酒を飲んで、女を抱く (黒色エンピツ)
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一話:痛む頭と両手に花

 

 

「なー、エクシア、モスティマ。」

 

「なに?」

 

「どうしたんだい?」

 

これは俺がまだ天使だった頃の記憶。

 

「お前ら将来大物になりそうだからなったら養ってくれよ。」

 

いつもみたいにふざけて言うと二人が笑った。

場面は変わって酒場になる。

 

「ラックって本当に信仰心がないよねぇ。」

 

「っっっかぁー!!ああ?信仰心なんてあっても飯も食えねぇよ。

俺にとっちゃ主よりも酒だわ。」

 

ダンッ、とジョッキを机に叩き置く。

 

「まあ、君らしいね。」

 

エクシアはぶーたれて、モスティマはいつものように飄々としていた。

また場面が変わると、あの運命の日。

 

「お、おお!?寝る時にいつもピカピカしてる輪も、寝返りがしづらくて鬱陶しかった羽もない!?」

 

俺は守護銃であるスナイパーライフルを持って二人に伝えようとして、いつも通り窓から飛び出して足元の空気をアーツで固めようとしていた。

 

「ん?ん?ん?」

 

踏みしてた感覚がなくて足元を見るといつもの波紋もなく、そのまま地面へと落下していく。

 

「アーツが使えねぇぇぇええ!?」

 

それからなんとか着地して、いつもエクシアのいる射撃場に向かうとモスティマもいた。

 

「おい、見てくれよ!」

 

「なーに、ラック。今新記録が出そうだったん…だ……けど……。」

 

「いつもながら慌ただしい……ね?」

 

珍しくモスティマが目を丸くする。

 

「なんか輪っかと羽が無くなった!」

 

そのままエクシアの横でスナイパーライフルを構える。

 

「……?……あっはっはっはっはっ!!やべー!撃ち方わっかんねぇ!俺今までどうやって撃ってたんだ!!」

 

この時の俺は今まであったものが無くなってどこかハイになっていたのかもしれない。

サブアームのハンドガンと近接武器の片手剣を持って残りをエクシアにケースごと渡して、着けていたペンダントをモスティマに渡した。

ハンドガンなら他の種族だって使えるし、練習すれば俺だって使えるはずだ。照準を合わせる事は出来るし。

 

「んじゃあな!」

 

ピッ、とサムズアップして家に帰って、支度だけしたら家を解約、ラテラーノから出る。

輪っかと羽が無くなった事で人生の転機だと思って、こんな行動をしたんだっけ。出て少しして軽く後悔したけど、それにしても懐かしいなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「んがっ……。」

 

いつつ……なんか懐かしい夢を見ていたような……昨日は確か配達が終わって、龍門に帰ってきて酒飲んで……。

 

「ああ、なるほどね……。」

 

人が一人寝るには大き過ぎるベッドの俺の両脇に青髪と赤髪のサンクタの女性が寝ていた。

あの後、ラブホ行って嬢呼んだんだっけ、それも金が入ったばっかだから二人も。

 

「あ〜……気分わる……。」

 

愛用のライターで煙草に火を付ける。

 

「もう起きたのぉ?」

 

「昨日はあんなに激しかったのに……。」

 

「(記憶にないけど多分)最高だったぜ。」

 

甘ったるい声で二人が抱き着いてくる。

そんな二人を胸元に抱き寄せてベッドで横になる。

……この煙草吸い終わったら出るかぁ。

 

 

 

 

「「ありがとうございましたぁ〜、またのご来店お待ちしてま〜す。」」

 

両頬にキスをされる。

へにゃりと口元がだらしなく緩む。

うむ、あの二人に似ていた子を選んだのはムカついたが悪くない、いやむしろ良い!昨日の俺ナイス!!

ひらひらと手を振って歩く。

そして女の子の姿が見えなくなってからサイフを開いた。

 

「さて……仕事、探すかぁ。」

 

高かったなぁ……。

昨日のプレイが記憶に残って無いことを嘆きながら空を見上げるとどこかで喧嘩があったみたいだ、そこそこの規模だ。

街丸ごとの喧嘩なんて龍門じゃ珍しくもないが……。

 

「ふーん……やるなら今か。」

 

火事場泥棒でもするかぁ!

 

 

 

 

コソコソと隠れながら移動をする。確か噂だとこの辺にペンギンのアジトがあるはずだよな〜っと。

 

「みっけ。」

 

中に入り、早速物色と思った瞬間、背後で爆発が起きる。

 

「ぶへっ……!!」

 

壁に叩き付けられる。誰だ、こんな時に非常識な野郎だ。つーか服焦げてんじゃん、たっぷり金をぶんどってやる。

焦げた服を脱いで上半身裸で下手人がいるであろう地点を睨む。

 

「うっひゃー……すっごい爆発。

リーダー、アーミヤ、大丈夫?

今はモスティマが抑えててくれてるから一旦落ち着こっか。」

 

「おいゴラァ!てめぇら何他人の家でドンパチやってんだ!金よこ……慰謝料請求すんぞ!!」

 

土煙が晴れて姿が見えていく。

ふんふん、短い赤髪に、サンクタの特徴である輪っかと羽、それにサブマシンガン。んで、軽い口調にモスティマ。なるほどねぇ。

 

「やれやれ、次から気を付けろよ!じゃあな!」

 

そのまま窓を突き破って着地する。

 

「貴様、奴らの仲間か!」

 

「んんんんんんんん…………!」

 

なぜこうも上手くいかない!おお酒よ!私を見捨てるのですか!

 

「しゃーねぇなぁ、折角人が良い気分だったのに……。」

 

腰に差している刀とホルスターから拳銃を抜く。

 

「なんだ、戦場で半裸だ。」

 

「こいつ変態か……?」

 

「ロドスは狂ったやつらの集まりなのか!?」

 

ロドス。最近よく聞く名前だ。

 

「ラック!そっちよろしくね!」

 

しっかりバレてるし。

 

「わかったわかった……。」

 

「それとそのほっぺにマークも後で聞くから!」

 

……すーっ。

 

「……あいつ彼女みたいなのがいるのに浮気してたのか?」

 

「いや二つあるから風俗とかだろ。」

 

「俺さっきこいつがラブホから出てくるの見かけたぞ。」

 

「最低なやつめ。」

 

「やはりロドスは変人変態の集まりだ!」

 

……い、言ってくれるじゃねぇか。

 

「まあ、待てよ。三下共。」

 

「「「ああ!?」」」

 

「まず一つ、あいつは俺の彼女じゃない。幼馴染だ。確かに風俗には行ったが浮気ではない。いいな?」

 

「……気まずいな。」

 

わかってくれるか。

 

「そこの君、ありがとう。今度また会う時があれば奢ろう。」

 

そう言った途端周りの連中も乗ってきた。

 

「ええいうるさい!便乗してくんな!

は?おい、誰だ舌打ちしたやつ出て来いよ。」

 

「ラック!そっちまだ終わってないの!」

 

ほら見ろ時間かけるから言われた。

 

「んん……よーし!俺はロドスアイランド所属のラックだ!

ふぇへへへへ捕まったやつら連れ帰ってあんな事やこんな事しちまうぞぉ〜!特に女はしっぽりと!!そう、声が届かない独房なんかでしっぽりと!!」

 

決め台詞の如く言い放ち、ビシッと拳銃と刀を構えるとさっきまでいた連中は姿を消した。

 

「………………これが、孤独か。」

 

「何言ってるのさ。」

 

エクシアの声が聞こえて振り返ると呆れた顔のエクシアと重い空気を纏ったモスティマがいて、その横に怪しいマスクの男?と可愛いコータスの少女がいた。

 

「やあ、愛らしいお嬢さん。俺はラックと言います。貴方は?」

 

「え?あの……ロドスのCEOを務めているアーミヤと言います。」

 

ロドスのCEOはこんなに幼いのか?となると、この横とマスクはドクターってやつか?

 

「なんと……こんな愛らしいお嬢さんがロドスのトップとは、驚きです。

ところでアーミヤさん、この後予定がなければ俺と一緒に最高の思い出を作りませんか?」

 

スッと片膝を着いて騎士のように手を握り、微笑む。

アーミヤさんは顔を赤らめて目をそらす。

おっ、脈アリ?

 

「何してるのさ、それと君が半裸だからだと思うけど。」

 

ゴスッとモスティマに杖で頭を殴られる。

 

「ふっお……あぁ……。」

 

何しやがると見上げると目は釣り上がり、口はへの字に曲がったモスティマが俺を睨んでいた。

 

「どれだけ心配したと思っているの?」

 

「あ、えっと、モスティマ、ちょっと落ち着こ?」

 

「私はとても落ち着いているよ。」

 

そのままモスティマがしゃがんで目線を俺に合わせる。

 

「それに、この口紅は何。色んな女の臭いがするよ。」

 

「お、お前ってそんなやつだっけ……?」

 

前はもっと無口と言うか、誰にも流されず影響されずみたいな空気みたいなやつだったのに。

チラリとエクシアに目を向けると俺が悪いと返ってきた。マジかよ。

そのまま首を掴まれる。ちょっと扱い雑じゃない!?

 

「ドクター、彼を連れて帰るよ。」

 

「ま、待ってくれモスティマ。彼を問答無用で連れて行くのは問題が……。」

 

「さっき自分でロドス所属って言ってたから問題ないよ。」

 

「人権人権人権!!」

 

「今の君にはないよ。」

 

となると方法は一つしかないか。

 

「ふっ、悪いが今お前らに捕まる訳にはいかない。」

 

モスティマの手を外してスルリと抜ける。

 

「こっちにも事情があるんでな。」

 

「ふぅん、言ってみなよ。」

 

男には、やらねばならぬ時がある。

 

「お前らに会うのがまだ気まずいのとこの前チェックしておいた風俗に行くたムゴッ!?」

 

気が付けば武装解除されて縄でぐるぐる巻きにされていた。

 

「むごー!もごー!(ずりぃ!アーツ使ったな!しかもこんなアーツ知らねぇぞ!)」

 

「ま、私にも色々あったって事さ。」

 

あ、こいつ堕天使になってんじゃん。

そのまま台車に乗せられてゴロゴロと運ばれた。

 

 

 

 

ロドスの中へ入れられて取り調べ室のような場所へ入れられると喋れるように口だけ解放された。

 

「いやー!変態ー!俺を縛って《龍門スラング》みたいな事するんだろ!!」

 

そう言うとドクターとアーミヤが困った顔をする。こうやって奇人変人を装って監視の目を外せれば━━━━

 

「君が望むなら、私も望む所だよ。」

 

「……わあ、イケメン。」

 

話し合っているドクターとアーミヤの横で静観を続けていたモスティマが人差し指で顎クイをしてきた。

やだ……俺の幼馴染、超美人。惚れ直したぜ。

 

「もちろん髪を切ったエクシアにも惚れ直したぜ。」

 

パチリとウインクすると、えへへと言いながら頬をかく。可愛い。

 

「いふぁいいふぁいいふぁい!!」

 

「今は、私が話してるんだけど?」

 

顔を掴まれて握られる。

いや、あの、顔がね、近くてね。

それと目のハイライトがないの怖いんだけど。

 

「ラックさんの事はお二人に任せる事として、今からラックさんには鉱石病の検査を受けてもらいます。」

 

「あー……いや、それなんだけどさ。俺は受けなくても結果が分かってるよ。」

 

「え?」

 

「なぁ、モスティマ。俺の輪っかと羽が無くなった日の事覚えてるか?」

 

「……もちろん。」

 

「輪っかと羽?……そういえば、ラックさんの種族は?」

 

「やっぱわかんないよねぇ。ラックはサンクタだよ。」

 

「しかし、特徴が……。」

 

「そう、サンクタの特徴と言えば鬱陶しいくらいに光る輪っかと寝る時に邪魔な羽。無くなっちゃったんだよね。みんなの言う主から見放されたか知らねぇけど。

多分それが原因で使えてたアーツが使えなくなったんだ。

そんで、ここからが重要だ。俺って今フリーでトランスポーターやってんだけど、当然源石から作られた物を運ぶ事だってある。でも、俺は感染してない。流石に心配になって一度念入りに調べた事があったけど、源石反応は皆無。

つまり、俺はアーツと種族を捨てた代わりに源石に耐性、又は中和出来る力を手に入れたって事だ。」

 

全く、これさえ無けりゃ追々どっかの企業でトランスポーターやれてたのに。監禁とかペットにはなりなくない……いや、美人、美少女ならアリか?

 

「お分かり?」

 

「ちょ、ちょっと待ってください。ドクター、これはケルシー先生と話さないといけません。」

 

アーミヤがドクターを連れて出ていく。

 

「お〜い、今モスティマと一緒にいるの怖いんだけど〜……。」

 

「エクシア、あれは持ってる?」

 

あれ?

 

「え、あれって、あれ?」

 

「今のうちにやってしまおう。」

 

「……そうだね、またいなくなりそうだし。」

 

「じゃあ、ラック、今まで心配させた代償として、一つ契約をしようじゃないか。トランスポーターならよくあるだろう?」

 

ふむ、なるほどね。確かに俺は契約となれば破ることはない。考えたな。

 

「さあ、これに拇印を押してくれ。」

 

そう言うとモスティマとエクシアは紙を取り出した。

ふむ、形に残る物として保存して証拠として残すって事か。それに二人に分ける事で紛失するリスクを減らすのか。

 

「こっちは、何々……婚姻届、夫ラック、妻モスティマ。」

 

ほうほう。

 

「こっちは、婚姻届、夫ラック、妻エクシア。」

 

なるほどなぁ……。

 

「ふっ、俺には押すことは出来ないな。」

 

「理由は?」

 

「まだ見ぬ美女美少女とおにゃんにゃんするまで待って待って待って待って……。」

 

モスティマに開放された右手の親指を掴まれる。

 

「違う、言葉を間違えたんだ。誤解だ。」

 

「……本当は?」

 

「夢いっぱい溢れる桃源郷を目指して待って待って待って待って待って。」

 

エクシアに左手の親指を掴まれた。

嘘は言ってない、純粋な願いなのに……。

ここは小粋なジョークで一つ和ませようか。

 

「それにしても、二人とも成長したなぁ……。」

 

「急にどうしたの?」

 

「エクシアも大人っぽくなったし。」

 

「えへへ……そう?」

 

「モスティマも少し変わっちゃったけど素敵だし。」

 

「ふふ、嬉しいな。」

 

何より……。

 

「二人ともおっぱい成長したなぁああああ!!!くそ!待てよ待て!!違う!違わないけど、違う!!」

 

朱肉を付けた指が押されようとして手に全力で力を込める。

 

「ふぅ……あのな、確かに俺が言ってる事はカスだ。間違いない。」

 

「うんうん。」

 

「そうだね。」

 

「しかしそんなカスでも重婚は出来ないんだなぁ……法的に。」

 

正直言うとペンギンがなんかしでかしたら出来そうだけど。

 

「いや、こんな美人さんのどちらか片方とでも結婚できりゃあ男としては最高だけど重婚はなぁ、出来ないなぁ。」

 

そう言うとモスティマがおかしそうに笑う。

 

「事実婚って知ってるかな?」

 

ぶっ、と吹き出す。

 

「おまっ、そこまでするかぁ!?」

 

「するよ。一体何年想ってたと思う?」

 

ラテラーノを出て五年くらいだっけ?

 

「知らん。だってお前ら、ラテラーノにいた頃何でも無かっただろ。」

 

「離れると惜しくなる物もあるんだよ。」

 

「私も似た感じだよ。」

 

確かにその気持ちは分からなくもない。

カチャリと音がしてドクターとアーミヤが戻ってきた。

よーし、何とかなった。

 

「ケルシー先生と話した結果。一応検査をしてみて、本当に鉱石病に効果があるなら、治療又は抑制剤が出来るかもしれません。

ですから、ロドスに協力してもらえませんか?」

 

「OKOK、天使ですら無くなった俺だが、苦しんでいる人への救済なら喜んで手伝おう。

その代わり、給料は弾んでくれよ?」

 

もしもの金はあっても、懐が寒いのには変わらないからな。

そう言うと早速とばかりに契約書を置かれる。

俺は契約書にサインする前に天井の明かりに向けたり、裏からライターの火を当てる。

 

「何をしているんだ?」

 

ドクターが訝しむ。

 

「いや、ちょっとあってな。」

 

横目でエクシアとモスティマを見ると横を向いた。

ガシガシと頭を掻くと契約書にサインと拇印を叩き付ける。

 

「よぅし、契約成立だ!改めて、ラックだ。戦術なんかはめんどくせぇからお前らに任せるぜ。

上手く使ったならその時は幸運を届けてやんよ。」

 

ピッと紙をドクターに渡す。

 

「ああ、よろしく頼む。」

 

ドクターが右手を差し出してくる。

口角が釣り上がる。握手なんて久し振りだ。

 

「おうよ!」

 






久し振りに書いたんで文章が変かもしんないですわ。

モスティマは元々ヤンデレみたいになるつもりはなかったんですけど、書いてると指がヤンデレっぽく書いてました。なんで?


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二話:料理上手はモテるはず

 

「くあぁ……。」

 

頭の痛みで目を覚ます。そうだ、昨日は食堂で酒飲んで寝落ちしたんだっけ。ありゃ、パンイチだ。服がどっかいっちまってる。

ホシグマやチェン、エンシオと飲み比べしていて潰れたんだっけ。

あいつ、オペレーターとしての名前はシルバーアッシュで登録してるからこんがらがるんだよ。

チッ、妹の事になると熱くなりやがって、今度妹系風俗の名刺を懐に入れてやろう。

 

「誰もいねぇ……。」

 

あいつら酒強いな。俺もそれなりに飲めると思ってたが上には上がいたか。

起き上がると厨房の方から何かが割れる音がして、何事かと見ると顔色を悪くした……そう、グムが地面に座り込んでいた。

 

「おい、体調悪いのか?」

 

「あ……だ、大丈夫だよ。それよりもみんなの朝ご飯作らなきゃ。」

 

俺の荒っぽい喋り方のせいか少し引き気味に断られる。でもその状態で料理したら怪我をしそうだ。

 

「しゃーねーなぁ。

グム、朝食のメニューは?」

 

「え……?」

 

「メニューを聞いてんだよ。」

 

「あの、えっと、鮭の塩焼きとお味噌汁と納豆、だよ。」

 

目を丸くして答えるグムにサッとどこかから取り出したエプロンを着ける。

 

「ふっ……俺に任せておけ。」

 

不安そうな目で見られた。

 

 

 

 

「ん?みんなどうしたんだ?」

 

朝食をアーミヤと食べに来たら食堂が妙に静かだった。

いつもは元気よくグムが配膳して、好き好きに喋りながらだからそれなりに騒がしいはずなんだが……。

 

「ドクター、これを見てください。」

 

アーミヤが張り紙を見つけて俺はそれを見るとこう書いてあった。

 

『セルフサービス、勝手に食え。

それと今日の朝飯は静かにしてろ。

 

代理担当 ラック』

 

そうして見ると、ラップを掛けてある鮭の塩焼きや、大きな炊飯器と鍋が置いてあった。

 

「肝心のグムは……。」

 

そう言いながら辺りを見渡しているとペンギン急便の面々がやってきた。

 

「お腹すいたー!ごはーん!」

 

「腹減ったわー!」

 

騒ぎながら食堂に入って来たエクシアとクロワッサンの顔の横を掠めてナイフとフォークが飛んできた。

 

「うひゃあ!?」

 

「どぅわっ!?」

 

飛んできた方向を向くと、ラックが長椅子に座って本を読んでいた。

よく見ると膝でグムが眠っており、片手で撫でながら子守唄のようなものを唄っていた。

器用なものだ。しかし彼はなぜ裸エプロンなのだろう?

 

「しー……。」

 

ラックが口元に指を当てて静かにするようにとジェスチャーをしてきた。

エクシアとクロワッサンが大きく頷く。

なるほど、張り紙の意味がわかった。

 

「アーミヤ、グムを起こさないようにあっちで食べようか。」

 

「そうですね。」

 

味付けはいつもと違うが美味しかった。

意外にも彼は料理が上手なようだ。

 

 

 

 

グムが倒れた次の日、俺はドクターの執務室へ来ていた。安心してくれ、服は着ている。

昨日は昼晩をクーリエやマッターホルン等の料理上手い組に任せて一日中グムの看病をしていた。

途中でズィマーが怒鳴り込んで来た時は焦ったもんだ。

 

「おいこら、ドクター。料理当番くらい決めろや!」

 

ドアを開けて開口一番そう言うと中にはドクターの他にエンシオとチェンもいた。

 

「うげ、エンシオ。」

 

そう言うとエンシオも顔を顰める。

 

「ああ、そうそう。その話を今していたんだ。

まずはラック、昨日はグムの看病と代理助かったよ。

君の言う通り、当番制にする事にした。出来ない人に時間があるときにちょっとずつ覚えてもらう事も考えている。

ああ、ラックも当番だから逃げないでくれ。」

 

うげ、自分で言ったことだけどめんどくせぇ。

 

「はんっ、あんなの気まぐれに決まってんだろ。恩を今のうちに売ってから仲良くなって「失礼しまぁす。」おにゃんにゃん……するために……。」

 

ひょっこりとグムが扉を開けて入ってくる。

部屋の空気が完全に死んだ。

 

「貴様……。」

 

「やはりここで捕まえるべきか……。」

 

「なになに?おにゃんにゃん?もしかして猫ちゃんと遊ぶの?」

 

じゅ、純粋……!

三人の方を向くと全員が顔を手で押さえていた。そうだよな、眩しいよなぁ……。

 

「そう……なんだよ!やっぱ一人で猫カフェに行くのは恥ずかしいって話をしてたんだよ!

良かったら一緒にどうだ!?」

 

「グ、グムで、良いの?」

 

「もちろん、どうかな?レディ。」

 

手を差し出すと後頭部を二人に殴られる。ぶっ飛ばすぞてめぇら、後で泣かす。

 

「え、えへへ……じゃあ、お願いします。」

 

顔を赤らめて差し出して手を握った。

フゥーー!!フゥフゥ!昨日の献身的な看病のお陰で好感度爆上がりかぁ!?その日のの夜はベッドの上で運動会でもするかあ!?

後ろを向いてドヤ顔をかますとエンシオの指が目に突き刺さった。

 

「ガァァアアア!?!?」

 

目が、目がぁぁ!?こいつ許さねぇ!

踵でエンシオの足の小指を踏み付ける。

痛みに悶える大人が二人いた。

 

「んんっ!ところで、グムは何か用事があったのか?」

 

空気を変えるために咳払いをして言うとグムが小さな袋を取り出した。

 

「えっと、昨日のお礼がしたくてラックさんを探してたの。そしたらドクターの所に行ったって教えてもらったから来ちゃった。」

 

ふっ、これがモテる男の性か……。

 

「ありがとう、大切に頂くぜ。」

 

鼻で笑ってエンシオを見る。

 

「それと、みんなもお菓子どうかなって思ってたくさん持って来ちゃったの!」

 

エンシオに鼻で笑われた。

その後みんなでお茶会でもしようという話になって、ドクターが紅茶を淹れてくれた。

 

「聞きそびれていたが、シルバーアッシュとラックはどうして仲が悪いんだ?」

 

ほーう?今それを聞くかドクター。

 

「良いだろう、俺が誇張抜きで話してやる。」

 

ほわんほわんほわんほわわわ〜ん。

 

 

 

 

そう、あれはシルバーアッシュ家に配達に行った時の事だ。

 

「ほぉ〜、でっかい家。正にボンボンって感じ。」

 

シルバーアッシュの当主であるエンシオに直接の配達が終わって、帰る最中、あまりに広い屋敷の中で迷子になってしまったんだ。

 

「おいおい、ここどこだよ……。」

 

この時の俺はテキトーにドアを開けて、屋敷の人がいれば案内してもらおうと思ってドアを開けると、丁度エンヤが着替えていた所に入ってしまった。

 

「あなたは……。」

 

こりゃあナンパするしかねぇと思った俺は早速彼女の手を取った。

 

「おお、麗しい方よどうか私と一晩の恋に落ちませんか?」

 

「……困ります。」

 

「申し訳ない。しかしながらこの私の胸の熱があなたを求めて止まないのです!」

 

オロオロと困り果てたエンヤを見て俺は押せばいけると確信していたんだが……。

 

「ドアが開いたままになっている……ぞ。」

 

たまたま通りかかったシスコンに見つかって追い掛け回された。

それからと言うものの、配達の依頼は来ても終わったら即追い返されるようになってしまった。

まあ、めげずにエンヤとエンシアに会おうとしたけどな!

 

 

 

 

「まあ、こんなもんか。」

 

エンシオが頷いて同意する。

 

「……それはラックが悪いんじゃないか?」

 

「おいおい、ドクター。男として肩を持ってくれても良いんじゃねぇのか?」

 

「グムもそれは良くないと思うなぁ。」

 

「ふっ、女の子には分からない事さ……。」

 

ポスリとグムの頭に手を乗せる。

 

「じゃあチェンとは?」

 

「酒飲んで全裸で龍門走ってたら捕まった。

気が付いたら取り調べ室に入ってたな。」

 

「信じられるか?捕まってる癖に口説いてきたんだぞ。」

 

「美人がいるなら口説いてなんぼだろ。どうだ、これから俺の部屋でじっくりとだな……。」

 

手を握ろうとすると避けられる。

 

「むぅ!!」

 

「いででででっ!?耳引っ張んじゃねぇよ!」

 

グムが拗ねて耳を引っ張ってきた。

 

「さっきグムをデートに誘ったのにそれは無いと思うな!」

 

ふむ、一理ある。

 

「それは悪ぃな。許してくれ。」

 

優しく撫でながら囁くように語り掛ける。

 

「しょ、しょうがないなぁ……ほら、折角クッキー焼いたんだから食べて食べて!」

 

チョロいもんよ。

 

「無垢な少女に対して下衆な男だ。」

 

「悪い男に騙される子のサンプルとして使えそうだ。」

 

「顔が悪どい。」

 

うるせぇ。

 

「こんなやつら放っておいて猫カフェ行こうぜ。」

 

「あ、待って待って!せめてならオシャレして行きたいな!」

 

「おいおい、今のままでも充分可愛いぜ。もっと可愛くなっちまったら心臓がドキドキで止まっちまう。」

 

ふっ、と顔を背けて言う。

 

「え〜!も、もう、照れちゃうよ!」

 

照れ照れと顔を隠す。

 

「演技力は中々あるな。」

 

「胡散臭いがな。」

 

「ちょっと様になるのがムカつく。」

 

お前らポップーコーン食いながら映画でも見てんのか。

 

「さあ、行こうぜ!」

 

「あ、う、うん!!」

 

グムの手を引いて走り出す。

俺には見えるぜ、ピンク色の未来が!!

 

 

 

 

「どうする?」

 

「あのままだとグムがあの男に誑かされるぞ。」

 

「うーん、流石に放っておくのは出来ないから、何人かに見張っててもらう事にしよう。」

 






気分が乗るとペースが上がりますな。




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三話:戦いの後は昂るものさ

 

 

 

ドクターめ、やりやがったな。

 

「美味しいね!でも、お金出してもらって良いの?」

 

「もちろん、払うのは当然だろ?」

 

人混みの中から背中に刺すような視線を感じる。

考えろ、モスティマは今配達に行っている。

とりあえずズィマーがいる事は分かっている。殺気がヤバい。

 

「食べる?あ〜ん。」

 

「あ〜……うおぁ!?」

 

頭があった位置にゴム弾が飛んできた。

エクシアか!

 

「大丈夫?」

 

「だ、大丈夫大丈夫。行こうぜ!」

 

予想では狙撃オペレーターが他にもいるはず、アーツなんて使えば目立つからな。

そう思っていると目の端に少女が見えた。

 

「ぶふっ。」

 

「?」

 

何でもないと手を振る。

フ、フロストリーフだと!?小柄な体を活かしてきたか!しかも、その奥に赤い服の少女がいたな、確かレッドだったか……。

 

「アハハ……」

 

声が聞こえてバッと振り返るが誰もいなかった。

え、誰?聞いた事あるようなないような声だったな。

と、とにかく、まだ何人かいるみたいだが、今の四人を除いて遠くにいるみたいだ。

……撒くか。

 

「グム、こっちに。」

 

「わわっ、待って待って!急に引っ張らないでよ〜!」

 

少し強引なやり方になるが、しゃーない。

 

 

 

 

「エクシア、落ち着いたら?今ので完全にバレたよ。」

 

「あはは、落ち着いてる、落ち着いてるよ。プラチナこそ見失わないようにね。」

 

「それなら心配いらないよ。」

 

 

 

 

「可愛いぃ〜!」

 

「そりゃあ……良かった……。」

 

猫に懐かれてるグムを眺める。

猫カフェに着くまでに時間掛かりすぎだろ!!結局撒けなかったし。

怪しい行動をしようとするならば銃弾が飛んでくるかナイフが振り下ろされる。

こいつら殺る気だぞ!?

 

「ラテアートも可愛いなぁ、グムも出来るようになったらみんな喜ぶかな?」

 

「そりゃあ喜ぶだろ。可愛いものを見て喜ばない女の子はそうそういねぇし、男でも可愛いもの好きはたくさんいるしな。」

 

「そっかぁ、じゃあ頑張るね!」

 

「おう、頑張れよ。」

 

頭に手を伸ばすと銃弾に弾かれる。

え、これもダメなの?つーか店内だぞエクシア。

くそぅ、折角のデートなのに台無しだ。

ため息を吐くと猫が跳んで顔に張り付いた。

 

「もぶっ……。」

 

「あははっ!ずっと構ってってアピールしてたのに無視するから怒っちゃったんだよ。」

 

……気付かなかった、集中出来てないな。

でもまあ、たまには普通のデートも悪くないかぁ。

猫を顔から剥がす。

 

「ほれほれ、ここがええんか。」

 

俺のテクを見せてやるぜ。

猫の至る所を強弱加えながら撫で回すと猫がゴロゴロと甘え出す。

ふっ、こんなもんよ。……本当なら女の子に使うんだけどなぁ。

ため息を吐いたが、猫に頬ずりするグムを見て笑みを浮かべた。

やっぱ、美少女は目の保養になるぜ。

 

 

 

 

あれから漫画みたいに不良に絡まれる事も無くロドスへ戻ってきた。

 

「今日はありがとう!」

 

花が咲いたような笑顔のグムに笑顔を返す。

 

「どうしたしまして、俺も楽しかったし、その笑顔だけで俺は満足だぜ。」

 

きゃー、と言いながら照れるグムと別れる。

すると背中に銃口を当てられた。

 

「ふっ……今日はやけにモテて困るぜ。俺の体は一つだってのに。」

 

振り返ると青筋を浮かべたエクシアとフロストリーフとズィマー、それと笑い続ける……えーと、そうそう、ラップランドがいた。

その後ろにプラチナとレッドがいるが二人は特に何もしてこなさそうだ。

 

「どうしたみんな、もしかしてグムとデートしててジェラシー感じてたのか?」

 

「訓練室、行こうよ。」

 

「おいおい、七人でヤるのか?体がもたないぜ。」

 

フロストリーフの戦斧を持つ手がギリギリ鳴る。

 

「はははっ、フロストリーフ。久し振りに会ったからって緊張してんのか?」

 

戦斧を向けられた。あれぇ?

 

「へい、ズィマーもそんな怒るなよ。可愛い顔が台無しだぜっ!」

 

振り下ろされた斧を真剣白刃取りで受け止める。

 

「ラップランドはどうしたんだ?初対面のはずだが……一目惚れ?っかー!モテる男は辛ぇなあ!」

 

「アハハハハ!そうだねぇ、今すぐ君と戦いたくてゾクゾクするよ!」

 

ヒュー!モテてんねぇ!

 

「後ろのお二人さんはどうする?ってか、レッドがいねぇ。」

 

「私は別にいいかな。あの子はモフモフって言いながらどこかに行ったよ。」

 

モフモフに負けてしまった……だと。

 

「まあ、いいや。そんじゃあ五人でヤるか!」

 

バックステップしつつ斧から手を離して、刀と銃を取り出す。

 

「訓練室へゴー!うはははははっ!!」

 

殺気が後ろから追いかけて来るのを感じながら訓練室へ向かった。

 

 

 

 

「え?ラックと監視の四人が訓練室に?」

 

プラチナからの報告を聞いた俺はすぐにラックの扱いに慣れているであろうシルバーアッシュを連れて訓練室へと向かった。

 

「放っておいても良いと思うが……。」

 

「いやいや、まだ彼の戦力とか知らないし、危ないと思ったからさ。」

 

「……お前がそう言うならば。」

 

訓練室へと着いて内部を映しているモニターを見る。

 

「なんだこれは……。」

 

俺はラックの実力を低く見過ぎていたのかもしれない。

 

 

 

 

「ヘイヘイ!興奮し過ぎて狙いがズレてるぜ!」

 

「うる、さいなぁ!」

 

エクシアの嵐のような弾幕が迫ってくる。

 

「忘れたのか?射撃ってのは常にクールにするもんだって教えたろ?」

 

ハンドガンをゆっくり弾幕へ向ける。

 

「ワンショット。」

 

一発の弾が吐き出され、弾幕へと向かっていくと、弾が弾幕に当たり、弾かれた弾が他の弾に当たる。

弾幕が俺の所へ辿り着く頃には俺に当たる弾丸は全て弾かれていた。

冷静なエクシアの弾幕だったらこんな事は出来ないが、感情に任せて雑にバラまかれたのならこのくらいなんて事ない。

 

「ちょっ、ズルい!」

 

そのまま放った二発目の弾がエクシアの額に当たる。

 

「ん〜……か・い・か・ん!」

 

「この変態め!」

 

上から振り下ろされる戦斧を横に一歩ズレて避ける。

 

「腕が鈍ってないか?あれだけ個人指導してやったと言うのに……嘆かわしいなぁ。」

 

「ふん!個人指導と言いながら何も知らない私にベタベタ触ってきてヌケヌケと!」

 

「ブラッシングしてあげただけだぜ?」

 

「嘘つけ!胸も触られた!」

 

「あれは貧相な体だから揉めば大きくなると思ってたんだ!……健康的になっても変わってないみたいだけどな。まあ、小さくても俺は好きなんだが。」

 

縦横無尽に振り回される攻撃を避けながら指先でつんっと胸を突く。

 

「ひゃんっ!……ゆ、許さないぞ!」

 

「んべ〜。」

 

胸を守るように腕で隠すフロストリーフに舌を出してながら煽る、顔真っ赤にしちゃって愛いやつよのう。

 

「おっと。」

 

直感を信じてしゃがむと首があった場所を斧が通り過ぎる。

 

「グムの仇だ!」

 

「待て待て、勝手に殺してやんなよ……。」

 

力強く叩き付ける斧を避けながら思う。

この子、喧嘩慣れはしているが、動きに粗が多い。

でもその豪快な戦い方は嫌いじゃないぜ。

 

「あらよっ!」

 

刀で下からすくい上げるように斧を弾き飛ばす。

 

「まだまだ、技術も学ばないとな。」

 

ベチッ、とデコピンをする。

 

「く、くそぉ!」

 

「へへ〜、悔しかったら強くなりな。」

 

さて、ここまでは前菜。

 

「なぁ、ラップランド。俺とお前って接点あったっけ?」

 

「ないよ。ただ、銃と刀を使う変わったトランスポーターの噂は知っていたからね。」

 

「なるほどねぇ。」

 

うわ〜、めんどくさっ。正直とっとと終わらせたいんだけど。

むっ、天啓が降りてきた!

 

「わかったわかった。ただし、条件付きだ。」

 

「良いよ。楽しませてくれるならね。」

 

「おうよ、レディに退屈を与えないのはジェントルマンの基本さ。

んで、条件なんだが……これ終わったら今度はベッドの上で勝負な!

戦った後ってのは猛り立つものがあるからな!」

 

「……っああ、ボクは構わないよ。」

 

「よっしゃ、成立な。やる気出てきたぁ!」

 

マガジンを入れ替えて、準備を整える。

 

「退屈させないでよ!」

 

ラップランドが両手の刀?……多分刀を振ると剣圧が飛んできた。

 

「うっわ、お前もかよ!」

 

フロストリーフにしてもエンシオにしても近距離武器なのに遠距離攻撃してくんなよな!

 

「よぅし、見てろ。俺も頑張って出来るようになったんだからな!」

 

刀を鞘に収めて構える。

 

「ぬんっ!!」

 

勢い良く振り下ろすと振った衝撃が空を割り、ラップランドへと飛んでいく。

 

「へぇ、アーツ無しでやるなんてなかなか面白いじゃないか!」

 

「溜める必要があるからお前らよりも不便だけどな!」

 

疲れたから途中からハンドガンに変えて応戦するが、威力としてはこっちが劣り、押される。

 

「じゃあ近寄って斬る!」

 

走り出すとアーツの勢いが増した。避けたり切り裂いたりしている途中でジャンプして避けると、その隙を狙って追撃が来る。

 

「甘い、甘いぜラップランド!」

 

俺が昔どんな戦い方してたと思う?知らないだろ!

懐からプラ板を取り出して足元に置いて蹴る。ほら、二段ジャンプ。

それから攻撃後の隙を叩くが鍔迫り合いになる。

 

「くっ、やるね!」

 

「そろそろ終わりにするか?ええ?」

 

鍔迫り合いから強めに押し出して、刀を左下に構える。

 

「ハハハハ!良い、良いよ、とても良い!もっと味合わせておくれよ!」

 

そして、息を吐き、止めた。

 

 

 

 

「決まるぞ。」

 

「え?構えてるだけに見えるけど……。」

 

「奴は認めようとしないが、奥の手のようなものだ。

アーツが使えない代わりに鍛え上げた技の結集だな。」

 

俺は喉を鳴らして、しっかりを目に焼きつける為にモニターを睨んだ。

……次の瞬間にはラップランドの両手に持った刀が弾き飛ばされていた。ラップランドも信じられないのか目を大きく開いている。

 

「い、今のは……。」

 

「説明するのは簡単だ。

ただ速く刀を上に斬り上げ、すぐに斬り下ろしただけだ。ただ、奴の技で見えない程に速くされている。今のは二連だが更に連続で放てるはずだ。」

 

「凄いな。」

 

素直に賞賛した。そういう他にない。

 

「しかし、なぜあれが奥の手じゃないんだ?初見では見切れないだろう?」

 

「正にそれだ、初見だからこそ通じる技。あれはカウンターだ、相手から近寄って来なければ意味が無い。

それと奴が言うには息を止めるから疲れるのと、連撃をし過ぎると次の日筋肉痛になるからあまり使いたくないそうだ。」

 

「なるほど……ところで、どうしてそんなに詳しいんだ?」

 

そう聞くとシルバーアッシュは顔を歪めた。

 

「あの技の実験台にされていたからな。」

 

ああ……。

 

 

 

 

「イエーイ!四人抜き!完全勝利!」

 

尻餅をつくラップランドにピースサインを向ける。

 

「さてさて、それじゃあ?満足出来ただろうし約束を守ってもらおうかな?」

 

しゃがんでつつつっと太腿を撫で上げる。

 

「っ……も、もちろん、約束だからね。」

 

おや?おやおやおやおや?

 

「お前……経験ないな?」

 

ぼっ、と顔が赤くなる。

 

「へぇ、こりゃあツイてんなぁ、お前のハジメテを全部オレが貰えるって訳だ。」

 

口角が上がり、三日月のように広がる。

 

「ドクター、エンシオ。さっきから見てんのは知ってるかんな。今回は互いに了承の上なんだから邪魔すんなよ。」

 

一言警告してラップランドを横抱きする。

 

「さあ、行こうじゃないかレディ。安心しな、ハジメテでも気持ち良くするから。」

 

抱きながら片手で頭を撫でる。……思っていたよりもかなり綺麗な髪だな。

腕の中で縮こまっているラップランドを見ると狼と言うよりも

 

「子犬だな。」

 

「馬鹿にして……!」

 

口から溢れた言葉に反応して睨み付けて来た。

 

「あまりそういう目で見るんじゃない。余計興奮してきたぜ。」

 

あー、堪んねぇ、ここまで反抗的な態度をしている女性はあまりいない。どんな良い声で鳴いてくれるのかが楽しみだ。ああ、もちろん気持ち良くするってのを忘れはしない。

廊下に出ると誰にも見られないように警戒しながら自室へと向かう。今まではふとした瞬間に見つかるとめんどくせぇからな。

 

「さあ、到着だ。」

 

出来る限り優しくベッドへ降ろすと、顔と体を隠すように体を丸めた。

 

「隠さないでくれよ、可愛い顔が見えないじゃないか。」

 

「……うるさいよ。」

 

隙間から手を通し、顎を持ってこっちを向かせ、そのまま首元に手を伸ばす。

 

「さあ、俺の目を見て。ゆっくり呼吸をするんだ。」

 

耳、頬と順番に撫でていくうちに呼吸が落ち着いていき、リラックスしてきた。

 

「良い子だね、その調子だよ。」

 

ループスの場合、耳や尻尾の付け根が敏感である場合が非常に高い。そのため興奮させるには触るべきだが、尻尾は尻に近く、警戒される為、耳の付け根を撫でるのが良い。

右手は頬を撫でつつ左手で耳の付け根にそっと触れる。この時に顔がこっちをむくようにする。

 

「目を見て、呼吸も忘れちゃいけないよ。俺に合わせて……吸って……吐いて……。」

 

力が抜けて、丸まっていた体が緩み、口で呼吸を始め、見つめていると目が潤んできた。

ゆっくりと顔を近付け、キスする寸前で止める。

 

「良いね?」

 

最後の判断を委ねると、きゅっと袖を掴まれる、その手は震えていたが、強く拒まれていないと判断した俺は軽く触れる程度に唇を重ねる。

 

「んっ……」

 

そのまま服の中に手を伸ばし━━━━━━━

 

 

 

 

次の日、ロドスの食堂ではツヤツヤして上機嫌な顔のラックと顔を赤くして俯いたラップランドが食事をしていたという。

 

 







残ったエクシア達?反省会とかしてるんじゃないですかね。頭空っぽで書いたんで頭空っぽで読んでください。


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四話:奢ってやるのも良い男の条件?

 

 

 

「ねぇ……来て。」

 

ペッローの女性が手招きをする。

ゴクリと喉が鳴り、体が震える。

 

「失礼、します。」

 

「えへへっ、大丈夫だよ。私に任せてね。」

 

みなさん、私は大人の階段を登ります。

 

 

 

 

「少なくとも今日の一日はロドスの女性との接触を禁止します!」

 

アーミヤがビシッと鼻先に指を突き付ける。

朝一番に呼び出されたと思ったらこれだ。

 

「最近、と言うかラックさんは入ってからずっと女性との接触が激し過ぎると思います!」

 

そうだな、男よりも女性と話す方が圧倒的に多いだろう。

 

「ですから、今日一日禁止です!」

 

「ふむ、ロドスのトップであるアーミヤに言われるならしゃーないな。

分かった。今日は静かにしておこう。

手間を取らせて悪いな……。」

 

苦笑いを浮かべて部屋から出ていく。

…………さて、龍門行くか。

 

 

 

 

「やっぱり一人では何かしそうで心配ですし……今丁度空いている人は、アンセルさんしかいませんね。お願いしましょうか。」

 

 

 

 

「あ〜、久し振りに食べるラーメンうめぇ。」

 

今度誰か連れて来ても良いかもな。

 

「なあ、お前もそう思うだろ?アンセル。」

 

「そ、そそそうですね。」

 

「どうした、随分と吃るな。」

 

龍門を歩いていると怒鳴り声が聞こえてきて、そっちに向かって見るとアンセルが肩がぶつかったとかで絡まれていたから助けた。

その流れでラーメンを奢ってやった。

 

「あ、あの……。」

 

「わかってるわかってる。どうせ迷い込んだんだろ?

お前みたいなのがこの辺に来るとは思えないしな。

良いから食えよ。」

 

「わ、わかりました、いただきます。」

 

耳がゆらゆらと揺れる。分かりづらいけど気に入ってくれたみたいだ。

 

「そうだ、この後行く所があるんだけどよ、一緒に来るか?」

 

「良いんですか?ご飯まで奢ってもらったのに……。」

 

「良いんだよ、気にすんな。俺たちは同じ組織の一員、いや、友人だろ?

そんな事も、もう成人してたっけ?」

 

「あ、いえ、私はまだ十はむぐっ!?」

 

パッと手で口を塞ぐ。

 

「良いかぁ、アンセル。お前は今から二十歳だ。」

 

「ぷはっ!な、何を言っているんですか!私はじゅんむー!!」

 

「ははは、馬鹿な事を言うなよ〜?

ついこの間二十歳になっただろぉ?」

 

肩をガッチリと逃がさないように掴むと顔を寄せる。

 

「そういえば、お前って中々可愛い顔してると思ってたんだ。普通のお婿さんとして結婚したいと思わないか?」

 

「へあっ!?きゅ、急に何を……。」

 

「お前は頷くだけで良いんだ。な?」

 

そう言うとぎこちないが黙って頷く。

 

「いやぁ、良かった良かった!そんな成人したばっかのお前を良い所へ連れて行ってやるよ。」

 

「良い所、ですか?どこなんですか?」

 

「それを教えると驚きがなくなっちまうだろ。着いてからのお楽しみさ。」

 

「はぁ……。」

 

そうと決まればとっとと食うか。

 

 

 

 

「こっちだこっち。」

 

「あの……どんどん奥の方へ行っていませんか?」

 

「そう言う所に穴場ってのはあるもんだぜ?」

 

「なるほど、そういうものなんですね。」

 

まあ、実際かなり奥の方へ来ているから怪しまれてもおかしくはないか。

 

「あの、露出の女性が多いような気が……。」

 

「龍門は広いからなぁ、そういう所があってもおかしくないだろ。」

 

「お兄さん達〜、遊んでかなぁい?」

 

手を軽く振って通り過ぎる。アンセルが捕まらないように肩を組みながら歩く。肩を組むと言ってもアンセルが小柄だから組んでるようには見えねぇけどな

 

「何をして遊ぶのでしょう?」

 

「ははは、気にすんな。逆ナンだろ。この辺じゃ珍しくもない。」

 

アンセルが周りを見渡すと他にもいたからか納得した。

 

「着いたぜ。」

 

「ここは何のお店なのですか?」

 

「気持ち良くなれる所だ。マッサージ屋みたいな所だと思えば良い。お前だって疲れてるだろ?」

 

「確かに、少し疲れてるいますね。」

 

「なら丁度良いな。」

 

そして店の中に入った。

 

 

 

 

「いらっしゃいませ。ああ、ラック様でしたか。」

 

お店に入ると男性が一人立っていました。ラックさんはよく来るのか、名前を覚えられていました。

 

「ああ、今日はどんな子がいる?」

 

「この子達です。」

 

男性が指を指すと一際露出の激しい女性が写ったパネルがありました。

このお店は……。

 

「なあ、こいつ初めてだから良い子当ててやってくんねぇ?」

 

「畏まりました。ではこの子は如何でしょう?」

 

「アンセル、どうだ?」

 

見せられた写真には白髪で活発そうなペッローの女性が写っていました。……誰かに似ているような?

 

「とても可愛い女性ですね。この方は?」

 

「あー……マッサージ師だと思ってくれ。」

 

まさか……そういうお店ではないでしょうか?

 

「おーっと、逃がさねぇよ。」

 

肩を組まれる。ち、力が強い……!

 

「安心しな、俺の奢りだ。

んで、俺はこの子な。」

 

ラックさんは黒髪で物静かな印象を受けるループスの女性を選んでいました。

 

「や、やっぱり私は……。」

 

やめます、と言おうとした瞬間に奥の布がスライドして、女性が現れました。

 

「こんにちはー!あなたが私のお客さんだよね?よろしくね!」

 

「……どうも。よろしくお願いします。」

 

ペッローの女性が出てきた途端に私の腕に抱き着き、柔らかい感触に包まれます。

 

「ちょっ!あの!?」

 

助けを求めてラックさんを見ると既に女性の腰を抱いていて、話し掛けられそうもありません。

 

「ほら、早く行こ?」

 

観念して行くと、小さな部屋に着きました。

部屋にはベッドとお風呂が付いていて、薄暗かったです。

 

「ちゅー。」

 

唐突に目の前に女性顔が現れ、自分がキスをされた事に気付くと、そのまま舌が入ってきました。

 

「んっ……ん〜!?」

 

「ね、キスは初めて?」

 

「は、はい……。」

 

「えへへ、ファーストキス貰っちゃった。

シャワー浴びよっか?」

 

そして、私の服をスルスルと脱がすと、女性も脱ぎ始めて、その姿に釘付けになりました。

 

「んっ……見られてると、緊張しちゃうな。

良かったら、君も脱がしてくれる?」

 

下着姿になった女性が胸を張ると、活発な印象とは反対の黒いプラジャーが目に写ります。

 

「ほら、後ろに手を回して?」

 

「えっと……これ?」

 

ぷちっ、と何かが外れるとブラジャーが外れて胸を露出します。

 

「えいっ。」

 

顔を柔らかい感触と良い香りが包まれました。

 

「むぐっ!?」

 

「そのまま、下もお願い。」

 

混乱した頭で言われるがまま脱がすと手を引かれてシャワーの方へと向かいました。

それから私の体を洗ってくれました。……女性自身の体でですが。

そして湯船に浸かると、女性が上に座って、抱き着きながらキスをしてきました。

 

「はむっ……ちゅ……。」

 

頭の中がふわふわして、気持ち良くなってきました。

 

「ベッド行こっか。」

 

ぼーっとした頭でお風呂から上がり、タオルで体を拭いてもらい、女性が手を引っ張ってベッドへ向かいました。

先にベッドで仰向けに転がるを両手を広げると

 

「ねぇ……来て。」

 

もうどうにでもなれとベッドへ向かいました。

 

 

 

 

「ふわふわと柔らかく、甘い香りがしてとても気持ち良かったです……。」

 

報告書を読んで天井を仰ぐ。

 

「……アーミヤ、アンセルは?」

 

「えっと、部屋で休んでいます。」

 

「そうか……ラックを呼んできてくれ。」

 

アーミヤに頼むと、少ししてラックがやってくる。

 

「よぉ、ドクター。浮かない顔してんな。」

 

「君のせいなのもあるんだぞ。」

 

「俺?な〜にかやったっけなぁ?昨日はアーミヤの言う通りロドスの女の子には手を出してないぜ?」

 

思い出すように指で側頭部を叩く。

 

「確かに、女性には手を出してないな。」

 

「ん〜?……ああっ、アンセルの事か!

バッチリ男にしてやってきたぜ!」

 

良い顔でサムズアップを向けてくる。

 

「そういう事じゃない……彼はまだ未成年だろう?その、そういう所に行くのは止めやしないが、年齢は考えてくれ。」

 

「ふんふん……わぁかった!なんだ、ドクターも行きたかったのか?悪ぃ悪ぃ気付かなかったぜ。

んじゃ、早速仕事が終わったらどうだ。」

 

「なっ!?」

 

狼狽えているとドスンと大量の書類が置かれる。

 

「ドクター、まだ仕事はこんなにも残ってますよ。

……ラックさんお話があります。」

 

こ、この量は……今日寝れないかもな。

ラックの方を見ると珍しく冷や汗をかいていた。

 

「ま、待てアーミヤ、いやさ社長様!」

 

「なんですか。」

 

「早まるな!俺はただドクターを楽しませようと……。」

 

「聞く耳持ちません。」

 

「待って!助けて!ごめんなさい!」

 

ラックが駄々をこねる子供のように嫌がるが、腕を掴んだアーミヤがそのまま連れて行った。

 

 

 

 

暗い、何も見えない。

あれからアーミヤにぶっ飛ばされて目が覚めると、簀巻きにされて猿轡と目隠しをされて転がされていた。

転がる事しか出来ないな。

体をくねらせて魚のようにびったんびったん跳ねる。

疲れるだけだし、やめとこう。

 

「アーミヤ、本当いいの?」

 

「ええ、好きにしてください。この部屋には当分誰も入りません。」

 

モスティマ?

 

「ラックー?起きてる?」

 

エクシアの声、とりあえず返事をせずに寝たフリをしとこう。

 

「この前のお返しをしてあげよう。」

 

これはラップランドか。

 

「ここまで大人しいラックを見るのは久し振りだ。」

 

フロストリーフもいる。

……聞こえる限りはこのくらいか。全員知り合いだが、何か目的があるのか?

 

「では、私はドクターの所へ戻りますね。」

 

「あ、うん、またね。」

 

バタンと重厚感のある音が聞こえる。

多分、防音とかしっかりされてる頑丈な部屋?

 

「さてと、早速始めよっか。」

 

次の瞬間には全裸でベッドの上で鎖に繋がれていた。

 

「は……?」

 

なんだ、いつの間に?この俺が気付かなかった?有り得ない、何をされた?アーツ?

 

「アハハ!無様な格好だね!」

 

「っ!ラップ……ラン、ド?」

 

え、お前なんで服着てないの?

目を動かすと、エクシア、モスティマ、フロストリーフも服を着てなかった。

 

「あぇ……?」

 

流石にこの状況は初めてだ。

 

「何これ?」

 

「もう逃げ場を無くしちゃおうと思って。」

 

「拇印を押してもらおうとかな。」

 

「胸を触られた責任を取ってもらおう。」

 

腕を動かそうにも鎖が鳴るだけで動けそうにない。

 

「おいおい、こんな拘束しないといけないだなんで、恥ずかしがり屋ちゃん達め。」

 

茶化して言うと顔のすぐ横に戦斧が突き刺さる。

流石に血の気が引く。

 

「ま、まあまあ、落ち着け、確かにお前らは素晴らしいが四人同時に相手にするのは流石に……。」

 

ジリジリと四人がにじり寄ってくる。

 

「な、なあ、一度話し合おうぜ。

そうだ、一人ずつとか二人なら日を分ければ……。

お、おい、聞いてんのか?お、俺に近寄るなぁぁあああ!!」

 

 

 

「……?」

 

「ドクター、どうしました?」

 

「いや、今ラックの声が聞こえたような気が……。」

 

「もう疲れて休んだはずですから、聞き間違いですよ。

それよりもまだ仕事は残ってますよ。」

 

「ああ……終わらない。」

 

 

 







最近の出来事:IHクッキングヒーターが壊れました。


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五話:訓練中のお触りは事故だから

 

 

 

「訓練の相手ぇ?」

 

朝っぱらから呼び出したと思えばそんな事かよ。

 

「ああ、メランサの訓練に付き合ってあげてほしい。元々はチェンがしてくれる予定だったのだが、近衛局で急ぎの仕事が入ったらしいんだ。」

 

「だからってなんで俺が……。」

 

「どうせやる事もないんだから良いだろ?」

 

「はっ!俺はどこにいようと引っ張りだこな男だからな。歩くだけで女の子が声を掛けてきちまうのさ。」

 

しかし、たまにはドクターの頼みを聞くのも悪くない。

 

「そうだなぁ。じゃあ美味い酒を一つでどうだ?」

 

「見返りと言う事か?……まあ、良いか。

じゃあ頼んだぞ。」

 

「あいよ。」

 

まあ、やるって決めた事だし、しっかりとやってやるか。

 

 

 

 

「よ、よろしく……。」

 

「おう、よろしくな。」

 

ふわり、と鼻に何か良い匂いが着く。

くんくん鼻を鳴らしく辿ると目の前のメランサからしているみたいだ。

 

「……あの。」

 

「失礼レディ、少し髪を触らせてもらっても?」

 

しゃがんで目を合わせて頼む。

何度か目を泳がせてぎゅっと目を瞑る。

 

「えっと……少しだけ、なら。」

 

「悪ぃな。」

 

言葉に甘えて、髪を少し纏めて嗅がせてもらう。

ほお……これは素晴らしい。甘い匂いが嫌に残る程でもなく過ぎ去る。もっと嗅いでいたくなるような……。

 

「あ、あのっ……。」

 

「え?あ、ああ、俺とした事がすまねぇ。」

 

気付けば軽く抱き締めるような格好になっていた。

ふむ、魔性の香りと名付けよう。

 

「詫びとして今度何か持ってこよう。甘い物は好きか?」

 

「その、気にしなくても……。」

 

「いやいや、レディに不躾な態度を取ったんだ。是非受け取ってほしい。」

 

そう言ってもおろおろとして返事が返って来ない。

ああ、なるほど。

 

「メランサ、俺の為にも受け取ってほしい。ダメかい?」

 

「……わ、わかりました。」

 

「サンキュな。んじゃ、真面目にやるか。」

 

今日は刀だけでやったほうが良いか。

 

「好きに来い。」

 

「いきます!」

 

踏み込んで袈裟斬りに斬り込んでくる。

弾かず受け流すように刀を滑らせる。

そんな攻防を繰り返していくうちに気付く。

剣の腕は悪くない、むしろかなり良いと言える。型がしっかりしているからどこかで習っていたのか?

 

「はあ!」

 

メランサの突きに合わせて刀を手首で回して剣を上に弾く。

 

「あっ……!」

 

「一旦ここまでだ。」

 

落ちてきた剣を左手でキャッチして返す。

 

「なんつーか、王道の剣って感じだな。」

 

そう言うと耳と尻尾が落ち込んだように垂れ下がる。

 

「あ、いや、悪く言った訳じゃねぇんだ。勘違いさせちまったな。

王道ってのはまっすぐ、綺麗な戦い方って事だ。そのまま突き進んだって構わねぇよ。

でも、そうだな。搦手を使う相手を想定した戦いをしてみるか。」

 

「搦手、ですか?」

 

「ああ、まあ、やってみるからいつも通りに戦ってみな。」

 

銃弾をペイント弾に変えて装填しながら距離を取る。

 

「さあ、どこからでもいいぜ。」

 

「ふっ……!」

 

俺よりも小さな身長を活かして姿勢を低くして潜り込みながら剣を振り上げる。

 

「っおっとぉ!」

 

上に弾かれた風に後ろに下がると距離を詰めて来る。

その時に奥歯に仕込んだカプセルを口の中で外し、潰しながら吹き出す。

メランサへ飛んでいくと煙を出した。

 

「きゃっ!?こ、これは……。」

 

「俺特製の煙玉だ。

ん〜っ……この香り、クセになるぜ。」

 

メランサの後ろに立って長い髪から香る匂いを堪能する。

 

「くっ!!」

 

「うぉっと、危ねぇ危ねぇ。」

 

「やあ!」

 

「ほいっと!」

 

振り下ろされた剣を靴の裏で受け止めて後ろに流す。

 

「靴裏に鉄板仕込んでんだ。どうよ、びっくりした?」

 

「まだまだ……!」

 

一心不乱に振る剣を避け、タイミングを図る。

 

「…………ここ!」

 

パンッ!とねこだましをすると目を白黒させてふらつく。

 

「とある暗殺者が使っていた技だ。俺じゃあ完全には出来ないな。」

 

手を引き、抱き留める。

 

「よし、ここらでやめとくか。あんまり根を詰めても良くないしな。」

 

「はぁ……はぁ……はい。」

 

「お疲れさん。」

 

軽く頭を撫でる。労いの意味もあるが……ふへへへへ、綺麗な髪してんなぁ。

 

「メランサちゃんどこに行ったんだろ……へ?」

 

「きっと、散歩しているんじゃ……え?」

 

訓練室の扉を開けて行動予備隊A4の面々がやってきた。

ん?よく見たらカーディって前にアンセルを相手にした女の子に似てる気がすんな。本人も気まずそうにして顔を赤くしてやがる。

 

「おっと、そんな事よりもこの状況は良くねぇ。」

 

「メランサちゃんに何をしているんですか!!」

 

すぐに戦闘態勢を整える。よく訓練しているな。

 

「待て待て、お前ら勘違いしてるぜ?

アンセル、お前からも言ってやってくれよ。一緒に遊んだ仲だろ?」

 

アンセルとメランサを除いた三人が目を向ける。

 

「ちょっと!それは内緒だと……!」

 

「あれぇ?そうだっけ?」

 

「アンセルくんズルいよ!私も混ぜてよー!」

 

「カーディ、彼がまともな遊びをしたと思うか?」

 

「メランサちゃんを離してもらえますか?」

 

ふむ、女性を盾にする趣味は無いが離せと言われると離したくなくなるもんだ。

 

「んじゃ、捕まえてみな。」

 

脇に抱いて刀を構える。

 

「え……え?」

 

「さ〜て、仲間が攫われそうだぞ。お前らどうする?」

 

「メランサちゃんを返して〜!」

 

「むっ。」

 

そうか、メランサが前衛だからカーディが出るしかないのか。

 

「やあ!」

 

「ほっ、と」

 

変わった武器だ、トンファー?

 

「ふん。」

 

「効かないよ!」

 

「うおっと!?」

 

足を狙って矢が来たのを後ろに下がって躱す。

奥の方でアーツを使おうとしているスチュワードの手を撃って杖を弾く。

 

「あっ!?」

 

「お前には仕事させねぇぜ?」

 

仕事されたら厳しくなっちまう。

ポケットからある物を取り出して火を着けて投げる。

 

「カーディ!警戒を!」

 

「うん!」

 

少ししてバチバチと音が鳴る。ただの爆竹だが、耳の良い種族は混乱する。

 

「カーディちゃん、下がってください!」

 

「っ、うん、ありがと!」

 

チッ、隙をアドナキエルが埋めてきたか。

このままじゃ、ちょっと良くないな。障害物もないから逃げ場がない。

 

「とんずらするか!」

 

訓練室の扉を蹴破って通路に出た、その瞬間壁に貼り付けにされた。

 

「大丈夫か?」

 

「あ、ありがとうございます。」

 

「テ、キサス!?」

 

やっべ、ペンギンとこの社員じゃん!

こいつはヤバいと縫いとめられたシャツを脱いで上半身裸で逃げ出す。

 

「逃がさない。」

 

逃げ道へアーツで出来た剣が刺さる。

 

「チィッ!」

 

二刀流の連撃を捌きながら降り注ぐアーツも避ける。

 

「やっ……べ!?」

 

こういうアーツとの相性悪ぃんだよ!

ハンドガンを手首を狙って撃つ。片方の剣を弾く事は出来たが、降り注ぐアーツは変わらない。

 

「あらよっとぉ!!」

 

アーツを足場に跳んで、縦にくるりと回転してのかかと落としは剣で受け止められる。

 

「なんとびっくりっ!」

 

「くっ……。」

 

器用に蹴り足を回して逆の足で蹴り飛ばす。

 

「こいつでどうよぉ!」

 

首を狙って気絶させようと踏み込んだ瞬間、ガクンと体が止まる。

足元を見るとアーツで裾を地面に縫い付けられていた。

 

「やっ…………」

 

側頭部に衝撃を受けて視界が真っ黒になった。

 

 

 

 

「いっつぅ………。」

 

頭が割れそうなくらいに痛む。

俺の部屋か……何があったんだっけ?

サクッと音がして、そっちを見るとテキサスが座って菓子を食っていた。

 

「て……めむぐっ。」

 

ずぼっと口に菓子を突っ込まれる。

 

「エネルギーの補給は大事だから。」

 

一理ある。サクサクサクサクとすぐに食べて口を開こうとすると菓子を突っ込まれる。

黙って食えってか。まあ、美人に食わせてもらうってのも悪くない。

 

「あ〜!?ちょっと、テキサス!何してるの!」

 

「別に、食べたそうにしていたからだ。」

 

不満げにエクシアが文句を言う。

 

「折角アップルパイ焼いてきたのに……。」

 

悲しそうに眉を下げる、手元には切り分けられたアップルパイがあった。

 

「……寄越せ。」

 

手掴みでアップルパイを取って頬張る。昔から変わらない優しい甘さだ。

 

「ふん、甘いな。」

 

「……美味しい?」

 

「昔と変わんねぇよ。」

 

「そ、そっかぁ!じゃあまだまだ余ってるから持ってくるよ!」

 

バタバタと部屋を出ていく。慌ただしいやつだ。

 

「エクシアは。」

 

「あん?」

 

「ずっとラックを探していた。遠くをモスティマが、近くをエクシアで分担しながら。」

 

「何が言いてぇんだ?」

 

「……もっと、見てやってほしい。あれでも私の相棒だからな。」

 

少し言いづらそうに言う。口下手かよ。

 

「んなの、わかってるっての。」

 

「二人とも!途中でモスティマ見つけたからみんなでパーティしない?」

 

エクシアがやってきて部屋がまた騒がしくなる。

 

「わかったから、少し落ち着け。」

 

「でも、ラックが来てからまだパーティしてないでしょ?リーダーや他のみんなも呼んでパーッとやろうよ!」

 

テキサスを顔を合わせてため息を吐く。

 

「しゃーねぇなぁ。ただ、ドクターやアーミヤに怒られるだろうから宥めるの手伝ってくれよ?」

 

「そのくらいなら任せてちょ。」

 

よし、これでお叱りが軽くなるな。

テキサスから胡散臭いやつを見る目で見られるが無視無視。俺はめんどくせぇのが嫌なんだよ。

 

「んで、むぐっ、お前はどんだけ菓子を食わせてくんだ?」

 

「何となく。」

 

そうかよ、ならこっちだってやるからな。

差し出されたポッキーに齧り付いて、手を掴むとサクサクと食べて行き、持っていた指を咥える。

 

「っ!」

 

ちゅうちゅうと指を吸ったり、甘噛みをして、最後に軽く舐めて放す。

 

「何を……。」

 

「いんや、指にチョコが付いてたんだよ。ご馳走さん。」

 

舌なめずりをして、手を掴んで引き寄せる。

 

「今度はこっちも食べてみてぇな。」

 

テキサスの唇にぷにりと指を当てる。

 

「こっちにもチョコ付いてるかもしれないぜ。」

 

口を開いて近寄ると顔を押し退けられる。

 

「それは出来ない。」

 

「んじゃあ……こいつはどうだ?」

 

テキサスの持ってきたポッキーを一本取って口に加える。

 

「ポッキーゲームふぁ、こえならパーフィーっぽくていいひゃろ?」

 

それでも顔を逸らされる。

 

「そいつは残念だ。」

 

随分お堅い事で。

 

「じゃあ、こいつは俺が勝手にやり返すだけだ。」

 

手を引いてベッドに押し倒して、手首を押さえ付ける。

 

「久し振りに思ったんだけどよ、俺って結構負けず嫌いなんだよ。」

 

女性に手を出すのは気が引けるが、真正面から、それも剣で負けたせいで珍しく腹が立っているみたいだ。

 

「それじゃ、いただきま〜「リーダー!こっちこっ……って何してるのさ!?」おっと、こいつはまずい……。」

 

言い訳なんて通じる訳ないけど、まあ、とりあえず。

 

「ちょっと足が滑っちまってさぁ。ははは!」

 

「押し倒された。」

 

即言われた。

 

「…………まず、テキサスは美女だ。ドクターもそう思うだろ?」

 

「え?あ、ああ、それは分かるが……。」

 

「そんな美女を押し倒さない理由があるかぁ?いや、それはねぇだろ?

つまり、これは不可抗力であり、必然ってことだぜ。」

 

「そう……なのか?」

 

「ドクター、騙されちゃダメですよ。

ラックさん、覚悟はよろしいですか?」

 

「……お手柔らかに頼むわ。」

 

そして、今日二度目のブラックアウトを経験した。

 

 

 







一話を短くして投稿頻度を短くしていくスタンスで。


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六話:急にラブコメな話するじゃん

 

 

 

今日は俺にしては珍しく、出歩かずに自室のベッドでゴロゴロしていた。

 

「ん。」

 

そう言うと胸の上で転がっているテキサスが俺の口にチョコレートを入れる。

前回の出来事から、たまに部屋に来るようになった。流石にまた怒られたくないから手は出さないようにしてるけどな。

部屋にある本は全部読んでるし、かと言って外に行く気が起きない。

ため息を吐いてテキサスの頭に手を置く。

 

「やあ、ラック。来たよ。」

 

「おう、ラップランド。」

 

返事をしてラップランドを見ると驚いていた。

 

「いつの間にテキサスと仲良くなっていたんだい?」

 

「この前だ。」

 

「へぇ、テキサスもずるいじゃないか。」

 

「……何がだ?」

 

「ヴッッ……!」

 

ラップランドがテキサスの上に乗る。

美女が二人上に乗ってるってのは気分が良いが流石に重い。

 

「……人の上でイチャイチャすんなよ。」

 

「あれぇ、もしかして嫉妬しているのかな?」

 

「そーかもな。」

 

大きく欠伸をすると指をねじ込まれる。

 

「んごっ!?んぶ!?」

 

「ラックの事も相手してあげるから、安心しなよ。」

 

こんにゃろ……こっちが全くやる気ない時に好き勝手やってくれるじゃねぇか。

つーかこいつが何してぇのかよくわかんねぇし、めんどくせ。

ラップランドが突っ込んだ手をぺろりと舐める。

 

「……なんだ、煽ってんのか?」

 

「アハハ、そんな事ないよ。」

そう言いながらテキサスごと抱き締めると、そのまま頬ずりをする。その姿がお気に入りのぬいぐるみを抱いてるみたいに見えるぜ。

 

「……。」

 

テキサスは諦めたみたいで大人しく菓子を食ってやがる。

まあ、この状況も悪くねぇと思いながら二人を撫でた。

 

 

 

 

昼飯を食べようとふらふらと食堂へ向かう。

テキサスとラップランドはまだ部屋にいるらしい。

 

「グムー、飯くれ〜。」

 

「あ、はいは〜い、何が良い?」

 

「んぁ〜……オムライス。」

 

「じゃあちょっと待っててね!」

 

食堂の椅子に座り、待っているとどんどん眠くなってきてカクンと頭が落ちる。

 

「あ、あの、大丈夫ですか……?」

 

この声と香りは、メランサか?

 

「おー、メランサー。」

 

ひらひらと手を振ると、隣に座って俺の額に手を当てる。

 

「え、何、どした?」

 

「あ、いや、体調が悪いのかなって……触ってきませんし。」

 

「誰だって無気力な日があんだろ?それ。」

 

べちゃりと机に突っ伏す。

 

「グム特製オムライスかんせ〜い!」

 

置かれたオムライスの匂いに反応して起き上がり、スプーンを持って食べるが……なんか食べにくいな。

 

「もー、目を瞑ってるから溢れてるよ!

本当ならグムがやりたいけど、まだお仕事あるから。メランサちゃん、ご飯が勿体無いから食べさせてあげて!」

 

「えっ、わ、私が、ですか?」

 

「よろしくね!」

 

「あ、は、はい。」

 

スプーンを取られた。

 

「く、口を開けてください。」

 

言われるがままに口を開くとオムライスが入れられる。

そのまま続き全て食べ終えたらしい。

 

「メランサ、あんがと。」

 

ぽふりと軽く撫でて食堂をふらふらと出て少し歩いた所でぶっ倒れた。

 

 

 

 

「……ああ?」

 

「あ、起きた?」

 

「モスティマ……?」

 

えっと確か、食堂でオムライス食って……どうなったんだっけ?

 

「熱だってさ、たまたま私が通ってなかったら悪化してたかもしれないよ?」

 

「熱?熱なんて生まれてから一度も出した事ねぇけどな。」

 

「たまにある気だるい日がそうだったみたいだね。私もあまり気にしてなかったから気付かなかったよ。」

 

「あー、そうだったのか。

モスティマ、助かった。」

 

「どういたしまして。私としては行動で示してほしいけどね。」

 

「行動っつっても……。」

 

今出せる物なんてねぇかんな。

 

「今はこれで良いよ。」

 

そう言って俺の左手を握る。

 

「……?ああ、そういう事か。」

 

「ラック?」

 

握られた手を持ち上げて手の甲にキスをする。

 

「悪ぃ、熱移しちまうといけねぇから今はこれで我慢してくれ。」

 

「…………。」

 

「モスティマ?」

 

返事がないと思って顔を見ると真っ赤にして握られた手と逆の手で顔を覆っていた。

 

「ご、ごめん、ちょっと用事思い出したから行かないと……。」

 

「そうか……そりゃちょっと寂しくなるな。」

 

ん……あ?今俺なんつった?

 

「い、今のなし、とっとと行けよ。」

 

さっきと違ってモスティマはにや〜っと聞こえてきそうなくらいの笑顔になった。

 

「ふぅん、そっかぁ、寂しかったんだねぇ。」

 

「くっ、この……。」

 

「仕方ないから今日はラックのお世話をしてあげるよ。」

 

肩を押されてベッドに横になる。

 

「少し冷たいよ。」

 

「つめたっ……!?」

 

「冷たいって言ったよ?」

 

頭に濡らしたタオルが乗せられて、その冷たさに驚く。

くそ、看病されるってなんか恥ずかしいな。調子が狂っちまう。

 

「何かしてほしいことはある?」

 

「あ?ねぇよ。」

 

ちょっと汗がじっとりとしていて気持ち悪いがそれを言うのは嫌だった。

 

「そうだ、汗かいてるから拭くよ。」

 

考えを先読みされたみたいで気に食わない。

 

「いい、このくらいどうってことふぁ……くしゅっ!」

 

「ほら、悪化したら遊びにも行けないよ。」

 

「……今回だけだかんな。」

 

シャツを脱いで背中を向ける。

 

「前は自分で出来るから背中だけで良い。」

 

「はいはい、病人は黙って看病されてよ。」

 

結局押し切られて腕や前も拭かれた。

 

「下は流石に良い!!?」

 

「まあまあまあ。」

 

「くっ、ち、力強……。」

 

「む、ラックが弱ってるだけでしょ。酷いなぁ。」

 

「あっ、ちょっ、ま……。」

 

これは人には言えねぇな……。

 

「もうお婿に行けない……。」

 

「安心してよ、私が貰うから。」

 

……惚れたわ。

 

「惚れた?」

 

「うっせ。」

 

読むんじゃねぇ。

鼻先を指で弾く。

 

「いたっ、乙女の顔に何するのさ。」

 

「言ってろ。」

 

布団を被って寝ようとすると頭を撫でられ、子守唄が聴こえてきた。

……それは昔よく唄ってやってた━━━━━━━

 

 

 

 

「……。」

 

体を起こして頭をかく。それなりに長い時間寝ていたみてぇだな。

 

「あん?」

 

左手を見ると、モスティマが左手を握りながら寝ていた。ずっと看病していてくれたんだな。

 

「物好きめ。」

 

寝顔を見ていると首に何かが掛かっていた。

 

「これ……あん時投げたやつじゃねぇか。」

 

見た目がおかしくて買ったピエロの首飾り。まだ持ってたのかよ。

 

「テキトーに捨てちまえば良かったのに。」

 

「そんな事出来ないよ。」

 

「うおっ、起きてたのか。」

 

「丁度今起きたんだよ。」

 

「そうか……あんがとよ。」

 

「お礼は拇印で良いよ。」

 

「ハッ!」

 

次の日の朝まで戦った。

 

 

 

 

 

 

 

 

・今日の一幕

 

「時間停止系のAVの数%は本物説ねぇ……。」

 

目を滑らせるとシャツとホットパンツだけでベッドに転がるモスティマがいる……もうちょっとでパンツ見えそう。

 

「エッチ。」

 

「ははは、言いがかりはやめろ。

ところでさ、モスティマ。頼みがあるんだ。」

 

「言うだけ言ってみなよ。」

 

「時間停止系AVに出てくぶっ!!」

 

顔を思い切りビンタされた。

 

「最低。」

 

ふっ……新しい扉が開きそうだったぜ。

 

 

 




感想は読んだらGOOD押してるんで、良かったら書いてやってください。モチベ上がりますぜ。

ちなみに仕事中に考えたIFルートのゴッドモスティマルートは名前の割に余りにも重い話になった上に感情移入し過ぎて軽く泣いたんで書きません。

今見たら思ったより短かったんで次はちょっと長めにします。


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七話:あー!ここジ〇ンプで習った所だ!

 

 

 

「エンシオ、今日飲もうぜ。

酒持ってくからお前の部屋で良いだろ?」

 

「構わないが、いつも私の部屋だな。」

 

「お前の部屋が一番雰囲気とかが丁度良いんだよ。」

 

家具のセンスとか良いし。

 

「んじゃ、後チェンとホシグマにも声かけとくわ。」

 

「ああ、わかった。」

 

 

 

 

「全員持ったか?かんぱーい。」

 

「「「乾杯。」」」

 

俺を除いて騒ぐ連中じゃないから静かに乾杯をする。

 

「エンシオ、お前そろそろ妹と話せたのか?」

 

「……挨拶くらいは、だな。」

 

ダメじゃねぇか。

 

「ラック、いい加減パンツで歩き回るのを止めてくれ。」

 

「いや、酒飲んでたら勝手に脱いでんだよ。」

 

ほんと不思議。

 

「最近はどんなトレーニングをしているんだ?」

 

「そうだな……般若を扱うから腕を鍛えていたが、バランスも大事だから、下半身を中心にし始めた。

む、酒が無くなっているな、注ごう。」

 

っくぅ〜……結構キツい酒だな。

 

「あー、そういえば、またモスティマとエクシアが迫って来てさぁ……今は結婚する気無いってのに。」

 

「ふっ、お前は気が多過ぎるからだろう。」

 

「最近はラップランドとテキサスと一緒にいる事が多い気がするな。」

 

「私はメランサといる所を見たな。」

 

「モテる男はつれぇな。」

 

「「「はんっ!」」」

 

こいっつら……。

 

「そういうお前らこそどうなんだよ。

エンシオはお堅いし、チェンとホシグマは男勝りだから誰も近寄らねぇんじゃねぇっでぇなぁ!」

 

頭殴んな!

 

「今はそんな事を考えている暇はないな。」

 

「ううむ……。」

 

「私は対等に酒が飲めれば嬉しいな。」

 

ホシグマと同じくらいに酒飲めるっつったら同じ鬼とかだろ。

 

「やっぱ自分の好みを考えてみようぜ。」

 

「なるほど、では、参考までにラックの好みはどうなんだ?」

 

「そうだなぁ……髪の長さとか身長は気にしないけど、髪が綺麗な人が良いよな。」

 

「例えば?」

 

「メランサとかだな。ああ、メランサと言えば、あいつの髪ってすっげぇ良い香りするんだぜ。」

 

「そうなのか?」

 

「私は鼻が良いからたまに香ってくるが、確かに上質な香りがするな。」

 

「シルバーアッシュがそう言うのならそうなんだろうな。」

 

「おい。まるで俺の嗅覚は信用出来ねぇみてぇじゃねぇか。」

 

ジャーキー齧って文句を言う。ん〜、味がじんわり出てきてうめぇ。

 

「おい、エンシオ、俺が言ったんだからお前な。」

 

「なぜ私が……。」

 

「こういうのは先に男が言ってメイン二人を後にするってのが常識だぜ?」

 

女性の好みを聞く時の方が盛り上がるからな。

 

「……あまり、好みと言う訳ではないが、クリフハートのように元気がある女性は好ましく思う。」

 

「お〜い、こういう時くらいちゃんと名前で呼んでやれよな。まあ、いいや。

ホシグマはさっき言ってたから次チェンな!」

 

「わ、私か……む、難しいな……信頼、頼れる男性が良いな。」

 

「つまり俺か?」

 

「お前は腕は立つが、信頼……?」

 

「なんだよその目は、俺程信頼の文字が似合う男はいないぜ?なんなら信頼って文字を背負ってるくらいだ。」

 

「ふっ、笑わせるな。」

 

「ああん?エンシオォ、テメェなんつった?」

 

「笑わせるな、と言ったのだ。」

 

「よぅし、いい度胸だ。

じゃあ今回は……チェン!お前、俺とこいつ、どっちが信頼できる?」

 

「シルバーアッシュだ。」

 

「ふっ……。」

 

このっ、即答されたからってドヤ顔でワイン飲みやがって……!

 

「ホシグマ〜、二人が虐めてくるんだよ〜。」

 

「はっはっはっ!グラスが空になっているな、追加を足そう。」

 

「お、おい。そろそろ酔ってきたんだけど……。」

 

「もうダメなのか?なら、ラックは私の好みには合わないな。」

 

なんだって?

グラスをテーブルに叩き付ける。

 

「まだまだ飲めるに決まってんだろ。もう一杯だ。」

 

「ふっ、その調子だ。」

 

「ホシグマ、もうその辺にしておけ。」

 

「止めんじゃねぇ。」

 

飲んでは酒が注がれる。

 

「まらぁ……おりぇは飲めるぞ……。」

 

んん……?エンシオは……?

 

「はっ、もう潰れてんのあ?」

 

テーブルに突っ伏してやんの。

 

「ラック、眠いなら寝ても構わないぞ。」

 

「まだ……のめ……。」

 

チェンに手を添えれてそのままテーブルに倒れた。

 

 

 

 

「……へっくしゅ!」

 

うぅ〜、さびぃ。

なんだっけ……ああ、飲んでたんだっけ。げっ、またパンイチだし。

部屋に戻った覚えはねぇからエンシオの部屋で寝たのか?

 

「あったま痛てぇ……。」

 

手を付いて起き上がろうとするとふにゅりと柔らかい感触がして、その方向を向くと……なぜか、俺の上着を上に掛けたチェンが寝ていた。

……なぜ下着?

 

「ラック……。」

 

この声は!

 

「エンシ……オ?」

 

パンイチのエンシオの隣には下着姿のホシグマがいた。

エンシオと合流する。

 

「「……。」」

 

「お前、昨日の記憶はあんのか?」

 

「いや……。」

 

「よし……まずはホシグマの股を確認しろ、俺はチェンを確認する。」

 

「貴様正気か……!?」

 

「しゃーねぇだろ、やっちまってたらどうすんだ……!!」

 

「くっ……わかった。」

 

チェンの所に戻って、上着を捲ると……白い液体が流れていた。

 

「……っっ!!」

 

顔を両手で覆う。

そうだ、エンシオは……!

振り返ると俺と同じように顔を覆っていた。

 

「どうするんだ……!」

 

「うるせぇ俺が知るか……!」

 

「ううん……。」

 

ビクッと二人して肩を跳ねさせる。

 

「チェ、チェン……。」

 

「ああ、ラックか。」

 

俺の顔を見ると、赤くなる。

 

「昨日は、激しかったな……。」

 

嘘だろ……!!?

ドサッと聞こえて振り返るとエンシオがホシグマの前で崩れ落ちていた。

 

「私が一時の感情になど……。」

 

「俺も……墓場行きか……。」

 

ははは、笑えねぇ……。

そうしていると、チェンとホシグマが笑いだした。

 

「な、何がおかしいってんだよ。」

 

「いや、ここまで上手くいくとは思わなくてな。」

 

上手くいく?まさか……。

 

「ドッキリだ。」

 

ホシグマがドッキリ大成功の看板を取り出す。

 

「は……?」

 

「いつもお前にからかわれてばかりだからな。たまにはやり返してやろうと思ったんだ。」

 

「まさかあんなに慌てるとは思わなかったがな。」

 

「おまっ、ちょっ、いくらなんでも質が悪過ぎだろ……!!」

 

洒落になんねぇよ!!

 

「あの液体は!?」

 

「それっぽいものだ。クロージャが作ってくれた。」

 

なんだよ……焦らせやがって。

 

「ふん、驚かせるな。」

 

お前、本気でへこんでたろ。

 

「次からはこういうのは止めてくれ……心臓がとまっちまう。」

 

「善処する。」

 

「いや、やんなよ。」

 

チェンとホシグマを部屋に返して二人で部屋を片付ける。

 

「……エンシオ。」

 

「……なんだ。」

 

「次から気を付けような。」

 

「待て、私は巻き添えだ。」

 

うっせぇ。

 

 

 

 

「やっぱでかい風呂は良いもんだ。」

 

片付けを終えて、昨日は風呂に入っていない事を思い出して、ドクターに頼むと今の時間に入って良いと言われた。

各部屋に風呂はあって、大浴場は時間ごとに男女が入れ替わるようになっている。

部屋の風呂はちょっと小さくて狭苦しい。

湯船に浸かり、タオルを畳んで頭に乗せる。

 

「極楽極楽……エンシオも来れば良かったのにな。」

 

フェリーンは水が苦手?いや、それも人によるか。

 

「一人でのんびりするなんて何時ぶりだ?」

 

いやまあ、配達の時は一人だけどな。

 

「ふぃ〜……。」

 

のんびりしているとカラカラと扉が開く音が聞こえる。誰か来たのか?

 

「メランサちゃんって肌も髪も綺麗だよねー。羨ましいなぁ。」

 

「そんなことないと思うけど……メイリィだって綺麗だよ。」

 

咄嗟に湯船に潜る。

おかしい、なぜ女性オペレーターが入って来てんだ?

 

「ドクターが許可出してくれて良かったね!」

 

「訓練の後だし、今日は任務もないからね。」

 

なるほど、ドクターのやつ理性がないな?

しかし、カーディもいるくらいなら開き直っても良いかもしれない。実際俺が先にいたしな。

 

「やっぱり大きいお風呂は良いね!」

 

「ビーグル、走ると滑って怪我するよ。」

 

「あ、フェン、さっきはありがとう。」

 

「いえ、こちらも勉強になりました。」

 

フェンはまずい!!

真面目ちゃんだから先に入ってた事はともかく覗きをドーベルマンに報告されたら厄介だ。

ならば、隠れるのみ。今日はパフューマーの薬湯だから少し濁っていて見えにくいだろ。

鼻から上だけを出して潜む。気分はワニだ。

そして全員が湯船に浸かるタイミングで潜る。そしたらまずは全員の位置を気配を頼りに探して……。

 

「むぐが!?」

 

誰だ頭踏んでるの!?

暴れているとぐいっと顔を両手で掴まれて水面に上がる。

 

「ぷあっ……!!」

 

「しーっ……。」

 

メランサがこっちを見て人差し指を立てていた。

自分を壁にして他の三人には見えないようにしているみたいだ。

しかし、この姿勢はなんとも……。

 

「い、いつ気付いたんだ?」

 

「あの、服が……。」

 

ああ、脱いでるもんな。

じゃあ先に他のみんなに知らせてほしかった。

 

「……ごめんなさい。」

 

「や、責めている訳じゃない。」

 

こういう日常の中で女性の素肌が見えているのはいつもよりも照れてしまう。

でも、水面から見上げる彼女はとても……

 

「綺麗だ。」

 

「…………。」

 

「なし、今のなし。」

 

「もう一度。」

 

「あ、ああ?」

 

「もう一度、言ってほしい、です。」

 

「……綺麗だ。これで良いかよ。」

 

「メランサー!どうしたの?」

 

頭を思い切り沈められた。死ぬ!死ぬ!!

 

「ううん、なんでもないよ。」

 

「そう?」

 

「顔が赤いけど、のぼせた?」

 

「だ、大丈夫だから。」

 

やばい!息が持たねぇわ!

 

「ぶっは!!ぜぇー!ぜぇー!殺す気か!」

 

手を押し退けて立ち上がる。

 

「ごほっごほっ!溺れる所だったー……。」

 

風呂から上がり脱衣場へ向かう。

扉を開ける直前で振り返りウインクを一つ。

 

「ご馳走様でした!」

 

「「「きゃぁぁあああ!!」」」

 

「どうした!?」

 

バンッ、ラフな格好のリスカムが入ってくる。

 

「……は!?」

 

混乱しているリスカムを横目に通信端末片手に全裸で廊下へ飛び出す。安心しな、手で隠してる。俺のマグナムは安売りしてないぜ。

 

「待て、変態!」

 

「待てと言われて待つ変態がいると思うか!」

 

「なるほど。ってそうじゃない!」

 

しかしここらで撒けねぇと捕まっちまうな。

その瞬間俺の第六感が閃く。右の通路だ!

 

「ろっとぉ……。」

 

目の前にセイロンとシュヴァルツがいた。

 

「やあ、お嬢様方、ご機嫌麗しゅうございます。

お目汚し失礼……。」

 

そそそっと横を通り抜ける。ふう、なんとかなった。流石俺の第六感。

足元に矢が刺さる。

許さないぞ第六感。

 

「待ちなさい……!」

 

「へっ、お前が俺に勝てた事があったか!?」

 

あったわ、ババ抜きで負けたわ。

さて、次はどっちに逃げようか。

左だ!今度こそ信じるてるぞ!

 

「やあ、どうしたんだ、い?」

 

ラップランドがいた。にや〜っと笑みを深めて行くと剣を抜いた。

なるほどね、貞操の危機か。

 

「ならばこっちだ!」

 

天井のダクトに上り、匍匐で進んでいく。今の俺はGにと匹敵する。

しかし、流石にダクトからだと自分の部屋がわかんねぇな。

とりあえずある程度離れたっぽいし、ここらで降りてみるか。

 

「よっと。うん?厨房か。」

 

「あら?どなたかそちらにいらっしゃるの?」

 

声のする方には女性がいた。……名前はなんだっけかな。

 

「やあ、こんにちは。今日は良い天気ですね。」

 

「……いえ、ごめんなさい。あなたの土地の文化と私の土地の文化の違いに驚いただけですわ。」

 

「ははは、文化の違いに驚くのは私もよくありますよ。トランスポーターですからね。

おや、そちらはケーキですかな?」

 

随分……なんだ、配色が個性的だな。

 

「ええ、誰も食べてくださらないのです……。」

 

「それはそれは……と、とても美味しそうだと思いますがね。」

 

「本当ですか?では、是非食べてくださりません?」

 

「も、もちろん!」

 

皿に盛り付けられた毒々しい見た目のケーキをフォーク片手に見つめる。

 

「……いただきます。」

 

覚悟を決めて一口食べる。

 

「う、美味い!?」

 

馬鹿な!?この見た目でこんなに美味く作れるだろ!?着色料をめちゃくちゃ使ってるのか!?

起きてから何も食って無かったからワンホール全部食べちまった。

 

「いやぁ、本当に美味かった!ごっそさん!

あ、そういえば名前言ってなかったな。ラックだ。よろしく。」

 

「アズリウスと申しますわ。」

 

「アズリウスか。じゃあ、またな!」

 

手を振って厨房を出ようとすると首に何かが刺さった。

 

「……あ?」

 

「全裸の不審者をロドスへ放つ訳にはいきませんわ。」

 

この感じ……まさか、麻痺毒……?

体が痺れて動かない。

 

「まずはドクターにご連絡をしましょうか。」

 

よし、ドクターならセーフだ!

 

「こちらに変態が来ませんでしたか?」

 

シュヴァールツ!!

救いの手はないのか!?このままでは俺は矢の試し打ちの的になっちまう!

 

「やっと見つけた。」

 

「ラ……ップラ……ンド……!」

 

「ボクは優しいから、助けてあげるよ。」

 

流石ラップランド!素敵!愛してるぜ!

あ、待って、今全裸!やっぱシュヴァルツ!シュヴァルツが良い!!

 

「暴れないでよ。」

 

横抱きに抱えられた。待て、俺がされるのはちょっと嫌なんだけど……。

 

「ハハハ……おっと。」

 

こいつ……今涎垂らさなかったか?

やっぱこいつに捕まったら不味かったんじゃね?

でも、ちゃんと誰にもバレずに運んでくれてるな……。

 

「しょっと。」

 

「サンキュ。」

 

やっと部屋に着いたか。

運んでもらったお陰でちょっと体が動くようになったな。喋るのも大丈夫そうだ。

ラップランドがベッドに乗せてくれる。布団を上に掛けてくれるあたり、良いやつなんだよなぁ。

 

「じゃあ報酬を貰おうかな。」

 

「今は体も動かせないし、渡せるもんもなんも……。」

 

「安心してよ、ラックはほとんど何もしなくて良いから。」

 

なるほど、そいつは楽だ。

 

「それで何をすれば良いんだ?」

 

「ちょっと構ってくれるだけで良いよ。」

 

「構う?……構うって相手にするって事で合ってんだよな?」

 

「ああ、そうだね。」

 

「おい待て、なぜ服を脱ぐ必要がある。」

 

「体が冷えているからね、親切心さ。」

 

なるほど?アフターサービスも完備って訳だな?

 

「どうしてそんなに擦り寄ってくるんだ?」

 

「アハハ……。」

 

胸に頬ずりをしてくる。おかしい、こんなやつだったっけ。……そういえばこの前もテキサスと一緒にやられたな。

 

「構うにしちゃ、激し過ぎじゃねぇか?」

 

痺れる腕を動かして肩を掴むを

 

「フフッ、飼い主の躾がなってないんじゃないかな?」

 

「なるほどな。おーい、テキサスー。この駄犬をなんとかしてくれー。」

 

「君だよ。」

 

「……テキサース、チョコあるぞー。」

 

「ふざけないでくれないかなぁ……!」

 

肩を強く掴まれる。

 

「いっつ……。」

 

「君のあの時、ボクを組み伏せた時の目が忘れられないんだ。

分かるだろう?君だって力が好きなはずさ、じゃなきゃアーツが使えなくなったのに強くなろうと思わないよ、君は力を失っても違う力を求めたんだ。」

 

「そりゃあ、そうだけどよ。」

 

アーツが無くなった時は焦ったし、高い所から降りる時に日常的に使ってたからよく落下した。

 

「その力でボクの力をねじ伏せた時、ボクを抱えて運んでいる時の目が忘れられないよ。あれは蹂躙するのを楽しむ目だ。

それなのに、行為をする時の君はどこまでもボクを見ていて……愛してくれていたんだ。

好き勝手出来たはずなのに、判断をボクに委ねたり、痛がるボクを気遣ったり、普通の女の子のように扱ったり、まるで甘い蜜だ。その蜜がボクの体を侵食するんだ。」

 

「ラップランッ……。」

 

「さあ……躾のなってない駄犬を躾てくれないかな?ご主人様。」

 

俺に甘えて抱き着きながら興奮するラップランドを見て思う。

だから俺今動けねぇんだって。

とりあえずかろうじで動く腕で頭を撫でると嬉しそうに目を細めた。

あ〜……ムラムラしてきた。今日はどこにも行けそうにない。

 

 

 

 

 

 

 

 

・今日の一幕

 

「プラマ……エンヤ、エンシア。」

 

「あれ、お兄ちゃんどうしたの?」

 

一瞬間違えそうになったが、ちゃんと名前を呼べた。では次のステップだ。

 

「どうだ、今日一緒に食事でも。」

 

ひらりと服から何かが落ちる。

 

「むぅ……?何か、落としましたよ。」

 

エンヤが拾ってそれを見る。

 

【妹専門店 シスター☆コンプレックス

50min…18000

お兄ちゃんの事待ってるね♡】

 

「……エンシア、行きましょう。」

 

「待て!これは、違う!私のものではない!」

 

「やはり、お兄様は変わってしまったのですね……。」

 

「ごふっ……!」

 

膝を着き、地面に崩れ落ちる。

これをやったのは間違いなくやつだ……!

靴を鳴らして歩き、執務室へ向かった。

 

「盟友よ!ラックの阿呆はどこへ行った……!」

 

「え?水着美人が俺を呼んでるって叫んでペンギン急便とバイソンでシエスタに行ったけど。」

 

……この恨み、いつか返すぞ。

 

 

 

 







ToLOVEるは好きです。


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八話:いけぇ!抱けぇ!

 

 

 

「バイソンよ。」

 

「はい?」

 

「男は何の為に強くなると思う?」

 

隣に立つ白髪に赤と青のメッシュの入った男性、ラックが珍しく真面目な雰囲気で話す。

 

「……誰かを守る為、でしょうか。」

 

「性欲だ。」

 

この人からちゃんとした答えを求めた僕が悪かったと思う。

 

 

 

 

「着いたぞシエスタ!」

 

時期は少しズレているがそれでも人は多い。

右を見ても左を見ても水着美女……と言う訳ではないが、それなりにいる。

 

「……それでさっきの話は?」

 

「ふっ、人間が死にそうになった時最後に高まるのはなんだ?そう、性欲だ!人間の生存本能!」

 

「はあ……。」

 

「今日でお前を立派なプレイボーイにしてやろう!」

 

「結構です……。」

 

「まあまあ、遠慮すんなって!よし、まずは俺が手本を見せてやろう!」

 

 

 

 

手本と言いながらラックさんはナンパをされている女性に近付く。あれ、シュヴァルツさんじゃ?

ナンパしている男二人の顔面を殴って吹き飛ばすと男に変わってシュヴァルツさんをナンパし始めた。

シュヴァルツさんが何か書いて渡すと戻ってきた。

 

「な?どうよ。」

 

「何を渡されたんですか?」

 

「ふっ……ラブレターだろう?照れ屋さんめ。どれ早速……。」

 

【今度こそトドメを刺します。今夜ここに来てください。】

 

「な?」

 

「な?じゃないですよ!間違いなく殺害予告でしょ!?」

 

「ばっか、トドメって事はハートを射止めるって事だろ?」

 

「心臓を射止める事ですよ!」

 

なんでこんなポジティブなんだ!?

 

 

 

 

「おーい!」

 

振り返るとペンギン急便の面々がやって来た。

うーむ、実に良い。

 

「見てくれよ!シュヴァルツからラブレター貰っちまった。」

 

ヒラヒラ手紙を見せると、全員が微妙な顔をした。

 

「……一応、武器を持ってくと良い。」

 

テキサスが忠告してくれる。まあ、元々持って行こうと思ってたし。

 

「ほ、本当に大丈夫?」

 

ソラが心配して言うが、そこまで心配されるか?俺このメンバーで一番歳上なんだけど。

 

「当然!」

 

笑ってピースサインを向ける。

 

「へぇ、私達を放っておいて、別の女性と遊ぶんだね。」

 

「ピースサインがちぎれる程に痛いぃぃぃ!?」

 

「君がそういう性格なのは知ってるけど、私だって寂しいんだよ?」

 

「OK!とりあえず、とりあえず離そうぜ!バイソンヘルプ!」

 

「あっちの出店行ってみん?」

 

「良いですね!」

 

「バイソン貴様!水着のねーちゃんとぱふぱふするって約束を忘れたのか!?」

 

バイソンが冷めた目で俺を見る。

 

「別に僕は良いですし……。」

 

「なん……だと!?お前はなんの為にここへ来たんだ!?」

 

「旅行じゃないんですか?」

 

「水着美女とお楽しみする為だろう!?」

 

全く、なんとバカなやつなのだ……。

 

「エクシア、テキサス。穴開けるの手伝ってくれる?」

 

「おいおいおい、その成人男性1人が縦に丸々入りそうな穴は一体なんだ?」

 

「すいか割するんだ。ほら、ラック。すいか役なんだから穴に入って。」

 

なるほど。

 

「すいか買ってないのか……!?」

 

「買ってあるけど、そんな事に使ったら割れたすいかが飛び散るでしょ?少しは考えなよ。」

 

「お前はここを殺害現場にするつもりか……?」

 

「冗談さ。」

 

なんだ冗談か。

 

「じゃあその杖を下げてくれ。」

 

ジリジリと距離を取る。

 

「ラックが大人しくしてくれたら良いよ。」

 

「……エクシア!」

 

エクシアなら話せば助けてくれると思って声をかけると袖を引かれる。

 

「あ、ううん!なんでもない。良いんじゃない?」

 

「可愛いかよ。」

 

思わず抱き締める。

今度絶対二人で出掛けよう。

 

「ちょ、ちょっと、恥ずかしいって!」

 

「ラック?」

 

「……はははは!最強の盾エクシアを手に入れたぞ!攻撃出来まい!」

 

「ラックさん、それはちょっと……。」

 

周りからドン引きされた。

 

「んっん!まあ、ここら辺で茶番は終わろう。

お前ら何がしたい?」

 

「海で遊びたい!」

 

「あっちの屋台気になるわ。」

 

「……。」

 

「休みたいです……。」

 

「役所に行きたいな。」

 

「パーティ!」

 

ふむふむ、後半は論外として、ソラが海で遊びたい、クロワッサンが屋台、テキサスはチョコバナナの屋台か。

 

「んじゃ、明確に決まってるし、チョコバナナの屋台行くか。」

 

「良いんじゃないか?」

 

テキサスが真っ先に歩き出す。なんだかんだ浮かれてんだな。

そのまま続いて行くが、誰かはぐれたりしないように一番後ろを歩く。

 

「悪くない。」

 

通信端末で写真を撮る。

後ろ姿しか見えないが、楽しそうな雰囲気が伝わりそうな写真が撮れた。

 

「……もしかして天才か?」

 

「何言ってるのさ、はぐれるから行くよ。」

 

「ん、あれ?」

 

モスティマに手を引かれる。

おかしい、はぐれないように一番後ろにいたのにまるで俺がはぐれてるみてぇじゃんか。

 

「なあ、モスティマ。」

 

「なに?」

 

「俺は保護者ポジだよな?」

 

「問題児ポジかな。」

 

なん……だと……。

これは歳上の威厳が無くないか?

仕方ない、今日は真面目な歳上のお兄さんとして振る舞ってやる。

 

「テキサス。俺が買ってやるよ。」

 

「え?いや、金には困ってない。」

 

「気にするな気にするな。一番歳上の俺が奢るのは普通の事だからな。はははっ!」

 

「いや、本当に大丈夫だ。」

 

バイソンがテキサスに耳打ちをする。

 

「テキサスさん、お願いですから奢られてあげてください。めんどくさくなるんで。」

 

「……わかった。」

 

テキサスがこっちを向く。

 

「じゃあ、これが良い。」

 

「おっちゃん、これ一つくれ。」

 

「あいよ!」

 

おっちゃんからチョコバナナを受け取ってテキサスに渡す。

 

「ほぅら、テキサス。」

 

「あ、ありがとう……。」

 

テキサスが顔を引き攣らせて受け取る。

んん?俺の予想なら微笑むか無表情で受け取ると思ったんだが……。

 

「あ!かき氷、美味しそう!」

 

「仕方ないなぁ、俺が買ってきてやろう。」

 

「え、あ、ありがとうございます。」

 

いちごのかき氷を渡すと微妙な顔をされる。

オーダー通りのはずなんだが……?

 

「ウチあそこの串焼き全部!!」

 

「我儘娘め、任せな。」

 

「あんがとぉー!」

 

それからもバイソンやエクシアの要求を買って、最後にモスティマだ。……なんで出店でアップルパイがあるんだろうな。

 

「じゃあ、あっちの本屋で買ってもらおうかな。」

 

「本屋?ならいつでも買えるんじゃないか?」

 

「今が良いんだ。」

 

そういうもんかね。

 

「この本を見ないで買ってきてね。」

 

「ん、わかった。」

 

旅行雑誌?いや、あいつが買うように見えないからな。

 

「あの、先程の青い髪の方とですか?」

 

急に会計の女性店員が話しかけてくる。

 

「え、ああ、はい。」

 

「お綺麗な方でしたもんね、ドレスが似合いそうですし、お兄さんもかっこいいですからお似合いですね。」

 

「あはは、かっこいいなんて。良ければ今度食事でもどうですか?」

 

店員の手を優しく握り語り掛ける。

 

「ダメですよ、彼女さんに悪いですし。お兄さんがフリーなら考えてましたけどね。」

 

「……あ?か、彼女?」

 

「さっきの女性ですよ。酷いですね。」

 

「……失礼。」

 

本の表紙を見ると【結婚するなら今!超おすすめ式場特集!】と書いてあった。

 

「モォスティィマァァアアアア!!!!」

 

外へ走り出す。俺の中の俺が邪智暴虐なモスティマを倒せと囁いているんだ。

 

「あ、お客様、本を忘れてますよ!」

 

……一応本は買っておこう。

 

「ありゃなんだ!?」

 

「知ってるでしょ?ゼク〇ィさ。」

 

きょとんとした顔で言う。……不覚にも可愛いじゃねぇか。

ちなみに本はエクシアに奪われてみんなできゃーきゃー騒いでる。

 

「違ぇよ。馬鹿、この頭には何が詰まってんだ。」

 

モスティマの頭をノックすると不満げな顔をする。

 

「良いでしょ。昔からの夢なんだ。」

 

「夢……?」

 

こいつにそんなもんあったのか?

 

「……覚えてないの?」

 

珍しく本気で不機嫌な顔になる。そう言われても身に覚えがねぇんだけど。

 

「悪ぃ、教えてくれねぇか?」

 

「ダメ。」

 

鋭い目で睨まれる。

弱った。お前にそんな目で見られるのは嫌だ。

 

「わかったわかった……なんとか思い出す。」

 

めんどくさくなってため息を吐いた。

 

「飲み物買ってくるね。」

 

「ああ行ってこい行ってこい。」

 

さて……。

 

「なあなあ、エクシア。お前、モスティマの夢知ってる?」

 

「教えてあげなーい。」

 

「……新しい銃買ってやるからさ。」

 

「ダメダメ。こればっかりは教えられないよ。……私の夢でもあるんだから。」

 

エクシアが顔を赤くして言う。顔を赤くする事か……。

 

「わかった!AV女優だ!」

 

顔面を殴られた。

 

「それ、モスティマに言ったらダメだからね。」

 

「OK……。

ソラ、鼻曲がってない?大丈夫?」

 

「う〜ん、大丈夫だよ!」

 

「サンキュ。」

 

鼻をぐにぐにしつつ周りを見る。あいつどこまで言ったんだ?

 

「悪ぃ、ちょっとモスティマ探してくるわ。」

 

「ああ。」

 

飲み物くらいそこら辺に売ってんのに、どこほっつき歩いてんだ?

 

「なあ、俺と遊ぼうぜ〜?」

 

「遠慮しようかな。」

 

モスティマの声が聞こえて見ると、なんか男に絡まれていた。

 

「友達と来ているんだ。悪いけど付き合えないかな。」

 

「ちょっとちょっと、あんな寂しそうな顔させる友達よりも俺と遊んだ方が楽しいぜ〜?」

 

「……そんな顔してないよ。」

 

「こんな顔してっとそう見えるっしょ。」

 

男がモスティマの顎を掴む。

……気に入らねぇな。ひっじょ〜〜に気に入らねぇ。ナンパの仕方がどことなく俺と似ているとか、やり方が参考になるとか思うが、とりあえず。

 

「よぉ、ちょっとその手を放してくんねぇか?」

 

モスティマに触るこいつが一番気に入らねぇなぁ。

 

「え、何あんた。もしかして知り合い?」

 

「そうそう、だからもうどっか行ってくれや。」

 

「ちょちょちょ、待って待って。じゃああんたがこの人をこんな顔にしたって訳っしょ?

ねぇ、やっぱ俺と一緒に行かね?」

 

男が今度はモスティマの手首を掴む。

……落ち着け、今すぐに首を切り落としたいくらいだけど、クールになれよ。

 

「だからそいつに触ってんじゃ━━━━」

 

「男の嫉妬はみっともねぇし?」

 

嫉妬……?誰が?俺が?モスティマが触られて嫉妬しただと?

モスティマが大きく目を開いて俺を見ていた。

 

「ばっ……!てめぇ、テキトー言ってんじゃねぇ!?」

 

「好きな女の子を触られてキレてんじゃん?」

 

好きな女の子?確かに、モスティマは好きだ。でも、家族としての……はず。

 

「っあぁ〜!こいつは俺の大切な女だから!じゃあな!」

 

「ちょっ!?」

 

「眠ってろ!」

 

顎に拳を掠らせて気絶させる。

いけねぇ、感情的になり過ぎた!?

 

「ラック。」

 

「あ〜……戻ってくんの遅かったから……気になったってだけで。さ、先に戻ってろ。」

 

銃撃って落ち着かねぇと、この辺に射撃場あったろ。

一時間くらいやったけど、いつもよりスコアがかなり低かった。

メッセージでもうホテルに着いたらしいから俺もホテルに向かった。

 

「……戻ったぞ。」

 

「ちょっと、どこに行ってたんですか?モス姉が戻って来たのに探しに行った人が戻って来ないなんて。」

 

「うっせ。」

 

絡んで来たバイソンの顔を押し退ける。

部屋のドアを開けると目の前にモスティマの顔が広がった。

 

「ぅ、お……あ!?」

 

大きく仰け反って後ろに思いっきり倒れる。

なんだってそんな所に居やがる。

 

「おかえり。」

 

「……顔、見んじゃねぇ。」

 

声のトーンがいつもより軽い。ご機嫌かよ。

 

「あ、おかえりー。モスティマの機嫌が良くなってるけど何したの?」

 

「なんもねぇ。それより、酒あるか?」

 

「もっちろーん!冷蔵庫にたくさんあるよ!」

 

冷蔵庫を開けてビールを取ると一気に飲む。

 

「〜〜っくぁぁあああ……!」

 

「ダメな大人だ……。」

 

「大人ってのは酔わねぇといけねぇ時があんだよ。」

 

飲んでは次の缶を開け、また開ける。う〜い、沁みるぅ〜。

 

「ちょっと、早すぎますって!」

 

「邪魔だ邪魔だ。飲まなきゃやってらんねぇ。」

 

頭ん中ぐっちゃぐちゃにしねぇと。

 

「じゃあ、飲んでるだけじゃつまんないし、ゲームしよ!」

 

「ええな、何するん?」

 

「王様ゲーム!」

 

はいみんな集まってー、とエクシアの所に集まってテキトーな物に番号を書く。

 

「王様だーれだ!」

 

「おっ、ウチや!

最初やから軽めに……一番と五番がハグ!」

 

「私か。」

 

「え!?テキサスさんとハグ!?やったぁ!」

 

ソラがめちゃくちゃ嬉しそうだった。

二回戦目。

 

「私!三番が王様に膝枕!」

 

「おや、私だね。」

 

エクシアがモスティマの膝の上でゴロゴロする。良いなぁ……じゃねぇわ。んな事思ってもねぇ。

三回戦!

 

「私だ。二番が王様とポッキーゲーム。」

 

「俺か。……ポッキーゲームが何か知ってるのか?」

 

「ラップランドがポッキーゲームをするとポッキーが普段より美味しくなると教えてくれた。」

 

「なるほど。」

 

周りを見ると、ソラが血涙を流すほど俺を睨み、エクシアとモスティマは面白くなさそうな顔をしていた。

まあ、いいか。

ポッキーを互いに咥え、サクサク食べ進んでいき、最後にキスをして終わる。

 

「あの、動じ無さ過ぎじゃないですか?」

 

「こんなもんだろ。テキサス、どうだった?」

 

「ほんの少し甘くなった気がする……?」

 

「そうか、ソラの目が怖いからソラでも試してみてくれ。」

 

「テ、テキシャシュしゃん!?」

 

あ、逃げた。

四回戦目。

 

「あ、私だね。じゃあ……一番が好きな異性にプロポーズ。あ、冗談でね。」

 

い、ち番……。

 

「えー、一番だれー?」

 

「ウチやないで!?」

 

「私も違う。」

 

「私じゃないよ。」

 

「僕でもないです。」

 

しんと静まり返る部屋の中で喉が鳴る。

 

「お、俺だ……。」

 

「だよね。ほら、プロポーズしなよ。」

 

だ、誰にする!?……閃いた!

通信端末を開き、連絡帳の一人に電話を掛ける。後で詫びるから許してくれ!

 

『……はい。』

 

「あ、もしもし、メランサー。

結婚しようぜ!」

 

『えっ……?』

 

「悪ぃ!じょうだ……切れた……?」

 

え、どうすんの?

 

「あの、これ。」

 

「じゃあ、次の五回戦始めよっか。」

 

「電話切れた……。」

 

「さんせ〜い!」

 

……メッセージ。送っとくか。

 

 

 

 

「メランサ、どうしたの?」

 

「ラックさんでしょ?」

 

「顔が赤いけど、大丈夫?」

 

メイリィとフェンとビーグルとで女子会をしてたら、まさかあんな電話が来るなんて……。

 

「プロポーズ、されちゃった。」

 

「「「えぇー!?」」」

 

 

 

 

「そろそろ……良いんじゃないか?」

 

あれから酒一気飲みや、壁ドンやら色々やったが、テキサスが指名された時が一番大変だった。ソラが周りに敵意振り撒くんだぜ?

 

「最後の王様はウチやー!むっふっふ〜……。」

 

「クロ姉?なに考えてるの?」

 

「ウチには分かるで!全員の番号が!!ラブコメの波動が!」

 

何言ってんだこいつ。

 

「むむむっ!三番が!」

 

げっ、俺じゃん。マジで見えてるとか無いよな?マークとかあるか?

 

「一番と四番にちゅーや!」

 

ああ……?

 

「やったー!いっちばーん!」

 

エクシアと?

 

「ふふ、私だ。」

 

モス、ティマ……。

 

「ウチにはわかっとるで〜?ほら、ちゅーするんや!」

 

クロワッサンがちゅーコールを始める。

 

「いっつもかる〜くしとるんやからサッと出来るやろ!」

 

「う、うるせぇ!ちょっと黙ってろ!」

 

エクシアとくらい家族とするようなもんだし。モスティマだって家族だし。

好きなのはおかしな話じゃなくて。

軽く……軽く……。

 

「ラック?」

 

かる、く。あ、結構まつ毛長いんだぁ……。

 

「大丈夫……?」

 

「タイム。」

 

やっぱりモスティマを先に。

 

「はい、いいよ。」

 

こいつなんてよゆー……で、目が綺麗だぁ。

 

「クロワッサン、変えてくれ。」

 

「ダメやでー、王様の言う事は〜?」

 

「ぜ、ぜったーい。」

 

無理無理無理無理!!絶ッ対無理!

 

「テキサスにしとったみたいにかる〜くすればええんよ?」

 

「俺ら三人除いて出て行け!」

 

息を荒らげて叫ぶ。人に見られたままとか尚更無理だって!

 

「え〜!じゃあ見れんやん!」

 

「てめぇらが見てんなら俺はこのホテルを爆破する!」

 

「テロですよ!?」

 

「散れ散れ!見せもんじゃねぇんだよ!

スリーカウントだ!スリー……。」

 

ハンドガンを構える。ゴム弾だから安心しろ。

 

「ツゥー。」

 

「ワーン!」

 

バタバタと全員出て行った。

 

「あのさ、ラック。もしかして嫌だった……?」

 

「嫌とかじゃなくて……分かんねぇ……頭ん中ミキサーかけられたみてぇにさな感じで……。なんでかお前らの顔見れなくて。緊張するってか、なんつーか……。」

 

「私達の事は好き?」

 

「それは、好きだけどよ。家族として好きなはずなんだけど。」

 

そう言うと二人に肩を掴まれる。

 

「へぇ、そうなんだ。」

 

「まだ分かってないみたいだね。」

 

「へぁ?待て、どこに連れてく気だ?そっちは寝室だろ。」

 

「ラックが一番慣れてる所にでしょ?」

 

「ごめんって、俺が悪かったから。」

 

「何に謝ってるのかな?」

 

「ちゅーするから!するからタンマ!家族にそんな事むっ……!?」

 

手で口を押さえられる。

 

「分からせる必要がありそうだね。」

 

「責任取ってもらうからよろしくね?」

 

ベッドの上に投げられる。

 

「女の子の体は見慣れてるでしょ?」

 

無理。

 

「緊張する必要ないよね?」

 

許して。

 

「ああぁぁぁぁ……あっ━━━━━━━」

 

 

 

 

 

 

 

 

・今日の一幕

 

「……来ませんね。」

 

手紙、読んでないのでしょうか。

海沿いの人から見えない砂浜で一人体操座りをする。

 

「……思っていたより、寂しいものですね。」

 

次見付けた時に問い詰めましょう。

 

 

 







タイトルはラブコメ読んでる時の俺の気持ちです。


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九話:そこのお前、安易なネタは良くないぜ!

 

 

 

「家族とヤッちまった……母さんになんて言えば良いんだ……。」

 

シエスタからロドスに帰って来た俺はかなりテンションが下がっていた。だって、好きだと言われても家族だってずっと思うようにしてたし……もう家族としては見れないよなぁ。

 

「はぁ……クロージャ、持ってきたぞ。……いねぇし。」

 

クロージャに頼まれて荷物を持ってきたのに本人がいねぇとどこに置けば良いかわかんねぇじゃん。

 

「テキトーに置いとくか。」

 

ダンボールを机に置くと、隣に小さなボトルがあった。

 

「なんだこれ。【飲むな】?へぇ〜、ほ〜?」

 

飲むなって事は飲めって事だよな!

グイッと一気に飲む。

 

「んげっ!まっず!?」

 

なんだこのきもっち悪ぃ味!!

 

「んぉっ?急に……眠く……。」

 

 

 

 

ドクターからの急な呼び出しでほとんどのオペレーターが集められた。

 

「えー、あー……急な呼び出しで来てくれてありがとう。それでだな……。」

 

おや?あのドクターの後ろの男の子は……?

 

「ねぇ、ドクター。その子もしかしてラック?」

 

白い髪にサンクタの特徴である輪と羽。そしてあの顔はずっと昔に見ていた顔だ。

 

「ちょいちょい、髪の色が一緒やからってそんないきなり子供になる訳「そうだ。」嘘ぉぉ!?」

 

周囲がざわつく。

 

「ほら、自己紹介だ。」

 

「あ、あの、ラック。八歳です。」

 

それだけ言ってすぐにドクターの後ろに引っ込む。

 

「あれがラック?にわかに信じ難いな……。」

 

「へぇ、昔のラックは恥ずかしがり屋なのかな?」

 

私はラックの近くに行ってしゃがんだ。

 

「ラック、私の事分かるかな?」

 

ほら、とツノを指差す。

 

「……モスティマちゃん?」

 

「うん、そうだよ。」

 

「モスティマちゃんだぁ……!」

 

ジャンプして抱き着いてくる。大人の時にこれくらいしてくれたらなぁ。

 

「あそこにエクシアもいるよ。」

 

「エクシアちゃんも?」

 

エクシアの方を向くと、走って行った。

 

「エクシアちゃんだぁ!なんでこんなに大きいの!?この前歩けるようになったばっかりなのに!」

 

「あ、あはは……そんなに小さい頃なんだ……。」

 

エクシアが苦笑いをするとドクターが咳払いをする。

 

「ラックがクロージャの薬を飲んだ結果、子供になってしまった。クロージャはケルシーに説教されている為、俺が代わりに連れてきた。

そして、ラックがいつ元に戻るかもわからない。その間、誰かに世話をしてもらいたい。誰か立候補はいるか?」

 

ばっ!と私を含めた何人かが手を挙げる。

 

「……俺が決めると喧嘩しそうだから、みんなで仲良くやってくれ。では、解散。」

 

みんなで話合って決まるかな……?

