Vの者!~挨拶はこんばん山月!~ (サニキ リオ)
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第一章 ~バーチャル幼馴染~
【司馬拓哉】元アイドルがバーチャルライバーを目指す


※時系列ミスってたので、一部修正しております。


 いつからこんな状態になったか司馬拓哉(しばたくや)は思い出せない。

 気が付けば二十五歳。SNSを覗いてみれば、かつての同級生達は立派な職に就き、早い者では結婚している者もいる。

 テレビをつければキラキラした自分よりも年下のアイドルや芸能人が、楽しそうにトークをしている様子が嫌でも目に入る。

 自分よりも年下で凄い人間など山ほどいる。どんな情報媒体に触れても否応なしに突きつけられる事実。かつて、そちら側だった拓哉には耐えがたい苦痛だった。

 拓哉の人生は順風満帆だった。

 小学校の頃は運動神経抜群、成績優秀でクラスの人気者。

 中学に入ってからは姉が勝手に応募した男性アイドル事務所〝シャイニーズプロ〟の審査に通り、アイドルデビュー。

 芸能界で活躍する先輩達に引っ張られるように拓哉の所属するグループ〝STEP〟はとんとん拍子にテレビ出演が決まり、CDデビューもした。

 

 そして、拓哉が中学三年生になった頃。ついにデビュー当時に憧れた武道館でのライブが決定した。もちろん、大手アイドル事務所主催のライブのため、事務所に所属するグループの一つとしての参加だったが、それでも、〝STEP〟のメンバーにとっては充分だった。

 しかし、拓哉は自分達のライブではないことに不満を抱き、裏では愚痴を零していた。

 一切の挫折を経験せず、成功続き。アイドルとしても売れてきていたこともあり、拓哉はすっかり天狗になっていたのだ。

 拓哉は歌唱力も、ダンスの腕前も、演技力もずば抜けていた。

 先輩への気遣いもでき、周囲からは一目を置かれていた。

 

 それ故、増長した。

 

 何でもできて態度が悪い。そんなアイドルは裏で疎まれて当然だ。

 周囲のやっかみなど実力でねじ伏せればいい。そんな風に考えていた拓哉だったが、芸能界はそんなに甘くなかった。

 そして、気がつけば拓哉に居場所はなかった。いや、居場所をなくしたのは拓哉自身だった。

 司馬拓哉との共演にNGを出す芸能人が続出したのだ。その被害はグループで活動している以上、STEPのメンバーにも及んだ。

 自分がメンバーの足を引っ張った。その事実を許容できなかった拓哉は常にメンバーと距離を取り続け、最終的にはSTEPを脱退。一年後には事務所を退所した。

 幼い頃から失敗知らずの拓哉にとって、自分の不手際で周りを巻き込んだ失敗をするという経験はあまりにも大きな挫折だった。なまじ自分が努力しているという自覚があった分、天狗になっている自覚がなかったのだ。

 夢破れた後の拓哉の人生はまさに何の波風もない人生だと言えるだろう。

 通っていた高校を卒業し、指定校推薦で大学へ合格。当時、アイドルと勉強を両立させるために必死に努力していたことが功を奏した。

 しかし、高校時代の学力貯金は大学に入学した半年程で使い切った。

 目標も夢も何もないまま大学生になった拓哉が勉強に専念できるわけもなく、飲食店のアルバイトとサークル活動に明け暮れる日々が続いた。

 サークルもダンスサークルとは名ばかりの飲みサークルだったため、過去の経験を生かして大した努力もせずにちょろっとキレのあるダンスを披露して人気者になった。

 輝かしいサークル活動とは対照的に、勉強面で拓哉はとことん堕落した。

 常にギリギリで取得していた単位はついに足りなくなり、留年。

 留年したことを親に告げ、仕送りを切られた拓哉は仕方なく周囲に学費を借りて必死に余剰の一年を過ごした。

 金のかかるサークル活動もできなくなり、人脈も失った拓哉を次に待ち受けていたのは就職難だった。

 夢も目標もない、特に目立った資格も持っていない。そんな拓哉を採用しようとした会社は肉体労働メインのブラック企業くらいだった。

 俺の居場所はここじゃない。俺にはもっとふさわしい場所があるはずだ。

 折れずに残った中途半端なプライドが拓哉の足を踏みとどまらせた。

 結局、就職せずにフリーターになった拓哉は生活費を稼ぐだけの日々を送り始めた。

 趣味に使う余裕などなく、拓哉の趣味はネットサーフィンや動画鑑賞、タダでできる筋トレやジョギングになった。

 

「司馬、昨日の竹取かぐやの動画見たか?」

「竹取かぐやって、最近話題になってるVtuberだっけ?」

「Vだけどライバーの方な」

 

 大学時代から続けている飲食店のキッチンのアルバイト中、比較的話がはずむバイト仲間が声をかけてくる。話題は今人気沸騰中のバーチャルライバー〝竹取かぐや〟についてだ。

 Vtuberは動画サイト〝U‐tube〟で何年か前に登場した〝バーチャルユーチューバー〟の略だ。

 基本的にはさまざまなジャンルの動画を投稿するUtuberと活動方法は変わらないが、大きく違うところが一点だけある。

 動画配信を行う際に2Dや3Dのアバターを使用するのだ。

 まるでアニメのキャラクターが生きている人間と同じように動き回る。その姿に人々は魅せられた。

 そして時代はさらに移り変わり、現在ではVtuberの活動は動画投稿よりも生配信の方が主体となってきた。

 そうした生配信を活動の主体にするVtuberをバーチャルライバーと呼ぶようになったのだ。

 こうした知識も今の拓哉は一瞬で理解できてしまう。

 一年留年した大学を卒業してフリーターとなってから、拓哉はすっかりサブカルチャーの方にも詳しくなっていたのだ。

 

「最近っていうか、結構前から勢いあって売れてるぞ。デビューからもう半年経つし」

「マジか。時の流れ早いな。ついこの間デビューしてたと思ってたけど」

「毎日毎日、同じことの繰り返し。代わり映えしない人生だもんな俺達」

「本当クソみたいな人生だよな」

 

 現在、拓哉が元STEPのメンバーだと気づいている者は周囲にいない。

 拓哉が芸能界から消えて久しい。そのうえ、STEPは解散し、それぞれが個々で活動を行っているため、STEPというグループ名と拓哉の名前が結びつかないのだ。

 また大学時代から拓哉も正体を隠しつづけ、当時とは髪型などで雰囲気を変えているため気づかれなかったのだ。

 

「お疲れ様です」

 

 タイムカードを切り、店の裏口から外へ出る。

 季節はクリスマス。辺りには仲睦まじいカップル達が楽しそうにはしゃいでいる。

 

「竹取かぐやのクリスマス配信でも見るか……」

 

 無心でカップルの隙間を縫うように岐路についた拓哉は、自然とため息をついた。

 

 それから二年。

 

『はいはーい、こんバンチョー! 今日はみんなが待ちに待った3Dライブや! もちろんウチも首を長くして待っとったで!』

「……スパチャ、スパチャっと」

 

 拓哉は竹取かぐやをはじめとするVtuber事務所〝にじライブ〟のライバー達にドハマりしていた。

 

『みんなは画面の前でサイリウム振ってやー!』

「サイリウムは準備OK、ビールも買ってある……と」

 

 拓哉も今ではすっかりライブ配信を齧りつくように眺め、情報投稿サイト〝ツウィッター〟では、[バンチョーの歌最高過ぎて死んだ]などと呟いている始末だ。

 

『……~~~♪』

 

 歌だけならば、今まで通り好きという気持ちが爆発しそうなファンとして〝ツウィッター〟で呟くだけだっただろう。

 しかし、大勢のファンを前にして、高いレベルの歌とダンスを披露するということ。それはかつての拓哉が夢見た光景を彷彿とさせた。

 

「っ!」

 

 ――俺は、何をしているんだ。

 

 忘れていたはずの夢が蘇った。

 拓哉は衝動のまま、後先考えずに〝にじライブ三期生募集オーディション〟のページからライバー応募を行った。

 オーディションは自己PRの動画を取って送るという形式のものだった。

 歌、トーク、ゲームの腕前、動画の編集技術など、アピールポイントは自由だ。

 拓哉は迷わず歌動画で勝負することを選択した。

 かつてはステージの上で大勢のファンを前に歌った経験のある以上、それを生かさない手はないと思ったからだ。

 ブランクがあるとはいえ、元アイドル。拓哉は応募期間を確認し、時間の許す限りしっかりとボイストレーニングを行った。

 満を持して送った曲は竹取かぐやのメジャーデビュー後の初シングル〝バンブーミサイル〟。清楚な見た目に反して常軌を逸した彼女を表したパワフルな一曲だ。

 歌動画ではあるが、見よう見まねでフリー素材のイラストを活用し、曲に合わせてエフェクトをつけたりして工夫した。

 少なくとも、黒い背景で音声のまま提出するよりはいいはずだ。

 そう思って提出したオーディション動画だったが、オーディション結果が来るまで安心はできなかった。

 にじライブから連絡が来たときは、アルバイト中だというのに素っ頓狂な声をあげてしまったくらいである。

 休憩時間に入り、高鳴る心臓を押さえつけて合格通知のメールを開く。

 

 にじライブ一次審査の結果は、

 

『司馬様

 お世話になっております。にじライブ株式会社 採用担当でございます。

 先日は弊社オーディションにご応募いただきまして、誠にありがとうございます。

 早速ではございますが、司馬様には是非とも二次選考にお進みいただきたく存じます。

 つきましては、次回面談の日程を調整させていただきますので、二次選考にお越しいただける日程をご回答いただけますでしょうか。

 ご不明な点などございましたら、お気軽にお問合せください。

 何卒宜しくお願い致します。

 にじライブ株式会社 採用担当』

 

 合格だった。

 




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【獅子島レオ】面接からの打ち合わせ

 ほとんど勢いに任せて応募したというのに一次審査を通過した。

 久しく成功を経験していなかっただけに、あっさり審査を通ったことに拓哉は驚きを隠せなかった。

 もしかしたら俺は、本気を出せばまだまだやれるのではないだろうか。

 そんな風に伸びかけた天狗の鼻は、挫折という経験が抑えてくれた。

 もう一度訪れたチャンス。それをくだらないプライドで不意にするほど拓哉はバカではなかった。

 改めて気を引き締めると、拓哉は空いている日程を採用担当へと送った。

 二次審査当日。

 スーツを着込み、美容院で頭髪も整えた拓哉は、さながら入社面接へ向かう就活生のような面持ちでにじライブの事務所がある新宿へと向かった。

 にじライブの事務所へ到着すると、受付のタブレットPCで採用担当者を呼び出す。

 

「お世話になっております。〝にじライブ三期生募集オーディション〟の二次選考で参りました司馬拓哉です」

『お待ちしておりました。入口のソファーにお掛けになってお待ちください』

 

 凛とした透き通るような声でそう案内した採用担当者の言葉通りにソファーに座る。いいソファーを使用しているからか、座り心地の良さに少しだけ緊張がほぐれた。

 拓哉が心を落ち着かせようと深呼吸していると、長い黒髪と鋭い目つきが特徴的な女性がやってきた。

 

「お世話になっております。司馬拓哉です。本日は宜しくお願い致します」

「宜しくお願い致します。それではご案内させていただきます」

 

 慌てて立ち上がって挨拶をした拓哉に対して、採用担当者は表情をピクリとも動かさずに丁寧に応じた。

 立ち上がってみると、採用担当者の身長は拓哉の胸の辺りまでしかなかった。拓哉の身長が百七十後半であることを考慮すると、彼女の身長は百五十もないだろう。

 幼い外見とは対照的に大人びた印象を受ける採用担当者に連れられ、事務所の会議室のような部屋に案内された拓哉は改めて気を引き締めた。

 

「本日面接を担当させていただきます。にじライブメディア本部、諸星香澄(もろぼしかすみ)です」

「ちょ、頂戴致します」

 

 諸星と名乗った採用担当者から名刺を受け取ると、そこには部長の二文字が記載されていた。

 一見二十五歳である自分よりも遥かに幼く見える諸星が部長。面接へと気持ちを切り替えた拓哉の脳が再び混乱し始める。

 それでも、そこは元アイドル。不測の事態は慣れっこだ。

 諸星からされる質問に一つ一つしっかりと答えていく。

 表情の変わらない諸星だが、反応からして手応えはある。

 そう感じた拓哉は、自分を大きく見せることはせず、誠実に自分のこれまでの経歴を赤裸々に語った。

 

「司馬さんは元アイドルという経歴をお持ちですよね。有名なグループだったこともあり、ある程度は私も存じ上げておりますが、アイドル活動をやめてしばらく経つのに現在弊社のライバーを志望する理由をお聞かせ願いますでしょうか?」

「前置きが長くなっても構いませんか?」

「ええ、構いませんよ」

「それでは……私は小学校の頃に同級生とした約束がきっかけで、誰かを笑顔にできる人間になることが夢でした。きっかけは姉が勝手に応募して書類選考に通ったことですが、アイドルなら人に夢を与えられる、そう考えました。そして、目標として武道館でライブするようなアイドルになることを目指しました」

「……家族が応募してアイドルになるって話、本当にあるんですね」

 

 諸星は相変わらずの無表情だが、声の抑揚からして驚いている様子だった。

 

「ええ、そんなきっかけから始まったアイドル時代ですが、驚くほどに順調に事は進みました。中学一年生でいきなりデビューして、すぐにCDを出すことができました。シャイニーズ事務所にしては珍しく、先輩アイドルのバックダンサーをしていた時期はかなり短かったと思います。小さなライブを繰り返してメディアへの露出も増えていって、オリコン一位を取ったこともありました」

 

 もちろんグループで、と拓哉は付け加えて続けた。

 

「ですが、そのときの私は天狗になっていたのでしょうね……。調子に乗り出して態度が悪くなっていき、後輩を顎で使う。売れている当時の私はそんな人間でした。そのせいで周囲から味方がいなくなって、気がつけば一人になっていました。アイドルを引退してからは何の変化もない毎日を過ごして、現在はフリーターをしています。自業自得だ、しょうがない、もういいや。自分の夢なんてとっくに消えていると思っていました――ついこの前までは」

 

 そこで言葉を切ると、拓哉は強い意志を込めて真っ直ぐに諸星の瞳を見据えて言った。

 

「先日御社に所属しているライバーの竹取かぐやさんのライブを見て思ったんです。もう一度輝きたいって。またあんな舞台に立ちたいって」

 

 しばしの静寂の後、会議室にゴクリという拓哉の唾を飲み込む音が響く。

 ひと時も拓哉から目を離さなかった諸星は、ゆっくりと穏やかな口調で話し始めた。

 

「そうですか……では、最後に配信をしている体で、好きなものについて話が途切れるまで話してください」

「好きなもの……」

 

 配信している体、と言われ反射的にカメラが回ったときのような感覚を覚えた。アイドル時代にテレビ番組に出演していたときに身に付いた本番モードに頭が切り替わる感覚だ。

 

「はい、それでは今日は俺の大好きなバーチャルライバー竹取かぐやさんについて話していこうと思います」

「……ほう」

 

 すっ、と諸星の目が鋭くなる。

 

「きっかけは友人に勧められた【汚い言葉を使ったら即終了の清楚配信】の切り抜き動画だったんですけど、本編に行ってみると、この配信がまた面白くて――」

 

 それから拓哉は二時間、ノンストップで竹取かぐやについて語り尽くした。

 

「竹取かぐやさんは、俺にとって忘れていた夢を思い出させてくれた希望の光です。だから、今度は自分が輝いて俺みたいにくすぶっている誰かの光になりたい。そう思わせてくれた大好きなライバーさんです」

 

 最後に拓哉はそうまとめた。二時間も止まらずに語り尽くすなど、限界オタクもいいところである。

 だが諸星はふぅ、と短く息をつくだけで、嫌悪感を示すことはなかった。むしろ、その逆だった。

 

「……なるほど、ありがとうございます。合否は後日改めて通達――というのも効率が悪いので、このままお話を進めさせていただいても構いませんか?」

「………………………………はえ?」

 

 拓哉の人生の中でこれほど間抜けな声が出たことはないだろう。

 あまりの事態に呆ける拓哉を見て、諸星は初めてくすっと笑って話を続けた。

 

「合格、ということです。もしこの後に予定が入っていなければ、そのまま――」

「もちろん、全然暇なので構いません! ……でも、そんなに簡単に合否を決めてもいいんですか?」

「私が面接を担当する場合、最終的な合否は事務所から一任されているので問題ありません」

 

 この若さで部長を任されているだけあって諸星はそうとう会社から信頼されているのだろう。

 諸星の会社での立ち位置を理解した拓哉はごくりと唾を飲み込むと、単刀直入に聞いた。

 

「私のライバーとしての姿はどのような姿になるのでしょう?」

「司馬さんは一般枠なので、デザインはこれから発注することになります」

 

 にじライブには、一般応募枠以外にも実況者からスカウトされてライバーになった者もいる。

 特ににじライブが本格的にVtuber事業に力を入れ始めた頃にデビューした二期生のほとんどは、実況者上がりだ。

 

「その前にこちらに署名と捺印をお願いします」

 

 本格的な打ち合わせになる前に、一枚の用紙を取り出した。

 それはにじライブとのライバー契約を結ぶための契約書だった。

 

「面接には印鑑を持ってきてほしいってまさか……」

「元々会議で司馬さんの採用はほぼ決定していました。ただ大半が過去のアイドルとしての実績からの判断だったため、私がこの目で確かめることになりました。もちろん、結果は過去の経験からなる現在を評価しての合格です」

 

 最終決定権を諸星が持つ。その本当の意味を理解した拓哉は改めて諸星への評価を上方修正した。拓哉が諸星の眼鏡にかなわなかった場合、過去の経歴だけで採用しようとしていた役員を抑えてまで、諸星は拓哉を不合格にするつもりだったのだ。

 

「ありがとうございます」

 

 真摯に一人の人間と向き合う姿勢を感じ取った拓哉は自然と頭を垂れていた。

 

「これが私の仕事ですから」

 

 諸星の表情は相変わらずの鉄仮面だったが、その声音は初対面のときよりも優しかった。

 印鑑を押した契約書を受け取った諸星は確かに、と呟くと、そのまま今後の話を始めた。

 

「まず、ご自分で使用したい名前などはありますか?」

「名前、ですか」

 

 基本的にネットでの活動を主体とするVtuberは本名を使用しない。

 かつてVtuberの歴史を切り開いたと言われる〝バーチャル四天王〟も本名以外で活動している。

 もちろん、彼女達からすれば〝中の人〟などおらず、自分は自分だという主張はあるだろうが、声を提供している人間というものはどうしても存在する。

 つまり、バーチャル空間に存在する側と人間としての本体は切り離して考えなければいけないのだ。

 

「すみません、全く思い浮かびません……」

 

 拓哉の場合、昔のあだ名である〝シバタク〟という名前を仮で使用してオーディションへ申し込んだため、本命の名前を決めていなかった。世間でも認知されていたシバタクという名前を使用するのは当然NGだ。

 

「そういえば、司馬さんはライオンが好きでしたよね」

「よくご存じですね」

 

 テレビに出ていた頃ならまだしも、すっかり世間で存在が忘れられつつある拓哉プロフィールをさらっと覚えている諸星に拓哉は驚きを隠せなかった。

 

「昔、Mスタで言ったでしょう。当時リアルタイムで見ていたので」

 

 当の諸星は何でもないことのように言ってのけた。拓哉としては諸星が何歳なのか気になってしょうがなかった。

 

「ライオンをモチーフにしてはいかがでしょう。髪型もどこかライオンっぽいですし」

「いや、これは短い髪を整髪料でセットしただけなのですが……」

 

 謎のライオン推しに困惑していると、諸星はライオンをモチーフにすることのメリットを提示し始めた。

 

「ライオンモチーフならグッズを作りやすいですし、デザインもしやすいですよ」

「な、生々しい話ですね」

 

 思ったよりも現金な話が出てきて拓哉の顔が引き攣る。

 

「それに司馬さんは歌配信メインのライバーを希望されてますし、ライオンは〝力強い咆哮〟のイメージがあって悪くないと思います」

「なるほど一理ある、のか?」

 

 何だかんだで推しに弱い拓哉であった。

 

「とりあえず、名前が思い浮かばないなら設定から詰めていきましょう」

 

 ライバーとしての名前は一旦置いておき、諸星の提案で設定を詰めていくことになった。

 

「これは個人的な意見ですが、司馬さんは演じるよりも素の自分を出した方が人気が出ると思います」

「素の自分、ですか。ドラマの経験はありますけど、ずっと続けていくなら確かに素の方がいいかもしれませんね」

 

 余談ではあるが、拓哉が出演したドラマは悉く高視聴率を叩き出している。

 

「例えば、元アイドルだったが成功続きで傲慢になり、周囲とうまくいかなくなって挫折してしまったという設定はどうでしょう?」

「それはそのまま過ぎませんか!?」

「むしろ、そのままやからええんじゃないですか!」

 

 諸星の言葉に熱が籠る。敬語が崩れ、方言が顔を出したことに気がついた諸星は慌てて咳ばらいをしてごまかした。

 

「――っん、ファンはライバーに夢を見せてくれる〝非現実感〟と身近な存在に感じる〝現実感〟を求めます。嘘の中にはほんの少しの真実を混ぜるといい、と言うでしょう」

「いや、嘘偽りない主成分真実の設定になってるんですが」

 

 事実、アイドルだった頃の拓哉はプライドが高く、周囲との軋轢も多かった。

 

「では、元アイドルだったが、傲慢故にライオンになってしまったというのはどうでしょう?」

「いや、それ山月記じゃないですか!」

 

 しかも、ライオンじゃなくてトラだし、と呟いた拓哉に対して諸星は無表情のままに言った。

 

「司馬さん、七つの大罪で傲慢を象徴する動物はライオンなんですよ」

「俺が言いたいのはそういうことではないのですが……」

 

 まともな人だと思っていたのに。

 拓哉の中で完璧なビジネスウーマンである諸星のイメージが音を立てて崩れ落ちた。

 

「ライオンの獣人になってしまって元に戻るために謙虚な姿勢で一から歌配信を始めた、という流れなら自然だと思いますよ」

 

 自然とは? という言葉を拓哉は既の所で飲み込んだ。

 

「でもまあ、凄くにじライブのライバーっぽい設定だと思います」

 

 いい意味でも悪い意味でもぶっ飛んだライバーの多いにじライブには、人外のライバーも多い。魑魅魍魎が跋扈する配信界隈で輝くためにも悪くはない設定である。

 

「では、山月李徴という名前で挨拶は『袁傪のみんなー、こんばん山月ー!』という感じでいきましょう」

「嫌ですよ!? 絶対色物枠じゃないですか!」

 

 諸星のぶっ飛んだ提案を拓哉は反射的に拒絶していた。そして、諸星演じるバーチャルライバー〝山月李徴〟のクオリティはとても高かった。

 

「えっ、でも、たぶん視聴者のみんなに『その声は、我が友、李徴子ではないか?』ってツッコミを入れてもらえますよ?」

「……すみません脳が付いていけないので、山月記ネタはいったんおいておきましょう」

 

 名前、挨拶、視聴者との定番のやり取り、その全てを一気に決められる上に、ネタで知名度を稼げそうという点においては拓哉も〝山月李徴〟に魅力を感じていた。

 だが、どうしても許容できないことがあった。

 

「山月記モチーフでやったら絶対に歌動画だけ伸びなくなる……!」

 

 なまじ自分が李徴に近い人生を歩んでいるが故に、直感的にそんな気がしてしまったのだ。

 李徴を却下するため拓哉の頭脳が全力で回り始める。そんな拓哉にパッと語感の良い名前が思い浮かんだ。

 

「し、獅子島レオなんてどうでしょう?」

「獅子島レオ、ですか。響きは悪くないですね」

 

 李徴ほどのインパクトはないですが、と呟いた諸星の言葉を拓哉は聞かなかったことにした。

 

「それでは、これから宜しくお願い致します。獅子島さん」

 

 この日より、夢破れた元アイドル司馬拓哉はにじライブ所属のバーチャルライバー獅子島レオとなった。




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【茨木夢美】同期と幼馴染を演じることになった件

申し訳ございません。
使用できない曲間違えて使ってたので、歌詞の部分に修正を加えました。


 危うく山月李徴になるところだった拓哉改め、レオはバーチャルライバー〝獅子島レオ〟のデザインが出来上がったとの連絡を受けて設定画を確認していた。

 

「はえー……」

 

 予想の遥か上をいく出来上がりに間抜けな声が漏れる。

 獅子島レオのイラストは圧巻の一言に尽きた。

 描かれていたのは黄色いパーカーを羽織った茶髪の青年。腰から生えた尻尾と頭にある獣の耳が特徴的で不敵に笑う口元からは牙が飛び出している。

 傲岸不遜、という言葉を絵に描いたような出で立ちは、アイドル時代の司馬拓哉を彷彿とさせた。

 

「カッケー……」

 

 この姿で自分は新たなスタートラインに立つのだ。そう思うと、自然と背筋が伸びた。

 設定画を確認した旨を伝えるとすぐに事務所から返信があり、デビューに関する打ち合わせをすることになった。

 三期生はデビューにあたり、合同で打ち合わせをするとのことだ。

 再びにじライブの事務所へ赴いたレオを待っていたのは、面接を担当した諸星――ではなく、眼鏡をかけた気真面目そうな青年だった。

 

「はじめまして、獅子島さんのマネージャーを担当させていただくことになりました飯田と申します」

「頂戴致します」

 

 飯田から名刺を受け取りると、レオも自己紹介をした。

 

「獅子島レオと申します。今後とも宜しくお願い致します。あの、諸星さんは?」

「諸星部長は多忙な方なので……先日も獅子島さんの面談だからと、スケジュールを開けたんですよ」

 

 諸星がこの場にいないことが気がかりだったレオだったが、部長クラスの人間がそんなに暇ではないと、飯田の言葉に納得すると同時に感謝していた。

 忙しい中、わざわざ自分のために直接面接をしてくれた。

 その事実がレオの胸を熱くした。

 

「本日は同期の皆さんとの打ち合わせとのことですが、同期というと、俺と同じ三期生ということですか?」

「はい、茨木夢美(いばらぎゆみ)さんと白雪林檎(しらゆきりんご)さんという方です。茨木さんは獅子島さんと同じ一般枠からの応募、白雪さんはスカウトでライバーになった方ですね」

 

 にじライブに所属するバーチャルライバーには二種類いる。

 ゲーム実況などを行う実況者からスカウトされて入ってきた者と、レオのように一般枠からオーディションで入った者だ。

 一期生には後者の割合が高く、二期生には前者の割合の方が高い。

 今回のオーディションでライバーデビューが決定した三期生は獅子島レオ、茨木夢美、白雪林檎の三名とのことだった。

 レオと同じように、既に茨木夢美、白雪林檎の二名もイラスト、プロフィールを固めている。

 公式サイトには既に三人のページが追加されており、そこには茶髪の獣人の青年、腰まで届く緑色の茨のようにトゲトゲした寝癖が特徴的な少女、赤髪のショートボブに茶色のメッシュが特徴的な少女が並んでいた。

 

 獅子島レオのページを開いてみれば、

 

【傲慢な態度が原因で人間関係をこじらせて引退した元アイドル。その傲慢さが原因でライオンの獣人になってしまい、元に戻るために謙虚な姿勢で一から歌配信を始めた】

 

 茨木夢美のページを開いてみれば、

 

【森の奥で暮らす女の子。魔女の呪いにより長い眠りに着いてしまったが、夢を見ている間は体を動かすことができる。いつか自分を起こしに来てくれる王子様を待っている】

 

 白雪林檎のページを開いてみれば、

 

【毎日鏡で自分の美しさを確認する自意識過剰なところがある女の子。周囲には隠しているが実は魔法が使えて自分の年齢を自由自在に操ることができる。林檎が大好物】

 

 という文章が書かれている。

 レオ以外の二人は童話をモチーフにしており、茨木夢美は〝眠れる森の美女〟、白雪林檎は〝白雪姫〟である。

 

「もう二人は既に来ているんですか?」

「茨木さんは集合の一時間前にいらしてますが、白雪さんはまだですね」

 

 白雪はともかく、茨木というライバーは随分真面目なんだな。

 まだ見ぬ同期へ期待していると、会議室から明るめの茶髪にパーマをかけて、フリル多めのブラウスやスカートを身に纏った女性が出てきた。

 

「あ、はじめましてぇ! 茨木夢美ですっ。今日はよろしくお願いしまぁす!」

 

 うわっ、という呻き声を慌てて飲み込む。第一声がそれではあまりにもひどい。

 

「はじめまして、獅子島レオです。同期だし、敬語はない方がいいかな?」

「そっかぁ。じゃ、あたしもタメ語で話すね。名前もレオ君って呼んじゃおっと」

 

 何年か芸能界にいたレオにはわかる。この手の声の出し方は権力者に媚を売る者特有の猫なで声だ。

 

「よろしくね」

 

 レオは湧き立つ鳥肌を抑え、アイドル活動で培われた営業スマイルを張り付けた。

 それからレオは夢美と談笑しながら会議室へと入る。あとはもう一人の同期白雪林檎を待つだけだ。

 

「白雪さんと連絡が取れないので、ちょっと連絡してきます」

 

 打ち合わせの五分前、白雪のマネージャーが慌てたように会議室を出ていく。

 初日からこの体たらくとはいい度胸してるな。レオはまだ見ぬもう一人の同期に呆れていた。

 

「そういえば、レオ君ってどこ出身なの?」

 

 三期生が全員揃わないため打ち合わせが始められず、夢美は退屈そうにレオへと話題を振った。レオも同期と親睦を深めようとしていたところだったため、夢美の質問に何気なく答えた。

 

「八王子の○○出身だよ」

「ヴェッ!? あたしと同じじゃん!」

 

 一瞬潰されたカエルのような声が聞こえる。レオはそれを捨て置き、夢美に年齢を確認することにした。

 

「女性に年を聞くのは失礼だけど、今何歳?」

「に、二十五歳」

「年まで同じか……」

 

 これは下手をすると小学校まで同じ可能性まであるぞ。

 その可能性を考慮したとき、レオは面倒事に発展しそうな空気を敏感に感じ取っていた。

 

「飯田さん、やはりこの二人ですよね……」

「四谷さん、私も同じことを考えていました」

 

 遠巻きに俺達のやり取りを見ていたマネージャー二人は不穏なことを呟き始める。

 

「元より、レオさんは二人のどちらかとは早いうちにコラボしていただく予定でしたし」

 

 不穏なやり取りの後、レオのマネージャーである飯田は笑顔を浮かべて二人にある提案をした。

 

「お二人には〝幼馴染〟の設定でデビューしていただきたいのです」

 

 その言葉を聞いた途端、レオ、夢美の両名は立ち上がって飯田の言葉を否定した。

 

「いやいや、無理でしょう!」

「あたしもさすがにそれは無理があるかなって……待てよ、うまくいけば楽に登録者数稼げるのでは?」

 

 強く否定する拓哉とは対照的に、登録者を稼げるという欲に駆られ、夢美は猫を被りきれなくなっていた。

 

「大丈夫ですよ。地元が同じなら共通の話題はいくらでも作れますから!」

「つい零しちゃった程度に幼馴染であることを言うだけなら、後でいくらでも言い訳は立ちますよ」

 

 どうしてもセット売りを押したいらしいマネージャーの熱に負け、うまくいけば話題性で売れると思った夢美の陥落は早かった。

 

「マネージャーさんがそこまで言うなら……ね?」

「もう、炎上しなければ何でもいいです……」

 

 ね? という一文字に圧力を感じたレオは渋々夢美との幼馴染設定を受け入れることにした。

 

「それより林檎ちゃん遅いね」

「集合時間はとっくに過ぎてるっていうのに」

 

 集合時間ギリギリに来るかと思いきや、大遅刻。スカウトされた人材だとは聞いていたが、よほどの大物をスカウトしたらしいとレオは心の中で独り言ちる。

 全員が困惑しながら会議室の時計を見たところ、ちょうど白雪のマネージャーが戻ってきた。

 

「し、白雪さんは本日体調不良で来れないそうです」

 

 絶対嘘だ。

 直感的にレオはずる休みの気配を敏感に感じ取った。白雪のマネージャーの表情が引き攣っているところを見るに正解のようだ。

 

「じゃあ、今日は二人だね」

「……ああ、そうだね」

 

 同期が猫かぶりの偽装幼馴染と、打ち合わせをすっぽかすサボり魔という事実に、レオはこれからのライバー生活に一抹の不安を覚えた。

 そして、その予感は悲しくも的中することになるのだった。

 結局、白雪が来なかったため、打ち合わせはレオと夢美、それぞれのマネージャーを交えて行われた。内容としては、今後の活動方針や、二人の幼馴染としての設定についてだ。

 打ち合わせが終わった後、レオは疲れ切った様子で帰路につこうとしていた。

 

「あっ、レオ君!」

「ああ、夢美か……」

 

 幼馴染という設定があるため、二人は下の名前で呼び合うように言われていた。夢美は初めから呼んでいたが。

 

「こ、この後、空いてる? 良かったらお茶していかない」

「はぁ……」

 

 どこか緊張した面持ちで夢美がレオを誘ったが、明らかに無理をしている様子の彼女にレオはため息をついた。

 

「別に俺の前で無理して猫被らなくてもいいよ」

「べ、別に猫なんてかぶってねぇし!」

「ほら、もう剥がれた」

 

 レオに指摘されて、しまった、という表情を浮かべる夢美。そんな彼女にレオは淡々と言った。

 

「俺、元々芸能界にいたからそういうのには敏感なんだよ」

「あー、なるほどね。てか、設定じゃなくて本当にアイドルだったんだ」

 

 レオの言葉に納得した夢美は素直に猫を被ることをやめた。すると、少年の声と間違えるほど低い声が聞こえてきて、レオは目を見開いた。

 

「……どれだけ無理して声出してたんだよ」

「別に声作るくらい慣れれば訳ないって、それでお茶するの? しないの? アァン?」

 

 素がバレたことで、半ばやけくそ気味に夢美はレオを睨みつけながら問いかけてくる。

 

「別に俺はいいけど、どうしてまた?」

「や、打ち合わせだけじゃ、あんたのこと全然わかんなかったからさ」

 

 夢美は幼馴染という設定を守るために、レオのことを知ろうとしていた。その真面目な姿勢にレオは素直に感心したと同時に、自分もまだまだだと反省する。

 

「意外と真面目なんだな」

「意外は余計じゃい!」

 

 話し方がフランクになったせいか、レオは夢美に対しての壁がなくなったことを感じていた。

 猫を被っていたときのような性格よりも、こういう男友達のような距離感で接してくれる方がレオとしては好感が持てた。

 

「身バレも怖いし、カラオケとかにしないか?」

「ま、デビュー前でもそういう意識は大事だよね。さっすが元アイドル」

 

 こうして二人はカラオケに行くことにした。

 一時間で部屋を取ると、二人は荷物を置いてソファーへ腰かける。

 

「そういえば、アイドルって言ってたけど、有名だったん?」

 

 ふと、思い出したように夢美が言う。

 

「STEPって言えばわかると思うけど」

「STEP!? えっ、超すごいじゃん! オリコン一位とか取ってたよね? 全然、誰かわからんのやが」

「……まあ、それはいいだろ」

「ふーん。ま、いいけど」

 

 アイドル時代の自分の話は思い出したくない。そんなレオの感情を汲んだのか、夢美はそれ以上その話題に触れてこなかった。

 

「どっちから歌う?」

「いきなりかよ。お互いのことを知りたいんじゃなかったのか?」

「好きな曲って結構趣味嗜好を知る上では大事だと思うけど」

「なるほど、確かにそうだな。じゃあ、俺から入れるよ」

 

 夢美の言うことにも一理ある、と納得したレオはさっそく自分の好きな曲を入れた。

 

「えっ、意外。ハニワの曲好きなん?」

「よくVの歌ってみた動画が出てくるから見てたら、いつの間にか本家にハマってたんだよ」

「わかる。気がついたら新曲追ってるよね」

 

 さっそく好きなアーティストが同じで二人は盛り上がる。

 そして、曲が始まりレオが歌いだすと、空気が一気に変わった。

 

「~~~~♪」

 

 夢美はレオの歌を聞いている間、まるで時間が止まったかのように感じていた。それほどにレオの歌に引き込まれていたのだ。

 

「~~~イェイ♪」

「お゛、お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛……」

 

 レオが歌い終わると、夢美は感極まって嗚咽のような声を漏らした。

 

「ていうか、えっ……歌うま!? えっ、ヤバ! は? 何なん?」

「どういう感想だよ……」

 

 語彙力が消失した夢美にレオは反応に困っていた。褒められていることはわかるのだが、素直に喜びづらいリアクションだったのだ。

 

「ふぅ……じゃあ、次はあたしが歌うわ」

「どうぞどうぞ」

 

 マイクを持つと夢美は、レオが歌った曲と同じアーティストの曲を歌い始めた。

 

「か~わいくねっ♪ とびきりの愛よ届けっ♪」

 

 飛び抜けてうまいわけではないが、音は外していない。そんな調子で夢美は最後まで丁寧に歌い続けた。

 

「……どうよ?」

 

 さきほどのレオの歌を聞いたからか、夢美は自信なさげに聞いた。

 

「あざとい、だがそれがいいって感じだな」

 

 レオは嘘偽りなく素直な感想を零した。

 確かに夢美の歌唱力はそこまででもない。

 だが、歌い方からはその曲が好きということが十分に伝わってきたのだ。

 レオは「歌うまいでしょ?」という姿勢が伝わってくる歌い方が嫌いだったこともあり、夢美の歌い方は素直に好感が持てた。

 

「どういう感想だよ……」

 

 褒められていることがわかり、照れ臭かった夢美は先程レオに言われた言葉をそのまま返した。

 それからカラオケは大いに盛り上がり、何度も延長した結果、外はすっかり暗くなっていた。

 

「うわ、結構時間経ってたな。時間大丈夫か?」

「終電はまだまだ先だし大丈夫だよ」

「なんなら送っていくぞ。幼馴染だし?」

 

 冗談めかしてレオがそう言うと、夢美はポカンとした表情を浮かべた後、笑顔を浮かべた。

 

「サンキュ。でも、大丈夫。この後、ごはん買わなきゃいけないし」

「そっか。じゃあ、また今度」

「うん、また今度」

 

 こうしてレオと夢美はお互い帰路に着いた。

 最初こそ今後を心配していたレオだったが、少なくとも夢美に対しての心配はすっかりなくなっていた。

 

「レオ」

 

 別れ際、夢美に呼び止められてレオは足を止め、彼女の方を振り返った。

 

「お互い大変だろうけど、これからよろしく!」

「ああ、よろしくな」

 

 アイドルを引退してから退廃的な生活を送り、笑うことを忘れていたレオだったが、今日は久しぶりに自然と笑えた気がした。




使用楽曲コードという素晴らしいシステム……!
こういう歌を歌ったりする場面がある小説の場合、本当に助かりますね。

曲名だけなら出しても大丈夫なので、レオと夢美が歌った曲の一覧載せておきます。
1.生意気ハニー
2.私、アイドル宣言


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【初配信】こんばん山月は嫌だ!

登場人物のモデルはいますが、基本的にいろいろな人をごちゃまぜにして抽出してキャラクターを作っています。


「ん、隣の部屋も引っ越しか……」

 

 レオは配信者になるということもあり、元々住んでいたアパートを引き払い防音設備の整っているマンションへと引っ越していた。

 本来なら防音設備がしっかりした高額マンションなのだが、事務所から家賃保証が出ていたため、都内にあるのに郊外の安アパートくらいの値段で住める物件となっていた。

 レオの荷物は既に運び終わっているが、隣の部屋の〝中居〟という人物はこれから荷物を運び入れる様子だった。

 引っ越しの邪魔にならないように出かけるか。

 新たな隣人に気をつかったレオは、荷ほどきを後回しにして今日の夕飯の買い物に出かけた。

 今日と明日は引っ越し――そして初配信のために、アルバイトは休みをもらっている。

 大学時代の友人のほとんどを切り捨てたレオにとって、友人と呼べる存在は限りなくゼロに近く、新しく友人を作ろうとも思えなかった。

 結局、一人で昼食をとることにしたレオは新居の近くにある喫茶店に入ることにした。

 しかし、そこには意外な人物がいた。

 

「あれ、拓哉君?」

「……慎之介?」

 

 久しく会っていない、アイドル時代の仲間である高坂慎之介(こうさかしんのすけ)。引退後からまったく会っていないというのに、あどけなさの残る顔立ちをした彼は笑顔を浮かべてレオの元へと駆け寄ってきた。

 

「やっぱり拓哉君だ! 久しぶり!」

「バカ、声が大きい」

「あ、ごめん」

 

 拓哉に窘められ、慎之介は慌てて口を噤む。

 

「……目立つし、店変えるぞ」

「りょーかい!」

 

 自分と会えて何がそんなに嬉しいのか。

 過去を引きずる拓哉はため息をつくと、足早に歩きだした。

 次に入った店は注文が難しいことで有名なファーストフードチェーン店だった。

 会計を済ませて席に着くと、慎之介は嬉しそうにサンドイッチを頬張る。ご機嫌な慎之介とは対照的に、レオはどこか気まずさを感じながらサンドイッチを口にした。

 

「本当に久しぶりだね。元気だった?」

「こうして生きてるんだから元気だろうよ」

 

 ニコニコしながら問いかけてくる慎之介にレオは憎まれ口を叩いてしまう。ふと、レオは現役時代もこんなやり取りをしていたことを思い出した。

 当時、小学生だった慎之介はSTEPの中でも飛びぬけて何でもできるレオのことを兄のように慕っていた。

 レオも自分を慕っていつも後ろをついてくる慎之介を憎からず思っていたが、慣れ合いを良しとしないレオは常に冷たい態度をとっていた。それでも、慎之介に押し切られ、相手をするのは当時のSTEPの楽屋では日常茶飯事だった。

 懐かしい過去を思い出しセンチメンタルな気分になっていたレオは、頭を振って現在の話をすることにした。

 

「そっちこそ元気そうだな。今は声優やってるんだろ」

「あれ、知ってたの?」

 

 現在、慎之介はシャイニーズプロを退所して声優をしていた。二年前に人気漫画のアニメ作品の主人公役をしたことで、現在はテレビにも出演するほどの人気声優となっている。

 

「ずっと暇だったし、暇つぶしにアニメとかよく見るんだよ」

 

 レオはテレビこそ持っていなかったが、動画で見逃し配信は見ていた。当時は、かつての仲間が活躍していることにどこか劣等感を持っていたが、今ここでその話をするべきではないと、レオは言葉を選んだ。

 

「引退後会ってなかったとはいえ、どうなってたか気にはなってたからな」

「そっかー、連絡取れなくてごめんね。あ、そうだ! RINE交換しようよ!」

「……変わらないな。ほれ、QRコード」

 

 自然と連絡先を交換しようとする慎之介に笑顔を零すと、レオは慎之介と連絡先を交換した。

 それからレオと慎之介は他愛無い話を続けた。

 

「拓哉君、東急フレンドパーク出たとき凄かったよね。もうシバタク無双って感じでさ」

「メダル取るたびにドヤ顔でイキリ散らしてたけどな」

「いやいや、全部のゲームで僕が足引っ張っても、無理矢理クリアに持っていったんだからドヤ顔くらいいいでしょ」

 

 昔出演したテレビ番組の話をしたり、

 

「Mスタで歌詞忘れたときも、僕のパート一緒に歌って助けてくれたよね」

「歌が止まって放送事故なんて事態は避けたかったからな。お前、本当にライブとかでも気をつけろよ? 今度、アニサマ出るんだから」

「さすがに歌詞が飛ぶのはもうないよ! ていうか、詳しいね」

 

 音楽番組の話をしたり、

 

「田植えのやり方まだ覚えてる?」

「どうだろうな。さすがにブランクがありすぎるからな。まあでも、捨てる食材で料理作るのはいまだに得意だぞ。金ないし、やることないし、趣味と実益を兼ねてる」

「さらっと悲しいことを言わないでよ……」

 

 アイドルでもなかなかしないであろう経験を語り合ったりした。

 

「なあ、慎之介。武道館ライブはどうだった?」

 

 慎之介は声優になり、アーティスト活動も行っていたことで武道館ライブを行うまでに人気になっていた。

 

「そうだね。言葉にするのは難しいけど……〝控えめに言っても神〟って、感じかな」

「語彙力どこいった」

「あははは、語彙力なんて消し飛ぶよ。あんな体験したら」

 

 要領を得ない慎之介に白い目を向けるレオだったが、慎之介は笑顔を浮かべると心底楽しそうにライブのことを語った。

 

「ファンのみんなも僕も何もかも一つになって弾けて混ざる。そんな不思議な感覚だったよ。最後には歌も歓声もまるで、それが本来のメロディのように感じて、何もかもどうでもよくなってただひたすらに楽しかった。本当は昔の夢が叶って嬉しいはずなのに、ライブが終わったらそんなことまるっきり忘れてたよ」

 

 成人してもあどけなさの残る顔立ちの慎之介だったが、その瞬間だけは自分よりも大人に見えた。

 レオは残っていたサンドイッッチを口の中に放り込むと、席を立つ。

 

「今日は久しぶりに会えて楽しかったよ。じゃあな」

 

 短くそれだけ言って外に出ようとするレオの背中に慎之介は最後に声をかけた。

 

「拓哉君の夢も絶対叶うよ」

 

 かつての仲間の言葉には答えず、レオはまっすぐ自分の住むマンションへと歩きだした。

 

「……よし、俺も頑張るか」

 

 新居の片付けも終わり、ツウィッターで拡散した生配信の時間が近づいてきた。

 配信ボタンは既に押した。後はきちんと時間通りに挨拶を始めるだけだ。

 これから本当の意味で、司馬拓哉ではなく獅子島レオとしての生活が始まるのだ。

 

「あー、あー……聞こえてますか? みなさん、お待たせしました。はじめまして、獅子島レオと申します」

 

[おー、久しぶりの男性ライバーだ]

[あんまり騒がしくないな]

[獣耳としっぽってことは人外枠か?]

 

「本日は俺のライブ配信に来てくださりありがとうございます。まだ挨拶とか各ハッシュタグなどは未定なのですが、そこら辺はまた後日決めたいと思います」

 

[おk]

[了解!]

[新人とは思えないほど自然な話し方]

[キャラデザカッコいいな]

 

 出だしの視聴者の反応は概ね好評だ。テレビ出演で鍛えられたレオのトーク力は、錆び付いた生活を送っていた今でも健在だった。

 

「それでは、自己紹介に入らせていただきます。俺は昔アイドルをやっていまして、いろいろあって挫折しちゃったんですよ」

 

[元アイドルだと!?]

[それでしゃべり慣れてる感じがするのか]

[芸能界にいたの? それとも地下アイドル?]

 

 レオは自分が用意した台本通りに話すことを意識していたが、せっかくの生配信なのでコメントも積極的に拾っていくことにした。

 

「あ、芸能界にいました。身バレに繋がるので詳細は言えないのですが、その当時はそれなりに大きい事務所に所属していました」

 

 その当時はそれなりに大きい、という曖昧な表現をすることでレオは自分の所属していた事務所をぼやかした。画面の向こうでレオの配信を見ている視聴者達は、その事務所が男性アイドル最大手のアイドル事務所だとは思ってもいないだろう。

 

[やっぱり売れなかったの?]

 

「いえ、それなりに売れてはいたんですけど、当時調子に乗っていたこともあって活動内容に満足できずに、イキリ散らしていたら周りに味方がいなくなって、どんどん落ちぶれて引退したっていう、大変情けない経緯となっております、はい」

 

[思ったより闇が深い経歴だった]

[全然そんな雰囲気ないけど……]

 

「いや、本当に当時は何やってもうまくいく人生だったので、とことん調子に乗っていたんですよ」

 

[人生うまくいってて、アイドルとしても売れてたら調子にも乗るわな]

[やらかし先生に出てても違和感のない過去]

 

「まあ、そんな傲慢な態度で生きていたため、とうとうライオンになっちゃいまして……。現在は人間に戻るために謙虚な姿勢で歌配信をメインに活動していき、いつかは武道館で歌うことが夢です」

 

[七 つ の 大 罪]

[ライオン・シンの獅子島レオ]

[そうきたかwww]

[ライオンになっちゃいまして、というパワーワード]

[やはり貴様もにじライブか……]

[山月記みたいだな]

 

 コメント欄に山月記について言及するコメントがあった。諸星とのやり取りが強烈に印象着いていたレオはついそのコメントを拾ってしまった。それがいけなかった。

 

「山月記といえば、危うく山月李徴って名前でデビューすることになるところだったんですよ」

 

[待て、状況が意味不明すぎる]

[何だろう、にじライブって時点で予想できてしまう]

[奇遇だな俺もだ]

 

 コメント欄がざわつき始めている。無理もない、にじライブに所属しているライバーは竹取かぐやをはじめとしてぶっ飛んている人間が多いが、事務所側の人間もぶっ飛んでいると認識されているのだ。

 

「オーディション受かったときに、俺の生い立ちが山月記の李徴と似てるって話になったんですよ。そしたら担当の人が『では、山月李徴という名前で挨拶は『袁傪のみんなー、こんばん山月ー!』という感じでいきましょう』て言いだして……」

 

[草]

[こんばん山月wwwww]

[さすがにじライブ]

 

 諸星にされた山月記の話を披露すると、コメント欄が爆笑の渦に飲み込まれる。

 

「面白そうだなって思って危うく賛同するところでした」

 

[ちょっと揺れてて草]

[コメ欄の草の中に李徴いない?]

[↑この辺に李徴]

[むしろ、何で李徴にしなかったのか]

 

「いや、だって李徴にしたらみんな歌動画に低評価つけるでしょ?」

 

[切実な理由だった]

[臆病な自尊心と尊大な羞恥心は捨てていけ]

[ネタとしては悪くないが、芸人枠じゃないなら確かによくないかもな]

[というか、獅子島レオは本名じゃない?]

 

 設定に言及する発言があったからか、コメント欄には最初からロールプレイを放棄していることを心配するコメントも多々あった。

 しかし、そんなコメントを捌くことくらいレオにとって朝飯前だった。

 

「そうですね。この名前はライオンになってからつけてもらった名前です。本当の名前は……うーん、忘れちゃいました」

 

[その声は、我が友、李徴子ではないか?]

 

「いや、だから李徴じゃないですって!」

 

[流れ完璧で草]

[これは伸びる(確信)]

 

 それからは話した内容が悉く山月記に浸食され、配信は進んでいった。

 そんなレオの初配信も終わりに近づいてきたため、この後に配信を控えている夢美の宣伝をすることになった。

 

「この後の夢美ちゃんの放送もぜひ見ていってくださいね」

 

[きっとバ美肉した袁傪なんだろうな]

[バ美肉袁傪は草]

[バ美肉袁傪というパワーワード]

 

 夢美まで山月記に浸食されていることを心の中で詫びつつ、マネージャーとの打ち合わせで決まった流れを思い出す。

 二人が幼馴染であることは夢美がうっかり言ってしまうという手筈になっている。

 既に予測不能の事態に陥っているため、どうなるかは不安だったが、レオは成り行きに任せることにした。

 

「それでは、また次の配信でお会いしましょう。またね!」

 

 別れの挨拶をした瞬間、コメント欄は〝おつ山月〟で埋め尽くされた。

 レオの配信は山月記ネタで盛り上がったこともあり、初配信が終わった時点で登録者数は男性ライバーとしてはにじライブ史上今までにない数字を出していた。

 だと言うのに――

 

『はぁぁぁぁぁぶっ殺すぞ!? 許せねぇわ、あいつ!』

『あばばばば! 待って待って! あたしが悪かったから!』

『びゃはははは! 見たか! 我、にじライブぞ!?』

 

 ――初配信からわずか一週間で清楚キャラを遥か彼方に投げ捨てた夢美に完全に話題を食われることになったのであった。




やはり清楚()には勝てなかったよ……。

コメントの表現、見にくかったりしますかね?
とりあえず、この表現で進めていこうと思います。


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【初配信】はじめまして!茨木夢美です!!

 茨木夢美にとってバーチャルライバーは憧れの存在だった。

 にじライブ二期生である〝白鳥(しらとり)まひる〟それこそ彼女の憧れのライバーだった。

 にじライブの中でも、竹取かぐやに次いで二番目にチャンネル登録者数の多いまひるは、とにかく明るく元気さが売りなライバーだ。

 白銀の髪をサイドテールにまとめた幼い外見をしている彼女は話し方も子供っぽく、かぐやと同じ高校生という設定が逆の意味で疑われるほどだ。

 配信内容はゲーム配信が主で、たまに雑談をやったりしているが、ゲーム配信では悉く不憫な目にあって悲鳴を上げている様子が切り抜き動画で上がっている。

 

『こんまひ、こんまひ! こんまひー! どうも、白鳥まひるです!』

 

 まひる三段活用と言われる挨拶は、夢美にとって聞いているだけで元気なれる活力源とも言えるものだ。

 ライバーとしてのデビューが決まり、夢美は夢を見ているような気持ちだった。

 もらったイラストは自分も好きな有名イラストレーターのもので、設定画をもらった時点で夢美は部屋の中で一人狂気乱舞していた。

 どんな設定にしようかな。どんな風に配信していこうかな。

 そんな風にドキドキとワクワクが止まらなかった。

 結局どういう方針でやっていくかにあたり、夢美は自分が憧れたまひるを真似ることにした。

 こんな可愛くてみんなに愛されるライバーになりたい。

 夢美は何度もまひるの配信のアーカイブを見返した。

 

「あー、あー……あ、あ、あー……うん、声の高さはこんな感じかな」

 

 入念にチューニングを繰り返していた夢美はU-tubeの通知が来ていることに気がつく。

 

「あっ、レオの初配信もう始まってた」

 

 新しく作成した〝茨木夢美-Ibaragi Yumi-〟のチャンネルには登録したにじライブ所属のライバーのチャンネルが表示されている。

 現在配信しているのは、レオのチャンネルのみだ。新人のデビューに辺り、時間が被らないように先輩達は気を使っていたのだ。

 

『まあ、そんな傲慢な態度で生きていたため、とうとうライオンになっちゃいまして……。現在は人間に戻るために謙虚な姿勢で歌配信をメインに活動していき、いつかは武道館で歌うことが夢です』

 

[七 つ の 大 罪]

[ライオン・シンの獅子島レオ]

[そうきたかwww]

[ライオンになっちゃいまして、というパワーワード]

[やはり貴様もにじライブか……]

 

「おー盛り上がってる盛り上がってる」

 

 お通夜のような空気になっていたらどうしようと思っていたが、配信は絶賛盛り上がっているようで、夢美はほっと胸を撫で下ろした。

 幼馴染という設定でデビューすることになった元アイドル獅子島レオ。陽キャやリア充が嫌いな夢美にしては珍しく、彼は関わって嫌な気持ちにならないイケメンだった。

 

「地元も同じだしやっぱ同小かねぇ」

 

 小学校の頃など碌な思い出がない夢美にとって、わざわざ実家に帰ってアルバムを漁るような真似はする気が起きなかった。

 どのみち面識はないから初対面と変わらん。

 そう結論付けた夢美は再びレオの配信を見ることにした。

 

『オーディション受かったときに、俺の生い立ちが山月記の李徴と似てるって話になったんですよ。そしたら担当の人が『では、山月李徴という名前で挨拶は『袁傪のみんなー、こんばん山月ー!』という感じでいきましょう』て言いだして……』

 

[草]

[こんばん山月wwwww]

[さすがにじライブ]

 

「ぎゃっははははは! 山月記! 山月記だって! てか、マジかよにじライブ! こんばん山月って! 気ぃ狂ってんなぁ!」

 

 レオの配信を見ながら夢美は、部屋の中で下品な笑い声をあげて大はしゃぎしていた。

 

『この後の夢美ちゃんの放送もぜひ見ていってくださいね』

 

[きっとバ美肉した袁傪なんだろうな]

[バ美肉袁傪は草]

[バ美肉袁傪というパワーワード]

 

「誰がバ美肉袁傪じゃい!」

 

 高校を卒業してからずっと一人暮らしだった夢美は独り言が多かった。

 そして、レオの配信を見ていた夢美はあることに気がついた。

 

「っと、やべやべ……あ、あー……う゛んっ、うん、はじめまして、はじめまして、あー、あー……はじめましてぇ、茨木夢美でぇすっ!」

 

 よし、これならいける。

 チューニングは完了した。ふわふわした雰囲気のBGMも用意した。配信内で使う画像なども用意した。台本もきっちり用意した。

 配信経験のない自分がまともに話せるわけがないことは重々承知。これを読むだけでは朗読会だろうが、そんなもの知ったことか。大事なのは〝可愛い茨木夢美〟で無事に配信を終わることだ。

 

「うっ、ぷっ…………」

 

 緊張のあまりせり上がってきたものを気合で飲み込み、配信ボタンを押した夢美は、

 

「はじめましてぇ、茨木夢美でぇすっ」

 

 緊張し過ぎて声が上ずった。もう止まれないし、やるしかない。

 

[こんばんわ!]

[こんばんわー!]

[あら可愛い]

 

 開始直後、大量のコメントが流れて頭が混乱する。

 レオの配信のときも凄かったが、それとは比べ物にならない量のコメントが流れてきたのだ。

 

「わっ、コメントがすごい! たくさん!」

 

 まずい、開始十秒でどこ読んでるかわからんくなった。

 急いで大学ノートに書き殴った台本の上部を確認する。台本の横にはナンバリングがしてあったため、元の場所にはすぐに戻ることができた。

 よくやった、ナイス! ナンバリングをした自分に感謝しながら、夢美は慌てて台本を目で追った。

 

「ジャジャーン! 今日のために自己紹介用の画像を作りました!」

 

 公式プロフィールをコピペしてフリーイラスト切り貼りしただけのもんだけどな。

 心の中でそう毒づくと、夢美はあらかじめ用意していた画像を表示した。

 

[えらい]

[結構凝ってるやん]

[しっかり者だなー]

 

 嘘だろお前ら。と思いながらも、夢美は台本を読み続ける。

 

「森の奥で暮らす女の子。魔女の呪いにより長い眠りに着いてしまったが、夢を見ている間は体を動かすことができる。いつか自分を起こしに来てくれる王子様を待っている。というわけで、ね。はい、こんな感じのプロフィールになっております」

 

 そのまま文章を読むことしかできなくてすまん。夢美は心の中で視聴者達に詫びた。

 

[ほー、今は夢を見ている状態というわけか]

[今回はファンシーな面子が多いな]

 

「それでね、みんな。あたしのことは、どんな呼び方で呼びたい?」

 

[夢美ちゃん]

[普通に夢美ちゃん]

[茨木ちゃん]

[バラギ]

 

「バラギ? えー、やだよ可愛くないもん!」

 

 可愛い文字列に紛れる濁点だらけの愛称に反射的に拒否反応が出る。

 夢美はこの呼び方だけは定着させないことを固く心に誓った。

 

「それでね。今後はいろいろやっていきたいなーって思ってて、特にゲーム配信とかすごいやりたいと思ってます。えへへっ」

 

 会話の中身のなさを適当に笑ってごまかす。それでも、コメントは絶えず流れ続けていた。

 

「かわいい」

「かわいい」

「かわいい」

 

 ごめんな。話に中身なさ過ぎてそれしか感想出てこないよな。

 何度目になるかわからない心の中での謝罪を繰り返し、夢美はまた台本を読み進めた。

 特に大きなトラブルが起きることもなく配信は順調に進み、質問コーナーへと移った。

 

「じゃあ、事前に募集してた質問に応えていきます!」

 

 もちろん、質問は事前に読み込んで回答も既に用意してある。

 

[憧れてるライバーはいる?]

 

「もちろん、あたしの憧れはまひるちゃん! あっ、みんなも知ってると思うけど、白鳥まひるちゃんのことですよ?」

 

[真面目でいい子だなぁ]

[清楚だ……]

[にじライブの真面目枠やね]

 

 コメント欄はしっかりと、夢美に騙されている。

 

「いつも明るくて元気で……辛いときとか、いつだってまひるちゃんの『こんまひ、こんまひ! こんまひー! どうも、白鳥まひるです!』って挨拶に元気もらってたんです」

 

[似てて草]

[いい話だなー]

 

「あたしね、元気っ娘なロリ大好きなんですよ!」

 

 一瞬、時間が止まった気がした。

 

[えっ]

[???]

[ロリ?]

 

「あっ、違ぇわ。そうじゃない」

 

[「違ぇわ」]

[あれ?]

[違ぇわwww]

 

 コメント欄も怪訝な様子で彼女の失言を拾った。

 

「ち、違うよ? 今のは、その、ね?」

 

[やはり貴様もにじライブだったか]

[焦っててかわいい]

[正体表したね]

[カミングアウト助かる]

 

「違うから! まひるちゃんは大好きだけど、そういう変な目で見てないから」

 

[白鳥まひる:呼んだー?]

 

 慌てて先程のロリコン発言を撤回しようとしたところで、憧れの先輩ライバー白鳥まひるが現れた。

 

「ぎゃ、きゃぁぁぁぁぁ! まひるちゃん!?」

 

 既の所で汚い声が出ることは回避する。夢美は咄嗟に声を抑えた自分を褒めてやりたい気持ちだった。

 

[すごい声出てて草]

[そりゃ推しがデビュー後の初配信に来たらこうなる]

 

 台本は叫び声を上げたのと同時に吹っ飛んだ。

 ずっと前からあなたの配信を見ていました。いつも元気をくれてありがとうございます。あなたに憧れてライバーになりました。これからも応援しています。

 伝えたい思いは溢れるが、言葉にすることはできない。出てくるのは、こひゅ、という間抜けな音を立てる空気だけだ。

 何とか言葉を紡がなければ――

 

「えと、その、何ていうか――す、すすす、好きです!」

 

 出てきたことばは、シンプルな告白の言葉だった。

 

[初手告白は草]

[大胆な告白は女の子の特権]

 

[白鳥まひる:わーいやったー! まひるも夢美ちゃんのこと好きだよ!]

 

「あ、ああ、ああ、ありがとごじゃます!」

 

[限界化してるwww]

[なんかむしろ親近感沸いたわ]

[てぇてぇ]

 

 それから何をどう話したか、夢美は覚えていない。

 

「本日はあたしの配信を見に来てくれてありがとうございます! 良かったらチャンネル登録とベルマークの登録をお願いします! またねー!」

 

[お疲れ様でしたー!]

[お疲れ様でしたー!]

[お疲れ様でしたー!]

 

 最後に可愛いBGMを流しながら数秒待って配信を切ると、夢美はその場に力なくへたり込んだ。

 

「はあぁぁぁ……マジで緊張した……」

 

 しばらく深呼吸をして呼吸を整えると、夢美はまずい点を改善するため、自分の配信のアーカイブを見返すことにした。

 余談だが、夢美は一度も猫を被っているときの自分を客観的に見たことがない。

 その結果――

 

「スゥ――――ッ……」

 

 嫌な汗が全身から噴き出してきた夢美はベッドへと飛び込んで枕に顔を埋めた。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛! 緊張し過ぎで吐息多い! 途中でまひるちゃん来て限界オタクになってるし! えへへ、じゃねぇよ! 媚びた笑い方キモい! こんなの嫌だぁぁぁぁぁ!」

 

 どうか、変な女だと思われていませんように!

 一縷の望みを託してSNSで〝茨木夢美〟をエゴサーチすると、「かわいい」「ロリコンだけどかわいい」「ポストまひるちゃん」「ゆみまひてぇてぇ」などと、夢美はちょっと変なところがあるが、むしろ親近感が沸いて可愛いという評価をされていた。

 

「大丈夫、大丈夫……地声は出てないし、みんなも可愛いって言ってたし、オタクっぽいところはむしろ視聴者には高評価なはず。そうだよ、案外無難にやれてるよ。なんならレオの方が色物枠っぽくなってるし」

 

 一週間後、レオの存在感をかき消すレベルの色物枠になることを彼女はまだ知らない。




あれ、思ったよりもかわいくなった気がする?

新しくツイッターのアカウント作成しました!
基本更新通知ですが良かったら覗いていってみてくださいませ。
https://twitter.com/snk329


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【にじライブ】三期生について語るスレ【獅子島レオ、茨木夢美、白雪林檎】

今回は掲示板風にお送りいたします。


1:名無し

応援したくなって作りました

この三人は絶対に伸びる

 

2:名無し

スレ立てお疲れさん

 

3:名無し

バーチャル山月記

清楚と見せかけたロリコン

設定を遅刻の言い訳に使う女

 

にじライブだなぁ……

 

4:名無し

こんばん山月とロリコン清楚にかき消されがちだが、林檎ちゃんもなかなかにやばいな

 

5:名無し

同期二人がきっちり時間通りに始めたのに対して、三時間遅れで始める勇気

 

6:名無し

明らかに寝起きの声なんだよなぁ

 

7:名無し

魔法使い設定言い訳に使っててワロタ

 

8:名無し

「間違えて眠りの魔法、自分に使っちゃってー」

 

9:名無し

RPが完璧と言っても過言ではない

 

10:名無し

過言で草

 

11:名無し

でもトークは普通に面白かった

 

12:名無し

まあ、一番伸びそうなのは夢美ちゃんだよね

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

52:名無し

悲報、夢美ちゃん三日でキャラ崩壊

 

53:名無し

崩壊ってほどでもなかったろ

 

54:名無し

配信三日目でプニキやって発狂する清楚がどこにいる

 

55:名無し

「はじめましてぇ、茨木夢美でぇす」

「スカッ)はぁぁぁぁぁぶっ○すぞ!? 許せねぇわ、あいつ!」

 

清楚は死んだ

 

56:名無し

ポストまひるちゃんじゃなくて、ポストバンチョーだったか……

 

57:名無し

あそこまで狂ってないだろ

 

58:名無し

竹取かぐやの方が発狂と暴言のレパートリーが多いぞ

 

59:名無し

口には気をつけろよ

バンチョー割とこういうスレも監視してるってこの前の雑談枠で言ってたぞ

 

60:名無し

ひえっ

 

61:名無し

てか、レオ君の歌動画やばくね?

 

62:名無し

元アイドルって言ってたけど、これは納得だわ

 

63:名無し

この歌唱力で挫折する芸能界の闇

 

64:名無し

どうせ設定だろ

 

65:名無し

本当のところはどうなんだろうな

 

66:名無し

態度悪くて干されたってのがまたリアル

 

67:名無し

歌枠やってほしいわ

 

68:名無し

オリジナルもいいけど、いろいろカバーしてほしい

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

80:名無し

林檎ちゃんモンハンで姫プしてさっそく炎上してて草

 

82:名無し

デビュー五日で炎上するライバーがいるらしい

 

83:名無し

焼き林檎で大草原

 

84:名無し

「上手ですけど、私が二死してる時点でまだまだですねーwww」

 

85:名無し

なぜ自分が足を引っ張ってるのにあそこまでイキれるのか

 

86:名無し

あそこまでクズだと一周回って面白いわ

 

87:名無し

「我、にじライブぞ!?」

一方、バラギはグラセフで名言を残しているのであった

 

88:名無し

バンチョーといい、バラギといい、どうしてこうもにじライブの女性ライバーは暴言を吐きがちなのか

 

89:名無し

だいたいバンチョーのせい

 

90:名無し

バラギ呼び定着してて草

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

114:名無し

レオ君マジで歌枠やらないな

 

115:名無し

歌動画もまだ一本だしな

 

116:名無し

雑談枠は結構面白いぞ

 

117:名無し

全然こんばん山月言ってくれないよな

 

118:名無し

ハッシュタグもなあなあにしてるし、うーん……

 

119:名無し

本人もウケることはわかってるんじゃない?

ただ山月記ネタ嫌だから迷ってるとか

 

120:名無し

もったいないな

 

121:名無し

というか歌枠はよ

 

122:名無し

とうとうレオ君までプニキやりだしてワロタ

 

123:名無し

バラギの後だと霞むんだよなぁ

 

124:名無し

発狂せずにプニキを慰めるぐう聖

 

125:名無し

「大丈夫、気にすんなよプニキ。諦めなければ次がある」

 

126:名無し

挫折したアイドルが言うと重みが違う

 

127:名無し

むしろ態度が悪かったときのアイドル時代の話聞きたい

 

128:名無し

身バレに繋がるから迂闊に言わんだろ

 

129:名無し

本人からしたら黒歴史だからだろ

やっぱ有名だったのかな

 

130:名無し

意外とシャニプロ出身だったりして

 

131:名無し

男性アイドルならワンチャンありえる

 

132:名無し

それ以外の男性アイドル事務所知らん

 

133:名無し

伸びて欲しいなぁ

 

134:名無し

てか、バラギとレオ君は本当に幼馴染みなんだろうか

 

135:名無し

ねぇだろ

 

136:名無し

さすがに設定だろ

 

137:名無し

バラギが二回目の雑談枠で思い出したかのようにポロっと言ってたけど、あれ初配信で忘れてたの慌てて言ったんじゃね?

 

138:名無し

それだ

 

139:名無し

まあ、変に演技して絡んでは欲しくないかな

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

226:名無し

【悲報】バラギ、収益化配信で炎上する

 

 



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【キャラクター紹介】その1

最新話ではなくて申し訳ございません!
前からやりたかったキャラクター紹介になります。

一応、入れる場所で迷ったのですが、内容としてはこの位置が良いかと思い、一章の掲示板回の直後に挿入させていただきました。

ちなみに、こちら本作の表紙になります。

【挿絵表示】



獅子島レオ(ししじまれお)

 

本名:司馬拓哉(しばたくや)

年齢:25歳

一人称:俺

モチーフ:山月記

 

ハッシュタグ:#李徴の詩集

 

ライバー立ち絵:

【挿絵表示】

 

リアルでの姿:

【挿絵表示】

 

 

本作の主人公。

人気アイドルだったSTEPのメンバーだったが、アイドルとして売れるにつれて傲慢な態度が目立つようになり、芸能界で居場所を失った。

引退後は学生に戻り、大学でダンスサークルという名の飲みサーに参加していたが、留年と同時にやめることになった。

卒業後はいい就職先が見つからなかったため、居酒屋アルバイトを続けてフリーターとなる。

歌っているときや、人前で何かしらのパフォーマンスを披露するときは、アイドル時代のスイッチが入る。

小学校の頃はクラスの中心的存在で、姉が勝手に応募したアイドル事務所の選考で採用されアイドルになった。

 

上記の経験から、傲慢なところは残しつつも、できるだけ謙虚な姿勢で人と接するように心がけている。

そのため、リスナー(袁傪)達からはたびたび「ぐう聖」「聖獣」と呼ばれている。

 

歌唱力はにじライブのライバーの中でもトップクラスにうまいが、デビュー当時はアイドル時代のプライド高さと完璧主義のせいで音質の悪い環境での歌枠をやらなかったり、バズりそうなネタである山月記ネタを嫌がり伸び悩む。

ライバーとしてのポテンシャルはとても高く、歌はもちろんのこと、運動神経抜群で、トーク力も高い。特に運動神経の面に関しては、レオの過去を知るにじライブ社員からは3D化を早く進めたいと思っている者が多数いるほど。

 

ライバーになろうと思ったきっかけは、にじライブ一期生の竹取かぐやの配信を見たこと。

かぐやのことは自分が忘れていた夢を思い出させてくれた存在として心から尊敬している。

 

甘いものが好物で、クレープなどはホイップマシマシで注文したり、冷蔵庫には練乳を常備しているほどの甘党。

 

 

 

茨木夢美(いばらぎゆみ)

 

本名:中居由美子(なかいゆみこ)←先の話で出てくるため、透明にしております。

見たい人だけ、この部分を範囲選択してください。

年齢:25歳

一人称:あたし

モチーフ:眠れる森の美女

 

ハッシュタグ:#夢美術館

 

ライバー立ち絵:

【挿絵表示】

 

リアルでの姿:

【挿絵表示】

 

部屋で過ごすときの姿:

【挿絵表示】

 

 

本作のヒロイン。

レオの同期のライバーであり、カプ厨マネージャーの方針によりレオとは幼馴染設定で売り出していくことになった。

地声は低く少年声寄りのため、高くて可愛い声を作って出している。

趣味は設定に寄せて清楚で家庭的なものを選んでいたが、RP崩壊と同時にいじられるネタと化した。

すっかり、下品で面白い女というイメージが付いたこともあり、リスナー(妖精)達からは〝バラギ〟と呼ばれている。

自分一人だけで済むことに関してはやる気がでないため、生活力がなくだらしないが、根は真面目で努力家。

間が悪いところがあり、割と失言が多い。

実は歌はうまい方だが、レオと歌唱力の差があるせいであまり自分ではうまいと思っていない。

ライバーとしての能力は結構高く、歯に衣着せぬ物言いが目立つものの、飾らないさばさばした雰囲気が男女共に受けがいい。

またトークの内容も引き出しが多く、雑談枠だけでも毎日3時間以上余裕で話し続けることが可能なので、そこも人気の理由。

リズム感が強いため、音ゲー系のアプリの実況も得意。

しかし、本人はもっぱら耐久配信ばかり行っている。

 

ライバーになろうと思ったきっかけは、にじライブ二期生である白鳥まひるの明るく元気な配信に元気づけられていたため、自分も可愛くてリスナーに愛されるライバーになりたいと思ったから。

そのため、初期の清楚な夢美の原型はまひる。

 

甘いものが苦手で、あんこの詰まった和菓子屋やクリームが詰まった類のスイーツは嫌い。

クリーム系の甘いものは苦手だが、アイスなどは好き。

 

 

 

 

 




表紙や挿絵はイベントなどで本を出す際に、いつも依頼している方に描いていただきました!
詳細はツイッターの方で書かせていただきます。
https://twitter.com/snk329

実はツイッターのDMなどでFAも送ってくださる方もいたのですが、依頼していたイラストが完成するまで、紹介することができなかったため、今後は順次紹介していこうと思います。
もしもFAを描いてくださった方がいる場合は、ツイッターのDMを開放しておりますのでそちらの方までお願いいたします。
いつも読んでくださりありがとうございます。


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【衝撃】お隣さんはまさかの……

日間ランキング11位⁉
ありがとうございます!


「今日も配信を見に来てくれてありがとうございました! またね! ……はぁ」

 

 配信停止ボタンを押したレオはため息をつく。

 原因はここ最近の自分の評価についてだ。

 SNSでエゴサーチをかけた際の獅子島レオに対する認識は、

 

 こんばん山月

 

 インパクトある配信をスーパーノヴァで消された男

 

 イカレた同期達を持った哀れなネコ科動物

 

 三期生唯一の清楚枠

 

 清楚()と焼き林檎を同期に持つライオン

 

 バーチャル山月記

 

 臆病な自尊心と尊大な羞恥心を捨てられなかった李徴

 

 清楚な李徴

 

 ほとんど山月記と同期二人に関するものだった。

 

「どうしてこうなった……」

 

 初配信から一週間、レオのチャンネルの登録者数はそこそこ増えていた。もちろん、レオの数字は十分凄いが、夢美の登録者数は既に四万人を超えている。偉業どころか異常事態である。

 元々にじライブでは人気の出る男性ライバーを大きく売り出していく予定だった。Vtuberが動画から生配信の時代になった現在、バーチャルライバーとして活動している者の男女比率は大きく女性へと傾いている。

 にじライブとしては時代を切り開くため、人気のある男性ライバーを輩出し、それに続くように男性ライバーを増やしていく予定だったのだ。

 そこで白羽の矢が立ったのが、元アイドルでテレビ出演もCDデビューも経験しているという異色の経歴を持つレオだった。

 当初は普通に売り出していく予定だったが、レオと夢美の出身地が同じことを知ったマネージャー達は、可愛らしさを前面に押し出した夢美で登録者数を稼ぎ、幼馴染という想像を膨らませやすい繋がりでレオの配信へ視聴者を誘導する。そんな〝てぇてぇ文化〟を利用することにしたのだ。将来的にお互いのファンが喧嘩する可能性を考慮しなかった辺りに、彼らの見通しの甘さが出ている。

 あとはレオの経験からくるカリスマで登録者数を雪だるま式に増やしていく算段だった。

 それゆえ、夢美の化けの皮が剥がれて〝暴言や下ネタを叫び、発狂しながら耐久配信をする姿〟で爆発的に登録者数が増えたことなど誰も予想ができなかった。

 夢美はその愛らしい外見で視聴者達から最初こそ〝夢美ちゃん〟と呼ばれていたが、その口汚さから〝バラギ〟という可愛さの欠片もない愛称で呼ばれ始め、現在進行形で登録者数を伸ばし続けている。

 そして、もう一人の同期である白雪林檎は炎上したことにより知名度を上げ、現在は視聴者達から「クズだけど面白い」と評価され、登録者数が爆発的に増えている。

 そんな彼女達とは対照的に、レオの登録者数が爆発的に伸びていないのには訳がある。

 

 レオ自身、山月記をネタにすることを嫌っていたのだ。

 

 毎度毎度コメント欄に現れるバーチャル袁傪達にうんざりしていたのもある。

 いまだに一回も出来てない歌枠の評価を気にしては、お茶を濁すようにネットのフリーゲーム実況や雑談枠に逃げ、定番ネタを出すと気まずそうにする。そんな状態で登録者数が爆発的に伸びるわけがなかった。

 それに加え、レオが歌配信を行わないのには訳がある。

 生配信での歌は音質があまりよくない環境で行われることが多い。

 本格的にライバーと活動し始めたこともあって、レオはアイドル時代の完璧主義が鎌首をもたげ始めていたのだ。

 やるからには絶対に完璧なものを届ける。

 レオはマネージャーを通して事務所の使用許可を得て、スタジオで録音した動画を投稿することしかしていなかった。しかもたったの一本だけ。

 そんな完璧主義に見せかけたプライドの裏には自分の歌に対する自信のなさが現れていた。

 

 低評価ばかりついたらどうしよう。

 

 芸能界を干されたレオにとって歌は自分のプライドを守る最後の砦だった。

 自信過剰だった現役時代に口癖のように言っていた〝うるさい奴らは実力で黙らせればいい〟という言葉が、呪いのようにレオを蝕む。

 うるさい奴らは実力で黙らせればいい。それは裏を返せば、黙らせられなかった場合は自分に実力がないことの証明になってしまうのだ。

 だから、下手に聞こえるような環境で歌を歌うことをレオは避け続けていた。

 そんなレオの歌動画の評判は良い。再生数も高評価数も男性ライバーにしては多い方だ。

 だが、オリジナル曲のため、有名曲のカバーほど爆発的な伸びはない。

 

 にじライブもそろそろ夢美と白雪のプロデュースの方へ力を入れ始める頃だろうか。

 

 暗い考えがレオの頭をよぎる。

 一週間で何をと思うかもしれない。

 しかし、たかが一週間、されど一週間だ。

 マネージャーもレオの伸び悩みには頭を悩ませ始めている。元より、レオの経歴に期待しすぎて胡坐をかいていたというのもある。アドバイスも「し、獅子島さんはもっと殻をやぶるといいと思います」という遠回しに山月記ネタを使えというものだ。

 とにもかくにも、この事態はレオとマネージャーの怠惰と傲慢が招いたことだった。

 

「はぁ……」

 

 ため息をつきながら洗濯物を干すためにベランダに出る。

 すると、隣の部屋の住人の鼻歌が聞こえてきた。

 

「スパチャスパチャスパチャ~収益化通るよ~♪」

 

 清楚とはかけ離れた、欲にまみれた鼻歌。そんなものを口ずさむ人間には心当たりがあった。

 

「……夢美?」

「ヴェッ!? レオ!?」

 

 初対面で聞いたときのようなカエルが潰れたようなうめき声が聞こえてきくる。間違いない、このお隣さんはあのぶっ飛んだ同期だとレオは確信した。

 

「あ、ちょっと待って……その声は、我が友、李徴子ではないか」

「誰が李徴だ」

 

 夢美はわざわざレオが嫌っているネタを振ってきたが、レオは不貞腐れるのも忘れて反射的にツッコミを入れていた。

 

「……それで、何でこのマンションに?」

「事務所から防音がしっかりしてるおすすめのマンションだって言われて……家賃も安かったしな」

 

 本来なら防音設備がしっかりした高額マンションなのだが、事務所から補助金が出ていたため、都内にあるのに郊外の安アパートくらいの値段で住める物件となっていた。

 

「てか、こっちみんな! すっぴんやぞ!」

「ああ、悪かったな」

 

 凄い剣幕で威嚇され、すっぴんの女性の顔をじっと見るのは確かに失礼だと思い、レオは視線を逸らした。

 初めて会ったときは、可愛さを前面に押し出した出で立ちにカラーコンタクトをしていたが、今の夢美は爆発したようにあちこちに髪が跳ねており、眼鏡をかけてモコモコの部屋着を着た素の出で立ちをしていた。

 そんな素の姿の方がレオとしてはどこか親しみやすく感じた。

 

「そういえば、ツウィート見たよ。収益化おめでとう」

「お、おう……ありがと、何かごめん」

「ガチトーンで謝るなよ」

 

 自業自得なんだから、と小さく付け加えたレオは空気が重くなるのを嫌い、話題を変えることにした。

 

「早起きなんだな」

「えっ、今から寝るところなんだけど……」

「おい、生活リズムどうなってんだ」

 

 時刻は午前六時。健康的な生活を送っている人間が寝る時間ではない。

 

「いいのいいの。基本的に配信以外は予定は何もないんだから」

「さらっと悲しいことを言われた気がするんだが」

 

 夢美のプライベートの予定は配信以外、基本的に空白だ。友人はいるが、誘われても外出が面倒で断ってしまうことが主な原因だった。

 

「何ならまたカラオケでもいく?」

「いや寝ろよ。収益化記念枠やるんだろ」

 

 目の下にクマがあった夢美を見て、レオは至極全うな心配をした。

 

「ふぅあぁぁ……そうするわ。あ、そうだ。RINE交換しない?」

「いいぞ、ほれ」

 

 慣れた手つきでQRコードを差し出そうとしたレオは、夢美の方に向き直り怒られた。

 

「だからこっち見んな!」

「理不尽……」

 

 再び夢美のすっぴんを見てしまい怒鳴られたことで、レオはため息をついた。

 

「それにしても、そんな生活してて大丈夫なのか? 休日がそんな調子だと仕事とか大変だろ」

「デビュー決まって仕事辞めたから別に休日ってわけじゃないよ」

「収益化通る前に仕事辞めるとか思い切ったな」

「ま、覚悟決めたからね」

 

 労働環境もあまり良くなかったし、と呟いた夢美はすっぴんを見ないようにしているレオの方へと向き直って問いかけた。

 

「あんたはどうなの?」

「俺は……」

 

 言外に「覚悟は決まったのか?」という問いにレオは言葉に詰まった。

 

「せっかくだし、予定空いてたら今日の配信見にきてよ。いつか収益化したときのためにも参考になるだろうし」

 

 そう言ってニカッと笑うと、夢美は自分の部屋へと戻っていく。

 自分よりも売れた同期に気をつかわせてしまったことが、ひどく情けなかった。

 何度目になるかわからないため息をつくと、レオは洗濯物を干し始めた。

 



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【朗報?悲報?】今後についての打ち合わせ

 収益化配信があるのは二十三時からだ。

 レオと会話した後にしっかりと睡眠をとった夢美は打ち合わせのために、にじライブの事務所に向かっていた。

 基本的に配信以外は予定はない、とレオには言ったものの、収益化配信前に打ち合わせの予定は入っていた。

 いち早く収益化が決まったことで、夢美は三期生の中でも積極的に推されていく方針に決まったとのことだ。

 事務所につくと、満面の笑みを浮かべた夢美のマネージャーである四谷が待っていた。

 

「あ、茨木さん。お疲れ様です」

「お疲れ様です。四谷さん」

「改めて、収益化おめでとうございます」

「ありがとうございます。何か照れますね」

 

 一週間という異例の早さでチャンネルの収益化を達成した夢美はにじライブでは今や話題のライバーだ。

 事務所内で夢美は自然と視線を集めていた。

 

「というか、まだ声作ってるんですね」

「さすがに配信中のノリで日常生活は送れませんよ」

 

 実はそうでもないのだが、地声に若干のコンプレックスのある夢美としては、今の声が地声ということで通すことにしていた。

 

「本日は部長の諸星を交えた打ち合わせになります」

「ああ、あの怖そうな……」

「それ、本人の前で絶対に言わないでくださいね」

 

 四谷は苦笑すると、夢美を連れだって会議室へと向かった。

 

「失礼します」

「お疲れ様です」

 

 身長は低いのにどこか威圧感がある諸星に、内心怯えながらも夢美は失礼のないように挨拶をした。

 

「お世話になっております。茨木夢美です。本日はよろしくお願いします」

「こちらこそ、宜しくお願い致します」

 

 挨拶を済ませて席に着くと、夢美は気になって自分と幼馴染み設定でデビューした同期について尋ねることにした。

 

「あのレオは呼ばれていないんですか?」

「獅子島さんは、今後の方針についてはマネージャーの飯田と個別に面談していただくことになっております」

 

 ふと、引っかかるものを夢美は感じた。

 自分の今後に関わるということは、レオの今後にも関わるはずだ。

 そう思っていたのだが、違ったようだった。

 

「改めまして、この度は収益化おめでとうございます」

「いえ、事務所のみなさんのサポートのおかげです。……当初思い描いていたものとは違う形にはなりましたが」

 

 みんなに愛される可愛いライバーになりたかった夢美としては複雑な気持ちもあるが、今の自分は嫌いじゃなかった。

 

「登録者数も爆増、最速での収益化。にじライブ史上稀に見るバズり方をしている以上、茨木さんにはさらに勢いを増していただきたく思います」

 

「つきましては、今後は獅子島さんとではなく茨木さんと似たような路線で活躍している吉備津桃花さんと積極的にコラボしていただきたいと思っております」

 

「……………………え?」

 

 吉備津桃花(きびつとうか)。竹取かぐやが暴言ライバーの代表格ならば、彼女は下ネタライバーの代表格ともいえるライバーだ。

 二期生である桃花は、年齢指定のあるゲームを実況して謹慎を食らったり、性的な話題をガンガン話していくぶっ飛んだキャラクター性が受け、現在にじライブ屈指の人気のライバーに成り上がった。……にじライブ側としてはぶっ飛び過ぎた彼女に頭を悩ませることも多いのだが。

 その他にも、同期である男性ライバー名板赤哉(ないたあかや)とのコラボも多く、自由に暴れ回る桃花と、ゲラゲラ笑いながらもフォローを入れる赤哉のコンビは〝桃赤〟と呼ばれ、彼らの配信では「桃赤てぇてぇ」という言葉がよくコメント欄に流れている。

 そもそも、事務所の方針で男女のライバーでセット売りをしようと思ったきっかけも、この二人の組み合わせの人気が原因だった。幼馴染み設定については盛り上がったマネージャー陣の判断ではあったが。

 

「ちょっと待ってください。レオはどうなるんですか。あたしとの幼馴染み設定をやめたら、ますます伸びなくなるじゃないですか」

「いいえ、それは違います。茨木さん、あなたと彼では視聴者層がズレ始めているんですよ」

 

 ギロリという擬音が聞こえてきそうな鋭い眼光を向けられ、夢美は萎縮してしまう。

 

「彼は聖人キャラが板についていますし、茨木さんとは路線がズレ始めている以上、お互いのためにも無理にコラボしていただく必要はないと判断しました」

「それは……」

 

 何も言い返せなかった。

 夢美にとってレオは仲の良い同期だ。

 もう一人の同期である林檎とまったく絡んでいないことを考えれば、レオは本当の意味で素の自分で話せる人間だった。

 レオの現状については夢美も心配はしていた。

 

 せっかくバーチャル山月記という面白いネタで話題になっているのに、それを活かさないなんてもったいない。

 自分だってバラギなんて可愛くないあだ名で呼ばれるのは嫌だった。

 それでも視聴者がそれで楽しんでくれるのならば、悪い気はしなかった。

 いざ、受け入れてみれば何てことはなかった。

 だからレオだって……。

 

 そう思わずにはいられなかった。

 

 レオは歌だってうまいのに、何か事情があるのか全然歌わない。

 自分はレオの歌を聴いて心から彼の歌がまた聞きたいと思った。

 きっと視聴者のみんなだって同じはずだ。

 あの歌を聞けば、くすぶっている現状なんて吹き飛ばして登録者数を伸ばせると思うのだ。

 

 事務所の方針もわかる。

 自分と絡んだから伸びるわけではないということもわかる。

 でも、まるでレオを切り捨てるように感じてしまい、心のどこかに棘が刺さったような気がした。

 

「わかりました……よろしくお願いします」

 

 納得はできたわけではないが、今は人のことより自分だ。

 そう自分に言い聞かせて、夢美は会議室を出た。

 

「はぁ……」

「茨木さん」

「は、はひぃ!」

 

 夢美に声をかけてきたのは、先程事務所の方針を伝えた諸星だった。

 

「驚かせてしまって申し訳ございません。少しお時間ありますか?」

「だ、大丈夫です」

 

 立場が上の人間と一対一で話すことになり、萎縮しながらも諸星についていき、事務所の休憩スペースについた。

 

「コーヒーでよろしいですか?」

「あ、はい。すみません、大丈夫です」

 

 本当は紅茶の方が好きだけど。

 当然、威圧感のある諸星にそんな本音を言えるはずもなく、夢美は愛想笑いを浮かべて首を縦に振った。

 

「どうぞ」

「ありがとうございます」

 

 諸星に礼を言って受け取ったコーヒーを口にする。

 何これ、甘っ!

