IS~この世界の宙が見たくて~ (塊ロック)
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プロローグ
「少年。君に夢はあるかい?」
昔、変な格好した変なしゃべり方をする変なお姉さん。
そんな人が公園のブランコで遊んでたら取り合えずビビる。
「……え?」
どうやらその変な人は僕に声を掛けているようで。
「夢、ゆめか……」
思わず真面目に考えてしまっている。
夢、か……。
「宇宙に行きたい」
「……へぇ?」
「約束したんだ。僕は宇宙に行きたいんだ」
「自分の為じゃないの?」
「うん」
「それってさ、本当に夢なの?」
「夢だよ。僕だって行きたいんだ」
「そっかー。叶うと良いね」
「うん。ありがとね、変なお姉さん」
「いやいや、お話ありがとうね少年。所で……君はロボットに興味ないかな」
――――――――――
目覚ましの音が鳴る。
……何か、昔の事を思い出していた気がする。
「……起きるか」
頭が痛い。
夢の中で夢について思い出すとか言う奇妙な夢だった。
「結局、誰だったんだあの人」
あの後は……確か上空に向かって飛んで行ったんだっけ。
いや意味わかんないけど。
意味が分からないと言えば、俺の置かれた状況も意味が分からないと思う。
元々俺は宇宙飛行士の家系に生まれた……のだけれど、謎のテロを受けて当時のプロジェクトも頓挫、両親もそこで死んでしまい天涯孤独の身になった。
それだけなら良いのだけれども……いや良くないけど。
IS……インフィニット・ストラトスと呼ばれるパワードスーツが世に出現して、世界は変わった。
そのパワードスーツは女性にしか動かすことはできない。
この仕様により世間は女尊男卑の世界へと様変わりをした。
お陰で施設での風当たりも少々強く、女子グループにいびられるなんてしょっちゅうだった。
ただ……もう一度、俺は人生の転機を迎える事になる。
動かせてしまったのだ。
インフィニット・ストラトスとやらを。
男の俺がである。
そして俺は……このくそったれな生活を強いられた施設を出て……IS学園に入学する運びになった。
今日はその入学初日。
遅刻する訳にはいかないので早めに起きている。
「女性しか動かせないパワードスーツの為の学園。正直嫌な予感しかしないんだよなぁ……」
俺以外に今年入学する男子が一人だけいるらしい。
そう、一人だけ。
もうこの時点で女子高に二人だけって。
施設で過ごしている方がマシか、これからの生活がマシか……。
「……なるようになるさ」
それが、人生ってもんなんだろうな。
ただ。
元々、ISというのは宇宙に進出する為に開発されたものらしい。
ならば。
「俺も、宇宙に行けるんだろうか」
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第一話「今日も空を見ている」
モノレールに揺られる。
昨夜はしっかり寝たハズなのに少しウトウトする……が、この状況で眠ってしまえば何が起こるか分かったもんじゃない。
「………………」
視線。
視線視線。
四方八方から注がれる視線。
視線の主は10割女性。
というよりこのモノレールに乗っている男性は、俺だけ。
周囲の少女たちは皆同じような白い制服を身に纏っている。
……この車両の行きつく先は人工島に設立されているIS学園。
この周囲で奇異の目を向けているやつら全員が学友になるのだ。
気が滅入る。
前に居た施設は男女比もそこまで離れていなかったが……これは、息が詰まる。
俺自身も女性に対してあまりいい思い出を持っていないせいもあるが。
車窓から空を見上げる。
良い天気だ。
雲一つ無い快晴。
今夜は良い星が見られそうだ。
そんなことを考えていたら電車は到着。
女子生徒の荒波に飲み込まれる前に急いで離脱した。
――――――――――
教室の中も地獄だった。
幸いにして窓際の一番後ろというポジションを獲得したので左と後ろに人はいない。
その代わり廊下やどこやらもう人だかり。
よりにもよってもう一人の男子とは別のクラスにされたので運命を呪うしか無かった。
(空、たけー……)
手を伸ばしても届かない、彼方。
この空の向こうに俺は……。
「………………」
ふと、隣に座る金髪の少女がじっと俺を見ていることに気が付いた。
明らかに日本人ではない。
ふと、このIS学園の設立された理由を思い出す。
……日本の生み出してしまった産物。
パワーバランスを崩壊させてしまったそれの正しい運用を日本に尻ぬぐいさせる為に世界各国が金を払わせて誕生したのである。
良いように使われたな日本。
話を戻す。
青いヘアバンドが特徴的な金髪の美少女。
並みいる男なら舞い上がったりするだろうが……生憎と、俺は女という生き物に夢は見れなくなっているので無視した。
「皆さん、ようこそIS学園へ。私たち教員一同、盛大に歓迎しましょう」
スーツ姿の人が好さそうな教師がそう声を発した。
「まずは自己紹介から。あで始まる……」
俺の番はまだまだ遠い。
「イギリス代表候補生、セシリア・オルコットですわ。皆様、よろしくお願いいたします」
隣に座っていた少女は、セシリアというらしい。
……オルコット?
何だろう。
聞き覚えがあるような気がする。
というか、代表候補生だったのか。
国の未来を背負ってやってきた……スポーツ特待生の様な人間。
国のバックアップを受け、専用機を携えてやってきているとか。
……そんな事を考えていると、俺の番が回ってきた。
視線が集まる。
この空気感は嫌いだ。
ため息を吐いて、立ち上がった。
「……星海那由太(ほしみなゆた)。このクラスで唯一の男子らしいんでお手柔らかに」
空が、青いな……。
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第二話「もう一人の男性適合者」
入学式を終え、初日からしっかり授業のカリキュラムが組まれているのは流石国立とだけあるのだろうか。
ISについて、俺はほとんど知識が無い。
……ISと言うもの自体がいきなり世に出てインパクトを与えたから、そんな認識だ。
天才科学者、篠ノ之束によって生み出された……「宇宙へ行くためのパワードスーツ」。
その割には兵器転用して下さいと言わんばかりの仕様だったりめちゃくちゃだけどさ。
表向きは競技用と銘打っているが水面下ではどの国も兵器開発に躍起になっている。
ここまでは入学前のタウンページ(教本)を読んでやっと理解した内容である。
俺は今教壇で話されている内容も踏まえて必死にメモを取りながら噛み砕いている。
俺は天才じゃない。
日々の積み重ねこそを尊ぶ凡人だ。
だから、喰らいつかなきゃならない。
もう見下されるだけの生活は御免た。
(もう二度と、踏みつけられるだけの人生なんて嫌だ)
幸いにして、俺の学力は努力に応えてくれる甲斐性はあったので……そこそこ、というより割と良い高校に推薦も貰えたりしていた。
取り消されたけどな。
……いや、この話は止めよう。
誰も幸せになれない。
――――――――――
昼休み。
俺は全速力で教室を飛び出しとにかく人の居ないエリアを探した。
……廊下を歩いても本当に女しかいない。
女子校に始めて迎えられた男子ってこんな気分なんだな。
そういえば、隣のクラスの男子はどうしているんだろうか。
しまったな、声掛けておけば良かった。
……そう思っていると、屋上で栗色の髪の女子生徒と話す男子生徒が見えた。
……え?もう?早くね?
うわ、どうしよこれ。
声かけるべきか否か……。
暫く考え……。
(行こう。俺の今後の生活が懸ってる)
「あれ、ああ!お前がもう一人の男子か!良かった、会いに行こうと思ったのに居なかったから」
俺に気付いて、男子生徒はニカッと笑う。
……声かけてくれようとしてたのかこいつ。
良いやつじゃねーか……(ちょろい)。
「どーも。1-2の星海那由太だ」
「おう。1-1の織斑一夏。よろしくな星海」
「お互い苦労人になるんだ。名前で構わない」
「そうか?じゃ、よろしくな那由太」
「よろしく、一夏」
握手。
同じ境遇だしこれからこいつとの関わりも増えるだろう。
良いやつっぽいしまあやってけそうだ。
「……で、そっちの怖い顔したガールフレンドは?」
まぁ会話邪魔したし相当睨まれるだろうな。
「なっ、が、ガールフレンド!?私はだな!!」
「こっちは俺の幼馴染の篠ノ之箒だ」
「ふーん。幼馴染か。羨ましいね、こういう環境で女子とはいえ知り合いがいるの」
「言えてる」
「しかし、有名人も見てみれば普通だな」
「有名人って、お前も有名人じゃないか」
「確かに」
なんのけなしに笑い合う。
何がおかしいか分からんがまぁそう言う気分である。
というより女子に囲まれまくってたもんだから男子の存在はとても貴重だ。
「ま、これからよろしくな」
初日で声がかけれたのは大きい。
これから何も波乱もなく卒業できれば良いんだが。
一夏、箒が、1-1。
那由太、セシリアを1-2に分けています。
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第三話「記憶の底」
放課後。
詰め込んだ知識を脳から溢さないように蓋……要するに復習をしている。
(基礎で躓けば後は無い……せめて基礎だけでも抑えないと)
通常授業はまぁ理解できる。
IS知識だけは今までの積み重ねすらないから厳しいのだ。
……初日から必至こいて復習している俺に若干引いていたのか、人だかりは無い。
「……よし。後は部屋で……あ」
部屋が分からん。
IS学園はパイロット候補生の保護の側面を持つので基本的に全寮制だ。
俺と一夏はどの部屋に割り当てられるのかそういえば知らない。
「あ。星海くん」
その時、クラスメイトが一人戻ってきた。
手ぶらだ。
何の用だろうか。
「どーも。何の用で?」
「織斑先生が呼んでたわ」
「廊下?」
「ええ。それじゃ……あ。私、ISの事少しは知ってるから今度教えたげよっか?」
「機会があれば」
そう言い残して廊下に出た。
……織斑?
廊下に出てすぐ、凄まじい威圧感を放つ女性が立っていた。
一夏も一緒だ。
「あー、えと、織斑先生ですか?」
「そうだ。1-1担任の織斑千冬だ。寮長も兼任している」
「なるほど……ちょうど良かった。部屋が分からなくて」
「心配するな。こいつと同じ部屋だ」
「だ、そうだ。よろしくな」
うーん、流石に個人部屋じゃなかったか。
ふと、二人を見比べた。
「……まさか、姉弟?」
「あ、分かったか?」
「くだらん事を言ってないでさっさと下校しろ。戸締まりも出来ん」
――――――――――
待ってくれ。
まさか女子寮の只中に俺達の部屋を無理やりねじ込んだだけだとは聞いてないんだけど。
「……………なぁ一夏」
「……………な、なんだよ、那由太」
「先行っていいぜ?」
「お前こそ行ったらどうだ?」
「……入れるかよ、これ」
「ああ……」
まぁ一歩踏み出せば女子生徒の私生活の場。
緊張するなって方が無理な話だ。
「さっさと行かんか!!」
「「ぐえっ」」
結局、見かねた織斑先生に蹴飛ばされてエントリーしたのだった。
――――――――――
夜。
IS学園の寮の窓から外を眺めている。
……やっと、一日が終わった。
相部屋の一夏はとっくに寝ている。
朝起きてジョギングするそうな。
こいつ老人みたいな生活習慣だな。
(……それにしても)
オルコット。
聞き覚えがある。
昔、父さんたちの居たプロジェクトに出資していた人がいた。
その中に、そんな名前があった気が……。
(気がするだけだ)
過去に意味なんてない。
これからの事を考えるのに、俺の過去に微塵も価値は無い……。
けれど。
(約束を、していた気がする)
大事な誰かと、そんな気がする。
「……寝るか」
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第四話「最悪なファーストコンタクト」
何となく、セシリアは俺の事が気に入らないと言うのがこの2日で理解できた。
顔を合わせてもにこりとも笑わない。
消しゴム拾って渡してもお礼も無い。
……何か、釈然としない。
「あの……」
そんな時、セシリアが声を掛けてきた。
「どーも。なに?」
「いえ……消しゴム、ありがとうございました」
授業中に言わなかっただけか。
真面目な奴め。
「別に。たまたま届いたから」
「そうでしたか。その、良ければわたくし、ISの事について教えて差し上げましょうか?」
……この三日間で嫌と言うほど聞いた言葉。
このとき、慣れない環境もあったのかちょっとイライラしていたかもしれない。
思い返せば絶対聞いといて損なかったのに。
代表候補生だぞ。
「いや、良い。今のとこ間に合ってる」
「なっ……。わたくしの申し出を、蹴りましたわね!?」
「は……?」
セシリア、キレた。
えっ、何故に……。
「やはり男性など入れるべきでは無かったのです!下々を導くのが貴族の務めではございましたが、それ以前の問題ですわ!」
……美人だが、蓋開ければ昨今の女なんてそんなもの。
「はぁ……言いたいことはそれで全部か?次の授業始まるぞ」
「何ですのその言い方!貴方、やっぱり個人的に気に入りませんわ!!」
「……奇遇だな。俺もたった今そう思ってた」
あ、これはマズイ流れだ。
経験上、ムキになって反論するとエスカレートするのはわかってる。
そのせいで施設暮らしが億劫だったし。
「あらそうでしたのね!全く気が合いませんわ!」
「いい加減うるさいぞお前……」
「レディに対してなんて口の聞き方なのかしらこの方……」
「うわ、急に落ち着くな」
「意味不明ですわ!」
あ、こいつ馬鹿だな?
根は悪くなさそう。
なんか環境がこいつの価値観をガチガチに固めている感じがする。
「付き合い良いな。お前ホントは良いやつだろ」
「何なんですのそれ……」
「その仮面の下を吐き出せオルコット」
「もうめちゃくちゃですわ……」
なんか、イジったらいい反応して面白いかもしれない。
こういう性格が災いしてろくな目に合ってこなかったのに懲りない性分だ。
「もう良いですわ。どっちが上か分からせて差し上げましてよ」
「結論を言うとお前だけどな」
「急に謙虚にならないでくださいまし!!ああもう調子狂いますわね!?」
知らんがな。
「決闘ですわ!」
………………え?
デュエル?何で?
「貴方が反故にした相手がどれ程優秀だったのか思い知らせて差し上げますわ!」
「いや……やめとくわ。専用機持ち相手に叶うわけ無いだろ」
「負けると分かった途端に弱腰?やはり男とはその程度なのですね?」
「……は?負けないが?やってやろうじゃねーか!」
売り言葉に買い言葉。
ヒートアップしやすいのが嫌な性分です、ホント。
――――――――――
「と、言うわけなんだ一夏」
「馬鹿だろ、お前」
「反論できない!でもお前より成績は上だ」
「お前、面の皮凄いな」
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第五話「昔話」
あれは、まだ両親が存命で……大事な約束を覚えていた時の事。
「宇宙飛行士を付けてあげよう」
それは、俺が覚えている最も古い父の言葉だった。
「僕達は何処へだって行ける。そう……宇宙にもね」
父さんは宇宙飛行士だった。
帰りは遅く、いつも帰ってくるとは限らなかった。
けれど、過去に有人宇宙飛行を成功し帰ってきた……俺の自慢の父だった。
このとき貰ったデフォルメされた宇宙飛行士のキーホルダーはまだ携帯に付いている。
それなりに幸せだったと思う。
将来、俺も宇宙飛行士になる!なんて言ってた事もあった。
母は、そんな父をサポートする役職に就いていたらしい。
母の仕事は、当時の俺には難しく理解し辛かった。
稀に、出資者と会ったりすることも有った。
「ごきげんよう。今、おひまかしら」
「君は?」
「わたくしは……」
たまに娘を連れて来て俺に会わせたりもしてくれていた。
……明らかに日本人じゃなかったけど、日本語めちゃくちゃ流暢なのは覚えていた。
けど、この子と、この子と交わした約束を、俺は忘れてしまっていた。
――――――――――
「代表候補生と決闘、か。話はこちらにも来るほど大きなっているぞ」
昼休み。
一夏と篠ノ之さんと席を同じくして飯を食っている。
「そうなんだ……」
「他人事だな」
「どうしようもないからな……専用機持ち相手に何が出来るか」
「む、最初から負ける気で居るとは。それでも男かお前は」
「そういうのは良いから。篠ノ之さん、あの開発者の妹だろ?何か良い情報持ってないの?」
地雷を踏んだ。
篠ノ之は俯いて、呟いた。
「姉さんは関係ない」
「……悪い」
「そ、それで?ISはどうするんだ?」
一夏が気を利かせて話題を変えてくれる。
「……学園が貸し出してるISは『打鉄』か『ラファールリバイブ』だろ?どうしたもんか」
「初心者が乗るならば打鉄が良いぞ。装甲に定評がある」
「機動力の方が必要だろうか……結局守りが固くても相手に追いつけなかったら嬲り殺しだ」
「セシリアがどんな機体を遣うかだな」
「代表候補生だし国のデータに何か残ってないかな」
「……大概実験機だから乗ってないのだろう」
項垂れる。
やんなきゃ良かった。
「おいお前達。織斑と星海。来い」
織斑先生が唐突に表れてそれだけ言い残していった。
俺たちは顔を見合わせて取り合えず後を追った。
――――――――――
「お前達……特に星海。早速問題を起こしてくれた様だな」
お説教です。
「アレは……」
「言い訳は聞かん。専用機持ちに喧嘩売るとはな……だが、タイミングは良かったかも知れん」
「「?」」
「専用機だ。国はお前達二人に専用機を寄越すそうだ」
「「!!」」
マジか。
……よくよく考えるとたった二人しか男性搭乗者だし、データ取りはしたいだろうな。
「マジか……」
「オルコットと決闘するのだろう?それまでには来るぞ」
専用機、専用機か……。
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第六話「飛べない空」
しかし、コーチに若干問題が……。
……ISの訓練をするにあたって懸念事項がいくつかある。
まず、誰に教えを請うのか。
オルコットは論外。
クラスメイト達に声をかける勇気はない。
一夏。
あいつも初心者。
篠ノ之。
開発者の妹だが本人は気にしてる。
……結局量産機を借りて動かし方くらい覚えるだけになった。
自主連一日目。
装着編。
IS学園、アリーナ。
その格納庫にて。
担任に頼んで量産型を一機回してもらえた。
……急遽ねじ込んだ形になってしまったのでえらい顰蹙を買ったか?と思ったが俺の先に予約していた先輩から、
「今度インタビューさせてね!」
なんて言われた。
新聞部らしい。
……それで良いんだろうか。
と言う訳で目の前に鎮座するのはラファール・リバイヴ。
フランス、デュノア社製。
所謂第二世代型ISに位置付けされており、開発も最後発だったとか。
だが、第三世代型のISにも引けを取らない性能を有しており、世界シェア3位を獲得している。
スラスターの役割を備えたフレキシブルバインダーが特徴だ。
何となくクシャ〇リヤ味を感じる。
後付け拡張機能が高く、通称飛翔する武器庫とまで言われる。
そんな機体が、ここにある。
取り合えず装着する。
所でこのISスーツ、凄い密着感。
あんまり好きじゃない。
……しかしまぁ視線。
皆見てるよなあ。
ハンガーに居る女子生徒たち、皆見てきている。
本当にISに乗れるのか、疑わしいんだろう。
……正直俺も何で動かせるか分かってない。
あの日、顰蹙を買っていた女からけしかけられた暴漢に襲われた日。
受験に間に合わず路地裏で腐っていた時に……たまたま撤収中だったIS学園の入試会場にあったISに触れてしまい……動いてしまった。
それだけだ。
その時はもう痛みと無力感で何も感じられなかった。
(……動いた)
息を呑む声がする。
ラファール・リヴァイヴが俺の感覚に重なる。
試しにアリーナに出ようと歩く。
……歩いている。
重みを感じない。
パワーアシストもしっかり動いている。
さて、まずは飛んでみよう……。
「……え」
スラスターが作動しない。
おかしい。
おかしい……エラーをチェックしても、問題はない。
強く念じても、ジャンプしてもスラスターは作動しない。
試しに前方へジャンプブーストを吹かせる。
……これは、動いた。
ジャンプの様に『跳ぶ』事は出来た。
だがそこから『飛ぶ』事に移行出来ない。
(どうしてだ……?)
