Armored Core Eastern War (ちょっとだけ別口)
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Chapter 1 『The beginning』
東の地の歩行兵器



 もしも幻想郷にアーマードコアが幻想入りしたら。

 そう思って思いのままに筆を走らせたので至らない所はあるかもしれませんが、お読み頂けると嬉しい限りです。




 

 

 時代は変わった、と言わざるを得ない。

 

 

 『妖怪』が生身で猛威を振るう時代はとうの昔に過ぎ去り、いつからかこの地に流れてきた()()()()()()()()()()()()()()()()が散見されるようになった。

 

 曰く、『アーマード・コア』というその鉄の塊は、遠目で見てもわかるほどに巨大だった。5mという大きさの鉄塊は、誰がどう見てもこの世界にそぐわない、異質なものだった。それに、その機械は酷く錆臭い。金属の腐ったものとも取れる酷い悪臭は鼻を突いた。

 

 長らく手入れも整備もされていなかったのであろう機械は、しかし人々や妖怪達のその手に渡り、やがて各々の信念の為に彼らは戦いを望み始めた。人里が、間欠泉管理センターが、妖怪の山が、無縁墓地が、博麗の一派が。

 並み居る名高い土地のあちこちで互いの理念が為に撃ち合うその様はまるで幻想郷が創られる前の戦場そのものだった。......いや、今は技術は無いものの、外の世界の文明を壊した兵器がすぐそこを横行する時代なのだから、それよりもたちが悪かった。

 

 やがて利害関係が一致したり、手を組んだり、力を合わせようと幾人かのAC乗りが一つの目的の元にグループを形成すると、それらは『組織』と呼ばれるようになった。

 

 『組織』は理念の元に破壊と支配を始め、ACを持たない弱小な妖怪の勢力は『組織』の元に膝を着いていった。

 

 『組織』が出来るという事は、それとは全く別に『対抗する組織』が出来上がる訳でもある。支配を免れたAC乗りが組織に対抗する為に新たな『組織』を作り上げ、その組織同士の間は常に戦場と化す。

 

 そしてその2つの組織は、自然とそうなったのか、はたまた必然だったのか、それとも必要に駆られてか。

 

 

 組織の中で更に分裂が起きると、それらは今ある有名な地名の名を冠して、それを自らの『組織の名』とした。

 

 幻想郷のパワーバランスは奇しくも、各人が能力に頼らず、人と妖怪が対等に戦えるようになる『AC(アーマードコア)』のおかげで均衡の取れた形となっていた。

 

 そんな中、どこにも属さない『個人』で活動する者達がいた。『組織』の依頼を受け、あるいは自分の倫理観や価値観に従って、仕事を受けて『組織』と相対する者達。

 

 彼らを、人はこう呼んだ。

 

 

 

 

 

 

 

『雇われ。あるいは、《渡り鳥(ミグラント)》』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『システム、通常モード起動』

 

 一機のACが上空を飛ぶ輸送ヘリから放たれ、ブーストを吹かしながら荒れ果てた大地へと着陸した。

 

『巫女殿、今日も頼ンます。無線通信を依頼元に繋ぎますぜ』

 

 そう言って通信が一瞬途絶える。直ぐに復帰したと思うと、先程まで話していたヘリパイロットではなく、一人の『巫女』と呼ばれた雇われに依頼した、天狗の男が通信を引き継いだ。

 

『あー、あー。マイクテス……聞こえているな。久しぶりだな、博麗の巫女。今回の仕事は『力を伸ばしつつある人里への制裁行為』だ。ACが一機確認できている。恐らく雇った者だろう。これを倒せば今回の契約は終了だ。お前がやられるとも思えんが、油断だけはするなよ』

 

『………わかった』

 

 一言、返事だけして通信を切り、周囲を警戒する。

 かつて人里と呼ばれたその地に最早見る影はなく、外の世界の技術の流用によって地下に建造された、巨大地下都市『クレーター』と呼ばれる巨大な町があるばかりだった。

 

 『システム、スキャンモード』

 

 辺りを見渡す動作を見せるそのACは、左右にそれぞれカスタムされたライフル(AM/RFA-222)スナイパーライフル(AM/SRA-217)を持ち、左右のハンガーにはショットガン(AM/SGA-204)レーザーブレード(AM/LBA-251)を装備していた。肩部には数十発のミサイル(SAZANAMI mdl.2)が内蔵されており、その機体は化学エネルギー(CE)兵器に高い耐性を誇る。白と赤という、平野でも森林でも暗闇でも、どこでも目立つ色鮮やかなカラーリングが施されていた。

 逆関節型のその機体は全体的に鋭角な印象を抱かせ、人型兵器としてはややアンバランスながら、脚部構造の都合上高い安定性能を確保していた。

 

 パイロット本人によって名付けられたその機体名は、調和者を意味する『ハーモナイザー』と呼ばれており、その色合いからも、間違いなく幻想郷の象徴たる博麗の巫女『博麗霊夢』が駆るACだった。

 

 そしてハーモナイザーを静かに狙う一機のAC。右腕にスナイパーキャノン(YAKUMO mdl.2)、左腕にガトリング(AM/GGA-206)、左右それぞれのハンガーにパルスマシンガン(AU44 Kaleidoscope)プラズマガン(FUJINAMI mdl.1)を携えたその機体は、ハーモナイザーのように目立つ塗装でありながら、白と黒というモノクロの、ハーモナイザーとは正反対の色合いだった。

 その脚部は熱エネルギー(TE)兵器に高い耐性を保持しつつも、全体的に高い防御力を誇る、重量型の二脚である。

 

 機体名は『鋭さ』を意味する『ギムレット』であり、こちらも人里と長期雇用契約を結んでいる傭兵『霧雨魔理沙』の愛機だ。

 

 ロックオンサイトから遠く離れたハーモナイザーの立つ場と、ギムレットの陣取る荒地のその距離は、肉眼では殆ど視認できないだろうという距離である。長距離狙撃を行うべくスナイパーキャノンを構え、引き金を引く。

 

 引き金を引いたのとほぼ同時に、独特の銃声を伴って巨大な弾丸が、ハーモナイザーを穿たんとばかりに砂煙を払いながら標的の元へ突き進んでいく。

 

『……!』

 

 しかし、流石は巫女の勘と言うべきか、野生の勘とでも言うべきか。弾丸はハーモナイザーがブースターを吹かしたおかげで外れてしまった。今ので位置を補足したのか、魔理沙の居る位置にリコンが飛来し、機体の付近に突き刺さる。スキャンモードで位置を気取られたか、サイトスコープ越しに紅白のACがこちらに急速接近してきているのがよく見えた。

 

『チッ……この程度じゃあ、当てる事もままならないか』

 

 独り言を呟きながらスナイパーキャノンをパージする。重々しい音と共に接合部が外れ、武装が解かれる。右のハンガーが起動し、空いた右腕にプラズマガン、左のハンガーも作動し、ガトリングと入れ替わる形でバルスマシンガンを装備する。

 

『さて、これも仕事だ。悪いけど引いてもらわないと、こちらの報酬もかかってるからなっ!』

 

 グライドブーストを強めて迫り来るハーモナイザーを正面に見据え、ギムレットも両手の銃器を構えて邀撃の用意に移る。

 

 遮蔽物の無い平原での戦いだ。先に先手を打ったのは狙撃銃を所持しているハーモナイザーだった。ロックオンされていないものの、距離を無視した目視による狙撃を、左方向に強いブーストをかける事で機体をずらし、回避する。

 

 二発、三発と、火薬によって赤熱した弾丸が放たれ、続けて同じ方向に回避する。ギムレットのジェネレータ内部コンデンサが、エネルギーが切れそうだと魔理沙に警告を促した。

 

『システム、スキャンモード』

 

 スキャンモードでは腕部や武装、FCSなど攻撃に使われるEN(エネルギー)をカットし、その文余ったENを回避に回しつつ敵機に接近する事や、その逆に守りを捨てて逃げに徹する事も可能である。

 その特性を生かし、回避に専念しつつ攻撃用のENを保持したまま、着実に両機は接近していた。

 

 牽制は冷静に対処され無意味だと判断したか、ハーモナイザーは武装を近接に切り替え、より早くギムレットに迫る。魔理沙はそのプレッシャーを興奮に置換する。所謂武者震いというやつだ。

 

『お前の機体を倒すためだけの機体だ。さぁ来い、コンデンサーの中身を全部喰らわせてやるとも』

 

 

 至近距離に迫ったハーモナイザーを迎え撃つ為にパルスマシンガンによる弾幕とプラズマガンによる電磁波の壁を形成する。

 その弾道は尽くを読まれており、パルスマシンガンが時折数発当たるという程度で、後は殆ど回避され、或いは当たっていなかった。

 

『……!』

 

 霊夢は戦闘中は決して口を開かない、とされている。或いは話しているのかもしれないが、広域通信を起動する事は決してない。魔理沙にとってのかつての親友の声は、しかしACが()()()()してからは一度たりとも聞いていない。

 

 再度狙いを定めて引き金を引く。20発程パルスマシンガンが連射され、だがハーモナイザーはまたもや軽々と弾幕を避ける。無駄の無い動きで、最低限のブーストエネルギーだけを使って、数発程度の被弾に抑えた。

 反撃とばかりにハーモナイザーが4発、威力の高いライフルで射撃する。射撃体勢から回避行動に移るのが遅かった為に3発ほどフレームに受けてしまう。

 

『チィッ!』

 

 舌打ちしながらも次弾を回避つつ、狙いはハーモナイザーからは一度たりとも逸らさない。

 

《ピッ》

 

 アラーム音がなった。FSCによるロックオンが終了したのだ。ギムレットはプラズマガンを構え、ハーモナイザーに照準を合わせる。ハーモナイザーのブレードの射程でもあった。次が決着だ、そう思った時だ。

 

『……これは』

 

 プラズマガンの発射タイミングを完全に読んでいたのか。

 脚部の追加ブースターによって飛翔したハーモナイザーを捉えきれず、そのままの勢いで脚を叩きつける《ブーストチャージ》に直撃してしまい、耐性を崩した所を。

 

『しまっ───』

 

 ギムレットのジェネレーター機関部をハーモナイザーのレーザーブレードが正確に捉え、斬り払った。爆発によってギムレットが、腕部、脚部と分解していく。

 

 残った左腕のプラズマガンをパージし、空いたその手を伸ばした。しかし、その伸ばした腕はハーモナイザーに届く事は無く、ジェネレーターが止まったことでギムレットは動力源を失い、無力化された。

 

『システム、通常モードに移行します』

 

 

 

 

 

 

 

 任務が完了したとシステムが判断し、戦闘モードを解除する。無線通信を繋げた。通信先は先程会話した天狗ではない。霊夢の住む博麗神社に度々立ち寄り、霊夢の身を案じてくれる一人の大妖怪、八雲(やくも) (ゆかり)その人だ。

 

『霊夢、お疲れ様。貴女はAC乗りとしても一流ね。……貴女はどう思うかしら。人と妖怪が直接争う世界を。ルールを忘れ、互いを激しく憎みあって壊し合う、そんな幻想郷を』

 

『私に、ルールなんてものはとっくの昔に無いよ。今はただ、人と妖怪の力を均等に保つ事、それだけが私の使命。ACも、それをする為の道具に過ぎないから』

 

『…そうね。貴女は雇われ。紅白に塗られた渡り鳥。自身の信条の為だけに力を振るい、幻想郷を調和する。それこそが貴女の、博麗の名を持つものとしての役目だものね』

 

『切るわ。また』

 

『ええ、また』

 

 通信を切って輸送ヘリを呼ぶ。位置情報ビーコンによってACから絶え間なく輸送ヘリに居場所が送られてくる。

 

 ヘリのハンガーにACが掛けられ、ヘリに引っ張られてふわりと浮き上がる。一人で空を飛べないというのは不便だが、それを補って余りある()であるから、多少の不便は耐えるべきだ。それに。

 

 

『へっへへ、毎度どうも、巫女殿。人間共も、これで少しゃあ大人しくなるでしょうよぉ』

 

 この小煩い鴉の男の口を黙らせたくて、私は私の力を利用して、一つ言ってやった。

 

『……一つ良いかしら。私は幻想郷の『調和者』なのは勿論知っているわよね』

 

『ええ、ええ。もちろんですわ。今回の仕事は巫女殿のおかげで成り立ってるようなもんです』

 

『……なら、ひとつ警告よ。お前達が出過ぎた真似をすれば、『調和者』はお前達にも牙を向く。……お前の上司にでも進言しておきなさい』

 

『! ……わ、わかりやした…』

 

 それ以降、鴉は黙って操縦を続けた。これで、仕事終わりは静かに過ごせそうだ。

 

 

 

 

 そう考えながら去り行くハーモナイザーの後ろ姿を見送ったのは、人里に雇われた雇われ、霧雨魔理沙だった。

 

「生き残っただけ、御の字か……いや、あいつに生かされたって言うべきか。何れにせよ、もう私の機体は動かせそうにないな」

 

 魔理沙は去りゆく霊夢を見て、そう思わざるを得なかった。或いは、そうでなくば自身を律せないからそう考えたのかも知れない。が、それは魔理沙の心の内を覗かない限り、何人も知り得る事はない。

 

 






 AC、ハーモナイザー
 パイロット、博麗霊夢

 速度に優れる軽量タイプの重量逆関節《TAKEKAWA mdl.2》と高出力ながらエネルギー消費が比較的軽いブースター《Bo-C-H11》、そして低いEN容量を補う程高いEN出力を備えた、軽量型ジェネレータ《SUZUMUSHI mdl.1》によって、速度を充分に確保した重量逆関節機体。

 コアにシールドを装備した運動エネルギー(KE)耐性の高い《CA-215》を採用し、それを中心にAPが高くも軽量のTE型腕部《AGEMAKI mdl.5》と、カメラ性能とある程度の演算性能を備えたKE頭部《HF-227》をチョイス。
 TE装甲は低めだが、代わりに高い機動力を損なうこと無く、中程度の威力を持つライフルやバトルライフル等の武装を跳弾できる装甲を得た。

 武装はレーザーブレードを除き全てがKE属性で、タンクや重量二脚のようなKEに耐性のない脚部に対し高い制圧力を発揮できる。また左手と左ハンガーにスナイパーライフル、ショットガンを装備する事で、右腕部ライフルとのシナジーを最大限引き出している。
 レーザーブレードは、射程こそ短いがレーザーが収束され高い攻撃力を誇り、四脚へ対する決定打に成り得る。同じ理由で重量逆関節へ対しても決定的な一撃を与えられる。

 しかし、機体コンセプトや武装の偏り具合からKE防御力の高い中量二脚、軽量で速度がある軽量二脚や、高い跳躍力を持つ軽量逆関節の相手は苦手である。


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日々

日常回(平和とは言っていない)




 雇われといえば、組織から独立しながらも、その報酬次第で恨みを持った相手にも協力する、そんなイメージを持つ者もいる。しかし、それは幻想郷にとっては間違いであると言える。特に傭兵でも最高クラスの実力者の一人である博麗霊夢、その人においては。

 

「………はぁ。最近はこんな仕事ばかりね」

 

 文句を言いながら、手に持った携帯端末のメールボックスに届いた依頼を読み通す。どれもこれも、敵勢力の排除、破壊、制圧……。

 くだらなくなって布団の上に端末を放り投げるが、布団に着弾したような音はしなかった。その方向を見やると、空間から手が生えてきており、その手が端末を上手くキャッチしていた。

 手は次第に腕に、腕は次第に身体に、という具合に()()が空間のスキマから姿を現した。

 

「紫……ずっと聞いてたの?」

 

「ふふっ、ごめんなさいね。でも霊夢、文句言わないの。貴女は調和者ではあるけれど、食べ物が無いと生きていけない『生物』でもあるのよ?」

 

 紫が顔を傾けながら霊夢に近付き、手に握った端末を霊夢に差し出す。霊夢は端末を受け取り、机の上に優しく置いた。そして紫に向き直って自分の意見を述べる。

 

「そうかもね。それでも、私は幻想郷の力の均衡という天秤を、常に保たせる責務や役割を負っているの。私の目で明らかに偏っていると確認できない限り、絶対に仕事は受けないわ」

 

 そう言って霊夢は神社を出て、少し離れた倉庫の中に入る。ホコリにまみれた雑多な道具を退かすと床下へ続くドアがある。それを開いて中の梯子を下りていくと、その更に地下にガレージがあるのだ。

 いつの間にこんなものが、と最初の頃は絶句していたが、その犯人が紫である事と、これがACのアセンブルを行う為の施設だと理解してからは、有効に活用させてもらっている。

 

「ねえ、紫。貴女はこのACが幻想郷に入ってきた時、何か対策を講じようとはしなかったのかしら?」

 

 いつだったか、ふと紫に対して、霊夢は疑問をぶつけた事がある。それを受け取った紫の表情は、あまり良いものではなかった。

 

「難しかったわね。妖怪の力だけではきっとあの鉄の暴力兵器には勝てないし、私が直接出ても、あの時には既に人里も妖怪もACを()を手にしていたわ。遅かれ早かれ、幻想郷はパワーインフレに襲われていた」

 

「貴女が直接干渉しても手遅れだった訳ね。ならこれ以上は特に言うことも無いわ」

 

「弁明のしようもないわ。どっちにしろ、幻想郷で果てなき戦争が起きるのも、時間の問題だったのよ」

 

()()()()()()ね。何れにせよ私は『調和者』として戦う。それだけよ」

 

 そう言って霊夢はふわりと宙を浮き、地上階へ戻っていった。ACには錆を除いて未だ真新しい傷はなく、戦いの中であまり被弾した事がない事の証明でもあった。

 

「…霊夢」

 

 紫は霊夢の名前を呟き、そのまま自らスキマを生み出してその中に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 無言で境内に座り、団子をかじってから緑茶を啜る。まだ熱かったが、それでも一息に飲み込むと、体が生き返った様な気分になる。熱い空気を吐き出す様に溜息をついてから深呼吸すると、冷たい空気が一挙に入り込んできて、暖かくなった体を内側から冷やして、とても心地よい。

 

 

 今の幻想郷は、冬景色だった。

 

 

 だが、積もる雪は今や戦場には降り積もらず、誰も襲わないような『魔法の森』や『博麗神社』ぐらいでしか銀の絨毯に(まみ)える事はできない。今や、銀雪の積もる平野は幻想郷には見られなかった。

 そもそも、自然が淘汰されてしまう様な、耳を澄ませばそこかしこで銃声がこだまするこの世界じゃあ、鳥のさえずりも聞こえやしない。それに寝ている時でさえ爆発音が鳴り止まない日さえあるのだ。いつかは死ぬだろうと、霊夢もある程度の諦観を抱いていた。

 

「また、戦っているのね」

 

 今でも木々に隠れて見えないが、葉と葉の擦れる音に混じって物騒な連射音が耳に響いている。ライフルレベルの口径と威力を誇るオートキャノン(自動機関砲)を積むようなACは、タンク型位のものだ。

 そしてこの幻想郷で好き好んで防衛用のタンク型ACに乗り込むのは、向日葵畑……もとい『太陽の畑』を守る『風見(かざみ) 幽香(ゆうか)』その人くらいのものだろう。あそこの付近は数少ない自然が残った地域であると同時に、幻想入りしたばかりの豊富な弾薬やパーツが数多く埋没している地域でもあるらしい。

 

 それを狙って多くの『組織』からの回し者の防御用AC*1やACが向日葵畑に押し寄せているのだろうが、無駄な事だ。

 

 風見幽香の防御は絶対だ。何故なら、向日葵畑を守るのは一人だけじゃない。隣接する鈴蘭の畑を守るACの存在もあるからだ。連射音の中に時折鋭い射撃音が響く。間違いなく鈴蘭畑の守主『メディスン・メランコリー』のものであるだろう。スナイパーキャノン(大口径狙撃砲)の発射音が鳴る度、爆発音が聞こえてくる。

 

 風見幽香のタンク型とメディスンの四脚型のタッグは、今まで一度たりとも突破されたことは無い。それだけ守りと互いのカバーに適している事の証明でもあった。

 

 やがて銃声も爆発音も聞こえなくなってきた。

 

 その内二種類の銃声しか聞こえなくなる。幽香とメディスンが、生き残った敵対者に止めを刺しているところだろう。それすらも聞こえなくなった後の幻想郷は、霊夢が二杯目の茶を飲み切るまで静寂が支配した。

 

 やがて夜になると、太陽が沈んだぶん風が異様に冷たくなってくる。寒さに身を震わせて神社の中に入る。そこにはいつの間に入ってきたのか、妖怪の賢者、八雲紫がそこにいた。

 

「お邪魔してるわよ」

 

「また、いつの間に───」

 

 入ってきたの。そう聞く前に紫が霊夢に問う。

 

「それよりも、貴女また()()()()を聞いていたの?」

 

 戦いの音を聞く、とは、霊夢の日課だ。銃声や爆発音、ACの吹き飛ぶ音や機動兵器の破壊音を聞く事。そうしなければ───。

 

「そうでもしないと、私は調和者としての役目を忘れてしまいそうだから。それだけは、絶対に許されないから」

 

 そう言って3杯目の茶を淹れ、団子の置かれていた皿には醤油で味付けされた煎餅が乗せられていた。「あちっ…」少しずつ熱湯のような茶を啜る。

 

「調和者、ね………。 ………霊夢。貴女だけ逃げ出す事も出来るのよ。『組織』の殆どはマヨヒガや私の家のような、亜空間に手は出せないのだから。私を頼ればすぐにでも戦いの無い場所へ連れて行くことも出来るわ」

 

 紫は霊夢の頬に手を当て、慈しむような表情を見せる。それはずっと昔に無くした、母親の温もりのようであり、しかし調和者である霊夢にとっては悪魔の囁きでもあった。

 

「とても嬉しい。………だけど、でも私は逃げる訳にはいかないわ。この役目は、私達博麗の一族が、貴女から直接譲り受けたものなんだから。役を授かっておいて、今更逃げるなんて虫が良すぎる」

 

 そういう霊夢の眼は曇りなく紫を見つめている。それはある一つの決意にも取れ、そして決意とは大抵固く破れないものだ。相手が頑固者なら尚更である。

 

「覚悟は決まってる、そういう事ね。なら私からはこれ以上何も言わないわ。でも覚えておいて。仲間は、きっといる。貴女とどのような理由であれ共闘する人は必ず現れる。だから、人を頼りなさいな」

 

「......わかった。ありがとう、紫。私は寝るわね。………明日もきっと戦いはあるもの」

 

「そうね。おやすみ、霊夢」

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、巫女の一日は終わった。

 

 

 明日になればまたどこかで戦いの火種が生み出され、抗争に至るはずだ。巫女は、その火種を潰し、潰して、それでも争いが起こってしまえば、均衡を保つ為に弱者へ着くのだ。

 

 それこそが、巫女の、渡り鳥(ミグラント)としての日常なのだから。

 

 

 

*1
防御用AC(防御用アーマード・コア)は、盾やACと同規格、あるいはそれ以上の武装を装備して局地防衛に従事し、あるいは安価に生産できる利点を活かした、物量による攻勢に用いられる。特に盾を装備したタイプはACよりも遥かに高い防御力を発揮し、扱いに習熟している者であれば、AC相手にも30秒以上は耐えられる事もある。逆に言えば、防御用とはいえACとの差は雲泥と言うべきという事の証左である。






 AC、ギムレット
 パイロット、霧雨魔理沙

 破壊され、詳細不明。
 データによると、迎撃能力の高い装備と威力の高い装備を使い分け、中距離から遠距離における射撃戦に対して優位性を維持していた。
 パイロットは生存しており、傭兵として再度の活動が待たれるところであるが、復帰の目処は立っていない。


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自由に生きる傭兵


 魔理沙がAC乗りに復活するお話



『……ぃ、おい! ……くそっ、おい応答しろ!生きてたら返事をしろ!防御型部隊はどうなった!?応答するんだ!!』

 

「隊長! 助け───」

 

『おい、どうした!?応答しろ、何があったんだ!?』

 

 通信兵を務める天狗がデバイスを耳にあてがっていると、突如何かを破壊するような物音と同時に声が聞こえてきた。破損しかかっていた無線からの声のせいで、不安感が拭えなかった。

 

「こちら『───イザー』。貴方達の勢力は、こ───郷において重大な均衡性の崩壊を生み────よってこれより破壊対象と────覚悟しておくこ──────」

 

『つ………通信途絶!! 解析不能ですが、音声から推察するに、博麗の巫女かと……!』

 

 河童との通信を担当していた天狗の慌てる声を聞いて他の天狗や河童も慌て始める。

 

『落ち着け、これより巫女と交戦する事になる。AC乗りは全員出撃!あるだけ出せ!これからもあの巫女を雇う事が有り得たかもしれんが、今回に限っては話は別だ!我らの道を阻むならば、巫女すらも潰してしまおうぞ!』

 

『了解!』

 

 ─────。

 

 

 

 

 

「……チッ」

 

 無線通信機からの音声が途絶えた。苛立たしさを隠そうともせずに通信機を放り捨てて、自分の搭乗するACに乗り込む。そうする前に、後ろから声が聞こえた。

 

「な、なぜ私を殺さないの……?」

 

 その問いに、霊夢は肩を竦めて答えた。

 

「抵抗を止めたその時点で、あなたを殺す価値はなくなったという事。帰って天狗に報告しなさい。『死にたくないならこれ以上の力は持つな』」

 

 そう返してから巫女は、コクピットに乗り込んだ。

 

 その姿を、河童はただじっと見つめている事しか出来なかった。MTは動かないが、互いに生身だった以上、個人で携行する拳銃なりなんなりで攻撃できた筈。それなのにしなかった。

 

 ……いや、出来なかったのだろう。並のAC乗りでは相応の苦戦を強いられるであろう防御型AC5機編成の部隊を五つ、計25機の防御型を、あの巫女はものの二分で叩き潰したというのだから、畏怖の念を抱くのもありえない話ではない。

 

 何より、彼女の機体に傷が着いていなかったのが、彼女が絶対的強者たる証拠でもあった。

 

 

 

 

 

 ふう、と溜息をついてコクピットから飛び降りると、神社の境内では元ACパイロットだった霧雨魔理沙が、霊夢の帰還を待っていた。残っていた煎餅を全て食べ切ってしまうと、霊夢の搭乗していたハーモナイザーに駆け寄り、機体の点検を始めた。

 

「あのね、魔理沙。別にチェックなんて要らないわ。そりゃ錆びを塗装で誤魔化してはいるけど、今日も一度も当たらなかったのよ?必要ないって」

 

「あのなぁ、そうは言うけど錆っていうのは一瞬で金属を駄目にしちゃうんだぜ?戦ってる時に腕がポロッと取れたらどうするんだよ。ブレードとか使えなくなるんだぜ?」

 

「それはその時よ。どうにかならなかった事は無いんだから、今日だって必要無いわよ」

 

そう言って境内に戻っていく霊夢を後目に、魔理沙は尚も説教を続ける。既に霊夢はいなかったのだが。

 

「おいおい、あんまり錆を舐めちゃ駄目だぜ。ただでさえオンボロのパーツが多いっていうのに、壊れる度に新しいものに取り替えてたらお金が無くなっちゃうぜ………霊夢?」

 

 魔理沙が後ろを振り向いた時には、霊夢は彼女の説教なんか耳にも届かないような場所で、いつもの暖かいお茶を飲んでいた。その後ろに佇むのは、魔理沙が博麗神社でよく寝泊まりするようになってからは同居人のような感覚で迎えていた八雲紫だった。

 

「紫、霊夢のやつにガツンと一言、言ってくれよ。下手したら霊夢がオンボロメカに乗ってそのままドカンなんだぜ?頼むから整備に興味を持つように説得してくれよ」

 

「だって、霊夢?」

 

 紫がニヤニヤ笑いながら霊夢に振り向くが、当の霊夢本人は全く興味を持とうとはしていなかった。煎餅を頬張るその姿に魔理沙が呆れていると、追い打ちをかけるように霊夢が続けた。

 

「そこまで言うなら魔理沙がやってよ。私は面倒だからここでお昼寝でもしてるわ。じゃ、後はよろしく」

 

「まったく……仕方の無いヤツ」

 

「またまたそんな事言って、自分を打ち負かしたハーモナイザーを、自分の手で点検できるのが嬉しい癖に、素直じゃないんだから」

 

 そう言って紫はスキマを使って魔理沙の後ろに回り込み、肩を軽く叩きながら彼女を揶揄った。

 

「ばか、そんなんじゃないぜ。私は純粋に、あいつの身を案じているだけ。だって私はあいつの技に救われたんだし。だったら河童のところの不完全なガレージ施設よりも、ここ幻想郷で、一番ACに詳しいこの魔理沙が見てやるってのが筋ってものじゃあないか」

 

「本当に、素直じゃないのね?」

 

「フン、なんとでも言うがいいさ。私は借りを貸しにして返すだけだし、私の損得で物事を考えてるだけだぜ」

 

 そう言って紫は扇子を広げて笑う。

 

「ふふふ、それなら今魔理沙がやってる事は無駄ね?」

 

 パタパタと風を仰ぎながら魔理沙を揶揄うように話す。魔理沙はレンチを回して腕部のジョイントを繋ぐ、緩んでいたボルトを締めながら言い返す。

 

「霊夢は借りたものは借りっぱなしだしな」

「いつかの貴女みたいにね」

「はっ、その話は勘弁してくれ......」

 

 そう言った直後に、博麗神社を笑いが包んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は変わって深夜。あと数十分で夜も明けるという時に、何やら表がうるさかったので、目を覚ました霊夢が見に行くと、魔理沙が高機動型ACを起動させようとしていた。

 

 

 

「...........ちょっと、魔理沙?あなたなんでこんな夜更けに外に出てるのよ。帰るの?」

 

「......?あ、ああ、霊夢か。いやな、ギムレットは壊れちゃっただろ?だから新しいパーツを探しに行こうと思ってさ。作業用のレッカーとかはあるから、これでサルベージでもしようと思って」

 

 そう言って魔理沙は高機動型に乗り込んだ。メインセンサーが赤く光り、それと一緒に魔理沙の声が聞こえてきた。

 

『それじゃ、幽香の所に行ってくるぜ』

 

「ちょっと、幽香のとこの畑はこの前襲われてたばかりでしょ?機嫌を損ねたら殺されるわよ?」

 

『まあまあ、私にも考えはあるんだ。ひと月もすれば『二代目ギムレット』が完成するんだぜ、軽い軽い』

 

「さっきから何の話を……まあいいわ。行くなら気を付けてね。最近機嫌悪そうにしてたし」

 

『おー、十二分に気を付けるぜ』

 

 そう言うのと同時に魔理沙の登場する高機動型のブースターが作動し、不安定な山道を下っていった。その様子を遠巻きに眺めていたが、そのまま興味も失せたのか、冬場には特に暖かい毛布にくるまりに戻っていった。

 

 

 

 

 明朝の事だった。足元にスナイパーキャノンの大口径弾による大穴が開いたのは。魔理沙が太陽の畑の敷地内に入り込んですぐだ。撃たれてすぐ広域無線によって相手の通信機からの声が聞こえてきた。

 

『誰だか知らないけれど、ここが私の住む場所だと知らなかったのかしら?とっとと立ち去りなさい』

 

「ゆ、幽香!ちょっと待てって。話をしに来たんだよ!」

 

『...........魔理沙?どうして高機動型なんかに乗っているの?ギムレットは一体どうしたのかしら?』

 

 太陽の畑の奥地、もはや数少ない向日葵を守るようにフェンスや鋼鉄の防壁があり、その前にどっしりと構えるタンクAC、そのパイロットである風見幽香が、魔理沙の声を聞いて警戒を緩めず質問する

 

「実は霊夢と最後に戦った時に潰されてさ。話っていうのは、ここでACのパーツを集めさせてもらえれば私も無償で、しばらく畑を守る手伝いをするって事を言いたかったんだよ。人手が増えれば単純に助かるだろ?」

 

『………本当にパーツを渡すだけで良いの? 確かに人手があれば助かるけど』

 

「もちろん!私は『貸しはきっちり返す』女だぜ?」

 

『…わかったわ。メディスン、もう良いわよ』

 

 そう声がしたかと思うと、巨大な向日葵畑の陰から二機のACが姿を現した。一機でも勝てるかわからない相手だ、このコンビを相手に回した妖怪の山のMT部隊は憐れの一言に尽きる。

 

「ご理解どうも。そしたら早速サルベージに取り掛からせて貰うかな。幽香、手伝ってくれ」

 

『はいはい......』

 

 ブーストを使って気持ち早めに移動する。幽香について行った先には大きな穴が空いており、そこから覗く大量のパーツが魔理沙を歓迎していたのだった。

 

 




『太陽の畑』

 風見幽香とメディスン・メランコリーが守る土地。

 幻想郷有数のパーツ埋没地として名高く、太陽の畑の支配を目論んで度々他の組織や徒党を組んだ傭兵崩れが襲撃してくる。しかし彼女らの防衛術は徹底されており、7年間もの間、無敗を誇る。
 パーツだけでなく、弾薬のような戦闘には欠かせないような軍需品も大量に存在しているとされる。

 近年、攻撃が激しくなってきている事もあり、時折傭兵を雇う事もあるものの、風見幽香が彼らを信用することはない。
 それが叶うのは大抵、霊夢や魔理沙の様な実績を持ち且つ古くより親交のある雇われか、命蓮寺の様な中立を貫く組織ぐらいなのである。


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剣士


 妖夢ちゃんがACでも剣士を目指すようです。



 あるところに、西行寺幽々子と呼ばれる冥界の住人がおりました。彼女の隣には、幽々子に忠を誓った剣士であり、また幽々子の従者でもある半人半霊の少女が、日夜修行を続けていました。

 

 そして7年前のちょうど今日、巨大な人型機械が幻想郷にやって来ました。それらは、数多の人たちを傷付け、殺し、滅ぼしてきた、人類の作った中で最も最悪の兵器でした。

 それらが主に牙を剥くと考えた少女は、今までの修行全てを無に帰して同じAC乗りになる道を選び、そして『冥界の剣士』と呼ばれるようになったのです。ですが、それは今ではありません。もう少し後のお話です。

 

 

 

 

 

 

 

『幽々子様………御屋敷には、誰も、近付けさせはしません……』

 

 誰かに向けた、少女の声がこだましている。多数のACや防御用AC、高機動型ACの残骸が散らばる無縁墓地の中央で、一人立つAC『ソウルストレングス』を駆る西行寺の庭師、魂魄妖夢はただただ敵が来ないように見張り続けているだけだった。

 

 周囲を森に囲まれた無縁墓地は、防衛するには守り辛く、攻めるには手軽すぎた。それでも妖夢がここを、そして冥界への入口を守り続けていられるのは、彼女の鋭い勘と、彼女自身の天性のACパイロットとしての才能が開花したからこそのものだった。

 

 武装は左右の腕にライフル(AM/RFB-219)を二門、両ハンガーには見慣れない形の、月の様な形にも見える何かを装備している。見たところは何かの発生装置にも見えるが、その二つがどんなものかはわかっていない。彼女は今までその二つのハンガーユニットを抜いていない為だ。

 

 ふと、メインカメラに白い何かが付着するのが見えた。それは機体の熱に溶かされ、瞬時に水と化す。その一連の様子を眺めていて、ようやく雪が降っているのだと理解した。

 

『雪……? もう、冬ですか』

 

 妖夢が冥界に戻らなくなって久しい。それは彼女の主を守るために他ならない。彼女の主は、かつて大食らいで知られていたが、妖夢が食事を作られなくなってからは少食となってしまっている。

 

 それに妖夢は心を痛めない訳は無いのだが、主を、そして冥界を守らなければならないが為に、仕方なく冥界の入り口から中に入ろうとしないのだ。それに、理由はもう一つある。何故ここまでして守ろうとするのか。もちろん、算段がない訳じゃない。幽々子が冥界の入り口を()()()為の準備期間中、妖夢がここを守り抜かなければならないのだ。

 閉じさえすれば、幽々子にはもう危険はない。だからこそ、主の為にここに立っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 妖夢が監視を始めるようになってから既に4年。襲撃者ばかりだったこの無縁墓地に、一人の男が近付いてきていた。その男は、妖夢とどこか似たような半人半妖の男だった。

 

 集音マイクが足音を捉える。きっと生身の足音なのだろうが、そんな小さな音は久しぶりに聞いた。なぜなら無縁墓地は彼岸花に囲まれ、魔力の澱んだこの魔法の森の東部に位置する特異な場所。冥界という領土を目当てに足を踏み入れる愚か者達の動かすアーマードコアの重厚な駆動音や銃声しか、その耳には届いていなかったのだから。

 

 だが、今はどうだろう?