 夢美は内心が表情に出ないように気をつけた。

 

「不満、ですか?」

「えっ、何であたしが甘い物ダメだって気づいたんですか?」

 

 コーヒーの味が甘すぎて顔を顰めていただろうか。

 驚いている夢美に対して、諸星はどこか申し訳なさそうに言った。

 

「……いえ、獅子島さんとのコラボがなくなることについてです。あとコーヒーの件についてはすみません。配信を見ていて甘い物が好きだとばかり……」

「あっ……」

 

 すれ違いにより気まずい空気が流れる。

 そんな空気の中、先に口を開いたのは諸星の方だった。

 

「獅子島さんとの設定については申し訳ございません。飯田と四谷が余計な設定を強引に推してしまいました」

「いえ、あたしもレオとなら悪い気はしませんでしたし」

 

 あいつは良いイケメンだし。

 心の中でそう付け足すと、夢美は本音を告げた。

 

「正直、複雑な気分です」

「同期達を置いて一人だけ売れると寂しいものがありますよね」

 

 どこか切なげな表情を浮かべると、諸星は表情を引き締めて言う。

 

「ですが、企業である以上利益は出さなければいけません。厳しいことを言うようですが、結果が伴わなければ成り立たない実力主義の業界である以上、彼は彼のあなたはあなたの売り方をするべきだと思います」

 

 それに、と付け加えて諸星は続けた。

 

「獅子島さんはきっかけさえあれば、爆発的に伸びるポテンシャルは持っていると私は思っています。マネージャーのサポートが足りなかったのはこちらの落ち度ですが、それを踏まえた上でこれからもサポートさせていただく所存です」

 

 有無を言わせない口調で、最後に諸星は珍しく笑顔を浮かべて言った。

 

「ですので、彼のことは私達に任せて、茨木さんは茨木さんの道をまっすぐに進んでください」

 

 最後にそう締め括ると、諸星は「お時間を取らせてしまい申し訳ございませんでした」と短く謝罪すると、足早にその場を立ち去った。

 諸星の言ったことは、企業に所属する人間としてはどこまでも正しく、ライバー達のこともしっかりと考えていた。

 でも、やっぱり夢美は納得することはできなかったのだった。

 




実際、こういう風にコラボがかみ合わないときって一週間じゃ見切りはつけないと思いますが、バラギのバズり方、レオのスペックの割に伸び悩んでしまう部分があったため、こういう形のお話になりました。
本当は事務所側はもっとダメな感じにしようと思ったのですが、そんな体たらくだととっくにライバーやめてるよなと思い、こういう形にさせていただきました。


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【祝収益化】お前らァ!飲酒配信やるぞー! その1

「夢美との幼馴染み設定をやめる?」

『はい……申し訳ありません。私のサポートが足りないばかりに』

「いえ、飯田さんは悪くないですよ。こちらこそバズるチャンスを自分で潰してしまい申し訳ないです」

 

 もっとはっちゃけていれば結果は変わっていたかもしれない。自分がくだらないプライドを捨てきれないことで、周囲に迷惑をかけている自覚はレオにもあった。

 

「やっぱり、夢美と俺はあんまり絡まない方がいいんですかね?」

『ええ、今はまだ何とか大丈夫ですが、段々と視聴者層がズレていくと思われます。詳しい話は明日にでも諸星部長を交えて打ち合わせを行いますが、取り急ぎお伝えさせていただきました』

「わかりました。ありがとうございました…………はぁ」

 

 飯田との通話を切ったレオは深いため息をついた。

 それから夜になり、夢美の収益化配信の時間がやってきた。

 

『スパチャスパチャスパチャ~スパチャを~投げると~♪ バラギバラギバラギ~バラギが喜ぶ~♪ ……はい、どーぞ!』

 

[開幕清楚死亡]

[どうぞじゃないが]

「これぞにじライブの清楚枠 ¥10,000円」

[欲にまみれた歌から始まって草]

[収益化の喜びを知りやがって…… ¥6,000円]

[エグい額のスパチャ飛び交ってる……]

 

 配信が開始してからコメント欄には、金額を付けてメッセージを送るスーパーチャットが飛び交い始めた。

 チャンネルが収益化するということは、U-tubeから収入を得られるようになるということだ。

 デビューの際に仕事をやめたと聞いていたこともあって、レオは素直に祝福するつもりで配信を眺めていた。

 収益化を果たした夢美の配信では、一万円以上の〝赤スパ〟が飛び交っていた。

 夢美のチャンネルの男女比は男性七割、女性三割、スーパーチャットを投げているのはほとんどが男性だが、さりげなくサバサバした物言いをする夢美は地味に女性人気も高かった。

 妖精と呼ばれる視聴者達は、夢美の可愛さよりも〝下品な女友達〟感が好きな層が多い。

 未だに可愛らしさを求める層もいるが、高額なスーパーチャットを投げているのは大抵前者の方だった。

 

『今日はね、お祝いも兼ねてお酒を呑んじゃいます。みんなも手元にお酒を用意して楽しめよ!』

 

[まさかの飲酒配信www]

[お酒代 ¥6,000円]

 

『ちなみにマネさんには許可をもらってるから安心しな!』

 

[事務所も狂ってて草]

[これから何かやらかすんですねわかります]

[酒でのやらかし全裸待機 ¥200円]

 

 夢美のマネージャーである四谷は、収益化祝いと称して上善水如を贈っていた。

 別にそれで飲酒配信をしろと強要したわけではないが、夢美はフリだと思い、配信での飲酒の許可を得ていた。

 

『マネさんにもらっただけだから詳しくないんだけど……これは〝上善水如〟?』

 

[まさかの日本酒で草]

[マネさん何してんのw]

[よりにもよって上善www]

[上善飲みやすいよね]

 

「……マジかにじライブ」

 

 にじライブのぶっ飛び具合はレオも知っていたが、収益化配信の前に日本酒を渡すマネージャーがいる事務所はにじライブくらいだろう。

 予想の斜め上をいく事務所の対応に、レオは唖然としていた。

 

『じゃあ、妖精のみんな。乾杯!』

 

[かんぱい!]

[かんぱい!]

[かんぱい!]

 

 乾杯の合図と共に夢美は一気に酒を呷る。

 

『えっ、何これ……水じゃねぇの!?』

 

[水じゃねぇのwwwww]

[名言しか作れない女]

[上善「水如」だからな]

[これは名言製造姫 ¥10,000円]

[名言代 ¥20,000円]

 

 夢美のリアクションが良かったため、再びスーパーチャットが飛び交う。

 高額のスーパーチャットが飛び交ったことで、夢美は画面の向こうで笑顔を浮かべた。

 

『いや、ホントにありがとう! お金大好きだから本当に嬉しい!』

 

[今まで一番良い笑顔してやがる……]

[綺麗な顔してるだろ? 最初清楚路線でやっていこうとしてたんだぜ]

 

『何でだよ! 今も清楚だろ!』

 

[鏡を見てどうぞ]

[鏡よ鏡よ……世界で一番汚い美女はだぁれ?]

[汚い美女という矛盾]

[夢美ちゃんという名の永遠に眠れる森の美女]

 

「ははっ、ははは! ……はぁ」

 

 軽快なコメントとのやり取りを見ていると、自然と笑みが零れた。それと同時にこいつとコラボ出来なくなるのかという寂しさも覚えた。

 

[白鳥まひる:バラちゃん、大好きなお金だよ! ¥10,000円]

 

『まひるちゃん!? お気遣いいただき、誠にありがとうございます!』

 

[バラちゃん呼びで草]

[俺達との対応の差で泣いた]

[残当]

 

 夢美の推しライバーであるまひるも来たことで、コメント欄はさらに盛り上がった。

 それから夢美の収益化記念配信は盛り上がり続けた。

 四谷からもらった日本酒が飲みやすいということと、夢美自身日本酒を初めて飲んだということもあり、夢美はペースを考えずにどんどん日本酒を飲んでいった。

 そして、アルコールもかなり回ってきた頃。

 夢美はだんだんと普段の声の高さに戻っていった。

 

『あ゛~、何か結構酔ってきたわ~』

 

[声低くて草]

[夢美ちゃん返して……]

[これはバラギですわ]

[最近の声の方が素の声だと思ってたけど、まだ下があったのか……]

[これはこれで]

[低音ボイス助かる ¥4,000円]

[王子様が起こしに来るのを待てず、自分が起きて王子になった女]

 

 コメント欄は最初こそ夢美の素の声に驚いていたが、ハスキーな少年声はむしろ好感を得ていた。

 

[竹取かぐや:飲み過ぎやで^^]

 

[ひえっ]

[バンチョーもよう見とる]

[相変わらず圧がすごい]

 

 にじライブの中でも人気のトップライバーである竹取かぐやがコメント欄に現れたことで、夢美は萎縮した。

 

『えっ、バンチョー来てる!? あ、ありがとうございます!』

 

[声震えてて草]

[完全にヤンキーに絡まれた陰キャ]

 

[竹取かぐや:お酒はほどほどにな?]

 

『ひゃ、ひゃい!』

 

[ビビり散らかしてるw]

[後輩いじめはよくないと思います(震え声)]

 

 夢美だけでなく、コメント欄もかぐやに恐れをなし始めた。当のかぐやは、酔ったことによる放送事故を危惧しての親切心からコメントしていただけなのだが。

 

[竹取かぐや:正直すまんかった ¥10,000円]

[とってつけたように赤スパ投げるなwww]

[金で解決するなw]

[何だかんだで後輩想いの良い先輩なんだよなぁ]

 

『あ、赤スパありがとうございます!』

 

[にじライブトップ2に貢がれる女]

[これは伸びる。というか伸びた]

[もう五万人突破したで]

 

『は!? 五万人ってマ!?』

「は!? 五万人!?」

 

 画面の向こうの夢美と、レオは同時に素っ頓狂な声を上げた。

 配信前の登録者数が約四万人だったことを考えると、この配信で一万人ほどの人がチャンネル登録をしたことになる。

 

[トレンド入ってるで]

 

『へあっ!?』

 

[凄い声出てて草]

 

 レオは驚きながらもツウィッターでトレンド欄を覗いてみれば、そこには〝バラギ〟の三文字があった。

 

「本当に、凄いな……」

 

 感嘆の吐息を漏らしながらも、レオは素直に同期の偉業を祝福する。

 咄嗟にスーパーチャットを投げようとして、飯田に言われた言葉が蘇る。

 彼女の覇道に自分はいちゃいけない。

 咄嗟に押しかけたボタンをレオは既の所でキャンセルした。

 

『みんな、サンキュ! まだまだ頑張るわ!』

 

[支援 ¥10,000円]

[俺の目に狂いはなかった]

[狂ってるから推してるんだよなぁ……]

 

 登録者数の爆増とトレンド入りにより配信はますます盛り上がる。

 

[今北産業]

[おもしれー女、支援するわ]

[まーたにじライブが暴れてるわ]

 

 トレンドから気になって見にきた視聴者も交え配信は進んでいく。

 茨木夢美は間違いなく、話題性ならばトップクラスのバーチャルライバーとなっていた。

 




炎上してからが本番なのになかなか書きたいところまで進めない……。
もう少しで物語が大きく動きますので、しばしお待ちを。


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【祝収益化】お前らァ!飲酒配信やるぞー! その2

炎上って事実を見てみるとよく知らないのに勝手に騒ぐ人達のせいでも起きますよね……。

歌詞の所に修正を加えました(2020/9/5)


『しっかし、この酒うめぇわ。今度自分で買おうかな?』

 

[酒代 ¥10,000円]

[これは案件くるで]

[最初の案件が日本酒は草]

[デビューして一週間ってマ?]

[こんなヤバい奴どこで見つけてきたんだwww]

 

 夢美の配信は初見の視聴者も大量に流れ込んだことで、今まで以上の盛り上がりを見せている。

 しかし、自分の放送が盛り上がれば盛り上がるほど、夢美は嬉しい気持ちと同時に心がざわつくのを感じていた。

 

『はぁ……』

 

[どうしたん?]

[収益化してクソデカため息をつく女]

[元気出して ¥5,000円]

 

 打ち合わせで諸星から言われた内容は口にすることはできない。

 もやもやしたものを抱えていた夢美は、アルコールが回っていることも手伝って少しだけ本音を零した。

 

『いや、あたしだけこんなとんとん拍子でいいんかなって思ってさ……』

 

 夢美の頭に浮かぶのは、レオの顔だ。

 お互いのためにならないと言われても心配なものは心配なのだ。

 

『知名度だって、にじライブあってのものだし……』

 

[バラギが面白いから見てるんやで]

[気に病むことはない、お前は面白い]

[みんながみんな伸びるわけじゃないで]

 

 夢美を心配するコメントの中にあった言葉を見て、夢美はさらに表情を曇らせる。

 

『そうだよね。みんながみんな伸びるわけじゃない、よね……』

 

[本当に大丈夫か?]

[もしかしてレオ君のこと気にしてる]

[獅子島のあれは自業自得でしょ]

[どうせ大して歌うまくないのを編集でごまかしてるだけでしょ]

[笑いをネタに消化できない時点で伸びるわけがない]

 

 そんな中、レオに対して厳しくも正しい評価をしているコメントを見てーー夢美の中でくすぶっていた不満に火がついた。

 

『あのさぁ……レオは凄いからな。みんな元アイドルって聞いて、どうせ売れないアイドルだって舐めてるけど、本当に凄いんだからな』

 

[そういえば、この二人って幼馴染みだったわ]

[えっ、あれマジなん?]

[配信見返してどうぞ]

 

 夢美のまさかの発言に、俄にコメント欄がざわつき始める。

 

[レオ君の所属してたグループ知ってるん?]

 

『知ってるに決まってんだろ。身バレしたら申し訳ないから言わんけど』

 

 酔っていて正常な判断力を失っていても、根は真面目な夢美である。さすがに個人情報の漏洩に繋がるような発言はきちんと避けていた。

 

『あいつもあいつだよ。いつまでもくだらないプライドにこだわって……あー、もう腹立ってきた!』

 

[落ち着け]

[おっ、放送事故か?]

[おい、何する気だ]

 

 夢美はパソコンにインストールしたRINEの画面を開くと、勢いのままにレオとの通話ボタンをクリックした。

 

「夢美の奴、大丈夫――うおっ!?」

 

 配信を見ていたレオは、夢美の様子を見て心配していたが、突然スマートフォンが鳴ったことで、反射的に電話を取っていた。

 

『もしもーし、こんばん山月!』

 

「はぁ!? お前何してんの!?」

 

 まさか自分に電話をかけてくると思わなかったレオは、素っ頓狂な声を上げた。

 

[まさかの電話凸www]

[こんばん山月はやめたれw]

[レオ君、ほとんど条件反射で電話取ってて草]

 

 夢美の視聴者の中にはレオとのコラボを望む者も一定数いた。そういった視聴者層は、まさかのレオの登場に歓喜していた。

 

「今配信中だろ?」

『おっ、やっぱり見ててくれたんだ。サンキューな!』

「そりゃ見るだろ。収益化おめでとう」

 

[めっちゃフランクなやり取り]

[猫撫で声で名前呼んでた頃が懐かしい]

[同期の配信もちゃんと見てるんだな]

[マジで仲良いんだな]

 

 レオはひとまず素直に祝福の言葉を贈ることにした。

 マネージャーの飯田には夢美と絡まないように言われたが、夢美から電話がかかってきて取ってしまった以上、これ以上ことを荒立てないように無難に終わることが一番だ。

 レオは一拍おいて、夢美を宥めるために通話を切るように話を持っていくことにした。

 

「そんなことより通話はまずいだろ。とりあえず――」

『知るかボケェ! こっちはあんたのせいでもやもやしてんだよ!』

「いや理不尽!」

 

 酔っ払いと化した夢美は制御不能と化していた。

 

[これは酷い]

[暴走してて草]

[レオ君に迷惑かけないで]

 

 レオの熱心なファンが話を聞きつけてやってきたのか、レオを心配するコメントも現れ始めた。

 

「いや、マジで一回落ち着け? 酔って収益化配信で炎上とか笑えないからな?」

 

[ぐう聖]

[夜中に電話かけてきても、炎上の心配をするライバーの鑑]

 

『てかさあ、あんた何で歌枠やらんの?』

 

[とうとう同期に絡み酒し始めたぞ]

[大丈夫か、これ]

[その話題はまずいですよ!]

 

 誰も触れようとしてこなかった話題に触れたことでコメント欄がざわつく。

 レオも言葉を濁してごまかすのもまずいと思い、歌枠を行わない理由を話すことにした。

 

「歌枠って音質悪いし、悪環境で歌を聞かせるの抵抗があるんだよ。ほら、聞き苦しい歌は聴かせられないだろ?」

『まったく、だからあんたは李徴なんだよ!』

「ぶふっ!」

 

[パワーワードしか吐けない女]

[李徴の悪口はやめろォ!]

[レオ君も吹いてて草]

 

『せっかく良い声してるし歌もうまいのに、何でそんなに自分の歌に自信ないの? そうやってまごついてるから伸びないんだよ。あたしがどんな気持ちであんたの配信見てたかわかる?』

 

[これは遠回しなツンデレ]

[悲報、バラギ同期に上から目線で説教をする]

[事実上なんだよなぁ]

[上から目線でうざい]

[何この女]

[なんか空気悪くね?]

 

 配信の空気が悪くなり始めたことを感じ、コメント欄もざわつきはじめる。

 

『山月記ネタにしてもさぁ、せっかくバズるチャンスなのに何でふいにしてんの? もったいねぇなぁ、って思って配信見てたわ』

 

[本人が嫌がってるならしょうがないでしょ]

[人の方針にケチ付けるな]

[なんだかんだ言いつつも配信は見ててえらい]

 

 レオは夢美の言葉に歯がみする。

 視聴者が面白がっているネタを、うまく消化できない自分が悪い。そんなことはわかっているのだ。

 

『ほらほら、一回はっちゃけようぜ! リピートアフターミー! こんばん山月ー!』

 

[煽るな]

[やめたれwww]

[レオ君かわいそう]

[性格悪いなこいつ]

[誰かこの女止めろ]

[申し訳ないが、他のライバーディスはNG]

[にじライブ好きだけど、こいつは無理]

 

 コメント欄に夢美へと否定的な意見が増えてきた。

 普段ならば、夢美もここで話題を変えるという判断ができていたのかもしれない。

 しかし、酔っていて正常な判断力を失っている夢美の舌はよく回った。

 

『歌って』

「は?」

『今! ここで! 電話口で歌って!』

 

[無茶振りしだして草]

[歌枠を嫌がる同期に歌うことを強要するな]

[おいおい、やべぇぞこれ]

 

 まずい方向に話が流れ始めて、レオは冷や汗をかく。

 目に入るのは、自分のファンであろう視聴者が書き込んでいるであろう否定的なコメントばかりだ。

 

「いや、それは……」

『この前カラオケ行ったときは楽しく歌ってたじゃん!』

「あれは夢美といたからで……」

 

[普通にプライベートで遊ぶ仲なのか]

[レオ君とカラオケ行けるの羨ましい]

[バラギそこ変われ!]

[コメ欄だとレオ君の方が人気なの草]

[レオ君に絡むなイカレ女]

 

 しかし、夢美の視聴者達は割と気にせずに見ていたりする。むしろ、レオの歌が聴けると期待していたのだ。

 

『やだやだやだァ! 歌ってくれなきゃ通話切らないから!』

 

[駄々っ子で草]

[これワンチャン、レオ君の生歌が聴けるのでは?]

[幼馴染みというより、おもちゃを強請る子供なんだよなぁ]

[レオ君に無理させないで]

 

 それでもレオを過激に擁護するコメントも紛れている。

 どうやってもこの状態は収まらないと感じたレオは、諦めて夢美の要求を呑むことにした。

 

「……わかった。一曲だけだぞ?」

『ひゃっほい! やったぜ! マジでええんか!?』

 

 夢美の配信が炎上するかもしれない。

 嫌な予感がしたレオは悩んだ末、事務所の方針に逆らうことにした。

 

「ま、()()()()の頼みは断れないからな」

 

[えっ、マジ?]

[設定じゃないのか]

[これ何気にすごいのでは]

[レオ君のお歌楽しみ ¥50,000円]

 

「『五万!? あ、赤スパありがとうございます!』」

 

[綺麗にハモってて草]

[これはマジモンの幼馴染みですわ]

[これ、レオ君には一銭も入っていないというね]

[レオ君のチャンネル収益化はよ]

[お前ら、レオ君のチャンネル登録してひたすら動画再生するんだ! 間に合わなくなっても知らんぞォ!]

 

「音源はどうするんだ?」

『ないよ!』

「あ?」

 

[レオ君、若干キレてて草]

[プニキにもキレなかったぐう聖ライオンをキレさせる女]

[勝手すぎる]

 

 コメント欄はアンチのコメントも含め、再び盛り上がり始める。

 

『大丈夫! レオの歌ならアカペラでもみんな昇天するから!』

「いや、完全にお前の主観だろ」

 

[ハードル爆上がりwww]

[レオ君いじめないで]

[いきなりアカペラで歌わせる鬼畜]

 

『何歌う?』

「メジャーなやつにしとくわ」

『おい、お前ら! レオが歌うから静かにしとけよ!』

 

[はーい!]

[バラギが一番うるさい定期]

[これは期待]

[楽しみ]

 

 心臓がバクバク鳴る。

 不特定多数の前で歌うことに恐怖がないわけじゃない。

 だが、こんな状況はアイドル時代にもあった。

 その経験がレオを一歩前へ踏み出させた。

 深呼吸をして息を整えると、レオはVtuberの間で歌ってみたが流行っている曲を歌い出した。

 

「沈むよう~に♪ 溶けてゆくように~♪」

 

[!?]

[!?]

[!?]

[うおおおおおおおおお!]

[好きな曲歌ってくれて嬉しい!]

 

 レオが初めて生で歌うということ、選んだ曲が最近人気の曲であったということーーそして、レオの歌唱力がずば抜けていたということでコメント欄は熱狂の渦に包まれた。

 

「騒がしい日々に~♪ 笑えない君に~♪」

 

[RINE通話の音質でコレってマ?]

[アカペラで普通に歌ってるのヤバない?]

[想像の遙か上空のクオリティ]

[切り抜き確定]

[騒いでたレオ君のガチ恋勢黙らせてて草]

 

 レオの過激なファンもすっかりレオの歌に聴き入っていて、コメント欄の具合は一時的に沈静化されていた。

 

「二人今、夜に駆け出していく♪」

『FOOOOOOOOOO!』

 

[余韻に浸らせろ]

[バラギうるさい]

[オタクと化してて草]

[邪魔しないで!]

 

 歌が終わり夢美のテンションも最高潮に達していた。

 

『てか、マジで歌詞見てないの? え、ヤバない?』

「夜好性なめんな。歌詞みなくてもフルで歌うくらい余裕だわ」

 

[レオ君夜好性だったんか!]

[新情報助かる]

[ライオンは夜行性だから当然]

[お願い、お金払わせて…… ¥5,000円]

 

「スパチャありがとうございます!」

『すまんな、ありがたくもらっておくわ』

 

[スパチャ飛び交ってるwww]

[レオ君へのスパチャ全部バラギに流れてて草]

[収益化、収益化はよ……]

 

 とうとうレオへのスーパーチャットまで流れ出し始めた。

 しかし、レオのチャンネルは収益化していない上に、そもそもこの配信は夢美のチャンネルのため収益は全て夢美の方へと流れていった。

 

『夜好性なんだから次はアレ歌ってよ』

「お、いいぞ」

 

[一曲だけとは]

[レオ君ノってきたね]

[レオ君の経歴を考えればあの曲だよな]

 

「~~~♪ ~~~♪」

 

[チョイスwww]

[何気にレオ君って歌詞似合う曲多いよね]

[経歴がそもそもストーリー性に溢れているからな]

 

「~~~~♪ ……間違ってないよな?」

 

[うおおおおおお!?]

[耳元でささやかれる感じでやばい!]

[間違ってない!]

[ASMR希望! ASMR希望!]

 

 歌の途中、台詞のような歌詞の一部を声を震わせて言ったことにより、画面の向こうの女性視聴者は悶えはじめる。

 

「~~~♪ ~~~……♪」

 

[やめないで!]

[やめないで!]

[やめないで!]

[やめないで!]

[やめないで!]

[やめないで!]

 

 レオが歌い終わるのと同時に、コメント欄は示し合わせたかのように「やめないで!」でというコメントで埋め尽くされた。

 

『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛! や゛め゛な゛い゛でぇ!』

 

[だから余韻ブチ壊すなwww]

[声最高に汚くて草]

 

「どうもご静聴ありがとうございます! ……約一名を除いて」

 

[ご静聴という言葉から最も遠い女]

[これは限界オタク]

[気持ちはわかる]

 

 つい興が乗って二曲目も歌ってしまったレオは、すっかり自信を取り戻していた。

 ああ、どうして俺はこんな簡単なことがわかっていなかったのだろう。

 好きな曲を好きなように歌う。

 それがこんなにも楽しいことだったなんて、長いこと忘れていた。

 そして、視聴者が求めているのはそんな楽しんで歌っているレオだということに、ようやく気づけた。

 完璧なんて誰も求めていなかった。

 視聴者が求めているのはーーバーチャルライバーを全力で楽しんでいる〝獅子島レオ〟としての姿だったのだ。

 

『さて、みなさん! この二曲を歌った以上、次は誰の曲を歌うかわかりますよね!』

「何でお前が仕切ってるんだよ」

『ここあたしのチャンネルやぞ!?』

 

[乗っ取られてて草]

[この二人のやりとりいいなぁ]

[バラギ好きな奴にレオ君嫌いな奴いない説]

[バラギのガチ恋勢がいるだろ]

[たぶんガチ恋勢は息してないぞ]

 

『それじゃバーチャル隴西の李徴こと獅子島レオさん! よろしくお願いします!』

「誰が李徴だ! ま、いいけど」

 

[いいのか]

[バーチャル隴西で大草原]

[これは山月記ネタ解禁?]

[さすがにそこまではしないだろ]

 

「じゃあ、最初のとこよろしく」

『任せな!』

 

 元々気が合うこともあり、二人の息はピッタリだった。

 

『ボウッ!』

「~~~♪ ~~~~♪」

 

[この曲か!]

[ずとまよだ!]

[バラギの迫真の「ボウッ」で草]

[さっきから全部歌詞見ずにアカペラかつフルコーラスで歌っているという事実]

[そしてこの歌唱力である]

 

「~~~~♪ ~~~~~~~♪」

 

[この歌唱力で芸能界を干されたのか(困惑)]

[どれだけ態度悪かったのか]

[俺は推すぞ、例え何があってもだ]

 

「~~~♪」

 

[見届けます!]

[これは見届ける]

[ビブラートすげぇ……]

[レオ君の登録者数爆増してるんだけど……]

[当然の結果です(P並感)]

 

 レオが三曲目を歌い終える頃には、今までくすぶっていたことが嘘のように、レオのチャンネルの登録者数は爆発的に伸びていた。

 

「……ありがとうございました!」

『ウェェェェェイ! 最高!』

 

[癪だがバラギに同意]

[さすが元アイドルって感じだわ]

[これは百獣の王]

 

「さすがにこれ以上みなさんを拘束するのも忍びないので今日はここまでということで」

『えぇぇぇぇぇ……』

「お前は黙ってろ」

『……我、チャンネル主ぞ?』

 

[レオ君、バラギには辛辣で草]

[良い物を見せてもらった ¥6,000円]

 

 こうして酔った勢いで発生した突発的コラボは終わりを迎えることになった。

 

『というわけでね。特別ゲストの獅子島レオ君でしたー!』

「今度歌枠やるので、音質気にならないなら是非来てください。それではまた!」

 

[ちゃっかり宣伝してて草]

[絶対見に行く!]

[レオ君のためにももっと投げとこうぜ ¥20,000円]

[了解! ¥10,000円]

[投げても全部バラギに持ってかれるんだよなぁ]

 

『レオも今日は配信来てくれてありがとう! それじゃみんな、おつゆみ!』

 

[おつゆみー]

[おつゆみー]

[おつゆみー]

 

 こうして夢美の収益化配信は最高に盛り上がった。

 しかし、夢美の配信の様子はライバーとしては褒められたものじゃないと話題になってしまった。それだけたくさんの否定的なコメントが出ていたのだ。なんなら意図的にそういった場面を切り抜いた悪意のある動画も溢れているくらいだ。

 コメントのほとんどは夢美に肯定的なものだった。夢美はレオの登録者数の伸びを心配していただけ、という受け取り方をした上に、期待していたレオの歌を引き出したというのも大きい。

 

 だが、最初から最後まで見ていたわけでもなく、夢美とレオとの関係性も知らない者達が見れば、調子に乗ったライバーが伸び悩んでいるライバーにマウントを取っているように聞こえてしまうだろう。

 批判的なコメントをしていたのは、普段夢美の配信を見に来ない者達や、最近増え始めたレオの過激なファン達、あとはVtuberの炎上を特集しているチャンネルを運営しているユーチューバー達だ。

 全体を見れば批判的なコメントは少なかった。ただ視聴者数が多かったため、批判的なコメントが目立ってしまったのだ。

 

 結果から言うと、にじライブ所属バーチャルライバー茨木夢美は炎上した。

 

 レオへの発言を切り抜いた動画や批判的な意見を書いた記事が、たった一晩でいくつもネット上に現れた。

 バラギと検索するだけで、検索候補には「バラギ 炎上」「バラギ 性格悪い」「バラギ 酒 やらかし」などと出てくる始末だ。

 

「あんなことで炎上するのか……いや、してもおかしくはないか」

 

 翌日、SNSを確認したレオは深いため息をついた。

 

「あいつ、大丈夫かな?」

 

 レオは心配そうに、壁越しに隣の部屋を見る。

 昨日の収益化記念配信で夢美に言われたことに関して、レオは腹を立ててはいなかった。むしろ、自分を案じて発破をかけてくれたと感謝しているくらいだった。

 何より、言い訳も、弱気も、くだらないプライドも、全部吹き飛ばして自分が歌うきっかけをくれたのだ。これでどうして腹を立てられるというのだろうか。

 ベランダで会話したときも、夢美はレオを気づかっていた。配信中の発言が、自分に対する嘲笑を含んだ言葉だなんて受け取られているのはレオにとっても腹立たしいことだった。

 かといって、レオがSNSで余計なことを言えば、それが新たな燃料となり炎上騒ぎを大きくしかねない。アイドル時代に炎上を経験していたレオは、炎上後の対処に慎重だった。

 夢美の方から明確な発表がない限り、レオには何も言うことができない。

 自分も原因の一つである以上、何もできないもどかしさがレオを苦しめる。

 悩んだ末にレオは隣の部屋のインターフォンを押すことにした。

 

 




一曲だけ歌詞の利権がJASRACに委託されていない楽曲があったため、それだけ歌詞表示なしでお送りしております。

追記:よく見たら「だから僕は音楽を辞めた」も使用できませんでした……。
歌詞の部分修正しておきます……。

曲名だけなら出しても大丈夫なので、レオ歌った曲の一覧載せておきます。
1.夜に駆ける
2.だから僕は音楽を辞めた
3.MILABO


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【炎上】一夜明けて

「…………おはよ――おろろろろっ!」

 

 インターフォンが鳴ってから数分。バタバタと慌ただしい音が止むのと同時にドアが開いて、夢美が顔を出してビニール袋に嘔吐した。

 出会い頭に嘔吐する瞬間を見せつけられたレオは、複雑な感情を押し殺して声をかけた。

 

「……おはよう。その、大丈夫か?」

「……死ぬほど気持ち悪い」

「だろうな」

 

 せめて吐き終わってから出ればいいのに。レオはそんな言葉を飲み込んだ。

 

「ちょっと話せるか?」

「あたしも、そう、思ってたけど……ごめん、余裕が、な゛い゛……!」

 

 顔を青白くした夢美は室内――というよりトイレの方へと駆け込んでいく。

 

「お゛え゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛……!」

 

 勝手に上がるのもどうかと思ったが、このまま二日酔いの夢美を放っておくわけにもいかず、レオは夢美の部屋に上がることにした。

 

「まったく、ペース考えずに日本酒グビグビ飲んだらこうなるだろ」

「た゛っ゛て゛お゛い゛し゛か゛っ゛た゛ん゛た゛も゛ん゛!」

 

 レオは炎上した後の対応について話し合うつもりだったのだが、予想以上に夢美の状態が酷かったため、ひたすら背中をさすり続けた。

 それから数時間、レオの的確な介抱により、何とか夢美は会話できる程度には回復した。

 大学時代、ダンスサークルという名の飲みサークルに所属していたこともあって、レオは酔っ払いの扱いに慣れていたのだ。レオ自身、上戸だったということもあり、専ら飲み会では介抱ばかりしていた。

 レオが買ってきたスポーツドリンクを口にした夢美は、まだ青白さの残る顔で申し訳なさそうにレオに礼を述べた。

 

「……ありがとね。マジで助かったわ」

「いや、配信であんな飲み方してる時点で予想はできてたからな」

 

 実際は予想を遥かに超える惨憺たる状態であったが。

 そして、惨憺たる状態だったのは夢美だけではない。

 

「あ、ごめん。ちょっと散らかってるけど楽にしていいよ」

「ちょっと?」

 

 夢美の部屋はエナジードリンクの缶や宅配の段ボール、カップ焼きそばの容器や剥がした蓋が散乱していた。

 壁紙やカーテンの色や柄から、辛うじて女の子らしさが感じられるのが救いと言えるだろうか。

 レオは予想外の汚部屋具合にかなり引いていた。

 

「……まさか調理器具がないとは思わなかったよ」

「自炊って料理できないと結局金かかるやん? なら、最初からない方がいいと思ってさ」

「それっぽいこと言ってるけど、お前の場合、料理のできるできない以前の問題だと思うけど」

 

 確かに分量や値段などを考えずに購入して自炊しても、食材を余らせたりしてコストパフォーマンスは悪い。

 案外、米だけを炊いて総菜を買ってきた方が良かったりするのだが、夢美の場合は炊飯器すらなかったのであった。

 

「とりあえず、味噌汁作っておいたから飲め」

「まさか、親以外に作ってもらった味噌汁を飲むことになるとは思わんかったわ」

 

 レオは自分の部屋であらかじめ作っていた具なしのシジミの味噌汁を持ってきていた。ちなみに夢美の部屋には食器すらなかったため、現在彼女はレオのお椀を使って味噌汁を飲んでいる。

 

「あぁぁぁ……染みるわぁ」

「ひとまずは大丈夫そうだな」

 

 夢美の容体がだいぶ落ち着いたことを確認すると、おそらく現状を把握していないであろう彼女へ炎上関連の話をすることにした。

 

「簡潔に言う。お前、炎上してるぞ」

「ぶふっ!」

「……すまん。タイミングが悪かった」

 

 炎上、という単語を聞いた瞬間、夢美は飲んでいた味噌汁を噴き出した。

 顔面に味噌汁を浴びたレオは、タイミングを誤ったことを後悔した。

 

「うわっ、ごめん!」

「気にしないでくれ。それよりも炎上の方が問題だ」

 

 持ってきていたタオルで顔を拭くと、レオは冷静に現状を語り始めた。

 

「まず、炎上の原因は三つ。酔った勢いで同期のライバーに面倒な絡み方をしたこと、配信上で伸び悩んでいる同期に説教をしたこと、同期が嫌がっていることを強要したこと。主な火種はこれだな。そこに俺と夢美の視聴者がお互いに喧嘩になって、Vtuberの炎上特集で稼いでるユーチューバーにも目をつけられてあれよあれよと炎上だ」

 

 理不尽極まりないけどな、とレオは最後に締めくくった。

 レオから現状を聞かされた夢美は二日酔いで青白くなった顔をさらに青くさせた。

 

「あの、その、昨日は――」

「その先は言うな。俺は気にしてない。むしろ感謝してる」

 

 レオは夢美の謝罪を遮ると、真っ直ぐに彼女を見据えて言った。

 

「夢美、お前が謝る相手は俺じゃない。マネさんを含めた事務所側だ」

 

 謝らなきゃいけないのは俺もなんだけど、と言ってレオは続ける。

 

「俺達は事務所の方針に逆らった。確かに事務所のやり方に納得いかない部分はあったかもしれない。だけど、俺達ライバーは自分の意見と事務所の方針の間で折り合いをつけて活動しなくちゃいけないんだ。しかも、俺達で絡むのはやめることを了承したその日のうちにこのやらかしだ。マネさん達もてんやわんやだろうよ」

「だったら、こんなことしてる場合じゃないんじゃ……?」

「一度状況を整理しないと、パニックになって対応を間違いかねないだろ。それに夢美は二日酔いでそれどころじゃなかったからな。そういうわけで今からマネさんにきちんと謝罪の電話を入れるぞ」

「うん、わかった」

 

 こうして二人はそれぞれのマネージャーへ謝罪の電話を入れることにした。

 

「お疲れ様です、獅子島です。朝早くに申し訳ございません」

『獅子島さん!? お疲れ様です!』

「飯田さん、昨日は申し訳ございませんでした。夢美と絡まない方針に決まったばかりなのに、このようなことになってしまって」

『あの状況では仕方なかったと思います。それに獅子島さんが殻を破るきっかけになったのならば、それ自体は喜ばしいことですし』

 

 ただ私が何のサポートもできなかったのは残念ですが、と飯田は電話口の向こうで苦笑した。

 

「今日は諸星さんを交えた打ち合わせがありますよね。そこに夢美も交えて今後の話をすることは可能でしょうか?」

『ついさっき、諸星部長からその話をされたところです。しかし、茨木さんはあんな飲み方をして大丈夫なのでしょうか?』

「さっき話した感じではだいぶ落ち着いていたので、問題ありませんよ」

『……幼馴染設定をすすめた私が言うのもなんですが、本当に仲良いですよね』

「思ったよりも気が合うってだけですよ」

 

 ひとまず、夢美を交えて打ち合わせをすることが決まり、レオは飯田との通話を切った。

 

「そっちはどうだった?」

「……逆に謝られた。四谷さん、あたしが酔えば面白いことになるかもしれないって、どこかで期待して日本酒渡したみたいでさ。電話口の向こうでボロ泣きしてて、何かもう気の毒だったわ」

 

 自分の浅慮が原因で担当ライバーが炎上したとなれば、申し訳なさで泣きもするだろう。

 しかし、レオと夢美はそれだけではないと感じていた。

 

「「絶対諸星さんがブチ切れてる」」

 

 あの威圧感の塊のような小さなキャリアウーマンが、怒髪天を衝くかの如く怒り狂っているのは容易に想像できた。

 レオと夢美は、表情を一切変えずに淡々と正論で四谷をタコ殴りにしている諸星の様子が目に浮かび、身震いした。

 

「しかし、打ち合わせは決まったけど、どうしようか……」

 

 状況が整理できたからか、絶賛炎上中の夢美は落ち着いていた。

 

「アーカイブって、消した方がいいよね?」

「いや、アーカイブは残しておいた方がいい」

「えっ、何で? アーカイブ残してたらどんどん切り抜き動画作られちゃうじゃん」

「どうせ、たくさん切り抜かれてるんだから焼け石に水だ」

 

 現在、夢美の炎上騒ぎを取り扱ったネット記事や動画では、レオに対して説教している様子や山月記ネタを強要している場面の動画で溢れている。

 これらは全て残っている配信のアーカイブを編集して作った動画だ。

 

「こういうときに大事なのは信頼できる情報ソースだ。悪意を持って切り抜かれた動画しか残っていない状況だと言い訳できないだろ? あの配信はお前が俺を心配した結果、酒が入っていたこともあって気持ちが暴走して起きたことだ。そもそも俺達の仲が良いことは配信の後半を見てればサルでもわかる――って、何赤くなってんの?」

「や、改めて言われると照れるっていうか……」

 

 酒が抜けて素面になった夢美は、自分がレオのことを心から心配していたことがバレて照れていた。

 そんな夢美の様子は一旦捨て置いたレオはそのまま説明を続けた。

 

「少し待てば、俺達のファンが擁護するために正しい情報を拡散してくれる。俺達がやるべきことは事務所と相談したうえで情報を発信して〝茨木夢美は獅子島レオを心から想って行動して空回りしてしまった〟という共通認識を視聴者に持たせることだ」

「う゛、お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛………………!」

 

 何度も自分の本心をレオに告げられたことで、夢美は足場のない部屋にうずくまることになった。

 

「……てか、なんか慣れてるね」

「そりゃ芸能界にいたからな。いろいろ痛い目は見てる」

「さすが元アイドル。発言の重みが違うわ……ふぁ、あぁぁぁ……」

 

 レオに感心していると、碌に睡眠を取れていなかった夢美は眠そうにあくびをした。

 

「ひとまず、まだ本調子じゃないんだから夢美は寝てろよ。時間になったら起こしてやるから」

「わー至れり尽くせり……」

 

 レオの言葉にふにゃふにゃとした笑顔を浮かべると、限界がきたのか夢美はその場で眠ってしまった。

 

「いや、カギ閉める前に寝るなよ……というか、男がいる横で爆睡するなっての」

 

 散らかり放題のこの部屋で鍵を見つけることは困難を極める。

 ため息をついたレオは顔を赤らめながらベッド(らしき場所)まで夢美を運ぶと、そっと布団をかけるのであった。

 

 




ラブコメがアップを始めました。


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【打ち合わせ】炎上後の対応について

「準備できたか?」

「もちろん!」

 

 レオは夢美が身支度に時間がかかることも織り込んで余裕を持って彼女を起こした。

 レオの介抱と質の良い睡眠により、夢美の体調はかなり回復していた。

 シャワーを浴び、髪を乾かしパーマをかけ、カラーコンタクトを付けた夢美はすっかり他所行きモードだ。

 しかし、レオは夢美の顔を心配そうに覗き込んだ。

 

「……顔色まだ悪いな」

「えっ、メイクでごまかしたつもりだったんだけど」

「よく見ればわかるよ。まあ、そのくらいなら大丈夫だろうけど」

 

 レオもアイドル時代には、メイク担当に顔色をごまかすためのメイクをしてもらっていたことがある。それ故、顔色をメイクでごまかしていることを見破るくらいわけなかった。

 

「それじゃ、行くか」

「お、おう……」

 

 炎上後に諸星に会って打ち合わせを行う。その事実に夢美は気後れしていた。

 

「大丈夫だ。諸星さんはライバーのことをよく考えてくれている人だ。誠心誠意謝れば気持ちは伝わるさ」

 

 しっかりと戸締りを確認すると、レオと夢美はにじライブの事務所へと向かった。

 

「――さて、事情を説明していただけますね?」

「「(怖っ……)」」

 

 事務所について会議室に通された二人は、いつも以上に圧を放つ諸星に気圧されていた。

 そんな諸星の両脇には、目を泳がせる飯田、泣きすぎてメイクが崩れている四谷の二名がいた。

 

「あの、この度はご迷惑をおかけしてしまい申し訳ございませんでした!」

「俺も勝手な真似をしてしまい申し訳ございませんでした!」

 

 そんな地獄のような光景の中、レオと夢美は深々と頭を下げた。

 

「それで?」

「ひっ」

 

 ギロリと睨まれたことで、夢美は小さな悲鳴を上げる。

 

「大丈夫だから」

「うん……」

 

 夢美にだけ聞こえるようにかけられたレオの言葉によって夢美は立ち直り、しっかりと諸星の目を見て事情を話した。

 

「今回の件はあたしが軽率にレオに電話をかけたことが原因です。いくら突然幼馴染設定を解消することに不満があったとはいえ、あのような配信上で行うべきやり取りではありませんでした。事務所のみなさんには今日まで支えていただいたのに、その信頼を裏切るようなことをしてしまい申し訳ございませんでした」

 

 誠意を込めた夢美の謝罪。それに対して諸星はこめかみに手を当てながら、ため息をついて言った。

 

「はぁ……今回の件はこちらの非も大きいです。四谷がやらかしを期待して日本酒を渡したこと、最初に勝手な設定を用意したこと、それらに関してはこちらの責任です。それにお二人は白雪さんと違って何がいけなかったかわかっているようですし、これ以上は言いません」

 

 名指しされたことで四谷はビクッと肩を震わせる。夢美の炎上後、四谷はこってりと諸星に絞られていた。

 

「とはいえ、茨木さんには今後、配信中の飲酒は控えていただきたいです。完璧なフォローができる人間がすぐ傍にいる状況ならば、その限りではありませんが」

 

 一瞬だけレオの方を見た諸星は、改めて議題を今後についてに移した。

 

「問題はこれからです。正直言って、配信のアーカイブさえ残しておけば自動的に炎上騒ぎも収まるでしょう」

 

 実状は仲の良い同期を心配しての行動でしたからね、と呟くと、諸星は続ける。

 

「茨木さんにはツウィッターアカウントで謝罪ツウィートをしていただくのがいいでしょう。内容としては、シンプルに獅子島さんと視聴者の方々に迷惑をかけてしまったことを謝罪するのがいいでしょうね」

 

 そこまで言うと、諸星は先程から委縮してしまっているマネージャーの二人に話を振った。

 

「……飯田、四谷。黙っていないであなた達も意見を出しなさい」

「「は、はい!」」

 

 完全に置物と化していた二人は諸星に促されてようやく意見を述べ始めた。

 

「やっぱり仲の良さをアピールすることは大事だと思います。茨木さんがツウィートしたら獅子島さんが引用リツウィートして、軽い感じで締めるのがいいと思います」

「獅子島さんが茨木さんに感謝していることを前面に押し出していくのも大事だと思います。茨木さんが酔って絡んだことが獅子島さんのプラスになったことは大きいですから」

 

「ええ、獅子島さんのチャンネルも現時点で登録者数三万人越えですからね」

 

「はえ……?」

 

 唐突に飯田から告げられた事実に、レオは久しぶりに間抜けな声を出した。

 

「ちょ、ちょっと待ってください。三万人越え?」

「あれ、確認していなかったんですか? 獅子島さんのチャンネルと最初に出した歌動画、すごい勢いで伸びてますよ」

 

 スマートフォンでU-tubeを立ち上げてチャンネルを確認すると、そこには〝チャンネル登録者数三万人〟と表示されていた。

 そのうえ、いまいち伸びなかった一本目の歌動画〝ライオン・ソウル〟は既に四万再生を突破していた。にじライブに新たな伝説が生まれた瞬間である。

 

「マジか……」

「うわ、やっば。これならすぐに収益化できるんじゃない?」

「何か現実感ないな」

 

 どこか夢見心地でレオは目の前の現実を信じられずにいた。

 

「音質が良くない環境であれほど見事に歌ったというのも大きかったのでしょう。次の配信は歌枠にすればこの勢いを保ったまま伸ばし続けられるでしょうね」

 

 諸星はいつもの鉄仮面を崩し、笑顔を浮かべた。

 

「ひとまず、茨木さんは今日一日ゆっくりと体を休めてください。そして、獅子島さんは明日にでも配信で歌枠を行っていただけますか?」

 

 もちろん、幼馴染のコラボで。

 最後にそう締めくくると、諸星は夢美のツウィート内容を確認して打ち合わせを終わらせた。

 

 

[先日の配信においてレオや視聴者の皆様に迷惑をかけてしまい申し訳ございませんでした。

レオも「いいきっかけになった」と言ってくれ、この件は私達の間で解決しました。

なので妖精さんやレオのリスナーさん同士は喧嘩しないでくれると嬉しいです。

この度はお騒がせしてしまい申し訳ございませんでした]

 

 

[皆さん! 心配をおかけしてしまい申し訳ございません!

俺は今回の一件、夢美に感謝しかないので、どうか誤解のないようにお願いします!

明日にでも歌枠やるので、詳しい話もそちらでします!]

 

 

 宣伝を混ぜつつ、しっかりと視聴者へ心配をかけてしまったことの謝罪をしたツウィートは瞬く間に拡散されたのであった。

 こうして無事に炎上後の打ち合わせを終えたレオと夢美は会議室を出て、深呼吸をした。

 

「あー……疲れた」

「夢美、ちょっと待っててくれるか?」

「え? あ、うん。わかった」

 

 レオは夢美を待たせると、会議室へと戻っていった。

 

「諸星さん」

「どうしました獅子島さん?」

「今回は本当にありがとうございました」

 

 レオは会議室へ戻ると、一人で座っていた諸星へと頭を下げた。

 

「寝不足になるまで、炎上後の対応をしてくださっていたんですよね」

「っ、何故?」

「うまく隠してるつもりでしょうけど、目の下のクマすごいですよ」

 

 今回の炎上騒ぎはそこまで騒ぎが大きくなる類のものではない。そんな炎上騒ぎで諸星ほどの人間が寝不足になるとしたら、原因は一つしかない。

 

「俺達が幼馴染の設定でもやっていけるように、今後の方針を練り直していたんじゃないんですか?」

「はぁ……獅子島さんは少し鈍感になった方がいいですよ」

 

 こめかみに手を当てると、諸星はいたずらがバレた子供のようにバツが悪そうな表情を浮かべた。

 

「どうも私には威圧感があるようで、茨木さんには諭したつもりが、脅した感じになってしまいました。それが原因で余計に不満を抱かせたのではないかと思っただけです」

「大丈夫ですよ。確かに夢美の奴、諸星さんにビビってはいますが信頼もしていますよ」

「だといいのですが……」

 

 力なく笑うと、諸星はレオに向き直って言った。

 

「獅子島さん、あなたは茨木さんを嫌いにならないであげてくださいね」

「はえ……?」

「コラボだっていいことばかりじゃないということです。今はそれだけ覚えておいてください」

「はあ、わかりました」

 

 どこか引っかかるものを感じながら、レオは再度諸星に頭を下げて会議室を出た。

 

「諸星さんと何話してたの?」

「改めてお礼を言っただけだよ」

「それにしては、長かった気がするけど。ま、いっか」

 

 レオがぼやかして言ったことは深く聞かない。夢美は無神経に見えて人との距離感を大事にする人間だった。

 

「今後は本当に気を付けないとね」

「ああ、炎上なんてしない方がいい」

 

 今回の件で、自分達の行動の一つ一つが事務所の人間に及ぼす影響を再確認したレオと夢美は、改めて炎上は二度としないように気を付けることを誓った。

 用事も済んだので、少し休んでから帰ることにした二人は休憩スペースへと向かった。

 休憩スペースに着くと、二人の女性が席に座って何かを話していた。

 

「だからね、人の社会にはルールがあるんだよ? 遅刻しちゃったらいろんな人に迷惑がかかっちゃうんだよ?」

「いやー、わかってますよ? ただ体が言うことを聞かないんですよねー」

 

 優しく諭すような声と、まるで反省していないような呑気な声。

 その声には――特に優しく諭すような方の声には聞き覚えがあった。

 

「まひるちゃん?」

「およ?」

 

 夢美が驚いて名前を呼んだことによって、茶色がかったポニーテールが特徴的な女性――白鳥まひるは会話を中断してレオと夢美の方を向いた。

 

「もしかしてレオ君とバラちゃん!?」

 

 とたとたと二人の元へとまひるが駆け寄ってくる。

 

「はじめまして! 白鳥まひるだよ!」

「わ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛! ま゛ひ゛る゛ち゛ゃ゛ん゛た゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛! 」

「はじめまして、まひる先輩。獅子島レオです」

 

 片や発狂しながら、片や落ち着いてまひるへと頭を下げる。

 まひるの身長は夢美より低いが、諸星ほど低くはなかった。

 顔つきもどちらかと言うと、大人びた印象を受けるのに纏う雰囲気はどこか幼い。ある意味諸星とは真逆の印象を受ける人物である。

 

「あれ、もしかして二人共年上だったかな? だったら敬語の方が良かったかな?」

「いいんだすよ! 全然フランクに接してくだしあ!」

「何でキーボードの誤変換みたいになってるんだよ……」

 

 憧れのライバーの前で正気を保てていない夢美に呆れながらも、レオはまひるに自分達の年齢を告げた。

 

「俺達はどっちも二十五歳ですけど、まひる先輩は?」

「おー、五歳上かぁ」

「えっ、てことはまひる先輩ってデビューしたとき十代だったんですか」

「ギリギリだけどねぇ」

 

 まひるがライバーデビューしたのは去年の春。先日一周年記念配信が行われたばかりである。

 高校生のときからゲーム配信を行っていたまひるは、にじライブからのスカウトを受けてバーチャルライバーとしてデビューすることになったのであった。

 

「そんなことより、バラちゃん大丈夫だった?」

「ひゃい! 全然大丈夫です!」

 

 憧れのライバーであるまひるに心配されたことで、夢美のテンションは最高潮に達していた。そんなまともに会話のできなくなっている夢美をフォローするように、レオは現状を説明した。

 

「ちょうど今打ち合わせが終わったところで、何とか丸く収まりそうですよ」

「そっかー……良かった」

 

 二人のことを本当に心配していたまひるは安堵のため息をついた。

 そんなやり取りを他所に、こそこそと休憩スペースを離れようとしている人間が一人。

 

「こら林檎ちゃん! 逃げないの!」

「……バレたかー」

 

 まひるに咎められ顔を顰めながら戻ってきたのは、艶のある黒髪をハーフアップにまとめた丸顔が特徴的な女性だった。

 

「おー、炎上仲間のバラギじゃん。おはっぽー」

「その気の抜けるしゃべり方。まさか――」

 

 

「どもどもー、三日前に炎上した白雪林檎でーす。レオ君も、バラギも、同期同士よろー」

 

 




皆さん待望の林檎ちゃんが満を持して登場です。


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【初対面】地雷の上でタップダンス

今回はキリの良いところで終わらせたかったので、いつもよりは短めになっております。


「どもどもー、三日目に炎上した白雪林檎でーす。レオ君も、バラギも、同期同士よろー」

 

 気の抜けるような挨拶をした林檎に二人共唖然とする。何故そんなにもへらへらしていられるのかと。

 そう、この白雪林檎という女。夢美が炎上する二日前に既に炎上を経験していたのだ。

 きっかけはモンスターを狩猟するゲームで、視聴者がモンスターと戦っている間にひたすら素材を集め『いやー、素材ツアー最高ですわー』と言ったことだ。

 もちろん、そんなことだけでは炎上しない。

 炎上した主な原因は、他人の手でランクを上げて装備を整えた彼女に、アンチが突っかかったときの発言だ。

 

『人望も技術もないアンチが騒いでますねー。本気出せば上手いんだから、私からしたら素材集める時間なんて無駄なんすよ。装備揃ってからが本番でしょー?』

 

 と、このゲームの醍醐味を否定するような発言をしたのだ。

 そして追い打ちをかけるように、

 

『ていうか、こんなところに書き込んでる暇あったら友達と一緒にランク上げしたらどうだいアンチ君。あ、間違えた、ボッチ君だったかー』

 

 アンチをこれ以上ないくらい煽った。

 その結果が炎上である。

 実際のところゲーム配信者上がりなだけあって、林檎のゲームの腕はなかなかのものだ。

 ただ最新作のシステムやカメラワークに慣れていなかったということもあり、結構ポカもやらかしていたりする。

 この騒動に諸星が頭を抱えていたのは言うまでもないことだろう。

 

「いやー、レオ君もバラギもラッキーだったねー。すっかり差をつけられちゃたよー」

「ラッキー?」

 

 レオのこめかみが僅かに鼓動する。

 

「だって、レオ君登録者数爆増したでしょー? 私なんてまだ二万人程度なのに、もう一夜にして三万人越え。羨ましいねー」

「まだ二万人程度?」

 

 今度は肩がプルプルと震え出した。

 

「り、林檎ちゃん。もうその辺で――」

「ま、ザコ共の言うことなんて気にしないで突っ走った方が伸びるもんねー。言わせたい奴には言わせておけばいいんだよー」

 

 レオの様子から不穏な空気を感じ取った夢美が止めようとするが、林檎はケラケラ笑いながらレオの地雷を的確に踏み抜いていく。

 

「じゃ、お互い頑張ろっか。今度機会があったらコラボしよーね」

 

 当の本人はレオの様子には一切気が付かずに嵐のように去っていった。

 そんな林檎の一方的な言葉に俯き、レオは顔を俯かせていた。

 

「レ、レオ、大丈夫……?」

「レオ君? 林檎ちゃんはあんなのだけど、根は悪い子じゃ……ないと思いたいなぁ」

「まひるちゃん、フォローになってないよ!」

 

 爆発寸前といった様子のレオを見て、夢美とまひるは心配そうに声をかける。

 

「はぁ……」

「えっ、何?」

 

 レオは顔を上げると、

 

 

 

 

「ガルァァァァァァァァァ!」

 

 

 

 

 獣のような唸り声を上げながら机に頭を打ち付けた。

 

「何してんの!?」

「本当にライオンみたいだね」

「この状態を見て出る感想がそれ!?」

 

 見たことのないレオの姿に夢美は驚愕し、まひるはどこかズレた感想を零していた。

 

「落ち着きなってレオ。急にどうしたの? 発狂するなんてらしくないじゃん」

「……すまん。取り乱した」

 

 まだ辛そうな表情を浮かべながら、レオは片手で顔を覆いながら歯を食いしばる。

 

「あの世の中舐め腐った態度見てると昔の自分を思い出して……」

「そんなに酷かったの?」

 

 レオが元STEPのメンバーだということは夢美も知っている。

 だが、彼が司馬拓哉だということに気が付いていない夢美には、レオがそこまで思い出して悶えるような過去があるということまで理解できなかった。

 

「俺の現役時代、ライブをやるときにバックダンサーをやった同期にかけた言葉を教えてやろうか――『俺達のバックダンサーできてラッキーだったな。これで知名度も上がるぞ』だ」

「うわっ」

 

 その言葉はCDデビューすらまだできていない同期にかける言葉としてはあまりにも酷かった。同期からしたら煽られている以外の何物でもないだろう。

 

「まだあるぞ。俺の態度が悪いって諭してきたマネージャーに『ザコに媚びへつらうのは労力の無駄だ。実力で黙らせればいいだろ』って言ったり、初ライブで盛り上がってるメンバーに対して『たかが五千人程度の規模のライブで満足してんじゃねぇよクソが!』ってキレたり……ああ、思い出すだけで昔の自分を殴り飛ばしたい……」

 

 奇しくも、レオにとって黒歴史である過去の言葉の数々は、どこか林檎の言った言葉に似ていた。

 

「思い上がりも甚だしいよな、まったく……」

「でも、それだけすごい結果は出してたじゃん。ほら上昇志向が強いのが、悪い方に転がっただけだって」

 

 落ち込むレオに夢美は必死のフォローを入れた。

 そこで、今まで黙っていたまひるが口を開いた。

 

「ねぇ、レオ君。それって今もそう思ってるの?」

「いえ、そんなことはまったく」

 

 過去に起こした問題行動の数々は、現在の自分が絶対にやってはいけない行動として胸に刻み込まれている。多少傲慢なところは残っている自覚はあったが、それも夢美のおかげで克服できた。

 

 現在のレオにとって、過去の自分はアイドル――としてやってはいけない行動を全部するダメなお手本のような存在だった。

 

「だったら気にすることないと思うよ。今のレオ君はすっごく優しくて思いやりのある人って感じだし!」

 

 そう言ってまひるは、花が咲いたような満開の笑顔を浮かべた。

 それに釣られるようにレオも笑顔を浮かべた。

 

「ありがとうございます。まひる先輩」

「どいたしましてー! あ――――ッ!」

 

 レオにお礼を言われたまひるはニコニコしていたが、突然思い出したかのように大声を出した。

 

「林檎ちゃんに逃げられた! ごめん、私――じゃなかった。まひるもういかなくちゃ! またね!」

「ま、まひるちゃん! 今度コラボしたい! ……です」

 

 逃げた林檎を追うために駆け出したまひるの背中に向かって、夢美は何とか自分の想いを伝える。

 

「もちろんだよ!」

 

 そんな夢美の言葉にポカンとした表情を浮かべたあと、まひるは先程見せたような満開の笑顔を浮かべた。

 そして、そのまま「待てぇ――!」と叫びながら林檎を追いかけ始めた。

 

「すごいなあの人。素でアレなのか……」

 

 現実で会う方が少しだけ落ち着いた雰囲気を感じたが、それでもまひるはあまりにも配信中と変わらな過ぎた。

 そんな唖然とするレオに対して、夢美は笑いながら言う。

 

「何言ってんの。あたしらだって普段から配信とテンションそんな変わらんじゃん」

「初配信で化けの皮が剥がれた奴がよく言うよ」

「うっ、それは言わないでよ……」

「はじめましてぇ、茨木夢美でぇすっ……はぁっ」

「吐息までコピーすんな! ……てか、女声うま!?」

 

 こうしていつものように騒がしいやり取りをしながらレオと夢美は帰路についた。

 明日はレオのファンが待ちに待った歌配信だ。

 覚悟を決めると、レオは改めて気を引き締め直した。

 




次回、歌枠です。


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【歌枠】袁傪達と共に臆病な自尊心と尊大な羞恥心を捨てる配信

今回はどうしても歌ってほしい曲があったため、歌詞は載せずに表現と曲名だけでなんとかしております。
あらかじめご了承ください。


 レオはタイトルを〝【歌枠】袁傪達と共に臆病な自尊心と尊大な羞恥心を捨てる配信〟というタイトルにして生配信を予約した。

 さんざん嫌っていた山月記ネタを前面に押し出したタイトルに視聴者は期待に胸を膨らませ、配信前だというのに一万人以上の人間が待機していた。

 そして、デビューからは九日しか経っていないというのに、レオのチャンネルは収益化していた。にじライブ内で夢美に続いて二番目に早い収益化である。

 

「あー、あー……音大丈夫かな?」

 

[きちゃ!]

[この日のために俺は有給を使った ¥2,000円]

[待機時からスパチャ飛び交ってて草]

[これは期待]

 

 レオの声が聞こえ始めたことで、視聴者は一気に盛り上がる。

 自分の声がきちんと届いていることを確認したレオは、待機画面を解除していつもの配信画面を出した。

 

「俺の声、聞こえてますか?」

 

[その声は、我が友、李徴子ではないか?]

[その声は、我が友、李徴子ではないか?]

[その声は、我が友、李徴子ではないか?]

[その声は、我が友、李徴子ではないか?]

[その声は、我が友、李徴子ではないか?]

 

 コメント欄には山月記の袁傪の有名なセリフが大量に流れる。

 それは視聴者からの最高のパスだった。

 

「如何にも自分はバーチャル隴西の李徴である」

 

 芝居がかった口調でレオは視聴者の期待に応えた。

 

[キタ――――!]

[出たバーチャル隴西www]

[おっ、ついに吹っ切れたか]

[山月記ネタ解禁の瞬間]

 

 息を思いっきり吸い込み、声のトーンを高めにすることを意識して、レオは初めてライバーらしい挨拶を口にした。

 

「はい、というわけで袁傪のみなさん、こんばん山月! バーチャル隴西の李徴こと獅子島レオです!」

 

[おおおおおおおお!]

[初めてまともな挨拶が聞けた!]

[顧客が本当に求めていたもの]

[こんばん山月!]

[こんばん山月!]

[こんばん山月!]

 

 コメント欄には待ち望んだ挨拶に狂喜乱舞し、こんばん山月が大量に流れ始めた。

 

「いやぁ、みなさん。ご心配をおかけしてしまい申し訳ございません! みなさんの応援もあり、無事収益化しました!」

 

[おめでとう! ¥10,000円]

[レオ君に赤スパ投げられる日が来るなんて ¥10,000円]

 

「いや、そこ赤スパじゃなくてもいいからな!? みんなマジで無理しないで!」

 

[相変わらずの聖獣で安心した]

[心配してくれてありがとう! ¥10,000円]

 

「だから赤スパは待ってくれよ! まだ挨拶しかしてないから!」

 

[その挨拶に価値があるんだよなぁ ¥3,000円]

[挨拶助かる ¥5,000円]

[こんばん山月代 ¥7,000円]

 

 さすがに高額のスーパーチャットが飛び交い始めたことで、レオも冷や汗をかき始める。

 気持ちは嬉しいが、視聴者に無理をしてほしくないレオとしては、いったんスーパーチャットを投げる流れは止めたかったのだ。

 

「働いている人はともかく、自分で稼いだお金じゃない人はきちんと稼いでから投げなさい」

 

[はーい!]

[了解!]

[スパチャピタリと止まって草]

 

 いったんコメント欄も落ち着いたので、レオは歌う前に必要な話をすることにした。

 

「まず、ハッシュタグについてですが、なあなあにしててごめん! 今後、配信タグは〝#バーチャル山月記〟ファンアートは〝#李徴の詩集〟でお願いします!」

 

[草]

[一気に吹っ切れたなwww]

[ファンアートなのに詩集なのか(困惑)]

 

「あとみんなのことは〝袁傪〟って呼ぶから」

 

[ついに俺らにも名前が!]

[泣いた]

[俺が、俺達が袁傪だ!]

 

 必要事項を述べたレオはさっそく夢美に通話を繋げる。夢美もすぐに通話を繋げてレオの言葉を待った。

 

「そして――本日はコラボ配信になります! ゲストの袁傪、挨拶よろしく!」

「誰が袁傪じゃい! こんゆみー! 茨木夢美でぇす!」

 

[この世の袁傪全員が待ち望んだコラボ]

[袁傪多すぎて草]

[袁傪のほとんどは妖精なんだよなぁ]

[袁傪は妖精だった……?]

 

 視聴者改め袁傪達はレオと共に山月記ネタを楽しめることに歓喜していた。

 

「というわけで、今日は幼馴染である夢美に協力してもらい、臆病な自尊心と尊大な羞恥心を捨てるためにいろいろ歌っていきます!」

 

[もう草]

[この配信始めてる時点で臆病な自尊心も尊大な羞恥心も捨てられてる気がする]

[炎上騒ぎから二日でこれか]

[とっくに沈火済みなんだよなぁ]

 

[竹取かぐや:待 っ て た ¥30,000円]

 

[バンチョーだ!]

[バンチョーもよう見とる]

[新たな舎弟を見つけた目をしてる]

 

 今日の配信内容を軽く説明したところで、先輩ライバーであるかぐやがコメント欄に現れた――三万円という高額のスーパーチャットを投げながら。

 

「レオ、バンチョー来てるって!」

「はえ……? かぐや、先輩……三、万?」

 

[今までで一番間抜けな声出てて草]

[レオ君、可愛い]

[これは清楚]

 

[竹取かぐや:あんたの歌を聞かせてくれや]

 

[何故だろう、応援してるだけなんだろうけど圧を感じる]

[怖優しいという新感覚]

 

 自分がライバーになるきっかけでもあるかぐやが来たことによって、レオの興奮は最高潮まで達していた。

 無限に浮かんでくるかぐやへの言葉を深呼吸でかき消すと、レオは今彼女へ伝えるべき言葉を選んだ。

 

「かぐや先輩、ありがとうございます! 思う存分歌わせていただきます!」

 

[竹取かぐや:ええ子や^^]

 

[これにはバンチョーもニッコリ]

[だから怖いって]

[【速報】獅子島レオ、バンチョーの舎弟になる]

 

 そこで、夢美があることに気がつく。

 

「てか、あんた昔から舎弟じゃなかったっけ?」

「あー、二年前のクリスマスくらいから舎弟だったかな?」

 

 舎弟というのは、かぐやの視聴者の呼び方だ。バイト仲間に勧められてかぐやにハマったレオは月額料金の発生するメンバーシップにも入って、スパチャも投げる重度の舎弟だった。

 

「じゃあ今度JKコンビの番組に二人で招待してもらおうぜ」

「それはお前がまひる先輩と絡みたいだけだろ」

「何故バレたし」

 

[欲望駄々洩れで草]

[ナチュラルに自分達がセットでゲストになることを提案する女]

 

 それから一通りコメント欄が盛り上がったところで、レオは炎上騒ぎについて話すことにした。

 

「まあ、夢美も揃ったことですし、みなさんも気になっているあの話題について触れていこうかと思います」

「本っ当に迷惑かけてごめんなさい!」

 

[二人は悪くないだろ]

[強いて言うなら酒癖が悪い]

[それはバラギが悪いのでは……?]

 

 ひとまず、レオは今回の事のあらましを話し始めた。

 

「まず、今回の原因は俺が伸び悩んでいて、それを夢美が心配していたことがきっかけでした」

 

 レオの言葉を引き継ぐ様に、次は夢美が話し出す。

 

「そんな状況で事務所からファン層がズレてきてるから、あんまり二人で絡まないようにっていう方針に変わって不満がちょっと、ね」

 

 バツが悪そうに夢美はあらかじめ諸星から許可を取っていた内容を話す。

 

「慣れていない日本酒を飲んで酔ってたとはいえ、ライバーの見せていい姿じゃなかったなって反省はしてる。レオもごめん」

「俺としては、自分の殻を破るきっかけをくれたわけだし、夢美には感謝しているんだよ。むしろ、何も知らない奴が『バラギがレオ君をバカにしてる!』って騒いでいる方が腹立たしいくらいだった。まあ、俺達の関係知らなかったら誤解するのも無理はないんだけど」

「ホントごめん! レオ相手だと『このくらいやっても大丈夫でしょ』って感じで甘えちゃうんだよねぇ」

 

[要するにただのてぇてぇってことか]

[超簡潔にまとめられてて草]

[まあ、炎上も結果的には収益化と登録者爆増に繋がったしな]

[結果オーライだね]

 

 そんな中、炎上がプラスに働いて良かったというコメントを見つけたレオは、はっきりと自分の思っていることを告げた。

 

「正直なところ複雑な気持ちもあるよ。炎上しなきゃここまで伸びなかったって言われても言い返せないと思う。だけど、今回のことで事務所側には迷惑をかけたし、炎上して良かったなんて口が裂けても言えないし、言いたくもない。それだけはわかってほしい」

「あたしも配信での飲酒は今後控えるね。事務所からはレオが傍にいる場合のみ飲んでいいって言われたけど」

 

[ぐう聖]

[さすがにじライブの聖獣]

[レオ君、介護要員扱いされてて草]

[レオ君とオフコラボすればお酒飲むってマ?]

 

 一通り、炎上についても話せたレオはさっそく歌枠の方を始めることにした。

 

「では、歌枠の方はじめさせていただきます。今回歌うのは〝俺が選んだ曲〟〝夢美が選んだ曲〟〝袁傪のみんなが選んだ曲〟の順番で歌っていきたいと思います。一応音源は事前にリクエストが来ていた曲をマネさんがかき集めてくれたので大丈夫です。あと今からでも気にせずどんどんリクエストしてください! 最悪音源なくてもアカペラで歌うので遠慮はしないでな!」

 

[強い(確信)]

[最悪アカペラで歌うはやばいwww]

[この李徴、臆病な自尊心と尊大な羞恥心など既に捨ててやがる!]

 

 すっかり歌に関して自信を取り戻したレオはある意味無敵だった。

 そんな自信満々のレオの姿に袁傪達も大いに沸いていた。

 

「ちなみに、今回の企画にあたって夢美を呼んだ理由は単純です。こいつも一緒に歌ってもらいます」

「えっ、聞いてないんだけど!?」

「うん、言ってないからな」

「ハメられた!」

 

[草]

[バラギには辛辣なレオ君すこ]

 

「俺は突発的な電話凸でも歌ったけど、夢美はどうする?」

「それ言われたら何も言い返せねぇよ、ちくしょう!」

 

[よくやった ¥5,000円]

[バラ虐助かる]

[これは上質なバラ虐]

 

 レオと夢美の軽快なやりとりは袁傪達に大好評である。

 ある意味、当初のマネージャー陣の思い描いていた光景がようやく実現したとも言えるだろう。

 

「じゃあ、最初はこの曲からいきます!」

 

 そう言うと、レオは意気揚々と飯田に用意してもらった音源を流し始めた。

 

「ちょ!?」

 

 イントロで何の曲を歌うか理解した夢美は驚きのあまり声を上げた。

 

「く~すぶってた、胸に投げ入れろFIRE!!♪」

 

[選曲で草]

[炎上したコラボ相手の前でFIRE!!を歌う勇気]

[一気に吹っ切れすぎだろwww]

 

 レオが歌ったのは、彼が幼い頃に日曜日の朝に見ていたアニメのオープニングだ。

 

[ゴミ箱を~♪ 飛びこ~えた♪ 先に~あるみ~らい♪]

 

[歌唱力の化け物]

[切り抜く以外あり得ない]

[これぞ百獣の王]

 

 最初はふざけて選曲したのかと思っていた袁傪達だったが、レオが本気で歌っていたことと、歌詞の内容から真面目に選曲したことを理解しはじめていた。

 

「走り続けるんだ♪ 君を連れて~♪」

 

[連れてって!]

[連れてって!]

[連れてって!]

[ネタかと思ったらガチだった]

[選曲天才か~?]

 

「ありがとうございました!」

「……ここまで見事に歌われると何も言えねぇ」

 

[なんだコレ神か]

[これは元アイドル]

[現役でも全然通用するレベル]

 

 掴みは完璧だった。

 レオはネタすらも笑いではなく、感動に変えるほどの歌唱力を持っていた。

 それを躊躇うことなく行使できるようになった以上、レオは無敵だった。

 

「次は夢美のリクエストを歌おうと思います。夢美からマネージャー経由で連絡してもらっているので、何を歌うかは俺も知りません」

「覚悟しろよ」

 

[無茶ぶりの予感]

[絶対歌いづらい曲選曲してるぞ]

 

「オラァ! 女声で歌って見やがれ!」

 

[これは酷い無茶ぶりwww]

[まさかレオ君、女声もいけるん?]

 

 夢美が選曲したのは、一昔前に少女漫画のドラマ化の際に流行った曲だ。

 レオも事務所の先輩がドラマに出演していることもあり、その曲は知っていた。

 

「おっ、この曲かー」

[余裕で草]

[まあ、レオ君なら問題ないはず]

 

「ドラマの花男見てたから好きなんだよな、この曲」

 

[世代がバレるぞ]

[そして、レオ君の世代がバレれば芋づる式にバラギの世代もバレる]

[一蓮托生なんだよなぁ]

 

 一時的にマイクをミュートにして軽くチューニングをしたレオは、自分の中でもかなり高音の声を出して歌い出した。

 

「ゆ~うづくよ~♪ 顔出す、消えて~く、こ~どもの声♪」

 

[ファッ!?]

[えっ、この声レオ君なの!?]

[マジで!?]

 

 売れなくなった頃、数々の無茶な企画の一つとして、女装してバレずに歌いきるという企画をテレビでやらされたレオにとって、女声で歌うくらい朝飯前だった。

 

「行きた~いよ~♪ 君のところへ~♪ 今す~ぐ、駆けだして行きたいよ~♪」

「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛……い゛い゛!」

 

[異物混入で草]

[返り討ちにあってるwww]

[バラギうるせぇw]

 

 結局レオの歌に感動した夢美はいつものように濁った叫び声を挙げてしまっていた。

 

「泣きたい~よ♪ 届かない想いをこ~のそ~らに~♪ ……というわけで、〝プラネタリウム〟でした!」

 

[花よりライオン]

[選曲が俺達に刺さる]

[これはメスライオン]

 

 すっかりレオの女声の虜になった袁傪達は、この後レオが女声で歌う度に切り抜きを作り、その動画の再生数も伸びるという事態に発展するのだが、それはまた別の話だ。

 自分の歌いたい曲、夢美の歌ってほしい曲を歌ったレオは、次に袁傪達からのリクエスト曲を歌うことにした。

 

「次はリクエストをいただいた曲を歌います。おっ、男女のデュエットだ」

「うっ、ついにあたしの出番か……」

 

 ついに回ってきた自分の出番に夢美は顔を顰めた。

 夢美にとって配信上で歌うのはこれが初めてだ。

 歌唱力の塊のようなレオと一緒に歌うということもあって、夢美は気後れしていた。

 

「大丈夫大丈夫、悔しいけどお前歌ってるときは可愛いから」

「悔しいは余計じゃい!」

 

[何気に初歌のバラギ]

[悔しいけど可愛いは草]

[お歌楽しみ!]

 

 レオは数々の映画賞を総ナメにした有名映画の挿入歌〝とびら開けて〟の音源を流した。

 台詞のように二人の掛け合いが多く入る楽曲のため、U-tubeにも男女の組み合わせでこの楽曲を歌うユーチューバーは多かった。

 

「~~♪ ~~~♪」

「~~~♪ ~~♪」

 

[カップル御用達の曲やん]

[てか、バラギも結構うまくね?]

 

「「―、―――――!」」

 

[揃うところのタイミング完璧すぎてヤバイ]

[この二人、ミュージカルとかもいける口か]

[見た目は美女と野獣だけどな]

[なお中身は逆な模様]

 

 そして曲も終盤になり、レオはおかしなこと言ってもいい、という台詞の後にアレンジを加えた。

 

「――昨日食べたカップ焼きそばのゴミ片付けた?」

「ね゛え゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!」

 

[これは酷い]

[本当におかしなこと言ってて草]

[汚部屋なのバラされたwww]

 

 ちょっとした冗談を交えたことで、袁傪達は画面の向こうで笑い転げていた。当然、これにより後に〝【悲報】バラギ汚部屋で暮らしていた〟という切り抜き動画が作られることになるのであった。

 

「そこは『僕と結婚してくれ!』って、言うとこでしょうが!」

「うーん、何か嫌だったから変えたわ」

 

[結婚拒否られてて草]

[残当]

[王子に逃げられるプリンセスがいるらしい]

 

 それからレオと夢美は袁傪達のリクエスト曲を歌い続けた。レオ単体で歌うものもあれば、二人で歌うことをリクエストした曲もあった。

 そして、最後の曲を歌い終えたとき、コメント欄は〝アンコール!〟という文字で溢れかえっていた。

 

[アンコール!]

[アンコール!]

[アンコール!]

 

「アンコールだってさ、どうするよ夢美?」

「いや、チャンネル主お前ぞ」

「そうだった。じゃあ、アレいくか!」

「りょ!」

 

 アンコールの予定はなかったが、これは生配信だ。

 自分の裁量でいくらでも時間を変えられる以上、レオはアンコールに応える気満々だった。

 

「君の声一つで~♪ こんなにも変われるって~♪」

 

[ハニワだ!]

[これ好き!]

[選曲がさっきから神]

 

 アンコールに選んだのはレオも夢美も好きなアーティストの曲。幼馴染みの恋愛模様を歌ったこの曲は、まさに二人にピッタリな曲だった。

 

「ど~んな辛い時も~♪ 笑顔にさせてやるって~♪ やっぱり君は、笑顔が似合うって事だよ♪」

「そ~んなのわ~かってる♪ 強がりの言葉だった~♪ 本当はあ~りがとう、伝えたかったごめんね♪ い~じ張ってご~めんね♪」

 

[バラギの霊圧が消えた……?]

[これは夢美ちゃん? いや、茨木さんだ]

[歌詞がぴったり過ぎててぇてぇ]

 

 そして、夢美の透き通るような歌声に、妖精兼袁傪達は感動するよりも困惑していた。

 

「い~しきしちゃ~った♪」

 

[うおおおおおおおお!]

[やべぇ!]

[夢美ちゃん、久しぶり ¥10,000円]

[あ゛(尊死)]

 

 アンコールの曲を歌い終えた二人は、最後に締めの挨拶をして配信を終えることにした。

 

「というわけで、みなさん――」

「「ご清聴ありがとうございました! おつ山月!」」

 

 まるで初めからしていたかのように自然に〝おつ山月〟と言ったレオは配信終了画面を表示した。

 

[息ぴったりやん]

[かつてVの男女でのコラボでここまでてぇてぇ配信があっただろうか]

[おつ山月!]

