BanG Dream! ~輝きの向こう側へ~ (イノウエ・ミウ)
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プロローグ
大バンド時代開幕!


アニメでハマって、アプリで更にハマり、気付いたら書いていました。
誤字脱字が多いかもしれませんが、何卒よろしくお願い致します。


「お、これはもう写っているのか?」

 

ライブハウスKINGDOMのとある一室に一人の男が、カメラが写っているのか確認していた。

きちんと写っているのを確認した男は、改めて正面を向いて喋り始める。

 

「この小説を見ている読者のみんな、初めまして。俺の名前は赤鋼立人(あかがね たつひと)。このライブハウスKINGDOMのオーナーを努めている。よろしくな。さて、自己紹介はこれくらいにして、早速この小説について説明したいと思う。この小説『BanG Dream! ~輝きの向こう側へ~』はバンドリのいわゆる二次創作ってやつだ。原作キャラは勿論、この小説でしか出ないオリキャラも出て、笑いあり、感動ありの波乱万丈なバンドストーリーを描いていくつもりだ。それじゃあ、この小説を楽しんでもらえるために、原作及びオリジナルのバンドを紹介したいと思う」

 

そう言うと、赤鋼は視線をモニターへと移した。

すると、モニターからいくつかのガールズ及びボーイズバンドの画像が映し出された。

 

「まずは、原作のバンドを紹介しよう。一つ目は『Poppin'Party』。女子高校生五人組のガールズバンドで、常にキラキラ、ドキドキを探し続けているんだ。二つ目は『Afterglow』。幼馴染五人で結成されたバンドで、常にいつも通りを貫いている。三つ目は『Pastel*Palettes』。アイドルバンドというかなり異色のバンドだが、アイドルらしい歌声で、とても可愛らしくて知名度もかなり高いぞ。四つ目は『Roselia』。圧倒的な実力を持つバンドで、その腕はプロも称賛するレベルだ。五つ目は『ハロー、ハッピーワールド』。世界中を笑顔にを目標としているバンドで、彼女たちのバンドは毎回、様々なパフォーマンスが繰り広げられて見てて飽きないぜ。原作には、他にも『Morfonica』や『RAISE A SUILEN』ていうバンドも出るが、紹介はまた今度な」

 

そう言いながら、赤鋼は今度はモニターの下に写っている三組のボーイズバンドに目を向ける。

 

「次にこの小説のオリジナルバンドを紹介するぜ。一つ目は『Beyond'World』。男子高校生五人組のボーイズバンドで、輝きの向こう側を見つけるために活動しているぜ。二つ目は『Strike Freedom』。元々はみんな、それぞれの担当でソロ活動してたんだけど、俺が集めて結成させたバンドで、ソロ活動していたこともあって、実力はかなり高いぞ。三つ目は『Genesic』。何事も楽しむをモットーに色んな場所でライブをしているバンドで、最高の歌とパフォーマンスを披露してくれるぜ。以上でバンドの紹介は終わりだ」

 

赤鋼はバンド紹介を終えると、視線を正面に戻す。

 

「最後に作者からのメッセージだ「この小説には、オリキャラと原作キャラの恋愛要素が含まれています。また、タグにも書いてある通り、クロスオーバーということでバンドリとは関係ない別作品のキャラクターも登場する予定です(設定なども一部変えて)。もし、そういうのが苦手な方は、読まないことをお勧めします。それ以外で、もし気に入っていただけたら何卒、感想やお気に入り登録をしてくれると嬉しいです。また、感想についてですが、純粋な感想や質問及び意見には返信致しますが、要求や中傷などの感想には返信せず、通報するつもりなので、ご了承ください」だそうだ。みんなも最低限のマナーを守って、楽しく読もうな。それじゃあ、いよいよ物語の始まりだ」

 

そう言うと、赤鋼は右手を差し出したら、笑顔で喋った。

 

「ようこそ、この世界へ。大バンド時代は君を歓迎する・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライブハウスCIRCLEのとある一室。

その部屋には、人がおらず、いくつかの長い机に椅子が並べれられていた。

その時、部屋のドアが開く音が聞こえ、五人の少女たちが中に入ってきた。

 

「こんにちは!・・・て、あれ?」

 

「どうしたの香澄?・・・て、あれ?」

 

「まだ、誰も来てないみたい・・・」

 

「どうやら、私達が一番みたいね」

 

「おおー!やったね有咲!一番だよ!」

 

「だぁーもう!抱きつくな香澄!」

 

彼女たちは女子高生五人組のガールズバンド。Poppin'Partyのメンバーである。

 

ギター&ボーカル 戸山香澄(とやま かすみ)

 

ギター 花園たえ(はなぞの たえ)

 

ベース 牛込りみ(うしごめ りみ)

 

ドラム 山吹沙綾(やまぶき さあや)

 

キーボード 市ヶ谷有咲(いちがや ありさ)

 

一番乗りできたことに香澄が有咲に抱きつきながら喜んでいると

 

「こんにちは!」

 

「こ、こんにちは・・・」

 

「ヤッホー、ポピパのみんな。相変わらず元気があっていいね~」

 

「騒がしいわね」

 

「戸山さん。他の人の迷惑になるから、少し静かにしなさい」

 

新たに五人の少女たちが入ってき、ポピパに挨拶する者や騒がしい香澄に注意する者もいた。

彼女たちは超実力派バンド。Roseliaのメンバーである。

 

ボーカル 湊友希那(みなと ゆきな)

 

ギター 氷川紗夜(ひかわ さよ)

 

ベース 今井リサ(いまい りさ)

 

ドラム 宇田川あこ(うたがわ あこ)

 

キーボード 白金燐子(しろかね りんこ)

 

「えへへへ・・・すみません。つい嬉しくて・・・」

 

「全く・・・もうじき他のバンドの人達も来るんだから、静かにしてなさい」

 

紗夜に注意され、有咲から離れた香澄に、紗夜は呆れたように喋った。

二つのバンドがそれぞれ席につき、しばらく経つと新たに五人の少年たちが入ってきた。

 

「失礼します・・・って、ポピパにRoseliaだ」

 

「うわーもう来てたのか・・・」

 

「ビヨワルのみんな!」

 

「あなた達、随分と早かったわね」

 

「いや、友希那さん達の方が早いですよ」

 

新たに来たバンドに香澄と友希那が反応した。

彼らは輝きの向こう側を目指す高校生バンド。Beyond'Worldのメンバーである。

 

ギター&ボーカル 幸畑達己(こうはた たつみ)

 

ギター 立川伊吹(たちかわ いぶき)

 

ベース 影原隼斗(かげはら はやと)

 

ドラム 北添隆弘(きたぞえ たかひろ)

 

キーボード 霧ヶ峰秀真(きりがみね しゅうま)

 

「たく、随分とまぁ、気が早い奴らだ」

 

「まあまあ、元気があって何よりだよ」

 

「・・・本当は一番じゃなくて悔しいくせに」

 

「なぁ!?シュウ、てめえ!」

 

悪態づいた隼斗を隆弘が宥め、秀真がボソッと吐き隼斗が慌てながら反応した。

そんなやり取りをしていると

 

「失礼します・・・って、もうこんなに集まってる・・・」

 

「うそー!?もー!モカが集合場所に少し遅れてくるから!」

 

「ひーちゃん、めんご、めんご~」

 

「まあまあ、別に競ってたわけじゃないんだし」

 

「みんな、こんにちは。今日はよろしくね」

 

またもや新たに五人の少女たちが部屋に入ってきた。

彼女たちは幼馴染五人で結成されたバンド。Afterglowのメンバーである。

 

