましたが、ソラさんのお知り合いのアルノーさんが心配だ、ポチちゃんもいるから大丈夫だとおっしゃられたのでしぶしぶご承知され、カタリナ様もアジトへ行くことになり...。」

「え、それって...。」

「義姉さん....」

わたしは複雑な気分になったが、カタリナ様には危険にとびこんでほしくないという皆さんの気持もわかるし、わたし自身もそうだ。

「ただ、わたしも光の魔力があるので行かせてくださいと申し上げたのです。だからカタリナ様をお守りしたい、お守りできるということで...。」

「でもカタリナ自身が自分で自分を守れないんだろう。」

「魔法省の方々やセザール様とその部下の方々もいましたので...。」

「マリアさんも義姉さんのことを大切に思ってくれるのはうれしいけど無茶しないで。」

「それからアルノーさんが敵を倒していたので、無事に連れ出すことができました。保護した子どもたちの中に男爵令嬢もいましたのでどうにか事件は解決しました。」

皆さんは顔を見合わせる。

「どうしましょうか。」

「出張はさせないようにしましょうか。」

「そうですね。ラーナ様にどうしても出張しなければならない場合は外へ出なくていいように考えてもらいましょう。」

「出張したらカタリナは余計なことに首を突っ込みたくなるようなら、お城へ来てもらったほうがいいですね。」

「いいえ、それは家族の役割ですので。義姉さんにはお妃はつとまりませんから。」

それなりに具体的な行動制限案は出るものの、そのたびジオルド様とキース様の言い争いになってえんえんと続く。

メアリ様はそれとなくカタリナ様と一緒に居られる案を出しはじめ、わたしは、それとなくお兄様とカタリナ様をくっつけるような案を出す。

マリアさんはそれとなく職場がいっしょなのでわたしもカタリナ様と一緒にいるようにしますと言えば、義姉さんのまねしてマリアさんまで無茶しないで、とキース様にとめられるなど話はどうどうめぐりだ。

わたし、佐々木敦子はfortune LoverⅡにはあまり出てこなかった闇の魔力が気になる。Ⅱのカタリナは、謎の女と言うことでどうやって闇の魔力を手に入れたのはほとんど明かされていない。

わたしは、人身売買組織の裏で暗躍する貴族、そしてサラという少女、カタリナを害そうとする闇の魔力をみはろうと考えた。

 

 



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第29話 魔法省の休憩室でカタリナ様が叫ぶ

今日はメアリ様といっしょに魔法省のお手伝いをする日だ。「貴族令嬢としての見識をひろげ今後に役立てたい」ということで週に2日程度お手伝いに行っている。表向きの目的は、そういうことになっているし、確かにその通りだが、裏の目的としてカタリナ様やマリアさんに会えるという本音もある。メアリ様も口にはしないがおそらく同じことをお考えになっている。

今日は、書類の整理だ。魔法省の事務仕事は膨大で、あの優秀な元生徒会長のラファエル様も魔法道具研究室の副部署長として忙しい日々を送っているくらいだ。半日ほどで仕事を片付けてメアリ様と廊下を歩いていると、マリアさんに会った。

「マリアさん、こんにちは」

「こんにちわ。メアリ様、ソフィア様」

「マリアさん、カタリナ様はお元気にやっていますか?」

「いま古字で書かれた契約の書の解読に奮闘中なのですが、お疲れになって休憩室でお休みになっています。」

「そうですか?おうかがいしても?」

「はい。お二人がお見えになったらお喜びになると思います。ただお目覚めになるまでお待ちになるようですが」

「わかりました。おうかがいします。」

 

カタリナ様はお休みになっているようでわたしもつられてうとうとしはじめた。

 

水色のカバーのかかったパイプベッド、黒いテーブル。壁は薄いピンク色。ベッドの上には青いクッション。なぜか一度も行ったことのない場所なのに既視感がある。

長細い黒い箱から小さな引き出しのようなものが出ている。少女が真ん中に1.5cmほどの穴の開いた丸い円盤のようなものを小さな引き出しにいれてしまうと

「まな板」のような板に「Fortune LoverⅡ 」の文字があらわれ、ウィーン、カチャカチャという音とともに聞きなれない楽器を使った音楽が流れる。

まな板に映し出されるのは、ジオルド様、ソラさん、わたし、メアリ様、マリアさん、アラン様、魔法省のサイラス様やデューイ君などが映し差出される。どうやらマリアさんの立場から見た紙芝居のようにすすむ。この画面をみているのはあたかもわたし自身のような不思議な感覚。

『よし、もう少しで隠しキャラも攻略成功だな』

なぜかわたし自身が話しているような不思議な感覚。

『マリア、俺がお前をまもってやるよ』

そのセリフのまえには、「セザール・ダル」という文字が書かれ、その浅黒いイケメンは、あきらかにエテェネルの王子セザール様に間違いなかった。以前カタリナ様から見せられた異国の文字によく似ていた。おそらく「せざーる・だる」と読むのだろう。

まな板に描かれた「画像」がつぎつぎに切り替わりマリアさんが

『セザール様、わたしは守られるだけは嫌です。わたしも大切な人を守りたいです。』

『ああ、おまえはそういうやつだな。わかった。いざとなったら共に戦おう。』

セザール様は、八重歯を見せてにっと笑っている。

やがて画像が薄暗くなって、不穏な音楽が流れる。

『あら、ようやく見つけた。探したのよ』

と高慢そうな女性の口調。つぶやくのは黒いフード付きマントをまとった女で名前は「???」となっている。

『??あなたはいったい....?』

まな板に映し出されたマリアさんとセザール様の顔がいぶかしげに変化する。

『お前は何者だ』

『あら、あなたはともかくそこの卑しい小娘とはなんども話したことがあるのに...卑しい小娘の分際でわたしの名前をお忘れとはいいご身分ですこと。』

何んとなく聞いたことがある。これはカタリナ様の声だ。しかしあざけるような口調だった。「画像」のマリアさんはややたじろいだ様子で問い返す。

『....あなたはどなたですか?』

と問い返す。

『あら、まだとぼける気?ひどいわね。わたしよ、わたし』

あざけるような口調でフードを外したら、細面で吊り上がった眼、「へ」の字を逆にしたような口元をした女の顔が現れる。「まがった口」ということばそのもののようなあざけるような口元。好感がもてない悪役顔だ。

『カ、カタリナ・クラエス様....?』

『お久しぶりね、マリア・キャンベル』

『クラエス様は国外に行かれたとお聞きしていましたが...』

『そう、たしかにあなたのせいで国外追放になった。でも戻ってきたのよ。あなたに復讐するためにね』

目を吊り上げ口元もつりあげてにやりとせせら笑う。

『悪かったな。こいつはおれのだ。傷一つ付けさせんぞ。』

セザール様がマリアさんをかぼうように前へ出る。

『ふん、あなたのようなよそ者が闇の力を持つあたしに勝てるとおもってるの?さあケルベロス!』

カタリナ様のような女のかげからポチちゃんのような子犬が現れるがその表情は邪悪な獣そのもので、みるみる巨大化していく。もとの30倍になっただろうか。ロマンス小説に出てくるドラゴン課と思われるくらいに巨大化し、ウオオオオオオオオオ...と遠吠えする。牙をむき出しにしてマリアさんとセザール様をにらみつける。

 

この夢はわたし佐々木敦子がカタリナとソフィアに見せた夢だ。ソフィアは起きたら忘れている可能性が大きいが、内野さんにみせるためだからそれでもかまわない。

 

そのときわたしソフィア・アスカルトはカタリナ様の叫び声でわれに返る。

『....名前、ケルベロスって何~~~~』

カタリナ様はがばっと起き上がる。わたしもなぜかうたたねしていたようだ。

 

驚きを含んだ心配顔でマリアさんがカタリナ様に話しかける。

「カタリナ様、あの、大丈夫ですか?」

「あ~、うん、大丈夫、大丈夫」

カタリナ様は気恥ずかしそうだ。

わたしはさすがにとまどって

「カタリナ様、今のは一体...悪い夢でも?」

と話しかける。

「ケルベロスって聞こえた気がしたのですが...」

メアリ様が不思議そうな顔をなさる。

「あ~ちょっと変な夢を見てなんかよくわからない寝言を口走ったみたい。あ~そのあまり深い意味はないのよ...あはははは...、」

間をおいて気を取り直したカタリナ様がこんどはお尋ねになる。

「それはそうと、どうして二人はここにいるの?二人に会えるのはうれしいけど..」

「今日はメアリ様と魔法省のお手伝いをする日だったんです。カタリナ様とお会いしたいですねと話していたら、ちょうど運よくマリアさんに会えて、こちらにいらっしゃるとのことでしたので...。」

「それでこちらに来たのですが、カタリナ様がお疲れでお休みになられているということでしたのでお目覚めになるまで待っていたのですわ。」

メアリ様がつけたした。

 




