親バカの親父、ダンジョンに導かれる (衛鈴若葉)
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親バカの親父、ダンジョンに導かれる

ゴルベーザのも読みたいと思う所存。誰か書いてくれると嬉しいなぁ。ジェクトさん増えろ、増えろ。


一人の父親がいた、不器用で一人息子を泣かせてばかりいた男であった。

愛情を示そうにも不器用で、気恥ずかしくて、罵倒が先に出た。

息子に嫌われる、そんなことわからなかった訳ではないが止められなかった。

男は努力でのし上がって、そしてある日全てをかっさらわれた。

『シン』によって【スピラ】という場所に流された。

【ザナルカンド】、男の故郷は千年前の遺跡だという。

息子のためにも映像を持ち帰って見せてやろうと帰る方法を探すために【スピラ】を救おうとする【召喚士】の【ガード】になることを決めた。

その果てに諦めを覚悟に変えて【ブラスカの究極召喚】に姿を変えて『シン』を打倒することに成功する。

【スピラ】を覆う【死の螺旋】、それを断ち切るにはどうすれば良いか。

そんなことなど分からずに【無限の可能性】に賭け、あとのことをアーロンに全てを託した。

そして全てを乗り越えた息子と再会し『シン』として息子と召喚士、ブラスカの娘の仲間たちに倒されて死んだはずだった。

何も思い残すことはない、最期に成長した息子の顔と泣き顔を見て満足して死んでいった。

必ずや彼らは核を潰すことだろう、だから安心して逝ける。

その先で目を覚ましたのはコスモスという神の前。

コスモスとカオスという二柱の神の戦い、とやらに巻き込まれる。

息子と衝突して、大喧嘩して、笑い合った。

それだけで十分であろう。

二柱の神を受け継ぐ二柱の神【スピリタス】と【マーテリア】の戦い。

その場においても男は召喚された。

息子と共闘したり、息子を守ったり、次元喰いと戦ったり、特に特筆するべきことはない。

そんな男の名前はジェクト、ただの父親である。

 

召喚、されたと思った。

特有の感覚というものは少なからずあるものであったがそんなものは皆無であった。

それに目が覚めた時の光景は、あの世界のどこにも存在しないものだ。

戦士たちの思い出の地を投影した世界、ジェクトの目には回った全ての世界になかったものだ。

息子と共闘して、次元喰いを倒して、それか元の世界に帰ってその後はどうしたのだろう。

 

「‥‥‥あ?」

 

見覚えのない街並み、ザナルカンドに及ばない高さであるが十分高い建物に挟まれた路地からでも見える中央にある巨塔。

異世界、廃墟に見えないこの場所でそんな言葉しか出てこない。

何度か経験してはいるがあれは【夢のザナルカンド】と【スピラ】が繋がっていたからできた、『シン』によってなされたこと、神の呼び出した戦争では神の力によるもの。

そしてこれは、なんとも分からない。

そもそもジェクトは頭の良い方ではない。

まあ察しは早い方ではあるものの、この状況をどう打開したものかと悩む。

 

【スピラ】だとすぐに【エボン党】に捕らえられてブラスカと出会ったことによって【ガード】としてブラスカに同行出来た。

コスモスやカオス、マーテリアやスピリタスの時は神や同僚から説明があったし直ぐに呑み込めた。

 

(まあ、今更驚かねぇや)

 

路地裏を脱したら様々な人種がそこにいた。

兎耳だったり狼耳だったり、耳長だったり普通だったり。

あちらの世界で様々な英雄の姿を見ていたためにそんなに驚くことではない。

問題は中央にある巨塔とそこら中にある【神】の気配。

上裸の姿に胸の【ザナルカンドエイブス】という【ブリッツボール】という競技の一チームのマークの入れ墨と無数の傷。

右腕と左足には【ブラスカの究極召喚】であった頃の名残が残っている。

間違いなく人間であるのだが、その姿は周りには奇異の目線で見られている。

 

中央にあるのはジェクトの目から見ても高いものである。

中央に噴水があるバベル前の広場、そこにジェクトは着く。

そこにいるのも様々な人間であった、鎧を着込んでいる者や軽装の者。

当然人種も様々で、途中で話を聞いた限りだと【神】が降りて【ファミリア】を形成して目の前にあるバベルの地下にある【ダンジョン】を神の眷属が探索しているらしい。

それを統括しているのがギルドであるし、冒険者登録はそのギルドで行うことができその前提が【ファミリア】に入ること。

それで初めて【ダンジョン】に入ることができる、というものらしいのだ。

単純に考えれば【ファミリア】に入った方が【ギルド】の施設を利用できる、だからギルドに向かう方が良いことは明らかだ。

おもむろに右手に無骨な大剣、【ジェクトソード】を出現させるがバベルに向けた足を止める。

 

「おーい!君〜!!」

 

自分を呼び止める声が聞こえたからだ。

律儀にそれを答えてやろうと振り返って下を見ると小さい女の子がいた。

 

「おー、嬢ちゃん。どうし、」

 

途中で声を出すのを止める。

目の前の女の子は神だ、なぜすぐにわからなかったのだと自分を責めかける。

恐らく神らしい威厳と貫禄、そして図体がないせいだろうと結論づける。

 

「嬢ちゃんじゃあ、ってどうしたんだい?」

 

嬢ちゃん、というジェクトの発言に反論しようとした女神がジェクトの様子に気づいて顔を覗き込む。

 

「いや、うん。女神さんか。で?用件はなんなんだ」

 

「ああ、ボクのファミリアに入ってくれないかい?」

 

ファミリア、神の統率する、神の血を分けた眷属の集まる組織。

それに入ってくれないかと勧誘する神。

神自身が勧誘するほどこの世界では神はありふれた存在なのだろうとここでジェクトは理解する。

まあ、理解したくなかっただけなのだが。

 

「決める前に色々教えてもらいてぇんだが、まず名前だ」

 

名前、目の前の女神の今の規模など、色々と教えてもらいたいことはある。

 

「ボクはヘスティア、女神ヘスティアさ!キミは‥‥‥」

 

「オレはジェクト様よ」

 

ジェクトは胸を張ってそう答える。

普段は息子に向けて言う軽口なのだが、こんな状況だ。

言った方が自分を保てる。

 

「ジェクト君、だね。聞きたいことは他にもあるのかな?」

 

「おう、まずはだな‥‥‥」

 

ジェクトは問い、ヘスティアが答える。

簡単なものであった、まあどちらにしてもヘスティアの派閥に入るつもりであったが知っておきたいことではあったので。

だってジェクトは努力家である、過去の栄光であるがブリッツボールの有名選手、そこまで辿り着くのにどれだけかかったか。

そんなことはもう覚えていないし、ブラスカたちとの旅で大体のことは慣れた。

それに何となくであるがヘスティアからは目が離せない。

入ると言った時のヘスティアの喜びようには無意識に頭を撫でていた。

 

 




駄目でした?うん、続けられるかは、分かんない!


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白兎と魔道士

なんだか納得いかない。


ヘスティアによれば今まで二ヶ月近く、誰もファミリアに入ってくれなかったらしい。

既に中堅や有力ファミリアがある中で零細に入ってくれなんて余程の特典がなければ拒否するだろうとジェクトはその結果に納得する。

それでもジェクトがヘスティアの派閥を選んだのは神に対する不信感と第一印象のおかげであった。

面倒であった、というところも大きかったがそんなことをヘスティアは気にせずに鼻歌を歌いながらジェクトを自身の本拠(ホーム)に、ではなく自分の最初の眷属に恩恵を与えるのはこの場所だと決めていた場所に案内していた。

好きな本に囲まれた、二階には店主の許可があればそこで読書や勉強もできるそんな場所であった。

ヘスティアは書店に入ると店主に言ってから二階に上がる。

初めての眷属にはここで恩恵を刻もうと思っていたと嬉しそうに話して二階のソファにジェクトを座らせる。

 

「さあて、刻むよ」

 

「おう、手早く頼む」

 

初めてであるからであろう【神の血(イコル)】を垂らすのに四苦八苦しながら何とか【神の恩恵(ファルナ)】を刻むことに成功する。

 

「よーし、これでうん?」

 

目の錯覚かな、と目をぱちくりさせ一旦瞼を閉じてからもう一度見る。

まだ、と用意していた羊皮紙にそのステイタスの写して、普通のステイタスであることの願いを託そうとする。

しかしながら、現実は非情である。

今までどの神も経験してこなかったようなステイタスを目の前にして泣きそうな顔でジェクトに見せることにする。

 

「どうした?ヘスティア」

 

「いやぁ、キミのステイタスがおかしくてね。本当に今まで恩恵受けたことないんだよね?」

 

「存在自体知らなかったからな、それにここはオレからしたら異世界なんだよ」

 

「うん、疑ってる訳じゃないんだ。嘘をついてるかなんてボクたちには丸分かりだからね」

 

道中でジェクトの身の上話を聞いてきて、最初は耳を疑った。

嘘だ、と一笑に伏せたらどんなに楽だっただろうと思うが嘘を言っていないことは分かってしまったのだ。

異世界人、そんなことがバレれば他の神に玩具にされるかもしれない。

それに神と戦った経験すらある、ひたすらにヤバい人物であることはわかっていたがここまでとはとステイタスの写しをジェクトに見せる。

 

ジェクト

 

Lv 9

 

「力」 I 0

 

「耐久」 I 0

 

「器用」 I 0

 

「敏捷」 I 0

 

「魔力」 I 0

 

魔法

 

スキル

 

【『シン』】究極召喚の祈り子となり『シン』となった者。変身魔法中の身体能力強化の効果上昇、消費精神力減少。

 

故郷(息子)を想って】ファミリアを守る時、ステイタス高補正。

 

「これの何が問題なんだ?」

 

至極当然、ジェクトはこれの問題点が分からない。

無論だがジェクトの実力はかなり、というより強すぎるという方が適当であると感じる。

魔導師タイプではないため基本武器による攻撃や素手によるもの、遠距離攻撃の手段は基本的には皆無だ。

まあ、でかい魔法攻撃でも余裕な気がする。

 

「‥‥‥いやぁ、これ以上のレベルは今は存在しないというか、話の限りだとこれで留まってるのが不思議というか」

 

「何言ってんだ?」

 

言葉をまとめられていないヘスティアとそれを呆れた顔で見ているジェクト。

なんとか言葉を捻り出してヘスティアは説明を終わらせたあと、思い出したように話題を逸らすようにヘスティアは口を動かす。

 

「そうだ、ジェクト君って上着持ってないのかい?」

 

「ん?持ってねぇよ」

 

「そっかー、持ってないのかー。えっ?」

 

「どうしたよ」

 

ジェクトは半裸である。

故に背中は常にさらけ出した状態、そしてステイタスを表した恩恵は背中に見えている。

その内容は正しく爆弾、まだ必要ないと思っていたがヘファイストスに色々と教わらなければならないと明日に足が重くなって行かなかった場所に行こうと決断する。

しかしまぁ、問題はそれ以前のものだ。

今をどうするか、爆弾であることを説いて上着でも着せるしかない。

やれるか、やらねばならないとヘスティアは自身を鼓舞する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然のこと、少年の元に魔道師が舞い降りたのは突然の、驚愕の邂逅であった。

黒き甲冑に身を包んだその男を祖父が連れてきたのは夜の帳の下。

暗闇の奥に佇むその姿に当然、恐怖を感じたがそれと同時にその手に頼れる力を持っているようにも感じる。

英雄になりたいと願う少年と闇に身を堕とした魔道士の奇妙な生活はそこから始まることになる。

男が鎧を脱ぐことはなかった、食事の時も農耕の時も、ベルとの鍛錬の時も。

魔法の知識と魔力を扱う技を、近接でも戦える男に少年は何度も打ち倒された。

 

「ベル、入るぞ」

 

ぞ」

 

「ゴルベーザ、さん?」

 

ベルのいる田舎の村には似つかわしくない音、鎧特有の足音がベルの耳に届く。

先日のこと、祖父が死んだらしい。

村人から伝えられたそれによってベルはわんわんと泣いた。

情けない、とは思えない。

まだ十四の子供だ、どんな気持ちかは想像に難い。

 

「泣いていないのか」

 

「流石にいつまでも泣いてる訳にはいきませんから」

 

祖父の死の知らせを聞かされたのは数日前、最初は放心していたのを覚えているがここで話すことではない。

立ち上がり、昨日とは違う服を着ている。

さっきまでいたであろうベッドにはゴルベーザに与えられた本が置かれている。

 

「行くのか?」

 

荷物もまとめられていた、つまりはどこかに旅立とうとしていることがわかる。

どこに行くかは今までのベルとベルの祖父を見ていればわかることであった。

迷宮都市と呼ばれる世界の中心、英雄を生む街、その名はオラリオ。

 

「はい」

 

簡単な肯定の一言。

ベルは本を腕に抱いて再び立ち上がる。

英雄への憧れ、ダンジョンでの運命の相手との出会い、そしてゴルベーザに教えられた魔法の探求。

正史より一つ、やりたいことが増えた少年。

 

「そうか。では往こう」

 

「えっ」

 

予想だにしなかった言葉をゴルベーザが吐き出す。

それ以上にベルが驚いたのは魔力である、これまでが茶番であったかのように膨大な魔力を用いてゴルベーザは転移術を使おうとする。

魔法陣が幾重にも重なり、部屋に光が満ちる。

 

「ゴルベーザさん!?」

 

「黙っていろ、舌を噛むぞ」

 

「噛むんですか!?」

 

噛むかどうかは定かではないがあっという間に視界が黒く染まる。

体感時間としてはそんなに経っていないように思える、気絶もしていなかったようで視界が黒く染まった後、直ぐに目の前の光景が開けた。

草原、遠目に人工物の壁が見える。

 

「ここは‥‥‥」

 

「オラリオの周辺だな。以前に一度だけ来たことがある」

 

昔にここまで来て入れなかったことを思い出してゴルベーザはベルにここはどこか説明する。

 

「ということは、あの見えるのが……!」

 

「オラリオだ。往くか?」

 

「もちろん!」

 

歩き出すゴルベーザにベルがついて行く。

三メートル近い鎧の男と小柄な白兎、なんだか奇妙な組み合わせである。




ジェクトさんのステイタスについて、何となく納得いかないので意見あればよろしくお願いします。
ゴルベーザは、ポジションとしてジェクトさんと似たようなもんなので、登場させてみました。
ゴルベーザもジェクトも身長高いのでベルが余計に小さく思えてしまうなぁ。


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再会

よくよく考えてみればゴルベーザってオラリオ滅ぼせてしまうんですよね。
メテオっていうチート魔法があるからねぇ。
ゴルベーザはテラのメテオ耐えてるし、ジェクトは次元喰いの攻撃を剣を盾にして耐えてるしスコールのガンブレードの爆破に簡単に反撃してるし、この二人結構耐久力高くないすか?



