二番目の主役 (ぷりんたまご)
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プロローグ編
しーん1 帰還


原作が中途半端でモヤモヤしたのでこれを機に書いてみました
初めての試みなので色々と不安な点がありますがどうぞよろしくお願いします

ちなみに千世子派です




主演(しゅえん)とは 映画・演劇において 

主要な役を演じること またはその役者

(主役、主人公)である

 

数多くの役者たちはこの主演の座を目指している

 

助演(じょえん)とは

映画や演劇において主役以外の役を演じること

「主役の演技を助けて演じること」

という意味を持つ

 

数多くの役者たちは主役になれず

脇役として一生を終える

 

主演を演じることはその作品において 

一番であることを示す

誰もが主演を求めるこの業界で

 

ある一人の役者はいつも

口癖で言っていた

 

 

「助演を希望します」

 

 

---

 

 

「眠い。」

「おまえさっきまでめっちゃ寝てたろ。」

 

駅の前に二人の男いる。一人は周りの目を気にしないのか上下ジャージ姿でサングラスをかけて、もう一人はスーツをきて丸メガネをかけている。

 

「てかなんでおまえは、スーツなんか着てんだ?」

 

(ジャージ男)が疑問を口にする。

 

「東京って言ったらそりゃスーツだろ。」

 

(スーツ男)はそう答える。

「は?」

「いや冗談だって、実は今ハマってる漫画のキャラのマネしてるんだ。」

 

(スーツ男)(ジャージ男)の覇気に気圧されさっきの発言を撤回するように早口で言う。

 

「ふーんそうか.......でもそれ似合ってないぞ。」

「えっ」

 

(スーツ男)はショックを受け項垂れていると、ふとビルの広告が目に入った。

「あっ、千世子だ。」

 

自然と(スーツ男)が口にする。

 

「ん?どっかにいんのか?」

「そうじゃなくてほら。」

 

(スーツ男)が指差したところには、今を生きるトップ女優である百城千世子の姿がビルの広告に写っていた。

 

「いやぁ〜かわいいなぁ。」

「そうか?」

「は?なに『オレはモテてるから別に百城千世子ぐらいどうも思わねぇよ』アピールしてんだ?」

(ジャージ男)は心の中でため息をつきながら。

 

「んでこっからどうすんだ?」

「へ?なにが?」

 

無視されたと悲しんでいた(スーツ男)は返答する。

 

「ここからどこに行くかって聞いてんだよ。」

「えっと、お世話になったとこだけどくる?」

 

すると(ジャージ男)は首を振り

「あー、いやめんどいからいいわ。」

 

そう言って歩き出した。

 

「行く宛あんの?」

「オレはお前より稼いでるからな。」

 

(ジャージ男)は振り返らず

手を振って人混みに紛れていった。

 

「ほんと、そうゆうとこだぞ。」

 

(スーツ男)は呆れたのかそう呟いた。

 

 

---

 

 

「やっぱたこ焼きにはマヨだよなあ〜」

俺は駅前にあったたこ焼きの店でたこ焼きを買った。

 

「マヨネーズが一番合うのになぁ〜」

 

俺の知り合いはたこ焼きを食べるときマヨネーズはつけず食べていた。その事で少し一悶着があったのだ。

 

「いや〜くだらないことで喧嘩したわ。」

 

喧嘩といっても俺が一方的に喚いていただけだけどね。いい奴なんだけど、俺と正反対な所が少しあるからなぁ。俺より顔良いから余計ムカつくいて火がついちゃうんだよ。このスーツをプレゼントでもしよっかなぁ。あいつがダサいって言うほどだから、それほど似合ってないんだろう。

 

「はぁ〜」

 

 

 

 

 

そんなこんなで歩いていると子供の泣き声が聞こえた。おっと結構泣いてるな、こうゆう時は助けた方がいいのだろうか。助けを求めてたら助けるし、大丈夫そうならそのままスルーでいっか。

 

 

 

 

おっ見つけた、二人いるな。う〜んどうやらケガしてるみたいだけど....

俺今バックの中に絆創膏なんか持ってないんだよなあ、てか今どき持ってる人いるんか?

なんて考えながら泣いてる声の方へ歩いた。

なんて声を掛けようか

あんまり変なこと言うと不審者扱いされるから ふつうにいこう

ふつうに...

『よぉガキども、なに泣いてぇんだ?』

流石にないわこれ、こんなん言われたら通報案件だわ。もっとふつうに...

『お二人さん、なにを泣いているのですか?』

いや堅すぎるわ!ふわふわ系のお嬢様かよ。

「スゥーハァ」

よし落ち着け俺、久しぶりに戻ってきて

ちょっとハイになってただけだからな。

じゃ声掛け.......

「そこのおじさんたすけて!!」

 

---

 

「なるほどねつまり、転んで擦りむいたと。」

俺は痛々しくケガをしたところ見ながら言った。

この二人は兄弟で弟がケガしたらしい。

 

「うん、だからなおしてよ。」

 

いやムリだろ。ていうか

 

「その前に俺は『おじさん』じゃない『お兄さんだ』わかったか?」

 

俺まだ18歳なんだけど...

俺って老け顔?

 

「うん、わかった。だからはやくなおしてよ。」

 

うんうん、この子は聞き分けの良い子だ。

 

「おじさん。」

 

前言撤回、こいつは悪ガキだ。わざとだろ、わざとなんだろ?二秒前ぐらいのことだぞ。

まぁそれほど焦ってるてことか。でも

 

「お兄さんはケガを治すことは出来ないぞ。」

 

「えっ?」

 

やめろ、そんな目で俺を見るな。使えないなぁみたいな顔をするな。普通に考えて直せるわけないだろ。アニメの見過ぎだぞ。

 

まったく、仕方ないなぁ。

「ケガを治すことは出来ないけど、それ以外なら出来るかもしれないぞ。」

 

こう言っとけばなんとかなるっしょ。

何せこの言葉は『出来る()()しれない』だからな。

たとえ変な無茶振りされても、『それは出来ないんだ。』と言えば大丈夫ってことだ。いわゆる保険だな。まぁおそらく『いえまでおんぶして。』みたいな楽なやつだろうから、こんな魔法の言葉使わなくて済むけどな。

「じゃあ、ウルトラ仮面をよんでよ!」

 

は?

 

「おとうとはウルトラ仮面がすきだから、よんでくれればげんきがでるとおもうんだ。」

 

その子は自分の弟を撫でながらそう言った。 

 

「できないの?」

 

何かを期待している目で俺を見る。でもムリだ。出来ない。仕方ないからあの魔法の言葉を...

 

「助けてくれないんだ...」

 

そう呟いたあの子の目は、もう俺を見てはいなかった。分かってる。出来ないって分かってるけど。弟があんなに泣いていて、兄が助けようとしてるんだ。俺はこの子たちを救いたい。俺はこの子たちの期待に応えたい。

だからこそ別の方法で助ける。俺にはそれができるんだ。

 

「まかせろ。」

 

お前の弟、笑かしてやるよ。

 

 

 

---

ある子供side

 

今日は弟と二人で遊んでたんだ。

ほんとははもう二人来るはずだったけど来れなくなったらしい。 

それでも弟がいたから外であそぶことにしたんだ。でも二人でできるあそびなんて少ししかない。だからずっとかけっこをしてて弟が転んじゃって大声で泣き始めちゃった。

僕はどうにかして泣き止ませようとしたけど僕には出来なかった。

するとそこに男の人が歩いてきたんだ。スーツを着ててなんかぶつぶつ言って怖かったけど、学校の先生から大人に頼りなさいって言われてるから僕は大きな声で助けを呼んだんだ。

 

「そこのおじさん助けて!!」

 

---

 

おじさんは『まかせろ』と言ってたけどどうするんだろう?

もしかしてほんとにウルトラ仮面を呼んでくれるのかな?

僕は弟がウルトラ仮面を好きと言ったけど本当は僕も好きなんだ。

だからウルトラ仮面がいればきっと弟も泣き止むと思ったんだ。

だからあのおじさんを信じてる。

まかせろと言ってくれたあのおじさんを。

 

「やぁ君達こんなところでなにしているんだい?」

 

でもそこに現れたのは

あの人と同じスーツで

同じ声で

顔はタオルで隠れているけど

僕にはわかるあれはおじさんだ。

 

僕を裏切ったんだ。

あの人は...

 

 

---

 

 

 

 

はっきり言って最悪の気分だ。

たまたま通りかかっただけなのになんで俺はこんなことをしてるんだ? おまけになんか呼んでって言われたけど俺ウルトラ仮面知らねえから!今の流行なのかそいつは!!まぁ名前的に仮面ライダーみたいだけど

はぁ、でも子供にあんな顔されたら引くに引けないよな。まったく知らないし何もわからないけど俺がやるしかねえよな。

だって

 

「やぁ君達こんなところでなにしているんだい?」

 

 

これでも俺は役者だから。

 

 

 

---

ある子供side

 

 

「もういいよおじさん。

そんなのいらないから。」

 

僕は今とてもムカついてる。

 

「おや?君は怪我してるじゃないか!」

 

僕の言葉が聞こえなかったのかおじさんはまだ続けてる。

 

「だからもういいって!

そんなの見たくないよ!

もうやめ...」

 

「危ない!!」

 

気付くと僕は土の上に倒れていた。隣には僕と同じように倒れ込んでいる弟がいた。僕らはおじさんに突き飛ばされたのだ。僕は文句を言おうとしておじさんを見ると

 

 

 

え?

 

おじさんがケガしてる。

血は出ていないけど、だけどどこか苦しそうにしてる。近寄ろうとすると。

 

「近寄るんじゃない!!」

 

今まで聞いたことのない

大きな声で僕は初めておじさんを怖いと思ってしまった。

 

「で、でも...」

 

「でもじゃない早くここから逃げるんだ!!」

 

また大きな声が響いて僕は2、3歩後退りした。

するといきなりおじさんが横に吹っ飛んだ。まるで何かに殴られたように。

 

「おじさん!!」

 

僕はつい叫んでしまう。

 

「は、やくにげ、ろ。」

 

 

何が起きたかまったく分からないけど、おじさんは僕たちを逃がそうとしてる。何かから僕はお兄ちゃんとして弟を守るために弟の手を取り思いっきり引っ張った。けど弟は逃げようとしない。

 

「はやく!走るよ!」

 

僕はいつの間にか泣き止んでる弟にそう急かす。でも弟は動かない。

こうなったら力ずくてやるしかない。僕がそう決心したとき、ふいに弟がいったんだ。

 

「あのひとはくるしそうだよ?ウルトラかめんだったらたすけるのに...

 

でもウルトラかめんがいないなら、ぼくがたすけるんだ!!」

 

僕はひどく驚いて気付いたんだ、弟はウルトラ仮面がただ好きなわけじゃない。憧れているんだ。ウルトラ仮面みたいに誰かを助けたいんだ。

 

 

僕は僕が恥ずかしい弟はこんなにも戦おうとしてるのに、兄である僕が逃げようとするなんて僕は兄失格だ。でももう大丈夫、僕も分かったからウルトラ仮面がなんであんなにもかっこいいのかを、あの人が僕たちを逃がそうとしたその意味も。

 

僕と弟であの人(おじさん)を助けて

 

「今行くよ、おじさん!」

 

あの人(ヒーロー)と一緒に三人で、見えない何かを倒すんだ!!