※まな板=デイスプレイ
※丸い円盤=ゲームソフトのディスク
※引き出しのようなもの=ディスクドライブ



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第30話 アラン様の演奏会の準備

カタリナ様が私たちにお返事なさる。

「あ~そうだったんだ。お手伝いに来てくれる日だったのね。せっかく来てくれたのに寝ててごめんなさい。」

「いえいえ、久しぶりにカタリナ様の寝顔を拝見できて、お得なくらいでしたわ。」

メアリ様は微笑みながらそうおっしゃり、わたしも同感なのでうなづきながらも笑みがもれてしまう。

「二人の今日のお手伝いはもう終わったの?」

「ええ、それほど難しくない書類整理でしたので....これでおいとまはするのですが...むしろラファエル様をはじめ皆さんは大変だなあと感じました。」

「そうですわね。頼まれた分は終わったのですが、あの量を拝見すると申し訳なく感じました。」

「たしかに忙しいから...それにしても学園時代は、ずっと一緒だったのに最近はあまり会えないね。...ちょっと寂しいな。」

するとメアリ様の瞳孔がかっとおおきくなり、上半身をカタリナ様へむかって乗り出される。

「わたし、カタリナ様のお仕事が終わるまでおまちしますわ。そうでなくても仕事の内容がわかる範囲でお手伝いして、なんでしたらそのままお泊りします。」

 

わたし佐々木敦子は感じる。これじゃあ前世の省庁の話のようだ。魔法省なにげにブラック?と脳裏によぎる。

 

わたしソフィアはカタリナ様が引いておらっしゃるのをみて

「メアリ様、落ち着いてください。カタリナ様が引いていらっしゃいます。それからメアリ様はこれから用事があるとおっしゃっていたではないですか?」

わたしはメアリ様の上半身をひっぱってソファの隣にすわっていただく。

メアリ様がだんだん冷静になる一方では、ほおをふくらませてつぶやく。

「うう...そうでしたわ。カタリナ様のことに比べたら大した用ではないのに...。」

「わたしたちも魔法省にお伺いするときに会える時間が減ってさびしいですねとお話ししていたのです。さすがに今日はこれでおいとまするのですが、同じ日に休日がとれるようでしたらご一緒させていただきたいです。」

「そうね。一緒に過ごしたいわ。」

「あ、皆さん、まだいらしたのですね。」

タイミングよくマリアさんがいらっしゃった。

わたしが声をかける。

「次の休日どうしようかお話ししていたのです。」

マリアさんも目を輝かせる。

「あの、新しいレシピのお菓子か、とびきりのお菓子お持ちします。」

次にメアリ様が目を輝かせ

「いいですわね。ちょうどいい茶葉が用意できそうです。お茶会にしませんか?」

「おいしいお茶においしいお菓子。楽しみです。」

「次の休日はお茶会で決まりね。」

「それから連休がとれるようでしたらお泊り会もいいですね。」

「そうですわ。またパジャマパーティをしませんか。」

「賛成です。って、メアリ様、こんな時間。大丈夫ですか?」

休憩室の時計の針が時間が迫っていることを示していた。

「メアリの用って何なの?」

「アラン様の演奏会の準備です。」

「大したことではないのですが...。」

「え~それは大したことだよ。メアリ。行ってあげないと。」

カタリナ様はそうおっしゃるものの、メアリ様は名残惜しそうだ。

「メアリ様、わたしもお手伝いしますから。」

そういってメアリ様をなだめる。

わたしたちは、カタリナ様に挨拶して演奏会場へ向かう。

廊下でラーナ様とサイラス様とすれ違う。

「アスカルト嬢にハント嬢か。今日はどうもありがとう。」

「どういたしまして。ラーナ部署長、サイラス部署長。でも皆さんお忙しそうでちょっと申し訳ないです。」

「いやいや、きまりきったああいう書類をやっていただくだけでもすごく助かる。次もよろしくたのむ。」

「「はい、お役に立てればうれしいです。」」

わたしたちはそれぞれの馬車に乗り込んだ。

演奏会場へ着くとアラン様の侍従の方々、メアリ様の侍従の方々などもいらっしゃて準備をしている。

「ああ、メアリ、ソフィア来てくれたのか。ありがとう。」

「はい。重いものは運べませんがお手伝いいたします。」

「ああ、さっそく演奏用の風魔法用具の点検頼む。」

演奏会場には、音がきれいによく響くように風魔法用具が会場に設置されている、楽器の運搬や機器の設置などは侍従たちの仕事だが、風魔法用具の点検は魔法学園卒業者もしくは貴族の仕事だ。演奏会の成功は、風魔法用具の調子が影響するので魔法学園でも音楽の単元で授業時間が割り振られている。

メアリ様が点検し、風魔法をもつわたしが調整する。

「ソフィア様、これちょっと調子悪いようですわ。」

「わかりました。」

「このくらいでいいでしょうか。」

繰り返し耳をあてる。

「そうね、大丈夫でしょう」

そんなふうに話しながら風魔法用具の点検をして調整する。

「点検、準備終わりました。」

「じゃあ二人は受付に回ってくれ。」

来客は、貴族の方々が多いので、わたしとメアリ様は必然的に裏方を早々外され受付へ回される。お客様がちらほらいらっしゃる。

「お久し振りです。」

「お久しぶり。今日は何の曲なの?」

メアリ様が曲目を説明する、わたしもロマンス小説と関連のある曲であれば詳しく説明する。そうこうしていると魔法学園時代のなつかしい顔や先輩方、後輩たちの姿もあらわれる。

「メアリ様、ソフィア様」

「あ~ジンジャーさんにフレイさんですね。ご機嫌いかがですか。」

「はい。アラン様が卒業して久々の演奏会でしたので今日は生徒会をはやめにきりあげてきたのです。」

「ありがとうございます。こちらのお席です。」

「ありがとうございます。」

 

「やあハント嬢にアスカルト嬢か。お疲れさん。」

「ジェフリー様@@」

「うん、かわいい弟のアランの演奏会だからな。兄として行かないわけにいかないだろう。」

「ありがとうございます...。? スザンナ様は?」

「ああ、今日は仕事でこれないそうだ。マリア嬢とカタリナ嬢の...」

「マリアさんとカタリナ様がどうかしたのですか?」

「うおっほん。いや失敬。なんか別のことが思い浮かんだようだ。気にしないでくれ。さて僕の席はどこかな。」

「ジェフリー様の席はあちらです。第一王子でお兄様でいらっしゃるので特別席を用意しました。」

「そうか、そうか、ありがたい。ではまた。」

 

演奏会がはじまった。アラン様の演奏が一曲終わるごとに拍手と黄色い声が飛び交う。

今日は5曲演奏した。

「メアリ様、ソフィア様お疲れさまでした。片付けはやりますので。」

「お願いします。」

夜遅くなっていたが充実した1日だった。わたしとメアリ様はあいさつしてそれぞれの馬車に乗り込んだ、わたしは馬車の中でうとうとしはじめた。

翌朝ベッドの中で目を覚ました。気恥ずかしくなった。

「お兄様?」

「ああ、よく寝ていたからな。」

「ありがとうございます ////。」

お兄様はほほえんだ。

 



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第31話 孤児院に野菜を届けに(前編)馬車の中のガールズトーク

とある日の魔法省の食堂。わたしとメアリ様は、ランチを食べていたが、横からこんな声が聞こえてくる。

「マリア、今度の休日、サイラス様の野菜を孤児院に届けようと思っているんだけど行かない?」

「そうなんですか?行きます。」

「あの、カタリナ様?」

「メアリにソフィア?」

「聞こえてしまったのですが、孤児院に野菜を届けに行くんですか?」

「あ~そうなの...。」

「お二人だけでぬけがけはいけませんわ。」

「そういうつもりじゃなかったんだけど...。今日は二人はお手伝いの日だったのね。」

「はい、そうです。」

「でも魔法省の職員だけでおしのびで商人の格好をして孤児院に野菜を届ける話だからあまり楽しくないと思うけど二人はそれでいいの?」

「カタリナ様とご一緒できるのなら喜んでおうかがいいたしますわ。」

「わたしもです。」

「それに貧しい子どもたちに野菜をとどけるなんてすばらしいではないですか。わたしの母も貧しい平民でハント侯爵に見初められなかったらわたしも生まれてなかったのです。」

「そう、わかったわ。じゃあ一緒に行きましょう。」

(お兄様もおさそいしましょうか、カタリナ様と同じ時間をすごせるチャンスですから。)

魔法省の仕事が終わって自宅へもどるとお兄様にさっそく話す。

「カタリナ様がサイラス・ランチャスター様やマリアさんと一緒に孤児院へ野菜を届けるそうです。お兄様もいらっしゃいませんか。」

「そう...だな。将来宰相として政治を行うことになると孤児院などの実態は知っておく必要がある。いい機会だから俺も行く。ソフィアありがとう。」

(お兄様、うそではないですが、カタリナ様に会える正当な理由ができたからとうれしそうな笑みが隠せてないです。)

「貴族の格好ではまずいので商人の格好で行くそうです。」

「うん、そのほうがいい。飾らない状態がわかるからな。」

そして当日、なぜかわたしたち兄妹とメアリ様、マリアさんだけかと思ったらジオルド様とアラン様、キース様も来ている。キース様はわかるのだが、なぜジオルド様とアラン様まで....

