総理大臣辞めたのでVTuberになります (吉高 礼一)
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#01 プロローグ

安倍総理が辞職したので初投稿です


──2020年8月4日、官邸は大きく揺れていた。

 

首相官邸の周辺には無数の報道陣がカメラを抱えて今か今かと私が到着するの待っているのが見える。

 

「総理!辞任の意向を固めたというのは本当ですか!?」

「総理、新型インフルエンザ対策の最中辞任されるということですか!?」

 

朝、私、阿賀野晋一は総裁を務める与党・日本民主党の二階堂幹事長と接見、持病の悪化による総理辞任の意向を伝えた。

 

勿論それは瞬く間に報道陣、日本全国に広がり、党本部を出る際に五十嵐総理補佐官見せられた街頭ニュースでは「速報 阿賀野総理辞任の意向か」と速報で伝えられていた。

 

私はそのまま報道陣の質問に答えずに辞任を正式に伝える臨時閣議を行うために階段を上がった。

 

 

───

 

午後5時、40年来の付き合いである浅見副総理兼財務大臣やその他閣僚との閣議やら多くの雑務をこなして、私は記者会見へと望んだ。

 

…首相に就任してから7年以上。この報道室で会見を開くのも最後なのだなと思うと、不意に涙が出そうになる。

 

補佐官の諸々の注意・説明が終わり、私は壇上に立ち会見を始める。

 

「この度、私は持病のメニエール病の悪化を受けて、今の健康状態では重要な政治判断を誤る可能性がある、と思い総理の職を辞任することといたしました」

 

フラッシュが激しく焚かれる。

 

「臨時総理と致しましては、菅原官房長官を置くことと先程閣議決定致しました。正式な新総理の決定に関しては、日民党の執行部と、二階堂幹事長にお任せしたいと思います」

 

一拍置き、私は話を続ける。

 

「2013年の衆参両院ダブル選挙にて我々日民党が大勝し、政権を奪還してから7年間、日本国民の皆様からの負託に答えるべく職務を全うしてきた中、アガノミクスや新時代の、安全保障戦略など多くのことが志半ばで終わったことは、断腸の思いであります」

 

言葉を1つ1つ口にするごとに、7年間の出来事がフラッシュバックする。四年ぶりに政権を奪還し、皆で心から喜んだ衆参ダブル選挙。財政政策、金融緩和、民間投資の三本の矢で挑んだ「アガノミクス」。

 

涙を抑えながら、私は最後の言葉を述べる。

 

「私がこれまでの7年間、総理大臣として働いて来られたのは、国民の皆様のお陰であります。誠に、ありがとうございました」

 

深く一礼。私を支えてくれた国民に対する精一杯の誠意を示し、私は報道室を、そして官邸を後にした。

 

 

──────

 

それからの2週間は激動だったと浅見は私に言ってきた。まず総裁選。それから流行の真っ只中にある新型インフルエンザ対策。我が国では他国に比べて被害を抑えられてはいたが、第2波が起こり始めてきて新政権は早速壁にぶつかっていると言う。

 

 

議員もやめ総理もやめた私はだだっ広い私邸で毎日ニュースを見て過ごす毎日を送っていた。総理大臣としての責務から解放されたからかメニエール病も在職中程激しくはなく、落ち着いた生活を送っていた。

 

ただ1つ思うのは、何もすることがないと言うことだ。

 

勿論講演会やら懇談会の出席ものちのち出なければならないが、周りも「回復するまではいいよ」と言ってくれているためにあと半年は暇なのだ。

 

「何かしないとなぁ……ん?」

 

適当にネットサーフィンをしていた所、ある広告が目に付いた。

 

「〖Come Truth ライバー5期生募集中〗……へぇ、VTuberなんてのもあるのか」

 

YouTuberと言う存在は知っていたが、最近ではアニメのようなアバターが配信する「VTuber」なんて言うのもいるらしい。

 