 

 襲撃者も無く、ここ最近はやってくる敵の数も落ち着きを見せているように思える。この足音が、不思議とあらゆる悪意を持ったもの達の足音の様には到底思えなかった。緩やかで、しかし確固たる目的を持って、無縁墓地の土を踏んでいた。妖夢にはそう思えたのだ。

 

「そこに誰かいるのか?」

 

 マイクが男性の声を拾った。奴らの汚らしい罵声や叫び声なんかじゃあない。この世界がこうなる前に、色々な表の道具を購入させて貰っていた、あの道具屋の店主の声だった。その言葉に、もはや聞き間違いはありえなかった。

 

『霖之助さん……ですか?』

「そう、森近霖之助だ。その声はもしかして妖夢か?」

 

 やはりそうだ、と胸が高鳴る思いを秘めつつも、恐る恐る肯定する。『自分は魂魄妖夢本人である』と。それを聞いて警戒心を解いたのだろう、木々の間から霖之助がその姿を見せた。

 本人で間違いなかった。得意先であり、同時に旧友でもあった彼の姿を見て、思わず両手を握って握手したくなった。だが、ここがいつ襲われるかはわからない。だからこそ、旧友との再会とはいえACを降りる訳にはいかなかった。隙を突いてパイロットが殺されれば、冥界を守る唯一のACは破壊されたも同然になってしまうのだから。

 

『なぜ、ここにいるんですか』

「それは僕の台詞だと思うよ。ここは無縁墓地だ。少なくとも妖夢、君には()がない場所じゃないのかな?」

 

『ここは冥界の入り口と直接繋がっています。幽々子様がここを塞いでくださるまで、私はここを守り通さなければなりませんから。ですから私はここから動けません。いつ来るかわかりませんが、どこかからか嗅ぎつけた汚物共が、この辺りを彷徨くので、霖之助さんもきっと危険ですよ』

 

 そういうと、霖之助は眉を顰めた。なにか考え事をしている様子だ。ううん、と唸っていたが、何かしら名案が浮かんだのだろうか、顔を上げ、妖夢に話しはじめた。

 

「なあ、もし良ければ、僕も君に協力したいんだ。もちろんタダじゃない、君にも手伝ってもらう事はあるんだけどね。どうだい、悪い条件じゃないだろう?」

 

 霖之助のその発言に妖夢は少し考えた。こちらの手伝いとは?彼の言う手伝ってもらいたい事とは一体なんなのだろうか?その疑問は本人に聞くべきだと、ACの装甲越しに会話を続ける。

 

『メリットとデメリットを教えて頂けますか?』

 

「ふむ、まずデメリットだ。僕の手伝い......といっても、君ならきっと簡単な仕事だろう。僕の店に来る野蛮な輩を追い払って欲しいと思ってね。次にメリット。君の代わりに冥界の扉を守る番人を設置する」

 

『番人?』

 

「その様子だと『UNAC』の存在を知らないのか。君の戦闘技術や、それを元にした行動チップを入力したコンピュータ、いわば式神にACを使役させるような物だね。彼らと、それと自動攻撃銃を設置しよう。パルスガンなら弾薬を用いないから点検するのは少なくても良いし、何より()()のコピーUNAC二機の守りを突破できるAC乗りは少ない」

 

 そこまで言うと、霖之助はニヤッと笑う。不敵の笑みを浮かべて妖夢に歩み寄る。

 

「いやあ、我ながら久しぶりに商いができて嬉しくなってしまう。さあ妖夢、君はどうするんだい?」

『………わかりました。でも先にここを守らせて欲しいです。留守中に幽々子様に危険が迫ったら、お爺様に顔向けできませんから』

「交渉成立だね、今ACとセントリーガンを運んでくるよ」

 

 そう言って彼は姿を消す。久しぶりに、まともな人間と話した気さえした。いや、実際その通りだったのだろう。彼と話すまでは、喉は嗄れ、掠れた声しか出なくなってしまっていた。気合いを発する為に雄叫びを上げたり、ため息をついたり舌打ちをしたりと、そういう意味では幾らか話したりする事はあったのだろうか。

 

 しばらく待っても、霖之助は帰って来なかった。不穏な空気を携えて、コクピットのクーラーが外の空気を運んでくる。なぜか分からないが冷や汗が頬を伝った。もう既に二時間は経っている。無縁墓地から魔法の森を抜けて香霖堂を訪ねるのに、30分も掛からない事を考えると、一つの考えが脳裏をよぎった。

 

『(まさか、霖之助さんは誰かに攻撃されて......?)』

 

 少しの間守りが疎かになってしまう事を心の中で主に謝罪しながらも、空間の裂け目に背を向けて香霖堂へ急いだ。ジェネレーターを最大まで稼働して最高速度を維持したまま低空飛行を続けていれば、きっと数分も掛からないからだ。

 

 

 

 

 

 

 そこに着いた妖夢を迎えたのは、二機のACと、無数の高機動型や防御用がぶつかり合う戦場だった。異常なスピードで平地を駆け回りながらライフルで高機動型機を正確に撃ち抜き、高速で接近しブレードを使って防御用の装甲を切り裂くその姿は、妖夢には未だ至らない境地にある者から少しばかり力を借りた、とでも形容すべきか。

 戦場は、たった二機のUNAC機に完全に撹乱されていた。

 

 圧倒。まさにそんな言葉が似合うその戦場にあって、妖夢は身体の疼きが抑えられなかった。もはや今は剣士でこそ無いにすれ、志しこそ()剣士の妖夢は、小規模ながら濃密な戦いに胸を躍らせた。

 

『今だけ使う!』

 

 妖夢はライフルをパージした。ライフルを捨てた事で空いた手には、ハンガーに吊り下げられた二振りの()が握られる。やがてソウルストレングスの存在に気が付いた六機の防御用ACが妖夢に襲いかかる。その体格を駆使して体当たりを仕掛けるのだ。残る四機は仕留め損なった時の為に機関銃やヒートキャノン、ヒートハウザーを構えているのが見える。

 

『白楼剣、楼観剣!』

 

 今まさに攻撃を受けんとしていた妖夢は、だがニヤリと微笑み、その両手を左右に振り抜く。

 

 瞬間、目の前を埋め尽くす程の巨大な光刃が防御用AC達を覆い尽くした。それは、とても綺麗で美しく、青く光り輝く刃。それに包まれた敵機は全てが溶けたかのような傷跡を残して破壊された。

 その様子を見た四機の防御用ACはソウルストレングスに向かって多量の弾幕をばらまく。が、消えたと錯覚するほどの高速機動で弾幕を避けられ、気が付いた時には既に背後からの熱で全てを察し、死を受け入れた。

 

『なんだあのACは!?アレは人間なのか!?』

 

 敵の一人が叫ぶ。そうリアクションを取っている間にも一人二人と防御用が轟沈していく。

 

『《白楼》と《楼観》によって切り結ばれる太刀筋は、誰にも、何物にも止められない。例え鋼鉄の壁だろうと、例外なく。あなた達は、私には勝てない』

『くっ……面妖な……()()なんてものを振り回して喜ぶか!』

 

『逃げないのなら、すり潰す!』

 

 そうして突進してきたソウルストレングスに対応出来ず、重みとスピードを乗せた蹴りが炸裂して防御用が一機破壊される。その様子を見てUNAC機と戦っていたACがガトリング(AM/GGA-115)バトルライフル(ARAGANE mdl.2)を連射しながら妖夢に突撃する。

 UNACは防御用ACや高機動型ACに任せ、被害の大きいこちら側へ向かう事を優先したらしい。

 

『怪物め、やらせるか!』

 

 そして、対する妖夢はガトリングの弾を一身に受けながらも致命的な貫通力を持つバトルライフルは回避しつつ、敵の接近を待ち続ける。その両手にはしっかりと『白楼』と『楼観』が握られていた。居合切りのような構えを取り、敵ACとの間合いを測る。

 敵ACがバトルライフルをハンガーシフトし、パルスガン(Au-M-R31)の至近距離接射による即撃破を狙おうとする。

 

『死ねぇぇぇッ!』

 

 一閃。

 

 怒声を上げて交差した敵のパルスガンが、ソウルストレングスのコア表面を大きく溶かした。『やった……!』と、撃破報告を行なった。機体が止まろうとした時、そのACからの連絡は途絶した。

 

『………なっ……?』

 

 何が起こっていたかわからなかったろう。奴の腕を切り落として、勝ったのは自分。その筈だった。

 

『ば、馬鹿 な……ありえん………』

 

 機体が完全に止まってから刹那。コクピットに亀裂が入るのを見て、死を自覚する。すぐに機体からは黒煙が吹き出し、機体の反応はレーダーから消えた。パイロットの応答はないが、かろうじて生きてはいるらしかった。

 コアを焼かれながらもなお敵に向かおうとする、その鬼人の如き様相に恐れをなして、敵が逃げていく。

 

『……ひ、ひぃっ……て、撤退!逃げろぉぉッ!』

 

 その叫びを皮切りに、前線にいた兵士が次々と姿を消し、後には死屍累々の鉄だけが残った。

 

 

 

 

「妖夢、助かった。君に助けられるのは二度目かな」

『二度、ですか?』

「今日みたいに雪の降る日だったね。君に雪かきを手伝ってもらっただろう?」

 

 そう言われて、かつての光景を想起する。7年前の雪景色。人魂灯を探して香霖堂に立ち寄った時だったはずだ。それで………そう、そこの店主である霖之助から、雪かきをする事を条件に人魂灯を返してもらうと契約したのだった。

 

『………ああ、あれ。あれのせいで冷たい思いしたんですよ、まったく。風邪は引きませんけどね』

「ははは、あの時は悪かったね…………とにかく、君も見たかい?これがUNAC機。パイロットが乗っていないんだ」

 

 そう言って霖之助はコクピットを開く。そこにはパイロットが搭乗しておらず、代わりにモニターに繋げられた、いくつかのチップが挿入されたコンピュータが接続されている。恐らくそれが、『UNAC』なのだろう。

 

『………本当ですね。誰のデータを使っているんですか?』

 

「霊夢さ」

 

『……!霊夢さん、無事だったんですね』

「ああ、元気にやってるよ」

 

 そう言いながら、UNACデータを弄る霖之助。それを妖夢の乗っていたソウルストレングスのシステムにリンクする。そうすると、UNACデータがシステムデータから妖夢の戦闘経験を情報として処理し、自身のデータに結合させた。

 

「よし、これでいい。これでこのUNACは妖夢、君の代わりに守ってくれるようになるよ」

 

 そして、そのデータが挿入されたUNAC機は、ブーストを強く吹かして無縁墓地の方向へ飛び去っていく。その様子を見て、ようやく妖夢もコクピットから降りた。

 

「恩に着ます、霖之助さん。お陰で少しばかり楽になれそうです。では、約束通り無縁墓地の守りを頼みます」

「ああ。任せておいてくれ。妖夢と霊夢のタッグを突破できる敵はそう居ないだろうね」

 

 狙撃から牽制、隙があればブレード攻撃を狙うオールマイティな霊夢のUNACと、ライフルで牽制しつつ二振りのレーザーブレードで高火力な近接戦闘を務める妖夢のUNAC。

 確かに、この二人の守りを崩せる相手は居ないかもしれない。そう考えると、今回の霖之助からの依頼はあながち悪いものではなかったのだろうか。妖夢は人知れずクスッと微笑んだ。それは、きっと彼女にとって久しぶりの笑顔だった。なにせ、この4年間妖夢が笑った事はなかったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 そして三年が経ち、冥界へ繋がる時空の裂け目が縫われた事によって、誰も冥界へ行くことは出来なくなった。ただ一人、魂魄妖夢を除いては。

 妖夢は冥界へ帰り、しかしACに乗って時折幻想郷へ戻って来ていた。

 

 その後妖夢はパイロットとして、雇われとして傭兵稼業を始めたのだという。彼女の隣には、常に二振りのムーンライトがあったそうだ。それぞれ妖夢の愛刀『白楼剣』『楼観剣』を意識された『白楼』『楼観』の月光二刀は、立ち塞がるもの全てを切り捨てた。

 

 鬼神の如き彼女を、人は『冥界の剣士』と呼び畏れた。

 

 






 AC、ソウルストレングス
 パイロット、魂魄妖夢

 射撃戦に対応できるよう、両腕にライフル《AM/RFB-219》を装備し、ロック速度の高さと機体速度の高さを活かした撹乱戦闘を得意とする。

 CE耐性の高い軽量型コア《CC-121》を中心に、カメラ性能などを捨て装甲に特化させた低燃費の重装甲型TE頭部《Hd-H-E34》、ある程度の射撃安定性を持ちながら装甲面にも優れるTE型腕部《AGEMAKI mdl.1》をチョイス。
 脚部は旋回性能の高い中量二脚《Le2M-D-F24》を採用し、速度と旋回能力を活用した近距離での射撃戦に対応している。

 スピードを確保する為、EN回復率は低いが容量に優れるジェネレーター《MAKIBASHIRA mdl.1》と、ハイブースト時の燃費や速度性能に特化しているブースター《BA-309》を装備。威力の低い射撃兵器を弾く防御性、そして機動力によって高い生存率を実現させた。

 ハンガーユニットには同じ型のレーザーブレード《X100 MOONLIGHT》が搭載されており、右ハンガーには白楼剣を意識した白と緑のカラーリングの『白楼』、左ハンガーには『白楼』と正反対のカラーリングの『楼観』を装備している。肩部にはTE属性武器の威力を上げるエネルギーアンプリファイア《YAMASUGE mdl.2》が装備されており、威力の増大を助けている。





 AC、グライドブライヴ
 パイロット、VERTEX

 右腕部ガトリング《AM/GGA-115》、左腕部バトルライフル《ARAGANE mdl.2》を装備し、左ハンガーにパルスガン《Au-M-R31》を搭載。ショルダーユニットにサブコンピュータ《MONONOFU mdl.2》を接続する事で、射撃戦において優位を確保した、軽量二脚型AC。

 ガトリングによって敵の装甲を削りながら、バトルライフルによる中距離射撃戦でのダメージレース、パルスガンによる近距離戦闘での優位性を確保する、近、中距離射撃型。

 速度と装甲が両立している軽量二脚《L2LA-142》を中心に、装甲を極限まで削いだKEコア《CB-402》、射撃安定性が非常に高いCE腕部《AC-202L》、カメラ性能と装甲のバランスに優れるCE頭部《Hd-U-C23》によって、スピードの速さを損なうこと無く射撃戦を行えるよう、調整されている。

 しかし、KE、CE装甲は低威力のミサイルを防ぎうるレベルに達してはいるが、TE装甲は最低以下の水準であり、パルスマシンガンを装備したACの相手は非常に不利という弱点を持つ。



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さようなら、商いよ


 英雄は黙して語らず。


 

 

 魔理沙が霊夢に敗れ、博麗神社に住み着く事になってからは、アリスがこの広大な森の主となっていた。

 

 どうにかして 守りを固めないと。

 

 あれこれ思案を巡らせるうちに、一人では手が足りない事に気が付いた。愛すべき上海や蓬莱たちはまだACを操縦出来る程の自律人形として完成していない。それに守るのでは受動的になってしまう。ならどうするべきなのか。

 

 『ユーナック』。そう。確か香霖堂の店主はあの巨大な人形を『UNAC』と呼び、使役していた。ならば、霖之助からUNACの一部を貸し出してもらい、三機ほど守りに当たらせれば良いのだろうか。

 

「……それで行きましょう」

 

 考えは纏まった。ならば、それを実行に移すだけだ。人形たちに家の守りを任せて家を出、空を飛んで香霖堂に向かうと。念の為にどんな取引でも構わないよう、金銭や魔導書のような類は持ち歩くことにしよう。念の為に上海人形だけは連れていく。もっとも、今幻想郷を騒がせているACに襲われてしまったら、ACどころかMTさえ持たないアリスは粉微塵になってしまうのだが、それを考えている暇はない。一刻も早く香霖堂に向かおうと外に出て、飛ぶ。

 

()()()どんな条件になるのかしら」

 

 飛んでいる最中、アリスはその事ばかりを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃ……おや、アリス。珍しいね」

 

 香霖堂に着いたアリスは即座に扉を開ける。そこに座っていた香霖堂の店主、森近霖之助を見据える。

 

「早速だけどお願いがあるの」

「ふむ、訂正しよう、もっと珍しい。んんはは、揶揄うのはやめよう。て、どんな頼み事があってここに来たんだい? ふむ、まぁ。もしかしなくとも………UNACかな?」

 

 店主にピタリと言い当てられた事に驚きを隠せなかった。どうして。そう聞く前に霖之助はアリスに人差し指を指し、そしてその指の先はまっすぐアリスの()()を示している。そして、アリスが後ろに振り向いた先には、純粋で綺麗な緑色の塗装のACが居た。

 

「あれは……あれもUNACなの?」

「妖夢だ。決してUNACでは無い。UNACは向こうだ」

 

 

「妖夢が………? 妖夢もACに乗っているのね。でも妖夢が傭兵だった噂なんて一度も……」

 

 そう考え込もうとしたアリスの思考を遮るように、霖之助が答えを教えた。

 

「冥界の剣士。 そんな感じの、仰々しい通り名が妖夢のものだよ。中身を知らない人は多いかもしれないけどね」

「妖夢が…?」

 

 コクリ、と頷く霖之助の反応を見て、アリスは驚きを隠せないでいた。旧知の仲とは言え、AC乗りとしての活動を聞かなかった事から、妖夢はACに搭乗しておらず、冥界に彼女の主と共に籠り切っているのではないかとまで考えていた。実際は、無縁墓地でありとあらゆる敵を打ち砕いた、異名を持つ正体不明のAC乗りこそが妖夢だったらしい。

 

 そんな驚くアリスを後目に霖之助はコンピュータを二機、机の上にだす。そのまま言葉を続けた。

 

「UNAC、特別にタダであげよう」

「......ええ、そうね。とりあえずお金や本を...........え?」

 

 予想外の答えを受けたアリスは二度驚いた。蒐集癖を持って、商いが好きで、商品の扱いにはがめつい彼が、タダで受け渡してくれる、なんて思ってもいなかったのだから、当然の反応である。

 

「……なんだい、その目は。僕が無償で何かをするという事がとても珍しい、とでも言いたげだね」

「………あ、ううん。ごめんなさい、てっきり何かしらの対価を要求してくるものかと思ってしまったから」

 

 そうアリスが答えると、霖之助は肩を竦めてため息を着く。

 

「まあ、今までの僕のイメージとしてはそうかもしれないね。でも僕は、ACに関するものを扱った店を畳もうかと思っているんだ」

「貴方が店を?」

「んんんまあ、僕だって死にたい訳では無いからね」

 

 その言い方は、まるで仕方なく引き払おうとしているように聞こえる。やはりパーツなどの売買は儲かるのだろう。

 しかし、霖之助の考えもわからないではない。幾ら私達が妖怪や魔女であるとはいえ、やはり生身は生身。機関砲で撃たれればミンチにもなるし、パルスガンでも受ければ黒焦げを通り越して蒸発するというものだ。

 そんな世界で生きていくには、UNAC二機しか防衛戦力を持たない香霖堂は、やはりと言うべきか少し苦しすぎるのだろう。

 

「………なら貰って行くわね。本当にいいの?」

「何度も確認を取らないでくれ。僕はいいと言ったらいいんだ。気が変わらない内に持って行くといい」

 

 そう言うと霖之助は店の奥に入っていく。

 

「ありがとう、それじゃあ元気でね」

 

 彼にそう言い残して、アリスは店を後にする。彼女の上海人形がコクリとお辞儀をしてから店の外に出ていく。外でUNAC機が二機、飛んでいく音が聞こえた。これで中に残されたのは霖之助だけになった。そこに、緑色のACソウルストレングスに搭乗するパイロット、魂魄妖夢が店の中に入ってくる。

 

「霖之助さん。お店、畳むんですか?」

「まあ、そういう事だよ。これで君も、晴れて自由の身という訳だ。君のご主人の元に帰るもよし、残って傭兵に身をやつすのもまた一興。どの選択をしようと妖夢、君の自由だ」

 

 彼が店を畳むことで、妖夢がここにいる意味は無くなった。だから、妖夢はどこに行こうと彼女自身の自由である。自由であるはずなのだが。

 

「では、私は帰ります。また来ます」

 

 いつもハキハキと話す妖夢にしては珍しく歯切れの悪い物言いに、察することが出来ず霖之助は首を傾げた。

 この三年間、彼女が戦士としての生活が板に付いてきていたとは夢にも思わなかったのだから、それも仕方ないと言える。細かい考え事を吐き捨てて、片付けを始めた。

 

 

 

 

 

 

 妖夢もアリスも姿を消したこの香霖堂に、一人の男がやってきた。

 

「いらっしゃい。残念だけど、香霖堂は今日をもって店仕舞いだよ。もうここじゃあパーツは買えない」

「わかっている。だが、そのパーツはどうする?持っていても、きっとそれらを狙う者に襲われるぞ」

「ふむ、今それを考えていたところだよ」

 

 目の前の黒い男に警戒心を向ける。彼は武器を持っているようには見えないが、警戒はする。

 

「良ければ、欲しいものを渡す。その代わりに余剰パーツを全ていただきたい。よろしいか?」

「................わかった。なら、君の好きな本を一冊、僕にくれないか。それで手打ちとしよう」

「フ、奇特な奴だ。分かった、私のいつも読む作品だ」

 

 そう言って黒い男は懐から一冊の本を取り出す。『そして誰もいなくなった』と銘打たれたその本は、自分にも読めるように日本語を介していた。

 

「これは......珍しいものだね」

「アガサ・クリスティだよ。読んだことはあるか?ミステリアスな物語さ」

 

「ふうむ、面白そうだ。わかった、これでパーツは全て君のものだ。()()()()香霖堂もどうぞご贔屓に」

「では、いただいていくぞ」

「ああ、そうだ」

 

 帰ろうとする男を少しの間引き止める。

 

「君の名前を教えて貰ってもいいかな?」

「私は...........私を言い伝える者は私を『黒い鳥』と呼んでいた。名前は覚えていない」

「...........わかった。またいつか、縁があれば会おう」

 

 そう言って、黒鴉は出ていった。色々(と言ってもパーツだろう)なものを積み込んでいる音がまだ聞こえていたが、やがて静かになる。トラックを走らせる音が何回も続いていたが、その内に何も聞こえなくなった。

 

 

 その日、香霖堂はその看板を下ろし、新たに『新・香霖堂』と名を改め、新たに日常品の販売店を始めた。

 

 





 AC、----
 パイロット、----

 詳細不明。
 本人曰く黒い鳥と呼ばれていたらしい。



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古い鴉

 時間的には魔理沙が太陽の畑にサルベージしに行って、無事新たなACを組み立てられた後のお話です。
 主人公はACVシリーズのプレイヤーです。


 

 強い風が吹き、砂塵の舞う荒野に2機のACが鎮座していた。一人は歴戦の傭兵、もう一人はそれに匹敵する実力を持つ傭兵。霊夢、そして魔理沙の二人だった。

 

「ようやく戻ってこれたか…。 この戦場に」

「随分と遅かったじゃないの」

「悪い悪い。幽香との約束が思ったよりも長引いてな」

「あら、そう」

 

 魔理沙の話を適当にあしらう霊夢。よりにもよってここは戦場だ。一瞬の油断が命取りになりかねないこの場所で言い訳をする器量のある魔理沙に、霊夢は呆れていた。

 

「ほら、3時方向から敵よ」

 

 霊夢が魔理沙に敵の存在を教えるが、そんな事はとっくのとうに知っていると言わんばかりにガトリングを向け、一斉射する。

 

「わかってるって、ほらな?」

 

 適当な話を続けながらも敵を認識し撃破する魔理沙。戦車の燃料タンクに弾丸が食い込みでもしたか、大きな爆煙を上げて戦車が二両、火炎に包まれる。その方向を見ながらゆっくりと銃を構える霊夢のACには、銃弾や小型ミサイルによっていくらかの損傷は見られる。

 だが、そのどれも致命的な一撃には至っていない。並み居るACや機動兵器部隊も、彼女達のタッグのどちらか一方にも致命傷を与える事が出来ずにいた。

 

「ほい、一丁上がりだぜ。これで二部隊落とした」

 

 振り向きざまの射撃で、遮蔽物から身を出した戦車に弾丸が直撃する。魔理沙の放ったガトリングの弾丸によって戦車が三両、一瞬で破壊され、続けて接近してきていた防御用ACに対して、ブーストチャージによって突撃隊する。

 重量のあるブーストチャージは、とてつもないパワーを持って防御用を破壊する。また一つ、墓標が出来上がった。

 

「霊夢、後ろ」

「言われなくとも」

 

 後ろから砲を撃ち込もうとした高機動型の視界から、霊夢の『ハーモナイザー』が姿を消す。それは逆関節機体である特性を活かして高く跳躍し、瞬時に背後に回るというものだった。それに高機動型が気付く事はなく、ハンガーユニットに搭載されていたショットガンによって、機体中に穴を開けられて墜落した。

 

「ね、言ったでしょ?」

「相変わらず頭のおかしい戦法だぜ」

「そう?魔理沙も大概よ」

 

 霊夢を頭のおかしいと形容した魔理沙の付近にもまた、幾つかの機動兵器を破壊した残骸が転がっている。霊夢と魔理沙は、互いに拮抗した戦闘能力を持っている、敵である所属不明部隊の隊員が見ても、それは明らかだった。

 

『くそっ、敵は強すぎる!』

『撤退しましょう!これ以上の損害を認める訳には!』

 

 ACのうち一機が後方を飛ぶ重装甲ヘリに向き直り、撤退を求める。しばらく応答がなかったが、苦渋の決断の末、指揮官だろう男が部下や他の部隊へ通達する。

 

『…………わかった、撤退だ!だが、これで勝った気でいるなよ、博麗霊夢、霧雨魔理沙!必ずお前達を打ち倒し、我らの名を轟かせてやる!』

 

 そう吐き捨てると射程圏外にいたMTやACは全員が退却していく。砂埃の先に皆消えていき、広大な戦場に残されたのは数多の屍と、それを築きあげた二人の傭兵、そして二機のACだけとなった。白黒の機体と紅白の機体のコンビは今のところ、幻想郷最強のタッグとまことしやかに囁かれていた。

 

「フン、あれじゃあ私達を倒せないな」

「……まあ、そうね。私達を下したいならそれこそ文字通り要塞一個丸でも々ぶつけなきゃ、お話にもならないわね」

 

 そう言って霊夢が戦場に踵を返して去っていく。魔理沙もその先を歩いて去っていった。荒野ばかりが広がる戦場にACの駆動音が響いていたが、やがて何も聞こえなくなり、そして誰もいなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『クソ、あれ程の戦力をぶつけても博麗と霧雨の二人組には勝てんか!せめて腕の一本でも持って行ければ良かったのだが、バケモノめ…』

『隊長、前方にACの反応が。一機だけのようですが』

『構わん、進め。邪魔をするようなら踏み潰せ』

『はっ!』

 

 レーダーによる所だと、もうそろそろ斥候部隊が例の反応に接触する頃だ。生きている者でなおかつ敵対心を持つものなら、大軍を持って潰す。協力心があるのなら引き入れる。死んでいて、機体だけが生きているのなら回収し再利用。こうして彼らの傭兵組織『バロン』は数多の傭兵を潰し、戦力を拡大してきたのだ。

 

 だが。

 

『……?な、なんだ………?』

 

 不意に嫌な予感がして、総指揮官は身を震わせる。

 

『報告!斥候部隊から救援要請! ……黒い鳥? 1番機、何のことだ? ………おい、どうした!?……馬鹿な…………救援要請からたった10分しか経ってないんだぞ!? ………た、隊長!斥候部隊が殲滅させられました!敵勢力は………恐らくA()C()()()です!!』

『なんだと!?』

 

 突如上がった斥候兵全滅の報せに、中央の部隊を率いるパイロット達は困惑せざるを得なかった─────

 

