石上優はやり直す (石神)
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中等部編
石上優は幕を下ろす


視界が真っ赤に染まっている……

 

伊井野が泣きながら何か言っているみたいだけど、何も聞こえない……

 

一瞬……なんでこんな状況になっているのかわからなくなったが、直ぐに理解する。

 

生徒会の仕事帰り、伊井野を送って行く途中の横断歩道で車が猛スピードで此方に向かって来るのが見えた。

 

伊井野は僕に対する小言に夢中で気付いていない。

 

声を出すよりも早く体が動いていた……僕は伊井野を向かって来る車の直線上から突き飛ばした。

 

……別に死ぬつもりで助けた訳ではなかった。

 

伊井野を突き飛ばした後に避けるつもりだった。

 

だが、僕の体は次の瞬間凄まじい衝撃を感じ宙を舞った。痛みを感じなかったのは不幸中の幸いだろうか……いや、仮に痛みを感じていても僕の体を駆け巡るのは別のモノだろう。

 

……今僕の体を駆け巡っているのは、どうしようもない程の後悔だった。

 

僕を暗い闇の中から救い出してくれた会長……

 

だらしがなく自分に甘い僕に匙を投げず、勉強を教えてくれた四宮先輩……

 

僕みたいな口が過ぎる後輩に遠慮なく言いたい事を言い、やりたい放題して対等に渡り合ってきた藤原先輩……

 

悪い噂のあった僕にも分け隔てなく接してくれたつばめ先輩……

 

思い出せばキリがないと言える程、僕の脳内を後悔が駆け巡って行く……

 

眞妃先輩が、翼先輩が……

 

団長が、大仏が、小野寺が……

 

そして何より、目の前で此方に向かって必死に叫んでいる少女の事が……

 

その小さな体には不釣り合いな正義感と責任感がある。

 

彼女は確実にこの出来事を気に病むだろう。体は動かないが口さえ動けば良い……この体に最後の仕事をさせよう。そう決意し、僕は最後のチカラを振り絞った。

 

「いっ…伊井……野っ…!」

 

「っ!? いっ……石上!? ご、ごめんなさい!! わ、わたっ……私っ!!」

 

「ぐぅっ!? お、お前はっ…悪く……ない!」

 

「っ!!?」

 

言った、なんとか言い切れた……まるで言い終わるのを待っていたように途端に瞼が重くなる。

 

徐々に小さくなる視界に最後まで映っていたのは、子供の様に泣きじゃくる……伊井野の姿だった。

 


 

「ん……あれ?」

 

意識が覚醒すると、始めに感じたのは違和感だった。

 

さっきまで僕は道路に倒れていた筈だけど……体の何処にも痛みを感じないし、そもそも此処は……教室?

 

では、先程までの出来事は全て夢だったのか?

 

しかし、未だ妙な違和感は拭えない……

 

「……ッ!」

 

教室を見渡すと、その違和感の正体に気付いた。

 

此処は……高等部の教室じゃない!?

 

この場所は……

 

「石上君、もう皆帰っちゃったよ?」

 

トントンと肩を叩かれ、声の主に視線を向ける。

 

「ッ!? お、大友っ!?」

 

もう会う筈がない……もう向けられる筈がない、その笑顔に確信する。

 

間違いない……中学の時に戻ってる!!

 

 

 

 



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石上優は決意する

感想ありがとうございます。(( _ _ )).


僕の様子に?マークを浮かべる大友をなんとか躱し、逃げるように自室に逃げ込んだ。

 

なんなんだコレは!? 事故って過去に戻るとか……ラノベかよ!!

 

いや、そりゃ逆行モノのラノベとかも読んでたし、少しはいいなぁとか思ったよ? 思ったけど!!

 

……まさか自分が直に体験するとは思わなかった。

 

自室を見渡すと当たり前の様に高校の制服は無く、部屋に置いてある漫画やゲームのラインナップも中学時代のモノだった。

 

今更過去に戻った事を疑いはしない……僕が死んだのが夢で、それ以外が壮大なドッキリだったとしても……大友が僕に笑いかけたという事実がソレを否定する。

 

過去に戻ったのは間違いない……

 

壁に掛けられたカレンダーに目をやると4月と表示されている。

 

ポケットに手を入れ、スマホを取り出し確認する。

 

中学だから少し型の古い機種だ……入学式から1週間経った頃か。

 

「ふぅー……」

 

息を吐きながら思い出す。

 

自分を暗闇から引っ張り出してくれた会長の言葉と自分の思考が交互に浮かんで来る。

 

正しい正しくないを論じるつもりはない

 

今はあの事件の半年前……

 

もっとスマートなやり方があったのは事実だ

 

もしかしたら、やり直す事が……出来るかもしれない?

 

頑張ったな石上……

 

……違う、やり直すんだ。

 

よく耐えたな

 

会長は言ってくれた……

 

お前はおかしくなんてないと!

 

やり直すんだ、大友を荻野から救う!

 

もし、あの事件がなければ会長達と僕との接点は消えるだろう……

 

生徒会役員が生徒会長の指名制である以上、高等部に進学しても僕が再度生徒会に入れる保証はない。

 

……まぁもし生徒会に入れなくても、さり気なく会長と四宮先輩のフォローをしよう。

 

今思えば……あの2人は僕が生徒会に入った頃から既にお互いを意識していた様な気がする。

 

巻き戻ったこの人生では、あの言葉を会長から言われる事はないだろう……

 

だからといって会長や……皆に対する恩がなくなる訳じゃない!

 

「すぅ、はぁー……」

 

深呼吸をしてこれからやるべき事を頭の中でまとめる。

 

先ずは僕自身が変わる事。

 

荻野の件にどう関わるにしても、僕自身が周りから信用されないんじゃ同じ結末にしかならない。

 

信用されるには実績が必要だ。先ずは7月の期末テストの成績で上位……出来ればトップ10入りする。

 

部活動も、陸上部に入り直して最後の大会で結果を出す!

 

それ以外でも色々やろう。

 

……不意に、目が覚める直前まで目の前に居た少女を思い出す。

 

伊井野には悪い事したな……お前は悪くないとは言ったけど、伊井野の性格上絶対気にするよなぁ……

 

「罪滅ぼしじゃないけど、アイツにも何か……」

 

無意識に呟いた言葉は夕陽に染まった部屋に吸い込まれるように消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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石上優は動き出す

感想ありがとうございます( ;∀;)


決意してからの石上の行動は早かった。

 

翌日には陸上部顧問に入部届けを提出した。

 

顧問は始め、3年で陸上部に入部する事に難色を示す。

 

既に3年最後の大会まで2ヶ月を切っていたからだ。

 

しかし、石上の……

 

「僕が大会に出る実力がないと先生が判断されたら退部します!」

 

という言葉に溜息を吐きながら……

 

「そこまで言うならやってみろ」

 

と許可を出した。

 

日中は真面目に授業を受け、放課後は陸上部の練習、家に帰ると片付けた部屋で勉学に打ち込んだ。

 

二学期期末テストの目から血が噴き出る程の悔しい結果により、石上はそれ以降毎日5時間を勉強に注いでいた。

 

中学時代最後の半年と高等部最初の数ヶ月は真面目に勉学に励んでいなかった石上だが、それ以降は子安つばめに並び立つ男になる為、そして自分を後押しして支えてくれた四宮かぐやに報いる為、懸命な努力を続けていた。

 

その結果、三学期期末テストでは念願の50位以内に入るという目標を達成。

 

失敗ばかりで成功例のなかった石上が初めて自信を持つ結果となった。

 

「……!」

(僕ならやれる! きっと大丈夫だ!)

 

時間が戻り、その事実が消えても石上が忘れない限りこの自信が消える事はないだろう。

 

そして突如、部活に入り直し、勉強に励む石上に家族は戸惑った。

 

今までゲームや漫画を優先し、勉学には力を入れてこなかった息子の変わり様に嬉しいやら驚くやらで動揺する両親。

 

しかし、石上の発言とそれによる結果により、それどころではなくなった。

 

「これからのゲームは、携帯ゲームとスマホアプリが主流になると思うよ。例えば……」

 

そう、この男何を隠そう現在から約2年先のゲーム事情を熟知している!

 

故にこれからヒットするであろうゲームや玩具の傾向がわかっている!!

 

まるで見てきたように発言する息子の言葉に父親は生唾を飲み込み聞き入った!!!

 

父親は息子の話を聞き終わると、一目散に自室へと走り〈新商品計画書〉と表示された紙に一心不乱にペンを走らせる。

 

書き込まれた計画書を見下ろし確信する……

 

コレは当たると。

 

その後、売り出した商品がヒットし、会社が潤いまくるのは数ヶ月後の話である。

 

軽い気持ちで父親にヒット商品の話をした石上は、もはや逆行前の習慣となった勉強を始める。

 

それはひとえに周囲からの信用と実績を獲得し、大友京子を荻野の手から守る為……

 

しかし……石上のこの努力は数ヶ月後、予想外の方向に裏切られる事を彼はまだ知らない……

 


 

そして……2ヶ月後。

 

石上は期末テスト結果の貼り出された掲示板の前にいた。

 

中等部も高等部同様、上位50名は名前が貼り出される為、結果を見ようとする生徒でごった返している。

 

「……」

(相変わらず凄いな……)

 

一位 伊井野ミコ(490)

 

馴染みのある名前を目にしフッと笑みが零れる。

 

「……」

(でも、コレは……予想外だったな)

 

一位 石上優(490)

 

伊井野ミコと石上優の同率一位である!

 

「マジかぁ……」

(まさか、僕が一位なんて……)

 

しかし、この結果は当然である! 高等部の勉強で上位に入る為には、先ず中等部で習った基礎が出来ていなければ到底不可能である! 逆に言えば高等部の三学期期末テストで36位を獲得した石上は、中学で習う基礎はほぼ完璧だという事を意味する! もう一度言おう、この結果は当然である!!!

 

「ま、とりあえず……」

(コレで少しは僕の評価も上がると良いけど……)

 

少しどころでは無い。この男……2ヶ月という短い期間だが真面目に部活動に取り組み、なんと都大会入賞を果たした。その2ヶ月間の石上の頑張りは、同じ陸上部の部員や顧問の教師から他の生徒や教師へと拡散……部活以外でも面倒な雑用を率先して熟し、徐々に周囲の人間から認められるようになっていた。石上本人はその性格上気付いていないが、周囲の人間は既に尊敬の念を抱き始めていた。

 

 



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石上優は思い出す

感想ありがとうございます(´ー`)
作者も書いてて一位はやり過ぎ感がありましたが、高一の三学期期末テストで36位(441点)取れるなら、中学3年の一学期期末テストなら一位イケるやろと勢いで書きました。

※タグにご都合主義を追加しました。



「一位だって石上君! おめでとう!」

 

背中から掛けられた声に、振り返りながら答える。

 

「あぁ、ありがとう大友。」

 

最近になり、石上の様子が激変した事はクラスメイトは勿論、大友京子も認識していた。クラスメイトはつい先日まで陰キャだった石上の様子が180度変わった事に対して、殆どの人間が困惑していたが……元々それほど石上に関心もなかった為すぐに興味を失った。

 

しかし、一部の人間は……

 

今更いい子ちゃんぶってどうするの?

 

石上の分際で生意気……

 

無駄な努力

 

と心無い言葉を吐く者もいた。

 

しかし、大友京子は……

 

「……っ!」フンスッ

(石上君、なんかわかんないけど頑張ってるし応援しよう!)

 

と緩い感じに石上の頑張りを認め、応援していた。

 

「石上君、これから部活? 頑張ってね、バイバイ!」

 

能天気な笑顔を向けて、ブンブンと手を振る大友京子に石上も……

 

「あぁ、大友も気をつけて帰れよ。」

 

フッと微笑み手を振り返す。

 

一見良い感じの男女の様に見えるが、お互いの心の中に相手に対する恋慕の情や恋愛という言葉は存在しなかった。

 

石上は大友に対してあくまでも、クラスメイトで偶に挨拶をする程度の友人。

 

大友もクラスメイトが頑張っていれば応援するのは当然という能天気さで、その行動に恋愛という言葉が入り込む隙間は存在しなかった。

 

何処までいっても石上優と大友京子は、友人という枠組みからはみ出す事はないのである……

 

大友に言葉を返し視線を向けると、隣に口をポカンと開け此方を凝視する女子生徒と目が合う……と言っても、その瞳は分厚いレンズに遮られ見通す事が出来ない。

 

「なんだよ大仏、そんなに信じられないか?」

 

僕はイタズラが成功した気分を味わいながら問い掛けた。……当然だ、2ヶ月前までドベの成績だった人間が学期末テストで一位を取ったのだから。特に大仏は……伊井野ミコという常に学年一位を取り続ける人間の頑張りを見てきたのだから、その驚きも他の人間より凄まじいものがあるのだろう。

 

「あ、違くて……凄いね石上。うん……ビックリした。ミコちゃん以外の人が一位の隣に名前があるの初めて見たし。」

 

「まぁ僕自身も結構驚いてるんだけどな……」

 

「そうなの? その割に凄い落ち着いてるね?」

 

「そういう風に見えるだけだよ。」

 

「……ふーん。」

 

……こんな風に大仏と話すような関係になるとは思わなかった。しかし、決して嫌じゃない。大仏には逆行前、伊井野にステラの花を贈った所を見ていたと告げられた日の夜は、ベッドの上で悶えまくった事もあったけど……

 

私も君の事、ちゃんと見てたよ

 

その掛けられた言葉に、僕は何とも言えない気持ちになった。中学時代の……石上優という人間をちゃんと見てくれていた人が確かに居たんだと。だからだろうか……無意識に廊下ですれ違った大仏を目で追い、あの場面に出会したのは……

 



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大仏こばちは救われる

感想ありがとうございます(゚ω゚)


「人の彼氏に色目使ってんじゃねぇよ!」

 

ドンと名前も知らない女子に突き飛ばされる。色目なんて使ってないし、そもそもこの子の彼氏という人に関しても心当たりが全くなかった。

 

「私は何も……」

 

肩に鈍い痛みを感じながら弁明を試みる。

 

「ウソついてんじゃないわよ!!」

 

……またか、と昔から一定数起こっていた目の前の出来事に嫌気が差す。幼少期に子役をやっていた事や母親譲りのこの顔が起因して、私は昔から嫌がらせや陰湿なイジメを受けていた。その内容の殆どが女子からで、女子に嫌われる女子……それが私に与えられたカテゴリーだ。

 

気に入らない、調子に乗ってる、子役だからチヤホヤされてプライドが高い、人の彼氏に色目を使ってる……陰口も挙げていけばキリがない。でも、親の不倫スキャンダルがニュースで報道された次の日からは……今までの比じゃなかった。

 

燃え続ける火にガソリンを投下したように、陰口やイジメは加速度的に増えていった。親が親なら子も子だ、よく学校来れるよな、ざまあみろ、いい気味、マジウケる……

 

「なぁ大仏ぃ? オレとも不倫しようぜー?」

 

女子に唆された男子からも、そんな言葉を投げかけられる。ミコちゃんが一緒にいる時はイジメも鳴りを潜めるけど、ずっと一緒にいるなんて到底無理だ……1人の時は容赦なく悪意の言葉に晒される。

 

昔から言われ続けてるから慣れた……なんて言葉は強がりでしかない。どれだけ時間が経とうと、名前も知らない人から言われ様と……別になんとも思わない訳じゃないんだよ……

 

キツイし、辛いし……1人でイジメに立ち向かえる程、私は強くない。1人は、怖いんだよ……

 

「何とか言えよ!」

 

「……っ!」ギュッ

 

また……いつもの様に、相手が満足するまで耐えるしか無い……そう思っていた時に、その人は来た。

 

「うるせぇ、ばーか。」

 

その声に俯いていた顔を上げると……1人の男子が私を庇う様に佇んでいた。

 

「い、石上……君?」

 

ミコちゃんと風紀委員の活動中、彼が携帯ゲーム機を隠れてやっている所を何度か目撃して注意した事がある。そういえば……最近はそんな場面に遭遇する事も無くなっていた。噂では、彼は引退を目前にした3年生であるにも関わらず、陸上部に再入部したらしい。どうしてかはわからないけど、彼が風紀違反をしている所を見掛けなくなったのはソレが原因なのかな……

 

「はぁ!? 誰がバカよ!? アンタには関係ないでしょ!!」

 

……その通りだ、石上には関係ない。

 

「話は途中からだけど、聞かせてもらったよ。」

 

「っ!?……ハッ! 盗み聞きとかキモッ!!」

 

「まぁ……それは否定しない。」

 

否定しないんだ……

 

「つぅか、文句なら彼氏に言えよな。大仏関係ないじゃん、自分が彼氏を繋ぎ止める魅力がないのを棚上げしてよくもまぁぬけぬけとホザけるよな。完全に逆恨みじゃんか、モラルってもんがないの? 大体その彼氏だって、そんな面倒くさい女が嫌だから適当な事言ってるだけなんじゃないの?」

 

そこからは凄かった。彼は捲し立てるように言葉を吐き続けるがその内容は全て正論で……何も言えなくなった女子は、目に涙を浮かべ泣き叫びながら去って行った。

 

……当然の結果である。この石上優という男、あの藤原千花に苦汁を舐めさせる事が出来る数少ない存在である。彼女曰く……

 

正論で殴るDV男

 

心が狭くてすぐに揚げ足を取る

 

暴言の銃口が常に私を捉えている

 

奴が付ける傷はやけに治りが遅い

 

あの四宮かぐやの敵意と憎悪の籠った眼で見つめられても気が付かない様な能天気さを持つ藤原千花に、ここまで言わせ何度も泣かせた経歴を持つ。普通の女子中学生が耐えられる筈がないのである。

 

「い、石上……君。」

 

「石上でいいよ、僕も大仏って呼び捨ててるし。」

 

「……石上、あんな事言って大丈夫なの?」

 

「問題ないよ。」

 

石上はなんでもないように首を振りながら答える。

 

「でも、先生にチクられたりしたら……」

 

「なんて言ってチクるんだよ?」

 

「……え?」

 

「私は何もしていない女子に逆恨みで暴力と暴言を吐いている所を関係のない男子生徒に止められましたって? 僕の事をチクるなら自分がしていた事にも説明義務が生じる……彼女には何も出来ないよ。」

 

「そっか、そうだよね。うん……ねぇ石上?」

 

「ん?」

 

「……どうして助けてくれたの? 石上は、こういう目立つ事するようなタイプじゃないと思ってた……それに、私って良い話聞かないでしょ? 親のスキャンダルの事とか、他の事も色々……」

 

「……確かに僕は目立つのが好きじゃないよ。でもあんな場面に遭遇して見て見ぬ振りをするような人間にはなりたくないんだ。」

 

「そっか、強いね石上は……私とは大違い。」

 

「……大仏の噂は僕も聞いてるよ。でも親のスキャンダルとか他人が悪意を込めて吹聴する話よりも、僕は自分が見たモノを信じたい。」

 

「石上……」

 

「大仏は大仏だ。お前が噂通りの人間じゃないって事は知ってるつもり……」

 

私も君の事、ちゃんと見てたよ

 

不意に……大仏に言われた言葉が頭を過ぎった。

 

「……僕は大仏の事、ちゃんと見てたよ。」

 

「……ッ!?」

 

人は……他人の些細な行動に心から救われる事がある。

 

或いは……細やかな思い遣りに。

 

或いは……目の前の男子から発せられた何気無い言葉に。

 

「……石上。」

 

「ん?」

 

「……ありがとう。」

 

「あぁ、どういたしまして。」

 




石上が主人公ムーヴ過ぎる(´・ω・`)


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伊井野ミコは突き止めたい

感想ありがとうございます(`・∀・´)


「嘘……」

(そ、そんな……石上が一位!?)

 

徐々に掲示板の前から人が消えて行く中、微動だにせず立ち竦む女子生徒がいた。

 

「な、なんで……」

(私と同じ490点!? あ、有り得ない!)

 

伊井野ミコ!テストの成績は常に一位! 中学1年の頃から……いや、それ以前からテストで一位を取り続けていた絶対王者は動揺していた!

 

(もし一問でも間違えてたら、私が二位で石上が一位!? ど、どうして急に石上がそんなっ……もし負けてたらっ!?)

「……ッ」

 

動揺どころの話ではなかった。この女、過呼吸起こす寸前レベルに精神的ダメージを受けている。何故なら、自分が風紀委員として違反者に強く出る事が出来るのは、ひとえに成績一位という武器が有ってのこと。もし一位から転落すれば、誰も自分の話に耳を傾けてくれないのではないか? 伊井野ミコは常にその不安を抱えていた。そして、自分の地位を脅かす存在が現れた……その男は数ヶ月前までは、貼り出される掲示板に名前が載る事など唯の一度もなかった存在。

 

「……!」ギュッ

 

伊井野ミコとて、別に石上を見下していた訳ではない。他人を気にしても結局は自分との闘いだと理解しているからだ。だが! 突如現れたダークホース的存在にすっかり冷静さを失っていた。

 

「私、あんまり勉強得意じゃないからさ、石上……今度勉強教えてよ。」

 

「あぁ、僕で良かったら教えるよ。」

 

「じゃあ今度連絡するね。」

 

「っ!?」

 

しかも! なんか自分が知らない間に親友が石上と親交を深めている事実に、失神寸前であった!

 

「うぅー……」ギュッ

(石上、私がアンタの本性暴いてやる!)

 

本性も何も……テスト結果は完全な実力制であり(石上には逆行というアドバンテージこそ有るが)秀知院でのカンニング行為は、即退学の為その可能性は皆無。伊井野ミコの思考の暴走は、テスト結果による動揺と親友が石上に取られるかもしれないという子供の様な危機感が綯い交ぜになった結果である。つまり、伊井野ミコの気持ちを無駄を省いて書き出すと……

 

一番は私のなの!

 

こばちゃん取らないで!

 

である。

 


 

「……ちゃん、ミコちゃん!」

 

「ハッ……え、こばちゃん!?」

 

「どうしたの? ボーっとして。」

 

「な、なんでもない……」

 

「伊井野、気分でも悪いのか?」

 

「……」

 

「……伊井野?」

 

「見てなさいよ石上! アンタの化けの皮剥いでやるんだから!!」

 

伊井野は言うだけ言うと踵を返し去っていった。

 

「どういう事だよ……」

 

「ミコちゃん、思い込み激しいトコあるから……」

 

………

 

「……!」ジーッ

(絶対おかしい! あれだけ頑張って勉強した私と同じなんて! 絶対何か秘密があるはず……)

 

「……」

(伊井野が滅茶苦茶見て来る……まいったなぁ、大仏は大仏で……)

 

まぁ、ミコちゃんも面食らって奇行に走ってるだけだから……その内やめると思うよ?

 

「はぁ……」

(とか言うし……ってあれ?)

 

周りを見渡すと先程まで隠れて(バレバレ)此方を伺っていた伊井野の姿がない。

 

「……諦めて帰ったか。」

 

帰り支度を済ませ、妙に凝った肩を回しながら廊下を歩く。

 

「あっ、石上。ミコちゃん見なかった?」

 

「さっきまで隠れてこっちを監視してたよ……」

 

「あれ? 今日は風紀委員の見回りがあるのに……何処行ったんだろ?」

 

「先に始めてるとかじゃないのか?」

 

「ううん、風紀委員の見回りは、原則2人一組って決まってるの。1人だと言い逃れられたり逆ギレして暴力振るって来たりするから……」

 

「それは……思いの外危ないな。」

 

「まぁそんな相手は滅多にいないけど……」

 

「……!」

 

「……!」

 

この瞬間、2人の思考が重なった。伊井野ミコは、確かにルールを守る……だが目の前に違反者がいれば、2人一組というルールよりも其方を優先するのではないか? という思考が。

 

「……石上。」

 

「あぁ、伊井野を探すぞ。」

 

僕は大仏を連れ伊井野を探し始めた。

 


 

(石上、さっさと尻尾を出っ……アレはっ!)

 

石上の監視中、私は男子生徒3人が談笑しながら中庭へ入って行く所を目撃した。

 

「んでそん時によぉ……」ポイッ

 

「っ!」

(ポイ捨て!)

 

それを見た瞬間、私の頭から石上の事は消え去り、直ぐに男子達を追い掛ける。

 

「その後アイツが……」

 

「ちょっと貴方! 今ポイ捨てしたでしょ! クラスと名前を言いなさい!!」

 

「あ? なんだお前?」

 

「げっ……コイツ風紀委員の伊井野だ!」

 

「伊井野? あぁ、学年一位の奴か……メンドクセェ奴に見つかったな。」

 

「早くクラスと名前を言いなさい!」

 

「……あれ? そういえばコイツって、今回のテストで……一位……石……」ボソボソ

 

ポイ捨て男は友人に何やら耳打ちされると、意地の悪い笑みを浮かべて私を見た。

 

「……へぇ、なるほどな。あーあ、石上の言う事なら聞いてやっても良かったのになぁ!」

 

「え……?」

 

「そーそ! やっぱ同じ学年一位なら、男の方が発言に重みがあるよなぁ?」

 

その言葉に……ギュッと心臓を鷲掴みにされるような感覚が、私の体に襲い掛かった。

 

「か、関係ありません! 私は風紀委員です! 違反者を注意する権利がっ……」

 

私は風紀委員と刺繍された腕章を取り出し、腕に当てっ……

 

「はい、ゲット〜!」

 

「な!? か、返しなさい!」

 

「へいパース!」

 

「ナイスパース!」

 

「このっ! か、返しなさい!」

 

懸命にジャンプをして手を伸ばしても、私の小さい体では掠りもしない。

 

「ほらほらぁ、取り返してみろよ。」

 

「か、返し……」

 

「よっと、パース。」

 

「……っ!」

(なんで、皆わかってくれないの? 私はただ……)

 

「ほらほら、そんなんじゃ取り返せねぇぜ?」

 

「返し……て……」

 

「だーかーらー! 石上の言う事なら聞いてやるって言ってんだろぉ?」ニヤニヤ

 

ニヤニヤと笑いながら、私を見下ろす3人に恐怖で体が震え始める……

 

「ぅ……」

(皆に……ちゃんとして欲しいだけなのに……)

 

「おい、伊井野の腕章を返せ。」

 

「……は? 何お前?」

 

「……石上?」

(……なんで?)

 

「僕の言う事なら聞いてくれるんだろ?」

 

「お前が石上か……」

 

「さっさと腕章を返せ。」

 

「チッ、カッコつけやがって……お前はウザくねぇのかよ? 小せぇ事で揚げ足取ってグチグチ言って来る風紀委員がよぉ!?」

 

「まぁ……僕も隠れてゲームしてる所見つかって、注意されたりゲーム機を没収されたのは一度や二度じゃないけどさ……」

 

「だったらっ!」

 

「……でも、ムカつくんだよ。」

 

「あ?」

 

「頑張ってる奴が笑われるのは。」

 

「ッ!」

(い、石上……)

 

「いい度胸してんじゃねぇか、こっちは3人……」

 

「コラァア! 何をやっとるかあああ!!!」

 

全員が声のした方に視線を向けると、三階の窓から身を乗り出し雄叫びを上げる教師が目に入った。

 

「ヤッベ!? 生徒指導の先公だ!」

 

「チッ……こっち来る前に逃げるぞ!」

 

「お、おぅ!」

 

3人は持っていた腕章を放り投げると、走って逃げて行った。

 

「……投げるなよ。全く……ほら伊井野。」

 

石上は腕章を軽く手で払って埃を落とすと、私へと差し出した。

 

「あ……そ、その……えと……」

 

「はぁはぁ……石上ありがとう! ミコちゃん大丈夫!?」ガバッ

 

息を切らせて走って来たこばちゃんは、特に問題が無いとわかると安堵の息を洩らした。

 

「はぁー……ミコちゃん、顔赤いけど大丈夫?」

 

「へっ!?」

 

こばちゃんに指摘され、反射的に頬を触り確かめる……熱い。先程の3人に見下ろされていた時は、不安で、怖くて、身体が凍えそうな寒気を感じていたのに……

 

「伊井野、大丈夫か?」

 

「だ、大丈夫。うん、大丈夫……」

 

石上が来て、助けてくれた瞬間から……さっきまで感じていた寒気は消え去り、私の身体はポカポカとした暖かさに包まれていた。

 

「伊井野……保健室行くか?」

 

「ほっ……保健室!?」

(わ、私とっ!?)

 

「気分が悪いならベッドで横にでも……」

 

「ベッド!?」

(そ、そんなっ、いきなり!?)

 

「不安なら大仏も一緒に……」

 

「さ、3ぴっ…ムグッ!?」

 

「ストップミコちゃん、それ以上は本気で後悔するから言わない方がいいよ。」

 

「……ホントに大丈夫か?」

 

「そ、その……」モジモジ

 

「あー、ミコちゃんは私が連れて行くから。石上、今日はありがとね……ほらミコちゃんも。」

 

「あ、うん。その……石上、ありがとう。」

 

「気にするな、じゃあ僕は帰るよ。」

 

「うん、また明日ね。」

 

「ま、また明日……」

 

「またな。」

 

帰っていく石上の背中が小さくなった頃……

 

「じゃあミコちゃん、何があったか洗いざらい喋ってね? 主に……石上が来てからの事を。」

 

「え、えぇぇぇ……」

 

伊井野ミコの災難は終わらない。

 




長くなってしまった。・゜・(ノД`)・゜・。

大仏に続き伊井野でも石上が主人公ムーヴを……

まぁ精神年齢17歳の石上からしたら、イキッた中3とか怖くないんでしょうけどね…


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石上優は手伝いたい

感想ありがとうございます(`・ω・´)



期末テスト発表から数日後……

 

夏休みまで2週間を切ったある日の午後、石上優は風紀委員会が使用する空き教室を訪ねていた。

 

「失礼します、ウチのクラスのアンケート用紙持って来ました。」

 

「はい、用紙はそこの机に……って石上!? な、なんでアンタが……」

 

「担当の奴が体調不良で早退したから代わりに持って来たんだよ。」

 

「ふ、ふーんそうなんだ……」チラチラ

 

「伊井野1人か?」

 

「こばちゃんがもうすぐ来るわよ。」

 

「ごめんミコちゃん、お待たせ。」ガラッ

 

「よう。」

 

「あれ? 石上どうしたの?」

 

「アンケート用紙持って来ただけだよ。」

 

大仏の問いに、ひらひらと紙を振りながら答える。

 

「あーなるほど。ごめんね、お茶くらい出してあげたいんだけど……」

 

「別にいいよ、それより忙しいのか?」

 

「忙しいなんてもんじゃないわよ。今日は先生も会議だし、他の風紀委員も用事で居ないから私とこばちゃん2人でやらなきゃいけないのよ。」

 

「ホントにねぇ、今日中にこのアンケート結果をパソコンにまとめなきゃいけないし……」

 

「僕、手伝おうか?」

 

「「え?」」

 

僕の提案に2人は目を見開いた。

 

「あー……なんか手伝いを催促したみたいになっちゃったかな? その提案は嬉しいけど……流石にそれは石上に悪いよ。」

 

「そ、そうよ! それに風紀委員でもない石上に余計な負担が……」

 

「でも期限は今日中なんだろ?僕こういうの少し得意だから役に立つと思うけど?」

 

「うっ、でもそれは……」

 

「……ミコちゃん、せっかく石上がここまで言ってくれるんだからお願いしようよ。」

 

「……こばちゃんが言うなら。」

 

「じゃあ決まりだな、早速始めよう。」

 

大仏からアンケート用紙を受け取ると、早速仕事に取り掛かる。

 

「……」カタカタ

 

「……」カリカリ

 

「……」カタカタ

 

少しの間、キーボードを打つ音とペンを走らせる音が教室に充満する。

 

「ねぇこばちゃん、此処って……」

 

「……よし、終わったぞ。」

 

「え?」

 

「えぇっ!? う、嘘でしょ!? そんなに早く終わるわけが……」

 

「……ミコちゃん見て、ちゃんと終わってる。」

 

「嘘ぉっ!?」

 

マジである。この男、逆行前は秀知院学園高等部の生徒会を影で支えていた情報処理のエキスパート! 質実剛健、聡明叡智と謳われる生徒会長、白銀御行からも……

 

石上が居なくなれば生徒会の仕事は破綻する

 

とまで言わしめ絶大な信頼を得ていた男。中学の委員会程度の書類処理ならば朝飯前なのである。

 

「……石上凄いね。こういうのが得意って言うだけあるね。」

 

「役に立てたようで良かったよ。」

 

「ふふ、本当助かったよ。ね、ミコちゃん?」

 

「くぅっ、私よりわかりやすい……悔しい!」

 

「もう、ミコちゃんは……」

 

「なぁ……この書類この後どうするんだ?」

 

「コピー取って高等部の生徒会に持って行く事になってるわよ。」

 

「高等部の生徒会……?」

 

「何よ? 流石にそこまで石上にやらせたりはしないわよ?」

 

伊井野の言葉を聞き流す石上の頭の中に、かつての生徒会メンバーの姿が浮かぶ。

 

「……なぁ伊井野、その出来上がった書類僕が届けちゃダメかな?」

 

都合良く会えるとは限らない。だけど、もしかしたら会えるかもしれない……その思考が、伊井野への言葉を繋げる。

 

「え、なんで? 石上にそこまでさせる訳には……」

 

「いや僕がしたいんだ、頼む。」

 

「うーん、私達はやってくれると助かるけど……ミコちゃんどうする?」

 

「まぁ……いいけど。」

 

「じゃあ早速持って行くよ、2人共お疲れ。」

 

僕は書類をまとめ終わると、足早に教室を出て行った。

 

「変なの、関係ないのに態々自分から書類持って行くなんて……それにあんなに急がなくたって……」

 

「……ミコちゃん寂しいの?」

 

「はっ、はぁっ!? そ、そんな訳ないでしょ!」

 

「本当? あわよくば2人っきりの教室で……」

 

ねぇ石上、この前のお礼……何がいい?

 

お礼か……お礼ならコレがいいな……

 

少年は少女の唇を軽くなぞり顔を近付けると……

 

「そんな事する訳ないでしょおおお!!? なんでお礼でキスする羽目になってるのよ!?」

 

「私的には結構熱いシチュなんだけど……」ポッ

 

「あなたの趣味は知らないけれど!」

 


 

僕は教室を出ると、無意識のうちに歩く速度は徐々に早くなって行く……

 

「……」

(確か、会長は1年の時は庶務として生徒会に居たって言ってた……もしかしたら会えるかもしれない!)

 

少しの不安と大きな期待を胸に、石上は高等部へと走って行った。

 

 

 

 



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石上優は出会いたい

誤字脱字指摘ありがとうございますm(_ _)m


秀知院学園高等部は、中等部から僅か徒歩5分の距離にある。期末テストも終わり、夏休みを目前に控えた高等部は活気に満ち溢れていた。

 

「ふぅ……」

(たった3ヶ月しか離れてなかったのに、随分久しぶりな気がする……)

 

夏の日差しをその身に受け石上は……

 

「……」

(とりあえず……木陰で休もう。)

 

日和った!この男、書類を受け取り勢いよく教室を飛び出して来たにも関わらず、此処に来て心臓バクバクであった! 何故ならば、逆行して記憶がある自分は白銀御行等親交のあった人間を知っているが、向こうは自分の事など存在自体知らないのである。前回の高等部生活において石上と親交のあった人物の殆どが上級生! つまりは現1年と2年である。もし、見掛けた際に自分が妙な事を口走り、気味悪がられたりしたら……と考えただけで心臓がビートを刻んでいた!

 

「ゴクッ…ゴク……」

 

石上は自販機でミネラルウォーターを購入すると、中庭にそびえ立つ木にもたれ掛かり口へと流し込む。

 

「ふー……」

(少しは落ち着いたかな。コレ飲み終わったら……)

 

「ッ……くっ……この!」カチャカチャッ

 

石上は背後からの声に視線を向ける。先程まではテンパっていて気付いていなかったが、どうやら自分がもたれ掛かっている木の裏側に人がいたようだ。

 

「……?」

(この音……ゲームかな?)

 

自身の趣味であるゲームを背後の人間がしている事に興味を持ち石上は覗き込む。カチャカチャとゲームをしている人物の正体は、帽子を被った女子生徒だった。その女子は胡座をかいて背を此方に向けており、ゲーム好きな石上は無意識にゲーム画面を覗き込む。

 

「あ……すげぇ、ギガティラスソロ狩りしてる。僕も苦労したなぁ……」

 

そんな言葉が口から洩れた事に、石上がしまったと口を抑えるのと……女子が振り向いたのは同時だった。

 

「お前、今なんて言った?」

 

そう言いながら眼光鋭く睨み付ける目の前の女子に石上は焦る。

 

「あ、いえ、その……すいません。木陰で休んでたらゲームの音がしてつい……」

 

「別に怒ってる訳じゃねぇよ……それより、さっきなんて言った?」

 

「え? えぇと、ギガティラスソロ狩りしてるなんて凄いなぁと……」

 

「違う、その後だ。」

 

「……僕も苦労したなぁ?」

 

「お前……」

 

女生徒は立ち上がり石上の服を掴むと……

 

「コイツ倒せるのか!?」

 

暫し思考が止まるも、ゲームに関しては一家言を持つ石上である。すぐに……

 

「は、はい……倒せます。」

 

と答えた。

 

「……だったらコイツ倒してみろ、出来たら覗き見した事は許してやる。」

 

「え、さっき怒ってないって……」

 

「あ?」

 

「やります! やらせて頂きます!!」

 

弱い……この石上優という男、出会った当初は四宮かぐやの圧力と殺気の籠もった眼に暫し戦々恐々とし、自身の命の危機を感じとっていた過去を持つ。その後は接触を繰り返すうちに段々と平気になり、最後には四宮かぐやを姉のように慕うようになる。しかしながら、ソレは四宮かぐやに対して耐性が出来ただけであり、他者に対しても同じように耐性があるわけではなかった。

 

「……ッ」

(メッチャ睨んで来る……)

 

一言で言うならば、目の前の眼光鋭い女子に普通にびびっていた!

 

「じゃあ、ほらさっさと倒せ。」

 

ゲーム機を受け取り石上はゲームオーバーと表示された画面からコンティニューを選択し、ゲームを始める。ムービーシーンが挿入され、湖から出現したモンスターにスタン系のアイテムを投げつける。

 

「おい、ソイツに電撃系は……」

 

アイテムが当たったモンスターは動きを止め、その隙に石上は攻撃を叩き込んで行った。

 

「は? なんで……」

 

「あぁコイツ、エンカウントした最初の3秒間だけスタン系のアイテムが効くんすよ。その後は動けなくなった隙に攻撃しまくれば……ほら、倒せました。」

 

「おぉー! やるじゃねぇか! その制服中等部だよな? お前名前は?」

 

「3年の石上優です。えぇと……先輩は?」

 

「なんだ、一個下か……私の名前は龍珠桃。石上、次コイツ倒そうぜ!」

 

そう言うと龍珠先輩はゲーム画面を此方に向けてニヤリと笑った。

 

……龍珠桃?うーん、どこかで聞いたような……見たような……?

 

 

 




まさかの龍珠桃登場( ゚д゚)

誤字脱字指摘ありがとうございます( ̄^ ̄)ゞ


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石上優は出会えない

感想ありがとうございます(゚ω゚)
誤字脱字報告ありがとうございます( ̄^ ̄)ゞ


石上は木陰で出会った1学年先輩である龍珠桃と、暫しのハンティングに興じていた。

 

「こんな遣り方があったとは知らなかったわ、お前すげぇな。」

 

「いやいや、僕なんて全然ですよ〜。」

 

嘘である。この男、逆行前のゲーム三昧した記憶を利用し、新発売のゲームが出る度に掲示板へボス情報や隠し要素を書き込み……

 

「攻略遅すぎ。く、さ、は、え、る……っと。」

 

とマウントを取っている! 勉学に励み部活に精を出し、周りから尊敬の目で見られ始めていても石上優の本質は変わらない。陰キャ(ダークサイド)なのである!

 

そう……ネット上では、マウントを取られたほうが負けなのである!!

 

「そういえばお前、高等部に何しに来たんだ?」

 

「あ……」

 

石上ここにきて自身の目的を思い出す。ゲームの話が盛り上がり、石上のゲーオタ魂に火がついた結果である。

 

「そうだった、僕はこの書類を生徒会に提出しに来たんでした。」

 

「書類? ふーん……」

 

パシッと石上の手から書類を掠め取ると、龍珠は視線を落とす。

 

「……お前風紀委員?」

 

「いえ、代理で来ただけです。」

 

「じゃあいいや、案内してやるからついて来いよ。」

 

「いいんですか? ありがとうございます。」

 

歩き出した龍珠の後を追い石上も歩き出す。

 

「……」ソワソワ

(1年の頃の会長か、なんか変な感じだなぁ。間違えて会長呼びしないように気をつけないと。)

 

気持ちが逸るのを抑えながら石上は、校舎内を懐かしみながら歩いて行く。

 

「ここが生徒会室だ。」ガチャッ

 

「し、失礼します。」

 

「まぁ折角来たんだ、茶くらい淹れてやるよ。」

 

「龍珠先輩、あの……勝手にやっていいんですか?」

 

「は? ……あぁ、そういえば言ってなかったな。私、生徒会の会計だから。」

 

「え……」

 

ここで石上に生徒会参入当初の記憶が蘇る。

 

………

 

「今日から君も生徒会の一員だ、よろしく頼む。」

 

「僕で役に立てるのなら……」

 

「うむ、ならばコレを渡しておこう。」

 

石上は白銀から〈石上優〉と表示されたプレートを受け取る。

 

「コレは……」

 

「役職に就く者はそのプレートを彼処の壁に掛けるんだ。石上は会計の欄に掛けておいてくれ。」

 

「はい、あの……コレは?」

 

「あぁそれは、前任者のモノだな。外し忘れたんだろう……アイツは不精な所があるからな。」

 

「前任者……」

(龍珠桃……女子生徒か。)

 

「それは俺が預かっておこう……では、先ずは簡単な書類整理から始めようか。」

 

………

 

「……」

(あー……どっかで見聞きしたような気がしたのはコレか。)

 

「ほらよ。」コトッ

 

過去を思い出した石上の目の前に、お茶で満たされたコップが置かれた。

 

「あ、ありがとうございます。」

 

「あぁ、しかし誰もいやがらねぇ。」

 

「あの、他の人は?」

 

「さぁな、何処で道草食ってんだか……」

 

「……」

(いや、貴女は道草どころかゲームしてましたけどね……)

 

「あ? なんだよ?」

 

「……なんでもないっす。」

 

「チッ……まったく、何処に……」

 

突如スマホの着信音が生徒会室に鳴り響いた。

 

「はい……は? 今生徒会室だけど……はぁ? マジかよ面倒くせぇ……チッ、わかったよ。」

 

龍珠はスマホを耳から離すと……

 

「悪い石上……急用が出来た。書類は机の上に置いといてくれ。」

 

「急用ですか……」

 

「あぁ、他の生徒会の奴もそっちに集まってるらしくてな。ったく、面倒くせぇ。」

 

「じゃあ僕はコレで……」

 

「あぁ、じゃあな。」

 

「はい。龍珠先輩、ありがとうございました。」

 

石上はそれだけ言うと生徒会を出て行った。

 

「はぁ、もうちょいゲームしてたかったな……」

 

石上が出て行くのを目で追いながら、龍珠は無意識に呟いた。

 


 

その後、生徒会室……

 

「……いきなり呼び出してすまなかったね、龍珠会計。」

 

「ホントだよ会長、私も忙しいんだけど?」

 

「……その手に持っているゲーム機は何かな?」

 

「ふんっ……」

 

「おや? そのコップ……誰か来てたのかい?」

 

「中等部の奴が書類を届けに来てたんだよ。」

 

「え……龍珠が対応したのか?」

 

「なんだよ白銀……なんか文句でもあんのか?」

 

「いや、文句とかじゃなくて……」

 

「ふふ、白銀庶務は驚いてるんだよ。だって会長である僕にも敬語を使わないような君が、態々お茶を出して来客をもてなすなんて事をしたんだからね。そもそもの話……龍珠会計が僕達にお茶を出した事があったかな?」

 

「ふん、なんで私がアンタらに茶を出さなきゃいけないんだよ。」

 

「ヤレヤレ、君が態々お茶を出した人物にも興味があるけど……書類が溜まってるし、先ずはコレを片付けよう。」

 

「はい。」

 

「チッ、面倒くせぇ……」

 

 

 

 



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石上優は思い付く

感想ありがとうございます(`・∀・´)


石上が高等部の生徒会を訪ねてから、1週間が経過した……その間、石上は頻繁に風紀委員会の仕事を手伝うようになっていた。先月末に部活動も無事引退し、空いた時間を風紀委員会に費やす石上……元々風紀委員は人手が足りなかった事、更に石上の書類処理能力の高さも一役買い、他の風紀委員からの信頼も厚く助っ人枠として自由に風紀委員の教室を出入りする許可が出たのである。今日も資料片手に書類処理をしていると、伊井野ミコの……

 

「今日の会議内容は3ヶ月後に迫った体育祭の備品確認の振り分けを行います。」

 

という発言に顔を上げる。

 

「……伊井野、そういうのって実行委員の仕事じゃないのか?」

 

「あぁ、石上は知らないみたいね。実行委員はあくまで体育祭の準備担当で、備品の確認は風紀委員がやってるのよ。」

 

「風紀委員が……?」

 

石上の困惑も当然である。何故ならば、自分が高等部1年の時は体育祭の備品確認は生徒会が担当したからだ。

 

(そういえば、備品確認の翌日から何故か伊井野の会長を見る目がキツかった記憶があるけど……なんだったんだアレ?)

 

い、伊井野さんっ……わ、私怖かったぁ!

 

こ、この……クズめ!

 

チキショウ! 反論出来ねぇ……

 

こんな事があったなど石上は知る由もない。

 

「まぁ石上が変に思うのもわかるよ、こういうのって本来生徒会の仕事だから。」

 

「あ、やっぱりそうなのか……じゃあなんで?」

 

大仏の言葉に石上が疑問をぶつける。

 

「まぁ要は、忙しいのを理由に生徒会が仕事を押し付けてきたって感じかな……」

 

「それはまた……」

 

石上の知っている生徒会は、自身も所属していたあの白銀御行率いる生徒会だけである。真摯に生徒と向き合い、学校行事にも手を抜かず真剣に取り組む男の背中を見続けて来た石上からすれば、中等部の生徒会は1つ、2つ格の落ちる存在であった。

 

「じゃあ僕も手伝うよ。」

 

石上の発言に教室が沸く。

 

「石上君マジでいいの?」

 

「石上先輩助かります!」

 

「い、石上本当にいいの?」

 

沸き立つ他の風紀委員とは違い、伊井野は申し訳無さそうな顔をして訊ねて来る。

 

「あぁ、大丈夫。男手は必要だろ?」

 

「そう、だけど……」

 

「ミコちゃん、石上がこう言ってくれてるんだからお願いしようよ。」

 

「……うん、では石上を含めたメンバーで振り分けを行います。」

 

メンバーの振り分けが終わると各班はそれぞれの持ち場へと向かった。

 

石上は体育倉庫の担当で他のメンバーは、伊井野ミコ、大仏こばち、2年の男子風紀委員となった。

 

「けほっ、埃が凄いわね……」

 

伊井野はハンカチを口に当て顔を顰める

 

「仕方ないよミコちゃん、ココって体育祭の備品しか置いてないから殆ど物置扱いだし……」

 

「マスクでも持ってくればよかったな。」

 

「仕方ないっすよ、先輩達さっさと確認して出ましょう。」

 

後輩に促され各々が備品確認に取り組む。

 

「……ん? なぁ大仏、コレってなんだ?」

 

「え? ……あぁ、それは体育祭のアナウンスで使う持ち運び出来るバッテリーだよ。」

 

「こんな所にそんなの置いてて大丈夫なのか?」

 

「まぁ大して埃被ってないし大丈夫じゃない? 充電すればまだ使えるみたいだけど、それは後で要確認で。」

 

「了解、持ち運び出来るバッテリーね……」

 

「石上どうしたの?」

 

「いや、なんでもない。さっさと終わらせよう。」

 

30分程で残りの備品確認を終わらせると、一同はやっと倉庫から解放された。

 

「ふう……意外とそのまま使える備品ばっかりで助かったねミコちゃん?」

 

「うん、こっちの備品は新しく申請する必要はなさそうだから助かったわ。」

 

「じゃあ今日は現地解散って事で! 先輩方おつかれさんでした!」

 

後輩男子はそれだけ言うと走って行った。

 

「もう、全くあの子は……」

 

「まぁまぁミコちゃん。石上も……今日はありがとね?」

 

「あぁいや、少しは役に立てたようで良かったよ。収穫もあったし……

 

「ん? 何?」

 

「いや、なんでもないよ。じゃ、2人共お疲れ。」

 

「うん、お疲れ様。」

 

「お、お疲れ様。」

 

石上は2人に背を向けて歩き出す。

 

「……」

(バッテリーか。じゃあ、後は……)

 

石上の思い付きが形を成すのは夏休み明けである。

 

 



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伊井野ミコは聞き出したい

感想ありがとうございます(゚ω゚)


この世には、エメットの法則というモノがある。仕事を先延ばしにする事は、仕事を片付ける事よりも倍の時間とエネルギーを要するという法則である。夏休みまで残り数日と迫った今日、此処に1人……エメットの法則に翻弄される少女がいた。

 

「……!」

(もうすぐ夏休み……夏休みに入る前に、石上と連絡先の交換をしないと!)

 

伊井野ミコ! あの中庭の一件をキッカケに何かと石上優と関わるようになった中等部3年風紀委員である! 精励恪勤、品行方正を地でいく優等生であり、普段から言いたいことはハッキリと口にする伊井野だが……

 

「……」

(ど、どうやって聞けばいいの?)

 

男子に自分から連絡先を聞くという行為は全くの未経験!何故ならば、伊井野は自身の持つ正義感と責任感から他者に厳しく、そして何より自分に厳しくして生きてきた。そんな伊井野に男の友人は唯の1人もいなかった! それどころか女友達も小等部からの付き合いである大仏こばち唯一人! 故に、石上に連絡先を聞く事を今の今まで先送りしていたのである! 同年代の人間に対するコミュニケーション能力の欠如……その皺寄せが今! 正に!! 伊井野ミコへ襲い掛かっていた!

 

(どうすれば……ハッ!)

 

伊井野はスマホを取り出すと、ポチポチと検索画面へ文字を走らせる……

 

(……異性への連絡先の聞き方で検索っと、コレで大丈夫なはず!)

 

マジである。この女、スマホの検索能力を過信する余り、普通の人間が自力で到達出来る結論を検索機能に頼るこの体たらく。そんな事を検索しても……

 

(普通に聞きましょう……ってそんな当たり前の事が知りたい訳じゃないのよ!)

 

そんな検索結果しか出ないのは当然なのである。

 

「ミコちゃん、さっきからどうしたの?」

 

「こ、こばちゃん……」

 

「うん?……あー、なるほどね。石上の連絡先が知りたいんだ?」

 

スマホ画面を覗き見した大仏は全てを察する。

 

「べ、別にそういう訳じゃ……」

 

「違うの?」

 

「違っ…わないけど……」

 

「ミコちゃん……いい? そんなしょうもない事で悩んでたりしたら、無駄に時間だけ浪費して後悔する事になるんだよ?」

 

……時空を超えてどこかの誰かに刺さりそうな言葉である。

 

「う、うん……わかってるんだけど……」

 

「石上なら聞けばすぐ教えてくれると思うよ?」

 

「うん。そうなんだろうけど、でもぉ……」

 

「はぁ……」

(ミコちゃんはホント、こういう所はザコちゃんなんだよね……)

 

「うー……」

 

「夏休みが始まってからじゃ遅いんだから、聞くなら今からじゃないとダメだよ?」

 

「うぅ、はい……」

 

「そうと決まれば今すぐ行くよ。ザコちゃん!」

 

「え?」

 

「……じゃなかった、ミコちゃん!」

 

「こばちゃん今なんて……」

 

「ほらっ、はやく行くよ。」グイッ

 

「ああぁ、こばちゃん待ってぇ!?」

 

………

 

「石上、ちょっといい?」

 

「大仏? 何か用か?」

 

「用があるのは私じゃなくてミコちゃんね。」

 

「伊井野が?」

 

「い、石上……その、れ、れ……」

 

「……ッ!」

(ミコちゃん頑張って!)

 

「れ、連絡先!お、教えて……ほ、ほら勉強の事とか委員会の事とかで連絡するかもしれないし!」

 

「あぁいいぞ、コレが僕の番号とIDな。」

 

「う、うん。」

 

「でも態々僕に聞きに来なくても、大仏に聞けば良かったのに。」

 

「あ……」

 

マジである。この女、異性に連絡先を聞くという非日常イベントに冷静に物事を考えることが出来なくなっていた。本来なら大仏と会った時点で解決出来ていた問題である。

 

「こ、こばちゃん……」

 

「……どうしたの?」ニコッ

 

故意である。この女、その事実に気づいていたにも関わらず、その解決法を意図的に秘匿! 親友である伊井野ミコの成長を願う……というのは建前! 親友が何の苦労も無く、石上の連絡先を手に入れる事に若干の抵抗を覚えるお年頃である!

 

「こ、こばちゃあああん!?」

 

何はともあれ伊井野ミコ、石上優の連絡先ゲット。

 



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石上優はダラけたい

夏休み! それは学生達のオアシス! 毎日の勉学や部活動、早起きからの登校など、日々の抑圧された欲望を全開で解放出来る期間。ある一定以上の仲の良い男女であれば、この期間の内に関係を一歩進める事も可能である。そんな解放と発展を秘めた夏休みに石上は……

 

「あー……」

 

ダラけていた! 本来この石上優という男、陰キャ界の申し子と言って差し支えない男である。逆行してからの3ヶ月、勉学に励み部活動に精を出し、風紀委員の助っ人としてデータ処理から雑用と多忙を極めていた。故に……

 

「うー……」

 

反動でこの様な状態になるのは自明の理であった。とは言え、石上にとって毎日の勉強は最早習慣となっており、キッチリと勉強の時間は取っていた。現在も午前分の勉強を済ませてダラけていただけである。

 

(うーん、中3の夏休みって何して過ごしてたっけ……ネットとゲームしてた記憶しかないな。)

 

本来なら中学3年の夏休み〜冬休みは受験に向け勉学に精を出す時期である。しかし!秀知院学園は内部進学者数を増やす為、秀知院高等部への進学試験は比較的緩く設定されている。対して外部進学する者にはまるで当て付けと感じるかの如く、その期間にイベントを盛り込んでいる。体育祭、クラスマッチ、文化祭等……高等部程露骨ではないが中等部に関してもそういった事が行われていた。

 

(……そういえば最近新作ゲームが発売されてたな、予約してないけどあったら買おうかな。)

 

石上は外着に着替えると、最近はご無沙汰していたゲームショップへ向け歩み始めた。

 

………

 

〈ゲームショップ〉

 

自動ドアを抜けると全身を覆う冷気に、先程まで体を纏っていた熱気が吹き飛んだ。

 

「ふぅ……」

(あー、生き返る……)

 

僕は新作ゲームが陳列された棚の前に陣取ると、目当ての商品を探し始める。

 

「うーん……あぁ、あったあった。」

 

「……石上?」

 

「え?……あ、龍珠先輩、どもっす。」

 

「ん、石上そのゲーム買うのか?」

 

「はい、暇を持て余してまして……先輩も何か買いに来たんですか?」

 

「いや、ぶらぶらしてただけ。それよりも石上……私もそのゲームやってんだよ、協力プレイしようぜ。」

 

「あ、いいっすね……でも、僕始めるの今日からですよ?」

 

「別にいいよ。あっちに長居しても文句言われない喫茶店があってさ、そこ行こうぜ。」

 

「はい、じゃあすぐ買って来ますね。」

 

「おう。」

 

僕は会計を済ますと、喫茶店へと向かう龍珠先輩の背中を追った。

 

………

 

「ミコちゃん、暑くて溶ける……何処か涼めるトコ入ろうよ。」

 

「うん、じゃあ喫茶店見つけたら入ろっか。」

 

「……ん? アレ、石上じゃない?」

 

「えっ、嘘!? どこ!?」

 

「ミコちゃん、慌て過ぎだよ。あの喫茶店に入って行ったよ。」

 

「ふ、ふーん……元々喫茶店に入るつもりだったし、丁度良いよね?」

 

「素直じゃないなぁ……」

 

「え、何?」

 

「んーん、なんでも。」

 

伊井野と大仏の2人は、降り注ぐ熱気から逃げる様に喫茶店へと入って行った……

 

………

 

カランカランと来客を告げる鐘の音に迎えられ、石上と龍珠は向かい合う形で席へと着く。注文を取りに来た店員にドリンクを注文し、懐からゲーム機を取り出す。

 

「じゃ、とりあえずキャラメイクしますね。」

 

「おう、あんま待たせるなよ。」

 

「僕、結構凝るタイプなんですけどね。」

 

「ふーん、キャラメイクねぇ……」

 

「居た! 石上、女の人と一緒にいる!?」

 

「ミコちゃん、とりあえず隣の席に行こ。仕切りがあるから、私達の事は見えないはずだし。」

 

伊井野と大仏は店員に注文を告げると、バレない様に素早く席へ着く。

 

「石上ってどういうタイプが好みなんだ?」

 

((っ!?))

 

龍珠の発言に、伊井野と大仏に衝撃が走る。

 

「そうですねぇ、やっぱり女性(タイプ)選んじゃいますね。」

 

「ふーん、やっぱりな。」

 

「石上は男なんだから当たり前でしょ!」

 

「ミコちゃん、それは偏見だよ。男×男も今の時代では、全然珍しい事じゃないんだよ?」

 

「今その話はいいでしょ!?」

 

「そりゃそうですよ、色んな服(装備)を着せる楽しみもありますからね。」

 

「コスプレ!?」

 

「男子ってそういうの好きそうだよね……ミコちゃんはコスプレするなら何が良い?」

 

「うーん、するならバニーとか……ってしないよ!?」

 

「ふーん、私はあんまり服(装備)は重視してないんだよ。最悪無くてもいいし、とりあえず強力な武器持ってたら良いって感じ。」

 

「いや、服は着てないとダメでしょ! 何その恋愛観!?」

 

「まぁ、そこらへんは人それぞれだから……」

 

「それも有りですね。」

 

「有りなの!?」

 

「……ん? なんか違和感が?」

 

「男は腰に布でも大丈夫でしょうけど、女(キャラ)だとそれだけじゃダメですからね。」

 

「いや当たり前でしょ! っていうか男だって腰布だけは、倫理的にアウトよ!」

 

「うーん……?」

 

「まぁ出来てバニーとか、水着着せるくらいですねー。」

 

「へ、変態!! こばちゃん、石上が変態!」

 

「ミコちゃんもさっきバニーコスプレしたいって……」

 

「別にしたいとは言ってない!! あぁもう! 石上がこんな変態だったなんて……」

 

「ねぇミコちゃん、多分この話の内容って……」

 

「……よし、準備出来ました。龍珠先輩、早速やりましょう。」

 

「おう、随分待たせやがって……よし行くぞ。」

 

カチカチとボタンを連打する音が仕切り板の向こう側から2人の耳に届いた。

 

「ゲームの話だと思うよ?」

 

「……へ?」

 

3時間後……

 

「ふぅ……結構やったな、石上も始めたばっかなのに中々やるじゃねぇか。」

 

「アハハ、それ程でもないっす。」

(前回やり込みまくってたし……)

 

「またやろうぜ、コレ私の連絡先な。ゲームの情報交換とかオンラインで待ち合わせとかし易いし、ちゃんと登録しとけよ。」

 

「うっす。じゃあ、なんか良い裏テクとかあったら教えますね。」

 

「おう、またな。」

 

「はい、また。」

 

カランカランと鐘の音を残し、龍珠は店を出ていった。

 

「……!」

(……僕にゲーム友達が!)

 

石上優、龍珠桃(ゲーム友達)の連絡先ゲット。

 

………

 

「……」

 

「……」

 

「ミコちゃんてさ……」

 

「言わなくていいからっ……」

 

「結構頻繁に恥ずかしい勘違いするよね。」

 

「うあぁん! 言わなくていいって言ったのに! こばちゃんのイジワル!」

 

 

 




こういうネタ難しい_:(´ཀ`」 ∠):


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石上優は夢を見る

感想ありがとうございます(`・∀・´)


「いいですか、石上君? 貴方も直に2年生へ進級し、人を従える立場になる人間です。」

 

「人を従えるって……四宮先輩じゃないんですから、僕にはそんなの無理ですよ。」

 

「私だって、別に常々人を従えている訳ではありません。ただ……何かを成し遂げたり目的を達成する為には、人という存在は必要不可欠です。ここまではいいですね?」

 

強い意志が宿った、その瞳に気圧される。

 

「それは、まぁ……でも、僕に人を従えるなんて出来る筈無いですよ。」

 

「貴方の場合、従えるというよりは利用すると言った方が良かったかしら。」

 

「人を……利用する……そんなの僕には無理です。どうやればいいのかも思い浮かびません。」

 

「……本当に?」

 

「え……?」

 

「貴方はその方法を目の前で見ているでしょう? ……さぁ思い出して。」

 

四宮先輩は僕に近寄ると、暗示をかける様に耳元で囁いた……

 

「あの時の……荻野コウの立ち回りを。」

 

「っ!?」

 

四宮先輩のその言葉に……いつまでも忘れられない、嫌な記憶がフラッシュバックする。

 

石上君、暴力じゃ愛は勝ち取れないんだ!

 

黙っていたら大友京子に手は出さないでやる。

 

……おかしいのはアンタの方よ。

 

「……僕に荻野みたいになれと、そう言いたいんですかっ!?」

 

四宮先輩の言葉に引き出された嫌な記憶に……思わず声を荒げて問い掛ける。

 

「……いいえ、勘違いしないで。貴方のその真っ直ぐな正義感は美点よ。出来る事ならそのままで居なさい。」

 

「だったらなんで……」

 

「良い悪いは別にして、荻野コウの立ち回りは周囲の人間と自分の置かれていた立場を巧く利用していたわ。咄嗟の判断力で自分を守る……マジョリティという鎧を創り出した。」

 

「……マジョリティ?」

 

「多数派という意味よ。あの場面で貴方に自分を殴らせ、それを複数の人間に目撃させ、演劇部で培った演技力で周囲の人間の印象をコントロールし見事味方に付けた……中々の小悪党ね。」

 

「……」

 

「……石上君、もしまた似たような場面に直面したら……貴方はどうするの?」

 

「それは……」

 

「……嫌な事を言ってごめんなさい。でもね、石上君……もし、また貴方がそんな場面に直面する時が来たら……逆に利用しなさい。」

 

「え……?」

 

「自分の立場を利用しなさい。自分の置かれた環境を利用しなさい。相手の人間性を利用しなさい。そして何より……周囲の人間を利用しなさい……貴方が辛い目に遭わない為にね?」

 

「四宮……先輩……」

 

「あの頃と比べると、貴方はとても強くなったわ。今後荻野の様な人間と対峙しても負けないくらいに……だから石上君。」

 

「……はい。」

 

「次は負けちゃダメよ。」

 

その言葉で……先程まで見えていた景色が自室の天井に切り替わった。

 

………

 

「夢……」

 

夢の中でも、変わらず後輩思いな四宮先輩の姿にフッと笑みが零れる。

 

「……」

 

次は負けちゃダメよ。

 

「はい、絶対負けません。」

 

僕の脳内に明確なビジョンが浮かんだのはこの時だった。

 

 




誤字脱字報告ありがとうございます(゚ω゚)


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見上げる夜空は変わらない(前編)

感想ありがとうございます(`・∀・´)


夏休み終了まで残り1週間を切ったある日の午後……夏休みの課題を片付けていた僕は、着信音を鳴らすスマホを覗き込む。着信画面には大仏の名前が表示されていた為、課題を中断し画面をタップする。

 

「もしもし、どうしたんだ大仏?」

 

〈石上さ……今忙しい?〉

 

「いや、大丈夫。何か用か?」

 

〈あのね、今日花火大会あるでしょ?……一緒に行かない?〉

 

「……僕と?」

 

〈あ、勿論ミコちゃんも一緒だよ。都合悪い?〉

 

「いや、問題ないよ。あんまり夏らしい事してなかったから、正直有り難いくらい。」

 

〈ふふ、そうなんだ。じゃあ……7時に待ち合わせで、ミコちゃんにもそう言っとくね。〉

 

「あぁ、わかった。それじゃ……」

 

電話を切ると軽く伸びをする。

 

「んーっ……さて甚平どこだっけ?」

 

………

 

甚平に着替え、待ち合わせ時間に間に合う様に家を出る。花火大会が行われる河川敷に辿り着くと、会場は熱気に包まれていた。様々な売り物をしている屋台、その屋台に集まる人の流れを目の当たりにし、柄にも無くテンションが上がる。

 

「……」

(そういえば……夏祭りなんて、会長達と行ったのが最後か……懐かしいな。)

 

かつての仲間達と、タクシーから見た花火が脳裏を過った。

 

「……さて、いつまでも突っ立っててもしょうがないな。伊井野と大仏を探さないと……」

 

石上は人混みを掻き分けながら歩き出した。

 

………

 

「ねーってば、俺と一緒に回ろうよ?」

 

「すいません、友人と待ち合わせをしているので……」

 

「そうです!そもそもナンパなんて軽薄な行いをする人なんて論外です!」

 

「えー、そんな事言わずにさぁ。可愛い子が居たらナンパすんの当たり前じゃん!」

 

「か、可愛い……?」ピクッ

 

「……ミコちゃん?」

 

「可愛い!マジ可愛い!待ち合わせしてる友達が来るまででいいからさ……ね?」

 

「そ、それくらいなら……」バシーンッ

 

「痛あぁあっ!?」

 

「あ、石上。」

 

「すいません、この2人は僕の連れなんで他当たって下さい。」

 

「ちぇー、しゃーねーかぁ……あ! そこのお姉さーん、今1人ぃ?」タタタッ

 

「やれやれ、おい伊井野……」

 

「こばちゃん、石上が叩いた! クズだよっ!」

 

「叩かれる様な事しなきゃいいのに……」

 

「伊井野、お前1人でナンパされそうな所には行くなよ。あと、変なスカウトとかにも気をつけろよ。」

 

「それは大丈夫。ミコちゃんがそういう場所行く時は、ちゃんと私もいるから。」

 

「なら安心か……」

 

「ちょっと!? なんで私が1人じゃダメな感じで話すの!?」

 

「ナンパする奴は論外って言った5秒後にお前なんて言った?」

 

「ミコちゃん、褒められるとすぐ許しちゃうから……」

 

「……まぁ無事合流出来たし、適当に見て回るか。」

 

「そうだね、ミコちゃんは何がしたい?」

 

「うーん、先ずはたこ焼き食べたい!」

 

1時間後……

 

「……凄いな。」

 

「うん、凄いね。ミコちゃん、さっきから休みなく食べてるもんね……」

 

「胸焼けしてきた……」

 

「私も……」

 

「あれ? 2人共どうしたの?」

 

「「……なんでもない。」」

 

「ふーん……あっ! りんご飴! りんご飴あるよ、こばちゃん!」

 

「わ、私は大丈夫だから……ミコちゃん行ってきなよ。」

 

「美味しいのに……」

 

伊井野は口を尖らせ呟くと、りんご飴を売っている屋台へと小走りで向かって行った。

 

「……そういえば石上、私達と花火大会なんて来て良かったの?」

 

「ん? どういう意味?」

 

「少し前に、喫茶店で女の人と一緒に居るトコ見たからさ……彼女とかじゃないの?」

 

「喫茶店……あ、あの人は違うよ、ゲーム友達。」

 

「ゲーム友達? ふーん……石上にそんなの居たんだね。」

 

「あぁ、この前風紀委員の書類を高等部に届けた日に知り合ってさ……意外か?」

 

「意外と言えば意外かなぁ……石上って人と距離を置きがちじゃない? 2年の時は石上が特定の人と一緒のトコなんて見た事なかったし。3年になってからは……勉強とか部活も頑張ってて、風紀委員の助っ人もしてたり……知ってる? 最近、石上の評価上がってるらしいよ?」

 

「へぇ、そうなのか……」

(いざって時の為に打算で始めた事でも、評価されるのは嬉しいもんだな。)

 

「私もミコちゃんも……石上には助けてもらったしね。」

 

「別に恩を感じる必要は無いよ、僕が勝手にやった事なんだから。」

 

「うん、石上ならそう言うよね。」

 

僕は大仏の事、ちゃんと見てたよ。

 

(でも、あのセリフはズルいよね……)

「流れで聞いちゃうけどさ……石上って好きな人とか居ないの?」

 

「……」

 

「……石上?」

 

「……居ないよ。」

(僕に好きな人は……もう居ない。あの卒業式の日に、僕の初恋は成就する事なく終わりを迎えたのだから。)

 

あの日を思い出すように空を見上げると……変わらない夜空が僕達を見下ろしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




石×つば派の人すいません( ;∀;)


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見上げる夜空は変わらない(後編)

つばめ先輩が秀知院を去る卒業式当日……不思議と僕の心は穏やかだった。つばめ先輩に振り向いてもらう為、そして釣り合う男になる為に自身の研鑽に明け暮れた日々……三学期の期末テストでは、目標にしていた50位内に入る事が出来た。やれる事はやった……残るは卒業式の後、つばめ先輩に告白するだけだと自分を鼓舞した。だけど、結果的に僕の初恋は成就する事はなかった。つばめ先輩は……いつも優しい笑みを浮かべていたその瞳から、大粒の涙を流して僕に言ったのだ。

 

ごめんなさい

 

優君は悪くない

 

私が臆病だから

 

涙ながらにそう話す彼女を見て僕は、振られた事よりも……いつも太陽の様な笑顔を浮かべていた彼女を泣かせてしまった事が、何よりもショックだった。両手で目をこすり、それでも溢れる涙を止められない彼女を僕は……只々見ている事しか出来なかった。

 

3月の事故から2年前の4月に逆行しても……その事に関してどうこうする気持ちは少しも湧かなかった。大泣きする程……不安で、悩んで、苦しんで、罪悪感を感じて、その全てを一身に受け止めた……つばめ先輩が伝えてくれた告白の返事を無かった事にする様な行動を取る事は……どうしても出来なかった。それでも、つばめ先輩と別れる寸前……1つだけ言えた事がある。

 

それは、心からの本心……つばめ先輩を好きになって良かった。

 

その言葉を聞いて更に号泣する彼女を慰めながら、不意に見上げた夜空は……いつもと変わらずに僕達を見下ろしていた。

 

………

 

「……上、石上! 大丈夫?」

 

「ん、あぁ悪い……ボーッとしてた。」

 

「何処かで休憩する?」

 

「いや、大丈夫。」

 

「でも……」

 

「こばちゃん、こばちゃん! 見て、りんご飴アタリだからってもう一本もらっちゃった!」

 

「りんご飴で……」

 

「アタリ棒?」

 

走って来た伊井野の発言に僕と大仏は困惑する。

 

「うん、買ってすぐ食べたら棒にアタリって書いててね。もらったの!」

 

「すぐ食べたのか……」

 

「よくあの短時間で食べられたね、ミコちゃん。」

 

「人をそんな食いしん坊みたいに言わないで!」

 

(いや、そんな可愛らしい言い方じゃなかっただろ。)

 

(ミコちゃんは、食いしん坊よりは大食漢って言った方がしっくりくるかなぁ……)

 

「石上……はい。」

 

「え?」

 

「は、早く受け取りなさいよ。」

 

「ミコちゃんが人に……」

 

「食べ物を渡すなんて……」

 

「ちょっと! 2人共何よそれ!」

 

「だって……なぁ?」

 

「うん、ミコちゃん一体どうしたの?」

 

「……お礼。」

 

「え? 伊井野なんて?」

 

「だからっ! お礼! 風紀委員の事とか、中庭の時とか……」

 

「……そっか、じゃあ有り難く頂くよ。」

 

「ん。」

 

伊井野は顔を伏せたまま、りんご飴を差し出す。落とさないように気をつけながら受け取り、そのまま一口食べてみる。カリッという音と共に、口の中に甘みが広がった。

 

「甘いな……」

 

「当然でしょ、りんご飴なんだから。」パーン

 

伊井野の言葉に被せる様に、頭上から破裂音が響いた。

 

「あっ……」

 

「花火……」

 

「もうそんな時間になってたのか。」

 

1つ目の花火を追いかけるように、次々と花火が打ち上がる。まるで……真っ黒なキャンバスに大輪の花を描く様な幻想的な光景に僕達は只々空を見上げていた。30分もしないうちに最後の花火が舞い上がり、パラパラと火花が落ちる音が聞こえる。全ての花火が散り終える……それは帰路に着く合図だ。

 

「そろそろ帰るか、伊井野食べ残したモノとかないな?」

 

「なんで食べ物限定なのよ! もう無いわよ!」

 

「そりゃ、あれだけ食べたらね……」

 

「こばちゃんまで! まだ腹八分目くらいだもん!」

 

「えー……」

 

「うわぁ……」

 

「何よもう!」

 

軽口を伊井野や大仏と言い合いながら帰路に着く。あの時に見上げた夜空も……今日の夜空も変わらないけれど、僕はアレから色々と変わる事が出来たと思う。巻き戻った時間を生きて、少しずつ自分を変えて、心残りを少しずつ無くして、未来に待つ悲劇を無くしたくて僕は……

 

「石上、ボーッとし過ぎ。」

 

「どうしたの?」

 

前を行く2人の呼び掛けに答える。

 

「なんでもないよ、帰ろうか。」

 

もうすぐ夏休みが終わる……新学期が始まれば、荻野の件に決着をつける時が来る。その為の準備も、策も用意した。足りないモノは、ほんの少しの勇気だけ……

 

お前はおかしくなんてない

 

次は負けちゃダメよ

 

会長と四宮先輩の言葉を思い出した僕に、足りないモノは無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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石上優は呼び出す

誤字脱字報告ありがとうございます( ̄^ ̄)ゞ


夏休みが明けて1週間が過ぎた頃……僕は逆行する前と今回で、明確に違う点がある事に気が付いた。それは……

 

「おはよ! 石上君。」

 

「あぁ、おはよう大友。」

 

大友は僕に朝の挨拶を済ませると、友人達の集まる席に歩いて行き会話に加わる。

 

「はぁ〜、彼氏欲しいなぁ……」

 

「京子ったら、また言ってる。」

 

「もう私達で独り身同盟作る?」

 

「それはいやぁ〜!」

 

面白おかしく話す女子グループの会話が聞こえて来る……どうやら、大友は荻野と付き合っていないらしい。前回の今頃は、既に放課後の教室で逢引をしていたはずだ。でも付き合っていないのなら、それは僕にとっては好都合だ。荻野がどうなろうと、恋人じゃないのなら大友が傷付く事はないだろう……不意に昔、四宮先輩に言われた事を思い出した。

 

………

 

「石上君、確かに貴方の取った行動は並大抵の人間には出来ない事です。大友京子の笑顔を守りたいという貴方の想いはとても尊いモノ。でもね、石上君……貴方は大友京子を守ったと同時に、彼女の成長する機会を奪ったとも言えるのよ?」

 

「成長する機会……?」

 

「そうよ。貴方が荻野の事をあの場で公表すれば、彼女の心は少なからず傷付いたでしょうね。もしかしたら男性に対して恐怖を感じる様になるかもしれない……でも、荻野の様な男に騙される可能性は低くなる。」

 

「それは……」

 

「彼女はこれからも高校、大学と色々な人間と出逢うでしょう。もしかしたら、また荻野の様な人間に出逢うかもしれない。石上君、貴方……その度に自分を犠牲にして助けるつもり?」

 

「それは……確かに四宮先輩の言う通りだと思います。でも荻野はっ!」

 

「黙っていれば危害は加えない……そう脅されたと言いたいの?」

 

「……ッ」

 

四宮先輩の言葉に、僕は何も言えなくなってしまった……

 

「はぁっ……どうして貴方が守ってあげないのよ。」

 

「え?」

 

「彼女に危害が及ぶなら危険がなくなるまで貴方が守る、それで良かったんじゃないの?」

 

「でも、僕なんかじゃ……」

 

「……自分に自信がないのは貴方の悪い所よ。私は言ったはずよ、頑張って良い男になりなさいと……いい? 良い男というのは常に自分に自信を持ち、他者への気遣いを欠かさず、勉学に打ち込み……鋭い眼光を放ち……路地裏で隠れて泣いている女の子を見つけ出す事が出来る……そういう人が……」モジモジ

 

「……ん? もしかして会長の事言ってます?」

 

「んんー!? ま、まぁ客観的に見てね? 主観じゃなくてあくまで客観的に見た話ね!? コホンッ……とにかく! もっと自分に自信を持ちなさい、わかったわね?」

 

四宮先輩はそう言うと僕の頭をポンポンと叩いた。

 

「……っス。今すぐは無理ですけど、頑張ってみます。」

 

「ふふ、それでいいのよ。」

 

………

 

四宮先輩……それでも、やっぱり僕は大友が傷付かないで済むのならそうしたい。僕は準備していた封筒を隙を見て荻野のロッカーへと投入した。

 

〈明日の昼休みに放送室で待つ〉

 

シンプルな文だけど、証拠も一緒に同封したから荻野は来るだろう。

 

「……」

 

いよいよだ……あの時は何も言えなかったし、何も出来なかった……だけど、いつまでも引きずってなんていられないんだ。

 


 

くそッ! いつからバレていた!?

