夏の記憶 (那須与一兵)
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夏の記憶

芹沢あさひの通う学校の男子生徒になった僕が夏の日に偶然出会うだけの話です。妄想100パーセントかつ初筆なので、雑な点は目を瞑って貰えると幸いです。


ある夏の日の中学校校舎

 

その日は照りつけるような太陽が夏の猛威を振るうような天気だった。僕は夏休みの課題を学校に置きっぱなしだったことを思い出して学校に来ていた。課題を持って帰ろうと校門を通り、駐輪場で自転車を出そうとしていた僕は出口付近に女の子がいることに気付いた。ここからは遠目でよく分からないが、ウロウロしながら何かを探しているように見える。それを疑問に思った僕は女の子に近づいて声をかけようとした。

 

僕「あの...何かあったんで...ってせ、芹沢さん!?」

 

彼女の名前は芹沢あさひ。巷で話題になっているカリスマ的人気アイドルユニット、ストレイライトでセンターを務める少女だ。そして僕のクラスメイトでもある。そんなに彼女が中学の駐輪場で忙しなく動いてるのを目撃し、何か困っているのかもしれないと考え、1度出しかけて止まった言葉を再び発した。

 

僕「芹沢さん、どうしたの?こんなとこで動き回って...何かあったの?」

あさひ「...」

僕「芹沢さん?もしもし、聞こえてる?」

あさひ「...」

僕「(聞こえないのかな...それともいきなり話しかけられて不快だったのかな...?芸能人ってそういうの嫌がるって聞くし...)」

 

同じクラスにいるとはいえ、相手は超人気アイドル。プライベートをいきなり邪魔されて怒って無視というのも考えられる。

僕は仕方なしに目線を彼女から左側にある校舎へと移す。校舎の支柱があり、そこには大きなカブトムシがいた。カブトムシがいる位置は少し高いところであり、中学生男子の平均身長である僕でも届きそうにはない高さだった。

 

僕「...あれカブトムシ?こんなところにいるなんてめずら...」

あさひ「カブトムシ、興味あるっすか?」

 

唐突に声が飛んでくる。方向は先程彼女がいた方向でもしやと思い横を向く。そこにはテレビで何度も見、それ以上にクラスで横顔を見ていた女の子の顔があった。

 

僕「うわぁ!」

あさひ「?どうしたんすか?大丈夫っすか?」

 

驚いて腰を抜かしてしまった。恥ずかしい。

 

僕「せ、芹沢さん...いきなり横にいたらびっくりするって...」

あさひ「あ、なるほどっす。ごめんなさいっす」

 

あっけらかんと笑う彼女。驚きの気持ちはまだ残っているが、彼女の笑顔を見ていると何だか嬉しくなってしまった。そんな気持ちのまま僕は胴体を起こしながら彼女の言葉を思い返す。

 

僕「えっと...それでカブトムシだっけ?興味って程じゃないけど、昔は好きだったからさ。つい声に出ちゃったよ」

あさひ「...捕まえたりもしてたんすか?」

僕「うんまぁね。こんな時間に見るなんて経験あんまりないけどね」

 

彼女はそこで顔を俯けた。僕はここでほとんど喋ったことない彼女に対していきなり気安く話しかけすぎたんじゃないか?と思い不安になった。動悸が早まった気がする。僕は急いでその場から立ち去るために別れの言葉を話そうとした。

 

僕「じゃ、じゃあ芹沢さん、また...」

あさひ「良かったら、あそこのカブトムシ捕まえるの手伝って貰えないっすか?」

僕「...へ?」

 

脳内が真っ白になった。我ながら変な顔だったと思う。

 

あさひ「あの高さは私だと届かないんすよ。何か足場になるようなものを探してたんすけど、見つからないし困ってたんす!」

 

芹沢さんが事情を話し、僕はそれを脳内で整理した。どうやら先程彼女が周囲を歩き回っていたのはあのカブトムシを捕まえるためだと僕はようやく理解出来た。

 

僕「あー、OKそういうことなんだ。そういうことなら協力するよ」

 

僕はそう応えた。本心はもっと彼女と話す繋がりが欲しかったからであるが、そんなことは言えなかった。自分でもそそくさと居なくなろうとした時の感情はどこへ行ったのだとツッコミたくなるが、そんなこと彼女の笑顔の前にはどうでも良い事だった。

 

あさひ「ありがとうっす、じゃあ私が下やるっすよ」

僕「...へ?」

 

1度整理された頭が再び真っ白になった。僕はこんなにも理解能力に乏しかったのだろうか?

