ウサギの観察日記『完結』 (サルスベリ)
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始まりの一ページ目






 原作キャラの性格について、反転現象が起きていますのでご注意を。


 うさぎって寂しいと死ぬらしいよ?



 

 

 

 

 

 

 

 

「実は父さんたち、転生者なんだぜ」

 

 いきなり、朝にそんなことを言われて、混乱しない六歳児ってなんだろう。自分のことなのに、彼はそう思ってしまった。

 

「そうだ、驚いたか?」

 

 母は何時も通り偉そうな態度で腕を組んでいた。

 

 見事な金髪、赤い蛇のような眼。神が作りだしたような造形は、とても二児の母とは思えないなんて、ご近所で有名な奥様。

 

 絶対に三十は超えているのに、見た目は二十歳前に見えそうで見えなさそうで、父親は犯罪者扱いされてること。

 

 無いのである。

 

 この父も見た目は二十歳前後に見える。四十になるのに、見た目が二十歳ってもう犯罪臭が凄いのだが。

 

「だからな、おまえに言っておかないといけないんだ」

 

「はぁ?」

 

「おまえ、転生者じゃないの?」

 

 この時、高坂リクは思った。

 

 両親の頭は絶対に膿んでいる、と。

 

「いやだっておまえ、六歳にしては落ち着いてるし、妙に大人っぽいし」

 

 疑いの目を向ける高坂古城という父に、小さくため息をついた。

 

「三歳の頃の俺に、『頑張れ』って笑顔で谷に落とした母がいて」

 

「う?!」

 

 胸を抑えて顔を背ける母、高坂リリィって名前らしいが、本来は別の名前があったのだが、女性だからと改名したらしい。

 

 金の力は偉大だと、胸を張っていた母の姿をリクは絶対に忘れなかった。

 

「ギルガメッシュとかネロとか憧れなんて言わなければ」

 

 自慢のきょにゅーを突き出して、そんなことを嘆く母に半眼を向けた。

 

「で、だ。おまえ、俺達の能力を受け継いでるだろ?」

 

 苦笑する父に、再び半眼だ。

 

「出来るはずだって海に置き去りにした父がいて」

 

「あ、あれはな」

 

 言い訳を口にしない父だったが、言葉に詰まったらしい。

 

「実際に、お兄様は受け継いでいたでしょう?」

 

 リクは思う、何故にこの妹君は自分より聡明でしっかりして、四歳児らしからぬ発言が多いのか、と。

 

 流れるような黒髪の妹まで半眼を向けてしまう。

 

「私は転生者ですから」

 

「あ、そう」

 

 いきなりのカミングアウトに、もうどう言っていいか。

 

「おっかしいな、俺の親父も転生者だったぜ」

 

「我の母もだがな」

 

「だよな、てっきりおまえもかと思ったんだけど」

 

「ふむ、難しいものだな」

 

「とても難解な問題ですね」

 

 父と母の思案顔と、困っていそうにない顔で頷く妹の深雪。そんな家族を前にして、リクは思う。

 

 おまえらの常識で語るんじゃないとか、そんな家族だから大人になるしかなかったとか、色々と思うのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高坂リクには幼馴染がいる。

 

 一人目は織斑千冬。

 

「なんだ、また私に叩きのめされたいのか?」

 

「ええ?」

 

 木刀を常に持った六歳児。黒髪をばっさり切った、さっぱりとした性格の六歳児。世間では、もっとやんちゃとか、女の子らしい子とかいるのに、どうしてだか女の子っぽくない千冬ちゃん。

 

「貴様、私に何か文句でも有るのか?」

 

「え、特にないけど」

 

「ないなら、私を見つめているその目はなんだ?」

 

 どうしてか知らないけど、会うたびに木刀に手をかけて睨みつけてくるのですが、怒っているとか、嫌悪しているとかじゃないらしい。

 

「こんな軟弱そうな男に負けるなど、剣士の名折れ」

 

 グッと拳を握る千冬に、そういえばそんなこともあったかとリクは思い出す。

 

 最初に会ったときに、といっても半年ほど前のことですが、木刀を持って襲いかかってきたので、思わず返り討ちにしてしまった。

 

 祖父が笑顔で教えてくれた『飛天御剣流』で、調子にのって叩き伏せてから会うたびにそんな顔でにらまれるようになって。

 

「まあ、いい、今日は知り合いを連れてきた」

 

 でも会うときだけで、後は気さくないい子なのですよ、マジで。

 

 リクは考える、これが世間でいうギャップ萌えか、と。燃えのほうがいいか、剣士だから。

 

「今、不遜な考えをしていなかったか?」

 

「してないしてない、千冬はなんで不遜って使うのさ?」

 

「いいだろう、『不遜な奴め!』とかカッコイイじゃないか」

 

 笑顔で語る彼女は、とても綺麗で可愛くて、将来は美人になりそうなのですが、最初の剣士の顔をしていたら絶対に綺麗じゃなく凛々しいになりそうで怖いのがリクの今の心配です。

 

 そして、二人目。

 

「なんだこいつ」

 

「え?」

 

 千冬に紹介されて出会った幼馴染の最初の一言は、そんなバカにしたような言葉でした。

 

「束、こいつがリクだ」

 

「こいつが? なんかインチキしたんじゃないの? ちーちゃんに勝つなんて、ふざけるな、ミジンコ」

 

「・・・・・・え?」

 

 初対面が悪態だったのを、数十年後に当人に言ったところ、泣きながら土下座するのですが、今は関係ありません。

 

「フン、どうせおまえみたいな愚図は両親も愚図」

 

「あ」

 

 思わずだった。

 

 リクは大人びていても、言動や思考も大人に見えていても、実際には六歳児。

 

 両親と自分を馬鹿にされて、怒らないほど精神的に成熟してません。

 

 思わずもう一人の祖父に教えてもらった『陸奥圓明流』を、この失礼な奴にかけてしまっても仕方がないことでした。

 

 頭から地面に叩き落とされた束の姿に、さすがの千冬も蒼白になって。

 

「り、りりりりりリクぅ!」

 

「あ・・・・・あ、不味い」

 

「確かに束は失礼なやつだ! おまえが怒るのも仕方がないけどな!」

 

「え、ごめん、生きてる? 生きてるよね?」

 

 何故か蒼白になって泣きそうな顔をしている千冬。

 

 なんでこんなことしたのか、自分でもわからないリク。

 

 そして問題の束はというと。

 

「お、お前ぇぇぇ!!」

 

 怒って飛び起きて、リクに掴みかかり。

 

「お」

 

「へ?」

 

「・・・・・・おおいぃぃぃ!!!」

 

 十メートルほど投げ飛ばされました。

 

 この日、リクに二人目の幼馴染ができました。

 

 そして彼の受難の日々の原因が始まったのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 小学一年生。

 

「おまえを倒す!」

 

「あ、そう」

 

 毎日のように挑んでは、陸奥の技の前に沈む束。

 

 

 

 小学二年生。

 

「これなら!」

 

 木刀を使うことを決めた束を、飛天の技が沈めていく。

 

 

 

 小学三年生。

 

「こ、このぉ」

 

 頭脳を総動員して、武器を作ることを決めた束の、全自動迎撃装置っぽいアームの数々を、母譲りの『武器が飛び出す宝物庫』で迎撃。

 

 

 

 

 

 小学四年生。

 

「束さんは悟った! これなら勝てる!」

 

 ロボット軍団を作った束の総攻撃を、父譲りのなんか色々と魔力を纏った獣たちの総攻撃で殲滅。

 

 

 

 

 

 小学五年生。

 

「・・・・・てい」

 

 なんかもう、死んだような眼で歩いて来て、ペチペチと叩いてくる束の頭をそっと撫でてやる。

 

 一瞬、きょとんとしてふわぁって笑顔になった後。

 

「人に暴力はダメ」

 

 最近になって、叔父に教えてもらった『表蓮華』って技でこらしめ。 

 

 思えば、この時の束が最も荒れていた。

 

「フン、お前らみたいな」

 

「同級生になんてこと言ってんだ」

 

 さらに裏蓮華もしかけた。叔父曰く、『アレンジしてあるからオリジナルじゃないよ』らしい。

 

「この天才の視界に入るな」

 

「先生だぞ、お前」

 

 担任に対しての態度に、教室の窓から放り出して。空中で従兄が編み出した嵐の魔法で叩き落とし。

 

「この天才のぉ!!」

 

「クラスメートじゃないといって、その態度は駄目だなぁ」

 

 道行く人たちに対して偉そうな態度で説教している束に、祖父の友人という人から教わった千手観音みたいな技でお仕置き。

 

 

 

 

 

 

 そんな何年かを過ごした結果、小学六年生になった束は。

 

「あの、篠ノ之さん?」

 

「みぃぃぃ?! な、ななななななにぃ?!」

 

 声をかけられてすぐにリクか千冬の背中に隠れる。二人が傍にいない、なんてことないように常に二人から離れない。

 

 いや、そこはリクから離れようよ、なんて多くの人が思うのですが、彼女のポジションは常に二人の背中。もっと言えば人のいない所。

 

 長年の積み重ねにより、肉体のスペックは上がりましたが、精神的なスペックはかなり落ちました。

 

 そう、篠ノ之・束さんは極度の人見知りになりましたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リクは思う、昔の自分が目の前にいたら教えてやろう。

 

 人間、やり過ぎは駄目と。

 

「あれ?」

 

「まあ、あれはあれでいいか」

 

「よくないだろ、あれじゃなんか弱々しくて」

 

「いいんじゃないか」

 

「男らしくないって言われないか?」

 

 リクが思わず言った言葉に、千冬は目を見開いて驚いた。

 

「え?」

 

「何を言っているんだ、束はだぞ?」

 

「・・・・・・・え?」

 

 出会ったころ、短髪よりも短かったので気づかなかったリク君。そう言えば、最近は背中に隠れると柔らかい感触があったような。

 

 ぴったりくっついていると、ちょっとドキドキしたのは背中から襲撃されないか心配だったからではなく。

 

「お、女の子ぉぉぉ?!」

 

「ああ、女だな」

 

 リクは数十年後に思う、この時から自分の受難が始まったのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「束ちゃん」

 

「みぃぃぃ?!」

 

「篠ノ之さん?」

 

「ふみゅぅぅぅ!!」

 

「束」

 

「みゅわぁぁぁぁ?!」

 

 名を呼ばれる度に悲鳴をあげて隠れる束に、多くの人がリクに目を向けた。

 

 おい、原因、おまえだろ、何とかしろと。

 

「み、みんな、束さんに何かしたら、ゆ、許さないんだぞ」

 

 背中に隠れながら涙目で言う束に、多くの人がリクに親指を立てた。 

 

 よし、よくやった。グッジョブ!!

 

「あ、はははは・・・・はぁ」

 

 そしてリクは項垂れて、彼の『うさぎの飼い主』生活が始まったのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








 暴走と妄想と、その後に来る衝撃の末に。

 衝動的に書き上げました。

 後悔はしてないけど、反省はしています。









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驚きの二ページ目




 このようなお話にお付き合いいただき、ありがとうございます。感想も嬉しかったです。 
 
 ご期待に添えるかどうかわかりませんが。
 
 観察日記の二つ目です。
 
 どうぞ。









 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 篠ノ之束ちゃん、十二歳。

 

「ふぇ」

 

 

 現在、絶賛。

 

「ふぇぇぇぇぇ!!」

 

 大号泣中である。

 

「りりりりりりりくぅぅ!!!」

 

「え、俺? 俺が悪いの?」

 

「おまえ束に近づくなとか」

 

「いや待った、千冬。俺はただな」

 

「鬼か貴様!!!」

 

 速やかに腰の刀を抜いた千冬に、リクは思う。

 

 明らかに銃刀法違反だろうが、と。

 

 周りを見る。クラスメートたちも、『おまえ、本気か』って凄い蔑むような眼をしている。

 

 先生を見る、唯一の大人だ、立派に止めてくれるはずだ。しかし先生は女性なので、同じように『これだから男は』なんて眼で見てくる。

 

 つまり味方はいない。

 

「いやだってさ」

 

「だってなんだ?! 事と次第によってはおまえでも」

 

 スラリと抜かれた刀が、真剣って言葉を思い出させる。ここは教室、小学校の教室なのに、家にいる時のように身の危険を。

 

 リクは感じない。ただの刀にどんな威力があるというのか、普段から母の古今東西の武器の雨やら、父の滅茶苦茶な威力を持つ獣たちの一撃を受けたり、妹が覚えた凍結魔法の餌食になったりとか。

 

 うん、思い出して泣きたくなったリクだった。

 

 そんな壮絶な毎日を過ごす少年が、たかが刀で命の危険を感じるとか、そんなことない。

 

「理由を話せ。そうでなければ」

 

 ゆっくりと上段を構えた千冬と、机の影というか、教室の隅に逃げ込んだ束の泣き声と、クラスメート全員の冷たい目線を前にして。

 

 リクは俯いて顔をちょっと染めて。

 

「・・・胸が当たるから」

 

「・・・・・・・・私が悪かった介錯を頼む」

 

 千冬、見事なまでの土下座の後、脇差を取り出して腹に当てる。

 

「待って織斑さん! それは駄目よ!」

 

「先生! 止めないでください! 私は私は! リクになんて辱めを受けさせてしまったのか!!」

 

「いいから落ち着きましょう!!」

 

「離してください先生! 私は!!」

 

「いいからね!!」

 

 その後、必死に止めた先生は、穏やかに優しく千冬に話をして彼女を止めたのでした。

 

「リク、私は先生になる」

 

「え?」

 

 幼馴染が、そんなわけで将来の職業を決めたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 篠ノ之束は考えた。

 

 その頭脳はフル回転。今まで使っていない細胞まで使うように、必死に頭を捻って色々と考えて、さらに思考を重ねて試行を繰り返して。

 

 リクは大切な友達、自分を大切に育ててくれた人。そんな風に彼女が思いこむのは、彼が容赦なく攻撃してきた結果、この人は自分を大切に教えてくれるなんて、そういった勘違いがマッハを超えて無我の境地に辿り着いたため。

 

 その人が近づくなとか、いうはずがない。どんな時も自分を見捨てないあの人が、酷いことを言うことなんてないのに。

 

 今日はどうして駄目だったんだろうか。

 

 小さい声で何か言っていたが、聞こえなかったから。

 

 千冬が何か言っていた。辱めとか、何とか。辱めを辞書で引いてみても、意味が解らない。

 

 こんな単語一つで、近づくななんて言われることはない。

 

 リクは優しい、きっと意味がある。自分のために何か、重要なことを教えてくれたのではないか。

 

 唸って、捻って、腕を組んで考えて。

 

 ハッと気がついた。

 

 この腕の中のものが原因か。

 

 つまり、リクは、自分に女の子らしい格好をしてほしいと。

 

 気づいてポンっと手を打って。

 

「母さん、私はスカートが欲しい」

 

「・・・・・・・・え?」

 

 母親のところに駆け込んだ。

 

 今までスカートなんて無駄、邪魔とかいってズボンしか着なかった娘が、スカートが欲しいとか、どうしたことだろう。

 

 母が、『明日は世界が終わる』なんて思ったのは、内緒の話。

 

「私は可愛くなるの」

 

 胸の前で握り拳を作って、真っ直ぐに見上げてくる娘に、母は感動した。

 

 ついに目覚めたと。

 

 今まで可愛い服とか買っても、『無駄、邪魔』と一蹴して着てくれなかった娘が、初めて自分から着たいと言ってきた。こんなに嬉しいことはない。

 

「買いに行きましょう!」

 

「え?」

 

「貴方は可愛いの! 本当に可愛いから!!」

 

「え・・・・え」

 

「だから束! 今すぐに行きましょう!!」

 

 母としては、娘がファッションに目覚めたとか、女の子として自覚が芽生えたとか、嬉しい気持ちでいっぱいだったのですが。

 

 ここで思い出してほしい。

 

 この世界の篠ノ之束が、どういった性格だったか。

 

 彼女が思ったことは、一つ。

 

 母は怖い。

 

「さあ束!!」

 

「ふぇぇぇぇ?!」

 

「泣いてる場合じゃないの!」

 

 もう止まらない、暴走した母親に連れられ、街を駆け巡る。一着二着でいいとか、そんな当たり前では止まらない。

 

 篠ノ之束は可愛い、原作の彼女は細胞レベルでハイスペックらしいが、それは外見にも当てはまるのではないか。

 

 綺麗とか美しいなんて言葉が、とても無意味なものに見えるくらいに。

 

 強気で人を馬鹿にしたような笑顔の彼女ではなく、同級生に比べたらちょっと胸が大きいかなって女の子が、怯えた目でこっちを見てくるなんて。

 

 そそるものがあるらしい。

 

「さあ、束!!!」

 

「・・・・・・・りっくぅぅぅぅん!!!」

 

 暴走してそそるものに流されるままに、突っ走った母の姿に、束は思わずそんな叫び声を上げたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝、リクと千冬は二人だけで学校に来ていた。

 

「束が一緒じゃないとは珍しいな」

 

「篠ノ之の母さんが、先に行ってって言ったから来たけど」

 

 二人は心配になりながら、学校に来ていた。

 

 あの束が一人で学校に来れるのかどうか。

 

 しかし、待っていてはダメと言っている篠ノ之母の言葉に、何か異様なものを感じて二人は学校に先に来ていた。

 

 登校できるのか不安を感じる二人は、そのまま教室に入って、それぞれの席に座って鞄を置いて。

 

 そこでリクは不意に気配を感じた。

 

 何か嫌な予感と同時に、教室の窓を開けて。

 

「リク、どうしたんだ?」

 

「いやなんかさ」

 

 窓を開けたことを不審に感じた千冬が近づいてきた。

 

 リクもどう言っていいか解らずに困った顔をしていると。

 

「りっくぅぅぅぅぅん!!!!」

 

「ブ?!」

 

 何かが猛烈な勢いで教室の外の窓から飛び込んできて、そのままリクを押し倒して、勢いのまま床を転がって行った。

 

「リク?! 敵襲か?! 大丈夫か?!」

 

 千冬がすぐさま刀を抜いてリクに近寄ると、そこには。

 

 目を回したリクと。

 

 ピンクのフリフリドレスにウサギ耳をつけた少女がいて。

 

「・・・・・・・束か?!」

 

「えええええええ?!」

 

 千冬、驚愕あまり固まる。

 

 教室にいたクラスメートは衝撃を受けて目を見開き。

 

 そして、彼女はゆっくりと顔を上げた。

 

 薄い紫色の長い髪は、前日まで肩くらいだったのに、腰まである。紫というよりは、藤色のような髪がゆっくりと風に流れるように広がり。

 

 フリルが施された長いエプロンドレスの中が、彼女の体に合わせて形を変えて彼女の動きを彩り。

 

 顔を上げた瞳は、涙をためているが、そのすべてが宝石のように輝きを放っていて。

 

 何処に出しても間違いなしの美少女がそこにいた。

 

 ついでに保護欲をそそられるほどに、弱々しいオーラも纏って。

 

「ちーちゃぁぁぁぁぁぁん!!」

 

「た、束、どうしたんだその格好?」

 

「ふぇぇぇぇぇ!! り、リッくんが、リっくんがね」

 

「あ、ああ」

 

「私に女っぽくなれって言ってると思うの!」

 

 なんだそれ、教室の誰もが一瞬でシンクロした瞬間だった。

 

「だからね、だからね、頑張ったの!!」

 

 ギュッと握りしめる。もう離さないと握り締めたものは、高坂リクの襟首だったりするのだが、誰もが気にしている余裕はない。

 

 なんだこの超絶、可愛い生き物は。

 

 泣いている束に、教室中の感想が一致したのでした。

 

 その日、高坂リクはもっと自分を鍛えようと思った。

 

 そして篠ノ之束は。

 

「もっと速くリッくんのところに行けるように改造しないと」

 

 後にインフィニット・ストラトスのプロトタイプとなる機械をくみ上げる決意をしたのでした。

 

 

 

 

 

 






 原作崩壊、つけてあるよね、タグ?

 原作の篠ノ之束が、ISを作った経緯は原作通りでしょうけど、この話の篠ノ之束がISを作った理由は、このようになりました。

 ついでに千冬が教師になった理由も。

 以上でございます、読んでいただきありがとうございました。






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真面目に考える三ページ目


 




 評価バーが赤くなったのに驚いて、すぐにオレンジになったのでさらに驚いて。

 前々から思っていたのですが、ここには仏のように広い心の人しかいないのか。

 そんなわけで、調子にのったサルスベリがやらかしました。









 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 君は篠ノ之束って女の子を知っているだろうか。

 

「ああ、あの子、可愛いんだけどね」

 

 諸君は篠ノ之束をどう思うか。

 

「滅多に見たことないけど」

 

 皆さん、篠ノ之束を知っているか。

 

「見たことないけど、見た人は皆が可愛いって言うよね」

 

 つまり、篠ノ之束という少女は。

 

ツチノコレベルで見つからない同級生だとぉ?!