 

 

 

 

「これも、違うな……腕、左腕を………」

 

 その黒いACは、しきりに何かを探している。呟いている言葉の通りならば左腕を探しているようで、ACの左腕を見てみると確かに肩部から先が無くなっている。

 

 しかし、それ以上に異常な物が背中に背負われている。数多のパーツが幾らも組み込まれ、その様相はあまりにも凄まじい。刃のような物が見えるが、それは3×2の、合計六本搭載されており、二列に畳まれている。

 

『発見した。レーダーに映ったACだと思われる』

『ありゃ、もうゴミだな。潰しちまうか』

 

 突如として声が響き、濃い砂塵の中に影が見える。この砂塵のせいでレーダーは上手く機能しないが、この反応を信じるならば、数は17機。その全てがACだった。

 

「……また雑兵か。数は8」

 

『ふん、この数を相手に何分持つかな!?』

 

 そう目の前のACが嘯くと、その黒いACに襲いかかる。それはまだ一機だけだが、周囲には数機のACが様子を伺っており、更に遠方から何機もの反応が迫ってきている。その数、ACが合計11機。勝ち目などない、その筈なのに。

 

「その言葉、返そう...........何()持つか、見物だな」

『ッ!?......ほざけッ!』

 

 挑発が効いたのか、目の前のACがガトリングとバトルライフルを乱射しながら近付いてくる。ロックオンされ、移動先に的確に打ち込んでくるが、遅い弾速という事もあってかそれを全て予測するかのように細かく左右移動を繰り返し、弾丸を避ける。さすがにガトリングは避けられずに何発か掠めるが、全て跳弾しており、今ひとつ決定打に欠けるようだった。

 

『くそ、ちょこまかと!』

 

 焦って接近した所に、味方機が叫んだ。

 

『バカ、罠だ!深追いするな!』

『────な』

 

 そのACが最後に見た光景は右手をこちらに突き出す、黒いAC。そして、その手に握られたヒートパイルだった。

 

『くそっ、2番機撃沈!』

『こちらB分隊、到着した!』

『3、4、6、番機!敵を沈黙させろ!』

『了解!』

 

 四機のACが砂煙の中から各々の得物を黒いACに向ける。四方から発砲されては、如何に強敵とて無傷ではいられない。そう思っての挟撃だった。だが、その数的優位を一瞬で覆される出来事が起きた。

 

『なにっ!? ……ぐあああああッ!!!』

 

 残された最後の一発をより有効にぶつけるべく、CE耐性に優れないだろう機体を一瞬で見分け、それに突撃。パイルを直撃させたのだ。右腕を敵ACのコアから引き抜くと、パイルバンカーに装填されていたCE弾の薬莢が排出され、銃身が煙を吹き始めた。

 

『《パージします》』

 

 右腕のパイルを捨てると、目をつけていた敵ACの武器を手に取る。奪ったのである。

 

『4番機沈黙!』

「そうだ、もっと来い」

『っ、くっ……!舐めやがってぇぇぇ!!!』

 

 4機目沈黙の報告と共に黒いACが発した挑発に乗って、3番機が突撃する。だが、それすらも彼は手札のひとつに変えていた。武器を奪った4番機をそのまま盾にして突進する。味方を撃つことも厭わない3番機の銃弾は尽く4番機に命中し、全くもって黒いACには損害を与えられなかった。それどころか、4番機を使った物理的な攻撃によって、3番機は衝撃を受けて吹き飛ばされる。直ぐに起き上がって体勢を立て直そうと、ブースターを吹かして上体を起こした───

 

───ところに黒いACの足が激突する。コクピットを直接潰された事で、3番機も起き上がる事はなかった。

 

『そ、そんな......たった20秒で3機を……化け物だ………』

『……〜〜〜ッ!怯むな!数で押し潰せェッ!!』

 

 1番機。つまり、この隊の指揮官が突撃命令を降す。それによって現地にいる4機が彼に襲いかかった。ブレードを持つ者が斬りかかり、それを避けた所をスナイパーキャノンが撃ち抜こうとする。それを避けた黒いACを蜂の巣にすべく、2機が追撃とばかりにパルスマシンガンやライフルを撃ち続ける。砂塵に姿を眩ませることで被弾を5、6発程度に抑えたその黒いACは、その背中に無理矢理取り付けられた武器を右手に取る。

 コクピットの映像は大きく乱れ、しきりに警告が耳を劈くようなノイズと共に発せられている。

 

『警告。不明なユニットが接続されました。システムに深刻な障害が発生しています。直ちに使用を停止してください。警告。不明なユニットが───』

 

「さて………これで終わらせよう」

 

 砂塵の中で、赤い光が一際大きく煌めいた。

 

 

 

 瞬間、何かが目の前を素通りする。散開する間もなく、何かの爆発音、そして一瞬遅れて甲高くおぞましい音が辺り一体を支配する。その後、静寂が辺りを包んだが、()()()()()11番機が辺りを見渡すと、直線上に並ぶように4機が破壊されている。それは、左に逸れている者は右半分がごっそり消え去っており、右に逸れている者は左半分がごっそり消滅し、その中央にいた者達は、上半身が全くそのまま消えている。

 

 隊列から偶然逸れていた11番機だけは、どうにか無事で済んだようだった。だが、一瞬で斥候部隊主力が全滅したその状況を見て、何も行動できなかった。恐怖で動けなかったのだ。周囲の呼び掛けも聞こえないほどに。

 

『おい、イレブン!レーダーを見ろ!また来るぞ!』

『……駄目だ………みんなやられる……死ぬんだぁ……』

『応答しろ11番機!しっかりしろ死ぬぞ!』

 

 周辺から続々と到着した最後のAC部隊が到着し、11番機を援護する為に残り3機のACが合流する。

 

『13、無事か!?』

『来るぞ、回避行動を取れ!』

『なんだと!?早……!!』

 

 3機のうち2機が回避するが、11番機を助け起こそうとしていた9番機と11番機はその恐ろしい程の力を持った6本のチェーンソーを携えた『オーバードウェポン(グラインドブレード)』によって粉々に砕かれる。

 

『ジェフ!アロー!!………くそっ!仇を取れ!殺すんだ!』

 

 残る1番機が5、8、10、11番機に命令を出し、徹底抗戦を続ける。残った5機の連携は密に取り合っているようで、さしもの黒いACも中々に近付けなかった。だが、先程奪われたライフルによる射撃で少しずつ装甲を削られていっていた。

 

『くそっ、駄目だ!ジリ貧だぞ!』

『応援は呼んである!耐えろ!』

『…っ!?隊長危な───』

 

『──────え?』

 

 その一瞬で、まるで時が止まったかのように錯覚する程の時間が経過したように思えた。一瞬の隙を突いて、残骸からレーザーブレードを抜き取り、持ち替えたそのACが、レーザーブレードをまるでギロチンの様に振るい、隊長である1番機を庇った2機が一瞬にして破壊された。1番機もコア後部のジェネレータが破壊され、機体が思うように動かせなくなっていた。

 

『……馬鹿な!馬鹿な、馬鹿な!馬鹿な馬鹿な馬鹿な!!! 有り得ん!たった1機のACが、戦況を覆すなんて!!!そんな事、あって良い訳がない!有り得ない!………ひっ!』

 

「…………」

 

 銃を向けて抵抗しようとするその姿はまるで来るなと言っているようで、しかし拒否するとばかりに近付き、殺意の強さをその行動で示す。

 

『来るな!来るな!来るんじゃない!下がれ!』

 

「………」

 

 聞く耳を持たない。

 

『来るな…………貴様は……! っ…そうか、お前がっ……黒い鳥……!!』

 

 黒いACをレイヴンと呼ぶ男が乗る一番機の、その右手に着目する。それはコストパフォーマンスが著しく低いが、絶大な威力を誇るレーザーライフルだ。

 

「………X000 KARASAWAか。弾切れしているようだが、まだ使える。...........貰うぞ」

 

 レーザーブレードをコクピットのある位置に突き立て、刺し、引き抜く。躊躇いの無い一撃で、1番機は完全に沈黙した。レーザーブレードを捨てKARASAWAを手に取る。

 

「......良い、頂いていこう」

 

 そう言い残して、レイヴンは砂塵の中に消えた。

 

 

 

 

 

 彼らはすっかり失念していたのだ。いや、信じてなかったと言ってもいい。一軍団を壊滅させる程の力を持ったACの存在を。いるわけが無い。いたとして、この大軍に勝てるものかと。

 しかし、実情は残酷である。11機、すなわち三個小隊ものAC部隊が10分も持たずに灰と化した事は事実。彼らはそのACの存在、黒い鳥を信じざるを得なかった。そして、噂は瞬く間に広がる事になる。スカヴェンジャー(墓荒らし)の存在を。黒い鳥と呼ばれる、人々の意識の根底に恐怖という傷を付ける程の恐ろしき存在を。

 

『全てを焼き尽くす、死を告げる黒い鳥』と謳われた存在を。

 

 

 

 







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恐怖を知る男


 天才と呼ばれた男は、例外に敗れ、そして死ぬ。

 そのはずだった。


 今も感じる。

 

 いつからだろうか、オレは恐れを()()()()事が出来た。その力で姐さんと慕う存在も、姐さんが肩入れするレジスタンス組織の仲間達も、色んな人を助けてきた。

 

 でも、あの人だけは違った。

 

 オレが幾度となく警告しても、あの人は全てを跳ね返していく。自分には関係ないんだとばかりに、道を阻む者は全て斬り、突き、撃ち、殺していった。だからこそ、オレはあの人に恐怖した。今までに感じたどんな恐怖よりも、強い恐怖を。同郷の人間には何度も『臆病者』と罵られてきたし、姐さんに意気地無しとも言われてきた。それでも生き残ってきたのは、オレが臆病で、でも誰よりも生に貪欲だったから。

 

 でも、オレがACで戦える事を知るなんて。それはいつだったか『恐れを見る()()の能力』で、あの人と一瞬戦った時だ。

 

 《主任》に唆されたオレは、気が強くなって、レジスタンスから逃げた先に1機のACを譲り受けた。赤い鴉のエンブレムが塗装されたその焦げ茶色のACは、名前をヴェンジェンスと言い、主任曰く「君に似合うと思うよ!」とオレに送ってきたものだった。

 

 オレがぶつけた、あまりにも強い殺意をものともせず、あの傭兵は幾度もオレを退け、何度も立ちはだかったのにその都度ピンピンしていた。

 レジスタンスが撤退するという時になって、オレは姐さんのヘリを落とせという指示を、主任が擁するキャロルだとかって名前の女オペレーターから受け取った。

 

 そこがターニングポイントだったのかもしれない。

 

 

 主任の奴が、オレを特別だなんて呼ばなきゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スナイパーキャノン(ERBSEN SC62)から空薬莢が排莢され、オレは構えを解除して爆発したヘリを見やる。

 

『何故、外したのです ACを狙えと指示したはず』

 

「向こうが避けたんだ。 さすが、姐さんだよ。 ………まぁ、自分が死んだら意味無いけど! ハハハッ!」

 

 スナイパーキャノンをパージする。キャノンはすぐに自重で落下していき、廃ビル群に隠れて見えなくなるが、がちゃんと激しく地面に叩きつけられる音がする。

 

『いいでしょう 結果が同じなら、問題はありません』

 

 ACを跳躍させ、ブースターを点火して前進する。

 

『ACを排除しなさい』

 

 ブースターの燃焼効率が最大になり、速度がどんどん加速していく。廃ビルから飛び降りて向かう先はただ一点だった。 ACを排除する。あの傭兵が搭乗している、姐さんの運んでいた、ただひたすら勝ち続けたあの傭兵を。

 どすんと線路の上に着地し、持て余した右手にグラインドブレードを装着する。その時に左のバトルライフル(KO-2H4 PODENKA)がパージされ、コアの左腕部ジョイントが爆発する。消し飛んだ左腕部ジョイントにグラインドブレードの安定装置が食い込む。

 

「オレからは逃げられないって、知ってるはずでしょ?」

 

 グラインドブレードのチャージを開始する。右腕部を後ろ手に回し、ブレード回転部がエネルギーを充填し、ブレードの破壊力を高める為に回転を行っている。

 

「……死んでもらう。今度こそ」

「無理よ」

 

 お前には出来ない。そう断定するような強い口振りの、女の声だった。キャロルとは違うが、この声は何度も聞いていた。レジスタンスのリーダーを継いだ女、フランのものだ。

 

「………あ?」

 

「あなたなんかには、そのACを倒すことはできない」

「私にはわかる」

 

 何を知ったような口を。何を決めつけたような事を。怒りで目の前が歪む。本当にそれが怒りだけで出来ていたかはもう覚えてないが、とにかく怒りで我を失っていた。

 

「……ふざけんな」

 

 ふざけるなふざけるな、ふざけるな! 倒せない? 勝てない? そんな事あるはずがないんだ。 だってオレは何度もあいつと戦って生き残った。 あいつと戦ったやつはみんなやられた。 だけどオレは!オレだけは生きてる! あの主任だって、一度あいつと対峙していた時は正面から蹴り飛ばされていたんだ!

 

「オレが負けるはずないんだ! アンタにはわからない! オレは生きてる!戦って生きてる!」

 

「死ぬのは、あなたよ」

 

「あぁ!? やってみろよ!!」

 

 ACが目の前に現れる。あの傭兵だ。すぐにオレはチャージしていたグラインドブレードの出力を最大化し、そのまま目の前のあいつにぶつけようとする。それを間一髪で回避し、あいつはライフルとバトルライフルを撃ち込んでくる。

 それらをハイブーストやジャンプ、ビルを駆使したブーストドライブでどうにか回避するが、しかし着実に当ててくる。ハイブーストとハイブーストの合間に生まれる僅かな隙を、こいつは確実に射抜いてくるんだ。

 

「なんで……」

 

 墜落したヘリの隣に、重々しいヘルメットを被った女が立っていることに気付いた。ヘルメットを外したその人は、やはりオレが姐さんと呼んだロザリィその人だと気付いてしまった。

 

「なんで生きて……」

「よそ見をするんですか?」

 

 フランのセリフでオレは我に返る。既にチャージは完了しているが、グラインドブレードから伝わる膨大な熱が、コアを蝕んでいる。左腕が破損した際の爆発や、バトルライフルによるダメージが確実に蓄積していた。

 

《機体ダメージが増大しています。回避してください》

 

「そんな事はわかってる!」

 

 避けられないんだ。その言葉が喉から出る前に、機体が徐々に言う事を聞かなくなってきている事に気付いてしまった。

 

「なんでなんだよ!」

「ロザリィさん、彼は…」

 

 オレの叫びに被さるように、フランは姐さんに聞いた。奴の言う彼とは、間違いなくオレの事なんだろう。姐さんが何を言うかは知らないが、目の前のこいつを殺さない限りオレは死から逃げられない。

 ……なのに、反則じゃ()()()()()

 

「いい? 帰ったら説教だかんね! できるだけ殺さないで連れ帰って!いいわね!?」

「姐さん………」

 

 反則はダメっすよね。

 

 オレはアンタが好きだった。嫌な奴だって、初めて会った時は思ったよ。だけど、なんだかんだ傍で相方として置いてくれた。使い方は荒かったっすけど。

 

 だから未練が生まれるんすよ。

 

 

 

「アンタを殺さないと、オレは生き残れないんす。姐さん」

「RD……!」

「アンタもミグラントなんだから、わかってるはずでしょ。ソイツはいつ裏切るかわからない。 オレはこいつに殺されかけてる。すげぇ怖いんすよ」

 

 独白のようにロザリィに語りかける。

 

「だから殺す! じゃないと、怖くてたまらなくなるから!」

 

 2発目のチャージを終え、すぐにハイブーストで近くに接近して、グラインドブレードをあいつにぶつける。熱気で隠れて見えなかったから当たったと思ってたのに、あいつは既のところでハイブーストを後ろ側に出力して、ギリギリで回避していたらしい。

 そのまま隙だらけの俺を蹴り飛ばした。 オレは滅茶苦茶にデカい衝撃を受けて、機体ごと後ろにのけぞったような嫌な感触を覚えた。

 コクピットに表示されているメインカメラの映像は、もはや赤く明滅している警報のせいで何も見えない。 問題は、視界が不明瞭だという所ではなく、赤い警報が明滅しているという事。

 

 それはつまり、機体耐久力、APの完全消滅。もうすぐ自壊することを表していた。

 

「なんでなんすか………」

 

 オレを見るあいつの視線は冷たく刺さった。

 

「話が………話が、違うっすよ………」

 

 フランは何も答えない。

 

「オレは………特別だって…………」

 

 姐さんの荒い息が聞こえた気がした。

 

「死にたくない………」

 

 機体のカメラにノイズが走り、ACの爆発がコクピットの中のオレを揺さぶり、頭を強打して意識が薄くなっていく。

 なにも意識出来なくなっていく最中、オレはフランの言葉が唯一生きていた広域無線通信機から聞こえてきていた。

 

『あなたは、恐ろしい人ね。何もかもを黒く焼き尽くす、黒い鳥。でも、着いてきてもらうわ。私たちがあなたを雇い続ける限り』

 

 その言葉を聞いた途端、今までの恐怖の理由に納得した。ああ、オレは、ずっと勝てない勝負をしていたのか、と。そして、そのすぐ後に身体が冷えていくのを感じた。

 

 これが死なんすね? 今まで無謀な戦いを続けたオレの。

 

 やがて眠たくなって、オレは瞼を閉じた。

 

 すみません、姐さん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 混濁としていた意識が明確に覚めていくのを感じる。まるで何者かがオレに「起きろ」と言っているような感覚だ。肉体に、徐々に温もりが戻っていくのを実感する。

 

 しかし、自分は既に死んでいる。どうして起き上がれる道理があろうか。だが同時に、今なら起きられるのではないか、とも思える。目を開く前に、良く考える。本当に今起きていいのか。起きてしまえば、そこは悪夢の国なのでは無いのか?

 

 しかし、そういったモノへの恐怖は感じない。

 

 大丈夫だろう、と目を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『深刻なダメージを受けています』

 

 短い間だが聞き慣れた声色の声が聞こえる。それはAC『ヴェンジェンス』のCOMボイスだった。

 

 身体の無事を確かめる。怪我はない、と安堵する。

 

 そして機体の...押すことは無いと思っていた緊急離脱装置の起動ボタンを押す。コクピット部が重々しい音を立てて開き、外の風景を肉眼で見ることが出来た。

 

「この荒廃ぶりは………どう見ても天国じゃなさそうっすね」

 

 そこは最後にRDが居た場所とは違うベクトルで荒れすさんでいた。向こうは汚染だとか、そういったもので荒れているような具合だったが、ここではAC同士、兵器同士の争いによって荒廃したように見受けられ、その証拠に無数の機械の残骸が転がっていた。その残骸からは煙が吹き荒れ、埃のような風を感じさせた。脳裏にあの()()()の姿が想起される。

 

 ()()()なら、この程度の数なんて一瞬でケリを付けるだろうな、そう考えた。ACには様々な武装が装備されていたり、支援用の兵器が装備されていたり、果てには複数の機体が同一のエンブレムを着けていたりと、どうやら個人対個人ではなく、複数体複数、それも組織と呼べるレベルの巨大な集まり同士の戦いが、ここで発生していたようだった。

 

「………っ! ヤバい…!?」

 

 突如として悪寒が走った。恐らく何者かに狙われているのだろうか。こんな争いがあった場所に、まだ敵がいると想定しているのか。敵の残党でも処理する目的だったのだろうか。

 

 RDはACのコクピットに逃げ込む。しかし、肝心のヴェンジェンスはボロボロ、左腕もグラインドのせいで吹き飛んでおり、右腕部の装備はそもそも使い捨てのスナイパーキャノンだったため、攻撃手段はもはや無い。RDは逃げ込んだことを後悔した。どうしたらいいのか必死に頭を捻っていると、突然に無線通信から声が聞こえてきた。

 

『────聞こえる?』

 

 RDに語り掛けた声は、優しく若い女性の声だった。

 

「……誰っすか? なんでオレを狙うんすか」

 

『狙ってなんて……まさか、そこに誰かいるの?』

 

「知らないっすよ。 ………アンタじゃないんすか?」

 

 彼は焦りを隠さず話す。未だに脳の危険信号はこの場に留まるべきではないと告げている。

 

「とにかく、助けが要るんす。 ……オレ、なんでか知らないっすけど、今狙われてるんす」

 

『そこから動かないで。今行くわ』

 

「急いでくださいよ………オレの方でも何かやってみるっすけど……」

 

 無線は切れ、通信も途絶する。脳内の危険信号は未だ止まらず第六感が警鐘を鳴らし続けている。狙われている。COMもずっと警告を発し続けている。RDとそう変わらない。

 

 

 

 

 そして砂塵の中から三機の防御用ACが姿を見せた。

 

『おい、ありゃまだ無事だぞ』

『へへっ、良いねぇ。俺らで奪っちまうか!』

『よし、誰もいねぇし、行くぞ!』

 

 3人分の防御用がヴェンジェンスへと近付いてくる。それを肌で感じ取った彼は、いよいよもって顕になった恐怖に立ち向かおうと立ち上がる。

 

「やれる、いや、やるしかないんだ、生きるには」

 

 ACの操縦桿を握る。まだ動いてくれるらしい。

 

『くそ、動いたぞ!』

 

 ACがまだ動くとわかって防御用たちは接近を止める。機銃を構え、じっと待つ。

 

「オレはやる......生き抜いてやる!」

 

 敵に向かって歩き出し、ブースターに点火する。幸いジェネレータもブースターもまだ無事だった。

 

 相手の攻撃を避ける様にジャンプする。スキャンモードはしっかりと働いてくれており、防御用AC達の武装もはっきりと分かる。ガトリングが二門に、ヒートキャノンが一門。ヒートキャノンタイプは盾を構えていない。

 

『こいつ、まだ動きやがるのか!?』

『落ち着け!相手はおんぼろだ、撃ちまくれ!』

 

 ガトリングが何十発とヴェンジェンスに撃ち込まれるが、全て跳弾し、決定的なダメージには至らない。とはいえ既に致命的な損傷を受けているACに対してのそれだ。あまり悠長にしていられなかった。

 

「教えてやる、アンタらじゃ俺には勝てないって!」

 

 左へ、撃たれると直感したら右へ飛び、弾丸を躱しながらヴェンジェンスは敵機のコクピットへと確実に近付いていく。前線に立っていた防御用ACはヴェンジェンスの強力なブーストチャージを受けて、煙を吹き爆煙に包まる。通信機越しに絶叫が聞こえてきた。

 

『う、うわっ、わああああ!!!』

『クソッ!』

 

 防御用ACが爆発し、それを見た残りの二機が叫ぶ。

 

『撃ちまくれ!近付けるな!』

 

 そう言いながらこちらに向けて乱射してくるガトリングガンも当たらず、当たっても跳弾してほぼ無傷。蹴りを繰り出せばどうにかして避けようとするが、機動力が足りずに直撃。盾は割れ、酷い損傷の機体が顕になる。

 その姿が酷く滑稽で、しかしそれはかつて死んだ彼自身にそっくりだった。その様子を見て、RDは悟った。

 

「ああ、俺もこうだったんすね、姐さん」

 

 RDが、もはや遠い存在に思いを馳せつつも、残った防御用ACを処理する為に前進する。ボロボロでも尚突撃してくるそのACに恐怖したのか、一機は必死になって応戦し、もう一機はキャタピラーを動かして緩慢とした動きで逃げようとしていた。

 

 変わらず跳弾するガトリングガンをものともせずブーストを吹かして急速接近し、浮上してコクピットに勢いよく蹴りを入れた。中身は見ずとも即死だとわかる程に装甲が凹み、そして爆発した。逃げようとするもう一機も素早く近付いて後ろから蹴飛ばしてやり、ジェネレータにでも着火したかは知らないが、大きく爆発し、部品が四散する。

 

 強者に対して果敢にも戦いを挑むその姿、怖いものから逃げてしまうその感情。それらはRDの脳裏に刻みつけられる。そしてより鮮明に、先程までの自分の愚かさを思い起こさせた。

 

「姐さん……オレ、今になってやっと気付きました。俺、死ぬのが怖いんじゃなかった。得体の知れないモノが……()っていうモノが怖かったんすね。そう、俺にとって()()()が。人間っていう枠の中を破って戦場を渡り歩いて、普通なら死ぬような戦いを何度も生き残ってきたアンタがね」

 

 そう言ってRDはコクピットの中で両拳を握りしめ、唇を噛む。それは自責の念から来るものだっただろうか。

 

「でも、それでもアンタはオレが裏切るまで仲間で居てくれた。傭兵だったアンタが、それでも姐さんとかフランのの仲間として居てくれた。ソレって、アンタが雇い主を変える事はないって意思の表明だったんすよね」

 

 

 

 

 後悔しても、もう遅い。

 

 慕う者はもはやおらず、見知らぬ果て地にただ一人。それでも彼が心折れずにいられたのは、彼自身が恐れを()()からに他ならなかった。上を見上げれば灰の空。大地を見渡せば鉄くずたち。こんな()()()()()()世界に、しかし彼は生き延びていた。

 

 

 

 

 突然に無線機が沈黙を破り、彼に通信が入る。

 

『こちらハーモナイザー、もう間も無く到着する。無事?』

「オレは大丈夫すよ」

 

 ふぅ、よかった。と、無線越しに安堵する声が聞こえた。それと共に、ヘリが降下してくる。黒色で塗装されたそのヘリは、間違いなくハーモナイザーと名乗る彼女の乗るヘリだろう。特徴的なのはそのメインローターの多さ。ヘリは通常規格のものよりも更に大きく、追加でAC運搬用のハンガーレールが二つ、内一つには紅白の重量逆関節機体がぶら下がっていた。

 

『今降りるわね。にとり!』

『はいよー。そこハンガーに引っ掛けるから衝撃に備えてねー』

「わかったっす……おっ、うわっ!」

 

 ACに乗って久しい衝撃に、思わず驚きの声をあげてしまう。

 

『ははははっ!悪いねー、手荒な操縦しか出来なくてさ』

「いや、大丈夫す。驚いただけっすよ」

 

 にとりと呼ばれた女性の声に、どことなく安心感を覚える。声の質や声色が似ている訳では無いが、なんとなくだが姐さんと呼ぶあの人にそっくりだった。

 

「……そうっすね。生きていて、ホッとしてるすよ」

『それは良かった。じゃ、行こうか?』

『とっとと帰るわよ。こんな場所に長居していたら肺が腐っちゃうわ』

「肺が腐る、すか?それはなかなか嫌っすね」

『でしょう?……聞いてなかったわね。貴方名前は?』

 

 名前を訊ねられたRDは答えた。

 

「皆からはRDって呼ばれてたっす」

『RDね…………。 わかった。私は霊夢よ、よろしく』

『私はにとり。じゃ、飛ばすよ!』

 

 ヘリのローターが更に速く回る。出力を上げたのだろう。スピードが上がり、目的地へ向かうそのヘリは、他の勢力にとって格好の的であった。しかし狙わなかったのは、ひとえに博麗の巫女と、それに並び名の知れた『ハーモナイザー』が乗っていたからに他ならない。

 

 

 






 AC、ヴェンジェンス
 パイロット、RD

 アーマードコアVに登場する気弱な青年。

 パルスマシンガン《UEM-34 MODESTO》及び左腕部にバトルライフル《KO-2H4 PODENKA》を装備し、ショルダーユニットにCEミサイル《USM-13 GULBARGA》によって低CE装甲の相手に対し優位に立ち回れる他、パルスマシンガンによる軽装甲の相手もこなせる、万能型。

 標準型と比べ相応に高いAPとKE防御力、最低限のTE装甲を持つKEコア《UCR-10/A》、積載量や装甲、機動力など全てが平均的に纏まっている中量二脚《ULG-10/A DENALI》をベースに、性能は平均的ながらスキャン能力の高いKE頭部《UHD-10 TRISTAN》と、同じくAPは高めながら平均的な性能KE腕部《UAM-10/A》を装備した、所謂フルKEと呼ばれる特異な機体。

 無論装甲はKEに特化しており、その防御力は生半可なスナイパーライフル程度なら簡単に弾いてしまうほど。
 ヴェンジェンス独自のカスタムが装甲に加えられており、軽量のCEミサイルや、高威力のパルスマシンガン程度なら難なく弾ける。標準パーツで機体を組むと、どうしても装甲面に不備が生じるが、ヴェンジェンスの装甲パーツによって弱点を埋めている。

 特に、ハンガーユニットを排して搭載されたオーバードウェポン《GRIND BLADE》は、起動してから攻撃まで相応の準備時間が必要、非常に高い熱量からコアに継続的なダメージを受ける、強制的に左腕部がパージされる、一定時間しか使用できず、また左腕部は戻らないためその後の戦闘に高い支障を来すなど、非常に大きなデメリットの数々を背負うが、その威力は莫大の一言に尽き、当たりさえすればどんなものもほぼ一撃で灰燼に帰す、血戦の兵器である。
 


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件名:スポンサーより

 文ちゃんが人里で大規模な闘技場に出場するお話です。


 元々人里に住まう彼らが決めたものです、私が参加する義理など何処にもないのですが、これもお仕事なので。

 

 

 

 

 

 

 

 射命丸文は今、人里のずっと地下にいる。『クレーター』との敵対者である射命丸が人間に攻撃されていない理由は、ここが傭兵サービスを活用した闘技場(アリーナ)であるからだった。何故そんなところにいるのかと聞かれれば、冒頭で話した通り仕事である為だ。

 

「(人里で起こっている賭け事を調べてこいって……あんたらは暇人ですかって問いただしたくなりますね)」

 

 心の中でそう思っていても、天狗社会では口には出さない。上司どころか部下ですら、のし上がるために上司のミスやら何やら全て告げ口するのだから、自宅にいても隙ひとつ見せられない。

 

「(まったく、嫌な性格の天狗が多すぎるんですよ)」

「それは貴女もでしょう、射命丸さん」

「……!」

 

 不意にハスキーな声が射命丸の耳を撫でる様に聞こえてくる。後ろを振り向くと、猜疑心や裏の表情豊かな射命丸にとって、ある意味最も苦手な相手がいた。

 

「……参りました。まさか地霊殿の主までもがここに来ているとは。……古明地さとりさん。何故ここに?」

「そうね………私は妹を探しに来たのよ。こいしがアリーナの上位ランカーだという話を聞いたから」

 

 アリーナと耳にして、古明地こいしのいる場所が射命丸の目指す情報がある場所にいると推測できた。

 

「アリーナですか………にしても、こいしさんは一体どうしてそんな上位存在にまで成り上がってるのでしょう?」

「それは貴女、私のこいしは天才だからでしょう」

 

 それを聞いて射命丸は呆れた。

 

「(親バカ)」

「聞こえてますよ」

「知ってます」

 

 そんな阿呆みたいなやり取りをして、話は本題に入っていく。それはさとりの方から持ちかけられた。

 

「射命丸さん。貴女はACを駆りますね?」

「ええ、まあ。それがどうかしましたか?」

 

 この時点で、文は嫌な予感が働いていた。天性の勘は上手く働き、案の定さとりの依頼が彼女にのしかかった。

 

「アリーナに潜入して、こいしを見つけて欲しいのです」

「ヤですよ。私も生きているんですから、貴女方姉妹の関係に巻き込まないでください」

「幾ら積まれればやりますか?」

「200万」

「出します」

「220万」

「まあ良いでしょう」

「もう少し」

「250万以上は譲歩しませんよ」

 

 細かく短い金銭のやり取りのさなか、最大金額が定められた。まるで値切りでもするかのように金額の値上げを繰り返していた射命丸も、その金額に納得できたうだ。

 

「では、240万で決まりですね。ACに乗ってきますので少しばかり待っててください。こいしさんくらい見つけてあげますよ」

 

 その答えにさとりは機嫌を良くしたようだった。

 

「ヒントをあげます。初心者のランカーは、まずEランクからスタートします。Eの15番からどんどん上の敵を倒して、Eの1番になったら、Dの15番と戦えます。そしてそれに勝ったら晴れてDランクの仲間入り、という訳ですね。これを繰り返していけばきっとこいしに会えますよ。今あるランクはS、A、B、C、D、そしてEの6つだそうです」

 