[おつ山月!]

[おつ山月!]

 

 こうしてレオの初めての歌配信は大盛況のまま幕を閉じた。

 コラボ配信は既に下火となっていた炎上の話題をかき消すレベルで話題となり、〝バラレオてぇてぇ〟という単語が日本のトレンド一位を飾ることになるのであった。




これでひとまず一区切りは尽きましたが、次回にエピローグ的なものを挟んで次から新章突入です!

レオ&夢美「面白いと思った方はお気に入り登録、高評価お願いしまーす!」


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【胃薬必須】苦労が絶えない裏方

今回のお話で一章の区切りとさせていただきます。


『『ご静聴ありがとうございました! おつ山月!』』

 

「「てぇてぇ……」」

 

 事務所内の大型テレビの前で、レオと夢美のコラボ配信を見ていたマネージャー両名が惚けたように呟く。

 

「えっ、あの二人って本当に幼馴染みじゃないの? 息ピッタリすぎない?」

「いや、僕もそう思って獅子島さんに聞いたけど『思ったよりも気が合うだけ』って言われて……」

 

 お互いの担当ライバーの仲の良さに尊みを感じていた二人はそのまま盛り上がり始める。

 

「付き合ってるって言われても納得しかないんだけど」

「本当それ」

「地元が同じって言ってたし、小学校同じだったりするんじゃないの?」

「だとしたら、気づいてないけど昔一緒に遊んだりしていたとか」

「きゃー! だったら運命の再会じゃない!」

 

 何を隠そうこの二人。男女のカップリングが大好物なのだ。入社当時から様々な企業の男女ライバーのカップリングの話で盛り上がっていたこともあり、飯田と四谷はすっかり意気投合していた。

 

「おっと、いけないいけない。こんなテンションで打ち合わせしたから、あの二人に迷惑をかけちゃったんだった……」

「そうね。こんな話をしているところを諸星部長に聞かれたら大目玉よね」

 

 二人は自分達の浅慮が原因で担当ライバーに迷惑をかけたことを思い出して、一度クールダウンをすることにした。

 

「何をしているのですか。定時はとっくに過ぎていますよ」

 

「「ひぃぃぃ!? 諸星部長!」」

 

 噂をすれば影を差すとは言ったもので、二人の後ろには諸星が仁王立ちしていた。

 

「……早く退勤しなさい。戸締まりができないでしょう?」

「「も、申し訳ございません!」」

 

 まるで怪物にでも会ったかのように、二人は慌てて自分達のデスクに向かい始める。

 そんな二人に向かって諸星は、出来るだけ優しく聞こえるように言った。

 

「それと、きちんと残業申請はしてから帰ってください。ライバーの配信を見て()()を言い合うのも仕事の内ですから」

「「……ありがとうございます!」」

 

 諸星の意図を汲み取った二人は、同時に礼を述べるとバタバタと自分達のデスクに戻っていった。

 

「まったく……」

 

 担当ライバーに負けず劣らず息ピッタリのマネージャー二人に、諸星はため息をつく。しかし、その口元には笑みが浮かんでいた。

 諸星にとってレオと夢美の問題は、ある程度予想できた林檎の炎上騒ぎよりも重要な問題だった。

 レオのスペックの高さは、アイドル時代の彼を知る諸星からすれば何としてでも生かしたいところだったのだ。

 諸星としては長い目で見てレオの問題を解決していくつもりだったのだが、夢美の暴走によりその必要はなくなった。

 

 三期生のオーディションでの一番の収穫は夢美を採用できたことかもしれない、と諸星は感じていた。

 

 元STEPのメンバーという異例の経歴を持つレオや、元人気実況者である林檎と違い、夢美は本当の意味で素人だった。

 だが、蓋を開けてみれば現時点で一番登録者数が多いのは夢美だ。

 声の可愛さとリアクションの面白さで採用した素人がここまで伸びることは諸星にも予想できなかった。

 それだけではない。彼女は事務所の方針にこそ逆らってしまったものの、見事にレオの抱える問題を解決してみせたのだ。

 

 かつて一期生で爆発的に伸びたライバーも完全な素人だった。

 そこから数多くのコラボによって、多くのライバーの知名度を上げ、会社の方針すらも変えて見せた伝説の存在――竹取かぐや。

 竹取かぐやと茨木夢美はどこか似ている。ならば、茨木夢美のサポートは慎重に行わなければならない。

 暗い考えが頭を過ぎった諸星は頭を振ると、いったん夢美のことを考えるのはやめることにした。

 

「さてと」

 

 さきほどまで、スマートフォンで起動していたU-tubeのアプリを落とすと、諸星は事務所の施錠を始めた。

 それから、メディア本部のデスクまで赴くと、いまだに帰宅していない社員へと声をかけた。

 

「大丈夫ですか?」

「うぅ……部長ぉ……」

 

 半泣きになりながら返事をした社員――白雪林檎の担当マネージャーである亀戸は救いを求めるように諸星を見た。

 そんな彼女の様子に諸星はため息をついた。

 

「白雪さんにも困ったものですね」

「はい……おかげで登録者数の伸びも同期のお二人と比べるといまいちですし」

「問題行動が多いとはいえ、彼女の登録者数は現時点で伸び悩んでいるほどではありませんよ。獅子島さんと茨木さんが異常なだけで、デビュー当時の二期生と比べれば全然伸びている部類です」

 

 コラボ配信が終わった時点でのレオのチャンネル登録者数は五万人、夢美の登録者数に至っては六万五千人だ。にじライブという看板があるにせよ、デビューから二週間と経たずにこの人数は異常である。

 

 対する林檎の登録者数は二万二千人。二人と比べて見劣りしてしまうのも無理はなかった。

 

「でも、実況者時代に比べればまだまだですし、やっぱり私のサポートが悪いのかなって……」

 

 白雪林檎はかつてニヤニヤ動画という動画投稿サイトで活動していた〝ゆなっしー〟という人気のゲーム実況者だった。

 ゆなっしーは、ゲームの腕はもちろん、トーク力や、ここぞというところで面白いことが起きる運の良さを兼ね備えた〝持っている人間〟だった。

 諸星もそんな〝持っている人間〟はにじライブを盛り上げるために必要だと考え、多少は態度に目を瞑ってスカウトすることにした。リスクとリターンを天秤にかけた際に、リターンの方が大きかったのだ。

 

「あなたのサポートが悪いとは一概に言えませんよ」

「え?」

「彼女が実況者時代ほど伸びていないのは、単純にニヤニヤ動画のときの感覚で配信しているからです。ニヤニヤ動画からU-tubeへ移行して伸び悩んでいる実況者は多いでしょう?」

「確かに……」

「ニヤニヤ動画では内輪のノリが多いです。ユーザーと実況者の距離が近いのはメリットにもデメリットにもなりますからね。U-tubeに移行してその差を感じた実況者は多いでしょう。うちがU-tubeを主体にしていて、ニヤニヤ動画を主体としないのも新規が入りづらい環境であることと、収益に繋がりにくいからです」

 

 まあ、そもそも、バーチャルなユーチューバーだからVtuberなのですが、と諸星は苦笑した。

 

「あれ、でも諸星さんってニヤニヤ出身の実況者さんとの繋がりすごいですよね?」

「彼らは現在U-tube主体で活動してますし、うちの稼ぎ頭の〝竹取かぐや〟よりもチャンネル登録者数は多いですからね。繋がりは持つに越したことはありません。もちろん、コラボは慎重に行わなければいけませんが」

 

 ある意味、ぶっ飛んだライバーが多いにじライブよりもぶっ飛んだ者が揃っているのだ。何が炎上に繋がるかわかったものではない。

 

「それに私達の仕事の中心がU-tubeなだけで、ニヤニヤ動画も活用する分にはメリットがありますよ。内輪のノリが多いということは、コアなファンが付くということでもありますからね。実際、ニヤニヤ動画の有料チャンネルで外部の人間との番組を持っている二期生もいるでしょう?」

「じゃあ、白雪さんをスカウトしたのって」

「彼女にはコアなファンを獲得する力があるからです。さすがに、この速さで炎上されるのは予想外ではありましたが」

 

 事実、炎上しても白雪林檎の登録者数は減るどころかじわじわ増えていた。

 こめかみに手を当ててため息をつくと、諸星は亀戸へ激励の言葉を送った。

 

「あなたには苦労をかけますが、私もサポートするので頑張ってくださいね」

「あ、ありがとうございます! ……私、部長のこと誤解していました」

「誤解?」

「何か威圧感があって、凄い怖い人だと思ってましたけど、本当はとても優しい人なんですね!」

 

 悪気など欠片もない笑顔でそう言われた諸星は表情を曇らせた。

 

「……………………やっぱり、私は怖いですかね」

「あっ、申し訳ございません! つい本音が!」

「あなたがライバーではなくて良かったと心から安堵してますよ」

「ひっ」

 

 結局亀戸を怯えさせてしまったことにため息をつく。冗談です、と前置きをすると、諸星は最後に笑顔を浮かべて缶コーヒーを亀戸のデスクに置いた。

 

「困ったことがあれば何でも相談してください。ライバーのサポートをするのはあなた達の仕事ですが、あなた達マネージャーをサポートするのは私の仕事なのですから。それと、今日はもう日報を書いて帰ること。見たところ今日中にやらなければいけない仕事はありませんからね。上司に何か言われたら〝怖いと思われる〟私の名前を出しなさい。それでは、お疲れ様でした」

「部長……お疲れさまでした!」

 

 颯爽と歩いていく諸星に、亀戸は尊敬の念を禁じ得なかった。

 




いろいろと調べてはいますが、裏方の描写ってやっぱり難しいですね……。


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第二章 ~化け物集団 三期生~
【にじライブ】三期生について語るスレ その13【獅子島レオ、茨木夢美、白雪林檎】


平日ならこの時間帯に投稿されないと思っていたか?
今回は新章開幕の掲示板回です。


4:名無し

にじライブに新たな怪物が現れてからもう一ヶ月か……

 

5:名無し

炎上騒ぎもすっかり収まったしな

 

6:名無し

バラギとレオ君デビュー一ヶ月でもう登録者数十万人いきそうで草

 

7:名無し

ここまで凄いのはバンチョーやまひるちゃん以来だな

 

8:名無し

バラギは「ゴミカス、〇ね」で伸び、レオ君は「謎のメスライオン獅子島レナ」でさらに伸びた

 

9:名無し

差が酷いwww

 

10:名無し

レオ君の女声配信はもっと評価されるべき

 

11:名無し

あれの影響もあってレオ君のチャンネルのアナリティクス男7割、女3割になったらしいぞ

 

12:名無し

男オタク共が落とされてて草

 

13:名無し

まさか本当にバ美肉李徴になるとは思わなかったなぁ

 

14:名無し

レナちゃんの〝さくらんぼ〟で完全に死んだ

 

15:名無し

もう一回のとこやばかったよな

 

16:名無し

性別の壁を簡単に飛び越えるライオン

 

17:名無し

>16

ライオンなのに両声類で草

 

18:名無し

バラギは音ゲー得意なのは意外だった

 

19:名無し

音ゲーはプライベートでもしょっちゅうやってるらしいぞ

 

20:名無し

音ゲーのうまさよりも下ネタだらけのゲームの配信している方が印象に残っているんやが……

 

21:名無し

この二人だけが化け物扱いされてるけど、白雪も十分化け物だからな

 

22:名無し

一ヶ月で五万人いってる白雪もすごいぞ

 

23:名無し

炎上をものともしないで登録者数を伸ばしているのは凄い(なお遅刻はする模様

 

24:名無し

小人達は訓練されすぎ

 

25:名無し

まあ、なんだかんだで面白いもんな

 

26:名無し

ビジネスクズじゃなくてガチクズなの笑う

 

27:名無し

マネさんの話たまに出るけど、白雪のマネージャー業は大変だろうな……

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

106:名無し

白雪とバラギのコラボキタ――――!

 

107:名無し

前々から白雪準備してたけど、ロクなことしなさそう

 

108:名無し

二人のコラボ始まる前に、雑談枠でレオ君ずっと心配してて草

 

109:名無し

こんなぐう聖他におる?

 

110:名無し

一期生の姫ちんがいただろ

 

111:名無し

姫ちんはもういないだろ

 

112:名無し

バンチョーも仲の良かった同期がいなくなって寂しかっただろうな

 

113:名無し

レオ君はバラギのおかげで迷走から立ち直ったからもう大丈夫そう

 

114:名無し

ネタでリスナーを引き付けて実力で袁傪達を感動の渦に巻き込む天才

 

115:名無し

レオ君はスペックが高すぎる

 

116:名無し

……姫ちんの「おは竜宮~」がまた聞きたいな

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

457:名無し

【祝】獅子島レオ、茨木夢美、ほぼ同時に十万人達成!

 

458:名無し

こりゃめでてぇな

 

459:名無し

化け物で草

 

460:名無し

こんな時までお揃いとは……てぇてぇが過ぎるぞ

 

461:名無し

まさかここまで伸びるとは思わなんだ

 

462:名無し

レオ君、袁傪達に「その声は、我が友、李徴子ではないか?」の部分録音した音声データ募集しだしたんだけどwww

 

463:名無し

何やる気だwww

 

464:名無し

聖獣だけどぶっ飛んでるのホントすこ

 

465:名無し

ちなみにバラギは凸待ちやるっぽいぞ

 

466:名無し

桃タロスが真っ先に食いつきそう

 

467:名無し

あの下ネタ魔人来たらカオスになるだろ

 

468:名無し

誰かあかやん連れてこい

 

469:名無し

まひるちゃんは絶対凸するよね

 

470:名無し

この前もオフで会ったときの話してたけど、結構可愛がってるみたいだからな

 

471:名無し

どっちがどっちを可愛がってるんですかねぇ……

 

472:名無し

てか、白雪の配信頻度落ちてね?

 

473:名無し

どうせすぐに元の頻度に戻るやろ

 

472:名無し

白雪のだらけ癖は今に始まったことじゃないからな

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

763:名無し

【悲報】白雪林檎、にじライブ卒業

 

 

 

 



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【危機一髪】食べ物はきちんと冷蔵庫にしまおう

「それでは遅くまで見てくださりありがとうございました……おつ山月!」

 

[おつ山月!]

[おつ山月!]

[おつ山月!]

 

 今日もいつものように配信を終わる。

 デビューからもうすぐで一ヶ月。

 生配信にも慣れたもので、レオにとって生配信はすっかり生活の一部と化していた。

 飲食店でのアルバイトこそ続けていたが、今ではかなりシフトを減らし、店長にもその内やめるかもしれないという話はしていた。

 

「ついに登録者数八万越えか……もっといろいろ企画とか考えないとな」

 

 デビュー当時の伸び悩み具合が嘘のように、レオのチャンネルは伸びに伸びまくっていた。

 夢美のチャンネルも勢いをそのままに伸び続けているため、二人共登録者数十万人はそう遠くない話である。

 

「ふぅあぁぁぁ……寝るか」

 

 レオは今日の雑談枠で興が乗ってつい話過ぎてしまった。そのため、珍しく配信後に眠気が襲ってきたのだ。

 ライバーとして体調管理に気を使っているレオとしては、予定がないときは眠気に従って眠るようにしていた。

 その分、朝五時には起床してランニングして体を動かしているので、堕落した生活を送ってはいなかった。

 伸び悩んでいた頃とは違い、晴れやかな気持ちでレオはベッドに潜りこんだ。

 翌朝、ランニングを終えてシャワーを浴びたレオは洗濯物を干すためにベランダへ出た。

 大体このくらいの時間になると、夢美が寝る前にベランダに出て洗濯物を干し始めるため、レオと夢美は毎朝のように会話をしていた。

 隣から物音が聞こえてきたため、今日もレオはいつものように夢美へと声をかけた。

 

「おはよう。昨日のデレステの配信凄かったな。夢美があんなにリズム感あるとは――」

「う゛ほ゛ぁ……! レ、レオぉ……」

 

 苦しそうな声と共に名前を呼ばれ、慌てて隣のベランダを覗き込むと、そこにはうずくまって苦しそうにお腹を押さえている夢美がいた。

 

「夢美!? どうした!」

「うぅ……お腹が、痛い……!」

「ちょっと待ってろ!」

 

 レオと夢美の部屋があるのはマンションの五階。普通の人間ならば怖くて足が竦む高さだ。

 だが、レオは躊躇うことなく自分の部屋のベランダ伝いに夢美のベランダに入った。

 

「かなりキツそうだな。救急車呼ぶぞ」

 

 夢美の顔には大量の脂汗が浮かび、血の気も失せていた。どう見ても普通の腹痛の症状ではない。

 

「待って! そんな大事じゃ、ないから……!」

「何かあったら事だろ!」

 

 救急車を呼ぶことに抵抗のあった夢美はレオを止めようとするが、レオは夢美の制止を聞かずに救急車を呼んだ。

 救急車はすぐに到着し、付き添いとしてレオは夢美と一緒に病院へ向かうことになった。

 

「食あたりですね」

「食あたり」

 

 処置を受けている夢美に代わり、レオは医者から話を聞いていた。

 夢美の腹痛の原因は、食あたりだった。

 

「最近は暑くなってきましたからね。冷蔵庫に仕舞わずに放置していた食材を口にしたのでしょう」

「あー……」

 

 ズボラな生活を送っている夢美ならあり得る。医者からの説明にレオは納得した。

 

「まあ、症状も大したことはないですし、家で安静にしていれば大丈夫ですよ」

「良かった……ありがとうございました」

 

 それからしばらくして、処置を受けて顔色が回復した夢美が出てきた。

 

「もう大丈夫そうだな」

「やー、マジで助かったわ。一昨日買ったコンビニ弁当出しっぱなのすっかり忘れてて慌てて食べたのがいけなかったみたい。あっ、診察代と薬代とか立て替えてもらっちゃってごめんね。いくらだった?」

「ほれ、領収書」

 

 病院からもらった領収書を渡すと、夢美はその場でレオに立て替えてもらった金額を清算した。保険証がいるだろうからと、普段使用しているカバンを根性で掴んだことが幸いした。

 

「にしても〝中居由美子〟ねぇ……」

「何だよ。あたしの本名に文句でもあるのか? アァン?」

 

 病院からマンションへの帰り道。レオは怪訝な表情で夢美の本名を口にした。

 病院に付き添ったことで、レオは夢美の本名を知ることとなった。苗字だけなら表札で知ってはいたが、レオにとってはどうにも不思議な気分だった。

 

「いや、小学校のときの同じクラスにはいなかったなって思ってさ」

 

 レオは小学校の頃、クラスの人気者だったため、同じクラスになった人間とは積極的に交流を持っていた。ただ他のクラスの教室に入るのは禁止というルールがあったため、基本的に仲良くなるのは同じクラスの人間だった。

 

「ま、あたしボッチだったから」

「いや、ボッチの奴はいたけど中居じゃなかった気が……」

「クラス一緒にならなかったんだろ。というか、マジで三桜小なん?」

 

 この一ヶ月の間、レオと夢美は話をしているうちに、自分達が地元にある同じ小学校に通っていたことに気が付いた。

 しかし、残念なことに二人の間にはまったくと言っていいほど交流がなかった。

 

「やっぱり、司馬拓哉って聞き覚えないか?」

「その名前に聞き覚えがないわけないでしょうが。同じ小学校からSTEPのメンバー出てるとは思わんかったわ。クソッ、普通にシャニプロ系のアイドル当時ハマってたから知っていればあのクソ共にマウント取られることもなかったのに……!」

 

 当時、シャイニーズプロダクションの男性アイドルにハマっていた夢美としては、同じ小学校に〝シバタク〟がいたという事実はかなり衝撃的だった。

 

「慎之介となら未だに連絡取ってるし、今度会ってみるか?」

「えっ、高坂君と連絡まだ取りあってるの!?」

「まあな。最近もよくRINEでやり取りするし」

 

 レオは慎之介にVtuberをやっていることは隠し、顔出ししていないユーチューバーをやっていると話していた。事務所との契約があるから名前やチャンネルは教えられないとごまかしているが、いつか世間での認知度が上がった際は告げようと決めていた。

 

「現役時代不仲説あったのに意外」

「慎之介の器がでかいだけだよ。それでどうする?」

 

 夢美は現在シャイニーズプロダクションのアイドルに興味はほとんどない。当時ハマっていただけという話だ。

 慎之介に関しては、彼が現在声優をやっていることもあり普通にファンではあったが。

 

「いや、でも、何かズルい気がして……うーん」

「まあ、気持ちはわかる」

 

 そのまま二人はマンションに帰るまで、他愛ない話していたが、夢美はあることに気が付いた。

 

「てか、あたし部屋着じゃんっ!?」

 

 救急車で搬送されたため、夢美はいつも着ているモコモコの部屋着にサンダルという出で立ちだった。当然化粧もカラーコンタクトもしていないため、眼鏡もかけている。

 

「えー……今更だろ」

「無理無理無理! すっぴんだし、部屋着だし……あー、もう! 最悪!」

 

 大声で喚き散らすと、夢美はレオの背中にピッタリと引っ付いた。

 

「ちょっ!? 引っ付くなよ!」

「うるせぇ! お前イケメンなんだから盾になれよ!」

「いや理不尽!」

 

 最初こそ夢美に密着されたことでドキッとしたレオだったが、その後の夢美の言葉によって一瞬で冷静になった。

 

「というか、大声出すなよ。身バレするぞ?」

「くっ……!」

「何で俺が悪いみたいな空気になってるの?」

 

 帰り道に一悶着あったが、二人は無事にマンションにたどり着いた。

 しかし夢美は現在、自分の部屋ではなくレオの部屋にいた。

 

「――というわけで、今から会議をする」

「会議?」

 

 突然部屋に呼び出されて会議と言われ、夢美は首を傾げる。

 

「夢美の生活習慣には改善が必要だ。正直、個人の生活習慣に口を出す気はなかったけど、このまま放っておくといつ死ぬかわかったもんじゃないからな」

「……返す言葉もありません」

 

 今回の食あたり騒動でレオには迷惑をかけた自覚があるのか、夢美は素直に頭を下げた。

 

「四谷さんからも『負担でなければ獅子島さんも、夢美ちゃんの生活習慣の改善について協力してください!』って、さっき〝チームバラレオ〟のグループにメッセージきてたろ」

「よっちんェ……」

 

 すっかりマネージャーである四谷と仲良くなった夢美は、彼女のことをあだ名で呼ぶようになっていた。

 

「というわけで、これから夢美の飯は俺が作る。これでも体に気を遣った料理には自信があるからな。もちろん、外食したいときは俺に言ってくれればいい」

「さすがに、そこまでしてもらうわけには……」

「そのレベルでヤバイってことだよ。四谷さんや飯田さんも全面的にバックアップしてくれるから覚悟しておけよ」

 

「何か包囲網が出来てる気がするんやが」

 

 ちなみに、マネージャー陣はレオと夢美の部屋が隣同士ということは既に把握している。さすがに配信上では近所に住んでいるということにしてはいるが。

 

「ま、一人分作るのも二人分作るのも変わらないから、気にするな」

「食費は割り勘でいい?」

「そうだな、レシートから金額計算して月末清算にするか」

「了解。何から何まで悪いね」

 

 レオに迷惑をかけている自覚がある夢美は申し訳なさそうに苦笑した。

 そんな夢美に対して、レオは笑顔を浮かべて告げた。

 

「気にするな。幼馴染だろ」

「へへっ……そうだ、そうだったね」

 

 レオと夢美は同じ小学校に通っていたという経歴があるだけでお互いのことを覚えていない。

 それでも、二人にとって設定から始まったこの関係はどこか心地が良かった。

 

 






そういえば、この小説ではゲームなどは現実のままのものを使用している設定です。
正式名称出さなきゃオッケー理論でやっていきますので、よろしくお願いします。


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【三期生】月間ミーティング

「それでは来月に向けてのミーティングを始めさせていただきます」

 

 諸星の言葉により三期生のミーティングが始まる。

 にじライブでは急な方針の変更がない限り、基本的に月一回ミーティングが開かれている。もちろん、これらはライバー同士のコミュニケーションのためでもあり、自由参加だ。

 ちなみに、このミーティング、一期生、二期生、三期生ごとに行われており、その全てに諸星は出席している。

 

「獅子島さん、茨木さんは登録者数共に八万人越え。白雪さんも五万人越えで順調過ぎて怖いくらいですね……」

「いえ、諸星さんをはじめ、事務所側のサポートあっての結果ですよ」

「きょ、恐縮です」

「どもどもー」

 

 三期生の現在の登録者数はレオと夢美が最近八万人を超えたところで、林檎は五万人を超えたところだ。

 にじライブの運営は勢いがあるとはいえ、この結果は偏に三人の実力あってのものだろう。

 

「てか、林檎ちゃん今日はどうしたん? 自由参加なのにいるって珍しいね」

 

 夢美は、さぼり癖のある林檎が自由参加のミーティングに出席していることに違和感を覚えていた。

 驚く夢美に対して、林檎はあっけらかんとした様子で答える。

 

「いやー、今日は別のコラボの打ち合わせもあったからついでに出たんだよー」

「別のコラボ?」

 

 怪訝な表情を浮かべる夢美に、諸星が代わりに説明する。

 

「竹取かぐやと白鳥さんとのコラボですよ。白雪さんにはそろそろブーストをかける必要がありますからね」

「えっ、それってJKコンビの月一にじライブ!?」

「かぐや先輩とまひる先輩の番組!?」

 

 レオと夢美は、それぞれ憧れているライバーがパーソナリティを務めている番組へ林檎が出演することに驚きの声を上げた。その声音に羨ましさが混じっていたのは言うまでもないことだろう。

 

「何かごめんねー、憧れの人達と先にコラボしちゃって。ほら、二人と違って私は登録者数伸びてないしねー」

「いや、気にしなくていいよ。あの二人なら君が暴れてもどうにかできるだろうし、胸を借りるつもりではっちゃけてくればいいんじゃないか?」

「今度、絶対感想聞かせてね!」

 

「ほ?」

 

 てっきり羨ましがるだろうと思っていただけに、林檎は笑顔でそう返してきた二人の言葉を聞いて硬直した。

 林檎にとって人を煽ることはコミュニケーションの一種だった。

 彼女のことを理解する人間はそれを理解した上で、冗談半分に怒ったりして林檎との会話を楽しんでいた。それは〝ゆなっしー〟として活動していたときも同じだった。

 それ故、レオや夢美のように〝純粋な善意〟で返されると返答に困ってしまうのだった。

 

「も、もちのろんっすよー。土産話楽しみにしててねー」

 

 何とか返答した林檎は困惑したままだった。

 それから会話に一区切りがついたと判断した諸星はレオに話題を振った。

 

「それでは、獅子島さんの次の配信予定など聞かせてもらえますか?」

「そうですねぇ……この前の歌枠での女声が好評だったので、まるまる一枠女声でやってみたいと思います」

「実はそう言うと思って担当イラストレーターの方には立ち絵を書いていただきました!」

「マジですか!? 適当に思いついただけだったんですけど……」

「今の獅子島さんなら視聴者の需要に応えられるような配信をすることは目に見えています。最悪、思いつかなくても立ち絵が用意されていればやるでしょう?」

「あはは……何か最近の飯田さんスパルタですね」

 

 レオと飯田の軽快なやり取りを見ると、諸星は笑顔を浮かべた。諸星としても二人の信頼関係が構築されているのは喜ばしいことだった。

 

「とても面白いと思います。あと、先の話ですが他の企業のVtuberとのコラボの話も来ていましたよね?」

「はえ……? 他の企業V?」

 

 まさかの企画にレオは間抜けな声を上げる。

 予想外のことが次々起こるため、最近のレオはアホになりがちだった。

 他の企業に所属するVtuberと絡むということは、知名度を一気に上げることができるチャンスでもあるのだ。にじライブ内のコラボで、知名度を上げようとしても限界があるのだ。

 

「ただ一つ問題がありまして……」

「何ですか?」

「獅子島さんが3D化していないと参加できないんですよね」

「いや、致命的じゃないですかそれ」

 

 にじライブでは、イラストを動かす形式を採用している〝二次元のライブ配信〟が主流のため、ある程度人気が出なければ3D化することは叶わない。

 しかし、今回の企業の枠を超えたコラボは全員3DモデルのVtuberが参加している。

 本来なら、3D化している上に知名度もある竹取かぐやが出演するべきなのだが、彼女はせっかくの機会に知名度がある自分ではなく、今勢いのあるレオを指名したのだった。

 

「ですが、もう手は打ってあります。うちには3Dモデルのサンプルとして普通のライオンのモデルがあるんですよ。それを使って参加すれば問題ありません!」

「問題しかないと思いますけど!?」

「まあ、聞いてくださいよ獅子島さん。あなたの持ち味はネタで引き付けて歌唱力で感動させる。つまり、明らかにおかしな奴が一人いるって思わせて、めちゃくちゃ歌がうまいってなれば話題性抜群じゃないですか!」

「な、なるほど」

「見た目に突っ込まれたら、最近登録者数伸びて調子に乗ったらこんな姿になったって言えば設定も守れて一石二鳥ですよ!」

「それはありですね! やりましょう!」

 

 レオはすっかりにじライブのノリに浸食されていた。一ヶ月前の彼ならばまず承諾しない提案である。

 

「二人共、盛り上がり過ぎですよ。まだ先の話なのですから」

 

 そんな二人をクールダウンさせるように諸星が声をかける。

 

「どうせやるなら思い切りやらないとダメですよ。今度ライオンのモデルでどれだけ動けるかテストするように」

 

 忘れがちだが諸星もにじライブの人間である。染まるどころか染める側なのである。

 諸星は飯田の提案には賛成だった。なんなら良い提案をできるようになったと、部下の成長を喜んでいるまであった。

 

「ぷっ、くくく……サンプルのライオンって……! 李徴化が悪化してるじゃん……!」

「くくっ……いやー、やっぱうちの事務所ってイカレてますねー」

 

 ぶっ飛んだやり取りを見ていたせいか、夢美と林檎は腹を抱えて笑っていた。

 

「ひとまず、獅子島さんは大丈夫そうですね」

 

 安心したようにそう言うと、諸星は夢美に話を振った。

 

「茨木さんはどうしますか?」

「あの四日でスイッチ版が配信停止になったゲームやりたいですね。できれば耐久配信で!」

「あはは……夢美ちゃん、本当に耐久配信好きですよね」

 

 生き生きした表情で地獄のような配信内容を希望する夢美に、四谷は苦笑した。

 夢美はやたらと長時間の配信を行うことが多かった。先日も夕方から朝まで10時間近い配信をしたばかりである。

 

「……体調には気をつけてくださいね」

「うっ……先日はご心配をおかけしました」

 

 食あたり騒動について四谷から報告を受けていた諸星は、表情を強張らせて夢美に注意を促した。これは本当に心配しているだけで諸星に他意はない。

 

「まあ、あなたには獅子島さんや四谷に飯田が付いてますし大丈夫でしょう」

「えっ、あたしの生活習慣改善の必要性って役員レベルの人間でも共通認識なの……」

 

 事務所の上層部にすら自分の醜態が知れ渡っていることに夢美は戦慄していた。

 

「最後に、白雪さんは何か次にやりたいゲームなどはありますか?」

 

 林檎は先日、ストーリー系のゲームの実況を終えたばかりだ。次に何をやるかはある程度目処をつけていた。

 

「ふっふっふ、良い質問ですねー。そう言うと思って一覧を作ってきましたよー」

「……あの、作ったの私なんですけど」

 

 目の下にクマを作った亀戸は不満げに呟く。

 

「ふむ、知名度の高いゲームから、視聴者受けしそうなコアなゲームもありますね。白雪さんは本当に視聴者の求めているものを汲み取るのがうまいですね」

「まあ、それほどでもありますけどー」

「権利関係はこちらで調べておきます。亀戸は午後から半休を取っていますから、四谷に仕事の引継ぎをするように」

 

「かしこまりました! ごめん、四谷さん。よろしくね?」

「いや、別にいいけど……亀ちゃんはゆっくり休んだ方がいいよ」

 

 四谷は同情するように睡眠不足で辛そうな亀戸を気遣った。

 

「それでは、これで三期生のミーティングを終わります」

 

 こうしてレオ、夢美、林檎の三名は近々行う配信に向けて準備を始めた。

 レオは女声でしゃべり続ける練習をし、夢美はスマートフォン用のゲームトリガーを購入し、林檎は事務所からの連絡があるまでぐっすりと眠って英気を養うのであった。

 

 




気が付けばランキングに載るように……!
皆さん、いつも感想ありがとうございます!
これからも応援よろしくお願いします!


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【歌枠】はじめまして!獅子島レナです!!


歌枠って自分の好きな曲の紹介になりがちという。
一応、きちんと歌詞があっている曲を選んではいるんですけどね。


 今日はついにやってきた女声配信の日だ。

 

「あー、あー……あ、あ、あー……うん、意外といけるもんだな」

 

 入念にチューニングを繰り返したレオは満足げに頷いて配信ボタンを押した。

 

[何が始まるんです?]

[これは期待]

[にじライブ一の清楚の配信と聞いて]

 

 配信が始まったことで、コメント欄は袁傪達の期待の声で溢れていた。

 そんな袁傪達にレオは強烈な一撃をお見舞いした。

 

「袁傪のみんなー! こんばん山月! 獅子島レナでぇすっ……はぁっ」

 

[!?]

[!?]

[!?]

[初配信のバラギで草]

[吐息www]

[歌声じゃなくて、普通にしゃべるのもいけるんか!]

 

 夢美の初配信を真似た自己紹介に、コメント欄は驚愕と爆笑の渦に包まれる。

 レオはさらに畳みかけるように、獅子島レオの担当イラストレーターに描いてもらった〝獅子島レナ〟のイラストを表示した。

 

「今日はレナの配信に来てくれてありがとう!」

 

[立ち絵まで用意してやがるwww]

[ネタに全力過ぎて草]

[女声助かる ¥5,000円]

[てか、このイラストってまさか……]

 

「察しの良い人はわかると思うけど、あのオスライオンと同じママに描いてもらってるよ。さすがに予算とか時間の都合で動かないけど、許してね!」

 

[実質新衣装]

[オスライオンwww]

[相変わらずにじライブ狂ってるなぁ]

[これぞバ美肉李徴]

[伝説しか作れないライオン]

 

 それから続けて、レオは初配信時のテンパっていた夢美の真似をした。

 

「わっ、コメントがすごい! たくさん!」

 

[だからバラギの完コピやめろwww]

[これは新手の煽り]

[レオ君にしかできないんだよなぁ]

[コピー代 ¥500円]

[これで普通に可愛いんだから、いかにバラギが頑張っていたかわかる]

「それで、今日は何をやっていくかというと――」

 

 レオはあらかじめ用意していたマイクのイラストを自分の立ち絵の近くに表示させた。

 

「ジャジャーン! 今日は初めての歌枠をやってみたいと思いまーす!」

 

[おおおおおおおお!]

[この前のプラネタリウム良かったから期待]

[ホント何でもできるなこのライオン]

 

「じゃあ、最初はこの曲! ミュージックスタート!」

 

[マジで可愛くて困惑してる]

[本当にレオ君なのか?]

[俺は妹説を推していきたい]

 

 そしてイントロが流れ出し、何を歌うか把握したコメントは盛り上がりだした。

 

[だから選曲で歳バレるぞwww]

[この前はプラネタリウムだったしな]

 

「あ〜たし、さくらんぼ〜♪」

 

[うおおおおおお!]

[かわいい!]

[何だろうこの感情……胸がぞわぞわする]

 

 コメント欄はすっかりレオの女声での歌声に魅了されていた。

 

「笑顔咲ク~♪ き~み~と~♪ つ~ながってたい~♪」

 

[は? 死ぬほどかわいいんやが? ¥10,000円]

[これで男という衝撃の事実]

[女としてのプライドがへし折れました。明日から男になります]

 

 そして、サビをもう一度歌うパートになったとき、レオは自分に出せる限りあざとく聞こえる声を出した。

 

「もういっかい♪」

 

[はい死んだー]

[あ゛(絶命)]

[我が生涯に一片の悔いなし ¥10,000円]

 

 そして、レオは最後までしっかりと一曲目を歌い上げた。

 

「あ~たし、さくらんぼ~♪ ……ご清聴ありがとうございました! あと、スパチャ投げてくれた人もありがとね!」

 

[最高に可愛かった]

[これがバ美肉か……]

 

「ちなみにこの曲、昔は流行ってる可愛い曲って認識だったんですけど、大学の時の飲みのコールとして聞き過ぎて、トラウマを克服したくて歌わせていただきました」

 

 レオは大学時代の飲み会を思い出して顔を顰める。

 サークルの仲間はペース配分を考えないバカみたいな飲み方をする者ばかりだったため、レオはいつも介護役をしていてうんざりしていた。その経験があったからこそ、夢美の介抱がスムーズにいったわけだが。

 

[理由が酷いwww]

[すーいすーいすいすい]

[俺はレナちゃんのおかげでトラウマ克服できたわ ¥2,000円]

[てか、飲みサーいたの?]

 

「いえ、ダンスサークルでしたよ? まあ、飲みサーって言われてもしょうがないと思いますけど」

 

[アイドル時代の名残を感じる]

[むしろ感じるのは闇なんだよなぁ]

[レナちゃんトレンド入りおめでとう]

[レナちゃんって誰かと思ったらレオ君の女声かよwww]

 

「はえ……トレンド?」

 

 配信前から袁傪達が呟いたこともあり、いつの間にか〝レナちゃん〟というワードがツウィッターでトレンド入りしていた。

 完全に声を作っていたレオは女声のまま間抜けな声を漏らす。

 

[その声のままそのリアクションは死者が出るぞ]

[かわいい ¥10,000円]

[何で声そのままなのwww]

[一方バラギは……]

 

 トレンド入りしたことで、新たな袁傪達が増え始める。

 この勢いを保ちたかったレオは思考を切り替えて、次の曲を歌うことにした。

 

「あ、赤スパありがとうございます! トレンド入りもありがとうございまーす! 新しくきた袁傪達のためにもまだまだ歌っていきますよ! 次はこの曲です!」

 

 レオは次の曲をセットして音源を流し始めた。

 

「好きになって~♪ もっと! 私を~見て~♪ もっと!」

 

[まさか男性ライバーがこの曲歌うとは……]

[たぶん一番かわいいまである]

[本当ハニワ好きだなw]

 

 レオが二曲目に歌っている曲は彼が好きなアーティストの曲で、作中のアイドルが歌っている曲でもある。性別を問わなければ、今のレオにはピッタリの曲だった。

 またこの曲は多くの女性ライバーが歌っている曲である。この曲の特徴として、歌詞に〝愛のこもったmonaビームで〟という部分を自分の名前に変えて歌うことがお約束である。

 レオもそんなお約束に漏れずに名前の部分を変えたのだった。

 

「お~ん返しは~♪ ……愛のこもったrenaビームで!」

 

[Foooooo!]

[Foooooo!]

[Foooooo!]

 

 コメント欄は待っていたお約束に大盛り上がりだ。

 

「ファンサしちゃうぞ(・ω<)」

 

 完全にノリノリのレオは勢いのままに曲目を歌い終えた。

 

「ありがとうございました!」

 

[いつかライブで歌って!]

 

「えっ、まだ3D化もしてないんだけど……」

 

[メスライオン3D希望]

[女バージョンが先に3D化は草]

 

 それからレオは喉を休めるための休憩を挟みつつ、どんどん曲を歌っていった。

 

「ハピハピハッピク~レセント~♪」

 

[またアイドル曲で草]

[神のみ懐かしいw]

 

 一昔前に流行ったアニメの中でアイドルが歌っていた曲を歌ったり、

 

「~~~~~~♪ ~~~♪」

「~~~~~~♪ ~~~♪」

 

[まさかのホール・ニュー・ワールド]

[しかも英語バージョンかよ!]

[男女でパート分けて歌ってるの!?]

[地味にレオ君、今回の配信で初登場]

[一人でコラボとはたまげたなぁ]

 

 レナとレオの声を使い分けて歌ったりして、レオは配信を大いに盛り上げた。

 アイドル時代、レオは売れなくなっていたときに無茶な企画をやらされることも多かった。

 そのときに無理矢理やらされた女装して歌うという企画がまさかこんなところで生きるとは思いもよらなかった。

 現役時代の後半は嫌な思い出が多い。それでも、今こうしてその経験が役に立つのならば、あのとき歯を食いしばって屈辱に耐えながら挑戦した企画の数々も悪くはなかったのかもしれない。

 レオは不思議と過去の自分を受け入れ始めていた。

 どんなに受け入れがたい黒歴史でも、あの時の経験があったからこそ今があるのだ。

 

『ふざけんな! 俺にこんなイカレた企画をやれってのか!?』

 

 あのときは癇癪を起してばっかりでごめんなさい。そして、最高の経験をありがとう。

 レオは当時のマネージャーやSTEPのメンバーへ心から感謝した。

 そんな想いが溢れたからか、レオは予定を変更して選曲を変えて最後の曲を歌うことにした。

 

「名残惜しいけど、最後の曲行きます! 最後の曲はアイドル時代お世話になったマネさんやメンバーのために歌います!」

 

[お、これは期待]

[見てるか当時のメンバーやマネさん!]

[見てても気づかんだろwww]

[当時の担当アイドルがバ美肉してメスライオンに!]

[バ美肉李徴となったレオ君を見て、当時のメンバーは何を思うのだろうか]

[マネージャーもビックリだろうな]

[それは草]

 

 最初は茶化すコメントが多い袁傪達だったが、レオが歌いだした瞬間、そんなコメントは一つもなくなった。

 

「ありがとう~♪ って、伝えたくて~♪」

 

[神曲キタ――――!]

[女声のままこの歌唱力か……]

[アイドル辞めなかったら今頃大物になっていただろうに……]

[女声でもビブラート綺麗]

 

「繋がれた右手は~♪ 誰よりも優しく~♪ ほら~♪ この声をうけ~とめ~てる~♪ ……というわけで〝ありがとう〟でした! ここまで見てくれた袁傪のみんな! 今日はありがとう! それではおつ山月!」

 

[おつ山月!]

[おつ山月!]

[おつ山月!]

[最高の時間をありがとう ¥10,000円]

[これは届いて欲しい]

[届いた瞬間身バレするんやが]

[世知辛いなぁ]

 

 こうして、レオの女声配信は大盛況のままに終わり、彼のチャンネル登録者数はまた一段と増加したのであった。

 

 




実際、この曲知らないからピンとこない!ってパターンあると、盛り上がりにかけると思ってはいるんですけど大丈夫ですかね?

曲名一覧
1.さくらんぼ
2.ファンサ
3.ハッピークレセント
4.ホール・ニュー・ワールド
5.ありがとう


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【ゲーム実況】実はプレイするのは初めて!あの伝説のゲームをやっていくよ!

ファイナ〇ソード回です。


 1LDKの室内に香ばしい匂いが漂う。

 リズムよく包丁を動かし、鼻歌を歌っているのはこの部屋の主だ。

 一人暮らしだというのに、彼の作る料理の量は明らかに二人分である。

 

「よし」

 

 味見をして頷くと、部屋の主――レオはRINEで夢美へと電話をかけた。

 

『おはよ……ふぅあぁぁぁ……』

「もうすぐ飯できるから頑張って起きてくれ」

『うん、頑張る……』

 

 力なく返事をすると、夢美が通話を切る。

 こういった返事が来た場合、普通はそのまま寝てしまうと思うだろうが、夢美はレオに食事の面倒を見てもらっている手前、根性を振り絞って何とか起きていた。

 食器に朝食を盛り、テーブルに並べていると、玄関から()()()()()音がする。

 寝ぼけ眼の夢美が何とか起きてきたようだ。

 

「おっ、起きたな」

「おはよ。いつもごめんね」

「いいっていいって、それより冷めないうちに食べよう」

 

 いつものやり取りをすると、二人は席について朝食をとり始めた。

 

「「いただきます」」

 

 手を合わせていただきますを言うと、二人は黙々と食事を始める。

 

「そういえば、昨日の配信凄かったね。あれで登録者数十万人にかなり近づいたんじゃない?」

「ああ、見ててくれたのか。悪いな、最初夢美をネタに使っちゃって」

「オーバーに真似し過ぎだっての……ま、袁傪達にウケてたからいいけど」

 

 わざとらしくムッとした夢美だったが、その実まったく気にしていないようで、純粋にレオの登録者数が伸びたことを喜んでいた。

 

「夢美はこの後、配信耐久やるんだろ?」

「うん、凄いクソゲーって評判だったからやってみようと思って」

「配信中はクソゲーとか言うなよ? 一応企業が出してるゲームなんだから」

「分かってるって。まあ、万が一クソゲーって叫んでも許されるクオリティだから選んだわけだけど」

 

 夢美も自分が失言することは念頭に入れてゲームを選んでいた。

 夢美が今日の配信でプレイするゲームは、BGMの関係などで四日で配信停止になり話題となったゲームだ。

 スマートフォン版はいまだに有料で配信しているため、夢美は既にスマートフォン版を購入してインストールしていた。ゲームを快適にプレイできるように、スマートフォン用のゲームトリガーまで購入する気合の入れようである。

 

「てか、レオは何飲んでるの?」

「ミロだけど」

 

 レオは昔サッカー選手がCMをやっていた有名な麦芽飲料を毎朝飲んでいた。もはやレオにとってのルーティンの一つであると言っていいだろう。

 

「スポーツ選手かよ」

「いや、マジでこれ飲むだけで違うんだって。鉄分や栄養が豊富に含まれてるから、朝からシャキッとできるようになるぞ」

「一見健康に良さそうに聞こえるのに、クソほど練乳ぶち込んでるせいで台無しだよ」

 

 レオはかなりの甘党だった。紅茶に砂糖は大量に入れるし、クレープのホイップクリームは増し増しにするタイプなのだ。

 甘いものが苦手な夢美は、嬉々として練乳をドバドバ入れるレオの様子に顔を顰めた。

 

「やりたいことがあるのにやる気が出ない、なんてことも減るぞ、マジで」

「へー、そんなに凄いんだ」

「アイドル時代の激しいレッスンもこれで乗り切ったからな」

「なら、今度配信で布教しまくって案件狙えば?」

「……ありだな」

「ガチ勢かよ」

 

 こうして今日もレオと夢美はいつものように他愛もない会話を楽しむ。

 

「「ごちそうさまでした」」

 

 食事を終えた二人は、テレビを見ながらまったりとした時間を過ごしていたが、そろそろ部屋に戻ることにした夢美はレオの分の食器も重ねて台所へと持っていった。

 

「洗い物やっておくね」

「いつも悪いな」

「準備は全部やってもらってるんだから、これくらい当たり前だっての」

 

 食事の準備はレオがして、片づけは夢美がする。

 これが二人のいつもの日常と化していた。

 洗い物を終えた夢美は自分の部屋に戻ると、パソコン周りに散らばっているエナジードリンクの缶やビニール袋を蹴っ飛ばして空間を作る。

 

「うし、片づけ終わり」

 

 夢美からすれば、周囲の空間ができただけで、相当片付いたように見えているのだ。実際は散らばっているゴミの体積はまったくと言っていいほど減っていないが。

 

「初見プレイの方がリアクションはとれるだろうし、タイトル画面までの起動テストで止めておくかな」

 

 夢美はスマートフォンに変換アダプタを接続してキャプチャーボードを挟み、パソコンに繋げた。

 配信用ソフトを起動すると、一通り茨木夢美の動きや表示される画面をチェックして、配信開始ボタンを押した。

 

[きちゃ!]

[こんな時間から配信とは珍しい]

[タイトルやサムネからしてブレワイでもやるのかな?]

 

 夢美はわざとサムネやタイトルを、今日配信するゲームに似ている――というよりも、元になったであろう有名なゲームをやると誤解されるようにしていた。

 自分で作ったトライフォースのようなマークを見れば、誰もが誤解することだろう。

 

「はーい、こんゆみー。茨木夢美でーす」

 

[こんゆみ!]

[こんゆみ!]

[こんゆみ!]

[相変わらずぬるっと始まるなぁ]

[この緩い感じ嫌いじゃない]

 

 最近の夢美は可愛く振舞うことをやめて、普段のテンションで配信を行うようにしていた。声は多少作っているが、初配信に比べればかなり素の姿に近くなっただろう。

 使用するBGMもふわふわしたものから気の抜けるようなものへ変え、背景もメルヘンなものから〝片栗粉をまぶしたブロッコリー〟や〝青汁の粉を掬っているスプーン〟などの妖精達から謎背景と呼ばれるものを使用していた。

 

「今日はあの伝説のゲームをやっていこうと思います。非国民って思うかもしれないけど、実は初めてやるんだよなぁ」

 

[スマブラでしか知らん人も案外おるで]

[開けろ、ゼル伝警察だ!]

[ムジュラとか時オカはいいぞ]

 

 完全に今日プレイするゲームを視聴者は誤解している。そのことにほくそ笑むと夢美は意気揚々と、ゲーム画面を表示した。

 

「まあ、みんなも察しはついていると思うけど、今日やるゲームはこちら!」

 

 ゲーム画面が表示されると同時に、画面の向こうの妖精達は一斉に[草]というコメントを書き込んだ。

 

[草]

[クッソwwwww]

[ブレワイじゃないんかい!]

[これは酷いwww]

 

「完全に初見プレイだから、アドバイスとかあったらどんどん書いてくれ。指示厨大歓迎のスタイルでやっていくぞ!」

 

[もう既に面白いんだが]

[リアクションに期待だなwww]

[叫ぶ予感しかしない]

 

 〝はじめから〟を選択して主人公の名前を〝バラギ〟に設定した夢美は早速ゲームを始めることにした。

 そして、表示されたゲームのグラフィックに夢美は驚きの声を上げた。

 

「は? これ、スイッチでも出てたよな? グラフィックが荒いのってスマホだからだよな?」

 

[残念ながら……]

[グラフィックは変わらないんだよなぁ]

 

「嘘やろ……」

 

 村の風景から家の中の映像に切り替わり、主人公が表示される。

 荒いグラフィックで表示された主人公の見た目に夢美は派手に爆笑した。

 

「ひゃははははは! もうヤバイ匂いしかしないわこれ!」

 

[ニッコニコで草]

[笑っていられるのも今のうちだぞ]

[さて、バラギはこの苦行に耐えられるかな?]

 

 一通り村の中でのイベントをこなすと、剣を装備した夢美はフィールドに出て最初の戦闘を行った。

 

「ちょっ、ま……おい、待って! やめ、やめて……やめろォ!」

 

[スライムにボコボコにされてて草]

[いや、この操作性で戦うのはキツイだろ]

[俊敏なスライムだなwww]

 

「オラァ死ね! ……見たかゴルァ!」

 

[DQN勇者爆誕]

[最高に口の悪い勇者バラギ]

[操作慣れるの早くて草]

 

「うし、倒したぞ……は? 1ゴールド?」

 

[ゴミwww]

[薬草が15ゴールドってことを考えると、割に合わな過ぎるwww]

[明らかに回復できる量以上にダメージ受けてるんだよなぁ]

 

 最初こそ苦戦していたが、何度も死んでいるうちに夢美は操作のコツを掴んでメキメキと上達していった。

 最初のボスも撃破し、どんどん先に進んでいった夢美だったが、作中でも苦戦するプレイヤーの多い難敵に苦戦することになった。

 

「辛い……辛いよぉ……」

 

[ヒドラキッツ]

[これは今日中にクリアは無理だな]

 

『う゛わ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛』

 

「オォォォイ!? それはダメだろ! 崖から落とすのはズルイだろが!」

 

[落ち方で草]

[リアクションまとめできそう]

 

「ね゛え゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛! 胴体の下に閉じ込められて動けないんだけど!」

 

[ハメられてて草]

[こんな酷いバグあるんか……]

 

 ボスの強さだけではなく、バグにも苦しめられた夢美だったが、長時間諦めずにプレイした彼女に今度はバグが味方をした。

 

「ファッ!? なんか動き止まった! いけ! 殺せェ!」

[バグったwww]

[チャンスチャンス!]

 

「死に晒せぇぇぇぇぇ!」

 

 バグによって動きが止まったボスを一方的に殴り、何とか夢美は難敵を撃破することに成功した。

 それから、何度も折れそうになる心を奮い立たせてゲームに臨んでいた夢美だったが、作中屈指の強敵の場面でまた詰まることになった。

 

「ね゛え゛! ダウン中に攻撃当てちゃいけないって学校で習わなかったんか!?」

 

[発狂してて草]

[これは発狂するだろ]

[もう何時間やってんだこれ]

[朝から始めたはずなのにもう深夜だぞ……]

[よく心折れないな]

 

 夢美が戦っているドラゴン型のボスは、飛んで氷のブレスを吐いて凍らせてきたり、近づいてきて噛みつきと投げを繰り返してきたりと、こちらが何もできずに負けることも多い挙動をしてくるボスだった。

 

「だから氷漬けの無限ループすな! レウスでもここまで酷くないぞ! 閃光で落とせたりしないのかよ!」

 

[激しく同意]

[チキンレウスはまともだった?]

 

「よし、ハメループから抜けた! いくぞ、オラァ!」

 

 何度も挑戦しているうちにハメループから抜け出した夢美は、ボスに向かって果敢にも攻撃を仕掛けようとする。

 しかし、無情にもボスは上空へ飛び立ち、再び夢美を氷漬けにする。再び氷漬けのループに突入した夢美は、魂から振り絞ったように絶叫した。

 

 

 

 

 

「あ゛あ゛ゴミカスゥゥゥゥゥ! 死ねぇぇぇ!」

 

 

 

 

 

[ブチギレてて草]

[名言爆誕]

[案件消えたな]

[このゲームの案件なんていらないだろ……]

 

「もう無理! もうやらない! おつゆみ!」

 

[おつゆみ!]

[おつゆみ!]

[おつゆみ!]

[完全に心が折れたな]

[この配信は伝説になるwww]

[切り抜くポイントしかないんだよなぁ]

 

 こうして夢美の「ゴミカス、死ね」発言はネット上で大きく取り上げられ、U-tubeだけではなく、ニヤニヤ動画など様々な動画サイトでも注目され、夢美は〝ゴミカス死ねの人〟とまた知名度を大きく上げることになるのであった。

 

 




ミロの部分は完全に作者が毎朝飲んでてシャキッとするから入れました。(効果には個人差があります)


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【手越優菜】腐りきった毒林檎

今回のお話は結構シリアスです。


 手越優菜(てごしゆうな)の人生は幸福そのものだった。

 有名ピアニスト〝内藤郁江(ないとういくえ)〟と大物芸能人〝手越武蔵(てごしたけぞう)〟の間に生まれた優菜は、欲しいものは何だって手に入った。

 人望も、お金も、望めば望んだ分だけ手に入るのだ。

 優菜の人生は順風満帆だった。

 一人っ子ということもあり、両親は彼女をとにかく甘やかした。

 優菜の我儘を両親は全て叶えてくれた。

 自分のピアノが欲しいと言えば、優菜専用のグランドピアノを購入したり、家にプールが欲しいと言えば家の改築が行われたりと、とにかく溺愛されていた。

 また彼女は周囲の人間からも愛されていた。

 優菜が誕生日パーティを開けば、同級生の誰もが行きたがり、学内では優菜と同じグループになるために争いが絶えなかったほどだ。

 一切の挫折を経験せず、望んだものは何でも手に入る。まるで夢に描いたようなバラ色の人生だ。

 

 しかし、あるとき優菜は気が付いた――誰一人として〝手越優菜〟を見ている者などいない、と。

 

 両親が見ているのは〝最愛の人との間に生まれた愛娘〟でしかなく、周囲の人間が見ているのは〝内藤郁江と手越武蔵の娘〟だった。

 それを理解したとき、優菜は周囲の景色が色褪せて見えるようになった。

 自分を見ようともしない人間達と関わって何になる。

 パシリに使ったところで怒ることもしない。むしろ、喜んでいる。

 努力して何かを達成したところで言われるのは『やっぱりあの二人の娘だね』という言葉。

 手越優菜の人生を誰もが羨む。だが、その実、優菜は自分じゃない誰かに成りたがっていた。

 

 何も知らない癖に……! あんたらに私の何がわかる! 私のことなんて一度も見ようとしたことないじゃないか!

 

 そんな風に常に負の思考ループに囚われていた優菜はあるとき考えることをやめた。

 

 そうだよ。どうせ、周りの人間なんてゲームのNPCと一緒なんだよ。だったら精々私の役に立てるように使ってやればいいんだよ。

 

 それから優菜はとことん我儘にふるまった。

 学校の課題は人にやらせ、食べたいものや飲みたいものがあれば友達(と呼んでいる何か)に買いに行かせ、ゲームの面倒な素材集めは全て人にやらせた。

 

 そんな女王様のような人生を送っていた優菜だが、一部の女子から蛇蝎の如く嫌われていた。

 あるとき、優菜の鞄が隠されたときがあった。

 優菜を嫌う女子の仕業だった。彼女の周囲にはボディーガードのような優菜信者がいたため直接手は下せなかったのだ。

 そのとき優菜は、初めて自分に歯向かう人間ができたことに歓喜した。

 そして、優菜はそんなささやかな嫌がらせしてきた勇者を全力で潰しにいくことにした。

 

「まいったなー。あのカバンの中にはママからもらった三十万の財布とかいろいろ入ってるんだけどなー。合計するといくらになるんだろうね?」

 

 望めば何でも手に入る優菜にとって高額なものだろうとゴミに等しかった。なくなればまた買ってもらえばいい。優菜にとって、自分のことなどわかろうともしないでただ肯定だけしてくる両親など、ATMにしか見えていなかった。

 

「ま、鞄が一人でになくなるわけないし、犯人はいるよねー? 私はいいけど、パパとママ悲しむだろうなー。もし捨てられたんだったら弁償もしてもらわないといけないよね?」

 

 虎の威を借る狐上等。使えるものは使えなくなるまで使い潰す。

 優菜にとって自分などないも同然。だったら好き勝手やって全部周りのせいにすればいい。

 どうせクソみたいな人生なのだ。大事なのは今が楽しいかどうかだ。

 優菜の鞄を捨てた女子生徒は泣きながら許しを請う。そんな彼女に優菜は笑いながら言った。

 

「ねえ、今どんな気持ち? ムカついた女の鞄を捨てただけのつもりがこんな大事になった上に、私に土下座までしてさぁ……ねえ、どんな気持ちか教えてよ?」

 

 優菜は正真正銘のクズだった。その自覚は優菜自身にも当然あった。

 むしろ、優菜はクズと罵ってほしかったのだ。

 

 あんたらが見ていた〝お利口で誰からも愛される手越優菜〟なんていない。いるのは正真正銘ただの人間の底辺にいるゴミクズだと。

 

 その一件以来、優菜に歯向かうものはいなくなった。

 退屈で刺激のない日々に逆戻りした優菜は反省した――借りた虎の威が強すぎたと。

 

 そこで次に優菜が目を付けたのはゲーム実況という世界だった。

 ちょうどニヤニヤ動画界隈が賑わっていたこともあり、優菜は実況者の世界に飛び込んだ。

 マスクで軽く顔を隠して実況すれば、彼女の可愛さにたくさんの人間が寄ってくると考えたのだ。

 だが、最初に出したゲームの実況動画はまったくと言っていいほど、伸びなかった。

 

 それが何もかも上手くいっていた優菜にとって、初めて上手くいかなかったことだった。

 

 優菜は人生で初めて何がいけなかったのかを振り返った。

 試行錯誤を繰り返して動画を面白くすれば、今度はアンチが沸いてきた。

 コメント欄に流れる[つまらない][可愛いことくらいしか取り柄がない]などと書かれれば、優菜はさらに試行錯誤を繰り返し、動画編集技術、トーク力、ゲームの腕前などを向上させ、どの時間帯に投稿するのが一番良いか、どういった動画が伸びやすいのかを研究して〝実況者ゆなっしー〟は実況者界隈でも上位に成り上がった。

 この世界では手越優菜を知っている人間などいない。誰もが平気で自分を叩きに来るし、返り討ちにするには、実況者としての自分自身の実力を磨かなければいけない。

 自分自身の努力が評価される世界は優菜を魅了した。

 それと同時に優菜の悪癖である〝煽り癖〟は一種のキャラとして好評だったことも大きかっただろう。

 信者も付けばアンチも付く。

 優菜にとってアンチは〝貴重な人生の時間を自分に歯向かうために使ってくれる聖人〟という認識だったため、叩かれることは大歓迎だった。彼女からしたらアンチの戯言など小型犬が吠えているようにしか見えなかったのだ。

 何度も炎上しても優菜は笑顔を絶やすことはなかった。

 そんな優菜だが、自分の動画を見ている視聴者のことは――優菜基準ではあるが、大切に思っていた。

 動画投稿が予告よりも遅れたりするし、視聴者達を煽ったりもする。

 それでも、優菜は動画の内容自体には一度たりとも手を抜いたことはなかった。

 それを視聴者も理解していたからこそ彼女を好きでいたのだ。

 実況者として成功した優菜は、初めて自分が生きていると実感できた。

 

 動画を楽しんでくれる視聴者がいる。

 自分を叩きにくるアンチがいる。

 

 それだけで、優菜は幸せを感じられた。

 

 そんな楽しい実況者としての日々を送っていたある日。

 優菜の実況者としての仕事用に用意したメールアドレスにあるメールが届いた。

 

『ゆなっしー様

 はじめまして。突然のご連絡失礼致します。

 にじライブ株式会社の採用担当の内海と申します。

 弊社は多くのバーチャルライバーのプロデュースを行っている会社です。現在弊社では、バーチャルライバー三期生のメンバーを募集しております。

 ゆなっしー様の実況者としてのご活躍ぶりは大変興味深く、マーケティング能力やトーク力、動画編集技術など、弊社のバーチャルライバーとして必要なものを兼ね備えていると感じております。

 いかがでしょうか。

 興味がございましたら、是非ご連絡ください。

 何卒宜しくお願い致します。』

 

 高校二年生の頃から始めた実況者ゆなっしーとしての四年の人生。

 それを捨てることには抵抗があったが、Vtuber業界には興味があったうえに、最近は生放送を主体とするバーチャルライバーが主流になっていることは優菜も理解していた。それに加えて、にじライブといえば最近勢いがあるVtuber事務所だ。

 半日ほど迷った結果、優菜はにじライブからのスカウトを受けることにした。

 誤算だったのは、実況者時代からの知り合いである〝まっちゃ〟がいたことだが、あとは何の問題もなかった。

 

 三期生の打ち合わせや初配信の時間には遅刻したが、無事に優菜は〝白雪林檎〟という新たな自分を手に入れた。

 今度はバーチャルライバーでのし上がってやる。そんな林檎の考えは、同期二人が爆発的に伸びたことで頓挫する。

 しかし、林檎は別に二人が先を行くことに対して何とも思っていなかった。

 むしろ、道ができたと感謝していたくらいだ。

 

「レオのチャンネルのアナリティクスは男七割で女三割、バラギが半々。どっちもチャンネル登録者数は九万人ねー……たぁー、バケモンかよ、あいつら。まだデビュー一ヶ月でしょうが」

 

 自分だってデビュー一ヶ月で登録者数五万人越えのバケモノだというのに、林檎は呆れたようにため息をついた。

 

「レオの強みはネタで釣って自慢の歌唱力でリスナーを魅了すること。むしろ、最初の一週間伸び悩んでからの覚醒っていうストーリー性も良い方に転がったはず。バラギは元々じっとしてられない体質のおかげで常に動いてて可愛いし、リアクションも面白い。あとはあんな性格で誤解されがちだけど、同期を心配して事務所の方針に逆らうっていう仲間想いなところも好感度高かったな。それに二人共動画タイトルのつけ方もうまい……何より二人が絡むだけでカプ厨が大はしゃぎする。ガチ恋勢を炎上騒動で追い出したのも大きいかな」

 

 レオ、夢美の登録者数が伸びている理由を冷静に分析した林檎は、自分の今後の方針を決めた。

 

「いきなりこの二人の間に割って入るのはよくないなー。てぇてぇ空間には私だって割って入りたくないし、一歩離れた位置から眺めるポジションがベストかなー」

 

 私もあの二人のやり取りは好きだし、と呟くと林檎は自分の目指すべき立ち位置を再認識した。

 

「まずはバラギと仲良くならなきゃね。少女漫画で言えば恋を応援する友人ポジションって奴?」

 

 画面の前でほくそ笑むと、林檎は自分がアップロードした切り抜き動画【イライラ爆発】茨木夢美「ゴミカス――――!! 〇ねぇぇぇ!!!」の再生数を見ていた。

 動画の概要欄には――

『あ……ありのまま今起こった事を話すぜ!

「私は同期の配信を見ていたと思ったら、いつの間にか切り抜き動画を上げていた」

な……何を言っているのか、わからねーと思うが、私も何をされたのかわからなかった……』

 というネタ満載の文章と共に夢美の配信やチャンネルへのリンクが貼ってあった。

 

「自分の配信は切り抜かないけど、バラギの配信だけは切り抜くよー……だって友達だもんねー……くくっ……あー残念だったね、切り抜き職人さん? 私に動画編集技術で勝てると思うなよ?」

 

 夢美が「ゴミカス死ね」と叫んだ部分を切り抜いた動画はU-tube上に点在していたが、にじライブの同期ライバーということもあり、林檎の切り抜き動画が一番伸びていた。編集に凝ったのも大きかったのだろう。

 

「さーて、今度の月一にじライブの準備しなきゃ――ほ?」

 

 たった一晩で20万再生を達成した切り抜き動画により夢美の知名度は上がり、林檎の動画編集技術の高さも見せられた。

 諸星のすすめもあり、今度は竹取かぐやと白鳥まひるのにじライブ二大巨頭の番組に出演することになっている。

 改めて予定を確認しようとしたところで、マネージャーである亀戸からメールが届いたことに気が付く。

 メールの開く前から〝ごめんなさい〟という文字が見えたことで、林檎のテンションは一気に冷めていった。

 

「ま、企業Vだししょうがないよねー」

 

 大して気にした様子もなく林檎は亀戸からのメールをゴミ箱へ移動した。

 

 




林檎の過去は自分で書いてても作中トップクラスにヤバイ気がする……。


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【月一にじライブ!】噂の化け物新人ゲストにJKコンビ戦慄!?

地味にまともに会話しているバンチョー初登場


 月一にじライブ。にじライブ公式チャンネルで配信している月初に配信される番組で、パーソナリティはJKコンビと呼ばれている竹取かぐやと白鳥まひるだ。

 

「なぁ、まひる。あの動画見た?」

「あれでしょー? バラちゃんの『あー、ゴミカシュー! ちねぇ!』って切り抜き」

「いやいや、そんな可愛いもんちゃうで。もっと、こう……この世の全てを呪って死んでいくかのように『あ゛あ゛ゴミカスゥゥゥゥゥ! 死ねぇぇぇ!』って、感じやな」

「キャッキャッ」

 

 冒頭から軽快なやり取りをするかぐやとまひる。話題は林檎が上げた夢美の配信の切り抜き動画についてだった。

 

「まさか、白雪が切り抜き上げるとは思わなかったわ」

「ねー! 林檎ちゃんの動画編集技術すっごいよね! お姉ちゃんとしても鼻が高いよ」

「お姉ちゃん?」

「あー、ママが一緒なんだよ」

「そういえば、そうやったな――えっ、本番始まってる?」

 

 かぐやはとぼけたように言っているが、これも台本の内である。

 

「じゃあ、まひる。タイトルコールいくで?」

「オッケー!」

 

「「月一にじライブ!」」

 

 かぐやとまひるが揃ってタイトルコールをする。

 それと同時に軽快な音楽が流れて番組が始まった。

 

「はいはーい、みなさんこんバンチョー! 竹取かぐやです!」

「こんまひ、こんまひ! こんまひー! どうも、白鳥まひるです!」

「さあ、今月も始まったで月一にじライブ! 今回も素敵なゲストが来とるでー!」

「まあ、みんなもさっきの話題で分かっていると思うけど――ゲストはこの方!」

 

 月一にじライブでは、基本的にThiscodeというアプリを使用して通話を繋げ、にじライブのライバー専用アプリを連携して撮影を行っている。

 そのため、現実で会っていなくてもライバー達はまるでその場にいるようにコミュニケーションを取ることができるのだ。

 今回のゲストである林檎も、例に漏れず自宅からアプリを連携して番組に繋いで出演していた。

 

「おはっぽー、どうもにじライブの焼き林檎こと白雪林檎でーす」

「ちょっ」

「ぶっこんできたねー」

 

 台本にない自己紹介をしたことでかぐやは動揺し、まひるは楽しそうに笑った。

 炎上ネタは周囲が触れないようにすることが多いが、林檎は何一つ気にしていないようにケラケラと笑っている。

 

「いやー、今日はこんな素敵な番組に呼んでくれてありがとうございます!」

「ウチは早速あんたを呼んだことを後悔しとるで……」

 

 かぐやはゲンナリしたようにため息をつく。

 

「まあええわ。それより、デビューして一ヶ月やけどライバー生活はどうや? 楽しんどるか?」

「めっちゃ楽しいっすよー。何よりも面白い同期二人がいるのはラッキーでしたねー」

 

 かぐやの質問に林檎は声のトーンを上げて答える。

 かぐやとしても、林檎がレオと夢美の話題に埋もれがちなことは心配していたのだ。

 

「まあ、レオとバラギはバケモンやしな」

「にじライブ一のバケモノが何言ってるんすか」

「あぁ?」

 

 林檎はわざとかぐやに対して生意気な口をきく。

 内心ではかぐやに委縮しているのだが、自分のキャラとしてはこういう絡み方の方がウケることを理解していたのだ。

 かぐやの威圧的な声を聞いた林檎はすぐにまひるに泣きついた。

 

「きゃー、助けてお姉ちゃん。バンチョーがいじめるー!」

「よしよし、怖かったねぇ」

「これウチが悪いんか?」

 

 それからも林檎は台本にある内容を悉く無視した。

 林檎は台本を読み込んだうえで、自分がつまらないと思った箇所を全てチェックしてアドリブを挟んでいく。

 かぐやとまひるも高頻度で飛び出してくる林檎の爆弾発言は完璧に捌き切る。

 ある意味、このメンバーだからこそ成り立つトークだった。

 こうして月一にじライブは、いつもよりアドリブ多めで進んでいった。

 

「お次はこのコーナー!」

「「にじライブ風紀委員会!」」

 

 番組の半ば、月一にじライブの名物コーナー〝にじライブ風紀委員会〟が始まった。

 

「このコーナーではゲストの問題行動を断罪していくでー。ということで、ね。もうわかってるやろ?」

「こっわ、私何されるんですか?」

 

 疑問形で問いかけてくるだけで圧のあるかぐやに、林檎はへらへらと笑って答える。

 

「痛くはしないから大丈夫だよ?」

「痛くされたら問題だと思うんすけど……」

「最初のタレコミはこちら!」

「ぶふっ!」

 

 かぐやのかけ声と共に二人のライバーの立ち絵が表示される。目線こそ入っているが、誰かは一目瞭然だったため、林檎は吹き出してしまう。

 

『いやぁ、三期生の初顔合わせのときに不参加だったのはビックリしましたねぇ。一応体調不良とは聞いていましたけど、純粋に夢美以上にヤバイやつきたなって思いましたよ』

『どういう意味だコラ』

『いや、説明の必要ある?』

『それより、初めてオフで会ったときの方がヤバかったでしょ』

『どもどもー、三日目に炎上した白雪林檎でーす、って自己紹介な』

『炎上したばっかの私にあれを言う勇気よ』

『たぶん、本人は何も気にしてないんだろうなぁ』

『この前なんて一緒に買い物行こうってなったのに、遅刻どころか[ごめん、諦めるわ]ってメッセージ来たんだよ。諦めるわって何? ヤバないあの子? 私も諦めて、レオ呼び出して買い物したわ』

『だから突然俺が呼び出されたのか。何事かと思ったぞ』

 

 笑いながらも林檎のクズエピソードを披露する二人のライバー。その正体が誰なのかは言うまでもないことだろう。

 

「いや、もう誰がしゃべってるか丸わかりじゃないすか!」

「あははっ、普通に名前呼んでたもんね」

 

 タレコミというよりも、事前に音声を収録するためにスタッフが林檎のクズエピソードについてレオと夢美にインタビューしていたものだった。

 レオと夢美もギリギリ笑えるレベルで済むエピソードを笑いながら話しているため、多少マイルドに聞こえるが、実態はもっと酷かったりする。

 

「さて、何か言い訳はあるか?」

「そうっすねー……」

 

 うーん、と少しだけ悩んだあと、林檎は堂々とした口調で答えた。

 

「みんなね、ゴミに期待しちゃいけないんですよ。ゴミは自ら動けないんすよ。ゴミは拾わないといけないでしょ? だから拾ってください」

 

「こいつ、開き直りおった……!」

「ここまで来ると清々しいねぇ」

 

 まったく悪いと思っていない林檎の言葉にかぐやは戦慄し、まひるは朗らかに笑っていた。

 

「それにこの番組を見ている妖精や袁傪のみなさん。私がバラギと買い物行くことを諦めたから、レオとバラギの買い物デートというてぇてぇ空間が発生したわけですよ。感謝の気持ちを込めて私のチャンネル登録すべきだとは思わん?」

「予想の斜め上の宣伝すな」

「林檎ちゃんって、こういうところはちゃっかりしてるんだよね。まひるも見習わなくちゃ」

「見習ったらあかんで!」

 

 レオと夢美の配信には基本的に二人の仲の良さに尊さを感じる者が多い。それを逆手に取った林檎はちゃっかり自分のチャンネルの宣伝を挟んだ。

 

「それで、判決はどうなるすか?」

「せやな……脱獄」

 

 基本的のこのコーナーでは、無罪か有罪という判決が下るのだが、林檎は番組史上初となる〝脱獄〟を言い渡された。

 まさかの判決を言い渡された林檎は手を叩きながら爆笑した。

 

「あっはっはっは! 脱獄っすか……!」

「林檎を取り締まるのはウチには無理や……! こいつ自由過ぎるわ!」

「初回の雑談枠を、洗濯機の上にタブレットPCを乗せて中腰でやった人に言われたくないですわー」

「バンチョーも自由奔放に配信してたからねぇ。遅刻は一度もしたことないけど」

 

 こうして、月一にじライブは今までにないほどに盛り上がっていった。

 一通り、グッズなどの宣伝も終わり、番組も終わりに近づいてきた。

 

「さて、月一にじライブも終わりの時間が近づいて参りました」

「いやー、今日は本当に呼んでくださりありがとうございましたー」

「林檎ちゃん呼ぶとこんなに面白くなるなんて思わなかったよ」

「……ウチはいつも以上に疲れたけどな」

 

 基本的にかぐやは自分の配信などではボケ倒していることが多いが、コラボのときになるとトークを回したり、フォローに回ることが多かった。まひるも天然ボケが多いがコラボ企画では意外としっかり者な面が見られる。

 今日の月一にじライブでは、そんな二人のしっかりとした一面がより強く出ていた。

 

「今度はレオやバラギも呼んであげてくださいよー。あの二人、あなた達のこと大好きなんすからー」

「そうだねぇ、この前バラちゃんとコラボの約束したしなぁ」

「レオを呼ぶだけでウチの心労はだいぶ減りそうやな」

 

 しっかりと同期二人が出たがっていることを伝えると、かぐやもまひるも好意的な反応をした。

 

「というわけで、本日はご覧いただきありがとうございます!」

「最後は林檎ちゃんも一緒にコールしてね?」

「了解でーす」

「せーの……」

 

「「「月一にじライブ!」」」

 

 こうして林檎をゲストに迎えて行われた月一にじライブは神回と言われるほどに盛り上がった。

 動画のコメント欄では、[白雪ガチクズでワロタ][本当にクズなんだなぁ]というコメントや、[改めてバンチョーの偉大さが分かった][まひるちゃんのお姉さん感がとても良かった]など、自由奔放な林檎に対応したかぐややまひるに好意的なコメントや、[どんなときでもてぇてぇを供給するバラレオ][バラレオてぇてぇ][よくやった白雪][ちょっと白雪のチャンネル登録してくるわ]など、レオと夢美の仲の良さに言及するものもあった。

 こうして林檎のチャンネル登録者数はまた一段と増え、月一にじライブの動画が投稿された三日後には既に登録者数が七万人まで増えていた。

 

 




ちなみに、V界隈に詳しくない人のために説明すると、「ママが同じ」というのは担当イラストレーターが同じという意味です。
思ったよりも、この小説V界隈に詳しくない人も読んでいるらしいので、捕捉させていただきました。


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【初コラボ】林檎ちゃんと一緒に探索!


オリジナリティを出せているか不安な今日この頃


「同期コラボ?」

『うん、何だかんだで私達コラボしたことなかったじゃん。せっかくだからコラボしたいなーって思ってねー』

 

 月一にじライブに出演してからというもの、やたらと林檎は夢美に話しかけるようになっていた。

 食事のときはレオと会話し、配信前後の時間には林檎とThiscodeで通話をするというのが、ここ最近の夢美の日課となっていた。

 ここまで同期同士の仲が良いライバーというのも珍しいだろう。

 

「いいけど、雑談枠とゲーム枠どっちにするの?」

『ゲーム枠がいいかなー。マイクラやろうよ』

「えー、あたしやったことないよ?」

 

 林檎が夢美を誘ったゲームは、ブロックを積み上げて建築物を作ったり、素材を集めて武器を作ってモンスターと戦ったり、地下にダイヤモンドを採掘しにいったりする大人気のゲームだ。

 にじライブでも多くのライバー達がこのゲームをプレイしており、レオも最近はこのゲームの配信を行うことも多かった。

 

『大丈夫大丈夫、みんなが作った町並み見ながらだらだらしゃべるだけでも良いと思うし』

「それならまあ、いいかな?」

『オッケー、じゃあ一週間後にコラボ配信しよっかー』

「うん、よろしく!」

 

 夢美はようやく仲良くなってきた同期とコラボ配信ができることに胸を躍らせて通話を切った。

 

『もうすぐ夕飯できるぞ』

「わかった。すぐ行く」

 

 いつものようにレオに呼ばれた夢美は玄関近くにかかっているレオの部屋の合い鍵を手に自分の部屋を出た。

 今日の夕飯は豚しゃぶサラダと味噌汁に玄米だ。

 基本的に二人の食事の献立などは、四谷と飯田が考えている。ここまで至れり尽くせりのサポートをしてくれるマネージャー陣に二人は感謝していた。

 

「そういえば今度林檎ちゃんとコラボすることになったんだよね」

「ごふっ!?」

 

 夢美から林檎とコラボするという旨を聞いたレオは、飲んでいた味噌汁を派手に吹き出した。

 

「どうしたの?」

「いや、何でもない。ちょっと咽せただけだ」

 

 怪訝な表情をする夢美に、レオはアイドル時代に培ったポーカーフェイスを咄嗟に浮かべた。

 

「何か隠してるでしょ」

「何のことだ?」

「露骨なポーカーフェイスしやがって……」

 

 しかし、そんなポーカーフェイスは夢美には通用しなかった。

 

「林檎ちゃんのことだからドッキリか何か考えてるんでしょ。レオも共犯ってとこ?」

「……悪い」

 

 夢美に嘘をつくことに罪悪感を覚えたレオは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

 それを見た夢美はしまったと思って謝った。

 

「あー、ごめん。ネタ潰しするようなマネしちゃって」

「いや、いいんだ……どうにもドッキリって好きになれなくてな」

「そういえば、落ちぶれ始めた頃に結構ドッキリ企画やってたよね」

「……俺のパートはネタばらしされた後にガチギレしすぎてお蔵入りになることが多かったけどな」

 

 司馬拓哉にドッキリはNGというのは、芸能関係者の間では有名な話だ。

 過去を受け入れたレオとしては、今回の林檎の提案はノリ気ではないが、ウケるだろうから仕方なくやるという類いのものだった。

 

「でも、レオがやらされてたのって、不愉快になる類いのドッキリばっかだったじゃん」

「ドッキリは一歩間違えればただのいじめだからな。まあ、今回の企画は炎上はしないだろうし、大丈夫だと思う」

「うし、レオがそう言うなら気にせずにコラボするわ」

 

 夢美の中でレオへの信頼度は、知人の中で一番上に位置するほどに高かった。

 それから夢美は夕飯の片付けをして自分の部屋に戻っていった。

 

「……マジで大丈夫か、これ」

 

 レオは拭えない不安を抱えたまま、部屋に戻る夢美の後ろ姿を見送った。

 

 数日前、レオは林檎から連絡を受けていた。

 

『今度バラギにドッキリを仕掛けようと思うんだー』

「へぇ、それで?」

『レオにも協力して欲しくてねー』

 

 林檎の語ったドッキリの内容は、レオがゲーム上で作った家の中に『あなたは獅子島レオを好きですか?』という看板を立てて、横のレバーを引くとマグマに落ちるというドッキリだ。

 当初林檎は爆破ドッキリを仕掛けるつもりだったのだが、それはレオが止めた。

 レオが一生懸命作った家を壊すという状況に、夢美がどんな反応をするかは火を見るよりも明らかだった。

 不満そうな林檎を必死に説得したことにより、ドッキリ内容は大分マイルドになった。

 それからレオは配信上でそこそこ立派な家を作り上げた。落とし穴などのトラップに関しては、全て配信外で林檎が用意した。

 こうして夢美へのドッキリのための準備は整ったのであった。

 そして迎えたコラボ配信当日。

 レオはコラボが始まる前の雑談枠で夢美の心配をしていたこともあり、かなりの数の視聴者が二人の配信に集まっていた。

 

「こんゆみー、茨木夢美でーす」

『おはっぽー、白雪林檎ですー』

 

[気の抜ける挨拶助かる]

[この二人のコラボ地味に初めてだから楽しみ]

[二人共一ヶ月ちょっとで登録者数七万人越えのバケモノという事実]

 

「はーい、今日は林檎ちゃんとのコラボ配信です』

『どもどもー、バズる流れに乗り遅れた焼き林檎だよー』

「おい、自虐が過ぎるぞ」

 

[草]

[焼き林檎という愛称に味を占めたな]

[この焼き林檎まるで反省してねぇ!]

 

「マイクラはまったく触れたことないから心配だけど、今日は町を見て回るだけだから、ほぼ雑談枠と思って見てくれ」

『先輩達が作った町を見て回るだけだからねー』

「てか、先輩達が頑張って作ったものに軽々しくコメントしづらいんだけど。下手なこと言ったら失礼だし」

『大丈夫大丈夫、バラギって夢を見てる間だけ動けるから配信してるんでしょー? つまり、ここでバラギが何言っても全部寝言って言い訳できるから』

 

[全部寝言は草]

[設定を言い訳に使う天才]

[責任転嫁において右に出る者はいないな]

 

 緩い空気のまま始まった配信は、ゲーム画面が背景と化していた。

 二人はほとんど周りの建造物に触れることはなく、ただ雑談をしながらフィールド上を歩いていた。

 

『そういえば、バラギとレオって幼馴染みって聞いたけど、本当なの?』

 

 林檎は三期生の打ち合わせのときに不在だったため、二人の関係が設定ということを知らない。

 そのため、純粋に二人の関係には疑問を持っていた。

 

「うん、同じ小学校だった」

『えー、仲の良い二人が同時にオーディション受けたってこと?』

 

[その話題に触れていいのか?]

[未だに信じられないのはある]

[白雪だけ知らないというには信憑性あるぞ]

 

 実のところ、レオと夢美の幼馴染み設定に関しては懐疑的な声も多い。

 仲の良い幼馴染みの二人が同時にバーチャルライバーとしてデビューすることなど、普通に考えてあり得ないからである。

 しかし、こういった話題を振られることをレオと夢美は予測していたため、ある程度は答えられるようにしていた。

 

「いや、レオがアイドルになってからは疎遠になっちゃってさ。三期生の打ち合わせのときに再会した」

『あー、私がサボ――行けなかったときかー』

 

[今サボったって言いかけたぞこいつ]

[ブレないゴミで草]

[最初の打ち合わせ早々にすっぽかすって相当ヤバない?]

 

「今度実家に帰ったときにアルバム持って帰って見せようか?」

『えっ、超見たい!』

 

[俺達も見たい!]

