プリキュア4 (皆笠)
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プリキュア4 #01《You're myself,I'm yourself》

「嫌っ、見んといてっ」

「嘘だっ、あたしは信じないっ」

「貴女なんか、私じゃないっ」

「違うっ、違うもんっ」

「そんなの嘘クルッ」

………

 

「みゆきぃぃぃっっっっ!!!!!」

 

………

 

「おっと、少し先を視過ぎてしまいましたな。これは失礼致しました」

 

………

 

ガタンゴトン、と電車は音を立てて線路を進んでいく。

その音を聞きながら、少しずつ変わりゆく窓の外を眺めていた。似てはいても同じものは無い、そんな景色を楽しんでいた。

「みゆき、おにぎり食べる?」

「うん」

お母さんの声に頷き、おにぎりを一つ貰う。

鮭のおにぎり、程よい塩味が効いていて、とても美味しかった。

 

これから知らない町で暮らすことになる。前に住んでいた所は本当に田舎だったけど、これから住むのはそれなりの都会らしい。そこで暮らすのがいつまでなのかは分からない。でも、なんとなくだけど、ウルトラハッピーの予感がする。

 

窓を隔てて入ってくる春の陽気にまどろむと心地よい……。

「ん?みゆき、寝ちゃったのか?」

「仕方ないわよ、ずっと電車に乗ってるんですもの」

「それもそうだな」

 

 

……目の前に青色の扉が現れた。

「!?」

自然と手が動き、青色の扉を開けた。カチャ、でもなく、ギギィ、でもない、ただ無音で扉は開く。

その先に在ったのは一つの部屋、蒼色を基調とした部屋である。壁から床、家具の一つ一つに至るまで全て蒼。

その部屋のなかに唯二つだけ蒼では無い者が居た。一人は鼻の長い老人、もう一人はあやふやな存在でよくは見えない。

「ようこそベルベットルームへ。此処は夢と現実、精神と物質の狭間に在る場所」

老人は高い不気味な声で話しかけてきた。

「おお、これはまた変わった運命をお持ちの方がいらしたようだ。ふっふっ」

老人は笑う、不気味に。

「失礼しましたな。ところでお客人、私の隣に立つ者をよく視てくださいますかな」

「え?」

目を凝らしてあやふやな人を見ると、途端三人が視界に入っては通り過ぎていった。一人目は髪の短い女性、二人目は髪の短い男性、そして三人目は髪の長い女性。そして、その三人が過ぎた後残ったのは三人目の髪の長い女性。

 

「……そう、私が“視えた”のね」

女性は呟く様に言った。

「彼女はマーガレット、そして私はイゴール。お初にお目にかかります」

「私はお客様の旅のお供を勤めさせていただきます」

「……旅?」

ようやく会話に参加が出来た。

「ええ、最初は長くとも過ぎてしまえば短い旅でございます。此処は本来、何かの形で契約を果たされた者のみが訪れる部屋。貴女には近く、そうした未来が待ち受けているのやもしれませんな」

「は…はあ……」

そういうしかなかった。

「そう身構えなくとも良いですよ。貴女はただ運命に身を任せておけば良いのです。いまのところは、ですが」

マーガレットさんは妖しい笑みとともに口を開き、更に言葉を続ける。

「今回は挨拶程度です。では、再びお会いするその時まで」

「ごきげんよう」

意識が遠のく中、マーガレットさんとイゴールさんの声が頭に響いていった。

 

 

「ううん」

目を開けると、目の前には両親の姿。

「あら、やっと起きたの?」

お母さんの声。

「丁度良かったな。みゆき、そろそろ着くぞ」

「え?」

飛び起き、窓の外を観た。窓の外に広がるのは観たことの無い町。町の中央部には大きな川が流れているのが見えた。

『ええー、次は七色ヶ丘市、七色ヶ丘市です』

………

 

 

【SmilePrecure!×Persona4】

 

 

The first episode.

《You're myself,I'm yourself》

 

 

………

「………」

駅から町を見回す。本当に前とは違うなあ。

 

前に住んでいた場所は本当に何も無い田舎だった。ほとんどのことが自給自足で、周りの人と助け合いながら生活していた。この前までは両親は東京の方で互いの夢を追い求めて共働きをしていて、そのことから仕事が忙しく、面倒を見切れない、との理由で先日までおばあちゃんの所で住んでいたのだった。

だが、母親が十分に好き勝手をしてきた。これからは娘と生活をしたい、との理由から仕事を辞め、父親も納得し、東京ではないけど、この七色ヶ丘市に転勤して三人で暮らすことになったのだった。

 

前に住んでいた周りの皆と繋がっている感じがした田舎も好きだけれど、この様な都会はそれはそれとしてワクワクした。

 

 

……

それからの数日は何事も無く、ただただ過ぎていった。

………

 

[?]→[4/11]雨/曇

 

………

部屋の段ボールを片付け、ようやく部屋らしくなった。

そんな中で布団に倒れ込む。

「疲れたな……」

寝そべったまま、窓の外の曇った空を見る。

「これから、ここで暮らすのか……」

自然と不安と期待の混じった言葉を呟いた。

 

 

霧の掛かった場所に一人立っていた。

……夢?

そう結論付けた時、どこからか声が聞こえた。

 

ー真実を知りたいか?ー

 

真実?

 

ーそう、真実だよー

ー知りたいなら、僕を捕まえてごらんー

 

霧の中に人影が一瞬現れて、走っていった。

追いかける、追いかける。

けれど、辿り着けない。

あと少しなのに、と思い走るのを速くすれば遠ざかり、もう無理だ、と思い走るのを止めれば相手も止まる。

その繰り返しを幾度も続けていた。

………

 

[4/11]雨/曇→[4/12]雨/曇

 

……

目の前にあるのはまだ見慣れないが自分の部屋の壁。決して霧だらけの世界ではない。

「ん……やっぱり夢、だったんだ」

布団からのそのそと抜け出した。

 

 

本日は転校初日の登校日。

新しい町に迷わない様に同じ制服を着た子達を追いかけていた。

 

ようやくたどり着いた学校へは職員玄関から入る。それからとりあえず用務員さんに話を通し、校内へと入った。

「あら、貴女が転校生の星空さん?」

恐る恐る職員室の扉を開けようとしていると、後ろから声を掛けられた。

「はっ、はいっ」

驚いて少し声がうわづってしまったかもしれない。

「そう、丁度良かったわ」

後ろから声を掛けてきた大人の女性は今度は微笑み掛けてくる。

「私は佐々木なみえよ。貴女は今日から私のクラス。ほら、着いてきて」

「は、はあ」

そうだったのか、と納得した。

 

教室には佐々木先生が先に入っていった。なんでも、紹介をしてくれるらしい。

「今日から新しいクラスでまだ戸惑ってる子も多いと思うけど、更に新しい子も来るからね。ほら、入って」

「はい」

先生の声に教室がざわめく、そんな中、私はガラガラと扉を開け、入っていった。

「星空みゆきさんよ、仲良くしてあげてね。ほら、星空さん。自己紹介して」

「はい、私は星空みゆきです。私は絵本を読むのが好きで、特に好きな絵本はシンデレラです。絵本って最後はいつもハッピーエンドなので、私はいつもハッピーを探しています。そんなわけで、よろしくお願いします」

クラスから拍手が起こる。

「先生、星空さんの席って私の後ろで良いんですよね?」

クラスの窓際後ろから二番目の席に座っていたやや暗い赤色の髪を束ねた女の子が声を上げた。

「そうね。星空さん、あの窓際の一番後ろに座って」

「はい」

 

席に座った直後、前の席の女の子が話しかけてきた。

「うちは日野あかねって言うんや、よろしくな。転校生」

「星空みゆきです」

「ははっ、知っとるよ」

手短に挨拶を済ませると、

「これでホームルームを終わります。明日から通常授業だからね」

と言う先生の声と共にホームルームが終わった。

ふと窓の外を見る。

「……霧?」

外は白く染まっていた。

 

 

……

「今日はゲームの発売日~」

一人の男子生徒は走って家へと向かっていた。家々が列なる住宅地で男子生徒は見つける。

「…なんだよ…アレ……」

男子生徒は口をつぐみ、そして、目を擦ってからまたその上を見上げる。

「うわぁぁぁぁぁ!!!」

一軒家のアンテナにはコードに絡まっている老人の遺体があった。

……

 

 

ホームルーム後はクラスメイトから質問攻めにあった。

「ねえねえ、どこから来たの?」

「趣味はやっぱり本を読むこととか?」

「星空さん可愛いね、今度遊びに行かない?」

「今度星空さんの書いた絵本見せてよ」

……相手が多すぎる。

「ええと……」

戸惑っていると、日野さんが助け船を出してくれた。

「ちょっと、ストーープッ。星空さん困ってるやろ?」

「そうそう、少し落ち着きなよ」

やや暗い緑色の髪の子も助け船を出してくれた。

「一人一人、順番にしましょう」

やや暗い青色の髪をした子も続く。

こうして場は収拾を付き、対処をすることが出来た。

 

 

日が傾きかけた頃、ようやく質問攻めは終わり、皆が帰っていった。最終的に残ったメンバーはさっき助けてくれた三人。

「さて、転校生。星空さん、やっけ?今日は一緒に帰ろうや」

日野さんはどうやら関西から来たのかな。関西弁で話す日野さんは一緒に帰る誘いを掛けてきた。

「あ、私たちも良い?」

緑色の髪の子も一緒に帰りたい様だ。

「別にええよな、な?星空さん」

「う、うん」

とりあえず頷く。

 

帰り道、最初に口を開いたのは青色の髪の子。

「言い忘れました、星空さん。私は青木れいかです。そしてこちらは緑川なお。……日野さんのことは既にご存知でしたよね」

自己紹介の様だ。

「私は星空みゆきです」

「知ってるよ、さっき自己紹介してたでしょ?」

「あっ、そっか」

「さっきとおんなじことしてどないすんねんっ」

自己紹介を終えてからは他愛のない様な話をしながら帰った。

 

 

「みゆき、買い物行こっか」

帰宅後、お母さんからそう告げられた。

「うん、分かった」

荷物を置き、手短に着替えてからお母さんと外に出た。

 

『少し待っててね』

そう言い残し、タイムセールに行ってしまったお母さんを待つため、デパートのベンチに座っていた。

そこへ、1人の若い男性が近づいてきた。格好から店員の様にも見える。

「見ない顔だね、迷子?」

どうやら迷子と誤解してる様だ。

「ううん、お母さんを待ってるだけ。見たこと無いのは最近引っ越してきたばかりかな」

そう答えると、男性はははっ、と笑う。

「そっか。ま、何にせよよろしく。僕は結構この店にいるからさ。困ったら相談くらいは受けてあげるよ」

「うん、よろしくね」

男性の差し出した手に応じ、握手をした。

「それじゃ、また」

「うん」

男性は以前マーガレットさんにされた様な妖しい笑みを浮かべて去っていった。

「…ううっ」

その姿を見送っている内に、酷い頭痛に見舞われる。 だが、不思議と頭痛は一瞬のみ訪れただけで、すぐに去った。

そこでようやくお母さんは帰ってきた。

「ふう、どうにか買えたわ。ん?どうしたのみゆき」

「ううん、何でもないよ」

「そっか、じゃあ帰ろっか」

コクン、と頷いた。

 

……

辺りを検察官がうろつく。数メートル離れた所には黄色のテープが貼られていて、一般人の侵入を拒んでいた。

此処は紛れもなく事件現場。

「ひでえことしやがる…」

一人の警察である男は電信柱に吊るされて死んでいる遺体を見て呟いた。

「ちっ、嫌な予感がしやがる」

男は警察としての勘でまだ事件は続く予感をしていた。

……

 

………

 

[4/12]雨/曇→[4/13]曇

 

………

そして次の日。

その日は朝から雨が降っていて、春先だと言うのに少し冷えた。

 

授業を終えて放課後。

「さ、今日は帰ろうか。星空さん」

昨日と同じ様に日野さんが帰る誘いをしてきた。

「うん、分かった」

了承し、荷物を片付け鞄に積めてから学校を出た。

 

「星空さんはこの町の名物って知ってるか?」

「ううん、来たばっかりだし全く知らないよ」

首を振りながら応答する。

「それはな、うちのお好み焼きやっ」

自信満々に言う。

「お好み焼き屋やってるの?」

「そうや。そのせいかうちの焼くお好み焼きの味はおとんに負けないでー」

「ふうん」

お好み焼き、か。ちっちゃい頃に一度だけ食べたことあるような、ないような。味は当然、思い出せる訳もない。

「そや、今日はうちに寄ってってーや。一枚食わせてあげるわ」

少し俯けて思い出そうとしていた顔を一気に上げる。

「良いの!?」

「かまへんかまへんって、一枚くらいなら問題ないしな」

笑って日野さんは流す。

その時、

「あっ、その話私たちも良い?」

後ろから二つの走ってくる音と声が聞こえてくる。この声は緑川さんかな。

「ちょっと、なお。急に走り出さないで下さい」

息を荒く吐きながら少し遅れて辿り着く青木さん。

その姿を横目で見つつ、日野さんは右手の人差し指を顎に持っていった。

「んーと、三人分くらいなら大丈夫かな。ええよっ、ほな行こか」

「美味しいんだよね、あかねん家のお好み焼き」

「お好み焼きなんて久しぶりです」

各々に楽しそうにしている。

「……どんな味なんだろう…」

一人、誰にも聞こえないように呟いた。

 

「美味しいっ」

それがおそらく初めて食べるお好み焼きの感想だった。

「そうやろ?」

日野さんは笑顔をこちらに向ける。

「うんっ、ウルトラハッピー」

「良かったわー」

一息吐くために水を飲んだ。

「あかねの焼くお好み焼きも美味しいね」

「そうですね」

「そんな褒めんといてー、照れるやん」

日野さんは頭を掻いて照れ隠しをする。

「ふぐふぐ、そういえばさ、はぐはぐ、マヨナカテレビってひってる?もぐもぐ」

お好み焼きを口に入れたまま話し出す緑川さん。

「ちょっとなお、食べ物を口に入れたまま話すのは行儀悪いですよ。食べるか話すかのどちらかにしてください」

「ごくん」

「そっちかいっ」

青木さんが礼儀を正し、それを緑川さんが青木さんの意図とは別に実行する。そこへ間髪入れずに日野さんのツッコミ。この三人は普段から仲良しなことを自然に教えてくれた。

「ま、とりあえずこの漫才は一旦閉じて、マヨナカテレビについて話そっか。知ってる?」

自分で巻き起こして自分で閉めにいく、自由な人だなあ、緑川さん。

「ええと、雨の日の深夜零時に一人でテレビを見ると勝手に映り出す、という噂でしたよね」

「そうそう、流石に知ってたか。結構有名になっちゃってるもんね」

「うちも聞いたことあるな。映るのは運命の人、とかなんとかって噂付きやけど」

「ふうん」

お好み焼きを食べる手を一旦休め、会話に参加することにした。

「面白そうだね、丁度良いから今日見てみようよ」

「せやな」

「そうだね」

「それまで起きていられるでしょうか?」

それぞれの反応を取っている。

その時、店の入口が開き、一人の男子が入ってきた。

制服から、同じ中学だと悟る。

「よっ、日野。お好み焼き食わせてくれよ」

その男子が入ってくるなり、日野さんは顔を少し赤らめた。

「う、うん。ええよ、ちょっと待っといて、広瀬先輩」

日野さんは気のせいかはりきってお好み焼きを焼き上げた。

「おっ、旨そう。いただきまーすっ」

広瀬先輩と呼ばれた男子はお好み焼きにがっつく。

「うんっ、うめえ」

「そ、そう?」

日野さんは照れつつ言う。

そこで、青木さんが耳打ちをしてきた。

「日野さんは広瀬先輩のことが好きなんです」

ふうん、そういうことか。

それからワイワイと話した後、解散した。

 

時刻は日が変わる直前となった。

結局は単なる噂に過ぎないだろう、と高を括っていたが、少しは興味が引かれていたために頑張って起きていた。

こっそりと音を立てないように気を付けながら布団から出て、部屋にあるテレビの前に立つ。

コツ、コツ、と言う時計の秒針だけが音と時を刻んで行く。

そして……

 

ジジジ……

「!?」

テレビは勝手に付き、砂嵐を映し出す。

「!?」

……誰かいる。

期待はずれと肩を落としたその直後、砂嵐の中には誰かが映り込んでいた。結局、と砂嵐だらけで見にくいから分からなかったけど、どこかで見たことがあるような姿をしていた。

そのとき、

 

ー我は汝、汝は我ー

ー汝、扉を開く者よー

 

頭に直接誰かが語りかけてきた。

同時に頭痛が走る。

左手で痛む頭を押さえ、そして右手は勝手に動き、手を伸ばしていた。右手はテレビへと向かってゆく。

そして、右手はテレビの画面に当たった瞬間、テレビに穴が現れ、ぐにゅっと埋まりこんだ。

「!?」

必死に左手を頭からテレビの端へと移動させ、手を引き抜いた。

 

その後、様々な疑問を抱きつつ布団に入り、睡眠を取った。

………

 

[4/13]曇→[4/14]雨

 

………

朝のHR前は時間が少ないことから、マヨナカテレビの話をすることは出来なかった。

 

そして、昼休み。

「なあなあ、昨日のマヨナカテレビ見た?」

唐突に切り出すのは日野さんの会話の仕方みたいだ。どうにも、まどろっこしいのは嫌いらしい。

「私は……すみません」

青木さんは見ていない様子。

「見た見た、突然テレビが付いて驚いたよ」

とりあえず、同意する。

「うんうん。それよりもさ、もっとおかしなことが起こったの」

嬉々として昨日起こった不可解なことを語った。

「はあ?そんなわけあらへんやん。人影らしきもんは見えたけどな」

「そうそう。私も人影らしきものが見えただけ」

「…にわかには信じられませんね」

と三人は返してくる。

……まあ、当然か。

 

だが、その日の放課後も何故か日野さんの家に来ていた。

昨日のメンバーとは違い、今日は青木さんがいない。と言うのも放課後に青木さんだけは先生から呼び出されたらしくて先に帰っても良い、と言われた。後に聞いた話だが生徒会関係らしい。素直に適任だなあ、と感じた。

「まあ、とりあえず見してもらおえかなあ、って思うたんや」

「へ?」

「だから、テレビの中に手を入れられる、なんて面白そうじゃん。夢なんだろうなあ、なんて思ってるけど一応、ねっ」

二人から視線を送られる。断ることは難しそうだ。

 

ドキドキしながらテレビへと手を近づける。

「ほら、誰か来てまうで」

「う、うん」

 

ぐにゅっ。

 

入った!!

「ええっ」

「本当だったんだ…」

二人はきょとん、とした。

そこへ、

「今日も日野さん家のお好み焼きでも食おーぜ」

と声が聞こえてきた。

やばい。

「ほ、星空さんっ、はよ抜いてーな」

「そ、そう言われても」

テレビが右手を引っ張る力は強く、抗えなくなっていた。

「やばいよっ」

緑川さんはテンパったのか、何故か私たちを押した。

 

ぐにゅっ。

 

私たちはテレビの中へと入り込んでいった。

何だかこの展開は不思議の国のアリスっぽいなぁ。

……こんなときにそんな考えが働くのは絵本好きだからだろう。

 

「うわああああーー!!」

「何でこうなったんーー!!」

「知らないよっーー!!」

 

ドスン。

お尻から地面に着いた。すごく痛い。

お尻を擦りながら顔を上げる。

「!?」

そこに広がっていたのは以前夢で見たような霧だらけの世界。

「ここ、どこや?」

「知らないよ」

「帰れるん?」

「知らないってば」

二人も困惑していた。

「とりあえず、少し移動してみようよ」

「ええっ、嘘やろ」

「何か見つかるかもしれないよ」

緑川さんはうぬぬ、と悩んだ末に結論を述べる。

「……そうだね、このままじゃどうしようも出来ないし」

「そんなあっ」

「ほら、行くよ?」

日野さんは緑川さんに引きずられて移動をした。

 

一行は歩き進み、一つの部屋にたどり着いた。カチャ、と鍵のかかっていない扉を開ける。

「!?」

その部屋の中にあったのは生徒の写真ばかり、男子女子見境なく大量に貼られていた。集合写真の様なものだけは額縁に入れられていた。

「誰の部屋なんだろう…」

「分からない。でも、生徒が大切だったんだろうね」

「せやな…」

日野さんは立ち直り、いつも通りに振る舞っていた。

「この部屋には何もなさそうだし、別のところ行こうか」

「うん」

「ほいほいっと」

部屋を出て、また歩き出した。

 

「そこで何してるクル?」

「「「!?」」」

歩いているとき、突然後ろから声を掛けられた。

「だ、誰っ!?」

「き、キャンディはキャンディクル」

キャンディ?