三メートル近い黒い鎧と白兎のような小柄な少年はジェクトとはまた違った意味で目立つ。

ゴルベーザは奇異の視線など気にせずに歩みを進め、ベルは視線を気にしながらゴルベーザについて行く。

どちらとも、迷宮都市には初めて入る。

故に地理など知らないはずであるが何故だかゴルベーザは知っているかのように歩き、それを信頼してベルはそれについて行っていた。

そして着いたのがオラリオの中心ともいえる【ギルド】という施設。

象徴という意味合いでは【バベル】が適当であるだろうが実質的な中心はここだ。

ここに訪れた理由は簡単に現在のファミリアの事情や都市の事情、入るファミリアを選ぶためである。

 

「‥‥‥ククク」

 

「どうしたんですか?」

 

突然の聞きなれないゴルベーザの笑い声。

鎧の奥から擦り鳴らすように聞こえたそれにベルは慄きながら聞く。

 

「いや、新鮮でな」

 

弟とは和解したがすぐに離れ離れになったし、その後に再び会う機会もあったが忙しかった。

何よりもベルのような少年と異世界で冒険をする、なんとなく新鮮であったのだ。

 

「変なゴルベーザさんですね」

 

「すまないな、入ろう」

 

コツコツと、ガシャンガシャンと、足音をたててギルドの中に続く両開きの扉を開ける。

外と同じく、いや外より密度が高く様々な種族が中にいた。

ベテランから新人(ルーキー)まで、ベルの目にも分かるほどの強者もいた。

まあ、ゴルベーザを超えるものはいないように見えるが。

それでもベルの目は輝きっぱなしであったのだ。

英雄の生まれる街、冒険者の都、ずっと憧れていたその場所にやっと来ることができたのだから。

そんな純粋なベルを見ていて、ゴルベーザは何とも新鮮な気分に浸っていた、弟に似た雰囲気をベルから感じとれたのだ。

 

「‥‥‥ん?あれはジェクトか」

ベルが感慨に耽り、受付に向けて歩きだそうとしているとゴルベーザの目に何かがとまったようであった。

驚きと喜び、負の感情は混ざっていないように思える。

 

「ベル、受付に行ってファミリアのリストを貰ってきてくれ。恐らく、知り合いがいる」

 

「ああ、はい。分かりました」

 

赤いバンダナ、胸の入れ墨、肉体、全てが合致するとベルを受付に行かせた後にその人物のもとに足を向ける。

 

「ん?お前さんは、」

 

「久しぶりだな、ジェクト。まさかここで会うとは思っていなかった」

 

ジェクトは目を見開かせたように見えた。

事実驚いているのだろう、それと同時に安堵も見える。

 

「ゴルベーザ、なんでお前もここにいるんだ?」

 

「分からん。気づいたらこの世界にいた」

 

お前は分かるか?と聞くがジェクトはゴルベーザと同じく分からないらしい。

陣営でいえば同僚、肉親をもつ身としてなんやかんやで気もあった。

ゴルベーザはセシルに兄さんと呼ばれて嬉しかった、ジェクトは『シン』の体内で会った時、息子の顔が見れてもう満足した。

 

「ジェクト、もうお前はファミリアに入ったのか?」

 

「おう、入ってる。【ヘスティア・ファミリア】ってとこだな」

 

「【ヘスティア・ファミリア】、か」

 

ゴルベーザを考えるような仕草をとる。

普通に考えて、ここはジェクトのいるファミリアに入るのが適当だろう。

知り合いだし、この世界にとっては二人とも異端者だし、そして【最後の英雄(ラストヒーロー)】たるベルもいる。

今のベルもジェクトもゴルベーザも爆弾のようなものだろう、ベルの祖父、もうまどろっこしいな、ゼウスにもそう言われた。

黒竜討伐の時にいて欲しかったとも言われたのは僅かながら嬉しかったがそれはそれである。

 

「お前も入るか?」

 

入ってから数日、三ヶ月間勧誘して団員はジェクト一人。

はっきり言ってお先真っ暗であろうがいまでは立派な爆弾(ジェクト)が入っている。

そこにゴルベーザとベルが入れば、有名にはなるだろう。

様々な問題と主神のストレスと引き替えに。

 

「そうだな、そうした方がいいか」

 

メリットとデメリット、それらが噛み合わないだろうが仕方ないと割り切ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

「えっと、ジェクトさん!よろしくお願いします!」

 

「おう、よろしくな。ボウズ」

 

ジェクトは笑みと共に緊張で縮み上がったベルの頭を豪快に撫でる。

あうっ、という息子(ティーダ)とは違う反応に面白がって続けるがやがてゴルベーザに止められた。

本拠まで案内してくれ、ゴルベーザの無言の訴えにジェクトは頭をかく。

 

「じゃあ、行くか。見ても帰んなよ?」

 

「覚悟は決めている」

 

「え、えっと、どんな場所でも大丈夫です!」

 

「おー、いい威勢だな」

 

ジェクトの案内のもと、三人は移動する。

都市南西部の居住区、その外れに【ヘスティア・ファミリア】の本拠である廃教会が存在している。

ゴルベーザもジェクトも野宿には慣れているため、そんなに苦には感じないであろう、ベルも結構逞しいところがあるので大丈夫だろうが。

 

「これは、なにか趣があるというか‥‥‥」

 

ベルが言葉に困る、ゴルベーザは何も喋らない。

ジェクトはニヤニヤしたまま何も話さない。

 

「秘密基地っぽくていいですね!」

 

そして何とかベルは言葉をひねり出す。

数分の静寂はベルには重すぎたようである。

 

「こういうの、男の浪漫っていうんですよねっ!僕も作りたかったなぁ‥‥‥!」

 

「ベルは分かってるじゃねぇか。俺もこういうの好きなんだよな」

 

「‥‥‥住めはするか」

 

小さく漏らした失礼な言葉をジェクトはわざと流してベルとゴルベーザを中に入れる。

中も外の光景と違わず酷いもので細かい、酷い損傷に雑草などここを修繕するのはかなりの時間がかかるであろう程のもの。

ジェクトは二人を待たせて地下室に降りる。

信用できるとはいえ簡単に本拠に入れる訳にはいかないのである。

 

『ヘスティア。入団希望者連れてきたぞ』

 

『なにィ!?でかしたよ!それでその入団希望者は上で待たせてるのかい?』

 

『ああ、呼んでくるか?』

 

『もちろんさ!ボクも行くよ!』

 

慌ただしい足音とともに地下室の扉から出てきたのはツインテールの幼い体の女の子。

確実にこの子が女神ヘスティアであろうとゴルベーザとベルは理解する。

 

「君たちかい?入団希望者は」

 

「あ、ああ。そうですよ、女神様」

 

「そうなりますな」

 

ゴルベーザの珍しい敬語とベルは動揺しながらもヘスティアに返事をする。

 

「よーし、歓迎するよ!」

 

「先に行くなよ。で、入れるでいいんだな?」

 

「もちろんだよ!早速恩恵を刻むから降りてきてね」

 

へいへい、とジェクトは大はしゃぎして階段を降りていくヘスティアについて行き、その後ろとゴルベーザとベルがついて行く。

天井にゴルベーザがぶつかるのではないかと密かにベルは心配していたが一応問題はなかった。

 




正直、リヴェリア様の魔法もジェクトなら耐えられそう、ゴルベーザもバリアで防げそう。
二人の戦闘方法はディシディアNTを参考にします。


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みんなのダンジョン探索

ベル君はどちらかと言うと魔道士になります。
オラリオとFFで区別するためにオラリオ側は【魔導師】とFFは【魔道士】と表記することにします。


ふんふーん、とベルの楽しげな鼻歌が地下室に響く。

ジェクトはソファに寝転がり、ゴルベーザは背中を壁に預けている。

そしてステイタスの写しとにらめっこしているのがヘスティアだ。

手に二枚の羊皮紙が握られていて、それぞれゴルベーザのものとベルのものである。

ジェクトに関しては普通のレベル1として扱われ、ギルドによって秘匿されている状態にある。

当然、というかなんというかウラノスと面会することになって秘匿することに決まっのだが今はそのことはいいだろう。

今はゴルベーザとベルの話である、その二人のステイタスだがベルはまだマシである。

マシではあるだけで異常ではないわけではないがそれ以上にゴルベーザがジェクトと同じくらいに異常だ。

まあ、ショックを抑えるためにベルを後に紹介するとしよう。

 

セオドール

 

Lv 9

 

「力」 I 0

 

「耐久」 I 0

 

「器用」 I 0

 

「敏捷」 I 0

 

「魔力」 I 0

 

魔法

 

【黒魔法】自由詠唱。継承可能。

 

【黒竜召喚】 黒竜を召喚可能。

 

スキル

 

闇の魔道士(ゴルベーザ)】過去の償いのために生きること。魔法の威力、消費精神力の減少。

 

【月の民】魔法を得意とする月に住む種族。精神力の自動回復、魔力のアビリティ強化。

 

ゴルベーザは偽名、なのであろうがずっと名乗ってきたものなのだろう。

名乗った時に少しの違和感はあったものの嘘だとは分からなかった。

見た目とは裏腹に魔道師のようだ、スキルも魔法特化である。

何よりもジェクトと同じLv9ということである。

 

ヘスティアは目を細めて眉間を揉む。

気休めにベルのステイタス用紙に目を移し、ふぅと軽いため息をつく。

 

ベル・クラネル

 

Lv 1

 

「力」 I 0

 

「耐久」 I 0

 

「器用」 I 0

 

「敏捷」 I 0

 

「魔力」 I 0

 

魔法

 

【白魔法】 自由詠唱。継承可能。

 

【黒魔法】 自由詠唱。継承可能。

 

スキル

 

【まほうぜんたいか】 魔法の対象を範囲か単体か選べるようになる。

 

【魔道憧憬】早熟する。憧れの丈ほど効果上昇。他からの干渉を阻害。

 

これはこれで異常ではある。

【白魔法】や【黒魔法】について聞いてみたところ別世界の魔法であり、学べば才能の差はあるが誰でも使えるものらしい。

ベルに見せる前にゴルベーザとジェクトに見せ、これをベルに見せていいかと聞いた。

ちょうど台所で今日の夕飯を作っていてくれたので都合がよかった。

【魔道憧憬】は危ないというのがゴルベーザの見解。

ベルはヘスティアの第一印象通り、嘘をつきづらく素直な性格で突き詰められたら簡単に吐くかもしれない。

ということでベルには【魔道憧憬】は見せないことにしたが他のものは見せた方がいい。

特に【まほうぜんたいか】であろう、これを知らなければ魔法を扱う時に不都合がある。

 

なのでベルに教えるのは言われた通りにすることにした。

【魔道憧憬】の欄は消すことにするが若干残ってしまう。

まあ、気にしないことにした。

 

ベルは魔法の発現に喜んでいたがそれより喜んだのは【まほうぜんたい】であった。

今まで【黒魔法】も【白魔法】も単体にしか使えなかったのだという、そりゃあ喜ぶのも当然だと無邪気に喜ぶベルを見てホンワカな気分になる。

 

「そういやよ、ベルに杖はやらねぇのか?」

 

ジェクトの何気ない一言、それにヘスティアは納得する。

魔道士といえば杖、杖は魔法の威力上昇に、魔力の制御装置にもなるものである、というのがこの世界の杖である。

 

「杖?」

 

その発言にベルは首を傾げる。

数多ある英雄譚に確かに魔法使いは登場したし杖をつかっていた覚えもある。

しかし、ゴルベーザは杖を使っていなかったし、ゴルベーザの語る異界の魔道士も杖を使っていない者が多かった。

なによりゴルベーザがベルに影響が強かった、故に杖を使うという想像に至らなかったのだ。

 

「‥‥‥ああ、確かにそうだな」

 

「ゴルベーザ君は持っていないのかい?魔道士なんだろ?」

 

ヘスティアの問いにゴルベーザは否定する。

杖など必要なかったのだ、あるとすれば剣くらいなものだがそれをベルが扱うのは難しいのは過去が証明している。

 

そもそもベルが欲しいのかという問いに発展し、ベルの答えは欲しいが急務じゃなければ必要は無い、というものだった。

必要かどうかは明日決めることにしてベルの作った夕飯をヘスティアは催促する。

その後、寝る場所を決めるので少し一悶着があったがすぐに片付いたのでそんなに語ることは無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝のことである、三人はヘスティアがバイトに出かけるのを見送った後にギルドに出発する。

要件は言わずもがな、ベルとゴルベーザの冒険者登録のためだ。

 

「よう、エイナちゃん!」

 

「あ、ジェクトさん。それに君は昨日の、ということは」

 

「おう。このボウズとそこの、ゴルベーザはウチに入った。登録がしたくて来たんだが」

 

「ああ、承りますよ」

 

エイナと呼ばれたハーフエルフの受付嬢はにこやかに対応する。

ゴルベーザを見た時に一瞬顔を顰めたのは気の所為だろう。

まず差し出された紙には自身の個人情報を書き込むらしい。

ほとんどが任意で、必須なのは所属ファミリアとレベルくらいのものであった。

ベルの出身は名前のない山奥の村だし、ゴルベーザは月である、ベルはともかくゴルベーザが書けるはずもない。

なのでほとんどが未記入のまま提出することになるのだが、問題なく受理される、はずであった。

 

エイナの手がベルの記入した紙を見てその後にゴルベーザのものを読んだ瞬間に止まる。

それは少し前にジェクトのものを見た時と同じであった。

その時は叫び声をあげてしまったが今回は少し前にあったせいか逆に冷静になってしまう。

 

「‥‥‥ゴルベーザ氏、これは」

 

「虚偽は書いていない」

 

鎧の男、ゴルベーザはそう言う。

嘘を言っていないというのは何故か確信できてしまうがそこで止まるわけには行かない。

レベルの欄に堂々と書かれている9の文字、それはジェクトと同等の意味を示し、それに過去のオラリオ最強とも同等であることを意味している。

ジェクトの件はウラノスの確認で嘘ではないことが決定され、エイナとウラノス、それに【ヘスティア・ファミリア】の間で秘匿することに決定された。

今回もかぁ、と黒衣の骸骨のような人物を思い浮かべて頭を痛める。

 

「受理させていただきます。ようこそ、オラリオへ」

 

「ありがたい」

 

「ありがとうございます!」

 

「空いている時間はありますか?もし良かったらダンジョンの講習をしたいのですが‥‥‥」

 

すぐにとはいきませんが、と付け加えるエイナ。

講習、と聞いてゴルベーザとベルは顔を見合わせる。

この二人は至極当然にそれを受けるだろう、ならば問題は別のところにある。

 

「いつになる?」

 

「それは、」

 

空いてる時間を見つけてやるものになるため、エイナの仕事が少ない時間帯にやることになる。

今は朝、仕事が多いか少ないかでいえば少ない方だろう。

 

「いまからでも出来ますか?」

 

「今からは、少し難しいかな」

 

登録の報告もあるし、今回の場合はさらに手順が増える。

先延ばしにしていいものではないため一旦受付を離れなければならないだろう。

 

「なら、空いてる時間にお願いしたいです」

 

「うむ、その方がいいな」

 

「承知しました」

 

