ソードアート・オンライン〜灰の冷剣〜 (イナミル)
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アインクラッド編
1話:世界のスタートライン


初投稿でSAOです。
とりあえず、アインクラッド編が完了するまでは続けようと思います。


「……さて、これで3期の前まで全部見たな」

 

 俺……常磐零夜はソファを立って、プレーヤーからブルーレイディスクを取り出してケースにしまい、そう言った。

『ソードアート・オンライン-オーディナル・スケール- 』

 そう書かれたディスクには、主人公、桐々谷和人ことキリトを中心に登場キャラが映っている。

 

 かれこれ俺が『ソードアート・オンライン 』という作品に触れたのは、一ヶ月前のことである。オタク気質な幼馴染に勧められて、試しにと1巻を借りて読んだのだが、これまで読んできたラノベの中で、1番引き込まれたかもしれない。

 

「B○○t S○○er」といった、VRゲームこそあるが、今の技術では到底考えられない「フルダイブVRゲーム」というのにそそられないわけが無く、ついつい読み進めてしまって、今は8巻までなら読み終えてしまった。

 

 アニオタであった幼馴染が紹介してきたのだ、当然アニメもあるのだろうと考え検索した俺の考えは間違ってなかった。3期の3クール目に突入しているそうで、そこから見ようとも思ったのだが、やはり時系列順の方がいいだろうと思い、しっかり1期の1話から見ることにした。

 

 そして、アニメの方も圧巻の一言であった。原作で描かれていたフェアリィ・ダンス編のヨツンヘイムに入った話が、キャリバー編まで描かれなかったことはちょっと残念だったが、それ以外は申し分なかった。ソードスキルの演出なんてすごいの一言に尽きる。

 

 今日は11月5日。俺は14歳だが中学三年生。本来なら、受験勉強に勤しまなければならない。だが、俺にとっては、そのような時間は無駄と言ってもいい。

 

 俺には、見聞きしたことは1発で覚えることが出来る記憶力を持つ。瞬間記憶能力に優れているのだ。おかげさまで、この中学校生活は、成績に苦労することなく過ごせている。

 

 しかし、物足りなかった。自分は運動もある程度できるくらいだ。顔も人並にできているので、モテないこともn……これ以上言ったらどこかの野武士面に血走った目で追いかけられそうだ。

 とまぁ、苦労することは無いが、刺激もない。

 

 ……もし、もしもの話だ。俺がSAOの世界に入ったのなら、この満たされない心の器は満たされるのだろうか? 

 って、そんなこと、今、誰が答えるだろうか。馬鹿だなぁ、俺は。

 

 っと、そろそろ12時を回って日付が変わりそうだ。そろそろベッドに向かわなければ。

 

「……そうか、今日はあの日だったか」

 あることを思い出した俺は、寝る前に和室の方に向かった。

 

「……父さん、母さん、芽依、そっちは元気か?」

 言ったところで、返事は来ないことはわかっている。しかし、今日くらいは返事が来ると思ってしまった俺がいた。返事が返ってこないことを確認したので、静かに手を合わせる。

 

 11月5日。この日は、常磐家にとっては、最高の日……になるはずであった。

 両親の結婚記念日であったからである。今日くらいは美味いもんを食べようと、頑なに外食をすることを嫌っていた父さんが言い出したので、家族皆よろこんで、都内のレストランに向かった。もちろん、それなりのオシャレをして。

 

 しかし、俺はその時のことを覚えていない。はっきりと覚えているのは、食事に行ったことと、次の日からは、家族が俺だけになってしまったということの2つである。

 

 いつまでもこうしてはいられないな。そう思って、俺は3人の写真にもう一度手を合わせ、寝室に向かった。

 

 寝室と廊下を繋ぐドアのドアノブに手を伸ばした途端、耳にノイズが走った。結構頭が痛くなる。この正体は、俺にもわからなかった。また、風邪でも引いたのだろう。耳鳴りの一種だろうと気にせずドアを開け、ベッドに進む。

 

 ベッドに腰かけたその時だった。また、耳をノイズが走る。今度はそれだけじゃなかった。まるで、夢にはいる時のように、視界が青色に染まる。これはまずい、早く横になろう。

 

 ベッドに横たわっても、変わらなかった。数十秒くらいたっただろうか、ようやく痛みも収まり、楽になった。

「……なんだったんだろ、今の……」

 さすがに、こんな体験は初めてだった。何か、嫌な予感がする。

 ふと時計を見ると、12時を過ぎ、あと少しで

 

 

 12時15分になる所だった。

 

「早く寝よう。明日も朝は早い」

 そう言って眠りについた。

 

 

 

 

 

 .自分は、寝た。確かに寝た。なのに、どうしてこんな真っ白な空間にいるのだろう。

 そう、俺は寝たはずだ。なのに、気がつくと自室ではない、白いだけの空間にいた。試しに頬をつねって……痛い。

 

 ……痛い。痛かった。てことは、ここは夢ではないということだ。

 なら、現実? いや、俺は、「現実では」この光景に見覚えはない。それに、目が覚めるなら、おそらくここではなく、自身のベッドの上だろう。

 明らかにおかしい。そう思っていたら、目の前から何かが飛んでくる。赤、黄色、赤紫、黄緑、色々だ。意外と太い。これはなんだ? 危険物だろうか? だとしたら、避けないといけない。しかし、スペースが足りなさすぎる。

 

 しょうがない、何も考えず受けてみよう。そうしよう。その結論に至った俺は、その光線を体で受けた。光線が俺の体にあたる。当たって通り過ぎた。……一体なんだったのだろう。

 そう思って、俺が光線らの行方を目で追ってみようとした。その時、正面でピコンッ、ピコンッ、と2度、同じ音が鳴った。

 

「touch」「OK」「sight」「OK」の表示が現れる

 

 見たことあるものが視界に映る。あくまでもタブレット上でだ。今後の展開を予想する。正しかったら、あとは3つ来るはずだ。

 

「hearing」「OK」「taste」「OK」「smell」「OK」

 

 やはり、これだったか。俺がそう思っている間に、

 

 [ Language ]

 ▶Japanese

 

 言語は、日本語であってたようだ。なら、この次は、キーボードが出てくるはず。

 

 シュウィンとホロキーボードが現れる。目の前には、

 

 put on your player name

 

 ……はぁ。やっぱりだ。昨日、あんなこと考えたからだろうか。

 ここはやはり、「SAOのログイン部屋」だ。それ以外に思いつかない。なら、入力するのは、ゲームをする時の名前でいいだろう。

 

 L e i j i

 

 そう、レイジ、これが俺のプレイヤーネームだ。

 入力し、Enterキーを押す。

 すると、視界が白で覆われた。なら、アニメ通りに考えて、あの英文が出てくるはずだ。俺は、思わず口にしていたらしい。

 

「『Welcome to Sword Art Online 』」

 

 

 

 俺の視界は白に包まれ、次いでパッケージ通りの画像が映る。馬に乗る名もない騎士と、彼が見上げる浮遊城(アインクラッド)

 

 

 ……始まる。SAO(剣の世界)での、生き残りをかけた戦いが。




オリ主は、こうなることを望んでいたのでしようか?
それは、作者にも分かりません。


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2話:出会いと始まり

2話です。
連日投稿となりましたが、これ以降は不定期投稿になります。
申し訳ありません。


 ……視界が開けた。正面には、石碑のようなもの。その右手には、何やらモニュメントのような形をしている物がある。おそらく、ここが転移門広場なのだろう。あたりを見回したら、次々と人が入ってくる。

 

「わぁ!」「すげぇな!」「これ、VRなのか……?」

 

 数々の男女が口を揃えて同じような反応をしていた。ここにいるプレイヤーの男女比は1:1だが、中の人間の男女比は、4:1、悪ければ9:1くらいだろう。一応、RPGだからな。

 

「……ネカマ共は放っておいて、武器屋行くか」

 俺は、商業区の方に走り出していた。意外と体が軽い。俺のVR適性は高かったのだろうか? 

 

 武器屋についた。片手直剣に細剣、両手剣に斧、槍に棍棒といった、6種の武器が置いてある。しかし、上の層に行けばさらに武器の種類は増えるだろう。槍斧(ハルバード)刺剣(エストック)と言った武器のようなものだ。

 

 だが、俺はひとつしか武器を使うつもりはなかった。キリトも使っていた、片手直剣。これだけで、斬・刺・打の、3種の攻撃タイプを使えるのは、様々な(エネミー)がいるこの世界では、アドバンテージが大きすぎる。

 

 俺は、基本装備の[スモールソード ]を購入し、残ったコルで回復ポーションをありったけ買った。これで、第1目標は達成した。あとは、あの2人に会いに行くだけだ。原初の草原、だったか? 初めのフィールドに行こう。

 

 初めのフィールドに着く前に、門の近くにいた女性から、クエストを受け取っておいた。フレンジー・ボアを10体狩ってきてくれとの依頼だった。このクエストをクリアしつつ、ボアを倒して、戦闘経験を積んでおこう。

 この世界では、あらゆる経験の量が生死を左右する。この世界に入り込んでしまった俺でも、HPが0になったら、何が起こるか分からない。

 

 

「フッ、ハァッ!」ザシュッ。

 

 ボアの突進を避けて、横から斬る。これでさっきからダメージを与えていた。未だにソードスキルの出し方が分からない。でも、それも、あとしばらくの辛抱だ。あの二人が来るまでは……。

 

 〜20分後〜

 これで、10体は狩り終えただろうか。クエストの進行マークも付いた。にしても、そろそろ頃合じゃないのか? いい加減見つけてもいいかもしれないんだけど……。

 

「おーい、兄ちゃん。いいスジしてるなぁ! アンタ、ベータテスターか?」

「おい、クライン、そこら辺を詮索するのはマナー違反だぞ」

 

 この声、やっと来たか。ちょっと遅いなぁ。

 

 ーsideキリトー

 さっきから突進を避けては斬る。避けては斬るを繰り返しているプレイヤーがいた。ソードスキルを使っていないということは、ニュービーなのだろう。にしては、体の運び方が慣れているように感じる。なんでだ? 

 

「なぁ、アンタ、ニュービーで間違いないんだな?」

「ん、あぁ、間違いないよ」

 

 やっぱりニュービーなのか。だとしたら凄いな。この人と組めば、剣だけでどこまで行けるだろうか……。

 

「おっと、名乗るのが遅れたな、俺はキリト。んで、隣のバンダナの男が……」

「俺ァ、クラインって言うんだ。よろしくな」

「キリトにクライン……。あぁ、よろしくな。俺は、レイジだ」

 

 レイジ、か。俺のように安直なプレイヤーネームの付け方をしたのだろうか? ……いや、そこを詮索するのはマナー違反か。

 

「なぁ、レイジよぉ。お前さんさえ良ければ、このキリト先生にソードスキルを教わらないか?」

「おい、クライン。狩りの途中だったかもしれないだろ」

「いや、俺は構わないよ。ぜひレクチャーして欲しい。狩りも一段落着いたしな」

 

 そういうことで、俺はクラインとレイジの2人にソードスキルを教えることになった。

 〜side out〜

 

 ようやく、この2人に会うことが出来た。デスゲーム宣告が始まってからだと、キリトに会うことは困難を極める。ここで出会えてラッキーだ。

 

 キリトの教え方は、それなりに上手だった。感覚論が混じっていると言え、伝わりやすい。早速、目の前のボアに向かって、剣を構える。

 片手直剣単発ソードスキル『ホリゾンタル 』

 水色のライトエフェクトに包まれた剣が、ボアの体を一閃する。

 一撃だった。これほどまでに強力なのか、ソードスキルは。

 

「どうだ? ハマるだろ?」

「そうだな、自分の体を動かすっていうのは、クセになるな」

「そうだ。この世界は、この剣1本でどこまでも行けるんだ」

 キリトのそういう目は、活き活きしてるように見えた。

 

「よし、もう少し狩りをしていくか」

「そうだな。今のうちに、レベルは5までは持っていきたい」

 

 キリトの提案に、俺は答え、三人でまだ狩りを続けることにした。

 

 〜50分後〜

「ふぃ〜狩った狩った」

「そうだなぁ。かれこれ40体くらい狩ったんだよなぁ。キリト、今レベル幾つくらいだ?」

「3くらいだな。レイジは?」

「俺も3だな。これで、5時半くらいか、結構経ったな」

「どうする? このまま狩るか?」

「いや、俺ぁそろそろ落ちるぜ」

「んぉ、なんか用事か?」

「いやよ、このゲーム以前から付き合いのあるヤツらと会うことになっててな。俺の家でピザをつつこうって話になってんだよ」

「ギルドオフってところか?」

「まぁ、そんなとこだ。てことで、お先になるぜ」

 

 そう言ってクラインはシステムウィンドウを操作する。普通のゲームやベータテストならこのまま退室と進めるだろうが、ここはSAO。普通のゲームではない。

 しばらくすると、クラインが声を上げる。

 

 

「あれ? おっかしいなぁ」

「どうしたんだ?」

 ……始まってしまった。この牢獄での生活が。

 

「ログアウトボタンがねーんだよ」

「GMコールはしたのか?」

「してるけど、さっきから応答がねーんだよ」

「おかしいな……。こんなことって起きるか?」

「これにゃ今頃運営も対応に涙目だろうな」

「お前もな、クライン。時間見ろよ、ピザ、そろそろだろ?」

「……ぉ、お、俺様のピザとジンジャーエールがぁ……」

 

 キリトたちがそう話しているが、俺は、何も言うことが出来ない。この先の展開を知っているからこそ、周囲を見渡している。狩りに出ていたプレイヤーが次々と光に包まれていった。俺の視界も、白く覆われる。

 

 次に視界がはっきりした時は、はじまりの街の転移門広場だった。ここに、全プレイヤーが集められている。

 

「……はぁ」

 

 ため息をつくことしか出来ない。俺はこの先を全て知っている。

 

「な、なんだよ……こりゃぁ……」

「どうやらここに……」

「あぁ、全プレイヤーが強制テレポートされたみたいだな……」

 

 周りはザワついている。一体何が始まるんだと、不気味がるものもいれば、一種の祭りだろうと楽観的に見る者もいる。

 瞬間、中央の石碑上空に、赤い障壁のようなものが浮かぶ。

 

《WARNING》《System Announcement》

 

 そして、それが空を埋めつくした。そして、その隙間からこぼれ落ちていく奇妙な赤い液体。それが石碑の上に集まっていく。

 

「なんだぁ、ありゃ……」

 

 クラインが声をあげるのも無理はない。液体は次第に形を整えていき、最終的にはローブ姿の人型となった。顔はなく、アニメで見ていたものとは比にならないくらいに気味が悪く、おぞましかった。

 そして、赤のローブは話し出した。

 

「プレイヤー諸君、私の世界へようこそ。私の名前は茅場晶彦。今やこの世界をコントロール出来る唯一の人間だ」

 

 GMである茅場の登場に、周りからは本物かとの疑念の声と、これから執り行われるであろうイベント(死刑宣告に近いが)に期待を高ぶらせる声の、二種類が上がる。

 

「プレイヤー諸君は、既にメインメニューからログアウトボタンが消失していることに気づいていると思う。が、これはアーガス側による不具合などではない。繰り返す。これは不具合やバグなどではなく、ソードアート・オンライン本来の仕様である」

 

 突然言い渡されたことがあまりにも突然だったこともあって、誰彼も言葉が出ないようである。気にせず、萱場は続ける。

 

「君たちによる、自発的ログアウトは行えない。また、外部の人間によって諸君らのナーヴギアの停止、あるいは解除も有り得ない。もしそれが試みられた場合は、ナーヴギアがそれを感知し、高出力マイクロウェーブによって諸君らの脳を破壊し……生命活動を停止させる」

 

 茅場は、そう宣告した。プレイヤー共々は頑なに信じる気配を見せず、演出だろう、早く出せと喚いている。

 

「何言ってんだぁアイツ……。頭イカれてるんじゃないか? なぁ、キリト、レイジ」

「……クライン、電子レンジは、分かるよな?」

「んあぁ。もちろん知ってるが……それがなんだよ、レイジ」

「今あいつが言ったことは、もし外れそうになったら頭をレンチンして殺しますよ、ってことだ」

「はぁ!? んなことできるわけねぇだろ!!?」

「キリト、わかるか?」

「レイジの言ってた通りで概ねあってる。ナーヴギアはVRゲーム用に出力しているから、全出力を使うなら、いとも容易いことだろうな……」

 

 キリトの言葉に被さるようにして、萱場は続けた。

 

「現時点で、家族や友人たちが警告を無視してナーヴギアを解除しようとした例がいくつもあり、結果、213名のプレイヤーがゲーム及び現実世界からも退場している」

 

 茅場は、見せつけるようにウィンドウを操作し、

「ご覧のように、各種メディアによる報道によって、ナーヴギアが解除される危険性は低くなったと言っていいだろう。君たちは、安心してゲーム攻略に励んでくれたまえ」

 と、狂気じみた励ましをされる。

 

「留意して欲しいが、今後ゲーム内における様々な蘇生手段は、機能しない。HPが0になった瞬間に、諸君らのアバターは完全に消滅し、そして、ナーヴギアによって諸君らの脳は破壊される」

 

 脱出不可能とも言える牢獄に閉じ込めらる感覚だ。周囲で狩りをしていたプレイヤー達は、今頃倒してきた相手にHPをゼロにされ、自分がポリゴン片になるところを想像したとこだろう。

 

 そして茅場は、この牢獄を脱出する術を教えてくれた。至って簡単である。「ゲームをクリアすること」であった。しかし、その階層は100層。ベータテストでは、死に戻りアリで二ヶ月で8層だったと言うことを考えても、全く現実的ではない。

 

「では最後に、諸君らのアイテムストレージにプレゼントを渡した。受け取ってくれたまえ」

 

 システムウィンドウを開き、アイテム『手鏡』をオブジェクト化する。すると手元には手のひらサイズの手鏡。鏡に映る自分は、かつて現実で過ごしていた時と何ら変わらない、いつもの顔だった。周囲のプレイヤーも、自分も、光に飲まれていく。次に視界に映ったのは、アバターと違う顔をしたプレイヤー達だった。

 

「なんだったんんだ今の……って、お前さん、誰だ……?」

「いえ、こちらが聞きたいくらいです……って、その声、もしかして……」

「キリト……なのか?」「クラインか?」

「その声、二人だな。良かった良かった」

「あぁ、その声はレイジか……って」

「……お前さん、変わらねぇんだな」

「まぁ、設定でそのままにしたから……」

 

 三人でそんな話をしていると、茅場が続けた。

 

「さて、諸君らは今何故、と思っているだろう。何故、茅場晶彦はこんなことをしたのか、と。……私の目的は既に達せられている。この世界を創造し、鑑賞するためにのみ、私はソードアート・オンラインをつくった」

 

 淡々と話す茅場は、自身の目標達成を告げ、チュートリアル終了という形でデスゲーム開始宣言をした。

 次の瞬間、赤ローブは消え失せ、転移される前の無駄に綺麗な夕焼け空と、プレイヤー達を残して、姿を消した。

 ほんの少しの沈黙の後、広場を包んだのは、プレイヤー達の叫び声だった。

 

「いや……嫌よ……」「ふ、ふざけんじゃねぇぞ!」「ここからだせよぉ!!」

 

 悲痛な叫びだ。この場を作った当事者にも、身内にも届きやしない叫び。聞いてると、こっちの胸まで傷みそうになる。

 

「……レイジ、クライン、ちょっと来い」

「……あぁ」「お、おい! キリト! レイジ!」

 

 キリトに連れられ、広場から少し離れた路地裏に入る。キリトが言わんとしていることは、聞かずともわかっていた。

 

「レイジ、クライン、よく聞け。俺は今から次の街に向かう。お前らも着いてこい」

「……」「お、おい……」

「VRMMOが生成するリソースには限りがある。始まりの街付近は、直ぐに狩り尽くされるだろう。今のうちに、次の街を拠点にした方がいい」

 

 やはりこの提案。今の俺は、死ぬと何が起こるかわからない。キリトに着いて行く以上に、生存率が高いことは無いだろう。断る選択肢は、無いに等しい。

 

「……俺は行く」

「分かった。……クラインはどうする?」

「……俺にゃ、前のゲームからも一緒にやってきたギルドのやつが居る。そいつらを置いては、行けん」

 

 仲間思いのクラインだからだろう。原作と変わらず、断ってきた。

 

「……なぁに、暗い顔すんな。キリトから教わったテクで、生き延びてみせるさ」

 

 俺たちを不安にさせないために言ったんだろう。しかし、その目に弱さは感じられない。クラインなりの覚悟なんだろう。

 

「分かった、じゃあ、俺たち2人はもう行くよ」

「分からんことがあったら、いつでもメッセージ飛ばしてくれよな」

「あぁ、そうさせてもらうぜ」

 

 そう話し、俺とキリトは駆け出そうとする。でもやはり、踏ん切りがつかない。そう思っていると、クラインが言った。

 

「キリト! お前さん、案外可愛い顔してんな。結構好みだぜ。レイジも、整った顔立ちしやがって。俺ァ羨ましいよ」

 

 そう、俺たちに告げた。全く、こういう時はかっこいい。クラインらしいのだが。だから、こう返す。

 

「お前も、その野武士面の方が似合ってるよ!」

「元気にしてろよ! またどっかで会ったら、うまいもんでも奢ってやるからな!」

 

 そう言って、二人で駆けだす。今度はもう止まらない。振り返らない。ここで振り返ると、せっかくのクラインの優しさが無下になってしまうから。

 

 こうして、次なる街、ホルンカ目指して俺たち2人は走った。




原作通りに行きました。
次は、コペルが出てくるかも?