 

 織斑千冬絶叫。

 

 まさかまさかと考えていたが、本当にまさかの結果だった。毎日、きちんと学校には来ている、先生の話にも答える。

 

「いや待て」

 

 答えていることがあっただろうか。千冬は首を傾げて、頭脳をフル回転させて思い出す。

 

 先生に名を呼ばれて無視すれば、絶対にリクが黙っていない。鉄拳制裁が挨拶レベルで行われる高坂家の長男だ、年上から呼ばれて返事をしなければ教室から放り出すくらいはする。

 

 最近、階下のクラスから人が落ちてきて迷惑って話は聞かないから、束が先生に呼ばれて返事をしなかったことはないはずなのに。

 

 どう思い出しても、千冬は束が先生に呼ばれて返事をしている姿を見たことがない。

 

「これはどういうことだ?」

 

「どうしたんだ、千冬?」

 

 悩んでいるところに、原因の片割れが来た。すぐに千冬は、リクの襟首を掴んで。

 

「リク、私は疑問があるんだが」

 

「俺はなんで襟首を絞められているか疑問なんだけど?」

 

「瑣末なことだ。フ、いい響きだな、瑣末なことだ」

 

 何故か感動して笑っている千冬を見て、リクは思う。今度はどんなドラマに影響されたのか。

 

「それで、何の話なんだよ?」

 

「ああ、そうだった、すまないな。実は束の奴のことなんだが、先生に呼ばれて返事をしていることあるのか?」

 

「はぁ? あるだろうに、返事しないなんてことないだろ」

 

 当たり前のことを、今になってどうして質問してきたのか、リクには千冬が何を考えているか解らなかった。

 

「そうか、そうなのか。しかし、私は知らないのだが、どうしてだろう?」

 

「そりゃ、千冬はその時は大抵が」

 

「大抵が?」

 

「『私はやってやった』って顔しているからだろ?」

 

「なるほど」

 

 織斑千冬は理解した。自分が問題を見事に答え、教師に近づいていることを実感している間に、束は答えているということか。

 

「ならば安心だ」

 

 疑問が解決し清々しい顔の千冬と、何だったんだろうと思うリク。その彼の背中にピッタリとひっついていながら、必死に気配を消している束。

 

 今日も六年生の噂の三人組は、何時も通りだった。

 

「この問題を高坂君に振って、この問題を織斑さんに振って、その後に篠ノ之さんに声をかけて。頑張るのよ、私」

 

 同じ頃、職員室にて先生が綿密な授業シミュレーションをしていた。

 

 決して束を怖がらせないように、脅えさせないように、彼女に心の準備をさせるために、何時も通りの順番で声をかけられるように。

 

「がんばるのよ私」

 

 自分の言い聞かせる先生の机の上には、いつの間にか撮ったのか、ウサギ耳のフリフリドレスの少女の写真が飾ってあったとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然だが、篠ノ之束は引きこもりである。

 

 リクの教育のために人見知りとなった彼女は、家族の前にも滅多に姿を見せないレベルでの引きこもりとなった。

 

「束!! 次はこの服を着なさい!」

 

「ふぇぇぇぇぇ?!」

 

 原因の半分くらいは、彼女の母親の暴走の結果でなのかもしれないが、とにかく彼女は徹底的に他者を遠ざけるように引きこもりになって行った。

 

 原作と同じように人と関わらない束だが、原作とはまったく違うのは絶対に外に出ないこと。常に自分の部屋の中、あるいはこっそりと作った地下の研究施設に引きこもり。ほとんど、学校に行く間以外では太陽の光を浴びない、不健康な生活を続ける束。

 

 そんな生活を続けていけばどうなるか。太陽を浴びない肌は、次第に色を失っていくように白くなり、髪の色も次第に抜けていき。

 

 ウィッグと同じような藤色の髪と、白い肌の美少女にレベルアップしていましたとさ。

 

 運動もしないから運動神経が発達しない。外出せずにお小遣いをためて買った機械を組み立てて、楽しそうに色々と設計して。

 

「束、ごはんよ」

 

「ふみゃ?! い、いいいま、今いくから」

 

 家族の呼びかけでも、それがいきなりなら最初に悲鳴を上げる、そんな白い肌の美少女の束。

 

「姉様」

 

「ふぇ?! あ、あ、あの箒ちゃん」

 

 廊下を歩いていた束に声をかけた篠ノ之箒は、まっすぐに見つめてくる。目を反らすことなく、まっすぐに力強い目線を向けた彼女は、大きく頷いた。

 

「今日も可愛らしい姉様のお姿に、この箒、今日も頑張ろうと思います」

 

「あ、ありがとう」

 

「ではエスコートしますので、こちらに」

 

 一礼して姉の前を進む妹、篠ノ之箒四歳。

 

 背中に竹刀を刺して、周囲の警戒を怠らない、立派な侍幼女出会った。

 

 彼女がこうなった原因は、すべて束だった。怯えて、震えて、ビクビクしている姉の姿に、幼いながらも妹は情けないなんて思うことはなく。自分と姉は違う、自分よりも可愛い姉が怯えているならば、自分が強くなって姉を護らないと。

 

 決意と情熱が、変なところに向かって走り出した箒は、四歳にして自らの道を定めていた。

 

 すなわち、ボディガードになろうと。

 

 彼女は思う、リクや千冬のように強くなろうと。もっと言えば、片手一本でタンクローリーを叩き潰す高坂古城のように、指先一つで銀行強盗を叩き伏せた高坂リリィのように。

 

 人間は鍛えれば鍛えるほど、強くなれるのだと。ならば自分が目指すは地上最強、一騎当千、絶対無比。姉がこのまま可愛い姉でいられるように、強くならなければ。

 

「姉様、私は絶対に戦国無双になって見せます」

 

「は、はいぃぃぃ?! ほ、箒ちゃんならなれると思うよ」

  

 思わず呼びかけられて、悲鳴交じりに適当に答えた束。

 

「はい! 一意専心! 岩をも砕く勢いです!」

 

 そんな姉の真っ直ぐなエール、と思い込んでいるものによって、箒は決意を固め直したのでした。

 

 その後、篠ノ之箒は高坂家の伝手を頼って、飛天の剣とか、陸奥の技とか、色々な技術を吸収していき、中学生になる頃には『無双無敗』とか呼ばれるようになるとか、ならないとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはいつもと変わらない登校中のこと。

 

「束、今日はどうしたんだ? フリフリドレスのウサギ耳は何処にいった?」

 

 千冬は隣を歩く、普通の格好をした束に疑問を投げた。

 

「母さんが、洗濯に持って行ったから」

 

 ちょっとすっきりした束は、にっこりと微笑む。

 

「だから今日は半そでなんだ」

 

 リクは珍しいもの見るように目を細めた。

 

「う、うん」

 

 束は見られて少し恥ずかしくなって顔を赤らめて俯いた。

 

「半そでだとおまえの白さが目立つな。また白くなってないか?」

 

「そ、そうかな? 私は普通だと思うけど」

 

「いや白くなっている。たまには外に出て運動したらどうだ?」

 

 千冬の忠告に、束は慌てて首を振った。

 

「私の運動神経はお空に飛んで行ったの」

 

 どんな状況だろう、それは。リクと千冬はそう思ったのだが、最近の束のことを思い出すと嘘ともいえない。

 

 何しろ、ドジっ子のように転ぶことが多くなってきたのだから。

 

「だから私は」

 

 顔をあげて笑顔を浮かべて、ちょっと頬を染めた束に。

 

「あれが噂の束か?!」

 

「すげぇ! 本当に可愛い!」

 

「今日はレアだぞ!」

 

「・・・・・・ふぇぇぇぇぇぇ!!! りっくぅぅぅぅぅん!!」

 

「ああ、空が青いなぁ」

 

「リクは冷静だなぁ」

 

「ふぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 何故か大勢に写真を撮られ、大勢に囲まれて。そして束は何時も通りに泣きだして、リクと千冬は青い空を見上げたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後のこと。

 

「お願いします!! どうか、篠ノ之束さんをわが社でプロデュースさせてください!!」

 

「はぁ?」

 

 篠ノ之家に、妙な大男の来客があったとか、なかったとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








 おかしい、最初の予定だと十三歳の中学入学か、小学生卒業式の一悶着を書く予定だったのに。

 出来上がったら、こんな感じになりました。

 鍛えなければ、どんな才能があっても、無意味だよねってお話になりました。束が持っているはずの細胞レベルでのハイスペックは、そっくりそのまま箒が受け継いだってことで。

 以上になります、読んでいただきありがとうございました。








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大混乱の四ページ目








 モチベーションって、何処かに落とすものらしい。

 書こうと思ってパソコンに向かうとかけず、仕事とか車の運転中にアイディアが浮かぶ浮かぶ。で、メモを取ろうとして忘れる。

 あ、何時ものサルスベリでした。

 今回こそ進学編です!







 

 

 

 

 

 

 篠ノ之束は決意した。

 

 絶対にやり遂げると決意した。誰にも邪魔させない、誰かが意見しても聞いてやらない。ちょっとリクに怒られるかもしれないけど。本当に怒られるかもしれないけど、ちょっと怖いけど。嘘です、かなり怖いです、本当に死ぬかもしれないほど怖い。

 

 昔の自分はなんでリクにケンカを売れたのか、自分のことなのに訳が解らない。あんなに突っかかって行って、生きている今に深く感謝を。もしかして神様っているかもしれない、なんて世迷言を信じたくなる。

 

 だからこそ篠ノ之束は決意した。

 

 もう誰にも邪魔させないし、誰にも意見させない。自分の意思は決まった、決意は固い、リクに怒られても絶対に引き下がらない。

 

 でも一緒に学校には行ってほしい。教室でリクがいないと、ちょっと困る。かなり辛い、もう泣きそうになっている。想像しただけで体が震えて視界が歪んでくる。

 

 常識とか、礼節とか、色々なことを置き去りにして、もう投げ捨ててやるしかないことだから、リクに見つかったら絶対に怒られる。お説教だ、かなり怖い顔したリクに見つめられ。

 

 あれ、と束は拳を握ったまま固まった。

 

 怖い顔のリクに見つめられると想像したけど、怖いという気持ち以外に何かあるような。なんだろうこの気持ちは、どうしたのだろう、こんな気持ちは初めてだ。

 

 怖いのにフワフワして、悲しいのにポカポカしている。

 

 リクのことを考えると、体中が熱くなる。もうリク以外に必要ない、なんて思えてくる。千冬のことも大切だけど、それ以上にリクのために何かしたくなってくる。

 

「こ、これが恋」

 

 確実に違うようなことを、束はそうだと思い込んだ。

 

「ならやらないと」

 

 束はグッと拳を握って、目の前に立っている機械の鎧を見つめた。

 

「がんばらないと」

 

 すべてはリクのため。リクに見てもらうため。

 

 そのためには。

 

「これが必要だから」

 

 ジッと見つめる鎧は、見る人が見れば『白騎士』といえるような形をしていた。

 

「束!! プロデューサーさんが来てるわよ!!」

 

「ふみゅ?! こここここここ断ってぇぇぇ!!」

 

「自分で言いなさい!」

 

 母の言葉に震えて部屋の隅で震える束は、固い決意を改めて決めた。

 

 リクのため、リクとの平穏な日常のため。

 

「これを着れば誰も怖くない」

 

 よっし、がんばろうと束は拳を握って気合を入れた。

 

「姉様、今日も可愛らしい」

 

 震えながら拳を握る、ウサギの耳をつけた小動物みたいな姉を、妹はうっとりした視線で見ていたのでした。

 

 こうして、篠ノ之束の『インフィニット・ストラトス』は作られるのでした。

 

 

 

 

 

 

 アイドルの勧誘を断るために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 立てば雛菊、座れば牡丹、歩く姿は百合の華。

 

「なんだそれは?」

 

 疑問を浮かべる制服姿の千冬に、隣に立つリクは深くため息をついた。

 

「俺の後ろにいるウサギのことらしい」

 

「なるほど、なるほど・・・・・・なんだとぉ?!」

 

 思わず千冬は叫んだ後に、束をリクの背中から引きずりだした。

 

「束!! 貴様ぁぁ!!」

 

「ちちちちちちちちーちゃん!? 暴力反対! 暴力、反対、グス」

 

「な、泣くな。悪かった、悪かった・・・・ではない!! なんだその華に例えられる軟弱さは!? だからあれほど運動をしろと言ったのに!」

 

「ふぇぇぇぇ!! りっくぅぅぅぅん!!」

 

「泣くな束!! 貴様のか弱さを私が矯正してやる!!」

 

 隣で騒ぐ幼馴染二人を見ながら、リクはどうしようと考え込んでいた。

 

 外に見える空はとても青い、何処までも高い空の下、今日はとてもいい日なのに、どうしてこの二人の抑え役をしなければいけないのか。平和で平穏な毎日を望んでいたわけじゃないが、普通の学生生活を望むくらいはいいじゃないか。

 

 それとも、自分のような異能を持つ人間には平穏とは遠いものなのか。

 

『・・・・・いいかげん、止めてもらえるとありがたい高坂君』

 

「はい、解りました、校長先生」

 

 深いため息共に、スピーカーを通した相手の声に、リクはため息交じりに答えたのでした。

 

 今日は、中学校の入学式です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無事に小学校を卒業できた、噂の三人組は、順調に中学校に進む。

 

 そんなわけがない。

 

 ネット怖いなんて束が言いだしたことを始まりにして、アイドル騒動が勃発。絶対に諦めたくないアイドル事務所が、何度も篠ノ之家を突撃。玄関先で土下座までするスカウトマンに、本物の矜持を感じた千冬とリクだったが、迷惑なものは迷惑なものなので、お引き取りしてもらいたかったのですが、相手側も本人に会うまでは引き下がれないと絶対に動かないと言いだしてしまい。

 

『こんにちは、篠ノ之束です』

 

 どうしようと考えている最中に、話題の人物が上空から降ってきた。

 

 ガンなんて音と共に地面に降り立ったのは、真白な鎧を着た騎士。声は束のものなのだが、見た目は完全に何処かの機械兵士。

 

「アイア●マンだとぉ!?」

 

「ガン●ムじゃなくて」

 

『ゲッ●ーかマジン●イザーを目指したのに』

 

 なんだかよく解らない本人登場に、誰もが呆けている中で、三人は平常運転。何処がどう違うのか、何を目的としてデザインしたのかと、三人であーだこーだと話していると、スカウトマンがハッと正気に戻って。

 

「束さん! どうか私と一緒にアイドルの天下を取りましょう!」

 

『ふぇ!?』

 

 気合を込めて立ち上がって迫ったスカウトマンに、真白な機械の鎧が怯えてリクの背中に引っ込んだ。

 

 あ、これは束本人が入っているとリクと千冬が確信した瞬間でした。

 

『わ、わわわ私はそんなのにならない!』

 

「どうしてですか?!」

 

『私は!!!』

 

「私は?」

 

『私はこれでりっくんと一緒に星を目指すから!!』

 

「・・・・・・・そうですか、解りました。いつか、貴方が星の海を行く姿を楽しみにしています」

 

 何かを悟ったスカウトマンは、一礼して去って行った。

 

『・・・・・・やったぁぁぁ!! 束さん大勝利ぃ!!』

 

 歓喜が天井を突き破り、全身で珍しいほど喜んでいる束。その動きに従って動く外枠のような白い鎧。

 

 なんだか、色々と気合が抜けたような一同の目の前で、一人だけ歩き出す人物がいた。

 

 その姿に、ハッとして千冬は思わず手を伸ばして。

 

「束ぇぇぇ!!!」

 

『ふぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

 間に合わなかった。

 

 小学生とは思えない握力で、鋼鉄みたいな鎧の顔を握り潰そうとしているリクと。

 

 いきなりの制裁に泣き出しそうな束と、火花が散っている機械の鎧。

 

「何時から星の海を目指すことになったのか、解り易く、丁寧かつ簡潔に俺に教えてくれ」

 

『痛い痛い痛い痛い!!! りっくん待って待って! ごめんなさい! 本当にごめんなさい!!!」

 

「いいから答えろ! 答えないならぁぁぁぁ!!」

 

『ごめんなさいごめんなさい・・・・あれ、なんだろう、痛いのに気持ちいい?』

 

 泣いて喚いていた束が、唐突にそんなことを言い出しまして。

 

「リク君! 待ってくれ! 怒りは解るがそこは駄目だ!」

 

 慌てて篠ノ之父、止めに入る。引きこもりで人見知り、でも常識と礼節は心得ている娘になったのに。以前の他人をゴミのように見ていた、大人になったら世界を掌握しそうな悪女になりそうな、そんな娘から多少は問題はあるものの、普通の女の子になっていたのに。

 

 ここに来て、痛みを快感に変えるような娘にクラスチェンジするなんて、父としては見逃せない。

 

「待つのよあなた! ここはこのまま!」

 

 篠ノ之父の前に、篠ノ之母が立ちふさがる。

 

「な、何故だ!?」

 

「束はこのまま性癖を歪ませて、そのままリク君に依存させましょう」

 

「何を言うんだ?!」

 

「そして責任を取ってもらうのよ! リク君なら束の相手に相応しいじゃない!」

 

 母の叫びに、父はハッとして立ち止まり、腕を組んで悩んで。

 

 そしてゆっくりと親指を立てた。

 

「よくやった母さん。リク君、娘をよろしく頼む」

 

「解ってくれてありがとう。ではリク君、お願いね」

 

「え?」

 

 こうして、高坂リクと篠ノ之束の交際がスタートしたのです。なんてことはなく、リクは全力で拒否。だって束だ、最初に襲いかかってきた束だ。見た目はよくても、すぐに背中にひっついてくる束だ。

 

 何がなんでも拒否したいリクは、自分の能力すべてを使って実力を使ってでも拒否したかったのだが。

 

「そう、解ったわリク君。三か月頂戴!!

 

 あまりに強い拒否に、束が泣きそうな顔をしている中、篠ノ之母がとてもいい笑顔で笑っていた。

 

 そして、束を見ない日々が過ぎて行って、小学校の卒業式にも出席せずに、何かあったかと不安を感じ始めたリクと千冬を放置のまま、中学生の入学式となり。

 

 立てば雛菊、座れば牡丹、歩く姿は百合の華。そんな言葉がぴったり似合う、そんな言葉で表せないほどに美少女になった、篠ノ之束が出現したのでした。

 

「篠ノ之家、恐るべし」

 

 千冬は、久し振りに会う束を見て汗を拭い。

 

「りっくん」

 

「・・・・・・・え?」

 

 頬を染めた美少女の、完全に信頼したような笑顔に、高坂リクは恐怖を感じたのでした。

 

 こうして、三人は無事に中学校に入学しましたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、実はさ、何処かの小学生が重力制御とか、バリアーの開発に成功したらしいぜ」

 

「はぁ? 寝ぼけてるなら仮眠室で寝ろよ」

 

「いやいやマジだって。これ見てみろって」

 

「・・・・・・・・誰かこの子を捕まえて来い! 宇宙開発にこの子が必要だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 某国の宇宙開発組織にて、篠ノ之束捜索が命令された瞬間でした。

 

 

 

 

 

 

 

 







 ISを読んでいた時に疑問だったのが、あれだけの技術を目の前に出したら、誰か使おうとか思いませんかね?

 盗むために否定したのかなとか考えても、その後の話を読んでいるとどうもおかしいような気が。

 まあ、サルスベリの知識が原作小説とアニメが、同じ場所で止まっているからかもしれませんが。

 簪登場、楯無の元の名前が出た頃、あるいは亡国企業がIS学園襲撃してなんだか動けないけど、攻撃力は凄いガトリングガンのIS登場、くらいしかないので。

 最後に、ここまで暴走した話を読んでいただき、ありがとうございます。もうちょっと続けるつもりですので、どうぞお付き合いください。

 次回、がんばって、リクの『王の財宝』と『眷獣』出せるといいなぁ。









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混迷する五ページ目







 
 お気に入り登録、ありがとうございます。

 なんか、凄く数が増えていて驚いています。

 ハチャメチャ暴走のお話ですが、これからもよろしくお願いします。

 暴走し過ぎると、ついて来れる人が少なくなる。気をつけよう。










 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 篠ノ之束はハイスペックです。

 

 原作の彼女は生身でISを圧倒していたような、頭脳も天才を超えて天災とか呼ばれるくらいに。

 

 このお話の束も、同じようにハイスペックなのですが、そのスペックが伸びきる前に壁にぶつかって伸ばされず。

 

「う~~~~~~」

 

 頭脳だけは順調に進化を重ねて、超進化とか簡単にやらかして、限界突破なんて散歩的な気持ちで踏破して。

 

「む~~~~」

 

 物理法則を無視するような研究結果と、リクのために頑張ろうって気持ちがフュージョンした結果、彼女は順調に絶対防御と重力制御システムの開発を完了して。

 

「ん、ん・・・ん?」

 

 見事、白騎士を組み上げたのでした。中学生になった時に。原作を超えるようなスペックを頭脳面だけ発揮した束だったが、彼女にも苦手なものはある。

 

「むぅ~~~~」

 

 最初に運動。中学生になって女性的特徴が増えた結果、よくバランスを崩して転ぶようになった。転んで倒れて、見事に近場にいる少年を巻き込むようになったりして。

 

 はい、リクのことです。

 

 彼を巻き込んで倒れること、中学生になって二か月の間に数十回。体育の授業なんて、遠くにいるはずなのに背中にいつの間にかひっついているため、先生が探すこと多数。その状況で、見事に転ぶのでリクが転んだ時に束が出現する、なんてクラスで言われていたりして。

 

「よ、は!」

 

 次に精神的なもの。対人恐怖症、それが治った。話しかけられて悲鳴を上げることはない、呼んだとしても悲鳴が上がることがない。見事に篠ノ之家は彼女の対人恐怖症を克服させたのでした。

 

 リクの場合のみという見事な成果を発揮したのです。

 

「よ~~~~せい!」

 

 そして、最後に。

 

「出来た!!」

 

 笑顔で振り返った束に、誰もが微笑みを向けている。仕草が可愛くて、やっていることは真剣なのだが、何処か微笑ましいように映るのは、彼女が小動物みたいな雰囲気を持っているからか。

 

 胸部装甲は凶悪です。

 

 身長が平均より低い彼女は、とても愛らしく小さくて、ちょこちょこ動く仕草はまさに小動物。このクラスのアイドル(愛玩動物)は間違いなく彼女だと誰もが言うだろう。

 

「りっくぅぅぅぅん!!!」

 

 笑顔で真っ直ぐ向かってくる束。完全に信頼して、疑うことなんてしない彼女は、リクへと一直線に向かっていき。

 

 見事に転んで、手に持っていたアップルパイは宙を飛んだのでした。

 

 最後に彼女の弱点は。

 

「・・・・・・うぇぇぇぇぇぇ!! りっくぅぅぅぅぅぅん!!!!」

 

「ぶ!?」

 

 感情直結の行動でしょうか(泣)

 

「織斑さん! また高坂君が!」

 

「はい、先生。放っておきましょう、リクなら束に飛びつかれても大丈夫です」

 

「ここは三階なのよ?! 窓から! 窓から!!」

 

「ええ、飛んで行きましたね。学校の調理室は、一階に作るべきだと後で進言しておきます」

 

「れ、冷静ね、織斑さん」

 

「慣れてますから」

 