ギター&ボーカル 美竹蘭(みたけ らん)

 

ギター 青葉モカ(あおば もか)

 

ベース 上原ひまり(うえはら ひまり)

 

ドラム 宇田川巴(うたがわ ともえ)

 

キーボード 羽沢つぐみ(はざわ つぐみ)

 

「蘭ちゃん!こんにちは!」

 

「蘭。それに、アフグロのみんな、こんにちは」

 

「こんにちは香澄、達己。それと達己、ここにいるとみんなの邪魔になるから早く席に座って」

 

「あ、そうだね。ごめん」

 

蘭に邪魔になっていることを指摘され、すぐさま席に座ったビヨワルの面々。

それに続いて、アフグロの面々も席に座り、しばらく経つと、今度は十人の男女が部屋に入ってきた。

 

「ハッピー!」

 

「ラッキー!」

 

「「スマイル、イエーイ!」」

 

「こころんとヒロ君、今日は凄く元気いいね!」

 

「まあ、この8バンドが一度に集まる機会は滅多にないからな」

 

「なら、今日、僕らが再会できたことに感謝しようじゃないか」

 

「再会あれば別れあり、そして、また再会が訪れる・・・フッ、美しい・・・」

 

「何を言っているんだ、サンドマン?」

 

「アハハ・・・いつも通りだね・・・」

 

「ホントっあの6馬鹿は・・・いや、リオさんはギリましな方・・・でもないか・・・」

 

「ホントっすみません。うちのヒロト君が」

 

「大丈夫よ、渚。うちのこころも同じようなもんだから」

 

掛け声を合わせて元気よく中に入る男女二人に、そんな二人の様子にそれぞれ述べる四人と、そんな彼らを、後ろから呆れと苦笑いで見ていた四人。

少女たちの方は世界中を笑顔にを目標とするバンド。ハロー、ハッピーワールドのメンバーである。

 

ボーカル 弦巻こころ(つるまき こころ)

 

ギター 瀬田薫(せた かおる)

 

ベース 北沢はぐみ(きたざわ はぐみ)

 

ドラム 松原花音(まつばら かのん)

 

DJ ミッシェルこと奥沢美咲(おくさわ みさき)

 

少年たちの方は何事も楽しむをモットーに色んな場所を駆け巡るバンド。Genesicのメンバーである。

 

ボーカル HIRO(ヒロ)こと大崎ヒロト(おおさき ひろと)

 

ギター SILVER(シルバー)こと杉林リオ(すぎもり りお)

 

ベース SANDMAN(サンドマン)ことサンドバル・マンチェスタ

 

ドラム SIZU(シズ)こと浦島静流(うらしま しずる)

 

キーボード NAGI(ナギ)こと渡瀬渚(わたせ なぎさ)

 

「ハロハピにGenesicのみんな!」

 

「相変わらず、元気ね」

 

「賑やかで何よりだね」

 

相変わらず元気いっぱいのハロハピとGenesicに、香澄と蘭と達己が口を開いた。

すると、みんなの方に気付いたこころとヒロトが

 

「あら?もうこんなに集まったのね」

 

「そうみたいだね。でも、まだ来てない人たちもいるみたいだよ」

 

周りの様子を見ながら話していると

 

「こんにちは!」

 

「ヤッホー、お姉ちゃんいる?~」

 

「遅くなってごめんなさい」

 

「MVの収録ですっかり遅れました」

 

「皆さん!今日はよろしくお願いします!」

 

五人の少女たちが部屋に入ってきた。

彼女たちはアイドルバンド。Pastel*Palettesのメンバーである。

 

ボーカル 丸山彩(まるやま あや)

 

ギター 氷川日菜(ひかわ ひな)

 

ベース 白鷺千聖(しらさぎ ちさと)

 

ドラム 山田真耶(やまだ まや)

 

キーボード 若宮イブ(わかみや いぶ)

 

「こんにちは彩先輩。それと千聖先輩、会議が始まる時間前に来てくれたので遅くないですよ」

 

「そうかしら・・・お気遣い、ありがとう」

 

千聖が達己に礼を言いながら、パスパレの面々は椅子に座った。

 

「これで後、来ていないのは・・・」

 

友希那が周りを見渡しながらそう言いかけたその時

 

「すいませーん、遅れました」

 

「ううっ・・・酷いっすよ綾斗っち」

 

「見せびらかしたお前が悪い」

 

「つか、もう全員揃ってね?」

 

「どうやら、ウチらが最後みたいやな」

 

五人の少年たちが部屋に入ってきた。

彼らは自由気ままな実力派バンド。Strike Freedomのメンバーである。

 

ギター&ボーカル 小沢綾斗(おざわ あやと)

 

ギター 元石京平(もといし きょうへい)

 

ベース 弓場もとき(ゆば もとき)

 

ドラム 白瀬総太郎(しらせ そうたろう)

 

キーボード 宙船レン(そらぶね れん)

 

「遅いですよ、小沢さん」

 

「そう言わないでください紗夜さん。総太郎の野郎が新しいモデル雑誌を見せびらかしたから、ムカついて〆てたんですよ」

 

「ちょっと綾斗っち。見せびらかしたのは否定しないっすけど、だからといって殴ることは・・・」

 

「うっせぇーナルシ。一回、死んでこいや」

 

「聞きました千聖さん!こっちは頑張って仕事をしたのを自慢しただけなのに!同じ事務所の先輩として一言、言ってくださいよ!」

 

「自慢している地点で悪いのはあなたじゃない・・・」

 

千聖に言い寄ってきた総太郎だったが、呆れたように返した千聖。

 

「とりあえず、早く会議を始めたいから座ってくれる」

 

「せやな、座ろうや」

 

蘭とモトキの言葉で、ストフリのメンバーは座り出した。

全員座ったのを確認すると

 

「それじゃあ、改めて・・・みんな!久しぶり!」

 

「と言っても、この間、このメンバーでライブしたけどね」

 

「この間のライブは楽しかったし、今度はもっと楽しいライブにしましょ!」

 

「どんなライブでも私たちは私たちの音楽を奏でるだけよ」

 

「私たちのステージを見に来てくれているお客さんのために、最高のライブにしよう!」

 

「まぁ、ボチボチやりますか」

 

「僕たちはお客さんと一緒に全力で楽しむだけだよ」

 

「うん・・・それじゃあ・・・」

 

ボーカル陣の言葉が次々と続き、最後に達己が締めるかのように周りを見渡すと

 

「これより、8バンド合同ライブの会議を始めます」

 

今ここに、8バンド合同ライブの会議が行われるのであった。




オリジナルバンドの略称
・Beyond'World→ビヨワル
・Strike Freedom→ストフリ
・Genesic→Genesic


とういうことで、以上プロローグでした。
ここから、オリジナルバンドのバンドストーリーに入っていきます。
SAOの方も書いているので、時間がかかるかもしれませんが、何卒、この『BanG Dream! ~輝きの向こう側へ~』をよろしくお願いいたします。


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Beyond'world 第一章withアニメ一期
1~2話


バンドストーリー Beyond'world、第一章withアニメ一期編です。
基本的に2話ずつ書いていこうと思います。


1話 かつて見た景色

 

五年前、ライブ会場舞台裏

 

「凄かったね、兄さん。お客さんがいっぱいいて、とてもキラキラしていた」

 

ライブが終わり、舞台裏に戻った兄弟の弟が兄にライブの感想を伝える。

しかし、満足気な笑みを浮かべる弟と違ってどこか満足していない兄。

 

