とある世界のとある一幕 (chee)
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ささやかだけど、祝いたい。

鰹誕なのにポテトちゃん居なくない!?!?ってなったので超特急で書きあげました。リハビリも兼ねてるのでクオリティは保証しません。

短編です。とても短いです。当日初動だとこのくらいが限界なんです(血涙)。さっと読んでいっていただけると嬉しいです。


「……店内でお召し上がりになりますか?」

 

「……テイクアウトで」

 

私の一言を聞くなりレジの後ろで袋に詰められていくポテト、ポテト、ポテト。このレジのお姉さんもこの異様………ではないと思うけれど、異様と感じる人もいるらしいこの光景に慣れつつあるのか、もう驚かなくなった。

 

………最初驚かれてた意味も分からないのだけれど。

 

 

電脳大隊(サイバーバタリオン)の事務所からの帰り道。事務所と家のちょうど中間にある行きつけのジャンクフード店でポテトを大量に買い込んで店を出て、家路につく。

 

このようなポテトのヤケ買いは定期的にする。具体的には、何か嫌なことがあった時や、モヤモヤしている時。大人たちが酒の力でやるせない夜を過ごすように、私は何かあったときには、ポテトに溺れて夜を過ごす。

 

普段は別にポテトが好きなわけではないと言い続けている私だが、結局ポテトには心を落ち着けてくれる効果とかもあるし。何より美味しいし。

 

 

……そもそも、なんで今日この”ヤケポテト”をしようかと思ったのか。

 

 

 

ケイに会えていないのである!!!

 

 

彼の誕生日に!!!

 

 

こんなにも祝ってあげたいのに!!!!

 

 

……そんな思いを心の内に秘めて今日一日事務所でケイが来るのを待っていたのだが、ケイは今日も今日とて外での仕事ずくめで結局一度も事務所には顔を出さなかった。

 

 

「……はぁ」

 

 

ため息が夜の街路に消えていく。

 

ふと携帯の画面を開けば、ケイに送ろうとして、やはり直接言いたいからと文面を保存したままの、“お誕生日おめでとう”の文字列。

 

もう送ってしまおうと送信ボタンに指をかけ、やはりどこか満足できなくて指を離す。

 

 

 

やっぱり、直接言いたいなぁ……。

 

 

 

脳内でまた少し大人になった彼の姿を出力してみる。ためしに、ちょうど正面から歩いてきた男性の姿と重ねてみた。

 

そう、ちょうど()()()()()の背丈で、()()()()()の髪をしていて……

 

 

「……ってケイ!?」

 

 

その男性と近づいて顔がはっきり見えるようになったら現れた顔は……まさかのケイ本人だった。

 

…なんで?

 

……一度は駄目だと思ったケイとの遭遇に、思わず胸が高鳴る。

 

「あれ、メグ。どうしたのこんな時間に」

 

「ケイこそ…仕事は?」

 

「さっき終わって、事務所に顔を出そうかと思ったんだけど…」

 

ちなみに、毎日事務所に顔を出さなきゃいけないなんて決まりは一切ない。

 

「なんでこんな時間に事務所に?」

 

「……うーん、なんとなく?」

 

「なんとなく…ね…」

 

 

なんとなく。

 

 

用もないのに事務所に行く理由。この大事な日(誕生日)の夜にわざわざ事務所に行く理由。

 

 

「………ねぇ」

 

「どうしたの?」

 

「この後時間、ある?」

 

 

ぱぁっ……

 

 

その時、余り表情には出ていないけれど、ケイの目の奥で何かが輝いた気がして。私の中の何かが少し暖かくなった気がした。

 

 

「一緒にご飯食べようよ。……たくさん買っちゃったから」

 

 

両手に提げたポテトの袋を見せつけると、「ふふっ」と笑いが返ってくる。

 

「なんでそんなに大量に買ったの?」

 

「……食べるためだけど」

 

「一人で?」

 

「…悪い?」

 

「…ちょっと心配になる食事だよね」

 

「…別にいいじゃない」

 

(恥ずかしがる理由なんてみじんもないと思うのだけれど、)少し恥ずかしくなって思わず目を逸らした。

 

 

「……で、どうするの?」

 

「…一緒に食べる」

 

「じゃ、行こ」

 

「うん!」

 

 

私が家に向かって歩き出すと、ケイが踵を返してついてくる。

 

これから行われるささやかなバースデーパーティーのことを想うと、頬がどうしても緩んでしまう。

 

 

………こんな顔、ケイには見せられないや。

 

 

後ろから響いてくる心地いいケイの足音に耳を傾けつつ、自宅(パーティー会場)への一歩を踏みしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても本当に気を付けた方がいいよ、食生活」

 

 

「ほっときなさいよ!!!」

 

 

 




ポテトちゃんが好きです(突然の告白)。

鰹は銀金とか他のメンバーとかと一緒に居ることが多いのでポテトちゃんと静かなひと時を満喫してほしいなという願いがありまして、こんなお祝いがきっかけに急接近でもしてほしいなって思います。

今後はこういうツイッターに投げるのも長いけど小説にするには短かったようなネタでも積極的に投げていけたらなと思います。

感想お待ちしてます!!


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小さな体と大きな世界と

注)同じ作品内ですが、前回とは全く関係のない話です。(小説概要に短編集と書きましたが一応注意書きです。私の他作のような同一世界線の短編集ではなく、完全にバラバラな話の短編を置くつもりなので。)


これも以前ツイッターに投げたやつの供養です。せっかく短編置き場作ったのに1作しかないの寂しいなと感じたので。

短いですが、さっと読んでいただければ幸いです。

(今はみんなオーズの一挙に夢中でこっそり投げても気づかんやろの精神)


時系列はコミカライズ版のとてもかっこよかったリュカオーン戦翌日です。


真昼に、目が覚めた。

 

珍しいこともあるもんだ。俺達レッドキャップゴブリンは夜行性だから今は巣のゴブリンのほぼ全員が寝ている。

 

目が覚めてしまったものは仕方がない。もう一度寝るにも目が冴えてしまったため、とりあえず散歩を始めた。

 

巣の中を歩き回っていると、とあるゴブリンがいないことに気が付いた。

 

所詮俺たちはモンスター。開拓者と戦えば死ぬことも多く、ゴブリン一匹一匹のいるいないなんて気にしていたらきりがないのだが、奴は俺が戦闘中の時はよく駆けつけてくれて、ともに多くの開拓者を退けてきたいわば戦友だ。レベルも高いのでそうそう死ぬこともないだろうが、こんな真昼間から何をしているのだろうか。

 

 

巣を出てみた。

 

 

昼間の四駆八駆の沼荒野は危険だ。開拓者と戦闘になっても仲間が寝てるため助っ人が見込めない。だが奴らは俺達のことを見るなり襲い掛かってくる。だから、開拓者に見つからないように動き回らなきゃいけない。夜ならすぐにでも喧嘩を売るんだがな。

 

 

「グギャッ…」

 

 

眩しい。

 

やっぱり日光は苦手だ。視界が悪い。眩しくていろんなものが見えにくい。こんな昼間から活動しているゴブリンたちは一体どんな目をしているんだろうか。

 

 

「ギャッ…ギャッ…グギャッ…」

 

「グギャギャッ…」

 

「……ギャッ」

 

 

数体のゴブリンと遭遇した。やはりこの時間帯に出歩いているレッドキャップは珍しいようだ。かなり驚かれた。

 

それより、意外な話を聞いた。どうやら、昨日の晩に『夜襲』が四駆八駆の沼荒野に現れたという。あの犬は嫌いだ。俺達よりもずっと頭が回るくせに何を考えてるのかが分からない。奴の餌食になったゴブリンも多い。

 

 

「……グギャッ」

 

 

昨日の晩に戦いに出てから巣に帰ってきてない()のことを考えると妙な胸騒ぎがして、俺は『夜襲』が出たという場所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

大きな穴の開いた地面。砕け散った岩。見るからに激しい戦闘の痕跡の残ったこの場所で、俺は一人立ち尽くしていた。その戦闘跡は俺たちのような小さなゴブリンじゃあどんなに激しい戦いをしても残すことのできない圧倒的な“理不尽”の跡。こんな激しい戦いの中にゴブリンなんぞが巻き込まれたらひとたまりもなかっただろう。

 

 

「…ギャッ?」

 

 

近くには誰もいないと思っていたが、沼に一匹のマッドフロッグが浮いているのを見つけた。奴もこの騒ぎを聞きつけて見に来た輩なのだろうか。

 

 

「グギャッ。ギャギャギャッ??」

 

オイお前。この辺で耳に傷跡のあるレッドキャップゴブリンを見なかったか?

 

 

「………」

 

 

マッドフロッグは何も答えない。

 

ただ、無防備にも腹を出したままただ空を仰いでいる。俺の声に反応するそぶりも見せない。ただぷかぷかと沼に浮いていた。

 

 

「グギャギャッ…ギャッ。グギャッ?」

 

ここで『夜襲』が暴れまわったらしいな。何か聞いていないか?

 

 

「………」

 

 

マッドフロッグは何も答えない。

 

問いかける俺には目もくれず、ただ空を見上げていた。まるで、そうしていることだけがこの世の心理だとでもいうように。

 

 

「……グギャッ」

 

そうかい。気持ちいい昼寝を邪魔して悪かったな。

 

 

聞きたい話は聞けなかった。アイツの行方も分からねぇ。このまま巣に帰ってもよかったが、なんとなく、ただ気まぐれに、このマッドフロッグのように沼に身を任せてみた。

 

浮く。ぷかぷかと。

 

そのまま目を閉じると、急激に眠気が押し寄せてきて。

 

……あぁ、そういえば今、真昼間だったっけ。

 

そのまま、俺は意識を手放した。

 

 

「……ゲコッ」

 

 

…『ゲコッ』じゃ何も伝わんねぇよ。馬鹿。

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、『昨日レアモンスターが現れた』と聞きつけて現れた開拓者を仲間も呼ばずに一匹で片っ端から斬り捨てたというレッドキャップゴブリンがいたとかいなかったとか。

 

そのゴブリンが最終的にどうなったか。それを知る開拓者はいない。




一匹のマッドフロッグと一匹のレッドキャップが沼でプカプカお昼寝してる絵面、すごい癒やされるなって。
こういう小さな山なしオチなしの日常の断片もいいですよね。

感想お待ちしています!!!


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君に捧ぐ天誅

こんにちは。なんか筆が乗ったので書きました。
付き合ってる楽京です。
書いてるうちに京極ちゃんの脳内美化ブースターがぎゅおんぎゅおん回ってたのでそこそこ、いや、かなりキャラ崩壊してます。注意です。


「らーくろっ、今日デートしよー」

 

 

背中に突然襲いかかる人の感触。

 

誰かが背中から抱き着いてきたようだが、そんなことをする奴はこの教室に一人しかいない。振り返って確認すると、そこにあったのは予想通り、俺の彼女(京極)の顔だった。

 

「んぁ?別にいいけど」

 

「じゃ、()()()()()()ね」

 

「おーけー」

 

 

 

 

俺のクラスに龍宮院京極という転校生が現れて早や数か月。

 

転校してきてからは眉目秀麗で文武両道な才色兼備の美少女として京極はもてはやされ続けてきた。学校では俺の知るポンコツな一面や汚染され切った幕末思考を片鱗すら見せず完璧な優等生を演じていた。そんなある日だった。

 

 

『あ"ーーー学校本当に疲れる』

 

『ならもっと素で過ごせばいいのに』

 

『今更できるわけないでしょそんな事。何馬鹿なこと言ってんの。天誅するよ』

 

『お?できるもんならやってみろや』

 

『……今日幕末にインしろよ絶対』

 

その日はたまたま俺と京極が教室で二人きりになって、久々に素の京極と話をした気がした。

 

『疲れるんだろ?その優等生面』

 

『そりゃそうだよ。毎日こんなの続けてたら』

 

『じゃ、俺がいてよかったな。少なくとも俺と二人の時は素を出せる』

 

今思い返してると、この時の京極の普段は見せないどこかぽかんとした顔、そしてこの直後の微笑みには本当にドキッとさせられたっけ。

 

 

 

『じゃあ……もっと僕と一緒に居てくれる?』

 

 

 

こうして密会の増えていった俺たちは見事に囃し立てられ、祭り上げられ、まんざらでもなくなり、めでたく付き合うようになった。

 

俺達も最初こそ恥じらっていたものの、今となってはもう慣れた身。この程度の会話をしてクラスメイトから「またかこいつら」といったような眼をされるのも日常茶飯事だ。

 

俺たちは今日も生暖かいようなよくわからない視線を受けながら帰路についた。

 

 

 

 

そんな俺達の鉄板デートプラン。俺と(特に)京極のお気に入りの()()

 

 

 

「天誅ゥーー!!!」

 

 

「…………」

 

 

 

我ながらこの世界だとデートも糞もないと思うんだよ。まぁ、そうは言っても俺達だしな。そういう事もあるだろうさ。

 

幕末の世界にログインした俺はログイン天誅狙いのやけに威勢のいい幕末志士を切り捨て、とりあえず京極と合流するべく殺意あふれる街へと繰り出した。

 

 

………俺だって普通の男子高校生なんだ。こんなデートが普通でないことはじゅーーぶん分かってる。

 

まぁ、でも京極が楽しそうだし。

 

そう言いながら今日までこんなデートを続けてきている。実際俺も楽しいことは楽しいからな。

 

あと、この世界では本当に何も取り繕わない京極と一緒にいられるからな。学校でなくても外にいるだけで京極はある程度外面を取り繕う。まぁ言ってしまえば当然の事なんだが、それでも、やっぱりそういうの全部取っ払って京極と遊んでいたいだろう?

 

 

「おーい、サンラク!!」

 

 

声のする方に振り替えば、そこには心底楽しいのか、子供のように無邪気な笑顔をした京極がいた。

 

…この笑顔も、向こう側(学校や人前)ではめったに見られない。やっぱりデートは幕末に限るよな!

 

「よう京ティメット。さっきぶりだな」

 

「うん。さっきぶり」

 

「今日はどうする?」

 

「とりあえず、適当にぶらぶらしながら天誅」

 

「了解」

 

目的もなしに街を練り歩いて目についた奴を天誅するだけ。これが楽しい。京極との他愛ない時間っていうのも楽しいのだが、とにかく勝てるのだ。基本的に仲間なんて作ろうものなら3秒で裏切られる、ソロが前提のこの世界で2人行動っていうのが既に強い。強いから勝てる。勝てるから楽しい。楽しい時間の恋人との共有、なんて素晴らしい時間なんだ。

 

 

「………サンラク、アイツ行こう」

 

「了解。京ティメットは背後から。俺は(長屋の上)からな」

 

「わかった」

 

 

早速見つけた今日の獲物第一号を仕留めるため、俺は素早く建物を登り始め、京極は後ろに回り込んで物陰に身を潜める。

 

そして目配せを交わし………

 

 

 

「「天誅!!!!!」」

 

 

「…はぁ!?」

 

 

 

相手に認識されて戦闘態勢に入る頃には既に京極は奴の腹を貫き、俺は首を刎ね飛ばした。数の有利は不意をついたタイミングにこそ最も効果的に発揮されるんだよ!

 

まさに一瞬の出来事。この瞬間がたまらなく気持ちいいんだよな。

 

 

「よし、次行こう!」

 

「おう!」

 

 

ドロップ武器をインベントリにしまい込み、再び街の散策を続ける。楽しい時間はまだ始まったばかりだぜ!!!

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「ふぅ〜〜大漁大漁!!」

 

「本当に絶好調だったね!」

 

「だな!」

 

散歩天誅をすること数時間。一通り狩り終えた俺達はドロップ武器で(インベントリ)も潤って大満足だった。

 

まぁ、この武器たちはたった今全部質屋に流してきたから今はそこまで潤ってもないんだけどな。二人で組んで狩った武器を蓄えこんでると、流石に大人数でのチーミング天誅の標的になりかねないからな。流石の幕末志士でもそれくらいの協調性はある。俺たちを天誅したあとは即殺し合いになるだろうが。そんな訳で戦利品は全て質屋に流さざるを得ないのだ。

 

 

「ふぅ…じゃあ、最後に…」

 

「そうだな…最後に……」

 

 

ピリッとした緊張感。

 

さぁ、いただこうか!メインディッシュ(最後の天誅)……!!

 

 

「「天誅!!!!」」

 

 

例え相手が愛しの彼女であろうと全力で刀を振るう。だってこんなにも全力で楽しそうな京極にこんなにも全力をぶつけられるのは今ぐらいなもんだからな!!!

 

「今日こそ僕の刀の錆にしてくれるッ!!」

 

「そう言って3連敗中の京極先輩!!今日は頑張ってねぇ!!」

 

「ぐぬぅ…」

 

そう煽り合い、刀を交わす。

 

今こそ京極相手に3連勝中であるが、これだけたくさん天誅し合っていれば、京極も俺のテンポやテンションに慣れつつある。更に京極は龍宮院流への理解もあるから富嶽スタイルも下手に切れない。最近は本当に戦いづらくなって来た。

 

「僕だって負けてばっかじゃいられないからね!!」

 

「ほぅ??じゃあ、策でもあるのか??」

 

「とっておきが……あるよっ!!」

 

刀を払って蹴りで牽制。俺や京極のような銃を使わない近接専門の幕末志士が相手なら、大事なのは間合い管理とタイミング。この2つに気を払っていれば不意打ちは喰らわない。

 

そしてもう一つ思い出してみろ。

 

お前が俺の相手に慣れ始めてるってことは、俺もお前の考えがだいぶ分かるようになってきたことだよ!!

 

 

「はぁっ!!」

 

 

よっしゃ!予想的中!この間合いなら正面から突っ込んでくると思ってたぜ!!

 

「……ふふ」

 

「どうした?余裕そうだな」

 

鍔迫り合いのさなか京極が意味有りげに微笑む。

 

「言ったろ?()()()()()があるって!」

 

鍔迫り合いに更に力が込められる。どちらかが引けばそのまま体制を崩してしまう。そんな力の拮抗。

 

……京極の両手は?

 

……刀でふさがっている。

 

……じゃあ足は?

 

……踏ん張るのでいっぱいになってる。

 

 

……じゃあこの余裕は、()()()()()ってなんだ?

 

 

 

「ねぇ…サンラク」

 

 

 

お互い前のめりに力を加えあって気がつけば目の前まで近づいていた京極の顔。普段(リアル)じゃ見れない自信、いたずら心、そして心底楽しそうな感情豊かな顔その口から小さなささやき声が漏れる。

 

 

「なんだ?とっておきとやらを早く見s………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちゅっ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……はぇ??

 

気がついたら京極の刀が俺を貫き、俺は倒れ伏していた。

 

 

 

 

「ははは!!!油断したなサンラク!!!あれだけ大口叩いておきにゃがら無様だなぁ!!!」

 

 

 

 

何が起こったかかわからないまま声のする方に目を向けると、赤面した京極の渾身のドヤ顔がそこにあった。

 

 

……なるほど、それはしてやられた。

 

 

しょうがねぇ。それには勝てない。俺の負けだよ。

 

 

……だけど。

 

 

 

「最後噛まなければ、あと、その決め顔が赤面じゃなかったら、締まってたのになぁ…」

 

 

「んなっ……うるさい!!!」

 

 

俺の意識は、闇に落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

「………」

 

 

 

リスポン直後の長屋。京極の()()()()()で茹だった頭を冷やして部屋から一歩出たすぐそこで、俺と京極は何故か顔を合わせていた。……若干の気まずさと共に。

 

天誅された俺が長屋から出てくるのは分かる。でもなんでコイツまでいまリスポン部屋から出てきた??

 

………ってまさか!!!

 

 

「お前あの直後余韻天誅されたな!?」

 

「……うっ!!」

 

 

あ!図星って顔だこれ!!

 

「ていうか待て!じゃあ余韻天誅狙いで潜んでたやつにお前の()()()()()見られてたってことかよ!?」

 

「〜〜〜ッ!!!」

 

京極の顔が一瞬で真っ赤に染まった。俺せっかく冷やした頭がまた沸騰し始めたかのように熱い。

 

……人の目のあるところであれをしたとなると流石に恥ずかしいものが!!

 

 

「あ〜〜〜もう!!!天誅!!!天誅!!!!」

 

「うわっ!危ねっ!」

 

「天誅!!天誅〜!!君を殺して僕も死ぬんだぁ〜!!!」

 

「いやそれまたリスポンして同じ状況になるだけだから!!!」

 

「うるさい!!!!天誅ぅ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、今までにない空気を醸し出してた俺達のことがやけに噂になったとかならなかったとか。弁解しようとしてテンパった挙げ句、初めて学校でポンコツな一面を見せた京極がいたとかいなかったとか。そんな事があったそうだ。




京極誕の時に書きたいと言ってたネタですね。断念したやつ。覚えてる人いたかな。

やっぱり個人的に思いついたシチュの中でもすごい好きな奴だったので結局書いてしまいました。

感想お待ちしています!!!



……やっぱりサンラクさんくそむずかったですわ。


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成長と、変遷と、その余韻の中で

ルスモル誕おめでとうございました!!!
というわけで、二人の新たな一年が、二人の歩むこれからの未来が、輝かしいものであることを願って。


一昨日、夏蓮が誕生日を迎えた。

 

昨日、僕が誕生日を迎えた。

 

そして今日、少し大人になった僕たちはこれから始まる一年に思いを馳せ、いつもとは違う、薄れゆくお祝いムード余韻を楽しみながら、いつも通りにネフホロをプレイした。

 

 

そしてもう少しで今日が終わり、また一日日付が進む。

 

 

 

コンコンと。部屋の窓が音をたてる。

 

「どうしたの?」

 

窓を開ければ向かいの家の窓が空いていて、そこに顔を出していたのは、予想通りさっきまで仮想世界で顔を合わせていた僕の幼馴染。

 

「お菓子。お裾分け。ちょっと高いやつ」

 

「ありがと。じゃあ、夏蓮にはこれ、お返し」

 

家族で祝う誕生日、そのお菓子の余りを二人で分けて、二人の誕生日が終わってから纏めてもう一度祝う。数年前から続けている二人だけのささやかな誕生日パーティー。

 

 

「おめでとう、夏蓮」

 

「ありがと。葉も、おめでとう」

 

「ありがとう」

 

 

別の家だけど隣の部屋。そんな異様なようでもう慣れきった二人の空間。今までも何かがある度こうして二人の時間を過ごしてきた。

 

 

…カリッ。

 

 

二人の菓子を齧る音が響く。

 

そんな音に耳を預けながら、二人の誕生日のお祝いムードの、その翌日の余韻に浸る。

 

大した会話もまだしてないけれど、そんな空気がどこか居心地よくて。

 

「……ふふっ」

 

「…葉?」

 

「あぁ、いや、なんでも」

 

「そう?」

 

一度笑みが溢れれば、もう口角は下がってくれない。

 

この窓越しに首を傾げている少女との思い出に、未来に、思いを馳せるだけでこんなにも清々しい気持ちになれるのだから。

 

 

 

実は僕は、二人の誕生日の終わった今日が密かにお気に入りだったりする。

 

夏蓮の誕生日を全力で祝った一昨日。僕の誕生日を祝ってもらった昨日。そして、また一年間頑張ろうと二人で前を向く今日。

 

去年も同じように前向きな気持ちで始めた一年間。色々あったけど、どれも楽しいことばかりで、今年はどんな面白いことが待っているのだろうかと胸が踊る。

 

特に今年は、シャンフロに復帰して、新たな出合い(旅狼のみんなとの出合い)を経て、きっといろんな事件が起きるだろう。今から楽しみだ。

 

…そして何より、来る。ネフホロ2が。

 

僕と夏蓮の青春の詰まったネフィリムホロウの世界。これが新天地を迎えるのだ。何が起こるかはわからない。どんな戦いが待ってるかもわからない。そんな新しい世界を、僕と夏蓮(緋翼連理)で切り拓くんだ。楽しくないわけがない。

 

 

「…葉」

 

「なに?」

 

「ネフホロ2、成功すると思う?」

 

「そりゃするだろうね」

 

話題に上がるのはやっぱりネフホロだ。夏蓮は相変わらずいつでもネフホロの事が頭にある。まぁ、僕が言えたことじゃないけど。

 

「なんて言ったってシャンフロシステム搭載だからね。きっと1より売れるし、活気づく。ネフホロの世界にのめり込む人がもっとずっと増えるんだ」

 

「うん。そして、来る。まだ見ぬ強敵が」

 

「来るだろうね。でも、負けないんでしょう?」

 

「当然……!!」

 

夏蓮の瞳の奥で輝く闘志。

 

頭の中に思い浮かべてるのは新しい世界の新しいシステムを使った新世代の戦闘。その中で圧倒的な存在感を放つ真紅の翼。そのコックピットにはルスト(夏蓮)が座っていて、モルド()がナビゲートをしている。

 

 

僕たちは飛べるんだ。どんな世界でも。二人なら。

 

 

「全員…返り討ちにしてあげる」

 

ガリっと奥歯で最後のクッキーを噛み砕いた音が響いてきた。

 

気が付けば少しずつ食べ進めていたお菓子の袋がもう空で、時計の針も想像よりずっと進んでいた。

 

 

…そう。進むんだ。時間も、世界も。

 

 

そしたら、僕たちの関係はどう進む?

 

 

今の僕たちは、ただの…というには少し仲が良すぎる気もするけど、ただの幼馴染で。ネフホロの世界では唯一にして絶対の頂点、緋翼連理(ルストとモルド)なんて呼ばれているけれど、電脳世界での最愛のパートナーもひとたび現実に出てきて言葉にしてしまえばただの友人でしかない。

 

そんな関係でずっとやってきた。

 

この二人がまた一つ歳を重ねた今日という日は、僕たちがまた一歩進む日なんじゃないか?

 

去年も確か同じことを考えた気がする。でも、今の夏蓮との関係がどうしても心地よくて、()()()へと進む勇気が出なかった。だからこそ、今年こそは……!!

 

 

「……何難しい顔してるの?」

 

「……へ?」

 

 

不意に夏蓮に顔を覗き込まれる。そうだ。僕は、この少女のことが好……

 

 

「…そんな寂しそうな顔しなくても私はどこにも行かないから」

 

「……ふぇっ?」

 

 

寂しそうな顔してた?僕が?