「君たちはこんなところで何をしてるクル?」

「私たちは帰るための方法を探索してるんだ。君、知らないかな?」

最初に応答したのは緑川さん。

「帰る?何を言ってるクル?」

「あの、ここから出たいんだけど、知らない?」

緑川さんが困った顔を浮かべながら言うと、キャンディさんは急に叫んだ。

「奴等が来たクル。この眼鏡を付けて逃げるクル」

「へ?」

何故か眼鏡が渡された。

試しに掛けてみる。

 

「おおっ」

さっきまであった霧が晴れた。この眼鏡は霧を消す眼鏡なのかな。

色々聞こうとキャンディさんの声がした方を見ようとしたが、そこには誰もいなかった。

 

私がキョロキョロと辺りを見回した刹那、

「ウゥゥッ」

と、呻きながら空飛ぶ化け物が現れた。

その化け物はピエロさんとかの乗っているボールに口を付け足しただけの様なものなのだが、凄く気味が悪い。口からは舌を出して、それを垂らせている。

一体どころではなく、二体、三体、五体にまで増えた。

明らかにそれらは襲おうとしてくる。

 

嫌だ、死にたくない。私にはまだ叶えたい夢があるんだ、もっと色々なことがしたいっ。

 

そう思った直後、体が熱を発し始める。

 

「!?」

化け物の舌が触れる直前に、体から熱ではなく光が出て化け物に衝撃を与えた。

光が収まると手には謎めいたパクトが一つ。

それを視た直後、自然と口は動く。

「プリキュアスマイルチャージ」

先程の比じゃない光が体から溢れる。

 

「キラキラ輝く未来の光、キュアハッピー」

光が収まる頃、気づけば妙な服装に変わっていた。

何故かは分からないけど、やれる気がして化け物に向かっていき、一撃を与えた。

化け物は吹っ飛び、地にぶつかる。

 

プリキュアとしての力だけではないのか。

熱い、熱い、熱い。

体がどんどん熱くなっていく。

まるで、私と言う【殻】から何かが【生まれよう】としている様な。

そんな感じがする。

 

さっきの様に自然と体が動き、目の前に現れたカードを握り潰す。

「ペ…ル…ソ…ナッ 」

呪文の様に告げられた言葉に反応する様に体の熱は一気に抜け、私の前に一人の白く薄い服を着た女性が現れた。

 

分からないけど知っている。

これは、『マリア』。

かつて、神であるイエス・キリストを産んだ母とされる人。

彼女が得意とするのは攻撃ではない。むしろ補助的な癒しの力。でも、彼女に唯一出来る攻撃がある。

聖なる攻撃魔法『ハマ』。

これは相手を成仏させる力がある。

 

「ハマッ」

マリアへと告げる。

マリアは片手だけを上げ、言葉にならない言葉を告げた。

 

「ウゥゥゥッ」

化け物の近くに光が差す。

化け物は一頻り呻いた後に消失した。

 

一仕事終えたからか、マリアはパアンッと消えた。

カードを握り潰した手を見る。

「……これが私の力…」

『プリキュア』と『ペルソナ』。

何のために授かったのかは分からない。けど、とても強くて、素敵な力だと言うのを感じた。

 

「星空…さん?」

「あっ」

二人がいることをすっかり忘れていた。

とりあえず、二人に向かって笑ってみせた。

 

「いやあ、凄いクル」

いきなりキャンディさんの声が聞こえたので、後ろを振り向いた。

「……」

キャンディさんは人だと思ったら妖精さんでした。小柄な体で、黄色の耳をクルクルと巻いてある。

「どうしたクル?」

「な、何でもないよ」

「君がこの世界の霧を晴らすと言う伝説のプリキュアだったクルか」

「え?」

「……うーん、伝説のプリキュアがいなくなるのは少し困るクル。でも、この世界は君たちには良くない、そして君たち自身も出たいって言ったクル。だから、出してあげるクル。もう二度と来ちゃ駄目クル」

キャンディさんは手をパンッと一度叩いた。

 

ゴゴゴゴゴ、と空から大型のテレビが落ちてきた。

「ここから出ていくクル。さよ~なら~クル~」

キャンディさんに押されて、三人もろともテレビに入っていった。

 

「うっ」

いきなり眩しい光が目に来たため、目を瞑ってしまった。

ゆっくりと閉じた目を開いていく。

「帰ってこれた?」

目の前には日野さんの家のカウンター式のキッチン。

「帰ってこれたんか、よかったぁー」

「良かったぁ、弟たちの面倒見なくちゃいけないのにあんなとこでくたばんのも嫌だったからね」

緑川さん、兄弟いるんだ。

「無事帰ってこれたし、そろそろ解散で良いかな?何か疲れちゃった」

「ええんちゃう?うちも寒気してきたし」

二人が帰ったので帰路に着くことにした。

 

#01《You're myself,I'm yourself》fin

 

………

Loading…loading…loading…

………

 

『なあ、れいかぁ』

『なあ、日野』

『本当、悲しいよね、あたし』

「違うっ!!コイツはうちなんかやないっ!!」

 

#02

《 I whom deceive me,I which deceive all 》

 




本編は修正の可能性あり

こんなところで言うのもなんですが、私がこのクロスを書こうと思った理由は某2525な動画サイトでスマイルプリキュア ×ペルソナ4のOPパロを見させて頂きまして、両作の好きな私は書こうと思い立った次第でございます。
何かと至らぬ点などは多いとは思いますが、感想などを頂けたら幸いです。
↑3/13

何ヵ所か修正しました。
あかねの家から行ったのに出口がデパートとか……。
ついでに、最後の予告部分も変更。
次話に無いフレーズが出てた……。
↑3/20


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プリキュア4 #02 《 I whom deceive me,I which deceive all 》

「ようこそ我がベルベットルームへ」

いつか見た青い部屋。

「此処は何かの形で契約を果たされた者のみが訪れる部屋」

「貴女は見事、力を覚醒されたのです」

「これをお持ちなさい」

宙から鍵が生まれ、それがコトンと机の上に落ちる。

「それは契約者の鍵、今宵から貴女はこのベルベットルームの客人です」

机の上に置かれた鍵を取り、握り締めた。

「貴女のペルソナ能力はワイルドと呼ばれるもの、他者とは異なる特別なもの」

「数字のゼロの様に、無限の可能性を秘めているのです」

イゴールさんの語りにマーガレットさんが補足を加えた。

 

「貴女に覚醒したワイルドの力は何処へ向かうことになるのか、御一緒に旅をしていきましょう、ふっふっふっ」

 

イゴールさんの笑いは不気味なことこの上ないのでお断りしたかったが、何も出来ないままに夢は終わりを告げた。

………

 

 

【SmilePrecure!×Persona4】

 

 

The second episode.

《 I whom deceive me,I which deceive all 》

 

 

………

 

[4/14]雨→[4/15]雨

 

………

その日も雨だった。

昨日は疲れたために寝てしまったが、おそらくマヨナカテレビが写っていたことだろう。

登校途中、青木さんと緑川さんを発見し、一緒に登校することになった。

 

その日、校門前には見たことの無い一人の男が立っていた。傘も刺さず、雨を受けていることをもろともしない。彼は私たち三人、と言うより青木さんを見つけてから気味の悪い笑みを浮かべながら近づいてくる。

「なあ、れいかぁ、これから遊びに行かないか?なっ、良いだろっ」

「え?」

彼は突然青木さんの腕を掴み、強引に連れていこうとする。

「ちょっとやめなよっ。れいか嫌がってるでしょっ」

緑川さんは激昂する。それに気圧されたのか、彼は青木さんから手を離し数歩後退って、こちらを睨んできた。

「お前らぁ、お前らも俺をそうやってぇ。くそっ、くそっくそっ。ぜってー後悔させてやるからな」

今時とは思えない下手な捨て台詞と共に彼は走り去っていった。

「何だったんでしょう、あの人…」

「何だったんでしょうってナンパでしょ」

緑川さんは呆れながら言う。

そのあとに両腕を組みながら言った。

「それにしても、中学生相手にナンパってのは問題だよね、しかも登校途中にさ。急に腕を掴むなんて、あー怖い」

「……そうですね、出来れば今後されたくはありません。強引なのは少し苦手ですから」

青木さんは苦笑いをした。

 

日野さんは二時間目から遅刻してやって来た。

顔色が少し悪いと思ったけど、気のせいだろう、と片付けた。

 

六時間目が始まる直前になり、突然アナウンスが掛かった。

『全校集会を行います、教師の案内に従って体育館に整列しなさい。もう一度言います。全校……』

何かあったのかな。

言い様の無い不安に襲われた。

 

不安は誤解などでは無かった。

最初、校長先生の言ってることを理解出来なかった。

 

体育館は既にざわついていた。

辺りからは「なんだ?」やら「お前やらかしたの?」やらの声ばかりが聞こえてくる。

そのざわつきの中、校長先生が壇上に上がって口を開いた。

「ええ…こほん、それではですね、あの…今朝方、我が校三年の広瀬くんの遺体が発見されました…」

「……え?」

青木さんや緑川さん、日野さんも唖然としていて、日野さんは直後顔を真っ青にさせて倒れた。

「ちょっと日野さんっ、大丈夫!?」

佐々木先生がすぐに駆け寄り、日野さんを連れていった。

校長先生はそれを気にせず、話を続ける。

「ではですね、最近は物騒なので気を付けていただきたいなと…良いですか?不審者に遭ったらすぐ助けを呼ぶんですよ…」

まことに申し訳ないが、校長先生の話はほとんど頭に入ってこなかった。

「それでは、あのですね…これで集会を終わります…」

 

「あかね、大丈夫かな?」

集会終了後、緑川さんたちと話し合うことにした。

「ショックは大きかったでしょうね…」

「後で保健室にお見舞いに行こう?」

まだ、広瀬さんのこととか日野さんのこととか気掛かりではあったが、とりあえず一旦落ち着かなければならないだろう。

この心配や疑念だらけで焦っている状態では見えるものも見えてこない。

それならほんの少しでも落ち着く時間を置いて、それから色々なことを整理していくべきだと思った。

「そうだね」

「そうですね」

二人も納得してくれた様だった。

 

「もう大丈夫や」

放課後、緑川さんと保健室に入った直後に日野さんは言った。

一応補足として言っておくと、青木さんはホームルーム終了直後に放送で呼ばれ、残念そうに職員室に向かっていった。

カーテン越しで見える訳もないのに、日野さんは言った。

おそらく、来ることを予期していたんだろう。

「いやいや、急に倒れたりして心配すんなって方が無理だから」

こういうときの緑川さんの強引な優しさは緑川さんの強みだと思えた。

一歩引いてしまう様なところでもむしろ踏み込んでいく、否定されても構わない。

その度胸が欲しいと少し思った。

緑川さんはカーテンを開け、目を腫れさせた日野さんの隣に立った。

「一時間もあったんだし、十分泣けたでしょ?」

「……」

どうやら言いたくないらしい。

「そんなことより、昨日マヨナカテレビみたか?」

「え?」

「ううん、見てないよ」

横に首を振る。

「……そうか、うちは見たんや。あれは広瀬先輩やった」

「えっ…」

「前のマヨナカテレビだとじいさんが映ってたらしい」

「確かに、その噂は聞いたことあるね、クラスでも何人か話してたし」

そこで日野さんの話したいことを察した。

「ねえ、日野さん。もしかしてマヨナカテレビが死の予告だとでも言うの?」

「……そうや。噂やと広瀬先輩もこの前のじいさんとおんなじ死に方しとったらしい」

「この前とおんなじ……」

「電柱に宙ずりってことだよね……」

「そう。なあ、星空さん。頼みがあるんや、聞いてくれるか?」

日野さんはベッドから降りつつ言った。

「……行きたいんだよね?テレビの中に」

日野さんは頷き、緑川さんは驚いた。

「そうや、巻き込んでしまうようで悪いんやけど」

日野さんの真剣な眼差しに覚悟を感じ、行くことを決意した。

 

「本当に行くの?」

日野さんの家のテレビの前で緑川さんは言った。

「一応、出来ることがあるならやっておきたいだけなんや。なおは来ない方がええ。……情けない話やけど、少し危ないから星空さんの協力は必要やけどな」

日野さんは微笑んで言う。

「うぅ…よし、星空さんっ、あかねを任せたよ。私は怖いから今回は二人を待つことにする」

心地よいほどサバサバして自分が怯えていることを吐露していた。

「それじゃ、そろそろ行こう?」

「せやな」

「行ってらっしゃい」

ところで、帰りはどうするんだろう?

 

 

「また来たクル?」

飽きれ顔のキャンディに出会った。

「少し気になることがあってね」

「はあ…ここは君たちが来てはいけない場所クル……あっ、もしかして最近こっちに人を投げ込んでるのは君たちクル!?」

「はぁ?」

突然何を言い出すの!?

全く訳が分からない。

「違う違う」

「……信じられないクル」

疑念の眼差しを向けられる。

そう言われても、どうしようもないのが現実だった。

キャンディさんは少し悩んだ挙げ句に手を叩いた。

「仕方ないクル、君たちが代わりの犯人を見つけてくれると約束するなら信じてあげるクル」

「はぁ?んなこと言われても困るわ」

日野さんは手を広げて呆れたポーズを取ってみせる。

………。

「良いよ、犯人を見つけてあげる」

「星空さんっ!?」

「本当クル!?」

これ以上誰かが亡くなるのは嫌だ、これ以上誰かが悲しむのは嫌だ、これ以上誰かが誰かが殺されるなんて考えたくもない、助けられるなら…何か自分が出来るならしたい。

「それに、キャンディさん困ってるみたいだったし」

「……はあ、お人好しやな。ま、ええか。ええで、探したる」

「ありがとうクル、キャンディはキャンディでいいクル」

「そっか、よろしくね、キャンディ」

話が一段落着いて、忘れていたことを思い出した。

「それはさておき、キャンディ。最近男の子がこっちに来なかった?」

「え?んーと……あ、来たクル」

「出来れば案内してほしいんだけど」

何か手掛かりが見つかるかもしれない、絶好のチャンスだ。

逃す訳にはいかない。

「分かったクル」

キャンディは進み始めた。

 

「ほぉ~、よく見えるなぁ、この眼鏡」

日野さんは道中キャンディに渡された橙色の眼鏡を掛けて、その眼鏡の性能に驚いていた。

その眼鏡はこの世界に蔓延る霧を透かす効果のある特殊な眼鏡だった。

「ん?ここって……」

学校に酷似した場所、それがそこにはあった。

とても似ているけど、どこか不気味で違う気がする。

「グラウンド?」

日野さんの指差した方にはグラウンドらしきものがあった。

サッカーのゴールがグラウンドの左右に置かれ、その真ん中辺りにボールがぽつんと在った。

「そうクル、キャンディはここで見たクル」

 

グラウンドらしきものに入ってみた。

どこからどこまで、土を踏む感覚までそっくり。

「ほんまにそっくりやな」

「そうやな~」

「エセ関西弁やめい、あと、アンタは知らんはずやろっ」

日野さんは軽くキャンディを叩いた。

その時、どこかから声が聞こえてきた。

『広瀬、またシュート外したんだってよ』

『もうベンチ確定だな』

『アイツ、最近部活サボってただで飯食ってるらしいぜ』

『知ってる、二年の日野ん家だろ?』

『女子はべらかすのに精を出して、部活に精が出ねえってか』

『はっはっはっはっはっ』

笑い声が聞こえたところで日野さんはキレた。

「広瀬先輩は頑張ってた!!誰や、誰が広瀬先輩を否定してんのやっ!!」

『なあ、日野 』

この前聞いたばかりの広瀬先輩の声が聞こえた。

「っ…な、何や広瀬先輩」

『俺、お前のこと…』

「う、うちのこと……?」

『ずっと良い飯屋としてしか見てなかった』

「え……」

『お前は俺のことを好いてくれてたみたいだから利用してたけどさ』

広瀬先輩の姿はなく、声だけが響く。

『俺はお前のことを好きになったことはねえよ』

「……っ」

その時、奥から人影が現れた。

一瞬、広瀬先輩かと思ったが違う。

アレは……。

「日野さん?」

『本当、悲しいよね、あたし』

「アンタ誰やっ!?」

『うち?うちは日野あかね、アンタの本心や』

「そんなわけあらへんっ」

構わずもう一人は言う。

『本当は気付いてたんだよね。でも、気付きたくなかった。健気に思い続けて、ご馳走してたらいずれ気づいてくれると思ってたんやろ?ほんま哀れやわ、あたし』

「そんなこと言うなっ!!」

ことごとく無視をする。

『ま、そうやって騙し騙しやってたのは広瀬先輩に対してだけやなかったけどな。そこの転校生に対してだって、目立つ存在の近くにいれば自分も目立てるから。なおやれいかと関わってんのも、アイツらが有名人やから。独りは嫌やもんな。だから仲良くするふりをしていた。そうやろ?』

「違うっ!!違う違う違うっ!!」

「日野さん……」

『ここに来たのだって面白そうだったから。何だかんだで刺激が欲しかった。話題作りのためにね』

「そんなんじゃないっ!!」

『良いって良いって、うちはアンタなんやから、自分相手なら素直になったらどうや?』

「違うっ!!コイツはうちなんかやないっ!!」

もう一人は笑いだした。

『ふふ…アハハハハ。そうやね、もううちはアンタやない。うちはうちやっ!!』

もう一人は笑って、笑って、笑い続けて、いつしか体が闇に蝕まれていって、顔まで飲み込まれてしまった後、闇は黒い竜巻と化し、そして竜巻が消えるとき、化け物が現れた。

『我は汝、汝は我』

化け物は一言で言うならば火の鳥。

邪悪な闇で出来た黒い霧を身に纏い、尾からは紅き炎を出している。

心なしか、温度も高くなっているみたいだった。

何もせずとも汗が流れてくる。

「っ!、スマイルチャージ!!」

危険を察知し、パクトを手に叫んだ。

変身を一瞬で済ませ、地を蹴り火鳥に向かう。

火鳥はそれに対し、口を大きく開けた。

「王道なら、火を吐くところだよねっと……ペルソナッ!!」

火鳥に向かいながらカードを潰す。

後方にマリアが出現し、そのまま光の魔法『ハマ』を放った。

『ウグゥゥゥ!!!』

「はあっ!!!」

両足で蹴りを火鳥の腹に打ち込んだ。

バギィッと鈍く重い音が響く。

火鳥は地面を巻き込みながら吹き飛んだ。

『グゥゥ…アンタは関係ない筈だろう、何故助けるんや、無関係のアンタが無関係のうちを!!』

火鳥は起き上がりつつ右翼を払い、炎球を投げつけてくる。

「無関係なんかじゃないよ、友達だから!!」

炎球を避けつつ、一歩一歩近づいてゆく。

『会ったばかりやないか!!何が友達や!!』

「会ったばかりでも友達だよっ!!大事な友達を助けて何が悪いの!?」

ハマを唱え、火鳥に光を撃ち込む。

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

星空みゆき、いやキュアハッピーが戦闘してる中、日野あかねはキャンディに問う。

「なあ、キャンディ。アレは……うちなんやな?」

アレが本当に自分であることを確かめる。

「……そうクル。暴走しちゃってるけど、大元は君自身クル」

キャンディは肯定する。

「そっか……」

日野あかねは上を一度向いて、意を決した様に一息吐いた。

__________________

 

私が地を駆けたところで、前方に日野さんが現れた。

「少し待って、うちに自分と話す時間をください」

トンッと日野さんの目の前ギリギリのところで止まってから言った。

「……うん、分かった」

日野さんは微笑んでから、私に背を向けて火鳥に語りかけた。

「せやな、確かにうちは広瀬先輩が振り向いてくれてへんことに気づいてた、見て見ぬふりをしてたな」

『いまさらやな……』

「仕方ないやろ、認めたくなかったんやから」

『はっ……』

「ただな、みゆきやなお、れいか達という友達との関係を否定したんは訂正願いたいわ」

『事実だろうがっ!!』

「ちゃうちゃう、うちは確かにさみしいんは嫌いやけどな、友達といんのは目立とうとかやないで、好きやからや。みゆきと会ったんはここ何日かの間、せやけど、みゆきはもう大事な大事な友達や!!それは否定させへんで」

『ぐぅっ!!』

「みゆき、ありがとうな。感謝してるで」

日野さんがそう言った直後、日野さんの体が光った。

「へえ、なるほどな……プリキュアスマイルチャージ!!」

光は更に強くなる。

そして、紅きプリキュアが誕生した。

「太陽燦々熱血パワー、キュアサニー」

「日野さんもプリキュアに!?」

「あかねでええよ、みゆき」

「う……うん、あかねちゃん」

『クソガァッ、ショセンカリソメノユウジョウナンカシテンジャネエッ!!』

「行くで!!ハッピー!!」

頷き返した。

地を強く蹴り、サニーのところまで進む。

『ナメルナァッ!!』

火鳥がぶつぶつと呟き、辺り一面は火の海と化した。

行き先にある炎をハマで強引に打ち消し、進む。

だが、火鳥は後退を繰り返す。

少しずつ、少しずつ疲れてきた。

そんな事情を理解してか、サニーは進みを止め、口を開いた。

「結局逃げるしかないんか?あーあ、うちとは思えへんな」

「そうだね、サニーなら正々堂々と向かってくるよね」

『グウウ、ナメヤガッテ!!』

「さっきからそればっかりやな。そろそろうちの元に帰ってこうへんか?」

『……』

火鳥は無言で業炎を纏い、向かってきた。

それに対し、サニーも無言で指を鳴らし、炎球を出す。

「今までうちの嫌なところ任せててすまんかった。これからは一緒や」

サニーは炎球を叩き、火鳥へと飛ばした。

ゴゴッ!!と爆発音がして、辺りが煙で覆われる。

『約束やで』

火鳥の呟きが聞こえた直後、光が溢れ、煙は払われた。

そこにはもう火鳥はいない。

いるのは二人のあかねちゃん。

「分かっとる。アンタはうちや。どんな嫌なことでも受け止めたる。それがうちの責任なんやからな」

もう一人のあかねちゃんは頷き、そして、姿を変えた。

醜さを捨てたいっそ清々しいまでに美しい紅の火鳥、尾は七つあり、その先一つ一つ異なった色の火が灯っていて、炎の虹の様、翼の先は紅く強い炎があり、頭には冠がある、尾と同じように七色の火が灯されていた。

それはすぐにまた姿を変え、一枚のカードとなった。

「これがうちのペルソナ『フェニックス』か」

 

 

全てが終わり、変身を解いた。

「ふう…」

あかねちゃんはこちらを向いて、頭を下げた。

「ありがとうな、みゆき。アンタがいなかったら、うちは自分と向き合えんかった」

「そんな…結局自分と向き合ったのはあかねちゃん自身だよ」

「ま……そうやな」

そういえば、とキャンディさんに聞いてみることにした。

「広瀬先輩も同じ様になったのかな…」

「そうなるクル、でもあかねと違って、自分にやられちゃったクル……」

「そっか……」

あかねちゃんは寂しく応えた。

 

「とりあえず今日は帰るクル」、そのキャンディさんの言葉に従い、私たちは帰ることにした。

ドサッ、と座布団にお尻をぶつける。

「いたた…」

お尻を擦りながら、前を向いた。

「おかえり、何か分かった?」

「……うん」

 

 

その日はそれで解散することにした。

緑川さんと青木さんは先に帰り、私は少しあかねちゃんと話した。

「なあ、みゆき。誰かがあの世界に放り込んで殺してるんやろ?」

「うん」

「うちは許せへん、絶対に犯人を捕まえようや」

「……約束したしね」

「しちまったしな」

しばらく沈黙の時間が過ぎる。

何分かして、あかねちゃんが口を開いた。

「うちな、アンタとなら何とか出来ると思う。これからよろしくな」

「うん」

 

 

部屋に戻り、宿題を片付けようとピンク色の鞄からファイルを取り出した。

「……ん?」

プリントに混じる一枚の新聞紙の様な紙。

『七色ヶ丘中学新聞』

上の方に可愛いポップなフォントで書かれていた。

「あ、これ……青木さん載ってる!!」

生徒会特集……ふーん、副会長だったんだ……。

びっしり書かれていたそれを読んでる内に課題を忘れたのは秘密。

 

 

ジジジ……

マヨナカテレビにはノイズだらけの人影が映った。

 

#02 《 I whom deceive me,I which deceive all 》 fin

 

………

Loading…loading…loading…

………

 

『れいか来てる!?』

『んまい……』

『直球勝負なんて馬鹿みたいっ!!』

「アンタなんか、私じゃないっ!!」

 

#03

《 Suffering of the prince of the happiness 》

 




※加筆修正の可能性あり

プリキュア勢の悩みやペルソナ、そしてシャドウの姿なんかは考えるのが楽しい分、かなり難しいです。
一応設定としてペルソナのスキルも考えたりしてるんですが、強すぎても駄目、かと言って弱すぎても駄目、試行錯誤の繰返しですよ……。

今回は間が短く投稿出来ましたが、やっぱり一話一月は掛かるかもしれないので、気長に待って頂けると幸いです。

それはさておき、映画プリキュア観てきました。
個人的にはとても楽しめる内容でしたが……ハニーさん出る必要あった?
日曜のハピプリで変身して、そのままの流れでハニーさんもハピプリのメインとして登場かな~、とか思って日曜のハピプリ観てから行く予定にしたんだけれど、変身する予兆すら見せなかったと言うね……
結局映画ではいてもいなくても良い様な不遇な扱いになってたし……。

あと、不遇繋がりで5のキャスト優遇に対するスイプリとフレプリのキャスト卑遇に嘆いてみたり。


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プリキュア4 #03《 Suffering of the prince of the happiness 》

「ようこそ我がベルベットルームへ」

いつか見た青い部屋。

「ペルソナ能力は心を御する力、心とは絆によって満ちるもの」

「お客様は絆を築かれたことによって、新たに『戦車』のアルカナを手に入れられました」

「貴女の力は絆によって育ってゆきます、よくよく心しておかれますように……」

 

「では、再び見えます時まで、ごきげんよう」

 

 

夢はまた終わりを告げる。

意識はより深い所へ沈んでいった。

………

 

 

【SmilePrecure!×Persona4】

 

 

The third episode.