「こんなもんじゃないさ。俺の求めるステージはキラキラのその先のステージ、輝きの向こう側だ」

 

「輝きの向こう側?」

 

「ああ、頂点に立った者だけが見える特別な景色さ。」

 

兄の話を聞いて、弟は輝きの向こう側に興味を持った。

今日のステージはとてもキラキラしていた。しかし、頂点に立てばキラキラよりも更に上の輝きの向こう側が存在するのだと。

そのステージから見える景色はどんな景色なのだろうか。

見てみたい。弟は純粋にそう思った。

そんな弟の気持ちを悟ったのか、兄は弟の肩に手を置いて、笑みを浮かべながら喋る。

 

「達己。お前はいつか、輝きの向こう側を目指せ。そこにはお前の想像を超える素晴らしい景色が待っているはずだ」

 

「兄さん・・・うん!俺はいつかたどり着いた見せるよ。輝きの向こう側に!」

 

それが、幸畑達己が輝きの向こう側を知った出来事だった。

あれから五年の月日が流れた。

 

 

 

 

四月

春の始まりを伝え、各学校では新たに入学してくる生徒を祝う月である。

ここ、鈴ノ宮学園も今日、入学式が行われるのであった。

鈴ノ宮学園。創立五十年以上も経って尚、未だに生徒の数が1000人以上いるこの学校は、正にマンモス高校と呼ぶに相応しい学校であった。

その学校の正門前に一人の少年が立っていた。

 

「ここが鈴ノ宮学園・・・」

 

青い制服を着て、白い髪に赤い眼を持つ少年は、今日から通う学校を見上げた。

 

「・・・行こう」

 

決意を固め、少年は正門をくぐった。

 

 

 

 

入学式を終えて、それぞれ指定された教室に入る生徒たち。

一年一組の担任は自己紹介を済ませた後、自身が担当するクラスの生徒たちに自己紹介をさせた。

 

「次!」

 

担任の言葉と共に一人の少年が席に立った。

白い髪に赤い眼を持ち、無表情でどこか不思議な雰囲気の少年。

担任はその少年を見てそう思った。

そんなことを思っている担任をよそに、少年は自己紹介をした。

 

「幸畑達己です。趣味はプラモ作り。特技は・・・ないです。部活は今のところ入る予定はありません」

 

特に何の変哲のない自己紹介をしていた少年だが、最後にクラス全員に伝えるかのように喋った。

 

「最後に一つ・・・バンド募集しています。興味がある方は、俺に声を掛けてください」

 

初めて輝きの向こう側を知って五年経って尚、幸畑達己は未だに輝きの向こう側を求め続けていた。

 

 

2話 たった一つの望み

 

入学式が終わって二週間が経った。

この時期になると、新しい友達を作ったり、どの部活に入ったりなど、忙しくなるばかりである。

しかし、周りが新しい友達を作っていく中、未だに達己には友と呼べる者がいなかった。

入学式以降、ポスターなどを作って学校中に貼ったりしながら、バンドメンバーを募集していったが、声を掛ける者はいなく、こちらから声を掛けても、断られるか無視されるかの二択で、ポスター自体も剝がされたりしていた。

それでも、達己はバンドメンバーを集めるべく、日々、学校中を歩き回っていた。

そんなある日のこと

 

「ちょっといいか?」

 

「!?・・・何?」

 

席に座っていた達己に、一人の少年が声を掛けた。

入学してから一度も声を掛けられたことがなかった達己は、少し驚いたが冷静に返した。

 

「ポスター見たぜ。お前、本気でバンドを組むらしいな?」

 

少年の言葉に頷く達己。

見た感じ、達己より背が高く茶髪のツーブロックの少年は「そうか」というと

 

「もし良かったら、俺をお前のバンドに入れてくれないか?」

 

「!?・・・本当?」

 

達己は笑みを浮かべた。

二週間バンドメンバーを探し続けて、ようやく訪れたこのチャンスを無駄にするわけにはいかない。

 

「君、名前は?」

 

「おう、そうだな。俺の名前は立川伊吹。趣味は筋トレ。この辺りに住んでいるぜ」

 

「希望の担当は?」

 

「ギターだ」

 

「へぇー、ギターは何年くらい弾いたことあるの?」

 

「いいや、一回も弾いたことないぜ」

 

「え?・・・今、なんて言ったの?」

 

「ん?一回も弾いたことないって」

 

伊吹の言葉に複雑な表情を浮かべる達己。

自分の目的は輝きの向こう側。そのためには、最低限、経験者であることが望ましい。

だが、二週間経ってもメンバーが中々見つからない中、ようやく訪れたメンバー加入のチャンスを捨てるのも勿体ない。

 

「・・・とりあえず、返事はまた今度で」

 

「おう!いつでも返事してくれよ!」

 

悩んだ末、立川伊吹の加入は、ひとまず保留という形になった。

 

 

 

 

ライブハウス、KINGDOM

二年前から達己はよくここに来て、ギターの練習をする。

今日もまた、スタジオでギターの練習をしていた。

曲に合わせてギターを弾いていきながら一曲歌い終えた。

その時、スタジオに一人の男性が入ってきた。

 

「よっ、今日も練習しに来たのか?」

 

聞きなれている声に振り向くと、やはりと言うべきかKINGDOMのオーナー、赤鋼立人がいた。

 

「まだ、見つかっていないみたいだな?バンドのメンバー」

 

「・・・まだ、入学して二週間しか経ってないし、これからだよ」

 

赤鋼の言葉を達己は素っ気なく返す。

 

「・・・早いもんだな・・・あの日、兄を失ってアイドルの道も閉ざされて、絶望に囚われていたお前を見つけて、もう二年が経つんだな」

 

「・・・・・・」

 

独り言のように吐いた赤鋼の言葉を黙って聞く達己。

 

「・・・まだ、探し続けているのか?輝きの向こう側」

 

「勿論。だって、それだけが今の俺の求める物だから」

 

そう言って、達己は練習を再開した。

それを見た赤鋼は、これ以上は何も言わず、無言で部屋を出るのであった。

 

 

 

 

練習を終えて、家に帰る達己は近くの公園のベンチに座っていた。

ケースからギターを取り出し、黙って見続ける達己。

 

「(兄さん・・・兄さんは今の俺を見て、なんて言うのかな・・・)」

 

心の中で、もうこの世にいない兄に語る。

かつて、兄と共にアイドルとして名を上げていた達己。

しかし、二年前に兄を病気で失い、一人で活動していたが、一向に名が広まることはなく、アイドルの道を断念し、絶望しきっていた達己にバンドの道を進めたのが赤鋼だ。

アイドルとして培った歌唱力と二年の間で鍛え上げたギターの力で、達己はソロでライブの場を盛り上げることができるくらいまで成長した。

しかし、未だに共に音楽を奏でるメンバーが見つかっていなかった。

バンドは一人では絶対にできない。

初めてバンドを知った達己に赤鋼が言った言葉である。

この言葉に従い、達己は今でも共に音楽を奏でるバンドメンバーを探していた。

 

「・・・学校の時のあいつ・・・やる気はあるみたいだけど、だからといって、初心者ってのはなぁ・・・」

 

今日の学校でも出来事を思い浮かべる。

バンドに入りたいと言ってきた伊吹。しかし、自分の求めるバンドは輝きの向こう側にたどり着くことができる最強のバンドだ。

初心者をバンドに入れて、果たして自分は輝きの向こう側にたどり着けるのだろうか。

 

「はぁー・・・考えていても仕方ないし、とりあえず、一曲歌おう」

 

そう言って、ギターを持った達己は座りながら一曲歌った。

ギターの音に合わせて歌を歌っていく。

歌っている曲は、アイドル時代の曲をリメイクしたものである。

一通り歌い終えた達己は、しばらく、無言であったが

 

「・・・帰ろう」

 

そう言いながら、ギターをケースにしまおうとしたその時

 

「スゴーイ!キラキラだ!」

 

何処からか、少女の元気な声が聞こえた。




一体、どこのスターちゃんナンダ?