「……応募してみるか」

 

そう思い立って、私は簡単なプロフィールとサンプルボイスを撮って送ってみた。

 

勿論本気で合格するなんて思ってなかったし、これを機に「サブカル」文化にも触れてみようくらいの気持ちだったが………

 

 

 

───一週間後、私のパソコンに合格の通知と「葦原(あしはら) (かい)」と言う私のガワが送られてきた。




普通に考えて雇わないとか思ってもそんな事は言ってはなりません。減税派を一掃した安倍総理を許さない(ガチギレ)


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#02 デビュー

減税しろ減税しろ減税しろ減税しろぉ……


──私、阿賀野晋一(あがのしんいち)がVTuber「葦原 戒」としてデビューすることになってから2週間。

 

私はマネージャーの池田さんとテレビ電話やらメールやらで打ち合わせを繰り返しながらデビューに向けて多くのことを決めていた。

 

池田さんによれば「元総理大臣系VTuber」は当然前例がなく、最初応募者の中に私がいるのを見た時社内は大騒ぎだったらしい。

 

しかし、社長の佐藤さんが「採用しよう」と言ったことで私が採用されることとなり、マネージャーに池田さんが付いたとの事。

 

最初はやはり元総理大臣、日民党総裁ととんでもない私の肩書きに気圧され、色々遠慮がちだったが2週間もすれば打ち解けることもできてきていた。

 

「しかしキャッチコピーが日本を取り戻すなのは色々と…」

 

今日の打ち合わせは夜9時からのデビュー配信に備えて「インパクトを与えるにはキャッチコピー作りましょう!」と言う池田さんの考えの元、視聴者を掴むキャッチコピーを考えていた。

 

『他にもいろいろ考えてますから安心してください総理』

 

「いや私もう総理じゃないんですけど」

 

『視聴者と力合わせ、未来を切り開く』

 

「それ労農党ですよね?」

 

労農党と言うのは日本労農党、要は共産党の系譜を継ぐ急進左派政党だ。衆参合わせて20議席程度を持ち、市民連合政府の樹立を訴えている。

 

『うーん…じゃあ”政権交代”は?』

 

「1期生に勝つつもりなんですか?」

 

『今こそ流れを変える時!はどうですか?』

 

「それ民生党ですよね…なんで全部他党のキャッチコピーなんですか」

 

なんでこの人は対立政党のキャッチコピーばっか出てくるんだか。素直に「視聴者を第一に。」とかでいいと思うだけどなぁ。というかキャッチコピー要るの?

 

『いやでも同期の方と違ってお披露目とか何もしてないじゃないですか?だからインパクトを与えていかないと…』

 

「それもそうですけど…」

 

基本的に私の所属する「Come Truth」は初配信の前にお披露目の動画を挙げるのが一般的なのだが、今回に関しては「インパクト」を重視するために私だけ同期3人の中でお披露目動画が挙げられてない。

 

ちなみに私のガワは初老のシブメンで、どちらかと言うと総理大臣だった頃の浅見に似ている。

 

同期の方は2人とも若い女子大学生らしく、昔から配信者として活動していたそう。

 

名前は「朝露 なずな」さんと「(あおい)(なぎ)」さんと言うらしい。ただ私はデビューまで厳重な監視下にあるため、連絡を取ったことは1度もない。

 

『あ、そろそろ総理のTwitter開設されますよ』

 

「もうそんな時間ですか」

 

九時から行われるお披露目兼初配信を周知するため、私のTwitterアカウントは当日の昼の12時に開設されることとなっている。もうそんな時間になっていたのか、そろそろ昼飯だな。

 

『あっ私もお昼にしなきゃ。では夜の初配信、楽しみにしてますよ!』

 

「色々と打ち合わせくれてありがとうございました。おかげで楽にやれそうです」

 

そう挨拶して、私はテレビ電話を切った。

 

──────

 

「Come Truth」を語るスレ 235配信目

 

245:名無しのバチャ豚さん

 

お前ら公式のTwitter見てこい

 

246:名無しのバチャ豚さん

 

なんかあったん?