 




ということでとりあえずこんな感じになりました
ぶっちゃけ原作の間にオリジナルストーリーの話を入れたりするのでテンポは悪いです
出来るだけ長く書いていたいのでご了承ください
不定期更新になります


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しーん2 かけるもの

逃げてました


 

 

---

でもどうやって助けたらいいんだろう。

相手は目に見えない何かだから、見えるようにする?じゃあどうしたら見えるようになるんだ?僕の頭の中でそんな考えがぐるぐると巡る。

 

はやく、はやく考えないと...

するとふいに弟が叫んだ。

 

「スーツかめ〜ん!なにかてつだえることない〜?」

 

スーツ仮面。弟があの人に名付けたそれはしっくりくるほど、合っている。そしてスーツ仮面本人に『助けを聞く』ということが僕には思いつがなくて、いつもより弟がとても頼もしく見えたんだ。

 

 

「さっ、きのおに、さんの、、のバッ、クの中、にぼ、僕の、武器、があ、るんだ。それ、をとっ、て、くれ」

 

スーツ仮面がとぎれとぎれに僕らに伝える。まるで何かに攻撃されてるみたいに。その様子はとても痛々しくてほんとは目を背けたかった。今の僕に出来ることそれは、さっきのおじさんが持ってたバックの中に敵を倒せる何かを見つけること。僕らがそれを見つければ、スーツ仮面を助けることができるんだ!

 

「はやくさがそう」

 

弟が僕の服の袖を引っ張って呼ぶ。

 

「うん」

 

僕はうなずいて周りを見渡すけど、周りは砂の地面と木々だけ、ここには隠せそうな遊具すらない。この公園には僕ら二人とスーツ仮面だけ、周りに人がいないから誰にも手伝ってもらうことはできない。つまりこの公園の中を僕と弟だけで探さないといけない。二人だけで。あまり時間を掛けるとスーツ仮面がやられちゃうから、ゆっくりやってらんない。どうしよう、このままじゃ見つかんない。

 

考えろ!僕にできるのはそれだけだ!!

おじさんがバックを置きそうなところを。

おじさんが来たときバックは持ってた、そして僕と話して、まかせろって言って...

 

 

 

あっ!

木の裏に行ったんだ!つまりバックはあそこの木の裏にある!

 

「分かった!」

 

僕の声に弟が振り向いた。

 

「こっちだよ!!」

 

僕が走り出すと後ろから足音が聞こえて来る。

おそらく弟もこっちに向かって走ってるのだろう。息が上がり、汗が出る。腕で額をぬぐって不愉快な感触を取り払う。木の元について裏をみると、そこにはさっきのおじさんが持ってたバックが確かにそこにあった。そのバックは開いたままで、中にはそんなに物は入っていなかった。ここまで来たら後は渡すだけ。だけどどれが武器なのかが分からない。

 

「スーツ仮面に何が武器なのか聞いてきて!!」

 

僕はとっさに後ろにいる弟に言う。弟は目を見開き決心した顔で

 

「うん!」

 

とうなずいた。僕は再びバックの中を見る。中にあるのは、スマホ、サイフ、扇子、メガネ、そしてこれは...ボールペン?

この五つの中からひとつだけ武器があるんだ。

う〜ん考えてみてもわかんない。一番武器っぽいのはボールペンだけど、剣になるわけでも銃になるわけでもない。スーツ仮面が手に取ったら変形でもするのかな?僕がそうやって悩んでいると

 

「お兄ちゃぁん!」

 

僕は顔を上げる。どうやら何が武器か聞けたようだ。

 

「なんて言ってた?」

「かけるものだって!!」

 

カケルモノ? 駆けるもの? 書けるもの?

僕はバックの中を見る。この中で『かけるもの』は...あっ!ボールペンだ!そして僕は立ち上がろうとして、ふと止まった。なんだろうこの感じ、なんとなく違う気がする。理由なんてないけど、直感が違うと言っている。どうしても分からない

 

 

 

 

 

「お兄ちゃんがんばってー!」

 

弟の声が耳に入りそして思い出す。僕らはスーツ仮面を助けるために頑張ってきた。そうだ、こんなとこで諦めない。もう一度考えるんだ!敵を倒すための武器、それは『かけるもの。』つまり書けることができるボールペンが目に見えない敵を倒せるはずなんだ。

 

 

 

 

ん?

目に見えない...

 

 

そうか!目に見えないなら()()()()()()()()()()()()()!今までずっと『かけるもの』を『書けるもの』と勘違いしてたから気付けなかったんだ!つまり本当は『掛けるもの』で『メガネ』なんだ!

 

僕はすぐさまバックの中にあるメガネを掴んだ。後はこれを渡すだけだ。そう思うとともに僕は少しだけ、いやとても嬉しくなった。僕が武器を見つけれたこと。僕も役に立てたこと。僕らがスーツ仮面を助けれること。いつもテレビで観ていた世界に、まるで入り込んでいるようなんだ。

 

気付けば弟が隣にいて、目の先にスーツ仮面がいた。

 

「持ってきたよ!」

 

僕が言うとスーツ仮面がこっちを見て

 

「投げろ!」

 

と叫ぶように言う。

僕は手の中にあるメガネを見て

 

「いくよ!」

 

そう叫んで放り投げた。

僕が投げたメガネは少し、高く飛んでいる。このままじゃスーツ仮面には届かない...そんな不安が頭によぎる。ここまで頑張れたのに、ここで僕は失敗したんだ。悔しくて涙が出てそれを零したくない僕は、歯を食いしばって顔を上げる。

 

すると何故か暗くなった。目を瞑ったんじゃない。太陽が隠れたんだ。でも隠したのは雲なんかじゃない。スーツ仮面が空を飛んでいる。いやジャンプしたんだ。空中にあるメガネを掴み、僕らの前に着地した。怪我をしないように一回転しながら、僕らの前に立ったんだ。隣にいる弟の顔はキラキラするほどの笑顔だ。そしておそらく僕も弟に負けないぐらいに笑っている。

 

「少年たちよ、ありがとう。あとは...」

 

ぼろぼろで、汚れてて、顔にはタオルをまいて、ほんとにダサい。頼りないし、僕らが居ないと武器さえ取りにいけなくて。僕らがいつも見ているあのヒーローには程遠い。

 

でも何故か僕らの前にある背中がとても大きくて、守られている感じかする。僕の一番好きなヒーローはウルトラ仮面だけだけど、今この瞬間だけは一番じゃなくなった。一番ダサいヒーローが一番好きなヒーローなったんだ。恥ずかしくて口には出さないけどね。そんなダサいヒーローが...

 

「まかせろ」

そう言ってメガネを掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---

 

 

痛いというか疲れた、マジ疲れた。今ならどこででも寝れる気がする。

 

嘘だ。どこでもではない、なんなら超高級ホテルのベッドがいい。あと水が飲みたい。風呂入りたい。

 

そう思いながら俺はキャッキャッと喚いている子供に目を向ける。

 

「すごい、すごいよ、スーツかめん!!」

「ダサかった」

「かっこいい!もういっかいやって!」

「ボコボコにやられてたね」

 

純粋ないい子とクソガキの二人組だ。あれ悪ガキだっけ?まぁどうでもいいか。

 

「少年よ怪我は大丈夫か?」

 

俺は純粋ないい子を見ながらそう言う。

 

「うん!痛くなくなった!」

 

そう返してきて、俺は自然と頭を優しく撫でる。目を細めて嬉しそうな顔をする子とは裏腹に、もう一人は興味がなさそうに顔を背けているが、目はこっちをチラチラ見てくる。

 

「君も撫ででほしいのかい?」

「別にいらない」

 

顔を背けながら、そう素っ気なく返す。だが体がソワソワしていて、撫でて欲しそうにしている。いつもの俺ならこんな奴に撫でたりしないが、今の俺はスーツ仮面だ。だから仕方なく撫でるしかないんだよなぁ...

 

 

 

 

 

ずっと思ってたがスーツ仮面はダサくないか?なんか弱そうだ。弟君のネーミングセンスを疑うよ。もっとこうカッコよくて、神々しくて、素晴らしい名前がいいな。

 

ふむ...むずかしいなあ...

 

 

まぁとりあえず呼び名はスーツ仮面でいいだろう。不本意だがな。

そう考えているあいだに俺は悪ガキの頭をに手を乗せる

 

「え?」

 

そして

 

「うぎぁぁぁぁああ!」

 

全力で鷲掴み力任せにワシャワシャと教育(なでる)する。

悪い子にはちゃんとお仕置きしないとね。

 

「ちょっとやめてよ!髪がぐちゃぐちゃになったじゃん!!」

「はっはっはっすまない少年だか、素直の方が良い事があるぞ」

 

時には素直じゃないほうがいいってことは黙っておこう。

 

「ふんっ」

 

あ〜あついに拗ねちゃたよ。こうゆうときはどうやってご機嫌を取ればいいのかよくわからん。女性もたまに機嫌が悪くなるから、そうゆう意味では子供も女性も扱いにくいな。

 

「すまない、少し悪戯が過ぎたようだ。君のおかげで悪党を倒すことができた。本当にありがとう。」

「ふ〜ん、ならいいや」

 

おっ、さっきよりは機嫌が治ったようだ。満面とはいかないが微笑んでるぐらい笑顔を見せてくれた。よかったこれでもダメだったらお手上げだったよ。

 

うん子供にはやっぱり笑顔が一番合うな。と俺も頬が緩む。

 

「ね〜ね〜ぼくは?ぼくのおかげでたおせた?」

 

どうやら弟君も褒めてもらいたいようだ。もちろんここで『褒めない』なんてことはしない。そんなことしたら今までの苦労と好感度が無くなってしまう。場合によればマイナスになるかもしれない。子供は嫌いじゃないが好きというわけでもない、だけどわざわざ嫌われることはしない。

 

「あぁ、君がしっかりと伝えれたおかげで倒すことができた。君は素晴らしい勇気を持っている。その勇気に助けられたんだ。ありがとう、少年よ」

「ほんとに?」

 

えへへと顔をにやけて嬉しそうに笑う。子供は面倒くさいと思っていたが、もしかしておだてればなんとでもなる?まさかこんな技があったなんて!心の中にメモしておこう。

 

 

さて、スーツ仮面の出番は終わりかな。

 

 

「ああぁぁぁぁぁぁぁあ!!」

 

俺が子供たちの後ろ側を指差し、まるでおぞましいなにかを見つけたかのように叫ぶ。当然俺の指が自分たちの後ろにあるのだから子供たちは俺はの指差した方向へと顔を向ける。その瞬間俺はタオルの上から掛けていた丸メガネを右手で先に外し、次は残りの左手で今まで培ってきた洗濯物を片手で立ちながら畳めるという技術を巧みに活用して(左手限定)なんと約一秒という僅かな時間で、ミッションを達成したのだ。俺が両手を背中に隠すと同時に子供は顔を戻した。

 

「ねぇ?どうしたの...あれ?スーツかめんは?」

「ん?どうやら次の子供を助けにいったぞ」

 

俺はスーツ仮面からさっきのお兄さんに戻ったのだ。

まぁでも...

 

「ふ〜ん?」

 

一人にはバレてるなこれ

 

「え〜もっといっぱいおはなししたかった」

「そんなこと言わずにさ、あいつだってヒーローみたいなもんだから忙しんだよ」

「でも...」

 

え!なんか泣きそうなんですけど!ミスった?ここで俺は選択肢を間違えてしまったのか?だが俺は臨機応変な男こんなとこで子供を泣かせない!!