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3~4話

3話 星の鼓動を聞いた少女

 

元気ないっぱいな少女の声が聞こえ、振り向くと、そこには目を輝かせながらこちらを見ている少女がいた。

茶髪に頭に猫耳?が付いている少女は元気よく達己に話しかける。

 

「凄かったねさっきの歌!どうすればあんな風にキラキラになれるの!?」

 

「・・・別に。普通にギターを弾きながら歌っただけだよ」

 

「噓!?だって、あんなにキラキラしてたんだよ!?絶対に有り得ないよ!」

 

なんだこの子は。達己は目の前で騒いでいる少女にそんな印象を抱いた。

 

「有り得ないも何も、俺は普通にギターを弾いて歌っただけ。何の種も仕掛けもないよ」

 

「そうなの!?それじゃあ、君は歌を歌うだけでキラキラになれるんだね!すっごーい!」

 

なんか変な認識をされた。

未だ呆然と見ている達己をよそに、少女は何か思いついた表情をした。

 

「あ、そうだ!私、戸山香澄。花咲川女子学園の一年生。君は?」

 

何がそうだなのか分からないが、とりあえず、自己紹介をしてきた少女にこちらも一応自己紹介をする。

 

「幸畑達己。鈴ノ宮学園の一年生」

 

「えぇ!?君も一年生なんだ!なら、私と同じだね!よろしくね、たつ君」

 

「たつ君?」

 

なんか変なあだ名を付けられた。

これ以上、向こうのペースに乗られるのはマズいと思った達己は一旦、話題を変えようと香澄と名乗った少女に質問した。

 

「ところで戸山さんはこんな所で何してるの?」

 

「私はね、キラキラドキドキを探しているの」

 

「キラキラドキドキ?」

 

キラキラドキドキの意味が分からなかった達己だったが、キラキラと聞いて、ふと、ある質問をした。

 

「・・・ねぇ戸山さん。戸山さんって輝きの向こう側を見たことがある?」

 

「輝きの向こう側?・・・見たことないよ。星の鼓動なら聞いたことがあるけど」

 

「星の鼓動?それって輝いているの?」

 

「勿論!私も星の鼓動みたいにキラキラドキドキしたくてそういうのを探しているんだ!あ、星の鼓動っていうのはね、星がキラキラってして、ドキドキってして、それはもうキラキラドキドキ」

 

「ごめん、もういい」

 

とりあえず、香澄が輝きの向こう側を見たことがないことだけは分かった。考えて見れば、星が輝いているのは当然だし、大方、山とかに行って夜空に浮かんでいる無数の星々を見たのだろう。

そんなことを考えていると、香澄が声を上げた。

 

「あ!私、そろそろ行かなくちゃ!またね、たつ君」

 

「・・・またね」

 

香澄は達己に一言言うと元気よく去っていった。

残った達己も不思議な子だったなぁ~と思いながら家に帰るのであった。

 

 

 

 

「凄かったな~たつ君、とってもキラキラしてたし・・・」

 

帰路についていた香澄は先程の少年の姿を思い浮かんでいた。

 

「私もなれるかな。たつ君みたいにキラキラドキドキに・・・」

 

そんなことを思いながら歩いていると

 

「ん?これは・・・シール?」

 

香澄は道に落ちている星のシールを見つけた。

それが後に彼女のバンドの芽が芽吹くきっかけになることを香澄はまだ知らない。

 

 

 

 

鈴ノ宮学園の昼の教室で達己は相変わらず一人で過ごしていた。

いつもなら授業が終わった後は、バンドメンバーを探し学校中を歩き回るか、一人で昼食をとるかの二択であるが、今日は違った。

 

「えっと・・・立川伊吹君・・・だっけ?」

 

「ん?おう、お前か。ああ、俺の名前は伊吹だ。合っているぜ。達己・・・でいいんだよな?」

 

昼食を済ませた達己は机に座っている伊吹の下へやって来た。

 

「うん、合ってるよ。それで、昨日のバンドの件なんだけど一つ聞いていいかな?沖立君」

 

「おう、いいぜ。それと伊吹って呼んでくれ。後、君付けもいらねぇよ」

 

「うん、分かった。それじゃあ、一つ聞いていい?」

 

達己は「すぅー」と一旦、呼吸を整えると、伊吹に問いだした。

 

「伊吹、君はどうしてギターがやりたいと思ったの?バンドがやりたいのなら他のパートでもいいはずだ?」

 

「そうだな・・・かっこいい、と思ったからだ」

 

「・・・はい?」

 

「だから、かっこいいって思ったんだよ。ほら、ギターを弾ける奴ってなんかスゲーかっけーイメージがあるだろ。他のパートも中々いいけどよ、俺は断然ギターが一番だぜ!」

 

「・・・・・・」

 

熱く語る伊吹を達己は冷めた目で見ていた。

正直に言えば、たとえ初心者であってもギターなら自分が教えれるし、高みへ目指す強い意志があれば加入させようと思っていた。

しかし、結果は達己の望む形にならず、残念な答えだけが返ってきた。

貴重なメンバー加入のチャンスを逃したことにため息をつきながら達己は伊吹に不合格であることを伝える。

 

「・・・悪いけど、伊吹、君をバンドに入れることはできない」

 

「な!なんでだよ!?」

 

驚きながらも加入を断った理由を問いだす伊吹。

それに対して、達己は冷静に話し始める。

 

「俺が目指している場所は輝きの向こう側って行って言わば、頂点にたどり着けないと見ることができない場所なんだ」

 

「輝きの向こう側・・・」

 

「でも、そんな考えじゃ輝きの向こう側どころか頂点にすらたどり着くことができない」

 

「それは!やって見ねぇと分からねぇだろ!」

 

「それだけじゃない。伊吹、君は頂点に立つことの意味が丸っきり分かっていない」

 

「な、何が分かってないんだよ・・・」

 

普段と違う達己の雰囲気に戸惑いながらも伊吹は問いだす。

それに対して、達己は普段では滅多に見せない真剣な表情で語り出す。

 

「頂点に立つ、確かに聞こえはいい。でも、誰か笑えば誰か泣く・・・どの世界でも頂点に立てるのは一人だけだ。頂点に立てた人は当然嬉しいだろうし、満足して辞めることができれば、更なる高みを目指して続けることもできる。でも、頂点に立てなかった人たちは悔しい思いをして続けるか辞めるかの二択だけだ。だからこそ、みんな頂点に立とうと毎日必死に・・・それこそ、命をも懸けて挑み続けているんだ!」

 

「!?」

 

達己の言葉に伊吹は何も言わない。いや、言えなかった。

達己が目指している場所がどれ程過酷なのか・・・どれ程残酷なのか・・・一度、挫折を経験している達己の言葉は伊吹にとって重すぎた。

 

「俺が目指している場所は楽観的に考えていい場所じゃないんだ!・・・この大バンド時代には夢を持ってもそれを叶えることができずに涙する人たちもいる。そんな人たちがいることを踏まえて聞くよ。立川伊吹、お前は頂点を目指す覚悟はある?」

 

「・・・・・・」

 

達己の言葉に伊吹はしばらくの間、無言であったが

 