 

いや、そもそも一体誰が……こんな事でコケる訳にはいかないっ……

 

明日の昼休みに放送室で待つ、か……警戒するに越した事はないな……

 

 

 

 

 

 



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石上優は断罪する

感想ありがとうございますm(_ _)m


次の日、昼休みまでの授業は心を落ち着かせる事に費やした。昼休みを告げるチャイムの音が鳴り響き、僕は一目散に放送室へと向かい放送室の中に入ると機材に凭れ掛かり荻野を待つ。

 

「……」ガチャッ

 

ドアノブが回され扉が開くと、室内を覗き込む1人の男子生徒……荻野と視線がぶつかった。

 

「アレ? 確か、石上君……だったよね?一学期の期末で一位取った……どうして此処に?」

 

「猫被らなくてもいいぞ……お前を呼び出したのは僕なんだから。」

 

「へぇ……そう。それで何の用? あんなモノまで寄越して。」

 

「単刀直入に言う、あんな事はもうやめろ。」

 

「……大事にするつもりはないって事?」

 

「それはお前次第だ。」

 

僕の発言に付け入る隙があると判断したのか、荻野の顔を期待と安心の色が彩った。

 

「ふーん、そっかそっか。でもこっちにも付き合いってもんがあるんだよね。急に女の子の供給が出来なくなるのも困るんだよ。なぁ石上、お前にも女回してやるからさ……黙っててくれない?」

 

荻野は……あの時と同じ様に、厭らしい笑みを浮かべてそう提案してきた。

 

「お前は、人をなんだと思ってるんだっ……」

 

「そんなに怒るなよ。なんだったら、特別にお前好みの女の子を仕入れてやっても……」

 

「そんなモノは要らない……荻野、本当にやめるつもりはないんだな?」

 

「……石上、お前の狙いはわかってんだよ。」

 

「……狙い?」

 

「しらばっくれるな、態々放送室に呼び出したんだ……警戒するのは当たり前だろ。お前この会話を校内放送で流すつもりだったんだろ?」

 

荻野の問いには答えず、続きを促す。

 

「……それで?」

 

「ハハハッ! 残念だけど、此処に来る前に放送室のブレーカーは落として来た。お前の思惑は失敗したって訳! でも此処から出た後にバラされたんじゃ堪らないな、誤魔化すのも手間が掛かる……なぁ石上、最近お前……風紀委員の2人と仲が良いみたいだな?」

 

荻野のその言葉に思わず体が硬直する。

 

「風紀委員……しかも校内の嫌われ者2人と仲が良い変わり者、石上クン? もしお前がこの事をバラせばあの2人……どうなるかわかんないよ?」

 

僕が思っていた以上に、荻野はクズだった。関係の無い女子を平気で巻き込める程の。だけど……

 

「知ってるよ、お前が……臆病だって事は。」

 

「は?」

 

「良くある話だろ?放送設備のある場所で暴露話をしたらスイッチが入ってて筒抜けって事が……だから態々此処に呼び出したんだ。荻野、お前はクズな行いをする割に臆病で警戒心は薄い。僕に簡単に尻尾を掴まれたのがイイ証拠だ。そして、後ろ暗い事をしている人間が放送室に呼び出された……まず間違いなく会話が校内放送される事を警戒する。」

 

「……それがどうした、当然だろ!?」

 

「だから、お前がその事実に気付く事が……僕の狙いだったんだよ。お前は此処に来る前にブレーカーを落とした。だから油断して本音で喋るし、平気な顔して僕を脅迫までする……」

 

「……何が言いたい?」

 

「……お前を此処に呼び出した理由は、この部屋が校内唯一の防音設備のある部屋だからだ。」

 

「……は?」

 

意味がわからないと表情が告げる荻野に続ける。

 

「だから……お前に好き勝手喋ってもらうのが僕の狙いだったんだよ。外からの音に惑わされずに、自分の口で……荻野コウという人間がどういう奴なのか……」

 

僕は隠してあった持ち運び型バッテリーを持ち上げた。放送機材とバッテリーは二本のコードによって繋がっている。

 

「な、なんだよそれっ!?」

 

自身の頭に浮かんだ考えを振り払う様に、荻野は声を荒げた。

 

「この機材は少しだけイジってあってね……電源が落ちると、こっちのバッテリーに自動で電力供給が切り替わるようになってるんだ。」

 

「で、電源が落ちるとって……お、お前……」

 

「だから、お前がブレーカーを落としてもこの機材は普通に使える……さっきまでの会話は筒抜けって事なんだよ。」

 

………

 

〈や、やりやがったなああああああっ!!?〉

 

荻野の叫びが校内に響き渡った。

 

「え、これマジなの?」

 

「荻野って演劇部のヤツだよな?」

 

「うわっ、荻野君ってこんな奴なんだ、最低。」

 

クラス中が校内放送で流れて来る2人の会話に騒つき出した。

 

「ミコちゃん、これ……」

 

「石上……」

 

………

 

荻野はその端正な顔を歪め、此方を睨みつける。

 

「ぐうぅっ、石上お前! よくも……あの2人がどうなってもいいって事かよっ!?」

 

「……」

 

「友達を見捨てるって訳? へぇ、大した正義感だな……」

 

「僕が守るよ。」

 

「……あ?」

 

「2人に危険が及ばなくなるまで、僕が……2人を守る。」

 

「このっ……!」

 

その直後……荻野との会話は、放送室になだれ込んで来た教師陣により止められた。最初、一部の教師から学園の評判の為に荻野の件は学内で片付けるべきという意見も出たが、放送により全校生徒が聞いていた事と荻野の行いに事件性があった為、警察への通報を余儀なくされた。荻野が教師に両脇を抱えられ連れて行かれる所を見送ると、はーっと深く息を吐いた。

 

「……」

 

お前はおかしくなんてない

 

次は負けちゃダメよ

 

(会長、四宮先輩……全部終わりました。ずっと変わりたい、弱い自分から抜け出したいと思っていました。僕は、少しは変われたと思います。2人の言葉があったから頑張る事が出来ました。支えてくれて……本当にありがとうございました。)

 

僕は残っていた教師に職員室へと連れていかれた。意図的に問題を大きくし、バッテリーの無断使用、恐らくは何らかの処分が下るだろう……だけど、僕の心は満たされていた。

 

 

 



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石上優は忘れたい

感想ありがとうございます(`・∀・´)


あの後……職員室に連れて行かれた僕は、事の詳細を学年主任の教師に話した。教師に一切の相談をしなかった事とバッテリーの無断使用についての叱責を受けたが、それ以外について咎められる事は無かった。僕には反省文の提出が課され、荻野については緊急会議の後、警察署に連れて行くらしい。

 

「失礼しました。」

 

「待て。」

 

職員室を出て教室に戻ろうとすると、学年主任に呼び止められた。

 

「石上、今はやめておけ。多分お前が教室に戻ると授業にならん。とりあえず、今日は終業時間まで保健室に居てくれ。」

 

その言葉に確かにそうだと思い直す。

 

「確かにそうですね……あ、鞄が教室に置いたままなんですけど……」

 

「そうか、後で誰かに持って行くように言っておこう。とりあえず、授業が始まったら保健室へ向かってくれ。」

 

「わかりました。」

 

授業開始のチャイムが鳴るのを待って保健室へと向かう。保健室に入ると保健医も居なかった為、勝手にベッドに横たわる。ベッドに横になると眠気に襲われ、少しずつ瞼が下がり始めた。

 

(……眠い。そういえば、最近ちょっと……寝不足、だったっけ……)

 

荻野の件が終わり気が抜けた為か、僕の意識はアッサリと沈んで行った……

 

………

 

「……君、石上君!」

 

パチリッと目を開けると、此方を見下ろす大友と目が合った。

 

「……大友?」

 

「石上君、鞄持って来たよ。」

 

「大友が持って来てくれたのか、ありがとう。」

 

「ううん、気にしないで。それより……凄い事になってるよ? 私達のクラスもだけど、他のクラスも荻野君の話題で持ち切り。」

 

「そりゃ、そうだろうな……」

 

「うん……はぁー、荻野君があんな人だったなんて……付き合わなくて良かったよ。」

 

「……え?大友、今なんて?」

 

大友のその言葉に思わず聞き返す。

 

「えーと……私ね、ちょっと前に荻野君に告白されたんだ。」

 

「そ、そうだったのか?」

 

「うん、意外?」

 

「意外っていうか……なんで断ったんだ?」

 

「別に荻野君のしてた事を知ってたとかじゃないよ? 今日初めて知ったし……」

 

「それはそうだろうけど……」

 

「……なんかね、違うなぁって思ったの。」

 

「違う……?」

 

「うん、石上君はさ……3年生になってから凄い頑張ってたよね? 部活も勉強も頑張って、クラスの雑用とか……風紀委員の手伝いもしてたでしょ? そういうのを見てたらね、荻野君の笑った顔とか言葉が……凄く嘘っぽく見えちゃって……」

 

だから振っちゃった……そう洩らす大友に、僕は言葉を失った。

 

「だから……私が荻野君と付き合わずに済んだのは、石上君のお陰って事になるのかな? 石上君が頑張ってるの見てたから、私は荻野君の告白を受けずに済んだ訳だし……だから石上君、ありがとう!」

 

「そうか、僕がっ…頑張ったからかっ……」

 

大友のその言葉を聞いて僕は……涙を堪える事が出来なかった。

 

「え!? 石上君、大丈夫!? どこか痛いの!?」

 

「違う、違うんだ大友っ……なんでもないんだっ……!」

 

慌てる大友を見てふと思う……別に見返りが欲しかった訳じゃないし、感謝して欲しかった訳でもない。でも、もしかしたら僕は……大友に見てもらいたかっただけなのかもしれない。過去に戻って……頑張って、変わった僕の事を。

 

「そろそろ授業始まるし、私は教室戻るね?」

 

「あぁ、鞄ありがとな。」

 

「うん、また明日ね!」

 

「……また明日。」

 

大友が出て行った扉を見つめ、閉まるのを確認すると……

 

「………ッ」←先程までの自分を思い出し中

(……ああああぁああぁああ!!? 恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしいぃぃぃ!!? 大友の前で泣いてしまったあああっ!!?)

 

黒歴史!! 年頃の男子が女子の前で涙を流す……それは男子にとって耐えがたい恥辱である! 女子が近くにいれば例え、小指をタンスの角にぶつけようが、脛を強かに打ち付けようが、ウルシゴキブリを目の前にしようが歯を食いしばりなんでもないような顔をするのが男子という生き物である! 故に……

 

「むごおぉお!!? うごおぉお!!!」バタバタッ

 

枕に顔を埋めて悶絶するのは、必然的行動であった……何はともあれ石上優、過去との決別完了。

 

 

 

 

 

 

 



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風紀委員は逃げ出したい

感想ありがとうございます( ̄^ ̄)ゞ
とりあえず自己満でまだ続ける予定なのでこれからもよろしくお願いします(−_−;)


石上優が職員室で事件の詳細を教師に伝えている頃……伊井野ミコ、大仏こばちが所属するクラスで2人は……

 

「あ、あのバカっ……」

 

「くぅぅ……」

 

恥ずかしさのあまり、居た堪れなくなっていた!

 

理由は先程の校内放送による、石上と荻野の会話の中で出たこの発言!!

 

 

僕が守るよ

 

 

2人に危険が及ばなくなるまで

 

 

僕が……2人を守る

 

 

Presented by Yu Ishigami

 

 

思春期の女子が最近、好意的に見ている男子からのこの発言! このクラスのみ荻野の件よりも石上の発言で場は騒然としていた!!女子の黄色い声や男子の口笛が乱舞する教室で2人が取った選択は……

 

「……ミコちゃん顔真っ赤だよ?」

 

「……こばちゃんも耳、赤くなってるよ?」

 

立場の押し付け合い! 普段はお互いに助け合う親友同士……だがあまりの恥ずかしさに両者、相手に自分以上に恥ずかしがってもらいクラスメイトの好奇の目から逃れる方法を取る!しかし……

 

「「くぅぅっ……」」

 

共倒れになっただけであった。

 

………

 

〈保健室〉

 

「ふー、なんとか耐えられた……」

 

なんとこの男、放課後まで悶え苦しむ事凡そ2時間! 只々己の心を喰らう羞恥心と闘っていた!

 

「女子の、しかも大友の前で泣くなんて……あ、思い出したらまた……スーハースーハー! ふぅ、まぁあんな恥ずかしい思いするなんて一回限りだろうし。」

 

石上は余計なフラグを立てた。

 

「……そろそろ行くか。」

 

………

 

〈風紀委員室〉

 

「やっと終わった……」

 

「とりあえず逃げて来たけど、誰もいなくて良かったねミコちゃん……」

 

「ホントにね……石上の所為でとんでもない目に遭ったわ。」

 

「私1ヶ月くらい学校休みたくなっちゃった。」

 

「サボりは良くないけど、私もちょっとだけ。」

 

「失礼します。あ、やっぱり此処だったか。」

 

「「い、石上!?」」

 

「ん? どうした、なんかあったのか?」

 

アンタの所為でしょうが!

 

「くぅっ……な、なんでもない!」

 

とは言えない伊井野ミコであった。

 

「石上、その……教室に戻ってないみたいだったけど、大丈夫だった?」

 

「あぁ問題ないよ。教室に戻ったら授業にならないからって言われて、ずっと保健室に居たんだ。罰も反省文だけで済んだ。」

 

「そっか、なら良かった……」

 

「……2人には怖い思いをさせて悪かった。まさか、荻野の奴が2人に危害を加えるなんて言うとは思わなかったんだ。」

 

「「ンンンーーッ!!?」」

 

石上、まさかの自身の恥ずかしいセリフを吐く羽目になった話題を自ら振る!

 

(嘘でしょ!? 自分からその話題振るの!?)

 

(石上、正気なの……?)

 

「だ、大丈夫! 石上が気にする事じゃないし!」

 

「そ、そうそうミコちゃんの言う通り……気にしないで!」

 

「……ありがとう。でも、暫くは僕が2人を家まで送るよ。」

 

「「っ!?」」

 

「で、でもそんな迷惑掛けられないし……」

 

「そ、そうだよ、石上に余計な負担が掛かる事になっちゃうし……」

 

「それでもし何かあったらどうするんだよ。言ったろ、僕が守るって。」

 

マジである。この男、自分の発言の異常性に気付いていない! かつて四宮かぐやに恋愛相談を持ち掛けた際も、告白やデートプラン、果てはプレゼントにまでその常軌を逸した価値観を反映し、四宮かぐやをドン引きさせた過去を持つ!! 鋭い観察眼を持ち他者に関する事ならば些細な事にも気付く石上だが、自身にはその効果が全く発揮されなかった!! 詰まる所この男、自身の発言に関して全く恥ずかしいと思っていないのである!

 

(も、もう……)

 

(お、お願いだから……)

 

((勘弁してぇぇ!!))

 

思春期の女子にはなんとも酷な状況であった。

 

 

 




64話、158話とか読む限り石上はクサイ台詞に抵抗がないと判断しました。……抵抗がないというか、そもそもクサイと思っていない可能性すらありますね……


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荻野コウは逃げられない

感想ありがとうございます(`・∀・´)
修正しました。✌︎('ω'✌︎ )


季節は夏から秋へと移り変わり、暦は10月へと進んだ。荻野の事件から1週間は、色々と質問攻めにされたり遠巻きに眺められたりしたけれど、特に問題なく過ごす事が出来た。そして事件の当事者である荻野は、数日で秀知院を去った。退学処分か転校かはわからない。どういう訳か、教師に聞いても知らぬ存ぜぬの一点張りで詳細不明なのだ。まるで、誰かの圧力で箝口令が敷かれたように……最早習慣となりつつある伊井野と大仏の送迎を済ませると、最近中等部に現れた噂を思い出す。かつて荻野の仲間だった奴等が……次々と警察署に自首をしているという噂を。

 


 

10月某日、秀知院学園高等部生徒会室……

 

「会長、お聞きになりました? 先月、中等部で起きた事件について。」

 

「あぁ、妹から聞いたよ。なんでも……女子生徒を他校の男子に斡旋していた生徒の悪行を校内放送で暴露したそうじゃないか。」

 

「えぇ、当時は昼休みで生徒は勿論、教師達も聴いていて中々の騒ぎになったそうですよ。」

 

「確か名前は、石上……」

 

「石上優、中等部の3年生ですね。……少々興味深い経歴の持ち主です。」

 

「珍しいな、四宮が他人に興味を持つなんて。」

 

「会長もきっと興味を持ちますよ。石上優……彼は2年の終わりまで成績は下の中、良くて下の上程度の人間でした。しかし、3年になると最後の大会が迫った陸上部へ再入部し、都大会入賞を果たします。次いで学期末テストで一位を獲得、それ以降は所属もしていない委員会の手伝いをしたりと人が変わった様だと一部の人間から噂されています。」

 

「……3年に進学したのを機に、自身の行いを改めたとは考えられないか?」

 

「人はそこまで急激に変わる事など不可能です。」

 

「だが……」

 

「えぇ、事実変わっているので有り得ない事ではないのでしょう。私が興味を持ったのは、実はそこではありません。」

 

「む? では一体何処に……」

 

「話は戻りますが、事件の当事者は荻野コウという生徒らしいのですが……消息不明なんです。」

 

「何……?」

 

「調べてみましたが、詳しい事情を知っていると思われる教師には箝口令が敷かれていました。そして最近……荻野コウの悪友達が全員警察署へ自首をしたそうです。」

 

「……何者かが裏で動いていると?」

 

「ふふ……誰か聞いたら会長、驚きますよ?」

 

「四宮は知っているのか?」

 

「少々苦労しましたが、四宮家の情報網に掛からないモノはありません。」

 

「一体誰が……」

 

「……龍珠組ですよ。まさか彼女がこの様な動きを見せるとは思いませんでした。」

 

「龍珠が? 一体何故……」

 

「さぁそこまでは……必要なら調べてみますが?」

 

「……いや必要ない。アイツがそういう行動を取るのなら、それなりの理由があるんだろう。あまり深追いするべきじゃない。」

 

「……そうですね。そういえば、再来月の奉心祭の予算の件ですが……」

 


 

〈喫茶店〉

 

「遅い。」

 

「えぇー、急な呼び出ししといてそれですか龍珠先輩。」

 

いつもの様に伊井野と大仏の2人を送り届け帰ろうとした直後、龍珠先輩から……〈いつもの喫茶店〉というシンプル極まりないメッセージで僕は呼び出された。

 

「いいから座れ、時間は待っちゃくれねぇぞ。」

 

「まさか先輩……期間限定イベント手伝わせるつもりですね?」

 

「わかってるんだったら、早くログインしろ。」

 

「態々喫茶店で待ち合わせなくても……」

 

「バカ、こういう協力イベントは集まってするもんだろ。」

 

「まぁ……一理ありますね。」

 

「ほら、早くしねぇと出遅れるぞ。」

 

「……目当てのアイテム手に入らなくても、拗ねないで下さいよ。」

 

「……私がいつ拗ねた?」キッ

 

「……」

(割と頻繁に……とは言えない。)

 

龍珠先輩の此方を睨む視線を受け流しながらゲームを開始する。

 

「っし! やるぞ石上。」

 

「うっす。」

 

ゲーム友達との夜は更けていく……

 


 

10月某日某所……

 

「……ッ」

(なんでっ、なんで俺がこんな目にっ……!)

 

あの日、石上に嵌められた俺は教師に付き添われ警察署に連行された。取調室では黙秘を貫いた。既に親には連絡が入っているだろうから、揉み消してくれるまで耐えればいい……そう思っていた。だが、予想に反してその日のうちに俺は警察署から解放された。親が速攻で揉み消しをしてくれたと、気分良く警察署を出て真っ直ぐ家に帰る。こういう時くらいはすぐに帰らないとな……と何の警戒もせずに家のドアを掴もうとした瞬間、背後から何者かに羽交い締めにされ車に放り込まれた。車の中で目隠しをされ、両手を縛られて、ガムテープで口を塞がれる。何がなんだかわからない、何故俺がこんな目に遭うんだと必死で叫ぶが濁音の付いた音にしかならない。暫くすると、車が止まり担がれて移動させられる。

 

「オラよっと!」ドサッ

 

「ぐぅっ!?」

 

床に落とされると、目隠しとガムテープを剥がされてやっと周囲の状況が把握できた。

 

「痛っ…な、何がっ……!?」

 

目の前には、明らかにその筋の人間と確信出来る容姿の大人達が此方を見下ろしていた。

 

「な、なんなんだよアンタ達は!? ……コレは犯罪だぞ!?」

 

「ボウズに言われたかねぇな。」

 

「お嬢からダチが困ってたら助けるように言われてたが……中坊にしちゃ中々の手際だった。流石、お嬢がダチと認めた奴だ。」

 

「お、お嬢って誰だよ!? 僕にそんな友達は……」

 

「お前じゃねぇよ。」

 

ドスの効いた声に息が詰まる。

 

「まさか、石上……?」

 

「おう、石上のボウズはお嬢のダチでな……中坊がこんな問題に関わるたぁ思わなかったが……」

 

「そ、それでアンタ達は一体……」

 

誰だと聞こうとした時、目の前の男が着ているスーツに小さく刺繍された部分が見えた。

 

〈龍珠組〉

 

「り、龍珠組っ!?」

 

「やっと気付いたか……」

 

なんで……なんで龍珠組が出てくるんだよ!?石上にこんな後ろ盾があったなんてっ……

 

「言っておくが、石上のボウズは俺らの事は知らん。お嬢に言われて勝手に動いとるだけや。」

 

龍珠組、お嬢……まさか……秀知院で絶対に敵対してはいけない要注意人物の1人……龍珠桃?

 

「ア…アッ……」ガクガクッ

 

その事実に行き当たると、ガクガクと体が震え出した……

 

「ご、ごめんなさい……もうこんな事はしません! だからっ!!」

 

「じゃ、誠意っちゅうもん見せてもらおうか?」

 

「せ、誠意?」

 

「お前の胸糞悪い遊びに関わった人間、1人残らず言え……1人残らずだ。」

 

「は、はい! 言います! 教えます!!」

 

「もし、後になって言い残した奴が見つかったら……」

 

「み、見つかったら……?」

 

「お前……龍珠組から一生逃げ続けるだけの人生を送りたいか?」

 

その言葉に……選べる選択肢は残っていないのだと理解した。

 

「ア…アァ……」

 

もう逃げられないと……恐怖で意識を失う寸前に見えたのは〈龍〉の文字だった。

 

 

 

 



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小野寺麗は探りたい

感想ありがとうございます(`・∀・´)


私には最近……気になる男子がいる。気になると言っても、それは恋愛的な意味じゃない。強いて言えば……好奇心? だと思う。キッカケは、先月に起きたある事件……

 

昼休み……いつもの様に友達と机を並べてお弁当を食べていると、男子2人の話し声が校内放送で聞こえて来た。どうやら、話している2人は荻野と石上というらしい。荻野は確か演劇部の人間だ……話の内容は荻野の最低な行為(自分と関係を持った女子生徒を脅し、他校の生徒に貸し出していたと後で知った)を糾弾するモノだった。いつの間にか昼休みの喧騒は鳴りを潜め、皆が放送に耳を傾けていた。

 

荻野は最初見逃してもらうように交渉してたけど、通用しないと気付くと今度は、石上と仲の良い風紀委員2人に危害を加えない事を交渉材料に脅しをかけ始めた。風紀委員の2人と仲の良い男子生徒……という情報でやっと石上という男子生徒が誰かわかった。いつも2人で行動してる風紀委員の伊井野ミコと大仏こばち……周りからは、あまり良い評判を聞いた事がないけど……最近男子と一緒に居る所を何度か目撃した事があった。風紀委員、しかも堅物な伊井野ミコと多数の女子に嫌われている大仏こばちと一緒に居るなんて物好きだな……と思った。

 

どうやらこの校内放送は石上の策略で、荻野の行いを全校生徒に周知する事が目的だったらしい。荻野の叫び声が校内に響き渡った所で、先生達が廊下を走って行くのが見えた。多分、放送室に向かっているんだろうな……今更止めたところで意味なんてなさそうだけど。

 

教室は先程から流れて来る放送の内容に騒然としていた。そろそろ先生達が放送室に着いたかなと思った頃……

 

〈僕が守るよ。〉

 

〈2人に危険が及ばなくなるまで、僕が……2人を守る。〉

 

という核爆弾級の言葉が聞こえて来た。近くにいた一部の女子達は、キャーキャーとほんのりと紅潮した顔を手で覆っている……多分、私も少し顔が赤くなっていたと思う。その直後、先生達の声が聞こえて放送は止められた……石上優という男子が気になりだしたのはその時からだと思う。

 

石上優という男子は……良くも悪くも、それなりに有名らしかった。

 

2年までは影が薄く友達もいない、成績も下から数えた方が早い程、所属していた陸上部は2年の春に退部……あまり人と関わるタイプではないらしい。それが3年に進級すると、陸上部に再入部して都大会入賞、学期末テストでは不動の一位だった伊井野ミコと同率一位。クラスの雑用や委員会の手伝いも積極的に取り組む変わり様。とても同一人物とは思えない変化だ。

 

……変化といえば風紀委員の2人にも起きた。堅物な伊井野と女子達の嫉妬で疎まれていた大仏さんに対する認識が変わったのだ。原因は荻野の発言、いくら疎ましく思っていても自分と同じ年の子が酷い目に遭いそうになったと知って、今まで通り嫌がらせやイジメを続ける人間は激減した。人は良くも悪くも他人に影響を受ける生き物だ。周りが嫌がらせを辞めたのに、自分だけ辞めないなんて出来る筈が無い。石上の行いは過激ではあったけど、全てが良い方へ働いたみたい……

 

「おのちゃん、お待たせ!」

 

私を呼ぶ声に、思考から意識を外し顔を上げる。小野寺だからおのちゃん……普通に麗じゃダメなのかと思ったけど、そこまで呼び名に拘っている訳でもないので好きに呼ばせている。

 

「あんま待ってないから大丈夫。それじゃ、行こうか大友さん。」

 

今日は石上と同じクラスの大友さんから話を聞く為に待ち合わせをしていた。適当な喫茶店に入って注文をすると、早速本題に入る。

 

「大友さん、石上と同じクラスだよね? ちょっと聞きたい事があるんだけど……」

 

「石上君? 私にわかる事ならいいよ。」

 

「……石上ってどんな奴?」

 

「どんな? うーん、一言で言うなら頑張り屋さんかなぁ。」

 

「頑張り屋ね……」

 

「うん、部活とか勉強とか凄い頑張ってるよね! あと、委員会とかも!」

 

「大友さんとは仲良いの?」

 

「良いと思うよ? 休みの日に遊んだりはしないけど、学校じゃ色々助けてもらってるよ。挨拶する時もなんか……ニコッて感じで優しい顔でしてくれるし。」

 

「ふーん、なんかイメージと違うね。」

 

「私も最初はちょっと暗い感じの男子なのかなって思ったけど、全然そんな事なかったよ。」

 

「なるほどね……」

 

「ねぇおのちゃん、私も1つ聞いて良い?」

 

「別にいいよ、何?」

 

「おのちゃんてさ、石上君の事好きなの?」

 

「はあっ!? なんでそうな……」

 

そこで私は、現在の自分の行動を思い返した……ある男子について調べ回り、同じクラスの女子に詳細を聞く女子……

 

(もしかして、今の私って……気になる男子について聞いてるみたいになってる!?)

「ち、違うから! あの放送聞いてどんな奴か知りたくなっただけだから!」

 

「……ふーん?」ニマニマ

 

「信じてないでしょ!? ホントだから! 大体それを言うなら大友さんはどうなの!?」

 

「私?」

 

「そうだよ、仲良いんでしょ? 知らない内に好きになったりするんじゃないの?」

 

「うーん……真面目だし、優しいし、凄くいい人だと思うよ?」

 

「何? それだけ?」

 

「うん、単純にタイプじゃないんだー。」

 

大友さんは一切悪びれる事も無く、石上との可能性をバッサリと否定した。

 

(うわっ、キッツ……)

「そ、そうなんだ……」

 

「うん。あっ、すいませーん! ショートケーキお願いしまーす。」

 

「……」

(なんか……石上がかわいそうに思えてきた……もしこれで、石上が大友さんの事が好きだったら目も当てらんない……)

 

………

 

「あ……」

(石上……)

 

数日後……廊下を歩いていると、偶々石上の後ろ姿を目撃する。私は特に意識する事無く近付くと……

 

「石上、強く生きなよ……」ポンッ

 

「え、小野寺いきなり何?」

 

「……ん? なんで私の名前知ってんの?」

 

「あ……そ、その、誰かにそう呼ばれてる所を見た事があってさっ……」

(危なっ……そういえば、まだ知り合ってなかったわ……)

 

「ふーん……ね、連絡先教えてよ。なんかの時、必要になるかもだし。」

 

「あぁ、いいよ。」

 

「……」

(とりあえず……噂はアテにしないで、私の目で見て判断しよう。)

 

小野寺麗、色々と成長出来るお年頃。

 



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風紀委員は確かめたい

感想ありがとうございます!(`・∀・´)


〈風紀委員室〉

 

「全くもうっ! 皆学校に関係ない物持って来すぎなのよ!」

 

「まぁ気持ちはわかるけどね……ミコちゃん、とりあえず検分だけしちゃお?」

 

「そうね、じゃあ私はコレを……」

 

「……ミコちゃん、前みたいにエッチなページを何往復もするのはダメだよ?」

 

「そ、そんな事してないもん!」

 

「ウン、ソウダネー。じゃあ始めよ?」

 

「……してないもん。」

 

ペラペラとページを捲る音が部屋を満たし始めた頃……

 

「……」

(最近の少女漫画って過激だよねぇ。そういえばミコちゃんは……)

 

「うぅん……」ジーッ

 

「ミコちゃん、どうしたの? またエッチな漫画でもあった?」

 

「ないからっ! その、この記事読んでて……」

 

「うーんと……」

 

〈悪い男に騙されるな! ヤリチン診断で自分を守れ!〉

 

「うわぁ、凄く頭の悪いタイトル……」

 

「うん、それはまぁ……それで、この診断って奴をちょっと……」

 

「えーと?」

 

1、女に優しくする男はヤリチン!

 

2、常に女と一緒にいる男はヤリチン!

 

3、女の頼みをアッサリ聞く男はヤリチン!

 

4、ボクサーパンツを履いてる男はヤリチン!

 

5、男友達より女友達が多い男はヤリチン!

 

「……独断と偏見が凄い、こんなの信じる人いる訳……」

 

「も、もし石上がヤリチンだったら……!?」

 

「いるし。もー、石上はそういう男じゃないでしょ? そもそも中学生だし。」

 

「うぅ……それはわかってるけど、何か気になっちゃって……」

 

「はぁ、じゃあ確かめに行く? 石上、まだ帰ってないと思うけど……」

 

「と、とりあえずバレない様に隠れて調べよ?」

 

「はいはい。」

 

検証1、女に優しくする男はヤリチン!

 

「……石上は普通に優しいよ?」

 

「うん、知ってる。」

 

「ヤ、ヤリチ……」

 

「違うから、偏見にも程があるから。」

 

検証2、常に女と一緒にいる男はヤリチン!

 

「石上って割と私達と一緒にいる事多いよね。」

 

「ヤ、ヤリチ…」

 

「違うってば……じゃあ、私達以外の女子って事にしよ?」

 

「そういえば……あんまり見た事ないかも!」

 

「良かったねー、ミコちゃん。」

 

………

 

「石上、おつ〜。今帰り?」

 

「あぁ小野寺か、いやちょっと頼まれ事を……」

 

「へぇ、どんなの?」

 

「大友に課題の手伝いを頼まれてて……」

 

「大友さんの……強く生きな。」ポンッ

 

「何その哀れんだ目?」

 

………

 

「こばちゃん! い、石上が女子といるよ!」

 

「……ッ」ムッ

 

「こばちゃん?」

 

「……まぁ、そういう時もあるでしょ。」

 

検証3、女の頼みをアッサリ聞く男はヤリチン!

 

「ごめんね石上君、課題手伝わせちゃって。」

 

「気にしなくていいよ。」

 

………

 

「あぁあ! こばちゃん、3連続クリアだよ!」

 

「今日に限ってなんてタイミングの悪い……」

 

検証4、ボクサーパンツを履いてる男はヤリチン!

 

「……ミコちゃん、聞くの?」

 

「ど、どうしよう……漫画みたいに転んだ拍子を狙って……とか?」

 

「絶対にやめたほうがいいと思う。」

 

「……ん?2人共委員会は終わったのか?」

 

「あ、うん。石上お疲れ。」

 

「おう、お疲れ。」

 

「ねぇ、石上……」

 

「ん?」

 

「今どんなパンツ履いてるの?」

 

「」

(ミコちゃーん! それじゃ只の変態だよ!?)

 

「は?」

 

「ごめんね、ミコちゃん思春期だから……」

 

大仏は保身に走った。

 

「まぁ伊井野だしな……」

 

「その納得の仕方やめて!」

 

「……で、どんな理由があんの?」

 

「ミコちゃんがコレ読んで気になっちゃったみたいで……」

 

「んー?」ペラッ

 

「……」

 

「……ッ」ドキドキ

 

「なるほど……」

(ボクサーパンツ履いてる奴はヤリチンか、昔の僕と同じ事言ってる……この記事書いた奴、絶対童○だろ。)

 

「ど、どうなの?」

 

「つまり……伊井野は僕がヤリチンかどうか気になったって事か……」

 

「う……そうよ! 成績優秀者は、他の生徒の模範となるべき行動が求められるのよ! だから石上を調査する事は、秀知院の品格にも直結するの!」

 

「……らしいよ?」

(ミコちゃん……咄嗟に考えたにしては上手い言い訳考えたね。)

 

「流石にコレは偏見が過ぎると思うけど……」

 

「ミコちゃんを満足させる為だから……ね?」

 

「……ボクサーパンツだよ。」

 

「っ!? こ、こばちゃん4連続だよぉ……」

 

「まぁ最後の奴は大丈夫だと思うけど……」

 

「……」

(女子に自分が履いてるパンツ言うってどんな状況だよ……)

 

検証5、男友達より女友達が多い男はヤリチン!

 

「石上、スマホ見せて!」

 

「えぇ……プライバシーの侵害だろ。」

 

「じゃあ、女友達と男友達の人数だけ教えてあげて?」

 

「えーと女友達は……大友、大仏、伊井野、龍珠先輩、小野寺の5人だな。」

 

「じ、じゃあ男子は?」

 

「大体で良いからね。」

(まぁ石上は陸上部入ってたし、流石にいないなんて……そんな事はないでしょ。)

 

「……いない。」

 

そんな事あった。

 

「えぇぇ!? 陸上部入ってたのに!?」

 

「いや、そうなんだけど……連絡先交換するまで行かなかったというか、会ったら普通に挨拶はするけどそれだけっていうか……流石に嫌われてはないと思うけど。」

 

「あ、なんかごめん……」

 

「ミコちゃん、私達が石上を支えてあげよ?」

 

「うんっ……そうだよね!」

 

「哀れむな。」

 

 

 



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石上優は見つけたい

11月に入り、肌寒さを強く感じる季節になった今日……石上優は文化祭に向けた風紀委員の会議に参加していた。

 

「……以上が文化祭の風紀委員の主な業務になります。当日は高等部から数名風紀委員の助っ人が借りられるので、そのつもりでお願いします。」

 

「……人手不足だよなぁ。」

 

伊井野の発言を聞きながら言葉を洩らすと、隣に座る大仏と目が合う。

 

「まぁ、風紀委員はあんまり人気ないし……これでも石上が事務処理してくれてるから、かなり時間に余裕が出来てるんだよ?」

 

「そんなもんか……」

 

「質問がない様ならコレで解散とします。誰か、高等部の風紀委員にこの申請書を……」

 

「あ、じゃあ僕が持って行くよ。」

 

「……石上が良いなら頼むけど、無理しなくてもいいのよ? 本来は風紀委員の仕事なんだから。」

 

「大丈夫だよ。それに僕なら高等部に知り合いがいるし……行きづらい人が行くよりは、僕が行った方がいいだろ?」

 

「石上先輩あざーす!」

 

後輩の言葉に、別にいいよと返して書類を受け取る。

 

「じゃあ行ってくる。」

 

「石上、待ってようか?」

 

「大丈夫。時間掛かるかもしれないし、先帰ってていいよ。じゃ、皆お疲れ。」

 

大仏の言葉に答え教室を出る。

 

「……」

 

廊下を歩きながら思い出す。10月も終わりに近付いたある日、行方のわからなかった荻野が警察署に出頭したのだ。荻野が出頭する数日前、荻野の悪友達が全員自首したと噂で聞いていたけど……何があったのかは相変わらず不明のままだ。

 

その翌日……僕は伊井野と大仏に呼び出された。

 

………

 

「その、もう大丈夫だと思うから。石上、その……あ、ありがとう……」

 

「気にするな、僕が勝手にやってた事だし。」

 

「そ、それでも!……石上に負担が掛かってたのは事実だし。」

 

「ホント、真面目だな伊井野は。」

 

「何よ、悪い?」

 

「いや、伊井野らしいよ。」

 

「そ、そう……」

 

「石上……」

 

大仏に袖を引かれたので振り返る。

 

「守ってくれて……ありがとね。」

 

「おぅ、大仏も気にするなよ。僕じゃ頼りにならないかもしれないけど、困った事があったら助けになるからさ。」

 

「うぅん……そんな事ない。頼りにしてるよ、ありがとう。」

 

その日は3人で寄り道をしながら帰った。伊井野が何か言うと思ったけど、やっぱり寄り先にバーガーショップを入れたのは正解だったらしい。友人と寄り道をして帰る……以前の僕では考えられない日々を過ごしながら、頭の中に妙な引っ掛かりを感じていた。

 

……その引っ掛かりの正体がわかったのは、高等部の風紀委員に申請書を提出した帰りだった。

 

………

 

「……」

(うーん、今日も会長達見掛けなかったな。まぁ殆ど生徒会室で仕事してるから仕方ないのか。)

 

未だに一目見る事すら叶っていない、現生徒会メンバーについて考えていると……何やら妙な声が聞こえて来た。

 

「ぐぅっ……うぇぇぇっ……」

 

「……ん?」

 

もしかしたら、誰かが急病で苦しんでるのかと思い声のする方へと移動する……どうやらその声は、中庭の茂みから聞こえて来る様だ。邪魔な草木を避け茂みを覗き込むと……

 

「グスッ…うぇぇっ……なんで私はぁっ…ぐぇうっ……いつも、いつもぉ…けぷっ……」エグエグッ

 

「」

(つ……ツンデレ先輩いいぃ!!?)

 

その瞬間、石上の脳内を衝撃が襲う!

 

「っ!!」

(あああっ! そうか! なんか引っ掛かってる気がしてたのはコレかぁっ!!)

 

四条眞妃! 約半年後……自分の親友と想い人が付き合うという地獄を味わう事になる、四宮家の血筋を引くお嬢様である。古いタイプのツンデレ発言が災いし、一向に彼との関係が進まない事に1人落ち込む少女……そんな場面に石上優は遭遇していた!

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

「えぐぅっ……う?」

 

「……」

(絶対コレ、翼先輩の事で泣いてたよな……)

 

石上優は即座に状況を理解した。

 

かつての友人との再会、それが石上優にもたらすモノとは……

 



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石上優は逃れたい

感想ありがとうございます!(゚∀゚)


(本当にすいません、別に忘れてた訳じゃないんです……只ちょっと忙しくてウッカリしてただけなんです……)

 

四条眞妃!! 前回の人生に於いては、お互いの恋愛について相談したり、ちょくちょく遊びに出掛けたりした仲である。文化祭では……四条眞妃に背中を押してもらった事で、一歩踏み出した行動を取る事が出来た。親友と想い人が目の前でイチャつく様を何度も見せられ、その度に死んだ目で自分を見てくる彼女を見て……

 

なんでこんな良い人が辛い目に遭ってるんだろう

 

神はこの世に居ないのか

 

いつになったら幸せになれるんだろう

 

と石上は常々思っていた。

 

(と、とりあえず落ち着かせないと……)

 

僕は自販機でココアミルクを購入すると、直ぐにマキ先輩へと手渡した。

 

「先輩、どうぞ。」

 

「グスッ……フン、なかなか気が効くじゃない。」

 

マキ先輩は勢い良く缶を傾けると、ゴクゴクと喉を鳴らして一気に飲み干した。

 

「はぁー……少しだけ落ち着いたわ。」

 

「良かった……カカオポリフェノールにはストレス解消に効果が。牛乳に含まれるトリプトファンという物質は、幸せホルモンと呼ばれる神経伝達物質のセロトニンを作る材料になるんです。コレ飲んで、激減した幸せホルモンが元に戻るといいですね。」

 

「ぶんなぐんぞ。」

 

「とりあえず、名前聞いていいですか?」

 

「あら、私の事知らないの? ……ってその制服あんた中等部ね。仕方ないから教えてあげるわ! 私の名前は四条眞妃! 学年三位の天才にして、正統な四宮の血筋を引く者よ!」

 

「わー、あの四宮家の……」

 

「そうよ! 現生徒会副会長の四宮かぐやは、私の再従祖叔母(はとこおおおば)にあたるわ。」ドヤァ

 

「だから遠いんですって。」

 

「……だから?」

 

「あぁいえ、こっちの話です。それで、四条先輩はどうして泣いてたんですか?」

 

「……」

 

「まぁ、言いたくない事なら無理にとは言いませんけど……悩みがあるなら、誰かに話す事で解決する事もありますよ?」

 

「……ココアのお礼って事で、特別に話してあげるわ。」

 

10分後……

 

「つまり……来月に高等部で奉心祭が開催されるから……」

 

「うん、ぐすっ……」

 

「好きな人を誘おうとしたら、恥ずかしくなってつい罵倒してしまい……」

 

「うん…えぐっ……」

 

「結局誘えずに自己嫌悪していたと。」

 

「うぅぅぅ……えぐぅ……」

 

「……」

(不憫な人だ。素直に誘えば、柏木神と神ってない翼先輩とならすぐに恋仲になれそうなのに。柏木神と……神ってない……あああぁっ!? そうだよ! まだ付き合ってないじゃん!!)

 

石上気付く。

 

(前のマキ先輩は、神殺しに1人で挑む装備無し勇者みたいな状況だったけど、神ってない今なら普通にチャンスなんじゃ……)

 

しかし! 此処で石上優の脳内を過去の記憶が走馬灯の様に駆け巡る!

 

渚……好きだよ……

 

翼……私も……

 

(でも僕がアドバイスしてツンデレ先輩が翼先輩と付き合う事になったら、あの幸せに満ちたカップルの存在がなくなるって事になるんじゃ……)

 

罪悪感!! なまじ幸せそうな柏木×翼のカップルの様子を見て来た経験があるだけに、石上はとてつもない罪悪感を感じていた!!

 

(ヤバイ、罪悪感で死にそう……かと言ってこのまま何もしないのは、ツンデレ先輩がかわいそうだし……泣きたくなってきた……)

 

「ぐすっ……はぁ、こんな事年下に言ったところで意味ないわよね。有益な事が言える訳じゃないだろうし……」

 

「グスッ……」

 

「あ、ご、ごめんね!?態々話を聞いてくれたのに、私ったら……」

 

(……いい人なんだよなぁ……よし。)

「あの……文化祭デートに誘うのが恥ずかしいなら、言い方を変えてみませんか?」

 

「……言い方?」

 

「はい、今月末に中等部で文化祭があるんですけど、それに誘うんです。誘い方は……後輩が中等部で店を出すらしいから様子見に行くんだけど、ついでだから一緒に行かない?って感じで、目的はあくまで後輩の様子見って事にして……」

 

「そ、それくらいなら……で、でも、もし断られたら……」

 

「大丈夫です、女子の誘いを断る男なんていませんよ。丁度僕のクラスがたこ焼き屋をやる事になってるので、様子見の理由には十分でしょう。」

 

「そ、そうよねっ……態々私が誘うんだもん……断る訳ないわよね!」

 

「そうですよ、頑張って誘って下さい。」

 

「……ねぇ、なんであんたは先輩とはいえ、初対面の人間にそこまでするの?」

 

「……好きな人がいる人の想いは、報われてほしいじゃないですか。話掛けるのにも凄いドキドキして、一緒にいると嬉しくて、でも自分は好かれてるのか不安になって、いろんな感情で頭の中がぐちゃぐちゃになってるのに、好きって気持ちはキラキラと輝いてる。……それに、先輩を見てると応援したくなっちゃうんです。」

 

「ふ、ふんっ! とんだ変わり者ね!」

 

「……そうかもしれませんね。」

 

「貴方、名前は?」

 

「石上優です。」

 

「そ、石上優……ね。覚えてあげるわ。誇りなさい! 私に名前を覚えてもらえる事を!」

 

「ハハハ。ありがとうございます、四条先輩。」

 

「私はもう行くわ、じゃあね。」

 

「はい、頑張って下さい。」

 

去って行くツンデレ先輩の背中を目で追いながら、ふぅっと息を吐く……

 

(まぁ結局、誰と付き合うか決めるのは翼先輩だからな……僕はあくまで、ちょっとアドバイスしただけだし……決して責任から逃れたいとかそういう事じゃないから。)

 

石上は田沼翼に全責任を転嫁した。



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石上優は準備する

感想ありがとうございます(゚ω゚)


中庭でツンデレ先輩と出会ってから、僕は月末に控えた文化祭の準備に追われていた。高等部の奉心祭は、予算も潤沢で大規模な催しがされるが、中等部はそれよりも規模が小さい……とはいえ、並みの高校レベルの文化祭規模はある為、各クラスも出し物の準備や買い出しに放課後遅くまで残っていた。

 

僕達のクラスはたこ焼き屋を営む為、(あらかじ)めたこ焼き機と千枚通しなどの道具を用意しておけば前日に材料を調達するだけで事足りる。当日も男子は裏方、女子はたこ焼き担当と分けられている為、それ程大変なものではなかった。

 

文化祭まで後3日と迫ったある日……自分のクラスの出し物の準備も終わり手持ち無沙汰になった僕は、風紀委員の見回りに同行していた。いつも通り伊井野、大仏と見回っているとすれ違い様に女子2人の会話が聞こえてきた。

 

「それで、高等部の七不思議が……」

 

「やだ、やめてよー。」

 

七不思議か……そういえば前回の2学期、体育祭を目前にした時期に秀知院学園七不思議……なんてモノに振り回された苦い記憶を思い出す。《骸骨》から始まり《指輪》で終わる6つの怪談と、その6つの怪談に遭遇する事で条件を満たす7つ目の怪談……もうあんな怖い思いは二度と御免だと強く思ったものだ。

 

「……そういえば、中等部には七不思議とかないのか?」

 

ふと疑問が湧き、隣を歩く大仏に聞いてみる。

 

「七不思議……? うーん、私は聞いた事ないなぁ……ミコちゃんは?」

 

「……私も聞いた事ない。」

 

「ふーん、じゃあ高等部だけなのか……」

 

「あっ、でも変な噂は聞いた事ある。」

 

「変な噂?」

 

伊井野の言葉に聞き返す。

 

「うん、えーと……秀知院学園には、絶対に敵対しちゃいけない人達がいるらしいんだけど、最近それが1人増えたって噂。」

 

「へーそんな噂があるのか……でも妙な時期に増えるんだな。」

 

「うん、確かにそうなのよね……新入生が入ってくる4月とかなら、まだわかるんだけど……」

 

「……」

(……それ多分、石上の事だ。)

 

大仏は首を傾げる2人を見ながら、その噂が立った原因を思い出していた。

 

石上が荻野に対して行った立ち回りは、嘘で固められた荻野の外皮を剥ぎ中学生にしては不釣り合いな策略で決行された。あの事件で、後ろ暗い事をしている人間は石上から必要以上に距離を取るようになった。もし、石上と敵対すれば自分も荻野の様に嵌められるのではないか……という警戒心が出来上がってしまった為だ。それに次いで、荻野の行方が一時的にだが不明になり、荻野の悪友達が次々と自首していったのは石上が裏で手を引いていたのでは? という考えになっても仕方ない状況だった……更に噂に尾鰭が付き、石上は3年になるまで本来の実力を隠していた。今まで目立っていなかったのは、中等部の問題児を調べて粛正する為だとか色々な憶測が囁かれている。

 

(……まぁ私は、石上はそういう人じゃないってわかってるけどね。人の噂も75日っていうし……変な噂話もそのうち消えるでしょ。)

「……ほらほら2人共、ボーっとしてたら見回りにならないよ?」

 

大仏は首を傾げる2人を促し、見回りを続けた。

 







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文化祭を楽しみたい

文化祭当日……各々が担当する出し物や役割に準じて行動し、束の間のお祭り気分を楽しんでいた。

しかし……秀知院の文化祭は、高等部だけではなく外部からの訪問者(他校の生徒)も多い為、起きるトラブルは決して少なくないのである。

 

〈小野寺麗は回りたい〉

 

「うーん、ちょっと時間空いちゃったなぁ……」

 

午前中の仕事を済ませて校内を適当に見て回る。私のクラスはクレープ屋の出店をしていて、ジャムとクリームだけを使った簡素なモノだけど、それなりに忙しかった。今は他のクラスの友達に空き時間が出来るまで1人で時間を潰している。適当に他クラスを覗き見しながら歩いていると、複数の男子に囲まれている秀知院の女子が見えた。

 

「はぁ……」

(全く、男子ってホント……)

 

助け出そうと近付いて見ると……囲まれている女子は、風紀委員の伊井野ミコだった。

 

(伊井野か、だったら大丈夫かな? あの男子達もツイてないね、お堅い風紀委員で有名な伊井野をナンパするなんて。)

 

「なぁ、ちょっとでいいから付き合ってよ。」

 

「奢るからさー。」

 

「ちょっとだけお喋りしようよ!」

 

「お断りします。いい加減にしないと先生を呼んでっ……」

 

「ていうか君可愛いね!」

 

「……ッ」

 

「いやホント! マジ可愛だわ!」

 

「それな! こんな可愛い子と少しでも遊べたら、オレらメッチャ嬉しいっていうか……」

 

「真面目な話、休憩時間までどれくらいなの? 俺ら普通に待つよ?」

 

「ま、まぁ、後30分くらいですけど……」

 

(あれ……伊井野?)

 

「それくらいなら全然待つって!」

 

「ね? ちょっとだけ付き合ってよ。」

 

「……ちょっとだけなら。」

 

「っ!?」

(チョッロ!? 伊井野チョロ過ぎでしょ!?)

 

「ちょっとだけなら……じゃねぇよ。」パコーン

 

「痛あぁぁっ!?」

 

「すいません。コイツまだやる事あるんで、他当たって下さい。」

 

「こばちゃん、石上がまた叩いた! クズだよ!」

 

「ハイハイ。ミコちゃん、石上にちゃんとお礼言わないとダメだよ?」

 

「叩かれたのにっ!?」ガビーン

 

「……」

(えぇ……伊井野ってあんな感じなんだ、かなり印象変わったわ。アレじゃ、石上と大仏さんも大変だなぁ……)

 


 

〈大友京子は作りたい〉

 

「よーし、ジャンジャン作るよー!」

 

「ちょっ!? 京子タコ入れ過ぎじゃない!?」

 

「えー? そうかなぁ……?」

 

「京子……料理出来るから調理係に立候補したんじゃないの?」

 

「んーん? タコ焼きクルンってするのが楽しそうだったから。」

 

「そんな理由っ!?」ガビーン

 


 

〈石上優はもてなしたい〉

 

「石上、来てやったわよ。」

 

「あ、四条先輩どうも。」

 

「君がマキちゃんの言ってた石上君?」

 

「……はいそうです。先輩方、態々来てくれてありがとうございます。」

(うわぁ、チャラくない翼先輩とか凄い違和感ある……柏木神の影響エグい……)

 

「僕は田沼翼。マキちゃんと同じ高等部の一年だよ、よろしくね。」

 

「あ、どうも……石上優です。」

 

「眞妃に中等部の知り合いが居たなんて知らなかったなぁ……私は柏木渚、よろしくね?」ニコッ

 

「は、はい……」

(なんか怖い……)

 

「石上君、マキちゃんに出店に来てくれるよう泣きついたんだって?」

 

アハハと笑いながらそう言って来る翼先輩の後ろに佇むツンデレ先輩を一瞥する。

 

「……ッ」プイッ

 

(はぁ、しょうがない……)

「……えぇ、そうなんですよ。美味しいから是非食べに来て欲しくて、お願いしちゃいました。」

 

石上は大人の対応を取った。

 

「じゃ、人数分頂こうかな?」

 

「はい……タコ焼き3つになります。」

 

「じゃあ座って食べようか。」

 

3人がテーブルに座り、タコ焼きを頬張る様子を見ながら石上は仕事に精を出す。

 

「……」

(……ちゃんとツンデレ先輩が誘えるか不安だったけど、とりあえず良かった。まさか、柏木神も一緒に来るとは思わなかったけど……)

 

「……」ジーッ

 

「……」

(まぁ、一歩前進しただけマシかな……)

 

「……」ジーッ

 

「……」

(パッと見は翼先輩が二股掛けてるように見えるけど……)

 

「……」ジーッ

 

「……」

(いやぁ、でも……なんで柏木神ずっとこっち見てくんの? 死ぬ程怖いんだけど……)

 

………

 

〈石上優は考えたくない〉

 

「なかなか美味しかったね。」

 

「ふんっ、まあまあね。」

 

「眞妃ったら、そんな事言っちゃダメでしょ。」

 

「それじゃ、そろそろお暇しようか。」

 

翼先輩が立ち上がり2人に促す。

 

「そうね、それじゃ石上……私達は行くわよ。」

 

「御馳走様。」

 

「はい、先輩方ありがとうございました。」

 

「……」

 

去り際に柏木先輩が近付いて来た……

 

「君さ、何か隠してない?」

 

「……な、何をですか?」

 

「それはわからないけど……凄く大事な事。」

 

「……そんな訳ないじゃないですか。四条先輩以外とは、今日が初対面なんですよ?」

 

「うん、そうなんだよねぇ……」

 

「渚ー、何してんのよ? 置いて行くわよ?」

 

「あ、すぐ行く。ね、石上君、また今度ゆっくりお話しよっか?……じゃあね。」

 

「ハハハ、さよなら……」

 

柏木先輩が教室を出て行くのを黙って見届ける。

 

「」

(怖ええぇぇ!! サタン柏木メチャ怖えぇ! ……え? 実は僕と同じで逆行してるとかないよね? もしそうなら僕殺されるよね? あー考えちゃダメだ、恐怖で死ねる自信がある……)

 

何はともあれ中等部文化祭、無事終了。

 

 

 



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石上優は眠りたい

感想ありがとうございます( ;∀;)


〈2学期期末テスト発表掲示板前〉

 

文化祭も滞りなく終わり、冬休みまで残り1週間を切ったある日……掲示板の前は、いつも以上に生徒でごった返していた。

 

一位 伊井野ミコ(500)

 

(相変わらず、ミコちゃんは凄いなぁ……今回は満点だし。石上の方は、ちょっと落ちちゃったみたいだけど……)

 

九位 石上優(462)

 

(それでもトップ10入りしてるのは凄いけど。)

 

「うぅ……」

 

「石上……大丈夫? 体調でも悪いの?」

 

大仏は項垂れる石上に近付き話し掛ける。

 

「いや、なんでもない……」

 

嘘である。この男、先月の文化祭で柏木渚と出会ってから謎の悪夢に悩まされている。ある時は暗闇の中ずっと追い掛けられる悪夢、またある時は椅子に縛り付けられ拷問器具を順に見せつけられる悪夢、悪夢! 悪夢!! その度に恐怖で飛び起きる事になっていた石上は、テスト期間中はほぼ寝不足で過ごす様になっていた。

 

「はぁ……」

(あーしんどい……昔、四宮先輩にビビってた時の事を思い出すな……)

 

「石上……本当に大丈夫なの?」

 

「あぁ、大丈夫……伊井野は満点か、凄いな。」

 

「うん。凄いよね、ミコちゃん。」

 

「なんか秘訣でも見つけたのか?」

 

「別に、いつも通り勉強しただけよ。」

 

嘘である。この女、1学期末頃から勉強時間を2時間程多めに取る事に成功している。人数不足により多忙を極めていた風紀委員に石上優という情報処理のエキスパートが助っ人として加わった事で一日の仕事量は激減。更に9月の荻野事件を経て周囲からの嫌がらせも激減。以前とは比べ物にならない程ストレスも軽減されており、2学期は心身共に好調をキープ出来ていたのである。

 

「ふぅ……」

 

「石上、保健室で休んで来たら?」

 

「保健室……」

 

大仏の言葉に、大友京子の前で泣いてしまった恥辱体験が石上の脳内でフラッシュバックする! あの時の恥ずかしい感情は、石上の脳裏に焼き付いており、保健室というキーワードはその記憶を呼び覚ますトリガーへと進化していた!

 

「ごめん、保健室はちょっとダメなんだ……ちょっとしたトラウマみたいなモノがあってさ。」

 

「……保健室で何か怖い目に遭ったの?」

 

「怖い目……」

(そういえば……七不思議の〈見舞う骸骨〉に遭遇したのも保健室だったっけ……2つの意味で、もう保健室には行けないな。)

 

石上はトラウマが増えた。

 

「……なんでもないよ。とにかく保健室はちょっとね……」

 

「だったら、風紀委員の教室で休んだら?」

 

「……いいのか?」

 

伊井野の言葉に思わず聞き返す。

 

「もう学期末だから仕事も殆どないし、その状態のまま帰らして事故に遭ったら困るもの。」

 

「そっか……じゃあ、お言葉に甘えて休ませてもらうよ。」

 

「じゃあ石上、これスペアキー……明日会った時にでも返して。」

 

「あぁ、ありがとう。」

 

僕は伊井野から鍵を受け取ると、風紀委員室へと歩き出した。

 


 

〈風紀委員室〉

 

教室に入ると直ぐに椅子を一列に並べ横になる。枕が無い為、多少寝づらいが仕方ないと諦め目を閉じると……疲れが溜まっていたのか、直ぐに眠気に襲われた。

 

「スゥ…スゥ……」

 

石上の寝息だけが教室に漂い始めた頃……

 

「……」カチャッ、パタン

 

1人の少女は音を立てない様に気をつけながら、横になって眠る石上の頭の横に腰を下ろす。起こさない様に細心の注意を払い、少女は自身の太腿に石上の頭を乗せ膝枕の状態を作った。

 

「……」

 

石上が目を開ければ見つめ合う形になってしまうが、少女は只々眠る石上を見下ろし続けている。

 

「…ンゥ……」

 

「ッ!」ビクッ

 

1時間程そうしていると……石上の零した声に少女は膝枕を止め、足早なに教室を出て行った。

 

「ん、はぁ……少しはマシになったかな……誰か居た様な気がしたけど、気の所為か?」

 

石上はさっさと椅子を片付けると、風紀委員室を後にした。

 

 



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小野寺麗は聞いてみたい

感想ありがとうございます(゚ω゚)


〈風紀委員室〉

 

「ミコちゃん、此処って……」

 

「えーと、其処は確か……」

 

今日は他の風紀委員も石上も居ない為、私とミコちゃんだけで風紀委員室に陣取っていた。文化祭も期末テストも終わり、残る行事は来週に控えた終業式のみ。ミコちゃんと冬休み前の軽い事務処理に取り掛かっていると、コンコンッとドアをノックする音が教室に響いた。

 

「はい、どうぞ。」

 

ミコちゃんが来訪者に入室を促すと、ゆっくりとドアが開く。

 

「失礼します。」ガチャッ

 

「えーと……貴女は?」

 

「小野寺麗、伊井野……さんと大仏さんだよね? ちょっと聞きたい事があって来たんだ。」

 

「私達に?」

 

「聞きたい事?」

 

小野寺麗……確かいつもテスト結果で、50位以内に入ってる人だ。今風の女子って感じに見えるけど、風紀委員の見回りでも注意される事は殆どない為記憶に残っていた。ルールの中でオシャレや学生生活を楽しんでいる女子……それが私から見た小野寺麗という女子の印象だ。

 

「うん、石上は居ないんだね。」

 

「今日は来る予定はありませんけど……」

 

「いや、寧ろ好都合。」

 

ミコちゃんにそう答えると、小野寺さんは私達の向かいの席に腰掛けた。

 

「石上が居ないのが好都合とは……どういう意味ですか?」

 

私は少し警戒度を上げて小野寺さんに問い掛けた。

 

「あ、警戒しないでくれる? 別に変な事しようとかじゃないから。ただ、ちょっと石上の前じゃ聞き辛い事があってさ……」

 

石上の前じゃ聞き辛い事? なんだろう……私とミコちゃんは、小野寺さんの続く言葉を待つ。

 

「石上って好きな人いると思う?」

 

小野寺さんのその言葉に……ドクンっと心臓が飛び跳ねた気がした。

 

「い、いぃぃし上の好きな人っ!?」

 

……どうやら、ミコちゃんも似た感じらしい。

 

「どうして……そんな事を私達に?」

 

「うーん、まぁ普段から一緒にいる2人なら知ってるかもって思って……あとはほら、精神的負担が軽減されればいいなって感じ?」

 

「……精神的負担?」

 

「あはは……気にしないで。」

(もし石上が大友さんの事を好きじゃないなら……気が楽になるというか……悲恋を見なくて済むし、とは言えない。)

 

「……そういう話を石上とした事はありません。そもそも学生の本分は勉学に励む事です。中学生で恋愛事に現を抜かすなんてそんな……」

 

「私も聞いた事はないですね。」

 

「ふーん、そっかぁ……じゃあ2人は石上の事どう思ってんの?」

 

「「んんっ!?」」

 

「い、石上の事って……一体どういうっ……」

 

「ンンッ、コホンッ……」

 

「だーかーら、好きかどうか聞いてるの。」

 

「すっ……ど、どうしてそんな事を貴女に言わないといけないんですか!?」

 

「……私もミコちゃんと同意見です。」

 

「そっか……じゃあさ、最後に1つだけ聞いていい?」

 

「まぁ、最後なら……」

 

「……一体何ですか?」

 

「……あの放送聞いてどう思った?」

 

「「っ!?」」

 

あの放送……そのキーワードを聞いて、2人の脳内には同じセリフが飛び交っていた。

 

 

僕が守るよ

 

 

2人に危険が及ばなくなるまで

 

 

僕が……2人を守る

 

 

羞恥心!! あの恥ずかしい体験から既に3ヶ月は経過しているが、伊井野ミコ、大仏こばちはあの時の事を不意に思い出してしまいベッドの上で悶えるという事を未だに繰り返していた!

 

「べ、別に石上が言った事なんて私はっ……」

 

「っ!? ミコちゃん!」

 

「……あれ? 別に私は、石上が言った事について聞いたつもりはなかったんだけど……」

 

謀られた……

 

「あ、ち、違っ…今のはっ…あぅっ……」ガクッ

 

伊井野ミコ撃沈。

 

「アチャー……やり過ぎちゃったか。」

 

「……小野寺さん、どういうつもりですか?」

 

「ん? どういうつもりって?」

 

「だから……態々、私達だけの時を狙ってあんな事を聞く理由です。」

 

「んー……私は2人よりも石上と付き合いは短いけどさ、石上が良い奴って事は、ここ2、3ヶ月でわかってきたつもりなんだ。だからかなぁ、石上と普段から一緒にいる2人が……石上の事どう思ってるか聞いてみたくなったの。」

 

「そう……だったんですか。」

 

「うん、まぁ……聞くまでもなかったみたいだけど。」

 

「それはっ……」

 

「ふふっ……ごめんごめん、大仏さんって凄い美人で近付きづらい感じがしてたんだけど、実際話してみるとそうでもないんだね。」

 

「……」

 

「折角だからさ、連絡先交換しようよ。石上を落とすのに知恵が必要ならチカラになるからさ。」

 

「お、落とすって……」

 

「……うかうかしてると、誰かに取られちゃうよ? とりあえず、来週高等部である奉心祭にでも誘ってみれば?」

 

「奉心祭に……」

 

「じゃあ、私はそろそろ行くね、伊井野にもよろしく言っといて。」

 

それだけ言うと小野寺さんは、振り返らずに風紀委員室を出て行った。

 

「石上を奉心祭に……」

 

私は気絶したミコちゃんを起こすと、風紀委員の仕事を続ける。仕事中、頭の中はさっきの小野寺さんとの会話がグルグルと繰り返されるだけだった。

 

 

 



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奉心祭は終わらない(前編)

感想ありがとうございます(`・∀・´)


奉心祭!! 凡そ千年前……病に倒れた姫君を助ける為に、1人の男が心臓を捧げ姫君の命を救ったという逸話から名付けられた由緒正しい祭りである。そして、奉心祭でハートの贈り物をすると永遠の愛がもたらされる……という噂が広まり毎年奉心祭の時期が近付くと、独り身達はそわそわと浮き足立ちする様になった。各々が胸に抱いた想いを吐露する場合もあれば、想いを吐き出せず仕舞い込み続ける場合もある。人は愛される事を求め、時に愛する事に恐怖する。しかし、結局どんなに愛され様と、どんなに愛を注ごうと……想いは口に出さなければ伝わらないのである。

 

〈生徒会は誘えない〉

 

「ん? 藤原書記はいないのか?」

 

「えぇ、藤原さんならテーブルゲーム部の方に顔を出しに行きましたよ。」

 

「そうか……」

 

「何か用事でも?」

 

「あぁいや……さっきA組の前を通りかかったらな、こんなモノを渡されてな。」

 

「これは……A組で出し物としてやってる喫茶店の無料券ですね。」

 

「あぁ、2枚渡されたから四宮と藤原で行ってくるといい……と言うつもりだったんだがな。」

 

「藤原さんは不在ですからね、1人で行くというのも味気ないですし……」

(さぁ会長、さっさと私を文化祭デートに誘いなさい。会長がどうしてもと言うのなら、応えてあげても構いませんよ?)

 

「確かにそうだな……さて、どうするか……」

(さぁ四宮、さっさと俺を文化祭デートに誘うんだな。四宮がどうしてもと言うのなら、付き合ってやらんでもない。)

 

((フフフフフッ……))バターンッ

 

「会長! かぐやさん! 見て下さい、良い物もらっちゃいました〜。」

 

「ふ、藤原っ!?」

 

「藤原さんっ!?」

 

「A組でやってる喫茶店の無料券です! ちゃんと人数分ありますから皆で行きましょう!」グイッ

 

「あっ……おい、藤原っ!?」

 

「ふ、藤原さんっ!?」

 

「はやくはやくぅ!」

 

「「ああぁぁっ……」」ズルズル

 


 

〈四条眞妃は誘いたい〉

 

「何あんた、折角のお祭りに一緒に回ってくれる女子もいないの?」

 

「あはは、マキちゃんは痛いトコ突くなぁ。」

 

「ど、どうしてもって言うなら、わ…わたっ……私がっ……!」

 

「あー眞妃こんな所にいたー。C組の出し物凄いんだって、見に行こうよ。」グイグイッ

 

「渚!? あぁあっ……ち、ちょっと今はっ……」

 

「はやくはやく。」

 

「あぁぁぁっ……」ズルズル

 

「2人共楽しんで来てねー。」

 


 

〈龍珠桃はサボりたい〉

 

「あー、ダリぃ……」

 

龍珠桃は天文部所有の部屋の前で椅子に凭れ掛かっていた。今年の天文部は部室内を一部改造し、簡易的なプラネタリウムを出し物としてやる事になっている。決められた人数を部室に押し込んだ後は、設定時間が経つまで外で待っていればいい……楽な仕事だと高を括っていたが、未だ1人の来客もないのである。理由は明白、部室の前には椅子にだらしなく座り、不機嫌さを隠そうともしない目付きの悪い少女がいるのだから。学内の人間ならば、龍珠組の愛娘……龍珠桃は有名人であり、自ら近付こうとする人間はごく少数である。龍珠桃を知らない学外の人間もその不機嫌オーラを見ると、来た道を戻って行く……詰まる所龍珠桃の存在は、客寄せならぬ客避けにしかなっていなかった。

 

「客来ねぇならサボろうかな……」

 

「龍珠先輩、こんちわっす。」

 

「おう、石上か……よく来たな。」

 

「……暇なんですか?」

 

ダラけている龍珠を見て石上は尋ねる。

 

「お前らが最初の客だよ。」

 

「そ、そうですか……」

 

予想外の客入りのなさに石上は戸惑った。

 

「じゃ、入ろうか石上。」

 

「あぁそうだな。」

 

石上は隣の大仏と並んで部室へと入った。部室の中は暗幕により夜と見間違う程の暗闇と化していた。少しすると天井が淡い光を放ち出し、夜空に輝く星々が様々な星座を創り出す。

 

「凄いなぁ、部活の出し物でこんな本格的なモノが見れるなんて……」

 

「うん、凄い綺麗……」

 

大仏は頭上に輝く星々を見ながら、隣に佇む石上へと視線を向ける……

 

「……」

(まさか、石上と2人っきりで回れるなんて思わなかったな……)

 

大仏は先程まで一緒にいた2人の少女の事を思い出していた。

 

 

 

 



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奉心祭は終わらない(後編)

〈大仏こばちは踏み出したい〉

 

石上を奉心祭に誘うのは難しい事ではなかった。2人っきりじゃなくて、ミコちゃんと小野寺さんも一緒だと言ったし、元々石上は1人でも奉心祭に行くつもりだった様で結構簡単に事は運んだ。石上のゲーム友達である先輩が部活で出し物をするらしいから見に行こうという言葉に従い付いて行くと、その途中の教室からワンコ蕎麦どか食いトーナメント(飛び入り可)という看板が見えた。

 

「ワンコ蕎麦、どか食い……」チラチラッ

 

看板の前から動かないミコちゃんに近付こうとすると、小野寺さんの……

 

「伊井野は私が見とくから、先行ってくれば?」

 

「……え?」

 

「小野寺、いいのか?」

 

「大丈夫だって、後で合流すればいいでしょ? ……それに、すぐお腹いっぱいになるでしょ?」

 

こんな小さいんだからと小野寺さんは言外に漂わせるけど、ミコちゃんはその小さな体に似合わず大食いだ。実際に見ればきっと驚くだろう……

 

「石上、どうする?」

 

「まぁ、食べ終わるの待つくらいなら先行ってくるか……大仏はそれで良いのか?」

 

「うん、良いよ。じゃあ小野寺さん、ミコちゃんの事お願いね。」

 

「オッケー、任せておいて。じゃあ……大仏さんも頑張ってね。」

 

「ん? 何を頑張るんだ?」

 

「まぁいいじゃん。ほら、行った行った。」

 

「お、おい小野寺押すなって、わかったから! じゃあ……伊井野の事頼んだ。」

 

「オッケー。」

 

歩き出す石上の後について行く際、一度だけ後ろを振り向くと……ウインクする小野寺さんが目に映った。どうやら……気を遣われたらしい。でも折角の機会なんだから楽しもうと思った。

 

………

 

夜空を彩る星座は忙しなくその姿を変えていくが、次第に光が弱まり最後には入室時と同じ何もない真っ暗闇へと変わった。突如扉が開けられ、真っ暗な空間に光が差し込む。

 

「終了時間だ、どうだった?」

 

「凄かったですよ! あんな狭い部室なのに夜空とか広く見えて凄く綺麗でした。」

 

「フフッ、狭いは余計だ。」

 

そう愚痴る龍珠先輩は、石上の賞賛の言葉を笑いながら受け取る。どうやら満更でもない様だ。

 

「あ、あの……私も凄く綺麗で、感動しました。」

 

「おう、楽しんでもらったんなら何よりだ。」

 

「じゃあ先輩、店番頑張って下さいね。」

 

「おー、じゃあな。」

 

龍珠先輩と別れたと同時に、小野寺さんからメッセージが届いた。

 

〈ヤバイ、伊井野がワンコ蕎麦トーナメント決勝まで進んだ〉

 

「……流石ミコちゃん。」

 

「ん? 伊井野どうなったって?」

 

「決勝進出だって。」

 

「……流石は伊井野だな。」

 

「私はちょっと心配だよ……」

 

「……伊井野の腹が?」

 

「んー……ワンコ蕎麦の在庫が。」

 

「ははは、確かにな。」

 

石上と談笑しながら廊下を歩く……まるでデートをしてる恋人みたいだと、錯覚してしまいそうになる。校舎を出て中庭へ行くと、石上と2人でベンチに腰掛ける……先程までの校舎内の熱気が嘘のように中庭は閑散としていた。

 

「やっぱり高等部の文化祭は規模が大きいな。」

 

「うん、ホントだね……」

 

漂うシンとした空気に反して、私の心臓は走った直後の様にドクドクと脈打っていた。奉心祭で好きな人にハートを象ったモノを贈ると、〈永遠の愛〉がもたらされると言われる奉心伝説……最初はさり気なく渡すつもりだったのに、こんなに緊張してたらとてもさり気なくなんて出来ない。気を紛らそうとベンチ横に佇む木に視線を向けると、頭上まで伸びた枝に咲く花が見えた。

 

「これ……なんの花なのかな?」

 

「これは桜だよ。」

 

「桜? 冬に咲く桜なんてあるの?」

 

「あぁ……これは冬桜といって、冬と春に2回咲く桜なんだ。」

 

「2回咲く桜……珍しいね。」

 

「そうだな……冬桜の花言葉は精神美、優美な女性、純潔、そして冷静……大仏みたいだな。」

 

石上のその言葉に顔が熱くなる。

 

「い、石上……買い被り過ぎだからっ!」

 

「そうかな?……実はもう1つあるんだよ、冬桜が大仏みたいだと思った理由。」

 

「……どんな理由?」

 

「冬桜は別名小葉桜(コバザクラ)とも呼ばれてるんだ。」

 

「……絶対そっちの理由が本命でしょっ!」

 

「ははは、悪かったって。別に揶揄った訳じゃないよ。」

 

「もう……」ブーブー

 

振動するスマホを手に取ると、小野寺さんからのメッセージが表示される。

 

〈伊井野ヤバイ、普通に優勝した〉

 

「ミコちゃん優勝したって。」

 

「やると思ったよ……そろそろ合流するか?」

 

「……うん、そうだね。ミコちゃんをお祝いしないといけないし。」

 

「じゃ、行くか。」

 

ベンチから立ち上がり中庭を後にする。後ろを振り返ると、冬桜の花は風に揺られていた。来年の奉心祭、それまでに石上にも私の事を好きになってもらえる様に……それと、今度はちゃんと誤魔化そうとせずに、気持ちを込めてコレを渡そう。

 

「……」ギュッ

 

ぎゅっと手の中に包まれたハートのキーホルダー、コレを渡せる時まで……私の奉心祭は終わらない。

 




とりあえず奉心祭というキリのいいイベントが終わったのでこの話で完とします。
ある程度目処が立ったら高等部編も書きたいですし、中等部に関して書き残しがあれば(番外編)として追加で書くかもしれません。ここまで読んでくださりありがとうございました。( ;∀;)
あと、大仏ルートっぽいエンドというニッチな趣味ですいません(´-`)


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高等部編
高等部入学式


今回から高等部編です。(`・∀・´)


奉心祭から3ヶ月以上が経ち、石上優は秀知院学園高等部の入学式に参加していた。

 

(やっとここまで来れた……)

 

石上優はかつて自身が所属していた……生徒会のメンバーや年上の友人達を思い浮かべながら、入学式が終わるのを待つ。

 

「続きまして……白銀生徒会長による新入生への挨拶です。」

 

その言葉に、生徒達の響めきが体育館に充満する。生徒会長白銀御行は、舞台へ上がると演台の前に陣取りその鋭い瞳で全体を見渡す。生徒会長の傍らには副会長である四宮かぐや……かつて石上に救いの手を差し伸ばし、時に導いてくれた2人の姿を石上はやっと自身の視界に収める事が出来たのである。

 

(やっと会えました……会長、四宮先輩。)

 

凛々しくも厳格に言葉を発する会長を見て、無意識に口元が緩んだ。

 

(今回は荻野の件で勧誘される事はない。なんとか自分を売り込んで生徒会に入れれば……)

 

その心配が杞憂となる事を彼はまだ知らない。

 


 

入学式も問題なく終わり、各々が掲示板で自身が振り分けられたクラスを確認する。

 

(僕はB組か、ここら辺も前と同じなんだな。)

 

石上はそのままB組の欄を眺める。

 

(伊井野、大仏、小野寺……多分他の生徒も前回と同じクラスになってるんだろうな。)

 

「石上君、クラスどこだった?」

 

「B組だったよ、そっちは?」

 

「私はC組だったよ、別れちゃったね残念。」

 

そう目の前で洩らす女子……大友京子を見て僕は肩の荷が下りた気がした。

 

どうやら前回、大友が高等部に進学しなかったのは荻野の件は関係なく、単なる学力不足という事実を僕は大友に勉強を教える過程で知った。前回の大友は、他校へ行っても楽しく生活しているようだと会長から聞いていたが、どうせなら友達と一緒にいられるようにしてあげたいと思い勉強を教える事を快諾した。その時は伊井野と大仏も協力してくれたが、内部進学試験が終わる頃には皆が疲れた顔をしていた。……それだけ大友に勉強を教えるのはキツかった。まぁ、苦労した甲斐もあって、こうして大友が高等部へ進学出来たのは喜ばしい事だと思う。

 

………

 

大友と別れ、これから過ごす事になるB組の扉を開け自分の席に着く。今日は授業もない為、担任から高等部の校則と設備についての説明が終わるとあとは帰宅するだけだ。帰り支度を済ませ席を立つと、伊井野と大仏が近づいて来た。

 

「石上、今回は同じクラスだね。」

 

「あぁ、これからもよろしくな。」

 

「うん、よろしく。それで石上……ミコちゃんが話があるんだって。」

 

「ん、なんだ伊井野?」

 

「ねぇ石上、私とこばちゃんは風紀委員に入ろうと思うんだけど……一緒に入らない?」

 

一瞬、それも良いかもな……なんて思ったけど、やっぱり僕の居場所は彼処しかないと思った。

 

「……ごめん、折角誘ってもらって悪いけど、どうしても入りたいトコがあってさ。」

 

「……そっか、何処に入るの?陸上部?」

 

「いや、僕が入りたいのは……」

 

「失礼する……石上優という男子生徒は残っているか?」

 

「ッ!」

 

背後から聞こえて来たその声に、勢い良く振り向いた。マイク越しよりも、何度も直接聞いたその声を聞き間違える事なんて有り得ない。

 

「僕です、僕が石上優です。」

 

「そうか君が……俺は生徒会長の白銀御行。先程入学式で挨拶したばかりだから覚えていてくれるとありがたいが……少し話がしたい、そう時間を取らせないからついて来てくれ。」

 

「……わかりました。」

 

教室を出て会長の後ろについて行くと、どうやら生徒会室に向かっているようだとわかる。

 

かつての自分が通い慣れた道を進み、旧校舎の最奥地に構えられた生徒会室へと案内される。

 

「……」

 

「緊張しなくていい、好きに掛けてくれ。」

 

「はい……」

 

その言葉に従い、会長と机を挟む形でソファーへと腰掛ける。

 

「……それで話というのは?」

 

「まぁそう慌てるな、コーヒーでも淹れようか?」

 

「いえ、お構いなく……」

 

「そうか。」

 

石上、意図せずに危機を躱す。

 

「では、本題に入ろう。」

 



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生徒会は見極めたい

感想ありがとうございます(`・∀・´)


「では、本題に入ろう」

 

そう言って此方を見る会長と目が合った。寝不足の所為で出来た隈と、それによって生まれた副産物の鋭い眼光。人を寄せ付けない……それでも、周囲の人間から畏敬の念を抱かせるその姿を……僕は懐かしい気持ちで眺めていた。

 

「去年の9月、中等部で起こったある事件……身に覚えがあるな?」

 

「荻野の件ですか……」

 

「あぁ、そうだ。荻野コウという生徒は自分と付き合っている女子学生を他校の男子に斡旋していた。それを君が校内放送で暴露した事件……高等部でも少し話題になったよ。」

 

「……そうでしたか。」

 

「あぁ、何故あんな大々的な方法を取ったのか君に直接聞きたかったんだ。」

 

「……僕は何の後ろ盾も無く、碌な信用も無い人間です。1学期から勉強や部活動は頑張っていましたが、それでも信用されているかどうかはわかりませんでした。そんな僕が演劇部の部長で人気者の荻野相手に何の準備もなく挑んでも、どうこう出来る訳がありませんでしたから……」

 

「ふむ……だが、教師に頼る事くらいは出来たんじゃないのか?」

 

「それも無理です。もし、事なかれ主義の教師に相談してしまった場合、有耶無耶にされる可能性がありました。事実、放送中に乗り込んで来た教師の中には秀知院の評判を気にして学内で処理するべきだと言った人もいました。」

 

「なるほど……先程何の後ろ盾もないと言ったな、それは本当か?」

 

「え? はい、本当です。」

 

「ふむ……」

(石上は龍珠を後ろ盾と認識していない? あの龍珠が誰かの為に自ら動くなんて事があるとは……)

 

「因みに……君は龍珠桃という女子生徒を知っているか?」

 

「あ、はい。龍珠先輩は、よく遊んでもらってるゲーム友達です。」

 

「ゲーム……友達か。」

(そうか、友達か……あの他人を寄せ付けなかった龍珠にこんな友人が居たとは……)

 

「龍珠先輩が何か?」

 

「あぁいや、気にしないでくれ。では最後に1つだけ聞かせてくれ……荻野コウを断罪した理由を。」

 

「……理由?」

 

「あぁ……所詮は他人のする事だと、目を背ける事も君には出来た筈だ。なのに君はそれをせず、自身が信用を得る努力をし、証拠を集め、荻野を罰する策を練った……どうしてそこまでしたのかと思ってな。」

 

「……何も悪くない人が酷い目に遭って、悪い奴がヘラヘラ笑っていられるなんて……そんなのは違うと思ったからです。それに……」

 

お前はおかしくなんてない

 

次は負けちゃダメよ

 

「……それに?」

 

「……いえ、それだけです。」

(いつか……前みたいに信用される日が来たら、会長と四宮先輩には話してもいいかもしれないな。)

 

「そうか……話は以上だ、時間を取らせてすまなかったな。」

 

「いえ、気にしないで下さい。それでは……」

 

僕は席から立ち上がると生徒会室を後にする……折角の機会だから自分を売り込もうかと思ったけど、僕と会長はコレが初対面……良い返事は期待出来ないだろう。

 

「……」

 

生徒会室の扉を閉めて立ち尽くす……前回はほぼ毎日見た生徒会室の風景を……僕はこれからも見る事が出来るのだろうか……

 


 

〈生徒会室〉

 

「……2人共、もういいぞ。」

 

俺がそう声を掛けると、戸棚の影から2人の少女が出てきた。

 

「今のが中等部で有名だった石上くんですかぁ。」

 

「……それで、会長のお眼鏡には叶いましたか?」

 

「あぁ、理不尽を嫌い正義感もある……中等部の頃に助っ人で風紀委員に参加し、事務処理を任されていた様だから能力もある。それに中等部からの混院らしいしな……俺以外の外部から来た人間も、1人は必要と思っていた所だ。会計としてスカウトしようと思うが構わないか?」

 

「新メンバーですねぇ! 私達先輩がしっかり仕事を教えてあげましょう!」

 

「……会長の決めた事なら従いましょう。」

 

「うむ。また後日、彼を会計として招こう。」

 

「はい!」

 

「えぇ、わかりました……では私は用事があるので、今日はコレで。」

 

「あぁわかった、お疲れ。」

 

「かぐやさん、また明日ー。」

 

「はい、また明日。会長もあまり無理はなさらないようにして下さいね?」

 

「あぁ、善処しよう。」

 

「……では。」ガチャッ、パタン

 

………

 

「……早坂。」

 

「はい、かぐや様。如何なさいますか?」

 

「石上優という男子生徒について……可能な限り調べなさい。」

 

「……かしこまりました。」

 

 



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石上優は受からせたい(番外編)

奉心祭は終わらない後、中等部3学期の話です(゚ω゚)


3学期! およそ2週間の冬休み期間を経て、中等部生活も残り3ヶ月を切った。3月の春休み期間を除けば、残りの中等部在籍期間は約2ヶ月。1月末に控えた内部進学試験を除けば大したイベントもない為、3年生は特に気負う事もなく秀知院高等部へと進む事になる。それはこの男、石上優とて例外ではなかった。去年の4月に舞い戻ってからおよそ10ヶ月……様々なイベントや問題を時に突破し、時に解決して来た男、石上優。その男が、今まさに……

 

「まさか……ここまでだったなんて。」

 

絶望に打ちひしがれていた!