あんのじょうサイラス様はカタリナ様に抗議している。

「カタリナ・クラエス、これはどういうことなんだ?」

「えっとこれはですね...まず出かける話をキースにしたら、心配だからついていくということになって...。」

「うむ...君の義弟がついてくるというのは想定内だったが...。」

「そうなんですか。それでサイラス様のためにマリアをさそったんですけど...。」

「なんで俺のためなんだ?」

「いや、サイラス様は女性に慣れていただかないといけないし、親交を深められるかなと...。」

「そんな気遣いは不要だ。まあ事情はわかった。しかしほかのメンバーはどういうことだ。なぜ王子や宰相の息子までいるんだ。」

「実はマリアをさそったときにたまたまメアリとソフィアにもあって次の休日は一緒に過ごそうという約束だったので、孤児院に野菜を届けるだけで楽しくないかもしれないけどいいかと尋ねたらそれでもいいということで...そうしたらいつのまにか他の皆も...。」

サイラス様は頭をかかえて

「わかった。こうなった以上追い返すわけにもいかない。しかし商人に化けているとはいえ身分が高すぎるだろう。」と話した後

「まあ行く先は治安が悪いわけじゃないから...なんとかなるからかまわないか...。」と何か確認するようにぼそりとつぶやく。

「カタリナ嬢、一つ確認しておきたいがこの野菜を育てた者についてはどう説明しているんだ?」

「ああ、それはある人の野菜があまってサイラス様が届けに行くと話してあります。」

「そうか...。」

とサイラス様は遠い目をしてつぶやく。

キース様が義姉のことは自分が見てるから心配するなとジオルド様にいえば義弟とはいえ婚約者を他の男にまかせられないとジオルド様が返す。

メアリ様がジオルド様に話していないのになぜといったら

アランがわかりやすい性格をしているからとジオルド様が返す。

いつも通りだ。

私とお兄様とマリアさんは、お兄様の作ったお弁当箱を囲んでいる。

カタリナ様が

「えっ、もしかしてそれお弁当箱?」

「はいそうです。お兄様はすごく楽しみにされていて夜から準備されていたのです。」

「でもまさかニコル様がお弁当をおつくりになるなんて。」

「料理人に頼んだものを少し手伝っただけだ。よければマリアも少し味見してみてくれ。」

「いいんですか?光栄です。」

カタリナ様が呼びかける。

「みんな、そろそろ出発するって~」

するとジオルド様がカタリナ様の手を取ろうとする。

しかしカタリナ様はさりげなく断りマリアさんに声をかける。

どうやらマリアさんをエスコートしようとしている。

キース様が義姉さんなにをしようとしているの?と小声で聞いているように見える。なにかささやいて、キース様は納得したようだ。

カタリナ様は、サイラス様にたずねる。

「なぜちゃっかり御者の隣の席に座っていらっしゃるのですか?」

「ああ、孤児院までの道は私が詳しいから案内しようと思ってな。」

「それは素晴らしいですが、せっかくの道中なんですからマリアと同じ馬車で楽しくおしゃべりすればいいじゃないですか?」

わたしは、ああなるほどと納得した。どうやらカタリナ様はサイラス様の「恋路」を応援するつもりなのだ。しかし

「カタリナ嬢、馬車という狭い空間であんなに可憐で美しいマリアといっしょに過ごすことができると思うか?無理だ、のぼせ上って倒れてしまう。勘弁してくれ。」

結局馬車は、男子組と女子組に分かれて乗ることになった。

「あの、カタリナ様これ作ってきたお菓子です。」

マリアさんがはにかみながらも微笑みを浮かべお菓子を差し出してくる。

するとメアリ様も

「カタリナ様、うちの庭で育てた茶葉から今朝紅茶をつくりました。どうぞ。」

紅茶をすすめる。

わたしはお兄様に見つからないよう巧妙に隠してきたかばんを取り出す。

「カタリナ様、最近のおすすめのロマンス小説をもってきました。ぜひお持ち帰りください。」

「ありがとうソフィア。じゃあみんなでお茶とお菓子をいただきましょう。」

「おいしーいい。」

「このお茶もお菓子にあっておいしい。」

「わたしも使用人と一緒に研究してきたのです。マリアさんのお菓子をよりおいしくひきたたせるとともにお茶自身の味もすっきりさわやかな味になるよう茶葉の選別と淹れ方を工夫しましたの。」

「ほんとにおいしいわ。シリウス会長に負けないかも。」

「そこまでほめていただけるとうれしいですわ。」

「メアリ様、ありがとうございます。感動です。」

馬車の中でわいわいとガールズトークが続く。



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第32話 孤児院に野菜を届けに(後編)お手伝い

「....久しぶりにカタリナ様に会えると思ってお兄様ったら使用人の方々と協力して移動中のお弁当まで作ったのです。これ女子分です。よかったらどうぞ。」

「本当に二コル様が作ったのですか。素晴らしいですね。」

「わたしも味見したのですが、おいしくて...お兄様にこんな才能があるとは実は驚きました。」

「ニコル様は魔法、勉強は素晴らしく、剣術もたしなんでおられますがこのお弁当...本当に多才でいらっしゃるのですね。」

「はい、お兄様はすごいんですよ。わたしも改めてお兄様を見直しました。」

「ソフィアは本当にニコル様が大好きなのね?」

「もちろんです。あ、でもカタリナ様のことも大好きですから。」

「あら、ありがとう。」

「ソフィア様、抜け駆けはいけませんわ。わたしもカタリナ様のことは大好きですから。」

「ありがとう、メアリ」

「あ、あの、わたしもです。わたしもカタリナ様が大好きです。」

マリアさんがほおを赤らめもじもじしながら話す感じは女性のわたしからみてもかわいらしく感じる。

「カタリナさま~~~~」

メアリ様が抱き着く。もう、抜け駆けしないってだれがおっしゃったんでしたっけ?

「わっ、メアリこんなところ抱き着いたら危ないよ~」

「はつ、私としたことがつい....。」

「まあ、お菓子もお弁当も無事だし...さあ、みんなでいただきましょう。」

「そうで(すわ)ね。」

そのような感じでガールズトークを楽しんで数時間。

「皆様、つきました。」

御者の方の報告を受けて馬車を降りる。

素敵な庭の奥にそれなりの規模の建物が見える。たくさんの子どもが寝泊まりするからそれなりに大きい建物だ。

「ようこそいらっしゃいました。いつもありがとうございます。」

初老の女性が現れ、サイラス様に話しかけてきた。

「マギー院長、わざわざのお出迎えありがとうございます。こちらが先日お話ししていた知人たちです。今日はともに手伝いたいということで同行しました。」

「あらあら聞いていたより大勢の方にいらしていただき感謝です。わたしが院長のマギーです。では早速野菜の搬入からお願いします。」

野菜の搬入は大勢参加したおかけで大した時間もかからずに終った。

「さあ、お手伝いいただけるということで、子どもたちにお勉強、お裁縫、お料理など教えていただけますか?」

「サイラス様?」

カタリナ様がなにやら尋ね顔になる。

「ああ、ソルシェの孤児院は、ここから学校へ通えるようにはなっているが、勉強や裁縫、料理といった家事まで教える要員まで確保しているわけではない。だからこうして大人が訪れた時には、家事や勉強を教えたりしている。わたしも毎回来るたびに勉強を見ている。子どもたちの将来のためにな。」

「なるほど、そういうことですか。」

カタリナ様は納得顔になった。

「貴族の身分だとそんなことできないしな。ということで若手商人見習い諸君、君たちはどうする?」

「俺は勉強を教えることにする。裁縫や料理はそんなに得意ではないしな。」

お兄様が口火を切ってこたえる。わたしは手を挙げて

「わたし、お裁縫なら少しお教えできます。」

するとメアリ様も

「では、わたしはお裁縫をお教えすることにします。それなりにはできますので。」

「あの、ではわたしはお料理を。たいしたものは作れませんが。」

「マリアさん、メアリ様...ご謙遜なさらないでください。わたしが恥ずかしいじゃないですか。」

二人は苦笑する。

「ジオルド、キース、二人とも勉強ができるだけじゃなく教えるのも得意じゃないか。勉強をみてあげないか?」

「はい。」「そうですね。」

「よし、じゃあわたしもマリアと一緒に料理を...。」

カタリナ様がいいかけると皆顔を見合わせる。

「ちょっと義姉さん...。」

「カタリナ、ここの厨房を壊すわけには...。」

ジオルド様とキース様が顔を青くしてカタリナ様を押しとどめようとする。

わたしたち女子3人は苦笑するしかない。

「マギー院長、勉強も裁縫も料理も得意ではないのですが、掃除とか洗濯とかできることはないでしょうか?」

カタリナ様は困り顔で院長にたずねる。

貴族令嬢が掃除や洗濯って...って思ったが土いじりや農業が気にならないカタリナ様だ。いやがらないでやるだろうが、掃除や洗濯は毎日のことだからだれかがやってるのではと思ったらそのとおりだった。マギー院長は思案顔になる。

「う~ん、掃除や洗濯は係の者がいますので...」

としばらくうなってから何か思いついたようにポンと手を打つ。

「あ、そうだ!」

「子どもたちと遊んでいただけますか?」

マギー院長は年少の子どもたちをカタリナ様に紹介する。

カタリナ様は渋るアラン様を説得する。これでカタリナ様とアラン様のお手伝いは子どもたちと遊ぶことに決定したが、横で聞いていたジオルド様、キース様、マリアさんの目の色が変わって。