これからどこに行くの、という問いにはダンジョンにと二人は答える。

止めようかと思ったがレベル9が二人もいるのだ、ベルの安全は確約されているといっていいだろう。

そう思ってジェクトとゴルベーザ、そしてベルをエイナは見送り、痛む胃を労ることにする。

 

 




ベル君はまだ未熟ですが一応白魔法は全て覚えています。威力は低いですが【ホーリー】も使えます。
黒魔法はほとんど使えませんが、これから覚えていきますね。
魔法の基準はFF4です。
なのでスキルに【まほうぜんたいか】を入れました。
ゴルベーザは確かに強力な魔道士ですがシャントット博士には劣るんですよねぇ、あの人がオラリオに来たらどうなるんやろ。


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ベル君と規格外の二人

ダンジョン回である。階層主はいない。


男は豪快に剣を振るい、また男は杖もなしに強力無比な魔法を無詠唱で繰り出す。

その後ろで少年は初級の魔法と何故か熟達した支援、回復魔法によって二人のサポートを行う。

 

蹂躙、そんな言葉は生ぬるい表現であると断定しよう。

ジェクトは冒険者になってまだ一ヶ月も経っていない、ゴルベーザとベルは冒険者生活一日目である。

そんな三人のダンジョン探索は予想した通りに順調であった。

特にゴルベーザが魔法すら使わずにモンスターを蹴散らしていたの印象的であっただろうか。

簡単に上層を踏破した後、ベルの【テレポ】という魔法、洞窟から脱出できる効果の白魔法を当てにされて中層に突入した。

祖父にダンジョンについての知識をねだって、簡単ながらに教えてもらったこと。

まあ、中層は冒険者になってすぐに行く場所ではない、Lv9になるとそんなこともないのだろうかと引き続きベルはサポートを続ける。

そんなサポートの甲斐なく、簡単に中層も突破することになる。

マッピングなど知ったことかというゴリ押しと縦穴使用の攻略、これを見た冒険者は顔を顰めるようなものであろう。

事実としてベルはマトモに攻略しないんだなぁ、と天を仰いでいた。

この辺りからはベルがモンスターを倒さなければならない局面も出てきたが練り上げてきた白魔法による防護と覚えたてとはいえ目の前で見てきた黒魔法によって切り抜けられる。

その結果が【安全階層(セーフティフロア)】である十八階層への到達である。

一時間もかからない攻略に疲れを滲ませながらもその苦労に見合った美しい景色に心を弾ませる。

 

「ふぅっ、ちょっと休んでいいですか?」

 

「せっかくの十八階層だからな、満喫しようぜ」

 

「そうだな」

 

モンスターの生まれない階層だが、モンスターが出現しない訳ではない。

冒険者にとっての癒しの階層であると同時にモンスターの癒しの階層でもあるこの階層でも油断は禁物、ではあるがジェクトたちには関係ないようであった。

そんな十八階層の観光も程々にそこから更に潜ることになる。

それにはベルも賛成し、さすがにここからはゴルベーザも魔法を使っていくことになる。

黒竜を召喚してさらにサクサク攻略になったのは目を逸らしておこう。

【ロキ・ファミリア】の遠征で階層主が倒されているのは消化不良であったがそれでもサクサクと進んでいく。

階層を貫通して滝が流れる場所、彼らはどうしただろうか。

ベルは【レビテト】を覚えている、ゴルベーザはそれなしでも何故か浮ける。

 

「ベル、浮けるか?」

 

「レビテトなら覚えてますけど‥‥‥、まさか」

 

滝の流れる音と幻想的な風景をバックにジェクトの考えていることは何となくで察する。

ゴルベーザは何故かレビテトを覚えてなくても飛んでるし、最上級にまで上り詰めると魔道士は飛ぶのだろうか。

 

「本気か?」

 

「おう!これくらいならいけるだろ」

 

異次元すぎる、見た限りでは三階層分だろうか、己の身一つで飛び込もうとするとか頭おかしいとすら思える。

まあ、恐らくできてしまうのだろう。

呆れと驚きの同居、ベルの背中のバックパックはこれまでの道で半分ほどしか貯まっていない。

 

「【レビテト】」

 

「大丈夫か?」

 

「大丈夫です。難しいですけどね」

 

空中を歩くように浮かせることには成功する。

なんとかこの状態からある程度は自由に動けるようにはなっている。

無論、飛べなどはしない。

 

「‥‥‥見ていられんな」

 

「えっ、ちょ」

 

甲冑の硬い感触を感じる、下には遠くに見える地面がと黒い甲冑の足が見える。

 

「ゴルベーザさん!?」

 

「黙って掴まっていろ!」

 

珍しくゴルベーザが語気を強める。

それに面食らい、自分を思いやってくれていることなど思考せずとも辿り着く結論であった。

空気を切る音か衝突する音、ゴルベーザとベルの横をジェクトの巨体が見えた。

 

「まだ無理だったか?」

 

「そうだな。まだ早かったらしい」

 

ベルは何も話せないようで、ジェクトはふっと笑う。

どこぞの男でも思い出したのか、それにしては素直なこの白兎はジェクトにとっても息子のように思える存在だ。

何故だか守ってやりたくなる存在、ゴルベーザがそばに居るのもわかると笑ったのだ。

 

高い水しぶき、普通なら打ちつけるだけで死んでいるだろう。

しかし、ジェクトは普通からは完全に逸脱している。

『シン』を倒した究極召喚獣であり、水中の球技【ブリッツボール】のスター選手、水中戦は誰よりも得意とするところである。

 

「ジェクトさんは、大丈夫ですよね」

 

「当然だろう。この程度でジェクトは死ぬタマではない」

 

ベルは自分にレビテトをかけ直し、空中で歩けるようにする。

水に触れないように、ジェクトもゴルベーザもベルもダンジョンに対してここまで来れば無知も同然。

ジェクトがいるからまだ安心ではあるが水のエリアは越えたようなものだろうか。

 

「ジェクトさん!」

 

水の底からジェクトの姿が見える。

ジェクトが誇らしげに語っていたこと、それを疑っていたベルであったがジェクトソードを携えて泳いでいるジェクトを見て安心したと同時に語っていたことが本当だと確信できた。

 

「久々の水は気持ちいいなぁ!」

 

「ジェクトさん、レビテトはかけないでいいんですか?」

 

「大丈夫だ。もうちっとこれを楽しませてくれ」

 

そう言うとジェクトは再び水の中に消えていく。

 

「しばらく遊ばせてやろう」

 

ゴルベーザの方を見るとため息混じりに水面を眺めて言った。

取り敢えず陸地に移動すると水面を二人で暫く眺めることにした。

 

「どこまで降りるんですか?」

 

「お前の力が及ぶまでだ。もう限界なら戻るか?」

 

「んー、まだいけます」

 

まだまだ魔法は行使できる、ゴルベーザのもとで修行しているならば限界は感じ取れるようにはなっているはずだ。

そんな修行もしていたので分かるのだが、神の恩恵(ファルナ)のおかげかまだまだ余裕がある。

まあ、ひとつのミスで死ぬのには変わりないが【ブリンク】や【リフレク】で対策を取っている。

ちなみに【スロウ】や【ミニマム】などの魔法は問題なくモンスターに効くみたいである。

 

三十分かそれくらいだろうか、ジェクトは水面から陸地に上がってくるのが見えた。

 

「満足したか?」

 

「満足はしちゃいねぇがまた来ればいいしな。先進むか?」

 

ジェクトはベルを見て先に進むかを聞く。

自分に聞くのかとベルは動揺するが、ゴルベーザにもじっと見つめられているためゆっくりを息を吐く。

何年も一緒にいるとはいえゴルベーザから見つめられるのには慣れない。

 

「先に進みたいです」

 

ベルは余力があるからとジェクトの言葉に答える。

 

「よし、じゃあ行くか」

 

ちゃんとついてこいよ、とジェクトはベルの頭を撫でると先に進んでいく。

遅れるなよ、とゴルベーザも後を追いベルも足早に二人の後を追うことにする。

 

 

 

 

 

 

 




異常で簡略的な三人の行軍。
ベル君の支援性能はオラリオでも破格の性能である。
味方の支援から敵の妨害までこなせる、アンデッドに対して無類の強さを誇るベル君。
正直今のレベルでも格上に勝てるんじゃないかというベル君。
モンスター相手にはストップ撒いておけばいいのではないかと思ってしまうベル君。
ダンまち世界にFFキャラ放り込む妄想って楽しいなぁ!
FF3のルーネス達だったりCCFF7の英雄セフィロスだったり、アストレアレコードに放り込みてぇなぁ。
ジェネシスとアンジールとなによりザックスも好きだぞ!
新羅兵時代のクラウド可愛い。


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ベル君の本領発揮

はたまたダンジョン回、まだであるのだよ。


深層、それは現在のオラリオが切り開いたダンジョンの奥深く。

最高派閥しか辿り着けないとされるこの場所にて男が三人、モンスターを蹴散らして突き進んでいた。

ジェクトとゴルベーザとベル、この三人は己の持ち味を活かして戦い抜く、ベルの場合は生き抜くの方が正しいだろう。

深層は中層とも下層とも大違い、モンスターの発生頻度に広さ、そして強さも。

まあ、【ミニマム】などの弱体変身魔法にかかれば結構簡単に倒せてしまうのだがそれはご愛嬌というものだろう。

 

「っ、切れた」

 

魔道士であるしLv1のベルにとって、深層のモンスターの攻撃はよけられるものではない。

故に【ブリンク】による強制回避に身を任せ、【ミニマム】による戦力の低下、【ホーリー】や低級黒魔法で足止めをする。

そんな戦い方になってしまっているのは誰も責めはしないだろう。

それにジェクトやゴルベーザによって退けられる方がベルが倒すよりも多い。

ゴルベーザとジェクトは攻撃されるより前に潰しているのがベルとの力の差を感じさせる。

 

「【ブリンク】」

 

そんなことを愚痴っている暇などない。

休む暇のない戦闘はベルから思考を確実に削っていた。

【ブリンク】が切れたら使う、【ミニマム】が相手にかかってなければ何度でも使う、近づかれたら【ホーリー】で近づかせない。

疲労が溜まれば【ケアル】系統の回復魔法で回復、【ホーリー】は使うことがほとんどないためにMPはまだ残ってはいるが結構苦しくなってくる。

 

「ふぅ、はぁっ」

 

戦闘終了、それと同時にベルは【まほうぜんたいか】を利用せずに【ケアル】を詠唱する。

それによって少しの緑色の光がベルを包み、ベルの呼吸は穏やかなものに変わる。

 

「まだ、」

 

続けたかった言葉はやれるかいけるか、それとも他のことか。

もう少しで五十階層、モンスターの出現しない十八階層と同じ安心してキャンプを立てられる場所。

続きを言いかけて歩きだそうとするとベルの腕が持ち上げられる。

雑に担ぎ上げられた時の感触はゴルベーザのものとは全く違う、何とか上を見るとジェクトの顔が見えた。

 

「無茶すんじゃねぇっての」

 

「少し休んでいろ」

 

左側からゴルベーザの声が聞こえる。

心配させてしまった、そんなことを思うが目を閉じようとする。

下手に回復魔法を使ってしまったためか、疲れが滲んできたのか瞼が重くなってくる。

 

「寝たか」

 

ジェクトに左肩に担がれてたすぐ後、ベルの口から寝息が聞こえ瞼も閉じられていた。

それを見てゴルベーザは柔らかい口調でベルを見て言う。

 

 

「そうだなぁ、可愛いやつだ」

 

起こさないようにと小声でジェクトは話す。

その言葉にそうだな、とゴルベーザは返した。

 

「ゴルベーザさんよ、この世界から元の世界に帰れるのか?」

 

「分からん。外に帰る方法がないのは確かだ」

 

「ならダンジョンの底ってわけか」

 

「そうなる。急ぐものでもないがな」

 

元の世界に帰る、そんな目的を二人は持っているがそんなに重要とはしていない。

それよりベルやヘスティアを気にしている二人はそんなにダンジョン攻略を気にしていない。

そんな二人はモンスターをものともせず、簡単に五十階層に辿り着く。

ジェクトはベルを抱えていても変わらずに一蹴し、ゴルベーザは片腕で薙ぎ払うように魔法を放つ。

ただそれだけ、ベルが小細工をしてやっと倒せる者を容易く倒して見せている。

 

「これはこれで、いい景色だな」

 

ダンジョン五十階層、その景色はこれまでのものとは異質であった。

大荒野(モイトラ)】と呼ばれるその場所は灰色の大樹林に亀裂のように走る川。

こんな景色は見たことがないとジェクトは興奮する。

ゴルベーザも言葉には表さないし表情も読めないが興奮してはいるのだろう。

 

「‥‥‥ん」

 

「ベル、起きたか!こっからの景色見てみろよ、おい!」

 

「んぅ?取り敢えず下ろしてくれません?」

 

「あ、すまん」

 

ふぁー、とベルは起きたばかり特有の息をつく。

 

「おー、これはこれで凄い景色ですね」

 

そしてベルは【大荒野】を見渡して笑顔で言い放つ。

無邪気に、純粋に言うこの発言は遠くに見える極彩色の粒に目を顰める。

 

「そういえば階層主いませんでしたよね」

 

「恐らくどこかの派閥が遠征をしているのだろうな」

 

極彩色の粒、ベルから見えるそれはどんどんと広くなっている。

埋め尽くされているような、そんな感じだ。

 

「なんかおかしいか?」

 

「何となく、ですけどね。行ってみます?」

 

「見捨てはられんな」

 

「行きましょう!」

 

「そうだな!」

 

ベルは触媒にはならないがゴルベーザによって書かれた本を取り出す。

その中には黒魔法と白魔法についてがびっしりと書き込まれているもので、ベルはその中から黒魔法のページを開く。

まあいくその段階では関係の無いものでいつも通りに範囲を指定して【ヘイスト】をジェクトとゴルベーザ、自身に行使する。

 

「芋虫っ!?」

 

「多すぎるな」

 

「やるぞっ!」

 

芋虫の絨毯、壁紙、天井、大きな芋虫型のモンスターがそのように形容できるような多さで辺りを覆っている。

ジェクトは我先にと飛び出し、ゴルベーザは飛び、ベルは襲撃にあっているらしいキャンプに飛び込む。

 

本が開いた状態でベルの傍を飛んでいる。

そのページには【トード】や【ポーキー】の魔法が載っている。

違う派閥だろうと目の前で苦しんでいるならば助けない理由はない、としてジェクトもゴルベーザもベルも行動している。

ベルは回復魔法の中で最高の能力をもつ【ケアルガ】を【まほうぜんたいか】によって広げられるだけ広げて行使する。

 

「んぅ、休んだから回復してるハズ!」

 

混乱するキャンプ、それはジェクト達の乱入によってさらに混乱することになるが女性の声が聞こえると気を引き締めたようにして見える。

 

「【ライブラ】」

 