 

「これやるよ」

「え?」

 

俺は右手に持ってた丸メガネを弟くんに差し出した。俺の作戦はこうだ、さっきまで俺ことスーツ仮面が掛けていたこのメガネをプレゼントすることにより喜ばせる。これにはサンタさんもニッコリすることだろう。

 

「いいの?」

「あぁ」

「やったー!!」

 

予想通り食いついた!!だが残念ながらメガネは一個しかない弟と兄で半分こはできないのだ。物理的になら可能だが、そうすると機能性がなくなるわ!

 

「おい、今持ってるそのペンをお前にやるよ」

「え?」

「メガネの代わりってこと」

 

嬉しそうにメガネを掲げてる弟くんを目尻に捉えながらクソがkゲフンゲフン、羨ましいそうに見ていた兄にそう言った。だってすごく見てくるんだもん。俺があげると言ったのは、ボールペンだ。兄はビックリして自分の手を見つめている。興奮しすぎて手に持ってたことを忘れたんだろうか?フッ俺の演技力に見惚れたということか...えっ!違う?ふ〜んあっそ。

 

「まぁ礼はしとくよ」

「素直にありがとぐらい言えるようにならねぇと女にモテねぇぞ」

 

まぁ礼を言ったところでモテるわけじゃないがな。

 

「そうゆうことで帰るわ」

「えーいっちゃうの?」

「悪いな用事があるんだ」

 

やだやだもっとあそびたい、と駄々をこねてる弟を兄が宥める。

 

「ふ〜んおじさんのくせに用事とかあるんだ」

「いや〜まったくお前のお耳は飾りか?何度も言うが俺はまだお兄さんだ!!お前には年上を敬う気持ちが感じられない。大人になるまでに直さないとキツイぞ〜。その敬う気持ちを今持つんだ!さぁ目の前のお兄さんをお兄さんと呼べぇ!!」

「はぁ〜」

 

確かに子供相手にムキになってちょっといや結構大きい声で言ったけどさ、そんなため息吐かなくて良くない?いやわかってるよ俺が悪い、いや正確に言うなら誰も悪くない。ただ少しの気遣いで一人の気持ちをね、こう清々しくできるっていうかなんというか...

 

なんか悲しくなって来た...

 

スタスタと木の裏のバックを取りに行きそのまま帰ろうと歩く。

 

「じゃあな」

「ねぇまたあえる?」

「まぁ会えるんじゃね?」

 

俺の言葉に反応した弟がこう聞いて来た。綺麗事が大っ嫌いな俺は『もちろんさ!僕らまたいつか再び会える!その日までしばらくの辛抱さ!』なんて言えない。だから少し濁して、かつ希望のありそうな言葉をチョイスした。我ながら悪くないなぁ。

 

俺の言葉を信じたのか、納得したのかわからんが、とりあえず場を収めることができた。

 

「わかったから早く行けば?」

「ふん、相変わらずだなお前は」

 

もうコイツはダメだ、俺の力だけじゃ変わんない。もっと多くの人と関わらないと変わることができないな。

 

「それとありがと」

 

いやそんな事しなくてもコイツは変われるって信じてた、これはアメとムチだ。そうゆうことにしとこう。

 

「おう、どういたしまして」

 

俺は少し微笑む。

 

「ばいばぁい〜!」

「さよなら」

「お前らも早く帰れよ。怪我はまだなおってないからな」

「スーツかめんばいばぁい!」

 

バレとるやないかい!!これは恐れ入った弟も中々の洞察力を持ってるじゃないか。君はきっと将来世界を背負う凄い人になるだろう。(適当)

 

 

 

 

してやられたと俺はついついニヤリとしてしまう。どうやら久しぶりに一杯食わされて笑っちまったようだ。はぁ〜子供に見破られるなんてまだまだだな俺も。トホホとまだ後ろから聞こえる声を聞きながらそう考える。

 

よし!もう寄り道はしないぞ!これ以上時間を食うわけにはいかないからな。

 

うんうんと心のなかで頷いていると。

 

「ねぇさっきのどうやったの?」

 

いきなり声をかけられて思わず振り返ってしまった。いつもなら聞こえないフリやダッシュして逃げるというのに。振り返った俺の視界に入ったのは、不審者だった。ジーパンにパーカー、白いマスクに黒いメガネと帽子、どっからどう見ても不審者だったのだ。俺の勘が『こいつはキケン!キケン!』とアラームを鳴らしている。おそらく裏社会の人間に違いない!は!まさか!さっきのガキンチョはそっち系の人間の子どもということか?それしかありえない。つまり俺は消されるのか?跡形もなく抹消されるのか!?

 

 

「あれ?聞こえなかったのかな?じゃあもういっかい聞くけどさっきのやつどうやって演じたの?」

 

 

あぁ...なるほどこいつは俺と同じ世界の人間だ。

 

 

「いや〜さっきのは我流だからなんとも言えないなぁ」

 

とりあえずごまかすしかない。あんまりべらべら話したくはないんだが。ていうかこいつどこかで...

 

じっと見る。この背丈、声、立ち方、何故か目が離せない存在感。そして何より...あぁ!こいつは!

 

「百城千世子…」

「.....」

 

空気が変わった。先程とは違う威圧感。そうかこれが裏か。先程はまでは街の雑音が騒々しかったのに、今は何も聞こえない。目の前にいる奴はまだ沈黙を貫いて、まっすぐ俺の目を見ている。たった数秒の静寂がまるで何時間のように思える。いやそれはないか。

 

「へぇ〜すごいね。なんでわかったの?今まで誰にもバレた事なかったのに。」

 

変装を解きながら俺に問いかける。そしてその変装が解き終わると、いつもテレビの向こうにいる天使がそこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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しーん3 人生で一番

『人生で一番○○』という言葉があるが何でもかんでもに使うものじゃない。だが俺は今人生で一番運がいい。なぜなら

 

「へぇ昨日までアメリカに居たんだ。」

 

あの百城千世子と一緒に車に乗ってるんだ!

さっき道端で会った時に話しかけられて退散しようとしたら引き止められてあれよあれよという間に「車で送ってあげるよ」なんて言われちまってびっくりしたわ。

 

千世子が電話を取り出してすぐに車がやってきた。撮影が終わったあとなのかやってきた車はミニバスで、心の中ではリムジンとかすげぇのがくるかと思ったのに、純水な心を返してくれ。

 

そんでさっきから千世子はいろんな質問をしてくる。

その時計かっこいいねとか、好きなスポーツは?とか朝ごはんの話とか。そんなことを聞いてくるわけがよくわからんが、まぁ日本のTop女優の考えることなんてわかるわけないか。

 

「一つ聞きたいんだけど、いいかな?」

「なんなりと」

「どうして私の変装が分かったの?」

 

どうしてって言われてもなぁ。どうやって言おうと考えてる間に今までバレたことないのにと、呟いてる。どうやら単純な疑問というよりも悔しいからこそ気になるって感じだ。

 

「そりぁ、背丈、声、立ち方、存在感、その他諸々かな」

「なんか漠然としてるね」

「あと何より胸がn」

「は?」

 

おっとっと地雷だった。

 

「なに?むねがなんだって?」

 

凄い笑ってるのに怖い。漫画とかでよく見る後ろに般若がいるように怖い。女の人に胸と年齢の話はタブーだったの忘れてたよ。

 

「胸が鳴るほど緊張して、えっといろいろあったんだ」

「わぁ下手くそないいわけだ」

 

ふむ、本気で怒ってるわけじゃなさそうだ。でも千世子マネージャーが、いや長ったらしいから省略しよう。略してチヨマネが睨みをきかせてる。もう黙っとこうかな。

 

「こっちも聞きたいんだが、なんで俺を送ろうと思ったんだ?」

「目的地の途中にそこに寄るからついでにって感じかな?」

「そうか実を言うとすごく助かった。歩いて行こうと思ってたからな」

「うわ何キロも歩こうとしてたんだ。バカなのかな?」

「すごい言うな。そんなキャラじゃないだろ」

「今は毒舌な役をやってるからかな」

 

嘘をつくな。

 

---

 

「やっと着いた」

 

俺はあまり乗り物酔いをするわけじゃないが、やはり地に足をつけたほうがいい。生きてるって感じだ。

 

「はい、これあげる」

「なにこれ?」

 

渡されたのは名刺?みたいなやつ

 

「私専用のものだからとってもレアだよ。世界で持ってる人は両手で数えられるぐらい」

「おぉ売ったらいい値がつきそう」

「そんなことしないでよね」

 

冗談に決まってるだろ。余程のことがない限り。うんたぶん。

ニコニコしながらまたねと言って千世子は車に戻っていった。やはり天使は天使だ。今日の事をネットに書き込んだとしても『妄想乙』とか言われそうだ。

 

 

 

あ!サイン貰うの忘れた!

まっいいか次会うときにもらお。

 

そう思いながら振り返り目的地へ歩く。

さぁ行きますか。桃源郷!!

 

 

 

大手芸能事務所"スターズ"だけど

 

---

 

 

千世子から貰ったらこの名刺みたいなのはとても素晴らしいというのが分かった。受付に行ったてこの名刺みたいなのを見た途端態度が急変した。やべぇブラックカードを持ってるみたいな気分だ。ふはははは、誰も俺に敵わない!!あっにやけてると変な目で見られた。違うんですよ。僕は変な人ではありません。

 

 

エレベーターに案内され真っ直ぐ言ったところの大部屋にいるらしい。わかりづらい。廊下の床は綺麗に掃除されていて、さすが大手芸能事務所といったところだ。申し訳程度の広告ポスターも嫌いじゃない。これは見た。まだ見てない。知らない。の3つの部類に分けられる。うん暇つぶしに最適だ。

 

 

しばらく進むとそれっぽい部屋が見えた。

その部屋の前に立ち耳を澄ますと中から声がする。どうやら今オーディションをやってるようだ。

 

ふむふむ、パンツスマイル?いやパントマイムか。

我ながらひどい聞き間違いだ。それに一斉に演じるってきつくね、可哀想だなぁ。テーマは野犬?俺にはムリだな。入ろ。

 

そして俺は本日二度目の『人生で一番』を使うことになる。

 

 

---

夜凪side

 

「野犬よ」

「?」

「あなた達の前には一匹の野犬がいるわ」

 

どうしよう野犬なんて見たことないわ。

演じるにも演じれないわ。せっかくのチャンスなのに。

 

「あぁ...そいつ腹を空かせてるぞ」

「ッ!」

 

その声を聞いた瞬間鳥肌が立つ。目の前の犬を見据える。こいつは敵だ。

だから守らなければ。家族を。大切なものを。そのためなら私を犠牲にしたっていい。

 

あいつは私に飛びかかってきてる。このまま仕留めるのが一番いい、でもこのままだと力負けする。なら!

 

腕に噛ませて動きを止める!よしこれでとどめっ!

 

「あっ...」

 

逃した!まずいそっちに行くな。手を出すなッ!!まだ間に合う走れ、走れ!もう誰も失わせない!!