格闘のモーションを取る。
……この機体に格闘兵装はもともと付いてないので素手。
射撃の練習もしてみる。
標準的なアサルトライフルで出てくる的を撃つ。
反動制御も照準アシストもある。
ぶっちゃけFPSしている気分だ。
1時間程度ぶっ続けで操作し続けたが……。
飛ぶことは、出来なかった。
「何でだ……?」
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第七話「背中に羽は無くても」
結局、3日ほど稼働訓練をした結果……。
「……何で飛べないんだろうな」
そう、一度も飛行が出来ていなかった。
「分からん……技師に問い合わせしても初めての事でサッパリだとさ」
寮の部屋の中で俺と一夏はそんな話をしていた。
設置された机に二人で向かい合って座る。
一夏には専用機が既に届けられていた。
彼の腕に着いているガントレット……それが、待機状態だ。
名を『白式』。
その名の通り白を基調としたISで、量産機など比較にならない凄まじい運動性を有している。
その運動性に振り回せれていたが。
しかし、問題点が一つ。
……白式には、武器が近接ブレード一本のみだったのだ。
いくら機動力があっても武器がそれしか無ければ……それに、ISガチ初心者である一夏に運用させるには厳しいものだった。
そしてさらに玄人向けISに拍車を掛ける事態が。
通常ISには、
白式には何故かそれが初期設定で備わっていた。
『零落白夜』。
自身のシールドエネルギーを消費し、相手のシールドエネルギーを削り取る一撃必殺の能力だった。
ちなみに最初の被害者は俺である。
撃ち合いのさ中、フィッティングが完了し急加速、からの一撃。
普通に痛かった。
話を戻そう。
一夏が専用機を得たお陰で、専用機相手に立ち回る訓練にはちょうどいいかと思ったものの……。
機動力だけはあるので照準の訓練に付き合ってもらった。
それでも、飛べない。
「ラファールのスラスターは問題なかったんだろ?」
「ああ……」
「うーん……ISについて、今分かってることはそんなに多くない。何か那由太側に問題があったのかもしれない」
「俺に?」
「何か、迷っていることがISにバレてるのかも」
「迷い……?」
「よくわからないけど、俺が白式につながった時……全部が繋がった気がしたんだ」
「ああ」
「もしかしたら、IS側がお前に対して何か考えがあったのかも」
「ISが、意志を持ってるって言うのか?」
「分からない。けど、そうかもしれない」
「随分ロマンチストだな」
「嫌いか?」
「……好きではない。嫌いでもないが」
「素直じゃない奴」
「うるせぇ」
俺側に問題があるかも、か。
―――――――――
「星海くん。今良いでしょうか」
クラス担任が、俺に声を掛けてきた。
「なんでしょう、先生」
「星海くんの専用機が届きましたよ」
「……本当ですか」
俺の、専用機。
ラファールで戦うもんだと思っていたので、少し困った。
「……あの」
「星海くん。気持ちは分かります。けれど、企業さんが用意してくれた機体で戦うのも……パイロットの務めなんです」
先生にはお見通しだった様だ。
「ぶっつけ本番で専用機に乗り換える事になりますけど……」
「勝てると思います?」
「いえ、9割負けると思いますよ?」
「ですよね……」
教師は時に現実を突きつけなくてはならい。
だから、この話は俺が飲み込むべきだ。
頭では理解してる……けど、俺の中の男の子が反骨心をもたげそうになるのを必死に抑える。
「でも、先生は嬉しいんですよ」
「え……?」
「星海くん、もしかしたらクラスで浮いちゃうかなって思ったんです。でも、こうやって必死に努力してる姿を皆が見ています。負けてしまっても、きっと大丈夫だと思います」
「は、ははは……何ですかそれ。意味わかんないですけど」
「負けても何も失うものが無いってことですよ。仮に勝てたとしたら……とても凄いことだと思いますよ」
「勝ちが見えないからってそう言う事言わんといてくださいよ……」
「ウフフ。ごめんなさいね。男の子と話すのが少したのしくなってしまって。さぁ、行きましょう。貴方の機体が待ってますよ」
――――――――――
IS格納庫。
そこに、俺のISが座して待っていた。
「これは……小さい、ですね?」
通常、現行のISは装甲に覆われている箇所が減る傾向にある。
シールドに守られている為だ。
しかし、こいつは違った。
全身が装甲に覆われている。
顔までもだ。
機体カラーはグレー。
額についているV字のアンテナ。
バックパックに翼が無い……というかスラスターが一つだけポツンとある。
……飛べないから、こんな機体にしてあるのだろうか。
「……一夏の白式と比べて、随分と小柄ですね」
「小さな機体の可能性を模索した結果だと聞いています」
「小さな機体、か……」
確かに小さい。
俺の背丈より少し高い程度だ。
「こいつの名前は、なんていうんですか?」
「『コアガンダム』です」
「ははは……ガンダムか……荷が重いなぁ、ちょっと」
まぁそういう名前つけたいのは分かる。
「さぁ、フィッティングしてしまいましょう」
コアガンダムに触れる。
一度全体が光の粒子となって俺の……左の二の腕にバンドとなって巻かれた。
胸に付いていたエメラルド色の発光パーツが小さくなって巻き付いている。
「コアガンダムを強く呼んでください」
目を閉じ、クリスタルに触れる。
……来い、ガンダム。
――――――――――
「……えっ」
目を閉じていた筈なのに、俺は……気が付けば空の下に居た。
いや、いやいや、ちょっと待て。
さっきまで屋内にいたのに。
……ふと、目の前に誰かが居る。
ポンチョの様な物を着ている……少年だ。
顔は、逆光で見えない。
「あ、あの……」
「思い出してくれ」
「え?」
少年は続けた。
「思い出してくれ。君の、約束を」
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第八話「もう一度歩き出そう」
「……星海くん。装着は終わりましたよ」
先生に声をかけられて、目を開く。
視界に入ったのは、さっきまでのハンガーの風景。
あの、空と大地はどこにもない。
……俺の手が、分厚い装甲に包まれている。
体のあちこちが、先ほど見た……ガンダムと類似している。
俺が、このISを装着した証拠だ。
「まだ初期設定が済んでいませんので、ちょっと待ってくださいね」
先生がコンソールを操作する。
……搭載されたハイパーセンサーが様々な情報を拾っていく。
背後も見えるとは気持ちが悪い感覚だ。
「あら……?初期設定がエラーを吐いていますね」
「え?」
「最期の一つの項目でストップしていますね……でも、一応全機能は使える筈です」
「はぁ……ちなみにどんな奴ですか?」
「ちょっと待ってくださいね。ISに表示します」
俺の視界に、一文だけ表示された。
”Remember your promise”
「……幻覚じゃない……?さっきの光景は」
「幻覚……?」
「え、あ、いえ……」
一体何だこれは。
約束を思い出せ?
何の事だ?
「……あら?ロックされている機能がありますね」
「どれですか?」
「……どうにもスラスター周りみたいですね。開発担当に問い合わせてみましょう」
「それ……多分、飛べないってことだと思います」
「え……?」
「俺が以前ラファールに乗った時も、ブースターで瞬間的に動けはしましたが……飛行は出来なかったんです」
「……分かりました。あら、回答がもう来ました」
早っ。
織り込み済みって事かよ。
何か悔しいな……。
「装備欄を確認してみてください」
「はい」
コアガンダムの装備……うわ、後付けで何にも装備できないレベルでスロットがかつかつじゃねーか。
装備は、ビーム系射撃兵装『コアスプレーガン』、背中のスラスターから生えているビーム系近接兵装『コアサーベル』、防御用のシールド、そして設置型の妨害兵器『アッザムリーダー』。
……ん?なんだこれ、『大気圏突入用フィルム』?
何でこんな物が。
おや?
「……サブフライトシステム『アースアーマー』?」
取り合えず呼びだしてみた。
目の前に、コアガンダムのサイズと同等かそれ以上の青を基調としたメカが現れる。
「なるほど……アシストメカが居るんですね。珍しいタイプのISですね……」
「これで飛べるんですかね」
「通常のISならともかく、コアガンダムを乗せる分には問題ない推力を有していますね……2時間、アリーナの使用許可は頂いていますので……動かしてみましょう」
「いつの間に……」
「だって、男の子はこういうのすぐ動かしたくなるでしょう?」
「……別に」
「あら、では授業に戻りますか?」
「すいませんすいません!乗りたいです!!」
「素直でよろしい。では、いってらっしゃい」
アースアーマーの上に乗る。
バーニア―が点火、加速する。
「う、お……!?」
この時点で、ラファール・リヴァイヴと比べ物にならないスピードが出ている。
そして、俺は……飛んだ。
「は、ははは……!」
正直に言うと、俺はこの時柄にもなく興奮していた。
俺は今、空を飛んでいるんだから。
旋回する。
……スピードが乗っているのか、少し円を描く。
何となく航空機チックな動き。
先生が気を利かせて標的を出してくれた。
コアスプレーガンを構えて撃つ。
寸分の狂いも無く標的に吸い込まれる。
照準器もかなり高性能だ。
アースアーマーから跳び、サーベルを抜く、
ピンク色に発光する刃が伸びる。
空に浮いた標的を両断して飛んできたアースアーマーに乗りなおす。
「凄い……」
量産機なんかより自在に動く。
突如、アラートがけたたましく鳴る。
ロックオンの警告……!?
≪さぁ、星海くん!時間は限られていますよ!≫
打鉄に乗った先生が、こっちに向かって飛んできている。
「えっ!?何で!?」
「明日が試合何です!やれることはやっておかないと!」
「どうしてここに先生が!?」
「私も元代表候補生だったんですよ!相手にとって不足はない筈です!それに……」
打鉄がライフルを構える。
「血が騒いじゃいました!」
「なんなんだもう!!」
それから1時間ほど、先生と模擬戦に興じるのだった。
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第九話「約束はずっとここにある」
――試合当日。
全体的にクラスの雰囲気が浮ついている。
今日、俺がセシリアと戦うからだろう。
セシリアは今日俺と一言も喋らなかった。
それもそうだろう。
お互いがお互いの事を良く思っていないのだから。
――――――――――
「……いよいよだな」
アリーナ、機体ハンガー。
俺はそこにコアガンダムを装着した状態で待機していた。
一夏と篠ノ之が、応援に来てくれていた。
「ああ」
「それが、お前の専用機か」
「ああ」
「……緊張してるか?」
「ああ……いやしてねーけど!?」
「してんじゃねーか。全部返事同じだったぞ」
お互いに笑う。
「星海。私はあまり力になれなかったが……」
「いや、こうして来てくれるだけでうれしいよ」
まぁほとんど観客席の方にいるだろうし。
「そろそろですよ、星海くん」
先生が声を掛けてくれる。
置かれているアースアーマーに乗る。
「行ってくる」
「頑張れよ」
「ああ」
アースアーマーが射出された。
――――――――――
「……逃げずに来ましたのね」
歓声が上がるアリーナ。
その中心に、彼女は浮かんでいた。
青を基調にしたIS。
コアガンダムが表示した情報には、『ブルーティアーズ』と表示されていた。
「俺も、男だからな」
「……ふん」
セシリアが無言で手に持つライフルを構える。
……ロックオン警告。
「今投降すれば、聞き入れない事もないですわよ」
「誰がするかよ」
コアスプレーガンをセシリアに向ける。
「……全身装甲。1.5世代機とでも言うべきですわね。そんな情けないISで、このわたくしとブルーティアーズと勝負するおつもりで?」
「やってみなきゃ分からないだろ」
「ふん。やってみなさいな」
「ガンダムの名は、伊達じゃないさ!」
ほぼ同時に発砲。
ビーム同士が相殺し合う。
……戦闘開始だ。
「踊りなさい!わたくしとブルーティアーズが奏でる
「くっ……!」
アースアーマーの推力を上げる。
代表候補生とだけあって、狙いは正確だ。
でも、先生の射撃の方が精度は上だった。
結局先生との模擬戦で俺は一度も有効打が取れなかった。
「でもなぁ!!」
アースアーマーの機首を上げる。
丁度U字になる様に反転。
アースアーマーにマウントされた砲身から射撃する。
「突っ込むだけの射撃なんて!」
「うおおおおおおお!!」
アースアーマーを突っ込ませながら跳ぶ。
セシリアの上を取り、頭部のバルカンを連射する。
「くっ……!」
「うおらぁ!!」
サーベルを振る。
その瞬間、手を撃たれてサーベル吹っ飛んだ。
「なっ」
「お行きなさい!ブルーティアーズ!!」
セシリアの方面とは別の方向からビームが降り注ぐ。
左右にブースターを吹かせつつ地表に向かう。
「なんだ!?」
「まさか貴方にこれを使う事になるなんて……!」
着地。
空を見上げると、セシリアの周囲にパーツが浮かんでいる。
あれは……ビット兵器?
それが4基。
アースアーマーが近くまで戻ってくる。
飛び乗って飛翔する。
「まだまだいきますわよ!」
「くっそ……!」
射撃される数が増える。
このままでは削り殺される……!
……ん?
(あいつ……動いてない!)
ビットは目まぐるしく動き回るが……本体であるセシリアがその場から動かずにずっとライフルで撃ってきているだけだ。
(操作中は動けないのか……?なら、そこに勝機はある……!)
セシリア本体に向き直る。
「2度同じ手は通用しなくってよ!」
「それは、どうかな!」
正面から4基のビットとライフル斉射で迎撃される。
このままでは普通に撃ち落されてしまう。
アースアーマーのスピードを上げる。
「終わりですわ!」
「まだだ!!」
射撃の瞬間、俺はアースアーマーを乗り捨ててた。
被弾したアースアーマーの勢いは止まらない。
「なっ!?」
ガン!
セシリアとアースアーマーが激突する。
俺はそこへブースターを全開にして突っ込む。
残った片方のサーベルを伸ばす。
「うおおおおおおおおおおおおお!!」
懐に潜り込めば、全方位からの攻撃は……!
「い、『インターセプター』!!」
「いっ!?」
セシリアが武装名を叫んで呼び出し、ブレードを持った。
「わたくしを、ここまで追い込むなんて……!」
「く、そ、あと少しだったのに……!!」
ブースターを吹かせられる時間には、限りがある。
その前に刃を通さないと……!
「終わりですわ!!」
「えっ……あ、がぁッ!!??!?」
空から降るビームに貫かれた。
セシリアとの距離が離れる。
ブースターの使用制限がかかる。
アースアーマーは遥足元。
(落ちる……!!)
「これで、チェックメイト!」
終わった。
後は落ちるだけ……。
(……結局、約束ってなんだったっけ……)
ずっと視界の隅にあった文字列。
「約束を思い出せ」。
俺の、約束……。
手を伸ばす。
やっぱり、空は遠かった。
――――――――――
「あなたは宇宙飛行士になりたいのですか?」
「うん」
「わたくしも見に行きたいのですけれど……わたくしは宇宙飛行士になれないのです」
「そっか……ざんねんだね」
「ですから、わたくしの代わりに、行ってきて欲しいのです」
「いいよ!僕が君に、宇宙を見せてあげる!」
「ほんとう?約束ですわ!」
――――――――――
「思い出して、君のした約束を」
「……思い出したよ。俺の、約束」
視界に広がる空と大地。
IS学園じゃない、どこか。
昨日見た少年が、またそこに居た。
顔は見えないが、彼は笑っていた気がする。
「君に、後悔はさせたくない」
「ありがとう。大事なこと、思い出せたよ……でも、負けちゃったな」
「まだ、分からない」
「そうかな……俺は飛べないから、勝負は厳しくて」
「大丈夫だ」
少年は空を指さす。
「人類は何処へだって行ける。空を超え、月も飛び越えて、宇宙の果てまで」
……この世界の宙を、俺は見たい。
約束した彼女に見せたい。
「プラネッツシステムに限界は無い。叫ぶんだ」
俺の、願いを――――!!
――――――――――
落下。
俺は、アリーナの地面に向かって落ちている。
上には、俺に照準を合わせたセシリアが。
飛ぶことが
だが、
(思い出したんだ、約束を!!)
コアガンダムの最後の機能がアンロックされた。
『プラネッツシステム』アンロック。
『音声認証開始』
『どうぞ』
「コアチェンジ……ドッキング、ゴー!!」
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第十話「コアチェンジ、ドッキングゴー」
「コアチェンジ……ドッキング、ゴー!!」
落ちるだけだった体が、
「躱した!?」
コアガンダムが単体で空へ舞い上がる。
地に落ちていたアースアーマーがバラバラになり、俺に追従する。
「一体何を……」
アースアーマーがコアガンダムに次々と接続される。
シルエットが一回り大きくなる。
……ディスプレイに表示される名前が変わる。
”アースリィガンダム”
「アースリィ、ガンダム……!」
アースアーマーは、ただのサブフライトシステムでも、コアガンダムのアシスト兵装でも無かった。
コアガンダムの強化パーツだったのだ。
手足が延長され、シールドもビームライフルも大きくなる。
何より……翼の無かった背に、大きな翼が。
「俺と一緒に、飛んでくれ……!!」
「そんな、ややこしい事をしたって!」
ブルーティアーズのビットが飛来する。
拡大されたシールドでビームを防ぐ。
頼りなかった最初のイメージが一気に変わる。
ビームライフルの出力も格段に威力が上がっている。
セシリアが回避を優先するほどだ。
「まさか、初期設定も終わっていなかったとでも言うの……!?」
「うおおおおおおおおおお!!」
「しまー――――!?」
ビットを撃ち落す事に成功する。
更にもう一基。
慌ててセシリアが操作しようとするが、遅い!