[見れるわけないんだよなぁ]

[デビュー時に再会って、すごい偶然だな]

 

 困ったときの対処法として、二人はライバーとしてデビューする際に再会したということにしている。

 嘘の中には真実を紛れ込ませた方が信じやすい、というのは諸星も言っていたことだ。

 そこで幼馴染みの話は終わると思いきや、林檎はさらに二人の過去について聞いてきた。

 

『レオってどんな小学生だったの?』

「陽キャの頂点」

『想像通りだなー』

 

[解釈一致]

[イメージ通りだな]

[レオ君らしい]

 

 この手の質問も普段から昔話をしているレオと夢美にとっては何の問題もない質問だった。

 

「マジでクラスの人気者って感じで、陰キャのあたしとしては見てるだけでムカつく奴だったよ」

『……あんなに仲良いのに?』

 

[意外]

[最初から仲良いと思ってた]

[どうやって仲良くなったんだろ]

 

「クラスでハブられがちだったあたしを気にかけて話しかけてきてくるうちにね。最初はウザかったけど、段々仲良くなったって感じ」

 

 もちろん、そんな事実はない。

 夢美はある事情でクラス中から避けられていた。レオのような優しい男子が話しかけてきても、基本的に塩対応だったため、すぐにみんな離れていっていた。

 

[少女漫画かよ]

[俺もそんな青春しかたかった……]

[てぇてぇ]

 

『たぁー……! いいねー! てぇてぇだよ! ん? 何でバラギはハブられてたの?』

「……昔は肌が弱くてあちこち掻きむしったりしたせいで、腕や足が血まみれなことが多かったんだ。伸ばしっぱなしの髪も癖毛酷くて見た目がかなり不気味だったしね。あたしが触っただけで〝菌〟がついたみたいな扱いされてたし」

 

[キッツ]

[やめろ、その話題は俺にきく]

[この枠、菌扱いされてた奴多すぎない?]

 

 はっきり言ってしまえば、小学校の頃の夢美はいじめられていた。彼女が触ったものには誰も触れたがらず、体育の二人組ではいつも組まされる人間からは嫌な顔をされた。

 直接的に危害を加えられることはなかったが、当時の同級生達はただ純粋に〝ばっちいもの〟として夢美を扱っていたのだ。

 

『えっ、今のバラギからは想像できないんだけど。めっちゃ肌綺麗じゃん』

「中学からはかゆみ止めの薬は念入りに塗り込んでたし、炎症止め飲み薬も飲んでたからね。高校生くらいからはそういう症状は出なくなったよ」

 

[バラギ肌綺麗。俺覚えた]

[辛かったんだな……]

[部屋は汚いのに肌は綺麗な女]

[新情報助かる]

 

『でも、今同窓会とか行ったら、絶対声かけてくる奴いそうだねー』

「あたしをバイ菌扱いした奴が声かけてくると思うと反吐が出るわ。まあ、どうせ同窓会に呼ばれることなんてないけど」

 

[さっきから話題が刺さって辛いんやが]

[俺も同窓会呼ばれたことなかったな……]

[俺もだ……]

 

 心当たりがある者が多かったため、コメント欄には悲壮感が漂っていた。

 

「ま、レオがいたから辛くはなかったけど」

 

 嘘だ。本当は死ぬほど辛かった。

 どうしてあのとき、レオと同じクラスではなかったのだろうか。

 同じクラスだったらきっと助けてくれただろうに。

 そんな考えが夢美の頭を過ぎる。

 

「てか、この話やめよう! コメント欄の菌ニキが涙流してるから!」

『あっはっは! 菌! 菌ニキ……!』

 

 林檎はバラギの菌ニキという言葉に大爆笑した。

 

[何ワロてんねん]

[白雪はそんな経験なさそう]

 

『大丈夫だよバラギ、私もいじめられたことあるから!』

「えっ、どこが大丈夫なの」

 

[マジか]

[当時からこの性格ならいじめられただろうなぁ]

[メンタルつよつよで草]

 

『ま、過去と周りのことなんて気にしてもしょうがないし、今を楽しく生きよう!』

 

[周りは気にしろ]

[良いこと言ってるように見えてその実ただのクズという]

[このメンタル見習いたい]

 

「……うん、ありがとね、林檎ちゃん」

『いいってことよー。おっ、ここレオの作った家じゃん』

 

 雑談をしながら歩いているうちに、とうとう二人は目的地に到着した。

 

「へー、このゲームこんなの作れるんだ」

『いや、さっき死ぬほど見たじゃん』

「話に夢中になってて全然見てなかったわ」

 

[ゲーム画面がただの背景になってて草]

[これ雑談枠で良かったのでは]

[二人してレオ君の家を見に来ただけという]

 

『せっかくだし内装も見よっかー』

「あいつのセンスを見てやろう」

 

 林檎はニヤニヤ、夢美はわくわくしながらレオの作った家の中に入った。

 レオの作った家の中にはベッドや作業台、チェストなど最低限のものしかなかった。ドッキリ用に用意した家ということもあって、レオはそこまで内装にこだわってはいなかった。

 そんなこざっぱりとした室内には、目を引く看板が立てられている。

 

【あなたは獅子島レオを好きですか?】

 

「何これ?」

 

 ドッキリの仕掛けでもある看板を見つけた夢美に対し、林檎は楽しそうに彼女の周りをぐるぐると回り出した。

 

『さあ、どうなんすかー? 好きなんすかー?』

「普通に好きだよ」

『ほ?』

 

[今普通に好きって]

[えっ、待って無理尊い]

[大胆な告白は女の子の特権]

 

 ニヤニヤしながら夢美をからかおうとした林檎だったが、夢美がノータイムでレバーを引いたことで、共に落とし穴に落ちることになった。

 

「『ぎゃあぁぁぁぁぁ!』」

 

 二人仲良くマグマに落ちて死亡したことで、コメント欄は爆笑の渦に飲み込まれた。

 

[これは酷いwww]

[ドッキリ企画だったのかこれwww]

[白雪巻き込まれてて草]

[あまりの尊さに思考停止したことが命取りとなったな]

[これが本当の尊死]

 

「何が起きたの!? 何したの林檎ちゃん!?」

『これがてぇてぇか……あっ、ダイヤ装備しまうの忘れてた』

 

[因果応報]

[人をからかうからこうなる]

 

『ねえ、普通に好きってどういうこと!?』

「深い意味はないっての! 好きじゃなかったらこんなにコラボしてないわ!」

 

[ダイヤ装備ロストよりもてぇてぇが気になる女]

[人間として好きという意味でも十分てぇてぇ]

[というか、これレオ君も共犯なのでは]

 

[獅子島レオ:ごめん]

 

[本人謝りに来てて草]

[レオ君も完全ににじライブの空気に馴染んだなぁ]

[まさかドッキリにレオ君が参加するとは思わなかった]

 

 こうして、夢美と林檎の初コラボは盛況のままに終わった。

 このあと、ドッキリをしかけた側である林檎が貴重なダイヤ装備をロストした様子は、切り抜き動画で上げられ大いに視聴者達を笑わせることになったのであった。

 





バラエティー番組のドッキリで、怒られる系ドッキリ苦手なんですけどわかる人いますかね?


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【本番前】伸び悩む者

ちょっと長くなりそうだったのと、キリが良かったので短めです。


 三期生がデビューしてから二ヶ月の時が経った。

 

 三人の中で一番登録者数が伸びているのはやはり夢美で、現時点で登録者数は九万六千人。多くのユーチューバーが目指す登録者数十万人が現実味を帯びてきていた。

 

 次点でレオが登録者数八万六千人。一ヶ月での伸びを考えると夢美よりも低いように見えてしまうが、理由は単純で、最近のレオは配信頻度を少し落としていたことが原因だ。

 もちろん、配信が嫌になったわけではない。単純に大型コラボ企画に向けてボイストレーニングや打ち合わせ、3Dモデリングのテストなど、リアルが忙しくなっていたという理由があった。これに関しては事前に袁傪達に通達しているため、心配している声はなく、期待している声の方が大きい。

 

 そして林檎の登録者数だが、現在では八万三千人まで増えていた。

 デビュー一ヶ月目時点での登録者数を考えれば、彼女がここ一ヶ月で一番登録者数を伸ばしたと言えるだろう。

 林檎は最初の一ヶ月で自分のチャンネルを客観的に分析し、自分の立ち位置を把握したことで以前よりもうまく立ち回れるようになっていたのだ。二期生とのコラボを積極的に行っていたのも大きいだろう。

 何よりも、林檎が〝にじライブのクズ代表〟と認識されていることもあり、彼女とコラボしたライバーは相対的に評価が上がり、そんなライバーの魅力を引き出す林檎の評価も上がっていたのだ。

 彼女の問題点を上げるとすれば、担当マネージャーである亀戸のサポートをまったくと言っていいほど信用せずに、ほとんど自分で自分の配信の方針を決めていたことだろう。

 結果が全ての業界のため、事務所としては大きな問題を起こさない限り、林檎の問題行動には目を瞑っていた。

 むしろ、そういった面でのサポートが亀戸の仕事だったのだが、林檎の両親は片や大物芸能人、片や世界的にも有名なピアニストだ。

 一マネージャーである亀戸は元の気弱さも手伝って、林檎に全くと言っていいほど意見できなかった。

 

 その結果、亀戸は一時的に林檎の担当を外され、諸星の指示によって他のマネージャー達の同行を行っていた。

 二期生のマネージャー陣は複数のライバーのマネージャーを兼任しており余裕がないため、現在林檎のマネージャー業を担当しているのは諸星だった。

 諸星は忙しい立場ではあるが、林檎は実況者時代はマネージャーがやるようなことを一人でこなしていたこともあり、案外手はかからなかった。そもそも、諸星自身の手腕が優秀だったことも大きいが。

 諸星の意見に物おじせずに答え、方針の擦り合わせを行う二人の姿を見れば、林檎がデビュー当初から炎上を繰り返していた問題児には見えないだろう。

 諸星はその雰囲気から融通の利かない人間だと誤解されがちだが、林檎のぶっ飛んだ提案もまずは肯定してから、問題点を探り二人で落としどころを見つけていた。

 問題行動を起こすが、諸星のフォローのおかげで最近はそこまで目立たない。打ち合わせはスムーズに進む。

 誰もが「最初から諸星部長が担当すれば良かったのでは?」と首を傾げる結果になったわけだが、諸星としてはきちんと部下に成長してほしかったという思いもあったのだ。

 

 そんな事情もあり、亀戸は――

 

「獅子島さん、飯田さん、本日は宜しくお願い致します!」

「こちらこそ、宜しくお願い致します」

「亀戸さん、今日は一緒に獅子島さんのサポートよろしくね!」

 

 レオ、飯田と共にとあるスタジオにやってきていた。

 今日はにじライブ以外のVtuberとのコラボ企画の日だ。

 企画内容はカラオケ大会。歌系バーチャルライバーであるレオには持ってこいの企画だ。

 しかし、レオには一つだけ心配していることがあった。

 

 それは他の企業に所属するVtuber達の顔ぶれだ。

 

 Vtuberという文化が開花してからV界隈を支えてきた一人であるベテランVtuber板東(ばんどう)イルカをはじめとして、高度なプレイングが売りのゲーム実況で売れているサタン・ルシファナ、視聴者を巻き込んだ企画が売りの但野友世(ただのともよ)、レオと同じく歌配信メインで活動している七色和音(なないろかずね)

 全員がVtuberとしてはレオの先輩にあたり、登録者数も全員20万人越えの猛者達だ。板東イルカにおいては、にじライブで最も登録者数の多いかぐやの70万人よりもさらに多い登録者数90万人の怪物だ。

 今回の企画の参加者で、レオだけが登録者数10万人を越えていないこともあり、レオは自分の存在が邪魔にならないか心配していたのだ。

 

「飯田さん。この企画で俺は全力で歌っても大丈夫ですかね?」

 

 下手に目出ち過ぎれば、先輩達の過激なファンの反感を買いかねない。

 慎重になるレオに対して、飯田は真っ直ぐにレオを見据えて言った。

 

「大丈夫。何があっても獅子島さんは必ず僕が守ります。ですから思う存分暴れてきてください」

 

 飯田の覚悟が込められた言葉を聞いたレオは自然と肩の力が抜けた気がした。

 緊張が解れたレオはアイドル時代のときのように、獲物を捕食する肉食獣のような獰猛な笑みを浮かべると、飯田に向かって拳を突き出した。

 

「背中は預けますよ、マネージャー」

「ええ、任せてください!」

 

 飯田もそれに応えてレオの拳に自分の拳をコツンを打ち付けた。

 そんな二人のやり取りを見ていた亀戸は純粋に二人の信頼関係を羨んでいた。

 

「あっ、あの、獅子島さん。これをどうぞ!」

 

 二人のやり取りに見とれていた亀戸は思い出したように、ドラッグストアで買ってきたのど飴やのどスプレーを渡した。

 

「これは?」

「今日の配信は長時間に及びますし、のどに良いものと思って……」

 

 亀戸はレオののどを気遣って事前にのどに良い物を購入していた。そんな彼女の気遣いにレオは気まずそうに礼を述べた。

 

「あー……ありがとうございます。でも、用意はあるので大丈夫です。わざわざすみません」

「へ?」

「亀戸さん、獅子島さんは歌枠をするときは自分でそういったものは買ってるんだよ。一応予備で僕も買ってはいるけどね」

 

 レオの態度に困惑している亀戸に飯田が補足するように告げる。

 

「すみません! 余計なお世話でしたね……」

 

 また失敗してしまった。そう思った亀戸は顔を俯かせる。そんな彼女にすかさずレオはフォローを挟む。

 

「そんなことないですよ。気遣いは純粋に嬉しいですし、しっかりライバーのことを考えている人だと感じましたよ。俺が元アイドルって特殊な人間だから、噛み合わせが悪かっただけですって」

「特殊な人間……」

 

 レオの言葉によって、亀戸の頭に元人気実況者という経歴を持つ林檎の顔が浮かんだ。

 自分は果たして林檎のことをどれだけ理解していただろうか。

 怯えるばかりで、自分のことなど信用しようともしない林檎とコミュニケーションを取ることを初めから諦めていたのではないだろうか。

 亀戸は改めて〝手越優菜〟でも〝ゆなっしー〟でもない〝白雪林檎〟という人間を見ようともしていなかったことに気が付いた。

 

「獅子島さん、ありがとうございます」

「いえ、気にしないでください」

 

 フォローしたことに対する礼だと思ったレオは亀戸に笑顔を浮かべて言った。

 

「あっ、俺ちょっと共演者の方達に挨拶してきます!」

 

 それから、周囲を見渡して出演者らしき人達を確認すると、そちらの方へと駆け出していった。

 そんなレオの背中を見送る亀戸に、飯田は問いかけた。

 

「亀戸さん、答えは見つかりそう?」

「……正直、正解なんてまだわかりません。でも、前に進む覚悟はできました」

 

 もう亀戸の表情に一切の曇りはなかった。

 




実はこういうマネージャー陣の話も好きだったりします。


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【3Dカラオケ】リハーサル中での一幕

ごめんなさい!カラオケ回本編にはまだ入れませんでした!


 Vtuberカラオケ大会の本番前、レオはまず共演者の中でも一番Vtuber歴が長い板東イルカの元へと挨拶に向かった。

 リアルでの対面は初めてということもあり、近くにいたスタッフに確認をとっていたため、既にイルカが誰かはわかっている。

 

「あの、お忙しいところ申し訳ございません。今、お時間よろしいでしょうか?」

「はい、大丈夫ですよ」

 

 落ち着いた大人の女性という印象を受ける女性――板東イルカは笑顔を浮かべてレオに対応した。

 

「はじめまして。にじライブ所属の獅子島レオと申します。本日は宜しくお願い致します」

「うふふっ、ご丁寧にありがとうございます。@LINE所属の板東イルカです。今日はよろしくお願いしますね」

 

 清楚だ……。と、朗らかに笑うイルカにレオは一瞬見とれるが、普段の配信内容を思い出してレオは頭を振った。

 

「バンチョーは元気にやってますか?」

 

 イルカは以前に何度かコラボ企画でかぐやとコラボしていたため、かぐやとは面識があった。

 

「ええ、相変わらずぶっ飛んだ配信をして舎弟達を楽しませてますよ」

「そっか、良かったです。乙姫ちゃんがいなくなってから元気なかったから心配だったんですよ。最近は忙しいみたいでオフでもなかなか会えなくて……」

「今度本人に『イルカさんが会えなくて寂しがっていた』と伝えておきますね」

「うふふっ、よろしくお願いします」

「では、本番ではいろいろとご迷惑をおかけするかと思いますが、宜しくお願い致します」

「ええ、お互い頑張りましょう」

 

 それからレオとイルカは連絡先を交換して別れた。

 イルカと別れたあと、レオは自分がかぐやと面識がないという重要なことに気が付いた。

 

「……まあ、諸星さんに伝えておけばいいか」

 

 それから次に視聴者参加型の企画を頻繁に行っている但野友世の元へ挨拶に向かった。

 

「お忙しいところ申し訳ございません。今、お時間よろしいでしょうか?」

「あっ、もしかしてレオ君!?」

「あ、はい。そうですけど」

「やー! 会いたかったよ! あの歌枠感動したよ! もうすっかりファンになっちゃってさ! あっ、自己紹介まだだった! アタシ、但野友世!」

 

 挨拶に伺った瞬間、鼓膜を突き破らんばかりの声量が耳を貫いた。

 脳のフィルターを一切通さずにしゃべってそうな人だな……。

 マイペースでパワフルな友世にレオは若干引き気味だった。

 

「何で俺が獅子島レオってわかったんですか?」

「だって、もう一人の男性Vとは挨拶したからね!」

 

 もう一人の男性Vと言われ、レオは近くでスタッフと話している少年に目が行った。

 髪を金髪に染め、左耳にはピアスをはめた、いかにも人生をエンジョイしていそうな見た目の少年。身長はレオより少し低いくらいだが、その外見からは一見近づき難さを感じる。

 

「まさか、彼が?」

「そう、魔王様だよ!」

 

 友世が呼んだ魔王様とは、ゲーム系Vtuberサタン・ルシファナのことだ。

 高いゲームセンスを持つ者を集めたVtuber事務所〝バーチャルリンク〟の中でも随一の腕前を誇るVtuber。それがサタンだ。

 得意なゲームはモンスターを育成して対戦する国民的人気を誇るゲームやレースゲームだ。その他のゲームでもプロ並みの腕前を誇るため、男性Vtuberでありながら一年で登録者数30万人を越える人気Vtuberだ。

 Vtuberとしての見た目も、頭に角が生え、漆黒のマントをはためかせている魔王然としたデザインをしている。ある意味、レオとは人外仲間といえるだろう。まあ、今日のレオはただのライオンの3Dモデルで出演するのだが。

 

「おーい、サタン君! レオ君、ここだよ!」

「えっ、本当ですか!」

 

 固い表情でスタッフと話をしていたサタンは、いったんスタッフに「ちょっとすみません」と断りを入れると、レオの元へと駆け寄ってきた。

 

「えっと……」

「はじめまして! 僕はバーチャルリンク所属のVtuberサタン・ルシファナと申します」

「はじめまして、獅子島レオと申します。……魔王様、なんですよね。すみません、動画のときと雰囲気違うので全然わかりませんでした」

 

 サタンは普段は傲岸不遜な態度で『ふっはっは、吾輩にひれ伏すが良い!』などとしゃべっているイメージが強かったため、レオは動画での彼との雰囲気のギャップに驚いていた。

 

「僕の動画、見ていてくださったんですか!?」

「ええ、デビュー前からVtuberは好きでしたから、チェックさせていただいてましたよ」

「嬉しいです! あの獅子島さんに見ていただいてたなんて!」

「いえ、俺なんてまだデビュー一ヶ月ちょっとの新人なんですから、そんな大層なものじゃないですよ」

 

 何か素のときの雰囲気は慎之介に似てるな。

 レオは最近ちょくちょく会っている、かつてのアイドル仲間の顔を思い浮かべた。

 しかし、それと同時に他にも思い浮かんでくる顔があった。

 

『やったー! まひるの動画見ててくれたんだ! 嬉しいなぁ』

 

 レオの事務所の先輩にあたる二期生の白鳥まひるだ。

 サタンの無邪気で人好きのする笑みはどこかまひるを連想させた。

 

「今度コラボしましょうよ!」

「ええ、是非お願いします。剣盾で一度戦ってみたかったんですよ」

「あー、剣盾……え、ええ、今度やりましょう」

 

 一番得意なゲームについての話題だったのにも関わらず、サタンはどこか歯切れの悪い返事を返した。

 レオも聞いたらまずい話題だったと判断して、即座にゲームの話はやめることにした。

 

「RINEかThiscodeのどっちかやってます?」

「両方やってます!」

「じゃあ、せっかくですし、両方交換しましょう」

「あっ、アタシも混ぜてー!」

「わ、私も……」

「ええ、もちろん――えっ?」

 

 連絡先を交換しようとしていた三人に混じって、さりげなくスマートフォンを出してきた女性に戸惑っていると、彼女は消え入るような声で自己紹介をした。

 

「は、はじめまして、Vacter所属の七色和音、です……」

「ああ、あなたが七色さんでしたか。はじめまして、にじライブ所属の獅子島レオと申します。本日は宜しくお願い致します」

「い、いえ、こちらこそ、よろしくお願い、します……」

 

 丁寧に頭を下げたレオに、釣られるように慌てて和音も頭を下げた。

 

「何か和音ちゃんも雰囲気全然違うね!」

「ひぅ!? そう、ですか?」

 

 急に友世が大きな声を出したため、和音は肩をビクッと震わせる。

 

「確かに、七色さんって歌っているときめちゃくちゃ声カッコいいですよね」

「あの歌声には痺れますよね」

「そ、そんな、恐縮です……」

 

 動画で歌を歌っているときの和音は、普段の弱弱しい声とは打って変わり、パワフルでハスキーな声になるのだ。

 彼女の知名度は主に歌動画で広がっているため、たまに行う生配信でのギャップに驚く視聴者も多い。

 

「そろそろ、リハーサル始めまーす!」

「あっ、リハ始まるみたいですね」

「それでは改めて本日は宜しくお願い致します」

「うん! よろしく!」

「よ、よろしくお願いします……」

 

 こうしてVtuberカラオケ大会のリハーサルが始まった。

 スタジオにはカラオケボックス風にテーブルやソファーが設置されている。

 曲を入れるデンモクなどはなく、代わりに台本やデンモクの3Dモデルを表示するための箱が置いてあった。

 それぞれのVtuberの立ち位置を確認すると、最後にスタッフからレオに指示が入った。

 

「獅子島さんは全員が挨拶を終えた後に、板東さんからコールが入り、ライオンの咆哮が音声で流れた瞬間に飛び出して入ってください」

 

 レオは今回ライオンの3Dモデルでの参加だ。普通ならばあり得ない提案にスタッフは大笑いしながらにじライブ側の提案を承諾し、その提案を最大限に活かすための入りを考えていた。

 

「かしこまりました。入るときは四つん這いの方がいいですよね」

「うーん、もっとこう動きが欲しいところではあるんですが……」

「なら、飛び込んで前転しながら入るのはどうでしょう?」

「おっ、いいですね! 試しにリハでやっていただいてもいいですか?」

 

 かつてアクションシーンも経験したことのあるレオにとって前転するくらいわけなかった。

 軽く準備運動をしてモーションキャプチャの機材を確認すると、レオは踏み込みと着地の位置をしっかりと見定めた。

 

「それではリハーサル行きます! 3・2・1……キュー!」

 

 スタッフの合図によって、リハーサルが始まる。軽く息を吸うと、イルカは元気良くタイトルコールをした。

 

「Vtuber大集合!」

 

「「「バーチャルカラオケ大会!」」」

 

 イルカに続くようにレオ以外の三人もタイトルコールを行う。

 

「さて、始まりました! Vtuber大集合、バーチャルカラオケ大会! みなさん今日は集まってくれてありがとうございます! わたくし、本日の進行役を務めさせていただきます板東イルカと申します。魚のみなさん、キュッキュー!」

 

 定番の挨拶を行うと、イルカはゲスト紹介に入る。

 

「それでは、本日のゲスト紹介に入っていきたいと思います。まずは――」

 

 それから台本通りに三人の紹介を終えると、レオの紹介をするパートがやってきた。

 

「あら、一人足りませんわね。確かにじライブからは獅子島レオさんが来ると伺っていたのですが……」

 

 イルカの前振りが入る。このあとはライオンの咆哮の音声が入って、レオが登場する流れだ。

 

「あれ? おかしいな……。すみません! いったんカットで!」

 

 しかし、音響の方でトラブルがあったため、いったんリハーサルは止まった。

 慌てて他のスタッフが音響スタッフの元へと駆け寄る。

 

「どうした?」

「あっ、音声データが破損してる……」

「おいおい、マジか。せっかく獅子島さんの派手で盛り上がる登場だってのに……」

 

 番組側としても、今回の企画はVtuber界の大物から話題の新人まで揃えた大型企画のため、盛り上がるレオの登場演出は絶対に入れたいところだった。

 そんなスタッフの元へ歩み寄ると、レオはある提案をした。

 

「あの良かったら、自分でライオンの鳴き声やりましょうか?」

「「はい?」」

「もちろん、本物ほどの迫力はありませんが、ある程度なら真似られますよ」

 

 こんなこともあろうかと、レオはこのコラボの話を聞いたときからライオンの鳴き真似を練習していたのだ。

 3Dモデルのライオンで動くとなれば鳴き真似をする機会もあるだろうと、レオはライオンの姿で一笑い取るために練習していたのだ。

 

「試しにやってみますね」

 

 スタッフや共演者の面々が息を呑む。まさか、せいぜい「ガルゥ!」くらいの鳴き真似だろうと思っても、どこかで〝にじライブのライバー〟ならあり得ると思ってしまったのだ。

 すぅ、と息を吸ったレオは声を震わせながら腹から空気を一気に吐き出して絶叫した。

 

 

 

 

「GRRRRRRRRRRRRRR!!!」

 

 

 

 

 空気をビリビリと震わせるような咆哮。それは人間が真似したものであるのにも関わらず、ライオンのような迫力ある咆哮だった。

 

「けほっ、けほっ……さすがに喉の負担が凄いですね。どうですか、これで本番もいけますかね?」

「ええ、何なら元の音源使うより盛り上がると思います……」

「それなら良かったです」

 

 喉を押さえながら笑顔を浮かべるレオを見て、スタッフや共演者を含め、その場にいた全員が同じことを思った。

 

 ――やっぱりにじライブ、頭おかしいわ……と。

 




新キャラ大放出回。
結構キャラ一人一人と会話させていたら長くなってしまいましたが、次回こそはきちんとカラオケ本編なので、お楽しみに!


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【3Dカラオケ】Vtuber大集合!バーチャルカラオケ大会! その1

3Dのモデルがなくて不安よな?
ガチライオン、動きます。


「Vtuber大集合!」

 

「「「バーチャルカラオケ大会!」」」

 

 リハーサルと同様、イルカに続くようにレオ以外の三人がタイトルコールを行う。

 

[きちゃぁぁぁぁ!]

[待ってた!]

[レオ君が出演すると聞いて]

 

「さて、始まりました! みなさん今日は集まってくれてありがとうございます! わたくし、本日の進行役を務めさせていただきます板東イルカと申します。魚のみなさん、キュッキュー!」

 

[キュッキュー! ¥20,000円]

[すげぇ大型企画だな]

[これは期待]

 

 コメントを読むために少し間をおいて、イルカはゲスト紹介に入る。

 

「それでは、本日のゲスト紹介に入っていきたいと思います。まずはこの方!」

「みんな、やっっほ――――! 但野友世だよ! 今日はよっろしくぅ!」

 

[音量注意]

[鼓膜死んだ]

[鼓膜破壊助かる]

[助からないんだよなぁ]

[替えの鼓膜代 ¥3,000円]

 

「七色和音……です……。今日はよろしくお願いします……」

 

[え、何だって?(難聴)]

[友ちんの後に和音ちゃん持ってくるな]

[音量調節間に合わない]

[挨拶できてえらい ¥5,000円]

[腹から声出せ]

[歌だとあんなに力強い声なのになぁ]

 

「ふっはっは! 魔王軍の諸君! 今宵は吾輩が貴様らをもてなそう! 存分に楽しんでいってくれ!」

 

[はい、魔王様! ¥2,000円]

[偉そうに振舞っても隠しきれない善人感]

[相変わらず魔王軍はホワイト企業だなぁ]

 

 一通り三人の自己紹介を終えると、次はレオの出番だ。

 

「あら、一人足りませんわね。確かにじライブからは獅子島レオさんが来ると伺っていたのですが……」

 

[確かにレオ君がいないぞ]

[どうせ何かする気だろ(疑心暗鬼)]

[てか、レオ君3D化してないのにどうやって出る気なんだ]

[まさかモデルがないから透明人間とか……]

 

 打ち合わせ通りにイルカがレオへの合図を出す。

 レオは軽く咳ばらいをした後に、リハーサルと同様――いや、それ以上の勢いで猛々しく咆えた。

 

 

 

「GRRRRRRRRRRRRRR!!!」

 

 

 

[!?]

[!?]

[!?]

 

 二回目とはいえ、さらにクオリティの上がったライオンの咆哮に出演者達は唖然とした表情を浮かべ、和音に至っては轟音に驚いて涙目になっていた。

 レオは助走をつけると高くジャンプして、カメラにうまいこと着地の瞬間が綺麗に映る角度でセットの中へと飛び込んだ。

 

[ライオン!?]

[えっ、何これ!?]

[今の肉声!?]

[クッソwwwそういうことかwwww]

[ガチライオンで大草原]

[うっそだろwwwww]

 

 カメラで見るとライオンが飛び込んできたようにしか見えない演出に、レオを知らない視聴者達は大いに驚き、袁傪達は事情をすぐに察して大爆笑していた。実によく訓練された袁傪達である。

 

「「「「ぶふっ!?」」」」

 

[全員吹き出してて草]

[そりゃこんなん笑うなって方が無理やろw]

[てか、登場の仕方すごない?]

[獅子島って人が実際にこの動きしてるの!?]

[マジのライオンかと思った……]

 

 そして、先ほどの音響トラブルで実際に動くライオンのモデルを見ていなかった他のVtuber達は映像に映し出されるレオの姿を見て派手に吹き出した。

 可愛い女の子やカッコいい魔王に紛れるただのライオン。その絵面の破壊力は言うまでもないだろう。

 

「袁傪のみんなも、それ以外の初け袁傪の方々もこんばん山月! にじライブ所属のバーチャルライバー獅子島レオです!」

 

[キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!]

[初け袁傪www]

[まーたにじライブか]

[レオ君大暴れで草]

 

「登録者数爆増で調子に乗ってたらライオン化が進んでしまったので、本日は謙虚な姿勢を忘れずガチライオンの姿で歌っていきたいと思います」

 

[かつてここまで面白い3Dライオンがいただろうか]

[ロールプレイ完璧で草]

[ツッコミどころ満載なんだがwww]

[伝説しか作れないライオン]

 

 レオの登場によって配信はさっそく大盛り上がりだ。

 この数分後に〝獅子島レオ〟〝ガチライオン3D〟がトレンド入りしたことは言うまでもないことだろう。

 

「ふっ……くくっ……それ、では……くっ……全員自己紹介も、終わったので……ふっ……カ、カラオケ大会を、始めたいと思います!」

 

[イルカちゃんツボってるwww]

[ちゃんと最後まで言えてえらい ¥1,000円]

 

 ちなみに他の共演者達もいまだに腹を抱えて笑っている。

 

「ふー……えっと、獅子島さんってデビューして二ヶ月なんでしたよね?」

 

 全員が笑ってまともに話すことができないという不測の事態に真っ先に動いたのは、七色和音だった。

 軽く息を吐きだすと、気合で笑いを堪えて場をつなぐためにレオへと話を振る。ちなみにレオはまだ四つん這いの姿勢のままである。

 

「はい、ありがたいことにたくさんの方に支えられて登録者数八万人を越えることが出来ました。これからも応援してくださるみなさんのためにも精いっぱい頑張っていこうと思います」

 

[全然調子に乗ってないやん]

[謙虚なんだよなぁ]

[ちょっとチャンネル登録してくる]

 

 レオはいたって謙虚な姿勢で和音に答える。良い声の端正な顔立ちをした青年が、真剣な表情で、四つん這いの姿勢のままで。

 

「ほ、本当に、凄いで――ぶふっ!」

 

[耐えられなかったか]

[何で急に笑ってはいけないカラオケボックス始まってるのwww]

[新手の放送事故で草]

 

 しまった、ウケすぎた。

 全員の腹筋に深刻なダメージを与えてしまったレオは、慌てて笑いすぎて過呼吸になっているイルカの代わりに企画の進行をすることにした。

 

「えー、それでは、今回の企画を説明します! 今回は私達Vtuberが順番に歌を歌っていきます! 今回はライブドゥム様の協力の元、こちらの採点システムを導入しております! ドン!」

 

 レオが合図を送ったことで、スタッフは即座に動画の画面に採点システムの画面を表示する。

 

「歌い終わるたびに点数が表示されますので、みなさんにはハッシュタグ〝#Vtuberカラオケ大会〟で呟いていただいて、点数の予想や我々の歌の感想など呟いて盛り上げていただけると幸いです」

 

[さらっと進行役交代してて草]

[すごい聞き取りやすいしゃべり]

[何か慣れてる感じするな]

 

「はー……ごめんなさい、レオ君。進行ありがとうございます。お礼にレオ君のチャンネルの宣伝しましょうか?」

「いえ、俺はこうして出演させていただいただけでも十分――あ、もしよければ三期生の茨木夢美と白雪林檎の宣伝をしていただけないでしょうか?」

 

[こんなに謙虚なのに人間に戻れないライオン]

[嫁の宣伝を忘れない旦那の鑑]

[きちんと白雪も忘れず宣伝しててえらい! ¥500円]

 

 レオとしては自分の宣伝など、この企画に参加している時点でそこまで必要なわけではない。宣言したければ存在感を示せばよいだけなのだから。

 それよりも、せっかく他企業のVと絡む機会なのだからと、同期の二人を宣伝することにしたのだ。

 

「あー、ゴミカスの子と焼き林檎ちゃんですね」

 

[クソみたいな覚え方で草]

[どっちもデビュー一週間以内に炎上してるんだよなぁ]

[残当]

 

「スタッフさーん、お二人のプロフィールって出せますか?」

 

 イルカの質問に、スタッフは急いでU-tubeを開き、夢美と林檎の代表的な切り抜き動画を開いた。

 夢美の動画は当然一番知名度を上げた、ゲーム実況で絶叫した場面の切り抜き動画、林檎の動画は月一にじライブのときにクズ扱いされて開き直ったときの発言をしている場面の切り抜き動画だった。

 

「というわけで、こちらが獅子島レオさんの同期のお二人になります」

 

[やべぇ奴しかいなくて草]

[ゴミカスとゴミクズだな。覚えたぞ]

[酷い覚えられ方されとるwww]

 

 ちなみに、リアルタイムで見ている夢美はあんまりな紹介のされ方に頭を抱え、林檎はゲラゲラと笑っていた。

 

「イルカさん、二人の宣伝ありがとうございました」

「いえいえー。それより、レオ君。謙虚な姿勢でいたからちょっと人間っぽい動きもできるようになったんじゃない?」

 

 四つん這いの状態から元の姿勢に戻る機会を逃したレオは、ずっと四つん這いの状態でいたためそろそろ辛くなってきたところだった。

 そんなレオを見かねてイルカは設定を崩さないよう自然なフォローを入れた。

 

「おっ、二足歩行できるようになりました。イルカさん、ありがとうございます!」

「うんうん、良かった良かった。それでは、魔王様のお隣にお座りくださーい」

 

[立って歩いてるだけでも笑える]

[存在だけで笑かすのずるいわw]

[これがにじライブかぁ……]

 

 一通り出演者の腹筋も落ち着いたことで、イルカは尺のことも気にして早速カラオケ企画に入ることにした。

 

「それでは、改めましてVtuberカラオケ大会を開催したいと思います! トップバッターはわたくし板東イルカが務めさせていただきます」

 

[何を歌うんだろう]

[イルカちゃんも歌うまいから楽しみ]

「一曲目転送!」

 

 デンモクを持っている振りをしてイルカがそういうと、さっそく一曲目のイントロが流れ始める。

 

「いつもどおりのある日の事~♪ 君は突然立ち上がり言った~♪ こ~ん~や、ほ~し~を〜見に行こう~♪」

 

[君の知らない物語だ!]

[清楚だ……]

[本当綺麗な声してる]

 

 イルカはVtuberとして話すときは地声よりも高い声を出している。歌っているときはどうしても地声に近い声になってしまうが、元々地声も透き通るような声をしていることもあって、歌っているときの彼女の姿は多くの視聴者達を魅了した。

 

「い~つからだろう~♪ き~みのことを~♪ おいか~ける、わた~しがいた~♪」

 

[うおおおおおおお!]

[イルカちゃんの高音最高すぎる!]

[これを聞きに来た ¥10,000円]

 

 サビに差し掛かったとき、視聴者達の盛り上がりは最高潮に達していた。

 最近のイルカはゲーム実況がメインのため忘れられがちだが、歌だってうまいのだ。

 故にゲーム実況からイルカのファンになった視聴者達は驚きつつも、彼女の思ったよりも高い歌唱力に感動していた。

 

「む~じゃきな声で~♪ ……ありがとうございました! おっ、90点だ!」

 

[これは素晴らしい]

[最初からハードル爆上げなんだよなぁ]

 

 一曲目から高得点が出たことで、他のVtuber達に緊張が走る。

 

「じゃあ、次は誰がいきますか?」

「アタシが歌う!」

 

[耳が!]

[急にしゃべるなwww]

[音量調整しなきゃ……]

 

 次に歌うのは友世だ。

 

「レオ君! 金曜日のおはよう歌うんだけど、適当でいいから躍って!」

 

[無茶振りしやがったwww]

[人を巻き込むのが好きな陽キャの権化]

 

「あ、いいですよ」

「いいの!?」

 

[えっ、何で余裕でいられるの?]

[友ちんの方が困惑してて草]

 

「ハニワ好きなんで、踊ってみたとかも見てましたから。うろ覚えですけど一応踊れますよ」

「マジで! ハニワ好きなの!? 今度コラボしよ!」

「はい、喜んで!」

 

[おい、その場の勢いでコラボ決まったぞ]

[陽キャみたいな会話してる……]

[これが陽キャか……]

 

 元気さと声量に定評のある彼女が歌う曲は、レオと友世の両名が好きなアーティストの曲だ。

曲が始まるのと同時にレオは踊り始めた。

 

「お~は~よ~の、オーディションして~♪」

 

[こんなテンションで金曜日を迎えたい]

[友ちんの歌声聞くと何か元気出るよな]

[ライオンの動きキレッキレでワロタ]

[これでうろ覚えとか嘘だろ……]

 

 友世もレオと同じように踊っていたが、可愛い動きの友世に対して、レオの動きのキレに驚いていた。

 

「お~や~す~みも言いたいけれど~♪ ……ちょっと待って!

 

[だから急に叫ぶなwww]

[鼓膜破壊兵器]

[鼓膜の代わりに元気をもらったよ]

[隣のライオンからは笑いをもらったよ]

 

「だって君にあ~えるから、ね♪ ……イェェェェェイ!」

「イェェェェェイ!」

 

[ライオンとハイタッチしてるwww]

[すげぇ絵面だな]

 

「おっ、88点だ! ブイ!」

 

[踊りながらこれは凄い]

[さっきからレオ君の盛り上げ力がすごい]

[まだ二曲目という事実]

 

 レオと友世が踊りながら歌ったことで、視聴者達は大いに盛り上がった。しかし、それと同時に次に歌う者にプレッシャーがかかっていた。

 次に歌うのはサタンだった。彼は動画でこそ気丈に振舞っているが、それは動画というリテイクの聞く環境だからである。こうして生で歌うことは初めてだったのだ。

 

「さ、さて、そろそろ吾輩の出番か!」

 

[大丈夫、魔王様緊張してない?]

[声震えてるぞ]

 

 魔王のロールプレイをしながらの生配信で得意ではない歌を披露する。サタンの緊張は極限まで高まっていた。

 

「魔王様、恐れながらも」

 

 そんなサタンにレオが芝居がかった口調で話しかけた。

 

「カラオケとは歌を楽しむものでございます。私も最近まで忘れていましたが、何も気にせず思いっきり歌うと――最っ高に気持ちいいぞ!」

 

 ニカッと笑ったレオの笑顔を見て、サタンの肩の震えが止まる。

 そして、レオに釣られるように笑顔を浮かべると、マイクに向かって思いっきり叫んだ。

 

「感謝するぞ、獅子島レオ! 吾輩は大事なことを忘れていた! 配下達よ、吾輩の歌を聞けぇぇぇ!」

 

[うおおおおお!]

[いっけぇぇぇ!]

 

「oh~♪ oh~♪ oh~♪」

 

[ピースサインきた!]

[そういや魔王様ヒロアカ好きだもんな]

 

 サタンが歌ったのは人気少年漫画のアニメのオープニングだった。

 

「もう一度、遠くへ行け、遠くへ行けと~♪ 僕の中で誰かが歌う♪」

 

[イケボやん]

[やっぱ地声の方が高いのか!]

[魔王様の歌が聞けて嬉しい ¥30,000円]

 

 今まで歌を披露したことがなかったサタンの歌に視聴者達は歓喜する。声はところどころ上ずっており、そこまで歌がうまいわけではなかったが、それでも楽しそうに歌うサタンの姿を見れたことが視聴者達は嬉しかったのだ。

 

「君と未来を盗み描く~♪ 捻りのないストーリーを♪」

 

[魔王様万歳!]

[魔王様万歳!]

[魔王様万歳!]

 

 何とか歌い終わってほっと一息ついたサタンは改めてレオへと向き直って言った。

 

「77点か……まあ、いいだろう。それよりも獅子島レオ。我が魔王軍と同盟を組む気はないか?」

「かの大魔王サタン様にそう言っていただけるなんて光栄です」

「こんなにも雄々しい獅子と同盟を組めるとは我輩も運が良いな!」

 

 お互いにファンだったこともあり、レオとサタンは笑顔を浮かべて握手した。

 

[泣いた]

[一曲終わるたびにコラボ相手が増えるライオン]

[とんでもないライオンがいたもんだ]

 

 三曲目が終わり、レオはふぅと小さく息を吐いた。

 先程からレオは全力で気を張り詰めて、周囲の共演者に気を遣っていた。

 アイドル時代の経験があるとはいえ、あまりにも突発的な事態が多かったため、レオは少々精神的な疲労感を感じていた。もちろん、辟易するほどのものではないが、この調子で何時間も過ごして歌うのは大変だろう。

 そんな彼の様子を見かねたイルカはアイスブレイクもかねて軽く雑談を挟んだ。

 

「それにしてもレオ君のポテンシャルは凄いですわね。本当にまだデビュー二ヶ月?」

「あはは……こう見えてもまだ二ヶ月なんです」

「やっぱりにじライブはぶっ飛んでますねぇ……さて、レオ君は一周目の最後に歌ってもらいますからね。楽しみにしていますよ。とりあえず今はのど飴でも舐めて待っててください。あとでたっぷり歌っていただきますから」

「お気遣いありがとうございます」

 

 レオは素直に先輩からの好意に甘えることにした。……どこか引っかかるものは感じたが。

 それから休憩がてら数分の雑談を挟んでから歌枠は再開したのだった。

 




レオが歌うところまでいけませんでしたが、次回と次々回でカラオケ回は終われると思いますのでお楽しみに!


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【3Dカラオケ】Vtuber大集合!バーチャルカラオケ大会! その2


カラオケ企画が書いてるの楽しすぎて筆が載った結果、なかなか本筋の話が進まないという……。




「次に歌ってくれるのは七色和音ちゃん。どうですか自信のほどは?」

「が、頑張りましゅ!」

 

[可愛い]

[助かる ¥1,000円]

[頑張って!]

 

 和音は緊張のあまり頭が真っ白になっていた。

 彼女はあがり症で人前で歌うのが苦手なタイプだった。

 そんな彼女が無理をしてでもこの企画に参加したのは、ひとえに板東イルカへの憧れからだった。

 イルカに憧れてVtuberになった和音は自分の得意な歌で勝負し、成功した。

 だが複数人のいる環境で歌う機会はなく、基本的に彼女は歌動画を出すか、歌枠の生配信で歌っていたため、この手の企画は彼女と相性が悪かった。

 プルプルと震える手でマイクを持つ和音をレオは心配そうに見つめる。

 

「そ、それでは歌います!」

 

[こんな大人数の中で歌うの初めてじゃね?]

[いつも自分の配信や動画で歌ってるもんな]

[そりゃ緊張もするわ]

 

 緊張でガチガチになっていた和音だったが、イントロが流れ出した瞬間、表情が変わる。

 

「二人で~♪ 写真を撮ろう~♪ 懐かしいこの景色と~♪」

 

[ファッ!?]

[愛をこめて花束をか]

[前にも配信上で歌ってたよね]

[えっ、声全然違うじゃん!?]

[すごっ!]

[これが噂の七色様か……]

 

 先程までの弱弱しいウィスパーボイスはどこへやら、ハスキーでパワフルな歌声が聞こえてきたことに視聴者達は大いに驚く。

 現実の表情もキリっと凛々しくなっていることで、共演者達も呆けた様子で彼女が歌う姿を見ていた――ただ一人レオを除いて。

 

「愛をこめて~♪ は~なたばを~♪ 大袈裟だ~けど、受け取って~♪」

 

[俺のスパチャも受け取って ¥10,000円]

[受け取れないんだよなぁ]

[ここイルカちゃんのチャンネルだぞ]

[どれだけ普段力セーブしてるんだよ]

 

 ――呑まれているな。

 現役時代、歌唱力はあるのに売れなかった後輩を見てきたレオは気づいていた。和音は場の空気に呑まれて本来の実力を発揮できていなかったのだ。

 一見、周囲から見れば緊張が解けて本来の実力を発揮して歌っているように見えるだろうが、わずかに音を外している個所がある。

 和音の現状に関して、レオは自分ができることは何もないと思っていた。

 サタンのように、配信で歌うことが危ういほどではない時点で、配信者としては問題ないからだ。

 これ関しては歌唱力の問題ではなく場数の問題だ。レオだってデビュー当時はうまく歌えなくて悔しい思いをした。人前で最高のパフォーマンスを引き出すにはとにかく人前で歌って慣らすしかないのだ。

 

「いつまで~も、そばにい~て~♪ ……ご、ご清聴ありがとうごじゃいまた!」

 

[急にポンコツになるやん]

[かっこいいと思ったら可愛かった]

[最高だった!]

[この後の歌うライオン大丈夫?]

[上がり続けるハードル]

 

「やー! 凄かったねぇぇぇ! 点数も93点で最高得点じゃん!」

 

[おいバカやめろ]

[和音ちゃんのあとの友ちんは凶悪コンボ過ぎる]

[歌直後じゃなかったら即死だった]

 

「素敵な歌声をありがとうございました!」

「力強く麗しき歌声だったな!」

「あ、ありがとうござい、ます……」

 

 歌を絶賛する共演者に和音はぎこちない笑みを浮かべた。

 

「凄く力強い歌声でしたね。アイドルやってた時でもなかなか見ないレベルの歌唱力でビックリしましたよ」

 

[えっ、このライオン元アイドルなの?]

[だから、こんばん山月なんやで]

[そういうことか]

[理解できない俺がおかしいのか……]

 

 レオはひとまず和音の歌を褒めることにした。勝手に過去の自分を重ねて上から目線でアドバイスなど送れるはずもない。

 しかし、気遣わしげな表情が出ていたのだろう。

 和音はそんなレオを見て、驚いたように目を見開いた後、決意の籠った眼差しでレオを真っ直ぐに見据えて言った。

 

「あの獅子島さん」

「どうしました?」

「あなたの本気を見せていただけますか」

 

[急にどうしたんだ和音ちゃん]

[ライバル意識でも芽生えたか]

[落ち着け、相手はただのライオンだぞ]

[普通にしゃべってるのに弱弱しくない和音ちゃん助かる]

[まーたライオンのハードルが上がったよ]

 

 そんな挑戦的な和音の言葉にレオは――肉食獣のような獰猛な笑みを浮かべた。

 

「ええ、喜んで……!」

 

 その瞬間、その場にいた全員が凍り付いた。

 レオの浮かべた肉食獣のような獰猛な笑みは、人気アイドル〝STEP〟のセンターだった頃にライブ中よく浮かべていた笑みだっからだ。

 共演者達はレオが元アイドルだということは知っていたが、STEPの司馬拓哉だとは気づいていなかった。

 腰の低さ、穏やかな表情、落ち着いた声音。どれをとっても司馬拓哉とは結び付かないからだ。もちろん、髪形や髪色が現役時代と違うというのも大きいが。

 共演者全員が唖然とする中、レオはスタッフに合図をしてマイクを持った。

 

「それでは僭越ながら歌わせていただきます――〝完全感覚Dreamer〟」

 

[マジか!]

[よりにもよってカラオケ企画でこの曲選ぶのかw]

[このライオン、自分でもハードル上げてんじゃんwww]

 

 勢いのあるイントロが流れ出す。

 すぅ、と息を吸い込むと、レオは立ち上がって歌い出した。

 

「So now my time is up Your game starts, my heart moving? Past time has no meaning for us, it's not enough Will we make it better or just stand here longer Say it we can't end here till we can get it enough!♪」

 

[!?]

[!?]

[!?]

[嘘だろ!?]

[なんやこのライオン!]

[レオ君が英語も行けるのは知っていたが……]

 

 いきなり英語の歌詞を発音良く、かつ力強く歌い始めた3Dモデルのただのライオン。そのギャップに、袁傪以外の視聴者達の脳は処理が追い付かなかった。

 

「This is my own judgment!! Got nothing to say!!♪」

 

[シャウトもいけるとはたまげたなぁ]

[ヘドバンの度にたてがみ揺れてて草]

[これは百獣の王の咆哮]

[誰だネコカフェにライオンを放り込んだの]

[ネタ枠かと思ったらライオンが一番のガチ枠かよ!]

[何気に歌詞もレオ君にマッチしてる]

 

「~can't get enough! Can't get enough!」

 

[おい最後の方www]

[完全山月ドリーマーっていいやがったwww]

[完全山月ドリーマーで大草原]

[それはズルいだろwww]

[ネタを挟まないと死んじゃう病にでもかかってるのかw]

[本気の歌とは……]

[最後までユーモアを忘れないVtuberの鑑]

 

 曲の終盤で二回〝完全感覚ドリーマー〟と二回歌う箇所でレオはあえて二回目の方を完全山月ドリーマーと歌った。

 これによってレオの歌に聞き入っていた視聴者達は突然のネタに不意打ちをくらい画面の向こうで腹を抱えて笑っていた。

 もちろん、しっかりとレオの雄姿を見届けようとしていた夢美や林檎も画面の向こうで過呼吸になるレベルで大爆笑していた。

 

「……ありがとうございました! 点数は98点か……98点!? 最後ネタに走ったのに!?」

 

[化け物で草]

[自分でやっておいて驚くなwww]

[完全山月ドリーマー、トレンド入り不可避だな]

[今のうちに呟いておこうぜ!]

 

 レオの感動と笑いを呼んだ歌にコメント欄は大盛り上がりだ。

 激しい曲を歌い終えて汗をかいているレオの元へ和音は歩み寄ると、満面の笑みで礼を述べた。

 

「獅子島さん、ありがとうございました!」

 

[うおっ]

[和音ちゃんの大声初めて聞いた気がする]

[よくやったガチライオン ¥6,000円]

 

 和音はイルカに憧れてVtuberになった。

 しかし、歌唱力でいえばイルカのことは上回っており、視聴者からもただ褒められるだけで自分のレベルが把握できなくなっていた。自分は本当にうまいのか、もう伸びしろはないのか。

 そんな悩みを抱えて臨んだこの企画で和音は自分を凌駕する歌唱力の持ち主と出会えた。

 歌唱力だけじゃない。レオのパフォーマンスはどれをとっても一級品だった。

 

 歌を武器に芸能界という弱肉強食の世界で戦い続けていた人間はこうも格が違うのか。私もこんな風になりたい!

 

 和音の胸の奥でくすぶっていた気持ちはメラメラと燃え盛りだしていた。

 それから、一通り全員がソロで歌い終えたこともあり、進行役のイルカが台本通りに場を回し始めた。

 

「いやぁ、凄かったですね、完全山月ドリーマー。わたくしも感動して笑い涙が止まりませんでしたわ」

 

[どっちだよwww]

[笑い泣きなのか、感動泣きなのか]

[どっちもなんだよなぁ]

[感動しながら笑うとは思わなかった]

 

「しかし、どうしましょう。このままではレオ君の優勝が決まったようなもので盛り上がりにかけますわぁ」

 

[あっ]

[いやな予感]

[流れ変わったな]

 

「というわけで! ここで急ですが〝カラオケ100点取るまで終われまてん!〟を始めたいと思います!」

 

「「はえ……?」」

「「ちょ!?」」

 

[やると思った]

[これだからイルカちゃんは……]

[鬼畜企画始まって草]

 

 突然台本を無視した企画が始まり、レオと和音は呆けたように、友世とサタンは驚愕の声を上げた。

 驚く共演者達に対し、イルカはそれはそれはとても楽しそうな笑みを浮かべた。

 

 

 人は彼女のことをこう呼ぶ――畜生イルカ、と。

 

 





和音ちゃんの闘志に火が付きました。
次回でカラオケ企画は終わりにしますが、今回で登場したキャラは今後も出していく予定です。


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【3Dカラオケ】Vtuber大集合!バーチャルカラオケ大会! その3

ライブ〇ムの精密採点では小数点以下も出るので、点数表示を精密採点形式にしました。


『78.253点』

 

『81.827点』

 

『86.193点』

 

『91.655点』

 

『95.986点』

 

『72.265点』

 

『97.977点』

 

『96.867点』

 

 突如始まった地獄のような企画。

 共演者達は出る気配のない100点に辟易し始めていた。

 

「げほっ、げほっ……」

「サタンさん、大丈夫ですか? しばらく休んでいてください」

「だ、大丈夫……だ!」

 

 ただでさえロールプレイで無理に低い声を出しているサタンの喉へのダメージは深刻だ。

 

「うへー……83点」

 

 元気が取柄の友世でさえ、テンションが下がりつつある。

 良くない傾向だ。

 このままずっとこの調子なら企画がグダって盛り下がってしまう。

 イルカもそれは理解しているのか、タイミングよく雑談を挟んだり、コメント欄が盛り上がりやすい曲を歌ったりしてフォローをしている。さすがは、Vtuberの最前線に立っていただけのことはあるといったところだろうか。

 今のところ100点を取る可能性があるのはレオか和音だ。

 和音も状況の悪化を感じ取っており、既に緊張など吹き飛ばして全力で歌っていた。

 それでも100点は出ない。

 今はイルカのフォローやレオや和音が90点台後半を取るたびにコメント欄が盛り上がるため、まだギリギリなんとかなっている状態だ。

 

「私、頑張ります!」

 

 そんな状況の中、鼻息荒く和音が曲を入れる。

 

「君と夏の終わり♪ 将来の夢♪ 大きな希望をわ~すれない♪」

 

[懐かしい曲キタ!]

[キッズウォー派かあの花派で別れそう]

[てか、レオ君があれだったから目立たないけど、和音ちゃんも大概バケモンよな]

[綺麗な声だなー]

 

 和音が満を持して歌ったのは昔、昼に放送していたドラマの主題歌〝secret base~君がくれたもの~〟だ。その後、人気アニメの主題歌としてカバーされたこともあり、二十代から三十代の間では名曲として有名だ。

 昔、和音はカラオケでこの曲を歌ったときに100点を取ったことがあった。

 そのため、この曲はここぞという時にとっておいた、とっておきの一曲だったのだ。

 

「最高の~♪ 思い出を~♪」

 

『99.958点』

 

「「「「「あぁぁぁ! 惜しい!」」」」」

 

 和音を含めた全員がもう少しで100点という点数に悔し気に声を上げた。精密採点はどこまでも厳しかった。

 

[グダるかと思ったらいい感じにみんな盛り上げてくれるから楽しい]

[むしろ和音ちゃん歌うごとにパワーアップしてないか?]

[こいつ戦いの中で成長してやがる!]

 

 まだまだ盛り上がっているコメント欄に安堵のため息を吐くと、不敵な笑みを浮かべたイルカが曲を入れた。

 

「ふっ……さぁて、そろそろ本気を出すとしましょうか」

 

 イルカは自信満々に曲を入れて高音で歌い始めた。

 

「はりつめた~弓の~♪ ふるえる弦よ~♪」

 

[草]

[まさかのもののけ姫wwwww]

[何でこれ選んだwwwww]

[本当に100点取る気あんのかwww]

[生きろ、そなたはVtuber]

 

 あまりにも予想外のチョイスに視聴者達も笑いつつも困惑していた。

 

「ものの~け達だけ~♪ ものの~け達だけ~♪」

 

『99.999点』

 

「「「「嘘ぉ!?」」」」

 

[ファッ!?]

[マジか!]

[このイルカ、この曲だけピンポイントで練習してたな!]

 

「これ、いけんじゃない!?」

「ふっ、試してみる価値はあるだろうな」

「や、やってみましょう」

「ええ、やりましょう!」

 

 こうして後に視聴者達から〝もののけ地獄〟と呼ばれる時間が始まった。

 

「ものの~け達だけ~♪ ものの~け達だけ~♪」

 

『97.847点』

 

「ものの~け達だけ~♪ ものの~け達だけ~♪」

 

『93. 155点』

 

「ものの~け達だけ~♪ ものの~け達だけ~♪」

 

『98. 938点』

 

「ものの~け達だけ~♪ ものの~け達だけ~♪」

 

『99. 748点』

 

 一人三回は歌っただろうか。

 

 かなり惜しいところまでは行くもののやはり100点の壁は厚かった。

 

[俺達は一体何を見せられているんだ?]

[もののけ達だけどころか、もののけだらけで草]

[切り抜き確定でワロタ]

 

「ダメだ、いったんやめましょうこの流れ」

 

 レオはこのままでは一生分のもののけ姫を歌うことになると感じ、いったんもののけ姫を歌うことをやめることを提案した。

 

「ええ、このままだと本当にもののけになってしまいますわ」

 

[もう、もののけなんだよなぁ]

[もののけ二人が何か言ってる]

[イルカとライオンはもののけだった……?]

 

 周りを見れば、既にサタンはグロッキー、友世は喉こそ平気そうだが疲労は顔に出ている。イルカと和音はまだまだいけそうだが、できるだけ彼女達の喉は休めるべきだとレオは判断した。

 

「みなさんは休憩しててください。俺が歌って繋いでおくので」

 

[お前も休憩しろ]

[これだけ歌っても疲れた様子がないのやばいな]

[やっぱりもののけなんだよなぁ]

 

「す、すまないレオ……」

 

[魔王様声ガラガラやん]

[歌は慣れてないからなぁ]

[大丈夫?]

 

 サタンの声は既に限界に来ていた。

 レオはデンモクの3Dモデルをいじるふりをして台本の裏にペンで文字を書いていく。

 

『亀戸さん、のどスプレーを持ってきていただけますか?』

 

 レオの意図を察した亀戸はすぐにレオの元へ駆け寄ってのどスプレーを渡した。

 受け取ったのどスプレーをレオはサタンの前に置いた。

 

「えっ」

 

 困惑するサタンにレオは笑顔を浮かべて一人で曲を歌いだした。

 のどスプレーは直接触れはしないが口内に入れるものだ。自分のものを貸すことには抵抗があったのだ。

 亀戸が余分に購入していたことはレオにとって渡りに船だった。

 それからレオは四曲連続で歌い続けた。

 

『98.727』

 

『97.883』

 

『99.053』

 

『98.398』

 

 しかし、さすがのレオでも精密採点で100点を取るのはさすがに厳しかった。

 

「いやぁ、なかなか出ないですねぇ」

 

[点数が毎回化け物で草]

[当たり前のように惜しい点数を取るな]

[レオ君で取れないなら厳しいんじゃ……]

 

 さすがにコメント欄でも、この企画の厳しさに心配の声が上がり始めた。

 そんなとき、和音がふと立ち上がってレオに尋ねた。

 

「獅子島さん、ライオンいけますか?」

「えっ、俺もうライオンですけど」

「ぶふっ……そ、そう、ではなくて……!」

 

[草]

[歌う前に和音ちゃんを笑かすなwww]

[違う、そうじゃない]

 

 コメント欄を見たレオは和音の言いたいことを理解した。

 

「でも、女性の曲なんですよね……そうだ、女声で歌えばいいのか?」

「女、声?」

 

[お前は何を言っているんだ]

[その発想はなかった]

[和音ちゃん大困惑www]

 

 レオの女声配信を知らない和音は混乱していた。

 ふと、レオがスタッフの方を見ればスタッフが『メスライオンいけます!』というカンペを出していた。

 

「えっ、3Dモデルあるんですか!?」

 

[何だ何だ?]

[どうした]

[まさか……!]

 

 スタッフの横で親指を立てている飯田を見るに、サンプルの3Dライオンは雌雄セットだったようだ。

 

「それじゃスタッフさんお願いします!」

 

 コメント欄を盛り上げるため、レオはスタッフに合図を出してその場で華麗なターンを決めた。レオが回転しているタイミングでスタッフはレオの3Dモデルをオスライオンからメスライオンへと切り替えた。

 

「よし! みんなー! こんばん山月! 獅子島レナだよ!」

 

「「「えぇぇぇ!?」」」

 

「うふふっ……出ましたわね! メスライオン!」

 

[!?]

[!?]

[!?]

[メスライオンまで用意してたのかwww]

[やりたい放題で草]

[ネタに全力過ぎるだろwww]

[ガチライオンがメスライオンになってライオン歌うってマ?]

 

 華麗なターンを決めた好青年から放たれる萌え声。レオの女声を知らない者達は大いに困惑した。カメラに映し出されるその姿は――どこからどう見てもただのメスライオンだった。

 

「さあ、歌いましょう!」

「えっ、ええ……歌いましょう、一緒に!」

 

 レオの変わり身に困惑していた和音だったが、その瞳が本気だということを悟ると、表情を引き締めてマイクを取った。

 

「ほ~しをまわ~せ♪ 世界のまんなかで~♪ くしゃみすればど~こかの♪ 森で蝶がら~んぶ♪」

 

[凛々しいお姉さんが歌っているようにしか聞こえないんやが]

[声どうなってるの!?]

[李徴が乱舞?(難聴)]

 

「き~みがまも~る♪ ドアの鍵デタラメ~♪」

 

[和音ちゃんも負けてないぞ!]

[歌姫の貫禄を見せつけていけ]

[もうあがり症治ってね?]

 

 和音は目標を定めたレオと共に歌うことで実力以上の力を発揮し始めていた。

 

「「生き残りたい!♪ 生き残りたい!♪ まだ生きてたく~なる~♪」」

 

[すげぇ!]

[この企画伝説になること確定したな]

[生きろ、そなたはこんばん山月]

 

「「本気のココロ見せ~つけるまで~♪ 私眠らない~♪」」

 

『99.953点』

 

[惜しい!]

[デュエットでこの点数かよ]

 

「ふぅ、ありがとうございました! それではレナはこの辺で失礼するね! おつ山月!」

 

[おつ山月!]

[性別自由自在で草]

 

 曲も終わったことで、レオは再びターンをして元のオスライオンへと戻った。

 

「……しっかし、なかなか出ないな」

 

 どうしたものかと迷っていると、カメラの向こう側から飯田がカンペを出していた。

 

『富士サファリパークCMソング キー-1』

 

 飯田のカンペを見たレオは「カラオケにあるんだ……」と心の中で驚きながら、笑顔で頷いた。飯田がこの曲を選んだ理由は単純だ。曲の長さが短いからである。

 レオに合ったキーまで指示をしてくれた飯田に感謝すると、レオは高らかに宣言する。

 

「次こそ100点取って見せます!」

 

[お?]

[何歌う気だ?]

[100点宣言期待]

 

 水を飲み、軽く喉を鳴らす。

 調子を整えたレオは有名なCMソングを歌い始めた。

 

「ホントにホントにホントにホントにラ~イオンだ~♪」

 

[草]

[ネタ選曲じゃねぇか!]

 

「近すぎちゃってど~しよ~♪」

 

[カメラ寄るなwww]

[本当に近すぎて草]

[発想が天才のソレ]

[これは案件来るな]

 

「富士~♪ サファリパーク♪」

 

『100.000点』

 

「しゃぁぁぁぁぁ!」

 

 100点を取ったことで、レオはガッツポーズをとりながら勝利の雄たけびを上げた。

 長きに渡る地獄の時間を終わらせたことで、共演者達も一斉に立ち上がり喜びの声を上げる。

 

「やっったぁぁぁぁ!」

「やりましたね獅子島さん!」

「ぶっ、くくっ……本当に凄い人ですわね」

「認めよう貴様こそ王だ」

 

[うおおおおおお!]

[感動した。笑い涙で前が見えない]

[ガチライオンがガチだった件]

[ホントにホントにライオンだったな……]

 

 それからレオにとって予想外の知らせが入った。

 満面の笑みでカンペを掲げる飯田。そのカンペにはこう書かれていた――登録者数10万人突破、と。

 

「えっ、登録者数10万人突破!?」

 

[マジか]

[おめでとう! ¥50,000円]

[これはVの歴史に残る]

 

 しかし、カンペにはまだ続きがあった。

 

「はえ……? 夢美も登録者数10万人突破?」

 

[茨木夢美:何でだよ!]

 

[バラギいて草]

[旦那を見守る嫁の鑑]

[バラギおめでとう! ¥50,000円]

[まあ、元々10万目前だったからな]

[旦那効果で伸びたんだろ]

 

 最初の宣伝が効いたのか、夢美の登録者数も10万人を越えていた。途中、100点企画に飽きた者達が興味を持って、夢美のチャンネルを見に行っていたということもあるのだが。

 偉業を成し遂げたレオにイルカは朗らかな笑みを浮かべて言った。

 

「これはもう文句なしの優勝ですわね。獅子島さん、おめでとうございます。あなたがNo.1です」

 

[おめでとう! ¥10,000円]

[おめでとう! ¥20,000円]

[おめでとう! ¥30,000円]

[おめでとう! ¥10,000円]

 

「あら、赤スパありがとうございます。さて、無事レオさんが100点を取ったことですし、最後にもう一回〝富士サファリパークCMソング〟を歌って終わりにしましょう!」

 

[草]

[最後まで笑いを忘れないVtuberの鑑]

[ホントにそれで締めるのかよwww]

 

「さあ、コメント欄のみなさんもご一緒に!」

 

「「「「「ホントにホントにホントにホントにラ~イオンだ~♪」」」」」

 

 こうして〝Vtuber大集合!バーチャルカラオケ大会!〟は大盛況のまま幕を閉じた。

 イルカのチャンネルで行われたこの放送は同時接続10万人を越え、Vtuber界の伝説に残るのであった。

 

 




てぇてぇ成分が足りない……!次回こそは……!


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【襲来】無事に企画を終えて……

やっとバラギが出てこれた……。


「あの、イルカさん!」

「どうしましたか?」

「本日はありがとうございました!」

 

 配信終了後、レオはまっさきにイルカの元へと感謝の気持ちを伝えにいった。

 頭を下げるレオに対して、イルカは申し訳なさそうな表情を浮かべた。

 

「ごめんなさいね。あんな無茶な企画やっちゃって」

「いえ、俺は気にしてませんよ。だって本当にキツくなったら、本気出して100点取るつもりだったんですよね?」

 

「――――どうして」

 

 レオの指摘にイルカは驚いたように目を見開いた。

 

「カラオケはただうまいだけじゃ100点を取れない。けど、ポイントを押さえて〝100点〟を取るためだけの練習さえすれば、100点を取ることは歌唱力がある人間なら難しいことじゃない。本当はもののけ姫歌ったときに100点取るつもりだったんじゃないですか?」

「……100点を難しくないと言ってのけるあたり、あの〝シバタク〟ですね」

 

 どこか呆れたように笑うと、イルカは力なく笑った。

 

「私が世間で何て呼ばれているか知っていますか?」

「バーチャル四天王、ですよね」

「ええ、最弱のという枕言葉が付きますが」

 

 どこか悔しそうに言うと、イルカは自分の気持ちを吐露しだした。

 

「自分でもトップにいるには実力不足だとわかっているのです。今の私のキャラでは固定ファンこそついても爆発的な伸びはない。正直、タイミングが良かっただけだと自分でも思います」

「そんなこと……」

 

 イルカはVtuberという文化を作り上げた伝説のVtuberの一人だ。その功績は単純な登録者数で測れるものではない。それでも、四天王の中で自分だけが登録者数100万人を越えていないことは彼女自身気にしていたのだ。

 

「あるんですよ。かろうじて今はまだVtuberの登録者数ランキングで四位を守れていますが、いつ抜かれるかわかったものではありません。キャリアでかろうじて差をつけている状態なんですよ、私は」

 

 そこまで言うと、イルカは短く息を吐いてレオに向き直った。

 

「それでも、背負った看板を下ろすつもりは毛頭ありません。たとえそれが自分の実力に見合わない看板だとしても」

「イルカさん……」

「トップを走る者が背負う重圧は想像以上に重い。きっと彼女も……」

 

 どこか寂しそうに呟くと、イルカは最初に会ったときのように朗らかな笑みを浮かべた。

 

「それでは、私はこれで。かぐやちゃんによろしくね」

 

 スタジオを去っていくイルカの背中はその背丈以上に大きなものに見えた。

 イルカがスタジオから去ったあと、他の共演者達がレオの元へ寄ってくる。

 

「し、獅子島さん……今日はありがとうございました!」

「七色さん。こちらこそありがとうございました」

「私、自分に自信がつきました。今度、是非歌でコラボさせてください」

「ええ、こちらからお願いしたいくらいですよ」

 

 人前でも気にせず全力を出して歌えた和音は、きっかけとなったレオに礼を述べてコラボの申し出をした。

 

「レオ君!!! 今日はありがとね! マージで助かったよ!」

「但野さん、声が……いえ、気にしないでください」

「ライオンのままでもいいから3Dで一緒に踊ってみたとかやろうね!」

「あはは……できれば、今度はきちんとした姿でコラボしたいですけどね」

 

 相変わらずマイペースな友世は、カラオケ企画後だというのに、耳がキーンとなるような大声でレオにコラボの誘いをした。

 

「獅子島さん! 今日は本当に助かりました!」

「サタンさん、喉は大丈夫ですか?」

「まだ辛いですが、ゆっくり休めば大丈夫だと思います」

「無理だけはしないように気をつけてくださいね」

「ええ、ありがとうございます。今度、一緒にゲームやりましょうね!」

「あはは……きちんとスイッチ買っておきます」

「あれ、持ってなかったんですか?」

「剣盾はそのうちやろうかと思ってて……これでもブラックホワイト時代は世界30位までは行ったんですよ」

「えっ、すご!」

「アイドル辞めて暇でしたからね」

「り、理由が重い……と、とにかく、今度絶対コラボしましょう!」

「ええ、必ず」

 

 こうしてイルカ以外の全員がレオにコラボを申し込んだ。

 ここまで共演者が自分に寄ってくるのはいつ以来だっただろうか。

 どんなに成果を上げても誰も何も言わなくなったのはレオの傲慢さ故だ。

 レオはいかに礼儀が大事だったかを改めて再認識した。

 一通り共演者達と挨拶を終えると、今度はマネージャー二人がレオの元へと駆け寄ってきた。

 

「「獅子島さん、おめでとうございます!」」

 

 二人はまるで自分のことのようにレオの優勝を喜んでいた。

 

「しかし、結局また獅子島さんに任せっきりになってしまいましたね……」

「何言ってるんですか。今日俺は改めてマネージャーが飯田さんで良かったと思いました――これは俺達で掴み取った優勝です」

「――っ! はい!」

 

 飯田はレオの言葉に胸が熱くなるものを感じていた。

 少なくとも、アイドル時代のレオならばマネージャーに対してこのような言葉は出てこなかっただろう。

 笑顔を浮かべたレオは今度は亀戸の方へと向き直って礼を述べた。

 

「亀戸さんもありがとうございました。あなたの準備のおかげでサタンさんのフォローができました」

「いえ、そんな……」

 

 謙遜する亀戸にレオは彼女を激励するように言う。

 

「白雪のサポート、頑張ってくださいね」

「はい! 絶対白雪さんの担当に戻ってみせます!」

 

 全員の気分が高揚していることもあり、レオはマネージャー二人に向かって提案する。

 

「せっかくですし、このあと打ち上げ行きませんか?」

「ありがとうございます……でも、これから私会社に戻らなければならないので!」

 

 だが、亀戸はレオの誘いを断った。自分の意志が弱く流されやすい亀戸がこうもはっきりと飲みの誘いを断るのは珍しいため、飯田は驚いていた。

 

「今日は直帰の予定じゃなかったの?」

「じっとしていられないんです!」

 

 ふんす、と鼻息荒く亀戸は両手で握りこぶしを作る。

 

「あんまり残業すると諸星部長に怒られるよ」

「大丈夫です。資料を軽く纏めたら続きは自宅でやりますから!」

 

 亀戸に断られてしまったため、レオは苦笑しながら飯田へと話しかける。

 

「じゃあ、飯田さん。二人で行きます?」

「いやぁ……申し訳ないのですが、僕もちょっと用事がありまして……」

「はえ……?」

 

 さっきまでの興奮はどこへやら、マネージャー二人に打ち上げの誘いを断られたレオはしょんぼりとしていた。現実の彼に耳と尻尾があるなら垂れ下がっていたことだろう。

 そんなレオに飯田は笑顔で告げる。

 

「獅子島さん。むしろ今日は早く帰った方がいいことがあると思います」

 

 どこか含みのある笑顔を浮かべる飯田にレオは首を傾げた。

 

「本日はご一緒することはできませんが、最高のプレゼントになるかと!」

「は、はぁ……まあ、飯田さんがそう言うなら」

 

 違和感はあるものの飯田なりの祝い方で祝ってくれるのだろう。

 レオは飯田を信じておとなしく帰ることにした。

 長時間にわたる配信だったため、空はすっかり暗くなっている。

 自分の部屋の鍵を取り出し、ドアを開けると何故か電気がついていた。

 そのうえ、キッチンの方からは食欲を刺激する良い香りが漂ってきている。

 レオがドアを開ける音が聞こえたからか、キッチンの方からとたとたと――夢美が出てきた。

 

「あっ、レオ。おかえりー」

「はえ……?」

 

 そこには髪をポニーテールにしてエプロンを身に着けた夢美の姿があった。

 理解不能な状況にレオはしばらくフリーズしていたが、やっとのことで声を振り絞った。

 

「……何で俺の部屋に?」

「や、合鍵持ってるから」

「違う、そうじゃない」

 

 合鍵を持っているから部屋に入れるのはわかる。だが、レオが聞きたいのはどうしてわざわざ部屋で料理を作って待っていたかだ。

 

「いや、今日はレオが配信で遅くなるだろうから労ってやろうと思ってさ」

「別に今日くらいカップ焼きそばでも良かったんだぞ」

「……何であたしがカップ焼きそばが食いたくてしょうがない人みたいになってんの。てか、素直に女の子が料理を作って出迎えたことを喜べんのかお前は! あと登録者数10万人おめでとう!」

「お前もな」

「ほぼあんたのおかげだけどな!」

 

 レオのリアクションが薄いことが不満だったのか、夢美はヤケクソ気味に叫ぶ。ここまで半ギレでおめでとうと叫ぶ人間もなかなかいないだろう。

 一通りいつものようなやり取りをした後、レオは夢美の格好について突っ込んだ。

 

「それにしても、何でポニーテールとエプロン?」

「あー、これね。何かよっちんからカレーなら料理全然しないあたしでも失敗しないだろうから、って言われてカレー作ることにしたんだけど、カレーを作るなら髪や服が汚れないようにポニーテールとエプロンは必須だって言われてさー」

 

 絶対に汚れることが理由ではないことをレオは即座に察した。

 今の夢美はボリュームのある髪をポニーテールにしており、飾り気のないカエルの刺繍がされたエプロンを身に着けていた。

 そんな生活感溢れる夢美の姿は、誠に遺憾ではあるがレオ好みの姿をしていた。

 ふと、スマホが鳴る。RINEのメッセージが届いた音だ。

 送り主は飯田でメッセージ内容は『バッチリ仕込んでおきました!』という簡素なものだった。

 

 

 飯田ァ!

 

 

 レオは心の中でカプ厨マネージャーの片割れの策略に絶叫していた。

 飯田はレオを全力でサポートするために、常日頃から彼のことをよく理解するように努めていた。カラオケ企画の際には、レオが歌いやすいキーを把握していたことで、100点を取ることができた。しかし、しかしだ。

 誰がここまでやれと言った。

 レオは完全に嵌められたことを理解して項垂れていた。

 

「どったの?」

「何でもない。何でもないんだ……」

 

 夢美のことを素直に可愛いと思うことに対して、レオはどこか敗北感を覚えていた。

 

「それより早く食べなよ。あんだけ暴れ回ったんだからお腹空いてるでしょ?」

「ああ、腹ペコだったからちょうど良かったよ。ありがとな」

「どういたしまして」

 

 料理を作ってもらったため、皿などの準備はレオがやろうとしたのだが、疲れているだろうからと夢美が全てやっていた。

 改めて夢美に感謝しながらも、レオは久しぶりに食べる家族以外の女性の手料理に胸が躍っていた。

 ちなみに彼が最後に食べた家族以外の女性の料理は、料理番組で女子アナや女性アイドルが作った料理のことである。

 

「ほれ、召し上がれ」

「おー、うまそうな匂い」

「そりゃカレーだからうまそうな匂いになるでしょ」

「それもそうか。それじゃ、いただきます!」

 

 カラオケで100点を取るまで終われない、という地獄の企画を終えたレオはとても空腹だった。勢いよくカレーを口に放り込んだレオは、こりゅ! という固い感触を覚えて咀嚼をやめた。

 

「……夢美、具に何を入れたんだ」

「普通の野菜と肉だけど?」

「そうか……ちなみにどうやって作ったんだ?」

「普通に沸騰したお湯に、ルーと肉と野菜ぶち込んでルーが溶けるまで煮込んだよ」

 

 口の中に残る固いものの正体はほとんど煮えていないほぼ生のにんじんだった。

 カレーを作るときはまず野菜を煮込んでから作るものなのだが、夢美にその知識はなくカレーなら簡単だろ、となめてかかり、レシピを見なかったことがアダとなっていた。

 

「ふー……野菜スティックカレーと思えばワンチャン……」

「えっ、何かダメだった!?」

「いや、気持ちは嬉しいぞ、うん」

「一番ダメなときのフォローすな!」

 

 何とか褒めようとするレオに夢美は申し訳なさそうな表情を浮かべた。

 

「何かごめん……」

「いいっていいって。嬉しいのは本当だし、米とルーだけ食えば普通にうまいから」

「それ市販のルーがおいしいだけだよね!?」

「ま、野菜の煮込み時間が足りないなら煮込み直せばいいだけだ。明日にはおいしくなってるだろ」

「カレーは一晩置けばおいしくなるってそういうことか」

「違う、そうじゃない」

 

 レオとしては、普段全く料理をしない夢美が、自分のために料理を作ってくれたことだけで十分嬉しかった。野菜だって生でも食べられないわけではない。

 

「本当、わざわざありがとうな」

「いつものお礼だっての。気にしないで」

 

 レオと夢美は笑顔を浮かべ、米とルーだけをよそったカレーを食べだした。

 そんなとき、唐突にインターホンが鳴った。それはロビーにあるものではなく、ドアの横に設置されている方のインターホンだった。

 

「こんな時間に誰だ?」

「同じマンションの人じゃない? ロビーにはセキュリティあるし」

「ちょっと出てくる」

「いてらー」

 

 怪訝な表情を浮かべながらもレオはドアを開ける。

 するとそこには――

 

「よっ、拓哉! 久しぶりー」

「ね、姉さん!?」

 

 獅子島レオ――いや、司馬拓哉の姉である司馬静香が笑顔を浮かべて立っていた。

 

 




マネージャー陣のあだ名

四谷 よっちん

亀戸 亀ちゃん

飯田 飯田ァ! ←New


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【姉襲来】まさかの繋がり

「どうしてここに? 下のセキュリティは?」

「あー、下から部屋番号で呼び出そうと思ったけど、ちょうど入ってく人いたから一緒に入ったわ」

「いや、それ泥棒の手口……」

「それよりあんたいいとこ引っ越したわねー。港区でこんなマンション高かったんじゃない?」

「まあ、いろいろあってな……」

 

 玄関先で会話を続けるレオは歯切れ悪く答える。

 わざわざ自分の様子を見に来てくれた姉を追い返すわけにもいかず、かといって夢美が部屋にいる状況をどう説明したものかと迷っていたのだ。

 

「おっ、良い匂いするわね。今日はカレー?」

「ま、まあね」

「ん?」

 

 そこで静香は自分の足下に可愛らしいサンダルが置いてあるのを目敏く見つけた。

 

「誰かいるの?」

「あー、何というか、そのー……」

「ほほーう……」

 

 狼狽えるレオを見て静香は確信した。これは女だと。

 

「……しっかりと挨拶しないとね」

「ちょ!?」

 

 軽く身なりを整えると、静香は靴を脱いでレオの部屋へと上がった。

 

「おかえりー。結局誰だった……の?」

 

 スマートフォンをいじっていた夢美は、足音が近づいてきたことでレオが戻ってきたと思い顔を上げるが、知らない女性が目の前にいたことで目を白黒させた。

 

「はじめまして、拓哉の姉の司馬静香と申します。いつも愚弟がお世話になっております」

「へ?」

「あー……()()()。紹介する。俺の姉さんだ」

 

 レオに本名の名前を呼ばれたことで、夢美は状況を理解して慌てて立ち上がり、静香に挨拶をした。

 

「は、はじめまして中居由美子です。あの、えっと、その、レ――拓哉とは同じ小学校だっただけで、決して付き合っているというわけでは……!」

「由美子? 同じ小学校? あー! もしかして由美ちゃん!?」

「はえ?」

 

 静香は目を輝かせると、夢美の方へ駆け寄って抱きついた。

 

「わー! こんなに綺麗になっちゃってもう! 肌荒れはもう大丈夫なの?」

「えーと……あ、はい! 高校生くらいから完全に大丈夫になりました!」

「良かった……むしろ、私より綺麗なんじゃない? 本当に見違えたわねー」

 

 本当に嬉しそうにしている静香の反応は、夢美のことを昔から知っていた人間の反応に間違いない。

 レオは確認のために夢美に視線を送るが、夢美は静香に抱きつかれながらも首を横に振った。

 

「ね、姉さん、由美子と知り合いだったのか?」

「知り合いも何も小学校で同じクラブだったもの。由美ちゃん、私のこと覚えてないかな? 三桜小のパソコンクラブの二学年上の司馬静香」

 

 レオと夢美の小学校には、四年生からクラブ活動に所属するルールがあった。夢美は周囲から菌扱いされていたこともあり、料理クラブなどの衛生面に関わるクラブは避け、パソコンクラブに所属していた。ちなみにレオはスポーツクラブに所属していた。

 そこまで言われたところで、夢美はたった一年だけ、同じクラブに所属していた、唯一自分に優しくしてくれた先輩の存在を思い出した。

 

「あー! もしかして先輩ですか!? お久しぶりです!」

「思い出した!? 本当に久しぶりねー!」

 

 かつて世話になった先輩との感動の再会。夢美も静香のことを思い出したことで満面の笑みを浮かべたが、レオは困惑するばかりだった。

 

「まさか二人が付き合うとは思わなかったわ。うんうん、姉さんは嬉しいわ」

「いえ、だから付き合っているわけじゃ……」

「照れなくてもいいのよー。付き合ってもいない男の部屋ですっぴんかつ部屋着でくつろいで、手料理を振る舞うなんて普通しないじゃない」

 

((言われてみれば確かに……!))