《 Suffering of the prince of the happiness 》

 

 

………

 

~数年前~

 

………

「はあっ、はあっ……」

青木れいかは走っていた。

度重なるお稽古によるとてつもない疲労から、そして家族を含めた者達からの途方もない期待から逃げるために。

一心不乱に走り続けた。

そうして、息も出来なくなるくらいに走った先にあったのは見知らぬ風景。

太陽がまだ高いのが唯一の救いであった。

「どこでしょう?此処は……」

息を整えてから状況を整理するために辺りを見回した。

辺りは一面緑の草原が広がっている、奥の方には森があるが、ここは開けた場所らしい。

少し進んでみると、自分の住んでいる町が見下ろす形として現れた。

そこでれいかはここが丘であることに気づいた。

「町からはそんなに遠くないようですね」

ひとまずホッと息を吐いた。

「道は分かりませんけど…」

困りつつも、トボトボと歩いてみる。

そんな時、後ろから声を掛けられた。

「ん?そこでなにしてんの?」

れいかは振り向いた。

そこには一人の少女。

「私は緑川なお、君は?」

「わ、私は青木れいかです」

「ふーん。で、ここで何してたの?君も町を眺めに?」

「いえ……その、迷ってしまい、ここに来ただけなんです」

れいかは申し訳なさそうに告げる。

「そっか…案内してあげようか?町までなら案内出来るけど」

その言葉に青木れいかは歓喜した。

「本当ですか!?」

「まあ…困ってるようだし、急いでるならすぐ案内するけど……私も丘から町を眺めたいんだけどいいかな?」

「構いません、こちらはお願いするのですから」

「そっか」

れいかは元来た道を戻り、丘へと緑川なおと向かい直した。

 

「ところで、れいかちゃんだっけ?」

風に髪をなびかせながら、なおは聞く。

「あ、はい」

「れいかちゃんは何でこんなとこに来たの?」

「それは……」

れいかはあからさまに暗く沈んだ顔をなおに見せる。

その様子から察し、なおはれいかに再度聞く。

「言いづらいこと?」

れいかは少し悩んだ後にゆっくりと口を開いた。

「いえ。実は私、色んなことから逃げてきたんです」

なおはふーん、とれいかの言葉を考える。

「そっか、そういうこともあるよね。でもさ、辛いもんから乗り越えた達成感ってのもあると思うんだよね」

なおには分からない、分かる筈も無い、れいかがこれまで幾度辛いことを乗り越え、達成感を得てきたのかを。そして、その達成感を束の間の休息として、すぐに更なる難題を渡され続けるという生き方をしていることを。それを強いられていることを。

だが、それでもれいかはなおの言葉に少し救われた。

……そう思った。

だかられいかは静かな声で答えた。

「……そうですね」と。

 

………

 

[4/16]雨→[4/17]雨

 

………

連続の雨は気分を落ち込ませる。

そんな時だからこそ、笑顔を作り出さなくては。

 

 

「見た?」

「うん、見たよ」

登校からHRまでの間に前の席のあかねちゃんとマヨナカテレビについて話し始めた、そこで緑川さんは教室に走って入ってきて、

「れいか来てる!?」

と聞いてきた。

「青木さん?いや、まだ見てないけど」

「嘘……どうしよう……」

緑川さんは少し顔を青くさせながら近づいてきた。

「どうしたん?」

「昨日のマヨナカテレビ」

「ああ、今丁度その話してたんだ」

緑川さんはふっと一息吐いて、

「映ってたの……れいかだと思う」

そう言った。

「何度もメールしてるんだけど、全然返事来ないし……」

「電話は?」

……そう言えば、携帯持ってるけど、家族しか登録してないなぁ、少し寂しくなった。

「ずっと留守電のまま」

「まさか、れいかは!?」

あかねちゃんと私の考えは一致する。

「やめてよっ!!!」

緑川さんは急に声を荒げた。

その言葉に反応してか、クラスは少しざわつく。

「……ま、まぁまぁ、何か用事があったのかもしれないし、ひとまず落ち着こうよ」

「……うん、ごめん」

緑川さんが頭を下げたその時、ピピピピ、と電子音が聞こえた。

緑川さんのポケットから聞こえるそれは、

「はい」

緑川さんの携帯電話だろう。

緑色のカバーの付けられたスマートフォンだった。

「あっ、れいか!?」

!?

「あ、うん、いや、大丈夫大丈夫。また後でメールするから」

先程までの不安と心配の入り混じった表情から一転、緑川さんは笑顔をこちらに向けてきた。

「良かった、急に家の用事で忙しくなったんだって……。今日は休みっぽい」

ふむ……。

「そっか。でも、青木さんじゃないとすると……」

「マヨナカテレビに映ったんは誰なんやろな……」

謎は深まるばかりで、チャイムはマイペースにHRを告げていた。

 

 

その日の帰りも私は日野さんの家に寄った。

緑川さんはサッカー部の活動がある、と放課後に別れた。

「ひとまず行ってみよか。誰かいるかもしれへんし」

コクりと頷き返した。

 

ぐにゅっ。

二人でテレビに飛び込んだ。

 

 

「ほんで、誰か落とされたりしてへんか?」

キャンディに日野さんが単刀直入に聞いた。

「だーれも来てないクル」

「ほんまに?」

しつこく聞き返すあかねちゃんにキャンディは怒り、

「キャンディは嘘なんて吐いてないクル!!」

と声を大にして言った。

「ご、ごめんね。疑ってるわけじゃなくて……」

 

簡単に説明をした。

マヨナカテレビに映った人間はこの世界に来るであろうこと。

そして、そのマヨナカテレビに新たに人が映ったことを。

 

全てを聞き終えたキャンディは、

「ふーん、外の世界ではそんなものがやってるクル……」

「うん、だから誰か来てないかな、と思ったの」

「もう一度聞くけど、ほんまに誰も来てないんやな?」

「だから、キャンディは、嘘なんて吐いてないクル!!!」

来てない……?

そもそも、マヨナカテレビに映れば此処に来る、なんてこと自体間違っていたのかもしれない。

「うん。ありがとね、キャンディ。今日のところは帰ることにするよ」

「……せやな」

 

キャンディに出して貰ったEXIT用テレビを前にして、一度キャンディの方を向いた。

「キャンディってさ、いつもは何してるの?」

私達が行ってしまえば、キャンディは一人ぼっちの筈……。

ふと、そんなことが気がかりになった。

「キャンディはずっと、ずぅっっと、一人ぼっちクル」

キャンディは切ない笑みを浮かべて、返した。

「気づいたら此処にいて、それからずっとクル……」

どうしようもない悲しみが胸に広がる。

この子は今……いや、会う前からずっと我慢してる……。

「さ、そろそろ行くクル」

話は終わり、と言わんばかりにグイグイと押し込んでくる。

鞄から一冊のなぞなぞ本を取り出して、投げた。

「キャンディにそれあげる!!」

テレビから抜け出す寸前で送れたことを感謝した。

 

せめてもの暇潰しくらいにはなるだろう。

何も出来ないけど、このくらいならしてやれる。

一人ぼっちのあの寂しい子に。

 

 

自分の部屋で少し考える。

マヨナカテレビとは何なのか。

あの電柱に吊るされる悲惨な事件とは関連があるのか。

ペルソナとは、そしてプリキュアとは何なのか。

考えることだけは幾らでもあった。

答えは幾ら考えても出せなかったが。

 

 

そうこうしている内に日を跨ぐ時間となり、テレビの前へと移動した。

 

ジジジ……

テレビが鮮明に映り始めた。

「………………………………………!?」

ゴフッゴフゴフッ、とつい咳き込んでしまった。

だ、だって……

 

『この世界は全て私のために!!』

清純な青いドレスに身を包み、鉄仮面を付けた青木さんがスポットライトを当てられながら演技をしていた。

『美しいものこそが正義です、醜いものは認めません』

テレビの中の青木さんはサッと斜め下に視線を下げる。

『秀麗なのは義務なんです。果たせてますか、義務ですよ?』

ニッコリと恐ろしい笑みを浮かべた後、華麗なターンをして、スタスタと青木さんは奥の方へ歩き、進んでいった。

 

ジジジ……

マヨナカテレビは終わりを告げた。

 

…………

 

[4/16]雨→[4/17]晴

 

…………

「ちょっと出掛けてくるね」

こっちに来てから買った少しオシャレな服を着て、玄関で靴を履きながら親に向かって言う。

「ああ、遅くならないようにな」

両親を相手にするのはまだ苦手だ……。

 

 

モグモグ。

「んまい……」

「やろ?」

今日のあかねちゃん家は流石に混んでいた。

まったりと客としてお好み焼きを食べていると、ガラガラッと誰かが急いでる様に入ってきた。

「あかねっ!!星空さんっ!!」

来たのは緑川さんだった。

「れいかがっ!!」

……さて、本題に入ろう。

「場所変えよか」

 

店の奥、あかねちゃんの部屋にて話を再開した。

「流石に客の迷惑になったらあかんからな」

実に店員らしかった。

「それで、青木さんはどうなったの?」

「っ!!れいかがいなくなった!!」

「えっ!!」

「なっ!!」

予想はしていたけど、流石に驚いた。

「……助けに行かなきゃ」

「せやな」

「うんっ!!」

 

 

流石に店の大きなテレビから行くのは厳しそうだったので、場所を変えることにした。具体的には場所を移動せず、あかねちゃんの部屋のテレビ。

安全性を確認するために、そっと頭だけを入れる。

 

ぐにゅっ。

 

……つもりだったが、急いて押してくる緑川さん、それを抑えようとするが失敗したであろうあかねちゃんもろともテレビに落ちた。

 

「うわぁっ…ぐへっ」

一番下なだけに二人に潰されて、意識が飛びかけた。

潰されたまま目をキョロキョロと動かす。

見覚えがあるような……。

だが、ちっとも思い出せなかった。

「ここ、見覚えない?」

「うーん……駄目、思い出せへん」

あかねちゃんは首を振る、てかどいてよ。

「……ここ、星空さんが怪物倒したところじゃない?」

「ああっ!!」

そう言われればそうだった。

ついこの前のことなのに忘れていた。

「ひとまず、キャンディに会いに行こう」

だからさ……早くどいてよっ!!

 

しばらく歩き、いつもの場所に着いた。

「キャンディー!!」

呼び掛けてみる。

「「キャンディー!!」」

後ろの二人も呼び掛けてみる。

「呼んだクル?」

とぼとぼと歩いてきた。

片手には以前あげたなぞなぞの本。

「キャンディ、おんなじこと聞くけどさ……誰か来てない?」

「?んーと……っ!!誰か来てるクル!!」

「ほんとっ!?」

一番に食いついたのは緑川さんだった。

そのまま首を掴んで脅迫……ないし、強迫しようとしていたので、それをなんとか抑えて、

「案内してくれる?」

と優しくお願いした。

「分かったクル」

キャンディはコクっと頷いた。

 

 

何分か歩いた先に、城にも似たものがあった。

全体的に青色に染められた、一種の狂気すら感じるそこは、昨晩の青木さんの映っていたマヨナカテレビを思い出させる。

「ここにれいかが……」

「そのれいかって人かは分からないけど、ここには確かに人がいるクル」

キャンディはでも……、と続ける。

「でも、ここにはシャドウって言う黒い怪物もいるクル……」

!?

「シャドウってあかねちゃんの時みたいなの?」

「あれほど大きくも強くもないけど……それでも、何の力も持たない人には十分危険クル」

「……れいかが危ないっ!!」

 

余りにも唐突で反応が遅れてしまった。

 

ボソッと呟いた緑川さんは単身、城に乗り込んで行った。

「あのバカっ、何の力も持たない人には十分危険過ぎるって聞いてなかったんか!?」

私たちも後を追った。

これは追う途中で聞いた話だが、緑川さんはサッカー部で、現在転校直後で絶賛帰宅部の私はおろか、バレー部に入っているあかねちゃんでも追うのは困難、とのこと。

……それでも、追うことを諦めたりなんてしないけど。

この時、私たちは忘れていたのだった。

生身じゃなくて、プリキュアで追えば簡単だったのに……と。

プリキュアは忘れていたが、ペルソナは召喚し、シャドウに応対しながら緑川さんを追った。

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

時折現れる黒い怪物……シャドウだったか……を回避しながら奥へと向かう。

廊下を走り、扉を開き、階段を一段飛ばしで登り、また走る。

肺が酸素を求めてバクバクと鼓動を激しくするが、それさえも無視して進んだ。

そうしている内に、開けた場所に到達した。

『ビューティーチェック』

どこからか青木れいかの声がした。

「れいかっ、そこにいるの!?」

キョロキョロと回りを見ている内に、いつの間にか足元には魔方陣の様なものが現れ、その魔方陣は緑川なおの体を包むように上昇していく。

頭を過ぎた頃、再び声がした。

『75点……失格です』

呆れの混じる声、

『なお……貴女は私にはふさわしくない』

「れいか!?」

思いもよらぬ言葉に混乱する。

『迷惑なんです、私に構わないで下さい』

「れ……いか……」

呆然としていくなか、視界に誰かが写り込んだ。

『あはっ、今まで頼ってきたってのに今さらポイッだなんて寂しいね~』

「……誰?」

その姿は見覚えがあって、いや、むしろなおが一番知っている姿だった。

『むしろ、迷惑だと思ってたのはこっちだっつの!!誰かの世話したりすんのはもうごめん……そうよね?()()()

 

 

緑川なお(わたし)だった。

 

 

__________________

 

「緑川さんっ、無事……っ!?」

ようやく追い付いた頃、緑川さんはもう一人の緑川さん……影と対峙していた。

『本当は何もかもがめんどくさかった。家族にしろ、学校にしろ、いつだって頼られる立場……疲れるだけで損な立場、うんざりしてたでしょ?』

あかねちゃんの時の様に辛辣な言葉を投げ掛けられる。

『でも、弱音なんて吐けないし、ただ独り溜め込む日々の繰り返し……もう嫌だって思ってたでしょ?』

「……がう……」

『んー?聞こえないよ?いつもの直球勝負とやらはどーしたのー?ちょー弱気じゃない』

「違うって言ったの!!」

この流れは……。

「緑川さん!!」

「なおっ、あかん!!」

だが、何もかもが遅かった。

緑川さんは全てを否定するために既に呼吸を整え終えていて、

「アンタなんか、私じゃないっ!!」

と、悲痛な叫びをした。

 

『アハ、アハハハハハハハハ。そうね、もう私は縛られてるだけのアンタじゃないっ!!私は……自由なんだっ!!!』

あかねちゃんの時の様に影はいつしか闇に変わり、終いには黒い竜巻と化し、そして竜巻が消えるとき、化け物が現れた。

『我は汝、汝は我』

化け物の姿は例えるならば風を纏う猿。

黒い霧で出来たストールの様なものを肩から垂らし、右手には長い棒がある。その棒からは特に風が吹き出している。

風猿は舞うように棒を回す、それはどこか孫悟空を彷彿とさせる動きで、起こす風は神風、その場に止まっていられず、ジリジリと壁に追いやられていった。

「くっ」

風猿の舞はどんどん速さが増してゆき、風は更に強くなる。

『どうしたの?全然気合いが足りないよ~?』

「これじゃあ、近づけへん……」

あかねちゃんは炎属性の魔法『アギ』をフェニックスに使わせるが、火は風によってすぐに打ち消されてしまった。

『あはっ、卑弱な炎ねっ』

「あかねちゃんっ!!」

一瞬の目配せ、その意図に気づいたあかねちゃんと同じタイミングでパクトに手を伸ばした。

 

「「プリキュアッスマイルチャージ!!」」

 

光に包まれ、風はその光によって妨げられた。

 

…………

 

その時、私の心に直接語り掛ける声が聞こえた。

「貴方は絆により、新たなアルカナを手に入れました」

意識は完全にあの蒼い部屋へと向けられる。

外界とは完全に隔離された世界でイゴールさんの言葉を聞いた。

「複数のペルソナを操れる力……それがワイルド」

イゴールさんは微笑みながらこちらを見つめる。

「言うなれば、選ばれし者」

選ばれし……者……。

意識はそれを機に現実へと急速に引き戻される。

 

………

 

体の望む通りに動き、新たに現れたカードを握りつぶす。

「チェンジ、『ゾウチョウテン』」

マリアは光に帰し、新たに武骨な戦士が現れる。

そして、ゾウチョウテンは片手を振り上げ、雷属性の魔法『ジオ』を発動させた。疾風属性に雷撃属性はよく効く。

さぁ、ここからは反撃の開始だ。

 

ジオは風猿の腕を掠め、棒を手から落とす結果を導いた。

風猿はその棒を拾いに跳ぶが、その棒に向かってフェニックスがアギを発動した。

『ガアッ!!』

燃え盛る風猿に向かい地を駆け、横凪ぎの蹴りをぶつける。それだけで風猿は壁まで一度に吹き飛んだ。

まだだ、私はそこでは止まらずに力を溜めて癒しの光で形成された光線、プリキュアの必殺技『ハッピーシャワー』を放った。

 

 

そのまま光に飲まれて終わりと思えた戦闘も、私たちがしたように一瞬で形勢は逆転した。

『邪魔だぁっ!!!』

その叫びと共に竜巻が発生し、ハッピーシャワーは打ち消されてしまった。

「くうっ……」

そこからはワンサイドゲーム。

ギリギリでマリアにチェンジし、弱点を狙われずに済んだものの、先程のような奇策も無い、ただただ風によって体力を削られ、風属性の魔法『ガル』によって傷つけられていった。

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

星空みゆき、いやキュアハッピーとキュアサニーが化け物と対峙しているのを、緑川なおは部屋の端で呆然と眺めていた。

非常な空間に怖じけているのではなかった。

本音を次々と言い当てられ、その現実は厳しく自分に跳ね返ってきた。

「アレは……私なんかじゃない……」

ぼんやりと呟くそれは、否定と言うにはあまりに貧弱だった。

……確かに、頼られる立場に疲れていた。

でも、だからと言ってそれが嫌だったわけではない。

違う、でも、否定しきれない言葉がなおを責め立てていく。

『直球勝負なんて馬鹿みたいっ!!』

影が言う。

『もう、逃げても良いでしょう!?』

影の言葉に……頷きかけた。

心が折れかけた。

 

「違うよ……まだ会ってから日はそんなに経ってないけど分かる……それは違うっ!!」

「え……」

でも、折れさせてくれなかった……。

「緑川さんがそうやって来たのは……大事だったからでしょ?人と人との関係を大事にしていたから、いつだって一生懸命で直球勝負だったんだ!!」

「星空さん……」

「そうやな、なおはいつだって真剣やった。だから誰かが傷つけば人一倍悲しんでた。誰かが笑えば人一倍楽しんでた。なおはそういう奴やった」

「あかね……」

友達がそう言ってくれたから。

そこで、なおは一つの結論に辿り着けた。

「そっか……そうだった。二人ともありがとね」

ニッと二人に笑顔を向けて、なおは立ち直った。

そう、緑川なお(わたし)は頼られてるだけじゃない。

__________________

 

「私だってみんなに頼ってきたんだっ!!」

意を決したかのように緑川さんが叫んだ時、彼女の体から光が溢れた。

「プリキュアスマイルチャージ!!」

現れたパクトを片手に持って、変身をしながら緑川さんは宣言する。

「私はそうやって生きてきたんだ、これからもそうやって生きてゆく。私はこれまでも、そしてこれからも、いつだって直球勝負だっ!!」

『グゥッ!!』

眩い光に圧され、風猿も動きを止める。

その後、緑の新たなるプリキュアが生まれた。

「勇気凛々直球勝負、キュアマーチ」

「緑川さんっ!!」

「かたっくるしいなぁ……なおで良いよ」

緑川さんは照れくさそうに頬を掻いた。

『疲れるだけのくだらない関係をいつまで続けるつもりだっ!!』

風猿はようやく棒を持ち、仕掛けてきた。

っ!!速すぎるっ!!