 

「何考えてたか知らないけどさ、どうせ下らないこと考えてたんじゃないの?」

 

「そ…そんなことは」

 

「いや、くだらない。葉のことだもん。どうせ下らない」

 

「ちょっと酷くない!?」

 

「別に酷くない。事実。……だから、そんな不安そうな顔をする必要もない」

 

 

一体僕はどんな顔をしているんだ。

 

 

一旦夏蓮から目を逸らそうとして……するっと伸びてきた夏蓮の手に阻まれた。

 

隣の家の向かいの窓。手を伸ばそうとすれば届く距離。そんな遠いようで間近な距離の夏蓮に顔を正面からのぞき込まれる。

 

 

「私たちが一緒に居て、うまくいかなかったことなんてないでしょ?だから、大丈夫。私がいるから」

 

 

……あぁ、そうだ。

 

 

何を焦っていたんだろう。夏蓮はもうこんなにも近くにいるじゃないか。

 

僕の顔を捉える夏蓮の手に自分の手を添え、その温もりを噛みしめる。

 

 

「……夏蓮、少し手が大きくなった?」

 

「そう言う葉はもう全部が大きくなった。昔は私と大差ない大きさだったのに」

 

「…それいつの話?」

 

「むかし」

 

「むかしかぁ…」

 

「器の大きさはまだ私の方が大きいから」

 

「そうなの?」

 

「そう。だからもっと精進して」

 

 

夏蓮は本当に大きくなったよ。僕をずっと支えてくれてる。

 

だから、僕ももっと大きくならなきゃ。体の話じゃないよ?どんどん大きな存在になっていく夏蓮をしっかり支えてあげられるように。

 

「うん。もう平気」

 

「…ありがと。夏蓮」

 

「別に。葉がしっかりしてくれないと。私は葉がいないとダメだから。今までも、これからも」

 

「……夏蓮」

 

 

全く、夏蓮にはいつまでも敵わないだろうな。

 

だって、夏蓮がこうして居てくれるだけでさっきまでの焦りや不安が全部吹き飛んでしまった。

 

時が進んで、世界が進んで、そんな新しい環境に僕たちが放り出されても、きっと僕たちは何も進まずにこうやって二人変わらずにいるのだろう。

 

そうだと思う。そうであり続ける覚悟を決める。

 

二人が一つ歳をとって、また一つ未来が近づいてきて。

 

そんなこと僕たちには関係ないと、僕たちの関係性は時間ごときに変えられるものではないのだと、僕のこの夏蓮への気持ちは不変のものであるのだと、確信した。

 

 

僕のこの感情は、恋と呼ぶには遅すぎて、愛と呼ぶには深すぎた。




世界の時が進んで、楽玲がくっついたり結婚したりしても、ポテトちゃんや銀金ちゃんが鰹とくっついたりすることがあったとしても、そんな変化が彼らの周りを包んでいたとしても、きっとルスモルだけはルスモルでしかなくて、ルスモルのままなんだろうなと。そういう感情のままに書きなぐりました。

感想お待ちしています!!!


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貴方の隣に立ちたくて

はぁァァァぁ↑↑↑↑エキス決まってきたぁァァァ!!!!!

というわけで、マガシャン単行本1巻発売おめでとうございます。
お祝いの記念二次………の体をした推し語りです。

楽郎プロゲーマー√での大会優勝プロポーズシチュ大好きなんですけど、鰹ver、あってもよくない??の思いで書き上げたポテトちゃんです。お納めください。


響き渡る大歓声。

 

会場を包む熱気。

 

ここはe-sports総合世界大会VR格闘ゲーム部門GH:Cの部団体戦。その決勝戦の舞台。(夏目恵)は決勝戦の出場チームの一角である電脳大隊(サイバーバタリオン)の一員としてこの場に立っていた。

 

対戦相手は優勝候補筆頭、シルヴィア・ゴールドバーグを擁するスターレイン。2年前のGGCでケイがシルヴィアに負け星を付けて以来、シルヴィアは現在まで再び無敗記録を継続中。今回も優勝は固いと見られている。

 

……というのも、顔隠し(ノーフェイス)のプロデビュー以来何かと企画で顔隠し(ノーフェイス)と戦わされたシルヴィアが顔隠し(ノーフェイス)考案の戦闘スタイルである富岳スタイルとやらを見様見真似で会得して以来、持ち合わせの戦闘センスや中国拳法をはじめ多くの戦闘スタイルの組み合わせが誰にも止められなくなってしまったのだ。

 

 

 

「ふぃ~~。相変わらず化け物だなアイツ」

 

 

 

今となってはウチ(電脳大隊)の正式メンバーとなった我がチームの中堅顔隠し(ノーフェイス)が敵大将シルヴィアに打ち負かされた。

 

ちなみに私は先鋒で出場し、ルーカスを破り、アレックスに敗れた。我がチームも残されたのは大将魚臣慧ただ一人。これから大将戦が始まる。

 

 

「んじゃ、あとは任せたぞ大将(カッツォ)

 

「うん。任せて」

 

「なんだ?やけに自信有りげだな?」

 

「僕もそろそろ覚悟を決めなきゃいけなくなった。それだけだよ。いつまでも負けたまんまじゃいられない」

 

「……そうかい。頑張れよ」

 

「……おう」

 

 

今日のケイは少し雰囲気が違う。最近はずっとこの調子だ。頂点(全米一)を目の前にしてどこか腹をくくったような表情のケイはどこか()()()、私の知らない所に行ってしまうような気配がしている。

 

 

「ケイ……」

 

「ん?どうしたの?メグ」

 

「その……頑張ってね!」

 

「……!!……うん。任せて」

 

 

でも、そんな並々ならぬ気合を纏ったケイに言葉をかければ、心の底からの笑みを浮かべてくれる。そうすると、自然ケイなら大丈夫って思えてきて。私まで勇気づけられるんだ。

 

大丈夫。私たちの大将は負けない。

 

決戦の地(対戦場)へと向かう慧の顔はいつの間にか先ほどまでの怖い村井の覚悟に満ち溢れたものに戻っていた。その気迫はあまりにも異様で、ケイきっとこの勝負をただの一大会の決勝だなんて思っていない。世界一の称号をも超える何かを背負っている。そんな気がする。

 

その正体は私にはわからないけれど、そんな()()のケイを見てれば分かる。

 

 

ケイは、負けない。

 

 

『世界一』のタイトルを賭けた最終戦。 チームの大将(私のヒーロー)が舞台へと上がった。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

勝負の間の事はあまり覚えていない。

 

 

ただただ興奮して、白熱して、熱狂した。

 

画面に映るケイの姿は、天翔る流星に貪欲に拳を振りかぶった男の姿は、私の心を鷲掴みにして離さない。

 

 

叫んだ。想い人の名を。

 

叫んだ。声が枯れるまで。

 

 

この声が届いたのかはわからないけれど。

 

ただ、今は目の前に表示された文字列を網膜に焼き付けるのに必死だった。

 

 

 

 

 

 

『勝者:魚臣慧』

 

 

『優勝:電脳大隊』

 

 

 

 

 

「ッ…〜〜〜〜!!!!!」

 

 

勝った!!勝った!!ケイが勝ったんだ!!!

 

自分の所属チームの優勝という快挙への喜びも当然ある。だけど、魚臣慧がシルヴィアゴールドバーグを打倒したという、ただそれだけの事実がどこまでも嬉しい。打倒シルヴィアを掲げて努力してきた彼を知っているから。彼の歩いた険しい道のりをすぐ側で見てきたから。彼の勝利がまるで自分のことのように、いや、自分のこと以上に嬉しい。

 

 

「魚臣選手!!コメントをお願いします!!」

 

 

興奮を隠せていない司会役のタレントがケイに駆け寄る。

 

筐体から出てきたケイは少し困ったような笑顔を浮かべていた。

 

会場はケイの一言一句を聞き逃すまいと興奮を噛み締めながらも静まり返っている。

 

「………!!!」

 

スポットライトが今日の主役に当たる。

 

この瞬間を夢見て私もケイも日々努力してきたんだ。その追い求めてきた光景に、思わず涙が溢れる。

 

夢の叶った憧れの景色が、涙で滲んでいく。

 

 

「えー、そうですね……なんとか勝つことができました。相手はあのシルヴィアゴールドバーグ。この世に並ぶ者がいないほどの強敵です。無事勝つことができてホッとしています。()()()()()()()()()()()()()()()()()もあったので」

 

「どうしても勝たなければいけない理由……ですか?」

 

「はい。それをお話するために、まずは一人の仲間を紹介させてください」

 

 

ふと、目があった。ステージ上のケイと。

 

 

「メグ、こっち来て」

 

「…………へ?」

 

いきなり顔隠しに背中を押される。そのままバランスを崩して、ケイに抱きとめられてしまった。

 

「あぁもうなんて顔してるの。せっかく勝ったんだから、涙拭いて」

 

「……ごめっ……でも……」

 

そのままケイが至近距離から私の頬の涙をぬぐった。

 

涙でよく見えていなかった慧の顔がよく見える。

 

「紹介します。皆さんご存じ、僕のチームメイトの夏目選手です」

 

「えっ、待って、何?」

 

「今日は彼女のおかげで勝つことができました。彼女が居なかったら勝つことはなかったでしょう」

 

いや、今日勝てたのはケイが頑張ったからであって私のおかげなんかじゃ……

 

「シルヴィアのデータをずっと二人で研究しながら日夜意見を交わしてきました。シルヴィア戦を想定したいろんな難しい練習をずっと隣で応援してくれていました。僕が今日まで努力を積んでこられたのは彼女のおかげなんです」

 

「ちが、ケイは……」

 

「違わないよ。改めて、ありがとう、メグ」

 

「ッ!!!」

 

そういったケイの笑顔は、試合前に私に見せてくれた笑顔と同じだった。心の底から出てくるような『ありがとう』に、再び私の胸の奥が沸き立ち始める。

 

 

「メグを急に壇上に呼んだのは、どうしてもメグに伝えたいことがあったからなんだ」

 

「??」

 

「今日勝ったら言おうって決めてた大事なことなんだ。聞いてくれる?」

 

「…も、もちろん」

 

 

いや、いいのだけれど。別にいいのだけれど。どうしてこの状況で?

 

ほら、観客のみんなもケイの言葉を待ってるんだから……

 

 

「メグ、さっきも言ったけど僕がここまでこれたのはメグがいてくれたおかげなんだ」

 

「こうやって世界一の座について、きっと僕はこれまで以上に努力を積まなければならないと思う」

 

「きっと僕一人では心が折れてしまう。だから、君に傍にいてほしい」

 

「チームの仲間としてももちろん、それ以上の意味でも」

 

 

 

「メグ、ずっと僕のそばにいてくれ!僕と、け…結婚を前提に……付き合ってほしい!!」

 

 

 

 

ワァーーッ!!!!っと沸き上がる会場の歓声なんて全く耳に入らず、ひたすらケイの言葉を反芻する。

 

 

ずっと……そばに……結婚……付き合って……

 

 

…………結婚!?!?!?

 

 

「ぇ……ぁ……」

 

「急にこんなこと言うのは悪いとおも思ったけど、今日言えなきゃずっと言えない気がしたから。……メグ、嫌だったかな?」

 

必死に頭の中を整理する。つまりケイは私のことが好きで、私はずっとケイのことを想っていて、私はケイにいまプロポーズされていて。

 

 

「嫌なわけ……ないじゃないッ……!!」

 

 

頭の整理なんてするまでもなく、口は勝手に動いた。

 

当然だ。それは私がずっと願ってたことなのだから。ケイを少しでもゲームに集中させてあげたくてずっと胸に秘めていた私の、それでもおあふれ出る想いに自分が耐えられなくてずっとケイのそばをついてまわっていた私の、憧れの言葉だったのだから。

 

 

「メグ!!!!」

 

 

ケイにいきなり抱き寄せられた。

 

はちきれんばかりに会場を揺らす歓声をかき消すほどのケイの心臓の音が聞こえてくる。

 

私を包む温もりは私の憧れた腕の中で。

 

気がつけば私はまた涙を流していた。

 

 

「ありがとうメグっ!!」

 

「ケイ……!!ケイ……!!!」

 

 

涙に濡れた顔をケイの胸に埋めて思い切りケイを抱きしめ返す。腕いっぱいにケイの体を実感して、全身が多幸感に包まれる。

 

 

「ありがとう、メグ。……まさかあんなに即決で答えてくれるなんて思わなかったや」

 

「当たり前じゃない!……今まで私が、どれだけ……」

 

「え!?じゃあメグって前からもしかして……」

 

「す…好きだったわよずっと!…………って言わせないでよ!!!」

 

 

頬が熱い。きっと既に泣き腫らした顔が更に赤くなっているのだろう。

 

私だけ恥ずかしい事を言わされた気がして抗議の視線を送ると、思ったよりもケイの顔がずっと近くにあってまた少し照れてしまった。

 

それがどうしても悔しくて。

 

 

 

 

 

 

「…………んっ」

 

「……ん…………ッ〜〜〜!!!!」

 

 

 

 

 

 

目を開けて顔を離すと、そこにはさっきまでとはうってかわって顔中を真っ赤に染めてうろたえるケイの姿。

 

 

ふふ……ふふふふ……してやったり!!

 

 

 

「……メグ!!急に……!!」

 

「……いいじゃない。結婚、するんでしょ?」

 

「〜〜〜〜!!!!!!」

 

 

 

顔を真っ赤にして慌てふためきながらも嬉しそうなその顔がどこまでも愛しくて、私はもう一度その唇に顔を寄せた。




ポテトちゃん×鰹本当に好きなんです……

感想お待ちしています!!



シャンフロコミック一巻発売めでたい!!!!めでたい!!!!めでたい!!!!

みんな買おうな!!!!!


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ハロウィンという名の恋人たちの宴 SideA

簡単に今回のユニバースの設定を説明しますと、まず、楽郎と永遠が付き合ってます。そして、紅音と瑠美が付き合ってます。そんな2カップルのハロウィンのお話。

このお話は楽郎&永遠Side。紅音&瑠美Sideは次の話で投稿してます。一つページをめくると一つ部屋の壁を超える。そんなお話です。


「ちょっとお兄ちゃん早く起きて!!!」

 

気持ちのいい土曜日の朝……はとっくに過ぎていてもう昼過ぎ……に始めた昼寝からたった今目覚めてもう夕方。やっべぇ、一日をほぼ寝て過ごしてしまった。

 

「……今起きる」

 

「ねぇ、お兄ちゃん今日の予定わかってる?」

 

今日?えっと、今日は……

 

「これから紅音と永遠様が遊びに来てくれるんだよ!!やけに静かだからゲームでもしてるのかと思ってたら何も準備せずに寝てるし!!……このまんま永遠様を迎えるなんて許さないよ」

 

俺と永遠が付き合いだしてもう数か月。さらに瑠美が学校の同級生である隠岐紅音と女同士でのお付き合いを始め、瑠美の新しい恋人こと紅音がまさかの秋津茜だと発覚してからたまに2人で我が家に遊びに来るようになった。

 

最初はそりゃもう驚いたよ。瑠美が唐突に恋人連れてきたら見た目が秋津茜のアバターそのまんまだったのだから。紅音が遊びに来た日にふと思いついて永遠を家に呼んでみればもうびっくり。驚きをを隠せなかった紅音から順に怒涛のリアルバレラッシュが始まり、今ではもう完全に打ち解けてしまったのだ。

 

 

「……あいつら何時に来るって言ってたっけ」

 

「30分後だけど」

 

……携帯に目をやる。

 

「瑠美、紅音から何か連絡来たか?」

 

「……??いや、何も来てないけど。確かに紅音から何もメッセージがないのは珍しいかも?」

 

……まさか。

 

 

ぴんぽーん。

 

 

唐突に鳴り響くチャイム。その時俺の頭の中に浮かんだのは、まるでいたずらが成功したときの子供のような笑顔で笑う外道(俺の彼女)の顔と、その後ろで何故かしてやったり顔をしている紅音(瑠美の彼女)の顔だった。

 

 

「……おにいちゃん?」

 

「……5分稼いで」

 

「……3分」

 

「……わかった」

 

「すぐに準備終わらせて、着替えて、部屋もかたづけて」

 

「了解」

 

 

……世の彼氏たちはこんな()()()()()()()()()()()をも笑って許すのだろうか。

 

だがしかし、俺は。

 

「今日こそは言ってやる。ビシッと」

 

 

……まぁその前にまずは永遠を迎え入れる準備をしなければ。こんなとっちらかった部屋に招くようじゃ彼氏の威厳なんてないも同然だからな。

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

「あれぇ?どうしたの楽郎くん。ひょっとしておねーさんの色気に声も出なくなっちゃったのかな?」

 

 

急いで最低限の準備を整えて玄関へと辿り着いた俺を待ち構えて居たのは、普段着とはまるで違うハロウィンの衣装に見を包んだ永遠と紅音。

 

そのマントに隠された衣装が妙に際どくて、それでいてちゃんと違和感なく似合っていて、うまい反応を探して必死に頭を回すが、何も返すことができない。

 

流石はトップモデル天音永遠。自分を活かす衣装を完全に理解してる。すげぇかわいい。

 

 

「……ほんとに言葉を失ってるって顔だね!これぞサプライズ!いい刺激になったでしょ?」

 

「……まぁな」

 

「ふふん!」

 

俺の不貞腐れたかのような声を聞いて永遠は満足げに鼻を鳴らした。

 

 

「おにーさんおにーさん、私はどうです?」

 

 

紅音の衣装も永遠程ではないがある程度攻めたデザイン。大事な妹分に着せる衣装としては若干不安になる露出だが、意外と気にならない。紅音の快活な雰囲気が全面に出ていてとても良く似合っている。

 

「いいんじゃないか?」

 

「えへへ、ありがとうございます!」

 

俺に褒められてこちらも満足げ。ご機嫌そうにマントをはためかせている。

 

「……お兄ちゃん、紅音を口説こうとするのやめてくれる?」

 

「……楽郎くん、イエローカードだよ」

 

「だからちげぇっつの!……とりあえず二人とも家上がんな。いつまでも玄関にいてもしょうがないだろ」

 

「うん。そうさせてもらおうかな。じゃ、紅音ちゃんと瑠美ちゃんもグッドラック!君らのお兄ちゃん借りてくよ!」

 

「はい!永遠様も頑張ってください!」

 

「よし、部屋行くよ楽郎くん!」

 

「わかった」

 

 

もう慣れたと言わんばかりの足取りで我が家の廊下を歩く永遠。向かう先は俺の部屋だ。

 

その後ろ姿が我が家にやけに違和感なく馴染んでるのが、どこか嬉しく感じた。

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ、意外と片付いてる」

 

「急いで片付けたからな」

 

「楽郎くん、瑠美ちゃんに時間稼がせてたね?」

 

「永遠が予定の時間より早く来るからだろ……」

 

「でも、サプライズにはなったでしょ?」

 

「それはまぁ、そうだが」

 

 

俺の部屋に来た永遠がついさっきまで俺の寝てたベッドに腰を下ろす。その衣装のせいかどこかいつもと印象が違って見えて、あぁ、やっぱこいつはトップモデルなんだなって、当たり前のことを考えながらおれも机の椅子に腰を下ろした。

 

「楽郎くんはさっきから全然リアクションくれないけど、こういう衣装は好みじゃなかった?」

 

「好みじゃないわけじゃないんだが……反応に困るというか……」

 

「……あっ」

 

永遠が自分の状況をみて固まる。際どい衣装を着て彼氏の部屋に上がり込みベッドに腰かけているこの誘っているともとれる状況。

 

普段うるさいのになぜか今日は瑠美と紅音がおとなしいのも合わさって妙な沈黙が流れる。

 

「……楽郎くん」

 

「なに?」

 

「えっち」

 

「……ッ!!」

 

そう言った永遠の顔はどこか赤みを帯びていて色気に溢れていた。俺の前では子供っぽい一面も見せる永遠だがやっぱりこいつも大人の女性で、流石の俺でも意識せざるをえないというか……

 

「……」

 

勢いで逸らした目をゆっくりと目を覚ますと、そこにいた永遠はしてやったり顔。

 

「いやー、やっぱり楽郎君は本当にいい反応をくれるね!」

 

「うぐっ……そんな煽り方して、俺の理性が固くて良かったな!」

 

「まぁ、そこらへんは楽朗くんを信用してるしね、それに……」

 

 

「私、楽郎くんが相手だったら……」

 

 

若干俯いた上目遣い。自分を見旅行的に見せる方法を十全に承知してる永遠しかできないこの誘い文句。その瞳の奥には俺をまだまだからかってやろうっていう意思があからさまに見て取れるが、やっぱり永遠が少し本気を出せばその破壊力は段違いで。

 

 

「………」

 

 

無言で立ち上がって永遠の方へ歩みを進める。

 

「えっ、ちょっ、楽朗くん?」

 

「……」

 

「楽郎くん、おねぇさんそういうのは勢いで進むのは良くないと思うなぁ……なんて……」

 

「……永遠」

 

 

「ひゃあ!?!?」

 

 

ずざざざっ!!!!どがん!!!!

 

 

「いだっ!!!」

 

俺の突然の行動に思い切り後ずさって後頭部を壁に打ち付けた永遠。うずくまってた顔をあげるとそこには仕返しに成功して笑う俺の顔があった。

 

「いやー、やっぱり永遠は本当にいい反応をくれるな!!」

 

「……楽朗くん、そういうとこ本当にムカつく」

 

「まぁ、性根が腐ってるのはお互いさまってことだな」

 

「ぐぬぬ、否定できない」

 

子供のようなふくれっ面で抗議を送ってくる永遠を笑いながらあしらう。やってる顔だけに言えば年を考えろって突っ込みたくもなるが、これで可愛いから俺の彼女は本当に困る。

 

「とりあえず何かゲームしようぜ。こないだやってたゲームの続きでどうだ?」

 

「えっあの鬼畜ゲー?」

 

「俺ん家にあるゲームなんてクソゲーばっかだからなぁ。アナログゲーならなおさら。虚無ゲーよりは鬼畜ゲーの方がまだ楽しめるだろ?」

 

「まぁ、それはそうだけど」

 

「よっしゃ。じゃあやろうぜ」

 

 

ちょっと大胆なことをしてしまった。

 

……なんてことを永遠から顔を背けてゲーム棚に向かってから考えて少し顔が熱くなる。

 

永遠と付き合い始めてから幾度となくこの手のからかい合いをした。やっぱり、柄にもないことはするもんじゃないなと、毎度のように深く反省した。やっぱり恥ずかしい。

 

 

 

 

 

 

 

「…………すぅ」

 

 

ゲームを始めておよそ二時間。俺が飲み物を取りに部屋から出ていた間に永遠が寝落ちしていた。

 

「やっぱ気ぃ張ってたんかな。よく寝てる」

 

部屋に入ってからずっと陣取ってた俺のベッドでそのまますやすやと寝ている永遠。その寝顔からは完全に力が抜けきっていて、とても心地よさそう。

 

その顔にかかった髪を指ですく。

 

あらわになったその顔を覗き込むと、想い人の整った寝顔が眼前に現れた。

 

こうして気を抜いて俺のベッドで眠る永遠を見ていると、今更ながら『永遠、本当に俺の彼女なんだなぁ…』って思う。付き合ってみて分かったが、普段からいろんな人の目に晒される事もあってか永遠は自分のパーソナルスペースの管理にとても敏感で、こんなに誰かに自分の懐を許したところは見たことがない。付き合い始める前からそこそこ距離感の近い俺達だったが、寝顔を見せるまで気を許されていたかと言われれば絶対にそんなことはなかった。

 

 

 

「永遠……好きだ……」

 

 

 

ポロっと口からこぼれた本音。普段こんな事を本人に言おうものなら一週間は煽り倒されそうなのでなかなか言うに言えない大切な言葉。

 

あぁ、やっぱりまだ面と向かって言うには恥ずかしいな。

 

永遠が寝てくれていて良かった。恥ずかしさから一度そらした視線をもとに戻すと、寝ている()()()永遠と目が……あっ…………た………………

 

 

 

「「ッ〜〜〜〜!?!?!?」」

 

 

 

二人して後ろに飛びのいて、俺は床に、永遠は壁にそれぞれ体を打ち付ける。壁に後頭部から突っ込む永遠には既視感があるが、正直それどころじゃない。

 

 

「と…永遠!?いつから起きて……!!」

 

「楽郎くんこそなんでッ……こんな!?!?」

 

「ま…まさかさっきのも全部寝たふりで…」

 

「違いますぅ!!ちゃんと寝落ちしてましたぁ!!それなのに起きたらいきなり楽郎くんが変なこと言ってるし!!」

 

「へ……変じゃねぇだろ!だって俺ら……」

 

「ぁぅ……」

 

二人で顔を赤くして取り繕うこともできずに喚き散らす。

 

 

「…………ねぇ楽郎くん、もう一回言ってよ」

 

 

「んなっ!?」

 

「ちゃんと起きてる私に、面と向かって」

 

「俺だって恥ずかしいんだぞ……」

 

「しってる」

 

そう言って笑った永遠の顔は、モデル業で見せるのとは違う力の抜けたその笑顔は、あまりに魅力的すぎて、()()()()を引き出すには十分すぎた。

 

 

 

「……好きだ」

 

 

「…………」

 

 

 

もっと俺が渋ると思ったのか、いきなり好きだと言われるのはどうも意外だったらしい。永遠は一瞬鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をして、再びその顔を紅に染めた。

 

 

 

「ッ〜〜!!!だから不意打ちは卑怯っていったじゃん!!!」

 

 

 

永遠の叫び声が響いた。

 

でも、悪いな。ちょっとやそっと恥ずかしいくらいじゃ漏れ出る本音を抑えきれないくらい俺はお前のことが大好きなんだ。




永遠に一番似合う表情はきっと赤面だし、策略家の永遠の想像を超えてくるからこそその不意打ちからの照れはとても美味しい。

それでは次は瑠美&紅音Sideです。

楽郎を「お兄さん!」って呼ぶ義妹紅音概念から始まった世界線なのに楽郎と紅音の絡みがほぼなかった…………まいっか!!


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ハロウィンという名の恋人たちの宴 SideB

注意!今回の話は同時投稿された前話のSideAとセットとなっています!先にこっちのページに来た人はとりあえず前話を読んでいただけるとありがたいです。

それでは瑠美&紅音Side、行ってみましょう!


「「トリック・オア・トリート!!!」」

 

 

鳴り響いたチャイム。

 

部屋で寝ぼけてたアホ(お兄ちゃん)をおいて玄関の戸を開けるとそこに待ち構えて居たのは近所の小学生よりもガッツリ仮装した美少女の二人組だった。

 

「ぅぁっ!!!」

 

一人は露出多めの衣装をマントで隠した私の憧れの人(永遠様)。マントから覗く細部の装飾に流行の最先端を取り入れたコスチュームは、露出度こそ高けれど淫猥さを感じさせない絶妙なバランスのコーディネート。……っていうかこれ永遠様のオリジナル衣装なのでは?こんな衣装永遠様以外着こなせないだろうし、そもそも私見たことない!え、本当にこれ私が見ちゃっていいやつ……??尊い……というか貴い……

 

もう一人はこちらも露出のある衣装にマントという永遠様と一見おそろいにも見える衣装を身にまとった最近できた私の恋人(紅音)。紅音の衣装は永遠様と似たものをベースに、より派手で大きな明るめの装飾をふんだんに使っているので紅音の明朗快活な雰囲気ともすごいマッチしてる。きっと永遠様のセレクトだろう。紅音の素材を完璧に活かしきっている。

 

 

「瑠美ちゃん!!」

 

「ぅわっぷ」

 

 

目が合うなり紅音が抱きついてくる。……もぅ、しょうがないなぁこの子は。

 

「ねぇ見て!かわいい?」

 

「うん。本当にかわいい!」

 

「やった!……えへへ」

 

別に犬の仮装をしてるわけじゃないけど、紅音がお尻のあたりで尻尾をブンブン降ってるような幻覚が見えてきた。かわいい。

 

「あれ、瑠美ちゃん、楽郎くんのお出迎えはないの?」

 

ギクッ!って擬音が体内のどこかから聞こえてきた気がした。あのクソ兄貴、永遠様がせっかく来てくださったのに準備遅れるなんてほんと万死に値するよ……

 

「あー、あのバカはもうちょっと待てば来ると思うんですけど……」

 

「あぁ、もしかして寝てた?」

 

「え゛、わかるんですか?」

 

「まぁ、昨日夜遅くまでゲームにつき合わせてたのは私だからね」

 

ここで意外な情報が出てくる。てことは、もしかして永遠様も睡眠不足だったりするのかな。二人分のこんな衣装を用意しなきゃいけなかったし、前日に遅くまでゲームしてたらあまり寝れてないんじゃ……それをこんな頑張ってくれているのにお兄ちゃんときたら……ほんと馬鹿!!