 

……時は3日前まで遡る。

 


 

〈風紀委員室〉

 

冬休みも終わり1週間が経った頃、僕はいつものように風紀委員室で事務処理に精を出していた。教室には伊井野、大仏、僕の3人しか居らず、他のメンバーは風邪や家の用事などで欠席していた。本日分の事務処理が終わろうとした時、突如扉が開かれた。

 

「石上君! 助けて!!」バターンッ

 

「お、大友!?」

 

勢い良く教室に飛び込んで来たのは、同じクラスの大友京子だった。ハァハァと息を荒くする大友を、伊井野や大仏も神妙な顔で見つめている。

 

「どうしたんだよ、そんなに慌てて……」

 

とりあえず、ここまで慌てる理由を聞き出すと……

 

「勉強教えて!!」

 

「「「は?」」」

 

大友を除く3人の声が重なった。

 

………

 

大友から詳しい話を聞くと……どうやら今月末にある内部進学試験で落ちる可能性が高いと教師に言われ、慌ててここまで来たらしい。

 

「勉強を教えるのはいいけど、僕で良いのか?」

 

「石上君が友達の中で一番頭良いからお願い!」

 

「大友がそれで良いなら構わないけど……」

 

チラリと伊井野に視線を向ける。

 

「別に……勉強なら此処でして構わないわよ。」

 

「良いのか?」

 

「遊ぶ訳じゃないし、内部進学試験に向けてなら真面目に取り組むでしょ。」

 

「私もミコちゃんが許可するなら良いと思う。」

 

「ありがとう伊井野ちゃん!」

 

「い、伊井野ちゃん!?」

 

「あ、ゴメン、嫌だった?」

 

「べ、別に構いませんが……」

 

「おさちゃんもありがとね!」

 

「お、おさちゃん……」

 

……伊井野と大仏ってこういうグイグイ来る系女子苦手そうだからなぁ……

 

「先ずは、どれくらいの学力か見せてくれるか? 2学期の期末テストとかあれば分かり易いけど。」

 

「うん、先生に持って来るように言われたから持ってるよ!……ハイ。」

 

大友は鞄から5枚の紙を取り出し机に広げた。

 

「こ、これは……」

 

「赤点ギリギリの奴ばっかり……」

 

「辛うじて社会だけはそこそこ取れてるな……」

 

内部進学試験! 国語、社会、数学、理科、英語の5教科に加え、特別措置科目として保健体育、技術、家庭科の3科目から1つを選び、その科目で獲得した点数の半分を5教科の合計得点に加える事が出来る。秀知院高等部への進学率を上げる為の特別措置である。

 

「とりあえず、社会以外を重点的にやろう。大友は特別科目は何を選択してるんだ?」

 

「保健体育だよ。」

 

「じゃあ、とりあえずそれは後回しにしよう。」

 

「うん、後でちゃんと教えてね。」

 

「いや、保健体育に関しては僕よりも適任者がいる……伊井野、頼んだ。」

 

「は、はあっ!? なんで私が適任なのよ!?」

 

「いや、お前並大抵のムッツリじゃないだろ……どうせ保健体育も満点取ってるだろ?」

 

「言い方っ!! 女の子に言うセリフじゃないでしょ!! アンタが教えなさいよ!」

 

「女子に保健体育教えるってどんな状況だよ。」

 

「ま、まさか実技で教えるつもり……」

 

「僕は教えないって言ってるだろ!」

 

「大友さん、とりあえず数学から始めようか?」

 

「はーい。」

 

そして、3日が経過した……

 

「……採点終わったわよ。」

 

「石上ー、こっちも採点終わったよ。」

 

「あぁ、僕ももう終わる。」

 

大友が風紀委員の教室を訪ねた日から、放課後は大友の勉強を見るようになった。伊井野と大仏も乗りかかった船と言って協力してくれている。

 

「……採点終わったぞ。」

 

机の上に擬似テストとして作った問題集を並べる。

 

「コレは……」

 

「ちょっと……」

 

「まさか……ここまで(馬鹿)だったなんて。」

 

「ど、どうしよう……私、進学出来ないの?」

 

「いや、まだ出来ないと決まった訳じゃない。試験まで残り10日はあるし……」

 

「ねぇ石上、アンタ3年になって急に成績上がったわよね?何か特別な勉強でもしたんじゃないの?」

 

「あ、そっか。石上の勉強法を大友さんに教えてあげれば……」

 

「石上君、お願い教えて!」

 

「……別に特別な事はしてないよ。やってる事自体は伊井野と変わらないかもしれない。」

 

「それでもいいからっ!」

 

お願いと懇願する大友に根負けして話す。

 

「……何も無い部屋に勉強道具だけ持って入った後、鍵を掛けて5時間勉強してただけだよ。」

 

「……中々やるわね。」

 

「石上……それは特別じゃないかもしれないけど、特異ではあると思うよ? ほら……大友さんも衝撃受けてるし。」

 

「5時間……5時……間……」

 

まぁ気持ちはわかる。僕も四宮先輩に言われた時は、かなり面食らった訳だし……

 

「だけど、時間がないからしょうがない。そのレベルで大友には頑張ってもらうしか……」

 

「う、うん! 私頑張るよ!」

 

「私達も協力します。」

 

「どうせなら、最後まで面倒見ないとね。」

 

「わぁーん、皆ありがとうー!」

 

そして……

 

「伊井野ちゃんココ教えて!」

 

「……」

(此処、中学2年の問題だ……)

 

10日間の……

 

「大友さん、言語を英語で?」

 

「ラングアゲー!」

 

「……それはlanguage(ランゲージ)と読むんです。」

 

地獄の様な……

 

「大友、この時の作者の気持ちは?」

 

「うーん、売れたらいいなぁとか?」

 

「いや、そういう事じゃなくて……」

 

月日が流れた……

 


 

そして、内部進学試験結果発表日。結果が貼り出される掲示板の前には、秀知院学園高等部への進学を希望する生徒で溢れていた。それもその筈……秀知院はエスカレーター式の為、現中等部3年生の殆どがそのまま高等部への進学を希望していた。更に! 9月に起こった荻野事件の際に石上が放ったあの恥ずかしいセリフと風紀委員2人との関係が此処に来て影響を与えていた。秀知院という閉鎖空間に突如降って湧いた恋愛的イベント! 他人の恋愛イベントは直接関わるより外から眺めているのが一番である。男女問わずあの恥ずかしいセリフを平気で言える石上優という男子と、そのセリフを向けられた風紀委員の女子2人の行く末が気になって仕方なかった。噂では、この3人の結末を見る為に外部進学を希望していた生徒も内部進学に進路を変更した……なんて話もある程である。

 

内部進学への合格が決まった事を確認した生徒達は、掲示板の前から次々と去って行く……その中で友人と抱き合い、喜びを分かち合う大友の姿を石上は確認した。

 

「やった、受かったよ! コレでみんなとまだ一緒にいられるよ!!」

 

「もー京子のバカ、心配したんだからね!」

 

「ホントだよねー。」

 

「うあぁん、ごめんねー!」

 

「……良かったな大友。」

 

「うん! 石上君も伊井野ちゃんもおさちゃんもありがとう! みんなのおかげだよ!」

 

「よかったです。私も安心しました。」

 

「大友さん、受かって良かったね。」

 

「あぁ……ホッとしたよ。」

 

友人達と和気藹々とはしゃぎながら去って行く大友を眺める3人は……

 

(はぁ、良かった……でも……)

 

(もう大友さんに勉強教えるのは……)

 

(勘弁してほしいな……)

 

ゴリゴリに精神を削られていたのであった。

 

 

 

 



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早坂愛は調査する

感想ありがとうございます_φ( ̄ー ̄ )


早坂愛! 四宮家に忠誠を誓う早坂家に生を受けた、四宮かぐや直属の近侍である。秀知院学園ではギャル風の少女に擬態し、人知れずかぐやへのサポート任務を遂行している。今回はかぐやの命により、石上優についての捜査をする事となった。

 

「あ、ねぇねぇ! 貴女達1年生だよね? ちょっと教えて欲しい事あるんだけど〜☆」

 

「え? はい、私達でわかる事なら……」

 

5分後……

 

「そしたら、昼休みに校内放送で……」

 

「へー、そうなんだぁ☆」

 

10分後……

 

「それで、荻野が脅しを掛けて……」

 

「うんうん、それでそれで〜?」

 

20分後……

 

「もう、スッゴイドキドキしちゃいました!」

 

「わかる! アレは女子だったら、絶対キュンキュンしちゃうよねー!」

 

「へー、そうだったんだ! 色々教えてくれてありがとね〜☆」

 

早坂は話してるうちに盛り上がりを見せ始めた女子2人と別れると、直ぐに廊下の角に身を隠した。

 

「……ッ」ハッハッハッハッ

 

早坂、 事件当時の校内放送の詳細(石上の恥ずかしいセリフ)を聞いてしまい、本日の任務続行不能。

 


 

〈四宮邸〉

 

「かぐや様、ここ数日の調査結果です。」

 

私はかぐや様の部屋を訪ねると、調査結果を纏めた資料をかぐや様へと手渡した。

 

「お疲れ様。早坂……貴女から見て、石上優という男はどういう風に映ったのかしら?」

 

かぐやはパラパラと資料に目を通しながら、私にそう訊ねた。

 

「……良くも悪くも一本筋の通った人間という印象です。ですが、正義感からああいった事件を起こす人間は、いずれ本物の悪人と対峙した時に潰されるでしょう。」

 

「辛辣ね……まぁ、私も其処は同意見だけど。」

 

「中等部で3年に進学すると人が変わったように部活と勉強に取り組み、風紀委員の仕事も無償で手伝っていたとありますが……何故3年になった途端、努力をし始めたのかは様々な噂も飛び交っており判断出来ません。」

 

「其処はそれ程重要視していないわ。」

 

「……かぐや様は件の男子が生徒会に入る事に否定的なのですか?」

 

「別に……そこまでは言わないわよ。ただ私は、会長程簡単に人を信用しないだけよ。」

 

「……重々承知しています。最後に1つ、去年の11月頃から四条眞妃様と懇意にしているようです。」

 

「……眞妃さんと?」

 

「はい、眞妃様もかぐや様程ではありませんが他者に対する警戒心は相当なモノ……その眞妃様が少なからず信頼を置いている人物、あまり警戒する必要は無いかもしれません。」

 

「……そう、話はそれで終わりかしら?」

 

「はい。」

 

「そう……今日はもう下がっていいわ、おやすみなさい。」

 

「はい、おやすみなさいませ……かぐや様。」

 


 

会長に生徒会室に呼び出されてから、数日が経過した。その間、陸上部からスカウトされたり、先輩の風紀委員から勧誘されたりと色々あったけど……未だに僕は何処にも所属していない。僕が前回生徒会に入れたのは、荻野の件で不登校になった僕を周囲の生徒から守る保護的な意味もあったのだろう。今回は保護する理由も無く、生徒会と関わりも無いので、今の状況は当然と言える。

 

「はぁ、どうすれば良いのかなぁ……」

 

生徒会役員は会長の指名制だから、そこをどうするか考えなければいけないのだが……いい考えが浮かば無い為、今日も授業が終わると真っ直ぐ帰宅する事になる。

 

「石上、今帰り? おっつ〜。」

 

「おう、小野寺は部活か……頑張れよ。」

 

「ん〜、じゃあね。」

 

教室を出て少しした頃……スマホがメッセージの着信を告げた。

 

〈中庭に集合〉

 

龍珠先輩からのゲームの誘いだ。伊達に1年間高等部で過ごしていないからか、風紀委員の巡回時間や巡回ルートを熟知しており、先輩の呼び出した場所で見つかった事は一度もない。今日も龍珠先輩と協力プレイの為に中庭へと向かう。下駄箱で靴を履き替えていると背後から声を掛けられた。

 

「お前が石上優か。」

 

名前を呼ばれて振り向くと、目付きの悪い男子が此方を睨み付けていた……中等部の頃に何度か見た事があるから、多分同じ1年なんだろうけど……話した事は無い筈だ。

 

「そうだけど……」

 

「此処で構わないから少し話がしたい。いいな?」

 

有無を言わせぬその眼光に……僕は頷く事しか出来なかった。

 

 

 



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龍珠桃は告げられない

秀知院VIPの1人、警視庁警視総監の息子で剣道部部長の小島の名前がわからないので今作では小島剣(コジマケン)という設定にします。
小島好きな人はすいません。(-_-)


目の前の男子生徒の話がしたいという言葉を了承すると、彼は腕を組み話し始めた。

 

「剣道部所属、小島剣だ。」

 

小島剣……その名前と剣道部所属と聞き、最近噂として流れて来た話を思い出した。入学したばかりの1年生が剣道部の部長から一本取り、そのまま部長の地位に就いたらしい。その生徒は警視総監の息子で、秀知院で敵対してはいけない人物として他の生徒から恐れられているという……そんな人が僕になんの用があるって言うんだ?

 


 

石上にメッセージを送り教室を出る。春が過ぎ夏を迎えると、あの後輩と出会ってから1年の時間が経った事になる。出会ってからちょくちょく喫茶店や高等部に呼び出してゲームの相手をさせているが、後輩の態度が変わった事は唯の一度も無い。広域暴力団龍珠組組長の愛娘と、周囲から距離を置かれ遠巻きに眺められる事に慣れた私にゲーム友達が出来るなんて思ってもいなかった。石上の普段の態度を見るに、私が龍珠組の娘と言う事に気付いていないみたいだ。秀知院に籍を置く人間なら、普通は龍珠と聞けば気付きそうなモノだけど……私もバレていないなら構わないと、自分から話す事はしなかった。龍珠組組長の娘の龍珠桃としてでは無く、龍珠桃という1人の人間として接してくれる人間は希少だ。だから、あの場面に出会して……もう終わりなんだと思った。

 


 

「龍珠桃と関わるのはやめておけ。」

 

小島剣と名乗ったその男は、いきなりそんな言葉を口走った。

 

「は?なんで……」

 

そんな事を言われなきゃいけないんだと、反論しようとした所を小島の言葉に遮られる。

 

「中等部の頃から龍珠とよく会っていたそうだな? お前は龍珠について何も知らないのか?」

 

「……そんな訳ないだろ。龍珠先輩は僕の一個上の先輩で、天文部所属の……」

 

「俺が言っているのはそんな事じゃない。龍珠はあの広域暴力団龍珠組組長の娘だ。荻野の悪事を暴く正義感のある人間が付き合うべきじゃない。」

 

「龍珠先輩が……暴力団?」

 

「なんだ、本当に知らなかったのか? 龍珠と聞けば真っ先に思い浮かぶと思うが……」

 

………

 

「ッ!」サッ

 

石上と小島が話してる現場を目撃した私は、隠れて2人の会話に耳を傾ける……忘れていた、小島も今年から高等部に上がって来ていたんだった。小島とは中等部の頃から何かと衝突する事が続いていた。警視総監の息子と暴力団組長の娘……どう見ても水と油にしかならないこの関係は、私が高等部に上がり中等部の小島と別れた事で一旦は終わりの形となった。まさか、小島のクソ野郎がこんな回りくどい嫌がらせをしてくるとは思わなかったけど……

 

「……ッ」

 

不意に昔の記憶が蘇った。

 

龍珠ちゃんのお父さんは悪い人だから、もう遊んじゃダメなんだって……

 

……え!? 龍珠さん家ヤクザなの!? ご、ごめんっ! 私もう行くねっ……!

 

昔から親がヤクザだと知られると、誰も彼もが私から離れて行った。それが小等部、中等部と続く内に……もう他人に過度な期待を持たない様になっていた。高等部に入っても、私を生徒会に誘って来る様な奇特な先輩や、同じ生徒会の人間を除き、周囲の人間は変わらず距離を取り続けた。

 

だからゲーム友達である石上には、私からその秘密をバラす気にはなれなかった。中庭で、喫茶店で、木陰で、ベンチで、ゲーム片手に遊んだ記憶が石上に秘密を告げる事を邪魔してきたから……

 

「……ッ」

 

小島の言葉に、石上がどう答えるのか……聞きたく無いとその場を離れたくなったけど、その気持ちに反して体は動いてはくれない……私は只立ち尽くす事しか出来なかった。



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龍珠桃は無二を得る

感想ありがとうございます(`・ω・´)


「つまり……龍珠先輩の家がヤクザだから、もう関わるなと……そう言いたいのか?」

 

「そうだ。龍珠の家について今まで知らなかったみたいだからな、これからは気を付けろ。」

 

余りにも龍珠先輩を軽視するその言葉に、流石の僕もカチンと来た。

 

「は? 普通に嫌だけど?」

 

「……何?」

 

「だから、お前の言う事は聞かないって言ってるんだよ。」

 

「お前……俺の言葉の意味を理解していないのか? アイツは龍珠組の愛娘、付き合いをやめたほうが賢明だと……」

 

「はあーっ? 何そのクソ理論……警視総監の息子がそんな程度の低い事しか言えねぇの?」

 

「……なんだと?」

 

「龍珠先輩の家がヤクザとか言ってるけどさぁ、警察官の犯罪率知った上で言ってんの? 少なくてもここ数年は暴力団よりも上なんだぞ? そもそも警察官が罪を犯しても、平気で不起訴になったり軽い処罰で済んだりしてるだろ。他人の家について偉そうな事言う前に、自分トコしっかり管理するべきなんじゃないの?」

 

「こ、このっ……!」

 

「大体お前は親の職業でしか他人を見てないのかよ? 僕から見た龍珠先輩は……そりゃ目付きは悪いし、偶に口も悪いけど優しいし、ゲームで負ければ悔しがるし、勝てば得意気に笑う……普通の女の子なんだよ! お前は親とか関係無く、自分の目で龍珠先輩をちゃんと見た上で判断出来ないのかよ!」

 

………

 

「……ッ」

 

私の為に……あそこまで怒る奴は初めて見た。恥ずかしい奴、あんなに熱くなりやがって……

 

「貴様っ……!」

 

小島は石上に一歩踏み出すと、そのまま流れるような動きで石上を床に組み伏せた。

 

「ぐっ!? な、何をっ……!?」

 

「警察を侮辱した事、今すぐ謝罪しろ。」

 

「くっ……お前が先に龍珠先輩に謝れよ!」

 

「……この状況下で、まだそんな事が言えるのか? 大したものだ……」

 

小島は掴んだ石上の左腕へ……徐々に圧力を掛けていく。

 

「ぐっ…痛ぅ……!」

 

「早く謝ったほうが身の為だぞ。」

 

「ハッ……うるせえ、バァカ。」

 

「……ならば、仕方が無いな。」

 

小島は掴んだ腕に体重を掛け始めたが、結末を静観するつもりは……私には微塵も無い。

 

「やめろ。」

 

「っ!?」

 

小島は首筋に当てられた感触に動きを止めた。

 

「お前っ……」

 

「り、龍珠…先輩……!?」

 

「そいつを離せ。」

 

「龍珠、貴様っ……」

 

「聞こえなかったのか? そいつを離せ。」

 

グイッと首筋に当たる感覚が強くなったのを感じた小島は、掴んだ腕を離し石上から離れた。

 

「……石上、大丈夫か?」

 

石上を助け起こすと、ジッと先程まで組み伏せられていた身体を観察する……余計な怪我はしていないみたいだ。その事実に、ホッと安堵する。

 

「はい、ありがとうございます……助けてくれて。」

 

「……気にすんな。」

 

「ふん、随分と飼い慣らしたものだな龍珠。」

 

「……」

 

「お前っ……まだそんな事を!」

 

「そこまでだ。」

 

その言葉に私達は動きを止めた。

 

「良い後輩を持ったな龍珠……いや友達か?」

 

「お前……何しに来た。」

 

声の主は生徒会長の白銀御行だった。私は顔を隠すように帽子を深く被りながら問い掛ける。

 

「いや、下駄箱で1年生が争っていると報告を受けてな……まさか、石上と小島だとは思わなかったが……」

 

「……なんでお前がコイツを知ってんだよ。」

 

「少し用があってな……やはり石上は、俺が思った通りの人間の様だ。」

 

徐々に周囲には生徒の数が増えて行き、皆が一定の距離を空けて事の成り行きを見守っている。

 

白銀は2人に近づくと、お得意の理路整然とした物言いで熱くなった後輩2人をすぐに落ち着かせた。小島は何か言いたそうだったが、白銀の諭すような語り掛けに平静を取り戻し、自分の落ち度も認識した様だ。白銀と一言二言の言葉を交わすと、此方を見もせずに去って行った。

 

石上も……少し落ち着きを取り戻した様で、先程までの強張った表情は消えている。

 

「フゥ……」

 

いつの間にか……握り締めていた掌から定規が抜け落ちたのを感じて、初めて私は……柄にもなく緊張していたのだと気付いた。

 


 

「しかし、彼相手に啖呵を切るとは……中々度胸がある様だ。」

 

「……そんなのじゃありません。友人が悪く言われてカチンと来て……言い返しただけです。」

 

「ふむ……相手を選ばずにそれが出来る事を度胸があると言うのだと思うが……君は彼の事を知っているか?」

 

「え? まぁ親が警視総監とか、1年で剣道部の部長とか……それくらいです。」

 

「そうか……」

(全く……それを知った上で彼に歯向かえる人間がこの学園にどれ程いるか……君は知らないのだろうな。)

 

「あの……?」

 

会長は僕を視界に捉えたまま動かない。……問題児と認識されたら嫌だな。

 

「1年B組石上優、君を会計として生徒会にスカウトしたい。」

 

周囲に散らばった生徒達から響めきが広がった。

 

「せ、生徒会……僕で良いんですかっ!?」

 

「あぁ、君じゃなければ誘わない。……返事を聞かせてくれ。」

 

「よ、よろしくお願いします!」

 

「此方こそよろしく頼むよ。では生徒会室で詳しい話を……」

 

「あっ、すいません。今日はこれから用事が……」

 

「……いいから行って来い!」

 

バシッと背中を叩かれる……振り向くと、帽子を目深に被った龍珠先輩が目に映った。

 

「え、でも……」

 

「うるさいこのバカッ!……ったく、私との約束はいいからさっさと行って来い。」

 

「……いいんですか?」

 

「あぁ、次の呼び出しはちゃんと来いよ……優。」

 

プイと顔を背けながらそう言った龍珠先輩の言葉の裏に隠れた意味は、流石の僕でも理解出来た。

 

「はい、わかりました……桃先輩。」

 

「……おぅ。」

 

桃先輩は小さく返事をすると、黙って去って行った。



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生徒会は集結する

感想ありがとうございます(=゚ω゚)ノ
やっと生徒会メンバーが揃った( ;∀;)
あと最後に秀知院VIPメンバー柔道部部長が出てきますが、名前も学年もわからないので3年三國正道としますが、別に覚える必要はありません。


会長に連れられ生徒会室を訪れる。今日から僕も……生徒会役員会計、石上優として前回同様、会計処理に従事する事になる。

 

生徒会室の扉を開けると、頭にリボンを付けた少女……藤原先輩が近付いて来た。

 

「君が石上優くんですね? 私は2年B組、生徒会役員書記担当の藤原千花です。気軽に藤原先輩って呼んで下さい!」

 

「あ、はぁ……わかりました。」

(その呼び方、全然気軽じゃないんですけど。)

 

「その呼び方の何処が気軽なんだ、藤原書記。」

 

会長と脳内のツッコミが被った。久しぶりの藤原先輩だ……なんだかんだで見掛ける機会もなく、優に1年振りの再会となった。

 

「これからよろしくね、石上くん!」

 

「はい、よろしくお願いします……藤原先輩。」

 

しかし、この頃の藤原先輩は……フワフワしてるというか、雰囲気が柔らかく感じる。コレが1年も経たない内に……

 

うるさいなぁ、ぶっころすよ?

 

はいどーん! クソザコ極まれり〜!!

 

石上くんはチェリーボーイですしねぇ〜!

 

とか言って来たり、ハゲヅラ被ったりする様になるのか……時間の残酷さを垣間見た気分だ。

 

石上は自分の言動が少なからず影響を与えていたとは、少しも思っていなかった。

 

「ん? どうしました? 石上くん。」

 

「いえ、時間の残酷さに嘆いていただけです。」

 

「?」

 

「石上が妙な目で藤原を見てるんだが……」

 

「アレは加工前の家畜を見る目ですね。」

 

「どんな目だ……四宮、そろそろ自己紹介を。」

 

「えぇ……石上君、はじめまして。四宮かぐやです、生徒会副会長を務めています。これから……よろしくお願いしますね。」

 

「はい、よろしくお願いします四宮先輩。」

 

僕の言葉に、四宮先輩はニコリと笑ってくれたけど……どう見ても外面だけの笑顔だとわかる。まぁ、それも仕方が無い。今の僕はまだ一欠片の信用も得ていないのだから……これから少しずつ信用してもらえる様に頑張ろう。

 

「最後に……改めて自己紹介しよう。俺は生徒会長、白銀御行。石上、これからよろしく頼む。」

 

その言葉と共に差し出された……会長の手を掴み固く握手する。

 

「はい、これからよろしくお願いします!」

 


 

そして数日後……

 

「石上、昨日頼んでおいた部活動予算の前年度との比較データだが……」

 

「はい、昨日の内にまとめておきました。」

 

「ほう、仕事が早いな……助かるよ。」

 

「……」

 

「石上君、新入生を含んだ新しい委員会名簿の作成ですが、出来れば明日までにお願い出来る?」

 

「大丈夫です。今日中に終わらせて、データ送っておきますね。」

 

「あら、じゃあお願いね。」

 

「……」

 

「ん?どうした藤原。」

 

「藤原さん?」

 

「違ーーーう! 違うでしょ!?」

 

「うおっ……いきなり叫んでどうしたんですか、藤原先輩?」

 

「どうしたもこうしたもありません! なんで直ぐに仕事出来るようになっちゃうの!? こういう時は普通……」

 

藤原先輩、書類処理出来ました。

 

……石上くん、ココ間違えてるよ?

 

あっ、す、すいません! 僕っ……!

 

ふふ……間違えは誰にでもありますから、気にしないで下さいね?

 

藤原先輩……なんて器の大きい人なんだ! 滅茶苦茶尊敬します!

 

「……とかなる筈でしょう!?」

 

「……また藤原が珍妙な事を言い出したぞ。」

 

「新人が思っていた以上に有能だったので、焦っているんでしょうね。」

 

「全く、新人に妙な言い掛かりを付けおって……呆れられるぞ。」

 

「いいですか石上くん! 私が生徒会で3番目に偉いんですからねっ!」

 

「はい、藤原先輩。」

(あーコレコレ、この器の小さくて人として尊敬出来ない感じ……正しく藤原先輩だ。)

 

「また石上が妙な目で藤原を見ているな……」

 

「アレは幼稚園児の精一杯の虚勢に、ウンウン頷く大人の目ですね。」

 

「あー、その例えはなんかわかる。」

 

「石上くん、ちゃんと聞いてますかっ!?」

 

藤原、下衆な女の本領発揮。

 


 

〈4月某日剣道場〉

 

「脇が甘い!」バチーン

 

「うわっ!?」

 

「次!」

 

「……なんか最近荒れてるなぁ、小島部長。」

 

「なんかあったのかな?」

 

「其処! 何を無駄口叩いている!!」

 

「ひぃっ!? す、すいません!」

 

「失礼するよ、小島は居るかな?」ガラッ

 

「……何か用ですか?三國先輩。」

 

三國正道! 秀知院VIPに名を連ね、陸上自衛隊幕僚長の息子にして、柔道部部長を務める秀知院学園3年生である。その大柄な体躯とは対照的な、理知的な相貌を小島は真正面から睨み付ける。

 

「少し話がしたい、いいね?」

 

「……わかりました。」

 

有無を言わさぬその物言いに了承する。此処で嫌だと言っても……組み伏せられるだけだと俺は知っている。剣道三倍段……武器有りの剣道に、無手の空手や柔道などの武道をしているものが相対する時は、段位としては三倍の技量が必要というが……俺はこの人に未だに勝った事がない。普段の理知的な佇まいからは、想像が出来ない程この人は強い……

 

剣道場を出て三國先輩について行くと、先輩は木陰のベンチに腰掛けた。なんとなく隣には座りたくないと思い、ベンチの背凭れに体を預ける。

 

「……それで、話って何ですか?」

 

「……また龍珠君とやりあったそうだね? 中等部の頃からずっとだ。」

 

「……アイツはヤクザ、俺は警察。相容れないのは自明の理です。」

 

「全く……変わらないね、その視野の狭い所。生徒会長……白銀君から部活組合に正式な抗議書類も提出されたし、個人的に文句も言われたよ……ちゃんと手綱を握っておけと。」

 

「ふん……別に先輩に手綱を握られた覚えはありません。」

 

「やれやれ……小島、君はどうして各界を代表する重鎮や名家の子息令嬢が、こぞってこの学園に入学して来ると思う?」

 

「そんなの……只の箔付けでしょう。」

 

「まぁ、勿論それもあるだろうね……だけど俺の見解は違う。秀知院に在籍している生徒の多くは将来……国を背負う立場になる人間だ。」

 

俺は勿論……君もだ、と此方を見る先輩から視線を外し先を促す。

 

「……だが、どんなに財閥の御曹司で財力があろうと、名家のお嬢様で権力があろうと……1人で出来る事なんて大した事じゃないんだよ。あの4大財閥、四宮家のお嬢様であろうと、絶対に1人じゃ出来ない事は存在する。」

 

「……何が言いたいんですか?」

 

「だから俺は思うんだよ。この学園に集まる人間は……将来1人じゃ出来ない事や1人じゃ立ち向かえない敵と対面した時に、支えて助けてくれる仲間を探しているんじゃないかって。」

 

「……」

 

「……君はオセロを知っているね?」

 

「は?」

 

突如話題が切り替わり、思わず呆けた声が出た。

 

「オセロが人間の一生に例えられるのを聞いた事があるか?」

 

「まぁ、表と裏が入れ替わるのを寝返りや裏切りに例える話なら……」

 

「それ以外にも……4隅の石は絶対に裏切る事は無い……とかね。」

 

「……」

 

「……俺は思うんだよ。1人の人間が一生で手に入れる事の出来る……信頼出来て、自分を裏切らない存在もまた……4人程度しかいないんじゃないかと。」

 

「秀知院に居る奴は全員……信用出来る奴を探してると?」

 

「信用ではなく信頼だ……俺は龍珠君が羨ましいよ。」

 

何故……と言いかけて口を噤んだ。先輩の言いたい事が予想出来たからだ。

 

「彼女は……少なくとも既に1つ、絶対に裏返る事がない石を手に入れたんだから。」

 

「……」

 

「龍珠君の事を極道の娘としか見ていない内は、君がその石を手に入れる事は無いだろうね。」

 

「……言いたい事はそれだけですか?」

 

「あぁ、時間を取らせて悪かったね……今度は、時間がある時にでも仕合うとしよう。」

 

「……絶対嫌です。」

 

ベンチから立ち上がり歩いて行く先輩の姿が消えても、俺はその場から動く事が出来なかった。

 

「……」

 

龍珠君を只のヤクザの娘としか見ていない内は、君がその石を手に入れる事は無いだろうね

 

その言葉が鉛の様に俺の体を重くし続けていた。

 

 

 

 

 



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四条眞妃は相談したい

感想ありがとうございます(゚ω゚)


〈生徒会室〉

 

「邪魔するわよ!」バターンッ

 

「うわ、びっくりした……ってマキ先輩ですか。いきなりどうしたんですか?」

 

「アンタが生徒会でちゃんと仕事が出来てるか、見に来てあげたのよ!」ドヤァッ

 

「……本当は?」

 

「そ、その、いつもの相談を……」モジモジ

 

「……わかりました、どうぞ座って下さい。」

(急に可愛くなるんだよなぁ、この人。)

 

「……今日は優しかいないの?」

 

「えーと、四宮先輩と藤原先輩は部活で……会長は野球部とサッカー部がグラウンドの使用面積で揉めているので、それの仲裁に……」

 

「ふーん、まぁ優1人だけなら都合が良いわ。」

 

「それで、相談というのは?」コトッ

 

僕は紅茶を先輩の前に置きながら尋ねた。

 

「そ、その……ね? 優がバレンタインの時にアドバイスしてくれた様に、翼君を水族館に誘ったんだけど……」

 

「おぉ! 誘えたんですか、良かったですね!」

(アドバイスしてから2ヶ月以上経ってるんだけど、ツンデレ先輩が自分から誘えただけマシと思うべきか……)

 

「うん……それでね、流石に2人っきりは恥ずかしいから……」ガチャッ

 

「ふぅ、やっと片付いた。」

 

「あ、会長。」

 

「ん、来客か……って四条か、なんか用か?」

 

「……優に相談があって来てたのよ。」

 

「相談? お前達知り合いだったのか?」

 

「あ、はい……去年の11月くらいから。」

 

「……また日を改めるわ。」

 

先輩が立ち上がろうとするのを慌てて制する。

 

「待って下さいマキ先輩! 会長ならきっと力になってくれますし、他の男子の意見も聞いとくべきですって。」

 

「あぁ、クラスメイトだし、生徒の悩みに答えるのも生徒会長の務めだからな。」

 

「……アンタ達がそこまで言うなら。」

 

………

 

「……なるほどな。つまり、四条は田沼翼が好きで恋人になりたいと。」

 

「はーっ? 違うわよ、そんな訳ないでしょ!」

 

「えっ!? 違うの!?」

 

「ま、まぁ? 向こうがどうしてもって言って来たら考えてあげても……」

 

「会長、見てて下さい。マキ先輩……ツンツンするのはやめて、素直になった方が良いって言いましたよね?」

 

「うっ……」

 

「そうやって相手が告白して来るのを待ってるだけじゃ、知らない内に好きな人が横取りされる事になっちゃいますよ?」

 

「うぅっ……」グサッ

四条眞妃に40のダメージ

 

「グハッ……」グササッ

白銀御行に100のダメージ

 

「うえぇっ…ごめんなさいぃ……」

 

「……とまぁ、マキ先輩はこういう人なんです……あれ? 会長、どうしました?」

 

「い、いや……なんでもない。」

 

「それで、話の続きですけど……水族館には誘えたんですよね? それからどうしたんですか?」

 

「うん、流石に2人っきりは恥ずかしいから、友達も誘って3人でってなったんだけど……」

 

「なるほど……」

(あぁ、誘った直後に日和っちゃったのか。)

 

「だけどね……誘っておいてなんだけど、やっぱり翼君と2人で少しは見て回りたくて、だから……そのぉ……」

 

そこまで聞き、僕は全てを察した。

 

「なるほど……僕も誘って4人で行き、さり気なくマキ先輩と翼先輩を2人っきりにして欲しいと?」

 

「……うん、そうなの。」

 

「石上、よくわかったな……」

 

「まぁ慣れてますから。」

 

「しかし、それなら当日はその友人に遠慮してもらうとかでも良くないか?」

 

「私から誘っておいてそういうのは……申し訳ないし、仲間外れみたいで可哀想でしょ。」

 

「む、それもそうだが……」

 

「……良いと思いますよ。好きな人と2人でデートする事と同じくらい……友達も大事なんですよね? 僕は先輩らしいと思います。」

 

「優……」

 

「デートだからって、友達を蔑ろにする奴なんてダメですよ……マキ先輩、僕で力になれるなら喜んで手伝いますよ。」

 

「ほ、ホント?」

 

「えぇ、任せて下さい。」

 

「あ、ありがとぅ……じゃあ、渚にも後で連絡しておくわね!」

 

「」

(…………え?)

 

「どうしたのよ?」

 

「ま、マキ先輩? その誘った友達って……」

 

「何回か会った事あるでしょ? 柏木渚、中等部の文化祭でも仲良さそうに話してたじゃない。」

 

 



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石上優は行きたくない

感想ありがとうございます(゚ω゚)


「……デートに友達を連れて行くなんて愚の骨頂です。正気の沙汰とは思えません。」ガタガタッ

 

「え、優?」

 

「石上!? さっきと言っている事が違うぞ!?」

 

「デートに他人は邪魔でしかない存在です。考え直した方がいいでしょう。」ブルブルッ

 

「お前さっき、デートだからって友達を蔑ろにする奴はダメとか言ってたじゃねぇか!」

 

「異物の混じった空間、其処はもう貴女の知る場所じゃないんですよ。」ガクガクッ

 

「異物扱い!?」

 

「アンタ渚の事苦手なの? ……ははーん? なるほどねぇ……渚も結構可愛いからね。緊張でソワソワしちゃう、みたいな?」

 

「どちらかと言うと(身の危険を感じる)緊張で(背筋が)ゾワゾワしちゃう、ですかね……」

 

「アンタも男って事ね……私が翼君と上手くいったら、次はアンタと渚の仲を取り持ってあげるわよ?」

 

「勘弁して下さい。いやホント、そういうんじゃないんで……」

 

「渚は昔からしっかりしているように見られるんだけど、案外抜けてるトコもあるのよ……昔からよくキラキラした目で、私の後を追いかけて来たものだわ……」シミジミ

 

「奇遇ですね、僕もつい先日killer killerな目で追いかけられましたよ。捕まっていたらどうなっていた事か、陸上やっててよかった……」

 

「昔からマキーマキーってついて来てね……いつも私にくっついてるから習い事とかも一緒で、その所為か好みも似通っててね……いつも私が欲しいものを欲しがるのよ。」

 

「……意味がわかると怖い話ですか?」

 

(2人共、柏木渚について話してるんだよな? 何か噛み合ってない様な気がするんだが……)

「……」コンコン、ガチャッ

 

「失礼します。あ、やっぱり此処に居たー。」

 

「あら、渚どうしたの?」

 

「どうしたのじゃないでしょ。今日は今度行く水族館の予定決めるって言ってたじゃない。」

 

「あー、そうだったわね。」

 

「あっ、白銀くん何か話し中だった? ゴメンね、邪魔しちゃって。」

 

「いや、気にしなくていい……な? 石上。」

 

「……はい。」

(ああああ逃げ場ないいぃ!! どうしようっ……本人がいる前じゃ流石に断りづらいし……)

 

「あ、それで水族館だけど……優も一緒に行く事になったから。」

 

「へぇ、そうなんだ……石上君とは今までゆっくり話す機会がなかったから嬉しいな。」

 

(言っちゃった……いや、まだ間に合う筈!)

「あ、あの! 水族館の件なんですけど……」

 

「うん? なぁに?」スッ

 

 

 

 

(読めないけど死ぬほど怖い……)

「……な、なんでもないでーす☆わー、楽しみだなぁ!」

 

「私も楽しみ。」ニコッ

 

「じゃあ、私はそろそろ行くわね……優、白銀、話聞いてくれてありがとね。」

 

「気にするな、また何かあったら遠慮なく来て構わないぞ。」

 

「……気が向いたらまた来るわ。」ガチャッ

 

「あ、待ってよ眞妃! じゃあね白銀君、石上君。」バタンッ

 

「あぁ。」

 

「」

 

「……白目剥いてどうした石上?」

 

「いえ……なんでもありません。」

 

「そんなに柏木の事が苦手なのか? 生徒会役員が特定の人物に苦手意識を持つのは良くないぞ。」

 

「確かにそうですよね。僕も……覚悟を決めます。断じて行えばサタンもこれを避けると言いますし。」

 

「……それを言うなら、断じて行えば鬼神もこれを避ける、だ。」

 



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バレンタインを贈りたい①(番外編)

感想ありがとうございます(`・∀・´)
中等部時代のバレンタインの話です。


バレンタイン! かつて、若者たちの愛を取り込もうとしたキリスト教司祭〈ウァレンティヌス〉が由来である。現在では好きな人から、普段お世話になっている人と幅広い層への贈り物として、2月14日のバレンタインデーにチョコを贈るのが習わしになっている。毎年この時期が近づくと、男女問わずソワソワする者が現れ、女子によっては一世一代の告白を決意する者もいる……その告白が成就するかどうかは、神のみぞ知ると言った所ではあるが……

 

「バレンタイン?」

 

内部進学試験も無事終わり、まだまだ寒さが身を貫く季節ではあるが、徐々に和らぎ始めたある日の午後……石上優は高等部へと呼び出しを受けていた。

 

「う、うん……今年こそはちゃんとしたのを渡したくて……」

 

「因みにですけど……去年はどんなチョコを渡したんですか?」

(ツンデレ先輩の事だから、チロルチョコとかだろうけど……)

 

「その……つ、粒チョコ。」

 

「粒チョコ!? それってアレですよね!? 一袋に米粒みたいなチョコがいっぱい入ってる……」

 

「うん……それを3粒。」

 

「3粒!? そんなの義理以下じゃないですか!」

 

憐れみで施しを受けたレベルである。

 

「だ、だから! 今年はもうちょっとマシなチョコあげてもいいと思ったから相談してるの!!」

 

「はぁ……」

 

こういう相談も今回で二桁の大台に到達する事になる。奉心祭、クリスマス、初詣など……イベントがある度に相談を受け、そして誘えなかった愚痴を数日後に聞く事が通例となっていた。やはりツンデレ先輩はツンデレ先輩なので、そもそも誘う事自体のハードルが高いみたいだ……

 

「先ずは、あげてもいいとかツンツンした感じはやめましょう。相手が額面通り受け取るタイプの場合は、悪手になりやすいです。せめて、もうちょっとマイルドに言い直して下さい。」

 

「マイルドに……つ、翼君がどうしてもチョコが欲しいって言うなら考えてもいいわよ!」

 

「はいダメです。ひと昔前のツンデレが災いして主人公に好きだと気付いてもらえないタイプじゃないですか。そういうキャラに限って、素直にチョコを渡すヒロインに主人公横取りされる事になるんですよ。それを柱の影から見てトボトボと1人で泣きながら帰る羽目に……」

 

「な、なんでそんな事を言うの……?」じわっ

 

「あっ、す、すいません! 漫画! 漫画の話ですから、泣かないで下さい!」

 

「グスッ…泣いてないわよぉ……」

 

「と、とにかく! バレンタインなら、それなりに気合の入ったモノを渡すべきです! 男はバカだから勝手に勘違いしてくれますよ。」

 

「そうなの……?」

 

「勿論です!……あれ? この子もしかして僕の事好きなんじゃ?って思わせれば勝ちです。」

 

「思わせれば勝ち……で、でも今年のバレンタインデーは日曜だし、休みの日に態々呼び出してチョコを渡すなんて……」

 

「だったらデートに誘いましょう。デートの帰り道……夕焼けが2人を照らし、先輩は(おもむろ)にチョコを取り出します。先輩の顔は夕焼け色に染まり、翼先輩はその真意を読む事は出来ない。しかし、渡されたチョコを受け取り顔を背ける先輩を見て徐々に鼓動は早くなっていく……どうです? ウルトラロマンティックでしょう!」

 

「い、石上……アンタ天才?」

 

マジである。この女、その光景を脳内で緻密に想像し、思考力低下によりデートに誘えるなら普通にチョコくらい渡せるという結論に至らない。

 

「まぁ僕、恋愛マスターなんで。」

 

嘘である。男は異性に対して強がる悪癖を誰しもが持っている。この石上優とて例外ではないが、女性は男の虚勢に気付いてる事が往々にしてあるものであるが……

 

「恋愛マスター凄い……」

 

マジである。この女、一切の疑問も持たずに石上の発言を信じてしまう。なまじ中等部の文化祭に誘えた実績があり、普段から相談と称して愚痴を聞いてもらっている為、石上の発言に対して怪しむ隙間がなくなっていた。

 

「おすすめは……やっぱり水族館デートですね。多少はお互いが無言になっても誤魔化しが効きますし、話題にも事欠きません。」

 

「ふむふむ……」

 


 

一方その頃……

 

「石上にバレンタインのチョコを?」

 

「うん、石上君には普段からお世話になってるし……伊井野ちゃんとおのちゃんも誘って一緒に作らない?」

 

「それはいいけど……」

 

「ホント? じゃあ、日曜日に集まって作ろ!」

 

「日曜日はバレンタイン当日なんだけど……」

 

「うん、だからチョコを渡すのは月曜日にするの。こういうのって、学校で渡す事に意味がある気がしない?」

 

「あー……なんとなくだけど、言いたい事はわかる気がする。じゃあ、日曜日に誰かの家に集まって作る感じ?」

 

「うん、誰の家がいいかなぁ……おさちゃんの家は?」

 

「私の家はちょっと……大友さんの家は?」

 

「言い出しっぺで悪いんだけど、日曜日はママがお友達を家に呼ぶらしくて……」

 

「じゃあ、ミコちゃんに聞いておくね……多分、大丈夫だと思うし。」

 

「ホント? ありがとう!」

 

 



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バレンタインを贈りたい②(番外編)

〈伊井野邸〉

 

「来といてから言うのもアレなんだけどさぁ……私、石上には普通に売ってる奴を義理チョコとして渡すつもりだったんだけど……」

 

「まぁまぁ、おのちゃん。みんなでチョコ作りとか絶対楽しいよ!」

 

「ん、まぁそうかもね……伊井野は場所提供してくれてありがとね。」

 

「ううん、私の家にこばちゃん以外の友達が来るなんて初めてだから……嬉しい。」

 

「伊井野……」ポンポン

 

「伊井野ちゃん……」ナデナデ

 

「な、なんで撫でるの?」

 

「良かったねー、ミコちゃん。」

 

「まぁとりあえず、それぞれ違う種類のチョコにしよっか? 被ってもつまんないし。」

 

「おのちゃんの意見にさんせー!」

 

そして……

 

「大友さんっ!? チョコを溶かす時は直接鍋に入れるんじゃなくて湯煎しないと!」

 

「えっ、そうなの?」

 

女子達の……

 

「……アレ? 伊井野、此処に置いてあった業務用チョコ知らない?」

 

「えっ?」モグモグ

 

「なんで食べてんのっ!?」

 

「えぇと……先ずは素材の味を確かめてからじゃないとダメだと思って……」

 

「……もう半分なくなってるんだけど。」

 

バレンタインのチョコ作りが……

 

「……っ!? 大友さんストップ! それ薄力粉じゃなくて強力粉!」

 

「強いって書いてるからより美味しく……」

 

「ならないよっ!?」

 

2人の女子の苦労の元……

 

「……伊井野、何してんの?」

 

「砂糖をあと2g足そうと……」

 

「そこまでカッチリしなくていいからっ! 目分量でいいから!」

 

行われたのだった。

 


 

〈次の日〉

 

バレンタインが昨日だったせいか、今日は学校のそこかしこでチョコを渡す女子を見掛ける。因みに、僕の今日の戦果は0だ。廊下を歩きながら……朝方、大友に言われた事を思い出す。

 

石上君、放課後……風紀委員室に来てくれる?

 

そんな事を言われたら、多少の希望を持ってしまうのは仕方の無い事だと思う。僕は目的地である風紀委員室の扉を開けて中へと入った。

 

「おっす、石上。」

 

「小野寺?」

 

「遅いわよ。」

 

「ごめんね石上、呼び出したりして……」

 

「いや、それは構わないけど……」

 

教室には小野寺、伊井野、大仏が待っていた。

 

「もうちょっと待っててね、大友さんがそろそろ来るから……」ガチャッ

 

「お待たせー! あっ、石上君も来てるね! じゃあ皆やるよ!」

 

「……?」

 

「「「「いつも助けてくれてありがとう!」」」」

 

「な、なんっ!?」

 

目の前の4人からの言葉に、上手く言葉が出て来ない……

 

「進学出来たのは石上君のお陰だよー! あっ、モチロン伊井野ちゃんとおさちゃんにも感謝してるからね!」

 

「……風紀委員の仕事とか色々手伝ってもらってるし、その……ありがと。」

 

「石上、いつも助けてくれてありがとね。」

 

「あ、私は成り行きで言っただけだから。まぁ義理だけど、有り難く食べて。」

 

4人の言葉の後に大友から箱を手渡される。開けてみると10㌢程のホールケーキが入っている。

 

「……ありがとう。すげぇ嬉しい……」

 

ケーキを嬉しそうに見下ろす石上を見ながら小野寺は考える。

 

「……」

(まさか材料が足りなくなって、4人で1つのチョコを贈る事になるとは思わなかったなぁ……)

 

知らぬが仏とはこの事であった。

 


 

〈高等部〉

 

風紀委員室の一幕も終わり、石上は高等部へと呼び出されていた。

 

「……まだ来てないのかな?」ドドドッ

 

「うあああんっ! 石上ぃー! 水族館に誘えなかったぁー!」ガシィッ

 

「ダメでしたか……チョコはどうでした?」

 

「……チョコは渡せた。」

 

「それなら良かったですね。」

 

「うん、あとコレ……」

 

四条先輩は、ポケットから可愛らしくラッピングされた袋を取り出して僕に差し出してきた。

 

「え……くれるんですか?」

 

「なんだかんだで世話になってるしね……これでも、ちゃんと感謝してるのよ?」

 

「ありがとうございます、四条先輩。」

 

「……優は特別にマキ先輩って呼ぶ事を許してあげるわ。」

 

「……あざっす、マキ先輩。」

 

「それより聞いてよっ! 翼君を誘う時に……」

 

「はいはい、聞きますよ。」

 

〈自宅〉

 

「あれ? なんかメッセとアイテムが届いてる?」

 

僕は携帯ゲーム機の点滅を確認すると、メニュー画面から通知画面を開いた。

 

龍珠さんからメッセージとアイテムを受け取りました。

 

〈やる〉

 

カカオケーキ(体力全回復)を受け取りました。

 

 

「ははっ、龍珠先輩らしいな。」

(……でもコレ、ホワイトデーはどっちで返すべきなんだ?)

 



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生徒会はまだしてない

感想ありがとうございます_φ( ̄ー ̄ )


初体験! 言わずと知れた恋のABCにおいて、Cに該当する行為を表す言葉である。高校生にとって経験済みというのは一種のステータスであり、同性に対しては格上として接する事が出来、異性に対しては経験済みという事実から余裕を見せ、大人の振る舞いをする事が可能になる魅惑の肩書きである。その事実を除いても、高校生と性の話題は切っても切れない関係。それは秀知院学園が誇る生徒会役員も例外ではないようで……

 

「すいません、遅れました。」ガチャッ

 

「おう、別にそこまで仕事は溜まってないが……何かあったのか?」

 

「いえ、ちょっと風紀委員の友人に頼まれてデータ処理の手伝いを……」

 

「あぁ、そういえば中等部の頃から手伝っていたらしいな……殊勝な事だ。」

 

「毎年風紀委員は特に人手不足らしいですからね。石上君、そういう理由なら問題無いわよ。」

 

「ありがとうございます……アレ? どうしたんですかこの本?」

 

「あぁ、校長が生徒から没収したらしいが……」

 

「こんにちはー!」ガチャッ

 

「遅いわよ藤原さん。」

 

「ごめんなさーい……ん? なんですかこの本?」

 

「校長からだ……教育上良くない本だから、生徒会で処分しとけだとさ。」

 

「教育上良くない本?…………ひゃあああっ!? み、乱れ……いや、淫れてます! この国は淫れてますぅっ!」アワアワ

 

「……」

 

しゃおらーー! ち●こぉぉ!

 

「……」

(人ってここまで変わるもんなのか……)

 

石上は時間の残酷さを再確認した。

 

「えーと、初体験はいつだったアンケート。高校生までに34%……ですか。」

 

「嘘です! そんな高い筈ありません!だ、だって、それならこの中に最低1人はいる計算に!?」

 

「少なくとも私は経験済みですから、アンケート結果は正しいんじゃないですか?」

 

「ええええええええっ!!?」

 

「」

 

「会長!? 大丈夫ですか!?」

 

「……高校生にもなれば普通経験済みなのでは? 皆さん随分愛のない環境で育ったんですね?」

 

四宮も昔は初体験をキスの事だと思ってて……

 

「……」

(会長が昔言ってたのは、多分この事だな。)

 

石上は察した。

 

「……や、やっぱり、私も彼氏とか作ったほうがいいのかな……でも、そんなのお父様は絶対許してくれないし……」

 

「……そんなに焦らなくても大丈夫ですよ。」

 

「え、石上くん?」

 

「別に高校の内に彼氏を作らなきゃいけない訳じゃないんです……時間が掛かってもいいから、ちゃんと好きな人と結ばれるべきですよ。」

 

「石上……」

 

「石上くん……でも本には、高校生にもなって未経験なんて恥ずかしいとか書いてますし……」

 

「……体だけ繋がっても虚しいだけですよ。」

 

過去に誰かと体だけの関係があった……みたいな言い方だが、石上は前回のクリスマスパーティー後に体験した、かつての想い人との苦い記憶を思い出しながら答えただけである。

 

「「っ!!?」」

 

しかし、結果的に2名の未経験者を勘違いさせてしまう。

 

(え、石上お前そっち側なのっ!? マジで!? 後輩に先を越されていたなんて……)

 

あらあら、石上君は経験済みなのに会長は未経験なんですか……

 

お可愛いこと……

 

「……ッ」

(コレはキツイっ……)

 

「い、石上くんは……その、経験が?」

 

「はは……さっきのは、なんでもないんです……忘れて下さい。」フッ

 

本当になんでもない。

 

「ひゃぁぁ……!」

 

未経験者(童貞)が未経験者(処女)を意図せず騙した瞬間である。

 

「い、石上、その……な、やはり学生という立場上、ある程度節度を持った付き合い方をするべきだと……思うぞ?」

 

白銀、なけなしの知識と常識で当たり障りのない発言をする。

 

「はい、心得てます。それに昔の事ですから。」

 

嘘ではない。

 

「グハッ……」ガクッ

(む、昔っ……石上は既に、俺よりも上のステージにいたなんて!)

 

未経験者(童貞)が未経験者(モンスター童貞)を意図せず騙した瞬間である。

 

「は、はわぁっ……」

(す、凄い1年生が入って来ちゃいました! このままじゃ、ラブ探偵としてのプライドが……)

 

「くぅっ……!」

(石上……俺なんかじゃ想像も出来ない様な経験を既にしてるなんて……!)

 

そう……石上優、この男こそ童貞でありながら自身の紛らわしい発言と周囲の勘違いにより経験済みと誤解された存在、エンペラー童貞なのである。

 

「……?」

(どうして会長と藤原さんは項垂れているのかしら?)

 

「それと四宮先輩、言っておきますけど初体験はキスの事じゃないですからね?」

 

「……え?」

 


 

16分後……

 

「だ、だって! そういう事は結婚してからって法律で!」

 

「か、かぐやさん、落ち着いて……」

 

「しかし石上、よく四宮が初体験の事をキスと勘違いしてるとわかったな?」

 

「……マキ先輩も同じ勘違いをしてたんです。」

 

「なるほど……」

 

「それより……何言ってたかは聞こえませんでしたけど、16分も性知識話せる藤原先輩って凄くないですか?」

 

「ぶはっ! た、確かにな。」プルプル

 

「〜〜〜っ!!? い、石上くんっ!!」

 



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四宮かぐやは絆されない①

感想ありがとうございます(`・∀・´)


〈5月某日生徒会室〉

 

「邪魔するわよ!」バターンッ

 

「……眞妃さん、何か御用ですか?」

 

「あら、おば様だけ? 優は?」

 

「石上君は、風紀委員の助っ人業務で遅れるそうです……あと、同い年でしょう? いい加減、その呼び方はやめて下さい。」

 

「あら、続柄上そうなっているのだから仕方ないでしょう?……目上の者は敬えと教育されてますので。」ゴゴゴッ

 

「……そうですね、分家は本家を敬うのが筋ですからね。」ゴゴゴッ

 

「はぁ……優が居ないならしょうがないわね、また来るわ。」

 

「眞妃さん、随分石上君と親しい様ですね?」

 

「友達なんだから当然でしょ?」

 

「去年から付き合いがあるそうですが……」

 

「態々調べたの? おば様も暇人ね……心配しなくても、優は良い奴よ。」

 

「……どうでしょうね。私にはまだ……なんとも言えません。」

 

「……生徒会に入って少しは丸くなったと思ったけど、相変わらず警戒心の強い事。」

 

「……財閥の娘ともなれば当然です。眞妃さんこそ、随分と簡単に彼を信用するんですね。」

 

「ま、私の恋愛相談に乗ってもらってるし……」

 

「れ、恋愛相談!?」

 

「優は恋愛マスターだから、良い案を提供してくれるし……」

 

「恋愛マスター!!?」

 

「そのお陰で今度……デートに行ける様になったのよ!」

 

「デート!!?!」

 

「おば様も恋愛に悩んでたら相談して見れば?」

 

「なっ!? べ、別に私は、誰にも恋い焦がれてなんていませんし!」

 

「ふーん? まぁおば様が良いならそれで良いけどね……じゃ、失礼するわね。」ガチャッ、バタン

 

「石上君が恋愛マスターだなんて……どうやら、調べる必要があるみたいですね。」

(あくまで生徒会に属する者として、健全な学生生活を送っているかを調べるだけです。別に石上君が本当に恋愛マスターだったとしても、相談なんてしないんだからっ!……ま、まぁ? 他人の意見から妙案が浮かぶ事もありますし……あまり邪険にするのもかわいそうよね。)

 

警戒心グラッグラであった。

 


 

〈中庭〉

 

「……」

(早坂にも調べるよう言っているけど、石上君は何処にいるのかしら……あら?この声は……)

 

かぐやは茂みの中から僅かに洩れ聞こえる声を辿り、草木の隙間から中を覗き込んだ。

 

「……優、やりづらいからもう少し腿上げろ。」

 

「うっす。」

 

「っ!?」

(えええーーーっ!? 膝枕しながらゲームしてるっ!? 貴方達付き合ってないのよねっ!? なのにその距離感……アウトじゃないっ!?)

 

「あっ、桃先輩そのアイテム僕が狙ってたんですけど……」

 

「フフ、早い者勝ちだバーカ。」

 

「だったらこっちも……」

 

「あっ! 優てめぇ、それは私のっ……」

 

「っ!!?」

(しかも名前で呼び合ってる!? なんなの!? 最近はそれが普通なの!? 私だって会長とはお互いに名字と会長呼びしか出来てないのに!!)

 


 

〈校舎内〉

 

(全く、眞妃様もかぐや様に妙な事を吹き込まれて。その分私の負担が増えるっていうのに……)

「……ッ!」サッ

 

早坂は素早く階段の影へと身を潜めると……

 

「ヤバッ……遅れる。」

 

小走りで廊下を移動する石上を視界に収めた。

 

「……」

(まぁ、都合良くそんな場面を目撃するとは思えないけど……)

 

石上が廊下の曲がり角に差し掛かると……

 

「うわっ!?」ドンッ

 

「キャッ!?」

 

「す、すいません! ……って大仏? 悪い急いでて……大丈夫か?」

 

「石上……うん、大丈っ……」グイッ

 

「ん?」

 

「あ……」

 

大仏が離れようとした時、石上は自身の制服のボタンに髪が絡まっているのを見つけた。髪を辿ると、その髪は大仏の頭部へと続いている。

 

「わ、悪いっ……」

 

「いや、こっちこそ……」

 

(あちゃー、あぁなると簡単には外せないんですよねぇ……彼はどうするんでしょうか。)

 

「う……くっ!」

 

「外れそうにないね……石上、コレ使って。」

 

大仏はポケットから小型の裁縫セットを取り出すと、ハサミを石上に手渡した。

 

「あぁ、じゃあ借りるよ。」

 

「……うん。」

 

(あー切っちゃうんだ、髪は女の命なのに……実際に私もあの場面で髪を切られたら地味にショックを受けるんだけど、まぁ男はそういう所に気が回りませんからね……)

 

「……コレでよし、解けた。」

 

「……えっ?」

 

石上の手にはボタンがあり、解けた髪がはらりと大仏の元へと戻って行く。

 

「い、石上……ボタンの方を切っちゃったの?」

 

「いや、それはそうだろ。悪かったな大仏……じゃ、またな。」

 

大仏は去って行く石上を見つめたまま動かない。

 

「もう! アッサリこういう事するんだから……」

 

一方早坂は……

 

「〜〜〜!!」ハッハッハッハッ

(もうぉぉぉっ!!)

 

だいぶ参っていた。

 

 



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四宮かぐやは絆されない②

感想ありがとうございます(゚ω゚)


〈校舎内〉

 

「……」

(全く、早坂ったら……理由は言えませんが任務遂行が不可能になりました……とか言って仕事を放棄するなんて、何を考えているのかしら。)

 

「〜〜〜!!」ハッハッハッハッ

(もうぉぉぉっ!!)←理由

 

「さて、石上君は何処かしら……」

(あら? あの子……)

 

先程すれ違った女子生徒を振り返る。その生徒は顔を隠す程の高さまでダンボール箱を積み上げ、よろよろとバランスを取りながら歩いている。

 

「……」

(危ないわね、大丈夫かしら?)

 

なんとなく目で追っていると、探していた男子がその少女へと近付き話し掛けていた。

 

「伊井野、危ないから手伝うよ。」

 

「石上……じ、じゃあお願い。」

 

「1人で運ばずに誰かに手伝ってもらえば良いのに、相変わらず1人で無理する奴だな。」

 

「だって……」

 

「ま、僕の手が空いてる時は遠慮すんなよ?」

 

「……うん、ありがと。」

 

「おう、じゃあ行くか。」

 

私は2人の様子を怪しまれない程度に盗み見る。

 

(……打算なく他人に優しくするなんて、変わってるわね。まるで会長みたい……は、流石に言い過ぎかしらね。)

 


 

〈生徒会室〉

 

「ーー森へお帰り。」

 

「……はい、藤原先輩オッケーです。」

 

「えへへー、皆さんどうでした?」

 

「あぁ、中々上手く踊れてたな。」

 

「えぇ、本当に……やはり、こういう事は藤原さんに限りますね。」

 

「まぁ……藤原先輩のアホっぽさは良く出てましたよ。」

 

「なんで石上くんは、私に対してそんな辛辣なのっ!?」

 

「しかし、生徒会のPR動画とは……校長も変わった提案をするものですね。」

 

「まぁ、そう言うな四宮。生徒会のお堅いイメージが少しでも払拭されるなら悪い話じゃない。」

 

「そうですよ! 会長やかぐやさんは他の生徒達から距離を置かれ気味なんですから、これくらいのおふざけは寧ろ必要な事です!」

 

「距離を置かれ気味とかバッサリ言うな!」

 

「……そういう藤原先輩はどうなんですか?」

 

「私は皆の人気者、藤原千花ですよ? 逆に距離詰められ過ぎなくらいです!」

 

「そういう事は自分で言う事ではないわよ、藤原さん。」

 

「同感ですね。」

 

「あぁ、全くだ。」

 

「私にそんな態度取ってる男子は、会長と石上くんくらいですよ!?」

 

「……皆さん内面に目を向けてないんですね。」

 

「どういう意味ですかっ!?」

 

「……」

(そういえば、石上君は藤原さんに割と冷めた接し方をしていますね……なるほど、人の本質を見る目はあるみたいね。)

 

かぐやは中等部からの親友の内面を全く評価していなかった。

 

「……そういえば藤原先輩、最後に何かしてましたね。何してたんですか?」

 

「最後?」

 

「森へお帰りとかなんとか言ってた所です。」

 

「あーアレは、(ウルシ)ゴキブリさんが居たから外に逃がしてあげたんですよ。私は慈悲深いので!」

 

「なるほど……とりあえず、近付かないでくれますか?」

 

「なんでですかっ! (ウルシ)ゴキブリさんは、害虫じゃありませんから問題ないですよ!」

 

「素手でゴキブリ触った時点で大問題です。ドチャクソヤベー奴認定確実です。たった今、僕の恋愛対象者の条件にゴキブリを素手で触らないが追加されました。」

 

「そこまで言うのっ!?」ガビーンッ

 

「俺もゴキブリを素手で触るのはどうかと……」

 

「会長までっ!?」ガビーンッ

 

「……」

(とりあえず、石上君は信用に足る人間の様ですから、少しは信用しても良いでしょう。)

 

「うわあぁん、かぐやさーん! 石上くんと会長が酷い事言いますー!」

 

「藤原さん、近付く前にちゃんと手を洗って来て。」

 

「ええっ!?」ガビーンッ

 

〈手洗い場〉

 

「うええぇぇん、どぼぢでぇー!」バシャバシャ

 

 



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柏木渚は話したい

感想ありがとうございます( ̄^ ̄)ゞ


5月も半ばを過ぎたある日……僕と先輩3人は、都内の水族館へ訪れていた。

 

「晴れて良かったね、マキちゃん。」

 

「そ、そうね!ぜ、絶好のデート日和ね……」ゴニョゴニョ

 

「えっ? マキちゃんごめん、最後らへんなんて言ったの?」

 

「な、なんでもないわよ! ……ほらっ、さっさと入るわよ!」

 

「えっ、うん。」

 

「あっ、待ってよ眞妃!」

 

水族館の入り口へと走って行く先輩達に、視線を送りながら考える……

 

「……」

(大丈夫、そんな変な事になったりしない筈……幾ら柏木先輩でもこれだけ人目があったら妙な事はしないだろうし、それに……)

 

来年には兄貴の結婚式もあるし……

 

桃先輩とゲームの約束もあるし……

 

まだまだ会長と四宮先輩のフォローをしなくちゃいけないんだ!

 

フラグ盛り盛りであった。

 

「優何してんのよ、置いていくわよ?」

 

「あ、はいすぐ行きます。」タッタッタ

 

「「「……」」」コソコソッ

 

〈水族館内水中通路〉

 

「GWの時期からズラしたのは正解だったわね。」

 

「うん、GWに来てたら今より人一杯だっただろうね。」

 

「石上君の意見聞いて良かったね、眞妃。」

 

「ホントよね、助かったわ。」

 

「いえ、どうせなら人がごった返してる時じゃない方が楽しめますからね。」

 

「石上君は水族館に友達と来たりするの?」

 

「あ、いや……僕、男友達居ないんです。普段話すのは会長くらいですし、女友達はいますけど来た事はないですね。」

 

「そっか、じゃあ僕は会長に続いて男友達2号かな?」

 

「え?」

 

「あ、ゴメンね、石上君は年下だけど頼りになるし、こうして一緒に遊びに来たらもう友達かなって。」

 

「……謝らないで下さい、そう言ってくれて嬉しいっす。」

 

「そっか、良かった。」

 

「……」

(優しい人だな、あのツンデレ発言しまくりのマキ先輩と変わらずに接し続けているだけの事はある……もし、また翼先輩が彼女自慢して来てもトイレットペーパーを使うのはやめてあげよう。)

 

謎の思いやりである。

 

「……アンタら何恥ずかしい事言ってるのよ。」

 

「うっ、スルーして下さいよ。」

 

「あはは、気にしないで。」

 

「……」

 


 

「どう見てもダブルデートだね。」

 

「えっ……じゃあコレが終わったら、ホテルでよん……むぐっ!?」

 

「ミコちゃんホントやめて、こんな往来で。」

 

「……伊井野ってムッツリだよねー。エッチなのはいけません、みたいな感じで風紀委員やってる癖に……」

 

「れ、麗ちゃん! 私はそんなんじゃっ……」

 

「「しーっ!」」

 

「静かにしなよ伊井野、石上達にバレるじゃん。」

 

「ミコちゃん、ハウスする?」

 

「うっ、ごめん……」

 

………

 

〈3日前〉

 

(あ、石上と……2年生かな?)

 

「じゃあ、土曜日の10時に○○水族館に集合ね。」

 

「はい、わかりました。」

 

「へぇ……」

(石上やるじゃん、年上とデートか……)

 

「あっ、居た……麗ちゃん、ご飯食べよ。」

 

「うん、今日は中庭で食べようか。」

 

「え? 別に良いけど何かあるの?」

 

「ちょっとね……大仏さんもそれで良い?」

 

「大丈夫だけど……」

 

「じゃ、行こうか。」

 

〈中庭〉

 

「石上がデートッ!? 麗ちゃんそれ本当!?」

 

「……」

 

「うん、ホントホント。」

 

「小野寺さん、詳しく聞かせてくれる?」

 

「えー、私も詳しくは知らないんだけど……」

 

………

 

「……なるほど、土曜日に水族館デートを……」

 

「い、石上、そんなふしだらな……」

 

「……」

(ふしだらなのは伊井野の頭の中でしょ……ってツッコミたいけどやめとこう。)

 

「……小野寺さん、土曜日暇?」

 

「え? まぁ暇だけど……ってまさか?」

 

「水族館行きたくない?」

 

「え、後つける気なの? 大仏さんて意外と……」

 

「ミコちゃんも行くよね?」

 

「えっ!? わ、私はそんなっ……!」

 

「ふーん……じゃあ小野寺さんと2人で行って来るから、ミコちゃんはお留守番ね。」

 

「あっ行く! 行くからっ! 置いてかないで!」

 

((チョロい。))

 

………

 

〈水族館アシカショードーム〉

 

「ミコちゃん、あんまり近づいたらバレちゃうからね?」

 

「うん、でも人多い……」

 

「まぁ、此処の目玉イベントらしいし……どうせなら尾行なんかしないでゆっくり見て回りたかったけど……」

 

「うっ、ごめんね、麗ちゃん。」

 

「まぁ別の機会にまた来ようか……大仏さん、石上達は?」

 

「彼処に先輩2人が並んで見えるから……近くに居ると思うんだけど、此処からじゃ見えないね。」

 

「こばちゃん、麗ちゃん、アシカ出て来たよ!」

 

「うん、可愛いねー。」

 

「だねー。」

 


 

眼前に広がる巨大な水槽を眺める。周りに人気は無く、今日の目玉イベントであるアシカショーを観に行ったようだ……唯一、僕とその隣で佇む少女を除いては……

 

「石上君、やっと……2人っきりになれたね。」

 

柏木先輩は、チラリと此方に視線を投げ掛けながら……ニコリと笑った。

 

 

 

 



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柏木渚から逃げたくない

感想ありがとうございます(゚ω゚)
一部の人に受け入れられない展開があります。


「石上君、やっと……2人っきりになれたね。」

 

普通なら照れたり恥ずかしくなったりするセリフなのに、僕はその言葉に隣を向く事が出来なかった。館内は空調により過ごしやすい気温になっているにも関わらず、背中を嫌な汗が伝って行く……

 

「……そうですね。」

 

「そういえば……文化祭でゆっくりお話ししようって言ってから、半年くらい経っちゃったね?」

 

「……そうでしたね。」

(まぁ、その間何度か逃げた事があるから仕方ないんだけど……)

 

「石上君、私見ると逃げるんだもん……流石に傷ついちゃうなー。」

 

「それは、すいませんでした。」

 

「ふふ、許してあげる。その代わり……教えてくれる? 貴方はどうして私から逃げるの?」

 

「それは……」

 

「……話せないんだ? じゃあ、どうして眞妃を応援したりするの?」

 

「……いけませんか?」

 

「うーん、正直やめて欲しいかなぁ……」

 

「何故ですか? 好きな人と付き合いたいっていう眞妃先輩の気持ちは、どうでもいいんですか?」

 

「……そんな訳ないじゃない、眞妃は大切な親友だもん。」

 

「だったらなんで?」

 

「なんで……か。はぁ……この子達はいいよね、ずっと……死ぬまで一緒にいられるんだから。」

 

柏木先輩は、目の前の水槽を撫でながらそう洩らした。

 

「私と眞妃はね、小等部の頃からの付き合いなの。その間、ずっと一緒だったの……習い事も、遊びに行くのも、クラスも……でも最近は、眞妃が私に隠し事をするようになった。」

 

柏木先輩の言葉を僕は黙って聞く。

 

「……去年の11月くらいかな? 私に内緒で眞妃が何処かへ行ったり、誰かと連絡を取り合ってるのを見るようになったの。」

 

柏木先輩は、水槽で泳ぐ魚の群れを羨ましそうに見つめながら話を続ける。

 

「それである日、中等部の文化祭に誘われたの。後輩に誘われたって言ってたけど、眞妃を誘うような後輩なら私も誘う筈だからおかしいって思った。そして、文化祭へ行くと……君が居た。」

 

水槽を背にして柏木先輩は真っ直ぐに僕を見る。

 

「直感でこの子だって思ったよ。何かを隠してるような……罪悪感を感じてるような、妙な雰囲気がして暫く色々調べてみても……大した事実は出て来なかったんだけど……」

 

「……」

 

「……君が眞妃と出会わなければ、私達はまだまだ一緒に居られる筈だったのに……」

 

「柏木先輩は……翼先輩にマキ先輩が取られるのが嫌なんですか?」

 

「取られるのが嫌か……当たり前でしょう? 小さな頃からずっと一緒だったのよ? これからだってずっと一緒だと思ってた……貴方がっ…貴方が余計な事さえしなければマキは……!」

 

前回の記憶を通して初めて……悲痛に顔を歪める柏木先輩を見た。でも、僕にはまるで……小さな子供が淋しいと、離れたくないと泣いて駄々をこねている様に見えて……僕はもう柏木先輩を怖いとは思えなくなっていた。

 

「やめてよ……私から眞妃を離さないでよ……眞妃に恋人が出来たりしたら、もう一緒には居られない……嫌なのっ! 離れたくないのっ! 耐えられないの!!」

 

……元々、柏木先輩からずっと逃げるつもりは僕にはなかった。僕だけ記憶を持って巻き戻った時間をやり直す事で、荻野を除けば一番影響を受ける人間は柏木先輩だったから。だから……マキ先輩の背中を押して応援すると決めた時に、柏木先輩から逃げてはダメだと思った。

 

「……それは違います。」

 

「何が違うのよっ……わかってるわよ、自分が可笑しな事言ってるって……でも、私は……!」

 

「マキ先輩は、貴女から離れたりしませんよ。」

 

「……なんでそんな事、貴方に言えるのよ。」

 

「……マキ先輩が貴女の話をする時は、とても嬉しそうな顔で話すんです。大切な想い出を、宝物を自慢するように……柏木先輩がマキ先輩と離れ難く思っているのなら、マキ先輩もきっと同じ様に思っている筈です。だって、2人は親友なんですから。」

(それに、親友が好きな人と付き合って、目の前でイチャイチャされ続けても……マキ先輩は貴女から離れようとはしませんでしたよ。)

 

「……」

 

先程まで昂っていた柏木先輩の感情の波が……小さくなっていくのを感じた。

 

「……眞妃はね、すっごく優しいの。」

 

「はい。」

 

「言葉遣いが悪いトコもあるけどね、他人を思いやれる……優しい子。」

 

「そうですね。」

 

「だからね、大好きなの。」

 

「はい、知ってます……」

 

「……そっか。もし眞妃が私から離れたりしたら、責任取ってくれる?」

 

「……僕に出来る事ならいくらでも。」

 

「じゃあ、とりあえずは……いいよ。今日の所はコレでおしまい……まだアシカショーやってるかな? ……行こっか、あんまり離れたままだと眞妃に怒られちゃう。」

 

「……そうっすね。」

 


 

〈水族館アシカショードーム〉

 

「うわぁ! マキちゃん、あのアシカ凄いね。」

 

「うん、凄い……」

(優のお陰で翼君と2人になれた。変わった後輩よね、なんの得にもならないのに……)

 

隣でショーに夢中になっている翼君を盗み見る……今回は、今度こそは、次はきっと……告白するって決めて、その度に何も言えなくなる自分の弱さが嫌いだった。そういう事がある度に優に対して愚痴を吐いて、宥められるのがお約束になっていた。今日も2人で居る時間があれば告白するつもりだった。でも……私はまた何も言えなくなる。

 

〈……以上で本日のアシカショーは終了となります。ご来場の皆様ありがとうございました。〉

 

「マキちゃん、終わったよ……大丈夫?」

 

俯いている私を心配した声が隣から聞こえる。

 

「あ、もしかして気分悪い? ちょっと休もうか、動ける?」

 

昔から変わらない、その優しさに……

 

好きな人がいる人の想いは……報われてほしいじゃないですか

 

物好きな、可愛い後輩の言葉に……

 

「翼君……」

 

私は……

 


 

〈水族館内水中通路〉

 

〈……以上で本日のアシカショーは終了となります。ご来場の皆様ありがとうございました。〉

 

「あー、アシカショー終わっちゃいましたね。」

 

「んー、じゃあ此処で待ってようか? 丁度戻る時通る筈だし。」

 

「そうですね……ん? 小野寺?」

 

「い、石上……やっほ。」ギクッ

 

「奇遇だな、誰か友達と来てたのか?」

 

「う、うん……伊井野と大仏さんと3人で……」

 

「へー、仲良くしてるみたいだな。」

 

「そりゃまぁ、同じクラスだしね。ゴメン、伊井野達先に行っててさ……もう帰るトコなんだよね。」

 

「そっか、引き止めて悪かったな。」

 

「気にしなくていいよ、じゃあね。」

(見つかっちゃったし、2人が戻って来たらボロ出しそうだし、さっさと此処から出よう。)

 

私が通り過ぎる瞬間、石上の隣にいた女性と目が合った。

 

「尾行する時はもう少し上手にね?」

 

「っ!?」

 

ボソリと呟かれた言葉が耳に突き刺さった……恐怖で振り返る事も出来ないまま、私は走って伊井野達の元へと向かった。

 

「あっ、麗ちゃんどうしっ……」

 

「早く出るよ!!」

 

「えっ、麗ちゃん?」

 

「何かあったの?」

 

「いいから早くっ!!」グイグイッ

 

「「ええぇぇっ……」」ズルズル

 

………

 

「……あ、マキ先輩達いましたね。」

 

「うん、合流出来て良かった。」

 

此方へゆっくり歩いて来る2人の姿が目に映った。マキ先輩は俯き、翼先輩はそっぽを向いている。お互いの姿を見ていない2人の瞳に反して、2人の手は……しっかりと繋がっていた。

 

 




マキちゃん曇り顔派の人はすいません(´;ω;`)
悩んだけど、5巻167ページを見て救済する以外の選択肢が消えました。マキちゃんの泣くトコはもう見たくない…
あと、サタン柏木のマキちゃんに対する同一化願望というのがイマイチ理解出来ませんでしたが、ちょっと歪んだずっと一緒に居たい願望だと思うのでこういった話になりました。
あんまり狂気度上げると収拾つかなくなりそうだし…原作のやべー奴感には勝てない_:(´ཀ`」 ∠):


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藤原千花はわからせたい①

感想ありがとうございます(゚ω゚)


波乱のダブルデートから数日後、生徒会が事務処理に従事していた時の事……

 

「……そういえば石上、この前のダブルデートはどうだった?」

 

「ダブルデート……まぁそう言えなくもないですか。そうですね、良い感じで終わりましたよ。」

 

「あら? そういえば眞妃さんもデートだと言ってましたけど、もしかして?」

 

「はい、マキ先輩とその友達2人と水族館に行って来ました。」

 

「そう、問題なく終わったのなら何よりね。」

(まさか、本当に恋愛マスターだったなんて……)

 

「……」プルプルッ

 

「……ん? どうした藤原?」

 

「この……ぼっけなすーー!!!」

 

「藤原先輩、今度はどうしたんですか?」

 

「そんな面白イベントがあったなんて、どうして教えてくれなかったんですか!?」

 

「いやだって……教えたら隠れてついて来ようとするでしょ?」

 

「……っするよ!? 悪いっ!?」

 

「だから嫌なんですよ。藤原先輩が来ると成功するものもしなくなりそうですし。」

 

「……」

(石上って堅実な判断するよなぁ……)

 

「……」

(賢明な判断ね。)

 

「もうーー!! 石上くんは私の事をなんだと思ってるんですか!?」

 

「強欲と自己愛に塗れたアホな先輩。」

 

「〜〜〜っ!? 言ってくれましたね! 勝負です! このラブ探偵チカが石上くんに恋愛偏差値テストで勝負を挑みます!」

 

「恋愛……」

 

「偏差値……」

 

「テスト……ですか。藤原さん、それはどういった内容なのでしょう?」

 

「そうですね、折角ですから会長とかぐやさんも一緒にやりましょう。ランダムに選んだこのサイトから出題します。いいですか? 今から順番にこのサイトの問題に答えてもらい、全員が答え終わったら結果発表して一番恋愛偏差値が高い人の優勝です。」

 

「恋愛偏差値なぞ……実にくだらんな。」

(よし、コレで高得点を取り四宮に格の違いを見せつけてやる。)

 

「本当に藤原さんはそういうのが好きですね……」

(コレで会長より高得点を取れば、これからの学生生活を優位に進められる……ふふ、藤原さんにしては妙案ね。)

 

「まーたアホな事言い出したよ、この人は……」

(そんなサイトで恋愛偏差値なんて測れる訳ないでしょう。)

 

「……石上、気持ちはわかるが本音と建前は間違えないようにな。」

 

「余裕でいられるのも今の内ですよ! 順番は会長、かぐやさん、私、石上くんで行きましょう!」

 

「……いいだろう。」

 

白銀御行

 

Q.好きな人が出来ました、告白する? しない?