 

 

 

 

「チェンおねーさん、おはようございます。」

 

「ああ、おはよう。朝食の前にストレッチをしよう。」

 

思わず立候補をして朝の当番となった。子供の頃のやつだと聞いてやんちゃかと思ったが……大人の頃よりも礼儀正しいのではないか?

 

「んっんっんっ……。」

 

「あまり反動は付けない方が良いぞ。」

 

「はぁい……。」

 

少し人見知りなのだろうか?今じゃ考えられないな。

 

「和食と洋食、どちらが良い?」

 

「洋食っ!」

 

手を繋いで食堂へ向かう。珍しいのか周りをキョロキョロと見ている。……可愛いな。

 

「いただきます。」

 

「天に召します我らが主に感謝を……。」

 

い、祈り始めただと!?

食堂がざわつく。前に自分にとっては酒が主だと言っていたのに……。

食べている間も礼儀正しかった。

 

 

 

 

「メランサおねーさん。何して遊ぶの?」

 

午前中の遊び相手になったけど、何をすれば良いんだろう。こんな時メイリィならすぐに思い付くのに……。

子供の頃……おままごと?

 

『メランサー、結婚しようぜ!』

 

あの言葉を思い出して、パタパタと顔を扇ぐ。

い、今は子供だから、気にしないようにしないと。

 

「大丈夫……?」

 

私の額に手を当てて、心配そうな顔をする。

 

「うん、大丈夫。ありがとう。

ラックくんは、良い匂いとか好き?」

 

「よくわかんない……。」

 

「あ、そっか。わからないよね。」

 

「でも、メランサおねーさんの匂いは好きだよ!」

 

「はうっ……!」

 

きゅっと胸を押さえる。とっても可愛い顔で口説かないでほしいかな。……ラックさんは昔からのこうだったのかな?

 

「じゃ、じゃあ、一緒にアロマ作ってみない?」

 

「あろま?」

 

「えっと、とってもいい匂いがするものだよ。」

 

「作る!!」

 

元気よく言って、一緒にアロマを作っていき、時間はかかったけど、なんとか出来た。

 

「はい!」

 

「え……これは?」

 

「メランサおねーちゃんにプレゼント!一緒に遊んでくれてありがと!」

 

ぎゅっと抱き着いてくる。子供特有の高い体温がぽかぽかして落ち着いてくる。

 

「どういたしまして、私からもありがとう。」

 

今なら、大丈夫。そう思って抱き締め返した。

 

 

 

 

「お昼ご飯の時間だよー!」

 

「やったー!」

 

「ラックくん、何食べたい?グムがなんでも作ってあげるよ!」

 

「本当?じゃあオムライス!」

 

「まっかせて!」

 

前も思ったけど、ラックさんってオムライス好きなのかな?じゃあいつもは包んでるけどこっちの作り方してみようかな。

チキンライスを更に盛り付けて、その上にぷるんとしたオムレツを乗せる。

 

「よぉ〜く見ててね!」

 

スッとオムレツに縦に包丁を入れると、お花が開くように広がって、チキンライスを覆い隠していく。

 

「グム特製オムライスの完成!」

 

「すっごーい!!」

 

ぺちぺちと拍手をしてくれる。

えへへ、こんなに喜んでもらえると嬉しいなぁ。

配膳をすると、朝ご飯と同じく祈ってから食べ始めた。

綺麗に食べるなぁ、好き嫌いとかないのかな?

 

「ラックくん、苦手なものってある?」

 

「ん〜、苦いの……。」

 

あ、そっか。子供だからピーマンとか苦いのはダメなんだね。

ラックさんの時はなんでも美味い美味いぅて食べてたから気付かなかったよ。

 

「ご馳走様でしたー!」

 

「綺麗に食べてくれてありがとう!」

 

頭を撫でると嬉しそうにする。

可愛いなぁ。こんなに可愛いのに、大人になると、かっこよくなるんだから不思議かも。

 

「グムおねーさんのご飯美味しかった!」

 

満面の笑みで感想を伝えてくれる。

 

「そっかそっか!」

 

お昼は終わっちゃったけど、もう少しお話しても良いよね?

 

 

 

 

昼過ぎ、のんびりしたくなる時間。

 

「フロストおねーさん。この曲は?」

 

「ん、最近の私のお気に入りだ。」

 

ゆっくりする為に膝にラックを乗せて音楽を聴く。

ラックも音楽が好きなのか、リズムに乗って鼻歌を歌う。

 

「僕も歌うの好きなんだぁ。お母さんが、よく寝る時に子守唄を唄ってくれるんだよ。」

 

「そうか。」

 

ああ、知っているさ。酒を飲んだ後に私にもよく唄ってくれていたからな。

曲を止めて……うろ覚えだが、確かこうだったか?

 

「〜♪」

 

「あ、そうそう、それ。モスティマちゃん達にも唄ってあげてるんだぁ……僕が一番お兄ちゃんだもん。」

 

そういうと目を擦り始めた。眠くなったんだろう。

 

「膝を貸すから、眠いなら寝ると良い。一時間くらいで起こそう。」

 

「うん……おやすみ。」

 

以前に見かけた、グムに膝枕をしている時のように頭を撫でながら子守唄を歌う。

ああ、こんな時間も悪くない。

 

 

 

 

「サクサクサクサク……。」

 

子供とは、案外可愛いものだ。

大人のラックに食べさせるのも悪くないが、小さなラックに食べさせるのはまた新鮮味がある。

 

「テキサスおねーさんも、お菓子食べ過ぎたら夜ご飯が食べられなくなるからあんまりたくさん食べちゃダメだよ?」

 

「ああ、そうだな。」

 

そんな事を言うが、ポッキーを差し出すとぱくっと咥える。

 

「あんまり、食べちゃ、ダメなんだよぉ……。」

 

子供の頃は裕福じゃなかったと聞いていたから、あまりこういうものを食べた事がなかったんだろう。差し出した分だけもりもりと食べていく。

 

「おいしぃぃ……。」

 

食べている時にサンクタの輪が目に映る。

エクシアにもあるが、触った事はない。そもそも触れるのだろうか?

ほんのちょっとした興味で輪に触ってみると、ビクッと大きく跳ねた後に少し離れる。

 

「……あんまり、触っちゃダメ。」

 

「なぜだ?」

 

「だ、だって、お母さんが、輪と羽に触って良いのは、結婚する人とかじゃないとって……。」

 

みるみるうちに顔を赤くして俯く。

エクシアは蛍光灯と言っていたあれにそんな役割があったのか。

 

「すまない。代わりに、そうだ、私の尻尾に触れてみるか?」

 

レッドが触りたがるから、それなり触り心地は良いはずだ。

 

「良いの……?」

 

もしかして、輪や羽と同じだと思っているのか?

 

「ああ、構わない。」

 

恐る恐る尻尾に触れる。多少違和感があるが、優しく触られているから気になる程ではない。

 

「ふわぁ……気持ち良い……。て、テキサスおねーさん。」

 

「ん?」

 

「ちょ、ちょっとなら、輪と羽触って良いよ……?」

 

ぷるぷる震えながら言う。自分だけ触らせてもらうのに気が引けるのだろうか。

 

「わかった。」

 

改めて輪に触れる。意外にも弾力があるらしく、指が奥に沈んでいく。

 

「あっ……あっあっあっ……。」

 

ラックが尻尾に抱き着いて震える。少しゾワゾワしてくる。

それにしてもこの輪、なかなか癖になる手触りだ。

そうだ、羽はどうなのかと反対の手で羽を触る。

 

「ぅあんっ……!」

 

……?今のは、ラックの声か?

羽は思っていたよりも硬いな。形によって手触りも違うのだろうか?

カリッと爪が引っ掛かる。

 

「んにっ……!?」

 

尻尾に顔を埋めて先ほどと違い、細かく震えるのではなく、大きく震える。

カリカリと弄り続けているとどんどん声が大きくなる。

 

「あっ……やっ……あっ……!!」

 

ドーナツに見えてきた。大丈夫かと思いつつ甘噛みしてみる。

 

「やっやだっ……テキシャスおねーひゃんっ……!」

 

無味だ。しかし、食感は悪くないかもしれない。

 

「は……ぁっ……!」

 

「二人ともー!パーティの準備できたよって何してんの!?」

 

ラックを取り上げられた。温もりが消えて少し寂しいような。

 

「テキサス!サンクタの輪と羽に触っちゃダメじゃん!ラックもなんで触らせてたの!?」

 

「い、いや、ラックが良いと言ったから……。」

 

「ラック……本当?」

 

「んっ、ふぅ……ちょっとなら、良いかなって……。」

 

「お母さんにも言われたでしょ!そんな簡単に触らせちゃダメだって!」

 

「ぅう〜……ご、ごめんなさぁい……。」

 

エクシアが叱りつけるとグズグズと泣き始めてしまった。

 

「あ、ち、違うんだよ!?ただ、ラックの為だと思って……!」

 

ふざけて非難の目を向ける。

 

「も、もー!テキサスが発端なんだから手伝ってよー!」

 

仕方ないな。

 

 

 

 

「パーティだー!」

 

「だー!」

 

あー、泣き止んでくれて良かった!

一時はどうなるかと思ったけど、なんとかなって一安心!

 

「ラックー!って、あー!?」

 

ラックの周りには人集りだ出来ていて、みんなが自分の好きな物や作ってきた料理を食べさせてる。

私だってアップルパイ作ってきたのに!

 

「美味しいですか?」

 

「うん!ありがと、アーミヤおねーさん!」

 

「これはどうかな?」

 

「わあっ、これクーリエおにーさんが作ったの!?凄いね!」

 

「こっちもどうだ。」

 

「美味しいよ、アッシュおじさん!」

 

「お、おじさん……わ、私はまだ……。」

 

もごもごと忙しく口を動かしてるのがハムスターみたいで可愛いなぁ。

 

「もぐ……もぐもぐ……もぐもぐもぐ……。」

 

あ!いけない、このままだとみんなの料理でお腹いっぱいになりそうだ!

 

「ラック!これも食べて!」

 

ズボッと口に突っ込んだら一瞬苦しそうにしたけどすぐに口を動かした。

 

「これ、エクシアちゃんが作ったの?」

 

「う、うん、美味しい?」

 

「うんっ……お母さんのアップルパイと同じ味だぁ。」

 

今までで一番の笑顔を浮かべる。

 

「へへっ、やっぱり私が一番だね!」

 

……テキサスが触ってたんだし、私も触って良いよね?

周りの人混みに紛れて、つつっと輪に指先で撫でる。

 

「ぴっ!?」

 

驚いて周りを見る。誰がやったのかわかってないみたい。

ちょんっと羽をつつく。

 

「ひゃんっ!?だ、誰ぇ、輪と羽触ってるの?」

 

不安げに周りにいる人に聞いているけど、みんな違うって言ってる。

外から撫でたりつついたりしてみる。

 

「も、もー!僕の輪と羽触んないでよぉー!」

 

ぎゅっと丸まって泣き出した。あ、あれ?やり過ぎちゃった?

 

「エクシア?」

 

「も、モスティマ?」

 

「ちょっと、話そうじゃないか。」

 

「……や、優しくしてね?」

 

「もちろん。」

 

優しくなかった。嘘つきぃ!

 

 

 

 

さあ、やっとボクの番だ。白熱したじゃんけんに勝ってお風呂に入る権利を手に入れる事ができたよ。

肝心のラックはさっきのエクシアのイタズラのせいでぐずってるけどね。

ああ、でもそんな君も可愛いと思える。

 

「ほら、早く服脱ぎなよ。」

 

「……触らない?」

 

チラッとこっちを見る。輪と羽の事かな?サンクタにとってはかなり重要な事みたいだね。

 

「君の許可が無いなら触ったりしないよ。」

 

頭を撫でるとふわりとした感触がする。大人の彼の髪は硬いけど、子供の頃は柔らかかったみたいだ。

 

「まずは髪を洗おうか。目が痛くなるから目を瞑るんだよ?」

 

「んっ。」

 

子供とはいえ、ラックがこんなに大人しくしているなんて意外だね。もっと好戦的な性格なのかと思ったよ。

髪と体を洗って、自分の方を洗おうとすると、ラックが声を上げた。

 

「じゃあ、ラップおねーさんは僕が洗うね!」

 

「ああ、いいよ。」

 

自分がやってもらったから相手にお返しって事かな?

精一杯やってるみたいだけど、子供の力だからこのくらいが丁度良いかな。

そう思ってたら耳を思い切り掴まれた。

 

「んっ……!」

 

「あ、ご、ごめんなさい……大丈夫?」

 

不安げにボクを見てくる。

寧ろラックになら触ってほしいくらいだよ!

 

「ボクの事は気にしないで。」

 

「う、うん。」

 

それからも何度がぐにぐにと耳を弄られる。

ああ……!子供の頃から才能みたいなものはあったんだね!

シャンプーを流すと、ラックがタオルを手に取る。体も洗ってくれるのかな?

 

「……ラック、タオルは使わなくて良いんだ。」

 

「え?でもさっきおねーさんが使ってたし……。」

 

「男の子と女の子は違うからね。手でやってほしいな。」

 

「そうなの?」

 

「うん。」

 

「わかった!」

 

ふふっ、とても純粋な子だね。

ボディーソープを手に付けると、まず背中を手で洗い始めた。

 

「その調子、上手だよ。」

 

「ほんと?えへへ……褒められちゃった。」

 

そのまま張り切って腕も洗ってくれて、前へ来た。

 

「えっと……こ、こっちもするの?」

 

「当然だよ。どうしたの?」

 

わざとらしく胸を揺らすと顔を真っ赤にしてしまう。とても可愛いね。まだ成人女性は母親しか見た事がないのかな?

 

「ほら、早く湯船に入らないとボクも風邪引いちゃうよ?」

 

「あっ、う、うん……。」

 

遠慮がちに首に手を当てる、そこから鎖骨、そして胸に手を滑らせる。

 

「わ、わわわ……。」

 

ふにふにた控えめに胸を触られる。

 

「んっ、もっと力を入れてくれないと綺麗にならないよ。」

 

「ご、ごごごめんなさいっ!」

 

ぎゅっと小さな手で胸を揉まれる。それから何度も胸を揉むうちに背けていた顔をこっちに向けてじっと見ながら揉み始めた。

アハハッ!あのラックがボクの胸に夢中になってるよ!ああ、これは良いね、素晴らしいよ!きっと頭の中はボクの胸の事でいっぱいになっているんだろうね。

 

「……くちゅっ!」

 

おっと、つい興奮してしまったみたいだ。そろそろ湯船に浸からないとラックが風邪を引いちゃいそうだ。

 

「ありがとう。じゃあ、お湯で洗い流したらお風呂に入ろうか。」

 

「ぇあっ、う、うん……。」

 

どこかぼーっとした顔で頷くとシャワーで流してくれて、湯船に浸かる。

もちろん、ラックはボクの膝の上に座らせてるよ。

抱き締めると後頭部が胸に当たって、その度にラックが驚いたみたいに跳ねる。

 

「ボクの胸、気になる?」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

「ふふっ、怒ってる訳じゃないよ。

ただ、女の子の胸は輪と羽くらいに大事な所だからね。」

 

「え……?でも僕さっき……。」

 

「ボクがラックの事が大好きだからだよ。

ラックはボクの事好き?」

 

「……うん、好きぃ。」

 

照れているのか頬を押さえて顔を揺らす。

 

「嬉しいね。じゃあ、ボクの胸を触らせてあげるから、輪と羽、触ってもいいかな?」

 

「え?う〜ん……。」

 

うんうんと悩み始めた。

テキサスとエクシアが触ったのにボクが触れないなんてズルいじゃないか。

 

「お願いだよ、ダメかな?」

 

「……ん。」

 

こくんと頷く。

ラックをこっちに向けて抱き着きやすいように手を広げる。

 

「さあ、おいで。」

 

恐る恐る抱き着いて来る。

ハハッ、やっとラックが自分からボクの所に来てくれた。

ラックを抱き締めて、手が使えないから口を大きく開いて輪に噛み付く。

 

「あっ……!?や、やだやぁだ、やっぱりいやぁ……。」

 

胸の中で暴れるラックを見て口を離す。

 

「そっか……ラックはボクの事が好きじゃないんだね……?」

 

わざとらしく鼻を鳴らす。もちろん嘘泣きさ。

そうすると、ラックの瞳が揺れる。

 

「ううん、好き、好きだよ。好きぃ……。」

 

さっきよりも強く抱き着いて来る。子供を動かす事なんて簡単だね。

また大きく口を開けて噛み付く。たまに声を出すだけで何も言わなくなった。

 

「うぅ〜……。」

 

ちょっと可哀想かなって思って口を離して頭を撫でてあげると安心したのか、体を預けてきた。

 

「……ぉかぁさん。」

 

「っ……。」

 

きゅんっと何かを感じた。これが、母性ってやつなのかな?ふふっ、なかなか悪くないんじゃないかな。

それからはお風呂から出るまでずっと頭を撫でてあげたよ。

 

 

 

 

「モスティマちゃぁん……。」

 

眠そうに目を擦りながら甘えて来る。

今日は初めての事がたくさんあったから疲れたんだね。

一緒に布団に入るとラックのお腹に手を当てて、一定のリズムで叩く。

 

「今日は楽しかった?」

 

「うん……みんな優しかったもん……。」

 

ふにゃりと微笑む。よっぽど楽しかったみたいだ。

 

「……ねぇ、ラック。あの事覚えてるかな?」

 

「なーに?」

 

八歳って言ってたから、もう言ってるはずだ。

 

「えっと……結婚するって話。」

 

「……うん、覚えてるよぉ。僕ね、モスティマちゃんが大好きだからね。大きくなったらモスティマちゃんと結婚するんだぁ。」

 

そう言って、抱き着いて来る。

やっぱり、子供のラックはちゃんと覚えててくれたんだ。大人のラックは忘れてるみたいだけど。

 

「でもね、今モスティマちゃん大きいから、僕が大きくなるまで待っててほしいなぁ……。」

 

「ふふっ、分かってるよ。」

 

「ほんと?絶対絶対約束だからね……?」

 

「絶対絶対約束だよ。」

 

「じゃあ、早く大きくなるね……。」

 

そう言って、眠ってしまった。

あーあ、大人のラックは酷いなぁ。私は約束覚えてるのに。

 

「まあ、ラックが出て行くまで私も忘れてたけどね。」

 

子供の頃に約束して、それが嬉しくてラックのお母さんと花嫁修業だってよく手伝ってたっけ。

それから大きくなるにつれて忘れていって、ラックがいなくなってからアルバムを見てたら思い出したんだ。

子供の頃はただ好きだって気持ちで言ってたけど、今は本当に愛情を持って好きだって言えるよ。ラックのお嫁さん、これが昔から変わらない私の夢だよ。

 

 

 

 

「……懐かしい夢見たな。」

 

ガキの頃の夢だ。……にしてもロドスのやつらがいた気がするけど、気のせいか?

 

「ぅん……。」

 

「……あ?」

 

なんだってモスティマが俺の部屋で寝てやがる?

 

「違ぇ、ここモスティマの部屋か。」

 

そういえば変な薬飲んでからの記憶がねぇわ。

 

「とりあえず、顔洗うか……。」

 

洗面台に向かって鏡を見る。

 

「は……?な、なんじゃこりゃあああ!?」

 

俺に真っ黒な輪と羽が出ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

・いつかの一幕

 

「フロストノヴァ……!」

 

フロストノヴァとの戦いは苛烈を極めたが、辛くも勝利する事が出来た。しかし、彼女の火は今にも消えそうになっていた。

 

「私も……ロドスへ……。」

 

「待っていてくれ!今、今ラックの血液から作った試験用抑制剤を飲ませてやるから!そしたらロドスへ行って治療をするんだ!」

 

携帯している小さなボックスから赤いカプセルを取り出す。まだ人へ対して投与した事はない、結果も不明瞭な抑制剤だ。震える手で彼女の口へカプセルを持っていく。

 

「なぁ、ブレイズ。ふと思い出した事を語っても良いか?」

 

「良いけど……今する?」

 

「丁度思い出したんだよ。良いだろ?

それでな、せ〇液と血液が似ているってのを見かけたんだ。」

 

ぴたりと手が止まった。

 

「ちょっと……セクハラよ?」

 

「……最低です。」

 

「待て待て、ちゃんとソースがあるんだって。掲示板に。」

 

「どうして掲示板の情報を鵜呑みにしちゃったの!?」

 

「他に情報がなかったから……。」

 

これを、本当に彼女に飲ませても良いのだろうか?

 

「……ドクター……私の体は汚れても、心は共にある。」

 

「え、今汚れてるって言ったか、おい!?」

 

「さっきの話したらそう思うでしょ。」

 

「このっ、さっきの戦いがしんどかったからちょっと言ってやっただけなのに……。」

 

フロストノヴァにカプセルを飲ませる。

 

「すまない……!」

 

「あり、がとう……。」

 

「感動の場面だぁ……。」

 

「最低。」

 

「最悪です。」

 

ラックがうんうん頷きながら拍手する。人の気も知らないで……!

通信端末を取り出して、モスティマにメッセージを送る。

 

『ラックがやらかした。好きにしてくれ。』

 

『任せてよ。』

 

秒で返ってきた。

 

「おい、ドクター、てめぇ何した!?」

 

横から端末を奪うと画面を見て絶望する。

 

「ばっ!?このっ、おまっ……!!

……も、モスティマ?いや、違うって、単純にからかっただけなんだって……待て、後ろに何人いる?吐け。……うっそだろ。」

 

他にも呼んだのか。

 

「え?どうだったって?

そりゃあ、フロストノヴァもとい、バニーちゃんのおっぱいは最高だったぜ!戦闘中に何回か狙ってみたけど触れなかったのが残念だ!

え、そうじゃない?も、モスティマ?モスティマさん!?……切れた。」

 

そんな事しようとしてたのか。

 

「あのー、ドクター。いや、ドクター様。なんとか言って頂けないでしょうか?」

 

へらへらと頭を下げてやってくる。

 

「断る。」

 

「ぶ、ブレ「嫌だよ。」まだ言ってねぇ!」

 

「CEO様、どうか慈悲をー!」

 

土下座までするか……いや違う、金をチラつかせているのか!?

 

「……デザートも付けます。」

 

「………………ダメです。」

 

後でアーミヤには何かご馳走しよう。

 

「やあ、楽しそうな事してるね。」

 

「ひぇっ、モスティマ……?な、なんで?早くない?もう着いたのか?」

 

ラックがライオンに捕食される寸前のうさぎのように震え出す。……本当にどうやって来たんだ?

 

「ご、ごめんなさい!やめろ!許して!

……てめぇ、こっちが下手に出てると思ったらいい気になってんじゃねぇぞ!かかってこい!」

 

そう言った瞬間、頬を銃弾が掠め、足が凍り、鼻先に杖を突き付けられ、首に刀が当たり、頭上を剣が舞い、胸に剣が軽く刺さった。

……メランサとグムは来てないのか、良かった。

 

「す、すみませんでした。」

 

両手を上げて降伏を示すと全員に担ぎあげられて運ばれて行く。

 

「あー!許してぇ!やめてぇ!俺が悪かったですぅー!あの部屋は嫌だあああぁぁぁ……」

 

……惜しい男を失ってしまった。

 

「……良いのか?」

 

「あれがいつものロドスだ。」

 

否定したいがな。

 

 

 







ラップランド長いっすね。やはり体はエチエチを求める。

いつかの一幕はいつかなんで次から急にフロストノヴァが出てきても俺は知りません。出す予定ないけど。




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十話:この落差よ

 

 

 

おいおい、マジかよ……!

なんで一度なくなったこいつがまた出てきてやがる!?

 

「しかも堕天使仕様の真っ黒かよ。」

 

まあ、ラテラーノ出てからサンクタ殺す事あったし、当然か。

 

「こいつが出てきたって事は……。」

 

正面に軽く意識を向けて手を伸ばすと、何かにぶつかる。

 

「やっぱ、アーツが使える。」

 

何か関係があんのか?

 

「んん……おはよぅ……。」

 

モスティマが聞いてきた。丁度いい、昨日の事について聞いてみるか。

 

「おはよう。早速で悪ぃけど、なんでこれが出てきたか知ってるか?」

 

「もちろん、知ってるよ。」

 

「話してくれ。」

 

そう言うと少し勿体ぶるような顔をする。

なんだ?いつもならすんなり教えてくれると思ったんだけど。

 

「じゃあ、はい。」

 

目を瞑ってこっちを向く。

何がしてぇんだこいつ?……まさか。

 

「ほら、おはようのキスだよ。」

 

「はぁ……?」

 

どこの新婚夫婦だよ。少し待ってみても動きそうもない。ガシガシと頭を掻いてパッとキスをする。

 

「ちょっと短くない?」

 

「文句言うんじゃねぇ。キスはキスだ。」

 

「ふぅん、まあ、いっか。」

 

そう言って昨日の出来事を話してくれる。

なるほどねぇ、若返りの薬みたいなもんだったのか。

 

「んで、こいつは副作用か?」

 

「さあ?クロージャは何も言ってなかったから。」

 

アーツが使えなくなってたのって俺だけだろうからわかんねぇわな。

とりあえずドクターの所行ってみるか。

 

「おーい、ドクター。昨日は随分愉快な事になってたらしいな。」

 

「ああ、戻ったみたいだな。代わりに別の異常が起きたみたいだが。」

 

「お陰様……いや、自然に治ったから別に良いか。クロージャからは何か聞けたのか?」

 

「何も、遊びで試しに作ってみたものらしい。」

 

「ドクター!」

 

話しているとアーミヤが入ってきた。

 

「レユニオンが現れました。至急戦闘準備をしてください。」

 

おっ、丁度良いか。

 

「俺も連れてけ。」

 

「良いのか?」

 

「ああ、まあ、俺の方も少し準備が必要になるけどな。」

 

通信端末を取り出してエクシアに電話を掛ける。

 

『なになに?プロポーズ?』

 

「馬鹿言ってんじゃねぇ。

執務室まで俺のスナイパーライフルとサブマシ持って来てくれ。」

 

『えー、でもラック使えないじゃん!』

 

「それが今は使えそうなんだなぁ。とりあえず持ってこい。」

 

『うぇー、わかったよ。』

 

数分してエクシアがやって来た。

 

「こっちだ。ほら、こういう事。」

 

「……モスティマと同じ。」

 

「まあ、当然だな。銃くれ、銃。」

 

パッと手の中から愛銃を取る。

……うん、大丈夫。こいつの事が十全にわかる。

 

「んじゃ、ちょっと行ってくる。」

 

「わ、私も行くよ!」

 

「いらねぇよ。知ってるだろ?」

 

「……うん。」

 

アーツが使える俺にとって、観測手や高台なんてもんはいらなくなる。ぶっちゃけるとくそつまんねぇ戦いになるけどな。

 

「ドクター、行こうぜ。

ああ、先に言っとくけど、狙撃は今回俺に任せときな。」

 

「なぜだ?他にもいた方がカバーが出来るはずだが。」

 

「良いから良いから、ここは俺に花を持たせてくれよ。」

 

「そこまで言うなら……。」

 

ドクターに着いていきながら、振り返ってエクシアに手を振る。

そんなエクシアは不安そうな顔で俺を見ていた。

 

 

 

 

「ふむ、この戦場は狙撃オペレーターが置けそうな所があまりないな。」

 

確かに、高台とか無いし、見晴らしの良さそうな戦場じゃねぇな。

 

「大丈夫だ。」

 

そう言って階段を登るように空を歩く。

 

「俺のアーツは空気を操る事だ。高台なんかいらねぇんだよ。」

 

「そうだったのか……。」

 

「まあ、今回は俺のチュートリアルって事で悪ぃけど好きにさせてもらうぜ。」

 

「あ、ああ。」

 

空を登って行き、丁度全体が俯瞰して見える位置に立つ。

 

「頼むぜ、相棒。」

 

昔のようにスナイパーライフルを構える。

まずは先行してきた一人に一発。頭を狙ったはずが肩に当たる。

 

「チッ、鈍ったか。」

 

まずテキサスが前に出て戦闘が始まった。

 

「さっすがっ。」

 

戦い方は苛烈なのに危なげなく立ち回っていて安心して見てられるって感じだ。

奥の方にレユニオンの火炎瓶持ちがいやがる。

ちょっと良い所見せてやるか。

火炎瓶より手前辺りに狙いを定め、引き金を引く。

 

「ヒュー!」

 

上手くいったな!

銃弾が当たった火炎瓶は手の中で燃え上がってレユニオンを燃やした。

 

「良い松明だなぁ!」

 

後ろからスカジとフィリオプシスが飛び出していく。

クオーラも行ったか。

 

「おっと、伐採者。

クオーラ、ちょっと食い止めてくれ。」

 

「はーい。」

 

クオーラが伐採者の攻撃をしっかりと受け止める。……あの鞄何入ってんだろうな。

 

「よっと。」

 

着けているゴーグルごと目を撃ち抜く。よしよし、調子が上がってきた。

 

「やっべぇ……!」

 

フィリオプシスの後ろに敵が現れた。見落としたか!?

スナイパーじゃ間に合わねぇ。……しゃーねぇなぁ、今回は調子に乗った俺のミスだ。

左手を振り上げて下ろすとフィリオプシスの後ろにいた敵が上から叩き潰される。

 

「あー……気分悪。」

 

それからは集中して狙撃を続けた。

 

 

 

 

『戦闘終了だ、降りてきてくれ。』

 

「りょーかいりょーかい。」

 

登りと同じく階段を降りるように歩く。

 

「……ん?ごふっ!?」

 

胃の中からこみ上げてきた感覚に大きく吐き出す。

 

「あ……?なんだってんだ?」

 

右目が妙に霞んできた。触ってみると顔の右側がやけにゴツゴツしていて、辿っていくとサルカズやオニのような突起も生えていた。

そこから更に首や体の内側からどんどん広がっていく異物感が気持ち悪い。

 

「鉱石病……?」

 

おい……どうしてだ?俺はならなかったはず……。

 

「あ……。」

 

しまった。忘れちまってた。アーツが使えねぇから、種族としての輪と羽がねぇから、鉱石病になってなかったって自分で言ってたじゃねぇか……。

 

「少し冗談交じりだったけど……マジだったのかよ……。」

 

足元に固めた空気が霧散して、そのまま地上に落下していく。

こんな高さから落下しちまったら、確実に死ぬな。自分のアーツで死ぬなんて、笑っちまうぜ。

 

 

 

 

「っ!!」

 

目を開いて勢いよく起き上がる。まだ生きてんのか……?

 

「起きたか。」

 

「ケルシー……。」

 

「あれからアンジェリーナがアーツで助けてくれたんだ。あのままだと間違いなく死んでいたからな。後で礼を言うといい。」

 

「ああ……。」

 

右目は霞んでないし、ゴツゴツした感触もない。

 

「……輪と羽も無くなっちまったか。」

 

「全く不思議なものだ。輪と羽が無くなった途端、ポロポロと剥がれ落ちた。」

 

「はぁ……。」

 

「私はドクターに起きた事を伝えてくる。もう少し休んでいろ。」

 

「世話になったな……。」

 

手を閉じたり開いたりする。銃も、アーツも使えそうな気がしない。

 

「あーあ、折角また便利なアーツが使えるようになったと思ったのに。」

 

ベッドに倒れ込んでため息を吐く。

 

「ラック!!」

 

「エクシア、モスティマ……。」

 

「ドクターが私達は先に行けって。」

 

んじゃあ今説明してんのかな。

 

「ちょっとはしゃぎ過ぎちまったみてぇだ。悪ぃな。はっはっはっ!」

 

「なんで笑ってるのさ。」

 

ぐっと襟を掴まれて、上から睨まれる。

 

「たまたま生きてただけで、一歩間違えたら死んだんだよ!」

 

「わかってるって、でもまあ、結果としちゃ生きてたんだしよー。」

 

「っ!!」

 

パンッと顔を叩かれた。

 

「全然分かってないじゃないか!」

 

「何すん、いたっ。痛てぇって……いったぁ!?」

 

そのまま馬乗りで叩かれる。

 

「タイム!タイム!エクシア助けて!」

 

「ごめん、もうちょっとそのままにさせてあげてほしいな。」

 

何度も叩かれる、明日には頬がふっくらしてそう……。

やがて疲れたのか上に覆い被さる。

 

「怖かったんだ……君が死ぬかも、しれないって。」

 

「なんだ……お前、もしかして泣いてんのか?」

 

頬を両手で優しく上に向けるとボロボロと涙を流していた。んだよ……こいつが泣くなんてガキの頃以来か?

 

「ケルシーが来るまで何も手に付かないくらいだったんだ。」

 

「そうだったのか……ん?お前は泣いてくれねぇの?」

 

「まあ、死ぬとは思ってないし、銃を持つと気分が上がるのも分かるからね。」

 

「ひっでぇやつ……。」

 

「ちょっとは心配してたよ?」

 

「そーかよ。」

 

モスティマの目元を親指で拭うが、拭った端からたま涙が零れる。

 

「おい、美人が台無しだぞ。」

 

「うるさいぃ……。」

 

「……エクシア。」

 

「ダメだね。自分で何とかしてよ。私は誰も入らないように見とくからさ。」

 

「わかったわかった……サンキュ。」

 

「お礼よろしく!」

 

そう言って出ていった。

あいつちゃっかりしてんなぁ……。

 

「モスティマ。」

 

安心させるように頭を撫でる。

 

「……なに。」

 

ずっと鼻を鳴らす。

あーあー、ブサイクな顔しやがって。

 

「心配してくれてありがとな。」

 

「……ふん。」

 

拗ねて唇を尖らせる。なんかいつもより子供っぽくなってねぇか?

ぎゅっと尖らせた唇を摘む。

 

「むー……。」

 

「ぶはっ!変な顔!」

 

顎殴ってきやがった。

 

「……私には、何か無いの?」

 

「あん?」

 

「エクシアにはお礼するのに、私には無いんだ。」

 

「……はぁ、何が良いんだ?あんまり高い物はダメだぞ。」

 

「ん。」

 

こっちを向いて目を瞑る。

お前、この前それよりも激しい事したろうが……。

 

「もっと別のもんとかねぇのか?」

 

「印鑑、拇印、指輪。」

 

「よし、キスすんぞ。」

 

顎に手を添える、ぷるっとした唇が目に入り、喉が鳴った。

いやいや、この前何度もやった事だろ。……あ、割と無理矢理だったからあんま覚えてねぇのか。

 

「ん。」

 

「んぅ……。」

 

キスなんてやり慣れてるはずなのに、こいつとやるとどうも緊張しちまう。……エクシアとやっても緊張すんのかな?

 

「……別の女性の事考えてるね。」

 

「んぇっ!?い、いや、んな事……。」

 

「はぁむっ。」

 

「んー!?」

 

口を食べるかのようにキスをされ、そのまま舌を入れたディープキスになる。

ジタバタと手足を暴れさせるが、肩を押さえ込まれてベッドが軋むだけに終わる。

 

「も、モフフィマ!まっへ!」

 

「ちゅーっ……んあ〜。」

 

舌を吸われて、歯茎をなぞはように舐められる。

 

「んーっ!?んー!!!?」

 

「ん、もう、暴れないで。」

 

口を離すと手で頬を撫で、幸せそうに微笑む。そんなモスティマの顔に見蕩れてしまった。

 

「あむっ。」

 

「てめっ、どこ触って……!」

 

左耳を口に咥えられる。

 

「ねぇ、ラック。無くなった輪と羽の分の感覚はどこにいったんだろうね。」

 

「……はあ?」

 

輪と羽っつうと、やたら感覚が過敏になる所だよな……?

急に何を……。

 

「ふーっ。」

 

「ぉぉおう……んだ今の……。」

 

ぞわぞわして、なんとも言えない感覚が……。

 

「こっちもどうかな。」

 

右耳にモスティマの指が入れられ、動かす度にショリショリと音がする。

 

「な、なんだ、なんだこれ、俺、これ、知らねぇ……!」

 

ふっ、と視界が暗くなる。モスティマが反対の手で目を覆ったみたいだ。

 

「ねぇ、ラック。」

 

「うひっ!?」

 

右耳をモスティマの指が弄り続け、左耳からモスティマが語り掛けてくる。

 

「そんなに震えてどうしたのさ、大丈夫?」

 

「や、やめろ、喋んな。指うごかすんじゃっ……!?」

 

「なに、聞こえないよ?」

 

右耳を手で塞がれ、左耳からの音しか聞こえなくなる。

 

「本当にわかってる?」

 

「わ、わかってる……?あ、ああ、わかってる!わかってるから、やめてくれ!」

 

頭の中でモスティマの声が反響する。

 

「何がわかってるの?」

 

「そ、れは……だな……あれだ、あれ……。」

 

「ふーっ。」

 

「おっおっ……ほふぅぅぅ……。」

 

あ、頭がおかしくなりそうだ。

 

「エ、クシア!エクシアー!」

 

「ふぅん……エクシア呼ぶんだ。私よりもエクシアなんだね。」

 

「はっ、いやっ、ちがっ、そういう訳じゃ……。」

 

パサッと顔に何かを乗せられる。……モスティマの、上着?

くんっ、モスティマの匂いがする。

 

「だ、ダメだ、モスティマ、それ、ダメ、やだ、やめろやめろやんぶっ……!」

 

視界は真っ暗、鼻からはモスティマの匂い、口には上着をかけて空いた指を入れられ、片耳は塞がれて、唯一聞こえる左耳からはモスティマの声がする。

 

「ちゅぷっ。」

 

「おっ……!?」

 

耳に舌を入れられる。

 

「き、きひゃにゃいから、ひゃめろぉ……。」

 

そう言うと余計に舌を奥に捩じ込まれる。

 

「はっ……あ……あ……ぁ……。」

 

「ラック、好きだよ。」

 

それだけ聞こえて、気絶してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

・今日の一幕

 

「シルバーアッシュ様、どうなさいました?」

 

「……クーリエ、一つ聞きたい。」

 

「何なりと。」

 

「……私は、おじさんなのだろうか?」

 

「……はい?」

 

「子供のラックに言われたのだ。」

 

「そうでしたか、しかし、子供の言う事ですからあまり気にする事はないと思いますが。」

 

「いや、子供だからこそだ。私を見ておじさんに見えたのだろう。

もう一つ聞くが、お前はなんと呼ばれた。」

 

「……クーリエおじさんと。」

 

「その気遣いは美点だと思うが、包み隠さず教えてくれ。」

 

「これは、失礼しました。クーリエお兄さんと呼ばれました。」

 

「……そうか、くっ!」

 

「……今度、服でも買いに行きませんか?服装だけでも印象というのは変わるので。」

 

「すまない……助かる。」

 

 

 

 







重い話はカロリーを使う上に胃にきます。

ギャグに……エッチにしなきゃ……。


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十一話:眠る時は静かにしやがれ

 

 

 

ベチャベチャの耳のまま起きたのが数日前。

俺は以前と同じように過ごしていた。

 

「ん、フロストリーフか。おーい。」

 

談話室で一人でいるフロストリーフに声を掛けるが無視される。聞こえてねぇのか?

後ろから近寄るといつも使ってるヘッドホンから音が聞こえる。音楽聴いてんのか。

でも、上の耳は普通に聞こえると思うんだけどな。

 

「聞こえてないっつっても無視されるのはちょっとムカつく。」

 

後ろからこっそり近寄ると脇腹を掴んで上に大きく持ち上げる。

 

「ほぅら高い高ーいっでぇ!?」

 

持ち上げた途端に肘が頭に突き刺さる。

たんこぶ出来たんじゃねぇか?

 

「おまっ、いきなりやる事じゃねぇだろ!」

 

「後ろから急に持ち上げる方が悪い。」

 

「そーかよ。んで、何聴いてたんだ?」

 

「……お前には教えられない。」

 

「えー、ケチだな。ちょっとくらい良いだろ?」

 

「絶対にダメだ。」

 

「うぇー、わかったわかった。」

 

フロストリーフの座っていた所に座って膝の上にフロストリーフを乗せる。

 

「いきなりなんだ。」

 

「癒しってやつだ。たまには優しくしてくれよ。」

 

両手をフロストリーフの前で組み、頭に顎を乗せる。

こいつは昔から丁度すっぽり入って収まりが良い。

 

「他のやつに頼めば良いだろう。メランサとか。」

 

「どうだろうなー、お前よりメランサのが高いんじゃねぇの?」

 

あれってヒールが高いのか身長なのかわかんねぇ。

頭を撫でながら頬ずりをする。んー、悪くない。

 

「頬ずりはやめろ、気持ち悪い。」

 

「そりゃねぇだろ。」

 

ため息を吐く、ちっこい頃は自分から膝に乗ってくるくらい可愛かったのに……。まあ、今も可愛いがな!

 

「ただペタンコなだけだよな。」

 

「……バカにしてるのか?」

 

「え、口に出てたか?安心しろ、ちっこくても俺は好きだぜ。」

 

顎に頭突きされた。

 

「もう良い。……歌え。」

 

「あん?」

 

「眠くなってきたから、歌え。」

 

そういや昔は毎日歌ってやらねぇと眠れなかったっけ。

 

「じゃあこっち向け。」

 

「別に、このままで良い。」

 

「お前、前は抱き着いて歌ってやらねぇと寝れなかったじゃねぇか。」

 

「もう子供じゃない……が、まあ、お前がそこまで言うなら抱き着いてやる。」

 

「あー、はいはい。」

 

向きを変えて抱き着いてくる。

……ちょっと場所が悪いから位置調整。そうしたら背中を一定のリズムでゆっくりと叩く。

 

「〜♪」

 

 

 

 

微かに歌声が聞こえてくる、誰か歌っているんでしょうか?

 

「ドクター、何してるんですか?」

 

「しー。アーミヤ、あれを見てくれ。」

 

「あ、この歌声はラックさんですね。」

 

よく歌っている子守唄だと思って覗き込むとフロストリーフさんを抱っこしているみたいです。

 

「あの二人、一時期一緒の部隊にいたらしい。」

 

「そういえば、フロストリーフさんが入った当初は寝不足気味で夜泣きする事もあったって聞いた気がします。」

 

「そうなのか。」

 

「きっとロドスに来る前はラックさんが寝かしつけていたんでしょうね。」

 

「あ、ラップランドが。」

 

部屋に入ってラックさんの近くに行った途端動きが止まりました。何かあったんでしょうか?

 

 

 

 

「やあ、ラック!」

 

「〜♪」

 

大きな声を出すなと軽く睨むと少したじろぐ。

 

「う、そんな目で見ないでほしいな。」

 

大人しくしてろって事で隣を叩く。

 

「そっちに行けば良いのかい?」

 

ラップランドが隣に座ると、懐のフロストリーフに気付いた。

 

「ああ、そういう事だったんだね。じゃあ、ボクも聴こうかな。」

 

トンっと右肩に頭を預けて目を瞑る。増えちまったな。まあ、歌ってるだけだから良いか。

 

「〜♪」

 

 

 

 

「ラップランドも居座ったな。」

 

「微笑ましいですね。」

 

まあ、いつものラックとラップランドの関係を考えれば微笑ましいな。

 

「……アーミヤ、この前ラップランドがラックの事を呼ぶ時「ごしゅっ……ラック」って言い直したんだけど、どう思う?」

 

「他の方と間違えたんじゃないんですか?」

 

「まあ、そうかもな。」

 

仲が良いから間違える事もないはずだろうし。

 

「次はプラマニクスか。」

 

 

 

 

「むぅ……?この歌は……。」

 

この声は……プラマニクスか?

ひょっこりとプラマニクスが顔を覗かせる。

手招きをするとゆっくりとこっちに来ると、眠るフロストリーフを見る。

 

「良いですね。……私もご一緒しても?」

 

頷くとラップランドの反対に座って腕を枕替わりに抱く。

フロストリーフが撫でにくくなるが、まあいいか。

 

 

 

 

「いつもラックの周りには女性がいるが、今日はやたら静かだな。」

 

「基本的に騒がしいのはラックさんですからね。」

 

「そうだな。問題を起こす事も多いが、彼のお陰でロドスの雰囲気が明るくなった。」

 

フロストリーフが誰かに甘えるなんて見た事が無かったしな。

 

「……私ももっとフロストリーフさんと仲良くなりたいです。」

 

「今度ラックに子守唄を教えてもらったら良いんじゃないか?」

 

「そうしてみます……。」

 

「しかし、ここまで来ると次に誰が来るのかが気になってくるな。」

 

ん、次は……二人同時か。

 

 

 

 

「〜♪……ん?」

 

目を瞑って気分良く歌っていると目の前に気配を感じて目を開くと机を挟んで反対側にシージとテキサスがいて、飴とチョコを食べながら俺をジーッと見ていた。

 

「気にしないで続けてくれ。」

 

「ああ、気にするな。」

 

二人して黙って俺を見てるの怖いんだけど……。

 

「っ〜♪」

 

気にしないようにまた目を瞑るとフロストリーフを撫でながら歌う。

すると手を掴まれる。片目を開くとテキサスが手を取ってにぎにぎしていた。

何、してんだ?

 

「……。」

 

「……。」

 

それに釣られたのかシージも手を触り始めた。

なんかむず痒いな……。

 

「んっ。」

 

パクリとテキサスが指を咥える。隣のシージが驚いて目を見開く。珍しい顔が見えた、可愛いな。

何度か甘噛みして離す。

 

「それは……なんだ?」

 

「なかなか癖になる。」

 

テキサスが俺の顔、正確には頭の上を見ると、背筋がぞわぞわする。何か知らない間にあったのか……?

 

「……ふむ。」

 

気になったのかなんなのか分からないけど、シージも俺の指を咥えた。……お前ら、俺の指はお前らの骨じゃないんだぞ、自分の指咥えろや。

 

「……思っていたよりも、良いな。」

 

うっそぉ……。

 

 

 

 

「あの二人は何をしているんでしょう……?」

 

「ラックが混乱しているぞ……ただ、歌は止めないんだな。」

 

「まあ、寝ている人がいますから……。」

 

そういう問題ではない気がするが……。

 

「次は誰が来るんだ?」

 

「ドクター、楽しくなってきてませんか?」

 

「アーミヤだって見てて面白いだろう?」

 

「まあ、ちょっとだけ。」

 

「あれは……シュヴァルツか。」

 

 

 

 

「〜♪」

 

どうしよう、動けない。

体がガッチガチに固まってきた。

すると、後ろからするりと腕が首に回された。

 

「っ……誰だ?」

 

「私です。どうぞ、続けてください。」

 

「あ、ああ……〜♪」

 

あ、でも後頭部がおっぱいで幸せに包まれて良いかも……。

口元が緩むとガリッと痛みが走った。

 

「……っ?」

 

「気にするな、続けて歌ってくれ。」

 

テキサスが噛んでいた指から血が滲み出していた。

 

「……〜♪」

 

何やってんのこいつぅぅ!!?

しかも血が出た指まだ咥えてんだけど!?つーかこいつらいい加減指離せ。

やべぇ、冷や汗出てきた。

 

「大丈夫ですか?」

 

シュヴァルツがそっと頭を撫でてくる。

頷いて答える。おお、シュヴァルツが優しいなんて珍しいなぁ……。

ゴギンッガコンッという音と共に右腕に鈍い痛みが走る。

 

「いっ……!?」

 

ラップランド起きてやがったのか!?こいつ、今肩外して戻したろ!?

 

「可哀想に。」

 

頭を抱き締められて撫でられる……が、もう嫌な予感しかしない。シュヴァルツ、もしかしてこれに乗じて俺に仕返ししてないか……?

 

「シュ、シュヴァルツもう……」

 

「歌ってください。」

 

「……〜♪」

 

「そう、偉いですね。」

 

怖い怖い怖い!?なんだこいつ!?

トドメ刺しに来たのか!?

テキサスがガジガジと指を噛み、ラップランドが右腕の関節を幾つか外してくる。シージはただ咥えて舐めているだけだ、飴の代わりにかよ。砂糖ぶっ掛けんぞてめぇ。

キョロキョロと周りを見て助けてくれそうな人を探す。……いねぇ!?メランサとか、クーリエとか……こう、常識人枠はいねぇのか!?

 

 

 

 

「どうする?ラックが焦ってるぞ。」

 

「どうすると言われても……あそこに突撃する勇気はありません。」

 

「あ、こっちに気付いた。」

 

「助けを求めてますけど、どうします?」

 

「そうだな……放っておいても良いんじゃないか?」

 

そろそろ仕事に戻らないと、寝る時間が無くなってしまう。

 

「あ、そうでした。追加の書類がありますよ。」

 

……寝る時間は無さそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

・今日の一幕

 

「ラックとー」

 

「クーリエの」

 

「「料理教室ー!」」

 

パチパチと拍手される。

ドクターから料理が出来ない子達に教えてあげてほしいって頼まれたからやる事になった。

今日の生徒はフェンとフロストリーフとカーディとメランサだ。

 

「クーリエくん、今日は一体何を作るの?」

 

「……やけくそになってないか?」

 

「やけ?何変な事を言ってるんだい?さあ、クーリエくん張り切っていこう!」

 

「コホン……では、本日はシンプルにハンバーグを作ってみましょう。

みなさん、エプロンはちゃんと着けてますね。手は洗いましたか?」

 

そこからは順々に工程を追っていく、流石クーリエ、教えるのも上手いな。

……さて、俺も仕事しねぇと。

 

「カーディ!玉ねぎを炒めるのにとりあえず強火にするのをやめろ!」

 

「ええ、良い感じですよ、メランサ。」

 

「は、はい。」

 

「アレンジで変なもん入れようとするんじゃねぇ!」

 

レシピに無いものを入れようとするカーディに拳骨をする。

 

「いったぁい!暴力はんた〜い!」

 

「なら、まずは指示通りに作れっての……。」

 

「フロストリーフ、この位で良いです。次はこれを混ぜ合わせましょう。」

 

「わかった。」

 

「OK、カーディ、せめて左手でボウルを押さえろ。ミンチが跳ねて俺が失明しない内にな。」

 

ピッと飛んできたミンチが的確に俺の右目を襲ってきやがった。

 

「うんっ!」

 

「返事だけは良いなぁ……!!」

 

「フェン、良い形に成型出来てますね。」

 

「そ、そうですか?ありがとうございます。」

 

「……。」

 

「あ、あわわ……。」

 

カーディが空気抜きでキャッチし損ねたタネが顔にぶち当たった。

 

「……カーディ、失敗すんなとは言わねぇから、もうちょっと落ち着いてやれ。」

 

「お、怒ってない……?」

 

「少しは怒ってるけど、ちゃんとやってて失敗したなら怒らねぇよ。

いいか、俺が手本見せるからよく見てろ。」

 

タネを拭ってカーディから少量タネを貰って手本を見せる。

 

「むう……。」

 

「……。」

 

「メランサ、フロストリーフ。美味しいハンバーグを作って驚かせましょう。」

 

さっきよりもゆっくりとだが慎重に空気抜きをする。

 

「真ん中に窪み作っとけ。」

 

「なんで?」

 

「……なんでだったっけ?クーエリー。」

 

「なんで講師が忘れてるんだ……火の通りを均一にするのとハンバーグのひび割れ防止ですよ。」

 

「……だってよ!」

 

「そうなんだ!」

 

「はぁ……。」

 

遂に焼く時がきた。

 

「強火にすんなよ。」

 

流石のカーディも黙ってハンバーグを焼く。

 

「よし。ひっくり返して蓋をするんだ。」

 

そんで少し放置する。

 

「ちゃんと出来てるかなぁ……。」

 

「多分大丈夫だろ。」

 

手順通りに作ったし、大丈夫なはずだ。

 

「よし、蓋を開けて、竹串を真ん中に刺せ。透明な肉汁が出てきたら強火で数秒……よし、このくらいだろ。皿に取って……ソースはケチャップとワインで良いか。」

 

肉の旨みを閉じ込めてハンバーグにかける。

 

「出来たぁー!」

 

「やりゃあできるじゃねぇか。」

 

ぐしゃりとカーディの頭を撫でる。

あー……大変だった。

 

「ねぇ、最初の一口食べてみて!」

 

「お、毒味か?」

 

「もー、酷い!ほら、食べて!」

 

フォークを向けられる。

 

「しゃーねぇなぁ。」

 

出来たてのハンバーグをはふはふと息を吐きながら食べる。うん、ジューシーで食べ応えがあるし、ソースも良い感じ。

 

「美味いぜ。頑張ったな。」

 

「うん!」

 

「ラック。」

 

「あ?どうしたよ、クーリエ。」

 

振り返るとフォークを持ってメランサとフロストリーフがにじり寄って来ていた。

 

「あまり、放っとかないでやってほしい。」

 

奥に山盛りのハンバーグが見える。

……これ、全部?

 

「むぐっ……うん、美味いは美味いけど、その量はちょっと……うぐっ!?」

 

飲み込む端から口にハンバーグが突っ込まれる。

 

「フェンは誰にあげるんですか?」

 

「はい、お世話になっているドーベルマン先生やドクター達に渡そうと思ってます。」

 

「それは良い考えです。」

 

「あぐっ……もぐっ……ふ、ふひゃりとも、胃もたれが……んがっ!?」

 

当分、肉は食いたくない……。

 

 

 

 







最近ネタが尽きてきやした。

ちなみにこの小説に出てくるのはちゃんとうちのロドスのオペレーターですぜ。


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十二話:トランスポーターは命懸け

 

 

 

 

「〜♪」

 

今日は久し振りに配達の仕事が入った。

それなりに離れた小さな町だ。少し時間が掛かるだろう。

口寂しさにタバコに火を付ける。

 

「〜♪……あん?」

 

地面に大量の足跡?

んー.ちょっと気になるけど、もし戦闘になった時に流石に俺一人で相手にするのは厳しいか?

それに町からも離れてるし、関わらない方がいいだろ。

 

「無視無視。」

 

どうせレユニオンかどっかに移民の集団だろ。

 

 

 

 

「レユニオンだよ……。」

 

町に行くのにどうしても通らなくちゃいけねぇ場所で野営を敷いてるみたいだ。

 

「なんだってこんな所に……。」

 

野盗の真似でもして通る人間を襲ってんのか?

危険だから出来りゃどっかにやりてぇところだけど。

 

「人数多過ぎんだろ。」

 

雑に数えて五十人規模か?

こんなん相手にするっつーと奥の手や秘密兵器も出さなきゃいけねぇから今回の仕事の報酬含めても赤字だ。

 

「しゃーねぇか。コソコソと通り抜けさせてもらおう。」

 

ほんっとこういう時はアーツが使えたらって思っちまう。

夜まで待ってから移動するか。

それまでこっそりタバコ吸っとこ……煙でバレないよな?

 

 

 

 

「見張りが何人かだけか。」

 

これなら闇に乗じて抜けられるはずだ。

物資やテントの後ろに隠れて移動する。

見つかりそうだったり、絶対に通らないといけねぇ所は後ろから近付いて首にナイフを突き刺してサクッと殺す。

 

「……結構集中するから疲れるな。」

 

額の汗を拭う。これなら普通に戦う方が楽しいし、良いな。

 

「ん?」

 

「やべっ……!」

 

腿に入れてたナイフを投げると喉に刺さる。

あっぶねぇ、見つかるところだった。

 

「早く通り抜けねぇと……。」

 

危険手当でもうちょっと報酬貰うからな!くそったれ!

 

 

 

 

「やっと通り抜けた……。」

 

通り抜けた先の岩陰に座り込む。

思ったよりも大きな野営だったな。なんでだ?

 

「さてと、配達の続きだ。

俺、龍門に帰ったら風俗行くんだ。」

 

「そう、帰れると良いわねぇ。」

 

ゾッとして前方に大きく飛んで地面に伏せると後ろから爆風が流れてきて何度か地面を転がる。

 

「いってて……なんだってんだよ。」

 

服の砂埃を払っていると奥から銀髪のサルカズの女性が現れた。

 

「あら、生きていたのね。」

 

「……やあ、お美しいレディだ。よろしければ今度一緒にお出掛けしませんか?」

 

「嬉しいわ。でも、口調だけ紳士にしてもレディを前にして目と思考が逃げ道を探しているんじゃ、紳士失格ね。」

 

しくじった……!女性がグレネード投げて来たがハンドガンで空中で爆発させる。

 

「ヘイ、レディ!先にお名前を教えてもらっても良いかい!」

 

「それなら自分から名乗るのが普通じゃないかしら?」

 

「そりゃそうだっと。」

 

喋ってる最中に投げてくんなっての!

 

「俺はトランスポーターのラックと申します。先の非礼はお許しくださいな?」

 

「ラック?そう……アンタが。

予定が変わったわ。一緒に来てもらうわよ。」

 

「デートのお誘いなら大歓迎ですが、今は配達中ですのでご勘弁を。」

 

さーて、どうする?爆発音と発砲音でレユニオンの連中が来るかもしれない。

 

「焦ってるわね、隙だらけよ。」

 

目の前にグレネードが落ちて爆風と土煙が立つ。

 

「くっそ、爆発物とか連続で投げられると間に合わねぇぞ!?」

 

右からの衝撃で吹き飛ばされる。

 

「あったまきた……ぜってぇ、泣かす!」

 

刀を抜き取りハンドガンと構えると駆け出す。

 

「可愛い顔に傷が付いても文句言うなよ!」

 

「あら、可愛いのは認めてくれるのね。」

 

「当然ッ!」

 

刀を袈裟斬りに振り下ろすが、バックステップで避けられる。追撃しようとするとその場に残されたグレネードを見て反射的に後ろに下がる。

 

「っくそ、戦いづれねぇな!」

 

ハンドガンを撃つと走って避けられるし、マガジンを替えてるとグレネードが投げられる。

 

「赤字確定かよ!」

 

カキッと口の中のカプセルを吹き出す。

 

「煙玉……面白い事するじゃない。」

 

「そらよっ!」

 

大きく跳んで大上段から刀を振り下ろす。避けられた、と思ったが頬に薄く切り傷が入ったみたいだ。

 

「よっと!」

 

腹を蹴り飛ばすと吹き飛ぶ。

 

「おら、どうしたどうした!そんなんじゃ捕まってやんねーぞ!」

 

パンパンと両手を鳴らして挑発する。

 

「っ、やったわね。」

 

こっちを睨んでくる。美人ってのはこういう時に迫力が出るな。

 

「お〜っ、こえぇこえぇ。」

 

怖がる振りをしていると火炎瓶が大量に降ってくる。

 

「なにっ!?」

 

「あの男を捕らえろ!」

 

「まずった……!レユニオンの連中が動き出したか!」

 

逃げねぇと、そう思っていると、石が降ってきた。

 

「……まさか。」

 

石がどんどん大きくなっていき、周囲一帯に降り注ぐ。更に急に冷え込んできた。

 

「天災かよっ!?」

 

その間もレユニオンの兵士が攻撃をしてくる。

 

「てめぇら、命が惜しくねぇのか!?」

 

レユニオンの連中がここまで狂ってやがるのは、ちょっと誤算だぞ!?

 

「くっそ!?」

 

レユニオンを斬り捨てながら走り回る。せめてどっかに隠れられるところがあれば良いんだけどな!

 

「ッチィ!邪魔だ!」

 

重装兵の肩に飛び乗ってヘルメットを剥ぎ取って顔面を刺し殺す。

着地すると同時にアーツの光に吹き飛ばされる。

術士もいんのかよ!?

 

「てめぇら、とっとと退け!退きやがれぇ!」

 

遠くの術士の頭を撃ち抜く。やばっ、今のが最後のマガジンかよっ……!

もっと持ってくるべきだったか。

 

「っづあっ!?」

 

隕石の衝撃に巻き込まれて岩に頭をぶつけて意識が飛んだ。

 

 

 

 

「……あぁっ。」

 

さみぃ……目を覚まして周りを見渡すと周囲一帯が銀世界に変わっていた。

荷物は……なんとか無事か。

 

「どっか、寒さと風が凌げる場所……。」

 

ガタガタと体を震わせて雪の中を歩く。服に染み込んだ雪で凍えそうだ。更に歩くと靴の中に雪が走ってくるし、歩きづらくて体力も消耗する。

 

「ハァー……ハァー。」

 

寒冷地仕様の装備じゃないからどんどん体温が落ちていく。

 

「っ、洞窟……。」

 

あそこに辿り……着けば……辿り……た……ど、り……。

ドサリと地面に倒れ、雪が体に積もっていく。

 

「……もすてぃま……えくし、あ……わりぃ。」

 

ゆっくりと視界が閉じていき闇に落ちた。

 

 

 

 

……あれ、生きてん、のか?

パキリと薪の弾ける音が聞こえる。

下には人が一人分転がれるサイズのマットが敷いてあって、毛布が上からかけられていた。これ、俺の装備か。

毛布を剥ぎ、ゆっくりと起き上がろうとすると、動きが止まる。

 

「あら、起きたの?」

 

すぐ横にあのサルカズの女性がいた……何故か全裸で。

 

「てめっ……!?」

 

手元に武器がねぇ……!

 

「装備と服なら、あっちで乾かしてるわ。」

 

指を向けた方に装備があった。

 

「……何が目的だ?」

 

「目的って程じゃないけど、凍えるくらい寒いじゃない。アンタだって外で倒れてたくらいだし。」

 

「だからって、俺を助ける理由にはなんねぇ。」

 

「なんとなく……いえ、ちょっと暖を取ろうとしただけよ。火より人肌の方が暖まるわ。」

 

「それは分かるけど……。」

 

納得は出来ない。さっきまで殺し合ってたんだぞ。

 

「それとも何?アタシと寝るのは嫌なの?」

 

目を見る……別に嘘が見分けられる訳じゃないが、助けてもらった恩もある。

 

「はあ……わかった。今回はお互い湯たんぽだ。

お前、名前は?さっきは教えてくれなかったろ?」

 

毛布にくるまり、女性を抱き寄せる。……良いおっぱいをお持ちで。

 

「そうだったわね、アタシはW、傭兵よ。」

 

W?随分変わった名前だ。

 

「それにしても、それが本来の喋り方?」

 

「当たり前だろ……女性を口説く以外にあんな口調めんどくさくてやってらんねぇ。」

 

「ふぅん、アタシはその喋り方のが好きよ?」

 

「はっ、そうかよ……。」

 

抱き寄せたWの肌が俺と重なり、体温が溶け合うような感覚がする。

いけね、まだぼーっとしてんのか。しっかりしろ。

 

「……アタシのお尻、触ってるんだけど?」

 

「っおっとぉ……こいつはこいつは、悪い手だ。」

 

ペチペチと左手を右手で叩く。

するりと胸に手を置かれ、Wが胸にキスをする。

 

「……生存本能ってやつかしらね。柄でもないわ。」

 

「そりゃあ、俺も同意だ。」

 

手首を掴んでキスをする。

息が動いても無いのに荒れて、心臓が昂る。

 

「さっきまで敵だったとしても、本能ならしょうがねぇ。」

 

「そうね、しょうがないわ。」

 

ああ、本当に嫌になる。こんなさっきまで殺し合ってた女とヤるなんて。

ガバッと覆い被さり、手首を強く握り、マットに押さえ付ける。

ああ、女にこんな乱暴しちまうなんて。

っと、ゴムがねぇと、確か常備してたのが……。

 

「良いわよ。今日は……大丈夫だから。」

 

プツッと何かが切れ、貪るように唇を奪う。女性の事をまるで考えない、自分勝手にキスをする。

 

「ふーっ……じゅるっ……。」

 

「んっ……ふふっ。」

 

誘うようにWの目が弧を描く。

こ、いつ……!!

右手を離して頭を掴んで力強くマットに押し付ける。まるで、自分が上だと言うように。

 

「この、生意気な女だ……!」

 

「あはっ……あははっ!良いわ、これがアンタの本性なのねっ!女を物みたいに扱って、全部自分の思うままにする事がアンタの本当の姿。」

 

「うるせぇ、黙ってろ!」

 

首から下に下がりながら至る所に自分のものだとマーキングするようにキスをし、噛み付き、跡を残す。

獣のように交尾をする。他の人が見たらまるで女性が野獣に襲われているかのように見えるだろう。

相手を愛さず、優しさ等与えない。自分が気持ち良くなるだけの行為だ。

普通の女性なら悲鳴を上げたっておかしくない状況でWが笑みを浮かべ、それを見て簡単に頭に血を上らせた俺が激しく動く。

そのまま何時間も交尾は続いた。

 

 

 

 

「……っ!」

 

自分の頭を押さえる。ああ、なんて最低だ。

 

「とても素敵だったわよ。理性的じゃなく、欲望に任せてアタシを蹂躙する姿。」

 

体の上のWがキスをする。

二人とも汗だくで互いの臭いが混じりあっている。

 

「うるせぇ……。」

 

無気力感に包まれたまま返事をする。

今度はWが俺の上で好き勝手していた。

別にこいつは俺を好きでもなんでもない癖に、俺を労るように、優しく受け入れ包み込むように、まるで毒に蝕まれていくような感覚だ。

前に、ラップランドが言ってたのは、こういう事だったのか……?

 

「アンタの本性は私が受け止めてあげるから、安心しなさい。私と、一緒に来なさい。」

 

頭を抱き寄せられ囁かれる。ダメだ、このままだとポッキリと折れて、決定的に俺が変わってしまいそうだ。

震える口を開く。

 

「は、離せ……。」

 

「そう、アンタが望むなら。」

 

そう言うとあっさりと離れる。

 

「天災も収まったみたいだし、もう外に出ても大丈夫そうね。」

 

「え、あ……そうか……。」

 

「早くこんな所出ましょう。」

 

服を着て、装備を整えると外に出る。

こりゃあ、酷い有り様だ。

 

「ここで、お別れね。本当に一緒に来ない?」

 

手を差し伸べられる。

心が大きく揺れて、手がピクリと動く。

 

「……いや……行けない。」

 

Wの目が見れない。どこかで迷ってんのか。

 

「……それじゃあ、次は別の戦場で会いましょう。」

 

最後に軽くキスをされて、Wは歩いて行った。

 

「また、な。」

 

俺は、彼女とまた出会った時、本当に戦えんのか……?刀を、銃を握れるのか?

Wの去って行く背中に軽く手を伸ばしながら、その背中が消えるまで見送ってから、配達に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

・今日の一幕

 

「はあ……。………………はぁ。」

 

談話室で一人頭を抱える。

ああ、ムカつく。なんたって俺はあんな風に……。

 

「ックさん……ラックさん!」

 

「っおお、アーミヤか。悪ぃ、なんだっけ。」

 

「大丈夫ですか?酷く悩んでるみたいでしたけど……。」

 

「ははは、なんでもねぇよ。少なくともアーミヤには相談しにくいな。」

 

くしゃりと頭を撫でる。力加減、大丈夫だよな?

 

「本当ですか……?」

 

「おうよ。そうだ、気分転換にこの前見付けた猫の動画でも見ないか?

リフレッシュは大事だぜ?」

 

「えと……じゃあ少しだけ。」

 

心配そうにしながらも気になったのか俺の隣に座る。

パッと通信端末を開くと━━━━━━

 

「んなっ……!?」

 

「きゃっ……!?」

 

俺がWに覆い被さってヤッてる最中の写真が待ち受けにされていた。しかも、Wはカメラ目線で笑ってキスをしてウインクをしていやがる。

 

「こ、こここれは……!」

 

「あ、あの……ひゃうっ……!」

 

アーミヤが自分の体を抱き締めて俺から離れる。

 

「ち、違うんだ!今のはちょっとした間違いで、俺も知らなくてだな!?」

 

「嘘です!どうしてその人と一緒にいて……そ、その……エッチな事をしているんですか!」

 

「ばっ!?大きな声出すな!?」

 

口を手で押さえて、壁に押し付ける。

 

「むぅー!!!」

 

バタバタと何人かの走る音が聞こえてドアが開く。

 

「ラック!?アーミヤに何をしているんだ!?」

 

テキサスにラップランドとリスカム、奥にはエンシオとマッターホルンがいる。

 

「い、いや、これは……ご、誤解だ!」

 

パッと手を離す。

 

「ド、ドクター!ラックさんがレユニオンと繋がってる可能性があります!」

 

「ぶっ!?」

 

ばっか、なんて事言いやがる!?

 

「どういう事だ……?」

 

「ち、違うぞ!?ちょっとこの前天災が起きた時に一時手を組んで避難してただけで……。」

 

「じゃあ、どうして……せ、せい……性行為……をする必要があったんですか!

ドクター、ラックさんの端末の待ち受けが……あの、あれをしている写真でした!」

 

「?よく分からないけど、見せてくれ。」

 

「OKOK、じゃあ、見るならせめて男だけにしてくれ、ちょっと繊細な……」

 

パシッとラップランドに端末を奪われ、テキサスとリスカムが覗き見る。

 

「……へぇ。」

 

「ほう。」

 

「こ、こここれは一体……。」

 

「なんだ?」

 

ドクターが遅れて端末を見ると頭を抱える。

エンシオとマッターホルンがやべぇやつを見る目で俺を見る。こいつらはなんだかんだ付き合い長いから俺の事分かってるんだろうけど腹立つ。

 

「いや、俺は悪くないんだって……ちょっと間が悪かったっつーか、天災が悪かったっつーか……。」

 

「確かにまあ、男女のあれがあるとは分かるが……悪いが、少しの間だけ監視を付けさせてもらう。」

 

「OK、それで疑いが晴れるなら本望だ。」

 

両手を高々と上げる。

 

「で?誰が監視するんだ?レッド?どっかの隊?エンカクでも貼り付けるのか?シュヴァルツってのもあるか。」

 

「そうだな、出来るだけ実力がある人物を置いておきたい。」

 

「ボクがやるよ!大丈夫、ラックの扱いは分かってるから。」

 

「私がやろう。私ならラックと戦っても負けはしない。」

 

「二人がやってくれるのは助かるが、ラップランドはともかく、テキサスは大丈夫なのか?」

 

「直近の仕事はないはずだ。」

 

「じゃあ、後で決めると時間掛かりそうだから二人に任せよう。一応、この話はここの人間だけの内密にしてくれ。」

 

「ああ、分かった。」

 

俺だってあの写真を誰かに見せたいとは思わない。

 

「よし、じゃあこの話は終わり。」

 

パンッとドクターが手を叩くと各々解散していく。

ちょっとめんどくせぇけど、まあ、なんとかなって良かった。小腹減ったし、食堂でグムに何か作ってもらおう。

 

「あん?」

 

肩をガッシリとテキサスとラップランドが掴む。

 

「な、なんだよ?」

 

「少し話がある。」

 

「ちょっと、話そうか?」

 

「……腹減ったんだけど。」

 

ずるずると襟を引き摺られて俺の部屋に入れられる。

 

「お、怒ってる?」

 

「アハハ、怒ってる?おかしな事を聞くじゃないか。」

 

「ラップランドはともかく、私は冷静だ。」

 

「……すみませんでした。」

 

俺の監視は土下座から始まった。

 

 

 

 







次にWが出てくるのはうちのロドスに実装されたらじゃないすかね。

最近ネタが無くなってきたんでラブコメとかギャグ漫画読みます。



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十三話:いくら相手が好きでもプライベートな時間は欲しい

 

 

 

 

「…………。」

 

今日も今日とて監視日和。

ずっと引き摺られている。

 

「なー、そろそろ落ち着けよ。」

 

ずっとテキサスとラップランドの機嫌が悪い。

別に返事はしてくれるんだけど、なんか怒ってる感じだ。

 

「ボクは落ち着いてるよ。」

 

「気にするな。」

 

他の奴らからも何かあったのかって聞かれて困る。

自室に戻ったら戻ったで両隣に座られて撫でたりあーんを要求させられたり色々させられる。

立ち上がると手を掴まれて強制的に座らされる。

ラップランドは俺の膝で寝るし、テキサスはずっと俺の手を舐めたり齧ったりし続ける。逆剥けしそうだ。

疑われるのは勘弁したいから監視を付けてもらったけど、エンシオ……は難しそうだからマッターホルンにでも頼めば良かったか?いや、野郎とずっと一緒とか嫌だわ。

 

「テキサス、あんまり舐めるな。溶けちまう。」

 

テキサスの口から指を引き抜こうと手を掴まれる。

 

「テキサス。」

 

頭を掴んで外そうとすると鋭い歯が刺さる。

 

「いだだだだっ!?」

 

頭を離すと歯を抜かれた。

さっきまで刺さっていた所を舐められる。傷口が見えねぇけど血が出たのか……?

 

「パウンドケーキ作ってきたよ!

グムは呼ばれてるから一緒にいられないけど、気持ちはいっっぱい込めたからね!」

 

「グ、グム!」

 

救世主!今度一緒に料理しような!

 

「おい、俺の指咥えてたらケーキ食えねぇだろ。」

 

手を引っ張るとちゅぽんっと指が抜ける。

 

「うわ、シワシワ……。」

 

やっぱり血が滲んでるし。

 

「こら、テキサスてめぇ。」

 

「私は悪くない。」

 

ふいっと横を向く。

 

「この口が悪いのか?ああ?」

 

片手で口を掴み揺さぶる。

 

「ラック。」

 

ラップランドに呼ばれて下を向く。

 

「あー。」

 

「……ああ?」

 

「あー。」

食わせろって事かよ。

こいつらマジで我儘過ぎだろ。

切り分けられたパウンドケーキを一口大に切って食わせる。

 

「んっ、美味しいね。」

 

「行儀悪いぞ。」

 

「良いでしょ?」

 

そう言いながら腿に頬ずりする。

 

「でかい狼二匹飼ってるみてぇだ……。」

 

「ペットには愛情を注がなきゃ、もっとボク達を愛してよ。」

 

テキサスが無言で手を握る。

 

「あー、はいはい、分かった分かった。」

 

雑に返事をしてケーキを食べる。

ん、美味い。

 

「……はむっ。」

 

……テキサスにケーキを取られた。まだ一口しか食ってねぇんだけど。

 

「おい、お前それ俺が食ってただろうが。」

 

「ラック。」

 

「ああ?」

 

「あーん。」

 

「ラップランド、お前もいい加減……。」

 

今日はしゃーないかと思ってケーキをラップランドの口に突っ込む。

食ってる間は静かだから良いか……あれ、ラップランドよりもテキサスの方が我儘?

 

「私にはしないのか?」

 

「あ、ああ。」

 

口にケーキを入れると手を掴まれて指まで食われた。

 

「おいこら。」

 

指まで舐めるな。

このままじゃ休まる時間がない。

 

『ドクター、チェンジ。』

 

『うちにはそういう制度はないんだが……。』

 

『風俗じゃねーよ。』

 

「そんなもの見ないで、ボクを構ってよ。」

 

端末を取られると手を取って頬に当てる。

 

「…………あー!流石に邪魔くせぇ!」

 

バッと両手を上に上げる。

 

「お前ら、訓練室行くぞ。俺が勝ったら監視を変えてもらうからな!」

 

ラップランドを起き上がらせて刀とハンドガンを取る。

昨日の事だってまだ整理出来てねぇんだよ。

 

 

 

 

「チッ……!」

 

ラップランドとテキサスが左右に別れて走る。銃を撃っても弾かれるか躱される。

 

「なんだかんだコンビネーションはバッチリかよ!」

 

二人とも二刀流で遠距離攻撃持ってるからどうしたもんかな。

 

「しゃーねぇ。」

 

腿のナイフを抜き取って変則的な二刀流にする。受けるだけならいけんだろ。

ラップランドが遠距離から援護して、テキサスが低い姿勢で斬り込んで来る。

 

「ふっ……!」

 

テキサスの剣をナイフで受け流す。ああ、やっぱ戦い慣れてんな、姿勢が崩れねぇ。

 

「ボクも忘れないでよ!」

 

「うっせぇ!」

 

刀で受け止めて片手で投げ飛ばしてテキサスにぶつける。

いつものカプセルを二人に向けて吐き出して煙を出す。

あっちからは見えねぇはずだ。

 

「甘い。」

 

「……うっそだろ!?」

 

俺を囲むようにアーツで出来た剣が突き刺さる。

 

「アハハッ!これで終わりにしないでよ!」

 

ラップランドの首を狙った一撃が迫る。

 

「やられるかよっ!」

 

剣を足場にしようとジャンプして足を掛けると剣が消える。

 

「その動きは、前に見た。」

 

俺の上を跳んだテキサスが俺を地面に叩き付けると首に剣を当てる。

 

「詰みだ。」

 

「あー……クソッ!」

 

なんで動きが分かった。あの時は俺の位置なんて分かるわけが。

 

「お前は、タバコの臭いが強い。」

 

「……チッ、そういう事かよ。」

 

臭いであんな正確な攻撃してくるとか、マジかよ。

 

「サルカズの女と何があった?」

 

「……なんだかなぁ、自分がよく分からなくなっちまった。一瞬でもWに着いて行きてぇって思っちまってよ、次に会った時アイツと戦えんのかって頭の中でずーっと考えてんだ。

気に入らねぇ、気に入らねぇ気に入らねぇ!こんな悩み、俺じゃねぇんだよ!

俺も、Wも気に入らねぇ!ふざけやがって!俺をこんな悩ませんなよ!」

 

あー!イライラしやがる!

 

「次だ、次に会った時は俺がアイツにと一緒に行くんじゃねぇ。アイツに俺と着いて行きたいって言わせてやんだからな!クソッたれ!!」

 

地面を何度も叩いてガキみてぇに騒ぐ。悩みを全部晴らすくらいに叫ぶ。

肩で息をして、起き上がる。

 

「……部屋戻るぞ」

 

「満足したか?」

 

「あー、そうだな。」

 

ため息を吐いて近くに寄ってきたラップランドの頭を撫でる。

 

「テキサス、行くぞ。まだ部屋にグムのパウンドケーキがあったろ。みんなで食おうぜ。」

 

さっきまでキレてたのが馬鹿みてぇだ。甘いもん食って落ち着こう。

 

 

 

 

「うん、美味い。」

 

「良い味だ。」

 

「シルバーアッシュ様。ドクター。アーミヤ。チェン。紅茶のおかわりは如何ですか?」

 

「いや、私はまだ良い。」

 

「じゃあ、俺はもらおうか。」

 

「私もお願いします。」

 

「私ももらう。」

 

部屋に戻ると、ドクターにエンシオ、クーリエ、チェンが部屋でパウンドケーキを食べていた。

 

「……っすー。」

 

「ん、ああ、ラック。さっき急に連絡来てて様子を見に来たんだ。そしたらこれだけあって誰もいなかったから待ってたんだ。」

 

「なぁ……それ、今から俺らが食おうとしてたんだけど?」

 

「えっ。」

 

ドクターが全員と目を合わせる。

 

「グムが俺の為に作って持ってきてくれたんだけど?」

 

「ふむ……。」

 

「あっ……!」

 

エンシオが最後の一切れを食べる。こんにゃろ……っ!

 

「今度代わりに菓子を買ってやるから我慢しろ。」

 

「ガキか俺は?その尻尾の毛全部毟るぞ。」

 

「では、僕が何か作ってあげよう。」

 

「クーリエが?」

 

「何か不満が?」

 

「あー……じゃあそうだな。オペラとかガトーショコラみたいなチョコ系作ってくれ。」

 

「同じのじゃダメか?」

 

「詫びなんだろ?そのくらいやってくれても良いじゃねぇか。それにテキサスがいるならチョコのが良いだろ。」

 

「はぁ……分かった。では、シルバーアッシュ様。僕は少し席を外します。」

 

「世話を掛ける。」

 

「いえ。」

 

クーリエがどっか行くと俺らもテキトーに座る。

 

「んで、何の用だったんだよ。」

 

「ああ、そろそろ監視も良いかと思ったんだ。ずっとテキサスとラップランドに連れられて何も出来ないとはいえ、何かする気も無さそうだったからな。」

 

「そりゃいい。やっとゆっくり出来そうだ。」

 

「ボク達が一緒だとゆっくり出来ないのかい?」

 

ラップランドは文句を行ってくるけど、テキサスは一口チョコ食べながら耳と尻尾が垂れ下がっている。

 

「違ぇって、俺だってプライベートな時間がほしーの。」

 

「録な事に使わなそうだ。」

 

「うるせぇなぁ。」

 

……まあ、ちょっと?夜のお店に行こうとしてるだけだし?

 

「なら、ボクが相手してあげるよ。」

 

目が全力で泳ぐ。それは確かに魅力的ではあるんだけど、今ここで言うと俺の立場がちょっと危うくなるっつーか、今まで放置されて暗黙の了解みたいだったのが表に出るとまずいっつーか……。

 

「………………いや、いい。」

 

たっぷり数十秒悩んで答える。

周りからの視線が気になるがそこは無視する。

 

「んじゃあ、クーリエが持ってくるまで時間掛かるし、詳細な報告も兼ねて、この前のWとの話でもするか。」

 

どっかりと椅子に座って話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

・今日の一幕

 

「あ〜……つっかれたぁ……。」

 

Wとの諸々を話している最中でラップランドがキレて、宥めたりしているともう夜だ。

酒も飲めてねぇ。

 

「はぁ……。」

 

今日はもう寝ようと布団を捲る。

 

「あっ……。」

 

「……メランサ?」

 

布団の中で可愛らしい……なんつったかな、ああ、そう。ネグリジェ姿のメランサが丸まっていた。

 

「お前、何して……?」

 

「んっ……!」

 

起き上がってキスをされる。なんでだ!?なんかやってたっけ!?

 

「あの……前のプロポーズで……。」

 

「ぷ、プロポーズ?俺が?いやいや……そん、な……。」

 

やったわ、王様ゲームでプロポーズしたわ。

 

「お前、メッセージ見てないな?」

 

「え?……あっ。」

 

机の上にある通信端末を持ってメッセージを見るとボッと顔が赤くなる。

 

「あ、あの、こ、こここれは……。」

 

「あー、これに関しちゃ俺が悪かったからなぁ。

ごめんな?」

 

遊びでプロポーズなんてするもんじゃねぇや。

 

「あ、あああの、し、失礼しますっ……!」

 

走って逃げようとした所を手を掴んで止める。

 

「まあ、待て。あ、いや、泣くな。別に取って食おうなんて考えてねぇから。」

 

こくんと頷く。恥ずかしさからか涙が浮かんでる。袖で涙を軽く拭う。

 

「今からそんな格好で出てったら風邪引いちまうし、誰かに見られたら大変だぜ?今日はこの部屋に泊まってけ。」

 

もう夜だし、冷え込むだろ。

 

「……でも寝る所が。」

 

「あー……そうだな。まあ、一緒に寝るか?」

 

俺が地面やソファとかで寝ても遠慮しそうだし。

 

「め、迷惑とか。」

 

「ねぇよ。可愛いお嬢さんと寝れるなら最高だろ?ほれ。」

 

掴んでいた手を引いて布団に入れると横に転がる。

 

「んじゃ、おやすみ……。」

 

今日はマジで疲れたんだ。

 

「……おやすみなさい。」

 

意識が落ちる寸前で左腕にほんの少し重さを感じた。

 

 

 







なんだこれはたまげたなぁ……。
ネタが思い付いたので次はもっと良くなると思います。


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十四話:マタタビ最強説

 

 

 

 

俺は今ロドスの資料室に来ていた。

 

「ん?なになに、フェリーンに対するマタタビの使用時の反応?」

 

へぇ、ふーん……なるほどねぇ……。

 

「閃いた!」

 

パチーンを指を鳴らして早速資料室を後にした。

 

 

 

 

「とはいえまたたびがどこにあるのかを俺は知らねぇ。」

 

ペットショップか?

 

「めんどくせぇ、どっかで注文するか。」

 

しかしどのくらいの量あれば良いのかは分からねぇ。

 

「……とりあえず、二袋、とか?」

 

フェリーンへの適正量も知らねぇし、とりあえず量使って試してみるか。

 

 

 

 

「ラックー、いるー?」

 

「エクシア?どうしたんだよ。」

 

「はいこれ、注文の商品ね!」

 

「お、サンキュ。」

 

なんだ配達はペンギン急便がしてくれたのか。

 

「何買ったの?」

 

「内緒だ内緒、まだ配達あるんだろ?」

 

「ちぇー、分かったよ。」

 

「頑張れよ。」

 

ぽふっと頭に手を置くと軽く抱き着いてきた。

 

「何してんだ。」

 

「ラック成分?っての補充っ!」

 

「んだよ、俺は栄養ドリンクか何かか?」

 

「私にとってはそうかもね。それじゃ!」

 

「おー。」

 

手を振って見送る。

さて、このマタタビをどうやって使うか……。

 

「頭から被ってみるか?」

 

なんか絵面間抜けだな。でもそれくらいしか自然に嗅がせるなんて出来そうにないし。

風呂場で被るか。

 

「よっ。ぶっ!げほっげほっ!」

 

思ったより粉っぽい!

 

「げっほげっほ!あー……よし、行くか。」

 

目指せベロンベロンに酔った女性フェリーン!

スキップしそうな気分で部屋を飛び出す。

 

「女性フェリーンで良く話すやつと言えばエンヤ、エンシア、シュヴァルツ、メランサくらいか。エンシオには会いたくねぇなぁ!アッハッハ!」

 

「私がどうした?」

 

後ろからエンシオの声が聞こえた瞬間にその場から飛び退くと手を前に出す。

 

「エンシオ、それ以上俺に近寄るんじゃねぇ。良いか?一歩も近寄るなよ。」

 

「どういう……くっ。」

 

エンシオがその場でしゃがむ。

 

「どういう訳だ……これは……。」

 

ふらふらと立ち上がって俺に近寄る。

 

「く、来るな、来るんじゃねぇ!」

 

どんどん近寄って来て壁に追いやられて、遂に壁ドンまで行く。

 

「アアアァァァ!ギャアアア!!イヤァァアア!」

 

「この、不思議な感じは……。」

 

「あ”あ”!」

 

顔面をぶん殴って逃げ出す。

 

「うぇっ……お”ぇっ、ぐすっ……。」

 

走って逃げた先で地面に崩れる。

なんなんだよ、フラグかよてめぇ……!

 

「くっそ、こんなので諦めるか……!文字通りおにゃんにゃんするまで諦めねぇからな!」

 

歩いていると曲がり角で誰かにぶつかる。

 

「っと、お前は……。」

 

!?!?!?こ、こいつ確かブローカだったよな!?

 

「よ、よお……ブローカだったよな?悪ぃ、前見て無かったわ。」

 

「……ああ、気にすんな。」

 

ガッシリと両肩を掴まれる。

 

「え、は……なんだよ。」

 

ブローカが首元に顔を近付けてくる。

 

「は、放しやがれっ!……力強ッ!?」

 

手首を掴んで引き剥がす事も出来そうにない。

 

「この声、ラックか?」

 

「チェン?チェンか!?早く来てくれ!助けて!」

 

角からチェンが現れて俺達を見る。

 

「あー……いや、うん、お前に節操が無いのは知っていたがそこまでとは……。」

 

「違ぇよ何考えてんだこのクソザコスイーツ。」

 

「な、何を言う!」

 

「てめぇ知ってんだぞ!この前友人に連れられて恋愛映画見に行って最初は興味無かった癖に最後の方でボロ泣きしてたの!

そんで最近はラブコメ漫画読んでんだろ!甘い恋がしたいとかため息吐いてんだろどうせ!」

 

「な、なななッ!?」

 

「狼狽えてないでとっとと助けろ!さもないとロドス中に言いふらすぞ!」

 

「くっ……!約束だぞ!」

 

チェンがブローカの後頭部を殴ると気絶した。

 

「あ……危なかった……。」

 

暑くないのに汗かいてきたぞ……。

 

「や、約束は守ってくれ!」

 

「分かった分かった、なんなら今度俺のおすすめ映画を教えてやるよ。」

 

そう言って別れた。

ブローカ?ほっとけば良いだろ。

さて、そんな事よりも重要な事がある。

フェリーンの女性フェリーンの女性フェリーンの女性フェリーンの女性フェリーンの女性!!!!

煩悩塗れで歩いていると誰かにぶつかった。

 

「きゃっ……!」

 

「っと、悪ぃ。大丈夫か?」

 

注意力散漫だったか。手を差し伸べる。

 

「ありがとうございます。」

 

「ああ、ワイフー、だったか?」

 

「ええ、合ってます。」

 

ワイフーもフェリーンだったよな。キタキタキタァ!!

 

「あれ……?」

 

ワイフーが俺に近寄って臭いを嗅ぐ。

 

「ふにゃ……これは、一体……。」

 

ペタリとその場に座り込むところを抱き留める。

こ、これは……まさか!!

 

「い、いえ、なんだか、とても良い気分になってきたような……。」

 

ゴロゴロと首の臭いを嗅がれる。良いぞ!流れが来てる!

 

「そうなのか。じゃあ、すぐ近くに俺の部屋があるから休んでいかないか?」

 

「え?ですが……いきなり男性の部屋に行くなんて……。」

 

「大丈夫大丈夫。何もしないから。何もしないから!」

 

「……では、お言葉に甘えて。」

 

よしきた!

肩を貸して部屋に連れ込んでベッドに座らせると、ふらふらしながら俺に撓垂れ掛かってきた。

 

「んっ……ふぅ……。」

 

首元に擦り寄ってくる。俺はワイフーの腰を抱き寄せる。

 

「あっ……だ、ダメです。」

 

震える手で押し返そうとするが、力が入っていない。

 

「どうしたんだ?」

 

耳の後ろを指で掻く。

 

「んひゃっ……!」

 

びくっと跳ねる。ほうほう、ここが良いのか?

カリカリと掻きながら胸元に抱き寄せる。

 

「にゃあ……。」

 

よし、もうべろんべろんに酔ってるな。

そう思っていたらドアが開く。

 

「失礼します。この後用事とかは……。」

 

「げっ、エンヤ。」

 

今誰かが入ってくるのはまずい。

ワイフーを一旦離してエンヤを抱き締める。

 

「な、何を……むぅ……。」

 

一瞬抵抗したが次の瞬間には胸元に擦り寄って臭いを嗅ぎ始めた。

すげぇ!すげぇよマタタビ!マタタビ先生!!

キャッホウとハイテンションでズルズルとエンヤを部屋に連れ込む。

いや、しかし、マタタビ先生の力は計り知れない。こう、いつもなら絶対無理ってやつもマタタビ先生の力をお借りすれば可能かもしれない。

ドアを少し開いて廊下を見る。

 

「……シュヴァルツか。」

 

ジッと見ていると視線に気付いたシュヴァルツがこっちに来る。バカめ!気配に敏感な己の優秀さを恨むが良いわ!

こっちに近寄る程シュヴァルツの様子が変わっていき、最終的に俺の方に倒れ込む。

 

「……フェリーンに対して無敵では?」

 

ちょっと使うのが怖くなって来たんだが……。

シュヴァルツを部屋に連れ込んだ所慌ただしい足音が聞こえてきた。

 

「まずい!」

 

壁を叩くとクルッと回転して壁の中に入り、床下に逃げ込む。まさかもしもの隠し通路を使う事になるとは……ロドスが危機に陥った時用だったが活きたな!

 

「動くな!」

 

床下の穴から様子を見る。

チェンとホシグマか。勝てそうにない。

 

「やはり何か企んでいたか……。」

 

「ブローカに続いてシルバーアッシュの様子がおかしかったので何かと思えば……。」

 

「ああ、マタタビを使ったな。」

 

「しかし、ラックの姿が見当たりませんね。ここに彼女達がいるなら近くにいるはずですが。」

 

「隠れたな。それも私達に見つからない場所に。」

 

当たり前だ。更に俺の隠密を合わせれば部屋をぶっ壊すくらいじゃないと見つかる訳がない。

 

「どうします?」

 

「……スペシャリストを連れて来よう。

私としても、ラックの事を考えて連れて来なかったが、このまま逃げられる訳にはいかないからな。仕方ない。」

 

ふむ、下からだと二人ともスカートじゃないからパンツは見えないが、チェンの健康的な足に、二人の魅力的な尻が素晴らしい。

 

「ドクター!」

 

「ああ、ラック探しのスペシャリストを連れて来たぞ!」

 

「ラックとかくれんぼかい?テーマパークに来たみたいだね。」

 

「……チョコが貰えると来たのだが。」

 

げぇ!?

うっきうきのラップランドとしょげたテキサスがやって来た。

あ、いや、でもまたたびの臭いとか、俺の部屋だしタバコの臭いが混じっててこの前の戦いみたいに見つかったりはしねぇか!

がっはっはっ!勝ったな!ラップランドとテキサスの素晴らしい足と尻も見せてもらおう!

 

「……?あれ、暗いな?部屋の明かり切れてないはずなんだけど……あ、ちょっといい匂いした。」

 

なんで見えねぇんだろうなぁ……くっそ、これじゃ俺の尻と足が!

 

「アハッ……みぃつけた。」

 

「これが我が逃走経路よ!」

 

バンと床を下から叩くとまたまたクルッと回転して俺とラップランドの位置が入れ替わる。

 

「なにっ!?」

 

「そい!」

 

いつものカプセルと違い大きな煙玉を叩き付けると部屋中に広がる。更に臭い対策にくさや汁を散布して飛び出す。

 

「さらばだ!」

 

ふーはははは!既にお前らの対策なんざ出来てんだよォ!

 

 

 

 

「アンセル、茶とかねぇの?」

 

あれからどこに逃げようか悩んでアルセルの部屋に逃げ込んだ。

 

「急に押し掛けてきた人に出すお茶はありませんよ。……少し待っててください。」

 

「サンキュー、今度また奢るわ。」

 

「それはまあ、ありがたく奢られますけど。」

 

こいつも随分乗り気になったな。

 

「さては、あれから一人で行ったな?」

 

「あはは、まあ何回か。なかなか女性の体をあんなに見ることはありませんから、興味深いです。」

 

「流石にお医者様ってか?でも、あっちの方も楽しんでんだろ?」

 

「それは、まあ、そういうお店ですから。私だって男ですしね。」

 

そういうと今度は少し赤くなる。

 

「それよりも良いんですか?」

 

「え、何が?」

 

後ろ、と指差すと、涙目で青筋を浮かべたとってもキュートな狼が二匹いた。

 

「ワオ、アンセル見てくれよ。こいつら俺の事が大好き過ぎてここまで追い掛けて来やがった。

可愛いやつらめ。」

 

うりうりと頭を撫でる。

 

「あ、あの、もうその辺でやめた方が。」

 

「大丈夫大丈夫。少なくともドクターかチェンの所に連れて行かれるまでそんな危ない事されないだろ?

へへへ、ここが気持ち良いのか。」

 

顎をくすぐるように撫でる。

ペラッと出された紙を見る。

 

「なになに?『後の事は二人に任せます。好きにしてください。 ドクター、チェン』

アーッハッハッ!ヒヒヒッハハハハハッ!これ見ろよアンセル笑っちまうぜハーッハッハッハッ……は……マジ?」

 

こくりと頷く。

 

「ほんの出来心だったんだって。ほら、お前らって鼻が良いだろ?だから実験ってか。あ、やめて服破かないで……!違うんだって、いや、違うってマジで。悪気無かったんだよ。今度、今度デート行こう、何時間だって付き合うから。ごめんって、パンツ、それパンツ、ズボンじゃないからアンセル!アンセル助けて!」

 

ラップランドとテキサスに押さえ込まれながら服を剥がされる。俺が一体何をやったって言うんだ!?

 

「あ、ヤるなら別の部屋でヤってくださいね。私の部屋ですから。」

 

「ああ、そうだね。悪かったよ。」

 

「すまないな。」

 

「見捨てるのかアンセル!この俺をごふっ!?」

 

片足ずつ持たれて引きづられ、段差で頭を打つ。

 

「なんだァてめェら!部屋着いたら覚えてろよ、俺のビッグマグナムでひぃひぃ鳴かせてやるっあ!やめて!俺のマグナム踏まないで!女の子でしょはしたないわよ!」

 

「いつ奢ってもらおうかな。休みを確認しないと。」

 

「おいこら!少年少女の目に毒でしょ!特に少女の!俺に惚れちまって大変な事になっちまうぜ!許して!股広げないで!ごめんって!俺全裸なの!わかってる!?裂ける!裂けちゃう!アァァァァーーーーー!?!?」

 

マタタビは容量用法、使う種族を考えて使おう!

 

 

 

 

 

 

 

 

・ある日の一幕

 

「はっいたーつはっいたーつるっらるっらるーん♪」

 

今日も楽しく配達だ。ただ、今朝からちょっと嫌な予感がする。

 

「止まれ!」

 

何人かの武装した男が現れた。剣とか弓とか、分かりやすい武器だな。

 

「あ?何、人が気分良く歌ってんのに。もしかしてファンか?」

 

「一緒に来てもらう。」

 

「人の話聞けよ……。どうせモスティマ釣る餌だろ?一部のやつらまだやってんのかよ。そろそろ旬は過ぎたぜ?」

 

「黙れ、とにかく来てもらう。」

 

「サンクタはいないか。外部の傭兵辺りか?」

 

んじゃあ、やるか。

 

 

 

 

「ぐふっ……。」

 

周りにさっきまでいた男達が倒れ伏している。

あーあー、服汚れちゃったよ。ラップランドがこれに反応するから嫌なんだよなぁ。

 

「俺には……帰る場所、が……。」

 

最後のリーダーっぽいのの頭を踏み砕く。

 

「それなら最初から挑んで来んなよ。戦わずに農家か就職でもしてれば生きれたのに。」

 

逃がすって考えはない。そしたらどうせまた挑んで来るかモスティマに近付こうとするだろ。

 

「お前らにモスティマはやらねぇよ。」

 

遠くの方を見るとイグゼキュターがいて、手を振ると去って行った。

 

「セーフ判定か。」

 

ならよし。荷物を拾い上げて配達に戻った。

 

 

 

 







本編と一幕でシリアスとシリアルが丁度良い……気がします。


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十五話:エッチな事してたんですね?

 

 

 

 

「おっ、いたいた。」

 

今日は昼飯食うついでにエクシアを探しに来ていた。

クロワッサンと飯食ってんな。

 

「どうしたの?」

 

「デート、行こうぜ?」

 

「……え?」

 

カチャンと甲高いフォークが落ちる音で周りの目がこっちを向く。

クロワッサンが口笛を吹いて茶化す。おいおい、これでも真面目な所だぜ?俺が直球でデートに誘うなんて。

 

「ほら、前にお礼よろしくっつってたろ?だから一緒に出掛けて、なんか欲しいもん買ってやろうって事。

いつ空いてる?」

 

「ま、待って!急に言われても配達の予定とかあるからさ!」

 

「それなら今週の金土の配達代わったるわ。」

 

スプーンを咥えていたクロワッサンがそう言う。良い事するじゃねぇか。

 

「で、でも服とかも考えないとだし、可愛い服とかこっちに来てから買ってないし……あと、髪も切りに行きたいし!」

 

「んなもん俺が気にするかよ。

その瞬間のお前が一番綺麗だぜ?」

 

いつもの様に距離を詰めて頬に手を添える……けど、やっぱ身内だからちょっとハズい。

 

「んんっ……で、たった今予定が無くなったけどどうする?」

 

「……行く!絶ッ対に行くよ!」

 

「よっしゃ。ったく、とっとと返事しろっての。」

 

ぐしゃぐしゃと髪をかき混ぜながら撫でる。

 

「ちょっと、髪が崩れるじゃん!」

 

「ははっ!悪ぃ悪ぃ。

んじゃ、楽しみにしてるぜ。マイエンジェル。」

 

「はぇ……?」

 

頬にキスをしてすたこらと食堂から去る。

 

「……サンクタだからエンジェルっつったけど、ちょっと今のはねぇわ。」

 

すぐ横の壁に寄りかかって片手で顔を覆う。

うわ、めっちゃ顔熱いじゃん。

 

 

 

 

「…………。」

 

「顔真っ赤やで。」

 

「う、うるさいなぁ……。」

 

ラックがあんなに積極的に来るなんて思ってなかった。ずっと家族って線引きをしてたのに。

 

「どうしよう!?急にこんな事になるなんて思ってなかったなかったんだけど!」

 

「そんな事言うてももう約束したんやから覚悟決めや。」

 

「うん……。」

 

ラテラーノの頃は可愛い服とか買ってたけど、こっちだと荒事多いから買う必要もあんまり無かったし、デートなんて初めてだし。

 

「ふっふっふ、ウチにいい考えがあるで!」

 

「ほ、ほんと?」

 

「それはな……お家デートや!」

 

「お家デート……。」

 

ごくりと喉を鳴らす。

 

「でも、それじゃあラテラーノで暮らしてた時とあんまり変わらない気がするんだけどどうなの?」

 

「甘いなぁ。それは昔の事やろ?それに二人っきりでも無かったやろうし、あんまり意識してなかったやろ?

今回のお家デートの目的は新婚さんみたいにする事や!」

 

し、新婚さん……良いかも!

 

「二人で買い物して、帰ったら一緒に並んで料理作って、美味しいって言い合ってな。そんで映画とか観たりして、雰囲気が良くなった所でゴーや!」

 

「なるほど!」

 

想像してみる。二人で手を繋いで買い物して、食べたい物とか一緒に考えて、並んで料理しながら味見とかしちゃって、ちょっとエッチな恋愛映画とか観たり……あんまり私は観たことないけど。そ、それでそれで雰囲気が良くなったら……!

 

「うん、良い。良いよ!ありがとうクロワッサン!」

 

「ええよええよ、同僚のよしみや。」

 

よーし!頑張るぞ!

 

 

 

 

朝、起きたらシャワーを浴びてタバコとコーヒーで一服。軽く飯食ってエクシアが送ってきた場所に向かう。……ダメだな、ちょっと緊張してる。

 

「まだ来てないか。」

 

一応三十分前に来てみた。もしかしたら楽しみ過ぎて早く来ているかもしれねぇし。

 

「タバコ……いや、吸ってる間に来るかもしれねぇか。」

 

「おまたせ!」

 

「ん、今来たところだ。」

 

服はいつものペンギン急便の服だけど、いつもより髪がふわふわしてる気がする。

 

「あ、あんまり見ないでよ。最近の流行りとか、分かんなくてさ。」

 

「いや、良いと思うぜ。俺その服結構好きだし。」

 

このスカートとか良いよな。上着の前開けた時の結構隠れてる首元が見える所とか、タイツですべすべの足とか。

 

「んで、今日の予定は?なんか考えてきたらしいけど。」

 

「まず買い物して私の家に行って、一緒にご飯作ったり、遊んだり映画観たり!どう?」

 

ざっくりしてんなぁ……。

 

「まあ、いいんじゃねーか?たまには誰にも邪魔されずに二人で過ごすってのも悪くねぇ。」

 

「じゃあ早くいこ!時間は有限なんだよ!」

 

エクシアが俺の手を引いて歩き出す。

 

「はいはい、今日はとことん付き合うぜ。」

 

 

 

 

「じゃああたしはアップルパイ作るからラックは他よろしくっ。」

 

「ああ?しゃーねぇな、だからモスティマが母さんに料理教えてもらってるに一緒に教えてもらっとけば良かったのによ。」

 

「アップルパイならバッチリ!」

 

「あれはお前のお気に入りだっだからな。」

 

初めて食べた後からずっと教えてもらって、覚えた後も自分で改良しようと頑張ってたもんな。

 

「何が食べたい?」

 

「ラックが作ったならなんでも美味しいよ!」

 

「嬉しい事言ってくれるけど、その答えは困るんだぜ?じゃあ、晩飯はちょっと雑だけどステーキ、そんでカルパッチョとつまみとか買って酒飲みながら映画でも観るか?」

 

「いいね、賛成!」

 

パチンとエクシアが指を鳴らす。

今日はべろべろに酔わないように軽い酒にしとかないとな。

 

 

 

 

「〜♪」

 

エクシアの家に着いた。まあ、マンションだから部屋か。中に入ると焼き菓子のような甘い匂いが部屋に染み付いていた。こんなに染み付くかと思いつつ荷物や食べ物を整理する。

そんなこんなで料理を始めて、隣でエクシアが上機嫌に鼻歌をしながらアップルパイを作っている。生地から手作りらしい、気合いが入ってるな。

 

「ふーっ……エクシア、味見。」

 

「んっ、うん、良いと思う。」

 

ステーキだけじゃちょっとって事でオニオンスープも作ることになった。やっぱ、シンプルなのが良いだろ。

ぶっちゃけ味見もいらないくらいだけど、濃さに好みはあるからな。

 

「こっちは完成。そっちは?」

 

「後は焼くだけだよー。」

 

流石、手際良いな。

 

「もうこっちは出来そうだけどどうする?」

 

「焼くだけ焼いとこうかな。」

 

「あいよ。」

 

焼いてる間にぱぱっと盛り付けてテーブルに並べる。

少しずつアップルパイの香ばしい匂いがし始めた。

 

「完成!」

 

エクシアがオーブンを開くと微かだった香りが一気に部屋中に広がる。

 

「こりゃ良いな。」

 

タバコの臭いなんかよりもよっぽど良い。なるほど、部屋に匂いが染み付く訳だ。

 

 

 

 

「いっただきまーす!」

 

エクシアが大きく切った肉を頬張ると幸せそうな顔をする。

 

「ふぉいふぃー!」

 

「焼いただけなのに大袈裟だっての、それに良い肉買ったんだから美味くなきゃ損だろ。」

 

口にソース付いてるぞとティッシュで口を拭くと嬉しそうに笑った。

 

「ふぁってふぉいふぃーふぉん!」

 

「分かった分かった、ソースは手作りだもんな。」

 

肉の油っこさをスープで流す。良い感じだ。

正直晩飯にしてはそこまで量はないから結構早めに食べ終わると、今度はデザートのアップルパイを食べる。晩酌の時に食っても良いけど、冷まし過ぎるのも勿体無い。

サクッとしたパイの食感の後にシャクシャクとしたりんごの食感が追い掛けてきてバターの風味とりんごの甘みがしっかりと感じられる。

 

「美味いな。」

 

「でしょ?あたしの長年の努力の成果だね!」

 

ふふんと胸を張る。

美味い美味いと言いながら食べ終わる。

 

「ふぅ……美味かった。」

 

「うん、まだ時間早いし、お風呂入っちゃう?さっき料理してる間に入れちゃったし。」

 

「そうだな。先に入って来いよ。俺は洗いもんやっとくから。」

 

立ち上がると手を掴まれる。

 

「どうした?」

 

「……あ、あのさ、一緒に入らない?うちのお風呂なら二人くらい入れるしさ。」

 

「いや、でもな。」

 

「……ダメ?」

 

シュンとしながら上目遣いで俺を見てくる。そんな顔されたら断れねぇよ。どこで覚えてきたんだ。

 

「一緒に入りゃ良いんだろ。そんな顔すんな。」

 

頬を両手で挟んでぐにぐにすると、エクシアが手の上に手を重ねて微笑んだ。

 

「……。」

 

ちょっと調子が狂っちまう。

 

「風呂、入んだろ。手握ったままだと動けねぇよ。」

 

「うん、着替え取ってくるから待ってて。」

 

手を離すと寝室に向かって行くのを見て、ため息を吐いて頭を掻いた。

 

 

 

 

「髪洗ってあげる。」

 

「……ああ。」

 

浴室は言うだけあって結構広くて、二人くらいなら余裕で入れるくらいだった。

人にシャンプーしてもらう事なんてあんまりないからちょっとこそばゆいな。

 

「結構長くなってるね。」

 

「ん、まあな。たまに刀でザックリ切るくらいか。」

 

めんどくせぇし、床屋か美容院に行く程でもない。

 

「じゃあさ、次切る時はあたしが切ってあげよっか?」

 

「好きにしろ。変な感じにはすんなよ?」

 

「もちろん!あ、流すから目瞑って。」

 

最初はこそばゆかったけど案外悪くねぇ。

 

「じゃあ次体ね。」

 

「お、おい、そこまでやらなくても。」

 

「いいのいいの、あたしがやりたいんだから!」

 

「はぁ、分かった。」

 

少しして背中にタオルが当てられる。

 

「痛くない?」

 

「いや、丁度良いぜ。」

 

今日のエクシアは随分積極的だ。いや、いつもそうなんだけど、なんつーかいつもと違う感じだ。

背中から、首、腕と続けて洗ってもらう。

 

「前は自分でやる。」

 

「良いから良いから。」

 

そう言って背中に抱き着いて手を前に回してくる。

背中にふにゅんと柔らかい感触が伝わる。

 

「……もう好きにしてくれ。」

 

ふう、と息を吐いて脱力する。今日はエクシアの好きにさせてやろう。

 

「〜♪」

 

何が楽しいのか……まあ、俺も女性の体を触るのは楽しいから逆の立場で考えりゃおかしくねぇのか?

 

「はい、交代ね。」

 

「あー、はいはい。」

 

女性に触る事はあっても髪を洗うなんて今よりももっとちっこいフロストリーフくらいしかした事ねぇから上手く出来てるか分かんねぇ。

 

「どうだ?」

 

「ん、大丈夫だよ。」

 

「なら良かった。」

 

慣れない事をするといくら相手がエクシアでも気を遣っちまうな。

 

「やっぱこうなるんだよなぁ。」

 

体も洗わなくちゃならなくなったが……胸とかってタオルでやっても良いの?俺知らねぇよ、そういうwikiねぇのか。

 

「ねー、まだ?」

 

「ああ、ぼーっとしてたわ。……痛くねぇか?」

 

「気にし過ぎだよ。もうちょっと強くてもいいかな。」

 

「はいはい……。」

 

さて、前だ。どうする。……素手、だな。

ボディソープを手に付けて後ろから手を回す。ぷにりと柔らかく形の良い胸を触る。

 

「んっ、くすぐったいかな。」

 

「ちょっと我慢しろよ。」

 

割れ物を扱うように優しく触る。いつもヤる時よりも繊細を意識する。

 

「ふふっ、ちょっとやらしいよ。」

 

「そんなつもりは無かったんだけどな……。」

 

「んっ……。」

 

「あ、悪ぃ。」

 

乳首にピンと指先が当たったみたいで声を出す。我ながら手癖が悪ぃなおい。

後はちゃちゃっと終わらせてパッと手を離す。

 

「はい終わり。早く風呂浸かるぞ。風邪引いちまう。」

 

「あはは、そうだね。」

 

湯船に浸かって座るとその上にエクシアが乗った。洗いたての髪の良い匂いが鼻につく。

 

「……おい、まだ十分スペースあんだろ。」

 

こいつは……ほんっと。

 

「あたしがどこに座ったって良いじゃん。それとも、不都合でもあるの?」

 

「……チッ。」

 

あー、我慢我慢。我慢してる俺偉いぞー。

 

「ちぇっ、あたしってそんなに魅力ない?」

 

「んにゃ、そんな事ねーよ。むしろあり過ぎる。」

 

「じゃあちょっとは興奮してくれたって良いじゃん。」

 

「はっ、男には回避法があるんだよ。」

 

足の指に全力で力入れるとかな。

 

「なにそれズルー。」

 

「うっせ。」

 

バシャッと顔にお湯を飛ばす。

 

「この、やったなー!」

 

「あめぇよ、後ろを取られたお前が悪い。」

 

後ろからエクシアの腕ごと抱き締める。

ふはは、動けねぇだろ。

 

「ら、ラック?」

 

「なんだよ、仕返しはさせねぇぞ。」

 

「ちょ、ちょっと……嬉しいんだけど恥ずかしいって言うか……密着し過ぎじゃない?」

 

「知らね、さっき体洗ってる時にお前がやってきたんだから俺だってやって良いだろ。我慢しろ。」

 

うなじにキスをすると体をよじらせる。

 

「ちょっ……い、いきなり、こんな……。」

 

「お前だって、こうなる事分かってて誘ったんだろ?」

 

肩越しに顔を出して頬を合わせる。

 

「そ、それは……ちょっとだけ……。」

 

「だろ?だからちょっとつまんでも良いじゃねぇか。」

 

かぷっと首に噛み付く。

 

「あっ……だ、だめ……。」

 

「何がダメなのか教えてくんねぇと分かんねぇな。」

 

頭の輪の内側をつつっと撫でる。

 

「ひゃっ!?ら、ラック、そこは……!」

 

「俺は触っちゃダメか?」

 

ぎゅうっと少し強く抱き締めると少し考えるように俯いた。

 

「……ラックだから許してあげる。」

 

あー、ほんとコイツ、可愛いなぁ。

くるっと胸の中で向きを変えてこっちを向かせるとキスをした。

 

「ん……。」

 

手を背中に回して羽を触る。

 

「やっ……りゃ、りゃっく……。」

 

「んー?ろんひた?」

 

唇を舌でつつくと少しだけ口が開いて、その隙間から舌を押し込んだ。

温かい口内に侵入して、逃げようとするエクシアの舌を捕まえると絡ませた。

 

「んっんん!?」

 

舌が口内のどこかに当たる度にびくびく震える。

わかるわかる、慣れてないとなるよな。

逃げようとしているが、羽を触られていて動けないでいた。

そろそろかと思って唾液を流し込んで唇に軽く触れると顔を離すとエクシアの口の端から唾液が漏れる。

 

「はぁ……はぁ……。」

 

顔を見ると真っ赤にして呆然としていた。

 

「んじゃあ、上がるか。」

 

エクシアを抱き上げて湯船から上がる。

 

「え……?あ、うん……。」

 

途中で終わった事に困惑しつつも俺の胸に頭を預けた。

心配すんなよ、時間はたっぷりある。

 

 

 

 

「こんな映画よく見つけたな。」

 

風呂から上がって晩酌の準備をしている間に映画の概要を見ると、輪と羽を無くした男のサンクタと幼馴染の女のサンクタのラブストーリーだった。

ははは、どこかで聞いた事ある話だぜ。……いや、マジでよく見つけたな。

 

「え……?あ、う、うん。まあね。」

 

声を掛けても風呂での事が抜けてないのか熱っぽい目で俺を見てくる。

落ち着けっての。

 

「再生っと。」

 

リモコンを操作して始めると酒を開けた。

 

 

 

 

「……。」

 

内容としてはまあ、思ってた通り。サンクタの男が輪と羽が無くなって主に見放されたと嘆いている所をサンクタの女がやって来てどうこうするって話だ。

まあ、映画の事は良いんだが。

チラッと目線を向けると俺の左手をエクシアの右手が指を絡めて握っていた。おまけにエクシア本人は飲食以外はほとんどずっと俺の顔を見てやがる。時間と共に悪化している気もする。

……映画見ろよ。

 

「……おっ。」

 

ベッドシーンか。こういうのって映画だとどのくらいまでやって良いんだろな。

そう考えているとエクシアに肩を掴まれてソファに押し倒された。

 

「……エクシア?」

 

どうした、と言う前にキスをされた。

 

「あたし、もう我慢できないよ……。」

 

「まあ、待てって。今丁度映画がだな。」

 

「酷いよ……お風呂であんなにやったのに。」

 

ガッシリと両手で顔を挟まれる。

目線だけで映画見えねぇかな。

 

「あたしを見て。」

 

そう言われてエクシアを見ると興奮して息が荒くなっていた。そのくせ、目は今にも泣きそうに見えた。

 

「映画なんて見ないで、あたしを見てよ。

本当はずっと見ててほしかったんだよ、あたしだって嫉妬するし、他のみんなばっかりズルいって思ってたんだよ。」

 

思い返せば、確かにエクシアはあまり積極的じゃなかったり、引いたりする時が多かった気がする。

 

「悪ぃな。」

 

「ダメ。許さない、絶対許さないよ。」

 

「何をしたら良いんだ?」

 

「あたしを愛して。」

 

そう言いながら服を邪魔だと脱ぎ捨てるとあっという間に裸になる。

 

「はっ、そんなん言われなくても昔から愛してるぜ。」

 

「違うよ、分かってるでしょ?あたしは、女として愛してほしいの。」

 

あれ、そのつもりで言ったんだけど……まあ、いいや。

 

「来いよ。」

 

そう言うと抱き着いて……いや、むしろ拘束して?キスをしてきた。風呂で俺がやったみたいに舌を入れてきて、貪るようにキスをする。

 

「んっ……ちゅるっ、はぷっ……。」

 

腕ごと抱き着かれているからされるままにキスをする。

このままされっぱなしは気に食わねぇ。

するっと腕を抜いてひっくり返して上下を入れ替える。

 

「次、俺の番な。」

 

邪魔なシャツを脱ぎ捨ててエクシアを見る。

 

「来て……。」

 

「言われなくても。」

 

エクシアの横腹を撫でると面白いように反応する。

そのまま首筋にキスをすると舐める。

 

「ふふっ、くすぐったいよ。」

 

「最初はこんなもんだ。」

 

最初は軽口を叩いていたエクシアも、時間が経つにつれて少しずつ口数が減っていく。

 

「ね、ねえ、そんな所じゃなくて、こっちも触ってよ。」

 

エクシアが俺の頭を胸元に抱き寄せて、膝を股を挟むと腰を押し付け始めた。

堪えのないやつだと思うが、そういう所も可愛いと思える。

乳首を軽く噛んで、反対側も指で軽くつねる。

 

「っ!……ふふっ。それ、痛気持ちいって感じかも。」

 

「はっ、そうか。でも本番はこれからだぜ。」

 

カチャリとベルトを外す。

まだまだ夜は続く。朝まで楽しもうぜ?