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3話:自分が生きる為に

まさか、一日で2話も投稿できるとは…
今回は、「はじまりの日」の話です!
それでは!どうぞ!


 キリトと2人で、暗くなる前までにホルンカに着くことが出来た。道中で相対したモンスターは、片っ端から倒すことに決めていたので、町に着く頃にはレベルは6になっていた。しかし、キリトは少々難しい顔をして、言った。

 

「まずいな」

「何が?」

「モンスターのポップ速度がベータのときより早いんだ。ここにベータテスターたちが来るとき、ポップ速度ギリギリで倒していたら、キリがなくなって死ぬぞ」

「それは困ったな。なぁキリト」

「ん? どうした?」

「俺はキリトについて行ったニュービーだけど、大半のやつらはまだはじまりの街にいるはずだ。おそらく、戦意を無くしたベータテスター達もいると思う」

「それはそうだろうな。ベータテスターは、死に戻りによる情報集めで、8層まで行ったんだ。死に戻りがなくなって、現実世界のゲームオーバーにもなるこの世界で、動けなくなってるやつがいるのは確かだろう」

「そこで、キリトに提案だ」

 

 俺は、ここでキバオウを黙らすキッカケにもなる攻略本の話を持ち出すことにした。

 

「信用できるベータテスター同士で、情報集めをして、攻略本を作らないか?」

「……レイジ、俺にアテがある。そいつに依頼して、その話を進めてもらおう」

「俺も、一応そいつと知り合っておいた方が良さそうだな、コードネーム的なやつはあるか?」

「ベータテストの中では、相当名前が通った情報屋だからな、レイジも知ってて損は無いだろう。

 そいつの名前は、『鼠のアルゴ』だ」

「『鼠のアルゴ』か……」

 

 俺が知ってる限り、そいつは、本編での活躍があまりなかった気もするが、俺が介入したことで、何か変わっているのかもな。

「分かった。キリト、そいつに連絡してくれ。出来れば、ホルンカで落ち合いたいって」

「言われなくてもだ。この先、アルゴとの関わりは欠かさなくなってくるはずだからな」

 

 ホルンカに着いたのは、どうやら俺達が最初のようだった。あたりには、NPCしか見当たらない。

 

「なぁ、レイジ」

「ん? どうした?」

「今からクエストを受けたいと思うんだが、いいか?」

「もちろんいいけど、どんなクエストだ?」

「森の秘薬ってクエストなんだが……」

 

 森の秘薬、秘薬と付いた名の通り、薬を探してくれってクエストなのだそうだ。確か、8巻に収録されていたはずだ。

 

「秘薬ってことは、薬探しか?」

「あぁ、その通りだ。俺らが通ってきた森あるだろ? ホルンカの森って言うんだが、そこに出てくるリトルペネントってモンスターのドロップ品が必要なんだ」

「ドロップ品か……。結構経験値が稼げそうだな」

「それも狙いの一つだ。今、コルに余裕あるか?」

「はじまりの街で受けたクエストの報酬分と、道中倒したモンスターの分だから、2000コル位はあるな」

「そうか。なら、なるべくポーションを買っておけよ。長期戦になるのは、目に見えてるからな」

「分かった。って、さっき経験値のこと話したら、狙いの一つって言ってたけど、他にあるのか?」

「あっあぁ、話してなかったな。このクエストの報酬に、アニールブレードって片手直剣があるんだよ。そいつの性能的に、3層くらいまでなら使い続けられるからな」

「なるほど……」

 

 アニールブレードの話はあったが、そこまで使えるものなのか、キリトが取りたいと言うのも、分からなくはない。

 

「あっそうだ、レイジ」

「ん? そろそろ行くか?」

「いや、お前、片手直剣以外にスキルは何を取った?」

「んー、まだ片手直剣だけだな。あと2つスロットは空いてるけど、どうかしたのか?」

「あぁ。今から受ける森の秘薬は、相手が植物系MOBだからな。隠蔽スキルが全く役に立たないから、今は取らない方がいいぞ」

「なるほどな、了解。ちなみに、オススメとかあるか? キリトも2つはスロットあっただろ?」

「俺は、索敵だけとってあと1つ残してある。索敵を伸ばし続ければ、追跡スキルが手に入ったりするしな。オススメは、索敵、隠蔽、持てるアイテムの量を増やす所持容量拡張とかだな。2層に行けば、アタッカー的にはありがたいスキルが手に入るクエストがあるから、1つは開けておいた方がいいぞ」

「把握したよ。サンキュ」

「いや、この位いいさ。さて、そろそろクエストに行こうか」

「キリト、索敵は任せたぞ」

「分かった」

 

 そうして、俺達はリトルペネントを狩りに行った。

 

「なぁ、キリト。ドロップするのは、『リトルペネントの胚珠』だったよな?」

「そうだけど、どうかしたのか?」

「胚珠ってことは、ドロップするやつも実がなる1歩前くらいのやつだろ? なんでさっきから葉だけしかないやつを狩ってるんだ? 別のところに移動して見た目が違うそいつを狩るべきじゃないのか?」

「目の付け所がいいな。その通り、胚珠を落とすやつは、ちゃんと花を頭に付けてるよ。でも、ポップ率が低いからな。こうやって多く狩ってポップさせた方が、効率的にはいいんだ」

「なるほどな。胚珠の後は実になるけど、そのところはどうなんだ?」

「そっちの話もしてなかったな。いいか? 実がついてるやつの実は、絶対に攻撃するなよ? そっちに攻撃したら、クリティカルになる代わりに、リトルペネントを寄せ付ける香りを出すからな。俺ら2人だと、捌ききれなくなる」

「分かった。とりあえず、狩りを続けようか。喋ってもなんにもならない」

「話題を出したのはレイジの方だろ……」

 

 〜それから50分後〜

「キリトー、そっちはどうだー?」

「落ちねー。全然落ちねー。レイジはー?」

「俺の方は落ちたぞー」

「マジかー。先戻っててもいいぞー」

「いや、そっち行って手伝うよー」

 タッタッタッタッ

「キリトは胚珠付きは何体倒した?」

「15体は倒してるんだけどなぁ。レイジは?」

「3体目で落ちたぞ。これも、リアルラックの差ってとこかな」

「それはねーよ」

 

 そんな話をして、2人で笑っていた時だった

 

「ねぇねぇ君たち」

 ふと、背後から声が聞こえた

 

「「!?」」

「あー驚かせてごめんよ。君たちも、森の秘薬を受けてるのかい?」

「あぁ、そうだけど……突然声をかけてどういうつもりだ?」

「おい、レイジ、いきなり喧嘩腰はやめろって。それより、アンタは?」

「僕はコペル。クエスト中悪いんだけど、僕も手伝わしてもらっていいかな?」

「キリト、どうする?」

「俺は、別に構わないけど……レイジはいいのか?」

「あぁ、キリトがいいなら。俺も、手伝うだけだしな」

「ありがとう。ドロップしたら、まずは君にあげることにするよ。手伝わしてもらってる身分だからね」

「分かった」

 

 こうして、コペルがクエストを手伝ってくれることになった。しかし、俺は、緊張の糸を張っておく。いつ、コペルが実付きの実を割るか分かったもんじゃない。それは、単純なMPK(モンスタープレイヤーキル)だ。そうこうしてる間に、花付きが2体、実付きが1体現れた。

 

「……行こうか。よし、僕が実付きに行く。君たち2人は、花付きの相手をしてくれるか?」

「分かった」

「俺も了解だ。俺の方からドロップしたら、コペルにやるよ」

「いいのかい? 君の分は……」

「俺はもう手に入れてるから大丈夫だ」

「……そうか、ありがとう」

「レイジ、コペル。来るぞ」

 

 キリトの声と共に、俺達3人は、それぞれの敵に向かっていった。ペネントの懐に入り込み、『スラント』でダメージを与えていく。

 

 パァン

「「!?」」

 

 実が割れた音だった。そして、実付きを相手にしていたコペルは、もうそこにはいなかった。どこかから声が聞こえる。

「すまない、キリト、レイジ。これが僕のやり方だ。恨まないでくれよ」

 

「コペル!? クソッ! キリト! 索敵の反応はどれくらいだ!?」

「ざっと20ってとこくらいだ! それよりコペルは!?」

「あいつの姿は見えない! 恐らくだが、隠蔽を使ってどこかへ行った! もう遅い! 今は目の前に集中するぞ!」

「……分かった! 全部倒したら、コペルを助けに行くぞ!」

「このお人好し! でも分かったよ!」

 

 そうして、俺達は目の前のリトルペネントを切り続ける。

『スラント』と『ホリゾンタル』を使い分けてクリティカルを狙い、硬直ギリギリで鞭の攻撃を避ける。

 

 ……何分続いたのだろうか、遂に、見える範囲の敵は倒したようだ。何度も、無機質にガラスが割れるようなエフェクトが鳴る。

 

「……終わったな、キリト」

「あぁ、終わった」

「……コペルは?」

「あそこを見てみろよ」

 

 キリトが指を指した方向には、スモールソードが落ちていた。

 

「アイツのか?」

「十中八九そうだろうな。あそこから何体かリトルペネントがこっちに流れてきてたから」

「……そうか、なら、これくらい供えないとな」

 

 そう言って俺は、アイテムストレージの中のリトルペネントの胚珠を1つ、剣のそばにおいて、手を合わせ、一言、「お疲れ様」

 と言ってキリトの方を向いた。

 

「レイジお前、2個目もドロップしてたのかよ」

「まぁな。さて、アルゴからの連絡は?」

「あぁ、10分前くらいに3件。急いで戻ろうか。クエストクリアは、その話の後でいいだろう」

「そうだな、急ぐか」

 

 俺達は、足早にホルンカに向かって走った。




タグには、死亡キャラ生存と書かれていますが、コペルだけは、私怨のためだけに、生き残らすつもりはありませんでした。
コペル、恨むなよ。MPKを仕掛けようとした君が悪いんだ。
次で、攻略会議終わりか、ボス部屋前までは書けたらいいなぁ


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4話:決意と出発

不定期とか言っていながらなんか毎日投稿みたいになっちゃってますね。すいませんm(__)m
学校が暇なので、これくらいしかすることが無いんです。
許してつかぁさい。
…切り替えますね。
3話のラストで言ったように今回は、アルゴと会うところから始まります。
それでは!どうぞ!


 俺達がホルンカに戻ると、チラホラとプレイヤーが見えた。おそらく、ベータテスターかそいつらに連れて来たニュービーだろう。この中にアルゴがいるのだろうか? 

 

「レイジ、あっちの宿場で待ってるらしいから、早く行こう」

「あぁ、そうだな」

 

 俺達は、雑貨屋の2軒右隣の宿場に入った。

 

 ちなみに、なぜ宿屋(やどや)ではなく宿場(しゅくば)なのかと言うと、ちゃんと区別が付けられているかららしい。

 宿屋は、単に泊まるための部屋がある所。宿場の方は、1階が酒場、2階より上が部屋になっているようで、泊まる代金の中に朝食なども含まれているそうだ。

 

「ふぅん。結構広いんだな」

「まぁな。さて、ここにアルゴがいるはずなんだが……まさか、アイツここで隠蔽(ハイティング)してるのか?」

「いや、ベータの時の見た目と変わってるだろ。その時はどんな背格好だったんだ?」

「いや、今の姿になる前の俺と同じくらいの身長で、なんて言うか、そのぉ……」

 

 キリトが何かソワソワしているように感じる。

 

「キリト、女に免疫がないのか、それともそんなところに目を向けてるのか、どっちなんだ?」

「いっ、いやっ! そんなことないぞ! 別に俺はやましいことなんて考えてないっ!」

「別にやましいとか言ってないんだけど」

 

「そーだゾキー坊」

「「!?」」

 

 突然後ろから声が聞こえて、バッと振り返ると、そこには茶色いフードを被った小さな少女がいた。

 

「全ク、キー坊のエッチ。オレっちのあの時の体でナニを考えていたんダ?」

「勘違いを招くような発言はやめてくれ……」

「キリト、この子が例の?」

「オイオイ、オニーサン。この子じゃなくて、このオネーサンだゾ? 子供扱いはやめてくれクレ」

「アルゴも冗談言ってんじゃねぇよ……。はぁ、座るか」

「そうだな」

 

 そう言って、俺達はキリトに「アルゴ」と呼ばれた少女の前に座った。座ってもわかる。目の前の少女は、明らかに小さい。

 

「レイジ。紹介するよ。こっちは、ベータテストの時に、情報屋として活躍していた『鼠』ことアルゴだ。そんでアルゴ、こっちが、さっきメッセージでも話したニュービーのレイジだ」

「ご紹介にも預かったガ、オレっちがアルゴだ。今回の正式サービス版でも、情報屋として活動するつもりだから、よろしくナ」

「あぁ。レイジ、ニュービーだ。よろしく頼む」

「レイジだナ。んじゃ、『レー坊』と呼ばせて貰うゾ」

「別に好きな呼び方で構わないよ。俺にはそこん所はあんまり関係はないからな」

「レイジはそうやって呼ばれるのに抵抗ないのか?」

「まぁな」

 

 とりあえず、一通りの自己紹介を終え、NPCにメニューを注文してから、キリトが口を開いた。

 

「そうだ、アルゴ。さっき話したことなんだが」

「あァ、『鼠印の攻略本』の事カ?」

「まさか、同じことを考えていた奴がいたとはな」

「おっ。もしかして、攻略本のことは、キー坊じゃなくてレー坊の提案なのカ?」

「あぁ。俺達が動き始めた時、ベータテスターらしき人物達は見かけたが、まだレベリングしてるってとこだったからな。ニュービーなんて、動けるやつが50人いるかいないかくらいじゃないか? だったら、取れるだけの情報をとって、何かにまとめた方がいいと思ってな」

「なるほどナ。キー坊がこんなこと考えられるわけないもんナ」

「……おい、それは酷いぞ」

「ニャハハハハ! 冗談に決まってるダロ」

 

 少しキリトをコケにするアルゴの顔が、見た目相応の年代なんだろうなと感じさせるように笑っている。

 

「まぁまぁ、アルゴも冗談はそこまでにしてくれ。それで、乗ってくれるか?」

「乗らない理由がないナ。でも、オレっち1人だけってのは身の安全とかも考えてちと厳しいナ。レー坊にも、キー坊にも手伝ってもらうゾ?」

 

 無言で頷く。キリトもどうやら同じようだ。

 

「なら、話は決まったナ。今、他のベータテスターから、情報がインスタントメッセージで沢山来てるんダ。MOBのポップ速度、推定攻撃力、HP、獲得コルに経験値、とナ。恐らくだガ、メッセージが途中で止まってる物が沢山あるってことハ、途中で危機に合ってるヤツがいル。キー坊、レー坊。ちょっと手伝ってもらっていいカ?」

「いいさ。ベータからの付き合いがあるやつがいるかもしれないからな。助けておきたいのは山々だ」

「なぁ、アルゴ。これに関しては、後々お得意様特価ってことで、何か頼むぞ」

「ニャハハ! レー坊も上手いナ! 分かっタ。考えておくヨ」

「行くぞ。アルゴ、レイジ」

 

 そうして、俺達は宿場を走って出ていった。全く。あとでキリトにアルゴの分を含めて代金を請求せねば。

 

 俺達は二手に別れて救出に向かうことにした。キリトはアルゴと2人で。俺は1人で。キリト達に実力を認められてるのはいいのだが……。まぁ、いいか。

 

 カキーン、シュウィーン、バシュッ、パリーン

 

 パリィしてからソードスキルを放った音だろう。その方向に索敵をかける。……プレイヤーが3人、MOBが計10体。赤の反応が濃いのがいるってことは、そっちは恐らくダイアーウルフだろう。

 

「あと5秒耐えろ! 助太刀に入る!」

 大声で叫んだ。向こうから応答の声が聞こえる。

「分かった! 助かる!」

 

 向こうのMOBと接敵するまで5……3、2……

 

「行くぞ! パリィしてくれ!」

「わかった! っ! よし、スイッチ!」

「ハァァッ!」片手直剣下段突進技『レイジスパイク』を放つ。

 

 ザシュッ! ……パリーン

 

「みんな円形をとれ! 互いの背中を預け合うんだ!」

「「「了解(した)!」」」

 

 どうやら、即席とはいえ、それなりに連携は取れているようだ。

 これなら、切り抜けるのも確実だろう。

 

 〜5分後〜

「「ふぅ。助かったぁ」」

「ありがとう! 君のおかげで助かったよ」

「いや、礼には及ばないさ。ところで、アンタらここまで来たってことは、ベータテスターか?」

「いや、ベータテスターなのは俺だけだ。すまない、自己紹介が遅れたね。俺はディアベル。この通り、盾持ち片手直剣だ」

「レイジ、ニュービーだ」

 

 見た目通りの好青年だ。これほど良い奴を、1層攻略で失う訳にはいかないな。

 

「レイジさん、か。ニュービーにしては、VRに慣れてる感じだが、何がどうなっているんだい? レベルも、俺たちより高いだろう?」

「詳しい数字は言えないが、多分そこら辺のプレイヤーよりは高いぞ。そこでへばってる2人もベータテスターか?」

「いや、彼らは俺が声をかけて来てくれた人達だ。ところで、ものは話なんだが、レイジさん」

「ん? どうした?」

 

 ディアベルの顔が、少し真剣になった。

 

「君の実力を見込んで話がある。単刀直入に言おう。

 第1層のボス攻略に力を貸してくれないか?」

「ふむ、話が早いな。別に俺は構わないよ」

「そうか! なら」

「って言っても、俺はアンタのパーティーとかに入るつもりは無いぞ」

「っ! ……そうか。残念だが、そこは別にいいんだ。とにかく、人手が欲しいところだからね」

「そこで、ディアベルに1つ言っておきたい」

「なんだい? レイジさん」

「とりあえず第1層の攻略には、時間をかけるべきだ。少なくとも、1ヶ月程度は欲しい。みんなのレベル上げにも、この先の攻略の目処を立てるためにも」

「分かった。参考にさせてもらうよ」

「あぁ、助かる。俺はもう行くよ。他にヤバいやつらを助けてくれと、クライアントからの指示なんでな」

「あぁ。気をつけてくれよ」

 

 ……こうしてディアベルと話すことが出来たのはラッキーだったな。少なくとも、急ぎすぎて犠牲者多数ってことにはならないだろう。そうなってしまえば、攻略なんて無理に等しい。

 さて、次の救出に向かいますか。

 

 ザッザッザッザッザッザッ……




はい。てことで、攻略本のことが固まりましたね。アルゴの喋り方ってイマイチわかってなかったから、上手く描けてるか分かりませんが…。
ここで、レイジはディアベルと関わることが出来ましたね。これが、この先の話に幸となすか不幸となすか…それは、作者の僕しか分かりませんね笑
今回もありがとうございました!次回もまたよろしくお願いします!


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5話:原作ともアニメとも違う

本来だったら昨日に出せそうだったんですけどね…。
では、今回は5話です。
それでは!どうぞ!