「え?遊ぶんですか?」

と声に出してしまう。わたしとメアリ様はそれを見てまた苦笑する。

「あの、遊び要員はそんなにいりませんので。」

マギー院長が苦笑しつつおさえこみにかかってようやくあきらめた。

さて、勉強を教えるお兄様だが、子どもたちがお兄様に見とれて勉強にならない。女の子はもちろん、男の子もちらちら見ているありさまだ。

さすがにマギー院長も気が付いて

「ニコルさん、すみませんが、魅力がすごすぎて子どもたちが集中できません。今日は長旅でお疲れでしょうから外でお休みになってください。」

と言われてしまう。またかと思うかこればっかりは仕方がない。

お兄様は裏口のドアの階段のところへ行ったようだった。

わたしは、裁縫を子どもたちに教え、

「じょうずだね。」「あ、気を付けて」

と声をかけて、たまに指に針を刺してしまう子もいたものの、たいしたことなくそれぞれ作品を完成させられたようで皆満足そうだった。

さてしばらくして香ばしい焼き菓子の香りがただよってくる。

孤児院の職員の方が外で遊んでいる子どもたち、カタリナ様、アラン様を呼びに行く。

「おやつの時間です。」

「カタリナさん、アランさんもどうか召し上がってください。」

「いただきま~す。」

明るい声がひびいた。



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第33話 カタリナ様、再び孤児院へ

カタリナ様が

「?これはなじみのある味ですね。」

というと

「あら、よくわかりましたね。ここにいる子どもたちが、皆さんと一緒に来られたマリアさんと一緒につくったものなんですよ。」と孤児院の職員の方が紹介する。

カタリナ様は自分が褒められたかのように微笑んでいる。やがて厨房から食堂にマリアさんが現れ、

「今日のお菓子はここにいる子どもたちとわたしで作りました。どうでしたか?」

「とてもおいしかったです!」

という子どもたちの元気なお返事。マリアさんは、子どもたちをよく観察していて

「この子は混ぜるのがとても上手で」「この子はとても手際が良くて」「この子は飾り付けがうまくて」「この子はよく気が付いてくれて」「この子はアイディアが面白くて」とそれぞれ子どもたちをほめる。子どもたちの瞳はきらきらして誇らしげだ。

焼き菓子の形はさまざまで動物や花の形などさまざまでドライフルーツチップも入れられている。しかし基調は、しつこくない絶妙なマリアさんらしいふんわりとした優しい甘さだ。カタリナ様がおっしゃるように何個食べても飽きないのはすごい。

おやつを食べた子どもたちもお菓子を作った小さなお兄さんお姉さんをあこがれの視線でみつめる。

マリアさんが席に近づくとカタリナ様は、

「お菓子とてもおいしかったし、子どもたちの顔をキラキラしている。そんな表情を子どもたちから引き出せるなんてマリア、本当にすごいね。」

マリアさんは首を横に振って

「すごいのは子どもたちです。皆がとても熱心につくっていたからです。」

マリアさんが料理の話を、カタリナ様は遊んだ話を話していて、子どもたちの夕食をつくるために買い出しに行こうという話になった。

カタリナ様はサイラス様に声をかけて説得したようだ。

こんどこそわたしはご一緒したいと思った。

メアリ様と顔を見合わせ、うなづくと、

「「わたしたちも買い出しにいきたいのですが?」」

と伝える。ジオルド様やキース様も買出しを手伝わせてくださいという。

するとマギー院長が今度は、

「買出しにそんな人数は必要ありません。皆さんはごゆっくりなさってください。」

ときっぱりした口調でおっしゃったので、あきらめざるをえなかった。

裁縫を教え、子ども向け物語を子どもたちに話してしているうちに、買出しに行っていたサイラス様、カタリナ様、マリアさんが帰ってきた。どうやら孤児院を抜け出したリアム君を連れ帰ったようだった。

 

子ども向け物語は、前世の「おやゆび姫」「一寸法師」「赤ずきん」「鼠草子」「竹取物語」「シンデレラ」「人魚姫」「浦島太郎」「桃太郎」のような話があってなかなか興味深いとわたし佐々木敦子は感じている。

 

夕食を孤児院でごちそうになって、ジオルド様やキース様が勉強を教えて好評だった話、わたしとメアリ様はお裁縫の話をした。わたしは妹だったので「お姉ちゃん」と呼ばれたことは新鮮だった。カタリナ様はアラン様とおにごっこなどをして、途中からお兄様も加わって遊んだ話をされる。サイラス様はマリアさんと買い出しに行ったとき旅芸人が来ていて町が混んでいた話をされた。いつか見に行ってみたいと感じた。わたしとお兄様は迎えのアスカルト家の馬車で帰った。

 

数日後、またサイラス様とカタリナ様はあの孤児院にいったらしい。ただジオルド様やキース様もついていったらしい。その日に事件が起こった。

後から聞いた話だけどまとめてみるとこういうことだったらしい。

リアム君が孤児院をぬけだし、カタリナ様がそれを追いかけた。リアム君をつかまえてなぐさめて帰ろうとしたときだった。フードを被った女が「楽しそうね、」と声をかけてきた。

フードを被った女はカタリナ様に近づき、フードを頭から外すと「久しぶりね。カタリナ・クラエス」と含み笑いをしながら再び声をかけてきた。カタリナ様はキース様の誘拐事件にもかかわったサラという闇の魔力を持つ危険な女であること悟り、リアム君をかばって「何か用ですか?」と問い返した。

「そっちの子どもに用があったんだけどね。」とリアム君を指したのですぐにリアム君に孤児院まで戻ってサイラス様を呼んでくるようにと小声で伝えて、リアム君を孤児院に向かわせた。

「そんな怖い顔をしなくてもあの子には何もしないわよ。」

「どういう意味?」

「あの子の目からよどみが消えたから。あなたのせいよ。それに『闇の契約の書』もあなたが横取りした。」

女は含み笑いをしながら目をつり上げる。

「なぜ『闇の契約の書』のことを知っているの?」

「あらわたしは何でも知っているのよ。あなたが闇魔法の訓練をしていることもね。」

カタリナ様は危険をかんじて孤児院へ向かって走り出す。

「あらあらまだお話の途中なのに。たくさん邪魔してくれたからお仕置きしなきゃね。」

その女は闇を作り出してそれはだんだん広がってカタリナ様をおいかけてくる。

道の向こうから見知った人物が2名「カタリナ~」「義姉さん~」と叫びながら走ってくる。

「わたしよ~」

そのとき耳元に「捕まえた。」と軽口のようなサラのささやきが聞こえて闇につつまれた。それから意識がなくなったのだという。

 

一方、ジオルド様とキース様がかけつけたときは闇にカタリナ様が飲み込まれるように見えたという。最初声は聞こえたがそのうち返事がなくなったとのことだった。また、孤児院の町の近くにいたマリアさんに闇の魔法が絡んだ案件でカタリナ様が闇に飲み込まれたとの連絡が風の魔法道具の通話機で魔法省から連絡がいった。

マリアさんがかけつけたがサイラス様、ジオルド様、キース様は苦りきった顔で首をふるばかりだった。

その日、カタリナ様は魔法省にも自宅にも帰ってこなかったのだ。



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第34話 異変

わたしはサラ。ついにカタリナをとらえた。闇の契約書をもつこの女を洗脳する。

魔法省のあの石のところへ行った。あの空間にはいるには、闇の石にふれる必要があるが、闇の黒い球よりも上位の権威を使わないと闇の契約の書は手に入らない、もしくは闇の契約書の持ち主を従わせられないとのことだった。

最初、あの孤児院の子どもリアムを犠牲にするつもりだったが、仕方がない。

指に傷をつけ、冥界の9神、アシェラ、アーリマン、アポリオン、ベルゼブブ、ラーヴァナ、死の神アープチ、いけにえの神ウィツロポチトリ、トヒール、そして闇の最高神テスカトリポカを呼び出した。

「どうか、闇の契約書をわたしにおひきわたしください。」

「闇の契約書は継承者にしか使えぬ。あのカタリナ・クラエスを黒球が選んだのだからな。しかしわれわれは黒球にお前に闇の契約者を従わせることだできる権威を与えよう。」

「カタリナ様まいりましょうか」

カタリナはうつろな目でうなずく。

魔法省の石碑の闇の石に触れて闇の空間に入る。

「黒球よ。」

「これはこれは、死の神アープチ様、いけにえの神ウィツロポチトリ様、闇の最高神テスカトリポカ様」

「闇の契約者カタリナ・クラエスをこの娘サラにひきわたせ。これは命令だ。」

「わかりました。」

カタリナの青い目が青みがかったどす黒い色に変わった。これでよい。

 

一週間ほどたってカタリナ様がいきなり魔法省にあらわれた。黒いフードマントをまとっていた。しかし様子がおかしかったという。

魔法省の方々の話はこんなふうだった。

「あらカタリナ嬢おかえりなさい。」

まずガイ・アンダースンさんが声をかけると

「ガイ・アンダースン先輩」

「どうしたの?わたしはローラって呼んでちょうだいといったじゃない。」

するとカタリナ様はアンダースン先輩を見つめて、アンダースン先輩の様子が途端におかしくなったという。ふだんから魔法省の職員からかすかにおかま、変人、キモイと思われている感覚を敏感にかんじとっていたのだろう。そこを闇の魔力で増幅されたのだ。キイイイイと奇声をあげ机やいすを持ち上げては投げ、魔法省の施設や道具を破壊し始めた。少女趣味の格好の怪力男が気が狂ったように暴れるさまは不気味だったという。カタリナ様が自分の陰からとりだしたのは灰色のどくろがついた不気味な鎌だった。その鎌を一回転させると、空中に穴が現れ大量の鼠が現れた。鼠は魔法省の職員に襲いかかる。職員にかみつくとアンダースン先輩のように狂ったような行動をし、鼠がかじった道具も暴走しはじめて、魔法省の施設を破壊しはじめる。魔法省は大混乱におちいった。