「いつまでもだよっ!!」

いくら私たちが反応出来なくとも、マーチならその速さに反応出来た。

『ガァァァァァァァァァ!!!』

「ハァァァァァァァァァ!!!」

棒と手刀の高速の戦闘が行われる。

『そうやって自己犠牲を続けてなんになるのさっ!!結局は捨てられると言うのに!!』

「そんなことはないっ!!いつまでだって続く関係だってあるっ!!」

自分自身と直球勝負で争うマーチに何か手を出すのは無粋、といつの間にか変身を解き、そしてマリアも心に戻していた。

もう完全に傍観者モードである。

……速すぎて参加も出来ないし。

『そう想い続けてきたれいかにだってさっき裏切られたじゃないかっ!!』

「一方的に言われただけっ!!まだ修復出来るよっ!!」

二人の想いに反応するかの様に一進一退は加速をしていく。

『楽な生き方を何故選ばないんだっ!!』

「私は私がしたいようにしてるだけだっ!!」

その時、マーチが一手打ち勝ち、風猿は壁にまで吹き飛ばされた。

マーチは複雑な感情の入り交じった様な顔を風猿()に向けた。

「確かに、私だって楽をしたいと思ったことはあるよ。頼られ続けるのが嫌になってた」

『………』

「でも、そうじゃないんだって、私は頼られるだけじゃなくて、頼ってもいるんだって気付けた」

マーチはゆったりと近付いていく。

「それに気づかせてくれてありがとね。このままだったら、私はいつか本当に逃げ出してた」

『……はぁ、そう言われたら何も言えないじゃない』

マーチは宙に風の球を作り出した。

「だから、今その闇を払ったげる」

その球を思いっきり蹴り込んだ。

球は風猿に当たり、その球が無くなる頃、そこには既に風猿は無く、なおちゃんの影がいた。

「このことを私は絶対に忘れないよ。だから……帰っておいで」

 

なおちゃんの言葉に影はコクりと頷き、光を放って姿を変える。

闇の無い光のストールを纏う風猿、右手には長い棒。そして、何よりもさっきと違うのは……

「……雲?」

そう、雲に風猿は乗っていた。

風猿はすぐに一枚のカードに変わり、そして消滅した。

「これが私のペルソナ……『ハヌマーン』」

 

………

後になんとなくで調べた話だけど、ハヌマーンとは分かりやすく言えば西遊記の孫悟空らしい。

そう考えると、あの棒は如意棒で、雲は金斗雲だったのだろう、と少し思ってみたりもした。

………

 

なおちゃんの影との戦闘に疲弊した私たちは、いつもの場所に戻ってきた。

このまま進んでも救うことはおろか、全滅する可能性すらあったからだ。

それでは青木さんを救えない、と説得してようやくなおちゃんを納得させた。

「本当はすぐにでもれいかを救いにいきたいけど、体が上手く動いてくれない……悔しいな」

「シャドウはそっちの世界で霧の出る日に最も暴れるクル。だから……今日のところはしっかり休んでまた出直すと良いクル」

「そうだよ、無茶はダメ」

「今日は我慢してクル。代わりにこれ、 あげるクル」

キャンディが出したのは緑縁の眼鏡。

「これって……?」

「まあまあ、とりあえず掛けてみてや」

「う……うん」

なおちゃんは恐る恐る眼鏡を掛けた。

「!!これって……」

「そう、霧を透かす効果のある特殊な眼鏡クル」

「へぇ~、これで……」

なおちゃんは眼鏡を外したり着け直したりで眼鏡の効果をしっかり確認してた。

その可愛らしい様子に少し笑いながら、

「さ、帰ろっか」

と提案した。

「明日こそ、救おうな?」

「当然でしょ、あかね」

いつもの調子は出てきたようだけど、やっぱりまだ疲れてるみたいだなぁ……。

 

待っててね、青木さん。

 

 

 

ジジジ……

マヨナカテレビにははっきりと青木さんが映った。

 

#03《 Suffering of the prince of the happiness 》fin

 

………

Loading…loading…loading…

………

 

『何で!?魔法が使えへん!!』

『完璧でなければならない』

『言いたいことがあるならはっきり言いなさい』

「貴女は……私なんかじゃないっ!!」

 

#04

《 Slave for the perfect beauty 》




今回の話は書き終えた後、しばらく熱を出しました。
勢いを切らさぬために一度に書いたために知恵熱にでもやられたのか……そんな馬鹿なっ!!
!!(゜ロ゜ノ)ノ

それはさておき、すみません。
m(_ _)m
投稿が遅れてしまいました。

私はダレて辞めてしまわないように常に一話分は余裕を持っているようにしているのですが、日記(もどき)に書いた通り、次話の展開に困ってしまいまして、悩んで書き直したりしていたらかなり遅れてしまいました。
ですが、どうにか次話も完成したのでこの話を投稿させていただきました。

四話はれいか救出を主として、五話では遊びに徹する予定です。

やよい(ピース)ファンの皆さんにはごめんなさい。
出番しばらく無いです。
最低でも六話までは無いっす。

今度は遅れないように一ヶ月更新を出来るようにしたいです。
では、また。
ヽ( ̄▽ ̄)ノシ


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プリキュア4 #04《 Slave for the perfect beauty 》

「ようこそ、我がベルベットルームへ」

いつか見た青い部屋。

「見事ワイルドの能力を発揮されたようですね、流石です」

マーガレットさんが称賛の言葉をくれる。

「やはり私の目に狂いはありませんでした」

そして、イゴールさんは自画自賛に浸る。

「お客様でしたら、新たに芽吹いた絆も使いこなせることでしょう」

マーガレットさんは一枚のカードを見せつけながら続ける。

「『女帝』のアルカナ、この力は貴方の未来にどのような影響を及ぼすのでしょうか?」

イゴールさんはいつもの不気味な笑みを浮かべ、

「じっくりと拝見させていただきます」

 

意識は水の中にいるかの様に妙な浮遊感を持ち、現実へとゆったりと引き戻してゆく……

 

………

 

 

【SmilePrecure!×Persona4】

 

 

The fourth episode.

《 Slave for the perfect beauty 》

 

 

………

 

[4/17 日]雨→[4/18 月]晴

 

………

「ペルソナッ!!」

なおちゃんは目の前に現れたカードを力強く蹴りつける。

ハヌマーンは現れたシャドウ達を伸ばした如意棒で一気に叩き、如意棒を基点として回転して別のシャドウを蹴り抜く。

「「ペルソナッ!!」」

一瞬遅れて私たちも召喚。

今回はマリアでは無くゾウチョウテン。

弱いが多くのシャドウ相手にハマは疲労が大きすぎる、かといってマリアには物理攻撃の手段がないのが理由だった。

ゾウチョウテンは剣を手にシャドウを斬り、フェニックスは炎の纏う羽を飛ばしてシャドウを穿つ。

 

「行くよっ!!」

「うんっ!!」

「了解!!」

示し会わせたかの様に私たちはパクトを前に出す。

「「「プリキュアスマイルチャージ!!」」」

シャドウの相手をペルソナにさせ、その間に変身を済ませる。

ハヌマーンが身体の速度を高める支援魔法『スクカジャ』を各々に掛けた。

「さっさと片付けるよっ!!」

「うん!!」

日曜の朝から三人集まり、城の攻略を再開した。

 

 

広い城を縦横無尽に駆け回る。

一つ一つ扉を開いては現れたシャドウを蹴散らし、宝箱を開いては傷薬などを回収する。

プリキュアとしての身体能力の高さとペルソナとのコンビネーションを発揮させ、効率の良い攻略を進めていった。

 

 

とある部屋の扉を開いた時、中央に人影が見えた。

他の部屋よりも広い部屋を進み、人影に近づくにつれ、その姿はより鮮明になっていく。

「青木さんっ!!」

その姿はマヨナカテレビで観た通りの青いドレスに身を包んでいる。

「いや、違う……あれはれいかじゃない」

この場にいる誰よりも望んでいた他ならぬマーチが否定をした。

「つまり……あれはもう一人のれいかっちゅうことやな?」

「多分そう思う」

二人の見解だとアレは青木さんの影らしい……確かに、雰囲気は青木さんと言うよりは今まで会った影の方に近い気がする。

「れいかはどこ!?」

『れいか?私はここにいるじゃないですか』

「そうじゃなくて……」

そう、ある意味ではアレも青木さんであるから、間違ってはいないのだ。

影は気にも止めず、美しいダンスを踊る。一人であるのに、まるで相手がいるかのような完璧なダンス。

思わず魅入り、いつしかそのダンスも終わりを迎え、その時に影は私たちを指差しながら、

『フフ、ビューティーチェック!!』

と不気味な笑みを見せながら宣告した。直後、私たちの足元に魔方陣の様なものを発生した。

 

「!?」

「何やこれ?」

「これはっ!!」

マーチだけは心当たりがあるようだが、さっぱり分からない。

とにかく嫌な予感がするからその魔方陣から抜けようと移動を試みるが、無意味。陣は抵抗も空しくどんどん体に沿って上昇していき、顔を通りすぎると消滅した。

 

影は思案顔を浮かべ、右手を自らの顎に付けた。

『ふむ……70点、60点、68点と言ったところですね……完璧ではない、失格です』

ガッカリとした顔をオーバーなまでに表現し、宣言する。

『では、罰です。ルールは魔法縛りでどうでしょう?』

突如、宙から大量のシャドウが現れた。

『またのチャレンジを期待しますね』

影は奥にある扉を開き、出ていってしまった。

慌てて追いかけるが、

「くうっ!!」

多くのシャドウが邪魔をし、進行をさせまいとしてきた。

「しゃあない、一気にいくでっ!!」

手早く片付けるためにサニーがフェニックスに『マハラギ』を発動させようとした。

 

……が、出なかった。

「何で!?魔法が使えへん!!」

サニーは驚きに顔を染めるが、マーチはどこか考え込む……が、すぐに答えを出してマーチはペルソナを呼び出す。

「魔法縛り……なるほどっ、ハヌマーン!!」

マーチのハヌマーンは昨日観た様な恐るべき速さでシャドウを打ち倒していった。物理攻撃スキル『電光石火』、私のペルソナには無いスキル。

瞬く間にシャドウは一匹、二匹と次々に討伐されていく。

 

その様子を見て、ようやく気づいた。

「あっ!!」

なるほど、今は魔法が使えないだけで、ペルソナ自体が使えないわけではないのか。

気づいてからは簡単だった。

フェニックスは翼を活かした『スラッシュ』を、ハヌマーンは速さを活かした『電光石火』を、ゾウチョウテンは剛力を活かした『金剛発破』を駆使し、戦況を逆転させる。

自身も蹴りや拳を駆使してシャドウの応対をする。

 

プリキュアとしての必殺技もあるが、それはエネルギー消費も激しく、この先に控えるであろう青木さんの影のことを考えると中々出すことも出来ない。

プリキュアとしての力は強大ではあるが、それでも元は英雄や神であるペルソナに比べれば、まだまだ劣る。これからの成長次第で同等になるかもしれないが、今のところ頼らざるを得なかった。

 

……勿論、ペルソナは便利だが、万能と言うわけではない。

魔法スキルを使えば精神が疲れるし、物理スキルを使えば肉体が疲れる。

単なる斬撃や打撃ならば、問題はないが、この量を相手ともなると、スキルを使わざるを得ない。

耐えきれなくなった疲労は実際に身を切ることにもなる。

現に、今私たちは重ねたスキルにより、切り傷が何ヵ所か生まれていた。

 

その部屋を出れば、その制約からも開放され、マリアの『メディア』で回復して、また先へと進んだ。

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

体が重く、ぐったりした状態のままどうにか青木れいかは意識を起こした。

そこは見たことも無い場所で、どこか中世ヨーロッパの城を彷彿とさせる。

「ここは……玉座の広間?」

趣味の悪い青色だらけで装飾されてあり、玉座の置かれている場所はちょっとした階段の上にあり、どこからも狂気を感じた。

勿論、こんなところに来た覚えなど無い。ならば、夢なのだろうかとれいかは思った。

 

れいかはあまりにも動じなさすぎていた。

 

いかなる時も冷静に、それがれいかが求められた人物像の一つだった。

鍛えられた精神はこの状況でも発揮され、れいかは冷静に状況を分析していった。

 

そんなとき、シャンデリアの光に反射をする何かを見つけ、れいかは近づいた。

「これは……」

それは幼少時に度重なるお稽古から逃げた時に無くしたと思っていたお祖父様に頂いた大切な鋏。華道用の持ち手が大きく、刃が小さい鉄で作られた先から先まで汚れを知らぬ銀色の美しい鋏。

 

確か……この逃げた時になおと会ったんでしたっけ……。

懐かしさに浸りながら、れいかは鋏を持つ。

そんなときだった。

 

『完璧でなければならない、そう言われ続けた。物心ついた頃にはもう期待がされていた』

 

よく知ってる様な声がした。

 

『だから、私は完璧、完璧なのです』

 

声の聞こえる元を追い、見上げた先、玉座の置かれている位置に……

「…………え?」

 

『だから、なおやあかねなんて私の完璧を損なう危険性のあるものは要らない……そうよね?()()()

 

青木れいか(わたし)が座っていた。

 

 

__________________

 

 

そこから先しばらくは青木さんの影も出てこず、ついに最後と思われる壮大な扉の前に着いた。

おそらくはここが玉座の広間、普通の城ならばそうなる筈。

やはり……ここにいるんだろう。

ラスボスみたいな存在は必ずしも一番奥に居る法則。

一応全ての部屋を開放して確認してきた。隠し通路でもなければ、ここが最後の部屋。

重い扉を三人で押し込んで開いた。

 

『あら、意外に早かったのね。そこは評価してあげる……それでも完璧にはほど遠いけれど』

影は玉座に座り込みながら、笑みをはっきりと浮かべて言った。

『……で、ちっとも完璧ではない貴女達ははっきりに言って目障りなのよね……ねぇ、消えてくれる?』

「っ、なんてことを……」

影は椅子から立ち、不快を露にしながら私たちを責め立てるが、それを青木さんは否定する。

『あら?他ならぬ私が否定するつもり?完璧であること、それが私の道でしょう?』

「………」

自嘲めいた笑みを影が浮かべる。

『でも、本当は道なんてうんざり。道、道、道、そんなもの、全部私が周りの操り人形になる都合の良い言い訳……私も、いつまでもそんな逃げは止めなさいよ』

「ち……ます……」

青木さんは声を必死に出す。

しかし、恐れとの葛藤があるからか、声は小さい。

『ハッ、言いたいことがあるならはっきり言いなさい。今、自分自身を裏切ってるって自覚はあるのかしら?』

挑発に挑発を重ねる影。

「っ!!」

『目の前にあることからは逃げない、それが信条……だった(・・・)。でも、やっぱりその程度のモノなのね……。はぁ、変わらない………いえ、変われないのね。私は、いつまでも』

影は諦めを混じらせて溜め息を出す。

 

「……違いますっ」

青木さんは敢えて目を逸らしていた影を見つめて言った。

……その声は誰が聞いても震えていた。

「私はそうじゃない、私は変わっていける、貴女は……」

自分に言い聞かせる様にして感情を昂らせていく、

「私なんかじゃないっ!!」

その一心な行動を、止めることなど考えられなかった。

 

 

影は笑う。

『ウフフフフ、良いわ。力がみなぎってくる』

影は前と同じように闇と化し、そこには身の毛もよだつ程恐ろしいが美しい銀色の毛並みを持つ狼が四本の脚を地に揃えて立っていた。

『ウォオオオオオ!!!!』

氷狼は高らかに咆哮をすると、巨大な鏃の様な氷の固まりを幾つか眼前に現し、それらを一度に飛ばしてきた。

 

『アンタはそこで傍観してろ、今不必要なモノを消し去ってやるから』

意地の悪い声がかろうじて耳に届く。

「!!」

そして同時に青木さんは氷で出来た牢に閉じ込められた。

その氷は飛ばした氷塊とは比べ物にならない程の純度であり、到底破壊等は不可能とさえ思わせる。

 

「くっ!!」

サニーは手から火の玉を作り出し、それを投げつけて氷塊を昇華させる。

マーチは持ち前の身体能力の高さから高く前方に跳び、氷を回避する。

彼女らに続いて私も氷を難なく回避し、ホッと一息吐こうとして、すぐ気合いを入れ直した。

 

また嫌な声が聞こえる。

『まさか、それで終わりだと思って?』

氷狼は素早い動きで駆けて、こちらに近づく、その途中にまた氷塊を充填し射ち直す。

 

マーチは突攻し、飛んできた氷塊を即座に呼び出したハヌマーンによる棒術で迎撃し、

「はぁぁぁぁぁ!!」

自身はそのまま氷狼へ拳を向けた。

 

『甘い』

高速のマーチの拳を身体を翻して回避、そしてその動作と共に後脚をマーチに打つ。

鋭利な爪と恐るべき素早さの組み合わされた凶器はマーチの拳を切りながら壁へと吹き飛ばした。

 

「マーチ!!」

サニーは壁に打ち付けられる直前のマーチを救出に向かう。

「はぁぁぁぁぁ!!」

マーチを抱えたまま、飛んできた氷塊を炎を纏う蹴りで打ち消し、氷塊から離れる様に跳んだ。

 

私は氷狼がこちらに向かってくるのをしっかりと確認してからマリアをマーチの回復に向かわせる。

飛ぶ複数の氷塊を避け続け、

「ぐっうっ!!」

眼前に現れた氷狼の突進を何とか両手で防いで衝撃を緩和させながら後方に飛んだ。

 

 

油断も隙も無く、マーチを凌ぐほどの機動力による近距離、当たれば一堪りも無い程の氷塊による全方位完備の遠距離、完璧なまでの行動により戦況はすぐに氷狼の優勢となる。

『ねぇ、どんな気持ち?』

氷狼は興奮したかの様に艶かしく声を出す。

その言葉が向けられる先はこちらではなく、青木さん。

『なんてことを……と、否定しておきながら、自分自身は何も出来ない。ただ見てるだけ……悔しいでしょう?』

氷狼は明らかに余裕を魅せながら、サニーに蹴りを浴びせる。

素早い袈裟斬りのそれをサニーは回避し損ね、防御に即座に転換するまではよかったが、凶悪な脚は炎の壁をも打ち砕き、サニーへと襲いかかる。

「がぁぁぁ!!!」

 

氷狼は地を蹴って一回転しつつ後ろに跳び、氷牢の近くに気高く降り立つ。

『逃れられない?そうよね、結局嘘ばっかり。道道言ってるけど、 ()()()は偽りの道を進むことしか出来ない。気づいていながら変わらない』

否定してみろ、とでも言うような責める口調。

『いつだって自分の正義を持っていた。でも、周りを気にして自分を殺して、自分が間違っているとした。自分の無いのが私でしょう?』

狼の表情など分かるわけもないのに、どこか寂しげに見える。

「わた……私は……」

僅かに見える青木さんの顔は見るからに青く染められている。

 

「違うっ!!」

 

応えたのは影でもなく、青木さんでもない。

マーチ……緑川なお。

『………』

氷狼は気分を害した様に、マーチを睨み付ける。

視線は一切の温かみが排除された絶対零度の様なソレ。

しかし、マーチは怯みなどしなかった。

「れいかはそんなんじゃない……いつも一緒にいた私が証明するよ」

毅然として言い放った。

 

しかし、氷狼は軽くマーチを見据え、

『アンタに……』

睨みながら苛立ちの籠った声で口を開く。

 

「なおに私の何が分かるんですかっ!!」

 

しかし、その影を遮り、影に続くように青木さんが叫んだ。

 

「そうです、私はいつもそうやって生きてきたんです。望む道から逃れ、望まれた道に生きてきたんです」

青木さんは吐き出す様に言う。

「今だって皆さんが苦しんでいるのを助けたくとも助けられない。結局……結局私は」

 

…………。

「変わりたいなら変われば良いんじゃないかな」

………私は続ける。

「今までがどうだったか、なんて最近知り合ったばかりの私は知らないけどさ。変わりたいなら変われば良いんじゃないかな?」

あくまで提案として言う。

「それが出来たらっ!!」

青木さんは氷牢を掴みながら、手を凍えさせて赤くしながら、叫ぶ。

「それが出来ないからこうしているんじゃないですか……」

 

「やっても出来ないから諦める、それが青木さんなの?」

「それ……は……」

『邪魔をするなァッ!!!』

氷狼は鋭い牙を剥き出しに駆けてくる。

腕を犠牲にして防ぐ。

「ぐぅっ!!」

氷狼は噛み千切る様に顔を捻る。

ブチブチと音が聞こえ、腕から血が噴き出す様に飛び出してきた。

意識が飛ぶような痛みに目を背けかける。

だけど……

 

「どちらにせよ答えを出さなきゃ」

恐い、痛い、苦しい、逃げたい、帰りたい。

色々考えた。

でも、今の私にそんな選択肢は無い。

「決めるのは……『青木さん』だよ?」

そう、この問題は青木さんしか答えを出せない。

幾ら本人だと、自分自身と語る影でさえもそれは出来ないんだ。

 

「私……は……」

青木さんの目にはいつの間にか涙が溜まっていた。

『ヤメロォォォォォ!!!』

氷狼は腕から牙を抜き、氷牢へと駆け戻る。

しかし、結論は既に出された。

青木さんは美しさなど微塵も感じさせぬただ一人の少女として泣きながら答えを口から出す。

「私は、変わりたい。救いたい。こんな檻なんかで止まってなどいられないっ!!」

青木さんは檻を両手で掴み、破ろうと力く引っぱる。

 

 

その時、青木さんの体から光が溢れた。

 

 

「これは……」

青木さんは一瞬困惑するも、即座に理解して、檻から手を離す。

そして、宙に現れたパクトを握り、宣言する。

「プリキュアスマイルチャージ!!」

光は更に増し、眩い程になり、そして……

「深々と降り積もる清き心、キュアビューティ」

青木さんはプリキュアへと成った。

 

 

ビューティは細長い氷の固まりを作り出し、破壊を不可能とさえ思わせる氷牢を切り裂き、そのまま突っ込んできた氷狼の喉元に向けた。

『ッ!!』

ビューティは真剣に影を見つめた。

「ありがとうございました。貴女がいなければ、私はきっと全てを他人任せで人生を、道を終えていたことでしょう」

感謝を述べる。

『うるさいっ!!』

氷狼は後方へと遠く跳ぶ。

マーチに仕掛けた様に爪を向けるが、ビューティはそれさえも読み解き、手に持つ氷で弾いた。

「いいえ、これが私の道です。貴女が言ったんでしょう?目の前にあるものから逃げない。私は貴女からもう逃げない。他人を頼ることはあっても、物事を他人任せにはしない。自分の生き方には責任を持つ」

ビューティは言葉を並べ続ける。

「それが私の本当の『道』です。今までの偽りのものではない、本物の道」

『そんなものがあるはずがない、お前は『完璧』からは逃れられないっ!!』

「ええ、逃げませんともっ!!しかし、貴女の言う完璧は完璧ではない。ただ独りよがりなだけ、そしてただ責任転嫁をしてるだけっ!!」

氷狼は氷塊を幾つも発現する。

ビューティはそれに対して一つの塊のみ。

氷と氷がぶつかり合う、激闘が始まった。

 

 

マーチとサニーが呆然とした状態から立ち直り、駆け寄ってきた。

「大丈夫か、ハッピー?」

「大丈夫じゃ……ないかな?」

血はまだ溢れんばかりに流れ出るし、痛みは全然収まることがない、むしろ増していく。

マリアのディアも掛けてはいるが、回復が追いつかないのが現状だった。

意識も遠くなりつつさえある。

「無茶して……」

マーチが心配した顔を見せる。

いや、貴女が火付け役だったでしょ。

……まあ、それがトリガーとなって青木さんの本心を引き出せたからプラマイ0ってことにしておこう。

「私のことは良いから、ビューティの力になってあげて」

二人を急かし、向こう側へと追いやろうとする。

氷狼はビューティに注意し過ぎて、こちらは一切見ていないから、危険性は今のところ薄い。

「………分かった、今のれいかの戦力になるかは分からんけどな。よっしゃっ!!」

サニーがまず跳んでいった。

「ごめんね、みゆき。私、れいかのこと分かってるつもりでちっとも分かってなかった。ありがとう」

マーチはそう言い残してから戦場に戻った。

 

入ってきた扉に一番近い柱に寄り掛かり、そっと腰を下ろした。

心なしか、マリアの顔が心配してる様に見える。

「だいじょーぶ、マリアが回復してくれるから死んじゃったりなんてしないよ」

にっこりと必死に笑顔を作ってマリアに見せる。

その時、回復の光が増し、流れ出る血液も次第に少なくなっていった。

 

………

 