 

 

 

 

 

 

 

 

・どこかの一幕

 

「〜♪」

 

ラテラーノにある一軒家。そのキッチンで僕は大好きな家族のために料理を作っていた。

 

「モスティマちゃんとエクシアちゃん、早く帰って来ないかな。」

 

僕は休みだったけど、二人は仕事だ。

疲れて帰ってくる二人にとびっきりのご飯を食べさせてあげたい。

 

「「ただいまー。」」

 

あ、二人が帰ってきた。

パタパタと玄関に向かって出迎える。

 

「おかえり!」

 

「ただいま、ラック。」

 

そう言いながらキスしようとするモスティマちゃんの額をお玉の柄で小突く。

 

「ダメだよ、ご飯冷めちゃう。」

 

「はーい。」

 

ぶすっと拗ねる。

 

「もう、ご飯食べた後なら良いから我慢してね?」

 

頭を撫でるとエクシアちゃんの方に行く。

 

「ちぇっ、あたしは放っておくんだ。」

 

「ごめんね?エクシアちゃんもおかえり。」

 

「……ただいま!」

 

バッと抱き着いてくる。

この子の甘え癖は変わらないなぁ。

 

「はいはい、じゃあ二人で手を洗ってきて。

今日は二人の好きな物を作ってるよ。」

 

「アップルパイ!?」

 

「もちろんあるよ。」

 

やったー!と言いながら走ってくエクシアちゃんを見てると手を取られた。

 

「モスティマちゃん?」

 

どうしたんだろうと思っていると手のひらにキスされた。

 

「これなら良いでしょ?

ご飯楽しみにしてるね。」

 

そう言って僕の横を通り過ぎて行った。

 

「…………はっ!?」

 

もう、モスティマちゃんはちょっとやり過ぎだと思う。後で叱らなきゃ。

そう思いながら、キッチンに向かった。

今日も美味しいって言ってくれるかな?

 

 

 








最後の一幕、本当はギャグ書こうとしてたけど、長くなりそうだから本編に回す事にしました。

一幕は本編に入れるには文字数微妙だなって内容書いてます。





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十六話:フィリオプシスは眠りたい/ラップランドは構って欲しい

 

 

 

 

「針の痛みってのはどうにも慣れねぇな。」

 

血液採取が終わって部屋に戻ろうと歩いていると誰か見つけた。

 

「ん?あいつはフィリオプシス?」

 

うーん、ライン生命はちょっと苦手なんだよなぁ……。まあ、話した事ないのに嫌うのもなんだかな。とりあえず声掛けてみるか。

 

「そこのお嬢さん、これから一緒にご飯行かな……い?」

 

「……。」

 

寝てる?あー、いや、待て待て、なんかあったような……。注意事項に……。

 

「ああ、そうか。過眠症だったっけ。」

 

なら、このまま放って置く訳にもいかねぇもんな。

 

「ここからなら、俺の部屋のが近いか。」

 

慎重に背負って歩く。

昼飯は抜きかなぁ。

 

「……あれは。」

 

 

 

 

「ドクター。」

 

「サイレンス?どうしたんだ。」

 

普段冷静な彼女が少し慌てた様子で部屋に入ってくる。

 

「フィリオプシスがあのケダモノに連れていかれたんだけど……大丈夫かな。」

 

ケダモノ?そんな風なオペレーターは……。

 

「まさか、ラックか?」

 

「そう、寝ているフィリオプシスを部屋に連れ込んでいたから。」

 

「大丈夫だと思うが……ああ見えて、強引な手段は……。」

 

いや、前のマタタビの件があるが。

 

「恐らく大丈夫だと思う。気になるならこれから見に行こうか?」

 

「うん、行こう。」

 

サイレンスに急かされてラックの部屋の前に着く。

 

「〜♪」

 

「ああ、やっぱりそうか。」

 

「これは……。」

 

「覗いてみれば分かる。」

 

扉をほんの少し開けて中を見ると、予想通りラックがフィリオプシスに膝枕をして子守唄を唄っていた。

 

「彼は寝ている人がいると基本的にはああやって起きるまで待っているんだ。」

 

「知らなかった……。」

 

「いつもの喋り方と態度で乱暴に見えるが、根は優しいものだよ。」

 

「うん、今は良いかな。

ドクター、良かったらこれから少しお茶でも飲まない?」

 

「ああ、構わない。」

 

さて、良いお茶請けはあったかな。

 

 

 

 

「……んぁ?」

 

寝ていると誰かがベッドの中に入って来た。薄く目を開いて見ると薄暗くて見づらいが多分白髪に見えた。ラップランドかフロストリーフでも来たのか?

 

「……おやすみ。」

 

ポンと頭に手を置いて撫でるとまたすぐに眠気が来た。

 

 

 

 

「ド、ドクター!」

 

「今度はどうしたんだ?」

 

またサイレンスが部屋に来た。今度は何があったんだ?

 

「き、昨日の夜、歩いてたらフィリオプシスが彼の部屋に入っていくのを見たんだ!ま、まさか手を出してるんじゃ……!!」

 

「確かに、二度目となると……しかし、単純に用事があったんじゃないか?」

 

「だとしても夜遅くに行く?」

 

そう言われると確かに……。

 

「じゃあ本人に聞いてみよう。」

 

またラックの部屋に向かうと部屋でのんびりしていた。

 

「ん?よぉ、ドクター。それと……ああ、サイレンスだっけ。どうしたんだ?」

 

「あー、いや、サイレンスがちょっとな。」

 

「フィリオプシスに手を出してない?」

 

「随分直球な質問だな、お嬢さん。

残念だけど、俺にはさっぱりだ。」

 

「嘘吐かないで!」

 

「おいおい、そんな怒らないでくれよ。本当に知らねぇんだから。前に廊下で寝てたからちょっと部屋で寝かせてただけだぜ?」

 

ラックは本当に知らないのか、困った顔をする。

 

「勘弁してくれよ。なあ、ドクター。どうにかならないか?」

 

「そんな事言われてもな……一旦数日待ってみよう。」

 

「OK、その間何も無けりゃ良いんだろ?」

 

「うん、それで良い。」

 

 

 

 

「くあぁぁ……。」

 

ググッと伸びをする。良く寝た。

 

「……ん?」

 

隣が暖かい。でも誰も居ないって事はさっきまで誰かが横で寝てたのか?

 

「……ラップランドかフロストリーフかテキサス?モスティマとかエクシアがふらふら来たのかもしれねぇな。」

 

流石に誰が来たのかまでは分からないからなぁ……メランサくらい特徴があれば分かるんだけど。

 

 

 

 

「ドクター!」

 

「……またか?」

 

バタバタとサイレンスが入って来る。もう慣れた流れだ。

とりあえずラックの部屋に行ってみよう。

 

「待て待て、冤罪だ。」

 

「とは言ってもサイレンスが見ているらしいからな……。」

 

「……そういえば、最近誰かが寝てる間に布団の中に入ってる感じがする。」

 

「寝てる間に?」

 

「ああ、まあそこまで気にしてなかったから忘れてた。

それよりそっちのサイレンスをなんとかしてくれ。視線だけで殺されそうだ。」

 

「サイレンス、落ち着いてくれ。

すまないが、カメラを設置させてもらっても良いか?寝ている間だけでも構わない。」

 

「それで疑いが晴れるならいくらでも仕掛けてくれ。」

 

ラックがため息を吐いて肩を落とした。

 

 

 

 

「……に……ます。」

 

ん……?また誰か、入って来た?

確認しようと思ったけど、暖かいさと落ち着く匂いに眠気を誘われて、そっと抱き締めて眠りについた。

 

 

 

 

「さて、見てみるぞ。」

 

じっと画面を見つめるサイレンスとまだ眠そうに欠伸をするラックの三人で録画を見始めた。

 

「まだ寝ているな。」

 

「眠かったからな……あふっ。」

 

「……待って、誰か入って来た。」

 

これは、フィリオプシス?

 

『これより、ディープスリープモードに……入ります。』

 

画面の中のフィリオプシスは掛け布団を捲るとラックの横に寝転がった。

 

『んぁ……誰?……まあ、いいや。』

 

ラックも眠いのか気にせずに寝ていた。

 

「な?俺悪くねぇだろ?」

 

「……そうみたい。」

 

「そうだな。それにしても何故フィリオプシスが?」

 

「俺に聞かれたって知らねぇよ。本人に聞いてくれ。」

 

「それもそうだな。」

 

 

 

 

「フィリオプシス、少し良いか?」

 

「こんにちは、ドクター。サイレンスさんにラックさんも。」

 

フィリオプシスはいつも通り部屋にいて、不思議そうにこちらを見る。

 

「聞きたいんだが、最近夜にラックの部屋で寝ているようだが、何故だ?」

 

「教えて、フィリオプシス。」

 

「何故?……近くにいると、心地良いからでしょうか。落ち着きます。」

 

「なるほど。しかし、それなら寝た後に行かなくても良いだろう?」

 

「眠気が訪れる時がたまたまその時なだけです。」

 

「……紛らわしいな。」

 

サイレンスも呆れていた。

 

「なあ、フィリオプシス。俺だって美人さんが来るのは大歓迎だけど、せめて起きてる時に来て欲しいんだけど……。」

 

「では、次回からはそうします。」

 

「あー、次があるのは確定なんだな。まあいいや。」

 

ラックが困ったように頭を掻く。珍しいな。

 

「んで、サイレンス。疑いは晴れたか?」

 

「今のところは、そうだね。」

 

「そりゃあ良かった。」

 

なんとか仲直り出来たようだ。

これで一件落着だな。

 

 

 

 

「……うぅ。」

 

重い……誰だ上に乗ってんのは。またフィリオプシスか?寝てる時に来んなつったのに……。

 

「フィリオプシス……ちょっと退いてくれ。」

 

「アハハ……笑えないね。誰と間違えているのかな?」

 

スパッと目が覚める。

フィリオプシスかと思ったらラップランドが上に乗っていた。

 

「よぉ……ラップランド。」

 

「やあ、ラック。最近よく一緒に寝ている子がいるらしいじゃないか。」

 

「寝ている、じゃなくて寝られてるってのが正しいけどな。んで、どした?まさかお前も一緒に寝たいって口か?」

 

「そうだよ。昼の間は色んな子がラックの近くにいるからね。じゃあ夜の時間をもらおうかって事さ。」

 

「ああ……そう。悪ぃけど、最近仕事が多くて疲れてるんだ。静かにしててくれ。」

 

左手を背中に回して右手を後頭部に廻して抱き寄せて動かないようにする。人肌が心地良い。こりゃ丁度いい抱き枕代わりになるな。

 

「ちょ、ちょっとラック。急になんて……。」

 

声が跳ねてるけど俺は眠いんだ。

 

「……ぐぅ。」

 

「……構ってくれないのかい?」

 

とん、と胸に軽く叩かれた気がした。

 

 

 

 

目が覚める。

 

「……良く寝た。」

 

寝過ぎて頭が痛いくらいだ。

そういや、昨日確かラップランドが来たんっけ。

 

「あれ、いねぇや。」

 

ふらっとどっか行ったのか?

まあ、あんまり考えてもしゃーない。今日は休みだし、のんびりさせてもらおう。

 

 

 

 

「グムー、カレー頼むわ。」

 

「任せて!」

 

グムからカレーを貰ってテキトーに座って食ってると白い影がチラつく。

 

「……?」

 

ラップランドかと思って見ると誰もいない。

 

「……気のせいか?」

 

あいつだと突撃してくるから気のせいだろ。

 

 

 

 

「……?」

 

歩いていると気配を感じて振り返る。

 

「また誰もいない……。」

 

直前まで誰かいた気がすんだけどなぁ。

 

「鈍ったか?」

 

レッドが監視してきてる可能性もあるけど、どうだろ。

 

 

 

 

「おぅい、アズリウスー。ケーキ食いに来たー。」

 

「あら、お待ちしておりましたわ。」

 

目の前に皿が置かれる。いつもながら配色が絶妙だ。しかし味は美味いんだよなぁ。

 

「ん、美味い。」

 

「では、こちらのモンブランも。」

 

なんでモンブランが青いんだろ。……着色料使ってないんだよな?

 

「でも美味いんだよなぁ。」

 

「どうかしました?」

 

「んにゃ、なんも。」

 

美味い美味いと食っているとまた視界の端にチラつく。

 

「……なんなんだ。」

 

ため息を吐いてモンブランを食べた。美味い。

 

 

 

 

「テキサスー。」

 

「なんだ?」

 

「ラップランド見てないか?」

 

鼻も良いし、今日会ってるかもしんねぇ。

 

「それなら……いや、なんでもない。」

 

「おい、なんで止めた。」

 

「……気にするな。」

 

わざとらしく目をそらす。

 

「今度美味いチョコパフェの店連れてってやる。」

 

そういうとテキサスの尻尾がピンと立ちふるふると小刻みに震え始めた。

 

「し、しかし……。」

 

「期間限定ポッキーも付けてやるぞ。」

 

「くっ……すまない!」

 

……逃げられちまった。自分で探すしかねぇか。

 

 

 

 

「……あんの馬鹿。」

 

どこにもいねぇし。

誰に聞いても教えてくれねぇ。めんどくせぇ。

 

「まあ、勝手に出てくんだろ。」

 

にしてもずっと視界のどこかでチラついてんのになんで見つかんねぇかなぁ。構ってちゃんめ。

 

「おーい、ラップランド。何か文句あんなら出てこいよー。」

 

ベッドに転がって呼んでみる。

いつも通り目の端に見えてそっちを向くと今回はちゃんとラップランドがいた。

 

「やっとか。んで、構ってちゃんなラップランドは何がしたいんだ〜?」

 

わしゃわしゃと撫でるとちゃりっと音がした。

ラップランドの手に首輪があり、それを自分の首に着けると、リードを俺に渡した。

 

「え”っ……。」

 

「さあ、散歩に行こうじゃないかご主人様?」

 

「待て待て、どうしてそうなった。」

 

「構ってくれるんだろう?」

 

「いや、そうだけど……ああ、わかった。やりゃいいんだろ。」

 

「よし、行こう。安心して、遅くならないようにちゃんと歩くし、服も着てるから。」

 

ちゃんと歩かない場合があるのか……え、四つん這い?いや、考えない方が良さそうだ。しかも脱ぐ場合があるのか……まずい、ちょっと興奮してきた。

 

「しゃーねぇなぁ。」

 

「「あ。」」

 

んじゃ、行くかと、ラップランドが先に扉を開けた先に、ドクターとアーミヤがいた。

 

「……ラック、何をしているんだ?」

 

「ラップランドさん、どうして首輪を……?」

 

「ふふっ、ご主人様と散歩さ。」

 

ばっ……!その言い方はまずいだろ。あー、考えろー……いい言葉が、閃いた!!

 

「ふっ……そういう、プレイなんだ。」

 

馬鹿野郎。

言葉を絞り出すとラップランドを抱き抱えて走る。

 

「馬鹿じゃねぇの!?なんで俺があんな苦しい言い訳してんだよ!?俺も馬鹿か!?」

 

「どうして逃げるんのさ、見せつければいいじゃないか。」

 

「間違いなくチェン辺り呼ばれて御用だっての!」

 

ある程度逃げて座り込む。散歩ハードモードに突入したぞ。

元凶のラップランドは呑気に膝の上で甘えてくるし。

 

「こいつ……甘えたって撫でるくらいしかしてやんねぇかんな。」

 

呆れながら撫でる手が軽くから最終的にわしゃわしゃと全力で可愛がる撫で方に変わっていく。

 

「おー、ラップランドお前戦ってない時は本当に可愛いなぁ。」

 

……変な性癖目覚めそう。

そんな事をしているとコツンと音が聞こえた。

 

「て、テキサス。」

 

「……一応聞くが。何をしていたんだ?」

 

「ふふ、ただの触れ合いさ。ペットとご主人様のね。」

 

頬にキスをしてくる。だからお前言い方なんとかしろよ。

 

「そうだ、テキサスもペットになろうよ。うん、それが良い!」

 

「おいこら、共犯者を増やす……いや、リスクの分散が出来るか?」

 

ラップランドを見ていた目がキラリとテキサスを捉えた。

 

「ゴー!ラップランド!」

 

「フッ、任せてよ。」

 

飛び跳ねるようにラップランドが動き、テキサスを相手取る。

その間にちょろっと後ろに回って……。

 

「くっ……!」

 

「久し振りにやろうよ!」

 

「いや、やるなよ。」

 

ぐわしっとテキサスの耳を後ろから鷲掴みにしてコリコリと弄る。

 

「……っ!?」

 

「よ〜し、テキサス。落ち着けよ。」

 

ふははは、ループスの耳と尻尾はサンクタの輪と羽と同じくらいっての知ってんだからな。

 

「今だラップランド!」

 

「ああ!」

 

カチャンと首輪とリードがテキサスの首に着いた。

 

「……。」

 

「よし、これでテキサスと共犯者だな。」

 

「何故私まで……」

 

「まあまあ、こうしなきゃ俺らだけチェン達に捕まっちまう。だからおと……仲間が必要だったんだ!」

 

目を見て真摯に答える。

 

「いや、こんな事の仲間にはなりたくない。」

 

「あれ……?」

 

想定では感極まって仲間になってくれるはずだったんだが、何がいけなかった。

 

「まあ、いいか。とりあえず連れて行こう。」

 

「……好きにしてくれ。」

 

疲れているのか、ため息を吐く。ペンギン急便は荒事が多いからな。疲れるんだろう。決して今の状況に対してため息を吐いた訳じゃないだろう。

しゃーないと横抱きにする。

 

「よし、なるべく人に見つからないように行くぞ。」

 

しかし、散歩と行ってもどこに行くかも決めてないし、目標を決めよう。

 

「あ、そうだ。甲板に行こう。今日は晴れてるから星も見えるだろうし、夜なら風も気持ちいいだろ。」

 

そう言って動き出そうとすると服を掴まれた。

 

「っととと、ラップランド?」

 

「ボクも。」

 

「は?」

 

「ボクもそれしてほしい。」

 

「後でな後で。」

 

「嫌だ。」

 

「駄々こねるなよ。後なら良いから、な?」

 

そう言うと不貞腐れて座り込んで動かなくなってしまった。

 

「あー、分かった。やりゃ良いんだろ。」

 

テキサスを横抱きから片手で抱えるようにするともう片方の手を差し出すと嬉しそうに抱き着いてきた。

 

「ははは、なかなかだな……!!」

 

お前ら、女の子だからって羽のように軽い訳じゃないぞ。

 

「さあ、行こうよ。」

 

「……。」

 

「好き勝手しやがって。」

 

ラップランドがゴーゴーと手を突き出して、テキサスが拗ねてお菓子を食べている。

 

「行くぞお嬢様達ー。」

 

少し持つ位置を整えて歩き出す。

誰にも会わずに行ければいいなぁ〜。

 

「……っとぉ。」

 

「こんな時間に、何してるのかと思ったら……。」

 

「よぉ、サイレンス。奇遇だな。

んじゃ、散歩してっからここらで。」

 

えっほえっほと小走りで逃げる。

 

「やっぱり、ケダモノ……!」

 

「やべっ。」

 

走りづらいから肩に乗せて走り出す。

 

「うっ……!?」

 

「げほっ……!」

 

「我慢しやがれ!」

 

腹が肩に当たって痛いだろうけど、許せよ。湿布なら後で貼ってやるからな!

 

「ふぃ〜、なんとか逃げ切れたし、もうちょいで甲板か。」

 

「もっと優しく運んでほしいな。」

 

「……苦しい。」

 

「悪かったって。今度デザート奢ってやっからそんくらい許せや。」

 

軽く叩かれて抗議されようがテキサスはともかく、ラップランドは我慢しろ。

 

「そら、着いたぞ。」

 

ん〜……風が気持ちいいな。それにやっぱり星がよく見える。

 

「満足したか?テキサスも悪かったな。」

 

「ふふ、そうだね。今日はこのくらいで満足してあげるよ。」

 

「まあ、良い。ただ、デザートは約束だ。」

 

「はいはい。んじゃ、戻るか。」

 

「そうか、楽しかったか?」

 

ガシッと肩を掴まれる。おーっと……?

 

「こんばんは、チェン。お前も散歩か?今日は星がよく見えるからな。風邪引かない内に戻れよ。」

 

「チャージ。」

 

「なんだリスカムも一緒にいたのか?ロドスの警備の話でもしてたのか?真面目なのは素晴らしいが夜更かしはお肌に悪いぜ。」

 

「投降してください。」

 

「……そら、逃げろ!」

 

そう言った瞬間ラップランドとテキサスが腕の中から飛び出して振り返りもせずに逃げ去って行った。

 

「……え?見捨てるの?」

 

え、ラップランドの我儘でここまで来たのに?

 

「マジ?」

 

「今のうちに言い訳を考えるんだな。」

 

「ちなみにカツ丼って出る?グムに連絡すれば良い?」

 

「こんな時間に出る訳ないだろう。」

 

「早く行きますよ。」

 

手錠を手に掛けられる。

 

「喜べ、お前の好きな女性と話せるぞ。」

 

「わぁ、嬉しい〜。ベッド行く?」

 

「はっ。」

 

「バカも休み休み言ってください。」

 

酷い言い様だ。短かったら良いなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

・今日の一幕

 

「ほれほれほれほれ。」

 

「……。」

 

あれからちょっと動物プレイみたいなのにハマってしまって、今はメランサの目の前でねこじゃらしを振っている。

 

「…………にゃ。」

 

ぺしりとメランサがねこじゃらしを叩いた。

 

「よーしよしよしよしよし!」

 

褒めるように撫でるとやや不満げだけど笑顔になる。やはり良いな!

次行ってみよう!

 

 

 

 

「るーるるるるー。」

 

「また変な事を……。」

 

シュヴァルツが溜息を吐く。なんてやつだ。ただ俺はねこじゃらしを降ってるだけなのに。

 

「ぉうっ……!」

 

鼻を指で弾かれる。やっぱりシュヴァルツにはダメかぁ……次!

 

 

 

 

「うりうり。」

 

目の前で転がるシージにねこじゃらしを振る。アスランだけどライオンだし、ネコ科だからいけんだろ!

 

「これは、必要な事か?」

 

「俺にとっちゃ必要なこったな!」

 

どうだと振り続けると咥えていたロリポップを俺の口に突っ込むと寝始めた。

ふぅむ、次で最後にしとくかな。文句言われそう。

 

 

 

 

「ちちちちちちっ。」

 

「あの、ラックさん?」

 

仕事をしているアーミヤの目の前でカットした人参を振る。

 

「どうしたCEO様。」

 

「これは何をしているんですか……?」

 

「おかしな事聞くなぁ。これは人参だ。」

 

「それは知ってます!私が聞いてるのはどうして人参をむぐっ。」

 

長くなりそうだから問答無用で口に突っ込む。

 

「むぐむぐごくん……もう!急に入れないでむぐっ、だからもぐっ、やめてむっ。」

 

「よ〜しよし、偉いな〜。」

 

文句を言っても口の中に人参を入れると口の中が無くなるまで喋らないのは育ちの良さか?

 

「むう……。」

 

不満そうにカリカリと人参を頬張る姿はいつものCEOとしての姿ではなく一人の少女として見えた。

 

「休憩って事で許してくれ。後でこき使ってくれて良いからよぉ。」

 

「……仕方ないですね。」

 

おっ、許された。

今度は少し口から離すと食い付いてきた。やっぱ人参が好きなんだな。そう思いながらエサ……じゃなくて人参を持ってない手で頭を撫でる。

そうそう、こういう反応欲しかったんだよ。

そうやってちょっとず〜つ座ってる場所を膝の上に移動させて餌付けする。

 

「ふへっふへへふぅへへへへへへへっ……!」

 

「ふぅん、楽しそうだね。」

 

「もう超楽しい。」

 

「ふぅん……へぇ〜。」

 

「……んぁ?」

 

誰と話してんだろうと振り返るとつまらなそうな顔のモスティマがいた。

 

「……っすぅー…………よっ、モスティマ!」

 

凍える視線ってのはこんなもんなのかな?

 

「アーミヤ、コレ貰ってくね?」

 

「むぐもぐ、あ、はいっ。」

 

「あ、これ残りの人参ね。晩飯入らなくならないように程々にしとけよ。」

 

「あ、ありがとうございます。」

 

「ほら、行くよ。」

 

襟を掴まれて引き摺られながらアーミヤに手を振る。どこに連れてかれるんだろう。

 

 

 

 

「はいこれ。」

 

「……はい?」

 

モスティマの部屋に着いて渡されたのは犬のつけ耳と付け尻尾に首輪だった。

 

「見ての通りだよ。聞いたよ?こういうの、好きなんだよね?」

 

「いや、好きなのはこっちじゃなくて。」

 

「好きなんだよね?」

 

「めっちゃ好きなんだわー!俺一回試しに飼われてみたかったわー!」

 

ちゃちゃっと全部装備する。

 

「わんわん!っしゃ!解散。」

 

「……。」

 

「んげっ!?」

 

首輪に付いていたリードを引かれてすっ転ぶ。

 

「何しやがる。」

 

「こっちの台詞さ。何ペットが勝手にどこかに行こうとしてるの?」

 

「ははは、ペットにも自由ってのはあるもんだぜ?」

 

「うちはうち、よそはよそだよ。」

 

横暴だぁ。

ぐいぐいと引っ張られでベッドの前まで四つん這いで向かう。

 

「はい。」

 

「……?」

 

モスティマがベッドに転がる。何のサインだ?

 

「察しが悪いなぁ。上に来て。」

 

言われてベッドの上に乗るとリードを引かれて顔の目の前までいって目を合わせる。

惚れた顔が目の前に来て、その綺麗な瞳に目が震えてしまって逸らすと、頬を両手で挟まれた。

 

「ねぇ、私を見て。」

 

「も、モスティマ?」

 

震える目で見ると天使が微笑んでいた。

 

「……こいつは目に毒だぜ。」

 

「ふふ、それでもちゃんと見てくれるラックの事が好きだよ。」

 

ガツーンとハンマーで頭を殴られたみたいな衝撃が走る。その顔でそれはズリィよ……。

 

「……やっぱお前の顔好きだわぁぁぁ。」

 

「顔だけ?」

 

「……全部。」

 

おいおい、年甲斐も無くきゅんきゅんしちゃうぜマジで。

 

「今日は二人でのんびりしちゃおっか。」

 

「そうだなぁ……。」

 

頭をモスティマの胸に乗せられる。……?これ、男女逆じゃねぇか?

 

「おい、俺が下になる。」

 

「えー、ダメ。今ラックは猫なんだから、もっと甘えてくれないと。」

 

そう言って抱き締めて頭を撫でられる。

 

「……しゃーねーな。」

 

ぽふっと大人しく胸に乗ると目を瞑る。

あ〜、いい匂い……勃ちそうだわ。

 

「なぁ、モスティマ。」

 

「今日はダメ。我慢して。」

 

「ケチだな。」

 

あ〜、でも眠くなってきたかもしんねぇ。

規則的に叩かれる背中と撫でられる頭の感触が余計に眠気を誘う。

もう、ダメだ。

 

「おやすみ、いい夢を。」

 

 

 







今回の後書きは軽く次回予告


「エクカクゥ!!」

「ラックゥ!」

「「うおおおおおおぉぉぉくらえぇ!!!」」


ギャグ回です。



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十七話:よよいのよい!!!

 

 

 

 

「モスティマ!今日はラックと三人でご飯食べようよ!」

 

「ああ、いいよ。」

 

「やったー!じゃあラックにも聞いてみよっか!」

 

楽しみだなー!

 

「ラックー!今日三人で━━━━━━━」

 

「エンカクゥゥウウウ!!!」

 

「ラァアックゥゥウウ!!!」

 

「「死にやがれぇ!」」

 

「アウト!」

 

「セーフ!」

 

「「よよいのぉ!!」」

 

「「よぉい!!」」

 

ラックの部屋に入るとラックとエンカクが半裸でじゃんけんをしていた。

 

「シャアアアア!!!」

 

「クソガッッ!!」

 

あ、奥のベッドでテキサスとラップランドが死んだ目してる。

 

 

 

 

「おい、エンカク。面白そうな事ねぇのか。」

 

たまには男だけで飲むかって事でエンシオとマッターホルンとクーリエと、三人を連れて歩いてる途中で拾ったエンカクの五人で飲む事になった。

 

「ああ……?お前らが連れて来たんだからお前らが考えろよ。」

 

「はぁ?連れてきてやった上に酒とつまみは用意してやったんだからお前がやれや。」

 

「「あ”あ”ん!?」」

 

「……二人ともそのくらいにしろ。折角の酒の席だぞ。不味くなる。」

 

「チッ!仕方ねぇ。……じゃあ野球挙なんてどうだ。」

 

「野球挙?なんだそりゃ、クーリエ知ってるか?」

 

「聞いた事あるような……。」

 

「単純な遊びだ。じゃんけんして負けた方が服を一枚脱ぐ。」

 

「ほっほぉ、なるほどねぇ。そりゃあ酒が入ってるなら面白そうだ。

んじゃ、そうだな。全部脱げたら罰ゲームって事でどうだ?」

 

「なんだ、負けるのにそんなもん考えんのか?」

 

「はぁ?ぶっ殺すぞ。」

 

「その前にお前をぶっ殺してやろうか?」

 

「その辺に、勝負はその野球挙とやらで。」

 

「……それもそうだな。」

 

「……チッ!」

 

そして勝負は始まった。

 

 

 

 

最後の一枚。俺ら二人は既にパンイチで向かい合っていた。

 

「アウト!」

 

「セーフ!」

 

「「よよいのぉ!!」」

 

「「よぉい!!」」

 

俺の、勝ちだ!!

 

「シャアアアア!!!」

 

「クソガッッ!!」

 

拳を大きく掲げる。

 

「そんじゃあどうすっかなぁ!……全裸のまま逆立ちでロドス一周してこいや!」

 

「はぁ!?お前頭イカれてんのか!?」

 

「あー?なんだ、ビビッてんのか?」

 

「ッ上等だ!やってやるよ!!」

 

エンカクが勢いよく逆立ちをして走って行った。

 

「うおおおおおお!!!」

 

「チェン達にヨロシクゥ!!がははははっ!マジであいつ行きやがったぜ!」

 

机をバンバン叩きながら笑う。あー、良い気分。

 

「……んで?てめぇら、どうする?今の見て弱気になっちまったか?」

 

「はははっ、冗談を。」

 

「我々にお任せください。我が主よ。」

 

「頼むぞ。」

 

クーリエとマッターホルンが出てくる。

 

「良いぜェ。この俺がてめぇらの運を測ってやろうじゃねぇか!!

いくぞ━━━━━━━」

 

 

 

 

「シャアアア!!全員抜きじゃあ!!」

 

「くっ……!」

 

「申し訳ありません……!」

 

「いいや、これは私も負けたのだ。お前達は悪くないさ。」

 

「はっはー!!てめぇらにピッタリの罰ゲームだ!お前らは何もしなくていいぜ。」

 

「なんと……!」

 

「あなたがそんな事を言うとは……!」

 

「ふっ、やはりお前は我らの仲間のようだ。」

 

「ああ……何もしなくていい。だからエンヤとエンシアの前を通り過ぎるだけで良いぜ!」

 

「悪魔め!」

 

「野蛮人!」

 

「やはり貴様は我らの敵だ。」

 

「言ってろ言ってろ!とっとと行け!」

 

三人を見送って一旦落ち着くために服を着直して酒を飲む。

 

「ふぃ〜……あれ?お前らいたの?」

 

いつの間にかモスティマ達が部屋にいた。全然気付かなかった。

 

「はははっ!まあゆっくりしてけよ!今なら機嫌が良いからいくらでも居ていいぜ!」

 

はー!勝った勝ったー!野球挙だろうがなんだろうが連勝出来りゃ気持ちいいもんだぜ!

 

「ラックぅ。」

 

「んだよモスティマ。折角気分良いのによー。」

 

んん?ちょっと様子が……ま、いっか!

 

「私とも、じゃんけんしよ?」

 

「お前がぁ?服脱ぐんだぜ?」

 

「もちろん、構わないよ。」

 

「ならやるか!にしてもお前顔赤くね?そんな部屋暑かったっけ……?」

 

結構冷房効かせてるんだけど。

ふと見るとモスティマが手にコップを持っていた。

 

「おいそれ、俺らが飲む用の強いやつじゃねぇか……?」

 

冷や汗が頬を伝う。こいつが酔ったところとかほとんど見た事ないぞ。

 

「あうとぉ、せーふ。よよいの〜。」

 

「チィ!しゃーねぇ!脱がして俺が楽しむ!!」

 

「よ」

 

しゃあ!チョキ!

 

「い」

 

モスティマが出したのはグー、つまり俺の負けだ。

 

「クソッ!勝利のチョキが負けた!?まだまだ!」

 

バッとシャツを脱ぐ。これからだ!

 

「よよいのよ」

 

男の拳見せてやる、グー!

 

「い」

 

モスティマはパー。二連続で負けた。こいつはおかしいぜ。

そう思いながらズボンを脱ぐ。何か種があるはずだ。

 

「ラックは弱いなぁ〜、ふふふふ。」

 

「言ってろ。これからお前を全裸にひん剥いて俺が勝つ。」

 

「勝てるといいねぇ。よよいのよ」

 

ここだ!チョキ!

 

「い」

 

な、なぜだ。なぜこうも負けるんだ。

これで残る防具はパンツだけだぞ、ふざけんな!

 

「じゃあ、最後だね。

よよいの」

 

なんで負けるんだ?運は良いはず……ん?あれ、モスティマの左手が……

 

「い」

 

「時止めてんじゃねぇぇよばーーーか!?」

 

勝てる訳ねぇだろ!

 

「はぁい、私の全勝ね。」

 

「おい、おいおい、そりゃあねぇだろ!?」

 

「なに?私は何もしてないよ〜。」

 

「嘘つけ!」

 

「もう、うるさい。」

 

「んごぱっ!?」

 

まだまだ大量に入って酒瓶を口に突っ込まれる。

 

「んぐっんぐっんぐっんぐっ……うぇっぷ……。」

 

「さあ、脱ぎ脱ぎしようねぇ。」

 

「うっぷ……。」

 

掴まれたパンツを片手で押さえる。こんなの認められるか……。

 

「て、テキサァス……へるぷ……。」

 

あいつが、一番……静か……。

 

「もー、テキサスがいいの?」

 

「一番、今優しそうだからなぁ……テキサスぅ……。」

 

「仕方ない。」

 

テキサスが俺を担いで走り出す。

 

「うぶっ!?も、もうちょっと優しくして……。」

 

「文句を言うな。」

 

あい……。

そのまま談話室まで運んで寝かせてもらった。

 

「……テキサス、水。」

 

「ほら。」

 

「サンキュ。」

 

あ〜、生き返る。頭痛てぇなちくしょう。

 

「テキサス、助かった。」

 

「気にするな。その代わり、この前のチョコパフェを食べに連れて行ってくれ。」

 

「OK、そのくらい安いもんだ。」

 

……ちょっと頭の位置が悪いな。

 

「悪ぃ、ちょっと膝借りる。」

 

ぼすっと膝に頭を乗せると、頭の向きに変える。

 

「パフェ以外にも貰うからな。」

 

「分かった、だからもう少しこのまま寝かせてくれ。」

 

……タイツっていいなぁ。

 

「あまり変な事をすると落とす。」

 

「待って待って、出来心だから。」

 

ガシッと腰に抱き着くとため息を吐いていつもみたいにチョコを食べる。

 

「あーん。」

 

「……これは私のだ。」

 

「ケチな事言うなよ。ちょっと、ちょっとだけだから。今度奢るんだからそのくらい良いだろ?」

 

「それもそうか。」

 

そう言うと素直に食べさせてくれた。え、今度どれだけ買わせる気なんだ?

まあ、いいか。

 

「あ、テキサスさん!と、ラックさん……。」

 

うげ、厄介なのが来た。

 

「ソラ。」

 

「なんでラックさんはパンツしか履いてないの!?後テキサスさんの上から退いてよ!」

 

キンキンと高音が頭に響く。

 

「っつぅ、ソラ、もうちょっと声小さくしてくれ、頭に響く。」

 

「あ、ごめんなさい。その状況は少し置いておいて何があったの?」

 

簡単に状況を説明するとどんどん視線が冷めていく。

 

「自業自得だよ。」

 

「だってモスティマが……。」

 

「だってじゃないでしょ!」

 

「うっ……て、テキサス。ソラがぁ……。」

 

テキサスの腹に擦り寄る。

 

「あー!あー!?ズルい!」

 

「おおぉ……響くっつってんのに。」

 

すると耳をテキサスの手が塞いだ。

 

「ちょ、テキサスさん!?」

 

「すまない。少し休ませてやってほしい。」

 

「うぅ……テキサスさんが言うなら……。」

 

「……お前、早く治してスイーツ食べたいだけだろ。」

 

分かってんだぞ。

頭を軽く叩かれる。余計な事は言うなってか。

 

「あ、いけない、これから呼ばれてるんだった!う〜……テキサスさんに変な事したらだめだからね!」

 

悔しそうに部屋から出ていった。

 

「恨まれてそうだなぁ。」

 

「ソラはそんなに心は狭くない。」

 

「そうかぁ?」

 

「それよりも早く体調を治すんだ。」

 

「へーへー。」

 

後、服取りに行かねぇとな。

 

「まあ、当分は動けないか。」

 

少し寝ようと目を瞑った。

 

 

 

 

「……ここ、どこだ?誰の部屋?」

 

気分はかなり良くなったな。にしてもテキサスかどこに行ったんだ?

 

「顔洗うか。」

 

洗面所の扉を開けると

 

「なっ……。」

 

「あー……こりゃ失礼。」

 

下着姿のテキサスがいて、パタンと扉を閉じる。

なんだ、シャワー浴びてたのか。

少しして部屋着のテキサスが出てきた。

おお、なんか新鮮だ。

 

「ほー……。」

 

「あまり、見るな。」

 

さっきのが恥ずかしかったのか少し赤くなる。

つっても俺はずっとパンイチ見られてんだけど。

最近パンイチでロドス歩いても何も言われなくなったんだよなぁ……。

 

「ここテキサスの部屋か?」

 

「ああ、さっきは飲めなかったから、これから飲もうと思っている。

そこそこの物しかないからどうだ?」

 

ん〜、どうしようか。飲んで起きたばかりだから本来なら飲むべきじゃないんだけど、テキサスだけに飲ませるのもな。

 

「じゃあ飲もう。」

 

さっきは騒がしかったし、静かに飲むのも悪くねぇ。

テキサスが缶チューハイとつまみを持ってきて、受け取る。

 

「んじゃ、乾杯。」

 

「ああ、乾杯。」

 

コツンっと缶をぶつけた。

 

 

 

 

「おい、そろそろ止めとけって。」

 

「……うるさい。」

 

結構な本数飲んだからか?テキサスが酔っ払ってしまった。

今も俺の右腕を抱いて酒を流し込んでいる。

 

「あーもー、止めろって。」

 

パッと酒を奪って自分で飲み干す。

 

「私のだ。」

 

「んむっ!?」

 

酒を取られたのが不満なのかのしかかってキスをされた。もう飲んだっての!

 

「ぴちゃ、ぴちゃ……」

 

「……ぷはぁ!?お、お前なぁ。」

 

肩を掴んで離す。目がトロンとしてやがる。

 

「おい、もう寝ろよ。」

 

「嫌。」

 

「嫌じゃなくて、眠いんだろ?」

 

「眠くない。」

 

ぐりぐりと胸に頭を押し付ける。

喋りは普通なんだけどなぁ。

テキサスを見ると既に胸元にいなくて、酒をもう一本開けていた。

 

「あー!?」

 

「ゴクッゴクッゴクッゴクッ」

 

「コラ、いい加減にしやがれ。」

 

また酒を奪うと、今度は飲まずに上に持ち上げた。

 

「ラック、私の酒だ。」

 

「今日はもうだめだ。」

 

テキサスの頭を押し返す。

 

「んー、んー!」

 

パタパタと両手を前に出してくる。子供かよ……いや、酒飲んだらこうなったりはするけどよ。

 

「……仕方ない、今日はもう寝よう。」

 

ふぅ、やっとか。

缶を一旦置いてほっとする。

 

「じゃあ、俺はシャワー浴びて━━━━━━」

 

来ようとするといつの間にかベッドに押し倒さ

れていた。

 

「あ……?おい、テキサス?」

 

「寝るんだろう?」

 

「こういう事じゃなくて、普通に寝るつもりだったんだけど?」

 

目の前のテキサスはいつもの冷静というか、無表情を崩し、舌なめずりをして、怪しい雰囲気を漂わせていた。

 

「ふ、前はラックが私を食べようとした事があったな。あの時と逆だ。」

 

「え、まあ、そんな事もあったな。」

 

「私はお前には魅力的に見えるか?」

 

「そりゃあ、もう。目の前に無防備でいられたら上等な肉に飛びかかる獣の如く襲うに決まってんだろ。」

 

「そうか、嬉しいな。」

 

「お、おお。随分素直じゃねぇか。」

 

ははは、と笑っていると、テキサスの犬歯が見えた。

 

「狼さん狼さん。どうしてそんなに犬歯を剥き出しにしているの?」

 

「それは、お前を美味しくいただくためだ。

いただきます。」

 

口を大きく開けたテキサスが迫ってくる。

 

「もう好きにしてくれ……。」

 

 

 

 

「いっ……!?」

 

何度目か、また肩に歯が食い込む。

体中にテキサスの付けた痕が残る。一応、力加減はされているが、それでもたまに血が出る。

 

「ああ、すまない。止血しよう。」

 

そう言って血が出た所に嬉嬉として吸い付く。

 

「こんの、バカ狼……。」

 

震える手を持ち上げるとすぐさま掴まれてベッドに叩き付けられる。

 

「酷いな。」

 

そう言ってキスをすると、舌を歯で引っ張って弄ぶ。

千切るのは勘弁だぞ。

 

「ひゅー、ひゅー……」

 

喉仏を強く噛まれて呼吸が苦しくなる。

こいつ、こんなSっ気あったのかよ。

 

「……っ!」

 

テキサスの首を掴んで剥がそうにも更に強く歯が食い込む。

 

「てき……さすっ……!」

 

ようやく歯が離れて解放される。

 

「げほっ!ごっほ!?……俺になんか恨みでもあんのか?」

 

「特には思い当たらないが……お前が黙って組み伏せられるというのは、なかなか悪くない。」

 

「はっ……性格悪ぃな。」

 

弱った俺を見てテキサスの目がどんどん鋭くなる。

 

「続けよう。」

 

そう言ってテキサスが服を脱いだ。

 

 

 

 

「……つぅ。」

 

目が覚めると部屋が真っ暗だった。

 

「あれからどうなった……?」

 

体を見ると汗がびっしょりで噛み跡でボロボロになっていた。しゃーないから包帯と服で隠さねぇと。

 

「くあぁ……ん!?」

 

「んふぅ……。」

 

欠伸をしていると急に両手で首を抱き締められてキスをされた。

 

「おはよう。」

 

「……ああ、おはよう。」

 

いつもの様に無表情……ではなく、少し微笑んでいた。

 

「…………おう。」

 

「朝食を食べに行こう。」

 

「ああ、その前にシャワー浴びさせてくれ。」

 

流石に汗で気持ちが悪い。浴室に入ってシャワーを浴びているとカチャリと扉が開いた。

 

「俺が入ってんだけど?」

 

「二度手間だろう。」

 

「いや……ああ、いいや、めんどくせぇ。」

 

寝起きで少しぼーっとしているテキサスの髪や体を洗ってやる。

 

「ああくそ、引っ付くんじゃねぇよ。やりにくいだろ。」

 

洗うだけだってのに抱き着いてくる。もしかしてまだ酔いが残ってるんじゃねぇか?

 

「やりづれぇ……。」

 

引っ付いたテキサスも体にボディソープを付けて洗ってくる。お前そんな事すると興奮しちまうだろ。

これから飯なのに自分との戦いを耐えながらのシャワーはしんどいぜ……。

 

 

 

 

「おい、あんま引っ付くなよ。」

 

「気にするな。」

 

「気にするなって……。」

 

傷跡やキスマークなんかを絆創膏や包帯でぐるぐる巻きにして食堂に向かう。本当は部屋に戻って服を取りに行きたかったのにテキサスが引っ張りやがった。

お陰で周りからは白い目を向けられやがる。

 

「あ、テキサスー。昨日はどう、なっ……た?」

 

「ああ、エクシアか。」

 

「よぉ、こうなっちまったよ。」

 

ボロボロの俺を見てエクシアが震える。まあ、相棒がまさかこんな事するなんてって感じなんだろ。

 

「ちょっとー!?なんで二人してそんな雰囲気なのさ!?」

 

「え、俺も?俺もか?つーか俺が襲われたんだけど?」

 

「襲われたんなら抵抗してよ!」

 

「無理言うなよ。」

 

エクシアの頭にチョップをする。

 

「見ろよこれ、恐ろしい狼に襲われてボロボロだ。」

 

「それは大変だったな。ラップランドには私から言っておこう。」

 

「お前だお・ま・え。ったくよー……。」

 

ため息を吐く。

どうにかなんねぇのか。

 

「まあ、いいや。エクシア、これから飯食うけどどうする?」

 

「行く!!」

 

テキサスと反対の腕に抱き着く。動きずれぇ。

 

「んじゃ、行くぞー。」

 

三人四脚みたいな感じで歩く。これ、モスティマ達に見られたらまずそうだよなぁ……。

 

 

 

 

「……我々はなぜこんな所にいるのだ?」

 

「申し訳ありません、記憶がなくて……。」

 

「同じく私も……。」

 

「くそラックの野郎にやられたんだよ!今度ぶっ飛ばしてやる……!!」

 

いつも空なロドスの牢屋が騒がしかったとかどうとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

・ある日の一幕

 

 

「やあ、たくさん集まってどうしたのかな?」

 

配達中に集団が寄ってきた。

 

「我らが主を呼び出すための贄となってもらう。」

 

「ああ……まだラックの事を諦めてないんだね。」

 

いつ頃からだったかな。ラックを主と呼ぶ集団が現れた。ラックの方には私を救世主とする集団が来てるらしいね。お互い違う方に遭遇するなんて、ちょっとおかしな話だ。

 

「ラックは渡せないかな。」

 

「貴様、主の寵愛を独占する気か!!」

 

「彼は人だよ。」

 

「ならばなぜサンクタで輪と羽がない?あれは彼が天使から主へと昇華されたのだ!

やつを捕まえろ!」

 

武器を持った集団が襲いかかってきた。

 

 

 

 

「私はね、ラックと過ごせれば満足なのさ。もちろん、結婚するのが一番なんだけどね。」

 

「ば、化け物……。」

 

「そのラックを私から奪おうとするのは許さないよ。」

 

コツコツと男の前に歩いて行き、杖を向ける。

 

「や、やめろ……許してくれ!」

 

「彼は私のだよ。」

 

アーツの光が出ると動かなくなった。

 

「さて、配達を早く終わらせてラックに会いに行こっと。」

 

お土産は何が良いかな?

 

 

 

 







やっぱ男性の云々よりも女性のが書いてて楽しいっすね。
ところでテキサスはどうしてこうなってしまったんだろう??


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十八話:お医者さんの言うことはぜった〜い!

 

 

 

 

「よっとぉ!そらそらどうした?気合い足りてねぇんじゃねぇのか!」

 

今日はレユニオンの集団との戦闘だ。うじゃうじゃと来やがる。

 

「はっはー!運が良かったら生き残れるかもな!」

 

斬り裂き、撃ち抜く。たたこれだけ単純作業だ。

 

「ラック!」

 

誰かの声に反応して振り返る。

 

「チッ!……っと、やべ、ドジった。」

 

他のやつを相手にしていて接近していたヴェンデッタに刀を弾かれて、袈裟斬りにされてしまった。

 

「ぶふっ……てめぇも、道連れだ。」

 

倒れそうになっている所をナイフを逆手持ちにしてヴェンデッタの顔面に突き刺す。

 

「へっ、ざまあ……みろ。」

 

 

 

 

「……ツゥ。」

 

目が覚めて最初に感じたのは焼けるような痛みだった。

 

「油断しちまったか。」

 

体を確かめると包帯が巻いてあって、血の滲み具合からして縫ったんだろうな。

 

「……ふらふらする。」

 

ここ、ロドスん中か?

水が欲しい。

 

「おい、誰か……っててて。」

 

大声で呼ぼうとすると痛みが走ってベッドに倒れる。

あ、ちょっと傷開いてる。くっそあんにゃろ、やりやがったな。

 

「もうヴェンデッタにゃ負けねぇからな。」

 

少し悔しいな。

扉が開いて誰かが入ってきた。

 

「起きましたか。」

 

「フィリオプシス。」

 

俺の担当なのか?

 

「傷の様子を確認します。少々お待ちください。」

 

服を開いていくらか確認をして、書類に書いていた。

 

「ドクターを呼んできます。」

 

「お、おお。サンキュ。」

 

こういう怪我って今までほとんどなかったからな。新鮮な気がする。

 

「……ちょっとタバコ吸お。」

 

窓開ければ大丈夫……だよな?

使い慣れたライターで火をつける。

 

「……ふー。」

 

「ラック、大丈夫か。って何吸っているんだ。」

 

「もう、体を大事にしてください。」

 

ドクターとアーミヤが入ってきてタバコを奪われた。

 

「あっ、何しやがる……うぉ。」

 

「現状の喫煙は禁止させてもらいます。」

 

いつの間にかフィリオプシスが目の前にいた。

 

「わ、わかったわかった。」

 

フィリオプシスを片手で抑える。

いきなりだからびっくりした。

 

「他のみんなも呼んでくるか?」

 

「いや、もう少しゆっくりしたいから呼ばなくて良い。動けるようになったら自分で会いに行くしな。」

 

「そうか、早く治してくれよ。」

 

「りょーかいりょーかい。」

 

ひらひら手を振るとドクターとアーミヤが部屋から出て行くと後ろに振り返る。

 

「ラップランド……お前どこから入った?」

 

「ふふ、君がいるならボクがいる場所さ。」

 

どうすっかなと悩んでいるとフィリオプシスが出てきた。

 

「患者の傷に障るので出て行ってください。」

 

「嫌だよ。ボクはここにいる。」

 

「ダメです。」

 

「ねぇ、ラック。」

 

「あー……。」

 

目だけでフィリオプシスを見ると俺をジッと見ていた。

 

「悪ぃ、ラップランド。」

 

なるべく優しく撫でてやる。

 

「……こいつと一緒がいいの?」

 

「フィリオプシスは担当医だろ?早く治す為だからな。」

 

「……わかった。」

 

唇を尖らせて拗ねる。

 

「……はぁ、これで我慢してくれ。」

 

軽くしゃがんで額にキスをする。

 

「たまになら来ていいから、今は出てくれるか?」

 

「……仕方ないなぁ。」

 

表情は拗ねたままだけど、尻尾をぶんぶん振って出ていった。

 

「よし。」

 

「包帯を替えるので脱いでください。」

 

「ん、ああ、替えるくらいなら自分で「ダメです。」OKだ。」

 

ほんと医者ってのは医療になると頑固なやつばっかだな。

黙々と包帯を替えるのを見る。やっぱ慣れてるんだろな、手際が良いし綺麗だ。

 

「うし、サンキュな。」

 

「いえ。」

 

包帯を替えて出て行くのかと思ったら俺を見て動かなくなった。

 

「……フィリオプシス?」

 

「何でしょう?」

 

「いや、こっちが何があったのか聞きてぇんだけど……まあ、もう良いから、他にも仕事があるだろ?」

 

ぽんっと頭を撫でる。

 

「分かりました。」

 

さっきまでが嘘のようにそそくさと部屋から出て行く。……もしかしてラップランドみたいにしてほしかったとか?

 

「よくわかんねぇな。」

 

まあ、やる事ないし寝るか。

 

 

 

 

「……ん。」

 

目が覚めて軽く体を伸ばす。少し傷が痛んだ。

 

「いつつ……ってあれ?」

 

横を見るとフィリオプシスが椅子に座ってベッドに腕を置いて寝ていた。ずっと看病してくれてたのか?

 

「このままじゃ体傷めるぞ。」

 

そっと抱き上げてベッドに寝かせる。

 

「いっ!?……やっぱ傷に響くなぁ。」

 

思った以上に深かったみたいだ。

フィリオプシスが座っていた椅子に座って近くの本棚にある本を手に取る。

 

「あんまり面白いもんでもなさそうだけど、暇潰しには丁度良いか。」

 

それからは本を捲る音だけが部屋に響いた。

当然だけど、その後起きたフィリオプシスにめっちゃ静かに怒られた。

 

 

 

 

「まだ治らねぇな。」

 

「傷は塞がってきましたが、油断すれば開きます。まだあまり動かないようにお願いします。」

 

「はいよ、先生。」

 

「そのような呼び方ではなく名前で結構です。」

 

「はいはい、フィリオプシスな。」

 

話していて思ったが、彼女は意外とお喋りで冗談を言うらしい。

暇が出来たら部屋に来て話し相手になってくれていた。時々、いや、毎日だがラップランドも来るんだが。

 

「ラック、遊びに来たよ……あ。」

 

「む……。」

 

どうにも最初あれで二人が牽制してるみたいになってる。話す分には問題ないんだけどな。

 

「んで、今日は何があったんだ?」

 

「ああ、テキサスがね。」

 

それからずっと眠くなるかフィリオプシスに追い出されるまで彼女の話を聞く。なるほど、病人の気分がよく分かる。早く好き勝手出歩きたいもんだ。

 

「ラップランドさんは……。」

 

「しー。」

 

指を立てるとフィリオプシスが黙る。

ラップランドは身振り手振りで喋り疲れて寝ちまった。

 

「困ったやつだ。」

 

俺の為でもあったんだろうな。慣れない事しやがって。

 

「悪ぃ、今日はこのまま寝かせてやってくれるか?」

 

「ええ、大丈夫です。」

 

「ん、助かるわ。」

 

ラップランドをベッドに引き入れて布団を被せる。

 

「なあ、ちょっと紅茶とか持ってきてくれないか?寝る前にお前の話聞かせてくれよ。」

 

「あまり面白い話は出来ませんよ?」

 

「良いって、聞きたいだけだ。」

 

「……では、少々お待ちください。」

 

「ああ。」

 

少しして、フィリオプシスが紅茶を持ってくると小さな声で話た。彼女は面白くないっつってたけど、たまに寝落ちしかけてたけど意外と面白ぇじゃねぇか。

結局最後辺りで寝たフィリオプシスをラップランドの横に寝かせると病室を出る。

廊下の自販機でコーラを買うと甲板に出た。

 

「おっ。」

 

先客がいたみたいだ。ドクターにアーミヤとエンシオとチェン。よく見るメンバーだ。

 

「ラック。もう出歩いて大丈夫なのか?」

 

「いんや、うちの先生はベッドで狼とおやすみだぜ。内緒にしててくれよ?」

 

そう言うと全員ため息を吐く。

 

「いいだろ?ずっと病室にいると気が滅入る。酒も飲めやしねぇ。」

 

だからこいつは代わりと言ってコーラを持ち上げる。

 

「少しは心配していたが、この様子だと必要なかったか。」

 

「なんだエンシオ。心配してくれたのか?嬉しいじゃねぇか。」

 

「ふん。」

 

「照れてんのかぁ?」

 

頭を叩かれる、乱暴な。

 

「チェンチェン、エンシオが殴ってきたんだけど、これって暴行罪に入る?」

 

「無罪だ。」

 

「マジかよ。CEO様、会社で虐めが起こってるぜ!」

 

アーミヤの腰に縋り付くと困った顔をされた。

 

「あの、自業自得ですよ。」

 

「味方はいねぇのかよ。まあ、いいや。」

 

「そろそろ戻らなくて良いのか?」

 

「大丈夫大丈夫。二人とも寝てるし、久し振りにあいつら以外のやつと喋りたい。」

 

「警告、すぐに病室に戻ってください。」

 

ぴたりと固まる。おいおい、いつもは寝たら中々起きねぇじゃねぇか。

 

「ラック、これからはボクも看病手伝うからね。」

 

「CEO様、チェンジって出来るぅ?」

 

「……すみません。」

 

「ははははははっ!……優しくしてね?」

 

「可能な限りは。」

 

「ちょっとだけだよ。」

 

ダメっぽいわ。

 

 

 

 

「なぁ……やり過ぎじゃね?」

 

昨日からフィリオプシスに加えてラップランドがナース姿で看病を始めた。形から入るタイプか?

 

「そうかな?」

 

「そうだろ。飯ぐらい自分で食えるって。」

 

「ダメダメ、火傷しちゃうよ。」

 

なんでもかんでも二人がやりたがって一人で飯も食えねぇ。

 

「俺だってガキじゃないんだぜ?」

 

「大人なら勝手に外に出ないでください。」

 

「大人のお茶目ってやつだろむぐっ。」

 

口にお粥が突っ込まれる。

 

「なぁ、そろそろ味が濃い固形食が食いたい。」

 

「ダメです。斬られた際に器官に軽微の異常がありました。もう少しの間はこのままです。」

 

「マジかよ……。」

 

勘弁してくれよ。もう我慢出来ねぇぜ。

 

 

 

 

夜中、俺は闇に溶け込んで食堂へ向かっていた。

 

「へへへへっ、あいつらはもう寝やがったからなぁ。こっからは俺の時間よ。」

 

お子ちゃま共め、俺を諦めさせる事が出来ると思うなよ。

 

「深夜なのにハンバーグ作っちまうからな〜?」

 

オムライスは流石に米炊くのとかで時間かかるからな。

 

「ん……何してんだ?」

 

「げっ、イフリータ。」

 

「げってなんだよ。それよりおまえ入院してるんじゃないのか?フィリ姉が看病してんだろ?」

 

まずい、こいつ単純思考だからこそ騒ぎ始めそうだ。

━━━━━━やはり俺は天才か?天啓が降りてきたぜ。

 

「イフリータ、これは極秘ミッションだ。」

 

こそこそと声を潜めて言うとイフリータが極秘ミッションの言葉に釣られてワクワクし出す。

 

「極秘ミッション?何すんだよ。」

 

「いいか、これから俺はフィリオプシスに、イフリータはサイレンスにバレないようにハンバーグを食べるんだ。」

 

「で、でもそんな事したらサイレンスに怒られるぞ。」

 

「だから極秘なんだろ?ハンバーグは俺が作るから任せとけって。」

 

「……本当に大丈夫なのか?」

 

「豪華客船に乗った気分でいな。」

 

「……わかった!」

 

「しっ、声を抑えろ。」

 

そういうとパッと両手で口を抑えた。

 

「よしよし、偉いぞ〜。さて、やるか。」

 

冷蔵庫からハンバーグの具材とチーズとか諸々を取り出してなるべく音を出さないように作る。

 

「しゃ、完成。ほら、食ってみろ。」

 

「はぐっ……むぐむぐ、うめぇ……!」

 

「ったりめぇよ。さて、俺も。」

 

ガツガツと大量に作ったハンバーグを消化していく。堪んねぇなおい。

 

「でも、こんな食っちまって大丈夫かな……。」

 

「イフリータ、良い事教えてやるぜ。ハンバーグは焼いた時に肉汁からカロリーが出ていくから実質カロリーゼロなんだよ。」

 

「そ、そうなのか……!?すげぇ〜……。」

 

「そんな訳ないでしょ。」

 

後ろから声を掛けられて二人して肩が跳ねる。

 

「勝手にイフリータを巻き込んでこんな事するなんて……。」

 

「まだ、固形食はダメだと言ったばかりですよ。」

 

「ふぃ、フィリオプシス……。」

 

「さ、サイレンス……。」

 

イフリータと目を合わせる。ふっ、考える事は同じって訳か。

 

「ごめんなさいっ!」

 

「さらばだッ!」

 

あれ?イフリータが素直に謝ってる。おかしいな、一緒に逃げる約束はどうなった?

走りながらイフリータの方を向いていると頭を掴まれて止められた。

 

「やあ、おはようラック。」

 

「よ、よよよお、ラップランド。今日もめちゃくちゃ可愛いぜ。いや、ほんとにマジで結婚したいくらいに、ナース服よく似合ってるし、片手のメスがいい味出てるし、生足エロいし━━━」

 

「じゃあ、後で役所行こうか。」

 

「……すみませんでした。」

 

かちゃりと手錠を着けられてフィリオプシスの前で正座する。

 

「……私は、ラックさんの事を第一に考えて固形食は禁止していたんです。」

 

「……うっす。」

 

「それなのに、勝手に食べるだけでなく、急にカロリーや油分の高いものを食べて。」

 

「……あい。」

 

「イフリータまで巻き込んで。」

 

「た、たまたま会っただけで。」

 

「言い訳は聞きません。」

 

「うっす……。」

 

「今回の事を加味して明日からは少しだけメニューを変えます。」

 

「まっ、マジで!?」

 

「また勝手に食べられては困りますので。」

 

急にフィリオプシスが天使に見えてきたぜ……!

 

「一生着いてくぜ!」

 

「……役所に行きますか?」

 

「うぇっ……。」

 

「冗談です。次からは気を付けてください。」

 

「ああ、わかった。ありがとな。」

 

さーて、腹一杯になったし寝るかぁ。

 

「私の話はまだ終わってないから。」

 

……まだ眠れそうにない。

 

 

 

 

 

 

 

 

・ある日の一幕

 

「うーん……う〜ん……。」

 

鐘の音が聞こえる。寝ていたはずだから夢だ。

 

『おめでとう!』

 

周囲から祝福の声が聞こえてくる。教会?結婚式でもやってるのか?

 

『ラック。』

 

その声に振り返るとウェディングドレスを着たモスティマが立っていた。

 

『も、モスティマ?』

 

『どうしたの?今日は私達の結婚式でしょ?』

 

『え、け、けっこ、結婚!?』

 

待て待て、夢だとしても突飛過ぎるだろ!?

 

『さあ、これから一生一緒だよ。ニガサナイカラ━━━』

 

「うぉわああぁぁぁぁ!?!?」

 

がばっと布団から起き上がる。なんつー夢だよ……。心臓に悪ぃよ。

 

「……ん?枕の下に何か。」

 

結婚情報誌とモスティマのちょっとエッチな自撮り写真が入っていた。

 

「やりやがったなぁ……!」

 

結婚情報誌はゴミ箱に投げ捨てて写真は財布に仕舞う。明日絶対叱ってやるからな。

もう一度寝ると今度はエクシアとの結婚式の夢を見て飛び起きた。

……酒飲むか。

 

 







活動報告にちょろっとした募集要項書いたんで良かったら覗いてみてくださいな。
皆さんイベントどうです?俺は今日の契約の達成8は無理でした。もう一回あるんでそれでなんとかします。


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十九話:メンテってのは専門家に任せるのが一番

 

 

 

 

「うっし、調子が戻ったな。」

 

戦闘終わり。軽く刀を振って調子を確かめる。

 

「ちょっと、その刀見せてもらえる?」

 

「お?えーと、そう、ヴァルカンだっけ?どうかしたのか?」

 

「いいから、刀見せて。」

 

確か鍛冶師だっけ。

素直に刀を渡す。

 

「……最近整備したのはいつ?」

 

「あー、覚えてねぇな。付いた血を拭うくらいしかしてねぇな。」

 

「ロドスに帰ったら、私の所に絶対来て。」

 

「おっ、もしかしてお誘いかい?嬉しいねえ」

 

そういうと睨まれた。

 

「そんなのじゃない。」

 

「冗談だ、冗談。」

 

刀の整備に関してだろ。雑にやり過ぎてたからなぁ。

 

 

 

 

「ヴァルカーン。来たぞー。」

 

「ああ、待っていた。」

 

言われた部屋に入る。おお……鍛冶師の部屋ってこんな感じなのか。ちょっと新鮮だ。

 

「お、ケオベ。」

 

「ラックお兄ちゃん!」

 

ケオベとは前に子守唄を唄ってたらふらふらとやってきて寝た事があって懐かれた。。

 

「ごめん、ケーちゃん。ちょっとラックと話があるから待っててくれる?」

 

「うん!」

 

「じゃあ、刀を見せて。」

 

早速刀を見せると色々調べ始めた。

待っている間にケオベの頭を撫でたりして可愛がる。

 

「うりうり、ここが気持ち良いのか。」

 

「えへへ〜。」

わっしわっしと可愛がっていると襟を引かれた。

 

「っととと、どうしかしたのか?」

 

「どうかしたって、この刀、全然整備されてないな。」

 

「まあ、たま〜に砥石で削る程度?」

 

そういうとヴァルカンがため息を吐いた。

 

「これならケーちゃんの方がマシだ。」

 

「そりゃあなんとも。」

 

「……あまり重く考えてないでしょ?」

 

「あんま考えた事はないな。」

 

なんだかんだ斬れてきたし。

 

「今すぐ整備するから。」

 

「いや、まだ大丈夫じゃ。」

 

「絶対にするから、刀が折れて、あなたが死ぬなんて嫌だから。」

 

「……そこまで言われちゃ言い返せねぇ。

わかったよ。そいつは任せる。」

 

「明日には終わるから、また明日取りに来て。

それと良かったらケーちゃんと遊んであげて、私が作業に入ると暇になると思うから。」

 

「あいあい。

ケオベもそれで良いか?」

 

「大丈夫!それよりおいらお腹ぐーぐー鳴ってる。」

 

「そんじゃ飯食いに行くか。」

 

「おー!」

 

ケオベの手を引いて歩く。じゃないとこの子どっか行くんだよ。

 

 

 

 

「グムー、美味いの頼むー。」

「たのむー!」

「むう、また別の女の子……最近グムとあんまり遊んでなくて寂しいなぁ……。」

 

ふむ、それは確かにそうだな。

グムの手を取る。

 

「ごめんごめん、じゃあ今度デート行こうぜ。二人っきりで。」

 

「……ほんとに?」

 

「もちろん。」

 

「しょ、しょうがないなぁ……待ってて!とびっきり美味しいご飯作るからね!」

 

……チョロ過ぎて不安になってきたぜ。今度、ズィマーとかにでも一言言っとくか。

 

「出来たよ!」

 

そう言って出てきたのはオムライス。とりあえずグムに注文すると大体これだ。好物だから嬉しいけど。

 

「ケオベ、ゆっくり食えよ。誰も取らねぇから。」

 

「うん!」

 

言った端からポロポロこぼれる。

 

「やれやれ……ほら、スプーン貸してみな。あーん。」

 

「あ〜ん。」

 

もごもごと口を動かして無くなったら口を開けて俺がオムライスを入れる。まるで餌付けだな。

 

「あ、ケチャップ付いてるぞ。違う、こっちだ。」

 

「ん〜……!」

 

……まずは簡単なテーブルマナーから教えるか?

ガキの頃のエクシアみたいだ。

 

「ご馳走様でした。……ほら、ケオベ。」

 

「おいらも?……ごちそうさまでした!」

 

「よし、偉いぞ。」

 

頭を軽く撫でる。……さっきから思ってたけど、周りが俺を見てザワつきやがる。

 

「見せもんじゃねぇぞ。」

 

「ハッ、また変な事やってんじゃねぇか。今度は子守りか?」

 

「エンカク……お前もやるか?」

 

「いやいや、俺は良い。そこはお父様にお任せするぜ。」

 

「あ”……?やんのかテメェ。」

 

「やるか?前の事、忘れてねぇからな。」

 

「ケンカしちゃダメ!」

 

急な大声に俺とエンカクがポカンとする。

ケオベを見ると頬を膨らませていた。

 

「……別に喧嘩してねぇよ。んじゃな。」

 

「……おう。ごめんな、ケオベ。」

 

また頭を撫でると笑顔になる。調子狂うなぁ。

 

 

 

 

「寝ちまったよ……。」

 

談話室に行くとすぐに膝に走り込んで来て寝てしまった。

飯食ったら寝るって、ほんと野生児って感じだな。……見てたら俺まで眠くなってきた。

 

「ヴァルカンから頼まれてて動けないんだし、昼寝するか。」

 

子守りも大変だ。

 

 

 

 

「あれ?ラックさんとケオベさん?」

 

談話室の前を通るとラックさんがケオベさんに膝枕をして眠っていた。さっき妙に食堂が騒がしいと思っていたらこういう事だったんだ。

通信端末で写真を一枚撮る。

 

「ふふっ、ドクターにも見せてあげないと。」

 

 

 

 

「フィリオプシス?」

 

「……サイレンスさん。」

 

「どうしたの、こんな所で。……ああ、なるほどね。今はあの子に譲ってあげたら?」

 

「そうですね。後でまた行ってみましょう。」

 

「また行くつもりなんだ。それより、これから少しお茶しない?」

 

「承認、分かりました。」

 

 

 

 

「む、これでは風邪を引いてしまいますね。セイロン様、少し外してもよろしいですか?」

 

「ええ、もちろんよ。こんな幸せな顔して寝ているのは可哀想だわ。」

 

 

 

 

「……ん。」

 

結構寝てたな。……二時間くらいか。

 

「あれ、この毛布誰が掛けてくれたんだ?」

 

ケオベにも掛かってるし、後で礼を言っとかないとな。

 

「まだ寝てやがる。髪食ってるし。」

 

髪を横に流してやると、今度はズボンを口に入れた。

 

「おいコラ。」

 

仰向けにしてもすぐに横を向きやがる。寝相が良いのか悪いのか。

 

「しゃーねぇなぁ。」

 

指を口に近付けると甘噛みされる。服とか噛むよりはマシだろ。

 

「お、まだいたのか。」

 

「ん?ドクターか。どうかしたのか?」

 

「いや、さっきアーミヤに寝ている二人の写真を見せてもらってな。俺も見たかったがもう起きてたか。」

 

「んな事してたのかよ。じゃあ、毛布も?」

 

「いや、それは聞いてないな。」

 

「なら、他の誰かか。」

 

「聞いて回ったら良い。飲むか?」

 

「おう。」

 

缶コーヒーを渡される。

うん、頭がスッキリする。

 

「そういや、仕事終わったのか?」

 

「ああ、なんとか「ドクター、追加の書類がありますよ。」……ああ。」

 

「……今度、飲もうぜ。」

 

「……そうだな。」

 

ドクターがとぼとぼと去って行った。

 

「ん……あれ、ラックお兄ちゃん?」

 

「おはよう。」

 

さっと指を引き抜く。うへ、ぬるぬるだ。

 

「おはよー!」

 

ガバッと抱き着かれる。寝惚けるとかねぇのかよ。

 

「はいはい、苦しいから離してくれ。」

 

受け止めて背中を軽く叩くが、スリスリと体を擦り付けられる。

 

「OK、好きにしてくれ。」

 

そう言った途端、長椅子に押し倒された。

 

「ケオベ……って何してるんだ?」

 

「おう……ラヴァか。助けてくれ、大きなわんこに襲われてる。

ほら、ケオベ。ラヴァが来たぞ。」

 

「ラヴァお姉ちゃん!」

 

「うぐっ……。」

 

今度はラヴァに突撃して行った。悪いけど代わりになってくれ。

 

「ところでハイビスカスは?」

 

「用事があるって、というかなんで私とハイビスが一緒にいると思ったの。」

 

「え、いつも一緒だろ?」

 

「たまたまでしょ。」

 

「そうか?」

 

なんだかんだ仲良いから一緒にいるもんだと思ってた。

もみくちゃにされるラヴァを見ながらコーヒーを飲み干した。

 

 

 

 

「はい、出来た。」

 

「ほ〜……。」

 

なるほどなるほど、気持ち振りやすくなった気がする。

 

「なんか試し斬り出来そうなのあるか?」

 

「竹ならそこにある。」

 

「サンキュ。」

 

節で分けられた竹を軽く上に投げる。

 

「ふっ……!」

 

それなりに気合いを入れて刀を振るうと気持ち良いくらいスパッと斬れた。

 

「こりゃすげぇな。」

 

「どう?」

 

「ああ、良い仕上がりだ。……良かったらこれからも見てもらって良いか?」

 

「ああ。」

 

「助かる。そうだ、これから飯でも食わないか?奢るぜ。」

 

「……酒はあるか?」

 

「おっ、いけるか?じゃあ飲もうぜ。」

 

 

 

 

「だから、ケーちゃんには先に指揮を理解してもらう方が良いでしょ……!」

 

「いーや、ケオベは今のままでも戦えてるんだからまずは綺麗にご飯を食べれるようになってもらう!」

 

「それは後で良いから、まずは命が第一だ。」

 

「そりゃ理解出来るけど、俺らが守ってやりゃ良いだろ?お前だって重装なんだし。」

 

「それはそうだけど。」

 

「ならまずはテーブルマナーな。」

 

「ダメ。」

 

その日は一日中ケオベの話をし続けた。

わからず屋め……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

・ある日の一幕

 

「……。」

 

甲板でタバコを吸う。吸ってる間は何も考えずにぼーっと出来るから純粋に景色を楽しめる気がする。

 

「……やはり、ラックか。」

 

「あれ、テキサス?」

 

「タバコの臭いがしたから来てみただけだ。」

 

「そうか。」

 

「一本、良いか?」

 

「ん、良いけど珍しいな。」

 

「昔、少しの間だけ吸っていたからな。たまにはと思っただけだ。」

 

タバコを渡して、ライターを取り出そうとすると止められた。

 

「少ししゃがんでくれ……これで良い。」

 

そう言ってテキサスが咥えたタバコを俺のタバコの先に付ける。シガーキスか。

 

「洒落た真似するじゃねぇか。」

 

「ダメだったか?」

 

「いんや、大歓迎。」

 

二人並んでタバコを吸い終わるまで海を眺めた。

 

 

 

 

 

 







思ったよりも短くなってしまいましたな。
次回は男の時間?



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二十話:気持ち良くなりたいっ!!!

 

 

 

「今日はあそこに行くぞ。」

 

「私も同行しましょう。」

 

「……僕も行くんですか?」

 

「んだよ水くせぇ事言うなよバイソン!」

 

「あんまり気乗りしないんですし、また後で酷い目に合いますよ……アンセルもいいの?」

 

「えぇ、今からワクワクしますね。」

 

「……最初のイメージと違うなぁ。」

 

「諦めて気持ち良くなろうぜ?」

 

「所で今日はどこに行くんですか?」

 

「ふっ、任せろ。ちょっと頼まれ事をした店だ!」

 

なんでも自信の無い子がいるらしい。

普通は風俗でそんな事があったならなんでこの仕事をしてるんだ、と思うだろうが職が選べない子なんてたくさんいるんだ。だから店側、というかそういうグループで負担を減らそうって話になった。つーかした。

 

「ちょっと頼まれ事って、そういう店でなんで頼まれるんですか?」

 

「一応、あの辺りは統治、いや、任されてる?

まあ、そんな感じだ。そういう地域は適したやつがやるのが一番なんだと。」

 

たまに困り事を個人的に聞いてただけなのに、あのジジイめ。

 

「任された?」

 

「あの忌々しいネズミのジジイだよ。分かってると思うけど俺はジジイ程強くねぇし、権力もねぇからお飾りみたいなもんだ。

まあ、こっちもかなり好き勝手やらせてもらってるし、押し付けられた事ももう気にしてないけどな。

よし、この話終わり!まずは腹拵え行くぞ、ステーキ奢ってやる!」

 

「やった!」

 

アンセルがガッツポーズをする。お前こういう時アホになるよなぁ……好きだぜ。

 

「おら、何ぼーっとしてんだバイソン。肉食いそびれるぞ。」

 

「あ、ま、待ってくださいよ!」

 

「私はヒレが良いです。」

 

「てめっ、ちょっと高いの選びやがって。」

 

「油っこい物だと胃もたれするんですよ。」

 

「あー……そういやそうだったな。」

 

こいつ体弱かったわ。

 

「バイソン、サーロインで良いか?」

 

「あ、はい。」

 

「そうそう、にんにくは止めとけよ。一応後で口臭消すタブレット使うけど一応な。」

 

アンセル作の安全安心、しかも自分で実験として使って風俗行ったからなこいつ。

 

 

 

 

「うめぇ!流石高いだけあるな!」

 

いや、もちろんシェフの腕も良いんだろうけどな。

 

「お、美味しい……!」

 

「むぐむぐ。」

 

「お前ら金は気にすんなよ。持って来てるから。」

 

「「はーい!」」

 

「あ、もう一枚頼む!」

 

「僕もお願いします!」

 

「二人とも、食べ過ぎですよ。ついでに私のもお願いします。」

 

お前だって頼んでんじゃねぇか。

 

 

 

 

「さてと、ここが目的地だ。」

 

「あの、本当に行くんですか?」

 

「当然。」

 

「もちろんです。」

 

扉を開けて目の前の受付に向かう。

 

「ああ、ラックさんと、最近噂になっているお医者様ですね。」

 

「噂の医者?アンセル、何かやってんのか?」

 

「たまに怪我の治療や簡単な事しているだけですよ。」

 

「へぇ、やるじゃねぇか。

もしもロドス出たらここで病院開けるんじゃねぇか?」

 

この辺りの人間は警戒心が高いからな。医者もそれほどいないし。

 

「んで、俺は話にあった子だろ?どの子だ?」

 

「こちらの子です。」

 

写真を見せてもらうと、ウルサスの女性が写っていた。

 

「良い子なんですが、最初のお客様に緊張してしまい、お客様に怒られたみたいで。」

 

「なるほどな。」

 

「本当は明るい子なんですが、あれから落ち込んでしまいまして。」

 

「まあ、出来る限りやってみる。つってもヤるだけなんだけどな。

お前らどうする?」

 

「私は……あれ、この天使と悪魔パックって何でしょう?」

 

「そちらはサンクタとサルカズの二人と同時に遊ぶパックですね。実はその二人は付き合ってまして、まあ、そういう趣味もあるみたいです。」

 

「随分とまあ……なんだ、濃いな。」

 

いや、人の趣味にどうこう言うつもりはねぇけどさ。それにしてもサンクタとサルカズって随分珍しい組み合わせだな。

 

「なるほど、聞いた事あります。NTRと言うんでしたっけ?では、私はこれのマットコースで。」

 

「お前、最初に引き入れたの俺だけどポテンシャルすげぇな。」

 

しかし、天使と悪魔パックは俺も気になる。ちょっと羨ましいな。

 

「こっちのやつは初めてなんだけど、おすすめの子とかいるか?」

 

「そうですね……全員おすすめ、と言いたい所ですが、ここは同じ種族の子などは如何でしょう?」

 

そう言って見せられた写真には強気っぽいフォルテの女性が写っていた。

 

「この子は積極的な子ですから、初めての方や受け身な方におすすめですよ。」

 

「どうだ、バイソン。」

 

「え、あ、じゃあ、この人で。」

 

「かしこまりました。では、お楽しみください。」

 

 

 

 

「あ、あの……よろしくお願いします……。」

 

小柄でショートカットの女の子がやって来た。確かに見た目の印象は元気っ子に見えるのにおどおどしてるな。

 

「ああ、よろしくな。お嬢さん。」

 

「あの、シャワーに。」

 

そう言って服を脱がされる。緊張しているのか手が少し震えてる。

 

「緊張しなくても良い。」

 

女の子の手を両手で包むように握る。

 

「は、はい……。」

 

そのまま手を繋いでシャワーに向かう。

 

「温度は、どうですか?」

 

「ん、丁度良いぜ。」

 

お湯の温かさもあって、少し緊張が解けてきたか?

ボディソープで体を洗ってもらうと湯船に浸かる。

 

「あの、前失礼しますね。」

 

女の子も湯船に入って対面に座る。

 

「君の事、店長から聞いたぜ。」

 

そういうと女の子が体を震わせた。

 

「ああ、いや、怒ってる訳じゃねぇよ。悪く思わないでくれ。」

 

「わ、私はどうしたら……。」

 

「別に罰とかそういうのじゃねぇ、とりあえず俺で慣れてみねぇか?ヤるのが緊張するとかなら、手を握る所からでも良い。」

 

手を差し出す。さっきは俺から握ったから、今度はこの子から握ってもらわねぇと。

控えめに手を握られる。

 

「そうそう、良い感じ。」

 

そう言うと少し微笑んだ。ちょっとは慣れてきたか?時間も限られてるからこの子には悪いけど急がねぇと。

 

「次はハグしてみよう。出来るか?」

 

腕を広げて待つ。

 

「えっと、その……。」

 

「ゆっくりで良いぞ、待ってるから。」

 

するとチョンチョンと触りながらゆっくりと抱き着いてきた。

俺も腕を後ろに回して、背中を撫でる。

 

「大丈夫そうか?」

 

「……ま、まだ少し怖いですけど、頑張ります。」

 

「よし、その意気だ。」

 

いやー、これでなんとかなってなかったらスッキリ出来なくてやばかったぜ。いや、出来なくて怒ったりはしねぇけどさ。

そのままベッドに行き、軽くキスをする。

お楽しみはこれからだ。

 

 

 

 

「こ、この子、見た目の割に触り方がすごい……。」

 

ローションの塗られたマットの上に転がると、サンクタとサルカズの二人の女性が体に乗る。ぬるぬるとしたローションと柔らかな体で幸せな気分になれます。

そのまま輪っかや角という特徴的な部分に触れていく。

ふむふむ、サンクタの輪っかはグミの様な触り心地。

 

「そ、そこはだめぇ……。」

 

サルカズの角は根元に近い程敏感な感じでしょうか?個人差もあるのかもしれません。

 

「味もみてみましょう。」

 

噛んだり舐めたりしても味は無し。なるほど、予想通りですね。

 

「あっあっあっあっ……!やだ、噛まないで……!」

 

「あ……あの子の大切な所食べられてるぅ……。」

 

サルカズの女性がサンクタの女性を見て興奮して息を荒らげる。

今度は角に齧り付く。こっちも無味ですね。

 

「頭の中削られてるみたいぃぃ……。」

 

触る度に顔が蕩けていく変化を見るのは楽しいですね。

 

「ちゅー、ちゅーしよ!」

 

「ええ。」

 

サンクタの女性が飛びつくようにキスをしてくる。

天使と揶揄されるけれど、今の姿は天使には見えませんね。

すると、サルカズの女性が震え始めた。

 

「あ、あたしの彼女だもん……。」

 

涙目でこちらを見てくる。……きゅんとしました。こちらが天使では無いでしょうか?

 

「ごめんねっ、ごめんねっ。こにょ人がとっても気持ち良くひてくれひゅからつい。」

 

そう言いながらもキスが止まらない。むしろその顔を見て笑みを深める。

 

「んっ……大丈夫ですよ。私があなたの相手をさせてもらいますから。」

 

「あっ……うん……。」

 

サルカズの女性にキスをすると、嬉しそうに首に腕を絡めてくる。

 

「あ〜!私が先だったのにぃ!」

 

「ふんっ……知らない。この人の方が優しいもん。」

 

「む〜……!」

 

「喧嘩しないで。一緒に気持ち良くなりましょう?」

 

「やった!」

 

二人の胸が体に当たり形を変えつつぬるりと滑る。

ローションプレイ……良いですね!!

 

 

 

 

「あんた、初めてなんだって?あたしがバッチリ筆おろししてやるよ。」

 

ちょっと言葉遣いが荒くて緊張と相まって体が縮こまってしまう。

一度は体験した方が良いとは思ってたけど、大丈夫かなぁ?

 

「よ、よろしくお願いします……。」

 

「縮こまってるんじゃないよ。ほら、脱がしてやるから腕上げな。」

 

少し強引に服を脱がされる。……あれ、でも意外と手つきは優しいかも。

 

「先に風呂入るよ。来な。」

 

後ろから抱き締められてお風呂の方に向かう。

わ、わわ、胸が背中に……!!

 

「なんだ、おっぱいが気になるのか?体洗う前に触ってみろよ。」

 

手を掴まれてお姉さんの胸に手を沈められる。

 

「や、柔らかっ……!」

 

ふにゅんと指がどんどん沈んでいく。

うわっ、すご……。

 

「夢中になるのも良いけど、時間があるからとっとと洗うぞ。」

 

手のひらで丁寧に洗ってもらう。やっぱり優しい……?

風呂に入るとお姉さんも入ってきて、顔を胸に埋められる。

 

「んむっ……!?」

 

「後だとこういう事出来ねぇからさ、今のうちに堪能しておきな。」

 

背中を優しく撫でられる。なんだかほっとするかも。

 

「ほら、キスしようか。一応聞いとくけど、した事あるか?」

 

「……いえ、まだ。」

 

目を逸らしてしまう。やばい、顔が熱い。

 

「ふふっ、恥ずかしがらなくても良いよ。大丈夫、他にもそういう人はいたからね。

じゃあ、まずはあたしがお手本みせてあげるよ。」

 

そう言うとキスをされた。

 

「んっ……!!」

 

「ん……ほらぁ、リラックスして……ちゅっ……。」

 

言われた通りにリラックスをすると口の中に意識が集中する気がする。気持ち良いかも……。

 

「……ん、さ、やってみな。失敗しても良いから思い切りやってみな。」

 

「は、はい……んっ。」

 

「はむ……んんっ……ちゅる。」

 

口の中にお姉さんの舌が入ってくると、僕の舌に蛇のように巻き付いた。

 

「ん……んぐっ!」

 

「ふふっ……。」

 

少しして口を離すとなんだかぼーっとしてふわふわした気分になってきた。

 

「じゃ、ベッド行こうか。」

 

「……はい。」

 

……悪くないかも。

 

 

 

 

「あの……ありがとうございました!私頑張りますから。また来てください!」

 

「ああ、頑張れよ。」

 

女の子と最後に軽くキスをして別れる。もう大丈夫そうだな。それにしても……本当に良かった!途中から明るくなっていって、積極的に奉仕してくれたし、こっちのして欲しい事をしてくれた。仕事とか抜きにまた来よう。

 

「先生、またね。」

 

「絶対また来てよね!」

 

アンセルが出てきた。……やっぱ天使と悪魔パック良さそうだなぁ。

 

「どうだった?」

 

「えぇ、最高でしたよ!」

 

ビシッとサムズアップする。やはりか!

 

「この後お酒飲むんでしょう?その時に感想も言いますよ。」

 

「いや、今回はちょっと変えて、レビュー書いてみようぜ。流行ってるらしいぞ。」

 

「なるほど、良いですね。」

 

話しているとふらふらとバイソンが出てくる。

 

「また来なよ。」

 

「あ、ありがとぉ、ございましたぁ。」

 

最後にディープキスをして……長いなおい、やっと離れたか。こっちに合流した。

 

「あ、お待たせしましたぁ〜。」

 

「よっ、その様子だと良かったみたいだな。」

 

「はい、お姉さんがとっても優しかったし、たくさん「おっと、それはまた後でな。」わかりました。」

 

「んじゃ、今日は俺の部屋に行って飲もうぜ〜。」

 

「おー!」

 

「おぉ〜……。」

 

 

 

 

「う、うぅ……頭が痛い。」

 

昨日お店から帰ってどうしたんだっけ……あ、そうだ、酒を飲んだんだっけ、後何か書いたような……。

 

「……食堂行こう。」

 

薬か、飲み物とか貰おう。

食堂に着くといつもよりも騒がしくて、僕が食堂に入るとチラチラと見られているように感じた。

 

「あー!バイソンも行ったんかぁ。最初はウチが貰ったろ思ったのになぁ。」

 

あれ、僕の話をしているのかな?

 

「ほう、天使と悪魔。」

 

「ラックもおすすめだってよ。」

 

「バイソンも男になったんだなぁ。」

 

……んん?

 

「あの、それどうしたんですか?」

 

一番近くにいたノイルホーンさんに声をかけてみる。

 

「ん?おお、来たか。お前らのレビュー見てたんだ。」

 

……れ、レビュー?

掲示板を見ると確かに昨日の店のレビューが書いてあった。

 

「あ……あああぁぁぁぁ!?」

 

なんでこんな事になってるのーーーー!?

 

 

 

 

「……よー、アンセル。お前どうだ?」

 

「ふふ、そうですね。縄に縛られるのも案外悪くありませんよ。しかも裸で放置プレイだなんて、初めての経験ですね!」

 

「うっ……わ、お前すげぇな。」

 

なぜかチェン達に捕まってしまった。レビューを貼っただけなんだがなぁ?

アンセルは今の通り、全裸で亀甲縛り。俺は腕を後ろで縛られて片足だけで天井から吊り下げられ重りを乗せられている。

 

「未体験の快感と言うべきでしょうか。廊下の冷たさが肌を刺して興奮してきました。」

 

「は、はは……そうか。……なんか、悪かったな。」

 

「いえ、私は感謝してますよ!」

 

「……そうか。」

 

俺は取り返しがつかないことをしてしまったかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

・今日のレビュー

 

サンクタ

ラック

今回はとある依頼で頼まれた子と遊んできたぜ!

あまり経験がないから気持ち良くなれるか不安だったが、とんでもない。緊張が解れてきてからが本番で、こっちが搾り取られるかと思ったぞ。

これからの成長に期待して八点だ!

 

 

コータス

アンセル

私は天使と悪魔パックと言うのにマットコースでチャレンジしてみました。初めてのマットでしたが、ローションが思ったよりも肌触りが良く、体温で人肌に暖まっていて夢見心地でした。

嫉妬ではぶてているサルカズの女性がとても可愛く、サンクタの女性はかなり誘って来る方で天使と悪魔は逆なのでは?と思いましたね。

素晴らしくてまた行きたいです。九点です。

 

フォルテ

バイソン

僕は初めてで緊張しましたが、同じフォルテのお姉さんが相手してくれました。喋り方とは反対にとても丁寧に相手をしてくれて、色々な事を教えてもらいました。

なんというか、ふわふわしてて、気持ち良くていい匂いがしていて、現実味が無い感じがします。

基準が分からないですけど、とても気持ち良かったので9点です。

 

 

 

 





今週アップルパイを生地から作ってみます。

それと俺はマットコースやった事ないんで同人誌、AVからの妄想的なあれです。今年か来年ヤってみます。



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二十一話:へ、変態だァァ!!

 

 

 

私は今、ある部屋の前に来ていた。この向こうに彼がいると思うと緊張してしまう。

私が入隊する頃には既に除隊していたがその戦果、功績は大きく、当時は暗殺部隊の隊長であり、最優のスナイパー、暗殺者とも呼ばれていて、一度話してみたいとおもっていました。

ロドスに来た彼の話は卑猥な話ばかり聞いていますが、自分の目で見てないので本当かはわかりません。

しかし、少し時間が遅くなってしまったのはよくなかったですね。起きてるでしょうか。

 

「あの、失礼しま『おい、お嬢さん。そこで見ているのは気付いてるんだぜ?』っ……!」

 

まさか部屋に入る前に気づかれるとは、戦場ではないから気が抜けていた?

 

『ずっと前から俺の事を狙ってるんだろう?ああ、いや言わなくてもいい。

おおっと、変な事考えるんじゃねぇぜ。』

 

前から見ていたのがバレていた?

 

『まず、装備と服を全部外してから出てきてもらおうか。そうじゃねぇと、俺みてぇな一匹狼は安心して寝る事が出来やしねぇ。』

 

「えっ……!?す、全て!?」

 

『なぁに、それさえしてくれりゃこっちも危害は加えねぇ。』

 

「で、ですがこんな所で……。」

 

『俺も、女性に手を挙げるのは気が進まねぇが、俺だって命が掛かってるからな。』

 

「命!?私は話が聞きたいだけで……。」

 

『早くしな、俺の銃がお前を撃ち抜くぜ?』

 

そんな、彼に狙われて生き残れる訳が……。

 

「どうしても、ですか?」

 

『ああ、少しだけ時間をやる。』

 

「……わかりました。」

 

今は周りに誰もいませんよね……?

恥ずかしさで体が熱くなるのを感じながら急いで服を脱ぐ。

 

「し、失礼しまひゅ!」

 

 

 

 

「懐かしいな。」

 

まさか資料室にガンスリンガーシリーズのDVDがあるなんて思わなかった。

購買で酒とポップコーンを買って見始めた。

 

「お、きたきた。」

 

主人公が一人で消える時に実は敵だったヒロインとの最後の戦いだ。

 

『おい、お嬢さん。そこで見ているのは気付いてるんだぜ?』

 

……うん?なんか外が騒がしいな。

 

『俺も、女性に手を挙げるのは気が進まねぇが、俺だって命が掛かってるからな。』

 

「命!?」

 

うおっ、うるさっ。なんだよ、喧嘩か?

 

『ああ、少しだけ時間をやる。』

 

ここだ。この後ヒロインが覚悟を決めて仕掛けてきたのを早撃ちで返り討ちにして━━━━

 

「し、失礼しまひゅ!」

 

「……あ…………?」

 

なぜか全裸の女の子が入って来た。

映画の発砲音が部屋に響く。

 

「ち、痴女だぁぁ!!?」

 

「きゃぁっ!?」

 

え、なんで?デリヘルとか頼んでたっけ?いやいや、だからってロドスに連れてくる訳ねぇじゃん。

え……?

 

「……とりあえず、座ったらどうだ?」

 

訳がわからねぇよ。

 

 

 

 

「……なるほど、映画の声と俺の声を勘違いしたのか。」

 

「はい……。」

 

そんな事ある?いや、まあ眼福だけどさ。

とりあえず服を来てもらって椅子に座らせた。

 

「それで、現役の頃の話聞きたいんだろ?」

 

「あの、良いんですか?」

 

「別に良いさ。今はラテラーノ所属でもないし、折角のファンの頼みだ。」

 

「で、では、当時どんな戦いをしていたんですか?」

 

「あー、あの頃はアーツ使えてたからなぁ。正直今と比べるとつまらねぇ戦いばかりだったぜ?高台の無い平原で野営を敷かれても空を歩けばバレねぇし、上から狙撃しちまえば良いだけだ。夜なら特にバレなかったな。近付かれてもアーツで叩き潰してたし。

空気の流れで敵の位置も分かるから観測手なんて必要ないし、多少弾が逸れたとしてもアーツで軌道修正出来たからな。」

 

「なるほど……。」

 

「つまり、あの頃の俺の戦いはアーツに依存してたんだよ。使えなけりゃ今頃そこら辺で死んでる。」

 

ふんっ、と当時の俺の戦いを鼻で笑う。技術も何もあったもんじゃねぇ。

 

「あの、ラックさんはなぜ軍に志願したんですか?」

 

志願した理由かぁ……。

 

「この映画、知ってる?」

 

「ガンスリンガー。ラテラーノで流行った映画ですよね。」

 

「ああ、ガキの頃にこれ見てさ、かっこよくて憧れたんだわ、だから俺も銃を使って戦いたかった。そんで、軍に入れる歳……そう、十三歳の時に家の金の都合もあって軍の学校に入った。あの頃は素質さえあれば入るのは簡単だし、入りゃ給料みたいに金が貰えたからな。」

 

「はぁ、なんか意外です。」

 

「ガキからしたら理由なんてかっこいいとかで十分だったんだよ。」

 

「……初めての戦場は?」

 

なんだよ、分かってんだろ?

 

「映画と現実のギャップで酷いもんだったぜ。なんせ、引き金を引くだけで、アーツを使うだけで人が死ぬんだから。気分としちゃ最底なもんだったって覚えてるぜ。」

 

「なら、どうして続けたんですか?」

 

「……なんだって、金が掛かんだよ。

そうだな、俺の家は母子家庭なんだよ。父さんは事故死したらしい。

んで、何歳だっけな……五歳?とかそんくらいにモスティマとエクシアの姉に出会って、二人ともひとりぼっちだってんで、可哀想って思った俺が母さんに頼んですぐに引き取ってもらったんだ。そんでエクシアが拾われて、また引き取ってって感じだ。

ガキ四人なんて母さん一人で養える訳ねぇだろ?だから、軍に入って、ギャップにやられても辞めなかった。辞める訳にはいかなかった。」

 

「……それは。」

 

「ああ、そんな顔すんじゃねぇ。くそ、こういう雰囲気は苦手だ。」

 

ガシガシと頭を搔く。

 

「昔の事だから気にすんなよ。……ああ、そうだ、お前も飲むか?」

 

冷蔵庫からテキトーに酒を出して渡す。

 

「ガンスリンガーのシリーズがあるから、一緒にどうだ?」

 

「あ、いえ……。」

 

「遠慮すんなって。一人で映画見てる寂しい男に付き合ってくれよ。」

 

ダメか?と聞くと少し考えてやっと頷いた。

 

「よっしゃ、折角だし最初から見直そうぜ。」

 

リモコンを操作して最初からにする。

 

「ほら、乾杯。」

 

「はい、乾杯です。」

 

 

 

 

「……ん、あれ?」

 

いつの間にか寝ていたみたい。昨日は、確かあの後映画を見ていて……。

 

「これは……。」

 

軍服……?

 

「よぉ、起きたか?昨日は四本目の途中で寝ちまってたな。朝飯、簡単なのだけど食うか?」

 

「あ、貰います。ところで、これは?」

 

「俺の隊長の時に来てたやつ。ちゃんと勲章とか着いてるだろ?

もう着る事もねぇからやるよ。」

 

「え、しかしこんな大事な物を。」

 

「大事つっても軍じゃねぇからただの服だしなぁ。それ持って出たのもそれ着てたら立場が上の人間に見られるからだし。」

 

試しに袖を通りてみるとかなり大きく感じた。

 

「はっ、ぶかぶかだな。……ふむ、彼軍服か。彼シャツ的な感じで見れば中々悪くねぇな。……裸じゃねぇのが勿体ねぇな。」

 

「彼シャツ?」

 

なんでしょう、今度誰かに聞いてみようかな。それに最後に何か言ってたような?

 

「ああ、気にしなくて良いぜ。」

 

「はぁ。」

 

よく分かりませんが、気にしなくていいならそうしましょうか。

その後に食べた朝食は以前も食べましたけど、とても美味しかったです。

 

 

 

 

「え、今日俺が隊長?」

 

「ああ、隊長やっていたんだろう?プリュムから聞いたぞ。」

 

「マジかよ……。」

 

プリュムを横目に見ると輝かんばかりの目でこっちを見ていた。

 

「……こりゃ、断れねぇなぁ。分かった、やりゃ良いんだろ。」

 

ふぅ、とため息を吐く。

 

「あの、ラックさん!」

 

「ん、プリュム。お前なぁ、ドクターに余計な事……なんだそりゃ。」

 

満面の笑みを浮かべて軍服を持って来ていた。

 

「是非これを!」

 

「え……いや、着たくねぇけど。」

 

そう言うと萎んでいった。

 

「あ〜……ドクター、これって着ても大丈夫なのか?ラテラーノの服だけど。」

 

「そうだな……まあ、大丈夫じゃないか?ロドスには色んな所が協力してくれているからな。」

 

「分かった。プリュム、それ着れば良いのか?」

 

「はいっ!」

 

受け取って袖を通す。まあ、前は留めなくても良いだろ。

 

「んじゃ、行くかぁ……。」

 

 

 

 

「この服キッチリし過ぎて肩こりそうだわ。」

 

近付いてくるレユニオンを撃ち抜く。これ終わったらマッサージにでも行くか?

 

『ラック、少し移動してくれ。』

 

「あいよ。」

 

ドクターの指示に従ってポイントに移動する。

……ドクターの後ろからプリュムの歓喜の声が聞こえてきたんだよなぁ。もうちょい緊張感っつーかさぁ。

 

「よっと。」

 

剣を弾いて首を狩る。

 

「ここは俺が押し止める感じか?」

 

捌けない人数でもねぇが、増えたら厳しいな。どうすんだ?ドクター。

 

「救援に来ました!」

 

「おっ、プリュム。」

 

救援は助かるけど、ウキウキしてんな、おい。

 

「浮かれ過ぎんなよ。」

 

「はいっ。」

 

一応気にしながら戦ってるけど、心配いらなかったな。つーか、基礎がすげぇしっかりしてる。

 

「俺が足引っ張らねぇようにしねぇとな。」

 

ちょっと気合い入れるか。

 

 

 

 

「はい、終わりっと。」

 

最後の一人の額に弾を打ち込んでドクターから終了の通信が来る。

 

「お疲れさん。」

 

ボスッと帽子の上から手を置く。

 

「わぷっ……。」

 

「良い動きしてたな。」

 

「あ、は、はい。護衛隊の方々からご指導をいただいていたので。」

 

努力の成果か。

 

「頑張ったんだな。所で、この服はどうすりゃ良いんだ?」

 

「それは私が洗っておきますね。」

 

「お、そうか?悪ぃな。」

 

「いえ、頂いたものですし。私がお願いしましたから。」

 

「じゃあ、頼むわ。服はその後持ってて良いから。」

 

軍服を脱いで渡す。ふぅ、開放感がある。

 

「戻るか。おい、プリュ……ム?」

 

プリュムの方を見ると軍服を抱き締めて顔を埋めていた。

 

「……そんなに、臭うか?」

 

まだ加齢臭がするような歳でもないはずなんだけど……。

 

「はっ!?い、いえ、そんな事はありませんよ!?」

 

「いや、でもよ。」

 

「だ、大丈夫です!」

 

「お、おお……そうか。」

 

なら良いけどよ。

それからたまにロドスでぶかぶかの軍服を着たプリュムが見られるようになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

・今日の一幕

 

「フロストリーフさん。」

 

休憩室に入ると、フロストリーフさんが一人で曲を聴いていました。何を聴いているのでしょう?

近付くとこちらに気付いてヘッドホンを外してこっちを向きました。

 

「アーミヤか。」

 

「何を聴いていたんですか?」

 

そう聞くと周囲を何度か確認して囁いてきました。

 

「……ラックには絶対に内緒だぞ?」

 

「?はい。」

 

ヘッドホンを着けると、ロドスでよく聴く歌が流れ始める。

 

「これは、ラックさんの子守唄?」

 

いつの間に録ったんでしょう?

 

「……膝枕で寝た振りをしてコッソリ録音した。」

 

「なるほど。」

 

「いや、違うんだ。なんとなく録っておこうと思って……。」

 

「大丈夫です、分かってますよ。

ラックさんが大好きですもんね。」

 

見掛けるとすぐに寄って行きますし。

 

「そうじゃない……!いや、そうなんだけど……。」

 

顔を真っ赤にして俯く。耳まで赤くなって可愛いです。

 

「いいか、絶対にラックには内緒だからな!」

 

「はい、分かってますよ。」

 

「……絶対だからな。」

 

目を細くして睨み付けてきてますけど、顔が赤いから怖さはないですね。

 

「じゃあ、私はそろそろ行きますね。」

 

「ああ、わかった。何度も言うが秘密だぞ!」

 

「えぇ、秘密ですね。」

 

ふふっ、フロストリーフさんとの秘密が出来ちゃいました。なんだか仲良くなれた気がして嬉しいです。

 

 

 

 

 






金曜に風俗行ってきました。マットじゃないです。


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二十二話:週刊ねこのきもち

 

 

 

 

「ねこちゃんどこ〜?」

 

いつも私の近くにいるねこちゃんが最近どこかに行っちゃう時がある。どこに行っちゃったんだろう……。

 

「ムース、どうしたんだ?」

 

「あ、ど、ドクター。ねこちゃん見ませんでした……?」

 

「ねこちゃん?確か、パフューマーの庭園に入って行くのを見たような……まあ、俺も見掛けたら教えるよ。」

 

「あ、ありがとうございます。」

 

いい匂いに釣られて行ったのかな……?

 

 

 

 

「どこにいるんだろう?」

 

庭園に着いて見渡す。

 

「ムース、こっちよ。」

 

呼ばれてそっちに向かって見ると、ラックさんがパフューマーさんの膝枕で寝ていて、その周りにねこちゃんがいた。

……ちょ、ちょっと怖いから苦手かも。

 

「あ、あの、これは?」

 

「私が来た時にはもう寝ていたの。気持ち良く寝てて起こすのも可哀想だったから膝枕してあげたのよ。」

 

確かに、気持ち良く寝てる。

 

「ねこちゃん達は?」

 

「この子達もずっといるのよね。気に入ったのかしら?」

 

お腹の上に乗って寝てる子もいるから気に入ってるのみたい。

 

「ムースもこっちで寝てみる?」

 

「え、でも……。」

 

「ねこちゃん達も動きそうにないから、良いじゃない。」

 

うーん……でも、ラックさんが気になるし……。

 

「大丈夫よ。私が見てるから。」

 

「……じゃあ、ちょっとだけ。」

 

ラックさんから少し離れた位置で横になる。ひなたぼっこくらいなら大丈夫だよね。

ポカポカしてて、いい匂いがするからどんどん瞼が落ちてくる。……やっぱり少し寝ちゃおうかな。

 

 

 

 

「ふぁ……くぁああ〜……。」

 

「あら、起きた?」

 

「ラナ?……おはよう。」

 

いつの間にか膝枕をされて、頭を撫でられていた。

確か寝た時はいなかったはずなんだけど。

 

「寝ている最中に来たのよ。」

 

「そうだったのか……こいつは?」

 

ねこちゃんか。

 

「私が来た時には既にいたわよ。」

 

腹の上で気持ち良さそうに寝やがって。しゃーないから置いといてやるか。

 

「そっちにお仲間もいるわよ。」

 

顔を横に向けられるとムースが寝ていた。

 

「ねこちゃんを探していたのよ。でも動きそうになかったから寝かせたわ。」

 

「そうだったのか。」

 

起き上がろうとすると頭をやんわりと押さえられる。

 

「っと?」

 

「もうちょっと良いでしょう?それに、あなたもまだ疲れてるじゃない。目の下に隈が出来てるわよ?」

 

目元を指でなぞられる。少しこそばゆい。

 

「疲れてるっつっても酒飲んだり騒いでただけだぜ?」

 

「飲むのは良いけど、飲み過ぎはダメよ?」

 

「……善処する。」

 

ペちりと額を軽く叩かれた。

 

「あんまり無茶すると、また膝枕よ?」

 

「こんな美人さんが膝枕してくれんならまた無茶すっかな」

 

「もう……。」

 

「冗談だ。気を付けるって。」

 

笑っていると横からムースがぶつかってきた。

 

「っと、転がってきたのか?」

 

「少し肌寒くなってきたのかしら。」

 

「しゃーねぇな。」

 

腹の上のねこちゃんを落とさないように気を付けながら上着を脱いでムースに掛ける。

 

「んじゃあ、俺はそろそろ。」

 

「まだダメよ?」

 

起き上がろうとすると、またしてもラナに頭を押さえられる。目だけで抗議すると、俺とムースの頭を撫でながらホクホクとしていた。

 

「ふふ、なんだか弟と妹が出来たみたいだわ。」

 

「……多分俺のが歳上じゃねぇか?」

 

「もう、気分の問題よ。」

 

「はいはい、ラナおねーちゃん。」

 

諦めて頭を膝に預ける。また子供になる薬でも飲めってか?

こうなっちまったら折れねぇだろうし、下からおっぱいでも眺めとくかぁ……。

 

「そういうのが好きなのは知ってるけど、ダメよ?」

 

目に手を置かれる。ああ!?折角の下乳が!

 

「ほら、ゆっくりと眠りなさい。」

 

ふわりと花の香りがする。あれ、さっきまで全然眠くなかったのに……。すとんと意識が落ちた。

 

 

 

 

「……よく寝た。」

 

くぁあ、と大きく欠伸をする。

 

「ラナ、どれくらい寝てた?」

 

「おはよう、一時間くらいよ。」

 

まあ、そんなもんな。そもそも寝てたし。

 

「おっ?」

 

寝ている間に近くに来たのか、ムースが丸まって俺の服を握り締めていた。

 

「やれやれ。」

 

頭を起こさないように優しく撫でる。

 

「あら、お兄ちゃんに甘えてて良いわね。」

 

「ラナも来るかい?膝枕で足が痺れてるだろ?」

 

「私はこっちの方がいいわね。」

 

そうかい。

 

「ん……。」

 

お、ムースが起きた。

 

「よぉ、おはよう。」

 

「おはよう。」

 

「あ、おはようございま……ひゃあ!?」

 

起きたと思ったらすごい距離を取られた。

 

「……ラナ、泣いても良い?」

 

「男の子なんだから泣かないの。」

 

「んなの差別だろー。」

 

「あ、あの、ごめんなさい……。」

 

申し訳なさそうにムースが謝ってくる。まあ、理由はなんとなく分かってるけどさ。

 

「なぁ、俺ってそんなに怖く見えるか?」

 

「……ちょ、ちょっとだけ。」

 

分かってるけど実際言われると何ともなぁ……。

 

「ラックくんがいつも女の子を口説くみたいに喋ってみたら?」

 

まあ、言葉遣いはそっちのが丁寧か。

 

「おはよう、レディ。お昼寝は気持ち良かったかな?」

 

「……。」

 

更に距離を取られた。

 

「あれ……?」

 

ラナに視線を向けると苦笑いをされた。

 

「なぁ、ムース。俺のどこが怖いか教えてくれるか?」

 

そう言うとビクッと震える。

 

「いや、怒ってる訳じゃねぇから。」

 

「……あの、ちょっと乱暴っていうか、なんていうか。」

 

やっぱりそうだよなぁ。

 

「女の子に怖がられんのも寂しい話だし、まずは手を握って慣れてみようぜ。ほら、俺鉱石とか大丈夫だから、気も楽だろ?」

 

ほれ、と片手を投げ出すと、ムースが俺の手と顔を交互に見る。そしてゆっくりと手を伸ばしてきて。

 

「にゃ〜ん」

 

「「「あ。」」」

 

ねこちゃんが手の上に乗ってきた。

 

「あ〜あ、ねこちゃんに先越されちまったな。」

 

持ち上げて顔の前に持ってくる。

うむ、愛らしいな。すると鼻の先にねこちゃんの口が当たった。

 

「おっと、なかなか積極的なねこちゃんじゃねぇか。」

 

そのまま鼻先をぺろぺろと舐められる。

 

「はははっ!」

 

「……むぅ。」

 

「ムースちゃん、頑張って。」

 

ねこちゃんと遊んでいると袖を引かれた。

 

「……にゃあ。」

 

「おや、こっちにも随分と愛らしいねこちゃんが。」

 

袖を引かれた手でムースの顎を撫でる。

 

「う……にゃ。」

 

う〜ん、ベリーキュート。

こしょこしょと掻き撫でているとゴロゴロと手に懐いてきた。

 

「ラナラナ、これって上手くいってる?」

 

「ふふ、そうね。」

 

「いや、そうねじゃなくて。まあ、いいや。」

 

そのままムースに構っているとねこちゃんに鼻先を噛まれた。

 

「いっつ!?」

 

「シャー!」

 

「やきもちかしら。きっと、もっと構って〜って言ってるのよ。」

 

「……モテる男は辛いねぇ。」

 

しゃーなしとムースから手を離してねこちゃんを撫で回すと、満足そうに鳴き始める。

 

「む……。」

 

今度はポスッとムースが胸に頭を乗せて甘え始めた。

 

「お前、さっきまで怖がってたんじゃねぇのかよ……。」

 

「う、そ、それはぁ……。」

 

女の子は未だに分からない所があるなと思いながらムースを撫でるとねこちゃんが顔に張り付いた。…………なんなんだ。

 

「ふがふが。」

 

これが猫吸いってやつ?動けねぇんだけど。

そのままねこちゃんとムースに構い続けた。

 

 

 

 

「あれ、メランサさん?」

 

ねこちゃんと歩いていると、通路の角から覗き込んでいるメランサさんを見付けた。何をしているんだろう?

 

「メランサさん、何をしているんですか?」

 

「きゃっ……!あ、あの、ちょっと……。」

 

よく分からないから私も覗き込んで見ると、ラックさんとシュヴァルツさんがいた。

 

「なぁ、美しいレディ。そろそろ俺への好感度も高まってきたんじゃないか?」

 

「いえ、別に。」

 

「そんな釣れない事言うなよ。あれだけ激しい事したじゃねぇか。」

 

「ただの作戦行動でしょう。」

 

「ひっでっ。んじゃあ、飯くらいなら良いだろ?奢るから。」

 

「……まあ、それくらいなら。」

 

「難易度たっけぇなぁ……。」

 

シュヴァルツさんの反応は良くないけど、なんだか分かり合ってるみたいな会話をしてる。

 

「「むぅ……。」」

 

メランサさんと角から覗き込んでいると一匹のねこちゃんが飛び出して行った。

 

 

 

 

「酒とかどうだ?」

 

「マタタビの時のことを忘れていませんか?」

 

「ありゃ、悪かったって……。」

 

うぅん、シュヴァルツとは結構長い付き合いなんだけど、中々発展しねぇな。

そう考えていると、後頭部に何かがぶつかった。

 

「おぶっ!?」

 

「ラック?」

 

いたた、なんだよ。後頭部にぶつかった物をつまんで前に持ってくる。

 

「……お前、ムースんとこのねこちゃん?」

 

「シャー」

 

額を引っ掻かれた。

 

「ぉうっ!?」

 

「大丈夫ですか?」

 

シュヴァルツがねこちゃんを持とうとするとねこちゃんが威嚇した。

 

「……え、何?」

 

「さあ……?」

 

もしかして嫉妬してんの……?

そう思ってねこちゃんを抱いて撫でると甘え出した。

 

「シュヴァルツ、ちょっと動かないでくれ。」

 

シュヴァルツを撫でようをすると、ねこちゃんが激しく鳴き出した。

 

「えぇ……。」

 

「ふっ、モテて良かったですね。」

 

「……俺は女の子にモテたいよ。」

 

ため息を吐く。

 

「ら、ラックさん。」

 

「お?ムースとメランサじゃんか。はい、ねこちゃん。」

 

ムースにねこちゃんを渡す。暴れん坊で困ったもんだ。

 

「ラック、動かないでください。」

 

「んぇ?」

 

シュヴァルツの方を向くと、絆創膏を貼られる。

そういや、お転婆なセイロン用に簡単なのは持ってるんだっけ。

 

「後でちゃんと消毒してください。」

 

「おお、サンキュな。」

 

珍しくシュヴァルツが優しいと思って口元が緩む。うむ、やはり好感度が上がってるんじゃないか?

 

「いっ!?」

 

唐突な痛みに振り返ると、メランサとムースにつねられていた。

 

「なんだなんだ。もしかしてシュヴァルツに嫉妬しちゃったのか?」

 

そう言うと二人して赤くなる。うんうん、嬉しいねぇ。

 

「シュヴァルツも嫉妬してくれる?」

 

「馬鹿な事言わないでください。」

 

「塩だなぁ。」

 

二人にしたみたいにシュヴァルツの頭を撫でようとすると弾かれた。……撫でるには好感度が足りないようだ。

 

「んじゃ、飯食いに行くか。じゃあな、メランサ、ムース。」

 

軽く手を振って別れた。

 

 

 

 

「ワイフーよぉ、あれは事故だって言ってんだろ?」

 

「事故で胸を揉まないでください!」

 

「悪かったっての。」

 

最近誰かに見られている気がして、考え事をしながら歩いているとワイフーにぶつかって押し倒してしまった。

おっぱいを揉めたのは良いが、その後のビンタはいい音がしたぜ。

 

「そんな怒ると美人が台無しだぜ?」

 

「そんな言葉で誤魔化そうとしないでください!」

 

「……チッ。」

 

「舌打ちしましたね!?」

 

「ははは、なんのこった。」

 

ワイフーが詰め寄ってくるのを頭を押さえて止める。おお、フワフワしてる。

 

「にゃー」

 

「づぁ!?」

 

最近よくこんな事がある気がする。引っ掴んで前に持ってくるとやっぱりねこちゃんだった。

 

「シャー」

 

「やっぱりお前か……つー事は……お、いたいた。こっち来いよ!」

 

物陰にメランサとムースがいた。もしかして……

 

「なぁ、最近よく視線を感じるけどお前らか?」

 

「「う……。」」

 

「当たりか。なんだって、尾行して来てたんだ?」

 

少し困ったように聞く。実際ずっと見られるのはちょっと困るしな。

 

「最近、あまり構ってもらえてないかもって……思っちゃって……。」

 

「わ、私は、ちょっとだけ、気になっただけです。」

 

そういや、最近はメランサの訓練にも付き合ってないしなぁ。

 

「悪ぃ悪ぃ、放っておいた訳じゃないんだ。許してくれるか?」

 

メランサの目線に合わせてしゃがんで頭に手を置くと、こくんと頷いてくれた。うぅん、行動一つが可愛いな。

 

「ほれ、ここが良いのか?」

 

これがほんとの猫可愛がりってやつだ。頭の上にねこちゃんが噛み付いてぶら下がっているが、そんなの後でアンセルかフィリオプシスの所に行けばいい。他のやつ?あんまり話したことねぇし、サイレンスは説教されそうでやだ。

 

「わ、私も……。」

 

軽く服を引っ張られる。分かってる分かってる。お兄さんに任せなさい。

 

「ワイフーも来るか?」

 

「嫌です。」

 

「ちぇ、つまんねぇの。」

 

そう言うと割と強めに殴られた。……普通に痛いのはやめてくれ。

 

「こっちのお姉さんは酷いよなー。」

 

二人を抱き締めながら撫でる。ふふふ、至福の時間だ。二人とも小柄だからすっぽりと収まるし、大人しいから抱き上げても危なくない。

 

「そんじゃ、俺はこの子らをお持ち帰りさせてもらうから、じゃあな。」

 

「……そんな事させる訳ないでしょう。」

 

ワイフーが構える。え、マジ?普通に可愛がるだけなんだけど。

 

「しゃーねぇ、掛かってきな!……その前にちょっと、降りてくれる?」

 

二人して首を振る。

 

「……撤退!!」

 

背を向けて走り出す。武器もねぇのに戦えるか!