「・・・俺には中学の頃にバンドをやっていた幼馴染がいるんだ」

 

「?・・・やっていたっていうことはその人は辞めたの?」

 

「ああ、家庭の事情でな・・・でも、聞いてほしいのはそこじゃねぇ」

 

ふと、喋り出した伊吹を達己は表情を変えずに聞いていた。

 

「バンドをやってた時のあいつはスゲー楽しそうだったんだ。バンドの仲間たちと一緒にドラムを叩いているあいつの姿は生き生きとしてた。でも、辞めちまって、しばらく経ったある日によ、バンドの話題になった時あいつ、スゲー悲しそうな顔をしてたんだ。きっと心の中ではスゲー後悔しているんだと思うんだ」

 

顔を俯きながら喋っていた伊吹だが、ふと、顔を上げ真剣な表情になると

 

「だから、確かめてぇんだ。あいつが辞めても尚、未だに未練を残している場所がどんな所なのか・・・そのためならギターの腕がどうとか関係ねぇ。俺はたどり着くだけだ。あいつがいたステージ・・・いや、それ以上の場所にな!」

 

伊吹の言葉を達己は黙って聞いていた。

この少年もまた、自分と同じだ。ただ興味範囲でバンドをやろうとせず、バンドに対する理想を掲げている。そして、それを実現しようとする信念がある。

伊吹の信念を正面から受け止めた達己は

 

「・・・今日の夕方、CIRCLEって場所に来て。場所は後でLINEで送るから」

 

そう言うと、達己は自分の席に戻った。

 

 

 

 

4話 星の王子様

 

ライブハウス、CIRCLE

伊吹は学校が終わると、達己からLINEで送られきた場所であるここに来ていた。

ライブ会場には人だかりがあり、その人だかりは会場の外まであった。

 

「(スゲー人だかりだな・・・あいつは今日ここで歌うみてぇだけど・・・)」

 

その人だかりの中、伊吹は腕を組みながら準備中のステージを眺めていた。

すると、周りの人たちの声が聞こえてきた。

 

「ねぇ、知ってる?今日のライブ、星の王子様が出るらしいよ」

 

「嘘っ!?あの星の王子様が!?」

 

「ホントよ。はぁ~素敵だわ。歌が上手くてギターも引けて輝いていて、それに気遣いもできて、オマケに可愛らしい顔をしてかっこいいし」

 

「正に王子様ね!」

 

そんな少女たちの会話が聞こえてきた。

 

「(星の王子様って・・・あいつ、王子様ってガラじゃねぇだろ)」

 

少女たちの会話を聞いた伊吹は普段の達己の様子を想像しながらそんな風に考えていると

 

『キャーーー!!』

 

会場にいる女子たちの歓声が響き渡り、伊吹はステージの方を見た。

そこにはギターを持っている達己がいたが、その姿は普段の達己とは全く違っていた。

普段のおとなしめな雰囲気は全くなく、普段ならどこか覇気のない赤い瞳には真っ直ぐな炎が宿っていた。

 

「(マジかよ・・・いつもより違うって言うよりかはもはや別人じゃねぇか!?)」

 

「・・・幸畑達己です。今日は来てくださってありがとうございます。それでは、早速ですが一曲目」

 

伊吹が普段と違う達己に困惑する中、達己は軽く自己紹介を済ませるとギターに手を当て息を吸いそして、歌いだした。

 

「!」

 

その時、世界が輝きに包まれた。

達己の言葉の一つ一つがギターの音色と共に会場中に響き渡っていく。

達己の歌声に静かだった会場が一斉に歓声に包まれる中、伊吹は声を上げずに、ただ黙って達己の歌声を聞いていた。

会場全体をも変えてしまう歌声とそれを奏でている達己の放つ輝きに伊吹は圧倒されていた。

そして、ライブはあっという間に終わりを迎えた。

 

「・・・ありがとうございました。また、見に来てください」

 

歓声に包まれる会場に達己は一言礼を言うとステージから下りた。

 

「これが、バンドなのか・・・?」

 

周りが歓声に包まれている中、伊吹は達己がいたステージを見続けるのであった。

 

 

 

 

「すっごーい・・・」

 

達己がいたステージを香澄は目を輝かせながら見ていた。

つい先日、公園で出会った少年がここでライブすると学校で聞いた香澄は早速、ライブハウスへとやってきた。

そして、達己のステージから放たれた初めて出会った時以上の輝きに香澄は目を奪われていた。

 

「スゲー、完璧すぎるだろ・・・」

 

その隣で金髪ツインテールの少女、市ヶ谷有咲もまた達己に魅了されていた。

香澄に強引に連れてこられた有咲はライブが始まる前は嫌々とステージを見ていたが、ライブが終わると今まで聞いたことのない完璧な歌声に言葉が出てこなかった。

 

「(これが・・・たつ君のキラキラドキドキ・・・!)」

 

達己のキラキラドキドキを感じ取った香澄は未だステージを見続けている有咲に力強く声を掛けた。

 

「やろう有咲!私たちもキラキラドキドキになれるように!」

 

そして、いつか彼みたいに輝ける存在になりたい。

香澄はそう決心するのであった。

 

 

 

 

幸畑達己に魅了された少女は戸山香澄だけではなかった。

 

「・・・・・・」

 

美しき銀のロングヘアの少女、湊友希那は先程まで達己がいたステージをマジマジと見ていた。

 

「これが星の王子様・・・なるほど・・・あなたが練習を早めてまで見ようとした理由が分かりました」

 

その隣でエメラルドグリーンのロングヘアの少女、氷川紗夜がつい先日、バンドを組んだボーカルに静かに語りかける。

バンドを組み始めてから、いつも通り二人で練習をしていたが、今日は自分の気になっている人がここでライブするとのことで、それを見るために練習を早めに切り上げると友希那が言ってきた。

無駄なことに時間を使いたくない紗夜は、わざわざ練習時間を早めてまで見る必要があるのかと考えていたが、その考えは先程のステージを見てすっかり消えていた。

 

「ギターの腕はまだまだなところはありますが、それを凌駕する歌声・・・もし、それに更なるギターの技術や他のパートが加われば、彼は将来、最強とも言えるバンドになりかねませんね」

 

ライブの純粋な感想を友希那に伝える紗夜。

ギターの腕は自分より劣っているが、彼のボーカルの力はかなり上だ。あの日、友希那の歌を聞いて感じた時と似たようなものを紗夜は感じていた。

紗夜は幸畑達己を評価すると同時に将来、自分たちの前に立ちはだかる障害になるだろうと危惧した。

そして、友希那も

 

「・・・彼は間違いなく私と同じくらい音楽に対する熱意があるわ・・・いいえ、熱意だけじゃない。それを証明できる実力も彼は持っているわね」

 

達己の実力を評価していたが、「でも」と言いながら言葉を続ける。

 

「相手が誰だろうと私たちは高みを目指すだけよ。彼が高みへの壁になるのなら、それを押し倒して進むだけ」

 

「・・・そうですね。今日はもう見なくてもよろしいのですか?」

 

「そうね。元々、彼を見るために練習時間を早めたのだから、他のバンドを見る暇があるのなら帰って自主練をした方が効率的だわ」

 

そう言うと、友希那たちはライブ会場から出た。

そして、外に出ようとした瞬間

 

「友希那さん!バンドに入れてください!」

 