 

「すみません永遠様……あのゴミクズが……」

 

「ダメだよ瑠美ちゃん、仮にも自分のお兄ちゃんをゴミクズなんて言っちゃ。一応、あれでも私の認める素敵な人なんだからね?……あ、私が今言ったことは楽郎くんには内緒ね?」

 

うぅぅ……お兄ちゃんこんなに想われてるなんて幸せ者め!

 

なんて複雑な心境を整理していると、ちょうど話題の中のお兄ちゃんがようやく部屋から出てきた。永遠様が私にウィンクを一つ。きっと、さっきのお兄ちゃんは内緒ってやつの念押しだろう。うぅ……美し……

 

 

「……」

 

……お兄ちゃん、やっと出てきたと思ったら何口明けて黙りこくってんの?まず謝れよ。今すぐに永遠様にひれ伏せ。

 

「あれぇ?どうしたの楽郎くん。ひょっとしておねーさんの色気に声も出なくなっちゃったのかな?」

 

まぁ、この気合の入った永遠様を見れば言葉を失う美しさというのもわからなくはないので一応許す……はぁ、眼福。

 

「……ほんとに言葉を失ってるって顔だね!これぞサプライズ!いい刺激になったでしょ?」

 

「……まぁな」

 

「ふふん!」

 

「おにーさんおにーさん、私はどうです?」

 

さっきまでぶんぶん振っていた尻尾を何かに反応したレーダーのようにピンッとたたせて(幻覚)、お兄ちゃんに衣装の感想を求める紅音。さっきまで胸に抱えていた紅音の温もりが離れるのが若干名残惜しいが、お兄ちゃんの登場に紅音も楽しそうなのでまぁ良しとしよう。

 

「いいんじゃないか?」

 

「えへへ、ありがとうございます!」

 

だけどお兄ちゃん?紅音が何故か心を開いてるからってなんで私の紅音とそんなに気安い空気を出してるの?

 

「……お兄ちゃん、紅音を口説こうとするのやめてくれる?」

 

「……楽郎くん、イエローカードだよ」

 

「だからちげぇっつの!……とりあえず二人とも家上がんな。いつまでも玄関にいてもしょうがないだろ」

 

「うん。そうさせてもらおうかな。じゃ、紅音ちゃんと瑠美ちゃんもグッドラック!君らのお兄ちゃん借りてくよ!」

 

「はい!永遠様も頑張ってください!」

 

「よし、部屋行くよ楽郎くん!」

 

「わかった」

 

永遠様がお兄ちゃんを回収して部屋に消えていく。永遠様のあのオリジナル衣装を同じ部屋で堪能できるのは羨ましい限りだが、私には……

 

 

「じゃ、私達も行こっか」

 

「うん!!」

 

 

私には、紅音がいるからいいもんね。

 

この永遠様プロデュースの最高に可愛い紅音を堪能できるのは、私だけ(恋人特権)なんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅぁあ〜〜〜。ん〜〜〜!!瑠美ちゃんの匂い!!」

 

私の部屋に入るなりベッドに紅音がベッドにダイブした。……私の匂いってなに?やめて恥ずかしい。

 

「んなぁ〜〜…………んっ」

 

ごろごろとベッドの上を転がりまわる紅音の体には当然マントが巻き付く。邪魔そうだなぁ……って思ってたらやっぱり紅音がマントを脱ぎだしたのだけれど。

 

「……えっ」

 

紅音がマントを脱いで放り出すと現れたのは、ちょっと過激なキャミかってくらい開けた背中。前も胸より上にほぼ布地がなく、紅音の実は大きな胸が嫌でも目に飛び込んでくる。

 

いや、いいんだよ全然!女の子同士ならちょっと薄い格好なんて夏場じゃあるあるだし!

 

……でも、(恋人)にそこまでの肌を見せるとなると、()()()()()()()が発生しうるわけで。

 

「……瑠美ちゃん?」

 

まぁ私は自制のできる子ですから。全く問題ないのだけれど。紅音にそんなつもりがないことも分かってるしね?

 

でもやっぱりきれいだなぁ紅音の肌。毎日必死に手入れしてる私に全く引けを取らない。なんていうか、健康的な肌色。やっぱり運動習慣なのかな……

 

「……ねぇ、瑠美ちゃん……??」

 

ていうかその胸だよ紅音。ひょっとして永遠様と同じくらいあるんじゃないの?しかもこの服だと余計に強調されてるし……

 

あっ、まさか永遠様!私にこれを見せるのを狙ってこの衣装を!?うくぅ……どちらにしてもこの格好の紅音はちょっと刺激が……

 

「瑠美ちゃん!!」

 

「っ!……なに?」

 

いけない、ちょっと没入してしまった。

 

「すごいじっと見てるけど……なにかおかしいかな?」

 

「おかしくないよ。すっごいかわいい」

 

「へぅぁっ!!」

 

「んでめっちゃエロい」

 

「瑠美ちゃん!?!?」

 

かぁぁって顔を朱に染める紅音。……やば、変なこと口走った。でもこう恥ずかしがる紅音の姿は普段勢いもなくて「いつもとは違う」雰囲気がさらに漂い始める。

 

 

「「…………」」

 

 

二人で目を合わせたり、逸らしたり。私が変なこと言った手前なんとかフォローしなきゃとは思うけど、正直、それどころじゃない。

 

「ぅぇぇ……」

 

少しずつ、視線が合わなくなってくる。二人の距離はこんなにも近いのに。どうしても目を逸らす力が働いているみたいで。

 

 

……こんな雰囲気、もうわたしどうしていいかわからない!

 

 

 

ドガン!!!!

 

 

 

「「ふぇっ!!」」

 

 

突如として破られた沈黙に二人して肩を跳ねさせた。

 

大きな音を鳴らしたのはただの変哲もない部屋の壁。二人でその音源の壁を見つめる。

 

「ねぇ瑠美ちゃん、この壁の向こうって……」

 

「えっと、お兄ちゃんの部屋」

 

「今すっごい音したよね」

 

「……お兄ちゃん永遠様に何したんだろ」

 

「天音さんいつもかっこいいけど、おにーさんといるとたまにかわいい所見せるもんね!」

 

「あっわかるわかる!!!」

 

気が付けばちょっと気まずいような雰囲気もどこかに消えていて。またすぐに会話も弾んだ。

 

やっぱり紅音との空気はこれくらいの方が落ち着く。

 

「紅音!!」

 

「なに?」

 

「その衣装に合わせたい服とかアクセとか……30個くらい持ってくるからとりあえず全部合わせてみよっか!!!」

 

「えっ!?」

 

 

 

……でも、さっきの雰囲気の紅音も可愛かったな。また今度思い切り恥ずかしがらせてみるのもいいかもね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ふぅ〜……」」

 

 

「堪能した!!!」

 

「楽しかった!!!」

 

そんなこんなで私の私による私のための紅音ファッションショーは終わりを告げた。

 

永遠様の用意した衣装が実は見た目のイメージ以上にシンプルなデザインで、思ったよりもどんなコーディネートできてしまう。だからこそ、2時間もずっといろんな組み合わせを飽きずに試せたわけで。

 

「やっぱり永遠様は凄いね!こんなにも紅音の素材を活かした衣装を作ってなおかつ私が手を入れる余裕をこれだけ残してくれるなんて」

 

思えばマントを脱いだ下があんなにも布が少なかったのもそこを私がコーディネートする前提だったのだろう。

 

「うん!…………でも、瑠美ちゃん」

 

「ん?」

 

 

 

「天音さんがすごいのもわかるけど、瑠美ちゃん(好きな人)がずっと他の人をすごいすごいって言ってると……ちょっと妬けちゃうかも」

 

「ッ!?!?」

 

 

 

「確かに天音さんの用意した服も可愛いけど、私は瑠美ちゃんのコーディネートしてくれた今私が着てる服のほうが好きだなぁ……なんて……」

 

っ~~~~!!!!!

 

そう言って控えめにスカートを持ち上げる紅音の姿が訴えてくる。

 

『今は天音さんじゃなくて私だけのことを考えて』って。

 

紅音が私だけに見せる傲慢な嫉妬心のその感情の一端を垣間見て。

 

そんな紅音がどうしても愛おしかった。

 

「よし、紅音!写真撮ろう!」

 

「あれ?このコーディネートの写真はさっき撮ったよね?」

 

「違う違う!2人で撮るの!ほらほら、こっち入って!」

 

すぐにスマホを内カメラにして紅音を抱き寄せ、そのまま紅音が準備を終える前にシャッターを切った。

 

「えっ!?」

 

そこに映る写真はさっきまで撮りまくっていたモデルの宣材写真のようなものとは程遠い、今この空気をありのままに写した写真。

 

「えへへ……紅音へんなかおー」

 

「だって瑠美ちゃんがいきなり撮っちゃうから……って瑠美ちゃんもカメラ目線してないじゃん!自分でシャッター押したのに!」

 

「ふふ……しってる」

 

 

写真の中の私たちは決してカメラなんて見てはいなかったけど、ちゃんとお互いには目を向けていて。

 

ただそこに私達だけがいたこと。

 

それだけが紡がれていた。




瑠美は永遠に心酔していて、紅音は楽郎に心を開ききっている。
そんなお互いを許容しながらもやっぱりもっと自分だけを見てと嫉妬心独占欲を見せる二人がいたらいいなぁと思いまして。

あとやっぱり紅音の照れは至高。

久々にシャンフロキャラの百合が書けてとても楽しかったですわ!!

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今度こそ、今度こそ。

サ゛ミ゛ー゛ち゛ゃ゛ん゛さ゛ん゛ん゛ん゛!!!!!!!!!!




もし彼女たちが生まれ変わって再び出会うことがあれば、そんな日常を過ごしてほしい。そう思って書きました。

現代転生を果たしたウィンプとサミーちゃんさんの短編です。


いつも、同じ世界を夢に見る。

 

 

夢の中の私は一匹の巨大な蛇。

 

そして隣にはいつも『彼女(・・・・・)』がいる。

 

彼女(・・・・・)』から生まれ落ちて。

 

彼女(・・・・・)』と共に生きて。

 

彼女(・・・・・)』と共に笑って。

 

彼女(・・・・・)』のために散った。

 

 

そんな夢を見るんだ。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「……ちゃん…………サミーちゃん?」

 

 

自分を呼ぶ声に我に返る。

 

視線を声の方に向けると、私の顔のすぐ正面には私の幼馴染の少女の顔。この子は「ウィンプ(弱虫)」というちょっと残念なあだ名を小学生の頃に語感でカッコイイと感じて自ら使いはじめてからやけに気に入って今日まで使い続けているちょっと変わった子だ。

 

ちなみにサミーちゃんっていうのは私の事だ。名前の「兎見(うさみ)」からとってサミーちゃん。自分でも割と気に入っている。

 

「……ごめん、どうした?」

 

「サミーちゃん、ちゃんときいてた?」

 

「うん。聞いてるよ」

 

「うそつけ……」

 

 

教室の窓際隅っこ。私とウィンプの特等席。人の多い時間帯の登下校を嫌う彼女と私がいつもちょっと早めに学校に来てここでおしゃべりをするのが毎日の日課だ。

 

彼女が人目を苦手とするのには理由がある。外国の血の混じった彼女の白髪赤目は周囲からどうしても奇異の目を集めてしまう。私からしたらその純白のツインテールはこの世の何よりも魅力的だが、集める視線がいいものだけではないということを私はずっとこの子の隣で見てきた。

 

 

……そういえば、いつもの『()』にでてくる『彼女(・・・・・)』がウィンプにそっくりな見た目をしていたっけ。

 

 

「……ねぇ、サミーちゃん絶対聞いてないよね」

 

「……あぁ、うん。聞いてる聞いてる」

 

「うそ。絶対に今ぼーっとしてた」

 

「あはは……ごめんごめん」

 

かわいらしいジト目ウィンプの頭を撫でる。するとすぐに凛々しかった表情が蕩けて「うゔうゔうゔ」っていう変なうめき声が漏れ出した。……それどこから声出てるの?

 

 

「はい、お詫びにこれあげるから許して」

 

「あー」

 

「ほい」

 

「んむぐっ!?」

 

カバンから取り出したチョコ菓子を一口ウィンプの口の中に放り込む。しかしチョコ菓子は唇に弾かれて机に落ちた。

 

「ちょ!?サミーちゃん雑!!」

 

「はい、もいっこいくよー」

 

「ちょっと待って!?」

 

「ほい」

 

「ん!?んむぅ~~!!」

 

今度はしっかりとウィンプの口の中に押し込む。どこか不満げな目で訴えてくるが、すぐに口の中のチョコに意識を集中させていた。ウィンプ、これ本当に好きだもんね。

 

口の中のチョコ菓子を必死で味わうウィンプを横目に、私も一粒口に含んだ。うん。美味い。

 

「で、何の話してたんだっけ?」

 

「ふぇふぁふぁふぁふぁふぉふゅふぇふぉふぉふぁっふぇふぁふぁふぃ!」

 

「……全部食べ切ってからでいいよ」

 

「……!!」

 

必死に口の中の菓子を味わいながら胃に流し込む。その表情があまりにも真剣過ぎて笑ってしまいそうだ。

 

 

「だから、今日また()()()を見たって話」

 

 

()()()

 

私もよく見る一人の少女と一匹の蛇の夢物語。

 

私達の誰にも理解してくれないもう一つの共通点。この夢を、ウィンプもよく見るのだ。……まぁ、夢の中で私が蛇なのに対して彼女は少女の方なのだけれども。

 

「……で?今日はどんな内容だったの?」

 

「今日はね、料理してた」

 

「料理?」

 

「そう。あの子(・・・・・・)が野菜を持ってきてくれて、ひたすら私が皮をむくの」

 

「……皮むきだけ?」

 

「皮むきだけ」

 

「なんで?」

 

「わかんない」

 

ちなみに、ウィンプは地味に料理スキルが高い。そんなウィンプが夢の中でひたすら皮むきさせられているのってなかなかに面白いな。

 

「でも、楽しそうじゃん」

 

「うん。楽しかった」

 

この子が見た夢の話を自分の夢の世界に置き換えて想像してみる。蛇の私が『彼女(・・・・・)』にひたすら野菜を運んで、皮をむいてるところを見続ける。うん。やっぱり面白そうだし、楽しい。

 

 

「……でも、やっぱり最後はつらいね」

 

「……また?」

 

「うん」

 

 

さっきまでチョコに目を輝かせていたウィンプの表情が曇る。

 

ウィンプの見る夢のその最後。いつも見るその結末。ウィンプの慕うその()がウィンプを守ろうとどこかに行ってしまい、そのまま帰ってっこなくなってしまう。夢の中のウィンプは「いかないで!!」って叫ぶのだけれどその声は聞き入れてもらえなくて、結局彼女が一人になってしまう。

 

「……何度も見た夢だけど、やっぱりいつまでも慣れない」

 

「それだけ、その子()が好きだったんでしょ」

 

「うん。そうだと思う」

 

そう言って諦めたような笑いを浮かべたウィンプの顔が、夢の中で私がいつも見る別れ際(私の散り際)の『彼女(・・・・・)』の泣き顔にどうしても結びついてしまって。

 

私まで胸が痛くなる。所詮は他人の見た悪夢の話。だけどどうしても私は自分のことのように感じてしまえて。この子を、『彼女(・・・・・)』を、こんな顔にさせてしまった夢の中の()に怒りすら湧いてくる。

 

 

「……ねぇ、サミーちゃん?」

 

「なに?」

 

「サミーちゃんはどこにも行かないよね?」

 

 

ウィンプの今にも泣きだしそうな顔。その目の奥に見える不安は、あまりにも直接私の心に刺さった。

 

 

「当たり前でしょ!もう絶対離さないもんね!」

 

「ちょっ!くるしい!サミーちゃん今は離して!他の人にも見られてるから!!」

 

「やだね」

 

「サミーちゃん!?」

 

 

思いきり抱きしめたウィンプの頭がうめき声を漏らすけど気にしない。こうやって私の中にウィンプがいると、私もこの子もとても安心できるから。

 

そして、二度、三度、何度でも誓い直す。もう絶対にこの子を一人にしないと。(今回)は絶対にこの子の側に居続けて、私の力で守り抜いてみせると。

 

夢の中に出てくる()はきっと馬鹿だ。どんなに強大な相手がいたって二人でいる方が心強いに決まっているのに。

 

こうやって腕の中にいてくれるだけでこんなにも安らぎと勇気を与えてくれる。

 

 

もう、私達の仲は誰にも引き裂かせない。

 

 

それだけ、私はウィンプ(ごしゅじん)の事が大好きなんだ。




JKサミーちゃんさんのキャラ……??

ウィンプすら難しいのにJKサミーちゃんさんあまりにも難しくないです?

だとしても、この二人が再び出会て平凡な日常を過ごす。そんな未来はなきゃだめだなと思いました。まる。


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らくれいろ交響曲

楽玲強化週間最終日に滑り込み。
ギリギリ間に合ったけどもあまりクオリティは期待しないで……

お互いしか眼中にないドロ甘の楽玲もいいけど、二人で同じものへの感動を共有できる楽玲もいいなと思って書いてみました。


動画の中の彼を見た。

 

何度となく繰り返して彼を見続けた。

 

動画の中の彼はあまりにも輝いていて。

 

紡がれた謳は主演の彼を引き立て、より一層会場(オルケストラ)を壮大な雰囲気で包み込む。

 

その雰囲気に圧倒されて。

 

 

私もそこ(その劇場の中)に行きたいと思ったのか。

 

貴方にここ(私の隣)にいて欲しいと思ったのか。

 

 

近くのホールで行われる演奏会のチケットを二人分予約したのは無意識の間の事だった。

 

 

 

「………………」

 

 

 

私何やってるんでうびゃぁあ!?!?!?

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

ーーーーー

 

 

 

「ーーーというわけで、いっ……いっしょに……」

 

 

登校中、玲さんの様子が何やらおかしかったのはどうやら俺を誘うタイミングをうかがっていた、という事らしい。要約してみれば、父さんが玲さんのお爺さんに美味しい魚をあげたとか。そのお礼の一環で誘ってくれているそうだ。

 

 

「……それにしても、オーケストラかぁ」

 

「ご……ご迷惑だったでしょうか……」

 

「全然そんなことないよ?」

 

オーケストラと聞いてパッと頭に浮かんだのはあの劇場。前回のオーケストラ(オルケストラ)は落ち着いて曲を聴くことはできなかったからな……実際興味はある。断る理由は当然ない。

 

「ていうことは……!!」

 

「うん。ご一緒させてもらおうかな」

 

「ッ~~!?!?」

 

 

……玲さんと遠出するのはJGE以来か。

 

 

最近はテスト勉強でお世話になったりとリアルでの交流も増えた玲さんとのお出かけ。前は『デートっぽくなる』なんて気にしていたけど、せっかく今回も誘ってくれたんだ。細かいことは気にせずに厚意を受けよう。

 

 

「……ぁぅ……ぁぅ……」

 

 

脳内でのスケジューリングを済ませて視線を戻せばそこにいた玲さんはいつもよりもなおさら顔を赤くしていた。

 

 

「……玲さん?」

 

「ぅひゃい!?なんでふか!?!?」

 

「だいじょうぶ?」

 

「……!!……!!……!!」

 

「……??」

 

「…………!!!!」

 

 

問いかけに対して思いきり首肯で答える玲氏。

 

え?それ首大丈夫?と、どこか焦点の定まっていない目を覗き込めば声にならない声が漏れ出してきて。

 

それから学校に着くまで玲氏は会話できる状態じゃなくなっていた。

 

 

 

……途中で聞いてしまった「遺書の準備を……」ってうわ言は聞かなかったことにしておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして迎えた鑑賞会当日。

 

またもや二人で1時間以上早く集まってしまったりエッグベナっ…ベヌっ…ベネディクトを食べたりと予定外だけど予想内のイベントもあったりしたが、ようやく会場へと辿り着いた。

 

 

「はぇぇ…」

 

 

想像以上にしっかりとした内装に感嘆の息が漏れる。

 

 

広いステージ。

 

高い天井。

 

奥の壁がジグザグしてるのは音の反響が計算されてるとかいないとか。

 

……まぁ、そんな雑学があってるかどうかは俺にはわからないけど、この空間はただの部屋として処理するにはあまりにも芸術的だった。

 

 

「……なんか……すごいですね」

 

「……うん」

 

 

隣の玲さんも圧倒されている。

 

「玲さん、こういう所は初めて?」

 

「昔、母に連れられて来たことがあります。でも当時はこの雰囲気をまだ感じれなかったといいますか……改めて、すごいなって」

 

VRでは絶対に感じられない生身の肌で感じる迫力。システム的に受ける迫力とは違う、体の髄が感じ取ってしまう圧力。それがひしひしと伝わってくる。

 

「玲さん、席ってどこだっけ」

 

「えと、ちょっと待ってくださいね…………あの右奥の方ですね」

 

「とりあえず行こうか」

 

「そうですね」

 

ずっと入り口で突っ立ってるわけにもいかないのでとりあえず予約した席へ移動。そのまま隣同士の席に腰掛けた。

 

「「……!!」」

 

座席だけ切り取ってしまえばきっと映画館と大差ない、いや、映画館の椅子のほうがしっかりしてるし座り心地はいいかもしれない。だけど、この映画館にはない荘厳な雰囲気の中だとむしろこれくらいシンプルな座席に座れることに感動を覚えるというか……

 

「……ふふっ」

 

「どうしたの?」

 

「なんだか私と楽郎君、さっきから感動してばっかりだなって」

 

「ははっ。確かに」

 

隣に座る玲さんとの会話はいつもより声量が1段階低い。どんなに小さな声でもどこまでも響いてしまうんじゃないかってくらいに静かな会場の中では右隣から聞こえてくる囁くような玲さんの声が耳に焼き付いてしまいそうだ。

 

「目につく一つ一つに感動しててもきりがないって分かってるんですけどね」

 

「しょうがないよ。初めてこんなところに来たら感動せずには居られないでしょ」

 

「なんていうんでしょうね、VRじゃないけどVRみたいっていうか」

 

「わかる。VRじゃ味わえない情報量なんだけど、現実味はわかないよね」

 

「そうなんですよ!起きてるのにどこか夢見心地といいますか……」

 

「そうそう!気がつくと目が何かを追ってて全く落ち着けないんだよ」

 

「わかります……!!そわそわしちゃいます!」

 

 

決して声が大きくなっているわけではないけれど、確実に俺たちの話し声は熱気を帯びてきていて。慣れないイベントにテンションの上がっている俺達だが、その興奮も二人重ねれば響き合う。まるでこのホールで音が鳴り響くように。

 

 

「私、今日来れて良かったです!」

 

「それはコンサートが終わってから言うのでも遅くないんじゃない?」

 

「……楽郎君とこんな感動を共有できただけでも一生の思い出ですよ」

 

「あぁ、俺もそう思う」

 

 

 

ーーー急に、客席の明かりが消えた。

 

 

 

「(……始まる!!)」

 

 

玲さんとのおしゃべりに夢中になっている間に幕の向こうでは楽団の準備が整ったのかブザーの音とともに舞台にライトが集まろうとしていて……

 

 

 

 

幕が上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「…………」」

 

 

……すごかった。

 

 

本当にすごいものを見たら人は語彙がなくなるなんて言うけど本当にその通り。公演が終わって約30分経っても正直まともな感想が出てこない。頭の中に言葉が浮かんでこないんだ。

 

 

「すごかったですね」

 

「ほんと。すごかった」

 

「……私達、この会話何回目です?」

 

「4回目くらいじゃない?」

 

こういうの慣れてる人ならきっと今頃はどの曲のどこがすごかったなんて具体的に語り散らかしているのだろうけど、生憎俺たちにそこまでのポテンシャルはない。何なら聞いてた曲の細かい部分までなんて覚えてさえいられなかった。

 

ただ全身に打ち付けるように響く音。それが腹の奥から全身をめぐるように体の内側で何度も響いてる気がして。頭の中で何度も響くその音が隣の玲さんに聞こえてるんじゃないかってくらいに膨れ上がって、それでも続けられる演奏にかき消されていくあの感覚。まだ頭に焼き付いてる。

 

 

「玲さん」

 

「はい?」

 

「また、来よう」

 

「……はい!」

 

 

隣を歩いている玲さんと少し指先が触れた。

 

俺の指はまだ演奏からくる震えがかすかに残っていて、そして玲さんの指もまだ少し震えていて。触れた指がバチッて音を立てるように痺れた気がした。

 

そして伝わってきた。玲さんの内側に残る熱気や興奮、感動が。

 

それはやはり俺の中にあるものと同じで。

 

 

「約束ですよ?」

 

「もちろん」

 

 

俺たち二人の中でくすぶり続けた熱は、静かな帰り道に小さな交響曲を色鮮やかに奏でていた。




らくれとても難しかったです。らくれ創作者さんたちに本気のリスペクト。いつもすごいらくれをありがとうございます!