 

僕「えーと...ごめん、芹沢さん。どういうことかな?」

あさひ「だからあの高さだとどっちかが足場になって高さを底上げするしかないんす。取り慣れてるってさっき言ってたっすから、君が上の方がいいと思ったんすけど」

 

ここに来てようやく話が飲み込めた。つまり彼女は自らが土台になって僕が彼女の上に立ち、カブトムシを捕まえるという作戦を計画していたようだ。

 

しかし彼女は今をときめくトップアイドル。僕が乗って何かの拍子で怪我をさせるわけにはいかない。それ以前に僕が芹沢さんの上に乗るなんて考えられないし、そんなことしたら全国の芹沢あさひファンに殺されてしまう。僕は慌てて計画を変えてもらうことにした。

 

僕「い、いや!僕が下になるよ!僕が土台になって、芹沢さんが僕に乗っかって!うんそっちの方がいい!」

あさひ「そうっすか?私はどっちでもいいっすけど」

僕「芹沢さんに乗っかってもらえるなんて僕としても嬉しいよ!」

 

あれ待て、これだと変態みたいじゃないか?

 

あさひ「ははっ、面白いっすね!じゃあよろしくっす」

僕「う、うん。よろしく?」

 

なんやかんやあったけど、とりあえず作戦内容は決まった。僕は校舎の支柱の前に四つん這いになって、芹沢さんがその上に乗った。僕は紳士なので決して顔をあげたりはしなかった。

 

僕「ど、どう?取れそう?」

あさひ「うーん、もうちょっとっす」

 

微調整のために僕の背中を踏みつける芹沢さん。体重の重さによる痛みは感じられず、普段近寄りがたい雰囲気を出している彼女も普通の女の子なんだなと感じられた。

 

あさひ「ジャンプしたら届きそうっす。やって見るっすね!」

僕「...え、ちょっとまっ...」

あさひ「それ!!!」

僕「ガハァ!」

 

ジャンプの踏切のために力を入れる芹沢さん。それまで羽毛のように感じられた重みは突然鉛と化し、僕の背中に痛みが走る。痛い、とても痛い。

 

あさひ「やったっす!捕まえたっすよ!...どうしたんすか?」

 

不思議そうに見つめる芹沢さん。その手には大きなカブトムシが捕まえられていた。どうやら作戦差成功したようだ。

 

僕「いや...なんでもないよ...それよりそれ捕まえられたんだね。おめでとう」

あさひ「そうなんすよ、ありがとうっす!」

 

今日1番の笑顔を見せる芹沢さん。授業を受けている時に窓越しに遠くを見つめ、ステージ上では雲をつかむような感覚に陥る表情の彼女が僕に向かって笑顔を向けてくれている。その事実が僕は嬉しかった。痛みはもう感じられなかった。

 

僕「...ハハっ」

あさひ「?何がおかしいっすか?」

僕「いや、芹沢さんもそんな風に笑うんだなって...何だか面白くって」

 

素直な感想を述べる。そんな僕の言葉に芹沢さんは笑いながらこう言った。

 

あさひ「私、夢中になれること好きなんす!」

 

ーこれが僕の夏の思い出。大きなイベントも事件もない、ただ芹沢あさひと言う女の子を知ることができた気がするだけの話であるー

 

あさひ「そう言えば君は誰っすか?」

僕「え!?一応クラスメイトだけど!?」

 

[完]

 

 




この記憶を糧に生きていきたいと思います。読了感謝です。


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