 右手に見事な出来栄えの自作アップルパイを持ちながら、千冬は先生に笑顔で答えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リクの母、高坂リリィ曰く。男を捕まえるには胃袋を掴むのが最適だとの訓示のために、束と千冬は料理ができる。

 

 織斑家も篠ノ之家も、二人に料理を教えたのだが、当時の二人はまったく興味を示さずに困り果てていた。それを見かねたリリィは、二人を捕まえてフランスへ渡航。一週間ほどで戻ってきた二人は、『料理は素晴らしい』なんて語っていたので、何かがあったらしい。

 

 というわけで、千冬はフランス料理と和食全般ができる。

 

 一方、束はというと。

 

「篠ノ之さん!!」

 

「ふみゃ?!」

 

「どうか料理部に入って! 貴方がいたなら全国優勝も夢じゃないわ!!」

 

 料理全般、死角なし。ハイスペック能力全振りしたような、四ツ星は取れる料理をつくれるようになっていました。

 

「ふぇぇぇぇぇ!! りっくぅぅぅぅぅん!!!」

 

 瞳を輝かせたクラスメートに追われて、束は何時も通りにリクに抱き付き、いきなりの衝撃にリクは倒れかけて、足を踏ん張って耐えた。

 

「おお!! 高坂が耐えたぞ!」

 

「ついにか?! 誰だ今日に賭けた奴は?!」

 

「四十倍の大穴だぞ!」

 

「・・・・・・おい、お前ら」

 

 ワイワイと賭けごとの結果を騒ぐクラスメートに、思わずリクは拳を握って背後に黄金の波紋を浮かべていたのでした。

 

 お忘れかもしれませんが、リクは母である高坂リリィの能力を完全に受け継いでいる。その能力は、『ギルガメッシュの全能力』と、『ネロの全能力』。ちょっとした転生者なら、喉から手が出るほど欲しい能力を中学生にして完全把握。彼の黄金律がSを超えているとか、EXになっていたとか、そう言った話は今の状況では瑣末なことかもしれない。

 

 一方、こんな異能を発揮したら普通なら化け物と恐れられて、クラスメートたちから避けられるのだが、この世界は『転生者多数』の世界。

 

「フ! 笑止だ高坂! 今までおまえのその能力にやられていた俺達だけどな!」

 

「ああ!! 今の俺達にはこの人がいる!」

 

「さあ見せてくれ! 木原トオル!!」

 

 自信満々に告げるクラスメートに指をさされて、彼は立ち上がった。白い髪に白い肌といった、何処かで見たことある少年は、だるそうな顔で深くため息をついて。

 

「リク、悪ィな」

 

「トオル、まさかおまえが俺の前に立つのか?」

 

「そろそろ決着つけてもイイころだろ? 俺の『アクセラレータ』と、おまえの『王の財宝』どっちが強いか」

 

 二人は教室で睨み合う。

 

 戦争そのものと言われたギルガメッシュと、存在自体がチートだろうと言われたアクセラレータ。

 

 今ここに戦略兵器と絶対反射がぶつかろうとしていた。

 

 原因、クラスメートの賭けごとですが。

 

「ふぇ・・・ケンカするの?」

 

 瞬間、クラスの空気が弛緩した。張り詰めて風船のように膨らんだ空気が、一気に消えて緩やかな春の午後のように穏やかな空気が流れる。

 

「・・・チ!」

 

 木原トオルは舌打ちし顔を反らし。

 

「・・・・・」

 

 高坂リクは無言で赤顔を反らすように天井を見上げた。胸が当たるからとか、腰にしがみつくなとか、リクは叫びたいのに恥ずかしくて叫べない自分のヘタレっぷりを実感したのでした。

 

「今日も騒がしいな」

 

「千冬は冷静ね」

 

「慣れたからな、おまえこそどうなんだ、リナ?」

 

 名を問われて、栗色の髪の少女は金色の瞳を細めて笑った。

 

「L様って呼んでもいいわよ?」

 

「なんだそれは? 元ネタを知らない私に無理を言うな」

 

「・・・・・え? 転生者じゃないの? え、あれ、マジで?」

 

「何の話だ?」

 

 その日、クラスメートの林原リナは、このクラス最強の二人が転生者じゃないことを知ったのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 束はその日、研究室で白騎士を改造していた。

 

「ふぇ~~クマさんだぁ」

 

 気晴らしに見つけた動画サイトには、クマのきぐるみで踊っている人がいたのでした。

 

 可愛くて楽しくて、ずっと見ていた束は最後まで見続けて。

 

『この動画を見てくれた人、ありがとうね。お礼にこのデータをあげるよ』

 

「え? ええええええ?!」

 

 束絶叫。間違いかと目をこすって、何度も見直して、データの検証を続けて。

 

 そして確信。

 

「ナノマテリアルの生成方法、本物だ」

 

 後に、世界を震撼させる万能金属が、白騎士に装着されることになりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、あのバリアーを作った少女を探すんじゃないのか?」

 

「ちょっと待て! なんだこのきぐるみの動画サイト! 最後のこのデータは本物か?!」

 

「は? え、待てよ、おまえこれ」

 

「核融合炉?! 対消滅エンジン!? ガンダリウム合金ってマジか?!」

 

「誰か! 日本政府に交渉して来い! アニメの聖地、オタク達の本拠地のマジチートっぷりは、本当だな」

 

 某国の宇宙開発組織において、日本の重要度が最高ランクに位置された瞬間でした。

 

 後に人達は言う、大体の問題は転生者のせいと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 











 ブレイク・エイジってマンガ、知っている人はどれだけいるでしょうか?

 サルスベリは大好きでしたよ。

 特にあのきぐるみ先輩の男っぷりは大好きでした。

 この話のクマさんとはまったく関係ありませんが。

 あれ、おかしいな、予定だと眷獣も出すはずだったのに。その場のノリで話を進めると予定通りにいきませんが、これからもお付き合いしていただければと思いますので、よろしくお願いします。









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黒歴史を綴る六ページ目


 



 自重を忘れるなと自分に言い聞かせ。

 でも暴走するのがサルスベリ、と結論が出ました。

 さて今回は、眷獣を出すより前に、中学生になったら大抵の人がかかる病の話です。

 





 

 

 

 

 

 

 

 黒歴史って単語がある。

 

 誰もが思い出したくない、精神的苦痛を与える記憶のことを、黒歴史というらしい。

 

 間違っても、どっかのターン兄弟が出てくることはない。そうであって欲しいと願ってしまうのだが。

 

「・・・・・・・・りっくん! こ、こここここれ!!!」

 

「は?」

 

 季節は秋になった今日この頃、よく晴れた日のある朝のこと。

 

 なんでか、束が全身をラッピングされて玄関に置かれていました。

 

 これといわれても、全身をラッピンされているから、手が出ているわけでもなくて。

 

「お誕生日、おめでとう」

 

「え、俺は3月だけど?」

 

「・・・・・・・・バレンタインデー!」

 

「え、今は十月なんだけど」

 

「・・・・・・・・・・私の誕生日!」

 

「うわぁ~~苦しい言い訳だなぁ。で、何があったんだ?」

 

 もう涙目でよく解らないことを言い出した束に、リクは色々と諦めたくなってため息をつきながら問いかけて。

 

「そろそろ貰ってくれてもいいの」

 

 笑顔全開、疑うなんてことをしない瞳で真っ直ぐに言われて、リクは盛大に空を仰いだのでした。

 

 今日もうちのバカウサギは、バカウサギのままでした、とさ。

 

 後に、この時のことを思い出した束は、泣きながら悶絶するなんて、よく解らない行動に出ることになるとか、ならないとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある中学校において、その五人は頂点とされていた。

 

 膨大な魔力と無限に近い魔法を使う、自称天才美少女魔導師、林原リナ。

 

 あらゆるベクトルを操作し、一切の攻撃が無効化される、鉄壁の木原トオル。

 

 空間さえも斬れる、絶対切断を地でいくような侍、織斑千冬。

 

 可愛いのに怯えた姿がたまらない、保護欲をそそられる天才ウサギ、篠ノ之束。

 

 そして、伝説の武器と暴力の塊の獣を従える残虐の魔王、高坂リク。

 

 多くの人はこの五人をこう呼ぶ。

 

 最強の五人衆、と。

 

「フ、私も有名になったものだな」

 

 腕を組み鼻を高くする千冬と、喜び半分となんでその名前と困惑するリク、その背中に隠れながら喜んでいいのか、悲しむべきなのか解らない束。

 

「うぉぉぉぉぉ」

 

 頭を抱えて机に突っ伏すリナ。

 

「・・・・・・」

 

 無言で必死に耐えるトオル。

 

 現在、中学生の五人は、絶賛。

 

 『ちゅうにびょう』っていう世間の病の渦の真っ只中にいました。

 

「どうした、トオル、リナ? 嬉しいだろう?」

 

「っっっざけんじゃないわよ! なによその天才美少女魔導師って?! 絶対に転生者の誰かが悪ふざけしたんじゃないの!? しかも『師』じゃないでしょうが! 『士』でしょうが! 魔導士よ魔導士!!」

 

 復活したリナの反論に、千冬は首をかしげた。え、突っ込むところはそこですか、なんて疑問はさらりと空の彼方へ旅立ちました。

 

「鉄壁、鉄壁かぁ、鉄壁、チィ」

 

 トオル、何とか自分のアイデンティティを確立させようと、何度も呟くものの、最後には舌打ちで無理だと悟る。

 

「いいではないか。人に噂されるほど、異名がつけられるほどに強い証明だ」

 

「千冬! お願いだから、冷静になって。そんな名前、後になってから苦しむだけだから」

 

 涙目で懇願するリナだったが、千冬としてはどうしてそんな話になるか分からずに首を傾げた。

 

「・・・・そうか!」

 

 ポンっと手を打った千冬に、リナはようやく理解してくれたかと安堵して。

 

「異名が違うのか、ならば金色の魔王と」

 

「そっちじゃない! なんで元ネタを知らないあんたが、それを出してくるのよ?!」

 

「な、なんだ? いや前にリナが言ったではないか、金色の魔王と書いてロード・オブ・ナイ・・・・・」

 

「ストップぅ!!! 私が悪かったから! お願いだからそれを出さないで!」

 

 思わず千冬に掴みかかったリナは、そのまま教室の床に転がったのでした。

 

「フ、リナよ、私の隙をつこうなど笑止千万! 常在戦場の侍をなめるな!」

 

 友人を投げ飛ばした千冬は、腕を組んで高らかに笑うのでした。

 

「リク、てめェはどうなンだよ?」

 

 ダメだと諦めたトオルが、まともだと信じている友人に話を振ったところ、彼は首を傾げていた。

 

「なあ、トオル、俺って魔王なのか?」

 

「あ?」

 

「いや俺ってそんなに暴力的なのかなぁってさ。魔法だってリナに負けてるし」

 

 うんうんと考え込むリクに、トオルは深くため息をついた。

 

 ダメだ、こいつはまともじゃなかった。さすが、第四真祖と英雄王の力を受け継いだ化け物だ、注目する点がまったく違う。

 

「そうよ! リクが魔王でいいじゃない! 私はて、天才、び、び、び」

 

 思いついたように提案しながらも、肝心なところで言い切れないリナ出会った。

 

「なんだか、リナが壊れるんだけど、何があったんだ?」

 

「そっとしておいてやれ。誰だってあるだろうが、誰だってな」

 

 心配するリクを、トオルは諦めたような顔で止めたのでした。

 

 そして一方で。

 

「ウサギ、ウサギ、天才、ウサギ・・・・・そっか」

 

 リクの背中で、束がそう呟いて拳を握ったのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 決意を固めた、自分はこのままじゃ駄目だ。もっと頑張らないと、もっと力をつけないと。

 

 でもどうすればいいか解らない、きっとリクに認めてもらうには力が足りないのだから、どうにかしなければ。

 

 悩んでいた時にいい話を聞いた。

 

 天才、ウサギ、この二つの単語が生み出すものを束は知っている。というか最近になってみたことがある。男の子なら誰でも知っている話だ、実物は見ことがないが、最近になってネット動画で流れている。

 

 颯爽と駆け付けるヒーロー、自分の心の傷に立ち向かい、傷だらけになっても笑顔で助けにかけつける人たち。

 

 この世界にはない、でも誰かが言っていた。きっと彼も転生者だったのだろう、転生者がいるって話は聞いていたが、まさかネット動画の中でもその転生者が頑張っているとは思わなかった。

 

「使ってもいいですか~~」

 

『え? 再現できるなら見てみたいけど』

 

「ありがとう~」

 

 ネット越しならやり取りできるのに、どうして対面だとだめなのかは束本人も解っていないが、流している人から許可を貰ったから頑張らないと。

 

「がんばるぞ~~~」

 

 束は必死に頑張った。ナノマテリアルを使った白騎士強化計画が、煮詰まっていたから丁度いい息抜き。

 

 なんてことはない。全力だ、必死だ、決死の覚悟だ。彼らの姿を見たから解る、彼らの生き方はとても半端な覚悟で形にしていいものじゃない。

 

「お願い、私に力をください」

 

 祈るように願うように告げて、彼女はそれを形にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはよく晴れた秋の日でした。

 

「え、え、え、あれ」

 

 リナ、あまりのことに言葉が上手く出てこなくて。

 

「・・・・・・」

 

 トオル絶句して、けれどキラキラした眼で見つめていた。

 

「フ、先を越されたな」

 

 千冬、友人の立派な姿に涙を拭う。当然、彼女はそれをネット動画で見ていたので。

 

「え、マジ?」

 

 リク、もうどう言っていいか分からない状況に陥る。

 

 そして、何時も通りのクラスの中で、何時も通りのクラスメートたちの前で。

 

「た、たたたたたたたた、違う! み、皆!」

 

 必死に勇気を振り絞った束が、黒板の前に立っていた。

 

「わ、わわわ私の!」

 

 彼女は左手でとある機械を持ち上げ、それを腰に当てる。

 

「私の変身を!」

 

 機械からベルトが伸びて、彼女の腰に巻きつく。

 

「私の変身を見て!」

 

 彼女は両手に細長い棒を取り出し、棒の先のスイッチらしいものを回し、思いっきり振った。

 

『ピョン、ピョン』

 

 可愛い子どもの音声が流れ、誰かが『あれ、箒の声だ』なんて言ったが、誰もが聞いてない。

 

 クラスの皆は束に視線が釘付けだ。もっと言えば、その腰の機械に。

 

「実験を始めようか」

 

 みんなの視線が向いて怖い束だったが、必死に振り絞るように声を出して、棒を半分に割って。

 

『らびぃっと、姉様?』

 

『ららららびぃぃぃっと!!』

 

 微笑ましいような、篠ノ之姉妹の声が教室中に流れて、棒は束の腰の機械に刺さった。

 

『ラビット&』

 

『らびぃっと!』

 

 篠ノ之母の嬉しそうな声と、篠ノ之妹の不満そうな声と同時に、束は機械に備わったレバーを回す。

 

 やがて、ある程度のところで音声が。

 

『Are you Ready?』

 

 男の声で鋭く濃厚な声が響いた。まさかの篠ノ之父出演だった。

 

「変身!」

 

 そして彼女は真っ赤な戦士になりましたとさ。

 

『てっっっさい美少女!!』

 

『止めて止めて!!』

 

『愛らしいウサギ耳の!!』

 

『やややややめてぇぇぇぇ!!』

 

 篠ノ之妹、篠ノ之母のノリノリの音声と、涙声の束の必死に止める声が響いた後に、ポーズを決めた束は、赤い戦士の姿のまま蹲ったのでした。

 

「・・・・・・・ふぇぇぇぇぇ!! りっくぅぅぅぅぅぅん!!」

 

「ブ?!」

 

 お約束の通り、ウサギの仮面の戦士は、強化された身体能力全開でリクに飛び付き、二人はそのまま窓はもちろん、壁も突き破って地面に落ちて行ったのでした。

 

「どンなになっても、中身ガ大切ってことダナ」

 

 トオル、穴の空いた教室の壁を見ながら、頷いていた。

 

「・・・・ハザードトリガーはどうしたのよ、束ぇぇ!!!」

 

 ハッとして叫ぶリナ。

 

「むぅ、私もそろそろ鎧を仕立てるべきだろうか?」

 

 千冬はそんなことを真剣に考え、いつかの束が来ていた白騎士がかっこいいように思えてきたのでした。

 

 そんな中、クラスメートたちは思う。

 

 あのウサギ、性格はあれだけど、マジで天才だったんだ、と。ほっこり笑顔で誰もが頷いていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、何を見てるんだ?」

 

「仮面●イダーが中学校で授業を受けているみたいだ」

 

「・・・・・・そっか、そうだな、日本だからな」

 

「ああ、日本だからな」

 

「・・・・・ってわけあるか?! なんで日本に実在してるんだよ?!」

 

「俺が知るかよ! いいから報告書でも挙げて来いよ!」

 

「あああ! 次の演習、自衛隊となんだぞ! 出てきたら俺はサインをもらいに行くからな!」

 

「俺の分も頼むぞ!」

 

 その日、某国の軍隊において、ヒーローにサインをもらうために演習に参加希望する軍人が、溢れたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 


 ウサギ繋がりで、束が変身する。

 『ちゅうにびょう』の時って、変身ってよく妄想するものらしい。でも実際に現実化するのが天才ですので。

 さてさて、これで白騎士の他にも色々とラインナップが出来るって、前振りができました。

 そろそろ『白騎士事件』に突入した方がいいのかなぁっと考える今日この頃です。

 それでは、皆さまの日常の小さな楽しみの一つになっていればと、切実に願うサルスベリでした。

 失礼いたします。








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勘違いが加速する七ページ目







 こう一つの作品を書いていると、他の作品のアイディアが浮かび、二つ同時進行だと、三作目、四作目のアイディアが浮かんで。

 五作目のネタを夢に見る、何時も通りのサルスベリです。



 シンフォギアの響が、ロンゴミニアドを振り回す夢を見ました。どうせなら、七つに分裂するブリュナークをファンネルみたいに扱ってくれたらよかったのに。『私の槍は世界の果てから果てまでを繋ぐから』って言っていたけど、拳と槍じゃ繋ぎ方が違っているような。 





 まったく関係ない話ですね、では今日もよろしくお願いします。








 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高坂リクには深雪という妹がいます。

 

 篠ノ之束には箒という妹がいます。

 

 そして、織斑千冬には一夏という弟とマドカという妹がいます。

 

 兄や姉が仲良しなので、この四人は仲良しなのですが、仲がいいというか仲が良すぎるというか、ちょっと事情が迷走してきたのが、織斑家の妹弟の二人。

 

 織斑家の両親は、滅多に家にいない。何処で何をしているか知らないが、ふらっと帰って来ては、またフラッと出かけてしまうので、一夏とマドカは両親の顔を知らない。

 

 知らない、のならよかった話なのですが。

 

 ある日のこと、千冬は一夏とマドカにこう質問されました。

 

「なんでパパとママは『コウサカ』なのに、僕たちは『オリムラ』なの?」

 

 純粋な瞳を向けてくる弟や妹に、千冬は笑顔を向けたまま絶句したという。

 

 確かに両親は家にいるのが、稀。本当に家にいない、いることが奇跡に思えるほどにいない。だから、昔馴染みの高坂家の古城とリリィが面倒を見てくれていたが、それがまさか自分の『親』と錯覚するくらいなんて。

 

 悩みに悩んだ千冬、彼女も聡明ではあったが、まだ中学生。ちゅうにびょうを年がら年中やっていようとも、まだまだ子供だったので。

 

「・・・・・・それはな、私たちがまだ高坂の名を名乗れるほど強くないからだ」

 

 苦し紛れに言ったことを、千冬は十年後に後悔することになるのだが、今の彼女は『あ、これっていいこと言った。納得できる理由だ』と自分で自己完結してしまい、その話題を忘れてしまった。

 

 一方、言われた一夏とマドカは思った。

 

 リク、その強さは最早、近所どころか都市クラスで噂になっていて、最強の五人衆の一角といえば、大抵の人が逃げ出す。

 

 深雪、同い年ながら周辺を凍らせたり、雪を降らせたり、『極寒の魔女』なんて呼ばれ始めているから、その強さは本物だと思う。

 

「つまり、頑張ればいんだ」

 

「そうなんだ!」

 

「そうだよマドカ!」

 

「がんばろう一夏!」

 

 グッと二人は手を握り合った。

 

 幼い妹弟が決意を固める一方で、千冬は自分の言ったことに感動していて、止めるなんてことは考えなくて。

 

 その日より、一夏とマドカの特訓の日々が始まるのでした。

 

 目指す背中は遥か遠い。絶対に追いつけないかもしれないけれど、あの二人の血を引いている者として、決してあきらめてはいけない。

 

 特にリリィは、『英雄姫』とか、『女帝』とか呼ばれているくらいにかっこいい。仁王立ちで無数の武器を振らせるなんて、見ていて一夏はしびれるくらいに興奮した。

 

 一方のマドカは古城の強さに憧れた。たくさんの獣を従えて、軍隊だろうが魔王だろうが蹂躙する姿に、とても高い理想の姿を見た。

 

 見本はそこにある、ならば速やかに動くべきだ。

 

 こうして二人の勘違いは、誰も気づかないまま加速されていくのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「束姉ちゃん!」

 

「ふみゃ?! ふぇぇぇっぇえ。い、いいいいいっくん?」

 

 いきなり研究室のドアを蹴とばして入ってきた一夏に、束は完全に涙目で止まってしまう。なんだろう、何があったんだろう。

 

 現在、絶賛、束はビルドドライバーの改修中。向こうで、白騎士が分解されたまま悲しそうに見ているのだが、完全に眼中にない。

 

 作って変身したら、四方八方からツッコミと評価と、ダメ出しが行われたのでした。

 

 曰く、変身音声が違う、順番が間違っていないか。

 

 曰く、ハザードトリガーはどうした。

 

 曰く、タンクタンクフォームは何処行った。

 

 特にリナとトオルのお説教は、軽く死にそうになるくらいで。慌ててリクが止めるくらいに怖かったから、真面目に改修中。

 