使った相手の名前と戦闘能力が分かる白魔法、を行使する。

ベルの、ゴルベーザの知識にないそのモンスター、祖父の知識が古いだけかもしれないが知っておくのは何よりのこと。

話を聞かなくてもいい、接触しなくてもいいというのが何よりの理由である。

 

巨蟲(ヴィルガ)】というのがそのモンスターの名前。

特徴は身体の中に酸を溜め込み、吐き出したり倒されると爆発する。

武器破壊される恐れのあるモンスターである、というのがベルの頭の中に流れ込んでくる。

 

ベルは瞬時にメモ帳を取り出してその中にそれらを明記する。

 

「よしっ、じゃあ【トード】!」

 

メモ帳を閉じて懐にしまったベルは急いで本を掴み取り、その中から黒魔法【トード】の欄を読み、何とか【まほうぜんたいか】を行使して魔法を発動させる。

完璧には覚えていないために変身するモンスターはまだまばらである。

そうすると次は【ポーキー】それにその次は【ミニマム】を次々に行使していく。

小さくなったものがベルの前には殆ど、まばらに豚と蛙がいる。

 

「駄目だな。覚えないと」

 

爆発するならば蛙に、豚に変身させればいい。

そんな簡単な考えであるが有効ではあると思われる。

 

「二人に、ゴルベーザさんだけでも、やっぱり二人に教えよう。【レビテト】」

 

自由に飛んで魔法を行使しているゴルベーザの方にフヨフヨとぎこちなく飛んでいく。

 

 




次回には接触させる予定です。
逃げる形で【テレポ】使わせるのも良いかもしれませんねぇ。
ディシディアにFF3でルーネスが出なかったのに深い悲しみがあります。


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ロキ・ファミリア

なんとか書きました。



焦りは禁物、二人に任せていれば万事解決となるのは想像に難くない。

少し考えれば分かることではあるのだが、二人とも既に溶解液には気づいているだろう。

不慣れなレビテトを使うより救助や支援をやった方が良い。

そう判断して崩壊している野営地(キャンプ)の中を走り回る。

 

「【ホーリー】!」

 

【まほうぜんたいか】の効果によって、光の矢が降り注ぐ。

【ミニマム】によって小さくなった芋虫は簡単に灰に還る。

しかし【ホーリー】を乱発してはすぐにMPが底を尽きる。

そんなことは少し考えれば分かることであり、手持ちの【エーテル】は少ない。

ゴルベーザの無尽蔵とも言える魔力は憧れるがまだまだ未熟なベルでは遠くに見える焼け野原にはできない。

芋虫を吹き飛ばしては倒しているジェクトと空中から魔法によっての援護や一撃で芋虫を消し飛ばしているゴルベーザ。

分かっていた、分かっていたのだがあの二人の非常識さには乾いた笑いが出る。

芋虫の姿はもうほとんど見えない。

天井にいたものも地上にいるものもはたまた壁にいるものも、殲滅されたようだ。

 

「‥‥‥凄いなぁ」

 

ふぅ、と息をつく。

感想を零すとゴルベーザの姿を探す。

飛んでいる彼の姿は簡単に目視できる、恐らく彼はジェクトと合流するだろうと予想した。

ベルはほぼほぼ後方支援のみをやっていたがあの二人は前線で戦っていたのだ。

そりゃ、助けた側としては接触するだろう。

そこらに散らばる野営地の残骸を避けて進み、ジェクトやゴルベーザのいる場所に急ぐ。

ゴルベーザとジェクトの姿が見えると耳の長い緑髪のエルフの人と山吹色の髪のエルフ、そして金髪の子供、多分小人族(パルゥム)が話しているのがみてとれる。

 

「ゴルベーザさん!ジェクトさん!」

 

「ん、来たか」

 

「無事だったな」

 

「はい。そちらの方々は?」

 

今のベルはオラリオについて詳しいとは口が裂けても言えない。

最強の派閥が【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】であることくらいしか知らない。

幹部の二つ名や身体的な特徴も知らないのだ。

ジェクトに聞いてもよく知らないと返ってくる。

酒場にはまだ行ったことがないそうだ。

 

「ああ、僕達は‥‥‥」

 

金髪の小人族(パルゥム)の人が説明をしてくれる。

自分たちは【ロキ・ファミリア】で今は遠征中であること。

自分は団長のフィン・ディムナ、二つ名は【勇者(ブレイバー)】であると。

その場にいた人には自己紹介をしてもらう。

九魔姫(ナインヘル)】のリヴェリア・リヨス・アールヴにリヴェリアの弟子という【千の妖精(サウザンドエルフ)】のレフィーヤ・ウィリディス。

自分たちの自己紹介も終える。

ジェクトとゴルベーザは既に終えていたみたいで後はベルが残るだけであった。

簡単に済ませようと名前だけで終わらせることにする。

 

周りの残り少ない芋虫は幹部たちの活躍で一掃されていくのが見える。

アマゾネスの双子に狼人、そして金髪のヒューマン。

支援職の僕では勝てないだろうなぁ、となんだか他人事のように思った。

 

「この危機を脱せたのは君たちのおかげだ。改めて感謝する」

 

「気にすんな。俺たちが勝手にやったことだ」

 

「そうとはいかないんだ。礼はしなくちゃ【ロキ・ファミリア】の名が廃るし、僕も納得がいかない」

 

「それに、私たちのことも知りたい。というのが本音か?」

 

「見事に見抜かれてるね、その通りだ」

 

フィンは苦笑してゴルベーザの言葉を返す。

ガレス以上、それどころか都市最強(オッタル)にも引けを取らないジェクトと無詠唱で魔法を軽々と扱うゴルベーザ。

そんな二人とともにいるベル。

そんな3人組が人の興味を引かないなんて想像ができないことだ。

深層にいる時点でこの三人が只者ではないことの証明にもなっている。

 

「こんな状況だ。相応の礼はするから、同行してもらえないかな?」

 

「同行?」

 

帰るのか、それともさらに潜るのか、フィンの出した提案にベルは首を傾げる。

 

「ああ。君たちがいてくれるならありがたいし三人じゃ何かと不便じゃないかなと思ってね」

 

普通ならば魅力的、といえる提案であろう。

【ロキ・ファミリア】とともに行動できるなんて幸運の極みといっても過言ではないと思う。

 

「せっかくだが、断る」

 

断ったのはゴルベーザだ。

腕を組んで、まったく変わらない声でフィンの誘いを蹴った。

 

「そう、か。無理を言ってすまなかったね」

 

フィンは残念そうに目を瞑り、三人を見送ることになる。

 

「帰ります?」

 

「そうするか?」

 

「ん、帰んのか?」

 

下層に向かうにしても少し休もうと森の中に入った時である。

ベルが喋ったのは帰りたいという旨だ。

ダンジョンに入ってからどれくらい経ったかは分からないが結構経っていることは分かる。

 

「さすがに地上が恋しくなってきまして‥‥‥」

 

「そういうことか」

 

「よし、なら頼むわ」

 

「了解です」

 

ビシッと敬礼をしてベルは【テレポ】を唱える。

三人を囲む魔法陣が出現し、光が溢れると三人の姿は消え去る。

次に気づいたのはバベル前の【中央広場(セントラルパーク)】であった。

 

「おお、こりゃ便利だな!」

 

ジェクトはこれまでのダンジョン探索での面倒なところを一つ潰せたことに感動したのだろう。

わしゃわしゃとベルの髪を乱していく。

 

「ちょっ、ジェクトさん!」

 

「いや、助かった。ありがとうな、ベル」

 

ポン、と頭に手を置かれて怒るに怒れなくなったベルはむぅ、と頬をふくらませる。

その顔を面白がったのかジェクトはベルをさらにからかってベルに怒られた。

 

「二人とも。そろそろギルドに向かうぞ」

 

「ですね!ジェクトさん、行きましょう!」

 

「ん?分かったから引っ張んなって」

 

ゴルベーザの言葉に助かったとばかりにジェクトを引っ張るベル。

それを甘んじて受けるジェクトは不満そうな顔をしながらも引っ張らせていった。

 

その先のギルドではまた一波乱起きることになる。

三人の持ち込んだ魔石やドロップアイテムが高額で多すぎる、という内容であった。

ギルド内でゴルベーザとジェクトがLv9だと知っているのはごくひと握りの人間のみ。

Lv1のベルを深層まで連れ回したのかとエイナに説教され、ベルもまたホイホイついて行くなと説教をくらう。

その日のうちに換金は不可能であったが後日にまとめて貰えると説明を受けてその日は素直に帰る。

それと、翌日からは少しは自重してくれと厳重注意を受け、三人は肩を落としてギルドから出てくる。

 

「‥‥‥ごめんな、二人とも」

 

「明日から気をつけましょうか」

 

「‥‥‥そうだな」

 

同時にため息をつくと三人は本拠地(ホーム)へと帰る。

着く頃にはもう既に日は落ちており、エイナから聞かされた話では既に一日が過ぎている、とのことであった。

また説教をくらうかもしれないのかと思うと気が重いが開けなければ始まらないと胃を決してベルが扉を開ける。

 

「‥‥‥ただいま帰りましたぁー」

 

「あ、三人とも。おかえり!」

 

ベッドに突っ伏していたように見えたヘスティアは三人の存在に気づくと元気いっぱいの様子でおかえりと言い放つ。

げっそりとした感じは隠せないもので、心配させていたと分かる。

 

「遅くなりました」

 

「君たちが無事なら万事オッケーだよ!疲れてるだろう?座った座った!」

 

ヘスティアがベッドから飛び退いて座る場所をくれる。

買い直したソファだけでは三人が座れるスペースはない。

ゴルベーザは鎧を脱いでソファに座り、ジェクトもまたソファに座る。

そして成り行きでベルがベッドに座ることになる。

 

「さて、寝っ転がってね」

 

そしてはたまた成り行きでステイタスを更新することになった。

寝転がるベルの背中にヘスティアが乗り、露出した背中に神の血(イコル)を垂らす。

 

 

 

 

 

 

 

 




ジェクトソードは溶けません。
ゴルベーザさんの魔法の威力はベル君よりかなり高いです。
でもホーリーの威力は黒魔法と遜色ありません。
黒魔法は修行すれば使えるようになるのでゴルベーザさんと同じ高みに行ける日もあるかもしれませんね。
シャントット先生並は厳しいですけど。


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特訓

短いですな。
ベル君は一週間でかなり黒魔法を覚えています。
【メテオ】とか【アルテマ】は覚えてませんけどね。


朝の廃教会裏にて白髪の少年の吹っ飛ぶ姿が見える。

血反吐を吐きながら立ち上がる少年は周りに魔力を滾らせて向かい合っている男を見ている。

 

「まだやるのか?ベル」

 

「はい。もう回復しました」

 

体力と傷は一瞬にして【ケアルガ】を使って癒えている。

次なる魔法を準備してベルはジェクトを見る。

 

「褒められたもんじゃねぇぞ?」

 

ジェクトは頭をかいて複雑そうな顔で言う。

 

【魔道士】の修行は座学や魔法を使う訓練だけではなく実戦を経験しなければならない。

ベルが目指すのは【赤魔道士】で杖以外にも武器を扱い、尚且つ【白魔法】や【黒魔法】を扱う役職だ。

そのためにベルはジェクトに稽古をつけてもらえるように頼み事をしてゴルベーザからも頼まれた。

それを引き受けて、いじめに近いこの状況になっている。

 

「大丈夫です」

 

はぁ、とジェクトはため息をついて諦めたようにベルを見る。

とことんまで付き合ってもらえる、そう思ってベルは魔力を高める。

息を吸い込むと、バチバチと弾ける音が手から聞こえてくる。

 

「【ファイガ】!」

 

大火球がベルの手から射出される。

火柱が立つことすら待たなかった。

 

「ふぅッ」

 

再び息を吸い込んで意識を集中させる。

同時詠唱という高尚なことも下位魔法ならば可能。

ゴルベーザならば高位でも可能であるがベルならそこまでが限界。

頭の中で想像し、魔力と紐付けて奇跡のような【魔法】を行使する。

 

「【フレア】!」

 

最後の締めにと指を鳴らす。

【ヘイスト】も込みのベルの移動能力はLv1にはあるまじき、3にすら至るものである。

大抵の攻撃は避けられる、そんな自信がありそれでも慢心はしていなかった。

【ジェクトブロック】の音はしない。

相変わらずの化け物さだと鋭い目を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

「‥‥‥ハッ!」

 

いつの間に気を失っていたのだろうか。

魔石灯が照らす地下はどれだけ眠っていたか、空も時計も見えないので分からない。

布団に押し込められた自分が見える限りではヘスティアは見えず、ジェクトがソファに座りゴルベーザが腕を組んでこちらを見ている。

 

「起きたか」

 

これまでも聞いたことのあるゴルベーザの声とは違った。

昔に調子に乗って魔法を乱射し、【精神枯渇】に陥った上に死にかけた時に助けに来てくれた時に似ている。

怒っているように聞こえるその声は身を震わせるには十分なものであった。

 

「ジェ、ジェクトさ」

 

「諦めた方がいいぞ」

 

どこかジェクトの肩が狭く見える気がする。

ゴゴゴ、という文字が浮き上がるほどに怒っているのが感じ取れる。

 

「さて、まずは」

 

説教、というよりは指摘と注意であろう。

淡々と連なる言葉は心に突き刺さって、ただゴルベーザの話を聞くだけが精一杯になっている。

 

「大丈夫かー?」

 

「久しぶりで、結構効きましたぁ」

 

何年ぶりかのゴルベーザの説教で少し衰弱しているベルにジェクトが話しかける。

胸を押さえて蹲っているベルを心配してのことである。

 

「もう行く時間だ」

 

もうギルドに行く時間らしい。

ついて行く、そう言おうと思ったが必要ないとゴルベーザさんに一蹴された。

ギルドへの用は先日のドロップアイテムや魔石のヴァリスの回収だ。

ゴルベーザさんとジェクトさんで事足りるもののため、僕には上層に軽く潜ってこい。

というのが二人の提案で僕はそれを呑んだ。

 

「ミアハんとこは行くのか?」

 

【ミアハ・ファミリア】はかつては【ディアンケヒト・ファミリア】に並ぶほどの医療系ファミリアであったが今は団員が一人しかいないファミリアだ。

【ヘスティア・ファミリア】とは零細同士で仲が良く、結構通っている。

ジェクトさんは補充したのか、と確認してくれたのだろう。

バックパックの中を確認して【精神回復薬(マジックポーション)】や【回復薬(ポーション)】がある事を確認する。

 

「今はまだ行く必要はありませんね」

 

「そうか。なら行ってこい」

 

「はい!」

 

解体用のナイフにバックパック、持ち物を確認して二人と別れる。

目指す先はバベル、その下にあるダンジョンの上層だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「元気なもんだ」

 

走り去っていったベルを見てジェクトが呟く。

素直な彼は見ていて危なっかしくて放っておけない。

それと同時に保護欲が湧いてくるのだろうか、愛情だろうか、どちらにしても放っておけないのである。

 

「どうしたよ。なんか考え事か?」

 

返事が返ってこない、ゴルベーザにしては珍しいとジェクトは兜で見えない顔を覗く。

 