しかし魔法省も手をこまねいていたわけではない。魔法道具研究室の部署長ラーナ・スミス様、その正体はスザンナ・ランドール様だが、ジェフリー王子のところへ相談に行った。

「ジェフリー」

「なんだ。スザンナ。ああ、今はラーナ・スミスといったほうがいいのかな。」

「いま魔法省は大混乱に陥っていることは知っているだろう。直接の原因はカタリナだが、カタリナが行方不明にある直前にあのサラという女によって闇につつまれたという事件が起こっている。」

「ほうデーヴィッド・メイスンが前使っていた闇の魔力をもつ少女か。」

「そうだ。」

「実はな、あの少女のバックには大貴族がついているらしい。」

「ああ知っている。」

「わかっていたのか」

「わたしの情報網をなめてもらっては困るな。」

「しかし相手はザクセン侯とならぶ魔法省次官だ。いちおう君の上司ということになるが...。」

「いざとなったら第一王子の婚約者という権限をつかわせてもらうさ、」

「それがそれじゃすまないようなんだ。」

「ああ、それもなんとなくわかっている。」

「やつの裏にはボロンテイクという組織がありその九大企業のうち二大巨頭ピエドラ・フェールとロス・ニーニョスという多国籍の政商が裏にいる。やつらはいくつもの会社をソルシェとルーサブル、エテェネルにおいている。やつらの汚れ仕事を請け負っている連中がエテェネルの国王の改革を妨げ、人身売買を行って大儲けしている連中だ。」

「鉱山労働など資源を搾取し、森林を伐採して、あやしげな薬をつかって大農場で作物を作って売っている連中でもある。毒性の強い薬を使って大農場を支えるには人身売買が必要。やつらの作る作物は全く虫が付かないそうだ」

「虫が食わない作物とは...。」

「要するに毒性が強い薬だからへんな病気になって死ぬことが多いのさ。そのために安い給料で奴隷のように働かせるために人身売買を行う必要がある。犯罪でつかまった者が売られてくることも多い。」

「そういえばソルシェも死刑囚が一定数いるが死体処理の話を聞かないな。」

「やつが握りつぶしているのさ。ピエドラ・フェールとロス・ニーニョスの人身売買組織に横流ししてね。それでやつは報酬をもらっている。」

「でもなんで魔法省の関係者に危害を加えるんだ?」

「魔法省が例の男爵令嬢とのかかわりで人身売買の事件にかかわったろう。だから連中は魔法省に含むところがあるのさ。」

「とりあえずはカタリナをなんとかしないとな。」

「ああ、話が長くなった。」

「実はカタリナ嬢だがほかの世界から来たのではないかと感じている。」

「ほう。」

「カタリナを救い出すのになにか方法がないかと聞いて回ったが、前回カタリナがシリウスの魔法で永遠の眠りにつかされたことがあっただろう。」

「ああ、あのディーク家がらみの事件だな。」

「あの魔法をとくきっかけをつくったのはソフィア・アスカルトだ。そのソフィアが不思議な体験をしたと言ってな。」

「あのとき、ソフィア自身もよく覚えていないものの不思議な夢を見る頻度が多くなったそうだ。そのときにカタリナの過去の姿を見た気がすると言っている。カタリナがずっと眠って起きなかったときに、異世界の少女と思われる不思議な服装をした少女の姿が自分の家の窓に映ったり、その少女の声を聴いたそうだ。言葉がわからないのにその意味がはっきり分かったと言っている。」

「闇の魔力との関連があるのではないのか?」

「それがソフィアにはそういったことがない。闇の魔力では説明がつかないんだ。」

「そうか...。」

ジェフリー様はあごに手を当てて何やら考え込んだ、

 



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第35話 魔法省での騒動

一方魔法省では...

「カタリナ様、どうなさったのですか?」

「マリア・キャンベルか」

「はい?カタリナ様?」

「光の魔力を持つお前は目障りだ。わたしからジオルド、キース、アラン、ニコルを奪った。わたしはあなたに復讐しにきたの。」

「カタリナ様、なにかの間違いでは?」

「だまれ!」

「カタリナ嬢、どうしたんだ?」

「サイラス・ランチェスターか。お前も始末してやる。」

カタリナは、自分の影から鎌を取り出す。ウガアといいながらガイ・アンダースンがおそいかかってくる。

サイラスが護身術をつかおうとするが、ガイ・アンダースンはことごとくかわした。カタリナが鎌を振るってくる。

マリアは願いをこめて祈った。光のかすみが二人をおおう。カタリナとガイ・アンダースンの動きが止まる。ガイ・アンダースンはサイラスに急所を打たれてうずくまり、カタリナは鎌を取り落としてそれが消える。

二人を縛りあげたものの、しばらくすると目を覚ましたように二人はうごきはじめ、恐るべき力でなわを引きちぎり、カタリナは再び自分の影から鎌をとりだす。

カタリナは鎌を一回転させると鼠が現れる。すると火の魔法が鼠をおそって焼き尽くした。

「ジオルド様」

「間に合ってよかった。カタリナは?」

「あんなかんじです。」

「そうですか。」

「ジオルド様、マリア・キャンベルがそれほど大切ですか?」

「カタリナ、正気にもどってください。」

「正気?わたしはいつでも正気ですよ。」

鎌を二回転させてその穴からおびただしい鼠が現れて襲ってくる。

マリアが再び祈ると鼠の動きがとまる。リペントはよからぬ考えを起こす者を改心させるだけでなく、魔力のかかった人間や生き物を止める効果があるようだった。

ジオルドは鼠を焼き払うが、ふたたびリペントがきれると鎌を回して鼠が現れる。

「ジオルド、こっちはまかせろ」

「アラン、メアリ」

焼ききれずに生き残った鼠はアランとメアリの水魔法フロッドによって溺死した。それをジオルドが焼却する。

「きりがないな。」

カタリナの鎌がのびてジオルドを襲う。

ジオルドは剣を抜く。

カキーン...カキーン...カキーン...カキーン

しばらく金属音が響き、カタリナの鎌もジオルドを襲うがそれを巧みに避ける。

「さすがジオルド王子」

カタリナの口元がゆがむ。

(これはカタリナではない....。)

ジオルドは気づく。

鎌の動きが激しくなりジオルドの頬や身体に細かな傷がつきはじめる。

(僕の剣筋を読んでいるようだ。おそるべきスピードで習得している。)

「あつ...。」

カタリナはほくそえんだ。ジオルドの剣が鎌に薙ぎ払われた。

次の瞬間、カタリナの鎌が襲いかかる。

ヒュンと風を切る音がする。ジオルドは1回は避けたものの、胸に斜めに1mほどの切り傷をつくり鮮血が飛び散り、傷口から白い服がじわじわ赤黒く染まる。

「うぐ...。」

「ジオルド、どうした。」

アランが叫び、

「ジオルド様!」とマリアがあわてて駆け寄って治癒魔法をかける。

そのマリアの背中をカタリナの鎌がおそいかかって1mほどの切り傷をつくった。

「きゃああああ」

鮮血がとびちる。さすがのマリアも激痛に悲鳴をあげる。ピンクのワンピースの背中が傷口からじわじわと赤黒くそまっていく。

「マリアさん!」

メアリが叫ぶ。

そのすきにジオルドは剣をとろうとするが、鎌がひゅうと音をたて、剣を空中に投げ上げる。落ちてくるところを鎌で真っ二つにされた。そしてなんとジオルドの身体も薙ぎ払うようにつきとばした。

「カタリナ、正気に戻れ!」

アランが水をあびせようとし、ニコルが現れて目くばせする。

二人の魔法が合わさって水の竜巻トルネードがカタリナに襲いかかる。

風音に水が混じり水の竜巻がカタリナに襲い掛かる。

さすがのカタリナも水に溺れて気絶する。

しかし、いつ目をさましてあばれるかわからない。

一方、少女趣味の怪力男には、魔法省の職員がよってたかってサイレンスを唱える。ガイ・アンダースンには、ついにその動きをとめた。

その一晩だけはなんとか二人の動きをとめた。

翌日になってまたカタリナとガイ・アンダースンは動き出す。

「メアリ、アラン様はわたしのもの。」

「カタリナ様、なにをおっしゃるのですか?」

「向かってくるなら殺すだけよ。」

カタリナは「ケルベロス」と叫んだ。

巨大なオオカミが現れた。メアリ、アラン、ニコルがトルネードをつかうが、ケルベロスは難なくすり抜けてメアリにかみつく。カタリナがニコルとアランに鎌を振るう。

ヒュウと風を切る音がしてアラン、次にニコルの腹部に斜めに1mの切り傷をができる。鮮血が飛び散った。倒れた二人を鎌でつぎつぎとつきとばした。

(なんて力だ...。)

しかし、アラン、ニコルを倒すと満足したようにカタリナはガイ・アンダースンと鼠にかまれた職員を引き連れていずこへ姿を消してしまった。

 

ラーナ・スミス様がアスカルト家におとずれた。

わたしソフィアは驚いた。

「あのカタリナ様が皆さんを襲ったのですか。」

「ああ、ジオルド、アランのみならずお前の兄も大けがをしている。あのまま止めることができなければ、王子二人にけがをさせているから、カタリナは国家反逆罪になりかねない。アスカルト嬢は以前カタリナを救ったのだったな、なにか手がかりになるものや方法に心当たりがないか?」