 

「私の家族に何するの」

 

そして私は思い切り踏み潰した。

 

気がつけば私は周りから拍手されていて、ルイが私の手を握っていた。どうしよう何が何だかわからないわ。でも

 

「おねーちゃんすごい!!」

「ちょーおもしろかった!!」

 

ルイ、レイが楽しんでるならよかったわ。

私はやっぱり家族が好きだ心からそう思う。

 

「天才だ!」

「素晴らしい!」

「まるで映画だ」

拍手と共に称賛する声が聞こえる。

 

「決定したわ。オーディショングランプリ受賞者は...」

「ちょっと待ってください。さっき部屋に入ってきた彼は一体なんですか?」

 

一人の男が何か言ってるわ。何をいってるのかしら?そういえば扉の近くに人がいる。う〜ん彼が入ってきたのは見てないし、気づかなかったわ。

 

「彼はわたしの知人よ」

「しかしアリサ社長!!」

「彼の件はまた後で話すわ。まずは受賞者を...」

「いやいや流石にそれはないでしょ」

 

扉の近くにいた彼がそう言って歩いてくる。よくよく見ればスーツですごく汚れてる。顔はどこにも居そうで、髪の毛はウニョウニョしてるわ。その汚れた彼は私たちの方向へ来るのだ。なぜかしら?もしかしてロビーにあったウルトラ仮面のポスターを取ったのがいけなかったのかしら。でもご自由にって書いてあったから大丈夫なはずだけど、もし有料ならどうしよう。返品はできるのかしら。

 

気がつけば彼は私の前にいて

 

「えーでは星アリサ社長の知人であるわたくしの自己紹介させていただきます。スタジオ大黒天所属元助監督現役者こと仁伊路紫合(にいろゆうだ)だ。はじめましてよろしく」

 

私の目を見ながらそう言った。ポスターの件じゃなくてよかったわ。

 

「今日は本当に運がいい。なぁ君の名前を教えてくれ」

 

私はなぜが彼を見てしまう。

無意識のうちに彼の方を見てしまうのだ。

 

「夜凪景...」

「うんよろしく景ちゃん」

 

この出会いが私の運命を大きく変えた。

 

いや変えさせられたのだ。

 

 

 

---

 

「おい、勝手にうちの名前を出しやがって」

 

黒いロングヘアに綺麗な肌そして何より、千世子にも引けを取らないぐらいの美少女!!それに彼女の...いや景の演技は素晴らしいものだ。

 

「てかいつこっちに来たんだよ!」

 

努力じゃない、才能という言葉じゃ物足りない。言葉にできないあの表現力!!

 

「おい!聞いてんのか!」

「うっさい、スタジオの名前を使ったのは悪かった、どうせ本当のことになるんだからいいだろ。日本に戻ったのは昨日だよ。」

 

おい、なんだその顔は。歳か?

 

「お前...」

「久しぶりだなおヒゲさん」

「その呼び方をやめろっていたはずだがな紫合」

「そんなのどうでもいい、どうせ景を大黒天に入れんだろ。じゃあ俺も入れろ。別に悪い話じゃない。な?」

「ふん...まあいいだろう。ほれ」

 

このヒゲは手を出してきた。まさか握手か?コイツと!ムリムリありえん。うげぇ想像したら気持ち悪くなった。

 

「墨さんあんたが結婚しない理由がわかったよ。まさかとは思ってたけど、そっちだったのか」

「勘違いしてんじゃねぇよ!!!金だ!金!入会金を寄越せっててんだ!!」

「はぁ?景からも取るつもりか?か弱い女の子からも金とんのか?」

「ハッ金を取るのはお前だけだよ」

 

なんだこのオッサン。金しか頭にないのか?

 

「ついに頭まで狂ったのか。」

「お前の口答えは健在だな。もっと目上の人を敬え」

「ゴホン...」

 

がみがみ言い合ってると横から声が入った

 

「おひさだねアリサさん。元気にしてた?」

「貴方のせいで元気にじゃなくなったわ」

「あはは...さっきはごめんって、でも無視しようとしたからさ。自己紹介したくなって」

 

後ろではおヒゲがまだなんか言ってるが、ナンモキコエナイ。

アリサは『はぁ...』といって頭に手を置いている。思ったより、元気がなさそうだ。

 

「まぁいいわ。でも紫合、約束を破る気なの?」

 

うぐっ言葉の弾丸が俺の胸にジャストミートした。そうなのだ、俺は小さい頃アリサさんにいろいろとお世話になった。そのお礼として俺がこっちに戻る時、スターズに入る約束をしたのだ。『約束を破る』という行為は俺にとって悪に等しい、昔友達にゲームカセット貸したら、そんままパクられた。せめての救いはあのカセットは中古だから精神的にダメージは少なかった。その日から約束を破るやつは大体ゴミと心に誓ったのだ。その誓いを俺自ら破るとは、なんたることか。

 

「初めは約束を守るつもりだったさ。でもあんなの見せられたら、嫌でも惚れるよ。アリサさんが景をスターズに入れるならよかったんだけどね」

「あの子は危険だわ。いずれ身を滅ぼすわ」

「またその話かよ」

 

また横から声が入った

 

「黒山、あの子は諦めなさい」

「そうゆうわけにもいかねぇよ。おれは演出家でちんちくりんなこいつでも一応役者だ」

 

ちんちくりんで一応役者か...

間違ってないな。

 

「あんなもん見せられたら黙っちゃいねえんだよ。あんたに思い出させてやるよ。役者の幸福ってやつを」

 

三人以外誰もいないこの部屋に声が響く。

静寂の余韻は気まずい。

 

 

 

 

次アリサさんに出会った時のほうが気まずい。

---

夜凪side

 

今まで感じたことのない瞬間だった。

誰もが笑ってくれた。

まるで夢みたい。

 

「おねーちゃんが一番かっこよかったのに!」

「うん!一番凄かったよ!」

 

レイとルイは私を褒めてくれる。

私は嬉しかった。あの感情は一体なんだろう?

役者を続ければまたあの瞬間を味わえるかしら?

だからこそオーディションに落ちたのがすごくへこむわ。

また一から事務所探さないと……

 

 

 

こんな夜に車の音が近づいてくる。その音は家の前で鳴り止み運転席から一人の男が降りてくる。

 

「どうしても撮りたい映画がある。そのためにたった一人を探してる」

 

その男は映画監督と名乗り。

 

「お前のような奴をずっと待ってた」

 

その男はこっちに来いと言った。

 

「黒山墨字。映画監督だ。お前は?」

「夜凪景。役者」

「俺が芝居を教えてやる。お前は...」

 

その男の言葉が正しいのかどうかは、

今の私にはわからなかった。

 

 

 

 



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しーん4 もったいない

おっせぇー。マジ遅い、このままじゃ打ち合わせが出来んくなるわ。一回あのヒゲの頭に時計でもねじ込んだろか!

 

俺の苛立ちが顔に出てたのか、隣にいる人から声をかけられた。

 

「ごめんね。先に現場に入ってても良いよ?」

「ここで待つよ。俺だけってのは気が引けるし」

「ありがとう。あのヒゲは毎回こんな感じなの。せっかくの仕事を断って、役者探しに行ってくるとか、仕事はお前がなんとかしろとかほざきやがって。今日も先現場行ってろとか言ってきて、どっか行ったし。あぁ!もう思い出しただけで腹立ってきた!」

「oh...」

 

ヒゲさんはこんな人を助監督にしたのか。なかなかの英断だ。根は良い人なんだろうけど、どこかに闇を感じる。大黒天ってブラックなのか?もしかして俺入る事務所間違えたか?

 

「でも紫合君が入ってくれるから仕事も増えそうだね」

「まぁ俺がいなくても仕事は増えるだろうけど」

「?」

 

俺と今会話してるこの人は、柊雪、今のヒゲの助監督らしいつまりNo.2か。元だけど俺も助監督としての経験がある。先輩としてしっかりと見させてもらうよ。まぁこれで俺より上手かったら赤面確定やぞ。

 

「いやなんでもない。そういえば今日の撮影は何やんの?」

「えっと...シチューのCMだね。でもこれ女の子がお父さんにシチューを作ってあげるCMなんだけど。紫合くんって女の子じゃないでしょ」

「だな」

「う〜ん、違うと思うけど紫合君が女装でもするのかな?」

「んなわけないだろ」

 

どうやらまだ景のことを知らないらしい。

ちゃんと情報共有しとけよヒゲ!

 

「え?じゃあ紫合君はどうすると思うの?」

「昨日スターズに行ったときに新人を見つけたんだ。今ヒゲが迎えに行ってるはずだけど」

 

ちょうど良く視界に大黒天とプリントされた車がこっちに向かってくるのが見えた。

そしてそのまま...

事故った。 

 

目の前で車がおしゃかになるとか久しぶりだな。

 

よく分からないがとりあえず写真撮っとこ。スマホでパシャパシャしてると車から景がヒゲに抱えられて出てきた。何あれ?

二人は子どもみたいに口喧嘩をしている。

 

笑いを堪えてパシャリと二人の様子をおさめる。

うん良く撮れてる。

 

 

---

 

「小さいけど一応ちゃんとした会社なの、ほらヒゲ誤って」

「やだ」

「謝れよ」

「嫌だからしない」

「ゴミガキクズがぁ!」

 

いい大人が女の人に説教されてる絵かぁ。

二流芸人みたいなコントだな。

 

「えっと、紫合くんよね?」

 

景が遠慮がちに言う。名前は覚えてくれたが、よくわからない人認定されてるなこれ。まぁ少しずつ仲良くなればいいか。

 

「一つ聞きたいんだけど」

「ん?」

「どうして頭がウニョウニョしてるの?」

「いや、これ天パだから。ウニョウニョとか言わないで、結構気にしてるんだけど」

「あっ、そうなのね。ごめんなさい」

 

なんだろう。調子が狂うなぁ。天然というか恐れがないというか、ズカズカくるから合わせずらい。悪く言ったら空気が読めない。良く言うなら裏がないって感じ。あれ、俺の苦手なタイプの人じゃないこれ?

 

「あー別に謝ることじゃない、とにかくよろしくな。同じ事務所仲間として頑張ろうぜ、景ちゃん」

「でも私この人が生理的に無理だから入りたくないわ」

「それはわかる」

「オイ!」

 

あのヒゲが無理なのは全世界共通認識の一つだろう。

 

「ごめんなさい。私今日日直だから帰るわ」

 

このままだと帰っちまうぞ。

ヒゲ、こうゆうときは監督であるお前の出番だ。

そんな俺の心の声が聞こえたのか、ヒゲが景に声を掛けた。

いや、俺の心の声など聞こえてほしくない。前言撤回だ。

 

「あーあせっかくCMの仕事を与えてやろうと思ってたのになぁ」

「……CM?」

「そうだ。芸歴ゼロのお前には身に余る仕事だろう。でもなぁ役者が腰抜けなんだよ」

「なっ…」

「帰っていいぞ。下手くそはいらん(笑)」

「演ってやるわよ!!」

 

作戦成功。とでも言いたげな顔をこっちに向けるな。

 

---

 

「『父の日にシチューを』っていうCMだ。父親のために少女が不慣れな手つき料理を作る。要にシチューを作ればいい」

「さっさとそう言いなさいよ。説明が長いわ」

「アァ!?」

「はいはい、落ち着いて」

 

やれやれとでも言いたげに首を振りながら、景はセットに向かう。その姿を見てヒゲは変顔をしている。違った雪がめっちゃヒゲの顔を引っ張ってるんだ。あんなの顔の皮膚取れるぞ。

 

準備が整ったみたいだ。さて景の演技を見るのはこれで二度目だ。今度はどんなのを見せてくれるんだ?やべぇ鳥肌立ってきた。わくわくがとまんねぇな!