心に語りかける声。

「思いはプリキュアを、ペルソナを、力を強くするのです。お客様のマリアは『ディア』が『ディアラマ』へと進化しました。回復力は飛躍的に上がることでしょう」

いつの間にか、ぼんやりとした意識はあの青い部屋へと入っていた。

「これから行く先々、様々なことがありましょう。しかし、それらは全て貴女にとって何かしらの意味があるのです」

イゴールさんはいつか聞いたあの言葉で締めくくる。

「そのことをゆめゆめお忘れなきよう……」

意識は急速に引き戻される。

 

………

 

気づけば、マリアの回復は終わり、腕は鈍い痛みが残るのみとなっていた。

氷狼は押されており、三人は団結して圧倒している。

「さてと、私も忘れちゃ駄目だよっ!!」

強く床を蹴り、右肘を前に出すようにして氷狼へとぶつかりに行った。

『ゴゥフッ!!!!』

「さてと、形勢逆転。一気に暴走を止めてあげるよっ!!」

「良いとこ持ってったな~ハッピー?」

「まぁ、良いんじゃない?」

「別に気にするようなことでもないと思うのですが……」

呆れた様な声を三人から受けとる。

 

「……プリキュア」

まずは私から。

一度溜めてから、両手をハートの様にして、思い切り突き出す。

手からは桃色の光が溢れ、その光は一直線に氷狼へと向かっていった。

『ハッピーシャワー』、私だけのプリキュアの必殺技。

 

「……プリキュア」

サニーは炎の球を生み出し、それを投げ上げてから自身も跳び上がり、バレーボールのアタックの様に打ち込んで氷狼へと送る。

『サニーファイヤー』、サニーにしか使えない必殺技。

 

「……プリキュア」

マーチは風を纏めた球を宙に発生させ、自分も跳び上がり、その球をサッカーのシュートの様に力強く蹴り込み、氷狼へと向かわせる。

『マーチシュート』、マーチにしか使えない必殺技。

 

そして、

「ええ、貴女は私ですね。見たくないと、認めなくないとしてしまってすみません」

ボロボロに傷ついた氷狼()にビューティは語りかける。

極めて優しく、極めて感謝を込めて。

「ありがとうございました。貴女のおかげで私は私の『道』をようやく歩み始めることが出来ました」

パクトに力を込める。

『ア……ガ……ッ!!』

ビューティは目の前に右上から左下、左上から右下、最後に縦に一本線を切る。

すると、その軌跡から多くの氷が生まれ出で、雪崩と化す。

 

ビューティは体は埋もれ、顔のみの残る影の前に立った。

「もう、大丈夫ですから……戻ってきて頂けませんか?」

『……もう自分を見失ったりしない、約束出来る?』

ビューティはコクりと頷いた。

 

影は眩い光を纏い、そして光が引く頃、辺りの氷は消え、光さえ纏っている様にさえ見える美しい銀色の毛を持つ大きな狼が生まれた。

そこには先程まで漂っていた禍々しさは微塵も残っていなかった。

だから……

「綺麗……」

と、つい呟いてしまったのも仕方ないことだろう。

 

銀狼は一枚のカードへと変わり、ビューティに吸い込まれる様に消滅した。

「これが私のペルソナ……そう、『スレイプニル』と言うのね……」

 

 

バタッ、と音がした。

変身を解いた時、緊張も解けたからか、青木さんは急に倒れ込んだ。

「れいかっ!!」と、なおちゃんは駆け寄る。

その姿を見て………

 

 

 

 

私も倒れた。

 

………

 

「まさかそこまでの馬鹿だったとは……いやはや、意外でしたよ。自分の身を犠牲に覚醒させ、友達(他人)を救うなんて。死ぬかもしれないと言うのに……フフ、やはり面白いですねぇ、人間と言うのは」

男は意地の悪い笑みを浮かべ、闇に消えていく。

 

………

 

気がつくとそこは、見知らぬ部屋だった。あの城とは全く違った素朴な普通の部屋に見える。

仰向けに寝かされているのか、布団が掛けられていた。

思いきって体を起こそうとするが、重くなった体は中々思う通りに動いてはくれなかった。

「ん?目ぇ覚めた?」

あかねちゃんが扉から部屋に入ってきて言った。

「れいかが倒れたと思ったら、その直後にみゆきが倒れるなんてな……流石に困ったで」

それは悪いことをしてしまった、でも、正直に言って、何で倒れたのかは分からない。

「ここは?」

「ん?……ああ、うちの部屋。運ぶの大変だったで~。おとんやおかんにも説明すんの大変やったし」

「そっか……」

聞けば、遊んでる内にサッカーボールが飛んできて、頭に当たっただのなんだので気絶したことにされていた。

いやいや、そんなのありえないでしょ、とは思うのだが、何故か上手く話が通っているのが謎でならない。

私はどこかでそんなことをしたのだろうか?……まあいいや。

そんなことをグダグダと考えていると、あかねちゃんが持ってきた濡れタオルを絞りながら

「とりあえず、今晩は泊まってき。倒れたんもきっと疲れのせいやから」

「でも、明日は学校だし……」

そうやって反論をしたが、あかねちゃんは、

「ま、なんとかなるやろ。無茶はせん方がええに決まっとる」

との一点張りで帰してはくれなかった。

 

その夜はあかねちゃんと楽しく過ごした。

話の途中に聞いたのだが、なおちゃんは私と同様に倒れた青木さんを支えて家まで送っていったらしい。

 

 

ひとまずの危機は去った。

これからしばらくは平和に日々が過ぎてくれることだろう。

そう、信じたかった。

 

 

 

………

マヨナカテレビは映らなかった。

 

#04《 Slave for the perfect beauty 》fin

 

………

Loading…loading…loading…

………

 

『みゆきはなんか部活には入らへんの?』

『いくら良いことをしたとしても、そういうところで信頼を損なってはダメだからね』

『ふしぎ……図書館……?』

「七色ヶ丘中学新聞?」

 

#05

《 Rest of soldiers 》




色々悩みつつ書いて、まだ納得しきれてないままに投稿しました。
れいかさんの悩み、影との戦いなどなど、この話は前までにも比べても、まだまだ矛盾や問題が山積みなので、いつかは納得したのを書き直し、投稿し直したいと考えてます。


あと、スレイプニルは馬じゃね?と思った貴方、自分を信じてください。
スレイプニルは間違いなく馬です。
何度も調べ、馬であることを私も確認しております。
ただ、狼として書いてたらちょっと困ったので、急遽スレイプニルを狼扱いすることにしたわけです。
この作品ではスレイプニルは狼として見てやって下さい。
色々すみません。

m(_ _)ノシ ではまた、約一ヶ月後に


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プリキュア4 #05《 Rest of soldiers 》

こちらは第5話です。
今回だけの話では楽しめないと思いますので、時間に余裕がございましたら、第1話から順に読んでいただけると良いと思います。


「ようこそ、我がベルベットルームへ」

いつか見た青い部屋。

「お客様は困難を乗り越え、更なる絆を手に入れました」

「絆とは不可視のもの、実感は持ちにくいでしょう」

「しかし、その絆は必ずあなたの力となる」

「今は来るべき時のために絆を強め、力を溜めることを推奨いたします」

「では、また再び見える時まで、ごきげんよう」

 

次第にイゴールさんとマーガレットさんから遠ざかる感覚に襲われる。

妙な浮遊感を感じ、視界はブラックアウトした。

 

………

 

 

【SmilePrecure!×Persona4】

 

 

The fifth episode.

《 Rest of soldiers 》

 

 

………

 

[4/18 月]晴→[4/19 火]晴曇

 

………

朝は少し早くあかねちゃんの家を出て、自宅から鞄などを回収してから学校に行った。

 

登校途中、隣を歩くあかねちゃんはんー、と背伸びをした。

「どうしたの?」

「いやー、 れいかも助けられたし、気持ちも天気もサニーで気持ちええなって」

白い歯を見せながらの笑顔を向けられる。

その気持ちは自分もしっかり理解出来た。

だから私もマネをするように、んー、と背伸びをして、日の光を一身に浴びて気分を晴れさせた。

 

ガラガラ、と教室に入ると、なおちゃんの姿はあったが、青木さんの姿はなかった。

まだ登校してないだけなのかと思ったが、あの青木さんのことだから、その説はすぐに捨てることにした。

 

「れいかは疲労困憊でちょっと体調を崩しちゃってるらしいから、今日は休むってさ」

聞けば、なおちゃんはそう答えた。

テレビの中はこちらの者にとっては負担が大きく、疲労も溜まりやすい。

そこに二日以上も留まっていたのだから、それも仕方ないのかもしれない。

 

 

「ふー、終わった~」

机に突っ伏して、帰りのHRの終わった後の慌ただしい教室をぼんやりと眺めた。

クラスメイトの話は様々で、帰りにどこか寄る?だの、部活ってあったっけ?だとか。

そうしていると、前の席のあかねちゃんは荷物をまとめ、体操服の入った袋を持ち立ち上がった後、こちらを向いた。

「みゆきはなんか部活には入らへんの?」

 

部活……考えたこともなかった。

前の学校では図書室に通うだけで、特に部活には入ってなかった。……そもそもの理由として野球部やバレー部、バスケ部と三つくらいの運動部しかなかった、と言うのも大きかったのだけれど。

転校した結果、この学校では多くの部活があるらしいし、少し考えてみるのも良いかもしれない。

 

その日は運動系の部活しているグラウンドを眺め、あかねちゃんやなおちゃんが部活を頑張っているのを見てから、一人で帰宅した。

………

 

[4/19 火]晴曇→[4/20 水]曇

 

………

朝から天気は曇り、春だと言うのに少し肌寒かった。

 

時間には余裕を持ったつもりで校門を通り抜けると、花壇の花に水やりをする青木さんの姿を見つけた。

後ろから近づき、片手を上げながらの挨拶。

「おはよう、青木さん。もう大丈夫なの?」

青木さんは振り向いて、対面するようにしてからお辞儀をし、

「おはようございます、星空さん。……流石に万全とは言えませんが、少し疲れている程度なので大丈夫ですよ」

そう返してきた。

私は安堵の息を吐いてから、

「そっか」と言った。

 

聞けば、青木さんは誰に頼まれるでもなく毎朝水やりをしているらしい。

やろうと思えば、それほどの手間ではないが実際にやる人は少ない。

「青木さんはどうしてやってるの?」

と聞けば、青木さんは困った様に、

「何でなんでしょう?」

と答えた。

気づけばやり始めていたらしい。

なんとなく私も鞄を置いて手伝うことにした。

 

 

水やりを終え、ジョウロを片付けた。

「さて、教室に行こっか」

「はい……あの、手伝ってくださってありがとうございました」

青木さんは頭を下げ始めた。

「あわわっ、何で頭下げてるの!?」

やりたいからやっただけ、礼を言われるなんて考えてなかった。

「そもそも、青木さんは本来やらなくても良いことをやってるんでしょ?ならおんなじじゃない」

「私は……生徒会ですから……」

「……」

そう言えばそうだった。

生徒会か………。

少し考え始めた頃、

 

キーンコーンカーンコーン

 

鐘がなった。

「あ」

視界に置かれた鞄が映り込む。

本当は遅刻じゃないけど、校舎に入ってはいないので遅刻は確定だろう。

転校早々遅刻……やらかしたな……。

 

 

職員玄関から入り、教室に急いで向かう。

横に開く扉を開けた時、クラスメイトの視線が一身に集まる。

転校初日にも感じたあの独特の注目される緊張感が思い出された。

「遅れてすみません。事情がありまして……」

さあ、ダメでもともと、思う存分言い訳でもしてみよう。

 

 

「そういうことだったのね」

事情を話せば分かってもらえた。

むしろ、クラスメイトから褒められた。

隣に青木さんがいて、説明を補助してくれたのも大きかったかもしれない。

「でも、今度からは気をつけて。いくら良いことをしたとしても、そういうところで信頼を損なってはダメだからね」

はい、固く心に誓います。

席に戻るとHRが再開された。

 

担任の話を軽く意識に留めながら、窓の外を眺める。

空は灰色に染まって、気分がどんよりと落ち込んだ。

 

 

放課後は文化系の部活を眺めることにした。

部活名だけじゃ訳の分からない様な部活なんかもあって、この学校のユニークさをたっぷりと感じることが出来た。

……だが、どこに入るか、とかは一切考えなかった。

まだ部活はいいや。

 

開放されている屋上に一人向かった。

今日は風が少し強く感じる。

柵に寄りかかりながら、パクトを取り出して、じっくりと眺める。

そして、心だけのつもりが、考えが口から出てしまった。

「プリキュアって何なんだろう……?」

それに、ペルソナも……。

分からないことだらけで抱えた大きな問題。

今までは知り合いだからこそ助けることを決意出来た、でも……

「そうじゃない、『知らない』他人だったら」

あそこは危険な場所だ。

わざわざ行く必要なんてない。

パクトをしまいながら、グラウンドで部活に勤しむ友達を眺めた。

あの二人は……それに、青木さんを加えて三人はそんなとき、どうするんだろう……?

 

色々考えを巡らせ、思考がパンクしかけたころに、

「うわっ」

ブワッと風が一際強く凪いだ。

その風はどこか私を叱る様で、大切なことを思い出させた。

 

……そっか、そうだっけ。

「どうせ考えたって分からないよ。こんな浮かない顔してたらハッピーが逃げちゃう」

パンッと自分の両頬を思いきり叩く。

 

いつかは考えなければいけないことかもしれない。

でも、今じゃない。

そんなことはそんなときに考えれば良いのだ。

だから、だからこそ、今はハッピーでなければならない。

問題の先延ばし、と言う解決にならない結論を出し、私は屋上を後にした。

 

 

その日も一人で帰った。

………

 

[4/20 水]曇→[4/21 木]雨曇

 

………

雨が降ると気分が下がる。

新しい傘を持ってみたが、なかなかハッピーパラメータは高まらなかった。

 

 

あかねちゃん、なおちゃん、青木さんの三人と昼休みを共にし、東屋まで来た。

なんとなくの世間話の流れから、部活に入るつもりがないことをあかねちゃんに伝えると、

「委員会なんてどうでしょうか?」

と、青木さんが提案をしてきた。

委員会……か。

「どんなのがあるの?」

「保険に栽培、行事に放送、あとは飼育に図書委員だっけ?」

「せやな、みゆきは本好きやし、図書委員とか良いんでない?」

「委員会に入るのを希望するときは、担任からプリントを貰って、委員会の担当の先生に提出してくださいね」

「うん」

 

 

その日は青木さんと二人で校舎を回ることにした。

二人は今日も部活らしい。

大会が近く、抜けられない、とのこと。

その一環として、図書室に行くことにした。

着くなり、青木さんは私に両手を合わせて、軽く頭を下げる。

「あの……少し図書委員に用事があるので、星空さんはその辺で時間を潰して待っていて下さいませんか?」

断る理由も見つからず、二つ返事で答えて、一旦別れることにした。

 

前にいた中学よりも広い図書室、様々な本が本棚に収納されている。

その一つ一つに異なる世界が詰まっている。

その想像をするだけでワクワクと心が踊ってきた。

 

そうしているうちに私は奥の方に来てしまっていたらしい。

カウンターからは他の本棚で死角となっており、また、見渡しても辺りには誰もいない。

本棚に視線を戻すと、本が一冊欠けた部分が光を発した。

そこを導かれるように右に。

次に一列下の段が光出し、そこを左に動かす。

すると、本棚の中央が光だしたので、そこを両手で切り開く。

その時、カチャリと鍵の開く様な軽い音がした。

 

直後本棚に光の穴が開き、吸い込まれるように光へ入っていった。

 

 

眩い光に目を閉じ、ようやく慣れて開くまで数秒掛かった。

眼下に広がるのは、大きな広間。

中央には二階建ての小屋が一つあり、それを囲む様に木々が生い茂っている。

眼下から左右へと視線を移すと、ここが大樹の中の様にも思われた。

大樹の中の壁は本棚の様になっていて、色とりどりの本が収められている。

ふと、背後にもある本棚から一冊本を抜いてみた。

「……」

 

『シンデレラ』

 

私の一番好きな絵本だった。

最初は不幸な目に会うけれど、その辛いことも頑張って乗り越え、最後は笑顔で終わる、このハッピーエンドが私は堪らなく好きだった。

努力は報われる、そういうのを私は信じてるから。

 

「そこで何してるクル?」

聞き覚えのある声が聞こえた。

「キャンディ?」

背後にいた妖精はコクりと頷く。

「みゆきはどうしてこんなところにいるクル?」

「こんなところ……ねぇ、ここってなんなの?」

キャンディは少し躊躇った後に口を開いた。

「ここは……『ふしぎ図書館』クル」

 

 

『ふしぎ図書館』

確かに、謎だらけだな、と思った。

こんな場所は知らない。

こんな変わった場所は知らない。

 

「ふしぎ……図書館……?」

「そうクル、ここはあらゆる絵本が収められた図書館クル」

でも、とキャンディは続ける。

「でも、ここは普通の人は来れない筈クル。来るためには特殊な方法を取らなければならないし、それもテキトーにやって出来るものじゃないクル」

キャンディは悩み込むように頭を抱えた。

「なんか本棚が急に光出したから導かれるようにやっただけだけど……」

正直に話すと、キャンディは口を開いた。

「みゆきは……ペルソナやプリキュア以外にも、色んな意味で選ばれた存在なのかもしれないクル」

なんとなく、意味はわからなかったけれど、

「そうなのかな?」

と答えた。

 

 

ふしぎ図書館をキャンディに案内されながら回る。

数十分程観光した後、中央にある小屋に入った。

 

小屋の中は広く、すぐにでも生活出来るだけの設備は整っていた。

「みゆきは何を飲むクル?」

キャンディは冷蔵庫の様なものの前に立って、聞いてくる。

「何があるの?」

「水にお茶にオレンジジュースクル」

どこから調達してくるのか分からないが、オレンジジュースにすることにした。

 

氷の入るガラスのコップに注がれた冷えたオレンジジュースはさっぱりとしていて、のど越し爽やかなものだった。

一口程飲んでから、キャンディに向き合う。

「さて、ねぇ、キャンディ?」

「なにクル?」

「戻り方を教えてくれないかな?」

長居しすぎた、青木さんは心配していることだろう。

そろそろ帰らなくてはならない。

「戻り方は来たときとおんなじクル、帰りたい場所を思いながら本を動かす、それだけクル」

「うん、分かった」

それから、オレンジジュースがなくなるまで、少しだけ話してから、私は戻ることにした。

 

 

光の先にあるのは本棚。

左右を見回して、ここが図書館と確認する。

どうやら戻ってきたようだ。

「星空さんっ!!」

青木さんが慌てた様に駆け寄ってきた。

「どこに行ってたんですか?探しても見当たらなくて、すごく焦ったんですよ?」

簡単に要所だけをまとめて説明した。

時間が経つのはあっちでもこっちでも変わらないことを一つ覚えた。

 

「そうだったんですか……」

感心するように青木さんは言った。

「驚かないの?」

「はい、星空さんは嘘を吐いている様には見えません。それに状況が証拠を言っているようなものです」

「そっか」

正直、信じてもらえるとは思ってなかった。

 

 

帰宅後、そっと、自分の本棚に手を置く。

一度全体を眺めてから、一冊の本を抜いた。

 

『シンデレラ』

 

あの図書館にあったような新品同然のものではなく、かなり風化してしまっている古びた絵本。

大切にしていたが、何度も何度も読み返し、心をときめかせた結果ぼろぼろになってしまった絵本。

私は大事に、その一冊を抜き取った。

壊さない様に注意を払って、表紙をめくる。

話は全て暗記した。

一言一句、同じく言える。

それでも、一枚、また一枚とめくっていく。

懐かしさが溢れ、心を満たしていくのを感じた。

 

ただの絵本、だから、すぐに読み終えてしまう。

裏表紙に手をそっと置いてから、一息を吐き、その後に大事に本棚に戻した。

 

その時、一冊の絵本が心に引っ掛かり、どこか気になった。

「あの本……」

どこか忘れてはならないような気がする。

でも、思い出せない。

この感覚に違和感を持ちながら、布団に入った。

………

 

[4/21 木]雨曇→[4/22 金]晴曇

 

………

その日は珍しく晴れたが、午後からは曇るらしい。

朝ごはんの前に本棚の前に立つ。

左、右、中央と本を動かす。

直後、本棚が光り、穴の様なものが現れた。

吸い込まれるのを、大きく後ろに戻ることで回避。

光はすぐに消え、いつもの本棚に戻る。

結論その一、どの本棚からも行ける。

結論その二、光の吸い込みはすぐに消える。

これから先、移動には悪くないかもしれない。

テレビでも設置出来れば、あの場所へも行き来が楽に出来るかもしれない。

流石にあかねちゃん家からいつも行くというわけにもいかないしね。

一つ考えておこう……。

 

 

放課後を過ぎ、今日は残る理由も特に無いので、早々に帰ることにした。

鞄をまとめ、席を立った時、

「ん?みゆきはもう帰るん?」

前の席のあかねちゃんが訪ねてきた。

「うん、残る予定も特にないしね」

「そっかー……んで、みゆきは部活や委員をどうするんか決めた?」

「まだ保留にすることにしたよ」

この学校には魅力的な場所がたくさんありすぎる。

 

「それに、キャンディとの約束もあるしね」

いつでも動ける人間も一人は必要だろう。

 

だが、その言葉が引き金だったのか、

「………せやな。よし、みゆき」

あかねちゃんは少し考えた末に口を開いた。

「明日、昼頃にうちに来てや」

 

めでたく、明日に予定が組まれました。

………

 

[4/22 金]晴曇→[4/23 土]曇

 

………

曇りは気分を曇らせる。

私は昼前に家を出た。

 

 

「はむ……美味い」

「せやろっ」

前はタダで頂いていたが、今日はしっかりとお客さんとしてお金を払ってあかねやでお好み焼きを食べている。

トッピングも付けたりして、少しリッチ気分に浸ってみたり。

「確かに、あかねのお好み焼きは美味い………せやけど、おとうちゃんに比べたらまだまだやけどなっ!!」

あかねちゃんのお父さんは笑顔で言う。

「えぇもん、すぐに追い越したるから」

拗ねた様に返事をする。

だが、すぐに、クスッと笑いだし、親子揃って笑い合っていた。

 

その姿がどうにも眩しく、これが親子なんだな、という感じがして……

 

少し寂しくなった。

 

 

しばらくすると、なおちゃんと青木さんもやって来た。

何も聞かされていない私は、良い偶然だな、くらいに思ったのだが、

「よし、やっと来たな」

とあかねちゃんは言い、私たちを自分の部屋へと連れていった。

 

「んで、何かあるんでしょ?ただの話ならあそこでも何にも問題無いわけだし」

なおちゃんは腕を組みながら、片目を閉じてあかねちゃんに問いた。

対するあかねちゃんはニヤリと口元を斜めに引き上げながら笑う。

「勘がええな、なお」

「当然でしょ?私のモットーは直感勝負だからね」

「それを言うなら直球勝負やろー!!って、それはさておき」

さておくんだ。

青木さんはただ笑顔で見てるだけだし。

 