出力全開、セシリアに肉薄する。
ビームサーベルを抜き放つ。
「食らええええええええええええええ!!」
「しま……とでも言うと思いまして!?お生憎様!!」
セシリアのブルーティアーズの腰に接続された両サイドのパーツが前を向く。
「もう二基ありましてよ!」
「くっ、うおおおお!」
自ら敵の弾道の中に飛び込んでしまった。
感覚が鈍くなっているのか、時間の流れが遅くなったような気がした。
終わりか、ここで!?
いや、終われない……!
そうだろう、コアガンダム!!
「ボルトアウトォォォォォォ!!!」
「なっ!?」
実弾タイプのビットだったらしく、ミサイルが発射される。
が、アースリィガンダムのパーツが全てはじけ飛ぶ。
アースアーマーが無くなり、小柄なコアガンダム形態に代わる。
そのおかげで、ミサイルがギリギリ足先を掠める。
「避、け……!」
「逃がさねええええええええええええええ!!!」
サーベルを振り下ろす。
入った……!
……刃が、唐突に消失した。
「えっ……」
「ぎゃん!?」
サーベルの柄が、セシリアの頭を思いっきり叩いた。
『星海那由太、エネルギー切れにより……勝者、セシリア・オルコット!』
「な、なんだとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!?!??!」
「あ……」
俺は、エネルギー切れになったコアガンダムと共に墜落した。
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第十一話「踏み出せた一歩」
「ははは……負けたか……」
俺は、コアガンダムの状態で空に浮かぶセシリアに手を伸ばしていた。
勿論、そんなものは届かない。
負けた。
だが、そんな事はどうだっていい。
思い出したんだ。
俺が飛ぶ理由を。
「この世界の、全部の宙が見たいんだ」
「……呆れた。負けたというのにどうしてそんな清々しそうな声なんですの」
「お」
セシリアが俺の傍に降りてきて、手を取った。
「サンキュー」
「…………」
「ん?どした?」
セシリアがきょとんとした顔になる。
「……悔しくありませんの?」
「悔しいさ。でも……飛んだ」
「???」
「飛べたんだ。俺は」
ISを解除する。
コアガンダムが俺の左腕に戻る。
ありがとう、コアガンダム。
「俺は前に進めた。今日はこれで良いんだ」
「はぁ……」
「ありがとなオルコット。今度は、負けねーぞ」
俺は、アリーナを後にした。
「は、はぁ………………???」
――――――――――
夜。
少女……セシリア・オルコットは自室のシャワー室に居た。
(……星海、那由太)
今日戦った男性IS搭乗者。
時代遅れな全身装甲の第1.5世代型ISでこのわたくしの前に現れ……奇妙な仕組みで追い込んできた。
わたくしの勝ちではあったものの、向こうのエネルギー切れによる勝利であった。
勝ちは勝ち。
ですけれども。
「……煮え切りませんわ」
そして、彼の態度。
微塵も悔しがってはいなかった。
普通の男性なら負け惜しみの一つでも言うのではないのか?
だが、彼はそんな気もなく……わたくしではなく、空を見ていた。
そもそも、わたくしは彼の眼中にすら入っていなかったのではないか?
自分の中にある男性像と言うのは、いつも母に頭を下げていた父の姿しかない。
そんなに仲が悪いのにどうして夫婦なんて続けていたのか。
……そして、そんなに仲が悪かったのに、どうして二人一緒に逝ってしまったのか。
わからない。
わからない。
星海那由太と言う存在も。
こんなにも苛っている理由も。
「訳が分かりませんわ……」
この日、結論は出なかった。
――――――――――数日後。
「……クラス代表?」
ある日の昼休み。
食堂で相席になった女子からそんな話を聞いた。
尚、これは致し方無い状況なのだった。
毎度毎度一夏と俺だけで席を占領するのはよろしくないのと、奇跡的に席が空いてる事が無いからだ。
4人掛けのテーブルに俺とクラスメイトの3人が座る。
「そそ。誰にしようかって話よ」
「要するに委員長だろ?誰ってやりたい奴少なからずいるだろ」
「でも、きっと一組は織斑くんだよ」
「星海くん、戦いたいんじゃない?」
「……いや」
聞けば代表、という立場にクラス対抗トーナメントの出場義務まであるとか。
「どうして?」
「暇さえあればあいつと模擬戦してるし……お互い手の内は知ってるから」
「おお、これが友情……」
「多分違う」
「オルコットはやらないのか?正直、俺のISは1.5世代……旧式だ」
そう、一夏と比べると俺はどうしても純粋なパワー勝負に弱い傾向にある。
装備自体堅実で、悪く言えば爆発力が無い。
不利な状況からの一発逆転が狙いにくいのだ。
「そうかな……」
「まぁ、期待されてるって意味ならやぶさかではないけど」
「「「………………」」」
「な、なんだ」
3人からじっと見られる。
困るんだが。
「いや~、星海くん最初ツンツンしてると思ったけど」
「何か親しみやすくなった?」
「いじり甲斐あるよね」
「……ごちそうさま。お先」
「「「えっ」」」
一人でさっさと離脱する。
しかし、親しみやすくなった?
そうだろうか。
……何となく、やるべきことを思い出して余裕が戻ったって事なんだろうか。
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第十二話「クラス代表」
クラス代表決定の日。
「こう言うのは自薦を待っていても決まりませんので他薦で結構です」
先生が爆弾を投下しました。
「はい!星海くんが良いと思います!」
「他にはありませんか?」
「いやいやいや!?俺オルコットさんに負けたんだぞ?!俺より適任いるだろ!」
はいー知ってましたー。
絶対こうなるって。
さて、オルコットの方を見る。
じっと俺を見ていた。
まるで、何かを確かめるように。
「……あら。星海さんは、期待されれば尻込みするタイプでしたのね?」
かちん。
なんだとこの野郎。
「……」
「……」
お互い、無言。
ただ、まぁ……こいつの目に前ほど軽蔑の色は無い。
試している?
よく分からん。
「……なぁ、オルコット」
「何でしょう」
「あんたは、どうしたい」
「……わたくしは、まだ殿方に信頼を置くには些か疑問を持っています」
「知ってる」
「ですので……わたくしは貴方を推薦します」
「……それはなぜ?」
「貴方がどこまで誠実に尽くせるか、見せて頂こうかと」
「試金石、って事か」
「その様に取っていただいても構いません」
「なるほど」
俺とオルコットの会話で静まっていた教室を一望する。
「なぁオルコット」
「何でしょう」
「俺はISについては素人だ。そいつを戦える様に鍛えるのは勝者の役目じゃないか?」
オルコットは、驚いた様に目を丸くした。
その後、ふっと微笑む。
「わたくし、厳しくってよ?」
「よし、先生。クラス代表……俺やりますよ」
――――――――――放課後。
「と、言うわけだ」
「お前もクラス代表になったのか……」
アリーナへ向かう道すがら。
たまたま会った一夏とそんな話をする。
一夏は一組のクラス代表。
お互い苦労するな。
「もしかしたら近々ガチで戦うかもな」
「お、望む所だ。お前とはまだ引き分けだからな」
「ハッ!6:5で俺のリードだ」
「算数からやり直せ!俺が上回ってるっての!」
ISスーツに着替える。
このスーツ、元々男性規格の物は存在しなかったので俺も一夏も特注品である。
「今日こそ決着、着けてやるぜ」
「望む所だ。俺とコアガンダムに限界は無い!」
「お二方。白熱するのも結構ですが、少しお時間よろしくて?」
手を叩く音。
俺と一夏が振り向く。
ISスーツ姿で呆れたように苦笑しているオルコットだ。
「……早速来てくれるとは思ってなかった」
「何事も最初が肝心ですわ。例えば殿方のお誘いでも誘われたからには応えなければ淑女の恥」
「しっかりしてんだな」
「育ちが良いもので」
「左様で」
「お二人が何をしているのか少し気になる事もあったので見に来たのですが……もしや、ずっと模擬戦を?」
俺と一夏は操縦訓練と称して結構な頻度でやり合っている。
その事を素直に話た。
「……はぁ。論外ですわね」
「え、何でだよ」
「基礎が成ってないのにそんな事をすればそうなりますわ!良いです、わたくしがきちんと叩き込んで差し上げます!良いですわね?!星海さん!!」
「えっ、俺は?」
「お前には私だ、一夏」
「箒……」
全くの余談だが、篠ノ之は教える役に微塵も向いてない事をここに添えておく。
「まぁ、なんだ。俺の事は那由太で良い」
「あら、でしたらわたくしの事はセシリアで構いませんわ」
「嫌がるかと思ってた」
「フェアではありませんので。それでは、早速やっていきますわよ」
今日から、代表候補生によるシゴキが始まった。
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第十三話「新しいアーマー」
「星海くん、技研の方からお電話が着てますよ」
ある日。
セシリアの特訓で連日へとへとになった俺に、先生がそんな声を掛けてきた。
「技研……からですか」
「あら、すっかりお疲れですね」
「セシリアの奴が容赦ないんで……」
「あら、失礼ですわね。貴方は代表ですのよ。しゃんとしてくださいまし」
「こんにちは、オルコットさん。星海くんをちょっとお借りしますね」
「ちょっと行ってくる」
「今日は放課後の訓練はキャンセルで構いませんわ。偶には休んでください」
「さんきゅ」
さて、技研……コアガンダムの開発元には実はまだ顔を出していない。
というより予定が合わないのだ。
先方が俺に会えなくて残念がっているという話は聞いている。
コアガンダムのメンテはどうしているのかというと、IS学園の技術部の人たちが代理でやってくれている。
「どうぞ」
先生から受話器を受け取る。
「……もしもし」
『どーもどーも。こんにちは!初めましてかな!星海さん!』
やけにテンションの高い人だった。
声が子供の様に高い。
『私が開発チームの不動です!』
「あ、どーも……それで、ご用件というのは?」
『それはですね、コアガンダム用の新しいアーマーが準備出来ました!』
「新しい、アーマーですか?」
アースアーマー以外のアーマー。
換装システムの都合上、絶対にあるとは思ってたけど。
「本当ですか」
『こんな所で嘘言ってどうするんですか。ちゃんとありますよ!』
「あ、あはは……ありがとうございます。近々お伺いしたいんですけど……」
『あ、あははー……まだウチも片付いてないので、いずれこちらから声をおかけします』
「分かりました。その時はどうぞよろしくお願い致します」
さて、新しいアーマーか……。
「良い話でしたか?」
通話が切れた後、先生が声を掛けてきた。
「ええ、とても」
「そうですか。うれしそうな顔、してましたよ」
「……えっ、マジですか」
「ええ、マジです。やっぱり男の子ですね」
「先生、そう言うのやめてください……」
「うふふ、ごめんなさい。先生女子校出だからこう言うノリなの」
(……ホントかそれ)
兎に角、コアガンダムにアーマーの選択肢が増えるというのは朗報だ。
戦術の幅が増えるというもの。
ちなみにコアガンダムはなんと音声認証機能が搭載されている。
アーマーを装着する感覚を再現できない為だ。
なので、換装は声を出さないといけない。
声が出るって事はアーマーがバレると言う危険性もある。
……アースアーマーしか無かったから懸念にはならなかったけどさ。
ちなみにコアガンダムのエネルギー周りはまた独特で、アーマー単位でシールドエネルギーの残量は分配されている。
コアガンダムのエネルギーが少なくなってもアースリィガンダムになれば満タンからスタートできる。
ただし、そこからアーマーを剥がされコアガンダムにされるとアースリィのダメージをコアガンダムが受け、その分また引かれてしまうので実質アーマー損失=エネルギー切れと同等だ。
前回のセシリア戦でのエネルギー切れは、残量の少なかったコアガンダム形態にボルトアウトで戻ってしまったから発生した。
コアガンダムのシールドエネルギーは普通のISの半分ほどしか無い。
そのためアーマーの切り替えは重要になってくる。
(どんなアーマーなんだろうか)
やっぱり、ちょっとワクワクしてしまう。
先生の生暖かい視線がなんとも言えない居心地の悪さを醸し出していた。
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第十四話「プラネッツシステム」
コアガンダムに搭載されている特殊システム、「プラネッツシステム」。
通常のISは量産を前提とした簡易化、もしくはエース用の高コスト化が進められている。
……軍用にしようしてはいけない前提がこの時点で崩壊しているのには触れない。
このプラネッツシステムはコアガンダム単騎で全ての状況に対応しようとしたシステムだった。
……だった、と言うのはこのISがそもそも第1世代の産物だと言うことを鑑みて欲しい。
コストパフォーマンスが余りにも悪過ぎた。
アーマーの分だけコアガンダムはシールドエネルギーを分配する。
常に最低でも通常ISの50%で戦っているのだ。
そして、アースアーマーとドッキングすると100%のエネルギーになる。
……仕様書によると、アーマーを格納するほどアーマー単位のエネルギー総量が減るらしい。
ここまでが、俺がなんとか理解した相棒の仕様である。
「それで、例の新アーマーってのは?」
「3つだ」
「多くないか……?」
「元々用意してあったものを俺用にチューンしたらしい」
「ああ、なるほど……」
夕方。
部屋の窓際で涼んでいた一夏とそんな話をしていた。
そろそろ初夏の足音が聞こえてくる今日この頃。
でもまだ日が落ちると肌寒いものがある。
「どんな奴なんだろうな。ちょっと楽しみじゃないか?」
「別に……」
「付き合いそんな長くないけど、お前隠し事苦手だろ」
「どうして」
「めっちゃ顔ニヤついてる」
「………………マジ?」
先生にも同じ事言われたな……そんなに顔に出やすいか俺。
「それはどうだって良い」
「そうか。どんな奴なんだ」
「それぞれ、接近戦用、遠距離戦用、水中戦用だそうだ」
「ISで水中戦……実際どうなんだろ」
「宇宙に行けるんだ。行けるだろ」
そういえば名前とか付いているのだろうか。
アースアーマーは第三惑星地球をもじってアースリィ。
プラネッツシステム、と銘打っているからには惑星の名前なんだろう。
「人類は何処にだって行ける」
「……それは?」
俺の呟きに、一夏が反応した。
「……宇宙飛行士だった俺の父さんの言葉」
「何処にだって、か……良いじゃん」
「そうか」
俺もいつか、世界中の空が見られるだろうか。
(あの子、元気にしてるだろうか)
ふと、思い出す。
あの日、約束を交わした女の子。
顔は朧げで、そこだけは思い出せない。
名前も、たぶん聞かなかったんだと思う。
会ったこともきっとその一度だけ。
人の出会いというのも結構適当なんだな……。
その記憶のせいで、女という生き物を心底嫌う事は無かった。
酷い目に遭ったとしても、何故か憎み切れなかった。
そういう事なんだろう。
(また、遭えるだろうか)
空を飛ぶ力は得た。
後は、宙を目指すだけ。
約束を、果たしたい。
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第十五話「水星の1、メルクワンガンダム」
見渡す限りの海。
砂浜、水平線。
そして快晴の空の下。
夢という名の大航海へは出ないが。
「……まだ海開きには早いんじゃないですかね」
砂浜で一人そんな事をつぶやく。
隣を見ると、アースアーマーとはまた違った暗い青色のアーマーが鎮座していた。
名は、「マーキュリーアーマー」。
水星の名を冠するプラネッツシステムの新たなアーマーだ。
そもそも、何でこんな所に俺一人で居るのか。
まぁ一人ではないんだけれども。
「星海くーん、準備できましたよー」
先生から声がかけられる。
今回は、臨海学校の下見兼、マーキュリーアーマーの実地テスト。
そして、ISの全環境対応性能の確認と言った所。
数人のスタッフと下見の言い訳の為に来ている先生と、俺。
良いように使われている気がする。
「了解。さて……行こうか、コアガンダム」
腕のクリスタルにそっと触れる。
あれ以来、例の男の子には会っていない。
またいつか会えるときが来るだろう。
その時は、胸を張って答えよう。
俺の夢を。
「コアチェンジ、ドッキングゴー!!」
飛び上がる。
後からやってきたマーキュリーアーマーが分解、バラバラになったパーツがコアガンダムに装着される。
黒いフィン、背中の推進装置、顔を覆うようなゴーグル。
視界に機体名が表示される。
「メルクワン、ガンダム!」
手にしたコアビームスプレーガンに、大型のカバーが装着される。
先端には銛のような銀色に輝く突起。
その両サイドには水中で補助推進の役目を果たす水中用のビットが懸架されている。
「行ってらっしゃーい!」
先生の声を聞いて、俺は海の中へ飛び込んだ。
―――――――――
潜る事30分。
静かだ。
水深が深くなるに連れて周囲は暗くなるが、ISのハイパーセンサーが補正を掛けて明るくしてくれている。
酸素も問題無し、シールドエネルギーもまだまだ余裕だ。
今回はマーキュリーアーマーしか持ってきていないのでメルクワンガンダムに100%エネルギーを割り振れる。
『こちらからもモニターは、まだまだ良好ですよ。もう少し潜ってみてください』
「了解」
……久々に、一人だ。
通信機で繋がっているとは言え、まわりに誰も居ない。
最近は部屋に居ても一夏がいるし、学園の休み時間は誰かに絶えず見られている気がする。
ちっとも気が休まらなかった。
休みの日も別に何処か出掛けるわけでもなく、外に出てフラフラしているだけ。
……なんと言うか、夢は思い出したけれど、漠然と何をするべきかすら分かっていないから迷走している気がする。
宇宙に行くには、ISに頼らざるを得ない。
だが、このままここに居てそれが出来るのだろうか。
世界にたった二人しかいない男性パイロットとして、モルモットの様に使い潰されないのか。
気付けば、思考のドツボに嵌っていた。
『星海くん。そろそろ戻ってきてください』
「……はい」
一人の時間は終わりだ。
悩んでも仕方ない。
やれる事をやろう。
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第十六話「襲撃」
……海面に近づく。
妙だ。
さっきから通信が音沙汰無い。
と、言うよりずっと砂嵐状態だ。
そんなに電波の通りが悪いのか?
兎に角浮上してから考え……。
《ロックオン警告》
「!?」
ISがけたたましい警告音をかき鳴らす。
浮上を中止し、周囲を見渡す。
ISのハイパーセンサーは何も捉えない。
(なんだ……?)
少なくとも水中には何も居ない。
なら、海上から?
だとしたら、待たれていると考えるのが妥当か。
視界を上げる。
センサーが海面から更に上空に何か居るのを捉える。
《UNKNOWN》
データベースに無い機体。
ますますきな臭い。
先生達は無事だと良いんだけど。
メルクワンガンダムは水面から上空へ攻撃する術が無い。
両腕に付いているフィンザンバーで格闘戦を仕掛けるのが関の山。
(先生達が逃げるスキ位作らねーと)
なるべく勢いよく水中から飛び出す。
水飛沫で視界を潰して……。
「……?」
攻撃が来ない。
疑問符が止まらない。
兎に角、相手の姿を視界に収めた。
……なんと形容すれば良いのだろうか。
IS、なのだろうが人の居る部分にぶら下がる人型は、まるで生気がない。
と言うより、全身装甲に近いのか。
頭に該当する箇所に、赤い点が無数に付いている。
そして、不釣り合いに大きな腕。
何もかもがアンバランスだった。
そいつは、じっと、空中で静止して俺を見ていた。
(何だこいつ)
気味が悪い。
人が本当に乗っているのか?