「カタリナ様が永遠の眠りの魔法、エターナル・スリープをかけられたとき、わたしの心に見慣れないのになぜか懐かしく感じる黒髪の東洋風なのになぜか不思議な格好をした、水兵のえりのついた服をきた少女が窓や脳裏や瞼の裏にうかんでわたしに話しかけてくるのです。その少女のことを思い浮かべて祈っているとカタリナ様が目をさましたのです。」

「そうか、その少女のことを思い浮かべてくれないか。」

「はい。」

「じゃあ私は用があるから行く。たのむぞソフィア」

「はい。」

ラーナ・スミス様はいずこかへ立ち去った。



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第36話 御前会議と魔法省での戦い

一方、王宮では急遽御前会議が開かれた。

「ザクセン侯、ヴラド公爵、このたびの魔法省での騒動、どう処置するか?」

「カタリナ・クラエスとガイ・アンダースンの処刑が適当かと。」

「ヴラド公、それは性急ではないか。カタリナをあやつった闇の魔力の少女がいるというではないか。それをどうにかしないと第二第三のカタリナが生まれるのではないか。」

「現に王の子息であるジオルド様、アラン様とその婚約者メアリ嬢、それに次期宰相との呼び声のあるアスカルト伯の長子のニコルが大けがをしている、議論の余地はないと思うが...。」

「??」

「ジオルド王子!」

ジオルドが従者に肩をもたれて、ずるずると連れられて御前会議の場に現れる。

「カタリナを処刑にしないでください。」

「ジオルド、いかにお前が王子といえこの場は御前会議だ。控えよ。」

「いえ、陛下、父上、カタリナはわたしの婚約者です。わたしの婚約者について発言する権利はあるはずです。わたしとカタリナ、ニコル、キース、ソフィア、メアリは約束しました。もし彼女が間違った道へいく場合は命がけでとめると。」

「しかし、お前もアランも現在重傷を負っているではないか。」

「でも陛下、父上、わたしは、彼女との約束を果たさねばなりません。幼馴染で生徒会でいっしょだった友人たちも必死になってカタリナをとめようとしています。どうか時間をください。」

「王子、そうはいっても騒動は止められない。もとを絶たねばならない。」

「そうですね。元をたたねばなりませんね。」

「ジェフリー王子、スザンナ・ランドール侯爵令嬢!」

「この事件は闇の魔力が働いているのです。その魔力を発揮しているのはこのサラという少女。」

サラの肖像画が取り出される。。

「この少女とその裏で動いている人間を捕まえるか、場合によっては処刑しなければ元をたつことはできないでしょう。陛下、調査のためにも時間をください。」

「闇の魔力だと...。ばかなことを。」

「現にラファエル・ウオルトがディーク公爵夫人によって実の母親の命が闇の魔力で奪われ、カタリナの弟もこのサラという少女にあやつられた従兄によって行方不明になっている。調査の必要があるとおもいますが。」

「わかった。カタリナとガイ・アンダーソンの件は、保留とし、そのサラという少女と闇の魔力の調査をすることにする。よいな。」

「陛下!そんな世迷いごとを信じるのですか?」

「ヴラド公爵、卿は、魔法省の次官でありながらディーク公爵夫人やキース・クラエスの誘拐事件をしらないのか?怠慢すぎないか?」

「それは、ディーク侯爵夫人の犯罪、キース・クラエスのものもただの誘拐事件で報告しているはずですが...。」

「ヴラド公爵、場合のよっては虚偽の報告ないしは公文書偽造になるぞ?」

「虚偽の報告をしているのはそっちじゃないか!」

「さあ、どうかな。」

ジェフリーはほくそえむ。

 

翌日、魔力魔法研究室では...

「サイラス様」

「マリア・キャンベルか?」

「光の契約の書の新しい魔法が解読できました。思い浮かんだものを紙に描くソートグラフというものです。自分で見たものも紙に描くことができます。」

「面白いな...ラーナが聞いたらどう思うか...。しかし、今の事態を切り抜けるのに役に立つとは思えないな...。」

 

「サイラス」

「なんだ、ラーナ・スミス。変人部署の部署長が何の用だ?」

「もうしわけない。聞こえてしまった。この風の魔法道具だ。遠くからの音をひろうということでテレフォンと名付けた。」

「いつのまに...。」

「そこにあるのはスピーカーという魔法道具で、その音をひろってこのテレフォンに流すんだ、」

「そんなもの置くな。」

「いいじゃないか。何事も実験だ。」

しばらく二人は言い争っていたが、マリアとデューイがとめる。

「こほん」

「じつはな、ソフィア・アスカルトが、カタリナをシリウス・ディークのかけた永遠の眠りから目覚めさせるきっかけを作ったのは知っているな。」

三人ともうなづく。

「そのときソフィアの脳裏、瞼の裏。そしてソフィアが自分の姿を映した窓に東洋人風の不思議な姿をした少女がうつったというんだ。その少女の姿をマリアの解読した魔法で紙に描いてカタリナにみせればなにか変化があるのではないかという気がするんだ。」

わたし佐々木敦子はおどろいた。その道具は、プッシュボタンはないもののなにかでみたカーテレフォンにそっくりだったからだ。

「マリア、そのソートグラフをこの箱にかけてくれないか。本人がこの耳あてと額にこの箱を接触したとき思い浮かんだものがこの箱に入れた紙に描かれるようにしたいんだ。」

「はい。」

「よし。このフォト・オブスキュラをソフィアのところへもっていくぞ。デューイ、マリアついてこい。」

「はい。」

「おいおい、ラーナ、二人の上司はこの俺だぞ。」

「わかった。サイラスも来てくれ。あらためて二人に職務命令を出してくれ。」

「命令。マリア・キャンベル、デューイ・パーシー、アスカルト伯爵家令嬢ソフィアのところへ行き、フォト・オブスキュラ使用の任務を命じる。」

「はい。」

二人は笑顔で答え、サイラスも微笑んだ。

 

一方、魔法省の敷地内では戦いが繰り広げられていた。カタリナ、ガイ・アンダースンと鼠にかまれた職員が舞い戻り、けがを押して出てきたジオルド、アラン、メアリ、ニコルと鼠にかまれていない職員とが魔法で戦っている。火、水の魔法の激しい応酬、アーセン・ゴーレム同士の戦い、キースもアーセン・ゴーレムを召喚して戦っている。アーセン・ゴーレムを出せるのがジオルド・キース勢に多いためになんとか戦えているものの、カタリナのケルベロスを三体のゴーレムでようやく抑えている状態で予断を許さない。鼠を出せるのがカタリナだけなので火属性の職員たちが待ち構え鼠を出すたびに焼き殺していくものの、何せ数が多いため、かまれる職員も続出して敵方に回り、形勢はじわじわと不利になりつつあった。



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第37話 黒幕の正体

お父様がやや慌てた様子で美しくもりりしい魔法省のガウンを着た女性、金髪のわたしと同じ歳くらいの女性というか、マリアさんに少年の3人を通す。

「ソフィア、お客さんだ。魔法省魔法道具研究室のラーナ・スミスさんだ。」

「ラーナ様?マリアさんに?」

「デューイ・パーシーです。ソフィア様」

「はじめまして」

「まあ、挨拶はそれくらいにして、早速だがソフィア嬢、これに額をあててくれ。思い浮かべたものを紙に移す魔法道具だ。」

「はい。」

「これは...。」

 

そう、まさしく映し出されたのは、高校時代のわたし佐々木敦子の姿。

 

「ほんとうにみたことのない少女だな。」

ラーナ様はそうつぶやくとわたしに

「よし、これを魔法省へもっていく。ソフィア嬢は思い出せる限りのものを念写してくれ。」

「はい。」

少女の写真を持ってラーナ様はあわただしく出ていかれた。

 

魔法省の戦いでは、鼠にかまれた職員が次々に敵方にまわっていく。

「うぐっつ。」

けが人のジオルドがついに敵のアーセン・ゴーレムにつきとばされた。

「ジオルド、大丈夫か?」

「アラン、そんな...ひまは...ない...は、ず、だ。戦って...く、れ。」

ジオルドは気を失い、首から力が抜け顔を横に向ける。メアリが一瞬心配顔になる。

「だいじょうぶ、気を失っているだけだ。」

アランがそういうと、メアリに黒い微笑が戻る。

「そうですわね。考えてみれば、あのジオルド様がこんなことくらいで死ぬわけがありませんわ。」

「おいおい、かりにも王子で俺の兄だぞ。」

「それよりもあのゴーレムを抑えましょう。アラン様。」

「ああ。」

アランとメアリは敵のアーセン・ゴーレムを水流でおさえるが、その水流が敵の風魔法でとばされる。アーセン・ゴーレムがアランをつきとばす。

「アラン様!」

メアリが叫ぶ。

「う..う...。」

アランは、あおむけに倒れ、先日の傷口が開いて出血している。

あわてて従者たちが、止血して運び出した。

ケルベロスを抑えていたアーセン・ゴーレムがついに敵のゴーレムたちに倒される。ケルベロスが襲い掛かってもはや全滅かと思われた時、

「カタリナ・クラエス!こっちを見ろ!」

ラーナの声がひびきカタリナが東洋人風の少女の「写真」、フォト・オブスキュラでソフィアから念写されたこの世界で二番目の「写真」、わたし佐々木敦子の上半身の画像がプリントされたものをみせる。