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一生記憶に残るプロポーズ

楽紅プロポーズシチュの紅音視点。

時系列としては楽郎と紅音が付き合っていて楽郎が大学卒業前くらいです。


ーーー紅音、大事な話があるんだ。

 

 

 

楽郎さんがそう切り出したのは昨日の事。その楽郎さんを私は今テレビの画面越しに見ている。

 

テレビの生放送を見ていて「この日本のどこかのテレビ局で本当に今この人たちが動いてるんだなぁ」なんて考えたことはあったけどその時はなんだか現実感が無くて、自分の知り合いが出ているとやっぱり違和感を感じる。

 

 

『VR格闘ゲーム総合世界大会GH:Cの部個人戦決勝第3試合!!その開戦の火蓋が切って落とされました!!!』

 

 

画面の中での楽郎さんの姿は普段私に見せてる来鷹大学4年生の陽務楽郎ではない。魚臣慧(オイカッツォさん)の友人の覆面アマチュアゲーマー顔隠し(ノーフェイス)。それが今の楽郎さんだ。

 

対戦相手はシルヴィアさんというアメリカ最強らしいプロゲーマーの女の子。準決勝であのオイカッツォさんを打ち倒したとてつもなく強いプレイヤーさんだ。

 

でも、楽郎さんの強さも、私は知ってる。

 

 

「頑張れっ……!!!」

 

 

まだ本人たちは様子見程度であろう戦いでさえ見ているだけで握りこぶしに力が入る。

 

画面の向こうの楽郎さんにせいいっぱいの“頑張れ”を送りつけながら、私は昨日の楽郎さんとの会話を思い出していた。

 

 

 

ーーー俺、もうすぐ大学卒業だろ?で、その先の就職なんだけど……プロゲーマーになろうと思っているんだ。実はもう伝手で声もかけられてる。

 

 

ーーー前からプロの助っ人みたいなことはやっててさ、将来はそのチームに正式に所属して働いて行こうと思ってるんだ。

 

 

 

楽郎さんの突然の告白。

 

すごい!!!っていう気持ちでいっぱいになった胸がドキドキして、“将来”っていう言葉がやたらと染み渡った。もちろん、私は応援する。するに決まっている。

 

その場で動画も見せてもらった。楽郎さんが数多のプロがのさばる世界でどんな戦いを繰り広げてきたのか。その軌跡を楽郎さんに教えもらった。

 

その動画の一番最初。楽郎さんが初めてプロの舞台で戦った試合の、その対戦相手。その時はギリギリの戦いで負けてしまっていたけど、楽郎さんも強くなってる。今日も負けるとは限らない。

 

 

『No Face!!今日はやたらと気合が入ってるじゃナイ?』

 

『当たり前だろっ!!』

 

『イイネ!そうこなくっちゃ!!』

 

 

楽郎さんの操作する鎧武者とシルヴィアさんの操作するヒーローは大きく街を巻き込みながら激しい戦いを繰り広げていて、その速度がどんどん増していく。楽郎さんの鎧武者は画面にワンカット映るごとに若干ずつ見た目が変わっていて、どうやら一瞬一瞬で装備の取捨選択をしているらしい。瞬間的な判断力に優れた楽郎さんにしかできない芸当だ。

 

だがそれで完全に追いつけるほど全米一(シルヴィアさん)は甘くない。まだ楽郎さんには必要な最後のひと押しがある。そしてそれは街が破壊されるたびに着実にたまっていて…………

 

 

「溜まった……!!」

 

 

『行くぜ、シルヴィア』

 

『イイヨ。行こう!ドコまでも!!』

 

 

 

「『超必殺(ウルト)発動ッ!!!』」

 

 

 

弾け飛ぶ楽郎さんの鎧。その内から現れたのは真紅の凶星。楽郎さんの本領とも言えるスピードの権化。

 

膠着は一瞬。楽郎さんがさっきまでの高速戦闘なん屁でもないって言うようなスピードでシルヴィアさんに飛びかかる。

 

 

『……くはっ。イイ、イイよ!!プリズンブレイカー!!!』

 

『今すぐ……お前を……そこ(世界一の座)からッ……引きずり下ろしてやる!!!』

 

 

楽郎さんが殴りかかればシルヴィアさんは壁や電柱を蹴って逃げ回り、虚空を蹴って反撃に出る。対する楽郎さんは空を高速で這い回るように避け、再び攻める。

 

さっきまでは劣勢だった空中戦だったが、脱獄(プリズンブレイク)以降は5分以上に戦えている。お互いに体力が減っていくが、楽郎さんのほうが手数が多い!

 

6:8だった体力比が少しずつ縮まっていく。

 

……5:6

 

解説の人も絶句してしまうような高速戦闘の中で。

 

……4:5

 

観覧席のオイカッツォさんも呆れ笑いを浮かべてしまうくらいの極限の戦闘の中で。

 

……3:3

 

私が初めて見届ける楽郎さんの試合の決着がつこうとしている。

 

……2:1

 

脱獄(プリズンブレイク)残り7秒!!

 

 

そして天翔た2つの星が……衝突した。

 

 

「ッ……!!」

 

 

激突の一瞬、相手のスタンを勝ち取ったのは……

 

 

 

『Hey!NoFace!!Do you know who is the master of the sky?(この空が誰のものか知ってる?)

 

 

 

……ミーティアス。

 

 

 

『Star Road!!!!』

 

体の自由を奪われた楽郎さんへの怒涛の追撃。残り少ない体力は一撃のパワーが小さいスピード特化のミーティアスの攻撃でも確実に削られていて、それが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『くっ……!!』

 

『これが!アナタのなし得なかったワタシ流()()()()!!』

 

背中から地面に落ちてしまった楽郎さんにシルヴィアさんが()()()()()()()を取る。

 

 

超必殺発動(MeteorStrike)!!!』

 

 

『俺はッ……負けられねーんだよぉッ!!!!!』

 

 

 

その時、シルヴィアさんじゃない()()が楽郎さんに向かって飛んできた。

 

 

 

 

 

 

ーーーどうしてこんな話を急にしたかって言うとな、明日の試合を見てほしいんだ。お前に、どうしても。

 

 

 

ーーー俺は絶対に明日勝って世界一になってみせる。"()()"する。だから、その時は…………

 

 

 

 

 

 

身体の自由を失ったはずの楽郎さんが立ち上がる。()()()姿()()

 

 

 

 

『確かに、空中戦じゃまだお前に敵わないかもしれねぇ。でもな、俺は今日今までの人生で一番重いもん背負ってここにいるんだ!!だから……ぜってぇ負けねぇ。この足踏ん張って、お前に勝つまで立ち続ける。そう“()()”したんだ!!』

 

 

 

 

 

 

ーーーその時は、俺と、結婚してくれ。

 

 

ーーー返事は、明日世界一になったら聞く。

 

 

 

 

 

 

『堕ちろォ!!ミーティアスッ!!!!』

 

 

既に直線を描いて楽郎さんへと向かってきた流星を……真横から蹴り飛ばした。

 

『くぁッ……!!』

 

ミーティアスの超必殺(ウルト)の発動条件は飛び蹴りの着弾、その接触の瞬間。本来なら当たったであろうその一撃は、再逮捕によって硬直抜けした楽郎さんによって叩き落された。

 

そして残り少ない体力のシルヴィアさんが吹っ飛ばされて……

 

 

……そのままHPが全損した。

 

 

 

「~~~ッ!!!!」

 

 

 

KOという無機質な文字列に画面内からワァーーーーっ!!!!という会場の大歓声が沸き上がってくる。

 

……勝った!!楽郎さん勝ったんだ!!!

 

昨日私に宣言したとおりに本当に世界一になってしまう楽郎さんの疲れ切った姿がどこまでもかっこよくて。約束したとおりに勝った楽郎さんに胸がいっぱいになった。

 

 

 

温かい、涙がこぼれてくる。

 

 

 

インタビュアーさんが楽郎さんに近づいて行って、優勝者インタビューがその場で始まる。

 

 

そして、楽郎さんはその場でおもむろに仮面を外してどこかに電話をかけ…………

 

 

唐突に鳴りだした携帯電話を、私はすぐに取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「紅音!!!この賞金で指輪買って帰るから俺と結婚してくれ!!!!」

 

 

「もちろんです!!!!」




楽銀で使いたいセリフを大分使ってしまったが……その分盛り上がりが増したと思ったので満足です。

……楽紅なのに紅音より銀金の方がセリフ量多いのはご勘弁。

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背は伸びなかった。髪を切った。

「ロリルストが髪伸ばしてたら可愛くない?」から始まった妄想のまとめ。

ある春の日のこと。


人と会話するのが苦手だった。

 

 

『…………』

 

『…………』

 

視線は合わない。私は彼女の目を見ることができなくて。彼女の視線は私の顔と髪をいじる手を行ったり来たりしている。

 

 

『……じゃ、じゃあね』

 

『……うん』

 

 

彼女は教室を去った。

 

……はぁ。

 

誰もいなくなった教室にため息が一つ。

 

漏れたため息は開放による安堵か、孤独による寂しさか。

 

会話はできるだけしたくない。でも、誰もいないのは寂しい。

 

そんなどうしようもない思いに呼応してため息に続いたのは窓から隙間風の入る音だけだった。

 

 

居心地の悪かった私は、まだ長かった髪を一人いじり続けていた。

 

 

 

 

 

 

髪の毛を切った。

 

 

小学校の間ずっと伸ばしていた髪とはもうおさらばだ。

 

 

そもそも私はあまり自分の髪の毛が好きではない。

 

私は気まずくなると髪の毛をいじりだす癖があった。

 

それをうまく察して会話を終わらせてくれた3年前同じクラスだったあの子の名前は何だっただろうか。

 

そんな事さえ思い出せない私のどうしようもない部分を思い出させてくれる子の髪の毛が、私は嫌いだった。

 

 

今まではそれでも髪の毛を切る勇気が出なくて。

 

これを切ってしまえばいざという時に縋る“何か”を失ってしまうような気がしてずっと切ることができなかった。

 

 

でも、もう違う。

 

 

私のコミュ力は全く上がっていないけれど。

 

それでも支えてくれる大事な幼馴染が一人いる。

 

彼は私の言わんとしていることをくみ取ってくれるから。

 

彼といれば私はさみしさを覚えないで済むから。

 

 

この中学生になるこの日に私は一歩踏み出すことができるのではないのだろうか。

 

 

そう思って…………

 

 

 

 

「あれ、夏蓮髪切ったんだ?」

 

「うん」

 

 

風呂上り、着替えて一番にカーテンを開けると窓の()()()()()()顔を出したのは私の幼馴染だった。

 

さっき美容院でバッサリと切った髪。ちらと部屋の鏡を見ると違和感の募る私のショートヘア姿。

 

 

「これから暑くなると鬱陶しいし」

 

「確かに、温かくなってきたもんね」

 

「あと、せっかくだし」

 

「なるほどね」

 

 

ふと思い立って、部屋の壁に掛けてあった明日から通う中学の制服を体の前で合わせてみる。

 

 

「どう?」

 

「あはは、なんだか夏蓮が夏蓮じゃないみたいだ」

 

「むぅ、それどういう意味」

 

「だって、先月まで一緒にランドセル背負ってた友達が中学の制服着てて、しかも髪型も変えてて印象も変わって見える。まるで夏蓮が大人の人みたいに見えるよ」

 

「……身長は止まり始めたけど」

 

「別に、気にすることないんじゃない?」

 

「気にする。葉は昔からずっとでかいのに」

 

「まぁ、僕は男子だからね」

 

 

そう宣った葉の目線は今となっては私の目線よりずっと高い。もともと身長の高かった葉だが、最近輪をかけて高くなったと思う。男子は中学高校で今後もっと高くなると聞くけど、正直、葉はこれ以上大きくならなくていい。

 

ちなみに、対する私は既に周りの女子よりも背が低く、伸びそうもな雰囲気もないと来た。なんだこの理不尽は。

 

 

「でも夏蓮は小さくてもかわいいから、今のままでも僕はいいと思うよ」

 

 

……ッ!?

 

「…………そういうこと言うな。私は高い方がいい」

 

「そう?」

 

「そう」

 

……葉はよく私のことを可愛いと言ってくれる。今までならば、『弟分のくせに生意気』とあしらっていたところだが、身長差のさらに大きくなった今、姉貴面が絶妙に締まらないのがもどかしい。まぁ、やめるつもりもないが。

 

だが、いつまでも言われなれない葉の『かわいい』には、やっぱりちょっと言い表せないむずがゆさが走る。

 

 

「あは、夏蓮、髪切ったせいで耳がちょっと赤いのバレてるよ?」

 

「~!?!?」

 

「そんなに身長のこと気になる?」

 

「……もんくある」

 

「別に?」

 

 

急に意識すらしてなかったことを言われて顔に血が上る。もしかしたら今はさっきよりももっと赤くなっているかもしれない。

 

顔を逸らして必死に取り繕おうとするが、表情は取り繕えても頬に残る熱気はどうにも引かなかった。

 

 

「葉はどれだけ高くなるの?」

 

「どうだろ。でも、まだ伸びはすると思うよ」

 

「止まっていいよ」

 

「僕に言われてもどうにもできないかなぁ」

 

「して、どうにか」

 

「えぇ……」

 

 

想像する。あと3年6年経ってさらに身長の伸びた葉の姿を。私もまったく伸びないことはないだろうが、きっと葉に追いつくことはない。

 

今同様背が伸びないであろう私とどんどん背が伸びていくであろう葉の未来の二人の姿は。

 

 

……まぁ、そんなに変わらないか。

 

 

どうしようもない安心感を感じていると、階下から『かれんー!』と私を呼ぶ声がした。

 

「じゃあ、私ご飯食べてくるから。また後で」

 

「あ、うん…………そうだ、夏蓮」

 

「…………??」

 

 

「髪の毛、長いのも綺麗だったけど、短いのも可愛らしいね。僕はどっち夏蓮も好きだよ」

 

「……ありがと」

 

 

最後の最後でそんな事を言ってしまう葉に、そんな事を言われてしまってまんざらでもない自分に、恥ずかしさが込み上げてきて、せっかく引きはじめた顔の熱が再び込み上げてくる。

 

まったく、葉はなんで恥ずかしげもなくそんなこと言えるんだ。

 

私はこの空気感をやり過ごそうと自然と自分の髪に手を伸ばし…………空を切る。

 

隠せない赤い顔を見てにこやかにしている葉を見て更に顔が熱くなる。きっと、これすらも葉にはわかってしまっているだろう。

 

 

……まぁ、でも。

 

 

葉の前くらいなら、この二部屋の中くらいなら。

 

それも、別に悪くはないかなって。

 

 

今後葉の背が更に伸びて、私が髪の毛を伸ばしているかはわからないけれど。

 

葉が綺麗と言うのならまた伸ばしてみるのも悪くはないかなとか。

 

葉がかわいいと言うのなら短くしておこうとか。

 

そんな事を考えたりしてみた。




私は自分の長い髪が好きじゃなかったはずなのに。そんな事をいつか思い返してほしいロングのルストもアリだなと思いました。

感想お待ちしています!!


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いつも見ていた君と

年越しネタ間に合わなかった奴を掘り起こしたので書き上げて供養しますわ。もしも楽羽と紅音がそんな出会い方をしていたら。


健康な体作りはVRゲーマーの基本である。そんなわけで私は今日も早朝からランニングに出ているのだが……

 

「うぅ……さぶっ……」

 

季節が冬に入ってしばらくの12月も後半。もう日が出る時間もかなり遅くなって、もう少し温かい時間になってから走りたいものだとも思うが、学校に行く時間を考えればそういうわけにもいかない。女子は朝の準備にも時間がかかるのだ。

 

自販機の前で一度立ち止ってポケットから財布を取り出す。この休憩で飲むホットココアが最近のひそかなお気に入りだ。かじかんだ手先で小銭を自販機に突っ込んでココア缶を買い、近くのベンチへ腰かけた。

 

「ほぅ……」

 

小さく息を吐くと吐息が白い煙となって消えていく。何となくその吐いては消える吐息を眺めていたその時、とっとっとっとっ……と軽快なリズムが聞こえてきた。

 

「っ……っ……っ……」

 

走ってきたのは一人の女の子だ。いつもこの時間に私と似た位置を走っている女の子。あっというまに私の目の前を走り抜けていってしまった。……ほんと、すごい速いなぁ。多分私より年下だよね、あの子。もしかして中学生くらい?相変わらずめっちゃ速いな……。

 

何となくぼーっとその背中を眺めてみる。

 

……ちょうどその時。

 

「……げっ」

 

雨が降り始めた。

 

 

 

 

 

「………」

 

急に雨に降られて急いで帰ろうとしたその道中に、彼女は居た。

 

公園の小さな屋根付き広場。そこで退屈そうに雨宿りをしていたあの女の子。いつも楽しそうに走っている姿からは想像できないような冷めた視線で雨空を眺めるその様子がどうしても気になってしまって。私は気が付いたら声をかけていた。

 

 

「……はい」

 

「……?」

 

 

差し出したのはさっき買ったココア缶。まだ買ってからそんな経ってなかったから温かい。目を丸くして固まる女の子に缶を押し付けるとなんか照れくさくて自然と目を逸らしてしまった。

 

「ほら、毎朝頑張って走ってたの私だって見てりゃわかるし」

 

未だに顔を「?」で埋めた様子の女の子。いや、これは深い意味とかはなくて……!!

 

「……ほら!そんなうっすいシャツ一枚でこの雨浴びたらどうなるかくらいわかるでしょ!風邪ひいちゃうって」

 

私の着ていたジャージを勢いで押し付ける。するとようやく女の子の方も事態が飲み込めてきたようで。

 

「……!そんな!わるいですよ!!私は大丈夫です!!むしろおねえさんが風邪ひいちゃいますよ!!」

 

「いいのいいの!!私の家すぐそこだから!!」

 

「そんなこと言っても……」

 

「……じゃっ!!」

 

これ以上話してるとどんどんボロが出てしまいそうだ。私はこのまま帰ってしまおうと踵を返す。

 

 

「あのっ!!……最後に、お名前教えてください!!……また、会えますか?」

 

 

振り返った時に見た瞳から力強い何かを感じる。引き込まれる。

 

本当なら今日一回話せば今後はまた他人に戻るつもりではあったのだけれど、また、私もこの子と話してみたいと、そう思えた。

 

 

「私、陽務楽羽。この辺走ってればまた会えるかもね」

 

 

そう言い残して、満足げな私は家に向かってまた走り出した。

 

 

 

 

 

 

あのあと、私の方が風邪ひいた。

 

……いや、まって、言い訳をさせて欲しい。あの場にジャージは一枚しかなくて、きっと私が着て帰ったらあの子の方が風邪をひいてしまっていたはず。だからこれであの子が無事健康体で帰ることができたなら、私のしたことはあってたはずだ。もちろん後悔はしてない。

 

……ただ一つ後悔があるとすれば、あれ以来寝込んでしまった私がランニングにも出ないせいであの子に再び会えていないことだ。

 

そして数日が経って何とか体調も戻りかけてきた今日。

 

 

あの子に会えないまま、大晦日を迎えてしまったのだ。

 

 

「お姉ちゃん!!早く来て!!」

 

「うぅ……わかったから……」

 

 

今私は瑠美に連れられて初詣に来ている。しかも瑠美が伝手で確保してくれやがった振袖を着せられて。

 

近所の神社は年明けを目の前にして多くの若者でにぎわっている。みんなこんなにも寒いのに元気だなぁ。大晦日なんて暖かい布団にもぐってVRゲームか炬燵でテレビの2択でしょ。

 

「……お姉ちゃん何でそんな死にそうな顔してるの」

 

「寒いんだよ察せ」

 

「かわいい恰好のために我慢できないとかお姉ちゃん女子高生失格」

 

「世の女子高生は瑠美ほどオシャレに貪欲になれないんだよ」

 

「少なくとも世の女子高生もお姉ちゃんよりは貪欲だから安心してね」

 

「なにも安心できないってそれ……」

 

さっさと年越してお参り済ませて帰りたい……。

 

寒さに肩を縮こめて白い息を一つ吐く。私達よりも少し後ろの高校生くらいの集団が急に大声でカウントダウンを始めた。

 

ーーー3!!!

 

ーーー2!!!

 

ーーー1!!!

 

 

ーーーあけましておめでと〜〜〜〜!!!

 

 

大歓声とともに新年を告げる鐘が鳴る。その鐘の音は境内の騒音を縫うように抜けていって私達の耳を撫でた。

 

「……年明けたねぇ」

 

「あけましておめでとう、お姉ちゃん」

 

「うん。おめでとう」

 

「じゃあ私はここで巫女のバイトしてる読モ友達のところに行くからお姉ちゃん先帰ってて」

 

「了解」

 

 

そう言い残した瑠美が神社の母屋の方へと向かっていった

 

…ふぅ。やっと解放された。

 

とりあえず、家に帰って寝よう。そう思って振り返る。

 

 

「…………」

 

 

その時、視界の端に見覚えのある顔が映った気がした。

 

 

「……」

 

「……えっ」

 

 

見えたのは、ここで見るとは全く思っていなかった、ここ最近ずっと会いたいと思っていたその顔。

 

 

固まる。

 

 

目があって、そして目を奪われてしまった。

 

その女の子はいつものラフでスポーティな恰好ではなく私と同じように振袖を着ていて、それでいてどこか着慣れていないような佇まいが余計に愛らしさを演出している。人混みは凄かったけれど、何故か私達以外には誰もいないかのような不思議な静寂。喧騒は聞こえるけれど、それでも私の目には彼女しか見えなかった。

 

 

「……」

 

「……」

 

 

どれだけの間二人でこうしていたかはわからない。だけど、その静寂は唐突に破られた。

 

「…ぅわっ!?」

 

「…っとと」

 

人混みに押されて体勢を崩したその子が私の方によろけてきて私はそれ受け止める。

 

「ぁ……ありがとうございます!!……その、楽羽さん、ですよね?」

 

「うん。えと、きみは……あはは、名前聞いてなかったや」

 

「私!隠岐紅音っていいます!!よろしくお願いします!!」

 

「うん。よろしく」

 

紅音、紅音、あかね……その名前をしっかりと噛みしめる。そっかぁ…紅音っていうのかぁ……えへへ。

 

その名前の響きが骨の髄に染み渡るように体中をめぐる。今まで他人としか思ってなかった女の子が、実際に他人でしかなかった女の子が、この間一度話したことがあるだけなのに、今はこんなにも身近に感じる。

 

腕の中にいる少女(紅音)がにへっと笑うと、私もつられて笑ってしまう。不思議な感覚だ。

 

 

「楽羽さん、いつもジャージ姿しか見てないから振り袖姿は新鮮ですね!かわいいです!」

 

「んなッ……!?」

 

 

こんなかわいい子に可愛いと言われると、ほら、私普段はかわいいなんて言われてないから余計に……うごごぁあ……!!!

 

「……楽羽さん?寒さで耳まで赤くなっちゃってます。これ飲んでください」

 

「ッ……あ、ありがと」

 

耳の赤い理由はほかに大きな心当たりがあるが、察されたくないので誤魔化して差し出された甘酒を受け取る。ほぁ……あったかぁ……。

 

「紅音もよく似合ってるじゃん。ホントに、かわいい」

 

「……ぇっ」

 

「??」

 

そんな他愛のない会話をしていたが、気が付けば紅音もよほど冷えたのか耳まで真っ赤だ。

 

「…紅音も寒いんじゃん。ほら、これ飲みなって」

 

「ぇ、ありがとうございます…」

 

半分ほど飲んだ甘酒を紅音に返す。カップに残っていた残り紅音が飲み干した。

 

「はぁ……あったかい……あの日のココアみたいに」

 

「ココア?」

 

「前に楽羽さんにもらったやつです。すごくおいしくて、温かかったなぁ…」

 

「…それはよかった」

 

あの缶は確かに買いたてだったから温かかったはずだ。あの時も相当体冷やしてたのかな……ますますあの時紅音に声を書けて良かったと思える。

 

 

「……そうだ!!夜が明けたら私の家に来ませんか?一緒に新年のお祝いをしましょう!!」

 

「え!?まぁ予定はないけど……」

 

知り合っていきなりお家に招待!?嬉しいけど、本当にいいの?お正月だよ?ご家族とか……

 

「じゃあ大丈夫ですね!!家の準備は済ませておきますので!!」

 

「た、確かに私は大丈夫だけど、紅音は一緒にお祝いする友達とかいないの?彼氏とかは?」

 

「友達はもっぱら家族と過ごしてますね……彼氏はいません」

 

「へぇ……モテそうなのに。好きな人とかいないの?」

 

「好きな人ですか……」

 

 

ここにきて紅音が少し悩んだような表情を浮かべる。紅音も一人の女の子好きな人の一人や二人くらい……

 

 

「……」

 

「……??」

 

 

急に紅音と目が合う。というか、めちゃくちゃ顔を覗かれてる。

 

 

「…楽羽さん」

 

「…はい」

 

 

急に名前を呼ばれて少しかしこまって答える。好きな人に追いて思いを馳せていた様には見えない紅音のどこかきょとんとした表情からは紅音の言おうとしていたことは伺えない。いいたいどうしたんだろ……

 

 

 

「どうやら、私は楽羽さんのことが好きみたいです!」

 

 

 

………………えっ。

 

 

 

「では楽羽さん!お昼の11時くらいにいつも走っている公園で待っているので、来てくださいね!!」

 

 

そう言い残して紅音は帰ってしまう。私はその背中をただ固まって見送ることしかできない。頭の中ではさっきの紅音の言葉が繰り返し響いている。

 

 

 

『どうやら、私は楽羽さんのことが……』

 

そして、その言葉を反芻するたびに。

 

『……好きみたいです』

 

 

紅音の姿が見えなくなってもいまだに私は一歩も動くことができなくて。どんどん顔が熱くなる。どんどんと冷える神社の空気の中で、体の芯は熱くて熱くて仕方がなかった。多分さっきよりもずっと顔も真っ赤だろう。

 

 

「……まじか」

 

 

去る直前の紅音の顔は今までには見たことがないほどいい笑顔で。

 

その笑顔を愛おしいと感じてしまうのはきっと仕方がないことだろう。

 

 

気が付けば、今日紅音の家に遊びに行くことが、これから紅音とかかわることになるであろう新しい一年が、楽しみで仕方がなくなっていた。

 

 




楽羽が紅音を某ゲームの友人だと知り、二人の仲がさらに縮まるのはきっと思ったよりもすぐのお話。こんなところから楽羽の周りをぴょんぴょんする後輩系ヒロイン紅音ちゃんやサンラクの周りでいつもぴょんぴょんしてる後輩系ヒロイン茜ちゃんは誕生しますか??

感想お待ちしています!!


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女の子を素直にする魔法の……

この間の永百バレンタインゲロからニョキッと生えてきた百合ップル永百同棲時空の八(永百)バレンタイン二次短編です。


「たっだいまぁ〜〜!!!」

 

 

機嫌のよさそうな声とともに玄関の扉が開く音がした。

 

 

私はモモ先輩に誘われてモモ先輩の自宅で宅飲みをしていた。そして、今帰ってきたのは()()()()()()()()()()()。モモ先輩が声がするなり部屋を出て玄関へと向かい、その人を出迎えた。

 

 

「おかえり。八花ももう来てるぞ」

 

「あちゃ、間に合わなかったか。これでも急いで帰ってきたんだよ?」

 

「元々お前の帰りが遅くなる事を見越した上で早く来てたんだ。気に病むことはないぞ」

 

「それでもね?待たせるってだけで先輩の威厳がね?」

 

その本性を晒された身としては人間性の部分で後輩に威厳を見せようとしている事自体無理な気がするんですけどね。そんな脳内ツッコミをリビングの扉の向こう側に向かって念じてみると、その扉が勢いよく開いた。

 

 

「ハロー!エイトちゃん!君の尊敬して止まない先輩が帰ってきたゾ!!」

 

 

扉から姿を表したその人は、私の……()()()()()()()()()()()尊敬している先輩にして天下のカリスマトップモデル、天音永遠その人だった。

 

……それにしても、トワ先輩とモモ先輩が一緒に住み始めたって本当だったんだなぁ。

 

同居、いや、同棲の話は前に耳にしていた。高校時代から男っ気のなかった二人だが、そういう浮足立った話に巻き込まれるとよく互いを巻き込み、犠牲にしながら笑い話へと変えていったという話もよく聞いた。そして、その二人の関係性がついに『本物』になったから。そう本人に聞かされて「……また私の事騙して揶揄おうとしてます?」なんて返したのも割と前の話。その時にちょっと照れながらも律儀に説明してくれたトワ先輩の顔は未だに忘れられない。

 

 

「いやー、それにしてもエイトちゃんはよく()()()()に休み取れたね。人気ないの?」

 

「そんなこと無いですよ!!」

 

会ってそうそうなんてことを言うんだこの先輩は。せっかくマネージャーさんが頑張って休みにしてくれたというのに。

 

 

 

「だって今日世間では、バレンタインデーなんだよ!!アイドルがこのイベントを率先して盛り上げないでどうするのさ!!」

 

 

 

バレンタインデー。

 

 

世のティーンが一斉に色めく日。お菓子業界、アパレル、飲食店、あらゆる業界がこのイベントを盛り上げようと躍起になって日本中がチョコレートの香りに包まれる。もちろんアイドルだって例外ではない。むしろテレビやらで積極的に盛り上げるべきポジションだ。

 

「今日放送の特番はもう全部収録終わってますし。それに……」

 

「それに?」

 

「去年は生放送の仕事あったんですけど、私や他の演者さんにチョコを押し付けて回ろうとする厄介スタッフが複数いて番組破綻寸前まで追い込まれたんですよ。今年はあんなのは勘弁です」

 

「……アイドルも大変なんだね。ドンマイ」

 

「……永遠には言われたくないだろ」

「……トワ先輩には言われたくないです」

 

この先輩去年チョコに怯えてビクビクしてたの忘れてないですからね?あんな状態の先輩はそこそこ長い付き合いの中でも初めて見ましたよ!