とりあえず、オープンチャンネルを開く。
「所属不明機に告ぐ。そちらの身分を開示されたし」
こんな感じで良いのかな。
それっぽく言えているだろうか。
……反応が無い。
感なし終わり。
さて、どうする。
この手の奴はこっちが何かしらアクションを起こせば来そうな気がしなくもない。
そのアクションが何であろうと。
背中を向けて飛ぼうものなら撃ち落とされかねない。
現に奴は俺をロックオンしている。
どうする。
ここでじっとしていても状況は良くならない。
「………………」
俺は、そっと横を通り過ぎようとして……。
「星海くん!離れて!!」
「エッ」
先生が、ラファール・リヴァイヴを駆って飛んできて。
その、不気味なISに射撃を開始してしまった。
《高熱源反応》
「「!!」」
先生の射撃を、凄まじい反応速度で回避する。
……早い!
巨大な両腕に備え付けられた2問の砲台を向けられる。
「っ!逃げて!」
咄嗟に海に飛び込む。
足のつま先を凄まじい出力のビームが掠めた。
「ひぃ!?」
『星海くん!そのまま海中を移動してスタッフさん達と合流してください!』
「先生は!?」
『私は大丈夫です!元代表候補生です、上手くやります!』
「俺だって……」
『生徒を守るのは、先生の約目です!危険な目には遭わせられません!』
「けど!」
『きゃっ……!』
どうする。
このまま逃げる事は簡単だ。
メルクワンガンダムなら、次世代機相手でも海中においてアドバンテージがある。
しかし、戦闘エリアは海上。
アースアーマーがあれば、少しは戦力になれたかもしれない。
(くそっ……)
俺は、見てる事しか出来ないのか。
これじゃあ……あの時と同じじゃないか。
目の前で両親を失ったあの日と。
何も出来ずにただ見てるだけだったあの時と!
(嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ!)
『大丈夫だ』
……声が聞こえる。
通信は何処とも繋がっていない。
『プラネッツシステムに、限界は無い』
……ああ、そうか。
そうだったのか。
あの声は、コアガンダムの。
「……そうだな。そうだ」
セシリアと戦った日。
プラネッツシステムに限界は無いと聞いた日。
そもそもアーマーを置いてきたと
そうじゃない。
コアガンダムに搭載されているプラネッツシステムと言うOSでは無い。
プラネッツシステムと言う装備だ。
つまり、
「コアチェンジ、」
アースアーマーは、此処にある!
「マーキュリートゥアース!」
俺は、海上へ飛び出した。
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第十七話「正体不明機」
「うおおおおおお!!」
「星海くん!?」
水中から勢いよく飛び出し、ビームサーベルを振り抜く。
先生に今から掴みかかろうとした腕に、刃を……。
「硬ッ!?」
ビームサーベルを装甲で受け止めている。
なんだこの強度は。
「先生!」
「!」
片腕を抑えている間に、そういった意図で呼んだのが伝わったのか。
先生がライフルを構える。
その瞬間、もう片方の腕に手を掴まれた。
「う、げぇ!?」
そのまま投げられた。
……先生の射線を遮る形で。
「っ……!」
こいつ、硬いし馬力があってかつ早い!
全く可愛げがない……!
「こんにゃろ!」
ビームライフルを撃つ。
二次ロック、エイムアシストの補正を掛けていても外れる。
いや、撃つ瞬間に相手はもう射線上に居ない。
こちらの撃つタイミングを把握しているレベルの反応。
ISが欠陥機だと言う前提を覆す程の性能。
第2世代機と第1.5世代機の2機がかりで有効打が与えられない。
第3世代機とか言うやつなのか、これは。
ただ、1つ気になる事が。
「先生」
「……何でしょう」
二人並んで油断なく構える。
「あいつ……人、乗ってるんですかね」
いくら360°全てを見る事が出来るISであっても、背後を見るには少なからずラグが発生する。
人間は後ろを見る事にまだ対応できていないからだ。
流石に訓練された軍人ならそれを最小限に出来るだろう。
それにしたって速過ぎるのだ。
それに、首の動きが一切無いのも気になる。
本来、ISは人間を搭乗させる事が大前提の機体だ。
これだけで判断するには早計かもしれない。
「……同じ事を思っていました。あまりにも機械的過ぎる」
先生も同じ考えだった様だ。
しかし、これが分かっても対抗策は……。
「現にこうして私達が話している間攻撃はしてきていません。その説は濃厚かも」
……確かに。
しかし、ここでじっと待っていても事態は解決しない。
「……応援要請はしましたが、ジャミングでどこまで届いているかどうか」
「俺達でやらなきゃいけない、と」
「こうなった以上、やるしかありません……本当は星海くんだけは逃がすつもりだったんですけど」
「それは了承出来ません」
「頑固ですね、君は」
「そう言う性分ですんで」
「さて、そうとなればこの場をどう切り抜けるか、ですが」
一度情報を整理しよう。
相手は並のIS以上の装甲と馬力、火力を持っている。
辺りは一面の海。
遮蔽物も一切無い。
……海?
「先生」
「はい?」
「なんとか、あいつの動きを少しでも止められますか」
「……私の実力では恐らく20秒程度でしょう」
20秒。
確か、ビームライフルのチャージ時間は……。
「作戦があります」
「良いですよ」
「まだ何も言ってませんけど」
「生徒を信じるのも、先生の仕事ですから」
「……あなたみたいな人、もっと早く会いたかったですね」
「え?」
「行きます!」
マーキュリーアーマーを呼び出す。
先生も即座に続き、俺を追い抜いた。
「はぁっ!」
「うおおお!!」
サーベルを抜く。
先生がアサルトライフルを二丁腰に抱えて連射する。
不明機はまず射撃を避けようとした。
そこへマーキュリーアーマーを
なんのロックも攻撃もせずただ飛んだだけの物体になんの反応もせずにそのまま体勢が崩れた。
「うらぁ!!」
サーベルを突き刺す。
面で切れないのなら、点で刺せ!
相手の左腕が咄嗟に上げられ、サーベルが腕に突き刺さる。
「星海くん!」
先生の投げたグレネードが目の前を通り過ぎる。
俺はシールドを構えて真上に離脱。
そのままシールドとビームライフルを連結させる。
「やぁぁぁぁぁっ!!」
爆発。
先生が爆炎の中に吶喊、不明機に組付く。
「今です!」
「当たれええええええ!!」
アースリィガンダムの最大火力。
ビームライフルの最大出力を放つ。
即座に先生が離れる。
不明機の胴体に、ビームが命中する……だが、抜けない。
衝撃で不明機が海面に叩きつけられる。
「コアチェンジ!」
マーキュリーアーマーがバラバラに分解され、身体からアースアーマーが弾け飛ぶ。
「アーストゥマーキュリー!」
即座にメルクワンガンダムに換装、海面から上がろうとした不明機を蹴り、更に沈める。
「行けぇ!!」
ニードルガンから水中ビットをパージ、不明機の両腕に接続し海底に向けて推進をさせる。
「うおおおおおおおお!!!」
メルクワンガンダムの出力を限界まで上げる。
そのまま不明機を抑えて一緒に海底まで突き進む。
……所属不明機の動きが明らかに鈍くなっていく。
やはり、
(水中戦は想定されていない!)
本来、ISは空戦を行う為に調整が為されている。
水中で戦う事など稀だからだ。
周囲が暗くなる。
相当深くまで潜ってきた。
その瞬間、ビームサーベルで穴が空いていた不明機の左腕が爆ぜた。
それに連鎖するように機体が軋んでいく。
水圧に耐えられなくなっているのだ。
ここまでくればもう満足に動けまい。
「くたばれええええええええ!!」
俺は、ニードルガンをビームライフルが焼いた胴体に向かって放った。
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第十八話「貴方は誰?」
IS学園、資料室。
そこに、セシリア·オルコットは居た。
彼女は無心でキーボードを叩いている。
「………………」
ディスプレイに映されているのは、自身の代表候補生と言う立場を利用して集めさせた……ある事件の情報。
数年前、ISの台頭よりも更に前。
セシリアの両親は、とあるプロジェクトに出資していたらしいと言うのが最近分かった。
「プロジェクト、ヴォワチュールリュミエール」
宇宙開発の為の有り触れたプロジェクト。
ただ、その名前だけ目新しく記憶に少しだけ引っ掛かっていたもの。
なぜ今になってこれを思い出したのか。
「………………」
星海那由太。
そう、星海。
このファミリーネームに心当たりがあったからだ。
……プロジェクト·ヴォワチュールリュミエールは頓挫してしまっている。
よくある資金やらスポンサーやらの問題ではなく……テロの標的となった為。
これも、よくある話だ。
未だ世界は貧富の差を埋める事は出来ていない。
地球の問題を片付ける前に、外に向けるなど。
革命家気取りのテロリストに蹂躙された。
その被害者の中にあった名前。
『星海新太』、『星海彼方』。
宇宙飛行士と、そのオペレーターの……夫婦。
セシリアの両親と、交流のあった二人。
セシリア自身も……一度だけ、会ったことがある。
そのときに、彼らの息子の少年と話をした事を覚えている。
『いつか、僕が宇宙に行く』
その頃、セシリアの日本語は拙いものだったが……彼は、確かにそう言った。
「……思い出しましたわ」
彼女は両手で顔を覆う。
自分の今までの言動。
彼を煽った事。
彼を見下した事。
全てを悔やんだ。
「わたくしは、なんて事を……」
「捜し物は終わったか」
「!」
慌てて顔を上げる。
そこには、なんの表情も浮かべていない1組の担任……織斑千冬が立っていた。
「織斑、先生……」
「入学早々、代表候補生の権限を使って他人の過去を覗くとは……あまり良い趣味ではないな」
「……なっ、そんな、わたくしは!」
「今回は目を瞑ろう。それで、だ」
織斑千冬は近くにあったコンソールのキーを叩く。
セシリアの目の前に仮想ディスプレイが映し出される。
そこには、砂嵐が酷く鮮明には見えないが……確かに、アースリィガンダムが映されていた。
「那由太さん……!?」
「これは一時間前に撮影されようやく送られてきた映像だ」
「何が、起こっていますの?」
「海中動作テスト中に所属不明、正体不明機の襲撃を受けたそうだ」
「なっ……」
「お前には救援チームに急遽だが入って貰う」
「……入学したばかりのわたくしを?」
はっきり言っておかしな話だ。
訓練は確かに積んでいる。
それなりに腕はあると自覚している。
だが、なぜ?
「本来IS学園はあらゆる国の手は届かない。しかし……『強い要望』は無碍に出来ない」
……合点が行った。
イギリスが、正体不明機の情報と男性パイロットの情報を欲しがっていると。
可能な限り星海那由太のデータを抜かせるつもりだ。
「……分かりましたわ」
「本来、教師は生徒を守る立場だ。非力な私を許してくれ」
「いえ、構いません。それに……彼には聞かなければならない事がありますので」
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第十九話「春の夕暮れ」
「……う、あ」
頭がガンガンする。
身体がダルくて、とても重い。
頭を抑えようとして、ガン、と硬い物がぶつかる音がした。
「あ……?」
自分の手を見る。
ぼんやりと輪郭しか見えなかったシルエットが、はっきりとする。
……この手は、コアガンダムの手だ。
「なんで……」
何で、ISが解除されていない……?
「星海くん!気が付きましたか?!」
視界の隅に、先生の姿が映る。
「はい……」
「良かった……コアガンダムを解除してください。何故か展開しっぱなしで」
「……?」
コアガンダムの装甲を解く。
まさか……コアガンダムが、俺を守ったのか?
でも、どうやって浮上したんだ……?
鈍い頭痛が煩わしいが、疑問は尽きない。
「……あれから、どうなったんですか」
「学園の方から救助隊が到着しました。後処理はやってもらっています」
「届いてたのか……スタッフの人達は……」
「無事ですよ」
「先生、は……」
「……私は、大した怪我はありません」
「そっか……良かった」
「良くありません!!」
面食らった。
というより頭に響いてガンガンする。
「あ……すみません。でも、良くないんですよ。貴方は私の生徒なんですよ。そんなあなたに、命を懸けさせたなんて……教師失格です……!」
「……そんな事、無いですよ。だって……」
貴女は、俺を信じてくれました。
その言葉が、出ない。
「那由太さん!!」
先生とは違う声。
目だけ動かして、姿を捉える。
「せし、りあ……?なんで……」
ISスーツ姿のセシリアが、俺を見るなり駆け寄ってきた。
「良かった……」
「セシリアさんが、沈んで戻って来なかった星海くんを引き揚げてくれたんですよ」
「そう、だったのか……」
「どうしてあんな事をしたんですか!」
「セシリア……あんま、叫ばないでくれ……」
「……あ、ご、ごめんなさい」
安心したらどっとツカレタ。
眠い。
とんでもなく眠たい。
今、自分がいる場所を確認する。
……砂浜。
え、俺引き揚げられてそのまま寝かされてたのか。
まぁ、ISが解除できない以上そのまま転がしとくしか出来なかっただろうけど……。
「星海くん、オルコットさん。今回の事は他言無用です。良いですね?」
「はい」
……まぁ、余計な混乱を振りまく必要は無いだろう。
でも、
「説明、貰えるんでしょうね」
「それは……はい」
「そうですか……すんません。死ぬほど疲れました」
「え、ちょっと、星海くん!?」
それだけ確認を取る。
流石に口止めだけされて詳細を聞かされないのは納得がいかない。
……俺は、そのまま眠りに落ちた。
一夏組が死ぬほど空気ですねこれ。
向こうも描写すべきなんでしょうか。
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第二十話「おいでませチャイナガール」
「1組に転校生?」
あれから1週間。
4月も終わりに差し掛かった頃。
廊下で俺と一夏が並んで窓から空を見ているときの話。
……相変わらず、俺らの周りには視線が多数。
「そうらしい」
「入学したばっかで転校って……それはそれで可哀そうだな」
「IS学園だとよくある話らしいぞ」
「まぁ……そういうもんなのか」
普通の高校に入ってからISの適正が高かったりすると編入とかそういうのもあるらしい。
「どこからだ?」
「千冬姉教えてくれなかったんだよな」
「まぁ、公私は分けてるんだろ」
「その情報、古いよ!」
「「ん?」」
振り返る。
そこには、胸を張って立つツインテールのちんまい少女が立っていた。
「私は中国の代表候補生の
……代表候補生と来たか。
ちらりと一夏を見る。
……驚いている?
「丁寧な紹介痛み入る。俺は……」
「リン!リンじゃないか!久しぶりだな!」
「……はい?」
一夏が親しげな様子で凰鈴音に話しかけていた。
え、知り合い?
「モトカノ?」
「何でフラレてる前提なのよ!」
蹴りが飛んできた。
流石に避ける。
「久しぶりね、一夏。元気だった?」
「見ての通りさ。どうしたんだよリン、転校なんて」
篠ノ之さんと一夏のやり取りになんとなく似ている。
過去に交流があったのは確かだ。
「一夏、知り合いか?」
「ああ、紹介するよ。俺のセカンド幼馴染」
「セカンドて……」
「中学の2年間くらいか?」
「それ幼馴染って言わなくないか?」
「気にすんなって」
こいつテキトーだなほんと。
ふと、鈴音が俺を見ていた。
「なんだ」
「名乗らないの?」
「あー……どーも。二人目の男性パイロット、星海那由太だ」
ガサツな単細胞系かと思いきや、意外と気が回るのね。
クラスは違うからまぁそんな関わりが無さそうだが。
「ふーん。よろしく。所でさ一夏、アンタISには慣れた?良かったら色々教えたげよっか」
「結構だ。一夏には私が居るからな」
「……何アンタ」
「紹介するよリン。ほら、前に話だろ?ファースト幼馴染の箒だ。で、箒。こっちがセカンド幼馴染のリン」
……あっ。
これヤバいやつだ。
修羅場的な。
俺はこっそりとその場を後にする。
……そろそろ授業が始まる。
廊下から悲鳴が聞こえる。
大方織斑先生に折檻でもされてるんだろう。
しかし、隣のクラスに代表候補生か。
「クラス代表戦、少し楽しみにしてたりします?」
席に座った途端、やけにいたずらっぽい顔でセシリアが口を開いた。
「クラス代表は一夏だろう」
「あの子がその程度に収まるとは思えませんもの」
「……言えてる。絶対何か騒動があるわ」
……そういえば、なんとなくセシリアの態度が軟化した様な気がする。
俺と話すとき笑う事が増えた。
気のせいだろうか。
「はーい、授業始めますよ〜」
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第二十一話「金星の2、ヴィートルーガンダム」
精神衛生上、聞くか聞かないかどちらが良いんでしょうね。
技研から渡された4つのアーマー。
これらは全てプラネッツシステムというくくりでコアガンダムの中に格納されている。
戦闘中始めからサポートメカとして飛ばしていても良いのだが、なんとマニュアル操作が必要な代物だった。
コアガンダムで戦闘しながら各アーマーに指示を飛ばすなんて芸当、流石に出来ない。
聞けば、セシリアもビット、ブルーディアーズを動かしているときもそんな感じらしい。
今日の放課後は、生徒用のメンテナンスハンガーでISのOSを弄っている。
弄る、と言ってもISは思考のとおりに動く代物。
大体これはこういう風に動くぞ、というコードを見たりとか、そんな事しか出来ない。
後はちゃんとアーマーを装着した時、そのアーマーにあった動きが出来るかどうか。
「おっす、那由太。精が出るな」
「一夏」
ISと繋いだ画面から目を離して、声の主の方を向く。
「どうしたんだ、今日は篠ノ之や転校生と一緒じゃないのか?」
「え?あー……二人とも、何かバトルに熱が入っちゃって」
大方それはお前の取り合いなんだろう、とは言わぬが花か。
「お、新しいアーマーか?」
「ああ。ヴィーナスアーマーだ」
金星の名を冠する、緑のアーマー。
額のアンテナは3本角になり、真ん中にカメラが取り付けられている。
特徴はなんと言っても背中のビームキャノンにミサイルラック、腕部や膝に取り付けられたグレネード。
アースリィガンダム以上に射撃戦に特化させたアーマーだ。
その名を、ヴィートルーガンダム。
「良いなぁ、お前の機体は色々出来て」
「そうは言うが、お前の方は
「そうだけどさ」
俺のコアガンダムには、
元々は第2形態に移行した際に獲得するものらしい。
「機体の傾向はまさしく玄人向け。でも一対一じゃなくてチーム戦になった時闇討ち狙ったりすれば活躍出来そうだな」
「でもなぁ……エネルギーのやり繰りが本当に厳しいんだよ、ホントに」
一夏との模擬戦での勝因が大抵向こうの自滅。
欠陥機と揶揄されるISの中でも、本当に輪をかけて欠陥のあるシステムだと言わざるを得ない。
ただし、当たれば強力だと言うのは言わずもがな。
どうやって当てるか。
そこに焦点を当てれば……。
「ペアトーナメントとか、那由太と組んだら結構良い所まで行けそうな気がするな」
「お前がちゃんと働いてくれないと俺が2機相手にする羽目になるんだぞ?さすがにゴメンだ」
俺の機体はアーマー単体では並のISの50%程度の力しかないのに。
「ははは、何とかなるって」
「お前なぁ……」
「那由太」
「あん?」
「そろそろ、動くだろ?」
一夏と話している最中でも手は止めていなかった。
ほんと、こいつ聡いくせに自身に対する好意には無頓着と言うか。
「良いぜ。今日はヴィートルーガンダムの試運転だけどな」
「そうこなくっちゃな!」
ああ、またセシリアにどやされる。
素人同士の模擬戦に意味は無い。
けど、やっぱり楽しいのだ。
手足のように動かせるISで空を飛ぶのは。
「コアチェンジ、ドッキングゴー!」
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第二十二話「模擬戦もほどほどに」
更新がなくなったら察してください……。
ヴィートルーガンダムの特徴、それは射撃線能力にある。
全身に搭載された火器と額のカメラによって、火力と精度を両立した射撃特化型。
あまり射撃に自信の無い俺でもIS自体のアシストが強力で射撃制度も高いままだ。
「……凄いな」
一夏が声を漏らす。
射撃、命中。
次の標的へ。
一通りの火器を試すためにさっきから一通り撃ちまくっている。
「火力も精度も充分。近付く前に蜂の巣かもなぁ」
「近付かれたら終わりとも言うな」
自衛用にビームサーベルはある。
あるのだが……どうも俺のビームサーベルは一夏の零落白夜と相性が悪く刃を斬られると木っ端微塵に砕けてしまう。
零落白夜発動中の一夏の攻撃は防御不可能。
まさに一撃必殺だ。
「さて、一通り試し終わったんじゃないか?」
「だな……それじゃ」
「やるか!」
お互いに得物を向け合う。
周りで見ていた他の生徒達が息を呑む。
……そこへ割り込む二つの影。
「「そこまでええええええええ!!」」
「「ええええええええええええ!?」」
方やビームで蜂の巣に。
方や飛んできた青竜刀で吹っ飛ばされた。
「な、なんだ!?げっ」
俺をビームの嵐で撃ち抜いた犯人。
……ブルーディアーズ。
ということは、
「何しやがるセシリア!」
ISに身を包んだセシリアが、俺の上に悠然と舞い降りてきた。
向こうは……初めて見るISだ。
パイロットは……鈴音だ。
「那由太さん、基礎が固まってもいないのに模擬戦ばかりしていても致し方ありませんのよ!?」
「んな事は分かってる。分かってるけど……」
男の子としては、やっぱ白黒付けたいのだ。
「はぁー……まさか貴方がここまで子供っぽい方だとは思いませんでしたわ」
「……うるせえ」
「全く。那由太さんは当面の間一夏さんとの模擬戦は禁止ですわ。織斑先生にも伝えておきます」
「なっ……」
なんだって!?