スッと笑いから、真面目な顔になったあかねちゃんを見て、場に緊張が走り始めた。

「うちらはとある問題について考えないとあかん。ただし、これはうちら以外には漏らしたらあかんのや」

「テレビのことですね」

「そ、うちらはテレビに入り込み、戦う力がある。せやけど、普通の人はそんなん信じるわけもない」

「だろうね、それこそ、子供の冗談程度にしか思わないだろうさ」

「せやから、うちたちはうちたちで動かなきゃいけないんや」

「うん」

それは今までも分かっていたことだ。

「マヨナカテレビについても色々考えなきゃならないよね」

「だね、何でマヨナカテレビに映るのか、その謎は分からないし」

「そのことなのですが、少しよろしいでしょうか?」

なんだろう、青木さんは何か心当たりがあるらしい。

「これを見てください」

スッと鞄から出てきたのはA3サイズの紙。

これは……見覚えがある。

「七色ヶ丘中学新聞?」

「そうです。あ、これは星空さんの来る前でしたね」

両面刷りのそれは、見開きもある、意外としっかりしている新聞だ。

内容は旬なネタを用い、読者に飽きさせないような仕様となっていて、トップニュースがあれば、号外も出されるらしい。

作っているのは新聞部、委員会や生徒会では無いことにはしばしば驚かされたものだ。

半月につき一枚発行されるらしいそれを、まだ私は一枚しか持っていない。

確か、その時は……

「青木さんが特集組まれてた!!」

青木さんは頷く。

「れいかはこれに載った人が写るって言いたいの?」

「はい、この前の号では、亡くなったご老人の名前が載っていました」

「で、でもそれなら先輩はどうなるんや?先輩は新聞なんかに特集されたことなんて……」

青木さんはもう一枚取り出した。

「これは、職員室の前にわずか二十枚のみ置かれていた号外です。号外は数も少なく、限られた場所に突然置かれるんです。これはあの老人の遺体の第一発見者を特集したもの。すなわち……」

「広瀬先輩だね」

つまり、

「これからはこの新聞をチェックしなきゃあかんな。マヨナカテレビだけでなく」

「だね」

何の因果関係があるのかは分からない。

でも、何かある。

もしかしたら……

「もしかしたら、新聞部の誰かが犯人かもしれない……」

思わず口から出ていた。

それを周りはコクりと頷く。

だが、

「でも、証拠も無いのにただ押し付けるのはよくないよね。違ったときは相手が相手だから面倒だし」

「必ず特集が組まれますね……」

「せやな……」

そう、まだ何にも出来ない。

後手に回るようで悔しいが、ひとまずは救出を続けよう。

そうすれば、いずれ犯人はボロを出す。

何か特定のヒントを残す筈だ。

そう、信じよう。

 

#05《 Rest of soldiers 》fin

 

………

Loading…loading…loading…

………

 

『 絵、得意なの? 』

『 みゆきは絵、得意? 』

『 責任……取ってね…… 』

「歪んだ悪は逃さない 正義の戦士 ミラクルピース参上!! 」

 

#06

《 How to change those shy girl 》




大変遅れてすみません。
定期更新の予定でしたが、多忙とスランプにより、何も書けないような状態に陥っていました。
かなりの時間を要してしまいましたが、なんとか完成したので、投稿した次第であります。

最近は書くスピードもかなり落ちているので、やはり定期更新には出来そうもありません。
確実に不定期更新になりますが、お付き合い下されば幸いです。


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プリキュア4 #06《 How to change the shy girl 》

久々の投稿です。
ちょくちょく書き進めてはいたものの、以前よりも書けなくなってしまい、どうにかこうにか仕上げた一話です。


「ようこそ、我がベルベットルームへ」

いつか見た青い部屋。

「人と人との出会いは偶然の積み重ねによって起きること。しかし、それから先を決めるのは偶然ではなく、貴女や、その相手による意思、つまりは必然なのです」

珍しくイゴールさんが語ってる。

だが、そこで口を閉ざした。

ああ、またマーガレットさんとのバトンタッチ会話か。

「友との絆を育むのも良いですが、新たな出会いを見つけてみるのも、良いかもしれませんよ?」

どちらにせよ、と続ける。

「絆の力は、貴女を着実に強く致します。必要な時に力及ばずだなんて、嫌でしょう?」

……まあ、それもそうですけど。

絆ってとっても難しいんですよ?

 

声も届かず、夢は終わっていく。

したことはないが、階段を踏み外すような感覚に襲われる。

妙な虚無感と浮遊感、そして不安感。

気づいた頃には現実に戻ってる。

………

 

 

【SmilePrecure!×Persona4】

 

 

The sixth episode.

《 》

 

………

 

[4/28 水]雨→[4/29 木]雨

 

………

雨だから、と一応マヨナカテレビをチェックしたが、映ることなどは無かった。

ただ砂嵐が映るだけで、マヨナカテレビは終わった。

おそらく、青木さんを救ったからだろう。

そう推測立てて眠りに着いたのは、零時半のことだった。

 

 

雨だから少し気は滅入っていたものの、登校はしっかりと果たし、窓の外をたまに眺めていると、午前の授業は終わっていた。

 

 

昼はいつものみんなとともにしようと思ったが、生憎、忙しいと伝えられた。

だから、仕方なく傘を持ちながら、庭の東屋まで来て一人で食事……と思っていたら、おや?先客がいるようだった。

 

見覚えのある少し茶髪がかった髪、それをカチューシャで留めている。

背筋は伸びず、むしろ猫背気味で常におどおどしている様な彼女。

クラスメイトだったとは思うが、残念ながら名前までは知らない。

転校してから半月は経った。

しかし、彼女と話したことはなかったのだった。

 

良い機会だ、と東屋に入ってみると、彼女は少し驚いた様にこちらを見た。

「あの~」

声を掛けてみる。

だが、それだけの行動で彼女は手に持つ弁当を揺らすようにビクッと震えた。

緊張しているのだろうか?

「貴女の名前って何だっけ?」

あかねちゃん辺りならば、知らんのかいっ!!とビシッとツッコミを入れてくれるであろう質問だったが、本当に知らないのだから仕方あるまい。

彼女は弁当を丁寧に置き、小さく口を開いた。

「き………よい」

「え?」

雨が喧しい、小さな声は中々届かなかった。

「黄瀬……やよいです……」

少し声のボリュームを上げての言葉、そうしてようやく聞き取ることが出来た。

そっか~、黄瀬さんか。

「初めまして、黄瀬さん。私は星空みゆきです」

ペコリとお辞儀までする。

それから、黄瀬さんの対称に座る自分の下の椅子を指差す。

「ここ、座っても良い?って、もう座ってるんだけどさ」

あかねちゃん辺りなら、ここで、自分で言うんかいっ!!とガッツリツッコミを入れてくれる筈だった。

黄瀬さんはコクり、と頷くだけだった。

 

「………」

「………」

沈黙が続く。

耐えきれなくなった私は何か話題を見つけようと少しキョロキョロして、そしてとあるものを見つけた。

「絵、得意なの?」

彼女の背に隠れるようにして立て掛けられたスケッチブック。

 

そう言えば、と少し過去を思い出した。

私も、スケッチブックで絵本を創ろうと勢い込んで、やたらとスケッチブックに向かっていた時期もあったっけ。

完成しては、お祖母ちゃんに見せて、何なのか自分でさえも分からなくなるような絵で、お祖母ちゃんを困らせつつも楽しませようとしてた。

あれは確か……幼稚園の頃だったっけ……。

 

黄瀬さんはまた、小さくコクり、と頷くだけだった。

「そうなんだ、ちょっと見せてくれる?」

手を伸ばす。

その動作に黄瀬さんは、「キャッ」と小さく悲鳴を上げて、スケッチブックを抱き抱えたのだった。

それは彼女なりの懸命な拒否。

行き場を失った右手を少し中に残してから、またすぐに下ろした。

「ごめんなさい、無理にとは言わないの。ただ、少し興味があっただけだから」

「………」

未だ、彼女は変わらなかった。

瞳の端に薄く涙を張り、無口にスケッチブックを守っていた。

 

キーンコーンカーンコーン。

雨の中でも校舎に響く鐘がなり、私からそそくさと東屋を後にするのだった。

黄瀬さんは少し遅れて、午後の授業に参加した。

………

 

[4/29 木]雨→[4/30 金]晴

 

………

朝のホームルームで青木さんは壇上に立って口を開いた。

「今度、校内美化週間ポスターのコンクールがあるのですが、どなたかやってくださる方はいませんか?」

 

クラスは整然として、誰も何も言わず、空気が止まる。

だが、それもすぐに、お前やれよ、などと他人に押し付ける様な話で騒然とし始めてきた。

前の席に座るあかねちゃんもそういう一人だったようで、後ろに座る私を見て、一言。

「みゆきは絵、得意?」

首を横に振る。

「ううん、だから絵本とかも上手くは作れないんだよね……あかねちゃんは?」

あかねちゃんは手も付けてさっぱり、と首を横に振った。

「うちも全然やな」

それから、顎に手を当てて、少し考え始めた。

「やっぱ、絵と言ったらやよいなんやろうけど……やよいはこういうのに出たがらんタイプやしな……」

やよい……黄瀬さんのことか。

後ろからざっと教室を眺めてみる。

そうしている内に、あかねちゃんは察して、

「教卓の前に座っとるカチューシャ付けた女の子がやよい」

「うん」

背中しか見えないが、いかにも臆病そうに体が小さく、猫背になっている。

昨日と何も変わらないその姿に、なんとなく申し訳ない気持ちになった。

 

誰も立候補しない硬直した場が続く。

青木さんが「他薦でも構いません」と、そう言った。

「っ」

手を上げかけ、そして、下げる。

………やめておこう。

よく知りもしない黄瀬さんを他薦する、なんて普通じゃありえない。

「どうかしましたか、星空さん?」

「ううん、何でもないよ」

青木さんの問いに、ただ首を振るだけだった。

 

その直後、鐘がなった。

しぶしぶ、と言ったように青木さんはまたクラスメイトの視線を集めた。

「どなたか立候補してくださる方がいらっしゃるのなら、今日中にお願いします。でなければ……クジで選出しますので」

青木さんの最後に浮かべた笑みは、綺麗なのに恐ろしい、と言う複雑な表情だった。

 

 

昼休み、黄瀬さんの姿を探しに教室を出た。

出掛けにあかねちゃんに「どしたん?」と聞かれたが、「ちょっと用事が」と答えて急いだ。

黄瀬さんは昼休みになるとすぐ、忍者のように姿を消した。

中々探すのに苦労しそうだ……。

 

第一候補、東屋……いない。

 

第二候補、庭……いない。

 

第三候補、グラウンド……いない。

 

第四候補、教室……いない。

 

第五候補、屋上………いた。

 

黄瀬さんは一人スケッチブックに向かって何かを描いていた。

顔は真剣そのものだ。

だから、近づいても気づかれはしなかった。

そっとスケッチブックの中身を覗く。

 

……………とてもカッコいい絵だ。

 

そして、確実に上手い。

カッコいい強さの中に可愛らしさも見える。

どうやら、スーパーヒロインものなのだろう。

どうであれ、私ではこんな絵は何年経っても描けないだろう。

 

「あの……」

声を掛けると、黄瀬さんはビクッと震えた。

すぐさま逃亡対策をたてようとする黄瀬さんの肩を掴んだ。

「待ってっ!!」

またビクリと反応をした。

「少し話をしてはくれませんか?」

黄瀬さんはコクりと頷くとも、フルフルと首を振るともしなかった。

 

「絵、好きなの?」

多少強引にはなったが、黄瀬さんをベンチに座らせ、隣り合っての会話……予定。

彼女はコクり、と頷いた。

「そっか……さっきみたいにカッコいいのが好きなの?」

「うんっ!!」

彼女はコクリ、と強く頷く、そして直後に爆発するようにボンッと赤面した。

「……見て……たの?」

今度はこちらがコクりと頷く番となった。

 

黄瀬さんはその返答に、また脱兎のごとく逃げ込みを決しようとしたが、それをどうにか押さえた。

「いや、良いと思うよ?うん、いいと思う」

どうにかフォローを掛けるが、間に合うだろうか。

 

………フシュゥ。

良かった、間に合ったか。

「あのさ……黄瀬さん」

「……何でしょうか?」

「……今朝のコンクールに出てみない?何にも出来ないと思うけど、私、手伝うから」

「………」

「だって、黄瀬さんは絵が上手だし。適任だと思ったんだ。それに……黄瀬さんとも仲良くなりたいし……」

後半がやや小さな声になってしまった。

どうにも気恥ずかしい。

黄瀬さんは驚いたような表情を向け、そそくさと立ち去っていった。

後に残された私は一人嘆息。

ダメだったかぁ……。

 

キーンコーンカーンコーン。

昼休み終了の鐘がなった。

……あっ、お昼食べてないっ!!

 

 

帰りのHRでは、青木さんがまた壇上に立った。

「……では、朝にも言いましたようにクジでコンテストに出すポスターの人を選出しようと思います」

そう言いながら少し大きめの箱を取り出した。

 

その時、そっと手を上げる人が一人。

青木さんは最前列に座る彼女に声を掛けた。

「どうしましたか?」

彼女はいつも通りの控えめな声で宣言した。

「私……やります……」

その声に、青木さんはニッコリと微笑んだ。

「分かりました、ありがとうございます」

そう個人的に礼を述べてから、クラスに向き合い直した。

「では、黄瀬さんが立候補してくださったので、今回は黄瀬さんに任せようと思います。賛成の方は拍手をお願いします」

クラスは拍手に溢れた。

 

 

ホームルームが終わり、教室から出る人が多くなってきた頃に、黄瀬さんは私の机に近づいてきた。

「責任……取ってね……」

少しだけ驚いたが、悟られることの無いように頷いた。

「オッケー、何をすれば良いかな?」

黄瀬さんは小招きして、教室から出た。

「それじゃ、そういうわけで。じゃあね」

あかねちゃんとかに別れを告げ、黄瀬さんの後を追った。

 

歩の遅い黄瀬さんにはすぐに追い付け、彼女の後を追うままに、屋上へとやって来た。

黄瀬さんが立ち止まったのに合わせて止まり、背中に声を掛けた。

「それで、私は何をすれば良いの?」

黄瀬さんは何秒か悩む風にして、それからようやく意を決したように、強く頷いて、

「それじゃあまずは……」と、問題を投げ掛けてきたのだった。

 

 

ぜぇ、ぜぇ、と息を吐く。

黄瀬さんの要求は単純な様で難しい。

右手を高く上にし、左手は首の下辺りを通るように、右足は左手に平行になるように膝辺りから横に、そして左足は他の部位が原因で不安定な体を支えるために垂直に立たせる。

………。

 

………ん?

「ねぇ……黄瀬さん?」

笑いを堪えているように見える。

「………な、なぁに…ほ、ほしぞら、さ、さん」

「随分と楽しそうに見えますが、これって……」

うん、どう考えてもアレです。

「うん、シェーー!!だよ?」

「だよねっ!?このポーズってモデル必要なのかな!?」

黄瀬さんはまさか、と言う風に首を横に振った。

「…………………」

沸々と怒りがこみ上げて………こなかった。

無言の圧力を感じたのか、黄瀬さんは怯え始めてるが、なんてことはない。これはおそらく黄瀬さんの仕返しなんだ。目立つようなことはしたくない、たとえ日陰であっても、居やすい場所に居たい、と望む黄瀬さんを注目される場所へ連れ出したのは私なのだから。

嫌なことをされたら、誰だって仕返ししたくなる。そういうものだろう。

 

だから、私はニヤニヤしながら、さっきのポーズを崩さないように、高らかに言い放ったのだった。

「シェーーーッ!!!」

 

黄瀬さんは一瞬呆気に取られたが、すぐに警戒を解いて、高らかに笑いだした。

それを見てから、ポーズを崩して、私も笑いだした。

 

一度笑いが収まったのを感じてから、少し休憩しない?と提案した。

まあ、緊張を解くため、と言うか、ふざけてただけだから、作業は始まってすらいないのだが。

 

黄瀬さんの隣に座る。

さっきまでなら恐るべき処理能力で拒否されていたことだろう。それこそ、黄瀬さんの姿を見失ってしまったり。

だが、今は避けられない。一瞬ビクッとはなったが、離れられたりはしなかった。

穏やかな口調をするように気を付けて、あくまで怒ってないのを分からせるようにさっきの事に触れることにした。

「これって、黄瀬さんの仕返しでしょ?」

「えっ?」

「だって、私のせいで出たくもなかっただろうコンクールに出ることになっちゃったし……」

黄瀬さんは疑問そうな顔を見せてから、首を横に振った。

「ううん、それは違いますよ」

「え?」

「シェーはしてもらいたかっただけですし、コンクールは出たかったけど、目立つのが苦手で遠慮していただけですし……」

今度はこっちが驚かされる番だった。

元々やりたかった?それは一度置いておこう。

「シェーはやってもらいたかっただけなのかいっ!!」

その声は部活中の友達にも聞こえたと言う。

それから、少し仲良くなった黄瀬さんと、ポスターのデザインについて話したりした。

 

まだ敬語は取れない。

 

 

号外として七色ヶ丘中学新聞が出されていた。

内容はコンクールの出場者についてだ。

………しかし、人数が多くて、誰が拐われるかは分からない。

黄瀬さんの名前があったから、少し気がかりだ。

………

 

[4/30 金]晴→[5/1 土]曇

 

………

休日で心も少し晴れ晴れとしているが、昨日した黄瀬さんとの約束があるため、家にはいなかった。

 

良かった、黄瀬さんはちゃんといる。

また誰か拐われただろうか?

気掛かりではあるが、今はそれどころではない。

昨日相談した結果、ある程度決まったものを、軽く黄瀬さんが描いてきて、それに加筆修正するような形で、デザインの元を完成させた。

明日あたりから本物を描き始める予定だ。

 

黄瀬さんと仲が深まった。

しかし、まだ敬語は取れない。

………

 

[5/1 土]曇→[5/2 日]雨

 

………

ついに雨が振りだしたか……。

少し気分が重くなる。

マヨナカテレビをチェックしなければ。

 

 

今日も黄瀬さんと約束している。

約束の場所に向かった。

 

待ち合わせに少し遅れるような感じで黄瀬さんは来た。

不安が拭われていくのはやはり心地良い。

 

その日は絵の下書きをした。

まだ完成には程遠い。

 

黄瀬さんと仲良くなった。

だが、敬語はやはり取れない。

 

 

深夜になる、今日は雨。

マヨナカテレビのチェックは忘れられない。

この休日も部活に勤しんでいた友人三人にメールを送り、起きていることを確認した。

何も映らなければ良いが………

ジジジ、とテレビが勝手につき、砂嵐が現れる。

そして、その中に………。

見えにくい人影だったが、確信を持って答えられる。

これは…………黄瀬さんだ。

………

 

[5/2 日]雨→[5/3 月]雨

 

………

今日も雨だ。

マヨナカテレビを見なければ。

 

 

ゴールデンウィークで休みだ。

今日も黄瀬さんと約束がある。

今日は三人も部活がないようだ。

 

………よし。

 

 

待ち合わせ場所に行くと、黄瀬さんは15分前なのにいた。

「おはよう、黄瀬さん」

「うん……おはようございます」

「待たせちゃった?」

「ううん、今来たところです」

にっこりと微笑みながらの一言。

………可愛いなぁ。

「それでは、行きましょうか」

「あ、ちょっと待って」

撫でたい感情を必死に抑えて、黄瀬さんに言った。

 

しばらくすると、

「おはよう、みゆき。って、黄瀬さんもいるっ!?」

「おはようさん、みゆき、やよい」

「おはようございます」

どうせだから、三人も呼んでみました。

黄瀬さん、あかねちゃんとも少しは仲良かった筈だし。

「ダメだった……かな?」

黄瀬さんは少し考えた後、首を横に振った。

「良かった」

ほっと安心した。

 

少し後で聞いた話だが、私は知らずに秘奥技『上目遣い』を使っていたらしい。その破壊力は恐ろしく、ついキュンっ、となってしまっていたらしい。

あの……忘れてないと思うけど、私たちガールズですよ??

 

 

今日は黄瀬さんの手伝いをする、と事前に伝えておいたおかげで、作業はサクサクと進んだ。

主軸として、黄瀬さん。

それを支え、的確な助言を与える青木さん。

たまに出る奇抜なアイデアと昼ご飯担当のあかねちゃん。

絵の具その他必要な道具を素早く収集してくるなおちゃん。

 

……あれ?私何してたっけ?

周りのハイスペックさに、平凡な私の存在は霞み、最終的に呆然と立ち尽くすのみとなった。

お茶でも買ってこようかな……。

 

 

作業は多いに進み、丸二日分くらいを一気に終えた。

それほど大きなポスターではないとはいえ、時間が掛かる。

ほとんど完成だが、まだ完成ではない。

また明日も、と約束をした。

 

黄瀬さんを問わず、あかねちゃん、なおちゃん、青木さんと仲良くなった。

しかし、黄瀬さんの敬語は解けないし、青木さんを名前で呼ぶことはなかった。

 

 

ジジジ、とテレビが着いた。

砂嵐からのカラー映像。

また誰か拐われたらしい。

………!!!

 

タッタッタッ、と闇の中を少女が走る。

その少女を見下ろすように、一人の悪魔が空中を飛びながら追っていた。

『クックックッ、俺様から逃げられるとでも思っているのか?』

悪魔は笑みを浮かべ、そう言いながら、その少女の行く先にビームを放った。

『っ!!』

少女は咄嗟に後方に跳ぶことで避け、そして目の前の惨状を見た。

それから、逃げ道がないことを察して、悪魔に対峙する。

『貴方の世界征服の企みはこの耳で確かに聞いたわ』

悪魔は笑みを崩さず、片手を少女に向けた。

『フフ、やはり聞いていたか。良い覚悟だ』

その手から禍々しい闇が生まれ、塊が少女に向かった。

『くっ』

横に跳ぶ必死の回避も空しく、直撃は免れたが、爆風に巻き込まれ、少女は遠くまで飛ばされ、壁に強く体を打ち付けた。

『ぐうぅっ!!』

だが、その時、少女から光が溢れる。

『ぬっ!?』

悪魔はついに笑みを崩し、少女を見た。

光が収まると、少女は謎の機械を手にしていた。

『変身!!』

少女の変身シーンが始まった。

短髪だった髪はロングになり、色が闇に同化する茶色から闇を照らす鮮やかな黄色に。そして、アクセントとしてリボンが添えられる。

服も一般的な物から、黄色を基調としたフリフリのドレスの様な物に。

『歪んだ悪は逃さない』

キッと悪魔を睨み付け、それからポーズを取る。

『正義の戦士 ミラクルピース参上!!』

 

ジジジ、とテレビが消えた。

うん、アレは黄瀬さんだった。

普段からは想像も付かないような凛々しい姿だったけど、声も顔も黄瀬さんそのものだ。

唯一違うのは変身後か、アレはもう別人だった。

ところで……黄瀬さんってプリキュアのこと知ってたっけ?