 

「じゃあテスト、よーい」

 

カチンッ

 

チャッチャッチャッ

カカカカカカカ

ボォアー

 

「カァァァット!!達人かお前は!」

 

まぁしょうがないか、役者初心者だもんな。それにしても最後のやつフランベか?後で教えてもらお。

 

「お前『芝居』を何だと思ってる?」

「思い出すこと?」

「分かるなら早よやれ」

「でも私父親に料理作った事ないわ」

「初めて料理を作った日を思い出せ」

 

景にフランベを教えて貰う約束を、どう取り付けようかなんて考えてたら展開が飛んでた。考えすぎだろ俺。

 

俺が思考を放棄したと同時に、景が変わった。

 

「カレーライスだったわ」

 

目の前にいた少女は料理を作り始めた。さっきとは明らかに別人だ。料理をしたことがないと言われても信じてしまうほどに見ていてハラハラする。

 

あっ指切った。いくら演技だからってわざと指切るか?いや意図的に切ったんじゃなくただ再現してるだけか。自分を傷つけてまでも演じる。怖いな。

 

「この子は、本物だ」

 

隣にいる雪がつぶやく。本物ねぇ。そんな言葉で片付けれるようなもんじゃない。

 

「カット!!シチューは別撮りな!」

「もったいないだろう」

 

つい口にしてしまう。

 

「えっとでも焦げてるし、しょうがないよ」

 

俺の独り言に雪が反応する。しかし俺が言ったのはシチューのことではない。雪はガサゴソとバックに手を突っ込み絆創膏やらなんやら取り出した。

 

「景ちゃん!」

 

駆け寄ろうとする雪から絆創膏を奪う。悪いと言い置き走りながら思う。もったいない。シチューのことじゃない。このまま終わらせるのがいけ好かないんだ。これは自分の傲慢だろうか。自己中心的な考えだろうか。それでもいい。

 

ヒゲは俺を見てニヤリとする。まるでやれるもんならやってみろとでも言わんばかりだ。まじムカつく、足の小指を机の足にぶつけろ。俺に呪いが使えたら速攻使うというのに。

 

前を向いて構想を練る。まだ景はこっちに戻ってない。だからこそまだ演じれる。

 

そんなもんじゃねぇだろ景!もっと見せてくれ!

 

準備満タン、ボルテージは最高、某漫画のセリフを使わしていただくとしたら『負ける気がしねぇ』

 

まぁ勝ち負けとかないんだけど。

 

息を整える、いくぞ景。

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま」

 

目線は合わせない。家の構造上、玄関先にキッチンなどが見えるわけがない。少なくとも俺の家はそうだった。景の家がどんなのかは知らないが、普通の家であることを願う。

 

靴を脱ぐフリは学生らしく、いつものように踵を踏む。

 

何もないところを廊下に見立て、大袈裟に歩く。

 

室内ドアは『押す』ものと『引く』ものがある。押すドアは押したときに十分な大きさを確保できる部屋。つまり広い部屋の場合が多い。それに対して引くドアは狭い部屋の場合が多い。狭い部屋に押すドアだとそのドアにスペースを取られてもっと狭くなるからだ。

 

まぁ絶対そうというわけじゃない。実際に逆のパターンも見たことがあるからな。

 

キッチンはリビングやダイニングの近くにあるはずだ。今回は押すドアをイメージするということだ。

 

ドアノブに手をかけ、中には入る。

 

キッチンにいる景を見つけ、少し驚きと微笑みを溢す。

景は俺を見て戸惑ってるようだ。

 

「今日はバイトじゃないんだ」

「え?」

「もしかしてクビになったの?」

「……まだ…なってないわ」

 

よし成功!ぶっちゃけこれは賭けだった。

 

この前ヒゲから景の個人情報を見せてもらった。いや、別に変があったわけじゃない。ただ気になっただけだ。未来のパートナーになるんだから遅かれ早かれ知ることになる。そこで気になったことが幾つかあり、どうやらバイトを掛け持ちしてるようだ。果たしてこんな空気を読めなそ……精神が図太すぎるこの子は、数多くのバイトをこなせるだろうか?答えはほぼ否!これは偏見だが景はこれまでに多くのバイトをして、そのほとんどをクビになったに違いない。主に人間関係が原因でな。

 

だからクビになってると勝手に思って景に問いかけた。

たとえクビになってなくて、クビになんてなってないわ!とか言われたとしてもリカバリーは効くから、100%ハズレない賭けとして成立していたわけだ。

 

我ながら凄まじい推理力だ。これならば自称探偵を名乗っても良いのではないか?

 

いや、やっぱやめようなんか羞恥心が体を駆け巡った。

 

「まだねぇ」

「なによ、嘘じゃないわ」

「分かってるって、疑ってなんかないよ」

 

これでいい。このまま徐々に入り込めば……

 

「ところで、あなたは誰?」

 

……ッ!

 

おっと、戻りかけてるな。俺の想定より早い。うーん、どうしようかな。やりようはあるがそれは普通すぎるよなぁ。ここで俺が、なに言ってんだよって優しく言って俺のペースにすればなんとかなる。でもそれは普通すぎるんだ。

 

策はある。けど気が進まない。あいつのマネをすることが気に食わないんだ。まぁ昨日も俺の勝手な想像でマネしたけど。

 

そう昨日公園で会ったあの子ども二人が言っていたウルトラ仮面を見てみたのだが、まさかあいつ主役だとは思わなかった。あいつは俺と同じで演技とかクソ下手なはずだけど……親のコネか。とにかくだ、ウルトラ仮面が変身するときモブが「あなたは!?」みたいな発言をする。第一話から見てみたけど毎回そのセリフがあったはずだ。

 

だが大事じゃないのはそこじゃない。昨日公園で会った子どもと景の弟妹の年齢が同じくらいだったのだ。家族を大事にしてるのは、昨日のオーディションを見れば分かる。そんな家族を愛しているお姉ちゃんが、自分の弟妹が見てそうなテレビを一緒に見ていないというのか。答えは多分否。景なら弟妹と一緒に見てそうだし、あのクソイケメンなやつが出てるんだから一人でも見てそうだ。いや、景の好みが分からんのにそう決めつけるのは早計かな。

 

まぁ結局何が言いたいのかというと……

 

「大丈夫。もう安心して。あの悪いやつは僕が倒すから」

「えっ?」

「僕はウルトラ仮面、みんなには内緒だよ。」

 

キラリンと効果音が付きそうなウィンクをする。あーやだやだ、こんなのやってられっかよ。キザっぽくてまじきちぃ。

 

なんかクソヒゲの笑い声が聞こえる。ウゼェなあいつ。

 

ほんとはあのクソイケメンゴミ演技野郎に文句を言いいたいところだが、こればかりはあいつは悪くない。脚本書いてるやつがそうゆう設定にしたのだ。

 

しかもそのセリフが出る回が、小さい頃から仲が良い幼馴染を助ける話だった。そして幼馴染を守るため自分がウルトラ仮面だと明かし、戦う。だけど自分の正体を知ってしまった以上敵から狙われる可能性もある。そう考え、幼馴染からウルトラ仮面だけではなく自分に関する全ての記憶を消した。

 

その回の一番最後のセリフはウルっときましたわ。というかあれ本当に子ども向け番組か?この俺でも泣いたわ。全国の子どもたちはどんな反応をしたか気になるが、今はそれどころじゃない。

 

「あっ………そんな…だって……」

「今まで隠しててごめん、今度は僕が守るから」

 

そうこの『今度は』というセリフがなにを指しているのかは、まだ語られてない。一体ウルトラ仮面に過去があるのかめっちゃ気になりますなぁ。

 

そんで景が『そんな…だって……』って言ったのはそれが幼馴染のセリフだからだ。つまり景はウルトラ仮面を見ている!

 

「うん、やっぱり景は演じるのが上手いね。あっ!シチュー作ったの?いやぁまいったね、今日こそは景に休んで欲しかったのに。明日からは僕が家事をするからね!さぁさぁ景はリビングでくつろいでて。」

 

これぞ俺の十八番、相手に喋らせない!攻撃が最大の防御ってやつだ。意味が合ってるのかしらないがな。

 

俺がセリフを言えば言うほど、そのセリフが設定となり俺も景もその設定を守らなくちゃならない。現実に戻りかけた景を無理矢理物語に繋ぎ止めたわけだ。

 

「わ、わかったわ………あの、少し言いづらいのだけど」

「ん?なに?」

「シチュー焦がしちゃったの」

 

ふむ。おっちょこちょいキャラか?そうゆう役なのか?

 

一つ前のカットで景が料理人並の腕であることは確認済みだ。それを踏まえて焦がしたと自らセリフを言うのだから、景は今演じているのか。

 

役者でありながらも景の役を感じ取ることができない現実を垣間見て、改めて俺は自分の才能の無さを感じた。

 

景、羨ましいよ君が。 

 

「あぁちょっと焦げ臭いと思ってたんだ。でも恥じることはないよ、景はまだ料理初心者だからね。それに……」

 

ふと視線を感じる。このキモい感じはヒゲだ!チラリと目だけ動かすと、もういいぞと言いたげな表情をしていた。せっかく景を俺のペースに呑み込んだのに。

 

まだ演じ足りない気持ちを抑えて、仕方なく終わらせる。

 

「食べれなくもないよ。」

 

焦げたシチューを味見する。うん不味い。

 

「僕は景の料理がいつか食べてみたいなぁ」

「そう……」

 

自分の成功したとは言えない料理を褒められて嬉しがっている少女が俺の目の前にいる。その照れ臭い笑顔も見惚れるほどに美しい。

 

でももう時間だ。

 

「景ちゃん」

「?」

 

景との距離を縮め。両手を振りあげて……

 

「起きろ!」

 

思いっきり肩を叩く。

 

のちに聞いた話だが、景はこれが原因で俺のことを『か弱い少女に手を上げる変態』と思っていたらしい。

 

それただのクソ男じゃねえか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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しーん5 悪魔と天使

お久しぶりです


「あれ?私は…なにを」

 

思ったより疲労が溜まってるみたいだ。

いくら景でも俺と演じるのはまだ早いらしいな。

まぁすぐに追い越されそうだけど。

 

「お疲れ様」

 

キョロキョロと見渡している景に手を振りながら言う。

まだ少し余韻が残ってるな、それも仕方ないだろう、今景は寝起きみたいな状況だ。

さっきまで演じてたことが夢みたく朧げに覚えているはずだ。

 

「えっと…私さっきまで演じてたの?」

「あぁ、スッゲェうまかった。それに周りを見ればどれほど良かったかわかるんじゃないか?」

 

景は忘れてたかもしれないがここはスタジオだ。

周りには撮影の関係者がいて、そのほぼ全員が目を見開いて立っていた。

残念ながら口をポカンと開けてる人はいない。 だけどスタジオに響く賞賛の拍手を聞けば素晴らしい演技だったのは誰も否定をしないだろう。

 

たかがCMのくせに周りの拍手がうるさい。

俺の目覚まし時計並だろうか。

 

「ほら、帰るぞ」

「え?」

 

景の手を取り、ヒゲのもとへ歩こうとする。

でも景は俺についてこようとせずに、留まろうとする。

 

なんだ?まだ演じ足りないってか。

 

「まだ終わりじゃないわ」

 

ったくしょうがねぇな、事務所に戻ったら即興劇でも……

 

「だってまだあなたが演じてるから」

 

あぁ現実と役者の区別がついてないんだ。

これが景の一番怖いとこでもある。

このままいけば景は景じゃなくなるだろう。

『思い出すこと』景はさっき演じることをそう表現した。

言葉にするのは簡単だが、実際にやってみるとよくわかる。

ズレるんだ、過去の自分と今の自分は何もかもが違う。

朝に何を食べたのか、どんな服を着ていたか、呼吸のリズムは?どれだけ記憶が鮮明に覚えたとしても、100%同じように演じれるはずがない。

だからこそ景は天才なんて言葉じゃ生ぬるい。

ほんとに末恐ろしいよ、この子は。

 

自分だけじゃ戻れない。だから今日は俺がスイッチの代わりになる。

 

「よっと」

 

スイッチとしての俺の役目それは…

 

「なっ!や、やめて!」

 

お姫様抱っこである。

別に現役JKだからしたかったわけではない。

現実に戻すためには一定の羞恥心を与えればいい。

 

え?お姫様抱っこじゃなくても良かったじゃんって?