「冗談じゃないぞ!ここの生活での俺の数少ない楽しみだぞ!」
「知りませんわそんな事……毎度毎度言わせて貰いますが那由太さんには基礎が足りていません。そんな状態でいくら戦った所でいたずらにISを傷つけるだけですわ」
ISは成長する。
第一段階から第二段階へ搭乗者の性格、癖、好みを反映しより尖っていく。
ISが破損してしまえばこの進化に悪影響が出る。
……という事が言われてから頭の中に過る。
「……あー」
ここでセシリアに食い下がるのは簡単だ。
でも、俺はコアガンダムで……ISで飛ばなきゃいけない。
「…………分かったよ」
納得するけど感情は収まらない。
昔から俺は冷静なんだか熱くなってるのか情緒不安定というか……。
「不承不承と言った感じですわね……でも、ちゃんと分かっていらっしゃいます。そうでしょう?」
「いや何分かってますアピールしてるんだお前……」
「ええ、だって分かりますもの。那由太さんはISを大事にする方だと。そうでなければ遅くまでご自分で整備何てしません」
「うっ……何故それを」
週に2回、コアガンダムを自分で整備している……と言ってもプログラム周りは全く分からないので外装を磨いたり汚れを落としたり油を差したり。
ISは自己修復機能があるから無駄かもしれないけど。
「さぁ、どうしてでしょうね」
「~~~~~!」
揶揄われている。
非常に面白くない。
……その瞬間、俺とセシリアの間を一夏が吹っ飛んでいった。
「きゃ……」
「おわあああああああああああああ???!!?!」
「ぎにゃああああああああああああ!!!??」
……いや、セシリアに直撃コースだったので俺が間に割り込んで一緒に転がって行った。
「一夏てめぇ何してやがる!!」
「リン!何しやがる!!」
「うっさい馬鹿!!」
「なんだと!?」
「うるせぇぞ一夏説明しろ!!」
「一夏の馬鹿!もう知らない!!」
……痴話喧嘩か?
「えぇ……?」
後日、一夏が鈴音のコンプレックスを刺激して激怒させたことが発覚。
「えぇ……?」
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第二十三話「朴念人、決闘する」
せめて今書いてる作品完結してから失踪したい……。
本当に一夏との模擬戦は禁止された。
解せぬ。
さて、場所は変わって俺と一夏の部屋。
俺達は机に向かい合って座り今日の課題を広げていた。
「……なぁ」
「5秒待て……何だよ」
問題が解けるか解けないかギリギリのタイミングで聞かれたので待たせた。
鉛筆を机に置く。
「……俺、なんかマズったかな」
「女性のコンプレックスを刺激する事が拙くないとでも?」
「だよなー……」
ぐでー、と一夏が机に突っ伏した。
ちなみにこいつの解答は白紙である。
やれよ。
写させてやらんぞ。
「大体約束も満足に覚えてなかったんだろ?何も言えないだろ」
そこまで言ってから俺は口を閉じた。
俺も、人の事は言えない。
だって、約束を交わした相手を覚えていないのだから。
「それは――」
ドン、ドン!
部屋の扉が乱暴に叩かれた。
俺たちは顔を見合わせて、じゃんけんをした。
一夏がグー、俺はチョキ。
ちくしょう。
恐る恐るドアを開ける。
「あれ、アンタもこの部屋なの」
視界の下にちんまいツインテール。
鳳だ。
「何の用件だ」
基本的に俺たちの部屋に女子生徒が訪れるのはあまり良い顔をされない。
同じ寮に部屋がある以上仕方のない事だが。
「一夏は?」
「居るぞ。席を外す。30分したら戻る」
「えっ、そんなそこまで……」
「男女の喧嘩は犬も食わない。俺は犬じゃないから尚更要らん」
馬に蹴られたくは無いので。
「一夏っ!」
さて、どこで時間を潰したものか。
風呂でも入れれば良いのだが、生憎と浴場は調整中。
俺たち二人だけの為に貸し切りにする事は難しい。
「決闘よ!」
……なんか聞こえてきた。
なんだこれ。
ふと辺りを見渡すと、まぁずらっと女子生徒が聞き耳を立てていた。
うわこわっ。
俺達の会話もしかして聞かれてるのかこれ。
女子生徒達は俺に気が付くと蜘蛛の子を散らす様に逃げて行った。
しかし……決闘か。
あの二人はクラスメイトだから、交流戦みたいな形になるのだろう。
鳳は代表候補生だ。
恐らくは専用機持ち。
なんか、専用機持ち多くないか1年は。
持ってる俺が言うのも何だけどさ。
――――――――――
結局、屋上のテラスで夜風に当たって空を見上げていた。
夜の空は、日中とはまた別の顔を見せる。
都心と離れ、人工島の上に建つIS学園の夜空は……それほど良いものではなかった。
常夜灯の灯る中では、星が少しばかり暗く見える。
やっぱり星を見るなら山の中だな……。
「こんな夜更けに、何をしていますの?」
「淑女が出歩くには遅いだろうに」
背後から声を掛けられた。
セシリアだろう。
「一夏さんと鈴音さんが決闘するって、寮中が話題になっていましたわよ」
「恐ろしいほど伝播が速いな」
「女性とはそういう物なので」
「滅多な事は出来ないな、ホント」
「滅多な事をするおつもりで?」
「しねーっての。で、何用だ?」
ただ世間話をする為に来るなんて酔狂なやつでもないだろ。
「あら、理由も無しに殿方に会ってはいけないかしら」
え、えぇ……?
「……モノ好きなやつ」
「褒め言葉として受け取っておきますわ」
後日、正式に一夏と鳳の模擬戦が決定した。
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第二十四話「空気が読めないと苦労する」
「はい、皆さん集まりましたね。今日はISの装着訓練をしますよ」
IS学園、アリーナ。
ここに2組の生徒が集合している。
……学園指定の、ISスーツに身を包みながら。
ISスーツって体に張り付くようなデザインだから否応なしにボディラインが浮く。
だからまぁクラスメイトの女性的な肉体がこれでもかってくらい強調される訳で。
「………………」
だからって俺を最前列に置くのも辞めて欲しかった。
背中に視線が刺さる刺さる。
ちなみに俺のスーツは上と下が何故か分かれていて腹が出されている。
そしてジャケットを羽織っている。
これもスーツの一部らしかった。
体系がはっきり出ないのはありがたいけど何で腹だけ出てるの。
「ではまずオルコットさんと星海くん、ISを展開してみてください」
「「はい」」
セシリアが一瞬でブルーティアーズを展開する。
流石代表候補生。
早い。
俺は数秒遅れてコアガンダムを装着した。
「まだ瞬間装着には程遠いですわね」
「今に見てろ、お前より早くしてやる」
「その意気ですわ」
「はい、皆さんも良く見ているかもしれませんがISは普段は待機状態からこの様に展開します。……あら?コアガンダム形態なんですか?」
「え、他の方が良かったですか?」
「その形態ですと打鉄やラファールよりも背が低いですからね……」
「?分かりました」
さて、どの形態になるか。
まぁアースリィで良いだろう。
ガンダムの難点は別の形態に移行する際必ず合体を挟む点にある。
どうしてもスキを晒すのだ。
「コアチェンジ、ドッキングゴー!」
アースアーマーを呼び出し、装着する。
「これで良いですか?」
「はい、ありがとうございます」
先生が改めて向き直る。
「今からクラスを3組に分けて、起動から歩行までやってみましょう」
――――――――――
量産型のISと言うのは、まぁ有体に言ってしまえば誰でも使えると言っても過言ではない。
……まぁ男は使えない筈だったんだけど。
コアの数に限りがあるのに量産されてるのも変な話だけど。
なのでクラスメイト誰でも装着出来るし動かせる。
「よ、よろしくね星海くん!」
専用機持ちが簡単な事を教えれるので教師としても助かるんだろうなぁ。
「じゃあまず装着から……」
俺の所に5人ほど固まっている。
教えれる人間が3人だけなのでまぁ数が多い。
ローテーション上手く組まないとなぁ。
「お、おお……立った」
一人目の子が打鉄を纏って立ち上がる。
ISの構造上必ず頭身が上がるので視線が高くなる。
「上手くできたな。教える事何も無かったな」
「そ、そんな事ないよっ!」
「?そうか……じゃあ交代するか」
「うん」
「あ」
ISを外して降りた……のは良いんだけど。
「あ、屈んでから降りないと次の人が乗れないですよ」
「えっ」
あ、そうか……よじ登らないといけないのか。
どうしよ。
「星海くんが抱えて乗せてあげてください」
「「「「「!!!!!」」」」」
「あ、はい。じゃあ次、斉藤さん」
「ひゃ、あ、あのあのあの」
「あんま時間無いんで我慢してくれ」
クラスメイトの腰を掴んで子供を持ち上げるみたいに操縦席に収めた。
「………………」
「それじゃあ起動やってみるか」
なんか、批難の視線が。
(え、なんか拙ったか?)
後日、一夏は同じ状況になりクラスメイトをお姫様だっこで抱え上げたと聞いた。
「お前ホントに朴念仁か?」
「いきなり失礼だな!?」
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第二十五話「乱入」
いよいよやってきた。
一夏と鈴音の決闘の日。
俺はハンガーで待機している一夏の側にいた。
「いよいよだな、一夏」
「ああ」
「やる気は?」
「バッチリ」
「勝つ気は?」
「充分!」
「よっしゃ、行ってこい!」
「ああ!」
お互いにハイタッチ。
後ろに居た女子2名が溜息を吐いた。
「那由太さん、もっと言うことありませんの?」
「全く……男と言うのはつくづく分からん……」
辛辣。
まぁそんなもんだろ。
ハンガーから一夏が飛び立つ。
俺達も観覧席まで移動しよう。
「一夏の相手の……鳳鈴音の専用機は第三世代。セシリアのブルーディアーズみたいなやつ何だろうか」
「第三世代機と言っても、専用機は個人の色が特に反映されますわ。わたくしのブルーディアーズとは全く別物だと考えた方が宜しいかと」
「なるほどなぁ……専用機は何だかんだセシリアと一夏のやつしか見たことないからなぁ」
「専用機持ちが一年にこれ程多いのが異例なんですよ」
「それもそうか」
観覧席に着いた。
空いてる場所は……クラスメイトの子が手を振ってる。
3人座れるかな。
お、有り難い。
座れそうだ。
あれ、篠ノ之さんが居ない。
「あ、セシリアすまん。ちょっと寄るぞ」
「え、あ、い、いえ!大丈夫ですわ!」
さて、一夏はどうしてるんだろうか。
視線をフィールドに向けると……奴は吹っ飛んでいた。
「ん!?鳳のやつ何もしてないぞ!?」
突っ立ってる鳳にまるで近寄れていない。
「あれは……昔、資料で見たことがありますわ」
「知ってるのかセシリア」
「はい。『衝撃砲』と呼ばれる空気を圧縮して撃ち出す技術です。実現していたなんて」
空気製の不可視の弾丸か。
砲身らしいパーツは肩に付いているが銃口には見えない。
「理論上は射角も弾数も無制限。必要なのはシールドエネルギーだけ」
「うーん理想的。でもISだし何かしら欠点は抱えてそうだな」
「弱点を見つけられれば一夏さんにも勝機はありますわ」
「あいつ一撃特化だからな……当たれば勝てるし」
一瞬でも隙を見付けられればあいつの勝ち。
つくづく極端な性能してるなアレ。
「!一夏さんが加速しましたわ」
「懐に入れば流石に撃てないと踏んだか?」
「それを想定していないとも限りません」
だよなー。
やはりと言うか、手にしていた青竜刀で切り結んだ。
接近戦もお手の物か。
万能型、一夏の最も苦手とする相手だな。
「厳しいな」
「ええ……」
「白式は速い。けどそれ以上にスピードを出さないと」
「策はあるにはあります。と言うか一夏さんの場合それしかありませんわ」
「へぇ、どんな?」
「
瞬間加速。
シールドエネルギーを消費して一時的に自機の最高速度を上回る加速を叩き出す奥の手だ。
曰く、熟練者でも見切るのは難しいという。
「初見殺し極めてきたなアイツも……」
ただ、あいつのエネルギー効率的に考えて一度しかチャンスは無い。
「動いた……!」
早計か?
いや、長引くほど一夏の方が不利だ。
多少強引でも決め切らなければ……。
「……ん?」
空から、何か落ちて……。
「ヤバい……!!」
「那由太さん?
「この試合、中……」
――――轟音が鳴り響いた。
フィールドに土煙が舞う。
何かが、降ってきた。
「逃げろ!!」
俺は、叫んだ。
その瞬間、フィールドを一線のビームが横断する。
間違いない、アレは。
「あの時の所属不明機……!!」
物言わぬ不気味な巨人が、そこに立っていた。
アンノウン、再び。
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第二十六話「火星の4、マーズフォーガンダム」
アリーナは一気に混乱に陥った。
アリーナを覆うフィールドは無事。
よっぽどの事が無い限りこちらに攻撃は飛んでこない……が、
(観客を避難させる方が先だ……)
「那由太さん、アレは……」
「セシリア、一度ここを離れよう。先生達と合流して対策を」
「なんで!なんで開かないの!?」
絹を裂くような悲鳴。
「どうした!?」
辺りを見渡す。
アリーナの観客席下、通路側の出入り口がすべて封鎖されている。
「ここも開かないのか……」
拙いな。
誰も避難が進まず混乱しか産まない。
「那由太さん……」
セシリアが不安そうな声を漏らす。
どうする……どうする!
「ドアを破壊する」
「えっ……」
「離れてろ」
これはやむを得ない状況だ。
とりあえず誰かに連絡しておいた方が良いかも。
『那由太くん!セシリアさん!聞こえますか!?』
「「先生!」」
俺とセシリアが同時に声を出す。
ISのプライベートチャンネルで先生が通信を入れてきたらしい。
『現在アリーナが完全に外と切り離されています!原因は不明ですが……』
「十中八九あのアンノウンの仕業では?」
『アレ単騎でこの規模のハッキングは不可能な筈です』
「………………」
そう言えばあの時、残骸は回収できていたのだろうか。
「先生。これから避難の為に扉を一部破壊します」
『え"。ちょっと那由太くん?流石にそれは……』
『構わん。緊急事態だ、やむを得ん。何もせん政府に金を出させてやれ』
わあ過激。
織斑先生結構バイオレンスですね……。
『ただしかなり頑丈だ。その扉の向こうに人は居ないがエネルギー系統の武器は無効化される。つまりビームは厳禁だ』
セシリアは参加できない、そして、ヴィーナスアーマーは使えない。
物理的に最大火力の出せる武器が居る。
「了解。セシリア、下がってろ」
「は、はい」
「コアチェンジ、ドッキングゴー!」
呼び出すのは、真紅のアーマー。
マーズアーマー。
背中に懸架されるのは3種類の実体剣。
他のアーマーに更に先鋭化シルエット。
これが、
「マーズフォーガンダム!」
背中に差した巨大な実体剣、ヒートレヴソードを抜く。
「でぇりゃあああああ!!!」
……それを扉の隙間に刺し、梃子の原理でこじ開ける!
「お、思ってたより地味な壊し方ですわね……」
「う"ぉ"ぁ"ぁ"ら"ぁ"ぁ"!!!」
メキメキとロックを物理的に破壊していく感触。
隙間に足を差し込んで手を放し、両手のシールドからクローを展開。
更に隙間にねじ込んでこじ開ける。
「う”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!!!」
渾身の力を込める。
駆動部にダメージが入っているかどうかもわかんないけどとにかく開ける!!