「随分とお詳しいですね」

「常連なので」

 

 そう言いながらさとりは眠たそうな瞳を閉じて、瞼をこする。口に手を当てると大きな欠伸をしながら手に持った書類を眺めている。気になった文がその紙を覗くと、そこにはアリーナに名を連ねる猛者たちの機体などが殆ど登録されている。

 

「貴女が探した方が早いのでは……?」

「お遊戯の様なものですよ。貴族の遊びというものです。嫌悪感はありますが、賭け事というのは存外に気分が良いものです」

 

 そう言ってペンを握って、目星を付けたランカーの名前にチェックを入れていくのを見ていた。

 

「はあ。まあ理解はできませんけど」

「そうですか?自分の思い通りにならないというのは楽しいものですよ?」

 

 悟り妖怪の如何にも言いそうな事を聞いて、ふふっ、と笑ってしまう。鼻で笑う様にも受け取れる。

 

「まあ私だけかもしれないのは認めますが」

「じゃあ私はACを取りに行ってきます。さとりさん、私の代わりに登録しておいてくれませんか?パイロット名はなんでも良いので」

「あら。プライドの高い鴉天狗はもっと名付けに拘るかと思っていましたが」

 

 その問に背を向けながら、歩きながら肩を竦めて答える。

 

「私を天狗の有象無象と一緒にしないでいただきたいものです。プライドはありますが、くだらない事に拘るほど愚かな鳥頭ではありませんので」

 

 そして羽を広げて高く飛び上がる。そのまま天狗の住まう妖怪の山がかつて見えた方面へ飛び去っていく。それを見つけた()の人間達が叫ぶ。

 

『天狗だ!くそ、奴ら遂に尖兵を……撃ち落とせ!情報を持ち帰らせるな!』

「(あの速さに対空戦闘なんて、無意味だと思いますが)」

 

 案の定それは当たっていた。機関銃や、対空砲のような対航空機用の火砲が火を噴くが、文には全く掠らないどころか、早すぎて予測射撃が出来ず、明後日の方向を撃っていた。

 

「(あら、逃げちゃいましたね)」

 

 心の中でさとりは機嫌を良くした。あの天狗ならば、我が妹を見つけてくれるのではないだろうかと考えた。心の中で微笑みながら、彼女は地底の底へと姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

「こんばんは、さとりさん」

「来ましたか。もう登録は済んでいますよ。これが貴女のここでのお名前です」

 

 手渡された契約書に書かれている名を読み上げる。

 

「レイヴン、ですか。確かに私は鴉天狗ですが、なぜ?」

「ミグラント、傭兵たちは巷でそう呼ばれていますね。あなたも今から、私の傭兵というわけで。それにレイヴンというのはワタリガラスを意味する単語です。鴉天狗と、どこか似ていると思いませんか?」

 

「はあ……まあ、思いませんけれど」

「英語に疎いのですね。これは意外です」

 

 そう言ってさとりは目を細めて笑っている。

 

「わかりました。レイヴンが私の登録名ですね」

「はい。スポンサーは私が務めますので、安心して勝ち進んでください。良いですか?」

 

 その一言に文は一瞬固まる。スポンサー。それは即ち文の全てを負担してくれるという事だ。

 

「スポンサー? ………という事はつまり、修理費用とか弾薬費は全て賄ってくれるって事ですか?」

「ええもちろん。そして全額貴女に賭けます。貴女は妖怪の山連合の中でも指折りのAC乗り。きっと連勝して、懐を潤してくれるでしょうね」

「それが目的ではないんですか?」

「先日も言いましたが、私は思い通りにいかない出来事があるのが面白いんですよ。()()()()()()()()()というやつです」

 

 そう言うと、さとりはもう一度微笑む。喉を鳴らして笑っていると、アナウンスが聞こえてきた。

 

『アリーナ開始時刻30分前となりました!本日のチャレンジャーは傭兵を倒して力を蓄えていると噂の、全てが不確かで不思議なAC乗り、『レイヴン』!対するは万年最低ランカーながら、勢い付いた初心者を容赦なく叩き落としてきたベテランランカー『機雷一等兵』!両者は速やかに選手控え室までお越しください』

 

「ちょっと、なにあることないこと書き込んでるんですか」

「知りませんね」

 

 アナウンサーの活気付いたその声が、戦いの時は目前まで迫って来ている事を証明していた。間もなく戦いが始まる、そういう時、文は大抵()()()()()というものを感じるのだ。

 

「そろそろ時間です。頼みますよ、射命丸さん」

 

 そう言って妖術を使い、髪色を黒く染めて身長を上げ、コートを羽織り帽子を被って人間に変装したさとりは、観客席に入っていった。文も準備を開始するべく、ACに乗り直して選手控え室に進む。

 

「あややや、まったく数奇なお方です。聞いているんでしょう、さとりさん。安心してください。私は人間程度に負ける程弱い訳ではありませんよ。最も『人間の中の人外』に勝てるかは別ですが…はは」

 

 AC用の滑走路を進みながら、文は笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『レディース&ジェントルメン!本日もこの時がやって参りました!クレーターズアリーナへようこそ!このアリーナでは出自年齢問わず勝ったものが正義!勝者には全賭け金の一割、そして相手側からの賭け金の3割が配当されます!

 

 では、長らくお待たせ致しました!第1回戦を開始致します!選手入場!チャレンジャーの入場です!

 

 黒めの塗装のAC!間違いありません、あの『黒い鳥』がここに姿を現しました!対するは万年最低ランカーながら誠実さに人気の秘訣を持つ『機雷一等兵』!さあ、戦いの火蓋が切って落とされようとしています!御二方に試合前の意気込みを聞きたいと思います!』

 

『いやはや……よくペラペラと回る舌ですねぇ。感心感心』

 

 文は聞こえないように司会を馬鹿にした。話の尺を稼ぎたいのなら、もっと巧みな話術を会得しておくべきだと心の中で嘲り、声には出さない。

 

『さあ、機雷一等兵さん!今の心境は?』

『レイヴン、とやら。俺は確かに最下位のランカーだ、だが、勢い付いただけのルーキーに負ける程落ちちゃいない。俺を倒せなきゃあランカーにもなれんぞ』

 

 若く通った男の声が無線を通して聞こえる。年齢は関係ないとは言っていたが、まさか20やそこらの人間までACに乗っているのか、と考える。

 

『毎度シビれる意気込み、ありがとうございます!さてさて、続いてレイヴンさん、今の心境をお願いします!』

『………』

 

 何も考えていない。それに普段の話し方で行くと、自他ともに認めるほどに快活にすぎる声色のせいで、レイヴン本人ではないとバレる可能性もある。バレたら最後、さとりさんからの依頼を遂行できない危険性まである。沈黙で切り抜けられるだろうかと考えていたが、何か一言、というその一言に押されてしまい、咄嗟の言葉を吐き出す。

 

『……相手を倒した場合。機体の武装を頂くのは?』

 

 出来るだけ疑われないよう、話題性に欠く話を振ってはみたが、そこまで関係のある事ではなかったようだ。司会の男も、特に気にする様子もなく続ける。

 

『おおっと!まさかの勝利宣言です!レイヴン、やる気は十分の様です!因みに装備は勝者が自由にして構いません!このアリーナでは全てが自由!では、戦闘を開始します!双方準備はよろしいですか!?』

 

『し、勝利宣言じゃ……』

 

 しかし何を取り繕うとしても司会は聞く耳を持たない。

 

『何時でも来い……っ!』

 

 デンジャーマインが構えるのが、遠目に見えた。

 

『はぁ……まあ、行きますか』

 

 ビィィッ!という電子音と共にアリーナの壁を蹴る。

 

 高く飛んでフィールドを確認すると、円形になっていて人工植林された木が辺りを覆っている。ACに触れればさすがにポキリと折れてしまうだろうが、その高さはACがしゃがんでしまえば何も見えなくなるほどだ。

 

 高く飛翔した『レイヴン』に何かの弾丸を撃ち込む機雷一等兵のAC『デンジャーマイン』。その弾丸をブースターを切り急降下する事で回避する。周囲が木々に囲まれて一瞬視界が深緑に染まるが、直ぐにリーコンを射出、スキャンモードに切り替える。真正面全体に敵反応が現れたのが見えた。

 

『クッ!』

『喰らえ!』

 

 文が咄嗟にハイブーストを吹かして回避する。勢いの付いたデンジャーマインのKE型ブレードによる攻撃はコンクリートの強化壁を容易く穿つ。

 

『アレに当たったら痛そうですね……なら!』

 

 両手のレーザーライフル(AM/LRA-229)ヒートマシンガン(Au-V-G37)を乱射して壁を飛び回る。中量二脚を捉えられない機雷一等兵は一旦待機し、飛び上がる。真正面か、ブレードを叩きつける事で直接終わりにしようとしているのだろう。だが───。

 

『甘いですよ!』

 

 文の軽やかなフットワークによってブレードは避けられた。浮いた隙にすかさず蹴りを叩き込もうとブーストチャージを繰り出すが、クイックブーストによって回避され、当たらずに距離を離された。

 

『甘いのは、どちらかねっ!』

 

 回避と同時に放たれたハンドガン(AM/HGA-304)の衝撃による硬直と、同じタイミングで発射された6発のKEロケット(SL/RCA-106)が、文のACに襲いかかる。また、ロケットの着弾と同時にKEブレード(MURAKUMO mdl.1)を振り抜いたデンジャーマインは、確実なダメージの手応えを感じた。

 どうやらさほどスピードは乗っていなかったらしく、機動力が足りずにこちらを穿とうとするブレードの一撃は、多大なダメージを生んだとはいえ致命傷には至っていない。

 

『クッ……なかなかやりますねっ……!』

 

 ブレードによって切り裂かれた右腕の装甲を庇うように、左半身をデンジャーマインに向ける。そのままレーザーライフルをチャージし、デンジャーマインに命中させていく。

 

『クソ、厄介な……』

 

 ひたすら遠距離射撃に徹し、近接攻撃を嫌って射撃戦を展開し続ける。充分に離れたところで文は庇った右腕も突き出し、ヒートマシンガンを連射する。デンジャーマインの機体は俗にフルKEと呼ばれる、4ヶ所全てのパーツをKE系フレームで構成している為、CE属性を持つヒートマシンガンと、TE属性を持つレーザーライフルに、圧倒的に不利なのである。

 同じタイミングでKEハイスピードミサイル(SL/KMB-212H)を撃ち込み、衝撃による防御装甲値の低下を引き起こしたところに

 

『クソ、拉致が明かん......なら!』

 

 ムラクモを構えたデンジャーマインが、速度を活かした攻撃で装甲諸共文のレイヴンを沈めようと急接近してくる。だが、文は動じない。それどころかそれを待っていたと言わんばかりに、グライドブーストを用いてデンジャーマインに突進していく。

 

『なっ!?』

 

 焦ったデンジャーマインだが、正確にレイヴンへ照準を合わせ、ムラクモを振るった。それは確かにレイヴンを捉えていた。はずだった。

 ムラクモがレイヴンに命中する瞬間、突如機動方向を反転し攻撃を回避したのだ。そのままハイブーストでムラクモを振り抜いて隙を生んでしまったデンジャーマインに急接近し、速度を乗せた強烈なブーストチャージを見舞う。胸部装甲がべっこりと凹み、デンジャーマインは地面に墜落する。

 トドメとばかりにヒートマシンガンを叩き込むと、デンジャーマインの機体が煙を吹き始めた。

 

『…………ふ』

 

 一瞬、デンジャーマインが笑ったような気がした。

 

 ………その瞬間、肩の装甲がパカリと開き、中からKEロケットが飛翔してくる。咄嗟に身を捻って回避するが、5発被弾してしまった。装甲の許容値を超えたダメージを受けた事を知らせるアラームが鳴るが、衝撃を受けて怯む程でもなかった。

 

『………これが最下位ランカーの力ですか』

 

 そのまま落下の自重に乗せて渾身の一撃(蹴り)を叩き込み、無力化を確認した。

 

『…………まるで、詐欺ですね』

 

 それと同時に、アナウンサーが興奮冷めやらぬ様子で文の勝利を声高々に告げた。

 

『なっ......なんとォォ!最低ランカーになってから一度も敗れることの無かったあの機雷一等兵が!たった今新入りとなったE-15ランカーに敗北ッ!機雷一等兵、長らく座っていたランカーの座を明け渡したぁーッ!』

 

『お......おおおおおおおおおお!!!!!』

『すげえぞ!あの機雷一等兵に勝ちやがった!!』

『あの『レイヴン』って奴、何モンだ!?』

 

 人間達のその五月蝿い歓声に、文は心の中で小馬鹿にする。

 

『ふふ...』

 

 喉を鳴らして笑いを堪えずに口に出す。ふと見上げると、そこには満足そうに微笑み、彼女に向かって頷くスポンサー、古明地さとりの姿があった。

 

『(さとりさん、見ていますか、聞いていますか。くだらない戦いでしたが、楽しむだけなら付き合って差し上げます。こいしさんの捜索はそのついででやってあげますよ)』

 

 その心の言葉に、さとりはもう一度深く頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 本文:

 

 まずは最下位ランカー進出、おめでとうございます。この調子でどんどんと進んでいっていただきたいものです。今回の弾薬費、修繕費は全て私が立て替えておきました。

 

 賭け金も、貴女への取り分はメールに記載してある場所にて差し上げます。『──────の───』です。

 より良い物を用立てるなら、地霊殿においでください。

 

 貴女のスポンサー、古明地さとり。

 

 追伸。

 こいしは現在Aランカーとの情報がありました。

 よろしくお願いしますね、私の鴉さん。

 

 

 

「まったく、自由なものです。まあ、報酬は頂きますか」

 

 

 






 AC、レイヴン(仮名)
 パイロット、射命丸文

 レーザーライフル《AM/LRA-229》とヒートマシンガン《 Au-V-G37》、ショルダーユニットのハイスピードミサイル《SL/KMB-212H》の3点による、武装のハンガーシフト時の隙を捨てた、装備構成。
 各装甲を疎かにした者を確実に倒すことだけを考えて組まれた武装群。

 武装のレパートリーが少ないため、シールドなどによって対策されやすい弱点は持つが、持ち前の腕や衝撃の高いミサイルによる波状攻撃を仕掛け、相手のペースに引き込まれること無く戦いを継続できる。

 フレームには、TE装甲に特化した高APコア《Co-G-F24》や軽量さと比較して装甲とAPのバランスが良いKE腕部《AA-135》を用い、頭部は軽量かつスキャン能力やカメラ性能に特化した情報収集型CE頭部《Hd-Y-F08》を採用している。非常に優れた装甲ながら中量二脚《L2MA-131》によってKE装甲の高さとある程度の機動力も補われている。

 扱いにくいがピーキーで、速度に特に優れるブースター《Bo-C-L13》と、EN回復力、容量に特化した《Ge-D-G23》を採用。TEコアも併せて、ハンガーの武装がない利点を活かした内装面の優秀さが、射命丸の腕の良さを磨いている。


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件名:お前は俺が蹴落としてやる

 文ちゃんが闘技場に出場するお話です。
 タイトルのように、(件名:)と付くタイトルは全て文ちゃんのアリーナでの活動回になります。


 どうやら機雷一等兵を下したのは上のランカー達には衝撃的な事実だったようで、先日からひっきりなしに傭兵達からタッグを組もうだの組織に加入して欲しいだのとメール受信箱の通知が鳴るので、昨日からずっと通知を切っておくぐらいには煩わしい。

 

 だが、そんな中で一件のメールだけが文の気を引いた。

 

 

 

 件名:流石だ

 

 本文

 

 黒い鳥では無い。君はただの、アリーナに参加する何者かだ。だが、勘違いされている事などは重要ではない。君が私を倒した事が重要なんだ。きっと何人ものランカーが君を倒そうと躍起になる筈だ。

 ………だが、同時に君ならばやってくれるのではないかとも考えている。君なら彼らに勝てるのでは、と。

 俺はまだアリーナで戦うが、君が俺の悲願、上位、特にBランカーの仲間入りを果たしてくれる事を願っている。

 

 

 

 

 そのメールが意味する事は一つ。私に勝てと言っている。そして勝利を掴み、己が悲願を成してくれと、次の強者に託すのだ。件のメールを何度も読み直すくらいには、彼の言う事をやってみたいとは思っていた。

 

 

 

 

 

 

「ふむ………機雷一等兵さんも、上にはのし上がりたかった訳ですか。勝ってしまったからには、もう逃げ出せませんよねぇ………」

 

「あぁ、そうだな」

 

「ですよねぇ……って、えっ!?どなたですか?」

 

 後ろを振り向くと、そこに立っていたのは見知らぬ若い男性だった。そしてその声には、心当たりがある。

 

「まさか……機雷一等兵さん?」

「そうだ。………お前、天狗だったんだな。巷じゃ有名だよ。天狗が地下街にお忍びで遊びに来てるってさ」

 

 そう言うと彼はヘルメットを脱いでゴーグルを外した。顕になったその素顔は、幻想郷の住人には似ても似つかぬ、茶髪に青い目をした、恐らく日ノ本ではない外国の出身だろう若い青年だ。

 

「もしかして、幻想郷に住んでいた者ではない……ACと共に流れ着いたパイロット………ですか」

「ここが幻想郷という世界で、俺は一度死んだ身だという事は覚えている。何らかの理由があって二度漬けされた人生というワケだ、俺たちはな」

 

 おどけたように彼が言う。

 

()()()とは?他にも流れ着いた者がいる?」

「かもしれないな。俺は俺の他に1人、見たぜ」

 

 そして機雷一等兵はその『1人』の話を始めた。

 

 彼は性別の一切がわからない不思議なミグラントで、どんな戦場からも必ず生還し、時には僚機をどんな激戦からも守り通し、果てには一人で身に余る程の戦果を、ACが何機あっても不可能な任務を完璧にやり通す程の腕前を持つ者。

 

「………そして、そいつはSランカーとしてアリーナを実効支配しているっていう噂だ」

「へぇ………その人が、言わば人外ですか」

「ああ。あれ程の腕を持つ奴が、ただのSランカーで収まるはずがない。どこかに狙っているものがある筈だ」

 

 そう言うと彼は握り拳を作り。向こうを見据える。それは、そこに居ない彼を見ているかのようだった。

 

「……まさか、一度戦った事が?」

「どうだったろうな。一度は確かだ」

 

 その目は沈みゆく夕焼けをじっと見つめていた。その瞳は、人間のソレにしてはとても澄んでいたのを良く覚えている。おおよそパイロットなどという野蛮な職業には似つかわしくもなかった、という事も。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さぁ、本日もこの時がやって参りました!クレーターズアリーナにようこそ!………早速ですがチャレンジャーであり最下位ランカー、『レイヴン』の登場です!』

 

『うおーっ!レイヴン!今日も勝ってくれーっ!』

『頼むぜレイヴン!お前に有り金全部賭けてんだ!』

 

 天狗の耳は良い。鉄の装甲越しにもよく声が聞こえる。俗物めと嘲笑うが、戦いを前に気合を入れる。

 

「さて、次はどんな奴でしょう?」

 

『対するはッ!タッグを組ませればDランカーにも敵なしと豪語するEランカーの救世主!E-14、そしてE-13のタッグです!』

 

「ははぁ、二対一ですか」

 

 文は目を細める。まるで楽勝だとでも言うように。

 

『一機目、E-14!パイロット名は『ストーム』。愛機は『デッドアイズ』!続いて二機目!E-13、パイロット名は『ベルカ』。愛機は『カルナバル』!Eランカーのタッグに、たった一人で対処するのか!?レイヴンさん、意気込みを!』

 

『例え二対一だとしても、私は負けませんよ』

 

 声を低めて男のような声を出す。背伸びした青年のような声にも聞こえる。

 

『おおっ!今回もまた自信たっぷりの様です!因みに一人で挑むという事でよろしいのでしょうか?』

 

 その問に文は答える。

 

『ええ、私は一人で─────』

 

『────待て』

 

 不意にフィールドに響いたその声は、先日に聞いた()の声。

 

『俺も出るぞ、レイヴン』

 

 彼のその変わり果てた姿に会場は騒然となった。

 黄色がかった白色のカラーリングを施し、丸みを帯びたTE耐性の高いそのパーツを幾つも使用しているその姿は、しかしそのパイロットの声からようやく機雷一等兵本人だと断定出来るだけであった。

 

『なっ……! レイヴンに加勢するのは、な、なんと!!元最下位ランカーとして名を馳せたパイロット、機雷一等兵!!』

 

 その機雷一等兵という呼び名に反応したのは、その機雷一等兵本人だった。

 

『その名前は最下位ランカーの座を明け渡した時に捨てた!今の俺は……ただの『マイヤー』だ。機体名は『カタリナ』』

 

 機雷一等兵はその名を捨て、今は『マイヤー』と名乗っているという事らしい。偽名かはわからないが、彼には良く似合う名だと思える。機体名の『カタリナ』は、ドイツ語圏の女性名だったと記憶している。彼の想い人の名だろうか、とにかくその武装は殆どが上質な一級品を取り揃えられていて、以前に戦ったあのオンボロのパイロットだとは思えなかった。

 

『………おや、本当です!機雷一等兵という名前が消えており、代わりに登録されているのは『マイヤー』という呼び名です!』

 

『そういう事だ』

《………天狗さん、名を聞いてなかったな。なんという名前なんだ?》』

 

 広域無線でアナウンサーに答えを返しつつ、バレにくい低周波の無線で文に話しかけてくる。名前はなんだ、と。文もまた同じように無線の届く範囲を絞って、彼にしか聞こえないように答えた。

 

『《射命丸。名は文です》』

『《射命丸か。今後ともよろしくな》』

 

 ここに数奇な運命を辿る相棒が加わった。

 

『さあ、少々アクシデントはありましたが、ここはアリーナ!何が起ころうと自由です!『ストーム』&『ベルカ』両名、今の心意気をどうぞ!!』

 

『悪いが、レイヴンとやらも俺たちの敵じゃないが』

『そうね』

『フン、さっさと潰してしまおうか?』

『ええ、頼むわ』

 

 そう言って二人の敵は、自分達との対角線上、大きなビルの奥に立つ。感覚からも、ある程度の佳境は乗り越えてきたように思える。

 

『今回も余裕だとひけらかすEランカーペア!両者位置に着きました!戦いの火蓋が切って落とされます!』

 

『《ベルカは狙撃タイプだ。文、お前はどちらを相手するのが得意だ?》』

『《近距離型の方………ストームですね。ガンガン来てくれたほうが助かりますからね》』

『《そうか。やはりお前とは長く付き合えそうだ》』

 

『レディ!………ゴゥ!』

 

 開戦の火蓋は切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 ビルの向こう側でブースターを吹かす音がする。恐らくベルカが高所を占領する事で優位に立とうとしているのだろう。それを阻止すべく『カタリナ』がビルの上に飛び上がる。機動性と耐久性に優れる重量二脚と、狙撃に特化した重量逆間接では重量二脚の方が有利である。()()()()()()()では。

 

『無駄無駄、登らせないわよ』

『チッ………撃ち下ろしてくるか!』

 

 ジャンプ力に優れる逆間接機体の方が早く登れる。そうして登りきった『カルナバル』は自身の優位性を保つ為、登ろうとするカタリナを怯ませ、叩き落とそうとする。スナイパーライフル(KURETAKE mdl.2)の一撃が命中し、怯んだカタリナが落ちていく。しばらくは来ないだろうとベルカは僚機への援護を開始する………直前という時、それを遮るようにミサイル(SL/KMB-212H)が飛んで来た。6基のミサイルが直撃し、カルナバルは大きく怯んだ。ミサイルのその出処はどこかと言うと───

 

 

 

 

 

 

 

『ちょこまかと動くな、当たらんだろうが!』

『当たる為に止まるものは愚か者だと思いますがねぇ』

 

 近接型のアセンブルを組んだ『デッドアイズ』の攻撃を避ける。乱射によって傷は付くが、どれも致命傷とまでには至らず。出来るだけ修繕費を抑えたい文も、決死の一撃で反撃の隙を与えず轟沈させたいが為に攻めあぐねていた。

 

『チィッ!当たれっての!』

『だから、当たりませんって』

 

 銃弾の雨を避けながら思案する。どうやってあの猟犬に首輪を着けてやろうか、と。それにはあまり長く時間をかけなかった。すぐに良い案が思い浮かんだのである。

 

『ちょっとだけ黙っててくださいね!』

『なんだうおっ!?』

 

 一瞬身を翻した文の攻撃によってカメラの辺りが光に遮られる。ストームが攻撃の正体を掴む事が出来た頃には、文はミサイルのロックオンを終え、僚機である『カルナバル』に向かって両肩からミサイルが6基、発射されていた。それを止めるべくミサイルに向かってガトリングを20発ほど撃つが、効果は無かった。

 

『くっ………ベルカ!ミサイルが来るぞ、離れろ!』

『無駄ですよ』

『……これは………近接通信ジャミング(AM/JAA-153)!?いつの間に……!』

 

 機体のすぐ横に輝く球体が見え、その中央では浮遊性のジャミング発生装置が浮かんでいた。それを直視するとカメラにノイズが走り、まともに視界を確保できなくなってしまった。

 

『一つ答え合わせです。あなたが受けた目くらましの正体は、AC用ジャマーをカメラに直接当てた事によるものです。あなたは私との()()()()には勝てないんですよ。残念ですね』

『きっ………貴様!』

『まあ、勝てないのは知恵比べだけではありませんが!』

 

 レーザーブレード(KAGIROI mdl.2)を振り抜くデッドアイズから距離を離しつつ、バトルライフル(AM/BRA-125)で牽制する。左腕のジャマーをハンガーユニットのパルスガン(AU31 Kingfisher)に切り替えながら後退する。

 

 

 

 

 

 

 

『隙だらけだぞ!』

『なっ!?』

 

 ミサイルで怯んだカルナバルを直接蹴りつけるマイヤー。十数メートルほど吹き飛び、ビルの上から落ちそうになったカルナバルだったが、ブーストドライブによって落ちずに済んだ。だが、空中に飛んでしまったらカタリナの領域である。

 

『この時を待ってた………喰らえ』

 

 右腕のショットガン(KURENAI mdl.2)と左腕のパルスマシンガン(HATSUKARI mdl.1)を乱射し、相手の対地攻撃をかき消す勢いで散弾と熱エネルギーの雨を大量に喰らわせる。

 

『くっ!』

 

 弾幕の厚さに耐えかねてハイブーストで離脱するカルナバル。だが、それをやすやすと逃すマイヤーではない。回避先を読んで旋回し、肩部武装のロケット(SL/RCA-106)を至近距離で叩き込んだ。

 爆発で強くボディを打ち付けて動けないカルナバルにもう一度蹴りを喰らわせようとカタリナが爆煙を突っ切って突撃してくる。咄嗟に機雷を撒く事で牽制し、カタリナを近付けさせないようにする。

 

『……良いな。良い立ち回りだ。だが、それに意味はない。俺が全て潰す』

『やってみる?私の守りは絶対なのよ?』

『………絶対なんてないのさ』

 

 そう言うとマイヤーは、機雷にショットガンを撃ち込む。子弾の一つが命中すると、機雷が全て誘爆し、辺りは一面爆雷の硝煙に包まれて視界が遮られた。

 敵は狙撃型、そして自衛用に機雷を装備している。という事はミサイルに適さない射撃戦専用のFCSを装備しているに違いない。つまり高速で回り込まれるとこいつは何も出来ないのだ。機雷による爆発や硝煙による目くらましは、それをするための一瞬の撹乱に過ぎない。

 

『………しまった!そういう事!?』

『そういう事だ。じゃあな』

 

 焦ったベルカのジェネレーター装備部位に、左ハンガーのヒートパイル(Au-R-F03)を叩きつける。CE装甲に優れているACとはいえ、ヒートパイルの直撃ダメージは並大抵のものではなく、限界を迎えた装甲が自壊し、ジェネレーターが無力化された事で、戦闘の継続は困難とし、脱落となった。

 

『よし、射命丸を援護してやるか』

 

 パルスマシンガンを握り、文のいる場所へ飛ぼうとすると………。

 

 

 

 

 

 

 

 

『うーん学びませんねぇ、当たらないんですよ?』

『クソッ、なんでだ!間合いは合ってるはずなのに!』

 

 レーザーブレードやショットガンを振り回し、撃ってくるが、射命丸は先程からそれを難なく回避し、パルスガンによる継続的なダメージを与えていた。既にそれのせいで『デッドアイズ』にはガタが来ていた。

 

『……じゃ、そろそろ退場してください』

『なっ………なんだ、何が来る!?』

 

 文に向かってガトリングを撃ち続けて牽制しながら周囲に目を光らせる。それは、ビルの上から飛翔してきたもう片方のACからの、パルスマシンガンの斉射だった。被弾した時には、彼にとってもう全てが遅すぎた。

 

『レイヴン、待たせてしまったか?』

『ナイスタイミングですよ、マイヤー!』

 

 マイヤーの正確な射撃が『デッドアイズ』を貫く。それで彼は僚機がやられた事を察した様子だった。

 

『そ、そんな…ベルカがやられただと……!?』

『そういう事です。私達の勝ち、ですね』

 

 撃ち込んだミサイルによって怯んだ所に蹴りを叩き込む。既にパルスガンでダメージを受けていたデッドアイズにとって、蹴り一発は致命傷だった。喰らった瞬間、周囲のフレームが軋み、ひび割れ、破壊される音が聞こえてきた。

 

『冗談じゃない……俺達が、負けるなんて………』

 

 機体は爆煙に包まれ、応答が途絶える。安全装置が働き、ACの自壊がすぐに止むが、当の本人は放心状態だった。敗北を信じられなかったのだろうが、勝ちは勝ち、負けは負けである。

 

 

 

 

 

 

 

『勝者、レイヴン&マイヤー!今宵の勝利者に皆さん、拍手をどうぞッ!!!!』

 

『おおおおおおおお!!!!!!』

『すげえ、あのレイヴンってやつ、二連勝だぞ!!』

 

「あー、はいはい。じゃあ、私は帰りますよっと」

「やあ射命丸。今日は素晴らしい戦いだったな。これからも上手くやって行けそうだと思わないか?」

「おや、マイヤーさん。そうですね、私達はこのアリーナにおいて良きパートナーになり得そうです」

 

 選手控え室で会話を酌み交わし、マイヤーと別れる。翼と耳を隠して人間のように振る舞えば、文が天狗だとわかる者は少ない。

そして、彼女のスポンサーである古明地さとりは、そのわかる者の内の一人だった。

 

「お疲れ様です、射命丸さん。本日の報酬です、どうぞ。……それともう一つ、伝える事があります。目をつけられていますよ」

「目を……監視でもされているということでしょうか?」

「あくまでランカーとしての貴女を、という所でしょう。念の為に注意してくださいね」

「そうですか………わかりました」

 

 そう言ってさとりは帰っていく。こいしを見つけるのはまだかなり先になりそうだった。その間により良い武装や部品を購入せねばならない、そう考えると買うべきものの事で頭がいっぱいになった。

 

 そんな彼女が携帯端末の新着メールに気がついたのは、次のランカー戦が開催される三日ほど前、時間にして今から一週間後程のことであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本文:お前は俺が蹴落としてやる

 

 あまり調子に乗らない事だ。所詮ランカーとして名を馳せたとて、お前はどうせEランクから一歩も動けない。せいぜいその低き地から我々の揺るぎない絶対的な実力に見えるが良い。

 どうせ、理解は出来んだろうがな。貴様の負け犬じみた顔が目に浮かぶようだ。

 

 貴様を落とす者より

 

 

 

「あやや、どうも傲慢な人間らしい。もっとも、傲慢なところは私の上司にも似ていますか。フフ......」

 

 

 






 AC、カタリナ
 パイロット、マイヤー

 死別した許嫁の名を冠したACを駆る。

 ショットガン《KURENAI mdl.2》とパルスマシンガン《HATSUKARI mdl.1》、肩KEロケット《SL/RCA-106》によって、装甲の上から機体耐久値を削っていく、極めて攻撃的な武装構成。特に跳躍能力の少ない重装甲の四脚型、タンク型に高い攻撃性を見せるが、反面防御力を保持したまま機動性に優れる重量二脚、中量二脚には、ダメージレースに負けてしまう脆さも見られる。