「いや、他にも誰が来るのかとな」

 

「あー、確かにな」

 

ゴルベーザとジェクト、この二人がここに飛ばされている時点で他の人物もどこかにいる可能性はある。

時間の違いはあるがそれは誤差というものであろう。

なんちゃってカオス勢と元コスモス勢、もう一人が来るならばコスモス勢だろうか。

全員来ても今更不思議に思うこともないがそれはゴメンだ。

 

「来るとしたら誰だろうな」

 

「考えたくないな」

 

常識人ならマシだが大概が癖が強いメンバーだ。

代表的なのはシャントットやケフカだろうか。

他のメンバーが来ても自由気ままにやるだろうし騒動は起きてしかるべしになってしまう。

今でさえ常識人枠のゴルベーザとジェクトだけでも辛いのに、だ。

 

「来てマシなのは、ライトニングの嬢ちゃんかねぇ」

 

「クジャとジタンもまあまあマシだろうか」

 

ライトニングにクジャ、ジタン。

この三人は他に比べるとマシな方といえる。

後、名前を挙げられるのはと朝日の下のメインストリートを歩きながら二人は腕を組む。

 

「後は、クラウドか?」

 

「マーテリア陣営ならば大概はマシか」

 

「シャントットがか?」

 

「あれは例外だろう」

 

マーテリア陣営なら大体の人物がマシといえるというのは的を得ているだろう。

シャントットという例外は置いておくことにする。

 

「来ないように祈っとくか」

 

ジェクトの言葉にゴルベーザは頷く。

そんな他愛もない会話をしていたおかげかもうギルドが見えてきた。

朝だからかそんなに人は見えない。

いるとしたら中だろう、空いているように見える。

本拠地とは違って立て付けのいい両開きのドアを開けて中に入ると二人の姿を認めたギルド職員の肩が跳ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




サラッとタグに追加してるよな?
お姉さんキャラが足りてないんだよなぁー!
次は一気に飛ばして原作突入させていきましょう。
ベル君には万能サポーターになってもらうからその地盤は整えるぞぉ。


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支援職の戦い方

支援職と書いて魔法職と読む。


鎧に身を包むことはなく、杖も持つことはない。

あるのは腰に差した支給品のナイフとバックパックのみ。

纏っている衣類にはなんの付加効果もない。

ただの私服であるから、正気を疑われる。

ナイフは戦闘に使わず、解体にのみ使う。

口からは詠唱が出るがそれは【超短文詠唱】と呼ばれるものなのだろう。

否だ。

口から出るのは魔法の名前のみである。

頭の中でイメージを築き、それを元に魔法陣が形成される。

その過程は熟練する度に速度が上がり、ついには魔法陣すら形成されなくなる。

さすがに召喚魔法や規模の大きい魔法は形成されることはあるが、その程度なので問題はない。

そもそも基本の派生系だけでも絶大な威力が約束されているので使う機会が無いと言った方が正しいだろうか。

 

僕はゴルベーザさんの最強魔法である【メテオ】を見たことがないし実際に【黒竜】を召喚しての戦いは、何かモンスターが可哀想になった。

ジェクトさんの本気もゴルベーザさんの本気も正直計り知れないし、僕では登り詰められる気がしない。

レベル9で収まっているだけマシ、と言えると思う。

 

ゴルベーザさんは剣を使っていたのを見たことがある。

ジェクトさんは言わずもがな肉体派だ。

ならば僕も徒手で戦わなければならない時が来るのだろうかと少し考えてみた。

 

ゴルベーザさんの語った最悪で最凶の魔道士。

彼女に至るのならばどれだけの時が必要かなんて分からない。

ゴルベーザさんは天賦の才と黒魔法を専門にするからこその実力。

ジェクトさんは努力で【ブリッツボール】を極め、その上で世界を救うために【ガード】となった。

ジェクト様は天才だ、その言葉は照れ隠しなのだろうが事実でもあるのだと思う。

 

ゴブリン程度ならば素手でも殺せる。

仮にも最高クラスの魔道士に育ててもらった身、修行の時に身体の動かし方も分かっている。

一番初めに剣を握った時には振ることさえできなかったが今も修行中である。

まだ実戦に使えるレベルではないので持ってきたのは精神回復特効薬(マジックポーション)のみとなっている。

回復薬(ポーション)はコスパが悪すぎるので却下だ。

 

「うん、いける」

 

魔石を取り除くとモンスターは灰となる。

たとえ絶命したとしても体の内に魔石があれば身体は灰とならない。

これを利用すればモンスターを食べてダンジョンに滞在できるのではと一瞬思ったがそれは淡い夢であった。

 

犬の頭に二足で立つのは【コボルト】というモンスターだ。

第二層から出現し、その強さはゴブリン以上ではある。

しかしながらダンジョンに出現する2体目のモンスターということでこのモンスターにも苦戦はしなかった。

群れに襲われれば普通ならば苦戦、または死ぬこともあるだろうがそれも問題はなかった。

危ない時には魔法も使う。

魔法は別に縛っていない、むしろ【魔力】のアビリティが育つのでMPが尽きない程度に使っていきたい。

一体の時には必要なく、頭を砕いてやれば簡単に絶命した。

モンスターに対しても人に対しても、ゴルベーザさんやジェクトさんの教えはタメになる。

 

「‥‥‥よし、次」

 

感覚を限界まで研ぎ澄ます。

常に【プロテス】を張っているとはいえ、この警戒を怠れば死ぬ可能性は十二分にあるのだ。

例えば【怪物の宴(モンスターパーティ)】や【異常事態(イレギュラー)】である。

【リフレク】や【シェル】は物理が主体のモンスターにはほとんど意味をなさない。

物理攻撃を完全に防げないと、レベル2の攻撃はまず耐えられないだろう。

コボルトやゴブリンの攻撃ならばほぼ無効であったが、手加減されたジェクトの一撃で死にかけた。

腕が持っていかれ、足が潰れかけた。

形を保っているだけでもありがたいことだと身に染みたのである。

 

もう五階層に入る。

エイナさんからはステイタスを見てもらって許可を貰った。

二人に守ってもらったとはいえ、五十階層に至ったことも加味されて五階層までならとなんとか許可をもらった。

トカゲ型の【ダンジョン・リザード】やカエル型の【フロッグ・シューター】も、倒すことはできた。

五階層からはモンスターの出現頻度が上がる。

これまではゴブリンが一匹、コボルトが一匹、その程度であったがこの階層からは簡単に群れを作って襲ってくる。

 

「【サンダラ】!」

 

基本魔法を覚えれば、派生を覚えるのは意外に簡単なことだ。

ゴルベーザさんに教わって十年、コツはもう知っている。

群れを殺すのに雷は非常に効果的だ。

眩い光と落ちる雷の音。

特徴的なその音は確実に一匹を灰にし、周りのモンスターの目を引く。

頭を砕き、連続してモンスターを殺す。

突き出された拳はそのためにある。

 

「よし」

 

そう呟いて僕は魔石を拾い集める。

ドロップアイテムも拾い集める。

五階層に至った直後の最初の戦闘は快勝であったとガッツポーズをしたくなった。

したくなったのだが、なんだか階層に違和感を感じる。

 

「‥‥‥【ヘイスト】」

 

そして【プロテス】を自分にかけ直す。

魔力を使う存在として、魔石の魔力を感じられないのは恥だ。

特にこの世界では最強と思えるゴルベーザさんの弟子である僕が感じられない、なんてことはあってはいけない。

何か来た、何が来る。

この階層にいてはいけない強大な存在がそこにいる。

そんなことが分かった。

時間の進みが格段に早くなった足を動かして向かうことにする。

 

「見たことあるなぁ」

 

ジェクトさんやゴルベーザさんに幾度となく倒されたのを見たモンスターがそこにいる。

牛頭の怪物、鍛え上げられた体。

丸太のような腕から繰り出される一撃は僕の体を潰すだろう。

 

「【ブリンク】」

 

【ミノタウロス】は鼻息を荒くさせて僕の方を見ている。

品定めのような視線であった。

 

『ヴモォォォォッッ!!』

 

「ッッ!?」

 

目の前のミノタウロスはジェクトさんやゴルベーザさんに勝るくらいの化け物ではない。

咆哮によって動きを止められることはなく、興奮した牛の突進など避けるには容易い。

攻撃の予知も簡単で、避けられる。

 

「【トード】」

 

ミノタウロスの下に魔法陣が出現する。

魔法陣が出現したならば発動は瞬きするよりも早い。

ポフッ、そんな戦闘に似合わない緑色の煙がミノタウロスを包む。

 

『ゲコっ』

 

「勝った」

 

カエルの鳴き声が聞こえて、勝利を確信する。

【トード】以外の魔法を使うことができず、能力も激減するためだ。

【耐異常】を獲得している上級冒険者に効くかは分からないが切り札になってくれるだろう。

 

 

 




上級冒険者にまで効くとなればヌルゲーが過ぎるのでどうしたら良いだろうか。
モンスターには効くでいいと思う、けど階層主には効かないということで。
【スロウ】は効くということにしよう。
FF4や10、13でも効くか効かないかはあるけどだいたい効くからいいよね。
能力下降系は効くということにしよう。

ライトニングさんは既にオラリオにいます。
今のところはファミリアをヘスティア・ファミリア以外出してないのでこれから出します。
ゴルベーザさんは過去にオラリオ以外にいた。
ジェクトさんは現在にオラリオに来た。
ならばライトニングさんはいつ、どこに来たのでしょう?


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金色の風

ラッキー、と灰の中からドロップアイテムと魔石を拾う。

カエルにしたモンスターからドロップアイテムが取れるのにはいささか疑問はあるけれど都合がいいからどうでもいいということにする。

それにミノタウロスは僕の膝くらいのサイズのカエルになったはずなのだが、それにしては灰の量が多い。

すぐに霧散するので気にすることでもないが。

 

「魔法の調子は良好。あと覚えられるのは召喚‥‥‥いや、僕じゃまだ無理だ」

 

黒魔法は大抵覚えて、ミノタウロスに効いたことからも練度は上がっている。

初級からラ、ガ、ジャと順に上がっていく基本魔法は白魔法ならジャまで、黒魔法ならガまでは習得している。

まだまだ黒魔法は火力不足、足止めの妨害程度に考えた方がいいかもしれないと思い始めた。

上層なら一撃、下層や深層では【ホーリー】でも一撃とはいかなかった。

そもそもの魔力の練度が足りていないとは分かっているが思ったように鍛えられていない。

早くに昇華(ランクアップ)をしなければならないのだろう。

既にステイタスの数値は限界に近い。

中層ならば踏破できる程度の実力、というのがゴルベーザさんの僕への評価だ。

ランクアップならば中層の階層主(モンスターレックス)であるゴライアスとソロで戦い、倒せばできるだろう。

インファントドラゴンだとまだ無理だと思う。

 

ならば召喚獣の試練を超えればいい、そんなことを思うが彼らの試練は想像を絶する。

一番初めに行ったのは幻獣の王の妻、アスラとの戦いであった。

まあ、惨敗である。

いや、ジェクトさんやゴルベーザさんに次ぐ強さだったと思う。

しかもあの上に幻獣の神までいると聞いていつになったら越えられるのだろうを頭を抱えそうになった。

 

「‥‥‥帰ろ」

 

異常事態(イレギュラー)の報告もしなくてはならない。

ランクアップのことを考えたら連想ゲームのように思い出したことによって気分が沈む。

ため息を我慢して、肩を落としてその場を去ろうとする。

 

「‥‥‥あの」

 

後ろから女性の声が聞こえた。

 

「はい?」

 

首を傾げて、後ろを振り返る。

金髪で金眼、軽鎧にレイピアの組み合わせ。

どんな用なのだろうを様子を伺う。

 

「この辺りにミノタウロスが来ませんでしたか?」

 

ああ、と話しかけた意図を理解する。

逃がしたミノタウロスを追いかけてここまで来たのだろう。

 

「一体は僕が倒しましたけど」

 

真実をそのまま話す。

証拠にとバックパックにしまったミノタウロスの魔石とドロップアイテムを見せる。

流石に見せられると信じざるを得なくなったのだろう。

 

「ありがとうございます」

 

感謝の言葉を述べてくれる。

そのすぐ後に謝罪の言葉が飛んできて、返答には特に迷惑に思っていないことを伝えて、名前を聞いた。

アイズ・ヴァレンシュタイン、その名前を聞いてとある二つ名を思い出した。

 

「ベル・クラネルです。では、さようなら」

 

【剣姫】という二つ名である。

【ロキ・ファミリア】の幹部にして第一級冒険者だったはずだ。

【閃光】に次ぐオラリオにおける強者に数えられる剣士だ。

五十階層で会っていたかと言うとあまり覚えはない。

まあ、もう会う機会はないだろう。

そんな感じに【テレポ】を使用してダンジョンの外に転移した。

 

「あらら、もう夕方だ」

 

んー、と大きく伸びをする。

市壁に隠れているが夕日は確実にオラリオを照らしている。

冒険を終えた冒険者達がギルドに行く頃合いの時間だから、往来には武器を携えた、鎧を着込んだ様々な種族の人間が見えた。

お酒を飲みに行く人、真っ直ぐに家に帰る人、仕事を終えた一般人。

昼や朝と比べて人の多いこの時間からがオラリオが騒がしくなる時間帯である。

 

「エイナさんも忙しいかな」

 

エイナさんはまだギルドにいるだろう。

ギルド職員としての仕事は中々にブラックだと聞く。

エイナさんの同僚のミィシャさん、という人が愚痴っていた。

そんな人にまた苦労を運びに行く。

 

異常事態(イレギュラー)は仕方ないよね)

 

そう言い聞かせてギルドに向かう。

特に急ぎの用事もない。

なので歩いて向かうことにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

ギルドに着いて、エイナさんに報告をする。

ゴルベーザさんとジェクトさんは特例らしくてアドバイザーはついていないが、僕には普通についてくれた。

ファミリアの担当でもあるエイナさんが僕の担当になってくれている。

そんな僕の義務は毎日ダンジョン探索を終えたらエイナさんの元に行って報告をすること。

だから、五階層まで降りたその時の異常事態(イレギュラー)について話した。

すると、ギルドで内密な話をする時に使われる個室に連れ込まれてしまった。

 

「で、本当にミノタウロスと交戦したのね?」

 

「はい。何とか勝てました」

 

ミノタウロスとの交戦、勝利したのは魔石とドロップアイテムを見せたら信じてくれた。

そしたらその後のことについてこと細かく聞かれる。

異常事態(イレギュラー)については再発防止のために細かい情報収集を行うのは普通のことらしい。

それについての対策を講じて新たに掲示板に貼り、原因となったファミリアや団体に罰則(ペナルティ)を課すこともあるとのことだ。

ギルドも大変なんだなぁ、と他人事のように思って僕の知っていることを話した。

アイズさんから聞いた話をそのまま話しただけであるが。

 

「よし。協力ありがとう、ベル君」

 

「当然のことですから。それで到達階層についてなんですけど‥‥‥」

 

「そのことなら、ゴルベーザ氏やジェクトさんとも話し合ったんだけど、しばらくは今のままね」

 

「そんなぁ〜」

 

ランクアップがさらに遠くなってしまった。

基礎鍛錬を増やさなければならないかと朝にこなすメニューを頭の中で考え始める。

 

「君のために言ってるんだから、ね?」

 

「はーい。じゃあ換金してきますね」

 

「行ってらっしゃい」

 

エイナさんもゴルベーザさんもジェクトさんも死なないでいて欲しい一心で言ってくれているんだろう。

それにまだ冒険する頃合いではないのだろう。

ならば受け入れて基本を鍛えるしかない。

まあ、落ち込むことには変わりないが。

 

「ベル君なら強くなれるでしょうね」

 

後ろからエイナさんの声で鮮明に聞こえた。

振り返るとなにやら考え込んでいる様子のエイナさんが見える。

 

「どうしたの?」

 

「いや!なんでもないです。では、また明日〜!」

 

換金所にむかって走る。

期待されているならば頑張らなければならないだろう。

とは言っても女性を泣かせる男なんて男の風上にも置けないので死なないように、無理をしないで。

ミノタウロスの角と魔石はなかなかにいい値段になってくれた。

防具を買うか武器を買うか、それとも別の何かに使うか。

いや、神様に献上して残りは貯金しよう。

 




ライトニングさんは有名です。
ロキ・ファミリアにもフレイヤ・ファミリアにもいません。
出すところはもう既に決まっているのでお楽しみにしておいて下さいね。
次は酒場回かゴルベーザさんとジェクトさん側視点か。
がんばるゾー!