 ディアベルを助けて森を走ってはピンチのプレイヤーを助ける。これを何回繰り返しただろうか。恐らく、12人くらいは助けたんじゃないだろうか? モンスター処理も手伝ったおかげで、レベルは5まで上がった。

 

 結局、ひと段落着いたところでホルンカに戻る事にした。

 先にキリトとアルゴもいたようで、宿場に着くと、2人が何やら談笑しているように見えた。

 

「だから、別に俺はコミュ障じゃないって。ただ、人に関わるのが苦手なだけだ」

「それをコミュ障って言うんじゃないのカ?」

「うっ……。って、レイジ。そこにいるなら声かけてくれよ」

 

 キリトがこちらに気づいたようだ。助けを求めるような目をしている。しかし……

 

「何言ってんだキリト。そーゆーのをコミュ障って言うんだバカ。いい加減気づいたらどうだ?」

「レイジ、お前までそんなこというのかよ……」

 

 キリトが机に突っ伏した。そこまでショックだったのかよ。

 でも、そんなことを気にしている時間ではない。

 

「アルゴ、どれくらい助けられた?」

「ざっと20人ってとこだナ。やっぱキー坊は強いナ。サクッと次に進められたゾ」

「俺ん所でも12人くらいだからな。大多数は助けられたんじゃないか?」

「それでも、無理なヤツは無理だったけどナ。死ぬ前までも情報を残そうとしてくれたんダ。頭が上がらないヨ」

「そうだな……。なぁ、キリト。いつまでも凹んでないでいい加減顔を上げろって。話すことはまだあるんだぞ」

 

 キリトは、俺が声をかけるまでずっと凹んでた。顔を上げても、ショックは拭いきれてないようだ。

 

「分かったよ。それでアルゴ、初版はいくらかかりそうだ?」

「1000コルで1冊出来そうなとこだナ。大量生産しようにも、素材が足りなさ過ぎル。もう少し進めば、どうにかなるダロ」

「そうか。なら、俺達から資金の1部は出させてもらうよ。それでいいだろ? レイジ」

「俺も別に構わないさ」

「助かル」

 

 これで、とりあえず攻略本のことは固まった。これで、犠牲者が少しでも減ってくれると嬉しいのだが……。しかし、マイナスのことを考えても、何にもならない。俺は、森でディアベルに会ったことを話した。

 

「そういや、森でディアベルってプレイヤーに会ったんだが、どうやら、攻略に参加できるプレイヤーを募集しているらしい。一応、長い目で見るように話しては置いたんだが……」

「早いナ。もうそうやって動き出してるプレイヤーがいるのは、悪いことではないナ。でも、迷宮区タワーの高さ的に、2週間はかかるだろうヨ」

「だな。ベータの時も、全力でやっても1週間で1層攻略ってのは出来なかったからな。デスゲーム化したこの世界で、慎重になることは何も悪いことじゃない」

 

 キリトとアルゴも同じように考えていたようだ。

 

「キリト、この先どうする?」

「俺は、とりあえず未踏破エリアの方に行く。そっちのクエストとかも攻略本に乗っけておくべきだろう。レイジも来るか?」

「あぁ、1週間で出来れば迷宮区までには行きたい。そう時間はかからないだろう?」

「まぁな。アルゴ、第1層って面積どのくらいだったか?」

「直径がだいたい10キロだから、面積自体は75平方キロくらいになるナ。キー坊。計算出来ないのカ?」

「いや、思い出せなかったんだよ。確か、あと2つ町があるはずだ。順に踏破していって、最後の町の近くに迷宮区がある。ここからなら、5日もあれば十分だろ」

 

 5日で迷宮区まで行ける。なら、全然いいペースではないか。

 

「にしても、どうして迷宮区まで行きたいんだ? 別に、レベリングならいい所なんていっぱいあるだろ?」

「そうなんだけど、とりあえず、迷宮区で何日か潜ってみようと思ってな。あそこは、おそらく強さが段違いになるだろ? なら、俺達が先に行って情報収集してた方がいいと思ってな」

「何もレー坊がそこまで苦労することないんじゃないカ? 迷宮区に行く頃ハ、だいたいレベルが高いパーティーが攻略出来るようになってると思うんだガ……」

「それもそうなんだけど、俺が心配なのは、パーティープレイ推奨のはずのこのゲームで、ソロで活動しようとしてるやつだ」

「ソロ?」

 

 まさか、そんな回答が来ると思わなかったのだろう。疑問のある顔でキリトが問いかける。

 

「あぁ、キリトみたいなコミュ障だったり、俺みたいに活動的じゃないやつは、ソロで活動するだろうからな。そういったやつ向けだ。分かったか?」

「あぁ。なら、早めがいいな。明日にでもここを出て、次の街に向かおう」

「もう行くのカ?」

「あぁ、先に進んでいかないとな。この世界を終わらせるためにも。アルゴとフレンド登録しておきたいんだが、いいか?」

「もちろんいいゾ。キー坊みたいにナンパ気質じゃないから、レー坊は安心だナ」

「キリト、そんなこと……」

「してない! してないからその目はやめてくれ!」

「ニャハハハハ!」

 

 そうして、俺達は部屋に戻ることにした。

 

 〜2週間後〜

 

 あれから、俺とキリトはフィールドを7日で全踏破し、それからは別々に行動している。時々迷宮区の中で会っては、2人でマッピングを進めたりしていた。今はもう迷宮区タワーの4割は完全に踏破されており、残る6割は、今様々なパーティーが進んで攻略している。

 そんな中俺は、ホルンカの森でペネントを乱獲していた。実付きを見つけては、実を割り、集まってきたペネントを片っ端から斬り倒す。1つの実を割るたびに10体近くのペネントが現れるのは、狩るには効率が良すぎる。まぁ、レベルが2桁になったからできたことだけどな。

 

「……ふぅ、これで、レベル13も近いな。町に戻るか……」

 

 町に戻ろうとしたとき、1人こちらに向かってくる人影が見えた。そちらをよく見ると、よく見た顔が見えた。

 

「キリトか?」

「おっ、レイジか。久しぶりだな」

「お前、こんな所で何をしてるんだ?」

「アルゴのボディーガードでな。そういうお前は?」

「ペネントの乱獲」

「……お前まじかよ……今どきそんなことするやつ居ないぞ……」

「こっちの方が多対一の時のシュミレーションにもなるからいいんだよ。それより、ここら辺は狩り尽くしたから、モンスターはいないぞ?」

「そうだろうな。索敵に全く引っかからない。なら、戻っても大丈夫だな」

「俺も行くよ。丁度暇になったところだしな」

 

 思わぬ所でキリトと再開した俺は、キリト達に着いていくことにした。飯も結構ストックしてるし、しばらくは大丈夫だろう。

 

 スタスタスタ

 

「アルゴ、この周りはMOBがいないから大丈夫だ」

「俺が殆ど狩り尽くしたからな」

「おっ、レー坊じゃなイカ。久しぶりだナ」

「あぁ、久しいな。ところで、二人は何を?」

「さっきここで戦闘をしてた細剣使い(フェンサー)さんが、ソードスキルも使ってなかったから、ちょっとアルゴに教えさせてたんだよ」

「そういうとこダ。あそこで熱心に攻略本を読んでるゾ」

 

 アルゴが指を指した先には、攻略本とにらめっこしている女の子がいた。フードをつけた中に、栗色の髪が見える。恐らく、あの女の子こそ『アスナ』なんだろう。にしても、こんな所で会うなんて。やっぱり俺がこの世界に介入したことで、あるべきことの一部が変わってしまったのだろう。

 

 〜sideアスナ〜

 さっき情報屋と名乗った少女から貰った攻略本を読み終わったあと、人が一人増えてるのに気づいた。

 

「アルゴさん、あの人は?」

「あぁ、レー坊のことか。キー坊と同じくらいに強いプレイヤーだヨ。気になるのカイ?」

「いや、雰囲気がキー坊さん? に似てるので」

「そうかナ? まぁ、そんなとこなんだろうナ」

 

「アルゴー。俺達は先に行くぞー」

「分かったヨ。キー坊、ありがとナ。レー坊も、元気でナ」

「言われなくても分かってるよ。そんじゃ。細剣使い(フェンサー)さん、またいつか会うかもな。頑張れよ」

 

 助けてくれたのに、お礼を言わずに行かれるのは、ちょっと自分なりにイヤだと思ってたら、声が出ていた。

 

「あっ、あの!」

「ん? どうした?」

「……助けてくれて、ありがとう……」

「……あぁ」

 

「全ク。キー坊も素っ気ないネ」

「あの、アルゴさん」

「ン? アーちゃん、どうかしたのカ?」

「あの二人の名前、教えて貰えませんか?」

「200コルだゾ?」

 

 お金取られるんだ……そう思っていた時。

 

「アーちゃんが強くなれば、いずれ会うことになるサ。その時に聞けばいいんじゃないカ?」

「……それもそうですね。私、強くなります」

「いい心意気だナ。なら、オレっちとフレンドになっておかないカ? 情報を贔屓してやるからサ」

「いいんですか?」

「モチロン。フロントランナーとの交流は欠かせないからナ」

 

 こうして、私は強くなるって決意をした。いつか助けてくれたあの人と、その隣に立つ人と肩を並べるために。




今日は、アスナ視点で終わりました。
文字数的にも、これ以上は書いたら長くなってしまうので、この先は6話の方で。
今回もありがとうございました!


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6話:馴れ合いと始まり

今回で、やっと攻略会議まで行けました。やるやる詐欺でしたね。申し訳ありません。
いつも通り3000字弱。いいくらいに仕上がりました。
それでは、第6話。どうぞ!


 この世界に囚われて、どれほどMOBを倒しただろうか。

 今現在、アインクラッド標準時で12月2日。恐らく金曜日。デスゲームの開始から3週間と5日が経った。俺は今、迷宮区の中にいる。1人で。ソロ活動ってところだ。ボッチと指を指されることも、無い訳では無い(特にアルゴに)。1人で攻略してた方が、経験値効率がいいのだから仕方ないだろう。

 

 さて、安全圏に戻ろうとしていたその時だった。見覚えのあるローブを身にまとったプレイヤーが、何やらコボルトの大群に襲われているようだった。攻撃をかわしては、ソードスキルをぶっ放す。硬直時間ギリギリのところで、また攻撃をかわす。さっきからそれの繰り返しのようだ。足もガタガタ震えている。

 

「危なっかしいなぁ。しゃーない。ヘルプ行くか」

 

 気付けば、体は自然とその方向に向かっていた。

 

 

 

 〜sideアスナ〜

 攻略本に書かれてたソードスキル『リニアー』を放っては突き伏せ、迫ってくるメイスを間一髪で避ける。どれほどこれを繰り返しても、敵が減る気配がしない。安全エリアまで逃げようか。いや、そんなことしては、この世界に、自分に嘘ついて、負けたことになる。

 

 ━━私、ここで死ぬんだろうなぁ。ここで終わりか。せめて、あの人たちの名前くらいは聞いておきたかったなぁ。

 

 ふと、走馬灯みたいなものを見ることになった。こうなると、この世界に来たのは、半ば現実から逃げるためだったことを思い出す。模試の上位者の名前に名前が載ってなかったことに絶望し、兄が悔しそうに手放したナーヴギアを興味本位で被ったことから、もう1つの現実に囚われることになったのだ。

 あぁ、最初の1週間くらいは誰かが助けてくれるって思って宿に閉じこもったんだっけ。そして、街中で聞いた「ログアウトできる場所」という、一縷の希望を信じて、あの森まで来たのであった。まぁ、即刻打ち砕かれることになるのだが。

 

 脳裏によぎるのは、あの時死を覚悟した私を助けた彼の目。

 全てを引き込む、夜のような瞳。惹かれていた。私も。

 さらに、流れるように綺麗な剣技。あれを美しいと言わないでなんと形容したら良かったのだろう。

 

 ……もう一度、会ってみたかった。彼に。ないだろうと思いながら、彼の救出を待った。もう一度。

 

 助けられたには助けられた。しかし、今度は別の人に。彼と肩を並べる、もう1人の剣士に。

 

「大丈夫か? 細剣使い(フェンサー)さん?」

 

 〜sideout〜

 

 ……俺は何を言ったんだ? ものすごくイキった感じになってるんだけど。まぁ、いいよな。たまにこんなことしてみたいや。

 

「まぁ、まだあそこまで動けるなら心配ないけど、まだ行けるかい? そこで休んでても、君1人くらいなら、全然大丈夫だよ?」

「……いい。私も戦えるわ。ここで負けて死んでも、別に後悔はしない。今の私なら」

「そうか。でも、俺の視界にいる間は、死なせないから安心してもいいよ。それじゃ、行こうか」

「えぇ」

 

 またイキってしまった。まぁ、今はいいだろう。後悔は後から悔やむから後悔なんだ。今はまだ大丈夫。恥ずかしさに押しつぶされはしない。

 

 ……意外と早かったな。3分くらいで全部片付いた。戦闘における3分というのは、明らかに長く感じるが、この世界での戦闘では、早い以外のなんでもない。

 

「やるね。にしても、オーバーキルにも程があるぞ」

「オーバー……キル?」

「ダメージを与えすぎだってこと。君のソードスキル1発で、敵のHPを4割は削れるんだ。あと一発ソードスキルを当てて、残りは普通に弱点に当てるだけでいいんだよ。そしたら、硬直もないから、安全に戦える」

「……なんでそこまで教えたりするの? 私とあなたは他人でしょ? そこまでされる義理はない。何が目的?」

「別に目的も何も無いよ。善意だ善意」

「……そう。なら、私はもう一度行くわ。それじゃ」

 

 アスナは最初の頃はこんなだっけ。ここで不用意に名前で呼んでは怪しまれるだけだ。君で通そう。

 

「あれ? てっきり君もこの後の攻略会議に参加すると思ったんだけど。違った?」

「……攻略会議?」

「あぁ、なんでも、ボス部屋が発見されたとかなんだとか。君も参加するかい? ボス戦」

「……行く。お願いだけど、案内してもらってもいい?」

「分かった。なら、まず迷宮区を出ようか。はい、そこ乗って」

「? えぇ、わかった」

 

 そうして、ワープポイントに乗った彼女は転送された。迷宮区の入口に。俺も早速向かうことにしようか。

 

 

 

 それから、トールバーナに着いた俺達は、解散した。まぁ、どうせ攻略会議の広場で会うことになるのだが。

 

 

 時刻は13時。広場には、もう人が集まっていた。その中の1人のところに向かい、声をかける。

 

「キリト」

「おぉ、レイジか。久しぶりだな。お前もここに来たってことは参加するのか?」

「もちろんだ。今のところ、俺の力を上手く使えるのはここくらいしかないからな」

「そうか。まぁ、そうだよな。おっと、始まるようだぜ」

 

 そういったキリトの横に腰掛け、ステージの方に目をやると、そこには、かつて自分が助けたディアベルの姿があった。

 

「よし! それじゃあ、始めさせてもらいます! その前に、そこの人、もうちょい内側来てくれないか? ……OK、そこでいい」

 

 人を率いることに慣れているというか、そういった人間な気がする。ディアベルは。

 

「俺の名はディアベル。職業は、気持ち的に、ナイトやってます!」

 

 その自己紹介に、「SAOにジョブシステムなんてねーだろ!」やら、指笛を吹く者やら、多彩な反応があった。キリトも、よくやるなぁみたいな眼差しを向けている。

 それをディアベルが両手で制すと、真剣な表情で、言った。

 

「今日、俺達のパーティーが、あの塔の最上階でボスの部屋を発見した!」

 

 周りか、感嘆の声が上がる。

 

「俺達は第1層をクリアして、このゲームも、いつか終わらせられるってことを、始まりの街で待ってる皆に伝えなくちゃならない。そうだろ! 皆!」

 

 また、一同は頷き、拍手を送る。

 

「それじゃあ、それぞれパーティーを組んでくれ。ボス戦では、パーティーを集めた、レイドを作るんだ!」

 

 その言葉に、キリトが目を見開いた。急いで周りを見渡しているようだが、どこもそれぞれでパーティーを組んでいるようで、入れそうにはない。

 

「なぁキリト、俺と別にコンビで動いてもいいんじゃないか?」

「あぁ、すまん。忘れてた。でも、2人だとさすがにスイッチくらいしか出来ないよなぁ」

「ならキリト、あそこの人も誘ってこい」

 

 そう言って俺は、ローブを被ったプレイヤーを指差した。

 

「え!? でも、それならお前が言ってくれよ。俺なんかより適任なはずだろ?」

「……これもコミュ障を克服するために必要なんだよ。ほら、行ってこい」

 

 キリトの背中を叩いて、ローブのプレイヤー(アスナである)の所に向かわせた。キリトは気付いていないようだ。1度助けたプレイヤーだってことに。

 

 ……どうやら、勧誘に成功したらしい。キリトがこちらに向かってピースサインを送る。すると、自身のHPバーの表示の2個下に、もう1つのバーが追加される。

 

 そうして、パーティーを組み終わったあと、ディアベルが会議を再会しようとした時だった。

 

「ちょぉまってんか!」

 

 そう言って、広場の最上段からダッシュで駆け下りてきたプレイヤーがいた。

 

「ワイはキバオウってもんや。ボスと戦う前に、言わせてもらいたいことがある!」

 

 そう言って、キバオウは話し始めた。

 曰く、ベータ上がりのプレイヤーは、初日からニュービーのプレイヤーを見捨てて自分達だけ強くなろうとした。

 曰く、ベータテスター達は、自分達と死んでしまった約2000人に謝罪し、持ってるアイテム、コルを全部置いていけ。

 曰く、この中にも数人は居るはずだ。出てこい。

 

 キバオウが話している間、キリトは震えていた。俺は、そんなキリトの手に自分の手を重ね、こう告げた。

 

「ちょっと行ってくる」

「おい、レイジ!」

「なぁに、気にするな。ちょっと話してくるだけだ」

 

 そう言って、俺はキリト達のそばを離れ、キバオウの元に向かった。




とりあえず、キバオウがわちゃわちゃ言ってるところまで書けました。さすがにこの先もとなると、5000字届きそうなので、やめました。
すぐに制作に取り掛かります。恐らく、日付が変わってすぐまでには出せるでしょう。
今回もありがとうございました!


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7話:開戦

よし!一日に2話投稿できた!上出来!かも?
誤字報告など、よろしくお願いします!
それでは!どうぞ!


 俺は今、キバオウの前に立っている。そう。キバオウの前に。

 

「なっ、なんやお前!」

「いや、俺は別にベータテスターじゃないけど、ベータテスターについて行った1人だからな、全部とまでは行かなくても、ある程度は出てた方がいいだろ」

 向こうから、キリトの驚愕と見受けられる顔が見える。キリトと言わず、そこらにいたプレイヤー全部が驚く。

 

「ほぉ! いい姿勢やないか。なら、出せるとこまで出してもらおうか!」

「いいよ。俺がだすのは、これら武器の強化素材と、いまもってるコルの半分。そして……」

 

 そう言いながら、俺は背中に背負った『アニールブレード』の装備状態を解除して

 

「これだな」

 

 全員が驚く。現時点手に入る片手直剣の中で、1番強いと言われるアニールブレードを、今渡そうとしているのだ。

 

「おまっ! それホンマに言っとんのかいな!」

「ん? 別に俺は冗談を言ってるつもりは無いんだけど」

「そうやない! お前のメインウェポンを渡すことは無いやろ!」

「いやいや、俺のこれ、メインウェポンじゃないから。使う時は多いけどな」

「なんやと!?」

 

 またしてもここにいる全員が驚く。それもそうだろう。アニールブレードを超える片手直剣など、攻略本のどれにも書かれてないからな。

 

「まぁ、見てもらう方が早いか。ほら、これ」

 

 そう言って、取り出した武器をキバオウに渡す。情報のウィンドウを可視化して。

 

「なっ、なんやこれ! こんなん、1層で手に入ったらあかんやろ!」

 こう言っていて、驚いていないのは、キリトだけである。なぜなら、キリトにはこの剣のことを、先に言っておいたからだ。

 

 

 

 話は、1週間前ほどに遡る。ホルンカでのペネント狩りも一段落着いて、迷宮区に潜っていた時だった。

 

「ん? なんだあの窪み」

 

 そうして見つけた隠し部屋にあったのは……中央の柱に括り付けられた1人の青年と、部屋の一番奥にある宝箱であった。

 

「あの! すいません! 助けてくれませんか!」

「どうした?」

 

 そう答えると、彼の頭上にクエストマークが付いたのだ。

 ユニーククエスト『囚われの鍛冶屋』

 

「後ろにある宝箱は開けないでくださいよ!」

 彼は何度もそう言うが、クエスト進行のためには、どうしても開けないといけなかった。

 

「すまない。そうは言ってられないんだ」

 

 そう言って、宝箱を開けたときだった。警報とともに、四方の壁が開き、そこから三体づつほどコボルトが現れた。

 

 ピコン! 「クエスト進行。モンスターを殲滅せよ」

 

 マジかよ……と思いつつ、全部倒した。そしたら、クエストクリアの表示が出て、鍛冶屋の青年が開放された。

 

「ありがとうございます! 旅のお方! なにかお礼をさせて下さい! 鍛冶屋として、腕を振るうこともできます!」

 こう言った場合、別にいいと言ってしまえば、何もされずに終わる。だから、俺はこう言った。

「俺が今持ってる武器より、強い武器をお願いできるか?」

 そう言って俺は、アニールブレードを差し出した。

 そうすると、彼はこう言った。

 

「あそこの宝箱、何やらコボルト達が、「親方の刀を作るために取っておいた希少な金属」と言っていた気がします。中を確認してきて貰えますか?」

 

 そう言われていた宝箱の中身は、確かに金属だった。その名前は、『ヘイズミスタ・インゴット』。

 

「これだったけど、どうだ?」

「いい金属です! 僕の持ってる素材と併せて、いいのが作れそうだ! 少々お待ちください!」

 

 そうして、彼が8回ほど金属をハンマーで叩いた時だった。これまでインゴットの形をしていた金属が剣に変わった。

 

「はい出来ました。どれどれ、『ヘイズウェイファイ』か……。良い武器ですね。よし、これで僕も満足です。受け取ってください」

「ありがとう。役に立たせて貰うよ」

「あと、旅のお方。これは僕の意志の結晶です。受け取ってください」

 

 そう言って渡されたクリスタルを手に取ると、そのクリスタルは光となって消えて、俺の体を包んだ。

 

「これで、僕の鍛冶の力の1部を、あなたに渡しました。次の剣に変える時が来れば、その剣をもう一度インゴットに戻して、次の剣にその魂を繋げてください。いつかきっと、あなたを守ってくれます。それでは、この辺で」

 

 そう言って、彼は消えた。ポリゴンでもなければ、転移のように消えた訳でもない。そうすると、目の前にシステム画面が現れた。それをみたら、誰にも話せないなと決めた。

 鍛冶専用スキルのための、スキルスロットが与えられたのである。

 

 

 

 っと、そんなことがあった。ユニーククエストで手に入れたこの武器は、恐らくユニークウェポンだろう。それは、性能も段違いで驚くはずだ。

 

「お前、どうしてこんな武器使ってなかったんや! 使わないなら、ほかのプレイヤーに渡せばええやないか!」

 

 キバオウはそう言った。

 

「そこですよ。あなたは、そう言って先に進んで行ったプレイヤーから、アイテムを搾取しようとしている。これは、攻略に参加しようとしているプレイヤーの戦力を奪うことに他ならない。まぁ、先程選択したアイテムなりコルなりは、ディアベルに渡しておくので後で分配してくれ」

「なっ!? おっ、お前ぇ!」

「あぁ、そして、これ、分かるか?」

 

 そう言って俺は攻略本をキバオウに向かって、出した。

 