 フレームはコアを除き、全てKEで構成されている。装甲に優れた頭部《HB-141》、装甲を強化した機動戦闘型CEコア《CC-208》、装甲に優れたダブルショルダータイプのKE腕部《AB-107D》、そして装甲を捨て機動力に特化した中量二脚《L2MB-122》による、TEに対する装甲を捨てながらも、自身の得意な相手には強く出られる構成になっている。

 スピードを確保するためブースターに《TOKONATSU mdl.1》を。EN容量の確保のため、残積載量が許す最も重いジェネレータ《MAKIBASHIRA mdl.3》を採用して、近距離戦闘でのEN回復を度外視した攻勢を得意とする。

 


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Old tale《Again》

 引き続きRDの話です。




 どこかに向かうヘリの下、牽引されるAC二機のパイロット達が話していた。それは、こちらの世界(幻想郷)について知らない彼等への説明を兼ねた雑談である。青年の声の主はRDという男、女性の声は博麗霊夢という傭兵だった。

RDの乗機『ヴェンジェンス』は、ヘリに回収された際、内部アセンブル機構のおかげで装甲などを総取替えし、武装や左腕も完全に回復していた。

肝心のRDは困惑していた。原因は霊夢より告げられた、非現実的な話にあった。

 

「...........じ、じゃあここは、オレの知らない()()()()って事すか?...........わかんないっす......別世界ってだけでも信じらんないっていうのに、そこでもオレたちの居た世界と同じこと(戦争)が起こってるんすね」

 

「まあ、そういう事ね。多分だけどアンタ達の居た世界の『概念』だとか『技術』だとかが幻想郷に()()()()()()()んでしょうね」

 

 それを聞いてRDは申し訳ないといった声色で霊夢に謝る。

 

「その......すみません、オレの世界の兵器が来たせいで平和じゃなくなったんすよね」

 

「アンタが悪いって言ってるわけじゃないわよ。元々、ここもかなり物騒な世界だったし、そもそも私は世界を一人でどうこうできる人間なんかいないって知ってるから」

 

「...........それは」

 

 RDの雰囲気が幾分か暗くなるのを、霊夢は感じた。

 

「なによ。言い難いことでもあるのかしら」

 

「オレはそうは思わないっす。変えられる人は変えられるんすよ、それもたった一人で」

 

「...........知ってるような口振りね」

 

「かもしれないっす。でもオレはその人の名前も性別も知らない、だから知ってるようで知らないんす」

 

そう言うとRDは大きくため息をついた。

 

「オレはね、アンタの事は良い人だと思ってる。今のところはね。でも、助けて貰っておいて言う事じゃないけど、簡単に他人は信用しないようにしてるんす」

 

「...........ま、ここじゃそれで正しいわね。良い判断よ」

 

「......悪いっすね」

 

 それ以上、二人は話そうとはしなかった。

 

「二人とも、あと一時間せずに着くから着陸準備ね」

 

 ヘリのパイロット、河城にとりの一言でRDと霊夢の二人がメインシステムを動かし、ACシステムが通常モードを起動した。霊夢のCOMユニットからは若い男性の声、RDのCOMユニットからは妙齢の女性の声がそれぞれ聞こえる。

 

『システム、通常モードを起動。あなたの帰還を歓迎します』

 

 聞き慣れたこの声が、しかし次の瞬間には敵が襲来してきた、という知らせを告げた。

 

『システム、スキャンモード。敵影を補足しました』

「敵......!?えーっと、にとり、さん?オレを降ろしてください!多分アレの狙いはオレ───」

 

 RDの言葉を遮るように霊夢の乗機『ハーモナイザー』が後方にスナイパーライフルを撃ち込む。弾丸が直撃した高機動型が墜落する。撃墜を確認してから霊夢がRDに言う。

 

「残念ね、RD。アイツらはアンタじゃなく『私達』を狙っているのよ。にとり!AC両機投下して!その後は急いで離脱!私とRDで全部仕留めるわよ!」

 

「わかった!」

 

 そうにとりが返すとヘリが少し揺れる。AC用ハンガーを動かしているのだろう。

 

「アンタ、戦えるんすか?」

「戦えるに決まってるでしょ!じゃなきゃこんな数相手にするの面倒くさいわよ!」

 

 霊夢がRDにそう言い放ったのを皮切りに、ヘリの揺れが最大級まで大きくなった。同時ににとりが叫ぶ。

 

「AC、切り離す!衝撃に備えて!」

 

 にとりの警告と同時に、RDと霊夢が着陸体勢に入る。軽くブースターを吹かし、衝撃を緩和しようとする。『ハーモナイザー』は速射型ライフルと軽量スナイパーライフルを構え、『ヴェンジェンス』はバトルライフルと速射ライフルを構える。

 

『切り離し終わり!二人とも頼むよ!』

 

「行くしかないんすか!?」

『行かなきゃやられるわよ!』

「ああ、どうにでもなれ!」

 

 RDが叫ぶ。

 

 ブースターを最高速に到達するまで吹かし、二機のACが着地する。砂塵に隠れていて見えなかった敵影は、しかしスキャンモードという便利な代物によって何処にいるかがよくわかる。

 

『そこ!』

 

 霊夢が二丁のライフルを撃ち込み、移動砲台を破壊する。直ぐに六機ほどの防御MTが弾幕を形成し、霊夢はそれを嫌って後方にハイブーストする。ヒートキャノンだけでなく重ガトリングガンやパルスガンなどの、『ハーモナイザー』が不得意とする種類の攻撃が飛んで来たためだ。

 

「俺が行く!」

 

 下がった霊夢を守るようにRDが前進し、ライフルとパルスマシンガンを乱射する。ライフルによる物理的損傷と、バトルライフルの着弾時に発生する化学反応による内部機構の破壊によって霊夢の取りこぼした敵を殲滅する。

 

『アンタもやるわね!』

「一応はね!」

 

 霊夢の近くに着地する『ヴェンジェンス』。

 

『《チッ!二機目のACとは、臆病風に吹かれたか》』

 

 正体不明の敵指揮官が二人に向かって罵声を発する。

 

『うるっさいわね、アンタも沈めましょーか?』

『《クソが......総員撤退、下がれ!》』

 

 その言葉を皮切りに、辺りを包み込んでいた砂塵が晴れていく。そこにはもう、何者もいなかった。

 

『嫌な気配が晴れた......?』

「......れ、霊夢さん?どうしたん───」

 

『ああ、そういう事ね!!』

 

 急に霊夢が叫ぶので、RDは驚いてしまった。

 

「な、なんすか!急に叫んで!」

『妖力よ!アイツら、妖術で薄く風を起こしていたんだわ!ああ、ようやくすっきりした!』

「よ、よう......?えっと、何を言ってんすか?」

 

 RDが聞き慣れない単語を聞いて首を傾げる。

 

『あ......っと、そうね、()()()()()についても教えるべきかしら』

「......頼むっす」

 

 彼がそう霊夢に頼むと、霊夢は咳払いしてから話し始めた。それは、まるで御伽噺を子どもに聞かせるような、どことなく優しい話し方だった。

 

『かつて...この鉄くずが来る前ね。元々幻想郷というのは古くから存在していたの。賢者が妖怪の住む場を守るために、この世界を作った』

 

「世界を......作る?そんな事が......」

 

『出来たのよ、紫はね』

 

 RDの、信じられないというような声色の独白を、しかし否定する霊夢。

 

『そのまま妖怪......人とは違う、強くも弱い生き物が生きていけるように、紫は幻想郷の中に取り決めと秩序を作った。それが『人里』。人間が妖怪に襲われないように作った、安全な世界』

 

『妖怪は人の恐れを糧に生きる。でも、アーマードコアが幻想郷に入ってきたせいで、人間は妖怪を恐れなくなった。でも妖怪は生きている。なんでだと思う?』

 

 霊夢が聞くが、RDには答えがわからなかった。

 

『答えはね、()()()()()()()よ。元々人には妖怪というのは漠然とした存在でしかなかった。漠然としていて、でも確かにそこにいるという存在が、人々に恐れを抱かせた。でもACのせいで妖怪を恐れなくなった人々は、妖怪と人間とで戦争を起こしたの。最初はACの圧倒的な強さに人間は勝ちを確信したわ。でもACを扱えるのは妖怪達も一緒。そうすると、次第に人々の間に新たな恐怖が芽生えたわ』

 

「それは......?」

 

 RDが聞くと、霊夢は少し溜めてから言い放つ。

 

『死の恐怖よ』

 

「死......」

 

 過去の自分に思うところでもあったのだろうか、RDは霊夢の放った死という言葉を繰り返した。

 

『昔はね、人里にいれば人間は安全が保証されてたの。古くからの制約で、妖怪は人里の中にいる人間を襲えない、そういう決まり事が。でも今は個々が力を持つ時代。賢者の持つ力も、最早間に合わない。だとすれば人里という安全な結界は潰えたも同然、妖怪はいつでもその隙を狙えるの。人と妖怪が殺し合う世界、紫はそんなの望んじゃいなかったわ』

 

 霊夢の消え入りそうな声が辺りを包み込む。

 

「人間は......どうなってるんすか?」

『今は()()妖怪と均衡を保ってはいるわ。この辺りもいずれ話しておきたいわね』

 

『こちらはにとりだよ。霊夢、よく無事だったね』

 

 気が付けばにとりの操るヘリは既に二人の真上にまで辿り着いており、二人の会話の終わりを待っていたようだった。霊夢は早めに話を切り上げた事を良い判断だと思った。

 

「にとりさん、そっちも無事で良かったっす」

『とりあえず帰りましょ。こんな所にいたら肺が腐っちゃうわよ。RD、アンタうちの神社に来なさい。私の右腕になってもらうからね。アンタのお陰で休みなのに無駄に疲れたわぁ......』

 

 霊夢のその身勝手な物言いが身内の誰かに似ていたのだろうか。RDは霊夢のその発言を受け入れた。

 

「良いっすよ。霊夢さん、アンタは似てる、オレの大切な家族に。だからアンタについて行く」

『あら、アンタの家族に似てるのね、私は。良いわ、それならRD。私はRDの事弟みたいに扱うから』

「...........勘違いしてないすか?大切な家族って言っても姐さんは別にオレの()さんじゃないっすよ」

 

 RDのその言い方が悪かったのか、霊夢は意味がわからなくなってきて頭を捻っている。

 

『......??変な言い方をするのね。姉は姉でしょ?』

『あー、RD。霊夢は弟か妹を欲しがってたんだよ。そういう事だから仲良くしてあげてやってくれ』

『ちょっ!?それは言わないでよ!!』

 

 にとりに思わぬ形で願望を暴露された霊夢は怒鳴った。RDが苦笑いしながら返事をした。

 

「あ......あー、ハハ、ああ。なるほど。了解っす」

『アンタも乗らない!......あぁ!もう!』

 

 そしてRDは霊夢の住まう博麗神社へと連れて行ってもらうこととなった。それにしても、彼等は相当に戦い慣れしているのだろう、戦いの終わった直後にしては、随分と朗らかだった。

 

 




 RD(その2)

 死を体験した事で、死に関して非常に理解を得た。それはある種、達観に近いもの。
 愛機の『ヴェンジェンス』はバトルライフルとライフルを装備した中量二脚機。軽快な動きで敵を撹乱する役目を果たし、いざという時には背部に折り畳まれている()()()()を用いて、一撃決殺の最終兵器となる。
 また重量の都合上、蹴りに多大な威力が乗せられるため、近接戦闘もある程度こなせる。明確な長所、そして弱点が浮き彫りになっている機体。


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Mechanized being 1《Again》

 霊夢と魔理沙のコンビが、様々な誰かと共闘して戦いを求める傭兵達と戦うお話です。第一話。

(名前の間違いが)大きすぎる......修正が必要だ


 博麗神社の地下、博麗ガレージにてAC用のライフルを改造する者がいた。霧雨魔理沙という青年は、界隈では紅白の巫女と並び恐れられるAC乗りとして有名であった。

 

「霊夢ぅ〜。こんなもんで良いか?」

「知らないわよ。魔理沙の塩梅で決めて」

「なんじゃそりゃ!適当な事言ってたら友達無くしちゃうぜ。ただでさえ世知辛い世の中なんだから」

「うーん......じゃあそんな感じでいいんじゃない?」

「じゃあってなんだ、じゃあって」

 

 そう言いながらも魔理沙の表情は満足気だった。さっきまでやっていたのは武装の改造。ライフルを昇華させ、『ガトリングの速射性能とライフルの汎用性を合わせた銃』を作っていた。武器を改造するなど初めての試みだったが、その出来は素晴らしいものだと確信していた。

 

「ほら、出来たぜ。ガトリングライフル、とでも言えば良いのか?」

 

 作業用MTから降りてきた魔理沙がその武器の出来栄えに満足している。霊夢もそれを見ると、思わず感嘆の声が漏れた。複数の銃口と長い銃身によってガトリングに比べ連射速度を犠牲に高い精度を得た新生ライフル。その誕生に立ち会った霊夢も魔理沙と同じく期待を胸に膨らませていた。

 

「構造としてはバレルを回転させて冷却しながら撃ち続ける、リボルバーのような形式を取ったぜ。これでガトリングよりは遅いけど、ライフル並みの威力と精度で連射できると思う」

「凄いわね......あんた本当に銃技師目指せるんじゃない?」

「勘弁してくれ、私はあくまでも傭兵。改造は副業だぜ」

 

 そんな事を言い合っていると、向こうの二番ガレージでも続いていた作業が終わったのだろう。ドアの向こうから見知った顔が覗いていた。

 

「二人とも!こっちは終わったよ〜。...........って、なーんだ、魔理沙も終わってたのかい?」

「にとり。そっちも終わったようね」

「終わったよ。私の自信作だから見て欲しいな」

「じゃ、行こうぜ。にとりの自信作が気になる」

 

 一番ガレージを出て二番ガレージに入る。そこで二人が目にした物は巨大な鉄の板。正確には、性質の違う金属板を幾つも繋ぎ合わせた、防弾性能の高いAC用のシールドだ。

 

「これがAC用の盾?随分と大きいわね」

「人サイズじゃないからね」

 

 そう言い終わってからにとりはそのまま水筒の中を飲み干した。喉を鳴らして飲み切るのを見て、二人も喉が渇いてきたようで、三人で地上に出ようとする。廊下に出てハシゴを昇る。ハッチを開けた先は、博麗神社の倉庫の中だ。

 

「相変わらず埃塗れだぜ......ゲホッゲホッ!」

「そうね。いつか掃除しようかしら」

「いつかと言わず今やれよ......」

 

 小言を吐く魔理沙を後目に霊夢が倉庫の扉を開ける。外の空気は美味かった。特にここ博麗神社は、荒廃した幻想郷において珍しく自然の残る土地である為に。

 

「うぅ......ん!あぁ、やっぱり作業の後の背伸びは気分が良いわね!なんというか気持ち良いというか......」

「お前だけだぜ、作業してないの...........」

 

 魔理沙がため息がちにツッコミを入れるが、霊夢は全く聞いていない様子だった。最後に戸締りを終わらせたにとりが外に出てきた。にとりも顔についた油汚れを手袋で拭ったり汗を裾で拭いたりしている。夜通しの作業だった為に空気が非常に美味い上、冷たい風が地下に籠っていた三人の暖まった身体をちょうどよく冷ましてくれる。皆が皆、最高の気分の中で外を満喫していた。

 

「そろそろ入ろうぜ。あんまし冷えたら風邪引いちゃうぜ」

「そうね、にとりはどうする?」

「私も行くよ、特に外でする事も無いし」

 

 そう言って三人が続いて神社に入ると、ちゃぶ台の上に封の切られていない封筒が一枚、乗っていた。

 

「あら、誰のかしら?」

「私のじゃないぜ」

「私のでも」

 

 魔理沙が否定し、にとりも首を振る。それじゃあこの封筒は一体誰のだろう?と、そこまで考えてから答えがわかった。

 

「...........紫ね」

 

 封を切る。中にはやはりと言うべきか手紙が入っており、それはやはり八雲紫からの手紙だった。

 

 

 

 

『霊夢へ。最近になって各地の傭兵や組織の戦力を潰し回っている八人組のAC乗りが、巷で噂になっているらしいわ。その八人はとんでもない強さで、四人がかりで臨んでも敵わなかった相手なのだそう。しかも彼らは特定の相手を狙う訳でもなく無差別に攻撃を仕掛けることから、()()だけが目的と考えられるわ。幻想郷にとっても由々しき事態よ。これの討滅を依頼します。八雲紫』

 

 

 

 

「霊夢、中身は?」

「そうね................八人切り、ってところね」

「実戦か!じゃあガトリングライフルとシールドを装備していけよ。私は私で新作を用意してるから」

 

 そう言って魔理沙は魔法の森に帰っていく。

 

「にとりは?」

「私は操縦適性がないから待ってるよ。霊夢の強さは知ってるし、新しい武装の設計でも考えとくよ」

 

 そう言ってにとりはまたガレージ内に戻っていった。霊夢だけがここに残される。ACを取りに行く為に、にとりの後に続いてガレージ内に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「巫女が動いた」

 

 暗がりで何者かが話している。

 

「巫女か......俺が出よう」

「皐月か。我らの大望を果たす為、頼むぞ」

「任せろ」

 

 皐月と呼ばれた男は暗がりで赤い双眸を光らせ、その奥へと消えていった。彼の背を見送った男もまた、闇の中へ姿を眩ませる。誰もいなくなった部屋に、新たに四人が入ってくる。

 

「僕こそ巫女を殺すのに相応しいと思ったのだがな」

「そう言わないでください、如月さん。貴方にも役割があるのですから」

 

 そう言われて如月と呼ばれた青年は残念そうに項垂れる。その表情は、しかし笑っていた。

 

「その通り、弥生も言っているように、僕にはやるべき事がある」

「フン......如月、貴様も私と同じ()()の癖に」

「うるさいぞ文月。お前と僕とじゃ格が違う」

 

 二人がいがみ合うのをただため息をつきながら見つめている弥生ともう一人。月の名を冠する彼らを束ねる立場にあるのか、そのもう一人の男が口を開いた。

 

「お楽しみの所悪いんだけどさぁ、喧嘩はちょっとやめてくれる?キサラギ君、フミヅキ君」

「っ...........睦月」

 

 文月が警戒するような口振りでその名を呼ぶ。睦月と呼ばれた男は鋭い眼光を二人に向け、黙らせた。

 

「そ、大人しくしてれば良いんだよ。んじゃ、作戦会議!三人は巫女と戦うサツキ君、どうなると思う?」

「さぁな。奴が負けたら僕が出るだけだ。その時は二人で挑む事になるな」

 

 睦月の発言に如月が曖昧な返答で返す。仲間意識の低い発言に、文月が少し諌める。

 

「おい、私達は仲間だ。とどのつまり同じ存在なのだから、皐月の無事を祈るのが当然だろう」

「そうですよ、如月さん。八人で一つの私達なんですから」

 

「ふん......僕は群れるのは嫌いなんだ」

 

 困ったな、という顔をする弥生と文月。睦月はそんな協調性の無い空間に居合わせた事が面白かったのか、小刻みに肩を揺らしながら笑う。

 

「ハハハハッ!まあ皐月なら丁度いいんじゃないかな、巫女の相手にはさぁ。負ける事も無いだろうし!ハハッ!」

「僕はそこまで言っていないが......」

 

 如月が呆れ返ったような口調で睦月の方を見やる。その目は笑っておらず、口だけが笑い声を紡いでいた。その不気味さに、睦月を見た三人は固唾を呑む。

 

「...........と、とにかく僕は妖怪の山に行く!すべき事があるからな。弥生、君も来るか?」

「はい。私も行きましょう、如月さん」

 

そう言って二人がその部屋から出ていく。

 

「睦月殿。卯月と水無月と長月の三人は今何を?」

「あの三人?あの子たちはねぇ、今は...........おっ、『クレーター』と殴り合ってるらしいよ?」

 

 睦月は「じゃあ後でねー」とだけ言い残して部屋を出ていった。部屋に残ったのは文月だけになった。文月は誰かに電話をかけている。回線が繋がるやいなや、その名を呼んだ。

 

「葉月、聞こえるか?全くあの方にも困ったものだよ。準備はどうだい?」

「...........」

「そうか。私も今から行く所だよ。君は?」

「...........」

「はは、そうだったか。それなら一緒に向かおう。何時出るか決めたら言ってくれ。その時間に合わせる」

「...........」

「ああ。じゃあまた後で」

 

 通話を切って扉のノブに手をかける。文月が部屋を出ていったことで、その場に残る者はいなくなり、暗闇をまた静寂が支配した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神々の古戦場。そう渾名された平原には数多の残骸が転がっている。何の動きも見られない機体があれば、煙を噴出していることからも最近壊されたと分かる機体もある。

 死屍累々の地獄の中、3機のACが睨み合っていた。一方は紅白と白黒の二人組、博麗霊夢と霧雨魔理沙。もう一方は所属不明のAC。月を象り、その円環の中に数字が刻まれている。『伍』と表記されているその機体は角張った形が特徴的な、軽量逆関節機体だった。カラーリングは濃い深紅と灰色だ。

 

「お前が巫女か」

「そうなら何?私は貴方に用はない、退いて」

「俺にはある。死んでもらおう」

 

 そう行った『伍』の男が、高機動型ACに使われるようなブースターを過剰動作させて左右へ高速移動を繰り返し、ターゲットを絞らせない動き方をする。その動きを見て魔理沙が叫んだ。

 

「なんだ!?霊夢、あいつの動きを見ろ!」

「人外ね......あれじゃ()()が無事じゃいられないわ」

「どうなってんだ...........!?」

 

 魔理沙の声色に焦りが伺える。人を辞めたその動きは、例え霊夢でもそうおいそれと出せるものでは無い。それを圧倒的な頻度で繰り返している『伍』の男は正しく『人外』と呼ぶに相応しかった。

 

「霊夢!やるなら挟み撃ちだ!あんな動きの奴を個々に相手してちゃ、幾ら何でも無謀だぜ!」

「そうね!これはちょっと焦らされるわね......」

 

 霊夢の機体『ハーモナイザー』が敵を捉えるために接近し、魔理沙の『ギムレット』がスナイパーキャノンを構える。ギャァァァン......と、鋭い銃声が戦場に響く。しかし当たらず、弾は『伍』のギリギリ真横を通っていった。

 

「ダメだ、避けられる!」

『落ち着いて狙って!私が引き受けるから!』

 

 霊夢の叫ぶような返答に、この男が相手では余裕が無いのだということを認識させられる。あの百戦錬磨、常勝無敗の紅白の悪魔が『余裕が無い』だなんて、相手は相当な化け物か。そう思わずにはいられなかった。

 二発目を撃つ。確かにACを捉えていたそれは、しかし超人的な反応によって避けられ、二発目もまた外れてしまった。何発撃っても避けられる、そう感じる。

 

「霊夢、ダメだ!当たらない!」

『狙い続けて!』

 

 激励され、魔理沙は三発目を狙う。

 

 霊夢もまた、目の前の強敵に冷や汗を流しながら応じていた。右に動けば左に避けられる。銃弾を撃ち込めばあまりにも急すぎる方向転換によって尽くが当たらずに抜けてゆく。

 

「......ったく、本当に化け物ね...........」

『巫女、お前は強者だ...........久しく味わっていなかったぞ、この感覚』

「うるさい、とっとと潰れた方が身のためよ」

 

 そう返しながらも、その表情からは平静さが消えている。焦りこそしないものの、あまり長い間戦ってはいられないと本能的に察していた。『このままじゃ負ける』と。だからこそ、冷静に、平静さを持って臨む。死地において焦りはすなわち死。それを霊夢は誰よりも良くわかっていた。

 

『ふ...........巫女、お前こそ俺のコレクションにふさわしい。お前を死出の行に加えてやろう!』

 

「なっ...........!?」

 

 霊夢は絶句する。この男()()()()()()のか!?

 

「(ダメだ......だめ、負ける!)」

 

 負ける、つまり殺されるという焦りがミスを産む。それがわかっていて尚、霊夢は直感的に敗北を悟ってしまった。

 

『ふん、さらばだ巫女...........ぬうっ!?』

 

 戦場に鋭い銃声が()()響き渡る。それは魔理沙の的確な射撃。当たらなかった『伍』に、唯一寸分の狂いもなく当てられるタイミングを、伺っていたのだ。親友の危地という状況すら狙撃の為の足がかりにして。

 

 スナイパーキャノンの大口径弾は正確に『参』のACの胴を撃ち抜く。コクピットは既に破壊された。

 

 

 

 だが、それでもACは止まる気配を見せなかった。

 

『嘘だろ!?パイロットは死んだ!!なんで動けんだよ、こいつ!霊夢逃げろ!正真正銘の化け物だぜ!』

「......もう遅いわ」

「...........えっ......?」

 

 霊夢がそう言葉にした途端、魔理沙がそれに反応する前にACが動いた。逃げ遅れた霊夢の『ハーモナイザー』に、()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

『ま、さか................お、おい!嘘だろ霊夢っ......!』

 

 呼びかけるが応答は無い。砂塵で良くは見えないが、魔理沙にはわかってしまった。霊夢が()()()事を、そしてあの化け物が圧倒的すぎるという事をである。だが、それでも魔理沙は止まれない。親友を失って、おめおめと逃げ帰っては一生の後悔を産む、そう思ったからだ。

 

『お前っ......お前えぇぇッ!絶対に!許さないッ!!!』

 

 そんな激昴する魔理沙を、興味無さげに見やる『参』。

 

『ふん...........所詮は小娘か』

『うるさいっ!死ねえッ!!』

 

 四発目のキャノン弾が空間を裂きながら『伍』に迫る。......だが、先程当たった一発がまぐれだとでも思わせるような動きで避けられる。

 

『くそっ、くそおっ...........!当たれ、当たれよ!!』

 

 気が付けば目の前まで接近してきていたそのACに、魔理沙は叫ぶ。

 

『ふざけんなっ...........ふざけんなよお前ッ!!!』

『五月蝿いぞ娘。そろそろ黙っていろ』

 

二発目のヒートパイルを打ち込もうとする『伍』。

 

 

 

『─────なんてな』

 

だが、それを見越していたかのように魔理沙が動いた。スナイパーキャノンを捨ててパイルの弾頭に当てる事で爆発させ、その突き出した腕を引っ張り込んだ事で体勢を崩した『伍』の胴を二つに分断するかのように『()()()()()()()()()()()』を直接叩き込む。

 

『ほう......』

『...........終わりだぜ、バケモン』

 

 魔理沙のその一撃は精確に胴体を貫き、高出力のレーザーで真っ二つに斬り裂いた。その男の声が聞こえなくなったので、魔理沙はようやく勝ちを実感し始めた。

 

『終わった...........終わったのか、戦いが?』

 

 疑問だった勝利が確信へと変わる。本来なら勝利を喜ぶべきだったが、その喜びを分つべき親友の存在を思い出し、どうしても手放しで喜べなかった。

 

『霊夢...........』

 

 ハーモナイザーを見やる。機体の周囲には黒煙が舞っている。死んでしまった、そう思って魔理沙は帰ることにした。心の内は勝利よりも親友を失った事でいっぱいだった。

 

 

 帰途にあっても、魔理沙は未だに彼女の死が信じられないでいた。あれだけ強かった霊夢が、あんな一瞬で、しかも大多数の火力制圧のような()()()()()()()ではない。()()()()()()A()C()に敗れたのだ。それも邂逅してから30秒も経たずに。あの霊夢が。

 

 冗談だろ!?