「開げえええええええええええええ!!!!!」
「あっ!動きましたわ!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
「開きましたわ!!」
「聞こえるか!ここから出ろ!!」
人が4.5人くらい抜けられる隙間を保持出来ている。
これ、手を放しても大丈夫かな……。
『よくやった。しばらくそこで待機していろ』
「一夏達は無事なんですか!?」
『保ってはいる』
「セシリアを援護に向かわせます!」
『良いだろう。だがシールドの突破手段が無いぞ』
「そうか……」
アリーナのフィールドを覆うバリアの解除は出来ない。
さて、どうやって侵入するか……。
『一夏ぁ!!お前も、男なら、やって見せろおおおおおおおおおおおおお!!!』
「この声……」
「箒さんか!セシリア!」
「分かっていますわ!」
セシリアがブルーティアーズを展開し移動した。
俺も全員の避難が終わり次第向かわないと……!
「気張れよ一夏!!」
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第二十六話「交差する赤白」
「は?まだ逃げてなかったのか?ここは危険だ」
呼び止めた女子生徒……よく見ると二年生だ。
「いやいや、ちょっとお手伝いをね?」
「手伝い?別に必要ないよ今は。それよりアンタの安全の方が大事だ」
「あら嬉しい。でも篠ノ之さんは良いのかしら?」
「一夏がなんとかする」
「へぇ。信頼してるんだ?」
「あそこで応えなかったら、篠之野さん惚れないだろ」
「あっはっはっは!よく見てるわねぇ!」
何が可笑しいのかこのひと腹抱えて笑い出したぞ。
扇子まで広げて……待って、座布団一枚って書いてある。
「ほら、行くぞ」
手を取ろうとしたら、ヒョイと軽い身のこなしで躱された。
「お姉さんに触ろうとするのは、10年早いわよ」
「アンタもそんだけ歳食うだろうが」
ガン!
と頭に何か当った。
「いってぇ!!」
……今の一瞬で、女子生徒は消えていた。
「何だったんだ今の」
アリーナが揺れる。
俺は頭を振って一夏達の元へ急いだ。
――――――――――
……一夏と鳳は無事だった。
と、言うより無人機の前で何もせず立っているだけだった。
だが、今はそれが正解だ。
あの無人機は、手を出さなければ動かない。
「那由太さん!」
ブルーディアーズを展開していたセシリアが上空から降りてきた。
「セシリア、状況は?」
「にらみ合いのままですわ」
「……シールドが復旧して手出しが出来ない、か」
流石にコアガンダムの装備ではシールドを突破する事は出来ない。
マーズフォーがパワー特価とは言え、馬力が足りない。
セシリアに関しても同じだ。
ビーム兵器に依存しどちらかと言うと手数で補うタイプだからだ。
「待て、一夏と鳳が動いた」
鳳が衝撃砲で一夏の背中を撃ち抜く。
気でも狂ったか!?
いや、
「セシリア、行くぞ!」
「えっ?!」
衝撃エネルギーをブースターにしたんだ、あの大馬鹿野郎は!
「援護のチャンスは来る!」
あいつの一撃が決まる。
当たっても当たらなくても関係ない。
何故なら。
瞬間、一夏の雪片弐型が無人機を掠めた。
恐ろしく早い加速。
「アリーナのシールドが……!」
「飛び込めぇぇぇぇぇぇ!!」
セシリアが一斉射撃。
俺もセシリアのビームに並走して突っ込んだ。
背中のヒートレヴソードを抜く。
「うおらぁぁぁぁぁ!!!」
背後からの奇襲。
セシリアのビームの嵐に動きを鈍らせていた無人機の腕に、赤熱した刃が当てられる。
浅いッ!!
マーズフォーの脚のブレードで無人機を蹴り、一夏達の場所まで跳んだ。
「よう大馬鹿野郎。生きてたか」
「なんだと!……生きてる。来てくれて良かったよ。それが新しいアーマーか?」
「ああ。近接特化仕様だ」
「次やる時も負けねーからな」
「抜かせ」
「アンタ達こんな時にまで何言ってんのよ!」
俺は一夏の目の前にヒートレヴソードを突き刺した。
「おいおい」
「零落白夜、撃てるのあとイッパツだろ。使えよ」
「ったく、お前はどうすんだよ」
「言ったろ?近接特化仕様だ」
背中にマウントされている二本一対の実体剣を抜く。
「しくじるなよ!」
「ああ!」
俺達は剣を構える。
白と赤が並び立つ。
「「行くぜ!!」」
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第二十七話「一閃」
ブレードが空を切る音。
ビームが通り過ぎる音。
巨大な腕が目の前を掠める音。
背後から見えない塊が飛んでくる音。
誰も喋らず、無心で、自分に出来る事を続ける。
(4対1でこれだけ立ち回れるのかアレは!)
以前は2対1、しかも海上で先生の援護があった。
今回は地上で、3人の援護があるものの明らかに苦戦していた。
いや、無人機の動きが格段に良くなっている。
「オラァっ!!」
ブレードがまたしても空を切る。
速いのではない、読まれている。
「くっ……!」
一夏も苦し気な声を上げる。
エネルギーを節約しなければならない一夏は、ずっと不利なままだ。
セシリアのブルーディアーズは複数人での戦闘にまるで向いていない。
いつ狙われるか分からない状況で立ち止まるなどもってのほかだし、万が一ビットで誤射しないとも限らない。
鳳は積極的に前に出ないが、本人の性格上しびれを切らしそうだ。
要するに、こちらのチームワークがまるで成っていない。
(何か、決定打が要る!)
一夏の零落白夜をエスコートする為の決定打。
この機械野郎の足を止めるにはどうすれば良いか。
「那由太!何かいい案無いのか!?」
「なぜ俺に聞く!」
「なんか、戦った事あるっぽいからな!」
守秘義務を出されて言えなかったけど今ならまぁ良いか。
「前にメルクワンのテストの時に遭遇した」
「ばっ、お前そんな大事な事もっと早く言えよ!」
「あの時は海に沈めた。今回は何の参考にもならんぞ」
「マジか……うおっ!?」
駄目だ、埒が明かない。
振るわれる拳を避ける。
……囮になるしかないか。
「一夏、埒が明かない。決めるぞ」
「……ああ、ちょうどそう思ってた」
一夏からヒートレヴソードを投げ返された。
そして、雪片弐型を構える。
「俺が先行する。しくじるなよ」
「任せろ」
後ろを一瞥する。
セシリアと鳳は油断なく構えている。
万が一失敗しても、もう学園の実働部隊……先生たちが来るだろう。
勝負を決める、俺たちが動ける最後のチャンスだ。
「行こう、ガンダム」
ヒートレヴソードを構える。
そして、跳んだ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
真っ向からの唐竹割り。
勿論、当たるはずがない。
無人機は体を反らして最小限の動きで回避する。
「逃がすか!」
一夏が続き、死角から横一閃。
其の軌道上には、俺が居る。
無人機は跳ぶ。
俺は一夏の一閃をかがんで擦れ擦れで避ける。
その姿勢から無人機を追うように跳躍。
もう一度剣を振る。
当たらない。
一夏が俺を飛び越えて剣を振る。
当たらない。
……一か八か!
「コアチェンジ!マーズトゥアース!」
無人機の真下から加速して更に飛び上がる。
2度の空振り。
もう零落白夜は持たない。
だから、行く。
最悪俺が撃墜されても問題は無い。
背中のビームサーベルを抜き放ち……投げる。
それは無人機の腕に刺さる。
この程度脅威でないと判断されたのだろうか。
その勢いのまま俺は無人機の上を取る。
一夏は……俺の反対側。
上下で挟んでいる形になる。
「げっ……!」
エネルギー反応。
ロックオンアラート。
これは、やられた。
もう直撃コース。
「那由太!」
「一夏!決めろ!!」
「!」
ビームの光。
俺は、
「ボルトアウト!」
アースアーマーをパージ。
ビームの奔流にアーマーが飲み込まれる。
弾き飛ばした勢いで無理やり姿勢を変え、ギリギリで避けた。
「コアチェンジ!」
連続換装。
エネルギーの消耗が激しすぎて実戦でやるにはリスクが多すぎるが……今が、そのリスクを負う場面だ。
「ドッキングゴォォォォォォォ!!!」
深紅のマーズアーマーに換装。
既にブーストも一回分しかない。
だが、それで充分だ。
「喰、ら、えええええええええええええええ!!!!」
ブースト全開。
俺に出来る最後の一手。
落下エネルギーとブーストを併用した、ただの飛び蹴り。
アースアーマーを破壊して、無人機の動きが一瞬だけ鈍った。
俺を撃墜したと誤認でもしたのだろうか。
だが、好都合。
「ご、ぶっ……!?」
激突の瞬間、振るわれた腕に腹を殴打された。
だが、向こうも態勢が崩れた。
「今度は、逃がさねええええええええええええええ!!!!」
一夏の声。
俺は、
(シールドエネルギー、ゼロ……墜ちる)
マーズアーマーが砕け散る。
コアガンダムの状態で明後日の方向へ吹き飛ばされ、墜落する。
「那由太さん!!!」
セシリアの声が聞こえた気がした。
「……空が、遠いな」
視界に広がる大空は、まだ遠い。
俺は、アリーナの観覧席に墜落した。
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第二十八話「事後処理」
仁王やってたりモンハン始めたりで遅くなりました。
……目を覚ました時、目の前に映るのは青い空と、今にも泣きそうな顔をしたセシリアだった。
と言うかコアガンダムの顔にポタポタと水滴が落ちてきている。
「セシリア……」
「気が付かれましたのね!?」
「つ、あ、揺らすな、気持ち悪い……」
「あ、ご、ごめんなさい」
「気を失ってたからこのままだったのか……」
またコアガンダムの状態で倒れていた様だ。
俺の意識が無いと解除が出来ない仕様上、命に関わる状況に陥った場合の事を考えるとゾッとする。
「どう、なった……?」
「あの後、一夏さんがアンノウンを切り伏せ、コアを破壊しましたわ」
「そっか……良かった」
「良くありません!!」
セシリアが怒鳴った。
普段とまた違う剣幕に驚く。
「セシリア……?」
「良くなんて、ありませんわ……どうして那由太さんが、そんなボロボロになる必要があったんですか」
「……何でだろうな」
あの時、最善は一夏に攻撃させることだった。
だから、俺は最悪スキさえ作れれば良かった。
「どうして平然と自分を犠牲にするのですか……貴方には、夢があるのではありませんの?」
「……何で、だろうな」
「那由太さん!」
「騒ぐな、大馬鹿者ども」
「あがっ」
蹴っ飛ばされた。
コアガンダム形態のまま転がされる。
誰だよ全く。
「お、織斑先生……」
待て待てこの人生身で全身装甲の俺のIS蹴っ飛ばしたぞ。
「いつまでここで寝ているつもりだ。さっさと戻れ。着替えたらすぐに職員室に来い。良いな」
「「は、はい……」」
――――――――――
職員室で通達されたのは、案の定緘口令だった。
今回のアンノウンに関する一切の口外を禁じる。
誓約書まで書かされてその上反省文も追加。
特に、アリーナのシールドを破壊した一夏は俺たちの倍をドン。
「あー……疲れた」
くたびれた一夏と共に、帰路に着いていた。
俺の怪我も大したことはなく……しばらく訓練も運動も禁止だけど。
「お互い、無事で良かったな」
「全くだ。そう言えば一夏、鈴音とはどうなったんだ?」
「どうって」
「仲直りだよ。したのか?」
「まあ、出来たよ」
「そうか」
「お前こそ、セシリアにちゃんと会ったのかよ」
「怒られたよ、めちゃくちゃな」
「そうなのか……なんか、アイツも変わったな」
「ん?」
「前は、自分の事に精一杯だったのに。誰かの為に怒れるなんてさ」
「……かもな」
人が変わるっていうのも、案外難しくないのかもしれない。
……なんて、感傷に浸ろうとしたら。
「那由太。俺凄い嫌な予感がする」
「奇遇だな。俺もだ」
寮の前に、長蛇の列が出来上がっていた。
「……どうする?」
「先生に事情を話して裏から入れてもらおう」
後々分かったが、あの列はアリーナで起こった出来事を知ろうとした集まりだったらしい。
全員後日漏れなく、当分の間デザート抜きだそうだ。
「耳が良すぎるのも考えものだな」
「うう、那由太君……そのプリン恵んでくれませんか」
「駄目だ」
「鬼ーっ!!」
そろそろ転校生✕2がやって来ますが、ポジションはどうしたものだろうか……。
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第二十九話「過去」
朝の陽ざしが頬を照らす。
今日はよく眠ってしまっていたらしい。
休養日だからぐうたらするのも何だかもったいない気もするが、先日無理をし過ぎた為に体が休息を欲しているのかも知れない。
部屋に一夏は居ない。
今日は中学以来の友人に会いに行くと言っていた。
誘われはしたが丁重に辞退した。
久しぶりの再会に初対面の人間が同行するのも気が引ける。
次会う時は同行するとの約束はした。
……そんな訳でだらけ切った身体を伸ばして運動着に着替えるのだった。
しんどいとは言っても身体に必要なのは適度な運動。
最近病院や医務室のベッドに世話になりっぱなしになってるしいい加減身体がなまってきた。
「……さて」
走りに行こう。
――――――――――
学園内の敷地を運動着に着替えて走る。
外出するより敷地内走った方が運動になる……正直この敷地出るにはモノレールとか乗らなきゃいけないし。
周囲を見渡せば生徒の数は少ない。
花の女子高生、休日に寮に居るのはやはり少数派なのだろうか。
「ふぅ……やっば、鈍ってる……」
20分くらいジョギングしただけなのに息が上がっている。
事あるごとに医務室に搬送されてるのもあるけど。
「体力、戻していかないとな……」
つい昔の癖でシャツの裾で汗を拭こうとして……その数少ない女子生徒にめっちゃ見られているのに気が付いてしまった。
「………………」
バツが悪くなり、手を放してそのまま走り出した。
……そう言えば。
(実験機のテストパイロットって事で俺にもそれなりの報酬が入ってるんだっけか)
未成年労働に引っかからないためにかなり面倒な回り道をしているらしいが、俺にも給与が発生しているらしい。
各国の代表候補生に導入されているシステムだとか。
後で口座を確認しておこう。
前に話を聞いたときに一応口座を開設したんだったか。
(あの時は大変だったな……何も分からなかったから)
考えてみれば幼少の頃より天涯孤独でずっと孤児院暮らし。
世間知らずだったなぁと改めて痛感した。
……そして、孤児院の事を思い出した瞬間……。
『ざまぁみなさい。良い恰好ね、貴方』
「っ」
脳裏を過った顔。
息を呑んでしまい、呼吸が乱れた。
「!!!ッ、ぅぇ、げほっ!!」
咽かえる。
吐き気までやってきてしまうのでつい傍の木に手を付けて屈みこんでしまった。
「あー……クソ、嫌な顔を思い出した」
俺が高校受験に失敗した日。
それはある女が絡んでいた。
……俺が、女に対して良い感情を抱かなかった原因。
幸いな事に、そいつはここには居ない。
ここまで顔を合わせる事も無い。
だから、この気持ち悪さはここで終わり。
「クソ」
吐き捨てるようにつぶやき、俺はまた走り出した。
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第三十話「また来る転校生」
そんな後から適正って分かるもんなんですかね……。
「また転校生だってさー」
朝のHR前。
クラスメイトとそんな話題になった。
「また?先月くらいに来なかったか?鳳が」
「そうなんだよねー。二人だって」
「二人?どっから」
「まず何処って聞くんだ」
「日本がそうポンポンと送り込まないだろうさ」
さて、今日の科目なんだっけな……。
「興味無さそうですわね」
黙っていたセシリアが口を開いた。
「いやー別に。うちに来るわけじゃないし」
「え?言ったっけ」
「え?来るの?」
「来ないよ」
「来ないんかい……」
がくっと脱力する。
「隣のクラス」
「またか」
一夏の奴も大変だな……。
「はーい、HR始めますよー」
――――――――――
予想通りと言うか、一夏はやっぱりトラブった様だった。
「で、そこの
目の前に座るプラチナブロンドの英国貴公子を見ながら、俺は昼飯のラーメンを啜る。
「あ、あはは……初めまして。シャルル・デュノアです」
「どーも……多分もう知ってると思うけど、2組の星海那由太」
「うん、知ってる……今はどの国も一夏や星海くんの事話題にしてるよ」
「その割には俺はアンタの事知らなかったけどな」
「あー、僕は最近発覚したから……」
「お、もう打ち解けたみたいだな」
自分の昼食を持って先に俺へ転校生を預けていたあんちくしょうがやって来たので少し座る位置をずらす。
「で?一夏はいきなりこのブロンド貴公子を誑かしたのか?」
「人聞きが悪いわ!数少ない男子のクラスメイトなんだ。面倒見るのが筋だろ」
「そうだな。デュノア、俺は別クラスだけど困ったことがあったら言ってくれ」
「シャルルで良いよ」
「なら俺も那由太で良い」
「分かったよ、那由太」
「おう」
「珍しいな。那由太が面倒見良いなんて」
「人聞きが悪いな。同じ希少種の男子なんだ。当たり前だろ」
「はっ、お互い様だろ」
「意趣返しのつもりかよ。上等!表へ出ろ」
「お?そろそろ決着付けるか?」
「良いぜ、アリーナの申請を……」
「はぁ……またやっていますのあなた達は」
ヒートアップする俺達をため息混じりに呆れた顔で頭を叩いてきた。
「セシリア、叩くことは無いだろ」
「お二人とも熱くなりすぎですわ。みてください……デュノアさんも引いていますわ」
「あ、あはは……」
「おっと、悪いなシャルル」
一夏が慌てて謝る。
「ううん。二人とも仲が良いんだね」
「そうか?」
「俺はダチだと思ってるぜ?」
「その言い方は捻くれすぎだぜ那由太」
「お前は?」
「友達だよ」
「おう、ありがとな」
俺達はお互いに拳を突きつけ合った。
……何か、周りの生徒達が手を合わせて拝んでる気がするけど何なんだこれ。
「そっか。良いなぁ……」
「何言ってんだよシャルル。俺達も友達だろ」
「え、と、友達ってすぐになるものなの?」
「なるだろ」
「なるかもな」
「そっか……うん、よろしくね!二人とも」
「あら、私もしかして邪魔でしたの……???」
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第三十一話「最悪のファーストコンタクト」
この学園の制服は基本的に白いのだか、それでも目を引く白さの生徒が居た。
長い白髪に……眼帯。
そんな少女が一人で座っていた。
「……あれが、お前のとこのもう一人の転校生?」
「ん?ああ……ラウラか」
「何だ、シャルルの時と大分反応が違うじゃないか」
「一夏、思いっきり頬叩かれたもんね」
「え、マジかよ何があったんだ」
「さぁね。千冬姉がドイツに居た時に何かあったみたいだけど」
ドイツ?