 

 静香に指摘されたことで、レオと夢美は自分達の置かれた状況が特殊であることをようやく自覚した。慣れとは怖いものである。

 

「レ――拓哉、ちょっと」

 

 話がまずい方向に進みそうな空気を感じた夢美はレオを部屋の端まで連れて行って小声で話し始めた。

 

「……お姉さんにライバーやってること言ってないの?」

「……言うタイミングがなかったから言ってないんだ。姉さんは結婚して家出てたし」

「じゃあ、今から事情を全部話せよ……!」

「いや、身内バレはちょっと……」

「言ってる場合か……! このままだと、あんたの両親にあたし達が付き合ってるって報告されるじゃん……!」

 

 夢美としてはこれ以上外堀が固まるのは防ぎたいところだった。レオの両親だけでなく、自分の両親にまで伝わった日には結婚まで秒読みである。最終的にはいろいろ面倒になり、レオとならまあいいか、と自分が流されそうなことも理由の一つであるのだが。

 夢美はあくまでも、レオとは仲の良い同期でありたいと思っている。視聴者達も求めているのは、自然な距離感で仲の良い自分達であり、本当に結婚することは望んでいない――と、夢美は考えていた。

 二人がこそこそと話している様子を見て、静香はどこか呆れたようにため息をついた。

 

「拓哉のことだから、どうせお母さん達には話してないんでしょ? 気まずいのはわかるけど、ちゃんと会って話しなさいよ?」

 

 両親の話題を出されたことで、レオは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

 

「あんた両親と仲悪いの?」

「いや……まあ、な」

「拓哉がアイドルだったのは由美ちゃんも知ってるでしょ?」

「ええ、まあ」

 

 歯切れの悪いレオの代わりに静香が説明する。

 

「このバカ、現役時代はとことん調子に乗っててね。お母さん達にも偉そうな態度とってたのよ。何か注意しようものなら『文句があるなら俺より稼いでから言えば?』とかほざく始末でね」

「うっわ」

「…………いや、まあ、うん」

 

 とてもじゃないが育ててくれた親に対する態度とは思えないレオの当時の発言に、夢美は引いていた。レオもそれはわかっているのか、気まずそうに目を伏せた。

 

「お母さん達もこいつがなまじ稼いでくる分、強くは言えなくてね。拓哉が芸能界に居場所がなくなってやめたときも責任感じちゃってさ」

 

 もっと息子の態度を強く諫めていれば。

 アイドルをやめて抜け殻のようになったレオを見ていた両親は、増長した息子を止められなかったことを深く後悔していた。

 

「で、拓哉は拓哉でさんざん強気な態度を取っていた分、お母さん達といるのは気まずくて、逃げるように一人暮らしをしてるってわけ。お母さんから聞いたけど、あんた家出てから一度も実家帰ってないんでしょ? 毎月毎月、口座にお金だけ振り込まれてるって嘆いてたわよ」

「……今更どの面下げて会えばいいんだよ」

「その無駄に整った面下げて会えばいいのよ。ったく、肝心なところでヘタレなんだから」

 

 いまだに実家に帰ることを渋るレオに、静香は呆れたようにため息をついた。

 

「そういえば、拓哉。あんた今何やってるの?」

「ユ、ユーチューバー的な……痛っ」

「……おいコラ」

 

 あくまでもライバーであることを隠そうとするレオ。そんな彼の背中の皮を不満そうな表情で夢美はつねった。

 

「へー、私U-tubeはニヤニヤ時代の実況者の動画しか見ないのよねー。あんた有名なの?」

「登録者数はまあ、それなりに……」

 

 10万人はそれなりどころではない。

 歯切れの悪いレオに、静香は察したように言った。

 

「ま、私に見られるのも気まずいだろうし、探さないでおくわ」

「……助かる」

「てか、あんたユーチューバーなら〝ゆなっしー〟が今何してるか知らない?」

 

 レオがユーチューバー(本当はバーチャルライバーだが)だと知った静香は、自分が気に入っていた実況者のことをレオに聞いた。

 

「ゆなっしー?」

「ニヤニヤ動画で凄い好きだった実況者なんだけど、活動休止してるみたいでさー。名前変えてU-tubeで活動してたりしないかなって。あの人の動画、編集も丁寧で凄い好きだったんだけどなぁ……」

「わかった。知り合いに元実況者だった奴がいるし、今度聞いてみるよ」

 

 ちなみに、レオは知り合いの元実況者――林檎がそのゆなっしー本人であることは知らない。

 

「ま、何にせよ、元気そうで安心したわ。由美ちゃんにも会えたし」

 

 穏やかな笑みを浮かべると、静香は玄関の方へと歩き出す。

 

「今日はたまたまこの辺で仕事があったから寄ったけど、次からはきちんと連絡してから来るようにするわ。若いお二人の邪魔しちゃ悪いし」

「姉さん、俺達本当に付き合ってるわけじゃなくて……」

「わかってるわかってる。今はそういうことにしといてあげる」

 

((全然わかってない!))

 

「じゃ、また来るわ。由美ちゃんも、今日は久しぶりに会えて嬉しかったわ」

「あ、はい! あたしも嬉しかったです!」

 

 最後に、お母さん達には自分で言うのよー、と言葉を残して静香は帰っていった。

 ドアが閉まり、しばしの沈黙の後、夢美はレオに貼り付けたような笑顔を浮かべていった。

 

「ねえ、何かあたしに言うことない?」

「……マジでごめん」

 

 怒りのオーラを纏いながら笑顔で仁王立ちする夢美に、レオはただただ謝罪するのであった。

 

 






尊大な羞恥心「やあ」


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【みんな祝って!】10万人記念凸待ち! その1

遅くなりました。

※掲示板の回で逆凸と凸待ち間違えてたので、修正しました。すみません……。


『視聴者巻き込み型企画のコツ!?』

「え、ええ、但野さんはそういう企画をよくやってるので、アドバイスなどいただければと思って……」

 

 レオのチャンネルは登録者数10万人を超えた。

 にじライブや他の企業Vtuberでもそうだが、登録者数10万人というのはある種の中間目標として捉えられている。

 どうせならいつも応援してくれる袁傪達に最高の時間を届けたい。

 そう考えたレオは、先日のカラオケ企画で仲良くなった但野友世に相談を持ちかけていた。

 

『アタシはよく音声データとか募集してるよ! モノマネ対決は結構盛り上がったかな!』

 

 友世の配信はゲーム配信を含め、視聴者をとにかく巻き込むスタイルのものが多い。

 一緒にゲームをやったり、決められたお題のモノマネの音声データを募集して対決し、視聴者に判定をしてもらったりするなどして、視聴者は女友達と一緒に遊んでいるような感覚を味わえるのだ。

 それこそが人気Vtuber但野友世の人気の理由だった。

 

「音声データの募集か……」

『リスナー参加型やるなら一体感は大事にしなよ! もらった音声データとかはただの素材じゃなくて、リスナーの分身なんだからね!』

「リスナーの分身……ありがとうございます、但野さん」

『堅っ苦しいのは無し! 友世って呼んでよ!』

「あはは……はい、友世さん」

 

 こうして友世のアドバイスのおかげで何をやるか、レオの中で企画が固まった。

 レオはツウィッターで「その声は、我が友、李徴子ではないか?」という一文を読み上げた音声を募集した。

 

「ん? 白雪から通話?」

 

 さきほどまで友世と通話していたため、気がつかなかったが、スマートフォンの通知を見てみると林檎から不在着信がきていた。

 すぐに折り返すと、コールを待たずに林檎が出た。

 

『もしもしー?』

「もしもし? 悪い。通話中で気づかなかった」

『気にしないでー。それより、今日はバラギの10万人記念枠じゃん?』

「ああ、そうだな。白雪も凸するんだろ?」

 

 レオと夢美はほぼ同時に登録者数10万人を達成した。

 夢美は元々10万人目前ということもあり、レオと違って予め何をやるか決めていた。

 夢美は今日の配信で凸待ち枠を行う予定だった。

 凸待ち枠とは、他の配信者から通話がかかってくるのを待ち、お祝いの言葉をもらい会話をする配信のことである。

 多くのライバー達が行う配信形式ではあるが、下手をすると誰もかけてこないという悲しい事態が発生することになる、人望が試される配信でもあるのだ。

 

『そのつもりだったんだけど、良いドッキリを思いついてさー』

「またドッキリか……」

 

 相変わらずドッキリに抵抗のあるレオは、林檎の提案に難色を示した。

 しかし、林檎はそんなことは既に織り込み済みだった。

 

『大丈夫大丈夫、今回のはレオもきっと気に入ると思うから』

 

 電話口の向こうで、にしし、と楽しそうに笑うと、林檎はレオに夢美に行うドッキリの内容を伝えた。

 

「――なるほどな。それなら俺も喜んで協力するよ」

『オッケー。じゃあ、よろよろー』

 

 林檎から聞かされた内容は、レオとしても好みの内容だった。

 林檎との通話を切ったレオは早速準備に取りかかることにした。

 

 

 

 

 

「シャァァァァ! 10万人じゃゴルァァァァァ!」

 

[開幕大絶叫で草]

[にじライブにまた伝説が増えた]

[こいつらいっつも伝説作ってるな]

[伝説代 ¥50,000円]

 

 夢美の配信が始まるのと同時に、大量のスーパーチャットが飛び交う。

 

「……はい。というわけで、こんゆみー。今日は凸待ち枠だよ」

 

[急に落ち着くな]

[何がというわけなのか]

 

 挨拶もして一段落付いたため、夢美は改めて妖精達に礼を述べた。

 

「いやぁ、マジでみんなありがとうね。まさか二ヶ月で10万いくとは思わんかったわ」

 

[にじライブが有名になってきた頃のまひるちゃんでさえ四ヶ月でかかったところ二ヶ月でいくのはやばい]

[収益化に続き登録者数でもRTAする女]

[登録者数10万人RTA最速記録はバンチョーの一ヶ月だぞ]

[いかにバンチョーが狂ってるかわかる]

[カラオケ大会からハマり、アーカイブで沼に落ちました]

[レオ君にも感謝しろよー]

 

「もちろん、レオにも感謝してるよ。あいつがいなかったら正直ここまでこれてなかったと思うし。凸待ちやってるのも最悪、誰も来なくてもレオだけは来るだろうからやったとこはある」

 

[バラレオてぇてぇ ¥10,000円]

[お互いに支え合ってる感あってすこ]

[素直に感謝しててえらい]

 

 一通り最初に言うべきことも言ったため、早速夢美は凸待ちを開始することにした。

 にじライブのThiscodeグループには、ライバー同士の連絡用グループが存在する。

 そのため、面識のないライバー同士でも連絡を取ることは可能なのだ。

 

「さて、今から凸待ち開始――ヴェッ!? もう来た!?」

 

[早すぎて草]

[今、カエルが潰れたみたいな声出たぞwww]

[にじライブ内でもすっかり人気者だな]

 

「も、もしもし?」

『こんまひ、こんまひ! こんまひー! バラちゃん、おめでとー!』

「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛! ま゛ひ゛る゛ち゛ゃ゛ん゛た゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!」

 

[初手限界化]

[まあ、そうなるよな]

[推しが一番に凸してくる女]

 

 夢美の枠に真っ先に凸してきたのは、夢美の憧れのライバーであるまひるだった。

 夢美は慌ててまひるの立ち絵を表示した。

 コラボしようという話はしていたものの、まひる自身スケジュールがぎっしり詰まっている身だったため、なかなか夢美とのコラボは実現していなかったため、まひるが真っ先に凸してきてくれたことに夢美は歓喜していた。

 

『コラボしようって話してたのに、なかなかできなくてごめんねぇ』

「これ実質コラボだから大丈夫!」

『ハードルが低いねぇ。ちゃんとスケジュール調整するから妥協はしちゃダメだよ?』

「あ、ああ、ありがとごじゃます!」

 

[久々のバラまひてぇてぇ]

[何だかんだでこの二人の組み合わせもすこ]

[良い先輩だなぁ]

 

『まあ、これからもまひるのことは、お姉ちゃんとでも思って仲良くしてね!』

「お姉ちゃんだと! まさか年下の姉ができるとは……!」

 

[お前は何を言ってるんだ]

[年下の姉www]

[年下の姉を手に入れた勝ち組]

[焼き林檎も手に入れてるんだよなぁ]

[速報、バラギまひるちゃんより年上だった]

 

 姉というワードが出たため、夢美はまひるとの話題を盛り上げるためにレオの姉の話をすることにした。

 

「そういえば、久しぶりにお姉さんと会ったんだー」

『ん、バラちゃんお姉ちゃんいたの?』

「や、あたしのじゃなくてレオのお姉さん」

 

[ガタッ]

[その話詳しく!]

[素材提供助かる]

 

 普段からレオと夢美の関係性が好きな妖精達は、降って沸いた新たなてぇてぇの予感に胸を膨らませた。

 

『レオ君とは元々幼馴染みだっけ。事務所でも仲良さそうだったもんねぇ』

「あはは……あたし達からすると普通に接してるだけなんだけどね」

『でも、どうしてレオ君のお姉さんと会うことになったの?』

「あいつが全然実家に帰ってなくて、心配で様子見にきたみたい。家が近所だからたまたま会ったの」

 

[そういや家近所だもんな]

[姉も優しい]

[ぐう聖姉ライオン]

 

 同じマンションで部屋が隣同士ということは隠している夢美は、静香との出来事をぼやかして話し始めた。

 

「小学校のとき凄くお世話になった人だから会えて嬉しかったんだけど……」

『だけど?』

「あたしとレオが付き合ってるって誤解しちゃって、違うって言っても信じてもらえなかった……」

 

[草]

[俺達だって信じてないぞ]

[外堀埋まり出したな]

 

『えっ、付き合ってないの? あんなにてぇてぇのに!?』

「違うよ!? まさかずっと誤解してたの!?」

 

[まひるちゃんwww]

[まひるちゃんにまで付き合ってると誤解されてて草]

[推しを自分のCPの沼に落とした女]

 

 まひるは何度か事務所内で仲睦まじいレオと夢美を見ていたため、すっかり彼らが付き合っているものだと誤解していた。

 

「まあ、レオが身バレしたくないからって言うから、詳しい事情話すわけにもいかなくて、結局お姉さんには誤解されたまんまだったんだよね……」

『大変だったねぇ。まあ、まひるも弟いるから、弟にバラちゃんみたいな可愛い彼女出来たら嬉しいって気持ちはわかるけどね』

「まひるちゃん、弟いたの!?」

 

[バラギの見た目保証助かる]

[新情報きちゃ!]

[よくやったバラギ ¥5,000円]

 

 まひるは今まで弟がいるという話はしたことがなかったため、夢美を含め妖精達は驚きを隠せなかった。

 

「だからお姉ちゃんっぽいんだ……」

『子供っぽいせいで、よく姉弟逆に間違えられるけどねぇ。バラちゃんは兄弟いないの?』

「妹ならいるよ。今、小学生だけど」

『年結構離れてるねぇ。バラちゃん、小さい子好きだから嬉しいんじゃない?』

「いやいや、さすがに妹は対象外だって」

 

[何、常識人っぽく言ってんだ]

[妹じゃなくてもアウトなんだよぁ]

[まひるちゃん気をつけろ。君は対象内だ]

[妹はライバーやってること知ってるの?]

 

「知ってるよ。実家帰ったときはよく一緒に遊んでるし、仲は良い方かな」

 

 夢美には15歳離れた妹がいた。

 夢美は盆と正月に実家に帰る度に、妹と一緒に遊んであげていたため、妹からはよく慕われていた。

 

『小学生だったら周りに自慢したくなっちゃうんじゃない?』

「ゴミカス死ねって叫ぶ姉を自慢したいと思う?」

 

[草]

[妹ちゃん強く生きて……]

[俺だったら自慢するわ]

 

 それからまひるとの会話は盛り上がった。そろそろ尺を気にしだしたまひるは、通話を切ることにした。

 

『じゃあ、そろそろ他の人に譲らないと行けないから切るねー』

「他の人? あ、まひるちゃん、ありがとうね!」

『うん! またねー!』

 

 こうしてまひるとの通話は終了した。自分の憧れのライバーが逆凸をしてくれたことで、夢美は満たされた気持ちになっていた。

 

「まひるちゃん来てくれてマジで嬉しかったわ。一発目からこれはかなり幸先いいんじゃない? じゃあ、また待ってい――」

 

 余韻に浸りながら感想を述べようとした夢美だったが、即座にThiscodeの通知音が鳴り出す。

 慌てて通話を繋げると、耳を劈くような叫び声が響き渡った。

 

『シャアァァァ! やったで!』

「ひっ」

 

[初手威圧で草]

[相変わらずビビり散らしてる]

[バンチョーが乗り込んできた!]

[初代清楚()枠VS三期生期待の清楚()枠]

 

 次にかけてきたのは、にじライブ一の登録者数を誇る看板ライバーであるかぐやだった。

 

「バ、バンチョー? いきなりどうしたんですか?」

『いやぁ、すまんすまん。今、にじライブのライバー内で誰が先にバラギに繋げるか競い合いになっててな』

「ヴェッ!? 何ですかその状態!?」

 

[にじライブ内でバラギの取り合いが発生してるってマ?]

[バラギはレオ君のもんやぞ!]

[相変わらず潰れたカエルみたいな声出すなぁ]

 

 そう、現在夢美が凸待ち配信を行っていることで、にじライブのライバー――レオと林檎を除いた総勢12名がひたすら夢美に通話をかけている状態になっていたのだった。

 

 




今日から旅行に行くので、明日の分は更新できるかわからないです。
一応、出先でも書けるようにノートパソコンは持ち歩いているので、できたら更新します。


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【みんな祝って!】10万人記念凸待ち! その2

ただいま戻りました!




『にしても、バラギがここまで伸びてウチは嬉しいで』

 

 まひるの次にかけてきた、かぐやは本当に嬉しそうにそう言った。

 

「あ、ありがとうございます。でも、あたし達キチンと絡むの初めてじゃないですか?」

 

 先輩に祝福されて嬉しい気持ちはあるものの、コメント欄以外では全く絡んだことのないかぐやに祝われたことで、バラギは少し戸惑っていた。

 

『後輩ライバーに伸びて欲しいと思うのは当然やろ?』

 

「バンチョー……ありがとうございます!」

 

[怖いだけでいい人なんだよなぁ]

[にじライブあったけぇや……]

[俺も職場にこんな先輩欲しかった……]

 

 かぐやはにじライブ内でも後輩思いなことでも有名だ。

 配信上ではよく怒声を轟かせたり、奇行に走っているイメージが強いが、裏では礼儀がしっかりしていて、人間関係には人一倍気を遣っているのだ。

 

『本当はウチもあんたとコラボしたいんやけど、なかなか時間取れなくてすまんなぁ。いろんな企画平行して準備してることもあってしばらくは無理そうや』

「めちゃくちゃ案件の配信やってるし、番組も持ってるんですからしょうがないですよ。たまにコメント欄に来てくれるだけでも嬉しいです! 今度はリアルでも是非お会いしたいです!」

『……せやな。事務所で会うこともあるやろうしな。そのときを楽しみにしてるで。これからも見守ってるから、頑張るんやで』

「はい!」

『じゃ、ウチはこの辺で。またな』

 

 次に待っているライバーがいるため、かぐやは祝福の言葉をかけて、そうそうに通話を切った。

 

「まさかバンチョーまで来るとは……。さて、次は――だから早ぇよ!」

 

[さて、激しい凸戦争を勝ち抜いたのは誰だ?]

[にじライブのライバー全員が必死にバラギにかけてると思うと笑う]

[愛されてるなぁ]

 

『おはきびだんごー。はじめましてだね、吉備津桃花でーす』

「あ、桃タロスだ」

 

[初見桃タロス呼びは草]

[やべえのが来てしまった……]

[絶対バラギと会わせちゃいけないライバーNo.1]

 

 かつて事務所の方針でコラボが増えることになる予定だったライバー吉備津桃花。

 彼女が現れたことで、コメント欄はざわつき始めた。

 

「はじめまして、いつも楽しく配信を拝見させていただいております」

『何でそんな棒読みなのさ?』

「いや、10万人記念枠BANされたくないなーって身構えてました」

 

[そりゃ身構えるよなぁ]

[バラギも結構配信で下ネタ言う方だけど、桃タロスほどじゃないからなぁ]

[大丈夫? 突然AVの音声流したりしない?]

 

 何せ桃花は普段から性的な話題を積極的にしていくので、加減を間違えて何度も炎上しているのだ。

 下ネタを言っても、最低限のラインに気を遣っている夢美としては気が気でないのである。

 

『ああ、そうだ。10万人おめでと』

「はい、ありがとうございます」

 

[塩対応で草]

[こんなに抑揚のない声出すの初めてだなw]

[バラギがここまで警戒するってだけでやばさがわかる]

 

『そんなに警戒しなくても10万人記念なんだから、やばい話なんてしないわよ』

「……本当に?」

『マジだって。ところで前から聞きたかったんだけどさ――好きな体位は?』

「もうやだこの人!」

 

[これは酷い]

[バラギが泣いて逃げ出す下ネタ女]

[急いで通話を切るんだ! 間に合わなくなっても知らんぞ!]

 

 しかし、最初こそ下ネタ魔人として有名な桃花を警戒していた夢美だったが、話している内にあっという間に打ち解けていき、会話内容はどんどん下世話な方向へと向かっていった。

 

『なあ、全裸と着衣だったらどっちのシチュが好き?』

「着衣かなー」

『マジで!?』

「何かそっちの方が興奮しない? あっ、二次元の女の子限定だけど」

『あー、そっちか。てっきり獅子島君とそういうプレイしてるのかと』

「だから付き合ってないって!」

『ごめんごめん冗談。私も赤哉とよくそういう話出るから、二人が付き合ってないのはわかってるって』

 

[すっかり意気投合しやがったぞこいつら!]

[誰か赤鬼とライオン連れてこい!]

[たぶん二人共必死に通話ボタン押してるんだよなぁ]

[男性陣の胃がマッハ]

 

 それから話は進み、話題はそれぞれ組むことの多い、レオ、赤哉の話に変わっていった。

 

『てかさー、赤哉と実際仲は良いけど、結婚相手として考えたらどうよって話よねー』

「名板さん、優しいと思いますけど」

『いや、あいつ私には結構当たり厳しいぞ』

「あー、レオも褒めるときも絶対何かしら憎まれ口叩きますよ。こっちとしては素直に褒めて欲しいときもあるんですけどねー」

『わかる! 絶対素直に褒めないよね!』

 

[下ネタ談義かと思いきや突然のてぇてぇ]

[女子会で彼氏の愚痴を言ってるようにしか見えない]

[さすがはにじライブ男女CP代表だな]

 

『ちょっとムカついたから、今度ドッキリしかけようと思っててさ』

「ドッキリ?」

『通話繋いだ時に『バスタオル取ってー!』って呼びかけるっていうドッキリ』

「ぎゃはははは! それやばいですね! 同棲疑惑でて炎上まで見えましたよ!」

『でも、私らなら炎上しない気もするんだよね』

「あたしもレオに仕掛けてみようかな。たぶん、あたし達なら100%炎上しないんで」

 

[だろうね]

[レオ君とばっちりwww]

[あかやんもとばっちりなんだよなぁ]

[あかやんとレオ君の受難は続く]

 

『おっと、ちょっと長話しすぎたわね。次の人に譲るから、続きはまた今度話しましょ』

「了解です! ありがとうございました!」

 

 のちにこの二人の会話部分は切り抜き動画がたくさん作られるのだが、再生数は他のライバーとの会話部分の切り抜きよりも圧倒的に多かった。

 もしも、レオとの炎上事件がなければこの二人のコラボが増えていたわけだが、ある意味事務所の方針は間違ってはいなかったと言えるだろう。

 

「いやぁ、桃タロスやばかったな。マジで」

 

[お前も十分やばいぞ]

[人の振り見て我が振り直せ]

[混ぜるな危険、という言葉の意味がよくわかった]

 

「それじゃ、次は――」

 

 それからはにじライブ所属のライバー達は夢美へとどんどん通話をかけていった。

 夢美も捌き切れるか不安だったが、夢美よりも経験豊富な先輩ライバー達は適度に配信を盛り上げて早々に次のライバーへと繋げていた。

 

「……しかし、マジで先輩達が全員かけてくるとは思わなかった」

 

[そうやってお前はまたすぐに伝説を作る]

[一期生と二期生全員に登録者数10万人を祝われた女]

[一期生ってもうバンチョーしか残ってないんだっけ……]

[かっちゃんはほぼ活動休止、姫ちんは引退だもんな]

 

「おっ、また通話が――ヴェッ!?」

 

 一期生、二期生の全てのライバーとの通話を終えたことで夢美は次に通話が来るのはレオか林檎だと思っていた。

 それゆえ、自分に通話をかけてきた相手が誰かわかった瞬間に、驚きの声を上げてしまったのだ。

 

『やあ、はじめましてだね』

 

[!?]

[!?]

[!?]

[この声、まさか!]

 

『どうも、こんにちポンポコー! 久しぶりの登場の狸山勝輝(たぬやまかつき)ですよー、茨木君ははじめましてだね』

「は、はじめまして茨木夢美です。えっ、ていうか…………え?」

 

[そらまったく活動してなかった先輩が10万人祝いに来たらビビる]

[マジでかっちゃんなんか!]

[活動休止じゃなかったの!?]

 

 狸山勝輝。にじライブが発足してから最初にデビューした三人のライバーの内の一人だ。

 一期生の中で唯一の男性ライバーということもあり、かぐや達女性ライバーとの絡みは少なかった。それ故、当時知名度はそこまででもなかった。

 しかし、勝輝は男性Vtuberの存在がメジャーではなかった頃に、男性Vtuberにも面白い人はいるということを知らしめた立役者なのだ。

 一年前ほどからリアルが忙しくなるため、ほとんどライバーとしての活動はできなくなると発表し、それ以来彼が配信をすることはなかった。

 そんな幻の一期生が自分の配信にやってきたことで、夢美の思考は完全に停止していた。

 

『心配かけてごめんなー。リアルが忙しくて全然ライバー活動はできていないけど、これでも現役ですよっと』

「えっ…………え?」

 

[まだ混乱してて草]

[幻の一期生きたらこうなるわ]

 

『いやぁ、驚かせて悪いね。茨木君のことはかぐや君から話はよく聞くし、切り抜き動画もちょくちょく見てるから知ってはいたから、せめて一言お祝いしたくてね』

「――はっ、あ、ありがとうございます! まさか、あの〝かっちゃん〟先輩に祝ってもらえるとは思ってなかったので光栄です! 配信の方は全然見てなかったんですけど、凄い人だってことは存じていました!」

『はははっ、素直な子だね。ありがとう』

 

 夢美の正直な言葉に、勝輝は楽しそうに笑う。

 

『長くなってもあれだから、最後にこれだけ言って終わりにするよ。これからライバーをやっていく上で辛くて苦しいことはたくさんあると思う。そんなときは、事務所や周りのライバーを頼りなさい。君が笑顔でいることは事務所、ライバー仲間、そしてリスナーが何よりも望んでいることだ』

「はい! ありがとうございます!」

 

[あれ、視界が歪んで前が見えない]

[かっちゃんもいろいろあったもんな……]

[姫ちんのことは辛かったよな……]

 

『それじゃ、僕はこの辺で失礼するよ』

「本日はお忙しいのにわざわざ来ていただきありがとうございました! あたし、頑張ります!」

『うんうん、これからも応援しているよ』

 

 勝輝との通話が切れる。

 夢美は彼に言われた言葉を噛み締めていた。

 辛くなったら周りを頼る。それは幼少期、孤独を感じて生きていた夢美にはあまりない発想だった。

 そして、自分がいかに周囲に支えられてこの場所に立っているかを再認識した。

 

「……いつかまた話してみたいな」

 

[レオ君もだけど、どうして男性ライバーはぐう聖な連中ばかりなのか]

[これワンチャン姫ちんも来るのでは?]

[引退したライバーはこれないだろ]

 

「かっちゃん先輩。とてもためになるお言葉をかけてくださりありがとうございました。それじゃ、残り二人で凸待ちコンプだから、レオと林檎ちゃん凸してくれ」

 

[ガチャみたいに言うんじゃない]

[二人に対する信頼感すこ]

[デビューしてからしばらくはバラレオと焼き林檎って感じだったけど、最近は三人セットも増えたよな]

 

 レオ、林檎を除いたにじライブ所属ライバー全員と通話を終えた夢美は、画面の向こうで自分の配信を見ているであろうレオと林檎に呼びかける。

 

 しかし、五分以上経ってもレオと林檎が通話をかけてくることはなかった。

 




やっぱり登場人物が多いと、なかなか一話で纏めるのは厳しいですね。
次回で10万人記念枠は終わりになります。


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【みんな祝って!】10万人記念凸待ち! その3


もうちょっとで、ストーリーが動き出せそう。



「レオ? 林檎ちゃん? もう全ライバーと通話したからかけてきていいんだぞ? ねえ、まだ寝る時間じゃないでしょ? マジでどうしたん?」

 

[不安になってて草]

[焼き林檎のことだから焦らしてる説]

[レオ君なら真っ先にかけてきそうだけど……]

 

「いやいや、林檎ちゃんならワンチャン寝てる説あるけど、レオなら来る……ねえ、マジで何してるの? 早く来てよ……ねぇ」

 

[珍しくしおらしいな]

[そりゃ絶対来ると思ってた人が来ないんだから寂しいでしょ]

[泣きそうになってるやん]

[レオ君バラギ相手にはSなとこあるからワンチャンしおらしいバラギ見て楽しんでる説]

[解釈不一致]

[レオ君ならバラギが泣きそうなときは飛んで駆けつけるでしょ]

 

 仲の良い同期二人が通話をかけてこないことに夢美は軽くショックを受けていた。

 そんなとき、玄関からインターホンの音が聞こえてきた。

 

「まさかまたドッキリとか――ん? インターホン鳴った?」

 

[こんな時間に来客ってあるのか]

[密林か?]

[おいおい、もしかして……]

 

「ごめんちょっと出てくる」

 

[おい、マイクミュートにしておけ]

[いや、むしろミュート忘れはグッジョブな予感]

[レオ君ならやりそうだよな]

 

 夢美は怪訝な表情を浮かべて玄関へと向かう。

 恐る恐る扉を開けてみると、そこにはレオと林檎が満面の笑みを浮かべて立っていた。

 

 

「「こんばんはー」」

 

 

「……………………え?」

 

 レオはともかくどうして林檎ちゃんまで?

 予測不能の事態に夢美はフリーズした。

 

「ほらほらー、ここからじゃ音声入らないからマイクの前までいくよー」

「んじゃ、お邪魔します」

「ど、どうぞ?」

 

 言われるがままに夢美は二人を部屋の中へと招き入れる。ちなみに、最近の夢美の部屋はレオや様子を見にきている四谷の手によってそれなりに片付けられている。片付けた傍から夢美が散らかすため、足の踏み場がある程度の散らかり具合で留まってはいるのだが。

 マイクが音を拾うであろう位置にいくと、二人はタイミングを合わせてクラッカーの紐を引いた。

 

 

「「登録者10万人おめでとう!」」

 

 

[ちょっと待て、レオ君も白雪もリアル凸してんの!?]

[その発想はなかった]

[そういやレオ君とバラギって家近所なんだっけか]

[だからってリアルで凸するか普通!?]

[三期生てぇてぇ…… ¥4,000円]

 

 先輩ライバーとの通話でも予想外の事態は発生していたが、レオと林檎が自分の部屋にやってきて祝ってくれるとは夢にも思っていなかった夢美は――泣き始めた。

 

 

「……ぐすっ……えぐっ……レ゛オ゛ぉ゛、林゛檎゛ち゛ゃ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ん゛……!」

 

 

「「ちょ!?」」

 

 これに焦ったのはレオと林檎の方だった。

 

「待て待て泣くな泣くな! ほら、これ! 10万人記念のお祝いにケーキ焼いてきたんだよ、シフォンケーキ! お前、生クリームとか甘いの苦手だから甘さ控え目に作ってあるぞ!」

「こ、紅茶もあるよー! ほらこれ、イギリス王室御用達のおいしい奴! 今日のために買ってきたから、これ飲んで落ち着いてよ!」

 

[これは泣くだろ……]

[レオ君、ケーキ作れるの!?]

[これで泣くなって方が無理]

[何気に白雪持ってきたの高級茶葉やんけ!]

[二人共めちゃくちゃ焦ってて草]

[ああ、てぇてぇ……てぇてぇだよ! ¥10,000円]

 

 レオは林檎から『通話ではなく実際に夢美の元へお祝いしにいくドッキリ』を聞かされたときから準備したシフォンケーキを、林檎は行きつけの紅茶専門店で購入してきた緑色の缶や箱が特徴的な高級ブランドの紅茶を、それぞれ夢美へと見せる。

 しかし、夢美は泣き止むことはなく、それからしばらく泣き続けていたため、レオと林檎が彼女に代わって配信上で場を繋ぐことにした。

 

「妖精のみなさん、こんばん山月! 獅子島レオです!」

「妖精のみんなー、おはっぽー。白雪林檎だよー」

 

「「せーの……ドッキリ大成功!」」

 

[かつてVの間でここまでてぇてぇドッキリがあっただろうか]

[ドッキリっていうより、海外のサプライズが近いかもな]

[まさか直接部屋に行くとは思わなんだ]

[これはいいものだ ¥6,000円]

 

 夢美の配信上でドッキリの成功を宣言するレオと林檎は予想外の展開に焦っていた。

 通話をせずに少し焦らしてからリアルで凸をするというこのドッキリ。

 二人は夢美が「めっちゃ焦ったじゃん!」と笑いながら怒るというリアクションをすると思っていたのだ。

 それがまさかの号泣。焦らないわけがなかった。

 そして、感極まった夢美は勢いのままに目の前にいる人物――レオに抱き着いた。

 

「うっ、ぐすっ……う゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ん゛!」

 

「ちょ、は、えっ!? おいおいおいおいおい、何抱き着いてんだ!?」

「ほ!?」

 

[ファッ!?]

[ガタッ]

[あ゛(絶命)]

 

 レオと白雪の様子や物音で何が起こったか察した妖精達は、一斉に盛り上がり始める。

 無理もない。普段は自然な男女のやり取りを楽しむ程度の彼らに、これは少々刺激が強すぎたのだ。

 

「待て待て待て! これはまずいから! マジで落ち着いてくれ! 白雪、フリーズしてないで助けてくれ!」

「ああ……私、今満たされてるわー……てぇてぇだよ……」

 

「白雪ィィィィィ!!!」

 

[レオ君大絶叫で草]

[白雪の放心状態も致し方なし……これはてぇてぇが過ぎる]

[うっ(心停止)]

[この尊さは、まだガンには効かないがそのうち効くようになる]

 

「なあ、夢美。頼むから落ち着いてくれ。何も泣くことはないだろ?」

「泣゛く゛に゛決゛ま゛っ゛て゛ん゛だ゛ろ゛! ふ゛っ゛飛゛ば゛す゛そ゛!」

 

[泣きながらキレてて草]

[抱き着きながら言っている台詞とは思えないwww]

[また一つここに名言が生まれたのであった]

[俺達だって泣いてるんだぞ!]

 

 それからひとしきり叫んだ夢美は、ある程度落ち着いたのか、真っ赤な目元をこすりながら、どこか拗ねたよう頬を膨らませていた。冷静になった途端、自分の行動が恥ずかしくなったのだ。

 

「……てか、そもそもレオが祝うのおかしくない? あんただって10万人突破したじゃん」

「おかしくないだろ。夢美がいなかったら俺はここまで伸びなかったし、夢美がいたからまた人前で歌うことができた。ただおめでとうって言うだけじゃ、気が済まなくてな」

「だから、このドッキリを企画したってわけだねー」

 

 林檎はレオの言葉に便乗して、企画者をレオということにしようとしていた。

 しかし、レオは呆けた顔で林檎に言った。

 

「何言ってんだ。企画したのは白雪だろ」

「そうなの林檎ちゃん?」

 

[嘘やろ?]

[あの白雪が?]

[んなバカな]

 

 レオの指摘に夢美は弾かれたように顔を上げて目を見開いた。人が戸惑っておろおろしている様子を楽しそうに眺める林檎が、こんなにも素敵なドッキリを思いつくとは思ってもみなかったからである。

 

「……何でバラすかなー」

 

 自分が企画者であることをバラされた林檎はバツが悪そうに頬を掻く。

 

「……これでも私だって感謝してるんだよ」

 

[これはいいクズデレ]

[ほっぺ林檎化不可避]

[まあ、いろいろなライバーとコラボしてるけど、三期生でコラボやってる時が一番楽しそうだったもんな]

 

 林檎は自分がまだU-tubeでの配信の方針を固めあぐねているときに、バズった夢美に便乗して登録者数を伸ばし、その後もレオと夢美の仲を邪魔しないようにしつつ、二人を応援するように立ち回って登録者数を稼いでいた。

 林檎も彼女なりの形で恩を返そうとしていたのだ。

 

「ていうかさー、バラギの部屋汚すぎじゃない?」

「えっ、これでも片付けた方なんだけど……」

「……マジ?」

 

 素直に褒められることが苦手な林檎はこの流れを断ち切るため、話題を夢美の部屋の汚さへと変えることにした。

 

「白雪、これが現実だ。これでもマネさんが片付けた方――らしい」

 

 自分が当たり前のように夢美の部屋に出入りしていることを隠すため、レオは表現を濁した。

 

「片付けてこれってやばくない? どうやったら、片付けた後にエナドリの缶や空のペットボトルが散乱することになるの? 私の部屋なんてゴミは私くらいしかないのに」

 

[解 釈 一 致]

[ナチュラルに自分をゴミ扱いしてて草]

[「ゴミは私くらいしかない」というパワーワード]

[足の踏み場があるだけいいだろ]

[マネちゃんが片付けにくるってどんだけだよwww]

 

「飲んだら床にとりあえず置くじゃん。それで後で片付けようと思って捨てるの忘れちゃうんだよね」

「はぁ………………」

 

[マリアナ海溝よりも深いため息]

[レオ君のため息の深さから苦労が窺える]

[強く生きろ]

 

「……とりあえず、ケーキ食べるか。夢美、台所借りるぞ」

「じゃ、私は紅茶いれるねー」

 

 ひとまず夢美も落ち着いて話も纏まったことで、レオと林檎はケーキと紅茶の準備をすることにした。

 

「いや、あたしがやるって」

 

「「いいから、お前は座ってろ」」

 

「……我、この部屋の主ぞ?」

 

[部屋の主だからだよ]

[キッチン自由に使われてて笑う]

[本当、仲良いなこの三人]

 

 さすがに、これ以上何かしてもらうのは悪いと思った夢美は立ち上がろうとしたが、レオと林檎に制された。

 それからレオがケーキを切り分け、林檎が紅茶を入れている間に、ある知らせを告げるコメントが書き込まれた。

 

[白雪も登録者数10万人突破したぞ ¥10,000円]

 

「ちょっ、林檎ちゃん! 林檎ちゃんも10万人突破だって!」

「…………ほ?」

 

 予想外の知らせに紅茶を入れていた林檎は硬直した。

 

「……マジだ」

 

 すぐにスマートフォンで確認してみれば、そこには登録者数10万人の文字が。

 元々も夢美と同様、林檎もカラオケ企画で流れ込んだ視聴者がいたため、登録者数10万人は目前だった。そこに普段白雪のチャンネルを見ない夢美の視聴者である妖精達が流れ込み、10万人を達成したのであった。

 

「おー、おめでとう! ちょうど良かったな。これで全員仲良く登録者数10万人だ」

 

[全員化け物で草]

[ちょうど良いってレベルじゃないだろwww]

[まーた伝説作りやがったよこいつら]

 

 ちなみに登録者数10万人の後押しになったのは、先ほど感謝されてバツの悪そうにしている林檎の態度だったのは言うまでもないことだろう。

 

「それじゃ改めて――」

 

「「「三期生全員登録者数10万人達成おめでとう!」」」

 

[おめでとう! ¥50,000円]

[おめでとう! ¥10,000円]

[おめでとう! ¥40,000円]

[おめでとう! ¥20,000円]

 

 それからレオ達は飛び交う高額なスーパーチャットに戦慄しながらも、それぞれの快挙を祝い合った。

 この夢美の登録者数10万人記念配信では高額なスーパーチャットが飛び交ったこともあり、その総額は一晩で七桁にまで跳ね上がった。

 のちに合計額を見た夢美があまりの額に吐きかけたのはまた別の話である。

 

「名残惜しいけどそろそろお開きの時間だね。林檎ちゃんも帰らないといけないし。あ、あとレオも」

「そうだな。女の子一人で夜道は危ないからな」

「レオ、ちゃんと林檎ちゃんのこと送ってきなよ」

「もちろん」

「いやー、悪いねー」

 

[たまにバラギってバブみあるよな]

[ごく稀にだがな]

 

「それじゃ、今日はみんな祝ってくれて本当にありがとう! 本日来てくださった先輩方も本当にありがとうございました! それでは――」

 

「「「おつゆみ!」」」

 

[おつゆみ!]

[おつゆみ!]

[おつゆみ!]

 

 こうして、夢美の登録者数10万人記念枠は最高潮の盛り上がりのまま終わった。

 

「さて、帰るかー」

 

 片づけを終えた林檎は上着を着て、足早に立ち去ろうとする。

 

「今日はありがとね、林檎ちゃん!」

「さっきも聞いたっての。またコラボしようねー」

 

 短くそう言うと、林檎は夢美の部屋を後にした。

 

「下まで送る」

「サンキュー」

 

 それから玄関のセキュリティがある場所に着くまで二人は無言だった。林檎がそれとなく話しかけるなオーラを放っていたからである。

 

「ここまででいいよ。タクシー呼んであるし」

 

 既に終電の時間は終わっている。金に頓着しない林檎にとって、タクシーを使うことには何の躊躇いもなかった。

 

「今日はありがとな。きっと夢美にとっても最高の記念配信になったと思う」

「……だからそれはもう聞いたって」

 

 どこかうんざりとした様子で林檎が返答する。

 

「それでも礼を言いたいんだって」

 

 どこまでも純粋な気持ちで感謝をしてくるレオに、痺れを切らしたように叫んだ。

 

「っ! 言っとくけど!」

 

 普段飄々としていて大声など出さない林檎が叫んだことで、レオは驚いたように目を見開いた。

 そんな彼の様子など気にも留めずに林檎はレオを睨みつけながら憎まれ口を叩いた。

 

「私はただ自分が伸びるためにあんたらを利用してるだけ。それ以上でもそれ以下でもないから! 私はあんた達の思っているような人間じゃない……お人好しは美徳だけど、人を疑うことを覚えた方がいいよ」

 

 一方的にそれだけ言うと、林檎はちょうどやってきたタクシーへと乗り込んだ。

 

「あいつ嘘下手だなー……」

 

 レオは呆れた様子で、林檎を乗せて走るタクシーを見えなくなるまで見送るのであった。

 





ここで林檎についてちょっとだけ解説を。
彼女は素直に褒められたり、感謝されることが苦手です。
自分がクズという自覚があるため、自分のことをわかっていないと認識してしまうためです。
これが、まだそこいらの有象無象の言葉ならば何とも思わなかったんですけどね。


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【拒絶と和解】事務所での一幕


煽れば尊し



 チャンネル登録者数10万人。

 その数字の重さはかつて実況者であった林檎も十分理解していた。

 

「あーもう! 感謝って何だよ!」

 

 林檎はパソコンの画面と睨めっこしながら頭を抱えていた。

 今までまったく気にしていなかったこと。

 誰かのために何かをするということに、林檎は迷っていた。

 先日の夢美へのドッキリは、レオと夢美の組み合わせの魅力を最大限に引き出すために考えたものだった。

 確かに二人への感謝の気持ちもあったが、主目的は自分の登録者数を伸ばすために行ったことなのだ。

 それを[ついに焼き林檎改心][速報、焼き林檎は人の心を持っていた][同期二人が好きでしょうがないんだろうな][クズデレ最高]などと言われると胸が苦しくなるのだ。

 

「罪悪感? ……はっ、まさか」

 

 そんなものを感じる心など、とうの昔に壊れている。

 親に物を強請ることを躊躇わなくなったとき。

 自分に歯向かったいじめっ子を親の名前を使って叩き潰したとき。

 人との待ち合わせに平気で遅刻するようになったとき。

 人を人とも思わない林檎にとって、感謝とは落とし物を拾ってきた犬にエサをやる程度の認識だった。

 しかし、登録者数10万人達成という出来事に関する感謝はそんなものでは済まされない。林檎は視聴者の予想を超える恩返しが思いつかずに四苦八苦していた。

 そんなとき、自分の部屋に置いてあるグランドピアノが目に入った。

 

「……よし、弾くか」

 

 ピアニストの娘である林檎は、母の教えもあって毎日欠かさずにピアノを弾く時間をとっていた。

 ピアノを弾いていると、もやもやした気持ちが吹き飛んでいく。林檎にとって、最も心が安らぐときは、一人でピアノを弾いているときだった。

 幼い頃、まだ純粋に優しい両親が大好きだった頃。

 母に教わったピアノを父の前で披露して、褒められたことが林檎にとっては何よりも嬉しかった。

 それに母はピアノに関してだけは厳しかった。手放しで褒められることが嫌いな林檎にとって、唯一自分を叱ってくれる貴重な機会でもあったのだ。

 しかし、努力してコンクールで賞を取ったりしても、褒められるのは母親ばかり。

 教え方が良いだの、才能の遺伝ですねだの、林檎の努力などなかったように周りは評価する。

 周囲からの賞賛を受けて一切の否定をせず、誇らしげにする母を見て林檎は思った――この人は自分を見ているんじゃない〝天才ピアニストである自分の成果〟を見ているんだと。

 いつしか、林檎は人前でピアノを弾かなくなった。

 実況者としての自分に〝手越優菜〟としての要素であるピアノは不必要だったということもある。

 自分の世界に引きこもり、思うがままにピアノを弾く。それだけが彼女にとって孤独を埋める時間となった。

 

 ――こんな楽しい時間をみんなと共有できたらいいのになー……。

 

「っ! ありえないっつーの……」

 

 咄嗟に思い浮かんだ企画を記憶のゴミ箱へと放り捨てて、林檎はピアノを閉じた。

 いくらなんでもあの二人に感化され過ぎだ。

 迷いを振り払うように立ち上がると、林檎は出かける支度をして事務所へと向かうことにした。

 現在林檎を担当している諸星とはRINEでやり取りをしているため、わざわざ事務所へ行く必要はない。

 それでも、今はただ自分の部屋にいたくなかったのだ。

 多忙な諸星のことを気にしてアポを取ると、数秒と経たずに返信がくる。

 打ち合わせの時間が取れることを確認すると、林檎は事務所へと向かった。

 事務所に着くと、林檎のリアルの姿を知っている社員達が口々に「10万人おめでとうございます!」と声をかけてくる。

 口々に林檎を褒めたたえる社員達に適当に対応しながら歩いていくと、あまり顔を合わせたくない人物と出会う。

 

「あっ、林檎ちゃん!」

「……まひるちゃん」

 

 白鳥まひる。イラストレーターが同じという繋がりもあり、林檎とのコラボの回数も多い先輩ライバーである。視聴者達からは仲良し姉妹と称されているが、林檎はまひるのことを避けがちだった。

 

「バラちゃんへのドッキリ企画良かったよ! まひるもう感動して泣いちゃったよぉ」

「へー、そう」

 

 満面の笑みを浮かべるまひるとは対照的に、林檎は興味なさげに相槌を打った。

 

「で、何か用?」

「用がなかったら話しかけちゃいけないの?」

「ま、できればね」

「冷たいなぁ。でも、まひるじゃなくても心を開ける人ができて良かったよ」

 

 林檎に冷たい態度をとられているというのに、まひるはどこか嬉しそうな様子だった。

 

「……あんたに何がわかるの?」

「そりゃ、高校生のときからずっと見てたからね」

「はっ、見てただけでわかった気にならないでくれる?」

 

 吐き捨てるようにそう言うと、林檎はまひるを睨みつける。その視線を真っ直ぐに受けて、まひるも林檎を見据えて言う。

 

「ゆなっしー――ううん、手越先輩は変わったよ」

「そういう、まっちゃ――潤佳は変わんないよね」

 

 実はこの二人は高校時代の先輩と後輩だった。白鳥まひること松本潤佳(まつもとじゅんか)は、当時吹奏楽部に所属していた林檎の一学年下の後輩だった。

 二人の関係は林檎が実況者を始めてからも続いた。

 純粋に林檎を尊敬するまひると、それを煙たがる林檎。その関係はにじライブに所属して先輩後輩の関係が逆転しても変わらなかった。

 

「私は変わってなんかない。クズの気まぐれってやつだよ」

「……そうやって自虐するとこ、私は好きじゃないよ」

「好きじゃなくて結構。私も年下の癖にお姉さんぶるあんたが嫌いだから」

 

 歩み寄るまひるを拒絶すると、林檎は諸星との打ち合わせのために会議室へと向かった。

 

「あっ……白雪さん」

 

 林檎は会議室に向かう途中、前に林檎の担当だった亀戸と出くわした。

 

「亀ちゃん、お久―。私の担当外れてから元気してたー? てか、仕事あったー?」

 

 林檎は挨拶ついでに亀戸を煽った。林檎からすれば、ほとんど役に立たなかったマネージャーである亀戸の存在は、先程まひるで溜まったストレスの捌け口に持ってこいだったのだ。

 

「はい、おかげさまでいい勉強になりました!」

「ほ?」

 

 てっきり、いつものように委縮するのかと思っていたところ、笑顔で予想外の返しをしてきたため、林檎は驚きのあまり言葉を失った。

 

「白雪さんほど滅茶苦茶なライバーさんは今までいませんでしたから、とても貴重な経験になりましたよ」

 

 亀戸は不敵な笑みを浮かべると、煽り返してきた。

 

「人の振り見て我が振り直せ、とはよく言ったものですよね。おかげで自分に足りないものがわかりました」

「ほほーう、『件名:ごめんなさい』なんてクソみたいなメール送ってたあの亀ちゃんがねぇ」

「読まずに捨てる白雪さんには負けますよ。白雪さん――あっ、白山羊さんでしたっけ?」

 

 白雪さんったら読まずに捨てた♪ と、楽しそうに歌うと、亀戸は核心をつくように言った。

 

「どうせ10万人企画で迷っているんじゃないですか?」

「っ!」

「白雪さんの担当を外れてからたくさん勉強する機会をいただきました……今の私なら役に立てると思います――それとも私をうまく使うことすらできませんか?」

「あの鈍亀が言うようになったじゃん……!」

 

 林檎は心底楽しそうに笑うと、右手を差し出した。

 

「これから打ち合わせだからあんたも来なよ」

「ふふっ、言われなくても!」

 

 差し出された右手をパチンと弾くと、亀戸は人差し指で瞼を引き下げ、舌を出して笑った。

 

「ほら、もたもたしていると置いていきますよ!」

「ちょ、今のは握手するとこでしょー!」

「べー、です!」

 

 この後、二人して騒がしく会議室に入ったことで諸星から説教されたのは言うまでもないことだろう。

 




正直、この状態の林檎に声をかけるとしたら「鏡見ろ白雪」ですかね


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【成長】にじライブという会社

また裏方回じゃよ


 林檎の担当へ戻ることになった亀戸は張り切っていた。

 営業部の先輩に同行して必死に駆け回った甲斐あって、権利関係の厳しいゲームの実況許可も取れた。もちろん、林檎の望むもの全てとはいかなかったが、それでも大きな一歩だろう。

 

 自分だってやれる。

 

 確かな成果を得た亀戸は自分に自信を持ち始めていた。

 

「また残業ですか?」

「諸星部長!」

 

 いつものように残業している亀戸を心配して諸星が様子を見にきた。

 諸星に委縮していた頃とは違い、亀戸は嬉しそうに顔を上げた。

 

「大丈夫です! もうすぐ上がれるので!」

「それは良かった。張り切るのも結構ですが、部下が残業すると私の評価が下がるので、ほどほどにしてください」

「す、すみません」

「安心してください。一割冗談です」

「何だ良か――って、九割本気じゃないですか!」

 

 すっかり元気になった亀戸を見て、諸星は安心したように笑顔を浮かべた。

 

「白雪さんの10万人企画は実現できそうですか?」

「……正直、本人の意思次第なところはあると思います」

 

 亀戸は林檎に登録者数10万人記念としてピアノの演奏配信を提案した。

 当然、林檎はこれを拒否したが、亀戸はそんな彼女を煽りに煽った。

 

『あれ? 自信がないんですか?』

『そりゃプロの演奏ほどではないでしょうけど、絶対ウケますって』

『まあ、嫌なら無理にとはいいません。バズるよりも白雪さんの気持ちが一番大事ですから』

 

「しかしまあ、よくもあそこまで白雪さんを煽れましたね……」

「もう嫌われてもいいや、って勢いでぶつからないと白雪さんには響きませんから」

 

 林檎が自分のために行ったことに対して、褒められたり感謝されることが苦手なことは経験上、亀戸も理解していた。

 どういう人間を林檎が好むか。答えは簡単だ。嫌われても構わないくらいの勢いで自分にぶつかってくる人間だ。

 

「しかし、彼女の決意が固まるのには時間がかかると思いますよ?」

「大丈夫です。元々きちんと告知をしない、ほぼ不定期配信と化している白雪さんの配信頻度が落ちたところで、視聴者の方々は何とも思いませんから」

「まあ、彼女のリスナーはよく訓練されていますからね……」

 

 こめかみに手を当てると、諸星はため息をついた。

 

「ですが、もし白雪さんがピアノを辞めていたらどうするつもりだったんですか」

「ああ、それはないです」

「は?」

 

 さも当然のように言ってのける亀戸に、諸星は珍しく間抜けな声を零した。

 

「白雪さんの小指の力の強さから、今も毎日ピアノを弾いていることはわかっていましたから。ほら、白雪さんって退屈なときに、小指をとんとんテーブルに打ち付ける癖があるじゃないですか。あんなカツーン! って音が鳴るのは小指の力が強い証拠ですよ」

「そこまで……」

 

 亀戸は林檎の担当を外されてから、仕事と並行して必死に〝手越優菜〟と〝ゆなっしー〟のことを調べていた。

 林檎は幼少期から数々のピアノコンクールで優秀な成績を収めていた。

 高校時代もピアノこそ弾かなくなったが、吹奏楽部に所属していた。

 実況者ゆなっしーとしての活動上、音楽にまつわる活動はしていなかったが、格闘ゲームやFPSでの器用な指さばきは、ピアノで培われたものが活かされているのではないかと亀戸は考えていた。

 全てを総合して亀戸が出した答えはこうだ。

 林檎はピアノが好きだが、人前では弾きたがらない。母親が世界的に有名なピアニスト故に、天才ピアニストの娘というレッテルを貼られて自分の努力が評価されないから。

 しかし、未練があるから今もピアノは弾き続けているし、音楽からもあまり離れたくないから高校時代に吹奏楽部に所属していた。

 実況者を始めたのは匿名で活動して、大物芸能人と世界的に有名なピアニストの娘ということを隠して自分自身の努力で得た成果が欲しかったから。

 亀戸の考察は全て正解だった。このことから、彼女がどれだけ林檎のことを理解しようと努力していたかがわかるだろう。

 亀戸は反省を活かし、手越優菜のことも、ゆなっしーのことも、白雪林檎のことも、しっかりと見ていたのであった。

 

「亀戸さん、うちの部署に来た時とは見違えるほど成長しましたね」

「……そんなことないです」

 

 諸星の言葉に亀戸は俯いて自嘲した。

 

「私みたいな中途半端で常識もない人間。親会社の社長の娘じゃなきゃ会社にいられなかったですから」

 

 にじライブの親会社〝First lab〟の社長、亀戸大陸(かめいどだいろく)の娘である亀戸真奈(かめいどまな)はコネ入社でにじライブに入社した。子会社化する際に、社長の世話になったこともあり、にじライブとしても親会社の社長令嬢を受け入れないわけにはいかなかったのだ。

 周囲は当然、亀戸のことなど腫れ物扱いである。

 仕事自体は真面目にやるが、一向に成長しない親会社の社長令嬢。そんな存在、疎まれて当然だった。

 そんな中でも亀戸の心が折れなかったのは、他の社員に接するのと同じように接してくれた同期である飯田と四谷、そして、どんなときも自分を厳しく叱咤してくれた諸星の存在があったからだ。

 

「正直、私も白雪さんと同じで周りがどうなろうと知ったことじゃないって気持ちがあったとは思います。でも、今はこんな私を見捨てないでくれた人達のために頑張りたいと思っています」

 

 強い意志を感じさせる瞳を見て、諸星は驚いたように目を見開いた後、優しい笑顔を浮かべた。

 

「亀戸さん、あなたなら必ず白雪さんのサポートができるはずです。ですから、体を壊さない程度に頑張ってください」

「はい! あ、何かお手伝いすることは――」

「いいからさっさと上がりなさい」

「お先に失礼致します!」

 

 慌てて日報を書いて送信すると、亀戸は元気よく退勤していった。

 

「あの子、本当に成長したなぁ……」

 

 いつも自信なさげに背中を丸めていた亀戸は、背筋を伸ばしてきびきびと歩いている。そんな部下の背中を見て、諸星は感慨深そうに呟いた。

 

「また残業かい?」

 

 亀戸と入れ替わるようにある人物が入ってきたことで、諸星は緩んだ表情を咄嗟に引き締めた。

 

「立ち聞きですか? 趣味が悪いですよ、綿貫社長」

 

 諸星達マネージャー陣が所属するメディア本部へとやってきたのは、にじライブの社長である綿貫樹生(わたぬきみきお)だった。

 

「悪いね。君の様子を見に来たら偶然聞こえてきたものだから」

「私の様子を見に来る暇があるなら、もっと別のことをした方が有意義なのでは?」

「こいつは手厳しい」

 

 おどけたように笑うと、綿貫は普段と違い整理整頓された亀戸のデスクを見て諸星へと尋ねた。

 

「亀戸君は大丈夫そうかい?」

「ええ、張り切りすぎて空回りするきらいはありますが、あの熱意は白雪さんにも伝わると思います」

 

 元々二人は似ているところがありますし、と呟くと諸星は楽しそうに笑った。

 

「それにしても、一マネージャーである彼女を気にかけすぎじゃないですか」

「その言葉、そっくりそのまま返すよ。それに彼女は特別だからね。何せ親会社の社長令嬢だ。丁重に扱わなくてはこっちが危うい」

「私は贔屓などしていませんが」

「そりゃ君はマネージャー陣全員を平等に気にかけて教育しているからね」

 

 メディア本部部長様様だね、と綿貫は楽しそうに笑った。

 

「それにしてもまた太ったのではないですか? いい加減、ダイエットしたらどうですか?」

 

 諸星は昔よりも下っ腹が出てきた綿貫の腹回りを見て顔を顰めた。

 

「ゲーム会社や音楽関係者との会食が多くてね……」

「少しは運動してください。あなたに倒れられたら私が困るんですから」

「ははは、耳が痛いよ」

 

 綿貫と諸星の会話は社長と部長というよりも、昔からの友人のようなやり取りだった。

 

「けど、早くこの会社を理想の会社に成長させたいからね。多少は自分を犠牲にしないとやってられないよ」

「ライバー達が自由に楽しく配信活動を行える環境を提供する会社。確かにまだまだ及ばないところは多いですし」

「業績は右肩上がりだが、うちが子会社化してからまだそんなに経ってないからね」

 

 綿貫と諸星は二人同時にため息をついた。

 

 にじライブの親会社〝First lab〟は有名なIT企業だ。

 元々First labは誰でも手軽にVtuberになれるアプリ〝二次元LIVE〟を開発していた。

 当時、アプリのテスターとして三人のライバー〝竹取かぐや〟〝竜宮乙姫〟〝狸山勝輝〟は誕生した。そうこの三人はただのテスターだったのだ。

 そんなただのテスターであったはずの三人が、本格的にライバーとして活動していくことになった。

 原因は、かぐやの爆発的な人気だった。

 たった一ヶ月で登録者数を10万人まで増やし、その後も勢いが衰えることなくぐんぐんと伸びていく彼女を見て、会社は方針を変えた。

 アプリを売るのではなく、自社開発のアプリを使用してライバーを売り出す。

 かぐやの人気が大企業の方針を変えたのだ。

 その後、アプリの名前はよりキャッチーな〝にじライブ〟という名前に変わり、その名前がプロジェクトの名前へと変わった。

 現在のにじライブは、そのときのプロジェクトメンバーを集めて作られた部署が子会社として設立されたものなのだ。

 当然、綿貫と諸星も当時プロジェクトの最前線にいた人間であり、First lab社長のすすめもあり、綿貫は会社の社長、諸星はメディア本部というマネージャー陣を含めたライバーのサポートを行う部署の部長に就任したのであった。

 がむしゃらに突っ走ってきた過去を振り返りながらも、ふと綿貫は諸星へと問いかける。

 

「……寂しくはないかい?」

「何ですか、藪から棒に」

「いや、ふと思ってね」

「……ウサギじゃないんですから、寂しくて死んだりなんてしませんよ」

「ま、大丈夫ならそれでいいんだ。辛くなったらいつでも相談しなよ」

 

 飄々とした様子でメディア本部を去る綿貫の背中を見て、どこかおかしそうに諸星は小さく吹き出した。

 




地味に亀ちゃんのフルネーム初出回
一応、飯田ァとよっちんもフルネームは考えてありますが、出す機会がなくてズルズルとここまで……。
たぶん、また裏方回を書いたときに出します。


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【圧倒的感謝!】10万人記念配信!


今回はレオの10万人記念枠のお話です。



「すみません、音声データの編集までやっていただいてしまって……」

『気にしないでください。獅子島さんが編集してしまうと、リアクションが薄くなってしまいますからね』

 

 今日はレオの登録者数10万人記念配信の日だ。

 この日に備えてレオはツウィッターで音声データの募集をしていた。

 集まった音声データはレオの新鮮な反応を見せた方がいいという飯田の提案もあり、音声のMIXなどは全て飯田が行っていた。

 本来マネージャーのする仕事ではないため、レオは飯田にかかる負担を心配していたが、現在飯田はレオの専属のため、慣れている音声データの編集ならば負担にはならなかったのだ。

 

「それにしても、飯田さんって動画編集やMIXまで出来るなんて凄いですよね」

『そんなことないですよ。動画編集はライバーの方に教えられる程度にと勉強していただけですし、MIXも学生時代に興味があって齧っていただけのものです。……もしかしたら、僕が獅子島さんの担当になったのは、こういった知識があったからかもしれませんね』

「やっぱり諸星さんって凄いんですね……」

 

 ライバーとしてにじライブに所属してから世話になりっぱなしだったこともあり、レオは改めて諸星の凄さを実感していた。

 

『一時的に白雪さんのマネージャーも担当できるくらいですからね……確か竹取かぐやさんの担当をされているのも諸星さんらしいですよ』

「えっ、諸星さんってかぐや先輩の担当だったんですか!?」

『ええ、直接本人に聞いたわけではありませんが、二期生の担当マネージャーの先輩が教えてくれました』

「はえー……やっぱり凄いなぁ」

 

 それから二、三、今日の配信について軽い確認をすると、レオは準備を整えて配信を開始した。

 

「袁傪のみなさん! こんばん山月!」

 

[こんばん山月!]

[こんばん山月!]

[こんばん山月!]

 

「登録者数10万人! 本当に、本っ当にありがとうございます! 俺の配信を見に来てくれる袁傪のみなさんがいるからここまで来れました……まだまだ突っ走ってくから、全力で付いてきてくれ!」

 

[当たり前だ! ¥50,000円]

[本当におめでとう! ¥50,000円]

[既に泣いた ¥50,000円]

 

 レオの挨拶と同時に最高額のスーパーチャットが飛び交い始める。五万円はU-tubeで設定されている月の上限額のため、この額を投げた場合はもう他の配信でスーパーチャットを投げられなくなる。別のアカウントを使うという裏ワザはあることにはあるが。

 あまりの事態にさすがのレオも焦り始めた。

 

「あ、ちょっと待って! 全力って金額のことじゃないから! 前にも言ったけど、自分の稼いだ金で投げてな!」

 

[自分で稼いだ金だぜ! ¥50,000円]

[このために就職したんだ ¥50,000円]

[お前に貢ぐために稼いできたんだよ ¥50,000円]

[学生なので高額は無理ですが、お年玉を捧げます ¥1,000円]

[ニート社会復帰させてて草]

 

 いつものようにピタリと止まると思いきや、レオの言葉を予測していたかのようにスーパーチャットが飛び続ける。

 実は袁傪の中には、挫折から立ち直り再び夢に向かって頑張るレオの姿を見て、社会復帰をした者やアルバイトを始めた学生がちらほらと存在していた。

 

「嘘だろ!? マジで待って! そこまでされたら返しきれないって! ただでさえ、配信見に来てくれるだけでもありがたいのに、これ以上何すればいいんだよ!」

 

[明日も笑顔で生きて ¥10,000円]

[袁傪達までぐう聖に変えるとは恐れ入った]

[新時代の空気清浄機]

 

「これ以上赤スパ投げるの禁止! マジで無理しないで!」

 

[了解! ¥9,999円]

 

「違う、そうじゃない!」

 

[赤スパ回避は草]

[袁傪ファーストな姿勢すこ]

[袁傪ファーストというパワーワード]

 

 いつものようにスーパーチャットを止められなかったレオは次なる手段でスーパーチャットを止めることにした。

 

「あーあ、せっかくみんなと一緒に楽しもうと思って企画考えてきたのに、これ以上スパチャばっかり飛ぶと企画できないなぁ!」

 

[スパチャピタリと止まったwww]

[スパチャを止める天才]

[スパチャ止め芸という新境地]

[スパチャを投げると真っ先に袁傪を心配する聖獣]

 

「そりゃ心配するだろ袁傪のみんなは友達だぞ」

 

[どれだけ俺達のこと大切にすれば気が済むんだ!]

[配信見ただけで友達になれるってマ?]

[レオ君が友達第一号という奇跡。このために俺はボッチだった]

 

 コメント欄も落ち着いてきたことで、レオは早速今日のために考えてきた企画を始めることにした。

 

「さて、事前に音声データの方を募集してるから何をやるか大体予想はついているだろうけど、今日はこれをやっていきます!」

 

 レオはそう言うと、林檎に教えてもらいながら作成した画像を表示した。

 表示された画像にはポップな書体で〝その声は我が友李徴子ではないかコンテスト〟という文字が書かれていた。

 

「最優秀袁傪は誰だ!? その声は我が友李徴子ではないかコンテスト、開幕します!」

 

[もう草]

[予想できるわけないだろwww]

[相変わらずアクセル全開だなぁ]

 

 表示された画像に、袁傪達は予想を超えてくるレオの企画に笑いを堪えられなかった。

 

「ちなみに今回の企画、どの音声を流すかはマネさんに選んできてもらいました。そのため、みんなの送ってくれた音声を聞くのが今から楽しみです」

 

 レオ自身もわくわくしながら、飯田が編集してくれた音声データをクリックすると、渋い男性の声が流れた。

 

『その声は、我が友、李徴子ではないか?』

 

「おっ、一発目から良い声の人が来ましたね」

 

[本職の朗読の人みたいな声だ]

[こんなイケおじがレオ君の配信見てると思うと笑う]

[ライバーやってたら人気出そう]

 

「確かにこれはイケおじ枠でデビューとかありですよね……応募した方ライバーに興味ありませんか?」

 

[いきなりスカウトしてて草]

[袁傪をライバーにスカウトする李徴]

 

[興味あるので次にライバー募集してたら応募してみます!]

 

[本人いて草]

 

「もしデビュー出来たら一緒に配信できる日を楽しみにしていますね! これはいきなり高得点ですよ。点数は……97点!」

 

[ハードル爆上がりwww]

[どうして最初にこの音声を選んだんだマネさん]

「さて、どんどん行きましょう。次はこの方!」

 

 レオは先程のイケおじ袁傪が次のライバー応募に申し込むことを楽しみにしながら、次の音声データを再生した。

 

『その声は、我が友、李徴子ではないか?』

 

「今度は女性の方ですね」

[かわいい]

[舌足らずな感じがいいな]

[こんな可愛い袁傪もいたんだな]

 

「大変可愛らしいですね。ただちょっとあざといかなーって感じがするので、89点!」

 

[意外と厳しい採点]

[思ったよりきちんと採点してて草]

 

「あざとすぎるのは、アイドル時代のときに共演者に多かったから苦手なんですよね。ささ、次行きましょう」

 

 夢美のあざとい声は嫌いじゃないんだけど、と心の中で独り言ちると、レオは次の音声を再生した。

 

『あ゛、あ゛あ゛……その声は、ふひひっ……我が友、李徴子ではないかぁ?』

 

[限界オタクwww]

[しかも女性やん]

[また凄いのがきたな]

 

「何か夢美みたいな限界具合ですね。うん、いいですね。98点!」

 

[採点基準急にガバガバになったwww]

[嫁の面影を感じた瞬間採点がバグるライオン]

[てぇてぇ……のか?]

 

 それからしばらく袁傪達から届いた音声を流しては点数をつけていたレオだったが――

 

『ふはははははっ! その声は我が盟友、李徴子ではないか?』

 

「はえ……?」

 

[レギュレーションガン無視なのが来てワロタ]

[ちょっと待てこの声……]

[魔王様!?]

 

 自分の良く知る人間の声が聞こえてきたことで、間抜けな声を零した。

 

「ちょっ、何してるんですかサタンさん!?」

 

[まさかの応募で草]

[採点はどうなるんだ]

 

「いや、レギュレーション守ってないんで0点ですけど……」

 

[辛辣で草]

[残当なんだよなぁ]

 

「それでもサタンさん。わざわざ応募してくれてありがとうございます! 特別賞受賞ということでどうかご勘弁を!」

 

 レオとしてはわざわざ企画に参加してくれたこと自体は嬉しいが、同業者を贔屓して袁傪達を蔑ろにはしたくなかったのだ。

 嬉しさを噛み締めながら次のデータを再生しようとしたとき、ファイル名に注意書きが含まれていたことでレオは手を止めた。

 

「次の音声データ、ファイル名に音量注意って書いてあるんだけど……」

 

[あ(察し)]

[まさか……!]

[お前ら、急いで音量を下げろ! 鼓膜がなくなっても知らんぞ!]

 

 案の定、再生した途端に耳を劈くような大声が轟いた。

 

 

 

 

『その声はぁぁぁ! 我が友ぉぉぉ! 李徴子ではないかぁぁぁ!?』

 

 

 

 

[うるせぇwwwww]

[やっぱり友ちんか!w]

[予測可能回避不可能]

[最小ボリュームでこの声量とかどうなってんだwww]

 

「うぅ……友世さん、ありがとうございます。声量で言えば優勝間違いなしですね」

 

[ダメージ受けてるw]

[唐突な音量テロ]

 

 まさかこの企画をするにあたってアドバイスをくれた友世まで参加しているとは思っていなかったレオは、恐る恐る次の音声を再生した。

 

『ホントにホントにホン――』

 

 明らかにおかしな音声が再生されたことでレオはいったん再生を止めた。

 

「スゥッ――――…………」

 

[もはや山月記要素の欠片もないの来てて草]

[バーチャル四天王に目をつけられたライオン]

[畜生イルカwww]

 

 次に音声を送ってきたのはイルカだった。しかも、音声はカラオケ企画でレオが100点をとったあの曲だった。

 

「も、もう一回。今度はちゃんと聞こう……」

 

『ホントにホントにホントにホントにラ~イオンだ~♪』

 

「ただのサファリパークじゃん! イルカさん何してるんですか! 0点ですよ!」

 

[レギュレーションどこいった]

[これは酷いwww]

[この前のカラオケ大会で味を占めたなwww]

[バーチャル四天王に容赦なく0点を突きつけていくスタイル]

 

 本当にサビの部分を歌っただけの音声データにさすがのレオも困惑を隠しきれなかった。そして、レオは今まで音声データを送ってきたメンバーから最後に誰が送ってきているか予想ができていた。

 

「これもしかして最後、七色さんの流れ?」

 

[和音ちゃんに期待]

[さすがに和音ちゃんはまともなの送ってくるだろ]

[この企画に参加してる時点でまともじゃないだろ……]

 

 緊張で震える手で音声データを再生すると、壮大なBGMが流れ出して、力強い歌声が聞こえてきた。

 

『ah~その声は~♪ 我が友~♪ 李徴子~ではないか~LaLaLa~♪』

 

「何してんの七色さん!?」

 

[オリジナルソングにしやがったwww]

[これは予想外www]

[作曲までするとは恐れ入った]

[和音ちゃんがこんなにネタに全力なの初めて見た]

 

「七色さん、とても素敵な歌声ありがとうございました。何か悪い影響を与えた気がして罪悪感が……」

 

[これは間違いなくガチライオンのせい]

[他企業Vをにじライブに染めるなw]

[あーあ、これは責任取らないといけませんねぇ]

 

 

[板東イルカ:登録者数10万人おめでとうございます! ¥10,000円]

 

[但野友世:登録者数10万人おめでと!!! ¥10,000円]

 

[七色和音:登録者数10万人おめでとうございます! ¥10,000円]

 

[サタン・ルシファナ:登録者数10万人はめでたいな! ¥10,000円]

 

 

[カラオケ組が一斉に赤スパ送ってきたwww]

[唐突に他企業のVとコラボするな]

[カラオケ組てぇてぇ]

 

 和音の音声が流れ終わったところで、以前カラオケ企画でコラボしたVtuber達が一斉にスーパーチャットを送ってきた。

 実はこれ、レオから相談を受けていた友世がマネージャーを通して、イルカ、サタン、和音と連絡を取り合って企画したレオへのサプライズだったのだ。

 飯田もこの話を二つ返事で了承して音声データの編集を引き受けたのだった。

 そのことを察すると、レオは目頭を押さえ、改めて礼を述べた。

 

「……みなさん、本当にありがとうございます。この音声データは宝物にしますね」

 

[レオ君泣きそうじゃん]

[まさか他企業Vにここまで愛されるとはなぁ]

[切り抜き不可避]

 

 改めてこの縁を大事にしていくことを決めたレオは〝その声は我が友李徴子ではないかコンテスト〟の優勝者を発表した。

 

「えー、それでは優勝者を発表したいと思います。優勝者は限界化をしながらも送ってくださった〝雌袁傪(28)〟さんです!」

 

[おめでとう!]

 

[やったぁぁぁぁぁ!]