 

 そう思っても声には出せなかった。魔理沙が信じていた霊夢の強さは、『機械化八人衆』等という組織の一人、たった一人にすら勝ち目のなかったものだった。それだけがわかっていて、しかし納得できなかった。

 並の人間が勝てない彼女が勝てない相手。そんなヤツらが居ていいのか。帰路に着く最中も、魔理沙はその事しか考えられなかった。

 

 

 にとりになんて教えればいいんだろう。

 霊夢が生まれていなかった時から博麗神社で暮らすにとりは、魔理沙にも並ぶほど霊夢の事を案じている者の一人。彼女が今、霊夢の死を知った時、どう思うだろうか。

 魔理沙はそう考えずにはいられなかったのだ。

 

 

 

 




 皐月

 月の旧暦、五月を意味する名を持つ男。
 コクピットを貫かれた筈なのに生きていたが為に隙を産んだ霊夢を倒し、魔理沙の一撃で倒れた、機械化八人衆の内の一人。全体的にCE耐性が高めの機体構成だったが二人の持つ武装にCE攻撃属性は無かった為、その装甲を活かせなかった。武装はパイルバンカーが二つ。肩部には何も積んでいない。


 河城にとり

 どうして博麗神社に住んでいるんですかね(すっとぼけ)


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愛しこの世

 今から少し前。まだ人里が『クレーター』として名乗りを上げるておらず、稗田阿求や彼女に与する穏健派が力を蓄えていた時の話だ。霊夢もまた傭兵として中立の関係を保っていた頃である。



 縁側には数年分の重みを纏った、今は最早肩書きばかりの博麗の巫女、博麗霊夢が座っていた。団子を齧って茶を啜るという日課を繰り返している彼女は突如として()()()に覆われる。不機嫌になった霊夢が、そこにいるであろう妖怪、八雲紫に話しかける。

 

「ちょっと。どういうつもり?わた──」

 

「『私はまだ日課の途中』なのよね。知ってるわ、そのタイミングを見計らって呼んだのだもの」

 

「『呼んだ』んじゃなくて『連れ去った』んでしょ」

 

 霊夢がそう反論すると、スキマの中に更にスキマが生まれ、その場所から紫は姿を現した。口元を扇子で隠して笑っている様子が霊夢の目にはより腹立たしく映った。

 

「本当にどういうつもりなの?」

 

 苛立たしさを隠そうともせず問いかける。

 

「いいえ、別に何かしようというつもりではないの」

 

「じゃあ何を──」

 

「『2年』」

 

「................?」

 

 そうとだけ言った紫を怪訝な目で見つめる霊夢。何を言っているかわからないので、そうするしかないのだ。

 

「2年で行動を起こさないと、きっと大結界は崩れるわ。私が()()()()()()()()()()()()()()()()もう5年は経つ」

 

 紫がはあ、と溜息を吐く。

 

「そうなった理由も想像に固くないわ。恐らくは...........」

 

 紫のその言葉に、霊夢が続けた。

 

「ま、十中八九()()()()()()んでしょうね。外は」

 

「そういう事でしょう」

 

 紫は少し溜めてから言った。そして黙り込む霊夢を後目に言葉を続ける。

 

「人間が全て死ねば、その時のものを覚えている者は誰一人としていなくなる。AIだって、()()はできてもそれを自身の意思で()()する事は出来ないのだから。それに、こちらに流れてくるものは膨大かつ、結界にすぐさま影響を与えるような危ない代物ばかりなの。それは機械や銃のような『モノ』だけじゃないわ。知識や技術、倫理観のような『概念』でさえそれは入り込んで来る。その果てが......」

 

「今の幻想郷?......外の人間も、妖怪や神に負けず劣らず随分と傲慢だったようね」

 

 そう吐き捨てるように呟いて霊夢は肩をすくめた。

 

「呆れた。こっちの身にもなって欲しいわ」

 

「本当にその通り。外の人間は異常な早さの進化に対応し切れず、我が身を滅ぼした。そして今、幻想郷のあらゆる人々が外の世界と同じレールの上を急速に走っている。まるで自ら滅びを望むかのように、ね」

 

「滅び......外の世界と全く同じ末路ってワケね」

 

「そういうこと」

 

 そして二人とも黙り込んでしまう。霊夢は団子の残りを齧り、紫も扇子を仰いでいる。時間にして10分ほど経った時に、紫が話を再開する。

 

「霊夢、貴女に私から最後のお願いをするわ。いい?」

 

「...........ま、面倒だけど、アンタには借りがあるからね」

 

 霊夢がぶっきらぼうに返すと、しかしその答えに紫は微笑んだ。次に霊夢が聞いたのは、彼女の口からはとても聞いた事のない声色だった。

 

 

 

 

 

「それなら、一つだけ。...........助けて、この世界を。私達の愛した、この幻想郷を...........お願い。これは貴女にしか言えない事だから」

 

 紫が珍しく、しおらしい声で霊夢に頼む。それは頼みと言うよりは、もはや希望、嘆願。そんな部類の呟きのようにも聞こえるものだった。

 

「......まったく、アンタのそんな声聞きたくなかったわ」

 

「霊夢......」

 

「良いわよ。私が守ってあげる。言わばこれは異変、なら博麗の巫女がこの異変を解決するのは、当然のこと。でしょう、紫?」

 

「.....!」

 

 紫の涙が、流れた気がした。

 

 

 



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Mechanized being 2-1《Again》

 霊夢が謎のAC乗りに撃破され、魔理沙が戦いから生還して既に二日間が経過していた。博麗神社に住み込む青年『RD』と共に始めると決めたのは復讐だった。






『バカね。私は死なないわよ。魔理沙も死なないし』

『そうだな、私達がやられる訳ないもんな』

 

 つい先日に霊夢と繰り広げた他愛ない会話が想起されて離れない。霊夢が愛機と運命を共にしてから既に数十時間。彼女は一日中、縁側に座ってぼおっとしていた。時刻は既に夕方に差し掛かるだろうという所だった。

 

「魔理沙さん、大丈夫すか」

「...........あ...あぁ、RD。私は大丈夫だぜ」

 

 そういって縁側から遥か景色の向こうを眺めている魔理沙。RDが隣に座って魔理沙の顔を見ると、何度も泣いたのだろう、涙のあとが鮮明に見える。RDは言葉を詰まらせた。

 

「................なんだよ。私の顔、何かついてるのか?」

「あ......えっと...........そうっすね......魔理沙さんみたいな強い人も泣くんだな......って思ってたっす」

「そうか...........私、泣いてたか」

 

 自覚のない涙を流すほどに、霊夢という存在は、魔理沙の無意識下にまで浸透しているのだろう。

 

「その......オレ、大切な人が死んでいった事は無いんで、励ましたりは出来ないっすけど。...........そんなに泣いて貰えるなら、霊夢さんも喜んでると思うっすよ」

「...........そうかな」

「きっとそうっす」

 

 そう言葉をかけた後、魔理沙はしばらく項垂れる。次に顔を上げた時には彼女はもう泣いていなかった。

 

「よし、RD!私に少し付き合え!」

「付き合えって...........良いすけど、何をするんすか?」

 

 すくりと立ち上がった魔理沙がRDに向き直る。涙のあとを拭い去った彼女の顔は復讐に燃え、しかし怒りを表には出さずに笑っていた。RDが質問すると、魔理沙はいっそうその笑みを深めた。

 

「もちろん、霊夢の仇討ちに決まってるだろ?」

 

 そう言って魔理沙は、RDに向かって地下のガレージに着いてくるよう促す。RDもそれに従って魔理沙について行った。倉庫の中には新たに4つ目のガレージが増設され、そこには魔理沙の『ギムレット』、RDの『ヴェンジェンス』、そして空きが二つある。

 

「仇討ち......それ自体は良い案だと思うっす。でも誰が霊夢さんをやったのか、わかってるんすか?」

 

「目処は着いてる。アイツの機体には『伍』って描かれてた。『機械化八人衆』は月を象っていると聞いた事がある。一月から数えていけば『伍』は皐月にあたる。だから私達は機械化八人衆って奴らを狙えばいいんだぜ」

 

 RDが、聞いたことがないと言うかのような表情を見せる。

 

「ん.....聞いた事ないのか?...それもそうか。ここに来てまだ一週間も経ってないしな。教えてやるぜ、ついて来てくれ。歩きながら話そう」

 

 

 

 

 

 

 

 地下道を歩きながら魔理沙が話す。

 

「機械化八人衆ってのはな、人狩りの集まりだ。一人一人が理不尽に強くて、しかもそれが八人もいる。───ああ、今は私達が一人殺したから、正確には七人もいる。噂では十機のACを相手にたった一機で向かって殲滅したとも言われてるな、現実は定かじゃないが」

 

 そう言って魔理沙が肩を竦める。RDはその話を聞いて肩を震わせた。

 

「そんな化け物がいるんすか......ここに」

「出てきたのはつい最近らしい。だから戦う時は出来るだけ囮と本命が欲しい。そこで、『ミグラント』って連中に依頼しようと思って。金はあるからな」

「『ミグラント』?........つまり、傭兵ってことすか」

 

 RDが確認するように聞く。

 

「そ。自称『腕利きの集まり』。アイツら大した事ないんだけど、数だけは多いからな」

「数だけは......まるでオレが元々いた場所みたいすね」

 

「じゃ、行こうぜ」

 

 魔理沙の言葉と同時にACに乗り込む。ブースターを吹かすと、周囲が地下特有の埃に包まれ、埃の煙の中から一閃の光が差す。ガレージ側面の射出口が開いたのだ。

 

『カタパルト用意良し。RD!私から離れるなよ!』

「わ、わかったっす!」

 

 カタパルトがACの飛行を後押しする。射出口から白黒のACと赤茶色のACが姿を見せる。

 

 一人は霊夢の相棒だった傭兵、霧雨魔理沙。もう一人は外の世界の住人にしてAC乗りである、RD。

 魔理沙の駆るACはギムレット。重量二脚の中距離射撃タイプで、TE耐性が高めのバランス型機体である。武装もパルスマシンガンやバトルライフル、ガトリングといった基本的な装備で固めている。

 

 RDが乗るACの名はヴェンジェンス。中量二脚の近中距離射撃タイプで、こちらは全てのパーツがKE耐性を重視している。武装はパルスマシンガンとスナイパーキャノン、CEロケット。目玉は右肩に装着されている巨大イレギュラー兵器『グラインドブレード』である。

 

傭兵達が、汚染された大気を切り裂くように空を飛び、そのブースターから青い炎が吹き上がる。安定して飛行可能になった所で魔理沙がRDに話しかけた。

 

「そういや、その機体はどんなコンセプトでアセンブルしたんだ?ずっと気になってたんだけど」

 

「これは...........わかんないっす。オレのじゃないんで」

 

 RDがそう返すと、魔理沙は不思議そうにもう一度問いかけた。

 

「うーん......どうしてだ?ACに乗ってるって事は、つまりお前のACってことだろ?」

 

「えーっと...........その、凄い言いにくい話なんすけど。コレって元々オレの機体じゃないんすよね......ほら、ACってパーツ自体が貴重品じゃないっすか。だからオレの居た世界ではパーツは余さず回収するんすよ。コイツも企業の連中が拾ってきた物を譲り受けただけなんで......」

 

「企業?って、どんな奴なんだ?」

 

「そうっすね......ヒトコトで言うなら『最低野郎の集まり』すね。アイツらの正体はわかんなかったんすけど、兎に角窓口のヤツからしてもうヤな奴らでしたよ」

 

 そう言ってRDはため息を吐いた。

 

「じゃあ、それは元々は誰のなんだ?」

 

「...........昔。って言っても、体感ではまだ半年も行ってないんすけど。オレたちはレジスタンス組織に加担してたんす。オレの姐さんがね。その時のレジスタンスのリーダーが考えた作戦で敵は殆ど殲滅できてたし、勝利も目前だった。でもその時現れたんす。...........あの人が」

 

「あの人?」魔理沙が聞いた。

 

「企業の人間でもない、シティの人間でもない。ただの傭兵。でも多分、オレが知る中で最強の傭兵っす」

 

 そんなに言うほどの存在なのか、と魔理沙が息を飲む。それからのRDの言葉に彼女はすっかり聞き入ってしまった。

 

 彼はたった一人で無数のACを撃破し、損傷を受けた状態から無傷で生還を果たし、五分以内に数多の飛行兵器を撃ち落とし......果てには自分との一騎討ちを制したと。そのRDが見、実際に受けたその腕前はまさに最強と呼ぶに相応しいものだったという。

 

「...........と、こんなとこっすかね。とにかくあの人は絶対に負けないんすよ。どんなに危険だって感じる戦場でも、絶対に死なない。装甲列車を倒せる傭兵なんてあの人くらいだし......」

 

「ACにも勝てない相手がいるのか?」

 

「装甲列車の事すね。アレをACにやらせる人は正直まともじゃないっすよ。無理無理、アレに勝てる人なんてあの人以外にはいないっす」

 

 魔理沙がその存在を想像する。とてつもなく強い相手、一体どのような人間なのだろうか。それは若しかすると機械化八人衆にも勝てるのかもしれない。

 そんな事を考えているうちに、もうじき人里近くの寺、命蓮寺に辿り着く頃合いになっていた。

 

「お、おいRD。もうそろそろ着くぜ」

「あれ、もうっすか?案外早いっすね」

 

 ただし、寺と言っても寺自体に用事がある訳では無い。隣にある『ミグラント』の集会場が目的地である。

 

 ACが近付いて来たのを見て、入口に立っていた警備隊のACが銃を向ける。男の声で警告してくる。

 

『止まれ!それ以上の接近は敵と見なすぞ!』

 

「撃つな!私は依頼に来たんだぜ!」

 

 魔理沙のその声を聞いて、その警備ACは銃の構えを解いた。

 

「......もしかして魔理沙か?」

 

『いかにもそうだけど......誰?』

 

 そう言うと男はコアのコクピットを開き、顔を見せる。

 

『俺だよ!俺!ジャック・ゴールディング!お前のライバルにして同い年の傭兵!忘れたか?』

 

 魔理沙にとって、かつて何度も顔を合わせた事のある傭兵が姿を見せた。よく見ればその機体も、CE耐性の高いパーツを多く使っているAC『フレイムフライ』だった。

 

「ん......あ、ああっ!お前、あのジャックか?お前フリーランスでやってくんじゃなかったのか?なんでミグラントなんかに所属してんだよ?」

 

『実は俺さ、魔理沙が里からいなくなったあとに気付いたんだよ。お前の存在が、皆の支えになってたってよぉ。だから俺様がお前の後を継いでやろうかなってな!悪くねぇ考えだろ?』

 

 笑いながらそう言うジャック。思わぬ旧友との再会に、魔理沙は思わず笑みを零す。

 

「生意気言ってコノヤロー......それに、ミグラントに属してる理由にはなってないぜ」

 

『そいつは...........ほら、日本語で『強いものには巻かれろ』って言うだろ?それだよ』

 

「なるほどな......見栄っ張りのジャックにしては懸命だ」

『うるせぇ、ほっとけ!』

 

 二人が笑い合っているところに入りづらい空気を出すRD。魔理沙もそれに気付いたようで、ジャックにRDの事を紹介する。

 

「そうだ、今の相方を紹介するよ。ほら、RD」

 

『あ、アンタが新しい魔理沙のパートナー?』

 

 魔理沙とジャックが、RDに視線を向けてくる。RDは魔理沙に目配せした後、ジャックに向かって名前を言った。

 

「オレはRDっす。よろしく」

 

『おう、RDか!よろし...........ん!?』

 

 RDの機体に目を向けたジャックは驚いたような声を上げた。RDにはその原因がわからなかった。

 

『................そ、そのエンブレム......間違いねぇ、あの黒い鳥だ!あんたがあのレジスタンスと組んでたっていうACなのか?』

 

 ジャックが一人で焦っている。

 

 RDには本当に何が理由で彼が焦っているのかまったくわからない。エンブレムは元々他人のものだし、その他人も傭兵ではないので彼の言っている事は正しくないと、RDはそこまで考えてやめた。いや、やめさせられた。

 

「自分から話振っといてアレだけどあんま時間とらんないんだよジャック。早くボスのとこに案内してくれ」

 

 魔理沙の声でジャックは我に返る。

 

『あ......おう。悪かった。こっちだ、ついて来いよ』

 

 そう言ってACをガレージ内に移させるために、ジャックが二人について来るよう促す。魔理沙とRDもそれに従った。ガレージの中、ACから降りながらRDが魔理沙に聞く。

 

「魔理沙さん......ミグラントって、いつの間に傭兵集団の名前になったんすか?」

 

「え?ミグラントってコイツらの事だろ?」

 

「えっ?」

 

「え?」

 

 情報の錯誤が生じ、二人の間に疑問が生まれる。

 

「え......ミ、ミグラントってコイツらグループの名前だろ?なんだよ、そっちじゃ違うのか、RD?」

 

「とんでもない、ミグラントは概念すよ。あらゆる傭兵はミグラントって呼ばれてて、デカいグループは別の名前で呼ばれるっす。例えば『MoH(メン・オブ・オナー)』とか『ビーハイヴ・ファミリー』って奴らとかっす。ビーハイヴはまだちっこかったらしいすけどね」

 

「じゃあ、私達もそっちではミグラントって扱いか?」

 

「そうっすね、そうなるっす」

 

 魔理沙が頭を抱える。

 

「頭が痛くなってきた......とりあえずボスのとこに行こうぜ」

 

「わかったっす......あの、別に気にしなくていっすよ。多分こっちの呼び方とは違う意味になってると思うっすから。行きましょうよ」

 

「うーん......おう、わかったぜ」

 

 しばらく考えていた魔理沙だったが、RDの一言で納得したのかいつも通り薄笑いを浮かべた表情に戻った。

 

 

 

 

 

 魔理沙とRDはジャックに続いて鉄扉の中に入る。重々しい扉が開いた先は厳かな雰囲気の漂う、今では珍しい大理石の内装だった。柱や床、壁に至るまで細部に金の装飾が施されており、おおよそ幻想郷の古い装いには似つかわしくない、西洋の建築物だった。

 

 三人が一番奥の扉の前に立つ。ジャックがノックした。

 

「ボス、入るぜ」

 

『入ってくれ』

 

 ジャックのノックに反応した『ボス』が彼に入るよう促す。ジャックはそれを聞いて笑顔になる。

 

「お前ら、良かったな!ボスは今日はいるみたいだぜ」

 

「いない事があるのか?」

 

「おう、よくやりすぎた奴らの粛清とかしてるからな」

 

「粛清...........怖いっすね、それは」

 

 RDが身を震わせる。

 

「はははっ、安心しろよ!ボスは皆に優しいんだぜ。殺すのは文字通り、やり過ぎた奴だけだ。この前も二人組の傭兵を襲った連中を切り捨てたとか言ってたしよ」

 

「二人組、ねぇ」

 

 魔理沙がジャックの言葉に首を捻る。

 

「あっと、立ち話してちゃボスの時間を潰しちまうな。入ってくれ、ボスが待ってる」

 

 ジャックがドアを開ける。

 

 

 部屋には椅子と机、来客用の椅子があり、机に向かうように『ボス』が座っている。彼は茶色の短髪をしていてサングラスをかけている。吸っているタバコを灰皿に押し付けて潰すと、ボスは魔理沙を見て話し始めた。

 

「君達が今回の依頼人か。要件を................いや、待て」

 

 ボスが視線を魔理沙からRDに移した時、その異変は起こった。ボスが話を中断し、驚いたような表情を見せたのである。ボスは驚きながらもRDに質問する。

 

「...........そこの青年、まさか君は......」

 

 ボスのその話し方や声にRDも感じ取るものがあったようで、彼のその問いかけをRDは促した。

 

「......な、なんすか.......?」

 

「お前は...........いや、君は......君の名前は、恐らく間違っていなければ......」

 

 ボスが言い淀む。

 

「オレに聞かせてください、オレがなんなんすか...?」

 

「...........お前は、ロザリィの子分のRDか?............レイ・ドミネイト、それがお前の名前じゃないのか?」

 

「......っ!まさか、アンタ...........」

 

「間違いない、という事だな。その反応から察するに。我々は一度、()()()()で会っており、何の縁かこの『幻想郷』に流れ着いた」

 

 そう言ってボスはサングラスを外す。その目付きは鋭いながらも穏やかさを感じさせ、それはRDが協力し、裏切った組織のリーダー『フランシス・B・カーチス』のものにそっくりであり、そして同時にRDが見た事のある目付きでもあった。

 

「アンタまさか『ジャック・バッティ』!?あの時にやられた、レジスタンスのリーダー......!?」

 

「なんだ、お前ら知り合いか」

 

 RDの叫びのような驚嘆の声に魔理沙は反応する。『ジャック・バッティ』は眉間のしわを少し深めながら、RDに向き直った。

 

「やはりそういう事か......まあ、良い。今は仕事の話だ。RD、君には私から端末を渡しておこう。後日君と話したい事がある。受け取ってくれるな?」

 

「あ......は、はい......分かったっす」

 

 前の世界で普及していた携帯端末を投げられ、それをキャッチするRD。端末を懐にしまうと、RDは話の続きを促す。ボス......もといバッティは話を続けた。

 

「さて......霧雨魔理沙だったか。君の噂は聞き及んでいるぞ。あの博麗の巫女と実力を競い合う程の腕前とな。そこで私から君たちに依頼がある。恐らく君と私の利害は一致しているだろう。すなわち──」

 

「機械化八人衆。......そういう事だよな」

 

 魔理沙が聞くと、バッティは頷いた。

 

「ヤツらには散々煮え湯を飲まされてきた。君を雇う事であの黒いACを駆る集団へ一撃を喰らわせよう、と私は計画している。無論その時には私も出るつもりだ」

 

「アンタ、強いのか?私からしたら50近いオッサンだぜ、アンタ。私たちに任せと───ムグッ!」

 

 話していた魔理沙の口を塞ぐRD。

 

「何言ってんすか魔理沙さん!この人は滅茶苦茶に強いんすよ、下手すればアンタくらいに!」

 

「そ、そうだったのか!?そういう風には見えないけどな」

 

「俺は一回この人の強さを見てるっすからね...........たった一人で9機のACを作戦中に撃破してるっす」

 

「9機......へぇ、なかなか強そうじゃないか。いつか刃を交えるのが楽しみだぜ」

 

 魔理沙がそう言いながら舌なめずりする。その様子を見たバッティは苦笑いしながら続けた。

 

「......まぁ、今はその事はいい。問題は君が依頼を受けて尚且つ部下と協働して敵へ攻撃してくれるか、という事なんだ。君に戦うつもりはあるか?霧雨魔理沙」

 

「...........あるぜ。親友をやられたんだ、黙ってるワケにはいかないぜ。なあRD?」

 

「え?......そうっすね。霊夢さんの仇討ちもしなきゃいけないし、何よりオレとしては不安は取り除きたいクチなんで......オレもACに乗れる人間っすから」

 

 そう言ってRDも、魔理沙の隣に立って頷いた。バッティはそれを見て口元を緩ませ、口角を上げて言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、君達に依頼する」

 

「ミッション概要は、最近無差別に傭兵組織やACを襲撃している、機械化八人衆の撃破だ───」

 

 




 ジャック・バッティ

 齢50という壮年ながら傭兵組織『ミグラント』のリーダーを務め、同時に熟練のパイロットでもある歴戦の戦士。乗機は明かされていない。



 次あたりにキャラクターとその搭乗機を纏めたもの出そうかな、と考えています。

 P.S.換気扇の音が定期的にKARASAWAに聞こえる。
 ピーピーピーボボボボ


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Mechanized being 2-2《Again》

『我々に雇われてくれえ助かった。君達が来てくれた事で戦力に余裕が生まれたよ、本当にありがたい』

 

『いいっていいって。今日はアンタんとこで鍋でも突っつこうぜ?...もちろん具は朱鷺だ』

 

「魔理沙さん、そんなに食べたら腹壊すっすよ」

『問題ない。私は胃だけは頑丈にできてるからな』

 

 RDが心配して魔理沙に声をかけるが、魔理沙はいつもの調子で問題は無いと答えていた。変わらない反応に苦笑いしつつもコクピットの操縦桿を握りしめ、バッティの指示を待つ。

 バッティの方を見遣ると、近くにいたACがバッティのAC『ヴェンデッタ』に報告していた。

 

『リーダー!AC部隊、第二分隊から第八分隊まで、UNAC部隊が三分隊、それぞれ有人AC21機、UNAC9機が集結しました!いつでも行けます!!』

『よし......みな聞け!作戦の最終確認だ!』

 

 報告を受けてバッティが呼びかける。バッティのモニターとリンクし、そこには現在位置と敵の予測位置、そして交戦予測地域が表示されている。HUDにポインタされた場所がズームされ、その場所はおそらく敵と戦うことになる廃ビル群だった。

 

『まずUNAC部隊を引き連れた軽量二脚の斥候AC部隊が突入、敵を隈無く探し出す!リコンやスキャナーで敵をマークしたら、残ったタンクと各二脚のACが突入、ACを撃破しろ!タンクはオートキャノンを使って弾幕を形成、中量二脚はタンクの直庵またはタンクが逃した敵の撃破だ!最後に四脚は後方から部隊の援護!...........各員、問題ないな!?』

 

『はい!』

『問題ありません!』

 

 バッティの作戦指示が終わったと同時に各パイロットから続々と通信が入る。『ミグラント』所属のACが31機、魔理沙とRDも加えて実に33機のACが戦場に集結している。

 

『壮観だぜ......これだけのACが集まってるんだ、ここまで濃密な戦場は史上最初になるだろうな』

 

 魔理沙が漏らした言葉にRDが続ける。

 

「みんな恐れていないように見えるっすね」

『まぁ、数で勝ればそのまま叩き潰せるとでも思っているんだ...........バッティ!私たちは何をするんだぜ?』

 

 魔理沙がRDに答えたあと、バッティに指示を仰ぐ。バッティは傭兵である彼女らのポテンシャルを最大限引き出すための指令を出した。

 

『君たちには軽量二脚、UNAC混合部隊に同行し、可能な限り敵を傷付けてくれ。負傷した場合は撤退しても構わん。ただし、もしも敵を撃破できた場合は追加報酬を約束する』

 

 追加報酬という単語を耳にした途端、魔理沙は目の色を変える。金に目が眩む訳では無いが、金が増えるという事は欲しいパーツが購入できるということでもあった。

 

『男に二言はない、だぜ。バッティ』

『ああ、約束しよう』

 

 そう言って魔理沙のAC『ドリズル』が前傾姿勢に入る。ブースターの出力が上昇し、点火まで秒読みだ。バッティもその様子を見て戦闘の始まりを確信し、部隊全員に突撃命令を下す。

 

 

 

『各員!生きて帰れ!!突撃せよ!!!』

 

 バッティが叫んだ。

 

『こちらランガー!突撃する!』

『ベスだ!行くぜ!!』

『こちらはアッシュだ、俺達が先行する!』

 

 軽量二脚の三人組が、UNAC機を引き連れて突撃を敢行する。タンクや重量二脚、逆関節機や四脚のAC達は軽量よりも遅いため、軽量二脚達は実質的な当て馬である。だが彼らがリーダー、バッティの指示を疑問に持たず従うのは、ひとえに彼への信頼の表れである。

 

『ドリズル、出るぜ!RD、ついてこいよ!』

「わかってるっすよ!」

 

 魔理沙とRDのACも軽量二脚の高速移動に合わせてついて行く。軽量二脚、重量二脚、中量二脚の中では軽量の脚部が最も早い為、即座に戦闘になるのは三人の尖兵である彼らだ。次いでRD、最後にUNAC機と魔理沙が戦場に到着する事になる。

 

 戦場で起こる波乱の予感、そして思っていたよりも早いタイミングで霊夢の仇を、再び自らの手で執行できる喜びに、魔理沙は震えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こちらアッシュ、敵影は確認できない」

 

 戦場に到着した三人の軽量二脚型ACは、しかしその廃ビルの群れの中には何も確認できなかった。

 

 アッシュと名乗った青と黄色のACを駆る青年が、敵が見えない事を告げる。彼の仲間である二人のACも、アッシュと同じように敵が見当たらないと言っていた。

 

『こちらランガー、同じくです』

『ベスだ。俺の方にも敵は確認できない。どうなってるんだ......皆、警戒しろよ』

 

 三人は固まらないように、リコンを設置しながら偵察している。怪しいと思った場所にリコンを射出し、丁寧にクリアリングを行っている。

 

『周囲に敵影は無い、このまま前進する。アッシュ、ベス、前進しよう、少しずつな』

 

「了解。ベス、警戒しろ」

『......』

 

 アッシュが警告するがベスからの返事がない。

 

「...........ベス?ベス!?」

 

 名前を叫ぶが何も聞こえなかった。

 

『おいベス!どうした応答しろ!!』

「クソ、通信だ!リーダーに伝えろ!一人やられた!」

 

 アッシュの叫びに反応して、ランガーは咄嗟に無線通信をオンにする。

 

『リーダー!リーダー、応答願います!ベスがやられました!後衛部隊の到着を急がせてください!』

 

 ランガーの焦りが伝わってくる。

 

『こちらバッティ!了解だ、行軍ペースを上げる!UNACの到着まで耐えろ、いいな?』

 

 無線が切れる。また静寂が訪れた。

 

「どこから来やがる......?」

『来るなら来い......返り討ちだ......!!』

 

 二人が警戒するが、二人のうちどちらの方にも敵は現れなかった。警戒を解かずに膠着して、早くも20分。カメラアイに何かが付着した。灰のように見えたそれは、あっという間に視界を覆う勢いで降り注いだ。

 

『なんだ......?隊長、灰です!灰が霧のように!』

 

 ランガーが叫ぶ。

 

「こちらでも確認できている。クソッ、警戒しろ!有視界戦闘はまず無理だ、FCSとカメラアイの補助機能を最大限まで活用するんだ!」

 

 そう言いながらアッシュはシステムをスキャンモードに変更する。ソナーが反射し、反応のあった場所がカメラモニタに投影される事で擬似的な現実空間を作り出した。

 

しかし、すぐに異変は起こった。

 

『隊ちょ......これ.......応答願いま......チャフ......混ざ..........』

 

 ランガーの途切れ途切れの通信が入り、辛うじて聞き取れた単語は『チャフ』*1の一言だけだった。

 

「チャフだと!?...........クッ、ダメだ、繋がらん!」

 

 チャフは無線を妨害するための金属片を多量に散布する機構であり、これの影響を受けた通信機は無線機の間に通る周波が妨害され、通信が途絶されるのである。

 

「数での不利を悟って、咄嗟にチャフ装置を展開したか......人形どもめ、中々頭のキレる......!」

 

『ククク......また貴様か、傭兵』

『哀れな、ここで果てる事になるとは』

 

 アッシュの耳に聞こえた声は間違いようがなかった。

 

 若い二人の男女の声だが、しかしノイズが走っていて時折聞き取りずらい印象を与えさせる。不気味な雰囲気の声だ。それは『機械化八人衆』のうち二人、卯月と水無月の二人だろう。

 

「チィッ...........こんな時に来やがるか、人形!」

 

『可哀想に、頼みのUNACはまだ来んか』

『後腐れなく死なせてやろう、喜ぶといい』

 

 UNACは来ないと男が、死なせてやると女が言う。

 

「くそ.................ランガー、無事でいろよ.....!」

 

 アッシュのその心配は、しかしジャマーのせいかランガーに繋がることはなく、安否確認の取れぬまま、最悪の戦闘が開戦されてしまった。

 

 アッシュが地面を強く蹴り上げ、一瞬にして高く舞い上がる。廃ビル群という地形をフルに活かした逆関節機体ならではの戦い方だ。飛翔しきった所でレーザーブレードを起動する。1メートルほどのレンジの高熱の刀身が、触れた建物を切り裂く。

 

 その勢いで壁を蹴り、ブレードを前に突き出して霧を払うようにチャフを焼いた。ブレードの超高熱によって切り裂かれた大気は消え、一瞬視界が鮮明になる。遥か遠くの距離に見えた敵は、じっと狙撃砲を構え続けて、彼が姿を現す時を待っていた。

 

「クッ!」

 

 咄嗟にハイブーストし、射線を切ろうと斜め後ろに回避する。

 

 一発の弾丸が飛来して、アッシュの装甲を簡単に引き裂いていく。高速で回避した為に致命傷こそ避けられたものの、ダメージは深刻だった。

 

「なっ......こちらの姿が見えているとでも言うのか...?何れにせよ、もう一発コアに当たれば即死か......!」

 

『どうした?仲間はもう呼べないのか、傭兵?』

 

「クソッ......!」

 

 アッシュが更に後方まで下がる。戦場にたった一人で残され、友軍との合流も暫く望めない。戦況は絶望的、どうするべきかとアッシュがその思考を巡らせる。

 

(例の三人だと言うなら恐らくはあの狙撃機はブラフ......囲んでくるか、さもなくば()()()()が後に控えてるか......何にせよ迂闊に攻めるとまずいな)

 

 そう考えながら霧の中を進み続ける。幾ら進んでも霧は全く晴れず、寧ろ一層その濃さを深めているように思えた。このままではいけないと、アッシュは歩みを止めずにリコンをばらまいた。

 

(引っかかってくれ......!)

 

 その思いも虚しく、アッシュはスナイパーキャノンによって穿たれ、コアには巨大な穴が空いた。機体が転がり続け爆炎に包まれるその様は、まるで操縦者を失ったようだった。

 

 彼にとって幸いだったのは、即死ではなかったが為に一瞬だけ思考の時間を与えさせてくれた事だけだ。どちらにせよ彼が戦いの末を見届けることはない。

 

「(狙撃......か.....わかっていた......事だと言うに......)」

 

 迂闊に行動してしまった事を悔いる。

 

「(魔理沙......後は.....頼......む...........)」

 

 その場にいない傭兵に後を託して、アッシュは息を引き取った。その死に顔は、眠るように穏やかだった。

 

 

 

 

 

*1
金属粉を多量に散布し電波を反射させることで、その周辺一帯に目標物が存在するかのように見せかける事ができる装置。また、電波を反射させるという特性を活かして無線通信を遮断することも可能。今回のチャフは霧のようであり、視界不良となるほどの濃度であるから、暫定的に『チャフ・コリダー(チャフ装置の回廊)』と呼べるだろう。




 アッシュ

 本名、M.D。26歳。
 イニシャルだけを名乗り、本名は決して教えようとしなかった。外の世界で一度死んだ身であり、幻想郷の姿を資料だけでしか知らなかった彼は、平和の為に傭兵組織『ミグラント』へと加入、ジャック・バッティの元で、その腕を存分に奮った。


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Mechanized being 2-END《Again》

(投稿)遅かったじゃないか......