 

(そんなもん、しのっ……向こうから告ってくるのを待つに決まってるだろ!)

 

四宮かぐや

 

Q.友達と同じ人を好きになってしまいました、どうする?

 

(……女同士の友情なんて脆いモノよね、さよなら藤原さん。)

 

「ん? どうしました、かぐやさん?」

 

「いいえ、なんでもありませんよ。」

 

「……」

(四宮先輩、また藤原先輩を睨んでる……)

 

藤原千花

 

Q.恋人との初デート! 行き先は?

 

(初デートという所がミソですね、答えは遊園地です!)

 

石上優

 

Q.好きな人に言ってもらいたい言葉は?

 

(言ってもらいたい言葉か、この中だと……コレかな。)

 

〈結果発表〉

 

「さあ、お楽しみの結果発表です! 皆さん心の準備はいいですか? いきますよー!」

 

〈恋愛偏差値・70以上〉

 

藤原千花・石上優

 

あなたはかなり恋愛の達人。もうすでに、恋愛経験が豊富なのではないでしょうか?相手の気持ちを読み取る能力があり、咄嗟の判断もうまく出来るようです。無理せず、普通に、リラックスして付き合うのが、恋愛を長く続けるコツ。

 

〈恋愛偏差値・50前後〉

 

白銀御行・四宮かぐや

 

あなたの恋愛指数は平均並といった所、まだまだ勉強する余地がありそうです。頭の中だけで恋愛をしているような面があります。理想の恋を追い求めるのはいいけれど、概ね現実と理想の間にはギャップがあるもの……経験値をもっと稼ぎ、たくさんの体験を重ねていけば、きっといい恋ができるようになるでしょう。もう少し頑張りましょう(笑)

 

((はあああああっ!? 恋愛偏差値50前後っ!? そ、そんな……))

 

「あ、私と石上くん恋愛偏差値一緒ですか。残念ながら引き分けですねー。」

 

「まぁ、こんなモノは気休め程度に思っておくのが普通ですよ。」

 

「……っていうか、なんだこの最後のもう少し頑張りましょう(笑)って! 完全に煽ってるだろ!?」

 

「この私をここまで侮辱するなんて、サイト運営者は覚悟が出来ているんでしょうね……」

 

「2人共落ちついて下さい。気休め程度にって言ったじゃないですか……そもそも、藤原先輩が恋愛経験豊富で、相手の気持ちを読み取る能力があり、咄嗟の判断もうまく出来るなんて信じられます?」

 

「それは……」

 

「確かに……」

 

「3人共、失礼って言葉知ってますか!?」

 

本日の勝敗、藤原の敗北

なんやかんや恋愛偏差値でエンペラー童貞と同点だったが、生徒会メンバーからの評価が著しく低かった為。



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藤原千花はわからせたい②

私の名前は藤原千花! 生徒会副会長であるかぐやさんの大親友であり、運動音痴(ウンチ)な会長をバレーボール熟練者レベルまで育て上げた名コーチ! 生徒会役員書記担当兼、彷徨う愛を見つけ導くラブ探偵!! ……でも最近そんな私に天敵が現れました。その天敵は、新入生でありながら入学して間もなく会長にスカウトされ、私達の新たな生徒会の仲間となりました……ここまでは構いません。でも彼は、その本性を1ヶ月もしない内に露わにし始めたのです……先輩である私に対してアホ呼ばわりする事から始まり、漆ゴキブリさんを慈愛の心で逃した私をドチャクソヤベー奴認定するし、さらっと私を恋愛対象外とか言うし、そして何より……偶に私を素で見下した目で見て来ますし!……あまりこういった手は使いたくはないのですが、仕方ありません。先輩としての威厳を取り戻す為の必要悪です!

 

「……それで、まぁ話はわかりましたけど、どうして私なんですか? 藤原先輩。」

 

「ふふふ、小野寺さんは石上くんの友達ですよね? 弱味の1つや2つ知ってるんじゃないですか?」

 

「……知りませんし、知ってても友達の秘密なんて喋るものじゃないと思うんすけど……他の人に聞いて下さいよ。」

 

「だって石上くんの友達って風紀委員だったり、龍珠さんだったりで教えてくれそうな人が居ないんですもん……」

 

「……私なら教えてくれると思ったんですか?」

(あれ、私もしかして口軽いとか思われてる?)

 

「いえいえ、正直言えば秘密どうこうは冗談ですけど、同じクラスなので石上くんの恥ずかしい失敗談とかあれば聞こうと思ってました!」

 

「因みに……それ聞いてどうするんですか?」

 

「全力でイジリます!!」

 

「そ、そうですか……」

(普通にタチが悪い……)

 

「それでそれで、何かないですか?」

 

「うーん、特にないですね。」

 

「えー、そんなぁ……じゃあ、何か石上くんに仕返し出来るような案とかないんですかー?」

 

「そこまで仕返ししたいんですか?」

 

「それはそうです!何故なら……」

 

「あっ、理由ならもう聞いたので大丈夫です。」

(只の逆恨みな気がしたけど……)

 

「じゃあ早くー、案を言うまで帰しませんよー。」

 

(め、面倒臭い……もう適当言って帰ろうかな。)

「あー、色仕掛けとか、ボディタッチとか? 男子なら緊張でドギマギするんじゃないですか?」

 

「その手がありましたか! 私急用が出来たのでコレで失礼しますね! ありがとう小野寺さん!」ダッ

 

「あ、はい。」

(石上も大変だなー、なんかあったら謝っとこ。)

 

………

 

〈生徒会室〉

 

「こんにちはー。」バタンッ

 

「藤原先輩、ちわっす。」

 

「……!」

(ふふふ、会長もかぐやさんも居ないとは好都合ですね。なんだかんだで石上くんも男の子、普段から恋バナに触れてる私に負ける要素は皆無ですよ!)

 

「……?」

 

「あっ、石上くん……運動部の予算まとめてるんですね。何かわからない事があったら聞いてくれていいですよ?」ススッ

(ふふふ、どうですか? 対面ではなく、態々隣に座られるのは?)

 

「はい、今のトコ問題ないです。」

 

「そうですか……」

(むぅ、顔色ひとつ変えない……もう少し踏み込んで見ますか。)

 

「あ、そういえば石上くんって……」グイッ

 

「……」ササッ

 

「な、なんで逃げるんですか!?」

 

「藤原先輩、何か企んでるでしょ?」

 

「そ、そんな訳ないじゃないですかー! 可愛い後輩と親睦を深めようとしただけですよ!?」

 

「親睦ですか……」

 

「そうですよ! 大体石上くんもそんな目で先輩を見るもんじゃないですよ!」

 

「そんな目?」

 

「正に! 今! 人を見下す様な目で見てるじゃないですか! そんなんじゃ学校生活上手くいきませんよ!!」

 

「それなら大丈夫ですよ。だって、藤原先輩にしかしてませんから。」ニコッ

 

「なお悪いじゃないですか! もー逃げないで下さい!」ダッ

 

「うわっ!?」ササッ

 

「ぐへっ……うぅ痛い……あっ!……あーあ、石上くんに傷物にされちゃいましたー。」ニマニマ

 

「もし先程怪我をされたという事でしたら、医師の診断書と領収書を1年B組まで持って来て下さい。その場で改めて謝罪と治療費をお支払いさせて……」

 

「だからその目えぇぇ!」ガチャッ

 

「藤原、さっきから何を騒いでるんだ?」

 

「声が外まで漏れてますよ、藤原さん。」

 

「あっ、2人共聞いて下さいよ! 石上くんが酷いんです! 態度最悪なんです! 非常識なんです!!」

 

「……そうか?少なくとも、石上の俺に対する態度はかなりまともだと思うが。」

 

「そうですね、私にも常識的な振る舞いをしている様に見えますけど……」

 

「じゃあ、なんですかっ!? 私が非常識だから私にだけ石上くんの態度が悪いとでも言うんですかっ!?」

 

「多分だけどそうだぞ。」

 

「多分だけどそうよ。」

 

「えええぇっ!?」ガビーンッ

 

「……藤原先輩、プリン食べます?」

 

「プリン!? わーい頂きます!」

 

(餌付けしとる……)

 

(藤原さん、完全に性格把握されてるじゃない。)

 

「おいしーっ!」

 

(((チョロい……)))

 

本日の勝敗、藤原の勝利

年下にアホを見る目で見られ、生徒会メンバーからの信用度順位が3番目だが、最後に美味しい思いが出来た為。

 

 



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伊井野ミコは取り締まれない

感想ありがとうございます(`・∀・´)


その日……石上優がいつもの様に、先輩でありゲーム友達でもある龍珠桃の呼び出しに応じた時の話である。今回呼び出された場所は、普段から通っている生徒会室の真下だった。吹き抜けになっている為、柱の影に隠れてもすぐに見つかってしまうが、そもそも生徒会室のある土地は校則の治外法権であり、風紀委員の権利を行使する事が不可能なエリアである。石上は特に気にする事なくゲーム機を取り出した。

 

「……優は左から攻撃しろ、私は右から回る。」

 

「了解っす、桃先輩。」

 

いつもの様に桃先輩と協力プレイをする……桃先輩はコンクリートの上に直接寝そべるのが嫌らしく、柱に背を預け座り込む僕の左半身に凭れてゲームに勤しんでいる。

 

「風紀委員です。学園内でゲームは禁止されています、即刻やめて下さい。」

 

聞き慣れた声に瞬間、しまったと思った。声の主からは桃先輩と柱の影に隠れた僕は見えない様だが、時間の問題だろう。僕はゲーム機を仕舞うと見慣れた顔の風紀委員に話し掛けた。

 

「よっ、伊井野。」

 

「えっ、石上?」

 

「……知り合いか?」

 

未だ僕の体に凭れたままの桃先輩が、首だけ向けて聞いてくる。

 

「同じクラスの友達です。」

 

「ふーん、クソ真面目の面倒臭そうな奴だな。」

 

「まぁ、真面目な奴ですよ。」

 

「い、石上が不良になっちゃった……」

 

「不良ってなんだよ……」

 

「だ、だって……成績も良くて、風紀委員の仕事も手伝ってくれるあの石上が……校則を破ってゲームしてるなんて!」

 

前回と比較して、色々真面目になったと言っても本来の僕は重度のゲーマーでオタクな人間だ。中等部では校則を破ってまでゲームをする余裕は無かったし、荻野の件が終わってからも色々あってゲームをする機会は前回程多くはなかった。唯一、桃先輩に休日や高等部に呼び出しを受けた時は時間を忘れて楽しんでいたかな……ってくらいだ。そういえば、逆行してから伊井野の前で校則違反をした事は殆どなかったな……

 

「校則、校則ね……はっ、馬鹿らしい。」

 

苛立ちを含んだ声で桃先輩が立ち上がる。

 

「な、何が馬鹿らしいんですか! 規則は守るべきです!」

 

「ふんっ、だったらお前が守る側だな。生徒会室のあるこの土地は学園ではなく、OBの有志が作った〈鳳凰会〉が所有している。つまり、完全に校則の治外法権地帯って訳だ……ほら、わかったらさっさとどっか行け。」

 

シッシッと犬を追い払うように、桃先輩は片手を振る……桃先輩は風紀委員が嫌いなのかな? そういえば、初めて会った時も風紀委員か確認された様な気がする……

 

「チッ……」

(優とのゲームの時間を邪魔しやがって……)

 

風紀委員とかは特に関係なかった。

 

「そ、それなら、そこから出たら没収しますよ!」

 

「態々私達が此処から動くのを待ってか? 風紀委員っていうのは、随分と暇なんだな?」

 

「ぐっ、くぅ……」

 

「桃先輩、あんまり言い過ぎるのは……」

 

「ふんっ……あんな奴は放っておいて続きやろうぜ、優。」

 

「っ!?」

(桃先輩!? 優!? 名前で呼び合ってる!?)

 

名前呼び! 同性ならばともかく、異性に対しての名前呼びは些かハードルが高いモノである。子供の頃から一緒である場合や偶然名字が一緒で仕方なく名前で呼び合うなど理由は多岐に渡るが、こと思春期の男女に於いての名前呼びは、ある一定以上の信頼関係を意味する!

 

「……優、もうちょっと寄れ。」グイグイッ

 

「ちょっ、押さないで下さいよ。」

 

「……っ!?」

(ああぁあ!? あんなに密着してっ……!)

 

目の前で繰り広げられる光景に伊井野は冷静さを失った。もし仮に恋のABCならぬ、友(異性)のABCというモノがあったならば、先程の名前呼びはBに該当する案件であろう。しかし! 今、伊井野ミコの眼前で繰り広げられているのは、身体的接触!言うまでもなく名前呼びよりも格上の行為、Cに該当するモノである。真面目に規則正しく、清廉潔白に生きて来た伊井野ミコからすれば、目の前でいきなり見せられるには些か衝撃が強い行為である。

 

「……ッ」

(い、石上、そんな……)

 

「あ、あの桃先輩、あんまり引っ付き過ぎるのは……」

 

「なーに、一丁前に照れてんだよっ。」

 

「……うわぁーん、こばちゃーん!!」ダダダッ

 

「あー、こうなりそうな気がしたんですよ……」

 

「ふんっ、くだらない言い掛かりをつけて来るからだ……ほら、続きやんぞ。」

 

「……了解っす。」

 


 

「あ、居たミコちゃん。何処行ってたの?」

 

「こばちゃん、石上が不良になっちゃったぁ!」

 

「えぇ……」

 

………

 

「……なるほど、でも向こうの言い分が通りそうな話だと思うよ?」

 

「うっ……それはそうなんだけど、真面目だった石上が校則破ってるって思ったら訳わかんなくなっちゃって。もしかして、目の前にいる石上は偽物なんじゃとか考えちゃって……」

 

「偽物って……まぁミコちゃんは人一倍真面目だからね。でも石上も別に不良になったとかじゃないでしょ。成績だって良いし、生徒会で頑張ってる話は良く聞くし……息抜きは誰だって必要でしょ?」

 

「うん、そうなんだけどね……」

 

「おーす、何話してんの?」

 

「あ、麗ちゃん。」

 

「小野寺さん、えーと……」

 

「麗ちゃんは今の石上と中等部の頃の石上、どっちが偽物だと思う?」

 

「え、どっちか偽物なの……」

 

「もー! ミコちゃんステイ!」

 

………

 

「ふーん、そういう事……別に校則違反じゃないならいいんじゃない? 締め付け過ぎても反発が大きくなるだけだよ。」

 

「うぅ、でもぉ……」

 

「……伊井野はさ、校則どうこうで怒ってる訳じゃないでしょ?」

 

「えっ、えぇっ!?」

 

「まぁ、石上がダブルデートするの見た後だから、女子と一緒にいるトコを見て怒るのもわからないでもないけどね……」

 

「そ、そんなんじゃっ……」

 

「でも、そもそもの話さ……校則については、伊井野も人の事言えないでしょ?」

 

「え、どういう意味?」

 

「……言いたくなかったんだけどさ、見ちゃったんだよね。伊井野って昼ご飯食べた後、偶に本読んでるじゃん?」

 

「う、うん。」

 

「……」

(ミコちゃんが読む本……あっ、コレは。)

 

「……カバー掛けてるから表紙は見えなかったんだけどさ、開いたページに、その……半裸の男の挿絵があって……ね。」

 

「〜〜っ!?!! そ、それは違うのっ!」

 

「いや、大丈夫……私、そういうのに理解あるほうだからさ。まぁ流石に学校でああいう本を読むのはやめといたほうがいいと思うけど……」

 

「待って麗ちゃん! 誤解なのっ!!」

 

「いや、大丈夫だから。そういう趣味を持ってても、私は伊井野から離れたりしないからっ……」

 

「今そういうセリフ言わないでっ!」

 

「まぁ、だからね……どの口で校則とか言ってんだろって、ちょっとだけ思っちゃって……」

 

「くはっ……」バタッ

 

伊井野ミコ撃沈。

 

「あちゃー、言い過ぎちゃったかな?」

 

「まぁ、ミコちゃんは頭が硬過ぎる所があるから、コレくらい丁度良いと思うよ?」

 

「大仏さんスパルタだね……」

 

「そんな事ないよ、まぁミコちゃんの趣味は言いふらさないで欲しいけど。」

 

「それは大丈夫。こうやって伊井野をイジる時しか言わないよ。」

 

「……それならいいかな。」

(……私も学校で本読むのやめよ。)

 



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勘違いは止まらない

感想ありがとうございます(`・∀・´)


とある昼休み、多忙な生徒会役員は生徒会室で食事を摂りつつ仕事をしている事がある。今日は生徒会長と会計の2人が生徒会室に控えていた。

 

「石上、そういえばなんだが……先日のダブルデートの件で、柏木とは結局どうなったんだ?」ゴクッ

 

「どうなったか……そうですね、まぁ何かあれば僕が責任を取る事で落ち着きましたよ。」

 

「ごふぅっ!? げほげほっ!!?」

(せ、責任っ!? どう言う意味だ!?)

 

「会長、大丈夫ですか?」

 

「あ、あぁ気にするな……少し咽せただけだ。」

(まさか、柏木を苦手にしていたのは責任の有無の話があったから? えっ? じゃあ石上と柏木は過去にそういう関係が? イヤイヤ、流石に考え過ぎだろう……)

 

考え過ぎである。

 

「まぁ、元を辿れば僕が蒔いた種が原因なんで仕方ないんですけどね……」

 

「……そうなのか。」

(石上が蒔いた種だったーっ!! 大丈夫かっ!? 蒔いた種ってメチャクチャ意味深に聞こえるぞ!? もしかしてそういう意味かっ!?)

 

そういう意味ではない。

 

「だけど……いざとなった時の覚悟は疾うに出来ていますから。」

 

「うむ。」

(石上覚悟決めてたあああ!! マジで大丈夫かっ!? 高1で子持ちとか中々ハードな人生になるぞ!? 仮に4月頃にそういう関係があったとしたら……)

 

白銀は無意味な計算をし始めた。

 

「失礼します。」コンコン、ガチャッ

 

「あれ?翼先輩……どうしたんですか?」

 

「田沼か、珍しいな。」

 

「実は、2人に相談がありまして……」

 

「「相談?」」

 

「実は、恋愛百戦錬磨と呼び声名高い会長と友達の石上君に相談があって……」

 

「い、いいだろう……生徒の悩みを解決するのも生徒会の務めだからな。」

(恋愛百戦錬磨って何だよ……それ俺じゃないからっ! 石上の方だから!)

 

「僕で良かったら……」

(会長、いつの間にそんな呼び名で呼ばれる様になったんだろ……)

 

「それで、相談内容とは?」

 

「はい、実は先週からその……こ、恋人が出来たんです。マキちゃんって言うんですけど……」

 

「ほう四条か、それはめでたいな。」

 

「僕からも改めて言わせて下さい、おめでとうございます。」

 

「2人共、ありがとう。それでお互い恋人同士になったので、距離も以前よりは近くはなったと思ったんですけど……最近、本当に好かれているか自信が持てなくなってきて……」

 

「えぇ……」

 

「何かあったのか?」

 

「はい、ついこの前の事なんですけど……」

 

………

 

数日前……

 

その日の僕はある覚悟をしていました。それは、帰り道で手を繋いで帰るという覚悟です。水族館で手を繋いで以来、中々そういう機会に恵まれなかったので、今日こそは手を繋いで帰ろうと臨みました。

 

「……っ!」ギュッ

 

「つ、翼君!?」ビクッ

 

勇気を出して良かった、そう思いました。でも……

 

「ごめんっ、翼君……」スッ

 

………

 

「手を離されたんです!!」

 

「なるほど。」

 

「……」

 

「しかも、それから手を握ろうとしても避けられるし……実は好かれていないんじゃないかと、不安に思えてきて……」

 

「握る力が強くて痛かったとかは?」

 

「そこまで強く握ってませんでしたよ。」

 

「……それ、握ってからどれくらいの時間が経ちました?」

 

「えーと、5分くらいかな?」

 

「なるほど……多分ですけど、マキ先輩は手汗を気にしたんじゃないですか?」

 

「手汗?」

 

「ぼ、僕の手汗が原因って事っ!?」

 

「いいえ、逆です……マキ先輩が気にしたのは、自分の手汗なんです。」

 

「自分の……」

 

「手汗……?」

 

「先程翼先輩も気にしてましたけど、女子は男子以上にそういった事に敏感なんです。汚いとか気持ち悪いって思われたらどうしようと不安になったり、単純に恥ずかしかったり……それが最近出来たばかりの恋人なら尚更です。」

 

「……なるほどな。」

 

「じ、じゃあ僕はどうすれば……マキちゃんに気にしないから大丈夫とか言えばいいの?」

 

「直接言うのはダメです、マキ先輩に余計なダメージが行きます。」

 

「そんな……」

 

「ならばどうする?」

 

「そんなの、向こうが手を離そうとしても離さなきゃ良いじゃないですか! そういう時は行動で示すんですよ。」

 

「「な、なるほど!」」

 

「じ、じゃあコレも何か理由がっ!?」

 

………

 

昨日、マキちゃんに昼御飯を一緒に食べようと誘ったんです。でも……

 

「マキちゃん、一緒にご飯食べない?」

 

「き、今日はちょっと……ごめん!」ダッ

 

………

 

「逃げられたんです! なんでっ!?」

 

「友人と食べる約束があったとかじゃないのか?」

 

「確かにマキちゃんは週一で友達とお昼食べてますけど、昨日はその日じゃなかったんです。」

 

「む、違うか……」

 

「翼先輩、昼食に誘った時……その場にはマキ先輩だけでしたか?」

 

「ん……いや、授業終わってすぐだったからクラスの子も大勢居たよ。」

 

「だったら簡単ですね。そんな大勢の前で誘わないでよ、恥ずかしいでしょって事です。」

 

「「そうなのっ!?」」

 

「この場合は予め了承を得ておき、人目を避け、人の居ない場所で落ち合うのがセオリーです。」

 

「そんな裏取引みたいな待ち合わせすんの!?」

 

「じ、じゃあコレはっ!?」

 

………

 

その日の放課後……

 

そういう事があって、不安になった僕はマキちゃんに聞いたんです……

 

「マキちゃん……僕の事好き?」

 

「ふ、ふんっ……」プイッ

 

………

 

「顔背けて答えてくれなかったんです! これはどういうっ……」

 

「恥ずかしいからに決まってるでしょ! マキ先輩はねぇ! ツンデレなんですよ! 言いたい事と逆の事言っちゃう病気なんです! それ絶対帰った後、泣きながら後悔してる奴ですよ!」

 

「そ、そんな、じゃあ僕はこれからマキちゃんにどう接すれば……」

 

「……今まで通りで良いと思いますよ。多分昔からでしょ、マキ先輩のそういう所は。それでも変わらず側に居た優しい翼先輩だから……マキ先輩も好きになったんだと思いますよ? 只……言葉の裏を読む努力はした方が良いですね。」

 

「そっか……うん、僕……自信が持てたよ。男らしく行動で示せる様に、マキちゃんの言葉の裏を読めるように頑張ってみるよ!」

 

「その意気です。」

 

「石上君、会長、ありがとうございました!」バタンッ

 

「……昼休みも終わるな、俺達も戻るか。」

 

「そうですね。では……」

 

「あぁ、また放課後に。」ガチャッ、パタン

(俺……1つもアドバイス出来なかったな。)

 

 



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四宮かぐやは絆される

感想ありがとうございます_φ( ̄ー ̄ )


5月の過ごし易い季節も終わり、暦は6月のジメジメとした時期へと移行し始めていた。

 

〈生徒会室〉

 

「こんちゃーっす。」ガチャッ

 

「やったー! 会長にも勝ったー!」クルクル

 

「……藤原先輩、何やってるんですか?」

 

「あぁ、石上か……いやな、来週に控えたフランス校の歓迎会の買い出しを決めるゲームをさっきまでやっててな……」

 

「藤原さんにしてやられたんですよ。」

(会長と買い出しデート!)

 

「へぇ、先輩2人がですか……どんなゲームだったんですか?」

 

「ふふんっ、NGワードゲームですよ。石上くん、どうですか? 会長とかぐやさんに勝利した藤原先輩ですよ! 今までの無礼を謝るなら尊敬しても構いませんよ?」

 

「無礼? 何かしましたっけ?」

 

「自覚無しっ!? 石上くんはそういう所がダメなんですよ!!」

 

「……」

(お前が言うな。)

 

「……」

(貴女は人の事言えないでしょう。)

 

「それはそうと、歓迎会の買い出しですか……あっ、それなら……」

 

(……はっ! もし此処で代わりに僕が行きますよ、なんて言われたら会長との買い出しデートが!?)

 

「コレ、僕がよく行く喫茶店のコーヒー無料券なんですけど、もし良かったらどうぞ。」

 

「石上、いいのか?」

 

「はい、2枚差し上げますから買い出しの日にでも四宮先輩と一緒にどうぞ。」

 

「ふむ……四宮、後輩の折角の厚意だ……有り難く受け取ろう。」

(ナイスだ石上!可愛い後輩からの厚意、幾ら四宮であろうと無碍には出来まい!)

 

「そうですね。石上くん、有り難く頂くわ。」

(やだこの子、すっごく良い子じゃないっ! 私は最初から石上君の事を信じてましたよ!)

 

かぐやは面の皮が厚かった。

 

「いいなぁ、2人共……石上くん! 私にも何かないんですかっ!?」

 

「藤原、後輩に集るなよ……」

 

「藤原さん、みっともないわよ。」

 

「藤原先輩には、このゼリーをあげます。」

 

「わーい! 頂きまぁす!」

 

「……」

(藤原、もう完全にコントロールされてるな……)

 

「はぁ……」

(全く……淑女たる者、食べ物に釣られるなんて。まぁ石上君が藤原さんを制してくれるなら余計な負担が減る分、会長に割ける時間も増えるでしょうから問題ないわね。)

 

藤原、親友から余計な負担扱いされる。

 

「……会長達が買い出ししてくれるなら、前日の設営指示は僕がやりますよ。」

 

「その日は日曜だが、いいのか?」

 

「はい、それくらいはさせて下さい。本番の歓迎会ではフランス語が喋れない僕は役に立てるかわかりませんし……」

 

「そうか、じゃあ石上頼んでいいか?」

 

「はい、任せて下さい。」

 

「……藤原さん、貴女フランス語出来ましたよね? 当日は石上君の近くに居てあげたら如何ですか?」

 

「えー、石上くんが藤原先輩お願いしますって言って来たら考えてあげても構いませんよ?」ニマニマ

 

先輩にあるまじき発言である。

 

「うーわっ……」

(藤原、普通に性格悪い事言ってるぞ。)

 

「藤原さん、貴女ね……」

(これは……流石に石上君の分が悪いわね。)

 

「……藤原先輩、性格と能力が反比例してますけど大丈夫ですか? そのうち僕達以外にも化けの皮剥がれた所見られちゃいますよ?」

 

「反比例!? 化けの皮!? 石上くん、困った時くらい私に頭を下げて頼って来てもいいんですよ!」

 

上から目線で言うあたり、クズな発言である。

 

「一応対応策は考えてるので、大丈夫ですよ。」

 

「へー? ふーん!! 当日の歓迎会が楽しみですねぇ、石上くん!」

 

人格を疑う態度である。

 

「藤原……」

(いや、助けてやれよ。お前普段からプリンやらゼリーやら貰ってるだろ……)

 

「藤原さん……」

(売り言葉に買い言葉とはいえ対応策ね。少し興味もありますし、このままにしておきますか。)

 

………

 

〈歓迎会当日〉

 

「……なんとか間に合いましたね。」

 

「疲れましたぁ〜。」

 

「あぁ、校長には俺からキツく言っておく……それより石上、なんだそれは?」

 

「翻訳機です。フランス語以外の言語は外して、その分翻訳速度を向上するよう改造したんです。」

 

「へぇ、石上君はそういうのが得意なのね……少し試しても構いませんか?」

 

「大丈夫ですよ。」

 

「では、ーーーーーーーー。」

 

《はじめまして、私は秀知院学園生徒会副会長四宮かぐやです。今日は楽しんで下さいね。》

 

「おー、凄いな石上。」

(普通に欲しい……)

 

「中々高性能の様ですね、訳すのにも余り時間差はありませんでしたし。」

 

「……」←泣いて頼って来ると思ってた。

 

「喋る方は付け焼き刃ですけどね。」

 

「準備して来るだけ大したモノだ。そろそろ時間だ、行こう。」

 

2時間後……

 

「よいしょっと……ふー、何事もなく終わって良かったですねー。」

 

「……そうですね。」

 

「あれ? 石上くん、その翻訳機どうしたの?」

 

「煙出して壊れました。」

 

「なんで!?」

 

「まぁ、その……ス○ウターが壊れるのと同じ理由ですよ。」

(フランス校の生徒と喋る四宮先輩の言葉を翻訳した瞬間に壊れた……とは言い難いな。)

 

「ス○ウター!? 誰かの戦闘力でも測ってたの!?」

 

「結果的にそうなっちゃいましたね……」

(四宮先輩、相当怒ってたけどなんて言ってたんだろ……)

 

フランス校歓迎会終了。

 




フランス校歓迎会はアニメでは5月となっていますが、原作では6月っぽい描写があったので其方を採用しました。
どちらでも原作の石上は既に生徒会に居たはずですが、歓迎会に参加した描写がなかったのは、会長が気を利かせて石上を裏方に回したからだと思います。


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マスメディア部員は騒がしい

感想ありがとうございます(゚ω゚)


 

〈石上優は返したい〉

 

「……コレ、なんだっけ?」

 

地面に落ちている既視感のあるノートを見つめ、石上は暫し記憶を探る。

 

「うーん、なんか見た事あるんだよなぁ……名前は書いてないか、仕方ない。」

 

石上はノートを手に取るとページを捲る。

 

「あー……あぁー……」

(あーーっ……ナマモノだコレ。)

 

ナマモノ! マスメディア部所属、紀かれんが夜な夜な妄想をペンに乗せ書き上げた〈白銀会長✖️かぐや様、真実の愛編〉である。他人に見られれば即死レベルの妄想を詰めに詰め込んだそのノートを石上は……

 

「ちょっといいですか?」

 

「あら? 生徒会の……石上会計ですわね? ごめんなさい、今少々探し物をしておりまして……」

 

「コレですか? 気をつけて下さいよ、僕みたいにナマモノに耐性ある人間は少数なんですから。」

 

「」

 

マジである! 紀かれんとはこの瞬間が初対面であるにも関わらず、石上は持ち主へ最短ルートでノートを返還。かれんからしてみれば、往来でいきなり羞恥心と言う名の通り魔に襲われた様なモノである。様々な言葉が脳内を駆け巡るかれんだが、出て来た言葉は……

 

「わ、私は知りませんわ……」ガクガクッ

 

只の言い逃れだった。

 

「な、名前も書いてませんし……」ブルブルッ

 

「じゃあ、コレは生徒会が責任を持って……」

 

「私のです!!」

 

「……初めから認めて下さいよ。」

 

「な、なんでノートの持ち主が私だと思いに?」

 

(あ、しまった……そう言われたら変だよな、名前書いてないのに……)

「……それくらい見ればわかりますよ。」

 

「」

(見ればわかるっ!? 同級生の妄想をノートに書き綴る様な人間は私しかいないと!?)

 

概ねその通りである。

 

「あ、あの……もしかして中身……」

 

「そうですね、もう少しコマ割りと今風の絵柄にする様に気をつければ作品として見れる様になると思いますよ。」

 

(ガッツリ読まれてますわーっ!?)

「くぅっ…あ、ありがとうございます、精進致しますわぁ……」プルプルッ

 

「それじゃ僕はコレで……そういうの、僕は悪くないと思いますよ。」

 

「……ッ!」

 

「ん? かれん、何やってるの?」

 

「……編集者と話していただけですわ。」

 

「……編集者?」

 


 

〈紀かれんは聞き出したい〉

 

「紀さん、この前はありがとう。」

 

最近、眞妃さんとお付き合いを始めた彼氏さんに話し掛けられました。まだ付き合い出して日が浅く、眞妃さんとの関係に悩まれていた様なので、生徒会は恋愛相談も受け付けていると教えて差し上げたらすぐに相談に行ったそうですわ。元々眞妃さんも石上編集に以前から相談されていた様ですし、そこに恋愛百戦錬磨の会長も加われば早期解決は約束された様なモノでしょう……それに、私の狙いは別にあります。

 

「お気になさらず……それよりも、相談に対してどういったアドバイスをされまして?」

(コレで会長の恋愛観を聞く事が出来れば、創作意欲向上に繋がりますわ!)

 

「それなら、男なら行動で示せって言われたよ……石上君に。」

 

「……他には何か言われませんでした?」

 

「マキちゃんは素直じゃない所があるから、言葉の裏を読める様にって……コレも石上君に。」

 

「か、会長は何かおっしゃってませんでしたか?」

 

「んー……ごめん、忘れちゃった。」

 

忘れたも何も、何一つアドバイスが出来ていなかったのだから記憶に残っていなくて当然である。

 

「……」

(会長の有り難いアドバイスを忘れちゃった? 眞妃さんの言葉の裏を読む前に、人の話をちゃんと聞く努力をした方がいいのでは?)

 

かれんは毒を吐いた。

 

「じゃあ僕、そろそろ行くね。」タッタッタ

 

(まぁ今回は、眞妃さんに免じて許してあげましょう。)

 


 

〈巨瀬エリカは記事にしたい〉

 

「生徒会新メンバーの取材? 私とかれんで?」

 

「えぇ、部長からの依頼ですわ。石上編し…石上会計は、1年で生徒会にスカウトされた有望株。白銀会長も1年の時に前生徒会長にスカウトされたという経歴があり、共通点もあります。それに……秀知院の敷地内で、度々あの龍珠さんと談笑されているという目撃情報もありますわ。」

 

「あー、なんか剣道部の部長と一悶着あったって話は聞いた事あるわ。」

 

「えぇ、石上会計と剣道部の諍いに颯爽と現れた会長がすぐ様解決。そのまま石上会計をスカウトし生徒会へ招き入れたと。困っている人の所に風の様に颯爽と現れる……きっと会長の前世は聖騎士なのですわ!」

 

「説明に一々妄想挟むの何とかなんない?」

 

「他にも風紀委員の業務に助っ人として参加したり、眞妃さんの恋愛相談に乗ったりと色んな所で活躍されているらしいですわ。」

 

「マキの恋愛相談? 何それ?」

 

「……」

(んもーっ! この恋愛音痴は!!)

 

「マキ誰か好きな人いるの?」

 

「その話は後で!さ、取材に行きますわよ!」

 

「えー、気になる……」

 

………

 

〈マスメディア部〉

 

「石上会計……態々お越し頂いてありがとうございますわ。」

 

「それは大丈夫ですけど……」

 

「それでは、先ずは……」

 

「はいはいはーい! 生徒会室でかぐや様はどのように過ごされてるの!?」

 

「は?」

 

「……ホホホ、この子の事は気にしないで大丈夫ですわ。それで……会長とかぐや様の生徒会室での過ごし方でしたわね?」

 

「帰っていいですか?」スッ

 

「ストーップ!」

 

「お待ちになって!」

 

「お願いわかって! 普段のかぐや様を知れる機会なんて滅多にないの! 私達を助けると思って!」

 

「ヤベェ人の取材を受けてしまった事はわかりました。」

 

「だって、藤原さんに聞いても何もわからないままだし……」

 

「藤原先輩に頼るとか正気ですか?」

 

「私達も後悔したわ……」

 

「……」

(藤原さんは、石上会計からもそういう評価なんですのね……)

 

「まぁ、僕で答えられる事ならいいですよ。」

 

「じ、じゃあ、普段のかぐや様は……」

 

1時間後……

 

「2人共、取材は終わった?」

 

「勿論です!」

 

「ちょっと見せてね……うん、ボツ。」

 

「えー!? なんでっ!?」

 

「ちゃんと取材しましてよ!?」

 

「石上君の事、殆ど聞けてないじゃない。貴女達に任せた私が間違ってたわ……」

 

「そ、それでは記事にするのは……」

 

「ダメに決まってるでしょ! 罰として、暫くは資料整理しかやらせないからね!」

 

「「そ、そんな〜。」」

 


 

〈龍の機嫌は損なえない〉

 

「ちょっとかれん〜、何処行くのよ?」

 

「取材に決まってますわ。」

 

「取材ー? 私達、部長から今そういうの禁止されてるじゃない……」

 

「だからこそ! スクープを手土産に許してもらうのです!」

 

「それはいいけど、誰を取材するの?」

 

「龍珠さんです。最近、石上会計と一緒の所を良く目撃されていますし、雰囲気が柔らかくなったという話も聞きましたし……ラブの匂いがしますわ!」

 

「あの龍珠さんからラブの匂いぃ? それホント?」

 

「恋愛音痴は黙ってついて来て下さい!」

 

「恋愛音痴っ!?」ガビーンッ

 

………

 

「は? 取材? 嫌に決まってんだろ。」

 

「そ、そこをなんとか……」

 

「お断りだ、んなダリぃ事。」

 

「少しだけでも……」

 

「ちょっとかれん! ヤクザの娘だよ? あんまりしつこくすると埋められちゃうよ!」ボソッ

 

「だって、今までずっと1人でいた龍珠さんが年下とはいえ、石上会計と一緒に居る様になったんですのよ? 間違いなくチョロくなっている筈ですし……個人的にラブの匂いがしますわ!」ボソッ

 

「おい、全部聞こえてんだよ。埋めるとかチョロいとかモロクソ失礼だろが。大体親がヤクザだろうが私がそんな事する訳ねぇだろ……沈めんぞ。」

 

「「沈めるのっ!?」」

 

「もし、くだらねぇ記事書きやがったら……」

 

「し、失礼しましたわーっ!」ピューッ

 

「ちょっ!? かれん待って!?」ピューッ

 

「ったく……」

 

ラブの匂いがしますわ!

 

「フンッ……」

 

 

 



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偶には雨に感謝したい

感想ありがとうございます(゚ω゚)


6月も終わりに近付いて来たが……降り続ける雨は変わる事無く、ジメジメとした鬱陶しい空気を作り続けていた。しかし、学生という立場においてはその鬱陶しさが消え去るイベントが存在する……それが、相合傘イベントである。

 

〈昇降口〉

 

私はザーザーと音を立てて地面に降り注ぐ雨を……只々眺めていた。失敗した……今日は天気予報を見忘れて家を出てしまった。同じ風紀委員である友人の傘に入れてもらいたいけれど、今日に限って用事があるそうで、授業が終わると直ぐに帰ってしまった……職員室に置いてある貸し出し用の傘は、風紀委員の仕事が終わった頃には既に無くなっていた。最悪、タクシーを呼ぶしかないのかなと思い始めた頃……

 

「ん? 大仏、今帰りか?」

 

「あ、石上。うん、そうなの。でも傘ないからどうしようか考えてた所。」

 

「傘ないのか……じゃあ入ってくか?」

 

「……いいの?」

 

「あぁ、濡れないように気をつけろよ。」

 

「……うん、ありがとう。」

(もう、そうするのが当たり前みたいな顔して……今が薄暗くて良かった。)

 

私は石上から顔を隠す様に俯いて隣を歩く。

 

「……っ!」グイッ

 

「ん、どうした大仏?」

 

「ぬ、濡れたら困るからっ……」

 

「あぁ、そういう事。」

 

「い、石上は最近どう? 生徒会とか……」

 

「そーだなぁ……大変だけど、楽しいよ。」

 

「そっか、それなら良かったかな……あっ、マスメディア部の記事読んだよ。秀知院が誇る生徒会の新メンバーに迫るって奴。」

 

「あぁ、アレか……」

(ナマモノ先輩達の取材受けたのに、後でまた別の人から取材受けたんだよな……なんかダメだったのかな?)

 

ダメだったのはかれん達の取材内容である。

 

「あーいうの初めてで……変に緊張したよ。」

 

緊張したのは言うまでもなく、かれん達の取材ではなく別働隊の取材の事である。

 

「ふふ、でも書いてる事は立派だったよ。」

 

「えっ、何て書いてあったんだ?」

 

「取材受けたの自分でしょ? 何で聞くのよ。」

 

「いや、あんまり何言ったか覚えてなくて……」

 

「ふーん……別に変な事は書いてなかったよ? 白銀会長や四宮副会長の負担を少しでも減らしてフォローしたい……みたいな。」

 

「それなら安心したよ。」

 

「ふふ、何それ。」

(今日くらいは雨に感謝しなきゃね。)

 

1つの傘を分け合う男女を祝福する様に、降り注ぐ雨音は静寂を奏でていた。

 

………

 

一方その頃、例の2人は……

 

「見たんじゃないですか? 天気予報……」

 

「……っ!」ダラダラッ

 

なんとも対称的な絵面だった。

 


 

〈四宮かぐやを見舞いたい〉

 

7月某日……

 

「……四宮先輩が風邪?」

 

「あぁ、昨日の大雨で体調を崩した様だ。四宮の家にプリントを届けなければいけないんだが……」

 

「私! 私が行きます!!」

 

「……藤原書記が?」

 

「風邪引いた時のかぐやさんて……すっごく! 甘えん坊でメチャクチャ可愛いんですよ! だから私が行きたいです!」

 

「……ッ!?」

(甘えん坊!? メチャクチャ可愛い!?)

 

「それだけはやめてあげて下さい、藤原先輩が見舞うとか絶対悪化するじゃないですか。」

 

「しませんよっ!? 石上くんは私をなんだと思ってるんですかっ!?」

 

「確かにそうだな、四宮の家には俺が行こう。」

 

「会長までっ!?……だったら、公平にゲームで決めましょう!」ガサゴソ

 

「……ゲームだと?」

 

「はい、神経衰弱で決めましょう。異論はありませんね?」

 

「……僕はいいですよ。」

 

「ジョーカーはなし、イカサマは露見した時点でー5ポイントですからね!」

 

「うむ……」

 

「……」

 

「順番はじゃんけんで決めます。」ポン

 

「うむ……」

 

「……」

 

「では会長からスタートで……」

 

「……始める前に、僕から1ついいですか?」

 

「なんですか、石上くん?」

 

「イカサマしたら罰ゲーム有りにしませんか?」

 

「……いいでしょう! 但し、常識外れなのはダメですからねっ!」

 

「あぁ、わかった。」

 

「それでいいですよ。」

 

「じゃあ……スタートです!」

 

「ドーンだ藤原書記ィ!!」

 

「な、な、な、なんの話ですか会長っ!?」

 

「いや、しらばっくれるなよ。これイカサマトランプだろうがっ!!石上も気づいてたんだろ?」

 

「えぇ、だからこその罰ゲーム有りルールにしましたし……」

 

「ふ、2人共! 私を嵌めましたね!? ずっこい! ずっこいです!!」バンバンッ

 

「いや、先にズルしようとしたの藤原だろ……」

 

「人としての品性を疑います。もう少し秀知院の生徒という自覚を持った方が良いんじゃないですか? そんなんだから、藤原先輩はいつまで経っても藤原先輩なんですよ。」

 

「こんなんじゃなくても、ウチは先祖代々藤原ですよっ!?」

 

「まぁ何はともあれ、罰ゲームです。このプラカードを首から提げて校内一周して下さい。」

 

〈私は由緒ある生徒会メンバーでありながら、イカサマに手を染めた卑しい人間です〉

 

「」

 

「おぉぅ……」

(石上、容赦ないな……)

 

「僕はこれから藤原先輩が罰ゲームを完遂するか見届けるので、プリントは会長が持って行ってあげて下さい。」

 

「お、おぅ……」

 

「……四宮先輩、大雨の中誰かを待ってたみたいですよ? 傘を差して立ち尽くしてる所を偶々見ましたけど……」

 

「っ! そうか、石上……あとは任せた。」

 

「はい、四宮先輩にお大事にと伝えて下さい。」

 

「あぁ、必ず伝えよう。」ダッ

 

「……じゃあ行きましょうか、藤原先輩。」

 

「ハイ……」

 

………

 

〈校舎内〉

 

「うえぇぇっ……どぼぢでえぇぇ……!」

 

「走っちゃダメですからね。残ってる生徒にその卑しい姿を見てもらわないと。」

 

この事が原因で、藤原は校舎内に残っていた一部の生徒の間でイカサマをする卑しい人間という噂が広まったとか広まらなかったとか……

 



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四宮かぐやは相談したい

〈生徒会室〉

 

「相談? おば様が私に?」

 

「……相談とは少し違うかもしれません。私の話を聞いてどう思うか……エビデンスを集めたいだけです。所で眞妃さん……髪型、中等部の頃に戻したんですね。」

 

「まぁね……か、彼氏が髪下ろした方が良いって言うからっ……!」

 

「良かったですね、好きな人と結ばれて。」

 

「いきなり何よ、気味が悪いわね。」

 

「これでも祝福しているんですよ? 私達の様な立場の女性は、望まぬ婚姻を結ばれる事も珍しくないですから……」

 

「……まぁそうね、ウチはそこまで下劣な事はしないでしょうけど。」

 

「だから、好きな人とちゃんと付き合えた眞妃さんを祝う事はそこまでおかしくはありません。」

 

「そうね……そういう事なら、有り難く受け取っておくわ。」

 

「それで、話の内容なのですが……あと1人、誰か眞妃さんの御友人を呼んで頂けますか?」

 

「なんでよ? 私だけじゃダメなの?」

 

「出来るだけ、普通の感性を持った女性が望ましいので……」

 

「さらっと私を普通じゃないって言った? 大体、普通の感性持った人とか自分で用意しなさいよ。」

 

「私にそんな知り合いが居るとでも? 藤原さんは論外ですし、早坂も四宮家と関わりが深い分普通とは掛け離れています。」

 

「うーん、普通の友人ねぇ……」

 

………

 

〈ケース1〉

 

「は、はあああーーっ!!? こ、此処が白銀会長とかぐや様の愛の巣!! 此処で日夜お互いに愛を囁かれていますのねっ!? こ、此処こそが人類が探し求めていた……エデーーーン!!」バターンッ

 

「かれーーんっ!?」

 

〈ケース2〉

 

「あっあぁああぁ……か、か、かか、かぐや様の相談に乗れるなんてっ……わ、我が人生に一片の悔いなし!!!」 バターンッ

 

「エリカーーっ!?」

 

………

 

「……もしもし、渚? ちょっと相談事があって……生徒会室まで来てくれない?」

 

四条眞妃、消去法により柏木を選択。

 

………

 

「……失礼しまーす。眞妃に呼ばれて来たんですけど……」

 

「渚、急に呼び出して悪かったわね。」

 

「それは大丈夫だけど、どうしたの?……相談事って言ってたけど?」

 

「……私じゃないわよ。おば様が聞いて欲しい事があるんですって。」

 

「え、かぐや様が?」

 

「えぇ、一般的な意見も必要と思いまして……」

 

「私で力になれるのなら……」

 

「では、コレは友人の体験した話なのですが……」

 


 

〈中庭〉

 

「僕に恋愛相談ですか?」

 

「まぁ、恋愛相談っていうか……俺の話を聞いてどう思うか言って欲しいというか……」

 

「まぁ、それくらいなら別に良いですよ。役に立てるかはわかりませんが……」

 

「いや、それは大丈夫だ。寧ろ石上以上の適任はいない。」

(経験者の貴重な意見……一瞬たりとも聞き逃さん。)

 

「わかりました、どうぞ話して下さい。」

 

「あぁ、コレは友人の話なんだが……」

 

「……」

(会長の話だな、時期的に相手はやっぱり四宮先輩なのかな……)

 


 

「だ、男子がっ……!」

 

「ベッドの中に潜り込んでたっ!?」

 

「は、はい……」

 

「はわぁ……」ドキドキッ

 

「そ、そんな事……いけません! 破廉恥です! 女の子が風邪で弱ってる時にそんなっ……」

 

「……ッ!ッ!」ウンウン

 

「そ、そうですよね? でも、その女の子は意識が朦朧としてて……自分からって可能性も……」モジモジ

 

「だとしても! 女の子が弱ってる時は男子がモラルを持って行動するべきです!」

 

「……ッ!ッ!」ウンウン

 

「そ、そうよねっ!? わたっ…その女の子じゃなくて男子にモラルが無いのがダメなのよねっ!?」

 


 

「なるほど……ヤッちゃいましたか。」

 

「やらかしはしたけど、ヤッてはいねぇよ!」

 

「冗談です。しかし会長、好きな人と同じベッドに入って普通に寝るって……何やってんですか。」

 

「はあああっ!? 俺じゃねぇしっ!? 友達の話だしっ!?」

 

「あーそうでしたね……でも、とりあえずお互い謝ったんですよね?」

 

「あぁ、だが……」

 

「恨みがましい目で見られると?」

 

「勿論、その男子に悪い部分があるのはわかる。だが、理性を総動員して耐え切った人間にする仕打ちにしては、些か厳し過ぎると思ってな……」

 


 

「だから……少し位恨めしい目で見ても、仕方無いじゃないですか……!」

 

「かぐや様の言う通りです! そもそも日本男子なら責任取るくらいの事はするべきです!」

 

「……ッ!ッ!」ウンウン

 

「そ、そうよねっ!? 男子なら、ちゃんと責任は取るべきよねっ!?」

 


 

「女子ってなんかあったらすぐ責任取る取らないの話に持っていくじゃないですか……」

 

「あ、あぁ……」

(石上が言うと滅茶苦茶重く聞こえるんだが……)

 

「お互い謝ってハイオシマイ、っていうのが不満なのかもしれませんね。」

 

「なるほど、何事も無かった様に接したのが不味かったという事か……」

 

「うーん、女子は妙な所に怒ったりしますからねぇ……もしかしたら、ベッドに入ったのとは別の所に怒ってる可能性もありますし。」

 

「その可能性もあるのか……」

 


 

「でも……別に良いんです、最初からこんな事で責任取って欲しいなんて思ってませんし。」

 

「……じゃあ、かぐや様は何に怒ってるんですか? 相手はかぐや様に何もしていなくて、責任を取って欲しい訳でもないなら……」

 

「……!」

 

「何に……い、言えません。」

 

「えぇっ!?」

 

「ふふ、なるほどね。おば様の考えがわかったわ。」

 

「え? 眞妃わかったの?」

 

「えぇ、自分に置き換っ……えて考えた訳じゃないけど! 多分おば様は、何もされなかったのが不満なんでしょ?」

 

「……ッ!」コクッ

 

「か、かぐやさんっ……」キュンッ

 


 

「例えば、何もされなかった事が不満だったとか……」

 

「そ、そんな理由があるのかっ!?」

 

「あくまでも例えばの話です。会ちょ……その男子が本当に何もしていないのなら、謝る必要はありません。只、少しでも何かした事実があるのなら……言うべきかもしれませんね。」

 

「なるほど、必要なのは誠実さ……という訳か。」

 

「お役に立てましたか?」

 

「あぁ、助かった……その男子にはちゃんと伝えておこう。」

 

「……はい、お願いします。」

 


 

「……お返しです、これでチャラですよ。」ピト

 

「し、しのっ!?」

 

「私達、明日からはいつも通りですよね。」

 

「あ、あぁ……」

 

「……ッ!」タタタッ

 

………

 

「はえーっ……!」ジーッ

 

「か、かぐやさんっ……!」ジーッ

 

「……」

(あー、やっぱり四宮先輩だったか。ベッドに潜り込むなんて会長も大胆……いや、この場合大胆なのは四宮先輩か?)

 

バッチリ見られていた。

 



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生徒会は出掛けたい

一学期の総決算である生徒総会も無事終わり、秀知院は明日からいよいよ夏休みへと突入する。

 

〈生徒会室〉

 

「うおらぁ! 生徒総会お疲れっ!!」

 

「明日から夏休みですよー!!」

 

「いえーい。」

 

「もう、石上くん! もっとテンション上げて言って下さい!」

 

「藤原先輩のテンションはいつもフルスロットルですね……夏休みだからといって、余り羽目を外し過ぎない様にして下さいね。」

 

「石上くんが先生みたいな事言う!!」

 

「藤原書記は夏休み、したい事とかあるのか?」

(藤原、わかってるよな?)

 

「勿論です! 旅行とか最高ですよねー!」

 

「あぁ、そうだな……日常から解放される時間ってのは必要だよな……」

(そうそう、その調子……)

 

「私も明日から1週間ハワイ行くんですよー!」

 

「」

(はーっ!? 前に生徒会で旅行行きたいっつった張本人が何先陣切ってハワイ行こうとしてんだよ!)

 

「そうですよね、旅行……いいですよね。」

(呼吸……楽しい……)

 

「……」

(普通に自分から誘えばいいのに、会長も四宮先輩も奥手なんだから……仕方無いな。)

 

「そういえば……会長、この前紹介した喫茶店はどうでした?」

 

「あぁ、中々良かったぞ……珈琲も俺好みの味と風味だったしな。なぁ四宮?」

 

「へ? あっ、そうですね……私は普段ああいった場所には行かないので、とても新鮮でした。」

 

「それは良かった。もし気に入ったのでしたら、5枚ずつ差し上げますからコレをどうぞ。」

 

石上は財布から束ねた紙を取り出し、白銀とかぐやに差し出した。

 

「コレは……あの喫茶店の珈琲無料券か。」

 

「どうしてこんなに?」

 

「あの喫茶店、3回利用すると一枚貰えるんですよ。夏休みは会長も四宮先輩も少しは時間もあるでしょうし、一緒に行ってみたらどうですか?」

 

「それはありがたいが、こんなに貰うのは……」

 

「それ、まだ余ってるくらいなんですよ。だから気にしないで下さい。」

 

「石上……ありがとな、ありがたく頂くよ。」

(お前マジで欲しい時にパスくれる良い奴だな。流石経験者、どっかのハワイアンとは大違いだ。)

 

「石上君、ありがとうございます。」

(ホンット良い子だわこの子っ! 頭の中ホノルルってる藤原さんとは大違いね。)

 

藤原の評価、また下がる。

 

「皆さんが夏休みはそれなりに忙しいのはわかってますけど、一度くらいは全員で何処かへ出掛けたいですよね。」

 

「石上?」

 

「僕は1年ですけど、会長達は2年……来年は受験勉強で遊ぶ所じゃないかもしれませんし。」

(事実会長は、前回と同じ様に進むなら来年は海外へ行くと言っていた……会長と四宮先輩の事も大事だけど、僕自身も会長達と思い出が作りたい。)

 

「石上君……」

 

「皆と一緒に遊べるのが今年だけかもしれないなら、一回くらいは……」

 

「そうだな……夏の終わりには大きな祭りがある。生徒会全員で集まって楽しもうじゃないか。」

 

「そうですね、可愛い後輩の頼みですし。」

 

「会長、四宮先輩……」

 

「石上くん! 私はっ!? 皆の中に私も入ってますよね!?」

 

「あ、はい、もちろんですよ。」

 

「なんか、ついで感が凄いっ!!」

 

「やだなぁ、藤原先輩……そんな事ある筈ないじゃないですか。」

 

「だからその目ええぇっ!!」

 

「やれやれ、夏祭りは8月20日だったな……全員予定を空けておいてくれ。」

 

「そうですね、わかりました。」

(夏祭り! 花火! 会長と花火!!)

 

「了解です。」

 

「あ……すいません。私その日は、トマト祭りでスペインでした……」

 

「……」

(この流れでそれ言うって凄いなコイツ。)

 

「……」

(藤原さん、少しは自己欲を優先する所を直した方がいいんじゃないかしら?)

 

「えっ、まさか私だけ除け者にしてみんなで夏祭りとか……そんな酷い事するんですか?」ウルウル

 

「うっ……」

(そういう言い方されると……)

 

「まぁ……」

(除け者にするのは、流石の私も……)

 

「はぁ……藤原先輩が来れないっていうなら仕方無いですね。」

 

「……っ!」

(石上!?)

 

「……っ!」

(石上君!?)

 

「夏祭りは僕達3人で楽しんで来るんで、藤原先輩は遠慮なくトマト塗れになって来て下さい。」

 

「」

 

「……」

(バッサリ切り捨て……いや、斬り捨てたな。)

 

「……」

(藤原さんにここまで言える男子なんて、石上君だけよね……)

 

「うぅぅぅっ、行きます! 夏祭り行きますよ! 行けばいいんでしょーっ!?」

 

「いえ、別に無理して来なくても……」

 

「ヤダヤダッ! 仲間外れは嫌ですぅっ! 私も夏祭り行きますーっ!!」

 

「まぁ、藤原先輩がそれで良いなら……」

 

「ううぅっ……鬼畜です、石上くんは鬼畜系男子です! うえぇぇっ……」エグエグッ

 

「人聞きの悪い事を言わないで下さいよ。」

 

「まぁまぁ、2人共それくらいにしておけ。」

(結果的に上手くまとまったな。)

 

「そうですよ。藤原さん、夏祭り楽しみですね?」

 

「ぐす……うん、楽しみ、わたあめ、タコ焼き、射的、いっぱいするの……」

 

「そ、そうですね……」

(精神年齢が退化してる……)

 

それぞれの夏休み編へ続く。

 


 

〈帰り道〉

 

「そういえば……さっき俺と四宮に5枚ずつ無料券くれたけど、そんなに喫茶店行ってるのか?」

 

「そうですね。殆どは、桃先輩と待ち合わせする時に使ってるだけですけどね。」

(殆どは喫茶店で待ち合わせして、そのままゲームしてるだけなんだけど……)

 

「そうなのか……」

(3回行ったら1枚貰える無料券、俺と四宮合わせて10枚、この前の2枚を足して12枚、12✖︎3………しかもまだ余ってるとか言ってたな。石上、龍珠とそんなにデートしてんのっ!?)

 

「会長、どうしました?」

 

「いや、流石だと思ってな……」

 

「?」

 

勘違いも続く。

 

 



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それぞれの夏休み①

〈小野寺麗は読ませたい〉

 

「お邪魔しまーす。」

 

「ミコちゃん、小野寺さん来たよ。」

 

「麗ちゃん、いらっしゃい。大友さんは?」

 

「ちょっとだけ遅れるってさ。」ガサゴソッ

 

「そっかぁ……って麗ちゃん何してるの?」

 

「ん? エッチな本は何処にあるのかなって。」

 

「ないよっ!? なんであると思ったの!?」

 

「だって……伊井野は学校であーいう本読む奴だし、持ってるかなって。」

 

「だからアレは誤解なの! そもそも、女子向けのああいう本は全年齢対象だったりするから、麗ちゃんが思ってるより健全なの!」

 

「アレが……健全?」←正気かよという目

 

「うわぁーん、こばちゃーん! 麗ちゃんがイジメるぅ!」ガシッ

 

「ヨシヨシ、小野寺さん……上から二段目の左の奥だよ。」

 

「こばちゃんっ!?」

 

「えーと、上から二段目の……左奥。」ガサゴソッ

 

「ああぁっ! 麗ちゃんダメーッ!!」

 

過激な少女漫画発見

 

「うわっ、キッツ……」ペラペラ

 

「」

 

「まぁミコちゃんは思春期だから……」

 

「思春期って言葉で片付けていいモノなの? はぁ……伊井野、エッチな本ばっかり読むんじゃなくて少しは違う本も読んだ方がいいよ?」

 

「うえぇっ、違うもん……ちょっと過激なだけの少女漫画だもん!」エグエグッ

 

「別に伊井野がムッツリスケベでも、私は気にしないよ?」

 

「私が気にするのぉ……」

 

「小野寺さん、それは?」

 

「女子高生向けの雑誌、ちょっと古いけどね。」

 

「どれどれ……初体験はいつだったアンケート、高校生までに34%……」

 

「そ、そんなっ……麗ちゃんっ!?」

 

「ちょっと待って! なんでそうなるのっ!?」

 

「だ、だって34%って事は、此処にいる内の1人が経験済みって事で、私とこばちゃんはずっと一緒だったからそういうのが無かったって知ってるし、残るのは麗ちゃんしか……」

 

「アンタ達2人が違うからって、次は確定って事にはならないからっ!」

 

「じ、じゃあ麗ちゃんもまだなの?」

 

「そ……そうだよ、悪い!?」

 

「良かったぁ……」

 

「え、なんで喜ぶの?」

 

「だって1人だけ経験済みって、なんか気まずいというか……」

 

「まぁ、ミコちゃんの言いたい事もちょっとわかる……」

 

「お邪魔しまーす! 伊井野ちゃん来たよー!!」

 

「あっ、大友さんいらっしゃい。」

 

「みんなもお待たせー。何してたの?」

 

「コレ読んで話してたの。」

 

「大友さんにはちょっと過激かもね。」

 

「へー、ちょっと見せて!……ふむふむ、高校生なら付き合ってから3ヶ月〜半年が彼との初体験第1位……皆は彼氏が出来たらどれくらいでするの?」

 

いきなりの爆弾投下である。

 

「ええっ!? わ、私はそんな……破廉恥な事なんてっ!」

 

「……なんか伊井野は、性に対する好奇心凄いから案外すぐ身体許しそう……」

 

酷い言われ様である。

 

「わ、私はそんなエッチな子じゃないもんっ!」

 

「いや、今更カマトトぶられても……」

 

小野寺の目は冷たかった。

 

「カマトトっ!?」ガーンッ

 

「おのちゃんは?」

 

「んー、正直わかんないんだよね……相手にも寄るだろうし。」

 

「そっかぁ、おさちゃんは?」

 

「私? うぅん、私もわからないなぁ……ちょっと草食系っぽいし。」ボソッ

 

「……大仏さん、草食系って誰の事?」ニマ

 

「えっ……わ、私そんな事言った!?」

 

「えっ? 何々、おさちゃんなんか言ったの?」

 

「な、なんでもないからっ! それより、大友さんはどうなのっ?」

 

「うーん、私はねぇ……」

 

「カマトト……」ズーン

 

女子達の集いは続く……

 


 

〈報道女子は想いを馳せたい〉

 

「はぁ、会長✖︎かぐや様不足ですわ……」

 

「かぐや様ぁ……」

 

「私達がこうしている間も、御二方は逢引などされているのでしょうね……」

 

その頃の白銀……

 

くっ、どうする? 喫茶店には俺から誘うか? いや、四宮から誘いの連絡が来るかもしれん。もう少し待つか……

 

「私みたいな雑草と違って、かぐや様は優雅な休日を過ごされているのかしら……」

 

その頃のかぐや……

 

もう! 会長は何をグズグズしているの? 折角、石上君が無料券を譲ってくれたのに! こうなったら、もう私から……いえ、もう少し待ってからにしましょうか……

 

「……それじゃ、今日の活動はここまで。次の活動日はまた連絡するから、忘れない様にね?」

 

「……エリカ、帰りますわよ。」

 

「うん……」

 

「もう、少しは元気出して下さい……そうですわ、帰りにスイーツでも如何です?」

 

「うん、食べる。」

 

「はぁ……長期の休みになる度に、こうなる様だと先が思いやられますわ。」

 

「……そういうかれんだって、さっき会長✖︎かぐや様不足って言ってたじゃない。」

 

「確かに、今生きる活力が不足しています。しかし、会えない時間が想いを募らせるのか……最近、筆の進みが捗って仕方ないのですわ。」ボソッ

 

かれんの妄想ノートは、二桁の大台に達し様としていた。

 

「……会えない時間が想いを募らせる。そうよね、そもそもかぐや様と同じ時代に生まれただけで充分恵まれてる訳だし!」

 

かぐやガチ勢復活である。

 

「そうですわ! それに、こうして街をぶらついていれば逢引をされる御二方を見掛けるかもしれませんし!」

 

「……あれ? 彼処にいるの会計君じゃない?」

 

「えっ、何処です?」

 

「ほら、あの喫茶店に……」

 

「あら、ホントですわね……向かいの席に誰かいますけど……っ!」

 

「あれ、龍珠さん……」

 

「龍珠さんですわ! やはり私の目は間違っていませんでしたわ! ラブな波動を感じますわ!」

 

「えぇ、そう? 只ゲームしてるだけにしか見えないけど……」

 

「エリカもまだまだですわね、年頃の男女が休日に逢う……この意味がわかりませんの?」

 

「その言い方だと、男女混合の部活動や委員会もそういう意味になっちゃうと思うんだけど……」

 

「もうっ! 相変わらずニブチンですわね! とにかくコレはスクープになりますわ! 早速記録しないとっ……」

 

「えー、スクープしちゃうの?龍珠さん怒ると思うけど……」

 

「大丈夫ですわ。記録すると言っても紙媒体にですし、会長✖︎かぐや様のシチュ妄想に転用する事にしか使いませんから。」

 

「その使い方もどうかと思うけど……」

 

「ついでに写真も撮って夏休み明けにでも、石上会計に見せてあげますわ!」カシャカシャ

 

「嫌がると思うけどなー。」ポンポン

 

「えっ?」クル

 

「おう、嬢ちゃん達……お嬢の写真撮ってどうするつもりか、説明してもらってええか?」

 

「」

 

「」

 

数分後……必死の説明が功を奏し、なんとか誤解は解けた。

 

「かれん、私埋められるかと思った……」ガクガクッ

 

「私は沈められると思いましたわぁ……」ブルブルッ

 

本日の教訓、好奇心は猫をも殺す。

 

 



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それぞれの夏休み②

〈早坂愛は落としたい〉

 

「……」ポチポチ

 

〈会長、おはようございます。もし、お暇なのでしたら……石上君から貰った無料券で、珈琲でも飲みに行きませんか?〉

 

「……ッ」ポチポチ

 

作成文章を削除しますか?

YES←

NO

 

「……あーん! もうっ!! どうして会長は、折角の夏休みに私を誘いに来ないのっ!?」

 

「……自分から誘えばよろしいのでは?」

 

「ふざけた事を言わないで! それじゃまるで、私が会長と一緒に出掛けたいみたいじゃない!」

 

「先程から10回は、メールを送ろうとしては消しを繰り返している人の言葉とは思えませんね。」

 

夏休み! 凡そ40日間の休暇をどの様に過ごすかは人それぞれ。ある者はバイトに精を出し、またある者は友人と親交を深める……そして、選ばれた一部の人間だけが異性と遊びに行くというビッグイベントを体験する事が出来るのである。

 

「だ、だって……こういう時に誘うのは、男子の務めでしょう!?」

 

「はぁ、かぐや様ともあろうものが情けない事を。折角会計君が気を利かせて無料券までくれたっていうのに、当の本人がこの体たらくでは……」

 

「体たらくっ!? 石上君の素行調査も満足に遂行出来なかった癖に言ってくれるじゃない!!」

 

「あ、あれはっ……」

 

「普段は偉そうな事言ってる癖に、いざその時になったら年下の男の子1人満足に調査出来ないんでしょう!? 大体、早坂も恋愛事でアドバイス出来る程の経験があるの!?」

 

「かぐや様も言ってくれますね……」イラッ

 

「ふん! 口ではどうとでも言えますからね! 悔しかったら、石上君を落とすくらいして証明してみなさいよ!!」

 

「……ッ!」カチン

 

「……」

 

「……かぐや様がそこまで言うなら、やってやりますよっ。」ゴゴゴッ

 

「相手はあの石上君よ? 精々、藤原さんみたいに泣かされないよう気をつける事ね?」ゴゴゴッ

 

夏休みに入り暦は既に8月。その間、白銀から誘いのメールが来ない四宮かぐやの苛立ちと、普段から主人の我儘に振り回されている早坂愛のストレスがここに来て同時に爆発……何の関係も無い石上が巻き込まれる事態へと発展していた。

 

………

 

「こんな所ですね……」

 

対石上ファッションVer.1

 

伊達眼鏡➕ショートパンツ

 

「……普段の変装とは違うのね。」

 

「会計君とは学校で接点もありませんからVer.2(フィリス女学院ハーサカVer)でも問題ないとは思いますが、あぁいったタイプの男子は清楚な眼鏡っ娘を好む傾向にありますので。」

 

「なるほどね……それで、どうやって接点を持つ気? 今は夏休みよ?」

 

「会計君の行動パターン(休日)も既に解析済みです。今日は新作ゲームの発売日、馴染みのゲームショップに来店する可能性87%です。まぁ、見てて下さい。」

 


 

〈ゲームショップ〉

 

「んー? お、あったあった。」

 

石上は棚に陳列された物の中から、目当てである新作ゲームに手を伸ばした。

 

「あっ……ご、ごめんなさい!」ピタッ

 

その伸ばした手に重なる様に華奢な手が触れる。

 

「いえ、こちらこそすいませ……ん?」

(あれ? この人……)

 

「君もこのゲーム好きなの?」

 

「え? はぁ、まぁそうですね。」

 

「実は私もなんだー。私、同じ趣味の人って周りに居なくて……良かったら少し話さない? 丁度このお店ゲームブースもあるし、そこでどう?」

 

「……えぇ、構いませんよ。」

 

「……」コソコソ

(早坂、中々やるわね……)

 

男女間に於いて、共通の趣味とは一種のブースト装置である。共通の趣味を持っているということは自分と少なからず似た考えを持っており、同じ趣味を楽しんでいるという事実が親しみやすさを感じさせるモノである。それが余り女子受けしない、ゲームという趣味ならば尚更……普通の男子ならば、この時点で落ちていただろう。しかし、早坂愛は知らない。石上優が持つ特異性を……

 

〈ゲームブース〉

 

「……」

(むぅ、仕切りがある所為で2人の声が聞こえないわね……)

 

「実は私、前作からこのシリーズやっててね……」

 

「……あの、間違ってたらすいません。早坂……先輩ですよね?」

 

「っ!!?」

(そんなっ……見破られたっ!?)

 

石上優の特異性、それは高校1年3月までの記憶を持つという点にある。当然その記憶の中には、白銀御行、四条眞妃、早坂愛と共にバッティングセンターで遊んだ記憶も刻まれている。他人を見る目に秀でた観察眼を持ち、友人の少ない石上が共に遊び、並んで牛丼を食した事のある人間を見間違える事など有り得ないのである。

 

「な、何の話?」

(そんな……有り得ないっ! 今まで誰にもバレた事の無い私の変装が見破られた!?)

 

何も知らない早坂の立場からすれば、その衝撃は如何程であろうか……

 

「まぁ、そうなりますよね……」

(マキ先輩は早坂先輩の事を四宮先輩のお付きと呼んでいた。つまり、四宮先輩の周囲を警戒する仕事もしてる可能性がある。多分、僕が信用出来る人間か見極める為に近付いたってトコかな。)

 

単にストレスの爆発した少女2人の争いに、巻き込まれただけである。

 

「そ、そうだっ……カラオケでも行かない?」

(このまま此処に居るのはマズイっ!暗闇で女子と2人になれば冷静さも失うはず……)

 

「……あれ?カラオケ嫌いなんじゃ?」

 

「うん? 私、そんな事言った?」

 

「んん?」

 

カラオケは死んでもいやです、行き先は私に決めさせて下さい。

 

ええっ、主張つよ……

 

早坂がカラオケで白銀のラップ(なまこの内臓)を聴き、トラウマを植え付けられるのは……3ヶ月後の話である。

 

「えーと……じゃあ、バッティングセンターはどうですか?」

 

「うん、いいよ。」

 

(早坂、何処に行くのかしら?)ピコン

「ん?……っ!?」

 


 

〈バッティングセンター〉

 

「あぁ、全然当たらないよぉ……」スカッ

 

「……」

(うわぁ、メッチャ猫被ってる……僕達と遊んだ時は、バカスカ飛ばしてたのに。)

 

記憶のある石上からすれば、そこそこ滑稽な光景だった。

 

「早坂先輩、僕には猫被んなくて良いっすよ。」

 

(……誤魔化すのは無理そうですね。)

「……はぁっ、どうしてわかったの?」

 

「……なんとなくです。」

 

「……そもそも私、会計君と学校で話した事無かったよね? なんで私の事知ってるの?」

 

「あー、何回か友達と話してる所を見た事があって……」

 

「ふぅん? その程度でよく私だってわかったね……なんで変装してるとかは?」

 

「さぁ、そこまでは……でも、何か事情があるって事くらいはわかりますよ。」

 

「そう……」

 

「まぁ、ストレスが溜まってるならバッティングセンターくらいは付き合いますよ。」

 

「そんな、別にストレスなんて……ん?」ピコン

 

〈早坂! 会長に喫茶店に誘われちゃったから行って来るわね!帰りは遅くなるかもしれないから、早坂もくだらない事してないでさっさと帰っていいわよ。〉

 

「……くだらない?一体誰の所為で、こんな事をしてるとっ……!」ワナワナ

 

「……早坂先輩?」

 

「もうーーーっ!!」チャリン、カキーン、カキーン

 

「……」

(うわぁ、絶対ストレス溜まってる……)

 

「ほらっ、会計君も!」

 

「あっ、はい……」ブンッ、スカッ

 

「コラー! 全然腰が入ってないよ!!」

 

「スパルタッ!?」

 

本日の勝敗、早坂&石上の敗北

結果的にかぐやに振り回されストレスが溜まり、そのストレス発散に巻き込まれた為。

 


 

〈喫茶店〉

 

「……美味しいですね、此処の珈琲。」

 

「あぁ、週一で通いたくなる味だな……混んでいない今くらいの時間に。」

(四宮、わかるな?)

 

「そうですね、私も暇な時は来ても良いかもしれません。」

(なるほど、そういう事ですね。)

 

「ハハハ……」

 

「フフフ……」

 

本日の勝敗、白銀&かぐやの勝利

週一で喫茶店で会う事が可能になった為。

 



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それぞれの夏休み③

〈藤原千花は臭くない〉

 

「ん?藤原書記、奇遇だな。」

 

「藤原先輩、どもっす。」

 

「あーっ! 会長と石上くん、久し振りにですね。2人で遊んでたんですか?」

 

「あぁ、石上がVR買ったって言うから少し触らせてもらってた。んでメシ食って来た所。」

 

「この辺美味しい店いっぱいですもんね!」

 

「……」スンスンッ

 

「もう遅い時間だ。藤原書記も寄り道しないで帰れよ。」

 

「はーい、それじゃっ……」

 

「藤原先輩、これあげます。」スッ

 

「」

 

「それじゃ、気を付けて帰って下さいね。」

 

「」

 

「……石上、さっき藤原書記に何か渡してたが、何を渡してたんだ?」

 

「あぁ、ニンニク臭が凄かったので息ケアをあげただけですよ。」

 

「鬼かお前は。」

 

………

 

「……ッ」プルプルッ

 

本日の勝敗、藤原の敗北

自身のエチケットに対する認識不足の為。

 


 

〈生徒会は集まりたい〉

 

約束の夏祭り当日、前回同様……四宮先輩は待ち合わせ場所に現れず、代わりに夏祭りには来れないという謝罪のメールが届いた。

 

「かぐやさん……」

 

「……会長、どうします?」

 

「とりあえず、石上達は此処で待っててくれ。」

 

「はい!」

 

「わかりました。」ドンッ、パーンッ

 

「チッ、始まったか……」

 

会長は空を見上げて口元を歪めると、自転車に飛び乗り去って行った。

 

「花火、始まっちゃいましたね……」

 

「きっと、大丈夫ですよ。」

(頼みますよ会長。)

 

石上優とて、全ての出来事に関わるつもりは無い。予めこうなるという記憶が有り、対処する事も決して難しくない夏祭り当日の四宮かぐやの件。しかし、石上優は動かない。何故なら……

 

「……ッ!」

(この件に関しては、会長……貴方が頑張る必要があるはずです。)

 

1人の男が1人の女の為に、懸命に頭脳と身体を動かして見せてくれた光景は……何よりも美しかったのだから。

 

(会長、また皆で花火を見ましょう!)