 

うるさい。

 

 

景は恥ずかしがってジタバタとする。

 

「おい!あんま動くなよ!危ないぞ!」

「危ないのはあなたでしょ!この変態!」

 

すると景の腕が大きく開かれる。そして…

 

バチンッ

 

「いってぇ」

 

ひりつくような痛みが頬へ走る。

思わず手が離れるが、景はスタッと降りた。

 

俺が悪いけど、ビンタはなくないか?

俺は景にそう言おうとしたが…

 

「紫合君それはどうかと思うよ」

「へ?」

 

振り返った俺が最後に見たのは柊の満面の笑みと、力一杯握り締められすぎて血管が浮き出ている拳だった。

 

「死ね!」

 

俺はぶん殴られましたとさ。

 

---

 

 

 

「はぁ〜しみるぅ」

 

目を覚ますと大黒天に俺はいた。

どうやら気を失ったまま帰ってきたらしい。

もう日は暮れていて、景もヒゲも帰宅したと柊から聞いた。

 

女性とはいえヒョロヒョロな俺にとってあれは会心の一撃だった。やらないよりマシと言われて氷を頬に当ててるが、冷たすぎる。

 

「いやぁ、あはは」

 

気不味そうに柊が笑う。

 

「あははじゃねぇよ」

「まさか気絶するなんて思わなくて」

 

やば、こいつ俺の肉体をバカにしたぞ。

そこそこ筋肉質だぞ俺は!

この暴力女め!

 

「二、三日は腫れが引かなそうだ」

 

すりすりと頬を触るが氷のせいで冷たい感触しか感じない。

俺は恨めしい気持ちを目に込めて柊に飛ばす。

 

「おい」

「なんだよヒゲ」

 

遠くから見ていたヒゲに声をかけられた。

思いたる節はある。

 

「お前があいつと演じたいのはわかる。そしてお前と演じることであいつの成長につながるのもわかる」

「だったら別にいいじゃん」

「だが…」

 

いっつもヒゲはうるさい。

 

「余計なことはするな。もし俺の邪魔をするならここから追い出すからな」

「わかってるって、ヒゲにとって不利益なことはしないよ。神に誓ってもいい」

「ふん、お前は神なんか信じてなかっただろう」

「今は信じてるって言ったら、ヒゲは俺を信じるか?」

「ないな」

「俺も逆の立場ならそう思う。まさか俺と同意見だとは思わなかったけどな」

 

ヒゲは俺と同意見なのが気に障ったのか、心の底からの嫌悪の表情をして去っていった。

かくゆう俺もヒゲ同じ意見という膨大な精神的ダメージを負う。

つまるところ諸刃の刃であり、最期の切り札なのである。

 

「えっと、大丈夫?」

「あぁ、あんなのいつものことだからな」

 

アメリカにいたときもいちいち口を出してきて、ほんとうざかった記憶がある。

認めたくないがこれはきっと同族嫌悪だろう。

アリサさんにも気持ち悪いほど似ていると言われたことあったっけ?そしてそれを否定できない自分がいる。

 

「そっか、あんなに真面目な顔初めて見たからちょっとびっくりしちゃった」

 

「ふーん」

 

初めてか、随分と景に期待してるんだな。

確かにあれはヒゲの探していた逸材だ。

ヒゲにとってはこの上無い幸運だろう。

景にとっちゃ不運だろうな、あんなおじさんに目をつけられるとは、生まれた時代が違えば…

いやそもそも景がオーディションに行かなかったら……いや変な考はやめよう。

景と俺が出会えたんだ。

とても喜ばしい出来事じゃないか。

 

不意に柊にが思い出したかのように言う

 

「そういえば来週の土曜空いてる」

「滅べ、暴力女め」

「は?なんつった?」

「何でもありません!」

 

俺は受けた痛みは忘れないタイプだが

久しぶりに敵にしてはいけない人を見つけた。

アリサさん並に厄介な人物だ、と俺は密かに心のブラックリストにメモる。

 

「話を戻すけど、土曜に撮影があるってさ」

「えぇ〜どうせ雑用だろ」

「景ちゃんのために取った仕事らしいよ」

「う〜ん」

「どうせ暇でしょ?」

「暇だけど…」

「じゃあ決定!」

 

無理矢理感が拭えない。

でも景のためと思えば、行くっきゃないよな。

 

土曜日の俺頑張れぇ!

 

 

 

---

 

 

 

 

 

 

 

「それでね〜リカちゃんが学校に持ってきちゃいけないもの持ってきてたの!」

「そうなんだねぇ」

「だからね私がダメだよって言ったらね、リカちゃんがチョコくれたの!」 

「すごいねぇ」

「うん!すごく美味しかったんだ!」

「なるほどねぇ」

 

タイムマシンがあるなら過去と未来どちらに行きたい?

もし尋ねられたらどっちを選ぶべきなのか。

俺は未来なんて見たくないから過去一択だし、過去に行って実際の江戸がどんなもんか見てみたいもんだ。

え?なんで江戸なの?そう思っている人もいるかもしれないが、周りを見て貰えば分かる。

まさしく江戸風のセットがあるわけだ。

このセットが江戸時代に合わせてるのどうかは知らねぇが、なんかそれっぽいし江戸でいいだろ。

つまり今江戸で撮影していると言っても過言じゃないのだ。

 

 

そして今現場にいるのだが、俺は何をしてるんだ?役者って子どもの子守りをする仕事じゃないだろう。

それとも俺が間違ってるのか?今のジャパニーズには子守りという義務があるというのか。

これがジェネレーションギャップというやつか?

 

「ねぇちゃんと聞いてる?」

「えぁ?…聞いてる聞いてる。リカちゃん人形がチョコになったんだっけ?」

「むぅ、全然聞いてないじゃない!」

 

はぁ、もうやだこの子。こわい。

 

「もう一回最初から話すね」

 

え?

 

 

---

 

 

結局あの子はあの後すぐにマネージャーらしき人に連れてかれた。

これほど赤の他人に感謝を感じたことはない、少し子どもに苦手意識が芽生えた。自由奔放な感じが対応しきれん。

別れる直前にお姉ちゃんにもよろしくねと言われたが、十中八九景のことだろう。

景と俺はエキストラとして撮影してたんだが、景のやつ現場を荒らすだけ荒らして帰ったもんなぁ。

ボケっとしてた俺も俺だけど、いくらなんでも蹴るとは思わんよ。

あいつマジでやばいだろ。

 

しかもあの後ヒゲとは無関係ですよアピールしてたのになんかバレて、監督に怪我人がでたから代わりに君がやってくれと言われた。

怪我人って絶対景が蹴った人じゃん。

まぁセリフもないし、後ろ姿ぐらいしか撮らなかったからあんまり苦ではなかったけど、俺である必要もなかっただろ。

 

撮影も終わり帰ろうとしたところで監督に呼び止められた。

 

「やぁ少し良いかな?」

「良くないです」

「あはは、手厳しいな………単刀直入に言うが、あの少女は一体なんなんだ?」

 

『誰なんだ?』じゃなくて『なんなんだ?』か。意外と目が良いな。

 

「なんで僕に聞くんですか?分かりませんよ。知り合いでもありませんし」

「黒山から君のことは聞いているよ、紫合君」 

 

ヒゲ帰ったら覚えとけ。

 

「実の所、君に代役を頼んだのもあの黒山の役者がどれほどなものか見たかったからなんだ」

「そうですか、でも…」

「慣れない敬語はやめておいた方がいい」

 

俺が代役したのヒゲのせいかよ!

 

「…俺の演技を見ただろ?落胆でもしたか?」

「あぁ普通だった、そして不気味だったよ。お世辞にも素晴らしいとは言えないが、些細なミスも見当たらなかった」

「あっそ」

 

俺の演技をそう感じ取ったのか。

あんたに対する評価が少し変わったよ。

良い意味でも悪い意味でもな。

 

「景の演技方法ぐらいあんたもよく知ってるだろ」

「知っているさ、かつて名を馳せた役者が……」

「そこまで知ってんなら俺に聞くことも無いだろ」

「本気で言ってるのか?」

 

監督が何を言いたいかは分かる。

でもそれは俺に言うことじゃ無いだろ。

そんなこと分かりきってんだよ。

 

「君に心は無いのか!彼女の人生をなんだと思ってる!」

「聞き飽きたよそのセリフ」

 

今まで何百人の役者と演じて、そのほとんどが消えた。

今更もう一人増えようがどうでもいい。

天才だろうが才能があろうが腐った果実は捨てられる。

それだけだ。

 

「選んだのは景だ。黒山は道を示した。俺はその道の少し先に突っ立ってただけだ。」

「…ッ!」

 

柄にも無いことを言ってしまった。

だがもう引き返せない。景は踏み込んだんだ、役者の世界に。たとえ景が後悔したとしても、俺には関係ない。

 

「話はそれだけか?」

「だがまだ……」

「くどいぞ。時間の無駄だ」

 

そう言葉を残し俺はその場を去った。

 

良心がないわけじゃない、俺だってやるせないさ。

こんなうだうだしてるなんて俺らしくも無い。

なのにどうして……クソッ!今日は本当にツイてない。

 

「気分転換にどっか行きてぇな」

 

ボソッと呟く。

独り言のつもりだったが、どっかの誰かが聞いていたのか後ろから言葉が返ってきた。

 

「じゃ行こっか!」

 

なんとも元気で可愛らしい声なんだ!

 

そして最近聞いた声でもある。

今俺の起きている現象を説明するならデジャブという言葉が当てはまるだろう。

なんか日本に来てから面倒事ばっかだ。

 

「なんでここにいる?千世子」

「え?ダメなの?」

 

ふらっと現れて可憐に微笑むその少女はいつも通りの立ち振る舞いをする。

この前会った時となんら変わらないその姿を見て思わず俺は見惚れてしまう。

かわいいは正義なのだ。

 

はっ!あと少しで悩殺されるところだった。

 

「?」

 

やめろ、そんな上目遣いをするんじゃない。本当に惚れちまうやろー!

 

「なんてな」

「え?なんか言った?」

「なんも言ってねえよ。お前も帰れ」

 

こっちは疲れてんだ。もう今日めっちゃ頑張ったから、お前を相手にできる元気なんてすっからかんだわ。

 

「ひどいなぁ、せっかくの美少女がデートしてあげるって言ってるのに。」

「絶対めんどくさいからやだ」

「ふ〜ん、そっか。そんな態度とっちゃうんだ。そういえば最近スターズに行ってるらしいけど、誰のおかげで入れてると思ってるの?」

「…千世子おかげだな」

 

確かに暇潰しとしてスターズに遊びに行く。

そのときに部外者だといろいろ手続きが必要だが、俺は千世子の名刺みたいなやつを持ってるおかげでヌルッと入ることができる。

今ではもう顔パスよ。

やっぱあれ最強カードすぎる。

 

「うんうん、そうだよね。そういえばさっき『お前()帰れ』って言ってたけど、誰か先に帰っちゃったの?