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酒場

少し書き直しました。



いつもの朝のジェクトさんとの手合わせが終わり、それからダンジョンに向かう。

朝の鍛錬は日常となり、その経験は体に染みついていく。

強くなるための近道である。

まあ、勉強はしなくてはならないが。

だからこそ、ずっとゴルベーザさんからもらった魔法書を持ち歩いているわけだが。

 

しばらくはソロ探索だ。

寂しいなんて言っていられない。

あの二人がいたら、きっと甘えてしまう。

成長なんて夢のまた夢になってしまう。

 

「よしっ」

 

朝のメインストリート。

まだ、人はあまりいない時間帯だ。

気を引き締めて、バベルの方向に向かって歩く。

 

そんな時に、何かが起こるのだ。

魔法を修め、勘が良くなっているベルだからなおさらである。

視線を感じたのだ。

ねっとりとした、不快な視線である。

 

「―――誰?」

 

バベルの方向からだ。

それも天上といってもいいところからである。

誰かは分からないが、気のせいだと思うことにする。

今気にしても意味はないだろう。

 

一応、ゴルベーザさんに報告はするが。

 

「あのぅ」

 

立ち尽くしたのは一瞬。

向いていた方向も変わっていない。

そのまま歩き出そうとしたところに後ろから声がかかった。

女性の声である。

 

「はい?」

 

答えるようにして振り返る。

聞いたことはない声だ、知っている人ではないだろう。

 

「なんですか?」

 

「これ落としましたよ?」

 

「え?換金したはず」

 

給仕服を身に纏う女性が差し出したのは小さな魔石。

落としたという彼女の言葉を信じきれないが、受け取ってしまう。

魔石は女性の掌よりも幾分か小さい。

これだけ小さいのなら見逃していても不思議はない。

と納得する。

 

「朝早いんですね」

 

「ええ、まあ。まだまだ未熟なので」

 

そう言って乾いた笑いを見せる。

魔石を拾ってくれたことに感謝を述べ、去ろうとすると情けない音が聞こえた。

主に僕のお腹から、朝は食べてきたはずなのだが。

 

「お腹、減ってるんですか?」

 

「―――らしいですね」

 

目をそらしてそう答えた。

 

「待っててくださいっ」

 

すると女性が働いていると思われる酒場に入っていき数分。

待っててくださいと言っていたので待っていた。

 

「これ、差し上げます」

 

帰ってきた女性が持っていたのはお弁当箱らしいもの。

 

「いいんですか?」

 

「はいっ。その代わり、今夜は是非私がお世話になっているお店で夕食を召し上がってくださいね」

 

上目遣いで女性は言う。

商売上手な人だと、納得した。

断れるはずもない、不思議と引き込まれる感じがしたのだ。

 

「分かりました。今夜お邪魔します」

 

「お待ちしてますね!」

 

大きい酒場のようだ、たまの贅沢にはちょうどいいだろう。

ゴルベーザさんやジェクトさん、神様も連れていくとしよう。

うん、そう決めた。

【豊饒の女主人】という店名らしい。

名前を流し見し、女性と別れてダンジョンに向かう。

 

もはや、上層で敵などいなかった。

いるとしても十階層くらいにいるモンスターであって三階層程度のモンスター程度なら楽勝である。

ナイフはあくまで解体用。

戦闘は下位魔法で簡単にけりがつく。

割と素手でも戦えはする、補助魔法は必要だが。

 

精神力も育ってきただろうか。

下位魔法ばかり使っているとあまり実感がない。

 

「―――ケアル」

 

完全回復である。

十年近く、白魔法をゴルベーザさんから教わり研鑽してきたとはいえだ。

怪我、疲労含めて完全回復である。

精神力が育った結果だと信じたい。

 

もっと降りたいとそう強く思う。

しかし、それをやれば怒られることは必至。

それに油断している兔ほど殺されやすい得物はいないだろう。

 

「よし、帰ろう!」

 

何より怖いのは説教である。

 

「おー、これは」

 

「どうでした?」

 

「前と比べたらまだマシかな」

 

 

 

ベル・クラネル

 

Lv 1

 

「力」 H 180

 

「耐久」 G 242

 

「器用」 G 294

 

「敏捷」 E 592

 

「魔力」 B 790

 

魔法

 

【白魔法】 自由詠唱。継承可能。

 

【黒魔法】 自由詠唱。継承可能。

 

スキル

 

【まほうぜんたいか】 魔法の対象を範囲か単体か選べるようになる。

 

【魔道憧憬】早熟する。憧れの丈ほど効果上昇。他からの干渉を阻害。

 

 

 

 

確かにゴルベーザさんとジェクトさんとの強行軍の際に上がった能力値よりはマシだ。

上がり幅はいって20程度、それでも上がり幅は大きいものとなっている。

 

「確かに、マシではありますね」

 

「だろ?」

 

「これでも異常なんでしょうけど」

 

「それはそうだね」

 

ゴルベーザさんが師匠である時点で自分が普通なんていうことはない。

ジェクトさんが先輩な時点で普通の冒険者生活が送れるとは思っていない。

 

「そういえばお二人はどこに?」

 

「どうも知り合いから手紙が来たみたいでね、出かけていったよ。早めに帰ってくるとは言ってたけど」

 

「知り合い?」

 

「うん。二人とも知ってるみたいで驚いてたけど、知ってるかい?」

 

そう聞かれてこれまでの記憶を掘り起こす。

村にいた頃、ゴルベーザさんに英雄譚をねだった時の話が該当するか、と思った。

子守歌を母親に歌ってもらうように、祖父から英雄譚を朗読してもらうのが幼い僕の楽しみの一つだった。

祖父がいなかったある日、僕はゴルベーザさんにそれをねだったのだ。

 

一つは月が二つある世界の話、もう一つは神によって異なる世界から召喚された者たちが二つの陣営に分かれて戦争をする話。

 

どちらも実際に経験したことのように話していた。

そのどちらかの知り合い、ジェクトさんも知っているということは後者だと思われる。

事細かに覚えている物語の中でジェクトさんらしい登場人物もいた。

ならば、というわけである。

 

「という感じですかね」

 

僕が覚えている限りではこんな情報しかない。

 

「うーん、まあ本人たちは心配ないって言ってたけど」

 

「心配ですよね」

 

彼らの知り合いにはいい人も多いが同じように悪い人も多い。

それに無理をする方だ。

とんでもなく強いから心配するなんておこがましいなんて思ってしまうけれど仕方ないだろう。

もう、僕は彼らを家族だと思っている。

 

そんな時だ、あることを思いつく。

 

「あ、ゴルベーザさんとジェクトさんと同じレベルの冒険者っているんですか?」

 

「え?ああ!そういうことか」

 

あの二人のレベルは9。

知り合いで、ゴルベーザさんのお話の中に登場するならそれくらいだと思う。

前提があっているなら、であるが。

 

「でもそれなら有名なはずだよね」

 

「まあ、僕でも知っているような名前だとは思いますねぇ」

 

「「いなくね?」」

 

まあ、考えてみれば当たり前である。

レベル9などいれば冒険者の中で一番有名だろう。

それに、あの二人もレベル9であることはギルドが隠しているようなのだ。

隠されていることは想像に易いことであった。

 

「‥‥‥うーん、迷宮入りかな?」

 

「僕達だと答えには辿り着けないみたいですねぇ。帰ってきてから聞いてみます?」

 

「うーん、そうしよっか」

 

結局、この答えに帰結した。

こうして考えてみると僕はゴルベーザさんのことをあまり知らない。

幼い頃から一緒にいたのになぁ、不甲斐なく思う。

 

「あ、神様」

 

「ん、なんだい?」

 

二人がどこに行ったのか、何故聞いたかを思い出す。

 

「外食に行こうと思いまして。朝に酒場の店員さんから誘われてですね‥‥‥」

 

朝のことを話して、ヘスティア様に説明をする。

【豊饒の女主人】という酒場の店員に誘われたこと。

見る限り大きそうなお店だったのでハズレではないだろうとそれを受けてみんなを連れていこうと思ったこと。

 

「いいね!二人が帰ってきたらすぐ行こう!」

 

「ありがとうございます」

 

やったー!と子供のようにはしゃぐヘスティア様。

うん、ものすごく可愛い。

 

「で、その店員君って女の子かい?」

 

「え?そうですけど」

 

「ふーん」

 

少し雰囲気が怖いものへと変わり、ふーんという言葉がとんでもなく怖く感じる。

 

「ど、どうしました?」

 

「いや?何でもないよ。二人が帰ってくるの待とうか」

 

笑顔である。

家計簿を取り出してきて記入しているようであった。

 

 

 

 




最近全然書いてねぇと思って焦りました。
頑張ります。


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お酒

ジェクトさんとゴルベーザさん。

二人の帰還を待って少し経ったあと帰ってきた。

何だか時間が過ぎるのが遅く感じていたがとにかく、帰ってきたのだ。

二人の顔は晴れやかで知り合いなる人との話は有意義だったんだと思う。

それに安堵し、疑問をぶつけた。

神様と一緒に考えても考えても答えが出なかった事柄である。

気にしない方が難しいだろう。

ジェクトさんもゴルベーザさんも、この世界に知り合いはいないと半ば諦めていた。

だからジェクトさんに会えたのは奇跡に近い、それにさらにもう一人いると言われたら喜ばしい。

騙されてないかな、なんて思うが二人が騙されるタマではないことは知っている。

 

ということで、知り合いについて聞いてみた。

誰なのだろう、どんな人なんだろう、憧れの人の知り合いなのだ。

ワクワクして二人に聞いた。

 

二人は渋ることもなく知り合いについて話してくれる。

特に隠すことでもない、とゴルベーザさんが言っていた。

 

閃光の名はオラリオに入れば轟いてくる名前だろう。

剣の技と魔法、全てが完璧らしい。

二つ名は【閃光】、レベル5の【アストレア・ファミリア】に所属する冒険者。

名前は二つ名が示す通りの【ライトニング】。

 

━━━まあ、知ってどうするというわけでもないか。

 

ありがとうございますと、礼を言う。

当たり前のことだ。

やってもらったことに礼を言う、それは当たり前のことだ。

 

そして、二人に朝の酒場への勧誘について話した。

【豊饒の女主人】という酒場に誘われ、ヘスティア様に話し、こうして連れていくために2人を待っていた。

そんなに遅い時間でもなし、まだご飯は食べていないだろう。

 

「酒場か。たまには外食もいい」

 

「だな。外食なんて久々だ」

 

「うんうん!よし行こうか!」

 

「ですね!」

 

そういうことになった。

 

のだが。

まあ何もない。

全身を黒い甲冑に包んだ男と、筋骨隆々の半裸の男、あとは僕とヘスティア様。

そんな四人組、大体は前者のゴルベーザさんとジェクトさんだが、まあからんでくるはずがないだろう。

どこかの、反社会勢力ひしめく国みたいに絡んでくることは無いだろう、と思いたい。

何もなかったのは拍子抜け、とは絶対に思っていない。

 

「ここか」

 

「ここですね」

 

【豊饒の女主人】という看板がデカデカと掲げられている。

明るい店内からは両開きの扉が閉められているのにも関わらず、騒ぎ声が聞こえてきている。

いい感じだろう、当たりだろう。

そう思って扉を開けると、店員さんがいた。

 

「いらっしゃいませー!あ、今朝の冒険者さんじゃないですか」

 

「あ、こんばんは。来ましたよ」

 

いきなり、というか急に目の前にいたからというか。

あ、と言葉を漏らしてしまう。

 

「はい。そちらの方々は、ファミリアの方々で?」

 

「はい。四人です」

 

「かしこまりました。ご案内しまーす!」

 

ホッと胸をなでおろし、シルさんについて行くことになる。

その先はお店の端っこ、カウンターの端っこであった。

何だか視線が痛かったがまあ当然だと納得だ。

世界広しのオラリオとはいえ、こんな集団がワラワラいたら怖い。

飲食店といえばだが、ゴルベーザさんが外で兜を取っているところを見た事がない。

そして大体の場面で兜を外さず、ご飯の時にもそれは同じことだ。

どうやって食べているのだろうかと何となく気になっていた。

 

「いらっしゃい!アンタらがシルのお客だね?これまた、個性的だね」

 

「自覚はしている」

 

「だろうね。そんな甲冑着てて飯食えるのかい?」

 

「問題はない」

 

「それならいいけどさ。で、坊主だね?シルから聞いてるよ!大食漢なんだってね?」

 

ゴルベーザさんに話が振られ、その後。

何故か話が僕の方に来た。

しかも、大食漢とかないこと吹き込まれていたことが発覚する。

犯人は、女将さんの言う通りシルさんだろう。

まあ食べる量は普通くらいだ、少ないということはない。

しかし、食べる量が特別多いということもない。

 

「たっぷり食べていっておくれよ!」

 

「‥‥‥あー、はい」

 

まあ、美味しいだろうし食べられるだけ食べて帰るとしよう。

そう思って言葉を否定はしなかった。

 

「しっかり、堪能しますね」

 

「女神様とおっさんもね!シル!サボってんじゃないよ!」

 

ぱらっと、メニューが目の前に落とされた。

 

「大食漢とは、初耳だな」

 

「違いますからね‥‥!」

 

「だよねぇ?ベル君が大食漢とはとても、これ美味しそうだね」

 

「ベルが大食漢かどーか、なんていいじゃねぇか。それよりメニューよメニュー。ヘスティア、見せてくれ」

 