「もろたで? それがなんや!」

「これ、作ったの俺含めたニュービーのフロントランナーとベータテスターなんだよ。知ってた?」

 

 キバオウは、驚いた表情で。他のプレイヤーたちも知らなかったようだ。ここで話しておこう。

 

「この攻略本、ベータとの違いが明記されてたりするんだよ。それはもちろん、ベータテスターがいないとできない事だし、正しい情報を集めるため動いたフロントランナーたちが集めた情報によって、正しいと分かりきっていることしか記載してないんです。感謝してくれてもいいんじゃないか?」

「でも、だからって、死んで言った2000人はどうしろって言うんや! 見捨てたようなもんやろ!」

「情報を手に入れられた世の中で、それに目もくれずフィールドに駆け出して勝手に死んでしまったプレイヤーに謝罪? 言い方が悪かったかもしれませんが、そういったヤツらに謝るなんて毛頭無理だね」

 

 さすがに言い過ぎただろうか。まぁ、いいだろう。

 

「んじゃ、ディアベル。あとは頼んだ」

「あぁ、任せてくれ。レイジ君。それじゃあ、会議を再開する! よく聞いてくれよ!」

「あと、その前に」

「どうしたんだい? レイジ君」

「ボスの武器に変更がある。ボスが使うのは曲刀じゃなくて、普通の刀だ。警戒しといた方がいい」

 

 そう言って、キリトたちの元に戻った。あとは、アニメ通りの展開で進んで行った。

 

「お前、怖かったんだぞ。少しはこっちの身になってくれよ」

「ごめんよ、キリト。こうした方がいいと思ってさ」

「まぁ、いいけどさ。あぁ、ずっとこの人ソロっぽかったから、明日からパーティー戦の練習しといたいんだが、来てくれるか?」

「いいぞ。てか、連携とか久々だからできるかどうか」

「それは俺もだからな。まぁ、どうにかなるだろ」

 

 そう言って俺達は、明後日のボス攻略まで、連携の練習をしたのだった。

 

 

 

 12月4日午後1時、俺達は、ボス部屋の前まで来ていた。

 

 ディアベルが、剣を地面に指して、みんなの顔を確認する。一通り回ったところで、話し出した。

 

「よし、皆! 俺から言えることはただ一つ! 勝とうぜ!」

「「「「おう!!」」」」

 

「よし! 行くぞ!」

 

 ギィィィィ

 

 

 扉が開いて、全員がボス部屋に入る。すると、前方で、なにかが落ちてくる音がした。そして、姿を現したのは、第1層のフロアボス。[イルファング・ザ・コボルトロード]

 そして、そのまわりに取り巻きとして、三体のモンスターが現れる。[ルイン・コボルトセンチネル]だ。

 

 そして、今ここでプレイヤーとボスの最初の戦いが始まる。

 

 

「全員、突撃ぃぃぃ!」

「「「「うぉぉぉぉぉぁぁぁああ!」」」」




さぁて、ここで最初のユニークウェポンが出てきましたね。本作のオリジナル装備です。
『ヘイズウェイファイ』ですね。それぞれ、英単語の
haze,wipe,fighterから来ています。
霞を払う剣士って感じでしょうかね?
色は白っぽい灰色。柄の所に黒のラインがヒースクリフの剣みたいに付いてます。形のイメージも、そちらを考えてもらうといいでしょう。
遂に始まってしまった第1層ボス戦。一体どうなるのやら。
次回もよろしゃす!ありがとうございました!


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8話:決着とビーター

3日ぶりくらいの投稿です。
今回は、タイトル通りです。全くもって。
それでは、8話!どうぞ!


 戦闘が開始して20分。俺達3人(あぶれ組)はセンチネルがボスを相手している隊に行かないよう、討伐する役回りをしていた。

 

「おらぁ! スイッチ!」

「はぁっ! スイッチ!」

「3体目! てやぁぁ!」

 

 基本的に1回しかできないスイッチを、2回連続で行う。スペースのないこの場所では至難の技だが、昨日丸一日かけてできるようになった。アスナの一撃でセンチネルがポリゴンになって散る。

 

「キリト、今はセンチネルがリポップしないと思うから今聞く」

「なんだ?」

「俺は、一応攻略会議でボスは曲刀ではなく刀を使うって一応言った。だから、刀のソードスキルをある程度教えて欲しい」

「分かった。刀のソードスキルは、俺が見たのは5つ。ほぼ360°全範囲を攻撃する『旋車』、上下フェイントの『幻月』、下から当てて上方向に吹っ飛ばす『浮舟』、抜き打ちみたいな感じで突進してくる『辻風』、そして、3連撃の『緋扇』だな」

「俺でも対処できるか?」

「『幻月』以外はな。アレだけは最後まで見ないといけないから、なんとも言えない」

「OK。さて、もういっちょセンチネル狩りと行きますか」

 

 キリトから、刀のソードスキルについて聞くことが出来た。これだけの情報があれば、俺なら対応出来る。瞬間記憶がここで活きることになるなんてな。

 

 〜さらに15分後〜

 ディアベルの的確な指示のもと、ボスのHPは順調に削れて、最後の1本を残すところとなった。ボスがプレイヤーたちから距離を取り、斧とバックラーを投げ捨てる。

 

「武器を持ち替えおった。情報通りやな。さて、曲刀と刀。どっちが来るんや?」

「キバオウさん。皆を下がらしてくれ」

「おっ、おう。皆! 引くんや!」

「よし! 俺とC隊が出る!」

 

「おい、ディアベルたちは何をしてるんだ?」

「ん? なっ! あいつ、もしかして!」

「大方キリトの予想は分かった。キリト。センチネルをアスナと2人で任せられるか?」

「フェンサーさんとか。できるぞ」

「ありがとう。俺は、なんとなくだが、さっき聞いた刀のソードスキルをコンボして、確実に殺しにくると思う。それを止めてくる。ディアベルを下がらしたら、お前も来てくれ」

「あぁ、分かった。……死ぬんじゃねぇぞ?」

「もちろんだ。こんなとこで死んでたまるかよ」

 

 そうして、俺はボスの方向を向いた。ディアベルとC隊を撹乱するように、部屋の柱を飛び回る。

 

「上からか。多分『旋車』だな。スタンさせて『浮舟』で打ち上げ。落下ダメージで死亡ってとこか。……茅場も鬼畜だな」

 

 アニメでの流れを想像する。一歩間違えたら自分が死ぬ。でも、やらねばならない。多くの人間を助けるためにも。

 

「よし。やるか」

 

 俺は、『ソニックリープ』の構えをとった。奴が降りてきてディアベルをタゲに『浮舟』を放ったところに打つ。そっからは、パリィしまくるしかない。ダメージを与えるのは、キリトたちが来てからだ。

 

「グゥォォォォォ!」

「「「「「「「うわぁぁ!」」」」」」」

「グルルル!」

 シュィィン

 

「ここっ!」

 間に合う。この距離なら、外さない! 

「やぁぁぁ!」

 ガキン! 

「ディアベル! A隊とB隊! 引きずってでも1回下げろ!」

「なぁっ! お前はどうするんや!」

「キバオウ! 他の隊の指示を1回任せる! こいつの攻撃はしばらく俺が引き受ける!」

 

 そこからは、俺の独壇場になった。ボスの放つソードスキルを、ひたすらパリィし続ける。キリトが追いつくのと、自分の防御を貫通してHPが尽きるののどちらが早いかなんて、気にしている場合ではなかった。

 

 〜sideキリト〜

 さっきからレイジがパリィしまくってくれているが、あのままでは、レイジのHPが先に尽きる。そんなこと思っていると、キバオウが指示を出した。

「タンク隊! 何やっとんのや! 早くあいつと変わったれ! E隊とF隊! センチネル片付けてこっち手伝ってくれや!」

 

「了解! すぐに向かう!」

 

 やっと皆が動き出した。ディアベルとC隊も、回復して、もう少しで満タンまで行きそうだ。さっさと目の前のセンチネルを倒してレイジの方に行こう。

 

「ラスト一体! スイッチ!」

「やぁぁ!」

 

 シュッ! パリーン

 

「フェンサーさん。まだ行けるか?」

「あの人のところ行くんでしょ?」

「あぁ、手伝ってくれ」

 

 無言で頷いてくれた。

 

「手順はセンチネルと一緒だからな」

「分かった」

 

 頼む。間に合ってくれ! 

 〜sideout〜

 

 何発防いだかは分からない。さっきから『幻月』が来ることを警戒しながらパリィしてるが、全く来ない? こいつは使わないのだろうか? 

 

 シュィィン

 

「来いっ!」

 

 剣は上段だった。ライトエフェクトをまとっている。ならこっちは『スラント』で……と思ったのだが。

 

 スッ「グハッッ!?」

 

 上段を受け止めるはずだった『スラント』は失敗(ファンブル)し、技後硬直によって動けない俺に下段切りがクリーンヒットした。

 

『しまった。油断した!』

 

 そのままボスが俺に向かって刀3連撃ソードスキル『緋扇』を放とうとしたその時だった。

 

「うぉりゃぁぁ!」

「アンタは!?」

「タンク隊のリーダー。エギルだ。すまないな。ディーラーにタンク役やらせちまって。回復しておいてくれ」

「あぁ。恩に着る」

「別にいいさ。よしお前ら! 行くぞ!」

 

 両手斧ソードスキル『ワールウィンド』で一撃目を吹き飛ばし、ノックバックさせたエギルと、その仲間たちが、ボスに向かって攻撃いった。しかし、HPがイエローに入っていたため、行けると思ったんだろう。結果的にボスを囲うような陣形になってしまった。

 

「やめろ! 囲うと範囲攻撃が来るぞ!」

 

 俺の声が届くのは遅かった。ボスはそのまま『旋車』を発動し、タンク隊を軽く吹き飛ばして、空中に跳び、エギルに狙いを定めてトドメをさそうとした。

 

 〜sideキリト〜

 

 タンク隊が全員吹っ飛ばされた。もしかしたら、あの跳躍中にソードスキルを当てれば、ボスを撃ち落としてブレイクに持って行けるかもしれない。可能性は十分だ。

 

「フェンサーさん、俺があいつを撃ち落とす。落ちてきたらソードスキルで吹っ飛ばしてくれ」

「上手くいく算段は?」

「五割ってとこだ。でも、やるしかない」

「分かった」

 

 俺はフェンサーさん。HPバーを見る限り『アスナ』と言うのだろう。アイコンタクトを取って、ボスに向かう。もう少しで最高到達点だ。

 

「届けぇぇぇぇ!」

 

 ボスのいる空中に向かって、『ソニックリープ』を放つ。そしてそのまま、落下しながら攻撃しようとしていたボスのうなじの部分にヒットする。攻撃を中断されたボスは、そのまま落下していった。

 

「落ちた! っ!?」

 

 落として落下の衝撃を受けたボスだったが、平然として立ち上がろうとする。このままでは、アスナに一撃当たってしまう。

 

「アスナ! 避けろ!」

「!!」

 

 スッ パリィーン

 

 彼女の被っていたローブが切り裂かれて、姿があらわになる。でも、それをお構い無しにソードスキルを放っていた。

 

「てやぁぁぁ!」

 

 正面から『リニアー』をくらったボスは、部屋の壁の方にまで吹っ飛ばされた。HPは、もう3割まで減っている。バックラーを投げ捨ててからはHPの減りが早くなったとはいえ、ここまで短時間で減るものなのか。

 

 スタッと着地して、アスナの方に駆け寄る。

 

「ラストアタック、一緒に行ってくれるか?」

「彼の心配は大丈夫なの?」

「あれくらいで死ぬようなヤワじゃないさ。行くぞ!」

「了解!」

 

 そして、2人でボスの方にトドメを刺しに行った。

 

 〜sideout〜

 

 全く。魅せてくれるな。キリトは。あそこまで綺麗に撃ち落とせるなんて、俺には到底出来ないだろう。窮地での機転と、それを可能にするアイツの実力あってこそだ。さすが以外に言いようがない。

 気付けば、2人でラストアタックを取りに行ってる。俺は、念の為にいつでも攻撃に参加できるよう構えておく。

 

「はぁぁ!」

「せやぁぁ!」

「ふっ!! はぁぁぁぁぁぁ!」

 

 キリトが『スラント』で刀をパリィし、アスナが『リニアー』でダメージを与える。そして、そこから更にスイッチしてキリトが『バーチカルアーク』で残ったHPを吹き飛ばす。誰もがこれで終わりだと確信していた。

 

 でも、そこまで甘くはなかった。ボスは、HPを5%だけ残してキリトに襲いかかる。硬直真っ只中のキリトにあの攻撃が当たれば、彼のHPは吹き飛ぶだろう。でも、そんなことは無い。俺は、それを見越してソードスキルの準備をしていた。

 

「俺のとこのパーティー2人に何してんだぁぁ!」

 

 思いっきり頭の頂点に向かって『ソニックリープ』を放つ。この距離なら、クリーンヒットできる。自身はバッチリだ。

 

 スパァァン

 

「グォォォォ!?」

「キリト! トドメを!」

「レイジ!? っあぁ、分かった。おらぁぁぁぁ!」

 

 キリトが硬直から抜け出し、ボスの両足に片方に1発づつ当てるような感じで『ホリゾンタルアーク』を放つ。

 

 ついに、ボスがポリゴン化した。勝ったのだ。

 

「おっ、おっ」

「「「「「「「おっしやぁぁぁぁ!」」」」」」」

 

 ボス部屋全体に響き渡る歓声。目の前にシステム画面が出て、何やら「MVPボーナス」と書いてあるが、そんなことに構わず、キリトの方向に向かう。

 

「おつかれ」

「お疲れ様」

「Congratulation! この勝利は、あんたたちのものだ」

「いや、これはみんなで掴んだ勝利だ。別に俺らのパーティーだけの勝利じゃないさ」

 

 皆が勝利を喜んでいた。死闘を制し、生き残ったことを喜んでいた。……1部の人間を除いて。

 

「なんで! なんでだよ!」

「ん?」「どうしたんだアイツ?」

「なんでディアベルさんを見殺しにしようとしたんだ」

「見殺し?」

「そうだろ! ちゃんと刀スキルのことを話しておけば、ディアベルさんが危険な目に合う必要もなかったんだ!」

 

 そう、ディアベルが危ない目に合ったことを、他のプレイヤー、特に、ラストアタックを取りに行った俺らに押し付けようとしている。

 

「……キリト、動くなら今だ。俺も背負ってやるぞ」

「いいのか? レイジ?」

「別に構わないさ。どうせソロで動くつもりだったんだ。この方が効率がいい」

「なら、俺から先に行くよ。あとから来てくれ」

「分かった」

 

 2人でコソコソ話し合ってると、どうやら目をつけ付けられたようで、

 

「そこのお前ら2人だよ! ボスの動きに対応出来てたじゃないか! お前ら、ベータテスターなんだろ!」

「そういや、攻略本もベータテスターが作ったって言ってたよな。もしかして、アイツらもグルだったってのか?」

 ザワザワ……

「お前らなぁ」「あなた達ねぇ!」

「フフフフッ! アハハハハハハハ!」

 

 その場にいたプレイヤーたちを、エギルとアスナが止めようとしていたが、それを嘲笑うかのように高らかに笑った。

 

「ベータテスター? そんな情弱共と一緒にしないで欲しいなぁ」

「なんだと!?」

「お前らは知らないだろうが、俺は、ベータテストの時に誰も行けてない所まで行ったんだ。ボスの刀スキルについてコイツが知ってたのは、俺がこっそり教えておいたからだ。他にもいろいろ知ってるぜ。情報屋。しいては攻略本を作った『鼠』なんかアテにならないくらいにな」

「なっ、なんだよそれ……」

「それ、もはやチートじゃねぇか……」

「ベータテスターのチーターだろ……ビーターか……」

「ビーターねぇ……いい名前だな! それ、このラストアタックボーナスと一緒にいただくとするよ!」

 

 そう言って、キリトはウィンドウを操作し、ボスドロップであろう『コートオブミッドナイト』を装備して開いた次層に向かう階段に歩いていった。

 

「次の層の転移門はアクティベートしておいてやるよ。来てもいいが、浮かれて初見のモンスターに殺されるんじゃねぇぞ」

 

 そうして、キリトはコツコツと足音をたてて階段の方に向かっていった。

 

「ふぅ、ビーター様誕生ねぇ。あんまいい気持ちしねぇな」

「お前もだ! お前もこうなった以上、責任取っけてよ!」

「は? 何言ってんだ?」

「それはこっちのセリフだ! お前らがちゃんと情報を伝えとけば、ディアベルさんはこんな目になんか」

 

 そう言おうとしたそのプレイヤーの声を遮るようにして、俺は言った。この場所にいる全員に聞こえるような大声で。

 

「キバオウが行おうとしたベータテスター弾圧を、何知らずとして無視し、挙句の果てにはラストアタックまで取ろうとしたそこのベータテスターを放っておいてそんなこと言うのか?」

「「「「「「!?」」」」」」

「なぁ、ディアベルよ。俺は忘れてないぜ。初日にアンタが2人のプレイヤーを連れてホルンカまでやってきたことをな」

「「「「「「!?」」」」」」

 

 全員の視線が、ディアベルに集まる。無理もない。これだけ言ったんだ。無視する方が無理な話だ。

 

「ほっ、本当なのか? ディアベルさん。アイツのデタラメとかじゃ……」

「……いや、彼の言ってることは本当だ。俺は元ベータテスターだ。もちろん、キリトさんのことも知ってる」

 

 さらに、動揺が走る。自分たちを率いてきた人間が、自分たちが嫌悪していた存在だと、誰も認めたくはないだろう。

 

「ディアベル。アンタのやろうとしてたことは、大方想像がつくぞ。キリトがいた俺達のパーティーを取り巻き処理に回し、ラストアタックボーナスを自分で取ろうとした。違うか?」

「全くもってその通りだ。でもっ!」

「レアアイテムが欲しかったんだろ。ネットゲーマーなら、レアアイテムが欲しいのは誰だってわかる。でも、アンタには無理だ。欲に負け、冷静な判断を失ったアンタにはな」

「っ!? ……ははっ。俺の言いたいことはなんでもわかるってことかい」

「まぁな。さて、俺は行くよ。アンタらに時間取られてたら、攻略が遅れる」

「逃げるのかよ!? あのビーターと一緒で! お前も、自分のために情報を独占して、クリアするためなら他人を犠牲にすることなんて厭わないのか!?」

「人に責任を押し付けて、何も出来なかったアンタらに言われたくないな。俺は、俺のやり方でやっていくよ。アンタらにはない力が、俺にはある」

 

 そう言って、俺は『MVPボーナス』として受け取ったアイテム、

『コートオブナイトグレー』を装備する。

 

「俺から言うことはもうない。来るも来ないもアンタらの自由だ。先に行くぜ」

 

 そう言って、俺はキリトを追って階段を上って行った。

 

 〜sideアスナ〜

 私を助けて言った少年2人が、ここにいる人たち全員のヘイトを買った。「キリト」と呼ばれた少年は、ベータテスターに対するヘイトをその身で受け、「レイジ」と呼ばれた少年は、情報を独占する醜いプレイヤー像の象徴として、嫌われることとなった。

 

「……追わなきゃ。話したいこと、まだまだあるから」

 

 独り言のように呟き、あの二人を追いかけようとした時だった。

 

「おい、あんた。あの二人のところに行くのか?」

「……えぇ。何か?」

「伝言お願いしたい。次のボス戦は、一緒に攻略しようってな」

「あと、わいからもひとつ頼むわ。お前らのやり方は納得出来ひん。俺達は、俺達のやり方でやるってな」

「あと、俺からも頼みたい。C隊を助け、懸命に戦った君たちのことを、忘れないって」

「……分かりました。伝えておきます」

 

 そう言って、2人を追いつくため、階段の方に走った。

 

 〜sidechange キリト〜

 

 下の方から、足音がふたつ聞こえる。ひとつは、ゆっくりこちらに向かう足音。もう1つは、こっちに向かって走ってくる足音。

 

「お前もこっち側か。レイジ」

「キリトには言われたくないな。お前の狙いは分かってるんだ」

「全く。レイジは察しが良すぎて困るよ。んで、下からもう1人追っかけてくる音がするんだけど、分かるか?」

「まぁ、な。覚えてないかもしれないけど、ホルンカの森でアルゴと2人で助けたっていう人だぞ」

「あぁ、あの時のか」

 

 ふと、1週間と少し前、アルゴと情報集めをしていた際に助けた1人のプレイヤーを思い出す。確か、同じローブを着てたっけ。

 

「よく覚えてるな。さっき思い出したよ」

「物覚えはいいからな。さて、もうすぐ追いつかれるぞ」

 

 タッタッタッタッ

 

 ここで彼女と会って何を言えばいいのだろうか? 俺には分からない。

 

「いや、先に進もう。時間が惜しい」

「いいのか?」

「あぁ、それより、彼女にあって、巻き込むのは余計に嫌だ」

「……そうかい。なら、先に行っててくれ。少し話して、すぐに追いつく」

「……分かった。主街区の近くのエリアで狩りをしとくよ。また後でな」

「あぁ」

 

 そういった俺は、また階段を、1段1段上り始めた。

 

 〜sideout〜

 

 ……さて、キリトも行ったか。あとは、こっちで話を終わらせよう。

 

「話の盗み聞きは良くないぞ。出てこいよ」

「……なんでわかったの?」

「足音。さっきまで等間隔で刻んでた音を、いきなり減速させてきたら、近くに来たってこと以外に何がある?」

「……鋭いのね」

「それで? なんの用? パーティー解散をするためだけにここに来たの?」

「……なんであたしの名前を知ってるのよ。どこで知ったの?」

「……え?」

「え? じゃなくて、どこで知ったのって聞いてるのよ」

「いいか? 顔は動かさないで、視線だけ右上に動かしな」

「えっえぇ。……き、り、と、と? れ、い、じ。これが、あなた達の名前?」

「まぁ、そんなとこだ。俺がレイジで、先に行っちゃった方がキリトな」

「……ふふっ。なぁんだ。こんなとこにずっと書いてたのね」

 

 いい笑顔をするもんだ。キリトが好きになるのも、分からなくはない。

 

「ここでパーティーは解散するけど、君はソロで行くんじゃないぞ。この先のソロプレイは、絶対的な限界があるからな」

「あなた達はどうするのよ?」

「あんなこと言った後だ。俺達はソロで行くしかないさ」

「それであなた達まで死んだらどうするのよ!?」

「そこまでだったってことさ。でも、心配はいらない。俺達はいずれ、あれくらいのボスを1人で倒せるようにはなってるさ」

「それなら、私だって……」

「やめときな。どこかのギルドに誘われたら、断るんじゃないぞ。まぁ、団長を務めるやつをしっかり見極めたりはしないといけないけどな」

「……わかったわ。それで、伝言を預かってるんだけど」

 

 それで、アスナの口からは、エギルが次のボス戦も共に攻略しよう。キバオウがやり方は認めない。自分たちのやり方で攻略させてもらう。C隊のリーダーからは助けてくれた恩は忘れない。との内容を告げられた。

 

「アスナ。君はきっと、上層で必要不可欠なプレイヤーになる。その時になったら、またキリトと3人でパーティーを組もう」

「えぇ、分かったわ。約束」

 

 そう言って出した俺の拳を、アスナもまた拳で合わして返した。

 

「それじゃあ、俺は行く。あいつを放っておくことは、俺にも出来ないからな」

「なら、あの人にも伝言。助けてくれてありがとう」

「……伝えておくよ。それじゃ」

 

 それから俺は振り返らなかった。先に進むことを決め、歩みを再開するのだった。




ヒエッ。7000字オーバーしてしまった…。書き進めると止まらなくなってしまう…。
実際どうでしたか?しばらくは、7000字くらいで行きます。出来れば12話位まで。そこでアンケートとかも取りたいですね。
本日もありがとうございました!