 

「ちなみに、そう言うモモちゃんはどうだったの?今日も昼間は仕事だったんでしょ?」

 

「私か?私は同僚の女の子と割り勘で部署に袋詰めチョコ菓子を買ってそれで終わりだったな」

 

「……そういえば、バレンタインって女の子がチョコをあげる側のイベントだったね。忘れてたよ」

 

「トワ先輩……」

 

駄目だ。この先輩重症すぎる。一体毎年どんなバレンタインを過ごしてきたらそんな事も忘れられるんだ。……まぁ、そんな凄いバレンタインを毎年引き起こしてしまう辺り流石はトワ先輩と言ったところか。

 

「とりあえず、永遠は荷物を自分の部屋に置いてきたらどうだ?ついでに酒も持ってこい。私達はもう飲んでるぞ」

 

「うん、そうする」

 

モモ先輩の一言で立ち話を終えたトワ先輩が踵を返して自室へと向かう。

 

 

「……よっしゃ、今日は飲むぞーー!!」

 

 

今日は騒がしい会になるだろうな。

 

そんな気がした。

 

 

 

 

「っぷは〜〜!!今日は飲んだね〜〜!!!」

 

夜も更け、もうすぐ私も帰らないと明日の仕事に支障が出てしまうような、そんな時間。最初は去年までのバレンタインを思い返して少し青くなっていたトワ先輩の顔ももう既に朱く染まっていた。

 

「そうですね!モモ先輩も料理ごちそうさまでした!」

 

「あぁ。お粗末様でした」

 

時計を見ると思ってたよりも30分くらい経っていて、本当に楽しい時間を過ごしたなぁ……なんて考えながら帰宅のために手荷物をまとめる。

 

 

その時、私の後ろでこれまた何かゴソゴソしていたトワ先輩から声が掛かった。

 

 

「エイトちゃん、ハッピーバレンタイン!」

 

「……??」

 

 

振り向けば、差し出されたのはきれいにラッピングされた小さな箱。これってもしかして……

 

「おめでとう!!私の友チョコを貰えるなんてエイトちゃんだけなんだゾ!!」

 

「あの天音永遠の……チョコ……?」

 

これ、ひょっとして他人に知られたら犯罪に巻き込まれるレベルの代物なんじゃ…………絶対に誰にも言わないようにしないと。

 

「ありがとうございます。これ、私からお二人にです」

 

そう言って私がかばんから取り出したのはちょっと大きめの箱。いささか大袈裟な気もするが、二人分ならちょうどいいだろう。

 

「おぉ!!ありが……」

 

「じゃあ、これは私からだ。永遠、八花、受け取ってくれ」

 

「ありがとうモモちゃん!!!」

 

「ありがとうございます!」

 

「モモちゃんにはこれね!もちろん本命だから!」

 

「知ってるよ……ありがとう、永遠」

 

流れでモモ先輩からもチョコを貰った。ありがたい。

 

モモ先輩との交換の流れであまり見れなかったトワ先輩の反応ももうちょっと見たかったなぁ……とも思ったけど、幸せそうな二人の空間が瞬時に形成されて、あ”、このモモ先輩の笑顔、やばい……

 

そんな二人の絵面を堪能していると、ふと、モモ先輩と視線があった。その視線には何か意味が……

 

…………?

 

…………ってまさか!?モモ先輩、自分以外のチョコで喜ぶトワ先輩を見るのが複雑だったから、わざとあのタイミングでチョコを!?

 

えぇ……なにそれ……チョコよりもずっと甘々かよこの二人……

 

 

「そういえば、お前からの『本命チョコ』は高校の時以来かもな」

 

「高校のとき?……!?あ、あれはそういう勝負だっただけじゃん!!」

 

「あぁ。あの時は散々な目にあったな。誰かさんの名演技のおかげで」

 

そういえば私がまだ高1の時、3年の有名人に()()がいるって噂をバレンタインの時期に聞いたことがあったけど、まさか……

 

「……先輩方、変わんないんですね」

 

「八花、それ褒めてるのか……?」

 

「まぁ、私達がまだまだ若いっていうのはそのとおりだけどね……っていうかあの話後輩の間でもそんなに有名だったの?」

 

「当たり前ですよ。一つの伝説みたいな扱いでしたから」

 

「そっかぁ……でも、当時の同級生たちも、まさか()()なるなんて思ってもみなかっただろうけどね」

 

「……だろうな」

 

 

私は学年も違ったから当時の先輩たちを見てきたわけじゃない。その事がたまらなく惜しい。今でこそこうして仲良くしてもらっているけれど、二人には私の知らない積み上げてきた時間がある訳で、それがどこか寂しいと感じてしまえた。

 

 

「当時の先輩たちを一度見てみたいですね」

 

「え”……そんなこと考えるもんじゃないよエイトちゃん……」

 

「私もそう思うぞ八花……」

 

……昔先輩たちに何があったんだろう。

 

 

「……でも……」

 

 

先輩たちの過去を訝しんでいると、急に合った二人の目が優しく光った。

 

 

 

「昔の私たちはともかくとして、少なくとも今の私達は八花がちゃんと見てくれている。私は、そのことの方がずっと嬉しい」

 

「そうそう。今私とモモちゃんの隣にいるのがエイトちゃんで良かったっていうのは本心だからね」

 

 

 

その一言はいきなりで。

 

いくら笑顔が綺麗でも口を開けば体外()()な先輩たち。そんな二人から聞けるとは思えないような優しい言葉が耳に、頭の中に、唐突に流れ込んできた。

 

「え、待って、急に、どうしたんですか……??」

 

「八花相手だと私達は外面も取繕わずにバカをやってしまいがちだからな。今日ぐらい素直に伝えてみたらどうだって永遠と話していたんだ」

 

「そーいうこと!だからエイトちゃん、ありがとう」

 

 

優しい言葉が耳を抜け、優しい視線が体を包み、そして、頭に手が載せられた。

 

もう、急に何なんだこの先輩たちは……

 

私はもう何がなんだかわからなくて。

 

 

 

涙が、溢れた。

 

 

 

「なんだ八花、泣くほど嬉しかったのか」

 

 

茶化さないでくださいよモモ先輩!私は、別にそんなんじゃ……

 

「ちが、これは、お酒のせいで……」

 

「うんうん。エイトちゃんは泣き上戸だもんね…………ほら、お酒のせいにしちゃっていいからさ、エイトちゃんも思ってること言ってみ?今日世間はどうやら『自分の気持ちに素直になって想いを伝える日』らしいよ?」

 

 

今までこの人たちと一緒にいて割と散々な目にもあったけれど、それでもいろんな物を得た。

 

やっぱり私はこの人たちと一緒にいたくて。

 

さっきは二人がやっぱり遠いように感じてしまっていたけど、それでもこうして近くに、私が感じていたよりもずっと近くにいてくれる。それがたまらなく嬉しかった。

 

 

 

「トワ先輩、モモ先輩、私は……」

 

 

 

素直になろうとして、素直になって。

 

 

二人に私が抱いていた感情は、言葉にできなかった。

 

言葉で言い表せてしまうほどちっぽけで単純なものじゃなかった。

 

 

そんな想いを再確認させられた私は、涙を拭って今日の二人のこの顔をしっかりと目に焼き付けた。

 

 

少なくとも今日の事は、二度と忘れることはない。




きっと彼女らが互いに向けている好きとは違うけれど、それでも私は二人のことがきっと“好き”で。

そんな誰も理解できない感情に埋もれていきつつも尊い永百に浄化されてなんだかんだ幸せな日々を送ってしまうエイトちゃん。

その心の内は、友愛、憧憬、そして………


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例えばそんな出会い方

秋津茜お誕生日記念

もしあの子とあの子がそんな出会い方をしてたら面白れぇなぁ……っていうだけの捏造文です。


全国中学・高校生春の総合体育大会 陸上の部200m中学生女子決勝

 

 

優勝-○○○○

準優勝-○○○○○

3位入賞-○○○○

4位入賞-隠岐紅音

5位入賞-○○○○

 

 

 

 

未だ寒さの残る春先、少し暖かくなってきたかななんて思ったものの風が吹けばやはり寒い、そんな季節に行われたのは中学最後の大会。陸上を3年間やってきた私にとっては集大成になる大会。スポーツ推薦で高校を決めた私にとっては3年間のスタートダッシュにもなる大会。

 

予選を抜けて、県大会を抜けて、そしてたどり着いた全国大会。私は寒さなんて一切感じないくらいに昂ってしまっていて。

 

走る前も、

 

走ってる時も、

 

走った後も、

 

ずっと、ずっと、脳が沸騰するように熱くて。体中を血がどくどくと巡っているのがわかった。

 

 

全国各地から集まった強豪たちを相手に、胸を借りるつもりで全力で挑んだ。

 

その結果が、4位。

 

正直こんなにいい結果を残せるなんて思っていなくて、私の努力の成果が想像以上に通用したことがどうしても嬉しくて。

 

本当に嬉しくて。

 

 

試合が終わった後も控室でずっと一人で呆けてた。

 

試合の熱が抜けなくて。肌を刺すピリピリの感覚がtれなくて。みんなの応援の声が耳にこびりついてはなれなくて。

 

 

最後の大会が終わってしまった。

全国という大舞台で活躍できてしまった。

 

 

そんな非現実感の中でどれだけかもわからない時間を過ごして。

 

 

 

「…………閉会式行かなきゃ」

 

 

 

ふらふらとした夢見心地な足取りで私は控室を去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぇと……?」

 

迷子である。

 

閉会式では各競技での上位選手の表彰があって、それに私が出なきゃいけないからその選手用の集合場所に行かなきゃいけないんだけど……

 

「……ここ、どこ?」

 

いったい何がいけなかったのか。ずっと浮ついた気分だったから?特に道も調べずにやり場のないテンションに任せて走り出してしまったから?……全部な気がする。

 

……そんな訳で、気が付けば私は全く知らない場所にいた。

 

「おっかしーなぁ……方向はあってたと思うんだけどなぁ……」

 

とりあえず現在位置を把握しようと地図を広げる。

 

 

えぇと、あそこに見えてるのがサッカーのスタジアムで、こっちにあるのが剣道と柔道の会場になってた体育館だから……

 

 

 

「あれ、君どうしたの?迷った?」

 

 

 

唐突に声をかけられて「えっ」と振り返ってみればそこにいたのはサッカーのスタジアムから出てきた一人の高校生くらいの男子。後ろには彼のチームメイトらしき人たちが集まってきている。さっきまで試合をしていたのだろうか。

 

 

「観客席はあっち。案内いる?」

 

「ありがとうございます!でも、私が行きたいのは客席じゃなくて……」

 

「その娘だれ?うぉっ、すげーかわいいじゃん!」

「お、ほんとだ、可愛い娘いる。どしたん?」

 

「その!私は入賞選手の集合場所に……」

 

「ん?なになに?どうしたお前ら」

「え、その娘誰?」

 

「その、えっとぉ……」

 

 

私に気づいたチームの人たちがだんだんと集まってきてただ一言聞こうとしていたことが聞けない。あっという間に囲まれてしまってもうてんやわんやだ。

 

「あ、あの!わたし……」

 

「こっち!ほら、ついてきなよ」

 

「あ、ちょっ!」

 

いきなりグイッと手を引かれてしまう。どうやらサッカーの試合を見に来たと勘違いされてしまったみたいで……って違う!わたしが行きたいのはそこじゃなくて……

 

 

 

「ちょっと待った」

 

 

 

……へ?

 

 

 

1チーム分の人数に囲まれてガヤガヤしていたはずなのになぜか凛と通りぬけていくような声。私も他の人たちもみんな一瞬で静まり返ってしまった。

 

 

「僕の知り合いに手を出さないでもらえるかな」

 

 

一瞬の沈黙の後に少しずつ騒がしさが戻る。

 

「……だれ?」

「え、なに?」

「あ、この子もかわいい……」

 

知らない()()のいきなりの登場に全員戸惑ってるみたいだけれど、私は、私だけは、この声を知っている。

 

 

ここじゃない世界(シャングリラ・フロンティア)で聞いたことがある。この確かな実力に裏打ちされた自信に満ち溢れている声は……

 

「アカネ、こっち」

 

密集していた中から私の手を掴んで引っ張りぬいてくれたその体にグイッと引き寄せられ、思わず飛びついてしまった。

 

 

「じゃ、行こうか」

 

「……は、はい」

 

 

そのまま男子の集団を呆気にとったまま私たちはその場を去った。

 

なんだかそれが救い出されたお姫様みたいな気分になってしまって少し楽しいなんて場違いなことを考えてしまったけど、きっと大会から浮ついてたせいだ。

 

 

 

 

 

そのまま小走りでしばらく走った後、少し開けた広場に出た。

 

 

「あ、あの!京(アルティメット)さん!!……です、よね?」

 

「あー…うん。そう。あと、こっち(リアル)では京極(きょうごく)ね」

 

そう言って京(アルティメット)さんは立ち止って振り返る。見知ったようで少し違う(狐耳のない)京極さんの顔はどこか安心感を覚える。

 

「……ってヤバ!私、行かなきゃいけない所があるんです!」

 

「あ、各競技入賞選手の集合場所ね、わかってるよ。行こう」

 

「え!何で知ってるんですか?」

 

「僕陸上見てたからね。知ってる顔がいてびっくりしたよ」

 

「あはは、流石にキャラメイクがこの(リアルの)まんまだったら見れば気づきますよね」

 

「まぁね」

 

さっきは京極さんに手を引かれて走っていたけど、今度は二人横に並んで歩きだす。さっきまでのどうしようにもなくなっていた私を助けてくれた京極さんの隣はなんだか、迷子だったときと比べてずっと心強くて、きゅっと、京極さんの制服のブレザーの袖先に自然と指が伸びた。

 

「あはっ、そんな可愛いことしなくてもちゃんと連れてくよ?ていうか、私も目的地そこだし」

 

「えっ!?っていうことは京極さんも……」

 

「そう。剣道で3位だから」

 

「すごいじゃないですか!」

 

「いや、まだまだ。まさか東にあれだけの剣士がいたなんてね……」

 

「でもすごいですよ!!」

 

「ーーッ!!」

 

「……へへっ」

 

ちょっと顔を赤くする京極さんが可愛くて思わず笑みが溢れた。普段はサンラクさんたちに煽られたりしてばっかりだったから意外と褒められ慣れてないのかな?そのまま目を覗き込むとしっかり見つめ返してくるんだけど時々視線が泳ぐのがなおかわいい。

 

「ほ、ほら、もうすぐ着くよ」

 

「あ、ホントですね!……えへ、ありがとうございます、京極さん!」

 

「うん。どういたしまして」

 

「京極さんは頼りになる先輩です!」

 

「う、そ、そういうのはいいから。そんなに歳が離れているわけでもないし。……あれ?茜って中3だよね。じゃあ2歳差かな?」

 

思い出したように話題を逸らす京極さん。今日、その話題のチョイスは!

 

「実はですね……今日誕生日を迎えたので1歳差です!」

 

ふふん!と胸を張って見せると、京極さんの顔が綻んで……

 

 

 

「そっか。おめでと」

 

「ありがとうございます!」

 

 

 

キザな風にも見えるように私の頭を撫でた京極さんはそれでもやっぱり絵になっていてかっこよくて。

 

 

「へへっ」

 

 

来年も陸上で全国に出たらまた会えるかななんて。

 

また見てくれるのかななんて。

 

 

そんなことを既に考えてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

全国中学・高校生春の総合体育大会 剣道の部高校生女子決勝トーナメント

 

 

優勝-○○○○

準優勝-○○○○

3位入賞-龍宮院京極

4位入賞-○○○

5位入賞-○○○○○

 




もしこの二人が気を許しあって、互いに意識し始めるようなことになったら、きっと二人ともくるっくる空回り始めてとてもかわいいと思うの(百合厨並感)。この二人の全力ですれ違ってずっこけて慰めあって照れあう系ラブコメも見たい(捏造過多)。


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進め、私の屍を超えて(尊死)

ルスモルの相互感情から姉弟愛成分を抽出してみたい今日この頃、黴と羽をくっつけてみたくなったけど頼れるお姉ちゃんはきっとポン(かわいい)。そんな妄想の具現化です。錆黴固定過激派の方は注意。


私には弟分がいる。

 

生まれた時からずっと一緒に居る大切な幼馴染。隣の家の、窓越しで隣の部屋に住んでいた私たちはずっと姉弟かのように育ってきた。自分の部屋の扉を閉めて親の視線から逃れ、本来自分だけの世界に浸るはずの(私の部屋)で窓の向こうから笑いかけて来てくれる、ある意味家族よりもずっと家族らしい相手。

 

 

それが、私にとっての葉という存在だった。

 

 

そして私たちは二人でネフホロにのめり込んだ。二人で天下取って、毎日のように戦いに明け暮れていた日々。そんな中で、ソイツは現れた。

 

キングフィッシャー。

 

やかん頭のネフホロプレイヤーにして、後にシャンフロやリアルでもどんどん交流を深めていくことになる私たちの新たな友人の一人であるプレイヤー『サンラク』。

 

 

それが、私たちにとっての陽務楽羽という存在だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『鹿尾野は好きな奴いるのか?』

『馬鹿!鹿尾野には佐備さんがいるだろ』

『あぁ……それもそっか』

『あ、あはは……』

 

なんていう会話は、今日学校でたまたま耳にしたものだった。

 

私からすれば、私と葉の間に今更そんな甘酸っぱい関係が成り立つなんて思えない。葉と十数年かけて積み上げた時間の結果である今の関係こそが貴いもので、()()()を見ることはきっとない。なぜなら私たちは既に家族なのだから。それが、私と葉のスタンスだった。

 

だからこそ、今まで私や葉はこの手の話題を鼻で笑い飛ばしてきた。

 

笑い飛ばしてきたのだが……

 

 

「……葉」

 

「ん?なに?」

 

「葉、好きな人できたの?」

 

「……は?」

 

学校帰りのいつも通りの通学路、いつも通りにゲームの話でもしていればよかったんだろうが、今日はたまたまさっきの葉のどこかいつもと違った態度がどこか引っかかってしまって、そんな柄にもない話題(恋バナ)を振ってしまった。

 

「いや、まって、何言ってるの」

 

この反応は図星の時のやつ。私の目はごまかせない。

 

「……本当にできたんだ」

 

「んぐっ……」

 

言葉に詰まった葉の頬に紅みが刺す。そんな葉の顔は見たこともなくて。ようやくの春の到来を迎えた弟分に私は口角が上がるのを抑えられなかった。

 

「ねぇ、葉」

 

「な、なに?」

 

「葉にとって、私ってどんな存在?」

 

「え、どんなって……まさか……」

 

「んなわけないでしょ」

 

「だよね、うん」

 

葉、落ち着いて。私たちの間に今更そんなフレッシュな恋心が生まれるとでも思ってるの。あまりにも愚か。葉のくせに。

 

「まぁいい。許す」

 

「何を?」

 

「今の私は気分がいいから」

 

「何の話?」

 

気にしないで。こっちの話。

 

葉は頭にはてなマークを浮かべながらもこっちの様子を窺ってくる。弱みを握られたようなつもりにもなっているのだろうか。……いや、流石にそんなことはするつもりがない。

 

「ところで葉」

 

「今度は何……」

 

「件の葉の初恋の相手について聞きたいんだけど」

 

「ふぼぁっ!?」

 

「どこの誰?」

 

やはりこの手の話には耐性がないのだろう。話を振るだけでいい反応を返してくれる。

 

「誰って……なんで言わなきゃいけないのさ」

 

「言い当てられたい?自分の気持ちが筒抜けだったことを知るのは死ぬほど恥ずかしいと思うけど」

 

「その前振りがもう恥ずかしいんだけど!?」

 

「私だって無為に葉の純情を弄ぶつもりはない」

 

「わかったよぉ……」

 

分かったと言いつつも渋る葉。大丈夫。まだ家に着くまではずいぶんある。ゆっくりと聞き出していこうじゃないか。私は「ふふん」と鼻を一つ鳴らした。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

「……本当に言わなきゃダメ?」

 

「まだごねるか」

 

 

まぁ、葉が言わなくてもきっと『()()』の事なんだろうなっていうのは予想がついていた。……というか、私を除いたら『()()』くらいしか葉が仲良くできている女の子がいない。

 

 

「葉」

 

「…ん?」

 

「大丈夫。私は葉が誰を選ぼうと応援する。葉の真剣な気持ちを笑ったりしない」

 

 

……だから。

 

 

 

「お姉ちゃんに全部話してみなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「モルド!おっすー!!」

 

「お、おはよう。()()()()

 

 

約束の時間、私が向かいのカフェからこっそり見守る中、件の二人がついに待ち合わせに現れた。

 

『サ、サンラクが……好きかもしれない』というのは昨日の通学路で葉から聞いたこと。まぁ、ぶっちゃけ予想通りというか、大本命で面白みもなかったというか。

 

だが煮え切らない葉は『僕だって本当にサンラクが好きが分からないんだよ!』と言っていた。なら、確かめるしかないじゃない?というわけで、葉にちゃんと気持ちを自覚させて覚悟を決めさせるために、そしてうまくいけばこのまま二人をくっつけてしまうために、私は今回のデートを計画したわけだ。

 

どうやって約束を取り付けたかと言えばとても単純。ネフホロをやってた時にゲーセン機(リアル)での対戦を吹っかけて、後は私がバックレるだけ。完璧すぎる計画。

 

 

「こら、こっち(リアル)じゃ私はサンラクじゃないぞ」

 

「あっ……うん、陽務、さん」

 

「あははっ、何緊張してんの?楽羽でいいってば」

 

「ていうか、ら、楽羽だってさっき僕の事モルドって呼んだじゃないか」

 

「たしかに」

 

 

うわっ。葉があそこまでやりづらそうにしてるの始めて見た。葉は基本的に興味ない相手にはとことん興味ないし、あそこまで緊張しながら他人と話すことなんてないんじゃないかな。っていうか葉がそわそわしてるとこっちまでそわそわしてくる……

 

「で?ルス……じゃなくて、夏蓮は?」

 

「あぁ…夏蓮は……ドタキャン………」

 

「ドタキャン?」

 

「……ネフホロで野良に喧嘩売られたからボッコボコにしてくるって」

 

「でも夏蓮なら瞬殺できるでしょ?」

 

「あぁ…確かに…」

 

私のことはいいんだよ。ほら、葉、もっと楽羽に言う事あるでしょ。ほら!……うぅ、じれったい。

 

「まぁ、夏蓮の事だし片付いたら何か連絡よこすでしょ」

 

「それもそっか」

 

「じゃあ楽羽。このまま立ち話をしててもなんだし、とりあえず移動しようか」

 

「オッケー。いつものゲーセンでしょ?」

 

「そのつもり」

 

「じゃ、行こうか」

 

「うん」

 

やっとこさ動き出した葉と楽羽二人並んで歩きだしたその絵面がちゃんとデートに見えてちょっと感動。私も距離を離して追跡する準備をせねば。とりあえず、もう少し距離が離れるまで見守って……

 

「そういえばさ、葉」

 

「なに?」

 

 

 

「これ見ようによってはデートになるけど大丈夫?私、夏蓮に怒られない?」

 

 

「ーー!?!?」

 

 

ーー!?!?

 

 

 

何事でもないようにそう宣った楽羽。いや、私としてはそう見えるように今回の計画を立てたわけなんだから全然いいのだけれども。全くいいのだけれども。うん。構わないのだけれども!

 

「だ、大丈夫なんじゃない?」

 

「あ、そう?」

 

 

……いやー、葉につられていちいち動揺してしまうのはどうなのだろうか。だけど、葉にとっては勝負のデート。私の半身ともいえる弟分がそれだけの覚悟を決めて今日に挑んでいるのだ。仕方がないだろう?

 

 

 

「なら、せっかくだから手でもつないでみよっかぁ?」

 

ーー!?!?

 

「っ!?!?………え、遠慮しとく!!!」

 

「あっははは!!なに?葉!めっちゃいい反応すんじゃん!!」

 

「ぅぇ……頼むから勘弁して……」

 

「あー。おもしろ」

 

 

バタン!!と、思わずテーブルに突っ伏した。勝手ににやける顔が元に戻らない。葉の珍しい反応もかわいくて。二人の会話一つ一つが織りなすあの空間がどこまでも尊くて。もう、見てる私の方が先に限界を迎えてしまいそうだ。

 

私も復活まで時間はかかったが、なんだかんだ騒ぎながらもすぐ隣を歩く二人を近年まれに見る笑顔で見送ると、私も移動の準備を開始した。

 

 

 

「……やばい。これめっちゃ楽しい」

 

 

 

葉の勇姿を見逃さないため、私は二人の追跡を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

ーーートイレで鉢合わせしてすべてバレるまであと41分。




モルドにいい顔したいけど別に自分が恋愛経験豊富というわけではないので奮闘するも空回りして結局くっついた黴と羽に温かい目で見られてそう。


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先の見えない暴走特急、一寸先は眩しくて。

先に一つ、このお話は割と人を選ぶであろうテーマで書かせていただきました。危険なにおいを感じたら適宜読むのをやめましょう。

茜無自覚の楽→茜がメインのお話です。


「俺、秋津茜の事が好きだ」

 

 

私の好きな声が耳を撫ぜた。

 

 

どこか夢見心地なのは私がこの現実をきっと受け入れられていないからで。このありえないはずの現実は、私一人の夢の中でなきゃ味わえないもののはずだったからで。

 

 

「ぇ……ぁ……その……」

 

 

何かを言わなきゃ。何を、なんて、私は……

 

 

「…………」

 

 

私を見つめるその目は真剣で。いつも仮面に遮られてどこか表情の読み取りにくかったサンラクさんの普段触れない素の表情に触れて、私の中でナニカがどんどん熱くなっていく。

 

抗わなきゃダメなのに。

 

この熱に身を任せるがどうしても心地よくて。

 

色々考えなきゃいけないことはあるはずなのに。

 

その言葉を聞けたのが本当にうれしかったから。

 

 

……嬉しかったから。

 

 

 

……本当に、嬉しかったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『別に好きでもない男と仲良くする必要なんてなくない?』

 

 

 

……なんていう言葉は、今日とあるクラスメイトの口から出たものだった。

 

 

「……??」

 

 

うーん、どういう事ですかね?