『こちら魔理沙、あと5分以内に作戦区域に到着するぜ。おい、聞こえてるのか?』

 

 RDの遥か後方で魔理沙が先行部隊に無線通信を試みていた。が、その反応から察するにあまり良い状況とは言えなさそうだった。魔理沙が舌打ちして無線のスイッチを切る音がノイズに交じって聞こえてくる。

 

「どうすか、繋がったっすか?」

 

 RDが魔理沙に聞くが、彼女から返ってきた返答はやはりと言うべきか、予想通り良いものとは言えなかった。

 

『ダメ、繋がらないぜ。どうなってんだ?』

 

「とにかく油断しないように行きましょうよ。何かオレ、さっきから嫌な予感がするんす」

 

 そう言って身震いする。先程から悪寒が汗となって背筋を伝うのだ。今が冬場という事も相まって、冷や汗が体温を奪っていく。その原因は遠くの廃れた街にあった。

 前方に見えるビル群の中央部を覆い尽くしている、()()()()()()()。あの悍ましい雰囲気を孕んだ霧を見ているだけで、恐怖に敏感なRDは吐き気がするほどだった。

 

『お前が言うのなら、そうした方がいいかな』

 

 魔理沙が言いながらため息をつき、言葉を続けた。

 

『だがまぁ、やばかろうとやばくなかろうと、アイツら(機械化八人衆)は潰す。私はそう決めたからな』

 

「手伝うっすよ。最後まで、ね」

 

 RDが危険を顧みない魔理沙の様子をかつての存在に重ね、苦笑いを浮かべながら言う。魔理沙は笑いながらRDのその言葉に返した。

 

『良く言った。それでこそ私が右腕に認めた男だぜ』

 

 魔理沙がRDの隣にいれば手のひらを使って背中をバシンと叩くような、そんな印象の声音だった。

 

「右腕って......まあ、いいっすけど」

 

 RDが返す。その会話は復讐というテーマでなければ至極、平和なワンシーンだろうか。だがそれも、バッティから警告が入るまでのごく短い間だけだった。

 

『各部隊へ通達。先行部隊の戦力が低下している。最精鋭を破った奴らだ、交戦時には常に敵を意識しろ』

 

 バッティの物言いにRDは驚いた。

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!それじゃあまさか、前にいた人らはやられたんすか!?」

 

『恐らくは。......待て、何だこの反応は!』

 

 彼が叫ぶ。バッティが言うよりも前に咄嗟にレーダーを見やると、ビル群の中央が白い反応で覆われていた。これでは内部の様子が掴めない。

 

『全員レーダーを確認するんだ!高濃度のジャミング装置か?......兎に角警戒しないに越した事はあるまい。RD、君に斥候を任せる事になる。行けるか?』

 

バッティがRDに聞く。RDは冷や汗を流しながら答えた。

 

「やってみるっすよ......!」

 

 そう言葉を捻り出したRDが、その乗機『ヴェンジェンス』のブースト全てを起動し、超高速で移動(グラインドブースト)する。目標のビル群まで一分とかからない地点まで迫っていたが、そこまで来てRDの機体に異常が発生する。

 

「な......なんすか、これ......魔理沙さん!バッティさん!聞こえるっすか?応答してください!」

 

 ヴェンジェンスのカメラアイが異常な反応を見せていた。スキャンモードになっているはずのヴェンジェンスが、何故か戦闘モードに変えられていて、そのままスキャンモードに変更する事が出来なくなっている。システムエラーだった。

 

 それだけではない。味方が無線に応答しないばかりか、前方にはACの残骸が転がっている。それはまだ黒煙を吹いており、つい先程破壊された印象をRDに与えた。

 

「アレ......まさか味方機すか?」

 

 RDが恐る恐る近付く。武装や腕部、脚部などに大穴が空いている事から狙撃されたのだろうとわかるが、なんとコア部はまだ無事だったらしく、パイロットがしきりに何かを言っている。

 

『死神......死神......俺達を殺しに来たのか...........死神......』

 

「あ、アンタ!しっかりしてくださいよ!なにが......一体ここで、何が起こってるんすか!?」

 

 RDが叫ぶように言い聞かせるとパイロットは正気を取り戻したのか、RDの機体を視認できるように頭部をこちらに向けた。カメラアイがヴェンジェンスを見つめている。

 

『あ...........お前は......死神じゃないのか......?』

 

「落ち着いて、ここには敵は居ないっすよ」

 

 安心させるような物腰でRDが宥める。

 

『気を......付けろ...........死神は......機械の人間...........そうか...........そうだったのか......』

 

 パイロットは一人で何かを完結させてしまったのか、その独り言にRDが口を挟む余地は無かった。だが、今はひとつでも情報が欲しい。RDは無理やり言葉を捩じ込んだ。

 

「なんすか、機械人間って......アンタは何を知ってるんすか?教えてください」

 

『俺.......は......ベス......そこに転がってる......アッシュ.......』

 

「......え?」

 

 RDが後ろを振り向いた。ベスの指し示す先には、無残にもコアを貫かれたACが転がっていた。恐らくは即死なのだろう。RDは構わずベスから続けて何かを聞き出そうとする。

 

「......で、一体ここで何が起こったんすか...........?」

 

『俺達......敵を倒そうと、偵察してた......でも、ここ自体が罠だった......隊長は死んで、俺も仇を討とうと突っ込んだ...........けど勝てねぇ......アイツら、人を辞めてる................』

 

 そう言ってベスは咳き込む。そしてRDの方に向き直り、威圧するような声を発した。

 

()()

 

「...........えっ?」

 

 急にベスが重々しい声を上げて、RDは困惑していた。

 

『おい......()()()()()()()()()...........』

 

 まただ、また彼は不明な言動を......。

 

「何言ってるんすか!?オレは味方っすよ!?」

 

 RDが意図の読めない発言に───。

 

 

 

 

『ッ...........危ねぇ!!!!』

 

「なんっ......!?......うわっ!!」

 

 突然、ヴェンジェンスがベスに吹き飛ばされる。ブーストチャージのような威力はないが、ブーストさせて放つ蹴りはヴェンジェンスをノーダメージで吹き飛ばすにはちょうど良い威力でもあった。

 急に吹き飛ばされたRDは理解が追いつかなかった。

 

「......な、何するんすかアン......タ...........ッ!?」

 

 体勢を立て直したRDがベスに向く。しかし、そこに居たのはベスではなく、コクピットを貫かれて即死していた鉄の塊だけだった。アッシュ、そしてベス。彼らはこの地に躯となって横たわっている。

 

「まさか...........狙撃!?どこから!?」

 

 RDが周囲を見渡すが、敵の姿は確認できない。長距離からの狙撃なら、仕方ない事だ。そうしてベスに向き直って、ようやくなぜ彼がRDを突き飛ばしたのかわかった。頭の理解が追いついたのである。

 

「まさか、ベス......アンタ、オレを庇ったんすか...........?」

 

 RDが呆然としていると後ろから不意に悪寒が走った。咄嗟にハイブーストして避けると、狙撃された弾がヴェンジェンスのいた場所を通り抜け、ベスの亡骸に撃ち込まれた。唯一無事だったらしいジェネレーターも完全に機能を停止したようで、機体から駆動音が消えた。

 

『ほう......なかなか、勘の良い』

 

 そして聞こえる、女の声。機械的なその音声は、話に聞いた『機械化八人衆』なのだろう。霧に隠れていて見えないが、姿は補足されているだろう。

 

「アンタが......アンタらが、霊夢さんを......?」

 

『霊夢?......はて、そんな奴いたか......』

 

 女が挑発したような発言を取る。RDはその言動に、何より命の恩人を倒した奴が、ここまでの人間だったことに憤った。

 

『......もし居たとして、弱い事には違いない』

 

「...........あ?」

 

 そう言うと女の声は消え、周囲を恐怖が包み込んだ。RDが身構える。ヴェンジェンスも前傾姿勢になり、いつでも高速移動できる体勢に入った。操縦桿を握る手に力を込める。

 

『そのようなことに構っているぐらいなら、お前も戦うがいい!私は貴様を倒し、生きる!』

 

 RDはその発言を聞いて、遂に怒りが沸点を超えた。

 

「......ああ!?やってみろよ!」

 

 一瞬ヴェンジェンスが更に姿勢を落とし、そこから足で地面を蹴り、高速のブースト移動によって中量二脚でありながら軽量機並の速度を出すに至る。遠心力からかかるGのせいで視界がブラックアウトしかかるが、どうにか耐え、ただ一点に突き進み続ける。RDが常に嫌な感じを覚える地点、つまりは()()()()()()()()()()()()()に向かって。

 

 スナイパーキャノンの大口径弾が飛んでくる()()がしたので、右に避ける。予想通り弾丸はRDの少し左を通り過ぎていった。

 

『なっ......!?』

 

「......口先ばかりで、大したことない」

 

『っ......クッ、どういう事だ......?』

 

 次弾が放たれるが、それも直感によって回避する。敵の照準は未だにこちらを捉えているようだが、当たらないと思える。それはあの主任から教えられた勘の使い方によるものだった。

 

『何故だ、当たらん!?』

 

「アンタ、正直すぎる。だから当たらないんだ。狙いは正確かもしれないけど、イレギュラーに対応できない......そういう事でしょ!」

 

 そう言いながらスナイパーキャノンの弾丸を避け、進む。目標まで残り1kmを切ると、狙撃が止んだ。恐らく中距離戦に対応するためにスナイパーキャノンをパージしたのだろう。

 

「霧に紛れても無駄だってわかってるでしょ?......アンタは俺からは逃けられないって!」

 

『馬鹿な......!』

 

 RDとヴェンジェンスの前には、焦燥に塗れた彼女の攻撃は意味を成さなかった。狙撃だけでなく、霧や建物に隠れさせた機雷でさえ突破されるのだから、たまったものではない。セントリーガン等が設置されているのか、そこかしこからガトリングやバトルライフルに撃たれるが、建物の高さを利用して巧妙に射程外や射線の外へ逃れていく。

 

「(魔理沙さん、まだっすか......!?)」

 

 まだ到着する見込みの薄い魔理沙に思いを馳せる。斥候だけのはずが、先遣部隊がほぼ全滅しているとなると、かなり辛いものがあった。最悪一人で数機を相手にしないといけない可能性すらあった。だが諦めることはしない。死への恐れを取り払えた今は傭兵としての戦いに余計な感情を持ち出さずに済むからだ。

 

『今だっ!』

 

「えっ......うわっ!?」

 

 突如背後に悪寒を感じ取って右方向に高速移動するが、悪寒の方が一歩早かったらしい。左腕が切り落とされ、パルスマシンガンが霧の積もったアスファルトの上に落ちる。切られた断面からはケーブルが飛び出していた。

 

「エネルギーの剣じゃない......叢雲っすか......!?」

 

『身体を狙ったつもりだったが。そうか、卯月がこうまで押されるわけだ。......貴様は、大きすぎる。わかるか』

 

 振り返った先には、黒と灰の塗装の中量二脚AC。ムラクモとバトルライフルを構え、その背部には二基のパルスガンを装備している。昔、傭兵たちの間で有名だった武装と似通っている。

 

「はッ...........わかんねぇっすよ。大きいとかなんとか、要はアンタらは俺より弱いんすよ」

 

 対峙するACは指一本動かさずにRDの言葉に傾聴している。卯月と呼ばれた女も、その行動を理解してか言葉を挟もうとしない。RDは続ける。

 

「アンタらの目的は知らない。興味もないっすから。でもね、霊夢さんって弱くないんすよ。それこそ、アンタらみたいな死にたがり屋より余程強い」

 

『そうだ。私は死にたがり屋。身体を捧げ、肉体はおろか神経すら血肉を削がれ、失敗作とすら呼ばれて、それでもなお戦いに身を投じる。確かに死にたがりだった......私はな!!』

 

 男の言葉が荒くなる。怒りを孕んでいた。

 

『私はそうだ!だがな、卯月は...その子は違う!その子は私とは違う!私のような奴と、一緒にするな!』

 

『水無月!』

 

『死ねぇぇぇッ!!』

 

 尋常ならざる測度でこちらに突進してくる、水無月と呼ばれたAC。RDは急いで後ろに引き下がろうとするが、恐らくこの場から離れたら遮蔽物から身を晒し、狙撃される。かと言ってここに留まっていてもムラクモの餌食になるだけだ。万事休すか。RDがそう考えたその瞬間だった。

 

 

 

『喰らえっ!!!』

 

『なっ......ぐあっ......!?』

 

 勢いの籠った何者かの突進で、水無月の搭乗するACが吹き飛ぶ。吹き飛ばしたその人は、RDが待ち望んだ霧雨魔理沙と、その乗機ギムレットだった。ギムレットはACを勢いよく蹴り飛ばす。速さが乗った重量二脚型ACのブーストチャージは文字通り桁違いの威力を誇る。装甲強度に優れる程度の中量二脚では到底耐えられない。

 

『どーだ、この野郎!RD!無事だったか、急に通信が途絶えたから急いで来たんだ!正解だったぜ!』

 

『バ...カな.....ソリッドブレードの装甲を......一撃、で...』

 

 機体ダメージが大きかったのか、中の人間自体にダメージが及んだのか、途切れ途切れの言葉が聞こえてくる。それを後目に魔理沙が止まって、RDに向き直る。損傷は左腕だけだが、主武装がライフル一丁だけになってしまったのは心細い。だが、最悪破壊兵器(グラインドブレード)という奥の手がある。RDはまだ戦える。それを確認すると、魔理沙は真正面を見据える。

 

『そこの動けないACは潰すぞ。念の為──』

 

『待ってくれ、彼は殺すな!』

 

 卯月の声が魔理沙の言葉を遮る。霧の奥から卯月のACが姿を現した。四脚狙撃特化型のACだった。

 

『───この通り、だ』

 

 卯月のACは目の前まで出てきたかと思うと、なんと左手のレーザーライフルを捨て背部セントリーガン射出機も取り外し、遠くに放った。魔理沙がその右手に持った異形のガトリングライフルを卯月に向ける。

 

『どういう事だ、お前。なんで武器を捨てるんだ?そんなにこいつが大切なのか?』

 

『...........そうだ。水無月は......命の恩人だからだ』

 

『...........チッ、敵討ちのつもりが、情けをかける羽目になるとは思ってもなかったぜ。でも......卯月だったか、お前はどうするんだぜ?他に仲間がいるんなら、これって裏切り行為ってやつだろ。その───お前の上司は許してくれるのか?』

 

『───しないだろうな。あれは、そういう人だ』

 

 RDはその言葉を聞いた魔理沙が武器を下ろしたのを見た。魔理沙が言葉を慎重に紡いでいく。

 

『......ここは──もう一人の、そうだな。こいつも連れてどこかに逃げな。ミグラントには私が言い訳しておくぜ。...........早く行けよ。もうじきUNAC機も来る。逃げ切れなくなるぞ』

 

『...........この恩は、いつか必ず。行こう水無月』

『ああ...........すまん......』

 

 魔理沙が言葉を発し終わる。二機のACが離れていき、霧にまみれて何も見えなくなった頃に、RDが魔理沙に聞いた。

 

「...良いんすか?霊夢さんの仇っすよ。逃がして...........逃がして、後悔はしないんすか?」

 

『実の所、直接霊夢を倒したやつは私が潰してる。これは弔い合戦ってやつだ......悪かったな、RD。私、お前に嘘ついてまで戦わせようとしてた』

 

 魔理沙が落ち着いた口調でRDに告げた。RDは彼女に宥めるように返した。

 

「俺、言ったでしょ。付き合うって。今更謝るなんて魔理沙さんらしくもない。謝るんじゃなくて、礼を言いましょうよ。最後まで一緒に戦った霊夢さんに。この戦いが終わったら、ね」

 

『RD......そうだな、ありがとう』

 

 RDに礼を言って、魔理沙は操縦桿を握り直す。ギムレットがガトリングライフルとレーザーブレードを握りしめた。RDも右手のライフルの調子を確認し、戦闘態勢を整え終わる。

 

 そして気が付いた。視界が明瞭になってきている事に。

 

「魔理沙さん、霧が!」

 

『晴れてる......お前らか、卯月!感謝するぜ......!』

 

 魔理沙が聞こえるか分からない感謝の言葉を叫ぶ。前傾体勢に入ってグラインドブーストを起動した魔理沙とRD。ブースターの点火が完了し、高エネルギーを代償に高い機動力を以て敵のいると思われる最後の地へ向かう。そこは、高層ビルがあったであろう、広場。軒並みビルが崩れていて、瓦礫がなければもはや平地ですらあった。鉄筋やコンクリートの残骸がそこらじゅうを埋めつくしており、足場が悪い。

 

 そしてその奥に、奴はいた。

 

『《水無月も卯月も死んだか、さもなきゃ逃げたか。何れにせよ、俺が見つかったという事はお前らはあの二人を降したという事だ。それだけは褒めてやるよ》』

 

 男の声を発するそのACは重量逆関節の機動型機体だった。何よりその機体の武装構成に魔理沙は見覚えがあった。紅白の塗装、装備の詳細から武装の細部に至るまで、あの機体に瓜二つだった。

 

『...........《ハーモナイザー》...........お前、霊夢を!』

 

 ハーモナイザー。博麗霊夢の乗機であり、今はこの男の乗機でもある。友人の遺品を憎き相手に使われているその事実が魔理沙を憤らせた。

 

『お前ッ!お前は霊夢の遺志を侮辱した!』

「...........なんすか、アレ!?魔理沙さん!罠っす!」

 

 二人が広場の中心まで踏み込んでいったその瞬間、RDの勘が働いた。が、少しだけ遅かったのだろう、RDが気付いたその時には既に敵の術中に嵌っていた。

瓦礫のあいだあいだに隠れていたACが、続々と姿を現したのだ。

 

『《阿呆が......敵討ちに躍起になって、盲目のまま敵陣に飛び込むとは。死ぬ事だな、凡夫が。貴様にはせいぜい戦闘データの収集に役立ってもらおう》』

 

 ハーモナイザーが笑いながらそう吐き捨て、遠くのビルの向こうに姿を消す。機体の反応が消失したので、恐らくはUNACに任せて戦場を去ったのだろう。

 

『UNAC機──8機もいるのか......ッ!』

「魔理沙さん、今は生き残らないと!」

『わかってる!私が盾、お前はそのデカブツでUNACを潰して回れ!』

 

魔理沙の焦燥感を隠しきれない指示に従い、RDは残った左腕もパージして右肩に取り付けられた異形の兵器、グラインドブレードを接続する。グラインドブレードに内蔵されたハッキングシステムがヴェンジェンスのジェネレーターに不正アクセスし、普段は使う事すら出来ないエネルギー容量とその回復力を確保、カメラアイからの映像にノイズが走り、視界が不良になる。

 

『《不明なユニットが接続されました》』

 

 ブレードを回す、耳障りな音が広場にいる全員の耳に響く。その6本のチェーンソウ1本1本が死を告げる刃なのである。そしてチャージが完了した。いつでも行けると目配せする。

 

『《システムに深刻な障害が発生しています。直ちに使用を停止してください》』

 

 システムボイスの無機質な警告が、RDを焦らせた。

 

「わかってる、そんな事!魔理沙さん!行くっすよ!」

『行けぇぇぇぇ!!』

 

 魔理沙の叫びが戦場にこだまし、魔理沙を狙うUNACにヴェンジェンスが飛びかかる。六基のチェーンソウに粉々に砕かれ、ACは大破する。その足元には炎の軌跡が刻まれており、さながらその様は古いSF映画に搭乗する車、デロリアンのようだった。

 

「一機!囮を!」

『任せろ!』

 

 次のチャージに入る。ギムレットがガトリングライフルを乱射し、注意を集めつつ逃げ回る。巧みなハイブーストによって被弾数を軽減しつつ、敵に的確にダメージを蓄積させていく。

 

「溜まった...........これで!」

 

 武器のチャージが完了し、ドリズルの周囲を取り巻くUNACへ向かう。ギムレットと、7機のUNACが肉薄していた戦場に、チェーンソウの悍ましい駆動音が響いた。

 

「魔理沙さん!飛んで!」

 

 その言葉に反応し、UNACを飛び越えるように飛ぶ。ハイブーストもプラスする事でなんとか攻撃範囲外から逃げ切る。

 

 刹那、グラインドブレードの甲高い起動音。

 

 ぶつかったような音、装甲が削れる音、刃の金属部と装甲内部の配線が触れ合い、ショートする音。全てがグラインドブレードから発せられる破壊音にかき消された。

 

「二機!...........ダメだ、動けない......限界っす.....」

『クソ!私から離れろ、壊れ人形!纒わり付くな、このっ!このぉ!』

 

 RDのグラインドブレードが機能を停止し、再び右肩に仕舞われて鎮座する。同時にエネルギーが底を尽いて膝を着く。魔理沙のギムレットも、敵の多さに限界が見えていた。

 

 魔理沙から外れたUNAC機が、RDを捉えた。

 

「もう...........ここで終わりっすか......」

 

 頭を垂れて、絶望に押し潰されそうになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

『《こちら『アグレッサー』。よく持ちこたえた》』

 

 RDの目の前には黒と赤の、中量二脚型ACが立っていた。UNACはバトルライフルの総火力を受け、あっという間に破壊される。ノイズの混じって聞き取りにくいその声は、高さから辛うじて女性だとわかった。

 

 

 

 

 

『《RD、立てる?》』

 

 

 

 

 

「アンタ......は...........」

 

 黒と赤のACはRDを助けて消えた。彼女が何者なのか、その真意を掴めないまま、RDの無線に声が聞こえた。

 

『UNAC部隊、及びミグラント本隊、到着した!魔理沙、RD!生きてるか?』

 

 ジャック・バッティだった。彼が、本隊を引き連れて広場へと姿を見せたのだ!希望が二人に舞い戻る。

 

「遅かったじゃないっすか...........動けないっす......」

『おいおい、助かったぜ、バッティ!』

 

 RDは疲れ果てたような、魔理沙は歓喜に塗れた声をあげる。どちらにしろ絶体絶命の危地を救われた事に違いはない。広場に味方のUNACが続々となだれ込んでくる。

 

『《U1、敵影補足。オペレーティングシステム起動》』

『《U2、敵補足。システム、パターン2》』

 

 やがてヴェンジェンスの目にも輝きが戻ってくる。ACにエネルギーが充填されていくのを、デバイスに映されたパラメーターで確認する。動けるようになって、右手のライフルをUNACに向かって構えた。魔理沙が注意の逸れたUNACを蹴り、吹き飛ばす。

 

『はっ......はっ......はあ......やっと死んだか』

 

 味方が来ても尚魔理沙に纒わり付いていた最後のUNACが破壊された事で、ようやく一息つけた。魔理沙がRDの近くまで走る。ちょうど良いタイミングでバッティも到着したようだった。

 

『魔理沙、RD、良く無事だったな』

『おう、私もRDも何とか生きてるぜ。...........ところで、先遣部隊はどうだったんだ?』

 

「その......全滅してました。少なくとも二人は即死、最後の一人とは会えてないっす」

 

 RDが申し訳なさそうに伝えると、バッティは絶句していた。やがて口を開くと、そこにはRDの知る猛者たるバッティが話しているだけだった。感情を直ぐに調伏させられる、優秀な戦士たる証だった。

 

『そうか......アッシュもベスも、ランガーまでやられたか。あれは俺達の中でも上位クラスの実力者だったが、認識を改めねばな。機械化八人衆は潰すべきだ。敵討ち云々でなく、後世のために』

 

 バッティが痛々しく呟いた。

 

『まあ......とにかく生き残ったんだ。あの三人の事は、気にするな。お前らも傭兵なんだからな』

 

『......わかった。行こう、RD』

「え...あ、はい。わかったっす」

 

 

(あの人は......オレを助けたあれは、一体誰だったんすか......?霊夢さん、アンタなら目処が着くんすか...?)

 

 魔理沙について行く傍ら、RDはそればかりを考えていた。あと黒と赤のACは、直接は戦ってはいないものの確実に強いと直感できる。あの振る舞い、正確無比な照準。どれをとっても一級品なのだろう。正体の掴めぬまま、二人は帰路についた。

 

 

 




 遅れてしまって、本当に申し訳ない(メタルマン)

 生活が忙しいと手が回らなくて......でも気ままに続けていくので、読んでいただけると嬉しいです。

 チャプター1『The beginning』は今回で最終話です。チャプター1時点での登場人物名鑑と、簡単な話を書いた後に、チャプター2に移行します。お楽しみに。


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PHANTASMA BEING 《Again》

 Mechanized being 2-ENDの裏のお話。



 レーザーブレードを、黒いACが避ける。ブレードを振り抜いたハーモナイザーは追撃を良しとせず、反撃を逃れるため逆関節機体であることを活かした大きなジャンプで距離を離す。ハイブースト後のその隙を逃さず、黒いACが両手のバトルライフルを構え、乱射する。

 

『クッ......』

 

 身を翻して建物に隠れる。バトルライフルの破壊力によってビルが倒壊し、互いの姿が顕になる。バトルライフルを構えた黒いAC、博麗霊夢の乗機であったハーモナイザーが、砂煙を挟んで構える。互いがトリガーを引くと、お互いに『カチッ』といったような音が聞こえた。

 

『弾切れ...........そこまでして私を殺したいのね、長月』

 

『そうしなければ、皐月が報われんでな』

 

 黒と赤のAC、アグレッサーと、長月と呼ばれた壮年の男のAC、ハーモナイザーが相対していた。互いに一歩も引かない攻防戦の後、双方共に弾薬切れで何も出来ない。いや、正確にはACを使ったタックルという決着の付け方が残ってはいるが長月はそれを好まず、アグレッサーを駆る女性もそこまで貪欲に勝ちを奪う事をしなかった。

 

『ひとつ聞きたいわね。私のACを奪った理由、聞かせて欲しい。貴方の過去を探らせてもらったわ。名アーキテクトだったそうね。私のアセンブルは初心者のそれよ?改造して乗らない理由が知りたいわ』

 

 アグレッサーが聞くと、長月は喉の奥をくっくっと鳴らして笑った。彼女が怪訝そうな表情を見せると、長月は彼女のその質問に答える事にした。

 

『確かに私はアーキテクターだったよ。だがね、私の機体を動かすのは私だけだ。私の機体に乗った人間は皆、負荷に耐えられず絶命していった。まさか忘れてはいまい?そのアグレッサーが、私のアセンブルした機体であると』

 

『......そうね。それが?』

 

『この機体、初心者のアセンブルにしては、完成されている。少なくとも、私の目には完璧に映る。乗りやすいのさ、君の機体はね。だから君のハーモナイザーに乗らせていただいている、という訳さ。納得が行ったかな、はく──』

 

『黙りなさい。その名前は今は捨てているの。それとも、貴方の嫌いなブーストチャージ同士の決闘を所望しているのかしら?ならば止めはしないけれど』

 

『いや......ククッ、やめておこう。私の主義に反する』

 

 再び、沈黙する。二機のACが向かい合い続ける。

 

『どうにも、答えは出ないらしい......なら、私はここで帰らせて貰おうかな。これ以上、君と相対していても意味を見いだせそうにないものでね。退屈は嫌いなのだよ。では......さらばだ』

 

 そう言って長月とハーモナイザーは瓦礫の向こう側に姿を消した。崩れた瓦礫の上に立っているのは、アグレッサーだけになった。コクピットが開く。

 

 

 

『あいっかわらず、鉄臭い......肺が腐るわ』

 

 髪を纏める大きな紅白のリボンが目立つ、茶髪の女性。頬辺りまで機械に埋まり、その肉体は殆どがスーツのようなものに覆われていて、肌色は見えそうにない。その顔だけが、唯一彼女だと証明出来るものだった。

 

『本当に......機械の体でも、そういう感覚は残ってるのね。最悪................長月は、本当に皐月の仇を取ろうとしていたのかしら?......何だか嫌な予感がするわね...........何?この霧......』

 

 独り言ちる私の視界を、白い鉄粉が覆い尽くす。

 

『またなんか一悶着ありそうね......弾薬の予備を肩部ユニットに仕込んでおいて正解だったわ...』

 

 そう言いながらバトルライフルのマガジンを入れ替え、霧の中央に向かっていく。やがて霧が晴れるが、そこにいたACは見覚えのある機体だった。

 

『................RD?』

 

 異形の剣で敵のUNAC機を薙ぎ払っているようだが、強大な力には限りがあるというものだ。その例に漏れず、ヴェンジェンスも息切れしたか、全く動かなくなってしまった。

 

『世話が焼ける......!』

 

 手始めにこちらに向かおうとしてきたUNACをブーストチャージから両手に持つバトルライフルの連射で即刻潰す。続いてRDに攻撃しようとしているUNACを片付けるべく、アグレッサーはバトルライフルを乱射しながらヴェンジェンスの前に立った。

 

『こちらアグレッサー、よく持ちこたえた』

 

 

 

 

 

 

 

 ヴェンジェンスに搭載されたシステムのエラーを知らせるノイズのおかげで、彼はまだこちらの正体を知らないらしい。そのままブースターを切り、煙と共に熱を放出する。コア部分を後ろに向けて、振り向こうとし、ヘッドパーツを傾げた。

 

『RD、立てる?』

 

 

 

 

 



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ACEW主要人物名鑑

範囲はこの話が投稿される前までです。

その一・・・東方Projectに登場するキャラ及びAC

その二・・・アーマードコアに登場するキャラ及びAC

その三・・・本作に登場するオリジナルのキャラ及びAC



その一

 

博麗霊夢

 

 21歳にしてAC『ハーモナイザー』を操る若き傭兵。本作の主人公であり、歴代の巫女の中でも特に優れた霊力や、並外れた勘を持っている。また、傭兵としても最も功績を持つうちの一人である。初めてのAC操縦という意味では魔理沙の後発であるが、その卓越した戦闘技術は至高の一言に尽きる。

 

『ハーモナイザー』

 

 霊夢の乗機。重量逆関節という、幻想郷では稀な脚部パーツを用いるACである。主武装はKE属性のライフルとCE属性のバトルライフル、副武装にはショットガンと低燃費高性能のレーザーブレードを装備している。

 全体的な耐性はCE属性に偏っている。

 

 

 

 

霧雨魔理沙

 

 霊夢の機体よりも汎用性に富むAC『ギムレット』を駆るパイロット。同じく本作の主人公であり、霊夢のパートナーとしても名を馳せる、優れた傭兵である。またACやAC技術が幻想郷に流入した異変の初期からACを操縦している熟練兵でもある。7年分の知恵と勘で堅実に戦う。

 

『ギムレット』

 

 魔理沙の愛機。重量二脚のACであり、見てすぐにわかるTE耐性の高さが特長。KE属性にもある程度耐えられる耐久力であるが、CE属性が弱点である為にヒートキャノンなどを装備したMTの相手は苦手としている。

 武装は各属性にバランス良く対処出来るように、ガトリングやヒートマシンガン、レーザーライフルを持つ。狙撃も担当し、その際には五連スナイパーキャノンを装備し、ガトリングをハンガーユニットへ移す。

 

 

 

 

河城にとり

 

 元は妖怪の山にて兵器開発をしていたが脱走した河童の少女。現在は博麗神社に住んでいる。ACの操縦ができない。ACの操縦自体はできるのだが、操縦を補助する為の追加ユニットからの負荷に耐性が無いためである。器用さや今までの知識を活かして、日夜武装の強化及び新兵器の開発に勤しんでいる。

 

 

 

 

八雲紫

 

 幻想郷を生み出した賢者の一人にして、霊夢とそのパートナー、魔理沙によってのみ存在が伝えられる幻想中の妖怪。その力の源は妖怪としてだけでなく、世界にすら影響を及ぼしかねない、強大無比な能力にある。彼女が作った世界『幻想郷』は全てを受け入れ、しかし幻想郷のシステムが崩壊しかねない異物は彼女自身の手によって、あるいは彼女の差し向けた刺客によって排除される事で幻想郷はその美しさ、神聖さを備えていた。

 

 だが、それは最早過去の遺物であり、妖怪の賢者の名は、彼女が持つ能力の原因不明の喪失と共に消え、今の幻想郷には鉄と血、そして戦争が蔓延る死の世界と化した。今や、彼女の希望はかつて幻想郷を幾度となく救った二人の青年、霊夢と魔理沙に託された。

 

 幻想郷はあまりにも受け入れすぎた、と紫は言う。

 

 

 

 

 

射命丸文

 

 影の主人公。天狗の中でも、高いAC操作技術を持つエリートパイロット。人里方面の偵察及び制圧任務に就いていたが、ある時逃亡、人里地下街のアリーナにて地霊殿の主、古明地さとりに見出される。今使っているACは新型のパーツを多数融通させて建造したもので、以前乗っていた旧式ACの名前は『鴉羽』だった。射命丸文は戦闘スタイルに縛られること無く脚部を良く入れ替える事で有名であり、その裏で古明地グループの恩寵を受けている証拠でもある。

 

『???』

 

 文の駆る愛機。文の持ち前の器用さでどんな脚部のACでもすぐに習熟する事を活かして軽、中、重量二脚、四脚、軽量逆関節と、様々な戦闘形態を持つ。偵察から突撃、撹乱に狙撃となんでも対応可能な万能タイプであり、その戦闘スタイル故に対策が難しい。しかし本人の性質故かタンク脚部だけは使おうとしない。

 

 

 

 

 

古明地こいし

 

 アリーナに参加する文が探している妖怪の少女。アリーナに参戦していると予想されており、最新の情報から少なくともAランカー。相当の腕前が予想される上にアリーナ登録者同士の競り合いが少ない事からも、その順位を特定できずにいる。一説にはお忍びで来ている姉に挑戦する為にACに乗っているとも言われているが、真実はまだ定かではない。

 

『???』

 

 詳細不明。噂ではレーザーライフルとKEライフルを使い、敵を確実に追い込んでいく戦闘スタイルと言われている。こちらも定かではない。

 

 

 

古明地さとり

 

 文に自身の妹『古明地こいし』の捜索を依頼し、資金提供も行っている妖怪の少女。なおさとり、こいし共に少女と仇されてはいるものの、その実、年齢は老いた人間の軽く数倍は超える。さとりはACには乗らないが、数多の自律兵器を防衛に当たらせているため地霊殿の防御能力はかなり高い。

 また、独自の生産技術による高い性能のパーツを量産しており、その財産は富豪という枠に収まらない。数々の傭兵を支援しているが、しかし彼女の恩寵を受けた傭兵が長生きした試しはない。古明地グループと名付けられたその組織は、全ての地域を含めても最高クラスの財力を持つ。

 

 

 

チルノ

 

 妖精を代表するACパイロット。乗機『コールドスネーク』の戦闘力も相まって、彼女を危険視する声も多い。霧の湖にて出現情報が相次いでいるが、何らかの方法で姿を眩ませている為、特定が困難である。かつては氷の妖精として知られていたが、妖精個人の力よりもACという戦力が重要視された事で彼女もACに乗らざるを得なくなった。結果として今日まで生き延びている。

 

『コールドスネーク』

 

 バトルライフルを二丁持ち、ガトリングとプラズマガンを後詰の為の装備としている。全体的な装弾数に加え機動能力の高さも相まって、かなりの継戦能力を持っている。青い塗装のおかげか水の上や霧の中で高い偽装効果を発揮し、ゲリラ戦法を得意とする。

 

 

 

 

風見幽香

 

 『太陽の畑』という、幻想郷では既に珍しいものとなってしまった自然、それも芽吹いた向日葵を見られる唯一の地を守るACパイロット。客人には決して姿を見せず、AC越しに会話するのみとなる。心を開いた相手にはコアのコクピット部を開いて顔を見せる事もある。

 

『タイラント』

 

 タンク脚部で全てに高い耐性を持ちながら二門のオートキャノンを装備し火力に特化した、MTの天敵。KE耐性の高いACですら十秒持たずに鉄くずになるほどの火力を誇る。両肩部にはKE属性のミサイルを積んでおり、まさに拠点防衛用のACとしての究極理想形。『暴君(タイラント)』というその名に反して防御に特化した、攻撃的な性格の幽香とは正反対のAC。

 

 

 

 

メディスン・メランコリー

 

 風見幽香と志を同じくする、若年のACパイロット。妖怪としても人格としても生まれてまだ若く、言動にも幼さが目立ちはするが、その卓越した狙撃能力は必見である。目をつけられた以上は近付いて撃破するしかないが、接近できた者は未だかつて居ない。

 

『リリー・ベリー』

 

 鈴蘭の名を冠する四脚型AC。CEとKEの両方に中程度の耐性を持つ。狙撃及び自衛に特化した武装構成で、近付かれると酷く弱い。しかしながら風見幽香との協働によるコンビネーション、そしてメディスン本人の狙撃能力の高さから来る撃破率を見る限り、彼女は狙撃手としてこのACを駆るに相応しい技を持っている。

 

 

 

 

魂魄妖夢

 

 冥界からやってきた幽魂、その少女。半分霊体、半分人間という歪な生命である、肉体の死は即ち従者としての役目を果たせなくなる事を意味するため、ACに乗ることで死の危険を減らす意味合いも兼ねて、白玉楼と幻想郷とを繋ぐ道を守っていた。雇い主である森近霖之助が店を畳んだのを機に傭兵をやめ、白玉楼に帰った。その後の安否は不明。

 

『ソウルストレングス』

 

 幻想郷のどこかに捨て去られた、軽量二脚の機動特化AC。ライフルを二丁構えた持続戦闘を得意としているが、最も特徴的なのはハンガーに装着された二振りのレーザーブレードにある。妖夢が『白楼、楼観』と名付けたその双刀の月光は威力特化にチューンされており、どれほどTEへの耐性が高かろうと、この二つの剣に挟まれれば命は無い。

 今は、月光だけが失われている。

 

 

 

 

稗田阿求

 

 人里内において穏健派のリーダーである少女。彼女は武装を『最低限自衛できるだけの武力』だけに留めようと、人里で他の過激派組織と政治争いを繰り広げている。魔理沙を雇っていた頃と比べて内部の対立が深刻化してきているため、阿求の心労は絶える事を知らない。

 

 

 

 

???