何で織斑先生がドイツに……って、そうか。
確かあの人ISの世界大会……モンドグロッソだっけ?に関係してるとかなんとか。
「そうなのか……」
「何だ、気になるのか?」
「別に、何となくだ」
おや、向こうもこっちに気付いた様で何か物凄い不服そうな顔してそっぽを向かれた。
「あまり友好的では無さそうだ」
「僕の話聞いてた?」
問題が起きなければ良いけど。
――――――――――
放課後。
今日はアリーナの申請をしていたので久しぶりに俺のISに触れる。
一度技研に搬送されて修理されたのが戻って来たのだ。
新品同様にしっかりと整備されている。
「……悪いな、相棒。無理させちまって」
深紅のアーマー、マーズアーマーを纏う愛機に語り掛ける。
しかし、あの無人機……一体何だったんだろうか。
「ん?」
突然のロック音警告。
冗談にしては心臓に悪い。
『反応が遅い』
「うっ!?」
身体が動かない。
何をされた……?
『危機管理もなっていない。所詮この程度か』
「……生憎とここでそんなお遊びに興じる友人は居ないものでね」
『お遊び、だと?』
「何がしたいか知らないがいきなりこんな事ををするんだ。自分の国じゃいざ知らず、悪戯にしちゃ度が過ぎてる」
相手は背後に居る。
センサー類は死んでいないが身動きひとつ取れないのが居心地の悪さに拍車を掛けている。
「貴様……!」
挑発に乗ったのか、拘束が解除された。
振り向く。
ISに搭載されいるハイパーセンサーは背後まで視認できるが、気分としてはちゃんと相手に向き合いたい。
そこに立っていたのは、先ほど見かけた白い転校生。
「ラウラ・ボーデヴィッヒ……」
自身の漆黒のISに身を包み、件の転校生は仁王立ちしていた。
「貴様が2組の代表だな」
「ああ、そう言う事になっている」
「フン。1組もそうだが、客寄せで選ばれたのだろう」
「何だと?」
「違うというのか?だとしたら先の、貴様の言う悪戯とやらに反応出来なかった時点で底が知れるな」
「てめぇ……」
さっきまで景気よく煽ってた仕返しとばかりに煽り返された。
俺の良くない癖がここでも出てしまったらしい。
気付けば一触即発な空気。
「………………」
「………………」
腰のヒートレヴソードに手を掛ける。
向こうも腕を手刀の様に構える。
睨みあったままどれだけ経過したのだろうか。
「「っ!!」」
動き出そうとした瞬間、
「お待ちなさい!!」
「「!!?!」」
お互いの間にビームが一閃。
ロックオンも無い警告だけの射撃。
俺はこの射撃をよく知っている。
「セシリア!」
「お二方、いきなり何をしているのです!」
「ちっ、邪魔が入ったか……この勝負、預ける」
「あ、オイ待て!」
何なんだ一体。
「那由太さん!転校生と何か問題を起こされたのですか」
「起こす前提かよ。向こうから喧嘩振って来たんだ」
「はぁ……?」
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第三十二話「三人共同生活」
「あー、疲れた……」
アリーナから出て、妙な疲労を抱えて寮に戻る。
なんかどっと疲れた。
「今日はとっとと出よう……うん?」
部屋のドアが施錠されていない。
一夏が先に戻ってるのか。
「ただいま」
「あ、お帰り那由太」
「うん……???あ、シャルルか」
なんとなく呟いた一言に思ってもない人物から応答があり、戸惑ってしまった。
そういや部屋が用意できるまで俺達3人部屋だったな。
「何か疲れてるみたいだけど……」
「あー?まぁ……ちょっとな」
「そう?なら良いんだけど」
「おっ。お帰り那由太」
一夏は奥のテーブルで今日出された課題を広げていた。
対面に筆記具が一式出されていたので恐らくシャルルが教えていたのだろう。
「オイオイ、転校生に教わってたのか?」
「し、仕方ないだろ!お前は教えてくれねーんだから」
「教えないじゃない。教えられないんだ」
「んな堂々と言うなよ……」
いつもの様に二人で軽口を叩きあう。
そんな様子にシャルルが目を丸くして口を開いた。
「二人とも仲がいいね。会ってどのくらいなの?」
「「……一ヶ月くらい??」」
そういやそんなくらいしか経ってないのか……いや、色々起こり過ぎだろ。
「まぁ、色々あったからな……」
「そうだな……あ、那由太もポッキーどうだ」
「貰うわ」
しかし、3人部屋か。
ちょっと手狭だし何より風呂は部屋のシャワーで済ますしか無いから大変だな。
「まぁこれから色々ある……まぁ絶対何かあるから協力していこう、二人とも」
「おう」
「うん」
――――――――――
「ちなみにシャルルってさ」
「何?」
俺がシャワーを先に使って戻ってきたところ。
一夏は完全に集中力を切らして雑談モードに入っていた。
「ここ来る前は何やってたんだ?」
……一瞬、シャルルの顔が引き攣った様に見えた。
「この野郎」
「なんおぶぁっ!?」
一夏にヘッドロックをかます。
「ちったぁ考えろお前。時期ズレてんだからなんかあったんだろ」
「いたたたたたそりゃそうだ!!悪い!!」
「う、ううん……気にしてないよ。ありがとうね」
「良かったな、シャルルが寛大で」
「いい加減手を離せ、よ!!」
「うおっと!」
一夏が俺を背負投の要領で前に投げる。
既のところで手を離し一夏の後頭部を小突いた。
「イテッ」
「ふはは、甘いな」
「やったな!」
「いつまではしゃいでる!時間を考えろ!!」
いきなり部屋のドアを蹴り開けた織斑先生に二人揃ってグーパンされた。
「「ぐえぇ」」
「静かにしろ」
「はいぃ……」
「ぷっ……アハハ……!」
織斑先生が帰ったあと、シャルルが笑い出した。
「君たち、おかしいよ……何その、アハハ……!」
俺たちはお互いに見合って、揃って口を開いた。
「やっと笑ったな」
「え?」
「ああ」
まぁ、なんとかやっていけそうだな。
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第三十三話「疑念」
「急げ!次は右!」
「一夏!前から先輩たちきてるぞ!」
「回り道だ!シャルルこっち!」
「う、うん!?」
俺達は走って……もとい、早足で更衣室に向かっていた。
次の授業が体育だから教室でぼーっとしてたシャルルを引っ張って慌てて飛び出したのだった。
次の授業までの15分でアリーナに用意された男性更衣室に辿り着き着替えまで間に合わせなくてはならない。
……しかしまぁ物珍しさから他の生徒が見に来る見に来る。
「な、何でこんなに人が来るの!?」
「そら物珍しいからだろ!3人目とはいえ男の適合者だ」
「……あっ、そっか」
……?
一夏の解答に対する反応に違和感を覚える。
だが、そんな事を気にする暇はない。
「アリーナ前人影なし!」
「行くぞ!」
廊下から出たので全力疾走、更衣室に駆け込んで俺と一夏は一斉に上着を脱ぎ捨てた。
「う、うわ!」
「急げよシャルル、時間がない!」
「う、うん」
「くっそ、引っ掛かるな……」
「ひ、引っ掛かる?」
「そうだよなぁ、なまじぴっちりしてるから。シャルルはどこのメーカーの使ってるんだ?」
「ぼ、僕は……」
「え、もう着替え終わってんじゃん。早いな」
「そ、そうかな……!?」
「ああ。俺はジャケットもあるからパーツ多いんだよな」
一夏もシャルルもスパッツに上着だけ。
なのに俺はその上にジャケットを羽織る必要があった。
「そう言えばそうだな。全身装甲だからなのかな」
「どうなんだろうか。確かに前打鉄に乗ったときと感覚は違う気がする」
「へぇ、やっぱそうなんだな」
「……那由太はISを展開した時に何か感じたりするの?」
「ん?ああ……まぁ、声が聞こえた?とか」
「声?それってどんな……」
「おーい、時間無いぞー」
一夏が声を掛けてきて話は中断された。
……何だ?この探られてるみたいな感じは。
「………………」
この、シャルルとか言うやつ。
何か俺に……と言うか一夏にもか……探りを入れている気がする。
良いやつだと思うんだが、何となく信じきれない感じがする。
何か特大の隠し事をしているというか……。
なんだろう。
俺が大体こう言った感情を抱くのはたいてい女相手だ。
アイツらは……信じきれない。
正直こんなに面倒を見てもらってるのにどうかと思うがセシリアも心の底から信用している訳じゃない。
分からない。
正体が掴めない不安をシャルルにずっと抱いている。
居心地が悪い。
「おーい、那由太!行くぞ!」
「ああ、分かってる!」
……一夏は何とも思ってないのだろうか。
一度シャルル抜きで話をしておくべきかも知れない。
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第三十四話「共犯」
……一夏がグラウンドにクレーターを作りやがったので何故か俺も一緒になって埋める羽目になった。
なんでだよ。
「随分とISに慣れた様ですわね」
隣を悠然と飛ぶセシリアに話しかけられた。
「慣れた、か」
今はもう、コアガンダムは体の一部の様に感じられる。
この機械の腕も、背中のブースターも、感覚一つでフレキシブルに動かす事ができる。
「なんだろう。俺はコイツになってるって感覚がある……かな」
その方がしっくりくる。
俺は俺で、コアガンダムはコアガンダム。
俺がコアガンダムになっている。
「そうなのですね……」
「どうしたんだ?急にそんな事を俺に聞いて」
「いえ……那由太さんと一夏さんは、ISに関して素人も良いところでしたのに……この短期間で適応し過ぎている……そう思っています」
「……短期間、か」
確かに俺……俺達はたった一ヶ月でこれを物にしている。
改めてISという代物に戦慄する。
10代の子供が手にするには強力すぎる。
「まぁ、どうでもいいかも知れない」
「……え?」
「どんな危険だろうと……俺はこの空の向こう、成層圏を越えた先へ……コイツで行けるのなら、それで良い」
そうだ。
俺は、どんな手を使ってでも宇宙を目指すんだ。
その夢に偽りは無い。
だから
「俺はそれで良い」
「……本当に、何なんですか貴方は」
「さあな。宇宙を目指す大馬鹿野郎だ」
「はぁ……?」
……そう言えば、シャルルの事をセシリアに話すべきだろうか。
そこまで考えて頭を振った。
コイツにそんな事を言っても仕方ないだろ。
『もう良い、戻って来い』
「帰るぞ」
「あっ、待って下さい!」
「あの馬鹿を地面から引っこ抜いてやらないとな」
……まぁ、例えばシャルルが探りを入れているとしても在学中なら何も手出しはされないだろう。
――――――――――
「……で?なんだこの状況」
夜。
部屋に戻ったあと、あまりにも一夏とシャルルのやりとりがあまりにぎこちなかったので流石に看過できなかった。
「えっと……」
「……正直に話そう、シャルル」
一夏が諦めた様に呟く。
「でも……」
「同じ部屋な以上、バレるだろ。それに那由太なら黙ってくれる。だろ?」
「……内容による」
一夏はシャルルの秘密に運悪くバッティングしたのだろう。
「……実は」
シャルルは語る。
実は自分が女であり、男性適合者の情報を探るために性別を偽り入学した事を。
「……そういう事か」
正直頭を抱えたかった。
めちゃくちゃ特大の地雷じゃねーか。
探りを入れてきているとは思っていたがマジの産業スパイだ。
デュノア社の売上の落ち込みを回復させる為とは言え親も親だな。
「正直、俺達が黙っているメリットは何も無い」
「那由太!」
「だってそうだろう。こいつは俺達から情報を得ている」
「けど、シャルルだって……」
「どのみちバレるのもこれじゃ時間の問題だ。良くて強制送還だろ」
「……ぐ」
一夏が呻く。
……このお人好しが。
何とかシャルルの力になろうとしている。
「……いや、手はある」
「何?」
一夏が懐から生徒手帳を取り出し、いくつかページを捲る。
「これだ」
「……『学園の土地はあらゆる国家機関に属さず、いかなる国家や組織であろうと学園の関係者に対して一切の干渉が許されない』……なる程な」
「え、これって……」
「お前にはあと2年程度猶予があるって事だ」
「ああ、その間に何か手段を考えられる」
「い、一夏……それに那由太……」
……あーあ、これで俺も共犯か。
相部屋の住人のお人好しが移ったのかもな。
「まぁ、そう言うことだ。そこのお人好し馬鹿に感謝するんだ」
「そんな事言うなよ那由太」
「ありがとう、二人とも……」
……さて、どうなるかな。
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第三十五話「なんてことない非日常」
夜が明けて。
取り敢えず寝よう、そう言って話を切り上げたものの俺の頭はさりとて切り替わってはくれなかったようで。
ずっと朝から悩み続けて授業は上の空。
先生から何度指摘されたものか。
そのたびにクラスメイトの失笑にかつてのトラウマを思い出しかけて脂汗を垂らすのだった。
「……那由太さん、大丈夫ですの?」
昼休み。
セシリアが俺に伺うような声音で話しかけてきた。
「大丈夫って、何が」
「今日、朝からずっと上の空でしてよ?気付いてませんの……?」
「あー、まぁ……別に大したことない。考え事だ」
「何か悩みでも?相談ならわたくしいつでも聞きますわ」
「え、あー、いや……」
「フフフ、セッシーってば甲斐甲斐しいねぇ」
他のクラスメイトが集まってきた。
背筋がぞわっとする。
相変わらず距離を詰められると体が拒否反応を起こしかける。
「このお年頃の男子は特有の悩みがあるってよく言うのよ」
「待て、ソースはどこだよ」
「え、漫画」
「絶対に違う」
「中二病ってやつ!!」
「ざけんな!違うわ!!」
「えー?じゃあ何?」
「無論ナニじゃない?」
「やめろそのニュアンス!」
「えー、じゃあ何?」
「聞くな!俺は飯に行く!」
これ以上喋っているとあらぬ疑いが掛けられそうになる。
流石に看過できないので慌てて立ち上がり隙間を縫って逃げ出したのだった。
「……那由太さん」
――――――――――
夕方。
セシリアはアリーナへと来ていた。
(……全く、何なんですの。今日の那由太さんは)
ISスーツへ着替えながら、彼女は憤慨していた。
(わからないことが有るのなら、まずクラス代表補佐であるわたくしを頼るべきですわ)
ちなみにそんな役職は無い。
(そうでなくともあの人は……あら)
はたと立ち止まる。
(わたくし……何故こんなに怒っているのかしら)
「あれ、セシリアじゃん」
「あら……鳳さんではありませんか」
アリーナには先客が居た。
一年の一組……鳳鈴音の専用機、甲龍だ。
「鈴音で良いわ。珍しいじゃん、セシリアが来るなんて」
「ええ……少し、そう、少し気に食わない事がありまして」
「へぇ……奇遇ね。私も」
鈴音の甲龍が戦闘態勢に入る。
セシリアも無言でブルーディアーズを戦闘モードへ切り替えた。
「では……お付き合いして頂きましょうか」
「はっ!行くわよ!!」
……その瞬間、黒い衝撃がアリーナを震わせた。
「何!?」
「あ、貴女は……!!」
「………………」
黒いIS。
ラウラ·ボーデヴィッヒ。
彼女がアリーナへと舞い降りていた。
「出たわね!いきなり何すんのよ!」
「………………」
「何とか言ったらどうなの!?」
「五月蝿い。吠えるしか脳が無いのか貴様は」
「なんですって!?」
「代表候補生と言っても種馬に群がる木っ端の一つということか」
「んなっ……!アンタねぇ!!」
ラウラの瞳がセシリアに移る。
「そちらのISも未完成品か。第3世代型が聞いて呆れる」
「なっ……」
「それに、ISもまともに動かせない素人に負けたそうだな。代表候補生の名が泣くぞ」
「那由太さんは代表候補生に匹敵する実力を持っていただけの事。確かにわたくしの落ち度ではありますが……彼を貶める発言は撤回して頂けて?」
「フン。奴なら私を前に手も足も出なかったぞ」
「………………」
「何だ。何も言えないか。ならば実力で黙らせてみろ」
「……………っ」
……一触即発。
もはや戦う以外の選択肢は無かった。
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第三十六話「すれ違い」
「大変だよ星海くん!!」
教室で居残り自習していた所に、クラスメイトの一人が飛び込んできた。
そしたら何人かもわらわらと出てくる。
女子は基本的に群れて行動する生き物だったなぁとしみじみ思う。
「あん?どした」
テキストから目を離さないで返事をしたので囲まれてるのに気付かなかった。
退路がない。
たすけて。
「セシリアが!」
「一組の転校生と!」
「戦ってるって!」
「一組の転校生ってどの!?」
三人いるが。
「ボーデヴィッヒさん」
「……なんでまた」
そもそもあの二人接点あったか?
代表候補生同士の交流って意味なら確かに分かるけど。
「何か、ボーデヴィッヒさんがセシリアを煽ってたみたい」
「挑発に乗ったのか。まぁアイツそういうとこあるよな」
自分の事は棚上げである。
「見に行かないの?」
「まぁアイツなら大丈夫だろ」
「そうかな……なんか結構辛そうだったけど」
「鳳も居たんだろ?流石にそれで負けるなんてことは……」
「心配じゃないの?」
「別に」
そういった瞬間、クラスメイトの視線が鋭い物になった。
思わず冷や汗が流れる。
「嘘」
「そんなこと無いよね」
「セッシーはずっと那由太くんの事心配してたのに」
「勿論行くよね」
「………………」
これが圧力か。
正直心配なんて微塵もしてなかったが……。
「……分かった、行くよ」
行かなきゃ駄目だよなー。
「那由太!」
その瞬間、2組の出入り口に一夏が慌ててやってきた。
「うわっ、織斑くん!?」
「行くぞ那由太!」
「えっ、なんでお前までうわっ引っ張るなって!!」
「リン達がやられてるって聞いたんだ!行くぞ!」
「分かったから!引張んなって!!」
――――――――――
現場は、想像しているより酷いものだった。
最早残骸と言っても差し支えないほど、二人はボロボロにされていた。
「なっ……」
思わず声を漏らす。
一夏は当事者……ラウラ·ボーデヴィッヒを睨みつけていた。
「来たか」
「テメェ……!」
「どうした、来い。私は逃げも隠れもしない」
「よせ一夏、挑発に乗る……うおっ!?」
静止を聞かずに一夏はISを展開し、問答無用で零落白夜を発動、アリーナのシールドを切り裂いて中に侵入した。
「あの馬鹿……!コアチェンジ!ドッキングゴー!!」
すぐさまアースリィガンダムを纏って俺もアリーナへ飛び込んだ。
「うおおおおおお!!」
一夏がラウラ目掛けてそのまま突進する。
猪突猛進にも程があるだろアイツ。
「大丈夫か、セシリア」
俺は床に転がされたセシリアに駆け寄る。
……こりや酷いな。
損傷度合いがレッドゾーンギリギリだ。
「那由太さん……」
「無茶しやがって……何でこんなことを」
「それは……」
「うおおおっ!?」
一夏か吹っ飛んできた。
……待て、今何が起きた?