 

「ま、待ちなさい!」

 

やられるっ!そう思った時、メランサがワイフーのダガーのような武器を弾く。

 

「「はぇ?」」

 

「危ない、です。」

 

……まあ、確かに。

 

「怪我したら危ないし、鬼ごっこにするか?ほら、捕まったらちゃんと説教受けるから、な?」

 

ワイフーがぷるぷると震える。いつも正義って言ってるし、廊下走ると怒ってるのに、今回は自分が注意されたからかなぁ……。

 

「じゃ、じゃあ、三秒待っててな?うん、なんか、ごめんな。」

 

慰めるように頭を撫でて走り出す。

 

「さ〜ん、にぃ〜、い〜ち……ぜろ!」

 

「う、うぅ、うわぁぁあん!!」

 

「え、ちょ、そ、そんなに?」

 

半泣きのまま追い掛けてくるワイフーに軽く恐怖しながら逃げる。両手と頭のお猫様達は呑気にゴロゴロしてやがる。

 

「とうっ!」

 

吹き抜けにメランサを投げて、手摺を掴んで自分も飛び出すと、空中でキャッチして着地する。

 

「怖くなかったか?」

 

「ドキドキしたけど、大丈夫です。」

 

「ん、よし。」

 

「まぁちなさぁあい!」

 

「はやっ!?」

 

俺よりも無茶な軌道で吹き抜けを飛び降りてきた。見事な着地。

 

「やべっ、追い付かれる!?」

 

「あ?ラック、てめぇまた騒ぎを……。」

 

エンカク……丁度良い。

 

「ねこちゃん、ゴー!」

 

「にゃ〜」

 

気の抜ける声と共に頭の上から飛び立つと、エンカクの目を引っ掻いてから飛び越えて俺の頭に戻る。

 

「ヒュー!最高だぜ!」

 

「うごあぁぁぁ!?」

 

「退きなさい!」

 

「なぜっ!?」

 

「悪ぃな!今度酒奢る!」

 

うっわ、壁にめり込んでる。痛そうだな。

 

「なぁ!マタタビやるから許してくんね!?」

 

「っ!絶対に許しません!!」

 

油注いじゃったよ……。

 

「二人とも、どうやったら許して……寝ちゃったよ……。」

 

どうしよう。もう土下座するくらいしか手が残ってないんだけど……。

ワイフーの好きなもの、好きなもの……。

 

「へい、そこの学生さん!今なら元軍属のお兄さんが勉強を教えてやるぜ!」

 

ワイフーの動きがピタリと止まる。やったか?

 

「……大丈夫なんですか?」

 

「こっちは軍でみっちり教えられたんだぜ?専門分野でもない限り余裕よ!」

 

大体戦略についてだったからワイフーレベルの一般科目も知らねぇけど。

 

「じゃあ、それで許してあげます。次はありませんよ?」

 

「OKOK。約束な。」

 

この後るんるん気分でメランサとムースを可愛がった。……まあ、寝ていたんだが。

 

 

 

 

「うおっと。」

 

最近よくねこちゃんが寄ってくる。

 

「ムース?近くにいるのか?」

 

そう言うとムースが出てくる。

 

「ああ、やっぱりいたのか。」

 

「ね、ねこちゃんが先々行っちゃって……。」

 

「こいつにも懐かれたもんだよなぁ。」

 

しかも他の子に行こうとすると怒るし。

 

「ねこちゃんの気持ちもわかんねぇもんだなぁ。」

 

ぴろっと出てる舌を指でつつく。ふっ、ザラザラしつつもぷにぷにだ。

 

「んで、ムースはなんで俺を尾行してるんだ?

最近メランサは追い掛けて来ないし。」

 

……ちょっぴり寂しい気もする。

 

「え!?そ、そんな事、ないですよ?」

 

「ねこちゃんが走ってくるって事は近くに来るって事だろ?言ってみなよ」

 

「……前は怖かったですけど、仲良くなりたいなぁって。」

 

……うわぁ、何この子。すげぇ可愛いじゃん。

 

「おいおい、俺とムースはもう友達だろ?」

 

「……ほんと?」

 

「ほんとほんと、もういつでも部屋に来ていいくらい。」

 

「じゃあ、これから行っても良いですか?」

 

「もちろん。美味しいお菓子でも用意しようか。」

 

数日後、俺の部屋が猫カフェみたいになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

・今日の一幕

 

「ちょっと!全然分かってないじゃないですか!」

 

結局勉強はよくわからねぇ。

 

「うるせぇ!野営図とか砦の図面持ってこい!効率的な崩し方を教えてやる!」

 

「暗殺者になるつもりはありません!!」

 

「こちとら元暗殺部隊だァ!」

 

「知りませんよ!」

 

「安心しろ。お前には才能がある。俺のお墨付きだ。」

 

いや、マジで。鬼ごっこの時の動きとか。

 

「な?ちょっと、ちょっとだけだから。多分今の俺なら越えられるくらいにいけるから。ラックザブートキャンプしようぜ?」

 

「し、しかし。」

 

「ほら、正義的に強い方が良いだろ?強いと正義だろ?」

 

「む……確かに。」

 

おいマジか。

 

「よし、着いて来い!弟子(仮)!!」

 

「弟子って呼ばないでください!」

 

「希望の未来へ、レディィィイイイゴォォォオオ!!!!」

 

 

 

 







今までで一番苦戦しました。
つーかムースってあれ手袋で発作が怒らないと鉱石出ないんすね。



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二十三話:気合い!入れて!いきます!!

 

 

 

 

 

「ふんふんふーんふんふんふーん。」

 

今日は何をしようかとタバコを吸う。モスティマでも探してみようか。

 

「……あなたは。」

 

「あ?……げっ、スカジ。」

 

こいつは苦手だ、なんか雰囲気とか。

 

「あなた、前に見た事があるわ。」

 

「そうかよ。俺は無いぜ。」

 

「一人でモンスターと戦っていた。」

 

「……待て、お前それ結構前じゃねぇか。」

 

トランスポーター二年目くらいの時だぞ。

あん時は酷かった。配達してたら触手のバケモン出てくるんだもんな。後から聞いたら立ち入り禁止区域らしかったし。

 

「それにありゃ戦いなんてもんじゃない。ただ、逃げる為に銃撃ってただけだ。

あんな怪物、俺じゃアーツ無しには戦えねぇわ。」

 

いや、今なら小細工含めりゃ多少戦えるか?

 

「あなたの事、気になるわ。」

 

「そりゃあ嬉しい。そんならこれから部屋までどうだ?」

 

「行くわ。」

 

……?なんか変だぞ。ちゃんと会話出来てるのにそうじゃないような。

 

「なぁ、どういう風に気になってるんだ?」

 

「変な事聞くわね。ハンターとしてあなたの力量が気になるのよ。」

 

「言葉が……圧倒的に足りてない!!」

 

マジかこいつ。

 

「な、なぁ、これから部屋って聞いてどう思った?」

 

「戦うか話をするんじゃないの?」

 

「うっそぉ……。」

 

こいつ脳筋かよぉ!?

 

「OK、戦うにしても訓練室行くぞ。……戦わないって手は?」

 

「……あまり、ないわね。」

 

「マジかよ。」

 

 

 

 

「よっしゃ、準備いいか?」

 

「いつでも。」

 

んじゃ、遠慮なく。

口から煙玉を吐き出して、鞘に納めた刀を握る。

 

「先手必勝!ん〜……真空刃的なやつ!!」

 

溜めに溜めて抜き放つと、空気の層を割りながら剣閃が向かっていく。

 

「持ってきな!」

 

振り切ってすぐに銃を構えて回避先に銃弾を置くように撃つ。ちったぁダメージ入んだろ?

 

「ふっ……!」

 

「……は?」

 

一閃。それだけで渾身の力で放った剣閃がかき消された。

 

「バッキャロー!?んなのアリかよ!?そこは多少なりとも食らっとくとこだろ!?」

 

マガジンを入れ替えながら懐に飛び込む。

あれがダメなら遠距離はもれなく意味無いだろ。なら、至近距離でやるしかねぇわ。

 

「はぁ!」

 

「そいっ!」

 

体を逸らして躱す。ただ剣振っただけでこんな風圧とかナメてんのか!?

こりゃ、ダメだ。手数でいってみるか。

銃と刀を納めて投げナイフを両手に持つ。

 

「はっ!せいっ!あらよっとぉ!」

 

……ダメだな、見られてる。やべぇ、当たる気がしねぇぞ。

一瞬動きが止まった隙にスカジが剣を振る。

 

「こいつで……!?」

 

いつもみたいに足の裏で受け止めた瞬間、嫌な予感がして肩を蹴って後ろに跳ぶ。

 

「……マジかよ。」

 

靴底が斬られてやがる、後一歩遅ければ片足が無くなってたぞ。

 

「どうすりゃいいんだよ!」

 

銃で牽制するけど、持たなそうだなぁ……訓練だから特殊弾を使う訳にもいかねぇし。

 

「話してばかりじゃダメよ。」

 

「くっそ!?」

 

スカジが銃弾を弾きながら駆けてくる。

大きく振りかぶって剣が振られる。まだいける。

 

「あ、嘘!無理!!」

 

一瞬下がり手持ちのスキレットから酒を口に含む。

 

「終わりね。」

 

「ぶっ……!」

 

ライターに火をつけて、火に向けて酒を吹き出してちょっとした火炎放射をする。

 

「って、怯まねぇのかよ!くそったれ!」

 

反射的な行動とかねぇのか?

伏せるように避けて足元を斬り払う。

 

「意外とやるわね。」

 

「そりゃどうも!」

 

スカジが軽く跳ねて剣を振り下ろす。刀で受けたが……刃が欠けたか、また見てもらわねぇと。

 

「その剣、何で出来てるんだ!?」

 

「聞かないことをおすすめするわ。」

 

「いっ!?」

 

横っ腹を蹴り飛ばされる。あのまま刀が折れるまでやるよかマシか。

 

「いっつぅ……。」

 

「今度こそ、終わりかしら?」

 

「なんのなんの……!」

 

刀を左下に構えると息を止める。いつでも来い。

 

「今度は何を見せてくれるの?」

 

スカジの振り上げよりも少し早く動き出す。

 

「……!」

 

やっと動揺を見せたか。しかし、剣を弾くなりダメージを与えられりゃいいんだけど……。

 

「くっ……!」

 

……あれ?対応してきてない?どんどん動きが合わされていってる気が……。

少し苦しそうな顔が涼しい顔に変わっていく。

このままじゃやられるけど、動きを止めてもダメだ。……詰んでね?

 

「どうしたの?動きが鈍ってきたわよ。」

 

喋る余裕まで出てきやがる。

腕も震えてきたし、息も切れてきた。

 

「……そこね。」

 

「しまっ……!」

 

刀を弾かれて大きな隙が出来る。スカジの剣が首に迫る。

やばい、これは、止まらない。

首に剣が触れる寸前、いつの間にか後ろに下がって抱きかかえられていた。

 

「……私のラックに何をしているのかな?」

 

「も、モスティマ?助けてくれたのか。」

 

「ちょっと観戦をね。模擬戦かと思ってたんだけど、これは洒落にならないよ?」

 

モスティマがスカジに杖を向ける。

 

「……ごめんなさい。少し熱くなり過ぎたわ。」

 

「熱くなり過ぎたからって、ラックを殺されるなんて冗談じゃないよ。」

 

「モスティマ、俺は大丈夫だからさ。」

 

「でも……。」

 

「良いから。」

 

「……分かったよ。でも、部屋までは付き添うからね。疲労も残ってるだろうし。」

 

「ああ、それでいい。」

 

モスティマに手を掴まれて訓練室を出る。

 

 

 

 

「ほら、寝てて。」

 

「そんな過保護にならなくても。」

 

「寝てて。」

 

「……あい。」

 

「勝てないって分かってたでしょ。」

 

「まあ、そりゃあな。」

 

「断れば良かったのに。なんで戦ったのさ?」

 

「どこまでやれるかって試したかったのもあんだよ。

まあ、結果としちゃ惨敗だったけどな。」

 

チッ、あんだけ苦労して驚かす程度かよ。

 

「あーあ、また装備補充しねぇと。後慌てて出てきたから刀も置きっぱなしになってるし。」

 

「取って来ようか?」

 

「んにゃ、後で取りに行く。なくてもオペレーターか誰かが拾ってるだろ。」

 

一般の患者とかは入らねぇし。

 

「悪ぃ、今は一人にしてくれるか?」

 

「でも。」

 

「俺だって男だぜ?女性に負けりゃ考えるもんだってある。」

 

「そっか……わかった。じゃあ、またね?」

 

「おう、配達無かったら今度遊ぼうぜ。」

 

「楽しみにしてる。」

 

手を振ってモスティマが出ていく。

 

「…………あーーーー!!!くそくそくそくそ!悔しいに決まってんだろド畜生ォ!手も足も出ねぇなんて情けねぇ!!」

 

ドタバタとベッドの上で暴れる。ガキみてぇだけどこんくらい良いだろ。

 

「次やるときゃ、今回よりも上手くやってやる。」

 

目標は……なんだろ。パイタッチ?

 

「まあ、殺し合いする訳じゃないからそこから始めるかぁ。」

 

流石に疲れたし、今日はもう寝よう。

 

 

 

 

ゴポリ、と音がした。

きっと夢だろうと目を開く。

水の中?上を向いたまま沈んでいき、どんどん明るい海面から暗い深海へと落ちていく。

 

(下は、どうなってんだ?)

 

多少の怖気を感じながら向きを変える。すると、気持ち沈む速度が速くなった気がした。

 

(流石に見えないな。)

 

目を凝らして奥を覗き込む。無駄かと思ったその時。

 

(……なんだ、あの赤い光。)

 

奥の方でキラリと光った。

ジッと見ていると、光が二つに増えてようやく気付いた。

 

(目……?)

 

このまま沈んでいくとまずいと思い、上を向いて必死に泳ぐ。

足を何かに掴まれた。

ぐんぐんと沈んでいく。

この夢はまずい。落ちる所まで落ちたら戻って来れなくなる。なぜかそう確信できた。

誰か掴んでくれと願いながら必死に手を伸ばす。

願いが通じたのか、誰かが手を掴んで引き上げてくれる。その時下を見れば、昔見た触手のバケモンが俺を見ていた。

 

 

 

 

「っはぁ……うぉ!?」

 

目を覚ますと目の前にスカジの顔があった。

 

「な、なんだ!?闇討ちか!?」

 

「起きたのね。あの、武器を返しに来たのだけど。」

 

「そ、そうだったのか……サンキュな。」

 

「ところで、魘されていたけど。」

 

「夢見が悪くてさ。」

 

夢なんていつ振りだ?

 

「まあいいわ。ただ、気を付けなさい。深海に引き込まれないように。」

 

「ご忠告どーも。」

 

外はまだ暗いし、寝起きだといまいち寝る気が起きねぇ。

 

「軽くなんか飲むか?」

 

「……じゃあ、ホットミルクでももらおうかしら。」

 

「意外だな。んじゃ、俺もそれにするか。」

 

すぐに用意してカップを二つ置く。

 

「なあ、今日の模擬戦お前から見てどうだった?」

 

「驚きはしたけど、そこまで苦戦した気はしないわ。」

 

「やっぱりか……。」

 

面と向かって言われると俺だって凹む。

 

「次はもうちょっと喰らい付いてやるから覚悟してやがれ。」

 

「そう。」

 

「具体的にはパイタッチするから待ってろ。」

 

「……。」

 

冷ややかな目で見られた。

 

「目標だ目標。ご褒美みたいな目標ならやる気も出るだろ。」

 

「だからと言って胸を触ろうとするのはおかしいわ。」

 

スカジが少し顔を赤らめる。

 

「はっ、それが俺だ。」

 

「そう……。」

 

軽く息を吐いてスカジがホットミルクを飲む。

ホットミルクなんて初めて飲んだけど、確かに眠れない時には丁度良いな。

 

「くぁ……眠くなったから寝るわ。お前もテキトーな所で部屋に戻っとけよ。」

 

「えぇ。」

 

ベッドに入るとすぐに眠気がやってくる。よく眠れそうだ。

 

 

 

 

「……。」

 

今回は夢は見てない……いや、ちょっと見たかもしれない。

朧気だけど、また水の中にいて、俺の周りを何かが泳いで守っていたような気がする。

 

「ん?」

 

誰かが横にいて、布団を捲ってみる。

 

「……くぅ。」

 

スカジがいた。こいつ……戻れっつったのに。……いや、こいつのお陰?まさか。

 

「ラック、気分は……そう、良いみたいだね。」

 

「も、モスティマ?誤解だ。待て、杖を納めろ。」

 

「現行犯だね。」

 

「まだ付き合ってもないんだから現行犯も何も……。」

 

「ダメ。」

 

「どぅわぁ!?」

 

スカジを抱きかかえてベッドから転がり落ちて避ける。ああ……ベッドが粉々に。

 

「あ、危ねぇだろ!?お前こそ殺す気か!?」

 

「大丈夫大丈夫。加減はしてあげる気絶程度さ。」

 

「いや、ベッド……。」

 

「調整を間違えたかな?次はちゃんとするよ。」

 

「嘘だッ!」

 

再度杖を向けられる。やばい、次は無理そう。

杖が光る瞬間目を瞑る。

 

「もう、ゆっくり眠らせてほしいわ。」

 

「す、スカジ……。」

 

「昨日と逆ね。」

 

目を開くとスカジに抱きかかえられていた。

モスティマの目がヤバい。

 

「……ムカつくなぁ。」

 

「モスティマ、落ち着け。」

 

「うるさい。」

 

「あ、はい……。」

 

いや無理無理。スカジの腕の中で震えるしか出来ねぇわ。

 

「「……。」」

 

「あ、あー!そうだ。腹減ったし、飯食い行かないか!」

 

「……二人で?」

 

「え、三人だけど……あ、待って待って、違うって、三人いるなら一緒に食べた方が良いじゃん。」

 

「……まあ、いいよ。」

 

「私も構わないけど。」

 

「よ、よし、行こうぜ。」

 

 

 

 

「……はぁ……はぁ。」

 

カチャカチャとスプーンが震える。おかしい、俺はカレーを食ってるだけなのに。

食堂の長机に座っている。それは良い。でもなんで二人に挟まれなきゃならない。

 

「あ、あの……。」

 

「スプーン止まってるよ。」

 

「冷めるわよ。」

 

「はい……。」

 

目の前をドクターとアーミヤが通り過ぎる。

目だけでヘルプを送ると顔を逸らされた。

 

「あっ!?待って!そんな殺生な!?」

 

思わず椅子から立ち上がる。

 

「行儀悪いよ。」

 

「静かに食べなさい。」

 

ベルトを掴まれて椅子に叩き付けられた。

 

「お”っ……!?」

 

ケツが……割れる……!!ついでに顔面がカレーに浸ってとても熱い。

 

「お前ら、実は仲良い?」

 

足踏まれた。

くそ……来い、来い、空気読まずにゲラゲラ笑って前に来そうなヤツ……来い!

 

「ぶっははははっ!ザマーねぇなラック!女二人に頭が上がらぶっ!?」

 

「エンカクゥゥ!!?」

 

アシストに来たエンカクが吹き飛ばされて壁の染みにされた!?

左右を見るとにっこり笑顔のモスティマと無表情なスカジが拳を突き出していた。

 

「そ、そろそろ、収まった……?」

 

「「全然。」」

 

「……も、モスティマ、カレー一口食うか?」

 

「あ〜。」

 

「へいっ!」

 

カレーを口に入れる。すると逆の方から腕を掴まれた。

 

「……あーん。」

 

「へ、へい……。」

 

また逆から手を掴まれる。

 

「早く早く。」

 

「あれ、俺のカレー……。」

 

みるみるうちにカレーが消えていく。……俺の食べる分はもう無いらしい。

 

「……くすん。」

 

 

 

 

……腹減ったなぁ。

すごく悲しい気分になってきた、一応今回は俺悪くないんだけどなぁ。この後ヴァルカンに刀見せるの怒られるから嫌だなぁ……。

 

「……ラック?」

 

「なに……?」

 

「私が言うのもなんだけど大丈夫?」

 

「……ダメそう。」

 

腹が鳴った。後でまたなんか食べに行こう。

 

「これ食べる?」

 

スカジが菓子を取り出した。意外だ、あんまりそういうものは食べないと思ってた。

 

「ドクターに渡されたのよ。私はこういうのは食べないから、いいわ。」

 

「お、おお、サンキュ。」

 

素直に受け取って食べる。……あぁ、美味い。

 

「……ふぅん。ねぇ、ラック。」

 

「ん、どうした?」

 

「今日の夕食は私が作ってあげるよ。」

 

「え、マジで?」

 

テンションが上がってきた。モスティマの料理は美味いから楽しみだ。

 

「さっきのお詫びさ。」

 

今日の晩飯が楽しみだ。何を作るかは聞かないようにしよう。

 

『レユニオンが現れた。これから呼ぶオペレーターは集まってくれ。』

 

ドクターの放送に呼ばれる。

丁度俺ら三人が呼ばれる。いっちょ気合い入れていくか!

 

 

 

 

 

 

 

 

・今日の一幕

 

「それで、刀がボロボロな事を忘れて暴れてきたのか?」

 

「いや、まあ……。」

 

ヴァルカンの前で正座する。威圧感で萎縮する。

 

「はっきりして。」

 

「テンション上がっちまって……。」

 

「ケーちゃんだって武器の状態には気付くよ。」

 

「うぐっ……。」

 

「しかも持ってくるまで手入れもしなかったらしいな。」

 

金槌でコンコンと頭を小突かれる。

 

「あの、悪かったんで……。」

 

「悪いと思うならもっと早く持ってきて。」

 

「……うっす。」

 

「これから取り掛かるから、手伝ってもらうよ。」

 

それからずっと材料や機材、間の飯とか、扱き使われた。

 

「……次はちゃんと持って来よう。」

 

 

 

 

 

 






アビサルむずいっすね。





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二十四話:ラッキースケベにロマンを求めるのは間違っているだろうか?

 

 

 

 

 

「……クロージャ、何これ?」

 

「え、薬だけど。」

 

「薬だけど。じゃねぇよ、飲めってか?せめて効能教えてくれよ。」

 

「ラッキースケベになれる!」

 

「エントリーナンバー一番ラックいきます!!」

 

フラスコに入った薬を一息に飲み干す。

うぇ、不味い。

 

「あ、被害者側にだから。」

 

「てめぇ、言うの遅せぇんだよ……!!」

 

クロージャに詰め寄る。こいつどうしてくれようか。

 

「ちょっ!?近寄らないで!」

 

「人に飲ませといてなに……!」

 

後ろの棚から物が落ちてきてクロージャの頭に当たってこっちに倒れてくる。

 

「うおっ!?」

 

受け止めて倒れる。いってぇな……クソ。

 

「いたた……あれ、真っ暗?」

 

「……どこ入ってんだ。」

 

何が起こったのかクロージャがシャツの中に頭を突っ込んでいる。

 

「これがこの薬の効果だよ!」

 

「いいから出ろ!」

 

猫みたいに摘んでシャツから引っ張り出す。

 

「んで、効果はいつまでだ?」

 

「多分、一日かなぁ?」

 

「曖昧過ぎねぇか?」

 

「初めての実験だからね!」

 

「……ふん!」

 

「ふぎゃっ!?」

 

頭突きをして気絶させて寝かせる。このくらいで許してやろう。

全く……自分から飲んだとはいえ、変な事に巻き込まれた。

ため息を吐いて部屋から出ると、誰かにぶつかって倒された。

 

「……んむっ?」

 

目を開くとシュヴァルツの顔が目の前に広がっていた。

 

「……っ!?な、何をしているんですか……!」

 

「ま、待て待て!今のは事故だろ!?」

 

ぷるぷると震えるシュヴァルツを宥める。

 

「わ、わわ、私だって……初めてだったのに……。」

 

「わぁ……シュヴァルツがこんなに慌ててる、意外と純情〜。」

 

「もっとロマンチックになのが良かったのに。」

 

ガシャッとボウガンが構えられる。

 

「うん……?ちょ、ちょっと?」

 

ガキッと矢が装填される。

 

「しゅ、シュヴァルツ……?こ、今度、今度ロマンチックにしようぜ?な?」

 

「しんでください。」

 

頬を矢が掠めた。

 

「……。」

 

「……。」

 

「さらはだ!!」

 

全力で走って逃げる。やばいやばい!?矢が!矢に殺される!?

とりあえず撒かねぇと!

 

「待ちなさい……!!」

 

「あっぶねぇ!?おい、いつもの冷静なお前はどこにいったんだ!?」

 

頭を下げると矢が通り過ぎる。

おい、今の下手したら死んでたぞ!?

煙玉を投げて撒く……よし、なんとかなった。あいつがテンパってて良かった。

 

「これ、部屋から出ない方が良いんじゃねぇか?」

 

メランサみたいな大人しい女の子ならまだしも、またシュヴァルツみた苛烈な女の子だと危ねぇ。

 

「ラック、あっちでシュヴァルツが荒れていたが何かしたのか?」

 

向かいからエンシオが歩いてきた。

 

「いや、クロージャに薬飲まされてぇっ!?」

 

何かに足を滑らせると、エンシオの胸に抱き着く形になる。

 

「……。」

 

「……いや、すまない。お前の事はいい友人だとは思っているが。」

 

「俺だってやりたくてやってる訳じゃねぇよ!」

 

「こっちで声が聞こえた!」

 

やべっ、シュヴァルツ!

 

「ちょ、ちょっと借りるぞ!」

 

エンシオの襟を引き寄せてマントで隠して壁ドンみたいにして隠す。

 

「合わせろ……!」

 

「……仕方ない。後で一杯奢れ。」

 

上手くやってくれよ……。

 

「シルバーアッシュ、ラックは見ましたか?」

 

「いや、見ていないが。」

 

「そうですか。……そちらは?」

 

「ふっ、あまり無粋な真似はしてくれるな。」

 

「……なるほど。失礼しましたね。それでは。」

 

コツコツとシュヴァルツが去っていった。

 

「……助かったぜ。」

 

「気にするな。」

 

「あの、お二人は一体何を……。」

 

声に振り向くとフェンがいた。

 

「あ、や、これは……。」

 

「そういう事はないぞ。ただラックに頼まれただけだ。」

 

「た、頼まれたって……まさかそのような趣味がっ。」

 

「ち、違ぇ!」

 

エンシオから離れてフェンの肩を掴む。このまま変に勘違いされたらたまったもんじゃねぇ。

 

「ひっ!わ、私に何をするつもりなんですか……!」

 

「え、いや、何もするつもりは。」

 

「や、やめてください!」

 

「うおっ!?」

 

持っていた槍が腋を通り過ぎるとフェンが倒れてきて一緒に倒れる。……ラッキースケベ、こういうパターン多いよなぁ。

 

「あいたた……。」

 

「……おい。」

 

こいつマジか、倒れたフェンの顔が股間の目の前にいった。

 

「うぅん……あれ、これは……?」

 

「顔、顔上げろ。」

 

フェンが顔を上げると、俺の顔と股間を交互に見る。それはやめなさい。

 

「ひ、ひゃああぁぁぁ!?!?」

 

顔を真っ赤に染めて逃げていった。

 

「やれやれ……。」

 

「後で謝っておけ。」

 

「そーだな。」

 

そういう事に免疫なさそうだったしなぁ。

 

「んじゃな。悪ぃけど奢るのは今度にしてくれ。今日はマジで無理だ。」

 

「そのようだな。」

 

エンシオを別れて、今度は周囲を警戒しながら歩く。足元も気を付けねぇと。

 

 

 

 

「にゃ〜。」

 

「おっ、お前か。今日はムースと一緒じゃねぇのか?」

 

よく突進してくるねこちゃんが近付いてきたと思ったら反対を向く。

 

「着いて来いって?……まあ、ちょっとなら良いか。」

 

後ろを歩いて行くと庭園に着いた。

 

「ここになんかあんのか?」

 

「にゃーん。」

 

ねこちゃんが転がって腹を見せる。ほほう、愛いやつめ。

お腹をわしゃわしゃと撫でる。ふふふ、ここか?こっちか?

 

「もふもふしおって……ぷわあっ!?」

 

唐突に水が顔面にかかる。……水やりか?

 

「あら……?いたのね、ラックくん。」

 

「やあ……ラナ。」

 

ポタポタと髪から水滴が垂れる。うへぇ、服がぐしょぐしょだぁ。

 

「ごめんなさいね。大丈夫?」

 

ラナが顔をハンカチで拭いてくれる。ふわりと花の香りがする、いい匂いだ。

 

「大丈夫大丈夫、ありがとな。」

 

「いいのよ。私のせいだもの。」

 

大人しくラナに拭かれる。……途中から楽しくなってないか?

 

「ふふっ。」

 

途中から拭く手が撫でるようになる。

 

「おい、俺はペットか?」

 

「良いじゃない。結構似合うかもしれないわよ。」

 

「勘弁してくれ……そういうのはもう間に合ってる。」

 

ラップランドとか。

 

「ふふ、冗談よ。体を冷やさないように早めにお風呂に入ってね。」

 

「ん、サンキュ。ほら、行くぞ。」

 

そういうとねこちゃんが着いてくる、賢い子だ。

 

 

 

 

「ぷぃ〜……気持ち良かったなぁ。」

 

「んなぁー。」

 

「おっと、拭いてやるから大人しくしてな。」

 

丁寧に拭いてやらねぇとな。

 

「そうね、今日の動きは良かったけど、まだまだよ。」

 

「頑張ります。」

 

ん、誰か入って……。

 

「よ、よぉ、メランサにフランカじゃねぇか。」

 

「な、なんでここに……?」

 

「いや、ちょっと濡れちまったからよ……。」

 

全裸だけど、ねこちゃん拭くためにしゃがんでるから致命的な所は見えてないよな?いや、見られたって減るもんじゃねぇけど。

目をずらしてフランカを見ると、やけに俺の体を見ていた。

 

「……フランカ?」

 

「へっ……!?な、なによ?」

 

「いや、なんか妙に見てきてたからなんかあんのかと思ってよ。」

 

「べ、別に何もないわ。」

 

「見るのは好きなだけ見てていいけどさ。」

 

「……そう。」

 

フランカが後ろを向く。あ、出ていかないのか。

 

「……メランサ、見てていいとは言ったけどそんな食い入るように見られると流石に恥ずかしい。」

 

「……わかりました。」

 

若干不服そうにして少し目付きが変わる。……見るのは変わらないんだな。

 

「メランサ……あなた、そっち方向の成長もしているのね……。」

 

好奇心旺盛というかなぁ……。

 

「考えてもしゃーねぇか。行くぞ。」

 

ねこちゃんと外へ出る。今度は面倒がないようにしてほしいな。

……つーか、あの薬何で出来てるんだ?

 

「ドクターの理性剤みたいなのは嫌だぞ。」

 

はぁ、と息を吐いた。

 

 

 

 

「お、アンセルだ。」

 

やっぱ医療オペレーターは作戦がなくても忙しそうだ。

 

「……ちょっと後ろから覗き込んでみるか?」

 

「んにゃあ。」

 

同意、だよな?うん。きっとそうだ。

こっそりと後ろから覗くと、何か薬品を混ぜていた。

 

「わっ!?」

 

ボンッ!と爆発が起こって、アンセルが椅子ごと後ろに倒れる。

 

「あっぶ……!!」

 

慌てて後ろから抱き締めるように受け止める。

 

「だ、大丈夫か?」

 

「う……うぅん……」

 

アンセルが目を開けて俺を見上げる。

 

「あれ、ラックさん。どうしてここに?遂に私に手を出す事にしたんですか?」

 

「えっ……。」

 

想定外なんだけど。

 

「お、お前、前に冗談で言った時は……。」

 

「ふふ、最近は悪くないのではと思い始めました。」

 

はぁ、と熱い吐息を吐く。……無駄にエロいのやめてくれる?

 

「えぇ、大丈夫です。私も男。その辺りは同性の方がスムーズにことが進むと聞きます。」

 

「え、なに、マジで……?」

 

後ずさりすると腕を掴まれた。

 

「……離してくれる?」

 

「つれないじゃないですか。」

 

うわ、目が割とガチ。

 

「待て待て、顔は割といけるけど男はちょっと……。」

 

「最近は寛容になってきたでしょう?」

 

「……まあ、確かに。」

 

「だから大丈夫です。」

 

だいじょう……うん?大丈夫か?本当に?

 

「あれ……?俺がおかしい?」

 

「これから馴染んでいけば良いんですよ。」

 

「……ああ、そうだな。」

 

よく分かんねぇけど、ヨシ!

 

「ダメだよ。」

 

ゴッ、と良い音が頭から鳴る。

 

「いっつ……はっ!?俺は何を……。」

 

「ラック、早く部屋に行くよ。これ以上変な事に巻き込まれないで。」

 

「っととと、わぁったよ。サンキュな、モスティマ。」

 

さっきは危なかった。アンセルを甘く見ていたぜ。

 

「はい、座って。」

 

「ん、ああ。」

 

いつの間にか部屋に戻ってたみたいだ。

ベッドに腰掛ける。やっと落ち着けた感じだ。

 

「大体の話は知ってるけどさ。それにしても油断し過ぎじゃないかな?」

 

目の前に立ったモスティマの手が頬に触れる。

 

「私の事を放っておき過ぎだよ。」

 

不満そうにジト目で俺を見る。

 

「しゃーねぇだろ?お前の仕事は長距離が多いんだから。」

 

「それはそうだけど……。」

 

「……わかったわかった。今度の配達は俺も一緒に行ってやるから、な?」

 

「本当?」

 

「ほんとほんと。」

 

「……うん、ならいいかな。」

 

モスティマが嬉しそうに微笑む。

 

「でもそれとこれとは別。」

 

ガシャリと手錠でベッドに繋げられる。

 

「……軽率に時間止め過ぎじゃね?」

 

「いいのいいの。」

 

「それに、俺はこんな事しなくても相手するけど?」

 

「あの薬飲んだ状態で動かれると何があるか分からないから、念の為。」

 

「そうかい。……好きにしな。」

 

「うん。」

 

そう言うと抱き着いてくる。あれ?思ってたのと違う。

 

「ちょっと、私がいつもエッチな事してるみたいじゃないか。」

 

「思考読むんじゃねぇ。つーか、そうだろ?」

 

「そんな事ないよ。これはラック成分を補充して癒されてるのさ。」

 

「なんだそりゃ。」

 

じゃあ、俺は今モスティマ成分を補給してるって事か?

ゴロゴロと猫のように擦り寄ってきて少しむず痒い。

 

「ラックの周りには猫ちゃんが多いからね。マーキングさ。」

 

「……そうか。」

 

「照れてる?」

 

「照れてねぇ。」

 

「嘘吐きはこうだよ。」

 

むにむにと頬を抓られる。全く痛くねぇ……。

しかし、なるほど……俺の上に寝転がる形で乗って両手を頬を抓ってるからやわやわとしたおっぱいが俺の胸の上で形を変えている。

 

「……?お前ブラは?」

 

「着けてないよ。ラックの部屋に行くつもりだったしね。」

 

「やっぱエッチじゃねぇか。」

 

「エッチじゃないもん。なにさ、ラックの方がエッチでしょ。」

 

「そりゃ当然。」

 

男なんて大体そんなもんだ。

 

「ふぅん。」

 

興味無さげに俺の頬を弄る。

 

「ええい、鬱陶しい。」

 

「あっ、もう暴れないでよ。」

 

「いてっ。」

 

頭を振って振り払うとチョップされる。

しゃーねぇなぁ……。

 

「そうそう、大人しくしてくれればいいんだよ。

よいしょっと。ふふん、頑張って耐えてね?」

 

モスティマが俺の体を登って得意気に言う。

耐えるってなんだよ。

 

「うひっ……!?」

 

耳の中に何かの束が入ってきた。

 

「ふふっ、変な声。」

 

「何しやがった?」

 

「髪だよー。耳触られるの好きでしょ?」

 

「馬鹿、お前知ってんだろ。」

 

「あ、馬鹿って言った。」

 

「……っふ。」

 

逆の耳に指が差し込まれる。

 

「……耳、やめろ。」

 

「〜♪」

 

「んなろっ……。」

 

手錠ぶっ壊してやる。

ギリギリと手錠がら音が鳴る。

 

「あ、ダメだよ。傷が出来ちゃう。」

 

「はふぅ……。」

 

耳を舐められて力が抜ける。

 

「じゃあ、とりあえずこれ外せ。」

 

「や。」

 

「ガキじゃねぇんだぞ。」

 

そういうとズイッとモスティマの顔が目の前にきた。

 

「外さなきゃ、ダメ?」

 

「おま……それは、ズリィって……。」

 

少しずつ視界が震えていき、目を逸らす。

ほんとにダメなんだって。未だにこういう時のこいつの顔はじっと見れない。

 

「ふふっ、ほんとにラックって私の事大好きだよね。」

 

「……うるさい。」

 

そういうとモスティマが俺の頭を撫で始めた。

 

「ラックは可愛いなぁ。」

 

「かっこいいって言ってほしいけどな。」

 

撫でる手がどんどんとゆっくりになっていき、モスティマの顔が俺の横に落ちた。

 

「モスティマ?」

 

「……すぅ」

 

いつロドスに戻ったかは知らねぇけど、多分戻ってすぐに来たんだろうな。

 

「……おやすみ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

・今日の一幕

 

モスティマが寝て一時間くらいが経ったを

 

「……やべ、尿意が。モスティマ、起きろ。」

 

体を揺らして起こそうとする。

 

「はうっ……!?」

 

揺らしたらまずい!?

 

「も、モスティマ!起きてくれ!やばい!俺の膀胱がやばい!!」

 

「むにゃ……」

 

「マジで起きろ!お前ェ!!実は起きてるんじゃねぇのか!?」

 

「くぅ……」

 

きゅっと内股になって耐える。

 

「せめて手錠を外しやがれ!?おいこら!俺が情けなく漏らしちまうぞ!?」

 

いや、それはマジで嫌だ。

 

「う、うおおおおおおおおおお!!!!!!」

 

……一応、漏らす事は無かったと言っておく。

 

 

 

 

 

 

 







結局の所、イチャイチャしているだけでは?
毎日コツコツ書いてますけどネタが難しいですね。


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二十五話:お子様用コミュニケーション講座開催!

 

 

 

 

「みんなー!今日もフロストノヴァ先生の言う事を聞いてるかなー?」

 

「「「はーい!!!」」」

 

「よぅし、偉いぞー!今日は特別講師としてミッドナイト先生が来てくれたぞ、拍手!」

 

パチパチと子供たちが拍手をして、ミッドナイトが入ってくる。

なんでこうなったかは昨日に遡る。

 

 

 

 

「ラック。」

 

振り返るとフロストノヴァがいた。

 

「お、フロストノヴァか。今日もお綺麗な事で。」

 

「そんな事はいい。明日の授業を頼めるか?」

 

あれから、フロストノヴァが感染者の子供たちの先生になった。アーツも必要無いし、本人も子供が好きみたいだし丁度いいだろ。

んで、フロストノヴァが忙しい時や検査の時に代理として暇そうなやつが授業をする事がある。

……結構頼まれるけど、そんなに暇そうに見えるかー?

 

「あいよ。内容はいつも通り自由で良いか?」

 

「構わない。

それと、今回は私も後ろで見学させてもらう。

いつも子供たちが楽しそうに教えてくれるが、実際に見たことはないからな。」

 

「OK。んじゃ、今回はどんな内容にすっかなー。」

 

読み書きとかはフロストノヴァが教えてるみたいだし……。

 

「ラックさん、こんな所にいたのか。」

 

「あれ、ミッドナイトじゃん。どうした?」

 

「どうもこうも、あなたの女性への態度について聞きたくてね。」

 

「乱暴な事なんてしたっけ?」

 

クロージャに頭突きくらい?

それにしても、ふむ、態度、コミュニケーション。

 

「丁度いい、お前も明日手伝ってくれ。」

 

「え?」

 

「子供たちの授業だよ。お前やった事ない?」

 

「生憎、機会に恵まれなくてね。」

 

「そうかそうか。なら、明日の授業はコミュニケーションについての内容をやるから特別講師って事で手伝ってくれ。」

 

「……まあ、この際俺が授業を手伝うのは構わないけど、コミュニケーションと言っても色々ある。どんなのが良いんだ?」

 

「ん〜……まあ、無難に挨拶だな、握手とか。俺とお前で実践形式でお手本を見せたりとか。」

 

「なるほど。なら、こうしよう。俺が何人か人を呼ぶからラックさんがそれに対応した返しをしてくれ。」

 

「ほ〜?さっきの用事ついでってか?」

 

「いやいや、男性と女性で違うだろう?その違いを見せたいのさ。」

 

なるほどねぇ。

 

「んじゃ、人選は任せるぜ。」

 

 

 

 

てな感じで当日。

さてさて、ミッドナイトは誰を読んできてくれたんだ?

 

「皆さんどうも、ミッドナイトです。

今日は皆さんにコミュニケーションについてのお勉強をしてもらいます。

例えば友達との会話や先生との会話。これからもっと色んな人とコミュニケーションをとることがあると思います。

まずは、ラック先生と私の呼んだ方のお手本を見て学んでいきましょう。

では、まずは一人目の方を呼びましょう。」

 

ガラッと扉が開いてメランサが入って来た。

 

「あ、あの、よろしくお願いします。」

 

「おお、頼むぜ。」

 

良い所のお嬢さんだからな。適切な人選だ。

 

「……おかしい、シルバーアッシュさんを呼んだはずなんだが。」

 

……今のは聞かなかった事にしよう。

とりあえず、メランサは何をしてくるんだ?

 

「……えいっ。」

 

ハグをしてきた。なるほど、おかしくはないな。

メランサに合わせてハグを返す。

 

「メランサちゃんだいたーん!」

 

生徒の女の子が大声で言うと、他の子も乗っかってきた。

メランサの顔は見えねぇけど、赤いんだろうなぁ。

 

「……えー、ハグと言うのは仲の良い人同士では結構一般的な挨拶と言えますよ。

皆さんはハグ出来るくらい仲が良いお友達はいるかな?」

 

ミッドナイトが良い感じに誤魔化してくれたか。助かる。

 

「そ、それでは……!」

 

メランサが離れてバタバタと出て行く。

……今、隙間からエンシオの尻尾みたいなのが見えた気がする。

 

「……ラックさんがいるとよく被害に遭う人だな。」

 

それは俺も思う。

 

「では、次の方お願いします……次はちゃんと来てくれよ。」

 

カラリと扉が開くとプラマニクスが入って来た。

 

「……ミッドナイト?」

 

「……いや、エンカクさんを呼んでいたんだけど。」

 

ん……?廊下を見ていると、足を引き摺られてどこかへ連れて行かれるエンカクとエンシオがいた。

 

「どうする?」

 

「つ、続けよう。彼女達も一応挨拶の範疇で行動しているみたいだし。」

 

「……OK。」

 

プラマニクスが近くにやって来てお辞儀をする。

……なんだ、ちゃんとした挨拶じゃねぇか。

 

「んっ。」

 

「結局かよ。」

 

頬にキスをされる。まあ、挨拶ではあるけどさ。

お返しにキスをする。

 

「巫女様ってやっぱり大人なんだぁ……。」

 

「そう……ですね。キスも地方によっては挨拶とされる事はありますよ。ハグよりも親しい者同士の挨拶と言えるでしょう。……ただ、今やるべきではありませんね。」

 

「そりゃそうだろ。子供が見てる訳だし。

そら、戻った戻った。また構ってやるから。」

 

「むぅ……お菓子を持って来てください。」

 

「へいへい。」

 

うーん、今日ばっかりはあんまり変な事になってほしくねぇんだけどな。教育的に良くねぇし。

ため息を吐くと、扉が急に開いてアーミヤが飛び込んできて俺の後ろに隠れた。

 

「ほっ……今度はちゃんと呼んだ人だ。」

 

アーミヤはミッドナイトが呼んだのか。……それにしても様子がおかしいような。

 

「アーミヤちゃ〜ん?可愛がってあげるからこっちに来て〜。」

 

「ラック、ボクと良い事しようよ。」

 

後ろからギラギラとした目のブレイズとラップランドが入ってきた。

 

「は、ははは、落ち着けよ……。」

 

ひしっとアーミヤと抱き合う。捕まったらヤラれる。

 

「な、なー、CEO様?ここらで落ち着くまで休暇でも取らねぇか?」

 

「そ、そそそうですね!良いと思います!」

 

「ドクターには後で伝えとこうぜ!」

 

アーミヤを横抱きにして窓から廊下へ飛び出すと走り出す。

 

「アーミヤ、俺のポッケから煙玉取り出して投げてくれ!」

 

「はい!」

 

廊下に煙が漂う。このまま龍門に逃げるぞ。

 

 

 

 

「……えー、ラック先生がいなくなったので、俺とフロストノヴァ先生で手本を見せるから、隣の席の子と挨拶してみてください。」

 

はぁ……どうしてこうなってしまったんだ。

フロストノヴァさんも頭を抱えているね。何回かラックさんに頼んでいるから大丈夫だと思ったんだろうね。

 

「彼にはシャンパンを開けてもらうくらいの謝礼を貰わないとな。」

 

 

 

 

「これからどうするんですか?」

 

ロドスから脱出して夜の龍門を歩く。

ドクターには既にメッセージを送っておいたから大丈夫だろ。

 

「そうだな……遊ぶか!」

 

「え?ですが、状況が状況とはいえ、ロドスを放っておくのは……。」

 

「こんな時くらい気を抜けよ。」

 

元々の性格もあって、真面目過ぎるからな。

 

「悪い事しようぜ。」

 

にぃ、と笑った。

 

 

 

 

「こ、こんなに、良いんですか?」

 

「ああ、良いぜ。」

 

「でも……悪いですよ。」

 

「悪いからこそ良いんだろ。」

 

「ほら、一息にいけよ。」

 

「……っはい!」

 

ずるずるっと豚骨ラーメンを啜る。

 

「健康に悪いもんは美味いんだよ!」

 

大きく切られたチャーシューに齧り付く。ジャクっとした食感の後にじんわりと脂が出てくる。

 

「ん〜……染みるぅ!」

 

堪んねぇな!

 

チラッとアーミヤを見ると、美味しそうに食べていた。

見た目のせいでお忍びで来た令嬢みたいに見えるな。

 

「お嬢ちゃん、可愛いから味玉サービスしちゃうぜ。」

 

店主のおっさんがアーミヤの器に味玉をいくつか入れる。

 

「おーい、その可愛いお嬢ちゃんを連れて来た俺にはねぇのか?」

 

「んだって、ラックさんは可愛くねぇだろ?」

 

「……なるほど、納得。」

 

「あの、悪いですよ。」

 

「いんだよ、おっさんが良いっつってんだから。ほら、食え食え。」

 

「じゃあ、頂きます。」

 

味玉を食べると耳がピコピコと揺れる。

確かにサービスしたくなる可愛さだ。

 

「ラックさんよ、こっちのお嬢ちゃんは何もんなんだい?」

 

「俺の上司。」

 

そう言うとポカンとした顔になる。わかるわかる。

 

「おいおい、そりゃあ冗談だろ?こんなちっこい子なんだぞ?」

 

「いや、マジマジ。なー?CEO様?」

 

「んくっ、はいっ。」

 

口の端にねぎ付いてるし。

取って食べると顔を赤くする。

 

「おっと、悪ぃ。ついエクシアとか子供たちの時のクセでな。」

 

「あ、い、いえ。」

 

パタパタと手を振る。

 

「……このお嬢ちゃんが社長なのか?」

 

「そうそう、手ぇ出そうとか考えんなよ?痛い目見るぜ。」

 

「……そうしとく。」

 

いつも思うけど、このおっさんは味玉で釣れると思ってんのか。

 

「ご馳走様でした。」

 

ぺちりと手を合わせてそう言った。

 

 

 

 

「あの、こっちは……。」

 

それからアーミヤの手を引いて歩く。

 

「俺と一緒なら大丈夫だ。けど、あんま離れんなよ。」

 

「は、はい。」

 

周りをきょろきょろと見渡しては顔を赤くする。もうちょっと、浅い所にすれば良かったか?いや、でもこっちのが良いしなぁ。

 

「ここって……。」

 

「ラブホ。まあ、入った入った。」

 

「え?え?」

 

肩を押してラブホに入る。

 

「いらっしゃいませ、ラック様。今日は如何しましょう?」

 

「確か、一階ぶち抜きのウォータースライダー付きプールの部屋ってあったよな?そこにしてくれ。」

 

「かしこまりました。」

 

鍵を受け取って部屋に向かう。

 

「はい、到着。」

 

「わぁ……!」

 

アーミヤが目を輝かせる。気持ちは分かるぜ。

無駄にでかいプールはあるわ、小規模な砂浜があるわで軽いリゾートだ。

 

「あっちの部屋に水着があるから、好きなの選んで来な。」

 

「はい!」

 

ここの水着ってかなりの種類あるから時間かかりそうだな。その間、時間潰しとくか。

 

 

 

 

「お、おまたせしました。」

 

「ん?おお、似合ってんじゃん。」

 

転がって雑誌を読んでいると、フリルの付いた可愛らしい水着を着てアーミヤがやってきた。

 

「所で、どうして部屋がこうなっているんですか?」

 

「ん〜……まあ、ラブホつっても最近は色々あんだよ。ラブホ女子会とかあるみたいだし、そういうニーズに合わせてんだろ。」

 

にしてもここのラブホは種類が多いと思うけどな。

 

「そら、折角なんだ、泳いでこいよ。」

 

そう言って雑誌に目を戻すと手を引かれた。

 

「ん、どした?」

 

「一緒に遊びませんか?」

 

ああ、そうだった。今は二人っきりなんだった。普通にリゾートと勘違いしてたぜ。

 

「OK。でも、軽く体操はしとけよ?」

 

ラブコメよろしく攣ったらヤバい。昔シエスタで遠泳してたら溺れかけたし。

 

 

 

 

しばらく泳いだり、スライダーやボールで遊んだ後に休憩としてある物を注文した。

 

「失礼します。ハニートーストとドリンクをお持ちしました。」

 

「ああ、ありがとう。」

 

近くの机に置いてもらってアーミヤを呼ぶ。

 

「これは……!」

 

食パン一斤の半分を使ったどでかいハニトーにアイスやらなんやらが積もるように乗っている。

 

「食っていいぞ。あ、俺もちょっともらうから。」

 

そう言って一部切り取る。

 

「ほわぁ……。」

 

アーミヤが今まで見た事ないくらいに目を輝かせる。うん、連れてきて良かった。

 

「次はドクターと来れたら良いな。」

 

「へっ!?な、何を?」

 

「みんな知ってるっての。」

 

気付いてないのはドクター本人くらいだぞ。

一気にアーミヤの顔が赤くなっていく。うぅむ、ピュアだねぇ。

 

「まあ、頑張れよ。ドクターはモテるからなぁ。俺程じゃねぇけどな!」

 

がははと大きく笑う。

 

「……アドバイスとか貰えます?」

 

「アーミヤの恋愛に俺が口出しする事なんてねぇよ。ありのままの自分を見せれば大丈夫だ。」

 

ポスッと頭に手を置く。ドクターだってこんな可愛い子に好かれるなら本望だろ。

 

「まあ、ドクターの好きな物を聞いてこいって言われりゃ行くくらいは良いけどな。」

 

「じゃあ、またお願いしますね?」

 

「任せときな。」

 

……それはそうと話しながらもどんどんハニトーが崩されていくのは圧巻だな。見てるだけで胸焼けしてきた、コーヒー飲も。

 

 

 

 

食べ終わった後も色々と遊んでいるとアーミヤの頭がふらふらと揺れ始めた。

 

「眠いか?」

 

「……ふぁい。」

 

「せめて水着を着替えてシャワーを……ああもう。」

 

プールの中でプールサイドに凭れて寝息を立て始めた。

 

「溺れるぞっと。」

 

しゃーねぇと抱えてプールから上がって、タオルで拭いてやる。着替えは……この子の事も考えてやめとこう。最初に見られるのはドクターのが良いだろ。

 

「やれやれ、世話が焼けるCEO様だ。」

 

横抱きでベッドに運んで寝かせると俺も横に転ぶ。掛け布団は一枚しかねぇし、体を冷やすのも良くねぇから一緒に入れちまうか。

 

「むぅ……。」

 

バサッと掛け布団が捲られる。

 

「暑くても風邪引くよりマシだ。」

 

掛け直す。

 

「んん……。」

 

また捲られる。

 

「はぁ……失礼するぜ、レディ。」

 

寝ていても一応一言言って抱き寄せる。……体温高いんだな。

 

「ふわぁ……あふ、俺も眠くなってきた……。」

 

寝るかぁ、おやすみ。

 

 

 

 

「……あれ?」

 

いつの間にか寝ていたみたいです。昨日は確か……ラックさんと二人で飛び出して……。

少し顔を上に向けるとラックさんの顔があった。

 

「っ!?!?」

 

な、なんでラックさんが隣に!?しかも、水着だから……!!

 

「ん……?おお、起きたか、おはよう。」

 

欠伸をしながらラックさんが起きると顔を洗いに行った。

 

「も、もももしかしてラックさんと……!?」

 

可能性はある。けど、昨日は普通に遊んでいただけですし……。

 

「ああ、勘違いしてるだろうけど何も無かったから安心しな。」

 

「へぁっ!?……そ、そうなんですか?」

 

「そうそう。」

 

ほっ、と安心する。

 

「まあ、抱き締めてた事は許してくれ。」

 

「……はい。」

 

「ん、それじゃシャワーでも浴びて来いよ。昨日プールの中で寝てたからな。」

 

「す、すみません。じゃあ、行ってきますね。」

 

うぅ……恥ずかしい。

 

 

 

 

「よっ、ドクター。昨日は悪かったな。」

 

「全くだ。仕方ないとは言えアーミヤまで連れて行かれると困る。次からは事前に教えてくれ。」

 

「次はそうそう来ねぇと思うけどなぁ。」

 

あ、でも遊びを教える為に出るのは楽しそうだ。

 

「ドクターも遊びに誘ってみたらどうだ?」

 

「俺が?……いや、俺には無理だ。ラックみたいに楽しませる自信がない。」

 

「大丈夫だっての、なんなら俺が教えてやろうか?」

 

「それは助かるな。」

 

「よし、じゃあまずどこまでいきたいんだ?」

 

「どこまで……?」

 

「おいおい、お前もアーミヤも互いに好意はあるんだろ?ならそういう事じゃねぇか。」

 

「なっ……何を言っているんだ。」

 

「なんだ、無いってか?」

 

「そんな事は、ないが……。」

 

「だろぉ?んで、どうする?」

 

「……落ち着いて食事が出来る所を頼む。」

 

「あいよ。」

 

せめて手を繋ぐなり言えっての。

 

 

 

 

 

 

 

 

・もしもの一幕

 

 

「おーい、そこのスノーデビルくん。」

 

「なんだ。」

 

「ちっと着いてきてくれよ。」

 

「なぜだ?」

 

「ノヴァを逃がすんだよ。良いだろ?」

 

スノーデビルの肩を組んで連れて行く。急がねぇと。

 

 

 

 

「フロストノヴァ……。」

 

「私は、ここで止まる訳にはいかない。」

 

フロストノヴァが消耗しきった体で立ち上がる。

やはり戦わなければならないのだろうか?

 

「おーっと!そこまでだぜ!」

 

フロストノヴァの後ろから声がする。

 

「ラック……!」

 

フロストノヴァが振り返ると、いつも彼女と共にいる顔の左半分が鬼の面のような鉱石で包まれた堕天使の男がスノーデビルとやって来た。

 

「そんな体でどうすんだ?」

 

「なぜここに来た……!」

 

「決まってんだろ?お前が心配なんだよ。

んじゃ、後は頼むぜ。」

 

「ああ。」

 

一緒にいたスノーデビルがフロストノヴァに肩を貸して下がる。

 

「さて、やろうか。ロドス。」

 

彼が持っていたスナイパーライフルを構えると、俺達の後ろからラックに銃弾が飛んできて、彼がアーツで受け止めた。

 

「……ああ、最悪だ。」

 

「ほんと、最悪だね。」

 

「終わらせよう。」

 

飛んできた方向からエクシアとモスティマがやって来た。なぜ彼女達が……止めに来たのか?

 

「ドクターを除いて五対一ってか?やれやれ、人気者は辛いぜ。」

 

「ラック、お願いだ。こっちに来て。」

 

「悪ぃな、お前らの頼みでもそいつは出来ねぇわ。」

 

「……そっか。」

 

そしてモスティマも二つの杖を構えた。

 

 

 

 

「チッ……んだよ、ここまでか……。」

 

彼が弾の切れたスナイパーライフルを片手に座り込む。

激しい戦いで付近は吹き飛び崩れていた。互いに消耗したが、なんとか彼に勝つことができた。

戦っている間も彼の鉱石は悪化し、鉱石が広がっていた。

 

「ラック、どうして本気を出さなかったの?」

 

「……ああ?」

 

「君のアーツなら、空気を消して窒息させたり、体の内側から攻撃だってできたじゃないか。」

 

モスティマがそう言うと、ラックが笑う。

 

「はっ……俺がお前らを殺せる訳がねぇだろ。」

 

「今からでも、ロドスへ来ないか?」

 

「ドクターよぉ。そいつは無理な話だぜ。

俺はあいつに惚れちまったのさ。俺だけがそっちに行くことは出来ねぇよ。」

 

「そうか……。」

 

話している間に彼の鉱石が首や腕に広がる。

モスティマとエクシアが悲しげな顔で彼に近付いた。

 

「家族に看取られるなんて、幸福だねぇ。」

 

「馬鹿な事言わないでよ……!」

 

「まだ、終わりじゃ……。」

 

「いいや、俺はここで終わりさ。」

 

彼が目を瞑った。

 

「終わりじゃない。」

 

「ノヴァ……!?なんでここに!なんで戻ってきた!!」

 

フロストノヴァがラックを抱き抱える。

 

「一人でいかせない。」

 

「いいから、お前だけでも……!」

 

ラックの口を指で止められる。

 

「大丈夫だ。……ドクターと呼んでもいいだろうか?」

 

「ああ。」

 

「ありがとう、ドクター。私達は、しばらく眠る事にしよう。」

 

二人が足元から凍り付き始めた。

 

「ああ……くそっ、そういう事かよ。

おい、ドクター。絶対に薬は完成させろよ!完成させたら俺達にぶっかけろ!!」

 

「あ、ああ。分かった。」

 

そして、彼らは氷の中で眠りについた。

 

 

 

 

あれから数年経った。彼らが眠った氷は研究室の一角に安置してある。溶かそうともしたが、どうやっても解けず、削る事すら出来なかった。

レユニオンも幹部はタルラだけとなり、数を減らした。

そして、遂に薬が完成した。

 

「ドクター!レユニオンの襲撃です!タルラ達が最後の戦いに来ました!」

 

「なっ……!?」

 

その瞬間、部屋が大きく揺れ、薬の瓶が落ちて割れた。

 

「くっ、いや、作り方は分かったんだ。今はレユニオンをなんとかしなければ。」

 

アーミヤの先導で、レユニオンの元へ向かった。

 

 

 

 

「ここまでやるとは……!!」

 

タルラ達は撤退を全く考えず、我々を倒す事だけに力を入れてきた。ロドスのオペレーター達も懸命に戦うが、押されている。

 

「どうすればいい!?」

 

考えろ、作戦を考えるのが俺のやるべき事だろう!

 

「これで終わりだ。」

 

タルラの作った極大の炎が迫る。もう、ここまでなのか……?

炎に目を焼かれ、瞑った。

 

「おい、諦めてんじゃねぇぞ。」

 

……?目を開くと、炎が何かに塞き止められていた。

 

「オペレーターは足りてるか?優秀な狙撃手は?術士はご所望で?なんと今なら全部付いてくる!大特価無料でご提供!!」

 

「ら、ラック、フロストノヴァ……?」

 

かつて顔に張り付いた鉱石は剥がれ落ち、不敵な笑みを浮かべて彼は立っていた。その隣にはフロストノヴァも立っていて、鉱石病が治っていた。

 

「なぁ、ノヴァ?最終決戦でかつての敵が仲間になるって熱い展開じゃね?」

 

「ラック……恥ずかしいから止めてくれ。」

 

「えー。まあ、いいや。

んじゃ、ドクター。指示を頼むぜ。」

 

……やはり、完成していたんだな。

 

「ああ、力を貸してくれ。」

 

最後の戦いが始まる。

 

 

 

 

 







前回日刊6位が取れたり、感想見てニヤけてました。

次回はウルサスでいきましょうかね。


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二十六話:アイスは自分で作ると昔ながらの味になる

 

 

 

 

「アタシを鍛えろ。」

 

「……はぁ?」

 

そう言うズィマーを見ながら、シャクッとソーダ味のアイスバーを食べる。

ゆっくり休んでいる時に突然部屋に来たと思ったら急になんだ。

 

「アタシはまだまだ弱い。」

 

「そうだな。」

 

素直にそう言うと青筋を浮かべるが、一緒にいたグムとイースチナが抑えた。んだよ、自分で言ったんじゃねぇか。

「……だから、鍛えろ。」

 

「やだ。」

 

一言で言い切って横を向く。

 

「なんでだよ!」

 

「暑い、ダルい、めんどくさい。」

 

だるんとベッドに溶けるように転がる。後で医療オペレーターの誰かから冷えピタもらお。

 

「じゃあ、暑くなくなったら良い?」

 

グムが横から言ってくる。……まあ、暑くなくなりゃ多少はやる気も起きんでもねぇけど。

 

「……まあ、うん。」

 

「なら、終わった後にグムが冷たいデザート作るよ!!」

 

ピクッと反応する。冷たいデザート……今食べてるソーダアイスも冷たいけど、グムが作るならもっと涼しくなるかもしれない、それに美味しいし。

 

「ん〜……わかった。それで。」

 

さっさとアイスを食べて棒をゴミ箱に投げると武器を準備する。

 

「納得いかねぇ……。」

 

ズィマーがポツリと呟いた。

 

 

 

 

「鍛えるっつってもさぁ。どう強くなりたいんだ?」

 

「とにかく強くしてくれ。」

 

「とにかくって……。」

 

頭をガシガシと掻く。雑過ぎんだろ。

 

「めんどくせ……とりあえずやるぞ。」

刀を構える。こいつには実戦形式の方が分かりやすいだろ。

 

「オラッ!」

 

相変わらず荒々しい動きで斧が振り下ろされる。

 

「ふんふん……。」

 

何度か斧を受け流す。前よりは良い動きになったな。

 

「だ・け・どっ!まだまだやられてやる訳にゃいかねぇなぁ!」

 

刀を跳ね上げて斧を弾き柄で額を突くと、ズィマーの腋から腕を通して片腕で背負い投げのように地面に投げる。流石に叩き付けるのはやりすぎだからふわりと受け止めるけどな。

 

「さぁ、お嬢様?まだ続けますか?」

 

「舐めんなッ!!」

 

ズィマーのパンチを掴んで受け止めて腹を蹴り飛ばす。

 

「んな有様で勝てると思ってんのか!ああ!?」

 

ズンズンとズィマーの方に歩きながら蹴り飛ばし、殴り、投げる。……可愛い女の子にこんな事するの心が痛むんだけど。

 

「くそっ!」

 

ズィマーの攻撃は全て態と刀で弾き、体勢が崩れた所を吹き飛ばす。

 

「あ〜……こんな弱っちいとやる気無くなっちまうぜ。」

 

はぁ、と大きなため息を吐いて気だるげなポーズをとる。

 

「こんなだったら女の子らしくダンスのレッスンでもしてみたらどうだ?ええ?」

 

「っ!バカにするな!」

 

頭に血が上って振られた斧の持ち手を掴んで、斧を奪い取ると片手で持ち直してズィマーに振り下ろして、当たる前でピタリと止めた。

 

「はい、おしまい。

頭に血が上ってんぞ。動きが単調になるから気を付けろ。」

 

斧を返して頭に手を置いて横を通り過ぎると、部屋の隅で座るグムの方へ向かう。

 

「グムゥー……膝枕してくれぇ。」

 

「あ……う、うん。良いよ。」

 

倒れるようにうつ伏せでグムの腿に顔を埋める。

 

「………………あんなキツく言うの、辛い。」

 

「さっきまでの姿と全然違う……変なの。」

 

イースチナにそう言われて軽く凹む。俺だって好きであんな言い方した訳じゃねぇっての。

 

「アタシは、こんなのに負けたのか……。」

 

「こんなのって失礼な。」

 

「アタシは気にしてないし、そんなに落ち込まなくったって。」

 

「俺が気にすんの。訓練つっても相手は女の子だし、何より仲間だから。」

 

キツく言うのも必要な事だとは分かってるけどさ。それとこれとは別だ。

 

「仲間、か。」

 

グムの膝の上でくるりと仰向けになる。

 

「俺達はロドスの仲間だろ?……もしかして、俺って仲間はずれ?」

 

泣いちゃいそう、と顔を両手で覆うとグムが頭を撫でてくれる。グムは優しいなぁ、その優しさをズィマーに分けて欲しい。

 

「……あんま、実感湧かねぇ。」

 

「え、マジで。」

 

最初はグムの事で戦ったけど、仲間って認識すらないのか……。

 

「うおおおお!グムーーー!」

 

「よしよし。もう、ズィマーお姉ちゃんも意地悪言っちゃダメだよ。」

 

ぐりぐりとグムの腹に抱き着く。

 

「……グム、そんな変態が良いのか?」

 

「私も心配になってきた。」

 

なんて酷い子達。

まあ、いいさ。グムがいてくれるし。

 

「いい加減グムから離れろ。邪魔になってんだろ。」

 

「俺は離れんぞ。」

 

ガッシリとグムの腰に腕を回すと、ズィマーが足を引っ張ってくる。

 

「はーなーれーろー!」

 

「放すかぁ!!」

 

「ちょっと、二人ともグムに迷惑でしょ。」

 

「うぅん、大丈夫だよ。」

 

グムが楽しそうに声を弾ませる。多分笑ってるんだろうなぁ。

横を見るとイースチナがため息を吐いていた。

……仲間外れは良くねぇもんな!

体全体でぐるっと回って、ズィマーの手を弾くと、立ち上がってイースチナを横抱きにする。

 

「な、何をっ!?」

 

「そうれキャッチしな!」

 

ズィマーに向けてぶん投げる。

 

「おもっ……!?」

 

「……重いとか言わないで。」

 

「おお〜、ナイスキャッチ。ズィマーなら受け止めてくれるって信じてたぜ。」

 

この間にグムの後ろに回って抱き寄せる。

 

「あ、危ねぇだろ!」

 

「イースチナが軽いからいけると思ったんだよ。」

 

なー?と言いながらポフポフとグムの頭を撫でる。

この前髪どうなってんだよ。

 

「うおっと。」

 

頭をさっと傾けると頭があった所をアーツが通り抜ける。

 

「暴力はんたーい。」

 

「先にやって来たのはそっちでしょ。」

 

「俺は投げただけだからセーフだろ?」

 

ふふん、とドヤ顔を向けると額に青筋が浮かぶ。

 

「そうカッカすんなよ。皺が増えるぜ?」

 

わぁ、イースチナの服が浮き上がってきた。

 

「悪かったって。ほら、飴ちゃんやるから。」

 

ポッケから飴を取り出すと速攻奪われた。

 

「……次は無いから。」

 

ちょれぇわ。

 

「グムには?」

 

「え、ああ……っと悪ぃ、今ので切らしちまった。」

 

「無いの……?」

 

「部屋にあるから後で持ってきてやるよ。」

 

「むぅ、はぁい。」

 

グムが残念そうにする。つってもこの後グムが甘いの作ってくれるんだから本当は飴も食べない方が良いんだけどな。

 

「がるるるるるる……。」

 

「うわぉ、獣みたい。もしかして飴欲しかった?」

 

「いらねぇ!」

 

歯を剥き出したズィマーが俺を睨む。

 

「グム、怖いお姉ちゃんは放っておいて約束の作ってくれ。」

 

グムとついでにイースチナを脇に抱えてすたこら走る。

 

「あ!待てっ!」

 

「待てっつわれて待つやつはいねぇよ〜。」

 

 

 

 

「なぁ、そろそろ機嫌直せよ。」

 

シャクシャクとグムの作ってくれたかき氷を食べる。う……アイスクリーム頭痛……。

 

「うるせぇ。」

 

いちご味のかき氷を食べながらも俺を睨む。

 

「そんなに睨まなくたって良いじゃねぇかよ。」

 

かき氷に乗ったバニラアイスを掬ってグムに向ける。

 

「あ〜「がうっ!!」あー!!」

 

グムに食べさせようとしたアイスを横からズィマーが食べる。

 

「ズィマーお姉ちゃんずるい!」

 

「グム、こいつには気を付けろ!」

 

「むー!」

 

「喧嘩すんなよー。」

 

ため息を吐いてイースチナのかき氷を見る。抹茶もアリだったかなぁ。

 

「……ちょっと食べます?」

 

「良いのか?」

 

「はい。」

 

イースチナがスプーンを向けてくる。へぇ、あんまり気にしないんだな。

 

「うんうん、ほろ苦くて美味い。

いちごも食ってみるか?」

 

「いいえ、抹茶の甘さが感じれなくなるので私はいいです。」

 

「ああ、わかるわかる。」

 

自分のいちご味のかき氷を食べる。確かにこっちのが甘いからわかりにくくなりそうだな。

シャクシャクと食べてると横から視線を感じて見ると、ズィマーとグムがこっちを見ていた。

 

「ん、なんだよ?」

 

「ずるい!」

 

「イースチナ、何やってんだよ!」

 

「別にこのくらいなら気にする程でもないでしょ。」

 

イースチナが呆れた声を出すと二人が納得いかなそうな顔をする。

 

「ラックさん、グムも!」

 

「グムにはまだ早い!」

 

「ふ〜ん!デート行ったことあるからズィマーお姉ちゃんよりも進んでるもん!」

 

「んなっ……!?」

 

まあ、ズィマーってデート行きそうな感じでも無さそうだもんなぁ。

あ、ズィマーが撃沈した。

 

「ラックさ〜ん、あーん。」

 

「はいはい。」

 

さっきと同じようにバニラアイスを向けると今度はちゃんとグムが食い付いた。

あー、平和。

 

 

 

 

 

 

 

 

・ある日の一幕

 

「なー、テキサス。」

 

「なんだ。」

 

いつもみたいに仰向けに寝る俺の上にテキサスが寝転んでチョコを食べていた。

 

「ソラって俺の事嫌いなのか?」

 

「急にどうした。」

 

「だってさぁ、よく睨まれるし。」

 

多分、テキサスと一緒にいるからだろうけど。

 

「ソラはそんなに心は狭くない。」

 

「いや、テキサスに関しちゃ狭いと思うけど……。」

 

コロコロと胸の上でテキサスが転がる。……これが原因じゃね?

 

「なら、まずはソラを知る所から入ってみたらいいんじゃないか?」

 

「ソラを知る?」

 

「少し待っていてくれ。」

 

テキサスが部屋から出て行った。

 

 

 

 

「ほほぉ……。」

 

戻って来たテキサスがCDでソラの曲を流して俺に見えるようにソラの写真集を開く。

 

「これ可愛いな。」

 

「だろう。」

 

 

 

 

「ライブのDVDもあるぞ。」

 

「見る見る。」

 

 

 

 

「グッズはどうだ?」

 

「買おう。」

 

 

 

 

「はぁ〜……テキサスさんはまたラックさんの所かなぁ……。」

 

むぅ……羨ましいなぁ。

 

「ラックさーん。テキサスさん来てますかー?」

 

「うおおおお!!ソラァァー!!」

 

部屋の中で私のグッズを身に纏ったラックさんとテキサスさんがライブのDVDを観ていた。……何これ?

 

 

 

 

「!?ほ、本物のソラだ!!?」

 

な、生のソラだ!?

 

「いつも見てますよね!?」

 

「テキサスに会いに来たんだよな!どうぞどうぞ。」

 

「あ、あの、いつもと違い過ぎて気持ち悪いです……。」

 

「そ、そうか!?」

 

「いつもはもっと近いじゃないですか!」

 

ソラが近づいて来たから、後ろに下がる。

 

「も〜!なんで逃げるんですかぁ!」

 

「お、追い掛けないでくれ!?」

 

掴んで来ようとする手を避ける。

 

「避けないでください!」

 

「ほ、ほら、お触りとか、な?」

 

「今更じゃないですか!」

 

思い切ってソラが飛び込んで来た。

 

「ちょちょちょちょっとまて!?」

 

流石にこのまま倒れるのはまずいと思って受け止めると後ろに倒れた。

 

「……やれやれ。」

 

 

 

 

 






気が付けばもうちょっとでお気に入り1000件ですな。ありがたい事でっせ。

この前スイートポテト作りました。


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二十七話:馬鹿野郎Bチーム

 

 

 

 

ペンギン急便。龍門の中で配達を主として仕事をしているが、荒事に巻き込まれたり、巻き込んだりする会社である。

 

「おい、マジかよ。」

 

「どうしたのボス?」

 

「ソラが今日撮影に行った企業、真っ黒だったんだと。そのくらい先に気付けってもんだ。

てめぇら、準備しろ。カチコミに行くぞ!」

 

「よ〜し、やっちゃおう!」

 

「エクシア、助けに行くという事を忘れるな。」

 

「う〜ん、腕が鳴るわ!」

 

いざ、カチコミに行こうとした瞬間、事務所の扉が開いた。

 

「待ちな!」

 

「ラッ……ク?なんで、そんな格好してるの……?」

 

入ってきたラックは法被、ハチマキ、団扇など、おめぇただのドルオタだな?って格好をして入ってきた。

 

「その話、俺に任せてもらおうか!」

 

「ほう……お前の事は知ってるぜ。どうするつもりなんだ?」

 

「チームを結成する。Bチームだ。」

 

「なんやなんや?Bチームて、なんの略?」

 

ラックは腕を前でクロスすると。

 

「ふっ……バカチームだ!」

 

そう言い放って通信端末を開いた。

 

 

 

 

「おーし、お前ら、わかってんな?」

 

「もちろんだ。」

 

「当然です。」

 

「万全だ。」

 

「おまかせを。」

 

「ああ、大丈夫だ。」

 

「……不快だが、一応な。」

 

「あの〜……。」

 

バイソンが手を上げる。

 

「どうした?バイソン改め委員長系隠れオタク。」

 

「……文句は言いたいですけど、とりあえずなんで敵の居るビルのド真ん中で円陣組んでるんですか?」

 

「ふむ……。」

 

周りを見渡すと銃やボウガン、弓を構えた連中がいる。

 

「はははっ、あんな脳足りんのバカ共に俺らの喋ってる事なんて分かる訳ねぇだろ?

なぁ?アンセル改め病弱系早口オタク。」

 

「そうですね。彼らにはちょっと難しい言語でしょう?」

 

「うわ、サラッと毒吐いたよこの人達……。」

 

「よーし、準備は良いな!作戦は事前にある程度話した通りだ。

最後に、警察には捕まるなよ。迎えに行きたくないからな。」

 

そう言って走り出した。

 

「囮は任せた!」

 

 

 

 

「シルバーアッシュさん。」

 

「ふっ、違うぞ。今の私はセレブ系オタクだ。」

 

「はぁ……なんだかんだ付き合い良いですよね……。」

 

「ははは、これでも結構長いですからね。」

 

「我が主に悪影響とも思いはするがな……。」

 

軽く話ながら激しい音がする方を向くと、エンカクさんが荒ぶっていた。

 

「あの野郎、俺にこんな格好させやがって、後で殺す……!!」

 

「……でも、ちゃんと着るんですね。」

 

「なんか言ったか!?」

 

「いえ、何も……。」

 

ラックさんもこんな格好じゃなくて普通に変装すればいいのに、何を考えてるんだろう。

 

 

 

 

「ひゃっほぉぉお!!」

 

大きく飛び上がって壁や天井を蹴りながら通路を進む。

 

「なんだこのオタク野郎は!?」

 

「わからん!いいから止めるぞ!」

 

「わはは!喰らえローション!」

 

一本道の狭い廊下へローションを撒くと、面白いように転んだ。その隙に三角飛びや頭を踏んで通り抜ける。

矢が横を通り抜ける。

 

「これ実弾じゃねぇか!おいおい、まさか掟も知らねぇのか?」

 

やれやれとため息を吐くとゴム弾を撃ち返す。

 

「さてさて、目的の部屋はこの辺だったはずだ。」

 

周辺を制圧して調べた部屋にカバンから取り出したコップを当てる。

 

『……まだ捕まらんのか!』

 

『思いの外抵抗が激しく……。』

 

『ぐずぐずするな!全く……力のないこいつを囮にクソペンギン共を捕まえるはずだったのにこうも手こずるとはな。』

 

ほうほう……?中々面白いこと話してるな。

 

『クソペンギンは殺すとして、残った女共はどうしてやろうか……ソラは裏でショーにでも出せば稼げる。テキサスは色々と恨みを買ってるから嬲れると聞けば高値だろうと客は来るだろう。情報は少ないが、青髪で角の生えたサンクタは見世物として使えるな。後の女も売ってしまおう。

しかし……全員美人だからな。まず初めに全員味見してやろう。』

 

……ぶっ殺しちゃダメかなぁ。いかんいかん、一応掟は守らねぇと。

気付かれないように部屋に入る。

俺を見て目を見開いたソラに向かって静かにするように指を立てる。

……しかし、胸の上下を縄が通ってるから強調されてエロい。

音を立てないように歩く。まあ普通に歩いてるだけなんだけど。クセになってはいない。

ソラの後ろに回って縄や鎖を外す。

ふふん、こんなの朝飯前だ。目を瞑ったって出来るぜ。

それにしても余程鈍いのか、ここまでしても誰一人気付かない。

ソラを横抱きにする。まるで魔王城から姫を助ける勇者みたい。格好はあれだけど。

んじゃあそろそろ逃げますか。

 

「随分楽しそうにしてんな。」

 

「なっ!?き、貴様どこから!?なんだその格好は!?」

 

「ファンの一人さ。」

 

「っ!やつは龍門の一角を任されてるラックだ!」

 

「え、何。あんた俺のファン?

悪いけどサインは出来ないんだわ。」

 

銃で奥の大きな窓ガラスを何回か撃って割る。……もっとガシャーンッて感じで割れると思ったけど割れないんだな。

仕方ない、蹴破ろう。

周りの護衛をテキトーに流しつつ窓を蹴る。足がジンジンするが先に撃ったお陰でいい感じに割れた。

 

「ほら、プレゼントだ!」

 

ポイッとカバンから一尺玉を取り出して火を付けて投げると窓から外へ飛び出した。

 

「キャアアアアーーー!!」

 

「ははっ!いい悲鳴だな!」

 

スイッチを押すと背中のカバンが開いてハングライダーに変形する。これ 便利だなぁ。

背後で花火の爆発する音が聞こえた。

 

 

 

 

「花火……?」

 

最初に集まっていた所から外に出て戦っていると突然花火の音が聞こえた。

 

「……部屋の中で爆発させたのか?」

 

「ほら、合図が出たから行きますよ。委員長系隠れオタクさん。」

 

いつの間にか全員がそれぞれバイクや車に乗っていた。

早ッ!?今爆発したばかりでしょ!?

アンセルに腕を引っ張られて車に引き込まれる。

 

「出してください。」

 

「おう。」

 

あ、運転はエンカクさんなんだ、ちょっと意外かも。

 

 

 

 

「たーまやー!!多分死んでねぇよな!」

 

花火だし!

 

「うわぁ……。」

 

ソラが可哀想な物を見る目でビルを見ている。攫った相手に同情しなくていいぞ。

 

「そっちばっか見てないで前向いて見ろよ。絶景だぜ?」

 

「前?……わぁ!」

 

龍門の灯りが煌めく街並みを空から眺める。クセになりそうだ。またやってもいいな。

 

「すごい、すごいね!」

 

「お、おお、分かったから揺らさないでくれ。グライダー背中で固定してるから不安定なんだ。」

 

さっきまで不安げな顔は一転して、輝かんばかりの笑顔を浮かべていた。

この笑顔が最高の報酬だ。

 

「ラックさん、助けに来てくれてありがとう。」

 

「ん?ああ、気にすんなよ。元々ペンギン急便がやろうとしてたのを横取りしたようなもんだし。」

 

「でも来てくれたでしょ?」

 

「まあ、当然っつーか……。」

 

そう言うと笑われた。なんだ、俺が率先して助けに来るのがそんなにおかしいか?

 

「お礼しないとね。」

 

「え、マジで?」

 

「うん!……エッチなのはダメだよ?」

 

「わかってるって。サインください。」

 

「……へ?」

 

「サイン、ちょーだい。」

 

そう言うとぷっくりと頬を膨らませた。

だってスキャンダルとか怖いし。面倒起こして鼠に怒られたくねぇし。

 

「サインだったらいつでもあげるから!」

 

いつでも!?

ふむ、であるならば……。

ソラの唇に目を向けるとどことなく期待したような顔をする。

 

「え、じゃあ、生歌とか……。」

 

「むー……。」

 

「なんだよ。いくらなんでも俺だって保身に回る時はあるんだぜ?飛んでるつっても誰かに見られたらやばいし……。」

 

SNSで炎上怖いし……。

そう言うとソラの密着が強くなった。え、何やってんの?カシャッと音がすると端末を操作していた。

 

「写真?まあ、それくらいなら……。」

 

その瞬間俺の端末が鳴り始めた。

 

「……マジで何したの?」

 

ちょっと悪いと思いつつ端末の画面を見ると

 

『空中散歩!とっても気持ち良いね!』

 

というコメントとともに写真が貼られていた。流石ソラと言うべきか一気に反応が増えていく。あ、俺特定された。

 

「何してんだ!?おまっ、このバカ!?」

 

「だって、こういう時はかっこよく優しくキスするのが定番でしょ!!」

 

「これは御伽噺じゃねーの!」

 

「テキサスさんにもよくしてるのに。」

 

「うえっ……。」

 

「ポッキーゲームとか。」

 

「うぐっ。」

 

「やる事やってるし。」

 

「あ、アイドルがそんな事言うんじゃありません。」

 

頬をぷにぷにとつつかれる。抱いてるからされるがままになる。

 

「あー、すりゃいいんだろ!」

 

パッと額にキスをする。

 

「唇は流石にやらねぇかんな。」

 

「……ひゃい。」

 

……そういうのは反応に困るからやめてくれ。

そのまま優雅に空中散歩を楽しんでペンギン急便へ帰った。

当然次の日事務所に呼ばれて二人揃ってキレられた。

……この後モスティマ達の相手しないといけないんだけどなぁ。

 

 

 

 

・ある日の一幕

 

食堂でコーヒーを飲んでいるとモスティマが横に座ってきた。

 

「おー、モスティマ。どうし、た……。」

 

目を向けるとおかしい事に気付く。

いつものホットパンツや黒いジャケットはどこへやら、真っ白な服を来ていた。

 

「それ、儀式の服か?」

 

「うん、こっそり持ってきちゃった。

似合ってるかな?」

 

「あー……うん……。」

 

頭の上から足の先までじっくりと眺める。

 

「……そんなに見られると少し恥ずかしいかな。」

 

「あ、悪ぃ……。」

 

……とても、良い。いつもの服よりも露出は少ないはずなんだけどなぁ。

モスティマの手を握って立ち上がる。

 

「ラック?」

 

立ち上がったモスティマの腰を抱き寄せる。

 

「よし、行くか。」

 

「ちょ、ちょっと……。」

 

「ダメか?」

 

「……しょうがないなぁ。」

 

その言葉一つで心が跳ねそうなくらいだ。

 

「よしイこう、すぐイこう、今すぐイこう。」

 

エスコートしてる時間が勿体なくて、横抱きにして早歩きで部屋に入ると扉を閉めて鍵を掛ける。

次の日まで扉が開くことはなかった。

服が変わるだけであんなに興奮するもんなんだなぁ……。

 

 

 







ペンギンの口調はよくわかんないので心で感じてください。

モスティマの衣装良いですよね。


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二十八話:男の悲鳴、女の嬌声

 

 

 

 

「本日も満天の星空!いざ、風俗へ!」

 

「満天の星空って……龍門の光で見えませんよ。」

 

「やれやれ、そこは雰囲気ってもんだぜ?」

 

「さあ、行きましょう!」

 

「まあ、慌てんなっての。」

 

焦らすように懐からチラシを取り出して二人に見せる。

 

「今日行くのはここだ!新しい店らしいぞ。名前は分からんが、地図が乗ってる。」

 

「怪しさ満載じゃないですか!?そんなのどこで貰って来たんですか!?」

 

「え、いや、分かんねぇけど。起きたら机の上にあったし、酔った所を受け取ったんじゃねぇの?」

 

「すごく不安だ……!」

 

なんて失礼なやつなのだろうか。

 

「全く、師匠として嘆かわしいぜ。」

 

「いつ師匠と呼んだんですか。」

 

最近バイソンが冷たい……。

 

「うぉぉん、アンセルー。」

 

「ふふ、大丈夫ですよ。私は受け入れますので。」

 

「……やっぱなんでもない。」

 

アンセルに頼ったらダメにされそうだからやめとこ。

 

「んんっ!さてと、気を取り直して行くか!」

 

 

 

 

「いらっしゃいませ。」

 

看板も無いとは……随分変わった店だ。

入ると男が受付に一人立っていた。

 

「あー、チラシ貰ったんだけど、ここで合ってる?」

 

「ええ、ラック様ですね。お待ちしておりました。」

 

「んじゃあ、早速女の子を……。」

 

そう言うと手で止められた。

 

「申し訳ございません。女の子はこちらで決めさせてよろしいでしょうか?」

 

「え、珍しいな。でも、やっぱ写真見て決めたいっつーか……。」

 

ある程度好みはあるし。

後ろの二人を見るとバイソンは不安そうにしていた。アンセルは……なんでも良さそうだ。楽しけりゃ良いんだろうなぁ。

 

「私共としても、女の子には自信がありますので。もし、満足頂けなければ全額返金致します。」

 

「う〜ん、そこまで言うなら……。」

 

それだけ自信があるんだろうな。

 

「バイソン、どうだ?」

 

「……これも経験と言う事で。」

 

「ん、じゃあ、頼む。」

 

「畏まりました。そちらの待合室でお待ちください。」

 

 

 

 

「どうな子が来るんだろうな?」

 

「ちょっと不安ですね……。」

 

「私としては、綺麗系の子が来て欲しいですけど、こだわってはいません。」

 

受付の男が出してくれた紅茶を飲む。やけに美味い。

けど、どこかで飲んだ事があるような……?

 

「んぎっ!?」

 

「がっ!?」

 

「うっ……。」

 

唐突に体が痺れた。まさか、罠!?いや、でもそんな気配は無かったし、受付の男からも敵意はまるで……。

と言うか、なんで薬物に耐性のある俺が痺れてるんだ?そこらの薬じゃ痺れるなんて……いや、ロドスで一度あった。

 

「まさ……か……?」

 

「悪く思うな。」

 

男が三人やって来た。一人は受付の男、見た目を変えているがよく見りゃクーリエじゃねぇか。そしてもう二人はエンシオにエンカクだった。

こいつらあとでころす。

 

 

 

 

やられた。あれから三人分断され、別々の部屋のベッドに置かれた。なんなんだ。

くんっ、と匂いが鼻につく。……嫌な予感がする。こいつはロドスで俺が特に好きな匂いだ。そんでもって、その匂いがする人物と言えば。

 

「にゃあ。」

 

当然、メランサだ。

 

「な……んで……?」

 

痺れた口を懸命に動かすが、返事がない。

う〜ん……なんかあったっけ……?

ふと視線を天井に向けると、文字が書かれていた。

 

『発情期の為、発散をお願いします。

ドクター』

 

……なんで?いや、そう言うの抑制する薬とかあるだろ。シュヴァルツとかが言ってたような気がするぞ。

とりあえず、ドクターは後で殴る。

するするとメランサが服を脱ぐ。やばい、ここで墓場にゴールインなんて洒落にならねぇぞ。俺はまだ遊びたい。

必死で首を横に動かす。せめてゴムは着けてくれ。

 

「大丈夫ですよ……ラックさんが結婚したくないのは知ってますから。」

 

ほっ、と一安心━━━━━

 

「ゴムはたくさんあります。けど、無くなっちゃったら仕方ないですよね?」

 

━━━━━箱に入ったお徳用のコンドームを取り出した。

え、待って、流石にそんなに出ない。

 

「んっ……ちゅぷ。」

 

「ん……?」

 

メランサが何かを口に含んでキスをしてくると口移ししてきたて、涎を流し込まれて飲み込む。

おや、急に体が熱くなってきたぞ?

 

「アンセルさんの作った、精力剤です。これで、たくさん出ます……。」

 

アンセルゥゥゥ!!貴様ァアアアアアア!

 

「……いきます。」

 

 

 

 

ここはどこでしょう?クーリエさんに運ばれたて部屋に入れられてから少し時間が経ちましたが、誰も来ません。

放置プレイでしょうか?……ふふ、興奮してきました。

 

「……ぅわんっ!」

 

大声が聞こえて視線をなんとか向けると、カーディがいました。……まさか、発情期?

 

「アンセルく〜ん、体が熱いよぉ。」

 

ふぅふぅ、と息を荒らげながらカーディが邪魔だとばかりに服を脱ぐ。……良い体付きですね。

いえ、それよりもこれはまずいのでは……?ラックさん程ではありませんが、私も遊びたいと言う気持ちはあります。ここで失敗する訳にはいきません。

 

「はっはっ……ねぇ、アンセルくん……しよ?」

 

「むぐっ……!?」

 

何かを口に入れられる。驚いて飲み込むと急に体が熱くなってきました。

……これ、あれですね。私が作った精力剤です。

仕方ありません。後でカーディには避妊薬を渡しましょう。

 

「あはっ!」

 

 

 

 

う……少し頭が痛い。エンカクさんに雑に投げられて打ったかな……。

ラックさんは後で文句言わないと。

 

「むっふっふ〜。」

 

……聞こえてない、クロ姉の声なんか聞こえてない。

 

「やっと、二人きりになれたなぁ。」

 

……なんでいるのさ。

 

「シルバーアッシュの旦那さんの話に乗って良かったわ〜。

あ、ちゃんとラックとアンセルの方にもいってるから安心し。」

 

全然安心出来ないんだけど。

あーもう!ラックさんの話に乗るんじゃなかった!!

 

「なんや、その目〜。女の子に迫られて嬉しくないん?」

 

嬉しくない訳じゃないけど、こんな状況じゃ喜べないでしょ。

 

「まあ、諦めたほうがええよ。」

 

口に薬を入れられて水で流し込まれる

なんだか体がポカポカしてきた。

 

「せっかくなんやし、気持ち良くなりたいやろ。」

 

それはそうだけど……。

クロ姉が上に乗ってくる。え、ちょっと、ゴムはないの!?

 

 

「当たったら、し〜っかり責任取ってもらうで?」

 

ちょ、ちょっと!待って!?

 

「むっふっふ〜。」

 

 

 

 

どのくらい時間が経ったんだ、メランサに絞られ過ぎてやばい。

これ今日死ぬんじゃないか?

……おっ、体が動くようになってきた。これ絶対アズリウスの毒だったろ。

 

「メ〜ラ〜ン〜サ〜?」

 

クルッと上下を入れ替える。

潤んだ瞳が目に入る。

 

「あんま、調子乗んな。」

 

メランサをベッドに押さえ付ける。

ふーふーと息を荒らげたままメランサが俺を見る。

ゾクゾクしてくる。

 

「もうこんなのいらねぇよな。」

 

ゴムの箱を投げ捨てる。

後でアンセルから避妊薬を貰おう。

 

 

 

 

うぅ……流石にこうも長いと疲れてしまいます……。

しかし、そろそろ痺れが取れてもおかしくはないはずです。ラックさん程ではありませんが、私も医療オペレーターとして、自分で実験をしたりしているから耐性はあります。

 

「……カー、ディ。」

 

ギュッとカーディの尻尾を掴む。

 

「わふっ!?」

 

「こんなにして……いけませんね。」

 

肩を掴んで抱き締めると、耳に触れる。

さて、彼女達との練習の成果を見せてあげましょう。私の耳触りテクは中々良いですよ。

 

 

 

 

ざわざわと食堂の掲示板の前に人集りが出来る。

掲示板の前ではロープで巻かれて、足を括られて天井から吊り下げられたエンシオとクーリエとエンカクがいた。

 

「うぅ……。」

 

「どうしたバイソン。」

 

机に突っ伏したバイソンを見ながらコーヒーを飲む。隣じゃアンセルがでっかいパフェを食っている。体力使ったんだろうなぁ。

 

「どうもこうも、ラックさんのせいですよ!クロ姉に気絶するくらいにやられたんですからね!?」

 

「んな事言っても俺だってやられたぜ?

まあ、痺れ取れてからはやり返したけどな。アンセルもだろ?」

 

アンセルが頷く。

口元に付いてるクリームを指で取って食べる、あっまい。

 

「バイソンもまだまだだな。」

 

「納得いかない……!」

 

コーヒーでクリームの甘さを流す。ん〜、良い。

 

「今度はちゃんとした店行くか?」

 

「………………はい。」

 

たっぷり悩んだな、おい。

 

 

 

 

 

 

 

 

・今日の一幕

 

「お願いだからあたしの探検隊に入ってよー!」

 

椅子に座って本を読んでいるとマゼランがのしかかって来た。どうもドクターや子供達に龍門に居座る前の旅していた頃の話をしているのをこっそり聞いていたらしい。

まあ、そんな事よりも、いつものゴテゴテとした装備をしてないからいつもは隠れているナイスなおっぱいの感触がダイレクトに頭に伝わる。素晴らしい。

 

「いや、だから俺はあんまり龍門から離れたくないんだって……。」

 

配達で数日なら大丈夫だけど、探検ってなるともっとかかるだろ。

 

「困ったな……。」

 

長く開けるとジジィがうるせぇんだよなぁ。

 

「むー、じゃあ切り札を使うよ!」

 

「は?切り札ァ?」

 

今?いや、何か俺を頷かせるような言葉でもあんのか?

 

「……エッチな事、しても良いよ?」

 

「ぶっ……!」

 

思わず吹き出す。もっと他にメリットでも提示するのかと思ったら、体を出して来やがったぞこいつ。

いくら女性にだらしないとは言え、流石の俺でも……しかし、ふぅむ……悪くないって俺がいるのも事実だ。

 

「ねーねー、ダメ?」

 

ふにふにと後頭部に柔らかい感触が伝わる。

 

「……分かった分かった。どっかで纏まった休みが取れたらな。鼠のジジィに聞いてみねぇとな。」

 

しゃーねぇな、と息を吐く。

いや、別に?マゼランの体に釣られた訳じゃねぇかんな。俺だって男の子だし?探検とか好きだし?……女性の体の探検とか。

 

「本当に!?やったー!!ありがとう!大好き!」

 

「おぶっ……。」

 

喜びを表現するように顔に抱き着いてきた。好きって言葉もおっぱいも素晴らしいけどさ、大好きって言われた瞬間から背筋に冷たいものが通ったんだけど、これって心霊現象?テレビに投稿したら良いのか。

 

「じゃあ早速専用の防寒着を作らなきゃ!」

 

「え、今から?」

 

「早く早く!」

 

そう言って俺の手を引いて歩き出す。

その姿が愛らしく。夢に向かって真剣に取り組んでいるんだと感じられた。

……龍門でやる事が無くなったら本当に探検隊に入っても良いかもな。

 

 

 






この内容は……セーフか?

ところでR-18版って読みたいですか?後でアンケートでも出してみるんで良かったら投票してみてください。




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二十九話:我ら眠り隊

 

 

 

 

配達会議配達戦闘配達。お金が貰えて人の為になる。働くって素晴らしい。

 

「ねっっっむい……。」

 

ロドスの通路をフラフラと壁にぶつかりながら歩く。今日からやっと休める。俺はベッドと結婚するんだ。

 

「……部屋が遠い。」

 

もう部屋じゃなくていいから休憩室なり寝転がれる所に行きたい。

そんな事を考えながらフラフラと歩いていると丁度休憩室に着いた。

 

「あれ、ラックさん?どうしたんですか!?」

 

「……ああ、ソラか。」

 

頭がガックンガックン揺れる。

 

「丁度良かった。頼みたい事があるんだけど良いか?」

 

「だ、大丈夫ですけど……。」

 

「すやすやナンバー歌って。」

 

「……え?」

 

「すやすやナンバー歌って。」

 

そのまま部屋に置いてあるソファに倒れると目を瞑る。

ふふふ、ソファベッドをドクターに無理言って全室に置いてもらって良かった。お、クッションあんじゃん。気が利いてる、枕にしよ。

 

「疲れてるのかな……?」

 

疲れてるんです。

ふーっ、と息を吐く音が聞こえると、歌が聴こえて一瞬で眠りに落ちた。

 

 

 

 

「……もう寝ちゃった。」

 

ソラが歌い始めた瞬間には寝息を立て始めた。

少しだけ歌ってソラが近付いてもイビキも出さずに死んだように眠っている。

キョロキョロと周りを確認してクッションを取るとそこに座ってラックを膝枕する。

 

「寝てるとちょっと子供っぽいかも……えへへ。」

 

ソラが頬をつつくと不機嫌そうに顔を背ける。その様子を見て、また笑みを浮かべた。

 

「あ、そうだ。」

 

自分のバッグを引き寄せて中から付け耳を取り出す。ループスのものだ。

それをラックの頭に装着すると、端末で写真を撮り始めた。

 

「……えへへ、今度白の買おっかな。」

 

「くしゅっ……!」

 

「う〜ん、毛布とか持ってきた方が良いかな。」

 

膝枕をした時と反対にクッションを間に挟むとソラが部屋から出ていった。

 

 

 

 

「う〜……寒い。制服取らなくても良いのに……テンニンカめ〜……。」

 

ソラと入れ替わるようにドゥリンが入ってきた。

いつも着ている大きな制服はなく、シャツだけの姿だ。

 

「代わりになるもの代わりになるもの……おー?ラックどうしたの、って寝てるんだね。随分可愛らしい耳付けちゃって。」

 

少し笑ってラックの頭を撫でる。

そして、いい事を思い付いたとラックのジャケットの中に潜り込むと、ラックの両手を自分の前で組んだ。

 

「寝てるからかな、暖かいね。……Zzz……。」

 

そして次の瞬間には眠りに落ちる。

 

 

 

 

「……このタバコの匂い。」

 

次にドアからひょっこりと顔を出したのはシージだった。

たまたま通り掛かってラックの匂いに気付いてなんとなく寄ったみたいだった。

寝ているのに気付くと音を立てずに歩み寄る。

ラックの付け耳を見ると自分と同じ種族の付け耳じゃない事にほんのちょっとむっとした。

更に、ドゥリンが一緒に寝ているのに気付くとむむむと眉を寄せた。

そのままラックの後ろに転がる。

 

「……。」

 

するりとラックの脇から手を入れると抱き着き、うなじに顔を寄せて、一度くんっと鼻を鳴らして眠った。

 

 

 

 

「休み……急に言われても何をすればいいのでしょう。」

 

ドクターから働き過ぎだと言われてシルバーアッシュさんと交代させられてしまいました。

どうせなら一緒に休憩したかったです……。

休日の過ごし方に詳しそうな人と言えば……やはりラックさんでしょうか。色んな遊びを知ってそうですし、さっき帰ってきたのを見かけたと聞きましたから探してみましょう。

 

「あ。」

 

休憩室に誰かいれば聞いてみようと思いましたけど、本人がいました。……けど、寝てますね。ドゥリンさんとシージさんも一緒に寝ているみたいです。

ドゥリンさんには申し訳ないですけど、家族に見えますね。……ちょっと羨ましいです。

この三人以外の方はいませんよね?

何度か部屋を見渡して廊下までチェックしちゃいました。

 

「し、失礼します。」

 

えっと、どこが空いてるでしょうか?前はドゥリンさんですし、後ろにはシージさんがいます。……横?でもそうなるとラックさんに乗ってしまいますし……。

 

「そ、そぉ〜っと……。」

 

ゆっくりとソファに乗ってラックさんの上に……むう、ラックさんが横向きですから乗りづらいですね。

 

「あ、やった。」

 

やっと乗れました。ちょっと位置を調整して……いい感じです。

……乗っても気付かないなんて、とても深く眠ってますね。

でもどうして可愛らしい耳を着けているんでしょう?

 

「ふわぁ……。」

 

皆さんが寝ているのを見てると私も眠くなってきました……。起きそうにないですし、寝ちゃいましょうか。

 

「……おやすみなさい。」

 

よく眠れそうです。

 

 

 

 

「う〜……あたしが最初だったのにー。」

 

ただ毛布と取ってきて戻ってきただけなのに三人も来てる……。アーミヤまで来てるし、エクシア達の気持ちがちょっと分かるかも。

持ってきた毛布を掛ける。アーミヤに掛けてるみたいになっちゃった。

、さっきみたいにクッションの代わりに膝枕をすると、眉を顰める。

これでもアイドルなのに酷いなぁ。

 

「えいっ。」

 

顰めた眉の間に人差し指で押すと少し力が抜けた感じがした。

みんな寝ちゃってるなら、あたしも寝ちゃおうかな。

軽くラックさんの頭を撫でて目を瞑った。

 

 

 

 

「……アッツイ。」

 

寝苦しさで目を覚ます。

なんか暗い……?

 

「うおっ……。」

 

上を向くとソラの顔が目の前にあった。膝枕してくれたのか。毛布まで持ってきてくれたのか。

……にしても暑い気がするな。というか誰か引っ付いてるだろ。

左手で毛布を剥ぐと顔に何かがぶつかった。

 

「おぶっ……アーミヤ?」

 

アーミヤの耳かぁ……。そんで前にドゥリンで、後ろにいるの誰だ……?後ろが向けねぇけど呼吸音がやたら聞こえてくる。

 

「……俺は湯たんぽか。」

 

動けねぇから早く起きてくんねぇかなぁ。

結局二時間くらいしてようやく起きてくれた。

次の日からフィリオプシスが夜になると枕を抱きかかえて後ろを着いて来ながら圧を掛けてきたから一緒に寝ることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

・ある日の一幕。

 

「ありがとうございます。お兄さん。」

 

「はいはい、次から気を付けろよ。」

 

ロドスを歩いていると、声が聞こえてそちらを見る。

 

「あれは……。」

 

階段からラックさんがエイヤフィヤトラさんをおんぶして降りてきていました。

 

「ところで、最近アーミヤさんに色々教えているって聞いたのですけど。」

 

「え?ああ、まあな。」

 

「私にもドクターの好きなことを教えてください!」

 

エイヤフィヤトラさんがラックさんの腕を掴んでそう言いました。

む……それは私だけが教えてもらってるのに……。

 

「えぇ……でもなぁ、アーミヤとは約束したけど……。」

 

「お兄さん〜、教えてくださいよ〜。」

 

掴んだ手をぶんぶんと振る。

エイヤフィヤトラさんがお兄さんと言うと少しモヤッとしてしまいます。

お兄さん……ケルシー先生は母親?保護者みたいな感じですし、ドクターは……す、好きな人ですし。

 

「……しゃーねぇなぁ。ちょっとだけな?」

 

「ありがとうございます!!」

 

「うおっ、近い近い。」

 

片手でラックさんがエイヤフィヤトラさんの頭を押さえようとしているのをパシリと掴んで私の頭に置きます。

 

「お、お兄さ……。」

 

あっ、これだと被っちゃいますから……。

 

「お兄ちゃん!!」

 

「……はい?」

 

 

 

 

……珍しく大声を出したアーミヤに視線が向いてから俺の方に方向が変わる。

 

「ち、違ぇよ!?今回は何もしてねぇからな!?」

 

ジロリと疑うような目が俺に集中する。疑ってんだろ!?

少ししゃがんでアーミヤの目の高さになる

 

「あ、アーミヤ?どうしたんだ?なにかあったのか?」

 

「むぅ……。」

 

むぅ、じゃないんだよ。可愛らしいけどさ。

 

「お兄さん、早く教えてください!」

 

「お、お兄ちゃん!」

 

二人が両側から手を引っ張ってくる。あんまり力強くないから痛くないんだけどさぁ……。

 

「ドクター、早く来てくれー……。」

 

誰かがドクターを呼んできてくれるまでずっと腕を引っ張られ続けた。

 

 

 

 







アンケート、皆さん素直で大変素晴らしいですね。
今回はかなり健全な内容でしたけど、頑張ります。

今一番悩んでるのはR-18版を書くのに♡とかの記号を付けるべきか否か。
記号があった方がエロく見えたりしますよね?
書く内容は決まってるんで気長に待ってくださいな。



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三十話:キュートでメタルな女の子

 

 

 

 

 

「おいドクター!そろそろ押し切られるぞ!?」

 

『すまない、配置人数上限だ!』

 

「だぁからご利用は計画的にっつったろうがよぉ!?」

 

配置人数6人は無理してたろ!?

狙撃やアーツの弾幕に堪らず物陰に隠れる。この間にも他の兵がこっちに押し寄せて来てるってのに……!!

 

「せめて医療オペレーターを寄越してくれ!そしたらなんとかしてやらァ!!」

 

『す、少し待っていてくれ。こっちが落ち着いたら応援を……』

 

『ドクター様、私を出動させてください。……出過ぎた真似をして申し訳ございません。』

 

『そ、そうだった、君は枠を使わないんだったな。行ってくれ!』

 

『かしこまりました。』

 

誰か来てくれるみたいだ。んじゃ、その間時間でも稼ぐか。

腰の火炎瓶をぶん投げる。戦場にゃ武器になるもんがゴロゴロ落ちてて助かる。まあ、これは奪ったもんだけど。

 

「ほぅら、こいつもだ。」

 

爆弾を投げて蹴散らす。

うぅん、多少減った程度は誤差だな。

すると目の前に箱が落ちてきて開いた。

 

「ランセットか!」

 

『お待たせしました!』

 

彼女……うん、彼女がコードのようなものを伸ばして傷を消毒してくれる。少し染みるが、お陰でやれそうだ。

 

「サンキュ、行ってくる!」

 

拾った酒を投げて、最後の火炎瓶を同じ地点に投げて飛び出す。

 

「シャァ!てめぇら随分とやってくれたじゃねぇか!?こっからお返ししてやるから感謝して受け取りやがれ!」

 

伐採者に飛び乗って喉に刀を突き立てて殺し、その大きな体を盾にして戦う。

殲滅するのにそれほど時間は掛からなかった。

 

 

 

 

「クロージャ。ランセットはどこにいる?」

 

「ランセットなら格納庫だよー、どうしたの?」

 

「ちょっとこの前のお礼をな。」

 

格納庫に向かうと、ランセットがいた。

 

「おーい、ランセットー。」

 

「ラック様、こんにちは。どうかされましたか?」

 

「ああ、この前のお礼にな。

ランセットはロボットだから何が良いのかわからなかったからかなり悩んだぜ。」

 

「そんな、私は自分の役割をしただけですから……。」

 

「まあまあ、そう言わずに貰ってくれよ。

それとも嫌だったか?」

 

「そんな事はありませんが……。」

 

「んじゃ、貰ってくれ。」

 

そう言ってランセットの装甲に白いリボンを結ぶ。

 

「う〜ん、結構良いけど別の色のが良かったかな?」

 

青とかの方が映えたか?

 

「いえ、とても綺麗だと思います。私には勿体ないです。」

 

「ん〜、なら良いか。そのリボン俺の髪と同じにしてみたんだ。大切にしてくれ。」

 

「そうなのですか?大切にします。」

 

「ん、でも戦闘の時は外しときな。」

 

「はい。」

 

わかりにくいけど喜んでるって事で良いのか。

 

「んじゃ、またな。」

 

装甲を軽く撫でて別れた。

 

 

 

 

「ラック!!」

 

「クロージャ?」

 

食堂でぼうっとしているとクロージャが大きな声を出してこっちに来た。

 

「どうした?」

 

「ランセットが一番好きなものをラックに変えたいって行ってきたんだけどどういう事!?」

 

「え、んな事言われてたって……あ、この前リボンをプレゼントしたな。」

 

「それー!!」

 

パシーン!とビンタをして去って行った。

 

「……なんなんだ。」

 

ただ引っぱたかれただけかよ。

 

 

 

 

「む。」

 

「どうした盟友よ。」

 

「あれは……なんだ?」

 

シルバーアッシュと備品のチェックをしながら歩いていると、モスティマ、エクシア、テキサス、ラップランド、メランサが陰に隠れて何かを見ていた。

 

「はぁ……予想だがラックだろう。」

 

「今度は何があったんだ。」

 

見に行ってみると、ラックがランセットと談笑しているようだった。

 

「珍しい組み合わせだ。」

 

「そうだな。」

 

ちょっと遠いが声は聞こえるだろうか。

 

「んでな、最近ドゥリンが服の中に入ってくんだよ。」

 

「そうなのですか。私は入る事すら出来ないので羨ましく思います。」

 

「流石に服が伸びちまうなぁ。」

 

基本的にラックから話しているみたいだな。

さて、こっちの五人は……。

 

「むう、もしかして女の子よりもロボットの方が最近は趣味なのかな?」

 

「う〜……ラックぅ。」

 

「……。」

 

「……つまらないなぁ。」

 

「わ、私だって……。」

 

ふむ、ラックは後で大変な事になりそうだ。

 

「おっと、アーミヤからメッセージか。

シルバーアッシュ。アーミヤからお茶の誘いが来ているが、一緒にどうだ?」

 

「いや、私はやめておこう。二人で楽しんでくると良い。」

 

「そうか?じゃあ、また後で会おう。」

 

「ああ。」

 

何かお茶請けでも持っていった方が良いだろうか?

 

 

 

 

今日はドゥリンと一緒にランセットの所に来た……いやまあ、勝手に服の中に入って来ただけなんだけどさ。

ランセットに背中を預けて座りながら、ドゥリンの背中を撫でる。

 

「な?気持ち良さそうに寝てるだろ?」

 

「そのようですね。脈も穏やかです。」

 

それから話しているとねこちゃんやミーボが周囲に集まってきた。

 

「はははっ、なんか凄いことになっちまってんな。」

 

戦いばっかりだから癒されるぜ。

一頻り話したりじゃれ合ったりして、あんまりながいするのもと思って戻った。ドゥリンは帰り道にテンニンカに会った時に引き渡したからこれで自由だ。

 

「今度は装甲を磨くくらいはしてみようか。」

 

ぐぐっと背伸びをするとパキパキと骨が鳴る。

次の瞬間、ドアが開いて首根っこ掴まれて引き釣りこまれた。

 

「……お前って、あの中だと一番堪え性がねぇよなぁ。」

 

引き釣りこんで抱き締めてきたテキサスを見る。

ラップランドもそうだけど、ループスって待てないのか?

 

「ほれほれどうした?構ってほしいのか?」

 

頭をぐりぐりと撫で回す。

 

「……私は、思っていたより独占欲が強いようだ。」

 

「知ってた。」

 

あれだけ歯型とか全身に残されりゃ分かるって。

 

「今更気付いたのか?」

 

やれやれと頭を振ると、少し拗ねた顔になって顔をぐりぐりと胸に押し付けてきた。

 

「……腹減ったんだけど。」

 

「嫌だ。」

 

「しゃーねぇなぁ。」

 

ひょいっ、と横抱きにして持ち上げる。

 

「これで満足かい?お嬢さん。」

 

「別に……。」

 

そう言ってテキサスは顔を伏せたが、耳と尻尾は嬉しそうに揺れていた。

耳と尾は口ほどにものを言うってか。

 

 

 

 

 

 

 

 

・数日後の一幕

 

「あらよっ……ありゃ?」

 

戦闘中に軽装兵の盾に刀が当たった瞬間ポッキリと折れてしまった。

軽装兵の額を撃ち抜き、折れた破片を回収して下がる。

 

「悪ぃドクター。刀が折れたからサポートに回る。」

 

『ああ、分かった。』

 

「全くよぉ……お気に入りだったんだぜ?」

 

またヴァルカンに怒られちまう。……あ、そうだ。新しい武器も追加で作ってもらおう。

 

「……作ってくれっかな?」

 

 

 

 

「こ、今度はついに折ったのか……?」

 

刀の破片を持って震えるヴァルカンの前で正座をしていた。

 

「わ、悪かった。

……それで、だな?破片使って打ち直しって出来るか?後、追加で武器を作って「うるさい。」うっす……。」

 

「私が、もっとこまめに持ってこさせていれば折れる事なんて……。」

 

悔しそうな顔で俯く。

 

「ヴァ、ヴァルカン……?」

 

「すまない。私の腕がもっと良ければ、長く使えて危険な目に遭わなかったのに……。」

 

「き、気にすんなって。ほら、生きてんだしさ?」

 

「そういう問題じゃない!」

 

「うおっ……。」

 

「……打ち直しは、他の鋼と合わせて打てば出来る。それと、新しい武器は紙に簡単な図を書いておいてほしい。」

 

そう言うと、自分の作業場に戻って行った。

その姿を見ながら頭を搔く。

 

「やっちまった……。」

 

まあ、図を書いとこう。

えーっと……長方形で厚めの金属板にしっかりとした持ち手を付けて……終わった。見た目が簡素過ぎる。

とりあえず、仕上がりを楽しみにしとくか。

 

 

 

 







書きたい内容は沢山あるのに想像力がへなちょこである。
それはそれとしてグラニがちょーキュート。




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三十一話:フロストリーフの甘い願い

 

 

 

 

 

「催眠術ぅ?」

 

「ああ。」

 

フロストリーフが自慢げに紐のついた硬貨を見せてくる。

 

「はっ、んなもん俺に効く訳ねぇだろ?なんだ、新しいアーツにでも目覚めたってか?」

 

「しかし試してみなければわからないだろう。」

 

「まあ一理ある。面白ぇ、やってみな。」

 

ここは可愛い可愛い昔馴染みの好きにさせてみようじゃねぇか。

 

「よし、では行くぞ。この硬貨を目で追いかけてくれ。」

 

なんだ、あなたはだんだん眠くなるって使い古されたセリフでも言うのか?

 

「あなたはだんだん眠くな〜る。」

 

言っちゃったよ。

しかしまあ、フロストリーフのためにかかった振りをしてやっても良いかもなぁ。

……ん、なんだかぼんやりして━━━━━━

 

 

 

 

「成功したのか?」

 

硬貨を目で追いかけていたラックの表情が無表情になり、目がとろんとする。

……成功したのか?本当に成功するとは思わず、つい手を握る。

しかしこれからどうすれば良いのだろう。映像ではこの後は好きに指示をしていたが、ラックなら私の頼みなら大抵聞いてくれるはずだから指示と言っても困ってしまう。

 

「……頭を撫でろ。」

 

無難な指示を出すと、ラックがその通りに撫でてくれる。

しかし、いつもの撫で方と違う。

 

「もういい。」

 

止めてから少し強く抱き着く。……いつもなら可愛いだとか軽口を叩いて撫でてくるのに何も言わずにされるがままだ。

 

「案外、つまらないものだな。」

 

今までの指示が全部いつもやってくる事を催眠術でやらせているだけだから新鮮味も無いし、むしろいつもと違って違和感がある。

 

「ベッドに座ってくれ。」

 

座らせて膝を枕にする。なるほど、これならいつもとあまり変わらないな。

ラックの手を両手で握る。

改めて見ると、私の手より結構大きい。私の手と合わせてみるとよく分かる。……私はまだ成長するし、手も大きくなるはずだ……胸だって大きくなるはずだ。

この機会にラックの色んな所を触ってみる。

髪が私よりも硬かったり、ラックがメランサによくしているようにうなじの匂いを嗅いでみたりする。別に匂いフェチ等ではないが、悪くない。

少し大胆になってシャツを捲ってみる。普段は服で隠れて見えないが、その下は傷だらけだった。切り傷や火傷の痕が残っている。龍門に着くまでは常に戦いと隣り合わせだったからだろう。

 

「確か、私を庇って怪我した事もあったか。」

 

私が油断して剣で斬りつけられた時に押し退けて代わりに斬られた。

あの時は何を考えているんだと私が怒ったが、逆に「女の子が顔に怪我するんじゃありません!」と怒られた。あれは絶対私が正しかったと思う。

 

「お前は私の親か。」

 

ぐいっと頬を引っ張る。ふふふ、いつもは仕返しされるから、今だから出来る事だな。

親か……ラックとしては本当に親代わりみたいな感じだったんだろうか。私のために子守唄を歌ったり、他の傭兵とは別に栄養のある料理をしてくれたり、こういうのは本当なら親がやる事なんだろうな。

ラックの膝に座って向き合う。ぼうっとした目が私に向けられる。

 

「私は、お前を親ではなく……。」

 

ゆっくりと顔を近付ける。

……意識がないのに唇にキスするのはなんだかズルをしているみたいだ。

 

「こっちで我慢してやる。」

 

頬に一度キスをする。

そろそろ起こした方が良いだろう。

最後に一つ何か……。

 

「じゃあ、最後の命令は━━━━━━━」

 

 

 

 

「……ん、おお?」

 

パチッと目が覚める。いけねぇ、寝てたのか?いや、そもそも何してたっけ?確かフロストリーフが催眠術だとか言い出して付き合って野郎と思って……。

 

「そのすぐ後に疲れて眠ったんだ。」

 

「ああ、まだいたのか。」

 

声のする方を向くとフロストリーフがいた。

そうだ、久し振りに飯でも作ってやろう。

 

「なあ、晩飯まだだろ?何が食いたい?」

 

「……カレー。」

 

「んじゃ、ちょっと食堂に材料貰いに行くか。」

 

カレーか、傭兵の頃はよく作ってたな。他の野郎共は酒のツマミか肉ばっか食いやがるから、ガキだったこいつには野菜も大量に食わせたっけ。カレーは簡単に作れるしな。

昔の事を思い出しながら食堂から食材を持って行く。ちゃんとグムから許可は得たぜ?