 

[よう雌袁傪ネキ]

[これは嬉しいだろうな]

 

「では、最後に山月記の朗読をして終わりたいと思います」

 

[さらっと、とんでもないこと言っててワロタ]

[ナチュラルに次の企画始めるなwww]

 

 レオは軽く咳払いをすると、静かに山月記を朗読し始めた。

 

「隴西の李徴は博学才穎、天宝の末年――――」

 

[約束された勝利のイケボ]

[普通に朗読パート動画で出してほしい]

[永遠に聞いてられる]

 

 そして、レオは詰まることなく山月記を読み進めていくと、有名な一文の箇所で朗読用の音声データを流した。

 

「その声に袁傪は聞き憶えがあった。驚懼の中にも、彼は咄嗟に思いあたって、叫んだ」

 

『その声は、我が友、李徴子ではないか?』

『ふひっ……その声は、デュフッ……我が友、李徴子ではないかぁ?』

『その声は、我が友、李徴子ではないか?』

『その声は、我が友、李徴子ではないか?』

『その声は、我が友、李徴子ではないか?』

『その声は、我が友、李徴子ではないか?』

『その声は、我が友、李徴子ではないか?』

『ふはははははっ! その声は我が盟友、李徴子ではないか?』

『その声は、我が友、李徴子ではないか?』

『その声はぁぁぁ! 我が友ぉぉぉ! 李徴子ではないかぁぁぁ!?』

『その声は、我が友、李徴子ではないか?』

『ホントにホントにホントにホントにラ~イオンだ~♪』

『その声は、我が友、李徴子ではないか?』

『ah~その声は~♪ 我が友~♪ 李徴子~ではないか~LaLaLa~♪』

『その声は、我が友、李徴子ではないか?』

『その声は、我が友、李徴子ではないか?』

『その声は、我が友、李徴子ではないか?』

『その声は、我が友、李徴子ではないか?』

 

[突然の袁傪大量発生で大草原]

[袁傪多すぎwww]

[どこからこんなに袁傪沸いたんだよwww]

[カオスwwwww]

[これはズルイ]

[異物混入で草]

[ダメだ、サファリパークで耐えられなかった]

 

 わざと微妙にタイミングをズラして流れる「その声は、我が友、李徴子ではないか?」という音声にコメント欄は爆笑の渦に飲み込まれた。

 かくいうレオも必死に笑いを堪えて朗読を続けていた。

 

「――二声三声咆哮したかと思うと、又、元の叢に躍り入って、再びその姿を見なかった」

 

[まるで何事もなかったかのように朗読し終わってて草]

[よく笑わないで最後まで朗読できたなwww]

 

「ふっ……くくくっ……あっはっはっは! やばいってこれ! マジで耐えるの大変だったよ!」

 

[レオ君が爆笑するの初めて聞いたw]

[レオ君の笑い声助かる]

[楽しそうで何よりだ]

 

 無事最後まで朗読を終えたレオは限界を迎えて爆笑した。その様子に袁傪達も喜ばしい様子だった。

 

「…………ふぅ、それではみなさん! 最後までお付き合いいただき、ありがとうございました! 今後も歌と並行していろいろと企画をやっていくので、よろしくお願いします! それでは、おつ山月!」

 

[おつ山月]

[おつ山月]

[おつ山月]

 

 こうしてレオの10万人企画も夢美と同様大好評のまま終了した。

 




今回は山月記の本文の一部を抜粋しているので、出典を載せておきますね。

出典:青空文庫様

山月記 著者:中島敦


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【変化】大切に思う心


シリアスさんがアップを始めました。


「ったく、何で今日に限って朝から打ち合わせやるかなー。亀ちゃんも容赦なくモーニングコールするようになったし……」

 

 林檎はブツブツと文句を言いながら、先程まで打ち合わせを行っていた会議室を出る。

 本来ならば打ち合わせは通話で済ませればいいのだが、亀戸が通話だと林檎に途中で切られるからと、わざわざ事務所まで呼び出したのだ。

 

「何度言われても、配信上でピアノは弾かないってのに……」

 

 亀戸はどこから調べ上げたのか、自分がピアノをまだ弾いていることを知っていた。

 林檎の担当を外れてから必死に自分のことを理解しようとしていたと察した林檎は、亀戸への評価を大きく上方修正した。

 

 しかし、だ。それはそれ、これはこれだ。

 

 林檎としては、配信上でピアノを弾く気はないのである。

 林檎自身も配信上でピアノを弾くことで配信が盛り上がることは理解できる。

 幼少期からピアノに関する一切の努力を周囲から認められなかった林檎にとって、ピアノの腕は自分の実力とは思えなくなっていたため、亀戸の提案に頷くことはできなかった。

 ピアノに関しては、親の遺伝と教育があってこその腕前。配信上では自分の力だけでやっていきたいと考えていた林檎にとって、ピアノを弾くことはどうしても許容できないことだったのだ。

 林檎の複雑な心情を慮ってか、亀戸も強要はしていない。あくまでも煽って反応を見つつ、本当にダメなラインを見極めていた。

 亀戸は「小人達は訓練されていますから焦らなくても大丈夫ですよ」と言ったが、いつまでも配信をせずに、ツウィッターの投稿で小人達と絡んでごまかすわけにはいかない。

 

「どうしたもんかなー……」

 

 一息つこうと、林檎は飲み物を買って休憩スペースに座った。

 だらけた様子で、林檎は退屈そうに小指をとんとんとテーブルに打ち付ける。

 誰もいない休憩スペースにはカツーン! という音が響いているのだが、林檎にとっては日常茶飯事のため、何とも思わなかった。

 

「何か凄い音しなかった?」

「ちょっと見てみますか」

 

 そんなとき、二人の男女が休憩スペースにやってきた。

 女性の方は、流れるような艶のある黒髪が特徴的で、水色のブラウスに、白のリボンベルト付きのロングスカートを着こなしている清楚な美人。

 男性の方は、全体的にダボっとした服装で、原宿を歩いていそうな大学生のような印象を受ける。

 どう見てもにじライブの社員ではない出で立ちに林檎は困惑する。おそらくはライバーなのだろうが、会ったことはない。

 

「えっと……?」

「あ、初めまして、吉備津桃花です」

「うっそ、桃タロス?」

 

 困惑していると、清楚な美人――下ネタ魔人として有名なライバー吉備津桃花が挨拶をしてきた。

 普段の配信と、リアルでの見た目のギャップに林檎は目を白黒させる。

 それから、林檎は桃花の隣にいる男性へと目線を移した。

 

「ということは、隣の人って……」

「初めまして、名板赤哉です。白雪林檎さん、ですよね?」

 

 名板赤哉。桃花とのコラボが多い二期生の男性ライバーだ。荒々しい見た目に反して丁寧な口調で話すため、女性人気の高いライバーでもある。

 一見、ただの優しい男性ライバーと思われがちではあるが、マナーの悪いリスナーにはとことん厳しく接したり、優しいだけの人間ではない。

 また鬼という人外設定も持っていたり、清楚()な女性ライバーが相方だったりと、何かとレオとの共通点の多い人物でもある。

 

「あー、はじめまして白雪林檎ですー」

「えっ、白雪ってこんなに可愛かったの!?」

 

 林檎もお嬢様育ちのため、外見からは上品さや可愛らしさが溢れている。服装こそ緩めのパーカーとジーンズという格好だが、その所作からは上品さがどことなく感じ取れるのだ。

 

「いやー、その言葉そのまま返しますよー。あの下ネタ魔人がこんな美人とか詐欺もいいとこっすよー」

 

 桃花の見た目は雑誌でモデルをやっていると言われても違和感のない見た目をしている。こんな美人があの下ネタ魔人だとは夢にも思わないだろう。

 

「ふふん、まあね!」

「ホント見た目だけは完璧ですからね。見た目だけは」

「何で二回言うんだよ!」

「理由の説明、必要ですか?」

 

 見た目が良くて中身が残念、という点においては夢美と似ていると感じた林檎だったが、ギャップの振れ幅で言えば桃花の方が酷いと感じていた。

 

「にしても、白雪は何してたの?」

「あー、ちょっと打ち合わせで疲れちゃって休憩してたんすよー。でまあ、手持無沙汰だったからつい癖で小指をとんとんやっちゃって」

「「小指であの音鳴るの!?」」

 

 桃花と赤哉は驚いたように声を上げた。

 

「というか、暇なら配信すればいいじゃん」

「別に手持無沙汰なだけで暇じゃないっすよー。この後、レオやバラギと遊ぶ約束が――やば、約束の時間!」

 

 今日は朝の打ち合わせの後に、池袋でレオや夢美と遊ぶ約束をしていた。

 事務所がある新宿から池袋までの時間を瞬時に計算した林檎は慌てて休憩スペースを飛び出していった。

 

「何か白雪って待ち合わせの時間とか気にしないタイプだと思ってたけど……」

「はははっ、友人は大切にする子なんですよきっと」

 

 慌てて走り去る林檎の背中を見て、桃花と赤哉は微笑ましいものを見るように笑った。

 

 ――急がないと遅刻する。

 

 普段なら絶対に思い浮かぶはずのない考えが浮かび、林檎は事務所の廊下を駆け抜ける。

 

「うわっ!?」

「きゃ!?」

 

 そのまま慌てて前方をよく確認していなかった林檎は、曲がり角で誰かとぶつかってしまった。

 

「痛た……」

「大丈夫?」

 

 尻もちをついてしまった林檎へぶつかった相手は心配そうに手を差し伸べた。

 

「あっ、内海さん。ごめんなさい。急いでて前見てませんでした」

「いいのよ。私も不注意だったから」

 

 林檎がぶつかった相手は、総務部でライバーの採用や社員の勤怠管理などを業務行っている内海光(うちうみひかり)だった。

 林檎にスカウトのメールを送ったのも彼女であり、ライバーとしての契約を結ぶ際に林檎が世話になった人物でもある。ちなみに、夢美の二次面接を担当したのも内海である。

 

「それにしても、そんなに急いでどうしたの?」

「ちょっと、レオや夢美と約束があって……」

「あら、あの白雪さんが約束の時間を気にするなんてよっぽど仲良くなったのね」

「別にそんなんじゃ……」

 

 くすくすと上品に笑う内海を見て、林檎は拗ねたように頬を膨らませる。

 

「恥ずかしがらなくてもいいじゃない。同期を大切に思えるのは素敵なことよ?」

「……大切、か」

 

 林檎は内海の言葉に自嘲するように呟く。

 

「私に人を大切に思う心なんてありませんよ。そんなもの、とっくに壊れてるんですから」

「……白雪さん」

 

 林檎の言葉は否定も肯定も求めていないただの自己完結の言葉だった。

 たとえ今の彼女に何を言おうが、彼女の中で答えが出てしまっている以上、どんな言葉も響かない。

 それでも、内海ははっきりと林檎に告げた。

 

「あなたの心は壊れてなんかいないわ」

 

 表情に影を落とす林檎に、内海は諭すように声をかける。

 

「何もかも信じられなくなって、何かを好きになるのが怖いのはわかるわ。でもね、何でもかんでも嫌ってばかりじゃ前に進めないわ。誰かを好きな心まで否定してしまったら、きっと本当に心が壊れてしまうもの」

「内海さん?」

「あなたが自分自身を嫌いだったとしても、私も、諸星さんも、亀戸さんも、獅子島君や茨木さんも、みんなあなたのことが好きなのよ。今は信じられなくてもそれだけは忘れないで」

 

 自分の思いを林檎に伝えると、内海は悪戯っぽく笑った。

 

「それより、急いでるんじゃないの?」

「あー! そうだった! すみません、私はこれで失礼します!」

 

 自分が急いでいるということを思い出した林檎は、内海に改めて頭を下げて事務所を後にした。

 

「嫌ってばかりじゃ前に進めない、か。はぁ……私も人のことは言えないわね」

 




林檎の心情解説パート2

林檎がレオと夢美に心を開きかけているのはもうお分かりだと思いますが、林檎は二人の勢いを利用しようと〝仲良しごっこ〟を始めました。
そのかいあって、ぐんぐんと登録者数を伸ばしてさらに二人と絡んでいった結果――普通に二人のことが友人として好きになってしまったという感じです。


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【三期生】池袋で遊ぼう その1


ほんわか回です。



「ごめん、待った!?」

 

 待ち合わせ場所であるフクロウの像に林檎が到着すると、既にレオと夢美は楽し気に会話しながら待っていた。

 

「あれ、林檎ちゃんもう着いたの? ちょっと遅れるって言ってたから、一時間以上はかかると思ってたんだけど……」

「まだ待ち合わせの時間から三十分しか経ってないぞ?」

 

 林檎の遅刻癖にすっかり慣れたレオと夢美は、二時間以上の遅刻くらいなら織り込み済みだった。

 

「ごめん、ちょっと事務所の打ち合わせの後にのんびりしすぎちゃって」

 

「「それならしょうがないか」」

 

「ほ?」

 

 林檎が遅れてくることなど何とも思っていない二人にとって、きちんと理由のある遅刻は仕方のないものだと思っていた。

 むしろ、事前に連絡を入れ、待ち合わせ場所まで走ってきた上に、反省の色が見えるのなら責める理由などどこにも存在していなかったのだ。

 

「別に連絡もらってたから、ゆっくり来ても大丈夫だったよ」

「それより、走ってきたからのど乾いたんじゃないか。ちょっとそこで飲み物買ってくるぞ」

「ほい、あたしのもお願い」

 

 夢美はさりげなく、飲み物を買いに行くレオに自分とレオの分の飲み物代も渡す。

 

「はいはい、いつもの無糖の紅茶だろ。しらゆ――えっと……」

 

 公共の場のため、ライバー名で呼ぶことを躊躇った。

 そんなレオを見てため息をつくと、林檎は気怠げに下の名前だけを名乗った。

 

「優菜。苗字で呼ばれるのは嫌いだからそう呼んでー。で、そういう二人の本名は? ま、レオのは言われなくてもわかるけど、一応ね」

「ははっ、さすがにバレてたか……俺は司馬拓哉だ。よろしくな優菜」

「あたし、中居由美子! よろしくね、優菜ちゃん」

「改めてよろしくねー。拓哉、由美子」

 

 改めて本名を確認し合ったあと、レオは飲み物を買いにいった。

 

「そういやさー、由美子って拓哉とはどうなの?」

「どうって?」

「付き合ってないって言ってたけど、異性として好きなのかなーって思ってさー」

 

 林檎は何だかんだでこの二人の関係が気になっていた。

 元々仲の良い男女の組み合わせを見るのが好きというのもあるが、林檎は二人が好き同士なら本気で応援しようと思っていた。

 

「どうだろ。一応幼馴染ではあるけど、同期のライバーって時点で恋愛対象にならなくない?」

「あー、それはわかるかなー」

 

 最近では男性ライバーと女性ライバーのてぇてぇ文化が人権を獲得し始めたこともあり、ライバー同士が付き合ったとしても、レオと夢美くらいの間柄ならばそこまで荒れることはないだろう。

 一昔前は声優が結婚を発表したら大荒れしたが、現在では声優の結婚は素直に祝福されることが多いのと同じ流れである。

 とはいえ、売り出し方によっては受け入れられないファンは当然いるため、ライバー自身が同業者との恋愛を避ける傾向にあるのだ。

 

「じゃあ、ライバーじゃなかったら?」

「ライバーじゃない拓哉か……うーん、何かイメージできないんだよね、あたしと拓哉が付き合ってるとこ」

「えっ、私はめっちゃイメージできるけど」

「そりゃ優菜ちゃんはカプ厨だからね」

 

 やたらとレオとの話題に食いついてくる林檎に、夢美は苦笑する。

 

「そもそも付き合ってやりたいことって、今でも十分出来るんだよね。何だろうなぁ、実際やってみたらドキドキより安心感や感謝の方が強かったし、気が付いたらいつも傍にいるからトキメキとかそういうのはあんまないし、付き合う必要性も特に感じてないというか――ん、優菜ちゃん? どうしたの?」

「あ゛……てぇてぇよ、てぇてぇだよー……」

 

 無意識のうちに、〝付き合っている状態と変わらない〟と言われた林檎は精神に深刻なダメージを受け、壁に手をついて胸を押さえていた。

 

「……妖精や袁傪達も普段からこうなのかな?」

 

 そんなカプ厨である林檎の姿に夢美は若干引いていた。

 

「お待たせ」

 

 飲み物を買ってきたレオは夢美と林檎に飲み物を渡して、今日の予定を確認した。

 

「で、今日はどうする?」

「とりあえず、飯でも食ってサンシャインいこっかー」

「いいね。あたし一度ポケセン行ってみたかったんだ!」

「俺も移転してからは行ったことないんだよな」

 

 レオ達のお目当ては大人気のモンスター育成ゲームの専門店である。

 日本橋から浜松町へと移転し、現在は池袋にあるレジャー施設の中に存在している。

 アイドル時代に仕事で浜松町へ行った際は何かと立ち寄っていたため、完全なるプライベートでこの専門店に行くことにレオはある種の憧れがあった。

 夢美も幼い頃は毎年夏に上映している映画こそ見に行ってはいたが、専門店には行ったことはなかった。

 林檎に至っては結構な頻度で行っているので、二人ほどの憧れはないが、彼女にとっても定期的に足を運びたくなるくらいには好きな場所ではあった。

 

「飯はどうする?」

「天一!」

 

「「却下」」

 

 こってり系のラーメンを所望した夢美の意見を、レオと林檎はばっさりと拒否した。

 

「うぅ……久しぶりにこってりしたの食べたいのに」

「それは今度二人で出かけたときにしてくれ。いつでも付き合うから」

「……自然体でこれだもんなー」

 

 さりげなく二人で出かける予定を提案するレオに、林檎は呆れ気味にため息をついた。

 

「とりあえず、すぐそこでパスタでも食べない?」

 

 池袋駅の中には様々な施設がある。待ち合わせによく使われる〝いけふくろう〟の近くには様々麺類が食べられる飲食店が集まったフードコートがある。

 林檎の提案を二人は二つ返事で了承した。

 

「それにしても、三期生全員二ヶ月で10万人行くとは思わなかったよね」

「俺や由美子はいろいろと偶然が重なったとこもあるけど、優菜はさすがだな」

「ま、これでも元実況者だからねー」

 

 大して自慢げな様子もなく、林檎はレオから賞賛を適当に受け取った。

 元実況者という単語を聞いたレオは、前に姉である静香が言っていたことを思い出した。

 

「そういえば、俺の姉さんが〝ゆなっしー〟って実況者が好きだったらしいんだよ。動画の編集とか凝ってて好きだった実況者らしいんだけど、優菜は知ってるか?」

「ああ、それ私だよ」

「はえ……?」

 

 まさか、姉の探していた実況者が林檎だとは思ってなかったため、レオは間抜けな声を零した。

 

「にじライブって所属したら前の活動やめなきゃいけないから、やめざるを得なかったんだよねー」

「だから、ゆなっしーの活動が止まってたってわけか……」

「なら今日一緒に遊んだ写真とかお姉さんに送ってあげれば?」

「おっ、いいなそれ。優菜はいいか?」

「ま、そのぐらいのファンサならいいよー」

 

 林檎としては、視聴者を煽って炎上する様子ではなく、純粋に編集が凝っているなどのポイントでファンになってくれた視聴者は大切にしたいと思っていたため、レオの提案には乗り気だった。

 

「どうせなら後でポケセン行ったとき撮ろっか」

「そっちの方が映えるよねー」

 

 レオと夢美は写真を見たときの静香の反応を予想して笑顔を浮かべる。

 そんな二人を見て、林檎はどこか羨まし気に言った。

 

「二人共兄弟と仲良さそうだよね」

「そうでもないぞ。アイドル時代はよく家に帰って踏ん反り返ってたせいで、蹴っ飛ばされてたし」

「……あたしも普通だと思う。懐かれてはいるけどね」

 

 レオは苦虫を噛み潰したような表情で、夢美はどこか影の差したような表情を浮かべた。

 

「優菜は兄弟いないのか?」

「いないよー。正真正銘の一人っ子」

「確かに優菜ちゃんって一人っ子っぽいよね」

 

 普段の林檎の様子を見れば、両親からそうとう可愛がられて育ったことは察しがつく。林檎のどこか社会を舐めている態度を思い出した二人は苦笑した。

 

「ま、私の話はいいじゃん。それより拓哉のアイドル時代の話とか聞きたいなー」

 

 自分の両親の話題になるのを避けたかった林檎は、話題をレオの現役時代の話に変えた。

 

「……ドン引きエピソードばっかりなんだが」

 

 客観的に見て、自分のアイドル時代の出来事は目を覆いたくなるような出来事ばかりなので、レオはあからさまに顔を顰める。

 

「大丈夫大丈夫、芸能界のそういう話くらいで引いたりしないって」

「あたしもいい加減慣れたし、今更引いたりしないよ」

「なら、まあ……」

 

 二人に促されたことでレオは渋々アイドル時代の話を始めた。

 

「これならまだマイルドかな……昔、ドラマの仕事があってな。俺が主役で、メインヒロイン役の女の子が子役上がりの女優だったんだ」

「おー、何かそれっぽい!」

「あれ、そのドラマって……」

 

 盛り上がる夢美とは対照的に、林檎は怪訝な表情を浮かべた。

 

「その女優の子がめちゃくちゃ我儘でな。とにかく無茶苦茶言う子だったんだよ」

 

 いや、俺も人のことは言えないけど、と前置きしてレオは続ける。

 

「その当時は俺より人気の子だったから、現場はその子優先で進められててな。その子の都合でスケジュールが進められるし、別の現場があったから遅刻するってことがあって、キレちゃってな」

「あっ、もう読めた」

 

 オチが読めた夢美は呆れたように苦笑する。

 

「『てめぇ、何様だ!』って、ガチギレしてその子を泣かせちゃってな。大先輩の大御所に止められるまで、ずっとキレ散らかしてたよ」

「それでマイルドねぇ」

「うっ……あのときは一人の都合で現場が止まるの嫌だったんだよ。スタッフも共演者も全員本気で一つの作品を作ってるのに、碌に台詞も覚えてこない女王様みたいな存在だったし、我慢の限界だったんだ。まあ、大人げなかったとは思うけど……」

 

 自分にも落ち度はあったことは理解しているのか、レオはバツの悪そうな表情を浮かべた。

 

「で、その子とは共演NGになったの?」

「そんなとこだ」

「……道理であのドラマの後に共演するとこ見なくなったわけだねー」

 

 林檎はどこか複雑そうな表情で呟いた。

 

「でも、台詞を覚えてこないって女優として論外じゃない?」

「売れっ子だったからいろいろ忙しかったんだとさ。言い訳にもならないけどな」

 

 そこだけは譲れないのか、レオは厳しい言葉を放った。

 

「監督の求めている演技を提供できないのはただの準備不足だ。忙しいのなら、少しでも移動時間とかに詰め込む努力をすればいいし、それができない時点で何を言ってもただの怠慢にしかならない」

 

 当時、ドラマの撮影では一度もNGを出したことのないレオの言葉は重かった。

 彼は周囲に厳しい人間ではあったが、自分自身にも厳しかったのだ。

 

「当時の売れっ子アイドルの言葉は違うねー」

 

 林檎はそんなレオの言葉を聞いて、ふと自分の父親のことを考えていた。

 自分に対してはただ甘かった父親だが、芸能界では厳しい人物だったのだろうか。

 ……いや、せっかくの楽しい時間に、不愉快なことを考えるのはやめよう。

 林檎は頭を振って雑念を頭の中から追い出した。

 食事を終えた三人は、早速目的地へ向かうことにしたが、それに夢美が待ったをかけた。

 

「あっ、ポケセン行く前にちょっと配信機材とか見たいんだけど」

「俺はいいぞ。ちょうど電気屋も近いからな」

「私もいいよー」

 

 こうして、いったん三人は近場にあった電気屋に入ることにしたのであった。

 





ライバー達が外で本名で呼び合うの何か好き


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【三期生】池袋で遊ぼう その2

作者は昔ピアノを習っていましたが、現在ではまったく弾けなくなってしまったので、いろいろ調べて何とか今回の話を書きました……大丈夫かな……。


「うーん、目ぼしいものはないな」

「だねー」

「やっぱりこういうのは秋葉の方がいいのかなぁ」

 

 池袋駅近くの電気屋に来た三人だったが、手ごろな値段で購入できる良質な物はなかなか見つからなかった。

 夢美の場合、元々のPCのスペックが足りなくなってきたこともあり、さらにスペックの良いパソコンを探していた。レオは歌配信用にミキサーやより高品質なマイク、林檎は特に欲しいものはなく適当に周囲を見て回っていた。

 

「配信機材買うならネットや、秋葉のコアな店で買った方がいいと思うよー。自作PC組むときも必要なスペック店員さんに聞けばパーツ選んでくれたりするしねー」

 

 元実況者というだけあって、林檎はその手のことには詳しかった。

 

「そうなんだ。あたしそういうの全然詳しくないから、今度教えてよ」

「いいよー」

「というか、それならわざわざ電気屋来る必要なかったんじゃ?」

 

 知識豊富な林檎ならばはじめから夢美やレオの目当ての物がないことは理解できたはずだ。

 そんなレオの言葉に林檎はわざとらしく肩を竦めた。

 

「わかってないなー。こういうのはぶらぶらするのも楽しいんだよー。それに、知識がないならこういう店での値段を見てからじゃないと、安いかどうかも判断できないでしょ。ま、そもそもポケセンのついでだからねー」

「……結構考えてるんだな」

「そりゃ今までは一人で全部やってたからねー」

 

 林檎はゆなっしーとして活動しているときは、現在の亀戸がやっているようなマネージャー業務も全て一人で行っていた。

 当然、機材関係の知識も、動画編集の技術も彼女が独学で学んで磨き上げたものなのだ。

 これに関しては、林檎も胸を張れる自分自身の実力だった。

 しばらくレオ達は店を見て回りながらイヤホンなどの音楽機器が置いてあるフロアにやってきた。

 

「えっ、イヤホン高っ!」

 

 三人がフロアを見て回っていると、高品質なイヤホンの値段を見て夢美が驚きの声を上げた。

 

「イヤホンの値段ってホントピンキリだよな。昔CM出たとき企業からもらったことあるけど、二万ぐらいの奴だとマジで全然違うぞ」

「私は首掛けスピーカー派だなー。イヤホンって耳の中に入れるから、長時間入れてると外耳炎になる可能性あるし、集中したいとき以外使わないんだよね。使ったとしてもヘッドホンかなー」

「あ、その首から掛けてるやつスピーカーだったんだ」

 

 林檎は基本的にパーカーと首掛けスピーカーという組み合わせで出かけている。林檎は常に音楽を聴いていないと落ち着かないタイプなのだ。

 

「……今まで何だと思ってたの?」

「えっ、ダサいアクセサリー」

「これお気に入りだったんだけどなー……」

 

 夢美からの指摘に珍しく林檎はショックを受けていた。それだけ愛着のあるスピーカーだったのだ。

 

「わー! ごめん! そんなディスるつもりじゃなかったの!」

「また失言デッキが増えたな」

「失言デッキ言うな!」

 

 素直に言葉を口にすると夢美は失言することが多い。そんないつも通りの夢美の様子にレオは苦笑しながら肩を竦めた。

 林檎がショックを受けるところなど見たことのなかった夢美は、慌てて話題を変えることにした。

 

「と、ところで優菜ちゃんはどんな曲聞くの?」

「……別にいいじゃん」

 

 お気に入りのスピーカーをディスられたことで、林檎は拗ねたように顔を逸らした。

 

「ご、ごめんってば。この通り!」

 

 必死に謝る夢美を見て、林檎はため息をつくと、普段自分が聞いている曲を教えた。

 

「……チャイコフスキーとか、ラフマニノフのピアノ協奏曲」

「ん、誰それ? 最近のアーティスト?」

「由美子……お前、マジか……」

 

 有名な作曲家の名前を聞いたのにも関わらず、頭に?マークを浮かべる夢美を見てレオは戦慄していた。

 

「由美子、モーツァルトって知ってる?」

「さすがにそれくらいわかるよ。音楽室の人でしょ」

「世界的に有名な音楽家を、音楽の非常勤講師みたいに言うな」

 

 かなりざっくりとした夢美の音楽知識にレオも林檎もため息をついた。

 

「ま、興味ないならそんなものかねー」

「いや、チャイコフスキーくらいならわかるだろ」

「いやいや、先入観はいけないよー。ゲイボルグは知っててもクー・フーリンは知らないって人、結構いるでしょー?」

「何でその例えを選んだんだよ。言いたいことはわかるけど」

 

 クー・フーリンとはケルト神話に出てくる英雄の一人だが、日本ではアーサー王の方が有名のため、知名度は低い。最近は英雄を召喚して戦わせるゲームないし、その原作のシリーズの影響もあり、知名度は上がってきてはいるが。

 それに対し、彼の使っていたゲイボルグなどは、ゲームの武器として名前が使われることもあり、知名度は高い。

 要するに音楽でいえば、アーティストは知らなくても曲は知っていることが多いだろう、と林檎は言いたかったのだ。

 

「なるほどね。確かにクラシック一ミリも興味ないあたしでも、曲名ならさすがに知ってるかも」

「由美子、アヴェ・マリアはわかるか?」

「阿部マリア? ハーフの人?」

「やっぱりかー……」

 

 林檎は予想通りの回答が返ってきたことで諦めたように天を仰いだ。

 

「……さすがにガボットはわかるよね?」

「ガボット?」

 

 またもや首を傾げる夢美に、林檎は今度こそがっくりと項垂れた。

 曲が思い浮かばない夢美に、レオはさりげなく言う。

 

「曲名を知らなくても、メロディ聞けば絶対わかると思うぞ」

「えっ、レオはわかるの?」

「メジャーな曲だからな。ほら、ワンピでも必殺技の名前にあるだろ」

「あー、あのガイコツの技か!」

「ガイコツって……いや、ガイコツだけども」

 

 レオとしては某海賊漫画で一番好きなキャラだったため、夢美の雑な覚え方に複雑な表情を浮かべた。レオは漫画こそ買っていないが、バイト仲間に週刊少年漫画雑誌を毎週見せてもらって話は追っていたのである。

 結局どんなメロディかはわからなかったため、夢美は林檎にガボットのメロディがどんなものか尋ねた。

 

「それで、どんなメロディなの?」

「ふふふふ♪ ふふふふ♪ ふっふっふん♪ って感じ」

「あー、何か聞いたことあるようなないような……ま、別にいっか。それがガボットね、うん。覚えた」

 

 林檎の鼻歌を聞いてもまだピンと来ていない上に、まるで興味がなさそうな様子の夢美に、林檎は段々とイライラし始めていた。仕方ないとはわかっているが、そこまで興味なさそうにされるとムカッとくるのだ。

 頬を膨らませた林檎は夢美の手を引いて歩き出した。

 

「もう、しょうがないな―! ちょっときて!」

「えっ、優菜ちゃん!?」

「おい、どこ行くんだよ!」

 

 レオも慌てて二人を追いかける。林檎が夢美を連れてきたのは電子ピアノ売り場だった。

 

「ガボットのメロディはこれ!」

 

 ♪♪♪♪~♪♪♪♪~♪♪♪♪~

 

 林檎は店に置いてある自由に弾いていいピアノでガボットを弾き始めた。

 

「これならさすがにわかるでしょ?」

「優菜ちゃんピアノ弾けたの!?」

「意外だな……」

 

 夢美は興奮したように、レオは意外そうにピアノを弾く林檎を見ていた。

 

「まあね。それよりガボットの――」

「ねぇねぇ! もっといろいろ弾けるの!?」

「え、あ、うん」

 

 ランランと目を輝かせてぐいぐい来る夢美に、林檎は困惑したように頷いた。

 

「あれ弾いてよ。ちゃ~ら~ら~ら~♪ って感じの奴」

「ああ、カノンね。いいよ」

 

 普段なら人から頼まれたところで絶対に弾かないのに、不思議と夢美に頼まれた瞬間に、林檎は二つ返事で了承していた。

 

 ♪♪♪♪~♪♪♪♪~♪♪♪♪~

 

 夢美の要望通りに林檎がカノンを弾くと、夢美はさらに興奮したようにはしゃぎ始めた。

 

「わー! すごい! 優菜ちゃんめっちゃピアノ上手じゃん!」

「その感じだと昔からやってたのか?」

「ま、まあ、物心ついたときには弾いてたかなー」

 

 はしゃぐ夢美に釣られるように、レオも林檎のピアノの腕に興味を示し始めた。

 

「アニソンとかも弾けるのか?」

「んー、ものによる。リクエストがあればどうぞー」

 

 久しぶりに人前でピアノを弾いた林檎だったが、レオと夢美の反応を見たことで、自分がピアノを弾き始めたときのことを思い出していた。

 ――そういえば、最初は上手い下手関係なく弾いても、みんな喜んでくれてたっけ。

 自分の演奏を純粋に喜んでくれることに、どこか心地良さを感じていた林檎は、上機嫌でレオにリクエストを聞いた。

 

「マジか! じゃあワンピのオープニングのココロのちずとかいけるか?」

「ワンピといったらウィーアーでしょうが……ま、いいや。ココロのちず、ココロのちずっと」

 

 林檎はレオのリクエストした曲がどんな曲か覚えていなかったため、U-tubeで曲を検索し始めた。

 

「ふんふふふふん♪ ふんふふふーふふー♪ あー、懐かしい! この曲ねー!」

 

 こんな感じかなぁと、林檎はスマホで曲を聴きながら軽くメロディを弾く。

 その様子を見ていたレオは、林檎が何をしようとしているのか理解して目を見開いた。

 

「えっ、まさかお前……!」

「どうしたの、そんなにビックリして」

 

 林檎が何をしようとしているか、まるで理解していない夢美は驚いているレオの顔を怪訝な表情で覗き込んだ。

 

「優菜は知らない曲を聞いただけで弾こうとしてるんだよ」

「あははっ、何言ってんの。そんなことできるわけないじゃん」

「いや、できるけど」

「ヴェッ!? できるの!?」

 

 優菜が耳コピで曲を弾けるということを理解した夢美は驚きの声をあげる。

 

「……別に耳コピくらいでそんな驚くことないでしょー。こんなの絶対音感なくても、練習すればできるようになるよ」

 

 林檎は簡単に言っているが、林檎の言う練習すればの練習量は普通の練習量ではない。

 

「いや、普通はできないと思うけど……」

「言うほど難しくはないと思うけどねー。そんじゃ弾くよー」

 

 耳コピが終わった林檎は滑らかにレオのリクエストした曲を弾きだした。

 

 ♪♪♪♪~♪♪♪♪~♪♪♪♪~

 

「と、まあ、雑な耳コピだからこのくらいのクオリティで許してねー」

 

「「す、すげぇ……」」

 

 納得のいくクオリティで弾けなかったため、林檎は不満そうだったが、レオと夢美は完全に林檎の演奏の虜になっていた。

 二人仲良く呆けた表情を浮かべるレオと夢美を見て、林檎はどこか吹っ切れたように問いかけた。

 

「――ねえ、これを配信でやったら盛り上がると思う?」

 

 林檎の問いの意味を理解したレオと夢美は、満面の笑みを浮かべて答えた。

 

「「もちろん!」」

 

「そっかー……うん、やってもいいかも」

 

 そんな二人に林檎は、()()()心からの笑みを浮かべたのであった。

 




まだまだ続くよ、池袋回。

何気に音楽が関わるとムキになる林檎は、書いてて「あれ、こいつこんな可愛かったっけ」ってなってます。


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【三期生】池袋で遊ぼう その3


てぇてぇ ( 'д'⊂彡☆))Д´) パーン シリアス



 電気屋を後にした三人はサンシャイン通りから地下道に入り、目的地へと向かっていた。

 地下からエスカレーターに乗ったレオと夢美は早速興奮したようにはしゃぎ始めた。

 

「す、すげぇ! モンボが並んでる!」

「うわぁ! エスカレーターの終わりマスボになってるよ!」

「楽しそうだねー」

 

 エスカレーターの上を見上げてみれば、そこには照明の周りにゲームで登場する代表的なアイテムの装飾がされていて、レオと夢美は目を輝かせる。

 そして、エスカレーターを降りて二階に到着した二人は、目の前に広がる光景に満面の笑みを浮かべた。

 

「「何これ天国じゃん!」」

 

 そこには大人気ゲームシリーズから派生してできたコンテンツにまつわるショップがいくつも立ち並んでいた。

 現実の地図に対応してモンスターが出現してそれらを捕まえるスマホゲームに、携帯ゲーム機と同じように長い歴史を持つ同シリーズのカードゲーム、さらには代表的なモンスターがポップなイラストで描かれた看板が特徴的なカフェ。

 そのうえ、モンスター達がたくさん並んでいる展示スペースまであった。

 

「ポケゴーのコーナーなんて、できてたの!?」

「あっちはポケカのゾーンもあるぞ!」

「こっちはカフェもあるよ!」

「てか、ポケセンでっか!」

「ねえ見て! あっちには御三家がいっぱいいるよ!」

「マジだ! 写真撮ろう写真!」

 

 レオと夢美はスマートフォンのカメラを片手にフロア中を駆け回る。

 

「……完全にポケセンでよく見るカップルだ、これ」

 

 そんな二人を見て、林檎は呆れたように苦笑した。

 

「そういえば、二人は最初の三匹いつも何選んでるのー?」

 

 レオ達の好きなモンスター育成ゲームでは、旅立つ前に博士から三匹のモンスターの中から一匹だけをもらえる。

 ほのおタイプ、みずタイプ、くさタイプの三属性から選べるこのモンスター達は、ファンの間から御三家と呼ばれているのだ。

 そんな御三家の展示がされているエリアで、林檎は二人に最初に選んだモンスターを聞いた。

 

「俺は毎回くさタイプ選んでるな」

「ほのおっぽいのに意外だねー」

「……ほのおは姉さんと被るから嫌だったんだよ」

「あはは、確かにお姉さんはほのおっぽいね」

 

 静香のパワフルな様子を思い出した夢美は、納得したように笑顔を浮かべた。

 

「由美子は?」

「んー、あたしは世代ごとにバラバラかな。最初にやったのがサファイアだったけど、選んだのはほのおタイプだったよ。そのあとが、みずタイプ、くさタイプって感じかな?」

「あれ、XYやってないの?」

「就職してからはアニメ見るくらいで、ゲーム自体全然やってなかったんだよね。あの頃はしんどかったなぁ……十四連勤、うぅ頭が……」

 

 嫌なことを思い出したのか、夢美は頭を押さえてうめき声をあげた。

 

「おっ、みがわりエルフも展示されてる」

「これわかる人にはわかるトラウマだよねー」

「そうか、結構楽しかったぞ?」

「やってる側だったかー……」

 

 人によってはネット対戦でのトラウマを彷彿とさせる展示を見て、レオは楽しそうに笑って当時の思い出に浸る。

 

「五世代のレート戦を思い出すなぁ。あの頃はきせきモンジャで砂パ無限に止めてたっけ……」

「感慨深そうに呟いてるけど、クソみたいなことしてたのはわかるわー」

「そうか? 受けルで相手詰ませて切断されたときとか、勝負はつかなくても最高に楽しかったぞ。こっちが負けない限りレートは落ちないからな」

「アイドル引退してストレス溜まってたんだろうなー……」

 

 当時の思い出を語るレオは、夢美とは別の方向で闇を感じさせ始めていた。

 

「一度も切断してないのに、切断厨晒しスレに晒されたこともあるぞ。あそこまで負けた奴が顔真っ赤にして報復しようとしてると思うと一周回って面白かったよ」

「えっ、何それ、めっちゃ面白いじゃん」

「サイト見れば、切断したかどうか表示でわかるのにバカな奴らだなーって思ってたよ」

「あっはは、メンタルやられちゃってるじゃん! うわー、見たかったなそれ!」

 

 元々人を煽ることが好きな林檎は、レオの話を聞いて楽しそうに笑った。

 

「ねえ、二人共。一緒に写真撮ろうよ」

「おっと、そうだったな」

 

 ブラックな思い出から立ち直った夢美は、静香に送るための三人の記念写真を撮ることを提案する。

 

「うーん、自撮りだと後ろがちゃんと入らない……」

 

 スマートフォンを自撮りモードにして写真を撮ろうとするが、なかなかうまく画角が決まらずに夢美は顔を顰める。

 そんな夢美にレオは当たり前のように提案した。

 

「人に頼めばいいだろ」

「人に……頼む……?」

「初めて火を発見した原始人みたいなのやめろ」

 

 見ず知らずの人間に話しかけるという行為が苦手な夢美に代わって、レオは近くを通りがかった人に写真を撮ってもらえるか聞きにいった。

 

「すみません、写真撮影をお願いしてもいいですか?」

「ええ、いいですよ」

 

 微笑みながらレオに写真撮影を頼まれた女性は、笑顔でレオの頼みを快諾した。

 

「いやー、コミュ力あるイケメンがいると助かるねー」

「別に写真頼むくらい普通だろ?」

「さらっと女の子に頼む辺りそこいらのオタクくんとはレベルが違うよー」

「写真……頼む……普通……ホァ?」

「おい、そこの霊長類。言語を忘れるな」

 

 三人は歴代の御三家がたくさん並んでいる場所へ移動し、林檎を挟むような形で並んで立った。

 

「じゃあ、撮りますよー」

 

 写真撮影を引き受けた女性は仲の良さそうな三人を微笑ましそうに見ながら、合図を出した。

 

「はい、チーズ!」

 

「にひっ」

「うわっ!」

「ちょっ!」

 

 シャッターを切る瞬間、林檎は悪戯っぽく笑うと、レオと夢美の腕を引いて二人の距離を一気に近づけた。

 レオと夢美はバランスを崩して顔がくっつくほどの至近距離で困惑した表情を浮かべ、二人の頭の上から顔を出した林檎は満面の笑みを浮かべていた。

 

「イエーイ、ドッキリ大成功ー」

「もう、優菜ちゃん! 危ないじゃん!」

「び、びっくりしたー……」

 

 単純にバランスを崩して危なかったことに対して林檎に怒っている夢美とは対照的に、夢美と少しだけ頬が触れたことでレオは照れたように明後日の方向を向いていた。

 

「あ、写真ありがとうございました!」

「………………はっ! い、いえ、こちらこそ大変いいものを――じゃなくて、気にしないでください」

 

 スマートフォンを構えたまま呆けた表情を浮かべていた女性は、慌てたようにレオにスマートフォンを返却した。

 

「それでは、俺達はこれで。本当にありがとうございました」

 

 女性に礼を告げると、レオは林檎に対して怒っている夢美を窘めながら専門店の方へと向かった。

 そんな仲の良さそうな三人の後姿を見ながら、写真撮影を行った女性は興奮した様子で呟いた。

 

「何あの三人……! てぇてぇ……てぇてぇよー……!」

 

 このときの様子を語った彼女のツウィッターでの呟きは、のちにポケ勢達の間でバズることになるのだが、それはまた別のお話。

 

 それから専門店に到着した三人は――というより、レオと夢美は今までで一番興奮したように声を上げた。

 

「すげぇポケセンだ! ゲームと同じだよこれ!」

「てんてんてけてん♪ って音、脳内再生余裕なんだが? えっ、ヤバないこれ?」

「あ、うるさくてすみません」

 

 あまりにもハイテンションで二人が声を上げているため、林檎は近くにいた女性スタッフへと謝罪した。

 

「いえ、構いませんよ。見ていて微笑ましいです」

 

 専門店の女性スタッフはニコニコしながら、子供のようにはしゃぐレオと夢美を眺めていた。

 

「ほら、二人共落ち着き――」

「見ろよ由美子! 初代全種のぬいぐるみあるぞ!」

「ひゃー、金銀世代のもあるじゃん!」

「はぁ……ダメだこりゃ」

 

 額に手を当ててため息をついた林檎は、二人が静かになる魔法の言葉を唱えた。

 

「あんまり騒ぐと身バレするよ?」

 

「「ごめんなさい、静かにします」」

 

 林檎の言葉を聞いた二人はピタリと静かになった。

 

「はしゃぐのもわかるけど、本当に気を付けなよ? 由美子はともかく拓哉は元有名人なんだから」

「はい、すみません……」

 

 まさか、一番常識のなさそうな林檎に注意されるとは思っていなかった二人はしゅんとした様子で反省していた。

 

「ていうか、よく拓哉は身バレしないよね」

「昔と印象が違いすぎるのと、俺の全盛期はもっと地声が高かったからな」

「そっか、活動時期は中学生から高校生までだったもんね」

「たぶん、同一人物の歌って言われて同じ曲を聞かされないとわからないと思うよ」

「でも、あの界隈のファンって結構どこからでも見つけてきそうじゃない?」

「その点は大丈夫だ。俺はアンチの方が多かったからな。当時のアンチは今頃違う奴のアンチやってるだろうし」

 

 ま、厄介なファンもいたけどな、とレオはしみじみと呟く。

 

「現場近くで出待ちしてるファンがいたけど、怒鳴りながら塩持ってきてぶちまけた記憶があるな。思い返してもあれは酷い……」

「それはもうファンじゃなくてただの迷惑な野次馬でしょ……いや、あんたも大概だけど」

「ホント、現役時代の拓哉は過激だねー……」

 

 それから三人は各々ぬいぐるみやスマホケースなどのグッズを購入した。

 

「拓哉は何買ったの?」

「五世代のときの相棒のぬいぐるみやスイッチとかだな」

「ヴェッ!? スイッチ買ったの!?」

「いや、このモデルのやつ見つけてついな……こんどピカブイも実況するか」

 

 レオはシリーズの中でも看板モンスターの印刷されたモデルのゲーム機を勢いのままに購入していた。そのうえ、このモデルのセットには、シリーズ初代のリメイク作品であるゲームソフトも付いてくるため、そのまま実況することにしたのだ。

 

「そういう由美子は何買ったんだ?」

「ん、あたしはぬいぐるみ系いっぱい買っちゃった。ほら」

「おお、ブイズのぬいぐるみ全部買ったのか。他にもアクセサリー系も結構買ったんだな」

 

 夢美は様々な属性のモンスターに進化するモンスターの進化系の全てのぬいぐるみを買っていた。

 二人共使った合計額は軽く三万円を超えていた。

 この二人、収益化からのスーパーチャットと広告収入のおかげでそこそこの収入を得ていたため、若干金銭感覚が麻痺しはじめていた。

 レオの場合はバイトと並行しているため、夢美の場合は会社員時代に使わずに貯め続けた貯金があるため、今すぐお金に困ることもなかったということも原因の一つである。

 

「……何かヤバいスイッチ入れちゃったかなー?」

 

 すっかり買い物を満喫してほくほく顔の二人を見て、林檎は呆れたように苦笑するのだった。

 





この三人が仲良くしているの好きすぎて話が進まない……。


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【三期生】池袋で遊ぼう その4


特異点と化した池袋



 専門店での買い物を終えた三人は次にカフェにやってきていた。

 池袋にある店舗は日本橋にある店舗と違ってテイクアウト専門であるため、購入後はすぐに外に出なければいけない。

 レオは期間限定のバナナフラッペを、夢美はカフェラテを、林檎はソーダをそれぞれ購入して、店の外に出た。

 

「内装も凝ってて凄いな、ここ」

「ねー、デザインした人天才だよねー」

「うぅ……可愛くて飲むのがもったいない……」

 

 悩まし気にラテアートを眺めていた夢美だったが、何度か写真を撮ると、吹っ切れたようにカフェラテを飲み始めた。

 

「それにしても、このフロアのポケ率凄いよな」

「移転してすぐの頃はポケセンくらいしかなかったもんねー」

 

 専門店があるレジャー施設の二階の中心には専門店以外にも、派生した同シリーズのコンテンツのエリアが広がっている。

 そんなフロア全体を眺めてレオと夢美は表情に陰を落とした。

 

「何か時代を感じるな……」

「はぁ……あたし達もう二十五だもんね」

「えー、まだまだ若いじゃん」

 

 自分達の年齢を自覚してショックを受けている二人に、林檎は首を傾げた。

 

「二十一歳の優菜ちゃんはまだわからないと思うけど、二十代の折り返しに来ると何か焦るんだよ」

「たかが四歳されど四歳だ」

「別に変わんないと思うけどねー」

 

 それから購入したスイーツを平らげてカップなどをゴミ箱に捨てると、レオは見知った顔を見つけた。

 

「あれ、サタ――(つかさ)君?」

「えっ、獅子じ――司馬さん?」

 

 髪を金髪に染め、左耳にはピアスをはめた、いかにも人生をエンジョイしていそうな見た目の少年――サタン・ルシファナは驚いたように目を見開いた。

 レオはサタンと頻繁にRINEでやり取りをしていた。そのときの流れで本名を聞いていたため、慌てて本名の方で名前を呼んだ。

 

「拓哉、知り合い?」

「知り合いも何も……あ、司君。何となくわかると思うけど、こいつらもアレだから」

「あ、なるほど三期生の方々でしたか」

 

 サタンはレオの言葉で、夢美と林檎もライバーだと理解した。

 

「えっ、同業者の人?」

「あはは……某魔王をやってます」

「うっそ、全然声違うじゃん」

「しっかりキャラ作ってんねー……ん、君どっかで……?」

 

 配信中の様子とまるで違うサタンの様子に夢美も林檎も驚いていた。

 

「今日はオフで?」

「はい、今日は友人と来ているんですよ」

 

 サタンがそう言うと、トイレがある方向から恰幅の良い眼鏡をかけた青年が駆け寄ってきた。

 

「ごめん司君、お待たせ!」

「あ、本場さん」

 

 本場と呼ばれた青年は、サタンと話し込んでいる三人を見て首傾げた。

 

「あれ、司君の知り合い?」

「あはは……まあ、そんなとこです」

 

 第三者に素直にVtuber仲間と紹介するわけにもいかず、サタンは言葉を濁して笑った。

 

「あの……もしかして、実況者のポンバーさんですか」

「ご存じでしたか。いやぁ、動画を見てくださりありがとうございます」

 

 レオは本場の顔に見覚えがあった。

 彼はサタンと同じ大人気モンスター育成ゲームの対戦実況者ポンバーであり、対戦実況者の中でも最強クラスの実力を誇っているのだ。

 

「ORASのときの世界ランカーですからね。そりゃチェックしてますよ! あ、でも最近は動画投稿していないので、やめちゃったんじゃないかと思って……」

「えっ、あ、ああ、まあ……ちょっと忙しくなっちゃって。一応、今も対戦には潜ってますよ」

「マジですか!」

 

 自分の方が有名人だというのに、レオはまるでアイドルのファンの如く、ポンバーに会えたことに目を輝かせていた。

 

「お会いできて光栄です!」

「いえいえ、もしランクマで当たったときはよろしくお願いしますね」

 

 ポンバーはレオの反応に嬉しそうな反面、どこか寂し気な笑みを浮かべた。

 

「あー、どっかで見たことあると思ったらポンちゃんか」

 

 そんなやり取りを見ていた林檎は、思い出したかのように右手をポンと左手の掌に打ち付けた。

 

「あれ、ゆなっしーさんじゃないですか」

 

 ポンバーも林檎の顔を見て、彼女がゆなっしーであることに思い当たった。

 

「優菜ちゃん、もしかして実況者時代の知り合い?」

「直接の絡みはなかったけどねー」

「ニヤニヤのイベントのときにちょっと挨拶した程度ですもんね」

 

 お互いそこそこ有名な実況者であったため、林檎とポンバーは面識があった。直接の絡みこそなかったものの、お互いに顔くらいは認識していたのだ。

 

「これ以上お邪魔しても悪いですし、本場さん。そろそろ……」

「そうだね。では、皆さん。また!」

 

 どこか居心地悪そうにしていたサタンはポンバーを促して、足早に去っていった。

 

「……なるほどねー。そーゆことか」

「何が?」

「ううん、何でもない」

 

 何かを察したように呟く林檎に夢美は怪訝な表情を浮かべたが、林檎は手をひらひらと振ってごまかした。

 

「あれ、何かイベントやってるみたいだねー。ちょっと見てみようよ」

 

 人が段々と中央の吹き抜け部分の周りに集まりだしたため、林檎は興味深そうにそっちの方に歩き始めた。

 

「あー噴水広場の方か。しょっちゅう何かやってるよな」

「どっかのアイドルのライブかな?」

 

 レオと夢美も林檎に続いて吹き抜けの方まで行ってみることにした。

 池袋のレジャー施設には噴水広場があり、そこでは様々なイベントや展示会が行われる。

 噴水広場は上の階まで吹き抜けになっており、上の階にいても広場の様子が窺えるようになっていた。

 

『どうもどうもー! わざわざカリューのライブを見にきてくださったみなさん! 別にカリューには興味ないよっていう通行人のみなさん! ライブ配信で見てくださっているみなさん! 掲示板でカリューのことをバチクソに叩きまくってるアンチのみなさん! こんにちはー!』

 

「お、アイドルのイベントだ」

「あっ、あの子知ってる! 最近バラエティーに結構出てる子だ」

「へー、私はバラエティー見ないからよくわかんないなー」

 

 噴水広場で行われているイベントは、とあるアイドルのCD発売イベントだった。

 出演しているアイドルは、最近バラエティー番組によく出演している体当たり系アイドル〝カリュー・カンナ〟だ。

 彼女は出演する番組で、どんなに無茶な要求をされても呑むという近年では珍しいタイプのアイドルだった。

 

「ジャングルの奥地で虫とかよく食べてるよね。ピラニアのいる川に飛び込んだりもしてたっけ」

「この前は生肉に繋がった紐を括り付けてコモドオオトカゲと追いかけっこしてたよな」

「えっ、何その命がけの企画」

 

 林檎はカリューの活動内容を聞いて、驚いたように目を見開いた。

 

「心臓に毛が生えてるってよく言われているけど、本当に凄い子だよ。本当、現役時代の俺とは大違いだ……」

 

 NGなしで何にでも挑戦するカリューの姿にレオは尊敬の念を抱いていた。

 それから、一通りオープニングトークも終わり、カリューのライブが始まった。

 すっかり興味をそそられた三人は吹き抜けから覗き込むようにカリューのライブの様子を覗き込んだ。

 

「あの子ってネタ枠なイメージが強いけど、歌ってみるとガチなんだね。ダンスもキレッキレだよ」

「相当レッスンしたんだろうな……」

「何かネタで引き寄せてパフォーマンスで引き込むって、拓哉みたいだね」

「本人の根性もそうだけど、きっとマネージャーも優秀なんだろうな」

 

 すっかり笑顔を浮かべて手を振り始めた夢美は、カリューと目が合って興奮したように叫んだ。

 

「あっ、目が合ったよ! ねえ、絶対今目が合ったって!」

「凄いな。この人数でも、きちんと目が合っているように会場全体に目を配っている。あれ、結構大変なんだよなぁ」

「……何かマジックの種明かしされてるみたいで萎えるからやめてよ」

「っと、悪い悪い。つい前の職業柄な」

 

 レオはアイドル時代の名残で、つい冷静にカリューのパフォーマンスを分析してしまっていた。

 

「しかし、これだけのパフォーマンスが出来るならあそこまで命がけの企画に挑戦する必要もないと思うんだけどな……」

「きっと、芸能界で生き残るために出演できる番組を増やしたかったんじゃない? 当時の拓哉から傲慢さを抜いたらああかもね」

「あー、それはあるかもな」

 

 それでも俺はあそこまでできないだろうけどな、とレオは苦笑する。

 

『今日は本当にありがとうございました!』

 

 それからライブが終了し、深々と頭を下げるカリューを見て、レオと夢美は感慨深そうに呟いた。

 

「あの子、もっと売れるといいね」

「あれだけガッツのある子だ。きっと芸能界の大御所の方達だって気に入るさ……そういや、さっきから黙っているけど、どうしたんだ優、菜?」

 

 さっきから会話に参加してこない林檎が気がかりで、彼女の方を向いたレオは尋常じゃない林檎の様子に固まった。

 

「何であの子が……アイドルに……」

「優菜ちゃん、どうしたの?」

 

 夢美は心配そうに林檎に声をかけるが、彼女の声は林檎には届いていなかった。

 

「狩生さん……どうして」

 

 林檎だけは顔面蒼白でカリューの本名を呟いたのだった。

 




ストーリー動きます。すまんやで……


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【感謝と崩壊】消せない過去

予約投稿じゃよー。
ほぼ連続投稿だから読んでない人は前話から読んでくださいな。


「……何か疲れちゃったから、今日はもう解散にしよっかー」

 

 カリューのライブが終わってからというもの、林檎の様子がどこかおかしい。

 顔面蒼白で何かを呟いたと思ったら、足早に現在いる場所から離れようとしているのだ。

 

「まあ、体調悪そうだし、優菜がそう言うなら……なあ?」

「うん、無理しないでね優菜ちゃん」

「あはは……ごめんねー」

 

 いまだ顔色の悪い林檎は、自分を心配してくれる二人に力なく笑った。

 

「あっ、いた!」

「っ!」

 

 そんなやり取りをしていると、向こうから先程聞いたばかりの声が聞こえてきた。

 

「はぁ、はぁ……やっぱりそうだ……手越さん、だよね?」

 

 慌てた様子で三人の元へと駆け寄ってきたのは、見事なライブパフォーマンスを披露していたアイドル、カリュー・カンナだった。

 

「……狩生さん」

「えっ、優菜ちゃんカリューと知り合いだったの!?」

「これまた意外な組み合わせだな……」

 

 二人の様子から林檎とカリューが知り合いだと察したレオと夢美は、驚いたように目を見開いた。

 カリューはずっと会いたかった旧友に再会できたように、笑顔を浮かべて林檎に話しかける。

 

「覚えててくれたんだね」

「……そりゃ人生を滅茶苦茶にした相手のことなんて忘れるわけないでしょ」

 

「「え?」」

 

 バツの悪そうな林檎の爆弾発言に、レオと夢美は凍り付く。

 

「で、何? 文句の一つでも言いに来たわけ?」

「まさか! まあ、確かに手越さんを恨んだこともあったけどさ……今は感謝してる」

「ほ?」

 

 思いがけないカリューの言葉に、林檎は呆けたような表情を浮かべて固まった。

 

「中学時代のあの経験があったからこそ、私は今こうして芸能界でも歯を食いしばって立っていられる。だから、一言お礼を言いたかったの」

「な、何言ってんの? 私のせいであんたはいじめられ続ける中学生活を送るはめになったんだよ!?」

「先に喧嘩を売ったのは私、でしょ?」

 

 カリュー――狩生環奈は林檎の中学時代のクラスメイトだった。

 

 当時、林檎はクラスの中でもカースト最上位のグループに所属していた。いや、正確には林檎のいるグループがカースト最上位のグループだったというべきだろう。

 芸能人の娘で自分よりも可愛くて周りにちやほやされる存在。

 

 そんな彼女を妬み、カリューは林檎の隙を見て嫌がらせ目的で林檎の鞄を捨てた――それが林檎の仕掛けた罠だとも知らずに。

 

 高額な財布や私物の入った鞄を嫌がらせ目的で捨てたことが露見したカリューは、退学処分になりそうなった。

 絶望の淵に立たされたカリューに林檎は言った「あんたが退学になるのは本意じゃないんだよねー。ま、態度次第では許してあげるよ?」と。

 それを聞いたカリューは泣きながら林檎に土下座をした。

 それから林檎の口添えもあり、カリューは退学処分を免れて出席停止処分になった。林檎の両親も林檎が自分にも非があったから許してあげて欲しいと言ったこともあり、直接謝りにきたカリューのことは既に許していた。

 

 だが、出席停止明けのカリューを待ち受けていたのは苛烈ないじめの日々だった。

 

 机には毎朝のように落書きがされ、トイレに入れば水をかけられ、ロッカーには生ごみを入れられたことだってあった。

 多くの人間は積極的に他人に悪意をぶつけることを避けるが、例外が存在する。

 それは被害者がいる場合だ。

 人間は基本的に誰かを虐げたくなる生き物だ。相手が誰かを虐げた者ならば、正義のためという大義名分のために、簡単に人を攻撃する。ネット上でくだらないことが原因で炎上騒ぎが起きるのもこういう原理である。

 カリューは中学二年生から始まったいじめを耐え抜き、何とか卒業した。

 しかし、友人だと思っていた人間達から裏切られすっかり人間不信になっていたカリューは高校生になっても友人を作ることができなくなっていた。

 一人ぼっちの高校時代を過ごしたカリューはあるとき、動画サイトで林檎が実況者として人気を博している様子を見て、憎悪の炎が燃え上がった。

 

 ――どうして私をこんな目に遭わせた奴が今も周りからちやほやされているの!

 

 中学時代、可愛い見た目から林檎のように男子から人気があったカリューはアイドルになることを夢見ていた。それを教室で口にしたら林檎に鼻で笑われたことを思い出したカリューの中に決意が芽生えた。

 

 ――絶対アイドルになってぎゃふんと言わせてやる!

 

 一念発起したカリューはアルバイトと並行しながら、オシャレもダンスも歌も死ぬ気で頑張った。

 そんなどん底から這い上がろうとする向上心が目に留まり、カリューは現在の事務所に所属し、アイドル活動を始めた。

 アイドル活動を始めてから、カリューは思うようになった。そもそも自分があんな短慮な行動をしなければ、こんなことにはならなかった――全部自分のしたことが返ってきただけではないか。

 芸能界でも少なからずいじめは存在する。そんないじめっ子達を見てカリューは思った。あの子達もいずれしっぺ返しを食らうんだろうな、と。

 かつて傲慢さが原因で引退したアイドルの話をマネージャーから聞かされていたこともあり、カリューは謙虚な心を持ちつつ、何事にも全力でぶつかっていくことが芸能界で生き残るコツだと理解し始めたのだ。

 そして、気が付けばカリューは体当たり系アイドルとしてゴールデンタイムの番組のレギュラーになるほどに成長していた。

 

「確かにあれから私の人生はどん底だったと思う。クラスメイトからはいじめられて、先生達は見て見ぬふりをして、あんたの高額私物を全額弁償した両親からも白い目で見られて本当につらい毎日だった……でもさ、あの経験は無駄じゃなかったって今は思ってる」

 

 ――やめて。

 

「元はといえば手越さんの鞄を捨てた私が悪いんだしさ。手を出しちゃいけない相手に攻撃すると痛い目を見るっていい教訓になったし」

 

 ――やめて、やめて。

 

「考えてみれば、私って夢叶えちゃったんだよね。あのときはいい加減な気持ちでアイドルになるなんて言ってたけどさ。結局のところ、手越さんのおかげって感じ」

 

 ――やめて、やめて、やめて。

 

「タケさんも芸能界で再会したときは優しく接してくれたんだ。正直、現場が同じになったときは終わったーって思ったけど、共演の話を聞いて真っ先に楽屋に挨拶行って改めて謝罪したら、『君も辛い思いをしたね』って言ってくれてさ。まあ、いい後ろ盾になってくれたから、ますます感謝しかないじゃん?」

 

 ――やめて、やめて、やめて、やめて。

 

「だから、もしも再会できたときは絶対言おうと思ってたんだ」

 

 ――やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて。

 

それ以上は――

 

「ありがとうって」

 

「――――あ」

 

 かつておもちゃ感覚で弄んだ級友の心からの感謝の言葉に、林檎の中で何かが音を立てて崩れ落ちた。

 

「やめてよ!」

 

 耐え切れなくなった林檎は取り繕うことも忘れて叫ぶ。

 周囲から何事だと視線が向くが林檎はお構いなしに捲し立てた。

 

「普通、そんな風には思えないでしょ!? もっと口汚く罵ったり、一発殴ったり、恨み辛みを晴らすためにいろいろな醜い感情をぶつけてくるでしょ! どうして……どうして、そんな風に思えるの!」

「て、手越さん?」

「あんたが私のことを嫌いなのは知ってた! 刺激してやれば簡単に爆発しそうで、風船みたいで面白そうって思ってた! だから短気なあんたが私の鞄に悪戯するように、わざと人のいない放課後に、あんたの部活の時間が終わるタイミングで机の上に鞄を置いたの! 財布の中身だって全部しっかり抜いてたし、値段こそ高いけど自分でもいらないなと思ったものしか入れてなかった! あんたが行動を起こして処分を受けていじめられることだってわかってた! 友達面してた奴らが掌返したようにあんたを裏切るところを見て笑ってたの! そんなゴミクズに何で感謝できるの!?」

 

 ああ、何を浮かれていたんだろう。

 こんな自分を受け入れてくれた友人や、マネージャー陣の好意に甘えてすっかり忘れていた。

 

「私はあんたに感謝されるような人間じゃない。中学のときのあんたが思ってた以上に、クズで、ゴミで、カスで、薄汚くて――救いようのない醜い人間なんだ!」

 

 自分はどうしようもなく救いようのないクズである、と。

 

 林檎は感情のままに叫ぶと、逃げるようにその場から走り去っていった。

 

「優菜ちゃん!?」

「由美子!」

「わかった!」

 

 視線だけでレオの意図を察すると、夢美は急いで林檎の後を追いかけた。

 

「えーと、すみません。俺は優菜の友人なんですが……」

「あっ、はじめまして。カリュー・カンナです……」

 

 林檎が走り去ったことで困惑しているカリューのフォローのためにレオは残った。

 おろおろとしているカリューに声をかけたその時、またもや彼らの元へと駆け寄ってくる人物がいた。

 

「やっと見つけた……カリューさん。急にいなくならないでください」

「あっ、三島さん。ごめんなさい……」

 

 眼鏡をかけた理性的なスーツスタイルの女性が困ったようにカリューへと声をかける。レオはその人物を見た瞬間、驚きのあまり声を上げた。

 

「三島さん!?」

「えっ、どちらさまで――まさか拓哉君!?」

 

 カリューのマネージャー、三島彩智(みしまさち)

 彼女は当時シャイニーズプロの社員であり、STEPの担当マネージャーだった。

 




あ……ありのまま今起こった事を話すぜ!

「俺は感想返しを行っていたと
思ったらいつのまにか次の話を書き終えていた」

な……何を言っているのかわからねーと思うが 

俺も何をされたのかわからなかった……

あ、ちなみに林檎の通っていた中学はいいとこのお嬢様お坊ちゃんが通うような私立中学です。


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【謝罪と贖罪】元アイドルと元マネージャー


地味に書くのが難しかった回



 林檎とカリューのやり取りで人が集まってきてしまったため、ひとまず三人は場所を変えることにした。

 

「拓哉君、待たせてごめんなさいね」

「い、いえ、そんな……」

 

 完全に撤収準備を終えたカリューと三島に居酒屋で合流したレオは、どこか気まずそうな表情を浮かべた。自分の過去で一番迷惑をかけた相手なだけにレオは居心地が悪かったのだ。

 

「あの、手越さんは放っておいて大丈夫なんですか?」

「あいつには由美子が付いてますから、大丈夫ですよ」

 

 それは夢美に対する絶対的な信頼から来る言葉だった。

 かつて燻っていた自分の心を強引にこじ開けた夢美ならば、林檎をうまくフォローしてくれる。そう考えていたレオは、ひとまず落ち着いて話をするためにドリンクを注文することにした。

 

「それより三島さんはコークハイですよね。カリューさんは何を飲まれますか?」

「えっ、覚えてたの!?」

 

 三島はビールが苦手で、飲みの席ではいつもコーラハイボールを飲んでいる。アイドル時代にそんな話をたびたび聞かされていたレオは、しっかりと三島の飲むドリンクを把握していた。

 

「あ、ありがとうございます。カシスオレンジでお願いします」

「わかりました。呼び出しボタンっと」

 

 先に個室のある居酒屋に入っていたレオは、手始めに店員を呼んで注文を済ませた。

 ドリンクが運ばれてきて乾杯を済ませると、三島は感慨深そうに言う。

 

「それにしても拓哉君、雰囲気変わったわね。一瞬、気が付かなかったわ」

「あはは……この状態の俺に一瞬で気が付く時点で凄いと思いますけどね」

「人も変わるものね。あの〝人斬りナイフみたいな小僧〟がねぇ……」

「いや、ジンベエかよ」

「おっ、ちょっと昔っぽさが出てきたわねエース君」

「本当、ワンピ好きですよね三島さん……」

 

 昔から少年漫画が好きだった三島は、よくSTEPのメンバーと一緒に週刊少年雑誌を読んでいた。レオだけは、全員の話を聞いて話題についていくくらいだったが。

 そんな仲の良さげな三島とレオのやり取りを見ていたカリューは、困惑したようにレオに話しかけた。

 

「あの……やっぱりあの司馬拓哉さん、なんですよね」

「ええ、以前三島さんが面倒を見てくれていたアイドルグループSTEPの元メンバー、司馬拓哉です。当時とは印象がだいぶ違うとは思いますが」

「ふふっ、元気そうで良かったわ。あなたが事務所を辞めた後、何の音沙汰もないから心配してたのよ?」

「……俺にはそんなことを言ってもらう資格はありません」

 

 レオは唇を噛んで苦し気な表情を浮かべて言った。

 

「俺のせいですよね。三島さんがシャニプロ辞めたの」

 

 レオがSTEPを抜けた後、一年間ソロ活動をしていたが、その間もSTEPのことは気にしていたのだ。

 

「俺がSTEPを抜けて、マネージャーである三島さんの悪評が立ったことは知っています。STEPの担当を外されて上からの圧で辞職に追い込まれたって」

「……そうね。確かに圧はかけられていたわ」

 

 レオの言葉を三島は静かに肯定した。

 

「それだけじゃない。現役時代だって、せっかく苦労して仕事を取ってきていただいたのに、気に入らなければ〝ふざけんな〟ってすぐに癇癪起こしたり、共演者に不満なところがあれば精神的に追い込まれるまでケチをつけまくって共演はNGになる。STEPのメンバーやあなたにだって何度罵声を浴びせたかわからない。〝やる気がないなら辞めろ、足手纏いはいらない〟なんて言葉、間違っても〝努力している仲間〟にかけていいわけがない。その癖、俺のせいでみんなに迷惑をかけているのに、態度は直さない。プライドだけはいっちょ前に高くて、その実自分の失敗を認められない臆病で面倒くさい俺なんて、迷惑な存在以外の何ものでもなかったはずだ」

「それは違うわ」

 

 苦しそうに胸に抱えた思いを吐露する拓哉の言葉を三島は真っ直ぐに否定した。

 

「あなたの実力は本物だった。態度が問題だったというのならば、それを諫めるのが私の仕事よ。だから、あなたが芸能界で干されたのも、STEPが解散したのも、私が事務所を辞めることになったのも全部私のせいよ」

「……何で、そんな風に思えるんですか?」

「だって、あなたどんな無茶な企画でも一度も〝できない〟って言わなかったじゃない」

 

 しかも本当にできなかったこともないし、と当時の出来事に思いを馳せながら三島は楽しそうに笑った。

 

「慎之介君、良樹君、三郎君。みんな拓哉君に思うところはあったわ。でもね、〝嫌い〟って思いなんかよりも〝悔しい〟〝追いつきたい〟って思いの方が強かったの。まあ、そもそも慎之介君はあなたに懐いてたこともあって恨み言は言わなかったけど」

 

 かつてのSTEPの元メンバー高坂慎之介、村雲良樹(むらくもよしき)若穂囲三郎(わかほいさぶろう)。この三人は拓哉にさんざん怒鳴られ、泣いたこともある。

 

 それでも、誰一人としてSTEPを抜けるようなことはなかったのだ。

 

「私も同じよ。面倒臭いクソガキ、って思ったことはあるけど、どんな仕事もきっちりやり遂げるプロ意識は心から尊敬していたの。そんなあなたが思い詰めて事務所を辞めるまで私は力になれなかった。だから、こうしてまた元気な姿が見れて本当に嬉しいの」

 

 三島は本当に嬉しそうな笑顔を浮かべると、今度は悪戯っぽく笑った。

 

「それに拓哉君を担当していたときの経験は、カリューさんのサポートに役立っているの。プロ意識の面ではお手本になるし、態度に関しては良い反面教師になるのよ?」

 

 どこまでも自分を思ってくれていた三島の言葉を聞き、レオは真剣な表情を浮かべて三島に向き合った。

 

「三島さん……当時は迷惑ばかりかけて本当に申し訳ございませんでした」

 

「ふふっ、こんな穏やかになった拓哉君が見られて、一緒に酒が飲めるなら安いものよ」

 

 深々と心からの謝罪をするレオを、三島は穏やかな笑顔を浮かべてあっさりと許した。

 

「……そんなものじゃ到底釣り合いませんよ」

「あら、釣り合うかどうか決めるのは〝迷惑をかけられた〟私自身よ? それでも許されることが辛いなら、それがあなたの背負うべき罰になるんじゃないかしら」

 

 まるで我が子を見守るような優しい微笑み。

 それを真っ直ぐに向けられたレオは目頭が熱くなった。

 

「ありがとうございます……!」

「釣り合うかどうか決めるのは〝迷惑をかけられた〟私自身、か……」

 

 三島の言葉を聞いていたカリューは神妙な面持ちで呟く。

 それから、ずっと二人のやり取りを黙って聞いていたカリューは本題に入ることにした。

 

「司馬さんは手越さんと友人関係なんですよね?」

「ええ、まあ」

「もしかして、あなたが〝獅子島レオ〟なんですか?」

「なっ」

 

 それとなく濁していた自分の正体を言い当てられたレオは驚きのあまり固まった。

 

「獅子島レオって最近流行ってるVtuberだったわよね……えっ、マジ!?」

 

 最近の流行りをしっかりとチェックしていた三島は、驚きのあまりレオの方を二度見した。

 

「手越さん――〝ゆなっしー〟がVに転生したんじゃないかって話を見かけて〝白雪林檎〟の配信を見たんです。声を聞いてすぐにわかりました。この子は手越さんだって」

 

 アイドルになってからというもの、カリューは三島の教えもあって流行りの情報には敏感だった。

 情報は武器になる。たとえ体を張るアイドルだったとしても、頭脳をおろそかにしていいわけではない。

 むしろ頭が悪そうに見えて時折、理知的な発言をするカリューの様子は、たびたびツウィッターで呟かれていて世間的には好評だった。

 そんな彼女が勢いのあるVtuber界隈に詳しくないわけがなかった。もちろん、最初は情報収集のつもりが今はドップリとVの沼に落ちてしまっているが。

 

「あの〝焼き林檎〟がプライベートで出かけるほど仲の良い相手。そんなの三期生のレオ君とバラギ――んん! 獅子島レオさんと茨木夢美さんしかいませんから」

「いや、そこまで言ったら言い直しても変わらないですから」

「あ、あはは……」

 

 実を言うと、カリューはにじライブ三期生のファンだった。

 最初は林檎が気になって見ていただけだったが、見ている内に三人の尊さにコロっとやられてしまっていたのだ。

 

「というか、見ていたのなら優菜にDMでも何でもすれば良かったんじゃないですか?」

「さ、さすがに、いきなり中身が手越さんなのを前提にDMするのは気が引けて……だからあくまでもお礼を言うのは偶然会ったときか、私の活躍を見て何かしらのアクションを起こしてくれたときって決めてたんです。本当は後者が望ましかったんですけどね」

 

 少しだけ寂しそうに言うと、カリューは笑顔を浮かべた。

 

「でも、手越さん。やっと心から気を許せる相手ができたんですね」

「はえ……?」

「……拓哉君ってこんな間抜けな顔もできたのね」

 

 カリューの言葉にレオは間抜けな表情を浮かべ、三島はそんな彼の様子を見て静かに驚いていた。

 

「中学の頃は気づけなかったけど、手越さんって本当は重度の寂しがり屋なんです。だから、レオ君やバラギのような心を許せる相手が出来て安心したんです。私は気づくのが遅すぎたから……」

 

 当時、林檎のことを嫌っていたはずのカリューの不自然な言葉に、レオは怪訝な表情を浮かべて話の先を促した。

 

「何があったんですか?」

「あれは私と手越さんが中学生の頃――」

 

 カリューはゆっくりと当時のことを語り出した。

 





というわけで、次回回想入ります。
やべぇ、二章がこの長さだと三章どうなってしまうんだ……。


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【回想】親友になれたかもしれない二人

正直、書いてて「俺が書いてるのVの小説だよな?」と思わなくもない。


 狩生環奈は普通の女子中学生だった。

 真面目で、努力家。見た目も可愛く、男子に告白されたことだって何度もあった。

 そんな彼女が目下目の敵にしている存在がいた。

 

「ちょっと手越さん! 今日はあなたが日直でしょ! 次の授業が始まる前に黒板を消さなきゃだめじゃない!」

「えー、面倒臭いなぁ……てか、もう狩生さんが消しちゃったじゃん」

「あなたがいつまで経っても消さないから仕方なく消してるの!」

 

 容姿端麗、成績優秀。その二つの特徴を併せ持つ存在であり、環奈よりも男女共に人気がある人物――手越優菜だ。

 

「まーた狩生さんが手越さんに絡んでるよ」

「本当、怖いもの知らずよねぇ」

「まあ、何だかんだでああしてフォローしてたりするから憎めないよな。口うるさいけど」

 

 真面目な環奈とは違い、不真面目の権化のような優菜はまさに対極の存在だった。

 環奈は口うるさいが、ただ注意するだけではなく何だかんだで自分には利益がないのに手伝ってくれたりすることもあり、真面目過ぎるけど優しいという印象を持たれていた。

 中でも、掃除をさぼって遊んでいた男子達を注意したときの話は同学年の間では有名だった。環奈は注意されて嫌そうな顔をする男子に言った。

 

「遊びたいなら掃除を終わらせてからすればいいでしょ? ほら、私も手伝うから。早く終わらせよ?」

 

 そう言って、掃除当番でもないのに真っ先に掃除を始めた環奈に男子達はハートを射抜かれた。

 勉強に関してもわからないところがあれば丁寧に教えてくれる。

 困っていることがあれば、積極的に手伝ってくれる。

 所属している陸上部にも一生懸命励んでいる。

 まさに優等生の中の優等生だ。

 彼女の欠点を上げるとすれば、注意するときの口調がキツイことと、短気であることだろう。

 そんな彼女にとって天敵ともいえる存在が優菜だった。

 芸能界の大御所である手越武蔵と、世界的に有名なピアニスト内藤郁恵の娘である優菜は、とにかく周囲からちやほやされていた。

 男子はもちろん女子も甘えてくる優菜を小動物のように可愛がっていた。

 そんな優菜の周囲に寄ってくるのは〝芸能人の娘と友達の自分〟というブランドが欲しい者達ばかりだ。いや、それが目的の者しかいなかった。

 

「……くだらな」

 

 いつものように友人達に囲まれてへらへらと笑っている優菜を見て、環奈は今日も顔を顰める。

 

 ――どうしてあんないい加減な奴が私よりも上にいるんだ。

 

 負けず嫌いだった環奈は努力しても届かない位置にいる優菜に嫉妬していた。

 これがまだ自分と同じように努力している人間だったらまだ納得はできただろう。

 だが、芸能人の娘で、ピアニストの娘という肩書を利用し、普段からいい加減で不真面目な人間が自分よりも上にいることが環奈は許せなかった。

 優菜のやることなすこと全てが気に食わなかった環奈は事あるごとに、優菜に噛みついていた。

 そんなわけで、今日も今日とて環奈は優菜に噛みついていた。

 

「手越さん! 今日は掃除当番の日でしょ!」

「……見つかったかー」

 

 こっそりと教室から出ようとしていた優菜は、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべて言い訳を並べ立てた。

 

「一日くらい掃除しなくても変わんないって。教室使うのは私達だし、別にいいでしょ。そもそも他の人もサボってるしさー。私一人でやれっていうの?」

「だったら私も手伝うわ」

「そうなるよねー……たぁー! もう面倒臭いなー!」

 

 半ば環奈の返答を予測していた優菜は、面倒くさそうに頭をガシガシと掻いた。

 二人で掃除を始めてから数分。

 黙々と掃除することに飽き始めた優菜は環奈に話しかけた。

 

「ホント、狩生さんって謎だよねー。何で嫌いな相手にここまで絡むかなー」

「嫌われてる自覚があるなら直しなさいよ……」

 

 自分が嫌われているという自覚があっても尚、いつもと変わらずに接してくる優菜に環奈は呆れたようにため息をついた。

 

「何で私が人に合わせなきゃいけないのー? 私は私のやりたいようにやるだけ。それで嫌われるならそれでいいよーだ」

「どこまでもマイペースね……」

「それに昔から寄ってくるか陰口叩かれるかの二択だったからねー。私を嫌ってる連中なんて所詮パパやママに怯えて手が出せない小物だったし、そこに脳のリソース割くの無駄じゃん」

「まあ、確かにね」

 

 環奈は優菜の言葉に、どこか納得したような表情を浮かべる。

 

「だから狩生さんがこうして真正面からぶつかってくるのマジで謎なんだよねー。パパやママが怖くないの?」

 

 優菜の心からの疑問に対し、環奈は強気な表情を浮かべると、それを鼻で笑った。

 

「はっ、くだらな」

 

「ほ?」

 

「私はあんたの存在そのものが気に食わないの! いい? 人の社会にはルールがあるの! それを守らない人間が、頑張ってる私よりも成績は良いし、見た目だって可愛くて、私の手の届かないところにいるなんて認められるわけないでしょ! ああ、もう! 要するにくだらない嫉妬よ、嫉妬!」

 

 いつも以上に声を荒げると、環奈はイライラをぶつけるように叫んだ。

 

「芸能人の娘? 世界的ピアニストの娘? そんなの関係ないわ! 私はクズ丸出しのあなた自身が嫌いなのよ!」

 

 嘘偽りなく狩生環奈は手越優菜を嫌悪している。

 そんな宣言を聞いた優菜は――学校では一度も見せたことがない笑顔を浮かべた。

 

「にひひっ……そっかそっかー」

「何笑ってるのよ。わけわかんない……」

 

 自分を嫌いと言われて嬉しそうにする優菜に、環奈は困惑しながらも思った。

 この子、こんな風に笑えるんだ、と。

 それから数週間が過ぎた。

 優菜は自分のグループをほったらかして、環奈に積極的に絡むようになった。

 

「狩生さーん。数学のテスト何点だった?」

「……97点」

「えー! どこ間違えたの! 教えて教えてー!」

「だー、もう! 鬱陶しい! 大問3の(2)方程式の問題よ!」

「うっそ、あそこ間違えるようなとこあったー?」

「ケアレスミスよ、ケアレスミス!」

「あっははー! 言い訳乙! ちなみに私は100点ねー」

「言われなくても返却されたとき、先生が褒めてたから知ってるわよ!」

 

 テスト返却の際、必ずといって良いほど環奈は優菜に煽られた。

 

「良かったらケアレスミスしない方法教えてあげようか?」

「余計なお世話よ――――!」

 

 いつの間にか、騒がしいこの二人のやり取りはクラス内の名物となっていた。

 環奈が優菜のことを嫌いなのには変わりはない。

 しかし、傍から見ればどう見ても仲が良いようにしか見えなかった。

 二人の関係性に変化があってから、しばらく経った。

 纏わり付いてくる優菜を撒いて、帰路に就こうとしていた環奈は自分と仲の良いグループが集まって何かを話しているのを見つけた。

 

「みんな今帰り?」

「あ、環奈! 手越さんはどうしたの?」

「……やっと撒いたとこよ」

「大変だねー」

 

 どっと疲れたような表情を浮かべる環奈を見て、友人達は揃って苦笑した。

 

「にしても、手越さんってホント自分勝手だよねー」

「わかる。環奈が迷惑してるって気がつかないのかな?」

「てか、嫌われてる相手にあそこまで絡むってヤバくない? メンタルどうなってんだか」

 

 日頃、環奈が苦労する様子を見ていたからか、友人達は優菜の悪口で盛り上がり出す。

 

「まあ、マイペースだとは思うけど……」

「そんなレベルじゃないでしょ、アレは」

「やっぱ親が芸能人だとああいう風になるのかねー」

「てか、可愛い可愛いって言われているけど、あんな丸顔一歩間違えればただのデブだし」

「どうせ、芸能人の娘じゃなければ見向きもされないっつーの」

 

 あはは、と笑い合う友人達に、環奈は表情に影を落として言った。

 

「……そういうのやめない?」

 

「「「え?」」」

 

 まさか被害者である環奈から優菜を庇うような発言が出てくると思ってなかった友人達は、驚いたように固まった。

 

「確かに手越さんは自分勝手なところがある。でもね、こうやって陰口を言うのはよくないと思う。私だって迷惑ってほどじゃないからさ」

「私達そういうつもりじゃ……」

「とにかく、陰口はなしで」

「わ、わかったよ」

 

 環奈に窘められた友人達は、逃げるようにその場から立ち去った。

 

「まったく、文句があれば本人に言えばいいのに……」

 

 呆れたように狩生が呟くと、後ろから噂の人物に声をかけられた。

 

「よっ」

 

 環奈の後ろには、飄々とした様子で優菜が立っていた。

 

「手越さん、見てたの?」

「まあねー。あんなの言わせておけばいいのに」

「私が嫌なの。手越さんをバカにされると、手越さんに負けてる自分までバカにされてるような気がしてカッとなっただけよ」

 

 迷惑ってほどじゃないと言った自分の言葉を聞かれていたからか、環奈はバツが悪そうに顔を顰めた。

 そんな環奈を見て、優菜は楽しそうに笑って言った。

 

「ねえ、狩生さん。今日は部活ないでしょ? 今から寄り道しよー」

「寄り道は校則で禁止されているわ」

「じゃあ、言い方を変えよっか。私はこれから寄り道をするけど、止めなくて良いの?」

 

 校則やルールについて口うるさく注意していることを逆手に取った言葉に、環奈はため息をついて了承した。

 

「はぁ……行くわ。あくまでもあなたを止めるため、だけど」

「はい、よく出来ましたー」

 

 心底楽しそうに笑う優菜に連れられる形で、環奈は初めて寄り道をすることになったのであった。

 




しっかりとバックボーン作りこんだせいか、配信ネタまでなかなかたどり着けなくて申し訳ないです……。


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【回想】親友になりかけていた二人

シリアスが辛くて早く終わらせたいけど、話の中身は削りたくない……。

そうだ! 執筆ペース上げればいいんだ!


「ねえ、本当に大丈夫? 補導されたりとかしない?」

 

 制服姿で町へ繰り出した環奈は心配そうな表情を浮かべていた。

 優菜と環奈の中学校は校則が厳しいため、制服を着て寄り道をしていると補導されることがあるのだ。

 心配そうな環奈とは対照的に、優菜は平然とした様子で町を歩いていた。

 

「いざというときは私のせいって言えばいいよ。ほい、伊達メガネ」

「何で伊達メガネ?」

「真面目そうなイメージのあんたがメガネをかければ、不真面目そうな私に無理矢理連れてこられたって言っても信じるでしょー。私、補導の常習犯だし」

「……それ大丈夫なの?」

「一回両親が呼び出されたけど、うちの両親も親バカっていうか過保護っていうかさー。『中学生くらいなら寄り道の一つや二つしたくなる』とか『あなたは学生時代寄り道したことないんですか?』って言われて、生活指導の先生が強く言えなくてねー」

 

 そのときのことを思い出したのか、優菜は寂しげに笑った。

 

「先生もさー、文句があるなら寄り道していい校則の学校に入れろ! くらい言えばいいのに、ホントしょーもない話だよねー」

「いや、そもそも手越さんが寄り道しなければいい話でしょうが」

「……マジレスすんなよー」

 

 どこか不満げな優菜を見て環奈は違和感を覚えたが、いつものやり取りだったため、彼女はいつものように正論で返した――これが優菜からのSOSだったと環奈が気づいたのは何年も後のことだった。

 

「ま、そーゆーことだから補導されてもお咎めはなしになるから安心して」

「今の話に安心できる要素はなかったと思うけど、まあいいわ。もう寄り道しちゃった以上、私も共犯だものね」

 

 環奈はどこか諦めたような表情を浮かべた。

 ここ最近で優菜についてわかったことがある。

 どんなに環奈が優菜を拒絶したところで、優菜はあの手この手で環奈を巻き込もうとする。

 ならば被害が少ない内に巻き込まれた方がマシなのだ。

 

「じゃあ、最初はクレープでも食べる?」

「いや、私そんなにお金持ってないし……」

 

 お嬢様お坊ちゃまが通う学校の生徒にしては珍しく、環奈は一般家庭の出身だった。彼女の周囲にいるのも一般家庭の友人達である。

 一般家庭の中学生のお小遣いでクレープは少々痛い出費だ。

 

「私が出すからいーよいーよ。今日も強引に誘ったんだし」

 

 両親とも稼ぎが常人のそれではない優菜は、小遣いの額も中学生にしてはあり得ないほど多く、金銭感覚が狂っていた。

 友人達から何かを強請られることはあっても、優菜が自分から人に奢りを提案したのはこれが初めてのことである。彼女はそれだけ環奈と一緒に遊びたかったのだ。

 

「それはダメよ。同級生に奢ってもらうなんて対等じゃないもの」

 

 しかし、優菜の提案を環奈は突っぱねた。

 

「対等?」

「同級生なんだから、お金のやり取りはなし! これだけは譲れないわ」

「絶対に?」

「絶対に!」

 

 断固として奢りを拒否する姿勢を崩さない環奈に、優菜は以前のように心から楽しそうな笑みを浮かべた。

 

「にひひっ、やっぱ()()はそうでなくちゃ!」

「何で急に名前呼びなのよ」

「いいじゃん! ほら、環奈も優菜って呼んで!」

「……優菜」

 

 環奈が不承不承と言った様子で優菜を名前で呼ぶと、ますます優菜は嬉しそうに笑った。

 それから優菜はわざとらしく言った。

 

「あー、環奈は食べなくてもいいけど、私はクレープ食べたいなー。でも、私一人じゃ食べきれないなー」

「ちょっと、それじゃ奢りと変わらないじゃない!」

 

 優菜の言いたいことを理解した環奈は、再び優菜の提案を拒否しようとした。

 優菜は一つのクレープを買って、環奈と一緒に食べようとしていたのだ。

 

「お金のやり取りじゃないけど?」

「ああ、もう! 本当にああ言えばこう言う!」

 

 口では優菜に敵わない。そう感じた環奈は、本当に渋々優菜の提案を呑むことにした。

 

「……一口だけ。それ以上は譲れないから」

「うん、わかってる」

 

 こうして二人は、一つのクレープを二人で分け合うことになった。

 

「チョコバナナクレープでいい?」

「あなたのお金なんだから、好きなものを買えばいいと思うわ」

「いや、一口食べるならアレルギーとかあったらダメでしょー」

「優菜って、人の心配出来たのね……」

 

 事前に優菜がアレルギーがないかと聞いてきたことで、環奈は意外そうに呟く。

 

「失礼だなー。私だって()の心配くらいするよー」

「そうみたいね。偏見だったわ。ごめんなさい」

「いいってことよー」

 

 それからクレープを購入した優菜は、早速環奈にクレープを差し出した。

 

「ほい、一口どうぞー」

「最初の一口もらっていいの?」

「私は気にしないけど、人が口つけたとこ嫌だったら困るじゃん」

「私も気にしないわ。そもそも、そんなことを気にするくらいなら、初めから一口もらうなんて言わないわよ。ま、優菜がそう言うなら、ありがたくもらっておくわ」

 

 そう言うと、環奈は優菜の差し出したクレープに思いっきり齧り付いた。

 

「……結構食べるね」

「えっ、ごめんなさい。食べ過ぎだった?」

「ううん、ちょっと貧乏臭いって思っただけ」

「あんたは人を煽らないといけない病気にでもかかってんのか!」

「あはは……ごめんって」

 

 クレープを食べ終えた二人は近くの公園のベンチに座ってのんびりしていた。

 

「ねえ、何で今日は私を寄り道に誘ったの?」

「どうしてだろうねー。環奈が他とは違うからかなー。煽るとすぐキレて面白いし」

「人をおもちゃみたいに……!」

 

 態度では怒ってみせるものの、環奈はどこか優菜を憎めなくなっている自分がいることに気がついた。

 誠に遺憾ではあるが、優菜のことはただの同級生ではなく友達と思っていいのかもしれない。ここ最近の優菜の態度を見て環奈はそんなことを思い始めていた。

 周囲の友人は一般家庭出身の者ばかりで、優菜を筆頭に金持ちへのヘイトが凄い。そんなものに興味がない環奈としては、彼女らの愚痴に辟易していた。

 普通に話していれば悪い子じゃないんだけどな。

 環奈は友人達との間に壁を感じていたのだ。

 それに対して優菜は環奈といるときは本当に楽しそうに笑っていたし、環奈も彼女といるときは疲れることも多いがどこか楽しさを覚えていた。

 だからだろうか。

 環奈は、普通ならば絶対に友人にしないような話をした。

 

「あのさ、優菜には夢ってある?」

「……そんなものないよ」

 

 優菜は表情に影を落として環奈の質問に即答した。そんな優菜の様子には気がつかずに、環奈は自分の話を続けた。

 

「私にはあるんだ。でも、自分でも似合わないと思うし、他の子に言ったら絶対笑われるから言えなくてさ……」

「ほー、言ってみなよ。笑ってあげるから」

「……今ので一気に言う気が失せたわ」

「夢なんて笑われるくらいがちょうどいいでしょー」

「それっぽいこと言ってるけど笑う気満々じゃない!」

 

 優菜が冗談で言っていることくらいわかっていた環奈は、そのまま自分の夢を優菜に告げた。

 

「私、アイドルになりたいの」

「アイ、ドル?」

 

 真面目過ぎる印象が強い環奈にしては意外すぎる夢だったため、優菜は驚きのあまり言葉を失った。

 

「あんな風にキラキラして、みんなの人気者になってみたいって昔からずっと思ってたの。もちろん、今のままじゃ厳しいから、ダンスも歌も頑張ってからオーディションは受けようと思ってるんだけどさ」

 

 楽しそうに夢を語る環奈。そんな彼女に優菜は真剣な面持ちで声をかけた。

 

「環奈」

「ん?」

「その夢はやめた方がいいよ」

 

 優菜は環奈の夢を真っ向から否定した。

 今まで見たことがないほど真剣な表情を浮かべる優菜に、環奈はたじろぎながらも返す。

 

「ど、どうして?」

「パパが前に言ってたの。すごく見所のあるアイドルがいたけど、態度が悪かったことが原因で周囲との軋轢が凄かったってね。最近もあのシバタクがアイドルやめたばっかりでしょ? だから、環奈がキレやすい性格である以上、アイドルは向いていないと思う」

 

 それは芸能人の娘である優菜だからこその言葉だった。

 笑うどころか真剣に諭してきた優菜の言葉に、環奈は意気消沈したように俯いた。

 

「……そっか」

「でも!」

 

 俯いている環奈の顔を両手で挟んで無理矢理持ち上げると、優菜は環奈を真っ直ぐに見ていった。

 

「私といれば、煽り耐性もつくだろうし、私自身、芸能界の事情にも詳しいから、その……パパにいろいろ話を聞いてきてもいい。実力主義の世界だから優遇はできないだろうけど」

 

 このときの優菜の言葉は環奈の思っている以上に重いものだった。何せ積極的に関わりたくない相手に、環奈のためだけに関わろうとしているのだ。

 それだけ優菜にとって環奈は大きな存在となっていた。

 

「優菜……ありがとうね」

「にひひっ、友達だからねー」

 

 優菜の言葉に環奈は心からの笑みを浮かべ、優菜もそんな彼女を見て心底楽しそうに笑った。

 

「そうだ。せっかくだからプリクラ取ろうよ!」

「そうね、私も賛成。あ、でも、今度は私もお金出すからね!」

「わかってるってー」

 

 二人は近くにあったゲームセンターに入ると、プリクラの筐体の中に入った。

 

「ごめん、賛成したものの初めてなのよね。プリクラってどうすればいいの?」

「モードとかは私が選んどくよー。えっと〝ずっ友モード〟でいっか……写真撮るタイミングは音声で流れるから、普通の写真の感覚で撮ればいいよー」

「わかったわ」

 

 慣れた手つきで優菜が操作をして、いよいよ写真を撮るタイミングがやってきた。

 

『はい、チーズ!』

 

「にひっ」

「わっ!」

 

 写真を撮るタイミングで、優菜は環奈の腕を引き寄せてカメラに向かって笑顔と共にピースサインを浮かべた。

 

「もう! ビックリしたじゃない!」

「あはは……ごめんごめん」

 

 怒る環奈に謝りながら優菜は文字などを加えたプリクラを渡した。

 

「いや、〝ずっ友〟って……」

「嫌?」

「ううん……嬉しいわ」

 

 二人は出来上がったプリクラを分け合った。

 優菜に至っては、自分の携帯電話に出来上がったばかりのプリクラをさっそく貼るほどに気に入っていた。

 こうして優菜と環奈は友人になった。

 より一層距離の近くなった二人は、毎日のように教室で話すようになっていた。

 

「ねえねえ、環奈! 今日部活ないよね!」

「……今日は勉強したいの」

「じゃあ、一緒に勉強しようよ!」

「勘弁してよ、もう……」

 

 相変わらず優菜が一方的に絡んでいるのには変わりないが、その様子を見れば彼女達が前よりも仲良くなったことは一目瞭然だろう。

 

「何かここ最近は手越さんの方が狩生さんに絡んでるよね」

「いつの間に仲良くなったんだ、あの二人」

「いや、狩生めっちゃ迷惑そうな顔してるけど……」

「そうか? 俺には楽しそうに見えるけど」

 

 クラスメイト達は二人のやり取りを楽しそうに見守っていた。

 

「チッ、何であの堅物女が優菜さんと……」

「調子乗りすぎ」

「気に入らないわね。私なんて名前で呼んでもらったこともないのに」

 

「環奈も結局は金持ちに擦り寄る子だったわけか」

「そりゃ一般家庭の友達よりかは金持ちの友達の方がいいわよね」

「本当、うまくやったよねあの子」

 

 ――一部の生徒を除いて。

 




自分でプロット組んでおいて何を言うかと思うかもしれませんが、ここら辺は書いててめっちゃ辛い……。


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【回想】親友になれなかった二人

過去最高に胸糞悪い話投下するので注意です。


「ねー、環奈。アイドルになりたいって本当?」

「っ、誰から聞いたの?」

 

 ある日のこと。

 突然、友人から聞かれた一言に環奈は驚きと怯えが混じった表情を浮かべた。

 

「いやね。手越さんが教室で話してるの聞いちゃってさー」

「優菜が……」

 

 自分の夢は優菜以外には話していなかったため、話したのは優菜しかいない。

 その事実に少なからず環奈はショックを受けていた。

 

「もう教えてくれてもいいじゃない。水臭いなぁ。知ってたら絶対応援するのに」

 

 笑い者にされる。そう思って身構えた環奈だったが、友人は笑顔を浮かべて環奈の夢を肯定した。

 

「……笑わないの?」

「えー何で? 環奈って可愛いし、ピッタリじゃん!」

「そ、そうかな?」

「そうだよ! 応援してるからね!」

「あはは……ありがとう」

 

 結果的には、友人から自分の夢を肯定してもらえた。

 しかし、環奈はどこかで心にもやもやしたものを感じていた。

 それからというもの、環奈はたびたび友人達から優菜に関する噂をいろいろと聞いた。

 

「手越さんってさ――」

 

 そのどれもがみみっちいが真面目な環奈には看過できないものばかりだった。

 家政婦に学校の課題をやらせている。

 周囲の友人を当たり前のようにパシリにしている。

 学校側から特別な待遇を受けている。

 そのどれもが優菜ならあり得るレベルの噂話だった。

 

「前にも言ったけど陰口は――」

「あくまでも噂だって。気になるなら本人に聞いてみたら? 環奈って、手越さんと仲良いじゃん」

 

 そのたびに環奈は優菜をフォローしたが、友人達もあくまで噂だからと、直接優菜を貶めるようなことを言っていたわけではなかった。

 それもそうだと友人の言葉に従い、優菜本人に聞いてみれば、

 

「うん、ホントだよ。それがどうしたの?」

 

 などと、悪いことをしている自覚などないような返答が返ってくる。

 いつからか、環奈は優菜と距離を置くようになった。

 優菜も前に「アイドルになりたい」という環奈の夢を無意識のうちに他のクラスメイトに言ってしまったという負い目があったため、環奈にそう言われると強くは出れなくなっていた――本当は優菜がそんなことを言ったという事実はないのだが。

 環奈も環奈で友人から優菜の噂を聞かされても、優菜に確認しなくなり始めていた。

 そんなあるとき、いつものように友人が環奈の元へとある噂を持ってきた。

 

「ねえ、聞いた? 手越さんって、学校側から事前に試験問題もらっているらしいよ」

「……へー、そう」

 

 いつものくだらない噂だ。そう聞き流すには内容が重すぎたが、環奈は聞かなかったことにしようとした。

 

「いや、これがマジなんだって。手越さんって授業真面目に受けてないじゃん? それなのに碌に勉強しないで100点なのはおかしいじゃん? あの子が勉強してないのは環奈も知ってるっしょ」

「……まあ、確かに不自然よね」

 

 環奈の記憶の中でも優菜が真面目に勉強に取り組んでいる姿は思い当たらない。家で何をしているか聞いても、遊んでばかりだと言っていたこともよく覚えている。

 

「私さあ、見ちゃったんだよね。今日、先生から〝期末考査〟って書かれたプリント集をもらってる手越さんをさ」

「ほ、本当なの?」

「マジマジ! まったくやってらんないよね。環奈がこんだけ努力しても一回も点数で勝てないのに、全部不正だったなんて。しかも、小学校のときのピアノコンクールもあの内藤郁恵の娘だからいつも優勝してたみたいだし、あの子がアイドルやったらタケさんのコネであっという間にトップになれちゃうんだろうね」

 

 環奈の劣等感を煽るように友人は優菜の悪評を環奈に語った。

 

「あ、ごめん。ちょっと無神経だったよね?」

「……大丈夫よ」

 

 まったく大丈夫そうではない表情で、環奈はふらふらと席を立つ。

 

 そんな彼女の様子を見て――環奈の友人達や優菜の取り巻き達はニヤリと笑ったのだった。

 

 部活を終えた放課後。

 教室に戻ってきた環奈は、無人の教室に優菜の鞄が置きっぱなしになっていることを発見した。

 教室に戻る途中、環奈は優菜と会っていたため、彼女やその取り巻きが〝時間のかかる階段掃除〟の当番だったことを知っていた。

 

「この鞄の中に不正に手に入れた問題が……」

 

 すっかり優菜を信じられなくなっていた環奈は周囲を気にしながら鞄の中身を開けた。

 すると〝期末考査〟と表紙に書かれた試験問題が出てきた。

 

「う、嘘……」

 

 信じたいと思っていた。それでも確固たる証拠が出てきたことで、環奈は優菜が不正に手を染めていることを確信してしまった。

 

 ――私は今まで不正をしている人間に負け続けて、そんな相手に勝ちたいと思って努力していたの? そんなバカなことがあってたまるか!