どう考えてもアレ、プリキュアそのものんだけど……。

とりあえず……うん、面白かったな。

続きが気になる。

 

色々ツッコミ、いや、考えを浮かべていると、あかねちゃんから電話が来た。

「もしも

『やっぱりやよいが拐われたか』

「予想ついてたみたいな言い方だね」

『まあ……なんとなくな』

「とりあえず、すぐにでも助けに行かなきゃ」

『分かっとる。でも、焦っても仕方ない。明日、うちに集合や』

「……うん、分かった」

通話を切る。

ツー、ツー、と携帯から聞こえる音が耳に残った。

 

 

#06《 How to change the shy girl 》fin

 

………

Loading…loading…loading…

………

 

『ちょっと本棚借りるね』

『そんなこと、私が一番理解してるよ!!』

『寒い友情ごっこはもう終わりでいい?』

「もうやめてよ!!」

 

#07

《 Hero , please help me 》

 




書き終えてから気づいたのですが、日付が本家のP4から既にズレまくっています。
その分5人の楽しい時間を書いていけたらと考えています。


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旧版 プリキュアッ 00

この作品は現在のプリキュア4となる前の作品です
プロローグ+第一部を書き終えたところでダレて、今の物語となりました

現在書いている方も少しスランプ気味だったり、多忙で書く時間が持てなかったり、でまだ完成にはほど遠いです

どうにか大体の流れは想像することは出来てるので、後は文に直して、加筆修正
とりあえず半月くらいは掛かると思うので、その暇潰しにでも、とこれを投下します


~簡単なあらすじ~
スマイルプリキュアとして活躍を続ける五人が住む七色ヶ丘町に一つの噂が広まっていた
それは雨の日の深夜零時にテレビの前に立つと、テレビが勝手に着き、運命の相手が映される、という噂
その噂は『マヨナカテレビ』として、若者を中心に広まっていった

そして、スマイルプリキュアである五人もその噂を聞き、試してみることにした……


「ねえ、マヨナカテレビって知ってる?」

深緑色の髪をポニーテールにしている頼りがいのある私の友達の緑川なおちゃんが突然そんなことを言った。

「なんやそれ」

赤色の髪を短く切り揃えたショートヘアで大阪弁がデフォルトの私の友達、日野あかねちゃんは問う。

私も同じく知らなかったから、特に何も言わなかった。

「雨の日の真夜中に映る謎の番組でしたっけ」

藍色の髪をまとめることなく下ろしているしっかり者の私の友達である青木れいかちゃんは、知っている様子。

「うん、それ」

「じゃあ、今日は都合良く雨だし、見てみようよ」

私、こと星空みゆきは提案してみた。

「面白そう」

茶色の髪をカチューシャで留めている絵が上手な私の友達、黄瀬やよいちゃんは終始目を輝かせていた。

 

 

 

 

私は両親にバレないように、一旦寝たふりをした。

手元の携帯を開く。

時間は11時55分。

「そろそろ行こうっと」

私は妖精のキャンディを起こさないように、ゆっくりと布団をどかした。

ガチャ、と音を鳴らしながら部屋の扉を開けた。

ジジジ

居間に在るテレビが付いている。

しかし、誰も居ない。

テレビには砂嵐が映っている。

「あれ?」

砂嵐の中に誰かが映っているように見える。

「ううん・・・」

だが、砂嵐が強くて、全く見えない。

5分位それが流れてから、テレビは勝手に消えた。

「ふああ、眠い」

私は自分の部屋に戻った。

 

「ねえ、昨日見た?」

私はいつものように、遅刻ギリギリで学校に着き、あかねちゃんにそう訊いた。

「一応な、やけど、何も見えへんかったで」

「私も」

残念ながら、やよいちゃんとなおちゃんとれいかちゃんは席が離れているので、訊けなかった。

また後で聞こうっと。

 

~朝のHR終了~

「みゆきちゃん、見た?」

私が訊きに行く前に、やよいちゃんが訊きに来てくれた。

「やよいちゃんは?」

「女の人が見えたよ」

・・・え?

「本当に?」

「うちには何も見えなかったで」

「私も何も見えなかったよ」

やよいちゃんには見えたらしい。

「私にも見えませんでした」

「私も」

れいかちゃんとなおちゃんも私の席の近くに来た。

「じゃあ、今日も見てみようよ」

「せやな」

その日はそれ以上マヨナカテレビについて話すことはなかった

 

~真夜中~

今日も私はこっそりと抜け出して、居間のテレビを見た。

ジジジ、と勝手にテレビが付いた。

「うわっ」

私はつい驚いて、声を上げてしまった。

すぐに口に手を当てた。

・・・

「ふう」

良かった。

私はテレビに集中することにした。

・・・

今日は昨日より、よく見えた。

「これは・・・」

 

場所は何処にでもありそうな路地裏。

黄色の革ジャンを着た人が映っている。

その人の周りには黒い人影。

その人以外はよく見えない。

「アアン、何みてんだテメェ、ウゼーヨ」

その女の人はこちらを睨み付けた。

正直怖い。

「何撮ってんだよ、テメェ」

彼女はこちらに向かってくる。

そしてーーー

 

プツン

テレビはそこで消えた。

「え?」

私はいきなり終わってしまったテレビに驚いて、付け直そうとテレビに近づいて、

「うわっ」

転んだ。

見事に。

ガンッ

テレビに顔をぶつけた。

「痛い・・・」

私は顔をおさえながら、部屋へ戻った。

あの人、どこかで見たような。

「まあ、いいや」

また明日、話そう。

 

「あれ、生徒会一年書記の後藤さんだと思います」

れいかちゃんが簡単に答えを出した。

「ああっ」

やっと解った、だから見覚えがあったんだ。

「とりあえず会いに行ってみよか」

「うん」

私達五人は後藤さんに会いに教室まで行くことにした。

 

「おかしいですね」

「うん」

後藤さんは来ていなかった。

聞きたかったことがあったのに、残念。

 

その日は晴れたので、私は皆と町に買い物に出掛けた。

今日はデパートにやってきた。

「ちよっと待っててな」

「あ、私も」

「みゆきちゃん、ごめん、私も」

「すいません、私も」

皆トイレに行ってしまった。

そして、誰もいなくなった、なんちゃって。

「君は、この町の子かい?」

知らない男の人、でも悪い人には見えない。

「はい、最近引っ越してきました」

「ああ、なるほど、どおりで初めて見る顔だったんだね」

「よろしくお願いします」

「うん、よろしく」

私は男の人が差し出してきた手を握って握手をした。

「それじゃあね」

男の人は去って行ってしまった。

「すまんなあ、一人にして」

あかねちゃんの声がした。

「うっ」

体から力が抜けていく感じ。

目眩がする、こんなに強いのは初めて・・・

バタリ

「ちょっ、みゆき、大丈夫か、みゆき、みゆきー」

「どうしたんですか」

「みゆきが、みゆきが」

「落ち着いて」

れいかちゃんとなおちゃんの声、やよいちゃんはまだトイレかな。

そこまで考えて、私は意識を失った。

 

「うう」

「目が覚めたか、みゆき」

まだ朦朧とした頭で必死に目を開けた。

目の前、というか、顔の前にはあかねちゃんの顔。

「あれ?あかねちゃん?」

「みゆきちゃん、突然倒れるんだもん、びっくりしちゃったよ、もう」

やよいちゃんが心配してくれている。

だんだん、意識がはっきりしてきた。

ここは、公園かな。

で、今私はベンチの上で

「!!!」

あかねちゃんに膝枕してもらっている。

「うん、びっくりしたよ、今はどう?」

「元気元気、大丈夫だよ」

なおちゃんも心配して言ってくれた。

「あれ?れいかちゃんは?」

「トイレに行って来るって、言ってたよ」

「そっか」

「あかねちゃん、ありがとね」

私はそう言いながら、体を起こした。

「困ったときはお互い様や」

あかねちゃんは私に向かって笑顔で言ってくれた。

「あら、みゆきさん、起きましたか」

「うん、もう大丈夫だよ」

「そろそろ帰ろっか、無理させちゃ

悪いし」

「そうだね」

「皆、ごめんね」

私がそう言うと皆はこっちを見て言った。

「いいの、いいの」

ってね。

 

その日はマヨナカテレビは映らなかった。

 

私が気絶した日から、2日が経った。

今日は雨。

「今日は見れるかなあ」

話を出したのはやよいちゃん。

「そうだね、今日は雨だし」

「今日も見ておこか」

「そうだね」

「話は変わりますけど、今夜は霧も出るそうですね」

「ふうん、そうなんだ、れいかちゃんは何でも知ってるね」

「何でもは知りませんよ、知っていることだけです」

 

~真夜中~

ジジジ

この前と同じようにテレビが勝手についた。

「・・・え?」

 

映っている映像はこの前と少し変わっていた。

まず最初に周りの影が全て消えていた、その代わりに、私の学校の制服に似た女の人が映っている。

あれは・・・後藤さん?

後藤さんはひどく怯えているように見えた。

「ひいっ、来ないでっ」

後藤さんに近寄る黄色の革ジャンを着た影。

黄色の革ジャンを着た影は形が崩れていく、そして黒い巨大な影となる。

「イヤアアアアアア」

 

プツン

「・・・え?」

ちよっと待って、今のは何?

あれ、演技とかには見えなかったけど。

私はテレビを付け直そうとして、テレビに近づいて、

「あぎゃっ」

転んだ。

見事に。

テレビに右手をつけた。

ぐにゅっ

「へ?」

右手がテレビにはまってる。

え?え?え?

何で?

あれ?何か引き込まれてない?

「ええいっ」

どうにか私はテレビから右手を引き抜くことに成功した。

「何だったんだろう」

マヨナカテレビのこともだけど、さっきの右手がテレビにはまったことも気になる。

でも、もう遅いし、また明日にしよう。

私は布団へと戻った。

 

次の日の朝、学校に行くと既にれいかちゃんとなおちゃんが話をしていた。

やよいちゃんとあかねちゃんは今日は私と一緒に登校してきた。

「おはよう」

私は挨拶をした。

「あれはそういう企画だったんだと思うんだよね」

「でも、演技には見えませんでしたよ」

「実は演劇派だった、とか」

「そうでしょうか」

無視ですか、そうですか。

集中してるから仕方ないんだろうけど、辛いなあ。

「おはよう」

もう一度だ。

「あ、ごめん、気づかなかったよ、おはよう」

「すいません、みゆきさん、おはようございます」

朝はなおちゃんの『演技』派と、れいかちゃんの『本音(マジ)』派で話し合った。

結局、どっちなのか私達なりの答えは出なかったけどね。

そういえば、今日も霧が深いなあ。

 

そして放課後になった。

『皆さん、この中学校の近くで事件が起きました、生徒の皆さんは下校せずに教室に残っていて下さい、また、教師は職員室まで来て下さい。』

「へえ、事件かあ」

まず、私が言った。

「何だろうね」

次になおちゃん。

「解らんな」

そのあとにあかねちゃん。

「マヨナカテレビと関係あったりしてね」

やよいちゃんは冗談を言うように言った。

その言葉を一人を除いて「まっさかー」と言い笑った。

「だよね」

「いいえ、その可能性は高いです」

そう言い、れいかちゃんは教室を出ていった。

「ちょ、どこに行くの?」

「事件現場です」

「わあ、れいかちゃん、すごく速い」

感心してしまった。

「じゃなくて、私も行くっ」

「あ、あたしも」

「うちもや」

「え?ええー、置いてかないでよー」

結局皆行くんだね。

そのときのクラスメイトの顔は、表すのに良い擬音があるんだ。

ポカーン

 

「ここですか」

「はあ、はあ、速いよ」

「みゆき、大丈夫?」

「はあ、はあ、うん、大丈夫」

「あれですね」

れいかちゃんが指を指した先、私達は信じられないものを見た。

「・・・え?」

「・・・嘘」

指した先にあるもの。

それは、電信柱、または電柱。

それは電線。

そして、その電柱の上、電線に引っ掛かっているものは何?

それは、死体だった。

生きているようにはどうにも見えない、生気の感じられない肉塊がそこにはあった。

その死体は何処かで見たことのある服を着ていた。

その死体は何処かで見たことのある靴を履いていた。

そして、その死体は何処かで見たことのある顔をしていた。

その死体の正体は後藤さんに見えた。

「うぷ」

電車に引かれた時のような強い衝撃が私の体を襲ってきた。

ーキモチワルイー

それが頭の中を覆っていく。

じきに何が気持ち悪いのか、思考が回らなくなり、私は吐いた。

「ううう・・うう」

吐いてすっきりしたのか、少し余裕ができた。

朦朧とする意識を必死に正常な意識にして、周りを見回した。

あかねちゃんは混乱して泣きわめくやよいちゃんを介抱している。

自分も恐怖で足をガクガクさせているのに。

なおちゃんは、死体のある方向を見ながら、固まっている。

ショックが大きすぎて、何も出来ないんだろう。

れいかちゃんも、なおちゃんと一緒だった。

「おい、誰だあ、こっちに人やんなっつったろ」

男の人の声、私の意識はそこで途切れた。

 

「ううん」

「起きたか」

知らない男の人の声。

「誰っ?」

「大丈夫ですよ、みゆきさん」

「へ?れいかちゃん?」

「せやな、この人は警察の堂島さんや」

「け・・・い・・さ・・つ?」

けいさつ、ってあの警察?

何で?

「事件現場の近くに寝てたからな、捜査の邪魔だから仕方なく運んだだけだ」

へえ、そうなんだ。

「迷惑かけてすいません」

「全くだ、それで、何でお前らはあそこにいたんだ?」

「え?ええと、帰り道の途中で偶然」

「ふざけるな、と言いたいところだが・・・仕方無い、今回は見逃してやる」

「ごめんなさい」

「子供だからな、ただし、今回だけだ、気を付けろよ」

「はい」

私達五人仲良く声を合わせて言った。

「あの、最後にひとついいですか?」

「何だ?」

「あれは、後藤さんでしたか?」

堂島さんは、少し戸惑ってから言った。

「ああ」

「そうですか」

それからすぐ私達は帰った。

そのとき、皆が少し辛そうに見えた。

 




本当は二つに分かれていたのですが、なんと片方は500字以内で投稿出来ないので、しかたなく合体させて投稿しました
物語はこの次の次まで書き終わり、その次でつまづいて、停止、廃止することに

う書く予定はありませんが、少しでも楽しんで頂けたなら幸いです
では、すみませんが、本編の方はもうしばらく待ってください


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旧版 プリキュアッ 01 茜火編

書き溜め文を見つけたので投稿します
流石にもう見つからないとは思いますが、とりあえず

こちらは本編とは関係のないパラレルワールドみたいなもので、完結させる意思すら全くないので、それでもよければどうぞ


後藤さんの死体が発見されてから、約一週間が経った。

流石に死体を直接見た私達はまだショックから完全に抜け出すことはできなかったけれど、冷静にあのことについて考えられるようにはなった。

「マヨナカテレビは死のテレビなのかな?」

私はそう言った。

「どうでしょう、まだ確証は持てませんね」

れいかちゃんはいつも通り冷静過ぎているような言葉を言った。

それから、マヨナカテレビについて、皆で話し合った。

そして、教室の窓の外が赤くそまった頃、私はあの話をした。

「私ね、皆に言ってなかったことがあるんだ」

私が皆に言ってなかったこと、それはテレビに手が入れられること。

私はそのことを熱心に話した。

「ええ!?まっさかー」

なおちゃんの反応は分かりやすかった。

私だってそんな反応するよ。

「こんなときにそんな下らんこと言わんといてや」

「ふふっ、みゆきちゃん、おかしい」

「それ、嘘ですよね」

「うう、本当なのに・・・」

皆、信じてくれなかった、まあ、当然か。

「そう言えばさ、あかねちゃん、この前七色新聞に載ってたよね」

別の話題を私は提示した。

七色ヶ丘中学新聞、略して、七色新聞。

「町の美味いお好み焼き屋の娘、として、だっけ?」

やよいちゃんが説明の付け足しをした。

「んんと、ああ、あれか」

なおちゃんは忘れていたようだった。

「何か、恥ずかしいなぁ」

あかねちゃんは頭を掻いて照れていた。

笑い声がどっと起きる。

「恥ずかしく思うことは無く、誇ることではないですか」

れいかちゃんも称賛した。

「あっ」

そして、れいかちゃんはそのまま外の方を見た。

私達も外を見た。

外は夕暮れになり、真っ赤に染まっていた。

「そろそろ遅いですし、帰りましょうか」

れいかちゃんのその一言で、私達は解散した。

 

「みゆき、いつも持ち歩いてる人形はどうしたの?」

お母さんが私に聞いてきた。

人形、つまりはキャンディのことである。

家族にはそういうことにしてるんだ。

流石に本当のことは言えないから。

「なくしたゃった」

これは嘘、現在キャンディは絵本の国へと里帰りしている。

定期連絡をしに行ってしまった。

一週間くらいで帰ってくるらしいけれど、私は3日位で帰ってくるんじゃないかと思ってる。

ちなみに昨日キャンディは里帰りした。

「そうなの、残念ね」

「大丈夫だよ、すぐ見つかると思うんだ」

「そう」

今日は雨じゃない、マヨナカテレビは映らない。

 

その2日後は雨が降った。

「今日はマヨナカテレビ、見逃さないようにしないとね」

私は皆に念を押した。

「解ってる、当然やん」

「寝ないように頑張らなくちゃ」

「弟たち寝かしつけてからだから、大変なんだよね」

「そうですね。忘れないようにしましょう」

ねえ、一人愚痴がなかった?

まあ、いいや。

「また明日ね」

今日は早々に解散することにした。

 

ジジジ

マヨナカテレビの時間になった。

「え・・・嘘でしょ・・・」

私は驚愕を覚えずにはいられなかった。

なぜなら、映っていたのは短髪でジャージのようなものを腰に巻いている姿。

砂嵐でよくは見えない、でも、直感で解る。

あれはあかねちゃんだ。

私は携帯を開き、電話をかける。

プルルルル

この時間さえも今はまどろっこしい。

速く出て。

ガチャッ

「あかねちゃんっ」

『みゆき・・・』

携帯電話から聞こえてくるあかねちゃんの声はいつもより随分と弱々しいものに感じられた。

「よかった、あかねちゃんだ」

それでも、あかねちゃんはまだいる。

だから、私は安心した。

「明日、また学校でねっ」

プツッ

ツーツーツー

私は言いたいことだけ言ってすぐに切った。

あんな弱々しいあかねちゃんの声はもう聞きたくなんかないから。

だから・・・私はすぐに電話を切った。

 

「あかねちゃん、学校行こうっ」

私はあのマヨナカテレビが放送された次の日、あかねちゃんの家まで迎えに行った。

来ない可能性か高いから。

確かに気持ちはよく分かる。

自分が死ぬ、なんてことになったら、他人と会いたくなんてなくなる。

辛いから、そして、なによりも妬ましく思うから。

どうして自分だけ?と思ってしまうから。

そうして自己嫌悪をしてしまうから。

でも、だからこそ、こんなとき友達が必要なんだと私は思う。

独りじゃ辛いだけだから。

私の勝手な自己満足なだけかもしれないけど。

嫌われてもいい、鬱陶しく思われてもいい、私は今あかねちゃんの傍にいたい。

「すまん、今日は体調悪いんや」

ドア越しに聞こえてくるあかねちゃんの声。

それは予想通りの答えで、あかねちゃんの声はどこか弱々しく感じられた。

いつもはあんなに精神の強いあかねちゃんでも、結局は中学2年生の女子、死ぬことが怖くないわけがない。

「そんなこと言わずに行こうよ」

「すまんな、みゆき」

「あかねちゃんっ」

「またな、みゆき」

「・・・うん、またね」

 

まだ死ぬなんて決まった訳じゃない、あかねちゃんが死ぬとは限らない。

考えよう、私一人じゃ無理でも、皆で考えよう。

あかねちゃんは絶対に死なせない。

あかねちゃんがマヨナカテレビに映ってから、3日が経った。

この3日間は雨が降らないどころか、雲ひとつない見事な快晴だった。

だけど今日は・・・雨。

私は今朝も、あかねちゃんの家に行った。

結局出てこなかったけど。

私は不安な気持ちを残したまま、学校へと向かった。

 

そして、放課後。

私は学校からの下校中にあかねちゃんの家に寄った。

ピンポーン

チャイムを鳴らした。

「みゆきさん、姉ちゃんならいないよ」

あかねちゃんの弟さん、名前は・・・何だっけ?

まあ、今はいいや。

「そうなの?」

「急にいなくなってな」

「え?それホント?」

「少し留守にしたらいなくなってた」

・・・あかねちゃんが危ない。

「そっか、ありがと」

私はあかねちゃんの家を後にしながら、携帯電話を取り出した。

メールを打つ。

【件名:あかねちゃんが大変】

【内容:あかねちゃんが家にいない】

送信。

あかねちゃん、一体何処へ。

キミトイエイイエイイエイイエイ

返信が来た。

れいかちゃんからか。

【件名:Re:あかねちゃんが大変】

【内容:本当ですか?】

本当に決まってるよ、こんなときに嘘吐く必要なんてないでしょ、という返信を送った。

スマイルスマイルスマイル

今度はなおちゃんから。

【件名:Re:あかねちゃんが大変】

【内容:嘘でしょ】

さっきのを再編集して送信。

プッリッキュア-

今度はやよいちゃん。

【件名:みゆきちゃん、大変】

【内容:合体ロボットが相手に効かないよ】

どうでもいいわぁっ。

やよいちゃんがたまに心配になるよ。

それから私達四人は一旦公園に集まることにした。

「私は商店街の方を探してみる」

「あ、私もみゆきちゃんと一緒に行く」

「私となおは学校の方を探してみます」

「うん」

私とやよいちゅんはれいかちゃん達とは別方向に走った。

 

「あかねちゃん、何処?」

「どこにいるの?」

色んなところを探した。

でも、見つからなかった。

 

「れいかちゃん、いた?」

『いいえ、すみません』

謝ることじゃない、と思う。

むしろ悪いのは私、朝、諦めずしっかり連れてこれば、なんて後悔してる。

 

その日は諦めた。

結局あかねちゃんは見つからなかった。

だが、私はその日の夜、居間のテレビの前にいた。

今日は雨。

ジジジ

マヨナカテレビの時間になった。

 

「先輩っ、これ、弁当なんやけど」

大阪弁の赤い髪の少女が、男性らしき人に弁当を渡している。

男性は鼻から上が、見えない。

男性の口が動く。

しかし、男性の声は聞こえない。

その代わりに字幕が現れる。

【いつもありがとな】

赤髪の少女は顔を赤らめながら言った。

「かまへんよ、だって、うちら・・・」

 

プツン、とそこでテレビが消えた。

「・・・」

よくある恋愛ドラマのようだった。

やっぱりあかねちゃんだった。

だが、今更解ってももう遅い

私は携帯電話を取り出した。

プルルルル

あかねちゃんは出ない。

探せるところは探した、でも見つからなかった。

じゃあ、今度は探せない場所を探してみよう。

ぐにゅっ

私は頭をテレビに入れ込んだ。

 

熱い。

それが最初の感想だった。

サウナ、じゃないし、砂漠、でもなく、グラウンドに見えた。

とは言っても、マヨナカテレビと同じで良くは見通せないため、そんな感じがする、止まりだけど。

霧がかかってるのかな?