 

 RD、魔理沙の救援に駆けつけた謎の女性。戦場に現れた際に搭乗していた機体は、黒を基調とした赤い塗装の禍々しいACだった。初めて姿を現した時は、RDを助けて去っていった。

 

『アグレッサー』

 

 侵略者を意味する邪悪な色合いの中量二脚AC。射撃時の威力に特化させたバトルライフルを二丁装備。ハンガーユニットにはパルスガンとガトリングガンを装備しており、こちらも威力に特化している。機体の追尾性能も相まって、あらゆる意味で殺意を溢れさせている。

 

 

 

 

 

 

その二

 

レイヴン

 

 名前、年齢が一切不明、性別ですら男性と知るものはごく少ない謎の男。唯一の生存部隊曰く『地獄を体現した人間』と渾名されており、戦闘能力もその名に恥じない強さを持っていると思われる。乗機の詳細は不明であるが、中量二脚の白いACを駆るという噂が流れている。

 

『???』

 

 機体名不明。中量二脚の高機動型であり、武装すら絞れずにいる。

 

 

 

RD

 

 24歳の青年であり、同時にAC『ヴェンジェンス』を駆る一人の傭兵でもある。博麗神社に世話になっており、彼女らの仕事に付き合う事もしばしば。臆病な性格はなりを潜め、戦闘に関してはどこか達観しているような口振りを見せる。

 

『ヴェンジェンス』

 

 本人曰く『借り物のAC』。借り物ではあるが、RD自身が天才的なまでのAC操縦能力を持っているため、引き出されたACの実力は並の傭兵の比ではない。中量二脚で高いKE耐性を持つ。パルスマシンガンとライフルを持っており、肩部にはCEロケットが搭載されている。ヴェンジェンス一番の特長として、機体後部に背負われた巨大破砕兵器がある。

 

 

 

 

ジャック・バッティ

 

 人里近くの寺『命蓮寺』の隣にある傭兵組織、通称ミグラントを束ねるリーダー。傭兵としても一流、指揮官としても一流と、戦闘から指揮から何まで全て得意という短所の少ない男。一人で、尚且つ短時間で9機のACを全て完膚無きまでに()()で破壊するという、人外の如き功績を持つ。

 

『ヴェンデッダ』

 

 イタリア語で『復讐』を意味するAC。RDの乗るAC『ヴェンジェンス』とほぼ同じ武装だが、両手の武装の位置が逆、ロケットの属性がCEでなくKEである等、細部に違いがある。

 

 

 

 

ジャック・ゴールディング

 

 齢22という若さでACに乗る、青年パイロット。生意気な言動が目立つが、数年前に異常なまでの強者に遭遇、被撃墜された事を受けてか、慢心せず堅実に戦うことを覚えた。本人曰く「俺は弾を避けられるようになった!」と、豪語してはいるが被弾数もそれなりに多い。幻想郷に入ってからも幾度となく戦闘を重ねたが、未だ撃破されていない事からもある程度戦闘能力を有し始めたようである。

 

『フレイムフライ』

 

 CE耐性の高いAC。ジャンクパーツばかりだった本機だが、世話焼きのジャック・バッティが自らのポケットマネーから多数のパーツを購入、ジャック・ゴールディングに買い与え、結果高い防御性能と機動力を手に入れるに至った。フレイムフライの武装も一新し、バトルライフルとハンドガン、パルスガンとショットガン、という継戦能力に乏しいものの近距離での総合火力を高めた装備で纏まっている。

 

 

 

 

その三

 

 

機雷一等兵(マイヤー)

 

 名前の由来はアーマードコア・プロジェクトファンタズマのアリーナに搭乗するランカー『地雷伍長』。マイヤーという名の由来はダークソウルより。24歳の青年ながらACを操縦するのが趣味であり、また傭兵という立場を活かしてさまざまな機関や組織に出入りしている。アリーナでは文と最初に戦ったランカーであり、戦闘能力を隠していたが為の、最下位ランカーだったと思われる。

 

『デンジャーマイン』

 

 ライフルとブレード、バトルライフルを二丁装備した、汎用型の中量二脚型AC。肩部に散布型KEロケット砲を装備しており、目測での照準能力の高さも相まって機体の性能を引き出している。

 

『カタリナ』(マイヤー)

 

 マイヤーと名乗った彼の乗る機体。丸みを帯びた白い機体であり、重量二脚のTE耐性特化型機体。ある程度KE耐性も獲得しており、ライフルなどは跳弾させられる。ショットガンとパルスマシンガン、そしてヒートパイル、バトルライフルを装備した、全距離対応型の汎用機。名前の由来はダークソウルに名前だけ搭乗する架空の国『カタリナ』。

 

 

 

 

ストーム

 

 Eランク14番目の男性ランカー。本人の操縦技術は高くなく、ぎこちない動きを繰り返す事も多いが、バディであるベルカとの協働では息の合ったコンビネーションを見せる。

 

『デッドアイズ』

 

 ガトリングとレーザーブレード、パルスガンを二つ携えた近接特化型の軽量二脚機体。KE耐性が高めだが、それ以外の耐性は低く、パルスガンやガトリングで牽制しつつレーザーブレードで逆転の一撃を狙う、扱いにくい機体。反面その機動力から捕捉性は高く、デッドアイズとあだ名される所以でもある。

 

 

 

 

ベルカ

 

 Eランク13番目の女性ランカー。ストームをバディとして自身が司令塔となり、出来る限りの指示を下す事で高い作戦能力を保持し続けている。ストームに助けられる事もあり、互いのコンビネーションは抜群と言える。

 

『カルナバル』

 

 空中に浮遊する機雷を装備し、敵に近付かせないまま撃ち抜く、狙撃戦法を得意とする重量逆関節機。スナイパーライフルとハンドガン、機雷、ヒートハウィツァー、そしてショットガンを装備している。典型的な狙撃型機だが、スナイパーキャノンを持っていないため、瞬時に火力を出すことが難しく、扱いの難度が高い機体になっている。

 名前の由来はアーマードコアVに搭乗するミグラント『ジェーン・ストライクス』の乗機より。

 

 

 

M.D

 

 ジャック・バッティ率いる『ミグラント』の一員。軽量二脚機体を扱う部隊『アルター』の隊長でもあり、その実力はかつて襲撃してきた機械化八人衆の三人組を相手に生還した、と言えばよく伝わるだろう。人格者でもあり、不安な心境の人間にかつての自身の姿を重ね、時折宥めている姿を見られる。

 外の世界の出身であり、自然の消えた世界が故郷である事から草木や花々の姿を資料でしか知らず、古本屋に入り浸ってかつての幻想郷の姿を想像する事が趣味である。

 

『アッシュ』

 

 凄まじい人気を誇ったヒーローコミックの主人公『アッシュ』をモチーフにカラーリングが施された、スピード重視の軽量二脚機体。CE、TEの二つにもある程度耐性を持つ様に機体を調節しており、撹乱の際には被弾を軽減する為に高速機動を心がけ、アッシュがそれを可能にしている。武装は全距離対応型。ライフルとレーザーブレード、スナイパーライフル、そしてミサイル搭載型セントリーである。

 

 

 

 

ノーネーム

 

 名前を明かさない『ミグラント』の一員。軽量二脚機体を扱う部隊『アルター』のメンバーでもあり、その実力はM.Dに負けず劣らずと言えばよく伝わるだろう。誰にでも敬語を使い、初対面の人間には愛想がいいと評判が高く、人付き合いも良い。隊の中では新人の一人でもあるが、その実力は副隊長でも不足はないと言われるほど。

 外の世界の出身であり、死して幻想郷にやってくるまでは殺戮を重ねた傭兵だったという。生前、何らかの方法で幻想郷の存在を知った彼が、しかし幻想郷の有様に絶望し、美しい世界を取り戻すために改心、ミグラントの一員となったという、異質な経緯を持つ。

 

『ランガー』

 

 ノーネームの駆る軽量二脚機体。ランガーは『Ranger』と読め、汎用性を持った偵察、強襲機をイメージしてアセンブルされた。『ベス』と兄弟機でもあり、ベスと足並みを揃えた共同戦も得意とする。武装はライフルとバトルライフル、ハウザーとハンドガン。中距離での戦闘を最も得意としているが、近距離でも上手く立ち回れれば実力を発揮できる、ベテラン用の機体である。

 

 

 

 

マクアラン

 

 ノーネームと同期の『ミグラント』の一員。軽量二脚機体を扱う部隊『アルター』のメンバーでもあり、M.D、ノーネームの右を往く実力者と言えばその実力が良くわかるだろう。豪快な性格で戦場でも前立って突撃する姿を見受けられるが、燃費も悪く戦法には一抹の不安を抱かせる。だが、それを差し引いてもあまりある戦果を挙げることから、『アルター』は彼を副隊長と認めていた。

 

『ベス』

 

 マクアランの愛機であり、ノーネームの『ランガー』と同時に製造された兄弟機でもありながらアーキテクトを異とするその機体は、突撃思考のマクアランにピッタリの機体でもあった。武装もランガーと変わらない。

 

 

 

 




次回、一話挟んでチャプター2

『End is Never ending』

を投稿します。


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Chapter 2 『The end is never ending』
Relics word《Again》


 霧雨魔理沙は、霊夢の親友であり、同時に良きライバルの関係でもある。そんな彼女が死した親友の遺品を整理する。人の遺した物を他人が片付けるのは、もう幻想郷では当たり前の光景となってしまった。

 霊夢が死んだあの日からずっと放置されていた戸棚を漁ると、古くなった替えの服や記念品以外に行き先のない、博麗の名がしたためられた札の下に埋もれるように、一つの映像装置があった。



 まさか本当に見つけるとは。

 

 戦闘を終え帰ってきた私は、そう呟いた。

 

 私はにとりと手分けして遺品の整理整頓に当たっていた。そんな時に、こんな掘り出し物を見つけるとは、思ってもいなかったのだ。年代物......とは言っても私には価値がわからないものだが、にとりから言わせれば幻想郷に現存するビデオデッキの中でも、製造年月日から見て最も古いものだという。

 

「で、これが一番古いんだよな?肝心のビデオテープは?」

「安心して。ここにあったよ」

 

 にとりが一番下の段の棚から、一本のビデオテープを取り出した。それをにとりから受け取ってビデオデッキに挿入し、再生ボタンを押す。押し込んでカチリと鳴ると、テレビモニタに今は亡き博麗霊夢その人が写った。

 

『おはよう。またはこんばんは?......まあ、あなた達でなくとも見て分かると思うけど、霊夢よ』

 

 テレビの中の霊夢は、普段と変わらない様子で無愛想に答えた。違いはそこにいない事と、話が一方的という事だけだったが、それを除けば彼女は私たちが見知った霊夢と全く同じだった。

 

『私が死んだ後に結界が緩むようにしていたから、私が死ぬまでコレの入っていたタンスは開けられないの。裏を返せば、これを見ているということは、私は間違いなく死亡している。恐らくは、戦いの中に斃れたのでしょうね』

 

 そう言って画面の中の霊夢は前髪をかきあげる。

 

『嫌な物よ、自分の死が間近だと感じるのは。魔理沙もその時が来たらきっとわかる、どうしようもなく、死の影が近付いてきていると本能的に悟ってしまうの。一種の予知能力に近いわね』

 

 にとりがそこまで聞いて、一時停止ボタンを押してから私に向き直り、聞いた。

 

「じゃあ、霊夢は死ぬとわかっていて戦っていたの?...........それこそ、魔理沙や私にも悟らせないように?」

「どうだろうな......どちらにせよ、いつ死ぬかわからないまま戦うのは私も......霊夢も嫌だろうぜ」

 

 にとりの言葉に答える。再生ボタンを押すと、霊夢はまた話し始めた。

 

『そういう事だから、私はこのカメラを使って急遽映像に残そうとしたわけ。手紙じゃ寂しいでしょ?決して、声の方が考えるより楽って訳じゃないわ』

 

「はっ......霊夢らしいよ」

 

 面倒臭がりの霊夢が確実に言うセリフだ。

 

『......まあ...........そんな感じだから、今何を話そうかとかは特に考えてなかったわ。けどこれだけは言えるわ。私はただで死ぬつもりはない。きっと何か、するはず。生き延びて戦うために』

 

 そう言って霊夢は口角を上げニヤリと笑った。

 

「......魔理沙、これって......!」

 

 にとりがビデオを一時停止させ、私も画面の中の霊夢が発した言葉に驚き、そして笑みを隠せなかった。彼女の発したその言葉は、すなわち生きている可能性がゼロではない事の証明なのだから。

 

「そうと決まれば、やる事は一つだ。普段通りに行こうぜ。霊夢が帰ってくる時までさ」

「よし、わかったよ。電波を復旧させるから、依頼が来たら受けよう」

 

 そう言ってにとりは神社を出て地下室に入り、ジャミングシステムのスイッチをオフにした。心做しか明かりが強くなった気がする。にとりが戻ってくるまで、私はビデオの中で不敵に笑う霊夢の顔を見続けていた。

 

「霊夢......会えるなら、どこかでまた会おうぜ」

 

 そう言って私は茶の間を出て地下ガレージに向かう。タンスから、黒焦げた一枚の札が剥がれ落ちた。

 



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Hell has come to

 雨に打たれる重量二脚型のACを駆るのは、姿無き博麗霊夢と並ぶ実力を持つ傭兵、霧雨魔理沙だ。その少し後ろを焦げ茶色の中量二脚機体が飛行している。操縦者はRD。レイ=ドミネイト(R=D)という青年は、魔理沙の友であり、霊夢亡き今、魔理沙の新たな相棒でもある。

 

『今日はヤケに雨が酷いな』

「これじゃ、前も見えないっすよ...」

 

 COMに提示された道のりによれば人里まで残り数千メートルといった所らしいが、それらしき影は全く見えていない。交戦の可能性を極限まで避けるため、にとりが小型ドローンを先遣し偵察させた上でのルートを通っているから、それも当たり前ではあるのだが。

 

『ちょっと余裕が無いから、かなり迂回することになっちゃった。悪いね』

 

 オペレーターを務める河城にとりが、魔理沙に謝る。

 

『良いんだよ、どの道私達が歩いた事に変わりはない』

 

 そう言いながら魔理沙がACを勢いよく前進させ、RDもそれに続く。目標エリアまで、残り3000メートル。3キロを切った所だった。雨の音に紛れて激しい銃声が聞こえてくる。人里の防衛部隊は守りこそ堅牢だが、人里の表組織の性質ゆえに攻勢を苦手とする。そのため、攻めのきっかけを作るために傭兵を雇うのだ。

 

『準備はいいか、RD?』

「いつでもいけるっすよ」

『私から離れるなよ!』

 

 魔理沙のギムレットが一瞬前のめりに傾き、そのまま高スピードを出すグライドブーストで目標地点との彼我の距離を一挙に詰めた。それに続いてRDもグライドブーストを起動し、先に離れた魔理沙に追いつく為グライドブースト中にハイブーストを使って魔理沙との距離を縮めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事態は、僅か40分前に遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 メールに一着の依頼文が届いているのを見て、新たな依頼だと張り切って本文を読もうとメールを開いた魔理沙は、その内容に少しばかり顔を顰めた。送り主自体に問題がある訳ではなく、その態度が気になったのだ。

 

 

『送り主:人里統括本部代表一同

 件名:魔理沙さんへ。

 

 お久しぶりです魔理沙さん。阿求です。今回のメールは私が執筆を務めています。霊夢さんの件は、本当に辛い思いをされているものと存じています。彼女は非常に強く、そして使命感に溢れた優しき人でした。

 

 ...........辛い状況ではありますが、一つ頼みたい事があります。近々、人里を侵攻せんと南部で動きがありました。私達はこれを迎え撃ち、出来るなら撃退及び討滅を図っています。魔理沙さんには、これへの切り込み役を担っていただきたいのです。これを成功させる事が出来れば、報酬は前回の倍額をお支払いします。

 

 言わばこれは、人里の存亡がかかった重大な作戦です。こちらでは既に小競り合いのような状況が続いており、既に戦況は危機的状況の半歩手前まで差し掛かっています。

 

 尚このメールは規定に乗っ取り、既読から三分が経過した時点で削除します。

 

 ...........良いお返事を頂けるものと、期待しています』

 

 

「阿求も辛い状況、か」

「何のメールだったんすか?」

 

 魔理沙の後ろからRDが端末を覗いている。急に話しかけられて魔理沙は驚いてしまった。

 

「わっ!......お、お前なぁ!乙女のメールは覗くもんじゃないっての!」

「乙女って言うほどお淑やかじゃ......何でもないっす」

「聞こえてたぞ。..........依頼だよ」

 

 RDのとても小さい声量の小言を捉えつつも、メールを送り返す為に返信する。

 

『送り主:霧雨魔理沙

 件名:依頼を承諾する。

 

 その依頼を引き受ける。すぐさま出発で良いか?私達を投入する主戦場は、そちらで決めてもらっても構わない。今すぐ出るから、少し耐えてくれ』

 

「......っと、送信」

「受けるんすか?」

「だから覗くなって!...........まあ、昔人里で住んでた時に色々世話になったからな。その借りを返すための、傭兵稼業になりつつあるというのは少し癪だが」

 

 魔理沙の物言いに、RDは首を傾げた。

 

「...........?...何で癪なんすか?」

「いやな......ほら、ここに『人里統括本部代表』って書いてあるだろ?」

 

 そう言って魔理沙はRDに端末の一番上の送り主の名前を見せる。確かに一言一句違わず書かれているその名前は、けれどその時点でRDには、魔理沙がどうしてこの名を出すのかわからなかった。

 

「この『代表』ってのが大体10人の集まりなんだけど、その10人ってのが色んな部門で成果を上げて、その躍進が認められた奴だけがなれる役なんだよ。んで、私の親父......が、その......ムカつくけど代表の一人ってわけだぜ」

 

「ムカつく?......まぁ、触れないでおきますけど。とにかく受けはするんすよね?オレも準備した方がいいっすか?」

「お前も来るならACを出してこい。私は先に準備してるぜ」

「ソレって答えになってない......いやまあ行くっすけど」

 

 ガレージを降りていく魔理沙を見ながら、自分も乗機ヴェンジェンスを起動すべくガレージへと向かった。

 

 

 

「あ、にとりさん」

「あれっ?魔理沙といい君といい、揃って仕事か。精が出るねぇ」

 

 素っ頓狂な声を上げながら、ヴェンジェンスのコクピットから工具箱を引っ提げて出てきたのは、青いツインテールが特徴的な妖怪である、河城にとり。とは言ってもその外見からは彼女が妖怪とは想像することも出来ないほど、人間的だ。にとりはACから降りて背伸びをすると、工具箱を机の上に置いて入口に立っているRDの近くに歩いてくる。

 

「お疲れ様っす。また整備してくれたんすか?」

「まぁね。君たちは私の...というか、私達の生命線でもあるワケだからさ。サボって撃墜されちゃったら、目も当てられんでしょうし」

「確かに、それもそうっすね。魔理沙さんとはもう話しました?」

「話したよ。阿求って人からメールが来たそうでさぁ、先にギムレットを整備しておいて正解だったよ」

 

 そう言ってにとりは帽子を取って頭を軽く掻く。うーん、と唸りながらヴェンジェンスを見遣るのを見て、RDはどうしたのだろうかと気にかかった。

 

「いやなに、まだヴェンジェンス君の整備が完全に終わったわけじゃないからさ。殆ど無事ではあるんだけど、ブースター周りだけは繊細だからまだ見てやれてなくてね。問題ないとは思うけど、どこか気にかかるんだよねぇ」

「その程度なら、問題ないっすよ。いつもありがとうございます」

 

 そう言ってヴェンジェンスに乗り込むRD。ガレージ正面の大扉が開くと、そこにはホワイトとブラックのカラーリングが施されたAC、ギムレットが立っていた。

 

『終わったか、RD?行こうぜ』

「OKす、魔理沙さん。行きましょう」

「二人とも、今日も頑張ってきなよ!魔理沙、あんたの好きな茶菓子、香霖堂に寄って用意してもらうからね!」

 

 ギムレットの左手が上がる。武器ごと持ち上がった手を握りしめ、静かな意志を以てにとりのその言葉に答えた。RDも一瞥した後に一言置いて、ギムレットとヴェンジェンスは高速で移動するべくブースターを吹かした。

 

「じゃあ、行ってくるっす」

「おー、行ってきなよ!いつも通り、オペレーターは私が務めるから!」

 

 その言葉を聞いて、RDは強くペダルを踏み込んだ。

 

 

 

 

 目標まで僅か1kmを切ったところだった。不意に視界に映りこんだそれは、下にあったMTを全て破壊し、対空砲を相手取るところだった。

 

「魔理沙さん、アレ!」

『あれは......ガンシップ?...いや、それにしてはデカすぎる!あれは一体なんなんだ......!?』

 

 魔理沙が驚いたのは、とても巨大な兵器がそこにあったからだ。というのも、ただ大きい訳ではない。実に奇妙な原理で空を飛んでいるからだった。

 推進器もない、ローターすらない見た目だったうえ、その大きさは優に30メートルを超えるだろう大きさだ。更には全方面に武装しており、中央の巨大な砲台...恐らく主砲だろう...が放った妖しい光の砲弾は、命中した場所に青い光を散らす。クレーターすら出来上がっており、その威力が如何に規格外なのかを容易に伺わせる。

 

『バカでかいな、なんだアイツは...』

 

 人里の防衛部隊が放つ全力の対空砲火は、謎の新緑色の膜で防がれて通らない。砲火が止むと、それで終わりかとばかりに飛行兵器が前面に取り付けられている超大口径の機銃を一斉射し、その圧倒的な火力で対空砲は瞬く間に破壊されていく。

 

 それを見計らったタイミングで、狙撃型四脚ACの小隊が展開し、スナイパーキャノンやヒートキャノンなどの大破壊力を持つ火砲をぶつけ続ける。空を飛ぶ異形......仮に飛行要塞と名付けるとして、飛行要塞はキャノンの集中砲火を受けていた事で、最初の十発程は耐えていたが、緑色の膜が減衰すると、それを好機と見て全員か火勢を集中させ、一箇所を......最も装甲が薄いであろう場所たる主砲内部を撃ち続け、火を噴いて轟沈する。

 

 墜落すると、その付近を緑色の美しくも何処か悍ましい光が包み込んでいく。爆発が起き、近くにいたACが一機巻き込まれ、耐久が充分だったにも関わらずバラバラにされていた。

 

 不意に、二人の無線機に通信が入った。

 

『貴殿らは我が方の兵か!?』

 

 突然の通信に呆然としていたものの、人里を守っているキャノン装備のACが魔理沙に話しかけていると気付いて慌てて無線に応じる。

 

『あっ......そ、そうだ。私達は阿求に雇われてきた!』

『阿求どのに?......ああ、魔理沙どのか!ここは私たちが守る、それより我が隊の司令官がここより東の方角、2km先で指揮を取っておられる!救援に向かってくれ!』

『わかった!RD、行くぞ』

 

 了解すよ、とRDが踵を返して目標地点に向かうなか『しかし...』と、魔理沙がふと吐く。

 

『アレは何だったんだ......』

 

 思考があの飛行要塞の事で埋まりそうになったが、呼びかけのおかげでそうならずに済んだ。

 

「魔理沙さん!」

 

 魔理沙が独りごちている所に、RDから通信が入った。魔理沙がそれに応答すると、彼は通信機を見るように指示する。

 

「防衛部隊との回線が繋がったっす!」

『わかった、ありがとう。こちらギムレット!代表はいるか?阿求?』

 

 魔理沙が主戦場に到着する頃には、かなり切迫した状況だった。無線からは様々な人里の部隊員からの通信や叫び声が聞こえて来、それらを押しやって魔理沙の呼びかけに応じたのは、人里内の穏健派として知られる少女、稗田阿求だった。

 

『魔理沙さん!来てくれましたか!』

 

 昔の温厚さからは有り得ないほどの、切羽詰まったような呼び声が聞こえてきた。

 

『おぉ!霧雨どのか!?よく来てくださった!』

『助かった!魔理沙ちゃんが来りゃあ俺達の勝ちだ!』

 

 阿求の呼んだ名前に防衛部隊の何人かが反応し、士気を高める。それを聞いてRDが魔理沙に聞く。「信頼されているんすね」魔理沙は『まあな』と答えた。

 

『《システム、戦闘モード》』

 

 ギムレットの戦術COMが言い放ち、FCSのロックが解除される。

 

『聞こえるかい?その辺りにかなりの数のMTが確認出来るね。それだけじゃない、敵の後詰に飛行タイプの強襲機。単体じゃ大したことは無いけど、多分弾が足りなくなるかもしれない。節約しながら戦う必要があるけど、それを差し引いてもこれまでの中でもかなり危ない戦場になると思う。気をつけて!』

 

 にとりの情報を受け取って、魔理沙が叫ぶ。

 

『上等!行くぞッ!』

 

 崩落した防壁を越えながらガトリング砲を乱射してきたMT数機を、スナイパーライフルと機関砲で迎え撃つ。15発ほどのガトリング弾と、1発の大口径弾が撃ち込まれ、一機のMTが爆散する。

 

『まず一機!』

 

 続いてギムレットを挟むようにして展開するMTのうち、後ろ側にある敵機を蹴り飛ばす。重量二脚の衝撃力は、非常に高い。速度の乗らないブーストチャージとはいえ、瞬間的な加速とギムレットの自重から繰り出される蹴りは並大抵の汎用兵器は即死、軽量、中量二脚ACは言わずもがな重量級のACでさえ瀕死だ。そしてそんな重さの蹴りを受けたMTがどうなったかは、見なくとも想像にかたくない。

 不相応な差の火力を叩きつけられたMTが破壊されたのを後ろ目に、FCSがロックした敵機に向かってライフルとミサイルを撃ち込む。各属性の兵器を撃ち込まれたMTごときが耐えられようはずも無く、その機体もただ熱を発する爆発と共に消えた。

 

『RD、そっちは!』

「今......終わりっす!」

 

 魔理沙の仕留め損なった側面の二機を、RDのヴェンジェンスがライフルとパルスマシンガンの二つで集中砲火し、MT二機は両方とも耐え切れず爆発する。

 

「もちろんこれだけじゃないんすよね!?」

『みたいだぜ!ほら、また来るぞ!』

 

 高機動型と呼ぶ、空を飛ぶ兵器が幾らかやってくる。スキャンした所、武装はCE砲弾を装弾したヒートキャノンのようだ。

 

「喰らったらタダじゃ済まないっすね、オレも、魔理沙さんも」

『わーってる!お前も気をつけるんだぜ!!』

 

 まだ無事な壁を蹴りつけて空に浮かび上がり、真正面から突っ込んでくる高機動型を撃って、落とす。魔理沙は重量二脚機体であるが、武装の交戦範囲が広いおかげで飛ぶ必要も無い。弾を避ける為に時折左右にハイブーストするくらいで、中距離狙撃型であるギムレットの前には、近距離でなくば当たらないほどの弾速のヒートキャノンなどかすりもしない。

 魔理沙が3機落とした頃、RDの方に流れた高機動型も彼によって撃ち落とされる。

 

『またやった、これで6機だ』

「気をつけてください、まだ来るっすよ!」

『結構数が多い、油断するなよ!!』

 

 魔理沙がどんどん敵の防御型を落としていき、RDもそれに則るように機動力を活かして高機動型の飛行強襲機を撃墜する。

 

『また一機!』

「増援!またっすよ!」

『くそっ、キリが無い!』

 

 再度飛来してくる飛行型を撃ち落としながら魔理沙は悪態をつく。既に手持ちの火器の装弾数も心許なくなってきているというのに、敵の増援が収まる気配は全く感じられなかった。

 

「にとりさん!味方は来ないんすか!?」

『待って、前方からAC、一機!』

 

 にとりの叫ぶような警告と共に、前方へ振り向く。遠くから確かにACが接近してきており、周囲の敵がACを確認して撤退していく。対AC戦はやり慣れている、だがこのACは何かが違った。それは─────

 

 

『《U1、オペレーションを開始します。敵AC確認、重量二脚、及び中量二脚。コジマ・パーティクル最大出力。プライマル・アーマー、起動》』

 

 

───────奴の機体が、新緑色の膜のようなものに覆われている事だった。

 

 




コジマ・パーティクル

 かつてその重金属粒子を発見した博士の名で呼ばれる物質。軍事転用の可能性を模索するうち、コジマ・パーティクルを用いたひとつの兵器が開発される。それは政府を打ち壊し、新たな世界と、新たな火種を生み出した。後に一人の英雄と、一人の殺戮者が生まれ、コジマ・パーティクルを使った技術の悉くが、殺戮者の手によって人々の命と共に抹消された。
 また、コジマ・パーティクルによって多くの人や土地が汚染され消えていったのもまた事実であり、即ちコジマ・パーティクルとは存在してはいけない、禁じられた物質でもあるはすだった。


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