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9話:新たな力と振り返り

今回、オリジナルスキルがひとつ出てきます。
にしても、そろそろ時期的にテストとか被るんで、来週は土曜まで更新できないかも?
まぁ、置いといて。
9話。スタートです。
それでは、どうぞ!


 アインクラッドで新しい年を迎え、はや4ヶ月が経った。俺は、最前線の28層の迷宮区の攻略を行っている。5月の第1週で今、攻略を行っているソロプレイヤーは、俺くらいしかいないだろう。

 

 

 

 ここまで来るのに、色々なことがあった。第1層のボス戦が終わってからは、俺はキリトとしばしばコンビを組みながら攻略を続けていた。ボスをそれぞれ単独で撃破したりしたし、コンビで撃破したりもした。第11層は俺が、第12層はキリトが、第13層とその次の第14層は2人でそれぞれラストアタックボーナス(LAB)を1回ずつ取って撃破した。

 

 ……まぁ、その度にキバオウ達の〔アインクラッド解放隊(ALS)〕のメンバーに陰口を言われるのは、毎度の事だった。リーダーのキバオウは正直、攻略会議であんなことを言ったが、今となっては攻略に参加する全メンバーを大切にしようとしてくれているので、そういった奴らを沈ませることはしてくれていた。

 

 しかし、世は無情と言うものだ。攻略が進むという良いニュースの反面、攻略組に大きなダメージを与えるバッドニュースも存在した。

 

 起きた順番に言えば、2層で強化詐欺事件が起きたことが1番最初だろう。〔レジェンド・ブレイブス〕というギルドのメンバー、ネズハ(Netha)の行ったトリック(鍛治の最中に高速武具転換(クイックチェンジ)によって強化値MAXの武器(エンド品)に変えることで武器の消滅を演出する)によって、数々の武器強化を依頼したプレイヤーがメインウェポンを失った。

 まぁ、彼が居なかったら、第2層ボス攻略は死者多数として伝えられていただろう。彼が鍛治スキルを捨て、体術スキルを手に入れたことで、元々スロットに入れていた投剣スキルと合わせて投擲武器のチャクラムを使用可能になり、それによってボスの麻痺ブレスを弱点攻撃によるスタンで防ぎ、ボスの攻撃のほとんどを無力化して討伐に貢献した。

 

 次の事件は、5層のギルドフラッグ先取りの時だろうか。この時、攻略組は主にふたつのギルドの攻略によって進められていた。キバオウが率いる〔ALS〕、第1層ボス攻略時、C隊のリーダーであったリンドが率いる〔ドラゴンナイツ・ブリケード(DKB)〕のふたつだ。

 

 第1層攻略時に攻略メンバーを率いたディアベルは、前線の、誰にも見つからないような場所で自分を強化していた。そして、第5層が開放された時、名高いプレイヤーの中でギルドに所属していないプレイヤーを集め、少数パーティーによるフロアボス撃破をしようと考えた。初めこそ、それはあまりにも無謀すぎると皆が嫌がっていたが、ディアベルの集めたLABの情報によって、参加を決断する人間が増えていった。結果的に、2パーティーでの攻略になり、1人の犠牲者を出すことで、ボスは撃破された。

 

 ディアベルが手にしたLABの情報は、『ギルドフラッグ』と呼ばれるアイテムの事だった。このアイテムは、第1層の始まりの街にあるような、ごく初期装備扱いの槍と同じくらいの性能だったが、追加効果がとてつもなくすごいものだった。

 その効果が、「この武器を地面にたてて持つことで、同じダンジョン内にいる所属ギルドのメンバーに大幅で多彩なバフをかけること」であった。

 

 この情報をどこで手にしたのかは分からないが、ALSとDKBも狙っており、どちらかの手に渡ることで戦力比が偏ることを、ディアベルは危惧したのであった。

 

 今現在、『ギルドフラッグ』はキリトが持っている。メンバーを集めたディアベルは、ボスの取り巻きのように出現した、ミニゴーレムのヘイトを集め、トラップへと誘導して、モンスターごと道連れにする形で死んでしまった。

 死者のことを、いつまでも考える訳にはいかないと、全員の考えが一致し、ボス部屋で黙祷を捧げたあと、残ったプレイヤーは次層の開放に向かって終わった。

 

 最後の大きな事件は、新たな年が明けた時からだ。2023年3月31日。今年度の終いは、クウォーターポイントのボス攻略で飾ろうと、皆が張り切っていた。特に張り切っていたのは、〔ALS〕だった。そして、ボス部屋までのマッピングが終了した段階で、1度休憩しようと安全圏に1レイド半で向かったときだった。

 

 参加していた〔ALS〕の3パーティーが、リーダーのキバオウの目が離れた隙に、ボス部屋に入って攻略をしようとしたのだ。

 最初に気付いたのは、アスナだった。ドアのゴゴゴと開く音を耳にして、俺とキリトに、キバオウのパーティーや動ける人材を連れて、全速力でボス部屋に走っていった。

 

 着いた時には、3人減っていた。ボスは、[アン・イモータル・デスアクセル]。見た目は、鉄製の三角錐で、その頂点に槍の3倍以上の長さの刃渡りの鎌。HPバーは三本。着いた時でも2本を残し、1本目も1ドット削れているかどうかというくらいであった。

 

 彼らは、攻略組の中でも、結構なダメージディーラーだった。それでも、1ドットも減ってるか分からない程度くらいということは、HPはさほど高くなくても、防御力が高すぎるのである。

 1本目を削り切るのには、40分を要した。

 

 そこからは、熾烈な戦いだった。HPバーが残り1本になった途端、錐の斜面が全て外れ、中から一体のモンスターが現れた。人型。黒の長いローブを被った姿は、「死神」と表すのがいいだろう。そのモンスターが、頂点にあった鎌を片手で持ち、振り回し始めた。そこからはこれまでと打って変わって、ダメージは通るようになったが、近づくことが容易ではない。リーチだけでも、自身の三倍以上ある敵に向かっていくのは、死に行くのと同じことであった。

 

 結局、犠牲者は総合18人。内〔ALS〕のプレイヤーは11人。全てフライングで入っていった奴らだった。これは、アインクラッド全土に広まり、攻略再開までにある程度の時間を必要とした。

 キバオウは、「こうなったのは、ギルドの統制が甘かった自分の責任」と、部下を連れて始まりの街へと戻っていった。

 

 そして、今現在に至る。恐らく、第25層が攻略されてから、一番最初に攻略再開をしたのは、俺だろう。皆から、「冷めてる」だったり、「強いんだな」と言われたりした。でも、そうして攻略をストップするのは違うだろうと、俺は1人で攻略していくようになった。

 

 キリトとは、ここ3週間会っていない。生存確認はできているから、きっとどこかで世話を焼いてるんだろう。時期的には、月夜の黒猫団に参加している頃合いだ。

 

「……ここのボスは、1人で倒してしまおうか」

 

 俺は、久しぶりにフロアボスを1人で倒すことにした。5月8日のことである。

 

 5月9日。第28層のフロアボスを単独撃破し、アスナに怒られることを覚悟で、次の層のアクティベートに向かった。

 

 手に入れたLABはアイテムではなく、システム的な権利だった。特に、この先化けるであろう能力で、こういったものだ。

 

 ーシステム画面ー

 第28層フロアボスのラストアタッカー「Leiji」に以下のボーナスを与える。

 エクストラスキル「武心継承」熟練度1000

 

「武心継承」熟練度1000/1000

 取得条件:鍛治に関するユニーククエストをクリアし、装備武器が販売品でない場合。※武器を販売品に変更した際、このスキルは効果を発動しなくなります。

 

 効果:自身の装備している武器が耐久値0になった際、次に装備した武器に強化値を継承。(熟練度0)

 :自身の装備している防具が耐久値0になった際、次に装備した防具に強化値を継承。(熟練度150)

 :武器強化の際、強化成功割合が0.1n%上昇。(nは熟練度値)(熟練度300)

 :防具強化の際、強化成功割合が0.1n%上昇。(熟練度400)

 :武器強化の際、0.05n%の割合で、強化素材の3割をストレージに返却。(熟練度500)

 :武器を素材変換する際、その武器の強化に使用した累計素材の内1割をストレージに返却。(熟練度750)

 :アイテム『装備の心』を製作可能。(鍛治スキル必須)(熟練度850)

 :装備の持つ追加効果(例:STG+15)を『装備の心』に継承可 能にする。(熟練度950)

 :『装備の心』を武器制作素材に入れることの出来る限界量 を無限化。このスキルをセットするスキルスロットを、通常スキルスロットから鍛治スキルスロットに変更。(熟練度1000)

 

 熟練度の上昇条件:鍛治スキルで使用可能な素材アイテム1つ入手につき1上昇。

 

 ______________________________

 

 oh……かなりのぶっ壊れだ。まさか『囚われの鍛冶屋』の時に鍛治スキルスロットを手にしてから、鍛治スキルと片手剣作成、各種防具制作は取っていたが、ここで新たに鍛治スキルスロットに入れられるものができたとは……。アルゴにも伝えないでおこう。

 

 

 ━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 転移門のアクティベートをし、『装備の心』作成のためのアイテムを集めるために、第20層まできていた。この層のカマキリ型MOBのアルビノ種が落とす、『ホワイト・アイ』がメイン素材となるため、集めに行った。アルビノ種のカマキリは、表皮が薄黄緑になり、目が白色になる。この目が素材になるのだが、このアイテムのドロップ率が、『リトルペネントの胚珠』並に低いのだ。リアルラック値がどれくらい残ってるか分からないが、とりあえず、100個。今装備しているのがLUC補正のある武器なので、三体に1個は出るだろう。よし、乱獲開始。

 

 

 

 〜7時間後〜

 

「ふぅ……こんなもんか」

 

 すっかり深夜になってしまった。倒したアルビノ種のカマキリは全部で572体。そしてドロップした数が97個。剣につけられているLUC値が+20だから、普通にドロップする確率は、600体で20がいいとこだろう。ここまでドロップできたのは、いい出来だ。

 

 ザシュッ ザシュッ パリーン

 

「……ん? こんな時間にここでレベリングなんて……」

 

 音がする方へと足を運ぶ。ここより、第11層の方が、経験値効率がいい。普通に考えて、2層位下がって迷宮区に潜る方が、レベリング的にもここより美味しい。何を考えているのだろう。

 そうして、俺が向かった先にいたのは……キリトだった。

 

「……お前か、キリト」

「……レイジか」

「何やってるかはある程度把握したよ。HPバー近くのマーク見たらな」

「……レイジ、ちょっと相談がしたいんだ」

「珍しいな。いいよ。そこにちょうどいい河川敷がある。そこで話そう」

 

 キリトの話は、「赤鼻のトナカイ」の話そのまんまだった。話してくれた内容は、第11層で、剣の強化素材を集めていた時に、モンスターに囲まれていたパーティーを見つけ、囲んでいたモンスターを全部倒して、安否確認をしたところ、勢いに押されて宿場まで連れていかれ、自分のレベルを偽ったことでギルドに誘われその場で了承してしまったこと。彼らの中に、戦闘が苦手な女性プレイヤーがいること。そのプレイヤーの前衛転向の手伝いをしていること。全てを洗いざらい話してくれた。改めて、自分が彼に信用してもらっていることに喜びを感じている。

 

「キリトもお人好しだな。んで、キリトはどうしたい?」

「……分からないんだよ。彼らが最終的な目標としているのは、攻略組だ。そこまで行くのを手伝うべきか、それとも……」

「……ここらで本当のことを言って別れる。か?」

「それも考えた。けど、『ビーター』のことを話すのが、怖い」

「そりゃそうだ。でも、ビーターであることを隠せばいい」

「嘘をつくってことか?」

「どうせ関わってたら、いずれバレることだ。まぁ、どうするかはキリトが決めることさ。なんなら、俺も手伝う」

「いや、それは悪いな。自分でどうにかするさ」

「……そうか。あと、今日の号外、見たか?」

「お前、また無理したのかよ。んで、LABはなんだったんだ?」

「……キリト。ちょっと武器を見せてくれ」

「? ほらよ」

 

 そう言って武器を差し出したキリトは、怪訝そうな顔で俺を見た。俺は、構わず鑑定スキルを発動する。

 

『トライデント・クエイク』

 モンスタードロップ品で、現時点で手に入る中では、おそらく最も攻撃力が高い。また、追加効果もそこそこ優秀で、筋力値+8と攻撃力に厚みを持たせる内容となっている。

 

「ありがとな。まぁ、俺が今回手にしたのは、とあるスキルなんだが……」

「スキル、? 一体どんなものなんだ?」

「それは、さすがに言えないな。でも、いずれ分かるよ」

「なんだよ。勿体ぶりやがって。まぁ、スキルの詮索はマナー違反か。それじゃ、宿に戻るとするよ」

 

 そう言って、キリトは立ち上がった。

 

「ギルドのことでなんかあったら言えよ。なんでも聞くさ」

「ありがとな。それじゃ、またな」

 

 キリトは、ボードのポケットから転移結晶を取り出し、どこかに行ってしまった。

 

「全く。お人好しはこれだから困るんだよなぁ。まっ、それがキリトのいい所なんだけどさ」

 

 そう独り言を呟き、俺は第25層の自分の宿に向かう。転移結晶を持ってなかったから、1度街まで戻るしかない。だから、歩いていくことにした。

 

 ……あと、1ヶ月と少し。それまでの間に、即死性のトラップに引っかかったりするプレイヤーが増えないように情報を集めなければならない。間に合う。攻略に合わせて出来ることだ。

 

「〔月夜の黒猫団〕を死なせる訳にはいかない」

 

 そう決意しながら、街に着いたのだが、転移門の前で、誰かを探しているプレイヤーがいた。……帰るためにも行かなければ。

 

「あっ、レイジ君。お話があるんだけど」

「……ハイ。アスナさん。すいませんでした」

「あら、私はまだ何も言ってないわよ。もしかして、何が要件か分かっているのかしら?」

「……とりあえず、帰らせてください。近くの宿代は出します」

「分かったわ。それじゃ、明日尋問しますから、待っててくださいね?」

「……ハイ」

 

 運が悪かった。こんな所でアスナに会うとは……。

 

 

 翌日、レイジはひたすらアスナに怒られたのだった。




…今回すごく駄文です。すいません。
武器の名前が思いつきませんね。全然。
読んでくれて、ありがとうございました。


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10話:黒猫の呪いは当たらない

やっとテスト終わったー!
てことで、なるべく週一で投稿できるようにします。
四連休、何してますか?僕は、ずっと勉強です。
この作品を読んでくださってる方は学生さんが多いかな?
ま、そんなことはどうでもいいですよね。いつも読んでくださってありがとうございます!
それじゃ、10話です。どうぞ!


 さて、問題だ。今俺はアルゴに頼まれあるところに来ています。どこでしょう? 正解は……

 

 

 

「全く、危なっかしいんだよ。ここ」

 

 

 

 25層の迷宮区。最近多発しているという『宝箱トラップ』の実態と対策法を調査しに来ていた。

 

「にしても厄介だよな。こいつの存在を知らせとかないと、中層プレイヤーがどうなるかわかったもんじゃない」

 

 そう。いまさっきまで『宝箱トラップ』の相手をしていたのだが、無知でボーナストラップだと思って開けたら確実に死ぬ仕組みになっていた。

 

 少なくとも2層、最大で5層上のモンスターがほぼ無限湧きに加え、トラップを止めるまでは脱出不可能、結晶も無効化の鬼畜仕様で、安全マージンを取ってたとしても、攻略組ですら死にかける位危ない。まぁ、恐らくこれを単独で突破できそうなプレイヤーは3人だな。

 

 今日は5月28日。最前線は1層進んで29層。ちょくちょくキリトに会っては話を聞いているが、6月以降は25層以降にレベリングしに来る可能性があると言っていた。それまでに、このトラップはプレイヤーが触れないようにしなければならない。

 

 〔月夜の黒猫団〕が全滅したのは、27層。そこまでの調査を、今日で終わらせる。睡眠時間はない。そうでもしないと、間に合わない。だから、急ぐ。

 

「ここで彼らを死なせる訳には行かない。でも、攻略組に参加させるのは論外だ。悪い、キリト。彼らに死ぬ恐怖を与えさせてもらうよ」

 

 

 ━━━━━━━━━━━━━━

「どうしてこうなった……」

 

 今日は6月13(……)日。そう、本来なら、〔月夜の黒猫団〕の全滅した日(キリトの1つ目のトラウマ)の翌日だ。しかし、俺は今〔月夜の黒猫団〕のメンバー全員と共に食事をしている。

 

 事の発端は昨日、迷宮区でのことだ。前日までに、アルゴに頼んで『weeklyArgo』で迷宮区のトラップのことをアインクラッド内に広めてもらった。しかし、それだけでは心許ないと迷宮区に入ってトラップを片っ端から潰していたのだが、別の場所にあったトラップに入っていく5人組を見つけ、追いかけたら、彼らだった。

 

 どう切り抜けたかというと、全ヘイトを俺が買い、キリトにアタッカーを頼むというもの。他のメンバーに攻撃しようとしたMOBは背後から切り伏せ、1発もダメージの入らないようにした。

 

 結果的には、経験値ウハウハの狩りで終わったようなものだ。

 パーティーを組んでいたキリトより、俺の方が経験値が多かったのは言わずもがな。そして、キリトから

 

「このメンバーを帰すまででいいから、一緒に来てくれないか」

 と言われ、それを無言で了承して迷宮区外まで送り、その場で別れようとしたが、その後が問題だった。

 

 帰ってこないメンバーを心配したケイタが、迎えに来たのだ。そして、ササマルが経緯を説明したことで、ケイタの目が光り、

 

「お礼も兼ねて、一緒に食事でもしないか?」

 

 と言われたのだ。断る理由もなかったので、その場返事で了解したが、少し後悔している。

 

 そして、今に至る。食事が一段落して、ケイタが話し始めた。

 

「レイジさん、ありがとう。今日はメンバーが助かりました」

「別にいいさ。それで、俺をここに呼んで何をしたいんだ?」

「いや、1つ聞きたいこととお願いがあって……」

「俺のレベルと引き込みが要件か?」

「……っ! えぇ、そうです。ちなみに、どれくらいなんですか?」

「硬っ苦しいぞ。敬語じゃなくていい。詳しい数字は言えないが、40は超えてる。そこの黒い人と一緒でな」

「っ! おい、レイジ!」

「今話さないでどうするんだよ。いい機会だ。話しておいた方がいい」

「だからって!」

「どうしたんだ? 2人とも。知り合いなのか?」

 

 周囲の面々がレベルを聞いて驚く中、少しの言い争いを潜り抜けてケイタが聞いてきた。

 

「おい、キリト。5月の初めに話すって言ってたのに、なんでまだ話してないんだ?」

「……分かった。今ここで話すよ。俺の事。レイジとの関係のことも含めて全部な」

 

 そこから、キリトは淡々と話し始めた。自身がレベルを隠して関わってきたこと。攻略組の一員であること。そして、俺達2人がビーターと呼ばれていたこと。

 