 

「うぅっ……かぐやさんの携帯に繋がりません。石上くん、どうすれば……」

 

「藤原先輩は、そのまま連絡が取れる様にしておいて下さい。僕はタクシーを拾って来ます。」

 

「わかりました!」

 

………

 

〈本日の花火大会は終了いたしました。ゴミや飲食物は……〉

 

「あぁっ、花火大会終わっちゃいました……」

 

「大丈夫です、きっと会長なら……」ピコン

 

〈見つけた〉

 

「っ! 会長からです! 見つけた……四宮先輩の事ですよっ!」

 

「良かったぁ! あっ、アレじゃないですか!?」

 

視線の先には手を繋いで走って来る男女……白銀御行と四宮かぐやである。

 

「かぐやさーん、こっちですー!」

 

「タクシー捕まえておきました!」

(……運転手、またあのカッコいい人だ。)

 

言うまでもなく、高円寺のJ鈴木である。

 

「全員乗り込め! 運転手さん! アクアラインで海ほたるの方へ!!」

 

「……」

(ホント、カッコ良いな会長は……四宮先輩の為に一生懸命行動して、頭脳をフル回転させて、この光景を……四宮先輩に見せる事が出来たんだから。)

 

助手席から見ていた僕だから……後部座席の3人を見渡す事が出来たから気付けた。窓に張り付く様にして、打ち上がった花火を眺める先輩達の中に……花火ではなく、隣の男に釘付けになっていたその少女の姿を。

 

「……」

(良かったですね、四宮先輩。)

 

タクシーの中から見た花火は、記憶の中で色褪せずに残り続けていた花火同様、最高の美しさで闇夜に咲き誇っていた。

 


 

〈龍珠桃は見せたい〉

 

生徒会の皆で花火を見た数日後、僕はいつもの喫茶店でゲームをしながら向かいに座る桃先輩と、お互いの夏休みをどう過ごしたかについて話していた。

 

「へぇ、夏祭りね……そんなにやってたのか。」

 

「まぁ、都内だけでも10以上の夏祭りがありましたからね。」

 

僕は会長達と行った花火大会の他にも……伊井野、大仏、小野寺と4人で行った事もあったし、現地でマキ先輩と翼先輩の夏祭りデートを目撃したり、1人で軽く見て回って帰るつもりの夏祭りで大友やナマ先輩達と出会う事もあった。

 

「意外だな……優は私と同じインドア派だと思ってたよ。」

 

「基本はインドア派ですよ。でも折角の夏祭りですからね。非日常感を味わいたいですし……それに、友達から誘われたら嬉しいじゃないですか。」

 

「ふぅん……そういえば、今日近くの神社で規模は小さいけど夏祭りやるらしいぞ。」

 

「へぇ、そうなんですか。」

 

「……」

 

「……?」

 

「あぁもうっ、わっかんねぇ奴だな! 行くかって聞いてんだよっ!」

 

「えぇっ、そうだったんですか!?」

 

「わかれバカッ!」

 

「いや、だって桃先輩とはいつもゲームでしか遊んでなかったですし……まさか、先輩に夏祭りを楽しむ感性があるとは思いませんでした。先輩なら夏祭りとかはゲーム内のバザーとかVRゲームで行った気になってるものかと……」

 

「ブッ飛ばすぞ。」

 

「さーせん。じゃあ行きましょうよ! 桃先輩とゲーム以外で遊ぶなんて初めてじゃないですか?」

 

「あぁ……そういえばそうか。」

 

「祭りは何時からですか?」

 

「夕方の6時〜8時までだな。花火はないけど、出店はそこそこ多いから楽しめると思うぞ。」

 

「おぉ、楽しみです。それまで此処で時間潰していきますか?」

 

「……いや、今から一旦帰って現地集合で。」

 

「わかりました。じゃあ6時に待ち合わせでいいですか?」

 

「おぅ……じゃ、私は先に帰るわ。」

 

「うっす、じゃあまた後で。」

 


 

〈某神社鳥居前〉

 

待ち合わせ時間10分前に神社に着いた。桃先輩は規模が小さいと言っていたけれど、まだ祭りが始まる前だというのに段々と人の数も増えて来て、神社周辺は賑やかな雰囲気に包まれていた。

 

「結構人が増えて来たな……」

(ちゃんと合流出来ると良いけど。)

 

「……よう。」

 

「……ん?」キョロキョロ

 

桃先輩の声に振り向くも、周囲にはそれらしい人物は見当たらない。

 

「ボケてんじゃねぇよ。」ゲシッ

 

「……え、えぇっ!?」

 

足蹴にした声の主に視線を向けると、そこにはいつもとは違う服装……浴衣に身を包んだ桃先輩が立っていた。

 

「……なんか言いたい事でもあんのか?」

 

「帽子被ってない!」

 

「……ッ!ッ!」ゲシッゲシッ

 

「あっ、すいません、冗談です……浴衣着て来たんですね。」

 

「……あぁ、母さんが折角だから着て行けって言うから。」ボソッ

 

「なんか……雰囲気変わって見えますね。」

 

「ふん、似合ってないって言いたいんだろ? 自分でもわかって……」

 

「いや、似合ってますよ。浴衣着てると、江戸時代の町娘って感じで可愛いですね。」

 

「んなっ!? チッ……くだらない事言ってんじゃねぇよ、行くぞ。」プイッ、スタスタ

 

「待って下さいよ、桃先輩。」

 

………

 

「結構色々ありますね。」

 

左右に並んだ出店を見ながら、感想を洩らす。

 

「あぁ、規模の小さい神社の祭りなんて、古き良きって言えば響きは良いけど……要は古臭くて雑多な店が多いって事だからな、数だけは多いんだよ。」

 

「すげぇ身も蓋も無い言い方……」

 

「お、射的か……折角だ、どっちが先に景品取れるか勝負しようぜ。」

 

「良いですよ……玩具屋次男坊の実力見せてやりますよ。」

 

「言ったな? じゃ、何か賭けるか……負けた奴は勝った奴の言う事をなんでも1つ聞くっていうのはどうだ?」

 

「そんな事言って良いんですか? 負けた後でやっぱり無しって言うのはダメですからね?」

 

「ふん、上等だ。」

 

………

 

「……っし! 景品ゲット!」

 

「……先輩の記録は5発で景品ゲットですね。じゃあ、僕は4発で落としてやりますよ。」

 

「ハッ、やれるもんならやってみろ!」

 

友達と夏祭りで射的勝負をする……充実した夏休みだな。今年はいろんな人と祭りに行ったり、祭りで出会ったり、遊んだり、前回の僕では到底考えられない過ごし方だ。

 

だから、油断していたのか……忘れていたとでも言えばいいのかはわからないけど、人との出会いはいつだって突然やってくるのだと僕は再認識した。

 

「……あっ、ごめんなさい。」ドンッ

 

射的の弾を込めている僕に、バランスを崩した少女が背中に軽く当たった。

 

「いえ、気にしな……」

 

「ごめんね、大丈夫?」

 

申し訳ないと、顔の前で両手を合わせて謝ってくるその人に……僕は返事をする事を忘れてしまった。

 

「……」

(つばめ先輩……)

 

かつての想い人がそこにいた。

 




この話で一時更新ストップします。
暫くお待ちください。m(_ _)m
多分誰かの√に入るみたいな感じになるとは思うけど……(ーー;)
あと、シリアスになりそうな感じですが別にそういう訳ではありません、シリアス嫌いやねん……


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白銀御行は気が気じゃない(番外編)

感想ありがとうございます(`・∀・´)
思い付いたので投稿。
前半は、四宮かぐやは相談したい(54話)の後。
後半は、偶には雨に感謝したい(53話)より少し前の話になります。
箸休め的なお話です……_:(´ཀ`」 ∠):


〈白銀御行は気が気じゃない〉

 

夏休みを直前に控えたある日、1人の少女が生徒会室を訪ねていた。

 

〈コンコンッ〉

 

「あら、誰かしら?」

 

「あっ、僕が出ますよ。」

 

「そう? じゃあ、お願いね。」

 

「うっす……はい、どうぞ。」ガチャッ

 

「失礼致します。」

 

「えーと、中等部……?」

(あ、この子、会長の……)

 

「私は中等部生徒会の会計、白銀圭です。」

 

「僕は生徒会の……」

 

「石上先輩の事は存じています。」

 

「あ、そうなの? まぁ、立ちっぱなしで話すのもアレだから、どうぞ座って。」

 

「はい、ありがとうございます。」

 

(しろがねけい、白銀系……白銀!! この子、会長の妹ね! あるある! 面影ある!)

「私は生徒会副会長の四宮かぐやです。」ペコ

 

「あ、ご丁寧にどうも。」ペコリ

 

「紅茶です、四宮先輩もどうぞ。」

 

「あ、ありがとうございます。」

 

「あら、ありがとう。」

 

「あの、会長の白銀御行は留守でしょうか?」

 

「えーと、確か……」

 

「会長なら部活連の予算案会議に出席していますから、暫くは戻らないでしょうね。」

 

「部活連の会議って……アレですよね? 昔の外部入学の生徒会長が失礼を働いて、日本に住めなくなったっていう……」

 

「ふふっ、大分噂に尾ひれがついてますね。」

 

「あ、この話デマなんですか?」

 

「勿論ですよ。彼の父親の勤務先が……ちょっと遠くの国になっただけですよ。」

 

「それ飛ばされてますよね!?」

 

「……」

(まぁ、桃先輩も参加してるらしいし、妙な事にはならないと思うけど。)

 

「大丈夫ですよ……四宮の名にかけて、何があっても私が会長をお守りします。」

 

(四宮先輩もこう言ってるし、大丈夫かな? 書類チェックだけしたら、妹さんは四宮先輩に任せよう。女子同士の方が話も弾むだろうし。)

 

………

 

2時間後……

 

〈白銀家〉

 

「部活連会議どうだった?」

 

「まぁ、なんとかなったよ。そういや圭ちゃん、うちの生徒会来たんだって? どうだった?」

 

「どうって何が?」

 

「いや、一応兄として妹の立ち振る舞いが気になるというか……」

 

「過干渉キモっ。まぁ千花姉ぇはいつも通りだったし、石上先輩は書類チェックしてくれて、色々親切に教えてくれたし……」

 

「へぇ、そうなの?」

 

「四宮副会長とは……なんか緊張しちゃって、上手にお話出来なかった……」ボソボソ

 

「……え?」

(……えっ!? ちょ、圭ちゃん何その顔!? 石上の話でなんでそんなに顔が赤く……ハッ!? まさか……圭ちゃん、石上の事!?)

 

「け、圭ちゃん、よく聞こえなかったからもう一回言って……」

 

「うっさいしね!」

 

「」

(照れ隠し…… もう間違いない!!)

 

間違いだらけである。

 

「……ッ」

(そりゃ、石上は成績も良くて仕事も早いし、なにより良い奴だけど……)

 

お兄ぃ、私、石上先輩と結婚するね?

 

会長、妹さんは僕が必ず幸せにします!

 

「」

(……それとコレとは話が別だろうっ!!? いやそもそも、結婚とかまだ早い!! そういうのはもっとお互いを知ってからだ! 兄としてそんな簡単に許す訳にはっ……)

 

只のシスコンだった。

 

〈次の日〉

 

「い、石上は年下の女子をどう思うっ!?」

 

「はい?」

 

白銀は何も無い所に探りを入れていた。

 


 

〈藤原千花はまだ知らない〉

 

「……っていう事があってね!? 萌葉も酷いと思うでしょ!?」

 

「もー! 姉様は最近そればっかりじゃないですかー! 愚痴に付き合わされる私の身にもなって下さいよー。」

 

「石上くんが酷い事ばっかりするのが悪いんです! 文句があるなら石上くんに言って下さい!」

 

「石上先輩がねぇ……まだ中等部に居た時に圭ちゃんと見に行ったけど、そんなに酷い事言う人には見えなかったけどなぁ……」

 

「それは、石上くんが猫被ってただけです!」

 

「えー? そうかなぁ、石上先輩か……あの爆弾発言生放送事件の事なら、少しはイジれるんじゃない? 姉様には話したよね?」

 

「あー、その……それはちょっと、フェアじゃないと言いますか……」

 

「え? どういう事?」

 

「えぇと、悪い事してる人を糾弾する為に行動して、女の子2人を守る為に言った言葉ですから、イジるとか馬鹿にするのは……私的には違うんじゃないかなぁって。」

 

「姉様は変な所で常識的なんだよねぇ。」

 

「いいんですよ! そんな卑怯な手を使わなくたってギャフンッと言わせて見せますから!!」

 

このやり取りをした数日後、卑怯な手を使った事がバレた挙句、プラカード引っ提げて校内一周するハメになる事を……藤原千花はまだ知らない。

 

 



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√A.仏の小鉢編
二学期突入


感想ありがとうございます(`・∀・´)
毎日更新が出来ずに止まる事もあるかもしれませんが、完結までよろしくお願いします。(_ _).


〈石上優は女々しくない〉

 

9月に入り新学期が始まったが……僕の心には、未だに多少の動揺が残っていた。1週間前、桃先輩に誘われて行った夏祭りで……つばめ先輩と出会ってから、胸にザワザワとした妙な感覚が芽生えていたからだ。

 

それはそうである……逆行という奇異な体験をしたとはいえ、中身は精々が高校生レベルの少年である。そんな簡単に自分の恋愛に折り合いをつけられる程、成熟した精神を獲得してはいない。無論石上も、あの卒業式の日に子安つばめにフられた事で、一応の気持ちの落とし所は見つけているし、吹っ切れてもいる。しかし……

 

「……」

(だってまさか、あんなタイミングで会うとは誰も思わないじゃん……射的勝負は負けるし、桃先輩には……)

 

勝負は私の勝ちだな、楽しみにしてな。

 

「はぁ……」

(……とかメッチャ良い顔で言われるし。いや、なんだかんだ言ってもとっくに吹っ切れてるし、それを何をグチグチと……僕だけが気まずいだけだし、大体フられてから1年と半年近く経ってるんだから、何を動揺してるんだよ。これじゃまるで、僕が凄い女々しい奴みたいじゃないか!)

 

普通に女々しかった。

 

………

 

〈秀知院学園某所〉

 

「……それで、新学期早々私達を集めるなんてどうしたの?」

 

「なんかあったの?」

 

「……ギガ子ちゃん! マッキーちゃん! 私に2人の力を貸して欲しいの!」

 


 

〈藤原千花は侮れない〉

 

新学期に入り数日が過ぎ、いつもの日常を過ごしていた生徒会の面々だが……

 

「TG部で双六ゲームを作りました! 皆でやりましょう!」

 

という藤原千花の提案により、なし崩し的にプレイする事になったハッピーライフゲーム……

 

「……」

 

しかし、記憶のある石上は知っている……コレがどういうゲームかを。

 

「……」ニヤリ

 

そして、藤原千花はほくそ笑む。この後輩男子に舐められっぱなしだった日々は、今日で終わりにするのだと。

 

この数日、既に完成していたハッピーライフゲームに追加で手を加え、部員の意見や交流関係から得た情報を追加し《新ハッピーライフゲーム》として、自分を一切尊敬していない後輩に一泡吹かせる為に生徒会室へと持ち込んだのだ。

 

「じゃあ石上くんからどうぞ!」

 

「……」

 

ココで石上も思い出す。自分が前回、何のマスを踏みどうなったのかを……

 

あ!交通事故イベントですね!もう一度サイコロを振って1が出ると……

 

1が出ました。

 

はい、石上くん死にました。

 

はい、石上くん死にました。

 

はい、石上くん死にました。

 

交通事故で死亡、奇しくも自分が逆行する原因となった事象である。ただの偶然……そう言い切るのは簡単だが、当の本人は……

 

「……」

(え? まさか……ただの偶然だよな? でも藤原先輩が所属するTG部が作ったゲームだし、変な呪いくらい掛かっててもおかしくは……うーん。)

 

石上はTG部の事をあまり信用していなかった。

 

「石上くん? 早く振って下さいよ。」

 

「……わかりました。」コロッ

(まぁ、そんな話ないか、偶然偶然。)

 

「5……えーと、放課後イベントですね。」

 

「……ッ!」

(しゃああああっ! 死亡フラグ回避!!)

 

ガチ安堵である。

 

「放課後イベントは、放課後に遊ぶか勉強するかが選べます! どっちが良いですか?」

 

「じゃあ遊ぶで。」

(死なないなら、なんでもいいや。)

 

「ふふふ〜、更にタイプも選べますよ? アウトドアとインドアから選んで下さい!」

 

「じゃあ、インドアで。」

 

「それじゃ! 石上くんには、このアニオタカードをあげます!」

 

「……ケンカ売ってます?」

 

そしてゲームは進行する。

 

白銀はガリ勉カード効果で、高学歴を獲得。かぐやはラッキーマスを多数獲得し、現在所持金トップ! 藤原、石上はゲーム慣れにより、効率良く自身のステータスを上げていく。

 

そして局面は、子供ゾーンから大人ゾーンへと移行する……

 

「あっ、石上くん結婚マスですね。この中から結婚する子を選んで下さい!」サッ

 

「……わかりました。」

(あれ? 一番近いプレイヤーじゃないのか。)

 

1、大仏こばち

2、龍珠桃

3、伊井野ミコ

4、小野寺麗

5、大友京子

6、四条眞妃

7、柏木渚

8、四宮かぐや

9、藤原千花

10、紀かれん

 

「全員知り合いっ!?」

 

「……」

(女子の知り合い多いな、石上……)

 

「……」

(人は見かけに寄らぬものとは言いますが……それにしても多いですね。)

 

「それぞれステータスが違うので、よく考えて下さいね。」

 

「知り合いの時点で滅茶苦茶選びづらいんですけど……っていうかよく調べましたね?」

 

「ふふふ、私はラブ探偵チカですよ? 石上くんと仲の良い女子くらい、直ぐに調べられますよ。」

(ふふ、知ってる人だと意識しちゃうでしょう? 冷静さを失った石上くんに大差で勝つ。そして、この中に好きな子がいるなら……イジリまくった後で、このラブ探偵チカが導いてあげましょう!!)

 

かなりタチが悪かった。

 

「うーん……」

(人数多いし、ステータスもバラバラか……誰を選ぶかな?)

 

「い、石上は誰を選ぶんだ?」ソワソワ

 

「うぅん、そうですね……」

(あれ? もしかして会長、四宮先輩が選ばれたらどうしようとか考えてる? いやいや、たかがゲームだし……そんな訳ないよな。)

 

「……ッ」

(些細なきっかけで異性を意識するのは良くある事だ……石上は成績も良く、内面的にも秀でた人間だ……四宮が結婚相手に選ばれたら、意識してしまう可能性もゼロではない。)

 

滅茶苦茶考えていた。

 

「……」

(でも結婚相手か……僕もいつか、そういう相手に出逢う時が来るのかな……僕みたいな奴を好きになってくれて、お互いを支えて尊重し合える様な女性が……)

 

 

石上……守ってくれて、ありがとね。

 

 

「……」

 

「石上くん! いつまで悩んでるんですかっ!?」

 

「あっ、すいません。じゃあ……大仏で。」

 

「……へー、ふーん?」ニマニマ

 

「藤原先輩、どうしたんですか? 顔が引き攣ってますよ?」

 

「それを言うなら緩んでますよでしょっ!? 本当に石上くんは上級生を敬いませんね!!」

 

「何度も言いますが、こんな扱いをしてるのは藤原先輩だけですよ。」ニコッ

 

「テメーコラーッ!!」

 

「ふ、藤原抑えろっ! 石上もあんまり煽るな!」

 

「すいません。」

 

「ふぅふぅっ、いいでしょう。このゲームで勝ってどちらが上か教えてあげます!」

 

(コレそういうゲームだっけ?)

「つ、次は俺だな。」コロッ

 

「あ、会長も結婚マスですね。」

 

「ッ!?」

(か、会長が結婚っ!?)

 

「結婚相手はこの中から選んで下さい。」

 

「俺も選択式なのか……」

 

1、四宮かぐや

2、藤原千花

 

「少ないなおいっ!?」

 

「だって会長が普段話す女子なんて、私とかぐやさんくらいですよね?」

 

「ぐぅっ! た、確かに……」

(石上の後だと、滅茶苦茶モテないやつみたいに見えるな俺……)

 

「さぁさぁ! 私とかぐやさん、どっちを選ぶんですか?」

 

「……」

(そんなもん四宮に決まって……いや、ちょっと待て! もし此処で、四宮を指名したら……)

 

あらあら、ゲームとはいえ私を結婚相手に選ぶなんて……会長、そういう事なんですね? ふふ、お可愛いこと。

 

(そんな事したら告白したも同然! くっ、仕方ないが此処はっ……)

「ふ、藤原書記だ。」

 

「へー、私ですかぁ……えへへへ、私会長と結婚しちゃいましたー。」テレッ

 

「」

 

「……」

(あれ? 四宮先輩じゃないのか……まぁ所詮ゲームだし、誰を選んだ所で現実とごっちゃにする人なんている訳ないか。)

 

「」

(か、会長が藤原さんと結婚!? なんで私じゃないのっ!? も、もしかして……会長は藤原さんの事がっ!?)

 

いた。

 

「会長、コレお祝い金です……四宮先輩、ゲームなので現実のお金は仕舞って下さい。」

 

「……ッ」プルプルッ

 

そして……

 

「あっ、また出産マスですねー。」

 

「お祝い金です。随分お盛んな様で……」ボソッ

 

「ゲームの話だからなっ!? ボソッとマジっぽく言うのやめろ!」

 

「……ッ」プルプルッ

 

「だから、リアルマネーは仕舞って下さい。」

 

新ハッピーライフゲームの……

 

「あ、石上くんはラッキーマスですね。アニメ好きが高じて、二次元空間からお嫁さんを召喚出来る機械を手に入れました! アニオタ冥利につきますねー。」

 

「やっぱりケンカ売ってますよね?」

 

勝者が……

 

「あ、かぐやさんも結婚マスですね。」

 

「四宮先輩は男性不信カードを持っているので、強制的に藤原先輩と結婚となります。」

 

「」

 

「っ!?」

(四宮の目が死んだっ!?)

 

決まったのだった……

 

「……という事で結果発表です!!」

 

1位、四宮かぐや(➕13億7500万円)

2位、藤原千花(➕4億3000万円)

3位、石上優(➕3億5000万円)

4位、白銀御行(➕9500万円)

 

「滅茶苦茶疲れた……」

 

「会長……一時期は1億8000万の負債があったのに、よく➕収支に出来ましたよね。」

 

「ハッピーライフゲームの勝者はかぐやさんでしたー!」

(石上くんに大差をつけられなかったのは悔しいですが、まぁ良しとしましょう。)

 

「……」

(1位なのに嬉しくないし、全然ハッピーじゃない……)

 

 



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大仏こばちは気になる

去年の奉心祭に決意してから早9ヶ月、高等部は夏休みを終え二学期に入った。その間、石上とは良好な関係を続けて来れたと思う。ただ、最近気付いた事がある。それは……

 

 

い、石上!

 

石上、おっつー。

石上君、バイバイ!

 

優、こっち来い。

 

あ、優ったら聞いてよー。

 

 

石上君、なんで逃げるの?

 

 

石上編集、聞いて下さい!

 

 

ねぇ会計君、かぐや様の生徒会エピとかない?

 

 

会計君、また今度付き合って。

 

 

あら、石上君どうしたの?

 

 

うえぇっ、どゔじで勝てないのぅ……

 

 

石上は女子の知り合いが多い。私達みたいに同じクラスの女子や大友さんはまぁわかるけど、何故か年上の知り合いが多い。龍珠先輩は奉心祭の時に会ったし、ダブルデートの件も後で事情を聞いたから別にいいし、生徒会の先輩も一緒に仕事してるから仲が良いのもわかるけど……知らない間にマスメディア部の先輩とか、ギャルっぽい先輩とか増えてるのはどういう事なの?

 

別に全員が恋愛感情を持ってる訳じゃないんだろうけど……それでも少しは自重して欲しいというか、嫉妬してしまう私はイヤな女だと思う。

 

「なんで眼鏡外して迫んないの?」

 

相談というよりは愚痴に近い事を言っていた私に、小野寺さんはそう言った。

 

「大仏さん、美人だし普通の男ならすぐ靡くと思うけどね。」

 

「……石上は普通とは違うと思うから。」

 

「ふーん、まぁ何か理由があるなら無理にとは言わないけどさ。とりあえず石上に恋愛感情持ってる人がどれくらい居るかくらいは把握しておけば?」

 

「恋愛感情……小野寺さんは誰だと思う?」

 

「えーと、まずは伊井野でしょ? 本人に自覚があるかは知らないけど……」

 

「私もミコちゃんに自覚があるかは微妙だと思う、ミコちゃん素直じゃないし……石上から告白されたら普通にOKしそうだけど。」

 

「あとは……龍珠先輩くらいじゃない? 偶に敷地内で一緒にいるトコ見掛けるし、喫茶店で2人でいるトコ見たって人もいるし。」

 

「それだけ? 大友さんとか柏木先輩は?」

 

「大友さんは無いよ、断言してあげる。」

 

「そうなの……?」

 

「まぁ、ね……」

 

うん、単純にタイプじゃないんだー。

 

「……」

(お願いだから石上も、大友さんだけは好きにならないで欲しいわ。)

 

「それなら柏木先輩は? ダブルデートの事もあるし、可能性はあると思うけど……」

 

「個人的にそれは勘弁して欲しい……」ガタガタッ

(水族館の時メッチャ怖かったっ……)

 

「えぇー、何かあったの……?」

 

「それは……まぁ置いといて。他にマスメディア部と生徒会の先輩はないね、あくまで先輩後輩としての関係だと思う。偶に泣いてる藤原先輩と石上が一緒にいるのは……まぁいいとして、あとはそのギャルっぽい先輩? 私はまだ見た事ないけど、最近知り合ったんならそこまで親しくもないでしょ。」

 

「だと、いいけど……」

 

「……次の奉心祭で告るっていうけどさ、そんなん待たないで告っちゃえば良くない?」

 

「うん……でも心の準備とか色々あるし。」

 

「まぁ、無理強いするものでもないけどさ……石上は良い奴だし、知らない内に取られない様に気を付けなよ。」

 

「……うん、気を付ける。」

 


 

小野寺さんと別れた直後、廊下を歩いていると教室の出入り口で石上と出会した。

 

「大仏、今から委員会か?」

 

「うん、石上は今から生徒会?」

 

「おう、今月で生徒会も終わりだし、色々片付けておかなきゃいけない仕事とかあってさ。」

 

「ふーん……石上はさ、次の生徒会長に立候補したりしないの?」

 

「僕が? ないない、器じゃないよ。」

 

「そう? 結構向いてると思うけど……石上はさ、困ってる人が居たら助けてあげられる人でしょ? 普通の生徒からすれば、そういう人に生徒会長になってもらいたいと思うよ?」

 

「……そんな事言っていいのか? 伊井野は今年も立候補するんだろ?」

 

「まぁ、そうなんだけど……」

 

「僕は味方になれないから、大仏が支えてやってくれよ。」

 

「え? 味方になれないってどういう事?」

 

「……その内わかるよ。」

 

石上はそれだけ言うと、歩いて行ってしまった。

 

「……?」

(その内? 何かあるのかな……?)

 


 

生徒会業務終了後……

 

スマホが振動するのを感じて画面を開く。

 

「……」

 

呼び出しの連絡だ……僕は最近訪れる様になった場所へと、足を踏み入れた。

 

〈バッティングセンター〉

 

「うーっ! 超恥ずかしかったし!」カキーン、カキーン

 

「……」

(うわぁ、もう既に出来上がってる……)

 

「せめて1ヶ月はあれば絶対イケてたし!」カキーン

 

「お、お疲れ様でーす。」

 

「来たんなら早く打つし!」

 

「あ、はい。」ブンッ、ガスンッ

 

「全然ダメだし! 男ならもっと豪快に行けし!」

 

「手厳しい!?」

(秀知院の制服の時はギャルモードなのか。)

 

「HR打つまで帰るの無し!」

 

「えええっ!? ハードル高っ!?」

 

「文句言うなし!」

 

本日の勝敗、石上の敗北

自身のうっかり発言が原因で、そこそこの頻度でバッティングセンターに呼び出される様になった為。

 

 



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四条眞妃は惚気たい

感想ありがとうございます(゚ω゚)


9月某日……2学期になり数日が経ったある日、生徒会室には2人の少女が居据わっていた。1人は生徒会副会長四宮かぐや、そしてあとの1人は……

 

「それでね……夏祭りの時、翼君はずっと手を繋いでくれてね? その、所謂恋人繋ぎって奴を……」

 

「……」

 

「履き慣れてない下駄だったから、転びそうになったんだけどね?」

 

「…」

 

「咄嗟に翼君が繋いでた手を引き寄せてくれて、そのまま……抱きしめてくれたの!」

 

「」

 

「とにかく、最高の夏休みだったの!……おば様は、夏休みどうだった?」

 

「そ、そうですね……」

(眞妃さん……貴女、夏休み前はそんな感じじゃなかったでしょう!? なにやら纏う空気がとても柔らかくなっていますし、それどころか目も凄いキラキラしていますし!)

 

四条眞妃! この夏休み期間、四条眞妃は恋人である田沼翼と良好なお付き合いを続けていた。会う頻度自体は、他の友人達と大差ないがその時間を大切に過ごして来た事により、最大の欠点であるツンの要素が薄まっていた。コレもひとえに、田沼翼が石上優からのアドバイスを真摯に受け止め、変わらない優しさで接し続け、言葉の裏を読む努力をした結果である。

 

(もうーっ! 私でも会長と恋人繋ぎしたり、抱きしめられた事なんてないのにっ!!)

 

惚気られる立場からすると、たまったものではないが……

 

「そうですね、私も……生徒会の皆と、花火を見る事が出来ました。」

 

「……そ、なら良かったわ。」

 

「眞妃さんは、その……彼氏さんとは何処まで?」

 

「……き、キスまでっ!」

 

「そ、それはっ……些か早すぎるんじゃ!?」

 

※個人の意見です。

 

「えぅっ……わ、私もちょっと早いかなと思ったんだけど、でも急だったし……」

 

※個人の意見です。

 

「そうです、早いです! もっと自分を大事にするべきです!……ち、因みにどうでした?」

 

「……え? 何が?」

 

「だ、だからっ……き、キスがですっ!」

 

「とりあえず、すごかった……!」

 

「……ぐ、具体的にはっ!?」

 

「頭がボーッとして、今までにないくらい顔が熱くなっちゃって……一瞬しか触れてなかったのに、唇の感触は凄い残ってるの……」

 

「はわっ……」ドキドキッ

 

「も、もう! おば様ったら、あんまり恥ずかしい事言わせないでよ!」

 

「す、すいませんっ……」

(もし、会長にキスされたら……)

 

「ま、まぁ別にいいけどっ……」

(思い出したら、また恥ずかしく……)

 

「「……ッ!」」ドキドキッ

 

※余談だが……高校生の付き合ってからキスまでの平均期間は、凡そ1ヶ月である。

 


 

〈中庭〉

 

「僕に相談事……もしかして、マキ先輩と上手くいってないんですか?」

 

「ううん、そんな事ないよ……寧ろ上手く行き過ぎ? みたいな感じかな。」

 

「じゃあ、なんで相談を?」

(……相談風自慢かな?)

 

「その、実はさ……初体験ってさ、キスからどれくらいの間を置いてするものなのかなって。」

 

「」

 

「ご、ごめんね。こんな事年下に相談する事じゃないんだろうけど……」

 

「あぁいや、気にしないで下さい。ちょっと面食らっただけなんで……」

(うわぁ、なんか……うわぁ……)

 

石上は、親しい人間の性事情は聞きたくないという、あの感情に苛まれた。

 

「そうですね……やはり、時間どうこうよりも相手がどう思っているかが大事だと思います。」

 

「相手がどう思っているか……」

 

「はい。男と比べて女性の負担が桁違いに大きい行為ですし、何よりマキ先輩はその……凄い奥手なタイプですし。」

 

「あんまりガッツかない方が……いいよね?」

 

「そうですね、下手したら婚前交渉は良しとしない可能性もあります。」

 

「えぇっ!? そこまでっ!?」

 

「まぁ、男の方も辛いとは思いますけど、頑張って耐えて下さい。」

 

「う、うんっ! マキちゃんに無理はさせたくないし、耐えて見せるよ!」

 

「……お願いします。」

(コレで、暫くは悩まされないで済むかな。)

 

………

 

「……」トボトボ

(友達の性事情の相談とか、地獄かと思った。)

 

「……」トコトコ

 

「……」トボトボ

(別にマキ先輩に恋愛感情がある訳じゃないけど、コレが脳が破壊されるって奴か……)

 

「……」トコトコ

 

「……」トボトボ

(それに、マキ先輩と翼先輩が神ったりしたら、柏木先輩が柏鬼先輩にならないか心配になるわ。まぁマキ先輩なら神ったとしても、友達を蔑ろにはしないと思うけど……)

 

「……石上君。」ポンッ

 

「えっ? か、柏鬼……柏木先輩!? 一体どうしたんですか!?」

 

「今なんで言い直したの?……まぁいいや、責任取ってもらいに来たよ。」ニコッ

 

「」

 

「石上君、言ったよね? もし眞妃が私から離れたりしたら、責任取ってくれるって。」ユラリ

 

「ちちちちちょっと待って下さい! マキ先輩がそんな簡単に友達と距離を置くなんてっ……」

 

「私も本当は嫌なの……ごめんね?」

 

「滅茶苦茶不穏な謝り方しないで下さい! じ、事情っ! 事情を話して下さい!」

 

「いいよ……去年までの夏休みは、週に3〜4回は会う機会があったの。でも、眞妃に彼氏が出来た今回の夏休みは、会う機会が2〜3回に減ったの……ここまで言えば、もうわかるよね?」

 

「……当たり判定厳し過ぎません?」

 

本日の勝敗、石上の敗北

なんとか説得する事に成功したが、余計な気苦労を負った為。

 



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生徒会は終わらない

感想ありがとうございます(`・∀・´)


〈生徒会室〉

 

「1年てあっという間でしたねー。」

 

「僕は実質半年も居なかったので、余計に短く感じますね……」

 

「この1年間、皆には色々と支えてもらったな……感謝してるよ。」

 

「もう、やめて下さいよ会長。私達は望んで生徒会に居たんですから。」

(楽しい時間は短く感じるというけど、本当にその通りね……)

 

「ゲーム類も持って行かなきゃですね。」

 

「あぁ、あのイカサマトランプ。」

 

「うぐっ!? いいですか、石上くん! 世の中バレなきゃ何してもいいんですよ!」

 

「藤原……バレたからあんな目に遭ったんだろ。」

 

「あんな目……?」

 

「四宮が風邪で休んでいた日に、誰が見舞いに行くかを決める勝負をしてな。」

 

「藤原先輩が行くのを阻止する為に、僕と会長が立ち塞がった訳です。」

 

「かぐやさん! 2人ったら酷いんですよ!? 私が行ったら風邪が悪化するとか言って、お見舞いの邪魔してきたんですから!」

 

「そうだったんですか。」

(藤原さんが来なくて助かったわ。)

 

「はい、その勝負で藤原先輩がイカサマして来たので……コレを首に提げて、校内一周の罰ゲームやらせたんですよ。」ゴソゴソ

 

「まだあったのソレ!!? さっさと捨てちゃって下さいよ!!」

 

「いえ、藤原先輩の事だから、また使う事になると思います。」

 

「なんだとコラー!」

 

「2人共さっさと片付けますよ。」パンパン

 

「全く、最後まで賑やかなものだな。」

 

「……」

(最後……そっか、最後なのよね。)

 

………

 

「もう忘れ物はないな?」ギィ

 

「ファミレスでも行って打ち上げします?」

 

「それもいいかもな……」バタン

 

「……」

 

「藤原さん?」

 

「ゔぅっ…ぐすっ、えぐっ……!」ポロポロ

 

「藤原……」

 

「……藤原先輩。」ポンッ

 

「うぅっ…グスッ、石上くん……?」

 

「藤原先輩のそういう……自分の感情に素直な所、僕は好きですよ。」

 

「ううぅっ!!ごんな時だげっ……ひくっ、優しい事言うのズルいですぅ!」

 

「……そうっすね、すいません。」

 

第67期秀知院生徒会、全活動終了。

 


 

〈ファミレス〉

 

「「「「かんぱーい!」」」」

 

「さっきも言ったが、全員お疲れ様。生徒会の激務に、弱音を吐かずによくついて来てくれた。」

 

「まぁ、1番の激務は会長ですけどね。」

 

「僕達はあくまで補助的な役目ですしね……会議や集会は、会長が先頭に立って色々やってくれてましたから。」

 

「本当、1番大変な人が頑張ってたんですから……私達が弱音なんて吐けませんよ。」

 

「確かに大変だったな、こんなの1年やれば十分だ。後は優秀なのが後を継いでくれるのを待つばかり……どうだ石上、立候補してみないか?」

 

「ふふ、確かに石上君ならなれそうですね。」

 

「いえ、僕は生徒会長の器じゃないですよ。」

 

「そんな事はないだろう? 現に……」

 

「それに、僕にとっての生徒会長は……会長だけですから。」

 

「石上……」

 

「石上君……」

 

「……石上くんは、生徒会に入るより前に会長と会った事あるんですか?」

 

「え? どうしてです?」

 

「だってなんか、偶に会長を見る時に懐かしさ? みたいな感じの目をしてる事があるので。」

 

「そうなの? 藤原さん。」

 

「なんとなくですけどねー。」

 

「俺には身に覚えがないが……石上、以前に何処かで会ったか?」

 

「……藤原先輩の気のせいですよ、高等部で会ったのが最初です。」

(そういえば、藤原先輩が謎のミラクル属性持ちなの忘れてた。)

 

「そうか、そうだよな。」

 

………

 

「じゃあ、俺と四宮はこっちだから……2人共気をつけて帰れよ。」

 

「はい、会長達も気をつけて。」

 

「また明日ー!」

 

「えぇ、また明日。」

 

「……2人共行っちゃいましたね。」

 

「……そうですね。」

 

「私、あの生徒会が大好きでした。会長が居てかぐやさんが居て石上くんが居る、あの生徒会が……でも、もう終わっちゃったんですよね。」

 

「……そうとは限らないんじゃないですか。」

 

「え?」

 

「……帰りましょうか、送って行きますよ。」

 

「ふふ♪ 今日の石上くんは、優しいですね。」

 

「今日だけですよ。」

 

「なんで!? いつも優しくして下さいよ!」

 

「藤原先輩がやらかさなければいい話でしょう?」

 

「私が原因みたいな言い方やめて下さい!」

 

「無自覚とは、恐れ入りますね。」

 

「んだこらーっ!」

 

「はいはい、帰りますよ藤原先輩。」

 

「石上くんには次こそ、キツイお灸を据えてやりますからね!」

 

「……次ですか。」

 

「そうです、次こそです!」

 

そう言った藤原先輩は、いつもと変わらない……満面の笑みを浮かべていた。

 


 

〈職員室〉

 

「白銀……お前もう生徒会は、やるつもり無いって言ってなかったか?」

 

「最初はそのつもりでした。だけど……」

 

僕にとっての生徒会長は……会長だけですから。

 

一生に一度のわがままです、私は……

 

「……」

(あそこまで言われたんだ……応えなきゃ男じゃないだろ。)

 

会長は、会長がいい……

 

「……一生に一度、根性見せる時が来てしまったみたいで。」

 

 



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小野寺麗は応援したい

感想ありがとうございます( ̄^ ̄)ゞ


生徒会が解散し、10月の選挙活動期間に突入した秀知院学園高等部。選挙活動期間も数日経ち、学園内にはある噂が充満していた。それは……

 

「ねぇ石上……なんか白銀会長が四宮副会長に告るって噂聞いたんだけどホント?」

 

小野寺の言葉に眉間にシワを寄せながら答える。

 

「はぁ? 誰だよ、そんなデマ言い触らしてるのは……」

 

「あ、やっぱりデマなんだ。」

 

「そりゃそうだろ。大方、応援演説を頼むとかそういう事だと思うけど……大体、告るにしても噂で広まってる時点でダメだろ。」

 

「え、なんでダメなの?」

 

「いや、そりゃ……そういうのは、2人だけの時に言うもんだろ。」

 

「……プッ、あはははっ! 石上って意外と可愛いトコあるねー。」

 

「わ、笑うなよ……」

 

「照れんな照れんな。」ポンポン

 

「あーもう、言うんじゃなかった……」

 

「ごめんごめん……そういえば、伊井野と大仏さんは?」

 

「選挙活動だろ……伊井野は昼休みも使ってやってるみたいだな。」

 

「大仏さんはその付き添いか、大変だねー。」

 

「……そうだな。」

 

「石上はさ、2人を手伝わないの?」

 

「そりゃ僕は、白銀陣営の人間だからな。」

 

「大仏さん1人で伊井野のフォローするの、結構大変だと思うけど?」

 

「まぁ確かに大変だと思うけど……」

 

「……ごめん、私の言い方が悪かったね。敵とか味方とか関係なく友達として助けてあげて。それならいいでしょ?」

 

「まぁ、それなら……」

 

「じゃ、さっさと行った行った。」パンパン

 

「何処にいるかもわからないのに?」

 

「そう言うと思って、居場所は既に突き止めてるよ。スマホって便利だね。」

 

「……わかった、行くよ。」

 

僕は小野寺から居場所を聞くと教室を出た。

 

「……やれやれ。」

(ま、応援するって言った手前、一緒に居る時間を増やす事くらいはしてあげなきゃね。)

 


 

〈職員室前廊下〉

 

「ふぅ……」

(ビラ配り用のチラシの準備は出来たけど……)

 

私はコピーし終わったビラ用紙を見下ろす。

 

「重い……」ズシッ

(刷り過ぎちゃったな……今はミコちゃんも居ないし、どうしよう? 諦めて2回に分けて運ぶしかないのかなぁ……)

 

「大仏、手伝うよ。」

 

「えっ、石上……どうして此処に?」

 

「いや、1人じゃ運ぶの大変そうだし。」

 

「……石上は白銀前会長側の人間でしょ? ミコちゃん陣営の私を手伝って大丈夫なの?」

 

「あぁ、選挙の敵味方はとりあえず置いとくよ……友達が大変そうな事してたから手伝うだけだし。」

 

「もうっ……お人好しだよね、石上は。」

 

「……そういう事にしとくよ。」

 

「ふふ、じゃあさ……このチラシ、教室まで運ぶの手伝ってくれる?」

 

「あぁ、任せてくれ。」

 

「あ、ちょっと待ってね……」ピコン

(……小野寺さんから?)

 

〈束の間の校内デート楽しんでね〉

 

「こっ……」

(校内デートって……もう!)

 

「こ?」

 

「な、なんでもない! そろそろ行こっか!」

 

「あぁ、そうだな。」

 


 

〈放課後〉

 

「ねぇ石上……なんで放課後になった途端、皆走って出て行ったの?」

 

「あぁ、小野寺が言うには、会長が四宮先輩に告るとかいうデマが広がってるらしくてな……それが今日の放課後に校舎裏であるらしい。」

 

「へー、みんな恋愛事に興味深々って事ね。ミコちゃんが聞いたら肩震わせて怒りそう。」

 

「確かに、それで今日はどうするんだ?」

 

「うーん、そうだね……なるだけ人気の多い場所でビラ配りかなぁ。」

 

「じゃあ、そこまでビラ運ぶの手伝うよ。」

 

「えぇっ!? そこまでしてもらう訳には……」

 

「でもコレ重いぞ?」ズシッ

 

「うっ、それはそうだけど、良いのかな?」

 

「別に大丈夫だろ……流石に、一緒にビラ配りは出来ないけど。」

 

「ふふ、ちょっとだけ変な光景になっちゃうね。」

 

「確かに……別陣営の人間が選挙で競う相手のビラ配り手伝うって、すげぇシュールだな。」

 

「ふふふ、ちょっとやめてよ。」

 

「悪い悪い。」

 

「じゃ、そろそろ行こっか?」

 

「何処に行くつもりなんだ?」

 

「うーん、噴水広場にしようかなって思ってる。あそこなら人気もそれなりにあるし……石上には迷惑掛けちゃうけど。」

 

「迷惑なんかじゃないよ、じゃあ早速行くか。」

 

「うん、ありがと。」

 

〈噴水広場〉

 

「……というか、伊井野は何処行ったんだ?」

 

「えーと……校内の掲示板に選挙のビラを貼る許可取りと、ビラ貼り作業だね。終わったら此処で合流する予定だよ。」

 

「態々許可取らなくても、暗黙の了解で選挙期間は無許可使用が認められてるのにな。」

 

「だってミコちゃんだもん。」

 

「確かに、伊井野だもんな。」

 

「……こばちゃん、待たせてごめん! ってなんで石上もいるの?」

 

「スパイだよ。」

 

「ええっ!?」

 

「もう、違うでしょ? ミコちゃん、石上がここまでビラ配りのチラシを運んでくれたの。」

 

「あ、なんだ……もう! くだらない冗談言って!」

 

「悪かったって……伊井野、ウチの会長は手強いからな。」

 

「……っ負けないもん!」

 

「おう、じゃあ僕はそろそろ行くよ……2人共またな。」

 

「うん。石上、ありがとね。」

 

「……また。」

 

………

 

「さて……先ずは、マスメディア部から懐柔してみるか。丁度同じクラスに部員も居る事だし、白銀御行さえなんとか出来れば、俺が生徒会長だ。」

 

 



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伊井野ミコは入れたい

感想ありがとうございます(`・∀・´)


 

〈生徒会選挙予測速報〉

 

白銀御行 60%

伊井野ミコ 35%

本郷勇人 5%

 

「おーっ!半数以上が会長に入れてますね! コレは当選確実ですよ!」

 

「いや……油断は禁物だ。」キリッ

(いやもうコレ、完全に勝ちだろ。)

 

「……」

(伊井野は35%か……前回の時よりも少しだけど高くなってるし、頑張ってるみたいだな。)

 

「次点は1年の伊井野ミコちゃん……ん?」

 

「何処かで見た名前だな。」

 

「……友達です。」

 

「あーっ! そうだ、石上くんと仲の良い女の子ですよ!」

 

「あぁ、あのゲームで見た名前だったか。」

 

「えぇ、丁度彼処でビラ配りしてるのがそうですよ……会って見ますか? 会長と同じ学年1位ですよ。」

 

「ほう……なら頼む。」

 

………

 

〈噴水広場〉

 

「よろしくお願いします!」

 

「是非ご覧になって下さい。」

 

「……2人共お疲れ。」

 

「石上?」

 

「どうしたの?」

 

「いや、ちょっと会長が伊井野と話しをしたいらしいからさ、顔繋ぎ役として来た。」

 

「……君が伊井野ミコか?」

 

「はい、初めまして……ですよね、白銀前会長。」

 

「前会長……まぁそうだな。聞いたぞ、学年1位らしいじゃないか。」

 

「はい、入学以来ずっと1位です。」

 

「ふ、ふーん……」

 

「……選挙の予測速報見たよ。伊井野、頑張ってるみたいだな。」

 

「うん、ミコちゃん毎日遅くまで選挙活動色々やってて……あんまり無理し過ぎないで欲しいけど。」

 

「大仏も無理はするなよ。」

 

「うん……でもミコちゃんも頑張ってるし、私だけ休んでられないよ。」

 

「まぁ、また何かあったら手伝うから言えよ。」

 

「……うん、ありがと。」

 

「……ッ!」

(コレは……なるほど、なるほど。石上くんはわかりませんが、この子はそれっぽいですね。)

 

「そして私が生徒会長になった暁には、藤原先輩に副会長として支えて頂きたいのです!」くわっ!

 

「えっ!? 私!?」

 

「えーーーっ!!?ちょっと待て! なんでよりによって藤原なんだ!?」

 

「伊井野、それは学園崩壊が起こるからマジでやめとけ。」

 

「失礼って言葉知ってますか男子共!!」

 

「ちょっとそこのマトモそうな人! これは流石に止めた方が良いんじゃないか!?」

 

「いえいえ……論理的に考えて、藤原先輩は副会長に相応しいかと。」

 

「論理的!?」

 

「……」

(まぁ、3ヶ月もすれば伊井野も藤原先輩の本性に気づき始めるんだけどな……)

 

わ、私は藤原先輩の事まだ尊敬してます!

 

……まだ?

 

「貴方は藤原先輩の何を知ってるんですか!! 藤原先輩程立派な人が居ますか!?」

 

「いや、居っむぐっ……」

 

「静かに! 人の話は最後まで聞きましょう!」

 

「いや、掃いて捨てるほど居るだろ。」

 

「石上くんこらぁ!!」

 

「藤原先輩は凄い人なんです! ピアノコンクールで金賞を取り、5カ国語を操るマルチリンガル! そして、秀知院学園で普通の成績を取る秀才!」

 

「最後だけ格下感ハンパないな。」

 

「石上くんは黙って! ううっ……最近はぞんざいな扱いをされる事も多かったので嬉しいです! この子凄く良い子です!」ギューッ

 

「……」

(藤原……瞬で懐柔されたな。)

 

「藤原先輩を副会長として招き入れ……そして、石上にもそのまま会計としてやってもらいます!」

 

「へ? 僕も?」

 

「今思えば……石上は、生徒会に入ってからおかしくなりました。」

 

「おい。」

 

「規則を破って校内でゲームをする様になったり、男女交際に現を抜かしたり……その原因は生徒会に入ったからだと私は思ってます!」

 

「生徒会は関係ありません! 石上くんは最初から(私に対する態度が)おかしかったです!」

 

「藤原先輩、人の事を頭おかしい奴みたいな言い方しないでくれます?」

 

「いいですか、前会長……確かに今は票数で遅れを取っています。しかし、私の理念はいつか皆に理解してもらえると思ってます! 藤原先輩と石上を救う為にも、この選挙勝たせてもらいます!!」

 

「絶対に負けません!」ビシィッ

 

「……なんでナチュラルに寝返ってるんだよ。」

 

「……裏切リボン先輩は放っておきましょう。」

 

「裏切リボンっ!?」ガビーン

 

………

 

「しかし……伊井野ミコか。コレは対策を講じる必要があるな……」

 

「その心配はないかと思いますよ……只、会長にお願いがあります。」

 


 

〈中庭〉

 

数日後、昼休みに中庭を通り掛かった時の事だ。

 

「ね、いいでしょ?」

 

「……いえ、私は興味ないので。」

 

「そう言わずにさー。」

 

「……?」

(敷地内でナンパか? 良くやるよ……)

 

「遠慮します、じゃあ私はコレで。」ガサッ

 

「……あれ、大仏?」

 

「い、石上!? こんな所でどうしたの?」

 

「いや、通り掛かっただけ。それより……さっき誰かと話してなかったか?」

 

「その……」

 

「待ってよ、ツレないなぁ。」ガササッ

 

「ッ!」

 

「……」

 

茂みから出て来た男子を見た瞬間、大仏の顔が曇った。僕は身体をズラして大仏を背中に庇う。

 

「……ナンパにしても、しつこ過ぎるのは問題だと思いますよ?」

 

「ナンパだなんて心外だなぁ……そもそも、君には関係無い話だろ?」

 

「関係大アリです、大仏は友達なので。」

 

「あれ……君、もしかして石上君?」

 

「そうですけど……」

 

「俺は君にも用があるんだよ……ちょっと話をしようか?」

 

「……」

 

「俺は本郷勇人……言ってしまえば、君が応援する大将の競争相手だよ。」

 

「あぁ、確か予測速報で最下位だった……」

 

「へぇっ……言ってくれるね? でも……それは今の所だよ。石上君、取引をしないかい?」

 

「取引……?」

 

「あぁ、君が僕に力を貸してくれるなら……僕が生徒会長になった暁には、君に副会長の地位を与えると約束しよう。」

 

「……なるほど、大仏にもその取引を持ち掛けたって事ですか。」

 

「いいや? 伊井野さんはあの公約内容的に勝手に自滅するだろうから、大仏さんを誘ったのは……男としてさ。」

 

「心外とか言っといて、結局ナンパだったんじゃねぇか!」

 

「ははは、当然だろ。それに、あの龍珠さんや背中に隠れてる大仏さん、マスメディア部とも懇意にしている君が手を貸してくれるなら、白銀君を蹴落とす事は難しくない筈だ。生徒会という権力と副会長の座、どうだい? 悪い話じゃないだろう?」

 

「はぁ……器じゃないですね、お断りします。」

 

「いやいや、君ならきっと副会長も問題無く熟せる筈だよ。」

 

「あぁ……違いますよ。器じゃないって言うのは、本郷先輩の事です。」

 

「なんだって……?」

 

「貴方は生徒会長の器じゃない……生徒会長所か、生徒会役員さえ務まらないでしょうね。」

 

「言ってくれるじゃないかっ……!」

 

「もういいですか? それじゃ僕達はコレで……大仏、行くぞ。」グイッ

 

「あ、うん。」タッタッタ

 

「……チッ! 彼さえ仲間に引き込めれば、選挙戦も楽に勝てると思ったが……マスメディア部も不発だったし、次はどうするか……」

 

「……」ジーッ

 

………

 

「はぁ、大仏も面倒な相手に捕まってたな。」

 

「まぁね……でも、あーいう事は良くあるし。」

 

「大変だな、大仏は。」

 

「慣れてるけどね……でも困ってる所を助けてもらって、背中に庇ってもらえるなんて……凄く熱いシチュだった。」ボソッ

 

「ん、なんて?」

 

「な、なんでもない! それよりもありがとね、助かったよ。」

 

「おう、昼休みももう終わるし教室行くか。」

 

「そうだね。」

 

………

 

「……」

(マスメディア部を利用しようとしただけでは飽き足らず、石上君も利用しようとするなんて……やり過ぎましたね、本郷君。)

 


 

〈生徒会室〉

 

「淹れ終わりましたよ。さぁ……温かい内に頂いて下さい。」チャポ、チャポ、チャポン

 

「お、俺、選挙辞退するっ…から!」ガタガタッ

 

「いやだわ……別に私は、そんな事を強いている訳じゃないんですよ? 安心して下さい、此処に貴方の敵は居ませんから……ね?」

 

「ひっ……」ガタガタッ

 

「あらあら……そんなに怯えてどうしたんですか? 私は只……教えて欲しいだけなんですよ? マスメディア部、石上君……次は何を利用するつもりなんですか?」

 

「ひっ、ひぃぃっ!?」ガクガクッ

 

本郷勇人、生徒会選挙リタイア。

 



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大仏こばちは近付きたい

 

〈選挙戦当日〉

 

「石上くん、どうしたんですか? 選挙前に皆に頼みたい事があるなんて。」

 

「……今日の選挙、皆さんには本気で臨んで欲しいんです。」

 

「もちろん手は抜きませんけど……事前調査では私達、8割近くの票を獲得していますよ?」

 

「何かあるんですか?」

 

「いえ、今日の選挙は僕達が確実に勝ちます。只、勝ち方に拘るだけです。会長には既にお願いしてありますけど……」

 

「あぁ、俺もその件は了承している。伊井野ミコに全力を出させて勝つ、だろ?」

 

「はい、お願いします。」

 

「ねぇ石上君……貴方はどうして、そこまでするのかしら?」

 

「……全力を発揮した上で負ける、その経験が伊井野には必要だと思ったからです。そして会長なら、伊井野に全力を出させた上で勝てると……信じているからです。」

 

「そう……石上君がそこまで考えての行動なら、私も乗ってあげます。」

 

「私もーっ!」

 

「……ありがとうございます。」

 

………

 

「……ミコちゃん大丈夫?」

 

「うん……大丈夫。」

 

〈立候補者と応援演説者の人は、準備をお願いします。〉

 

「すぅ……はぁ……」

 

「こ、こばちゃん、頑張って!」ギュッ

 

「……うん、頑張る。」

 

アナウンスで呼ばれた大仏が舞台へと上がった。

 

「……始まるな。」

 

「えぇ……」

 

「スゥ……伊井野ミコは、とても真っ直ぐな女の子です……」

 

「……淀みもなく、よく出来た演説だな。」

 

「でも一般生徒からすれば、選挙演説なんて退屈なだけ……真面目に聞いてる奴なんて半分程度でしょう。」

 

「……ご静聴ありがとうございました。」トボトボ

 

「……お疲れさん。」

 

「石上……」

 

「良い演説だったよ。」

 

「うん、ありがとう……でも、殆どの人は聞いてなかったかもね。」

 

「ま、仕方無いよ。普通は選挙演説なんて真剣に聞かない。四宮先輩でもなければ……な。」

 

「え? それってどういう……」

 

〈キィーーーン〉

 

「え? 今のって、ハウリング?……まさか、わざと?」

 

「あぁ……皆には手を抜かない様に頼んだ。」

 

「え、石上……?」

 

「きっと……此処で会長に負ける事が、伊井野には必要だと思うから。」

 

「そっか……石上ってさ、偶に全部わかってて行動してる感じするよね。」

 

「……ハハ、そんな訳無いだろ。」

 

「……続きまして、伊井野ミコさんの立候補演説です。」

 

「ミコちゃん……」

 

俯いて舞台の上へと上がる伊井野を……大仏は心配そうに見つめている。

 

「大丈夫だよ。」

 

「石上……」

 

「私の、名前は……」ボソッ

 

「え? なんて?」

 

「マイクトラブル?」

 

「ミコちゃん……」

 

舞台に上がり演台の前に陣取っても、俯いたままの伊井野に……徐々に会場はざわつき始める。

 

「……もういいだろ、時間の無駄だ。」

 

「ま、まだ……」

 

「今の時代に強制坊主……くだらないな。どうした? 反論があるなら俺の目を見て言ってみろ。」

 

「わ、私はっ……」

 

「石上っ……」ギュッ

 

「ちゃんと、見ててやれよ。」ポンッ

 

「……っ! この公約は、全然くだらなくありません!!いいですか、こちら各名門校のブランドイメージのアンケートです!」

 

「……ッ!」

(嘘、ミコちゃんが……)

 

「我々秀知院の生徒は、世間から偏差値だけのボンボン共! そんな目で見られているのです!!」

 

(言いたい事が言えてる!?……そうか、今は白銀さんしか見てないから……)

 

「な、大丈夫だったろ?」

 

「……石上は、こうなるってわかってたんだね。」

 

「あぁ、まぁな。」

 

「カッコいいでしょ、坊主頭はーーーっ!!」

 

「あはは……ミコちゃん、全校生徒の前で坊主フェチって宣言しちゃったよ。」

 

「はは、まぁいいんじゃないか? 言いたい事言えてるなら。」

 

「うん……そうだね。」

 

伊井野と会長の討論は時間内に終わる事は無く、30分延長し終了した。

 


 

〈生徒会長選挙結果〉

 

白銀御行 328

 

伊井野ミコ 282

 

「負けた……」ショボン

 

「ミコちゃん……」

 

「2人共、お疲れ。」

 

「石上……」

 

「惜しかったな、演説……良かったぞ。」

 

「うん……ありがと。」

 

「石上は、そのまま会計続けるの?」

 

「あぁ、そのつもりだよ……それと、会長から2人に話があるってさ。」

 

「選挙も終わって早々に悪いな……2人共、生徒会に入るつもりはないか? まだ生徒会長を目指すなら、実地で学んでおいた方が良いだろう。」

 

「……」

(……ミコちゃんと違って、私は生徒会には興味が無い。単にミコちゃんの応援がしたいから、応援演説を引き受けただけ。でも……)

 

「ん? 大仏どうかしたか?」

 

「その……」

(石上と一緒の生徒会……生徒会役員は生徒会長の指名制。ここで断ったら、もうこんな機会は無いかもしれない……私は、もっと石上に近付きたい!)

 

「返事は今直ぐじゃなくても良いが……」

 

「は、入ります!」

 

「え……」

(あれ? 前は興味無いって言ってたのに……何か心変わりでもあったのか?)

 

「こばちゃんっ!?」

 

「わかった、伊井野はどうする?」

 

「わ、私、生徒会誘われたの初めてで……でも、その……」

 

「私も書記続投するんですよー!」

 

「入ります!」

 

「そ、そうか……伊井野は会計監査、大仏は庶務として……これからよろしく頼む。」

 

「「よろしくお願いします!」」

 

「……これからよろしくな、2人共。」

 

「うん……よろしくね、石上。」

 

「……よろしく。」

 

「では、生徒会最初の仕事だ……体育館の椅子を片しに行くぞ。」

 

「「「「はい!」」」」

 

………

 

〈保健室〉

 

「まさか、あんな遣り方で演説を続けるなんて思わないじゃない!」

 

「まぁ、優しい会長さんなら見て見ぬ振りはしないでしょうし……かぐや様は何が不満なんですか?」

 

「そ、それはっ……」

 

「イヤーン、会長! 私以外に優しくしないでー(かぐや声真似)って事ですか?」

 

「そ、そんな訳ないでしょう!? 大体なんで会長はお見舞いに来ないの!? 私が倒れたと聞いたら何をおいても駆けつけるべきなんじゃっ……」

 

「あー、ハイハイ。」

 

白銀御行が保健室を訪れるまで、後10分。

 


 

〈翌日〉

 

「さぁ、長かった選挙戦も無事終了した。二学期は体育祭に文化祭! 年明けには修学旅行と色々忙しい……気張って行くぞ新生徒会!」

 

「「はい!」」

 

「新メンバーも2名加入しての新体制だ、よろしく頼むぞ!」

 

「「よろしくお願いします!」」

 

生徒会、新メンバー2名獲得。

 



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四宮かぐやは防ぎたい

感想ありがとうございます( ´∀`)


この世には、運命論(宿命論)というモノが存在する。運命論とは、世の中の出来事はすべて、予めそうなる様に定められていて、人間の努力ではそれを変更できない、とする考え方のことである。本来ならば、回避していた筈の出来事……しかし運命は、この男に試練を与えたい様である……

 

〈四宮邸〉

 

「……会長さんの浮気防止? かぐや様、いきなり何を言うんですか?」

 

「実は今日、生徒会室に向かう途中に聞いてしまったの……」

 

………

 

〈2年教室前廊下〉

 

「白銀会長も無事当選されましたし、かぐや様も副会長を継続……新メンバーも2名追加され、益々生徒会の活動が活発になる事でしょうね。」

 

「本当に良かった……かぐや様も生徒会を続けられる様で……!」

 

「もう、何を当たり前の事を! 会長とかぐや様は2人で1セットであり、一心同体と同義なのですわ! はあぁっ! また1年間、御二方の活躍を見れるなんて……感無量ですわ!」

 

「これから1年は、妄想少なめでお願い。そういえば、新メンバーって風紀委員のあの2人よね?」

 

「伊井野さんと大仏さんですね……エリカの言いたい事もわかりますわ。」

 

「へ? 言いたい事?」

 

「女性を2名追加……コレはもう、会長はそういうつもりなのかと……」

 

「何がそういうつもりなのよ?」

 

「エリカには少し前に話しましたね? 生徒会役員は会長の指名制だと……」

 

「かれん、貴女まさか……」

 

「……」トコトコ

(今日は確か……体育祭の申請書類の処理だったわね。)

 

「新メンバー2名も女性! コレはもう、会長が食いしん坊でハーレムを目的にしているとしか思えません!!」

 

「っ!?」ピタッ

 

「いやいや、そんな訳無いでしょ。」

 

「でも! 会長だって男……いえ、雄なんですのよ!?」

 

「ちょっ、雄とか言わないの! こんな事誰かに聞かれたらっ……」キョロキョロ

 

「ッ!」ササッ

 

「……はぁ、今は大丈夫みたいだけど、少しは注意しなさいよ。大体、なんでまたそんな思考に到ったのよ……」

 

「私だって我慢しました! でも、舞台演説で見せたあの会長の雄々しさったら……! 敵である筈の伊井野さんの顔を立てた上で、選挙に勝つ御姿はさながら……格式を重んじる騎士団長の如き立ち振る舞いでしたわ!」

 

「聖騎士の次は騎士団長ね……どうでもいいけど、会長本人に聞かれたらどうするのよ?」

 

「会長本人に……」

 

俺は四宮さえ居ればハーレムなんぞ要らん! あまり俺を見くびらない事だな。

 

「……それはそれでアリですわ。」ポッ

 

「なんで!?」

 

………

 

「早坂、会長も雄なのよ! 優しさでコーティングされた内面には獣が棲んでいるのよ!」バンバンッ

 

「そうですか……」

(はぁ……あの2人も面倒なタイミングで、かぐや様に話しを聞かせて……)

 

「だから、会長が浮気をしない様に対策を練る必要があるの!」

 

「……現在フリーの会長さんが誰と何をしようと、浮気にはなりませんけどね。」

 

「早坂!」

 

「あー、ハイハイ。」

 

………

 

〈次の日〉

 

「……マッサージ?」

 

「はい。選挙戦の事もそうですが、普段から会長はワーカーホリック気味な所がありますから、少しでも疲れを取って欲しいと思って……」

 

「……ふむ。折角の四宮からの申し出だ、頼むとしよう。」

 

「はい!」

 

………

 

「今日は2人共、そのまま生徒会か?」

 

「うん、先輩達が気を利かせてくれたの。」

 

「ミコちゃんは、どっちも手を抜かずに頑張りそうってバレてるんだよね。」

 

「じゃ、一緒に行くか?」

 

「うん、行く。」

 

「よろしくね、先輩。」

 

「なんだよ、先輩って。」

 

「石上は半年長く生徒会に居たからね。」

 

「あぁ、そういう事か。」

 

雑談をしている内に生徒会室まで辿り着く。伊井野がドアノブに手を伸ばし、生徒会室の扉を開くと……

 

「こんにち……」ガチャッ

 

「……ちゃんと気持ち良くしてあげますから、横になって下さい。ほら、ベルトも外して……」

 

「ま、待つんだ四宮!いや、もう十分気持ち良かったからっ!」

 

「ぇぇ……」

 

「……ッ!」スチャッ

 

「……」

 

「もう……そう言わずに、いつもの御礼と思って受け取って下さい……ほら、ココとか凄く凝ってますよ?」サスサス

 

「いや、手で十分満足したから!!」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「これ以上は気持ち良くて死んじゃうから!」

 

「」

 

「」

 

「」ドサドサッ

 

「……あ、3人共来てたのか。」

 

「し、神聖な生徒会室で…イヤッ……けだもの!」

 

「いやっ、違っ……」

 

「伊井野さん達も一緒にしますか?」ニコッ

 

「えっ!? 初めてでいきなり5ぴっむぐぅ!?」

 

「ミコちゃん、私まで同類に見られるからホントやめて。」

 

「えーと……僕達どこかで時間潰して来ましょうか?」

 

「違うから! お前達が考えてる様な事じゃないから! 余計な気遣いとか要らないから!」

 

「でも……白銀会長、凄く凝ってる所(意味深)があるんですよね?」スチャッ

 

「肩な! 変な所じゃなくて肩の話な!」

 

「まぁ、私的には生徒会でっていうのは、結構熱いシチュなので否定はしませんけど。」

 

「いや、大仏庶務の趣味は知らんけど!」

 

「でもミコちゃんは、むっつりドスケベなのでそういう事は人の居ない所でお願いします。一応私達、風紀委員と兼任してるので……」

 

「本当の事でも、むっつりドスケベとか言ってやるなよ……」

 

「むっつりドスケベ…本当の事……」ショボン

 

「もおおぉーっ! だから違うんだってええっ!」

 

本日の勝敗、白銀の敗北

新メンバーの誤解を解くのに、大分骨を折った為。



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生徒会は話したい

 

〈生徒会室〉

 

「折角新メンバーとして女子が2人も増えたので、女子会をしましょう!」

 

「女子会……ですか?」

 

「はい! 今日は男子が居なくて仕事もないですし、やっちゃいましょう!」

 

「女子会……やった事ありませんね。藤原さん、それはどういう事をするんですか?」

 

「お菓子食べながらお話しするんですよー! 2人は女子会、やった事ありますか?」

 

「女子会かどうかはわかりませんけど……ミコちゃんの家に、同級生の女子数人と集まった事なら何度かあります。」

 

「いいですねぇ! 話題はやっぱり恋バナですか? 恋バナですよね! 今日は私達も恋バナやっちゃいますよー!」

 

恋バナ! 文字通り「恋に関するお話(バナシ)」という意味である。今の彼氏や好きな人に関する話題だけでなく、元カレの話や今カレの元カノにまつわる話まで、恋愛に関係する話を広く「恋バナ」と表す場合が多い。しかし! 現在生徒会室に集まっている4人の秀知院女子全員が過去に異性と付き合った事実は皆無! 必然的に話題は、今好きな人へと集約される事となる。

 

「……」

(あんまりこういうの得意じゃないんだけどなー、とりあえず様子見に徹しよう。)

 

「恋バナ……藤原先輩は好きな人居るんですか?」

 

「えー、私ですかー? 実は……います!」

 

「えっ!? 一体誰ですか!?」

 

「ふふん、秘密です! ミコちゃんが好きな人を教えてくれたら、教えてあげますよ!」

 

「うぅん、好きな人……」

 

「……」

(藤原さんに好きな人? 嘘ね、そんな素振り今までなかったですし。)

 

「……」

(藤原先輩、お願いですからミコちゃんの本心を刺激する様な事言わないで……)

 

「平野○耀くん。」

 

「」

(ミコちゃーん! それあんまり言わない方がいいヤツ!)

 

「ほほう! 何処のクラスで何年生ですか!?」

 

「あ、クラスとかじゃなくて、アイドルの……」

 

「アイドル……」

 

「……」

(藤原先輩、ちょっと引いてる……)

 

「……いつも私の事を見ててくれて、私の気持ちをわかってくれて、困った時は颯爽と助けに来てくれる……そんな人がタイプです。」

 

「そんな都合の良い男性がいるとは、到底思えませんけど……」

 

「います、世界の何処かに必ずいます。」

 

「ミコちゃん……夢を見るのは良いけど、現実に戻った時辛いのは自分だよ?」

 

「いるもん……」グスッ

 

「現実が見えてない辺り心配になるわね……」

 

「四宮先輩……ミコちゃんは夢見がちで、想像力が豊かな思い込みの激しい子なだけですから、きっと大丈夫です。」

 

「何処に大丈夫な要素があるのかしら……」

 

「私は言いましたよ! 藤原先輩はどんな人が好きなんですか!?」

 

「んー、まぁ仕方ないですねー。えぇと、一見クールなんですけど、凄く優しくて……頭は良いのに結構可愛い所もある……そんな人です。」モジモジ

 

「……」

(あれ……? 藤原さん、本当っぽい?しかも、その特徴に合致する人なんて……)

 

「……」

(え? 藤原先輩の好きな人って……)

 

「ッ!?」

(会長しかいないじゃない!)

 

「ッ!?」

(まさか、石上!?)

 

無論コレは藤原千花の策略。恋バナをする際に、好きな人はいないなどと場が盛り下がる様な事を言ってしまえば、他のメンバーの口が重くなるのは必至! 故に藤原は小細工を弄する……四宮かぐやに対しては、本人をあたかも異性の様に話す事で好きな人を聞き出す狙い。大仏こばちに対しても、石上と勘違いする様な言い方をし本音を聞き出す狙いである。かぐやと石上、どちらとも取れる様な言い方をしたのは、只々恋バナをしたいという欲求に従った結果である。

 

「……ッ!」フフンッ

(まぁ私は、石上くんが凄く優しくて結構可愛い所があるとまでは思っていませんけどね! 精々が少し優しくて、ちょこっと可愛い部分がある程度でしょう。)

 

藤原は小狡かった。

 

「藤原先輩、イニシャルとか教えて下さい!」

 

「んー、イニシャルはちょっと……あ、でも名前にYが入ってる事は教えてあげます!」

(セーフ……石上くんもかぐやさんも、名前にYが入ってて助かりました!)

 

「ッ!?」

(Miyuki!? コレは確定だわ! )

 

「ッ!?」

(Yu!? 嘘、どうしよう……)

 

恋は盲目とはよく言ったモノである。

 


 

〈中庭〉

 

「態々ごめんね? ちょっと、大至急2人に聞きたい事があって……」

 

「まぁ、それは大丈夫だが……」

 

「翼先輩、何かあったんですか?」

 

「先ずは、コレを見て欲しいんだ。」スッ

 

翼先輩は、スマホのトークアプリのトップページを開くと……1番上に表示された〈マキちゃん〉という部分を指差した。

 

「四条のアカウントだな。」

 

「問題は表示されてる文章で……既読を付けない様に、トーク画面は開いていないんです……この言葉になんて返せばいいのかわかんなくて……」

 

〈ぎゅー〉

 

「なんだコレは?」

 

「……コレだけしか送られて来てないんですよ。」

 

「ふむ……牛乳を買って来て欲しい、とかではないのか?」

 

「うーん……マキちゃんは普段牛乳飲みませんし、牛乳の打ち間違いだったら直ぐに訂正文が来ると思うんです。」

 

「確かにな……そもそも四条は、彼氏をパシらせたりはしそうにないしな。」

 

「はい、それでどう返すのが正解かわからなくて困ってたんです……」

 

「……僕答えて良いですか?」

 

「石上、わかるのか?」

 

「教えて、石上君!」

 

「まぁ、合ってるかはわかりませんけど……恋人のいる人って友達と居る時にふざけてだったり、唆されたりして友達の考えた文章を恋人に送る事があるんですよ。」

 

「あー……」

 

「……なるほど。」

 

「で、そのぎゅーって……多分ですけど、ハグした時の擬音じゃないんですか?」

 

「「……それだー!!」」

 

「つまり、ここでの最適解は……」

 

〈ぎゅぎゅうっ〉

 

「コレですよ。」

 

「さ、早速送ってみるよ!」

 


 

〈2年教室〉

 

「……ッ」ピコン

(あぁ、かれんに唆されて翼君に変なメッセージ送っちゃった……こんなのわかる訳ないのに!)

 

「はっ! 来た、来ましたわ眞妃さん! 」

 

「うぅっ、もし面倒な女って思われたら……」

 

「早く見て下さい!」

 

「うー……」ポチポチ

 

〈ぎゅぎゅうっ〉

 

「つ、翼君っ……」キュンッ

 

「きゃー! アツアツですわね!バカップル此処に在りですわ!」ペシペシ

 

「バカップル!? アンタがやれって言ったんでしょうが!」

 

………

 

「……返信来ました!」

 

「どうだ!?」

 

「どんな返信ですか!?」

 

〈わかってくれて嬉しい! ありがと!〉

 

「正解でしたあああ!!」

 

「しゃあああああ!!」

 

「よっしゃあああ!!」

 

謎の一体感が生まれていた。

 

 




わかりづらい様なので補足。
恋バナで藤原は好きな人の特徴を言っていますが、かぐやと大仏に狙いを絞っての発言です。
かぐやに対しては、かぐや本人を異性の様に話しています。そもそも、藤原はかぐやが会長好きなの知りませんしね。
大仏に対しては、石上に対する態度からある程度察しているので、石上とも取れる様な言い方をしています。
決して会長のつもりで話しているのでは無い訳です。会長の事は、異性としては産業廃棄物だと思ってます。


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石上優は参加したい

感想ありがとうございます(´∀`*)
そして、かぐや様は告らせたいアニメ三期&OVAおめでとうございます。ヽ(´▽`)/


生徒会選挙で学園中を沸かした10月も終わり、秀知院学園は体育祭に向けて本格的に動き始めていた。そして、此処にも体育祭に向けて行動を開始した男が1人……

 

「もしかして赤団、アゲてっちゃうー!?」

 

「ウェーーイ!!!」

 

「……」

(正直言って調子に乗っていた自覚はある。だけど、2回目だからどうとでもなると思っていたし、応援団の皆と接点が出来るんだから入る以外の選択肢は実質なかった。だけど……)

 

「……って事で俺が団長、子安が副団って事で……オケマルーーー!?」

 

「オケ丸水産!!」

 

「」

(相変わらずこのノリきっつ……)

 

「ぇぇ……」

 

「……」

(隣に座っている小野寺が、大丈夫かコイツという目でこっちを見ている……)

 

凡そ1年と半年もの間、陽の者達との関わりが殆どなかった石上は……久しぶりの場の空気に圧倒されていた!

 

「ッ!」

(だがしかし、僕は既に経験済み! なんでもかんでもインスタ映え狙ってるんですよね? LIN○でインスタ送って、ストーリーでハイプ狙いの今日はクラブオフなんでしょう? 最近はそういうのが熱盛なんですよね? ちゃんと調べてるんですからね! お見通しなんだからね!!)

 

かなり必死だった。

 

「とりまLIN○でグループつくろっかー。」

 

「石上、何してんの? さっさと来なよ。」

 

「了解道中あざまる水産!」ビシィッ

 

「どしたんお前。」

 

「……あー! やっぱりそうだ! 夏休みに神社で会った子だよね?」

 

「つ…子安副団長……はい、そうです。」

 

「あの時はぶつかってごめんねー!」

 

「いえ、気にしないで下さい。」

 

「なになにー? つばめちゃん何かあったの?」

 

「なんでもなーい!」

 

「えー、気になるぅ!」

 

つばめ先輩は、友達とふざけながら笑っている。多分、僕とつばめ先輩の人生が交わる事はもう無い。応援団の副団長と平団員、先輩と後輩……それが、今回の僕とつばめ先輩の関係性だ。

 

「……」

 

「……石上?」

 

「ん、あぁ悪い。じゃあ、はい。」フルフル

 

「……よーし! 全員グループに入ったなー? 練習日の連絡事項とかあれば知らせるって事で……オケマルゥ?」

 

「イエーーーイ!!」

 

「それじゃ、各自本番までに女子は男子の、男子は女子の制服用意しとけよ? 」

 

「ウェーイ!!」

 

「」

(やっべ、地獄のイベントあんの忘れてた……)

 

………

 

「……」

(あー……どうしよう、そりゃ前の時と違って結構仲が良い女子は多いけど制服となると……)

 

多感な高校生、幾ら仲が良いとはいえそれとこれとは話は別……という可能性も十分ある。石上自身も多感なお年頃、同級生から借りるのは流石に躊躇する! 結果……

 

「うーん……」

(貸してくれそうなのは……マキ先輩、桃先輩、藤原先輩、四宮先輩だけど、マキ先輩はなんか……翼先輩に申し訳ないし、桃先輩は……)

 

……は? お前何言ってんの?

 

(最終的には貸してくれそうではあるけど、凄い目で見られそうだし、藤原先輩は……マウント取って来そうで嫌だな。やっぱり借りるなら……)

「四宮先輩しかいないかなぁ……」

 

「私がなんですか?」

 

「うわっ!? あ、四宮先輩……」

 

「何か悩み事ですか?」

 

「悩みという程ではないんですけど……」

 

………

 

「なるほど、女子の制服ね……私のでよかったら貸してあげますよ?」

 

「頼んでてなんですけど……男子に貸すなんて、抵抗感ありません?」

 

「全く無いと言えば嘘になりますけど……石上君なら別に構わないわよ。」

 

「四宮先輩……まじ卍っす。」

 

「……それ、どういう意味ですか?」

 

「僕も未だにわかりません……」

 

「……石上君は仲の良い女子が多いんですから、貸してくれる人くらいはいるんじゃないかしら? 例えば……伊井野さんや大仏さんとか。」

 

「伊井野は……なんか被害妄想発言されそうなのでパスしたいです。」

 

「確かにそうね、じゃあ大仏さんは?」

 

「えーと、大仏は……ちょっと、なんというか……借り難いと言いますか……」

 

(あら? もしかしてコレは……ふふふ、石上君も案外可愛い所あるじゃない。)

「仕方がありませんね、貸してあげますよ。」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「折角ですから、お化粧もしましょうか。」ウキウキ

 

………

 

「なんでまた悪戯なんてするんですか。」

 

「んふふっ、ごめんなさい。ちゃんと直しますから……ぷふっ。」

 

「笑わないで下さいよー。」

 

「……」ジーッ

(……いや、仲が良いのは結構だけど距離近くない? 石上、四宮狙いとかじゃないよな? )

 


 

〈中庭〉

 

チュンチュンと小鳥の囀りを聞きながら、僕と会長は芝生の上で寝転んでいた。

 

「……で、今度は何をしたんですか? 体育倉庫に閉じ込められて一線を越えそうになったとか、意中の人に背負い投げされたとか、そんな漫画みたいな事はないでしょうけど。」

 

「……ハハハ、マサカマサカ。」

 

「じゃ、どうしたんですか?」

 

「いや、今回は相談じゃなくて……雑談? みたいな感じだと思ってくれ。」

 

「雑談ですか……例えば?」

 

「そうだな……今の生徒会は加入メンバーも含めて女子が4人に増えただろう? 石上も年頃だ、その中に好きな人でも居ないのかと思ってな。」

 

「ははは、年頃って……父親みたいな事言わないで下さいよ。」

 

「偶にはこんな話もいいだろう? で、どうなんだ? 誰か居ないのか?」

 

「うーん、そうですね……」

 

「……藤原とかどうだ? ピアノも出来て、マルチリンガル系女子だぞ? 普段からよく2人でわちゃわちゃやってるから、付き合っても上手く行くんじゃないか?」

 

白銀は、石上の意識をかぐやから逸らす事に必死だった。

 

「……」

 

石上は、不動産屋で執拗に事故物件を勧められている様な錯覚に陥った。

 

「会長……心配しなくても、僕は四宮先輩の事なんて狙ってませんよ。」

 

「べ、別に俺はそんな心配はしてないぞ!? 」

 

「はは、そういう事にしときましょうか。あと、藤原先輩はお断りします。」

 

藤原はフられた。

 

「相変わらず藤原には毅然としているな……来月には奉心祭もある、意中の異性を誘うには絶好の機会だぞ? 文化祭マジックというモノもあるらしいからな。」

 

「ははは、なんですか文化祭マジックって……っ!?」

(ん? ちょっと待て、なんか忘れてる気が……)

 

んー知り合いっていうか、付き合ってる。

 

試しに付き合ってみる? って言われたから……

 

まぁいいかなって。

 

「あああああっ!!?!」

 

「うおっ!? いきなりどうした石上!? 何かマズイ事でもあったのか!?」

 

「はい! とんでもなくマズイ事に……気付いて……マズイ?」

(あれ? 何で僕はそんな事を思ったんだ?)