「今はボクが見てますぅ」

 

「だから見せてくれって言ってんだがなぁ」

 

「そっちにもないのかい?」

 

「んあ?お、あった」

 

「あるんじゃないか」

 

「各々、好きなものを頼むとしよう」

 

「ですね。神様、少し見せてくださいな」

 

「いいよー」

 

四人でメニューを見て、好きなものを各々頼むこととなる。

とりあえずということでなにか一品とドリンク、という形になった。

ちなみにお酒を頼んだのはヘスティア様だけである。

ジェクトさんは頼みそうだと思ったのだが。

聞くのも無粋かと思い、近くにいる店員さんを呼ぶ。

薄緑色の髪のエルフさんが来た。

 

「はい。ん?あなた方は」

 

「リュー・リオン。【アストレア・ファミリア】の、昼間に見たな」

 

「そうだった。嬢ちゃんはここで働いてるのか」

 

「ええ、少し前にお世話になって、そのお礼に。それでご注文は?」

 

「おお、すまん」

 

リュー・リオン、と呼ばれた人に注文を通した。

リューといえば、二つ名を持ち、ものっそい有名な人という記憶がある。

【アストレア・ファミリア】の【疾風】。

ライトニングさんと一緒のファミリアだから、少しの顔見知りなのだろうか。

 

それはそうとして、料理が楽しみだ。

 

「たっぷり食べておくれよ!」

 

料理が来たのはすぐだった。

20か15か、すぐに料理は運ばれてきた。

 

「早いね」

 

「それが売りだからね!よし、食べな!」

 

と、目の前に並べられる。

頼んだ覚えがないものも見えたが、まあいいだろう。

サービスってやつだろうか。

 

「‥‥‥」

 

「女将さんよ。酒って、俺頼んだか?」

 

「ん?飲まないのかい?」

 

「俺は、飲まねぇのよ。親友との約束でな、ゴルベーザはどうだ?」

 

「‥‥‥分からん。飲んでみるか」

 

「じゃあボクが貰うね!」

 

「楽しんでってくれよ」

 

女将さんが奥に引っ込んでいき、少し遅めの夕飯と洒落込むことになる。

 

「おぉ、美味しいね」

 

「量も多いですし、いいですねこれ」

 

「‥‥‥」

 

「ゴルベーザさん?」

 

「‥‥‥苦いな」

 

「苦手です?」

 

「ああ」

 

「僕が飲みましょうか?」

 

「‥‥‥頼む」

 

エールを飲めないゴルベーザさん。

何だか、可愛い。

 

「飲めなかったか!」

 

「からかわないでくれ」

 

表情は伺えないが、相当苦しい表情なのだろう。

 

「弱点なんてないと思ってたけど」

 

「‥‥‥頼む」

 

「意外な所もあるものだねぇ!」

 

「‥‥‥」

 

「ちょっ、神様もジェクトさんもやめた方が」

 

ゴルベーザさんをからかう二人、黙り込むゴルベーザさん。

ゴルベーザさんは優しいが、そこまでからかうとメテオが飛んでくるかもしれない。

怒ったところなんて見たことない、だからこそ怒ったらとてつもなく怖いのだ。

 

「とうっ!」

 

「ごぼぼ」

 

ヘスティア様の口にエールを注ぎ込む。

 

「【ブリザド】。ハンマー!」

 

「いてっ」

 

ジェクトさんには氷で小さい槌を作り、頭にぶつける。

 

「ダメですよ」

 

と、こんな感じの食事風景である。

意外に思ったのが、ゴルベーザさんがいじられてたこと。

止めてたけど途中から面倒になってきてしまった。

 

そんな折、不自然に空いているテーブルが目に入る。

あのスペースはなんなのだろうと思ったところ、両開きの扉が空いた。

 

 



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錯乱

お久しぶりです。
これからもとんでもなく不定期投稿ですがよろしくお願いします。
考えてみるとこれまでベル君強すぎたなぁと思いました(小並感)
白魔法に関しては達人のままですがそれ以外はポンのコツです。
レビテトだけは割と使えます。



ゴルベーザの使う魔法と恩恵によってもたらされる魔法は違う。

冒険者にとっての魔法の認識は【神秘】や【奇跡】になる。

自らの半生と神の力によって授けられる唯一無二の魔法はその者にとって宝にも呪いにもなる。

故に【神秘】か【奇跡】だ。

対して【黒魔法】や【白魔法】は精神力によってこの世の神秘や物理法則をねじ曲げてイメージを具現化するという点では恩恵と大差ない。

しかし【神秘】や【奇跡】の類ではなく【学問】や【技術】に類される。

違いとしては学問体系として習得や習熟に才能の差こそあれど確実に確立されていることのみだ。

そこが大きな隔たりとなっている訳だが。

学問として体系化されているものもありはするがそれら全て、ゴルベーザに比肩するものではないだろう。

 

かのハイエルフには友人が多くいる。

今なお現存している【アストレア・ファミリア】とも密接ではないにしろ協力関係を築いている。

その中でゴルベーザと同じ魔法を扱うのが【閃光】だ。

しかし彼女の魔法は【神秘】の類を出ていなかった。

その理由は彼女自身の力の出処になる。

【ファルシ】にルシとして選ばれて力を与えられ【創造神ブーニベルゼ】に見初められて女神として育てられ。

戦闘技術と身体能力はほぼほぼ自前だが、魔力などの神秘は彼女自身で得たものではない。

 

「……そうか」

 

「用はそれだけか?」

 

「ああ。どうしても、知りたくてな」

 

オラリオの一角、リヴェリアの懇意にしているカフェのテラス席。

リヴェリアの向かいに座るのは【聖府軍野戦軍装】の姿のライトニングだ。

 

「あの二人とはあまり接点がない。能力くらいしかわかることはないな」

 

次元喰いと呼ばれる化け物を退治した後。

あの世界を安定させるために闘争を続けていたが、その時に戦ったことがある。

【こくりゅう】や豊富な魔法、見た目の黒鎧や体格通りに近接戦闘も可能。

威力も速度も、セシルの論評通りの強さであった。

気が合いそうである。

ジェクトに関してはとんでもない。

セフィロスは技術面、シャントットが魔力においての頂点ならばジェクトもまた頂点の位にいる。

クラウドやティーダはよく倒せたものだ。

 

「そうか…そうか……」

 

「そう落ち込むな。仲介程度ならできる」

 

「本当か!」

 

萎れた顔が一気に華やぐ。

普段は泰然自若と母親のような包容力を持っている彼女だが、自身の興味のある分野に関してはこんな感じだ。

知的探究心というものだろう。

 

「本拠も知っている。……そうだな、今から行くか。時間はあるな?」

 

「ムッ!?今からか!?」

 

「どういう反応だ…?」

 

「行く!行くぞ!メモは……ある!」

 

分かりやすくテンションが上がっている。

……正直、かわいいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

種類は使える。

しかし、練度も威力も何もかもが足りない。

 

「いった…」

 

頭が掻き回されるような感覚だ。

もう慣れた感覚だが精神疲弊(マインドダウン)の症状が出てきている。

時空魔法の鍛錬に、青魔法の土台作りに。

 

「ふー…」

 

鼻血が垂れている。

だがまあ、やってやれない事はない。

 

「【グラビデ】」

 

範囲が狭い。

ゴブリンの足を拘束出来る程度か。

 

「やっぱりゴルベーザさんみたいには……」

 

オラリオの魔導士達は基本杖を使っている。

魔力の制御はもちろん、魔法の威力や効果の増加が期待できる。

魔導具が取り付けられるのもいいところだと言えるだろう。

対してゴルベーザさんは何も使わず、簡単に大規模な魔法を使いこなしている。

過去に見たことのある【メテオ】という魔法はとんでもないものだった。

魔法について知らなかったあの頃でも、魅入ってしまった。

とんでもない魔力と練度、それのみだ。

 

「【レビテト】」

 

これなら簡単にできる。

浮かせるのならばまだ簡単だ。

【ジェネシスロック】という技がある。

岩を操って敵を攻撃する技だ、端的に言って。

 

「よし!」

 

そういえばゴルベーザさんは筋骨隆々であった。

鍛えればなにか変わるかもしれない。

 

「がんば……」

 

「……ゴルベーザはいるか?」

 

「あー、えっと。お出かけ中です」

 

「…そうか」

 

祖父から筋トレは脱いで行うものだと教えこまれた。

故に一念発起と共にシャツを脱ぎ去ろうとした。

脱ぎ去ろうとしたのだが、なんか女の人がいた。

桃髪の、大人の女性。

美人さんだぁ。

 

「何をやろうとしていた、かは聞かないでおこう」

 

ものすごく気まずそうだ。

なんでかは分からないがなんかすごい勘違いをされていそう。

正さねば!

 

「筋トレです!!身体を鍛えようと!!」

 

「それならば服を脱ぐ必要はない。いや、何も問題はない。このことは口外はしないからな。安心しろ」

 

今度は生暖かい目になっている!?

どうして!?なんで!?

 

「待ってください!!違うんです!!そういえばあなたはどなたですか!!」

 

「……あ。忘れていたな。ライトニングだ。【アストレア・ファミリア】に所属している。ここにはゴルベーザに会いに来たが、いないんだな」

 

「ライトニングさん!?あの【閃光】ですか!?それでゴルベーザさんに用って…」

 

「友人が知りたがっていることがあってな」

 

「へぇ…。ゴルベーザさんにってことは魔法ってことですか?」

 

「ああ。あいつの使う魔法は希少だからな。それについて勉強したいと……」

 

ゴルベーザさんといえば、魔法だ。

あの人は魔道士で教えるのも非常に上手い。

弟がいると言っていたが、羨ましいものだ。

 

「分かりました!僕も魔法はたしなんでいるので助けになれるかもしれません!」

 

「そうだったな」

 

ライトニングさんは何かを思い出したように目を丸くさせる。

 

「教会の中で待たせている。任せていいか?」

 

「はい!できる限りならば!」

 

「フフッ。頼んだ」

 

フンス、と鼻から息を吐く。

魔法については5年くらい勉強しているのだ。

ゴルベーザさんには及ばないまでも知識は自信がある。

 

「リヴェリア」

 

「へ?」

 

僕はライトニングさんの言葉に少し固まった。

リヴェリアといえば?

【ロキ・ファミリア】の副団長で【九魔姫】の二つ名の?

確実に僕より魔法の知識あるくね?

 

「む?連れてきてくれたか」

 

「ああ」

 

「それにしてもボロボロだな…風情はあるが集中はできなさそうだ。少し場所を移さないか?」

 

「それがいいな。久々に【ロキ・ファミリア】の本拠にでも……。ベル?」

 

「ん、教師はその少年か?ゴルベーザと共にいた少年だな。……どうした?」

 

「あばばばば……」

 

僕が?【九魔姫】に?魔法を教える?

無理だ。確実に、当たり前に、練度的に。

 

「私は大丈夫だっただろう…?」

 

「ま、まあ落ち着くまで待とう」

 

「アバーッ!?」

 

脳がショートしたような感覚だ。

新感覚とでも言うのだろうか。

……爆発した。

 

「どうして!?」

 

「……何なんだこれは」

 

 

 

 




次はライトニングさんとリヴェリアさんとの楽しい感じになる予定です。
予定なので本当にそうなるかは分かりません。
白魔法の定義に関してはFF4からです。
ですが重力系と時間系は時空魔法に分類しています。
レビテト、グラビデ、スロウ、ヘイスト、ストップですね。
これらは難易度が高いものとしています。
あとはメテオ。
メテオは作中通りの難易度ですね。
とんでもなく難しいものです。
以上です。どうも。


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繋がり

なんやかんやで。

澄み切った青空の向こうの太陽は全てを平等に照らしている。

頭がショートした少年を担いでいる二人もだ。

あらぬ噂は立つだろうがそこもそれ。

なんやかんやである。

なので場面は【ロキ・ファミリア】の本拠である【黄昏の館】の中のひと部屋。

普段リヴェリアさんが教室に使っている、そんな部屋に移る。

 

「さて…」

 

「えっ……と?」

 

「どうしようか」

 

今もガッタガタに震えている僕とそれを見る女性3人。

何故か一人増えているのは途中でリヴェリアが問答無用で捕まえたからである。

【レフィーヤ・ウィリディス】という山吹色の髪をした少女だ。

【千の妖精】なんてとんでもない二つ名を持っている。

意外に冷静に状況は俯瞰できているのだが。

ライトニングさんとリヴェリアさんはLv6、レフィーヤさんはLv3。

そんな人達にLv1の僕が何かを教えるなんて、と。

そう思うとガッタガタに震えるのも仕方ないように思える。

ちなみにレフィーヤさんは状況が理解できていないようで頭の上に疑問符を浮かべている。

なんかほんと僕なんかのために時間取らせてごめんなさい。

 

「頑張ります」

 

腹を括った。

相手のホームグラウンドに入った時点で逃げられやしないのだ。

そもそも自分の吐いた唾を飲み込むような真似はかっこよくないし。

 

「何からやりましょうか!!」

 

開き直るように、これまでのことをかき消すように。

声を張り上げて黒板の前に立つ。

ちゃっかりゴルベーザさんから貰った魔導書的なやつは持ってきているので万全ではあるのだ。

なので教卓に置いてある。

 

「……本当に僕で大丈夫なんですか?」

 

「問題はない」

 

「では、ゴルベーザさんの受け売りですが始めましょう」

 

「何が始まるんです!?」

 

「楽しいお勉強の時間です!」

 

レフィーヤさんがなんか状況を分かっていないようだが僕も余裕がない。

 

「歴史については後々にゴルベーザさんから詳しいことを教わってください。では……」

 

頭の中で魔法について組み上げていく。

歴史については僕も詳しくはない。

深く踏み込まなくとも魔法は使えるので問題はないだろう。

ならば先ずやるべきは、まあ単純だ。

 

「冒険者の魔法と同じようにこちらも分類分けができます。主に援護や回復ができるのが【白魔法】で妨害や攻撃が【黒魔法】。あとは契約を結んだ幻獣を召喚できる【召喚魔法】や時間や空間に関する【時空魔法】ですね。【時空魔法】は細かく言えば【白魔法】や【黒魔法】に含まれますが難易度の点で別物として扱っています」

 

「なるほど…。こちらとは定義が違うのだな」

 

「はい。コチラでは【幻獣】を召喚するのが【召喚魔法】と完全に定義付けられています。それと【呪詛】が存在しません。敵の技をラーニングして使える【青魔法】という概念も知識としては知っていますが私もゴルベーザさんもこれに関しては使えませんね」

 

まずは定義の説明から始めることにする。

定義として大枠にあるのが【白魔法】と【黒魔法】で幻獣に認められて契約することによって使える【召喚魔法】だ。

冒険者側の定義としてはとりあえずなんか召喚するのであれば【召喚魔法】に分類分けされる。

魔法が個人特有のものであることが多いので情報を表に出そうとせず、効果や制約のみを把握している場合が多い。

つまりは部類分けがあまりされていない、ということだ。

しかし【魔法】と【呪詛】は明確に定義分けされている。

【呪詛】とは術者に明確で重いデメリットを課す変わりに防御や治療に特殊な魔道具が必要となる魔法である。

故に敬遠されるものではあるが使い方によっては強力な武器にもなる。

これを用いた武器もあり、暗殺者に愛用されているとかいないとか。

 