「....あっちゃん...。」

カタリナの潜在意識に訴える。

カタリナの動きが断続的になり、ガイ・アンダースンの動きと鼠にかまれた職員たちの動きもにぶくなっていく。しかし数の力はいかんともしがたく、魔法省に最後の時が近づいているように思われた。

そのとき光のかすみが一面にひろがる。マリアが祈りながらリペントを詠唱したのだ。

カタリナや敵の動きがますますにぶくなっていく。後ろから黒いローブの女が現れる。

「でてきたな、サラ」

「ラーナ・スミス、いやスザンナ・ランドール侯爵令嬢か。」

サラがほくそえむと周囲が闇になる。しかし、マリアが祈るとまた光のかすみがあたりにひろがり、光と闇が押し合いへし合いしている状態となる。

そのときだった。マリアがふらっとしてあお向けにたおれる。

「マリアさん!」

メアリが悲鳴を上げる。ついに体力の限界が来たのだ。次の瞬間、アーセン・ゴーレムとキースが突き飛ばされる。

「ね、え、さ、ん...。」とつぶやくと首から力が抜けてうつぶせに倒れた。

メアリも疲れ切っていて、死んだ魚のようなうつろな目になり、呆然として座りこんでしまう。

 

「よく頑張ったがもう終わりだな。ソルシェの魔法省はわれわれのものだ。」

ヴラド公爵が現れる。

「ヴラド、やはりお前か。」

「スザンナ・ランドール侯爵令嬢、上司になんという口の利き方だ。第一王子の婚約者とはいえこれで終わりだな。」

「ふん、のこのこと出てきおって。殊勝なことだ。どちらが終わりかこれからわかるだろう。」

「カタリナ様!」

ソフィアがなにやら紙をもってカタリナのそばへ寄ろうとする。

鎌がソフィアをおそった。

紙が空中にうかぶ。

「ソフィア嬢、あの紙には秘密があるんだな。」

「はい、わたしには読めませんがカタリナ様には読めるはずです。」

その紙が何なのか、わたし佐々木敦子は知っている。それは日本語で書かれたFortuune LoverⅡの攻略メモだ。

「お兄様、あの紙をカタリナ様のところへ!」

「わかった。」

ニコルの風魔法がその紙をカタリナのところへ風の魔力で流す。

「なにをしている。」

サラがいぶかって叫ぶ。

カタリナの顔にその紙がかぶさる。

 

この世界で唯一の日本語でかかれた紙だ。

「...あっちゃん...。」

とつぶやきカタリナの動きが完全に止まった。

ガイ・アンダースンとほかの職員たちの動きがにぶくなっていく。アーセン・ゴーレムが消えていく。同士討ちを始める者もではじめた。

「何が起こったんだ。」

「さあな。」

「サラ、ヴラド公爵。お前たちを国家反逆罪で逮捕する。」

いっせいに数十人の職員がサイレンスをサラへ向けて詠唱する。

「うぐ...。」

「つかまえろ。」

サイレンスで束縛され、身体も束縛されたサラは連行されていく。

「ウオオオオオオオオ~~~~ウオオオオオ!!」

その時 ヴラド公爵が吠えて、その身体が黒々と変化してみるみるおおきくなっていく。そして70mというそびえたつ姿になった。その姿は龍の身体を持つゴリラで胸をドラミングする。

 

わたしソフィアは、さきほどまで呆けた感じであったカタリナ様が魔法省の少女趣味の男の人に話しかけているのを見た。

「アンダースン先輩?」

「わたしのことはローラと呼びなさいと何度も...。」

「あれ??わたしたちどうかしていたんでしょうか?」

「カタリナ様!」

「メアリ、ソフィア、何が起こっていたの?あ、あそこに倒れているのはマリア?」

「正気に戻られたのですね?」

「え?正気って??」

「はい、実は...。」

わたしたちは一部始終をカタリナ様に話す。

カタリナ様の顔が青くなった。

「わたしがそんなひどいことを...ど、どうすれば...。」

「幸いにもけが人は多いですが死者はでていません。主犯はサラというあの女です。」

「それよりもあの化け物をなんとかしないと...。」

「??」

「どうしたんですか?」

「??あの狸狩りをしたときの鏡があつくなってる。」

カタリナ様が驚いた口調になった。

カタリナ様の影が大きくうねるように動いた。

 



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第38話 ポチの活躍再び

カタリナ様の影から、子犬が現れたかと思うとオオカミのようになる。

「ポチ!」

そしてさらに巨大化して雄たけびをあげた。

 

ウワオオオ~~~ン

 

巨大化は70mに達するほどになってとまる。

(ここは危険、はなれて)

ポチちゃんの声がわたしにも聞こえた。

ポチちゃんは、ドラゴン・ゴリラに向かっていく。

ドラゴン・ゴリラが口から火炎を吐こうとする。

魔法省の職員たちがいっせいに水魔法フロッドを詠唱する。

火炎がポチちゃんにむかうがフロッドは数十人にも及ぶ呪文であるため、なんとか抑えられている。

ドラゴン・ゴリラはいきりたってその巨大な尾を職員たちへむけてむちのようにしならせる。

その尾が職員たちにおそいかかってまめつぶをはじきとばすようになぎはらった。

そして返す刀とばかりにポチちゃんをなぎ倒す。

そうしてからまた火炎を吐こうととする。しかしそのすきはポチちゃんにとって十分だった。ポチちゃんは火炎を吐こうとするドラゴン・ゴリラの首筋にガブリとはげしくかみついて押し倒す。

身体を震わせて起き上がろうとするドラゴン・ゴリラ。

そのとき土属性の魔法が詠唱され、ドラゴン・ゴリラは地面に縛り付けられ数十体ものアーセン・ゴーレムがその足元におそいかかる。

水属性の職員たちは、氷の槍、アイスランサーを一斉にはなつ。

火属性の職員たちは、アイスランサーが攻撃しない場所にファイア・ボルテックスを投げつける。

火属性の職員と風属性の職員が同時に詠唱した。ファイアー・ホイールウィンド、大規模火災のときにおこる火災旋風をドラゴン・ゴリラに浴びせようとする。

ポチちゃんはそれを察して絶妙なタイミングで口をはなした。

火災旋風がドラゴン・ゴリラを襲うがやけただれつつも地面にしばられつつもドラゴン・ゴリラもがいている。

もう一度、ポチちゃんがドラゴン・ゴリラに立ち向かおうとする。

ドラゴン・ゴリラは尾をふって再びポチちゃんを押し倒そうとするが、ポチちゃんはそれをよける。しかしドラゴン・ゴリラはよけたところへ尾を向けてポチちゃんを再び押し倒す。

とどめとばかりに火炎を吐こうとする。しかし、ポチちゃんは体制を立て直して吐かれた火炎をよけ、その首筋にかみつく。

ドラゴン・ゴリラは振り落とそうとするが深々と突き刺さった牙は抜けない。

そのときドラゴン・ゴリラの顔に不気味な笑みがうかんだ。

その腹と背中のひれが光り始める。

「離れろ!やつは、自爆するもつもりだ。」

ラーナ様が叫ぶ。

ポチちゃんは首筋にかみついて離れない。もし離したら自分をはじめ魔法省職員たちが焼き殺されることがみえるからだ。

「ポチ!もういいから離して。」

カタリナ様が叫ぶ。

(離さないよ。離したら終わりになる。)

「でも、でもポチが焼かれてしまう。」

(ううん、大丈夫だよ。)

だんだんドラゴンゴリラを包む光はおおきくなっていく。

そして轟音が起こって激しい閃光が周囲をつつむ。

太陽が落ちてきたかのような激しい光で何も見えない。

その場にいた半分以上が失明した。そしてもう半分が目に障害を負うことになった。

やがて閃光がなくなってあたりは普通に風景がみえるが、そこにはポチちゃんの姿もドラゴン・ゴリラの姿もなかった。

「ポチ...。」

カタリナ様はがくっと頭をたれた。

どのくらい時間が経ったろうか。

「ワン、ワン」

子犬の吠え声がする。すると黒い子犬が吠えている。

「ポチ!」

カタリナ様は歓喜に包まれる。

「ぶじに帰ってきたのね。」

「クルルル...。」

ポチちゃんはカタリナ様に甘える。

よかった...

「どうやら解決したようだな。」

ラーナ様がつぶやく。

今度はつかまっても気丈にふるまっていたサラががくっと首をたれる。

「ヴラド様...。」

押し殺したようにつぶやいて連行されていった。

「カ、カタリナ、さま?」

マリアさんが起き上がる。

「マリア、ごめんなさい」

カタリナ様は泣いてマリアさんをだきしめて何度も謝った。

「いえ、カタリナ様、正気に戻られたのですね。」

今度はマリアさんがうれし泣きをしてカタリナ様を抱きしめる腕に力が入る。

「わ、わたしの処分はどうなるのでしょうか?」

カタリナ様が不安顔でたずねる。

「そうだな、御前会議で検討することになるだろう。」

ラーナ様がお答えになった。

 

 

わたし佐々木敦子は思う。カタリナ、内野さんは破滅してしまうのだろうか...

前世の女子高生の時とほとんど変わらない年齢で...