 

それがシンプルな感想だった。

 

いまだに恋愛らしい恋愛をした事がない私にとってはその『好き』っていう感情があまり想像できなくて、何となく、『仲良く』している男女について少し考えてみた。

 

付き合っていると噂のクラスメイト。

 

お父さんとお母さん。

 

そして、とある男女が私の頭の中に浮かんだ。

 

 

サンラクさんとサイガ-0さんだ。

 

 

もちろんサンラクさんはペンシルゴンさんたちとも仲がいい。でも多分それは今日友達聞いた「好き」とは違う気がする。サンラクさんに直接そんなことを聞こうもんならきっと今までに見たこともないような顔をされるだろう。

 

さらに言えば私だってサンラクさんやオイカッツォさんとも仲がいいけど、無論そう言った感情からの打算によるものではない。当然だ。遊んでいて楽しいから仲良くさせてもらっている。

 

やっぱり、クラスメイトの彼女の言った事は全部が全部合ってるとは思えなかった。それでも、あの二人は、きっと『好き』で二人一緒にいるんだろうななんて思えてしまう。

 

もちろん、根拠なんてない。

 

でも、二人に『恋』という概念を見出すのがどこか楽しくて。

 

二人の間に『恋』を見いだせた私はどこか今までの私よりも成長できた気がして。

 

大事な人達(サンラクさんとサイガ-0さん)の未来が輝かしくあってほしいからなんて気取ったことを考えて、少し照れくさくなって頬をかいた。

 

 

そして私は、二人の恋を応援しようと決めたのだ。

 

 

 

私は、どこかで漠然と『恋』に憧れていたのかもしれない。

 

 

色とりどりな恋に溢れた世界は、私には煌めいて見えた。

 

 

 

 

 

 

今日も今日とてシャンフロにログイン。今日は何をしようかな、なんて一切ノープランでログインした私はとりあえずラビッツの街を歩いてみることにした。

 

見慣れたラビッツの町並み。たくさんのヴォーパルバニーの闊歩するこの街で、私は周りとは明らかに違う(兎じゃない、人間の)二人組を見つけた。

 

「…………!!」

 

私は自分でもびっくりするほどの瞬発力で建物の影に隠れて、その二人組の様子に目を凝らした。

 

ラビッツにいる時は基本的に鍛冶場に籠もっているイムロンさんを除けば、この街を歩く事ができるプレイヤーは3人だけだ。

 

 

『……ぁ……の武器が……陸の反……らし………たいん………』

 

『わ、わた………けれ………一緒……て………きたく……』

 

 

うーん、やっぱりこの距離じゃ会話まではちゃんとは聞こえないなぁ……。

 

名前の知らないヴォーパルバニーさんたちに不審な目をされながらも私が覗いていたのは、サンラクさんとサイガ-0さんだった。

 

 

あの日以来、私はサンラクさんとサイガ-0さんを目で追うようになった。

 

サイガ-0さんの気持ちに気づいてから、二人がこうして一緒にシャンフロをプレイところを見ると、微笑ましいような、むず痒いような気持ちになってしまってどうにもたまらない。その感覚がどこか気持ちよくて、私は二人にもっと距離感を縮めてほしいなって思ったんだ。

 

そこで、私はとある作戦を考えついた。聞いた話によると、サンラクさんは新大陸の西側にユニーククエストを進めるためのパーティを探しているらしかった。サードレマで“何か”の準備をしているペンシルゴンさんやリアルが忙しいらしいオイカッツォさん、そもそもどこにいるかわからないルストさんやモルドさん、京極さんが頼れなければ、私さえサンラクさんと会わなければ、自然と頼られるのはサイガ-0さんになるはずだ。

 

そして、サイガ-0さんは晴れてサンラクさんとの二人きりのクエスト(デート)に臨むことができるというわけだ。

 

さっきの会話も微妙に聞き取れなかったものの、『武器』や『新大陸』といった単語がサンラクさんの口から聞こえて来た気がする。もしかしたら、サンラクさんはサイガ-0さんをパーティーに誘ったのかもしれない……!!

 

「狐の御人……何をしているのです?」

 

「うさぎさん、しーっ、です」

 

「しょ、承知ですわ……」

 

何やら話しかけてきたヴォーパルバニーさんと共に身を潜めながら、二人の会話の内容を確認するためにちょっとずつ二人との距離を詰める。

 

 

『おっけ。じゃあレイさんは確定で。あと声かけられそうなのは秋津茜くらいか……』

 

『他の方は?』

 

『予定つかなかったりそもそも連絡つかなかったり』

 

 

よし。ある程度聞き取れるくらい近くまで来れましたかな……??

 

聞こえてきた会話の内容からして、サンラクさんはどうやらサイガ-0さんを誘えたらしい。なら、あとはサンラクさんが私とも連絡がつかなければいいだけ!

 

「うさぎさんっ!逃げましょう!」

 

「……!?」

 

「静かに、ですよっ!」

 

「が、がってん!」

 

サンラクさんが上手くやってることを確認した私はウキウキとした足取りで踵を返す。

 

……だがしかし

 

 

「あれ、秋津茜じゃん」

 

「ひょえっ!?!?」

 

 

肩をビクリと跳ねさせておそるおそる振り返ると、サンラクさんの視線は確実に私を捉えていて。

 

「では私はこれで……」

 

「あ、うん。ありがとうレイさん」

 

この後に用事でもあるのかログアウトしてしまったサイガ-0さんを見送ってサンラクさんがこちらに駆けよってきた。

 

 

「ちょうどよかった、秋津茜。お前にメッセ飛ばそうかと思っててさ」

 

「へ、へぇ~。そうなんですか」

 

「週末、ユニーク手伝ってくれないか?パーティーメンバー探しててさ」

 

 

落ち着け私……!!まだここで断れば大丈夫だから!!

 

「すみません、週末は部活なので……」

 

「そっか。じゃあしゃーねーな」

 

「えへへ、すみません……」

 

よし、とりあえずこれで……

 

 

「ちなみに、他に秋津茜が空いてる日ってあるのか?」

 

 

「ぇ?」

 

えっと、私が暇な日?基本的に部活がなけりゃ大丈夫だけど……

 

「平日の夜とかですかね……?」

 

「じゃあ、明日の夜とか暇?」

 

「暇ですけど……??」

 

「じゃあ、一緒に狩りに行こうぜ」

 

「いいですよ!ちなみに、他の方は誰をお誘いします?」

 

 

「いやその……二人。エムルたちも置いてって、二人きりで」

 

 

……??

 

「えと、そういう縛りのユニークですか?」

 

「いや、特にそういうわけじゃないが」

 

 

ーーーそれじゃあまるでデートみたいじゃないですか。

 

 

なんて笑って流してしまいたいけど、それをするべきは私じゃなくてサイガ-0さんだ。んもう。こういう二人きりのお誘いなら私じゃなくてサイガ-0さんを誘えばいいのに……

 

 

「なぁ、デートみたい……とか、気にしてるか?」

 

 

「っ………ッへっ!?」

 

私が言おうとしなかった単語がサンラクさんの口から出てきて、変な声が出た。いやちょっと待ってくださいよサンラクさん、そういうのは私じゃなくて……

 

「お前が気にするなら遠慮するが、正直に言うと、俺はそういう側面も込みで声をかけたから」

 

ちょ、ちょっと待ってください?それはどういうことですか?私相手に、デートを誘ったってことはそれはつまり……

 

 

「秋津茜、ちょっと大事な話、いいか?」

 

変化は急だった。

 

 

一人で混乱している私を置いて、サンラクさんが()()()()()こちらを見つめてくる。

 

 

「ふぇ?」

 

 

そう。今までに見たことのないような真剣な顔。今までサンラクさんが他人に見せることをしなかった、このアバターの素顔(覆面を取った姿)で、こちらを見つめていて。

 

「流石にこんな話を顔隠しながらは失礼だからな」

 

待ってくださいよ、こんな話ってどんな話ですか?今からいったい何を言うつもりなんですか?

 

混乱した頭じゃサンラクさんが何を言おうとしているかなんて皆目見当もつかない。でも、頭のどこか軽忽な部分が、何となくその雰囲気を感じ取ってしまって。

 

 

「なぁ、秋津茜」

 

 

や、ちょっと待ってくださいよサンラクさん。私まだ、()()()()が……

 

 

 

「俺、秋津茜のこと好きだから」

 

 

 

聞いてしまった。

 

聞いちゃいけないはずの言葉を。

 

その認識しちゃいけなかった『好き』の二文字を。

 

 

「な、なんで……」

 

 

「俺の周りって変なゲームばっかやって達観しちまったやつが多くてさ、秋津茜みたいに本気で楽しんでゲームしてる奴っていなくてさ。秋津茜、すげぇ楽しそうにゲームしてるだろ?それがなんかさ、俺には、眩しく見えた」

 

何でなんて聞いてしまったけど、別に何でかなんてどうでもよくて。ただ、私はこの言葉を素直に受け取っていいのかの()()()()が……

 

……()()()()

 

そこまで整理して、ふと、気づいた。気づいてしまった。

 

サンラクさんが私に心の準備をする時間をくれたとしていたらなんだというのだ。もし、私が()()()()とやらをあらかじめさせていてくれたら、私は、サンラクさんの告白を……

 

とくん。と、胸の奥で何かが聞こえた気がした。

 

まって。

 

だめ。

 

おちついて。

 

おちついて。

 

れいせいになって……

 

冷静になって、一つ、思い当たってしまった。

 

 

 

ーーー私は、この展開を望んでしまっていた?

 

 

 

「わ、私じゃなくたって、サイガ-0さんとか……」

 

「レイさん?いや、あの人はむしろゲームの辛みまで知り切っちゃってる廃人タイプだし……レイさんだって、相談したときはちゃんと応援してくれたんだよ。ありがたいことに」

 

 

サイガ-0さんが応援してくれた?それは本心から?

 

私にはわかる。サンラクさんと一緒に居たサイガ-0さんを見てきたからわかる。サイガ-0さんは本気でサンラクさんが好きで一緒に居たはずだ。

 

 

……じゃあ、私は?

 

 

私は、どうだったのだろうか。私はそうじゃなかったと思っていたけど。もしかしたら…………いや、違うって。ダメだよそんなの………

 

 

「秋津茜、もう一回言わせてくれ」

 

 

いつまで考えてもきっと結論なんて出ないのに、それでも、もっと考えさせてなんて心の中ではテンパってて。きっと、私は今のままもう一度()()を聞いたら()()()()()()……

 

 

 

「俺、秋津茜のことが好きだから」

 

 

 

だめだった。

 

 

もっと考えなきゃいけない事(サイガ-0さんの事)とか、いっぱいあるはずなのに。

 

 

 

「ぇ……ぁ……その……」

 

 

 

考えれば考えるほどその言葉が心に突き刺さってはなれない。胸の奥を掴んでしまって放してくれない。

 

 

 

 

 

「……はいっ!!!」

 

 

 

 

 

私は、その気持ちを拒むことができなかった。

 

 

 

胸の内は、幸せであふれてしまっていた。




『秋津茜メインで何か書こう!』からこれが出てくるの、なに?

とある理由から今日の間に投稿したかったので、多分そのうち誤字とか出てくる。適宜修正します。


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錆黴短編詰め合わせ

シャングリラ・フロンティア4周年めでてえ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

ということで、記念です。

一応内容は過去にツイッターに投げた錆黴の短編4作+新作の錆黴1作という風になってます。前4作は以前投げたのと同じものなので、読んだことのある方は最後の1作だけでも読んでってくれると嬉しいです。


【錆黴が今の関係性になる前にそんな時期もあったんじゃないかと思うんです】

 

 

 

最近、私の幼馴染()が思春期に入ったようだ。

 

「……」

 

生まれてこの方一緒にいる私達だが、私達は男女にして、葉ももう中学生。いわゆる“お年ごろ”ってやつだ。そういうものもあるだろうさ。……別に寂しいわけじゃないし。

 

……でも、葉はそろそろ慣れて。

 

「……かたぐるま」

 

そういえば最近してないな。なんてそんな下らないことを考えながら、今日も私はネフィリムに乗る。そうか、私はこの高い視線が好きなんだな。なんてこの緋翼連理に乗りながら気づいたのは少し前の話だったが、今ネフィリムに乗って見ているこの星の光が小さいころから葉の肩の上で見てきた夕陽にどこか重なって見える気がするのはきっと気のせいじゃない。

 

 

 

ゆっくりと機体を発進させる。向かうのは今日の対戦相手。今日も対戦する唯一無二の好敵手。明日からもずっと研鑽を続けるであろう緋翼連理のその片翼。

 

そんな宿敵を探して荒れ果てた荒野を飛び回る。

 

このマップでの定跡はリスポーン地点から右回りの迂回路。山脈の裏。自身の機体を地形に隠しながらレーダーを走らせる。

 

……いつもならこの辺でエンカウントするけど。

 

葉の戦略眼は私よりも上。葉が本気で考えた新しい作戦があるなら、きっと誰にも、私にも、わからない。

 

 

でも、何となくそこからの視線を感じた気がしたんだ。

 

 

 

「……いた」

 

 

 

モニター越しに移る機体。その巨大な鎧の向こう側、コックピットに座っているであろう葉と目が合った気がした。

 

 

視線が通る。

 

射線が通る。

 

静寂で世界が滞る。

 

 

私はこの一瞬が好きだ。

 

 

最近どこか私との距離感を測りかねている葉だけど、今だけはしっかりと私の瞳を捉えてる。こんなにも混じりっ気のない真剣な眼差しを、ゲームの中でならいつだって向けてくれる。

 

今日はどんな手で来るのかな?

 

それはやっぱりに私には想像もできないけど、……でも。

 

 

 

「今日も、私が勝つよ」

 

 

 

吊り上がる口角に合わせて、2機のネフィリムはエンジンの火を吹かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【別に付き合ってもいない錆黴が電車でイチャイチャするだけ】

 

 

 

電車って本当に「ガタンゴトン」って音がなるんだな。

 

なんて意外そうでただただどうでもいい事実に気づいたのは夏蓮と二人で電車に乗っているときのことだった。僕は今夏蓮の右隣の座席に座っていて、膝の上には二人分の荷物を詰め込んだ大きなリュックが乗っている。目的地まではまだ遠い。することもないなぁ……なんてボーっとしていると、ふいに僕の手に夏蓮の手が触れた。

 

「?」

 

僕の手を持ち上げた夏蓮はそのままリュックの上に僕の手を乗せ、自分の手を同じリュックの反対側にのせると、そのままリュックの中の水筒によってできた膨らみの裏側に自分の手を隠した。

 

そしてそのまま少し様子をうかがう夏蓮の手を見て、悟った。

 

 

ーーーあ、これ暇つぶしに付き合えってことね。

 

 

僕はゆっくりと自分の手(ネフィリム)を滑らせ膨らみ()の裏側へと近づいていく。するとあちらも恐る恐るといった様子で距離を近づけてくる。

 

あまり冷房の利いていない暑い電車の中に一瞬の冷気が走って、夏蓮の目の色が変わった。

 

……トントントンッ!!

 

夏蓮が素早く指でリュックを叩いた(ブラスターを撃った)。僕は急いで距離を取りつつ射線を切る。すぐに夏蓮の(機体)が顔を出すが、リュックの大きさ(フィールドの広さ)から考えてここは夏蓮の射程範囲外のはずだ。

 

一旦仕切り直しだ。今僕に使えるリュックの凹凸(地形ギミック)は……

 

今度は僕の方から動く。花蓮側のリュックの側面すれすれまで大きく膨らんで一気に距離を詰め、射撃をしながら少しずつ夏蓮を誘い込む。

 

「……(今ッ)!!」

 

夏蓮をリュック側面の低いところ(位置状況の悪い低地)に誘い込み、僕は真上のストラップの裏に退避。そこから威嚇射撃を繰り返してなんとか有利な状況を作り上げることに成功。こんな優位は普段なら超人的な機体操作でいとも簡単に覆すが、この遊びでそんな神業(無茶な動き)をしてもしょうがないのは僕も夏蓮もわかっている。夏蓮はあきらめてさらに低く位置をとる。そのまま僕の太腿の上に位置を取り直し、撃ち合いの局面に移った。

 

「……」

 

夏蓮の指が僕の腿を叩く甘いようなむず痒いような刺激に注意を割かれそうになるが、頑張って頭の隅に追いやる。……が、このまま撃ち合ってると僕の集中力が先に音を上げそうになる。タイミングを計って距離を詰め、サイドポケットに一度隠れ…………

 

……同時に夏蓮が動き出した。

 

「ッ……!!」

 

僕の(機体)がポケットの中に逃げ込むと同時、体勢を整える前に夏蓮の(機体)が突っ込んでくる。そのまま僕の掌を夏蓮の指が撫ぜた。

 

零距離の射撃。核を撃ち抜かれた僕の負けだ。

 

あぁ……負けたかぁ……。

 

そのままふと夏蓮を見ると夏蓮は正面を向いていて視線が合わないが、ポケットの中で再び夏蓮の手がうごめき始めた。トドメでも刺されたか?

 

そのまま夏蓮の指が僕の手の上で動き続け(死体漁りをして)……

 

 

「……」

 

「……」

 

 

そのまま、指と指が絡むように……

 

 

「……」

 

「……あ、夏蓮、次の駅で降りるよ」

 

「うん」

 

 

僕たちの声は別に上ずるようなこともなく、いつも通りだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【お題『モルドする』】

 

 

 

『モルドする』という言葉がある。

 

 

 

「モルド」

 

「なに?」

 

「焼き鳥の共食い」

 

「ぶっふぉぁ!!」

 

 

炎を纏ったサンラクが焼き鳥らしき食べ物を鳥の覆面のくちばしに突っ込んでモルドを笑わせる様子をみんなで眺める。

 

今となっては旅狼(ヴォルフガング)でも鉄板ネタとなりつつあるこのモルドのゲラ。このモルドの爆笑がさらなる笑いを呼んで。私の周りもにぎやかになったなぁ……なんて感慨にふける訳でもないけれど。

 

私の記憶を見返してみれば、あんなにいつも一緒に居たのに、モルド()はいつも笑ってたっけなんて。

 

そんなことを、ちょっと思い返してみる。

 

 

 

 

 

 

『なんか夏蓮ちゃん怖い』

 

『佐備、面白くない。笑わねぇし』

 

『なんかむすっとしてて感じ悪いよね』

 

『話しててもつまんないし』

 

 

昔から、私は自分の感情を表現するのが苦手だった。

 

昔の私はクラスの中心にいるような男子が大きな笑いを取っても表情一つ動かないような子で、よく雰囲気を壊すなと言われ続けてきた。

 

 

面白いとは思っていたんだ。

 

 

でも、どう笑えばいいかわからなくて。

 

結果周りの人との交流がだんだん減っていって、ゲームにのめりこむようになっていった。

 

 

でも、それでも私の傍に、私だけの傍に居続けてくれた大切な幼馴染が一人。

 

当時はまだ普通に笑っていた男の子。

 

どんなときでも一緒にいてくれた男の子。

 

 

その時から私の世界は、私とその子()だけでできていた。

 

 

 

この頃から息はピッタリだった私達だけどやっぱりまだ小さかった私達にはまだ()()()()部分っていうのがどうしてもあった。

 

葉が何を考えているのかわからなくて。葉が何を言いたいのかが分からなくて。私が何を葉に対して思っているのかが分からなくて。

 

その日は疲れていたのか体調を崩していたのかよく覚えていないけれど、どこか調子が悪くて、やたらとイライラして、葉に当たってしまった日があった。

 

 

「夏蓮、大丈夫?」

 

「大丈夫って言ってるでしょ」

 

 

心配をしてくれていることはわかっていた。だけど、学校のみんなはきっと私が調子を崩した程度じゃ心配すらしてくれない。なのに、葉だけはこうしていつも心配してくれた。それがその時はどうしてかわからなくなってしまった。今考えてみれば、それは私が葉を大切に思っているように、葉も私を大切に思ってくれているからだ。とても簡単なことだけど、その時は本当にそんなこともわからなくなってしまって。

 

「葉には……関係ないじゃん」

 

「関係なくはないよ?夏蓮の事だし」

 

「だから関係ないって言ってる!わたしといてもつまらないでしょ!!」

 

 

「楽しいよ。僕は」

 

 

 

葉はそう言って、笑った。

 

 

 

 

 

 

その時、気づいた。葉がいつも笑っていることに。他の子たちが私と話してもつまらなさそうにする中で、葉だけは私にずっと笑顔を向けていてくれたことに。

 

 

「焼き鳥の踊り食い」

 

「おど……ぶっふぁ!!」

 

 

私にはサンラクが変な恰好で謎の踊りをしながら焼き鳥を食べるあの光景に声をあげて笑う事なんてできないけれど、モルドは大爆笑。やはり、モルドは笑いのセンスが完全に一つズレてしまっている。

 

 

だけど。

 

もし、彼の笑いのツボが他人に比べてズレてしまっていることが、昔から感情表現の薄い私に笑顔を向けるために調整されてしまったものであるのだとしたら。

 

 

「……」

 

 

彼が『モルドする』のを見て私は、愛されてるなぁ……なんて、そんなことを考えながら頬を緩ませてみた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ルストめし】

 

 

 

「ご馳走様でした」

 

先に食べ終わった僕は先に食器を台所に運んで桶に食器を漬けるための水をため始める。

 

ふと夏蓮の方を見るともう茶碗に残った米ももう少し。台所から帰るついでにいつものやつ(・・・・・・)を食卓に持って行った。

 

「さすが葉。わかってる」

 

「夏蓮、すきだよねぇこれ」

 

「うん」

 

僕が用意したのはただのたらこ(・・・)。だけど、僕がそれを夏蓮の元に届けるなり、びっくりするほど真顔なのにびっくりするほど輝いた眼で残り少ない白米の上にぶちまけた。その動きは現実世界(ゲーム以外)ではなかなか見せないほどに俊敏な物で。

 

「たらこは逃げないから、落ちついて」

 

「大丈夫」

 

「何が?」

 

「たとえ逃げ出しても、絶対に逃がさない」

 

「そうじゃないんだよなぁ……」

 

逸りながらも慎重に醬油を垂らしている夏蓮の視線はネフホロの対人戦で謎挙動で高速飛行する変態(コーラシアス・ライラック)を狙撃するときのそれと同じだった。……たらこにここまで真剣になることなんてある?

 

「……その視線の意味を聞いても?」

 

「聞きたい?」

 

「……葉、あまりにも愚か」

 

「なんで!?」

 

「少しずつご飯を食べ進めて最後に残ったこの僅かな白米、それをたらこずくしで食べるなんて贅沢に対してのその失礼極まりない馬鹿にした視線、あまりにも罪深い。私はこの瞬間のためにお米を食べ進めてきたと言っても過言ではないのに」

 

「そこまでなの……??」

 

「ふん」

 

たらこに醤油を垂らし終えて満足げに僕を一瞥。そこまでのことだったらしい。

 

 

ここで、一度夏蓮の好物を振り返ってみたい。

 

昔から子供にしては珍しいトマト好きという好みに加えて、ラーメン屋に行けばドギツい辛さの担々麺、そしてこのたらこ。ここまで振り返ればわかると思うが、そう、赤いのだ。自分の好き嫌いに関しても見た目から入るタイプなのだ。この佐備夏蓮という女は。

 

そんな夏蓮は僕が食い下がらないのを確認するとすぐに視線を茶碗へと戻し、一気にご飯を掻き込んだ。

 

「……むふぅーっ」

 

……でもまぁ、こうして満足げに食べている夏蓮を見るのは僕も好きなので、別にこれでもいいかなんて思えてしまって。

 

「満足っ…!!」

 

やっぱり僕は、美味しそうに食べる君が好きだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【時は入違って夢焦がれ】

 

 

 

 

 

 

【夏蓮】

 

夏蓮:たすけて

 

 

 

 

 

そのメッセージをもらったのは昼寝から目覚めた夕方だった。

 

 

今日は夏蓮の家に親戚が遊びに来るということでネフホロにはログインせず暇を持て余していた僕。今頃夏蓮は親戚の人達と楽しい会食でもしてるはずなんだけど……

 

「……どういう状況?」

 

『どうしたの?』と返せば、『いいから早く来て』とのことなので、とりあえず夏蓮の家に向かった。……と言ってもすぐ隣なんだけど。

 

チャイムを鳴らせば、『開いてる』とのチャットが飛んでくる。え、これ入っていいの?

 

 

「お、おじゃましまぁーす……」

 

 

恐る恐るドアを開けた。すると、中から聞こえてきた様子はあまりにも僕の想像と違ってずっと静かで、ただ赤ちゃんの泣き声のようなもの(・・・・・・・・・・・・・・)だけが聞こえてきた。

 

 

『…う!……く…て!!』

『ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!』

 

 

……赤ちゃんの泣き声?

 

状況はよくわからないけれど、その泣き声の向こうで夏蓮の『葉!早く来て!』という声が聞こえた気がして。僕はリビングへと足を進め、その扉を開けた。

 

 

「夏蓮?どうしたの急に呼び出して……」

 

 

そこにいたのは大声で泣き叫んでいる赤ちゃんを抱えてわたわたしていた夏蓮だった。

 

「え?どういう状況?この子のご両親は?」

 

「この子を私に預けて大人はみんな飲みに行った。とりあえずこの状況を何とかして……!!」

 

「何とかしてってどういう事!?」

 

「わかんないけど何とかしてッ……!!」

 

 

夏蓮は泣き止む様子のない赤ちゃんを抱える腕をプルプル振るわせながら珍しく本気で焦り倒している。こんな夏蓮の様子はめったに見れないもので。

 

「……ふふっ」

 

「……なぜ笑っている?」

 

待って、夏蓮の目があまりにも笑っていない。ただ夏蓮の様子がどこか微笑ましく見えたのが口から少し漏れただけでそこまで怒る!?