 それを話した後は、深い沈黙が場を包んだ。全員が動揺を隠せずにいた。その沈黙を、サチが小さい声で破る。

 

「……私は、知ってたよ。キリトのレベルが本当はもっと高いこと。そして、それを隠して私達に付き合ってくれていたこと。なんでそこまでしてくれるのかは分からなかったけど、とにかく、キリトが強いことが、嬉しかった」

「サチ……」

「だからね、キリト。私は別に、キリトを責めたりしない。だからさ、キリト。こんな所じゃなくて、もっとみんなのために戦ってあげて。そして、私達がここにいる意味を探して」

 

 その言葉は、本来ならここで言われることではなかった。もっと悲しい結末とともに、キリトの心を立ち上がらせるものになるはずだった。だが、俺が変えた。ここにいる5人の命を救うことが出来たから、タイミングが変わった。

 

「……正直、頭が追いつかないよ。キリトの強さの理由は分かったけど、どうしてここまでやってくれたとかは、分からない。だけどさ、君がここにいるべきじゃないことは分かった。だから、先に進んでくれ。キリト。僕達が足止めして悪かった」

 

 そう、ケイタが言う。その言葉を聞いたキリトは、申し訳なさそうな顔をしながら、「分かった」と一言頷き、俺の方を見た。意志の力がこもった目が見える。それさえ見れれば、もう十分だ。

 

「……俺は、ここで行かせてもらうよ。サチの前衛転向の件も、キリトから話を聞いていたが、もう一度みんなで話していた方がいいと思うぞ。それじゃあな」

「……レイジさん!」

「なんだ? もう、言うこととかはないだろ?」

「僕達は、攻略組になることは諦めるつもりは無い。だけど、歩みを急がないようにするよ。今回、仲間を失うかもしれない怖さを味わった。だから、誰も死なないで元の世界に戻れるよう、強くなろうと思う。また、どこかで会えた時は、共に戦えるようになっているよう、頑張るよ」

「……そうか。ぜひそうしてくれ。また、どこかで会おう」

 

 そう言って、俺は歩く足を進める。次はもう止まらないだろう。そうして、俺はホームに向かう。一つだけ残念に思いながら。

 

「……結局、攻略組を諦めさせることは出来なかったか。まぁ、これで良かったのかもしれないな」

 

 そう、これで良かったのだ。彼らを生かすことは出来た。俺の知る犠牲者は、5人は減らせた。

 

「明日は、攻略会議だっけか。キリトも誘おうかな」

 

 それを思い出し、ふと気になることが出来る。キリトは、たまに前線に来ることはあっても、ボス攻略は2、3度は参加してない。

 アスナも、それには相当思うところはあったようで、

「次参加した時は、ずっと攻略に励んでもらいます」

 と言っていたっけ。

 

 このまま攻略が続いて、いずれ75層でキリトがヒースクリフを相打ちに取ったら、俺はどうなるのだろうか……。キリトとアスナのその後も、リズベットやシリカといった面々も、見届けることは出来ないのだろうか……。

 

「どうにかして、この世界に残りたいとも思う。でも、俺のいたあの世界に、やり残したことはまだ沢山ある。俺はどっちがいいんだろうか……」

 

 〜??? 〜

 

「何をしているのだろう? キリト君が今いるのは……29層か。他のプレイヤーの反応もあるな。これまでのパターンからすると、ここから2日以内に30層が開放されるかな」

 

 都内某所にて、この世界の傍観者は言う。彼は、本当の意味で傍観者だった。彼には、ここまでが限界だった。SAOに囚われたプレイヤーを助けるという使命を受けながらも、何も出来ないことが歯がゆい。

 

「にしても、茅場晶彦がこのようなものを作ったのは、僕の目的にとっても大きな役目を果たすだろう。その前に、人材と場所を集めないとな……」

 

 そう、彼には目的がある。この世で無駄な血を流さないようにするため。自衛官として、何としても果たしたい目的がある。

 

「いや、目先の仕事に取り掛かろうか。とりあえず、残っている被害者は首都圏の病院に移すことは確定として、しばらくは様子を見るしかないだろうな」

 

 傍観者の彼が、いずれキリトやレイジの手を借りる日は、流星の流れた日の後となるだろう。




さて、今回は前回に続いて、月夜の黒猫団の話でした!
タグ通り、月夜の黒猫団は生存です。ディアベルは残念でしたが…。次の出番は、ALO編までないかな?
次で、話は一気に進んでシリカ編まで飛びます。
その間のエイジ、ユナの話は、少し変わります。ここで話しておきますね。

まず、ユナは生き残ります。死ぬ直前でレイジが間に合ってMOBを全滅させます。主人公強し!
そして、エイジは血盟騎士団脱退、2人で一緒に中層で過ごすことになります。ユナの歌活動もまだまだ続いていくので、低層〜中層のプレイヤーの心の支えは残ります。ユイのエラーも、少しは軽減されると思われます。


っと、こんな感じでしょうか?
今回も駄文感が否めませんね。
今回はありがとうございました。次回もよろしくお願いします!


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11話:竜使いとn回目のオレンジギルド

すいません。ブラウザバックのせいで500文字以上吹っ飛んでやる気失せて仕上げが遅くなりました。自動保存が遅いんじゃぁ!
とりあえず、書き終えました。
今回はシリカ編です。それでは!どうぞ!


 2024年2月21日。俺は、50層の迷宮区でレベリングをしていた。

 全身灰色のコートに、盾なしの片手直剣。そして、目に見えるほど大きい筒状のカーペット。これが、今の俺の見た目といったところだろうか。

 

 カーペットを持っているのは、そこに鍛冶道具を全て中に入れているからだ。このカーペットは露店用のものなのだが、中にものを入れて包むと、運搬重量(キャリーウエイト)を無視して持ち運びが可能になる。種類と個数ではなく、重さで持ち運べる量が決まるこのSAOで、このアイテムは神が寄越した人間への餞別と言えるだろう。まぁ、この世界の神は、茅場晶彦なのだが。

 

「そろそろスキルマが8個目くらいか。また別のスキル上げるかな」

 

 今の俺のレベルは77。ラッキーセブンボーナスってことで、得られるコルとスキル経験値が3倍になっている。こんな時は、経験値とコルの美味しい50層で狩りをするっきゃない。

 

あの( ・・ )スキルも、もう少しで150かな」

 

 50層攻略時に、恐らくユニークスキルであるこのスキルも入手できた。このことを知ってるのはキリトのみだ。

 

 なぜキリトなのだって? 簡単な話だ。同じタイミングでキリトも『二刀流』を手にしていたからだ。俺たちは、隠れてスキル熟練度をあげるようにして、たまにキリトの相手をして、実戦経験を積んでいる。

 

「……そろそろ戻ろうかな。夜も遅い」

 

 時間は、午前の1時を回っていた。今は、52層に拠点を置いている。さっさと帰ってベッドにダイブしたい。

 

 

 

 

 ……転移門前で、誰かが泣いて叫んでいる。いや、何かを懇願していると言った方が正しいだろうか。とりあえず、そのような感じだ。そのまわりには、可哀想な人を見る目で見つめる者、同情の眼差しを向けるもの、その場を無視して通り過ぎる者など、様々だ。見慣れた黒コートの人物もいる。

 

「やぁ、キリト。どうしたんだ?」

「あっ、レイジか。いや、この人の依頼を受けるべきかなって思ってな」

「いい感じの雰囲気じゃないが、何があったんだ?」

「……ギルメンを、殺されたんだと。彼以外全員だそうだ」

「嘘だろ!? ……オレンジの奴らか?」

「あぁ、ギルドマークもあったそうだ。巨人の手に目のマーク」

「……〔タイタンズハンド〕だな。アルゴから情報は貰ってる」

「お前、オレンジの捕縛ばっかやってるのか? 攻略に参加出来てないみたいだけど……」

「別にどうってとこないさ。助かる人数は、少ないよりは多い方がいい。オレンジやレッドのせいで、死んでしまった人間も多い。おそらくだが、600人ほどはPKだ。救える人は、救いたい」

「……そうか。なら、この人の以来も受けようか」

 

 そうして、キリトは依頼を受けに行った。標的の〔タイタンズハンド〕の奴らは中層のプレイヤーを相手に恐喝や強盗、殺人を行っているそうだ。依頼主は、「殺さないで、黒鉄宮に送ってくれ」と言っていた。優しい人だ。殺処分でもいいだろうに。

 

 それから、ヒースクリフとアスナに、「しばらくオレンジ捕縛の依頼を受けて前線を離れる。1週間くらいかかるはず」と話し、35層に向かった。1番中層でレベリングなどで人気のある場所といえば、35層だと2人で合致したからだ。

 

 〜3日後〜

「……なかなか居ないな。ほんとにここでいいのか?」

「俺に聞くなよ……。おっかしいなぁ。ここにいるって目撃情報聞いたのにな……」

「……っ! ……キリト、索敵かけろ」

「え? 分かった……んなっ! これは、ドランクエイプ!? そして、プレイヤーと……テイムモンスターか? って! 急ぐぞ!」

「言われなくてもっ!」

 

 そして、俺たちは敏捷力の限りの速度で反応方向に急いだ。

 

 〜シリカside〜

 ヘマしちゃった。ロザリアさんと、あんなことで喧嘩別れしなければ、こんなことにはならなかったのに。前の方に五体のモンスターもいる。HPはピナが回復してくれるし、頑張れば街まで帰れる……! 

 

「ここっ!」短剣で、モンスターの棍棒をパリィする。貫通で受けてしまったダメージも、回復アイテムを使えば……

 

「回復アイテムが、ないっ!?」

 

 完全に油断した。アイテム分配の時に揉めたのも、回復アイテムが無くなってきたからだ。忘れていた。ストレージにあるかもしれないけど、今取り出してる余裕はない。

 

「グヴォォォ!!」

「えっ、きゃぁぁぁ!」

 

 棍棒の横払いをまともに受けてしまった。HPも危険域(レッドゾーン)に来ていて、あと1発まともに受ければ死んでしまうだろう。

 

 死ぬ。その恐怖が、私の体を硬直させる。R指定を無視してでも、やりたかったゲームが、まさかデスゲームなんて呼ばれるものになっちゃうなんて、思いもしなかった。

 

 ジリジリとモンスターは近づいてくる。もうダメだと思ったその時、左から水色の生き物が自分とモンスターに割って入る。

 

 ドスッ

 

「嘘っ、でしょ? ピナっ!」

 

 ピナが私を庇った。みるみるHPは減っていって、ついにはゼロになってHPバーも無くなってしまう。弱弱しくこちらを見るフェザーリドラのその顔は、まるで「バイバイ」と言ってるような気がした。

 

「ピナっ! ピナぁッ!」

 

 抱き上げ、その名を連呼する。それでも、ピナが透明になってくのは止まらない。そして、

 

 ピナは、パリンっとアイテムのように砕けてしまった。

 

 1つの羽が、その中に生まれる。私は、それを取って、その場にうずくまった。どうせ死ぬなら、この子と一緒に死んでしまおう。そうして、目を閉じた。

 

 でも、それが叶うことは無かった。気付いたのは、音がしてから。

 後ろで、5回立て続けにガラスの割れる音がした。そして、振り向いたところにいたのは、灰色とコートを着た人と、黒色のコートを着た人だった。

 

 〜sideout〜

 

 間に合った。どうにか間に合った。人は助けることが出来た。でも、人だけだった。彼女がテイムしていたであろうモンスターは、死んでしまった。

 

「大丈夫かい?」

「……はっ、はい。大丈夫です」

「HP多分危ないでしょ? これ飲んで。回復ポーション」

「あっ、ありがとうございます」

 

 とりあえず、安全確保はできた。ポーションの効果発動もあってか、張られていた警戒心は解かせたようだ。

 

「すまない。君の友達を、助けれなかった」

「……いいんです。私が馬鹿だったから。1人でこの森を抜けれるなんて自信過剰になって、ソロで抜けようとしたからいけないんです」

「……確かに、そうだね。調子に乗って1人で森を出ようとしたのは間違ってるね」

「おい、レイジ!」

「でもさ、この子はその事で反省してるだろ? なら、別に咎めるつもりは無いさ」

 

 少女……シリカでいいか。シリカは目をぱちくりさせて、こちらを見ている。そこで、俺はシリカが持っている羽を指さして、言った。

 

「口調はもう元に戻すか。なぁ、その羽、名前ついてないか?」

「名前……ですか?」

 

 シリカがステータスウィンドウを操作すると、そこには、『ピナの心』と名前がつけられたアイテムの説明が出てくる。

 

「うぅっ、ピナぁ」

「あぁ、泣かないでくれ。大丈夫だ。『心』があるなら、ちゃんと生き返らせることができるから」

「本当ですか! 一体、どこなんですか?」

「どこだっけ? キリト」

「47層だな。てか、あんな印象的なところ、忘れるわけないだろ」

「まぁまぁ、いいから。んで、そこの『思い出の丘』ってダンジョンの、祭壇のところに、『プネウマの花』ってのが咲く場所があるんだ。実費さえ貰えれば、俺達が行ってきてもいいんだけど、テイムした主がいないと咲かないらしいんだ」

「47層……。……私のレベルじゃまだ足りないけど、いつか必ず……」

「やる気になってるところ悪いんだけど、3日経つと『形見』ってアイテムになってしまうんだ。だから、行くなら今すぐ行かないといけない」

「そっ、そんなぁ……っ」

 

 ついに、泣き出しそうになってしまった。しかし、キリトの方を見ると、なにやらトレードウィンドウをいじっている。

 

「なぁ、レイジ。良さげな武器と防具持ってないか? 後、『装備の心』の余りも。ここで色々して欲しいんだけど」

「ハイハイ。『装備の心』も後120はあるからいいんだけどさ」

「多くない!? まぁ、いいや。急いでくれるか?」

「ハイハイ。それじゃ、インゴットよこせ。防具は、今キリトが持ってるやつにしてくれ。俺、女用装備とか持ってないんだよ」

「分かったよ。それじゃ、ほれ、『スカイライトインゴット』」

「あいよ」

「そういや、君は筋力型? 敏捷型?」

「あっ、敏捷寄りです」

「OK。そこのキリトから防具貰って、しばらく待っといてくれるか? なんなら、先に街に戻ってくれて構わないよ。あーでも、武器ちょっと貸して。代わりに、これあげるから」

 

 そういって取り出したのは、『ジャルディーノ』という短剣。

 水生モンスターのドロップ品で、鱗を利用しているようで意外と鋭い。トレードウィンドウを操作して、ウィンドウをシリカに移す。

 

「えっ、いいんですか? こんな、会って間もないのに」

「別にいいさ。これも人助けの一環だ」

「あぁ、そうだな。あと……」

「あと? なんでしょう?」

「君が、妹に似ていて……。助けたくなったんだ」

「……ふふっ。あははっ!」

「笑うなんて酷いよ……」

 

 キリトが少々心にダメージを負ってるところで、思い返す。

 そう、俺にも妹がいた。常磐芽依。11月5日、覚えてもいないその日に亡くなった妹は、俺より1つ下だったので、シリカとは2つは離れているだろう。

 

 ……感傷に浸ってる場合じゃないか。剣を打たねば。

 そうして、俺はカーペットを広げる。中のハンマーを取り出し、鋳造台に乗せ、インゴットを叩く。使ったのは、キリトが寄越した『スカイライトインゴット』に、『ファントムイーグルの羽』の2つだ。恐らく、AGRに高い補正のかかる剣になるだろう。

 

 ある程度叩いたところで、俺はストレージから4つアイテムを取り出す。全て、『装備の心』だ。内容こそ全て違うが。

『装備の心:経験値1.5倍』『装備の心:DEX+20』

『装備の心:AGI+15』『装備の心:VIT+15』

 

 これらを、全てインゴットに溶かす。これで、武器にはそれぞれの能力が追加されたはずだ。

 

 え? そこそこぶっ壊れてないかって? 何を言ってるんだい。最前線のドロップ品を1からインゴット、『心』に複製してたら、こんなの当たり前じゃないか。

 

 さて、出来上がった。『ファントム・ライト』か。最前線で活躍できる武器になったぞ。これ。マスタースミスだけど、この出来は初めてだ。

 

「ん〜出来た〜。さてさて、メッセージメッセージっと」

 

 

 先程ストレージをいじっていた時に、キリトからメッセージが届いているのは知っていた。だが、読むのは今が初めてである。

 

『同じ層の宿にいる。シリカと話して明日出発することにした。話したいこともあるから、部屋に来てくれ』

 

 ほほう。50層には戻らないのか。まぁ、都合がいいからいいのか。にしても、話したいこととはなんだろうか。まさかとは思うが、〔タイタンズハンド〕が見つかったのだろうか。

 

 俺は、転移結晶で主街区に飛んだ。そして、キリトが部屋をとったという宿に向かって、扉を開けると、そこには驚くべき光景が待ち受けていた。

 

「おお、レイジ。遅かったじゃないか。一体、何し……って! 写真撮るなよ! 待て! それを寄越せっ! こらっ!」

 

 キリトが、こちらの記録結晶を取ろうと手を伸ばす。しかし、7cmも身長の高い俺から取れるはずがない。

 

「まぁまぁ。アスナにしかあげないから」

「何でアスナが出てくるんだよ! ってか、アスナに渡すのはやめてくれ。怖いから」

「有給でもないのに、女の子と一部屋取ってるのは、さすがに問題だよなぁ」

「わざとらしく復唱するんじゃない!」

 

 こんなふざけた会話ができるのも、久しぶりだ。最近はオレンジ捕獲ばっかり動いて、夜中にレベリングと、忙しい毎日だったから、息抜きとしてはちょうどいい。

 

「分かったから。要件を話せよ」

「あぁ。呼んだのは、タイタンズハンドのことでだ」

「……目撃したのか?」

「いや、接触までした。リーダーの女とな」

「は? なんで接触なんてできたんだよ」

「いや、シリカがその、ロザリアって言うんだけど、そいつとパーティー組んでたらしくて、ターゲットになってるみたいでさ」

「もしかして、『プネウマの花』が目的か?」

「十中八九そうだろうな。アイテム分配で回復アイテムについて揉めたらしいけど、そこも布石だったかもしれない」

「……よし、腕くらい落としても文句ないだろ」

「ダメだ。無傷で捕縛。依頼人の意向に背くようなマネはやめろって、お前、そっち系専門だろ」

「まぁな」

 

 そうして、俺は部屋のドアに手をかける。そして、出るついでに捨て台詞を吐いた。

 

「アルゴには売らないでおくよ。この結晶。まぁ、気が変われば売るかもしれないけど」

「寄越せ!」

 

 急いで逃げ出して、自分の部屋に逃げる。キリトはドアから少し出たところで止まったようだ。赤い顔をしてこちらを睨んでいる。こりゃしばらく怒らせちゃいけないな

 

 〜翌朝〜

 

 1階に降りると、顔が真っ赤のシリカと、申し訳なさそうな顔をしているキリトがいた。

 

「ほら、行くぞ」

「あぁ」「はっ、はい!」

 

 俺の言葉に、キリトとシリカが答え、俺たちは47層に向かった。

 

 47層の街、フローリア。綺麗な花が一面に咲いており、デートスポットとして有名である。実際、「フラワーガーデン」と呼ばれ、中央の鐘を二人で一緒に鳴らした者達は、結ばれるというジンクスも存在している。

 

 辺りを見れば、カップルばかりだ。ざっと10組くらいいるだろう。俺が軽く口笛を吹いて、シリカの方を見やると、顔を赤らめて茹でダコになっていた。

 

「シリカ? どうしたんだ?」

「いっ、いえ、なんでもありません。それじゃ、行きましょうか! こっちでしたよね?」

「違う。ダンジョンはこっち。あと、昨日シリカから預かった武器をインゴットに戻して作った短剣。はい」

「あっ、ありがとうごさまいます! では、改めて行きましょう! ピナが待ってます!」

 

 そうして、3人は歩みを進めた。

 

 

 〜10分後〜

 しばらく歩いていると、足元からスルスルと音がして、シリカの足を何かの蔓が掴んだ。

「きゃっ、うわぁぁぁ!」

「シリカ!?」

「キリトさぁん! レイジさぁん! 見ないで助けてください!」

「いや、そう言われても……」

「……」ジーッ

 

 キリトは、手で目を隠しているが、人差し指と中指の間からチラッと見ている。全く、何をしてるんだか。

 

「このぉっ、いい加減にっ、しろぉ!」

 足をつかんでいる蔓を、スパッと切り落として、落下しながらソードスキルを当てる。その一撃で、モンスターはポリゴン化して砕け散る。リザルト画面を見ることなく、シリカはこちらを見て、スカートの後ろを手で抑え、言った。

 

「見ました……?」

「いや、……ミテナイ」

「おいこら」ムギュッ キリトの足を思いっきり踏みつける

「痛っ! ……ごめん。少し……」

「もぉぉ!」

 

 

 

 