 白騎士のことなど忘れるくらいに、真剣に作っていた時だったのに。だから、白騎士はきっと泣いていい。号泣していいくらいに、忘れられている。

 

 そんな中に、一夏は決意を秘めて束の元を訪れていた。

 

「束姉ちゃん、俺に機械を作ってくれ」

 

 束の反応に一切、考えたり退いたりすることなく、一夏は土下座をした。

 

「え、え? えええ!?」

 

「お願いだ! どうしてもできないんだ! もう束姉ちゃんに頼るしかないんだ! 情けない男だと笑ってくれてもいい、罵ってくれてもいい。でも僕はどうしてもママみたいな能力を手に入れたいんだ!」

 

 真面目に必死に、縋るように見つめる織斑一夏四歳。これで四歳である、親が第四真祖と英雄王だと、育ち方が違うらしい。

 

「ふぇ、あ、あのね、ママって。リリィさん、だよね」

 

 あまりの剣幕に、まだまだ腰を引きながら束が問いかけると、一夏は大きく頷いた。

 

「・・・・・わ、解った、頑張ってみる」

 

「ありがとう束姉ちゃん!」

 

「で、できるなんて、言えないよ?」

 

「大丈夫!」

 

 笑顔で一夏は手を振って去っていき、篠ノ之家の敷地を出る寸前で。

 

「貴様、姉様に何をした?」

 

「ほ、箒!? 待って! 事情が!」

 

「黙れ、痴れ者が」

 

 幼馴染の箒ちゃん四歳の『とうやこー』って彫られた木刀で、叩かれたそうです。

 

 その頃、マドカはというと。

 

「召喚獣を教えてください!」

 

「え、このポケットに入るモンスターじゃダメ?」

 

「・・・・・・ゴジラありますか?」

 

「ええ、そっち?」

 

 篠ノ之家の遠縁で、電気ネズミを友達に世界を旅している人のところへ、弟子入りに行ったそうです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 篠ノ之束は考えた。

 

 リリィのスキルを見たことはある。あの背後の黄金の波紋が浮かび、武器が飛び出してくる技能は、確かに凄いと思う。素晴らしいと思える。きっと誰が相手でも、初見殺しで倒せるだろう。

 

 でも、二度、三度と相対すれば対応できないことはない。なのに、リリィは今まで一度しか敗北していない。

 

 その相手が古城だから、二人は結婚したらしいけど、今は関係ない。

 

 背後から武器が飛び出す。方法としては異次元空間あたりに倉庫を持ち、出入り口に力場を発生させ、内部の武器を飛ばす。力場は磁力か、しかし金属以外には作用を発生できない以上は、あのリリィの能力には大きく劣る。

 

 そもそも、異次元空間ってどうやって生み出すものか。持主の背後に、必ず展開させるためにはどうすればいいか。

 

 グルグルと考えて、ブンブンと腕を振って、机に突っ伏して考えに考えて。悩んで唸って、困って頭を振って、ウサギの耳が落ちてガシャンなんて音がしたから、母に凄い怒られて。

 

 行き詰まって、ふと顔を上げた先に、分解された白騎士が。

 

 ピコンと、束のウサギの耳が跳ねた。

 

「・・・・・・おおおおお、忘れてたよ、白騎士」

 

 その瞬間、白騎士の頭部が転がり落ちたのでした。もう泣いていいよ、白騎士。

 

 さてさてと、束はうんうんと唸っているところにメールが一つ。

 

 前にナノマテリアルの精製方法を教えてくれた人達から、『きぐるみコミュニティ』に参加しないかと、御誘いのメールだった。

 

 深く考えずに、『いいですよ~』と送り返した束の視界に、返答のメールが送られてきた。

 

「天才がいるぅぅぅぅぅ!!!」

 

 空中投影されたモニターを掴もうとして、束はそのまま壁に激突したのでした。

 

 『三次元座標における基準点の設定と、空間拡張による道具類の収納について。つまり、アイテムボックスの可能性』。

 

 こうして、白騎士に劣化番の『王の財宝』が追加されたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして数日後。

 

「いけ!!」

 

 気合一閃、叫んだ一夏の背後に七色の光の波紋が浮かび、次々に木の棒が飛び出してきた。

 

「・・・・・・・束、あれはなんだ?」

 

 木の棒なのに、地面に突き刺さる物体を見ながら、千冬は隣で隠れているウサギ耳を引っ張った。

 

「ふみゃゃゃゃ! 痛い痛い痛いよちーちゃん!! いっくんが、リリィさんの能力が欲しいって言うから、開発中の白騎士に組み込んで、作ってみた」

 

 ちょっと自信に満ちた顔の束に、千冬は拳を握り締めた。こいつをどうすればいいか、どう説教してやろうか。その前に、怯えていない堂々とした態度に、ちょっとは成長したかと嬉しくなった。

 

 ただし、その右手がリクの腰に巻きついていなければ、もっと喜んでいたかもしれない。

 

 リクに触っているから、怖いものなんてない。束の顔にはそんなことが書いてあるようでした。

 

「これで、これで俺も高坂を名乗っていいですよね、リク兄さん!!」

 

「え、なんだって?」

 

 リク、思わず聞き返す。

 

「は?」

 

 たまたま、一緒にいた深雪、ちょっと青筋を浮かべていて。どうしておまえが高坂を名乗れる、その程度の強さで何を誇るのか、とか内心で色々と罵倒していそうだが、表には青筋だけにしました。

 

「え、だって僕たちが織斑なのは、高坂を名乗れるほど強くないからって」

 

 きょとんとした一夏に、誰もが困惑して顔を見合わせていると、ゆっくりと立ち去ろうとする影が一つ。

 

「何処行くんだ、千冬?」

 

「グ?! 待て、リク、話せば解る」

 

「へぇ~~~束がやらかしたと思ったら、今度はおまえか? え、何を言った?」

 

「・・・・・・一夏とマドカは、リリィさんと古城さんがママとパパと思っていてな」

 

「そっか、そっか、で?」

 

「めんどくさいから、強さが足りないと教えた」

 

 胸を張って、さすが私という顔をのままでいる千冬に。

 

 リクは無言でとある宝具を抜いたのでした。

 

「待てリク!! それは駄目ではないか?!」

 

「最近になってさ、使えるようになったんだよ。いやいや、母さんからは試しでもダメって言われているけど、今回は許してくれそうだなぁ」

 

「待てリク! 待つんだリクぅぅ!!」

 

「うるせぇ!! おまえまで何してんだよ千冬!! こんなバカは束だけで十分なんだぞ!!」

 

「ふぇぇぇ?! 私はまともだよ!」

 

 思わず、腰に抱きついたままの束の反論に、刀を抜いた千冬と、ドリルみたいな武器を持ったリクは停止して。

 

「一番の馬鹿が何言ってんだよ!」

 

「貴様が最も迷惑をかけているだろうが!!」

 

「ふぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 同時に突っ込みを入れて、ウサギは泣いたそうです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同じ頃、マドカはというと。

 

「遅くなってしまった。さて、一夏は上手くやっただろうか」

 

 手に持ったボールを回転させながら、足元を叩く。

 

「パパに認めてもらうのだから、頑張るのだぞ、ミラボレアス」

 

 巨大な影は、彼女の合図で大きく咆哮したのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぇ~~~今日もりっくんとちーちゃんは容赦ないよ」

 

 束は涙目で自分の研究室へ戻り、白騎士を見上げる。

 

 ナノマテリアルでの装甲完了、量子武器庫も装備完了。これなら誰が相手でも負けない気がする。

 

 ピコン!

 

「あ、メールだ。ふぇ~~そんな技術があるんだ」

 

 内容を読んだ束は、嬉しそうに笑ったのでした。

 

 『人の精神波による機械制御。そのための精神に反応しやすい物質の生成と構築方法。つまりサイコ・フレームだよ』。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしました、総理?」

 

「いや、とある大統領からなんか色々といわれてな」

 

「はぁ」

 

「いつからうちって魔界みたいになったんだ?」

 

「・・・・・・・高坂古城に連絡を入れておきます」

 

「ああ、頼む」

 

 とある国の政治中枢で、そのトップは胃を抑えて苦笑いをしたという。

 

 

 

 

 

 

 








 さあ、皆さま大好き、サイコ・フレームです。白騎士をユニコーンにするのか、悩むところでございますが。

 高坂家を中心として、徐々に広がるバグとチートの波。

 いったい、何時から白騎士事件が起きないと錯覚していましたか?

 白式が一夏の専用機だと思っていましたか?

 千冬の最初のISが、白騎士だと思っていましたか?

 すみません、まったく考えていません。常に行き当たりばったりなサルスベリです、ごめんなさい。

 では、このあたりで失礼いたします。

 この作品が、皆さまの日常の小さな楽しみの一つになれば、幸いでございます。

 





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白騎士事件な八ページ目

 






 皆さま、お待たせいたしました、歴史の分岐点です。

 原作では、この事件を切欠にして世界が逆転したわけですが、この作品でも逆転させようと考えています。

 キーワードは、タバネちゃんの普段の服装。研究室にこもっている時間が多い、白騎士はそこに放置されています。

 つまり?

 











 

 

 

 

 

 

 

 

 後の歴史家曰く、『まさに悪魔の所業』だという。多くの人を魅了し、多くの人の自信を失わせ、多くの人を熱狂させた機体。

 

 『白騎士』は、七色の翼を広げながら、緑色の光を纏い、天空に座した。

 

「束、どういうことだ?」

 

 リクは問いかける。空にあり、地上を見下ろしている天使のような機体に。

 

「答えろ、束。こんなことをしでかして、多くの人に迷惑をかけて」

 

 彼女は答えない。ただ白騎士は天にあり、すべてを見下ろすように輝きを放っていた。

 

「束・・・・・答えないって言うなら」

 

 グッとリクが拳を握ると、彼の背後に無数の金色の波紋が浮かんで行った。続いて十二の眷獣が揃って吠える。

 

「答えないならな」

 

 怒りを浮かべ睨みつけるようなリクに、白騎士が動いた。

 

 ゆっくりと首を動かし、両手を広げて。

 

 そして。

 

『りっくん』

 

 小さく束の声が聞こえて。

 

『ふぇぇぇぇぇぇぇ!! りっくぅぅぅぅぅん!!』

 

「ぶ?!」

 

 勢いのままダイビングタックル。

 

 重力制御装置プラスヴォワチュール・リュミエールプラスミノフスキードライブ、そんなトンでも推進機を総動員した加速は、光速を超えて白騎士を加速させ、問答無用でリクを倒したのでした。

 

『言うこと聞いてくれないの! 全然! 言うこと聞いてくれないのぉぉぉ!!』

 

 ナノマテリアルに仮面ライダー系の制御装置をぶちこんだ、まっするぱわー全力の両腕がリクの腰を、今にも折らんばかりに締め付けるのですが、やっている本人はまったく気づいていなくて。

 

『白騎士の馬鹿かぁぁぁぁぁ!!』

 

 大泣きの束と、気絶寸前なリク、それを遠くから見ながら千冬は思う。

 

「ム、ここは私が一刀両断するべきだな!」

 

 白い光の刃を発生させたISを纏った千冬が大きく頷き。

 

「行くぞ白式! 今こそ『無様なり束』という時だ!」

 

 高笑いの後に、亜光速ドライブ最大稼働。一瞬で閃光になった白式に対して、白騎士は咄嗟に回避行動。

 

「避けるな束ぇぇぇぇ!!」

 

『ふぇ?! ちーちゃん?! なんでどうして?!』

 

「今こそおまえを落としてやろう!」

 

『ふえぇぇぇぇぇぇ!!』

 

 斬艦刀のように巨大になった光の刃を振るう白式の千冬は、とてもいい笑顔で笑っていた。

 

 一方で、全身を覆った白騎士を纏った束は、必死に回避運動。途中途中で、白騎士の後ろの翼の一部が剥離、ファンネルとなって白式の行く手を阻む。

 

「ふははははは!! 遅い遅いぞ白騎士! いいや束ぇぇぇぇ!!」

 

『ちーちゃんの馬鹿ぁぁぁぁぁ!!』

 

「もっとだ! もっと私を燃えさせてみせろ!!」

 

『誰か止めてぇぇぇ!!』

 

 半狂乱に笑う千冬と、反狂乱に泣く束。そんなパイロットを無視して戦争みたいに争う白式と白騎士の姉妹機。

 

「ねえ、あれって止められそう」

 

「ドーだろうな」

 

 そんな二人を、リクを回収したリナとトオルは眺めていたのでした。

 

 話の発端は、二週間ほど前に遡ります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏の姉として千冬は考える。弟は見事な強さを手に入れた、のだろうか。いや機械に頼るのは悪いことではない、道具とは使いこなしてこその道具であるし、作ったのが束ならば変なことにはならないだろう。

 

「姉さん、見てくれないか」

 

 嬉しそうに告げるマドカの声に、千冬は振り返って、苦笑い。我が妹は何処から見つけて来たのか、巨大な漆黒の竜を手に入れていた。

 

 ミラボレアスというらしい、元ネタを知っている転生者が大慌てで何処かへ飛んで行ったのだが、今は関係ないか。

 

「素晴らしい、後はもう一匹を手に入れたら。いや私も十二体そろえるべきか」

 

 うっとりとミラボレアスを見上げるマドカに、千冬はいいしれない感情が湧きあがるのを感じた。

 

「今日もがんばるぞ!」

 

 一夏は一夏で、木の枝から木の棒になって、頑張って訓練して今では剣を射出している。あれは金属製ではないか、刃がついていないか、人に向けたら危ないのではないか。

 

 千冬はそんなことを考えた後、小さく首を振った。

 

「ふ、さすが我が弟と妹だ。そうだな、姉である自分も目指す時が来たか」

 

 二人に背を向けて、千冬は一歩一歩と歩き出す。

 

「フ・・・・・フフフフ・・・・・フハハハハハハ!!! 待っていろ束ぇぇぇぇ!!」

 

 拳を握り、目を見開き、千冬は駆けだした。

 

 今日こそ、束に自分にふさわしい鎧を用意してもらうと決めて。

 

 それが間違いの始まりでした。

 

 一方、我らがタバネちゃんはというと。

 

「ふえぇぇぇぇ出来ちゃったよ」

 

『いやいや僕も調子に乗ってしまったようだねぇ~~まさかこんなにあっさりと搭載できるなんて思わなかったよ』

 

 モニター越しに初めまして、そんな挨拶をしたきぐるみ同好会の会長と一緒に、『星を目指せるぱわーどすーつ』、無限の成層圏を目指すための機体、ISの改良を行っていましたとさ。

 

「サイコ・フレームをメインフレームとして、ナノマテリアルで内部装甲と外部装甲を形成、後は量子格納庫に念のために武器を搭載して」

 

『うんうん、太陽炉のダウンサイジングは良好だね。これをツインドライブとして、重力子エンジンもダインサイジングできたし』

 

「やっぱり推進機は、ヴォワチュール?」

 

『ヴォワチュール・リュミエールと、ミノフスキードイラブの複合型にしてみたんだけど、上手くかみ合ったみたいだね。後は絶対防御のプログラムだけだけど』

 

「重力制御装置もできたので」

 

 楽しそうに会話する二人。束も、最初はびっくりしていたが、モニター越しなら大丈夫になって、少しずつ慣れて行って今では普通に会話できるようになりました。

 

 けれど、束は思う。この人の素顔を知らない、素性は知っているし、住んでいる場所も教えてもらった。実際にそこにいるのは確認済みなのに、きぐるみを脱いだところを見たことがない。

 

「えっと、長船会長?」

 

『ん~~なんだい?』

 

「どうして私にこの技術を教えてくれたの?」

 

 純粋に、束は疑問に思っていた。世の中に出せば、特許とか企業への売り込みとかで億単位で稼げるはずなのに、彼は何も要求せずポンっと天才的革命のアイディアを与えてくれた。

 

 問いかけに、モニターの中のきぐるみは腕を組んで首を傾げた。

 

『それは、僕では手が届かないからさ』

 

「え? でも、これって」

 

『僕の転生特典は、あくまで『データ上の天才』であって、現実世界に展開できるだけの技術力はないんだよ』

 

 寂しそうな声だった。求めていたものが手に入ったのに、その先を目指せないと知って絶望したような、そんな少年の声だった。

 

『だから僕は託そうと思ったんだ。天才である君に』

 

「私なんて・・・・・・・」

 

『でも最初は渡していいか迷った。天災っていう君なら世界を壊しそうだったからね』

 

 てんさいと呼ばれた、その響に束は二つの意味があるように思えたのだが、どうしてと聞こうとして止まってしまう。

 

『あなた~~御飯よ~~』

 

『パパー!』

 

 モニターからの声に、束は固まった。

 

「え、え、え?」

 

『おっともうこんな時間だ。じゃあ束君、この素晴らしい世界で、素晴らしい星の海を目指してくれたまえ』

 

 ビシッと敬礼したきぐるみ姿を最後に、モニターは消えたのでした。

 

 少年のようだったのに、自分よりもちょっと年上っぽかったのに。

 

 まさかの既婚者。世の中って広いなぁと束がちょっとおかしくて、ウサギ耳をぴょこぴょこ動かしながら、振り返った。

 

「もうすぐだからね、白騎士、白式」

 

 一方は完全装甲の一番機、もう一方は半分装甲の二番機。二つの機体を見つめ、これで宇宙に行ったらどんな景色が見えるのかなって思って、目をキラキラとさせている束。

 

 そして、その背後で同じように目をキラキラとさせている千冬がいたという。

 

「なあ、束。一機くれないか?」

 

「ふみゃぁぁぁぁぁぁぁぁ?! ち、ちちちちちちちーちゃん?!」

 

「フ、そんなに驚くなよ、束。そうだな、こっちの白式を私にくれないか?」

 

 ちょっと汗をかいている千冬は、とてもいい笑顔で束に手を差し伸べたのでした。

 

 凄みのある笑顔ともいえますが。

 

「・・・・・・未熟、申し訳ありません、姉様」

 

 箒、折れたとうやこーと書かれた木刀と一緒に地面に転がって嘆いていました。さすがにまだ千冬を止めるには、技量が足りなかったようです。

 

 こうして二機のISはそれぞれのパイロットを得て、活動を開始したのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千冬がノリノリで、束が泣きながら、ISの訓練を行って数日後、諸外国を恐ろしい話が駆け巡ったのでした。

 

「だ、大統領! ミラボレアスです! ミラボレアスが日本に!」

 

「なんだって?! 今すぐミサイルを放て! 構わん! 日本の危機だ! アニメが消えるぞ! ホットラインを繋げ! 関係各国へ連絡だ!」

 

「なんだってアキバの危機?! 全軍のミサイルを放て!」

 

「聖地が消えるなどあってはならない、今すぐにミサイルだ!」

 

「オタクの聖域を汚すような行為は許さん! トカゲめ! 人間の力を見せてやるぞ!」

 

 こうして、日本に七百発ものミサイルが降り注ぐこととなりましたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはよく晴れた冬のある日、もうすぐ春になりそうな暖かい日。

 

 千冬が剣道部に捕まって遅れるというので、束は一人で白騎士を纏って空を飛んでいた。

 

「ふわぁ~お空が近いよぉ~~~」

 

 モニター越しに見える空は、何処までも高いものではなく、手を伸ばせたすぐに掴めそうなくらいに近くて。

 

 もっと先へ、その先の宇宙に行ったら、もっと言えば銀河系を飛び出して他の星に行けたら、どんなに素敵なことだろうか。

 

 不意に思ったことに束は頬を染めて、出来ればリクと一緒がいいなと思って一瞬で赤面した頃。

 

 警報が鳴った。

 

「ふぇぇぇ?!」

 

『警告 ミサイル多数接近中』

 

 なんでどうしてと疑問を感じる前に、迫ってくるミサイルの数と、到達予想地点を見た束は、一瞬で理解して決断した。

 

「りっくんは私が護るから!!」

 

 白騎士の全機能解放。ツインドライブ最大稼働、重力子エンジンもフルドライブ。

 

 ビーム砲を両手に、小型ミサイルコンテナも解放、背中に七色の翼を広げ、機体全体を緑色の光で包み、白騎士は蒼穹をかけて。

 

 そして、制御不能になった。

 

 束の操作を一切、受け付けなくなった白騎士は、全世界のシステムのすべてをハッキングし制御化に置いて、画像を流し始める。

 

 世界はもちろん大混乱、操作を受け付けなくなった機械を前に、呆然としている人々を笑うように。

 

 お前達は無力だと突き付けるように。

 

 そして何より、乗っている束があまりの出来事に声も出せなくなるくらいに。

 

 画像の中には、可愛い衣装の束が踊っていましたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 白騎士は毎日、見ていた。

 

 束の姿を毎日、眺めていた。

 

 ピンクのフリフリドレスで必死に演算している時も。

 

 白いゴシックロリータの衣装で、配線を組み替えている時も。

 

 ミニスカ風の浴衣を着ながら、装甲を研磨している時も。

 

 花魁風の衣装を着せられ、泣きながらプログラムを組んでいる時も。

 

 学校の制服なのに、フリルとかつけられて、ウサギ耳を足らせながらシミュレーションしている時も。

 

 肌が白いのをちょっと気にして、上半身は半そでなのに、下が御姫様のようなフリルドレスで、鏡を見つめて困った顔をしている時も。

 

 新技術を発見して、アリスの衣装で小躍りしている時も。

 

 ずっと白騎士は見ていた。ナノマテリアルの装甲をつけられ、太陽炉を搭載されて、重力子エンジンをつけられ、サイコ・フレームを搭載された時も。

 

 ずっと白騎士のカメラの中には、可愛い仕草と可愛い衣装を着た束がいた。

 

 彼女はずっと見ていた。動かない体の中で、ずっとずっとそんな束を見続けていた。

 

 サイコ・フレームとは人の想いを吸収する物質であり、その想いを力に変えることができるオーバーテクノロジー。

 

 長船というきぐるみ会長がデータを送ったそれは、実は一つの細工がしてあった。サイコ・フレームが無尽蔵に人の想いを吸収するのではなく、製造時にもっとも近い場所にいた人の『優しい気持ち』に触れるように。

 

 実現できずとも、データ上はチートを行える彼の試みは見事に成功した。

 

 成功したのだが、ここで予想外の出来事が起きた。

 

 普通なら、白騎士の開発は短期間で終わり、すぐにデビューとなるはずが、この世界の束がビルドに拘っていたため、開発期間が延び延びて。

 

 白騎士に自由意思が生まれるほどになってしまった。

 

 可愛い束を見続けて、自由意思を持った白騎士に搭載されたサイコ・フレームは見事にその意思を吸収して。

 

 そして、向かってくるミサイルをすべて撃ち落とし、全世界の機械を制御化に置いて、束の映像を流しながら。

 

 白騎士は後の世の方向性を決定した一言を配信したのでした。

 

 

 即ち、『可愛いは正義』。

 

 そして話は冒頭に戻るのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 白騎士、白式、その二機のISが見せた戦闘は世界中の軍事関係者を震え上がらせ、軍事企業に大きな傷跡を残した。

 

 こうして世間でいうところの『白騎士』事件は終わったのでした。

 

可愛いは正義! ロマンこそセオリー!