 

「なんだろう……お腹すいたのかな?」

 

「さっきお母さんが哺乳瓶飲ませてたけど」

 

「じゃあ……おしっこ?」

 

「オムツならさっき変えてたけど」

 

「……ぼくにはもうわかんないや」

 

「アキラメナイデ」

 

二人してあれやこれやと解決策を出そうとするも、当然ながら赤ちゃんをあやす心得なんて僕たちは持っていない。こうしている間にも赤ちゃんは泣き続けていて、なんて言うんだろう。どうにもこの泣き声に何かを急かされているような気がしてしまう。

 

「夏蓮!とりあえず……ゆすって」

 

「どうやって!?」

 

「こう……こう!!」

 

「こう!」

 

 

 

 

 

『ネットで調べる』なんて簡単なことも思いつかない僕たちは、二人でひたすらにテンパりながら赤ちゃんが泣き止むまでひたすら交代で赤ちゃんをゆすり続けた。

 

……そして。

 

 

「……すぅ……すぅ」

 

 

結局赤ちゃんは泣き疲れたのかそのまま寝てしまった。

 

「……これはこれでどうしよう」

 

「とりあえず、ゆすり続けた方がいいのかな、起きないように」

 

「わかった」

 

僕の言っていることが正しい方法かなんてわからないのに、それでも真剣な顔してゆすり続ける夏蓮を見ていると、何度でも笑みがこぼれてしまう。なんでだろうか。

 

「さっきからなに?その薄ら笑いは」

 

「いや、いずれ夏蓮が子持ちになったらこんな感じなのかなぁ…って」

 

「………………はっ」

 

「何でそんな心底馬鹿にしたように笑うの」

 

「ねぇ、葉」

 

「ん?」

 

「その私の子供、一体誰との子供なんだろうね?」

 

「ッ……!!!」

 

想像した。いや、()()()()()()()()()()。今よりも少し大人びた姿で自信の子供をあやす夏蓮の姿と、それを傍で見守る僕の姿を。そう、これを夏蓮に悟られているってことはつまり、今僕がしたのは実質的にプロポー……

 

「自分で言ったのにそれで照れてりゃ世話ない」

 

「う、うるさいなぁ!」

 

こういう時だけはあまり感情を顔に出さずに済む夏蓮が少し羨ましい。多分今僕は全く誤魔化せてないだろうなって分かっちゃうほどには顔が熱くて、もう頭が焼き切れてしまいそうだ。

 

「からかわないでよ……」

 

「それは無理な相談」

 

 

 

「ぁ……ぅぁぅ……」

 

 

 

「「あ」」

 

 

夏蓮に抗議の視線をあしらわれていると急に聞こえてきたその声に、僕らは二人して間抜けな声で応えた。

 

 

「よ、葉!起きちゃったどうしよう!」

 

「まだ泣いてないから大丈夫だよたぶん!」

 

 

二人でおそるおそるその顔を覗き込む。今この子が泣きだしたらもう正直僕たちじゃ手が付けられない……

 

 

「……ぅ……ぅ……きゃっ」

 

 

「わらっ…てる?」

 

「たぶん……」

 

夏蓮と目を合わせてぱちくり。とりあえず、最悪の事態は回避したようだ。しかしそれにしても。

 

「か、かゎぃぃ」

 

「うん。本当にかわいいね…………夏蓮、何か話しかけてみたら?」

 

「え!?話しかけるって何を?……そもそも言葉わかるの?」

 

「流石にまだじゃないかなぁ」

 

「どうしよう……」

 

「ほら、赤ちゃんの気持ちになって」

 

 

『どうしよう……』なんて何度も繰り返しながら一人で混乱していく夏蓮を何となく眺める。さて、悩みに悩んだ夏蓮はなんと話しかけるのやら。

 

 

 

「ぁ…ほら……ほーら……ばぶぅー……」

 

「ばー……ばぅぁーー!!」

 

 

 

「ぶっふぉぁ!!!」

 

ば、ばぶぅ!?赤ちゃんに話しかけようとして、赤ちゃんの気持ちになった結果の一言が『ばぶぅ』って……夏蓮にこんなあざといことができるなんて……!!

 

「葉……お願いだから今ツボるのだけはやめて……」

 

今までにないくらいに顔を赤くした夏蓮が掠れたような小さな声でつぶやいた。ここまで恥ずかしがる夏蓮も珍しい。肩も震えていて、流石にこれ以上笑うのはかわいそうだとは思ったけど。

 

 

「ほら、夏蓮。次はべろべろばーって」

 

「葉の前じゃ死んでもやらないから……!!」

 

「えぇー。いいじゃん別に」

 

「うっさい。くたばれ」

 

 

今の僕らじゃこんなにも手探りだけれども、いつかは。それこそ、僕らはもう16歳。あと『4()()』もすれば成人するわけで。今までの4年間が意外とあっという間だったように、これからの4年間なんてきっとあっという間だろう。確かに4年もあれば何が起こるかなんてわからないけれど、きっと僕はまだ夏蓮と一緒に居るし、それこそ…………

 

 

「ぁー……ぅー……きゃぁーー!!」

 

 

こうやって、また二人で子供をあやす日も来るのだろうかなんて、機嫌よく笑ってるこの子を二人で眺めながら、僕らは何となく笑みをこぼすのであった。




無理やりすぎた4年要素。推しをばぶらせるのは全人類の夢です(違う)。

5編の中でどれがよかった!気に入った!などあればぜひ教えてください!


5年目のシャンフロのさらなる盛り上がりを願って!

改めて4周年おめでとうございます!!!!!!!!


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雨は降り積もって笑み焦がれ

右脳「雨って百合だよね」
左脳「雨って楽玲だよね」
馬鹿「羽誕!!!!!!めでてぇ!!!!!」

……誕生日ってなんだっけ(呆


教室の中では、どんよりとした妙に重い空気が流れていた。

 

 

別に誰かの機嫌が悪いとかそういうわけではないし、クラス中が気まずくなるような大事件が起きたわけでもない。言ってしまうのであれば、『そういう時期(梅雨)』だからとしか言いようのないこの雰囲気にどこか居心地の悪さを感じて、私は視線を窓の外に移した。

 

耳に届くホームルーム中の担任の言葉とぴゅーっと鳴った隙間風の旋律を聞き流し、ため息を一つ。

 

薄暗く空を埋め尽くす雨雲。今にも雨の降りだしそうな空模様に私が抱くのは………

 

……なんてどうでもいいような(今更が過ぎる)考え事をしていたらホームルームは終わってしまっていた。

 

部活がある人達は部活動へ、部活がない人達も『雨が降り出す前に』って言いながら我先にと教室を出ていった。

 

 

私も急いで帰ろうかな。

 

 

雨にも降られたくないし、帰ってシャンフロにログインすれば、もしかしたら()()()が……

 

そうと決まれば行動は早い。

 

テキパキと荷物を纏める。忘れ物がないことを確認して教室を出て、階段を降りて、下駄箱で靴を履き替える。途中で()()の教室ちらっと、さりげなく、少しだけ覗いてみたけど、もう()()は居なかった。もう帰ったのだろうか。

 

そうであれば話は早いのだが。

 

 

「そうだ、もしかしたら……」

 

 

彼女はロックロールに寄ったりしているかな?私も寄って帰ろうかな?あの娘がいなくても岩巻さんに近況報告もしたいし。

 

そんな訳で何となく帰りの方針が決まった私が学校を出ようとしたちょうどその時。

 

 

 

「……あ」

 

 

 

ポツポツと、雨が振り始めた。

 

 

あちゃあ、なんて漏らしたのは一体この場の誰だったか。下駄箱では多くの生徒が、傘を持っているか持っていないかに関わらず、少しずつ勢いを増していく雨に恨めしそうな視線を向けていた。

 

雨が降ってると放課後遊びに出かけるのもおっくうだし、ご飯の買い出しがある人はなおさら。制服を濡らして帰ると洗濯が面倒だし、親に嫌な顔をされることもあるかもしれない。

 

みんなそれぞれ理由はあるだろうが、総じてやはり雨は好きではないらしい。私と向かいの下駄箱で靴を履き替えていた隣のクラスであろう男子生徒が何を想像してか露骨に顔をしかめた。

 

 

 

でも、私はこの雨に『違う光景』をいつも見る。

 

 

 

雨を見るたびに思い出される『あの日』。

 

それとなく鞄を頭に構えてみれば何となく気分が上がって踵が少し浮いた。

 

頬が緩む。

 

 

ーーーたしか、あの日の彼女はこうやって鞄を頭にのせて雨をしのごうとしてたっけ……

 

 

 

 

「すとっぷ!ちょっと待った!!」

 

「わひゃぁっ!?!?」

 

 

 

 

ずどん!といきなり背中に衝撃。何事!?!?と後ろを振り返ろうとしてみれば。

 

 

「ら、ラクハサン!?!?」

 

「玲ちゃん!!」

 

「ふぁい!?!?」

 

 

そこにあったのはずっと私の頭から離れなかったその顔。

 

楽羽さんは私の背中から一度顔を離すと、今度は後頭部ーーーそれこそ、()()()の部分にその顔を押し付けてきた。

 

 

「ん”ん”ーー!!」

 

「その……はずかしい……の…デスガ」

 

「気にしない気にしない」

 

 

ところで今ぴくッと楽羽さんの鼻が動いたのは気のせいだろうか。気のせいだと願いたい。

 

「て、てっきり楽羽さんはもう帰ってしまったものだとばかり……教室にいなかったので」

 

「あぁ、トイレ行ってたから」

 

満足したのか楽羽さんは『っぱぁーー!』と顔を離してくれた。その妙に満たされたような笑顔がどうしても気になる。何となくその顔を眺めていると、楽羽さんは()()()()と首を傾げた。

 

 

「それよりも玲ちゃん、傘忘れるなんて珍しいじゃん」

 

「ふぇ?」

 

「入れてあげるから早く帰ろ」

 

 

そう言われて、今度は私がきょとん顔……をしたところで、気がついた。楽羽さんに抱きつかれる直前にいったい私がどんな姿勢だったのか。

 

確か私、『あの時』の楽羽さんのこと考えて。

 

なるほどそれで楽羽さんは勘違いを……なんてひとりで納得している間に楽羽さんは傘立てから一本の傘を抜き取った。

 

 

「ほら!」

 

 

広がる傘。

 

引かれる腕。

 

そして玄関口から踊りだす二人の足。

 

気が付けば私は楽羽さんと同じ傘の中。なんとか口から変な声が漏れそうになるのは防いだが、一度こうなってしまえばもう私は楽羽さんの歩くペースに合わせて隣を歩くしかなく。

 

 

こ、これ、ひょっとしなくても、あい……あ…い…

 

 

「そっち濡れてない?」

 

「ダイジョブデス」

 

「そ?」

 

 

一層激しさを増していく雨が傘を叩く。その音が激しくなるにつれて呼応するかのように私の心臓の音もどんどんうるさくなっていく。逸る心音に合わせて歩くスピードまで速くなってしまいそうだが、それは辛うじて抑えた。

 

 

実は折り畳み傘を持っている、なんて結局言いだすことのできない私は、とりあえず、「あ、傘持つの代わりばんこね」と言った楽羽さんの隣を歩いていた。

 

 

 

学校を出て、

 

大通りを抜けて、

 

住宅地へと入り込んだ。

 

 

 

楽羽さんとのあいあい傘での下校なんていう特殊なイベントは私に心中なんてお構いなしにどんどん進んでいく。

 

 

(ーーー本当に私の家と楽羽さんの家がそこそこ近所でよかった……!!)

 

 

真奈さんが聞いたら勢いで高そうなワイン開けちゃいそうなこの状況。テンパって何が何だか分からなくなってる一方で、どうしても、こう、嬉しさが、染みわたってくる。

 

「玲ちゃん今日シャンフロインする?」

 

「夜はしようと思ってます」

 

「最近一緒にやってないけど、最近何してるの?」

 

「私は基本ユニーク関連の情報集めでしょうか……」

 

私たちの間の会話は基本ゲームに関する事。ゲームの話であれば、一度話し始めればするすると口から流れるように出てくる。

 

「楽羽さんの方はどうです?」

 

「私の方はねぇ……」

 

 

楽羽さんは本当に楽しそうにゲームの話をする。

 

時に跳ねて、時に体を揺らして、時に歩調を踊らせながら。

 

その楽しいっていう感情が時折触れる肩の感触を通して私にも伝わる。

 

 

これだから私は楽羽さんと話すのが好きなのだ。

 

 

「で、玲ちゃんは今日は何やるつもり?」

 

 

「そうですね……今日は…ぅひゃあ!?!?」

 

 

突然の浮遊感、そしてお尻から全身に響くような衝撃。

 

話に夢中になりすぎていたのだろうか。それともこの状況に浮かれすぎていたのだろうか。

 

雨に濡れたタイルにつるっと足を滑らせた私は気が付けば尻餅をついてしまっていた。

 

 

 

「ちょ、大丈…ぎゃ!?」

 

「びゃぇっ!?!?」

 

 

 

起き上がろうとすれば今度は頭への衝撃。

 

数瞬遅れて気づいたのだが、私がぶつかったそれは楽羽さんの頭だったようで。

 

 

放り出される傘。

 

そうして今度は二人して尻餅をついてしまう。

 

 

「ご、ごめんなさっ!!」

 

「あ、大丈夫大丈夫…………ところで玲ちゃん、『びゃぇっ』って何……」

 

「ーーーッ!?!?」

 

 

「ぷっ」

 

 

いや、違うんですよ?私普段からそんな声出してるわけじゃないですからね??

 

でも、誤魔化す間もなく。

 

「あっはは!ひー!なにそれ!!」

 

「ら、楽羽さん!!」

 

 

吹き出す楽羽さん。

 

 

恥ずかしい。

 

 

恥ずかしいのに。

 

 

「はーーっ……ぷっ……ふふっ…………」

 

 

 

傘を落として大雨の中濡れながら大笑いしている楽羽さんのその笑顔が、あの日初めて見た楽羽さんの笑顔に重なって。

 

 

 

「はーーっ!……おかし……」

 

 

 

あの日私が目を奪われたその笑顔が、今、私に向けられているのが、こんなにも嬉しいから。

 

 

 

「っ……ー……ふっ……」

 

 

 

今度こそ二人とも立ち上がる。

 

 

でも、こうして何事もなかったかのように帰ろうなんてどうしてもできなくて。何故か二人でもつれあうように崩れた。

 

 

さっきまでも相当だったけど、今の状況もこれはこれでもう可笑しくて仕方がない。

 

 

 

 

もたれかかっている楽羽さんの笑い声と体を直接打つ雨粒の律動だけが私の中に響いていた。




というわけで羽誕(誕?)滑り込みでした。

今日は羽概念が生まれてから一年間で笛に投下された羽二次を読み漁ってました。

…………もっとあってもよくない?推しの供給が足りないのだが?2年目年以降も一緒に羽概念こねくり回していこうな。供給待ってますね。


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今日から俺たちは

京極誕生日おめでとう!!!!!

というわけで誕生日記念の楽京デレ甘√エピローグくらいのイメージ。ラスボス(國綱さん)戦後ED前のあの空気を目指して。


髪が伸びかけの京極が好きだし、イベントをこなして√進めるたびに髪の伸びていく京極ってよくないですか????



ちく……たく……。

 

 

静かな部屋の中、時計の秒針はとてもゆっくりとリズムを刻む。

 

開いた木窓から吹いた風は、俺の頬を優しく撫ぜる。

 

さっきまでせわしなく聞こえてきた虫の鳴き声さえも、もう聞こえなくなっていた。

 

 

 

「はぁ……」

 

 

 

窓から顔をのぞかせて一つついた溜息は誰に聞かれるでもなく夜空に吸い込まれていく。この誰に見られるでもない空間はとても落ち着くようでどこか落ち着かない。

 

そのまま視線を下ろす。

 

この3階の部屋からは龍宮院家自慢の庭が一望できる。いつか風雲齋賀城で見た庭ほど広くはないものの、それでも一般(?)家庭にある庭ではこの国でも最高級のものだろう。

 

 

……アイツ(京極)もやっぱりいいとこのお嬢様なんだよな。

 

 

分かってはいたつもりではあったが、あらためて思い知らされた気分だ。

 

 

 

「……つつぅ」

 

 

 

昼に痛めた足がまだ痛む。

 

今日は京極との交際、そして、その先に見据えた結婚への最大の障害(國綱さん)を乗り越えるという俺の人生で最も大きいであろうイベントがあった。何度も何度も打倒されてきた國綱さんに俺のありとあらゆる経験をつぎ込んで何とかもぎ取った面打ち一本。國綱さんを辛くも討ち取った俺と京極はそのまま龍宮院の本家に連れてこられ、各方面への挨拶を済ませた。

 

そのまま促されるように泊ることになり、京極と同じ部屋が宛がわれ、付近から完全に人払いをされてしまった俺と京極。完全に()()()()()なんだろうが。

 

 

……極度の緊張と混乱に目を回した京極に逃げられ、今に至る。

 

 

 

「この状況を國綱さんに見られたら情けないって言われちまうのかなぁ」

 

 

 

あれ(昼間の勝負)から國綱さんとは会っていない。勝負の後は何も言わずに去ってしまったが、やっぱりあの人にはもう一度ちゃんと頭を下げに行かないとな。

 

 

 

……ん?

 

 

 

何となく庭を眺めながら考え事をしていたら、視界の端に白い人影らしきものが映った。

 

真っ白のパジャマに身を包んだ()()()は縁側からスリッパを履いて庭に出ると、池を覗き込んで何やら頬をぺちぺちし始める。背後の桜の木は既に花も散り始めていて、その花びらが一枚頭にひらりと舞い降りた。

 

 

 

ーーー京極?

 

 

 

何してんだアイツ。そのまま観察を続けてみれば、ぶんぶんと頭を振ってみたり、今度はわしゃわしゃと頭を掻いてみたり。何かを誤魔化すように、何かを紛らわすように。でも、何かと向き合おうとしているみたいに。

 

落ち着きもなく、一通り奇怪な行動の数々を俺に覗かれているとも知らずに繰り返した京極は、ばたん、とそのまま後ろに倒れた。俺と付き合い始めてから少しばかり伸びた髪が扇のように円を描いた。

 

 

 

『………ーーー!?!!?』

 

 

 

何を言っているかまでは聞こえないが、何かを言っているらしいことはわかる。

 

声にならない声をあげながら顔を覆った指の間から微かに覗いた瞳には、満月の陰が挿していた。

 

 

 

そんな京極の姿に、ついつい目を奪われる。

 

 

 

寝そべって。

 

転がって。

 

悶えて。

 

今度はぱたりと動かなくなって。

 

かと思えばいきなり立ち上がって頭を抱えて。

 

そのまま()()()とへたりこんで。

 

 

その動き一つ一つを目で追ってしまう。その表情一つ一つから目が離せなくなる。

 

 

池には月明かりに照らされた白いパジャマが月よりも明るく映っている。水面に桜の花びらが落ちてきて、波打った水面が京極の陰を揺らした。

 

 

大きく息を吐いて座り込んだ京極は、今度は天を仰ぐ。

 

 

つられて空を見上げてみれば、大きな月。

 

 

周りの星よりもずっと大きくて、ずっと明るい。それでも月は他の星を差し置いて俺の視界でもっともっと輝こうとする。

 

 

……それが()()()()のドヤ顔と重なってしまって少し笑った。

 

 

 

視線を下ろせば、今度は京極の瞳越しに月が見える。

 

 

ぐるっと回りながら周囲の星空を見上げていた京極。

 

 

 

そのまま、視線が巡って。

 

 

 

 

 

 

 

 

…………目が、合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

ぱちくり。

 

瞬きが一回。

 

 

 

 

 

数秒置いて、もう二回。

 

 

 

 

 

 

 

ずっと見られていたということに気が付いたのだろう。

 

驚きに見開いた眼。

 

へにゃっと間抜けに歪んだ口元。

 

完全に固まってしまった京極がどうにも可笑しくて。

 

 

 

 

 

 

「ばーか」

 

 

 

 

 

 

果たしてこの小さな呟きが届いたのだろうか。京極の顔が一気に赤く染め上げられ、キッと睨みつけられる。

 

地団を踏みしめるその足から伝わってくる感情は怒り半分、恥ずかしさ半分。

 

今まで馬鹿みたいに素直に感情をぶつけ合ってきた俺達だ。もうアイツの考えてることなんて手に取るようにわかる。

 

 

お互い目は離さない。

 

 

離したら負けだから。

 

 

ビシッと俺に向けて指が伸ばされる。それの意味するところは、ありふれた宣戦布告(いつもの天誅予告)

 

 

戦意マシマシなその不敵な笑みに、それに俺も剝き出しの戦意で返した。

 

 

 

 

 

 

『覚えててよね、楽郎(旦那様)っ!!』

 

 

 

 

 

 




このあとED流れて花畑白ワンピロング髪の京極の一枚絵が拝めます(多分)

楽郎のif√の中でも京極√って気持ち開け透けにぶつけ合って進む感じ、いいよね。


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例えばそんな二人の夜

どうも、はじめまして。隠岐紅音にお姉ちゃんと呼ばれ隊一番隊所属のchee隊長です。以降よろしく。

大学に進学した羽と高校に進学した紅音のルームシェア概念、素晴らしくない?


まな板の上のサンマに包丁を入れる。

 

 

「…………」

 

 

すっ……と、丁寧に、つっかからないように、流れるように。

 

サンマに限らず、魚をさばくのは陽務家の必須教養である。ついでに、魚料理と虫料理に限って言えば、それなりに作れてしまう。ちなみにこれは娘二人がいつ嫁に出てもいいようにとか、そういう意図ではない。単に両親の趣味である。虫料理が作れたところで嫁には行けない。当然である。

 

そしてこの料理スキルが、大学に入って家を出た私にとってはとても重宝されるのである。

 

私にとって、そして、今私の家に一緒に住んでいる彼女(紅音)にとって、意外な生命線だった。

 

 

『ただいま帰りましたー!!』

 

 

玄関の方から声がした。おっと、もうそんな時間か。ぱたぱたと足音がする。きっと学校帰りの紅音が荷物を自室に一度置きに行っているのだろう。

 

紅音の部屋の方から間隔の短い扉の開閉音。きっと荷物を放り込んだのだろう。すると、紅音の次の行動はきっと……

 

紅音が台所の廊下からぴょこっと顔を出した。

 

 

「楽羽さん、先にお風呂いただきますね~」

 

「ちょっと待って!!!!」

 

 

風呂に入ろうとする紅音を必死に止める。慌てた私は既に慣れた手つきで開いたサンマをアルミでくるんでグリルに突っ込み、さっと手を洗う。ちなみに調味料等味付けは陽務家直伝である。今日も私たちの食卓に勝利は約束されたも同然……じゃなくて!!

 

 

「おかえりあかね~……むぎゅ」

 

「楽羽さん!?あの、抱き着くにしてもせめて先にシャワー浴びさせて欲しいと言いますか…………あと私むぎゅって口に出す人初めて見ました」

 

 

高校から帰ってきたばかりの紅音……そう、つまり部活終わりの紅音である!風呂に入ってしまう前に堪能せねば。

 

「いいじゃん、風呂に入ってこぎれいになった紅音よりも素の紅音の感じがして。私と同じシャンプーの匂いのする紅音よりも私は今の紅音に抱きつきたい」

 

「あの、それ私すごく恥ずかしいんですけど。私今汗臭いですし……」

 

「大丈夫!部活終わりで疲れてるでしょ!お姉ちゃんの胸の中でお休み!!」

 

「そ、そういうの大丈夫ですから!……風呂入ってきます!!!」

 

「あ、ちょっと待って……ほれ」

 

「んむ!?」

 

私の体を振り払って風呂に向かおうとした紅音の手を引いて、歩き出す紅音を引き止め、正面に回した手に持った飴玉を紅音の口に突っ込んだ。そしてちゃっかりもう一度後ろから抱きつくのを忘れない。

 

「部活、お疲れ様。疲れた時は甘いものってね」

 

「っっっ~~!ありがとうございます!」

 

「んん~んっ!じゃ、お風呂行ってらっしゃい。上がったらご飯だよ」

 

「はい!!行ってきます!!」

 

 

しょうがないので紅音を解放して風呂へと向かわせる。いつまでもこうしていてもしょうがないからね。料理をいつまでも放置しておくわけにもいかないし。

 

名残惜しかったので離す直前に後頭部に頬ずりしておいた。

 

 

……ちょっといい匂いがした。

 

 

 

 

 

 

「……すぅ……すぅ」

 

夕食の後、ソファーに二人並んでテレビを見ていたら、気が付いた時には紅音が私の肩で寝息を立てていた。

 

「まったくもぉ……」

 

これじゃ私が動けないじゃん。

 

その一言を紅音が起きないように声にならない声で呟いて、私も目を閉じることにした。

 

 

 

 

紅音が私の家に居候を始めて早半年。紅音ももうすっかりここに馴染んでしまった。

 

私が大学の進学に合わせて実家を出てみれば、新しい家のすぐ近くにあった高校から出てきたのはゲームの中で見覚えのあった少女(秋津茜)。思わず話しかけてしまって、打ち解けて、話を聞いてみれば、陸上の推薦で合格したこの高校が家から遠くて毎日2時間以上かけて通っているという。

 

本人曰く『これもトレーニングです』とのことだったらしいが、私がつい、ぽろっと、口から漏らしたその一言。

 

 

『私の家、住む?』

 

 

その一言に目を輝かせた紅音。私たちの腹は紅音の『面白そう!!』の一言で決まった。

 

後の話もとんとん拍子で進んだ。紅音のご両親に説明したら、和泉さんは快くOKを出してくれたし、輝朝さんも渋々了承してくれた。…………あれは間違いなく私が男だったらダメだった奴だったな。

 

そうして始まった私たちのルームシェア。家事も当番制にして、ちゃんと生活も落ち着くようになった。最初はどこか遠慮もあった紅音との距離感もぐんぐんと近づいて。

 

 

……そして、今こうして二人で寄りかかって寝ている今に繋がっているわけだ。

 

 

「……」

 

 

眠れるかなと思って目を瞑ってみたけど、いざ寝ようとすると眠気が引いてしまう。今紅音の隣でこうしている時間を寝過ごしてしまうなんてもったいないと、私の内の何かが叫んでいるのだろうか。

 

諦めて目を開けば、肩口から私の胸に手入れのされた綺麗な紅音の髪が垂れている。しかし、こうして見ると紅音の髪って本当に綺麗だよなぁ……。化粧品やトリートメントの種類とかって意外と大事なんだな。その辺まとめて監修してくれてる瑠美に感謝をしながら紅音の頭を撫でてみた。

 

「んんー」

 

まるで喉を鳴らす子猫のように。心地よさそうに呻きながら私の肩に頬ずりをする紅音。

 

え……なにこれ可愛すぎない?

 

 

「ん…ん……らく……は……」

 

 

気持ちよさそうに、甘い声で囁かれる寝言。紅音は今一体どんな夢を見ているのだろうか。どうやら私が出てきているらしいが……

 

 

 

 

「……お、ね……ちゃん…………」

 

 

「ーーーッッ!?!?!?」

 

 

 

 

楽羽……お姉ちゃん!?!?

 

い、今紅音が寝言でそう言った!?私のことをお姉ちゃんと!?!?起きてる時はそういうの絶対に言ってくれないのに!!!

 

 

 

「あーー、もうっ……本ッ当にかわいい……!!!」

 

 

 

あの小生意気な瑠美よりも紅音が妹に欲しいよ……と思ったところで、紅音が小刻みに頭を震わせる。それが何だか『瑠美ちゃんにそんなこと言っちゃいけませんよ!!』と言われたような気がして。

 

ははっ。紅音、確かにそういう事言いそう。

 

 

ごめんよー、あかねー。なんて、口だけ動かしながら、それじゃあ私は夢の中でこのもう一人の妹(紅音)をどうかわいがってやろうかなんて企みながら。

 

隣で寝息を立てる紅音に寄り添うように、私は再び目を閉じた。




寝る前、紅音がいつも縛ってる髪が降ろされてて、窓から差す夜空の紺色の闇がこれを映えさせるんですよね。そんな紅音にお姉ちゃんと呼ばれたい人生だった……


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恋愛未満、私はそれを知らない。

斎賀玲の恋愛観なんてものは、あまりに唐突に与えられすぎてきっとあやふやで。陽務楽郎に向けられるソレが恋だとしてしまえばきっとそれ以外の感情にはあまりにも疎すぎて。

斎賀玲を引き付ける太陽属性の少年とは別に、頑張って照らしてくれようとする光属性の少女にソレを見出してしまった時、そんな冒険があってもいいのかなって。(百合厨の戯言)

紅音瑠美同級生時空です。


恋って、なんだろう。

 

 

かれこれずっと楽郎くんを追いかけてきて、今更こんな疑問にぶつかるなんて思わなかった。

 

今まで私が楽郎くんに向けていたそれを、私は「好き」って感情だと思ってた。もちろん、今でもそう思ってる。

 

 

「……」

 

 

今私が見つめる先にいるのは、数か月前に向こう(シャンフロ)で知り合って、数週間前にこっち(現実)で瑠美ちゃんの同級生として知り合った、隠岐紅音(秋津茜)という少女。

 

 

私はその気持ちを知っている。

 

私はその気持ちに共感できる。

 

 

だから、私は彼女のその気持ちに名前を付けてあげることができる。

 

あの日、私が岩巻さんにしてもらえたように。

 

 

「……あかね、ちゃん」

 

 

じゃあ、私のこの気持ちは、なんだろう。

 

 

私は、この気持ちを知らない。

 

私にとっての恋っていうのは楽郎くんに対してい抱いたその感情で。

 

今隠岐さんに対してい抱いているこの感情じゃなくて。

 

 

……じゃあ、この感情が「恋」じゃないというのなら。

 

 

あまりにも恋と似て、でも決定的に違うこの感情。

 

 

私のこの気持ちは、一体……???