「キリトさん、妹さんのこと聞いてもいいですか?」

「えっ?」

「現実のことを聞くのはマナー違反ですけど、ダメですか?」

「別にいいさ。実は、妹って言ったけど、本当は従妹なんだ。向こうは知らないかもしれないけど」

「そうなんですか……」

「んで、その妹ちゃんはなんかしてるのか?」

「あぁ、小さい頃から剣道をな。俺もやってたんだけど、小さい頃でやめてさ。その時はじいちゃんにとても叩かれたよ」

「ひどいっ!」

「でも、その時妹が「お兄ちゃんの分もあたしが頑張るから叩かないで」って言ったんだよ。そこからアイツ、全中ベストエイトまで言ってさ。凄いんだよ」

「なら、いいじゃないか。なにか良くないことでもあるのか?」

「いや、俺のせいで、すごい辛い思いをさせてるんじゃないかって思ってな。本当はしたいこと、行きたい場所がいっぱいあるはずなのに……」

「……きっと、妹さんはそんなこと思ってませんよ」

「……え?」

「きっと、好きだから剣道を続けているんだと思いますよ。好きでもないことを続けるのって、できないですよ!」

「……そう、かな。ありがとう、シリカ。レストランの時と言い、励まされてばっかりだな」

 

 その一言で、シリカの顔が赤くなっていく

 

「つっ、次いましょう! もう少しで着きまおわぁっ!」

 

 シリカが言い終わる前に、下からモンスターが這い上がってくる。それをキリトが一閃して、

 

「気合い入れるのはいいけど、程々にね」

「はっ、はい……。ハッ!?」

 

 先程の経験からか、スカートを直ぐに抑え込む。

 

 

 〜5分後〜

 

「ここが、祭壇ですか……。綺麗な場所ですね!」

「あぁ、そうだな。あそこに行くと、花が咲くはずだ。キリト。少し周りを見とくから、二人で行ってきてくれ」

「分かった。行こう、シリカ」

「えっ、えぇ」

 

 シリカをキリトに任せ、自分はここに残る。そして、振り向いて索敵をかける。反応はない。そして、索敵を外して、ダンジョン入口にフォーカスをかける。1人。赤髪の女がこちらを見ている。彼女がロザリアで間違いない。全然見た目変わってないし。

 そうこうしてるうちに、キリトたちが戻ってきた。

 

「よし、宿に戻ってそこで復活させようか」

「そうですね! ピナもきっとその方が喜びます!」

 

 こうして俺達3人は、ダンジョンの出口に向かっていった。

 

 

 〜ダンジョン出口近く〜

 

「やっと、ピナと再会できるんですね〜。楽しみです!」

「あぁ、そうだな。でもその前に……」

「「……そこにいるやつ、出てこいよ」」

 

 シリカは俺たち2人の言ったことにきょとんとした顔をしているが、俺たちは警戒を緩めない。そうすると、木の影から赤髪の女が姿を現す。

 

「あら、私の隠蔽(ハイティング)を見破るなんて、なかなか索敵スキルが高いのね。剣士サン達」

 

 こちらの方を一瞥するように見回し、シリカの方で視線を止め、口を開き始めた。

 

「ロザリアさん……」

「あらぁ、シリカちゃんじゃないの。その様子じゃ首尾よく『プネウマの花』を入手できたようね。それじゃ、こっちに寄越しな」

「えっ、何を言ってるんですか!」

 

 シリカは、まだ事が理解出来ていない様子だ。しかし、ロザリアは続ける。

 

「いや、夜中にシリカちゃんと会ったら、あのトカゲが居ないじゃない? それに話を聞いたらここに取りに来るって話が舞い込んできたのよ。この時期あの花は旬だからね。売ったら高く売れるのよねぇ」

 

 シリカの顔からだんだん血の気が引けていく。そこで、キリトが割って入った。

 

「やぁ、ロザリアさん。どうせなら、〔タイタンズハンド〕のリーダーと呼んだ方がいいか?」

「キリトさん! ロザリアさんはグリーンですよ!?」

「別に、オレンジギルドの全員がオレンジってことは無いさ。圏内との通信用、鍛冶を利用するのにも、グリーンを半分くらいは残すんだよ」

 

 俺がそこまでシリカに説明したところで、ロザリアがキリトに面と向かって話し出す。

 

「あら、私のことを知ってるのね。でも、あんたには用がないわ。そこをどいてちょうだい」

「無理だな。こっちも、アンタに用があったからな」

 

 ロザリアは意外そうな顔をする。まるで、自分のやったことを悪びれることがないような態度だ。いちいち気にしてられないので、こっちからも話す。

 

「あんたのギルド、先週〔シルバーフラグス〕ってギルドのこと襲ったろ?」

「1人残して全員皆殺しだとな。むごい話だ」

「あぁ、あの貧乏連中ね。それがどうかしたの?」

「1人残されたメンバーは悔やんでいたよ。どうすることも出来なかったってな。目の前でどんどん仲間が殺される彼の気持ち、あんたに分かるか?」

 

 そう言ったところで、ロザリアは笑い出す。その笑いは、心底聞いてて気持ち悪いものだった。知っている話通りとはいえ、少々嫌になる。

 

「分かるわけないでしょ! どうせここで人を殺したって、罪としてさばける訳でもない! それに、ほんとに死ぬかなんて、確証がないじゃない?」

「なら……」

 

 ちょっとイラッときた。でも、同時に気付く。こういっているのは、自分が死ぬのが怖いからだと。なら、1度脅して、ヤケになってかかってきたのを叩き潰すほうが、捕らえやすい。

 

「1回HP全損してみるか」

「「「!?」」」

「死ぬ確証がないなら、あんたのその身に焼き付けてやるよ。これまで殺してきた人達が感じたものってやつを」

 

 その場の3人が驚愕の顔に包まれる。俺がこんなことを言うと思っていなかったんだろう。でもまぁ、勘違いされるのも嫌なので、フレンドメッセージでキリトに送り飛ばす。

 

『ハッタリだ。お前はシリカを頼む。他に8人くらいいるから、零れたやつは頼んだぞ』

『分かった。お前なら大丈夫だな?』

『任せろ』

 

「ちょっと! あたしの事忘れないで頂戴。まぁいいわ。アンタ達! 出てきな!」

 

 そこで、木の影などからぞろぞろと人影が現れる。1、2、……10人か。本来より少し多いが問題ない。これくらいなら。俺がどれほど死線を潜り抜けてきたか見せしめるにはちょうどいい。モンスターハウスに比べりゃ、可愛いもんだ。じりじりと2陣営の距離が縮まる。

 

「さぁ、オレンジ共。制裁の時間だ」




ふひぃ。久々に8000字くらい描きましたよ。
明日、シリカ編が完結します。
今回の初めで何やらレイジ君がスキル云々の話をしてましたけど、それについては、グリームアイズ討伐話の後に主人公設定として描きたいと思います。
まぁ、既にオリジナルスキルは1個出てますけどね。
それれでは次回も。よろしやす。ありがとうございました!


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12話:冷たい空気と流れない血

宣言通り!出しますよ!
スケールダウンの3000字。前回に比べると2分の1くらいです。
今回で、シリカのお話は終わり!レイジ、キリト両名の2つ名も出ますよ!実は、題名の方の2つ名は全体で使われてるけど、もう片方はあんま使われてなかったり…。本題に入りましょうか。
それじゃ、12話です!どうぞ!


「さぁ、オレンジ共。制裁の時間だ」

 

 そう言い放ち、じりじりと近づいていく。オレンジの奴らはまだ来ない。自分たちのリーチに入ったところを叩き込むのだろう。

 

「レイジさん! 何してるんですか!? キリトさん! 助けに行かないんですか!?」

「大丈夫だって。だって、レイジだからな」

 

 そう言ったキリトの声に反応して、ロザリアの近くのひとりが反応する。

 

「キリト? レイジ? 嘘だろっ!? そんなことねぇって……」

「リュウジ、どうしたんだい! アンタがいつも襲撃のリーダーやってんだ! 早く指示出して、奴らを殺しな!」

 

 リュウジと呼ばれたプレイヤーが、ロザリアに言う。

 

「この前圏内で新聞配ってたから見たんすよ! 黒のロングコートに盾なしの片手剣。あいつ、キリトって野郎で、攻略組なんです! いや、もっとヤバいのはもう片方の方で……」

「攻略組がこんなところいるわけないでしょ! さっさとHP削って、身ぐるみはいじゃいな! 最初は灰色の方からよ!」

「待ってくださいロザリアさん! おい、お前ら! やめろっ! そいつは! そのレイジって男は!」

 

 説得虚しく、残りの9人全員が突撃してくる。それぞれが深紅、空色、黄緑と多彩な色を纏い、それぞれの剣先が俺の体をかすめる。さてさて、お手並み拝見というところか。

 

「助けなきゃっ! キリトさん! 助けにっ……」

「いいから、レイジのHPバーを見てみな」

「そんなこと言ったって……あれっ?」

(減ってない! いや、減ってるけど、すぐに元に戻ってるっ!)

「でもどうして……

「それを今から証明してくれるさ」

 

 それから、1分ほど切られたが、つまらないものだ。ヒヤッとさせられる攻撃が1つと言ってない。俺のコートが硬いのもあるが、それ以前に攻撃力が弱すぎる。ロザリアの裕福な生活に全部コルを使っているのか、武器も貧弱だ。全く、こんな武器

 

「装備されるのが可哀想だな」

 

 パリィンパリィンパリィンパリィン……

 

 瞬時の抜き打ちで全員の武器の刃を折る。まぁ、この武器でしか出来ないが。

 

「んなっ!? 何が起きたっ!?」

「何、簡単なことさ。全部の武器を折ったんだよ。こいつでな」

「そんなんありかよ……」

「ありなんだな。これが」

 

 奥で呆気に取られてこちらを見ているロザリアに、その横の男が足をガクガクさせながら、話し出す。

 

「だからやめろって言ったんだ……。忠告しただろ……。あいつにあったオレンジの奴らは全員牢獄送りになってるんだよ……」

「おっ、詳しいな。なら、俺がなんて呼ばれてるかも分かるな」

「当たり前だろ……。オレンジに対して冷たい態度、圧倒的な剣技。それを裏付ける攻略組としての力。25層の時だってそうだ。〔ALS〕のメンバーが多数死んだのに攻略を始めたのはお前が最初だった。だからこそ、見た目も相まって呼ばれてんだ」

 

「そうだろ。灰の冷剣」

 

 

 パチパチパチパチ

 

 まさか全部話してくれるとは思わなかった。オレンジなのにそこまで新聞の情報があるってことは、最近までグリーンだったってことだ。まぁ、オレンジなので牢獄行きだが。

 

「先週くらいから呼ばれたんだけどな。それ。結構気に入ってんだよ。まぁ、死人に口なし。こんなとこで話してもなんの意味はないか」ゴソゴソ

 

 そう言って、俺はサイドポッケを開き、中から転移結晶より一際青い結晶を取り出す。

 

「これは、依頼人が全資産。それも自分の武器合わせてだ。売り払って買った回廊結晶だ。とりあえず、牢獄の方に繋いでるから全員飛んでもらうぞ」

「いっ、嫌よ! 第一、アンタが私を無理に連れ出そうとしたら、ハラスメントコードが発動してアンタが牢獄に……」

 ザッ、ヒュンッ

 

 いちいちうるさいな。それくらいは分かってんだ。そんな思いを抑えながら喉元に近づけた剣をさらに近づけ、威圧感を込めて言い放つ。

 

「俺は基本的にソロだからな。1日2日。なんなら1週間オレンジでも、問題ない。だから、やろうと思えばここでアンタの首を落としてさっきの剣みたいにできるぞ。どうする?」

「あっ、あっ……」

 ポロンとロザリアの手から槍が落ちる。戦意は喪失した。これでもう依頼達成。全員送っておしまいだ。

 

「……コリドーオープン。さぁ、全員入れ」

 

 ぞろぞろと、オレンジ共が門をくぐる。ロザリアまでが入ったところで、門番の〔ALA〕……まぁ、軍だ。そこに任せて門を閉じる。閉じたところで、シリカとキリトが駆け寄ってくる。

 

「レイジさん!!」

「アハハ。悪いな、シリカ。餌にするようなことして」

「それはいいんです! それより、2人が攻略組ってのは本当なんですか?」

「それは、紛れも無い事実だよ。それで、疑問のように感じてたらしいけど、キリト、どうかしたのか?」

「あぁ、いや、HPの自動回復を見て、シリカが不思議そうだったから、解説してやれよ」

「あっ、そうですよ! なんですかアレ? HPが減ったところから一気に全快してた気がするんですけど……」

「それは、スキルと装備のどっちも関係あるな。まず、スキルの話からしようか」

 

 ◇

 

 

 実は、自動回復をしてたのは、戦闘時回復(バトルヒーリング)ってスキルのおかげなんだ。今の俺の熟練度だと、10秒で700くらい回復する。しかも、スキル欄に現れるのが、最初に回復してからってお手軽な出現方法なんだ。だから、初期の方から取ってる人は、もうスキル熟練度が1000に届いてるんじゃないか? 俺が取ったのは6個目くらいだから、まだまだ遅いけど。

 

 

 ◆

 

「へぇ、そのスキルは見た事ありましたけど、そんなものなんですね。でも、あげるのってどんな感じなんですか?」

「ここは、俺より熟練度高いキリトに聞いたらいいよ」

「えぇっ! そこで俺に振るのかよ! ……シリカ、あまりにも危険だから、あんまオススメしないんだけど……」

「はい。でも、一応聞かせてください」

「……このスキル、HPが回復する度に上がるんだよ。しかも、上がるのが地味に遅いんだ。だから、俺達みたいな攻略組じゃない限り、上げるのが難しい。しかも、一気に上げようとしたら、レッドゾーンまでHPを落とさなきゃ行けないから、危険なんだ」

「……わかりました。一応、私にはピナが居るので、回復に困ったことは無いです。それで、防具もって話してましたけど……その前に、ひとついいですか?」

「ん? どうした?」

「……いつも持ってるそのカーペット、鍛冶道具が入ってるんですよね?」

「ん? そうだけど……」

「普通の鍛冶屋さんにお願いしても、こんなに強い武器は貰ったことないんです。もしかしたら、鍛冶に秘密があるんじゃないかって思ったんですけど……」

「シリカ、詳しいことは話せないけど、まぁ、そんな感じだ。そんな能力もあって、この防具の強さもある」

「そうなんですね……」

 

 シリカが、少々残念な顔をしているが、これはしょうがない。これは、ユニークスキルには分類されないが、それでも希少すぎるエクストラスキルなので、詳しいことを話せば、厄介なことになる。もちろん、アルゴにすら話していない。このことを知っているのは、キリトだけだ。

 

「それで、防具には何が施されているんですか?」

「至ってシンプルだよ。回復力増加」

「……え? それって、強すぎませんか?」

「まぁね。でも、そういう防具なんだ」

「うぅ……。なんか釈然としません」

 

 そんなやり取りがありながらも、俺達は35層に戻ることにした。

 

 

 

 〜35層主街区北門前で〜

 

「2人とも、もう攻略に向かうんですか……?」

「まぁな。5日も前線から離れちゃったし」

「あっ、そうそう。キリト、アスナからメッセージ来てるぞ」

「えっ、何々……。うわっ、まじかよ。明日からまた攻略会議かよ。出席しないとダメだよなぁ」

「アスナさんって、血盟騎士団のですか?」

「そうだけど、正直鬼だぜ? 攻略に関してストイックすぎてさ」

「……」

「レイジさん? どうかしたんですか?」

「いや、2人で宿の方に向かっておいてくれないか? 少し寄ってくところができたから」

「? 分かった。それじゃ、シリカ、行こうか」

「はいっ。レイジさんも、あとから来てくださいね?」

「分かった。それじゃ、また後で」

 

 2人が行ったところで、俺は振り向いて辺りを見回す。気配が先程からしてならない。なら、ここで白黒つけておいた方がいい。

 

「さっきからコソコソしててウザイんだよ。早く出てこい」

「冷剣っ! お前が居なければ! ロザリアさんは! うちのギルドはなんてこと無かったのに! お前のせいだ……お前が居なければ!」

 

 そう言って切りかかってきた男の剣を、ガントレットをつけた手で受け止める。その瞬間、男のカーソルはグリーンからオレンジに変わり、犯罪者扱いされるようになる。そんでもって、主街区の方にぶん投げる。こうすれば、警察みたいな格好のNPCがやってきて……

 

「侵入者、侵入者。牢獄送リニシマス」

「このやろっ! 離せっ! 話せって! やつを殺さないと! ロザリアさんの分の仇を!」

「ギルメン諸共、牢獄で騒いでろ。クズどもが」

 

 そして、警察NPCとともに光に包まれてどこかに行った。おそらく、牢獄だろう。まぁ、どんまいだな。変な恨みを買ったもんだ。俺も。

 

「さて、宿のところに行きますか」

 

 そう呟いて、シリカ達の向かった方向に歩みを進める。

 

 

 ━━━━━━━━━━━━━━

 

 俺が着いた頃には、もうピナが復活していた。フェザーリドラって言われるだけあって、龍たる所以を少しは感じる。考えたくないなぁ。これがオーディナルスケールであんなバカでかいドラゴンになるなんて。

 

「ピナ。この人がレイジさんだよ。挨拶して」

「きゅぅい!」

 

 そう言ってバサバサ飛んでいると、いつの間にか俺の頭の上に来てちょこんと座り込んだ。

 

「あれっ、速攻で懐かれた感じ?」

「俺の時もそうだったからな。そうかもしない」

「ピナったら、あたしにだけはしてくれないんですよ」

「きゅるきゅる!」

 

 しばらく、3人と1匹で話をして、日付が変わる前には解散した。そして、3人で、

 

「向こうの世界で、また友達になろう」

 

 と約束をした。……俺にその約束が守れるかは分からないが。

 

「ほれ、フリスク。今からまたレベリング行くんだろ?」

「あぁ、早くSTRあげて50層でのLAB使いたいからな」

「あの剣、魔剣クラスだもんな。多分、今のところいちばん強いんじゃないか?」

「いやいや、お前が持ってるその剣だって強いだろ。あと、お前だってMVP貰ってただろ?」

「あぁ、『エクセリアス』か? まぁ、あの武器使うにも、まだSTR足りないからな」

「お前もか」

「まぁ、いいんだよ。いずれ使えれば、それで」

「確かにな。それじゃ、行くか。それと……」

「それと?」

「……二刀流のスキル上げもやっていいか?」

「もちろんいいぞ」

「ありがとな。いつもいつも」

「んだよ。気持ちわりぃぞいきなり」

「ひでぇや」

「うるせ。行くぞ相棒」「おう」

 

 俺達は、また前を向き始める。この城を、頂まで上るその日まで、止まらないだろう。

 

 ……まぁ、途中でこの錐型の途中で、誰かさんがぶった斬るんだけど。言わないお約束か。




今回4000字です!ついに2つ名出ましたねぇ。そして、50層ボスのボーナス剣が出ました。エクセリアスです!
剣の名前に意味なんてつけない方がいいかなぁ…。
今日も、読んでくださってありがとうございます!
感想&評価、お待ちしてます!ありがとうございました!


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13話:殲滅とフラッシュバック

週一投稿、守りました!あと、6000UAありがとうございます!
今後とも当作品をよろしくお願いします!
さて、今回ですが、圏内事件、心の温度を飛ばして一気にラフコフ討伐回になります!
グリゼルダさん。許してくれぇ!キリアスを完成させるにはあの話が必要だったんだぁ!
っとまぁ、ここまでにしておいて。
13話です!どうぞ!