 

 反射的に優菜の鞄を持ち去っていった。

 困らせてやればいい。不正に手に入れた試験問題をなくして焦ればいい。

 ちょっと鞄を隠して、優菜が困っているところで見つけた振りをして渡す。

 それで、たまたま不正に手に入れた試験問題が見えたとでも言って、注意して反省を促せばいい。優菜を嫌っている人間は少なからず一定数いる。鞄ごとなくなれば違和感はないはずだ。

 

 環奈は根本的なところで間違えていた。

 

 優菜を注意するだけならば、こんな方法をとる必要はない。

 優菜が戻ってくるタイミングを待って、真っ向から注意すればよかったのだ。

 どんなに努力したところで、優菜には勝てない――何故なら彼女は学校からも特別扱いを受けている。勝てるわけがないのだ。

 優菜と友人関係になって消えかかっていた嫉妬心が、ここ最近の優菜への不信感から爆発してしまい〝自分自身で直接的な罰を与える〟という間違った手段を選ばせてしまった。

 一階の階段の裏に優菜の鞄を隠した環奈は、何食わぬ顔で教室に戻った。

 環奈が教室に戻ると、案の定優菜が困ったように辺りを見回していた。

 

「あっ、環奈。私の鞄知らない?」

「鞄?」

「……うん、鞄」

 

 困ったように聞いてくる優菜は、どこか悲しそうな表情をしていた。そんな彼女を見て環奈の胸が痛んだ。

 

「か、鞄ね……ちょっと探してくる」

 

 ――私は何をやってるんだ! 早く優菜に鞄を返してあげないと!

 

 優菜の悲し気な顔を見たことで正気に戻った環奈は、慌てて教室を飛び出して鞄を隠した一階の階段裏まで向かった。

 

「嘘、鞄が無い!?」

 

 しかし、環奈が隠した場所に鞄はなかった。

 

「どうしよう……探さないと」

 

 環奈は必死になって優菜の鞄を探し回った。

 陸上部の練習後だというのに、学校中を駆けずり回った環奈は汗だくになりながら、教室へと戻った。

 

「優菜、ごめんなさい。鞄、見つからなかったわ……」

 

 謝罪と共に環奈が教室に入ると、優菜だけではなく、優菜の取り巻き、環奈の友人達までいた。

 

「あら、狩生さんったら白々しい」

「そんなに必死に鞄を探す振りなんてしちゃって、滑稽だこと」

「な、何が言いたいの」

 

 厭らしい笑みを浮かべる優菜の取り巻きに、環奈は悪寒を覚えた。

 そんな取り巻き達を押しのけ、一歩前に出た優菜は悲しさを隠すように、わざとらしく明るい声で言った。

 

「まいったなー。あのカバンの中にはママからもらった三十万の財布とかいろいろ入ってるんだけどなー。合計するといくらになるんだろうね?」

「ゆ、優菜?」

 

 今まで環奈にも見せたことがない濁りきった暗い瞳が、環奈を真っ直ぐに見据える。

 

「ま、鞄が一人でになくなるわけないし、犯人はいるよねー? 私はいいけど、パパとママ悲しむだろうなー。もし捨てられたんだったら弁償もしてもらわないといけないよね?」

「犯人、弁償……」

 

 環奈の背中を冷たい汗が流れ始める。

 

「ゴミ捨て場に優菜さんの鞄が捨ててあったわ。こんなにボロボロになってね!」

「なっ!」

 

 階段の裏に隠しただけの鞄。それが土まみれになっているのを見て、環奈は目を見開いた。

 

「この時間、教室にいたのは狩生さんしかいないわ。しかも、あなたが教室から鞄を持って出てくる姿を見た生徒もいるわ」

「まさか環奈ちゃんがこんなことするなんて思わなかったよ……」

「どうしてこんなことしたの?」

「見損なったよ、環奈」

 

 環奈の友人達も口々に環奈を非難する。

 違う、自分はやってない。そう言おうとしたが、自分が鞄を持ち去ったのは紛れもない事実である。

 一縷の望みを託して、環奈は優菜の情に訴えかけた。

 

「ゆ、優菜、これは違うの!」

「違う? くくくっ……今更何言ってんのさー。言い訳なんて見苦しいよ」

 

 優菜は壊れたように笑って言った。

 

()()()()さー。前に言ってなかったっけー。文句があれば本人に言えばいいってね」

「えっ……」

「楽しかったよー。あんたとの友達ごっこ」

 

 そこで環奈は思い出した。

 手越優菜の父親が――俳優、歌手という肩書を持つ芸能界の大御所、手越武蔵ということを。

 今まで友人だと思っていた。

 自分の夢を笑わないで真剣に聞いてくれた。

 それらは全部、演技だったのだ。

 

『どうしてだろうねー。環奈が他とは違うからかなー。煽るとすぐキレて面白いし』

 

 環奈は以前、優菜の言った言葉を思い出す。

 

 ――ああ、そうか。所詮、自分は手越優菜の友達(おもちゃ)に過ぎなかったのだ。

 

「……あんたまさか私を嵌めたの?」

「あっはっはっは! 何言ってんの? 先に喧嘩を売ったのは狩生さんでしょ?」

 

 優菜は高笑いをすると、さらに一歩前に出てきて環奈に向けて言った。

 

「あんたが退学になるのは本意じゃないんだよねー。ま、態度次第では許してあげるよ?」

「たい、がく……」

 

 学費の高い私立に通っている自分が退学になったら両親はどう思うだろうか。

 決して裕福な家庭ではない環奈は考える前に土下座をしていた。

 

「ごめんなさい! こんなことするつもりじゃなかったの!」

 

 優菜は即座に土下座する環奈を、ゴミを見るような目で見降ろす。

 

「ま、土下座もするよね。だって私にこんなことしたってバレたらアイドルなんてなれないもんね。狩生さんさー、アイドルになりたいんじゃなかったの?」

「なりたいに決まって――」

「はっ、あんた何かがアイドルなんてなれるわけないじゃん」

「そん、な……」

 

 優菜は環奈の夢を鼻で笑った。以前、真剣に相談に乗ってくれたときとは真逆の態度に、環奈は絶句した。

 

「ねえ、今どんな気持ち? ムカついた女の鞄を捨てただけのつもりがこんな大事になった上に、私に土下座までしてさぁ……ねえ、どんな気持ちか教えてよ?」

「ごめんなさい……ごめんなさい……!」

 

 親しい友人だと思っていた存在からの裏切り、これから起こることへの絶望。

 全ての感情が綯交ぜになった環奈は、泣きじゃくりながら優菜へと土下座を続けたのだった。

 

「はっ、くだらな……」

 

 優菜は環奈のために父親からもらったアイドル養成所のパンフレットを燃えるゴミに突っ込むと、そそくさとその場から立ち去った。

 

 環奈は知らなかった。

 

 優菜が授業を聞いただけで大事なポイントを即座に理解できる天才だったことを。

 優菜が鞄の中に貼っていない残りのプリクラを入れていたということを。

 優菜が俳優の娘だろうと、演技は得意ではなかったということを。

 

 こうして、狩生環奈は出席停止処分となり、一生懸命に打ち込んでいた陸上部は退部、出席停止明けからは周囲から苛烈ないじめを受ける中学時代を過ごすことになったのであった。

 




回想は今回で終わりになります。
捕捉すると、カリュー視点では林檎が黒幕で、自分を嵌めるために入念に準備をしたという認識になっております。

感想で、中学に停学はないとのご指摘があったため、出席停止という表現に変えました。
私立中学なら退学はありえるのに、停学はないという謎……


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【カウントダウン】差し伸べられた手

ごめん




……ごめん


「――って感じで、カリューは周囲からいじめられるようになったんだ」

 

 池袋の商業施設の裏手側にある人通りのない場所で、夢美に追いつかれた林檎は、地べたに座り込んで過去を語っていた。

 

「狩生さんなら、私自身を見てくれるって信じてた。勝手に期待して、勝手に失望して……私が狩生さんの人生を狂わせたんだ」

「あのカリューとそんなことが……」

 

 衝撃の過去を聞いた夢美は、林檎の心情を思い悲し気な表情を浮かべた。

 

「幻滅したでしょ?」

 

 精気の抜け落ちた顔で笑う林檎に、夢美は神妙な面持ちで問いかける。

 

「どうしてそんなことに……」

「周りの連中がさ、みんなこぞって言うんだ『狩生環奈が最近優菜さんの持ち物に嫌がらせ目的のいたずらをしてる』ってさ」

「そんなこと信じたの?」

「そりゃ最初は信じなかったよ。私の机が落書きされたり、教科書隠されたりとかはしてたけど、狩生さんじゃないとは思ってた。けど、狩生さんの方の友達が落書きしてる狩生さんを見たって言ってきてさ。しょっちゅう私の陰口叩いてた奴らなんだけど『悔しいけど手越さんと仲良くなってからの環奈は変わった。すごく毎日楽しそうで、このまま二人が離れていくのが嫌なの』って言われちゃってさ。私はともかく、狩生さんのことは好きなんだなって思ったら、邪険にできなくて……」

 

 林檎にとってカリューは自分自身を見てくれる唯一の存在だったため、カリューのことは信頼していた。

 故に自分に悪感情を持っていたとしても、カリューのために行動できる者のことも無条件に信頼してしまうきらいがあった。

 林檎はカリューに対する信頼どころか〝カリューを信頼する者〟も信頼してしまっていたのだ。

 

 カリューがやってないと思いたい。

 だが、カリューを心から心配している人間がやったと言っている。

 そして、自分はさんざんカリューに嫌われても仕方ないことをしてきたという自覚がある。

 

「だから、あいつらに言われるがままに教室に鞄を放置したんだ」

 

 あくまでもカリューがやっていないと証明するため。

 プリクラを入れたのは、もしもカリューが犯人だったとしても鞄の中身を見た彼女が思い留まってくれると信じたかったからだ。

 

「まさか、中身を見た上で鞄ごと捨てるとは思わなかったなー。中には昔一緒に撮ったプリクラの写真もあったんだけどね……」

 

 友達になった証でもあるプリクラ。

 それを捨てられたと思った林檎の心は崩壊寸前だった。

 林檎がカリューを教室で罵倒したのは、自分の心の平穏を保つためだった。

 いつだって真っ向から自分に突っかかってきた友人。

 それがいつの間にか、自分に陰湿な嫌がらせをするような人間になっていた。

 林檎は一縷の望みをかけてカリューを()()()

 別に自分を嫌いでもいい。それならそれで真っ向から啖呵を切ってほしかったのだ。

 林檎の言葉を聞いてすぐに土下座をするカリューを見て、林檎は思った――結局この子も周りの奴らと同じなんだ。いや、自分がそんな人間にしてしまったんだ、と。

 

「私と関わらなければ狩生さんは真面目ないい子ちゃんでいられたんだ。きっと両親とも軋轢なんて生まれなかったし、貴重な青春を棒に振ることもなかった」

「それ以来、誰にも心許せなかったんだね」

「一応、信用出来る子はいたんだけどね。高校に入ってからさ、凄くお節介な後輩がいてさ。天然でアホで子供っぽいのに、妙にお姉ちゃんっぽいとこがあってね。不真面目な私を注意する姿がどこか狩生さんと被って、心を許せなかった」

 

 ま、あんたの憧れのライバーなんだけどね、と林檎は心の中で独り言ちる。

 

「こんな周りを腐らせる毒林檎。いない方が良かったんだよ。きっとレオもバラギも私の傍にいると――」

「じゃ、毒耐性あるあたしは傍にいるね」

 

 ケロッとした表情でそう言うと、夢美はハンカチを敷いてから林檎の隣に座った。

 驚いた表情で隣を見る林檎に笑いかけると、夢美は自分の話を始めた。

 

「実はさ、あたしとレオって幼馴染じゃないんだ」

「ほ?」

「小学校は同じだったけど、面識はなかったの。むしろお姉さんとしか面識がなかったくらい」

 

 衝撃のカミングアウトに林檎は間抜けな声を零して固まる。あ、これ内緒ね? といたずらっぽく笑うと、夢美は話を続けた。

 

「だから、前に配信で言ってたみたいに、いじめられているときに助けてくれる王子様みたいな存在なんていなかった。中学時代のカリューと同じで、孤独で辛い毎日だった。唯一の救いは週一回のパソコンクラブで会えるレオのお姉さんと過ごす時間だけだった。そのお姉さんも一年で卒業しちゃったから地獄へ逆戻りだったけど」

「そう、だったんだ……」

 

 夢美から聞かされた過去を林檎は静かに聞いていた。

 

「もし、あたしが昔自分をいじめてた奴ら――ううん、いじめのきっかけになった奴らに会っても、少なくとも知らない人の振りをする。だって関わりたくないもん」

「っ!」

「でも、カリューは関わろうとした。きっともう一度、林檎ちゃんと友達になりたかったんだと思う。そうじゃなきゃ、たとえいじめの経験が自分の糧になったとしても悪感情が残っちゃうよ。最後の最後に、嵌められたと思っているカリューが林檎ちゃんを許せたのはそういうことなんじゃない?」

「でも、私は……」

 

 さんざんいじめられ、全身びしょ濡れになったカリューの憎悪の籠った視線が蘇る。

 

『絶対に許さないんだから……!』

 

 そのまま恨んでくれていたらどんなに楽だったことか。

 俯く林檎に、夢美ははっきりと言う。

 

「あたしも、今の林檎ちゃんとは仲良くなりたいと思ってる。我儘で自分勝手だけど、林檎ちゃんなりの優しさがあることは感じるからね」

「違う! 私はそんな人間じゃない! バラギやレオが関わりを持っても百害あって一利もない存在で――」

 

「それは林檎ちゃんが決めることじゃないよ」

 

「…………………………ほ?」

 

 予想外の夢美の言葉に今度こそ林檎は脳の回路がショートしたような気分を味わった。

 

「あたしはレオみたいに優しくはないけど、気に入った人間にはとことん甘いんだ。たとえ、酷いことした過去があっても、今の林檎ちゃんはあたしにとって、ずっと関りを持ちたい大切な友達だよ」

「バラ、ギ……」

 

「あたしが付き合いたい人間はあたしが決める! 林檎ちゃんにその気持ちを否定される筋合いはない!」

 

 林檎ちゃんがあたしを嫌いならしょうがないけどね、と言って夢美は優しく微笑んだ。

 

「自分はクズだって言い聞かせて、一人で抱え込んで諦めないでよ。あたしもレオも林檎ちゃんが困ってたら助けたいの。だからさ、あたし達に林檎ちゃんを助けさせて?」

 

 夢美は立ち上がると、満面の笑みを浮かべて林檎に手を差し伸べる。

 

「バラギ……ありがとね」

 

 林檎は夢美から差し伸べられた手を取った――

 

[白雪林檎@(ShirayukiRingo)

私、白雪林檎はこの度にじライブを卒業することになりました。

色々悩んだけど、マネージャーさんや事務所の方々と相談してこういう形に落ち着きました。

白雪林檎としての活動はあと少しだけど、それまでよろしくねー!]

 

 ――はずだった。

 




やっと掲示板に追いつきました


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【桜色卒業】今までみんなありがとう!

予約投稿でほぼ連続投稿なので、前回の話を見ていない方は注意です!


 デビューからたった二ヶ月ちょっとで白雪林檎が卒業する。

 

 その事実にファンだけでなく、事務所内も騒然としていた。

 二ヶ月で登録者数10万人という快挙を成し遂げたのに何故?

 誰もがそんな想いを抱いていた。

 

 この件で一番苦労したのはマネージャーの亀戸である。

 一度マネージャーを外されてから担当に復帰した途端に担当ライバーの卒業。

 社内での彼女の評価は著しく下がり、彼女とは関りの浅い部署からは陰口すら叩かれる始末である。

 元々林檎が態度以外は優秀なライバーであったことも手伝い、亀戸は社内で肩身の狭い思いをすることになった。

 しかし、亀戸は林檎を責めず、ただひたすらに林檎の今後を心配をしていた。

 林檎は最後の最後まで亀戸に謝罪をした。

 そんな彼女に、亀戸は強気な笑みを浮かべて言った。

 

「謝るくらいなら卒業撤回してもらえます? それができないなら頭なんて下げないでください……いつまでも待ってますから」

「亀ちゃん……ありがと」

 

 いつまでも待つ。その言葉に林檎は顔を歪めながらも礼を述べた。

 

 林檎の発表した卒業理由は〝やるべきことができた〟という抽象的なものだった。

 当然、この発表にレオと夢美は林檎に詰め寄った。

 

「どうして卒業なんて……!」

「やっぱり池袋でのことか?」

「ううん、狩生さんは関係ない……ただ、私にはやらなきゃいけないことができたんだ。それは教えられないんだけどさ」

 

 寂しそうに言うと、林檎は精一杯の笑みを浮かべた。

 

「もー、最後くらい笑って見送ってよー。二人のてぇてぇが私の生きがいなんだからさ」

 

 事務所の廊下を歩いていく林檎の背中を見ながら、レオと夢美は何も声をかけることができなかった。

 林檎が卒業するという話を聞き、レオや夢美だけではなく多くのライバー達が悲しみを覚えた。

 

 竹取かぐやは、過去の傷を思い出し、自分には出来ることがなかったのかと後悔した。

 

 白鳥まひるは、長い間一緒に時間を過ごした彼女を救えなかったと涙を流した。

 

 吉備津桃華は、あんなに仲の良かった三期生の間に何かがあったのではと訝しんだ。

 

 名板赤哉は、あんなに楽しそうに配信していたのにどうして……と困惑した。

 

 他のライバー達も、ほとんどが林檎とコラボしたことがあったため、突然の悲報に悲しみを覚えていた。

 そして、ほとんど配信を行っていない狸山勝輝と、卒業してもにじライブのライバー達を見守っていた竜宮乙姫も、かぐや達と同様に林檎の卒業を惜しんでいた。

 そんなにじライブのライバー達から愛されていた林檎は今日、卒業する。

 二十一時からプレミア公開された林檎の最後の動画。

 そこには林檎の視聴者――小人達を含めた多くの視聴者達が集っていた。

 

[白雪ィィィィィ!]

[来るぞ……!]

[卒業するときの歌が最初の歌動画になるなんて……]

[卒業おめでとう。お元気で ¥50,000円]

[卒業おめでとう! またいつか会おう ¥20,000円]

[ありがとうな、白雪! ¥10,000円]

 

 動画のイントロが流れ出した瞬間から、既に高額のスーパーチャットが飛び交う。

 そして、曲が始まると林檎の可愛らしい歌声が流れ始めた。

 

『また体育館に~♪ みんな~の余韻~♪ 孤独な~足音~♪ 涙~こらえる♪』

 

[白雪って歌ってたらこんなに可愛かったのか]

[もっと早く知りたかった……]

[こんなに綺麗な歌声だったんだ……]

 

 いつもの人を煽ってくるクソガキ感の強い白雪林檎はどこにもいなかった。いたのはただ感謝の思いを込めて歌う一人の心の清らかな女性ライバーだった。

 

『ありがとう~は言わないよ♪ さよな~らになる♪ 桜色~卒業~笑顔でまた会おう♪』

 

[また会おう! ¥10,000円]

[また会おうってことは復帰あるか!?]

[ねえよ……ねえよ(血涙)]

 

 普段から林檎に辛辣な小人達は、林檎の卒業という事実に耐えられない者もいた。

 それでも何とか受け入れようとして痛む胸を抑え、かろうじて前向きなコメントを書き込もうとしていた。

 

『別々の道でも~心はひとつ~♪ 桜色~卒業~未来へ進もう~♪ 一人~じゃ、ないから~♪』

 

[泣いた]

[画面が見えねえよ!]

[ホントに卒業しちゃうんだよなぁ……]

[今まで本当にありがとうございました]

 

 曲のアウトロに入ったとき、林檎と関わりが深かったライバーからのメッセージが流れ始めた。

 

『林檎、卒業おめでとう――なんて素直に言えるかボケェ! あんたの席は空けておく! 戻ってきたくなったらいつでも戻ってくるんやで! ……そんときはたっぷり可愛がったるわ』

 

[バンチョーが言うと言葉の重みがヤバイ]

[どんだけ辛い思いすれば済むんだこの人は]

[強がってるけど声震えてるぞ]

 

 かつて同期の卒業という悲しい出来事があったかぐやは、強がりながらも林檎がいつでも戻ってこれるように叫んだ。

 

『林檎ちゃん、二ヶ月間お疲れ様! 卒業しても連絡が取れなくなるわけじゃないから……また、連絡して! 絶対だよ!』

 

[まひるちゃん、よく泣かずに最後まで言えたな]

[お姉ちゃんとしては辛いよな……]

[ダメだ、泣いてしまう]

 

 まひるは最後まで涙を堪えて、林檎のこれからを応援するために前向きな言葉を残した。

 

『白雪ィィィ! このままお別れなんて絶対嫌だからな! マリカやるときは絶対誘えよ!』

 

[そういえば、桃タロスはマリカのガチンコ勝負でボロ負けしてたな]

[さんざん煽られた挙句勝ち逃げされたな]

[いろんな感情が綯交ぜになった叫び声だ……]

 

 桃華は半分私怨が混ざった激励の言葉をかけた。

 

『白雪さん、卒業おめでとうございます。いつでもいいので、桃華さんとリベンジマッチしてあげてくださいね。あなたのこれからに幸せな未来があることを祈っております』

 

[こんなときまで桃タロスのフォローwww]

[さすがはにじライブの保護者代表]

[あったけぇなぁ]

 

 赤哉は桃華のメッセージのフォローを入れつつ、林檎のこれからを祝福した。

 

『正直、素直に祝福は出来ない。それでも、白雪が前を向くために必要なことなら俺は全力で応援するよ。いつでも連絡して来いよ! リクエストがあればいくらでも歌うからな!』

 

[レオ君だ!]

[約束された聖なる獣]

[レオ君も辛いよな……]

[三期生のてぇてぇをもっと見たかった]

 

 レオは大切な同期が卒業する苦しみを堪え、池袋で林檎が自分のリクエストでピアノを弾いてくれたときのお返しとばかりに、リクエストでいくらでも歌うことを約束した。

 

『林檎ちゃん、あたしは――ううん、あたしもレオもみんな、何があってもあなたの味方だから! 絶対に辛くなったときは連絡して! また一緒に遊ぼうね!』

 

[バラギィィィィィ!]

[一番仲良かったもんな……]

[白雪もバラギ大好きだったから辛い……]

[いつも秒で切り抜き作られてたもんな]

[白雪に届くようにこれからもレオ君と仲良くするんやで]

 

 林檎を救うことができなかった夢美は、林檎を引き留められなかった後悔と共に、何があっても自分が味方であることを告げた。

 今まで描かれたファンアートを集め、アルバムのように見せる動画は視聴者の感動を誘った。

 多くの視聴者達が涙を流して彼女の卒業を惜しむ。

 

 ――それでも結局、最後まで林檎は配信上でピアノを弾くことはなかった。

 




久々の配信回がこれである……。


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【卒業後】林檎の謎を解き明かせ

推理回です。


「……納得できない」

「その話は何度もしただろ」

「でも……!」

「でももだってもない。白雪が決めたことだ」

 

 林檎が卒業してからというもの。

 レオと夢美は毎日のようにレオの部屋で喧嘩をしていた。

 夢美は林檎を救えなかったという負い目があるため、にじライブを卒業するという林檎を今でも連れ戻そうとしている。

 それに対してレオは、過去に自分が事務所を退所したときの気持ちを思い出し、林檎を無理に連れ出すのは悪手だと考えていた。

 

「レオはこのままでいいの!?」

「……事務所と本人が何度も話し合って出した結論だ。白雪は卒業する直前まで俺達には何も話してくれなかった。俺達にもうできることはない」

「レオのバカ! 冷血漢! ヘタレ! 李徴!」

 

 夢美は目に涙を浮かべると、レオを罵倒しながら部屋を飛び出していく。この光景もここ最近では毎日繰り返されている光景だった。

 

「李徴って悪口なのか? いや、悪口か……」

 

 夢美の言葉に苦笑すると、レオは表情を引き締めてある人物へと連絡を取った。

 

「……悪いな夢美」

 

 林檎を強引に連れ戻す気はない――けれど、レオだって諦めるつもりは毛頭なかった。

 

『今から会えるか?』

『いいよ! いつもの喫茶店で!』

 

 かつてレオと共にアイドルとして活躍していた仲間、高坂慎之介はレオの呼び出しを二つ返事で了承した。

 レオの住んでいるマンションから近くにある喫茶店。

 そこには既に慎之介の姿があった。

 

「急に呼び出して悪いな」

「いいんだよ。それより結構大変な感じの相談?」

「まあ、な。実は同じ事務所のユーチューバーの話なんだが――」

 

 それからレオは自分達がライバーだということをぼやかしつつ、林檎が卒業するまでに至った顛末を慎之介へと話した。

 

「そっか引退しちゃったんだ」

「だけど、あいつの表情は次の目標に向けた晴れ晴れとしたものじゃなかった。まるで、逃げるようにグループを抜けて引退した俺みたいでさ」

 

 拓哉が慎之介に相談した理由は単純である。彼こそ、自分がグループを脱退するときに一番強く引き留めてくれた人間だったからだ。

 

「知恵を貸してほしいんだ。何かこう、いい方法はないか? あいつだって本当は辞めたくないはずなんだ。あのまま辞めたらきっと俺と同じように後悔することになる。だから、何か引退した人間を連れ戻せるような方法があれば――」

 

「こんなことは言いたくないけどさ……そんな方法があったら僕が知りたいよ」

 

 言葉に怒気を含ませて慎之介は拓哉の言葉を遮った。

 基本的に常時笑顔を浮かべている慎之介が怒ったところを初めて見たレオは、自分の失言に気が付いた。

 拓哉がSTEPを抜けるとき、誰が一番辛かったか。それは彼を尊敬してやまなかった慎之介だったのだ。

 林檎を連れ戻すことに必死になり、かつての仲間への配慮を怠ったことでレオはバツが悪そうな表情を浮かべて謝罪した。

 

「悪い……無神経だった」

「あはは、こっちこそ意地悪言ってごめん。でも、拓哉君がそれだけ必死になって連れ戻したいその子が羨ましいな」

 

 どこか寂し気な表情を浮かべると、表情を引き締めてレオに問いを投げかけた。

 

「拓哉君はSTEPを抜けるとき、どんな気持ちだった?」

「……お前らの足を引っ張るような惨めな自分が許せなくて、一緒にいるのが辛いから逃げたんだ」

「拓哉君はいつでも僕らを引っ張ってくれたもんね。でもさ、僕らも拓哉君の力になりたかったんだよ。良樹君や三郎君だって拓哉君の愚痴ばっかり言ってたけど、本気で心配してたんだ」

 

 当時を思い出して一瞬だけ辛そうな表情を浮かべると、慎之介は林檎の現状に関する推察を述べた。

 

「きっとその子が拓哉君やもう一人の同期の子に相談しなかったのは、いや――できなかったのは、君らと一緒にいられない何らかの事情があったからじゃないかな」

「何らかの事情?」

「拓哉君で言えば、僕らといることで惨めさを感じるから、って具合に何らかの事情があるはずさ」

 

 ギターを背負うと、慎之介は会計の半分の額を置いて席を立った。

 

「それじゃ、僕はバンドの方の練習があるから」

「忙しいとこ、ありがとな。その……良樹や三郎にもよろしく」

 

 慎之介は声優としての活動以外にも、アーティスト活動の一環として拓哉を除くSTEPのメンバーでバンドを組んでいた。ちなみに、慎之介はまだ拓哉とこうしてちょくちょく会っていることは、まだ良樹と三郎には話していない。

 

「あははっ、それは今度、僕らライブを見にきたときに直接本人に言ってよ」

「約束する。絶対見に行く――今の仲間を連れて」

「うん、()()()()()来るのを楽しみにしてるよ」

 

 慎之介の激励を含んだ言葉に感謝しつつ、レオは自室へと戻った。

 

「おかえり」

「ただいま――じゃなくて、夢美、どうして」

 

 反射的に返事を返したレオだったが、つい先刻口論になったばかりの夢美が部屋にいることに違和感を覚えた。

 

「……一人で考えてもどうしようもないからさ」

 

 対する夢美は気まずそうに呟いた後、レオの目を真っ直ぐに見据えて言った。

 

「あたしがまた暴走して、炎上騒ぎに繋がったりするのを心配して巻き込まないように林檎ちゃんを連れ戻す方法を探してたんでしょ」

「いや、それはだな――」

 

 図星だったレオはポーカーフェイスで取り繕うことも忘れて、しどろもどろになりながらも言い訳の言葉を紡ごうとした。

 

「格好つけないでよ!」

 

 それを夢美は真っ向から一蹴した。

 

「一人で悩んでうじうじするくらいなら相談してよ。そうやって今まで一緒にやってきたじゃん……嘘でも偽物でも設定でも、あたしはあんたの幼馴染でしょ? あたしが暴走したらあんたが止めてよ! 代わりにあたしが立ち止まるあんたの背中を蹴っ飛ばしてやる!」

「夢美……」

「だから、二人で林檎ちゃんを絶対助けるんだよ!」

 

 ああ、こいつはいつもそうだ。

 心にかかった靄を力ずくで振り払ってくれる。

 夢美の言葉で迷いを振り切ったレオは、獰猛な笑みを浮かべて夢美の言葉に答えた。

 

「ああ、当たり前だ!」

 

 こうして、レオと夢美はどうしたら林檎を救えるのか、改めて話し合うことにした。

 

「まず、前提として白雪の卒業には二パターンの理由がある。本人が言っていたように〝やりたいことができた〟か、卒業したくなくてもせざるを得なくなったかだ」

「やりたいこと、か。そっちだとしたら〝ゆなっしー〟に戻って好きなゲームを自由に実況するためとか?」

 

 以前、林檎は自分の実況したいゲームが権利の関係でプレイできないことに不満を抱いていた。

 

「それはないな。卒業から二週間が経っているけど、ゆなっしーの活動は再開されていない。前向きな気持ちで卒業したのなら、前もって何か準備してからやめるはずだ。特に配信活動に関して一切の妥協をしない白雪なら尚更のことだ」

「林檎ちゃんってああ見えて配信活動に関しては真面目だもんね」

 

 林檎は社会を舐めているだけで、配信活動に関しては誠実だった。

 動画編集の知識や、どういう配信が伸びるのか、度々相談に乗ってもらっていたレオと夢美は、林檎の知識量や配信者としての姿勢を純粋に尊敬していた。

 初めて会ったときのような不真面目な面も段々と見受けられなくなっていたため、二人からすれば林檎は真面目に配信活動に取り組むライバーでしかなかった。

 

「俺がカリューさんや三島さんと話している間、白雪の様子はどうだった?」

「最初は塞ぎ込んでたけど、あたしが見る限り大丈夫そうだったよ……まあ、あたし基準だから何とも言えないけど」

「次の日会ったときも、どこか吹っ切れた表情だったから、その印象は間違っていないはずだ」

 

 仲の良い同期のライバーといえど、毎日顔を合わせるようなことはまずない。

 レオと夢美の状況が特殊なだけである。

 

「どこだ、どこで白雪の様子が変わったんだ……」

「次の日から一切会ってなかったもんね……」

 

 二人共、悩んだ末に頭から捻りだした答えは一つだった。

 

「やっぱり、カリューさんを酷い目に遭わせた負い目がぶり返してきたのか……」

「やっぱり、カリューに裏切られた辛さがぶり返してきちゃったのかな……」

 

「「え?」」

 

 同時に反対のことを言ったレオと夢美は怪訝な表情でお互いの顔を見合わせた。

 この二週間、口論ばっかりで碌な会話が成立していなかった二人は、お互いの認識がズレていることに気が付いていなかったのだ。

 それから、レオと夢美はカリューと林檎のそれぞれから聞いた話を総合して、ある結論を出した。

 

「……二人共嵌められたってことだよね、これ」

「……だよな」

 

 二人がすれ違うことになった原因は、間違いなく林檎の取り巻きとカリューの友人達しかいない。

 その事実を認識した瞬間、夢美は怒髪天を衝くかの如く怒り狂った。

 

「絶対に許さない! 個人情報特定して人生はめ――」

「夢美、落ち着け。これは推測に過ぎない。それにそうだったとしても、報復する権利があるのはカリューさんと白雪だけだ」

 

 冷静なレオの言葉を聞いたことで、夢美の怒気は見る見るうちに霧散していった。

 

「……ごめん、つい熱くなっちゃった」

「お前よく今の一瞬で冷静になれるな」

 

 急に落ち着いた夢美の様子を見たレオの脳内に、有名な漫画のネタ画像で「うわぁ! いきなり落ち着くな!」と叫ぶ眼鏡の中年男性が思い浮かぶが慌てて、それを振り払った。

 

「レオの言葉って沈静効果含まれてるんじゃないの?」

「ははっ、あったとしても夢美限定だろうな」

 

 軽口を叩き合うと、レオと夢美は話を元に戻した。

 

「問題はこの事実を白雪が今更知ったところでなんだよな」

「だねー。林檎ちゃんの自己嫌悪は筋金入りだし」

 

 林檎が当時嵌められたことを知ったとしても、自分がカリューを信じられなかったことが原因だと、自分を責め続けるのは目に見えていた。

 

「カリューのとこまで連れてって本音をぶつけ合わせるってのは?」

「残念ながらカリューさんは今頃メキシコだ」

「何でまたメキシコ?」

「ホオジロザメを生け捕りにして、生の鮫肌でわさびは摩り下ろせるのかって企画をやるらしい」

「クレイジー……」

 

 アイドルがやるとは思えない壮絶な企画に、夢美は困惑して呟いた。

 

「ダメだ。やっぱりパズルのピースが足りないな」

「きっと、あれから何かがあった。それはあたし達に相談できないような内容で、それがきっかけで林檎ちゃんは卒業せざるを得なくなった」

「多分、やらなきゃいけないことがあるのは本当だろうな。ただそれがやりたいことではないのは白雪の様子を見ていればわかる」

 

 堂々巡りの状態の中、レオの携帯に着信があった。

 

『お世話になっております、亀戸です。茨木さんもいらっしゃいますよね? お二人に会ってほしい方がいます』

 

 それは、パズルの最後のピース――亀戸からの電話だった。

 




早くみんなで楽しく配信しているような話を書きたい……。


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【真相】最後のピース

記念すべき50話!
何だかんだで、ほぼ毎日投稿で来れたのも日頃応援してくださるみなさんのおかげです。


「着きましたよ」

 

 レオと夢美の住むマンションまで車で迎えにきた亀戸は、二人を乗せてとあるイタリアンレストランへとやってきた。入口の扉には〝貸し切り〟の看板がかかっている。

 

「ここって芸能人御用達の店じゃん」

「昔、先輩に連れてきてもらったことあったなぁ……」

 

 芸能人御用達のイタリアンレストランに夢美は気圧され、レオはアイドル時代の思い出を振り返りながら店に入った。

 

「手越さんはいらっしゃいますか?」

「はい、奥のお部屋でお待ちですよ」

 

 手越、という名前を聞いてレオと夢美は表情を強張らせた。それは林檎の本名の苗字であり、同じ苗字の人間といえば――

 

「お待たせてしてしまい申し訳ございません」

「いいんですよ、亀戸さん。はじめまして。手越優菜の父、手越武蔵と申します」

 

 彼女の父、手越武蔵くらいだ。ちなみに、林檎の母である内藤郁恵はメディアに出演する際は内藤の姓を名乗っているが、戸籍上はきちんと手越郁恵である。

 

「は、はじめまして、林檎ちゃん――優菜ちゃんの同期の中居由美子といいます」

「ああ、君があの〝バラギ〟さんか。娘と仲良くしてくれてありがとう」

「い、いえ、そんな! こちらの方こそ優菜ちゃんには――今なんて?」

 

 まさか自分のネット上のあだ名で呼ばれると思っていなかった夢美は、唖然とした表情で武蔵を見た。

 

「ははっ、Vtuberは時代の最先端だからね。こう見えて、私もU-tubeにチャンネルは持っているし、時代に取り残されないように必死なんだよ」

「そういえば、最近やたらと芸能人の人がユーチューバーデビューしてましたね」

 

 ここ最近、芸能人がU-tubeにチャンネルをどんどん作り始めている。

 武蔵も大御所だからと驕らず、若い世代の行っていることを積極的に取り入れていたのであった。

 

「それはそうと久しぶりだね、司馬君」

「はい……ご無沙汰しております。タケさん」

「前に比べて穏やかにはなったが、相変わらずいい目をしている。どうやら現役時代の獰猛さは完全に抜け落ちてはいないようだ」

 

 かつてドラマで共演したことがある二人は、何か通じ合うものがあった。

 

「さて、優菜のマネージャーであった亀戸さんに二人をここに呼んでもらったのは他でもない。娘の話をするためだ」

 

 武蔵は苦しそうな表情を浮かべると、優菜についての話を始める。

 

「情けない話だが、私は優菜と良好な親子関係を築けているとは言い難い」

 

 そう前置きをすると、武蔵は優菜が生まれてからのことを語り出した。

 

「あの子が生まれたとき、私はハリウッドでの撮影があって立ち会えなかった。妻には相当恨み言を言われたよ。そんなことがあったからか、妻は優菜の教育に関して、ことあるごとに私に口を出すなと言ってきた」

「ハリウッドはまあ、しょうがない気もしますけど……」

「いや、しょうがないで済ませちゃダメでしょ」

 

 日本の俳優がハリウッド映画に出るということは並大抵のことではない。たとえ実力があったとしても、そんなチャンスは人生に一度あるかどうかだ。

 アイドルとしてだけでなく、俳優業にも力を入れていたレオには武蔵の気持ちが少しだけ理解できた。

 そもそも、父も俳優だった武蔵は芸能界でも根っからの役者だと有名だった。

 父の通夜の際も、現場を放り出して駆けつけたら亡き父にどやされると、現場を優先した話は世間でも有名な話である。

 そんな経緯があったため、武蔵は愛娘が生まれる際も現場での撮影を優先して妻の傍にいなかった。

 

「仕事にかまけてばかりで優菜には寂しいをさせてしまった負い目からだろうな。私は優菜が望んだものは何でも与えた。その当時はその行為が余計に優菜を孤独にしているなんて思いもよらなかった。本当に愚かな父親だ」

 

 自嘲するように力なく武蔵は笑う。その姿からは、現場の鬼とまで呼ばれた面影は欠片も見当たらなかった。

 

「妻も妻でピアニストとして多忙だったからか、優菜には〝我儘を何でも聞く〟か〝ピアノを教える〟という形でしか構ってやれなかった。……優菜は、本当は私達を困らせたかったのだろうがな」

 

 林檎が我儘な性格になったのは、多忙だった両親に碌に構ってもらえなかったという背景があった。そのうえ、どんな我儘を言っても大抵のことは叶えてしまうほどの力が武蔵と郁恵にはあった。望んだ結果を得られない林檎の我儘が加速したのは言うまでもないことだろう。

 

「いつしか優菜は私や妻を他人を見るような目で見るようになった。当然だろうな、自分のことを見ようともしないで、自分の我儘だけを叶える存在。そんなもの〝便利な道具〟でしかない」

 

 事実、林檎は両親のことを利用価値のある存在としか思っていなかった。

 

「私達夫婦は娘が〝有名人夫婦の娘〟というレッテルに苦しんでいることに気が付けなかった。何も知らず、ただ『優菜は優しい子だ』と形ばかりの言葉をかけていた。その結果、あの子は私達と碌に口を利こうともしなくなった。妻はただの反抗期だと思っていたが、あれはそんな生易しいものではない」

 

 そこまで話すと、武蔵は本題に入った。

 

「優菜が中学生のとき、とても楽しそうな笑顔を浮かべているときがあった。優菜のそんな表情は初めて見たんだ。しかも優菜は渋々といった様子だが、私に友人のためにアイドルについて聞いてきた。私達のことなんて嫌いで仕方ないあの優菜が私を頼ってきたんだ。張り切って関係者各位に問い合わせて養成所の資料を集めたよ……それも無駄に終わってしまったがね」

 

 悲しそうに呟くと、武蔵はレオ達にカリューの一件について確認をとった。

 

「カリュー君との一件は知っているね」

「はい、本人とも会って聞いております」

「そうか……優菜が通っていた学校は、言い方は悪いがボンボンが通うような学校だった。故に一般家庭の生徒は冷遇されやすい環境でね。カリュー君は優菜の鞄を捨てたことや、その他にも嫌がらせをしていたことで、他校への転校という形で退学処分になるところだったんだ。当然、妻も怒り心頭でね。絶対に許さないと荒れていたよ」

 

 当時の様子を思い出した武蔵は、辛そうに表情を歪めた。

 

「優菜が心から笑えるようになったのは、間違いなくカリュー君のおかげで、優菜もカリュー君を信頼していたからこそ私に頭を下げて頼み事してきたはずだった。しかし、妻は優菜がいくらカリュー君を許すと言っても『あなたは優しい子ね』とだけ言って、優菜の話を聞こうともしなかった。それだけ妻も私もあの子に向き合っていなかったのだろうな」

 

 結局、違和感を覚えていた武蔵が説得したことで、郁恵も不承不承という形でカリューの処分を軽くする申し立てをすることを了承した。

 

「今でも思うよ。もっと強く学校側に調査するようにいっておけば、とね」

 

 武蔵はカリューが味わった苦しみを思い、後悔の念に苛まれていた。

 武蔵がカリューの一件に深く関われなかった理由は単純だ。妻への負い目があったことと、カリューが悪くないという結果が出た場合、林檎が意図的にカリューを嵌めたことになってしまうと思っていたからだ。

 実際のところ、武蔵は娘ならばそれもあり得ると思っていた。だから、結局は何もしなかったのだ。

 これまでの武蔵の話に違和感を覚えたレオは、武蔵がどうして林檎についてそんなに理解しているのか尋ねた。

 

「当時は、って言ってますけど、どうして今はそこまで気づけたんですか?」

「カリュー君だよ。彼女と現場が一緒になったときに、いろいろと話をしてわかったんだ。優菜が今までどんな思いで過ごしてきたのかをね」

「だったら、何で優菜ちゃんに本当のことを教えてあげないんですか!」

「カリュー君の一件以来、優菜はますます私達と会話を拒絶するようになってね。取り付く島もなかったんだ」

 

 本当に情けない話だ。と武蔵は何度目になるかわからない自嘲の言葉を零した。

 

「だから、この前優菜から連絡があったときは驚いたよ。『一度、話がしたい』という短いメッセージだったが、これが最後のチャンスと思って妻と共に実家で優菜と食事をしながら話をしたんだ」

 

 レオと夢美は確信した。

 そこで何かがあったから林檎は卒業せざるを得なくなったのだと。

 

「何があったんですか?」

「優菜が聞きたかったこと。それはカリュー君の一件についてだった」

 

 それは林檎が卒業する数日前のことだった。

 

『パパ、狩生さんのこと何か知ってるんじゃないの? 現場で会うんでしょ』

『まあ、な』

『教えて』

 

 今まで見たことがないほど真っ直ぐな視線で自分を睨んでくる林檎に、武蔵はカリューから聞いた話を語ろうとしたが、郁恵がそれを遮った。

 

『まあ、あの優菜ちゃんをいじめた子の話? そんな話をして今更何に――』

『郁恵。優菜の話を聞こう』

『……わかりました』

 

 郁恵を黙らせると、武蔵はカリューから聞いた話を優菜に話した。すると、優菜の顔はみるみる内に青ざめていき、それとは対照的に郁恵の表情は怒りのあまり真っ赤に染まっていった。

 

『あなたったら笑えない冗談を言うのね。優しい優菜ちゃんが友人を嵌めるような真似するはずないじゃない! 娘を信じられないの!?』

『そうじゃない。あくまでも本人から聞いた話だ。ただ両者の話を総合してだな――』

『優菜ちゃんが悪くないに決まっているのだから無駄なことよ!』

 

 冷静に話を進めようとする武蔵とヒステリックに叫ぶ郁恵。何度も見たことがある地獄絵図を終わらせるために、林檎は話をそこで打ち切った。

 

『二人共、狩生さんの件はもういいよ。おかげでいろいろわかったし』

『あら、そうなの?』

『だから、この話は終わり』

 

 林檎はそこで確信めいた表情を浮かべていた。結局、真実を聞きそびれた武蔵だったが、林檎の中で結論が出ているのならそれでいい。武蔵はそう結論づけて、話題を変えることにした。

 

『それにしても優菜。最近、ライバー活動頑張っているそうじゃないか』

『はぁ……まあね』

 

 心底嫌そうな顔をした林檎だったが、自分から話がしたいと実家に帰ってきた以上、武蔵の話題を無下にするわけにもいかなかった。

 武蔵としても、これが娘と話す最後のチャンスだと思って、積極的に林檎に現在の活動について聞いたのだ。

 

『二ヶ月で登録者数10万人なんてすごいじゃないか』

『……100万人超えの大物に言われても嫌味にしか聞こえないけどね』

『そりゃあ、私は元々知名度のある人間だからな。一から集めた優菜の方が凄い』

 

 カリューのアドバイスもあってか、武蔵は林檎自身の成果を褒めるように努めていた。

 その甲斐あってか、林檎は少しだけ武蔵に対して饒舌になった。

 

『にじライブって看板がなきゃこんなに伸びないっての』

『だが、それは入り口に過ぎない。例えば私が〝手越武蔵〟ではなく、ただ有名な事務所に所属しているだけの無名な俳優だったとしたら、大して伸びないだろう?』

『ま、確かに、前は伸び悩んでる奴もいたし。パパと違って個人の面白さの保証はないもんね』

 

 それから林檎と武蔵は今まで冷め切っていた親子関係が嘘のように話が弾んだ。

 どうしたら視聴者が喜ぶのか。

 どういうタイトルのつけ方をすれば人の目に留まるのか。

 どういう配信がバズるのか。

 俳優という表現者である武蔵と同じく、林檎もライバーという表現者としてのプロ意識が高かったこともあり、親子の確執を越えて話ができたのだ。何だかんだでこの親子の本質は似ていたのだ。

 

『でも、優菜ちゃん。無理してるんじゃないの?』

 

 そんな和気藹々とした空気に郁恵は心配そうに割り込んできた。

 

『それに、あんな人達と一緒にいるのは良くないと思うの』

『はぁ?』

 

 大切な仲間達を侮辱されたことで、林檎の頭に一気に血が上った。

 

『ほら、今だって私をこんなに睨んで……きっとよくない影響を受けたのね。ゴミカス死ね、だなんて品性の欠片もないことを言う子と仲良くしているんでしょ? そのせいであなたまでゴミクズ呼ばわりされているじゃない』

『バラギはゲームでイライラすると口が悪くなるだけで、本当は優しい子だよ! よく知りもしないで勝手なこと言わないで!』

『ゲーム如きでそんな口調になる子なんて碌な子じゃないわ。それに同じ事務所には、あの司馬拓哉だっているんでしょう!』

『何でそれを……』

『いろいろと調べさせてもらったの。今の時代、こんな情報探そうと思えば簡単に見つかるわ』

 

 郁恵はVtuberの前世についてまとめたサイトを林檎へと見せた。

 そこには林檎がゆなっしーであることや、レオが司馬拓哉であるという内容の記事が書いてあった。最もレオの方は雰囲気が違いすぎることや、声での判別がいまいち難しいこと、何より〝あのシバタクがこんばん山月などと言うわけがない〟ということもあり、信憑性の低い記事ではあったが。

 

『武蔵さんも常々言っていたものね。司馬拓哉は態度が悪いと』

『いや、共演者への配慮が足りない、と言ったんだ』

『同じことよ』

 

 武蔵の訂正を意にも介さずに、郁恵は続けた。

 

『あなたの動画を見てくれる人達にもあんな酷い態度をとったりして……とてもじゃないけど、褒められたものではないわ』

『それは私の配信スタイルの問題だし、そういうスタンスを取ってるけど別に私は元々――』

『いいのよ。事務所に無理矢理やらされているんでしょ。わかるわ。あなたが本心からあんな態度をとったりするはずがないものね』

『ねえ、何言ってるの?』

 

 話を全く聞こうとしない郁恵は、林檎にとって呪いの言葉と化した言葉を放った。

 

『だってあなたは優しい子だものね』

『っ!』

『郁恵、やめなさい。優菜が真剣に取り組んでいることを否定するんじゃない』

『あなたは黙ってて。あんな低俗な文化に染まるくらいだったら、才能のあるピアノを続けた方が良かったのよ。いえ、今からでも優菜の才能ならプロになれるわ!』

 

 昔から優菜はうわべの評価で固まった自分を否定されたかった。しかし、自分の実力で積み上げてきたものや大切な仲間達を否定された林檎はショックを受けていた。

 何故、両親に今まで否定されなかったか。理由は簡単である。自分の意志を持たずに、ただ両親の言うことを聞いて適当に生きてきたからである。

 

『……いいよ。ライバーはやめる。だからさ、事務所や二人には何もしないで』

『優菜、それは――』

『あら、これで万事解決ね』

 

 こうして優菜は大好きだったライバー活動を卒業をすることになってしまったのだった。

 

「……私は父親失格だ」

 

 林檎がにじライブを卒業するに至った経緯を語った武蔵は力なく項垂れた。

 

「どうしてもっと強く林檎ちゃんの味方をしてあげなかったんですか」

「夢美?」

「父親は仕事ばかり、母親は自分絶対主義で林檎ちゃんを見ようともしない。こんなのあんまりですよ。母親が話の通じない人なら、父親であるあなたが味方になってあげなきゃダメでしょうが!」

 

 そこから夢美は堰を切ったように武蔵に思いをぶつけた。

 

「辛いとき、親が傍にいない娘がどんなに寂しいと思っているんですか! あなたはその気になればいつだって会いにいけたはずです! それを林檎ちゃんが拒絶するから話をしなかった!? ビビってんじゃねぇよ! 芸能界で偉そうにふんぞり返る前に、どんなに嫌われようと罵倒されようと、大事な娘に手を伸ばせよこのヘタレ!」

「そう、だな……君の言う通りだ」

 

 途中から敬語などかなぐり捨てた夢美の言葉に武蔵は静かに頷いた。

 

「どうしてこう男性芸能人は李徴ばっかなんだよ、もう!」

「おい、流れ弾やめろ」

 

 誤魔化すように咳ばらいをすると、レオは改めて武蔵に深々と頭を下げた。

 

「タケさん、いろいろ教えてくださり、ありがとうございました。おかげで突破口が見えました」

「えっ、どうするの!?」

 

 解決策が見えた様子のレオに夢美は詰め寄る。

 

「あのなぁ、たとえ内藤郁恵さんが世界的に有名なピアニストだろうと、俺達をどうこうできるわけないだろう? ただ自分の評判が悪くなって終わりだ。だから、それについては放っておけば問題ない」

 

 いわゆるオタクという人種はサブカルチャーをバカにする有名人を蛇蝎の如く嫌う。結局のところ郁恵の影響度などその程度でしかないのだ。

 

「あっ、言われてみればそうだよね」

「問題があるとしたら、再び蓋をしてしまった白雪の心の方だ」

 

 虎の威を借りる狐が何故、虎の威を借るのか。答えは簡単だ。虎の脅威を狐自身が知っているからである。

 つまるところ、優菜は両親を強大な力を持った脅威として認識してしまっていたのだ。

 

「蓋をしたのなら――」

「こじ開けるまで!」

 

 顔を見合わせて二人同時に獰猛な笑みを浮かべると同時に、途中から外へ出ていた亀戸が戻ってきて言った。

 

「車はいつでも出せますよ!」

 

「「さっすが亀ちゃん!」」

 

 タイミングが完璧な亀戸の登場に、レオと夢美は親愛の意を込めて愛称で呼び、店の外へと出た。

 

「……若者ばかりには任せていられないな。私も父親としての責任を果たさなければ」

 

 目の前の障害など物ともしない勢いの三人を見て、武蔵は静かに覚悟を決めていた。

 




もう少し耐えてくれ!
てぇてぇは目前だぞ!

ちなみに余談ですが、やらなきゃいけないことの答えは〝母親から大切な人達を守る〟でした。


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【歌ってみた】友へのファンファーレ

シリアスゥゥゥ! これでトドメだぁぁぁぁぁ!

てぇてぇ ( 'д'⊂彡☆))Д´) パーン シリアス


 ライバーを辞めてからというもの、林檎は憂鬱な毎日を送っていた。

 やるべきこと。母親から事務所や仲間を守るなんて思いを抱き辞めたものの、そこから先には何もなかった。

 ゆなっしーに戻ることも考えたが、今更配信なんてやる気は起きなかった。

 

「どうして、私は手越優菜だったんだろ……」

 

 手越武蔵の娘じゃなかったら、内藤郁恵の娘じゃなかったらこんな思いもしなくて済んだのに。

 手越優菜だったから、狩生環奈を傷つけてしまった。白鳥まひるの優しさを否定し続けてしまった。

 

「どうして、私は白雪林檎でいられなかったんだろ……」

 

 暗い考えが頭を巡る。

 ボーっとする頭を覚ますため、洗面台へ向かう。

 顔を洗い、顔を上げると鏡の中の自分と目が合う。

 

「っ!」

 

 気のせいだということはわかっている。

 だが、鏡に映った白雪林檎が手越優菜を睨んでいるような気がしてしまったのだ。

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……!」

 

 いつかのカリューのように、林檎――いや、優菜は鏡の中の林檎に向かって詫び続ける。

 

「もっと一緒にいたかったな……」

 

 スマートフォンをつければ、そこには三人で撮った池袋での写真が映っていた。

 頬がくっついて困惑するレオと夢美の間で笑顔を浮かべる自分。きっと、こんな風に笑えるときはもう来ない。優菜はそう思っていた。

 不意に画面上にU-tubeからの通知が表示される。それは、卒業後も残してある白雪林檎のチャンネルの通知だった。

 

「そういえば、スマホはログアウト忘れてたっけ」

 

 いつまでも白雪林檎を忘れられない小人達のため、残していたチャンネル。事務所との契約が終了したため、きっちりログアウトしたつもりだったが、スマートフォンのアプリでのログアウトは忘れていたのだ。

 けじめのため、しっかりログアウトしようとしていた優菜だったが、表示された通知の内容を見て、指を止めた。

 

「バラギの歌ってみた……珍しい。何でまたこんな中途半端な時間に?」

 

 普通、こういった動画は夕方や夜の切りが良い時間に投稿するはずだ。

 怪訝な表情を浮かべつつ、優菜はプレミア公開された夢美の歌ってみた動画を再生した。

 夢美の歌った曲は十年以上前に放送していた、カウボーイが渋谷でギャルと交流を深めていくテレビドラマの主題歌〝HEY! FRIENDS〟だった。

 

『HEY! FRIENDS♪ すったも~んだを♪ 繰り返す日本を~♪』

 

[選曲で草]

[ギャルサーとか懐っ!]

[バラギ絶対二十代半ばくらいだろ]

 

 夢美のまさかの選曲に妖精達も驚いていた。

 それなりに有名なドラマだったとはいえ、今の流行りの曲ではない。夢美がこの曲を選んだのは言うまでもない、林檎に聞いてもらうためだ。

 

『FRIENDS♪ もう一度FRIENDS♪ 自分をし~んじてみないか~♪ 押さえきれな~いほど~♪ 見果てぬ夢があるだろ~♪』

 

[久しぶりに聞いたけどいい曲だな……]

[このタイミングにプレミア公開した意図とは]

[どうしても伝えたい思いがあるからって言ってたけど、まさか……]

 

 夢美の意図は妖精にも伝わり始めていた。

 

『おな~じ時代の~中で生きている~僕ら~♪ 手をの~ば~せ~ば~♪ そこにいるさ♪』

 

[頼むぞバラギの思い、届いてくれ! ¥50,000円]

[バラギが今呼びかける友達って言ったら一人しかいないよなぁ! ¥50,000円]

[曲は終わるが思いを乗せて俺も投げるぞ! ¥50,000円]

 

 夢美の動画で高額なスーパーチャットを投げていたのは他でもない、白雪林檎の引退を惜しんでいる小人達だった。

 優菜はいまだに自分を好きでいてくれる妖精達の様子を見て胸が痛んだ。

 感傷に浸る間もなく、今度はレオのチャンネルの通知が来る。

 

「次はレオ……」

 

 レオのプレミア公開した動画もまた、歌ってみた動画だった。

 レオが歌った曲は、高校生の青春模様を描いたアニメ映画のオープニングテーマ〝ファンファーレ〟だ。

 最初から全力で力強く歌い始めると、レオはかつて自分が燻っていたときのことを思い出し、気持ちを込めてAメロの部分を歌った。

 

『暗い暗い暗い部屋を作って目を塞げば~♪ 気付かないチクチクチクチク心は傷まな~い♪』

 

[バラサーから]

[バラサーから]

[バラサーで草]

 

 レオの動画に流れてくるコメントはほとんどが夢美の動画から流れてきた者達によるものだ。

 当然である。中途半端な時間に投稿し、片方の動画が見終わる頃にプレミア公開された以上、何らかの意図を含んでいることは明らか。三期生の動向を気にしていた袁傪や妖精、そして小人達が確認しないわけがなかった。

 

『ah~♪ 夜を越えて~闇を抜けて~♪ 迎えにゆこう~♪ 傷の海も~悩む森も、厭わな~い♪ 毒を飲んでさ♪』

 

[ヘイフレインズにファンファーレ……]

[バラギの曲が終わるとほぼ同時に投稿されたってことは……]

[絶対これあの子へのメッセージだよな]

 

『何度でも迎えにゆくよ~♪』

 

[行ってこい! ¥50,000円]

[あとは任せたぞ! ¥50,000円]

[お願いします! ¥50,000円]

 

 レオと夢美の意図を察した小人達から夢美のときと同様の高額チャットが飛び交う。

 その光景を目の当たりにした優菜は泣きながらその場に崩れ落ちた。

 

「どうして……どうしてそこまで……!」

 

 方法がこれしかないと自分の中で結論を出していたとはいえ、差し伸べられた手を振り払ってしまったのだ。

 それなのに、またこうして手を差し伸べてくる。

 自分の出自や過去など、何てことないかのようにレオと夢美は真っ直ぐに自分に手を差し伸べてくれたのだ。

 インターホンが鳴る。一階のセキュリティを突破できるということは、合鍵を持っているということ。そんな仕事関係で信頼に値する人物は一人しかいない。

 誰が誰をここまで連れてきたか、そんなこと優菜には既にわかっていた。

 ドアを開けるとそこには、優菜が守ろうとした(待ち焦がれた)人物が立っていた。

 

「夜分遅くに申し訳ありません。もう一度、話をさせていただけませんか? まあ、話をするのはお二方ですが」

 

 亀戸が一歩下がると、今度はレオと夢美が優菜に言った。

 

「よっ、迎えにきたぞ」

「何度拒絶されたって私達は林檎ちゃんの傍にいるよ」

「亀ちゃん……レオ……バラギ……!」

 

 三人の顔を確認した瞬間、再び優菜の目から大粒の涙が流れ落ちる。それを夢美は優しく抱き留めた。

 それから、落ち着いた優菜が三人を中へ招き入れる。

 置いてあるグランドピアノやトロフィーの数々に気圧される三人だったが、優菜に促されるままにソファーに腰掛けると、表情を引き締めた。

 

「白雪、戻ってきてくれないか?」

 

 まどろっこしい話は抜きでレオは単刀直入に言った。

 

「ここに来る前、タケさんから話は聞いた。内藤さんのことなら、心配しなくても大丈夫だ」

「パパと会ったんだ……」

 

 それからレオは優菜の母である郁恵の影響力など大したことはないと語った。

 

「そういうわけで、俺達や事務所のことなら心配ない。タケさんだって、きっと力になってくれる」

「パパはダメだよ……あの人、ママには強く出れないから」

 

 少しは心を開きかけていた優菜だったが、この状況をどうにかしてくれるほどの信頼を置くことはできなかった。

 

「それに関しては大丈夫だ。何せ夢美に正面から〝臆病な自尊心〟を吹き飛ばしてもらったんだ。あのままじっとしてはいないさ」

「……あんたのその信頼感。たまにむず痒いんだけど」

 

 レオから全幅の信頼を置かれていることが照れ臭かったのか、夢美は頬を掻きながらそっぽを向いた。

 

「あと、カリューさんにはもう真実は伝えてある」

 

 三島を経由し、レオはカリューに真実を伝えていた。

 レオは三島から聞いていたカリューの連絡先へとビデオ通話で連絡を取ろうとした。

 

「もしもし――」

『はい、カリューで――えっ、ホオジロザメかかった!?』

 

 しかし、カリューが通話に出た瞬間、画面が激しくブレた。

 そして、ようやく画面が止まったとき、映し出されたのは――大暴れするホオジロザメの顔面だった。

 

「ほ?」

「「ホオジロザメ!?」」

「……どういう状況ですかこれ」

 

 成り行きを見守るために黙っていた亀戸でさえ、わけのわからない状況に困惑の声を上げた。

 

『おとなしくしなさい! そぉい! よし摩り下ろせた!』

 

 画面にかろうじて映し出されるカリューは、急いで現地の人間が必死に押さえているホオジロザメに跨ると、持ってた本わさびを摩り下ろした。

 

『思ったよりも擦れないな……ま、いっか!』

『はい、カット!』

『ちゃんと映像取れてます?』

 

 カットがかかり、わさびを回収してホオジロザメから降りると、カリューは真っ先にカメラマンの元へと向かった。

 

『大丈夫ですね』

『うん、リアクションも画角もこれなら大丈夫ですね……ありがとうございます!』

 

 映像をきちんと確認すると、再びカメラが回りカリューはホオジロザメに別れを告げた。

 

『ホオジロザメ君、ありがとう! 海へお帰り! では、いただきます……しょっぱぁ!?』

 

 海の上で釣れた魚を捌き、わさびをつけて食べたカリューは、派手なリアクションと共に咽た。

 そんなカリューの壮絶で、どこか間の抜ける映像を見ていた四人は、何とも言えない表情を浮かべていた。

 

『お疲れ様でした! ん? ヤッバ、ビデオ通話オンのままになってた! すみません、ちょっと外します!』

 

 スタッフに断りを入れると、カリューはスマートフォンのカメラを自分の方へと向けた。

 

『もしもし?』

「何というか、その……本番中にごめんなさい。俺です。獅子島です」

『あー、獅子島さん! どうしたんですか? 私と手越さんが嵌められたかもしれないって話は聞きましたけど――』

「環奈!」

 

 元気そうなカリューの様子を見ていた優菜は、いても経ってもいられず、カリューの名前を呼んだ。

 

「ごめんなさい! あのとき、私が環奈を信じてればこんなことにはならなかった! 下手に遠慮して離れずに、ずっと一緒にいればよかったんだ! 本当にごめんなさい!」

『優菜……』

 

 涙を流しながら謝罪の言葉を叫ぶ優菜に、カリューは驚きつつも、優菜と同様にかつての呼び方で優菜の名前を呼んだ。

 

『私の方こそ、あんな連中に騙されてあなたを疑ってしまってごめんなさい。それに私のせいでまたあなたを孤独にさせてしまった。本当にごめんなさい……今度こそ絶対にあなたの味方で居続ける。断られたって離れてなんてやらないんだから』

「うん……!」

 

 必要な言葉を交わすと、カリューはスタッフに呼ばれて優菜に別れを告げた。

 

『それじゃあ、ごめん。仕事あるから切るわね』

「忙しいのにごめんね」

『いいのよ。レオ君とバラギによろしくね!』

 

 通話が切れ、レオは仕切り直すように咳払いをして優菜に語りかける。

 

「なあ、白雪。カリューさんだってついてるんだ。もう一度俺達とライバーをやろう」

「で、でも……私といると、きっとまたみんなに迷惑がかかる。今までだってそうだったんだ。私が〝手越優菜〟でいる限り、私と関わった人間は不幸になるんだよ!」

 

 いまだに自分が嫌いでしょうがない優菜はレオ達の差し伸べた手を取ることができないでいた。

 だが、レオはそれでも手を伸ばし続ける。

 

「手越優菜がいたからこそ白雪林檎が生まれたんだろ? 今までの全部が全部悪いものじゃなかったはずだ。俺だってそうだ。司馬拓哉として生きた過去があるから獅子島レオとしての今がある」

「レオ……」

「だから、今まで頑張って生きてきた手越優菜を否定しないでくれ」

 

 手越優菜としての過去があったからこそ、白雪林檎としての今がある。

 当たり前のことではあるが、それを優菜は長らく受け入れらなかったのだ。

 

「そもそも、俺達がそんなことで潰れるほど柔じゃないのは知ってるだろ?」

「そうそう、何せ――」

 

「「我らにじライブぞ?」」

 

「あ、私もついてますからね!」

 

 獰猛な笑みを浮かべる二人に続き、亀戸も立ち上がって優菜の味方であることを宣言した。

 

「でも、いろんな人に心配かけて、復帰なんて勝手が許されるわけがない!」

「許されるか、許されないかじゃない――白雪林檎はどうしたいんだ!」

 

 レオは真っ直ぐに優菜の目を見据える。

 

「私……私っ!」

 

 口元を震わせながら涙を流すと――白雪林檎は自分の胸の内を大声で叫んだ。

 

 

 

 

 

 

「私゛、ラ゛イ゛バ゛ー゛や゛め゛た゛く゛な゛い゛!」

 

 

 

 

 

 

「その言葉を待ってたんだ」

「ふふっ、また一緒だね」

 

 林檎がライバーへ復帰したいと望んだことで、レオと夢美は安心したように笑顔を浮かべた。

 そんな様子を見守っていた亀戸は、林檎に歩み寄って鞄から書類を取り出して渡した。

 

「白雪さん。事務所側には自分のやりたいゲームができないから辞めると言っていましたよね?」

「亀ちゃん? ん、これって!?」

 

 書類の内容に軽く目を通した林檎は驚愕の表情を浮かべる。

 

「白雪さんが実況を希望していたゲームリストにあったゲーム。その制作企業との著作物を利用したコンテンツ投稿の包括的許諾は全て取りました! これで言い訳はできませんよね?」

 

「「はあ!?」」

 

 メディア本部から営業部に移っていた亀戸は周囲の嘲笑などには目もくれず、必死に林檎が()()()()()()()()()()()()()駆けずり回っていた。

 

「もちろん、私一人の力ではありませんでしたけど……使えるコネは全て使わせていただきました」

 

 亀戸は親会社の社長令嬢であるが、直接父親にお願いをしたわけではない。

 父が持つ繋がり、それを最大限に活かして営業活動に専念していたのだ。

 亀戸は幼い頃から父に連れられていろんな企業の社長や幹部と会っていたこともあり、ゲーム会社の重役も顔見知りだったのだ。

 しかし、幼い頃から可愛がっていたとはいえ、企業として私情を挟むわけにはいかない。亀戸の持っている肩書では精々営業がしやすくなる程度のものだろう。

 亀戸がこの結果を勝ち取れたのは、ひとえに彼女自身の努力と、その姿に突き動かされた他の営業部の人間の努力の結果である。

 亀戸は、どこか自分に似たところがあると感じていた林檎へと向き合う。

 

「白雪さん。あなたはピアノが自分の実力じゃないと言ってましたね。私はそうは思いません」

 

 かつての弱弱しい姿の面影など、どこにもない。亀戸は強い意志を持った瞳を輝かせながら、林檎に言い放った。

 

「確かに白雪さんはピアノの腕を磨きやすい環境にいたかもしれません。でも、チャンスが目の前にあっても掴めない人は大勢います。今もあなたが高い実力のままピアノを弾けるのは、今日に至るまでの弛まぬ研鑽があったから……だから、それは間違いなくあなたの力なんですよ! だから、見せてくださいよ――白雪林檎の実力って奴を」

 

「はっ、上等……!」

 

 林檎は乱暴に涙を拭うと、レオや夢美の真似をして精一杯、獰猛な笑みを浮かべた。

 




今回使用させていただいた二曲はぜひともフルで聞いていただきたいです。
何せ、二章のプロットを組んだ時点で使用することを決めていた渾身の選曲なので……!


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【白雪林檎】みんな、ただいま!

投稿が遅くなり申し訳ございません。
お待たせした分今回の話はおそらく今まで最長となっております。


[にじライブ公式@(NijiLive)

手を伸ばしてくれた人達がいた。だから私は――]

 

 卒業から一か月半。

 林檎のシルエットが映し出された画像と共に投稿されたにじライブのツウィッター公式アカウントの呟きに、小人達は大いに沸いた。

 今までVtuber界での卒業や引退といった活動終了後の復活という前例は一度もなかった。

 そんな常識を覆したことで、リマインダーの設定された林檎のU-tubeチャンネルの配信には既に二万人以上が待機するという異常事態が発生していた。

 林檎がレオ達から差し伸べられた手を取ったときは、卒業から僅か二週間。

 さすがに二週間での出戻りは早すぎると上層部が判断したこともあり、林檎と亀戸は配信内容の打ち合わせをしながら、その時を待った。

 結果、林檎のライバー復帰は、亀戸達がもぎ取ってきた様々なゲーム会社とのコンテンツ投稿の包括的許諾の発表後にすることになったのだ。

 そして、改めてにじライブの事務所を訪れた林檎は散々迷惑をかけた諸星へと謝罪をしていた。

 

「ご迷惑をお掛けしてしまい、申し訳ございませんでした!」

 

 誠心誠意頭を下げる林檎に対して、諸星が声をかける。

 

「白雪さん、頭を上げてください」

 

 感情の読めない諸星の言葉に、恐る恐る林檎が顔を上げると、諸星は満面の笑みを浮かべて言った。

 

「おかえりなさい」

「諸星さん……!」

 

 諸星が笑うところは何度か見たことがある林檎だったが、諸星の満面の笑みなど一度も見たことがなかった。

 諸星が心から自分の復帰を喜んでいるという事実を認識した途端、林檎の目から涙が零れ落ちた。

 

「あらあら、見ない間に白雪さんは随分と泣き虫さんになったみたいね」

 

 そんな様子を陰から見守っていた内海が、書類を抱えて林檎の元へとやってくる。

 

「内海さん」

「おかえりなさい。白雪さん。自分のことは好きになれた?」

 

 かつて林檎の心は壊れていないと声をかけてくれた内海。その問いかけに、林檎は困ったように笑った。

 

「……正直、まだ自分を好きとは思えません。でも――」

 

 林檎は背筋を伸ばして顔を上げると、憑き物が落ちたような清々しい表情を浮かべて言った。

 

「今の私は嫌いじゃないです」

「ふふっ、そこまで言えるなら大丈夫そうね」

 

 林檎のことを心配していた内海は安心したように笑うと、抱えていた書類を林檎へと渡した。

 

「それじゃあ、再契約といきましょうか」

「よろしくお願いします!」

 

 林檎が契約書に再び目を通している間、内海は念を押すように諸星へと告げた。

 

「諸星さん、白雪さんの復帰は特例中の特例ですよ」

「……ええ、わかっています」

 

 内海の言葉に、諸星はどこか寂しそうな表情で頷いた。

 にじライブとの再契約を終えた林檎は晴れ晴れとした表情で、今夜放送を行うスタジオへと向かう。

 

「仕上がりはどうですか? 緊張して急に弾けなくなったとか勘弁してくださいよ?」

「愚問だねー」

 

 煽りながら激励の言葉をかけてきた亀戸に強気な表情を浮かべると、林檎はスタジオに駆け付けた三人に向き合った。

 

「レオ、バラギ、まひるちゃん――私のこと見ててね」

 

 私のこと見ててね。その一言には様々な意味が込められていた。

 昔は素直に口にすることができなかった言葉。今では躊躇いなく言える。

 

「「「もちろん!」」」

 

 心を許せる仲間ができたから。

 

「亀ちゃん、良かったね」

「一時はどうなることかと思ったけど、これで一段落だね」

「あはは……まだ気は抜けませんよ。何せこの業界でも前例のない復帰ですから」

 

 レオや夢美についてきた飯田と四谷の言葉に亀戸は苦笑する。

 林檎の復帰と同時に、亀戸も営業部からメディア本部へ戻ってくることができていた。営業部の者達は、亀戸の本気を見たことで彼女が営業部からいなくなることを惜しんだが、亀戸は「白雪林檎のマネージャーは私以外に任せたくないですから」と言って譲らなかった。

 

「それにしても……」

「ああ、これでまた……」

 

「「これで三期生のてぇてぇがまた見られる……!」」

 

「二人も人のこと言えないと思いますけどね……」

 

 担当ライバー同様、息ぴったりのマネージャー陣を見て、亀戸はため息をついた。

 

「そういえば、ご両親の件は大丈夫だったの?」

「白雪さんも詳しくは聞かされていないみたいなのですが、武蔵さん曰く『まだVtuberという文化を受け入れるのは難しいみたいだが、少なくとも優菜の歩む道の邪魔にはならない』と言っていたそうですよ。白雪さんも武蔵さんなら、ほんの少しだけは信用してやってもいいと言っていたので大丈夫だと思います」

「どうやって、抑え込んだんだろう……まあ、またあの三人が笑い合えるならそれでいっか」

 

 四谷は武蔵がどうやって郁恵を抑え込んだか気になっていたが、今は再び三期生全員が揃ったことを素直に喜ぶことにした。

 

「しかし、獅子島さんといい、白雪さんといい、芸能関係者多くない? 本人たちの能力も常人を遥かに上回ってるし」

「一番やばいのは、あのスペックの二人よりも登録者数の多い夢美ちゃんだと思うけどね……」

 

 マネージャー陣が語り合っている間、林檎は最終調整のため、スタジオに用意された電子ピアノを弾いて調子を確かめていた。

 そして、とうとう配信のときがやってきた。

 配信ボタンを押すと、配信が始まる。

 

[きちゃ!]

[会いたかったぞ白雪ィィィ!]

[まさか本当に復活するなんて……]

[もう泣いた]

 

「お久しぶりです。白雪林檎です」

 

[おかえり! ¥10,000円]

[おかえり! ¥50,000円]

[あのとき投げたスパチャを返せよ! ¥50,000円]

[返せと言いつつ限度額投げてて草]

[待ってたぞ!]

 

 多くの小人達が、画面の前に再び現れた林檎の姿に狂喜乱舞する。

 そんな小人達の様子に口元を緩ませたが、すぐに表情を引き締めた。

 

「この度、私はライバー活動へ復帰することとなりました」

 

[希望を捨てずに生きてて良かった]

[まさかV界隈でも前例のない卒業後の復帰とは……]

[三期生は伝説しか作れないのか]

[あの焼き林檎が動いてしゃべってる……!]

[当たり前のようで当たり前じゃないんだよなぁ]

 

 林檎本人による復帰宣言。

 それは小人達が何よりも求めていたものだった。

 

「私が卒業するとき、やるべきことができたからと言ってやめましたが、その詳細としては配信上でプレイするゲームに権利上、実況が厳しいものが多数存在し、自分のスタイルでライブ配信をできないからという理由でした。しかし、最近多くのゲーム会社とのコンテンツ投稿の包括的許諾が取れたとマネージャーさんから連絡があり、ライバーに戻らないか、との打診があり、こうして復帰させていただく次第となりました」

 

[あれで自分のスタイルじゃなかったのか……]

[マネちゃんグッジョブ! ¥4,000円]

[前から思ってたが、白雪のマネさんってかなり優秀なんじゃ……]

 

 家庭の事情や学生時代のことなどを話すわけにはいかなかったため、林檎は表向きの理由を小人達へと説明した。

 

「今更ではありますが、私の自分勝手な気持ちで関係者各位、また小人の皆様にはご迷惑、ご心配をおかけしてしまい大変申し訳ございませんでした」

 

[やりたいことができないんじゃしょうがない]

[帰ってきてくれただけで十分]

[俺達は信じてたぞ]

 

 誠意を込めた謝罪をすると、林檎はそこでいつものように口調を崩した。

 

「ま、堅っ苦しい挨拶はこの辺にして……みんな、ただいまー!」

 

[おかえり!]

[おかえり!]

[おかえり!]

[おかえり!]

[おかえり!]