紫のツインテールの少女が友希那たちを待ち構えていたかのように立ち塞がり友希那に自分をバンドに入れて欲しいとお願いしてきた。

この少女、友希那たちがバンドを結成した後、いきなり現れてバンドに入れて欲しいとお願いしてきたのである。

完璧なバンドを目指している友希那は世界で二番目に上手いドラマーだと自称する中途半端な少女のお願いを断ったが、それ以降、少女は何回も友希那の前に現れてはこんな風にバンドに入れて欲しいとお願いするのであった。

そんな何回目かも分からない少女のお願いを友希那は

 

「断るわ」

 

いつも通り断るのであった。

 

 

 

 

ライブが終わり、ライブハウスから出た達己を伊吹が待ち構えてたかのように立っていた。

 

「・・・どうだった?今日のライブ」

 

「・・・スゲーの一言しかねぇ。音楽なんて今まで何回も聞いたことがあるからステージで歌ったところで大したことないと思ってた。でも、あのステージで輝いているお前を見て、俺はお前のことを本当にスゲー奴だと思ったぜ」

 

「そう・・・でも、こんなもんじゃないから。俺の目指している場所は」

 

伊吹の感想を一言で返しながら達己は口を開く。

 

「俺が目指している輝きの向こう側はそんな輝きすらも凌駕する最高のステージだ。そこにたどり着くためには最高の歌と演奏技術が必要だ。生半可な気持ちで挑んでも絶対にたどり着くことはできない」

 

そう言うと、達己は学校の時と同じように真剣な表情になり

 

「改めて聞くよ。立川伊吹、お前は持てる力の全てを掛けて輝きの向こう側に行く覚悟はある?」

 

正面から伊吹に問いかける。

それに対して、伊吹はしばらく顔を下に向けていたが、ふと、小さく笑みを浮かべた。

 

「いいね・・・男だったらそりぁでっけぇ目標を持つよな・・・輝きの向こう側か・・・面白れぇ!」

 

そう言うと、達己を正面から見つめ

 

「いいぜ!その輝きの向こう側って場所に行くために、お前のバンドのギター、俺が引き受けてやるよ!」

 

伊吹の力強い決意を聞いた達己は、笑みを浮かべると握り拳を伊吹の前に差し出した。

 

「合格だ。よろしく伊吹」

 

「おう!やってやろうぜ、達己!」

 

伊吹は達己から差し出された握り拳を己の握り拳で合わせた。

こうして、初のバンドメンバー。ギター、立川伊吹が加入するのであった。




<自己紹介>
星1「星の王子様」幸畑達己

「えっと・・・幸畑達己・・・です。Beyond'worldのギターボーカルです。輝きの向こう側を目指しています・・・後は・・・趣味はプラモデル作りで特技はありません。え?歌を歌うことは特技じゃないのかって?プロの人たちに比べたら俺なんてまだまだだよ」


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5~6話

<エリア会話>
達己&伊吹『鈴ノ宮学園』

「それにしても、鈴ノ宮学園ってとても大きいね」

「そりゃそうだろ。何せ創立五十年以上のマンモス高校だからな」

「マンモス高校!?・・・伊吹、マンモスがどこにいるのか分かる?」

「いや、そのマンモスじゃねぇから」


5話 幼馴染との再会

 

立川伊吹がバンドに加入して一週間が経った。

達己と伊吹は毎日のように、学校が終わってからKINGDOMでバンドの練習をしていた。

 

「うっし!これで、言われたフレーズは一通り弾けたぜ!」

 

「・・・・・・」

 

一週間前に課題として達己が出したフレーズを目の前の少年は一週間で完璧に弾けたことに、達己は内心驚かずにはいられなかった。

自分が用意したフレーズはそこそこの難易度で、初心者なら完璧に弾けるのに良くて二週間、悪ければ一ヶ月も掛かる物だった。

しかし、伊吹は達己の予想を覆して、一週間で完璧に弾いてみせた。

 

「伊吹って・・・本当にギター初心者?」

 

「おう!一週間前までは弾き方すら全然分からなかったぜ!」

 

力強く答えた伊吹に、達己はため息を吐きながらも笑みを浮かべた。

正直、伊吹が一週間で弾けたことは誤算だったが、達己にとっては嬉しい誤算だった。

これなら、伊吹にギターを教える期間が短くなり、次のライブには早めに出れるだろう。

しかし、バンドのメンバーは、まだ、集め終えていない。

最高の演奏をする為には最低でも後3人。ベース、ドラム、キーボード辺りは欲しい。それも、初心者ではなく、経験者で。

ギターは自分もやっているから初心者でも問題なかったが、他の3つは、達己は弾いたことないから教えることができない。

練習も大事だが、そろそろ次のメンバーも探さないと、と達己がそんなことを思っていると

 

「そうだ達己。お前、練習終わった後、時間あるか?」

 

「ん?この後は特に予定は入れてないけど・・・」

 

「ならよ、ちょっくら俺に付き合ってくれねぇか。お前に紹介したい奴がいるんだ」

 

「紹介したい奴?」

 

奴と聞いて首を傾げる達己をよそに、伊吹は言葉を続ける。

 

「前に幼馴染がいるって言っただろ。俺が紹介しようと思っている奴はそいつだ。入学してから一回も会ってなくてよ。ほら、ここ数日、色々あって忙しかっただろ。けどよ、大分落ち着いてきたから、今日会いに行こうと思ったんだよ」

 

そう言いながら、伊吹はお菓子が入った袋を持ち上げ、達己に見せた。おそらく、入学祝いだろう。

 

「その幼馴染って、近くにいるの?」

 

「おう!商店街で店をやっているんだ。俺はあいつとは、小学校が一緒で家も商店街から近かったから、いつも遊んでたぜ。けどよ、中学の頃、あいつは花咲川女子に行っちまって、学校は別々になっちまったんだ。おかげで、会える日は少なくなっちまった」

 

そう言いながら、少し残念そうな顔になる伊吹。

花咲川女子学園ということはその幼馴染は女子なのだろう。ふと、達己の脳裏にこの間、公園で出会った猫耳少女が思い浮かんだ。そう言えば、彼女も確か花咲川女子学園だった気がする。

 

「それで、どうするんだ?」

 

「・・・せっかくだから行ってみるよ」

 

達己の返答に伊吹は「決まりだな!」といつもの力強い笑みを浮かべるのであった。

 

 

 

 

練習が終わり、夕暮れ時の商店街を達己と伊吹は歩いていた。

 

「伊吹の幼馴染がやっている店って、後どのくらい掛かるの?」

 

「もうすぐ着くはず・・・お!ここだ」

 

伊吹が立ち止まり、店の入口前に立つ。

店の名前には『やまぶきベーカリー』と書かれていた。ベーカリーということはおそらく・・・

 

「ここって・・・パン屋?」

 

「ああ、あいつはここのパン屋の看板娘なんだ」

 

そう言いながら、伊吹は店の中に入り、達己も後に続く。

 

「おーい!沙綾ぁー、いるかー?」

 

「いらっしゃいませ!・・・って、伊吹君!?」

 

「え、何!?・・・あ!タツ君!」

 

「ん?・・・あの子、確か公園で会った・・・」

 

そこにいたのは、薄茶色の髪をポニーテールにまとめている沙綾と呼ばれた少女。そして、あの日、公園で出会った香澄という少女が話していた。

突然の幼馴染の来訪に驚く沙綾。驚く友の姿を見て、何事かと思いながら入口を見ると達己がいたことに反応する香澄。あの時、公園で出会った香澄を思い出しながら小さく呟く達己。

三者、それぞれ違う反応をしたが、ひとまず、互いに自己紹介を済ませ、事情を説明した。

 

「いやー、それにしても沙綾に男の子の幼馴染がいたなんて」

 