 

「……石上?」

 

「……何がマズイんでしょう?」

 

「いや、知らんけど……」

 

「……ん?」

(団長がドルオタになっちゃうから?……でも別に、そこまでマズイかって聞かれるとそうでもないと思うし……あれ?)

 

 



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石上優は確かめたい

感想ありがとうございます(`・∀・´)


 

〈生徒会室〉

 

「何これ、少女漫画?」

 

机の上には数冊の本が並べられていた。僕はパラパラとページを捲る眼鏡の少女に訊ねる。

 

「此処に来る途中に没収したの。ミコちゃんも一緒だったんだけど、没収品リストの書類を風紀委員室まで取りに行ってる。」

 

「へー……それ、面白い?」

 

「読む?」スッ

 

つい先日、〈今日はあまくちで〉という少女漫画で盛り上がった生徒会である。未だ少女漫画に対する興味は継続中……石上は二つ返事で差し出された漫画を受け取る。

 

「まぁでも〈今日あま〉レベルの漫画はそうは無いだろうけど……」

 

ネタバレこそしないで済んだ、先日の生徒会〈今日あま〉旋風だが……

 

まぁ、僕コレ読むの2回目なので、どうなるかわかってるんですよね……

 

ほらほら、前はこのシーンでうるっと来たんですよ。今思えばお約束過ぎるっていうか……

 

に……2回目なのにっ、悔しいぃっ……

 

結局ダメだった。

 

「……」パラパラ

 

「お疲れー。」

 

「あ、白銀会長、お疲れ様です。」

 

「おう……石上は漫画読んでるのか?」

 

「はい、ミコちゃんが没収した少女漫画を。」

 

「ほう、少女漫画か……また随分と集中して読んでるみたいだな。」

 

「……」パラパラ

 

いいですか、主人公ちゃん! 気になる人が他の子とイチャイチャしてる所を想像して見て下さい!

 

「……」パラ

 

こばち……

 

風野先輩……

 

「……ッ」イラッ、モヤッ

 

もしそれでイライラしたり、嫌な気持ちになったらその子の事が好きって事なんですよ!!

 

「はぁっ!?」

 

「え、何?」

 

「んんっ!?」

 

「いや、なんだよ。」

 

「あ、すいません会長。来てたんですね……」

 

「あぁ、随分集中していたみたいだな……そんなに面白いのか?」

 

「えっ、えぇ、そうですね……」チラ

 

「石上、どうしたの?」

 

「……なんでもないよ。」

 


 

〈中庭〉

 

「石上君から話があるなんて珍しいね。」

 

「すいません、ちょっと翼先輩に聞きたい事がありまして……」

 

「全然いいよ、いつもは僕が相談に乗ってもらってるんだからさ……それで、聞きたい事って?」

 

「えーと、翼先輩はマキ先輩と付き合い出してそろそろ半年くらいですよね?」

 

「うん、来週で半年だね。」

 

「マキ先輩を女性として意識したり、好きだと自覚するのってどういう時ですか?」

 

「えぇっ!? うーん、そうだなぁ……マキちゃんは女友達と一緒に居る時は結構ズバズバ言ったりしてるのに、僕と一緒に居る時は借りてきた猫みたいに大人しくなったり、何気無い仕草が可愛いかったり、一緒に居て笑った顔を見た時に……ずっと傍で笑ってて欲しいなって思った時かな?」

 

「ずっと傍で……」

 

「石上君はそういう子、いないの? ずっと一緒に居たいとか、自分に笑い掛けて欲しいとか、この人だけは守りたいっていう子がさ。」

 

「……そう、ですね……」

 

ふふ、ありがと石上。

 

「僕は……」

 

守ってくれて、ありがとね。

 

「……どう、なんですかね……」

 

「わからない時は難しく考えずに、自分の気持ちを吐き出してみたら? 僕で良かったら聞くよ?」

 

「自分の気持ちを……僕、大分前に振られた事があるんですよ。その人を振り向かせる為に勉強やスポーツを頑張って、でも結局ダメで……」

 

「そうなんだ……」

 

「はい……で、その人は泣きながら謝るんですよ。ごめんなさい、優君は悪くない、私が臆病だからって……何度も何度も。」

 

「……」

 

「僕が好きになった所為で……結果的にその人を泣かせる事になってしまった訳じゃないですか。だから……」

 

「違う。」

 

「えっ?」

 

「僕はその時の詳しい状況はわからないけどさ、石上君が精一杯頑張って……少しでも好きになって貰いたくて色々やってたんでしょ? マキちゃんと付き合う様になったからわかる事だけど……人を好きになって、その人に自分を好きになって貰う為の努力をし続けるって……とても大変な事だと思うんだ。だって頑張っても相手が自分を好きになってくれる保証がない、不安で怖くて本当にこのままでいいのかもわからない状況で頑張り続ける……きっと凄く大変な筈だよ。その子も石上君の頑張りをちゃんとわかってて……でも気持ちに応える事が出来ない事を凄く……それこそ、泣く程悔やんでいたって事だと思うんだ。」

 

「翼先輩……」

 

「だから……石上君、好きになった所為で泣かせたとか思わなくていいんだよ。いや、絶対に思っちゃダメだ!」

 

「……ッ」

 

「それにね、今石上君が気にしている子は……このまま君が何もしなければ、違う男の所に行ってしまうかもしれないんだよ?」

 

「ッ!」

 

「石上君、君はそれで良いの? 本当に大事な人なら……絶対に自分から離れちゃダメだ、気持ちを誤魔化して好きになる事を怖がっちゃダメだ。」

 

「好きになる事を……」

(そうか……僕は怖かったのか……あの日、つばめ先輩にフられて……泣かせてしまって……人を好きになる事を、心の何処かで……)

 

「……」

 

「翼先輩……色々話聞いてくれて、ありがとうございました。」

 

「うぅん、気にしないで。その代わり今度話す時は、マキちゃんとの惚気話を大量に用意しておくからね。」

 

「ははは、それは勘弁っす。」

 

場を和ませる為に冗談を言ってくれた翼先輩を残し、僕はその場を去った。

 


 

〈校庭〉

 

〈フレーフレー赤組!〉

 

〈フレッフレッ赤組、フレッフレッ赤組!〉

 

「あ、石上……」

 

グラウンドの一角に陣取った応援団の中に、汗を流しながら練習に励む石上を見つけた。

 

「……」

(頑張ってるなぁ、でも石上は応援団とかするタイプには見えないのに……)

 

〈心を燃やす、情熱の赤!〉

 

「……よーし! 一旦休憩するぞー! 各自水分補給キッチリな!」

 

「「うーす。」」

 

「……」

(何かあるのかな……?)

 

「やっほ! 大仏ちゃん。」

 

「つばめ先輩……」

 

「中等部以来だね? アレからどう? 私も色々話は聞いてるけど……」

 

「そう、ですね。最近は学校も楽しいです。」

 

「そかそか、卒業した後も心配だったから安心したよー。」

 

辛い時は頼ってよ、とりあえず味方してあげるからさ。

 

そう言ってくれたつばめ先輩が卒業してしまって……コレでまた、味方はミコちゃん1人しか居ないんだなと思ってた。でも……

 

うるせぇ、ばーか。

 

私を……助けてくれる人が現れた。

 

「……助けてくれた人がいるんです。何の得にもならないのに、守ってくれた人が……」

 

「……それって石上君?」

 

「えっ!? なんで知って……」

 

「いやー、結構話を聞くんだよね……去年中等部で起きた事件の事とか、それに付随した噂話の事とか……ね、団長?」

 

「ん? あぁ、事件の話は俺も知ってるぞ。」

 

「そうですか……あの、石上は生徒会に入ってるのに……風紀委員の仕事も手伝ってくれてて、結構無理して頑張り過ぎちゃう所があると思うので、その……」

 

「うん、大丈夫。ちゃんと見とくから。」

 

「団員が無理しない様に気をつけるのは団長の仕事だ、安心してくれ。」ポンッ

 

「はい……お願いします。」

 

………

 

「……」ジーッ

(団長、ちょっと大仏と距離近過ぎません? 何肩ポンとかしてるんですか? この頃から既に狙ってたんですか? 言っておきますけど、僕はもう遠慮も誤魔化しも怖がりもしませんからね。)

 



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秀知院体育祭!

感想ありがとうございます(゚ω゚)


体育祭当日……個人競技とクラス対抗戦、部活・委員会対抗戦で構成された秀知院学園体育祭。全校生徒約600人が赤組と白組に分かれて雌雄を決する一大イベントの開催である!

 

〈100m走〉

 

「おー、やっぱ石上速いねー。」

 

「うん、凄いね……他の走者は部活やってる人もいたのに1位だし。」

 

「……惚れ直した?」ボソッ

 

「も、もうっ、小野寺さん! 小学生じゃないんだからっ……!」

 

「あはは、そりゃそうだよねー。」

 

「……ッ!」ピョンピョン

(会長、頑張ってー!……はやい、はやい!)

 

………

 

「会長、流石の1位ですね。」

 

「そういう石上もだろう? 生徒会男子で出場競技1位総なめでも目指すか?」

 

「ははは、それもいいですね。会長はあと何に出るんでしたっけ?」

 

「残りは確か……午後の棒引きと部活・委員会対抗リレーだな。」

 

「僕は借り物競争なので、1位取れるかは運に左右されそうです。」

 

「そういえば、四宮も借り物競争出るって言ってたな……」タタタッ

 

「石上君! 二人三脚の相手が欠場してて、代わりに出てくれない?」

 

「つ…副団長? 僕は1年だけど良いんですか?」

 

「うん! 実行委員と先生には許可取ってるからお願い!」

 

「わ、わかりました……会長、ちょっと行って来ます。」

 

「おう、頑張れよ。」

 

………

 

「良く来てくれたな石上ぃ! 」ムキィッ

 

「どうも……」

(相変わらず筋肉の圧が凄い……)

 

「風野も石上君もがんばれー!」

 

〈借り物競争〉

 

「……よく少女漫画でさー、借り物競争で好きな人って書いてる紙が入ってたりするじゃん?」

 

「麗ちゃんそれ……実際にあったら大問題だし、風紀委員として取り締まり対象だからね。」

 

「まぁ、ミコちゃんの言う通り問題だよね。実行委員がちゃんと確認もしてる筈だし。」タタタッ

 

「大仏! 来てくれ!」

 

「えっ、私!?」

 

「あぁ、大仏以外じゃダメなんだ! 頼む!!」

 

「い、石上がそこまで言うなら……」

 

「よし、じゃあ行くぞ!」ガシッ

 

「あぁっ、石上もうちょっとゆっくりっ……!」

 

「」

 

「」

 

「はい、お題確認しました。」

 

「よし、1位ゲット!」

 

「はぁっ…はぁっ……い、石上……お題ってなんだったの?」

 

「え? 眼鏡女子。」

 

「……」ドスドスッ

 

「えっ、大仏? ちょっ、なんで脇腹をっ……」

 

「紛らわしいでしょ!」ゴスゴスッ

 

「……なんかゴメン。」

 

………

 

「またしても1位か、やるな石上。」

 

「あはは、お題に恵まれましたからね。」タタタッ

 

「石上君、一緒に来て!」

 

「四宮っ!?」

 

「あ、はい。」タタタッ

 

「……ッ!」

(四宮が石上を……何故俺じゃないんだ!? 確かに石上は、足が速いが俺だって負けてない筈……態々石上を選ぶなんて、お題は一体……でもココで気になっている事がバレたらっ……)

 

お可愛いこと……

 

「ぐうぅっ……!」タタタッ

 

「ふー、勝てて良かったっす。」

 

「い、石上……お題は何だったんだ?」

 

「後輩でした。」

 

「……なるほどな。」

(深く考え過ぎかーっ! 良かった……)

 

〈応援合戦〉

 

「かぐやさん、午後は応援合戦からみたいですねー。赤組の応援団は男子は女子の、女子は男子の制服を着てやるらしいですけど、石上くんは誰に借りたんですかねー?」

 

「それなら私が貸してあげましたよ。」

 

「ッ!?」

 

「へー、かぐやさんが……でも石上くんだったら、同級生から借りる当てくらいありそうですけどね。」

 

「ふふ、石上君にも色々あるみたいよ?」

 

「えっ、 かぐやさん、なんですかそれ!? 」

 

「秘密です。」

 

「えー!? 教えて下さいよー。」

 

「……ッ!」

 

………

 

「会計君、ちょーっとツラよろしいかしら?」

 

「……なんか面倒な気配がするので嫌です。」

 

「いーから!」

 

「えぇ……僕これから応援合戦あるんで、手短かに頼みますよ……」

 

「ちょっと質問するだけだから……その制服がかぐや様から借りた物って本当?」

 

「えぇ、そうですけど……」

 

「なるほど、なるほどね……とりあえず、抱きしめても?」キリッ

 

「先輩……四宮先輩フリークも大概にした方がいいですよ。」

 

「お願い! きっとこんなチャンスもう来ないと思うの! 少しで良いから私の意を汲んで!?」

 

「ヤベェ先輩に絡まれた僕の逃げ出したい気持ちも汲んで下さい。」

 

「じゃあせめて写真だけでも! 体しか撮らないから!! 顔には全然興味ないから!!!」

 

「言い方癪だなこの人。」

 

「こんな所にいましたのね、エリカ。」

 

「あれ、かれん?」

 

「あら、石上会計……ふふ、その御姿大変お似合いですわよ。」

 

「女装を似合ってるって言われても嬉しくないっすよ……」

 

「あらあら、うふふ……別に照れなくてもよろしいんですのよ?」

 

「……次女装ネタでイジったら、会長達の前でナマモノ音読しますよ。」

 

「」

 

〈応援団の皆さんは入場門に集合して下さい。〉

 

「あ、じゃあ僕はコレで。」タタタッ

 

「……ねぇかれん、ナマモノって何?」

 

「良いですか、エリカ……世の中、知らない方が良い事もありますのよ?」

 

「えぇー、気になる……」

 

〈団体対抗リレー〉

 

「石上、ちょっと来て!」

 

「え、小野寺? どうしたんだよ。」

 

「いーから、来て。」グイグイッ

 

………

 

「……いやーまいった、まいった。スカートって忘れて柵飛び越えようとしたら、思いっきり引っかかって足首やっちまってよ。」

 

「アホだ……」

 

「あほがいる……」

 

「悪いけど石上、俺の代わりに団体対抗リレー出てくれないか? アンカーなんだけど、走れそうにないからさ。」

 

「僕で良いんですか?」

 

「おう、1年の100m走見たぞ。石上、かなり速いだろ? 陸上部からも勧誘されたって聞いたぞ。」

 

「まぁ……わかりました。団長の無念を晴らして見せます!」

 

「石上、そこまで気負わなくてもいいから。」

 

〈TG部さん、立ち止まらないで下さい!〉

 

「またなんかやってんな、TG部……」

 

〈TG部さん走って下さーい!〉

 

「ま、TG部がこんだけ遅れたなら団長でも負けるだろうし、石上もあんま気ぃ張り過ぎんなよ?」

 

「……いや、勝つよ。」

 

………

 

「……ッ!」

(前の人生は失敗と敗北だらけだった……でも、今回の僕は違う。少しくらい勝ちに貪欲になってもいい筈だ。それに……負けた事が只々悔しかったから……今度は負けたくない!)

 

〈少し遅れて赤組アンカーもバトンを受け取りました! 果たして、TG部が作った遅れを挽回する事が出来るのか!?〉

 

「「「名指し!?」」」ガビーン

 

「行け、石上ー!」

 

「石上くん頑張れー!」

 

「石上君も中々速いわね。」

 

「速い……石上コレ、イケんじゃない?」

 

「うん、頑張れ石上!」

 

「……ッ!」

(あと少しっ……走り抜けろ!!)

 

〈団体対抗リレーを制したのは……赤組ー!!〉

 

「っし!」グッ

 

「石上君、スゴイスゴイ!!」

 

「流石は俺が見込んだ男だな!」

 

「……団長はもうちょい自分の不注意を反省してよー。」

 

「ハッハッハッ! まぁ、勝ったんだからいいじゃないか!」

 

「おい、みんなー団長反省してないぞー。」

 

「ハッハッハッハッ!!」

 

本日の勝敗、赤組の勝利。

 



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伊井野ミコは癒されたい

感想ありがとうございます(゚ω゚)
地の文はどれくらいの割合が普通なのか模索中です……書いててわかんなくなってきた(゜∀。)
色々気をつけながら更新してみます。(`・∀・´)


 

〈生徒会室〉

 

〈あぁ……君は偉いよ〉〈とても頑張ってる〉〈良い子だね〉〈大丈夫……僕がついてるから〉〈僕は君の味方だよ〉

 

「」

 

「」

 

体育祭が終わり数日が経過した。当時の熱気も徐々に霧散していったある日の午後……生徒会室の机でイヤホンをし、勉強に打ち込む1人の少女と扉の前で動けなくなっている2人の少年少女……時間はこの状況が出来上がる20分前まで遡る。

 

………

 

〈生徒会室〉

 

「お疲れ様です。」ガチャッ

 

「……あれ? ミコちゃん、先輩達居ないね?」

 

無人の生徒会室を見渡した大仏は、背後に佇む伊井野へと振り返りながら問い掛ける。

 

「こばちゃん、確か2年は今日学年集会だよ?」

 

「あ、そっか。そういえば言ってたね。」

 

「私、先輩達来るまで勉強してるね。」

 

「うん、私の事は気にしないで。」

 

「……」カリカリ

 

伊井野は勉強道具を取り出すと、真剣な表情でノートと向き合っている。

 

「……」

(ミコちゃんは真面目だなー。少ない時間でも暇を見つけては勉強してるし、一位の重圧とかストレスも凄いんだろうなぁ……)

 

「うぅん……ゴメンこばちゃん、集中したいからイヤホンしていい?」

 

「うん、いいよ……私はちょっとお手洗い行って来るね。」

 

「うん。」

 

………

 

「……ふぅ。」

 

「……」トコトコ

 

「……ッ!」

(……あ、石上だ。)

 

トイレから出ると、生徒会室へと向かう石上が見えた。石上の背中を追い掛けて話し掛ける。

 

「石上、今から生徒会?」

 

「あぁ、大仏だけか?」

 

「ミコちゃんは生徒会室に居るよ。先輩達が居ないから勉強してる。」

 

「へぇ、会長達居ないの?」

 

「学年集会だって。」

 

「……学年集会?」

 

その言葉に、ドアノブを回そうとした石上の手が止まった……

 

「石上、開けないの?」

 

「なんか……嫌な予感がするんだよ。」

(……なんだ? 何かを忘れている様な気がする……思い出せ、何かがあった筈だ……)

 

「……とりあえず、入ろうよ?」

 

固まり続ける石上に痺れを切らした私は、もう片方のドアを開いてしまった。

 

「大仏、待っ……!?」

 

………

 

〈あぁ……君は偉いよ〉〈とても頑張ってる〉〈良い子だね〉〈大丈夫……僕がついてるから〉〈僕は君の味方だよ〉

 

「」

 

「」

(あ、嫌な予感の正体はコレか……)

 

石上優……死ぬ寸前に縋るCDと二度目の邂逅である。

 

「」

(ミコちゃーん!? 何とんでもないCD聞いてるの!?)

 

〈辛いよね、でも大丈夫〉

 

「」

(辛いのは友達のこんな所を見ちゃったこっちだし、全然大丈夫じゃないよ!?)

 

〈泣きたい時には泣いていいんだよ?〉

 

「」

(友達のとんでもない秘密を知った私が泣きたいよ!……って、そういえば石上は……)

 

「……」ソー

 

「……ッ!」ガシッ

 

黙って生徒会室から出ようとしていた所を、大仏に腕を掴まれて阻止される。

 

「ちょっ!? 大仏、離してくれ!」

 

「なんで出て行こうとしてるの!?」

 

「いや、こういうのは同性の方が言い易いだろうし……」

 

「私が言うの!?」

 

「だって、僕は言いたくないし……」

 

「私も嫌なんだけど……」

 

「まだ女友達に言われた方がダメージは少ないと思うんだ。」

 

「私には荷が重いよ……」

 

「いや、でも急がないと……」

 

大仏と小声で言い争う僕の背後から、ガチャリとドアノブを回す音が僅かに聞こえた。

 

「こんにちはー!」ガチャッ

 

「あー! あー! あー!」

 

「あ……藤原先輩!あれ? こばちゃんと石上も居たの?」ピッ

 

「う、うん。勉強の邪魔しちゃ悪いと思って。」

 

「もう、気を遣わなくてもいいのに。」

 

「……」

(いや、かなり気ぃ遣ったよ……)

 

「あのー……さっき入って来た時、変な声しませんでした?」

 

「き、気の所為じゃないですか?」

 

「そうかなぁ……あれ、ミコちゃんが音楽聴いてるー。何聴いてるの?」

 

「軽いヒーリングミュージックですよ。」

 

死ぬ寸前に縋るヘビーミュージックである。

 

「……ッ!」

(もうダメだ、もうすぐ会長と四宮先輩も来てしまう……もう僕に出来るのは……!)

 

「そうなんだー、ごめんね勉強の邪魔してー。」

 

「いえ、気にしないで下さい。」

 

藤原への返答を済ませた伊井野は再度、イヤホンを耳に差し込み勉強を再開する。

 

「ミコちゃん、待っ…んぐっ!?」

(い、石上!? なんでっ!?このままじゃ、ミコちゃんが闇が深い痛い子扱いにっ!)

 

伊井野の身を案じる大仏を僕は背後から抑える。

 

「堪えてくれ、大仏! ダメージを最小にするにはもうこれしかないんだ!」ボソボソッ

(こうなったら、会長と四宮先輩が来る前に全てを終わらせるしかっ……!)

 

「んーっ!?」ゾクゾク

(耳元で囁かないでー!?)

 

伊井野のスマホから発せらた再生音のピッという音が、その時の僕には……どんな騒音よりも響いて聞こえた。

 

〈君は本当に可愛いね〉〈大丈夫、自信持って〉〈世界一可愛いよ〉

 

「……」

 

「……」

 

「おぉぅっ……」ヒキッ

 

「」

 

………

 

「皆さん、遅くなりました。」

 

「皆揃ってるな、それじゃあ早速……ん? 伊井野はどうかしたのか?」

 

「」

 

「気にしないであげて下さい。ミコちゃんは……今ちょっと自分を見失ってるだけなので……」

 

「何があった!?」

 

「何かあったんですか?」

 

「……伊井野の分の業務は僕がやるので、少しの間放っておいてあげて下さい。」

 

「うぅむ、まぁ石上が言うなら……」

 

「仕方ありませんね。」

 

「……」

(コレはイジっていいヤツなんですかねー?)

 

………

 

「では、今日の業務はここまでにしよう。」

 

「そうですね、お疲れ様でした。」

 

「お疲れ様ー!」

 

「お疲れーっす。」

 

「お疲れ様です。」

 

「」

 

「結局、伊井野は元に戻っていないんだが……」

 

「本当にどうしたのかしら?」

 

「うぅん……まぁ、伊井野の内面に深く関わる事なので……」

 

「ミコちゃんが正気に戻るまで私達が付いてますから、会長達は先に帰って大丈夫ですよ。」

 

「そうか……まぁ同学年にしかわからない事もあるか……」

 

「藤原さんは最初から居ましたよね? 何か知ってるんじゃないですか?」

 

「……ミコちゃんの名誉の為に言えません!」

 

「名誉って……」

 

「……仕方あるまい。四宮、藤原書記、俺達は先に帰るぞ。」

 

「そうですね、わかりました。それじゃ石上君、戸締りお願いね?」

 

「それじゃまた明日ー。」

 

「はい、お疲れさんでした。」

 

「お疲れ様です。」

 

………

 

生徒会室を出て行く先輩達を見送り、10分が過ぎた頃……

 

「……ハッ!?……あれ、私?」

 

「ミコちゃん……」

 

「やっと元に戻ったか……」

 

「……っ!?!!? あ、夢か……」

 

「ミコちゃん……現実逃避したい気持ちはわかるけど……」

 

「ショックなのはわかるけど現実だぞ。」

 

「はあっ!? ショックな訳ないでしょ!」ヨロ

 

石上の言葉に立ち上がり抗議する伊井野だが……

 

「でも自立出来なくなってる!」

 

精神的ダメージは甚大であった。

 

「まぁ、落ち込むのもわかるしな……もう帰って寝て忘れろよ。2人共送って行くから。」

 

「ミコちゃん、帰ろ?」

 

「うん……藤原先輩何か言ってた?」

 

「……特に何も言ってなかったよ。」

 

「……」

(顔は引き攣ってたけどな……)

 

本日の勝敗、1年組の敗北

伊井野のやらかしに巻き込まれた為。

 



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合コン遊戯に興じたい

 

〈生徒会室〉

 

「みんなで合コンゲームやりましょう!」

 

体育祭から早1週間が経ち、通常業務へと戻った生徒会……突如藤原の発言により開催される事となった10円玉ゲーム。YESなら表を、NOなら裏を出し出題者の質問に答える匿名式アンケートゲームである。

 

「嘘はダメですからね!? 少しでも怪しいと感じたら嘘発見機で晒し上げますからね!!」

 

「藤原さん、何もそこまでしなくても……」

 

「合コンにポリグラフ持って来る人とか、次から絶対呼ばれませんよ。」

 

「あ、あれ? 合コンゲームってコレ使わないんですか?」

 

「ミコちゃんそれ、コックリさん呼ぶ奴……」

 

「伊井野の中の合コンのイメージどうなってんの?」

 

「じゃあ行きますよー? 私に恋愛感情を持っている人は表、持ってない人は裏を出して下さい!」

 

「……」

(藤原もまた面倒な質問を……)

 

「どうして藤原先輩は、自分から傷付きに行くんですか?」

 

「どういう意味ですか!? いいから出して下さい! 3、2、1、ハイ!」

(ふーんだ、口ではなんとでも言えますからね! 本当は私に普段からドキドキしたりしているんでしょうっ!?)

 

裏×6

 

「……」ホッ

(良かった、会長は藤原さんに恋愛感情は無いのね……まぁ知ってましたけど。)

 

「……ミコちゃん、嘘発見機の準備して。」

 

「は、はい!」

 

「藤原先輩、往生際が悪いですよ。」

 

「それはこっちのセリフです! 」

 

「ふ、藤原先輩、準備出来ました!」

 

「では、会長から嘘発見機にかけます!」

 

「はぁ、さっさと終わらせてくれよ……」

(此処で反応したらマズイ、何がなんでも平静を保たなくては!)

 

「いいえで答えて下さいね?……会長は、私に恋愛感情を持っていますか?」

 

「いいえ。」

(親父の顔、親父の顔……)

 

〈……〉←嘘発見機無反応

 

「……」ホッ

 

「」

 

「ぶふっ……」

 

藤原先輩の、ウソでしょ……とでも言いたげな表情に思わず吹き出した。

 

「石上くん、何笑ってるんですか!」

 

「いえ、グクッ……すいません。」キリッ

 

「もー! 次は石上くんですよ!」

 

「はいはい。」

 

「いいえで答えて下さい……石上くんは、私に恋愛感情を持っていますか!?」

 

「いいえ。」

 

〈……〉←嘘発見機無反応

 

「……」ホッ

(はぁ、良かった……石上は藤原先輩を好きじゃないんだ。)

 

「もおおぉぉ! なんでウチの男子共は、こんなにも恋愛に淡白なんですか!? 特に会長は、私が普段どれだけお世話してるとっ……」

 

「うぐっ……なんかスマン。」

 

「別に恋愛に淡白な訳じゃなくて、単純に藤原先輩が恋愛対象外なだけですよ。」ニコッ

 

「そっちの方が腹立つんですけど!?」

 

「次は僕が質問しますね……現在、好きな人がいる人は表を、いない人は裏をお願いします。」

 

「「「っ!!?」」」

 

(い、石上!? なんつぅ質問をっ……)

 

(石上君!? 貴方なんて質問をっ……)

 

(どうしよう……嘘ついて裏を出してもいいけど、嘘発見機を使われたら困るし、うぅん……)

 

「じゃー、行きますよー?」バッ

 

表×4

裏×2

 

「えっ、多いっ!?」

 

「だれだれ!? 誰が恋してるんですか!?」

 

「藤原先輩、特定は禁止ですよ。」

 

「……ッ」

(こ、この中に恋をしている人間が……)

 

「……」

(4人……伊井野さんは、この前の女子会で堂々とアイドル好きを公言していましたし、藤原さんも態々女子会で小細工を弄した事実から好きな人がいるとは考えづらい……つまり、表を出したのは藤原さんと伊井野さん以外の全員?)

 

「……」

(一体誰だ? 藤原のそういう話は聞かないから、裏を出した2人の内1人はおそらく藤原だろうが、残りの1人は……)

 

情報量の差……女子会に参加したかぐやは、伊井野の歪んだ恋愛感を直接聞く事が出来た為、裏を出した人間を特定可能。

 

対する白銀は当然ながら、女子会は不参加。それどころか、その様な催しが開かれていた事すら知らない。狙った訳ではないが、此処に来てかぐやは情報量の差で一歩リードする事となった。

 

「……」

(僕以外に3人が表を出した……会長と四宮先輩は確定で、藤原先輩は除外……伊井野か大仏のどちらかが、今誰かに恋をしている……?)

 

「じゃあ次はミコちゃん、行きましょー!」

 

「えっ、私ですか……えぇと、私……普段から友達に色々ダメ出しされる事が多いんですけど……もしかしたら、生徒会でも全然役に立ってない役立たずなんじゃないですか?」

 

不安そうな表情を浮かべ、周りを見渡しながら洩らした伊井野の発言に生徒会室の空気が凍る。

 

「質問内容が暗いな!?」

 

「さっきまでの空気が吹き飛んだぞ……」

 

「すいません……じゃあ質問を変えます、私を生徒会に必要な人間だと思っている人は表、要らないと思ってる人は裏をお願いします……」

 

「だから暗いってっ!!」

 

「それ何の投票!?」

 

「……」

(またミコちゃんはブッとんだ事を……)

 

「じゃあ行きますよー? ミコちゃん必要だと思ってる人は……」

 

表×6

 

「6人! ミコちゃんはちゃんと生徒会に必要な人材ですよ!」

 

「えっ、本当ですか?」

 

「一体どんなダメ出しをされたら、そこまで病むのか気になるな。」

 

「まぁ、小野寺さんとか私が結構ズバズバ言ってるから……」

 

「伊井野監査は、普段から真面目に取り組んでいるしな。」

 

「そうですね、大仏さんと風紀委員会を兼任していて良く頑張っていますし。」

 

「そうですよ! ミコちゃんはもっと自信持って下さい! ミコちゃんは可愛い! 頑張ってる! 頼りになります!」

(……特殊性癖持ちな部分は、ちょっとアレですけど!)

 

「……ッ!」モジモジ、ゾクゾク

 

「伊井野はマジで1人で行動するのは控えろよ、チョロいにも程があるから。」

 

「ミコちゃんが終わったから、次は私ですね……付き合うなら巨乳の方がいい、YESなら表、NOなら裏でお願いします。」

 

「「えーっ!!?」」

 

「大仏庶務、なんて質問を出してるんだ!?」

 

「なんで、男子を狙い撃ちすんの!?」

 

「女子は全員、表を出して下さいね。」

 

「特定禁止だっつってんのに、特定する気満々じゃねぇか!!」

 

「まぁまぁ、ちょっとした茶目っ気ですよ。」

 

「いや大仏、その質問エグいって……」

 

「因みに、どちらを出そうと嘘発見機は使いますから正直に答えた方が良いですよ?」

 

「悪魔かお前は。」

 

「……」

(石上は胸の大きさで女性を選ぶなんて事はないと思うけど、念の為確認だけしておこう。)

 

普段から、身長に見合っていないスタイルを有する伊井野と一緒にいる大仏である。石上の人間性を信じている一方、男の下心的存在を危惧する板挟み的心理状態であった。

 

「さあさあ〜! 会長も石上くんも観念して下さい。」ニマニマ

 

「会長? 早くお出しになって下さい。」

(まさか、胸の大きさにしか目がいかない卑劣漢ではないと信じていますが……)

 

「石上もほら、早く出して。」

 

クイッと眼鏡を押さえる大仏の言葉に後退る。

 

「か、会長からどうぞっ……」

 

「い、いや、石上から行けよ! 俺は後でいいからっ……!」

 

「「「さぁ、早く。」」」

 

「「あ、ああぁぁ……」」

 

本日の勝敗、白銀&石上の敗北

女子の多数派圧力の怖さを思い知った為。

 

 

 



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生徒会は勉強したい

 

〈生徒会室〉

 

「……今日から暫く、生徒会も試験休みを取ろうと思う。」

 

11月もあと数日で終わろうとしていたある日の生徒会、白銀御行の発言に室内の視線が集まった。

 

「あら? 今までは試験前でも、通常営業でしたのに……」

 

「まぁ生徒会も人数が増えたからな……多少の休みを取っても後で挽回出来るくらいの余裕はある。各自、試験勉強に集中してくれ。」

 

「会長……ちゃんと皆の事考えてくれてるんですねー!」

 

「ハハハ、当然だろう。」

 

嘘である。この男、他人に対する配慮のつもりは一切ない! 何を隠そうこの男、四宮かぐやが近くに居るとチラチラと見てしまい勉強に集中出来ない。二学期に入り、生徒会長選挙や体育倉庫イベントに始まり、最近ではスマホを入手したかぐやとメッセージのやり取りをする様になり、心は乱される一方。一位維持の為にも、テスト期間中は想い人と距離を置くという苦肉の策を弄する白銀であった。

 

「確かにそうですね、私達2年は進路にも影響する大事な試験ですし……家で静かに勉強した方が集中出来ますしね。」

 

嘘である。この女、家では全く勉強に集中出来ていない。つい先日、スマホを入手し手軽にメッセージのやり取りが可能になったかぐやである。勉強していてもスマホが気になり、チラチラと見てしまいメッセージが来たら来たでテンション爆上げ状態となり、勉強そっちのけで返信内容を考える為、家では一切集中出来ていなかった。

 

「……こういう時期だからこそ、追い詰められて悩みを抱える人も多いと思いますけど、皆さんが言うなら私は従います。」

 

嘘である。この女、心の底からやったぁ! と思っている。伊井野もまた、白銀と同様学年一位の重圧に耐える人間である。最近では、小等部からの付き合いである大仏こばちだけでなく、中等部からの友人である小野寺麗や大友京子とテスト期間中に集まって勉強する機会も出来ていた。友人と集まって和気藹々と楽しく勉強する時間は勿論大切だが、1人でする勉強時間の確保は伊井野にとっても有難い話であった。

 

「……」

(悩みっていうか、闇を抱えてる伊井野が言うと凄い重みがあるな……)

 

「私も今回の試験はちゃんとしないと、お小遣い減らされちゃうんですよねー。」

 

嘘である。この女、お爺ちゃんからもこっそりお小遣いを貰っている。孫を甘やかしたい祖父とお小遣いが欲しい孫……完全な利害の一致である。

 

「……」

 

「大仏、どうしたんだ?」

 

「うん……私も生徒会メンバーとして、もっと勉強頑張った方が良いのかなって……」

 

「そんな気にする必要は無いんじゃない?」

 

「そうだな……大仏庶務、別にそこまで気にする必要はないぞ?」

 

「そうですよ! 私なんてテストの点が下降の一途を辿っても、全然気にしてませんよ?」

 

藤原は友人にギガ子という留年経験者が居るにも関わらず、一切の危機感を感じていなかった。

 

「えぇ……」

 

「そこは気にしろよ。」

 

「藤原さんは、もう少し頑張った方がいいわよ。」

 

「藤原先輩と同じクラスになるのは勘弁して欲しいので、頑張って下さいね。」

 

「石上くんは私の事バカにし過ぎですから!」

 

「そうよ、石上! それに藤原先輩は、只の勉強に縛られる様な存在じゃないのよ!」

 

「ミコちゃーん!」ダキッ

 

「……でも、私は藤原先輩と同じクラスになれたら嬉しいですよ?」

 

「」

 

「……もしそうなったら、タメ口でいいですか?」

 

「いい訳ないでしょ!……っていうか、なりませんから!!」

 

「あ、会長……生徒会室で勉強するのはアリですか?」

 

「ん? あぁ、別に構わんぞ。戸締りだけ気をつけてくれればな。」

 

「あざっす。」

 

「石上くん、家で勉強しないんですか?」

 

「まぁ、色々誘惑も多いですからね……」

 

「あー、普段見ないテレビとかつい見ちゃいますよね……あと、片付けが異様に捗ったり……」

 

「あら? でも石上君は、1学期から50位以内に入り続けていますよね? 今更誘惑に惑わされたりするのかしら?」

 

「まぁ、学校なら気が引き締まるので。」チラッ

 

「なるほど……そうですね、学校なら気が引き締まりますからね。」

 

「そうですよ……」

(なんか……見透かされてる気がする。)

 

「じゃ、私は帰りますね! それじゃ、また明日!」

 

「……俺も帰るか。」

 

「私もそろそろ……」

 

「じゃあ石上、戸締りは頼んだぞ。」

 

「はい、お疲れ様でした。」

 

「石上君、頑張ってね。」

 

「はい……で、大仏はどうする? 僕で良かったら、勉強教えるけど……」

 

「え、良いの?」

 

「成績の事、気にしてたみたいだし……」

 

「ありがとう……じゃあ、私も残ろうかな? ミコちゃんはどうする?」

 

「……ゴメン、人が居る所で勉強しないって決めてるから……」

 

「そ、そうなんだ……」

(滅茶苦茶この前の事が尾を引いてる……)

 

「まぁ、あんま気にすんなよ……」

 

「えっ、何が? 石上、何かあった?」

 

「いや……そうだな、何もなかったな……」

 

石上は目頭を押さえた。

 

「ミコちゃん……」

(無かった事にしようとしてる……)

 

「じゃあ、私も帰るから……」

 

「お、おぅ……お疲れ。」

 

「ミコちゃん、また明日ね。」

 

「うん、また……」ガチャ、パタン

 

生徒会室を出て行く伊井野を見送る。

 

「ミコちゃん、滅茶苦茶気にしてたね……」

 

「そうだな、会長と四宮先輩に知られなかっただけマシと思うしかないけど……」

 

………

 

「麗〜、帰りどっか寄って帰ろー?」

 

「そだね、ファミレスで勉強でもする?」

 

「うーん……じゃあ、勉強教えてね。」

 

同じ部活の友人と喋りながら歩いていると、生徒会室に明りが点いているのが見えた。

 

「テスト期間なのに生徒会は仕事かぁ……」

 

「……あれ? さっき白銀会長と四宮副会長が帰るトコ見たよ?」

 

「え、そうなの?」

 

「うん、誰か残って仕事してるんじゃない?」

 

友人のその言葉に疑問が浮かぶ。白銀会長や四宮副会長は、仕事を他の役員に任せて帰る様な人間だろうか……仕事で残っているというよりは、誰かが他の理由……例えば、勉強で残っていると考えるのがしっくりくる。

 

「……」ピッ

 

すぐにスマホを取り出して〈伊井野〉と表示された欄からメッセージを送る。

 

〈今何処?〉

 

1分もしない内に既読が付き、返信が来た。

 

〈家だけど、麗ちゃんどうしたの?〉

 

確定だ。多分……生徒会室には、あの2人が居るのだろう。伊井野の返信になんでもないと返し、友人と帰路に着く。

 

「……」

(頑張りなよ。)

 

最後に振り返って見た生徒会室は、薄暗くなった周囲を照らす様に煌々とした光が灯っていた。

 



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石上優は攻めたい

最近……気が付けば目で追っている女子がいる。それは……

 

「ミコちゃん、そろそろ風紀委員の見回り時間だから行こ?」

 

大仏こばち……中学3年の4月に逆行して少し経った頃、女子に言い掛かりをつけられている所に遭遇してからよく話す様になった。前回は偶に話すクラスメイト程度の関係だったのが、今回は勉強を教えたり、委員会の仕事を手伝ったり、夏休み等の長期の休みでは図書館で一緒に課題に取り組んだり、夏祭りに一緒に行ったりする仲になった。自惚れでもなく、前回より明らかに仲が良くなったと言い切る事が出来る少女……今回は何か心変わりがあったのか、伊井野と一緒に生徒会へと入って来た。

 

新生徒会が発足し、既に1ヶ月以上が経過した……その間、少女漫画旋風があったり、会長と四宮先輩の一目情事な場面に遭遇したり、体育祭の準備に取り組んだり、借り物競争で一緒に走ったり、伊井野の闇を垣間見たり、合コンゲームで追い詰められたり……ってコレはまぁいいとして! 同級生の中では、間違いなく1番一緒の時間を過ごしたと言えるだろう。そして、翼先輩に相談して気付いた。どうやら僕は……

 

「なるほど、優はその子の事が好きって事ね。」

 

「ん……まぁ、そうですね……」

 

中庭の木陰で寝転びながら洩らした僕の独白に、同じく隣で寝転ぶマキ先輩が答える。

 

「なんでそんなに歯切れが悪いのよ。」

 

「いや……その、友達に恋愛感情を持ったの初めてなので……」

 

「なるほどね……わかる、わかるわー。それで、優はどうしたいのよ?」

 

「一応仲は良い方だと思うので、少しずつでも距離を縮めていけたらと……」

 

「ふぅん? 仲が良いなら2人っきりで出掛けたり、さり気なく優しくしたりすれば良いんじゃない?」

 

「なるほど……」

 

「まぁ変に気負わずに、優はいつも通りで良いと思うわよ。」

 

「いつも通り……そんなので良いんですか?」

 

「大丈夫よ、マキ先輩を信じなさい。」ニコッ

(優しくてお人好しの優ならきっと大丈夫よ。)

 

「わかりました、いつも通りですね。」

 

「でもそうね……いつも通り接するのは周りに人が居る時だけにして、2人っきりの時はちょっと攻めるのもアリかもね。」

 

「ちょっと攻める……例えば?」

 

「そうね……ここまで優しくするのはお前だけ、とかそういう特別感を出すのが良いわね。」

 

「特別感……やっぱり女子視点だと嬉しいモノですか?」

 

「そりゃそうよ! ポロっと洩らす本音とか、普段優しい人が偶に強引になる所とか……凄くドキドキするわ!」

 

「なるほど……参考にしてみます、ありがとうございました。」

 

「ふふ、別にいいわよ……また何かあったら聞きに来なさい。」

 

「はい、じゃあ僕はコレで。」

 

「えぇ、またね。」

 

………

 

「マキ先輩……普段優しい人が偶に強引になる所にドキドキするらしいですよ?」

 

「そうなの? ありがとう、今度やってみるよ。」

 

ちゃっかり情報はリークしていた。

 


 

〈生徒会室〉

 

「今日は仕事も大して無いし、休みにするか。」

 

白銀のその一言で、突如休みとなった生徒会。

 

「ミコちゃーん! この前言ってたスイパラ行きましょうよ!」

 

「あ、良いですね! こばちゃんも行こ?」

 

「あ、ゴメン、今日は用事が……」

 

「そっかぁ、残念……」

 

「そうですか、用事があるなら仕方ないですね……こばちちゃん、次は一緒に行きましょうね!ミコちゃん、今日は私の奢りですから好きなだけ食べて良いですよ!」

 

「わーい!」

 

藤原、自ら地獄の門を開く愚行。

 

「……」

(ミコちゃん、手加減してあげてね……)

 

「それじゃ、また明日ー!」

 

「お疲れ様でした。」

 

「……じゃあ私も失礼します。」

 

「僕も帰りますね。」

 

「あぁ、お疲れ。」

 

「みんな、お疲れ様。」

 

生徒会室に会長と四宮先輩を残し、大仏の隣を歩く……

 

「……途中まで送って行くよ。」

 

「じゃあ、お願いしちゃおうかな?」

 

校舎を出ると、びゅうっという音が耳を撫でた後、冷気を纏った風に体が襲われる。暦は既に12月へと入り、本格的な寒さを身体で感じる季節だ。隣を歩く大仏も体を縮こませて寒さに耐えている。

 

「うぅ、寒っ……もうすっかり冬だねー。」

 

「冬でもスカートなんて、女子は大変だよな。」

 

「校則でスカートの下に体操服着るの禁止されてるから余計キツイよ。」

 

「……それくらいの許可は出しても、良さそうなもんだけどな。」

 

「まぁ、見栄え悪いからね。スカート丈長ければそれ程気にならないし……首元とか今ヤバイけど。」

 

「……コレ、使うか? 」

 

僕はマフラーを外すと、大仏へと差し出す。

 

「えっ!? 」

 

「あ、悪い……嫌だよな、さっきまで僕がしてたマフラーとか……」

 

「違っ!? ちょっとビックリしただけだから! その……ありがと。」

 

「そっか、なら良かった。」

 

「もう、石上……こういう事、他の女子にもやってるの? 優しいのは石上の良いトコだけど、あんまりやり過ぎると勘違いされちゃうよ?」

 

「……」

(本音をポロッと、多少は強引に……)

 

「……石上?」

 

「やってないよ。」

 

「……え?」

 

「大仏にしか、こういう事やってない。」

 

「な、なんで……?」

(そ、それって……!)

 

「大仏は嫌か? 僕にこういう事されて……」

 

「……いやじゃない。」

 

「……なら良かった。」

 

「……ッ」

 

大仏は口元が隠れるまでグルグルとマフラーを巻き始めた。

 

「大仏、マフラー巻き過ぎじゃないか?……そんなに寒いの?」

 

「そう……じゃないけど、いまはこれでいーの!」

 

「まぁ、大仏が良いならそれでいいけどさ。」

 

「うん、良いの。」

 

「じゃあ、行くか。」

 

「うん……!」

(顔が赤いの見られてないよね……少しは期待してもいいのかな?)

 

「……ッ」ドッドッド

(大丈夫か? キモくなかったかな? 本音出し過ぎじゃなかったか!? やっべ、今考えたらやり過ぎな気がして来た……)

 

 



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恋する少女は話したい

感想ありがとうございます!(`・∀・´)


 

〈中庭〉

 

「……石上がグイグイ来てる?」

 

「うん……」

 

12月に入り、二学期期末テストも無事終了したある日の午後、ベンチに座り大仏の言葉に耳を傾けるのは同じクラスの小野寺麗である。

 

「ふーん、良かったじゃん。石上も大仏さんの事、意識してるって事じゃないの?」

 

「そう……なのかな? でも……そんな都合が良い話があると思う?」

 

「うーん、私はグイグイ来てる内容を知らないからねー。具体的にはどんな感じで来てんの?」

 

「え、えぇと……後ろから抱きつかれたり、生徒会が休みになったのに態々残って勉強を教えてくれたり、マフラー貸してくれたり、それに……」

 

大仏にしか、こういう事やってない。

 

「くうぅ……」ドキドキッ

 

「……それに?」

 

「な、なんでもない……!」

 

大仏は紅潮した顔を隠す様に、俯きながら答えた。

 

「えー……」

(そこまでしてる時点で、高確率で石上も大仏さんの事好きだと思うけど……でも、後ろから抱きつくなんて、石上も結構過激な事すんねー。)

 

伊井野の面子を守ろうとした結果である。

 

「じゃあさー、大仏さんもちょっと攻めてみたら? 石上が大仏さんを意識してるなら、何かしらのリアクションがあるかもしれないし。」

 

「攻める……どんな感じですればいいかな?」

 

「え、うーん……」

 

小野寺は言葉に詰まる。何故なら……この女、大仏の恋愛相談に乗ってはいるが自身の恋愛経験は皆無! 故に異性に対するアピールなど、皆目見当も付かない。精々が少女漫画やドラマ、友人の経験談から答えを導くしか出来ないのである。

 

「そういえば……手に対するスキンシップは、好意の意味があるって聞いた事あるよ、隙を見て手でも握ったら?」

 

「えぇっ!? それはちょっと、ハードルが高いというか……」

 

「……あれ? 体育祭の時に、借り物競争で手握ってなかった?」

 

「あ、あれはっ……石上に引っ張られてただけだから……!」

 

「ふーん、手握るくらいで……うぶだねー。」

 

「もう、やめてったらー。」

 

中庭で2人の少女が恋バナに花を咲かしている頃、生徒会室では……

 

………

 

〈生徒会室〉

 

「……それで、この前が付き合って半年記念でね? その日の翼君は、凄く強引で……」

 

「……」

 

「い、所謂……フ、フレンチキスっていうの? そういう感じのをされちゃって……」

 

「……え?」

(フレンチ……? 何故いきなり西洋料理の種類の話に?)

 

「それでね、それでねっ……!」

 

「あの、眞妃さん……話の腰を折って申し訳ないのですが、フレンチキスとは何でしょう?」

 

「えっ!? おば様知らないの?」

 

「すいません、そういった事には疎いもので……」

 

「あぁ、名家の御令嬢は箱入りだもんねぇ……えぇと、フレンチキスっていうのは……」

 

「フレンチキスというのは?」

 

「ディ、ディープなキスみたいな?」

 

「ディープ? 深いのですか? 具体的に何が深いのですか?」

 

無知とは罪である。

 

「えっ、えぇと……し、舌をね……?」

 

「……舌?」

 

「」

(ええぇぇっ!? ここまで言ったんだから、なんとか察しなさいよ!?)

 

四条眞妃の困惑も仕方のない事である。1学期の初体験勘違い事件を経て、一応の性に対する基礎知識は身に付けてはいるが、基礎知識はあくまでも基礎知識。基礎を発展させた応用編は未だblack boxの中で燻っている状態である。

 

「……あの? 眞妃さん、出来ればもっとちゃんと教えて頂きたいのですが……」

 

「し、仕方ないわね!」

 

四条眞妃は立ち上がると、かぐやの耳元へと口を近付ける。

 

「ディープキスっていうのはね……」

 

「……はい。」

 

「……で、2人の……をしたり…されたり……っていうのがディープキスよ、わかった!?」

 

半端ヤケクソで説明した四条眞妃であった。

 

「」プルプルッ

 

「お、おば様?」

 

「は、破廉恥です! そ、そんなっ……粘膜接触を高校生がするなんて!?」

 

「ち、ちょっと!? 粘膜接触とか生々しい言い方しないでよ!」

 

「ま、眞妃さん!? 今はそういうのが普通なのですか!?」

 

「あ、当たり前でしょ! 皆やってるわよ!」

 

四条眞妃は、自身のアブノーマル扱いを避ける為にホラを吹いた。

 

「当たり前……皆やってる……」

 

「あっ、でもこういうのは本当に好きな人とやるものだからね? 其処は間違えちゃダメよ?」

 

「も、勿論です! 私はそんなはしたない女じゃありませんからっ……!」

 

「なんか言い方に含みがあるんだけど……」

 

「ディープキスは、本当に好きな人に……」

 

幸か不幸か、今回もかぐやに時限爆弾が搭載された。

 

「それで、どうだったんですか?」

 

「な、何が?」

 

「で、ですからっ……ディープキスの感触とか、感想とかです!」

 

「ね、ねぇ……なんかディープキスってストレート過ぎていかがわしい感じがするから……おさしみって言い方にしない?」

 

「……其方の方がかなりいかがわしい印象を受けますが、別にいいですよ。」

 

「ふう……やっと終わった。」ガチャッ

 

「「ひゃわあぁぁっ!!?」」ビクゥ

 

「えっ!? 何!?何事だ!?」

 

「か、会長!?」

 

「お、おう、四宮……四条も居たのか。」

 

「ま、まぁね。 」

 

「何か相談事か?」

 

「うぅん、まぁそんなトコ!……じ、じゃあ、そろそろ失礼するわね!」

 

「お、おう……」

 

バタンッと勢いよく扉を閉めると、四条眞妃は出て行った……

 

「随分と慌てていたな……何か聞かれたくない話だったのか?」

 

「ま、まぁそうですね……おさしみの話を少々。」

 

「おさしみ?」

 

「……ッ」ドキドキッ

 

「……?」

(わからん、なんで四宮は顔を赤くしているんだ? そもそもなんで刺身?)

 

白銀は混乱した。

 




※おさしみとは、江戸時代の隠語でディープキスの事です。(`・ω・´)


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大仏こばちは攻めてみたい

感想ありがとうございます(゚ω゚)


 

〈生徒会室〉

 

「こんちゃーす……あれ、会長だけですか?」

 

石上が生徒会室に入ると、室内に居るのは白銀御行だけだった。白銀は視線を下ろしたまま、手元の書類にサインをしながら答える。

 

「あぁ、2年は今日三者面談だ。俺は順番最後だから、事務処理しに寄っただけ。」

 

「あー、三者面談……今日でしたか、面倒臭そうですね。」

 

「自分の将来に関する事だからそうも言ってられんがな……石上は将来の展望とかないのか?」

 

「将来の展望……」

 

白銀は話の流れ的に当然、進路や就職についての展望を聞いたに過ぎないのだが……

 

「……」

(出来る事なら早い内に大仏と付き合って、そこからは恋人として高校生活を過ごしたいし、一緒の大学にも行きたい……)

 

今の石上は、若干恋愛脳になっていた。

 

「石上、どうした?」

 

「あ、すいません……そうですね、奉心祭が勝負かなと思います。」

 

「いや、何の話だよ。」ガチャッ

 

「お疲れ様です。」

 

「おぅ、お疲れ。」

 

「大仏庶務、伊井野監査はどうした? 一緒じゃないのか?」

 

「今日2年の三者面談で、風紀委員が少し人数不足なんですよ。とりあえず、先輩の面談が終わるまでの繋ぎ役として、ミコちゃんが残ってます。」

 

「なるほどな。」

 

「白銀会長も今日は面談じゃないんですか?」

 

「あぁ、時間まで仕事しにな……そろそろ行かなくてはならんな。少しの間、石上と大仏庶務の2人になるが……」

 

「大丈夫ですよ、とりあえず進められる分は進めておきますから。」

 

石上はパソコンを立ち上げながら、書類の準備に取り掛かる。

 

「ふむ、石上がいるなら大丈夫か……直に藤原と四宮も来ると思うからのんびりやっててくれ。」

 

「了解っす。」

 

「わかりました。」

 

2人の返事を確認すると、白銀は生徒会室を出て行った。

 

「……じゃあ大仏は、この申請書類をクラスと部活で別にしておいてくれ。」

 

「うん、任せて。」

 

「おぅ、任せた。」

 

石上はパソコンで書類処理を、大仏は書類の選別作業に暫し没頭する……

 

………

 

「……ふー、終わったぁ。」

 

僕はパソコンから目を離すと、天井を見上げて目頭を押さえる。

 

「お疲れ様、相変わらず早いね。」

 

「まぁ、これくらいはな……」

 

大仏の言葉に、両手をヒラヒラと振りながら答える。

 

「……」

 

そういえば……手に対するスキンシップは、好意の意味があるって聞いた事あるよ、隙を見て手でも握ったら?

 

(……よし!)

「ねぇ、石上……」

 

「ん?」

 

「パソコン作業で疲れてるならさ……マッサージでもしようか?」

 

「マッサージ?」

 

「うん、パソコン腱鞘炎っていうのもあるらしいし……ダメ?」

 

「いや、してくれるなら有難いけど……」

(え? マッサージ? しかも手のマッサージって事は、直接手を握られるって事!?)

 

「じ、じゃあ……するね?」ギュッ

(き、緊張してきた……)

 

大仏は石上の隣に移動すると、靴を脱ぎソファに正座で座り直した。石上と向かい合い、両手を伸ばして石上の差し出された手を包み込む様に握るとマッサージを始めた。

 

「……っ!?」

(大仏の手、柔らかっ……いやいや、大仏は善意でやってくれてるんだ、邪な考えは捨てろ!)

 

「……んっ、ふっ……!」ニギニギ

(やっぱり……石上も男の子なんだなー、私の手なんかより全然大きい……)

 

「……」

(好きな子が自分の為に頑張ってる姿って、嬉しいというか……凄い癒されるな……)

 

「……石上の手、意外と大きいね?」

 

「ん、そうかな?」

 

「うん……ねぇ石上、気持ち良い?」

 

「あぁ、凄い気持ち良いよ。」

 

「そっか、良かった……」

 

「……」

(油断したら、勢いで告りそうになる……耐えろ、石上優!)

 

「……」

(もし、石上と付き合えたら……こういうスキンシップも増えるのかなぁ……)

 

などと生徒会室でやっている2人だったが……

 

………

 

〈2年教室廊下〉

 

「あ、かぐやさんも面談終わったんですか?」

 

「えぇ、藤原さんも?」

 

「はい! 一緒に生徒会室行きましょー!」

 

「そうですね……会長が言うには、生徒会室には石上君と大仏さんの2人だけの様ですし。」

 

「えっ!? かぐやさん、それは本当ですか!?」

 

ガシッと藤原はかぐやの肩を掴み問い掛けた。

 

「え、えぇ……先に事務処理を進めてくれているらしいですよ。」

 

「こうしちゃいられません! かぐやさん、急ぎますよ!」グイグイッ

 

藤原はかぐやの手を掴むと一目散に生徒会室へと向かった。

 

「えぇっ!? ふ、藤原さん!?」

 

「かぐやさん、急いで!」

 

「な、なんなのー!?」

 

………

 

〈生徒会室前〉

 

「もう……藤原さん、どうしたんですか?」

 

息を整えながら、かぐやは藤原をジト目で睨む。

 

「シッ! ……かぐやさんは気付いてましたか? こばちちゃんが石上くんを好意的に見てる事。」

 

「好意的? えぇまぁ、それくらいの事なら気付いてましたよ。」

 

「いいですか、かぐやさん! この場合の好意的って意味は恋愛的な意味ですよ! ラブ探偵の恋愛センサーが反応しまくってます!」

 

「はぁ……それで、藤原さんは何がしたいんですか?」

 

「いいですか? 誰も居ない生徒会室に男女が2人……しかも片方はもう片方に好意を持ってるんですよ? 何かありそうじゃないですか?」

 

「藤原さん、貴方まさか……」

 

「ちょっとだけ、ちょっとだけドア開けて聞き耳立てるだけですからっ!」

 

「要は覗きじゃない……藤原さん、そういった行いは慎むべきだと……」

 

藤原は僅かに開いたドアの隙間から、室内の様子を窺う……

 

「藤原さん!? 貴方っ……」

 

「シーッ! かぐやさんも、ここまで来たら一連托生ですからね!」

 

「はぁ……仕方ありませんね、何もなければすぐに終わりにするんですよ?」

 

「はーい……」コソコソ

 

「じ、じゃあ……するね?」

 

「「っ!?」」ガバッ

 

「石上の…意外と大き……」

 

「はああぁぁっ!? 何がですか!? 何が大きいんですか!?」

 

「ここからだと、ソファの背凭れが邪魔で見えませんね……」

 

「……ねぇ石上、気持ち良い?」

 

「ち、ちょちょちょっ!? 違いますよね!? そんな事してませんよね!?」

 

「……凄い気持ち良いよ。」

 

「してるっぽーい!?」

 

「藤原さん、してるって何をですか?」

 

「あの体勢的に考えられるのは……」ゴニョゴニョ

 

「手っ!?」

 

「そっか、良かった……」

 

「何も良くないです! 生徒会室でなんて事をしてるんですか!?」

 

「に、逃げた方がいいんじゃ……」

 

「あのー……2人共何してるんですか?」

 

「「ひゃわぁぁぁっ!?」」

 

「え!? ど、どうしたんですか?」

 

「み、ミコちゃん! 驚かせないで下さい!」

 

「えっ、す、すいません……」

 

「藤原さん、ダメよ八つ当たりなんて。」

 

「あ……ゴメンね、ミコちゃん。」

 

「いえ……私が悪いんです。私がいけない子だから……」

 

「……」

(この子、大丈夫かしら……)

 

「ミコちゃん、お願いがあるの! 一緒に生徒会室に突入してくれる!?」

 

「はい、藤原先輩のお願いなら!……でも、どうして突入するんですか?」

 

「説明は後です!行きますよ、ミコちゃん!」

 

「は、はい!」

 

「……」

(藤原さん、伊井野さんを無理矢理巻き込みましたね……)

 

「モラル警察です! 生徒会室でインモラルな事をしている悪い子は此処ですか!?」バンッ

 

「は?」

 

「え?」

 

「」

 

藤原は、自分がやらかした事を察した。

 

………

 

「……つまり、藤原先輩は僕と大仏が生徒会室で変な事をしていると勘違いしたと?」

 

「ハイ……」←正座

 

「藤原先輩……そういう事に興味がある年頃なのはわかりますが、TPOを考えて下さいね。」

 

「うわあああん!! 優しく諭さないでいっそのこと罵倒して下さいよー!!」

 

「……ミコちゃんも、あんまりHな事ばっかり考えちゃダメだよ?」

 

「えぇっ!? こばちゃん、私は違っ……」

 

「ミコちゃん!」

 

「……ハイ。」←正座

 

「……」

(……ホント、藤原さんの言う事を信じると碌な事がないわね。)

 

かぐやは無関係を装った。

 

本日の勝敗、藤原&伊井野の敗北

勘違いの所為で後輩にムッツリ扱いされ、そのムッツリに巻き込み事故を喰らった為。

 

 



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文実委員は煮詰めたい

感想ありがとうございます(`・∀・´)


奉心祭まで残り2週間を切った今日、秀知院学園は活気に満ちていた。生徒会長、白銀御行の尽力により今年の奉心祭は2日間の日程で執り行われる事が決まった為である。各クラスや部活動の出し物について議論する会議にも当然熱が入る。それは此処、文化祭実行委員会議も例外ではなく……

 

「それじゃあ、みんなー? アゲていくよー!! ウェーイ!!!」

 

「「ウェーイ!!!」」

 

「えぇ、私こういうテンション凄く苦手……こばちゃん、早く終わらせて戻ろう?」

 

「そうだね、私もアゲアゲ系はあんまり得意じゃないし……石上もそうでしょ?」

 

「ウェーイ!」

 

「「っ!?」」

 

石上は経験者だった。

 

「アレ? 3人共なんで居んの?」

 

「麗ちゃん!」

 

「生徒会からのヘルプだよ。」

 

「文実が1番人手足りてないらしいから、私達1年組が来たの。」

 

「ふーん、よろしくね。」

 

「……それでは、文化祭会議を始めます。まずは文化祭のスローガンを決めたいと思うので案のある人は挙手して下さい。」

 

子安つばめの言葉に数人が手を挙げる。

 

「はいはーい。」

 

「はい、小野寺さん。」

 

「やっぱ秀知院は、パないって意味を込めて……これっしょ!」

 

〈青春だしん! やばたにえんなチカラァ!!〜秀知院半端ないって〜〉

 

「麗ちゃん!?」

 

「えぇ……」

 

「正気か。」

(小野寺も結構ヤベェ感性してんな……)

 

「いいね! エモエモ!」

 

生徒会3人のローテンションに対して、その他の評判は良かった。

 

「待って下さい、子安委員長! もっと秀知院に相応しい高偏差値なスローガンが宜しいかと! 例えば……」

 

眼鏡を掛けた男子は、まともな人間が見れば正気を失ったとしか思えない文章を得意気に書き綴り出し……

 

「……こういうのです!」

 

自信満々に振り返り、教室を見渡した。

 

「え、やだ……」

 

「うわぁー……」

 

ホワイトボードに長々と記された正気と知性を疑うスローガンは、伊井野と大仏には理解し難い感性だった。

 

「京都大学のスローガンを参考にしました。」

 

「京都大学ってこんななの!?」

 

伊井野は信じられないという目で眼鏡男子を見る。

 

「いや、長過ぎだし、9割意味わかんねぇよ。小野寺案の方がまだ偏差値高いわ。」

 

「」

 

石上は男子には厳しかった。

 

「ちょっと石上、まだってどういう意味?」

 

「やべっ、つい……」

 

「そこまで言うなら、石上が案出してみなよ。」

 

「……ウケ狙ったもんは出せないぞ。」

 

「私も無理にウケ狙ったり、奇をてらう必要はないと思うから……石上君、どうぞ!」

 

つばめ先輩に促され、僕はホワイトボードにスローガンを書き出す……といっても、前と同じスローガンを書くだけなんだけど……

 

〈伝われ燃える想い!ハートtoハート奉心祭!!〉

 

「おー、いいね! うん、良いと思うよ! 皆はどうかな?」

 

つばめ先輩の問い掛けに、特に反対意見は出ずそのままスローガンは採用となった。

 

「石上、言うだけあるじゃん……」

 

「悪かったから、睨むなよ……」

 

「凄いなぁ石上……」

 

「こ、こばちゃん! 私達も何か役に立たないと!」

 

「だねー。」

 

「次は各クラスから文実に質問が来てるから、それに答えようか。」

 

〈販売価格を上げたいので、原価率の下限撤廃を希望します〉

 

「……どうしてダメなんだろ?」

 

「それについてはワテが答えますわ。臨時営業許可が不要なのは、非営利活動に限定されてますねん。つまり、儲けを出す目的での出店はあきまへんちゅーワケですわ。」

 

「そっかぁ、じゃあ価格は上げられないね……」

 

「補足いいですか? 最終的に利益を寄付や経費計上にすれば、どれだけ売上があっても問題ありません。学生の内に価格設定の難しさを学べるなら有意義じゃないですか?」

 

石上の発言に子安つばめが目を輝かせる。

 

「へー、そうなんだ! じゃあその件は先生と要相談で、次は……」

 

〈クレープ屋台がなんで駄目なんですか?〉

 

「なんでダメなんだろ?」

 

「それは僕から……基本的に保健所の指導で、直前に熱処理された食材しか使用出来ないんです。クレープなら缶詰フルーツやクリーム類はNGなんですよ。」

 

「流石佐藤くん、じゃあクレープは……」

 

「それについても補足が……確かに乳製品は弾かれますが、加工品のホイップクリームやジャムなら代用可能です。再検討の余地はあるかと。」

 

「ホント? 良かったぁ、それウチのクラスの事なんだよね。」

 

石上の発言に、C組女子が安堵の声を出す。

 

「……ッ!?」

(な、なんなんだあの一年坊!? さっきから子安先輩の前で良いトコ見せる邪魔しやがって!?)

 

石上の男子達からの好感度が下がった。しかし、石上は別に子安つばめにアピールする為に他の男子を完封している訳ではない。理由は只1つ……

 

「はー……」

 

「っ!」グッ

 

感心した様な顔で自分を見る大仏を確認すると、石上は机の下で拳を力強く握った。そう、この男……大仏こばちに只々カッコいい所を見せたい、頼りになると思われたいが為に、前回の記憶をフル活用し問題点に対する回答を入念に準備して来ていた。

 

(これで、少しは好感度上がったかな?)

 

既に上限一杯である事を石上は知らない。

 

「次が最後だね……キャンプファイヤーの実施を望む。」

 

「是非やりましょう!」

 

立ち上がり周囲に呼び掛けた伊井野だが、予想に反し教室に沈黙が流れる。

 

「うーん、流石に難しいかなぁ。」

 

「最近は条例も厳しくなっていますからね、火災対策に治安問題、何より自治体の許可が下りないでしょう?」

 

「で、でも……確かに大変かもしれませんけど、みんなで頑張ればっ……」

 

「ミコちゃん……」

 

「口で言うのは簡単だけどさ……実際問題どうするつもりなの?」

 

「そ、それはっ……」

 

男子からの問い掛けに、伊井野は答えに窮する。

 

「……補足良いですか。同様の理由で行き詰まっていた高校の文化祭が過去にもありましたが、消防車を1台用意して自治体からの許可が下りたという記録があります。町内会長の所に出向き、文化祭最終日に防災訓練の申請をしてもらえれば、後は近隣住民に周知して回る手間で済みます。」

 

「町内会長の所に出向くって……そんなの誰がやるんだよ?」

 

バンッと机を叩く音が室内に響き、一同は音を立てた人物を見た。

 

「私が行きます! 風紀委員の仕事とは、大人から信用をもぎ取る事です!! 必ず許可を取ってみせます!」

 

「……じゃあそういう事で準備を進めて行こうか! みんな、それで良いかな?」

 

子安つばめの発言に異を唱える者はいなかった。

 

………

 

会議終了後……

 

教室を出ると、後ろから小野寺に肩を叩かれた。

 

「石上、よくあんだけ調べてたねー。」

 

「大した事じゃないよ。」

(ここら辺の事は忘れてなかっただけだし……)

 

「ふーん? じゃあ、私は伊井野と町内会の方に行くから。」

 

「あぁ、頼んだぞ。」

 

「おー。」

 

手をヒラヒラと振りながら、歩いて行く小野寺を見送っていると、袖をクイッと引かれた。振り返ると大仏と目が合う。

 

「石上……ごめんね、全部任せちゃって……」

 

僕を見上げながら、そう洩らす大仏を宥める。

 

「気にしなくて良いよ。偶々僕の案が採用されただけだし……」

 

「石上……先輩達にもちゃんと意見とか言ってたし、問題にも平然と答えてたし……流石っていうか……うん、とにかく凄かったよ。」

 

「……まぁ、会長に任された仕事だし、生徒会役員として少しは役に立つ所も見せたいし。」

(これで時間にも余裕が出来るから、大仏と一緒の時間が増えるし、上手く行けば文化祭を一緒に回れる。それに大仏と一緒に居れば、団長がアプローチを掛ける隙がなくなる筈……)

 

滅茶苦茶、私利私欲だった。

 

 



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祭りの準備は慌ただしい

奉心祭まで残り1週間を切った。次第に加熱するクラスや部活動の生徒達……友人や普段は話さないクラスメイトと交友を持つ機会が増えたり、四苦八苦しながら出し物の準備に明け暮れる。そして、祭りはある意味……本番よりも準備の方が忙しく楽しいモノなのである。

 

「こばちゃーん、暗幕が足らないって麗ちゃんが……」

 

「えー、暗幕もう無いんだけど……石上、どうする?」

 

「ちょっと待ってくれ……確か暗幕の貸し出し数は、クラス別に記録してた筈……」

 

僕は素早くパソコンから目当てのページを開くと、各クラスの貸し出し数を確認する。

 

「……やっぱりな、3年B組とオカ研が必要以上に持って行ってるみたいだ。」

 

「もう! なんでそんな事してるのよ!?」

 

伊井野の苛立ちを受け流しながら答える。

 

「仕方ねぇよ、念の為って言って多めに持って行く所は一定数ある訳だし。僕は3年の所に行くから、伊井野と大仏はオカ研に行ってくれ。」

 

「わかった、こばちゃん行こ?」

 

「うん。石上、コレが終わったらA組との合同会議があるから忘れないでね。」

 

大仏の言葉に、壁に掛かった時計を確認する。

 

「げっ、もうそんな時間かよ……急いで終わらそう。」

 

僕は急いで3年B組のクラスへ向かうと、唯一の知り合いに声を飛ばした。

 

「団長! 暗幕の余りがあったら譲ってくれませんか?」

 

「おぅ、石上か。暗幕なら……コレくらい余ってるな、全部持って行ってくれて大丈夫だぞ。」

 

「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます。」

 

僕は両手一杯に暗幕を抱えて、教室を出て行く。

 

「ふぅ……」

(重い……けど、こっちの方が暗幕の数が多かったし、何より……団長と大仏はなるだけ近づけさせない様にしないといけないし、仕方ない……うん、仕方ないんだ。)

 

石上は狡かった。

 

………

 

「失礼します! オカルト研究会の余った暗幕を回収しに来ました!」

 

伊井野がドアを開けると、薄暗い空間に迎えられる……その独特の雰囲気に、伊井野は思わず足を止めた。

 

「ミコちゃん、どうし……うわっ、滅茶苦茶暗いね。」

 

「……あらあら、可愛い子猫ちゃんが2人も……何か御用かしら?」

 

「「ひっ!?」」

 

暗闇から聴こえて来た声に、2人は揃って小さな悲鳴を上げた。

 

「ふふっ、ごめんなさいね? 驚かせる気はなかったんだけど……」

 

「あの……貴女は?」

 

「あら、ごめんなさい。余った暗幕を取りに来たんだったわね? 年頃の子が部屋を暗くする道具を求めるなんて……ふふ、いやらしいわね。」

 

「何を言ってるんですか?」

 

「……」

(この学校ってホント変な人が多いなぁ……)

 

伊井野と大仏は困惑した。

 

「折角来てくれたんだし、占ってあげましょうか?」

 

「急ぎますので、結構です!」くわっ!

 

「あら、残念……暗幕はその箱の中よ。どうぞ、持って行って。」

 

「失礼します! こばちゃん行こ?」

 

「うん。」

 

「……眼鏡の貴女。」

 

部屋を出て行った伊井野の後を追おうとした時、大仏は背中からの呼び掛けに振り返る。

 

「はい、何ですか?」

 

「……1週間後、人生の岐路に立つ事になりそうね。」

 

「……人生の岐路?」

 

「しかも、選択する機会はたった一度だけ……覚悟しておいた方がいいわ。」

 

魔女帽子を被った目の前の少女の言葉に、じわりと不安が胸に広がって行く。まるで、この空間だけ世界から切り離された様な錯覚と共に不安は消えてはくれない。

 

「……」

 

「こばちゃん、早くー!」

 

「あ、ミコちゃん……」

 

廊下から聞こえて来た友人の声に、先程までの不安が霧散する。

 

「引き止めてごめんなさいね。」

 

「いえ、じゃあ失礼します。」

 

私は部室を出て、ドアを閉めようと手を掛ける。

 

「最後に忠告してあげる……貴女に最も近しい男性に注意しなさい、その男の言う事を信用してはダメよ。」

 

「えっ?」

 

その言葉を聞き終わると同時に、バタンという音を立ててドアは閉まった。

 

「……どういう意味だろ?」

 

「こばちゃーん!」

 

少し離れた場所から自分を呼ぶ友人の声に、先程までの思考を隅に追いやる。

 

「ごめん、今行く。」

 

最も近しい男性に注意しなさい、その男の言う事を信用してはダメよ。

 

隅に追いやったその言葉の意味は……まだわからない。

 

………

 

「……あれ? 部長、此処に置いてあった暗幕どうしました?」

 

「取りに来た娘に渡したわよ。構わないでしょ?」

 

「はい、それは大丈夫ですけど……」

 

「ふふ……珍しい運命の子だったから、思わず占っちゃったわ。」

 

「あぁ、だから機嫌良いんですね。」

 

「あそこまで両極端な運命は珍しかったから、つい……ね。」

 

「へー、どんな運命だったんですか?」

 

「ふふ、秘密よ。」

 

部長と呼ばれた少女は、楽しそうに唇の前で指を立てて微笑んだ。

 


 

〈1年B組〉

 

「えーと、A組とB組の合同企画であるホラーハウスですが……残り1週間を切った今、進捗状況は50%以下です。正直ヤバイです。」

 

会議進行役の小野寺がクラスを見渡しながら口にする。

 

「皆がもっと真面目にやらないかっむぐ!?」

 

「ミコちゃん、今それ言うともっと遅れる事になるから。」

 

「……現実問題として、少し企画の変更が必要になります。何かアイデアのある人は居ませんか?」

 

「ルートを大幅に減らすしかなくね?」

 

「半分喫茶店にしちゃうとか?」

 

「部活もあって忙しいし、適当で……」

 

「……」

 

ダメだ、みんな真剣に考えてない……大幅なルート削減をすれば合同企画の意味がなくなるし、半分とはいえ今さら喫茶店にしようとしても、申請と食材の準備に今以上の時間が掛かるし……私だって部活をしながら準備してるんだから、忙しいのは言い訳にならない。私は頭を抱えたくなるのを必死で堪えながら、黒板に先程出た案を書き出す。妙案とはいえない案を書き終わると、地べたに座る石上に視線を向ける。

 

「石上、何かない?」

 

「そうだな……視覚と聴覚2種類のお化け屋敷にでもしてみるか?」

 

「聴覚のお化け屋敷?」

 

「遊園地とかでよくあるだろ? 立体的な音と雰囲気だけで観客を怖がらせるアトラクション。」

 

「バイノーラル音響の事?」

 

僕の発言に伊井野が反応を示す。

 

「伊井野詳しいの?」

 

「詳しいって程じゃないけど……」

 

「……」

(いや、滅茶苦茶詳しいだろ。)

 

「……」

(十分詳しいよね、ミコちゃん……)

 

2人は口から出そうになった言葉を飲み込んだ。

 

「……本当に自分が体験してるみたいな錯覚がする程で、耳元で囁かれてる音声とか、クオリティの高い耳かき音声とか本当にんぐっ……!?」

 

「はい、ストップ。ミコちゃん、今自爆されたら本当に人手が足りなくなるからやめて。」

 

「……ふーん? バイノーラルが凄いのはわかったけど、残り1週間で間に合うの?」

 

「出来てる分のお化け屋敷は、前半パートにでも使えば残りは少ない準備で済むだろ。後半パートとしてバイノーラル音響が必要だから……」

 

「それならこの私、槇原こずえに任せなさい!」

 

バンッと椅子から立ち上がり、そう名乗った少女は自信満々に言い放った。

 

「あと1週間しかないけど、大丈夫なの?」

 

「……問題無いだろ、TG部ならこういうの得意だろうし。」

 

不安そうな小野寺に答える……不安な理由が残り時間かTG部だからなのかはわからないけど……

 

「石上、アンタ見る目あるわね! 流石、私が目をつけてた男なだけあるわ。」

 

「そうかい……僕はヤベェ奴に目ぇつけられてたっていう、知りたくもない事実を知る羽目になったけど……」

 

「とにかく! 私に任せてもらえれば万事解決よ!」

 

………

 

〈視聴覚室〉

 

両手を縛られた状態で椅子に座らされ、アイマスクまでされたミコちゃんが槇原さんと何故か途中参戦して来た藤原先輩の責め苦に必死に耐えている……あー、またミコちゃん声出しちゃった……

 

「もうさ、口にガムテしなきゃダメかもね。」

 

小野寺さんの発言に、槇原さんは嬉々としてガムテープでミコちゃんの口を塞いだ。

 

「コレで最後にするからさ、伊井野も頑張ってよ。」

 

「んーあん……」

 

多分、麗ちゃん……とでも言ったんだろうけど、ガムテープの所為で聞こえない。まぁ、コレで録音も終わるかな……

 

貴女に最も近しい男性に注意しなさい、その男の言う事を信用してはダメよ。

 

不意に……オカ研の部室で言われた言葉が脳裏に浮かんだ……アレはどういう意味なんだろう? それに、選択の機会は一度だけっていうのも気になるし……

 

「はぁ、はぁ……やっと終わった、こんな事もう二度とゴメッ……」グッタリ

 

「あ……ミコちゃん、ごめん。ボーッとしてて録音してなかった……最初からやり直しで。」

 

「」

 

その瞬間、ミコちゃんの目から光が消えた……ごめん、次はちゃんとやるから……

 

 




※マッキー先ハイが石上に目をつけてたと言っていましたが、不治ワラちゃんという友達から話を聞いて興味を持っただけなので、恋愛的な意味はありません。


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石上優は誘いたい

感想ありがとうございます(`・∀・´)


奉心祭まで残る猶予はあと3日、日を追う毎に忙しさを増して行く各クラスの生徒達とその管理とフォローに精を出す生徒会と文化祭実行委員の面々、それぞれが只1つ……奉心祭の成功を目標に励んでいるのである。

 

〈中庭〉

 

「ゴメンね2人共……忙しいのに呼び出しちゃって。」

 

「いや、気にするな田沼。」

 

「そうっすよ。もう準備も殆ど終わってますし、あとは当日まで不備がないかの確認と突発的なトラブルの対処くらいなので。」

 

申し訳なさそうな顔をする翼先輩を会長と2人で宥める。

 

「石上君のクラスはお化け屋敷だっけ?」

 

「はい。中々の出来になってるんで、マキ先輩と是非来て下さい。」

 

「楽しみにしとくよ……あぁ、でもマキちゃんは、怖いの苦手だからなぁ……」

 

「2人まで一緒に体験出来るので、マキ先輩にカッコいい所見せるチャンスですよ。」

 

「絶対行くよ。」

 

目の色を変えて返事をする翼先輩から会長に視線を移す。

 

「確か……会長達のクラスはバルーンアートでしたっけ?」

 

「あぁ、最近やっとマトモなのが作れるようになってな……」

 

「会長、最初は風船割りまくってたのに、今は難しいのも作れる様になってるんだよ。」

 

「おー、流石会長……」

 

「よせよせ、何事も努力次第でどうにかなるモノだ。」

 

この場に藤原が居れば、1番頑張ったのは私ですけどね……と言っただろう。

 

「それで、話の内容なんだけど……2人は奉心伝説を知ってるよね?」

 

「勿論だ。」

 

「まぁ、話くらいなら……」

 

「……奉心祭で意中の人にハートの贈り物をすると、永遠の愛がもたらされると言われてる奉心伝説……僕も奉心祭でマキちゃんにハートの贈り物をしようと思うんです!」

 

「……」

(……ん?)