白式の加速力をそのまま跳ね飛ばした?
だとしたらあいつのIS、尋常じゃない馬力を持ってる事になる。
「一夏!気を付けて!アイツの装備はヤバい!」
鳳が立ち上がりながら叫ぶ。
……なんだ?
まるで不可視の壁で受け止められたかの様に動きが止まっている。
「チッ……」
兎に角、これ以上面倒事が増えないようにするにはどうすれば良いか。
二人の動きを止めて仲裁しなければならない。
「コアチェンジ、アーストゥマーズ!!」
アーマーをアースアーマーからマーズアーマーへ切り換える。
マーズフォーガンダムのパワーなら白式にも劣らない。
「待て一夏っ!」
「那由太!?止めるな!」
後ろから白式に組付く。
羽交い締めの形で動きを止める。
「離せ!」
「辞めろ!ここでやり合ったっていたずらに消耗するだけだ!」
「でもリンとセシリアが!」
「自業自得だろうが!」
「お前……!頭に来ないのかよ!!」
「抑えろ!」
「……フン、意気地なしめ」
ラウラがつまらなさそうに鼻を鳴らす。
「何お……!」
「ボーデヴィッヒ。お前が何を気に入らんか知らんが、稚拙な挑発なんざ代表候補生のする事じゃないな」
「何だと……」
「恥ずかしくないのかって聞いてんだよ」
「貴様、私を侮辱する気か」
「侮辱?正論だろうが」
「那由太!お前も煽んなよ!?」
……その瞬間、ザン!と何かが俺達の間に突き刺さった。
え、これIS用のブレードじゃん。
「貴様ら、何をしている」
「教官……」
わぁ、織斑先生……。
そのブレード生身で投げたんですか……?
この後、アリーナでの死闘を禁止されたのだった。
「……なあ那由太」
「何だ?」
その日の夜。
部屋で一言も喋らない俺達にシャルルがずっと居心地悪そうにしていた頃。
一夏が口を開いた。
「何で止めたんだ?」
「……何でだろうな」
あの時はそれが最善だと思った。
だが……。
「クラスメイトが痛めつけられて頭に来なかったのか?」
「……俺は」
……セシリアのことを、どう思っているのだろうか。
「……悪い。分からない」
それっきり、俺達の間に会話は無かった。
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第三十七話「タッグトーナメント」
「タッグトーナメント?」
あれから数日。
セシリアは保健室に入り、ブルーティアーズもオーバーホールの憂き目にあったらしい。
面会謝絶状態で会う事は出来なかった。
「そそ」
「何か前回のクラス対抗戦での事を踏まえての事らしいよ」
「あー……ナルホドね」
箝口令が敷かれてるので流石におおっぴらに話せないが……要するに前回の試合がアンノウンに乱入されたのを危惧してのことか。
確かに単騎よりコンビのほうが生存率は上がるだろう。
「最近出ずっぱりだからたまには観戦側に回るか」
「えっ、星海くん出ないの!?」
「そんなー、アタシと組んでよー」
「あのな、クラス代表押し付けられてずっとイベント出てんだけどこっちは。良いだろたまにゃ休んでもよ」
ぶっちゃけ何かしら騒動が毎回起こるしそのたびに巻き込まれてんだよな。
たまには命の危機から離れたい。
「アンタ何サラッと誘ってんのよ」
「いーじゃない!まだ那由太くんペア決まってないんでしょ?」
「出る前提かよ」
「えー、でも織斑くんと戦えるんだよ?」
そう言われるとちょっと迷ってしまう。
結局公式試合であいつと戦うことが今まで無かったのだ。
あったとしても何かと邪魔が入ったし。
「あ、迷ってる」
「思ったより分かりやすいよね」
「喧しい!」
「それで?私の敵討ちはしてくれないのかしら」
教室に新たな声が響く。
思わず全員が黙った。
「セシリア……もう良いのか?」
「ええ、わたくしは」
含みのある言い方。
つまり……。
「ブルーディアーズの方は駄目か」
「はい」
先日の一件で完膚なきまでに叩きのめされ、修理のために使用が禁止されている。
「となると、セシリアは誘えないか」
「あら、那由太さんは出ないのでは?」
「……まぁな」
「あまりレディを期待させる事を言わないでもらえて?」
「何だ、機嫌悪いな」
言ってからしまったと口を抑える。
流石に手遅れだった。
セシリアもジト目で俺を見てため息を吐いた。
「自覚してらっしゃる様なので今の言動は聞かなかった事にして差し上げますわ」
「……済まない」
「……ただし」
セシリアが指を俺の鼻先に向けて突き出し、言う。
「わたくしがやられている時に、来てくださるのが随分と遅かったですわね」
「そりゃ……行く必要、無かったろ」
「そうですか」
呆れた様にセシリアは呟いた。
そのまま、会話は終わってしまった。
「………………」
どうすっかな……。
―――――――――
「ん?」
何となく、アリーナに立ち寄る。
出入り口でラウラ·ボーデヴィッヒの奴が立っていた。
「何やってんだ?」
「………………」
おおこわ。
無言で睨んできたぞ。
「貴様には関係ない」
「いやまぁそうだけど……」
そこでふと、ある事にきづく。
「……ああ」
「何だ、その顔は」
思っていたよりニヤついていた様だ。
「出禁か」
「貴様……!」
あ、キレた。
先の私闘でやらかした為、こいつは織斑先生直々にひとりでのアリーナ使用を禁じられた。
……ただ、裏を返せば。
「悪い悪い……詫びと言っちゃなんだが申請してやろうか?」
「……何?」
「IS、動かしときたいんだろ」
こいつとタッグを組みたいやつが居るかは置いておいて、やっぱトーナメント前に動かしたい気持ちはあるんだろう。
「フン、何を知った事を」
「知らんさ、お前が拘ることなんか。ただ、一夏とは戦うんだろ」
「……ああ」
「奇遇だな。俺もアイツとは戦いたいんだ」
「貴様と同じにするな」
「確かにお前とは同じじゃない。俺はライバルと白黒付けたいんだ」
「お遊びも良いところだな」
「お前にとっちゃな。だが、これは俺にとっては大事なことなんだ。お前が拘ってる事だって俺には理解できないしな」
「………………貴様、変わってるな」
「よく言われる」
「そこまで言うのならやってもらおう」
「お、そうか。ついでにお前のISも見せてくれよ」
「調子に乗るな」
「悪い悪い」
何だか奇妙な関係が始まってしまった。
まぁ今回限りだろう。
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第三十八話 「奇妙な協力関係」
一言で言えば、ラウラ·ボーデヴィッヒと言う女は今まで俺の知る代表候補生の中で最も規格外だった。
戦闘に対するためらいは一切なく、引き金を引く判断を微塵も鈍らせない。
本人のISの性能抜きにしても、素の実力が桁違いだった。
「すげーな」
思わず声が漏れる。
それを、ラウラのISが拾ったのか通信が入る。
「何だ、見てるだけか」
「んな事言われてもな……素人の俺からすりゃ何もかもすげーんだわお前」
「当たり前だ。貴様らとは経験が違う」
「お前さ、ここ来る前に何かやってたのか?」
セシリアも鳳も代表候補生として何かしらの訓練は積んでたっぽいしな。
マジでずぶの素人なのは俺と一夏くらいだろ。
「私は代表候補生であると同時にドイツ軍人でもある」
「へー……え、軍人?」
マジかよ。
そりゃバリバリに戦闘経験がある訳だ。
「……IS使って?」
「そうだ」
兵器転用の禁止思いっ切り破ってんじゃん。
とは言え、相手もISを出すならこっちも出さないと蹂躙されるのは目に見えている。
ぶっちゃけ抑止力としての側面もあるのだろう。
「そりゃすげー訳だ。俺も操縦もっと上手くなりたいもんだ」
「ほう……見せてみろ」
「え?」
「貴様のISをだ」
「なんだよ急に……まぁ良いけど。コアチェンジ、ドッキングゴー!」
アーマーはアースアーマーを選択。
一瞬でアースリィガンダムに換装する。
「第1世代をカスタムした……1.5世代型のISか。装着は随分と早いな」
「まぁ早くしろと散々言われたからな……」
織斑先生のあの冷たい視線を思い出す。
「誰からだ」
「え?そりゃ織斑先生だよ」
「ほう……貴様の様な素人をもそれなりに仕上げるとは……流石教官だな」
「教官?」
先生のことを教官か。
あれかな、翻訳の差異みたいな話かな。
「知らないのか?教官……織斑教官は一時期ドイツで私達を鍛えていたのだ」
「へぇ……あの人ドイツでそんな事を」
さも当たり前の様に言ってるけど普通知らねぇって。
「あの人もあの人で大概だな……」
「ああ、教官は素晴らしいお方だ。だからこそ、こんな場所で……いや、何でもない」
「?」
何やら含みがありそうな。
……まぁ、そんな深入りする事も無いだろう。
「まぁ良い。貴様の動きを見てやる。いつでも来い」
「え?お前私闘は……」
「これは訓練だ」
「……分かったよ!」
こいつ相手に俺の力はどこまで通じるだろうか。
――――――――――
結論から言うと、何も通じなかった。
奴の持つAIC……アクティブ·イナーシャル·キャンセラーによるものだった。
捕らえられたら最後、ISの動きは止められてしまう。
その間向こうは殴り放題なのだからたちが悪い。
「こんなものか」
「そりゃ無理って話だ……」
肩で息をしながら立ち上がる。
あーあ、アースリィのアーマーがほぼ残ってない。
「貴様のIS、サイズが変わっているな」
「え?ああ。俺のISはコア部分と装甲を入れ換える換装型だ」
「ほう?戦闘中に変えられるのか?」
「まぁ一応な」
「見せてみろ」
「イチイチ上から目線だなお前……コアチェンジ、アーストゥマーズ!」
ボロボロのアースアーマーを脱ぎ捨てて、真紅のマーズアーマーを身に纏う。
「……装甲を変えるとは言ったが、武装まで丸ごと交換しているのか」
「そうだ」
「第1世代型であるが故にレスポンスや能力が現行機より低いが……単騎であらゆる状況に対応し得るポテンシャルだな」
「お、おう?」
何だ?
思ってたより悪くない反応してる。
「他にアーマーはいくつある」
「え?」
今手元にあるアーマーはアース、マーズ、ヴィーナス、マーキュリー。
「……4つだ」
「少なくとも4通りの戦法が取れる訳か。そして、私との戦いで他のアーマーを出さなかったと」
「こっちも色々制約があるんだ、勘弁してくれ」
「まぁ良い。次はそのアーマーで来い」
「マジかよ」
結局全部使って相手することになってしまった。
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第三十九話「変則チーム爆誕」
奇妙な特訓から数日が経ち。
いよいよタッグトーナメントの参加を悩んでいた時。
「おい貴様」
「俺は貴様なんて名前じゃないんだけど」
ざわっ、と教室がざわ付く。
セシリアなんな凄い顔してる。
「アリーナを使う。来い」
「いやお前あの時だけだろ」
「私だけでは利用出来ん」
「そうだな、お前がやらかしたからな」
「だから来い」
「頼むから話をしてくれ」
「?だからこうして来ているだろう」
「いやそうじゃなくてな……」
どうしよこの子。
話が通じないよ。
「那由太さん」
「うん?どうしたんだセシリア」
「……なぜ彼女を手伝ったのです?」
「困ってたからな」
「っ……!」
セシリアがぎゅっとスカートを握った。
「どうして……!」
「どうしてって言われてもな……」
「おい、早く行くぞ」
「わーったっつの!まぁそう言うことだからまた後でな」
「あっ……」
心なしかクラスメイトの視線が冷たい気がする。
(……何でだ?)
――――――――――
「おい貴様」
「俺は貴様なんて名前じゃねーけど」
「私と組め」
「……なんだと?」
アリーナでのトレーニングもそこそこに、ラウラがそう言った。
意外だったのは、こいつがタッグトーナメントに出るつもりでいたことだ。
「なんでお前と」
「有象無象と組むよりかは貴様の方がマシだと判断した」
「そうかい……」
3回くらいこいつとやり合ったが、まぁ手も足も出ない。
あの停止結界の突破の糸口が掴めないのだ。
何か、一点に火力を集中出来れば……。
(……今度、久しぶりに不動さんに連絡してみようかな)
案外そんなアーマーを作っていたりして。
しかしマーズアーマーやヴィーナスアーマーで火力が足りないとなるとどうするべきか……。
やはり俺は他の代表候補生達と比べるとどうも一芸に劣る気がしている。
セシリアのブルーディアーズ、一夏の零落白夜、鳳の衝撃砲、ラウラの停止結界。
そういやシャルルの専用機ってどうなってんだろ。
「おい、返事はどうした」
ラウラの声で思考を目の前に引き戻された。
「……つっても、お前の突破口見えないし、俺は手の内バレてるからな……選択肢がない」
「それは肯定と捉えるぞ」
「ご自由に。書類は出してくれよ」
なんと言うか、よく分からん組み合わせになっちまった。
ただ、
(……一夏と戦えるな)
こいつは一夏と確執があるし、俺も一夏と戦いたい。
利害は一致していると言える。
まぁ端からチームプレイなんて期待してないが。
「貴様が誤射しない限り私も貴様に銃口を向けるつもりはない」
「しねーって」
はてさて、どうなることやら。
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第四十話「プラネッツシステム2」
『ありますよ、火力一点特化型アーマー』
「えっ」
翌日。
何となく不動さんにメールを送ってみればすぐに連絡をくれたのでアーマーの件で話をしていた。
しかしまぁこの人はいつも行動力溢れる人だ。
『はい!その名もサターンアーマー!マーズアーマーもパワーはありますが近接格闘よりも硬い相手に特化したアーマーです!』
「へ、へー……作ってらしたんですね」
『作っていたと言うよりも改良していた、の方が正しいですね』
「?改良、ですか」
何だ、初耳だけど。
改良ってどういう事だ……?
『はい。先代の計画を引き継いでやってますので』
「そうだったんですね……その先代と言うのは?」
『ちょっとした事故で、亡くなってしまって』
「あ、そうだったんですね……スミマセン」
『いえいえ!今こうして星海さんに乗ってもらえてるんです!先代も喜んでますよきっと!』
危うく空気が暗くなるところだったが、そもそも不動さんが明るい人で良かった。
先代、か……どんな人だったんだろう。
『ただ、ちょっとした問題が……』
「問題ですか」
『燃費が物凄い悪いんです』
「燃費」
『おそらく今のコアガンダムに換装すれば1分程度しか保ちません』
「何という……」
聞けば残り4つのアーマーそれぞれが燃費最悪の代わりに一点特化している代物だとか。
破砕用アーマーのサターン。
狙撃用アーマーのウラヌス。
高機動戦闘用のジュピター。
そして、
「大気圏突破用……」
地上から宇宙へ向かう、ただその為のアーマー。
その名も、ネプチューン。
大気圏突破、か……これを使えば……宇宙に手が届くのだろうか。
……しかし、1分。
こんな時間ではおそらく大気圏を突破する事は不可能だろう。
『この4つを含めた8つのアーマーが揃う事で、プラネッツシステムが完成します』
8つの惑星。
それに擬えたシステム。
それこそが俺の力。
「……不動さん。取り敢えずその4つを受け取ってもいいでしょうか」
『え"。でもこれは……』
「実働データも取れます。動かしていけば改善点も見えるかもしれません」
『うーん……そこまで言うのなら。また後日受け取りに来てください』
「ありがとうございます!!」
取り敢えず、その4つはすぐに使わないにしても使えるようにしておかないと。
『あ、それと』
「はい?」
『タッグトーナメント、頑張ってくださいね!』
「え、たはは……よくご存知で」
『コアガンダムにログが残ってますからね!かなり激戦をくぐり抜けてるみたいで、星海君と一緒に強くなっていますよ!』
「ええ……こいつは、大事な相棒です」
『大事にしてあげてくださいね』
「はい!」
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第四十一話「課題」
「えっ!?星海くんボーデヴィッヒさんと組んだの!?」
翌日、あっという間に話は広がった。
「……耳が早いな」
「えっ、どうして?」
クラスメイト達がわらわらと俺の席に集まる。
それに若干冷や汗をかきながら答えた。
「別に、利害が一致したとしか」
「……どうしてですの?」
この一言で、教室の温度が一気に下がった。
人の群れがまるでモーゼのように割れる。
言葉を発したのは……やはりというか、セシリアだった。
「どうしてって?」
「どうしてあの方と組もうと思ったのです!」
「……なし崩しさ」
「……本当ですか」
「ああ」
「………………分かりました」
シン、と冷え切った教室の空気は、戻らなかった。
――――――――――
「まさか本当にすぐ搬入されるとは」
夕方。
技研の輸送班の人達がアーマーを搬入しに来ていたので受領をした。
忙しいのか不動さんは居なかった。
書類にサインしてアリーナに運び込んだ。
今日は誰も居なく、完全に俺一人だった。
オレンジ、パープル、白のアーマーが並んでいた。
最後の一つはまだ調整中とのことでまだ搬入されなかった。
「さて」
コアガンダムを纏う。
「コアチェンジ!ドッキングゴー!」
まずはウラヌスアーマーを装着!
「ユーラヴェンガンダ……ム?!」
いきなりエネルギーのメーターが一気にレッドゾーンまで突入する。
さらに様々なアラートが視界いっぱいに埋め尽くされた。
「う、おっ!?何だこれ!?」
更に周辺情報が一気に更新される。
思わずアリーナの出入り口に目をやるとISのハイパーセンサーが拡大しまくる。
「ちょっ、ちょっと!?待て待て何だ何だ!?」
センサー類が凄まじく過敏になっている?
少し意識を向けただけで拡大収縮ロックオンなんでもござれだ。
しかも搭載されてる兵装はカメラビットと有線カメラという徹底ぶり。
主兵装にして唯一の武器はコアスプレーガンにドッキングしたビームシュートライフルU7。
これは正真正銘、
「狙撃特化……!?」
ここでISのエネルギーが尽きた。
「な、なんつーピーキーな……」
マジで1分しか保ってない……。
こんなん実戦で使えるのかよ。
『だ、大丈夫ですか!?』
不動さんの部下が通信を寄越してきた。
「ま、まぁなんとか……。ちょっと情報量が凄まじくて」
『狙撃に特化しようと弄っていたらこんな膨大な量になってしまって……』
「これは……脳の処理が追い付かない……」
『だから言ったじゃないですか』
「反応を落として処理を別に回したりすべきですかね……」
何にせよ、エネルギーが尽きてしまったのだからこれ以上続けられないな……。
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