「そう言う香澄こそ、入学して一ヶ月で男の子と友達になってるじゃん」

 

一通り説明が終わったところで、香澄が沙綾をからかうように喋るが、沙綾も笑みを浮かべながら喋った。

その横で、達己が伊吹に話しかける。

 

「ところで伊吹。入学祝いを渡さなくていいの?」

 

「あ、忘れてた。ほらよ、沙綾。入学おめでとうな。入学祝いだ」

 

「ありがとう伊吹君。そうだ!はい、私からも伊吹君に入学祝いだよ」

 

伊吹からお菓子の入った包みを受け取った沙綾は、お返しにいくつかのパンを袋に入れて、入学祝いとして伊吹に渡した。

 

「しかし、ホントっ久しぶりだな。最後にあったのは、お前んちでやった卒業祝いのパーティーに誘われた時だっけか?」

 

「そうだよ。あの時は紗南と純がはしゃぎすぎて大変だったよね」

 

「別に気にしてねぇよ。それに、お前んちのパン、腹いっぱいに食わせて貰ったし、俺は楽しかったぜ」

 

お互い笑い合いながら楽しそうに会話する伊吹と沙綾。

それを見た達己と香澄は、互いの顔を見合わせると

 

「俺たちは先に帰るよ」

 

「またね、沙綾!」

 

「あ!またね、香澄!」

 

「達己も、また明日な!」

 

伊吹と沙綾に挨拶すると、二人は外に出ていった。

 

「・・・気を遣われちゃったね」

 

「だな。達己もそうだけど、お前の友達、結構いい奴だな」

 

「フフッ!香澄とはね、入学式が始まる前に友達になったんだ」

 

「マジかよ!?俺なんて、あいつとまともに会話するのに二週間掛かったってのに・・・」

 

「確かに、幸畑さんって、あまり人と話さないイメージがあるよね」

 

「だろ。まっ、話してみれば、悪ぃ奴じゃねぇし、お前ともすぐに仲良くなれると思うぜ」

 

「そうかもしれないね。何せ、香澄があだ名で呼ぶくらい気に入っているしね」

 

二人の会話はどんどん弾んでいき、互いの友達紹介から学校生活、最近の出来事、沙綾の弟と妹の様子についてなど、二人は微笑み合いながら会話をしていった。

そんな中、ふと、沙綾が伊吹が背負っている物に気付いて、何なのか問いだす。

 

「ところで伊吹君。後ろに背負っているのって、もしかして、ギター?」

 

「おお、そうだ。俺、バンドやることにしたんだ」

 

「!? へぇー、そうなんだ」

 

一瞬、沙綾の顔が暗くなったが、すぐに顔を戻して他人事のように喋る。伊吹はその一瞬を見逃さなかった。

 

「今はギターの練習をしててよ。達己には、もう少しで人前で演奏できるレベルになれるって言われたぜ」

 

「そうなんだ。そう言えば、香澄もバンドを始めるって、言ってたな」

 

「へぇーあの子もか・・・」

 

ごく普通に会話をする伊吹と沙綾。

しかし、二人の間に漂う空気は徐々に暗くなっており、伊吹と紗綾も表には出さなかったが、それを感じていた。

そんな雰囲気の中、伊吹が意を決したように沙綾に問いかけた。

 

「・・・なあ、沙綾。お前、またやらないのか?バンド」

 

「!?」

 

その問いに、沙綾は驚愕の表情で伊吹を見たが、すぐに下に俯いた。

数年前、沙綾は同級生たちとバンドを組んでいた。伊吹はそれを知っていた。そして、彼女がバンドを辞めてしまった理由も。

それでも、伊吹は戻ってきて欲しかった。仲間たちと共に楽しそうにドラムを叩いていたあの頃の沙綾に。

しばらく静寂が続いたが、沙綾がポツリと言う。

 

「・・・無理だよ・・・今の私は、お母さんや紗南や純の面倒を見ることで手一杯だから・・・」

 

「・・・そっか」

 

沙綾の悲痛な言葉に伊吹は目を瞑りながら小さく返すしかなかった。

二人はそれ以上、会話せず、伊吹は店から出るのであった。

 

 

 

 

6話 小さなきらきら星

 

数日後、ライブハウス、KINGDOM

いつも通り練習をしていると、赤鋼が話しかけてきた。

 

「よっ!制が出てるじゃないか」

 

「赤鋼さん、こんにちは」

 

「うっす!赤鋼さん。お世話になってます!おかげさまでギターも様になってきたぜ」

 

「それは何よりだな。これからも頑張れよ、少年!」

 

「はい!」

 

赤鋼に挨拶をした達己と伊吹は練習を中断すると、その場で赤鋼と三人で何気ない会話を

すると、赤鋼が何か思い出しかのように二人に問いかける。

 

「そう言えば、お前たち、今度の日曜日、何か予定はあるか?」

 

「・・・練習の予定は入れてないし、特にありません」

 

赤鋼の問いに答える達己。

 

「なら、せっかくだからライブを見に行ってきたらどうだ?」

 

そう言いながら、赤鋼は一枚のチラシを達己に渡した。

そこに書かれていたのは、SPACEというライブハウスで行われるガールズバンドのイベントに関してだった。

 

「これって、ライブのイベントか?けどよ、ガールズバンドだけのイベントってのはなぁ・・・」

 

「おいおい、この大バンド時代にガールズバンドも中々馬鹿にできないぜ。今の日本には、凄腕のガールズバンドなんていっぱいいるぞ。特にSPACEはガールズバンドの聖地とも言われているんだ」

 

伊吹の発言に呆れるように喋りながら、赤鋼は再度問いだす。

 

「どうだ?他のバンドの事も知れるいい機会だし、行ってみたらどうだ?」

 

「そうですね。今のガールズバンドのレベルが、どのくらいなのかも知りたいし」

 

「まあ、赤鋼さんがそこまで言うんだったら、行ってみてもいいかもしれねぇな」

 

こうして、今度の日曜日の達己たちの予定が決まった。

 

 

 

 

ライブハウス、SPACE

ライブのイベントが行われるだけあって、中には人だかりができていた。

そんな人だかりの中、達己と伊吹は、辺りを見渡しながら喋り出す。

 

「ここがSPACE・・・中はそれなりに綺麗だね」

 

「くぅー!どんなライブが見れるんだろうな!さっさと行こうぜ!」

 

そう言いながら、伊吹はワクワクした様子でライブ会場に入ろうとしたが

 

「待ちな」

 

突然呼び止められ、振り向くと、白髪の老婆がカウンター越しに座っていた。

 

「あんた達、ライブを見に来たのかい?」

 

「あ、はい。そうっすけど・・・」

 

「見に来たんだったら、チケット代を払いな」

 

「え!?ライブ見んのに金がいるのかよ!?」

 

「当たり前じゃん。ていうか、この間、見に行った時もお金払ったんじゃないの?」

 

「そう言えばそうだったな。アハハ!ライブのインパクトがヤバすぎて忘れちまったぜ!」

 

豪快に笑う伊吹に呆れながら、達己は老婆に話しかける。

 

「お婆ちゃん、ここのチケット代っていくら?」

 

「・・・高校生かい?」

 

老婆の問いに頷く達己。

 

「600円」

 

「600円だね。どうぞ」

 

「そらよ、婆さん」

 

「確かに受け取った。それと、こいつで好きなドリンクと交換してもらいな」

 

そう言いながら、老婆はドリンク券を達己と伊吹に渡した。

 

「ありがとうございます」

 

「ありがたく頂くぜ、婆さん!」

 