つまりは、だ。

オラリオの魔法使いを【魔導士】としてゴルベーザさんや僕を【魔道士】呼ぶことにする。

魔導士の使う魔法は効果の種別はあるが大枠としては【魔法】と【呪詛】があって【魔道士】の使う魔法には【黒魔法】と【白魔法】に【召喚魔法】があるということだ。

 

「……と、僕の解釈ですが合ってますか?」

 

「ああ。良くも悪くもこちらの…【魔導士】の魔法は唯一性が強くてな。定義付けが上手くいかん」

 

「唯一性が強いのはいいことですがそこが問題点ですね。【魔道士】の魔法は唯一性は皆無ですがその分汎用性がよく、覚えやすい。【白魔法】には即時回復の効果を持つ魔法と持続回復の効果を持つ魔法があります」

 

「誰でも覚えられるのか?」

 

「才能と努力に左右されますが、初級魔法程度なら頑張れば覚えられるかと」

 

「なるほど…」

 

「お二人ならば【白魔法】と【黒魔法】を極めるのも夢では無いと思います。更に時空魔法まで覚えられるかも。僕の所感ですがお二人は賢者タイプだ」

 

はっきりと、所感を述べる。

【九魔姫】と【千の妖精】の2つ名を持つ二人だ。

レフィーヤさんも途中から聞き入ってくれている。

魔力から見ても二人が本気で学べば僕なんかすぐに追い越していくだろう。

 

「リヴェリア様はともかく私もですか!?」

 

「ええ。もちろんです。気性の問題はあるかもしれませんが、お二人とも素晴らしい能力をお持ちです」

 

「ああ。だからここに連れてきた」

 

「真面目に取り組んでくれるならゴルベーザさんは歓迎してくれます。教材の作成をお願いしますね」

 

「いいのか!?」

 

「もちろん。では、ここまでで質問はありませんか?」

 

「【魔道士】と【魔導士】の違いについてなんだが…」

 

「いいですよ。僕の知る限りならば」

 

「感謝する。先程賢者と出ていたがもしかしてこれも定義が違うのか?」

 

「はい。【魔道士】と【魔導士】についてはもう世界が違うと思った方がいいでしょう」

 

「そう、か。こちらでは大した定義はないがそちらではどうなんだ?」

 

【魔導士】において強い者だったりハイエルフだったりが呼ばれたりする賢者という言葉だがどこまで到達すればそう呼ばれるかに関してはリヴェリアさんでもよくわかっていないらしい。

【オラリオ最強の魔導士】とまで行けば呼ばれそうではあるが古に【賢者の石】なるものを作って不老不死になろうとした人がいると聞いたことがある。

その人もまた賢者と呼ばれていたような気もする。

なのでなんやかんや偉いとという定義なのだろう。

 

「ではリヴェリアさんはどう思いますか?」

 

なので現地人のリヴェリアさんの認識を問うてみる。

僕は幼い頃からゴルベーザさんやお義母さんに染められてたりするので信用していない。

 

「……白魔法と黒魔法を極めた者、か?」

 

「正解、と言えるでしょう。魔導士にも【賢者】と呼ばれた人がいます」

 

【召喚魔法】を除く全ての魔法が扱える人としてゴルベーザさんの口から出てきたのは【テラ】という老人だった。

ゴルベーザさんは【黒魔法】のプロフェッショナルで、それ以外は使えない。

あの人とは長い間一緒にいると思っているが、それでも【賢者】という通称はその老人だけだったのだ。

 

「【黒魔法】の最上位魔法は【メテオ】という魔法です。【白魔法】の最上位魔法はありません。これらを【テラ】はほぼ全て扱えました。その上、知識量も膨大だったそうです。これ以上は知りませんが素晴らしい人だったのでしょう」

 

「…【メテオ】の難易度は?」

 

「普通の人が使えば死にます。単純に消費がとんでもないが故ですね」

 

【幻獣】に育てられた少女が【幻獣界】で修行し、世界を救うために大冒険をしてやっと使える。

難易度はとんでもなく、遥か高いところにあると言っていいだろう。

かの【賢者】でさえ、無理してこれを使って死んだのだ。

 

「ゴルベーザ殿は使えるのか?」

 

「使いこなせます」

 

「えっと…クラネルさん?は使えるんですか?」

 

「僕の得意分野は【白魔法】なので使えません。いずれは使えるようになってみせます。あとさん付けはいらないですよレフィーヤさん」

 

「ではベルと呼ばせてもらいます」

 

「私もベルと呼ばせてもらおう」

 

「ありがとうございます」

 

少し遅い自己紹介、と言えるのだろうか。

呼び名が決定して次の段階に進んでいく。

……とはいえ特に何も思い浮かばない。

 

「リヴェリアさん。事前知識としてはこれで終わりですので…こちらをどうぞ」

 

「…ん?いいのか」

 

リヴェリアさんの机に僕の魔道書を置く。

世界で唯一の、僕のために、ゴルベーザさんが作ってくれたものではあるがリヴェリアさんであれば読んだ方が早い。

 

「もちろん返してもらいます。あなたの場合はこの方が早いでしょう?それに新たな知見も生まれそうです」

 

「感謝する!必ず綺麗な状態で返すぞ!!!」

 

「あ、そうだ。これもどうぞ」

 

「羊皮紙か?…は?」

 

「僕のステイタスです。参考までにどうぞ」

 

「何考えてるんですか!?」

 

「…ステイタスは容易く見せるものじゃないぞベル」

 

「らしいですね。ですがあなたなら問題ないでしょう?」

 

特に何も無いかもしれないし、何かあるかもしれない。

特に僕の魔法がバレようと、スキルがバレようとどうでもいいというのは過分にある。

どうせ本を渡した時点で手札を全て晒したに等しいのだ。

 

「もう差し上げたので。返却は受け付けません。また来るのでその時にそれは返してくださいね。中身は覚えてますけど思い出の品なので。では……」

 

よし帰ろうそうしよう。

何がやりたいんだと思われるかもしれないが、なんとなくである。

この世の中は大概何となくで進んでいると思う。

なので僕もなんとなくだ。

【ロキ・ファミリア】のホームグラウンドに連れ込まれて気がおかしくなっているのかもしれない。

よし全部気にしないことにしよう。

扉を開けて【テレポ】で帰って…あ、なんかノブが回ってる。

 

「へぶっ!」

 

すごくいたい。

 

「ん?誰かいるのかい?」

 

 

 

 




なんかストレス発散に書き殴りました。
ブレっブレな気がしますがお許しください。
ここだと普通にレフィーヤさんと仲良くなりそうですねぇ!


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友達

何の薬にもならない話。


黄昏の館を背にして本拠に帰る。

……なんてことはなく、適当に街をぶらぶらと歩いていた。

いた時間はほんの数時間、懐にあった書の重みがなくなって少し軽くなったからだ。

闇雲にダンジョンに潜っても魔道士としての力は高まらない。

【指揮官】がいれば別の話だが基本的には【魔道士】がパーティの頭脳だ。

常に冷静に、クレバーに、クールに、感情を排して戦闘を運ぶ。

それを育てるのであれば戦闘が1番の近道だ。

近道だが…それはダンジョンではない。

【ベル・クラネル】に限った話だが彼の経験はとても得難いものだ。

 

「……ダイダロス通りか」

 

【ヘスティア・ファミリア】には金がない。

とても、かなり、金がない。

ジェクトさんとゴルベーザさんがいるから安心ではないのだ。

彼らが本拠にいることはとても珍しい。

それに彼らは正規の【ヘスティア・ファミリア】の団員ではなく、実質団員は僕一人なのだ。

なんでかは分からないが。

あの二人は恩恵があったところで特に関係がないので僕がファミリアに入って少し経ったところで恩恵を封印していったし。

 

なので収入源が僕だけだ。

マップやアイテムを買うお金が足りない。

未だに武器を持っていないのも証拠のひとつだ。

杖を買おうとしたことはあるけれどクソ高かった。

買えるわけねぇだろ。

ということで今は市街のマッピング中である。

 

 

「あー……納得」

 

いつまでも変わらない景色と横道の多さ。

そこまで広い訳でもないのにこれは確かに迷宮と言われても異存はない。

頭の中のマップが早くも崩壊寸前だ。

今は昼で太陽の光が差し込んでいるからこそ、ギリギリ迷わないで済んでいるが陽が落ちればマッピングどころではない。

 

……しかし、頭をフル回転すれば問題はない。

僕はこう言う街も大好きだ。

ゴルベーザさんやジェクトさんから聞いた異世界の街並み。

思いの外絵が上手かったゴルベーザさんの異世界の街の再現。

オラリオは治安が悪い。

落書きはないが、やはり壁に傷がある。

いくら景色が変わらずとも全ての壁が同じ傷を負うはずがない。

思わず口が綻んだ。

こういうのを暗記し、覚えておくことは大得意だ。

もう、帰ることは陽が落ちようと難しいことではなくなった。

戦闘中であろうと何も問題はなくなる。

 

「よぉしっ!冒険の時間だぁっ!」

 

帰ることはハナから選択肢になかった。

正直、上層は開拓が進みすぎていて面白くなかったのだ。

洞窟は洞窟で心躍るものではあったがそれはそれ。

街と洞窟では心躍るジャンルが全く違う。

童心をたっぷり思い出せる。

 

 

「【ファイア】っと。お〜地下道!」

 

迷宮のように入り組んだ町は色々な街の姿を見せてくれる。

メインストリートとはまた違った姿はまた、いいものだ。

鉄格子の向こうからさすが陽の光、魔法で出した炎で周りを照らして見えるのは表より傷ついた壁。

少しだけ鉄の匂いが鼻に来る。

治安が悪いなら仕方ない、すごく、仕方ない。

目を逸らすとしよう。

 

言葉にはできないがこの景色はいい。

辺り一帯の森とのどかな村…。

それしか見たことのなかったのだから当たり前なのかもしれないが、いいものだ。

自然もいいが、こういう人工物もすごくいい。

そして、地下道の向こうに見える自然光もまた。

 

出口に差し掛かったところで炎を手のひらで握りつぶす。

 

「おっ?景色が……」

 

変わった。

建物に遮られて完全にみることの出来なかった太陽がこんにちは。

ダイダロス通りの中にある空き地だろうか。

それにしては、見慣れたような廃教会がある。

 

「……ん?」

 

「あ、どうも」

 

「……んん?」

 

「ダイダロス通りに入っていったところで心配して追ってきました」

 

「ありがとうございます…??」

 

まさかダイダロス通りで山吹色の髪を見るとは思わなかった。

なんでいるんですかねレフィーヤさん。

そこは追求しないでおこう。

 

「…えっと」

 

言葉に困っているようだ。

おー?この人かなりの直情型だなー?

勢いで追いかけてきたんですね分かります。

 

「レフィーヤさんはかなりの魔導士と評判ですね」

 

「…っ!?いえ!私なんてまだまだで…」

 

「魔力は中々のものですし、リヴェリアさんが目をかけている。理由としてはそれで十分でしょう?」

 

この人力不足で悩んでますね。

すごくわかる。ものすごく分かる。

 

「ちっちがいます!私なんて…」

 

「なるほど。それが原因ですか」

 

「え?」

 

「能力はあるのに性格と認識が追いついていない。だからこそ仲間の足でまといになるしそれが原因で自己嫌悪する」

 

全て予想である。

しかし図星のようだ。

 

「負の無限ループと言えるでしょうね。僕も荒療治で治されました」

 

ゴルベーザさんとお義母さんによる地獄。

手加減はしてくれてただろう。

でも元【ヘラ・ファミリア】のお義母さんと至極の黒魔道士のゴルベーザさんについでにザルドおじさん。

すごく、すごく頑張りました。

トラウマになりかけたが生き残りましたよええ。

 

「ど、どうやって!?治したんですか!?」

 

「死に目にあいました」

 

「えっ」

 

「一週間のサバイバル……。モンスターに師匠みんな入り乱れて。一時も気が休まらず、ご飯は味がせず、魔法と状況、全てを並行に思考できなければ死んでましたね」

 

ポカーン、とした顔だ。

臆病、勇気、戦術、魔法。

死にかけながらも、回復中の痛みにも耐えながら、何も排さずに全てを活かして。

そして今の僕があるが…まあレフィーヤさんは無理だろう。

彼女は【ロキ・ファミリア】での交友関係があるだろうし、それ以前に忙しそうだ。

 

「要は敵を倒すってことです。そのためにできることをやるだけですね。最終的に殺ればいいんですよ」

 

結局の結論はこうだ。

彼女は組織に属しているのだからそう簡単にはいかないだろうが結論はそうだ。

 

「や、殺るって…。それでなんですけど…」

 

「なんですか?」

 

「並行詠唱ってどうすればできるんですか!」

 

あ、ごめんなさい知らないです。

いや、お義母さんの並行詠唱は見てたけどどうやってたかは分かるはずもない。

だって基本僕無詠唱だし。

荒療治でなんか感覚でやれるようになっただけだし。

いやまあ、うん。

頼りにされてるのは嬉しいので力になりたいんだが…。

 

「えーっと…ごめんなさい分からないです」

 

「59階層の時当たり前のようにできてたじゃないですか!」

 

「いやー…これも怪我の功名というかなんというかで」

 

「おぉっふ…」

 

「でもまあ、焦ることはありません。さて、ここ入り組んでますけど帰れます?」

 

「……はっ!」

 

「うーん、僕はまだここを探検したいんですけど……」

 

送り届けた方がいいだろうか。

多分その方がいいのだろう。

 

「いえ、年下の後輩に面倒をかけるわけにはいきません」

 

「そうですね。レフィーヤさんは僕の先輩だ。では、先輩」

 

「なんでしょうか、ベル」

 

「一緒に探検しませんか?」

 

片手間に【サイトロ】を発動させ、一度足を踏み入れたダイダロス通りのマップを頭の中に出現させる。

どこに行くべきかどこに行かないべきか、いつもは使わずに探検を楽しむが使っておこう。

 

「いいでしょう!後輩を助けるのも先輩の役目です」

 

「ありがとうございます」

 

いえーい友達ゲットだぜ。

いや先輩か。

まあ友達でいいだろう。

 

「アイズさんが…」

 

「へー」

 

「そこでティオネさんがですね…」

 

「ふむふむ」

 

「またまたアイズさんが!!……」

 

「いいですねぇ」

 

「リヴェリア様がカッコよくて……」

 

「ほー」

 

流れるように人褒めるなこの人。

やっべーこの人、やっさしー。

比較的アイズさんの話題が多いが、この人にとって尊敬する人なんでしょう。

成長する余地しかないなこの人。

 

 




あ、ベル君は普通に弱いです。
使える魔法は多いけど弱いです。


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