 

 

 

 

 

 

 

 

とある日の朝、いつも通り私が楽郎くんとばったり出会って(待ち構えて)登校しようとしていた時に、楽郎君とともに2人の見覚えのある女の子が歩いていた。

 

「……ぴぇ?」

 

咄嗟に隠れた私は何となくその二人の様子に目を凝らした。

 

一人は私もお会いしたことのある楽郎くんの妹さんで、瑠美ちゃん。そしてもう一人は、()()()で見たことのある、瑠美ちゃんと同じ制服を着た少女。

 

そのぴょこぴょこと小さく飛び跳ねるような小柄な体に、その万物を明るく照らすかのような明るい笑顔にはとても強い既視感があって。

 

 

「秋津…茜さん?」

 

 

その時、そよ風に揺れた彼女のアホ毛がまるで何かを感じ取ったかのようにビビッとゆれ、勢いよく振り返った彼女と私の視線がぶつかった。

 

これが私と隠岐さん(秋津茜さん)とのゲーム外での初めての出会いだった。

 

 

それ以来、私と彼女は(現実)(ゲーム)も知る親友として一緒に行動することが多くなった。

 

 

二人で一緒にゲームをした。

楽郎くんとの話題作りのために挑んだワゴンゲー(クソゲー)の経験がこんなところで生きるとは思わなかった。

 

二人で一緒にショッピングをした。

趣味で運動(武術)をするという意外な共通点もあってスポーツ用品店では珍しく盛り上がってしまった。

 

二人で一緒に勉強をした。

万に一つも楽郎くんと同じ高校に落ちないようにと必死にこなした受験勉強は、彼女に勉強を教えるのに意外にも役に立った。

 

 

 

そうして、今日も今日とて何をしようかと連絡をとってみれば、走っている姿を見てほしいと言われ、今日私は彼女の中学のすぐそばまで来ていた。

 

学校をぐるりと覆う網の外からなんとなく中を見てみる。すると部活動の最中なのか、数人の女子生徒とともに何度もトラックを走る隠岐さんの姿。

 

「……かっこいい」

 

素直にそう思う。

 

私は、何かに真剣に打ち込んでいる人が好きだ。その必死になりながらも、苦し気というよりは楽しげなその表情が好きだ。

 

走るときの彼女に見せる表情はまさに私の好きなそれで、走り終えた彼女のぱっと華やいだ表情に私は思わず拍手をしてしまった。

 

 

そうして、日が暮れるまで、ひたすらに彼女の走る姿を見る。

 

 

ただ何度も同じコースを走るだけ。でもそれを眺めるのは全然飽きなくて。

 

彼女の走る姿や、走った後に何か真剣に友達と話している姿、そして、私が見ていることに気づいて大きく手を振る彼女の笑顔。どれも目を惹かれてしまう。

 

彼女の走る姿を眺めて、日は傾いていく。気が付けば陸上部の活動は終わっていて、今度は制服に身を包んだ隠岐さんが校門から出てきた。

 

「斎賀さん!」

 

「お疲れ様です、隠岐さん」

 

「ありがとうございました!」

 

隠岐さんの友人たちと別れを告げて、二人で歩き始める。

 

今日、隠岐さんは私の家でお泊りだ。私も友達を泊めるのは初めての事なので、ちょっと緊張している。

 

「ちゃんと見ててくれました?」

 

「見てましたよ。すごかったです!」

 

「やった!……えへへ」

 

「隠岐さんはすごいです。私、あんな速く走れませんもん」

 

「フォームを意識すればそこそこ速くなりますよ?今度教えてあげます!」

 

「楽しみにしてますね」

 

隠岐さんはあれだけいっぱい走った後なのに一切疲れを感じさせない。体力がきっと多いのだろうし、疲れがあってもそれを見せないのが上手いんだと思う。

 

「そうだ、今度斎賀さんが武道を習ってるところも見たいです!」

 

「え”ッ」

 

いや、ちょっとそれは、流石に他人に見せられないと言いますか。

 

「かっこいいんだろうなぁ……」

 

「その、とてもハシタナイトコロを見せてしまう事になってしまいますが……」

 

 

 

「いいです。見せてください。全部」

 

 

 

私が一人恥ずかしさに悶えてると、すん、と隠岐さんの雰囲気が変わった。

 

 

「斎賀さんと仲良くなってから、二人でいろんなことをして、斎賀さんのいろんな一面を見ました。……でも、足りないんです。もっと知りたい。もっと見たい。もっと見て欲しい!」

 

「隠岐さん……」

 

「私、最近変なんです。斎賀さんと遊んだ後はいつも不思議なくらいに楽しくなっちゃって、ずっと斎賀さんのことを考えちゃうんです。眠れなくなるくらいに」

 

言われて、ドキッとした。その感覚には私にも覚えがあったから。

 

でも、それは……

 

「もっと仲良くなって、もっといろんな斎賀さんを見てたら、きっともっと楽しいんだろうなぁって。気が付けば、街を歩くだけで『斎賀さんとすれ違わないかな』ってキョロキョロするようになっちゃって。おかしいですよね?」

 

「……おかしくなんて、ないですよ」

 

その感情は、おかしい感情じゃない。私も知っている感情。でも、それが私に向けられていることに、とても困惑する。

 

だって私にとってその感情は。

 

 

 

……岩巻さんに恋と名付けられた、その感情なのだから。

 

 

 

何となく立ち止まってしまった私を、隠岐さんが数歩先から振り返る。でも、私は彼女に向かう一歩を踏み出せない。

 

「……斎賀さん?」

 

私は、知ってしまっているのだ。その気持ちがどれだけしんどいものか。

 

そして、その気持ちと向き合おうとしている隠岐さんが、どれだけ大変なことをしようとしているのかを。

 

「隠岐さん、それは、」

 

恋だよ、なんて岩巻さんみたいに一言で告げてあげるだけなら簡単だ。でも、私にはそれをしてあげる勇気が出ない。

 

彼女が私に恋してるだなんて自意識過剰みたいなシチュエーションが訪れるなんて思ってもみなかったから、私自身の気持ちの整理がつかない。

 

私が無責任にも彼女に恋という感情のラベリングを与えてしまえば、きっと彼女は私のように一生抜け出せない螺旋階段を走り始める羽目になる。

 

私にその恋を受け入れることはできないから。

 

私には好きな人(楽郎くん)が既にいるのだから。

 

「?」

 

隠岐さんを見る。愛おしいとは思う。この少女を手放したくないとも思う。

 

……でも、それは私にとっての恋(私が楽郎くんに抱く感情)とは違う感情で。

 

 

ふと、疑問に思った。

 

 

この感情が恋でないというのなら、私の隠岐さんに対するこの気持ちはどう名付けてあげればいいのだろうか。

 

楽郎くんの時もそうだった。『よくわからない酷い好奇心』が恋と名付けられて、私は晴れて恋を覚えた。

 

いつだってそうだ。自分のよくわからない気持ちなんてものはきっと自分自身じゃ解決できなくて。今は結局それで私も隠岐さんも苦しんでる。

 

 

「あかね、ちゃん」

 

「ッ!?」

 

 

私がそれを口にしてしまえば、きっと後戻りはできない。

 

 

……でも、きっとその先へと冒険するなら、紅音ちゃん以上に心強い仲間はきっといない。

 

 

紅音ちゃんの恋の様なそれと向き合うために。

 

私の恋じゃないようなそれと向き合うために。

 

 

私は、覚悟を決めて一歩を踏み出す。

 

 

「それは、ね」

 

 

 

――――恋って、言うんだよ。




他人を絆す理由付けとしての「光属性ぱわー」の絶対的安心感。

それはそれとして、自分の手の届く範囲を思い切り、されど優しく照らそうとする隠岐紅音はやっぱりやたらと強い太陽属性に対しての光属性として、すごく強固なんだなという新たな納得感。


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火花散る夏の夜の

大きな花火起こしがちな鉛筆だけど感情移入するならきっとこっちだよなってだけ。


私は夏祭りという行事があまり好きではなかった。

 

賑やかしとして呼ばれれば、当然として場は盛り上がる。私は天下のトップモデル様だ。一たび浴衣でステージ上を練り歩けば、ステージ下から大きな歓声が上がる。群衆の中から私の熱心なファンをセンサーで発見したのでファンサービス(渾身のウィンク一つ)をおまけしておいた。

 

私の出番が終われば、次のバンドパフォーマーたちが楽器の準備を始めて、私はテントの中へと下がる。当然その途中でもなお向けられ続けるカメラの数々は意識から外さない。舞台外でいかに美しいショットを残せるかがカリスマモデルかそれ以外かの差である。

 

「ふぅ」

 

用意されたドリンクを飲むときはいやらしくならないように、程よく艶めかしく。大丈夫。他人からの見られ方については十分に心得ている。

 

「天音さん、お疲れさまでした」

 

「……市長さん。私の方こそ今日は呼んでいただいてどうも」

 

「こちらこそ、まさか本当にこんな小さな町に来ていただけるとは思いませんでした」

 

「私は仕事の大小は選びませんよ。私が綺麗に映れるならね」

 

話しかけて来たのは今回のオファーを出してくれた市長さん。こういうイベントホストは媚を売れば売るほどそのネットワークからいい仕事が舞い込んでくる。自分のネームの大きさに慢心せず、ちゃんと自分を売り込むことも忘れない。大きすぎる名前というのは時たま仕事を遠ざけてしまうのだ。

 

「天音さんの出番はこれで以上ですが、良ければこの祭りをもう少し楽しんでいってください」

 

「もちろんです」

 

 

市長さんとの挨拶を終えた私は目的もなく祭りの中を練り歩く。仕事が終わってすぐに引っ込んでしまっては印象を悪く持つ人もいるだろう。舞台の私を見逃した人や遠くて見えなかった人もいるだろうからね。

 

当然私の周りには人が集まる。一人一人のリクエストには応えられないけれど、向けられる視線が不満な物が一つもない事に何となく安堵する。

 

その私の周囲の雰囲気は「夏祭りの雰囲気」と言うにはあまりにも異様だった。モデルとしてブレイクして以来、私は「お祭り特有の空気」という物を味わえていない。

 

それが少し物寂しくて、いつも世界で私だけが味わえるこの私だけのためのお祭りの空気に、本来のお祭りの空気とは違うそれに、酔いしれていた。

 

 

そんなこんなでファンをあしらいながらでもなんとなく私はお祭りを楽しむ。

 

気がつけば時が過ぎていて、子連れの家族はほとんど帰っていた。

 

学生はまだ友達同士で固まって何やら騒いでいたし、大人は終わる様子の無い酒の席の盛り上がりが最高潮に達していた。

 

私も、ようやくファンの大群から開放されて一息つくことができそうだった。そして、帰り支度でもはじめようかとしたちょうどその時、酷く聴き慣れた声が耳に届いた。

 

 

「永遠」

 

 

振り返れば、そこに居たのは私の旧友。未だ切れない、切られてあげるつもりなんて毛頭ない私の腐れ縁。

 

「あれ、モモちゃん。どうしたのさこんな場所で」

 

「なに、私にだって浮かれてお祭りに行きたい日もあるさ」

 

「じゃあ浴衣くらい来てくれば?」

 

「……私が浴衣似合わないの知ってて言ってるだろ」

 

無難を体現したかのような地味な普段着姿のモモちゃんがジト目を向けてくる。流石にその巨乳じゃあどう頑張っても浴衣は気崩れる。その巨大なメロンを削ぎ落としでもしない限りモモちゃんが浴衣を着る日は来ないだろう。

 

「それなら、永遠は随分と楽しんだのだろうな?浴衣の着こなしはさすがの一言だが」

 

「私に着こなせない服なんてないの。モモちゃんなら知ってるでしょ?」

 

「で、大量のファンの目を釘付けにして、今の今まで愛想を振りまいてたわけか。ご苦労なことだな」

 

「ま、美人税ってやつだね」

 

「そんな日本語は存在しないぞ」

 

互いに皮肉たっぷりで軽口を叩きあってから、なんとなく二人で石段に腰を下ろす。私の返しにため息をついたモモちゃんはかばんからとあるものを取り出した。

 

「一緒にどうだ?」

 

「お、いいねぇ」

 

 

線香花火。

 

それは、日本の夏の風物詩の一つ。打ち上げ花火よりも儚く、脆く、されど明るいその火の玉は、私の大のお気に入りだった。

 

モモちゃんは袋から一本取りだして、懐からライターを取り出す。私たちの手元に二つの火の玉が出来上がった。

 

「はぁ、やっと落ち着いて夏祭りを堪能できてる気がする」

 

「お前はそういう仕事で来てたわけだからな。しょうがないだろう」

 

「そうなんだけどね、でも雰囲気はやっぱり楽しみたいわけで」

 

「面倒だな」

 

「でしょ」

 

さっきまで私にできていた人だかりももうない。むしろ遠巻きな視線が多く見える。言ってしまえば、線香花火をしている私が一つの芸術品なのだ。アンニュイな表情の一つでも見せてやれば、近づこうと思う奴なんていなくなるし、それでも目を離せなくなってしまう。

 

「あっ」

 

「……あっ」

 

先に玉が落ちたのはモモちゃんの方だった。だが、私の方もすぐに後を追う。モモちゃんはもう二本取り出して、一本を私に渡し、再び火をつける。

 

「なんかさぁ、この線香花火ってゲームみたいだよね」

 

「ん?確かにどちらが先に落ちるかゲームにして遊んだりもするが」

 

「いや、そうじゃなくてさ。こうやって火が消え細っていくのを見世物にされて、消えたら次の花火がすぐに点けられる。この補充の利く使い捨て感がゲームプレイヤーに似てるなって」

 

「……世の中にゲームでプレイヤーを使い捨てるような奴がお前以外にそうそういると思うなよ?」

 

確かにモモちゃんはそういうタイプではないけど、鉛筆王朝時代の私みたいにいろんなプレイヤーを束ねる立場になったことがある人なら意外とそういう人もいるんじゃないかな。わからんけど。

 

「モモちゃんはさ、火が消えた後の線香花火ってどう思う?」

 

「どうって、別にどうも思わないが」

 

「モモちゃん、流石。それはね、『正解(・・)』だよ」

 

「正解?」

 

「そう。正解。火の消えたらすぐに忘れて新しい花火を点ける。そっちの方が綺麗だから。もう火の点かない花火なんて眺めていてももう輝きやしない。だから忘れてしまえばいい。そんな花火の事なんて」

 

「……そういう言い方すると少しかわいそうに思えてきたな」

 

二人して今目の前で輝く線香花火から目を逸らして、既に火の消えて放置されている二本の線香花火に目を移した。モモちゃんの視線はその惨めな死に姿を憐れんでいるように見えた。

 

「かわいそうは違うよ、モモちゃん。あの子(さっきの線香花火)も、死ぬのを覚悟で必死に輝いたんだよ。それで今あの姿になったのなら、それは本望ってやつだ」

 

「『あの子』って……永遠、線香花火にそこまで感情移入するか?」

 

「うーん、やっぱり今しか輝けないから精一杯輝いてやろうっていう考え方には少なからず共感があるからね。まぁ私は死んでも輝いているけど」

 

たった数十秒の刹那の輝きのために生まれてきた線香花火。当然街灯の明かりやデパートの明かりに比べればずっと弱い光でしかないけれど、せめて見られている相手には一番美しく映ろうとバチバチ光るその光。確かに、若いうちに売れておこうというモデル業界人のそれに近いものがある。

 

私は、今目の前で必死にその存在を主張する目を戻す。

 

「だからこそ、こうやって輝いている線香花火はこんなにも愛おしい」

 

その線香花火は既に火も小さくなり続け、火が消えるのも時間の問題といったようなところだった。モモちゃんのも同じような様子だ。落ちなかっただけでもよくやったと思う。

 

(――君はよくやったよ。安らかにお眠り)

 

私は二人分の線香花火に「ふっ」と息を吹きかけて、二つの火の玉を落として(殺して)あげた。

 

「んなっ。何をする」

 

「別に、なんでも。ほら、もう一本だして」

 

納得のいかない表情で新しく二本の線香花火に火をつけるモモちゃん。

 

私たちの視線はもう前の線香花火からは外され、新たに爛々と輝く火の玉へと向けられていた。

 

四本の既に火の消えた線香花火の方に目を向けることはないけれど、それらを想って、『あぁ、これが()だよな』なんて思って。

 

「あっ!!」

 

私は、もう一度目の前で燃え盛る火の玉をあっけなく吹き消した。




鉛筆が派手に爆発したがるのは自分を大きく見せたいっていうのが心のどこかにあると思うんですよね。ゲームセンスは外道組の中でも一枚劣る鉛筆だから。
だからこそ、小さく、儚く、弱々しく、それでも火の点いたその刹那だけは他の何よりも目を引く線香花火に鉛筆を重ねるのには底知れぬエモがあると思うの。


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意地でも貴方を認めたくない

魚臣慧お誕生日めでたい!!!!

夏目ちゃんとカッツォ、惚れこむ前にはこんなにバチバチしてる時期があったらいいなぁ……という妄想の過去捏造文です。


その男の第一印象といえば、「なんかなよなよしてる」でしかなかった。

 

(夏目恵)(魚臣慧)の出会いは爆薬分隊(ニトロスクワッド)に入隊したその時だった。ことVR格ゲーにおいては同い年の相手には負けなしを誇っていた私。そんな私と同時にプロ入りした同期が、自分と同い年の、それも、風格も何もあったものじゃないような青年だった。

 

特に高すぎない伸長に、何故か男らしさのような厳つさも一切感じさせない金髪パーマ。この貫禄のなさはどのようにここまで演出しているのだろうかと疑問だった。

 

正直、彼の事をナメていた。だから、衝撃だった。

 

始めて彼と顔を合わせたその日、「親睦を深めよう」との理由で行ったGH:B(VR格ゲー)10先(ジュッサキ)。お互いまだ10代。相手もプロ入りしている以上最低限の実力はあるだろうとは踏んでいたが、まさか負けるなんて到底思っていなくて。

 

「……ふぇ?」

 

「これからよろしくね、夏目さん」

 

「……っ!!よろしくじゃないわよ!もう一戦!!」

 

その後も結局ボコボコにされて。

 

私のプロゲーマー生活のスタートは、同い年の同期に自信とプライドをへし折られるところから始まった。

 

「ッ~~~~!!!!! ありえないんですけどっ!!!!!」

 

「ま、まぁまぁ、落ち着いて……」

 

「これがどうやったら落ち着いていられるっていうのよ!!!」

 

 

きっとここで私は初めて『誰かに執着する』ということを知った。

 

このスカした優しい顔をした魚臣慧とかいう(バケモノ)を、私は認めるわけにはいかなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

システムメッセージに従って私はヘッドギアを外してチェアの上で脱力した。

 

ここは電脳大隊(バーチャル・バタリオン)有するトレーニング施設の一室。爆薬分隊(ニトロスクワッド)に限らず多くの電脳大隊(バーチャル・バタリオン)所属のチームが日夜ここでトレーニングに励んでいる。私も日課のコンボ練を今しがたまでしていたところだった。

 

―――そろそろ帰ろうかしら。

 

私もプロゲーマーの端くれ。家にも当然練習環境自体はあるが、やはり練習するならより良い環境でやりたいものだ。いつもなら終電ギリギリまでこの部屋に籠っているところだが、明日は試合だ。今私がするべきは体調を万全に整えることである。

 

そうと決まれば、私は荷物をまとめて帰り支度を始める。そもそも持ち込んだものが少ないのでそれはすぐに終わり、私は部屋を出た。

 

「……?」

 

部屋を出て、すぐに気づいた。隣の部屋の扉が少し開いていて、中から小さく光が漏れていた。

 

私はつい、その扉を開いた。

 

「……ケイ?」

 

その薄暗い部屋の中では、ケイ(魚臣慧)がモニターとにらめっこをしていた。ケイは何やら同じ動画をずっと繰り返し見ては、唸り声をあげていた。ケイは私の声を認識すると一度モニターを閉じてこちらに向き直った。

 

「メグ、どうしたの」

 

「ケイこそ、何やってるのよ。ケイも明日試合でしょ。早く帰って休みなさいよ」

 

「あぁ、もう少し研究したくて」

 

「研究?」

 

聞き返した私に見せるようにケイは再びモニターを開いた。私はそれを覗き込む。

 

「この選手、明日の相手なんだけどさ」

 

「ふぅん……見たことない選手だけれど」

 

「うん。デビュー戦だってさ。アマ時代の動画も少ないから対策に困っててさ」

 

「ふん。貴方なら対策なんてしなくても勝つんでしょ?」

 

「それは違うよ、メグ」

 

このチームに入ってしばらくが経って、私たちもお互いを『メグ』『ケイ』と呼び合うようになった。私はこの男とそこまで仲良くしているつもりはないし、コイツにメグと呼ばれるのも面白くない。仲が悪く見えるとチームの雰囲気が悪くなると言われてしまえば、それも私の望むところではないので従うが、そもそも私が彼をケイと呼ぶのは当てつけの様な物なのだ。

 

「むっ。どういうことよ」

 

「研究もなしで勝ちを拾えるほどプロ格ゲーの世界は甘くないってことだよ」

 

「こ、このっ……!!」

 

研究なんてしなくても私には勝ち越せる癖に、とは言わない。だってまだ私負けてないし。今負けてる分連勝すればそれで私の勝ちだし。

 

「これ見て」

 

「?」

 

ケイに見せられた動画は一つの対戦動画。ちょっと昔のゲームだけど、私も知っている割とオーソドックスな格闘ゲームだった。私はその動画を見て眉をひそめた。

 

「感想は?」

 

「足、妙に速いわよね」

 

「そう。これ初見で捌ける?」

 

「……初見じゃ厳しいわね」

 

このゲームに限らず、キャラが攻撃を出すときには技ごとに決まった発生時間というものが当然発生する。これは2D格ゲーの頃からの常識であり、VRにその主戦場が映されてからもその仕組みは同様に持ち越されている。そこはプレイヤースキルでは絶対に干渉できない領域なのだ。

 

「本来のこの足払いは発生12F(フレーム)。だけど」

 

「直前のジャブね。足さばきに隠してる(・・・・)

 

「そう。手で技を出している間に既に足技が発生しているんだ。そのせいで見た目4~5F発生が速く見える」

 

VR格ゲーにおいて、左手でジャブ(小パン)を打とうとすれば縛られるのは上半身だけであって、下半身は縛られない。だから、その間に下半身で別の技をだそうとすることは()()()は可能なのだ。

 

だけど、こんな戦い方にも当然リスクはある。

 

「よくバランス保ってるわね。こんなの、すぐ倒れちゃいそうなものだけど」

 

「相当練習したんだろうね」

 

本来同時使用が想定されていない2つの技に全身のコントロールを奪われてしまえば、当然転んでしまう。だから、緻密なタイミング管理や技の知識(コンボ練習)が必要になる。

 

逆に、そのコンボを体得してしまえば、一気に戦術の幅が広がる。だまし討ちの手札が増え、駆け引きに()が出る。そうやって、VR格ゲーは多彩に進化してきたのだ。

 

「彼は多分、体内時計が強いんだよ。だから主観頼みのコンボ管理でほとんどミスがない」

 

「本当に、ここまでミスなく戦えるとなると、むしろ呆れるというか」

 

「いるんだよ、たまに。この手の天才型が」

 

「そうそういてたまるかって感じだけれど」

 

「少なくとも、僕は一人(サンラク)だけ知ってる」

 

「えぇ……」

 

考えたくもない。こんなコマンド外スキルに長けたゲーマーがホイホイいるなんて。

 

「この手の相手には、相応の研究がないと絶対に勝てない」

 

「ふーん、ケイでも?」

 

「当然」

 

ケイは動画を閉じた。そして何か(・・)を思い出すように仰ぐ。

 

「何も知らない状態から5Fで飛んでくる攻撃なんて人間には絶対に防げない。たとえキャラが1Fで攻撃できるような設定を持っていたとしても、人間の脳が体を1Fで動かす術を知らない。本当に1Fで攻撃やガードができるようなのがいるのなら、そいつは文字通り()()()()()()()

 

「だから、僕たち()()がフレーム単位の世界で戦うなら、知らなきゃいけないんだよ。相手がどういうゲーマーで、どういった戦いを繰り広げることができるのか」

 

天を仰ぐケイの表情が少し歪んだ。この手のゲーマーに酷い負け方をしたことでもあるのだろうか。

 

あのケイがそんな負け方をしているところが想像できなくて、少しイラっとした。

 

「で、その研究の結果、ケイは明日どうやって勝つつもりなの?」

 

「え?あぁ、この手のタイプはね……」

 

ケイの口元が釣り合がる。

 

その表情は既に勝ちを確信しているかのように私の目に映って。

 

私も既に、ケイは勝てるんだろうなって何故か信じさせられていて。

 

 

 

―――()()()()()のに、めっぽう弱い。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、ケイは宣言通り勝利を収めた。

 

相手の用意してきたコンボをすべて捌ききっての、完封勝利だった。

 

「気に入らないわね」

 

「なんで」

 

「なんでもよ!!」

 

その試合運びさえも完全にケイの予言した通りとなった。

 

相手が自信満々に用意してきたコンボを延々と繰り出し、ケイはそれを捌き続け、そして焦りと不審感で余裕のなくなった相手にカウンター一閃。曰く、「経験の浅い新人のメンタルは一度崩せばこっちのもの」らしい。私からすればそれまで耐え抜くケイの集中力が信じられないものだけれど。

 

なんだかそのすべてが手のひらの上とでも言うような余裕がどうしても癪に触ってしまって。

 

「ケイ!今から戻って私と戦いなさい!」

 

「え!?なんで!?」

 

「だから、なんでもだって言ってるでしょ!!」

 

 

ケイは強い。

 

それは、出会ってから今までの間に嫌というほど思い知らされてしまった。

 

それでも私はその強さを認めたくない。

 

 

「……っ」

 

でも、ちょっとずつ理解(ワカ)らされ始めてる自分が心のどこかにいることも確かだから。

 

 

「ほら!はやく!」

 

「め、メグ!?」

 

 

そんな彼に、私に、そこはかとなくムカムカして仕方がなくて。

 

このムカムカを一刻も早く晴らすべく、私はケイの手を引いた




もしかしたら続き書くかも。

書くとしたら多分ナツメグちゃんの気づきのシーンとかかなぁ……


ちなみに恵鰹推しの私は去年の鰹誕に夏目ちゃんの出てくる二次が少なかったことを地味に根に持ってるので、どうか、どうか、この鰹誕に恵鰹の供給を…………


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