 

「手伝う事はあるか?」

 

「ん、大丈夫だ。」

 

横から覗き込んできたフロストリーフの頭を片手で撫でる。にしても、料理出来るようになったんだな。

折角なら手伝ってもらおうと思ったがキッチンはそこまで広くないし、やめとこう。

 

「……どうした?」

 

ベッドの方に戻るのかと思ったが戻らずに横から眺めてくる。

 

「見ているだけだから気にするな。」

 

「ん、そうか。」

 

頭に今何かモヤが……いや、いいか。こいつが気にするなって言うんだから気にすることも無いだろ。

切るもの切って後は炒めて煮込むだけだ。

待ってる間はフロストリーフと話して、時々鍋の様子を見に行く。

 

「ん、完成だ。」

 

事前に炊いていた米を皿の半分に盛り、もう半分にカレーを流す。

先にフロストリーフに渡して、自分の皿を持って行くと食べずに待っていた。

 

「先に食べてても良かったんだぞ。」

 

「いや、私が待ちたかったんだ。」

 

「そっか。んじゃ、いただきます。」

 

「いただきます。」

 

一口食べる。まあ、カレーだからそうそう変わった味にはならない。

 

「美味い。」

 

「そうかぁ?グムの作ったのが美味い気がするけどな。」

 

「ラックが私の為に作ってくれたからな。」

 

「……そうか。」

 

今日は随分素直だな。

フロストリーフの顔を見る。

 

「んっ……なんだ?」

 

「んにゃ、なんも。」

 

昔は口の周りにベッタリとカレーが付いてたっけな。

そんな事を思ってカレーをおかわりした。

 

 

 

 

「ふぅ、洗いもん終わり。」

 

手を振って水気を払う。作るのは良いけど片付けは面倒くせぇ。

 

「ラック。」

 

「ん?どうした?」

 

振り返るとフロストリーフが着替えを抱えていた。

 

「ああ、風呂か。入ってこいよ。」

 

「一緒に入るぞ。」

 

「おいおい、珍しいな。」

 

「昔からよく入っていただろう。」

 

また頭にモヤがかかり、少しふらつく。

そう、だったな。昔から自分の事に無関心なこいつを抱えて風呂に入れてやってたっけ。

 

「……んじゃ、ちょっと待ってな。」

 

「ああ。」

 

今日は起きてからちょっと変だな……風呂上がったらとっとと寝るか。ああ、その前に歌ってやらねぇと。

 

 

 

 

「早くしてくれ。」

 

「わかったわかった。少し待てって。」

 

綺麗な髪になったもんだな。昔はガシガシだった髪もサラサラになった。

 

「まだか?」

 

「ん、ああ。」

 

ついボーッとしていたみたいだ。しかし、女の子の髪を洗うのは誰が相手でも少し躊躇っちまう。

 

「……痛かったりしないか?」

 

「大丈夫だ。」

 

ほっ、と息を吐く。力加減って難しいな。

髪を流してトリートメントもすると、次は体を洗ってほしいと言われた。

仕方ないなと思いつつも背中を洗って、体の前面を洗おうとすると手を掴まれて胸に押し付けられた。

 

「……私だって大きくなっているだろう。」

 

「あー……うん、そうだな。」

 

ふにゅんと柔らかな感触が手に伝わる。つっても今と昔を比べちゃダメだと思うぜ……?

 

「む……。」

 

いつもは帽子に隠れてる耳がペタンと垂れ下がる。

 

「あー、成長した成長した。」

 

手が塞がっているから顎を頭の上に乗せてぐりぐりする。

 

「……それはやめろ。」

 

「はいはい。」

 

顎を離してやんわりと手も離す。

 

「終わりな。ほら、とっとと風呂入れ。風邪引くぞ。」

 

「いや、今度は私がラックを洗ってやろう。」

 

「俺はいい。」

 

「私がやりたいんだ。やらせてくれ。」

 

「……しゃーねぇなぁ。」

 

フロストリーフが立って後ろに回る。

やってもらってたからやりたくなんのかなぁ。

まあ、俺を洗うのなんてカットして風呂に浸かる。

 

「なぁ。」

 

「なんだ。」

 

「今日はどうしたんだ?いつもは寄ってきてもツンツンしてたじゃねぇか。」

 

「……うるさい。」

 

ぎゅっと鼻を摘まれた。

 

「変なやつだな。」

 

頭に手を置くと顔を顰めてお湯を掛けられた。

 

 

 

 

「早く歌え。」

 

風呂から上がって髪を乾かしてベッドに転がると速攻行ってきやがった。

 

「ワガママかよ。まあ、いいか。」

 

フロストリーフの腹に手を置いて一定のリズムで叩くと歌い始めた。

 

「〜♪」

 

数分くらい歌っていると、寝息が聞こえてきた。

本当に歌ってやるとすぐに寝るな。

 

「……俺も寝るか。」

 

今日はよく眠れそうだ。

 

 

 

 

ラックが寝た事を確認してゆっくりと目を開く。

昔は私が寝た後に寝ていたから一度も見た事のなかった寝顔に手を添える。

ロドスの中では年上の方だが、寝ていると少し幼く見えてしまう。

 

「今日は楽しかった。」

 

珍しく誰にも邪魔されずに二人きりで過ごせた。

やはり最後の命令も良かったんだろう。

 

『じゃあ、最後の命令は……寝るまで昔みたいに過ごしたい。』

 

ラックの頬を撫でると笑みを浮かべる。

今日はよく眠れそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

・もしもの一幕

 

「仕事したくねぇ〜。」

 

今日はアーミヤの代わりに秘書をやる事になっちまった。

こんなのエンシオとかがやりゃあいいのにあいつら揃いも揃って用事があるとか言いやがって……。

 

「おいドクター、資料はこれで良いのか?」

 

ドアを開いて執務室に入るが、誰もいなかった。

 

「あの野郎、仕事中なのにどこ行きやがった……!!」

 

これで仕事が終わらねぇと俺まで怒られちまう!

すると、シャワーの音が微かに聞こえた。これは……執務室の風呂からか。全く、人を働かせといて自分は風呂とは随分といいご身分だな。

ドスンと資料を机に置いて浴室に向かう。扱き使われてっから驚かせてやろう。

洗面所を通り抜けて、浴室のドアノブを握る。

ふむ、どう驚かせてやろうか……シンプルに大声で良いか。下手にあれこれやんのも面倒だ。

そう決めて思い切りドアを開いた。

 

「ゴルゥアアァ!!ドォクター!!てめぇ仕事はどう「ひゃあぁ!?」……し、た……?」

 

ドアを開くと金髪の女の子がすっ転んでいた。ふむ、胸はほどほどだがくびれがあり、尻がでかい。ってそうじゃなくて、ドクターは?

女の子から目を離さずに顎に指を当てる。

ん〜、この浴室は執務室と繋がってるからドクター以外に入るなんて秘書くらいしかいないし、今日は俺が秘書だからその線はない。

洗面所を見てみると、ドクターの普段着ている服とマスクと靴がある。靴を持ち上げてよく見ると、わかりにくいがかなり厚底になっていた。と、言う事はだ。

もう一度女の子、いやドクターの方を向いて近付いてしゃがむ。

 

「なるほどねぇ。ドクターはドクターちゃんだったって訳か?」

 

「ぁ……その……。」

 

恥ずかしげに俯くが、顎を持ってこっちを向かせる。

 

「まあ、そのまで気にするような事ではねぇけどさ。俺を騙してたのか?」

 

「ご、ごめん、なさい……。」

 

か細い声が聞こえて来る。いつものハキハキとしと喋り方とは真逆だ。

 

「いつもはどうしてたんだ?声や口調もまるで違うじゃねぇか。」

 

「喋り方は切り替えてるだけで……声はマスクに変声機が付いてるから……。」

 

「ほうほう。それで?どうして男のフリなんてしてたんだ?」

 

顎に添えていた手を動かして頬を撫でる。

 

「……ケルシー達が、心配だからって。」

 

「心配。心配ねぇ……他に知ってるのは?」

 

「……。」

 

ここまで教えてくれたのに急にだんまりか。

 

「おい、ドクター?」

 

声をかけると、ぴくりと体を震わせた。酷いな、そんなに俺が怖いのか?

 

「ァ、アーミヤとか、シルバーアッシュとか……。」

 

エンシオか……あんにゃろ、こんな上等な女の子を黙っていやがったのか。

 

「まあ、エンシオ達の心配も無駄になっちまったんだけどな。」

 

浴室のドアを閉めて服を脱いでテキトーに投げる。濡れるけど後で良いだろ。

 

「なに……してるの?」

 

「なにって……ガキでもねぇんだし、わかってんだろ?」

 

ドクターが体を守るように縮こまるが、両腕を掴んで開く。

 

「や、やめて。お願いだから……。」

 

潤んだ目で俺を見上げる。そういう目がむしろ堪らねぇな。

 

「そうか……ドクターは俺を騙していた上に拒むのか?俺は仲間じゃなかったか?」

 

「そ、れは……。」

 

責めるように言うと声を詰まらせながら目を泳がせる。

 

「な、仲間だよ……大切な……。」

 

「じゃあ、慰めてくれるよな?」

 

そう言うと、一度こっちを見てからすぐに俯いて体の力を抜いた。

 

「ああ、嬉しいぜ。」

 

左手で腰を優しく抱き寄せて唇を奪うと、少し驚いて目を見開いた。

 

「んっ……ラ、ラック。」

 

「……初めてだったか?」

 

ドクターがこくりと頷いた。

 

「そりゃあ、いい事を聞いた。」

 

もう一度キスをすると今度は俺に体を預けてきた。あー……可愛いじゃねぇか。

右手で胸を揉みながら舌をねじ込む。

 

「んんっ!?」

 

「ん〜、れぁ。」

 

ドクターの舌を舐めたり絡めたりすると、ぴくぴくと体が反応していく。

胸を揉んでいた右手で、そのまま乳首をきゅっと軽く抓る。

 

「ぁっ……。」

 

すると、軽く体が跳ねた。

 

「……んん?」

 

顔を離して、今度はさっきよりも少し強めに抓りながら引っ張る。

 

「あっ……だ、だめ……。」

 

体をくねらせて声を抑えようと両手で口を塞ぐ。普通、最初乳首を弄られた時はくすぐったかったり、違和感があったりすると思うんだけどな……いや、最初から乳首で感じる事があっても戸惑ったりするもんだし……。

 

「ドクター。自分で弄ってたろ?」

 

そう言ってもドクターは首を横に振った。

 

「ふぅん。」

 

なら、と両手で左右の乳首を引っ張る。

 

「ぁんっ!……い、今のはちがっ……。」

 

「さっきも言ったよなぁ?また俺にう・そ・を・つ・く・の・か?」

 

声に合わせて乳首を捻る。

 

「はぅぅっ……やぁっ……!ご、ごめんなさいぃ……。」

 

「で、どうなんだ?」

 

「い、弄ってるよ……。」

 

「いつ?」

 

「……ね、寝る前、とか。」

 

「また嘘吐くのか?」

 

「し、仕事中も……トイレでたまに……。」

 

「みんなが頑張って働いてる最中に?大変だってのもわかってんだよなぁ?」

 

「ごめん……なさい……。」

 

「それなのに一人で乳首を弄ってたんだよなぁ?いや、乳首だけじゃなくて普通にオナニーしてたんだろ。」

 

「ぁ……ぁ……。」

 

「どうなんだ。」

 

「して……た……。」

 

「全く、みんながこんな事知ったらどう思うんだろうな。」

 

「……っ。」

 

寒くもないのに体を震わせる。ちょっと虐め過ぎたか?

 

「安心しな、俺はそんなお前でも嫌わないでいるから。」

 

「……ほんと?」

 

「ああ、むしろ好ましく思うぜ。」

 

そうしてまたキスをすると、今度はドクターの方から舌を絡ませて、そのまま息を荒らげながら俺の首に手を回して抱き着いてきた。

ちょっと自分を受け入れてくれる相手を見付けたからってチョロ過ぎんだろ。こりゃ心配になるな。

 

「ラックぅ、こっちも、こっちも触って……。」

 

甘えた声で俺の手を胸に持っていく。こんなすぐに積極的になりやがるとはな。

 

「ふーっ……ふーっ……ね、ねぇ、これ、ちょうだい?」

 

ドクターが右手で俺の股間に手を添える。

 

「処女なんだろ、俺で良いのか?」

 

「う、うんっ、ラックが良いなぁ。」

 

恋する乙女のように熱っぽい視線を向けてくる。

 

「可愛いやつめ、いいぜ。」

 

そして、痛みを散らせるためにキスをした。

 

 

 

 

ラックに抱かれてから数日。私はいつも通り仕事をしていた。

 

「ドクター、今日はいいペースですよ。」

 

「ああ、ありがとう。アーミヤのお陰だ。」

 

仕事中だから意識を切り替えて男っぽい喋り方にしているけど、分厚いコートの下は彼好みのエッチな下着だ。

 

「ふふっ、ありがとうございます。けど、私だけじゃなくて最近はラックさんが手伝ってくれてますから。」

 

「そうだそうだ、もっと俺に感謝しろ〜?」

 

「助かる。」

 

「ん、じゃあ俺はそろそろ上がるぜ。」

 

「わかった。」

 

「ありがとうございます。」

 

「ああ、仲間は助け合い、だろ?」

 

ラックが執務室から出て行く時に私をジッと見つめてきて、その視線だけで下腹部が反応した。

 

 

 

 

執務室の隣の自室で服やマスクを脱ぐ。……ああ、まだ少し緊張してしまう。

 

「ドクター、入るぜ。おっ、準備万端だな。」

 

「あっ、ラック……。」

 

ラックの近くに行って床に座り込むと、彼が笑いながら私を見下ろして頭を撫でる。

 

「ら、ラック、私、今日も頑張ったよ。」

 

「ああ、偉いなぁ。よく頑張ったじゃねぇか。」

 

甘やかすようにたくさん撫でてくれる彼の手が好き。褒めてくれる声が好き。包容力のある腕や逞しい体が好き。

 

「じゃあ、今日もたくさんヤるか。」

 

「うん……。」

 

お姫様抱っこでベッドに運ばれると、私は自分から体を開いた。

今日も私は彼に抱かれる。

 

 

 

 






いいよいいよぉ!エッチだねぇ!いいねぇ!運営さん許してくれるといいねぇ!!フゥ!!!

一幕が半分くらいあるけどエッチだから許してね。仕事中に思い付いちゃったんだしょうがないでしょ。

R18版やエッチなのは喘ぎ声で一番悩む。



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三十二話:ホストクラブロドス

 

 

 

 

「よく来てくれた、歓迎しよう。」

 

エンシオの一言で席の女の子の嬉声が響く。

 

「ありがとうございます。ああ、可愛いだなんてそんな……皆さんの方がとても可愛いですよ。」

 

アンセルの言葉で女の子がメロメロになる。

 

「おっと、気を付けな。グラスはしっかりと持てよ。お前の手が傷付いちまうからな。」

 

エンカクが女の子の落としたグラスを空中でキャッチして渡す時にさりげなく手に触れて囁くとぴしりと顔を赤くして固まった。

 

「お客様、私に最高の笑顔を見せてくれませんか?」

 

ミッドナイトが女の子の頬に触れて顔を覗き込むと女の子が気絶した。

まあ、何をしているかと言えば俺たちはホストをする事になった。

 

 

 

 

「急ぎ来て欲しいねぇ……。」

 

随分焦った声で俺に電話を掛けてきたのはホストクラブのオーナーだった。俺にだってやる事はあんだけどなぁ……。まあ、問題を解決すんのも仕事か。

 

「おーい、どうs「ラックさ〜〜ん!!」うごぷっ……。」

 

店のドアを開いた瞬間オーナーが腹に飛び込んできて吹き飛ばされた。

 

「……良い、度胸じゃあねぇか。二度とこの地を踏めないようにしてやろうか……。」

 

「ああ、ごめんごめん!?本当に大変なんだよ!許して!!」

 

すぐに離れて頭を下げてくる。

 

「まあいい。そんで要件は?」

 

「そう!そうなんだよ!これ見て!」

 

突き出された紙には『これ以上店を続けるなら潰す』と書かれていた。

 

「イタズラか?」

 

「違うよ〜!最初は私達だって冗談かと思ったんだけど、うちのホストが一人怪我させられちゃって、しかも次は営業中に潰しに来るって追加の張り紙まで貼られちゃったからみんな落ち着くまで出勤しないって言うんだよ。……どうしよう〜!?」

 

頭を抱えてピーピー泣き出す。

男の鳴き声なんざ鬱陶しいばっかだし、うるせぇな。

 

「あー、わかったわかった。んじゃあ俺と俺の知り合いが護衛でもしてやろうか?」

 

「本当かい!?でも見えない所でやられちゃうかも……。」

 

「……あー!わかったよ!俺らがホストやってやるから明日は通常通り営業してくれ!ただ、そいつらに給料出せよ。」

 

「う〜ん、でもラックさんはともかく他の人達の顔はどうなんだい?やっぱりホストは顔が良くないと入ってくれないからさ……。」

 

「やってやるっつってんのに一々文句言いやがって……。」

 

通信端末を取り出して写真のフォルダを開く。……エンシオで良いだろ。

 

「ほら、どうだ。」

 

「うちのホストよりもイケメンなんだけど……この人うちに入れれない?」

 

何言ってんだこいつ。

 

「ダメだ。」

 

それをやったら家族連中にどやされる。

 

「そこをなんとか……!」

 

「ダメなもんはダメだっての。その日一日限りだ。」

 

「くぅぅ……じゃ、じゃあ他の人は?」

 

「引き抜こうとすんなよ?」

 

とりあえず、毛色が違うしアンセルで。

 

「……女の子?」

 

「違ぇよ、男だ。」

 

「でもこの写真は……。」

 

「確かに……チアガールの格好してるけど男だ。

顔は申し分ねぇだろ?」

 

弾けるような笑顔でいい加減俺も、あれ?こいつ女の子では……?って疑問を持ち始めたが男のはずだ。

 

「そ、そうだね……。うん、ラックさんに任せたら大丈夫そうだ。」

 

「んじゃ、明日な。」

 

……急いであいつら説得しねぇとな。

 

 

 

 

「つー訳で、手伝ってくれたら助かる。」

 

とりあえず知り合いの男共を呼んで頼んでみた。

 

「いいだろう。」

 

「私もラックさんからの頼みなら喜んで……ただ、一つお願いを聞いてくれれば良いだけです。」

 

俺にねっとりと熱い視線を向けて舌なめずりをする。……ちょっと頼んだの後悔した。

そのままバイソン、エンカク、ブローカ、クーリエ、マッターホルン、ミッドナイトは承諾してくれた。他のやつらには断られちまった、イグゼキュターは手伝ってくれると思ってたんだけどなぁ。

……人数、足りるか?

 

 

 

 

「うんうん!ありがとうラックさん!来てくれた皆さんも本当にありがとう!!これだけ人数がいればなんとかなるよ!」

 

店に着いて全員スーツに着替える。

 

「あ、お前ら一応名前変えとけよ。後々面倒な事になるからな。」

 

「ラックさんは変えないんですか?」

 

「俺はほら、ここら辺じゃ有名だし、こういう事するのもそこまで珍しくねぇからな。」

 

今更隠した所でどうしようもねぇ。

 

「にしても、アンセルがオペレーター姿以外で男の服着てるの久し振りに見た気がするな……。」

 

最近こいつ見たの女装ばっかだぞ。

 

「似合ってますか?」

 

「ああ、ちょっと安心した。」

 

「じゃあ皆さん、今日はよろしくお願いします!」

 

丁度呼ばれたか。

じゃあ、頑張るか。

 

 

 

 

「白兎さん、あちらのテーブルにお願いします。」

 

「わかりました。」

 

白兎……アンセルが俺に手を振って表に出る。あ、おい、足元見てねぇと……。

アンセルが段差に足を引っ掛けて前のめりになる。

 

「ほら見た事か。」

 

先に動いて後ろから捕まえる。

 

「気を付けろって。……聞いてんのか?」

 

後ろだから顔が見えねぇけど……。

 

「ああ、すみません。ありがとうございます。」

 

抱き留めてる手を撫でられる。お礼を言われただけなのになぜか背筋に寒いものが……。

 

「んじゃ、行ってこい。」

 

「行ってきます。」

 

上機嫌で呼ばれた席に向かって行った。

 

「そろそろ食べられそうですね……。」

 

横にいたバイソンがそう呟いた。……それはちょっと勘弁してぇな。

 

 

 

 

あれから上手くいっていた、なんならオーナーがいつもより稼げているって言うくらいだ。この調子で終わればボーナスも出すと言っていたから働きがいがあるもんだ。

 

『きゃあああ!!』

 

「エンシオとかエンカクが行く度に聞こえてくるな……。」

 

俺の時よりも歓声が多いんだけど?なに、俺は見慣れた?

 

『可愛いぃ〜!!』

 

エンシオ達はかっこいいって意味での歓声だったが、アンセルとバイソンは可愛がられている。アンセルはノリノリだったけど、バイソンは複雑そうだった。

 

「ラックさん、あっちの席からお呼びが掛かったよ。」

 

「ん、了解了解。」

 

さてと、お仕事のじか……ん?あれ、エンシオ達ががいるけど……なんで正座……?

 

「……。」

 

「お、お姉ちゃん、落ち着いて……。」

 

「……ぐふっ」

 

「かはっ……」

 

「……せめて、我が主だけでも。」

 

「エンヤとエンシア……?なんでここに?」

 

「あ!ラックお兄ちゃん!」

 

その一言でエンシオがギロリと俺を睨む。いや、昔からずっとこの呼び方なのにまだダメなのか。

 

「ヤーカおじさんがこそこそしてたからどうしたんだろうっ聞いたらラックお兄ちゃんに誘われてホストやるって言うからお姉ちゃんと見に来てみたんだ〜。」

 

あ〜、なるほどねぇ。

 

「ラック、おすすめをください。」

 

「ん。……ところでこいつらは?」

 

「気にしないでください。そのまま置いておいてくれれば良いです。」

 

「そっかぁ……。」

 

それから軽く酒を用意して軽く雑談をした。ただ、エンシオ達が動こうとする度に睨んでいたのは流石に可哀想だと思った。

 

 

 

 

「ラックさん次はあっちに。」

 

「忙しいな。んじゃ、またな。」

 

エンヤとエンシアに手を振って席を離れる。次は誰だ?

 

「……。」

 

「……えぇ。」

 

席に近付くにつれて少し異常な事に気が付いた。さっきのエンヤ達もそうだが静か過ぎる。話だとアンセルが先に着いてるはずだけど。

 

「あ、アンセルくん、似合ってるね!」

 

「あ、ありがとう。」

 

ああ……カーディかぁ。

チラチラとアンセルを見るカーディと、それに気付きながら少し気まずそうにするアンセル。そして周りでそれを見ているメランサとプリュムとムースとグムがいた。

 

「あー……んん、良く来たな。」

 

「ラックさん。」

 

端に座っていたメランサの隣に座る。

 

「あいつらは一旦置いとくけど、お前らなんで来たんだよ、未成年共……。いや、アンセルを色々連れ回してる俺が言うのもおかしな話だけどよ。」

 

「隊長のスーツ姿が見れると聞いたので……!」

 

プリュムが少し興奮しつつ言ってきた。

 

「だぁから隊長じゃねぇって……もういいや……。」

 

「スチュワードさん達が話してたのを聞いてしまって……一緒にいたみんなで来たんです。」

 

「……ダメだった?」

 

「ごめんなさい……。」

 

メランサとムースとグムがしょんぼりと顔を俯かせる。

 

「怒ってる訳じゃねぇから……んん、お客様、俺に最高の笑顔を見せてくれないか?」

 

ミッドナイトの言葉を借りて言う。……あんま俺には合わないな 。

 

「ほらっ、なんか飲みたいもんあるなら頼め。」

 

メニューを渡すとみんなで見始めた。

っとこの間にアンセル達の方を……?

 

「え、えへへ……。」

 

「ラックさん……!ラックさん……!!」

 

カーディがぴったりとアンセルの横に引っ付いて左手を握る。引っ付かれてるアンセルは助けを求めて俺を呼んでくるけど。

それお前が俺にやってくるのと同じ……いや、それよりもずいぶん可愛いもんだから放っておこう。

 

「ねぇねぇ、ラックさん。これ誰が作ったの?」

 

グムがツマミを食べながら言ってきた。わかるわかる、酒飲まなくても子供とかこういうの好きだよな。

 

「基本的にマッターホルンだな。あいつが呼ばれてる時はクーリエが作ってるはずだ。」

 

今エンヤに捕まってるから作り置きかな。

 

「後でレシピ教えてもらおうかなぁ……。」

 

「俺から後で伝えといてやろうか?」

 

「ほんと?じゃあお願いするね!」

 

「おう。」

 

これで俺が飲む時もグムに作ってもらえるぜ。やっぱり野郎よりも女の子に作ってもらった方が嬉しいし。

 

「……はふぅ。」

 

グムの横に座ったムースが息を吐いた。いや、なんか顔赤いな……まさか酒?いや、雰囲気だけで酔ったのか?

 

「ほら、水飲め。」

 

ムースに水を渡すと飲みはするがふわふわとした感じが抜けてない。

 

「メランサ、ムースの事ちゃんと連れて帰ってやってくれねぇか?」

 

「わかりました、私もちょっと心配でしたし。」

 

「サンキュな。」

 

頭を撫でてやると嬉しそうに笑った。

 

「あ〜!グムもグムも!」

 

「はいはい。」

 

……いい加減フラッシュが少し邪魔だな。

 

「なぁ、プリュム。」

 

「なんでしょう?」

 

「当店撮影禁止となっております。もし撮るのであれば別途料金を「払います!」……マジか。」

 

財布から金を数枚出して机に置くとカメラを構えた。……そうだったな、お前あんまり浪費しないもんな。

 

「それならツーショットの方が良いだろ。おーい、オーナー。写真頼む。」

 

まあ、本当なら店のカメラでも使うんだろうけど大目に見てやるか。

 

「はいはい、それじゃ撮るよ。」

 

「あの、私は別に映らなくても……。」

 

「いいから撮るぞ。」

 

プリュムを立たせて、その後ろに俺が立って肩に手を置く。

 

「はーい、チーズ。いやぁ、こんな良いカメラ持った事ないからこっちが緊張しちゃうね。これで良かったかな?」

 

「どれどれ。」

 

写真の中でプリュムが困惑気味だが楽しそうに笑っていた。……しかし、これじゃホストとのツーショットじゃなくて親戚の写真っぽくなるな。

 

「ありがとうございます。」

 

「これで良かったのか?もう一枚とか、ポーズの指定とかしても良いんだぞ?」

 

「いえ、この写真が良いです。」

 

プリュムが写真を見て笑う。それならいいか。

 

「ラックさん、悪いけど今度はあっちに……。」

 

「おう、大忙しだな。」

 

最後にプリュムの髪をクシャリと撫でる。

離れる時にアンセルから恨みがましい視線を向けられたから次会う時は気を付けよう。

 

 

 

 

「なんだ、お前らも来てたのか。」

 

「客に対してお前とはなんだ。」

 

「面白そうな事をすると聞いたのでな。」

 

呼ばれた席に向かってみるとチェンとホシグマの二人がいた。こいつらがこういう店に来るなんてな。

チェンの隣にどっかりと座った。知り合いがよく来るな。

 

「そうかよ、ところでスワイヤーは?」

 

「置いてきた。」

 

……可哀想に。

 

「なんだかんだ仲良しなんだから読んでやりゃ良かったのに。」

 

次の瞬間万力に挟まれたような激痛がした。

 

「誰と、誰が、仲良しだって?」

 

「……なんでもない。」

 

傍から見たらチェンが俺の腕に抱き着いてるみたいに見えるけど、背中から肩に手を回して握り潰そうとしてるだけだ。

 

「全く。」

 

「隊長、今のはラックが可哀想ですよ。」

 

「……悪かった。」

 

「いや、俺の失言が悪かったんだから気にすんな。」

 

肩折れた訳でもねぇし。

 

「それで、結局何しに来たんだ?ここに来てお前らが酒飲んでないんだ。なんか目的があるんだろ?」

 

「お前が頼まれた原因と同じだ。」

 

「……ああ、なるほどね。そりゃあ助かる。一般人もいるからそこら辺のカバーは人数が足らねぇかもしれなかったからな。

よろしく頼むぜ、隊長さん。」

 

「私には無いのか?」

 

「おっと、優秀な副官殿にも感謝してるぜ?

今度の飲みは俺の奢りだ。」

 

「それはありがたいな。サイフが空になるまで飲んでやろう。」

 

「ちったぁ遠慮しやがれ。」

 

「ラックさーん!また頼むよー!」

 

忙し忙し、やる事が多いな。手を振って二人と別れた。

 

 

 

 

「おーおー、よぉ似合っとるでバイソン。」

 

「ちょっ、引っ付かないでくださいよ!」

 

テーブルに着くとバイソンがクロワッサンにへばりつかれていた。

 

「……はぁ。」

 

ちょっと疲れそうだ。

 

「ちょっとー、ため息吐くなんて酷くない?」

 

「うっせ、今忙しいんだよ。」

 

エクシアが拗ねて唇を尖らせる。

 

「似合ってるよ。」

 

「ん、サンキュ。」

 

モスティマの隣に座るとエクシアが膝の上に転がってきた。

 

「行儀悪いぞ。」

 

「良いでしょー。」

 

「しょうがねぇなぁ。」

 

話しながら一緒に来ていたテキサスとソラの方を見る。

ソラは変装して来ていて、珍しいのかキョロキョロと周りを見ていた。

テキサスはソラにここでどういう事をするのかみたいな話をしているみたいだ。

 

「何か飲むか?」

 

「うん、貰おうかな。」

 

「おう、っと悪ぃちょっと待ってくれ。」

 

通信端末が鳴って、着信を取る。

 

『ラック、お客さんが来たよ』

 

「ん、ご苦労さん。

外に溢れたやつらの相手はしても良いけど、殺すのは無しな。」

 

『仕方ないなぁ。君の頼みだからね、いいよ。』

 

「助かる。んじゃ、また後でな。」

 

通話を切って立ち上がる。

 

「お客様方にお伝えします!これより少々物騒な事になるので奥の方へ詰めて行ってください!」

 

お客さんがざわつきながら奥に行く。

……オペレーター連中はこっちにいるけど。

 

「お前らもあっち行けよ。」

 

「しかし、我々がこちらにいなければお客さんがいなくて違和感を持たれるだろう?」

 

テキサスの言葉になるほどと納得する。

 

「んじゃ、みんなよろし━━━━━━━」

 

よろしくと言おうとした瞬間に扉が蹴り開けられた。

 

「まだわかってないみたいだなぁ。」

 

紫のスーツを着た小太りの男を戦闘に傭兵っぽい集団がゾロゾロと入ってきた。

あいつ誰だったっけ……ああ、別のホストクラブのオーナーだっけ。ここの人気を落として自分がトップに立とうって事が。

 

「ちょっと一人痛め付けるだけで止めておいてあげたのにねぇ。」

 

「あー……お前が今回の原因?」

 

俺が声をかけると男がにんまりと口角を上げる。

 

「おやおやおや、ドブネズミに縋ることしか出来ないアーツも使えない落ちこぼれ天使様じゃないか。」

 

「ちょっ……!」

 

エクシアが声を荒らげようとして手を挙げて止める。

 

「まあまあ、落ち着けよ。」

 

「ふん、店のホスト共がいないと思っていたが、お前の知り合いか。」

 

「お前の所のホストよりイケメンだろ?」

 

そう言うと青筋が浮き出る。

すると急に笑い始めてエンシオに話掛けた。

 

「そこの銀髪。俺の店に来ないか?そいつに幾ら貰ったかは知らないが、そいつよりも高額で雇ってやる。」

 

「必要ない。」

 

「くっ……!ならばそこのフォルテ!」

 

「え、僕ですか……?他にやる事もたくさんありますし、やめておきます。一応ラックさんに感謝している所もありますし。」

 

「バイソン……!!」

 

ぶっちゃけ親の金もあるし、本人もそれなりに稼いでるって理由で裏切らないと思ってた俺を許してほしい。

 

「チッ……!なら、女だ。特別に俺の店に招待してやろう。」

 

男が歩いてきてメランサの手首を掴む。

 

「ッ……!」

 

メランサがビクッと体を一度震わせる。一瞬手が動きかけたが止まった。

手が出なくて良かった。後々面倒な事になりそうだからな。

ああ、ごちゃごちゃ考えたらダメだな。

男の手首を掴んで捻る。

 

「ぐおぉ……!!」

 

「あんまり調子に乗らねぇでくれるか?

メランサ、よく我慢したな。」

 

背中を押して後ろに庇う。

 

「さてと、お前ら戦闘準備だ。」

 

そう言うと全員が携帯してたり机の下に入れていた装備を取り出す。

俺も腰からハンドガンを抜く。刀はまだ完成してねぇからな。

 

「ここら辺で好き勝手してくれたお返しだ。」

 

 

 

 

「……なんつーか、呆気ねぇな。」

 

店から溢れる程の傭兵が数分で倒された。うん、ちゃんと生きてる。

 

「だっ、だが、まだ外に仲間が━━━━━」

 

「ラック、片付いたよ。手加減が必要だから少し手間取っちゃったよ。」

 

血濡れの剣を持ってラップランドが入ってきた。

お前本当に殺してないよな……?

 

「なんだい?ラックが頼んできたんだよ?」

 

「まあ、それはそうだけどな。お疲れさん。」

 

ラップランドの頭を撫でる。

 

「な、な、ななっ……!?」

 

「さて、もう仲間はいねぇぜ?

あそこの隊長さんに捕まるのと鼠に捕まるの、どっちが良い?優しい優しい俺は選ばせてやるよ」

 

そう言うと、男が膝から崩れ落ちた。

 

「チェン、頼む。」

 

「ああ、任せろ。」

 

チェンが男を連れて行ったのを見届けると、オーナーがやって来た。

 

「ありがとうラックさん!!」

 

「これが仕事だからな、気にすんな。

それより、今日来てもらった連中に給料頼むぜ?」

 

「任せてよ!」

 

んじゃ、俺もロドスに戻るとするかぁ。

歩こうとしたら誰かに肩を掴まれた。

 

「ラックさん。」

 

「あ、アンセル……!!」

 

「ふ、ふふふ……約束してましたよね……?」

 

やっば……!!

 

「……アンセルくぅん。」

 

「あ、え、カーディ……?」

 

「あのね、あっちのお店行ってみない?」

 

こ、これは……!!

 

「カーディ!俺がおすすめのホテルを紹介してやろう!ははは、宿泊費は俺持ちだから安心しな。」

 

簡単に行先を教えてやるとカーディが嬉しそうにしてアンセルの腕を引っ張って行った。

ふぅ……良い事したなぁ!

 

「よく働いたし、酒飲んで帰るかな。」

 

コソコソと見つからないように動きながら離れる。

 

「やあ、ラック。どこに行くの?」

 

「今日のお礼をしてもらおうかな。」

 

「ひえっ。」

 

肩を掴まれて後ろを見ると、モスティマとラップランドがいた。

 

「アンセルが戻って来たかと思った……じゃあ、これから三人で酒飲みに行くか?」

 

そう言うと二人が少し考え込むと頷いた。

 

「ん、じゃあ行くか。」

 

本当は一人で飲むつもりだったんだけど、まあいいか。

美人二人と飲むってのも悪くない。

少しテンションを上げながら歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

・近頃の一幕

 

「ラック、美味しい?」

 

「んぐっ……美味いっ!」

 

うんうんと頷きながら食堂で親子丼を頬張る。

今日は珍しくモスティマが昼飯を作ってくれるっつってくれた。

やっぱ俺はオシャレな飯よりもこういう家庭的な飯の方が好みだ。

エプロン姿のモスティマも見れたし、今日はいい日だ。

柔らかい鶏肉にトロトロの卵が絡み付いてるし、甘い玉ねぎがまた良い。

 

「へぇ、美味しそうね。あたしも一口食べてみたいわ。」

 

「うん……?」

 

どこかで聞き覚えのある声がして後ろに振り返った瞬間、唇を塞がれて舌を捩じ込まれた。

 

「ん……あむっ。」

 

「んん〜!?」

 

目を見開くとWが目の前にいた。

なんでこいつがここにいやがる!?

慌ててWを突き飛ばしてハンドガンを引き抜く。

 

「ケホッ……てめぇ、なんでここにいる!?」

 

「うん、結構いい味してるわね。」

 

話を無視して味の感想を言うWの横を掠めるように撃ち抜く。

 

「せっかちねぇ、体を重ねた仲じゃない。」

 

なんでロドスにいるんだ。そもそもどうやって入った?誰にもバレずに食堂まで来るなんて……。

いや、まずはこいつを食堂のメンバーで倒す事を考えるのが先だ。

 

「待てラック!彼女は仲間だ!」

 

ドクターの声に混乱する。少し前まで殺し合っていたのに急に仲間って言われたって……。

 

「そうそう、それにあたしはここがロドスになる前からいたんだから帰って来てもおかしな話じゃないでしょ?」

 

「……チッ。」

 

仕方なく銃を下げる。仲間だってんなら殺り合う必要もねぇし。

元々座っていた席に戻ってまた親子丼を食べ始めると、左隣にWが座ってきて凭れてきた。

 

「はぐっ、もぐっ……。」

 

「再会出来たって言うのにシカトするの?」

 

「……うっせぇ。」

 

「君が前にラックの端末に写ってた人?」

 

右隣にモスティマが座るとピシッと空気がひび割れた気がした。

……あ、やば、逃げたい。

 

「そうよ。それで、アンタ誰?今あたしはラックと話てるのよ?」

 

「私はモスティマ、ラックの家族だよ。よろしく。」

 

「へぇ、そう。あたしはWよ、よろしく。」

 

互いに笑顔を浮かべているが絶対に友好的じゃない。マジで逃げたい。

 

「うん、それと久し振りに会った相手にキスするのはどうかと思うよ?」

 

「そうかしら?あたし達からすれば挨拶みたいたものよね?」

 

「……ノーコメントで。」

 

親子丼の味がわかんねぇ……。

 

「W、これからまだロドスの施設を案内しなければならないから来てくれ。」

 

「そうね、今日は会えただけで良しとするわ。

またね。」

 

Wが最後に頬にキスをしてドクターに着いて行った。

 

「……嬉しそうだね、ラック。」

 

「そんな事は……いや、悪ぃ。」

 

「まあ、良いよ。ご飯のおかわりはいる?」

 

「頼む。」

 

さっきは味わえなかったから今度はもっと味わって食べよう。

 

 

 

 

「そういえば前にラックと会っていたのを忘れていたな。」

 

「そうね、彼みたいな人は好みよ。」

 

「俺ももっと君に好かれるように努力しよう。」

 

「頑張る事ね。」

 

Wがドクターの後ろを着いていきながら端末を開くと、カメラ目線で笑顔を浮かべるWと引き攣った顔で親子丼を食べるラックが映っていた。

 

「彼女がいないのは悲しいけれど、彼がいるから我慢してあげるわ。」

 

「ん?何か言ったか?」

 

「何も言ってないわ、早く案内して。」

 

困ったように頭を搔くドクターの後ろでWが笑みを深めた。

 

 

 

 







新年明けましておめでとうございます。2021年もこの小説をよろしくお願いします。

さて、投稿してない間にクリスマスがあったりしましたね。俺は一人でローストビーフとか作ってぶち上がってましたが皆さんはどうでした?
次は遅れましたがクリスマス回でも書きますね。
では、また次回。





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三十三話:聖なる夜に祝福を

 

 

 

「メリークリスマース!」

 

ドクターの言葉の後に続けて声が響く。

今日はクリスマスだ。ドクターの指示で最低限の警備を除いて全員が飾り付けをした食堂に集まった。

その中で俺はフロストリーフと二人で酒を飲んでいた。

 

「ふぃぃ〜……クリスマスは良いなぁ、存分に酒が飲めるぜ。」

 

「いつも飲んでいるだろう。」

 

「クリスマスだから良いんだよ。」

 

ケラケラ笑いながらフロストリーフを撫でるとため息を吐いて酒を飲んだ。美味いから良いじゃねぇか。

ただ、後でやる事があるからあんまり飲みすぎねぇようにしねぇと。

周りに目を向けると、ドクターの所にはアーミヤ、エイヤフィヤトラ、アンジェリーナが集まっている。

 

「先輩、このサラダとっても美味しいですよ。」

 

「ド、ドクター!このチキンもとても美味しいです!」

 

「この紅茶ほっとするなぁ。ねぇ、ドクターも飲んでみない?」

 

「……順番で頼む。」

 

あれじゃ腹膨れて動けなくなりそうだ。

その横じゃエンシオとエンカクとチェンとホシグマが酒盛りもしている。俺もあそこに混ざりたいところだけど、混ざったら酔っ払いそうだから今回はパスだ。

 

「……おい、この酒キツ過ぎる。」

 

「ははは、酒はまだまだ残っているぞ。」

 

「増やすんじゃねぇ……!」

 

「まだまだだな。」

 

「おっと、シルバーアッシュの酒も減っているようだ。ホシグマ注いでやれ。」

 

「はい。」

 

「くっ……。」

 

ありゃ潰されそうだな。

後は大体所属ごとに集まって騒いでるみたいだ。

 

「お前も好きな人の所行ってきても良いんだぞ。」

 

「……私はここが良い。」

 

「へぇ、そうか。」

 

そう言われて嬉しくないわけがない。

フロストリーフの肩を抱いて撫で回す。

 

「……暑い、やめろ。」

 

「照れんな照れんな。」

 

「照れてない。少し酔っただけだ。」

 

そう言って黙って酒を飲み始めた。

 

「ラックー!楽しんでるー!?」

 

エクシアが機嫌良さげにやってきた。この後やる事あんのにわかってんのか?

 

「忘れてねぇだろうな?」

 

「わかってるわかってる!ラックが手伝ってくれて早く仕事終わったんだからちゃんとやるよ!」

 

「なら良い。」

 

「まあ、今はパーティを楽しもうよ!アップルパイ焼いたから一緒に食べよ?」

 

カットされたアップルパイが俺とフロストリーフの前に置かれる。

良い香りだ。さっきからつまみでしょっぱいのばかりだから丁度良かった。

 

「うん、美味い。」

 

「むぐむぐ……。」

 

相変わらずいい味だ。意外と酒にも合うんだよなぁ。

フロストリーフも顔を緩めてアップルパイを食べている。

 

「ペンギンの方には戻らなくて良いのか?」

 

「さっきまでずっと居て騒いでたからね。

ラックの方に遊びに来たんだ。」

 

「そうか。」

 

アップルパイを一口食べる。

んん?なんか妙にエクシアがそわそわしている気がする。

 

「ね、ねぇ、つい最近何かなかった?」

 

「何か?あー……?」

 

手を顎に当てて考える。

なんだっけ、覚えてないぞ。クリスマスっては覚えてるけど……。

 

「アーミヤの誕生日……はこの前話聞いたしなぁ。」

 

ドクターがプレゼントをくれたって喜んでたし、俺も後でケーキを買ってあげた。

エクシアの額にぴきっと筋が浮き出る。

 

「スチュワードの誕生日は昨日だったろ?」

 

メランサがみんなでお祝いしたって写真を見せてくれた。送る物に困ったから現金を渡したはずだ。返されそうだったから今度部隊で飯でも食って来いって押し付けてやった。

エクシアの周りの空気が歪んで見える。

 

「エンカク……?」

 

あいつには花瓶か鉢植えでもくれてやればいいだろ。

 

「……もー!!あたしの誕生日!!昨日!!」

 

キーーーンッ、と大きな声が響く。

 

「あ、あー……そうだっけ?」

 

「もしかして……モスティマの誕生日も忘れた?」

 

「……えへ。」

 

我ながらキッツ。

 

「ばかーー!!」

 

「ちょっ、痛っ、痛てぇ。」

 

エクシアが俺の頭をバンバン叩いてくる。

いや、悪かったって。

 

「しゃ、しゃーねぇだろ!?自分の誕生日もポカンと忘れちまったんだから!」

 

「えぇー!?自分の誕生日だよ!?」

 

「色々あったし……。」

 

どこで忘れたんだっけなぁ……。

 

「悪ぃな。遅れちまったけど今度二人とも祝うって事で許してくんね?」

 

ジーッと睨まれる。

 

「……誕生日おめでとう。」

 

「仕方ないなぁ……。約束だからね?」

 

ほっと息を吐く。またなんか考えとかねぇと。

 

「私には?」

 

後ろから首に腕を回される。あっ、いい匂い……じゃねぇ。

 

「モスティマも誕生日おめでとう。忘れちまって悪かった。」

 

「うん、ありがとう。」

 

すり、と首筋に擦り寄られる。……こそばゆい。

 

「ラック。」

 

フロストリーフが声をかけてくる。

 

「どうした?」

 

「私の誕生日は五月一日だ。」

 

「……うん?」

 

「忘れるな。」

 

「ああ……うん。」

 

祝ってほしいって事か。

 

「わかった。忘れないようにメモしとこう。」

 

「ん。」

 

そう言うと機嫌良さげにアップルパイを食べた。

周囲から視線を感じて目を向けるとメランサやテキサス、ラップランド達が俺を見ていた。まさかのチェンやリスカムまで俺を見ていた。

……もしかして、俺はオペレーター全員の誕生日を覚えなきゃいけないのか?いや、メモすればいいだけなんだけど。

 

「出費がやべぇ事になりそうだ……。」

 

月の出費がそれなりにいきそうだ。

 

「いや、今考えるべき事じゃねぇな。」

 

手元の酒を一気に飲んで追加を注ぐ。

それから何人か俺の所に来て軽く話していた。

ラナやアズリウスがお菓子を持ってきた時にエクシアの目が少し鋭くなっていたけど対抗意識でもあんのか?

そして数時間経って各自で解散、騒ぎたいやつは残るみたいな感じになった。

 

「……そろそろか。」

 

残っているのが大人しかいない事を確認していると、ドクターが手を叩いた。

 

「よし、それじゃあ今日最後の大仕事だ。

全員着替えてくれ。」

 

男女に別れて着替えると振り分けられた荷物を渡される。

 

「ラックとモスティマはフロストリーフ達、特に気配に敏感なグループだ。バレないように頼む。モスティマ、いざとなったら時間を止めてくれ。」

 

「はっ、誰に言ってやがる。余裕だ。」

 

「うん、任せてよ。」

 

「頼もしいな。」

 

ドクターの振り分けが終わって、全員の前に経つと咳払いを一つ。

 

「サンタ部隊出動!子供たちに夢を与えに行こう!!」

 

クリスマスのプレゼント配達だ。

 

 

 

 

「そーっとそーっと……。」

 

抜き足差し足忍び足でプレゼントを置いていく。

気配に敏感なだけじゃなく匂いや音にも敏感なやつが多いから大変だ。

 

「ここで最後っと。」

 

喋り声で起きたんじゃダメだから担当の区画から離れる。

 

「お疲れ。」

 

「お疲れ様。」

 

モスティマとハイタッチをする。無駄に緊張したからモスティマもほっとしていた。

何度かバレかけたしな。

ケオベが野生の勘を発揮して起きたのは焦った。

 

「さてと、大仕事も終わったし寝るか。」

 

あー疲れたと自分の部屋に向かおうと思ってたら袖を引っ張られた。

 

「モスティマ?」

 

「……ねぇ、ラック。私にもプレゼントが欲しいな。」

 

こいつがそう言うなんて珍しいな。

 

「ああ、いいぜ。つっても今からは用意出来ねぇから明日になっちまうけどな。」

 

「大丈夫。すぐにできる事だから。」

 

すると俺の手を掴んで腹に当てて、背伸びをして顔を耳元に寄せてきた。

 

「……ラックのを私の中に注いでほしいな。もちろん、生でね。」

 

頭の中に性の六時間という言葉が過ぎる。

 

「ダメかな?」

 

「わかった。」

 

俺の言葉に意外だとモスティマが少し驚く。

 

「何驚いてんだよ。」

 

「だって、ラックだよ?」

 

確かに、いつもなら間違いなく断ってたはずだ。

ただ今日は回りくどいモスティマが素直に言ってきたし、こいつの事だし大丈夫だから言ってきたんだろ。

ため息を吐いて部屋に向かって歩き出すとモスティマが隣に並んで笑顔で俺の顔を見てくる。

 

「……なんだ。」

 

「ううん、なんでも。」

 

 

 

 

次の日、腰が痛いと言うモスティマを背負って食堂に向かうとフロストリーフが鼻息を荒くしてやってきた。

 

「ラック、見てくれ、サンタさんが私の欲しかったヘッドホンを持ってきてくれたんだ!」

 

キラキラと輝いた目で俺に見せ付けてくる。

うん、昨日俺が枕元に置いたプレゼントだ。にしてもサンタとか信じてたのか。

 

「今までクリスマスプレゼントを貰った事がなかったからサンタさんなんていないと思っていたが……私はいい子になれたという事か?」

 

……理由が重ぇよ。

俺もモスティマも優しい目になってフロストリーフを撫でた。

 

「どうした?」

 

「んにゃ。フロストリーフはいい子だなぁ……。」

 

「そうだろうそうだろう。」

 

「ラックさーん!」

 

フロストリーフを撫でているとアンセルが駆け足でやってきた。……ん?なんか本持ってるな。

 

「サンタさんからプレゼントが貰えましたよ!」

 

「そうか、何貰ったんだ?」

 

ざっと本を見せられる。

 

「なになに……?……?」

 

おかしい脳が本を理解してくれない。

二冊の本の片方はカーディとアンセルに似た二人が抱き合っていて、もう片方はアンセルと俺によく似た白髪の男が抱き合っていた。

 

「悪ぃ……俺には……よくわかんねぇ……まあ、良かったな……。」

 

頭痛い……二日酔いか?

 

「モスティマ……帰って寝ても良いか?」

 

「ダメ。」

 

「そっかぁ……。」

 

それからも出会った子供からプレゼントを見せられてようやく食堂に着いた。

 

「ドクター、見てください。私にもプレゼントがありましたよ!」

 

「ああ、良かったな。」

 

食堂ではアーミヤがドクターにうさぎのぬいぐるみを見せていた。

あのぬいぐるみはドクターが選んで、自分でアーミヤの所に置きに行ったやつだ。

喜んでくれて良かったな。

さて、飯注文しようとグムの所に向かうと既に幾つか料理が作られていた。

 

「あっ、ラックさん!見て見て、昨日サンタさんがレシピ本をプレゼントしてくれたから早速作ってみたよ!」

 

あー、俺とモスティマが色んなところで食べた料理のイメージをマッターホルンに伝えて実際に作って纏めてもらったレシピ本だ。

……あの後モスティマに食べ過ぎたと怒られた。

 

「二人で食べてみて!」

 

「あ、ああ……。」

 

背中のモスティマを見ると笑顔だった。……どっちの笑顔だ?美味しいご飯が食べられる笑顔か、また大量に食わせるのかって圧力の笑顔か。

 

「モスティマ、どうする?」

 

「じゃあ、これを貰おうかな。」

 

「んじゃ、俺こっち。」

 

空いてる席に座って食べていると、エクシア達ペンギン急便の面々が来た。

あれ、クロワッサンといつもいるバイソンがいない。

 

「残りの二人は?」

 

「二人で部屋にいるんじゃない?」

 

そういう事か。

一人で納得していると、テキサスがふんふん鼻を鳴らして俺とモスティマの匂いを嗅いできた。

 

「……ラック、後で話がある。」

 

「あ、あー……ちょっと断りてぇ……。」

 

「ダメだよ、テキサス。今日はラックのせいで腰が痛くなった私のお世話をしてもらう予定なんだから。」

 

「えぇっ!?も、もしかして二人で配達した後に……。」

 

「そんなのハレンチだよ!!」

 

黙ってりゃテキサスだけで終わってたのに……!!

恨みながらモスティマを見ると、ぺろっと可愛らしく舌を出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

・遠い日の一幕

 

「……。」

 

訓練が終わってアパートへの帰り道、寒さでマフラーを口元に上げて歩いていた。

 

「ママー、今日はごちそうなんだよね?」

 

「ふふっ、そうよ。」

 

すれ違った親子を目で追う。

ほんの数年前は俺を含めた家族五人でクリスマスの買い物に歩いてたのに、今は一人で歩いている。

片手にケーキの箱を持って急いで帰る男性、楽しそうに話すカップル、笑顔で街のイルミネーションを見る家族を眺める。

自分で選んだけど、やっぱり寂しくなる。

頭を軽く振って歩く速さを上げる。明日は訓練は無いけど、自主訓練をしよう。家族の為に強くならないと。

 

「ラックくん、おかえり。」

 

「……どうも。」

 

アパートに着くと大家さんが声を掛けてくれる。

若くて一人暮らしをしている俺にたまにご飯を持ってきてくれたり面倒を見てくれている。

 

「さっき、可愛い女の子達から預かり物をしたよ。」

 

「俺に?」

 

モスティマ達かな。あまり来ないように言ってるのに。

 

「はい、ケーキかな?」

 

「ありがとうございます。」

 

白い箱を受け取って部屋に入る。

机の上に乱雑に置いてある缶やカップ麺のゴミをゴミ箱に投げると箱を机に置く。

 

「……これ。」

 

箱を開くと少し形の悪いアップルパイが出てきた。

 

「クリスマスなのにこれなんだ。」

 

らしいなぁって笑って、早速アップルパイを六等分に分けて手掴みで齧り付く。

 

「……美味しい。」

 

自然と笑顔が浮かぶ。

一切れ二切れと食べていると、気付けば無くなっていた。

 

「……明日、ちょっと帰ろうかな。」

 

訓練する予定だったけど、家族に会いたくなってきちゃった。

帰ったら三人にプレゼント買おっかな。

久し振りによく眠れそう。

 

 

 

 






大遅刻クリスマス。

R18は気長に待っててね。
普通にデレデレの絡みより、喘ぎ声とか入力してるとこっちが悶えてくるのよ。





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三十四話:研究者ってムッツリなイメージあるよな。

 

 

 

 

「ハンドガンの訓練?」

 

急にケルシーに呼び出されたと思ったらと紙を渡された。

 

「そうだ。共通の武器を使っているオペレーター同士で教え合う事になって、ハンドガンの技術で最も優れているであろうとドクターから言われたからな。」

 

「だからって、なんで俺だけ別なんだ?他の連中はドクターの所に集合だったろ?」

 

「……逃げるだろう?」

 

「いやー、そんなことー……。」

 

「ドクターよりも私から言った方がちゃんとやってくれると思ったからな。」

 

まあ、男に言われるよりもやる気は出るけどさぁ……。

 

「やっぱめんどくせぇ。」

 

「褒美があってもか?」

 

「褒美ィ?」

 

「相手をしてやろう。」

 

「相手っつーと……夜の?」

 

ケルシーが頷く。

うっそだぁ……。

 

「引き受けてくれないのか?」

 

「怪し過ぎる。」

 

「オペレーターの強化がロドスを、ドクターを守る為に必要な事だからだ。

その為なら私の体くらいはいい。」

 

「金とか考えなかったのか?」

 

「別に困っていないだろう?」

 

確かに金は普段の配達とか仕事で足りるけどよ。

 

「それに、私だって発散したい時くらいある。」

 

「……わぁったよ。」

 

訓練なんかめんどくせぇけど、ここまで誘われてんのに断る理由もないだろ。

 

「当日は頼んだぞ。」

 

「任せな。」

 

手を軽く振って答えた。

 

 

 

 

そして当日。

予定していた訓練室には張り紙が貼ってあった。

 

『お腹が痛いので今日の訓練は中止にします』

 

訓練を受ける予定だったリスカムとジェシカとメイはケルシーの顔を見て顔を青ざめた。

 

 

 

 

「まあ、絶対何かあるし、単純にめんどくせぇ。」

 

ケルシーが訓練やっただけでヤらせてくれるとは思えねぇ。溜まってるつっても抑制する薬だってあるだろ。

 

「最近仕事出来てなかったし、溜まってんな。」

 

確か、俺がロドスに行ってる間に好き勝手してる連中がいるんだっけ。

片手に持ったファイルの中から今いる場所から一番近い物を探す。

 

「ふんふん……なんだ、ガキが多いな。」

 

他のグループもガキばかりだ。

孤児か、それともただのやんちゃなガキか。とにかく少しとは言え被害が出てるなら説教しに行くか。

 

「おっと。」

 

頭を右に傾けると銃弾が頭のあった所を通り過ぎる。

 

「今ので当たらなかったの……?」

 

振り返るとジェシカが銃を構えていた。

思ったより見つかるのが早かったと思ってこっちも銃を出して発砲する。

 

「チャージ!」

 

「ん、リスカムか。」

 

発砲音で周囲の一般人がザワつくが、俺の姿を見ると落ち着いて一定の距離を取った。

観戦する気満々じゃねぇか。

 

「サンダーストーム!」

 

「よし来た。」

 

リスカムからアーツの予兆を見て、腰から投げナイフを取ると空中で電撃を受け止めて電撃をナイフに集めて地面に投げると拡散して消えた。

 

「奥義雷返し、どーよ?」

 

極東のシノビやサムライが昔使っていたらしい技だ。本当なら刀を振って雷に指向性を持たせるみたいだけどそんな変態技術がねぇからナイフを投げて代用だ。

 

「フリーズ!なのだ!」

 

「いや、撃ってんじゃん。」

 

後ろからの銃弾を振り向いて撃つことで相殺する。

 

「銃で俺に勝てると思うなよ?」

 

今ハンドガンしか使えねぇけど。

 

「同時になら!」

 

リスカムの合図で三人が同時に撃つ。

メイの弾だけ体を傾けて躱して、正面からの二発はリスカムの弾に向かって撃つと弾が弾かれあってジェシカの弾に当たって弾き飛ばした。

 

「甘い甘い。」

 

銃を回してホルスターに収めると走り出す。仕事もあるからな。

 

「ま、待ちなさい!」

 

路地を跳ねるように走り回っていると目的の集団を見つけた。

あーあー、壁にペイントなんかしちゃって。落とすの大変なんだぞ。

 

「おーい、そこのおま「約束は、守りなさ〜い!!」うげっ。」

 

ビルの上からワイフーが落ちてきた。

まずい、厳重注意か軽くボコるくらいしか考えてなかったけど、ワイフーが勝手に大事にしそうだ。

くそっ、リスカム達ならまだ話が通じるのに。

 

「ま、待てワイフー!」

 

「言い訳無用!む、あなた達、何をしているんですか?壁に落書きするなんて!成敗ッ!!」

 

「あっちゃ〜……。」

 

ワイフーは俺を見た後、すぐ側の集団に気付くと飛びかかり、色々な過程をすっ飛ばしてフルボッコにし始めた。

 

「ラック!いい加減にしなさい!」

 

ああ、リスカム達も追い付いちまった……。

 

「俺、しーらね。」

 

ポケットから閃光玉を出して叩き付けると周囲が眩い光で包まれた。

この隙にとんずらしよっと。……なんて報告しよう。

 

 

 

 

それからというもの、行く先々で別のオペレーターによって物理的な解決がされていた。

時にはジェイがたまたま通りがかったり、チェンやホシグマが騒ぎを聞いて駆け付けていたり。

俺の仕事なんだが?それやられたら怒られるの俺なんだけど?

しかもその間も追い掛けられてるし、チェンとホシグマも後処理を別の人間に任せると混ざってきたし。何これ、レユニオンの大隊と戦うの?

階段を前宙して飛び降り、途中で後ろを確認して飛んできた銃弾を銃弾で弾く。

リスカムのアーツは空中でナイフを使って受け止めて接近してきていたワイフーやチェンに投げ返す。

 

「退いた退いたァ!怪我すんぞー!」

 

なんだなんだと街の人々が俺達を見る。

や、別に事件とかじゃねぇから、俺が働きたくなくて逃げてるだけだから。

 

「あのっ、そろそろ疲れて来たんだけどー!?」

 

流石に走りながら後ろは撃てねぇ。ゴム弾だからって痛いもんは痛い。

くっそ、これならちゃんと訓練やりゃあ良かった!!

そんなこんなで追いかけっこをしているといつの間にか袋小路に追い詰められていた。

 

「マジかっ、俺が道を間違えた!?」

 

振り返ると、追いかけていたやつらがジリジリと距離を詰めてくる。

 

「も、もうちょっと穏便に話し合いしねぇ?」

 

後ろに下がると遂に壁が背中に当たった。

 

「確かに、方法は良くないが結果的に訓練にはなった。」

 

「うげっ、ケ、ケルシー……。」

 

リスカム達の後ろからケルシーが歩いてくる。お、怒ってる?でも訓練にはなったっつってるし……。

 

「しかし、約束を破ったことに違いはない。」

 

パチンッと指を鳴らすとなんかが降ってきた。

 

「は……?」

 

なんだこいつ、見たことねぇぞ。なんだってこんなの連れて……。

 

「やれ、Mon3tr。」

 

「んぎゃっ」

 

呆然としている間に軽く頭を上から叩き潰されて気絶してしまった。

 

 

 

 

「……いってぇ。」

 

なんだっけ……確か、ケルシーのよく分かんねぇやつに気絶させられたんだっけ。お、ベッドふかふか。

 

「ここは……。」

 

「私の部屋だ。」

 

少し離れた所からの声に肩を跳ねさせた。

 

「よ、よぉ、ケルシー。元気?」

 

「これから元気になれそうだ。」

 

「そ、そっかぁ。」

 

よく見ると、いつも上に着ているコートみたいなのを脱いでいる。

 

「ケルシーの服って、コートっぽいの着てないとセクシーだよな!」

 

「お前の好みだろう?」

 

「めっちゃ好き。だから許して?」

 

「ダメだ。言っただろう、私も発散したいと。」

 

ケルシーの目が細められる。

 

「ひえっ。」

 

ベッドの隅まで下がると、ケルシーが寄ってきた。

 

「どうして避けるんだ?女を抱くのが好きなんだろう?」

 

「け、ケルシーせんせー、め、目が怖いんですけど。」

 

「いつもみたいに呼び捨てで構わない。」

 

ケルシーが上に跨って、頬を撫でてくる。

大丈夫?急にさっき気絶させてきたやつの鎌になったりしない?

 

「へ、へへへ、呼び捨てなんて照れちまうぜ。」

 

「その割には青ざめているがな。」

 

そう言うと軽くキスをしてくる。

……うん?攻め攻めな態度な割になんかぎこちない、あんまり慣れてない?

目を丸くしていると口を離して腕で顔を隠した。当然隠しきれるはずもなく、隠れてない所は真っ赤に染まっていた。

 

「……ずっと、研究ばかりしていたからな。その、あまり経験がないんだ。」

 

かっっわ……!?急にそんな一面見せてくるのは止めてくれ、心臓が止まっちまう。

なるほど……これがギャップ萌えってやつか。

 

「だから……リードしてくれると助かる。」

 

「……任せてくれ。」

 

ケルシーを抱き寄せると、腰と尻の間にある少し膨らんだ部分を触れるか触れないかくらいで撫でるとピクッと跳ねた。

 

「ッ……!?」

 

「ここ、結構良いだろ。」

 

首筋にキスをするとくすぐったいのか軽く身を捩った。

 

「ら、ラック、そこよりも……。」

 

「まあまあ、慣れてないならじっくりやるのが大事だぜ?」

 

腰、首、耳元、脇腹、腿と撫でていくと、最初はくすぐったそうにしていた反応が徐々に変わっていき、手を潤ませて息を少し荒くして俺の首に抱き着く。

合間でキスをすると、求めるように応じてくる。随分と可愛い反応しちゃって。

 

「そろそろいいか。」

 

元々の布地が少ないからこのままで良いだろ。

パンツを脱がして……おお、紐パンか。

紐を解いて、胸の部分を引っ張って下にずらすと形の良いおっぱいが飛び出す。

 

「……あまり、大きくはないが。」

 

「いんや、大きさなんて関係ねぇよ。」

 

ちゅうっと乳首に吸い付くと小さく声を上げる。

ふむ……何人も抱いてきたけど、胸が小さい方が感度が良いのは正しいのかっつー問題の答えは未だに出てこねぇや。

 

「んっ、ふっぅ……」

 

「声我慢しねぇ方が良いぜ。どうせこの部屋防音だろ?」

 

ケルシーをベッドに押し倒して服を脱ぐ。

 

「ぁ……うぅ……」

 

恥ずかしげに目を逸らす。

まるで生娘だな。

 

「よぉ〜く見てろ、こいつがこれから入るんだからな。」

 

ケルシーの喉が鳴る。

その様子をいつもと違うなと楽しみながら、ケルシーの小柄な体に覆い被さった。

 

 

 

 

「……んぃぃあふっ……よく寝た。」

 

昨日はあの後一度ヤッてからケルシーも積極的になってきて、結局何回ヤッたっけな。

 

「ふ、おはよう。」

 

「ん、はよ。」

 

目を覚ますとケルシーを抱き締めて寝ていたみたいで、彼女の顔が俺の胸辺りにあった。

いつもより緩んだ顔をする彼女の額にキスを一つ。

 

「全く、昨日ははしゃぎ過ぎた。」

 

「でも、良かっただろ?」

 

「……。」

 

「沈黙は肯定だぜ。」

 

ケラケラと笑って頭を撫でると、顔を隠すように胸に顔埋める。

 

「今日の仕事は?」

 

「……休みにしてある。」

 

こうなる事を予想してやがったな。

 

「よぅし、そんなら俺がスペシャルな朝食でも作ってやんよ。」

 

スペシャルっつってもそこまで変わんねぇけどな。

寝起きで重い体を起こそうとすると腕にケルシーが抱き着く。

 

「も、もう少し……。」

 

「……しょうがねぇなぁ。」

 

そんな事されちゃ甘やかしたくなっちまうだろうが。

結局、一時間くらいベッドでイチャコラしてしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

・もしもの一幕

 

 

「……ん。」

 

「あ、おはよう。」

 

「……おう。」

 

ゆっくりと目を開くと笑顔を浮かべたマゼランが俺の顔を眺めていた。

 

「そんなに見てて面白いもんでもねぇぞ。」

 

「だって見てないとどこかに行っちゃうでしょ?」

 

「はぁ……そんときゃ一言言うよ。」

 

こいつと出会ったのは数ヶ月前。

旅の途中で寄った町で軽く酒でも飲もうかと思って入った居酒屋で出会った。

探検って言葉に釣られてとりあえず一回だけって話で一緒に探検に行った。まさか一度よ探検に一月掛かるとは思わなかったが……まあ、無事に探検を終えて、はいさよならって所で問題が発生した。

 

『やだやだやだやだぁー!!ラックはもうあたしの探検隊の一員なのー!!』

 

と駄々をこね始めてしまって、結局ずるずると一緒にいる。

その上何度か出て行くという話をしているうちにびったりとくっついてきて寝る時、最終的には風呂でさえ一緒に入ってくるようになってしまった。

まあ、それだけ一緒にいるとヤることもヤったりもしたが。

 

「おら、とっとと起きろ。」

 

「あ〜……。」

 

「パンツ引っ張んな。」

 

なんとかマゼランを剥がしてスボンとすっかり馴染んだニットを着る。

これも最初はマゼランに似合ってるって褒めたのに数日後にはお揃いっつって押し付けられた。

サイズもビッタリだし、暖かいけど、なんだかなぁ……。

 

「いつまでも下着だと風邪引くぞー。」

 

「着替えさせて〜。」

 

「……はぁ、しゃーねぇなぁ。」

 

ばんざーいと両手を上げて待つマゼランにニットを着せると抱き着いてきた。

 

「えへへ、暖かいね。」

 

「そーだな。」

 

ため息を吐いて抱き寄せる。

最近はもう旅に戻ろうって考えもなくなってきて、このまま探検隊にいても良いと思えてきた。

 

「……次は、どこに探検に行くんだ?」

 

「一緒に行ってくれるの!?」

 

「ん。」

 

軽く頷くと、やったー!と喜んで探検のプランを楽しそうに話す彼女を俺は眺め続けた。

 

 

 

 







研究者はエロいって俺は同人誌で学んだ。

おっかしいな、一幕はもっとヤンヤンな感じにしようとしてたのに。純愛っぽくなってる。





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三十五話:選択肢は正解を選べば良い訳では無い

 

 

 

 

「なあ、ドクター。これどういうこと?」

 

「いや、すまない……。」

 

急なドクターからの連絡で食堂に向かうと、ドクターの両隣りにアーミヤとエイヤフィヤトラが座っていて、二人の前にはそれぞれパンケーキとパウンドケーキが置いてあった。

 

「ドクター!」

 

「先輩!」

 

「「どっちのが美味しかったですか!?」」

 

「……どっちも美味しかったけど。」

 

ドクターがそう言うと、急にデフォルメされた二人がポカポカと喧嘩し始めた。わぁ、漫画みたい。

 

「こらこら喧嘩すんなよ。」

 

襟を摘んで二人をひょいと持ち上げるとシャーシャー威嚇する。野生に戻ってたりしねぇよな?

 

「ちゃんと答えを出してやんねぇからこうなるんだぞ。」

 

「……参考までにラックならどうする?」

 

「俺か?俺なら……パンケーキのが好みだからそぅちを選ぶな。」

 

そう言うとアーミヤがふふんと得意げな顔をして、エイヤフィヤトラはしょもんと凹む。

 

「そんでだな、しょげた方に後で甘い言葉でも囁いてやんだよ。」

 

やってみろ、とドクターの膝の上に落とす。

 

「あ、甘い言葉か……ううむ……。」

 

ドクターが頭を抱えているとエイヤフィヤトラがハグをしてアーミヤにドヤ顔を向けると、今度はアーミヤがバタバタと暴れる。

甘い言葉も必要ねぇじゃねぇかよ。

 

「やれやれ……じゃあ選べないドクターの為に手を貸してやるか。待ってろ。」

 

アーミヤを椅子に座らせて大人しくしてるように言い聞かせると厨房に入った。

 

 

 

 

「ほれ、食ってみろ。」

 

三人の前にクッキーを置く。

 

「これは……ラックが?」

 

返事をせずにウインクで返すと三人が同時にクッキーを食べた。

 

「美味い……。」

 

「悔しいですけど……。」

 

「うぅ……。」

 

「んじゃ、このクッキーが一番美味かったって事で、もう喧嘩すんなよ。」

 

クッキーを一枚取って厨房の前のカウンターに向かう。

 

「あっ、どうだった?」

 

「グムのクッキーが一番美味かったってさ。」

 

「えへへ、良かったー!」

 

嬉しそうに笑顔を浮かべるグムを撫でるとクッキーを口に放り込む。うわ、うっま。

 

「こちらもどうぞ。」

 

横から個性的な見た目のケーキが刺さったフォークが差し出される。反射的に口に咥えると程よい甘さが口に広がった。

 

「ん〜、美味い。」

 

「はい、こっちも食べてちょ!」

 

今度はアップルパイが口に突っ込まれて、驚きながらも咀嚼する。うん、ほっとする味。

 

「どれが一番美味しかった?」

 

エクシアの言葉に動きが止まる。グムとアズリウムを見ると期待するようにこっちを見てくる。

 

「ふむ。」

 

腕を組んで考える。

グムのクッキーはサクサク感とシンプルな味が良かったし、ケーキはクリームが滑らかで甘過ぎない味わいが好みだし、アップルパイは昔から馴染み深い味でそもそも俺の好みだからなぁ。

ドクターには言ったけど優劣付け難い。

 

「うーん。」

 

首を傾げて歩き始める。

三人に見られながら食堂の出口まで向かう。

 

「う〜〜ん?」

 

「ドクターにああ言っておいて逃げるとは卑怯ではないか?」

 

「んげっ。」

 

エンシオに肩を掴まれる。チッ、真剣に悩んでる振りして逃げようと思ってたってのに。

エンシオに肩を掴まれながらカウンター席に座らせられる。

誰選んでも絶対他の二人が悲しむじゃねぇか。せめてさっきのドクターと同じ二人なら良かったのに……。

 

「あ、あ〜……。」

 

「面白そうなことしてるね。私も混ぜてもらおうかな。」

 

「うおっ、モスティマ。」

 

いつの間にか後ろからニョッキリと顔を出したモスティマが入ってきた。おいおい、やめろやめろ、ややこしくなる。

 

「じゃ、少し待ってて。」

 

思いが届かず頭を抱える。……増えた。

それから一時間くらい経ってようやくモスティマが出てきた。三人に見られてるせいで胃がキリキリしてきた。

まずいな、胃に食べ物が入る気がしない。

 

「お待たせ。」

 

「……それは?」

 

モスティマが手に持っていたのはバケツと大きな皿。これがなんだってんだ。

 

「私もこんなに大きいのに挑戦するのは初めてだから緊張するな。」

 

バケツの上に皿を乗せて思いっきりひっくり返すと、バケツの底にあった栓を取ると中に入っていた物が皿に落ちる。

 

「よい、しょっと。」

 

「こ、これは……!!」

 

モスティマがバケツを外すとプリンが現れた。

ば、バケツプリンだと!?

 

「優勝。」

 

拍手を送ると周りからジトッとした目で見られる。

 

「まあまあ、まずは食べてみてよ。アーツで時間進めながら作ったから上手く出来てるか不安だしね。」

 

「お前の作ったので不味いのがあるもんかよ。」

 

早速スプーンですくってみるとプルンと震える。

うんうん、さっきまでキリキリしてた胃でも食べられそうだ。

さて、一口。

 

「うん、美味い。」

 

「そう?良かった。じゃあみんなで食べようか。クリームなんかも用意してあるから、好きに使ってね。」

 

「じゃあグムが紅茶用意するよ!」

 

急に食堂がバタバタし始めた。

ドクター達や遠巻きに俺達を見ていたやつらも集まってパーティみたいになっちまった。

 

「そういや、なんでプリンだったんだ?」

 

「昔、お腹いっぱいプリンを食べたいって言ってたからね。覚えてないと思うけどね。」

 

「言ったような言ってないような……。」

 

「まあ、子供の頃の話だから仕方ないよ。」

 

「よく覚えてるな。」

 

「ラックの言った事なら全部覚えてるよ。」

 

「おいおい、冗談だろ?」

 

その言葉にモスティマが薄く笑って返す。

……ちょっと背筋が冷えた。体を一瞬震わせるとモスティマがするりと後ろから抱き着いてきた。

 

「うひっ!?」

 

「おや、寒かったかな?」

 

「……全くお前は。」

 

額を軽く小突く。こいつ、時々俺が気付けない動きで引っ付いてきやがって……。今も一瞬目を離しただけだってのに。

 

「はいはい、イチャイチャするのは後で!……モスティマばっかりズルいよ。」

 

エクシアが間に入って押し離すと、頬を膨らませる。

その様子を見てモスティマと目を合わせると二人でエクシアを撫でたりしてベタベタと触る。

 

「ちょ、ちょっといきなりなにさー。」

 

口では嫌そうだけど振り払う事もせず、嬉しそうな表情を浮かべる。

 

「いやいや、エクシアはいつまでも可愛いって思ってたんだよ。な?」

 

「そうだね。」

 

「紅茶出来たよー!」

 

おっと、エクシアを愛でるのも良いけど、折角の紅茶が冷えるのは良くねぇ。名残惜しいが止めよう。

 

「はい、ラックさんのは特別気持ちを込めたからね!」

 

「ほほーう、そりゃあ楽しみだ。」

 

軽く息を吹いて紅茶を飲む。

 

「流石、美味いな。」

 

そう言って隣の席にグムを座らせる。

他のみんなは既に思い思いの食べ方をしている。

その様子をぼうっと眺めていると、グムに見られている事に気付く。

 

「どうしたの?」

 

「いや、なんでも。グムも食べてみろよ、美味いぞ。」

 

「うん!」

 

最近はこういうゆったりとした日がなかったから疲れてんのかな。

今日は早めに寝るか。

 

 

 

 

「……zzz」

 

誰もが眠った真夜中。ラックの部屋にWが入ってきた。

 

「もう寝ているのね。珍しい。」

 

いつも遅くまで明かりが付いているからか、少し驚いた顔をすると、軽い足取りでベッドの傍に近寄るとナイフを取り出してラックの喉元に添えるが、まるで起きる気配がない。

 

「……自分の部屋で安心しているのか、疲れ果てたのか。どちらにせよ、警戒やドアの施錠はするべきね。でなきゃ、こんな風に寝首を掻かれるわよ。」

 

Wがため息を吐いてナイフを収めようとすると、手首を掴まれる。

 

「ちょっと、寝てるんじゃないの?それとも、寝たフリ?」

 

「……zzz」

 

部屋に入った時と同じく寝息を立てるが、手を離さず、寧ろ引っ張って腕を抱き締める。

 

「あたしはあんたの抱き枕じゃないわよ。……力つよっ。」

 

そのままずるずると引き摺られてベッドの中に入れられる。

 

「……せめてシャワーを浴びさせて欲しかったわ。」

 

Wが自分の胸に顔を埋めるラックを見てもう抜け出せそうにないともう一度ため息を吐いた。

 

「んしょっと。」

 

動かせる手を器用に使ってブラのホックを外してするりと抜き取る。

 

「はぁ、苦しかった。」

 

すると、今度はさっきは逆にラックの頭を抱く。

 

「あたしもあんたの事抱き枕にさせてもらうわよ。」

 

小さく欠伸を一つ出して目を閉じた。

 

 

 

 

「ん、んん……?」

 

やわこい何かに顔を覆われてる?いや、俺が抱き着いてんのか。

また誰かが入ってきたんだったらおっぱいの可能性が高ぇな。

んー……テキサスかラップランドかモスティマか?いやでもこの大きさはシージか……でもベッドには入ってこねぇしな。

にしても、どっかで嗅いだことのある匂いなような。まあ、顔見てみりゃ早いか。

片目を開いて目を上に向ける。

 

「あら、ようやく起きたのね。なら、少し緩めてくれると嬉しいんだけど。」

 

これ火薬の臭いかぁ!

 

「……W?なんでこんな所に。」

 

「たまたま通りがかって入ってみたら引き入れられたのよ。起きてるのかと思ったわ。」

 

「うぐ、悪い。」

 

「悪い?それだけ?」

 

「……じゃあ、なんて言やいいんだよ。」

 

「そうね。じゃあ、罰としてデートに行くわよ。」

 

「どーせ荷物持ちだろ。はいはい、付き合わせていただきますよ。」

 

パッと体を話すと、Wがぶるっと体を震わせて抱き着いてきた。

 

「今度はなんだ。」

 

「寒いのよ。あんた、こんな寒いのになんで暖房も付けてないの?」

 

「このくらいどうって事ねぇんだよ。」

 

抱き着かれたままずるずると引き摺りながら歩く。

 

「ちょっと、女性に対して酷くないかしら?あの青髪や赤髪のサンクタにも同じ事をするの?」

 

「お前にあいつらと同じ扱いってのがおかしな話だろ。それより出んだろ。シャワー浴びるからお前も部屋戻るか、俺が出るまで待ってろ。」

 

そう言うと口をへの字に曲げる。

 

「いやよ、一緒に入るわ。」

 

「あ?お前何言って━━━━」

 

「わ・た・し・も・は・い・る。」

 

「……分かった。」

 

なんだよ、前のこいつならもっとこう、笑いながらでもからかってくんのかと思ったのに。

 

「体引っ付けんな、邪魔だ。」

 

「嬉しいの間違いじゃない?」

 

おっしゃる通りで。

結局シャワーを一緒に浴びて、買い物に付き合わされた上に支払いも俺持ちになった。

買い物中は荷物で両手が塞がってる俺の腕に抱き着いてあっちこっちと連れ回された。

まあ、いつもの妖しげな笑みじゃなくて純粋に楽しそうな笑顔が見れたのが唯一の収穫か。

……仕事増やそ。

 

 

 

 

 

 

 

 

・その後の一幕

 

「おーい、来たぞー。」

 

ヴァルカンから刀と新装備が完成したという連絡がきて、部屋にやってきたんだが……。

 

「なんだこりゃ。」

 

ぐちゃぐちゃの部屋に色々な工具や部品が転がっている。入っても大丈夫なのか?

 

「ヴァルカーン?」

 

「……来たか。」

 

「うおっ!?」

 

物が置いてあって死角になっていた場所からぬるりとヴァルカンが立ち上がる。

 

「お、おい、大丈夫か?隈が酷いぞ。」

 

「……はっ、呼んだか?」

 

「寝ろ!」

 

今意識飛んでたろ。

 

「そうだな、そうさせてもらおう。

頼まれた物はそこにある。」

 

ふらふらと心配になるほどふらついた足取りで奥の仮眠スペースに向かっていく。

よく見れば、マゼランにメイヤー、クロージャまで寝ている。後、なぜだかケオベまでいる。

何日も缶詰だったんだろうな、ゼリー飲料やブロック栄養食が散乱している。

後で消化に良いもん作ってやるか。

 

「さて、と。これか。……え”っ。」

 

思わず変な声が出ちまった。

頼んでいた通り、刀と金属板に柄を着けたような剣が置いてある。それは良い。

 

「何この鞘……。」

 

なんと言うか……メカメカしい見た目になっている。なんか機能でも付いてんのか?

一旦抜いてみようと刀を握る。

 

『指紋認証。おはようございます、ラック様。』

 

「何これぇ……。」

 

刀が喋ったんだけど……この機能絶対クロージャが付けたろ。

 

『まずは付属の説明書をご覧下さい。』

 

「せ、説明書?ああ、これか。」

 

横に置いてあるやけに分厚い冊子を手に取る。表紙にはケオベが描いたであろう俺やヴァルカン達の似顔絵が描いてあった。……ちょっと感動。

それから説明書を読む。

え、鞘に納めると自動で簡単なスキャンとメンテしてくれんの?滅茶苦茶助かる。

軽く最後まで読んだ後はお粥とか胃に優しい食事を用意した。

ちなみに一番早く起きたのはケオベで腹に突っ込んで来たのは本当に痛かった。

 

 

 

 







前回と終わりが被ってるじゃあないか……次回はなんか良い感じにやります。

所で危機契約どうでした?俺はなんとか滑り込みで称号全部取れました。






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三十六話:鼻血吹き出すバレンタイン

 

 

 

 

今日は女の子が野郎にチョコをあげてあわよくば告白する一世一代の日、バレンタインデー。

いつもよりもロドス内の雰囲気もふわふわしている気がする。

そういう俺も少し浮ついている。

 

「あ、ラックさん。これどうぞ。」

 

「おっ、サンキュー。」

 

一般オペレーターの女の子からチョコを受け取る。よく見るちっちゃいやつもあれば気合いの入った見た目の物もある。

それを片手に持った袋に入れる

 

「いやー、収穫収穫。」

 

『過剰摂取は健康に害となります。』

 

ええい、うるせぇ。

お喋りなAIの言葉を聞き流しながら自室に戻ってベッドに腰掛けると袋を開いてテキトーに取ったチョコを口に放り込む。

 

「チョコ最高。」

 

バレンタインともなると、たまにちょっと上等なチョコをくれたりする。

ただあの気合いの入ったのは食べるのにこっちも気を張ってしまう。

 

「失礼しますわ。」

 

軽いノックと共にアズリウスが入ってきた。

 

「アズリウスもチョコくれんのか?」

 

「ええ、作ったお菓子の感想やアドバイスでお世話になってますので。」

 

その感想言うのもアドバイスも俺がお菓子を食べたいだけなんだけどな。まあ、役得役得。

 

「それでは。」

 

「ん、ドクターの所行くのか?」

 

そう言うと足を引っ掛けてこけかけそうになる。フードを掴んで止めるとジトッとした目でこっちを見る。

 

「……なぜそれを?」

 

「いやだって、もう一個箱持ってるし。」

 

俺以外に関わりある男ってあんまり聞かねぇしなぁ。

 

「最近では友チョコなんて物もありますのよ。」

 

「ふーん、変わってきてんだな。」

 

ちゃんと立たせてフードを放すと軽く服を整える。

 

「んじゃ、ケーキサンキュな。」

 

「ええ。」

 

さてと、早速ケーキを……。

 

「入るぞ。」

 

「……あ?」

 

なんだよ、人がケーキ食おうとしてるのに。

目を向けるとフロストリーフとアーミヤがいた。

アーミヤがフロストリーフに少し囁くとどこかに行った。アーミヤもドクターの所かな。

 

「そんで、どうした?」

 

「いや、その……。」

 

両手を後ろに回してもじもじとしおらしくする。

 

「チョコ持って来てくれたんだろ?ほら.こっち来な。」

 

「……。」

 

近くに来ると机の上のケーキを見て苦い顔をする。

 

「……アズリウスの?」

 

「ああ、ついさっきな。」

 

そう言うと俺から一歩離れる。

 

「あ?どうしたんだ。」

 

「やっぱり、渡さない。」

 

「おいおい、そりゃなんでだ?」

 

「……絶対アズリウスのケーキの方が美味しいから。」

 

なんだその可愛い理由は。

頭を軽く掻くと立ち上がって後ろに隠している物を奪い取る。

 

「あっ!」

 

「ほーう、ガトーショコラ。」

 

「かっ、返せっ!」

 

ぴょんぴょんと飛ぶが身長が届いていない。

それを横目に上を向いてガトーショコラをかじる。

 

「ふんふん……うん、美味ぇよ。アーミヤと作ったのか?」

 

軽く頷く。両手は服を握り締めて、緊張しているのか少し震えている。

 

「よく頑張ったじゃねぇか、ありがとな。」

 

「……子供扱いするな。」

 

軽く頭を撫でてやると小さく声を出す。

 

「こういう時くらい素直になれっての。」

 

「……ふんっ。」

 

俺の手を払うと早足で部屋から出て行く。

耳まで真っ赤にさせて、可愛いやつめ。

 

 

 

 

アズリウスのケーキを食べてコーヒーが欲しくなって立ち上がると扉をノックされる。

 

「ん、誰だ?」

 

多分、また女の子か?いやー、モテて困るぜ。

 

「よっ、ラップランド。」

 

「やあ。」

 

「珍しいな、お前がノックするなんて。」

 

いつもなら勝手に入ってくるのに。

 

「まるでボクが非常識みたいに言うじゃないか。」

 

「だって普段がなぁ?」

 

「そんな事言うならチョコあげないよ?」

 

「やっぱ、ラップランドって常識の塊だな!」

 

「調子が良いなぁ。」

 

貰えるもんは貰いたいんだよ。

 

「ボク特製のミルフィーユだよ。」

 

少し形が崩れたミルフィーユが置かれる。チョコを混ぜたみたいだ。

 

「んじゃ、いただきます。」

 

食ってる間、ずっとラップランドが俺の顔を見つめる。面白いもんでもないと思うけど、まあいいか。

 

「ごっそさん。美味かったぜ。」

 

「そっか、なら良かった。」

 

そう言うと気分良さげに皿を持って出て行く。

……珍しいな、あいつがこんなあっさり帰ってくなんて。

 

「次があるなら、期待しても良いんだよな。」

 

来年の楽しみが出来たな。

さてと、次は誰が来るのかとコーヒーを傾けると早々に扉が開いた。

 

「お、チェンか。」

 

「ふ、随分モテているみたいだな。」

 

「当然。」

 

ふふん、鼻を鳴らす。

 

「そんで、チェンは何をくれるんだ?」

 

「普通のチョコじゃつまらないだろう?」

 

そう言って置かれたのはチョコレートリキュールだった。

 

「あんま飲んだ事はねぇな。」

 

「次の飲みの時にでも開けると良い。」

 

「そうだな、サンキュー。」

 

「ではな。」

 

そう言ってチェンが歩き出す。

ふと机に目を戻すと酒の横に小さな箱が置いてあった。

 

「正面から渡してくれりゃいいのに。」

 

多分今頃耳でも赤くなってんじゃねぇのかな。

ボトルを片手に眺めていると赤い影がチラついて思わず刀を引き抜く。

 

「……なんだ、レッドか。せめてもうちょっとわかりやすくしてくれ。」

 

「わかった。」

 

互いに獲物を納めるとレッドが小さな包みを渡してきた。

 

「ケルシーからの、届け物。」

 

「ケルシーから?」

 

荷物を渡すとさっさと出て行った、本当にそれだけだったのか。

 

「さて、と。中身は何かな……あ?」

 

包みの中には今日に限っては特によく見る物が入っていた。

 

「チョコねぇ。」

 

ちょっと予想外だ。ただまあ、直接渡して来ないのは立場の事を考えてって事か?

大変ならチョコを用意してレッドに持って来させなくても……いや、これは失礼か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チョコレートリキュールをどうやって飲むかを考えていると扉が開いた。

 

「こんにちは、ラックさん。」

 

「よっ。」

 

入ってきたソラに片手を挙げて挨拶する。

 

「ハッピーバレンタイン!はい、どうぞ!」

 

渡されたのは……コーヒー?

 

「きっとたくさんチョコを貰うかなって思って、甘いものに合う物を考えてみたんだ。」

 

「そうだったのか、嬉しいぜ。」

 

丁度コーヒー飲んでたし、次はこれ飲んでみるか。

ほんと、気遣いがよく出来て偉いなぁ。モスティマにも見習ってほしいもんだ。

 

「あ、それとこれ!」

 

「ん?開けていいのか?」

 

小さな紙袋を開けると……なんだ、つけ耳?しかも俺の髪と同じ真っ白。多分ループスか?

困惑しながらソラを見ると、携帯端末をこっちに向けていた。

俺は無言でそれを装着すると、鳴り響くシャッター音。

 

「……はぁ。」

 

眉間を押さえて上を向くと、またシャッター音。

体の向きやポーズを変える度に鳴り響く。

 

「なぁ、楽しいか?」

 

「うん!」

 

「そっかぁ……。」

 

ソラが楽しんでるならいいや。それから虚無顔でソラから出される指示を元にポーズを変えていく。

これ、いつまで続くんだろ……。

 

 

 

 

満足したソラがよくやく帰っていった。

この短い時間でここまで俺を疲労させるとは……。

 

「ラック。」

 

「ん、ああ、シージか。」

 

「これをやろう。」

 

シージが口からロリポップを出すと俺の口に突っ込むと部屋から出て行く。

 

「……ほれらけ?」

 

つーか関節キス……あ、でもチョコ味だ。

あいつもなんだかんだ楽しんでんのかな。

そのままロリポップを舐めていると扉をノックされる。

今度は誰だ?

 

「ごきげんよう、ラック。」

 

「へぇ、二人が来るなんてなんだか意外だ。」

 

セイロンと、その後ろにシュヴァルツが控えていた。この二人が来るのは本当に予想外だ。

 

「だって、今日はバレンタインでしょう?だから私もチョコレートを用意してみたの。」

 

「二人からも貰えるなんて嬉しいな。」

 

「手作りではないけれど、日頃の感謝は籠っているわ。」

 

「味わって食わせてもらうぜ。」

 

チョコを受け取ると、今度はセイロンがシュヴァルツを前に押し出した。

 

「ほら、シュヴァルツも。」

 

「あの、私は……。」

 

「折角用意したのよ?渡さないと。」

 

「……わかりました。」

 

そうしてシュヴァルツが机の上に置いたのは可愛らしくラッピングされた箱だった。

 

「ほー……こりゃまたイメージとは違うな。」

 

「そ、そうでしょう。ですからこれはやはり自分で……。」

 

「いやいや、新しい面が見れて良かったぜ。」

 

回収しようとするシュヴアルツよりも早く箱を確保する。ふぅ、危ねぇ危ねぇ。

 

「シュヴァルツも可愛いのが好きなのよ。この前だって一緒に出掛けた時に……」

 

「あれは、セイロン様が見ていたから私も目に入っただけで……!」

 

セイロンがからかって、シュヴァルツが戸惑いながら反論をする。こう見ると姉妹にしか見えないな。

微笑ましく見ているとシュヴァルツが少し赤くした顔でこっちを睨む。

 

「……あなたのせいだ。」

 

「おいこら、俺に矛先を向けんな。」

 

「もう、そんな顔をしていると可愛くないわよ。」

 

「ですから私は別に……。」

 

「そうだわ、今度オシャレをしてラックに見てもらうのはどうかしら?」

 

「へぇ、面白そうだな。」

 

「じゃあ早速服を選びに行きましょう!」

 

セイロンがシュヴァルツの背中を押していく。

よく分かんねぇけど普段とは違う姿が見れるならいっか。

 

「忙しいな。」

 

シュヴァルツからのチョコを一つ食べる。

……可愛らしい外箱とは裏腹にビターなのか。まあ、ほとんど甘いミルクチョコだったから丁度いいか。

ビターチョコのほろ苦さをかき消すようにロリポップを咥えた。

 

「……あん?」

 

今度は妙に部屋の前が騒がしい。

バレンタインデーだからって来すぎだろ。

 

「もー、お姉ちゃん早くしなよ。」

 

「まだ心の準備が……。」

 

「心の準備がなんだって?」

 

エンヤとエンシアが軽く言い合いをしていた。

 

「……!」

 

「あーあ、出てきちゃった。」

 

エンヤが左右を見渡す。何も無いぞ。

 

「あの、これを……。」

 

か細い声でチョコを渡される。

 

「ん、サンキュ。」

 

「……むぅ。」

 

お礼を言って受け取ると今度はぷっくりと頬を膨らませる。

疑問符を浮かべていると、エンシアが背伸びをして囁いてきた。

 

「もっと喜んであげなきゃダメだよ。折角お姉ちゃんが時間かけて選んだんだから。」

 

「喜んでんだけどな……。」

 

伝わらねぇなら行動で示すか。

割れ物を扱うようにそっと抱き締めて髪を梳かすように撫でると、耳元に口を寄せる。

 

「伝え方が下手くそでごめんな、ありがとう。」

 

「……まあ、良いでしょう。」

 

上手くいった事でエンシアにピースをすると、ピースで返してくれた。

 

「むぅ……。」

 

さっきとは違う理由でジトッと俺を見る。

 

「私からもハッピーバレンタイン!」

 

「おう、あんがとな。」

 

帽子の上からくしゃりと頭を撫でる。

 

「髪型崩れちゃうでしょ〜。」

 

きゃーきゃー言いながらも楽しそうに笑う。

そのまま撫で続けていると反対の手をちょこんと掴まれた。

 

「……私にもしなさい。」

 

「へいへい。」

 

ぱったぱったと尻尾が揺れる。感情が出るから大変だな。

数分後むふー、と満足気に息を吐くと帰って行った。

他にも箱があったし、ドクターとかエンシオ達の分もあるんだろうな。

 

「にしても大量だなぁ。」

 

まあ、ラテラーノにいた時はもっと多かったけど。あの時はお返しに金が消し飛び、健康診断が怖くなったもんだ。

 

「失礼します。」

 

その声と共にフィリオプシスが入ってきた。

 

「こちらをどうぞ。」

 

「お、ありがと。」

 

チョコを受け取ると、ジッと俺を見つめる。

受け取っても出て行かないって事は、今食わないとダメみたいだ。……ちょっと胸焼けしてきたんだけど。

仕方ないと箱を開けると、でかいハート型のピンクチョコレートが入っていた。

 

「こいつは、なんとも……。」

 

「色は私の血液を混ぜてみました。」

 

「は……!?」

 

目を白黒させてフォリオプシスを見る。

 

「冗談です。ルビーチョコレートですよ。」

 

「びっくりさせるなよ……。」

 

ほっと息を吐く。マジで焦ったぞ。

すると今度は少し俯いて頬を軽く染める。

 

「しかし、愛情は込めました。」

 

「……おう。」

 

「では。」

 

言うことを全部言い切ったのか、そそくさと出て行った。

俺にはチョコを齧って唸る事しか出来なかった。

 

 

 

 

「今日だけで血糖値ヤバい事になりそう……。」

 

腹を押さえてベッドに横になる。

流石にチョコはもう食べたくない。

 

「ラックさーん!ハッピーバレンタイン!」

 

「ぐ、グム!」

 

うぐっ、来るとは思ってたけどさ。

 

「はいこれ、チョコ!みんなと同じにならないようにオペラってお菓子にしてみたよ!」

 

「そ、そうなのか、そりゃあ嬉しいな。」

 

「あーん!」

 

ニコニコと弾けるような笑顔でフォークを向けてくる。

こ、こんなの断れる訳ねぇだろ!

 

「あ、あーん……。」

 

美味ぇ、美味ぇけど……出来れば今じゃなかったらもっと良かったなぁ。

 

「どう?」

 

「ああ……美味ぇぜ。」

 

「良かった〜、味見はしたけど初めて作るから不安だったんだよね。」

 

「また作ってくれるか?」

 

「そんなに気に入ってくれたの?うん、良いよ!」

 

よし、次作ってもらう時はもっと味わって食おう。

 

 

 

 

「うっぷ……。」

 

流石にやばいかも……。ベッドの上で四肢を放り出す。

 

「やっほー、ラック。サヤからのスキャンで色んな数値が上がってるけど大丈夫?」

 

ひょこっとマゼランが顔を出す。……ん?いや、待て聞き逃せない事があったぞ。

 

「お前ら……この鞘にそんなのまで仕込んだのか。」

 

「便利でしょ!脈拍や血糖値、今日の天気なんかもわかるよ!

それにちゃんとサヤって名前があるんだからね!」

 

こいつ名前あったのかよ、見落としてたわ。

いや、それよりもだ。

 

「……それ、いるか?」

 

「今いるでしょ?」

 

「確かに。」

 

『私の計算ではもう少しで鼻血が出る確率が78%です。これ以上チョコレートを摂取する事は推奨しません。』

 

「え、マジ?」

 

そんなに食ってたのか。つーかマジで無駄な所に振り過ぎだ。

 

「この辺の機能外してもっと戦闘用の機能付けれねぇの?」

 

「ダメダメ!この子はこれだから良いの!」

 

「……そうなのか。」

 

技術者の考える事は分かんねぇな。

 

「簡易メンテナンスやスキャンは助かるんだけどなぁ……。」

 

こんな小言言ってくるAIは必要か?

 

「じゃ、体に気を付けてよね!いつかあたしの探検隊に入ってもらうんだから!」

 

そう言うと小さなチョコを一つ置いて帰って行った。一応バレンタインは意識しているらしい。

 

「でもチョコじゃないのが良かったなぁ。」

 

 

 

 

甘いのを抑える為にまたコーヒーをおかわりしていると思いっきり扉が開かれた。

 

「ハッピーバレンタイン!」

 

「おいこら、扉壊れちまったら俺の弁償になるだろうが。」

 

入ってきたエクシアの眉間を拳でゴリゴリとする。

 

「あいたたたっ!?ごめん、ごめんってば!」

 

「はぁ、そんで、チョコか?正直今日はもう甘いもの口にしたくねぇんだけど。」

 

エクシアだったら言っても良いだろ。

するとやっぱりみたいな顔をする。

 

「だよね〜、じゃあ一口だけ!後は冷蔵庫に入れて食べる時にレンジで軽くチンしてくれればいいからさ。」

 

「一口だけな。」

 

「うん!」

 

小さな箱から一切れのチョコパイを取り出して目の前に置かれる。それをフォークで一口サイズに切り分けて食べた。

 

「うん、美味い。」

 

「ん、そっか。」

 

「……なんだ、その、悪いな。本当は今全部食べて欲しいんだろ?」

 

「まあね。でも良いよ、ラックなら美味しく食べてくれるって分かってるし。

それじゃ、お返しは三倍だからね!」

 

軽く手を振って出て行く。

考えてなかったけど全部三倍か……頑張ろ。

 

「ラックー、いつも寝袋代わりにしてるお礼にこれあげるー。」

 

「うおっ!?」

 

顔を下げるといつの間にかドゥリンがいてチョコを置いていた。

 

「もー、いくらなんでも酷くない?」

 

「あ、ああ、悪かった。」

 

「私が小さいのは分かってるけどー、あんなに無視されたら泣いちゃうよ。」

 

「次から気ィつけるって。」

 

ぽんぽんと軽く頭を叩くとじとっとした視線を向けられる。

 

「全く……また寝袋代わりにさせてもらうから、よろしくー。」

 

「そんくらいなら別に良いけどよ。」

 

それじゃあねー、とふわふわした口調で帰って行った。……今思ったけど隊服の予備とかないのか?

今度代わりに申請しといてやろっかな。

そう考えた瞬間扉が開かれた。

 

「こんにちは。」

 

「よ、よぉ、アンセル。」

 

「チョコを貰ったんですけど、私はあまり甘いものが好みじゃなくて、食べませんか?」

 

「……この前予備隊の女子会にフリッフリのスカートで潜り込んで見事に溶け込んでチョコレートパフェ食ってたろ。」

 

「……何の事でしょう?」

 

「どうせそのチョコも貰いもんじゃなくて自分で作ったんだろ、食わねぇぞ。」

 

「それはちょっと困りますね。そうだ、食べさせてあげますよ。」

 

こ、コノヤロウ、最近大人しいなと思ってたら今日のためだったのかよ!

しかも胃もたれと胸焼けでグロッキーな時に来やがった!タイミング測ってたろ!?

上にのしかかって来たアルセルの腕を咄嗟に掴んで止める。多分口にチョコを入れたら最後だ。

 

「くっ、このっ!」

ポケットから小さな笛を取り出して思いっきり吹く。まあ、俺には笛の音は聞こえてないけど。

アンセルが疑問符を浮かべながらチョコを押し込もうとすると遠くから微かに声が聞こえてきた。

 

「……?」

 

早く、早く来てくれ。

 

「━━━ン。」

 

「ぉ、おおおっ!」

 

「嫌な予感が……。」

 

「ワンッ!!」

 

扉をぶち破ってカーディが現れた。

ああ……扉壊れちまった……。

 

「よっしゃ、来たかセコム!アンセルを連れて行ってくれ!」

 

「了解!」

 

「え、ちょっとまっ━━━━━━」

 

アンセルの言葉を無視して襟を掴んで入っていった。

……なんか、カーディの格好が裸に赤いリボンだけだった気がしたんだけど、疲れてんのかなぁ。

 

「にしてもこの笛、便利だな。」

 

カーディ族が行動を知らせる為に使う、ペッローにしか聞こえない笛らしい。

アンセルがよく俺の所に来るからって貰った。

 

「……ん?」

 

廊下かは全力で走って来る音が聞こえる。

ああ、まあ、他にもペッローはいるし来てもおかしくはないか。後で説明しとかねぇと。にしても誰が来たんだ?

 

「呼んだ!?」

 

「ケオヴェッ!?」

 

扉が壊れて開いていたからか、ケオベが走ったまま部屋に入って腹に飛び込んだ。

 

「さっきの音何?」

 

綺麗に鳩尾に入ったせいで軽く呼吸困難になるがなんとか息を整えると体を起こした。

 

「ほら、この笛だ。」

 

軽く吹いてやると物珍しそうに眺める。

 

「やってみるか?」

 

「いいの?」

 

笛を持つと大きく息を吸って吹くと、驚いたように飛び跳ねて耳を押さえた、よく見ると目の端に涙が見える。。

 

「うぅ、これ、うるさい……。」

 

「ああっ、思い切り吹いたからか。」

 

俺には聞こえないからよく分かんねぇけど、びっくりするくらいには大きかったらしい。

慰めるように頭を撫でて涙を拭って、俺が買ったお菓子を渡すと元気よく元の場所に走って行った。

 

「……台風みたいだな。」

 

大きく息を吐くとアンセルの持ってきたチョコを見る。これ、後でカーディかクロワッサンにでも渡すか。……結局何が入ってたんだ?

 

「どうしたんだろう……?」

 

「すごい壊れ方してる……。」

 

声が聞こえて入口に目を向けると、ムースとメランサが扉を見て驚いていた。

まあ、そりゃそうだよな。

 

「あー、ちょっと色々あっただけだから気にすんな。

それで、二人もチョコを持ってきてくれたのか?」

 

互いに頷き合うと、机に箱を置く。

開けてみれば、ムースの方は長方形の小さなチョコレートガナッシュがいくつか。そして、メランサの方はハートの形をした、多分同じチョコレートガナッシュが入っていた。

ははーん、隠す気がまるでないな?

 

「大事に食わせてもらうぜ。」

 

なんか鼻の奥ツンとしてきたけどな。

二人が緊張した顔で俺を見てくる。

……わかったよ!食えば良いんだろ!

 

「……はぐっ。……もぐっ。」

 

一口ずつ食べて上を向く。いや、違うから、これあれだから、美味し過ぎて感動してるだけだから。

 

「う、美味いぜ。」

 

「良かった……。」

 

「ほっ……。」

 

顔を見合わせて喜ぶ。うんうん、良かった良かった。

 

「あー、ところでさっきカーディが随分刺激的な格好してたんだけど、何か知ってるか?」

 

「本当にやったんだ……。」

 

メランサがぼそりと呟く。

なんでも、クロワッサンとカーディも含めた四人で話し合っていると、クロワッサンがヒートアップして提案したらしい。

カーディも賛成して、二人を置いて暴走したらしい。

 

「なるほどなぁ。」

 

「ラ、ラックさんはああいうのどう思います?」

 

「どうって……あー、嫌いじゃねぇけどさぁ。うん、バレンタインってこう、そうじゃねぇだろ?」

 

イベントはちゃんとイベントとしてっつーか、なんつーか。

 

「まあ、それはそれで喜ぶっちゃ喜びはするけど、やっぱりバレンタインっつったらチョコを貰いたいってのが本心だな。」

 

まあ、別にチョコじゃなくても良いんだけどさ。

 

「だからまあ、二人がチョコくれて滅茶苦茶嬉しぜ。」

 

そういうと二人は嬉しそうに笑ってくれた。

 

 

 

 

あれから少し話をすると他にも配るって出て行った。

その間も上向いてたけど怪しまれてないよな?

 

『鼻にティッシュを詰める事を推奨します。』

 

「……そうだな。」

 

鼻血が垂れちゃ格好がつかない。いや、ティッシュ詰めてもだけどさ。

 

「ラック、さっきの笛の音はなんだ?」

 

「!?」

 

声をかけられて後ろに振り返るといつの間にかテキサスがいて、俺を見ていた。

今のでティッシュぶっ飛んでったけど鼻血垂れてない?……あ、大丈夫だ。

 

「なんだ、びっくりさせんなよ……さっきのはカーディセコム呼ぶ為の笛だから気にすんな。」

 

笑いながら話しかけるとテキサスの視線が俺に向いていない事に気付く。どこを見ているのかと視線を追うと、机に山積みになったチョコを見ていた。

そしてゆっくりとこっちに振り向くと、色々な感情がごちゃ混ぜになった目をしていた。

 

「全く、ほんっとお前はわかりやすいよな。」

 

「そんな事はないはずだ。」

 

立ち上がってテキサスの頬を両手で挟んでもにょもにょする。

 

「……やめろ。」

 

「尻尾は嘘を吐けないぜ?」

 

ゆらゆらと揺れる尻尾を押さえる。

まだ毛先が揺れてるんだよなぁ……。

尻尾がある種族はちょっと大変だな。

 

「ほら、ポッキーゲームでもしようぜ。」

 

どうせ持ってだろうと腰のバッグを漁ると、やっぱりあったそれを口に咥えて上下に振る。

 

「私はそんなに簡単に……。」

 

「ほれほれ。」

 

サクッ、と食い付いた。チョッロ……大丈夫かこいつ。

まあ、機嫌が直るならなんでも良いか。

 

「うっわ、何これ。ちょっとあんた━━━━へぇ。」

 

「むぐっ。」

 

Wが入ってきた瞬間に最後の一口になってテキサスが俺の首に抱き着き、いや極めながらキスをする。

パキッと音がした、待ってこれ腰にもクる。

 

『首と腰に極軽度の損傷。後程冷やした方が良いでしょう。』

 

……あんがと。

 

「そう……モテモテで良いわねぇ。」

 

目が笑っていないWが足音を大きく立てて近付いてくる。

 

「チョコもこんなに貰って?女の子からキスねぇ。ふ〜ん。」

 

俺とテキサスを引き離すと肩を殴ってくる。

普通に痛い。

 

「お前何怒ってんだよ。」

 

「べっつに、怒ってないわよ。」

 

いや、絶対嘘だろ。

 

「まさか俺とテキサスがキスしてたのに嫉妬してたのか?可愛い所あるじゃねぇうぼっ!?」

 

からかうように言うと、顔を真っ赤にさせたWの拳が鳩尾に入り、思わず膝を着く。

 

「そんな訳ないでしょっ。んんっ、そこの発情狼が昼間からお盛んで鬱陶しかっただけよ。」

 

「そ、そうか。」

 

鳩尾を押さえていると、テキサスが心配そうに背中を撫でてくれる。

 

「……はぁ、悪かったわよ。」

 

こいつが謝るなんて珍しいな。

そんな事を考えながら息を整える。うん、よし、落ち着いてきたぞ。

 

「手を上げたのはあたしだから、落ち着くまであたしがいてあげるわ。」

 

そう言ってテキサスを脇に投げると代わりに背中を撫で始めた。

……うん、胃が痛くなってきたぞ。

 

「……何をする。」

 

「あらあら、歯を剥き出して怖いわねぇ。

それに耳も遠いのかしら?あたしがいるんだから邪魔者は行くのは当たり前でしょ?」

 

これさ、もし喧嘩にでもなったら俺が巻き込まれるよな。よし、逃げよう。

刀やサイフ、貰ったチョコ等を抱えると気配を完全に消して存在すらも薄れさせて離れる。

 

「抜き足差し足忍び足っと、こんな事の為に身に付けた技術じゃねぇんだけどなぁ。」

 

廊下に出た瞬間トップスピードで走る。数秒後、部屋が爆発した。大事なもんは壊れてねぇといいなぁ。

 

 

 

 

ベンチに座ってプルタブを開ける。

うーん、やっぱり缶コーヒーは合わねぇな。しかし、これがなけりゃこんなチョコは食いきれやしない。

 

「うぇ。」

 

違和感を感じて鼻に手をやると血が付いていた。やっぱり出ちまったか。けどティッシュみてぇなのは手元にねぇし、しゃーねぇ袖で拭うか。

 

「ラック、上向いて。」

 

「んぁ?」

 

声に反応して上を向くと鼻血を拭かれた。

 

「おお、モスティマか。サンキュー。」

 

「どういたしまして。焦って食べ過ぎだよ。」

 

「そう言われても、折角くれたもんだからな。

それに長期間保存出来ねぇもんだってあるし。」

 

今だってそういうのを優先して食ってたし。

 

「そんで、モスティマも?」

 

「まあね。一番最後に渡して、一番一緒にいたかったんだ。嬉しい?」

 

「そんな事言われて嬉しくない男がいる訳ないだろ。」

 

隣を軽く叩くとモスティマが座る。

 

「はいこれ。」

 

「ん。」

 

短い言葉でチョコを受け取る。

早速開いてみると小さなチョコが幾つか入っていた。

 

「鼻血出てたんだから無理しなくても良いよ?」

 

「いや、せめて一つくらいは食わねぇと。」

 

そう言ってチョコを摘んだと思うと手の中から消えた。

 

「じゃあ、私が食べさせてあげようかな。

ほら、口開けて?あーん。」

 

「え、ちょっ……。」

 

咄嗟に周りに誰もいないことを確認する。なぜか少し気恥しい。

 

「……あーん。」

 

まあ、この前のプリンとかオムライスとかでわかってた事だけど、やっぱりモスティマが一番俺の好みがわかってる。

別に他のみんなのが不味い訳じゃない、でも一番好きな味と言われるとモスティマになる。

 

「美味い。」

 

「そっか。」

 

それきり話もなくなり、俺は黙々とチョコを食べ続けた。

……また鼻血が垂れてきた。

格好つかないなと思いながらまたモスティマに拭われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

・それぞれのバレンタイン

 

「「シャー!」」

 

「ふ、二人とも落ち着いてくれ。」

 

「ドクター、こっちも食べてみてよ。」

 

「こちらも食べてくださりますか?」

 

「す、すまない。少し待っていてくれ。」

 

アーミヤとエイヤフィヤトラを落ち着かせている間にも続々とオペレーター達がチョコレートを持ってくる。

手が、手が回らない……!

こんな時にラックがいてくれればいいのだが、恐らく彼も似たような状況になっているだろう。

まあ、俺と違い軽くあしらっているのだろうが。

 

「ドクター、チョコあげる〜。」

 

プラチナがチョコを置いていくと現状をチラ見して部屋の端の方に行く。

まさか、見学するつもりなのか!?

 

「「シャー!シャー!」」

 

「ドクター!チョコ持ってきたよ!」

 

「失礼します。日頃のお礼としてチョコを持ってきました。」

 

増え続けるオペレーターにギスギスし出す室内。圧力が目に見えてきそうだ。

これを収めるには相当な努力が必要となるだろう。

 

「……いくぞ!」

 

俺の戦いはこれからだ!

 

 

 

 

「お兄ちゃん、チョコレート持ってきたよ!

もちろん、ヤーカおじさんとクーリエのもあるからね。」

 

ほう、最近ロドス内の空気が緩んでいると思っていたが、バレンタインだったか。

 

「……失礼します。たまたま、たまたま余ったので持ってきました。」

 

「……そうか。」

 

珍しい、いつもならエンシアが一人で持ってくるはずだが。

 

「ありがとうございます。」

 

「大事に食べさせてもらいますね。」

 

ヤーカとクーリエが少し顔を青くして受け取る。

ロドスにいる時のバレンタインは他のオペレーター達からのお裾分けで大量にチョコをもらってしまって、そうなると数日は食べ続ける事になる。

そう言う私の後ろにもはち切れんばかりの袋がいくつか置いてある。

しかし、妹達から貰ったチョコを残す事など私には出来ない。

二人が部屋から出て行った瞬間三人で椅子で円陣を組み真ん中の机にそれぞれの袋を下ろす。下ろす時にやけに重厚な音がしたがそれほどの相手である事に間違いはないだろう。

 

「コーヒーをお持ちしました。」

 

「よし、二人とも準備はいいな。」

 

「ええ。」

 

「勿論です。」

 

行くぞ甘味よ、この私を楽しませてみろ……!

 

 

 

 

「くぅ〜……はあ。やっと終わった。」

 

この時期も意外と配達が多いなぁ……全部チョコだけど。

見慣れた街並みに見慣れないカップルの集団を見てゲンナリとする。

 

「じゃあ、お疲れ様でした……ってあれ、クロ姉だけ?」

 

「みんなもう帰ったわ。どうせラックはんの所やろ。」

 

「ああ……。」

 

あの人も大変……いや、喜んでそうだなぁ。

 

「折角や、ウチの家で二人でパーッといかん?」

 

クロ姉の提案に腕を組んで考える。

確かに、街に出ればカップルだらけ、テレビにもカップル、ロドスの空気も数日前から甘いくらいだから僕だけ一人寂しく過ごすのは抵抗がある。いや、ラックさんが煽ってくるだろうからかなり嫌だ。

 

「行きます。」

 

その後クロ姉の部屋に着くと、着替えると言って別室に引っ込んだ。

やる事もないしとソファに座ってテレビをつけるとバレンタイン特集。うげっ、と声を漏らして消す。

そう言えば買い物とかはしてなかったけど食材はあるのかな。自分で言うのはなんだけど、クロ姉には好かれているからチョコが貰えるかもしれないと期待していたが、別室からリボンを体に巻いただけで出てきた瞬間に後悔した。

 

「う、うわぁあああ!?」

 

「逃げたらダメやろ?それに気が緩み過ぎやで。」

 

座っていたソファをひっくり返しながら後ろに転がって座り込んだまま後ずさり続けると遂に壁にぶつかった。

 

「裸だって見たんやし、そろそろ慣れてもええんやない?」

 

「裸よりも恥ずかしいでしょ!?」

 

叫びながらもクロ姉が手をわきわきさせながら近寄って来る。

 

「で、出来るだけ優しくお願いします。」

 

「はははっ……ダメやで。」

 

たすてけ

 

 

 






ようやく書き終わったバレンタイン。気付けばもう四月ですよ二ヶ月でっせ。
ぶっちゃけ途中で止めようも思ってたんすけど、折角だからって事で書き切りました。
みんな出したくなるからもうシーズン系の話は書かないんじゃないですかね。気が向いたら分かんないですけど。
書いてる間にも色々思い付いてるんで待っててくださいな。










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三十七話:人の善意を踏みにじるなんてとんでもない!

 

 

 

 

「……ん?」

 

龍門外への配達の帰り、龍門が見えてきた辺りで蹲った人影を見つけた。

 

「……。」

 

うっわ〜!あやっし!滅茶苦茶あやっし!つーか周りの岩陰に気配感じるし絶対罠じゃん!行きたくねぇよ俺!

でもまあ、蹲った人影が敵じゃなくて本当に怪我してて動けなくなってるって事も確認しとかねぇと。もしそうだったら流石に見捨てる訳にはいかない。

早速双眼鏡をカバンから取り出して覗き込む。

 

「顔が見づらいな。」

 

フードを被ってるからか顔が見えないがチラッと見えた髪は赤茶色?みたいな色をしていた。尻尾の感じからしてループスかペッローかな?

武器を持っている感じじゃねぇな。しかしかなりラフな格好だ胸が強調されて……違う違う、徒歩で移動していたのならもっとしっかりと装備やパックパックがあるはずだ。ならどこかから攫って来た?態々?

 

「とりあえず助けに行ってから考えるか。」

 

ある程度なら十分対応出来るだろ。

岩陰のやつらに気付いてない風を装いながら女性に近付く。

 

「おーい、大丈夫か。お嬢さ━━━━━━━」

 

気配が一斉に動き始めた。俺ごとハリネズミにするつもりか?

ハンドガンを抜きながら振り返り、構えられたボウガンを順番に撃ち抜く。ただ、装填されている弾丸にも限りがあるから余裕を持って避けれそうなものだけ無視する。

にしてもあの格好はレユニオン?なぜこんな所に?

 

「よっと。」

 

小脇に女性を抱えて射線の通らない岩陰に隠れる。

 

「これで一旦よし……でも無かったか。」

 

「終わりだ。」

 

女性が持ったナイフを喉から数センチの所に突き付けられた。

敵意を感じなかった。まさか、こいつらのリーダーがこいつか?