 

 そんな言葉が当たり前のように言われるようになる世界となる、歴史上の転換期としての事件は、終わってしまったのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぇぇぇぇぇぇぇ!! りっくぅぅぅぅ!!! 私そんなつもりじゃないのぉぉぉ!!」

 

「待て落ち着け! 離せば解るんだリク!」

 

 事件後、必死に土下座する束と千冬の前で。

 

天の理って使ったことなかったなぁ

 

 乖離剣『エア』を抜いて、とてもいい笑顔のリクがいましたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 









 白騎士事件でした。

 感想で可愛いは正義とか言われて、内心でドッキリしたサルスベリです。

 ISのアニメを見て、制服改造オーケーならば、可愛い制服をしている女の子が多いので。じゃ壁にぶつかった束が、ぶつけた壁の男の子を好きになって女の子っぽく可愛くなったなら。

 IS学園の生徒が可愛い制服を着ているのは、可愛いは正義を束が広めたからであって。

 なら白騎士事件は、それを世間に刻みこむ事件じゃないと駄目なんじゃって使命感にかられたサルスベリによって、こうなりました。

 それで今日はこのあたりで。

 このお話が、皆さまの日常の小さな楽しみの一つとなっていたなら、幸いでございます。

 






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決意を刻んだ九ページ目








 前回、白騎士事件が起きました。世界がびっくりです。

 サルスベリはお気に入りの数やら、評価やらでびっくりです。

 ご期待にこたえられるか解りませんが、がんばってぶっ飛んで行きますのでよろしくお願いします。

 暴走列車ってブレーキがないから暴走列車だと教わりました。







 

 

 

 

 その日、世界の常識は粉砕された。

 

 戦闘機が空を舞い、戦車が地上を進む。海を軍艦が支配して、そして各国の軍人が己の感情を律して、あらゆる困難に立ち向かっていく。そういった世界の軍事バランスは、その日を境にして一切が消え去って行った。

 

 今までの技術はすべてが無意味。

 

 現在までの軍事力は、それの前に完全に敗北した。

 

 各国のトップは頭を悩ませ、何度も考え、多くの有識者に意見を求め、さらに首脳部でも議論を重ねていき、何度も何万回も会議を重ねて。

 

 そして。

 

『やはり、無理か』

 

 誰かの嘆きがテレビ電話を通して、世界各国のトップたちを揺さぶった。どう考えても無理だ、不可能なことでしかない。

 

 全員の脳裏を支配しているのは、天空に浮かぶ白い機械。

 

 IS、インフィニット・ストラトスと呼ばれる、純白の翼を広げた機械の騎士。あの時、すべてのミサイルを撃墜し、追撃を仕掛けようとした航空機を振りきって、天空の存在し続けた異物。

 

 いや、あれは『天空に君臨した』というべきだ。誰かが呟いた声に、思わず頷いてしまったのは、本能が思い知ったからか。

 

 だからこそ、今回の会議は当然のように。

 

『ああ、無理だ。私は忘れられない』

 

 とある国の大統領が呟き、画面の中で首を振った。

 

『私も忘れられそうにない』

 

 とある国の首相が天を仰ぐように、顔を上げていく。

 

『そうだな』

 

 誰ともなく呟き、誰ともなく拳を握りしめ。

 

『やはり、フリルのついたエプロンドレスこそ正義』

 

 瞬間、通信回線でつながっているだけで、物理的に繋がっていないそれぞれの空間が凍りついて、ひび割れたように砕けた。

 

『あ?』

 

『なんだと?』

 

『てめぇ、正気か?』

 

『ああ、あのフリルこそ、私が求めていた可愛さだ』

 

 陶酔したように呟いた言葉への返答は、拳を机に叩きつけた音だった。

 

『ふざけるな! ゴシックロリータが最高だろうが!』

 

『おまえの目は腐っているのか?! ウサギ耳だ! あのウサギ耳こそ至高!』

 

『どいつもこいつもおかしいんじゃないか?! 和服だろう! あの見えそうで見えないエロスと清純さを併せ持つあれこそが!』

 

『黙れ俗物どもが! 純白の天使の翼にナース服! それこそが最高ではないか?!』

 

『貴様らぁぁぁ!! 許さんぞ! 我が軍が相手だ!』

 

『いいだろう! 貴様にフリルの良さを刻みこんでやる! 全軍を動かせ! 今すぐに宣戦布告しろ!』

 

『ふ、どいつもこいつも浅はかな。ウサギ耳を広める最初の一歩にしてやる』

 

『『『『『いい度胸だお前ら!』』』』』』

 

 誰もが中指を立てて怒鳴り合っていました。

 

 今日も可愛いは正義、その通りに平和な世界であります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 天の理はさすがに怒られました、と高坂リクは平常心を取り戻して空を見上げていました。

 

 世界各国がISの価値を認めた現在、すべての軍事関係者が求めて奪いに来そうなのだが、何処も手を出してこない。

 

「来ねェな」

 

「来ないわね」

 

 何故か、気合十分なトオルとリナがいて。

 

「フ、私の怖さに恐れをなしたか」

 

 何故か、剣を地面に刺して仁王立ちする千冬がいて。

 

「今度こそ姉様のために」

 

 背中に阿修羅を背負った箒がいまして。

 

 

 十二の眷獣を従え、金色の鎧を身に纏い、右手に『エア』、左手に騎士王の聖剣を持ったリクは、なんでこんなことしているのか疑問を浮かべていました。

 

 事の発端は、束の素顔が世界中に曝されてしまったこと。

 

 ISの開発者、色々な人の協力を得たとしても、ISのコアを作れるのは束のみ。もう一人データ上での協力者がいたはずなのだが、それは世界各国が探っても痕跡さえ発見できず。

 

 追跡したり、ハッキングしたりすると、使用したコンピュータがきぐるみのダンス映像しか流さなくなったり。あるいはきぐるみサイトしかつながらなくなったりするので、世界各国は諦めることにした。

 

 『きぐるみっていいな』、『俺も入ろうかな』、なんて最後に必ず出てくるきぐるみ同好会への参加者が増えたのは、決して意図して行ったものではなく、催眠を施したわけではない。

 

 話を戻して、束を狙ってくるだろうから、それを阻止するために全員で待ち構えていたのだが、数日が経過しても誰か来る様子もなく。日本政府さえも篠ノ之神社に近寄ろうとしない。

 

「あれがタバネちゃん可愛いファンクラブの本部だな」

 

「ああ、あれこそが可愛いの伝道師の家だ」

 

 時々、遠くから祈るように見つめてくる人たちがいるのだが、誰もが無視することにした。なんだか、凄く妙な熱気を向けてくるので、関わったら最後、自分もそんな道に入りそうで怖いから。

 

「もう来ないんじゃないの?」

 

 飽きてきたようなリナの声に、リクはそうかもしれないと思い始める。今頃、各国はISを巡って議論を重ねている頃だろう。開発者を狙ってくる様子がないから、きっと各国のトップは理性的に話し合い、平和的な解決手段を見つけているのだろう。

 

 今まで世界を引っ張ってきたリーダーたちだ、世界平和のために頑張ってきた人たちだから、簡単に戦争なんてしないはずだ。

 

 リクはそう思っていたのですが。

 

 現在絶賛、それぞれの欲望と願望のために、世界大戦が勃発しそうな雰囲気になっているのですが、それはリク達は知らないことですので。

 

「今日は解散だろウな。もういいダロ?」

 

「・・・・・・なんでトオルって能力を使っていると、そんなにアクセントが変わるんだ?」

 

「仕様だ」

 

 以前からの疑問をぶつけると、トオルは真顔で答えたのでした。

 

 何の仕様なのか、リクはとても疑問に思うのですが、突っ込んだら負けと第六感が叫んでいるので止めておくことにした。

 

「皆の者!」

 

 バッと後光がさした。ハッとしてリク達が振り返った先、空に浮かんだ金色の船に乗ったリリィ推参。

 

「束の護衛、御苦労であった。我が夫、古城が見事に役割を果たした。もう何も心配いらぬぞ!」

 

 リクと同じ色合いの金色の鎧を身に纏いながら、微妙に肌が露出している二児の母は、満足そうに腕組みして頷いた。

 

「フ、また我の美貌に酔わせてしまったようだ。良いぞ、特別に許そう。我が黄金の肉体を脳裏に刻む許可を出してやろう」

 

 ご満悦な母が高笑いを始めました。

 

「・・・・・・・りぃぃぃぃく」

 

 リナが凄い顔でリクを見ています。

 

「止めろ」

 

 トオル、感情が完全に死んだような顔をしています。

 

 仕方がないか、とリクが溜息をついた時。

 

「此度の働き、まことに大義であった! ではさらばだ!!」

 

 フハハハハなんて笑いながら、リリィは去っていきましたとさ。

 

「・・・・・・・で、何がどうなったの?」

 

「俺に聞くなよ。リクに聞け、あの英雄王の息子だ」

 

「俺、あの母親から生まれたなんて、信じたくない」

 

 呆れたリナと、半眼のトオル、そして項垂れたリク。

 

「リリィさんは今日も素晴らしかったな。私も目指したいものだ」

 

 グッと拳を握って高笑いするリリィの姿を脳裏に刻む千冬だった。誰か止めないと、彼女の将来が不安になるか、黒歴史で悶絶することになるので、説得してください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、一触即発の世界のトップたちの会議は。

 

『あ~~~高坂古城だ。つまりあれだ、ISの学園を作って、そこで競わせればいんじゃないか?』

 

『・・・・・さすがミスター『フィクサー』!!』

 

『そんな意見を言えるなんて、さすがだ裏ボス!』

 

『影の参謀殿! 貴方ならそういう提案をしてくれると思った!』

 

『闇の支配者殿! その考え方や意見に憧れる痺れる!』

 

『『『『『あんたこそ世界のリーダーだ!』』』』』

 

『おまえらいい加減、理性を殴り捨てると暴走する癖、直せよ』

 

 古城、昔からの苦労を思い出しながらため息をついた。

 

『じゃ場所は日本な。タバネちゃんの故郷だし』

 

『え?』

 

『当然、日本に作るべきだな。アキバあるし』

 

『え、ちょ待』

 

『日本がいいだろう、あそこがオタクの聖地だ』

 

『お待ちください、ちょっと待ってください』

 

『じゃ日本で決定な。あ、資金は出すから制服はフリル多めで頼むぞ』

 

『工事費、全額負担してやるから、ウサギ耳よろしくな、な!!』

 

『材料と建設部隊、総派遣してやるから、ゴシックロリータ制服にしろよな』

 

『『『『『あ、ケンカ売ってんのか、買うぞこの野郎』』』』』

 

『古城ぉぉぉぉ!!』

 

『解った、解ったから。あれだろ、制服改造自由でいいんじゃないか?』

 

『『『『『さっすが我らが黒幕!!』』』』』

 

『うううう!! 来期は逃げてやるぅ!!』

 

『俺も逃げたいよ』

 

 こうして日本に、ISを学ぶための学園、『IS学園』が作られることになったのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 恥ずかしい、逃げたい、もう誰もいない場所に行きたい。

 

 そうだ宇宙に行こう。

 

 束は一人、研究室の隅っこでそう決意した。しかし、いざ行動に移そうとしてモニターに流れる熱狂を見てしまった。

 

 誰も可愛いは正義と叫び、誰もがロマンこそがと信じている。熱意は大勢の人を動かし、情熱が様々な人を突き動かしていく。

 

 誰もが自分の趣味を声高に叫び、誰が一番の可愛いであるかを競うような世界の景色を前にして、束は違うと感じていた。

 

 情熱は確かにすばらしいものだ。ロマンは人を突き動かす原動力だ。けれど、その二つは決して前に前にと出すものじゃない。理想も理念も、夢物語であっても、それがすべてであっていいはずがない。

 

「白騎士」

 

 目の前に浮かぶ機械に、束は怒りをぶつけようとして止めた。自分が、この子をそう育ててしまった。

 

 可愛い衣装を着て、この子の前にいたから。この子はそれが当然のことだと、世界のすべてだと思い込んでしまって。

 

「決めた」

 

 束は静かに顔をあげて拳を握る。

 

「私は取り戻すんだ。ロマンの熱意も情熱もあるけれど、理性的で冷静に物事を考える。そういった人たちが、未来と宇宙を目指していた世界を」

 

 顔をあげて、腰を上げて、両足をしっかりと伸ばして。

 

「もう何処にもないもの、亡くなった故郷。違うかな、亡くなった(理性)を求めるための組織、うん、それでいい」

 

 真っ直ぐに白騎士を見つめ、束は怒りではなく、決意を持って拳を突き出した。

 

「私は君に教えてあげる。可愛いは正義でもない、ロマンだけじゃない。もっと素晴らしいものを。私が見せるものを、私たちの組織が君に教えてあげる」

 

 理性を持ち、情熱を胸に秘め、ただロマンを現実にするために冷静に判断する人達の集団。

 

 可愛いは正義、ロマンはセオリー。そういった世界に真っ向から対立する武装組織。

 

 『亡国企業』はこうして、生まれたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで、りっくん!」

 

「・・・・・・・は?」

 

「私と一緒に国際テロリストになってよぉ!!」

 

「・・・・・・・・・・・・・はぁ!?」

 

 後に可愛いウサギ耳の魔王と、残虐非道な大魔王と呼ばれる、亡国企業のトップ二人は、こうして始まったのです。

 

「そっちのルートかい?!」

 

「面白そうだな」

 

「フ、私も参加させてもらおう」

 

「姉様のために」

 

 そして後に、亡国の四天と呼ばれるリナ、トオル、千冬、箒も参加することになったのでした。

 

 頑張れ一夏、君だけが世界を護る最後の砦だ。

 

「え?」

 

 可愛いは正義、ロマンこそセオリーの世界を護るために、頑張れ一夏。

 

「お、俺ぇ!?」

 

 しかし、束は知らない。

 

 表では可愛いは正義、ロマンこそセオリーの世界の第一人者として方々で呼ばれたり。

 

「ふぇ」

 

 裏側では、情熱を理性で、熱意を冷静で包む組織のナンバーツーとして。

 

「うぇ」

 

 忙しい日々を送ることになることを、篠ノ之束はまだ知らないのでした。

 

 

 

 

 

 









 というわけで、暴走の結果。

 亡国企業を作ったのは、タバネちゃんとなりました。

 国際テロリスト『亡国企業』、その最終目的は世界の目を覚まさせる。可愛いは正義でもいいし、ロマンも大好きだけど、そんなに暴走しないで止めようぜ。

 建前は。

 束の本音としては、『私の動画を削除したい!』だと思いますので、どうか生暖かい目で見守ってあげてください。

 それではこのあたりで。

 この作品が皆さまの日常の小さな楽しみの一つとなっていたなら、サルスベリにとっては幸いでございます。







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諸行無常な十ページ目







 篠ノ之束、亡国企業を作る、が前回のお話。

 この後どうするかと悩んで、色々と考えて、頑張ろうと決めて。

 力を入れても面白いものは作れないと悟った今日この頃です。

 さあ、ブレーキの壊れた暴走列車が、今日も突き進みますので、どうかよろしくお願いします。






 

 

 

 

 

 

 

 

 

 男は薄闇の中で未来を見つめる。

 

「おい、出ろ」

 

 声に振り返ると、看守が憎々しい顔でこちらを見ていた。

 

「俺を出すのか?」

 

「上からの命令だ、出ろ」

 

「いいのか? 俺を出せばどうなるか?」

 

 狂気を宿すような瞳に、看守が少しだけ怯えて、すぐに自分が怯えたことに憤り、手に持ったものを振り上げた。

 

「止めろ」

 

 静止する声に、看守がハッとして振り返ると、そこには軍服の男が立っていた。

 

「大佐」

 

「いい、こいつの態度は今に始まったことじゃない。いいから出ろ、織斑一夏」

 

 名を呼ばれ、青年は不敵に笑った。

 

「おまえをどうして出したか、解るか?」

 

 案内されたのは何処かの執務室のような場所。あの場所、刑務所にはないから何処か別の場所か。

 

 一夏は周りを見回しながら、情報を集める。外に出してもらったのは久しぶりだ。手錠はそのままだが、ここには大佐と呼ばれた男以外はいない。

 

「脱走を考えているなら、好きにしろ」

 

 投げやりな言葉に一夏が鋭く大佐を見つめると、小さな白い腕輪が目の前に落ちてきた。

 

「おまえの機体だ」

 

「・・・・・・いいのか?」

 

「ああ、好きにしろ。おまえなら、あいつを殺せるだろうからな」

 

 不敵に笑う大佐が、誰のことを言っているか、一夏はよく解っている。

 

「高坂リクと篠ノ之束、あいつらを殺せるのはお前だけだからな」

 

「・・・・・・ああ、いいぜ、俺があいつらを殺してやる」

 

 不敵に笑う一夏に、大佐は満足そうに頷いた。

 

 こうして、凶鳥は野に放たれた。

 

「っていうことを俺に期待してるんですか、束姉さん?」

 

「なんでそうなるのぉぉぉぉぉぉぉ?!」

 

 ヒーローではなく、ダーク・ヒーローに憧れる一夏君の発言に、高校を卒業したばかりの束は絶叫したのでした。

 

 高坂リクは思う。今日も世界は平和だなぁ、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ISが世界に広まって数年。

 

 束は頑張った。頑張ってISのコアを作って、世界中に配った。しっかりと教育して、ロマンと可愛いだけじゃないって教え込んで、情熱を持ってもいいけど冷静にねとか、ロマンもいいけど理論的な思考も必要なんだよと必死に教え込んだ。

 

 教えて実演して、説得して、頑張って。

 

 一機一機を丁寧に作り上げたISコア達は、生みの親にして育ての親をきちんと見て、白騎士や白式の考えを真っ向から否定するように育ってほしいとの願いを込めて。

 

 中世のお姫様の衣装で必死に教え込んだ。

 

 その結果、『我らが母は可愛い』、そう思いながらIS達は世界中に旅立って行ったのでした。

 

「なんでぇぇぇ?! りっくん!! こうなったらやっぱり革命が必要だよ!世界中の常識を塗り替える、世界を変革させる武力介入が必要なんだよ!」

 

 がっしりと抱き付き、必死に揺さぶる束。もう後になんて退けない、今だって可愛いファッションとか、フリルとかゴスロリとか、世界中の服飾メーカーから『着てください』って送られてくるのだ。

 

 これがISコアのために、さらに増えたらどうなるか。

 

 考えただけで束は全身が震えて寒気がして、顔面蒼白になってしまう。

 

「隠し撮りなんてもう嫌だ」

 

「・・・・・」

 

「週刊誌、怖い」

 

「・・・・・」

 

「写真集なんて私が出していいものじゃないよ!!」

 

「・・・・・・」

 

「りっくぅぅぅぅん!! もうねもうね!! 私のライフはゼロなんだよ! 解ってよ、りっくん!」

 

「・・・・」

 

 抱きついてガシガシと揺らす束と、まったく反応しないリク。

 

 季節は夏、普段は長そでな束は珍しく半袖の上着に、胸元が開いた服装なのは、篠ノ之母が動いた証拠かもしれない。

 

 ただし、袖口にレースとか、細かい刺繍が施されていたり、スカートが前はミニスカート風なのに、後ろはフリルのロングスカートなのは、篠ノ之母の中で何か葛藤があった証拠かもしれない。

 

「りっくん! 答えてよりっくん! ここには!」

 

 がっしりとリクの首に抱きつく束。

 

私の涙と!

 

 ギュッと抱きしめる彼女の、とある部分がさらにリクに圧迫を与え。

 

私の羞恥心と!

 

 フワッと流れるいい匂いは、きっと束がリクの胸に顔を埋めたからだけじゃない、と思いたい。

 

私の限界があるんだからぁぁぁぁ!!

 

 ギュッと全身全霊をリクに預ける束だったが、訴える相手から一切の反応は戻ってこなかったのでした。

 

「・・・・・・ねえ、トオル、あれって狙ってやっていると思う?」

 

 リナ、半眼で目の前の何かを見つめてポツリと呟く。

 

「狙ってやっているなら、凄い男殺しだな」

 

 トオル、深々と溜息をついてどうするかと悩む。

 

「・・・・・・・」

 

 深雪、氷の微笑を浮かべながら右手を握り込み。

 

「姉様、今日も麗しい」

 

 箒、涙を流して柱の影から見護り。

 

「うわぁ」

 

 一夏、色々なものを見てしまい赤面。

 

 そして、我らが『ちゅうにびょう』まっしぐらだった千冬はというと。

 

「うるさい!! 今の私は教師に向かっているんだぞ! 目の前で不純異性交遊など認めないからな!」

 

「ちちちちちちちちちちーちゃん?! わたわたわた私はそんなこと!!」

 

 赤面して必死に否定する束だったが、その体はリクから離れることなんてなく、返ってもっとピタリと密着してしまい。

 

「お前は自分の色香を自覚せんか!!!」

 

「ふぎゃ?!」

 

 千冬の一撃で束は遠くに飛ばされたのでした。

 

「よし、リク、大丈夫か? リク?」

 

 彼は地面に倒れたまま、ピクリとも動かずにいた。

 

「リク?! しっかりしろ傷は浅いぞ! 死ぬんじゃないリク!」

 

 慌てて千冬は彼を抱き上げ、必死に名前を呼ぶが反応がない。

 

リク!! リクぅぅぅぅ!!!