 

 復帰した林檎を小人達は暖かく迎えた。もちろん、全員が全員歓迎しているわけでないことは林檎もよくわかっていた。

 何せ、一ヶ月半での復帰である。

 コメント上には現れていないが、後々掲示板が多少荒れることは目に見えていた。それをどうにかできるかは、今後の活動次第だ。

 

「本当は何度も戻らないかって言われてたんだけど、今更戻れないと思ってたんだー……。でも、こんなクズな私を引っ張り出してくれた大切な人達がいた。もちろん、私を信じて待っていてくれた君達のこともちゃんと見てたよ。本当にみんなありがとう……だから、レオと夢美に限度額払った人はサブ垢でスパチャ投げてねー」

 

[了解! ¥50,000円]

[最後で台無しwww]

[やっぱりあの動画見てたのか]

[三期生てぇてぇ ¥50,000円]

[おい、サブ垢っぽいやつ限度額投げてたぞw]

[マジで投げてて草]

[ありがとう……バラレオ本当にありがとう……!]

 

 レオと夢美によって投稿された動画を林檎も見ていたことを示唆すると、小人達は改めてレオと夢美に感謝していた。

 

「あと、念のために言っておくけど、他の卒業したライバーさんに『白雪が戻ってきたから戻ってこい』みたいなことは言わないでね。私は特例らしいから」

 

[了解!]

[了解!]

[了解!]

[何だかんだで白雪のこういうしっかりしたところすこ]

[正体表したね]

 

 林檎が注意を促すと、小人達は素直に肯定の意を表した。

 一通り言うべきことを話した林檎は、今回の配信の本題に入ることにした。

 

「前置きはこのくらいにして、今日の配信内容説明するよー。今日は前にやる予定だった10万人記念配信も一緒にやってくよー」

 

[もう13万人超えてるんだよなぁ]

[勢いおかしいだろwww]

[復帰と同時に記念配信は草]

 

 林檎の復帰というニュースを聞いた小人達の中には、諦めてチャンネル登録を解除していた者もいた。そういった者達が再びチャンネル登録をしたことや、にじライブのライバーは好きだが、林檎を知らない者が興味を持ってチャンネル登録をしたことによって、〝復帰ブースト〟がかかっている状態となり、林檎のチャンネル登録数は爆発的に増加していた。

 

「今日はみんなへの感謝の気持ちを込めて……ピアノ配信をやります」

 

[ファッ!?]

[ピアノだと!?]

[白雪ピアノ弾けたんか!]

 

「こう見えても物心ついたときから弾いてたから腕には自信があるんだよねー」

 

[そんなに弾いてたんか]

[雑談配信でも、所々金持ちっぽいエピソードあったから納得]

[まだ隠し玉があったとは]

 

「復帰が決まった時点でガッツリ練習してたから楽しみにしててねー」

 

[これは期待]

[何が始まるんです?]

[今北産業]

[焼き林檎の帰還

 謝罪と感謝の言葉

 ピアノ演奏]

 

 今まで一度も配信上でピアノを弾いたことはなかった林檎だったが、小人達はいつも以上に自信溢れる林檎の言葉を聞いて期待に胸を膨らませていた。

 

「それじゃ一曲目は……〝ハートの主張〟」

 

 林檎は曲名を告げると、鍵盤に指を置いて丁寧に弾き語りを始めた。

 

「こ~われてた~♪ 優しさが涙を流してる~♪ どうして~♪ 言えなかったのかな~♪」

 

[ハニワだ!]

[三期生の全員本当にハニワ好きだなwww]

[てか、マジでピアノ弾いてるんか]

[普段あまり頭揺らさない白雪がここまで揺らしてるんだから、弾いてるでしょ]

 

 画面上に表示されるのは、林檎の表情を読みとって動く林檎の立ち絵のみ。たとえ、ピアノを弾く指が表示されなくとも、小人達はピアノを弾いている林檎の姿など容易に想像できた。

 

「隠した~♪ ハートの高鳴りが~♪ 伝えたかった言葉~♪ 弱くて怖くて逃げる♪」

 

[歌もピアノも滅茶苦茶うまいやんけ!]

[もっとゆっくり弾くかと思ったら、普通のスピードで弾いててビックリ]

[これだけの才能を何で眠らせてたんだ]

[もしかして:李徴]

[まーたレオ君に流れ弾が飛んでる……]

 

「助走始める準備はOK? 振り向かないで信じる方へ♪ 新しい~♪ 出会いがあ~る♪」

 

[最高だった!]

[歌詞がまたいい感じに刺さる……]

[チケット代! ¥5,000円]

[後払いで草]

 

 ハートの主張を弾き終えた林檎はコメント欄を確認して小人達へ礼を述べた。

 

「いやー、みんな聞いてくれてありがとねー。チケット代は払いたい人が払えばいいから、無理しないでねー。ま、意地でも払いたくなるようにしてあげるけど」

 

[いつも以上にイキるやんww]

[これぞ焼き林檎]

[復帰しておとなしくなるかと思ったら、そんなことはなかった]

 

 復帰をしても今までと変わらない林檎の様子に、小人達は満足げな様子だった。

 

「次は小人達への感謝の気持ちを込めて――リクエスト曲を耳コピで弾いていくよー」

 

[耳コピ!?]

[さらっと、とんでもないこと言ってて草]

[これは伝説の予感]

 

 林檎が耳コピでピアノを弾くと聞いた小人達は、画面の前で驚いた表情を浮かべていた。

 ピアノ系ユーチューバーで耳コピで曲を弾いている者はいるが、まさか林檎がそれをするとは思わなかったのだ。

 

「じゃ、リクエストちょーだい」

 

[千本桜]

[夜に駆ける]

[命に嫌われている]

[低血ボルト ¥50,000円]

[脳裏上のクラッカー]

 

 林檎がリクエストを出したことで、小人達はそれぞれ思い思いの曲名を書き込んでいく。

 その中でも、スーパーチャットをつけて送られた曲名が林檎の目に留まった。

 

「この〝低血ボルト〟って曲、前にレオが神曲って言ってたやつかー……赤スパもらっちゃったし、やるしかないよねー」

 

[レオ君、夜好性だもんな]

[待て早まるな]

[低血ボルトは無理でしょ]

 

 無理、そのコメントを見た瞬間、林檎の胸の中で火がついた。

 

「へぇ……私にはできないってか、ふーん……ちょっと本気出す」

 

[今までにないガチな空気]

[おっ、林檎に火がついたか]

[これはいい焼き林檎]

 

「まずは耳で覚えていくよー」

 

[えっ、白雪絶対音感あるの!?]

 

「絶対音感も相対音感もあるよー。それじゃ、再生するねー」

 

 林檎はU-tubeで検索して出てきた、アーティストの公式チャンネルから動画を見つけると、曲を再生した。

 

「ほ?」

 

 イントロから激しめなピアノのメロディーが流れ出し、そのまま曲を聴いていた林檎はその曲の激しさに呆けた声を出した。

 

「……えっ、これやばくない?」

 

[そりゃそんな反応になるwww]

[本来二人で弾いてる曲だからな]

[これはミスりましたねーwww]

 

「いやー、予想以上の難易度だから時間かかるだろうけど、やると言った以上やるよー」

 

 そう言うと、林檎は曲を聴きながらピアノを弾いて音を確かめていった。

 

「うわっ、何これ、指が超忙しいんだけど!?」

 

[忙しいってレベルじゃないだろwww]

[よく弾けるなwww]

[3Dじゃないのが惜しまれる]

[これは3D化待ったなし]

 

 それからサビの箇所をアウトプットして弾いた林檎は楽しそうな笑い声を零した。

 

「あははっ、この曲超好きー!」

 

[ニッコニコで草]

[過去最高に楽しそう]

[ここまで楽しそうな白雪初めて見た!]

[マジで指どうなってるんだ……]

[そりゃゲームもうまいわけだよ……]

 

 二人分の曲を一人で弾いているため、指を尋常じゃない速さで動かさなければいけないというのに、林檎は心から楽しそうにピアノを弾いていた。

 

「よし! じゃあ本番いってみよー」

 

 時間をかけて曲を耳コピでインプットした林檎は、華麗な指さばきでイントロを弾き始めた。

 

「弱気になる最寄の雨~♪」

 

[イントロから耳コピ完璧じゃん]

[これも弾き語りでいくのかよwww]

 

 短時間で何度も曲を再生したため、林檎はそのまま歌も歌うことにした。

 

「怖がることはもういーかい♪ 惑わされてくな~ら♪」

 

[ピアノの影に隠れガチだけど、普通に白雪も歌がうまいという]

[ピアノの弾いてる時とFPSで相手を煽ってる時のギャップで風邪ひきそう]

[この子がデビュー五日でモンハンで姫プして炎上したなんて誰も信じないだろうな……]

 

 普段の林檎を知っている小人達は、ピアノを弾いているときと、そうでないときの林檎のギャップに改めて驚いていた。

 

「無敵になれた♪」

 

 曲を歌い終えると、林檎は全力で激しいアウトロを弾いていく。二人分の指の動きをするという常人離れした技を見せた林檎に、普段から彼女のことを知らない視聴者達も魅了されていた。

 

「ありがとうございましたー!」

 

[最高だった ¥5,000円]

[これはいいものだ ¥5,000円]

[まさかこれほどとは…… ¥5,000円]

[おら、チケット代だ! ¥5,000円]

[最後のとこ、指の動きエグくて草]

[やっぱ三期生ってバケモノしかいないんだな]

[レオ君と組んだら音楽最強コンビ爆誕するのでは]

[リズム感つよつよのバラギには踊ってもらおう]

 

 耳コピでの演奏は大好評のままに終わった。

 結構な時間を使ってしまった林檎は、最後の曲を弾くことにした。

 

「みんな、長い時間付き合ってくれてありがとねー。次で最後の曲になるんだけど、連弾用の楽譜使うから、ちょっと全部歌うのは厳しいんよねー」

 

[お前は何を言っているんだ]

[頭おかしいwww]

[連弾の意味知ってる?]

[まーた二人用の曲弾こうとしてる……]

 

 連弾とは、ピアノなどの鍵盤楽器を複数人で同時に演奏することである。

 一般的に連弾といえば、一台のピアノを二人で演奏することを指し、先ほど林檎が弾いた曲もこれにあたる。

 ものによっては物理的に不可能なものもあるが、林檎は躊躇わずに連弾用の楽譜を一人で弾くことを決意した。

 

「というわけで、集まれ! にじライブ海賊団!」

 

 打ち合わせにない林檎の呼びかけ。

 困惑するスタッフをよそに、レオと夢美はすぐに林檎の元へと駆けつけた。

 

「みなさん、こんばん山月! にじライブ海賊団の獅子島レオです!」

「みんな、こんゆみー! にじライブ海賊団の茨木夢美でーす!」

 

[ファッ!?]

[レオ君とバラギいたのか!]

[そういや、この配信ってにじライブのスタジオでやってるのか]

 

 レオと夢美の突然の登場に小人達だけでなく、配信を見ていた袁傪や妖精達も大いに沸いた。

 

「こんまひ、こんまひ! こんまひー! まひるも参加するよ! 大事な妹のためだからね!」

「……うん、ありがとう」

 

[まひるちゃんもいたのか!]

[白組姉妹もてぇてぇ……]

[あぁ^~心がまひまひするんじゃぁ^~……うっ!]

[心臓麻痺で草]

 

 どこか複雑そうではあるが、林檎は素直にまひるの参加にも礼を述べる。

 そこで、まひるはその場に誰もが予想していなかった行動を起こした。

 

「ほら、バンチョーも来なよ!」

 

「「「え?」」」

 

[バンチョーも来てんの!?]

[白雪愛されているなぁ]

 

 まひるの呼びかけに、その場にいた全員が困惑する。

 何故なら、スタジオにいるスタッフの中には見知った顔しかなかったからだ。

 

「いっくよー!」

 

 まひるはスタッフがいる方に向かってマイクを投げる。

 すると、スタッフの中から素早い動きで一人の女性が飛び出してくる。

 

「ったく、しゃあないなぁ!」

 

 まひるの投げたマイク。

 それを華麗なジャンプと共に受け取ったのは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 諸星だった。

 

「はえ?」

「ホア?」

「ほ?」

 

「三人とこうしてオフで会うのは初めてやな。ウチが〝竹取かぐや〟や、よろしくな!」

 

 諸星――いや、竹取かぐやはそんな三人の反応に苦笑すると、ウィンクをしながら人差し指を口元に当てた。

 しゃべっているのは諸星のはずなのに、聞こえてくるのはかぐやの声。あまりの事態にレオの脳内は処理落ちを起こしていた。

 

「いや、ちょ、は? あの、えっ……はえ?」

 

[レオ君大困惑で草]

[そりゃいるはずないと思ってた推しが目の前に現れればこうなる]

[良かったなレオ君、憧れのバンチョーとの初コラボだぞ!]

 

 いまだに困惑しているレオを落ち着かせるための言葉をかけた。

 

「まあ、レオが困惑するのもわかる。せやけど、今はやることがあるやろ?」

「――そうですね。かぐや先輩、いえ、かぐや船長!」

「副船長は任せたで! まあ、漫画では戦闘員って言われとるけど」

「じゃあ、まひるは航海士!」

「私は狙撃手でー」

「じゃあ、あたしはコッ――」

 

「「「「それはダメ」」」」

 

「……あたしの扱い酷くない?」

 

[残当]

[メシマズエピソードがあるバラギがコックは無理でしょ]

[船大工でいいのでは?]

 

「あたし変態じゃないよ!?」

 

[桃タロスと会話が弾む時点で変態なんだよなぁ]

[相変わらず、バラギの扱い雑で草]

 

 一通り役割も決まったことで、足りない部分は歌える人間が兼任するという形で、歌っていくことになった。

 

「そんじゃ、みんないくよー! もうわかってると思うけど、弾くのはこの曲だー!」

 

 林檎の合図で曲が始まる。

 一人で弾いているとは思えない速度で弾き始める林檎に驚きつつも、マイクを持ったライバー全員は思いっきり歌い出した。

 

「「「「ありったけの~ゆ~めを~♪ かき集め~♪ 探し物をさ~がし~に、ゆ~く~の~さ~♪」」」」

 

[ウィーアーだ!]

[配役決めてた時点で予想はできてた]

[てか、マジで白雪の指どうなってるんだよwww]

 

 それぞれの配役にあったパートをまひる、レオ、夢美は順番に歌っていく。

 

「羅針盤なんて~渋滞のもと~♪ 熱にうかされ~舵をとるのさ♪」

 

[まひるちゃん可愛い]

[絶対目的地に着けなさそう]

[やめたれwww]

 

 それから、かぐやのパートになった途端、かぐやはすぅっと息を吸い込むと全力で自分のパートを歌った。

 

「こ~じん的な、あ~らしは誰かの~♪ バイオリズム乗っかって――――――! 思い過ごせばいい!♪」

 

[バンチョー声の伸びエグくて草]

[これは10億超えの賞金首ですわ]

[もはや四皇レベル]

 

 かぐやが高い歌唱力を持っているのは周知の事実だったが、彼女の歌声は改めて彼女が事務所でもトップのライバーだということを認識させる歌声だった。

 それからサビを歌って二番を歌い始めると、レオと夢美のパートが回ってきた。

 

「「ぜんぶまに受けて~信じちゃっても~♪ 肩を押されて~一歩リードさ♪」」

 

[はい、バラレオてぇてぇ]

[白雪の肩を押したのはこの二人なんだよなぁ]

[テエテエの実の能力者だったか]

[テエテエの実は草]

[レオ君はどう考えても動物系だろ]

[じゃあ、バラギの能力で]

 

 激しく指を動かしている林檎は、あらかじめ歌うと決めていた自分のパートを歌った。

 

「つ~まり~いつも~ピンチは誰かに~♪ アピール出来るいいチャンス~♪ 自意識過剰に!」

 

[配役完璧で草]

[やってること完全に長鼻狙撃手なんだよなぁ]

[なるほど、それでウィアーなのか]

 

 それから曲はラストの箇所に差し掛かる。

 

「「「「ポケットのコイン~♪ それとYou wanna be my Friend~♪ ウィーアー、ウィーアーオンザクルーズ――! ウィーアー! ウィーアー!」」」」

 

 最後に、レオ達は持っているマイクを一斉に林檎の方へと向けた。

 レオ達の意図を察した林檎は、力強く鍵盤を弾くと空気を目一杯に吸い込んで叫んだ。

 

 

 

 

「ウィーアー!!!」

 

 

 

 

 汗をかきながらも、満面の笑みを浮かべて叫ぶ林檎。その姿には自己嫌悪に陥って周囲の人間を拒絶していたときの様子は欠片見受けられなかった。

 

「みんな、ありがとー! 今日の配信はこれで終わりますが、私はこれからもガンガン配信していくから、全力で付いてこいよー! それじゃあ、おつりんご!」

 

「「「「おつりんご!」」」」

 

[おつりんご!]

[おつりんご!]

[おつりんご!]

[おつりんご!]

[おつりんご!]

 

 こうして林檎の復帰配信は大盛況のままに終了した。

 後日、林檎のチャンネルに投稿された歌動画、【歌ってみた】ウィーアー~5人のにじライブ海賊団~は、にじライブのライバーによる歌ってみた動画で、もっとも多い再生数を記録することになるのはまた別のお話である。

 配信が終わり、興奮冷めやらぬと言った様子のレオと夢美は二人で林檎のどこが凄いか語り合っていた。

 そんな二人の言葉に照れ臭くなった林檎は、かぐやとまひるの元へとやってきた。

 

「二人共、その、ありがとうございました」

「ええって、ええって、気にすんなや」

「まひるも楽しかったし!」

「……まさか、諸星さんがバンチョーだとは思いませんでしたけど」

「まあ、にじライブが子会社化するときにいろいろあってな。社内でもあんまり公にしてないんや」

 

 諸星香澄が竹取かぐやであることを知っているのは、にじライブが子会社化する前からいた古株の者達くらいだった。

 事実、三期生のマネージャー三人は驚きのあまり、口から魂が出てきているような表情を浮かべている。

 

「まあ、どっちにしろこれからもお世話になります! あ、それと潤佳」

「ふえっ?」

 

 本名で呼ばれたまひるは呆けた表情を浮かべる。

 そんな彼女に、林檎は頭を下げた。

 

「あんたの優しさを素直に受け取れなくて、今まで勝手に嫌っちゃってごめん」

「そんなことないよ。まひるが何もできなかったのは事実だし……」

「ううん、本当は嬉しかったんだ」

 

 それから林檎は照れ臭そうに頬を掻くと、まひるに礼を述べた。

 

「だから、まあ、その……私のこと、見ててくれてありがと――お姉ちゃん」

「林檎ちゃぁぁぁん!」

「たぁー、もう! 抱き着くなー!」

 

 涙を流しながら抱き着くまひるを引き剥がそうとする林檎。

 そんな二人の様子を見ていたかぐやは楽しそうに笑った。

 

「林檎、あんたはみんなからこんなにも愛されてるんや。もう引退なんて言うんやないで……」

 

 過去に思いを馳せながらそう呟くと、かぐやはそそくさとスタジオから去っていくのであった。

 




というわけで、林檎の復帰配信でした!
次回で二章は終わりますので、三章をお楽しみに!

ちなみに連弾についてですが、イメージが沸きにくい方は曲名と連弾で調べていただければ動画が出てくると思います!

にじライブ海賊団「面白いと思った方はお気に入り登録、高評価お願いしまーす!」


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【これから】親友になれた二人

これにて二章完結です。


「そういえば、前に三人で撮った写真。姉さん喜んでたぞ」

「あー、拓哉のお姉さんって私のファンだったねー」

「いい加減、ライバーだって言えばいいのに、この李徴ときたら……」

「……いつかちゃんと言うって」

 

 林檎がライバーに復帰してから数日。

 掲示板で一部のアンチが騒いではいたものの、炎上するようなことはまったくなく、林檎の復帰は完全に受け入れられていた。

 

「で、カリューさんは今日は何のイベントやるんだ?」

「今度やる月九ドラマの番宣だって」

「確かメインヒロインでしょ? すごいよねー」

 

 レオ、夢美、林檎の三人はカリューがドラマの番宣を行うイベントにやってきていた。

 

「……それで、例の三人は来てるのか?」

「直前のツウィートを見る限り来てるだろうねー。三人一緒かは知らんけど」

 

 レオの確認に、林檎は神妙な面持ちで答える。

 

「どうもどうもー! みなさん、こんにちは! 今日はわざわざ足を運んでいただきありがとうございます!」

 

「うおおおおおお! ホアッ! ホホホ、ホア!」

「落ち着け、何で興奮すると文明を忘れるんだお前は」

「由美子って結構ミーハーだよねー」

 

 カリューが登場したことで、すっかり彼女のファンになっていた夢美は興奮のあまり、猿のような雄たけびを上げた。

 それから、イベントはつつがなく進行して、最後にカリューは番組名を口にしながら退場した。

 

「〝東京アマゾネス〟月曜九時から放送開始! みんな見てねー!」

 

「久しぶりに月九見るか」

「面白い予感しかしないんだが」

「……ロケ過酷じゃなきゃいいけど」

 

 カリューが説明したドラマの内容を聞いた三人は思い思いの感想を口にする。

 

「ちょっと行ってくるねー」

 

 そんなとき、見覚えのある顔を見つけた林檎はレオと夢美に一言断って二人の傍を離れることにした。

 

「……気をつけてね」

「あんまりやりすぎるなよ?」

「にひひっ、わかってるって」

 

 二人に笑顔を浮かべた林檎は、気づかれないように目的の人物達に近寄ると、笑顔を保ったまま話しかけた。

 

「やー、久しぶりー。中学卒業以来だっけ?」

 

「「「て、手越さん!?」」」

 

「何さー、そんなに驚かなくてもいいじゃん」

 

 林檎に話しかけられた三人。それはかつてカリューの友人だった三人だ。

 

「そりゃあ、ねえ?」

 

「「う、うん」」

 

 まさか林檎がカリューのイベントに来ているとは思ってもみなかった三人は、戸惑ったように顔を見合わせた。

 

「それにしても、まさか中学の頃からの同級生がまだつるんでるとは思わなかったよー」

「ほ、ほら、私達三人とも仲良かったし」

「そうそう!」

「何々―? アイドルになった狩生さんのアンチでもやってるの」

 

 わざとらしく笑顔を浮かべる林檎に、三人は安堵の笑顔を浮かべる。

 

「あっ、もしかして手越さんもこっち側?」

「そりゃ被害者だもんね」

「あれだけのことしといてアイドルとかどの面下げてやってるんだろうね」

 

 この三人。実は内心ではカリューがアイドルになったことに対して恐怖心を抱いていた。

 林檎とカリューを嵌めてからというもの、彼女達の中には裏切り者と気に食わない人間に痛い目を見せたという優越感があった。

 

 しかし、カリューが知名度のあるアイドルとなったことで、彼女達から余裕はなくなった。

 

 カリューが自分達よりも社会的地位の高い場所にいる。かつてのいじめの件を掘り返されたら、と思うと三人は気が気じゃなかったのだ。

 そのため、こうしてカリューのイベントに積極的に足を運んでは、彼女の足を引っ張るようなネタが撮れる瞬間を探していたのだ。

 

「うんうん、人の悪口って盛り上がるよね――特にネット上だと」

 

 林檎の放った言葉に三人の表情が凍り付く。林檎は笑顔のまま続ける。

 

「有名ブロガーのさやっち、有名キャス主のかおりんに、つっちー……それとも、矢作紗耶香さん、弓弦香織さん、筒持凛さんって呼んだ方がいいかなー?」

 

「わ、私達の名前……」

「そりゃ中学時代の同級生の名前だよ? 忘れるわけないじゃん」

 

 林檎がクラスメイトの名前を碌に憶えていないことは、当時有名な話だった。

 その林檎にフルネームを覚えられている。それは彼女達にとって恐怖でしかなかった。

 

「あ、そうそう。中学のときの鳥居麗香さんに、真樹薫子さん、太刀川葵さんって覚えてる? この前インスタのアカウント見たら、何故か浮気がバレたり、裏垢特定されて個人情報晒されてたり、散々な目に遭って病んでて笑っちゃったよー……ねえ、笑えるでしょ?」

 

「「「ひっ」」」

 

 ゾッとするほど、普段のテンションと変わらずに話し続ける林檎に、三人は恐怖のあまり表情を引き攣らせた。

 

「アカウント消しただけで逃げられると思ってるなんて甘いよねー。本当に逃げたければ住所も変えなきゃね?」

「て、手越さん、まさかあんた」

「あははっ、どうしたの? 環奈のことなら全部知ってるけど?」

 

 林檎の告げた言葉により、三人はガタガタと歯を鳴らしながら謝罪をした。

 

「「「ご、ごめんなさい!」」」

 

「ねえ、今どんな気持ち? ムカついた女と勝手に失望した友達を嵌めただけのつもりが、人生何もかも終わりそうな状況になってさぁ……ねえ、どんな気持ちか教えてよ?」

 

 かつて林檎がカリューに言い放った言葉を聞いた三人はこの世の終わりのような表情を浮かべる。

 

「ぷっ、くくくっ……なーんちゃって!」

 

 そんな三人の表情を見た林檎は、突然吹き出した。

 

「「「……へ?」」」

 

「ドッキリ大成功!」

 

 楽しそうにそう告げると、林檎は種明かしをした。

 

「あのねー、いくら私でもそこまでするわけないじゃん」

「じゃ、じゃあ、鳥居さん達の話は嘘なの?」

「や、あれはあいつらが勝手に自爆しただけでマジの話。あいつらにも話付けようと思ったんだけど、もうとっくに痛い目は見てるみたいだし、放置したんだ。ま、あんた達のアカウントは全力で特定してやったんだけど」

 

 ホント、ネットリテラシーはちゃんとしな。と言うと、林檎は表情を引き締めた。

 

「過去のことは私も、もうどうでもいい。環奈だってあんた達のことはもう許してる。だけど、今の環奈の邪魔をするなら――全力で潰す。ドッキリがドッキリじゃなくなる覚悟はしてね」

 

 三人が、自分の使っている情報媒体でカリューの悪評を流していることは林檎も把握していた。アンチの中でもここまで熱心なアンチはなかなかいないだろう。

 

「ぜ、絶対しない!」

「アカウントも消すから!」

「どうか許してください!」

 

 怯えたように許しを請う三人に、林檎はため息をついて言い聞かせるように言った。

 

「はぁ……あんたらもさ。自分で自分を好きになれないような生き方はやめた方がいいよ」

「え?」

 

「私も最近気がついたんだけどさ。人を傷つけると全部自分に返ってくるんだよねー。あんたらも、返ってきた傷に心を壊される前に、胸張って自分で自分を好きって言える人間になろうよ……ね?」

 

「手越さん……」

「あんなに酷いことしたのに、私達のことを心配して……」

「本当に今までごめんなさい!」

 

 こいつらチョッロ、などという内心は出さずに、林檎は去っていく三人を笑顔で見送った。

 

 頑張れ。

 きっとまともな感性を取り戻したとき、あんたらは今までにない程に苦しむ。

 それでも、前を向いて進み続ければ自分を受け入れてくれる人がいる。

 その人が差し伸べた手を振り払ってしまうかもしれない。

 どんなに苦しくても、過去は消えない。その事実を受け入れなければいけない。

 だから頑張れ。

 

 林檎の心からのエールは果たして届いたのか。それは神のみぞ知ることだろう。

 

「終わったのか?」

「うん、バッチリ」

「良かった……」

 

 レオと夢美は安心したようにため息をつくと、笑顔を浮かべて言った。

 

「じゃあ、俺達はこれから二人でラーメン食べに行くから、あとは二人で楽しんでこい」

「天一がいい! 天一!」

「はいはい」

 

 レオはそれだけ言うと、夢美を連れ立ってラーメン屋へと向かった。

 

「くぅ……てぇてぇなぁ!」

 

 その背中を眺めてニヤけていると、後ろから声をかけられる。

 

「よっ」

 

 林檎の後ろには、飄々とした様子で着替えを終えたカリューが立っていた。

 

「環奈、見てたの?」

「まあ、ね。それより、矢作さん達のことなら放っておいても大丈夫だったのに」

 

 中学のとき、自分が悪口を言われたときカリューに言った言葉を返されて、林檎は楽しそうに笑った。

 

「にひひっ、私が嫌なの。大切な友達を貶されていい気はしないでしょー?」

「ふふふっ、それもそうね」

 

 お互いに笑い合うと、林檎はカリューへとある提案をする。

 

「ねえ、環奈。この後の予定ってある?」

「この後は久々のオフなの。もちろん、予定なんてないわ」

 

 その言葉を聞いた林檎は飛び切りの笑顔を浮かべて言った。

 

「にひひっ、じゃあ()()()でもする?」

 

 次の日、二人のスマートフォンに新しいプリクラの写真が貼られていたのは言うまでもないことだろう。

 




許されるのが一番の罰。
というわけで、黒幕三人には更生の道を歩んでもらうことになりました。
林檎が直接手を下して、不幸にするのは何か違うと思いこうなりました。
林檎はもうかつてのように周囲を腐らせる毒林檎ではないので。


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【キャラクター紹介】その2

待たせたな!
みんな大好き焼き林檎とバンチョーのプロフィールだ!

あ、ちなみに夢美の部屋着版もキャラ紹介その1に追加しております。


 

白雪林檎(しらゆきりんご)

 

本名:手越優菜(てごしゆうな)

年齢:21歳

一人称:私

モチーフ:白雪姫

 

ハッシュタグ:#鏡見ろ白雪

 

ライバー立ち絵:

【挿絵表示】

 

リアルでの姿:

【挿絵表示】

 

 

レオや夢美と同じ三期生のライバー。

礼儀などがなっていないところがあり、遅刻なども普通にする。

自己中心的で常に自分第一で行動するため嫌われることも多いが、その大物っぷりや意外なところでしっかり者の一面も見えるため彼女の本質を理解できる人間からは好かれる。

実況者上がりということもあって、トークセンスはかなり高い。

歯に衣着せぬ物言いをしたり、アンチを煽ったりするため、炎上することもあるが、順調に登録者数を伸ばしている。

 

大物俳優、歌手である手越武蔵と天才ピアニストである内藤郁恵の一人娘。

昔から芸能人の娘と天才ピアニストの娘というレッテルを貼られて生きてきたため、自己中心的な性格に歪んでしまったが、根っこの部分は優しい性格をしている。

 

中学時代、友人である狩生環奈との出来事がきっかけで自己中心的な考え方に拍車がかかり、人間関係については完全に諦めており、誰に嫌われてもどうでもいいと思うようになる。

レオと夢美には最初は計算で近づいたが、二人と接しているうちに〝嫌われたくない友人〟と思うようになる。

 

カリューについては、当時の林檎にとって唯一無二といっていい友人だったが、自分の抱えている問題には一切触れずに過ごしていた。

そのため、肝心なところで信頼関係の構築が足りなかったため、お互いを信じることができなかった。

今では、唯一無二の大親友となった。

 

ピアノの腕は幼少期から母親である郁恵の教えと本人の才能もあって、プロ並みの腕を持つ。

ピアノの練習は毎日かかさず行っており、ピアノは林檎にとっての精神安定剤の役割も果たしている。

もし、林檎が実況者やライバーにならなかったら、自分を超えて世界的に有名なピアニストになっていた、と母親は思っている。

 

ライバーになろうと思ったきっかけは、元々V界隈に興味があったところに、にじライブからのスカウトがきたこと。

 

紅茶が好きでプライベートでは紅茶の専門店に行ったり、自宅でもティーバッグではなく茶葉から入れたりするほど。

私服に関しては、昔からお嬢様っぽい恰好をさせられてきたため、その反動でラフな格好を好む。

スカートは意地でも穿きたくない、と言うくらい私服ではスカートを穿かない。

 

 

竹取かぐや(たけとりかぐや)

 

本名:諸星香澄(もろぼしかすみ)

年齢:29歳

一人称:ウチ(敬語で話すときは私)

モチーフ:かぐや姫

 

ハッシュタグ:#竹取アート

 

ライバー立ち絵:

【挿絵表示】

 

リアルでの姿:

【挿絵表示】

 

 

レオにとっては憧れのライバーであり、にじライブが会社として大きく成長する上で必要不可欠なライバー。

配信中は関西弁で話し、配信内容の面白さや、歌唱力の高さ、感情が高ぶると罵詈雑言を吐きながらゲームをプレイする様子が人気。

特に初配信は夢美と同じように無難に可愛いライバーを演じていたが、自分の配信スタイルに疑問を持ち素をさらけ出したことで登録者数が爆発的に伸びることになる。

現在では、にじライブの顔とも呼べる存在で、トップの重圧を背負いながらも後輩たちを気にかける良い先輩ライバー。

だが、どうにも威圧感があるため、周囲からは怖がられている。

 

その正体は、にじライブメディア本部部長である諸星香澄。

かぐやの正体を知っているのは、一期生である〝狸山勝輝〟〝竜宮乙姫〟、昔からいる社員やコンビを組んでコラボをすることが多い〝白鳥まひる〟くらいで、他の社員やライバーには伝えられていなかった。

そのため、オフコラボも一期生である二人とまひるとしかしたことがない。

サポートとしての仕事も、ライバーとしての仕事も好きだが、仕事量が多すぎることを社長である綿貫や総務部の内海からは心配されている。

休みの日には、マッサージやスパなどで疲れを癒しているが、そもそも休日も自宅で仕事をしていることが多い。

 

自分と同期である一期生は、勝輝が活動休止、乙姫が卒業という状態のため、一期生の生き残りとも呼ばれている。

本人としては、二人にも帰ってきて欲しいと強く望んでいるが、それが叶わないことは理解しているため、リアルで会ったときも無理強いしないようにしている。

 

ライバーになろうと思ったきっかけは、にじライブが子会社化する前に、勤めていた現在の親会社にあたる〝First lab〟で開発されていた誰でも手軽にVtuberになれるアプリ〝二次元LIVE〟のテスターになったこと。たった一ヶ月で登録者数を10万人以上に増やしたり、当時ではあり得ないほどの爆発的人気を誇っていたため、会社の方針がアプリ開発からライバーのサポートへと変わることになった。

 

レオと同様に甘いものが好きだが、甘いものを食べると気が緩んでしまうため、仕事中は顔を顰めながら甘さ控えめのコーヒーを飲んでいる。

ちなみに、そのせいで眉間にシワが寄ることが多く、彼女が会社で怖がられる原因の一つにもなっている。

 

 




今回もいつもお世話になっている方に描いていただきました!
イラストはツイッターの方でもご紹介させていただきます!
https://twitter.com/snk329


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第三章 ~バーチャルとリアルのはざまで~
【にじライブ】三期生について語るスレ その69【獅子島レオ、茨木夢美、白雪林檎】


三章開幕!

今回は章の始まり、掲示板ネタです。


12:名無し

白雪が復帰して本当に良かった……

 

13:名無し

本人は特例だから引退したライバーさんに戻ってこいと言わないでと言っていたが……

 

14:名無し

少なくとも焼き林檎のおかげで戻ってきやすい環境にはなったんだからそれで良しとしようぜ

 

15:名無し

騒いでたアンチもすっかり静まったな

 

16:名無し

そりゃ誰も文句言ってないのに見当違いなことで騒いでてもねぇ?

 

17:名無し

二期生のみんなも祝福してるぞ

 

18:名無し

白雪の勢い凄くて草

 

19:名無し

とうとうバラギの登録者数抜いたぞ

 

20:名無し

ピアノは海外ウケもいいからな

 

21:名無し

この前出した超電磁砲メドレーのクオリティ凄かったからな

 

22:名無し

でも、ゲームだと相手をバチクソに煽るんだよなぁ

 

23:名無し

前世ゆなっしーってマジなん?

 

24:名無し

声聞く限りマジっぽいな

 

25:名無し

白雪こんなに可愛いのか……

 

26:名無し

てか、レオ君がシバタクってマジ?

 

27:名無し

スペックの高さ的には納得だけど、あのシバタクがこんばん山月はないだろw

 

28:名無し

マジだとしたら俺はもっと推す

 

29:名無し

前世バレで好感度爆上げは草

 

30:名無し

レオ君の世代的に二十代の半ば前後ぐらいだとして、昔活動してた男性アイドルは結構やめてるな……

 

31:名無し

もしシバタクだったらバラギただの勝ち組やん

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

42:名無し

そういや、友ちんや魔王様とコラボしてたな

 

43:名無し

魔王様と終始煽り合ってて草

 

44:名無し

友ちんは個人勢だからフットワーク軽いけど、魔王様が生配信でコラボするとは

 

45:名無し

レオ君が架け橋になってるんだよなぁ

 

46:名無し

ちなみにバラギは寝てて来れなかった模様

 

47:名無し

 

48:名無し

三期生の勢いはいつ衰えるのか

 

49:名無し

もっとヤバイ四期生が来るときとか?

 

50:名無し

四期生のハードル既にめちゃくちゃ上がってるけど大丈夫か

 

51:名無し

レオ君とバラギ、マジでバスタオルのドッキリやってて草

 

52:名無し

このためだけに、わざわざレオ君の部屋でバラギがスタンバってたと思うと笑う

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

82:名無し

最近レオ君ピカブイや剣盾とかポケ三昧でワロタ

 

83:名無し

三期生でよくポケセン行くらしいぞ

 

84:名無し

何それてぇてぇ

 

85:名無し

バラギと白雪も始めたぞ

 

86:名無し

レオ君:剣 バラギ:盾 白雪:剣 か

 

87:名無し

レオ君、プレイ中ずっとビートの心配してて草

 

88:名無し

あの態度には思い当たる節があったんだろうな

 

89:名無し

『ビート、お前のスタンスは嫌いじゃないが、調子に乗ってるとマジで後悔するぞ』

『もっと謙虚な姿勢で行こう。な?』

『やっぱ、最近のライバルにはこういう棘が足りないよな。ビートは棘ありすぎだけど』

『ビートだ! ビートがいる!』

ビート好きすぎて笑う

 

90:名無し

てか、レオ君めちゃくちゃバトル強いやん

 

91:名無し

シリーズ通してプレイしてたとは言ってたが、まさか始めてすぐにランクマ三桁いくとは思わなかった……

 

92:名無し

おい、とうとう色厳選に手を出したぞこのライオン

 

93:名無し

5回連続で夢特性外してて草

 

94:名無し

よく心折れないな。しかも、特性外した色違い袁傪に配ってるし

 

95:名無し

安定の聖獣ムーブ

 

96:名無し

【祝】にじライブ剣盾杯開催!

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

221:名無し

【祝】白雪林檎3D配信決定!

 

222:名無し

こりゃめでてぇな

 

223:名無し

まさか白雪が真っ先に3D化するとは思わなんだ

 

224:名無し

あのピアノの腕があれば真っ先に3D化するべきだろ

 

225:名無し

これでまた伸びるな

 

226:名無し

何か最近バラギ元気ないな

 

228:名無し

最近体調崩しがちらしいぞ

 

229:名無し

大丈夫かな……

 

230:名無し

は?

 

231:名無し

どういうこと?

 

232:名無し

レオ君がバラギの実家にいるってマ?

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

269:名無し

【祝】茨木夢美3D配信決定!

 

270:名無し

ついにバラギもか

 

271:名無し

レオ君が最後とは意外

 

272:名無し

むしろレオ君なら安心してトリを任せられるだろ

 

273:名無し

ガ チ ラ イ オ ン の 再 来

 

274:名無し

完全にレオ君味を占めてるwww

 

275:名無し

手伝いに来るとは思ってたけどwww

 

276:名無し

バラギ、3D配信でバッタ食わされててワロタ

 

277:名無し

食用とはいえ、これは酷いwww

 

278:名無し

スタッフ全員仕返しされてて草

 

279:名無し

おっ、ライブか

 

280:名無し

ファッ!?

 

281:名無し

これはてぇてぇ……

 

 

 

 

 

 

 

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349:名無し

【速報】獅子島レオ、やっぱり元STEPのシバタクだった!

 




この度、二章の終了を記念して池袋で実際に三期生の見ていた景色の写真を撮ってきましたので、もしよかったらツイッターの方覗いてみてくださいー。その内流れてしまうかもですが。
https://twitter.com/snk329

また、活動報告の方で、二章の総括も書かせていただきましたので、良かったら覗いてみたください。

それでは、おつ山月!


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【同時視聴】東京アマゾネス見るよ!

同時視聴枠って、何気に良いですよね


「こんゆみー、茨木夢美でーす」

「おはっぽー、白雪林檎だよー」

 

[まさかのドラマ視聴枠]

[気になってたから助かる]

[レオ君いないの?]

 

 今日はカリュー主演ドラマ〝東京アマゾネス〟の放送日だ。

 どうせ見るなら宣伝もしようと思い立った林檎は、突発的に夢美を誘って同時視聴配信を行うことにした。

 同時視聴とはU-tubeなどの動画サイトでライブ配信を行い、映像を流さずに各々で映像を同時に再生して擬似的に一緒に動画を見ることである。

 二期生の中でも、桃華と赤哉はよく日曜日の朝に放送しているアニメや特撮の同時視聴を行っている。

 

「レオは今日がバイトの最終出勤日で来れないぜ! 残念だったな!」

「世知辛いねー」

 

[悲しい……]

[そういえばフリーターだったんだっけ]

[レオ君バイトやめるの?]

 

 林檎は三人でこの同時視聴をやろうとしていたのだが、レオは今日がバイトの最終出勤日だったため、今回の林檎の配信には来れなかったのだ。

 

「ライバー活動に専念したいからやめるんだってさ」

「結構古参になっちゃったから、段々出勤日減らしてやめるつもりだったんだってさー」

 

[はえー、しっかりしてんなー]

[居酒屋だっけ]

[はい喜んでー!(イケボ)]

 

「そんなわけで、今日はレオ抜きで同時視聴やってくよ!」

「来週から三期生全員で同時視聴するからお楽しみにー」

 

[何気に三期生はちゃんとしたコラボあんまりしてなかったから楽しみ!]

[トラブル続きだったもんなw]

[どんな困難にも三人で立ち向かっていくスタイルすこ]

 

「ちなみに、今回あたしの枠をとってないのは林檎ちゃんの家にお邪魔してるからだよ」

「つまりオフコラボってわけさー」

 

[オフコラボだと!]

[バランゴてぇてぇ]

[バランゴで草]

 

 基本的にレオ達は三期生という呼ばれ方をする。林檎を交えた個々の組み合わせの呼び方は定着していなかったが、今回の配信で改めて定着しそうな〝バランゴ〟という呼び方がコメント欄に溢れていた。

 

「ねえ、何であたしが絡むと可愛くない名前になるの?」

「バラギならしょうがないよねー」

 

 オープニングトークもそこそこに、そろそろドラマが始まるため、二人はテレビをつけて待機することにした。

 

 カリューの出演するドラマ〝東京アマゾネス〟は、時空を超えて東京に現れたアマゾネス〝ペンテジレーア〟が周囲を巻き込みながらも、登場人物の悩みを持ち前の豪胆さで解決していくコメディドラマだ。ちなみに、キャッチコピーは〝アマゾネス、東京のコンクリートジャングルで大暴れ!!!〟である。

 ドラマが始まると、いきなり東京駅の前の広場に巨大なブラックホールのようなものが現れたシーンから始まった。

 ブラックホールが収まると、そこには毛皮などの狩猟民族を彷彿とさせる民族衣装を身に纏った一人の女性が立っていた。その手には自分の身長よりも長い槍を携え、背中には弓矢を背負っている。

 高層ビルが立ち並ぶ東京駅のビル風に晒されて、狼の毛皮のフードが外れる。

 

 そして、正面からドアップでペイントを施されたカリューの顔面がテレビいっぱいに表示された。

 

『ヤハ、ウェクク!?』

 

「「ぶふっ!?」」

 

[月九でこれを放送する勇気]

[わかったぞ。これはコメディに擬態した恋愛ドラマだ!]

[むしろ社会派ドラマかもしれん]

 

 日本語ではない言語で何かを呟いたカリューの姿に、夢美と林檎は耐え切れずに吹き出した。

 この曜日のこの時間帯に放送されるドラマは基本的に、ラブコメディか社会系のドラマが多い。その常識を覆した内容に小人や妖精達も困惑していた。

 

『ラウ、ペンテジレーア! アマゾーン!』

 

 カリューが叫ぶのと同時にカメラが一気に上空に引いていき、タイトルが表示される。

 あまりのインパクトに夢美と林檎は言葉を失っていた。

 画面にスポンサーが表示される中、夢美は林檎に東京アマゾネスの内容について尋ねた。

 

「……ねえ、あたしあらすじ全然読んでなかったんだけど、どんなドラマなの?」

「……一応、〝強い女性〟がテーマのドラマらしいけど」

「いや、強すぎるでしょ。いろんな意味で。大丈夫? にじライブの関係者ドラマスタッフに紛れ込んでない?」

 

[さすがにそれは草]

[あたおか具合ではにじライブとため張れる]

[否定できないところがにじライブの怖いところだなぁ]

 

 それから場面は移り変わり、どこかのオフィス内でのシーンへと切り替わった。

 上司にミスを咎められているうだつの上がらない青年〝秋薄健(あきうすけん)〟は、自販機でコーヒーを購入すると、会社の屋上でタバコを吸ってスマートフォンをいじっていた。

 そんな中、会社の屋上にビルの壁をよじ登ってきたペンテジレーアが現れる。

 

『ヤハ、ウェクク!?』

『はっ、何!? アマゾネス!?』

 

 突然現れたアマゾネスに驚き、健は腰を抜かす。

 

「ちょっと待って、これいつになったらヒロイン言語習得するの?」

「さすがに話が進めば覚えていくんじゃなーい?」

 

[カリュー可愛いのにこんな役ばっかりw]

[歌うと可愛いのになぁ]

[どっかの誰かさんと似てますね(白目)]

 

「うるせえ!」

「作り込んでるなー……ふふっ」

 

 あまりにもリアルなアマゾネスの演技に、カリューの凄さを林檎は改めて実感する。

 かつて優等生だった面影はどこにもなかったが、負けず嫌いで何事にも本気で取り組む姿勢を感じ取った林檎は小さく笑みをこぼした。

 

 それから話は進み、健は東京に来たばかりで右も左もわからないヒロイン、ペンテジレーアに振り回され続け、散々な目に遭う。

 食事に連れて行けば大食いのペンテジレーアに食費を圧迫され、あちこちで槍を振り回すせいで警察から逃げる羽目になったり、挙動不審な様子で女性用の下着を買いにいって白い目で見られたり、健の生活は滅茶苦茶になっていた。

 そんな健はあるとき、自分の部屋に居候していたペンテジレーアが仕事の書類に何かをしているのを見付けて堪忍袋の緒が切れてしまう。

 

『もう散々だ! お前が来てから俺の生活滅茶苦茶だよ!』

『オマエ、オコ?』

『ああ、そうだよ! 出ていけ!』

 

「そりゃそうなるわ。こんなことされたらレオ以外ブチギレるって」

「レオなら、苦笑いしながら何でも許しそうだよねー」

 

[いないのに話題に上がるぐう聖ライオン]

[レオ君でもこれは無理でしょwww]

 

『……スマンコフ』

 

「ねえ、シリアスなシーンで笑かさないでよ!」

「何でその単語をチョイスしたんだろうねー……」

 

[スマンコフは草]

[やっぱにじライブの関係者混じってるって]

[これは視聴決定]

 

 健といる間に、周囲から聞いた単語を覚えていたペンテジレーアは悲しそうにそう呟くと、とぼとぼと健の部屋を出ていった。

 ペンテジレーアが出て行ってから、代わり映えのしない日常に戻った健は、自分がペンテジレーアと過ごす日々が楽しかったことに気がつく。

 そしてドラマも終盤に差し掛かり、健の会議でのプレゼンのシーンになった。

 緊張と上司への恐怖のあまり、足の震えが止まらない健だったが、プレゼンの資料にデカデカと書かれた〝がんばれ!〟の文字を見て、勇気を出して堂々と発表をして上司からも褒められることになる。

 健は感謝の気持ちを胸にペンテジレーアを探し始めた。

 

「おっ、ヒロインを探す流れキタ!」

「……何かデジャブなんだよなー」

「そういえば、林檎ちゃんを連れ戻すときのあたしとレオも同じ感じだったね」

「いやー、本当にありがとねー。あのとき、レオとバラギが来てくれなかったらこうしてここで配信なんてできなかったよー」

 

[えっ、何その話]

[詳しく!]

[ドラマより気になるんだが……]

 

「その話はまた今度ねー」

 

 主人公が傷心のヒロインを探すシーンを見たことで、夢美はレオと共に林檎を連れ戻しにいったときのことを思い出していた。

 小人や妖精達は、そのときの話を聞きたがっていたが、林檎は改めてその話を設ける場を作ることを示唆した。

 東京駅周辺を駆けずり回った健はついに、警察に連れていかれそうになっているペンテジレーアを見付ける。

 警察の不意をついて彼女の手をとって走り出した健は笑顔を浮かべてペンテジレーアへと告げる。

 

『ほら、帰るぞレーア!』

『ケン、アリアト!』

 

 満面の笑みを浮かべたペンテジレーアが言った台詞と共に、エンディングが流れ始める。

 このドラマのエンディングテーマ〝明日の勇気〟はカリューが歌っていた。

 

「おー、やっぱカリューって歌うまいね」

「この曲今度弾こうかなー」

 

[おっ、コラボか?]

[さすがにリアルのアイドルとのコラボはねぇよw]

[でも、最近カリュー自分のチャンネル作ってなかったっけ?]

[まず、認識してないだろ]

 

[カリューの部屋:事務所からコラボオッケー出ました!]

 

「……ほ?」

 

[!?]

[!?]

[!?]

[本物!?]

[どうなってるの!?]

 

 コメント欄に表示されるカリューのチャンネル名。それが本物とわかった瞬間に、コメント欄がざわつき始めた。

 

「えっ、カリュー来てるんだけど!?」

「マジかー……マジか……」

 

 カリューが林檎がライバーをやっていることを認知していることは、林檎もカリュー本人から聞かされていた。

 とはいえ、自分の主演ドラマの同時視聴枠に本人が来ることは林檎も予想外だった。林檎としては、少しでも親友のドラマの視聴率に貢献したかっただけだったのだが。

 

「ちょっと待って、マネージャーに確認するから、返事はまた後日ということで……」

 

[カリューの部屋:はーい!]

 

[これはとんでもないことになったぞ……]

[ねえ、どうして三期生は伝説しか作れないの?]

[人気アイドルとコラボするVがいると聞いて]

 

 こうして、カリュー主演のドラマ〝東京アマゾネス〟の同時視聴枠は大いに盛り上がり、トレンドは〝東京アマゾネス〟〝白雪林檎〟〝カリュー・カンナ〟〝コラボ〟という単語が並ぶことになるのであった。

 配信を終えて一息つくと、林檎は恨みがましくドラマの放送が終了したテレビの画面を睨んでいた。

 

「もー……環奈の奴」

「あははっ、林檎ちゃん。顔ニヤケてるよ?」

「う、うっさいなー!」

 

 夢美に揶揄われたことで、林檎は顔を赤くして夢美にふかふかのクッションを投げつけた。

 

「あ、ごめん。電話だ」

 

 そんな風に楽しく戯れていた夢美と林檎だったが、夢美のスマートフォンに電話がかかってきたことでクッションの投げ合いは中断された。

 

「もしもし、お母さん――由紀が家出して帰ってこない!?」

 

 夢美は母から知らされた、妹の家出という一大事に素っ頓狂な叫び声をあげるのであった。

 




正直、月9ドラマでこの内容はねぇよ、とは思います。反省はしていない。


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【最終出勤日】お世話になった人達とのひととき

レオのバイト最終出勤日のお話です。


「はい喜んでー!」

 

 活気ある居酒屋に誰よりも通る声が響き渡る。

 そんな居酒屋の店員の中でも一際元気な男へ同僚が声をかける。

 

「最終出勤日にこの忙しさは災難だったな司馬」

「何、ビールの飲みたくなる季節だし、しょうがないさ。むしろ働き甲斐があるってもんだよ。今日までここには世話になったし」

 

 季節は既に夏、レオ達三期生が春にライバーデビューしてから既に三ヶ月以上のときが経っていた。

 

「そっか、そんじゃ俺の分も働いてくれ」

「いや、お前は普通に働けよ」

「はいはい、わかってるって」

 

 レオと同僚である園山栄太(そのやまえいた)は気怠げに返事を返と、キッチンへと引っ込んでいった。

 

「……いや、お前がホールやってくれよ」

 

 レオは普段はキッチン担当だが、こうして忙しいときはホールに出ることも多い。

 元々コミュニケーション能力が高いこともあって接客をやること自体には問題ない。

 しかし、レオは今や十万人以上の登録者数を誇るライバーなのだ。どこに身バレの危険が潜んでいるかわかったものではない。

 忙しなくホールを回っていたレオは、客の来店を知らせる音がなったため、慌てて入口の方へと向かう。

 

「いらっしゃいませ、何名様でしょう、か……?」

 

「どうも、四人で予約していた蘇我です」

「やっほー!」

「お、お久しぶりです」

「ははは……来ちゃいました」

 

「はえ……?」

 

 レオの最終出勤日に現れた四人。それは以前カラオケ企画でコラボしたVtuber達だった。

 

「と、とりあえず、席にご案内しますね」

「うふふっ、宜しくお願いします」

 

 イルカ、友世、和音、サタンの四人を席に案内すると、レオは先に飲み物の注文を取ることにした。

 

「お飲み物はお決まりでしょうか?」

「生を三つと……司君はウーロン茶でいいでしょうか?」

「お気遣いいただいて恐縮です。ウーロン茶でお願いします」

「かしこまりました。生三つとウーロン茶をお一つですね。すぐにお持ち致します」

 

 伝票に注文を打ち込むと、レオは急いでキッチンの方へと引っ込んでいった。

 キッチンに戻ると、興奮気味の園山が鼻息荒くレオに話しかけてきた。

 

「おい、司馬。誰だあの人達! 美男美女揃いじゃねぇか! って、お前もか」

「ま、新しい仕事の関係者ってとこかな」

 

 レオは周囲に自分がライバーになったことは話していない。同僚である園山や店長には、ただ就職先が見つかったとだけ伝えていたのだ。

 にじライブとのライバー契約は、個人事業主としての契約であるため就職とは若干違うが、企業Vという立場である以上、そう大差はないだろう。

 

「そっかー……お前も就職か。寂しくなるな」

「別に連絡くれればいつでも会えるって」

「同じ立場の人間がいなくなるだけで寂しくなるってもんだ」

 

 園山にとってレオとはフリーター仲間で趣味の話も合う貴重な同僚だった。

 休憩時間にはVの話で盛り上がったり、閉店後にそのまま店でバカみたいに飲んで酔いつぶれて店長に怒られたこともあった。

 初めて会ったときは見た目も良く、コミュニケーション能力も高いレオに嫉妬したものだが、蓋を開けてみれば自分と同じ将来の見えない同年代の男だった。

 あっという間に打ち解けた二人は、バイト仲間の中でもとりわけ仲の良い二人になっていた。

 寂しそうな表情を浮かべる園山に、レオは今までと変わらない気さくな雰囲気で告げる。

 

「変わらないさ」

「ん?」

「今はまだ先が見えないってだけで、園山もやりたいことが見つかればきっと〝立ち止まってた時間も悪くない〟って思えるようになるって」

 

 それだけ言って、レオはイルカ達の飲み物を持ってホールに出ていった。

 

「……やっぱイケメンは言うことが違うな」

 

 レオの背中を見送ると、園山は両手で頬を叩いて気合を入れ直した。

 

「――小説、また応募してみるか」

 

 決意を胸に背筋を伸ばすと、園山は手始めに山盛りになった食器類の汚れを落とし始めたのであった。

 それからしばらく働き詰めだったレオだったが、時間が経ち忙しさもなりを潜め始めていた。

 キッチンに戻ると、そこには穏やかな表情を浮かべた店長が待っていた。

 

「司馬君、だいぶ落ち着いてきたから上がっちゃいな」

「そんな、最終出勤日なのに悪いですよ!」

「今までさんざん働いてもらったからね。シフトだって結構無茶を言ったのに、一度も断らなかったし、これくらいはさせてくれ」

 

 店長はそう言うと、一心不乱に洗い物をしている園山には聞こえないように小声で言った。

 

「園山君が君の分も働くと言ってくれているしな」

「園山が?」

 

 園山はどちらかというと、言われたことはやるが、積極的に働くタイプではなかった。

 

「せっかく知り合いがいるのに、最後まで働きづめなのは可哀そうだってね」

「そう、ですか」

 

 そんな園山が自分のために気を利かせてくれた。その事実がレオにとっては何よりも嬉しかった。

 

「それではお言葉に甘えさせていただきます――本日まで大変お世話になりました。今後は一人の客として顔を出しに来ます!」

「はっはっは、そう言ってもらえるだけで充分さ! 今日まで本当にお疲れ様!」

「はい、ではお先に失礼いたします!」

 

 深々と頭を下げると、レオは颯爽とタイムカードを切るのであった。

 

「あっ、皆さん。今、上がりました」

 

「「「「お疲れ様でした!」」」」

 

 制服から私服に着替えると、レオはカラオケ組の四人がいるテーブルへと向かう。

 四人から労いの言葉をかけられたレオは照れ臭そうにしながらも席についた。

 

「蘇我さん、でいいんですよね? どうして俺がここで働いてるって……」

「実は某焼き林檎ちゃんからDMで連絡がありまして。『あの李徴、三人で集まれなくて寂しがってるだろうから、時間があれば店に行ってあげてくれませんか?』って」

「あいつ、ドッキリを仕掛けなきゃ死んじゃう病かよ……」

 

 憎まれ口を叩きながらも、レオの口元は嬉しそうに吊り上がっていた。

 

「それと申し遅れましたが、蘇我彩香(そがさいか)です。改めてよろしくお願いしますね、司馬拓哉さん?」

「アタシ、明石沙依(あかしさより)!」

「わ、私は宇多田奈美(うただなみ)です」

「あはは……僕の名前は知ってるから言わなくてもいいですよね」

「改めまして司馬拓哉です。あの記念配信の時はありがとうございました! 本当に嬉しかったです……何か変な感じですね。こうして知っている顔ぶれと自己紹介するのって」

「うふふっ、言われてみれば確かにそうですね」

 

 それから、四人は楽しそうに笑い合うと、談笑し始めた。

 

「てかさー、拓哉君って3D的な奴まだなの?」

「や、その言い方でもぼやかせてないですから……うーん、どうでしょうね? 先輩方の大半がまだなのに、俺が真っ先にっていうのも難しいんじゃないですかね」

 

 さすがに公共の場なのでぼやかした言い方にしているが、Vtuber界隈に詳しい人間が聞けばわかってしまう内容にレオはため息をついた。

 

「そっかー、もっとガンガンコラボしたいのに残念だね」

「最悪立ち絵だけでも表示すればいけますけどね」

「おっ、その手があったか!」

 

 友世との会話が弾んでいたレオだった、ある違和感を覚えた。

 

「というか、沙依さんってプライベートだと結構落ち着いてるんですね」

「まあね。一応あれも素だけど、ああいうときはスイッチ入るからテンションおかしくなるんだよね」

「何かわかる気がします」

 

 どこか納得したようにサタンが友世に同意する。

 

「そういえば、まっちゃんはロールプレイキツキツだったね」

「まっちゃんて……ええ、まあ、その、かなり……」

「司君はロールプレイ重視ですものね。あれでゲームもやらなきゃいけないなんて大変ですよねぇ」

「あはは……」

 

 イルカの言葉にどこか歯切れが悪い様子のサタンを見て、レオは会話を切るためにイルカのグラスが空になっていることを指摘した。

 

「蘇我さん、何か飲まれますか?」

「では、ファジーネーブルをお願いできますか?」

「わかりました。宇多田さんも飲みますか?」

「あ、すみません。私はジントニックをお願いします」

 

 和音のグラスも空だったのでまとめて注文を行うと、しばらくして園山が飲み物と刺身の盛り合わせを運んできた。

 

「ファジーネーブルとジントニックになります。それと、こちら当店からのサービスになります」

「まあ……!」

「うわ、すっご!」

「わわっ、こんなに!」

「凄い豪勢ですね!」

 

 綺麗に盛り付けられた刺身を見た四人は目を輝かせる。それに対して、レオはどこか心配そうに園山に声をかけた。

 

「……こんなにいいのかよ」

「店長がいいって言ってんだから素直に受け取っとけ。ちなみに切ったのは俺な」

 

 ドヤ顔を浮かべる園山に対して、レオはいろいろな思いがこみ上げてきた。

 

「園山、ありがとな」

「これくらい、いいってことよ」

「それだけじゃないっての」

 

 レオにVtuberをすすめたのは園山だった。

 おすすめのVtuberとして竹取かぐやをすすめてきたのも園山だった。

 獅子島レオのライバーとしての原点がかぐやならば、園山は大きなきっかけを作った人物といえるだろう。

 

「お前のおかげで俺は一歩踏み出せたんだ。だから、礼を言いたかったんだ」

「んだよ。急に気持ち悪ぃ……俺はキッチン戻るぞ。どうぞごゆっくり!」

 

 照れ臭そうにそう言うと、園山はそそくさとキッチンへと引っ込んでいった。

 

「彼、良い人ですね」

 

 レオと園山のやり取りを見ていた和音は朗らかに微笑んだ。

 

「まあ、俺にとっては大きなきっかけをくれた大事な友人ですから」

「そういうの……いいですよね。私にも同じような人がいますから」

「へえ、そうだったんですか」

 

 和音の言葉にレオが感慨深そうに頷いていると、イルカが楽しそうに笑っているのが目に入った。

 

「うふふっ、懐かしいですね。養成所でのことですか?」

「さ、彩香さん、覚えててくれたんですか!?」

 

 養成所、という言葉を聞いたレオは二人のVtuber以外の仕事を思い出した。

 

「そういえば、お二人って声優でしたっけ」

「ええ、私は声優事務所の方はやめてフリーになりましたが」

「あはは……こっちの仕事が増えてからはアニメは全然出演してないんですけどね」

 

 イルカと和音の職業は声優だった。

 二人共、名前の付いたキャラクターは演じたことはないが、演技力は高い方だったため、それが今のVtuber事務所の目に留まったのであった。

 それから、いろいろな話をしたレオ達は、カラオケ組でまたカラオケに行こうということになった。

 

「ここは私が持ちますね」

「そんな! 悪いですよ」

「あら、私が月収いくら稼いでると思っているんですか?」

「さ、さすが四天王……」

 

 最弱の四天王などと言われてはいるが、イルカの登録者数は百万人目前。そのうえ、企業案件も多数こなしているため、イルカの懐はかなり暖かかった。

 

「「「「ごちになります!」」」」

 

 こうして会計を済ませたレオ達は、近くのカラオケボックスへと向かい始めた。

 しかし、そこでレオのスマートフォンが鳴る。画面に表示されていたのは〝夢美〟の二文字。

 イルカ達に断りを入れて電話に出ると、慌てた様子の夢美の声が聞こえてきた。

 

『レオ、仕事中だったらごめん! もう上がってる!?』

「上がってるぞ。何があった?」

『妹の由紀が家出して帰ってこないってお母さんから連絡があって……!』

「その由紀ちゃんの行きそうな場所に心当たりは?」

『友達の家には行ってないから、いるとしたら私達が住んでるマンション近くだと思う!』

「わかった。すぐに探しにいく」

『ホント、迷惑かけてごめん!』

「気にするな。また連絡する」

 

 短くそう言うと、レオは夢美との通話を切った。

 

「すみません、せっかく誘っていただいたのですが、カラオケはまたの機会に――」

 

 

 

 

「何言ってんのさ!」

 

 

 

 

 耳を劈くような友世の声と共にレオの謝罪の言葉が遮られる。

 

「アタシ達はあの〝もののけ地獄〟を乗り越えた仲間じゃん!」

「そうですよ。水臭いじゃないですか、司馬さん」

「大切な幼馴染の一大事でしょう?」

「わ、私も協力します!」

 

 レオと夢美の通話が聞こえていた四人は、躊躇なく夢美の妹である由紀の捜索を手伝うことを申し出た。

 

「皆さん……ありがとうございます!」

 

 こうしてレオ達は急いで、レオと夢美が住んでいるマンションの方へと向かうのであった。

 




実はレオの同僚の園山君ですが、作者が別名義で六年前に書いてコミケで売っていた短編小説に出てくる主人公の名前です。モチーフはもちろん山月記の袁傪、つまり彼は初期袁傪ということになりますね。
古典などを現代風にアレンジした小説だったので、山月記、羅生門、安珍・清姫伝説がモデルになってましたね。
ある意味、この小説の原型ともいえる小説だったので、作者としては園山君は思い入れ深いキャラなので、今回の回は作者的には主人公から主人公へとバトンを渡すような回でもありました。


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【保護】灯台下暗し

遅くなってすみません。


 

「由紀ちゃん! どこだ!」

 

 夢美から連絡を受けたレオ達は、レオと夢美の住んでいるマンション近くで夢美の妹である由紀を探していた。

 夢美から送られてきた由紀の写真。そこには笑顔を浮かべて夢美に抱き着く、夢美とはあまり似ていない少女の姿が映っていた。

 

「由紀ちゃん見つかりました!?」

「いえ、こちらは見つかりませんでした」

「こっちもいなかったよ!」

「どこにいるんでしょう……」

「もうこんな時間だから心配ですね……」

 

 それぞれ担当していた場所を探していたレオ達であったが、それらしき少女は見つからなかった。

 全員が落胆する中、ふと何かを思いついたように和音が呟く。

 

「……もしかして、由紀ちゃん。マンションの中にいるんじゃないですか?」

「どういうことですか?」

「バラ――お姉さんのところに来ているのならば、マンションの前までは来ているはずです。合鍵は持っていないのならば、エントランスで足止めを食らうはず。でも、エントランスの自動扉は誰かが開けたときに入ることはできる」

「姉さんと同じやり口、か」

 

 レオは以前、姉である静香がぬるっとセキュリティを突破してきたときのこと思い出した。

 

「エントランスで由美子を呼び出しても留守だった。隙を見て中に潜り込んでも鍵がないから部屋には入れない……」

「となれば、由紀ちゃんがいるのはロビーの可能性が高いですね」

 

 小学生が夜遅くに家に帰らない。そんな切迫した状況のせいで、レオ達は冷静さを失っていた。

 よく考えてみれば、こんな夜遅くに外を小学生が一人で出歩いていれば、警察官でなくても声はかけたり、近くの交番に行ったりはするものだ。

 そういった話が上がっていないということは、由紀は室内にいる可能性の方が高かった。

 

「じゃあ、一旦マンションの中を探しますか」

 

 レオ達は息を整えるとマンションに向かった。

 

「えっ、拓哉君こんないいとこ住んでるの!?」

「さすがはにじライブ。ライバーへの待遇の良さで言ったら業界一ですからね」

「防音とかしっかりしてそうですね」

「いいなぁ……」

 

 レオの住んでいるマンションを見たカラオケ組の四人は、思い思いの感想を呟き、レオに続いて中に入る。

 すると、ロビーにあるソファーには一人の少女が座っていた。

 

「いた……」

 

 夢美からもらっていた写真を確認すれば、間違いなくソファーに座る少女は夢美の妹、中居由紀だった。

 レオは由紀の元へと歩いていくと、屈んで目線を合わせて声をかけた。

 

「ねえ、ちょっといいかな?」

 

 スマートフォンをいじっていた由紀はレオに声をかけられたことで顔を上げる。

 

「……もしかしてレオ君?」

「はえ?」

 

 まさか声を聞いただけで名前を言い当てられるとは思わなかったため、間抜けな声を零した。

 

「生〝はえ?〟だ! すごい本物だ!」

 

 困惑するレオとは対照的に、由紀は興奮したようにはしゃぐ。

 

「えっと……」

「中居由美子の妹の中居由紀です! いつも姉がお世話になっております! よろしくね、お義兄ちゃん?」

 

 ソファーから立ち上がると、由紀は礼儀正しくお辞儀をして自己紹介をした。

 

 由紀はマンションのロビーにいた。その旨を夢美へと連絡すると、その場にいた全員はレオの部屋に移動した。

 

「すごい綺麗ですね。普段から掃除しているんですか?」

「ええ、まあ……」

 

 食後に部屋でくつろぐ夢美が散らかすため、高い頻度で掃除をするはめになっているとは言えないレオであった。

 

「それで、由紀ちゃんはどうして家出を?」

 

 由紀にオレンジジュースを出したレオは、家出の理由を聞くことにした。

 

「……お姉ちゃんに会いたくて」

「それなら普通に連絡取ってくればよかったんじゃないか」

「だって……お母さんは『お姉ちゃんは忙しいんだから、迷惑かけちゃダメよ』って言ってくるし、お姉ちゃんもお盆と正月くらいしか帰ってこないし……」

「そ、そうか……」

 

 由紀は寂しそうな表情を浮かべる。一人暮らしを始めてから一度も実家に帰っていないレオとしては、由紀の言葉は大変耳の痛い話だった。

 

「夏休みだし、こっそり遊びにきて驚かせたかったの」

「家出というか、ドッキリやろうとしていろいろ噛み合わなかった感じか……」

 

 家庭環境に問題があって家出をしたわけではない。そのことを確認できたレオは安心したように、肩の力を抜いた。

 

「でも、結構待ったんじゃない?」

「大丈夫! お義兄ちゃんが出てた〝Vtuber大集合! バーチャルカラオケ大会!〟のアーカイブ見てたから!」

「マジか! ……マジか」

 

 レオは驚いたように後ろを振り返る。案の定、四人とも驚いた表情を浮かべていた。

 

「ねえ、お義兄ちゃん。後ろの人達もにじライブの人達?」

「いや、それはだな……」

 

 勝手に正体を話していいものか。

 悩んでいたレオだったが、イルカは笑顔を浮かべると、率先して自己紹介をした。

 

「はじめまして、板東イルカと申します。由紀ちゃん、キュッキュー!」

「イルカちゃん!? じゃあ、そこにいる人達って……!」

 

 驚いた表情のまま由紀が目線を横に移動させると、友世、和音、サタンは笑顔を浮かべてVtuberとしての自己紹介をした。

 

「やっっほー! 但野友世だよ!」

「な、七色和音です。よろしくお願いします」

「ふっはっは、はじめましてだな、バラギの妹よ! 吾輩がサタン・ルシファナだ!」

「すごい……一瞬でスイッチ入った」

 

 レオも人のことは言えないが、今の一瞬でVtuberとしてのスイッチが入る四人に改めて感心していた。

 

「カラオケ組……てぇてぇ……」

「小学生も〝てぇてぇ〟知ってるのか……いや、V見てるなら知ってるか」

 

 そんなやり取りをしていると、外から慌ただしい足音が聞こえてくる。

 

「由紀!?」

「あ、お姉ちゃん……」

 

 乱暴に開かれたドアから汗だくの夢美が入ってくる。

 その後ろには、息も絶え絶えの状態になっている林檎もいた。

 夢美は靴を脱いで由紀の元へ駆け寄ると、心配そうに顔を覗き込んだ。

 

「どこも何ともない!? 怪我とかしてない!?」

「うん、ずっとロビーにいたから大丈夫」

「良かったぁ……もう、本当に心配したんだからね……」

 

 安堵のため息をつくと、夢美は由紀を優しく抱きしめた。

 

「今度からはきちんと連絡しなきゃダメだよ。由紀が遊びにきたいなら、断ったりしないから」

「お姉ちゃん……ごめんなさい。次からはちゃんと連絡する」

 

 心から心配している夢美の姿を見て、由紀は素直に謝罪した。

 

「とりあえず、一件落着だな」

「はぁ……はぁ……疲れた……もうだめぽ」

「レオも、林檎ちゃんもありがとね。ん?」

 

 夢美はレオと林檎に礼を言うと、部屋の中に見知らぬ四人がいることに気がついた。

 

「あのー……そちらの方々はもしかして」

「カラオケ組の四人だよ。夢美が電話かけてきたとき近くにいて、手伝ってくれたんだ」

「バーチャル四天王を含めたトップVが、あたしの妹を探す手伝いを……ホア?」

 

 自分よりも遥か上にいるVtuber達が家出した妹を探すために動いていた。その事実に夢美の脳はショートした。

 完全に思考停止した夢美に対し、四人は笑顔を浮かべて言った。

 

「いえ、私達は流れ(・・)で付いてきただけですから」

「そうそう気にしないで!」

「大したことはしてないですからね」

「本当にただ付いてきただけなので気にしないでください」

 

 由紀を探すために駆けずり回っていたことは伏せ、夢美が気に病まないように配慮した言葉に、レオは心の中で感謝していた。

 この人達と繋がりを持ててよかった。改めてそう思ったレオだったが、

 

「それより、せっかくですからここで二次会といきましょうか。いいですよね、レオ君」

「はえ?」

 

 ――畜生イルカの存在を忘れていた。

 




イルカ「二次会会場はレオ君の自宅で!」
レオ「!?!?!?!?!?」

まさに畜生イルカ


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【カラオケ組コラボ】最終出勤お疲れ様!

体調を崩してしまい投稿が遅くなってしまい申し訳ございません。
寒くなってきたので、読者の皆様も風邪にはお気を付けて……。


 

 どうしてこうなった。

 レオは自室で唐突に行われることになった二次会という名の〝他企業Vとのコラボ配信〟に頭を抱えることになった。

 夢美が由紀を連れて自室に戻った後、イルカの提案でレオのアルバイト最終出勤の打ち上げの二次会をすることになった。そこまではレオも問題なかった。

 イルカの言う二次会。それはただの飲み会ではなく突発的コラボ配信を行うというものだった。

 さすがに、この提案には異を唱えたレオだったが、すんなりと事務所の許可が取れてしまったこともあり、承諾せざるを得なかった。ちなみに、林檎は疲れ果ててレオのベッドの上で泥のように眠っていた。

 

「それではレオ君――バイトお疲れ様でした!」

 

「「「お疲れ様!」」」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

[カラオケ組てぇてぇ]

[レオ君ゲンナリしてて笑う]

[自宅に四天王が来るライオンがいるらしい]

 

 普通ならば、企業所属のVtuberとのコラボはこのように突発的に行うものではない。

 しかし、イルカの一声により、にじライブはもちろん、イルカの所属する〝@LINE〟サタンの所属する〝バーチャルリンク〟和音の所属する〝Vacter〟のマネージャー陣はすんなりと許可を出した。それだけバーチャル四天王とのコラボは〝おいしい〟のだ。

 さらに、カラオケ組という組み合わせを再び求める声が多かったこともあり、各企業のマネージャー陣は降って湧いたチャンスを逃す手はなかった。

 またイルカの所属する〝@LINE〟は、イルカを全面的に信用していたため、彼女の提案にすぐに許可を出した。他のVtuber達が事故を起こしづらいメンバーだったことも大きいだろう。

 

「えー、みなさん。唐突なコラボだったのにも関わらず、来てくださりありがとうございます。ことの経緯を説明しますと――」

 

 それからレオは、自分がアルバイトの最終出勤日だったこと、林檎の提案でカラオケ組の四人が遊びにきたこと、流れで四人が自宅に来たことを説明した。

 

「しかし、よく事務所の許可取れましたね。普通、無理でしょう」

「みんな信用されてるってことだよ! そもそもアタシは個人勢だしね!」

「獅子島さんはうちの事務所からも信頼されていますから」

 

[レオ君、他の事務所からも信頼されてるのか]

[さすが俺達の聖獣、格が違うぜ!]

[普通ならまず不可能なレベルのコラボだもんな]

 

「それで、二次会って言っても何するんですか?」

「ただ雑談するというのも味気ないですし、このようなものはどうでしょうか?」

 

 イルカはそう言うと、スマートフォンのアプリを起動して、画面を四人に見せた。

 

「「「「ワンナイト人狼?」」」」

 

 画面にはデフォルメされた狼のイラストと共に〝ワンナイト人狼〟という文字が表示されていた。

 

「普通の人狼ゲームをやるのに五人では少ないですからね。ワンナイトならちょうど良いかと思いまして」

 

 人狼ゲームとは、会話と推理を中心にしたパーティーゲームである。プレイヤー達は村人と村人に化けた人狼チームに分かれ、会話を重ねてお互いの正体を探っていく。

 昼のターンには全プレイヤーの投票によって処刑される人物が決められ、夜のターンでは人狼による村人への襲撃が行われる。

 ワンナイト人狼は、人狼ゲームを簡略化することによって、少人数でプレイできるようになっている。また投票による処刑で勝敗が決まるため、死亡したプレイヤーが手持無沙汰になることがないというのも利点だろう。

 

「それなら画面出しましょうか」

 

 レオはさっそくイルカのスマートフォンをキャプチャーボードを挟んでパソコンに繋げた。

 アプリの画面が表示されたことにより、視聴者達にはレオ達がどの役職かを閲覧することができるようになった。

 

「みなさん、ワンナイト人狼のルールはご存じですか?」

 

 プレイヤーネームを登録したイルカは、全員がルールを知っているか確認をする。

 

「俺はわかります」

「アタシも知ってる!」

「吾輩はあまり詳しくないな」

「わ、私も……」

 

 レオと友世は友人グループと過去に遊んだことがあるため、基本的なルールや立ち回りは知っていたが、サタンと和音はこの手のパーティーゲームに疎かった。

 

「それでは、三人で軽くやってみましょうか」

 

 そう言うと、イルカは役職を占い師、人狼二人、怪盗、村人に設定すると、ゲームを始めた。

 

「まず、他の人には見えないように自分の役職を確認しますね」

 

 イルカが画面をタップすると、人狼と表示される。

 

「人狼は一人でも処刑されると負けになるので、正体を隠しながら会話を進めてください。占い師のふりをするのがセオリーですわね」

 

 人狼の画面では〝仲間を確認する〟という文字が表示され、そこをタップすると〝仲間はいませんでした〟と表示された。

 

「じゃあ、次は俺ですね」

 

 イルカからスマートフォンを受け取ったレオは自分の役職を確認する。

 表示されたのは、怪盗だった。

 

「怪盗は誰か一人と役職を交換することができます。例えば、イルカさんと役職を交換すると……」

 

 レオがイルカの箇所をタップすると〝あなたはイルカの人狼と役職を交換しました〟というメッセージが表示される。

 

「基本的に怪盗は交換した役職のふりをするのがセオリーですね。あと、交換された側は村人サイドになるので、人狼のつもりで動いてると痛い目を見ることもありますよ」

 

 最後に軽く説明すると、レオは友世にスマートフォンを渡した。

 

「じゃ、アタシの番ね! おっ、占い師だ!」

 

 友世が引いたのは占い師だった。

 

「占い師は一人だけ誰がどの役職か見れるよ! あと、こうやって……」

 

 友世はあえてプレイヤーを選択せずに〝選ばれていない役職を占う〟という部分をタップした。表示されたのは、人狼と村人だった。

 

「これで人狼が一人ってことと、村人がいないってことがわかるよ!」

 

 そして、話し合い開始というボタンを押すとタイマーが起動して話し合いフェイズが開始された。

 

「まあ、こんな感じで話し合いをして怪しいと思う人に投票するんですよ」

「人狼は村人サイドのプレイヤーに票を集中させるのがセオリーですわ」

「人狼は投票されないように、村人サイドは人狼に投票するように頑張るんだよ!」

 

 一通り説明を終えた三人は、勝敗画面を閉じると新しくゲームを始めた。

 

「さて、質問はありますか?」

 

 イルカが質問を促すと、サタンが真っ先に手を上げる。

 

「ふむ、村人はどうすればよいのだ?」

「村人は基本的に特殊能力がないので、話し合いの時に情報を整理して冷静に推理することが大事ですわ。あまり黙っていると人狼と疑われてしまいますし」

「まあ、人狼がそれを逆手にとって『村人だけど、状況がわからなくて黙ってました』って言うときもありますけどね」

 

 イルカの説明にレオが補足すると、今度は和音が質問する。

 

「吊人ってどんな役職なんですか?」

「吊人は処刑されると勝ち! 処刑されなきゃ負け! シンプルでしょ!」

「まあ、人狼っぽくふるまうのがベストですかね」

 

 こうして一通り説明を終えたレオ達は、コメント欄を非表示にしてゲームを始めることにした。

 

「では、まずはわたくしから……」

 

[お、占い師だ]

[吊人か人狼引いて欲しかった]

[おっ、和音ちゃんは村人か]

 

 イルカが占い師を引き当てて和音を占うと、表示されたのは村人だった。

 

「次は俺ですね」

 

[人狼キタ――――!]

[人狼というより人獅子なんだよなぁ]

[仲間友ちんか]

 

 レオは人狼を引き当て、友世が仲間の人狼であることを確認する。

 

「アタシの番!」

 

[大丈夫、友ちん嘘つける?]

[脳のフィルターぶっ壊れてるからな]

[二人人狼で占い当てられなかったのはキツイな]

 

 友世が引き当てたのも人狼だった。これで既に状況がかなり人狼側に有利な状況になっていた。

 

「次は吾輩だな」

 

[初心者に吊人はキツイだろ]

[これは結構動き方重要だぞ]

[占い師、二人狼、吊人、村人か]

 

 サタンが引き当てたのは処刑されると勝利になる役職吊人だった。

 

「最後は私ですね」

 

[安定の村人]

[和音ちゃんの村人感]

[解釈一致]

 

 事前にイルカが占った通り、和音の役職は村人だった。

 

「それでは、話し合いスタートですわ!」

 

[これは楽しみ]

[どう考えても人狼側が有利]

[魔王様のムーブにも期待]

 

 イルカの合図により、話し合いが始まる。

 ワンナイト人狼において、信用度というのは大事な要素だ。

 いかに信用できる発言をして、自分の役職を確定させるか。それが出来なければ疑われて投票されてしまう。

 占い師という役職は黙っているメリットは基本的に少ないため、そうそうに名乗り出て占い結果を告げる方が良い。

 

「では、占い師の人は手を――」

「はいはい! アタシ、占い師!」

 

 イルカが流れを作って占い師が名乗り出るように促したとき、友世は勢いよく手を上げてレオを指さして宣言した。

 

「アタシ、レオ君を占ったよ!」

 

[おっ、これは吊人って言って投票を避ける作戦だな]

[まあ、妥当な動き方ではある]

[レオ君と動き方がカチ合わなかったのも大きいな]

 

 レオは最初は様子を見るつもりだったが、友世の動き次第では作戦に乗るつもりだった。もとより、人狼を引いた友世が何もせずにじっとしているわけがないと思っていたのだ。

 

「獅子島さんはどの役職だったんですか?」

 

 和音の問いに友世は意気揚々と答える。

 

「人狼だったよ!」

「………………はえ?」

 

 友世の突然の裏切り宣言に、レオは窮地に陥ることになるのであった。

 




ワンナイト人狼面白いので、おすすめです。
昔は少人数で集まると結構やってましたね。


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【カラオケ組コラボ】最終出勤お疲れ様! その2

今回の話は友人と実際にワンナイトをしていたときの実話から作ってます。
ワンナイトにおいて二人人狼で初手身内切りはマジで悪手なので、おすすめはしません……。


 仲間の人狼からの占い師を偽装した人狼宣言。

 ワンナイト人狼という一回の処刑で終わるゲームにおいて、その行動は悪手でしかない。

 人狼側は一人でも処刑されれば負けなのだ。

 友世が信用されればレオが処刑され、レオが信用されれば友世が処刑される。はっきり言って、両者の首を絞める行為なのだ。

 

[まさかの初手身内切りで草]

[ワンナイトで切っちゃダメなんだよなぁ]

[レオ君かわいそすぎるwww]

 

「えっと、獅子島さんは人狼なんですか?」

「いえ、俺は怪盗ですよ。サタン君と交換して村人でした」

「えっ、僕ですか?」

 

[さすがの切り替えし]

[息をするように嘘つきやがったw]

[魔王様、素が出てて草]

 

 レオは咄嗟にポーカーフェイスを作って嘘をついた。

 

「サタンさんは村人なんですか?」

「もちろん、吾輩は村人だ。レオの言っていることは正しいぞ」

 

 サタンの引いた役職は吊人。いきなり疑われるような行動をすれば吊人だと疑われる可能性があるため、村人と言うしかなかった。

 

「となると、俺とサタン君視点では友世さんの言っていることは嘘になりますね。ちなみに、他に占い師はいますか?」

「わたくしが占い師でしたわ。和音さんを占って村人でしたわ」

「あ、はい。私、村人です」

 

 レオは現時点である情報で、冷静に状況を整理する。

 友世と自分が人狼。

 サタンは自称村人だが、役職持の可能性はある。

 イルカは本当に占い師で和音も村人の可能性が高い。

 

「今のところ噛み合ってないのは友世さんだけですね」

「えー! レオ君は人狼だったよ!」

「などと供述し