そうしている間にも周りにいたレユニオンが俺を囲う。

諦めてため息を吐き、膝を着いて両手を頭の後ろに回した。待ち伏せしてたみたいだし殺されないでしょ。

横目でサヤを見ると取り付けられているランプが点滅していた。

 

 

 

 

「ドクター!サヤから救援の信号が届いたよ!

ラックが危ないかも!?」

 

マゼランが慌てながら執務室に入ってきた。そんなものまで搭載していたのか……。

立ち上がろうとすると端末に連絡が入る。ラックの名前が表示されたそれを見てマゼランに手が空いているオペレーターを呼ぶように頼む。

 

「俺だ。」

 

『あー……悪ぃドクター。捕まっちまった。』

 

「こちらでも既に確認している。」

 

『だよなぁ。あ、カメラつけてくれ。』

 

言われた通りにするとオペレーター達が集まってきた。

そして画面には捕まって頭にボウガンを突き付けられたラックとクラウンスレイヤーが映っていた。

 

『ははは、油断しちまったよ。こんな美人さんがまさかこの中で一番強いと思わなくっで……!?』

 

「ラック!?」

 

クラウンスレイヤーが鉈の柄でラックの頭を殴り付けた。

 

『いや、大丈夫大丈夫。ちょっと頭から血が出てるだけだから。』

 

周りの男に腕を引かれて元の姿勢に戻される。

おかしい、妙に冷静だ。

 

『こっちからの要求はドクターを単身で連れてくることだ。』

 

『そうそう、この、クラウンスレイヤー、クウちゃんでいい?めっちゃいい匂いしてたぜ!』

 

「……はぁ。」

 

ため息を吐いて右手で頭を抱える。

画面の中でラックが鉈の柄でガンガンと頭を殴られている。緊張感がまるでない。

少しすると肩で息をするクラウンスレイヤーが振り返った。

 

『もう一度言う。こいつを生きて返して欲しければドクターを単身で連れてくることだ。』

 

『あ、エクシアー、晩飯までには帰るから一緒に飯食おうぜー。』

 

「はーい、待ってるねー。」

 

へらへらと笑ったラックにもう一度鉈が振りかぶられた所で通話が切れた。

やっぱり冷静にも程がある。

 

「エクシア、どうしてそんなに冷静にいられるんだ?もしかしたら殺されるかもしれないんだぞ?」

 

「えー、だって、ラックって暗殺とか潜入してたって言うけど結構捕まってるし、ちゃんと任務済ませて帰って来てるんだよ?」

 

結構捕まる……?それは暗殺出来ていると言えるのだろうか?

 

「考えてみてよ。サンクタには光る輪と羽があるんだよ?」

 

「……ああ、そういえばそうだった。」

 

「初めこそすっごい心配してたけど十回超えた辺りからみんな気にしなくなっちゃった。」

 

「そうなのか。」

 

なら、大丈夫なのか?

エクシアの言っている事は事実だろうが、とりあえず部隊を編成してラックの所に向かうことにしよう。

 

 

 

 

「いっつつぅ……。」

 

あー、吐きそう。本当に容赦ねぇなチクショーめ。

 

「あまり私を舐めるな。」

 

襟を持って引き寄せられる。

 

「……んべっ。」

 

舌を出してやるとピキッと青筋が立った。

 

「おおっと、可愛い顔なのに怒るもんじゃなっわぶっ!?」

 

地面に顔面を叩き付けられて踏まれる。

随分切れてやがる。ついでに口の中が切れちまった。

 

「ぺっぺっ!あー……なあ、タバコ吸わせてくれよ。」

 

「……。」

 

「なー、良いだろー!タバコタバコ!ニコチンキレちまったよ!ターバーコー!」

 

「チッ、吸わせてやれ。」

 

「おー、言ってみるもんだな。左の胸ポケットに入ってるから頼んだ。」

 

近くにいた兵士がタバコを取り出して口に咥えさせて火をつけてくれる。

 

「……ふぅー。全く、犯罪者向いてないんじゃねぇの?」

 

タバコのフィルターを噛み潰して目を瞑って真上にタバコを吹き出すと光が周囲を包む。

 

「一応無力化したからって拘束してないのはダメでしょ。」

 

ギリギリ手が届く範囲にあった大剣を掴み取って一回転しながら振り回すと囲んでいた兵士達の首に当たって骨がへし折れた音がする。

 

「おお、いい耐久性。」

 

刀と銃を拾ってマガジンを差し直すとクウちゃんが俺を睨んでいた。

 

「……態と私に当てなかったな?」

 

「ほら、俺って女の子大好きだからさ。」

 

もう一つ青筋が立つ。

チッ、まだこの剣が使いこなせてないか。本当ならクウちゃんの細首もへし折ってやるつもりだったのに。

 

「こんなぶっとい剣が当たっちまって泣かれると困っちゃうだろ?」

 

内心を晒さずにへらりと笑うとクウちゃんが消えた。

 

「うおっ」

 

反射的にしゃがむと後ろにクウちゃんがいて鉈を振り切っていた。危うく首が刈られる所だったぜ。

 

「厄介だな。」

 

大剣で鉈を防ぎながらゆっくりと後ろに下がる。

 

「おっと、まだまだっ、ほら、隙作りたいんだったらこうセクシーなポーズをしたりすればいいと思うぜ?」

 

攻撃が激しくなる。これ刀だったらまた折ってたかも……。

遂に上からの大振りな攻撃になる。

 

「待ってました。」

 

半身で避けて鉈の背を踏み付けると剣先を真っ直ぐ突き当ててグリップのスイッチを押す。すると剣先の両端がスライドして地面に突き刺さり鉈を固定した。

 

「とーうっ!」

 

そのまま突き刺さった大剣のグリップを軸に飛び上がって両足で蹴り飛ばす。

クウちゃんは咄嗟に鉈を手放して後ろに飛んだが少し痺れたみたいで軽く腕を振っていた。

距離が空いた所に無事だった何人かがボウガンを向けてきたが先にボウガンに弾丸をぶち込んで壊してやる。

 

「囲んだからって油断をするな。武装解除したからって慢心するな。自分達が上だと思うな。それがお前らの今回の敗因だよ。」

 

クウちゃんの足に向かって発砲すると後ろに下がりながら物陰に隠れた。

大剣のスイッチを押してスライドを戻すと背中に担ぎ直して、鉈をクウちゃんとは別の方向へ蹴り飛ばすと銃を構えながら龍門に向かう。

 

「んじゃな。」

 

一定の距離が取れた所で煙玉を辺りに撒き散らしながら全力で龍門に走る。

流石に負けはしないけど、勝つ事も難しそうだからな。

 

「……クウちゃんクラスが二人いたら死ぬなぁ。」

 

Wがこっちに来てくれて本当に良かったと息を吐いた。

しかし、まあ、今度会った時の為の準備はしておいた方が良いだろうな。

あんな飛びっきり可愛い女の子に手を出したくはないんだけど━━━━━━

 

「次会った時は確実に殺す。」

 

 

 

 

「おー、ドクター。ご苦労さん。」

 

龍門の入口付近でロドスのヘリを見つけてドクターに連絡を入れると、近くのヘリポートで合流した。

 

「無事で良かった。」

 

「んだよ心配しててくれたのか?よし、今度俺がオススメの店を紹介してやるよ。」

 

ガシッと肩を組みながらヘリに乗り込む。

 

「あ、ラックおかえりー。」

 

中でエクシアがじゃがりこを食べていた。なんでじゃがバターじゃないんだ。

 

「ラック、あーん。」

 

「あーん。」

 

うまい。

サクサクと食べているとヘリが動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

・ある日の一幕

 

 

「かっとばせー、おーれ!」

 

バットをぐるんぐるんと振り回しながらバッターボックスに立つ。

なんで立ってるか?クオーラに誘われたんだよ。

 

「こいやぁ!ミッドナイトォ!!」

 

「……ふっ!」

 

ミッドナイトがボールを投げる。回転と方向を見て予測する。

 

「うおっしゃあ!」

 

キンッ!と良い音が鳴り響いて空へと飛んでいき……

 

「あ」

 

ガシャン!と大きな音を立てて窓ガラスをぶち破った。

 

「あ、あわわ、あそこってケルシー先生の研究室じゃなかったっけ……?」

 

「えっ」

 

マジかよやべぇじゃん怒られるよ。そう思っていると向こうからブチ切れたケルシーが歩いて来た。

 

「今のは……誰だ?」

 

その瞬間全員が俺を指さした。マジかこいつら、今さっきまで仲良く野球してたじゃん!?

 

「ほう、ラックか。」

 

「すみませんでした。」

 

ケルシーが目の前に来ると速攻で土下座をすると、頭に足を乗せられて踏みにじられる。

 

「危うく研究室が爆発する所だったんだ。分かっているな?」

 

「いくらでも使ってくれ。」

 

「ではまずは研究室の掃除と窓の交換、その後は私に食事を作ってから書類整理をして助手として薬品を持ってきてもらおう。」

 

うへぇと嫌な顔をすると睨まれる。

ああ……今日の俺の素晴らしい休日の予定が……。

 

「悪ぃな、つーわけで俺はここまでだわ。」

 

じゃあな、と手を振るとみんな振り返してくるが、ミッドナイトだけは頬を引き攣らせていた。

 

「……なんだが、上手く使われた気分だ。」

 

 

 

 

 







ケーちゃんのきのこ迷宮のあれは絶対に許さない。
クランタ娘も書きたいなぁ、既に投稿されているやつはヤンデレ系が多くて嬉しい。
次はマンティコアかニアール家あたりの話書きます。





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三十八話:見えないあの子

 

 

 

休憩室で仕事の疲れを癒す中で一人の少女がある決意を固める。

 

「今日も……お友達を作ろう。」

 

少女、マンティコアが手をぐっと握る。

 

「でも……前と同じ人ばかり……。」

 

どうしようと頭を悩ませていると何かに気付く。

 

「うっ……ラック、さん……。」

 

ロドス内を散歩中にあまり良い話を聞かないため、少し及び腰になる。

 

「が、頑張るっ……!」

 

ゆっくりとラックに近付くと、ラックの隣でシージが寝ている事に気付く。

完全にリラックスして、肩に体を預けていた。

 

「良いなぁ……仲、良さそう。」

 

それを気にもとめずに本を読んでいるラックに少し興味を持ったマンティコアが横から本を覗き込む。

 

「……っ!?」

 

「ん?」

 

ガタンッ、と驚いてテーブルにぶつかる。

 

「え……えっちな、本……。」

 

なんでこんな所で読んでいるの?初めて見た、と頭を混乱させていた。

 

「……ん〜?お、よし、みーつけた。」

 

 

 

 

急にテーブルが揺れたから何かと思った。

イーサンかと思ったけどあいつはこんなのじゃ動揺しねぇし。

他にいたようないなかったような……。

感覚を研ぎ澄ませて、しっかりと見るために目に力を入れる。

 

「……ん〜?お、よし、みーつけた。」

 

両手を少し大袈裟に動かして頬を挟むとようやく全体が見えた。

 

「マンティコアだっけ?」

 

ここまで近付かれて気付けないのは初めてだ。いや、モスティマにもか。

 

「それで、なんか用でもあったか?」

 

「えっと……その……。」

 

両手でカップを持って可愛らしくもじもじと照れる。

そんなに照れるとは……なるほどな、我ながら罪深い男だ……。

 

「お、お友達になってください……!」

 

「……友達?」

 

急に頭を下げらせて疑問符が浮かぶ。

勘違いは放っておいて、とりあえず話を聞いてみると背中を預けられるくらい安心出来る友達が欲しいけど、認識されなくて友達を作る所から難航しているらしい。

 

「友達ってこういう作り方だったっけなぁ……。」

 

俺の時は確か……しまった。俺もガキの頃はいねぇ。けど、今の友達?悪友?は大体いつの間にか出来てたからな。

 

「まあ、俺で良いなら友達になるぜ?」

 

バッ、と上げた顔はさっきまでおどおどしていた様子とは違い、目をキラキラと輝かせた。

 

「ほ、ほんとに……?」

 

「嘘ついてどうすんだよ。」

 

「友達が出来た……!」

 

そんなに感動する事か?……いや、この子からすれば感動する事なんだろうな。

それからは話し続けるマンティコアに相槌を打った。友達に話す為に色んな話題を考えていた話で思わず泣きそうになってしまった。健気すぎるだろ……。

 

 

 

 

「そういえば最近風俗言ってないな。」

 

思い立ったらすぐに行動と言う事で早速連絡を取ると、アンセルとバイソンは乗ってきた。さて、もう一人はどうするか……。

 

「そうだ、ドクター誘ってみるか。」

 

記憶失う前はともかく、今は経験とかないだろうからな。

 

「お、ドクターもノリが良いな。」

 

二つ返事で返ってきた。あいつも溜まるものがあるだろうからな。

決行は明日という事で話が纏まった。

 

 

 

 

「……さて、と。」

 

風俗に行くのは良いが、最近の俺の周りの状況が良くない。

ケルシーと寝た辺りから、妙に監視されているような気がする。

予想以上に束縛が激しい、さっきからレッドに尾行されてるからな。それだけ好かれている事だろうから嫌いじゃないが。

部屋に入ると必要ないものは全て置いて天井の一部を外して天井裏に入る。

 

「じゃあ、留守番よろしくな。」

 

『いってらっしゃいませ。』

 

 

 

 

「約束の場所はこの辺りだけど……おっ、バイソン!」

 

「あ、ラックさん。」

 

「なんとか抜け出せたのか。」

 

ドクターの私服は珍しいな。悪目立ちしないようにいつものマスクを外して目元が見えるようにしているみたいだ。

 

「抜け出せた?僕はドクターと一緒に食事すると言って正面から出てきましたよ?」

 

「……俺、レッドに尾行されてたんだけど?」

 

「日頃の行いですよ。それよりも、アンセルは?」

 

「見てないけど……ん?」

 

服の裾を引かれて振り返ると、長い白髪をツインテールに結んだフリフリの服を着た可愛らしい女の子が……女の子?

 

「……アンセル?」

 

「「え!?」」

 

「残念、バレちゃいましたか。」

 

ちぇっ、とイタズラが失敗したような顔をする。

 

「私の方もなんとか逃げられましたよ。」

 

「大変だったな。」

 

そして着替えてくると言って近くの路地裏へ入って行った。大きな手提げだと思ったら服か。

 

「お待たせしました。行きましょうか。」

 

「ん。そうだな。」

 

 

 

 

二十分程度歩いて目的の店に着いた。

 

「おお……ここが。」

 

「なんだドクター、緊張してんのか?」

 

「前はどうだったかは知らないが、こういう所には来た事がないからな。気軽に一人で出歩く訳にもいかないしな。」

 

ドクターの立場を考えればそうだろうな。

 

「いいから入るぞ。アンセルが我慢出来なくて貧乏ゆすり始めたからな。……なぁ、それ禁断症状的なやつじゃないよな?」

 

「……。」

 

「怖いから無言の笑顔で返すな。」

 

ため息を吐いて店に入る。バイソンも慣れたもんで、自然に店に入る。

 

「いらっしゃいませ。ご新規様がおひとりでよろしいですか?」

 

「ああ。」

 

「凄いな、ひと目で俺だけが初めてと分かるのか……。」

 

「お褒め頂きありがとうございます。しかし、こちらの御三方はこの辺りでは有名ですので。」

 

まあ、俺はこの辺りの管理人だし、アンセルは自分では見習いと言うが医師として貢献しているし、バイソンは質の悪いやつをぶっ飛ばしたり困っている人を助けたりして知られているらしい。ただ、偶然なのかなんなのか助けるのが女の子ばかりで偶に告白されたりするそうだ。

 

「なるほど……。」

 

感心したようにドクターが呟く。

 

「そんな事より、今日はどうだ?」

 

「丁度よく皆さん空いてますよ。」

 

ツイてるな、さてどうしようか。

 

「私はいつもの彼女達で。」

 

「天使と悪魔セットですね。既に準備は出来てますのであちらでお待ちください。」

 

いつもので通じるって、こいつ何度か一人で来てるな。

 

「僕はこのヴァルポの子で。」

 

「んじゃ、俺はこのリーベリの子な。」

 

バイソンは金髪の少しキツそうな女の子を、俺は黒髪の少しぼーっとしてそうな顔の女の子を選んだ。

 

「かしこまりました。ご新規様はどう致しましょう?」

 

「うぅむ……。」

 

「初めてだってんならペッローなんてどうだ?

明るい子が多いからよく話してくれるから気まずくならないし、プレイ中も結構積極的だぞ。」

 

「そうなのか?じゃあ、ペッローのおすすめの女性で頼む。」

 

「それでしたら、こちらの子は如何でしょうか?」

 

「おお……じゃあこの子で。」

 

ドクターは明るい茶髪の子にしたみたいだ。

 

「では呼んできますのであちらの方で少々お待ちください。」

 

待合室に入るとドクターがまたソワソワと落ち着かなくなる。

 

「その、なんだ、これからするんだよな?」

 

「当たり前だろ?そういう所なんだから。」

 

見てみろ、とアンセルとバイソンを指差す。

 

「へぇ、そんな事してるんだ。」

 

「二人とも可愛いですよ。サルカズの方は寂しがり屋さんですから、少し無視しているといじけちゃってそれがまた可愛いんです。サンクタの方は余裕そうな顔をしているんですが、責め続けると喘ぎ声が漏れ始めて泣いちゃうんですよ。」

 

「そ、そうなんだ。僕はまだ普通のプレイで良いかな……。」

 

楽しんでんなぁ。

 

「な?」

 

「二人がこんな話をしているのは意外だな。」

 

「アンセルは割とするぞ。バイソンもアンセル程じゃないけどこういう話は好きだしな。」

 

「お待たせしました。こちらへどうぞ。」

 

おっ、呼ばれたか。

 

「まあ、楽しんで来いよ。」

 

「……たまには、ラックに倣ってみるか。」

 

たまにはってなんだよ。

 

 

 

 

「……あ、よろしくです。」

 

「ああ、今日は頼むぜ。」

 

「えと……部屋へご案内します。」

 

腕に抱き着かれて部屋に向かう。

 

「うおっ!?」

 

歩いていると急に腕を引かれて、何があったのかと見ると……なんと言うか、寝ていた。

 

「はっ……寝てません、寝てませんよ。」

 

首を振って気付けをしてまた歩き出す。

 

「ふぁ……あふぅ……。」

 

「おーい、また寝てるぞ。」

 

「むにゃ……寝てましぇん。」

 

歩いていた足が止まって完全に体を俺に預けるように倒れてきた。眠かったんだろうなぁ……。

 

「いやいやいやいや、そうじゃないだろ。」

 

流石に寝てもらっちゃ困る。

可哀想だけど、起こそう。

 

「こら、寝ちゃダメだろ。」

 

「ふぇ……あ、ごめんなさい。」

 

くしくしと目元を擦る。

 

「ああ、待て待て、メイク崩れちゃうだろ。ほら、ハンカチで拭いてあげるからこっち向きなさい。」

 

「んぇ……ありがとぉ、おとーさん。」

 

「誰がお父さんだ。」

 

「……はっ、おはようござ……寝てませんよ?」

 

「無理があるだろ。」

 

ピシッと背筋を伸ばして再度歩き出す。……三歩目には覚束無くなったが。

ようやく部屋に着いてベッドに腰を落ち着かせた。

 

「あの……さっきはすみません。」

 

「いや、まあ、一部のリーベリの子はこういう事があるって知ってるから俺は気にしねぇよ。」

 

フィリオプシスは鉱石病だが、サイレンスもよく寝ていたり、眠たげな印象がある。

 

「ただ、怒る人は怒るから気を付けろよ?」

 

「……おとーさん。」

 

「お父さん言うな。」

 

そう言うとふにゃりと表情を緩ませる。なんだ、表情が硬いのかと思ったけど可愛い顔も出来るじゃねぇか。

 

「頑張ってサービスしますね。」

 

「頼むぜ。……いや、ほんとに。」

 

流石にプレイ中に寝るなんて事しないよな?だよな?

 

「大丈夫です。私、敏感なので、眠れません。」

 

「寝ようとした事はあったのか。」

 

「……。」

 

目を逸らすな。

 

「えと、それよりシャワーしませんか?それが良いです。」

 

「……そうだな。」

 

切り替え切り替えっと。

 

「ん?」

 

視界の端に誰かが見えた。いやいや、ここ個室だし俺達以外にいる訳が……。

目だけを動かして横を見る。

 

「……メモメモ。」

 

マンティコアがいた。

え、嘘だろ。なんでいんの?しかもなんかメモってるし。ここは帰すべきだろうが、ここでマンティコアに話かけると見えてない嬢にどう説明すればいいんだ……。

…………………………いいや、このまま続行しちまおう!気付いてないフリしとこう、それが一番穏便に済む。

シャワーに入るために服を脱ぐと小さな悲鳴が聞こえた。

 

「……ぅわあ。」

 

両手で顔を隠しながら指の隙間からチラチラと見てくる。もう堂々と見ろよ。

 

「熱く、ないですか?」

 

「大丈夫だ。」

 

「では、失礼しますね。」

 

程よい温度のシャワーが体に当たり、軽く雑談を交えながら体を洗われる。

 

「はぁ……。」

 

湯船に浸かるとため息を吐く。これ、ヤるとこまでいるんだろうなぁ。見られながらとか初めてだから勃つのか分かんねぇぞ。

 

「あの……すみません……。」

 

「っと、悪い悪い、怒ってる訳じゃないから気にすんな。」

 

歯を磨きながら頭を悩ませる。

しかし、あれだな。この子、思ってたよりずっとでかいな。

嬢は薄着だから着痩せとかしないと思っていたが、ブラで結構抑えてるのか?苦しくねぇのかな。

膝の上に乗った彼女の胸を空いている手で揉んでみるとふわふわとした感触が手に伝わる。ほぉ……これはこれは……。もしかしたらシージくらいあるな?

 

「んっ……。」

 

ピクリと小刻みに体を震わせる。ほんとに敏感なんだな。

うがいをして体を拭いてベッドに腰掛けると丁度マンティコアが真正面に来る。

背筋に冷や汗を流しながら嬢にキスをする。

 

「……ほわぁぁ。」

 

プレイが進む度に熱心に何かをメモに書き足していく。

参考になる事でもあるのか!?これに!?

さあ、いざ本番する事になった。流石に俺でもこんな状況で勃つ訳──────

 

 

 

 

 

 

 

 

めちゃくちゃよかった。

 

 

 

新たな扉を開いた事に達成感を感じながら外へ出ると既に他の三人がいた。

 

「よぉ、ドクター。どうだった?」

 

「ああ、悪くないものだ。」

 

「そっか。なら誘ったかいがあったってもんだ。」

 

さて、とドクターを覗いた俺達三人は懐から消臭剤を取り出して全力で体に吹き付ける。

 

「……何をしているんだ?」

 

「ドクターもやっとくか?鼻の良いオペレーターにバレたら面倒だろ?」

 

「用意周到だな……。」

 

呆れながらも消臭剤を受け取って吹き付ける。そりゃあ何度もやってるとな。

いやー、今までなんて事無かったのに風俗から帰って来たらテキサスやメランサなんかの鼻の良いオペレーターに速攻でバレて焦ったもんだ。

 

「んじゃ、飯食いに行こうぜ。俺の好きなラーメン屋があるんだ。」

 

「ラーメンか、良いな。」

 

「でも、いっつも同じ所ですよね?」

 

「私はあのお店の味好きですよ。」

 

バイソンが文句を言う。お前だってあの店好きだろうが。

 

 

 

 

店に着いてラーメンを注文すると、隣からくぅ、と腹が鳴る音が聞こえた。

 

「……ッ。」

 

「……チャーハンも追加で。」

 

これなら違和感ないだろう。

 

「珍しいですね、いつもはラーメンだけなのに。」

 

「腹減ってんだよ。」

 

軽く話しているとラーメンとチャーハンが置かれて、チャーハンをマンティコアの前に移動させる。

 

「え……?」

 

「おら、お前ら喋るのも良いけど、熱いうちに食わねぇと美味くねぇぞ。」

 

話に夢中になっている三人を軽く注意しながらマンティコアの頭を撫でる。

 

「あの……ありがとう。」

 

「ん。」

 

んじゃ、俺もラーメン食うか。

 

「……そっちもちょっと食べてみたい。」

 

結構我儘じゃねぇか……。

俺は無言でラーメンを違和感が無い程度に横にズラした。

 

 

 

 

「よし、じゃあお前ら気を付けて戻れよ。」

 

そう言ってロドスの入口から少し離れた所のダクトに入る。

 

「はい。」

 

アンセルは来た時同様にフリフリの女装をしている。

 

「僕とドクターは正面からでも大丈夫ですからね……?」

 

「むしろそんな事をするからやましい事があると疑われるんじゃないのか……?」

 

「モテる男は大変なんだぜ?じゃあな。」

 

ふふん、と鼻を鳴らした。

明日はたっぷり寝て過ごすかな。そう思いながらダクトや天井裏を経由して自室に戻った。

 

 

 

 

「……んが?」

 

ふと周囲の様子がおかしい事に気付いて目を覚ます。

 

「ふぁ……んだよ……ひぇっ。」

 

Wとテキサスとラップランドにケルシーが立っていた。

 

「随分と楽しんできたようねぇ?」

 

「消臭剤で誤魔化しても無駄だ。」

 

「まあ、ボクはラックの事を理解してあげているけど……気分は良くないよねぇ。」

 

「……良い度胸だ。」

 

……あれだな、エクシアとモスティマって優しかったんだな。

 

「既にお前以外の三人は連れて行かれた後だ。」

 

「まあ、予想通りだ。」

 

あの三人はそうなるだろうと思ってはいたけど、まさか俺までとは……。

軽く頭を抱えていると、テキサスとラップランドが両隣に座って何度も匂いを嗅いでくる。

 

「ど、どうどう……。」

 

頭を押さえ付けて距離を離す。

 

「んんっ、とりあえずだな。別に俺が風俗に行ったって良いだろ?

俺が好きだから束縛したくなるってのは分かるけどさ。」

 

いやー、モテてつれぇわ〜。

 

「なら、その通りにしよう。」

 

「……んぇ?」

 

テキサスの目にも止まらぬ早業で手を後ろで結ばれた。

 

「うっそぉ……。」

 

「捕縛には慣れている。」

 

「そういう問題じゃないだろ。」

 

さてさて、ここで問題。左右に狼、正面に爆弾魔と寂しんぼ猫、俺はこの後どうするか。

 

「昨日ヤッたばかりだからお手柔らかに……。」

 

下手に刺激しないように大人しく食べられるだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

・ある日の一幕

 

 

 

 

たまには真面目に訓練でもくるかと訓練室に来てみると先客がいた。

確か、少し前に加入した……ユーネクテスだっけ?

ふむ、少し話してみるか。

 

「やあ、どうも。そちらも訓練ですか?」

 

「……ああ。」

 

今気付いたようで少し返事に間がある。

 

「良ければ私と一つお手合わせでもしませんか?」

 

「その気持ち悪い喋り方を止めたら考える。」

 

「気持ち悪いなんてあんまりな言い方じゃねぇか。んで、止めたけどやるのか?やらないのか?」

 

「いいだろう。」

 

「そう来なくっちゃ。」

 

にしても刺激的な格好をしている。部族の出身って聞いたが、こんなもんか?俺の知ってる所はもうちょっと慎みがあったと思うんだが。

まあ、非常に目に優しいから良いか。

 

「……私に気でもあるのか?」

 

「あん?」

 

「私の胸を見ているだろう。」

 

気がないと言えば嘘になるけど、今日はそういうつもりじゃなかったんだけどな。

まあ、いっか。

 

「どうすればあんたを抱けるんだ?」

 

「簡単な事だ。私に勝ってみせろ。」

 

「なるほど、分かりやすいな。

サヤ、装備の調子は?」

 

『いつでも万全です。』

 

「最高だな。」

 

行くぞ、と踏み込む瞬間、今の今まで感じていたユーネクテスの覇気が霧散して困惑する。

 

「お、おいおい、やるんじゃねぇのかよ?」

 

折角ヤる気よりも殺る気のがあるんだから萎えさせるなよ。

 

「その、武器は喋るのか?」

 

「あ?ああ、正確には鞘だけどな。クロージャがやってくれた。」

 

「ランセット姉さまと同じ……。」

 

は?今こいつなんつった?ランセット『姉さま』?

 

「さっきの言葉は撤回する。その鞘を抱かせてくれたら良い。」

 

妙なプレッシャーを放ちながらジリジリと距離を詰めてくる。

 

「お、おい。どういう……。」

 

『ラック様、撤退を提案します。』

 

「サヤ!?」

 

「ふふふふ、サヤ姉さま……。」

 

既に姉さま扱いかよ……。

 

「チッ!サヤに触りたいならそれこそ俺に勝ってみな!」

 

「いいだろう。」

 

「は┈┈┈┈┈┈┈」

 

瞬時に切り替えて斬り掛かってきたため、急いで背中の大剣を引き抜いてユーネクテスの斧のような武器を防ぐ。

 

「おっも……!?」

 

思わず膝を着くと大剣を斧で引き下げられて武器を持って無い方の手で側頭部を殴られた。

 

「いや……マジかよ。」

 

脳が揺れてべしゃりとうつ伏せに倒れると近付いてきたユーネクテスがサヤを抜き取って抱き締めながら撫で始めた。

 

「ふ、ふふ、ふふふふふふ……!」

 

『ら、ラック様、助けてください。』

 

不甲斐なくてすまん。

そのまま気絶して、目覚めた時にはガヴィルがユーネクテスに説教をしていた。

 

 

 

 





アークナイツのフィギュアがたくさん出ていて嬉しいですね。俺は金がないです。しかも時計で倍プッシュ。やっぱつれぇわ……。






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三十九話:疑惑

 

 

 

 

温室の木陰で寝転がって本を読んでいると、妙な視線を感じた。

ラナ達ならすぐに声を掛けてくるだろうし、警戒じゃなくて興味があるみたいな視線だ。

視線を向けてくる方に目を向けて見ると、小さな驚きの声と共に姿を隠した……目立つ尻尾が草むらからはみ出ているが。

あの特徴的な尻尾、というか尻尾が複数あるのはスズランだろう。気配としては後二人いるみたいだが姿が見えない。

 

「はぁ……しゃーない。」

 

このまま出て来られないのも面倒だ。とっとと話を聞こう。

 

「へい、お嬢様方。俺に何か御用で?」

 

「「ぴゃっ!?」」

 

「ッ!?」

 

上から覗き込むとスズランとシャマレとポプカルがいた。

 

「え、えっと……その……。」

 

スズランが二人の前に出てきて言葉を詰まらせる。もしかしてまた怖がられてる?

ため息を吐きながらしゃがむ。

 

「ゆっくりで良いから。」

 

「はっ、はいっ。」

 

何度か深呼吸をして落ち着けると顔をずいっと突き出してきて思わず体を後ろに引く。

 

「一緒に遊んでくださいっ!」

 

「……ああ、うん、わかった。」

 

そう言うと三人が笑顔になる。

そんなに緊張する事なのか?

すぐにかくれんぼをすると言う話になって、まずは俺が鬼になった。流石にロドス全体だと見つけるのに時間がかかるから温室内のみにしたけどな。

三十秒くらい数えながら思い出す。そういえばドクターも遊んだって言ってたっけ。

 

「さーんじゅっと、探すか。」

 

気配は……

 

「流石にそれはダメだろ。」

 

遊びなんだからすぐに見つけちゃ楽しめないだろ。

ため息を吐いて、足元を見て草が潰れている所を……

 

「だからダメだっての……。」

 

クセになってんのかなぁ。

普通に探そう。

 

 

 

 

スズランとポプカルを見つけてシャマレを探す。

 

「……いないな。」

 

温室の中は粗方探したんだけど、もしかして外に出ちまったか?

 

「しゃーねぇか。サヤ、ソナー。」

 

『はい。』

 

「きゃっ!?」

 

「うぅ……。」

 

ん?急にスズランとポプカルが耳を抑えた。音を鳴らしてその反射を利用したソナーだけど、もしかして聞こえていたのか?

 

「悪ぃな。我慢してくれ。」

 

端末とサヤを接続して、ソナーの反応を見る。

 

「……ん?」

 

『ラック様、シャマレ様はあの木の上にいます。』

 

ソナーの反応のある方の木を見ると、温室でも一際大きな気があって、その木の下にモルテが落ちていた。どうも降りれなくなったみたいだ。

 

「スズラン、持っててくれ。」

 

「は、はい。」

 

刀と銃を地面に置いて木を登っていく。

 

「見つけた。」

 

「う、うぅ……怖くない、怖くない……。」

 

太めの枝に座って蹲るシャマレを見つけて思い切りジャンプして、すぐ横に飛び乗る。

 

「きゃぁああ!?」

 

「落ち着け、俺だ。」

 

「ら、ラック……。」

 

「いないから心配したんだ。とっとと降りるぞ。」

 

優しく抱き上げると木から飛び降りる。

 

「きゃあああああ!?!?」

 

くるくるとねこちゃんのように回転しながら落下して着地する。

 

「ほい、到着。」

 

シャマレを下ろそうとすると、ガッチリと首に抱き着いて離れない。

 

「……しゃーねぇな。」

 

心配そうにシャマレに声を掛けるスズランとポプカルを見て、次は安全な遊びにする事に決めた。

いや、俺は悪くないんだけどさ

 

 

 

 

「おーい、ラナー。」

 

「あら、どうしたの?今日はお兄ちゃんの日かしら?」

 

「そんなとこだ。摘んでも良い花ってあるか?」

 

「そうね……あっちのなら良いわよ。」

 

指を指す方を見ると色とりどりの花が咲いていた。あれなら問題なさそうだ。

 

「サンキュな。今度お礼になんかするわ。」

 

「何が良いかしら。」

 

楽しそうに頭を捻るラナを横目に花畑へ向かう。

出来れば簡単な事が良いな。

 

「あの、何するの?」

 

「んー、手芸?」

 

三人が疑問符を浮かべる。……そろそろシャマレは降りてくれねぇかなぁ。

スズランとポプカルまでこっち見てきてるから、後で二人にもなんかしてやんねぇといけねぇじゃん。……昔のモスティマ達を思い出すな。

花畑に着いて、座ってその上にシャマレを乗せると作業を始める。

そして数分かけて作った花冠をシャマレの頭に乗せてやると、顔は見えないが控えめに花冠に手を添えてるし、気に入ってくれたかな?

 

「いっちょ上がりっと。」

 

「わぁ〜、可愛いですね!」

 

「ぽ、ポプカルも欲しい……。」

 

「二人のも作ってやるから待ってな。」

 

さっきと同じように手早く完成させると二人の頭に乗せる。

久し振りに作って忘れてないか心配だったが悪くない出来だ。

 

「作り方教えるから、皆で作ってみようぜ。」

 

作り方を教えつつ、詰まっていたら手伝ってやる。

流石に載せたままだと教えにくいからシャマレを降ろした。

シャマレは手先が器用だからか、何も教えなくてもある程度一人で出来てるな。

 

「あ、あれ……?」

 

「ここはこっちに通すんだ。」

 

ポプカルは細かい作業が苦手なのか少し手間取っているため軽く教える。

 

「これでどうですか?」

 

「そうそう、合ってるぞ。いい感じだ。」

 

スズランはシャマレよりは時間がかかっているが順調だな。

それから少し時間が経って完成した。

 

「んじゃ、それはラナとポデンコに渡してきな。きっと喜ぶぞ。」

 

すると急にじゃんけんを始めた。誰が誰に渡すかって事か。

 

「勝った……!」

 

ポプカルが高々とチョキを掲げた。どうやら決まったみたいだな。さて、誰に渡すんだ?

 

「ラック、さん。」

 

「ん?」

 

「ポプカルの、あげる」

 

「……ああ、そういう事。」

 

苦笑いを浮かべてしゃがんで頭を差し出すと花冠が乗せられた。さっきのじゃんけんは俺に渡す人を決めるじゃんけんか。

じゃあ後の二人は、とラナのいた方を見ると花冠を乗せたラナとポデンコがこっちに手を振ってきて、こっちも手を振る。

ううむ、俺よりも二人の方が似合ってるな。

 

「サンキュな。」

 

「……うん。」

 

花冠を潰さないように頭に手を置くと、嬉しそうに目を細めた。

 

 

 

 

「もういい時間か。お前ら、そろそろ終わりだぞ。」

 

「もう……?」

 

「遊び足りない。」

 

「も、もうちょっとだけダメですか?」

 

子供の体力すげぇ……。俺割と疲れて来たんだけど。

 

「もう日も落ちたしな。それにそろそろ晩飯だ。」

 

「じゃあ一緒に食べる。」

 

シャマレの言葉に二人も頷く。随分と懐かれちまったもんだ。

 

「んじゃ、食堂行くか。」

 

歩き始めると着いてきて、今日遊んだ事の感想を伝えてくる。

ただ、周りをくるくると歩き回りながらだからかなり歩きにくい。

途中で面倒だからとポプカルとスズランと手を繋ぐと、一人溢れたシャマレが背中に飛び乗ってきた。

 

「……はぁ。」

 

ため息が出るが、口角は小さく上がっていた。

 

 

 

 

晩飯は特に何もなかった。まあ、他のやつらからは信じられないものを見たみたいな目で見られたが。

あの子達は行儀が良くて、食事も喋りはしたが綺麗に食べていた。逆に俺の方が少し不安になってきた。

 

「そら、もう寝る時間だぞ。風呂入って部屋に戻りな。」

 

眠たそうに目を擦るポプカルの背中を押しながら歩く。

 

「……子守唄。」

 

「なんだって?」

 

声が聞き取れなくて、しゃがんで耳を寄せる。

 

「子守唄、歌って……。」

 

なんで子守唄?と疑問に思うと後ろからスズランとシャマレの期待を込めた視線が送られてくる。

 

「全く、どこで聞いて来たんだ?」

 

「アーミヤお姉さんから聞きました!」

 

「……ホシグマ。」

 

「メランサお姉さんから……。」

 

面倒だな……帰って酒でも飲もうと思っていたんだけど。

 

「ダメなら諦めます……。」

 

頭を悩ませているとスズランが俯いてボソリと言った。

 

「…………あー、わかったわかった。子守唄歌ってやらゃ良いんだろ。

だからそんな顔すんな。」

 

ぐしゃぐしゃとスズランの頭を撫でる。

しかし、三人となるとベッドに入らないな。特にスズランなんか尻尾がでかい。

 

「……ああ、そうだ。たしかどこかの休憩室に大きいベッドがあったか。じゃあ風呂上がったらそっちに集合な。」

 

ひらひらと手を軽く振って自室に一旦戻ってシャワーを済ませて休憩室に向かい、適当な本を読む。子供とは言え女の子、時間はかかるだろう。特にスズランなんかは尻尾の手入れが大変そうだ。

 

 

 

 

「お待たせしました!」

 

「ん、来たか。」

 

本を棚に戻して振り返ると、三人に追加でグラニがいた。

 

「珍しいな。」

 

「三人が心配だったからね。監視に来たんだ。」

 

「そうか。……そんなに俺信頼ない?」

 

肩を大袈裟に落としてキングサイズのベッドに入る。

 

「ほら、早く寝るぞ。俺も今日は流石に疲れた。」

 

「「「じゃーんけーんぽん!」」」

 

「……なんでも良いけど早く決めてくれ。」

 

眠たい目を擦って大きな欠伸を漏らすと、スズランが上に飛び乗ってきた。うおっ、モフモフッ。

 

「んぐぇっ。」

 

「特等席です!」

 

両側にポプカルとシャマレが入って来る。

今度こそ子守唄歌って寝れると思ったが、グラニと目が合った。

 

「……お前も入れよ。監視っつっても寝るんだろ?」

 

「でもそれじゃ監視の意味がないでしょ?」

 

「なら俺が寝た後に寝りゃ良いだろ。」

 

「……それもそっか。じゃあお邪魔しようかな。」

 

グラニがベッドに入ると歌い始める。

上に乗ったスズランを軽く抱き締めながら背中を一定のリズムで軽く叩く。

 

「〜♪……ん?」

 

「……zzz」

 

一番にグラニが寝てしまった。監視するんじゃなかったのかよ……。

まあ、いいか。いつも巡回していて大変そうだし、今くらいは休んでもらおう。

 

「〜♪」

 

気付けば俺以外が寝ていて、ようやく寝れると目を閉じた。

 

「……あっつい。」

 

子供の体温たっけぇわ。最初こそ暖かくて良かったけど、寝ようとするとかなり寝苦しい。

しゃーねぇ、俺はソファで寝るか。

スズランを軽く持ち上げて抜けようとする。

 

「……んん。」

 

寝ぼけているのか、手をバタつかせる。そして、俺の胸元に手がぶつかるとシャツが掴まれた。

 

「えぇ……。」

 

どうにも抜けられそうにないな。諦めて降ろすと丁度いいホジションを探してもぞもぞと動く。

 

「うにゅう……。」

 

なんだその鳴き声。

ため息を吐いて、目を瞑る。いつか寝れるだろ。

 

 

 

 

「……ん?」

 

人の気配を感じて目を覚ます。誰だこんな存在感を出してやがるのは。

 

「それじゃあ、早速寝起きドッキリを……まだ朝じゃないから違うかな?」

 

ぱちっ、とカシャと目が合う。生配信でもしているんだろう。スマホを片手に持っている。

上手く回ってない頭で考える。起きちゃったし、それっぽく見栄えするようにしてみるか。

スズランを抱き寄せて額にキスをして、そのままウインクをカメラに一発。……我ながら完璧だ。

害のある相手じゃないとわかった瞬間に眠気が戻って来た。寝よう。

温もりを逃がさないようにスズランを抱き締めたまま眠りに落ちた。

後から聞いたが、あの後カシャのチャンネルが炎上したらしい。なんでだ?

とりあえす謝ったら今度生放送出ろって言われたから出ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

・ある日の一幕

 

ある日、仕事もやることが無くなって暇になったから誰かで暇潰しでもしようかと散歩をしているとグラニを見つけた。

 

「グラ……。」

 

声を掛けようとして口を押さえる。

前から気になっていたが、グラニのあのズボンはなんなんだ。横がぱっかりと空いているが下着は履いているのか?紐も生地も見えないし、鼠径部がチラチラと見えている。

……気になる。ああ、気になる。気になって今日は八時間しか眠れなさそうだ。

気配を消して、抜き足差し足忍び足と背後に忍び寄り、思い切って隙間に手を突っ込む。

 

「ほう……!」

 

「わあああぁぁぁぁあ!?!?」

 

これは生足……!という事は履いてない、もしくは前貼りか!!いや、俺の知らない下着かもしれない!

 

「へ、変態!!」

 

「おっと、危ない危ない。」

 

エルボーを首だけ動かして避けて腿を撫でる。

 

「ひゃんっ!」

 

「可愛い声で鳴くじゃねぇか。」

 

正直もう逃げても良いが、折角の機会を見逃すなんて勿体ないことはしたくない。

この柔肌とぴったり張り付くようなズボンに挟まれるが堪らねぇな。

さて、もっと堪能させてもらおうじゃねぇか┈┈┈!!

 

「さて、何か言う事はあるか?」

 

「……ないです。」

 

チェンの声と共に首に刀が添えられる。

まさか、近くにいたとは……。

 

「早く手を抜いて、壁に手を付け。」

 

「あい……。」

 

抜く時に指で撫で上げると小さく体を震わせた。

残念、ゆっくりと籠絡させていこうと思ったのに……。

 

「そんな怒んなよチェン。確かに俺は悪いことをした。しかし、それ程気になったんだ。次はしないからさ、な?」

 

「お前の次はしないは信用出来ないな。良いからアーミヤの所に行くぞ。」

 

「……出来れば、チェンと二人っきりが良いな〜?」

 

「ダメだ。」

 

結局連れて行かれて、ラナも交えて説教、減給、罰則を言い渡された。

……ラナがいると母親に怒られてる気がするからすごくキツい事がわかった。

それと、グラニが俺を見る度にスカジや他のオペレーターの後ろに隠れるようになってしまった。

……せめて、ズボンを普通のにしてくれ。つい目で追ってしまうから。今度話す機会があったら伝えてみよう。

 

 

 

 





(ロリコン)疑惑

皆さん危機契約どうです?頭わるわるな俺は必死にゴリ押してます。





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四十話:小さな命に祝福を

 

 

 

ある日ウェイから所定の場所で龍門近衛局と合同で任務するように頼まれた。どうにも、近衛局だけでは対処が難しいらしい。

人数は多い方が良いと思ってバイソンとアンセルも引っ張ってきた。途中でワイフーも見つけたが、暴れそうだからそっとしておいた。

 

「んで、この惨状はなんだ?」

 

現場に着くと、恐らく目的の地点であろう店が見下ろせる。

ため息を吐いて後ろを振り向くとチェンが膝を抱えて凹んでいた。

 

「私から説明をさせてもらいます。」

 

内容としては最近妙な噂があるらしい。様々な種族の少女が風俗でその手の趣味のやつらを相手に働かせているそうだ。その中には感染者もいるとか、どうにもさっきの店は違法風俗であり、消えた少女達が働かされているそうだ。

んで、チェンがなぜ凹んでいるかと言うと、囮としてチェンにボロ布を着せて潜入させようとしたらしいが、無意識に警戒や威圧をしたせいで一切声を掛けられず、寧ろ警戒されたらしい。

 

「まあ、チェンは一旦置いておこう。」

 

「おい。」

 

「にしてもどっからだ?もし孤児だったりするなら普通は俺かジジイのが先に見つけて働きたいなら仕事を斡旋してやるんだが……そもそも今の龍門でどうやって保護されてない子供を見つけたんだ?」

 

もしかして外部から連れてきた?面倒な事になってきた、何人が検問を抜けたんだ。

 

「まあ、そんな事は助け出してからか。

よし、アンセル。お前に重大な役目を与える。」

 

「私にですか?戦力にはならないと思いますけど……。」

 

「安心しろ、お前の得意分野だから。」

 

そう言ってわざと汚した安っぽいスカートとマントを取り出した。

 

 

 

「よし、潜入できたな。」

 

着替えさせて店の前を通らせると一発で捕まって連れて行かれた。

 

「わ、私は男に負けたのか……。」

 

内部の子供たちの確認はアンセルに任せて、俺は俺のやる事を進めねぇとな。

 

「カツラとかある?」

 

「一応ありますよ。」

 

金髪かぁ、まあ良いだろ。

オールバックにしてサングラスを掛けて店に近付くと、警備の男二人に止められた。

 

「ボディチェックを。」

 

「はいはい。」

 

手を横に広げて体を触られる。どうせなら女の子が警備してくれりゃいいのに。

 

「どうぞ。」

 

「おう。」

 

店の入口から地下に入ると思っていたよりはマトモな内装をしていた。

 

「いらっしゃいませ。今日はどうしますか?」

 

「誰がいるんだ?」

 

「あちらの子達です。」

 

指をさす方を見るとカーテンが開き、少女達が現れた。種族も様々だ。やっぱり攫ってきたか?

少女達の中で一人だけみんなの前に出て庇おうとしている子が目に入る、この子に決まりだな。

 

「んじゃ、こいつで。」

 

指をさすとループス、ペッローか?少女が怯えたように目を見開いてからそれを隠すように俺を睨む。……ちょっと凹む。

 

「では、あちらの部屋へ。」

 

別の男に背中を押されて前に出されると俺の手を掴んで引っ張ってくる。着いていくと、如何にも防音そうな部屋に着いた。ここなら何しても良いって事かよ。

 

「……は、早くして。ど、どうせ前の人みたいに私の事虐めるんでしょ?」

 

小さく震える少女を見ながらため息を吐く。やっぱり近々大規模な掃除が必要かもな。

 

「安心しろ、助けに来た。」

 

「嘘よ!」

 

「嘘じゃない。近衛局……あー、警察だって動いてる。」

 

「……本当に?嘘じゃなくて?」

 

「本当だ。俺たちが助けるから、他の子達の場所を教えてくれないか?」

 

この見た目じゃダメだとカツラとサングラスを外して、しゃがんで目線を合わせながら頼むと、ようやくぽつぽつと喋り始めた。基本的に子供たちは一箇所に固められているらしいが、感染者は別でもう一つしたの階に閉じ込められているらしい。

片方はアンセルに任せるとして、もう一つ下に行くための階段を見つけねぇとな。

 

「階段の場所は分かるか?」

 

「ううん……あ、でも、あの人達が受付の後ろに入ると出て来るのに時間が掛かるの。」

 

「なるほど、受付の後ろね。

チェン、全部聞こえたか?」

 

『モーマンタイだ。こちらも突入の準備をする。』

 

入る前から電源を付けていた小型マイクに話しかけると、耳の裏に隠した小型イヤホンから返事が帰ってきた。

 

「わ、私は良いから、他の子達を先に助けて。」

 

「……わかった。でも、絶対に助けに来るからな。」

 

軽く頭を撫でると、中が透けて見えるワンピースを握り締めて頷いた。

 

「せめてこれくらいは羽織っとけ。」

 

上着を脱いで少女に羽織らせると立ち上がった。

 

「さてと、準備は良いか?」

 

『万全だ、入口も抑えた。』

 

「スリーカウントで突入してくれ。

スリー、ツー、ワン……ゴー!」

 

扉を開けて目に付いた男を殴り飛ばす。

 

「なっ、ま、まさかラッ━━━━━━」

 

「あらよっと。」

 

別の男の顔面につま先をねじ込む。

入口の方から怒号が聞こえてきた

 

『こちらチェン、上階の子供たちは保護した。』

 

「流石仕事がはえぇな。そんじゃ、俺は地下に行くわ。」

 

『まだ首謀者は見つかっていない。気を付けてくれ。』

 

受付の後ろの部屋に入ると、普通の事務室だが床に一部だけ鉄板が敷かれていた。急ごしらえにしてももうちょっとあるんじゃねぇの?おっ、鍵束見っけ。針金で開けるしかないかと思ったぜ。

ズラして梯子を降りると、牢屋のような場所が左右に広がっていた。

 

「……おかしい。誰もいない。」

 

後は隠れるならここくらいのはずだ。人質でも取るのかと思っていたが……。

 

「おーい、助けに来たぞ。」

 

一つずつ牢屋を開けていき、子供たちから俺以外に降りてきた人間がいない事を確認した。

 

「まさか、隠し通路から逃走した?」

 

『……ラック、マズイ事になった。

一人だけ別の部屋に入れられていた少女が人質になった。』

 

「何ッ!?」

 

間違いなくさっき俺が話していた少女だ。しくしった、俺が近衛局の人間の方まで誘導するべきだったか……!!

 

「いや、なった事は仕方ねぇ。俺がどう動くかを考えるべきだ。」

 

恐らく、相手はさっき俺のいた部屋で陣取っているはずだ。他に入るところは無いだろう。ダクトなんかも無さそうだった。

 

「……出たとこ勝負か。」

 

あーやだやだ。

 

 

 

 

「っそれ以上こっちに来るんじゃねぇ!」

 

ナイフを少女の喉元に突き付けながら怒鳴る男を見て、一番前に出る。

 

「もうお前以外にいねぇんだ。大人しく掴まりゃ痛い思いもしねぇぞ。」

 

「てめぇ、ラックか……!」

 

「おっと、俺も有名になったもんだ。どうよ、特性ラックさんブロマイドいる?今ならサイン付きだぜ?」

 

「いらねぇよ!チッ、相変わらずムカつく顔しやがって……。」

 

「会った事あったっけ?悪ぃな、女の子以外の顔を覚えるのは苦手なんだ。」

 

ぶちっ、と音が聞こえた。

 

「今の状況が分かってねぇみたいだな……!人質がいる事を忘れんなよ!」

 

そう言うと良い事でも思い付いたのか急ににやけた。

 

「てめぇが女好きってのは有名だ。このガキも助けてぇんだよなぁ!?なら、俺の言う通りにしな!」

 

「ああ、裸踊りでもしてやりゃ良いか?」

 

「ケッ!誰がてめぇの裸なんて見るかよ!

……腹を斬れ。」

 

周りがどよめく。逃走の為ではなく俺を殺す為ってのが意外だったんだろう。

 

「はぁ〜……しゃーねぇなぁ。

チェン、ちょっと借りるぞ。」

 

「本気か!?」

 

「本気も本気、超本気だぜ?ほら、寄越せ。」

 

チェンから普段使いの剣を奪って腹に向ける。

あ〜、これあんまりやりたくねぇんだよなぁ。

呼吸を少し変えて、内蔵を動かす。大丈夫だ、俺の体の事は俺が一番よくわかっている。

 

「大丈夫、今助けてやるから。

おい、その目かっぴらいてよぉ〜く見てろよ?」

 

そして、腹に剣を突き刺した。

 

「ひっ……!」

 

「はっ……はははっ……!マジでやりやがった!イカれてやがる!」

 

「ぐっ……」

 

片膝を地面に着け、蹲る。

 

「他のやつらも手を出すなよ!こいつが死ぬまで見てろ!

やっと目障りなお前を殺せた……!!」

 

まだ死んでもねぇのに男が喜んで油断を晒す。

刀を順手で握り直して、体を前に傾けると剣を腹から引き抜きながら振り上げると、男のナイフを持った手を手首から斬り飛ばす。

 

「なっ……は?」

 

振り上げた剣の柄を下にして振り下ろして男の側頭部をぶん殴る。

よし、終わった。

 

「おら、とっとと拘束してくれ。」

 

剣を肩に担いで指示を飛ばすと、近衛局の人間がようやく動き出した。

服を引っ張って剣に付着した自分の血を拭う。

 

「全く、引き抜く時にズレで傷口が少し広がっちまった。」

 

「お前は……!何を考えている!?」

 

チェンが襟を掴んで俺を見上げる。

 

「しゃーねぇだろ。銃とか持って入れねぇし、ナイフじゃ届かない。これしか方法が思い付かなかったんだよ。ほら、剣。

アンセル、包帯をくれ。内蔵は避けたし、出血も筋肉の収縮で抑えてるけど限界がある。」

 

なんなら背中に突き抜けた方は普通に出血してるし。

 

「あまり無茶をしないでくださいね。」

 

簡単な応急処置をしてもらって少女に向き直る。

 

「大丈夫……おっと、こりゃいけねぇ。」

 

頬に血が着いていた。俺が引き抜いた時の血だろう。

呆然とした少女の頬を服の袖で拭う。

 

「これでよし。痛い所とかないか?」

 

そう聞くとハッとして俺の腹を見るとジワジワと涙が浮かんできた。

 

「私のせいで……ごめんなさい……」

 

「気にすんな、かすり傷だ。」

 

「後でロドスでちゃんとした治療を受けてくださいよ。」

 

「……気にすんな、重症だ。」

 

爽やかな笑顔を浮かべて言うとまた目が潤んできた。

 

「バッカアンセル、お前不安にさせるような事を言うんじゃねぇよ。全く……。」

 

少女をあやしながら他の子達に話を聞くとそれぞれ別々の場所から誘拐されているらしい。どうにもほとんどが家族がいるそうだ。親元に返してやるねぇとな。

感染者の子達や家族がいない子達は非感染者ならジジイの所に送って、感染者は俺預かりでロドスに入れてもらうか。

通話をしながら話を進めていく。ジジイとしてもこの件は見逃せないからか、一斉に掃除を始めるそうだ。

 

「ああ、分かった。報告書はまた後で送る。ああ、じゃあな。

……ふう。」

 

次にドクターに子供たちを預からせてほしいとメッセージを送るとすぐに了承が返ってきた。

その少し後にジジイの遣いが来て子供たちを連れて行くのを見届ける。

 

「んじゃ、俺らでこの子達をロドスに連れて行くぜ……っとと。」

 

歩き出そうとするとふらついて膝を着いてしまう。とっととロドスに戻って治療してもらわねぇと。

 

「そんな状態じゃ帰るのも一苦労だろう。私も同行する。」

 

「いや、そりゃ悪いって。」

 

「私の剣で付いた傷だぞ。」

 

「でも俺が勝手にやった事だし……。」

 

チラッとホシグマに目線を向けると仕方ないと笑みを浮かべた。

 

「ではこちらの処理は小官がやっておきますので、隊長はそっちをお願いします。」

 

「……オイコラ。」

 

「すまないな、苦労をかける。

ほら、行くぞ。」

 

「はぁ、分かった。

よし、みんなちゃんと着いて来るんだぞー。」

 

チェンに肩を借りるとバイソンとアンセルに武器や荷物を運ぶのを頼むと、子供達に声をかける。

 

「あっ……あの……。」

 

「ん?何かあるのか?」

 

サンクタの少女が前に出る。白い髪に赤と青のメッシュが着いている。ん?この髪の感じは……。

 

「ら、ラック様、ですか?」

 

「確かに俺はラックだけど、様付けなんていらねぇよ。」

 

そういえば子供達には名前を教えてなかったか。

すると、サンクタの少女が目を輝かせながら一冊の本を取り出した。

 

「さっ、サイン……くださぃ……!」

 

「サイン?いや、まあ、良いけど……どこで俺の事知ったんだ?年齢的に俺がラテラーノにいた頃は赤ん坊か幼児くらいだろ?」

 

「お母さんから聞いたのと、この本からです。」

 

「本?」

 

差し出してきた本を見るとタイトルが『Luck』と書かれていた。

 

「……え、何この本。」

 

俺知らないぞ、こんな自伝みたいな本。

誰が書いたんだと著者を確認すると『ウィリアムズ』と書いてあった。

 

「おいマジか。なにやってんだあの人……。」

 

軍人時代に世話になった人だが、引退してから関わりも無かったがこんな事やってやがったのか。

 

「うん?」

 

情報提供の所には『ルーシィ』となっていた。

 

「マジかよ、母さん。」

 

なに息子の人生書くの手伝ってんだ。

 

「……一回ラテラーノ戻るかぁ。」

 

何年振りだ?十年もいってないから、八年くらい?

子供達を返すのに色んな所を回るからこの子を返す時にラテラーノに寄るだろうから会いに行くか。

サッと本にサインを書いてようやく動き始めた。

 

 

 

 

「おーい、戻ったぞ。フロストノヴァいるかー!」

 

子供達が不安げに視線をあちこちに向けているのを落ち着かせながら大声でフロストノヴァを呼ぶ。

 

「どうした。この子達は?それに怪我をしているな。誰が医療オペレーターを呼んでこよう。」

 

「俺の事は後で良い。

お前ら、これからこのお姉さんに着いていくんだ。良いな?」

 

「……ああ、なるほど。ドクターが言っていた子供達か。

フロストノヴァだ。ここでは子供達の先生をしている。よろしく頼む。」

 

フロストノヴァが挨拶をすると子供達が揃って俺たちの誰かの後ろに隠れた。

 

「………………どうやら、私ではダメな様だ。」

 

「……なんか、ごめん。」

 

慣れてないと気付かない程度に眉を下げて凹むフロストノヴァを慰めると手を叩いて子供達の気を引く。

 

「んじゃ、みんな好きなやつの所に分かれてくれ。」

 

そう言うとサンクタとループスの少女は一目散に俺の所に来たが、他の子達は少し迷っていた。

匂いを嗅いだり、周りをくるくると回ったりして品定めをして決まったアンセルには一人で、バイソンの所には三人、チェンにも一人だった。

なんか意外だな、アンセルかチェンに集まると思ってた。少し気になってバイソンの所の三人に質問をしてみる。

 

「なんでバイソンの所に集まったんだ?」

 

「「「お金の匂い!!」」」

 

「お金の匂い……。」

 

「そっかぁ……。」

 

この子達は一人でスラムにほっぽり出されても図太く生きてそうだな……。

 

「んんっ、ちなみにそっちはなんでアンセルを選んだんだ?」

 

「……えへへ。」

 

「ああ、うん、わかった。」

 

チラリとアンセルの股間を見た瞬間全てを把握した。

……なんだかなぁ。

 

「ついでだけどそっちは……。」

 

まさか同性愛者とか━━━━━━━━━

 

「お姉さんみたいなかっこいい女性になりたいです!」

 

「君はそのまま育ってくれ。」

 

前の四人と比べると純真な少女を抱き締めて撫でる。良かった、この子までちょっとあれだったらどうしようかと思った。

 

「褒められたっ!」

 

「良かったな。」

 

少女を離して立ち上がると、遠くからケルシーがやってきているのが見える。その後ろにはドクターもいるな。

 

「……ん?」

 

ケルシーに気付かれないようにする為か、ドクターが忙しなく手を動かして何かを伝えようとしている。

なんだって?……いや、分かんねぇよ。

ドクターの動きをジッと見ているとプスリと首筋に何かが刺さった。

 

「はい?」

 

あれ、なんか、いしきが……

 

 

 

 

「……あ?」

 

目を覚ますとロドスのどこかの病室で寝ていた。

 

「お”ぎだ〜〜!!」

 

「ラッグざま”〜〜!!」

 

「ヴッ……!?ぃっでぇ!?」

 

ドスリと誰かが飛び乗ってくる。

 

「いけません、体に障ってしまいます。」

 

恐らくフィリオプシスだろう声に反応して重みが離れる。

 

「何日寝てた?」

 

「二日程です。麻酔が効きすぎたのと失血多量の影響でしょう。」

 

思っていたより長い。俺の薬物耐性を考えてに長くて一日くらいだと思っていたが、余程強い薬でも打たれたか。多分アズリウス辺りが作ったんだろうなぁ。

 

「まだ鈍いな。」

 

手足の先がまだ痺れているみたいに力が入りずらい。まあ、当分は荒事もないから良いか。

 

「悪いな。」

 

「皆さん心配していましたので、後で謝った方がよろしいですよ。」

 

「そうだな。……ちなみにフィリオプシスは?」

 

「とても心配で、いつもより寝付きが良くありませんでした。」

 

「……おう。」

 

「ラックさんが回復するまではドクター主導で子供達を元の場所へ帰すそうです。」

 

「そうか。なら俺はのんびり寝てても大丈夫そうだな。」

 

ダバダバと涙を流す少女達の頭を安心させるように撫でる。

 

「ケルシー先生を呼んできますので、少々お待ち下さい。」

 

「うっ、ケルシーか。」

 

意識を失う最後の光景はケルシーが俺の首に注射機を刺した所だったからちょっと怖ぇ。

 

「ちょ〜っとお兄さん用事があるから出てくるわ。」

 

「え?でもさっきのお姉さんが……。」

 

「良いの良いの。な?」

 

「はっ、はいっ。」

 

うーん、こっちのサンクタの子は扱い易くて助かるな。

 

「んじゃ、また後で━━━━━」

 

「ほう、どこへ行くんだ?」

 

扉を開けると目の前にケルシーの頭が見えた。

 

「……あ〜、超絶美人なケルシー先生の所?」

 

「お世辞は受け取っておこう。だが、逃げようとした事は許さん。」

 

「ま、待て待て、俺怪我人。」

 

「分かっている。すまないが、部屋から出てくれ。」

 

「は、はい!」

 

「あ、あの、ラック様は……。」

 

「大丈夫だ。手荒な事はしない。」

 

サンクタの子がほっと息を吐く。いや待て、出てったらダメだって、俺がぶっ飛ばされる。

……出てっちゃった。

 

「さて、二人きりだな。」

 

「そ、そうだな。久し振りの二人きりだし、キスでもするか?」

 

「シている最中に傷が開いても良いなら良いぞ。」

 

「そいつはちょっと勘弁。」

 

「私としてもそれは困る。回復したらだ。

それよりもスズラン達にはちゃんと謝れ。彼女達はまだ幼いからな。」

 

「そうだな。会ったら言っとく。」

 

話しながら検査を続けていく。

 

「問題なさそうだな。もう数日休めば良いだろう。」

 

「ロドスの医療様々だな。」

 

内蔵避けたつっても腹貫通したのに数日かよ。

感心していると部屋の扉を開けてぞろぞろとオペレーター達が入ってきた。

 

「チッ」

 

ん?今ケルシーが舌打ちしなかったか?

まあ、良いかと切り上げて入って来た連中の相手をする。

途中で泣き着いて来たスズラン達も落ち着かせて部屋に帰すとようやく落ち着いた。

 

「ほんと、多過ぎだっての。」

 

疲れたと息を吐く。

 

「それにしては嬉しそうだがな。」

 

「……まあ、それはそれって事で。」

 

ケルシーから視線を逸らして窓越しに外を眺める。

 

「ふっ。」

 

頭を撫でられる。文句の一つでも言ってやろうかと思ったが、手がほんの少しだけ震えていた。

 

「悪かったよ。次からは怪我せずにやるからさ。」

 

「……約束だ。」

 

「ああ、指切りでもするか?」

 

小指を差し出すと撫でていた手がするりと落ちて小指に絡む。

ぽたりと水滴が肩に落ちると、ケルシーが肩に縋り着いた。

声を掛けようかと思ったが、黙って外を眺め続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

・ある日の一幕

 

 

 

 

「なぜ、なぜなのだ、エンヤ……!!」

 

「あ〜、うんうん。傷は深いぞ。」

 

龍門のとある居酒屋にエンシオから呼ばれて行くと既に出来上がったエンシオがテーブルで泣きながら酒を飲んでいた。

どうせまたエンヤになんか言われたんだろなぁ。

 

「んで、今回はなんなんだ?」

 

「……この前、ホシグマと二人で私の部屋で飲んでいたのだ。そして、次の日気付けば二人共下着姿になっていて、目が覚めた瞬間にエンヤが入ってきてしまった。」

 

「ああ、なんか不潔とかでも言われたのか?」

 

そう言うとブワッと目から涙が溢れた。

 

「わっ、悪かった!悪かったって!

悪い、水をくれ!」

 

エンシオに水を飲ませて落ち着かせると、今度は寝息を立て始めた。

 

「はぁ〜……しゃーねぇな。」

 

エンシオの肩を担いで店から出る。俺全く飲んでねぇのに、今度請求してやるからな……。

 

「うぅ……何故だ……。」

 

「こいつのシスコンも困ったもんだ。」

 

ため息を吐きながら歩いていると向こうから見慣れた顔がやって来た。

 

「おっ、ホシグマか。……そっちも似たような事になってんな。」

 

「そっちこそ、シルバーアッシュが外で酔い潰れるなんて珍しい。」

 

どうにもチェンが酔い潰れたみたいだ。

すると、ホシグマの目が細められる。なんか嫌な予感がする。とっとと切り上げるか。

 

「エンヤ絡みだ。んじゃ。」

 

「まあ待て。」

 

「なんだよ……あれ?」

 

ホシグマが一瞬霞んだと思えば担いでいたエンシオが消えてチェンが腕の中で丸まっていて、エンシオがホシグマに担がれて攫われた。

 

「あっ、ちょっ……」

 

……見えなくなっちまった。

うん、まあ、なんとなく気があるのは分かってたし、いっか。

 

「チェンの家ってどこだったっけ。」

 

こいつの部屋の片付けでもしてやるか。

 

 

 

 

「……っここは?」

 

頭が痛い、昨日は飲み過ぎたな。ホシグマが連れて帰ってくれたのか?

 

「妙に部屋が綺麗になっているな……。」

 

寝転んだままで体の向きを変えて部屋を見渡すと片付けられていた。

 

「おっ、やっと起きたか。昼前だぜ?」

 

「???????」

 

なぜラックが私の部屋に?

鈍い頭を働かせて考えてみる。

 

「……夢か?」

 

「寝惚けてんのか?ほら、水持って来たから飲め。」

 

夢なら、自分の好きにしてみても良いか。

ベッドの横にしゃがんだラックの首に腕を回して抱き着くとキスをした。

 

「……?」

 

ゴトンとコップが落ちて中の水が溢れるのも気にしないで唇を貪る。

 

「んっ……ふふ、照れてしまうな。」

 

「……あ〜、いや、な?嬉しいぜ?でも、これ夢じゃねぇからな。」

 

一瞬空気が固まって、自分の顔に熱が集まる。

 

「まあ、思ってたより好かれてたんだな。

ああ、水持って来ねぇとな。」

 

嬉しそうに笑うと私の頭をくしゃりと撫でると、床を拭いてキッチンへ消えて行った。

 

「……〜〜〜〜っ!!!」

 

枕に顔を埋めて足をバタつかせた。

 

 

 

 

「まさかチェンからキスされるなんてな。」

 

鼻歌を歌いながら気分良く水を注ぐと、端末が鳴る。

誰だと思って見てみるとエンシオからだったから切ってやると数秒後にメールが届いて開いてみる。

 

『ころs』

 

とりあえずメールは消した。

 

 

 

 






何度か書き直してました。
どれかイベントの内容書こうかと思ったんですけど数日跨ぐイベントはエグいぐらい長くなりそうだったんで諦めました。


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四十一話:心優しいお医者さん

 

 

怪我をしてから一週間程度。やっと歩き回れるようになった。

やっとっつっても普通ならもっと時間がかかるからロドスの技術の高さがわかる。

そんで、この前助けた子供達は各々の国へ車やヘリを使う事で返したらしい。ただ、身寄りのない子は受け入れる事にしたそうだ。

これで一安心って所か。

 

「よし。腹ごしらえもそうだが、先に酒でも……。」

 

飲みに行こうと思って着替えていると病室の扉が開いた。

 

「お酒はまだ禁止だよ。」

 

「げっ、ススーロ……。」

 

口煩いのが来ちまった。

 

「病み上がりなんだからタバコも厳禁。ほら、渡して。」

 

「嫌だね。」

 

ベッ、と舌を出すとススーロがむっと顔を顰めた。

 

「医者の言う事は聞いて。」

 

タバコを取ろうとするススーロの手を躱して高くあげる。

 

「へっへー、届かねぇだろ。おチビちゃん。」

 

「くっ……やぁっ!」

 

ぴょんぴょんと跳ねながらタバコを取ろうとする。ちょっと揶揄うつもりでやったが中々……。

しかし、酒とタバコもダメときた。そんなら鈍った体でも動かすかな。

ぼんやりとしながら今日の予定を決めつつタバコに火を着けた。

 

「……ん?あっ、やべ。」

 

手癖で着けちまった。

目線を下に向けてみると唖然とした顔のススーロが俺を見ていた。

 

「わ、悪ぃ悪ぃ。ほら、この通り消したからさ!」

 

タバコを握り潰す。うわあっつ。

ぷるぷると震えるススーロ、背中から淀んだ空気を出し始めた。

 

「あ、あーっ!そうだ!今日はお医者さんの言う事を聞かなきゃいけなかったー!」

 

大人しくベッドに戻って潜り込む。

 

「看病してくれると嬉しいなー……なんて。」

 

チラリと様子を伺うと口を真一文字に結んでジト目め俺を睨んでいた。

 

「……はぁ、お願いだから今日は大人しくしててよ?」

 

「はーい!」

 

少し待っててと部屋から出たススーロが戻ってきた時には切られたリンゴを皿に盛ってきた。

 

「お腹空いたんでしょ?はい、口開けて。」

 

「え、あ、はい。」

 

もっと怒られると思っていた俺は少し困惑して口を開くとフォークに刺したリンゴを食べさせてくれた。

 

「美味しい?」

 

「……ん。」

 

あれ、もしかして、医療オペレーターの中で一番優しいかも……。

モシャモシャとリンゴを齧りながら想像してみる。

…………………ふむ、セイロンかラナ、それとギリガヴィル位か。

他は逆にこっちが疲れそうだ。

そのまま丸一日世話してもらっちまった。

……なんか、調子狂っちまうなぁ。

 

 

 

 

翌日、昨日の様子見で経過観察もいらないだろうと判断されて一人で廊下を歩く。

さてさて、ススーロはどこかなっと。

 

「んっ、と、とどか、ないっ。」

 

声が聞こえて倉庫の中を覗き込むとつま先を伸ばして懸命に上の荷物を取ろうとしているススーロを見つけた。脚立もなさそうだ。

ゆっくりと後ろから近寄って荷物を取る。

 

「これか?」

 

「あ、ありがとう。」

 

「どこまで運ぶんだ?」

 

「えっと、じゃあついてきて。」

 

ススーロの先導についていく。小柄だから歩調を合わせる為にゆっくりとしたペースになる。

ぼんやりとしながらあくびを一つするとススーロがチラリとこっちを見た。

 

「どうした?」

 

「そっちこそ、急に手伝ってくれてどうしたの?」

 

「昨日看病してくれたろ。そのお礼。」

 

「なら早く完治させてほしいけど。……ありがとう。」

 

「どういたしまして。」

 

気分良くススーロの後ろをついていく。道ですれ違う職員やオペレーターが変なものを見たような目で見てくるのが少し鬱陶しいな。

よし、変装するか。

コソッと白衣を調達して伊達眼鏡を掛ける。そして前髪を目元まで垂らして猫背にする。

 

「ふふん、これならパッと見じゃバレねぇだろ。」

 

「そうだといいね。」

 

それから力仕事や高い所の物を取ったりと、簡単ながらススーロには無理そうな事を代わりに手伝ったりしていた。

うんうん、変な目で見られてはいるけどバレてはなさそうだ。

 

「そろそろお昼にしよっか。」

 

「そうだな。腹減った。」

 

ふんふんと小さく鼻歌を歌いながら食堂に向かって注文をする。

 

「いらっしゃいませー!あ、ラックさん、もう歩いても大丈夫なの?良かったー!」

 

「……いえ、私は謎の研究員Lです。」

 

ば、バレただと……いや、まだ誤魔化せる。

そう思っているとカウンターの向こうの厨房にいるグムの大きな目に涙が溜まり始めた。

 

「グムの事、嫌いになっちゃった……?」

 

「わー!?悪かったって!泣くな泣くな!?」

 

厨房に飛び込んで抱き締めながら頭を撫でまくる。

流石に泣かれちゃ俺が困っちまう。

 

「俺がグムの事を嫌いになるはずがないだろ?」

 

「……うん。」

 

「ごめんごめん、意地悪しちまったな。」

 

「全く、変な事をして困らせるんじゃない。」

 

「マッターホルンか。」

 

「そんな変装じゃロドスのオペレーターは騙せないだろう。」

 

マッターホルンに大盛りチャーハンを押し付けられる。

 

「これ頼んでたのと違うぞ?」

 

「混んでいるからこれで我慢してくれ。」

 

「うっへ……。」

 

大盛りチャーハンを持ってススーロの対面に座る。

 

「トラブルメーカーだね。」

 

「ちぇっ、こっちのが目立たないと思ったんだけどなぁ。」

 

不貞腐れてチャーハンをかき込んでいると伊達眼鏡を取られた。

 

「どう?似合ってる?」

 

「似合ってるけど、それ俺のー……」

 

Wに伊達眼鏡を取られた。まあ、うん、可愛かったし良いか。

 

「肌寒くなって来た。」

 

「え、ちょっ……」

 

そして白衣をケルシーに奪われ。

 

「私はいつものがいいかな?」

 

唐突に現れたモスティマに髪の毛をセットされた。

 

「…………。」

 

「良かったね、元通りだよ。」

 

「なんでこんなバレんの……?」

 

軽く頭を搔く。そこそこ自信あったんだけどなぁ。

 

「今日はこの辺りで部屋に戻って安静にしててほしいんだけど。」

 

「大丈夫だって、体の調子も良いし、少しくらいは動かねぇと。」

 

「まあ、聞いてくれないのは分かってたよ。変な事しないようにね。」

 

「善処する。」

 

「そこは確約してほしいんだけど……。」

 

ススーロがため息を吐きながらサラダをもそもそと食べる。

だって変な事してなくてもラップランドとかが来たりすると変な事になりそうだし。

 

「ふぅ、ご馳走様。」

 

チャーハンを食べ終わって、水を飲みながらススーロを待つ。

こう、小さな口を一生懸命動かしながら食べてるの見てると癒されるな。

 

「どうかした?」

 

「いや、なんでもない。」

 

そっか、と言いながらサラダを頬張るが、こっちをチラチラと見て来て何度か目が合う。

 

「もう、食べたいなら言ってくれれば良いのに。」

 

そう言いながらサラダを刺したフォークをこっちに向けてくる。

 

「え?いや、俺は別に。」

 

「ずっと見てたでしょ?ほら、あーんして。」

 

看病してくれていた時のようにごく自然にサラダを押し付けられる。

 

「わかったわかった、食えば良いんだろ。」

 

大口を開けて食べる。ここでサラダを食べたことは無かったけど、結構イケるな。

サラダを飲み込むと周りをぼんやりと見渡す。ススーロを見てるとまた勘違いされそうだ。

 

「ご馳走様でした。」

 

「ん、行くか。」

 

ススーロの食器を持つと慌ててススーロが立ち上がる。

 

「ちょっと、自分の食器くらい持って行けるよ。」

 

「気にすんな気にすんな。」

 

笑ってカウンターに返しに行く。

 

「もう、まだ完治してる訳じゃないのに。」

 

「お礼だからな。大人しく寝ててほしいならまた看病として部屋に一緒にいるくらいじゃねぇとな。」

 

「わかった。じゃあこっちも徹底的にやるから。」

 

「え?」

 

 

 

 

「ま、待て待てッ!流石にトイレくらい行ける!!」

 

「ダメ、ちゃんと言う事聞いて。」

 

尿瓶を持ったススーロの腕を掴んで止める。

引っ張られて部屋まで戻って来てからトイレに行こうとしたらこうなっちまった。

 

「わかった!ちゃんと休んでるから!」

 

「安心して、ご飯もトイレもお風呂も全部私がするから。」

 

「一人で出来るっての!つーか飯はさっき一人で食ってたろ!」

 

「恥ずかしがらなくても大丈夫。慣れてるから。」

 

「そういう問題じゃねぇぇえええ!!」

 

「ラック、刀を届けに来たぞ。」

 

扉が開いてヴァルカンが入ってきた。

 

「た、助かった!」

 

「……すまない、まさかそこまでとは。」

 

そしてこの現状を見ると後ろ歩きで戻って行く。

 

「まっ、待ってぇぇ!せめてサヤは置いてってぇぇ!!!!」

 

「わっ……!」

 

前のめりになった瞬間、ススーロを押し倒す様に倒れる。

反射的にススーロの後頭部に手を置いてクッションにする。

 

「あっぶね……大丈夫か?」

 

「……大丈夫だから、早く戻って。」

 

ほんのりと赤くなった顔で俺の胸を押し返す。

 

「しょっと……ま、こんな感じでバッチリ動けるから、看病はもういらねぇよ。」

 

「ダメ。」

 

「……え?」

 

「今日一日、ずっと看病するから。」

 

「だ、だから……」

 

ぺちっ、と口に手を当てて口を塞がれる。

 

「わ・か・っ・た?」

 

「……あい。でも、せめてトイレだけは……。」

 

「ワガママばっかり、トイレだけね。」

 

「俺が悪いのか……?」

 

それからは飯はなるべく野菜中心、飲み物も酒は無し。まあ、それは良い。好き嫌いはねぇし。

ただ、暇だからって部屋の掃除を始めないでほしい。

 

「ほら、こことかホコリ溜まってるよ。……こ、これって。」

 

本棚の整理をしていてエロ本を見つけると顔を真っ赤に染めると咳払いをして、まるで気にしてないように掃除を続ける。……まあ、チラチラと横目で見ているが。

 

「うん、大丈夫だよ。少なくとも持ってるとは思ってたし、このくらいで動揺してちゃ……ひゃっ。」

 

掃除を続けながら時々エロ本等を見つけると小さな悲鳴をあげる。

 

「あー……そっちよりもあっちならそういうのは無いけど。」

 

「だ、大丈夫。このくらい普通だよ。うん、普通。」

 

「んまあ、気にしないなら良いけど。」

 

そんな顔で言われてもなぁ、とベットに寝そべりながら思う。

まあ、反応面白いしいっか。

時々悲鳴をあげながらも掃除をするススーロを眺めていた。

 

 

 

 

「……んで、風呂まで来なくても良いんだけど。」

 

「安心して、水着は着てるから。」

 

えっへん、と得意気に胸を張る。

 

「いや、全然安心出来ねぇだろ。」

 

この短い間に頭悪くなったのかと思ってススーロの頭を何度か小突く。

 

「もし何かあったらケルシー先生に言うからね。」

 

「わぁ、すっごい安心。」

 

最初に頭ぶん殴られたせいでMon3trの事苦手なんだよ……。

 

「シャワー熱くない?」

 

「ん、丁度いいぜ。」

 

ススーロが小さいからかなぁ、昔エクシアやフロストリーフと風呂に入った時の事を思い出す。

そういや、あいつらも洗わせてーってよく言ってきたもんだ。あれなんなんだろうな。

気付くと、頭を洗い終わって背中を洗ってくれていたススーロが前に回ろうとしていた。

 

「待て待て、前は自分でやる。」

 

「恥ずかしがらなくても大丈夫だよ。私に任せて。」

 

さっきと同じようにむふーっ、と得意気にする。

 

「……ああもう、好きにしてくれ。」

 

エロ本くらいであんな顔してたから言ったんだけど、タオルで態々隠しもしたのに。

大きくため息を吐いたと同時に小さな悲鳴が聞こえた。いや、別に勃ってはいないぞ。

 

 

 

 

「さっきのは俺は悪くねぇだろ?機嫌直せって。」

 

「ふんっ。」

 

うーん、どうすっかな。

ベッドの横の椅子で本を読む彼女を見つめていると眠たそうに目を擦った。

 

「朝早かったのか?」

 

「ちょっと調べ物があったから。」

 

「なら、早く寝ろよ。背が伸びないぞ。」

 

本をそっと取って別の所に置くと、ススーロを抱き上げる。

 

「は、恥ずかしいから止めて。それに私はもう大人だよ。」

 

「はいはい。」

 

軽く揺れながら背中を叩くとゆっくりと体を預けてきた。

 

「おやすみ。」

 

眠った彼女をベッドに寝かせて立ち上がる。

さてと、起きた時に隣に俺がいたらまた騒ぎそうだし、装備でも取りに行くか。

 

 

 

 

「ヴァルカン、いるか?装備取りに来たんだけどって、暗いな。」

 

もう寝たのか?いや、そんなはずはない。まだそこまで遅い時間でもないはずだ。

 

「全く、また作業に没頭していたのか?電気、点けるぞ。」

 

入口すぐ横のスイッチを押して部屋を明るくした。

 

「……なんだこりゃ。」

 

ぐっちゃぐちゃに荒れ果てた部屋が現れた。これ、サヤを受け取りに行った時よりもひでぇな。

ヴァルカンがさっき来た時は特におかしい所なんて無さそうだったけどな。

 

「お、おーい、誰かいるかー?」

 

物を踏まないようにゆっくりと足を大きく上げて歩く。

まさか下敷きになっていないだろうなと思っていると、唐突に足を掴まれた。

 

「ヴァッ!?」

 

驚いて尻もちを着く。な、なんだ、いるじゃねぇか。

俺の足を掴んだ相手はそのまま足首、ふくらはぎと掴んでズルズルと這い出てきた。

 

「ブ、ブレミシャイン?」

 

「あ、ラックさんだぁ……。」

 

「……お前、なんでオーバーオールしか着てねぇんだよ!?」

 

「そんな事良いからぁ……これ……。」

 

俺の体をよじ登って来るとサングラスとゴーグルが一体になった物を無理矢理着けられた。

 

「こ、これはなんなんだ?」

 

「これはねぇ……。」

 

「ふぉ!?」

 

今度は後ろから誰かに抱き着かれた。

 

「ま、マゼラン?」

 

……布地を感じない。

 

「サヤ、繋げて〜。」

 

『了解しました。』

 

「お、おお、こいつはすげぇな。」

 

サングラスのレンズに大量の情報が流れてくる。人に視線を合わせると人名、何がどこにあるのか、今日の天気にスーパーの特売の時間……いや、特売の時間はいらねぇだろ。

 

「私とマゼランさん、他にもクロージャさん、メイヤーさんに手伝ってもらって作ったんだ、凄いでしょ?」

 

「あ、ああ、凄いな。それよりもサヤを……。」

 

「他にもね、こっちのツルについたボタンを押すとね。」

 

「暗視ゴーグルに赤外線ゴーグル……。」

 

「こっちのツルを押したら望遠鏡にもなるよ。」

 

両耳からぼそぼそとブレミシャインとマゼランの声が響いてくる。最早唇が耳に当たっている程に近くて、ぞわぞわと背筋が震える。

 

「わ、分かった、分かったから、お前らはそろそろ寝ろよ。何日寝てないんだ?」

 

手を使って後ろに下がろうとするとふにゅりと柔らかい感触が後頭部に伝わる。

 

「メ、メイヤー……。」

 

「まだまだあるからね、ミーボやドローンとも情報共有出来るようにもなってるんだよ。」

 

頭の上と左右から囁かれるように説明が続く。

この時点で既に頭の中はパニックになっていた。

前にモスティマにやられた時ですら片耳だったんだ。こんなの耐えられるわけが無い。

 

「や、やめてくれ、俺が悪かった。また、また後日取りに来るから……。」

 

「「「ダメ、今聞いて。」」」

 

「ぬわああぁぁぁ……。」

 

 

 

 

「……ん、ああ、寝ちゃってた。」

 

昨日は確かラックの看病をしてて……あれ、いない。

 

「患者にベッドを譲られるなんて、まだまだだなぁ。」

 

傍の机に置き手紙があった。装備を取りに行ったみたい。でも、もう朝なのに帰って来てないなんて変だ。

 

「……探しに行かなきゃ。」

 

何か他のオペレーターに巻き込まれていたら大変。とりあえず、ヴァルカンの所に行ってみよう。

 

 

 

 

「あの、ラックは来て……る…………。」

 

「それでね、こっちの機能は……」

 

「この機能も搭載するのに苦労してて……」

 

「ここなんて皆で意見を出し合ったんだよ……」

 

両腕をブレミシャインとマゼランに抱き締められて、顔をメイヤーの胸に埋めて痙攣しているラックがいた。

 

「ら、ラック!?大丈夫、起きて!?」

 

三人から引き剥がして床に寝かせる。

脈が早い、息も荒くて白目を剥いている。これは……。

 

「興奮、しているだけ、か。」

 

ちょっと心配して損したかも。腹いせにほっぺたを指でつついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

・ある日の一幕

 

昼前まで惰眠を貪り、ぼんやりした頭で食堂へ向かう。今日は何すっかな〜、なんて考えていると前を歩いていた少女がやたらと遅い事に気が付いた。

足を怪我している風じゃねぇけど、ちょっと聞いてみるか。

 

「なあ、足とか怪我してないか?」

 

前に出て声をかけると随分反応が薄い。……いや、ちょっとずつ目が大きく開かれてるから驚いてる、のか?

 

『こんにちは!』

 

「ん、ああ、こんにちは。サポートロボットか。」

 

『こちらはカメラマンのシーン。そして撮影サポートロボットのレンズです!』

 

「こんにちは。」

 

元気な声のレンズが話していると、ゆっくりと間延びした声でシーンが声を出した。

 

「なるほど、種族特性か。悪いな、歩くのが遅かったから足を怪我してんのかと勘違いしちまった。」

 

『いえいえ、シーンお嬢様を気遣っての事ならとても嬉しいです!』

 

「そうか。」

 

良い子だなぁ、とレンズの頭?を撫でてから食堂に向かおうとする。

 

「ん?」

 

微かに袖を触られた気がして振り返る。

シーンが手を伸ばしてみたいだ。

 

「どうしたんだ?」

 

『シーンお嬢様はご飯が食べたいようです!』

 

「わかるのか?まあ、んじゃ行くか。」

 

とは言え、シーンの速度に合わせていたらどんだけ時間がかかるか分かんねぇからな。

 

「ほら、食堂まで行くから乗りな。」

 

……?ゆっくりしているのは分かるけど、中々乗ってこない。

 

「どうした?」

 

『シーンお嬢様は抱っこして欲しいそうです!』

 

「抱っこ?まあ、いいけど。」

 

シーンの正面に立って抱き上げる。

少し待つと両手両足を体に回して抱き着いてきて、頬と頬が触れ合った。

……思ったより力強いな。

 

「んじゃ、行くぞ。」

 

これ食堂に着いたら降りてくれるよな?

 

奇異の視線を感じながら食堂に入り、シーンのも合わせて注文して席に運ぶ。

 

「……そろそろ降りてくれないか?」

 

「うん。」

 

のそのそと動いて隣に座る。

な〜んか、シーンって見覚えある気がすんだよなぁ。でもちっとも覚えてねぇ。

うんうん唸りながら飯を食う。

 

「ごっそさん。」

 

早めに食べ終わったから、のんびりとシーンが食べているのを眺める。

ジッと顔を見ていると、ほんの少しだけ顔に赤みが差してきた。

 

『ラック様、女性の顔を見続けるのは失礼では?』

 

「それもそうか。」

 

サヤの言葉で見るのを止める。

飲み物を飲みながら待つか。

それからたっぷり一時間、時間をかけて飯を食べ終わってからシーンと別れた。

 

 

 

 

ゆっくりとした歩みでシーンが部屋に戻る。

先程までの時間を何度も何度も頭の中で反芻していた。

久し振りに会えた喜びと自分を覚えていなかった悲しみが胸の内で同居したまま、シーンは机の引き出しを開けた。

その中には、今よりももっと幼いシーンと、そんな彼女を股の間に座らせて芝生の上で笑うラックの写真が入っていた。

一緒にいたのは一週間程度だったが、それでもシーンにとってはかけがえのない時間であったことに違いはなかった。

あの頃から既にトランスポーターとして世界を渡り歩いていたラックの話は幼くて遠くまで出歩けなかったシーンにとって、どんなドキュメンタリーよりも楽しいものであった。

世界の様々な生き物、自然、天災後の惨状、全てラックの主観による話だったが、シーンは自分の足で見てみたいと憧れていたのだ。

昔と比べて自分は成長した、だから今度は自分も連れて行ってほしいとシーンは願いながらゆっくりとハンモックに乗り、写真を抱き締めるように丸まって眠った。

 

 

 

 




タイトルはテキトーです。
随分時間が掛かってしまって申し訳ないです。頭の中で組み上がっていても文字にすると難しいんですよね。


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四十二話:エッチな薬にご用心

 

 

 

 

今日は何も無く、のんびりとエンシオとチェスをしていた。それをスズラン、シャマレ、ポプカルが肩によじ登ったり、膝に座ったりして観戦していた。そんな時だった。

 

『オペレーター総員に通達します。アーさんの薬がうっかりで散布されました。これより、一般フロアとの間の隔壁を閉鎖するので一分以内に一般フロアへと移動してください。

特にアスラン、ウルサス.ヴァルポ、エラフィア、クランタ、キャプリニー、フェリーン、ペッロー、ループス、レプロパの方は急いで移動をしてください。』

 

エンシオと顔を見合わせて三人娘に目を移すと、近くにいる子を脇に抱えて走り出した。

 

「全く、アーの野郎。今度は何しやがった?」

 

「わからん。しかし、放送の通り急いだ方が良いだろう。」

 

「そうだな。」

 

にしても、時間が余りにも短い。

 

「チッ、やっぱ時間足んねぇ。」

 

どうするかと一瞬悩むが向こうにエンカクが見えた。

 

「エンシオ。」

 

「ああ。」

 

きゃー、と楽しそうな声を出す三人娘を抱え直す。

 

「エンカーク!!」

 

「……あ?」

 

「受け取れぇえ!!」

 

「「「きゃあああ!!!?」」」

 

「うおおおお!?」

 

躊躇わず三人娘を隔壁向こうのエンカクにぶん投げた。

投げられた事に一瞬驚いていたが、すぐにエンカクに飛び着きやすいように姿勢を整えていた。

 

「後頼んだぞ!」

 

ガシャンと隔壁が閉じる。

さてと、薬品の効果が気になる所だが……。

 

「アーミヤに連絡をしてみるか。」

 

サヤは置いてきちまったから、端末からアーミヤに通話を繋ぐ。

 

「くっ……」

 

「エンシオ?おい、どうした?」

 

急にエンシオが膝を着いた。まさか、毒性の薬品か……?

 

『ラックさんですか!?』

 

「アーミヤ、一体何が起こってんだ?」

 

『それが、アーさんが新薬の開発に失敗してしまって……。発情期の種族、特に先程放送で言った種族を発情させてしまうそうです。』

 

「また変なもん作りやがって……。」

 

『とにかく、今は避難してください。もしもラックさんが発情した女性オペレーターに見つかった場合……。』

 

「見つかった場合……?」

 

『大変な事になります。』

 

「いやまあ、想像はつくけど……ん?待て、アーミヤ。ケルシーはどうした?こういう時、一番行動が早いのはケルシーだろ。」

 

『……。』

 

「おい、まさか……。」

 

『はい……。』

 

「やめろやめろ、聞きたくない。絶対俺が狙われるじゃん。やだよMon3trから逃げるとか。」

 

『が、頑張ってください!今ドクターも頑張っていますから!』

 

「ドクターもかよ。

しゃーねぇ、とりあえずエンシオを移動させるか。」

 

「私が手伝おう。」

 

「ああ、サンキュ。それで、どこか安全な……ん?」

 

待て、今俺は誰と喋っていた?

さっきまでエンシオがいた所を見ると誰もいなかった。

 

「……ホシグマにエンシオが攫われた。」

 

『どうしましょう……。』

 

「あいつはほっとこう。貴重な囮だったんだが連れてかれたんじゃしゃーねぇ。そんな事これからどうするかだ。

まず今残っている男性オペレーターが問題だ。ぶっちゃけ、女の方が圧倒的に多いからな。」

 

そのままアーミヤと話を進めていく。

状況は良くないな……俺とエンシオとドクターとアンセル以外は設備修理、一般区画に用事だったり街に行ってたりで外に出ているらしい。ドクターの近くにはファントムがいる可能性もあるが。

ちなみにアンセルは既にカーディに連れていかれたらしい。いくらなんでも早過ぎる。わざとか?

それと、今動いているにいる女性オペレーター以外はほとんど部屋に引き篭っているらしい、ただそれ以外が問題か……。

 

「自由に動けそうなのは俺だけか。

なんとかこっちを探しているオペレーターの鎮圧をしないとな。

一旦移動して話そう。どこか安全な場所はないか?」

 

『ちょっと待ってくださいね。』

 

アーミヤが調べてくれている間に少し見つかりにくい位置に移動すると、丁度そのタイミングで足音が聞こえて、慌てて通信の音量を下げる。

コツ、コツ、と一定のリズムで足音が廊下に響く。

……誰かは知らねぇけど、気づいてくれるなよ。

 

「あれぇ?タバコの臭いがしたからラックがいると思ったんだけどなぁ……。」

 

マズイ、ラップランドだ。隠れてても意味ねぇな。端末を懐に入れて飛び出した。

 

「アハッ!見つけた!」

 

「そりゃあ良かったな!」

 

足払いと仕掛けるとラップランドが軽く飛んで回避する。そして、そのまま一回転して胴を蹴り飛ばして壁に叩き付けた。

 

「クッ、アハハハ、素手でも結構戦えるんだね!」

 

ラップランドが剣を抜く。会話なんてしている暇なんてねぇから速攻で逃げ出す。

待って、あいつホントに発情してんの?

 

「鬼ごっこかい?いいよ、捕まえてあげるから!」

 

「チッ」

 

飛ぶ斬撃を避けながら逃げ、角を曲がる。これで攻撃が通らない。

 

「っとぉ……。」

 

「大丈夫?お姉ちゃんが着いてるからね。」

 

「うん、大丈夫……。」

 

角を曲がると地面に座り込んだビーズワクスと心配するカーネリアンがいた。やはり、二人とも顔が赤くて息が荒い。

背後から聞こえる高笑いを耳にしながら頭を抱える。

これ、ここにこのまま置いといたらラップランドのせいで絶対にめんどい事になる。

 

「ん、ああ、ラック。ごめんね、急にこの子の体調が悪くなってね。」

 

「あーいや、気にすんな。

それと、悪い。」

 

二人を抱えて走り出す。

 

「ちょ、ちょっと、何を……」

 

「わ〜……」

 

「ラップランドに追い掛けられててな。このまま安全な所に一旦置いてくから、我慢してくれ。」

 

……正直、重い。角が重いのか?

 

「……えい。」

 

「ふぉう!?」

 

ドスッ、と指で脇腹を突かれてよろめく。

 

「危ないだろ!?」

 

「良くないこと、言われた気がした。」

 

「気がしただけかよ……。」

 

恐ろしい直感してやがる。

 

「そんな事よりも、ラップランドが来たよ。早く逃げないと。」

 

「ラック……どうして私じゃない女と引っ付いているんだい……?」

 

「しゃーねぇだろ!お前が追いかけてくんだから!」

 

くっそ、やっぱ遅くなっちまう。

 

「悪く思うなよ!」

 

「きゃっ……!」

 

ビーズワクスを軽く投げて、銃を引き抜いて数発一気に撃ち込む。

いつものラップランドなら対処出来るだろうが、今はいつもよりキレが悪いからな。

 

「クッ、邪魔だよ!」

 

ビーブワクスをキャッチしてまた走り出すと、角を曲がって近くの倉庫に隠れた。

ちゃんと、臭い消しも放ったから問題ないだろ。

 

「二人とも少しだけ我慢してくれよ。」

 

「それは別に構わないよ。でもこの子の様子が……。」

 

「すん、すんすん……」

 

ビーズワクスが鼻を鳴らして近付いてきて、俺の匂いを嗅ごうとしてくる。

 

「お、おい、待てって。」

 

「よいしょ、私が見ているから、大丈夫だよ。」

 

カーネリアンが引き離してくれて助かった。

 

「それで、さっきの放送の話はなんだったの?」

 

「どうにも、一部種族を発情させる薬品らしい。」

 

「なるほど、やってくれたね。」

 

「全くだ。」

 

くそ、この部屋無駄に暑いな。それに二人の匂いまでしてきやがるから理性を削ってくる。

 

「……そろそろ出るか。二人は俺が出て行って少ししてから出てくれ。」

 

指示を伝えて立ち上がろうとすると手首を掴まれた。

 

「は?」

 

「ふっ、ふっ、ふっ……」

 

「はーっ、はーっ……」

 

ミシミシミシと手首の軋む音がした瞬間、カーネリアンに引き摺り込まれた。

そのまま俺の体を掴むと、二人で俺の匂い、特に首筋なんかの匂いを嗅ぎ始めた。

 

「お前らっ、何を……!!」

 

逃げようとすると、カーネリアンの手が俺の頭を掴んで壁に叩き付けた。

 

「……っぁ」

 

脳が揺れて、視界が歪んで脱力する。

歪んだ視界の中でカーネリアンが嗜虐的な笑みを浮かべていた。

カチャリと音がして、ビーズワクスにズボンを脱がされていく。

 

「ま……て、や、やめろ……」

 

「大丈夫だよ。私もやり方は知ってるから。」

 

「そう言う問題じゃ……」

 

「うるさい。」

 

「んー!?」

 

カーネリアンにキスをされて黙らされる。

まずい、このままじゃ喰われる。

手は出したくなかったが、しゃーねぇ。

カーネリアンの腹に手を当て、一気に押し込む。

 

「う”っ……!」

 

「ここで大人しくしててくれよ……?」

 

そのままビーズワクスも、と思ったがズボンを放してくれない。

仕方なくズボンを脱ぐと、ビーズワクスを持ち上げてカーネリアンに投げ飛ばす。

倉庫から出てもう一度アーミヤに通話を繋いだ。

 

『ラックさん!大丈夫でしたか?』

 

「なんとかな。ラップランドとカーネリアンとビーズワクスに襲われただけだ。撒いたから問題ねぇ。」

 

『普段温厚なあの二人が襲うなんて……。』

 

「それだけ薬が強力って事だな。それで、これからどうすればいい?」

 

『はい、まずは医務室に向かいましょう。そこなら鎮静剤や睡眠薬があるはずなので無力化出来るはずです。』

 

「なるほどな。了解だ。到着したらまた連絡する。」

 

通話を終えて移動を開始した。

 

 

 

 

医務室に向かっている途中でおかしな物を見つけた。

 

「なんで廊下に服が?」

 

辿って行くとベルト、上着、スカートとどんどん服を脱ぎ捨てている。

 

「あーつーいー!」

 

「ケオベ……。」

 

見つけたのはブラをぽーんっと投げ飛ばすケオベだった。

 

「こら、ケオベ!」

 

少し怒り気味に声を出すと、肩を跳ねさせてゆっくりとこっちを向いた。

……また胸でかくなった?

 

「ちゃんと服は着ないとダメだろ?」

 

「やだやだ!おいら暑いのやだー!」

 

「あーもー!駄々こねるな!」

 

ずるずると引っ張りながら医務室に連れて行く。こうなったら寝かせてから着せてやる。

 

「いーやー!嫌い!」

 

「ごぶっ……」

 

き、嫌い?嫌いって言われた?あ、やば、心折れそう……。

い、いや、頑張れ俺!俺がやらなきゃ誰がやる!

 

「やだやだやだー!!」

 

「せいっ!」

 

医務室に入って注射器に入った睡眠薬をぶっ刺すと、すぐに眠った。

 

「……辛かった。」

 

ため息を吐いて服を着せると、医務室のベッドに寝かせた

 

「本数は……結構あるな。」

 

腰にバッグを着けてその中に睡眠薬の入った注射器を詰め込む。

これ多分効能キツいんだろうなぁ。

詰め終わるとアーミヤに通話を繋げた。

 

「アーミヤ、道中でケオベに遭遇したけど、医務室に連れて行ってそのまま鎮圧したぞ。んで、睡眠薬とかも調達出来た。」

 

『本当ですか!良かった……。』

 

後は一人一人鎮圧していくだけでなんとか━━━━

 

『ラックさん!急いでそこから離れてください!』

 

「何があった?」

 

『良いから急いで!』

 

「了解。」

 

指示通り急いで廊下に飛び出すと、手遅れな事に気が付いた。

 

「……マズイ。」

 

廊下の両側からケルシー、ラップランド、テキサス、フロストリーフ、グラニ、シュヴァルツが完全武装で立っていた。

 

「くそっ!」

 

医務室に戻って扉をロックして天井のダクトに潜り込むと、極力音を出さないようにしながらも急いで離れる。

匍匐で移動していると、背筋に冷たいものが走って止まると目の前に見慣れた源石剣が現れた。

 

「ひぇっ」

 

「見つけた。」

 

「じょっ、冗談じゃねぇぞ!?」

 

天井を蹴破って廊下に飛び降りて全力で走る。

煙玉と臭い玉を撒き散らして撹乱を狙うけど、これで撒ききれるとは━━━━

 

「ッ!Mon3trか!」

 

煙を薙ぎ払うように振るわれた鎌をしゃがんで避ける。

 

「ラック、悪く思うな。」

 

「お前らはちったぁ悪いと思え!」

 

発情作用にしても、こうも闘争意欲も上がるなんておかしなもんだ。

 

「はぁ!」

 

フロストリーフのハルバードを半身で躱して柄を掴んで引き避けて投げる。

しかし、武器が無いとこっちはこれ以上どうしようもねぇぞ。

ただ、あっちが冷静じゃないからこそこっちはなんとか戦いが出来ている。

もし冷静ならもっと連携を取られて負けてるだろう。

小細工で逃げるにしてもMon3trをなんとかしねぇと。

 

「……いや、違うな。」

 

その場で無防備な背中を向ける。

後ろから捕まえる為に近付いてきているのを感じる。

 

「小細工抜きの全力疾走だぁぁ!」

 

煙玉をばら撒きながら走る。やってられっか、めんどくせぇ!

 

「待てーー!」

 

グラニが後ろから追いかけてくる。流石にクランタには足じゃ勝てねぇな。

 

「なら、ここでグラニだけでも……うおっ!?」

 

左足を上げると足があった場所に矢が突き刺さった。

 

「おいおい、マジかよ。」

 

何度か跳ねるような音が聞こえると、俺の後ろにシュヴァルツが着地した。

 

「ふぅ……もう逃げられませんよ。」

 

参った、どうやって切り抜けるか……つーかずっとこいつら顔赤くして息荒らげてるの怖すぎんだよ。

他の四人が合流する前に無力化するにはどうすればいいか……。

 

「あ、良いこと思い付いた。」

 

徐にシュヴァルツに向かって走り出す。驚いたシュヴァルツに抱き着くと、そのまま尻尾よりやや上の所をトントンと軽く叩く。

 

「な、何……をっ!?」

 

すると内股になって俺に体を預けたまま震え始めた。

 

「やっぱフェリーンにはここか。」

 

「あ、やっ、やめっ……」

 

か細い声と震える手でで止めようとしてるけど、いつもと比べるとかなり弱い。

恐らく感度も多少なりとも上がっていて、感じてんだろ。

遂にガシャリと武器を落としてしまう。

そして首に注射器を刺した。

 

「……まずは一人。」

 

そっとシュヴァルツを寝かせると、様子を見ていたグラニに向き直る。

 

「さあ、来い!」

 

「いいい行くよ!!」

 

何故か目がぐるぐるしているグラニが槍を突き出す。興奮か混乱か分からないが、単調になった攻撃を横から手の甲で逸らして抱き寄せる。

 

「よ〜しよ〜し、暴れんなよ。」

 

「う〜〜……」

 

槍を振るえないように肩をロックして注射を打って無力化した。

二人を廊下の端に移動させる。

 

「アーミヤ、逃走ルートの確保を頼む。」

 

『わかりました。……あっ、ド、ドクターっ!そっちは!』

 

「何があった?」

 

『ドクターがどんどん袋小路に追い詰められてて……。』

 

「そりゃまずいな。つっても、俺が行くと数が増えて不利になるだけだからな。悪ぃけどそっちでなんとかしてくれ。」

 

そう言えば、よくドクターの近くにいるファントムもフェリーンだったな。今の状況じゃ頼れそうもないか。

 

『はい、頑張ってナビゲートします!』

 

「ああ、それと状況はドクターの方が悪ぃんだろ?ならこっちは一旦大丈夫だから一先ずドクターを優先してくれ。」

 

『良いんですか?』

 

「俺と違ってドクターは戦えねぇからな。

アーミヤだって心配だろ?」

 

『それはそうですけど……すみません。』

 

「気にすんな。繋いだままにしとくけど、また後でな。」

 

『はいっ!』

 

さてと、こっちも行動開始だ。と歩き出した瞬間、横から誰かがぶつかってきた。

 

「おっと。」

 

「……オマエか。」

 

誰かと思えばズィマーだった。薬の影響か、いつもなら俺に触れたらすぐに離れようとするのに動かない。

 

「なんで……すんっ……オマエがこんな所に……すんすんっ」

 

無意識なのか、俺のシャツを握り締めて匂いを嗅ぎながら文句を言う。

 

「アーミヤからの放送は聞いたろ?それでちょっとな。」

 

「……すーっ」

 

まずいな、ズィマーですらこれか。

とにかく、眠らせて逃げよう。まだあいつらが追いかけて来てるだろうからなぁ。団体で行動してやがるから困ったもんだ。

右手で注射器を取ろうと手を伸ばすとズィマーが右手を掴んだ。

 

「オマエ……今何しようとした?」

 

「いや、何も。」

 

マジかよ、勘づきやがった。

 

「アタシになんかしようとしたよな?ああ?」

 

手首を握った手に力が込められる。

さっきからそうだけど、種族の特徴ってのは中々理不尽だ。サンクタもこういうのありゃ良かったのに……。

 

「いっ……!」

 

「気に入らねぇ……気に入らねぇな、なんでオマエなんかに……!」

 

手首をへし折らんばかりに力を込めながら壁に押し付けられる。

しかも向こうから足音が聞こえてきた。間違いなくケルシー達だ。

 

「ズィ、ズィマー、放せっ!」

 

「うるせぇ、オマエの言うことなんて聞いてやるか。」

 

「わかった、わかったから、せめて二人きりになれる所に行かないか?ほ、ほら、ここだと誰かに見られて邪魔されるだろ?」

 

苦し紛れにそう言うと少し考える素振りをすると、手首を握ったまま俺を引っ張った。

 

「っく……」

 

「モタモタすんな、早く来い。」

 

ある一室に着くと部屋の中に放り投げられる。多分、ズィマーの自室だ。

 

「いっだ……!?」

 

腰のバッグから注射器が何本か飛び出て割れた。

くそっ、ただでさえ本数が少ないってのに。

 

「なんだこりゃ。……そうか、こいつでアタシになんか打ち込むつもりだったのか!」

 

ズィマーの右手が俺の首を掴んで締め上げる。

 

「こっ……!?かっ……!」

 

締め上げる手を掴んで外そうとする。

せめて、武器さえあれば……!

 

「こんなもん!」

 

その間に腰からバッグを奪うと地面に叩きつけて何度も踏み付けられる。あれじゃもう使い物にはならねぇ。

 

「いつもいつもアタシを舐めやがって。」

 

右手で締めたまま、左手で顔面を殴られる。

こ、こんにゃろ……!

外そうとしていた手を片方放して拳を受け止める。

 

「あ?生意気なんだよ……!」

 

左手を引き戻すと今度は腹に拳が突き刺さる。

 

「う、げ……」

 

首を掴んだまま引き上げられて、ベッドに寝かされる。

 

「ふーっ、ふーっ……!オマエなんて、オマエなんて……!」

 

「ま、て……」

 

「黙ってろ!」

 

服を引き裂かれる。

やだ、大胆。なんて巫山戯た事を考えてる状況じゃないな。どうにかして逃げ出さねぇと。

すると、さっきまで散々ボコボコにしてくれていたのに動きが固まった。

俺の腰の上に座ったまではいいが、躊躇するように目を泳がせる。そして、腰をもどかしそうに動かしている。

……ああ、くそ。

方法は思い付いたが、後で殴られそうだ。

ズィマーの肩を掴んで引き寄せてキスをした。

 

「……!?お、オマ、エ……ん〜!?」

 

「良いから。」

 

キスをしたまま、抱き寄せたまま頭を撫でる。

やっぱこういう事をした事がなかったからか、顔を赤くさせて腕の中でもがく。

このまま骨抜きにしてやる。

するりと制服のシャツの中に手を入れて、脇腹を撫でながら上に手を伸ばす。

 

「ば、馬鹿、何してやがっ」

 

「してほしかったんだろ?」

 

「ん、んなわけっ……!」

 

え〜っと、ズィマーの本名なんだったっけ……前にたしかグムと雑談してる時に教えてもらった……ああ、思い出した。

頬にキスをして耳元に口を寄せる。

 

「可愛いぞ、ソニア。」

 

ぼんっ、と音が聞こえてくるくらいに顔を赤く染めると俺の上に倒れた。

 

「……危なかった。」

 

上から降ろして布団を掛けてやる。

 

「いっつつ……。」

 

殴られた所を押さえながら廊下へ出る。手首にも跡が残ってるな、首にも付いてそうだ。

 

「悪い、アーミヤ、そっちはどうなった?」

 

破かれた服を脱いでテキトーに放り捨てる。

結局パンイチか、これから端末は手で持っとかねぇとな。

 

「あれ?アーミヤ?おーい、聞こえてんのかー?」

 

返事がない。もしかしてドクターに何かあったのか。

 

「しゃーねぇ、ここからは一人でなんとかするか。とりあえずサヤを━━━━」

 

「かくれんぼはおしまいだ。」

 

ヒタリ、と首に源石剣が添えられる。

 

「テ、キサス。」

 

もう見つかったのか!?

ゆっくりと前に回ってくると、さっきズィマーにやられた顔や首を見る。

 

「随分とやられたな。」

 

「は、はは、まあな。お前らが手加減してくれないからな。」

 

「そうか。」

 

テキサスが俺の二の腕を掴むと爪を食い込ませる。

そういえばこいつもそうだった!?

これじゃ体が持たねぇ。ここでやり合うしかねぇか……!?

 

「やぁ!」

 

ゴンッ!と殴る音が聞こえるとふらりとテキサスが倒れた。慌てて抱きとめて端で寝かせる。

 

「だ、大丈夫だった?」

 

「助かったぁ……。」

 

ほっ、と息を吐く。ブレミシャインが助けてくれたみたいだ。休んでいたのか、いつもより薄着だった。

すると今度は複数の足音が聞こえてきた。

 

「まずっ!」

 

「こっちに来て!」

 

言われるがまま着いていくと、ブレミシャインの自室に着く。

 

「ここ、入って!」

 

「あ、ああ。」

 

そのまま部屋の電気を消して、ベッドの中に押し込まれて布団を被せられる。

そして、少しするとノックが聞こえた。

 

「ここにラックは来なかったか?」

 

ケルシーの声だ。匂いを辿って来たのか……!

 

「え?来てないよ。探してるのなら手伝ってあげたいけど……私も体調は良くないから。」

 

「そうか。休んでいたのに、すまない。」

 

そう言うと帰って行った。

匂いがした周囲の部屋で聞き込みでもしてたのか?

もう少ししたら出ようと思っていると、こっちに向かう足音と衣擦れの音が聞こえた。

そっと顔を布団から覗かせると下着姿のブレミシャインと目があった。

しまった、ブレミシャインもクランタじゃねぇか。

 

「あ、ちょっと、逃げないでね。」

 

起き上がろうとする俺の肩を押してベッドに寝かせるとそのままベッドに入って自分ごと布団を頭から被った。

さっきまでは隠れていた緊張感から気付かなかったが、この布団、かなり匂いが染み付いてやがる。一人でシてやがったな。

それに気付くと頭がクラクラして来た。

 

「さっき、顔が腫れてたよね。可哀想に……。」

 

ズィマーに殴られた所を撫でられる。

目が慣れたのか、薄暗闇の中でブレミシャインの顔が薄らと見えてきた。

はぁ、と熱の込められた息が顔に当たる。

 

「ラックさんは私たちの為に頑張ってたんだね……ありがとう。」

 

頭を優しく撫でられる。さっきまでの理不尽さから一転して優しくされて、逃げる事を躊躇ってしまう。今の状況で外に出れば、また誰かに襲われるかもしれない。

 

「もう痛い事はされないから、安心してね。」

 

ブレミシャインがブラを外して俺を抱き締める。

谷間に顔を埋めながら、震える手で背中に手を回す。

 

「お、落ち着け、ブレミシャイン。」

 

「ねぇ、ラックさん。マリアって呼んで?」

 

体を少し離して、両手で顔を挟まれて目が合う。普段の騎士として振舞おうと頑張る彼女はどこにもいなかった。

 

「……マリア。」

 

「……うん。」

 

情欲に濡れた目をしたマリアが顔を寄せてくる。

拒もうと思えばいくらでも拒めたそれを、俺は止められなかった。

 

 

 

 

……あれ、いつの間に寝てた?何してたんだっけ。

ぼんやりとした頭で目を開く。

 

「あ、起きた?おはよう。」

 

ブレミシャインの顔が目の前に広がる。ああ……思い出した……。

何度も優しく撫でながらキスをしてくるブレミシャインを止める。

 

「あー……ブレミシャイン。体調は━━━━」

 

どうだ?と聞こうとすると人差し指で止められた。

 

「もう、マリアって呼んでって言ったでしょ?」

 

「ぇ、あ……ま、まりあ……。」

 

そのまま機嫌良さげに頬を撫でる。

正直、何が何だかわからず、頭がパンクしそうだった。

 

「ごめんね、ラックさん。昨日はわがまま言って。」

 

「あ、ああ、いや、気にしなくて良い。全部アーが悪いんだ。

それに、俺も悪い気はしなかったしな……。」

 

「え、えへへ……そ、そっかぁ。」

 

嬉しそうに笑うと体をもっと寄せてきた。マリアの胸が俺の胸に当たる。

 

「ねぇ、もうちょっとだけわがまま言っても良い?」

 

「ここまでしたんだ。好きなだけ言ってくれ。」

 

「ほ、ほんと?じゃあね……」

 

耳元に口を寄せて伝えてくる。

 

「……それで良いのか?」

 

「あ、あれ?何かおかしかった?」

 

「いや、これだけヤッたんだからもっと大胆な事だと思ったんだけどよ……。」

 

「でも、やっぱり女性としては言ってもらいたいんだ。」

 

「わかった。」

 

マリアの頭の上の耳に顔を寄せる。

 

「好きだ。」

 

「……っ!!」

 

ピクリと少し震えると耳がゆらゆらと揺れ始めた。左手で優しく掴むと深呼吸をする。

 

「すぅぅぅ……ふーーーー。」

 

「ぁぁぁぁあ……」

 

少し野性的な酸い匂いがした。

 

「マリア、好き。好きだぞ。」

 

我ながら随分薄っぺらいな言葉だと思う。

コリッ、と耳を少し揉む。

 

「ふひゃっ……!」

 

まあ、マリアの事が好きなのは間違いじゃねぇ。じゃないとそもそもヤるなんて事はねぇし。

……誰に言い訳してんだ。

 

「ね、ねぇ、ラックさん?