 

「しかし、田沼は既に四条と付き合っているだろう? 今更それをしてどうするんだ?」

 

「確かに、僕とマキちゃんは既に恋人同士です。でも、マキちゃんが勇気を出して告白してくれたんだから、僕もマキちゃんに自分の言葉で告白したいんです!」

 

「そうか……頑張れよ、応援してる。」

 

「はい!」

 

力強く答える田沼を見ながら白銀は思った……

 

「……」

(恋人に対して、永遠の愛がもたらされるといわれる奉心伝説に準えた告白って……プロポーズじゃないのか?)

 

はたから見てプロポーズ以外の何物でもなかった。

 

「……ッ」

 

そして、石上も思考を働かせる。

 

(え? 永遠の愛?……まっさかー! 翼先輩の言い方だと、まるでハートを贈る行為がそのまま愛の告白と同義の意味があるみたいじゃないか。)

「会長、翼先輩……ちょっと教えて欲しいんですけど、付き合ってない男女が居てですね、片方が片方にハートの贈り物をした場合……告白になる、なんてそんな馬鹿な話は……」

 

「いや、馬鹿な話も何も……奉心伝説はそういう話だろ。」

 

「そうそう、奉心祭ではハートの贈り物をする=告白って事だよ。」

 

「……え?」

(ちょっと待てよ……前回のつばめ先輩との奉心祭で僕は……)

 

つばめ先輩、これ貰ってくれますか?

 

(景品で取れた……ハート型のクッキーを渡したよな? それに対してつばめ先輩は確か……)

 

えっと、これは……どういう意味の?

 

(って聞いて来たよな? 思い出せ……僕はそれになんて答えた?)

 

石上は必死に記憶を探り自身の発言を思い出す。

 

これは僕の気持ちです。

 

「あああああっ!?!!」

(滅茶苦茶やらかしてたあっ!?)

 

「い、石上?」

 

「石上君?」

 

白銀と田沼がいきなり頭を抱え出した後輩に声を掛けるが、当の本人は返事どころではない。

 

(そりゃ、その後距離取られるに決まってるよ! だって告白されてんだもん! あー、じゃあその後の校舎裏のやり取りの意味も違ってくる…… )

 

石上優、自身のやらかしを2年越しに自覚する。

 

「石上!? しっかりしろ!」

 

「石上君!? 大丈夫!?」

 

ガシッと会長に肩を掴まれ揺さぶられる。

 

「あ……あぁ、すいません。ちょっと、自分の迂闊さに動揺してただけです。」

 

「……ちょっとか?」

 

かなり動揺していた。

 

「石上君、本当に大丈夫?」

 

「大丈夫ですよ、只ちょっと……保健室行って来ます。」

 

「え、保健室?」

 

「やはりどこか調子が……」

 

「いえ、ちょっと枕に顔埋めて足をバタつかせてくるだけです。」

 

「えぇ……」

 

「お、おぅ……」

 

「それじゃコレで……」

 

中庭から去って行く後輩を見ながら2人は思った……

 

((何かやらかしたんだな……))

 

と。

 

〈保健室〉

 

「んがああ あっ!? んむうぅ!!?」バタバタッ

 

……僕は一頻り悶えると思考を切り替える。

 

「……」

(そうだ……大事なのは過去よりも今なんだから、今更気にしてもしょうがないだろ。寧ろハートの贈り物をすれば大仏に僕の事を意識してもらえる訳だし、告白とハートの贈り物のダブルコンボを決めれば良い返事がもらえる可能性だってある筈……)

 

石上は変な所で前向きだった。

 


 

〈1年B組教室〉

 

「今日はここまでにしておけー。」

 

教室を覗きに来た担任に帰宅を促される。作業を中断し、教室を見渡すと意中の少女を発見する。

 

「大仏、そろそろ帰るか?……伊井野と小野寺が居ないな。」

 

「うん、帰ろっか。ミコちゃんは町内会の方へ最後の確認に行ってるよ……小野寺さんはその付き添い。」

 

「そっか、じゃあ先に帰るか。」

 

「うん。」

 

文化祭に向けた準備も徐々に整いつつあり、クラスや部活動の出し物の準備も順次完了している。この調子なら、ある程度余裕を持って本番を迎えられるだろう。校門を過ぎた頃……僕は意を決して、隣を歩く少女に話し掛ける。

 

「大仏……もし、時間が空いてたらで良いんだけど……2日目の奉心祭、一緒に回らないか?」

 

「えっ?」

 

石上の言葉を脳が上手く処理してくれない……もしかして私、文化祭デートに誘われたの?

 

「その、他に予定があるなら……」

 

「あっ、ない! 予定ないから!」

 

「お、おぅ、なら良かった。お互いの空き時間を調整して、時間合わせるか。」

 

「うん、そうだね……なんか懐かしいね。」

 

「あぁ、去年も最初は一緒に回ったよな。」

 

「うん……天文部のプラネタリウム見た後、色々見て回ってそれから……」

 

「中庭で桜を見たんだよな。」

 

「うん、冬桜……だったよね?」

 

「そうそう、よく覚えてるな。」

 

「……忘れないよ。」

(忘れるわけない。)

 

「……また見に行くか?」

 

「うん、行く……ふふ、楽しみだね。」

 

「……だな。」

 

……そのまま少し話をした後、石上と別れて家路に着く。石上に文化祭デートに誘われた……デート、で良いんだよね? うぅー……顔のにやけが止まらない。嬉しい、石上も私の事……そういう考えを期待してしまう。家に着くと弾む気持ちのまま、ドアを開けて中に入った。

 

「ただいま。」

 

私はリビングに居るであろう、お母さんに向けて声を掛ける……返事がない。どうしたんだろう? 買い物にでも行ってるのかな? 私がリビングに入ると、テーブル椅子に腰掛けたお母さんともう1人……その人は振り返りながら言った。

 

「久しぶりだなぁ……こばち。」

 

「お、父……さん……」

 

あぁ、そうだ……良い事があった後にはいつも……悪い事が起こるんだ……

 

 

 




書き溜めが完全になくなったので、暫しお待ち下さい。_:(´ཀ`」 ∠):


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大仏こばちは仮面を被る

「あれ……伊井野、大仏は今日休みか?」

 

次の日、学校に来るといつも伊井野と一緒に登校して来る大仏の姿が見当たらなかった。

 

「うん……こばちゃん今日は、どうしても外せない用事があるんだって。」

 

「へぇ、そうなのか……」

 

少し残念な気分を味わいながら、文化祭の準備に取り組む……キリの良い所で作業を中断して時計を確認すると、時刻は既に12時を回っていた。さっさと食って仕事に取り掛かろう……教室でそのまま昼食を食べていると……

 

「石上! コレ見て!!」

 

血相を変えた伊井野と小野寺が走って教室に入って来た。風紀委員である伊井野が廊下を走るなんて、よっぽどの事だ。僕は小野寺に差し出されたスマホ画面を覗き込んだ。

 

〈大仏と書いておさらぎって読みます! ぜひ覚えて下さいねっ!〉

 

その画面の中には……聞き慣れた声で、普段とは違い溌剌とした感じに話す大仏の姿があった。いつもと違う……作った様な笑顔と、眼鏡を外した瞳を晒して。

 

………

 

また此処へ戻って来てしまった。もう来る事は無いと思っていたのに……私は向けられたカメラに向かって、カンペに書かれたセリフを吐く。此処とは何年も離れていたのに、いざカメラを向けられると勝手に体と口が動いた。演技と嘘を吐く事ばかりしていた……私の1番、無かった事にして忘れてしまいたかった過去……こんな私を見て、石上はどう思うかな……沈んだ心とは真逆の仮面を付けて、私は笑った。

 

「お、父……さん……」

 

あの時、数年振りに我が家を訪れたお父さんを見て……嫌な予感がした。そして……その予感は的中した。お父さんは、お母さんと養育費について話をしに来たんだと言った。そして、今までと変わらずに養育費を工面するのは不可能だとも……お母さんにも貯金はあるらしいけど、秀知院は名門私立……生活費と学費の両方を賄えるほどの蓄えは無いと言われた。つまり、学費のあまり掛からない公立高校に転校する必要があると……いきなりの事に動揺する私に、お父さんは肩に手を置いて言った。

 

「友達と離れたくないか? それなら、いい考えがある。こばちが自分で金を稼ぐんだ。勿論、父さんも協力する……どうだ?」

 

「何を……」

 

折角仲良くなれた人達と離れるなんて嫌だっ……皆と、石上と離れたくない……私は俯いたまま、お父さんに訊ねた。

 

「すれば良いの……?」

 

その時の私には、それ以外の選択肢なんて思い浮かばなかったから……

 


 

自室のベッドに体を投げ出して天井を見上げる。昼休みに……大仏が映っていた番組を見てから、ずっと頭の中を……何故? という疑問が飛び交っていて、気付いたら下校時間になっていた。その間の記憶は朧気だけど、伊井野や小野寺が言うには只々無心で仕事をしていたらしい……大したミスもしてないなら別にいいかと、楽観的に判断して思考を切り替える。

 

昨日まで大仏から、芸能界に入る……なんて事は聞いていなかったし、伊井野や小野寺の驚き様を見ると、誰にも言ってない事は明白だった……大仏にメッセージを送るが、未だに既読すら付いていない事実に……ゾワゾワとした嫌な感触が身体中に纏わりつく。

 

「大仏……」

 

ポツリと零れた言葉は、真っ暗な部屋に消えて行った……

 


 

次の日、奉心祭を明日に控えた秀知院は1番の賑わいを見せていた。直前になって備品申請をしに来る部活部員、レイアウトで意見の衝突をする生徒、前日にも関わらず進捗率が芳しくないクラス、それらのフォローや手伝いをする生徒会と文化祭実行委員……その中で僕達のクラスだけは、周りの賑わいに反して静けさが漂っていた。

 

「……おはよ。」

 

日頃の疲れと昨日の昼休みの衝撃からか、机に突っ伏していた僕は頭上からの声に顔を上げた。

 

「大仏……おはよう。」

 

「……うん。ゴメンね、昨日休んじゃって……あと、メッセージの返信も出来なくて。」

 

「あ、いや……それはいいけど、どうして?」

 

言外に昨日のTV番組の事を含ませて尋ねる。

 

「昨日の事、だよね……ちょっと理由があってね。でも、そんなに長くやるつもりはないの。」

 

「そう、なのか……?」

 

「うん、心配させてゴメンね。」

 

僕と大仏の遣り取りに対して、周囲のクラスメイトも聞き耳を立てている事がわかった為、それだけ聞くと話題を変える。

 

「明日から文化祭だけど、大丈夫か?」

 

「……明日は大丈夫。でも、2日目は来るの遅れると思う……」

 

「え、そうなのか?」

 

「……うん、番組収録の予定があって。夕方には来れると思うけど……ごめんね、折角誘ってくれたのに……」

 

大仏は気落ちした様に言葉を零した。

 

「待つよ。」

 

「え?」

 

「少しくらい遅れたって気にするな、ちゃんと待ってるから。」

 

「っ……うん、ありがと。」

 

「おう。」

 

僕と大仏の会話は教室に入って来た、伊井野と小野寺の割り込みにより中断された。大仏に詰め寄り、小型犬の様に吠える伊井野を宥めていると、始業のチャイムが鳴り響いた。

 


 

文化祭の準備も昼過ぎになれば、徐々に作業の終わったクラスや部活動の姿もチラホラと見え始める。僕達のA組B組合同ホラーハウスも完成し、残るは僅かに作業の完了していない出し物の手伝いをするだけだ。2時間程、校内を見回り最後の確認と手伝いをして今日の作業は終了した。本番である明日は、5時には来て準備や確認をしなければいけない……生徒会で備品の貸し出しデータをまとめていると、ガチャリという音と共に扉が開かれた。

 

「あら、石上君まだ居たの? 明日は早いんですから、程々にしておきなさい。」

 

「はい、コレをまとめたら帰ります……四宮先輩はどうして此処に?」

 

「明かりが点いていたから確認しに来たのよ。」

(もしかしたら、会長がいるかもしれないと思って来たなんて言えないわね……)

 

「そうだったんですか、すいません余計な手間を取らせて……」

 

「別にいいわよ……それより、大仏さんは大丈夫だったかしら?」

 

「えっ、まぁ……大丈夫そうでしたが、四宮先輩も知ってるんですか?」

 

少し意外だった為、思わず四宮先輩に訊ねる。

 

「同じ生徒会メンバーの近況くらい知ってるわよ、失礼ね。」

 

「ハハハ、すいません。」

 

「石上君……まだ掛かるなら手伝いますよ?」

 

「……いえ、もう終わりました。」

 

僕はパソコンの電源を落とすと、鞄に仕舞って立ち上がる……その弾みで、ポケットからキーホルダーが零れ落ちた。

 

「あら? コレは……あらあら、石上君もそうなのね。」

 

四宮先輩は僕より先にそのキーホルダーを拾うと、手のひらに乗せて僕に差し出した……ハート型のキーホルダーを。

 

「……どうも。」

 

妙な気恥ずかしさを感じながら、キーホルダーを受け取る。

 

「誰に渡すのかしら?」

 

「……大仏に。」

 

僕は観念して白状する……しらばっくれても意味が無い気がしたし、四宮先輩には極力嘘は吐きたくない。

 

「あら、素直ね……そ、それで……いつ告白するつもりなの?」

 

「はい、奉心際の2日目に。」

 

「そ、そうなの……でも、そんな急ぐ必要があるのかしら? もっと関係性を深めて……なんだったら、向こうから告白されるのを待ってもいいんじゃないかしら……」モジモジ

 

思いっきり自分の事だった。

 

「別に急いでる訳じゃありませんよ、ただ……このまま待つだけなんて僕には出来ません。大仏が僕以外の男に奪われるなんて、考えたくないですし……それに、もし上手くいけば残った学生生活を恋人として過ごせるんですから。」

 

「……石上君は、フられたらどうしようとか考えてないの?」

 

「もし、フられたとしても……好きになってもらう様に頑張るだけですから。」

 

「そう……強いわね、貴方は。」

 

「……そうですか?」

 

「えぇ……引き止めてごめんなさい、また明日ね。」

 

「はい、お疲れ様でした。」

 

「……お疲れ様。」

 

私は部屋を出て行く後輩の背中を見送る……そう、石上君は勇気を出すのね。なら私も……

 

 



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奉心祭①

〈奉心祭初日〉

 

予め予想出来る問題に対策はしていたが、それでも忙しさはあまり軽減されなかった。特に僕と大仏は、明日の午後に自由時間を確保する為に仕事が大目に割り振られている。

 

「悪いな石上、無線マイク融通してもらって。」

 

「構いませんよ。只、文実の予備の奴なんで使い終わったら文実委員か僕に返して下さいね。」

 

「おう、サンキューな。」

 

「石上、暗幕の余りない?」

 

団長と備品のやり取りをしていると、大仏に後ろから袖をクイッと引かれる。

 

「あれ、まだ足らなかったのか?」

 

「出入り口の分を忘れてたんだって。」

 

「あー、準備中は開けっ放しだったからか……まだあった筈だから取って来るよ。」

 

「じゃあ、お願い。小野寺さんに渡してくれたら良いから。」

 

「あぁ、わかった。」

 

「……」

 

走って暗幕を取りに行った石上を見ていると、ミコちゃんが近づいて来た。

 

「はぁ、中々スムーズに行かないねこばちゃん。開場までもう時間無いのに、次から次にやる事が出て来るし……」

 

「当日になってみないとわからない事ってあるからねー。」

 

〈ピンポンパンポーン〉

 

「あ……」

 

「始まるね。」

 

〈それでは……秀知院学園文化祭、奉心祭のスタートです!!〉

 

………

 

「1年生達は先に休憩入ってー!」

 

つばめ先輩の言葉に作業を中断し、各自昼休憩を取る。

 

「伊井野、教室戻る?」

 

「うん、麗ちゃん行こ。こばちゃんも……」

 

「あ、先行ってて。」

 

「……わかった、伊井野行くよ。」グイッ

 

「あぁあっ、麗ちゃん!?」

 

察してくれた小野寺さんに、ミコちゃんは引っ張られて行った……

 

「……石上、昼休憩行かないの?」

 

「実は……今日コンビニ寄って来るの忘れててさ、どっか適当なクラスの出し物で済まそうかと。」

 

「あ……だったら、一緒に行って良い? 私もついでにご飯済ませたいし。」

 

「あぁ、じゃあ行くか。」

 

大仏と連れ立って校内へと向かう途中、此方に歩いて来る翼先輩達3人と鉢合わせた。

 

「あ、石上君、準備頑張ってたね。」

 

「おつかれ、優。」

 

「お疲れ様。」

 

「こんにちは。」

 

「どもっす……皆さんは、今からクラスの当番ですか?」

 

隣でぺこりと頭を下げる大仏を視界の隅に収めながら、翼先輩に話し掛ける……そういえば、大仏は先輩達と面識あったっけ?

 

「うん、よくわかったねー。」

 

「ハハハ、なんとなくですよ……」

(そりゃ、柏木先輩連れて文化祭デートしてたんならドン引き案件だからですよ。)

 

「……」ジーッ

 

「そういえば……優のクラスはおばけ屋敷らしいわね?」

 

「えぇ、結構な自信作なんで是非来て下さい。」

 

柏木先輩の視線を受け流しながら、マキ先輩に答える。

 

「マキちゃん、石上君もこう言ってるんだから一緒に行こうよ。」

 

「で、でも私、怖いのは……」

 

「大丈夫だよ、僕がちゃんと守るから。」

 

「翼君……」キュンッ

 

バカップルと化した翼先輩とマキ先輩2人を眺めていると、突き刺さる様な何かを感じた。

 

「……」ジーッ

 

「あの……瞳孔開いた目でこっち見るのやめてもらえません?」

 

「……?」

(どうして柏木先輩は、凄い目で石上の事見てるんだろう……)

 

………

 

先輩達と別れると、大仏と飯系の屋台が密集しているエリアを回る。昼休憩終了まであまり時間が無い為、手っ取り早く食べられるモノを探す。

 

「こうして回って見ると、壮観だなぁ……」

 

「ただでさえ規模が大きい文化祭なのに、今年は2日開催だからね。みんなも気合いが入ってるんじゃないかな?」

 

「そうだなぁ……あ、タコ焼きがあるな。」

 

タコ焼きと書かれた看板を見つけて近付くと、2つのタコ焼き屋が並んで販売されていた。片方は普通のタコ焼き屋、もう片方は〈ハート型かまぼこ入り〉と表記されていた。

 

「……」

(此処でタコ焼きとはいえ、大仏にハート型のモノを渡すのは違う気がする……)

 

「……」

(うーん、石上には明日渡すつもりだから今日はやめといた方が良いかなぁ。)

 

結果、両者普通のタコ焼きを選択する。

 

「……美味いな。」

 

「……だね。」

 

人混みを抜けてベンチに座ると、明日についての話題を振る。

 

「なるだけ早く帰って来るから……ごめんね。」

 

「気にしないで大丈夫だよ。何処かで待ち合わせでもするか?」

 

「あ、じゃあさ……去年一緒に桜を見た所で待ち合わせしよ? 彼処なら人気も少ないし。」

 

「そうするか、じゃあ先に行って待ってるよ。」

 

「うん、楽しみ。」

 

「だな。」

 

短い昼休みが終わると、また僕達は文実の仕事に精を出した。

 


 

〈生徒会室〉

 

「いやー、なんだかんだ言って結局みんなココに集まっちゃうんですよねー!」

 

「実家の様な安心感がありますね。」

 

生徒会室には生徒会メンバー全員が集まっており、皆が疲労を滲ませた顔をする中、藤原だけは平気な顔で室内をウロウロしている。

 

「皆さん、かなり疲れてますねー?」

 

「まぁ、今日だけで色々ありましたし……」

(中年の接客が1番疲れたわ……)

 

「文実の手伝いで、僕ら1年はクラスの出し物に顔出す暇もなかったですし……昼飯の時にちょっとだけ回ったくらいですか。」

 

「へー、そういえばTG部の皆とおばけ屋敷行きましたよ!」

 

「そうだったんですか、私が接客したかったんですけど……残念です。」

 

伊井野はガックリと肩を落とした。

 

「どうでした?」

 

「はい、面白かったですよ! ミコちゃんが椅子に縛り付けられながら録音してる所を思い出して、思わず爆笑しちゃいました!」

 

大仏の問いに人格を疑う返しをする藤原先輩を指差して伊井野に尋ねる。

 

「なぁ伊井野……そろそろ尊敬出来なくなってきたんじゃないか?」

 

「……そ、そんな訳ないでしょ!」

 

「ミコちゃん、間があったけど……」

 

「いい加減夢から覚めろよ。」

 

「ちょっとちょっと石上くん〜? その言い方じゃ、ミコちゃんが私に過度な幻想を抱いてるみたいじゃないですか〜。」

 

「まんまその通りでしょう。」

 

「ちょっと石上、藤原先輩を悪く言わないで!」

 

「ミコちゃーん!」ギュッ

 

「私は藤原先輩の事……まだちゃんと尊敬してるんだから!」

 

「……まだ? ミコちゃん、まだって何?」

 

伊井野の発言に引っ掛かりを感じた藤原先輩が伊井野に詰め寄る。

 

「……ボチボチ現実が見え始めてるな。」

 

「ねー、3ヶ月前は上限一杯まで尊敬してたのに……」

 

伊井野を懐柔する藤原先輩を視界に収めつつ、大仏と駄弁る。

 

「ま、皆満喫した様なら良かったよ。」

 

「会長はあまり回れなかったのですか?」

 

「保護者の案内ついでに多少は見て回ったが……それらしい事と言えば、四宮の所でカフェイン摂取したくらいだ。まぁ今日で寄付金の目標額は達成したし、明日は色々回る時間もあるだろう。」

 

会長と四宮先輩の会話が耳に届いた。

 

「……」

(会長も大変だな、僕は昼休みだけでも回れただけラッキーだったな……大仏と一緒だったし。)

 

「……はい、私が悪い子だからダメなんですよね。藤原先輩が私に酷いことするのは、私の為を思っての事なんですよね……」

 

「石上、ミコちゃんが洗脳されちゃった……」

 

「色々ダメそうだな……」

 

何はともあれ奉心祭1日目無事終了。



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奉心祭②

奉心祭最終日、早朝に集まった生徒達は騒然としていた。何故なら……

 

「かれん、何かあったの?」

 

「エリカ、事件です。飾りが……あれだけあったハートの風船が1つ残らず無くなってるの!」

 

………

 

「……なんか騒いでるトコあるね、なんだろ?」

 

「さぁ……よし、直ったぞ。」

 

「悪いね、石上。ロッカー直してもらっちゃって。」

 

「気にすんな、昨日あんだけ開け閉めしてたら扉が緩むのも仕方ないし。」

 

「石上は、今日は午後からフリーなんだよね?」

 

「あぁ、そうだよ。」

 

「ふーん、まぁ頑張んなよ。」

 

ポンッと小野寺は肩を叩くと、持ち場へと戻って行った。

 

「……頑張んなよ、か。」

(言われなくとも、頑張るさ。)

 

………

 

「でも、一体誰が……」

 

「やってくれましたわね、TG部!」

 

かれんは決め付けた。

 


 

〈藤原千花は計れない〉

 

大仏との待ち合わせまでは、まだ時間がある……適当にぶらついて時間を潰すかと、校内を1人で散策していると……藤原先輩が此方に走って来るのが見えた。

 

「藤原先輩? 一体どうしたんですか?」

 

「そうですね、怪盗という名の探し物をしている最中……ですかね。」ドヤァッ

 

「……本当にどうしたんですか?」

 

「もうっ、わからない人ですね! 実は……」

 

………

 

「なるほど、風船が盗まれたと……只の愉快犯じゃないんですか?」

(そういえば、前回もあったなぁ……色々あってそれどころじゃなかったけど。)

 

「はぁー、石上くんは察しの悪い子ですね……」

 

憐れみの視線を向けて来る藤原先輩に訊ねる。

 

「じゃあ藤原先輩は、どういう理由があると?」

 

「そんなの決まってます! いつの時代も……怪盗は探偵に見つけて欲しいモノなんです! 謂わばこの挑戦状は、怪盗から探偵へのラブレターと言っても過言じゃないんです! 必ず見つけてみせますよ!!」

 

藤原先輩は……興奮気味にそう捲し立てると、走って去って行った。

 

(まぁ、楽しんでるなら別にいいか。)

 

暫し校舎内を散策するも、人混みの熱気に負けた僕は校舎裏へと移動した。

 

「ふー、凄い熱気だった……」

 

壁に凭れ息を吐くと、近くで人の声がした。

 

「これ、受け取ってくれないか!」

 

……どうやら告白の現場に居合わせてしまったようだ。興味本位で壁に隠れて覗き見ると……

 

「……じゃじゃん! 突然ですが、ここでクイズです!」

 

告白されたのに、いきなりクイズを出す藤原先輩が居た。

 

(えー、なんでクイズ……本当に意味わかんない人だな。)

 

「羽は羽でも重さのない羽ってな〜んだ?」

 

「ええっ!? えーと、エジプト神話に出て来る裁判の羽根とか……あっ、ピンハネ?」

 

藤原先輩のクイズに動揺しながらも、男子生徒は答えた。

 

「ぶー! 不正解です。正解は楽しい事を精一杯やる心……人に縛られない自由な羽の心です。」

 

(……あの人何言ってんの?)

 

「それでは! 私は怪盗を捕まえなきゃいけないので……ごめんね!」

 

藤原先輩は男子の返事も聞かずに走って行った。

 

「……」

(ちょっと気の毒だな、いくら藤原先輩が相手とはいえ……)

 

「心の羽に重さはない……か。」フッ

 

(あ、大丈夫そうだ。)

 

ヤベェ奴に告る奴もまた、ヤベェ奴なのである。

 


 

〈四条眞妃はほっとかない〉

 

ハートの風船が突然、夜空に舞い始めた。サプライズ演出だろうか……私はハートが舞い上がる光景を暫し眺める。眞妃は……今頃は彼と一緒に居るのかな……

 

「……」

 

「渚、何してんのよ。」

 

「眞妃……」

 

「こんな所に1人でボーっとして……暇なんだったら付き合いなさい。折角のキャンプファイヤーなんだから。」

 

「……彼氏と居なくていいの?」

 

「翼君ならあっちで友達と騒いでるわよ……それに知ってるでしょ? 私、大事なモノは傍に置いておくタイプなの。」

 

「……眞妃は欲張りだよね。」

 

「当然、私は四条家の人間よ? そこら辺の凡人とは違うのよ。」

 

「ふふ、本当にカッコいいなぁ……」

(私は恵まれてるよね、こんなカッコいい女の子が親友なんだから……)

 


 

〈大仏こばちは現れない〉

 

待ち合わせ時間、桜の木の傍に設置されたベンチに腰掛けて待つ。徐々に暗くなって行く周囲を眺めながら、大仏が来るのを待ち続けているが……未だに待ち人は現れない。

 

「……ん?」

 

僅かだが歓声らしき声が耳を掠める。次いで、校舎を隔てた向こう側から赤々とした光が見えた。そうか、四宮先輩のキャンプファイヤーの点火式か。なら奉心祭が終わるまでは残り1時間……

 

「寒っ……」

 

ポケットに手を入れ寒さに耐える……未だ待ち人である、大仏こばちは現れない。

 

 

 

 



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大仏こばちは間に合わない

〈某TV局〉

 

マズイ……収録に時間が掛かり過ぎている。番組収録では良くある事だけど、何も今日じゃなくてもいいのに……

 

「はい、OKです。お疲れ様でした。」

 

スタッフさんと出演者に挨拶を済ますと、急いで自分の楽屋へと走る。石上との待ち合わせ時間は既に過ぎている……それ所か、奉心祭の閉場時間まであと僅かという時間だった。鞄からスマホを取り出して石上に連絡を……

 

「嘘でしょ……電池切れって……」

 

私は楽屋を飛び出した。どうして、こういう時に限って悪い事ばかり……

 

「え、そんなに仕事入れて大丈夫なの? 娘さん……確か秀知院でしょ?」

 

お父さんの名前が書かれた楽屋の前を通り過ぎる瞬間、半開きのドアからそんな言葉が聞こえて来た。確かこの声は……番組プロデューサーの声だ。私は、会話が聞こえる様にドアに隠れて室内を窺った。

 

「別に構いませんよ。頃合いを見て、芸能科のある高校にでも転校させますから。」

 

「娘さんには話してるの?」

 

プロデューサーの言葉に、お父さんは鼻で笑って返した。

 

「はんっ、まさか……近い内に契約書で縛っておけば問題ないでしょう。数年前に一世風靡した人気子役……役者として俺がもう一度芸能界で幅を利かすには、二世タレントとしてのアイツの存在が不可欠ですからね。」

 

「……まぁ、ウチとしても数字が取れるなら家族間の事に口出しはしないけどね。」

 

「大丈夫ですよ。今回も学費をネタに少し脅しを掛けただけで、言う事を聞きましたから。」

 

その言葉の意味を理解した瞬間……私は走ってその場を離れた。どれくらい走っただろう……気付けば私は、TV局から離れた場所で膝に手をついて荒れた息を整えていた。

 

「……くっ、ふっ……ウゥッ……」

 

悔しくて涙が出た。お父さんは、自分の為に私を利用するつもりだった……でも学費に関しては本当なのだろう、お母さんの貯金では足りないのは事実……不倫スキャンダルでマスコミと世間から散々叩かれたお母さんは、人目を気にして働きに出る事が出来なくなってしまった。それでも女優時代の貯金でどうにか出来ていたらしいけど……秀知院は私立の名門、学費だって1年で200万くらい掛かる。秀知院の奨学金制度も調べてみたけど、元々財閥の子息令嬢や才覚のある人間ばかり受け入れていた為か補助に関しては受け取る資格の条件がどれも厳しいモノばかり……私には条件をクリア出来ない。残りは400万……只の高校生には到底用意出来ない金額……私が秀知院に居続けるには、芸能界でお金を稼ぐ事しか出来ない。でも、このままじゃ……そこまで考えて真っ暗な空を見上げた。

 

「……奉心祭、終わっちゃったな……」

 

石上と約束した時間はとっくに過ぎてるし、奉心祭も既に閉場している時間だ。でも……

 

少しくらい遅れたって気にするな。

 

気が付けば、私の足は秀知院に向けて走り出していた……頭では意味がない、居る筈がないとわかっていても……

 

ちゃんと待ってるから。

 

石上の優しさに、縋りたくなってしまったから……

 


 

〈秀知院学園〉

 

「……ふふ、居る訳ない……よね。約束破って……嫌われちゃったかな……」

 

せめて、連絡が出来れば違ったんだろうけど……私は、人気の無くなった秀知院を眺める。キャンプファイヤーの跡、周囲に散らばった萎んだ風船、無人の屋台……明日は片付けが大変だな、と思いながら敷地内へと入る。校舎内に入りさえしなければ、防犯機能に引っかかる事は無い……私は、石上との待ち合わせ場所へと向かった。

 

僅かな光量で周囲を照らす外灯を頼りに、目当ての桜の木を見つけた。暗闇の中で外灯に照らされる桜を見た瞬間、止まっていた涙がまた溢れて来た……私は俯きながら一歩ずつ桜に近付く。涙がぽたぽたと重力に従って落ちて行くのをぼうっと眺めていると、1年前の光景が蘇った……

 

これは桜だよ。冬桜といって冬と春に2回咲く桜なんだ。

 

そうだ、石上に教えてもらうまで冬に咲く桜があるなんて知りもしなかった。2回咲くなんて珍しいねって言ったら……

 

冬桜の花言葉は精神美、優美な女性、純潔、そして冷静……大仏みたいだな。

 

「……ッ」

 

ふふっ……あんな事、女の子に言って勘違いしたらどうするのよ。

 

……実はもう1つあるんだよ、冬桜が大仏みたいだと思った理由。

 

それで、私がどんな理由って聞いたら……

 

冬桜は別名小葉桜(コバザクラ)とも呼ばれてるんだ。

 

もうっ……あんな雰囲気で揶揄うなんてイジワルして……でも、そういう所も……

 

「大仏。」

 

「……え?」

 

前方からの声に俯いていた顔を上げる。嘘だ、そんな訳ない、ありえないと否定の言葉が次々と出て来るけど、今1番聴きたいあの声だけは……聞き間違えるなんてありえないから……

 

「嘘……なんで……」

 

顔を上げると、桜の木の前に立つ1人の男子と目が合った……

 

「ちゃんと待ってるって言ったろ。」

 

その言葉を聞いて……気付いたら私は、石上の胸に飛び込んでいた。

 

「ごめんっ……間に合わなくて……折角、石上がっ……く、うぅっ……」

 

涙が止めどなく溢れて、石上の制服を濡らす……約束を守れなかった自分に対する憤り、石上に対する申し訳なさ……なにより、それでも待って居てくれた石上の優しさに私は……涙を止める事が出来なかった。

 

………

 

僕の胸に顔を埋め、泣き噦る大仏の背中をポンポンと叩いて落ち着かせる。

 

「大丈夫だから、落ち着いて……な?」

 

なるだけ、優しい声色になる様に心掛けて話し掛ける。少しでも大仏に安心して欲しくて大丈夫、大丈夫と繰り返し宥めていると、徐々に嗚咽は収まっていく。

 

「石上……どうして、待っててくれたの?」

 

泣き腫らした目で、ジッと此方を見上げる大仏に答える。

 

「単純に待ちたかったっていうのもあるけど……もし、大仏が来たのに僕が居なかったら……きっと寂しい思いをさせてしまうと思ったから。」

 

「石上……」

 

この日を迎える為に、色々シミュレーションはしたし、どんな言葉で告白すればいいか、なんて事も考えていた……でも、目の前で涙を流している大仏を見て……考えていた事が頭から消えてしまった。今の僕の頭の中にあるのはただ一つ……

 

「……大仏こばちさん、貴女が好きです。僕と……ずっと一緒に居てください。」

 

自然と口から出た僕の言葉に、大仏は目を見開いた。僕はそのまま流れる様に大仏へと、ハートのキーホルダーを差し出す……女の子の弱っている所につけ込む様な卑怯なタイミングで告白している自覚はある。でも、それでも……大仏の傍にいる理由がどうしても欲しかったから……

 

「何があっても絶対に守るし、辛い思いもさせない。 だから……僕と付き合ってくれ!」

 

「っ……ふっ……うぅっ……」

 

ポロポロと涙を流す大仏に、一瞬悪い結果が脳裏を過る。

 

「私は……ずっと、私を見てくる男子の目が嫌いだった……顔だけ見て寄ってくる男子や、親のスキャンダルを詰ってくる男子が……だから私は、石上の前でもずっと眼鏡を外さなかった。お母さん譲りのこの顔よりも……私自身を好きになって欲しかったからっ……私は、ずっと石上を試してたんだよ? それでもいいの……?」

 

「大仏……僕にとって今1番大事なのは、目の前にいる女の子が大仏こばちである事なんだ。素顔でも、眼鏡を掛けていても関係無い。それに……僕は大仏の事、ちゃんと見てたよ。」

 

「……どうして、石上はいつも私を助けてくれるの? どうして、いつもっ……言って欲しい言葉を私にくれるの?」

 

「大仏……」

 

「私も、石上の事が好き、大好き!」

 

その言葉を聞いた瞬間、僕は大仏を抱き締めた。

 



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大仏こばちは帰りたくない

感想、誤字脱字報告ありがとうございます! (`・∀・´)


……お互いに告白し、晴れて恋人同士となった僕と大仏。暫し抱き合った後、声が震えない様に気をつけながら大仏に尋ねる。何故、芸能界で活動をし始めたのかを……大仏はポツポツと少しずつ説明をしてくれた。

 

両親が離婚してから会っていなかった父親が家に訪ねて来た事。

 

秀知院の学費を払い続ける事が困難な事。

 

学費を工面する為に、芸能界で活動する様勧められた事。

 

そして……父親は自分の芸能活動の為に、娘である大仏を利用しようとしている事……

 

「私……転校したくない……」

 

「……大丈夫、言ったろ? 守ってみせるし、辛い思いもさせないって。」

 

「石上……」

 

「……大仏、ちょっと確認したい事があるんだ。」

 

………

 

僕は大仏から聞いた情報を頭の中で整理する。

 

「……なるほどな。最後に1つだけ……大仏の父親が不利益を被る事になるかもしれないけど……それは、その……大丈夫か?」

 

「不利益……?」

 

「あぁ、大仏の父親が芸能事務所と交わした契約内容によっては……何かしらの不利益が発生するかもしれないから。」

 

「……お父さんが自分でした契約なら、自業自得だと思うから別にいいよ。」

 

「そっか、なら良かった……今日は疲れたろ? 送って行くよ。」

 

「……」

 

「……大仏?」

 

「帰りたくない……石上の家に行っちゃダメ?」

 

「んえっ!?」

 

大仏の衝撃発言に思わず、変な声が出た。

 

「……あっ! ち、違うよ!? そういう意味じゃなくてっ……帰ってもしお父さんが居たら嫌だし……今は石上と離れたくないなって。」

 

今は石上と離れたくないなって……

 

石上と離れたくないなって……

 

離れたくないなって……

 

「〜〜っ!!? お、おぅ……じゃあ、僕ん家行くか。」

(そんな事言われて断われる訳ないよ。)

 

「……うん。」

 

「あ、安心してくれ! ちゃんと親も居る筈だからっ……」

 

「うん、別に居なくても気にしないよ。……信じてるから。」

 

「……ありがとう。」

 

僕は大仏と並んで歩く。隣を歩く大仏の姿を視界の隅に収めながら、大仏の手を握る……弱々しく握り返してくれた手の体温を感じながら決心する……絶対になんとかして見せると。

 


 

〈石上家〉

 

大仏を連れて家のドアを開ける……両親にはどうやって説明しようかと思案していると、母さんがリビングから出て来た。

 

「あら、優ちゃんおかえ……」

 

「こ、こんばんは……」

 

母さんは……ペコリと頭を下げる大仏を見ると固まってしまった。

 

「ちょっと家の事情で、今日は帰りたくないんだってさ。泊めてあげたいんだけど、良いかな?」

 

「あ、あらそうなの?……お、お父さんに聞いてみるわねっ!」タタタッ

 

ドタドタとリビングに戻って行く母さんを見送る……チラリと大仏に視線を移すと目が合った。

 

「やっぱり迷惑かな……」

 

「そんな事無いから。母さんも……ちょっとビックリしただけだと思うし。」

 

「そうかな……」

 

「そうだよ……さ、こっちだ。」

 

大仏にそう促し、リビングへと向かう。リビングには両親が揃っており、入って来た僕と大仏に視線を向けた。

 

「お、お邪魔します! 大仏こばちと言います。い、石上君とは、その……」

 

言い淀む大仏の言葉を引き継いで答える。

 

「僕の大切な……彼女だよ。」

 

僕の発した一言で、狼狽える両親を宥めて事情を話す……僕に彼女が出来るのは、そんなに狼狽える事なのか……

 

………

 

「……なるほど、事情はわかった。大仏さん、せめて親御さんには連絡しておきなさい……泊まる分には問題ないから。」

 

「は、はい、お世話になります!」

 

「そう畏まらなくても大丈夫……母さん。」

 

「あ、そうね……こばちちゃん、泊まるならお風呂入るでしょ? 今準備するから。」

 

「えっ、あ……ありがとうございます。」

 

「優ちゃん、貴方の服貸してあげなさい。」

 

「あ、うん。わかった……」

 

1人自室へと向かい、タンスから上下の部屋着を取り出し直ぐにリビングへ戻った。

 

「あれ、大仏は?」

 

「直ぐにお風呂に入ってもらったわよ。着替えを置いて来るから、優ちゃんは此処にいなさい。」

 

着替えを持って脱衣所に向かう母さんを見ていると……

 

「優、コレを……」

 

スッと千円札を父さんに差し出された。

 

「……何コレ?」

 

差し出された千円札の意図が読み取れない為、聞き返す。

 

「……近くのコンビニまで走って買って来なさい。その、ゴム的な奴を……」

 

「どんな気の回し方してんだ! いらねぇよ!!」

 

「あ、あぁ、そうだよな……スマン、ちょっとテンパった。」

 

「全く……大仏は今それどころじゃないっての。さっき説明しただろ?」

 

「あぁ……優、その事に関してお前はどうするつもりなんだ?」

 

「……それについて、父さんにちょっとした頼みがある。」

 

………

 

30分程父さんと話していると、僕の部屋着に身を包んだ大仏が戻って来た。

 

「あの、お風呂ありがとうございました。」

 

「ふふ、気にしなくて良いわよ。優ちゃん……ご飯出来たら呼んであげるから、それまで部屋で待ってなさい。」

 

こばちちゃんもね、と付け加えた母さんの言葉に従い、大仏を連れて自室へと向かう。

 

「……優しいね、石上のお父さんとお母さん。」

 

「そうかな?」

 

「うん、いきなり来た私にも優しくしてくれたし、ウチとは違うからいいなぁって……」

 

「大仏……」

 

「あ、ゴメンね……充電器借りて良い? 電池切れちゃって……」

 

しんみりとした空気を振り払う様に、大仏はスマホを取り出した。

 

「あぁ、好きに使ってくれ。親に連絡したら、伊井野達にも連絡してやってくれよ。相当心配してたから……」

 

「そっか、心配させちゃったな……」

 

母親へメッセージを送る大仏をボーっと眺める。なんか……大仏が僕の部屋に居るって変な感じだな。

 

「あっ、ミコちゃんから電話来た。」

 

通話と表示された欄をタップして大仏は電話に出る……スマホを耳に当てない所を見ると、如何やらテレビ電話の様だ……電話の邪魔にならない様に黙っておく。

 

〈こばちゃん、大丈夫!? ずっと、既読つかなくて心配したんだよ!?〉

 

「ミコちゃん……うん、大丈夫。電池切れちゃってて、ゴメンね……」

 

〈大仏さん、おつかれー。〉

 

「あれ、小野寺さん? 」

 

〈おさちゃーん、私も居るよー!〉

 

「大友さん? 皆一緒に居るの?」

 

〈そーそー、伊井野ん家で奉心祭の打ち上げ的な? ついでに泊まる感じなんだけど、大仏さんも来れるなら来ない?〉

 

僕はカメラに映らない様に気を付けながら、画面を覗き込む。画面には入れ替わり立ち代わりで、伊井野、小野寺、大友の姿が映っている。そうか……家に帰りたくないなら、別に伊井野の家でも良かったのか……うっかりしてたな。

 

「……ごめん、今日はちょっと行けないんだ。」

 

〈そっかー、残念……〉

 

〈……こばちゃん、今どこにいるの? 見た事ない部屋だけど……〉

 

「……ッ」

 

マズイ……伊井野が大仏の後ろに映る風景に疑問を持ってしまった。

 

「え、えぇと……それは……」

 

伊井野の言葉に大仏は言い淀む。

 

〈よく見たら……こばちゃんそんな部屋着持ってたっけ? 凄いダボダボに見えるけど……〉

 

〈彼氏の部屋だったりしてー。〉

 

「えっ、えぇと、その……うー……」

 

大友の発言に、大仏は顔を紅くする。可愛い……けど、それ所じゃない、ヤバイ、バレる。

 

〈……石上ー、居るんでしょ?〉

 

「えぇっ、お、小野寺さん!?」

 

最初は慌てていた大仏だが、小野寺の言葉に観念したのかスマホの画面を此方に向けた。

 

「……よう。」

 

その瞬間、伊井野と大友の驚きの声がスピーカーを通して室内に響き渡った。

 

 

 



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奉心祭の夜に

感想ありがとうございます(`・∀・´)


〈い、いいいいい石上!? アンタ、どうしてこばちゃんと一緒なのよ!?〉

 

スピーカーから聞こえて来る伊井野の声に、思わず通話終了ボタンをタップしたくなる。

 

「……そういう事だよ。」

 

〈キャーッ!! どっち!? 石上君、どっちから告白したの!?〉

 

「そ、それは……」

 

大友の勢いに思わず後退る。

 

〈石上ー、今言わなくても明日吐く事になるんだからさー、言っちゃいなよ。〉

 

〈そうだ、そうだー!〉

 

追求する小野寺と、その言葉にノリノリで追随する大友……

 

〈い、石上! アンタ、こばちゃんを自分の部屋に連れ込んでナニするつもり!?〉

 

微妙に何のニュアンスが違う伊井野……大仏に救いの目を向けるも逸らされる。

 

「僕からだよ……あと、伊井野は脳内ピンクも大概にしとけ。」

 

〈おー……〉

 

〈おー!〉

 

〈脳内ピンク!?〉

 

伊井野の横から大友が画面を覗き込む。

 

〈ねぇねぇ! 何て言って告白したの?〉

 

「お、大友さん、もういいでしょ?」

 

大友の追求に耐えられなくなった大仏が、自分に画面を向けて喋る。助かった……流石にそれは言いたくない。

 

〈おさちゃん、彼シャツしてるんだねー?……もしかして、お泊り?〉

 

大友の言葉に大仏の肩がピクッと跳ねた。

 

〈いや、大友さん流石にそれはないって……ね、大仏さん?〉

 

「え、えぇとっ……う、うん。」

 

〈……うわぁ、マジか。〉

 

小野寺の全てを察した声が聞こえて来た。

 

〈石上! アンタ、こばちゃんを襲ったりしたら只じゃっむぐっ!?〉

 

〈ハイハイ、伊井野は落ち着きな。〉

 

〈おさちゃん、明日感想聞かせてね!〉

 

「何の感想!?」

 

〈わかってる癖にぃ〜。〉ニマニマ

 

(大友さんが凄い絡んでくる……)

「……もしかして、お酒飲んでる?」

 

〈ないない、奉心祭が終わった開放感と大仏さんの恋バナでテンション上がってるだけ。〉

 

「そう……」

(まぁ、ミコちゃんが居てそれはないか。)

 

〈まー、今日の所はこれくらいでやめておこうか。〉

 

〈えー、もっと話したいよー。〉

 

小野寺の言葉に、大友が駄々を捏ねる。

 

〈でも大友さん、2人はこれからほら……アレだし。〉

 

〈あー……じゃあ仕方ないね。〉

 

「大友さんは何を察したの!?」

 

「小野寺! 変な気の利かせ方すんな!」

 

〈じゃー頑張ってねー。〉

 

〈頑張れー!〉

 

〈むぐぅー!!〉

 

言いたい事だけ言って小野寺は通話を切った。

 

「……あはは、バレちゃったね。」

 

「まぁ、遅かれ早かれバレてただろうな……それに、隠す事でもないし。」

 

「うん、そうだね。」

 

「2人共ー、ご飯出来たわよ。」

 

階下から聞こえて来た母さんの声に、大仏と顔を見合わせ下へと降りた。

 


 

〈四宮邸〉

 

「……はっ、初キスで舌をっ!? かぐや様! なんて事をしてるんですか!?」

 

「感極まっちゃって思わず……でも、眞妃さんもしてるって言ってたし……」

 

「眞妃様は付き合って半年以上経ってるからですよ! 初キスでディープキスをブチかます様なかぐや様と一緒にしないであげて下さい!」

 

「早坂! ディープキスなんてエッチな言い方じゃなくて、おさしみって言って!」

 

「なんですか、おさしみって!……っていうか、そっちの方が淫らに聞こえますよ!?」

 

「はぁ……」

(駄目ね、キスもした事ないお子様な早坂に話すだけ無駄だったかしら……)

 

「いま滅茶苦茶ムカつく事考えてますよね? 一旦叩いて目を覚ましてあげましょうか?……では、かぐや様がやらかしたか、やらかしてないか、あの子に聞いてみましょう。」

 

「あの子……?」

 

かぐやが身悶える事になるまで、あと10分……

 


 

夕食後、両親に大仏との事を根掘り葉掘り聞かれ余計に疲れた……部屋に上がりスマホで時間を確認する。時刻は11時過ぎ……普段ならまだまだ起きていられる時間だが、今日は色々あって疲労感が凄い。大仏も疲れているだろうと、母さんに諭され客間に案内された……まぁ、恋人が同じ部屋で寝るっていうのは、親の立場的に問題があるのだろう。もう少し一緒に居たかったけど仕方ない……と自分を納得させ、ベッドで横になるとスマホが着信音を響かせた。

 

………

 

「……あ、会計君? 今ちょっと良ーい?」

 

〈早坂先輩? どうしたんですか?〉

 

「ちょっとね……実は会計君に聞きたい事があってさー。」

 

(あの子って石上君の事だったのね、早坂……いつの間に石上君の連絡先を知ったのかしら?)

 

「会計君はさー、初キスでディープキスする女子をどう思う?」

 

〈初キスでって……ははは、そんな女子いる訳ないじゃないですか。〉

 

「うん、私もそう思ってたー……じゃなくて、思ってるけどさー……例えばでいいからどう思うか教えてー?」

 

〈まぁ、ド淫乱ですよね。実際そんな事されたら、かなり欲求不満なんだな……とか思っちゃいますよね。〉

 

「」

 

「だよねー……ありがと、それだけ聞きたかったんだー。じゃあ、またねー。」

 

〈あ、はい……また。〉ピッ

 

「……どうですか、かぐや様? 自分が何をやらかしたのか、少しは自覚して頂けましたか?」

 

「は、早坂……私、明日からどんな顔して会長に会えば……」

 

「まぁ、ド淫乱の欲求不満女と思われてる事は覚悟しておくべきかと……」

 

「」

 

本日の勝敗、かぐやの敗北

結果的にやらかしてしまい、更にそれを自覚してしまった為。

 


 

〈伊井野邸〉

 

深夜……

 

「不純異性交遊はんたーい!」くわっ!

 

「はんたーい!」

 

「不純異性交遊は取り締まりたいしょー!!」くわっ!

 

「たいしょー!!」

 

伊井野が叫び、それに大友さんが合いの手を入れる光景を私は眺める……2日に渡って開催された奉心祭による疲労、開放感、大仏さんと石上の恋人報告……更に深夜テンションが合わさり、最早私には制御出来ない状況になっていた。

 

「私が生徒会長になったら、厳しく取り締まります!」キリッ

 

「いいぞ、いいぞー!」

 

「……大友さんは、厳しく取り締まられたら困るんじゃないの? いつも彼氏欲しいって言ってるのに……」

 

「私に彼氏が居ないんだから、他の人もつくるなー!」

 

「つくるなー!」くわっ!

 

大友さんの発言に、今度は伊井野が合いの手を入れる。

 

「えぇ……」

(ふ、普通にタチが悪い……死なば諸共みたいな事言ってるし……)

 

「我等独り身3人娘! 生まれた場所は違うけど……なんちゃらかんちゃらー!」

 

「らー!」くわっ!

 

(コレ、私が収拾つけなきゃいけないの? しかも、独り身3人娘って私もカウントされてるし……でも、伊井野もこんなバカ騒ぎにノるなんて、意外っちゃー意外……)

 

床についた手にカサッと何かの包み紙が触れた。私はその包み紙を拾い上げると、書かれた文字に目を通した。

 

〈whisky bonbon〉

 

「あー、ウイスキーボンボン……原因はコレかなぁ。」

 

「おのちゃん! 私達はいつまでも一緒だよ! 抜け駆けはナシだよ!」

 

「アハハ……」

(そういう事言う子に限って、1番最初に抜け駆けしたりするんだよね……)

 

「麗ちゃんも、私と一緒に不純異性交遊取り締まろうね! 一生!」

 

「いや、流石に一生はちょっと……」

 

「麗ちゃーん!」ギュッ

 

「おのちゃーん!」ダキッ

 

「あーもー、2人共もう寝なさい!」

 

&小野寺の敗北

この後、このテンションの2人の相手を2時間務めた為。

 



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想い想われ、呼び呼ばれ

感想ありがとうございます(゚ω゚)


早坂先輩との電話を終えると、スマホを枕元へと置く……結局、あの質問は何だったんだろう? まぁ大方友達とそういう話になって、男の意見を聞く為に電話したってトコだろうな。

 

ほぼ正解。

 

……にしても、初キスでディープキスする女子なんている訳ないのに。

 

残念ながらいる。

 

まぁ、僕の意見を参考にしてもらえたなら(早坂先輩か友達かはわからないけど)初キスでやらかす事にはならないよな。

 

既にやらかした後である。

 

そもそも……ゲームや漫画の中ならともかく、現実にそんな女子がいる訳無いし。

 

現実は時として常人の予想を上回るモノである。

 

「ふぁ……」

 

ベッドで横になっていると、徐々に睡魔がやって来た。なんだかんだで、今日は結構疲れたな……

 

………

 

どれくらい微睡んでいただろう……僕はコンコンッとドアを叩く音に意識を取り戻した。スマホを確認すると、時刻は12時を回っている……この状況で僕の部屋を訪ねて来る人……僕はドアに向けて話し掛けた。

 

「開いてるよ。」

 

カチャと遠慮がちに開かれたドアから顔を覗かせたのは、予想通り大仏だった。

 

「ゴメンね、寝てた?」

 

「いや、それより……どうしたんだ?」

 

僕は微睡んでいた事を誤魔化し、大仏に訊ねる。

 

「眠れなくて……そ、それに、折角石上と同じ家に居るのに、寝るのはもったいないというか……もうちょっと一緒に居たいなって。」

 

(可愛い……)

「可愛い……」

 

「い、石上! あんまり揶揄わないでよ!」

 

「あ、すまん、つい本音が……」

 

「もう……ねぇ石上、ありがとね。」

 

大仏は僕の隣に腰を落とすと、俯きながらそう言った。

 

「えっと、何が……?」

 

「色々だよ……待っててくれた事。私自身をちゃんと見て、受け入れてくれた事。抱き締めて……優しく落ち着かせてくれた事。守ってくれるって言ってくれた事……石上のしてくれた事の全部が嬉しくて……嬉し過ぎて、胸がいっぱいになっちゃった。」

 

「……」

 

大仏の話を僕は黙って聞き続ける。

 

「私は今まで、辛い事や悲しい事でしか泣いた事がなかった……でも石上のしてくれた事、言ってくれた言葉が……嬉しくて、安心して泣く事もあるんだって初めて知る事が出来たの……だから、ありがとう。」

 

「大仏……」

 

「ねぇ石上、私だけ貰ってばかりで何も返せてない……石上は、私にして欲しい事とかしたい事ってないの? 私、石上になら……」

 

大仏は、僕の胸に顔を埋めながら……言葉を繋いだ。

 

「なにされても……」ギュッ

 

「……なら1つ、頼みがある。」

 

「……ッ」

 

僕の言葉に、大仏はピクッと僅かに肩を震わせた。

 

「……うん、なんでも言って?」

 

「2人っきりの時は、僕の事……名前で呼んでくれ。僕も大仏の事は……名前で呼びたいから。」

 

「……優。」ギュッ

 

「……ありがとう、こばち。」

 

こばちは僕の胸に顔を埋めたまま、ジッとしている。少しでも僕の気持ちが伝わる様に、少しでも安心してもらえる様にと、優しく頭を撫でていると……小さな寝息が聞こえて来た。こばちが案内された客間は一階だ。階段を降りて運ぶのは危険だし、何より……愛しい人の寝顔をもう少し眺めていたいという欲には逆らえなかった。起こさない様に気を付けながら、こばちをベッドに寝かせる……辛い事や悲しい理由で流す涙は今日で終わりになる様にと、その寝顔に願いながら……夜は更けていった。

 


 

〈翌日〉

 

次の日の朝、こばちは制服に着替える為一旦家に帰ると言った。母さんが気を利かせてタクシーを呼び、僕はこばちの父親が家に居た場合に備えてついて行こうと提案したが……

 

「大丈夫、お母さんに聞いたら来てないって。心配してくれてありがとね……優。」

 

と言われたので、それ以上は何も言わなかった。只、通学路の途中で待ち合わせをして一緒に行く約束はする事が出来た。タクシーに乗って去って行くこばちを見送ると、シャワーを浴びて眠気を飛ばす。あれから僕は、こばちの眠るベッドに入る事もせず、毛布にくるまって3時間程眠った。未だ多少の眠気はあるが、こばちと恋人同士になった事が関係しているのか、精神的な負担は無い。僕は身支度を整えると、家を出た。

 


 

〈秀知院学園〉

 

今日は、各クラスや部活動でやった出し物の後片付けが主で授業はない。片付けの終わったクラスの生徒はそのまま帰宅する事が許されているし、部活動も許されている。僕達1年B組はA組との合同企画だったのでそんなに時間は掛からないと思っていたが、予想よりも時間が掛かってしまった。備品の返却に不備がないかを確認し終えると、僕達のクラスは解散となった。生徒会役員は片付けが終わったら、生徒会室に集まり会議をする事になっているのだが……

 

「石上、詳しい話を聞かせてもらえるわよね?」

 

「ま、ネタは上がってる訳だし……隠し事は無しね?」

 

伊井野と小野寺に詰め寄られる。クラスには既に僕達しか居らず、こばちは少し離れた席で大友(走って教室に入って来た)に尋問されている。

 

「ねーねー、おさちゃん、石上君とはどこまでヤッたの?」

 

「」

 

イを噛んだと思いたいけど、大友だからなぁ……というか、付き合い始めのカップルに聞く事じゃないだろ。こばちも大友の質問に絶句している。

 

「な、なぁ伊井野、僕達は生徒会の会議があるだろ? 急いで行った方がいいんじゃないか?」

 

真面目な伊井野なら、生徒会を引き合いに出せば考え直してくれると思い口にする。

 

「会議までまだ少し時間はあるから大丈夫よ。それより、いくつか聞きたい事があるの。」

 

「……黙秘権を行使する。」

 

「石上、アンタ……そんなのが通用すると……」

 

「伊井野、ココは私に任せて。ねー石上、もし質問に答えなかったら……藤原先輩呼ぶよ?」

 

「わかった、なんでも聞いてくれ。」

 

小野寺の言葉に僕は、あっさりと屈した。

 

………

 

同時刻、生徒会室……

 

「かぐやちゃんは私が1番好きだもんねー。ほらっ、いつもみたくいちばんしてー?」

 

「……」ジッ

 

「ん、どうした四宮?」

 

「いちばん」スッ、キョロキョロ

 

「え」

 

「……さんばん」スッ

 

「どゆこと!? 此処には私と会長しか居ないのになんで私が3番なの!? じゃあ、2番は!?」

 

「いしがみくん」

 

「私、石上くん以下!? もーっ! 石上くんは一体どんな汚い手を使ってかぐやちゃんの好感度をゲットしたんですか!?」

 

「……」

(日頃の行いだろ……)

 

日頃の行いである。

 

………

 

「……こばちゃん、本当に何もなかったの? 石上に変な事とかされなかった?」

 

小野寺達の尋問も終わり生徒会室に向かう途中、伊井野からそんな言葉が飛び出した。

 

「もう、ミコちゃん! そういう事言っちゃダメでしょ?」

 

「だ、だってぇ……」

 

心外だ……詳しい事情を知らないとはいえ、そんな発言をする伊井野に意趣返しの意味を込めて問い掛ける。

 

「変な事って?」

 

「え?」

 

「だから、具体的に変な事ってなんだよ?」

 

「そ、それは……」

 

「ん? それは?」

 

「そ、そんな事言わなくてもわかるでしょ!!」

 

勝った……伊井野は自身の発言を誤魔化す様に、生徒会室のドアを勢いよく開けた。

 

「こんにちは!」くわっ

 

「お疲れ様です。」

 

「こんちゃーっす。」

 

挨拶をしながら部屋へ入ると……

 

「ちのみや、ちのみや!」

 

「かいちょっ、かいちょっ!」

 

「ちのみやー!」

 

「かいちょー!」

 

「」

 

「」

 

「」

 

恐ろしい程中身の無い会話をする……会長と四宮先輩が居た。

 

「ハッ!? ち、違うんだ、コレはっ……」

 

「いい年して何してるんですか!?」

 

「違うんだって! 説明が難しいけど、ちょっと色々あっただけで……」

 

伊井野が詰め寄り、会長に問い質す。

 

「何が色々なんですか! もう少し、生徒会長としての自覚を……」

 

「い、石上! お前ならわかってくれるよな!?」

 

「ほーら、四宮先輩、お菓子ですよー。」

 

「わーい!」

 

「聞いてない!?」ガビーン

 

「ねぇ石上……四宮先輩、いつもと違う気がするんだけど……」

 

「まぁ、こういう時もあるだろ。」

(懐かしー、そういえば四宮先輩がこうなるのって、奉心祭の次の日だったっけ。)

 

「えぇ、軽い……」バターンッ

 

「かぐやちゃん! お菓子買って来たよ!!……あー! 石上くん、早速かぐやちゃんに媚び売って好感度稼いでっ……普段からそういう事してたから2番なんですね!? ずっこい、ずっこいです!!」

 

部屋に入って来るなり、藤原先輩はいきなり叫び出した。

 

「……よくわかりませんが、なる様になった結果だと思いますよ。」

 

「ふん、見てて下さい!……はーい、かぐやちゃんお菓子だよー? 石上くんのお菓子より美味しいよ? だからいつもみたくいちばんしてー?」

 

「……さんばん」スッ

 

「だからなんでぇ!?」

 

本日の勝敗、藤原の敗北

さんばんだった為。



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石上優は策を講ずる

感想、誤字脱字報告ありがとうございます
(`・∀・´)


 

「……うぅ……う〜ん……」

 

「あーあ、かぐやちゃん寝ちゃいましたねぇ……折角お菓子とか買って来たのにー。」グニグニ

 

ソファに横たわり、魘されながら眠るかぐやの頬を藤原は指で突く。

 

「藤原書記、寝かしてやれよ……文化祭の疲れとかもあるだろうし。」

 

「はーい……あっ、そういえば石上くん、クリスマスイブの日ヒマ? その日ウチ来ない?」

 

(藤原先輩!?)

「っ!?」ギューッ

 

「痛ーいっ!?」

 

「あぁ、クリスマスパーティーするんですね。」

 

「……あ、ゴメンね、ミコちゃん。」ホッ

 

「うぅっ……」グスッ

 

「石上……今ので良くわかったな。」

 

「まぁ、藤原先輩はこういう人ですから……」

 

「という訳で、生徒会の皆でクリスマスパーティーをしましょう! 場所はウチを提供しますので! かぐやさんも来ますよね?」

 

「ウゥ…ン……」

 

「よし、言質取りました!」

 

「いや、魘されてるだけだろ。」

 

「折角誘ってもらって申し訳ないですが、その日は無理ですね。」

 

「えー、なんでですかぁ! 恋人のいない可哀想な後輩を誘ってあげてるのに!」

 

「……さーせん、その日はどうしても外せない用事があるんすよ。」

(言い方……)

 

「はー、残念ですが仕方ないですね……ミコちゃんとこばちちゃんは?」

 

「あ……私も友達と一緒につばめ先輩のクリスマスパーティーに呼ばれてるんです。」

 

「すいません。」

 

「……」

(よし、違和感ない感じに断れたな。)

 

すいません、と藤原先輩に謝るこばちを見てホッとする。僕と同じクリスマスの日に用事があるなんて言えば、恋愛脳の藤原先輩なら確実に探りを入れて来る。だから、伊井野の発言の後に謝罪を挟めば、こばちも同様の理由で行けないと誤認識させる事が出来る。伊井野は態々言い触らす様な人間じゃないし、こばちの問題が片付く前に色々言われるのは勘弁して欲しいから仕方ないよな。

 

藤原、ガチの対策を取られる。

 

「じゃあ、仕方ないですねー。かぐやさんとついでに会長で我慢してあげます。」

 

「藤原、今ついでっつった?」

 

「……そういえば会長、会議はどうします?」

 

ソファで眠る四宮先輩を見ながら訊ねる。

 

「そうだな……まぁ、別に急ぎという訳でもない。今日は休みにするか、皆も文化祭の準備や片付けで疲れも溜まってるだろうしな。」

 

「わーい! じゃあ私、TG部に顔出しに行きますね! それじゃまた明日ー。」

 

藤原は颯爽と生徒会室から出て行った。

 

「じゃあ、僕達も失礼します。四宮先輩は……」

 

「あぁ、四宮は俺が責任を持って見ておく。」

 

「お願いします……それじゃ、お疲れ様でした。」

 

「お疲れ様でした。」

 

「失礼します。」

 

生徒会室に会長と四宮先輩を残して部屋を出る。伊井野は気を利かせてくれたのか、校内に残っていた小野寺と合流して一緒に帰るそうだ。折角出来た2人っきりの時間……活用しない手はないし、動くなら早い方が良い。僕は隣で歩く恋人に話し掛けた。

 

「なぁ、こばち……」

 

「な、何?」ビクッ

(な、名前で呼ばれると昨日の事を思い出しちゃうな……撫でられてる内に、いつの間にか寝ちゃってたみたいだし……)

 

「今日、こばちの家に行っていいか?」

 

「え、えぇっ!?」

(い、いきなり!?)

 

「こばちの母親と話がしたいんだ。」

 

「あ……うん、わかった。ねぇ、優……これだけは約束して。私の為に無理はしないって。」

 

お願いだから、と僕を見上げてそう言って来るこばちの背中をポンポンと叩く。

 

「うん、大丈夫だから……任せてくれ。」

 

「うん……」

 

そして、僕達はこばちの家へと向かった。

 


 

〈大仏家〉

 

「お母さん、この時間帯なら居る筈だから。」

 

「うん……こばち、悪いけど30分だけお母さんと、2人で話をさせてくれないか?」

 

「……私が居たらダメ?」

 

「今はまだ……でも約束する。絶対にこばちも、こばちのお母さんも不幸にさせない。だから……」

 

信じてくれ……と言おうとした所で、こばちに人差し指で止められる。

 

「信じてるよ、優の事。」

 

「……ありがとう。」

 

………

 

こばちの母親との話を済ませると、〈こばち〉と表記された部屋のドアをコンコンと叩く……数秒後、ドアが開かれこばちに迎えられる。

 

「いらっしゃい、入って。」

 

はにかんだ笑顔を浮かべるこばちに、部屋へと招かれる。

 

「……どうだった?」

 

「あぁ、何とかなったよ。こばちのお母さんの許可と了承が出たから、後はなんとかなると思う。」

 

「……聞いていい? 優はどうするつもりなの?」

 

「……こばちを拐うつもりだよ。」

 

「えっ!?」

 


 

……最初は一瞬の出来心だった。でも……その一瞬の浮ついた気持ちは、取り返しのつかない現実となって私と家族に襲い掛かった。娘が生まれるまでは女優として、生まれてからは大人気ママタレントとして……芸能界で活動していた私の人生は、こばちが中学に上がった頃に激変した。偶々、番組収録で一緒になった他事務所のタレントと懇意になり、プライベートでも会う様になった。夫のたいきと娘のこばち……大した不満もなく、仕事も順調だった。ただ、ほんの少しだけ刺激を求めた火遊びのつもり……でも、それが週刊誌に掲載されると、マスコミと世間は全力で私を糾弾した。

 

私は仕事を失い人前に出る事が困難になった為、無期限の活動停止を余儀なくされた。別居している夫には離婚届を突きつけられたけど、私は未だにハンコを押していないし、未練がましく大仏性を名乗り続けている……が押していないだけで、事実上の縁切り状態だ。こばちも私の不倫騒動の直後、芸能界から身を引く事になった。母親として情け無く、申し訳ない気持ちで一杯だった。

 

でもある日……こばちが中学三年に進級して直ぐの頃、いつも暗い顔で帰宅し学校の話題を話さないあの子が……溌剌とした表情でただいまと帰宅の挨拶をして驚いたし、それからは暗い顔をする事も無くなった。だけど最近、数年振りに会いに来た夫の話を聞いて、また暗い顔をする事が増えてしまった。こばち自身は、芸能界に未練はないのだろう……只々学費を稼ぐ、それだけの為に欺瞞、虚栄、欲望に支配された世界に身を投じる……本当に私は情け無く、悪い母親だ……娘が苦しんでいるのに、何も出来ないなんて……

 

「はじめまして。大仏こばちさんとお付き合いさせて頂いてます、石上優です。」

 

そんな自己嫌悪を感じていた時だった。真っ直ぐな瞳に何かを決意した様な空気を纏った男の子が訪ねて来たのは……そうか、こばちを救ってくれたのは貴方なのね。石上優と名乗った男の子は、その見た目からは想像もつかない、とんでもないことを私に提案した。

 

 




最新刊にて、大仏こばちの父親は大仏たいき、母親は芸名MEARIとしてタレント活動していたらしいので、大仏芽有とします。


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石上優は伝えたい

感想ありがとうございます(`・∀・´)


 

〈中庭〉

 

「そっか、上手くいったみたいで良かったよ。」

 

「翼先輩には相談に乗ってもらって……ありがとうございました。」

 

「全然いいよ。僕だって相談に乗ってもらってたし、こういうのはお互い様だからね。」

 

翼先輩にこばちと恋人となった事を報告する。翼先輩も気にしてくれていた様で、笑って祝福してくれた。

 

「会長には、もう報告したの?」

 

「いや、それが……」

 

翼先輩の言葉に思わず言い淀む。僕は今日の会長の姿を思い出す……

 

………

 

「羊が87匹、羊が88匹、羊が89匹……」

 

「……」

 

「ひ、棺が一基、棺が二基……」

 

「棺!?」ビクッ

 

………

 

「……ちょっと忙しそうなので、落ち着いたら伝えます。」

 

「そっか、まぁ生徒会長だもんね。」

 

「……そうですね。」

(四宮先輩が髪を下ろしてるのと関係してると思うんだけど……前回はいつの間にか元に戻ってたからなぁ。)

 

「マキちゃんには伝えた? 心配してたよ。」

 

「この後に伝えに行こうかと思ってます。」

 

「そっか、じゃあ早く教えてあげて。マキちゃんも早く知りたい筈だよ。」

 

「そうっすね、行ってきます。」

 

「マキちゃんは生徒会室に行くって言ってたよ。」

 

翼先輩の言葉に僕は手を振って感謝の意を示し、生徒会室へと向かった。

 


 

〈生徒会室〉

 

「違うって言ってるでしょ!」

 

「何が違うのよ! 」

 

生徒会室に入ると、マキ先輩と四宮先輩が言い争いをしていた。

 

「ちょっ!? 2人共どうしたんですか!?」

 

「石上君……」

 

「優……翼君と一緒じゃなかったの?」

 

「翼先輩にマキ先輩は此処だって聞きまして。」

 

「あら、私に何か用?」

 

「……内密な話なら私は席を外しますが?」

 

「いえ、四宮先輩にも聞いて欲しいんです。」

 

………

 

「へぇ、大仏さんとね……おめでとう、石上君。祝福するわ。」

 

「良かったわね。大仏って、あのTVに出てた眼鏡の子でしょ? 眼鏡外したらかなり印象変わって見えるわよね。」

 

「ありがとうございます。今、その件で色々考えてまして……」

 

「……石上君さえ良かったら、話してくれますか?」

 

「そうね、何か問題があるんでしょ?」

 

「はい、実は大仏がTVに出ていたのは……」

 

「待ちなさい。」

 

話し始めてすぐに、四宮先輩に止められる。

 

「はい?」

 

「先ず、問題背景を知る為に……付き合う事になった時の事を詳しく話すべきだと思うわ。」ソワソワ

 

「た、確かにおば様の言う通りね……優、詳しく話して!」ソワソワ

 

「えぇ……女子ってホント恋バナ好きですよね。」

 

………

 

四宮先輩とマキ先輩が固唾を飲んで僕の話に聴き入っている。途中、こばちと桜の木の下でした遣り取りも細かく説明させられた。流石に恥ずかしいからと濁して言おうとしたら、滅茶苦茶怒られたし清々しい程全部吐かされた……もう胃液も出ない。

 

告白の微に入り細を穿つ説明が終わり、僕の計画を2人の先輩に伝えた。

 

「へぇ? 石上君にしては……という遣り方ね。」

 

「……ダメ、でしょうか?」

 

「私は嫌いじゃないわよ。初手の子供っぽさと未成年である事を利用した狡賢さ、そして前準備は完了済み……強いて言えば、その父親に対する罰が軽過ぎるくらいかしら。」

 

「そうですかね……マキ先輩はどう思います?」

 

「私もおば様と同意見よ。だけど、1つだけ……彼女には伝えてるの?」

 

「それは……」

 

「ま、優の言いたくない気持ちもわかるけどね……」

 

「今回の件で、大仏は十分辛い思いをしました。これ以上余計な罪悪感とか感じて欲しくないですし、縛り付ける様な真似はしたくありません。」

 

「……でも、石上君が待っててくれて、彼女は心の底から嬉しかった筈よ。」

 

「……」

 

「無意識に、心の奥底で望んでいた……彼女が1番求めている行動を……石上君、貴方は取ったのよ。」

 

だったら俺が見せてやる。

 

かぐやの脳裏には、かつて夏祭りで自分を探し出してくれた男の姿が去来する。

 

(まるで会長みたい……そう思った事が間違いじゃないと言える程、貴方は優しい子ね……)

「確かに……石上君のしようとしている事の一部は、大仏さんが気に病んでしまう内容かもしれない……でも彼女からしたら、石上君が1人で抱え込む事を良しとするかしら?」

 

「それは……」

 

「逆の立場なら……優はどう思う?……コレはそういう話よ。」

 

四宮先輩とマキ先輩の言葉に僕は……

 

「まぁ……石上君がやろうとしている事自体は、別に問題ないと思うわ。」

 

「そうね、おさしみやらかすおば様より全然マシだと思うわ。」

 

「だから、それは違うと言ってるでしょう! アレはもう1人の私が勝手にした事でっ……!」

 

(……遊○王?)