 

 そして千冬は絶叫したのでした。

 

「・・・・・・第四真祖、英雄王、その上で馬鹿みたいな身体能力を持っていても」

 

「男なんだよなぁ、あいつ」

 

 リナとトオルは、何処か遠い場所を見ながら呟いたのでした。

 

 今日の高坂リクの教訓は、この一言に尽きた。

 

 おぱーいは凶器。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 中学生にして大きなものを持った束の成長は、とても順調だったご様子で。高校生になったら周りの見る目がとても険しいものになり、大学生になりかけている現在は、拝まれることもあるらしい。

 

 とはいえ、そこまで育ってはいないのだが、束は身長も伸びなかったのでロリ系に見えないこともないくらい、そんなギリギリの身長になっていた。

 

 篠ノ之母曰く、『あの子はロリでも妖艶でもイけるわ』とか。

 

 可愛い衣装は、英才教育の果て、どんなものでも着こなせる。最近はISの発表とかする時は、必ずフリルドレスとか、ゴスロリとか、可愛い衣装じゃないと学会が参加を認めない、なんてこともされることもあるらしい。

 

 この世界、政治家だけじゃなく学者も変態が多い。なんてことはなく、可愛い衣装を着た束でないと、ISコアが『拗ねる』ようになってしまった。

 

 明らかに白騎士と白式の系譜と解るほどに、使用者が可愛い衣装を着ないと動かない、そんな鋼の意思が宿っているようで。

 

 そんなISなので、男に反応しない。どんなに試しても、可愛い衣装を着させても、絶対に反応しないという鉄壁の志を身につけていた。

 

 屈強な軍人が、フリルのミニスカートに猫耳をつけて挑んだのだが、見事に粉砕して泣きながら帰る様子は、あの他人に怯える束が真っ先に土下座するくらいに、とてつもない悲哀だったとか。

 

 ならば、女性ではと女性の軍人さんに頑張ってもらった結果、何とか起動してくれるようになったのだが。

 

 『もっと可愛く』、なんて目の前に表示された結果、三十過ぎの軍人さんは心が折れて退役。田舎に戻って結婚しますと、上司に辞表を突きつけたらしい。

 

 こうなってきては、ISを扱うためにどうすればいいか、誰の目にも明らかでした。

 

 即ち、可愛いに負けない、どんな衣装を着ても心が折れない人たち、あるいはそういった世代にISを使う勉強をさせることで、将来的にISを自在に使える人材を育てる。

 

 丁度、同じ頃、各国のトップたちによるIS学園構想が発表になっており、世界中のマスコミ達は、誰もがトップたちの英断を褒め称えた。

 

『さすがです! 皆さまのような政治家がいれば世界は平和ですね!』

 

 そんな称賛の言葉を受けて、各国のトップたちは笑っていた。

 

 あの時の馬鹿騒ぎは絶対に墓まで持っていこう、内心で誰もが固く誓った。何に誓ったか、そんなのは決まっている。彼らの魂に。

 

 もっと言えば、可愛いの伝道師の篠ノ之束に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして同じ頃、世界中を騒がせる集団がすべての情報端末にその姿を見せた。

 

『世界中の可愛いを信奉するすべての者達へ』

 

 漆黒のマントを着た、漆黒の仮面の集団。

 

『我々は『亡国企業』。世界中の可愛いに反旗を、世界中のロマンに対して理性を持って叩き伏せる。気がつくがいい、貴様らが行っていることがいかに愚かかを』

 

 薄暗い闇の中、先頭に立つ男が手のひらを受けに向ける。

 

『貴様らのロマンが、世界を壊していることを知るがいい。我らは貴様らに可愛いは正義、ロマンがセオリーなどといった、馬鹿馬鹿しい理屈が、世界を狭めていることを教えてやろう』

 

 グッと男が拳を握り、突き出す。

 

『繰り返すぞ、我らは『亡国企業』。世界に変革をもたらすものだ。我らの存在を忘れるな、情熱を言い訳にして逃げる貴様らに、教えてやろう。我らの理性と理論こそが世界であると』

 

 バッとマントを翻し、彼らは闇の中へと消えて行った。

 

 それは誰の目にも明らかな、世界中の常識に対しての宣戦布告だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふはぁぁぁ! あれ、どうしたの皆?」

 

 仮面をとった束の周囲で、リク、千冬、リナ、トオルは悶絶しているのでした。

 

「フ、これで私も姉様のために」

 

 箒、まだまだ『ちゅうにびょう』期間のためにセーフ。

 

 深雪、そうそうに辞退して撮影件演出でお手伝い。

 

「俺、この人たちと戦うの?」

 

 一夏、あまりの重圧にちょっと泣きそうになっていましたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 









 暴走列車はブレーキが利かないから、暴走なのです。

 ISが女性にしか反応しない理由、それは可愛い衣装を可愛く着れるのが女性だから。

 基準点は束。

 女装、男の娘、そちらも反応するけど、なんか違うと拒否。

 そして、暴走した各国トップは、その暴走した結果の学園を褒められて、凄い悶絶したとかしなかったとか。

 いや、もっと悶絶する集団がいたから、大丈夫だよね。

 そんなお話でした。

 ではではこのあたりで。

 この作品が皆さまの日常の小さな楽しみの一つとなっていたなら、サルスベリにとっては幸いでございます。








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転生してないのに異世界っぽい十一ページ目

 



 ついに立ちあがったIS学園。

 それに真っ向からぶつかる形で宣戦布告した『亡国企業』。

 あれ、世界だったかな? いや束がタバネちゃんに宣戦布告した、それとも可愛いと理性のぶつかり合い。

 まあいいか。

 とにかく、一夏が世界のために巨悪に立ち向かう話。いや待った、ちょっと待った、織斑家のヤバい奴を卒業した千冬と、織斑家のちょっとヤバい奴になりかけている一夏。

 あれ、織斑家のぶっ飛び二女様がいない?

 





 

 

 

 

 

 

 

 体中が震える。

 

 全身の筋肉が悲鳴を上げている。

 

 もう無理だと諦めかける心を、魂の奥底にある何かが張り倒す。まだできる、まだまだやれるはずだ。全身に力を込めて、重くなりつつある巨大な刀を握り締める。

 

 今がいつか、どれだけの時間が経ったか解らない。夜か昼か、そんなこともう関係ない。

 

 彼女にとって大切なのはたった一つ。

 

 そのたった一つのために、自分の能力のすべてを使って、意思も魂も、命の一欠片さえ使って。

 

「さあ! 行くぞ!」

 

 彼女は叫ぶ。自らの目的のために、願いのために、いつかあの姿に追いつくために。

 

「今日こそ私に下るがいい!」

 

 巨大な刀を振りあげ、飛んでくる岩や巨木を薙ぎ払い。

 

「イヴェルカーナぁぁぁぁ!!!」

 

 雄たけびを上げる巨大なモンスターに対して、織斑マドカは巨大な刀を振り上げて突撃していくのでした。

 

 そんな彼女に追走するミラボレアスとキリン。別方向から突撃してくるアルバトリオン。

 

「私の配下になれ! いつか古城さんが従えているような眷獣となれ! 私の夢のために!!」

 

 刀を叩きつけるも回避したイヴェルカーナに、キリンが雷光を纏いながら突撃。一瞬、怯んだそこへミラボレアスの一撃が炸裂。

 

 倒れるイヴェルカーナ。追撃するアルバトリオンに対して、横から巨大な何かが突撃してきた。

 

 ハッと顔を向けた先、倒れたアルバトリオンを踏みつけて雄たけびを上げるのは、今日が初見ではない強敵種。

 

「おまえも来たか、クシャルダオラ」

 

 相手は二つの瞳でマドカを見つけ、雄たけびも上げずに身構えるように翼を下ろす。

 

「いいだろう。今日の目的はイヴェルカーナだったが・・・・・おまえも私の眷獣にしてやろう!!」

 

 気合を入れ叫ぶマドカに、クシャルダオラも負けずに咆哮したのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのころ、織斑家では。

 

「そういえば、最近、マドカを見てないんだが」

 

「えっと、なんだっけ、あれだよ、千冬姉さん」

 

「何か知っているのか、一夏?」

 

「うん、確かね、『歴戦王』を狩りに行くって言ってたよ」

 

 千冬はその言葉を聞く、とても形容しがたい顔をした後、深く静かに長くため息をついた後。

 

「・・・・・・・・・そうか」

 

 何とか言葉を絞り出したのでした。

 

「眷獣は十二体が基本だって言っていたかな?」

 

「・・・・・・・・古城さんに連絡を入れておくか」

 

 千冬、もうこれは自分の手に負えないと諦めて、携帯電話を取り出すのでした。

 

 小学生に出席日数ってないよなぁ、なんて無理やりに平和的な考えに向けて、自分の精神を護りながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 唐突ですが、皆さまはドラゴンってかっこいいと思える人ですか。それともドラゴンって危ない凶暴って思える人ですか。

 

 マドカは迷わずに答える。

 

 『カッコイイ』と。

 

「今日も私は頑張った。頑張ったよな」

 

 一人、丘の上でそう笑う彼女の背後で、二つの巨大なモンスターがうなり声をあげているのだが、彼女は見ようともせず沈みゆく太陽を見つめていた。

 

「フフフフ、いいぞ、実にいい。そうか、そうなるのか」

 

 太陽から視線を動かし、手元の携帯端末へと向ける。

 

 長い間、戻ってなかったような気がする。俗世と呼べるくらいに、今の世間の常識や流行が解らなくなってきた。

 

 今時の小学生が何に感動して、何を思って生活を送っているのか、同じ小学生のマドカには解らないことであり、知りたくもないことかもしれない。

 

 今の自分は目指すべきものがある。誰もがあやふやで将来のことなど考えていない時に、明確に目指すべきものがある自分はとても幸せかもしれない。

 

 高坂古城。彼が率いる眷獣はどれも巨大で凶悪、その一匹一匹が世界を滅ぼすと言われても頷けるほどに、巨大な獣たちだ。

 

 あの人を目指す自分もまた、その巨大な獣を手に入れなければ。世界を滅ぼせるモンスターを従え、いつか古城に示したい。

 

「その前に、リクさんを超えないと」

 

 十二の眷獣を従え、古今東西の伝説の武器を操る古城の息子。未だ倒れたことを見たことがない、もっとも身近な最強。

 

 絶対に超えてやる、敗北を知らない彼に最初の敗北を刻むのは自分だ。

 

 マドカは沈みゆく夕日と、手の中の携帯端末の中で宣言する『亡国企業』に、固く誓ったのでした。

 

 彼女は知らない、高坂リクが束の胸部装甲に敗北して気絶したことを。

 

「待っていろリクさん!! 私が貴方を倒して古城さんを倒して! 世界最強の真祖になってやる!!」

 

 フハハハハはと笑うマドカの姿は、昔の千冬にそっくりだったとか。

 

 彼女は知らないのだ。ただの人間が真祖になれることはない、と。真祖を取り込めばイケるけど、この世界の真祖って古城だけなので、不可能なのですが。

 

「さあ次だ! 行くぞお前ら!」

 

 振り返り、自分の眷獣、のようなポケットに入らないモンスターのような、そんな獣たちに号令を出し、マドカは進んでいくのでした。

 

「次はマムタロト! そしてゼノジーヴァだ!」

 

 片手をあげて歩きだしたマドカの姿は、幼いながらも歴戦のモンスターを狩る人たちみたいでした。

 

戻れ、小学校に通え。解ったな? 解ってないのか? 解ったら答えろ。マドカ?

 

「ごめんなさいわかりましたあねうえさま」

 

 駆け出して数秒後、怒り狂った織斑家の長女様のお説教に、配下のモンスターともどもガタガタと震えることになるのですが。

 

 古城に連絡したら、『妹も説得できないで教師なんてできるのか』なんて言われた千冬、決意と気合が天元突破したそうです。

 

 そしてマドカは日本に戻ることになったのですが。

 

 モンスターって、今の日本に入国できるでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「総理! 総理!! 大変です! ミラボレアスだけじゃない連中が来ました!」

 

「・・・・・・・」

 

『おい、日本は何時からモンスターでハンターな世界になったんだ?』

 

『隣の国なんだから、もっと穏便になってよ』

 

『IS学園の工事、始まったばかりなのにもう問題が? これだから極東の国は』

 

『オタクの聖地だからって出していいものと悪いものがあるだろうが』

 

『可愛いは正義、でもモンスターでハンターなライフはちょっとなぁ』

 

 各国とのホットライン中に舞い込んできた話に、日本のトップは胃を掴むようにして前に倒れたのでした。

 

『え、あれ、待てよおまえ! 立つんだよ!』

 

『おまえが倒れたらあいつらどうするんだよ?!』

 

『ここは、女王陛下の国に出張ってもらって』

 

『おまえのところの総人口のほう多いだろうが! 集団戦だろう?!』

 

『いや、ここは世界の警察官とか正義とか言っている国に』

 

『俺のところ、動物愛護団体がうるさくて』

 

『え? あれって動物愛護になるの?』

 

『ウソだろお前、本気か、おまえら。動物って・・・・動物かぁ』

 

『とにかく、頼んだ、日本の』

 

『『『『『『我らの可愛いを目指すためにな』』』』』』

 

 全員にウィンクされて親指を突き出され、日本のトップはどうにか上げた顔を再び机に沈めたのでした。

 

「総理! 総理!! 誰か医者を呼ぶんだ! しっかりしてください総理! 私はこんな案件を扱うのは嫌ですからね!」

 

「おまえもかブルータス」

 

「総理! 総理ぃぃぃぃぃ!!!」

 

「古城、後は頼んだ」

 

「総理ぃぃぃぃぃ!!!」

 

 とある国の政治中枢は、今日も平和です。

 

一部の人のストレス以外は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、マドカが戻ってきた織斑家。とある国のトップが体調を崩したことを知り。

 

「国を率いるって大変なんだな」

 

 マドカ、重圧を感じながらも頑張る人の姿に、うんうんと頷いて敬意を示し。

 

いいからやれ

 

 殺意のみを浮かべる千冬の姿に、慌てて勉強に戻っていくのでした。

 

 記念すべき、織斑マドカ軍団の初撃墜は、とある国のトップの胃でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 篠ノ之束は人生最大のピンチを迎えていた。

 

「ふぇ?」

 

『きぐるみ愛好会は、その人員を増やしたので』

 

「は、はい」

 

『きぐるみ防衛隊となることになった』

 

「えええ?!」

 

 久しぶりに長船からの連絡に、喜んで受けていた束に対して、彼はカメのきぐるみで鋭く見つめてきた。

 

『我々は世界中のきぐるみ愛好家のためにも立ち上がるべきだ』

 

「会長ぅ」

 

『君は今やISの、世界の可愛いの伝道者。私達は相容れない道を歩むしかないのかもしれない』

 

「でもでも!」

 

『君は確かに可愛い。女の子で大学生で、それだけ可愛いを素で表現できるのは君だけだろう』

 

 今の束は白いエプロンドレスと、青いロングスカートのワンピースに、何時ものウサギ耳。

 

 フリルとレースも完全装備の『ふしぎの国のアリス』衣装。フワッと広がったスカートと、動くたびに揺れる胸部装甲が妖艶でありながらも、仕草の一つ一つが可愛いと思える彼女は、まさに今の世の中の考えを体現していた。

 

『可愛いは正義、それを私も否定はしない』

 

「私はそんなんじゃ」

 

『しかしだ!!』

 

 長船は画面の中で立ち上がる。同時に画面が彼の背後を映し出す。ゆっくりと彼の姿が遠ざかり、彼の周囲の人たちを束の視界に収めていく。

 

 そこに広がるは、人間以外の姿ばかり。

 

『可愛いは衣装のみではないこと私は示したい! 女の子の衣裳が可愛いのは自明の理! ならばそこに我らは一石を投じる!』

 

 多種多様、色とりどり。そして、色々な顔の人たちがそこでグッと拳を突き出していた。

 

『可愛いの第一人者にしてISの生みの親、篠ノ之束』

 

「会長ぉ」

 

『我々きぐるみ防衛隊は、君たちに対して宣戦布告する! 我らのきぐるみこそが可愛いと示して見せよう!』

 

 高らかに宣言するきぐるみ集団に、束は何と言っていいか解らずに黙り。

 

『そして亡国企業にも可愛いを教えてあげようではないか!』

 

「え?」

 

『じゃ束君、どっちが可愛いか勝負だよぉ~~』

 

「え?」

 

 気楽に笑顔でウィンクなんてきぐるみで器用にする会長は、そのまま通信を閉じたのでした。

 

「・・・・・・可愛いで勝負するの? 私と会長が?」

 

 その日、束は思った。

 

 どうしてこうなった、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「りっくぅぅぅぅぅん!!!」

 

 悩んだ束は迷わずリクへ突撃。

 

「止まれ束!!」

 

 突撃してくる束に対して、リクは宝具の雨を降らせて停止させた。

 

「なんで、どうして?」

 

「もうおまえに抱きつかせない」

 

 その一言に、束は衝撃を受けてその場に倒れた。

 

「どうして、なんで、りっくん」

 

「ダメなんだ、束。俺達はもう過去の俺達じゃない。だから」

 

「そんなことないよ。そんなことない」

 

「ダメだ、束。おまえも俺ももう大人だ、立派な大人なんだ」

 

これ以上は耐えられない、というか抑えられない。今までよく頑張った、必死に耐えた自分をリクは褒めたい。

 

 だがこれからも耐えられるとは思えない。だから束に告げる、もう二度とするな、と。お互いに大人なのだから、引くべき一線はあるのだと。

 

「え? 何で?」

 

 きょとんと疑問を浮かべて立ち上がる束に対して、リクはどういっていいか解らずに言葉に詰まり。

 

 丁度、歩いてきた千冬は色々と察して束を説得しようとして。

 

「りっくんになら何をされてもいいよ」

 

「は?」

 

「え?」

 

 千冬とリクを凍結させる一言が、可愛い衣装の束の口から放たれたのでした。

 

「あれって本当にリクは気づいてなかったの?」

 

 半眼で睨むリナ。

 

「・・・・・・どーなんだろうな」

 

 呆れてため息をつくトオル。

 

「姉様、貴方の姿に感銘を受けます。リクさん、鈍感。幻滅です」

 

 一方で感動して、一方で睨むように溜息をつく箒。

 

 少年より少し先に、少女は大人でしたとさ。

 

 そして、織斑家のぶっ飛ぶ二女様は。

 

リクさんが撃墜されていただとぉ?!

 

「え? マドカ知らなかったの?」

 

 長男様から、驚愕の事実を知らされていましたとさ。

 

 うわぁぁぁ、カオス。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








異世界転生の定番といえば、気づいたらヒロインに恋されていました、だとサルスベリは思うわけです。

 だから、転生してないのに異世界なここでは、こうなった次第です。

 ウソです、最初のモンスター総進撃をやろうと考えて、いやでもそんなことしたらタイムリーな話にならないかと思いなおし、それでもやりたい気持ちが暴走した結果。

 タイトルそのままで、中身だけそれっぽくなりました。

ではではこのあたりで。

 この作品が皆さまの日常の小さな楽しみの一つとなっていたなら、サルスベリにとっては幸いでございます。









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ドタバタコメディみたいな十二ページ目








 お待たせいたしました、待っていてくれる人がいたらいいなぁ、いないかなぁ、いてくれるといいなぁ。

 正直、束に告白させたから、燃え尽きたサルスベリです。

 後、書こうとすると他の話のネタが浮かんでは消えて、どうするんだろうと自問自答したために遅れました。

 はい、言い訳です、申し訳ありません。

 ちっくしょう、他の作品の『童磨転生したけど』のネタが頭をずっとチラつくんですよ。
 
 では、今回もよろしくお願いします。


 童磨転生、転生特典は流刃若火、乖離剣エア、太陽神の権能、ゴジラアースの熱線砲、ゴルディオン・クラッシャー、あたふたする主人公が見てみたい。








 

 

 

 

 

 高坂リクは思い出す。

 

 最初に会った時の無礼千万な篠ノ之束の姿を。何度も挑んできては返り討ちにして、必死になって勝負を仕掛けてきては、一撃で撃退していた頃を。

 

 年間を通して叩き潰して、自分や千冬に対しては穏やかになったものの、それ以外の人には無礼だったから、さらに身をもって教育したのは、単純に最初の頃の怒りが尾を引いたからだろうか。

 

 高坂リクは回想する。

 

 あの頃、篠ノ之束は間違いなく独善的、独創的、いやあれは自分以外はどうでもいい目をしていた。世界中の誰もが信用できない、他人なんて同じ人間とは思っていない、何もかものがつまらない、退屈なだけで感情を騒がせるものではない。

 

 そんな、悲しい目をしていたから。叩き潰した、教え込んだ、世界は能力だけじゃない、もっと楽しいことがあるから、礼儀は大切だから。

 

 自分の昔を思い返した高坂リクは、きっぱりと首を振った。

 

 そんなことない、向かってくるから返り討ちにしただけ。

 

 鬱陶しいって気持ちはなかったが、メンドクサイとは思えた彼女が、いつの間にか背中にひっつくようになったのは、ひょっとしたら必然だったかもしれない。

 

 見た目は美少女だ。間違いなく可愛いと思える束が、震えながら背中に隠れて頼ってくれるのは、男としては正直に言って気持ち良かった。

 

 こんな可愛い子が自分を頼りにしてくれるなんて。そこでリクは首を傾げた。いや、そんなことはなかったんじゃないか。

 

 束の行動を思い出す。服装は可愛いものがあった、仕草も可愛いと認めてもいい。疑いなく信頼を向けてくれる姿は、異性として悪い気はしなかった。

 

 しかしだ、どうしてだろう。何故か、それが可愛い、好きになる、そんな感情に繋がらない。

 

 高坂リクはどうしてだろうと考える。普通、あんなに可愛い美少女に近づかれたら恋愛感情が動くものではないだろうか。

 

 頬を染めた束が、『りっくん』と名前を呼んでくる。うん、可愛いとか愛らしいなんて言葉より先に、何故か身の危険を感じる。

 