また、してもいい?」

 

「………………おう。」

 

マリアが俺の足を股で挟んで押し付ける。

もってくれよ、俺の体。

 

 

 

 

 

 

 

 

・その後の一幕

 

 

 

 

「全く、酷い目にあった。」

 

「そうは言うが、それを見るとそうは思えないな。」

 

薬の効果が切れたエンシオと廊下を歩く。

あの後ホシグマにとことん絞られたらしい。

そしてそんなエンシオが見ている俺の左腕に目を向ける。

 

「?どうしたの?」

 

「……いや。」

 

マリアが左腕に抱き着きながら歩いていた。

なんか、薬の効果に付け込んだ感じがして複雑な気持ちになる。どうせなら自力で口説き落としたい。

それに背後から感じる二人の視線も気になる。過保護過ぎるだろ保護者共。

 

「あー、なあ?そろそろ離れてもいいんじゃないか?ほら、あれは事故みたいなもんだったし。」

 

「ラックさんは、嫌だった?」

 

しょんぼりとした顔で見上げられて空いた手で頭を搔く。

 

「マリアみたいな美人とヤれたんだ。嫌な訳がないだろ。」

 

「本当に?」

 

「本当だ。あんな薬抜きだったらもっと良かったのにって思っただけだ。」

 

「え、えっと、じゃあまた今度とか……!」

 

「誘ってくれるのは嬉しいけどせめてあの保護者共がいない時にしてくれ……。」

 

視線の鋭さが増した事にため息を吐く。

隣のエンシオが楽しそうに笑っていて腹が立つ。

 

「んで、そっちはホシグマとどうなんだ。」

 

「ふっ、良い関係だとだけ言っておこう。」

 

「良い関係ねぇ。」

 

シルバーアッシュ家も安泰ってか。

 

「それより良いのか?」

 

「あん?」

 

マリアが左手の指、特に薬指に何かを巻き付けているのを感じる。

 

「何してんだ?」

 

振り向くと指の採寸をしていた。

 

「……おい、おい待てコラ。」

 

そう言うとマリアがサイズを書いた紙を大事に抱えて後ろに下がる。

 

「良い子だからその紙をこっちに渡すんだ。」

 

「ちょっとだけ、ダメ?」

 

「用途だけ聞いてやる。」

 

「ゆ、指輪……。」

 

「アウトだ!」

 

「ま、またね!」

 

「待てッ!」

 

マリアを追い掛けると陰から見守っていた二人が出てきて道を塞ぐ。

 

「お前ら良いのか!?このままだとなんやかんやあって婚約者みたいな関係にさせられるんだぞ!?」

 

「私の妹では不満だと?」

 

「いや、そうは言ってないだろ……。」

 

「妹はやらないぞ。」

 

「めんっどくせぇ!ウィスラッシュお前もなんとか言ってくれよ。」

 

「マリアが結婚しちゃうと本当に叔母さんになっちゃう……でもあの子が幸せなら……。」

 

「くそっ、こいつらマジでめんどくせぇ!」

 

強引に突破しようにもこの二人相手は厳しい。

 

「おい、エンシオ。お前も手伝え!」

 

「断る。」

 

「んなっ!?」

 

「私に女性の純粋な気持ちの邪魔など出来ないのでな。……ふっ。」

 

「……せめて俺の目ェ見て言えよ。」

 

「おっと、ヤーカ達に呼ばれていた。ではな。」

 

「このっ!クソッ!」

 

しゃーねぇと切り替えて前方の二人を抜こうとするが的確にニアールが進行方向を塞ぎ、ウィスラッシュに次の行動を制限される。

連携が整い過ぎだろ。どうすりゃいい?

 

「チッ、こんな事してても良いのかよ!」

 

「どういう事だ?」

 

「こんな事してるよりも恋人の一人でも作ってた方が良いんじゃねぇかっつってんだよ。」

 

「私にはまだ必要ない。」

 

ニアールがそう言った瞬間、隣のウィスラッシュが膝から崩れ落ちた。

 

「え、お、おい、大丈夫か?」

 

「くすん……そうよ、今まで出来たことなかったわよ……。」

 

あれ、地雷踏んだ?

ニアールに目配せすると、何とかしろと目で返された。

 

「ほら、人生長いんだからこれからだって……。」

 

「……そうよね?まだこれからよね?」

 

「ああ、ウィスラッシュだって若くて美人なんだし、これから引く手数多だって。」

 

ウィスラッシュの肩に手を置いて慰める。

 

「び、美人?ラックもそう思う?」

 

「当然だろ!」

 

親指を立てて肯定すると、ウィスラッシュの目が俺を捉えた。

 

「じゃ、じゃあ……これからちょっと話さない?」

 

「え、俺今からマリアを……」

 

「くすん」

 

困惑してニアールを見ると大きく頷かれた。

 

「わかった、わかったから、行きゃいいんだろ。

その代わり、マリアを止めてくれよ。」

 

そう言うとニアールが嫌そうな顔をした。

 

「じゃあお前、今のウィスラッシュの相手するか?」

 

「…………わかった。」

 

たっぷり悩みやがって。

ため息を吐いてウィスラッシュを連れて行く。

話聞くってんなら居酒屋でいいだろ。

 

 

 

 

「ねぇ、聞いてる?」

 

「うんうん。」

 

テキトーな相槌をしながら酒を飲む。

 

「男だってみんなして遠巻きで見ているだけなのよ?話しかけようとしても逃げるからまともに会話だって出来ないわ。」

 

「そうだな。あ、これ追加。それと酒も。」

 

「騎士だからって私も女性よ?男性と付き合いたいって気持ちくらいあるわよ。」

 

「わかるわかる。あ、これ美味ぇ。」

 

「このまま独身のままは寂しいし。」

 

「そうだな。……けふっ」

 

酔ってきたな……。

 

「ねぇ、ラックさえ良ければなんだけど……これから、その……ね?」

 

「うん。」

 

ちょっと夜風に当たりてぇ。

 

「ああ、でも本当に良いのかしら。マリアだっているし、そもそも何股もしているみたいなものだし……。」

 

「悪くない悪くない。」

 

あー、眠い。

 

「じゃ、じゃあ、お願いするわね。あまり、詳しくないから……。」

 

「おう。」

 

店を出てホテルを探す。あれだろ、とりあえず酒飲んで眠いって話だろ。

 

 

 

 

「あ〜よく寝た。」

 

確か昨日はウィスラッシュの愚痴を聞く為に居酒屋行ったんだっけ。大体聞いてなかったけど。

つーかここどこ?

 

「……んん、寒いわ。」

 

「悪ぃ悪ぃ……ん?」

 

なんで隣でウィスラッシュが寝てんだ?

いや、まあ、そういう事か。…………多分ヨシッ!

このまま雰囲気に全部任せよう。

そのまま横を向いて寝惚けているウィスラッシュを抱き締めると目を瞑った。

 

 

 

 







大分無理矢理だけどエロが全て解決してくれるでしょう。きっと。


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四十三話:嗚呼労働

 

 

 

「よっと。」

 

「へ、へへへっ、悪かったよ旦那。だからそれは待ってくれよ。この前のは俺が第一被害者だぜ?」

 

「元凶が何言ってんだ。」

 

この前の薬品騒ぎのお仕置として縄で縛ったアーにマタタビの粉末をぶっかけて『Free hug』『感度三千倍』のプレートを叩き付けている時だった。

 

「あばばばばばば」

 

「これでもうちょっと常識的な事でもしてくれりゃあなぁ……。いや、それだと今のアーにはならないか。」

 

ため息を吐いてアーの頭に乗っかった粉末を払い落として軽くモフる。

 

「ラック、血液検査の時間だ。」

 

声を掛けられて振り返るとワルファリンがいた。

珍しい、いつもは必ずケルシーがやるのに。

 

「今日はケルシーじゃないんだな。」

 

「先日の出来事を気にしているらしい。存外、乙女な所もあるようだな。」

 

「気にしなくてもいいんだけどな。んじゃ、行くか。」

 

アーを放置したままワルファリンに着いて行った。

 

 

 

 

「……取り、過ぎじゃねぇか?」

 

「そなたの血液はケルシー先生が中々譲ってくれないからな。こういう時に個人用で採取したかったんだ。」

 

「限度ってもんがあんだろ……。」

 

気怠い、体が重い。

 

「安心しろ、ちゃんと増血剤だって用意しておるわ。」

 

「むごっ」

 

口に増血剤を押し込まれる。

 

「ふむ……血液だけでなく他にも欲しいな。」

 

「これ以上何を……」

 

「そなたは確か、性欲旺盛だったな。」

 

「お、おい、まさか……。」

 

「搾精させてもらおう。」

 

キュッ、とワルファリンが手袋を着け直す。それと同時に横になっていた台の側面からベルトが出てきて体を固定された。

 

「うっそだろ。」

 

軽く動いても外れる気配がない。

 

「知っているぞ、そなたの五感の一部が鋭敏になっているそうだな。」

 

「……だったらなんだってんだ。」

 

「こういうのはどうだ。」

 

ワルファリンが軽く飛んで顔の上に跨る。

 

「もが……?」

 

そして普段通り呼吸をしていた為に、一気に女の臭いが入ってきて一気に体が昂る。

 

「……っはあ!てめっ、んっぐ、何ッ……!」

 

体を動かしてもガチャガチャと金具の音が鳴るだけで外れる気配がない。袖からピッキングツールを取り出すが、錠まで届かない。

 

「楽しませてもらおう。」

 

ワルファリンが舌なめずりをした。

 

 

 

 

「どわっぷ……」

 

どれくらい時間が経ったか、ワルファリンが満足して部屋から投げ出される。

 

「あ、あんにゃろー……いつか、絶対に、ひぃひぃ鳴かせてやる……」

 

立ち上がろうと床に手を着くと、足を掴まれた。

 

「それだけ元気があるなら、まだ出せるな。」

 

「あ、あ……ご、ごめんなさぁあああ!!」

 

後ろから引っ張られて地面にべしゃっと倒れ込む。そして引き摺られないように床を掴む、と言ってもツルツルした床だから嫌な音をさせながらゆっくりを引っ張られる。

 

「ぬおおおおお!!」

 

必死に抗っていると誰かが歩いてきた。

見覚えのない顔だ。いや、確か名前は知らねぇけど、医療チームの予備隊員だったっけ。

とにかく助けてくれる事を願って手を伸ばす。

 

「ひゃあっ!?」

 

「た、助けてくれ!拗らせ女が俺を引っ張りやがる。」

 

「良い度胸だな……。今日一日足腰が立たなくしてやる。」

 

「ヘェェェェルプ!!!」

 

「で、でででも……」

 

「そなた、わかっておるな?」

 

「何が欲しい!?金か!?」

 

「あわわわわわわ……」

 

予備隊員の少女がおろおろと俺とワルファリンを交互に見る。

 

「どぅらっ!」

 

腕の力だけで跳ねて少女の足に抱きついた。

 

「きゃっ、きゃあああ!!」

 

 

 

 

「いっててて……」

 

あの後サイレンスが走ってきて一時間くらい説教されちまった。今回ばっかりは俺悪くねぇのに。

しかし、血と精を絞られたせいで体がかなり重い。

今日は安静にしとくか。

とにかく飯だと食堂に入るとテレビの前でケオベがアーをモフッていた。

……あれやばくね?

 

「おーい、ケオベ。」

 

「!!」

 

声を掛けると耳がピンと立ってこっちを向く。

 

「アーが限界だからこっちに来い。」

 

「だだだだーっ!」

 

言葉通りだだだだーっと走って飛びついてくる。

勢いを何度か回転する事で逃して受け止めた。

 

「よしよしいい子だ。飯は食ったか?」

 

「食べた!」

 

「じゃあ甘いもんでも食うか。」

 

厨房に目を向けるとマッターホルンが既にはちみつクッキーを取り出していた。

それを目を光らせてケオベが貰いに行くのを見つつアーの回収を頼むためにウンにメッセージを送る。

 

「どうぞ。」

 

「ほわぁぁあ……!!」

 

「ケオベ、貰ったらなんて言うんだっけ?」

 

「ありがとう!」

 

ハッとしてマッターホルンにお礼を言うケオベを横目に飯を受け取る。今日は親子丼か。

 

「サンキュ。」

 

「中々似合っているぞ。」

 

微笑ましい物を見るような目でマッターホルンが見てくる。

 

「うっせ。」

 

鼻を鳴らして席に向かう。

既にケオベがクッキーに一心不乱に齧り付いている隣に座る。

 

「いただきます。」

 

「!!いただきますっ!」

 

言い忘れていた事に気付いたのか慌ててケオベが手を合わせる。

 

「うん、美味い。」

 

玉ねぎにしっかりと味が染みてら。

横からの視線を感じて見るとクッキーを食べ終わったケオベが穴が開きそうなほど親子丼を見つめていた。

しゃーねぇなとスプーンを取り出して、一口掬ってやる。

 

「ふーっ、ほらあーんしな。」

 

「あーん!」

 

勢いよくかぶりつくと幸せそうな顔をする。

それを見ながら口を拭ってやる。

そのまま食事を続けていると端末に着信が入った。

 

「俺だ。」

 

『あ、ラックさん!悪いんだけど今からこっち来れないかい?』

 

龍門の行きつけの居酒屋の親父からの連絡だった。

 

「何があった?」

 

『うちの店で立て篭りがあってさ。』

 

「……はぁ、わかった。今から向かうから喋るなりなんなりで時間を稼いでくれ。」

 

『いやぁ、ありがとう!それじゃ待ってるから!』

 

通話を切ると親子丼を掻き込んで食器を下げる。

 

「ごめんな、ケオベ。ちょっと用事が出来ちまったから行ってくる。」

 

「悪者退治?おいらも行く!」

 

「ダメ。ここで待ってなさい。テキトーに誰か呼んでやるから。」

 

とりあえずでラヴァとヴァルカンとマゼランにメッセージを送る。

さてと、部屋に装備を取りに行かねぇと。

それと足の確保だな。そう思って食堂を見渡すとうってつけの人物がいた。

 

「アンジェリーナ、悪ぃけど今すぐ配達を頼めるか?」

 

「あ、うん、良いけど何を運べば良いの?」

 

「俺。」

 

「……え?」

 

 

 

 

「ひゃっほぉぉぉお!!久し振りだなこの感覚!」

 

「そういえばアーツが使えてた頃って空が飛べたんだよね?」

 

「おう、あの頃はどこまでも空を自由に駆ける事が出来たなぁ……。」

 

「無くなって残念だと思った?」

 

「何度もある。アーツさえあれば俺はなんだってできた。でも、今となっちゃ最初から無かった方が良かったって思う。」

 

「なんで?」

 

「そうだな……これ、内緒にしててくれよ?」

 

「うん!任せて、口は硬いつもりだよ!」

 

「んじゃ良い。アンジェリーナはさ、俺のアーツがどんなのか知ってるか?」

 

「えっと、ミントみたいに風を操るんだよね?」

 

「残念、実は違う。

みんな勘違いしがちなんだけど、俺はいつも空気を操るって言うだろ?」

 

「うん、でも違いって?」

 

「それこそ、風だけじゃなくて空気中の水素や酸素だって操れんだよ。」

 

そう言うとアンジェリーナが驚いたように目を開く。

 

「相手を体の中から破裂させられるし、全力を出せば天候を弄ったり雨を降らせたり、雷だって落とせるし、天災紛いな事だってできる。」

 

「天災……。」

 

「あんな物騒なアーツだけど、お陰で軍で活躍出来て金を大量に貰えた事には感謝してんだぜ?」

 

お陰で母さんの負担を軽減出来た。

 

「でもまあ、皮肉な事にアーツがなくなった事で俺は自由になれた。」

 

自由なアーツを持っているのに俺自身が自由じゃないなんて笑えちまうな。

 

「さてと、長々と話してたけどもうすぐ目的地か。どうだ、面白くなかったろ?」

 

「そんな事ないよ。ラックさんはアーツが大好きだったんだね。」

 

そう言われて驚いて、口角が釣り上がる。

 

「ああ。大好きだったよ。」

 

思い出すのは家族との思い出。風を拭かせて草木の演奏を聴き、空に浮かんで笑いあった。

次いで思い出すのは戦場での記憶。空から戦場を無表情で見下ろしながら空気を操って蹂躙する自分の姿。

どちらも同じアーツなのに全く違う結果になる。結局の所使い方次第なんだ。

 

「よし、配達完了!」

 

「助かった。さてとワイフーはっと……おーい!こっちこっち!」

 

事前に呼んでおいたワイフーを見つけると手を振る。

 

「む、早く成敗しましょう。」

 

「まあまあ、落ち着けよ。とりあえずこれ掛けな。」

 

サングラスをワイフーの眼鏡の上に重ねる。

 

「そのサングラスでサヤが誘導してくれるから、それに従ってくれ。それとこれな。」

 

「これは?」

 

「爆弾。」

 

「……これでどうしろと?」

 

「ちょっとやってもらいたい事があんだよ。俺も手早く済ませたいからな。

頼んだぜ?」

 

一応アンジェリーナにも頼んで一緒に来てもらう。保険ってのは大事だからな。

準備を整えて店の前に行く。

 

「あー、立て篭り犯に告ぐー。大人しく出てきなさーい。今なら痛い目に合わないぞー。」

 

真正面から飛んできた矢を斬り払う。

 

「てめぇが死んでくれりゃあこの辺りは俺達のもんだ!」

 

俺を殺して俺の席に座ろうって事か。またかぁ……。

 

「いいかー、もし仮に俺が死んでもお前らの誰かが俺の席に座れることはないからなー。

つーか、そもそもジジイとかウェイが認めねぇし、歓楽街のトップに求められるのは力じゃねぇし。」

 

力があった方が良いのは間違いないが、力だけを見るなら俺はこの席にいねぇし。

後釜はアンセルかバイソンに任せる予定だしな。

 

「そんで、お前らは降伏しねぇのな?」

 

「誰がするか!」

 

「んじゃ、ヨロシク。」

 

店の奥の壁が唐突に爆発して、ワイフーが飛び出す。それと同時にハンドガンを抜いて犯人達の肩を撃ち抜く。

やっぱ積極的に動いてくれるやつがいると助かるな。特に今なんて貧血やらなんやらで疲れてるし。

 

「や、やってられるか!」

 

「おっと。アンジェリーナ、頼む。」

 

「身体が重く感じてきた?」

 

アンジェリーナのアーツで動きが鈍った男に近付いてぶん投げる。

 

「サンキュな。」

 

「えへへ、どういたしまして。」

 

そのまま殲滅して、警備隊に引渡しを終える。

アンジェリーナは用事があるみたいで先に帰って行った。ドクターとか?

体を伸ばして解し、ワイフーを後ろから抱くとすっぽりと収まった。う〜ん、モフモフ。

 

「なあ、ワイフー。お前やっぱこっち来ねぇ?」

 

「お断りします。」

 

「えー、良いだろー。俺お前の事これでも気に入ってんだぜ?」

 

まあ、追いかけられるのは勘弁してほしいが。

のんびりと彼女の歩くテンポに合わせて歩く事で邪魔にならないようにする。

ワイフーも邪魔ではないからと振り払う素振りもせずに俺の腕に手をかけるだけだった。

俺もさっきの事件の報告書を書かねぇとだし、行くか。

欠伸を一つ出して、少し強く抱き締めて彼女の髪に顔を埋めると、少ししてパッと離れる。よし、これで頑張れる。

そして財布から札を何枚か抜き出すとワイフーに握らせた。

 

「さっきはありがとな。これで美味いもんでも食ってくれ。じゃな。」

 

ひらひらと緩く手を振って歩く。

いつもならいらないだの文句言われるんだが、珍しく素直に受け取ったな。

 

 

 

 

「あば……あばば……」

 

カタ、カタと震える指でキーボードを打つ。

疲れた、眠い、マジでもう無理。でもこれ書かねぇと……。

嫌々ながら報告書を書いてると誰かが入って来た。

 

「……んぇ?ビーズワクスか、どうした?」

 

いつもの服じゃなくて、モコモコした服を着たビーズワクスだった。寝る前か?

 

「じーーーーー」

 

じっ、と俺の顔を見つめると手を引かれる。

 

「お、おいおい、まだこれ終わって……」

 

「いいから。」

 

ぽてぽてと歩くビーズワスクに引き摺られるようについていくと、今度は別の部屋に入った。

 

「お姉ちゃん。」

 

「ん、あれ、どうしたの?」

 

カーネリアンの部屋だったみたいだ。

すると俺と同じように手を掴むとベッドまで引っ張られた。

 

「二人とも、寝て。」

 

ぐいぐいと引っ張られて仕方なく横になると、頭の上にビーズワクスが座った。

 

「なぁ、まだ仕事が終わって……」

 

ポフン、と顔にビーズワクスがもこもこした袖を顔に当てる。

そのまま何度もポフンポフンと当てられるとだんだんと眠たくなってきた。

目だけで横を見るとカーネリアンは既に寝ていた。いや、早すぎんだろ。

 

「おやすみ、ラックさん。」

 

最後にポフンと袖を乗せられるとそのまま意識が落ちた。

 

 

 

 

ビーズワクスが膝元で寝るラックを見つめる。

 

「お姉ちゃん、一緒にラックさんも連れて帰ろうね。」

 

そう言うと、寝ていたと思っていたカーネリアンの目が開く。

 

「そうだね。」

 

カーネリアンが眠ったラックをお気に入りの人形を扱うように抱き寄せる。

 

「ロドスには持って帰りたい物が沢山あるからね。」

 

ラックを見つめるカーネリアンの瞳はギラギラと輝いていた。

 

 

 

 

・もしもの一幕

 

 

 

 

俺がロドスで活動するようになって数年。鉱石病に対する薬も完成し、差別もようやく落ち着いてきた頃だった。

 

「……ん?あれ、何これ。」

 

目を覚ますと顔に何かを被せられて体を縛られているみたいだった。

おかしいな、昨日は確かカーネリアンと紅茶を飲んだ……所までしか記憶がない。

すると、顔に被せられた物を取られた。

 

「起きた?」

 

ビーズワクスが寝転がった俺の前にしゃがんでいた。お、パンツ見えた。

 

「なあ、ここどこだよ。」

 

「私達の故郷だよ。」

 

ビーズワクスの後ろからカーネリアンが出てきた。

 

「は?お前何言って……。」

 

「ようやく私の方もやる事が終わったからね。気に入った物を持って帰ったんだ。」

 

「気に入った……物?」

 

「うん、そうだよ。」

 

カーネリアンの手が俺の頬を撫でる。

ゾッとした。まさか、確かにそれなりに仲が良いとは思っていたが、こんな事になるなんて。

 

「じゃあ、何日か滞在するから、そしたら帰らせてくれ。」

 

「帰る?何言ってるの、ラックはずっとここで暮らすんだよ?」

 

ね。とビーズワクスの笑いかけると、うんと頷いた。

 

「くっ、なら自力で……!」

 

拘束を外そうとすると首を掴まれた。

 

「言ったでしょ?ずぅっとここで一緒に暮らすって。」

 

「っ……ごっ、ぇっ……!」

 

メキメキと指が喉に食い込む。

拘束されていて抵抗出来るはずもなく、無様に体を捩る事しか出来ない。

 

「でも、そうだね。」

 

「こひゅっ……はーっ……!はーっ……!」

 

ようやく解放されて必死に呼吸をする。

 

「手が使えないのは不便だよね。

これは外してあげるけど、その代わりに。」

 

カーネリアンが腰の剣を抜くと俺と右足を掴んで固定する。

 

「な、なにを……や、やめろ、やめろやめろやめろぉぉぉ!!!」

 

ばつん、と音がしてアキレス腱を斬られた。

 

「……っがぁぁ!?」

 

「ちょっと、大人しくして。」

 

上にのしかかられると今度は左足のアキレス腱を斬られた。

 

「これでよし。」

 

そう言うと包帯を足首に巻いた。

 

「くそっ……やりやがったな……!ぶっ飛ばしてやる!」

 

「出来ない事を言っちゃダメだよ。それとも手の筋も斬っちゃおうか?」

 

「……畜生。」

 

これ以上動けなくなるのはまずいから黙り込んだ。

 

「じゃあ、お姉ちゃんはちょっと用事があるから、後でね。」

 

「うん、またね。」

 

そしてビーズワクスと二人きりになった。

 

「ビーズワクス、いいからここから逃がしてくれ。頼むよ。」

 

「なんで?」

 

「なんでって……」

 

「ラックさんはずっと一緒って言ったよ?」

 

「チッ……」

 

一旦ここは、大人しく逃げるチャンスを待った方が良いか。夜になってみんなが寝静まるのを待とう。

 

 

 

「……よし。」

 

食事や風呂も終わってカーネリアンもビーズワクスも眠った深夜。

二人に抱き締められるように転がっているが問題は無い。

そっと手を外してとにかく音を立てないように動く。

歩けないのは痛手だが、腕の力だけでも何とかしてみせる。

匍匐前進でゆっくりと進んでいく。

第一目標はロドスだが、とにかくここから逃げて通信設備のある場所に行けば連絡が取れるはず━━━━

 

「どこに行こうとしているのかな?」

 

ひゅっ、と喉から音が出た。

 

「なるほどね。逃げるのに腕を使うなら、その腕も落としちゃおうか。」

 

カリカリと刃物が地面を削る音が聞こえて後ろを向くと、カーネリアンが斧を持っていた。

 

「ま、待て、やめてくれ、頼む、もう逃げないから」

 

「ラックは嘘つきだから、私も困るよ。」

 

ドスリと俺の背中に足を乗せて口の中に布を押し込まれる。

くそ、こいつ、イカレてやがる……!

そして、カーネリアンが俺の腕を掴んで伸ばすと斧を振り上げると肩へと振り下ろした。

 

「むーっ!!!」

 

肉が裂け、骨が砕ける音がした。一度じゃ斬れなかったからか、何度も振り下ろされる。

 

「む……が……」

 

あまりの痛みに耐えられず、俺は気絶してしまった。

 

 

 

 

「……ん」

 

目が覚めると、ベッドの上に戻されていた。

そして鈍い痛みを感じて自分の体を見る。

 

「う、嘘だろ……」

 

腕は肩から落とされ、足も膝から下が無くなっていた。

呼吸が整えられない、現状を理解できない。脳が混乱する。

 

「あ、お姉ちゃん、起きたよ。」

 

「ああ、やっと起きたね。お寝坊さん。」

 

肩を跳ねさせて声の方を向く。その途中で部屋の隅に投げ捨てられた俺の手足が落ちていた。

 

「それで、まだ逃げたい?」

 

カーネリアンが俺に血濡れの斧を見せた瞬間、俺の心は折れてしまった。

 

「や、やめて、くれ……わかった、ここで一生暮らすから……」

 

そう言うと満足気な顔で俺の頬を撫でる。

きっと今の俺は死にそうなくらい青ざめているんだろう。

 

「やっとわかってくれたんだ。良かった。」

 

ひょい、とカーネリアンが俺を抱き上げると子供をあやすように撫でる。

自分の目が、折れた心がそのまま死んでいくのを感じる。

ああ、ここで終わりかぁ……もっと、自由に旅とかしたかったんだけどなぁ……

 

 

 

 






我ながら唐突に物騒な一幕を書いてしまった……。

こういうのも需要ありますかね?




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四十四話:映画の影響は割と受けやすい

 

 

 

 

「ふむ。」

 

「どうだ?俺はレイズだ。」

 

「ならば私は降りましょう。」

 

「では私はコールで。」

 

「僕もコールします。」

 

カランド三人組と俺とアンセルとバイソンの六人でポーカーをしている。ちなみにディーラーはクーリエだ。

なんだかんだ、こいつらと一緒に遊ぶ事も増えたな。

場と手札を見ながらコーヒーを一口飲むと、横からひょっこりとスズランが顔を出した。

最近よく来る。懐かれるのはいい事だけどな。

カップとカードを置き、組んでいた足を下ろしてスズランを膝に乗っけると手櫛を通すように頭を撫でる。

 

「今日は二人はどうした?」

 

「二人とも用事があるみたいなので、一人で来ました。」

 

「そうか。」

 

カードをスズランに渡すと俺に見えるように持ってくれる。

……娘がいたらこんな感じか?

もう一度コーヒーを飲もうとすると飲みたそうに見てきた。

 

「苦いぞ?」

 

そう言ってカップを渡すと何度か匂いを嗅いで啜るように飲む。するときゅっ、と目を瞑ってテーブルに戻した。

 

「だから苦いって言っただろ?クーリエ、頼んでも良いか?」

 

「はいはい。」

 

唯一立っていたクーリエに頼むと、手際良く準備をして甘めのカフェオレを作ってくれた。

 

「どうぞ。」

 

「ありがとうございます!」

 

両手でコップを持って飲むと花が咲いたような笑顔を浮かべた。

その間にもゲームは進み、バイソンが降りて俺とエンシオとアンセルの三人になった。

 

「では、ショーダウンです。」

 

「スリーカードだ。」

 

「はっ、勝ったフラッシュ。」

 

「確信するのは早いですよ。フルハウスです。」

 

「……チッ」

 

チップが全てアンセルに流れる。勝ったと思ったんだけどな。

スズランがやりたそうにしていたから譲るとクーリエがカードを配った。

手が空いてしまって片手で支えるようにお腹に手を回して片手でコーヒーを飲む。

ゲームが進み、ショーダウン。

 

「あっ、やった!私の勝ちです!」

 

スズランがフォーカードで一人勝ちしたみたいだ。

すごいでしょ、という風に俺を見上げる。

 

「運が良いな。」

 

そう言って撫でながらクーリエを見るとウインクをした。

スズランに良い手がいくようにしたな?器用なやつだ。

その後も何度かスズランと交代しながらポーカーを進めていると、いい時間になった。

 

「もーちょっと……」

 

「もう終わるし、帰るぞ。」

 

抱き上げると観念したのかスズランが他のやつらに手を振る。

全く、ケオベといいスズラン達といい、最近こういう役回りが増えてきたな。

風呂にも入れてやらねぇと、大浴場に一人で入れるのは……心配だな。しゃーねぇ、俺の部屋の風呂に入れるか。

 

「ほら、服自分で脱げるか?」

 

「できまふ……」

 

そう言うもののもたもた手を動かすだけで時間がかかる。

 

「俺がやるから、じっとしてな。」

 

え〜っと、ここがこうなってて……これが……こう?じゃあこれどうすんの?

 

「……よし、やっとだ。」

 

だいぶ時間をかけて脱がせると浴室に入る。

 

「目ェ瞑ってな。」

 

「はぁい。」

 

まあ、髪と体を洗うのはそれなりに慣れたんだが、問題は……

 

「この尻尾、だよなぁ。」

 

水に濡れてだいぶボリュームが落ちてはいるが、それでも大きい。

 

「確か、いつの間にか置いてあった尻尾用のシャンプーがあったはずだ。」

 

ん、ああ、これこれ。勝手に使うのは悪ぃけど使わせてもらおう。

かなり多めにシャンプーを出して尻尾を梳くようにしながら馴染ませていく。

 

「ぅ〜……やめてくださぁい……」

 

体と尻尾を捻る。普段自分しか触らない部分だし、拒否感は出るか。

しかしまあ、女の子なんだしこういうのはちゃんとやるべきだろ。

 

「ほら、大人しくしなさい。」

 

抱き上げて膝の上に対面で抱えて尻尾を洗う。

くすぐったいのかぷるぷると震えていた。

 

「よし、後は洗い流すだけだ。もうちょっとだけ我慢してくれよ。」

 

洗い流すだけだからと優しく撫でながらシャワーを掛け流す。

 

「終わったぞ。頑張ったな。」

 

「……えへへ。」

 

スズランを抱えて湯船に浸からせる。

さてと、今度は俺か━━━━

 

「っととと!」

 

眠って湯船に沈みそうになるスズランを持ち上げる。

一人で入れらんねぇな。

さっきと同じように膝の上に対面で座らせると自分の髪を洗い始めた。

 

 

 

 

「動くなよ。体拭きずらいだろ。」

 

「んんん〜……」

 

バスタオルで体を拭きながら、そういえばスズランに着せる服が無い事に気付いた。

 

「あ〜……俺ので良いだろ。」

 

いつもの『働きたくない』シャツを着せると俺もパンツを履く。暑いし、上は着なくていいや。

 

「乾かすぞ。こっちに来なさい。」

 

ふらふらと危なっかしい動きで俺に抱き着く。

 

「……まあいいだろう。」

 

この体勢なら尻尾を先に乾かすか。

ブラシをしながらゆっくりと乾かす。

その間にもぐりぐりとスズランが胸に顔を押し付けてくる。

 

「甘えんぼめ。」

 

そのまま髪も乾かすと俺も自分の髪を乾かした。

 

「寝るから、そろそろ離れてくれ……。」

 

今にも寝そうなくせに力一杯抱き着いて離れようとしないスズランに小さくため息を吐く。

 

「わかった、降参だ。」

 

ベッドに仰向けに寝ると、俺の体をよじ登って頬と頬をくっつけるとようやく眠ってくれた。

 

「……やれやれ。こりゃ、スズランの親に会った時が恐ろしいな。」

 

仮に俺にこんな娘がいて、今の俺と同じような状況になっているなんて知ったら思わずぶちのめしに行くかもしれねぇからな。

 

「今考えたってどうしようもねぇか。寝よ。」

 

 

 

 

「━━━━きてくださーい。」

 

「……ん、もう朝か?」

 

窓からの光に手を翳しながら目を覚ますと腹の上に跨ったスズランが俺の胸の上に手を置いて揺さぶっていた。

 

「おはようございます。」

 

にっこりと太陽のような笑顔でスズランが挨拶をしてくれる。なるほど、資料に我らが光って書いてあったが確かに光と例えるに相応しいな。

とはいえ、あの資料を書いたやつのみたいな思考は持っていないが。

 

「おはよう。」

 

体を起こして額にキスをすると優しく抱き締めた。

でもまぁ、多少猫可愛がりするのは良いだろう?

 

「は、恥ずかしいですよぉ。」

 

「はっはっは、そうか?さ、歯を磨くか。」

 

一緒に洗面台に行き、顔を洗うと、新品の歯ブラシを渡して歯を磨く。

先に着替えさせる為にスズランの部屋に行って食堂に向かった。ちなみにシャツはあげた。

 

 

 

 

「んじゃ、今日もちゃんと勉強頑張るんだぞ。」

 

くしゃくしゃと髪を撫でると楽しげな悲鳴を上げる。そして、手を止めて髪を整えてやる。

 

「なんだか、昨日の夜からパパみたいです。」

 

「スズランの父さんは昨日の俺みたいだったか?」

 

「そうじゃないですけど……ドラマや映画でみた子供が大好きなパパみたいでした。」

 

「そりゃあちょっと恥ずかしいな。」

 

思わず苦笑いを浮かべる。

 

「なら、子供を送り出す時はこんな感じか?」

 

しゃがんで抱き寄せて頬にキスをする。

 

「今日も頑張るんだぞ、リサ。」

 

「え、えへへ……行ってきます!」

 

仄かに赤く染めて、手を振ってパタパタ走って行くスズランに俺も手を振る。

にしても、俺もこんな事するなんて映画の見すぎか。

 

「さてと、仕事に行くか。」

 

周囲のオペレーターからの視線……一部殺意込みを背中に浴びながら自室に駆け足で戻る。

後日、『リサをラックに会わせるな』と文章が追加されていたがスズランから寄ってくるからどうしようとねぇだろ。

 

 

 

 

「今日は久し振りに配達だな。」

 

トラックの運転席に乗って助手席に装備を積むとサングラスを掛ける。

 

「サヤ、今日の天気は?」

 

『終日晴れです。配達日和ですね。』

 

「そりゃいい。」

 

エンジンを掛けて発進しようとした瞬間に違和感に気付いた。

 

「……いつからそこにいた?」

 

「今だよ?」

 

おかしな事を言うな、と言いたげな顔でモスティマがサヤを抱えて座っていた。

 

「またアーツを使ったな?」

 

「まあまあ、怒らないでよ。たまにはデートしよ?」

 

「デートじゃなくて配達……まあいいか。」

 

小さく笑みを浮かべるモスティマに言い返せず、仕方なくトラックを出した。

 

 

 

 

「これが荷物だ。」

 

「ああ、ありがとう。また頼むよ。」

 

「いつでも連絡してくれ。」

 

二日程時間を掛けて目的地に着いた。

少し遠かったが、トラブルがなくて良かった。

 

「ねぇ、ラック。配達はこれで終わりだよね?」

 

気がつくとモスティマが左手を握っていた。

 

「終わったぞ。」

 

「じゃああの屋台行こうよ。串焼きが美味しそうだったんだ。」

 

「ん、わかった。」

 

モスティマに手を引かれて着いていく。

 

「おじさん、二本ちょうだい。」

 

「あいよ!カップルかい?いいねぇ、サービス付けるよ!」

 

「ほんとに?ありがとう。」

 

モスティマが財布を出そうとするとを抑えて、自分の財布を取り出す。

 

「良いの?」

 

「デート、だろ?」

 

「……ふぅん、そっか。」

 

モスティマが照れたのか俺の反対を向いて髪を弄り始めた。珍しいもんが見れた。

 

「お待ちどうさん!」

 

「サンキュ。ほら。」

 

「……うん。」

 

どこかふわふわとした空気を出し始めたモスティマに串焼きを渡すと歩き始めた。

 

「ん、美味いなこれ。」

 

「うん、美味しいね。」

 

食べている間も手を離さずに指をガッチリと絡めてくる。こら、親指で撫でるな。

 

「この後はどうする?ここら辺にデートスポットなんて気の利いたもんは無いぞ。」

 

「良いよ。ラックと一緒にいるだけで充分。」

 

「そっか。」

 

そのまま歩いて何ヶ所か食べ歩き。途中で居酒屋に入った。

テキトーなツマミと、俺はビールをモスティマは果実酒を頼んだ。

 

「乾杯。」

 

「うん、乾杯。」

 

愛しい相手に美味い酒とツマミ、これだけあれば気が緩んでいつもよりもペースが上がってしまうのも仕方ないもんだろう。

サヤの忠告に従って途中でソフトドリンクに変えたモスティマと違い、ずっと酒を飲み続けた俺はそこそこ酔っ払ってしまった。

 

「ほら、ラック行くよ?」

 

「あ〜?わかった〜……」

 

「フラついたら危ないよ?」

 

「わぁってるわぁってる。」

 

引き摺られるように食べ歩きの途中でチェックインしたホテルに入る。

 

「モスティマ……」

 

「うん?どうした……んっ」

 

部屋に入った瞬間に壁に押し付けてキスをする。

 

「ちょ、ちょっとラック?」

 

「ごめん、ちょっと我慢出来ない。」

 

「せ、せめてシャワーだけでもいいから、ね?」

 

外にいたから汗の臭いが気になるんだろう。

それを無視して首元や腋の臭いを嗅いだ。

 

「汚いから……!」

 

「俺は好きな臭いだ。」

 

手を引っ張ってベッドの方に向かい、自分の装備とモスティマの装備を取り外して横に置いて、モスティマのジャケットを脱がすとベッドに寝かせて腋に顔を突っ込む。

 

「すぅぅぅ……」

 

「お、お願いだから、流石の私も恥ずかしいよ……。」

 

「嫌だね。」

 

モスティマに体重を掛けないように跨ると、丁寧に靴と靴下をポポイと投げ、手袋を取って素手になった指を両手で取って撫でる。

 

「折角手を繋ぐなら、手袋越しじゃなくて素手の方が良かったな。」

 

「……次ね。」

 

「次があるって期待して良いんだな?」

 

手を合わせて握ると顔を寄せる。

 

「……うん。」

 

その言葉を酔っ払って使い物のなりそうもない頭にしっかりと刻み込むと自分のジャケットとシャツを脱ぎ捨て、モスティマのシャツの中に手を入れる。

 

「っ……」

 

「いいだろ?」

 

珍しく受け身なモスティマに気分を良くした俺はそのままブラを捲り上げて直接胸を触った。

相変わらず心地良い感触が掌に返ってくる。汗もかいているからかしっとりとした肌触りだ。

試しにそのまま乳首を転がすと体が少し揺れた。

 

「イジワルばっかり。」

 

「許してくれよ。はーい、ばんざーい。」

 

軽く遊ぶとシャツを脱がしてブラを取ると、半裸になったモスティマの胸に顔を埋める。

 

「ふふ、赤ちゃんみたいだ。」

 

「男ってのはいつまで経ってもガキだよ。」

 

横を向き、モスティマの胸に耳を当てて心臓の鼓動を聞くと落ち着く。まあ、それはそれとしておっぱいが当たってるから興奮はしているが。これが頭はホットに心はクールにってか。

くだらない事を考えながら手をモスティマの腋から腰を滑らせて短パンをパンティごと脱がすと、足を揃えて上に上げた状態になり、そこに自分の腰を入れる。

 

「ラックは強引だね。」

 

「嫌いか?」

 

「愛してるよ。」

 

そして、そのまま夜が更けていった。

 

 

 

 

陽の光が目に入り目を覚ます。

 

「おはよう、ラック。」

 

「……はよ。」

 

左腕に顔を向けるとモスティマが微笑んでいた。

仰向けから横向きになると、モスティマが足を俺の足に絡ませて抱き着いてくる。昨日から全裸で汗だくな体と体が引っ付き、体の境界線が曖昧に感じる。

 

「ねぇ、ラック。」

 

「うん?」

 

「この前ね、ラックとスズランが一緒にいたのを見たんだ。」

 

「見ていたのか。」

 

「うん、まるで親子みたいだったよ。」

 

「それで?」

 

「私も、ちょっと欲しくなっちゃった。」

 

心臓が大きく跳ねる。きっと抱き着いているモスティマにも聞こえているだろう。

 

「……ごめんね、迷惑だったかな?」

 

少し悲しそうなモスティマの声が耳を打つ

 

「違う、違うんだ。お前はちっとも悪くない。俺が悪いんだ。」

 

俺がふらふらとあっちこっちで遊び回っているのが悪い。でも、やめる事はきっと出来ないんだろう。これは俺の心の問題だから。

 

「じゃあ、約束だ。いつになるかは分からないけど、俺の心の準備が出来たら、結婚して子供でも作ろう。」

 

………………ん?あれ、今までに無いくらいちゃんとした返事をしたはずなのに反応がない。

困惑しているとピッ、と音が聞こえた。

 

「約束だからね?」

 

俺の背中に回していた左手を前に持ってくると、ヒラヒラとボイスレコーダーを揺らした。

 

「は、ははは……流石、俺の言葉が信用出来ねぇのよく分かってんな。」

 

いつこの言葉を俺自身が忘れるかもしれないしな。昔の事も一部忘れてるし。

今度こそ忘れないようにしよう。幸せそうに胸に顔を埋めるモスティマを見ながらそう思った。

それと同時に、この事が後に大事になる事を俺は知らなかった。

 

『録音、完了しました。』

 

 

 

 

 

 

 

 

・もしもの一幕

 

 

「ドクター、資料ってこれで良かったか?」

 

「うん、ありがとう。」

 

私が目覚めてからそれなりに時間が経った。記憶が無くったって、みんなが支えてくれているお陰で失敗しても前を向いて歩けている。

でも、一つだけ問題があった。

 

「?どうしたんだ、ドクター。」

 

ラックだ。彼はある日ふらふらとロドスにやってきてそのままオペレーターとして居着いていた。

聞いた話じゃエクシアやモスティマと家族同然の仲らしい。それと、複数の女性と関係を持っている要注意人物だ。当然と言わんばかりにオペレーターとも関係を持っている。

そんな彼の距離感が最近バグっている。

前までは秘書の仕事を面倒くさがりながらやっていたのに、いつの間にか自分から率先してやるようになったし、気遣いだってしてくる。

 

「なんだ、悩み事か?だったら仕事は一旦休憩してコーヒーでも飲むか?」

 

「ひゃいっ!?」

 

いつの間にか後ろにいたラックが椅子に座っている私に凭れるように抱き着いてくる。

これだ、心臓が幾つあっても足らない。

 

「わ、わわわ私は堕ちないからね!」

 

「おちる?何言ってんだか、熱でもあるのか?」

 

椅子をくるりと回すと私のフードを下ろして額と額をくっ付けた。

 

「……はぇ?」

 

「熱は無し。なら仕事の詰め込み過ぎか、休め。」

 

「ちょ、ちょちょっ!!?」

 

軽く私を抱き上げると部屋のソファに寝かされる。ま、まさかこのまま美味しく頂かれる!?

思わず目を瞑ってしまう。

 

「今日は一段と変なドクターだな。」

 

ゆっくりと目を開くと可笑しそうに傍に座って笑うラックがいた。

 

「うぅ〜イケメンめぇ……!!私は変じゃないよ!ラックが変なんだ!」

 

ちゃんとしている時は無駄にちゃんとイケメンしちゃうのずるい!!

むかむかとした気持ちで頭を叩いちゃう。

 

「なんだかわかんねぇけど、俺がイケメンなのは間違えようがない真実だな……。」

 

ふっ、と妙な角度でカッコつける。

こっちもふんっ、と横を向いて目を瞑る。仕事は休んで寝ちゃお。

 

 

 

 

「あ、あわ、あわわわ……」

 

「あちゃー。」

 

ど、どどどどうしよう、戦線が崩壊しちゃった!まさか重装オペレーターを置いた場所に術士がやってきて、前衛オペレーターを置いた場所に重装がやってくるなんて!

 

「こりゃあ撤退した方が良いかもなぁ。」

 

隣にいるラックのんびりとした声に泣きそうになる。

また失敗しちゃったぁ……。みんな強いオペレーター達なのに私の指揮が良くないから……。

涙を零しながらそんな卑屈な事を考えていると、くしゃりと髪を撫でられた。

 

「これから成長してきゃ良いんだよ。

ほら、指示出しな。殿は俺がやっからよ。」

 

「うん……いつもごめんね……。」

 

「気にすんなよ。」

 

手をひらひらと振るラックから真っ黒な輪と羽が出てくると、その場から消えた。

 

「みんな、急いで撤退して!」

 

私も出来る事をやらないと!

 

 

 

 






ちょっとした設定

・一幕メンタルよわよわ泣き虫ドクターちゃん
すぐにぴゃっと泣いちゃう女の子。オペレーターの能力は最近昇進1が出来るようになったくらい。

・本編一般ドクター
オペレーターの能力はうちのロドスアイランド

・一幕ラック
自由に輪と羽が出せるようになっている。ポジションはKHシリーズのミッ〇ー。
一幕ラックの中で一番強いかもしれない。もし異格があるならこんな感じになる。



本編中でいつかと言いましたが、そのいつかは完結する前くらいなので本当にいつかです。そもそも、終わらせるつもりがなく、だから一話完結みたいな形式なんですけどね。ただ一幕で書くことは普通にあります。


前回の一幕の様子を見た限り、人それぞれの意見がありましたので、ああ言った内容はちょっと控えようと思います。もし書くとなったら何か警告的な物を事前に表示しますね。




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四十五話:奇妙な共同戦線

 

 

 

 

「うへぇ〜……降られるなんてツイてねぇな。」

 

配達からの帰り道、雨に降られた俺は近くの廃墟に向かった。普通なら気にもならないが、ここは砂漠だ。何が起こるか分からない。

 

「せめて、雨風防げればいいけど。ん?」

 

話し声が聞こえる。誰かが既にいるのか?建物の陰に隠れながら覗き込む。

 

「焦ったぜ。まさかここまで抵抗されるとはな。」

 

「まあ、死人がいないだけマシだろ。」

 

「くっ……!」

 

すると、クラウンスレイヤー━━━━クウちゃんがいた。

なんだってあいつがこんな所で捕まってんだ?

いや、そもそもあいつが捕まるとは思わなかった。

まあいいや。あいつが捕まるならこいつらは何か隠し玉でもあるって事だろ。ならとっととここから逃げ━━━━

 

「動くな。手を上げろ。」

 

……マズった。

 

「お、俺は通りすがりだ。見逃してくれ……!」

 

「例えただの通りすがりだろうが、見られたのなら見逃せない。」

 

そうこうしている内に後ろのヤツの仲間が集まってきた。騒ぎを起こさないように動かなかったが、しくじったな。

 

「お前も来い。」

 

背中を押されてクウちゃんの隣に並ばせられる。

クウちゃんが驚いて目を見開いた。

 

「なんだこいつ。」

 

「そこでコソコソと様子を伺っていた。

武器を寄越せ。」

 

「丁寧に扱ってくれよ?」

 

さて、救援要請はサヤがしてくれるから良いとして、どうしようか。

リーダー格のレプロパは別に良い。さっき後ろから脅してきたリーベリ、こいつが多分一番強い。そして……なんだこいつ。やけに興奮しているループス。この三人が特徴的か。他はどうとでもなるな。

 

「男なんて殺しちまえよ。」

 

「そいつは龍門のラックだ。」

 

今まで黙っていたクウちゃんが唐突に口を開いた。

 

「……何ィ?龍門のラックって言えば歓楽街の?」

 

「そうだ。そいつがいれば、龍門はある程度言う事を聞いてくれるぞ。」

 

そんな事はない、と言おうとクウちゃんを見ると俺の目をじっと見ていた。

……脱出手伝えって事かよ。

 

「なら良いだろう。

お前ら、服を脱げ。怪しいもんを仕込んでるかもしれねぇからな。」

 

「なんだ男のストリップショーが好みか?」

 

「いいから、早く、しろ。」

 

リーダー格がボウガンを頭に突き付けられる。頭に血が登りやすいのか?扱いやすそうだ。

 

「ったく、着替え無いのに。」

 

仕方なくパンイチになる。横を見るとクウちゃんもブラとパンティだけになっていた。後ろの誰かが口笛を吹いた。その気持ちめっちゃわかる。

 

「よし、二人は手錠で繋いで。地下に入れてろ。」

 

そんな時、チーンと金物の音がした。

周りが俺の足元の針金を見て黙り込む。

やっべ……。

 

「ああ、悪ぃ。それ俺のだわ。取ってくれるか?」

 

「全裸になれ。」

 

くそぅ

 

 

 

 

手首と足首に手錠を掛けられて地面に座ったまま放置された。まあ、これくらいならちょちょいのちょいか。

 

「どうしてくれる……。ブラがあればワイヤーを使って外せたのに、それにこんな体勢になるなんて……。」

 

赤くした顔で怒りをぶつけてくる。

うんうん、全裸のせいで非常に眼福。これだけは得したって言えるな。

 

「んな事言われても、俺だってまさか落ちるとは思ってなかったんだぜ?まあ、安心しなって。俺は脱出に関しても天才だ。」

 

余裕なのかなんなのか、見張りもいないとはな。

 

「それより、なんでお前捕まってんだよ。」

 

「……この廃墟を一時しのぎとして来たらヤツらがいて、隠れていたらやたらと息の荒い男に不意打ちされて捕まった。」

 

「えぇ……。」

 

「なんだその顔は。私だってまさか捕まるとは思わなかった。」

 

悔しいのか舌打ちをする。臭いで辿って来るのか。面倒な。

 

「それは後でなんとかしよう。とりあえず先にこれを外すか。」

 

「どうやって外すんだ。針金なんてないぞ。」

 

「任せろって。」

 

口をモゴモゴと動かす。え〜っと……あ、これこれ、やば、引っかかった。

舌で糸を突き出す。

 

「ひっはれ。」

 

「……なんだ?」

 

「ひっはれって、ん。」

 

「それは……口でか?」

 

赤い顔を更に真っ赤に染め、睨みつける。しゃーねぇだろ。

 

「ほは、はやふひろっふぇ。」

 

「……覚えていろ。

んっ、っく……ちゅっ」

 

最初は歯だけで取ろうとしていたが、難しいと判断してキスをしてくる。そのまま舌を上手く動かして歯で糸を噛むと引っ張る。

 

「やっほ、ほれは。」

 

「体の中に仕込んでいたのか……。」

 

「ほおほお。ぷっ」

 

布で巻いた針金を吹いてクウちゃんの後ろに回した手でキャッチする。

 

「……くっつくな。」

 

「見えないんだからしゃーねぇだろ。見ないとちょっと時間かかんだよ。」

 

「……。」

 

体を更に密着させてクウちゃんの肩越しに手錠を見る。

良かった、簡単なもんだ。

 

「カチャカチャッと、よし取れた。」

 

そのまま足の方も外すと一旦体を反転させてクウちゃんの手錠も外す。

 

「手際が良いな。」

 

「捕まるのも慣れてるからな。」

 

何度か首と肩を回す。

 

「先に装備を回収するぞ。」

 

「わかった。」

 

まあ、捕虜の装備なんて伝説の剣とかでもない限り雑に保管されているはずだから隣の部屋にでもあるだろ。

 

「ん。」

 

「わかった。」

 

それだけでクウちゃんが理解して隠れる。

俺も扉の陰に隠れる。

 

「へへ、先にあの女を好きに出来るなんてツイてやがる。」

 

「そうか、良かったな?」

 

陰から飛び出して後ろから首を絞める。

 

「俺達の装備はどこだ?」

 

「は、はなっ……せ……!」

 

「もう一度だけチャンスをやる。どこだ?」

 

「うっ……と、な……り」

 

「サンキュ。」

 

首を捻って折ると、クウちゃんが出てくる。

 

「行くぞ。」

 

「ああ。」

 

冷静そうに返してんのに、俺の後ろに隠れて体を隠してんの中々可愛いじゃねぇか。

 

「お、あった。サヤ、何かされたか?」

 

『システムチェック……オールグリーン。問題ありません。』

 

「救援は?」

 

『現状は連絡が取れていません。』

 

「しゃーねぇか。クウちゃん、そっち……は……あ〜……。」

 

隣を向いて見たクウちゃんが持っていたのは武器である鉈だけだった。

ぷるぷると震えて涙を滲ませて怒りを示すクウちゃんをなんとか宥めて、着ていたジャケットを着せる。

 

「これなら袖は長いけど、下まで隠れるだろ。」

 

「……ああ。」

 

袖が長くて萌え袖になっているそれをくんくんと何度か嗅ぐ。

 

「そんなに嗅いだってタバコの臭いしかしねぇよ。」

 

「お前の臭いがする。」

 

予想外の一言に動きが一瞬止まる。

 

「んん……それで、お前の服を持ってんのはまず間違いなくあのループスだろ。あれ多分発情してるぜ。」

 

「……はぁ」

 

「んで、クウちゃんがあいつに捕まったのはクウちゃん自身の女の臭いをあいつが感知したって感じだろ。」

 

「なら別行動か?」

 

「いや、敵の陣地でそれは悪手だ。

安心しろって、ちゃんと考えてっから。」

 

バッグからロングコートを取り出して着ると、前を開いた。

 

「ん。」

 

「……?」

 

「ん!」

 

「……何をすればいいんだ?」

 

「だから、俺に抱き着いてくれ。それで前を閉めたら臭いが紛れるだろ。」

 

クウちゃんの目が泳ぐ。理解はしているが、抵抗があるんだろうな。

 

「別になんちゃないだろ?さっきまでは全裸で抱き合ってたんだぞ?」

 

「それは、そうだが……。」

 

「なら、早くしろよ。俺らがいない事がバレるのも時間の問題なんだからな。」

 

「……わかった。」

 

クウちゃんが俺の脇の下に腕を回して、抱き着くと、足も腰に回した事を確認すると前を閉める。

 

「キツくなったら言えよ。ロープかなんかで括るから。」

 

「わかった。……すん、すん」

 

やたらと臭いを嗅がれてるけど、臭くは……ないよな?

 

 

 

 

道中の敵をナイフを投げたり刺す事で始末していると、鼻につく臭いがした。

 

「おいおい、マジか。」

 

「すぅー……ふぅー……どうした?」

 

「ああ、いや、気にすんな。」

 

ナイフを持ってない方の手で尻を持って支える。

そのままナイフをしまって、部屋を覗き込む。

 

「ふぅーっ!ふぅーっ!」

 

致しちゃってるよ……。

面倒だから早く済ませようとゆっくり後ろから近付いて首をへし折る。

 

「よっ、と。」

 

「ほぎゃっ!?うっ……!」

 

「え、ちょ、マジかよぉ……。」

 

男を横に退かせるとそこにはクウちゃんの服があった。……あったが。

 

「く、クウちゃ〜ん、一応取り返したけど……どうする?」

 

「ん〜……あ、ああ、わかった。」

 

ぐりぐりと鼻先を押し付けてくるクウちゃんを一旦コートから出す。

そして、男が出したアレがベッタリと付着した服を見て呆然とした。

 

「……くすん」

 

「……ビニール袋あるから、使うか?あの、そのジャケットもやるからさ。」

 

「……うん。」

 

「俺が入れとくから、な?」

 

「……うん。」

 

ティッシュでも触りたくはないがをなるべく取り除きビニール袋に入れる。

 

「終わったぞ。」

 

服を入れ終えてからクウちゃんを見ると口から魂が抜け出ていそうな顔をしていた。

 

「……入るか?」

 

「……。」

 

なんとなく空気を和らげようとコートを開くと、戦闘時とはかけ離れたのそのそとした動きで入ってきた。

なんだって敵地で別の敵である相手の世話までしなきゃならないんだ……。

大きくため息を吐いて歩き出した。

 

 

 

 

「ほいっ」

 

「ぐがっ!?」

 

「そら」

 

「ぎゃっ!?」

 

「えーいっ」

 

「たわばっ!?」

 

気配を消して首をへし折っていく。我ながら惚れ惚れする手際だぁ……。

まあ、クウちゃんが張り付いてなけりゃもっと手際が良かったんだが。

 

「そろそろ機嫌直してくれると助かるんだけど?」

 

…………返事がない。完全に拗ねちゃってるよ。

 

「もうちょっとでボスっぽいレプロパの所だぞ?」

 

「……仕方ない。」

 

やっと出てきたか。……ん?なんか妙にホカホカしてね?そんなに暑かったっけ。別に汗とかかいてないはずだけど。

 

「まあいいか。」

 

目の前の扉から話し声が聞こえる。リーベリの男の声が聞こえないな。お喋りでも無さそうだったし黙ってんのか?

 

「ぶちのめしだオラァ!」

 

「……オラー」

 

扉を蹴破って中に入る。

 

「なっ!?てめぇらどうやって!?」

 

「はっ、あんなもんで俺を捕まえられると思うなよ?」

 

「私のお陰だ。」

 

「ここは俺を褒めるとこだろ?」

 

「お前が針金を落とさなければあんな事をしなくて良かった。文句はあるか?」

 

「なんも。」

 

降参して両手を上げると刀と銃を抜く。

さてと、どう動く━━━━風の音が聞こえてきて、その方向に数発撃つ。

 

「やっぱ隠れてたか。」

 

「やはり無理か。」

 

俺の死角になる窓にボウガンを構えたリーベリの男がいた。

 

「で、やるか?」

 

「……やめておこう。憧れに殺されるのは悪くないが、まだその時じゃない。」

 

「へぇ、俺が憧れか。ラテラーノにいたか?」

 

「噂と本だけだ。まさか本物に会えるとは思ってなかった。」

 

「こんな時じゃなけりゃサインでも書いてやったんだけどな。残念だけど次回だ。」

 

「お、おい、話が違うだろ!?お前を雇うのに幾ら使ったと思ってる!?」

 

リーダー格が話に割り込んでくる。なるほど、雇ってたのか。

リーベリの男が不快そうに眉間に皺を寄せた。

 

「俺は自分の命は安売りしない。」

 

「な、ならもっとだ、もっと出してやる!」

 

「幾ら積まれても断る。」

 

「くっ……ふざけやがって!」

 

「また会おう。」

 

リーベリの男が窓から外に出て行った。

さてと……。

 

「やるか。」

 

「ああ。」

 

「舐めんじゃねぇ!あいつなんかいなくたってやってやる!お前ら、やれ!」

 

男達が襲いかかってくる。それをのんびりと眺めているとクウちゃんが動き出した。

 

「私があいつを殺る。」

 

「じゃあ俺は露払いだ。ほら、さっさと来な。」

 

クウちゃんの姿が掻き消えると銃と刀を納刀めて居合の構えで待ち構える。ちょっとした練習をさせてもらおうか。

 

 

 

 

「クソッ!く、来るな!お前らそんな女、とっとと止めろ!」

 

ああ、イライラする。

ただでさえあの変態のせいで捕まった上に服をダメにされてイライラしているのに、妙にクセになってしまったあいつの臭いを嗅いで妙な温もりを感じる時間まで邪魔をするなんて。

 

「ど、どこに!?……ぎゃっ!?」

 

すぐ近くにいた男の後ろにアーツで移動して首を狩る。

 

「連発出来ないはずだ!」

 

「全員でかかれ!」

 

三人同時に男達が迫って来るのを構えもせずに眺めていると発砲音がして三人とも額から血を流して倒れた。

何も言わなくてもスムーズに連携を取れるのが心地よい。あいつが敵じゃなければ良いのに。ああでも、前に戦った時の殺気も今なら悪くないと思える。

どこか浮ついた気持ちで鉈を構えてリーダーの男の目の前まで歩くと覚悟を決めたのか剣を抜く。

 

「こ、こうなりゃ、俺の手で……!」

 

振り下ろす刀はあいつと比べればまるで遅く、横から払ってやればすぐに体が泳いだ。自分で戦うことは少なかったのだろう。

そのまま返す手で首を刎ねた。

 

「……弱い。」

 

「そりゃあ所詮はチンピラ程度の連中だからな。」

 

振り返るとあいつ……ラックが気怠げに刀を担いでいた。その顔や服には返り血が付着していて、後ろには血の海に沈んだ男達がいた。

物足りない戦いだったが、多少の高揚感から鉈を持つ手に力が入る。このまま、こいつをここで殺してしまおうか。殺せばレユニオンにとっては利に働くが……私個人はどうだろう。殺せて喜ぶか、それとも、もうあの温もりが無くなることに悲しむのか。

 

「敵はもういないぞ。」

 

気が付けばラックが目の前にいて、手を握ると解くように鉈を取られた。

 

「これからこいつらの処理しなきゃなんねぇんだ。手伝ってくれるよな?」

 

「……ああ。」

 

そんな事を考えている間にすっかり体は冷めてしまって、処理を手伝い始めた。

 

 

 

 

外は雨だから死体を一部屋に集めるだけに留める。雨が止んだら燃やしてしまおう。

そのまま二人で食事を摂る。上等なもんはないが、暖まるくらいは出来る。

 

「そろそろ寝るか。」

 

少し疲れた。それに、もう夜になっているから昼との寒暖差で余計に疲れる。

 

「互いに反対の部屋で寝よう。それでいいな?」

 

元は敵同士。あまり馴れ合う事もないだろう。

 

「…………わかった。」

 

クウちゃんがガーンッ、と衝撃を受けたような顔をする。何かおかしい事言ったか?

 

「そうそう、さっき水が使えるところがあったからちょっとクウちゃんの服を洗ってくるわ。」

 

出来ればクウちゃんが寝た後に寝たいから少しでも起きとかねぇと。

 

「つめてっ……」

 

外出用の洗剤を使って洗濯をする。持ってて良かった。

にしても、ここはオアシスから水を引いてるみたいだ。枯れたりしないのか?

 

「どうした、クウちゃん。」

 

後ろから気配を感じて振り返らずに声をかける。少し動揺していたみたいだが落ち着くと後ろから抱き着いてきた。

 

「すぅー……ふぅー……」

 

「……そっちにオアシスがあったから汗流してこいよ。」

 

「……そうだな。」

 

背中から離れる。その時に横目で見るとどこかふわふわした様子で頬を染めていた。

 

「なんだ?」

 

訳がわからない。意図が読めない。今考えてもしゃーねぇか。

 

 

 

 

あの後水浴びをしたクウちゃんにシャツを渡した。流石にジャケット一枚じゃ寝ずらいだろう。

その後に交代で水浴びをした。

 

「寝袋は使っていいからな。」

 

「寒くないのか?」

 

「自分の格好を見て言え。俺は大丈夫だ。」

 

タオルケットを掛け布団代わりにすれば良い。

 

「すまない。」

 

「気にすんな。んじゃ、おやすみ。」

 

「おやすみ。」

 

ランタンを持って自分が寝る部屋に向かう。

 

「サヤ、雨は止みそうか?」

 

『予想では朝には止んでいるはずです。』

 

「ならいい。おやすみ。」

 

『おやすみなさいませ。』

 

転がって目を瞑る。流石に少し冷えるな。

 

「……。」

 

寝転がって十分程したくらいか。後ろから衣擦れの音が聞こえて目を覚ます。

警戒し過ぎかと思ってたが、してて良かった。

仕掛けてくるなら相手になってやる。

そのまま目を開かずに待っているが、殺気も敵意も感じない。妙だと思っていると上に乗ってきた。

 

「ふー……ふー……」

 

息が荒い。なるべく抑えようとしているみたいだが、漏れている。

直接危害を加えてくる訳じゃないのか?

そのままどんどんと息が近くに聞こえてきて、そのまま俺に跨って胸元に顔を押し付けた。

……………………んん?

 

「すん、すんすん……すぅ〜〜〜〜」

 

こいつ、俺の臭い滅茶苦茶吸ってやがる。え、マジで何?そういうフェチ?

 

「何してんだ。」

 

じっとりとした目でクウちゃんの見ると随分と動揺していた。

 

「……私は悪くない。」

 

「いや、責めてる訳じゃなくてよ。」

 

「お……」

 

「お?」

 

「お前が、悪い。」

 

この野郎、俺に押し付けやがった。

 

「はぁ……好きにしろよ。」

 

これ以上考えても意味が無いとまた眠る為に目を瞑る。

 

「好きにしていいのか?」

 

返事をする前に口をキスで塞がれる。

 

「はむ、ふっ……んんっ……ちゅっ」

 

「……なんのつもりだよ。」

 

「好きにしていいって言った。」

 

「限度ってもんがあんだろ。ほら、満足したろ?とっとと離れな。」

 

「やだ。」

 

眉間に寄った皺を揉む。なんだってこいつは……いや、待てよ。こいつの種族ループスだっけ。

ループス……テキサスとラップランドと一緒かぁ。いや、種族だけで決めつけるのは良くねぇけどさぁ。

 

「は・な・れ・ろ!」

 

「い・や・だ!」

 

俺の腕の上からしっかりと抱き着いて離れようとしない。

 

「めんどくせぇな……もうなんでも好きにしろよ、全く……。」

 

むふーっ、とどこか満足そうな顔のクウちゃんに頭を抱えたくなる。

こいつ前に殺し合ってた事も忘れてんじゃねぇの?

前は切れ者だと思ったが、思っていたよりもポンコツだったらしい。

カチャカチャと音がして見てみると、クウちゃんがベルトを外していた。

 

「……?大きくなってないぞ。」

 

「当たり前だろ。俺、お前、敵同士。」

 

クウちゃんが困ったように唸る。こっちが困ってるんだが???

 

「わかった。」

 

「よし、ならさっさと寝床に戻って……何してやがる?」

 

服を脱ぐと抱き着いてきて、首や頬にキスをしてくる。

 

「これなら興奮するだろう?」

 

「……つまり、なんだ?お前、俺が好きなのか?」

 

「わからない。」

 

「わかんねぇのかよ。」

 

結局なんなんだと大きくため息を吐いて、クウちゃんを見ると、どこか不安そうな顔で俺を見ていた。

 

「…………あー!もうわかった!わかったよ!ヤるよ!だからそんな顔すんなって!」

 

ここまでされといてヤらないとか男として失格もんだろ。

頭の中でスイッチが切り替わる。さっきまでの張り詰めていた心にゆとりが出来た。

 

「よっと。」

 

少し抱き上げてバッグから大きめのタオルを取り出すと、その上にクウちゃんを寝かせる。

 

「こっからはもう我慢しねぇからな。」

 

歯を剥き出して笑うと顔を赤らめて横を向いた。

 

「で、できるだけ優しくしてくれ。」

 

意外と初心なんだな、と思いながら顔を近付ける。

 

「やだ」

 

そのまま強引に唇を奪った。

 

「んー!?」

 

ええい、鬱陶しい。キスしたまま、ばたばた暴れるクウちゃんを抱き締める。

 

「ほぁ、くひあけろ」

 

「はぷっ……んっ……れる……」

 

舌も入れてディープキスに入ると、クウちゃんも全身で抱き締めてきた。

それに気を良くして、クウちゃんの背中に回した手で背筋と尻を撫でる。

 

「んぅ……そ、こはぁ……」

 

「うるせぇ、まだキスしてるだろ。」

 

「んふぅ……」

 

尻を少し堪能してから手を離して今度は頭を撫でると、どんどん顔が蕩けていく。なんか目にハートが見えてきたな……。

 

「はぁっ……この臭い、すきっ、すきすきすきぃ……」

 

バチンッ、とスイッチが完全に切り替わった。こんなにも可愛く求められたらたまったもんじゃない。

 

「も、もっと……ちゅーしてくれ、ちゅー」

 

「はいはい。」

 

「ん〜っ……!れぁ……あむ……」

 

……そろそろ良いだろ。

口を離すと下を脱ぐ。

 

「そっちも準備万端なんだろ?緊張すんなら、臭い嗅いでな。」

 

「すぅー……」

 

やれやれ、本当に気に入ってんな。

苦笑いを浮かべて体を動かした。

 

 

 

 

「……あっつ。」

 

ジリジリと焼けるような暑さを感じて起きる。

 

「昨日ヤるだけヤって寝たんだっけ。」

 

胸の上を見るとクウちゃんが気持ち良さそうに寝ていた。

 

「おい、そろそろ起きろ。」

 

「……おはよう。」

 

目を覚ましてぼーっと上目遣いでこっちを見ると恥ずかしそうに目を逸らした。

 

「暑いから水浴びするぞ。……動けるか?」

 

「無理。」

 

ぐっ、と首に抱き着いた。

何度か頭を搔くとクウちゃんを抱き上げた。

……あっつい。

 

「すんすんっ」

 

気に入られちゃったなぁ。

 

 

 

 

そのまま水浴びを終えて、服を着る。クウちゃんも乾いた服を着た。

貸した服を取ろうとすると、パッと取られた。

 

「……あー、返してくれるか?」

 

「嫌だ。」

 

「お前なぁ……いや、おい待て。貸したのよりも多くないか?」

 

シャツとジャケットのはずだろ。

バッグの中を確認すると、着替えが一部無くなっていた。……下着が、ない。

 

「おいこら、サラッと盗んでんじゃ━━━━」

 

振り返ると既にクウちゃんがいなかった。

 

「……やりやがったな、あんにゃろう。」

 

大きくため息を吐く。やっぱりあの時密着せずに置いて行動すりゃ良かったな。

 

「性癖開拓しちゃったかぁ。」

 

諦めて荷物を持ってロドスに戻った。

 

 

 

 

「疲れた。」

 

『本日は湯に浸かってリラックスした方が良いでしょう。』

 

「そうだな、今日は大浴場に行くか。」

 

自室に荷物を置いてサヤだけ持って食堂に向かう。

飯食ったら風呂入ろ。

 

「……誰だ!」

 

刀を半分抜きながら振り返る。

 

「なんだ、レッドか……。」

 

ふぅ、と息を吐く。

 

「どうした?何か用か?」

 

「どうして、オオカミの匂いがする?」

 

心臓が跳ねる。そういや、レッドってクウちゃんの事狙ってたよな?

 

「あ〜、出先でループスと会ったからだろ。」

 

俺の周りを回ってジロジロと見ながら時折匂いを嗅ぐと顔を顰める。

 

「……そろそろ、良いか?」

 

「わかった。」

 

あっさりと背中を向けると俺の向かう方向とは逆方向に歩いていく。

ケルシーに報告されてそうだ。

 

「しゃーねぇか。」

 

諦めて食堂に向かい、飯を受け取ると席に座る。

 

「……おい。」

 

「ん?」

 

黙々と食べていると、肩を掴まれた。振り返るとおっかない顔をしたテキサスとラップランドがいた。

二人でいる事に珍しいなと思っていると、奥にエクシアを見つけた。いつも通りテキサスにラップランドが絡んでたのか。

 

「どうしっ……!?」

 

肩を掴む力が強くなる。なぜ急にこんな事をするのかと思っていると二人が両隣に座った。

 

「ラック、この臭いはなんだ?」

 

「ボクの知らない所で何してたのかな。」

 

……これだからループスは!!

この後必死に弁明した結果、なんとか許された。

 

 

 

 

 

 

 

 

・その後の一幕

 

 

「ジェイ、いるか?」

 

「あ、旦那、丁度良かった。お客さんが来てやすよ。」

 

「客?ああ、お前か。」

 

「このあいらぶりらな。」

 

もごもごとジェイの料理を頬張りながらリーベリの男が手を挙げた。

隣に座って、ジェイのおまかせで酒と飯を頼む。

 

「どうしたんだ。」

 

「んぐっ、仕事がない。」

 

「斡旋してほしいって?軽く殺り合ったのに都合良すぎじゃねぇか?」

 

「あんたならよっぽどでもない限り気にしないと思った。」

 

「へぇ、そう思った理由は?」

 

「……なんとなく?強いて言えば、ずっと殺し殺される世界にいたんだから今更気にしないだろうと思ったからだ。」

 

「ふぅん?」

 

カウンターに肘をついて男を見る。

さてさて、どうすっかなぁ。正直悪くない話だと思っている。そこそこの強さもあるし、俺が配達で離れている間に動いてもらうのも悪くない。

 

「いいぜ。雇ってやる。契約内容は……龍門の警備みたいなもんだ。自由に動かせる部下の一人が欲しかったんだ。」

 

「構わない。」

 

「よし、成立だ。」

 

「あのー……俺が横から口挟むのもおかしいんでしょうが、そんな簡単に決めちゃっていいんですかい?」

 

ちょっと気まずそうにジェイが酒と飯を出してくる。

 

「いいんだよ。なんとなくだけどな。」

 

「ちょっと不安になる言い方しないでほしいんですがね……。」

 

「まあ、もしもの事があったら俺が責任取るから気にすんな。」

 

「はぁ、まあ旦那がそういうならいいんですが。」

 

そう言ってジェイが離れていった。

 

「んで、金額としちゃこんなもんでどうだ?」

 

端末に数字を打ち込んで見せてやると少し驚いた表情を浮かべた。

 

「警備だけで良いのか?」

 

「ああ、結構この街も荒事多いから忙しいと思ってな。それと、この街の掟で殺しはナシだ。いいな?」

 

「わかった。」

 

「よし、じゃあ就職祝いだ。この店は奢ってやるよ。んで、この後は風俗行くぞ。」

 

「……は?」

 

なんでと言いたげな顔をする。

 

「なんでって、そりゃあお前俺の事知ってんだろ?そういう事だ。別に経験ない訳でもねぇだろ?」

 

「それはそうだが……わかった。」

 

「んじゃ、もっと精をつけねぇとな。ジェイ!追加頼む!」

 

「わかりやした。」

 

「……思っていた以上にクセが強そうだ。」

 

「そうだ、お前の名前、コードネームでもいいや、教えてくれ。」

 

「特には決めていないんだが……じゃあローニンにしよう。」

 

「んじゃ、よろしくな。ローニン。」

 

手を差し出すと、少し躊躇いがちに握手をした。

 

 

 

 

 





R-18版の内容が思い付いたんでそろそろ書きます。
皆さんが見たかった物ではない可能性がかなり高いですがテスト品として見てもらえれば嬉しいです。




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四十六話:苦手なやつは誰にだっている

 

 

 

 

「……暇だ。」

 

休憩所のソファで寝転がりながら呟く。ここなら誰かいるか、いなくても待っていれば来ると思っていたが、みんな忙しいらしい。

読んでいたマンガを机に置くと目を瞑る。こういう時は一眠りするに限る。

 

 

 

 

「お、ドクターの言う通りだな。」

 

「そうみたいね。」

 

ぴくっ、と瞼が震える。誰かが入ってきたみたいだ。薄目を開くと、ニェンが顔を覗き込んでいた。

 

「……お前かよ。」

 

「お前ってのは随分な言い方だ。久しぶりに会えたってのに嬉しくないのか?」

 

「別に。」

 

クソ辛い飯食わされた思い出しかねぇわ。

よく見れば後ろにシーとリィンもいた。姉妹揃い踏みか。

 

「なんの用で来やがったんだ。特にシー、お前はこっち来んな。」

 

「あら、酷い言われようね。まあどうでもいいわ。今日こそ体を見せなさい。」

 

「やだね。」

 

こいつらと出会って良い事があった試しがない。いや、リィンは良い。あいつと飲む酒は美味い。

こいつらとの出会いは旅の途中だ。まだラテラーノから出て少し経った程度で、色んな人に興味のあった俺は偶然外に出ていて、偶然見掛けたシーを見て、見たこともない種族から声を掛けてしまった。

最初は邪険に扱われたが、俺が元々サンクタだと零した途端に周りの世界が塗り替えられていた。それから数ヶ月閉じ込められて体を調べられそうになったのを必死で逃げ続け、運良く絵の中から逃げ出せた。

そういえばあの時はサガに会うこともなかったな。どこにいたんだ?

ニェンはその一年後くらい。町の飯屋で飯を食ってたら、勝手にニェンが店の厨房に入って行って作った飯を食わされた。思わずぶん殴ると殴り返されて店内で乱闘騒ぎになってから気に入られてまた数ヶ月連れ回された。

リィンはどうやって旅の途中の俺を見つけたのか、ふらりと俺を訪ねてきて少し話してから、妹達のお詫びとして酒を奢ってもらうと、飲み過ぎて酔い潰れた次の日にはいなくなっていた。

 

「マジで何しに来たんだよ。リィンだけ置いて帰れ。」

 

「おいおい、リィン姉にばっかり甘いんじゃねーのか?」

 

ズンと腹の上にニェンが座る。

 

「……重い。」

 

「妹達が悪いね。久しぶりに会えて嬉しいのさ。」

 

くしゃりとリィンに頭を撫でられる。

 

「お姉ちゃんってのは大変だな。……わかったよ。相手してやるから、大人しくしててくれよ。」

 

「何よ、私達が悪いみたいに言ってくれるわね。」

 

「悪いっつってんだよ。」

 

シーが不満そうに鼻を鳴らす。

 

「んで、遊びに来たってんなら何すんだ?特にする事もねぇならもう一眠りさせてもらうぞ。」

 

「あー、そうだな。……おっ、いいものがあった。麻雀しようぜ。」

 

部屋の隅に雀卓を見つけたニェンが雀卓を抱えてくる。

麻雀ならそうそう暴れる事も無いだろうし、いいか。

 

「なら最下位は罰ゲームで一位の人の言う事を聞く事にしましょ。」

 

唐突にシーがそんな事を言いやがった。お前背中見たいだけだろ。

しかし、うん、勝って仕返ししてやろう。

 

「俺はいいぜ。後で泣いても知らねぇからな。」

 

「泣くのはあなたよ。」

 

そう言いながら牌を混ぜる。とっとと終わらせてやろうと軽く積み込む。

起家は対面に座ったシーだ。誰も牌を切っていないから必然的にシーか自分の手の方に意識がいく。なら、ここで早速左手芸で━━━━

 

「おいおい、何しようとしてんだ?」

 

牌を入れ替えようとした瞬間万力の様な力でニェンに左手首を掴まれた。

 

「……山がズレててな。直そうと思ったんだ。」

 

「へぇ、なるほど。そりゃあ悪かったな。イカサマでもするかと思っちまった。」

 

「そんな訳ねぇだろ。」

 

手首を見ると握られた所に跡が残っていた。

まさかニェンに止められるとは思ってなかった。しゃーねぇ、マトモに打つか。

 

 

 

 

「「……。」」

 

「まさか、アタシでも二人同時に飛ぶなんて思ってなかったな。」

 

「互いの手しか意識してなかったからね。」

 

リィンの言う通り、互いに互いの当たり牌は全て避けていたが、ニェンとリィンの当たり牌を切ってしまって当たり続け、最後にはリィンのツモアガリで同時に飛んでしまった。

 

「……それで、一位になったリィンは俺らに何させたいんだよ。」

 

拗ねたようにそう言う。シーも不機嫌な様子で腕と足を組んで目を瞑っていた。

 

「じゃあ、二人で飲んできてくれる?」

 

「そんなので良いのか?」

 

「妹の折角の友人だからね。仲良くしてあげてほしいんだ。シーちゃんには手出しさせないからさ。」

 

「……俺は良いけど。」

 

横目でシーを見ると仕方なさげに息を吐いていた。

 

 

 

 

場所が俺の部屋に決まって、酒やつまみを机に並べると、二人並んでソファに座る。

 

「リィンめ、強い酒ばっか置いていきやがって……。」

 

「なら飲む量を抑えたら?」

 

「いいや、やだね。あいつの用意した酒にハズレはねぇからな。ちゃんと飲む。」

 

「……そ、なら潰れるまで飲めばいいわ。」

 

「おう。」

 

早速コップに注いで一息に飲み干す。カッと喉が焼けるような感覚に浸る。

 

「〜〜っくぅ、美味いな。」

 

次に唐揚げを摘む。ここら辺はジェイやウンに用意してもらった。

隣のシーを見るとやや口の端が吊り上がっていた。

 

「映画でも見るか?」

 

「構わないわ。」

 

いつもならアクションにするが、シーはストーリー性のあるのが良いか?……ドンパチかホラーしかねぇ。ならホラーだな。

人形が人を殺すホラー映画を二人で観る。久し振りに観たけど、面白いな。

 

「……ん。」

 

ペースが早過ぎたかな。酔いが回ってきた。

ソファの背もたれに体を預けると、腰に何かが巻き付いてシーの方に引っ張られた。

 

「少しは水も飲みなさい。」

 

「悪い。」

 

シーから水を受け取って飲む。……ダメだな。頭がクラクラする。

 

「こっちに来なさい。」

 

頭を掴まれるとシーの方に倒れる。

膝枕?まさかシーにされるとは思わなかった。

 

「……ここまでしなくてもいい。」

 

起き上がろうとするとすると、左手に尻尾が巻き付いて止められる。さっき巻き付いたのも尻尾か。

 

「おい、さっきから何考えて━━━━」

 

「いいから黙ってなさいな。」

 

目の上にシーの手が置かれる。ひんやりとした手が心地良い。

昔からこいつは何を考えているかが分からない。俺を閉じ込めた理由も、なぜ背中に興味があるのかも。

まずい、眠くなってきた。

 

「眠いなら眠りなさいな。」

 

その声に促されるように意識が沈んでいった。

 

 

 

 

映画のスタッフロールが流れる中でシーがラックの頭を撫でて背中に目を向ける。

 

「……。」

 

背中は見たい。一体なぜ輪と羽が消えたのかが知りたい。けれど手を出さないと言った以上動く訳にはいかない。

 

「…………まあいいわ。ここにいれば機会は幾らでもあるでしょ。」

 

伸ばしたかけた手を戻して映画に目を向ける。

 

「あ」

 

既にスタッフロールが流れていた。

 

 

 

 

「いっつつ……飲み過ぎたな。」

 

調子に乗り過ぎたな。

喉が渇いて水を飲もうと起き上がろうとすると左腕が上がらない。と言うか、誰かを腕枕している。

昨日は確かシーと飲んでて、膝枕されて……

 

「……まさか。」

 

ゆっくりと布団を捲ると、シーがいた。

 

「ん……もう朝?」

 

「あ、ああ……。」

 

そのままシーが欠伸を漏らす。

 

「そう……もう少し寝るわ。」

 

そう言ってまた眠った。手を抜こうにも指に尻尾がゆるりと巻き付いている。

 

「……はぁ」

 

こいつら姉妹は何考えているのか本当に分からない。一緒に寝れるくらいだから嫌われてはいないんだろうけど。

 

「俺も寝よ。」

 

酔い潰れたから寝た気がしねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

・ある日のキッチン

 

 

 

「……んが?」

 

良い匂いがして目を覚ます。昨日はエンシオ達と飲んで、そのまま食堂で寝たんだっけ。

チッ、俺だけって事は他の連中は帰ったな。起こしてくれたっていいだろ。

 

「ナスラさんのお陰です。ありがとうございます。」

 

アーミヤの声が聞こえた。

珍しいな。飯でも作ってたのか。

フラフラとキッチンに入ってアーミヤの持っている串に齧り付く。

 

「きゃっ!?ら、ラックさん、驚かせないでください!」

 

「美味いな。」

 

「ラックもつまみ食いの共犯者だな。」

 

「黙っときゃ良いんだよ。」

 

料理人と軽く話してアーミヤと一緒にいた女性の方を向く。

 

「ラックだ。よろしくな。」

 

「な、ナスラよ……。」

 

ほんのりと頬が赤く染まる。ふぅむ、どうしたんだ?

 

「服をちゃんと着てくださいっ!」

 

「服ぅ?」

 

下を向いて自分の格好を見る。

 

「パンツ履いてんだろ?」

 

やれやれ、と笑ってアーミヤの頭を撫でると冷蔵庫からチューハイの缶を取り出して飲む。

 

「……お兄さん?」

 

アーミヤがあまり人がいる所では言わない呼び方に肩が跳ねる。

 

「な、なんだ?」

 

「今日はお酒は禁止です。」

 

「ま、待て待て、見ろ、こいつはたった3%だぜ?ジュースと一緒だろ?」

 

ピキッ、とアーミヤの頭に怒りマークが出来た気がして、慌ててご機嫌取りの為に酒を置いてアーミヤの傍でしゃがんだ。

 

「すまん、俺が悪かった。ほら、この通りだ。な?」

 

頭をやさし〜く撫でて何度も謝ると、どんどん頬が膨れていく。

 

「だ・め・で・す!」

 

「うへ〜……」

 

チラリと料理人二人に目を向けると露骨に目を逸らされた。ならばとナスラに目を向けると、やはり少し顔を赤く染めて距離を取られた。

 

「だったら……こいつでどうだ!?」

 

「きゃっ!?い、いきなり何を!?」

 

「ほぅら、たかいたか〜い。」

 

アーミヤの脇に手を入れて高く持ち上げる。

最初は不満そうな顔だったが少しずつ楽しそうな顔に変わっていく。

ふっ、まだまだガキンチョだな。このまま有耶無耶にしてやろう。

 

「あー!アーミヤお姉さん、ズルいです!」

 

そんな事をしているといつの間にか時間が経っていたみたいで、今日も頑張って早起きしてきたスズランがカウンターにいた。

 

「私もしてください!」

 

「あ〜、はいはい。」

 

たかいたかーい、と持ち上げていると腿を叩かれる。

 

「んっ。」

 

今度はシャマレが腕を広げて待っていた。

 

「……しゃーねぇな。」

 

まあそんな順番にたかいたかいしてやると当然してほしいと言うポプカルにフロストノヴァの所のガキンチョ共なんかもやってきたり、ケオベやまさかのセイロンとシュヴァルツまで、さらに予備隊の面々が来たり、もう一度と並び直すのもいたりして……

 

「……今、何時?」

 

食堂の窓の外は真っ暗になっていた。

おかしいな……最初は明るかったんだけどな……。

はっはっは、なんてこった。今日一日の予定がまさかたかいたかいで丸潰れになるとか……。

 

「……ご飯、食べる?」

 

ちょっぴりセンチメンタルな俺の背中をちょんちょんとつついたナスラがご飯を持ってきてくれた。

 

「食べるぅ……。」

 

もしょもしょとご飯を掻き込む俺を対面に座ったナスラが笑ってみていた。

 

 

 

 






三姉妹めっちゃ難しいっすわ。




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四十七話:目を覚ませ、僕らの性癖が何者かに侵略されてるぞ!!

 

 

 

 

「ラック〜!!」

 

「ん?」

 

廊下を歩いているとバタバタとした足音と共に名前を呼ばれて、振り返るとケオベが走ってきていた。

いつもと服が違うな。いつもの野性味?あるような服装と違ってオシャレを意識した服だ。

 

「ん!!」

 

ピシッ、と大の字に体を開いて見せびらかしてくる。

 

「よく似合ってんじゃねぇか。」

 

「ヴァルカンお姉ちゃんがくれた!」

 

帽子を被っているからほっぺをもにょもにょと撫で回してやると嬉しそうに笑った。

 

「……ん?お前、それ下穿いてるか?」

 

「???」

 

「……ちょっとそこ捲ってみ?」

 

「はーい。」

 

恥ずかしげもなくぴらりと捲ると……わーお……

 

「…………。」

 

「じゃあ皆にも見せてくるね!」

 

思わず固まっている隙にケオベが走っていった。

 

「はっ!?しまった……!待てケオベッ!」

 

慌ててケオベを追いかけて走り出した。

 

「サヤ、ヴァルカンに繋げ!」

 

『了解しました。』

 

少ししてヴァルカンが通信に出る。

 

『ら、ラック、もしかして……』

 

「ケオベだ。」

 

『やっぱり……ボトムスを穿かせようととした時にはいなくなっちゃってて……』

 

「あ〜、わかった。俺が連れていくから待っててくれ。」

 

『いいの?』

 

「ああ、気にすんな。」

 

『……じゃあ、お願い。』

 

「あいよ。んじゃ、また後でな。」

 

話している間も探していたけど、どこ行った?

 

「ケオベー!どこだー!?」

 

「あれ、どうしたの?」

 

ケオベを探しているとエクシアと会った。

 

「ケオベを見なかったか?」

 

「んー、見てないよ?何かあったなら手伝うけど。」

 

「それがな……」

 

理由を話すと笑いながら探すのを手伝ってくれると言った。

 

「こっちは笑い事じゃねぇっての……んじゃ、頼むぜ。」

 

「まっかせて!」

 

むんっ、と力こぶを見せるように腕を見せてきた。頼もしいな。

 

 

 

 

走っているとフロストノヴァと生徒の子供達がいた。……が、どうにもフロストノヴァがオロオロと慌てているみたいだった。

 

「何があった?」

 

「ラ、ラック!子供が二人いなくなったんだ!」

 

「おいおい、マジかよ。変なとこ入ったらマズイぞ。」

 

ケオベのついでに探そうかと思っていると、女の子が手を挙げた。

 

「えっとねー、ケーちゃん追いかけていったよー。なんでかわかんないけど、お顔真っ赤にしてお股押さえてたー。」

 

「…………そっか!よぅし、じゃあお兄ちゃんが連れてくるから先生と待ってなさい!」

 

「はぁい。」

 

ぐしぐしと女の子の頭を撫でる。

全く、エロガキ共め……性癖歪んでねぇかな。

 

「じゃ、捕まえたらまた連絡するから。」

 

「すまないな、頼む。」

 

手を振って女の子の指さした方に走る。

子供の走る速さだからか、すぐに追い付いて二人の襟首を掴むとバタバタと暴れる。

 

「は、放してよ!」

 

「んー!!」

 

「おいこらガキンチョ共。別に追いかけるのは勝手だけど、フロストノヴァ先生に迷惑かけちゃダメだろ?」

 

「「う……」」

 

みんなフロストノヴァの事を慕っているからバツが悪そうに黙り込む。

「一緒にいってやるから、ちゃんと謝るんだぞ。」

 

「うん……」

 

「わかったよ……」

 

本当なら今すぐにでもケオベを追いかけたいが……しゃーねぇか。

 

「お前たち……!」

 

フロストノヴァの姿が見えるとあっちも俺達が見えたのか駆け足で寄ってきて二人を抱き締めた。

 

「ご、ごめんなさい……!」

 

「ノヴァ先生ぇごめんなさぁい……」

 

「あまり心配させないでくれ。

ラック、ありがとう。」

 

「良いって、気にすんな。」

 

こっちはこれで良いとして、ケオベ探さねぇとな……。

 

「サヤ、めんどくせぇからカメラハッキングしてくれ。ドクターには後で伝えとく。」

 

『了解しました。少々お待ちを……見つけました。今はラヴァ様と食堂にいます。いえ、今食堂を出ました。』

 

「ウロチョロすんじゃねぇよ……全く。」

 

深くため息を吐いて足を動かした。

 

 

 

 

「え〜?でもオイラこの方が良い!」

 

「だ、だからそれじゃ良くないんだってば……」

 

サヤの指示通りに走っているとケオベを見つけた。どうにもエクシアが先に見つけて足止めをしてくれていたみたいだ。

 

「ケ〜オ〜ベ〜?」

 

「あわわわわわっ!」

 

低い声を出しながら近付くとケオベが肩を跳ねさせてエクシアの後ろに隠れた。

 

「隠れてないで出てきなさい。」

 

「ラック、落ち着いてよ。」

 

ん、怒ってるように見えたか。

 

「大丈夫だ、落ち着いてっから。」

 

「だってさ。」

 

チラリと顔を覗かせてまたエクシアの後ろに隠れた。

 

「怒ってないって、ほら。」

 

「んんんー!!」

 

エクシアがケオベを前に出そうとするが、ケオベが嫌がってエクシアの服を掴んで放さない。

 

「あんまり迷惑をかけるともっと怒るぞ?」

 

「やだー!」

 

困ったな、と後頭部を掻く。

しゃーねぇな、俺から行くか。

エクシアに近付いてエクシアの頭上から顔を出してケオベを見下ろす。

 

「みーつけた。」

 

しっかりとケオベの腕を掴むとエクシアを挟んだ形になってしまった。しまったな。

 

「エクシア、ちょっとしゃがんで抜けてくれ。」

 

「はいはい、よいしょっと。」

 

エクシアが抜けたのを確認してケオベを真正面から見る。

 

「ケオベ、なんで俺が怒ってるかわかるか?」

 

ぶんぶんと顔を横に振る。

 

「下着、というかボトムスを穿いてないからだ。」

 

「でもオイラ気にしないよ?」

 

「周りが気にすんだよ。一人の時とは違って沢山人がいるだろ?」

 

「うん。」

 

「その人達がもしもケオベの服の中が見えたら……あ〜、びっくりするんだ。」

 

「そうなの?」

 

「そうだ。」

 

「でもラックはよく裸だよ?」

 

ぴたりと固まる。いや、それはまあ……そうだけど……。しまった、俺が原因だったとは……。

 

「……わかった。じゃあ場所をせめて限定しよう。」

 

「場所?」

 

「ああ、俺とヴァルカンとケオベの自室。当然だけど、そこなら好きな格好で良い。だから外では止めような?」

 

「う〜ん、わかった!」

 

「よし、じゃあまずヴァルカンのとこにボトムスを取りに━━━━「じゃあラックの部屋に行く!」ふぉっ……!」

 

ケオベが俺の腕を持って走り出した事で体が浮かぶ。

 

「ら、ラックー!?」

 

「だ、大丈夫だ!また後でなああぁぁぁ……!」

 

心配するエクシアに返事をしつつ連れ去られた。

 

 

 

 

「やれやれ……。」

 

ケオベの部屋に連れてこられてベッドにぶん投げられると抱き着かれて、ぐりぐりと胸に顔を押し付けてくる。

 

「サヤ、ヴァルカンに連絡しといて。」

 

『わかりました。』

 

「さてと、そろそろ満足したか?」

 

「まだ!!」

 

「つっても俺もちょっとやる事があんだけど……。」

 

そう言うと抱き着く力が強くなった。

 

「だって、ラックがオイラと遊んでくれないんだもん。」

 

「む……。」

 

なんだ、寂しかったのか。

ちょっとほっぽりすぎたかな。

 

「悪かったよ、ごめんな。」

 

髪の流れに沿うように撫でてやると無邪気に笑った。

今日は目いっぱい遊ぼう。

 

 

 

 

「全く、二人して夜中まで遊んで寝不足になるなんて。」

 

「くぁあ……」

 

「うにぃぃ〜〜………」

 

翌日、任務に出てドクターが配置を考えている間に、二人してヴァルカンに正座させられて怒られているが、眠くて話しが入ってこない。

 

「聞いているのか?」

 

「おう。」

 

「うん。」

 

「なら少しは目を開く努力をしろ。」

 

「三人とも、いいか?」

 

ヴァルカン頬を引っ張られているとドクターに呼ばれた。

 

「ケオベとラックはあそこの道を塞いでくれ。

すまないが、ヴァルカンは二人の監督を頼む。」

 

「あいよ〜。」

 

「わかった〜。」

 

「はぁ、わかった。」

 

俺もケオベもヴァルカンに手を引かれながら指示された地点に到着すると俺もケオベも座り込んだ。

 

「寝るんじゃない。もう敵がそこまで……くっ……!」

 

「わぁってるわぁってる……」

 

大きな欠伸をしながらハンドガンを撃つ。隣ではケオベがアーツを発動させていた。

 

「だだだだだ〜……」

 

「気が抜けるな……しまった!」

 

「んぁ?」

 

片目を開いて前を見ると一人抜けて来ていた。

……刀抜くのめんどい。

振り下ろされた鉄パイプを避けて、首元を掴み足を引っ掛けて倒すと頭を撃ち抜いた。

 

「はぁ……」

 

「ため息なんて吐いてどうした?後でマッサージでもしてやろうか?まあ、寝た後だけど。」

 

「お前のせいだ……マッサージは頼む。」

 

よくわからんが俺のせいらしい。まあ、いいか。

そのままヴァルカンを先頭に置き、その後ろでハンドガンを撃つ。ケオベは最終的に俺の背中で寝ていた。

 

 

 

 

「ヴァルカン、ラックとケオベの戦果報告を……」

 

ラックとケオベの戦果報告が提出されてなかったから、二人と一緒に帰ったヴァルカンに聞きに行くとラックとケオベがヴァルカンにしなだれかかって眠っていた。

 

「ドクターか。すまない、二人とも部屋に戻って少ししたら寝てしまった。」

 

「いや、こっちこそ邪魔をしてすまない。」

 

「邪魔……?」

 

「三人が家族みたいだって噂をよく聞くぞ。」

 

「家族か。私とケーちゃんならともかく、ラックはよくわからないな。」

 

「確かに、スズラン達には兄や父親みたいに接しているし、パフューマーの所に居る時は弟の様だ。

そうなると、ロドスはラックの大家族だな。」

 

思わず笑い声が漏れる。各地で聞くラックの話は軍属時代の血も涙もないような兵士だとか、トランスポーターとして誠実に働いているという話だからな。……まあ、どちらにしても裏では女と遊んでいるんだろうが。

 

「大家族か……そんな大家族をいつかきっと置いてどこかに行くんだろうな。」

 

「そう言っていたのか?」

 

「なんとなく、そんな気がするだけだ。そもそも、ラック自身ここから出て行こうと思えばいつでも出る事はできるんだ。」

 

「ケルシー達に捕まりそうだ。」

 

「いいや、止められようと本気になればロドスにいた痕跡すら残さずに消えるだろうな。

今のふざけた行動が目立つのが私達にとってのラックだが、ドクターも知っているように本来はサルカズの間で恐れられ続けた暗殺専門の兵士だ。アーツが使えなくなったとはいえ、暗殺者としての腕は最高峰だ。」

 

「……なるほど。なら今ロドスにいるのは気紛れか。」

 

「それもあるだろうが、鉱石病の根絶も理由だろう。頻繁に血を抜いているからな。」

 

「そうか。なら、俺も頑張らないとな。じゃあ、そろそろ行く。報告書は後で良い。」

 

「ああ、わかった。」

 

最後にヴァルカン達を見て、マスクの中で笑みを浮かべで部屋を出た。

 

 

 

 

「……起きているだろう。」

 

「バレてた?」

 

目を開くとため息を吐いたヴァルカンが目に入る。

 

「すぐ真横で寝ていたからな。」

 

「それもそうか。」

 

後頭部を掻いて少し離れる。

 

「にしても、最高峰の暗殺者だなんて随分買い被ってくれてんだな。今の俺にゃ銃の腕くらいしか残ってないぜ?」

 

「事実を言っただけだ。

それで、後どれくらいロドスにいるんだ?」

 

「そうだなぁ、鉱石病の薬と今の仕事をアンセルとバイソンに押し付け……引き継がせる為の教育があるから数年はいるつもりだ。」

 

「その後はどうするつもりだ?」

 

「トランスポーターに専念しつつ、テキトーにふらふらするだろうよ。たまにロドスに戻るだろうけど、今のモスティマと同じかそれよりもふらつくくらいになると思う。」

 

居着く理由もないからな。

 

「にしても大家族か。中々悪くねぇな。」

 

「……ならいればいいだろう。」

 

「そうもいかねぇんだよ。まだ終わってない後始末を済ませねぇといけねぇからな。」

 

「そうか。……少し、寂しくなるな。」

 

「そんな好かれてるとは思わなかったわ。

まあ、まだ大分先の話だからよ。それまで刀の整備は頼むぜ?」

 

「そういえば、前回整備したのはいつだった?」

 

あ……

 

「……ちょっと覚えてないな。一週間前?」

 

「二ヶ月前だ。ケーちゃんが起きたら整備するからな。」

 

「じゃ、じゃあその間に俺ちょっと食堂で飲み物を……」

 

ぐわしっ、と腕を掴まれた。

 

「私は寂しがり屋のようだからな。まだここにいてくれ。」

 

「いやあのその……。」

 

「そろそろ静かにしろ。ケーちゃんが起きる。」

 

「……あい。」

 

少し浮かせていた腰を降ろすと、掴んでいた手を放して今度はゆったりと腕を絡めた。

おいおい、俺の事好き過ぎじゃねぇの。

まあ、刀の整備の時に怒られたんだがな!

 

 

 

 

 

 

 

 

・もしもの一幕

 

 

「さてと……行くか。」

 

全員が寝静まった深夜。俺はトラックに荷物を積み込んでロドスを去ろうとしていた。

薬も出来たし、バイソンがうるさかったが引き継ぎも終わった。後は一人の方がやりやすい。

ドクターとエンシオだけに別れは言った。後の事はなんとかしてくれるだろう。

 

『行先はどちらに?』

 

「とりあえず、気の向くままに行くぞ。」

 

アクセルを踏み込んだ。

 

 

 

 

「……はぁぁ〜〜〜。」

 

「え、えへへ……」

 

ロドスから出て次の日……いや、その日の夕方か。休憩しようと、草原地帯で停車して水を取りに荷台に行くと丸まって寝ていたスズランがいた。

昔のアーミヤと同じくらいに成長したスズランが苦笑いを浮かべていた。

 

「なーんで勝手に来てんだよ……。」

 

「ご、ごめんなさい!ラックさんが出て行くって聞いて、つい……」

 

「どうすっかな……」

 

ほとんどの連中に黙って出ていったから当分ロドスには戻りたくない。

 

「まあ、こうなっちまったからにゃしゃーねぇか。」

 

ふーっ、と大きく息を吐く。

 

「一緒に愛の逃避行でもするか?

なんて、歳が倍近く離れ「はい!!」……うん、よし、じゃあ行くか。」

 

参ったな、こんなに好かれてるなんて思ってなかった。

 

 

 

 

「はぁ……いてて……」

 

ロドスを出て更に数年が経った。

俺もいい加減歳かな。見た目はあんま変わってねぇけど、体が昔程動いてくれない。

 

「大丈夫ですか?」

 

「ああ、ちょっと腰にキただけだ。」

 

リサも成人して随分と美人になった。スタイル抜群で性格も良し、百人が百人老若男女問わず振り返る程になった。

最近では行く街で求婚されまくるから俺がリサに相応しいかを審査している。……過保護過ぎるかな。

一次面接で俺と、二次面接ではリサと二人きりにさせているが、俺がこいつなら任せられると思った男達が二次面接が終わると自分から辞退してしまう。

ずっと一緒にいられる訳でもないし、俺としちゃリサには幸せになってもらいたいんだが……。

 

「ラックさん、ホテルが取れましたよ。」

 

「ん、ああ、悪いな。」

 

最近では泊まる場所なんかも全部リサに任せっきりになってしまった。

 

「一緒の部屋か。」

 

「ここしか空いてなかったので……。」

 

「いや、気にすんなよ。それにベッドは二つあるしな。

ほら、立ってないで荷物置いてゆっくりしよう。」

 

「はいっ。」

 

 

 

 

「……ん、んん?」

 

夜、ベッドで寝ていると誰かがベッドに乗ってきた振動で目が覚めた。

多分リサだろう。間違えたのかと注意しようと目を開くとネグリジェ姿のリサがいた。寝る前まではバスローブを着ていたはずなんだが……そもそもそれいつの間に買ったんだ。

 

「……リサ?」

 

「ごめんなさい、ラックさん。」

 

リサが謝りながら四つん這いでゆっくりと移動して俺の上に跨る。

 

「私、綺麗になりましたよね?」

 

「ああ、どこに出しても恥ずかしくない娘に育ってくれたな。」

 

「もう、我慢しなくても良いですよね?」

 

「……いつもお前の好きなようにしろって言っているだろ。」

 

両手を俺の横に着いてゆっくりと顔を近付けてくる。

 

「好きです、ラックさん。」

 

そのままそっとキスをされた。

軽く触れるだけのキス。それだけで体が熱を持つ。

リサと旅に出て、今まで一度足りとも女を抱いていないから当然だろう。

 

「返事は、まだ言わなくて良いです。これは私の自己満足ですから。」

 

一体何年返事を保留にし続けただろう。流石にモスティマ達よりは短いとは思うが。

 

「……他の女の人の事を考えないでください。」

 

ぷくっ、とリサの頬が膨らむ。

 

「ああ。今はリサの事だけ考えようか。」

 

リサの頬を撫でるとくすぐったそうにする。

 

「俺も好きだぞ。」

 

「え……?」

 

「なんでそんな意外そうな顔をすんだよ。」

 

「だ、だって、ラックさんの事が好きな人達ってたくさんいるから……」

 

「自分の方が好かれてる事に驚いたのか?」

 

小さく頷くリサにため息を吐く。

 

「よぅし、わかった。ならどれだけリサが好きかって事を体に教えこんでやる。」

 

上体を起こしてリサと目を合わせる。

 

「え、えっと……ら、ラックさん?」

 

「数年分溜め込んだ性欲をたっぷりと受け止めてもらおうじゃねぇか。」

 

「あ、あの、顔が怖いです。お、怒ってます?」

 

「…………怒ってない。」

 

翌日、リサの足腰が立たなくなった為に予定より数日長く滞在する事になった。

 

 

 

 






二次面接に向かうバスの中で書き上げました。
これで緊張解れればいいのに……



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四十八話:天丼は何回許されるだろうか

 

 

 

 

「ラックー!」

 

「あん?」

 

廊下を歩いていて後ろから声を掛けられた。振り返るとクロージャがアと一緒に難題を片付けたような達成感のある顔をしていた。

 

「……なんだ?」

 

一歩後ろに下がりながら返事をすると、ずいっと試験管を押し付けられた。

 

「子供になる薬があったでしょ?あれを改造してラックがアーツを使える薬に改造してみたんだ!またちょっと子供になるかもだけどしょうがないよね!」

 

「いやー、俺もかなり苦労したぜ。なんたって旦那のアーツには不明な所が盛り沢山だからな。エクシアやフィアメッタに聞いた甲斐があったぜ」

 

「あー……飲むのは良いけど、せめて腕の立つオペレーターを何人か呼んでくれ」

 

「なんで?」

 

「前みたいにちっこい俺ならまだしも、中学生くらいの俺が出てきたらロドスが吹っ飛んじまう」

 

「へぇ〜、そりゃ是非見てみたいもんだ。」

 

「それとサルカズは絶ッ対に呼ぶな。

いの一番に俺に狙われるぞ」

 

「うーん、流石にロドスが壊されるのは困るから、三十分後くらいに集合で良い?」

 

「ああ。ついでに探偵社の連中でも呼んでアーの手綱を握らせてやれ」

 

「ちょっ!それは勘弁してくれよ!」

 

なんやかんで三十分後。訓練室に集まって俺を囲んで少し距離を取った状態で集まっていた。

ドクターもいるのか。

 

「んじゃ、飲むぞ。あ、初撃は首狙ってくるかもだから準備しとけよ。それとドクターは守れよ。司令塔だって見抜かれたら一番に狙われるぞ」

 

言うだけ言って薬を一気に飲み干す。

 

「ぴっ……ピーチ味ッ!?」

 

飲みやすさを優先するのはいい事だと思って、意識を手放した。

 

 

 

 

ボンッ!とラックを中心に小さな爆発と共に煙が巻き起こる。

数秒後に煙が渦を巻いて消失した。あれはアーツか?

 

「ドクター、下がって」

 

「ああ」

 

スカジの言葉に従って下がる。

煙が晴れると、12くらいだろうか?少年となったラックがぶかぶかな服で座っていた。

ジロリ、と周囲に視線を巡らせると、不意に俺と目が合った。幼い子供にそんな目付きが出来るのかと思わずたじろぐ。

 

「全力で防いで!」

 

エクシアが大声を出した途端に部屋にいる全員が武器で目の前を払う所作をしたり、自前の盾で防いだり、しゃがんだりしていた。

俺はスカジがアーミヤと共に守ってくれていたからなんとななった。

武器や盾から轟音が響き、壁には横に一筋の傷が出来ていた。

 

「……おい、ここはどこだ?」

 

「待ってくれ。君に危害を加えるつもりはない」

 

ずっとこちらを睨みつけている。

ほんの少し周囲を見ただけで俺がこの場での指揮官だと判断したらしい。

 

「ここはロドスという製薬会社だ

そして、この時代は今の君から見れば未来の世界だ」

 

眉間に皺が寄る。

 

「ふざけているのか?

それに製薬会社だと?そんな上等な装備を製薬会社が用意出来るか」

 

「どう説明すればいいか……」

 

『ここは私にお任せください』

 

「なんだ、どこから……これか?」

 

『私はラック様専用サポートAIのサヤと申します』

 

「AI……」

 

珍しそうにジロジロとサヤを手に取って眺める。

 

『首に掛けてあるゴーグルを装着してください』

 

「……変な事しないだろうな?」

 

『ご安心ください。私の行動は全てラック様の為になるように設計されています』

 

「……わかった」

 

ラックがゴーグルを付けて一分程経って、ゴーグルを外した。

 

「とりあえずお前らが敵じゃない事はわかった」

 

「そうか、それは良かった

じゃあ効果が切れるまでどこかでゆっくりと生活してほしい」

 

「俺は勝手に動くから、入ってほしくない所だけ教えてくれ」

 

『そちらは私が伝えます』

 

「それと……服を着替えたい。流石にシャツ一枚は……」

 

「わかった、そっちも準備しておこう」

 

「助かる。それで……通れないから道を開けてくれ」

 

未だにオペレーター達が周囲を囲っていた為、刀とハンドガンを重そうに両手で抱えていたラックはアーツで飛ぼうとしたが、下に何も履いていない事に気付くと不満気な表情で言葉を発した。

そしてその正面にいたのはエクシアだった。

 

「へへーっ、今回も可愛くなったね!」

 

「誰?……もしかして、エル?」

 

にまにまと笑ったエクシアがラックに目線を合わせる。

 

「……ん?」

 

エクシアだと分かると、ラックの表情が少し綻ぶが腰に下げた武器を目にして顔色が一気に青ざめた。

 

「な、んで、お前が武器なんて持って……」

 

ラックがぺたりと尻もちをついた。

 

「ええっ!?大丈夫!?」

 

「落ち着いてください」

 

フィリオプシスがラックの傍にしゃがんで背中に手を添える。

 

「エクシアさんは少し離れてください」

 

「あー……うん、そうだね。ちょっと別の所に行ってるよ。あたしがいたら邪魔そうだし。ラックの事、よろしくね」

 

そう言ってエクシアがペンギン急便のメンバーを引き連れて部屋を出た。

それに合わせてオペレーター達が訓練室から出て行く。

 

「こちらに」

 

「……むぎゅ」

 

フィリオプシスがラックを胸元に抱き抱えて背中を優しく叩く。

 

「深呼吸してください」

 

「すー……はー……」

 

「アーミヤ、スカジ、俺達も行こうか」

 

「はい」

 

「……そうね」

 

スカジがやや名残惜しそうにラックの方を振り返るが、大人しく着いてきた。

 

 

 

 

「……確かに、内部の案内は頼んだが」

 

フィリオプシスというオペレーターに介護されたお陰で精神も回復し、サヤに頼んでいた案内を聞こうとすると俺とほとんど変わらない少女が絡んできた。

キラキラと宝石のように眩しく目を輝かせて見つめて来る目が眩しくて一歩後退る。

俺と同い年くらいか?……自分が汚い物に見えてきた。いや、実際沢山殺しているんだから汚いか。

 

「わたし、スズランって言います!あ、本名はリサですからリサって呼んでも大丈夫です!」

 

「……じゃあ、短くて呼びやすいからリサで」

 

『スズラン様は幼いですが、ロドスにおいては補助オペレーターとして非常に優秀な成績を残しております』

 

「そう、か」

 

こんな小さな子供を戦わせるとは、この組織クソだな。

 

「無理矢理じゃないんですよ?わたしが皆さんのお役に立ちたかったのでお願いして出させてもらっているんです。

本当はドクターさんやアーミヤお姉さん達も出て欲しくないって言ってくれているんです。

だから、その、皆さん優しいので、ラックさんも安心してください!」

 

「わ、わかった、わかったから……」

 

喋る度に一歩、また一歩と近付いて来るリサを落ち着かせるように両手を前に出す。

 

「とりあえず、着替えたいんだけど」

 

「あ、そうですね。でもすぐにお洋服は用意出来ないでしょうし……」

 

『でしたら患者着で一先ずはどうでしょうか?

子供用の物なら合うはずです。』

 

「それでいい。どこにあるんだ?」

 

『医療部門にあるはずです。ドクターには私の方から連絡しておきます』

 

「わかった。リサ、医療部門はどこにあるんだ?」

 

「こっちです!」

 

「……手を繋ぐ必要はあるのか?」

 

「えっ……ダメでしたか……?」

 

「……いや、良い」

 

そうしてリサが嬉しそうにしてスキップするように走り出して━━━━ずっこけた。

 

「ん」

 

地面に落ちる前にアーツを発動し、リサがそのまま空中に留まる。

 

「あ、あれ?」

 

「時間はまだあるんだから慌てるな」

 

「すごい、アーツですか?」

 

「さっきも見た……いや、そもそも既に知っているんじゃないのか?」

 

「いえ、大人のラックさんはアーツが使えませんから初めてです」

 

泳ぐように体を動かすリサの動きに合わせてゆっくりと動かす。

……アーツが使えない?なぜだ?後で暇つぶしにサヤにでも聞いてみよう。

 

「それで、医療部門の案内は?」

 

「あ、あっちですよ」

 

リサを浮かしながら医療部門に向かう。

歩いている間にもリサはクルクルと回ってみたり他の人達の驚く顔を見て楽しそうに手を振る。

そしてたまにサルカズが目に入って思わずアーツを発動しそうになってしまう。その度にサヤから注意される。

どうやら戦争は終わっていて成人した俺もラテラーノを飛び出し龍門を拠点としていて、歓楽街のトップを張っているらしい。

歩いている間にゴーグルを通して戦闘中の映像を見せてもらったが、刀とハンドガンと暗器を武器にしているらしい。何より驚いたのは輪と羽が無くなっていた事だ。これではもはやどこの種族かすらわからない。

 

「……随分と様変わりしているんだな」

 

ため息を一つ。アーツが使えないとここまで弱くなるのか。いや、決して弱くはないと思う。アーツが強力なだけで戦闘力としては高いのだろう。

それでも、今の自分と戦ったのなら一分も持たないだろうと思ってしまった。

リサを見て、自分もと近寄って来るオペレーターや子供に少し鬱陶しく感じてしまう。良くないなと思って全員ぶつからないように気を付けて浮かべる。

 

『到着しました』

 

結局リサが遊んでいたからサヤに案内してもらった。

ノックをして入室する。

 

「失礼する」

 

「む?誰だ?」

 

「ラックだ。サルカズ……知り合いなんだよな?」

 

「ラック?ああ、薬で子供になったのか。それでなんの用があってここに来たのだ?」

 

「服のサイズが大きいから患者着を借りに来た」

 

「そうか。ならばそこの棚にある。好きに持っていくといい」

 

「助かる」

 

「ああ、やはり待て。ついでに採血させてもらおう」

 

「……殺されたいか?」

 

アーツで後ろにいるサルカズの首を薄皮一枚斬り裂く。

 

「待て待て!採血自体は元からしていた!ただ、現在の状態とでどのような違いがあるかを調べる程度だ!」

 

「サヤ、本当か?」

 

『事実です』

 

「……さっさとしろ」

 

それから丁寧に採血をされて部屋から追い出された。腕は良いようで、針を刺されても痛みを感じる事はなかった。

 

「リサ達はもうどこかに行ったか」

 

さてどうしようかと思っていると、腹が鳴った。

 

「……そういえば何も食べていないな」

 

『食堂まで案内致しましょうか?』

 

「ああ、頼む」

 

サヤのお陰で迷子になることもなかった。サヤを作ったやつには感謝しないとな。

 

「広いな」

 

『あちらのカウンターで注文できますよ』

 

そう言われてカウンターを見ると、カウンターの向こうからコータスの女性が手を振っていた。

……来いって事か?

 

「呼んだか?」

 

「えぇ、あなた、ラックよね?」

 

「ああ」

 

「私はナスラよ。これ、良かったら食べてね」

 

そう言ってオムライスをトレーごと渡された。

 

「……これは?」

 

「オムライスよ。グムからあなたの好物だって聞いたから作ったんだけど……」

 

「いや……ありがとう……」

 

最近は酒のつまみやレーションばっかりだったから、こういうちゃんとした料理は久し振りで思わず喉が鳴る。

……俺がこんなに良いものを食べても良いのだろうか。

 

「えっと、あんまり好みじゃなかったかしら?」

 

「そんな事は……ただ、俺が食べても良いのかな」

 

そういうと困ったような笑顔を浮かべるとトレーに置いてあったスプーンを取ってオムライスを掬うと俺の口に突き付けた。

 

「えっと……」

 

「ほら、口開けて?」

 

困惑しながら口を開けると、ゆっくりとスプーンを口に入れてオムライスを食べさせられた。

 

「むっ……」

 

「美味しい?」

 

「……うん」

 

「ナスラ、丁度いい時間だしついでにチビラックの相手でもしてやんな!」

 

「良いの?うーん、わかったわ」

 

ナスラはオペレーターじゃないんだろう。雰囲気や身体の動きが物語っている。

キッチンから出ていくナスラをそのまま目で追いかけていると、カウンターから出てきたナスラに手招きされて同じテーブルに座った。

お昼時だからかナスラの前にもトレーがあった。

 

「……唐揚げ?」

 

普通の唐揚げ定食みたいだったが焦げているのか少し黒い。

 

「ちょっと失敗しちゃったやつよ。食べられない訳じゃないけど、みんなに食べてもらうにはちょっと、ね?」

 

苦笑いを浮かべるナスラを見て黒い唐揚げを一つ摘んで食べる。

 

「あっ……!もう……」

 

「これも美味い」

 

そう言うと嬉しいような困ったような顔で俺の頭を撫でてきた。

 

「出来ればちゃんとした料理の時に言って欲しいわね」

 

「ナスラの料理は美味い。ここ一年で一番美味い」

 

「嬉しいけど……今まで何を食べていたの?」

 

「ブロック食品、レーション、ゼリー、酒、つまみ、サプリ」

 

「あ、もういいわ」

 

真顔で止められるとため息を吐かれた。

 

「そんな生活を続けてたら早死にしちゃうわよ?」

 

「今の俺が生きてるなら早死にしてないって事だろ」

 

「……それもそうね。でもご飯はちゃんと食べること!少なくともロドスではそうしなさい?」

 

「わかった」

 

素直に答えるとまた頭を撫でられる。これではナスラの食事が進まないとトレーを見るとほぼ食べ終わっていた。

……いつの間に、実はかなりの実力者?