 

249: 名無しのバチャ豚さん

 

なんか5期生がもう一人デビューするらしい。なんでも公式総理大臣系VTuberとか

 

254:名無しのバチャ豚さん

 

は???5期生ってなぎなぎとなずなだけじゃなかったの?

 

258:名無しのバチャ豚さん

 

俺も知らねぇよていうか総理大臣系とか個性強すぎんだろ

 

263:名無しのバチャ豚さん

 

案外阿賀野とかだったりしてなw

 

──────────────

 

そうして夜九時がやってくる。

 

機材ヨシ、マイクヨシ、モーションキャプチャーよし。

 

待機所のコメントは事前情報なしの突然の5期生に混乱してる人が多く、既に400人近くが待機していた。

 

(…大統領との会談の時より緊張するなぁ)

 

ふとアメリカ大統領との会談を思い出していると、九時ちょうどを知らせるアラームが響く。

 

「皆さんどうもこんにちわ、Come Truth所属の公式総理大臣系VTuberの葦原 戒でございます」

 

その一言と共に、コメントが物凄い勢いで下にスライドする。

 

コメント

 

・阿賀野総理!?この声

・嘘やろ?公式総理大臣系ってそういう?

・#阿賀野政権を許さない

・総理!?

・マジでこの声総理だろ、メニエールじゃなかったのか

・あの年でVやり始めるのは尊敬するよ

 

うぉ…凄い勢いだな、でも割と好意的なコメントも多い…のか?時々Twitterでよく見たハッシュタグも見受けられるが。

 

「えー、私が阿賀野総理に似ていると、似ているというコメントが見受けられますが。決してですね、私が阿賀野総理であるとか、そのような事実はありません」

 

コメント

・嘘をつけ

・サ行下手くそなのまんま阿賀野で笑う

・この流れはもしや……?

 

「もし、もしですね。私が阿賀野晋一であるなら、それはもうVTuberを辞任すると言う覚悟であります」

 

コメント

・懐かしいな森崎学園

・阿賀野吹っ切れた?

・黒やぞ

・文書主義の破壊を許さない

・減税しろ

・葦原さんTwitterと同接見てみて

 

ちょっと調子に乗り、四年ほど前私が友人の学校に国有地を格安で売却したという疑惑を持たれ、国会で質疑応答を受けていた時のやり取りを再現してみると、最新コメントにTwitterと、ん?同接……?同接って何だろか?

 

「えー、皆さん。質問宜しいでしょうか」

 

コメント

・内閣総理大臣、阿賀野晋一君

・衆院議長いんの笑える

・開始五分で身バレした男

・この質問には担当者がいないのでお答えできません

 

「同接とは何でしょうか?」

 

私のその質問と共に、コメントの流れが一瞬だけ止まる。

 

コメント

 

・嘘やろ晋ちゃん

・流石IT担当大臣にクラウドわからないやつ起用した総理

・今見てる人の数だよ総理

 

なるほど、今この配信を見てる人の数を同接数と言うんだな。

 

どれどれ…とカーソルを下にスライドさせるとそこには「12609」と言う数字が並んでいた。たしか先輩の皆さんは普通に5万とか言ってたから少ない数字なのか?