「黙秘だ」

「ヒゲヒゲかな?」

「ヒゲヒゲとは?」

「え?ヒゲヒゲっていう名前なんでしょ?」

 

誰だよこんなこと教えたやつ。

 

「紫合君が言ってたでしょ?ヒゲがどうたらこうたらって」

 

俺かよ。

 

「反応からして違うかなぁ。…あっ!確か新しい子が大黒天(そっち)に入ったんだけ?」

「なんだ、知ってるのか」

「アリサさんが教えてくれたよ。まるで紫合君みたいな子だってね」

 

どこが似てるのかさっぱり分からん、そして嬉しくない。

 

「もし私とデートしてくれるなら、その新人の子について私からもアリサさんに出させてあげるように言ってあげるよ」

 

なんやと!もし本当なら賭るしかないが、手玉に取られてるようでなんかやだな。

でも景の為なら…俺は…

 

「承諾しよう」

「あれ?なんか不服そうだね?」

「別に」

 

 

---

 

 

「で?なんでこんなことになってんだ?」

「えっとね、ファンの人に正体がバレて追いかけられてることになってるよ」

「今の状況を解説しろとは言ってねぇよ」

「てへ?」

「かわいいなオイ」

 

さっきまで美少女と東京を観光してたはずなのに、今は全力で走っているという事実。

後ろからはワーとかキャーの声と共におびただしい足音が聞こえる。

こうなったのも千世子、テメェのせいだな!

 

「今、お前のせいでこんなことになってるよクソ野郎って思ったでしょ」

「思ってない」

「紫合君って嘘がわかりやすいね」

 

生まれてこの方嘘がわかりやすいなんて言われたことないが、美少女を前にすると気が緩むのか?はぁ今後の課題だな、景に練習相手になってもらおう。

 

「とにかくどーすんだよ、このままじゃ先にこっちがスタミナ切れるぞ」

「あ、話ずらしたね」

 

こいつを天使って言ったやつ間違ってるぞ。

確かにかわいくて、性格もある意味よくて、欠点なんてないように見えるが残念なことに…なんて言ったら良いんだろう。

天使じゃないから………そう!悪魔だ!

こいつは人の嫌なことしかしない(良いことをするときもある)デビルマン、いやデビルウーマンだ!!

 

「で?誰がデビルウーマンだって?」

「あーもしかして口に出してた?」

 

おかしい本当に悪魔がいるゾ。

これは由々しき事態だ。

エクソシストさーんここに退治すべき悪の根源がいますよー!

 

「ま、待てよ。今はそんな場合じゃねぇだろ」

「うん、だから覚えておいてね。いつかこの借りは返すよ♡」

「ヒッ!」

 

その日俺はきっと今まで生きてきた中で全力で走ることができた。

すぐ後ろにいる天使(悪魔)のおかげで。

 

 

---

 

 

「どこいった!」

「早く探せ!」

「これはスクープだぞ!!」

「チヨコたんチヨコたんチヨコたぁーん」

 

思ったよりしつこいな、これを見ると百城千世子っていう存在がどれだけすげぇのか目に見えて分かるな。そんで最後のやつキモッ

 

「おいここに隠れてて大丈夫か?すぐ見つかりそうだぞ」

 

小声で隣にいる千世子に話しかける。

 

「おかしいなぁ、いつもならすぐに撒けるのに。紫合君のせいじゃない?」

「はぁ?なんで俺のせいなんだよ!そもそもお前がなぁ!」

「うるさい」

 

ついつい大声を上げそうになった俺の口に千世子の人差し指が添えられる。

不意を突かれたせいで口を噤んでしまった。指やわらか!

 

「おーい!こっちにいたぞ!」

 

いきなり遠くから声が聞こえその声を聞いた人が走りだし、周りの人も金魚のフンみたいに走っていった。気がつけば俺らの周りには誰一人いなくなってた。

 

「ふぅ、なんか助かったな」

「どちらかと言うと私が助けたんだけどね」

 

何言ってんだオメェ?っていう顔を千世子に向けると彼女は満面の笑みでスマホの画面を見せてくる。

 

「は?」

「いいから読んでみて」

「えっと…『今回もよろしくね!』『はぁまたですか』って書いてあるけど」

 

スマホの画面には何やらメールの内容が写されていた。

相手はマネージャー?千世子が『今回もよろしくね!』って言ってマネージャーが『はぁまたですか』と返した。

そしてそのメールを送った時間は今から5分前ぐらいだ。

 

ということは…

 

「さっきの声はマネージャーだったのか?」

「だいせいかぁーい!」

 

パチパチと申し訳程度の拍手を頂いた。ウゼェ。

 

「私ってよく追いかけられるからいつもマネージャーに協力してもらってるの」

「クソ迷惑じゃねぇか」

「確かにそうなんだよね。明日は久しぶりの休日でゴロゴロ出きる!って昨日言ってたから、申し訳ないことしたなぁとは思ってるよ」

「不憫すぎるだろ」

 

せっかくの休みも満喫できないとはやはりこの悪魔、鬼畜すぎる。

 

「さて帰るか」

「え?なんで?」

「一回バレちまったら二回目からバレやすくなる。これ芸能界の鉄則だろ」

「でもあれは私が変装を解いたからバレたわけで、変装そのものがバレたわけじゃないよ」

「ほら見ろ。自分が変装を解いたせいでバレたのを認めたな」

「それは今関係ないでしょ」

「いーやあるね」

 

ここだけは絶対譲れない、そんなプライドが俺をここまで駆り立てる。負けねぇぞ!俺は負けねえ!

 

「そうゆう頑固なとこがヒゲヒゲと似てるんだよ」

「がはっ!」

 

クリィーンヒッットォォォォォォォオ!!!

 

「俺の負けだ」

 

がくりと膝が地面につく

 

「よく俺の弱点がわかったな」

「アリサさんに教えてもらったからね」

 

アリサさんだと!何故そんなことをするんだ。

そんなにも俺がスターズに入んなかったことを根に持ってるのか?!

 

「ほらふざけてないで立って」

「はいはい」

「じゃあ帰る前に撮ろっか」

「やっぱりそうなるのか」

 

実は俺たちが隠れている場所はプリクラの中なのだ。

すごいテンプレっていうか、ありきたりな場所で隠れるなぁと思ってたけど、見つかることはなかった。まさしく灯台もと暮らし。

 

「いくよ〜」

「あいよ」

 

写真は一生残るものであり、無様な姿は撮られてはいけない。

なるべく普通にそして潔く取られる。これが真理。

 

あ、オイ!そんなに盛るんじゃねぇよ!

原型もクソもねぇじゃねぇか!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ、ちなみにバレないように『千世子は悪魔』と書いたらガチで殴ってきました。

 

 



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しーん6 ゆるさない

 

ヤベェ結構不味い。不味すぎる。

こんな日に限って寝過ごすなんて、アラームもっと鳴っとけよ!

 

と、こんな感じで俺は今めちゃくちゃ焦っている。

どのぐらい焦ってるの?と言われたら、飲んだ牛乳が1ヶ月前に消費期限切れてたぐらい焦ってる。

 

今日は景と一緒にオーディションに行くつもりだったが、お察しの通り寝坊してしまった。景には先行っとけと連絡したがどうだろうか。景も寝坊してたらどうしよう。

 

ちらっと時間を確認するがどう見ても遅刻は確定している。

たとえ神に祈ったとしても諦めて蹲っても結果は変わらないのだ。

 

「はぁ仕方がないか」

 

もう残された手段はひとつだけ。

あまり気は進まないけど仕方ない。

スマホを取りだしある人に連絡を取る。

俺の知人の中で一番地位がある人に。

 

「もしもし、アリサさん。実はさぁ……」

 

---

 

 

デスアイランドと言われる無人島に漂流した生徒たちが最後の一人になるまで殺し合うデスゲーム。

 

なんとも単純な設定だ。

今流行りのペイペックスみたいなもんだ。

いや、全然違うけど。

 

「で、もう台本をもらっていいのか?まだオーディションしてないけど」

「うん、上からはそう言われてるしね」

 

縦社会の闇を見た、俺のせいなんだけどね。

結局アリサさんに頼っちゃったから、これで二つの借りができてしまったわけだ。

一体どんな要求をしてくるのか。

想像もしたくない、最悪だ。

 

オッホッホッホッとアリサさんが笑う姿を思い……浮かばない。

逆にそんな笑い方だったらちょっと引いてしまう。

 

「それに紫合くん、君にはあめりかでの功績があるのだから誰も反対しなかったよ。僕を含めてね」

「そんなに評価して頂けるなんて、うれしいよ。手塚さん」

 

丸メガネ(サングラス)とピアスそして顎髭が印象的なオッサンがニコリと笑っている。

 

手塚由紀治、スターズの演出家であり、ヒゲとも知り合いらしい。

俺とは違うベクトルで性格が合わなそうな人だ。

 

「それでこの車どこに向かってるんだ?」

「とある撮影現場さ。名目上オーディションはやらないといけないから、実際の現場で審査するよ」

「はぁ」

「まぁ気楽に行こう、気楽に。いつも通りの君でいいのさ」

 

わざわざ車に乗るほど遠い現場でやらなくてもいいと思うが、俺はどうこう言える立場じゃないから従うしかないんだよな。

 

「緊張してるかい?」

「してない」

「じゃ一緒に深呼吸でもしないかい?」

「しない」

「はいっ!吸ってー吐いてー吸ってー吐いてー、これを三回繰り返そう」

 

なんで俺の周りには異彩な人が多いんだろうか。

 

なんか嫌な予感がする。

帰りてぇ。

 

---

 

「うわぁ」

 

現場について俺が放った言葉である。

それも仕方ないだろう、何せ見覚えのある場所だからだ。

 

目の前に広がる広野。

隣には火薬の箱。

そして…

 

「やぁ久しぶりだね。仁伊路君」

 

クソイケメン野郎がいる。

 

 

 

オイ!これウルトラ仮面の撮影じゃねぇか!!

もう爆破する感じじゃん。

圧倒的に戦闘するじゃん。

 

「どうしたんだい?」

「…いや、何でもねぇよ」

 

トホホとでも言えばいいのか、俺の嫌な予感は的中したわけだ。

 

つまりこの撮影がオーディションってことか。

でも何役なんだ?明らかにこの場所は戦闘シーン用だろう。

まさか新キャラか?二人目のヒーローにでもなってしまうのか?

 

「何でここに居る?って言いてぇが……そりゃ居るよなお前が主役だもんな」

「まぁ、主役ということになるかな?」

 

何やこいつ。

見ないうちにウザ度が上がったな。

 

「僕も驚いてるんだ。代わりの人が来るとは聞いていたけど、仁伊路君が来るとは思わなかったからね。それに仁伊路君が日本に帰ってきたこともさっき知ったんだ」

「俺は今知ったよ」

 

てゆうか何年ぶりだ?