しかし一方でそうならない気もしていた。

原因がはっきりしているからだ。

 

 

さて、御前会議が開かれ、カタリナ様は呼びだされたという。

「カタリナ・クラエス。ガイ・アンダースン、お前たちが魔法省で行った行為は万死に値するものだ。しかしどうしてそうなったかは原因がはっきりしている。犯罪者が使ったナイフは処刑されない。同じようにお前たちは意図してしたわけでないから有罪にしないことにする。さいわいけが人は多いが死人は数人程度で原因は火、水、アーセンゴーレム、鼠がらみでカタリナ嬢の鎌で死者が出ているわけではない。しかし魔法省の損害は、十数億単位にのぼるものだ。お前たちを操った者を処刑する必要がある。すなわち、あのサラという少女を処刑にしない限りお前たちを不問にするわけにいかない。」

サラの処刑は、闇の魔法という禁忌にからむこと、貴族社会の矛盾を暴露することになるため、魔法省の敷地内で行われた。最初にトゲのついた鞭を39回打ってから石打にされた。ヴラド公爵への忠義については称賛され、彼女は満足した笑みを浮かべたという。ヴラド公爵の財産は没収され、けがを負った魔法省職員や死亡した職員の遺族へ慰問金、そして魔法省の施設道具の修繕料に充てられた。ヴラド公爵家は取り潰され、親族は庶民に落とされた。

カタリナ様は魔法省に無事戻ることになったが、クラエス家からも数千万の弁償金

が払われた。

さて、事件が落着すると、ラーナ様がカタリナ様、マリアさん、そしてわたしソフィアを呼び出し、事情をお聞きになることになった。

 



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最終話 いつもそばにいるから

「しかし、この文字の書いてある紙が決め手になったのか...。」

 

 

それは日本語で書かれたFortune LoverⅡのメモである。

 

 

「文字は読めませんが、どうやら魔法省でマリアさんが恋をする物語が書かれているようなのです。先日フォト・オブスキュラで念写した画像をみせます。」

 

 

その画像はまさしくわたし佐々木敦子のゲーム用パソコンだった。部屋の薄いピンク色の壁も映り込んでいる。

あの世界では、まな板のように見えるデイスプレイとキーボードが写真になっている。

 

 

「このまな板のような部分に紙芝居のように絵が映し出されるのです。そしてこのソーセージ状のものの上で「矢印(※カーソルのこと)」で二回触ると絵が切り替わります。」

「サイラス、ソラ??これはデューイ?これはエテェネルの王子セザールじゃないか」

「そうです。わたしも驚きました。わたしたちの世界とそっくりなんです。」

「これは、カタリナ様です。ケルベロスを召喚し、鎌を振るっている...。」

「先日の姿とそっくりだな。」

「戦っているのはサイラス様、ソラさん、デューイくん、セザール様、ジオルド様、アラン様、お兄様、キース様とマリアさんです。」

「これは御前会議の場面だろうな、そっくりだが、カタリナが連行されて裁判になるところが違うな。」

「こちらは、闇の魔力をもったカタリナ様が勝利してしまう場面です。」

「マリアさんが死んで、サイラス様、ソラさん、デューイくん、セザール様、ジオルド様、アラン様、ニコル様、キース様が廃人のようになってしまう。」

「カタリナは知っていたのか?」

「いえ、魔法省にはいってからしばらくして知りました。夢のお告げで...。」

「カタリナ様、ラファエル様をディーク侯爵家の倉庫の隠し部屋で救った時も同じことをおっしゃってましたね。」

「はい...思い切って話すとわたしは別の世界からこの世界が描かれた電気信号による紙芝居のようなもの、それもソフィアが見せてくれた選択肢によって話がかわるものをやっていました。あの世界では「乙女ゲーム」と呼ばれるもので、マリアが主人公だったんです。」

「わ、わたしがですか?」

マリアさんが不思議そうな顔をする。

「うん、そうなの。」

「それでカタリナ様はわたしが思いを寄せる男性について繰り返しお聞きになっていたり、サイラス様とうまくいくようにしていたんですね。」

「その別の世界の親友だったのが「あっちゃん」なる人物でそれで闇の魔法が解けたというわけか。」

「そうみたいです。」

「わかった。興味深いな。転生前の記憶がよみがえれば闇魔法を解呪する力になるとは...今日のところはおそいからこれで事情聴取は終わりにする。カタリナはあしたからまた闇の魔法の練習と闇の契約の書の解読の続きをやってくれ。」

「わかりました。」

翌日、カタリナ様は魔法省に出勤して、いつものようにラファエル様に闇の魔法の練習をはじめた。

どくろのついた黒いステッキを振る。

「えいっ。」

「黒い豆のようなものが出たね。??」

「だんだん大きくなっていく?」

「そうだね。」

「な、なにこれ、引っ張られる」

「カタリナさん!」

それから急に黒い豆から強い力がかかってカタリナ様を吸い込んでいってしまった。カタリナ様をすいこむと消えた。

カラン...と音をたててどくろのステッキが地面にころがった。

ラファエル様はカタリナ様を捕まえる前に黒い豆にのみこまれたのをぼうぜんと見ていたという。

 

チュン、チュン、チュン...

わたしは、交通事故にあった内野さんの病室にいた。一命をとりとめたものの意識不明の状態が続き、親御さんに希望して看病をしていた。

「う、ううん...。」

わたしは驚いた。一生植物状態が続くという話だったが手を一晩中握り続けて、内野さんに語り続け、祈っていた。

「?あっちゃん??ここはどこ?」

「病院だよ。あなたは事故にあって、瀕死の重傷を負って、10日以上意識不明だったの。」

「あ、そういえば...ジオルドを攻略できなくて、朝起きて学校へ行こうとしたら何か硬いものにぶつかってから記憶が...。あのね、あっちゃんわたし不思議な夢をみたの。」

「どんな夢?」

「わたしがカタリナに生まれ変わった夢。破滅すると思ったから必死に対策をしたの。ジオルドとも、メアリともアランともソフィアともなかよくなってマリアちゃんとも仲良くなったの。」

「カタリナなのに?」

「そうそう。マリアのお菓子ってとてもおいしいし、マリアってとてもいい娘なんだ。」

「そして無事に魔法学園を卒業したら、魔法省に勤めることになって...あっちゃんがFortune LoverⅡをプレイしていたのをみて、そのとおりやったらしばらく上手くいってた気がしてたんだけど...あれ??はっきり覚えていない...なにがあったんだろう..。」

「Fortune LoverⅡって...Fortune Loverに続編が出るの?」

「うん、魔法省の新キャラがでるよ...あれ??誰だっけ??」

数日後

「内野さんの容体が?」

「どうしたの?」

「あの交通事故で打撲を受けていたので、複雑骨折が別の場所から起こって内出血が...。」

わたしは急遽病院へ行った。

内野さんは息もたえだえだったが意識はしっかりしていた。

「あっちゃん、今までありがとう。ようやくお礼が直接言えた...。」

「何言ってるのこれからじゃない!」

「あの世界にもどるよ...わたし...。さようなら...。」

内野さんの手を強く握った、しかし、だんだん皮膚から生気が抜けていった。内出血であちこちがエビ色ににじんでいた。

 

内野さんが言った通りあれから1年後Fortume Lover Ⅱが発売された。

近隣五か国会合の場面となり、ソフィアの部屋が映し出されたときに眠くなった。

わたしは、ソフィアの部屋にいてソフィア自身になっているようだった。そしてなぜかソフィアの身体をつかって衝動的に日本語でFortume Lover Ⅱについて書き綴っていた。

翌日目が覚めた時ふつうに自宅のベッドにいた。

わたしは、机の上にある内野さんと一緒に写っている写真に話しかける。

「いってきます。」

それから着替えて朝食をとり歯を磨いて登校した。よく晴れた日だった。

もし、生まれ変わることができるならもう一度あの子と友達になりたい...

 

 




エピローグ

僕ラファエル・ウォルトは、上司であるラーナ様にカタリナさんがどくろのステッキを振った時に現れる「黒い豆」に吸い込まれたことを報告した。
「不思議なこともあるものだな。」
「はい...ところで彼女は戻ってくるのでしょうか?」
「わからないな...でもソフィア・アスカルト嬢はなにか感じていることがあるのかもしれない。そのステッキを彼女にしばらくあづけてみようか。」
「そうですね。」
僕はほかにいい案が思い浮かばなかったので、ラーナ様の提案に従った。

「ソフィア様、お客様です。」
赤毛で灰色の瞳の好青年だった。
「ラファエル様!」
「ソフィア嬢。これをしばらくあづかってほしい。」
「これは...カタリナ様の...。」
「そうだ。どくろのステッキだ。カタリナ嬢はこのステッキの魔法が生み出す「黒い豆」というか「黒い孔」といったほうがいいだろうな...2日前に飲み込まれた。」
「そうなんですか。」
「念写したときのように、その「あっちゃん」を思い浮かべてほしい。なにかがわかるかもしれない。」
「はい...。」
(「カタリナ」はもどってきたよ。最後のあいさつといって...おそらく近いうちにそっちへ戻ると思う。)
2日後、どくろのステッキが震えた。「黒い豆」があらわれ、「豆」から強い風がふいてきた。
「うわっとと...。」
カタリナ様が「孔」から吐き出されたように現れた。
「カタリナ様!」
「ソフィア?ここはどこ?」
「わたしの部屋です!カタリナ様、ご無事でよかった。」
「そうなの。なんだかわからないけど...ただいま。」
「おかえりなさい。」
わたしはカタリナ様にだきついた。
内野さん(カタリナ)、わたしはソフィアとしていっしょにいるから...)




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