 

「そう言えばTwitterも見て欲しいというコメントがありましたね」

 

コメント

 

・お披露目無し、事前情報ほぼ無しで初配信で1万はすげぇよ総理

・止まるんじゃねぇぞ…(同接伸び)

・今ヘッダー確認したら「日本を、取り戻す」って書いてあったw

・隠す気ないだろ運営

 

あ、それなりにいい数字なのね1万人。Twitterのトレンドを見てみると、3位に「葦原 戒」が、そして4位には「阿賀野元総理」が入っていた。

 

そうか、私は「元総理」なんだなと感傷に浸っていると、コメント欄がザワついた。

 

コメント

 

・あっ碧ちゃんだ

・マジ?ホントや 総理同期の方来てるで

・愛称は総理で決まりなのかよ

・総裁にしろ

 

どうやら例の同期の方がコメントしていたらしく、上にコメントを遡ると【碧 凪】と言う名前と共に「私の同期総理大臣なの????」とコメントされていた。

 

「えー、碧さん、同じ同期としてこれからよろしくお願い申し上げます」

 

コメント

 

・同期(元内閣総理大臣・日民党総裁)

・年齢離れすぎやろ

・1期生も10歳くらい離れてるから…(震え声)

・コイツらは40歳くらい離れてるだろ

 

コメントを見ながら私は本題を話し始める。

 

「今日の配信では今後の活動予定と私の愛称、それから挨拶などを決めていきたいと思います」

 

と同時にマウスを操作して「今後の活動予定」と上に字幕を出す。

 

「と言っても特に決めている訳では無いので皆さんの意見を参考にさせて頂きたいです」

 

コメント

・参院選実況

・アメリカ大統領選実況

・マイクラカム鯖で首相官邸作れ

・いや衆院選実況だろ

・国会中継実況しろ

 

コメントの大半が国会中継だったり選挙の実況、一部にゲーム実況の要望がある。…にしても国会中継実況か、面白そうだな。

 

「では国会会期中は国会中継実況、基本的にはゲーム実況などでよろしいでしょうか?」

 

コメント

・マジでやってくれんのか

・普通に助かる

・国会中継実況とか前代未聞だろ

・ゲーム分かる?おじいちゃん

 

「……私はおじ様です。さて、次は私の愛称を決めて頂きたいです」

 

コメント

・総理

・総裁

・閣下

・いや総理だろ

・立法府の長

 

コメントをサーっと流していると過去の私の発言をネタにしたコメントもちょくちょく見られるが、基本的には「総理」で決まりそうだった。

 

「では総理と言うことで。次は挨拶ですが…」

 

これは決めてあります。と言う私の言葉にコメントがザワつく。

 

コメント

・なんだ?

・万歳三唱やろ

・燕尾服着て胸に手を当てるんやぞ

 

左手を構え、カメラに向けて滑舌よく言う。

 

「日本を、取り戻す!」

 

コメント

 

・アウト

・取り戻せなかったですね…

・増税しやがってよぉ……

・奨学金無償化はよ

・尖閣は守ったし…?

・北方領土ェ…

 

あれ?思いのほか不評?なんか私の政策批判が始まったぞ。…まぁいい。とりあえず初配信はここまででいいと言われているから、ここらで終わりにしよう。

 

「えー、まぁという事で本格的な活動は来週の月曜日からと言うことで。では皆さん、おやすみなさい」

 

コメント

 

・じゃあな総理

・ゆっくり休んでね

・とんでもない逸材が来たなカム

・新人が強すぎたな……

・色々濃ゆい10分でした、登録します総理!

 

 

というわけで私の初配信は終わった。

 

翌朝のニュースで「阿賀野元総理 VTuberデビュー?ネット上騒然」とCome Truthと私の初配信の特集が組まれたのは言うまでもないだろう。

 

 




「できるだけ自由にやらせる」と言うCome Truthの方針ははたまたまPRESIDENTに田角のインタビューがあってそれを見た時に言ってたのをそのまんま持ってきました。

あと森○学園に関しては官僚が改ざんしたけど総理は知らなかったんじゃないかなと思ってます。

最初は某小説のようにボイチェンさせようと思ったんですがあんな特徴的な滑舌してたらすぐバレるしいいかなと思いました。阿賀野総理のモデルは勿論森羅万象担当大臣です。

まぁ息抜き程度に時々更新するくらいなのであんまり期待しないでね


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