「まぁまぁ、2人共落ち着いて下さい……というか、おさしみって何ですか?」

 

「「んなっ!? このハレンチ!!」」

 

「えぇっ!?」

 


 

こばちの問題を解決するには、幾つかの条件がある。

 

1つ、秀知院学園の残り2年分の学費(約400万)の工面。

 

コレは前回の僕なら到底無理だったけど、今回はなんとか出来る。

 

2つ、こばちの母親の収入源の確保。

 

例えこの件が解決しても、こばちが大学進学する場合は進学先の選択肢が狭まってしまうので心配していたが……

 

3つ、こばちが芸能事務所と契約をしているかどうか……

 

コレが最も重要な案件だったが、こばちに確認すると書類等に一切のサインはしていないと言う。全くの無契約な少女をTV局が出演させるとは思えない。いざという時の為、書類上の責任者がいる筈だ。そして……こばちがTV局で聞いた父親の発言から、当面の責任者は間違いなく父親だ。まぁ、大した問題を起こす訳じゃないからそこまで凄い賠償額にはならないだろうけど……

 

「なぁ、こばち……」

 

隣を歩く少女に話し掛ける。

 

「うん? なぁに、優?」

 

「明日、僕は……」

 

いよいよ、明日は……クリスマスイブだ。……恋人同士が寄り添う日、そして……大仏こばちの問題を解決する日だ。

 



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大仏こばちを守りたい

12月24日、クリスマスイブ当日……こばちの問題に決着を付けると決めた日に僕とこばちは……

 

「凄い綺麗……」

 

「だな……」

 

クリスマスデートをしていた。立ち並ぶ樹々に取り付けられた光り輝くイルミネーションが……道行く人々を明るく照らす。夜空はネイビー色に彩られ、その下を歩くのは殆どがカップルだ。

 

「こばち、寒くないか?」

 

「うん、大丈夫。でも……ホントに良いのかな?」

 

「大丈夫だよ。」

 

不安そうにするこばちを宥める。今日、こばちは番組収録をドタキャンしている……いや、僕がさせたと言った方が正しいか。こばちのスマホには父親からの電話がひっきりなしに掛かって来るので、今は電源を切っている。相当怒っているだろうな……だけど、それで良い。冷静さを欠いた状態なら、僕でも言い負かす事くらいは出来る筈だし、暴力に訴えて来るなら話はよりシンプルになる。父親だからと言って、こばちを泣かせていい理由も利用していい理由もないのだから。

 

………

 

〈大仏家〉

 

こばちとのデートが終わると家へと送り届ける……世間では性の6時間とか言って盛り上がっているカップルも居るだろうが、僕はそんな性欲を優先するヤリチンでも、世間の風潮に流されがっついてしまう童貞でもない。そういう神聖な行いはもっとこう……お互いの気持ちを大事にするべきで、クリスマスに便乗してするのは違うと思う。

 

行為の神聖視や気持ちが大事とか言う辺りは、まさしく童貞ぽかった。

 

こばちの母親からのメッセージで、既に父親は家に居るという事を知った。ドアを開く前にこばちへ視線を向けると目が合った……それは、覚悟と意思の宿った瞳だった。

 

………

 

「……ただいま。」

 

「お邪魔します。」

 

家へと入ると、ドタドタと騒がしい足音が聞こえて来た。

 

「こばち! お前仕事をドタキャンするなんて何考えてるんだ!?」

 

父親の剣幕に、ビクッと肩を震わせたこばちを背中に庇う。

 

「優……」ギュッ

 

ギュッと不安そうに腕に掴まるこばちに……

 

「大丈夫。」

 

と返して、父親へ向き直る。

 

「なんだお前は?」

 

「はじめまして、こばちさんとお付き合いさせて頂いてる石上と言います。」

 

「……お前がこばちを誑かしたのか!?」

 

「はい、そうです。僕が仕事をドタキャンする様に言いました。」

 

「お前……自分が何をしたかわかってるのか!!」

 

「たいきさん、話ならリビングで……」

 

母親に宥められると、こばち共々リビングに案内される。父親と反対側のソファにこばちと座り、父親はソファにドカッと座ると……苛立ちを隠さずに話し出した。

 

「プロデューサーはカンカンだ。それ以外にもスタッフや共演者の人間にも迷惑が掛かった……こばち、お前には常識というモノがないのか!?」

 

「……ッ」

 

「……」ギュッ

 

俯いて沈黙するこばちの手を握る。

 

「……常識と言いますが、実の娘を利用して芸能界でのし上がろうとする貴方の方が常識が無いのではないでしょうか?」

 

「な、なにをっ……」

 

「こばちさんは聞いたそうですよ? 貴方が楽屋で……番組プロデューサーとその様な話をしている所を。」

 

「それはっ……」

 

「そもそも、娘とはいえ未成年に無理矢理働かせるのは労働基準法違反です。例え働き場所が芸能界であろうと関係ありません。」

 

「……番組収録をドタキャンしたんだ、こばちには賠償責任が生じるぞ? お前がこばちを唆したからっ……」

 

「……子供だからって舐めてます? ある訳ないでしょ、そんなモノ。こばちは書類の類いには一切のサインをしていないと言っていました。だけど、何の契約もしていない少女をTV局が使うとは思えません。何かあった時の責任者がいる筈です……貴方でしょう?」

 

「……ッ」

 

思った通り図星らしく、僕はそのまま話を続ける。

 

「だから、賠償責任が生じるとすれば貴方で、こばちには一切の責任はありません。こばち自身、もう芸能活動はしたくないと言っていますし……」

 

「……じゃあ、こばちが転校しても良いんだな?」

 

「……」

 

「元々、こばちが芸能活動を再開したのは学費が払えないからだ。芸能活動をしないなら、公立校に転校するしかないぞ? それに、大学に進学するなら更に金がいる……用意出来るのか?」

 

ニタニタと笑いながらそう言う父親に、若干の苛立ちを覚える。くだらない……揚げ足を取ったつもりで、得意気な表情を浮かべる男に毅然とした態度で言い放つ。

 

「それに関しても問題ありません、ご心配なく。」

 

「なっ!? そんな馬鹿なっ……一体どうするつもりだ!?」

 

その言葉に僕は、時間が戻って数ヶ月経った頃を思い出した。

 

………

 

特に深く考えずに……僕は父さんに、わかる範囲のヒット商品の情報を伝え続けた。最初の商品がヒットし、次の商品も……そのまた次の商品もヒットした……当たり前だ、僕には何がヒットするかわかっているのだから。会社の経理に関わってた前回同様、今回も経理に携わっていた僕だけど……会社の利益や仕入れなどに目を通していて思った。

 

あれ? もしかして、やり過ぎた? と。

 

それ程までに……前回とは桁違いの利益を父さんの会社は得ていたし、終いには……

 

「優、お前が会社継ぐか?」

 

と父さんに打診される始末……勿論全力で断った。会社は兄貴が継げば良いと思ってたし、僕は人の上に立つタイプの人間じゃない。ただ……父さんがそんな事を言う程の利益を会社にもたらした……その事実が無ければ、こばちの学費の問題もクリア出来なかっただろう……

 

………

 

「……という事なのでご心配なく。母親の芽有さんも既に了承済みです。」

 

「お前……知ってたのか!?」

 

「えぇ……知っていたわ。」

 

「くっ……恥ずかしくないのか!? こんなガキに施しを受けるなんてっ……」

 

当然、話を持ち掛けた時は断られた。だけど、根気強く話を続けて納得してもらったし、借りを作るのが嫌なら学費を返すのはいつでもいいし、働く意思があるのならウチの会社で雇う事も提案した。だけど、母は強しというか……

 

「施し?……馬鹿を言わないで。」

 

「……は?」

 

先程までとは違い……凛とした雰囲気を纏った女性は、毅然とした態度で発言した。

 

「1年よ。1年でこばちの学費も進学に必要な費用も……全て稼いでやるわよ。」

 

芸能界に復帰してね、と告げた母親にこばちも驚いた様だ。

 

「本当に情け無いわね、私達……子供に余計な苦労を掛けて、親失格だわ。」

 

「お、お前……」

 

「元々、事務所から芸能界復帰の打診は来てたのよ。私が臆病で甘えてただけ……こばち、ごめんなさいね……辛い思いをさせて。」

 

「お、お母さん……」

 

瞳を潤ませるこばちの背中を優しく摩る。

 

「だ、だったら俺と一緒にまたっ……」

 

「お断りよ、貴方はもう他人なんだから。」

 

「……他人?」

 

「昨日、離婚届にサインをして役所に提出したわ……貴方は既に記入済みだったんだから、問題無いでしょう?」

 

「え……あ……」

 

「話は終わりよ、さっさと出て行って。」

 

「くっ……」

 

父親はギラリと鋭い視線を僕に向ける。

 

「ヒーローにでもなったつもりか? ええっ!? ガキの分際でよくもっ……」

 

「お父さん……」

 

「……別にそんなつもりはありません。只、好きな人を泣かせたくないだけです。」

 

……好きな女の為に寒空の下でいつまでも待ち続け、数百万の金額を立て替え、家庭の事情に踏み込む……見る人が見れば青いと嘲けり、世間知らずと罵り、馬鹿だと糾弾するだろう……しかし、それで良いのである。男は惚れた女の為ならば、天才の仮面を被り続ける事も……

 

突き抜けた馬鹿に(どこまでも優しく)なる事も出来るのだから

 



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石と小鉢のエピローグ

アレから直ぐに、こばちの父親は出て行った。汚い言葉を撒き散らし、最後には二度と顔を見せるなと言って……実の父親からそんな事を言われたこばちが心配になり視線を向けるも……

 

「……大丈夫、案外平気みたい。愛想が尽きたって感じ?」

 

と、本人はケロッとしていた。それに、母親である芽有さんも……

 

「はぁ……あんな男に未練を持ってたなんて恥ずかしいわね。」

 

結果的にこばちの問題も解決したけど、まさかアレから直ぐに離婚届を出していたとは……女は度胸という言葉を聞いた事があるけど、覚悟を決めた女性は強い……いや、子を守ろうとする母が強いのか? ぐるぐるとそんな事を考えていると……

 

「こばち、お母さんはちょっと出掛けるわね。」

 

「え……こんな遅くに?」

 

「事務所の飲み会に顔出しに行くわ。これからまたお世話になる訳だし。」

 

「……うん、わかった。」

 

「……優君、こばちだけじゃ心配だから泊まって行ってくれるかしら?」

 

という、とんでも発言が飛び出した。

 

「えぇっ!?」

 

「お、お母さん!?」

 

「こばちも朝帰りしたんだから、別にいいでしょ?」

 

「あ、朝帰りって……別に何もなかったよ!?」

 

「別に何かしろなんて、お母さん言ってないんだけど……」

 

「そ、それはそうだけどっ……」

 

「じゃあ、そういう事でよろしくね、優君。」

 

芽有さんはそれだけ言うと、出て行った。

 

「なんか、最初のイメージと大分違う気が……」

 

「……私が知ってる、働いてた時のお母さんはあんな感じだよ。色々吹っ切れたんだと思う……お父さんの事もスキャンダルの事も。」

 

「そっか。」

(だとしたら……良い事、なんだろうな。)

 

「そ、それで……泊まって行くんだよね?」

 

「こ、こばちが良かったら……」

 

「うん、お願い……お風呂入る?」

 

「あ、じゃあコンビニで下着買って来るよ。」

 

「私も一緒に行って良い?」

 

「いいけど、寒いぞ? 此処で待ってた方が……」

 

「今日はなるだけ一緒に居たいの……ダメ?」

 

「……いいよ、じゃあ行こうか。」

 

「うん、ついでにクリスマスケーキも買って帰ろ?」

 

「そうだな、こばちは何が良い?」

 

「うーん、チョコも良いけどどうしようかな。」

 

クリスマスイブの寒空の下、恋人と手を繋いで夜道を歩く……気温は低く、風は冷たいけれど……繋いだ手は、じんわりとした温かさを保っていた。

 


 

日付けも変わった次の日、残った二学期登校日も今日と明日の終業式を残すのみとなった。こばちの家を早朝に出て、自宅で軽くシャワーを浴びて制服に着替える。眠気を飛ばす為、普段は飲まないブラックコーヒーをパンと一緒に流し込む。……結果的に朝帰りする事になった僕を母さんは何も言わずに迎えてくれた。……父さんはその後ろで、人差し指と親指で作った輪っかに指を通すという下品極まりない動作をしている所を母さんに見つかり叩かれた。そんな自宅での1幕も終わり、これからはまたいつもの日常がやってくるという予感を感じながら家を出た。

 

………

 

〈生徒会室〉

 

二学期も明日で終わる為、今日中に提出する書類の整理をする。先輩達や伊井野も冬休みに向けた書類作成や整理に勤しんでいる。ソファに腰掛けてパソコン作業をする僕の隣には、恋人の大仏こばちが陣取っている。暫し書類作成に勤しんでいると、隣に座る少女が自身の腕を摩るのが目の端に映った。この生徒会室にはエアコンが無い為、梅雨はジメジメ、夏は暑く、冬は寒いという環境だ。 僕はソファから立ち上がると、事前に準備していた毛布をこばちの背中から掛けた。

 

「あ……優、ありがとう。」

 

「あぁ……此処は冷えるから風邪引くなよ、こばち。」

 

「うん。」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「」

 

先程までのペンを走らせる音や資料を捲る音がしなくなった事に違和感を感じ、周りを見渡す。

 

「あれ、皆どうしたんですか? 藤原先輩は特に凄い顔してますけど……」

 

「今、石上くんとこばちちゃん……名前で呼び合いませんでした?」

 

「そりゃ、そうですよ。付き合ってるんですから。」

 

「……聞いてない!! 聞いてませんよ、そんな事!?」

 

「そりゃあ、藤原先輩には今初めて言いましたからね……」

 

「なんですぐに教えてくれないの!? 普段お世話になってる先輩に対して、あまりにも不義理じゃないですか!?」

 

「お世話……?」キョトン

 

「本気のキョトン顔やめて下さい!……ん? 私にはって言いました?」

 

「はい。」

 

藤原先輩はギギギと首を回して会長達に話し掛けた。

 

「か、会長?」

 

「あぁ、知ってたぞ。」

 

「か、かぐやさん?」

 

「勿論、知ってたわよ。」

 

「み、ミコちゃん……?」

 

「口止めされてたので……」

 

「なんで私には教えてくれなかったの!?」

 

「今教えたじゃないですか……」

 

ギャイギャイと叫ぶ藤原先輩に呆れ顔で答える。

 

「なんで1番最後なの!? 普通にショックなんですけど!?」

 

「優は悪くないんです。私の事情で色々あって……すいません。」

 

「あぁっ……別にこばちちゃんを責めてる訳じゃないんですよ!?」

 

申し訳なさそうに謝罪するこばちに、藤原先輩は虚を突かれた様で慌てている。

 

「まぁ、藤原先輩みたいなtricksterに教えるのは、全部終わってからって決めてたんで……」

 

「誰がtrickster!? こばちちゃん、本当に石上くんで良いの!? 私だったら絶対選ばないよ!?」

 

「……はい、優じゃないとダメなんです。だって……大好きですから。」

 

そう言って微笑んだこばちの表情は、今まで見た中で1番輝いて見えた。

 

ー完ー

 




ここまで約3か月、お付き合いしてくださってありがとうございました。(_ _)
最後は駆け足気味になったかもしれませんが……元々はかぐ告二期のアニメ11話を見て、テンションのまま書き殴った今作でした。一応、時系列やキャラの口調などには気をつけて書いたつもりですが、不備があったらすいません。
大仏が石上に恋心を抱いていた描写や、かぐやの石上と大仏は似ている発言からヒロインを大仏こばちにしました。
あと、何話かアフターストーリーを書く予定ですので、お暇ならお付き合い下さい。( ̄^ ̄)ゞ


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仏の小鉢after①

感想、誤字脱字報告ありがとうございます
(`・∀・´)


 

〈生徒会室〉

 

3学期に入って数日……今日は珍しく、僕が生徒会室に1番乗りの様だ。いつもなら会長や四宮先輩が先に居るんだけど……僕は先に仕事を始めようと書類を準備する。

 

「……」

 

暫し、書類に必要事項を記入していると、記入ミスをしてしまった。

 

「あー、しまった……これだから、紙書類は苦手なんだよ。修正液って何処だっけ?」

 

僕は棚や引き出しを探すも目当ての物は見つからない。残るは会長の仕事机の引き出ししかない。

 

「えーと……」

 

ゴソゴソと机を漁っていると、カチッと爪に硬い何かが当たった。

 

「……なんだ?」

 

つい気になってしまい、ソレを取り出すと……何故か、会長の机の引き出しから手錠が出て来た。

 

「えぇ……なんで手錠?」ガチャッ

 

手錠を持ち上げて眺めていると、ドアが開かれる音がしたので振り返る。

 

「こんにち……」

 

「あぁ、伊井野か、お疲れ。」

 

もし……この場面で伊井野ミコ以外の人間がドアを開けたのなら、別段問題はなかった。藤原主催のクリスマスパーティーに参加した、白銀御行、四宮かぐや、藤原千花の3人は、石上が持つ手錠がプレゼント交換で白銀御行に当たった藤原萌葉のプレゼントだと理解しているし、恋人である大仏こばちならば早合点せずに、それどうしたの? と聞いてくる程度だろう……

 

「ひっ……い、石上、それでどうするつもり!?」

 

唯一……何事に対しても早合点し、むっつりスケベな妄想癖のある伊井野ミコだけは、違う答えに行き着いてしまう。

 

「……ッ!?」

(て、手錠を持った石上+部屋には私と石上2人だけ……ち、調○される!?)

 

「何勘違いしてるんだよ、コレは……」

 

後退る伊井野に説明をする為、近付く。

 

「だ、ダメよ石上……アンタにはこばちゃんがっ……」

 

「どんな勘違い!? 伊井野お前、むっつりも大概にっ……」

 

僕は伊井野を落ち着かせようと軽く肩を掴んだ。

 

「いやあああっ!!?」

 

「いやあああじゃねぇよ!! どんだけ真に迫った叫び声上げてんだ! ちょっとマジで黙ってくれ! こんなトコ見られたら誤解されるだろうが!!」

 

「むぐぅっ!?」

 

勘弁してくれ、という気持ちで伊井野の口を塞ぐ……と同時に部屋のドアが開いた。

 

「こんにちはー!」ガチャッ

 

「お疲れー。」

 

「こんにち……」

 

最後に入って来た四宮先輩と目が合い、続いて会長、藤原先輩の視界に僕と伊井野の姿が映った……片手に手錠を持ち、もう片方の手で伊井野の口を塞ぐ僕の姿が……

 

………

 

「だから、違うって言ってるでしょうが! 修正液探してたら、会長の机から出て来たんですよ!」

 

散々藤原先輩から詰られた後、弁明を試みる。会長と四宮先輩は、始めから何か事情があるのだろうと察してくれている。

 

「会長の? あー……」

 

「あら会長、それって……」

 

「藤原妹からのクリスマスプレゼント……だな。」

 

「……は? 手錠がクリスマスプレゼント? もしかして、藤原先輩の家族ってヤバい人しか居ないんですか?」

 

「いや、親御さんは凄くまともだぞ。」

 

「えぇ、親御さんは……ね。」

 

「ちょっとちょっと、2人共〜? それじゃまるで、私達姉妹がヤバい人みたいじゃないですかー?」

 

(いや、別に比喩的な意味で言った訳ではないんだが……)

 

(その通りでしょうに……)

 

「か、会長の私物……?」カタカタッ

 

伊井野はカタカタと、身体を震わせながら会長を睨み叫んだ。

 

「せ、生徒会室で手錠プレイとか、一体何を考えてるんですか!?」くわっ!

 

「人の話聞いてた!?」

 

「お前が何考えてるんだよ!!」

 

「ッ!」

(て、手錠プレイ……)

 

か、会長っ……離して下さい!

 

駄目だ。四宮が俺から離れられない様にする為には、躾が必要だからな。

 

だ、ダメです、会長……あ……

 

「〜〜〜っ!」モジモジ

(か、会長がどうしてもと言うなら一回くらいは……)

 

かぐやの性知識は中級者レベルに上がっていた。

 

「こんにちはー。」ガチャッ

 

「こばちゃん!」ダキッ

 

伊井野は入って来たこばちに抱きついた。

 

「わっ、ミコちゃんどうしたの?」

 

「こばちゃん、大丈夫? 石上に手錠プレイとか強要されてない!?」

 

「えー……」

 

「だから手錠は僕のじゃねぇって言ってんだろ! よしんば手錠プレイに使ってるとしても、本来の持ち主である会長だから!!」

 

「俺もねぇよ!!」

 

白銀、とんでもない巻き込み事故に遭う。

 

「……なるほど、優が白銀会長の手錠を持っている所を偶々目撃したミコちゃんがまた勘違いしたんですね?」

 

「俺の手錠という部分は否定したいが……概ねその通りだ。」

 

「こばちちゃん、よくわかりますねー。」

 

「まぁ、ミコちゃんとは付き合いも長いので……」

 

「それでも、石上くんが浮気するとかは考えないんですか?」

 

とんでもない質問をこばちに投げ掛ける藤原先輩を止めようと話し掛ける。

 

「藤原先輩、変な事言わないで下さいよ。」

 

「だって男は狼なんですよ!?」

 

「……っ!」ウンウン

 

藤原先輩の発言に伊井野も頷いて賛同する。

 

「優の事、信じてますから。」

 

「むむむ、見せつけてくれますねー。でも、生徒会にはかぐやさんやミコちゃん、そして何よりこの私っ……」

 

「すいません……藤原先輩の事は魅力的な人だとは思ってますが、僕の趣味趣向にはガチのマジでそぐわないです。」

 

藤原はフられた。

 

「……石上くん、一回でいいからぶん殴っちゃダメ?」

 

「嫌ですよ……」

 

3学期も生徒会は平常運転である。

 


 

〈大仏たいきは出られない〉

 

時間は少し巻き戻る……クリスマスも終わり、今年が終わるまであと僅かという今日、大仏たいきは芸能事務所に呼び出されていた。

 

「……全てのTV出演が見送り? ど、どういう事ですか!?」

 

「どういう事……か、それは私が聞きたいね。」

 

高級な椅子にドッカリと座る社長の眼光に射抜かれる。

 

「おい佐々木、説明してやれ。」

 

「は、はい……」

 

そう促された佐々木という男は俺のマネージャーだ。黙って佐々木の言葉を待つ。

 

「し、出演予定だった全ての番組プロデューサーから、ウチでは使えないと連絡が来ました。それ以外の……ローカルを含めたTV局にも営業をしてみましたが、結果は変わらず……」

 

「な、なんでそんな……」

 

「普段からウチと懇意にしてくれているTV局のお偉方が言うには……スポンサーからの指示だと。」

 

「す、スポンサー……? な、何故っ……何処の会社がそんな指示をっ……」

 

「……四宮グループです。」

 

………

 

〈四宮邸〉

 

「かぐや様……TV局への指示と根回し、全て完了しました。」

 

「あら、お疲れ様。ふふ、自己顕示欲の強い目立ちたがりな芸能人がテレビに出られない……あらあら、どうやって賠償金を支払うのでしょうね?」

 

「……今回は、随分と動かれましたね。」

 

「そうかしら? 別に、借りを返しただけよ。」

 

「借り……ですか。」

 

「えぇ、四宮家たるもの、借りは返すのが必定ですもの。」

 

「……たかが喫茶店の無料券を貰った借りとしては、随分なお返しですね。」

 

「……私にとっては、十分過ぎる程大きな借りだったのよ。」

(だって……夏休みに会長と会うキッカケを作ってくれたんだもの。)

 

かぐやはヒラヒラと〈珈琲無料券〉と表記された紙を揺らしながら嬉しそうにソレを見つめていた。

 



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仏の小鉢after②

感想ありがとうございます(`・∀・´)
if√は集計後、12月に投稿開始します。
デブリボン……一体、何原ちゃんなんだ……


 

〈藤原千花は愛されたい〉

 

「皆さんの私に対する態度が最近、本当に酷い。」

 

藤原のこの発言を発端に、突如開始される事となった〈愛してるゲーム〉……面と向かい合い「愛してる」と発言、それに対して照れたら負けというシンプルなゲームである。

 

「とりあえず、ミコちゃんとやってみますね。ミコちゃん、こっち来て。」

 

「は、はい。」

 

「ミコちゃん……愛してる。」

 

「っ!?」

 

「こんな感じで、照れたり狼狽したら負けです……皆さん、散々私を馬鹿にしてるんですから、まさか照れたりなんて……しませんよねぇ?」

 

「する訳ないでしょう? なんだったら、ハンデ有りでも良いですよ?」

 

「……」

(愛してるゲームでハンデって何だ?)

 

白銀は困惑した。

 

「そんな事言って、後悔しますよ!?」

 

「僕言われる側だけで良いですか? こばち以外には愛してるなんて言いたくないので。」

 

「ゆ、優!?」

 

最近の石上は、ブレーキが壊れていた。

 

「くっ、なんか見せ付けられてる気分です……精々彼女の前で照れない様に気をつけるんですね!! ミコちゃん、スタートの合図を!」

 

「は、はい! では、スタートです!」

 

「……この1年間、石上くんとは色々やり合って来ましたね。今まで私と対等な態度で接してくれる男子って会長くらいしか居なかったので、石上くんとワーワーやってる時が実は1番楽しかったりしたんですよ?……えへへ、石上くん好きだよ。」

 

「……ッ」ギリッ

 

秘技、舌噛み! 前回の人生において、石上優は藤原千花相手にこのゲームで照れてしまい、あっさりと敗北を喫した! その際藤原に、アホ程マウントを取られた事を石上は未だに根に持っていたのである!! 照れない為、耐える為に舌を噛み、拳を強く握り、態と伸ばした爪を掌に食い込ませた痛みで藤原の発言に死ぬ気で耐える。男としてのプライド、恋人の前で無様な姿は晒せない……と言えば聞こえは良いが、只々藤原にマウントを取られた事が悔しかっただけである。

 

「……もういいですか?」

 

「うあーっ! なんでぇっ!? 普通の男子なら瞬殺なんですよ!?」

 

「何度でも言いますが、藤原先輩は僕の趣味趣向にはガチのマジでそぐわないからです。」

 

「何度も言わないで下さい! 次です、次!! 会長ですよ!!」

 

「お、俺か!?」

 

会長と藤原先輩のやり取りを尻目に、こばちと向き合う。

 

「優、よく照れなかったね。」

 

「……そりゃそうだろ。こばちに言われるならまだしも……」

 

「ゆ、優……愛してる。」

 

「……僕も愛してるよ、こばち。」

 

こばちを抱き寄せ、耳元で囁くと耳まで真っ赤になったこばちが此方を睨む。

 

「も、もう! 私ばっかりドキドキさせられてる気がする…… 」

 

「……少しはカッコ付けさせてくれよ。」

 

「優はずっと……あの時から、カッコイイままだよ。」

 

僕は大仏の事、ちゃんと見てたよ。

 

そう言って私を助けてくれた……あの時から。

 

「……」

(羨ましい、堂々とイチャイチャして……あとで、仕事を理由に会長と残ってギュッてしてもらいましょう。)

 

「……なんで、会長は泣いてるんですか!? どんな感情が渦巻いてるんですか!?」

 

「……」ニマニマ

(ふふ、流石は会長ね……やはり殿方とは斯くあるべきだわ。)

 

「……って石上くん! 何を堂々とイチャついてるんですか!? 離れて下さい!!」

 

「独り身の嫉妬は見苦しいですよ。」

 

「言い方ぁ!!」

 

本日の勝敗、藤原の敗北

生徒会男子を照れさせる事が出来なかった為。

 

「……ッ」ハッハッハッ

(び、びっくりしたぁ……石上とこばちゃん、き、キスするかと思った……)

 

&伊井野の敗北

 


 

〈石上優は結びたい〉

 

「……会長、コレは?」

 

僕は机の上に置かれた箱を指差して尋ねた。

 

「あぁ、校長からの差し入れだ。」

 

「わーっ! サクランボのゼリーだ! 早速食べましょう! はい、ミコちゃん。」

 

「わーい!」

 

順番にゼリーを渡す藤原先輩を見ながら思った……来たなと。

 

前回の人生で起こった石上優チェリーボーイ事件! サクランボの茎を舌で結べるかを競った勝負に於いて、石上は藤原に敗北! 前回の人生で苦汁を舐めさせられた愛してるゲーム同様、アホ程マウントを取られたのである。そして、石上は当然ながらそれも根に持っていた! 故に、この時の為だけに茎結びの練習を滅茶苦茶して来ていたのである!

 

「皆さん、サクランボの茎を口の中で結べます?」

 

藤原先輩の発言を皮切りに、皆がサクランボの茎を口の中へと放り込んだ。四宮先輩は、今回も秒でクリアしていた。流石に四宮先輩みたいに、口の中で結んで解けるテクニシャンには勝てないけど……そうこうしている内に、手応え……いや、舌応えを感じて舌を出した。

 

「あ、出来ました。」

 

石上は舌を出し、クリアした事をアピールするが……

 

「……」

 

シンと生徒会室は静まり返っていた。

 

「え? 何ですか、この空気?」

 

石上は気付いていない。前回の茎結び勝負に参加した人間の中には、表向きは付き合っている人間がその場に居なかった。白銀御行と四宮かぐやは今回も当然恋人同士ではあるが、表向きは付き合っていないし、かぐやは茎結びを出来なかったと装っている……石上優と大仏こばちの2人だけが周囲に認知されているカップルなのである。つまり……

 

「い、石上……アンタ……」プルプルッ

 

「えっ、何?」

 

「そ、その舌遣いで、こばちゃんの口の中を陵辱しまくってるのね!?」

 

「はあああっ!?」

 

この様な誤解が生まれるのも必然であった。

 

「こ、口腔陵辱罪で取り締まるわよ!! 」

 

「嫌な言い方すんじゃねぇよ! なんだよ、口腔陵辱罪って!?」

 

「アンタがこばちゃんに普段からしてる事よ!!」

 

「誤解だって! こばちも何とか言ってっ……」

 

「ぁ……」

 

大仏こばちとて、乙女である。彼氏である石上優が、茎が結べればキスが上手いと言われる茎結びを1分と経たずにクリアした事実を目の当たりにし、平静を失っていた。

 

「こばち、今その反応は誤解されるヤツだから……」

 

「ご、ごめん……!」

 

「い、石上……やっぱり!?」

 

「だから違うって……」

 

「あ、出来ましたー……じゃ、皆さんお仕事に戻りましょうか。」

 

話を終わらせ様とする藤原先輩の発言に反発する。

 

「ちょっと待って下さい! 誤解が解けてから次に行って下さいよ!?」

 

「さ、流石は石上だ……だが、校内では慎みを持つようにな。」

 

「会長!?」

 

「テクニックも大事だけど、1番大事なのはタイミングよ?」

 

「四宮先輩!?」

(一番のテクニシャンがそれ言います!?)

 

「ゆ、優……私もその、上手に出来る様に頑張るから……」

 

「……っ!?」

 

「……石上、今はやめとけよ。」

 

「……大丈夫です、耐えました。」

 

「うん? 優、どうしたの?」

 

「……なんでもないよ。」

(あんな事言うなんて、我慢する男の事も考えてくれよ……)

 

本日の勝敗、石上の敗北

彼女の発言がクリーンヒットした為。

 



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仏の小鉢after③

 

〈中庭〉

 

「みんなー、お待たせー。」

 

中庭に設置されたベンチに、ミコちゃん、小野寺さんと3人で腰掛けていると、此方に走って来る大友さんが見えた。今日は4人で集まってお昼ご飯を食べる約束をしている。

 

「ゴメンね、遅れちゃって。4時間目が体育だったの。」

 

「気にしないでいいよ、大友さんも座ったら?」

 

「うん……伊井野ちゃん、また凄い大きいお弁当なんだねー。」

 

「こ、これは、家政婦さんがお父さんのお弁当と間違えたからで……」

 

「そうなんだー。」

(おっちょこちょいな家政婦さんなんだー。)

 

「伊井野……」

(その家政婦さん、今週だけで3回は間違えてる事になるんだけど……)

 

「ミコちゃん……」

(その割には毎回完食してるよね……)

 

「な、何?」

 

「んー、なんでもないよ。」

 

「お昼、食べよっか。」

 

「え、えぇー……」

 

………

 

「そういえば……なんか人が少ないと思ったら、2年生いないんだね?」

 

「修学旅行だからねー。」

 

大友さんの呟きに、お弁当を摘みながら答える。

 

「でも、2月のイベントと言えばアレだよね!」

 

「バレンタインだね!」

 

「こばちゃん、今年もまた皆で集まって作るの?」

 

「伊井野、それは無いって。大仏さんは、自分だけの手作りチョコを渡したいと思うよ?」

 

「う……まぁ、そうなんだけど……今年はちゃんとした手作りチョコを渡したいなって……」

 

「自分にチョコ塗って、召し上がれみたいな?」

 

「しないよ!? 大友さんの中では、それがちゃんとなの!?」

 

「ど、どういう意味の召し上がれ……」

 

「ミコちゃん、掘り下げなくていいから! もう、大友さんも変な事言わないでよ……」

 

「だって、おさちゃんは唯一の彼氏持ちだしー。」

 

「私は今年は手作りせずに、普通の売ってる奴を義理チョコとして渡すよ。」

 

大仏さんに悪いしね、とニヤケ顔で言われる。

 

「別にそんな事で嫉妬とかしないよ?」

 

「ホント〜? 石上君が他の女の子からチョコ貰ってても平気?」

 

「ふふ、もちろん。それだけ、優の事を良く思ってる人が居るって事でしょ?」

 

「うわ、流石彼女……余裕の表情。」

 

「おさちゃんは、浮気の心配はしてないの?」

 

「んー、してないね。信じてるもん。」

 

「確かに、石上は浮気しそうにないよねー。」

 

「優しくてー。」

 

「誠実だし。」

 

「真面目……」

 

大友さん、小野寺さん、ミコちゃんが順番に優の良い所を挙げていく。

 

「あー! 私も彼氏欲しー! そんな人どこかに居ないかなぁ……」

 

「実は石上って、メチャクチャ優良物件なんだよね……一部の女子から人気あるらしいし。」

 

「えっ、麗ちゃんそうなの!?」

 

「んー、大仏さんと付き合い出す前までは、割とそういう話聞いてたよ。」

 

「あー、なんかウチのクラスの女子が、文化祭の会議とか準備で凄く頼りになったって言ってたよ!」

 

「へー……」

 

「あれ? 大仏さん、危機感感じてる?」

 

「ち、違うからっ……」

 

「石上君を離れさせない為にも、チョコ塗って召し上がれって……」

 

「其処に話が戻るの!?」

 

「こ、こばちゃん……」

 

「しないから! ……ほら、もう昼休み終わるから戻ろ?」

 

「もう、そんな時間かー。」

 

「じゃあ、また一緒に食べようね。」

 

「うん。」

 

「大友さん、また今度。」

 

「バイバーイ!」

 

走り去る大友さんを見送る。

 

「私達も戻ろっか。」

 

「うん。」

 

「……そうだね。」

 


 

〈バレンタイン当日〉

 

男子が浮き足立ち、ソワソワとするバレンタイン当日……当然、僕も男なので多少はソワソワとしてしまうが、こばちから貰えるのなら他はなんでもいいと思っていたが……

 

「おはよ、石上。はいコレ。」

 

小野寺……

 

「い、石上! コレあげる!」

 

伊井野……

 

「石上君、友チョコだよ〜。」

 

大友……

 

「石上君、これあげるわ。」

 

四宮先輩……

 

「うぷっ……石上くん、私もう食べられないからあげる……」

 

藤原先輩……残飯処理みたいな渡し方して来るのは、人としてどうなんですかね……でも嬉しいは嬉しいし、色々な女子から貰えるのは有り難かった。でもやっぱり、1番嬉しいのは……

 

「優、コレ……」

 

こばちからハート型の箱を手渡される……じんわりと胸の奥に熱が灯る。

 

「ありがとう、凄い嬉しいっ。」

 

「うん、それと……チョコとは別に、渡したいモノがあるの。」

 

「ん、何?」

 

「目……瞑って。」

 

「わかった。」

 

目を閉じると……地面を蹴るタンっという音と共に、唇に柔らかい感触を感じた。

 

「ッ!?」

 

驚いて目を開けると、目の前の愛しい少女の瞳と目が合う……

 

「私の初めて、あげるね。優……大好き。」

 

イタズラが成功した子供の様に、そう言って微笑んだ少女に……僕もだよと答える。もう辛い思いをしなくてもいい様に、どんな苦難が訪れようとも僕が傍で守り続けると、その笑顔に誓いながら。

 

 

 

 




とりあえず、この話で仏の小鉢編は終了です。
12月からは、√B.開始します。(゚ω゚)


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√B.龍と黒白の珠編
龍珠ルート突入


アンケートの結果

年上の眼光鋭き、極道少女 (444)
同級生のむっつりスケベ風紀委員 (263)
デブリボン (100)
その他 (34)

となりましたので、龍珠桃編開始します。
アンケートにお答えして頂きありがとうございました。(_ _).


この√は、60話のハッピーライフゲームで、大仏こばちではなく龍珠桃を選択した世界線となります。故に、大仏こばち√で起こった大仏父イベントは無く、学費問題に寄る大仏こばちの芸能界入りもありませんし、大仏こばちは生徒会にも入りません。

その他のイベントは、同じ様に起こっていると思って下さい。(眞妃ちゃん関連など)

その設定を許容出来るなら、お読み下さい。(_ _).

 


 

夏休みも終わり、未だ残暑を感じ続ける9月のある日……四宮かぐやは、藤原千花、その妹萌葉、その友人白銀圭と4人でウインドウショッピングに出掛けていた。秋物の服を買い揃え、次の店へと移動していると……

 

「……」

(あら? この喫茶店は……)

 

かぐやは、ある喫茶店の前で暫し立ち止まる。その喫茶店は夏休み、想い人である白銀御行と共に数回利用した喫茶店だった。夏休みの始めこそ白銀と会う機会の無かったかぐやだが、8月に入って直ぐに白銀から喫茶店へと誘われ、それ以降は週一で喫茶店デートを楽しむ事が出来たのである。

 

(それも……石上君が気を利かせて無料券を融通してくれたからね。本当に、可愛い後輩だわ。)

 

かぐやはなんとなしに店内を見渡すと、見知った顔を窓側の席に見つけた。

 

「……!」

(あら、石上君……偶然ね。)

 

「かぐやさん、どうしたんですかー?」

 

「いえ、其処の喫茶店に石上君が……」

 

「石上くん?……休みの日に1人で喫茶店なんて、寂しい子ですね〜。」

 

ぷひゅひゅと笑いを零す藤原をかぐやはジトッとした目で見つめる。

 

(……態々休みの日に、面倒な思いをさせる必要もないわよね。)

「藤原さん……幾ら同じ生徒会とはいえ、プライベートに不必要な干渉は避けるべきよ?」

 

「えー? 折角1人喫茶店っていう、寂しい事をしてる石上くんをイジるチャンスなのにぃ……」

 

「(休日まで藤原さんの相手をさせられる石上君が)可哀想だから、やめてあげなさい。」

 

「そうですね!(1人喫茶店してる所を女子に見られるなんて)可哀想ですしね!」

 

かぐやと藤原は噛み合っていなかった。

 

「……姉様〜? どうしたの?」

 

「四宮さん? どうかしたんですか?」

 

喫茶店の前で立ち止まって、会話を続ける2人を訝しんだ萌葉と圭が近付く。

 

「あー、石上先輩だ。」

 

「あ、ホント……1人なのかな?」

 

「寂しい人ですよね〜。」ニマニマ

 

「あれ? でも千花姉、向かいの席に誰か座ったよ?」

 

「え!?」

 

「あら……」

 

外から眺めていると、石上の向かいの席には帽子を被った少女が座った。

 

(龍珠さんと来てたのね。)

 

「龍珠さんと来てたんですねー。むふ、デートの邪魔しちゃ悪いから行きましょうか!」ニマ

 

「そうね……」

(週明けにイジる気満々ね……)

 

藤原はニマニマとイヤラシイ笑みを浮かべ、窓越しに2人を見ていると……

 

「……ッ!」ギラッ

 

「ぴいっ!?」ビクッ

 

「どうしたの、姉様?」

 

「千花姉?」

 

「……藤原さん?」

 

「い、行きましょうか!……ね!?」

 

「え、千花姉どうしたの?」

 

「い、いいからっ……ほら、急いで!」

 

「え、えぇー!?」

 

………

 

「ん? 桃先輩、どうしたんですか?」

 

「……なんでもねぇよ。」

 

「?」

 


 

〈9月9日、白銀御行誕生日当日〉

 

「会長、誕生日おめでとうございます。コレ、誕生日プレゼントです。」

 

「え? い、いいのか?」

 

「はい、会長の為に買った物なので。」

 

「そうか、ありがとう……開けてもいいか?」

 

会長の言葉に勿論です、と答える。

 

「……おぉ! 万年筆か、有難い。大切に使わせてもらうよ。」

 

「喜んでもらって何よりです。」ガチャッ

 

「こんにちはー!」

 

「こんにちは」

 

「おう、じゃあ仕事を始めるか。」

 

暫し、生徒会室にはパソコンのタイピング音とペンを走らせる音が充満する。

 

(誕生日……か、そういえば……)

 

僕はパソコンに保存したファイルを開き、目当ての項目を確認して行った。

 

………

 

「今日はこれくらいにしよう。皆お疲れ。」

 

「お疲れ様でしたー! それじゃ、また明日ー。」

 

「お疲れ様です。僕も今日はコレで……」

 

「おう、また明日。」

 

「また明日ね」ポヤポヤ

 

「はい、また明日……」

(なんか、今日の四宮先輩はポヤポヤしてたな……)

 

僕は、生徒会室に2人を残して出て行った。

 

………

 

〈石上家〉

 

その日の夜、そろそろ寝ようとベッドに入ろうとした時だ……そういえばと思い立ち、僕はスマホで藤原先輩へとメッセージを送った。

 

………

 

〈藤原家〉

 

「あれ、石上くんからメッセージ来てる……珍し〜、なんだろ?」

 

藤原はスマホを操作して、メッセージ画面を開いた。すると……

 

〈知ってました? 今日って会長の誕生日なんですよ?〉

 

「」

 

藤原はやらかした。

 


 

ーある少女の独白ー

 

私が2年生に進学し、後輩になる新1年生が入学して2ヶ月が経った頃……1人中庭で過ごす女の子を見つけた。なんとなく気になって、友達や部活の先輩や後輩から話を聞くと、その女の子が誰かわかった。広域暴力団龍珠組の愛娘、龍珠桃……そういえば、同じクラスの会長君がやっと口説き落とせたと、友達に零していたのを聞いた事がある。去年、1年生にして生徒会長に就任した傑物と言われている彼がそこまでする程の少女……なのに、彼女はいつ見ても1人だった。ある時は木陰で、またある時は中庭のベンチで……いつも1人の彼女を見て、次は話し掛けようと密かに決めていた。

 

人生というフィルターを通して見た場合、高校生活の3年間はとても短いモノだと思う……でも、いつか学生時代を振り返る時が来た時、この高校生活はとても大きな割合を占める。その時に嫌な気持ちや苦々しい気持ちを抱き、無意味な高校生活だったと思ってしまう人を少しでも無くしたい……そういう気持ちで、私は龍珠桃という少女を探していた。

 

……7月に入って直ぐの頃、中庭の木陰でゲームに勤しむ彼女を見つけた。近付いて話し掛けようとすると、彼女は木の裏側に身体を向けて何やら喋り出した。誰かいるのかな? と様子を窺っていると、木の裏側から中等部の制服に身を包んだ男の子が出て来た。2人は少しの会話の後、座り直しゲームを始めた。そこで初めて私は、笑った彼女を見て……もう龍珠ちゃんは1人じゃないんだと思った。

 

偶々、偶然、偶発的、思い掛けず……このタイミングで彼女と知り合った事は、あの男の子からしたらそういった言葉で片付けられる事だろうし、それは龍珠ちゃんも同じだと思う……只、それを見ていた私だけはこう思った。

 

この出会いは……運命かもしれないと。

 

 

 

 



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星天の霹靂

感想ありがとうございます(゚ω゚)


9月某日、今日の生徒会室は少しばかり浮足立っていた。正確には1人の男だけが、だが……

 

「十五夜! 月見するぞー! フッフー!!」

 

「うわっ……テンション高いですね、突然何を言い出すんですか?」

 

「それ、藤原先輩が言います?」

 

「今夜は中秋の名月! こんな日に夜空を見上げないなぞ人生の損失だぞ!」

 

「えー、急過ぎません?」カポッ

 

「……」

(とか言いつつ、うさ耳は被るのか……)

 

石上は呆れ顔で藤原を見た。

 

「いや、今日の星空指数めっちゃ良いんだって! 十五夜でこの数値出ちゃったら行くしかないから!」

 

「……僕は乗りますよ。今の生徒会が解散するまで残り2週間も無いんですから、思い出作りです。」

 

「まぁ、石上君がそこまで言うなら……」

 

「仕方ないですねー……会長! 月見団子は!?」

 

「もちろん用意しているぞ!」

 

「わーい!」

 

「さっさと仕事を終わらせて、準備に取り掛かるぞ!」

 

………

 

〈屋上〉

 

「わー、意外と星見えますねー!」

 

「だな……街灯りも少ないし、ロケーションも悪くない。」

 

「……学校の屋上程度でも、結構圧倒されますね。」

 

「石上は、こういうのは初めてか?」

 

「そうですね……去年の奉心祭で天文部のプラネタリウムを観たくらいですか。」

 

「あぁ、それなら俺も観たぞ。」

 

「そうだったんですか。」

 

「あぁ、何処かですれ違っていたかもな。」

 

「……そうかもしれませんね。」

(まぁ、すれ違ってたら気付いた筈だから、それはないか……)

 

会長とそんな話をしている内に、四宮先輩と藤原先輩は物陰に鍋と団子を運んでいた。

 

「会長、月見団子はもう少し待って下さいね。」

 

「あぁ、すまんな四宮。」

 

「いえいえ……」

(さて、どうやって石上君を此処から離脱させようかしら……)

 

「僕も……ちょっと肌寒いんで、火の側に行って暖まって来ますね。」

 

会長も四宮先輩と2人っきりの方が良いだろうと、僕はその場を離れて藤原先輩の所へと向かう。

 

「ん? あぁわかった。」

 

「わかりました。」

(あら、拍子抜けですが……まぁいいでしょう。)

 

物陰に移動すると、藤原先輩が鍋に団子を投入する所だった。

 

「……藤原先輩、味付けは何ですか?」

 

「肌寒いのでお汁で頂きましょう!」

 

「……藤原先輩、それって月見団子じゃなくて、お雑煮ですよね?」

 

「美味しければ、そんな事は些細な事ですよ!」

 

「まぁ、いいですけど……」

 

………

 

「もうやめてって言ってるでしょ!? 恥ずかしいのぉ!!」

 

「し、四宮!?」

 

「……? お餅出来ましたけど……」

 

「あーもう駄目!! 私耐え切れなーい!!」

 

「かぐやさん!?」

 

屋上から走り去るかぐやを一同は只々見送った……

 

「……」

(……あーなるほど。そういう事だったのか……抱き寄せるとか、会長も結構ヤルなぁ。)

 

石上、前回の疑問点1つ解消。

 

………

 

屋上での月見も無事に終わり、時刻は午後10時過ぎ……僕はショートカットを狙い公園に入った。公園には街灯もあるが、それが不必要なくらい月明かりに照らされて隅々まで見渡す事が出来る……不意にすべり台の頂上に視線を向けると、馴染みのある横顔が夜空を見上げていた。

 


 

〈龍珠家〉

 

「……ちょっと出て来る。」

 

「お嬢、もう大分遅い時間ですぜ? 一体何処へ……」

 

背中から聞こえて来る声を無視して、玄関のドアをピシャリと閉めて外へと出た。

 

「……やれやれ、一体何処へ行くんだか。」

 

「独り身のお前にはわかんねぇだろうがな……年頃の娘さんってのは、1人になる為だけに外に飛び出す事もあんのさ。」

 

「そうか……ってお前も独りモンだろうが!!」

 

「ガハハ! 小せぇ事は気にすんな!」

 

………

 

……私が今こうして公園のすべり台に登って、月を見ているのに大した理由は無い。月が見たいなら家でも良いし、態々肌寒いのを我慢してまで見るもんでもない。只なんとなく、そういう気分だっただけだ……

 

「桃先輩。」

 

「……優?」

 

「こんな所でどうしたんですか? あ、ココアいります?」

 

後輩から差し出された暖かい缶を受け取る。

 

「あぁ、サンキュ……別に大した意味はねぇよ。なんとなくだ……そういうお前は?」

 

「さっきまで、生徒会の皆と屋上で月見してたんです。」

 

「……白銀が言い出したな?」

 

「よくわかりましたね?」

 

「そんな事言い出す奴なんて、あの天文馬鹿くらいなもんだろ。」

 

「……同じ生徒会だったんですよね、仲良いんですか?」

 

「……さぁな。」

 

「えっ?」

 

「確かに、私に普通に接してくる物好きな馬鹿ではあるし、借りもある……けど、仲が良いかと聞かれたらわからねぇな。」

 

「そうなんですか……っていうか、物好きな馬鹿って……」

 

「あぁ、アイツ以上のが居たなそういえば……特大の物好きな馬鹿が……目の前に。」

 

「えぇ、それって僕の事ですか? ヒドイなぁ……」

 

「ハハ、拗ねんな、拗ねんな。」

 

「別に拗ねてませんけどー?」

 

他愛のない遣り取りをしながら、桃先輩と隣り合い夜空を見上げる。地上の全てを照らす様に、満月は煌々と輝いている。偶にはこういうのも悪くない……

 

……月に関係する小話にこんなモノがある。

近代日本文学の文豪夏目漱石が英語教師をしていた頃、教え子が「I love you」を「我、君を愛す」と直訳したところ、「日本人はそんなことは言いません。月が綺麗ですね、とでも訳しておきなさい」と指摘したという逸話から、月が綺麗ですね=愛の告白という式が出来上がった。世間一般に対する認知度も……インターネットの発達した現代はそれなりに高く、愛や恋に敏感な中高生にもなるとその認知度は8割を超える。しかし……

 

「……月が綺麗ですね。」

 

「あぁ、そう……っ!?」

 

残りの2割は当然の様に知らない! 残念ながら、石上も残りの2割に該当する人間である! この逸話が教科書に載っていたならば、今生はしっかりと勉強をしている石上の目にも止まっただろう。しかし、この逸話はあくまで都市伝説的なモノとして語り継がれているもので、信憑性自体は低い。石上が知らないのもある意味当然ではあるが……

 

「……」

(本当に、今日の月は良く見えるし綺麗だなぁ。)

 

などと、楽観的思考をしている場合ではないのである。

 

「……ッ」

 

「……先輩?」

 

(こ、コイツ……)

「お、お前! 意味わかって言ってんのか!?」

 

「え? 何かあるんですか?」

 

「……紛らわしいんだよ!」

 

「えっ!? す、すいません?」

 

「……ったく、焦って損したわ。」

 

ガシガシと帽子越しに頭を掻く桃先輩に尋ねる。

 

「何か意味があるんならっ……」

 

素早くポケットからスマホを取り出すも……

 

「無ぇから、絶対に調べるなよ?」

 

「あ、はい。」

 

桃先輩からの思わぬ圧に速攻でスマホを仕舞う。

 

「はぁ、ったく……まぁ、確かに綺麗だな。」

 

「ですね。」

 

(……お前が隣にいるから……なんてな。)

「……また、見に来るか?」

 

「良いですね、また来ましょう。」

 

第三者が見れば、告白以外の何者でもないこの遣り取り。しかし当事者にとっては、普段と何ら変わらない会話をしているに過ぎない……少なくとも、石上優にとっては……

 

………

 

〈龍珠家〉

 

「なんか……今日のお嬢、いやに機嫌がいいな。」

 

「あぁ、帰って来てからやたら鼻歌鳴らしてるしな……」

 

「〜〜♪」

 

「……でも多分、理由聞いたら怒るよな?」

 

「ガハハ! 間違いねぇな!」

 

帰宅した龍珠桃を遠巻きに眺めるゴツい男達が居たとか居ないとか……

 



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極道少女と妄想乙女

僕達が活動していた第67期秀知院生徒会も解散し、秀知院は次の生徒会長を決めるまでの準備期間に入っていた。当然、昼休みや放課後に生徒会業務に費やしていた時間分の余裕が生まれた僕は、束の間の時間を……

 

「優……ソイツ狩ったら、次はイベントミッションだからな。」

 

「うす、その前に武器新調したいっす。」

 

ゲームに費やしていた。会長と伊井野の顔繋ぎを済まし、生徒会長選挙で使用する資料は既に編集済みだし、僕達はビラ配りはせずに掲示板にポスターを貼るくらいなので、今忙しいのは演説文を考える会長と四宮先輩くらいだ。僕と藤原先輩は現在暇を持て余している状況の為、各々の好きな様に過ごしている。因みに藤原先輩は、TG部の3人でサイコロ持って校内をウロチョロしている所を何度か目撃している。ボスモンスターを倒して暫し、自キャラの装備調整に勤しんでいると……

 

「そういえば……優はまた生徒会に入るつもりなのか?」

 

「はい、会長が誘ってくれるなら……ですけど。」

 

ゲーム機から視線を外して問い掛けて来た桃先輩に答える。

 

「ふーん? 二期連続でやりたいもんでもねぇだろうに……お前も白銀も酔狂というか……変わってやがんな。」

 

「まぁ、そうかもしれませんね……」

 

「楽な仕事じゃねぇし、面倒な仕事が多いだろ……私なら絶対やらないし、こうやってゲームしてる方が良い。」

 

「桃先輩はそうでしょうね……」

 

桃先輩と知り合ってわかった事がある……この人は基本的に面倒臭がりだ。去年の11月のある日……高等部は体育祭真っ最中の筈なのに、桃先輩のゲームキャラは昼頃からずっとログイン状態だった。後でその事を聞いてみると……

 

……自分の出る競技が終わったから、サボってゲームしてた。

 

……と言っていた。まぁ、前回の人生でリア充滅びろとか思ってた僕がどうこう言える資格は無いのだが……こういう陰キャ的要素を持っているのも、僕からすれば親しみやすい要因なので特に問題視はしていない。

 

「……なんだよ?」

 

「……いえ、桃先輩はそのままの陰キャで居て下さいね。」

 

「誰が陰キャだコラ。」

 


 

〈中庭〉

 

現在……僕は中庭のベンチに座り、隣の女子生徒からの質問にどう答えようかと考えていた。

 

「……と言う訳で先日、白銀会長の威圧感が無くなった理由を石上編集なら知ってるんじゃないかと思いまして。」

 

只の寝不足解消が理由である。

 

「そ、そうですね……」

(コレ、正直に言っていいのかな……)

 

学年1位という実力と、鋭い眼光で周囲の人間を萎縮させ畏敬の念を抱かせる白銀御行の威圧感の原因が、只の寝不足だと周囲の人間にバレる事を石上は懸念していた。更に今は、選挙期間の真っ只中……白銀陣営である石上からすれば、少しでも票数を減らす様な発言は控えたい所である。

 

(ダメだな、なんとか話を有耶無耶にしないと。)

「先輩はどんな理由があると思ってるんですか?」

 

「そうですわね……」

(生徒会が解散し、激務から解放された事によって睡眠不足が解消された……なんて考察は凡人のソレですわ。)

 

正解である。

 

「そういえば、普段一緒にいるガチ勢先輩は何か言ってなかったんですか?」

 

「……ガチ勢先輩? エリカの事ですの? エリカは……」

 

ゆっくり寝てスッキリしたとか……

 

「か、かぐや様と寝てスッキリしたとか言ってましたわ!」

 

「えー、あの人そういうタイプなんですか。」

 

「今度からは、ポンコツドスケベお味噌と呼んであげて下さいまし!」

 

とんだ風評被害である。

 

「いや、長いですよ。でも、まぁ……」ジッ

(やっぱり、類は友を呼ぶというか……この人自体、同級生でナマモノ描く様な人だからなぁ。)

 

「……何故でしょう、もの凄く残念なモノを見る様な目で見られてる気がしますわ。」

 

「いえ、なんでもないです……この前生徒会で月見したんですけど、その時の月の魔力が時間差で今頃効いて来たとかかもしれませんよ?」

 

半端笑い話にでもなれば良いくらいの軽い気持ちで、先日した月見の話を持ち出す。

 

「あぁ、生徒会で月見をしたらしいですわね。藤原さんから聞きましたわ。」

 

「はい、会長は四宮先輩と隣に並び合って夜空を見上げてて……」

 

「そ、それは本当ですの!?」

 

「え、えぇ……」

 

「ぐ、具体的には!?」

 

「具体的? 僕は離れた所に居たので会話は聞こえませんでしたけど……会長が空を何度か指差していたので、星について四宮先輩に教えていたんじゃないですか?」

 

「星について……」

 

会長、どれが秋の四辺形なんですか?

 

ん? 興味あるのか?

 

はい、とっても。

 

じゃあもっとこっち来い。

 

「ッ!!」

(そして、白銀会長はかぐや様を瞬時に抱き寄せ、顔を近づけたかぐや様の耳元で星について語り出すのですわ!!)

 

かれんの妄想が真実に辿り着いた瞬間である。

 

「……貴重な情報感謝しますわ! 流石は石上編集です、頼りになりますわ!!」ガシッ、ブンブン

 

「えっ? はぁ……」

 

ナマ先輩は僕の手を握ると、ブンブンと嬉しそうに手を上下させながらそう言った。

 


 

その光景を目撃したのは、昼食を食べ終わり中庭を通り掛かった時の事だった……

 

「流石は石上編集です、頼りになりますわ!!」

 

そんな言葉が聞こえて来た。声のした方へ視線を向けると、女子生徒が優の手を握りブンブンと振り回している所だった。同じクラスの紀だ……部活動か何かは知らないけど、もう1人の巨瀬って奴とウロチョロしてる所を良く見る。そんな奴がどうして優と……私は未だに優の手を離さずに振り回し続ける少女の姿に、若干の苛立ちを覚え始めていた。

 

「そうですか、お役に立てて良かったです。」

(あちゃー……話は逸らせたけど、妄想のネタを提供しちゃったかー。)

 

「でも御二人の会話は聞いてはいけませんわよ?」

 

「え?」

 

「ふふふ、何故なら……その時に2人が紡ぎ繋いだ愛の言葉は、白銀会長とかぐや様だけのモノなのですから。」バチコーン

 

紀は口の前で指を立てウインクをすると、嬉しそうな顔をしてベンチから去って行った。

 


 

パチンとウインクをし、ドヤ顔を浮かべながらそう言うナマモノ先輩を見て僕は思った……妄想癖が過ぎると、ここまで日常会話に影響を及ぼす様になるのかと。

 

「それでは、石上編集失礼しますわ。」

 

満足した様な顔でそう言って走り去るナマモノ先輩を見送っていると……

 

「鼻の下伸ばしてんじゃねぇよ。」

 

ドカっと隣に座って来た女子生徒にそう言われる。

 

「いや、桃先輩……そんなんじゃないですよ。」

 

「どーだか……」

 

「あれ? 桃先輩もしかして、怒ってます?」

 

「……別に怒ってねぇよ。」

 

「まさか……」

 

「……ッ!」

 

「今度は何のアイテム取り損なったんですか?」

 

「……」

 

「あ、それともイベントミッション失敗でもしましたか?」

 

「お前はそういう奴だよな……」

 

「え、違いました?」

 

「ばか、バーカ。」

 

「え、えぇー……」

 

本日の勝敗、石上の敗北

敗因、ばか。



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龍珠桃は阻止したい

感想ありがとうございます(゚ω゚)


10月に入り生徒会長選挙まで残り1週間を切ったある日の昼休み、廊下を歩いているとガチ勢先輩に呼び止められた。

 

「か、会計君……ち、ちょっと聞きたい事があるんだけど、今大丈夫?」ハッハッハッ

 

「……とりあえず、その荒い息なんとかしてくれません?」

 

………

 

「ふぅ……実は、未確認情報の真偽を確かめる為に会計君に聞きたい事があってね。」

 

階段横の空いた空間へと連れ出される。先輩は胸に手を当て息を整えると、そう話を切り出した。

 

「未確認情報?」

 

「かぐや様が贔屓にしてる喫茶店があるって聞いて……会計君、知らない?」

 

「……どこからそんな情報が?」

 

「夏休みに、かぐや様が白銀会長と喫茶店で一緒に居る所を目撃したって噂があるの。因みに、かれんには言ってないから安心して。」

 

「へぇ、そうなんですか……真っ先に情報共有しそうなのに。」

 

「情報が不確かな状態で、かれんみたいな妄想癖持ってるヤバイ子に教えられる訳ないでしょ。」

 

「……そうですよね、ガチ勢先輩(ヤバイ人)には教えられませんよね。」

 

「その反応、知ってるんでしょ!? お願い教えて!! 違うの! 別に悪用しようとか思ってないから! 只、偶然を装って同じ喫茶店でお茶したいだけだから!!」ハッハッハッ

 

「えぇ……」

(……っていうか、さっき息切れしてたのは走って僕を探してたとかじゃなくて、単に興奮してたからか……)

 

「じゃあ外から眺めるだけ! ね? 外から心のシャッターを切るだけならしてもいいでしょ!?」

 

「営業妨害になりそうなんでやめといた方が……っていうかなんですか、心のシャッターって。」

 

「そ、それにね!? この情報が変な人に知られる前に、マスメディア部として情報規制する必要があると思うの!」

 

「それに関しては、もう手遅れだと思いますけど……」

 

「……じゃあ、会計君が私について来て見張ってて! それならいいでしょ!?」

 

「えぇー……」

 

「ね? お願いだから付き合って! ね、ね!!」

 


 

昼休み、1年教室廊下横に位置する階段に足を掛けた時だ……

 

「……だから付き合って! ね、ね!!」

 

……聞いた事のある声が、階段の影から聞こえて来た。確かこの声はマスメディア部の……私はソッと声のした方を窺うと、同じクラスの巨瀬が優の制服の袖を掴んで迫っている現場を目撃した。

 

「っ!? ……っと!」

 

飲んでいたパックジュースを落としそうになり、慌てて持ち直す。

 

「お願い! もう私には会計君しかいないの!」

 

上気した様に赤くなった顔で、優に詰め寄る巨瀬に対する苛立ちが生まれる。

 

「仮に行ったとしても、四宮先輩が居るとは限りませんよ?」

 

「それならそれで良いの! 同じ喫茶店、同じ空間でお茶したって事実だけで生きて行けるから!」

 

優の声は少し距離がある所為で聞こえないけど、巨瀬はさっきから発言に必死さが漂っている……この前の紀といい、優の奴が女と一緒にいる所をよく見掛ける。もしかして、優ってモテるのか? 胸の奥に居座る、妙な感情に従って私は一歩踏み出した。

 


 

「それならそれで良いの! 同じ喫茶店、同じ空間でお茶したって事実だけで生きて行けるから!」

 

ガチ勢先輩は、なんとか件の喫茶店を突き止め様と必死になって縋ってくる。その瞳からは普段にはない、強い圧を感じる。

 

「……」

(……狂信者ってこんな感じなのかな?)

 

石上の中での巨瀬エリカの位置付けは、ガチ勢を通り越して狂信者になりつつあった。

 

「出来れば、今度の土曜日とか……」

 

「悪いな、コイツその日は私と予定があるんだよ、他当たってくれ。」

 

「桃先輩……?」

 

「り、龍珠さん!?」ビクッ

 

突然の龍珠の登場に、エリカの脳裏には夏休みのある記憶が去来する。

 

おう、嬢ちゃん達……お嬢の写真撮ってどうするつもりか、説明してもらってええか?

 

(……埋められる!?)

「……ごめんなさーい!」

 

ガチ勢先輩は、それだけ言うと走って行ってしまった。

 

「が……巨瀬先輩と仲悪いんですか?」

 

「別に……そういうんじゃねぇよ。」

(……はぁ、何やってんだ私は? でも何故か苛立ちが収まらねぇ、なんで私は……!)

 

「……それで、何処行きます?」

 

「……え?」

 

「今度の土曜日。何処行きましょうか?」

 

「……偶にはゲーセンも良いかもな。」

 

「いいっすね、行きましょう。」

(良かった。何か沈んだ雰囲気だったけど、少しは元気出たみたいだ……)

 

「この前の夏祭りみたいに、また勝負するか?」

 

「良いっすよ、今度は負けませんから。」

 

「フン、忘れてないだろうな? この前の夏祭りでした射的勝負で、優は一回私の言う事を聞く義務があるんだぞ?」

 

「うっ、覚えてましたか……」

 

「ハッ、残念だったな、忘れてやんねぇよ。さぁて、どんな事をさせてやろうか……」

 

「お、お手柔らかに……」

 

「やだよ、バーカ。」

 

桃先輩はニヒルな笑みを浮かべてそう言った。

 


 

〈2年C組〉

 

「……エリカ、正直に言って下さい。龍珠さんに何かしましたわね?」

 

「し、してないわよ! なんで決め付けるの!?」

 

「だって……」チラッ

 

「……」ジーッ

 

「さっきから滅茶苦茶こっちをガン見して来るんですもの! どうせポンコツお味噌なエリカが何か粗相をしたのだろうと……」

 

「なんですってぇ!? 妄想癖のあるかれんに言われたくないんだけど!?」

 

「妄想ではありません! 僅かな情報から真実を読み解いているだけです!」

 

「ウソつけぇっー!」

 

……何やら言い争いを始めた2人から視線を外す。

 

「……はぁ。」

(別に今あの2人を見ても苛つきはしない……どうなってんだ?)

 

机に突っ伏したまま、先程生じた苛つきの正体に思考を働かせる……

 

「うぅん……?」

 

「……龍珠さん、悩み事? 俺で良かったら相談に乗るよ?」

 

「邪魔だ、失せろ。」

 

思考の邪魔をして来た男に言い放つ……誰だっけ、コイツ? 前も話し掛けて来た様な気がするが、名前は覚えてない。

 

「ッ…そ、そう。邪魔して悪いね。」

(チッ、選挙前にどうにか交流が持てないかと思ったが……相変わらずガードが堅いな。)

 

「フンッ……」

(はぁ、つまんねぇ……早く放課後にならねぇかな。)

 

少女の脳内には、ゲーム機を持った後輩男子が浮かぶだけだった。

 

 



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ゲームセンターで遊びたい

感想ありがとうございます(`・∀・´)


土曜日、僕と桃先輩は巨大ショッピングモール内に居を構えるゲームセンターに訪れていた。

 

「僕は普段携帯ゲーばっかりですから、こういう所は新鮮に感じます。」

 

「私は久しぶりだな……」

 

「へぇ、そうなんですか?」

 

「あぁ、ウザい奴に絡まれる様になってからは来てなかったけど……」

 

「まぁ、ナンパ目的でゲーセンとか映画館に来る男はいますからねぇ……」

 

「……なんでナンパってわかった?」

 

「そりゃあ、桃先輩みたいな子が1人で居たらされるでしょ。」

 

ジャラジャラと換金した小銭をポケットに仕舞いながら、そう口を滑らす。

 

「……私みたいなってどういう意味だよ。」

 

「え? あー……なんでもないっす。」

(桃先輩、可愛いって言うと機嫌悪くなって蹴り入れて来るんだよなぁ……)

 

只の照れ隠しである。

 

「おい、ふざけんな言え!」

 

襟の部分をガシッと掴まれ、前後に揺さぶられる。

 

「ぐへっ……じ、じゃあ勝負で勝ったら言います! それで行きましょう……ねっ?」

 

「今だ、今言え!」

 

「あ、あれー? 桃先輩勝つ自信ないんですか?」

 

「……いいだろう、その挑発乗ってやるよ。」

 

「チョロくて良かった……」

(ありがとうございます!)

 

「あ?」

 

「」

 

………

 

桃先輩をなんとか宥めた僕は、色々なゲームで勝負をしていく事となった……

 

〈レースゲーム〉

 

「だあっ!? 空中で赤甲羅とか卑怯だろ!?」

 

「テクですよ、テク。」

 

〈格闘ゲーム〉

 

「くっ、う……っし! 私の勝ちだな!」

 

「……桃先輩、ずっと僕の手元チラチラ見てましたよね? どんな技出すか筒抜けでしたよね?」

 

「……知らねぇな。」

 

「……」

(セコい……)

 

次の勝負はどうしようかと周囲を見渡していると、キャッチャーゲームに目が向いた。桃先輩を連れ立って近付くと、設置されている景品はゲームのキャラクターだった。少し前に、桃先輩と同時にクリアしたオフラインゲームの主人公とヒロインだ。そのゲームは、クリア後のエンディングに賛否が分かれるモノで……ボスを倒してハッピーエンドというお約束な内容ではなかった。主人公と出会ったヒロインは、最初は記憶を失っており旅をしていく内に徐々に記憶を思い出していく……そして、ラスボスを倒すと全ての記憶を思い出すというモノだった。主人公とヒロインは両想いだったから、クリア後は一緒になって幸せになるのだろうと思っていたら、ヒロインは主人公に向かって……

 

「……私は貴方と未来に生きる事は出来ません。」

 

と言って主人公を拒絶する……そのヒロインは、過去・現在・未来に1人しか存在出来ない特異な存在であり、ラスボスを倒した後はまた記憶を失った状態で過去に戻り主人公と最初から旅をする……という事を繰り返していると告白した。

 

「……辛くないのか?」

 

そう問い掛ける主人公にヒロインは……

 

「……辛くなんてありません。また、貴方と一緒に旅が出来るんですから。」

 

そう答えてヒロインは過去へと戻る……というエンディングだった。桃先輩は終わり方に納得していなかったし、ネットで評価を見るとゲームシステムやキャラクターに関しては概ね好評だったが、エンディングに関しては賛否両論だった。

 

「コレ、やるぞ。」

 

「……うす。」

 

桃先輩がコレをやりたいって言うのも当然かもしれないな……

 

「くっ! そうだ、そこをっ……」

 

アームがキャラクターの頭に被さり、首に爪を立てて持ち上げるが……ポトリッと途中で落としてしまった。

 

「あっ! ……くぅ、次だ次!」

 

結果的に桃先輩は二千円をキャッチャーゲームにつぎ込むも、1つも取れずにリタイアとなった。

 

「コレ絶対アームの力加減どっかで操作されてるだろ! おい優、スタッフ呼んで確かめさせろ。」

 

「クレーマーみたいな事するのやめましょうよ……仕方ないですね、僕が取りますよ。」

 

前日に某動画サイトで、キャッチャーゲームの極意は学習済みの今の僕に死角はない。一回で取ろうとせずに、徐々に取りやすい位置と角度に調整して勝負に挑んだ。結果はもちろん……

 

「取れましたー!」ドヤッ

(しかも千円で取れたから、桃先輩の半分か……うん、敗北が知りたい。)

 

石上は調子に乗っていた。

 

「……まぁ私が色々動かしてたからな。」

 

「そうですね。」ドヤァ

 

「ドヤ顔やめろ!」ゲシゲシッ

 

「すいません!」

 

……随分と熱中していた様で、気付くと時間は既に18時を回っていた。偏見だとは思うけど、夜のゲームセンターはガラの悪い連中が集まり易い気がする。今日はここまでにしましょうと桃先輩に提案し、了承を取る。桃先輩もそれなりに満足した様で、僕の隣を弾む様に歩いている。

 

………

 

「此処でいい。」

 

ゲームセンターからの帰り道、桃先輩を送っていると例の公園前で立ち止まった。桃先輩は振り返りながら、いつもの様にニヤッと笑って言った。

 

「偶にはゲーセンも良いな、また行こうぜ。」

 

「そうっすね……あ、コレ要ります?」

 

桃先輩の前に、キャッチャーゲームで取った2つの人形を差し出す。

 

「……こっちだけでいい。」

 

「1つで良いんですか?」

 

桃先輩はヒロインの人形だけをサッと取り、人形の両脇を抱える様に持った。

 

「……」

 

「……桃先輩?」

 

「……そのまま持ってろ。」

 

「え? はい……」

 

桃先輩に言われた通りに、胸の前で主人公の人形を持った体勢を維持する。桃先輩も同じ様に、ヒロインの人形を胸の前に構えている……僕と桃先輩の距離は凡そ30㌢、人形同士の距離が10㌢程……桃先輩は腕を少し伸ばして人形同士の顔……口の部分を軽く触れさせた。ゲームでは結ばれる事の無かった主人公とヒロインはその瞬間……確かに結ばれた様に感じた。

 

「……良かったな、お前ら。」

 

そう言葉を零した桃先輩の表情は……普段のゲームで勝った時に見せる得意気な笑顔や、ニヒルな笑み、偶に見せる可愛いらしい笑顔とも違う……優しい笑みを浮かべていた。

 

「……優しいっすね。」

 

「……そんなんじゃねぇよ。只、あの終わり方に納得してなかっただけだ……」

 

「そういう事にしときますよ……」

(はぁ、素直じゃないんだから……でも、そういう所が……)

 

そこまで考えて、思考に?マークが入り込んだ。

 

「……?」

(ん? そういう所が……? なんだっけ?)

 

「……帰る、じゃあな。」

 

「あ、はい……気を付けて。」

 

「おう。」

 

公園の外灯に照らされながら走る桃先輩が見えなくなるまで見送った。桃先輩の姿が視界から消えた頃には、先程まで考えていた疑問もいつの間にか霧散していた。

 

 



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石上優は渡したい

感想ありがとうございます(`・∀・´)
※龍珠桃の誕生日を10月10日と仮定します。
法則的にゾロ目で、白銀御行と一ヶ月と1日違いの筈……


今日は10月10日、ゲームセンターで桃先輩と遊んだ翌日の日曜日だ。僕はスマホで桃先輩へとメッセージを送った。昨日も会っていたのだから、その時で良かっただろと言われるかもしれないが、こういうのは当日に渡す事に意味があると思う……数分後、桃先輩から了承の返信が届いたので、公園で待ち合わせをする事にして家を出た。

 

………

 

〈公園前〉

 

公園に着くと、入り口のポールに凭れる様にして桃先輩が待っていた。僕は直ぐに駆け寄り話し掛ける。

 

「態々すいません。ちょっと、桃先輩に渡したいモノがありまして……」

 

「別にいいけど、昨日じゃダメだったのか?」

 

「もちろんです……桃先輩、誕生日おめでとうございます。」

 

僕は背中に隠していた、プレゼント用にデコレーションされた袋を桃先輩に差し出した。

 

「……私、誕生日教えたっけ?」

 

「……生徒会で委員会と部活動の名簿作ってるのは僕なので。」

 

「そうか……開けていいか?」

 

「はい、どうぞ。」

 

桃先輩はガサガサと袋を開けると、袋から30㌢程のクマのぬいぐるみが顔を出した。

 

「……なんで、ぬいぐるみ?」

 

「前にスマホでビデオ通話しながら、ゲームした時があったじゃないですか。」

 

「そういえば、そんな事もあったな。」

 

「はい、その時に桃先輩の後ろに大きなクマのぬいぐるみがっ……」

 

そこまで言って、桃先輩に胸ぐら掴まれる。

 

「お、おおおお前っな、何見てやがんだ!?」

 

「えー、そんなに慌てる様な事ですか?」

 

「だ、だって、私みたいな奴が……」

 

「別に変だとか思ってませんよ、可愛いトコあるなぁとは思いましたけど……」

 

「んなっ!?」

 

「それに……クマのぬいぐるみ良いじゃないですか。イギリス人の3割はテディベアと一緒に寝てるんですよ?」

 

「いや、それは知らねぇけど……」

 

「もし、いらないんだったら……」

 

「……まぁ、折角用意してくれたんだし、もらっとくよ……ありがとな。」

 

「うす……桃先輩はこれから用事あるんですよね? 今日はコレで失礼します。」

 

「用事って程でも無いんだけど……まぁ、そうだな。また明日な……」

 

「はい、また明日。」

 

桃先輩と別れ、帰路に着く。道中、プレゼントを渡せた満足感に浸りながら……

 


 

優と別れ家へと帰った私は、直ぐに自室へ戻ると先程渡された袋からぬいぐるみを取り出した。

 

「……」

 

別に変だとか思ってませんよ

 

「……」

 

可愛いトコあるなぁとかは思いましたけど……

 

「……ったく、バカにしやがって……私の方が年上なんだぞ、わかってんのか?」

 

抱き抱えたクマのぬいぐるみに話し掛ける。

 

「お前の贈り主は……ホント、物好きな奴だよ。」

 

物言わぬクマのぬいぐるみを抱き締めると、私は勢いよくベッドに寝転がった。

 

「〜〜っ!!」ギューッ

 

ゴロゴロと寝転がりながら、ぬいぐるみを抱き締める……丁度良い抱き締め具合だし、抱きぐるみとして使ってやるか……ギュムギュムと小さな音を出しながら、ぬいぐるみは私の胸にスッポリと納まっている。

 

「……お嬢! 誕生パーチーの準備が出来やしたぁ!!」ガチャッ

 

「勝手に開けてんじゃねぇ!!」

 

私は咄嗟に掴んだ目覚まし時計を力の限りを尽くし投げつけた。

 

「ぐへぇっ!?」

 

目覚まし時計が命中した男は、バターンッと後方に倒れた。

 

「あと、一々誕生パーティーとか開かなくていいって言っただろうが。」

 

「そ、それはオヤジに言ってくだせぇ……」

 

「チッ……バカ親父が。」

(あのまま優とファミレスでも行った方が良かったかな……)

 

私は律儀に帰宅した事を少し後悔した。

 

………

 

〈都内某所〉

 

「親分はどこ行った!? もうすぐ虎狼組との会合があるってのに……」

 

「で、電話してみやす!」

 

男はスマホを取り出すと、親分と表示された欄をタップする……暫しの呼び出し音の後、通話が開始される。

 

〈おーう、どうした?〉

 

「繋がりやした! 親分、どこ行ってんですか!? もうすぐ虎狼組との会合の時間ですぜ!」

 

男は他の組員にも聞こえる様に、ハンズフリー通話に切り替えながら訊ねる。

 

〈……いや、5時から娘の誕生パーチーあるから。〉プツッ、ツーツー

 

親分と呼ばれた男は、それだけ言うと通話を切った。

 

「えぇ……」

 

「……若を代理人にするか。」

 

「……へい。」

 

微妙に肩を落として歩く2人の厳つい男が居たとか居ないとか……

 


 

10月に入り、2週間が経とうとしていたある日の午後……私は中庭を一人で歩いて周囲の景色を眺めていた。今週は生徒会長選挙、来月は体育祭……そして再来月は奉心祭と、2学期はイベントも豊富で楽しみも多い。半年後に秀知院を去る身としては、残されたイベントを精一杯楽しんでやり残した事も無く卒業したい……私が今中庭を散策しているのも、この広い中庭を隅々まで見ておきたいという思いがあったからだ。暫し歩いていると、茂みの中から声が聞こえて来た。私はちょっとした好奇心で茂みの中を覗き込んだ……

 

………

 

「いよいよ明日は会長選挙だな……」

 

「そうっすねぇ……桃先輩も興味あるんですか?」

 

「……正直、誰が生徒会長になろうがどうでもいい。まぁ、今回もアイツが当選すんだろうけどな。」

 

「桃先輩も会長に投票してくれるんですか?」

 

「……消去法でな。他の奴にやらすくらいなら、白銀にやらした方が過ごし易そうだからな。」

 

「……なるほど。」

 

「まぁ、アイツが落選したらお前が暇になるから、こうやってゲームする時間が増えるしどっちでも良いんだけどな。」

 

「うっ、落選とか縁起でもないですね……でも、会長は当選しますよ。」

 

「そんな事わかんねぇだろ?」

 

「コレに関しては絶対と言えます。」

 

「へぇ……随分な自信だな。」

 

「そりゃ……」

 

………

 

そこまで覗いて身を引き、そっとその場を離れる。夏祭りの時の男の子だ……という事はあの時、龍珠ちゃんも居たのかもしれない……ゲームをしながら雑談する2人からは、お互いに気を許し合っている空気が漂っていた。

 

「羨ましいな……」

 

無意識に口から出た言葉に、まだ引きずっているのかと自分が嫌になる……私にも彼氏が居た時があったけど、二股をかけられて随分と嫌な目に遭った。その事が原因で、他の人も巻き込んだちょっとした騒ぎになるし、風野と森君の派閥まで一時期険悪になるしで本当に散々だった。だからかな? 無意識に羨ましいという言葉が出たのは……去年見た時は中等部の制服を着ていたから、一年生か……ちょっとだけ興味が出たので、友達や部活の後輩から情報を集めると、男の子に関する情報はすぐに集まった。まぁ、特に何か目的がある訳じゃないんだけど……ちょっとだけだった興味が大きくなった事は確かだった。



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生徒会と取材と○○と

感想ありがとうございます(`・∀・´)
○○には七つの大罪の何かが入ります。


生徒会長選挙も無事終了し、伊井野を会計監査として迎えた新生徒会活動が始まった。新生徒会が発足しても、僕のする事はあまり変わらない。週に1、2回程度だが、藤原先輩がTG部に行っていたり、伊井野が風紀委員の活動で遅れる時などは、意図的に生徒会室を会長と四宮先輩の2人っきりにしたりしている。その間は、僕も他所で自分の仕事をしたりして時間を潰す。丁度、生徒会室の真下の空間が空いている場合が多いので、壁に背を預けて簡単な事務処理や書類整理を終わらせてから生徒会室へと向かい、急ぎの書類や案件が無い場合は桃先輩と一緒にゲームをしたりと、今までとあまり変わらない日々を過ごしていたある日の放課後……

 

〈生徒会室〉

 

「……僕と伊井野に取材?」

 

「あぁ、マスメディア部から正式な申し込みが来てな……石上は以前も受けた事があるから大丈夫だろう?」

 

会長は書類に視線を落としながら、そう言った。

 

「それは構いませんけど、なんで僕と伊井野だけなんですか?」

 

「確かテーマが……次代を担う1年生徒会役員、だったと思う……そういう事情だから、受けてくれるとありがたい。」

 

「今日はそれ程急ぎの案件も無いですし、2人さえ良かったら今からマスメディア部に行ってもらえるかしら?」

 

「わ、わかりました、行ってきます!」

 

四宮先輩の言葉に、伊井野が緊張を含んだ返事をする。

 

「石上くんは、ミコちゃんの事をちゃんとフォローしてあげないとダメですよ?」

(なんてったって、私を副会長にしようとする慧眼の持ち主ですからね!)

 

節穴の間違いである。

 

「石上君、伊井野さんをちゃんと見てて頂戴ね。」

(伊井野さんは、藤原さんを副会長にしようとするヤバイ子なんだから、何を口走るか正直不安なのよね……)

 

かぐやは伊井野の正気を疑っていた。

 

「……はい。」

(なんか、言ってる事は殆ど同じなのに全然違う意味に聞こえるな……)

 

「石上、早く行くわよ。」

 

「あぁ、そうだな。」

(まぁ、前と似た感じの取材だろうし……別に問題無いかな。)

 

僕は伊井野と共にマスメディア部へと向かった。

 

………

 

マスメディア部を訪ねて取材を受けに来た旨を伝える。準備に少し時間が掛かるという事で、偶々手の空いていたらしいナマ先輩とガチ勢先輩(いつもの2人)と雑談して時間を潰す。

 

「そういえば、選挙期間中に先輩達の記事を見ませんでしたけど、担当してなかったんですか?」

(何よりも優先しそうなのに。)

 

「フフ、そうですわね……私達、会長贔屓の記事を書き過ぎて、選挙期間中は部室