老婆にお礼を言うと、達己と伊吹はドリンクを受け取るべく、ドリンクカウンターへと向かう。

 

「いやー、まさか、ただでドリンクが貰えるなんて、最高だな!SPACE!」

 

「紹介してくれた赤鋼さんに感謝しないとね」

 

「(赤鋼だって!?)」

 

話しながらドリンクを受け取る達己と伊吹。

一方、赤鋼という言葉に、達己たちの会話を聞いていた老婆が反応した。

 

「赤鋼・・・なるほど・・・中々できる奴らだと思ったけど、あの若造のとこの・・・」

 

長年の勘というのは中々馬鹿にできない。そんなことを思いながら、どこか感心した様子で老婆は、達己と伊吹が会場に入っていく様子を見るのであった。

 

 

 

 

ライブは大いに盛り上がっていた。

会場の熱気は最高潮に達しており、それは、後ろ側で見ている達己たちにも感じるくらい熱かった。

 

「くぅー!この熱!この迫力!バンドって最高だぜ!」

 

「だね。演奏のレベルはともかく、どのバンドもみんな楽しそうに弾いてるから、こっちまで、楽しくなってくるよ」

 

他愛のない会話をしながら、後ろ側でライブを見続ける達己と伊吹。

しかし、ライブが続いていくに連れて、達己や伊吹、観客たちはある違和感を覚え始めた。

 

「なんか、予定と違ってねぇか?」

 

「うん。どのバンドも、さっきから予定よりも結構長い時間ライブしている。まるで、時間を稼いでいるような感じがするんだ。それに、本来ならこの時間帯でライブをするはずのGritter*Greenってバンドがまだ一回も出てない」

 

どのバンドも、先程から時間稼ぎをしているようなライブをしていることと、本来ならこの時間帯でライブするはずのGritter*Greenが未だに出てないことに違和感を覚える達己。

結局、Gritter*Greenは一度も出ずに、ライブは終わりを迎えた。

 

「なんつうか、釈然としねぇライブだったな」

 

「・・・多分、何かしらのトラブルがあったんだと思う」

 

観客たちが次々と会場から出ていき、達己と伊吹もスッキリしない気持ちのまま帰ろうとしたその時

 

「こんにちはーーー!!!」

 

「ん?あいつは・・・」

 

「戸山さん・・・?」

 

少女の大声が聞こえてきて、ステージの方を見ると、そこには香澄がいた。

 

「初めまして!戸山香澄です!」

 

大声で自己紹介する香澄。

突然ステージに現れた名も知らない少女に観客が戸惑う中、香澄は置いてあるスタンドマイクに向かって息を吸うと

 

「・・・きらきら光る・・・」

 

「!?」

 

「おいおい、マジかよ・・・」

 

香澄は突然歌い出した。それも、ただの歌ではない。歌であっても、その歌は保育園、或いは小学校低学年辺りで歌うであろう童謡、きらきら星であった。

正直言って、彼女の歌はあまりよろしくなかった。何処か緊張しているのか、声は低く、音が聞き取りにくい。

しかし、彼女は決してステージから逃げようとせず、ただ、ひたすらに歌い続けていた。

 

「お、おい!何やってんだよ!?」

 

その時、ステージ裏から少女の声が聞こえてきたが、その声に気付いた香澄は一旦ステージから出て、数秒後に戻ってきた。先程声を上げたと思われる金髪ツインテールの少女、市ヶ谷有咲と共に。

 

「ちょ、な、何!?」

 

有咲が戸惑いながら香澄と観客を交互に見る中、香澄はマイクを有咲の方に向けた。有咲も歌おうよ、という意味だろう。

初めは抵抗していた有咲であったが、香澄の力強い推しにより

 

「・・・お、お空の星よー・・・」

 

顔を赤くしながら、歌の最後の部分を歌った。

突然、ステージで歌い始めた香澄と有咲。

しかし、周りの観客は突然のきらきら星にどう反応すればいいのか分からず、呆然と立ち尽くしていたが

 

”パチパチパチパチ”

 

この場にただ一つ、拍手の音が聞こえ、ステージで歌っていた香澄や有咲。周りの観客が一斉に拍手がした方へ振り向くと

 

「達己・・・?」

 

達己が、この場でただ一人、香澄と有咲に拍手を送っていた。

周りから「あれって・・・星の王子様!?」「なんで、ここに!?」と困惑の声が聞こえる中、達己は特に気にともせず、ステージから自身を見つめている香澄を見上げた。

 

「・・・二つ聞いていいかな?」

 

「は、はい!」

 

突然の質問に驚きながら返事する香澄

 

「まず一つ目。どうして、歌う曲をきらきら星にしたの?」

 

「えぇっと・・・咄嗟にきらきら星が思い浮かんだからです!」

 

「っ!?・・・フフッ、変なの・・・」

 

意外すぎる理由に思わず吹き出してしまう達己。しかし、香澄を正面から見据え

 

「でも・・・素敵な理由だと思うよ」

 

「そ、そうかな~、えへへ・・・!」

 

照れくさそうに笑う香澄に、笑みを浮かべながら達己はもう一つの質問をする。

 

「もう一つは・・・なんで、ここで歌ったの?」

 

それは当たり前の質問だった。香澄か今日のライブに出演するはずのない人物である。にも関わらず、何故この場で歌ったのか、緊張を我慢してまで歌おうとしたのか。

そんな当たり前の質問に香澄は

 

「・・・友達の為です」

 

たった一言で答えた。

何故、ステージで歌うことが、友達の為になるのか。普通に考えれば理解し兼ねない。

しかし、達己はそれで良かった。なぜなら、香澄の信念に満ちた力強い瞳が全てを語っていたから。

だから、達己はこれ以上追求することはせず、最後に自身の願いを告げた。

 

「そう・・・それじゃあ最後に・・・もう少しだけ聞いていいかな?香澄、君の歌を・・・いや、君たちが奏でる音楽を!」

 

「!? うん!!」

 

達己の願いに、香澄は一つ返事で返すと有咲と共にもう一度歌い始めた。

すると、二人の下にベースを持った黒髪の少女、牛込りみがやって来た。

何処か緊張気味にステージに立つりみは機材の調整を済ませると、ベースをゆっくりと弾き始めた。

音は小さく、けれども、懸命に弾いており、それを見た香澄ももう一度歌い始めて、有咲も香澄に持たされたカスタネットをリズムに合わせて叩いた。

会場は盛り上がりはしなかったものの、達己も含めて皆静かに香澄たちの演奏を聞いていた。そこに・・・

 

「お待たせーーー!!」

 

遅れてやって来たGritter*Greenの登場により、場は一気に盛り上がった。

Gritter*Greenの奏でる音に合わせて、きらきら星を歌う香澄。

会場はいつの間にか盛り上がっており、ライブの熱気が戻ってきた。

 

「スゲーな。音楽って・・・」

 

「うん。音楽の力は、きらきら星をも輝かせることができるんだ」

 

達己と伊吹もまた、ステージの上で輝いている香澄たちに魅了されながら、ライブが終わる最後まで見続けていた。

ステージの上で輝いている小さな星は、今日のライブで一番輝いているように見えた。




星1「筋肉少年」立川伊吹

「よっ!俺は立川伊吹だ!Beyond'Worldのギターを担当しているぜ。ギターに関しては素人だけどよ、Beyond'Worldの一員として、最高のギターを弾けるようになるのが今の俺の目標だ!後は・・・筋トレが好きな奴はいつでも話しかけてくれ!今なら、俺流筋トレの極意、百の型まで一気に教えてやるぜ!」


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