最後にあったのがいつか覚えてないな。

 

「それでどれがオーディションなんだ?」

「オーディション?何のことだい?」

 

すると俺の口が塞がれて引っ張られる。

目線を動かせば手塚が犯人だと分かる。

 

「何すんだよ」

「いいかい紫合くん、実は僕と君以外これがオーディションとは知らされてないんだ」

「はぁ?」

 

耳元で囁かれた言葉に反応してしまい、思わず声が出る。

 

「何でだよ!」

「紫合くん、よくよく考えてみたまえ。いくら期待の役者だといっても、いきなりウルトラ仮面に出れると思うか?」

 

なるほどな、つまり……

 

「俺は期待の役者じゃねえってか?」

「うん、違うね。ただの埋め合わせとして呼ばれたってことになってるんだよ」

 

俺のボケが一言で否定された。悲しい。

 

「その埋め合わせとして呼ばれた役者がたまたま俺だったってわけか?」

「そうゆうこと、たまたま君だったのさ」

 

やれやれ、アリサさんに礼を言わないとな。

でもここまでやれとはいってねぇぞ。

 

「もう大丈夫かい?」

 

空気を読んでくれたのか離れていたイケメンが聞いてくる。

 

さてここでぶっちゃけると大丈夫ではないのだ。

別に今回の撮影のことで心配してるのではない。

 

まぁそのなんだ……久しぶりに会う友達って気まずくね?

俺の思考は先程からそれで埋め尽くされている。

 

いや、だってさ、小学校で仲良かった友達が中学で違う学校になって高校で再開した、みたいな感じよ。

 

気まずいったらありゃしねぇよ。

どうすんだ!これどうすんだってばよ!!

 

ただでさえあんな事があったんだから……

 

「あぁおそらく問題はねぇ」

「そうかならいいけど…」

 

逆に!逆に聞きたいけどさ、お前は気まずくないのかね?え?どうやったらそんな爽やかスマイルができんだよ!

 

「チッ……はぁ、今回の撮影…」

「?」

「…世話になるよ、星野」

「あぁよろしくね、仁伊路くん」

 

やるしかない、か……

 

 

「さて、困惑してるところ悪いが着替えてもらおう」

 

お!きたきた。

俺が何役かまだ知らされてないかなずっとそわそわしてたよ。

まさかウルトラ仮面に出れるとはな。

 

あのガキどもにも自慢したいぜ!

 

---

 

「あの、これって……」

「そう着ぐるみさ!怪獣のね」

 

いや、悪役かよ!

よく考えてみればこのタイミングで新キャラは確かにありえない。

ちょっとぐらいさ、ほんのちょっとだけどヒーローとか演じたかったなんて思ってました。

 

「俺の記憶が正しければこれ幹部の一人だよな?」

「あぁそうさ」

「え?俺がやるの?おかしくね?」

「ハッハッハッ」

 

笑ってんじゃねよ手塚。

しかしどうなってやがる、いくらなんでもこれはおかしい。

そもそもこうゆう顔がいらないシーンはスタンドマンがやるはずだ、だからこそおかしい。

 

しかも悪役の幹部を演る(やる)ってのがより一層気味が悪りぃ。

 

「この回でこの幹部が死ぬんだよな?こんな大事な回なのに俺なのか?」

「死ぬなんて言葉は使っちゃダメさ。正確には『倒される』だ」

 

んなもんどっちも同じだろうが。

 

「つーかスタントマンは?」

「帰らせたよ」

「は?」

「いやぁ、あの顔は見物だったね。」

 

同情しかしないわ。

長い時間かけて現場まで来たのに帰らせるなんて。

やっぱこいつ鬼畜だな。

 

「さぁ着替えようか」

 

当然のように俺に拒否権はない

 

 

---

 

今日は日差しが強い。

暑いとは思わないがちょっと動いただけで汗が出る。 

 

どうゆうことかというと……

 

「あっついわ!!そしてくっさ!」

 

当たり前である。

一、二分しか着てないのにこんなにもダメージを負う物なのか。

 

「おい!リハーサル必要か?!」

「うーんやっといたほうがいいと思うけどなぁ」

 

ニヤニヤしながら手塚が言う。

 

あいつぜってぇこの状況を喜んでやがる。

 

「いらねぇよ!動きはもう覚えたからな!本番だ、本番!」

 

はっきり言って現場での紫合の印象はあまり良くない。

いきなり上から押し付けられ、丸投げ状態なのである。

手塚のおかげで現場は荒れずに済んでいるのだ。

 

当の本人は気にもしていないが。

 

 

 

くぅぅーーうぅ!

ごくごく飲む水がうめぇ。

本当はスポーツ用飲料水が良かったが、仕方ない。

 

それよりさっきからずっと見られてるがなんでだ?

……分かったぞ!俺の演技に見惚れたのか。

フッ残念だったなぁ!俺はまだ50%しか出していない。

俺の全力の演技とくと見よ!

 

 

 

残念ながら当の本人が気づくことはない。

だがこれは大した問題でない。

それよりやっかいなのが……

 

「すいません。本番は僕がウルトラ仮面に入ります。」

 

星野アキラという人間が爆弾をぶん投げた事だ。

 

「え?いや、何言ってんの?冗談がうまいね。さすが芸能人イケメンランキングで3年連続No.1をとっただけあるね。でも流石に危ないよ多分。危ないと思う。」

 

流石に想定外だったのか手塚は良くわからないことを言う。

なんだそのランキングは……ちなみに俺は何位だ?

 

「冗談ではありません。僕がやります。」

 

アキラの目はただ真っ直ぐに見据えている。

まるで何かの覚悟を決めたように。

 

そんなアキラの気持ちが手塚に『見てみたい』という欲求を抱かせてしまった。

 

「分かったよ。でも僕の一任で決めることはできない。だから少し話してくるよ」

 

手塚はただ紫合を送ってきたに過ぎず、現場に関わることはない。

だから現場監督と話そうと踵を返して歩き出した。

 

一つ言えるとしたら1人のわがままが現場を掻き乱したことは確かである。

 

そんな中紫合は、『えぇ?あいつとやるの?嫌なんだけど…』

シンプルに愚痴を心の中にこぼしていた。

 

そもそも変身した後は俳優が演じる必要ないじゃん。

後でアフレコしてろよ。スタントマンの存在意義をなくすんじゃねぇ!

俺が言える立場じゃないがな。

 

 

---

 

 

「よーいっ、アクション!」

 

結果としてアキラは演じることを許され、紫合は気まずい相手と演じることになった。

 

さっさと終わらそう。

そんな気持ちを抱くのもしょうがない、長年の付き合いってほどでもないが俺はもう分かっている。

 

俺とアキラじゃ合わない。ただそれだけだ。

 

「ここで貴様はおわりだぁ」

 

セリフは後付けだがタイミングを合わせるためにセリフを言う場合もあるらしい。

 

だから腑抜けた声なのは許してくれ。

やる気がないからな。

 

「僕は諦めない!僕は勝たなきゃいけないんだ!」

「貴様が俺様に勝つだって?正義のヒーローがそんな嘘ついてもいいのかぁ?それとも本気で勝つ気でいるのかぁ?」

 

なんか凄い!すごいぞ俺!悪役っぽいぞ!

セリフを見たときはどんな感じで言ったらいいか分からなかったが、ノリと流れで何とかなった。

 

しかし名役者じゃないかアキラ。

俺が見ない間にここまで変わってないとはビックリだ。

 

あまりにも()()()()()()()()()

 

失望した、というかもともとそんな期待してなかったけどね。

 

「くっ…」

 

俺の攻撃を食らいアキラが膝をつくふりをする

 

「何度でも言おう。貴様じゃ俺様を倒せない」

 

アキラはもって1、2年かな。

しょうがないよね。

アキラは俺と同じように才能がないんだから。

 

だから……

 

「諦めろ」

 

お前は必要とされてない。

 

「……僕にも譲れないものがある。あの日、彼女に誓ったんだ。世界を守るとッ!」

 

お前は役者になれない。

 

「だから、僕は絶対負けられないんだ!」

 

お前はもう負けてるよ。

 

俺はただ暑苦しい着ぐるみの中からアキラを見据える。

どんな顔をしてるか見えないが、きっと苦悶の表情だろう。

対して俺は無表情だ。なぜか何の情も湧かない。

 

「あの女か……仕留め損なったが貴様にとっては喜ばしいことじゃないのか?」

「何を言っている?」

 

あの女とは幼馴染のことだ。

ウルトラ仮面が、いや星野アキラが救えなかった人。

今でも彼は自分を責めてることだろう。

あの時と同じように。

 

ニヤリとつり笑ってしまう。

これほどまでに役がハマるとは思いもしなかったよ。

 

「分からないか?あの女は貴様の唯一の弱点なのだ。」

「弱点だとっ!」

「あぁそうさ!そんな弱点が無くなったんだ!喜べよ!」

 

ゲラゲラと笑う俺に対してアキラは動かない。

 

ここからはアキラことウルトラ仮面が主人公補正を使ってなんやかんやで俺を倒す手順だ。

 

「…………」

「どうした?喜び過ぎて声も出ないか?」

()にできるのはいまも昔も変わらない。だから俺はお前をッ…………」

 

さぁ『倒す!』と言え。

そうすれば休憩だ冷たい水にありつけるんだ!

 

たった三文字、言い切るのに一秒も必要ない言葉。

だから早く言ってくれ。

 

だが俺は勘違いをしていた、いま目の前にいるのはウルトラ仮面ではなくアキラなのだ。

そして俺は失念していた、アキラの本心を。

 

時間が解決してくれる。そんな言葉を信じて、今まで逃げてきたツケが回ってきた。

 

「許さない!」

 

台本無視。アドリブ。セリフを忘れた。そのどれでもない言葉は驚くほどに違和感がない。

 

アレは本音。ただの本音だ。

 

どうやらアキラはまだ俺を許してくれないらしい。

 

「へぇそうかい」

 

思わず声が出る。

小声だったから誰にも聞こえてないはずだ。

だから安心して言える。

 

「俺もお前が嫌いだよ」

 

だから言ったろ?俺とアキラは合わないって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺とアキラの間に何が起こったのか、それはまた別の機会に話そう。

 

 

 

 

 

 

---

 

「お疲れしたー」

 

撮影が終わったのは俺が現場にきてちょうど3時間ぐらいだ。

思ったより時間がかかったな。

早く帰ろ。

 

セリフを変えてしまったあのシーンは撮り直さなくていいと言われた。

声は後付けだし、仮面をかぶっているので口の動きも分からないから大丈夫だとさ。

 

三文字の言葉のはずなのに口が5回も動いてたら違和感しかないよな。

 

とにかく終わりだぁ! 

だが簡単には帰してはくれないらしい。

アキラがこっちに駆け寄る。

 

「ごめん」

「なんだよ。俺はもう帰るんだ。邪魔すんな」

「僕は役者失格だ。芝居に情を挟むなんて……」

 

アキラは申し訳なさそう頭を下げる。

 

「気にすんな。それに情が入るくらい集中してたんだろ?」

「……」

「お前よりヤベェ奴知ってっから、なんとも思わねぇよ」

 

長い黒髪のシルエットが脳裏に浮き出る。

それでもまだアキラは頭を下げたままだ。

 

アキラがこんなに謝ることに少し驚いた。

俺を嫌ってるわけじゃないのか?

 

数秒後アキラはやっと頭を上げた。

その顔は少し寂しそうだった。

 

「ありがとう…」

「勝手に感謝しとけ」

 

はぁ、とため息が出るぐらい疲れた。

これだからイケメンは嫌いなんだ。

もうこいつとは演じたくない。

 

「じゃあな、さよならー」

「あぁ、()()

 

また?

残念ながらもうお前と会うつもりはないのだ。

これがキミとの最後の会話さ。

アハハ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして約1ヶ月後に俺とアキラが出会う。

 

「なんでここにいるぅ!」

「僕もこの映画に出るんだ」

「うげぇ」

 

これが約1ヶ月ぶりの会話である。

 

 

 

 



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