 

「そっちも食べ終わってるでしょ?」

 

「……なんと」

 

言われた通りにオムライスが既に皿から無くなっていた。

誰かが食べたのかと思ったが確かな満腹感がある。もう少し味わいたかった。

 

「そんな顔しないの。晩御飯も作ってあげるわよ」

 

「助かる」

 

「食器は下げておくから、あなたは他にも色々回ってみたら?」

 

「わかった」

 

「もう……ちょっとくらい子供らしい反応してくれればいいのに」

 

残念そうに言われる。今の俺と比べれば幼いからか近所の子供か何かとでも思われているのか?

 

「子供らしい反応がほしいのか?」

 

「まあ、ちょっとね?」

 

「……わかった」

 

立ち上がってナスラの方に向かうと、ナスラが首を傾げた。

ふわりとアーツで軽く浮き、膝の上に対面に座ると抱き着いて頬にキスを一つ。

 

「ありがとー、ナスラお姉ちゃん」

 

「……ぇ?」

 

「これで満足したか?」

 

……返事がないな。前にショタコン女から情報を取った時と同じ媚び方をしてみたんだが、何か不味かったか。

それと周囲が妙に静かになった。さっきまで騒がしかったのが嘘みたいだ。

 

「……何かおかしな事をしたか?」

 

俺の知っている年上の女性に対して行う年下の行動はこれしか知らない。もしかしたら一般的ではないのかもしれない。

 

「まあいいか」

 

早くて明日には入れ替わる俺には関係ないだろう。

 

 

 

 

「すごいな」

 

ロドス内を散歩していると庭園に着いた。サヤによるとラナと言う女性が管理しているらしい。

陽の光がいっぱいに入って来て、他の部屋は医療施設らしく無機質で閉鎖的に感じたため、好ましく感じる。

植物を傷付けないように気を付けながらアーツで風を遊ばせながら散歩を続ける。

 

「きゃっ……!」

 

「ん?」

 

気ままに風を遊ばせていると女性に風を吹かしてしまったみたいで驚かせてしまった。

 

「ごめん。大丈夫?」

 

「えぇ、ちょっと髪型が乱れちゃっただけだから」

 

ヴァルポの女性が櫛で髪を梳かしながらそう言った。

 

「あなたはラックくんかしら?」

 

「ああ」

 

女性がこっちに来るとふわりと良い匂いがした。

 

「私はパフューマーのラナ。よろしくね?」

 

なるほど、彼女が管理者か。

 

「どうせ元から知っていたのならよろしくもないだろう。恐らく明日には入れ替わってる。」

 

「私は今のラックくんと仲良くしたいのよ。」

 

はい、と差し出された手を少し悩んで握ると嬉しそうに笑った。

それから少し話をして近くのベンチに隣合って座った。

 

「あんたは良い匂いがするな」

 

「ふふっ、ありがとう。良かったら他にも色んな香りがあるから嗅いでみる?」

 

手招きされてついて行くと

 

「ここが私の工房よ。どうかしら?」

 

「……すごい」

 

もっと他に言葉が出るかと思ったが、この一言しか出なかった。

それから気になった物全部を質問して、それが終わるとまた近くのベンチで座って雑談を始める。

 

「ラックくんは昔からこういう匂いが好きなのかしら?」

 

「好きだ」

 

ラナの手を取って匂いを嗅ぐ。

 

「ちょっと……恥ずかしいわ」

 

「……ダメだったか?」

 

「ダメじゃ、ないけど」

 

「ならいいだろ」

 

手を握ったままラナの膝に向かって倒れて、上を向く。

 

「ね、そろそろ仕事をしたいから放してくれるかしら?」

 

「嫌だ」

 

「えっと……」

 

「もうちょっとだけ、ダメ?」

 

「も、もう、今回だけよ?」

 

そう言って空いてる手で優しく頭を撫でてくれた。

 

 

 

 

「ここが俺の部屋?」

 

『そうです』

 

あれから一時間くらいラナの膝の上でごろごろして、アーツで水やりなんかを手伝ってから別れた。

それから自分の部屋に行ってないと思ってサヤに案内してもらった。

 

「漫画、映画、AV、ゲーム……色々あるな」

 

見るだけ見て冷蔵庫を開けると酒を見つけた。

 

『今のラック様は未成年です。飲酒はいけませんよ』

 

「元から飲んでたからいい」

 

ソファに座って、プルタブを開けて一気に呷る。ラテラーノのものとは違うけど美味い。

 

「ここの人は、良いな」

 

ぼんやりと座ったまま酒を飲んでいると、いつの間にか酒が無くなっていた。

 

「もうちょっと飲もう」

 

『ラック様、体によくありません』

 

「……うるさい」

 

酒を追加で何本か取ってきて、ソファに戻ってサヤをぺちぺち叩く。

 

『仕方ありませんね』

 

「なんか無いかな」

 

棚を漁ってみるとポテチがあった。これでいいか

 

「最高」

 

ポテチを数枚口に放り込んで酒で流し込む。

少し酔ってきたな。少し頭がぼんやりしてきた。

廊下から誰かが走ってくる音が聞こえる。一体誰だ?アーツを使って吹き飛ばしてやろうかと思ったが、酔っているせいで操作が覚束無い。

 

「ラックさん!」

 

「……誰?うるさい」

 

金髪の煌びやかな服装のクランタが入ってきた。

 

「私はブレミシャイン!でも、マリアって呼んでくれると嬉しいな」

 

「わかった。それで何の用だ?」

 

ポリポリとナッツを摘む。

 

「遊びに来ただけだよ?」

 

「遊ぶって……お前そんな歳じゃ━━━━「マリア」……マリアはそんな歳じゃないだろ」

 

「え〜、私だってまだまだ遊びたいよ?」

 

そう言うと、腿を撫でられる。なるほど。

 

「俺とそう言う関係だったのか」

 

アーツを何とか制御してマリアを浮かべてベッドに寝かせる。

 

「え?え?何これ!?動けないよ!?」

 

「こういう事がしたかったんじゃないのか?」

 

マリアの上に乗って顔の横に手を着く。

 

「間違ってはいないけど、なんでそんなに慣れてるの?」

 

「別に、俺だって慣れたくなかったよ」

 

仕方ないだろう。任務でこうしなきゃダメな時だってあった。メイクで顔の印象を変え、カツラを被り、ターゲットの近くの女性に近づき情報を抜いたり、近くにターゲットがいるならその場でアーツを発動させて痕跡を残さずに殺す。その際には事故を起こして自分は死んだことにする。

まだ一年くらいなのに何度もこなした任務だ。一体俺は何度死んだんだろう。

 

「それとも上になりたかった?」

 

マリアの上から退いてベッドに転がると、服を少し捲った。

またしてもアーツでマリアを浮かべて上に乗せる。

 

「もうやる事やっているんだろ?それとも、子供にバカにされるのが良いのか?」

 

態とらしく鼻で笑う。

 

「そ、そんな事……」

 

「俺の事、好きにしていいんだぞ。抵抗なんてしないから、生意気なガキを屈服させてみたくない?」

 

無抵抗を示すように脱力する。

マリアの目に力が入り、手首を強く掴まれる。やっぱりこんなもんか。まあ、いい暇潰しにでもなるだろう。

 

「マリア?ここかしら?」

 

ドアが開いてマリアに少し似た女性が顔を出して動きが止まる。邪魔が入ったな。

 

「残念」

 

「えっ!?ちょ、ちょっと!?」

 

マリアと女性をアーツで纏めてベッドに投げてサヤを引き寄せて部屋から飛び出す。

 

「ラック!ドクターに言いつけるわよ!」

 

後ろから聞こえる声を無視して、未だに酔いが抜けてないままに少しふらつきながら走っていると曲がり角で人にぶつかった。

 

「わっ……ごめん、そっちは大丈夫?ってあれ?もしかしてラック?」

 

ヴァルポの少女がじっと俺の顔を見てくる。また知り合いか……。

 

「そうだ」

 

「やっぱり、私はススーロ。医療オペレーターだよ。一人だったみたいだけど、どこかに行こうとしてたなら案内しようか?」

 

「えっと……」

 

「ラック!どこに行ったの!」

 

「いたた……いきなりアーツで投げるなんてないでしょ……」

 

「「……」」

 

「ねぇ、ラック」

 

手を優しく握られる。

 

「誰かを怒らせたなら謝ろう?」

 

「やだ」

 

そういうとススーロが眉を下げた。

 

「私も一緒に謝るから、ね?」

 

「う……」

 

何度か目を左右に動かして一度頷いた。

 

 

 

 

あれからゾフィアという女性に怒られてからススーロに手を引かれて夕飯を食べに食堂へやってきた。

 

「……なんだ、この状況は」

 

「ドクターがモスティマとエクシアの三人で話し合ってこうした方が良いって話しになったんだ」

 

ナスラとラナに両隣を挟まれ、向かいにススーロが座っている。

俺が何をした、と言いたいが実際やってしまった事はあまり良い事だとは言えない。

大人しくお盆の上の料理に向き合う。

 

「今度はちゃんと綺麗な色でしょ?」

 

昼に食べた少し失敗したものと違って、焦げのない唐揚げだった。

 

「いただきます」

 

一口齧るとザクッとした食感とその下にある肉から弾ける肉汁に目を細める。

 

「美味い」

 

ふんふんと鼻息をやや荒らげながら唐揚げを貪っていると両側から頭を撫でられた。

 

「……なんだ?」

 

「なんでもないわ」

 

「ええ、なんでもないから気にしないで?」

 

「わかった」

 

気にしないように意識の外に追いやって唐揚げにかぶりつく。そのまま夢中で食べているとまたいつの間にか食べ終わっていた。残念だと思う気持ちはあるが満足感の方が大きい。

 

「少し失礼。ラックを借りていきます」

 

「む」

 

急に後ろから手が伸びてきて脇から持ち上げられた。

 

「なんだよおっさん。俺になんか用か?」

 

「俺では無い。主達だ」

 

「ふぅん」

 

ぶらんと持ち上げられたまま運ばれると上等な服装のフェリーン達が座っていた。

 

「ヤーカ、こちらに」

 

「はい」

 

その中の眠そうな女性の膝の上に下ろされると頬をこねられた。

 

「むぎゅっ……何?」

 

「これが子供のラック……以前は触れられ無かったので新鮮です」

 

「手短にしてくれ」

 

「わかりました」

 

それからは抱き締められたり撫でられたりとされるがままで、隣にいた妹っぽいのも一緒に触ってきた。兄っぽいのとヤーカ?をぶすっと睨みつけてみたが何処吹く風で無視された。

 

「そろそろ放せ」

 

「むぅ……もう少しだけ良いですか?」

 

「……後五分だけだぞ」

 

「わかりました」

 

時間制限を付けた事で動きが早くなり、さっきにも増して弄られた。

 

「……疲れた」

 

『お疲れ様です。気分転換に天体観測は如何でしょうか?アステシア様主導で子供達を連れて行っているそうですよ』

 

「今は曇っているだろ」

 

『そうですね。とても残念そうにしています』

 

「……わかったよ。行けばいいんだろ」

 

ふぅ、と息を吐いてアーツを利用して急いで指定された場所に向かう。

 

「姉さん、今日はプラネタリウムにしよう?曇ってるなら仕方ないよ」

 

「そうね……ごめんなさい、皆。折角楽しみにしていてくれたのに……」

 

もう既にお開きムードで片付けを始めようかとしていた所だった。

 

「……まだ天候の操作や超長距離のアーツの活用は得意じゃないんだけど」

 

きっと大人の俺ならもっと上手くやれるんだろうな。

空に向かって両手を向けてアーツを発動する。

 

「む……ぐぐぐっ……ふぬぅ〜っ!」

 

やや雲の密度が薄くなってきた。

そのまま両手を胸の前で構えると力を溜める。

周りが異変に気付き始めてザワつくと、俺に視線が集まる。

 

「せぇ〜え〜のっ!」

 

右腕を後ろに大きく引き絞って溜めたアーツを雲に向かって思い切り投げた。

アーツの位置を確認しつつ雲の中心に到達した瞬間に解放させるの、中心から雲が吹き飛んで空が見えた。

 

「なんとか、出来た……ふぅ」

 

その場で座り込んで額の汗を拭っていると人が周囲に集まってきた。

 

「えっと、貴方はラックよね?」

 

「ん、お前がアステシアか」

 

「えぇ。えっと、その……ありがとう」

 

「いいよ。ちょっとした気紛れだから」

 

「あ……」

 

用は済んだと去ろうと背中を見せると後ろから小さな影が走り込んで来ているのを感じた。

 

「ラックさーん!」

 

「甘い」

 

「へぅっ!?」

 

リサの前に空気の壁を作り、近付けないようにする。

 

「へぇ〜、これがあのラックのアーツかぁ」

 

「どんな噂があるかは知らないが、そんな事より天体観測が目的だろう」

 

「ちぇっ、はぁい」

 

全員がアステシアの近くに集まった所でアーツを発動させる。

 

「えっ!?」

 

「ちょっ、ちょっと何これー!?」

 

「きゃー!?」

 

「……アーツか」

 

全員を浮かべて一気に上昇して雲の上まで移動する。……一応、望遠鏡も一緒に。

 

「こんなに星が近くに……!」

 

「すごいね、姉さん!」

 

アステシア達が騒いでいる姿を横目に寝転がって空を星を見上げる。

 

「つまらなそうだな」

 

「お前は?」

 

いつの間にか子供達の引率をしていた真っ白なコータスの女性が近くにいた。

 

「フロストノヴァだ。それで質問の答えは?」

 

「見慣れた」

 

「そうか。……お前には夢はあるのか?」

 

「なんで夢?まあ……無かったけど、今は一応ある」

 

「聞いても構わないか?」

 

「……今の俺がこんなに楽しそうな環境にいるんなら、俺も我慢する。夢でもなんでもないようなものだ。いや、寧ろ今が夢みたいなもんか」

 

ゴーグルで見た俺は楽しそうに笑っていたから、それが羨ましいから、俺もそうなりたいから。

 

「そうか」

 

「……それだけか?自分で環境を変える努力をしろとか、もっと言われると思った」

 

「子供の夢を否定するものではないだろう」

 

「ふぅん。多分、あんたみたいなのが子供にとって一番良い人なんだろうな」

 

「そうか。私もこの仕事は天職だと思う」

 

それから無言が続く。俺もそうだがあっちも率先して話す方でもなさそうだ。

 

「……子供達の方に行かなくていいのか?」

 

「今はラックも子供だろう」

 

隣に座って頭を撫でられる。ここのやつらは人の頭を撫でるのが趣味にでもなっているのか。……むず痒い。

 

「撫でてる暇があったら、星を見てろ」

 

「ああ、そうだな」

 

微笑ましいような視線を感じる。なんかムカつく。

 

「……これでもサンクタの大きなパーティや他の都市の催しに引っ張りだこだったんだぞ」

 

「知っている」

 

「……その気になればちょっとした国なら一人で潰せるんだぞ」

 

「それも知っている」

 

「人だって何人も……ああもう、なんなんだよお前ら。調子が狂う」

 

「まだまだ子供という事じゃないか?」

 

「……そう言ってくれるのは隊長達と母さんだけだったよ」

 

状態を起こして酒の入ったボトルを取り出す。

 

「一人で飲むつもりだったけど、一杯どう?」

 

「子供だと言ったばかりなんだが……仕方ないな。だがグラスがないぞ?」

 

「ちょっと行儀は悪いけどそれで我慢してくれ」

 

ボトルをその場で傾けて中身を空に零すとアーツで空中に留めてフロストノヴァの方へと飛ばした。

 

「アーツの無駄遣いだな」

 

「こういう使い方の方が良いだろう」

 

「ふ、そうだな」

 

小さく口を開けて酒の粒を口に入れると、小さくパチッと音が鳴る。

 

「面白いな、口の中で弾けるのか」

 

「極々薄い空気の膜で覆っただけだからな」

 

上手くやれば炭酸ガスも作れるか……?試してみる価値はあるな。今度やってみよう。

だんだんと騒いでいる声も小さくなり、船を漕ぐ子供が増えた辺りで降りてフロストノヴァが子供達を纏めているのを横目にさっさと部屋に戻った。

 

 

 

 

「はぁ〜……」

 

部屋に戻ったらモスティマとエルとエルの仲間達がいた。なんでそんなに馴染んでいるんだ。

 

「何?」

 

「久し振りに妹に会ったんだからもうちょっと愛想良くても良いんじゃない?」

 

「うちのモスティマは俺よりも小さい」

 

「そんな酷い事を言うのはこの口かな?」

 

「……ぶー」

 

唇を摘まれる。不満気に睨みつけると可笑しそうに笑った。

 

「アーツでも使えばいいのに」

 

「……お前に使う訳ないだろ」

 

「ふーーーん?」

 

「もう良いだろう」

 

モスティマの手を解いてソファに座ると、一瞬で周囲を囲まれた。そんなに珍しいか……いや、珍しいか。あっちからすれば小さくなっているんだもんな。

 

「エルは分かるけど、そっちのループス二人は?」

 

「黒い方がテキサスで白い方がラップランド。二人ともおっかないから怒らせないようにねー」

 

「……おっかないは余計だ」

 

「ねぇ、今からちょっと戦ってみようよ」

 

「危険人物」

 

バチッ、とアーツで体を直立に固めた。

 

「あれぇ……?」

 

「大人しくしてろ」

 

「初めて体感したけど、本当に動けないんだね」

 

「当たり前だ」

 

鼻を鳴らすとエルの後ろに隠れた女性に目を向ける。……?なんか、妙だな。

 

「お前、種族は?」

 

「え!?あ、あたし?えーっと、事務所NGです!」

 

「事務所……?とりあえず秘密という事か」

 

少し気になるが、まあいい。

それから今の俺や今までどんな事をしてきたかを話しているうちに、眠くなってきた。もう時間だろうか。

 

「もう寝るから……出てけ」

 

「もうちょっとだけ!」

 

「こらエル、我儘言うんじゃない」

 

「え〜、今のラックは今しかいないんだから良いじゃん!」

 

「……じゃあ一緒に寝ればいいだろ」

 

「やった!」

 

「じゃあ私も一緒に寝ようかな?」

 

「それなら私もだ」

 

「ボクもそうしようかな」

 

「えっ!?じゃ、じゃああたしも……?」

 

結局全員で寝ることになって、ベッドが足らないからと布団を持ち寄ってきて雑魚寝になった。

 

「……狭い」

 

「あははっ!ほんとにね!」

 

「笑い事じゃないし、暑い」

 

アーツを使用して部屋の温度を下げる。これで寝やすくなった。

 

「このアーツは本当に便利だな」

 

「そう思えるのも、俺が上手く扱えている証拠だな」

 

上手く使えなきゃこのアーツは精々が吹き飛ばす、押し潰すとか圧力を与える程度のアーツになってしまう。

 

「……ラック、そろそろ解放してくれても良いんじゃない?」

 

「もう戦おうとか言わないな?」

 

「今はね?」

 

「はぁ……まあいいか」

 

拘束を解くとラップランドが引っ付いてくる。邪魔だと手で顔を押しのけてモスティマの近くに避難する。

 

「おいで?」

 

ウェルカムとばかりに腕を広げるモスティマを半目で見つめて周囲を見渡す。

 

「………………よし」

 

アーツで浮いて事務所NGの後ろに隠れる。

 

「お前でいい。助けろ事務所NG」

 

「それってあたしの事!?ちゃんとソラって名前があるよ!」

 

「じゃあソラ、壁になって」

 

後ろから腹に手を回してくっつく。

 

「えっ!?ちょっ……」

 

「ソラ、ラックをこちらに渡すんだ」

 

「そうそう、同僚じゃん?」

 

「うぇっ!?」

 

狼狽えるソラをそのままに顔を背中に押し付けて寝入る。ちなみにモスティマとラップランドは既に寝ていた。

 

「すぴー」

 

「嘘、寝たの……?」

 

「ちぇっ、寝ちゃったか。ざんねーん」

 

「仕方ない、今日はソラに譲るとしよう」

 

「ねぇ、エクシア。これあたしどうやって寝れば良いの……?」

 

「ん〜、うつ伏せ?頑張って抱っこするとか?」

 

「んしょっ……えいっ。……今思ったんだけど、このままラックさんが大きくなっちゃったら大変な事になるんじゃ?」

 

「まあいいんじゃない?おやすみー」

 

「手伝ってくれないの!?薄情者ー!」

 

 

 

 

「……戻ったか」

 

アーツは使えるっぽいな。前回よりも出来ることが大規模になってる感じがする。

まあそれは置いておいて、なんか抱き枕に抱き着いて寝ていたのか、顔に柔らかな感触がする。まあ、どうせモスティマとかラップランド辺りだろ。

そう思って胸に顔を埋めたまま深呼吸をして顔をやや上に向けて相手の顔を見る。

 

「ぇう、ゃ、ちょっとそんなに吸わないで……」

 

顔が可哀想な程に真っ赤なソラがいた。

そして目が合ったが安心させるように柔らかく笑ってもう一度顔を胸に埋めた。

 

「ほらラック。ソラが困ってるでしょ」

 

「あびゃびゃびゃびゃ!!?」

 

エクシアに輪を掴まれて後ろに引っ張られてソラから離される。

 

「お、まえ……急に触るなよな!?」

 

「だってラックが悪いじゃん?」

 

「そこに胸があったから……」

 

「はいはい、それじゃドクターの所行くよー」

 

「あばばばばば」

 

そのまま輪を掴まれたまま引き摺られ続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

・もしもの一幕

 

 

「どうだ!」

 

「そなたもしつこいな……」

 

指先に針を刺してほんのちょっと血を出してワルファリンに差し出す。

最初に血に文句を言われた時からなにがなんでも飲ませてやろうと酒とタバコを絶って数年。辛かったが、ほぼ毎日通い続けて食事の管理もワルファリンにしてもらい続けた結果。俺の血はサラッサラで上質なものに違いない。

最近はいらないといいつつも横目でチラチラと見てきているのを知っているんだぞ。

 

「え〜、まだダメかぁ……いい線いってると思うんだけどなぁ」

 

「ふん、長年必要としていないのだ。今更必要ない。」

 

そう言いながら血を布で拭って絆創膏を貼ってくれる。

うーん、ほかに方法かぁ……あ、そうだ。食用血液を隠して数日だけ隠してみたらどうだ。流石に痺れを切らすかもしれない。

そうと決まれば早速行動だ。既にどこにあるかもいつワルファリンが部屋を空けるかも知っているからな。

 

 

 

 

「ふー……そなた」

 

「んー?」

 

座って作業しているワルファリンの後ろから首に腕を回して凭れていると、ワルファリンが青筋を出しながら顔をこっちに向けてきた。

 

「妾の食用血液をどこにやったのだ?」

 

「血液ィ?いや、俺は知らないな」

 

「ほう……そうかそうか。妾の食用血液は余り見せるべきではないから知っている人間は極小数なのだがな?」

 

「ほら、ケルシーとかドクターがお茶目で……」

 

「そんな事をするのはそなたくらいだろう」

 

「へっ、中々弁が立つな……!」

 

「阿呆め……しかし、食用血液が無いのであれば、非常用の血液を飲むしかないな」

 

そんなのまであったのか。俺も知らなかった。

今日も失敗かとため息を吐くと、首根っこを掴まれた。

 

「へぁっ!?」

 

「良かったな。望みが叶っただろう」

 

首筋に痛みが走り、吸い取られる感覚と共に体が弛緩する。

引き離そうとアーツを発動させようにもどうにも安定しない。

 

「ふむ、長い間調整させたから良い味だ」

 

動けない俺を放って部屋の鍵がかけられる。

 

「じっくりと味わってやろう」

 

そう言って舌なめずりをしながら服を脱いだ。

 

 

 

 

「あれは何があったんだ?」

 

「さぁ……?」

 

食堂でアーミヤとご飯を食べているとワルファリンがラックの腕に抱き着いて食道にやって来た。

妙にラックがゲッソリとしているし、ワルファリンが頼んだ料理も精がつくようなものが多かった。

 

「……放っておこう」

 

下手に触れたらこちらに飛び火してきそうだ。

 

 

 

 

 






お久しぶりです、半年以上ぶりの更新となりました。
この期間にあった事を書いていこうと思います。先に箇条書きでざっと書いてその後に詳細を書いていきます。

・今3つくらい新作が頭の中で出来てるよ!
・ガチで考えたオリジナルを書くよ!小説家になろうでも連載するね!
・YouTubeで配信始めたよ!良かったら見てね!
・転職上手くいかないよ!悲しいね!




・新作とオリジナルについて
現状3つくらい頭の中で考えています。
ライザのアトリエ(転生物)
ブルーアーカイブ(本編後ラックが転移する感じ)
オリジナル(ファンタジー/ラブコメ)
この内オリジナルの方は既に書き始めていまして、でもこの小説よりも先に上げたらなんか更新が完全停止したのかと思われるかなって思って先にこっち書き上げました。


・YouTube配信
テキトーにダラダラしながら配信していますが、配信者って凄いんだなぁって思いました。だって自分の楽しいを相手に共有できるんだもの、最近ゲームをやってても内心は兎も角表に出てこない自分には無理だぁ……ってなります。
YouTubeとXのURL貼っとくんで良かったら見てください。
https://www.youtube.com/@Toki_76
https://twitter.com/Toki_76


・転職上手くいかないよ
悲しいね






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四十九話:ミント強化パッチ

 

 

 

 

「アーツのテスト?」

 

エクシアに連れられて訓練室に入るとドクターやケルシーの他に数名のオペレーターがいた。

 

「ああ、前回はすぐに戦場に出たし、ラックの本来のアーツを調べたいんだ」

 

「そういえばそうだったなぁ……」

 

あの時ははしゃぎ過ぎたな。

 

「でもまだ全開じゃないぞ」

 

「まだ上があるのか?」

 

「多分次に改良された薬飲んだらとか?」

 

「そうか……とりあえず今は現段階で調べよう」

 

そういうとターゲットが出現する。

 

「まずはあのターゲットに向かってアーツを使ってくれ」

 

「わかった」

 

そういうと既に発動させていたアーツで圧縮させる。

一瞬でボール程度の大きさにまで圧縮されたそれをドクターが持った。

 

「前回も思ったが凄まじいな。他の使い方もしてみてくれ」

 

「はいよ」

 

ターゲットが出る度に吹き飛ばし、切り裂き、貫き、捻じ切る。その度にドクター達が感心したように話し合う。

 

「他にはあるか?」

 

「ん……まあ使えるな」

 

少し集中すると、周囲に氷の杭が出来上がり、ターゲットを貫いた。

 

「こんなのも出来るぞ」

 

バチン!と電流が走る。規模はさっきの氷にしろ規模はまだ小さめだ。

 

「本当に応用が効くな。よし、次はミントとアーツで力比べをしてみてくれ」

 

「よろしくお願いします!」

 

気合いを入れたミントと向かい合う。

 

「いきます!」

 

「おう」

 

力んだ表情を浮かべたミントに対して、俺はぼーっとしながらタバコに火をつけた。

 

「……?ラック、アーツは使っているのか?」

 

「使ってるぞ」

 

「んぅ〜〜!!」

 

「それにしては風を感じないが……」

 

「そりゃあ俺のアーツでミントの周囲の空気を操ってるからな。これじゃ俺の出力を上回らないと無理だ」

 

「なるほど……なら空気を見てみよう」

 

そうしてガチャガチャと色々な器具を使って学のある連中があーだこーだと話し合い始めた。

 

「んで、大丈夫か?」

 

「ふぅ……ギブアップです。どうやったら突破出来るんですか?」

 

「やり方としちゃあ風の形を変えて突き破るだけなんだけど。そうだなぁ……まず風の形を変えられるか?」

 

「やり方を教えてください!」

 

「あー、これって感覚的な話だからなぁ」

 

空気中の水分を集めて掌に貯めると球体にして浮かべる。

 

「言葉じゃ伝えらんねぇから実践だ。まずは球体でも四角形でもいいからとにかく浮かべてみるんだ。ほら、やってみな」

 

「はい!」

 

杖を構えて普段とは違うアーツの使い方にうんうん唸りながらも懸命に取り組むが、やはり難しそうだ。

 

「ん?その本は?」

 

「これですか?」

 

「ああいや、単純に目に付いただけだ。悪い、続けてくれ」

 

「あの、実は……これもアーツの補助をしてくれるんです」

 

「ほお、その本がねぇ。使わねぇのか?」

 

「えっと、噛み付いちゃうので」

 

「噛み付く?そりゃ面白い。けどまあ、俺に危害が加わることはねぇから」

 

「でも……」

 

「アーツで壁だって作ってるし大丈夫だろ。それに俺が扱うわけでもないんだしさ」

 

「それは、そうですね。わかりました」

 

右手に杖、左手に本を持って集中し始める。

気付けばドクター達も遠巻きにミントの練習を見ていた。

 

「ん、んん?……うぅん」

 

あれやこれやと試行錯誤を繰り返しながらほんの少しだけ水滴が浮いた。

ドクター達が声を上げそうになるのをジェスチャーで抑え、じっと待つ。

 

「やぁ!」

 

ちゃぷっ、と小さく音が鳴って掌の水が浮いて、不格好ながらも球体になった。

 

「や、やった。できた、出来ました!」

 

「すげぇじゃねぇか!」

 

思わず肩を抱き寄せて頭をガシガシと撫でる。今まで俺以外にできるやつがいなかったから、俺としても自分の事のように嬉しい。

遠くでドクター達も沸き立っている。

 

「よーし、じゃあこの調子でやってくぞ!」

 

「め、目が回りますぅ……」

 

抱き上げてくるくると回って大きく投げてキャッチする。

 

「とにかく反復練習だ。完全に安定したら次のステップにいくぞ。」

 

「は、はいぃ」

 

「つー訳で借りてくぞ〜」

 

「余り無理させないようにな」

 

「わかってるって」

 

ミントをアーツで浮かべて部屋を出る。

 

「えっと、どこに行くんですか?」

 

「昼飯だ。とりあえず日常的にアーツを使えるようになってもらう。つっても最初はながらとかは難しいだろうから移動は俺がさせるからアーツに集中してくれ」

 

ミントの近くに空気で受け皿を作り、その上に水を貯める。

 

「やっぱアーツは便利だな」

 

タバコを咥えてプラズマで火をつける。煙はアーツで外部まで送れば籠らない。

ミントの練習を横目に歩いていると、すれ違う面々がぎょっとして振り返るが無視する。

 

「ほら、食堂に着いたから一旦やめだ」

 

水を蒸発させて、ミントを降ろす。

 

「どうだ?感覚は掴めてきたか?」

 

「まだまだです。少しは出来るんですけど、集中が切れたらすぐに崩れちゃって……」

 

「要練習だな。ただ、実践して見せようにもアーツが使えるのは今だけだからな……言葉で伝えるのは難しいからどうすっかなぁ」

 

『ラック様、私に提案があります』

 

「お、言ってくれ」

 

『動画を撮影して資料として残すのはどうでしょう?』

 

「よし採用」

 

話しながらカウンターに向かう。ほう、今日は麻婆豆腐か……

 

「ナスラ、俺のはとびきり辛くしてくれ」

 

「食べられる?」

 

「当然。辛くてなんぼだ」

 

「それなら別で作らないとね。ちょっと待ってもらえる?」

 

「幾らでも待つさ」

 

「あ、私は普通のでお願いします。先に席取っておきますね」

 

「おー」

 

カウンターで待っていると料理をしつつも気になるのかナスラが横目でこちらを見る。

 

「何かあったか?」

 

「あ、ごめんなさい。その、サンクタだったのね」

 

「ああ、まあな。それに堕天使だしな」

 

「堕天使がどう言うのかは分からないけど、普通のサンクタの人達と違うのね」

 

ナスラの目が輪と羽に向く。

 

「触ってみるか?」

 

「え、いいの?」

 

「本当は良くないけど、特別な?優しく触ってくれよ」

 

カウンターに頭をちょっと突っ込むと、ナスラが恐る恐るといった感じで指先でつついた。

 

「……不思議の感触ね」

 

「だろ?それでいて馬鹿みたいな強度をしてやがる」

 

一頻りつついて満足したのか料理に戻った。

 

「はい、お待たせ。要望通り辛くしたけど、念の為飲むヨーグルトも付けておくわ」

 

「お、サンキュ」

 

トレーを受け取ろうとした瞬間、乾いた何かが割れる音と共に強烈な目眩に襲われる。前後不覚になりながらも、アーツを使うべきではないと判断してその場にしゃがみ込む。

 

「大丈夫!?」

 

「……ああ」

 

ナスラの声に反応して食堂にいる人の目が俺に向く。

 

「意外と、早いな」

 

ふらつきながらも立ち上がるとナスラが一歩後退る。端末のカメラで確認してみると、予想通り源石でできた角が形成されていた。

 

「見せて!」

 

たまたま食堂にいたサイレンスが慌てた様子で駆け寄ってきたのを皮切りに医療オペレーターや医療部門の人間、研究者に囲まれた。

 

「いや、大丈夫だ。」

 

「でも……」

 

「今ならなくても今日中にどこかのタイミングでなってたんだ。気にすんな。ほら、お前らも散った散った」

 

立ち上がってトレーを受け取ると、近くに来ていたミントの頭を一撫でして背中を押して席に戻した。

 

「あの、ラックさん」

 

「ん?」

 

「目から……」

 

「おっと」

 

拭ってみると右目から血が流れていた。

 

「しゃーねぇ。サヤ、撮影の時にワルファリンとアとクロージャを呼んでおいてくれ。ついでにケルシーにも来れるかだけ聞いておいてくれ、あいつは忙しいからな」

 

『わかりました』

 

「緩和剤でも出来るといいんだがな」

 

本当ならライン生命の奴らも呼んだ方が良いんだろうが、他にもやる事はあるだろう。

ため息を吐くと、まだ温かい麻婆豆腐を一口。

 

「…………かっらぁぁ〜〜!?!?」

 

飲むヨーグルトを三本使った。

 

 

 

 

「まだ口ん中ヒリヒリする……」

 

「もう、とびきり辛くなんて言うからですよ?」

 

「反省してるよ……」

 

クロージャにドローンを使って様々なカメラでアーツを撮影してもらう事になった。

 

「ラックー!準備できたよー!」

 

「おー!」

 

そんじゃ、始めるか。

 

 

 

 

「つまらなそうね」

 

モスティマが遠くからラックが撮影しているのを眺めているとフィアメッタが隣にやって来た。

 

「そう見える?」

 

「えぇ」

 

「まあ、当たりだよ」

 

そうして少しの間黙って見物を続ける。

 

「使えば使う程源石が露出するのにどうして使うのよ」

 

「それだけ嬉しいんじゃないかな」

 

「いい歳にもなって……」

 

「あれ、ラックの年齢知ってたんだ。あんまり言ってなかったはずだけど」

 

「短い間だけど、教導してもらった事があったのよ。教導とは言っても任務が早く終わって暇だったからやってくれたみたいだけど」

 

「キミの年齢だと……ラテラーノから出る数年前かな?その頃だったら特に難しい任務もなかっただろうね」

 

「そうね。ただ……女性隊員のお尻を執拗に狙ってきたわ」

 

「キミも?」

 

「えぇ」

 

苦い顔をしながらそう言った。

 

 

 

 

『これで終了です』

 

「ああ……分かった。後は、部屋に戻って寝とくわ。適当に医療オペレーターでも呼んどいてくれ

。じゃ」

 

返事も聞かずに部屋から出る。

結果として顔の左半分と左腕、羽の一部は源石に覆われてしまった。

 

「……サヤ、どの方向に歩けばいい」

 

『ラック様、もしかして目が?』

 

「いいから」

 

『……そのまま直進です』

 

ほとんど霞んで見えない。壁にぶつかりながら何とか部屋に着いて、ベッドに横になる。

少ししてドアが開いた。多分ススーロかフィリオプシスだろ。

 

「後は任せた」

 

そのまま寝た。

 

 

 

 

目が覚めて気だるさを感じながらベッドから身を起こした。

 

「……はぁ。サヤ、今何時だ?」

 

『眠った日から二日後の午後一時です』

 

そんなに寝ていたのか。

 

「起きた?」

 

「サイレンスか。もしかして寝ている間?」

 

「私が診てた」

 

「そっか」

 

まさかサイレンスが来るとは思わなかった。違ってもワルファリンかセイロン辺りが来るかと思ったんだが。

 

「そんなに私が来たのが意外?」

 

「そりゃまあ」

 

「目の前で倒れそうになってたのに、様子も見に来ない程薄情だと思われてたんだ」

 

「そんなつもりはなかったんだが……いや、悪い」

 

「いいよ。ラックがライン生命、特に私とサリアの事が苦手そうなのには気付いていたから」

 

「あー……そうか」

 

「うん。でも気にしてないから」

 

「悪ぃな」

 

「良いってば。それより体調は?」

 

「もうバッチリだ」

 

「なら良いけど、私はもう行くから。……またイフリータと遊んであげてね」

 

「お安い御用だ」

 

サイレンスが部屋から出ていくのを見届けてベッドに倒れ込む。

 

「ふー……」

 

『寝ている間は点滴での栄養補給だったので食事を推奨します』

 

「あー、そうだな」

 

『既にグム様には栄養満点のメニューと連絡済みです』

 

「お節介なやつめ……」

 

『好きな物を食べるのもよろしいですが、バランスも考えてくださると私も嬉しいです』

 

「はいはい」

 

『それと大剣の方に新たな機能が追加されました』

 

「はいは━━━━マジかよ、また?」

 

『後ほど仕様書の確認をしてください』

 

「確かに俺が頼んだけど好き勝手し過ぎだろ」

 

俺の武器の事おもちゃ箱だと思ってない?

 

「耐久性とか大丈夫かよ……」

 

『四苦八苦していましたが、なんとか出来たと言っていました』

 

「あー、そうだ、取りに行くのは明後日以降な。前の二の舞になりたくねぇわ」

 

『それがよろしいと思います。監視カメラを覗いて見た所、泥のように眠っていました』

 

危機管理ヨシ!

 

 

 

 

「あ!ラックさん起きたんだね!良かったぁ……はいこれ、サヤちゃんからお願いされたご飯!」

 

「心配させちまって悪ぃな」

 

「ううん、ラックさんが無茶するのなんてグムは慣れっこだから」

 

「お、おお……」

 

嫌な信頼だな……。ぐりぐりとグムの頭を一頻り撫でてトレーを取る。ほほう、極東風の料理だな。昔食べた事があるぞ。

 

「ん、美味い」

 

魚を一口口に含んで米をかき込む。うんうん、こういうのを滋味って言うんだっけ?身に染みるな。

 

「あ、あの、ラックさん……」

 

「ん、おお、ミントか。立ってないでお前も飯食えよ」

 

「あ、はい……」

 

ミントが隣に座ってサンドイッチを小さな口でちょっとずつ食べる。

 

「気にすんなよ」

 

「え?でも、私のせいで……」

 

「アーツの動画を撮ろうって言ったのは俺だし、自業自得だ。嬉しかったんだ。俺と似たアーツが使えるやつがいるってのが。そんでもってそいつを俺が育てられる、最高だろ?だからそんなに気に病むな」

 

笑って背中を軽く叩く。それでもまだ暗い顔をしてやがる。

ため息を吐いて魚を一切れ口元に押し付ける。

 

「えっと、これは?」

 

「食え、美味いぞ」

 

「あの、なんで……」

 

「美味いもん食えば幸せな気持ちになんだろ?おら、食え」

 

「それって個人差むぐっ!」

 

うだうだとうるせぇから口に突っ込んですぐに米も突っ込んだ。

 

「どうだ、美味いだろ」

 

こくこくと何度も頷く。

ジロジロと顔を見ていると目を逸らされた。

 

「グム!もっとくれ!」

 

「は〜い」

 

「そ、そんなに食べられませんよ!?」

 

「いいからいいから」

 

あーん、と箸で炒め物を摘んで口に寄せる。最初は首を振っていたが、最終的には観念して口を開けた。

 

「じ、自分で食べられますから!」

 

続いて別の飯を取ろうとしたら、そう言って自分で頬張り出した。

 

「なんだ、食えんじゃねぇか。んじゃ俺も」

 

俺も負けじとグムとナスラの運んでくる飯を一心不乱に食べていると、大食い選手権かと勘違いしてどんどんと人数が増えていった。

 

「優勝はサガさんです!」

 

アーミヤに腕を掲げられたサガは誇らしそうに納豆ご飯の茶碗を持っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

・ある日の一幕

 

 

 

 

「う〜ん?」

 

最近妙なオペレーターをよく見る。いや、知らない奴じゃないんだが……。

 

「クルース、お前背ェ伸びたか?」

 

「どうだろうね〜?ラックさんは変わらないねぇ」

 

「いや、まあ俺は成長しきってるし……いややっぱり色々成長したろ」

 

胸のサイズや腿の太さもそうだが、目が違う。

 

「何があった?それにいつもは部隊のみんな、いや、フェンが一緒に「ラックさん」」

 

唇に人差し指を当てられた。

 

「今はまだ内緒だよぉ」

 

「……そっか」

 

それだけでクルースとは別れた。その後にまたクルースを見かけた時はいつものちんまい姿でフェンと一緒にいた。

 

「どうなってる?」

 

他にもラヴァとハイビスカスを見かけた時もあったが、どちらも見た目から何から変わってしまっていて、ハイビスカスから美味しい料理をご馳してもらった。しかしそれもまた次見かけた時にはいつもの二人だった。

 

「頭がおかしくなりそうだ……サヤ、何か異常はないか」

 

『私も状況を把握出来ていません。ただ、分かることは何かがおかしいと言うことだけです』

 

「……クソ」

 

遠目だが、テキサスとガヴィルの服装も違うことに気が付いた。けどまあ、あいつらはあんま変わってないか……?

 

「ラック」

 

背筋に怖気が走り刀を抜いて振り返るとひらひらした赤い服の女性が立っていた。

 

「スカジ……か?」

 

「そうよ、どうしたの?」

 

一歩スカジがこちらに歩みを進めた。

 

「来るな!」

 

悲しげにスカジが眉を下げる。

 

「何があったのかはわかんねぇけど……多分お前もクルース達と一緒なんだろうな。頼むから、消えてくれ。今はまだお前らの事を受け入れらんねぇ」

 

「いつかは受け入れてくれるの?」

 

「わかんねぇよ。戦うかもしんねぇし、受け入れるかもしんねぇ。でも、少なくとも今じゃない事はわかった」

 

刀を納めて深呼吸をする。

海は感じるが、もう大丈夫だ。

スカジが目前まで近付いて顔を何度も触ると、安心したように笑った。

 

「俺に何があったんだ」

 

「……知らない方が良いわ」

 

最後に一度頬を撫でるとスカジは背中を向けた。

 

「また会いましょう」

 

「ああ。……さっきの無し、いつでも来い。」

 

スカジが驚いた顔でこちらを見て。笑うと去っていった。

 

「………………はぁあああ」

 

壁に寄りかかってしゃがむ。疲れた、果てしなく疲れた。今日はもう部屋に戻って寝よう。

翌日目を覚ますと赤い方のスカジが俺の上に跨って顔を瞬きもせずに見つめていて、思わず悲鳴を上げてしまった。

 

 

 

 






面白い?面白いかなぁ、面白いと思う?面白いんじゃない?いや、きっと面白い。
そんな感じの四十九話でした。


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五十話:つまらないパーティ

 

 

 

 

「ふ〜む……」

 

ロドス内でぼんやりと通路を眺めながら思案する。さて、どうしたものか……

 

「あれ、ラックどうかしたの?」

 

「ん、フランカか。……ほほぉ」

 

じっと上から下まで見る。

 

「ちょ、ちょっと、どうしたの?」

 

「ちょっと酒でも飲みに行かないか?」

 

「お酒?別に良いけど……」

 

「まあ、その前にちょっと面倒なパーティに参加する必要があるんだけど、良いか?」

 

要するに付き人みたいなもんだ。

 

「それ、あたしが偶然通り掛かったからよね?」

 

「そうとも言う。でもフランカが適任とも思ったぞ。美人で強くて礼儀作法とかなってそうだし。しかも美人」

 

「二回言う必要はあった?」

 

「大アリだろ」

 

「ふ〜ん……わかったわ、行くわよ。それで何時から?」

 

「これから」

 

「え?」

 

フランカの手を掴んでロドスを出ると、待たせていた車に乗り込んだ。

 

「えぇ〜!?」

 

ドアを閉めると車が発進して、エンジン音とフランカの叫び声だけが響いた。

 

 

 

 

「ちょ、ちょっと、急に着替えさせられたんだけど……」

 

「おお、よく似合ってるな」

 

スーツに着替えて、フランカを待っているとドレスを着たフランカがやって来た。源石が見えないようにはしてくれているな。

 

「行くぞ」

 

「……うん」

 

肘を曲げるとフランカが腕を組み、エレベーターに乗り込んだ。

 

 

 

 

「おお、ラックさん!遅いから来ないかと思いましたよ」

 

エレベーターが着いて会場に入ると、小太りの男が護衛を連れて歩いてきた。

 

「すみませんね、ちょっと色々と用事が立て込んでいまして」

 

「ははは、大変な様ですな。おや、そちらのお嬢さんは本日の付き人ですかな?」

 

「ええまあ、そんな所です。」

 

「いつも違う女性を連れていて羨ましいですなぁ、私もあやかりたいものです」

 

「ははは」

 

フランカに向けて舐めるような視線を向ける男から守るようにフランカの腰を抱き寄せた。

 

「では、一先ずこれで。他の方への挨拶もあるので」

 

「ああ!申し訳ないですな。それではまた。お嬢さんも」

 

「え、えぇ」

 

男の視線が外れるのを感じるとため息を吐く。あ〜〜〜めんどくせぇ〜〜〜。

 

「これってどういう事なの?」

 

「面倒なパーティがあるっつったろ?龍門にある企業の社長やらとの集まりだ」

 

「ゆっくり飲めなさそうなんだけど……」

 

「テキトーな所で抜けっから、少しだけ我慢してくれ。ここ、良い酒があるんだよ」

 

「今回だけにしてよね?」

 

「わかってるよ。流石にこんな面倒な事に二回も呼ばねぇ」

 

「お、ラックさん!是非こちらへ」

 

急いで笑顔を貼り付けると声を掛けられた方へ歩を進めた。

それからも入れ替わりで色々な人と話していると、給仕の少女が歩いてきて俺とぶつかってトレーの上の酒がスーツにかかった。

 

「きゃっ!?……ぁ、も、申し訳ございません!」

 

「おっと……ふむ」

 

これは……使えるな。

 

「大丈夫ですか!?」

 

「ええ、ただ酒がかかっただけですので」

 

「貴様、何をしている!」

 

周囲にいた金持ちの一人が少女に手を上げようとして、その手を掴んだ。

 

「まあまあ、その辺にしておいてください」

 

「しかし……」

 

「この娘への罰は私が与えておくのでご安心を。しかし、流石に汚れたスーツでは皆さんの前に立てませんね。本日はこれにて失礼させていただきます。」

 

口早にそう言って、少女の手首を掴んで会場を後にした。

 

「あ、あの……ラック様、本当に申し訳ございません……!」

 

今にも土下座しようとする少女を抑える。

 

「よぅし、偉いぞ!よくやった!」

 

頭をガシガシと撫でる。

 

「ふぇぁ……?」

 

「ただの口実でしょ?」

 

「当たり前だろ、あんなつまんねぇパーティにいつまでもいれるかよ」

 

やっぱりフランカはわかってたか。

 

「そう言えば、君は俺が拾った子だよな?」

 

「そ、そうです。覚えていてくれたんですか……?」

 

「まあな。弟と一緒にいた子だろ?ここでの生活はどうだ?」

 

「えと、皆さん優しいですし、とても可愛がってくださるので、楽しいです」

 

「そりゃあ良かった。にしてもさっきはどうしたんだ?」

 

「い、いえ、なんでもありません。私がどんくさくて……」

 

「おいおい、誤魔化さなくてもいいんだぞ?別に怒ってる訳じゃねぇんだ。ほら、言ってみな」

 

「あの……今日、弟の誕生日でして、祝ってあげたかったんですけど、仕事がありますし……」

 

「なるほどなぁ」

 

端末を見ると、もう遅い時間だった。

 

「よし、わかった。じゃあ俺が話つけとくから今日はもう帰りな?呼び止められても俺が許可したって言えばいいから」

 

「で、でも皆さんがまだ働いているのに私だけ抜けるなんて……」

 

「俺が良いっつったら良いんだよ」

 

そう言ってサイフを取り出して札を何枚か抜いて手に握らせた。

 

「それでケーキとか買って帰れ。まだ一応開いてる店はあるだろ。後ご馳走もな」

 

「う、受け取れません!こんなに!」

 

「受け取りなさい。命令だ」

 

「で、でもぉ……」

 

真面目な子だな。たまにはこんな日があっても良いだろうに。

最終手段として端末を取り出して電話をかける。

 

「あ、もしもしローニン?俺だ。今から送るホテルに車で来て女の子の荷物持ちをしてやってくれ。その後は好きにしてくれていい」

 

『わかった』

 

「だ、ダメです!ローニン様にも迷惑がかかってしまいます!」

 

「残念、もう切れた」

 

通話が切れた端末の画面を見せる。

 

「じゃあローニンに得意料理でも食わせてやってくれ。いいか、命令だぞ?腕によりをかけて作るんだ」

 

「うぅ〜……わかりました……」

 

「よしよし、良い子だ」

 

何度も振り返って手を振る少女を二人で手を振って見送る。

 

「良い子ね」

 

「だろ?俺らもそろそろ行こうぜ」

 

フランカの手を握り、エレベーターに乗って更に上階へと向かう。

 

「勝手にいいの?」

 

「ああ、ここのとは前から仲良くてな。一室だけプライベートで使わせてもらってんだ……上に上がるの面倒なのが玉に瑕だけど」

 

「相変わらず顔が広いわね」

 

「まあな」

 

エレベーターが開いて部屋に着いた。

 

「本当に私室みたいに色んな物があるのね〜」

 

「なんでもロドスに置いておく訳にもいかねぇしな。適当に座っといてくれ」

 

ジャケットとシャツを脱いでカゴに投げる。色抜けねぇだろうから捨てかなぁ。ちょっと気に入ってたんだけど。

なんて事を思いつつワインセラーから一本のワインを取り出す。

 

「これこれ、良いの見つけたんだよ」

 

コルクを抜いてワイングラスに注いでフランカの前の机に置く。

 

「ツマミは何が良い?保存が効くやつしかないけど」

 

「うーん、じゃあジャーキーでお願い」

 

「わかった」

 

ジャーキーを取って机に置き、自分のワインも注ぐと隣に腰を下ろす。

 

「んじゃ、乾杯」

 

「えぇ、乾杯」

 

チンと軽い音が鳴り一先ず匂いを楽しむ。いい香りだ。そして一口飲む。

 

「……うん、良いな」

 

「わ、飲みやすいわね」

 

ジャーキーを一つ齧ってまたワインを飲む。フランカもそれに続く。

気が付けば二人とも何度もおかわりをしてボトルが空になってしまっていた。

 

「もう無くなったか」

 

「え〜、残念。もっと飲みたかったわ」

 

残念そうにしてフランカが頭を俺の肩に乗せる。

 

「どうした?」

 

「ちょっと火照ったのよ」

 

「そうか」

 

フランカを抱き上げて膝に乗せる。

 

「前はもっと初心だと思ったんだけどな」

 

「……お酒が入ってないとこんなの無理だよ」

 

赤くなった顔を俯いて見えなくした。

 

「じゃあ酒を飲ませれば、また可愛い姿が見れるんだな」

 

「またそういう事言うんだから……刺されても知らないわよ?」

 

「今そんな話したってしょうもねぇだろ」

 

そう言って首にキスをする。フランカが身動ぎして俺の首に手を回す。そのまま首や胸もとに何度かキスを落とし、ドレスを脱がしていく。

 

「……やっぱり、恥ずかしいわ」

 

「すぐに気にならなくなる」

 

頬に手を当てて唇にキスをして抱き上げるとベッドへと運ぶ。

真っ白なシーツの上でフランカが誘うように熱っぽい視線を飛ばしてきていて、堪らず服を脱ぎ捨てて上に被さった。

 

 

 

 

翌日、二人してぼけっとした顔でロドスに戻った。朝早くだからまだ誰も起きていないはずだ。

フランカを支えるように腰を抱いたまま歩く。部屋まで送った方が良いだろう。

 

「あなた達……何をしているの?」

 

「「あっ……」」

 

リスカムとばったり出会ってしまった。

 

「昨日二人共見かけないと思ったら……!」

 

「ま、待って待って!これは……ね?」

 

「そ、そうそう、フランカにはちょっと仕事に付き合ってもらったんだよ!」

 

「なるほど……仕事でそんなに親密になるのね」

 

リスカムからバチリと音が聞こえた。

 

「まずっ!?」

 

フランカを横抱きにして逃げる。

 

「待ちなさい!」

 

「ご、ごめんってばー!?」

 

結局捕まって二人して正座で説教されてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

・ある日の一幕

 

 

 

「……ねぇ、暑いんだけど」

 

「奇遇だな、俺も暑い」

 

ある日、俺が一人で歩いていると向かいからWがやってきて、そのまま流れで二人で歩いていると謎の箱に閉じ込められてしまった。

四角形の小さな箱で俺とWはほぼ密着状態になってしまっていた。

 

「どのくらい経った?」

 

「さあ?分からないわよ」

 

互いに互いの肩に顎を乗せて喋る。汗が流れてWの肩に染みる。

 

「連絡とか取れない訳?」

 

「取れたらとっくにやってる。サヤも持ってないしな」

 

「そう」

 

はぁ、とWがため息を吐く。呼吸や体を少し動かす度に胸が俺に当たり形を変えていく。

 

「えっち」

 

「なんとでも言え」

 

言われて少しムカついて背中を抱き寄せて更に密着させる。

 

「んっ……もう、乱暴ね」

 

「乱暴なのが好きなんだろ?」

 

そう言うと黙り込んでしまった。

なんか頭がぼうっとしてきたし、もうここでヤッちまってもいいんじゃねぇかなぁ。なんて思い始めてしまった。ただ、こんなにも狭いと服も脱げねぇ。

 

「おい、顔こっちに向けろ」

 

「何……んっ」

 

こっちを向いた瞬間に口を塞ぐ。逃げられないように後頭部に手を置いて、舌を絡める。

 

「ちょっ、と……んんっ……」

 

「黙ってろ」

 

「……ふふっ」

 

Wが目を弧にして笑った。

だめだ、Wを相手にするとどうしてもやり過ぎちまう。

次の瞬間、ばきりと音がして天井が開いて襟首を持って引き上げられた。

 

「よ、よう……スカジ」

 

「楽しそうだったわね」

 

「あーあ、残念。もうちょっと楽しめると思ったのに」

 

つまらなそうにWも箱から出てくる。

 

「……ん?まさかお前」

 

「なんの事かしら?」

 

や、やりやがったこの女!?自作自演か!?

 

「何の為だよ。普通に部屋に来てくれりゃあ俺は別に……」

 

「だってそれだとラックに余裕があってつまらないじゃない」

 

「……今度覚えてろよ」

 

「はいはい」

 

Wが去って行って、スカジと二人になる。

 

「ん?そういえばスカジはよく気付いたな」

 

「ラックの部屋に行ったらサヤが教えてくれたわ」

 

「そっか。助かった、ありがとな」

 

「良いわ。それじゃあ行きましょう」

 

「え、どこに?」

 

「訓練室よ。元々その為に探していたわ」

 

「……お手柔らかに頼むぜ?」

 

 

 

 

「ラック、大丈夫!?私の事わかる!?」

 

結局ぼっこぼこにされて通りがかったススーロに助けてもらった。

……当分二人には近寄らないようにしよう。

 

 

 

 





リクエスト回でした。大人の付き合いってこんなんで良いんか……?まあええか!くらいのふわっとした感じで書きました。


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五十一話:おもちゃ箱

 

 

 

 

俺が倒れて一週間程経った。そろそろ大剣を取りに行くか。流石にもう大丈夫だろう。

 

「今は誰が持ってんだ?」

 

『マゼラン様です。現在は部屋にいるので向かいますか?』

 

「ああ。連絡しといてくれ」

 

『わかりました』

 

今度はどんな改造をしたのやら……せめて使いやすけりゃいいな。

 

 

 

 

「マゼラン、いるか?」

 

「はーい」

 

声を掛けるとすぐにマゼランが出てきた。

 

「いらっしゃい、入って入って」

 

言われて中に入ると、壁に大剣が立てかけられていた。

 

「今回はどんな機能なんだ?」

 

「あれ、仕様書読んでない?」

 

「あ〜……忘れてた」

 

使えばわかると思ってたし、細かい事はサヤがわかってればいいだろ……。

 

「もう、しょうがないなぁ」

 

そう言いつつも、楽しげに大剣を持って説明を始める。

 

「今回の大剣は盾になるんだよ!サヤ、お願い」

 

『シールド、オンライン』

 

柄が折り畳まれ、刀身部分がスライドして広がる。確かに形状は盾だな。ただ……

 

「耐久性はあるのか?それに、スライドしたって事は層になってんだろ?大剣の時でもぶっ叩いたら歪みそうだぞ」

 

「そうなの!そこが一番苦労したんだよね。ヴァルカンちゃん達に手伝ってもらったんだ」

 

「苦労してそうだな……」

 

マゼランから受け取って何度か拳で叩いてみる。

 

「にしても、俺が寝込んでたのって二日くらいだろ。よく間に合ったな」

 

「前から準備してたからね」

 

「せめて相談とか……まあいいか」

 

「それと先端には前は二本の杭だったけど一本の杭にして━━━━」

 

その言葉に思わず腰を浮かせる。

 

「待った待った。俺が最初に頼んだもん無くされたら困るっての」

 

「もー、話は最後まで聞く!」

 

ビシッと鼻先に指先を突き付けられる。

 

「……わかったよ。それで?」

 

「こほん、一本の杭にはなったけどそれが真ん中で別れて二本になるから今までと同じ使い方が出来るよ」

 

「それを先に言ってくれ」

 

「言おうとしたのに止めたでしょ?後、杭の太さも太くしてみたから、盾を地面に突き立てたり、槍みたいに使ったりもできるはずだよ」

 

「なるほど……火力を更に補ってくれる訳か。そりゃ便利だ」

 

盾を少し高く持ち上げるとジャコンという音と共に杭が飛び出して、二つに別れた。

 

「こりゃいい」

 

「気に入ってくれた?」

 

「もちろん。ありがとな」

 

頭を撫でると嬉しそうに目を細める。

 

「これがありゃ、ある程度は重装と同じような役割が出来そうだな。誰かに動きを教えてもらうか」

 

結構でかい盾だし、似たようなやつに頼みたい所だな。

ヴァルカン、マッターホルン、ニアール他にも……

 

「あ、盾の使い方だったらマリアちゃんに教えてもらってあげて。最近会えてないから寂しそうにしてたよ」

 

「そんなに長い間会ってない訳じゃないはずなんだけど……」

 

「もー、乙女心がわかってないね!」

 

「あー、わかったわかった。マリアに会いに行けばいいんだな」

 

立ち上がろうと机に手を置くと、その手の上にマゼランの手が重ねられた。

 

「どうした?」

 

「……もうちょっと居てもいいんじゃないかなー、なんて」

 

えへっ、と少し照れた風に笑った。

 

「そうだな。教えてもらうのはいつでも出来るからな」

 

「やった!」

 

俺が椅子に座り直すと椅子を移動させて真横に持ってきて座ると腕を抱き抱える。

 

「じゃあ、会ってない間の話でも聞かせてくれよ」

 

「うん!まずメイヤーちゃんと━━━━」

 

その日はずっとマゼランと寝るまで二人きりで他愛無い話をして過ごした。

 

 

 

 

「マリア、ちょっと良いか?」

 

「あ、ラックさん。大剣受け取ったんだね」

 

数日後、食堂でマリアを見つけて隣に座った。

ちなみに今日の昼はサンドイッチだ。卵たっぷりのサンドイッチがお気に入り。

 

「ああ、勝手に改造されたのは兎も角、気に入った。ただ、俺は盾を使った事が無いから戦い方を教えてくれるか?」

 

「……え?私で良いの?お姉ちゃんやマッターホルンさん達の方がいいんじゃ……」

 

「なんだ、嫌か?じゃあ他のやつに「待って待って!やるやる!やるよ!」よし、頼んだ」

 

「もう……強引だなぁ。でも引き受けちゃったし、早速内容を考えなきゃ!」

 

残りのサンドイッチを頬張って立ち上がろうとするマリアの肩に腕を回して止める。

 

「まあまあ、久し振りなんだから少しは落ち着いてお喋りしようぜ?」

 

「でも早い方が良いでしょ?」

 

「嫌か?」

 

口を耳元に寄せて囁く。

 

「嫌じゃ、ないよ……」

 

「よし」

 

腕を外してサンドイッチに齧り付く。美味ぇ。

 

「むー……」

 

ジトりとした視線を横から感じる。しゃーねぇだろ腹減ってんだから……。

 

「なんだ?美味いぞ。」

 

マリアの口元にサンドイッチを寄せると大口を開けて俺の指ごと口に入れて、抜いた時に水音が鳴った。

 

「あっ、全部食いやがった!?」

 

「ふんっ」

 

「雑に扱って悪かったって……あー、今度デートしよう」

 

「でーと」

 

「つっても今は街の近くじゃないし、ピクニックみたいになるけど良いか?それとも部屋で映画でも見るか?」

 

選択肢を与えるとうんうんと悩み始め、ぶつぶつと独り言を言い始める。

 

「お部屋で映画デート……でも邪魔が入ってくるかもだから……ピクニック?」

 

「俺が誘ったんだから飯は俺が用意しようか?」

 

「……一緒に作りたいな」

 

きゅっと左の袖をつままれた。

 

「…………わかった」

 

上目遣いっていつの間にそんなにあざとく……前からか。

 

 

 

 

飯を食い終わって少しして訓練室に入るとマリアが困ったように言う。

 

「えっと……本当ならちゃんとした訓練の方が良いと思うんだけど、ラックさんって独特な戦い方でしょ?」

 

「自分で言うのもなんだがそうだな」

 

普通銃が使えるならジェシカみたいに遠距離に徹しれば良いし、刀や大剣を使うのなら正面切って戦えばいいが俺は全部使うしなんなら暗器も込みだ。

 

「だから実戦形式が一番良いと思うんだけどどうかな?」

 

「いいんじゃないか?俺の戦い方はほとんど独学だしな」

 

「良かったぁ。じゃあ早速始めよっか」

 

距離をある程度置いて大剣を盾に変えて左手に持ち、右手に木刀を持つ。

 

「いつでもいいぞ」

 

「行くよ!」

 

振り下ろされた木刀と盾で受け止める。……だめだな。先に木刀で受け流そうとしてしまった。もっとどっしりと構えるようにしてみるか。

木刀だからいつもよりも軽装で盾持っていないマリアが機敏な動きで右手側に回る。

 

「はあ!」

 

「んのっ!?」

 

咄嗟に身を引いたが右肩を叩かれる。実戦になるとこの重さが厄介だな……。

 

「大丈夫?」

 

「ああ、続きを頼む」

 

仕切り直してマリアが斬り込んでくる。

正面や左側ならある程度は防げているが、やはり右側への対処が難しい。

 

「くっ……ぬぅん!」

 

マリアの振るった木刀をこちらも木刀で受け止めて、盾をぶん回してマリアにぶち当てる。

 

「ちょっ!?あ、あぶなっ!?」

 

「……なるほど」

 

盾でぶん殴るのもありか?

 

「さ、流石にその重量の盾で殴られるのは怖いよ」

 

ぶんぶんと数度盾を振る。刀身が展開した分空気抵抗が増えて振る速度は落ちるが、使えるな。

 

「もっとだ、もっと来い!」

 

 

 

 

訓練を初めて数時間、合間に休憩を挟んでいたがほとんどぶっ通しでやっていた。

 

「ふっ……!」

 

「やっ!」

 

「くぉっ!?」

 

途中からマリアも盾を持ち始めた。今も木刀を振ったが弾かれて姿勢が崩れる。

 

「サヤ!」

 

盾を地面に突き立てると杭が飛び出して地面と固定する。左腕に力を込めて盾に体を引き寄せる事で攻撃を避け、体を一回転させて斬りつける。

 

「アクロバティックな事するなぁ……」

 

「そこそこ慣れてきたな。……んで、何ジロジロ見てんだよ」

 

途中から人が増え、ニアールとゾフィア、ホシグマにマッターホルン、ヴァルカン、リスカム、ジュナー、スカジが壁際でこちらを見ていた。

ヴァルカンやニアールとゾフィアはまだ分かるが、他のやつらは……?

聞いてみれば俺が重装に転向すると言う噂が出ているらしく、様子を見に来たらしい。スカジは素振りをしていた所を見るに……遂に殺りに来たか……?

 

「失礼ね、訓練の手伝いをしに来ただけよ」

 

「頼むから大人しくしてろよ?横槍入れるにしても少なくとも真剣はやめろ。盾が壊れる」

 

そう言うとため息を吐かれた。絶対横槍入れてくるつもりだったな?

 

「ラック、本当に重装に転向するつもりか?」

 

「しねぇよ。ただ、大剣にそういう機能が追加されたから緊急時はそういった動きが出来るから訓練してるだけだって」

 

盾を大剣に戻して背負う。基本的には今まで通り前衛として戦うつもりだ。

とりあえず、ある程度使えるようにはなったし、こんなもんで良いだろう。

 

「解散だ解散。ジロジロと見られてちゃ気が散っちまうよ。シャワー浴びてくる」

 

普段使わない体の使い方したから汗びっしょりだ。明日は久し振りに筋肉痛かもしれねぇ。

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

ぬるめのシャワーが心地良い。シャワーを浴びながら筋肉を解すように腕を揉む。多少は筋肉痛もマシになりゃいいなぁ……。

 

「だーれだ?」

 

声と共にむにゅりと柔らかい感触が背中を襲う。

 

「マリア」

 

「ふふっ、正解」

 

「よく来れたな。他にもいただろ?」

 

「一旦解散したけど戻って来たんだ」

 

「どうせそんな事だと思ったわよ」

 

「っ!?お、おばさん!?」

 

「誰がおばさんよ!」

 

「ひゃっ!?ご、ごめんなさい!」

 

後ろを見ればゾフィアが立っていた……裸で。まあうん、マリアもそうだし、シャワー室だからな。

ちなみに今マリアが驚いた時に密着度が増した。素晴らしいな。

 

「折角ゾフィアも来てくれたんだ。良かったら洗ってくれるか?」

 

「仕方ないわね……ええ、仕方ないからよ」

 

言い訳のようにゾフィアが何度も仕方ないと呟く。

マリアが俺の前に周り、ゾフィアが後ろから抱き着き体に腕を回す。

 

「ラックさん、少し屈んで?」

 

軽く膝を曲げるとマリアが背伸びをして、俺の腿を撫で付けながらキスをしてくる。俺の背中ではゾフィアが背中にボディソープでも付けたのかぬるつかせた柔らかく豊満な胸を押し付けてきていた。

二人とも身長が低い訳ではないが、俺と比べるとだいぶ低い。やっぱ普通に風呂の方が良かったか?

 

「気にしなくてもいいよ」

 

唇を離したマリアが笑って言う。顔に出ていたか?

 

「気を抜いている時のラックさんって意外とわかりやすいんだよ?」

 

「そうね、子供っぽいとも言えるわね」

 

「む……」

 

左手で自分の頬をグニグニと揉む。こんなにも表情に出るようになっているとは、我ながら丸くなったな。

 

「それよりもこっちでしょ」

 

左手を掴まれるてマリアの胸に誘導される。

 

「そうだな」

 

そのまま揉み、乳首を指で転がすとマリアが小さく声を漏らした。

あ〜〜〜〜やっべぇめちゃくちゃムラつく。でも今ヤッちゃったら背中と腰が終わる。間違いなく。確実に。でも今ヤッたら絶対気持ち良い。

 

「我慢は、良くないと思うのだけれど?」

 

ゾフィアが俺の腕を取り抱き締めると、手先がゾフィアの股に触れる。

 

「……後悔すんなよ━━━━!」

 

てめぇマジで足腰立たなくさせてやるかんな!

 

 

 

 

「いたたた……」

 

「大丈夫?もう、無理し過ぎだよ」

 

「何か必要だったら私にも手伝わせてくださいね!」

 

けっきょくあの後張り切り過ぎて今はススーロとスズランに看病してもらっている。ススーロが貼ってくれた湿布が沁みるぜ……。

今もスズランが腰を撫でてくれている。

ちなみにマリアとゾフィアはヤリ終わった後にツヤツヤした顔で別れた。それまで俺は情けない所は見せられないと痩せ我慢をしていた訳だが、限界が来て部屋に戻ろうとしているとスズランに見つかって今に至る。

 

「悪いなぁ、二人共」

 

右手で順番に二人の頭を撫でると、スズランはペカッと眩いくらいの笑顔を浮かべ、ススーロは口をへの字に曲げた。

うぅん、俺さっきまで子供には見せられないような事をしていたからちょっと気まずい。

 

「次からはちゃんと訓練前に柔軟をする事。良い?」

 

「はーい」

 

「伸ばさない」

 

頬をつねられた。

 

「はい」

 

「うん、じゃあ後はお願い」

 

「わかりました!」

 

「……ん?後はお願いって、スズランも好きにしてていいぞ?」

 

「ラックは一人にすると何をするか分からないからね、監視役としてお願いしたんだ」

 

「任せてください!」

 

ふんふんと気合いの入ったスズランが両手をぐっと握った。

 

「ひでぇ信頼……まあ、じゃあよろしく頼む」

 

この後俺は後悔することになる。まさか数分に一度の間隔で何か無いかと聞かれることになるとは……。決まり手は添い寝からのお腹ぽんぽんで寝かしつける事だった。余計疲れた気がするが、まあいいかぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

・ある日の一幕

 

「こんにちは、ラックさん」

 

「げっ……」

 

部屋で一人でのんびりと過ごしていると、扉が開いてミヅキがひょっこりと顔を出した。俺こいつ苦手なんだよ……海の気配がするし、クラゲっぽいもん出してくるし……でもなんか好かれてるから無下にするのもちょっとなぁ。

 

「そんな顔しなくても良いでしょ?遊びに来ただけなんだから」

 

そう言って俺の隣に座ってくる。それを見て俺が少し離れると近寄ってきてさっきよりも距離が近くなる。

 

「何見てたの?」

 

「映画」

 

「ふーん」

 

じゃれつくように体を倒して俺の膝を枕にする。

 

「おい」

 

「減るものじゃないから良いでしょ?」

 

「……はぁ」

 

目を映画に戻すと、少しして手を掴まれてミヅキの頭に置かれる。

手触りの良い髪を撫でると甘えるように頬ずりをしてくる。……せめて海の気配がもうちょっと薄けりゃ良かったのに。

そんな事を思っていると、手首に触手が絡みついた。

 

「……そっちも撫でろってか?」

 

触手の表面を撫でてやると、ぴちぴちと嬉しそうに触手がうねる。

うへぇ……このヌルヌル手ェ洗ったら落ちっかな……。

 

 

 

 

 






原神のフリーナに一目惚れしてのめり込んでます。属性盛盛でたまんねぇ……


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五十二話:観察

 

 

 

 

今日は最近たまに見かける赤いスカジについて観察してみようと思う。

いつものスカジは剣をゴルフのスイングのように軽快にブンブンと振り回し、ドクターか俺の後ろをついて回る。俺限定で戦闘訓練を挑んできては俺を殺しかけたりするお茶目な一面のある可愛い女の子だ。……ああ、可愛いとも。大体ズタボロにされて医務室のお世話になるけれど。

一方で赤いスカジだ。普段と違うフリフリな可愛らしい服装をしていて儚げ、寂しげな印象を受ける。そんなスカジだが、どうにも俺の周囲に誰もいない時を狙って現れる。そう、例えば……今とか。

 

「また来たのか」

 

「嫌、かしら」

 

「いつでも来て良いって言ったんだ。気にする事ねぇよ」

 

自室でマンガを読んでいると後ろから体重を預けるように抱き着いてきた。

マンガを閉じてすぐ真横にあるスカジの頬に手を添えると、目を細めた。

未だにスカジの知っている俺に何があったのかは教えて貰えていない。多分、教えてくれることは無いんだろうが。

 

「くっついてるだけで良いのか?」

 

「……そうね」

 

前に回した腕を解くと、隣に座って俺の腕を抱いた。

このようにこのスカジは俺に触れる事を好んでいる。中でも俺の顔に何かあったのか、頻りに顔に触れたり見つめたりしてくる。

 

「ちゃんといるから、心配すんなって」

 

「わかってるわ。でも……」

 

俯くスカジの頭を撫でてやる。

 

「あーもー、わかったわかった。好きにしてろって。顔見るなり触るなりなんなり好きにしろよ」

 

そう言ってやれば、スカジが膝の上に対面に乗ってきて両手で俺の頬を挟み、じっと顔を見つめ続ける。

 

「…………」

 

「…………」

 

なん、だ?このなんとも言えない時間は。確かに好きにしろとは言ったもののずっと顔を見続けられるとは思っていなかった。

確かに俺の顔が超絶イケメンである事は揺るぎない事実ではあるものの流石の俺も少しばかり照れが出てくる。

そうして目線を横にずらせば、俺の目と目が合うように俺の顔の向きを強引に変えられる。へへっ、今の聞こえた?首からミキッて鳴った。また医務室のお世話にならなきゃ。

 

「……………………んん、そろそろ良いか?」

 

「…………ええ」

 

あれだけ見つめた上で未だに満足してなさそうなスカジを横に転がすと無駄にアクロバティックな動きで膝に頭を乗せると俺の腹に腕を回し、顔をぐりぐりと押し付ける。

なんというかこいつの扱いはねこちゃんと同じような扱いが正しいのではないか?と思っていると腿に痛みが走る。

 

「〜〜ッ!?つ、抓んなよ」

 

「ごめんなさい、なんとなくそうしないといけないと思って」

 

迂闊な事は考えないようにするか……。

 

 

 

 

内心ねこちゃんを構うように相手をしていると昼飯の時間になった。俺が他の人の所に行けばスカジはいつの間にかいなくなるが、今回は観察の為に部屋に備蓄しているカップラーメンを食べようと思う。

お湯を入れて三分。蓋を開けて麺を勢いよく啜る。たまにはこういうのも悪くない。

食べるかどうかわからなかったがスカジのも用意しておいた。ちゅるちゅると麺を少しづつ啜って食べているから食べる事は出来るみたいだ。

 

「美味いか?」

 

「ちゅるっ……えぇ」

 

正直海の気配が強過ぎるから食えるかどうか不安だったが大丈夫なようだ。

しばらく黙々とラーメンを啜る音だけが部屋に響いた。

 

 

 

 

「やっぱ来るのか」

 

流石にトイレにまでは入って来なかったが、風呂にはついてきた。まあいい、よくあることだ。

スカジを椅子に座らせるとくっついてきた。

 

「ええい、洗いにくいから引っ付いてくんな」

 

そう言うと露骨にしゅんとする。

 

「……洗い終わったら引っ付いていいから、今は我慢しろ」

 

「わかった」

 

ピシッと背筋を伸ばして椅子に座る。……ほんと、調子狂うな。

 

「痒い所はありませんかー?なんて」

 

「特にないわ」

 

テキトーに言った俺の言葉にも律儀に返してくれる。なんつーか、ちょっと幼くなったか?体は変わらずナイスバディなのになぁ。

ところで、気にしてなかったが鏡越しに俺の顔を見続けんの止めてもらってもいい?

 

 

 

 

「ふぃー……」

 

湯船に浸かって大きく息を吐く。スカジは俺の膝の上で大人しくしている。多少性格が幼く感じるってだけで非常に目に良い……いや、悪い?

あんまりスカジとは触れ合った事が……いや、何度かあったな。訓練の時に関節を極められた時か絞められた時だったかな……。

ちゃぷりと両手でお湯を掬って、それを眺めている。折角だから入浴剤でも入れてやれば良かったかな。次があるだろうからその時だな。

 

「さて、そろそろ上がるぞ」

 

「……もう少しだけ、ダメかしら?」

 

「んじゃ、もうちょっとな」

 

そう言うと背中を俺に預けてぼんやりと斜め上を向いた。

 

 

 

 

「長風呂し過ぎた……」

 

あれからスカジにそろそろ上がるぞと言う度にもう少しと時間が伸び続け、俺がのぼせた。

 

「ごめんなさい」

 

「あー、まあ気にすんな。それよか髪乾かすからこっち来い」

 

水を一杯飲んでソファに座り、スカジを足元に座らせた。

タオルでしっかり拭いたとはいえ、この毛量は根気がいりそうだ。

ドライヤーの電源を点けてゆっくりと乾かしていく。自分にするのならガシガシと雑にやってもいいんだが、女の子にそんな事はできねぇ。気合い入れるぞ。

 

 

 

 

「やっと終わった……」

 

結構な時間をかけてスカジの髪を乾かし終わった。俺の髪も自然乾燥である程度乾いてやがる。

スカジが自分の髪をふわふわと手で弄ぶ。満足してもらえたみたいだ。

さて、そろそろ切り出すか。

 

「なあ、スカジ」

 

「何?」

 

振り向いて目を俺に向ける。

 

「お前、部屋になんかしたろ?こんなに長い時間誰かが俺の部屋に来ないなんておかしいからな」

 

ピタリと動きが止まって、油を指していない機械のような動きを横を向いた。

 

「……何もしてないわ」

 

「おう俺の目ェ見ろよ」

 

少しの間沈黙が続き、観念したのかスカジが口を開いた。

 

「……少しだけ、独り占めしたかったのよ」

 

「は……」

 

まさかの言葉に思考が止まる。勝手に複雑な事情でもあると思っていたからか、そんな単純な理由に気付かなかった。

何か言おうと頭を回してモゴモゴと口を動かすが、言葉は一向に出てこない。

俺がフリーズしてしまっているうちにスカジが俺の腹に抱きついて深呼吸を繰り返す。

悪い気はしないけど、その、なんというか……なんというかさぁ……。

 

「はぁ……」

 

ワシワシと頭を撫でてやる。

ギャップがあり過ぎてこっちが困惑してしまう。これもうやっぱりスズラン達と同じ扱いでいいだろ。

ソファの背もたれに身を預け、大きく息を吐くとスカジの顔に手を添えて上を向かせて頬をもちゃもちゃとこねくり回す。……結構クセになるな。

しばらくそうしていると手を振り払われて今度は逆に頬をこねくり回されてしまった。

 

 

 

 

「もう寝るんだけど、今日は随分と長くいるんだな」

 

ベッドに寝転ぶと、スカジが俺の腕を枕にして隣に寝転んだ。

 

「……」

 

「悪かった、なんでもない」

 

純粋に気になったから聞いただけなのに文句があるのかと見つめられた。

 

「明日、ラックが起きた時にはもういないわ」

 

「そっか」

 

それだけ言って眠った。少しは気晴らしになったなら良いな。

 

 

 

 

「んで、なんでまだいるんだ?」

 

「……先に起きたのだけれど、顔を見ていたらいつの間にか時間が過ぎていたのよ」

 

「……朝飯、食ってくか?」

 

「もらうわ」

 

冷蔵庫の余った食材を粗方食べてから元気よく帰って行った。

そういえば、触れてはいなかったがあいつの首に下げていた首飾りはなんだったんだ。風呂に入っている時でさえ外すことは無かったが……真っ白ですべすべしてそうな見た目だったな。

 

 

 

 

 

 

 

 

・ある日の食堂

 

「酒酒〜っと。お、なんかやんのか?」

 

いつものように食堂の冷蔵庫に勝手に入れた酒を取りに来たら人だかりが出来ていた。

酒を傾けつつ冷蔵庫に身を預けて眺めていると、ボフッ!とゴールデングローが持っていた何かが小さく爆発した。

 

「なんだ?」

 

周りが騒がしくなり、ゴールデングローの近くに行く。

 

「ああ、電気でぶっ壊れたか」

 

「あ、ラックさん……」

 

「ガキンチョ共はジュースやるから泣き止め。ムース、後はよろしく」

 

「わかりました」

 

冷蔵庫から取り出したパックのジュースを渡して子供たちと一緒にいたムースに任せる。スルトもいたみたいだが……もうどっか行ったか。

 

「またやっちゃった……」

 

確かゴールデングローはアーツの制御が出来てないんだっけか。

 

「あ、あの、ラックさん」

 

「え?ああ、なんだ」

 

「アーツの制御ってどうやっていたか教えてもらってもいいですか……?」

 

酷く沈んだ表情で聞いてくる。

 

「あの、訓練の映像をこの前見たんです。空気を操るアーツで氷や電気を作ったり、天気を変えることだって出来るんですよね?そんなに繊細な制御が出来るなら、教えてもらいたいんです」

 

「あー……悪いけど、難しい話だ」

 

「ど、どうしてですか!?」

 

すがるように俺に詰め寄る。

 

「根本的にアーツが違うんだよ。空気と電気じゃ扱い方がそもそも違う。人にあった制御方法ってのがあるんだよ。ミントは風を操るから俺も教えることができたけど、純粋な電気は難しい」

 

「そう、ですか……」

 

「ごめんな。俺がアーツを使えたら少しは電気を抑える事が出来たんだけど」

 

「い、いえ!私の方こそ、ごめんなさい」

 

そう言うと食堂を後にした。

俺にはどうしようもねぇし、何か解決案でもありゃあ良いんだけど……。

 

 

 

 

夜、風に当たろうと廊下を歩いていると食堂に電気が点いている事に気付いた。

コッソリと覗き込んでみると、ゴールデングローとクエルクスが笑い合って恐らく作る予定だった飲み物飲んでいた。

 

「俺が余計なお節介する事もないか」

 

強い子だな。あれならいずれアーツの制御も出来るようになるだろう。

気を取り直して風に当たろうと気付かれないようにドアの前を匍匐前進で通り抜けた。

 

 

 

 







クリスマスでしたね、こういう祝い事は豪華な料理を作るようにしています
それとUAが30万を超えましたし、前には評価数が100を超えました。今まで書いてきた事を考えればここまで伸びている事はとても嬉しいですね。
今年の更新は恐らくこれが最後になるでしょう、皆さん良いお年を


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五十三話:スケベすぎる!!

 

 

 

グツグツと煮えたぎる鍋を俺を含めた野郎共が囲う。その息は荒く、赤面しており、普段の俺たちを知っているやつらが見れば何があったのかと驚くだろう。

……なんでこうなっちまったかなぁ。

 

 

 

 

「謎の肉?」

 

廊下で出会ったアンセルと話しているとアンセルが謎の肉を貰った話になった。

 

「えぇ、クロージャさんが仕入れたみたいでして。食べられる事だけは間違いないそうです」

 

「おいおい……そんな訳の分からんもん──食べるに決まってんだろ!」

 

面白くなってきた。

そうだ、エンシオとバイソンとか、後調理役としてマッターホルンとか呼んでやろう。

メッセージを一斉送信すると少しして了承の連絡が帰ってきた。

先に肉を取りに行くと言うアンセルと別れて購買部へと向かう。折角良い肉だから焼肉といきたいが、ここは皆で食べるから鍋にしよう。

買い物を済ませて戻っている途中でミヅキに出会った。

 

「こんにちは、何買ってたの?」

 

「鍋の具材だ。なんかアンセルが謎の肉貰ったんだってよ」

 

「へぇ〜、ねぇ、僕もいい?」

 

するりと手を繋いでくる。

見えているのに知覚出来ない動きに心臓が跳ねる。

 

「……はぁ、着いてきていいからそれやめてくれ。心臓に悪い」

 

「は〜い」

 

……手は放さないのか。

ため息を吐きそうになるのを堪えて帰ってくると既に全員部屋に揃っていた。

 

「勝手に入ってんなよな。クーリエは?」

 

「別に構わないだろう。手土産も用意してある。クーリエは用事で無理だそうだ」

 

「それは貰う。へー、忙しいな」

 

エンシオから良さげなワインを受け取る。鍋に合うかは分からないが美味ければなんでもいい。

 

「僕は一応おつまみとしてチーズを持ってきました」

 

「お、ナイス。丁度良いな」

 

鍋を食った後はチーズとワインで乾杯だな。

 

「んじゃ、早速頼んだ」

 

そう言って食材の入った袋をマッターホルンに渡した。

 

「あ、お肉は冷蔵庫に入れてあるので使ってください」

 

「……この為に俺を呼んだな?」

 

「俺とお前の仲じゃねぇか?な?」

 

マッターホルンの肩に腕を回すとため息を吐かれた。

 

「作るから大人しくしていろ」

 

「あいよー」

 

そう言ってキッチンに向かうマッターホルンを見て、ベッドへとダイブした。

 

 

 

 

あれから少ししてふわりといい匂いが部屋に漂い始めた。

熱気が少し籠っているからか、少し暑く感じる。

他の皆も同じなのか服の首元を引っ張っている。

 

「冷房つけるか」

 

リモコンを弄って冷房をつける。冷たい風が汗ばんだ肌に心地良い。

 

「鍋だからってこんなに一気に熱くなるかよ……」

 

なんたってこんなに体が熱く──熱く?

この感覚、どこかで……感じた事が……

 

《ラックさん!これ、新しく作ってみた媚薬です!試してみてくれませんか?》

 

「これかぁ!?」

 

アンセルの作った媚薬と同じだ!あの時は風俗で使ってみたがこんな感覚だった。

 

「出来たぞ」

 

顔を赤らめたマッターホルンが鍋を持ってきてテーブルの上に置くと先程までほのかに香る程度だった匂いが一気に部屋に充満した。

 

「一旦落ち着くか……」

 

鍋のせいではあるが、焦ってはいけない。

全員で鍋を囲んで一先ず座る。

 

「では早速──」

 

「まあ待てよ」

 

エンシオが鍋に手をつけようとするのを止めると訝しげな顔をする。

 

「どうした?ヤーカの調理したものだから大丈夫だろう」

 

「つってもアンセルが持ってきた謎の肉だからな。少し様子を見た方が良いだろ」

 

くっ……なんか、変だぞ。

どう見てもアンセルとミヅキが……色っぽい……

いや、きっと気の迷いだ。

俺はドノーマルだ。いくら顔が良くて可愛くても……可愛いな……って違う!

頭を振るって変な考えを外に出す。

 

「ラック、大丈夫か?」

 

バリッ!という音とともにマッターホルンのジャケットのチャックが勝手に開く。

 

「おっと、またチャックが」

 

この側近……スケベすぎる!!

 

「頭がクラクラする……」

 

「大丈夫かエンシオッ!」

 

元々寒い所にいたからからか、暑さには弱いんだろう。

 

「横になれ!いますぐにッ!」

 

「胸元を開けて楽にした方がいい!」

 

「下も脱がせた方が……いえ全部ですね!全部脱がせましょう!」

 

エンシオをパンイチにして寝かせる。

これで一安心だ。

ふぅ、と息をついてまた腰を下ろす。

 

「やはりこの鍋は危険ではないか?」

 

「ですが一応食べられますし、捨てるのは勿体ないですね。せめて一口だけでも食べてみませんか?」

 

「僕もなんだか気になってきたかも、なんでお肉でこんなに暑くなるのか」

 

グツグツと湯気を上げる鍋をジッと見つめる。

 

「それも気にはなりますけど……バイソンさん、前よりもほんのちょっと見ない間に急に……かっこよくなりました?」

 

何……?そんな急に変わる訳がない、とバイソンを見る。

……確かにどこか凛々しさが増しているような。

 

「良してくださいよ」

 

照れたように俯いて顔を手で覆う。

可愛いじゃねぇか……

自分の頬を殴りつけた。

ダメだ、俺もおかしくなってやがる。

 

「ラックさんも前よりいい体になってるんじゃないの?よく見せてよ」

 

「そうかぁ?どうだ、マッターホルン」

 

ミヅキに言われてシャツを脱いで力こぶを見せる。

 

「ほう……悪くないな」

 

悶々とした空気が漂う。

この状況をなんとかしようと思っているが誰もが動けずにいる。

抑えきれない感情をどう発散させればいいんだ……!

 

「ダメだ、僕……もう我慢できません……」

 

バイソン!?

急に立ち上がったバイソンが上着とシャツを脱ぎ捨てて上裸になる。

 

「トレーニングしましょう」

 

なるほどそうか!

全員の気持ちがひとつになった気がした。

服を脱いでパンイチになる。

 

「まずはスクワットだ!」

 

スクワットから始まり、部屋の広さを考慮して腹筋を二人組で行ったり、手四つをして力比べ、果てはプロレスにまで発展した。

それは数時間にも及び、全員がクタクタになって倒れるまで続いた。

……今だ!

鍋に蓋をして部屋から飛び出す。

大丈夫だ。解決策は既に見つけた!

 

「シー!シー、どこにいる!絵の中に入れてくれ!」

 

大声を出しながら走っていると壁に入口が出来て、その中に飛び込むように入る。

 

「うおおおおおおおお!!」

 

シーのいる場所目指して走っていると建物を見つける。

 

「ここか!シー!」

 

「うるさいわよ。さっきから何?」

 

ニェンとリィンもいるな。チョンユエはどこかに行ったのか?

 

「はいこれやる!後これ借りてくぞ!」

 

丁度近くにあった机に鍋を置いて、リィンの近くにある布団を持って外へと出た。多分リィンのだろ。

 

「ちょっとそれは──」

 

後ろから何か聞こえた気がしたが気のせいだろう。

多少の媚薬効果があろうが、あいつらなら大丈夫だろ!多分!

俺頑張った!!!寝る!!!

テキトーなそこら辺に布団を引いて横になると、数時間筋トレをしていたからかすぐに意識が落ちた。

 

 

 

 

「ちょっとそれは私の布団なんだけれど……」

 

「おー、風みたいだな」

 

「どうやら私の傍にあったから勘違いしたみたいだね」

 

シーが大きくため息を吐くと置いていった鍋を覗き込む。

 

「変なの。手もつけていないじゃない」

 

「しかも冷めてるな。折角だし温めて食べるか」

 

ニェンが鍋を火にかけ始めて数分。

クツクツと音が鳴るのと同時に例の匂いが漂い始めた。

三人が不思議だか良い匂いだと思い温めもそこそこに食べ始めた。

 

「美味しいじゃない」

 

「うん、美味しいね。お酒にも合いそうだ」

 

「なんたってこんな美味いもんをあんな顔で置いてったんだ?」

 

酒も入れてのんびりと食べていると段々と口数が少なくなっていき、息も荒くなる。

ニェンとリィンは火照ったくらいに感じているようだが、シーは目が据わっていた。

 

「あー、こりゃあ変なもん食わされたな」

 

「私たちなら大丈夫だと思ったようだね」

 

「ラック……」

 

ゆらりとシーが立ち上がるのに遅れてニェンとリィンも立ち上がる。

目指すは自分たちにこんな物を食べさせてくれた元凶の所へ。

 

 

 

 

……ん、なんか重い。

寝てるってのに一体どこのどいつだよ……。

薄らと目を開くと肌色が見えた。

 

「え、なにドッキリ……?」

 

「漸く起きたのね」

 

混乱した頭で周りを見ると、全裸のシーが上に跨っていて、両腕にはニェンとリィンが抱き着いていた。しかもなんか部屋の中になってんだけど。

 

「こわ……俺なにかした?」

 

「あんなものを食べさせておいてよく言うな」

 

「あー効いちゃったかぁ」

 

マジかぁ。こいつらならなんかいけるって無責任に思ってたんだけどダメだったかぁ。

あ、待って、上で腰動かすな。

まあ、役得と言うべきか。

 

「わかった。ここは俺が責任を持って相手を……」

 

「勘違いしてんじゃねーよ。オメーが私たちに犯されるんだぞ」

 

ぐちゅりと耳の中で音がした。

 

「あぇ?」

 

ぐちゃぐちゅぬちゅぬちょぐぽれろ

両耳の中に舌が入ってきて、目の前で光が弾ける。

逃げようにも人間離れしたこいつら相手じゃ不可能だ。

 

「よく言うじゃない。空を見上げてたら終わるわ」

 

それを言うなら天井の染みだ。

目をギラつかせたシーの顔がどんどん近付いてきてキスをされた。

 

 

 

 

「う……」

 

体が気怠いし痛い。

あいつらの性欲は底無しでもう無理だと言っても止めてくれず何時間も、いや何日も?代わる代わる上に乗って搾られた。

ニェンとリィンはまだ早くに満足してくれたが、シーだけはいつまでも満足してくれなかった。

 

「起きたのね」

 

「……澄ましやがって」

 

傍の机に湯のみが置かれる。

飲んでみるとお茶だった。

 

「あなたのせいで腰が痛いわ」

 

「俺だって全身痛ぇよ」

 

シーに何度も噛み付かれたせいで噛み跡が残ってしまった。というか血が滲んだ所もある。

テキサスとラップランドはまだマシだったのかと思っていると頬を引っ張られた。

 

「んだよ」

 

「私がいるのに他の女の事を考えるの?」

 

「嫉妬してんの?」

 

ギロリと睨まれて目を逸らす。

素直に嫉妬してるとか言ってくれりゃあ可愛いのに。

 

「んじゃ、俺そろそろ戻っから出してくれ」

 

クロージャにお仕置してやる。

 

「出さないわよ」

 

「ん?聞き間違いか?出してくれよ」

 

「出さないって言ったわよ」

 

「……一日くらいはいてやるからそれで我慢するとかは?」

 

「ないわ」

 

……今回はどのくらいで外に出られるかなぁ。

 

 

 

 

「久しぶりの外だ……」

 

ニェンとリィンの協力もあって三日で外に出る事ができた。

疲れているが、やる事がある。

 

「おーい、クロージャー」

 

「あれ?ラック、今までどこに行ってたの?」

 

クロージャの手足を縛ってクロージャの研究室まで運ぶ。

 

「ね、ねぇ、これなんなの?あたしなにかした!?」

 

「アンセルにこの前渡した肉、覚えてるか?」

 

「あー、あれね!美味しかった?」

 

「食わせてやるよ」

 

鍋から一杯分分けて置いたお椀を出す。

冷蔵庫に入れたから大丈夫だろ。……多分。

 

「ほら、あーん」

 

「こ、怖いんだけど!?本当にそれ大丈夫!?」

 

「あーん」

 

「ね、ねぇってば!?」

 

「黙って口開けろ」

 

「ひゃい……」

 

涙目になりながらクロージャが口を開けて肉を口に入れる。

 

「むぐむぐ……普通に美味しいよ?」

 

「そうかそうか、ならもっと食うと良い」

 

「あー」

 

自分から進んで口を開くと、次々に肉や汁を食べさせる。

すると、段々と様子が変わっていって体を捩り始めた。

 

「も、もしかして……」

 

「そうだな。クロージャの思ってる通りだ」

 

「ご、ごめんね?わざとじゃないから、許して?」

 

可愛らしく猫なで声でそういうクロージャに対してにこりと笑った。

 

「ダメ」

 

クロージャを持ち上げてお腹が俺の膝に乗るように乗せると、右手を振り上げた。

 

「ま、待って待って!な、なにするつもり?いやっ!やっぱり言わないで!」

 

「昔からお仕置する時にする事と言えばこれだろ?おしりペンペンだ」

 

スパンッ!と思い切り叩いた。

 

「いったー!?!?」

 

もう一度振り上げて……振り下ろす。

 

「〜〜ッ!?ご、ごめん!ごめんなさい!もうしないから!」

 

再度同じように振り下ろす。

 

「ふぎっ……!?き、傷物にされたってケルシー先生に伝えてやるんだからね!」

 

「まだ余裕があるみたいだな」

 

「あっ、ちょ、まっ……!」

 

振り下ろす

 

「きゃんっ!」

 

振り下ろす

 

「んっ……!!」

 

振り下ろす

 

「ま、待って!なんか、変な感じだから!」

 

振り下ろす

 

「や、やめて!ご、ごめんなさい!反省しました!」

 

振り下ろす

 

「ふっ……ぅぅぅ〜〜〜!!」

 

振り下ろす

 

「え、う、嘘、やだっやだやだやだ!」

 

振り下ろす

 

「……ッ!!」

 

びくびくっとクロージャが膝の上で痙攣した。

 

「ほー……」

 

「み、見ないで」

 

「まさかこれでお前の性癖を開発してしまうとは……これは責任を持って俺が満足するまで続けよう」

 

そう言ってまた手を振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

・ある日の一幕

 

 

ロドスの甲板でタバコを吸う。

最近はちびっ子の相手をする事が多いから吸うのも大変だ。

 

「あ……」

 

「ん?」

 

声が聞こえてそちらを見るとフィアメッタがいた。

彼女はモスティマのお目付け役のようなものでモスティマがロドスにいるから羽を伸ばしているんだろう。

ラテラーノ出身のリーベリではあるがあんまり話したことは無いな。しかし、どこかで見たことがあるような気がする。

じーっとフィアメッタの顔を見ていると照れたように顔を背けた。

 

「あ、そうか。あの時の学生か」

 

昔、まだ軍にいた頃に学生に銃の扱いを教える機会があった。その時に熱心に質問をしてきたリーベリか。

 

「覚えていたんですか……」

 

驚いた顔を浮かべる。

サンクタなら聞いてきても不思議では無いが、リーベリだからかよく印象に残っている。

 

「あの時指導した学生で一番可愛かったからな」

 

「……冗談はやめてください」

 

これも嘘では無い。実際、可愛いと思う。いや、大人になった今なら綺麗と言うべきか?

にしても、お目付け役って事は役場か……?めんどくさそうな所にいるんだなぁ。疲れそうだ。

 

「良かったらこれからコーヒーでもどうだ?」

 

「い、いえ、私は……」

 

「な、頼むよ」

 

「……わかり、ました」

 

遠慮していたようだが、強く頼むと渋々頷いてくれる。良い子だ。

 

「俺がいなくなった後の話でも聞かせてくれよ。それとも、俺がいた頃の話でもしようか?」

 

「……ラック様のいた頃の話を聞きたいです」

 

様……?ああ、いや、久し振りにその呼び方されたな。ラテラーノだったらそう呼ばれる事も珍しくなかったか。

 

「そんな大仰な呼び方はやめてくれよ。今はただのラックだ」

 

そういうとポカンとした顔になる。

俺のイメージはどうなってやがんだよ。そんなに上等な人間にでも見られてたのか?

 

「早く来いよ。置いてくぞー」

 

「は、はいっ!」

 

パタパタと後ろから足音が聞こえてきた。

本とか映画には一応目は通したが大体は合っていたんだがなぁ。いつかちゃんと調べるか。

大きくため息を吐いた。

 

 

 






今年に入って二次創作は初投稿です。
最近は新しくオリジナル小説を書いていたので投稿が遅れました。
それからも比重としてはオリジナルの方を優先していくつもりですが、二次創作の方も書いていくので呼んでもらえると嬉しいです。


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五十四話:忘れっぽい猫

 

 

 

「今日は何すっかなぁ」

 

いつもこうボヤくが別に何かする訳でもなく、ただボヤいているだけだ。

今日もテキトーに歩いていると十字路で誰かとぶつかった。

 

「おっと」

 

「あうっ……」

 

ぺちゃっと転けた音が聞こえてきて、その方向を見るとロスモンティスが尻もちをついていた。

話した事は無いがプロファイルは読んだことがある。

とはいえ書いてあった事は珍しいアーツを使っているだとか、この歳でエリートオペレーターであるだとかそういう事とかだ。

詳しいあれこれは俺の権限では閲覧が出来なかった。

ああ、後は物忘れが多いとか書いてあったっけ。

 

「ごめんごめん。大丈夫か?」

 

両脇から抱き上げて立たせる。

 

「うん、大丈夫。ありがとう。……はじめまして?」

 

「はじめましてだ。それに、お前のプロファイルは一度読んだ事があるから気にする事はないぞ」

 

じゃ、と手を脇から抜こうとすると腕を掴まれて抜けなかった。

どうかしたかと首を傾げるとロスモンティスもそれに合わせて俺と同じ方向に首を傾げる。

 

「本当に、はじめまして?」

 

そんな事を言われて困惑する。

少なくともロスモンティスが俺の資料でも読んでない限りはそんな事はないはずなんだが……。

 

「嘘は言ってないぞ」

 

「……そうなんだ」

 

ロスモンティスが少しほっとした顔をする。

多分今までも会った事があるかないかで色々あったんだろう。

 

「じゃあロスモンティスが俺の事をちゃんと覚えてくれるまで会いに来るよ」

 

「いいの?仕事はないの?」

 

「部下が優秀なもんでな。暇なんだ」

 

「うん、じゃあ来てほしいな」

 

「わかった。おっと、そういや自己紹介がまだだったな。俺はラックだ」

 

「ロスモンティスだよ」

 

「親睦を深めるために一緒に散歩でもしようぜ」

 

「うん」

 

ようやく手を抜いて、二人で並んで歩き始める。ロスモンティスの歩幅に合わせてゆっくりと歩いて好きな物や好きな事、趣味なんかについて話した。

 

 

 

 

「よっ」

 

翌日になってロスモンティスを探して声を掛ける。

 

「えっと……はじめまして?」

 

「いいや、昨日会ったぜ」

 

「……ごめんなさい」

 

「気にすんなよ。覚えるまで会いに来るって昨日約束したんだ」

 

慌てて端末を操作して昨日の記録を見始める。

 

「…………ラック?」

 

「おう。今日は一緒に飯食うか」

 

「うん」

 

昨日と同じように二人で並んで食堂へと向かった。

 

 

 

 

三日目。

またロスモンティスを訪ねた。

 

「覚えてるか?」

 

「……?」

 

首を傾げて端末は確認して少しすると頷いた。

 

「思い出したよ。ラック」

 

「せいかーい」

 

軽く拍手すると得意気に胸を張った。

 

「正解者にはスイーツのご褒美だ」

 

手招きするとすぐに隣に並んだ。

耳がピクピクと動き、尻尾が揺らめいて嬉しそうにしていた。

 

 

 

 

四日目。

今日もロスモンティスに会いに来た。

 

「おっ、来たわね」

 

「ラック」

 

今日はブレイズがロスモンティスと一緒にいた。

俺に気付いたロスモンティスが駆け寄って来た。

 

「名前は覚えてくれたみたいだな」

 

「にゃ」

 

しゃがんで頭をくしゃりと撫でると目を細めた。

 

「最近ウワサになってるわよ。スズランちゃん達も含めて子供達を自分好みに育てようとしてるって」

 

「勝手に言ってろ」

 

肩を竦める。あの怪文書のあいつ辺りが言ったのか?

撫でていた手を止めて歩き出す。

 

「今日は映画でも観るか」

 

「うん」

 

 

 

 

五日目。

昨日俺の名前覚えてたし、今日は良いかと思っていると腰元に誰かが抱き着いた。

 

「うおっと、なんだロスモンティスか」

 

「なんで来てくれなかったの?」

 

ぷくりと可愛らしく頬を膨らませたロスモンティスがいた。

 

「ほら、一応ロスモンティスが俺の事を覚えておくまでだったろ?」

 

「……」

 

抗議の視線を受けて苦笑いを浮かべる。

 

「わかったわかった。今日は温室に行ってみるか」

 

「うん」

 

俺が歩き出すと横に並ぶ。

いつもと違って手を握られていた。

 

 

 

 

六日目。

昨日の夜に酒を飲み過ぎて二日酔いで寝込んでいると、誰かが上に飛び乗ってきた。

 

「ぐへっ……だ、だれだ……?」

 

モゾモゾと腹の上で動いて顔を覗かせた。

 

「ロスモンティス……」

 

「大丈夫?」

 

ぺちりと額に手が当てられて撫でられる。

 

「ごめんな、二日酔いになっちまった。にしてもよく部屋がわかったな」

 

「ブレイズに教えてもらった」

 

「そっか。暇だろ、部屋のもんは大体好きにしていいから遊んでな」

 

「うん」

 

ベッドの上から離れるとDVDプレイヤーをつけてDVD中に入っていた映画をそのまま見始めた。

……あれ?ホラーじゃなかったっけ?

 

『キェアアアア!!!』

 

ビクッッッ!!!

 

テレビを消して這う這うの体でベッドへと潜り込んで俺の胸に耳を置いた。

 

「……怖かった」

 

「はいはい、おいで」

 

皺が出来るほどに服を掴んだ彼女の背中を安心させるように何度も優しく叩いた。

 

 

 

 

七日目。

もう一週間か。ロスモンティスと過ごしていたからかすぐに過ぎてしまった気がする。

 

「ラック」

 

「はいはい」

 

昨日の映画がまだ怖いのか移動する時には抱っこをしてやらないといけなくなった。ついでに言うとトイレにも行けなくなって何度も扉の前に居るかを聞かれた。風呂の時は他のオペレーターと一緒に入ってもらっているらしい。

 

「最近二人は仲が良いようだな」

 

「これも俺の巧みな話術のお陰ってやつだな」

 

キメ顔でそう言いつつオムライスのケチャップでベタベタになったロスモンティスの口を拭いてやる。

 

「んぅ……ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

話しながら飯を食べているとドクターの顔を見たロスモンティスの耳がピンと立った。

 

「ラック、こっち来て」

 

「ん、どうした?」

 

内緒話かと顔を寄せる。

 

「チュッ」

 

頬にキスをされた。

 

「……これは、あー、どういう意味で?」

 

「最近ずっと一緒にいてくれてありがとう」

 

「なるほど。じゃあ俺も名前覚えてくれてありがとうのちゅー」

 

ちょっとふざけた感じで頬にキスをする。

ロスモンティスのあの様子を見るにドクターにもしたんだろう。

殺気を感じて後ろに身を引くと俺とロスモンティスの間をナイフとフォークが通って机に突き刺さる。

 

「「「チッ」」」

 

「てめぇら……一発イッとくか?」

 

下手人である職員にハンドガンをチラつかせるとどこかへ消える。

全く……そんな事をしてるからスズランに怖がられるんだぞ。

 

「じー」

 

「うん?」

 

口から擬音を出しながらロスモンティスが俺のチキン南蛮を見つめる。

ほほう、目の付け所が良いな。こいつはオレが旅をしている時に食ったもので、俺がグムにあげたレシピ本の中にあったものの一つだ。

 

「ほら、食うか?」

 

一切れ取って口元に寄せる。

 

「あーん」

 

小さな口をなるべく大きく開いてかぶりつくが流石に一口で食べるには大きく、噛みちぎる。

 

「米も食いな」

 

「ふぁむ」

 

少量の米を口に入れるとそれだけで口の中がパンパンになってしまって、もごもごと口を動かし続ける。

少ししてごくんと喉を鳴らして飲み込み、ほっと息を漏らした。

 

「美味しい」

 

「そりゃ良かった。」

 

「お礼にラックにもあげる」

 

オムライスを掬って俺の方へと向ける。

真ん中らへんだったせいでやたらと盛られている。

いや、これは……と躊躇っていると首を傾げてずいっとスプーンを押し出した。

 

「わ、わかったよ……あ、あが……」

 

思いっきり口を開いて何とか食べる。……今顎から嫌な音が聞こえたな。

 

「どう?」

 

美味いと頭を撫でると嬉しそうに笑った。

 

「ラックの口大きいね」

 

「っんく、まあな」

 

顎関節を手で撫でる。うん、大丈夫そうだ。

 

「ところで、食べ切れそうか?」

 

ロスモンティスが食べていたオムライスはまだ少し残っていたが手が進んでいなかった。

 

「……あーん」

 

少し眉を下げたと思えばスプーンでオムライスを掬って差し出してきた。

ちょっと量が多かったみたいだ。

 

「あー」

 

残っていたとはいえもう数口分だけだったからすぐに食べ終わり、食器を返して席に戻るとロスモンティスが食堂に設置されているテレビを見ていた。

恋愛ドラマのようで丁度キスシーンが映されていて子供達が齧り付くように見ていた。その中にはスズランやシャマレもいてやっぱ女の子だなと頷く。

 

「ラック、頬にちゅーするのと口にちゅーするのは違うの?」

 

「んー、そうだなぁ。頬にキスは仲の良い人への挨拶で使えるが、愛し合っている特別な相手にするのが口へのキスだな。例としては……カーディ!」

 

「ワンッ!」

 

少し離れた所にいたカーディがやって来た。

 

「お前のお婿さん以外なれなくなるようなキスしてやりな!ゴーッ!」

 

そして俺の声と共にアンセルの方へと飛び掛かった。

 

「えっ、わっちょっ……んーー!?」

 

じゅるるるるるるっ!!!

 

カーディがヤバい音を響かせながら子供には見せられないキスをする。

俺がやれと言ったものの思ったより激しいな……。

 

「わ……」

 

ロスモンティスが顔を手で覆う。まあ指の隙間から見ているようだが。

 

「……こほん、あれが愛し合っている者同士のキスだな」

 

カーディに覆い被さられて助けを求めるように手が彷徨っているから捕食にしか見えないがそれはそれ。

 

「……すごいね。私もそんな人が出来たらああいう事をするのかな?」

 

「さあな。でもまあそういうのはもっと大人になってからだな」

 

「ラックはした事あるの?」

 

「そりゃあもちろん何度もやったぜ?」

 

「そうなんだ……」

 

チラチラと俺の唇に視線が向かう。

 

「俺としたけりゃ、もっと大人になってからな?今はこれで我慢しな」

 

額にキスを落とす。

 

「約束?」

 

「え?ああ、うん、まあ、その時に好きなやつがいなかったらな?」

 

「そっか。うん、わかった」

 

少し頬を赤らめて頷く。

子供にはまだ早かったか?いやでもスズランとかにはしている程度のスキンシップだしな……。

 

「じゃあ大人なボクがしようかな」

 

「は?」

 

顔を掴まれて上を向かされるとラップランドがキスしてきやがった。

 

「ん……んーー!!」

 

顔を掴んだ手を放そうと掴むが万力のような力で押さえ込まれて動かない。

 

「……!!」

 

ロスモンティスが息を飲み込むのが横目に見えた。

 

「ふぅ……これ以上余計な事をしないでよ」

 

「余計って……」

 

「いい?ラックはボクと一緒にいるべきなんだ。理解してくれるよね?」

 

「俺は誰のもんでもねぇよ」

 

「うっ」

 

デコピンをすると頭を仰け反らせる。

 

「ラックとラップランドは愛し合ってるの?」

 

「愛しているかは兎も角、好きか嫌いかで言えば好きだな」

 

「もちろん好きだよ」

 

素直に好意を伝えてくれるのは嬉しいんだがなぁ……もうちょっと強引な所と凶暴性を抑えてくれたら尚良し。

 

「好きと愛は違うの?」

 

「中々難しい事聞いてくるじゃねぇの……」

 

正直愛だの言われても俺だってよくわかってない。愛にパラメーターがあるのならモスティマが一番高いんだろうけど。

昔に愛するフリなんて何度もしたもんだからよくわからなくなってしまった。

 

「少しづつ学んでいけばいいんだ。まだ子供なんだから」

 

「ねぇラック、この後一緒にどうかな?」

 

後ろからラップランドが抱き着いてくる。

最近はヤッてなかったし、良いかもと思っているとロスモンティスに手を握られた。

 

「……そうだなぁ。また今度で良いか?」

 

「なに、ダメなの?」

 

スッ、と目が細められる。

 

「今日はロスモンティスと過ごす約束してたんだよ。また俺の方から連絡するから」

 

ラップランドの頭を撫でてやると大きなため息を吐かれた。

 

「約束だよ?丸一日ボクに頂戴」

 

「約束な」

 

「うん、ならいいよ。今日は譲ってあげる」

 

俺の頬に頬を合わせて頬擦りをすると離れていった。

 

「さてと、俺達も行くか」

 

「良かったの?」

 

「ああ、今日の俺はロスモンティスだけのもんだぜ?」

 

「私だけの?でもさっきは誰のものでもないって言ってたよ」

 

「今日だけ特別、な?」

 

「特別……」

 

くいっと服を引っ張られる。

 

「なんだ?」

 

「チュッ」

 

「……」

 

眉間を指で押さえる。

何故かロスモンティスが唇にキスをしてきた。そういうのは大人になってからって言っただろうに。

 

「……なにか思うことでもあったか?」

 

「ラックが特別って言ったから」

 

特別……?……言ったなぁ。

 

「いいか、ロスモンティス。特別ってのは今日は一緒にいるって意味でだな……」

 

しゅんと耳と尻尾が垂れ下がる。

 

「………………特別だからな」

 

頬を両手で挟んで揉んで横抱きにする。

 

「今日はなにをする?」

 

「色んなものを見てみたいな」

 

「なら龍門に行ってみるか。俺が案内するよ」

 

「うん」

 

そのまま食堂から出ていく。

 

「たっ、たす──」

 

後ろで聞こえてくるアンセルの声を無視しながら。

流石に……食堂でヤらないよな??

 

 

 

 

 

 

 

 

・かつての一幕

 

 

「待ってよレミュエルちゃん!」

 

「ラック様に会わせてー!」

 

アーツで空に浮かびながらラテラーノ内の警備をしていると、そんな声が風に乗って聞こえてきた。

 

「ダメダメ!お兄ちゃんは忙しいから邪魔しちゃダメー!」

 

風を操って聞いてみると俺に会いたいという女の子がエルを追い掛けているようだった。

 

「ちょっとだけだから!」

 

「良いじゃん。レミュエルちゃんは家でラック様に会えるんだから」

 

「お兄ちゃんは一人暮らししてるからいないもん……」

 

「でも会えるじゃん!」

 

「ズルい!」

 

「う、うう……」

 

足元の固めた空気を蹴って跳び、地面が近付くタイミングでアーツで減速させて着地する。

 

「エル」

 

「お兄ちゃん!」

 

声を掛けるとパッと笑顔になって駆け寄って抱き着いてきて、その頭を優しく撫でる。

 

「あ、あのっ、ラック様!」

 

「わた、私達……そのっ……」

 

「俺に会いたかったんでしょ?何」

 

顔の青ざめた二人に首を傾げる。

 

「用事が無いなら戻るけど」

 

「あ、あのその……」

 

「わ、私達虐めてた訳じゃなくて……」

 

「わかってるよ。聞こえてたから」

 

露骨に安堵の息を吐く。

……怒ってると思われたかな。お前はもっと表情を動かせと隊長に言われたけど、まだ難しい。

 

「あの、いつもご苦労様です!」

 

「応援してます!」

 

「うん、ありがとう」

 

「じゃ、じゃあ私達は帰りますね!」

 

「う、うん、またね!レミュエルちゃん!」

 

女の子達が頭を下げて帰っていった。

一体なんだったんだろう。

 

「べーっ!」

 

「エル、そんな事しちゃダメだろ」

 

「だってぇ……」

 

コツンと優しく小突くと拗ねてしまう。

 

「お兄ちゃんに会いたいのはわかるけど、お兄ちゃん仕事中だって言ってるのに合いんなんだもん」

 

「俺なら大丈夫。今もアーツで国全体は見えてるから」

 

「でもそれって大変でしょ?」

 

「慣れた」

 

「も〜……」

 

頬を膨らませると何度か叩かれる。

 

「帰るんだろ。送るよ」

 

「いいって!まだお仕事の途中でしょ?」

 

「別に今日は特に何も起きてないから大丈夫」

 

「私が気にするの!隊長さん達にも悪いでしょ?」

 

「どうせ酒飲んでるからほっといていい」

 

「ダメな大人だ……」

 

頑なに断るエルを横抱きに抱える。

 

「ちょっ!?だ、ダメだってば!お兄ちゃん!ねぇ!」

 

「飛ぶよ」

 

「聞いてってヴァ!?」

 

アーツを使って空高くに飛ぶ。

 

「エル、見て」

 

ラテラーノの景色をエルに見せる。

 

「わぁ……!ご、誤魔化されないんだからね!」

 

「残念」

 

数秒の空中遊覧も終わり、家の前に着地する。

 

「兄さん?」

 

「アン、おかえり」

 

「ただいま。エルを迎えに行っててくれたの?」

 

「そんなとこ」

 

「お姉ちゃん聞いてよ!お兄ちゃんってば……」

 

「じゃ、仕事に戻るから」

 

「うん、頑張ってね」

 

「あっ!逃げるなー!!」

 

エルの叫び声を聞き流しながらさっきよりも空高く飛び、固めた地面に腰を降ろすと通信機が鳴る。

 

『ラック、強盗事件だ。犯人は車で逃走中らしいぞ』

 

「了解、こちらでも見つけた」

 

『よくやった。それとだな、酒は飲んでねぇ。9%はジュースだ』

 

「チッ」

 

聞こえてやがったか。

 

『おい今舌打ちした?したよな?な?おい?』

 

「ここから狙撃する。通信終了」

 

『あっ、この──』

 

ぷつっと音が切れる。

座ったまま片手でスナイパーライフルを構えて建物の隙間に照準を合わせる。アーツで車の位置を確認して数秒して発射した。

撃ってすぐに隙間に見えた車の前輪を銃弾が貫いて粉砕し、バランスを崩した車が街灯に衝突して停止した。

すぐに車は取り囲まれて犯人が逮捕された。

俺に気付いた一人が俺の方に手を振るのを見て振り返す。まああっちからは見えていないだろうが。

ラテラーノは今日も平和だ。

 

 






なんかランキング載って指が乗ったんで書きました。


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