「せーんぱいっ」

あかねちゃんの声が聞こえた気がした。

「何言うてんの?」

あかねちゃんの声が聞こえた気がした。

「あかねちゃんっ」

「みゆき?」

やっぱりあかねちゃんだ。

私は頭だけではなく、気付いたら体全体を入れていた。

「うわあ」

私が見てたところと地面までは高低差があった。

ドサッ、という音と共に私はお尻からテレビの中の世界に落ちた。

「いたた」

お尻が痛い。

「みゆき?ホンマにみゆきか?」

あかねちゃんが霧の中から現れた。

「やっぱりあかねちゃんだ」

「やっぱり、って何やねん」

「で、あかねちゃん」

「何や、みゆき」

「どうやって帰るの?」

「・・・」

あかねちゃんが黙ってしまった。

「あかねちゃん?」

「知るわけないやろっ」

「嘘っ」

「ホンマや」

どうしよう。

『困った顔してるな、すごく良い顔してるで』

「・・・え?」

私は有り得ないものを見た。

『どうしたんや、そない驚いた顔して、なんか良いことでもあったんか?みゆき』

そこにいたのはもう一人のあかねちゃんだった。

でも、何かがおかしい、そんな気がした。

「またあんたか、何でうちと同じ姿してんねん」

『何でって決まってるやろ、うちはうち、あんたはうちや、そんでうちはあんたや』

言ってることが解らない。

『強気にしてるのは嘘、本当はロマンチックな恋がしたい、それがうちや、違うか?』

「違うに決まってるやろ」

え?違うの?

『嘘やな、うちの本音はそういうのに素直なみゆきを妬んでる』

え?本当に?

「違う、うちはみゆきを妬んでなんかあらへんよ」

よかった、安心した。

『ふうん、あくまで認めへんのな』

「当然や」

『うちとあんたは違う、そうなんやな?』

「さっきからそう言ってるやろ」

もう一人のあかねちゃんはその言葉を聞き終えると同時、笑い出した。

『ふふ、そうやな、うちはあんたやない、うちはうちや』

もう一人のあかねちゃんはそう言いながら、体を霧に変えた。

そして、異形の形となる。

お弁当箱の形をした腰に足が四本、胴体は白いブラウスを着ているような姿、頭部は赤い鳥。

そんな怪物。

もう一人のあかねちゃんが変身すると同時、辺りの温度が一気に上がる。

霧で良くは見えないが、周りに火柱が見える。

『我は影、真なる我』

もう一人のあかねちゃん、否、あかねちゃんの影が襲ってくる。

「あかねちゃん、変身だよ」

「わかった」

「「プリキュアスマイルチャージ」」

その言葉で私達の体が光に包まれた。

そして、変身は一瞬で完了する。

「キラキラ輝く未来の光、キュアハッピー」

「太陽燦々熱血パワー、キュアサニー」

『そんなものでうちの邪魔が出来るかいな』

あかねちゃんの影がそう言いながら襲いかかってきた。

「うわっ、っと」

私はどうにかあかねちゃんの影の拳を跳び、避けた。

プリキュアに成り立ての頃は力の加減が掴めなかったし、宙を無駄に跳ぶだけのことをしていた。

でも、今なら出来る。

「やあっ」

と反撃が出来る。

ゲシッ、なんて生ぬるい音ではないが、良い蹴りが炸裂した。

「うちもいるで」

サニーは拳を叩きつける。

これまたバシィ、なんて生ぬるい音ではないが、良いのが決まった。

「これでどう?」

二発攻撃をもろにくらったんだ、効かない訳がない。

『プリキュアなんてくだらないわ、そない幼稚なこと、恥ずかしくて顔から火が出るわ』

まさしく、あかねちゃんの影は口から火を出した。

「あつっ」

「これじゃあ近づけないよ」

『心を込めたんやで、くらいや』

弁当箱の蓋が開き、中から大きなウィンナーが。

ヒュンヒュンヒュン

そのウィンナーは宙を縦横無尽に飛び回る。

『これはな、うちの命令で届くんや』

それからもウィンナーは舞い続ける。

ボォンッ

「きゃあっ」

あまりにもたくさんのウィンナーに気を使ってしまい、気づけなかった。

ウィンナーは私の足元で起爆した。

大きいだけに爆発したときの威力も大きい、爆風も凄い。

私とサニーは190m程吹き飛んだ。

『気づかへんかったろ、おもろいわあ』

あかねちゃんの影はケラケラと笑った。

「・・・違う」

私はその姿を見てはっきりと言った。

「そんなの、あかねちゃんじゃない、そんなの、絶対に違う」

強い断定。

だって、

「だってあかねちゃんは人がひどい目にあって、笑うことなんてないもん」

「みゆき・・・」

あかねちゃんの影はそれを聞くと、笑い声を途切れさせ、憎しみのかかったような声を掛けてきた。

『何を知ったような口を叩きおって、これがうちや』

「違うもんっ」

『じゃかましいわあっ』

「くっ」

あかねちゃんの影はより一層火を強めた。

もう、逃げ場はない。

そもそも、逃げる気なんて毛頭ないけれど。

「私たちは負けない、あかねちゃんの偽物なんかには絶対に負けられないっ」

・・・トクン。

今、一瞬胸が熱くなった。

・・・トクン・・・トクン。

胸の鼓動がどんどん激しくなるのが解る。

胸だけじゃない、身体中が熱い。

こんなときに、何が。

大切な場面なのに・・・

身体中が熱くて熱くて苦しい。

『なんや、それは死んでも構わへんっちゅーことやな』

あかねちゃんの影の左手が大きく振られ、私へと向かってくる。

「みゆきっ、右や」

ごめん、無理。

『ほな、さいなら』

「みゆきー!!」

あかねちゃんの影の拳が当たる瞬間、私の体から光が発せられた。

ガキン

その光は、あかねちゃんの影の拳を反射した。

『な、なんや』

【我は汝、汝は我】

頭にダイレクトに届く謎の声。

【汝、双眼見開き今こそ発せよ】

私はその声に従って、というよりは体が勝手に動いた。

「・・ペ・・ル・・ソ・・ナッ」

私の体を渦巻いていた光が収縮されていき、やがてそれは人型になる。

【私の名はマリア、示すは愚者のアルカナ】

・・・マリア?

【 知恵の実を食べた人間は、その瞬間より旅人となった。カードが示す旅路を巡り、未来に淡い希望を託して…… 】

頭に響く声。

それは次第に小さくなってゆく。

そして、それが完全に聞こえなくなるのと同時で、体の熱は去っていった。

そして、収縮されていった光はより一層強く輝いた。

その次の瞬間光があった場所には一人のシスター服の女性が、立っていた。

藍色のシスター服、顔から流れ出る長く美しい茶髪、右手には一冊の本。

彼女はその本を掲げる。

その瞬間、あかねちゃんの影は光に包まれた。

『なっ、何がぁッグアアアアア』

頭に直接色んなことが流れ込んでくる。

その流れ込んできたものはまるで昔から知っていたかのようによく馴染んで、私の知識になる。

あの技は【ハマ】と言う光属性の魔法。

聖なる光の魔法は影であるもう一人のあかねちゃんには効果覿面なようだ。

「なんか良くは解らんけど、今や、うちらもいくで」

「あ、うん、解った」

まず私から。

「プリキュアッ!!」

手をハートの形にして、そこに私のプリキュアとしての力を溜めて、一気に相手に噴出する。

「ハッピーシャワー!!!」

それが私の必殺技、【プリキュア・ハッピーシャワー】

効くかどうかは解らない、けど、効いてっ。

あかねちゃんの影に直撃した。

『グゥアアアアアア』

やったっ、効いてるっ。

「あとは、サニー、よろしく」

この必殺技は激しく体力を消費するので、連続で出すのはまだ難しい。

「まかせときっ、プリキュアッ!!」

サニーの必殺技は焔球を作り出し、それをバレーボールに見立ててスパイクを放つ。

「サニーファイヤー!!!」

それがサニーの必殺技、【プリキュア・サニーファイヤー】

『グゥアアアアアア』

 

・・・。

良いのかな。

これで本当に良いのかな。

こんなことで終わらせて良いの?

ううん、駄目。

これじゃ駄目。

だって、これじゃ・・・誰も救われない。

 

「ねえっ、あかねちゃん」

 

息も絶え絶えに私は問いかける。

「あかねちゃんっ、本当に違うの?」

「何がや」

「これは、本当にあかねちゃんの本心じゃないの?」

「違うっ、こんなわけあらへんっ」

強い拒絶。

「本当に?少しも思ってないの?」

私は諭すように、優しく、でも強く訊ねる。

「・・・」

 

『当然や、そないなこと、思うわけ、思えるわけ、あらへんよ、だって…』

 

あかねちゃんの影は一旦止める。

 

『だって…そないなこと思ったら、不信になって、しまうもんな。そうしたら、独りに、なってしまう』

 

あかねちゃんの影は笑い声を混じらせる。

 

『独りは、嫌やもんな、一年前は、苦労したもんな』

 

でも、あかねちゃんの影はどこか寂しそうに見えた。

「そんなことっ」

あかねちゃんは否定しようと声を荒げる、だが、そこには戸惑いを混じらせていた。

「あかねちゃんっ」

「今さら何やの、コイツ倒してはい終わり、じゃあいけへんの?」

あかねちゃんは止まらない。

「自分の嫌なとこ見いへんで否定して何が悪いん?」

あかねちゃんは言ってから「あ」と言った。

「ほら、やっぱり」

私は問いかける。

「もう一度聞くよ。ねえ、あかねちゃん、本当に違うの?」

「それは・・・」

「違うなら違うでいいの、でも」

私は一息をいれる。

「あかねちゃん、自分を否定しちゃダメだと思うよ」

「せやな。あれは・・・うちや」

あかねちゃんはわざと無理に笑顔を作って言った。

「間違いない」

あかねちゃんは続けた。

「うちは確かにみゆきを羨ましいと思ったこともある、けどな、妬んだことなんてない」

あかねちゃんは「それにな」と言ってから、

「プリキュアやって、疲れたと思っても、辞めたいなんて思たことはない」

と言った。

「そっか」

もう十分だよね。

「もういいよ」

ペルソナの扱い方は解ってる。

私はマリアを止めた。

マリアはハマを止め、そして消滅した。

「あんたは、うちや」

あかねちゃんの顔には一筋の涙があった。

『・・・そう』

あかねちゃんの影はそれから光を発して、別の姿に変わった。

赤色の鳥、その鳥は赤、青、黄、白、あらゆる色の炎をまとっている。

美しい羽の数々。

その鳥は宙を舞ってから消滅した。

「フェニックス?」

あかねちゃんが呟いた。

きっと、あかねちゃんには聞こえたんだろう、声が。

「これが・・・うちのペルソナか」

 

後日談、と言うか今回のオチ。

あのあと、私たちが迷っていると、何処からともなくぬいぐるみを着たクマさんが現れて私達をいつもの世界に帰してくれた。

「危ないから、もう来ないクマよー」と一言言ってから。

 

「あかねちゃんっ」

 

あの日から何日か経った、もちろん私はテレビの中には入っていない。

 

「ん?みゆきか」

 

皆には、「隣町の公園にいたよ」と嘘を吐いて誤魔化した。

 

「おはよう」

 

私達五人の日常はあれからは特に何も変わってはいない。

 

「おはようさん、いつもと変わらへんな、みゆきは」

 

いつものように学校に行き、帰る。

 

「はっぷっぷー」

 

その繰り返しをするだけ。

 

「ま、それがみゆきの良いところなんやけどな」

 

何も変わらない。

 

「そうかな?」

 

非日常はたまにアカンベーを退治したりするだけ。

 

「そうや、それがみゆきの良いところや」

 

あとは何も変わらない。

 

「いつも明るく、皆を励ましてくれる」

 

この前の雨の日にはマヨナカテレビの中に誰かが映ることもなかった。

 

「それがみゆきや」

だから、私達はこれで終わったと、そう結論付けた。

 

「そっか」

 

あ、1つ違う点があった。

あかねちゃんが前より良い笑顔で笑うようになった。

まるで、太陽みたいに、ね。

 



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番外編 湊編

「ここは……?」

目覚めると、超高層ビルよりも遥か高くそびえる塔が目の前にあった。

それに、何故かは分からないが、空は碧に染まっている。

辺りを見回せば、赤い棺桶が幾つか在った。

 

導かれる様に塔へと入ると、そこは広いエントランスの様になっていた。中央には階段があり、その先には扉がある。

だが、今回はそこに用などない。そう、思わされた。

私はその階段の横にある小さな機械に触れる。すると機械からは蛍光灯の様な光が発せられた。

そして、念じる。

ーーー最上階へ。

そこに、私を待ってる人がいる。

 

「貴方は?」

片目を髪で覆い被せている少年が最上階にポツリと立っていた。片手には刀、物騒だとも思えたけれど、この摩訶不思議な世界だからか、どうでもいいと思えた。

「……俺は有里湊」

ボソリと彼は答えたのだった。

……そして、彼は不意に銃を自分の頭に向けた。自殺行為にも見えなくはない。だから、

『待って!!』

そう、私はいつもなら言うんだろう。でも、そんなことさえもどうでもいいと思えてしまうのだった。

その代わりに私は片手を前に突き出した。

そして、呟く。

「「ペルソナッ!!」」

同時に呟いた。

 

パァンッと音が響き、彼の背後にも何かが現れた。

死神のような姿をしたペルソナ。

「死神……か、確かにそう見えるよね、どうでもいいけど。コイツは俺のペルソナ、『タナトス』」

『タナトス』、それはギリシャ神話における死の神。すると、死神のような、ではなくまさしく死神だったのか、と少し驚いた。まあ、どうでもいいんだけれど。

「そっか。私のペルソナは『マリア』」

マリアはキリストを『生』んだ人とされ、タナトスは『死』を司る。見事に相対してるようだな、と感じた。

「そうだね、俺も死んでるっちゃ死んでるし、君は逆に生命力に満ち溢れてる。本当に相対的だ」

「言い忘れてたけど、私の名前は星空みゆき」

「そうなんだ」

彼はどうでもよさそうに言いながら、どこかから日本刀を取り出した。

私もそれに対応して、強く念じてプリキュアに変身する。

そして、取り出したロイヤルキャンドルから発せられた桃色の光をブンッ、と振り形を整え光の剣を形成した。

これは私がプリキュアとして得た能力。

彼が床を蹴ったところから戦闘は始まった。

 

初手は私が防戦へと回り、剣と剣が交じり合った。

常人には不可能な動作、異常な筋力、どれも不可解に思う……普通なら。でも、私はプリキュアであると同時にペルソナ使い、ペルソナの能力はペルソナ使いにも対応される。タナトスは強力なペルソナ、不思議など無い。

そこで彼は呟く様に口を開いた。

「こうやってシャドウ以外と闘うことは少なかったっけ、何かとても懐かしいな……」

「前にもあるんですか」

「ま、何度かペルソナ使い同士でね」

「そっか……まぁ、」

私たちは互いに退きながら、互いに呟いた。

「「どうでもいい」」

 

マリアはタナトスの持った刀を避ける様に後退しつつ、ハマオンを放ったり、私の回復を行う。たまに放たれるメギドラオンによって、マリアはダメージを受けるが、追撃を受ける前に態勢を整えまた後退する。

 

また、剣と剣が交じり合う。

だが、それは柄の部分の話、切っ先は互いの頬を紅く染める理由となる。

痛みを感じる。でも、どうでもいい。それよりも何よりも楽しさが勝る、勝ってしまう。命を賭けている様な争いなのに楽しいと思ってしまった。

 

タナトスの放つブレイブザッパーと私の振るう光剣により、かなりの疲労を抱える彼。対して私はタナトスのメギドラオンを受け、彼の剣技を受け、かなりのダメージを負うがマリアの回復により、ギリギリの状態で意識を保っていた……いや、意識なんてもうどうでもいいかも。

考える前に剣を振るい、マリアによって回復を得る。知らず知らずに既に体が動くようにとなっていた。

 

彼は後退しようとする。私はそうはさせないと追いながら光剣を振る。

だが、目の前にタナトスが現れ、ブレイブザッパーを放ってきた時には流石に追撃を止めざるを得なかった。

そして、彼は後退した先で瞳を閉じて言うのだった。

 

『ハルマゲドン』

 

全てを無に帰する究極の魔法。

そう聞いた。

だが、使用者にも激しい衝撃が訪れるとも聞いた。

私はプリキュアとしての力を使う……わけではなく、同じように瞳を閉じて呟いた。

 

『インフィニティ』

 

かつて見知らぬお姉さんに貰った謎のカード、その効果は一定時間全ての攻撃を無効化させると言うもの。

「っ!!」

咄嗟に閉じたにも関わらず強烈な光が網膜に焼き付き、防いでいるのに衝撃が襲いかかる。

 

衝撃が収まり、ようやく体を動かせる様になった頃、私はそっと目を開けた。

眼前に広がる光景には未だ変わらず一人の少年が立つ。

「よく『ハルマゲドン』を防いだね、それは『インフィニティ』か……」

「はい、この前貰ったんです」

「……あの人にかな」

彼は少し悩ましげに頭に手を掛けた。

「さて、切り札も使った。俺にはもう手が無いね……」

「嘘つき……」

「あ、バレたか」

彼はまた自らの頭に銃を向け、引き金を引いた。

 

「オルフェウスッ!!」

 

「俺の最初のペルソナ、そして最後のペルソナ。どのペルソナよりも思い入れだけは強いね、間違いなく」

……それも嘘。思い入れだけ、なんかじゃない。間違うことなんてない、彼の中で最強のペルソナだ……。

「私は……どうしようかな?」

「チェンジくらいは待つよ?」

「そっか」

私は手を前に突き出し、カードをグッと握った。

 

「マリア!!」

 

厳密にはチェンジじゃない。

マリアの力を最大限に解放しただけのこと。ただ、このマリアの戦闘力は先程まで苦戦していたタナトスさえも勝つことが出来る。

 

『メギドラオン!!』

『マハラカーン!!』

 

彼の本気のメギドラオンを魔法反射のマハラカーンで防ぐ。反射した先では膨大な爆発が生じていた。

 

『ブレイブザッパー!!』

『テトラカーン!!』

『アギダイン!!』

『マハラカーン!!』

『イノセントタック!!』

『テトラカーン!!』

『ジオダイン!!』

『マハラカーン!!』

 

最大級の魔法や攻撃を反射して防いでゆく。何度も、何度も。

意識があやふやになればソーマを飲む。彼も全力で放つ合間にソーマの様なものを飲んでいた。

 

だが、やがてソーマではどうしようもなくなる。それは集中を持続し続けるがため、どうしても耐えられなくなる時。

私はその一瞬を狙い

 

『プリキュアハッピーシャワー!!!』

 

必殺の一撃を撃ち込んだ。

桃色の光線は彼に向かい、そして

 

『メギドラオン!!』

 

魔法で打ち消された。

どうしよう。最終兵器を失った今、反撃のチャンスなどなくなってしまった。もはや勝つ見込みなんて無い。私は諦めなければならない

 

 

 

……どうでもいい。

所詮それはフェイクなのだから。

私は彼がメギドラオンを放つ時を見計らい、先手を打っていた。

『 ホーリー 』

ごくわずかな言葉。だが、それは意味を持ち、マリアはそれに応じて動く。

 

メギドラオンが放たれたと同時、彼の頭上に光が差した。

 

まだ終わらない。終わりではない。地を強く蹴り、トップスピードで彼に一撃を放ちに掛ける。

……だが、光剣はまたしても彼によって押さえられた。

「そうだね。確かにハマ系統で僕を殺ったとしても、装備やペルソナの効果でギリギリ耐えられる様にはなってるからね。そのギリギリを削り取るために一撃を入れようと考えるのは正しい。良い判断だよ」

彼は苦しくありつつも、私の光剣を振り払った。

そして、持っていた剣と銃も投げた。

「ま、どうでもいいや。降参、もう勝てる気がしない」

私は唖然としつつ、どうでもいいながら言うのだった。

「嘘つき……」と。

 

こうして彼と私の戦闘は終わった。

勝敗の着かぬままに終わった。

 

 

 

私も変身(プリキュア)召喚(ペルソナ)を解く。

「疲れただけでしょ?」

「いや、一般人が正義の味方なんかに勝てるわけないだろう?」

「また嘘をつく……」

はっぷっぷーと頬を膨らませながら、拗ねたフリをしてみた。

何が一般人なものか。

インフィニティをくれたあの人から聞いた。

……彼もまた、世界を救った英雄なのだと。

……世界から忘れられたが、彼は一人で世界を背負ったのだと。

「さて、どうかな?」

「貴方がそう言うならもうどうでもいいよ」

「そうかい」

それよりも、と私は言葉を続けた。

「あの人……エリザベスさんは貴方を救おうとしてるよ?そろそろ逃げても良いんじゃないかな」

「……流石に怒るよ?」

「どうでもいい、じゃないんだ」

「当然だよ、俺は望んでこうなったんだ。逃げるわけないだろ?」

あの人のことはどうでもいいのか。

「救うなんてお門違いも良いところだよ。お疲れさま、もうほっといて、と伝えといてよ」

「一応伝えとく、意味は無いと思うけど」

「伝えることが必要なんだよ。……ふぅ、一夜の夢にしては中々楽しかったよ、ありがとう」

やっぱり夢だったんだ。

「こちらこそ、ありがとうございました」

私たちは握手を交わし、そして……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢は終わりを告げる。

私はこのことを忘れない様にしっかり思い出にしまった。

彼が最後に見せた笑顔とともに。

 




ご存知ペルソナ3の主人公との対峙です。
数年前に書いたものを見つけたので投稿することにしました。
内容としては短めで、書きたかっただけの話です。
時系列としては、最終章以降を想定しています。
最終章まで書き終えた時には、リメイクとして書き直そうと考えているので、書かれる可能性の低い予告程度として受け入れていただきたいです。

最後に現状報告となりますが、現在8章を執筆途中でありまして、予告の兼ね合いから7章の投稿が遅れています。
7章自体は数年前に完成を迎えていたのですが……。
それでは、このあたりで失礼します。


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