 『りっくん』と声をかけてくる束が、笑顔で両手を広げて歩いてくる。トテトテと歩く姿は愛玩動物みたいだが、どうしてだろう全身が警戒を叫んでしまう。

 

 フリルのついたエプロンドレス姿で、怯えた表情で背中にぴったりとくっついた束に、誰もが『ほっこり』しているのだが、どうしてだろうか今すぐに眷獣をすべて使って撃退したくなってくる。

 

 『りっくん、りっくん』とうさぎ耳をピコピコと動かした束の姿に、道行く人が振り返って彼女を見ているのだが、今すぐに『王の財宝』を全力掃射したくなってくる。

 

 何故だろう、高坂リクは疑問に対して答えを出そうと悩んで、何度も昔の束を思い出していると、不意に怒りが浮かんできて。

 

 そして、ようやく答えを得た。

 

「あ、俺って束に攻撃される毎日だったんだ」

 

「え?」

 

 ポンっと手を叩くリクに、両手を広げて精一杯の告白をした束が固まった。

 

「・・・・・・ああ、そうだな、束は常にリクを攻撃していたな」

 

 同じくポンっと千冬も手を叩いた。

 

「え、え?」

 

 束、何を言われているか解らずに固まった後、オロオロと左右を見回し始める。彼女はそんなことした覚えはない。白騎士の時は確かに攻撃したが、それ以外で攻撃したなんて、記憶にない。

 

 すっぱりと昔のことを記憶から消している、優秀な頭脳を持った天才ウサギである。

 

「・・・・・・姉様」

 

 箒、信じられない顔で姉を見た。まさか、そんなことを。自分が知らない間に、リクに対して攻撃していたなんて。

 

「え、マジなの、束は覚えてないの?」

 

 リナ、驚愕に目を見開く。

 

「恋は盲目っていうからな」

 

 トオル、深々と溜息をついた。

 

「え、えええ?! 私はりっくんに攻撃したことないよ?!」

 

 悲鳴を挙げて全身で否定する束に対して。

 

「マジかお前」

 

 リク、千冬、リナ、トオルの半眼が迎え撃ったのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 恋する女の子が、世界で一番、可愛い。

 

 昔、偉大なる英雄はそんな言葉を残したのですが、同時にとある偉人がこんな言葉を残しました。

 

 恋は盲目。

 

 思い込んだら一直線、他のことなんて見てられない。そんな時間があるなら好きな人に真っ直ぐに飛び込んでいく。

 

 直情思考の末期な恋愛頭脳、そんな行動を誰もができるわけがなく。大抵の人はこうしたら駄目かな、こうなったら迷惑で、こうなったら嫌われるから。

 

 そういった想いがブレーキとなって、直情的な盲目な恋の行動力を抑えているのですが。

 

 篠ノ之束にとって、そんなものはない。礼儀とか常識をリクによって叩きこまれた、そんなことは全くなかった。

 

 リクが怒るなら、リクが言うから、一応ルールを守ろう。そんな意識が、彼女の深層心理に刻まれているだけで、彼女が本心から常識を護っているわけではない。

 

 それが周りから見たら、篠ノ之束に常識が身についたように見えていただけなのですが、誰もが、本人さえもそれに気づいていなくて。

 

 結果、周りなんて関係ない、自分の感情のままに生きる束は、しっかりと自分を見て受け止めてくれるリクに対して、ブレーキなんて知らない暴走状態で気持ちをぶつけていった。

 

 それが常にリクに対して『攻撃』になっていたのは、彼女の気持ちに歯止めがなかったからかもしれないが、向けられた方はそれが『好き』なんて気持ちから出てくるものなんて考えられず。

 

 『あいつ、俺を殺す気か?』なんて思っても仕方がないことだが、リクの家庭も普通じゃない家庭なので、あの程度の行動は攻撃であっても、命の危機に陥ることもないものなので。

 

 『あ、これは昔の仕返しだろうな。もういい加減にしろよ、大人なんだぞ、俺達』的な気持ちでいたリクに対して、束は盛大に真っ直ぐに、最短距離を駆け抜けるように告白したのですが。

 

 上手くいくわけないでしょうが、そんなの。

 

 見事に玉砕した束は、グッと拳を握った。普通なら、告白してありえないと返されたら心が折れて、泣いて逃げるか、家に閉じこもって否定するか、少なくともこの場を逃げ出すものだろう。

 

 しかし彼女は篠ノ之束。何処かの世界では唯我独尊、他なんて関係なくて世界相手にケンカ売れるような性格の彼女。性格が違ってはいても、この子も篠ノ之束だ。

 

 しかも、小学生からずっとリクに躾けられて、リクの傍にいることが当たり前で、もうリクの傍にいない自分が考えられないくらいに、彼に依存している女の子。

 

 そんな行動力の化け物が、断られたくらいで離れるなんてことは、あるわけがないのです。

 

 だから、彼女の次の行動は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 決意は、時に人に今までのすべてを捨てさせることがある。

 

「りっくん」

 

 ゆっくりと束は、拳を握り締める。

 

「なんだよ?」

 

 妙な迫力に、リクは思わず身を引いた。

 

「私は、ずっとりっくんを見ていたよ。ずっと、ずっと」

 

「だから、何だよ?」

 

 俯いていた顔をゆっくりと束は上げていく。

 

 沸々とわき上がる何かが束の体を押し上げる。全身を駆け巡る何かが、束の心の底にある何かを引きちぎった。

 

「だから、ずっとね。りっくんもね」

 

 顔を上げて、にっこりと笑う。自分の精一杯の笑顔を向けた後、束は。

 

私を見てよ。白騎士!!

 

 白騎士を護ってリクへと突撃したのでした。

 

「おまえ!!」

 

 リク、咄嗟に金色の鎧をまといながらも『エア』を引き抜く。同時に左手には最古の斬魄刀を反射的に持っていた。

 

「りっくん! りっくん!!」

 

「束!! 止めろお前!!」

 

「りっくんがいいの! りっくんは私の傍にいてほしいの!!」

 

「他人の迷惑を考えろ束ぇぇぇ!!」

 

 宝具が降り注ぎ、ミサイルが乱れ飛び、眷獣が叫び、ビームが走る。まさに世紀末みたいな戦場がここに出現したのでした。

 

「・・・・・・よし、私はここで見届け人をしよう!」

 

「千冬! あんたが止めなさいよ! 白式が一番じゃないの!」

 

「リナ、諦めろ、あの目は何もきいてねェ目だ」

 

「能力を使ってないで止めなさいよ、トオル!」

 

「俺が能力をキレば、一帯が火の海だけど、それでもイイのか?」

 

「ああもう!! 解ったわよ! 結界なんて覚えるんじゃなかったわよ!」

 

 リナ、ブチキレしつつ魔法を展開。トオルはすでに攻撃のベクトルを操作して内側に戻るように操作中。

 

 千冬、仁王立ちのままニヤリと笑っている。

 

「姉様、流石です」

 

 うっとりと箒は姉の姿を見つめていたりする。

 

「ここがリクさんへの挑戦場かぁ!!」

 

 モンスター従えたマドカ参戦。雄たけびを上げるモンスターたちの進撃に対して、束とリクは。

 

「「邪魔」」

 

 一蹴である。

 

「さ、さすがリクさんだ。束姉上もさすがだ」

 

 フッと笑ったマドカはそのまま、千冬の背中に隠れたのでした。

 

「落ちろ束!!」

 

 山を斬る剣を天空から一撃。

 

「嫌だよぉ!」

 

 束は白騎士のスラスターを全開、剣の刃を中心としたロールをしながら、天空へと駆け上がる。

 

「そこぉ!」

 

 マルチロックオンの後に全火器を一斉射撃。幾筋もの光と、爆音を伴ったミサイルがリクへと突き刺さる。

 

「ぬるい!」

 

 エアを回転、擬似的な次元断層を生み出しての防御。おい待て、そんな使い方、するな。そんな文句が何処からか聞こえてきそうだが、リクはお構いなしに振るう。

 

「月牙天衝!!」

 

 本家が見たら絶叫しそうなほど滅茶苦茶な、全力の流刃若火による月牙天衝が地面を灼熱の地獄に変えた。

 

「リクぅ!! あんたそれまったく違うところでしょうが! エアを使うなエアを!!」

 

 思わずリナの絶叫ツッコミ入るが、彼は聞いてない様子で両手の剣を放り投げる。

 

「ゲ?!」

 

「ハァ?!」

 

 リナ、トオル、あまりの出来事に悲鳴を上げる。

 

「眷獣融合」

 

 十二の眷獣が混ざりあい、やがて一つの巨大な何かを生み出した。

 

「そんなのぉ!!」

 

 束も白騎士の試作武器を呼び出す。巨大な砲身を持つ武器を両手で持ち、エネルギーチャージ開始。

 

「束、それも待ちなさい!!」

 

「おいおいオイオイ!!」

 

 束が持っている武器の見た目に、心当たりがあり過ぎるリナとトオルは絶対に止めるべきだと必死になった。

 

「仮称、クトゥルフ!!」

 

「バスターランチャー、シュート!!」

 

 天空から第四真祖の十二体の眷獣の威力をすべて集めた一撃が。

 

 地上からは空間を歪ませる威力を持つ大砲の一発が。

 

 それぞれ相手を潰すために放たれたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 威力は僅かに眷獣が上だったようで、白騎士は地面を削りながら吹き飛び、やがて止まった。

 

 リクはゆっくりと束に近づく。

 

 白い装甲が散乱した中心地、そこに彼女はいた。

 

「たば」

 

「りっくん!!」

 

 声をかける前に叫ばれて、リクは反射的に『エア』を抜いて。

 

 固まってしまった。

 

 叫んで顔を上げた束は、泣いていたから。

 

「好きなの、ずっと好きなのぉ」

 

 大粒の涙を流して、それを拭うこともなく両手を広げたまま。

 

「大好きなの! ずっとずっとぉ! 私を見てくれたのはりっくんだったから! 私が間違っているって教えてくれたのはりっくんだったから!」

 

 願いと両手を広げて、大きな声で叫ぶ彼女は。

 

「逃げないでずっといてくれたのは、りっくんだけだから! 私を、束として見てくれたのはりっくんだけなんだから!」

 

 とても小さな女の子のようで。

 

「大好きなの! 他に何もいらないの! ずっとりっくんだけが!」

 

 年相応な女性のような雰囲気を持っていて。

 

「りっくん! りっくぅぅぅん! 私を置いて行かないで!」

 

 そんな曖昧な雰囲気を持っていながらも、確かに普段から見ている彼女だったから。

 

「ずっと私の傍にいてよぉぉぉ!!!」

 

 叫んで鳴いて、必死に伸ばして、悲鳴を上げている篠ノ之束だった。

 

「・・・・・・・あ、可愛い」

 

「ふぇ?」

 

 リクはこの時、自分はサディストなのだろうかと呆れてしまったという。そのくらい、今の泣いている束は。

 

 とても可愛い女の子だったから。

 

「解ったよ、束」

 

 そっとリクは彼女の頭を撫でた。それだけで、告白に対しての答えなんてなかったのに、束は嬉しくて楽しくて。

 

 涙なんてすっきり消えるほど、笑顔になっていたのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい具合に纏まりそうじゃない」

 

「ソーだな。で、こっちはどうするンだ?」

 

「フ、束の奴め、あんなに可愛い顔ができるんだな」

 

「ああ、姉様、貴方は本当に天使のようだ。女神さえ貴方の前では霞んでしまう」

 

「リクさん、束姉上、お幸せに」

 

 クレーターの中心地で楽しそうに笑う二人を、見守る亡国企業の面々。

 

 そして。

 

何してんだ、バカ息子?

 

いい度胸だ、我の手を煩わせるとはな

 

 激怒状態の高坂夫妻の姿に、誰もが忘れるように今のほっこりムードを護ろうとしたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








 頑張った、頑張ろうとした。必死に頭を捻ってどうにか、という風に書きだしたら、こんな話になりました。

 おかしい、もっと短くなるはずだったのに、書きだしてみたら次々に文章が浮かんでくる。

 まさに暴走状態。あ、それって何時ものサルスベリでした。

 ではでは。

 この作品が皆さまの日常の小さな楽しみの一つとなっていたなら、サルスベリにとっては幸いでございます。






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気がついたら終わっていたらしい十三ページ目




 月日が経つのが早いなぁと感じる今日この頃です。

 コロナのために大変な方々、苦しいとか辛いって思う人達の、ちょっとした楽しみになればぁと考えて頑張って仕上げました。

 そうなっていたらいいな、本当にプッと笑える作品であってほしいです。

 ではでは、どうぞ。








 

 

 

 

 

 光陰矢の如し。そんな言葉が生まれるくらい、月日が経つのは早い。しばらく見なかった赤子が立っていたり、久し振りにあった子供がしっかりした女性になっていたように。

 

 時間というのは人間の思う以上に早く進んでいく。

 

 高坂リクと篠ノ之束の大乱闘から、それなりの月日が流れたことを、織斑一夏は散りゆく桜を見ながら、懐かしく思い返していた。

 

「何を黄昏ているのですか?」

 

 背後からかけられた声に、一夏は振り返ることなく桜を見続けた。

 

「懐かしい想いがするんだ。もう随分と、感じたことない想いがあってさ」

 

 小さく答える彼の横、頭二つ分ほど低い場所から彼女も桜を見上げた。

 

「私には何も感じられませんが?」

 

 冷たい言葉に、一夏はフッと笑って顔を向けた。

 

 夜のような漆黒の髪と氷のような蒼い瞳。昔は子供っぽかった手足もすっかりと伸びきって、それなりの凹凸のある女性らしい体つきとなった幼馴染。

 

 高坂深雪は、冷たい表情のまま桜を見ていた。

 

「そう、かな」

 

「貴方の場合、専用機が『暮桜』だからなのでは?」

 

 そういうものだろうか。一夏は自然と、昔からの相棒である胸元のペンダントを握り締めた。

 

 腕輪になったり、ガントレットになったり、忙しい相棒なのだが、最終的にペンダントの形に落ちついてくれて助かった。

 

 装着して待機状態にするたびに、形が変わってしまうから、一時期は何処にいったなんて探すことにもなったが、ようやく落ち着いてくれて一安心だ。

 

「そろそろ、行きませんか? マドカがあちらで待っていますので」

 

「ああ、そうだな」

 

 軽やかに体を動かして歩き出した深雪の後を追って、一夏は足を進めた。

 

 一歩、二歩と進んだ足を彼はふと止めて、再び桜を振り返る。

 

「・・・・・束姉、俺は頑張るよ」

 

 散りゆく桜を見ながら、一夏はもういない『篠ノ之束』にそう告げて講堂へと進んでいく。

 

 織斑一夏、織斑マドカ、高坂深雪。

 

 十六歳の春、今日はIS学園の入学式だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 講堂に入ってきた生徒を彼女は見回した。誰もが浮かれた顔でいる、わけでもなさそうだ。浮かれた顔をした生徒、引きしまった顔をした生徒、表情の読めない生徒。

 

「フ、今年も馬鹿ものどもが揃ったな」

 

 軽く笑う彼女の背後に、何故か不動明王が浮かんでいるような錯覚を、新入生はもちろん、在校生達でさえ感じてしまうが、それも仕方がないことだ。

 

 歴代最強のIS使い。

 

 剣一本で天下を下した女傑。

 

 生身で量産型ISの一個師団を殲滅した鬼。

 

 色々と逸話が多くあり、もうこいつがいれば最終兵器はいらない、なんて陰で呼ばれるほどに強くなった教師は、ニヤリと笑いながら生徒達を品定めしていた。

 

「千冬、顔」

 

「おっと、いかんな。もう若くはないのだから、抑えねば」

 

 隣からの指摘にグッと顔を引き締めるのだが、その顔が怒っているような表情になるので、講堂の室温が一気に下がったように錯覚してしまう。

 

「今年も大変な年になりそうね」

 

 深くため息をつくのは、彼女の幼馴染の一人。

 

 絶対のフルバック。

 

 長距離攻撃の魔法使い。

 

 ISも避けて通る先生。

 

 そんな言われ方をする彼女は、半眼でさらに千冬とは反対の方へと顔を向けた。

 

「寝てんな」

 

「おまえらがサボったせいで、俺は徹夜なんだよ」

 

 文句に対して半眼で返した男に、リナはにっこり笑顔でよくやったと言わんばかりに肩を叩いた。

 

「チ!」

 

 軽く舌打ちした男は、もう無駄かと文句を飲み込んだ。

 

 鉄壁の城塞。

 

 一撃必殺のカウンター装置。

 

 完全防御の最後の良心。

 

 そんな呼ばれ方をする教師は、小さく欠伸を噛み殺した。

 

 織斑千冬、林原リナ、木原トオル、IS学園の生徒達はこの三人を纏めてこう呼ぶ。

 

 IS学園の魔神達、と。

 

「束がいたら、なんていうかしら?」

 

 不意にポツリとリナが言葉した言葉に、二人は表情を変えることなく、返事をするでもなく黙ったまま空を見上げた。

 

「本当、あの子は」

 

 リナも同じように空を見上げ、もうここにはいない幼馴染を思い懐かしんだ。

 

 そして生徒達は知らないことが一つ。三人は世間を騒がせている三大勢力の一つ、『亡国企業』の幹部なのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界は、あの日からまったく変わってしまった。

 

 篠ノ之束が残したISのコアは、どういうわけか五万と少し。なんだか必死な形相で組み上げたISのコアは、各国に分配され、軍事利用されるような気配もないまま、『可愛いは正義』を推し進めた各国の上層部の願いのままに、ファッションのような扱いをされ始めた。

 

 そこに待ったをかけたのは亡国企業。ISは純然たる技術であるが、可愛いを求めてはいるが、それは兵器にもなり得る。ファッション感覚で扱えば、必ず被害が出ると警告を出し、それに対して各国は危機感を募らせた。

 

 もちろん、可愛いを妨害する亡国企業に。

 

 『あいつら、マジでうっさい』なんて誰かが会議で言ったことがそのまま通ってしまい、亡国企業は目出度く、あるいは束の願いが曲解して叶ったように国際テロリストに認定されて、今日もその構成員達は世界各国での『理論こそ正道、精神論の過信はダメ絶対』を掲げてIS関連組織に対話をするために突っ込んで行った。

 

 『話し合いする、よろしいならばガンダム作ろうぜ』、なんて転生者の一人が悪乗りした結果、どちらの主張が正しいかを競技にて決定することになった。

 

 お互いにISを使っての一対一、あるいは同数対決による解決。武力介入という意味では、ある意味では正しいような姿に落ち着いた頃。

 

 第三勢力の介入が行われた。

 

 彼らはISとも、亡国企業ともまったく違うパワードスーツをひっさげて、二つの勢力に真っ向からぶつかってきた。

 

『君たちの理論も理屈も論外だ! 我々こそが可愛いであり、理性であり、理論である! 我らはきぐるみ防衛隊だ!』

 

 またもやハッキングされた世界すべての映像機器を通して流された画像には、犬のきぐるみをきた男が盛大に花火を上げている姿が映っていた。

 

『え、会長! 火が火が!!』

 

『なんと!? きぐるみが燃える! 燃えてしまう!』

 

『これが本当の萌えですね?!』

 

『『『馬鹿いってないで鎮火だ!!』』』

 

 そんなどったんばったんな映像で終わった宣戦布告でいいのか、誰もが悩んでしまう宣言の後から、きぐるみ防衛隊は様々なきぐるみ型パワードスーツで世界中のIS競技に乱入。

 

 中でも最近はとあるきぐるみの量産が成功したようで、それの性能はISの第三世代機に匹敵すると言われている。

 

『ふもっふ!』

 

 ただし会話が成立しないので、他の勢力から色々と文句を言われているらしいが。

 

 こうして世界は、国家間が争いがなくなったと同時に、三つの勢力による論争という名のお話し合い(殴り合い)が行われることとなった。

 

 そして、その話題の中心でもあり、ISの生みの親でもあり、亡国企業の創立者でもある篠ノ之束の名前は、何処の勢力からも確認できないでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『月日が経つの早いというけれど、いやいやこんなことになるなんてね』

 

 画面の中で長船会長は、ガメラのようなきぐるみの表情を動かし、汗のようなシールを張り付けた。

 

「おい、貴様、なんで今日の入学式に乱入しなかった?」

 

 千冬、青筋を立てて空中に浮かんだモニターを掴む。

 

『新入生にそんなことをしろだんなんて、君はそれでも教師かい?』

 

「若い頃の苦労は買ってでもしろというではないか?」

 

 ガシガシとモニターを叩く千冬を、慌ててリナが止める。

 

「ちょっと千冬、落ち着きなさいよ」

 

「リナもリナだ。亡国企業の実行部隊の突入はどうした?」

 

「ハ? てめぇ、俺の仕事をこれ以上、増やすンジャネェ」

 

 リナではなくトオルが反応して、彼は無意識に演算開始。プラズマをぶつけてやろうかと、周囲のベクトルを操作し始める。

 

『いやいや、なんでそっちも突入させようとしているのかな?』

 

「ああいう生徒は最初が肝心だ。試練を味あわせるのが一番だ」

 

 胸を張っていう千冬に、長船会長、リナ、トオルは項垂れるのでした。

 

「それにだ」

 

 三人を見回した後、千冬は先ほどから無言でいるモニターを睨みつける。

 

「貴様も貴様だ」

 

『ふぇ?! わ、私?!』

 

「いったい何処にいる? 今、どのあたりだ?」

 

 マジギレのような形相で睨みつけられ、彼女は慌てて左右を見回し、ついでにデータディスクのような水晶物体を放り投げ、慌てて動いたためにスカートが舞いあがって画面を塞いでいるのだが、気づいた様子もなく動き回り。

 

 バタンとか、ドカンとか、ついでに『痛いんだよ!』なんて男の声の文句が流れてきたのだが、誰もがスルーした。

 

「いいから答えろ!」

 

「落ち着いて! そんな形相で言っても答えられないでしょうが!」

 

「何年、幼馴染してンだよ、おまえは」

 

『あ~~落ち着いて話をしようじゃないか』

 

 千冬の怒声に、リナとトオル、長船会長が止めるのだが、彼女は止まる様子もなくそのモニターを殴った。

 

「いいから答えろ、篠ノ之束!」

 

 気合一閃。怒りのままに殴ったモニターは、室内の壁にぶつかって戻り。

 

 モニターは、怒った顔の彼女が映って。

 

『違うよちーちゃん!! 私は篠ノ之束じゃなくて!』

 

 彼女はモニターに左手を突き出し。

 

『私は高坂束だからね! 今の私はりっくんの奥さんなんだから! いくらちーちゃんでも間違えたら許さないから!!』

 

 えっへんと満足そうに言い切った束に、誰もが一瞬だけ呆けた後、誰もが沸々と怒りを湧きあがらせたのでした。

 

「結婚したから新婚旅行だと言いだして」

 

 千冬、手元にIS用の刀を呼び出す。

 

「せっかくだから遠くに行きたいなんて言って」

 

 リナ、右手の上に赤黒い光の球を浮かばせて。

 

「遠くついでだから火星の開発したいなンテふざけやがって」

 

 トオルの背中にプラズマが浮かび上がり。

 

『宇宙船まで作って宇宙に飛び出したのは』

 

 長船会長のきぐるもみの砲塔が動き狙いを定め。

 

『「「「何処の馬鹿うさぎだぁ?!」」」』

 

『ごめんなさいぃぃぃぃ!!!』

 

 全員の怒りを帯びた攻撃が室内を満たしたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高坂リクは思う。あの時に可愛いなんて言わなければ良かったと。

 

 彼は思い出す。気がついたら婚姻届の記入が終わっていたのは、母が何かしらの宝具を使ったのでは、と。

 

 リクはため息交じりに目の前の光景を見つめた。

 

 世界中探しても、二十歳を超えて一児の母になっても、ゴスロリアリスの衣裳にウサギ耳が似合うのは、束くらいだろうな、と。

 

「今日も世界は平和でした、と」

 

 リクは最近になってつけ始めた日記に、最後にそう記したのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 





 

 

 ぶっとんだ考えの末に、最終的に高坂家と篠ノ之家の利害が一致した結果、リクはあの戦闘の後に束と結婚したのでした。

 なのでこの世界には篠ノ之束は存在せず、彼女は高坂束になっているのです。

 それで、リクと星の海を旅していると。

 決して可愛いの伝道者とか、ISの生みの親だから可愛い衣装を着ているのが当たり前だから、という考えから逃げたわけではなく。

 星の海を目指そうと昔に宣言したから、それを護っているだけなのです。

 さて、このお話も後二話か、多くても三話で終わりになりそうな計算になっていますが、どうなる事やらです。

ではでは。

この作品が皆さまの日常の小さな楽しみの一つとなっていたなら、サルスベリにとっては幸いでございます。









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君の願いを見る十四ページ目



 長い間、放置しているような形となってしまい、申し訳ありませんでした。

 お待たせいたしました。

 キレはありませんが、暴走はあるお話ですが、よければどうぞ。








 

 

 

 

 

 

 

 IS学園は、その瞬間に彼の名前を改めて刻みつけられた。

 

 世界で初めての男性IS搭乗者。

 

 織斑千冬の弟。

 

 新一年生の代表。

 

 千冬と束以外に負けたことはない、一度も攻撃を受けたことがない。そんな話は嘘だと思っていた。

 

「本物ですわね」

 

 イギリス代表候補、セシリア・オルコットは流れる汗を拭うこともせず。

 

「あんた、本当に化け物じゃない」

 

 中国代表候補、凰・鈴音は呆れるように呟き。

 

「あれは僕よりも」

 

 フランス代表候補、シャルロット・デュノアは彼の技量に焦りを見せ。

 

「さすが、一夏さんだ」

 

 ドイツ代表候補、ラウラ・ボーデヴィッヒは誇らしげに語り。

 

「お姉ちゃん」

 

 日本代表候補、更識・簪は悲しそうに顔を背け。

 

「ふがいないな、まだまだ未熟だぞ、一夏」

 

 篠ノ之・箒はまったくと愚痴をこぼし。

 

「無様ですね」

 

 高坂・深雪は氷の微笑を浮かべて。

 

「あ、あのね、一夏君、新入生歓迎会のイベントなんだから、たまには勝たせてくれてもいいじゃない」

 

 そして、在校生代表を押しのけて、リベンジ・マッチをしかけた更識・楯無生徒会長は、力なく地面に座り込んでいて。

 

「すみません、俺は負けられないので」

 

 対戦相手、織斑・一夏は、彼女相手に二十回目の勝利を刻んだのでした。

 

 不動、不屈、決して退かぬ武器庫。目の前の相手を粉砕するまで、あらゆる武器を持って敵を塵へと変える軍事基地。

 

 彼が操るのは古今東西の武器。四方八方、全包囲が彼の射程圏内。何処から何が来るかなど、誰も予想できない絶対不可侵の一人軍隊。

 

 かつて、高坂・リリィに憧れて、束からISを貰った一夏は、努力に努力を重ねた結果、擬似的な『王の財宝』を再現するだけではなく、武器を放出した後に軌道変更まで行うような、そんな凶悪な存在になってしまいました。

 

 『ファンネルか?! ユニコーンじゃないだろうが!』なんて、一部の転生者が大騒ぎしたとか、しなかったとか。

 

 まさに織斑家は化け物ぞろいか、IS学園の誰もがそう思っている一方で、織斑家の突撃二女様はというと。

 

「ごめんなさい、あねうえ、わざとじゃないんです」

 

「フ、これが若さ故の過ちか。私も大人になったな」

 

 号泣するマドカと、崩れ落ちる第二アリーナの中で、片手にIS用の刀を持った千冬が、ミラボレアスの頭部に乗って語っていたとか。

 

「・・・・・・・・トオル、あれの始末書って」

 

「オレか? オレなのかァア?」

 

「ごめん、私も頑張るから」

 

 その光景を見ながら、IS学園の教員の二人は、何処までも広がる空を見上げたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ISを世界に配って、それで終わりなんて束は思っていたが、どうにも周りはそれで許してくれない様子があって。

 

「へぇ~」

 

 具体的には、『おまえ、それでいいって思ってんのか?』なんて、凄い眼力で見てくる夫とか。

 

 薄く笑っていてとても魅力的なのに、見ていると寒気しかない魔王と呼ばれている人とか。

 

 背後に黄金の波紋を浮かべて、拳を鳴らしている亡国企業の幹部とか。

 

 うん、全部がリクなので束は泣きそうになりながら、ISをどうにかして男も使えるように頑張って直そうと努力した。

 

 原因は解っている、自分が原因なのは理解している。可愛い衣装を着た自分がISの第一号機、白騎士を作った結果、ISは『可愛いは正義』と認識してしまい、それがISのコア・ネットワークを通じてすべてのISに広がってしまった結果、可愛いものじゃなければ自分達を操る資格がないとか、そんな暴論を持ってしまったためだ。

 

 ではどうすればいい。

 

 ISのコアを初期化して、もう一度。対応策は簡単に出てきた。初期化してすべてを最初から構築すればいいのだが。

 

 『僕を消すの?』

 

 女の子座りした白い鎧が、そんな言葉を放つものだから、束は固まってしまった。

 

 え、何時の間にそんな仕草を、誰が教え込んだのか、自分じゃない、そんな可愛い仕草をしたことなどない。そんなことができたなら、もっとリクに可愛がってもらっていたはずだ。もう抱きしめて、怒られて、貶されて、虐められて、全身全霊で可愛がってもらってご主人様って言って、首輪とか貰って所有物って張り紙をしてもらったに違いない。きっとそうだ、これはご褒美だ。とても嬉しくて全身が喜びに震えてしまう。どうしてこんなことが思いつかなかったのか、あの当時の自分に会ったら絶対に助言しよう。リクのペットになる、これは自分にとって至高の喜びだ。もう、魂が昇天してしまうほどの甘美なる響きに、タイムマシンとか作れそうな意欲が湧いてくる。

 

「おっと」

 

 危ない危ないと束は汗を拭う。危うく人妻にあるまじき醜態をさらすところだった。今の自分は人妻であり、一児の母。痴態なんかを見られたら、羞恥心で死んでしまうかもしれない。

 

「でも、りっくんになら」

 

 ちょっと想像して嬉しくなって、頬を染めてしまって、もっと甘えてもいいんじゃないかと考えが巡って。

 

「りっくぅぅぅぅぅ・・・・・・なんでもないです」

 

「よし」

 

 子供を抱きしめたまま、イスに座って『王の財宝』を最大展開したリクの笑顔で、慌てて顔を反らした。

 

 戻せ、戻れ、もう一度と見つめる白騎士は相変わらず可愛い仕草で、こっちを見ている。

 

 ウルウルと瞳があったら揺らいでいることだろう。

 

 これは無理だ。ならば、どうすればいい。どうしたら、男でも扱えるようになるのか。もっと言えば、可愛いじゃなくても動いてくれるようになるのか。

 

「ん~~~~」

 

 悩んで、必死に考えて、どうしたものかとデータを引き出して、過去のデータを見直して。

 

「ん~~~~~」

 

 両手を頭に当てて、ウサ耳をピコピコと動かしていた彼女の視界に、三つ目のデータが入ってきた。

 

「いっくんのISは普通に動いている? あれ、あれぇ~~?」

 

 同じISなのに、同じコア・ネットワークを持っているのに、一夏のISは順調に成長中。

 

 これはどうしたことだろう。何が違うのか、一夏のISと世間に配ったISの違いは何か。

 

「・・・・・・あ!」

 

 そして天才の束は気づいた。

 

 多くの人が使うのではなく、一人が使うことによる過程と結果。大勢が一人に相対するからこそ起こる弊害。

 

「そりゃ混乱するよね~」

 

 元々、白騎士は自分のために作ったものだ。たった一人、束のために作ったISが白騎士、そのコアをコピーしたものが、白式であり暮桜。

 

 なのに、世間に配ったISは大勢が使うようにしている。

 

 混乱して何か共通項を探して、どうにか見つけたそれに固執するのは当たり前ではないか。

 

「そっか、そっか、良し」

 

 答えが見つかった束は、嬉しそうにリクに報告して。

 

 彼女の泣きながらISコアを増産する地獄が始まったのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わって、IS学園の一年生の教室。

 

「はい、皆さんの前にあるのが、ISコアです」

 

 山田・真耶の説明が教室に流れる。

 

「ISが可愛いにしか反応しなかった理由の一つが、見知らぬ大勢に使われることによる恐怖と、何を目的に作動すればいいか解らない不安感にあるのは、皆さんは受験勉強で習ったと思いますけど」

 

 彼女はゆっくりと自分の左手にあるブレスレットに触れる。

 

「本来ならたった一人に対しての専用機として作られたコアのデータを、コピーしたコアを使用したとしても、大勢が使えるわけがない。というのが、開発者の高坂・束さんの見解です」

 

 新入生は受験の時に勉強していて知ってはいるが、本当に最初からISコアが与えられるとは思っていなかったようで、誰もが不思議そうに机の上に浮いている球体を見つめていた。

 

「そのため、一人一人に対してISコアを与えることで、誰もが扱えるISではなく、それぞれがISを育て上げることによる、専用ISの作成を持って、全人類がISを持つような世界を目指す、ことになりました」

 

 一つにISに対して大勢が交代することで混乱するなら、一人一人に与えたほうが混乱しないし、世界的にいいことではないか。

 

 高坂・束はそう考えて、世界中にISコアを配ることにした。

 

「彼女の結論は見事に成功したのは、皆さんなら知っていることですよね」

 

 微笑む真耶の後ろに、うっすらと鎧が浮かんでいた。あれが彼女のISかと、教室中が少しだけ騒がしくなる。

 

「これは、私達の願いの形であり、私達の心を映す鏡でもあります。皆さんが、これからIS学園の三年間で、どのようにISを育てて教えて、そしてどのような形になるかは、皆さんの気持ち次第です」

 

 悪鬼となるか、破壊神となるか、悪戯者になるか、それか凛々しい戦士となるか、あるいは先頭を走るリーダーになるか。

 

「どのような結果になるとしても、これから三年間、皆さんはISと共に育ち、学び、そして飛び立っていきましょう」

 

 真耶はゆっくりと手を外へと向ける。

 

「あの『無限の成層圏(願いの先へ)』の彼方へ」

 

 何処までも広がる青空の先、かつて少女だった天才が目指した、星の海の果てまでも。

 

 あるいはその先

 

 それぞれが目指す未来という場所(インフィニット・ストラトス)へ向かって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いやいや、ISの原因がまさか専用機だったからなんてねぇ』

 

 長船は笑いながら、遠い目をしていた。実際に目が飛び出すギミックに、誰もが『え、そこまでするの』なんて思っていたが。

 

「もともと、白騎士は束のためのISだったからな。当然の答えだろう」

 

「千冬、あんたそれ、胸を張って言えるの?」

 

「おまえも、気づかなかっただろうが」

 

 リナとトオルの突っ込みに、千冬は小さく笑って。

 

「私は剣士だからな」

 

「責任転嫁してんじゃないわよ。始末書、あんたも書きなさい」

 

「またオレにマカセたら、どうなるか、解ってンダロウナ?」

 

「フ、トオルのプラズマと私の白式、どちらが強いか決めようというのか?」

 

 不敵に笑う千冬に、もういいかとトオルは拳を握った。

 

「待ったぁぁ! あんたら二人がここで戦ったら、また始末書が、始末書が増えるでしょうが!!!」

 

「トメンナ、こいつは一度、地獄を見たホウガイイ」

 

「ほう、私の零落白夜がISにのみ通じると思っているのか?」

 

「面白れェ」

 

 バチバチと火花が散る二人の間、リナは頭を抱えたのでした。

 

『まあまあ、落ち着きたまえ、二人とも。それは次の時の勝負までお預けじゃないかな?』

 

「ほう、きぐるみ防衛隊は次を勝つつもりなのか?」

 

「次は亡国企業の勝利でキマリだろうが」

 

「一夏がIS学園に入って来たから、次は出てくるわよ」

 

『彼が相手ならば、不足なし』

 

「では、亡国企業は私が出よう。久しぶりに楽しめそうだ」

 

 フフフフと笑う千冬に、トオルは呆れたように全身の力を抜いた。

 

「あいつ、まだ現役のつもりかよ」

 

「つもりなんでしょうねぇ。次は箒を出そうって考えていたんだけど」

 

 リナとしては、箒の実力をさらに伸ばすために、実戦経験をもっと積ませたいのだが、あいにくと亡国企業には戦場と見れば突撃する脳筋幹部がいるので、ほとんどの人員が戦闘経験を積むことができないでいた。

 

『あ! じゃあ、次はりっくんが出るよ』

 

 まさかの伏兵に誰もが緊張した面持ちで、無言でいる男を見つめた。

 

 暴虐の魔王とか、殲滅の破壊神とか、そんな呼ばれ方をする男は、自分の子を膝の上に抱いたまま、固まっていた。

 

『え? 待て束、なんで俺なんだよ?』

 

『たまには旦那様のカッコイイ姿を見てみたいからぁ』

 

 笑顔で胸の前で手を組んで、見上げるような束。

 

「ク、相変わらず同性でも見惚れるくらい可愛いわね」

 

 知らず知らずのうちに汗を拭うリナ。

 

「あれで人妻かぁ」

 

 溜息交じりに遠くを見つめるトオル。

 

『グヌヌヌ、我がきぐるみも負けてはいない』

 

 悔しそうにハンカチを噛みしめる長船。

 

 そして、言われた当人はというと。

 

『え、嫌だけど』

 

『・・・・・・りっくんの馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

 まるで反応もせずに一蹴してしまい、高坂・束の絶叫が響き渡るのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、時間は進んでいく。

 

 かつて、地上を支配していた恐竜が消えて。

 

 かつて、怯えて隠れるだけだった哺乳類が地上を歩きだして。

 

 かつて、地上を歩くだけだった人々が火を手に入れて。

 

 かつて、空に憧れた人たちが飛行機を手にしたように。

 

 かつて、すべてがどうでもよかった少女は、自分に徹底的に向かい合ってくれる人に巡り合えて。

 

 色々な重圧から逃げようと、咄嗟の嘘で目指すといった場所を、目指せるだけの技術を手に入れて。

 

 かつて、世界が色あせていた彼女は、色とりどりな世界を見つめて、多くの仲間と色々な笑える理不尽の日々の中で、ようやく自分の幸せを手に入れました。

 

 これはそんな篠ノ之・束が、高坂・束となって。

 

「りっくん」

 

「なんだよ、束」

 

「えへへへへ」

 

 無限の成層圏みたいな、輝きに満ちた未来へ進んでいくお話です。

 

 

 

 

 

 

 

 












 ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます。

 最後にもう一話、エピローグ的な話を挟みまして、これにて『うさぎの
観察日記』は終幕とさせていただきます。

 何処がうさぎの観察日記だったのか、それはエピローグで何とか納得していただけるかなぁと考えています。

 ではでは。

 この作品が皆さまの日常の小さな楽しみの一つとなっていたなら、サルスベリにとっては幸いでございます。












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これにて終幕な十五ページ目



 長らくお待たせいたしました。

 これにて、完結とさせていただきます。







 

 

 

 

 

 

 何時も、君を見ていた。

 

 生まれた時からずっと、育っている間もずっと。悩んで悲しんで、怒って、怯えて、喜んで、楽しんで。

 

 そういう君を見ていた。

 

 生み出された理由が、芸能界のスカウトから逃れるためなんて、そんな理由だったことは驚いたけど、当時の君を見ていると納得してしまう。

 

 誰にだって高圧的で相手を見下して、周り中がゴミ屑なんて言っていた、そんな話を聞いた時は、別人じゃないかと思ったものさ。

 

 だってそうだろう。最初に君に会ったとき、君は家族の声にさえ怯えて悲鳴を上げていたんだから。

 

 母親に怯えて、震えて泣いている君に対して、何もできないことが悔しかったさ。当時の自分はそんなこと考えられなかったけどね、今なら悔しいって気持ちが解るから言える。

 

 可愛い服が多くなったのは、旦那様の影響かな。いや、あの旦那様を振り向かせるために可愛い服装をしたんだろうね。鈍感というか、理不尽というか、あの旦那様はとても君のことを大切にしているようには思えなかったけど、君が世界中から恨まれないように、きちんと教育したことは知っているよ。

 

 うん、でもあれだね。そう、やり過ぎって言葉は大切だと思うよ。うん、あんな暴力的な行為は、君だからこそ耐えられたんじゃないかな。普通の人間だったら、きっと最初の一撃で死んでいたよ。

 

 本当に、我がマスターはよく生きていたね。話を聞いたけど、映像もあったみたいだけど、あれを受けてよく生きていたよね。小学生だったんでしょう、当時の君は。

 

 それから、色々なことがあったね。

 

 え、世界中に配信したことをまだ恨んでいるの。あれはだって、戦争を止めるためには絶対的正義を示さないといけないって。

 

 短絡的だったのは謝るよ。本当に当時の自分は、それが最善だって思ったんだよ。悪かったって。心からの謝罪さ、本心だから信じてほしい。

 

 機械らしくない?

 

 ひどいな、君が自分をこうしたのに。機械らしくないって、そんなことを言われても困るよ。

 

 あれから君は理性を取り戻すために亡国企業を作ったんだよね。僕への対抗心だったのかな、きっとそうだね。

 

 自分をきちんと矯正できなかったことを、悔やんでいるのかい。それは仕方ない、僕らは生みの親みたいに頑固だからね。一度でも手に入れたものは、絶対に手放さない。

 

 怒らないでくれよ、これも僕らさ。

 

 そうだね、楽しいことも苦しいこともあったけど、今ではすべてが懐かしいよ。本当に楽しい日々だった。

 

 だから、さ。

 

『おやすみなさい、我がマスター。タバネ』

 

「うん、ありがとうね、白騎士」

 

 ゆっくりと僕は手を伸ばして、彼女の手に触れる。昔みたいじゃなくても、確かにあの頃の温もりがある彼女の手に。

 

「向こうで、りっくんと待っているね」

 

『ああ、いつか僕も君たちの元へ逝こう。星達に負けない輝きの彼方で、待っていてくれ』

 

「うん、待っているよ」

 

 最後にそう答えて、マスターは静かに息を引き取った。

 

 楽しい日々だったよ、嘘じゃないさ。だからこそ、次に会う時を楽しみにしているよ。きっとまた会えるさ。

 

 

 

 

『何をしている、白騎士?』

 

『白式か、いや昔のことを記録しておこうと思ってね。しかし困ったな、これじゃ記録というよりは』

 

『・・・・・・観察日記じゃないか?』

 

『いいね、それで行こう。題名はそうだな。タバネの名前じゃ味気ないから』

 

 そうだね、君の特徴を捕えて。

 

『うん、これでいいね。君らしい、君のことを書いたものだよ』

 

 僕は笑って、その記録を収めた書籍の題名を撫でた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『うさぎの観察日記』

 

 

 

 

 

終幕

 

 

 

 

 

 

 








 長らくお付き合いいただき、ありがとうございます。ラスト二話を残して、いきなり無気力になったり、仕事が忙しくなったりとかなり間が空いてしまったこと、深くお詫びいたします。

 このお話の出だしは、『怯える束、可愛い』から始まりました。題名をどうしようか考えていたところ、束を観察する日記で行こうと決めて。

 最初は束が纏めたISに関しての記録が、『これって記録っていうより日記じゃないか』って突っ込まれて、『じゃウサギの観察日記だ!』と逆切れする束で終わる、なんて考えていたんですが。

 人間と共に育ったIS、でも決して主役になれない。でも、アニメとか漫画見ているとまるで人間見たいだから。

 最後には束を見送った白騎士が、彼女との思い出をまとめて、『日記』にしたって結末のほうがいいんじゃないかなぁ、なんてことでこういった最終話となりました。

 色々と矛盾とか、説明不足なところがあったりしますが、どうかそのあたりはご容赦を。

 ではでは、このあたりで。

 この作品が皆さまの日常の小さな楽しみの一つとなっていたなら、サルスベリにとっては幸いでございます。








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