 2024年8月、アインクラッドの攻略も6割弱が完了しているこの時期、1本の通達がアルゴから届いた。

 

『ラフィンコフィンのアジトが見つかっタ。各ギルドのメンバーを集めて血盟騎士団の会議室に来てクレ』

 

 アルゴから情報が来たのだ。間違いないだろう。そう思ったレイジは、64層の迷宮区の攻略を一旦中断し、55層のグランザムに向かうのだった……。

 

 

 ━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

「よぉ、レイジ。多分だが、お前さんが最後だぜ?」

「クラインか、久しぶりだな。ここに呼ばれたってことは……」

「あぁ、鼠から呼ばれてよ。ギルメンは半分は置いてきた」

「そうか……。……俺が最後じゃなかったみたいだけどな」

 

 そう言って、会議室の扉を見やると、そこには、黒一色のプレイヤーが、こっちに向かって歩いていた。

 

「よっ、レイジ。クライン。お前たちも来てたのか」

「当たり前だろ。もしかしたら、SAOの生還者を決める大事な会議なんだ。来ないなんてこと、できねぇよ」

「俺もだ。これで全員揃ったんじゃねぇか?」

「だな。そろそろ、始まるぞ」

 

 そうして、会議室の中央(と言っても、大学の講義室みたいなもんだが)に立つアスナから、号令がかかった。

 

「静かにお願いします」

 

 一声で、その場の空気が一気に変わる。さすがアスナだ。こんな場所でものすごい統率力を発揮する。攻略の指揮官としても有能なこの力は、おそらく親譲りのものだろう。

 

「それでは、これより、レッドギルド〔笑う棺桶(ラフィンコフィン)〕の対策会議を始めます。それでは、進行を代わりたいと思います。アルゴさん、お願いします」

 

 そう言って、その場をアルゴに任せ、アスナ自身も席に着く。そして、前に出たアルゴからの説明が、淡々と続く。

 

「それじゃ、こっちを見てもらおうかナ」

 

 そう言うと、ホワイトボードがくるりと反転する。現実にも似たようなのがあったっけ。

 

「ここに載ってる3人は、幹部メンバーで、最も古くから活動していル。戦闘になった際は、一人で行かないで、十分に注意してくれよナ。それじゃ、右側から解説するゾ」

 

 そう言って、アルゴが指した際には、深くローブを被って、頬に稲妻のような刺青がされているプレイヤーの写真があった。

 

「このプレイヤーは、ラフコフの創設者兼ギルドマスターのプレイヤー、Pohダ。使用武器は短剣カテゴリーの中華包丁。自身が前に出て手を汚すことがないため、実力は予測不能ダ」

 

 予測不能、という言葉に、場が騒然とする。無理もない。相手は殺人のスペシャリストで、相当な手練だ。怖くなるのも無理はない。そんな場を沈めるのに、

 

「静かに!」

 

 と、アスナの一括が入る。場が納まったところで、アルゴが情報開示を再開する。

 

「続いて、真ん中の写真を見てクレ。この覆面で顔全体を覆ったヤツが、プレイヤー名ジョニーブラック。ラフコフの中では毒のスペシャリストといえるほど毒を多用してくル。投剣ピックで毒付与をしてくることもあるそうダ。使用武器は短剣。次」

 

「こいつか……。覚えておかないと……」

 

「ドクロのマスクに赤い目のコイツが、プレイヤー名ザザ。おそらくだけど、幹部の中では1番殺した数が多イ。使う武器は刺剣(エストック)ダ。これで、一応幹部プレイヤーの説明を終えるゾ。質問はアルカ?」

 

 1人のプレイヤーが手を上げる。青龍連合のプレイヤーの1人だ。

 

「情報屋さんよ。この情報を、どこから手に入れたんだ? いくらあんたとはいえ、こんな情報量は少しおかしいぞ。アジトの場所と言い、どうしてここまで出揃ってるんだ。教えて貰いたいんだが……」

 

 そう言うと、アルゴは、少し俯いて、何かを考え込んでいるようだ。しかし、何かを決めたように小さく頷くと、そのプレイヤーに向かって説明した。

 

「実は、この情報の出処が、匿名で送られてきたインスタントメッセージなんだヨ。流石に間違ってたらマズいと思って、1週間くらいはその場所の入口近くで張り込みしたしナ。間違ってはないゾ」

 

「匿名ってのが怪しいが、まぁ、いいだろう。説明感謝する」

 

 そう言うと、自分の席に着いた。そのほかに手を挙げる者も居ないので、ギルドからの派遣人数の確認と、当日の持ち物の確認。そして、実行日が明日というところまで決まった。そこまで決まったところで解散し、各自覚悟を固めることになった。

 

 

「……にしても、ヒースクリフがあそこまで討伐戦に関心がないとはな。攻略好きの団長様とはいえ、あれは驚いたよ」

「だな。攻略最優先とはいえ、人員派遣だけして、自分は関わりませんよ〜って感じだったし」

「もぉ〜、2人とも悪く言わないでよ。団長の方は団長の方で、色々忙しいんだから」

「「ハイハイ」」

「……2人は覚悟ができてるの? ゲームとはいえ、人を殺した人と相対するのが、怖くないの?」

「俺は、別に怖くない。生き残れる自信があるからな。キリトはどうなんだ?」

「……怖いさ。でも、1人でも多くの人を助けるのに、こんなところで怖がってもいられない」

 

 そんな会話を俺、キリト、アスナの3人でやったあと、それぞれのホームに帰って、休むことにした。

 

 ━━━━━━━━━━━━━━━

 

 〜討伐戦当日〜

 

 アジトのあるとされる57層に、討伐隊30人ほどが集まっていた。それぞれの顔は固く締まっており、これから起こりうるであろう死闘に、何がなんでも生き残るという顔をしている。

 

「それじゃ、出発していく訳だが……今からでもいい。自分には無理だと思ったやつは、ここから抜けてくれ。今から相対するのは、殺人鬼だ。捕縛が1番いいが……最悪の場合、殺すことになるかもしれない。その覚悟がないやつは、抜けてくれ」

 

 討伐隊のリーダーを務めるシュミットが、この場のプレイヤーに問いかける。しかし、誰も抜ける者はいない。全員の覚悟が固まっているようだ。

 

「それじゃあ、行くぞ。コリドーオープン」

 

 アジト前に繋いでおいた回廊結晶で早速向かう。全員が行ったところで、最後に俺が入る。殿を務めることになってしまった。だが、これはこれでいい。後ろから状況を確認できるのに加え、この中の裏切り者を監視することだってできる。

 

 

 

 

 しばらく歩いたが、出てくる様子が感じられない。索敵スキルを全員が発動しているが、反応がない。いくら隠蔽スキルが高いと言っても、スキルマの索敵を掻い潜ることは出来ないのだ。という事は、この場にいないことを表している。

 

「全く出てこないな……もしかして、尻尾巻いて逃げちゃったとかか? (笑)」

「アハハハハハハ!」

「……」

 

 シュミットの冗談にみんなが笑っているが、警戒を怠ってはいけない。索敵をかけ続けるが代わりがない……って、1人消えてる! 俺しか分からないあの裏切り者が、消えている! 

 

「一体どこに……」

「ヒャッハァ────!」

「「「「「「!?」」」」」」

 

 いきなり、前と横方向から、ラフコフのメンバーが襲いかかってきた。唐突すぎた襲撃に、1度は驚かされた討伐隊だったが、すぐに体勢を立て直し、迎撃体制に入る。

 

「捕縛優先! 全員散れ! 固まってるとやられるぞ!」

「全員ぶっ殺せ! 1人残らず殺っちまえ!」

 

 2方向から指示が飛び、戦闘が始まった。

 

「クソッ! アイツは後回しだ! こっちから片付けるか!」

 

 この日のために用意しておいた武器、『スタレシア』を片手に、ラフコフに向かっていく。わざわざこの日のために用意したんだ。誰も殺させないし、殺さない。それがベストだ。

 

「ヒャッハー」

「お前ら全員牢獄送りだ!」

「冷剣だ! 殺っちまえ!」

「おらぁ!」ザシュッ

 

 相手の体に深くならない程度の抜き打ち。傷口から赤のポリゴンがチロチロと漏れてくる。そのまま通り過ぎざまに8人ほど切りつけて、剣を鞘にしまう。その瞬間

 

 バリバリッ! ピシャッ

 

「がっ!?」「ウッ」「何だ? 体がっ、痺れてッ!」「麻痺か!?」

 

 そう、鍛冶屋界隈では絶対に作ってはいけない。作ってもすぐに素材に戻さなきゃいけない。そんな暗黙のルールが存在するのが、この武器だ。切りつけた相手にシステム上最高値のレベルの麻痺毒を与えるというもの。俺は、これを鞘にしまった時の音で発動するようにしている。モンスターに効かない、対人戦用の武器であり、プログラムした茅場をこの剣で殺したくなるようなものだが、こればっかりはしょうがない。

 

「次!」

 

 ━━━━━━━━━━━━━━━

 何度も、何度も、切りつけては麻痺したところを後方のヤツらにロープ巻にする。ジョニーブラック顔負けの麻痺ピックも使い、両陣営に犠牲者が出ないように動き続ける。

 

(ハハハ。疲れてきた。でも、あと1桁。あと1桁捕縛したらッ!)

 

 そして、また1人切りつけて麻痺状態にする。そうして、包まっているラフコフの所を見ると、着々と回廊結晶で牢獄に送られている。まだ幹部メンバーは抵抗している。

 

「あっち向かおうかなぁ!? ……その前にこっちからか」

 

 キリトの方向に助太刀しようとしたが、その前にジョニーブラックに捕まってしまった。

 

「ザザの方には行かせないよォ?」

「うるさいな。ここでお前は牢獄送りにさせてもらうぞ」

「させないよォ!」シュッ

「毒は効かねぇよ!」パリィン

「んなァっ!?」

 

 出てきた短剣を刃の半ばで割る。キリトの十八番の〈武器破壊(アームブラスト)〉を少し武器補正でやりやすくしたのだが、ここまで成功率が高いと参ったもんだ。

 

「くっ、でも、これだけじゃないよォ!」

 

 丸腰で飛び込んできたかと思えば、体術スキル『閃打』だった、のだが……

 

「んなっ、ナイフっ!?」

「喰らえッ!」ズサッ

 

 俺の脇腹にナイフが突き刺さる。HPはあんま減らないし、麻痺毒もダメージ毒も効果時間が大したことない。デバフカット付けててよかったと思った瞬間だった。

 

「まさか、裾にナイフを隠し持ってたなんてな。敵ながら賞賛するよ。綺麗なだまし技だ」

「へへっ、そりゃどーも。でも、この毒、最近開発したばかりのレベル5なんだよぉ。ベラベラ喋ってる余裕もないんじゃないかい?」

「残念だったな。お前が俺の相手をした時点で、俺の勝ちは決まったようなもんなんだよっ!」ドガッ

「グッ、何でっ!?」

 

 会話で時間を稼いで、麻痺が解除されたところで思いっきり蹴っ飛ばす。ふとキリトの方を見たが、どうにか決着が着いたようだ。なら、こっちも早く終わらせないといけない。今立っているのも、俺とジョニーブラックの2人だけだ。

 

「そんじゃ、HPが全損しないところに当ててやるよ。ほら」

「くっ、ううっ!」

 

 麻痺になったところを縄でぐるぐる巻きにして後方部隊に受け渡す。念の為に、腰のピックとかは全部取ったが。

 

「覚えてろよォ! いつか、殺してやるからなぁ!」

「楽しみに待ってるよ。多分無理だろうけどな」

 

 そうして、ジョニーブラックが回廊結晶で牢獄に送られたところで、戦いは終わった。討伐隊の犠牲者0人。ラフコフ側は構成員35名中2名行方不明の28人捕縛。5人死亡という結果となった。

 

 ━━━━━━━━━━━━━━━

 

「結局、Pohは捕まらずか……。キリト、探すか?」

「流石にもう崩壊ってとこまで来てんだ。これ以上大きな動きはしないだろうな。……レイジは何人やったんだ?」

「3人。キリトは?」

「……2人だ。ホントは、やりたくはなかった。でも、自分を守るためだけに、どうしてもっ!」

「……別にいいんだよ。そう思える内は。忘れちゃいけない。忘れなければ、それでいいんだ。罪を背負って生きていくってのは、そんなもんなんだよ」

「……レイジ、お前……過去に何かあったのか?」

「……まぁな。今回の1件で思い出したよ。忘れていたこと。忘れちゃいけなかったこと。でも、俺はもう大丈夫だ」

「……そうか。それじゃ、また次の攻略で」

 

 そう言って、俺達は、別れた。50層、アルゲードでの話である。

 

(全部、思い出せた。この1件で。父さん、母さん。芽依。俺は、また同じことをしてしまったよ)

 

(また人を、殺してしまった……)

 

 たとえ原作通りの進み方にするためだとしても、こうはなりたくなかった。シノンとキリトが出会うためとはいえ、こうなりたくはなかった。こういう形で、思い出すようなことはしたくなかった。

 

「また、か……」

 

 俺はまたしても、殺人鬼を殺してしまった。




結局ラフコフ側にも犠牲者が出てしまいましたね。まぁ、キリトのGGOでの話に関わるので必要なんですけど。
今回もありがとうございました。


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14話:S級食材と十八番飯

週一投稿守れなくてすいません!2日遅れました!
なるべくこれから4000字〜5000字の間を書けるようになると思いますので、これからも、優しい目で見ていただけると幸いです。
それでは、14話。どうぞ!


 SAOがスタートして、2年近くが経過した。現在レイジのいる場所は74層迷宮区。レベリングも兼ねたマッピングをしていた。まだ元の世界(レイジのいた世界)に戻る方法も見つからず、刻々と時が過ぎていくばかりだった。

 

「リザードマン多いなぁ。そういや、グリームアイズもこんなバケモンみたいなやつだったっけな。でもまぁ、あと少しで八割くらいはマッピング終わるし、今週でこの層もおさらばするかな」

 

 一人でどんどん進んでゆく。じわじわと回復するHPが、彼を戦わせることを促すように、終わることの無い攻略ばかりが進んでいった。時刻は9時を回っており、いい子ならもう寝ている頃合いだ。

 

「……帰るか」

 

 そんなどこぞの黒の剣士様と同じことを言いながら、帰路に着くのだった。

 

 

 

 

 〜50層主街区アルゲード〜

 

「なぁエギル。いい飯の材料ないか?」

「最近はA級どころか、B級の食材の流通も少なくなってるのは、この前も話しただろ。無理言わないでくれ……」

「そういやそうだったなぁ……」

 

 忘れてた。生憎迷宮区で大したものも落とせてない。

 

「……なぁ、大斧欲しいか?」

「いきなりだな。でもどうしたんだ? モンスタードロップでいいのが手に入ったのか?」

「まぁな、これだよ」

 

 そう言って、トレードウィンドウを操作する。武器欄から出てきたアイテムを、差出人をエギルに指定して見せる。

 

「どれどれ……はぁ!? なんだよ、これ。ぶっ壊れてんじゃねぇか。お前、こんなのどこから……」

「いやー、なーんか斧持ってるデモニッシュサーバントいたから、とりあえずドロップ確認と思ってドロップ強化の装備で倒したら、出てきてな」

 

 まぁ、驚くのも無理ない。今見せた『ボーンカルトアックス』の効果で、クリティカル率1.5倍、吸血、筋力値+20のバクモンだからだ。ほぼほぼSTRーDEFにしか振らないエギルのようなプレイヤーからしたら、喉から手が出るほど欲しいだろう。

 

「いくらぶんどるつもりだ? まさか、80kくらい取るんじゃ……」

「んなわけねーだろ。無料(タダ)でやるよ。お前には、相当世話になってるからな」

「まじかよ……お前さん、今日は5杯までなら自由に何でも飲んでいいぞ。あと少しで閉めるつもりだから、今日は上に泊まっていってくれ」

「いいのか? 有難く使わせてもらうよ。でも、あと少しでキリトも来るはずなんだ。少し待っとこうぜ」

「そうか。なら、あいつが来るのを待つとするか」

 

 

 〜30分後〜

 

 ㌧㌧とドアをノックする音がなり、ドアを開けてキリトが入ってきた。何やら顔は自慢したそうだ(ラグーラビットなんだけど)。

 

「なぁエギル。ちょっと見て欲しいものが……って、レイジもいるじゃないか。丁度いい。こいつを見てくれよ」

 

 そう言って、システムウィンドウを操作し、こちらに向ける。ご丁寧に『ラグーラビットの肉』と示されており、それを見たエギルの目が丸くなった。

 

「ラグー、ラビットだとっ……! お前、これ、S級食材じゃねぇかよ……。自分で食べようとは思わないのか?」

「思ったさ。でも、調理しようにもどうしたらいいか……。って、レイジがいるじゃないか。お前、料理スキル取ってたよな。いくつだ?」

「この前726になったばかりだけど、俺に頼むなよ。俺は食ったことあるんだからさ。それに、添える野菜も生憎手元に無いんだよ。キリトも知ってるだろ? 食材不足で出回ってないの」

「あぁ、そうだよなぁ……って!」「確かになぁ……てか!」

 

「「お前食ったことあんの!?」」

 

 キリトもエギルもどっちも食いかかってくる。別に隠すことじゃないからいいんだけどさぁ。

 

「あるよ。結構美味かった。で、何?」

「あるならあるで言えよなぁ。なぁエギル?」

「そうだ。美味いもんは皆で分け合って食べないと」

「お前ら、仮に手にしたとして、誰かに売ったり分けたりするか? 俺みたいに料理スキル取ってるやつがゲットしたら、迷わず自分で全部食べるぞ」

「「うむむ……」」

 

 そうして、そんな話をしている最中、空いてるドアから中に入ってきてコソコソこちらに近づいている人が1人。いや、厳密には2人か。そして、だんだんこちら側に近づいてきて……

 

 ㌧㌧「キリトくん」

「……ハッ! シェフ捕獲!」ガシッ

 

 アスナの登場である。もちろん、後ろにはクラディールが居る。アニメまんまのセリフ回しに少し吹き出しそうになったが、気合いで耐える。そして、クラディールのギロッとした睨みに気づいたキリトが慌てて手を離して

 

「珍しいな、アスナ。こんなゴミだめに」

 

 その一言に、エギルがムッとするが、そんなエギルをなだめながら、この2人のやり取りを見守ることにした。

 

「言い方がいちいち酷いわよ。近々攻略会議があるから、生存確認しに来たの。それで、何? シェフってなんのことよ」

「アスナ、確かお前、料理スキル取ってたよな。今いくつだ?」

「ふふん、聞いて驚かないでくれる?」

 

 そう言って、胸を張ってエッヘンといった様子から、俺達にドヤ顔で言ってきた。

 

「先週、スキルマックス(コンプリート)したわ!」

「「おおっ!」」「はへぇ」

 

 キリトとエギルは驚き、俺は……なんとも言えない声を出した。

 しょうがないじゃないか。こんなことなるの知ってたんだし。

 

「そんな君の腕を見込んで、頼みがある。こいつだ」

 

 そうして、俺達に向けられていたウィンドウをアスナの方に向ける。そしたら、まんまエギルと同じような反応を見せてくれた。

 

「ちょっと! これ、S級食材じゃない! これを……」

「やってくれたら、1口食わせてやる。それでいいか?」

 

 その言葉に、勢いよくキリトのコートに掴みかかり、手元に引き寄せ、顔を近づけて言った。

 

「は・ん・ぶ・ん!」

 

 なんて食い意地張ってるんだ……。1層でパンにクリームつけて食べた時も同じだが、どうして彼女はこうなのだろう。

 

「わかったわかったって! ってことで、エギル。こいつを売るかどうか迷っていたが、取引自体なかったから、別にいいよな」

「なっ、キリト、俺たちフレンドだよな! 俺にも1口くらい……」

「感想文を800字以内で書いてやるよ。それじゃあな」

「そっ、そりゃねぇぜ……」

 

 エギルはしょぼんと肩を落としてうなだれてしまった。

 

「まぁまぁ、そんなしょぼくれるなって、んじゃあな。キリト、アスナ。そこの護衛さんも。ここまでお疲れ様だな」

「いえいえ、任務なので。労い感謝させていただきます。それでは、失礼させていただきますよ。灰の冷剣様」

 

 ……なんでよりによって血盟騎士団には好かれてるんだろうな、俺は。まぁ、ギルドの色んなところ支援してるのは間違いじゃないんだけどさぁ? でもまぁ、少しは泳がせとくとするかな。

 

「……エギル。キッチン借りていいか?」

「おっ、おう。でもどうしたんだよ。突然」

「いや、キリトがラグーラビット持ってたろ? 同じ感じで、俺も持ってるんだわ。S級食材」

「んなぁ!? お前、なんでそれを隠して……」

「いや、キリトが言ったあとじゃないと、俺まであの食事に誘われてたかもしれないからな。あの二人には、仲良くさせとこうぜ? いいだろ?」

「あぁ、そうだな。……それで、何作るんだ?」

「俺の十八番。牛丼だ」

 

 そうして、俺はキッチンの方に入る。家で一人暮らしの時も即座に作れて美味しいのはこれだった。

 牛のバラ肉に、玉ねぎを鍋で軽く炒める。そして、それに出汁、醤油、みりんをかけて、少し煮込む。ご飯は別途で炊いて、出来上がったアタマを丼に盛ったご飯の上に載せておしまい。

 

 〜作業中〜

 

「いやー、都合よく『ヒドゥンバイソンのバラ肉』が手に入ってなぁ。こりゃ使うしかねぇって思ってたんだよ」

「なら、なんで食材の有無を聞いたんだよ。別にこんなもの作れるなら、聞く必要ないだろ?」

「1番いいのはカレーだったんだよ。『フレッシュオニオン』しか無かったんだから、こうするしかなくてな。他の材料があれば、別のにしたかったんだよ」

「それもそうか……。んで、さっきから鍋に何入れてるんだ?」

「醤油、みりん、出汁。出汁は出汁でも白出汁な」

「なっ、なんでお前醤油持ってんだよ!」

「作った」「はぁ!?」「だから、作ったって言ってんだろ?」

「どうやって……」

「この世界には、味覚パラメータってのがある。それのダイヤモンドを少しずついじって、なるべく本物に近付けた」

「おいおい……そんなの攻略の合間にいつやってたんだよ……」

「知らねぇの? いつも夕飯は手作りなんだぜ?」

「……お前をうちで雇いてぇよ」

「無理だな。やめてくれよ」

 

 〜食事後〜

 

「はぁ、美味かったなぁ。にしても、お前がこんなに料理出来たとはなぁ……」

「リアルでは一人暮らしなんだよ。それもあって、一人で作るのには慣れてるんだよ」

「……聞いちゃいけない事だったか?」

「いや、別にいいさ。でも、詳しい話は、またいつかな」

「……あぁ」

 

 ここで話す訳には行かない。その日が来るまでは、話さないでいたい。ラフコフの件があって、俺が過去に人を殺めたことは思い出した。その事で、今の仲間に拒絶されるとは、到底思ってはいない。だが、事にはタイミングってものがある。だから、今は話さない。

 

「そんじゃ、飲み明かすか。今日は5本までならOKだろ?」

「5本までならって……。お前未成年だろ?」

「るせぇ。あの二人のイチャイチャっぷりを我慢した分だ。護衛が云々言ってるだろうが、あいつらはくっ付くだろうよ。さぁ、酒出してくれ。バーボン、ロックで頼む」

「全く。部屋まで運ぶのは俺なんだからな……」

 

 夜中、俺達2人は酒を飲み交わした。夜がより1層静かになっていく中、50層の街の角には、明るい日が灯ったままなのだった……。

 

 

 

 

 

 

 〜一方その頃〜

 

「今日はありがとな。おかげで美味い飯が食べれたよ」

「ううん、いいの。私こそ、あんなご飯食べられて嬉しい」

「そうか……。なぁ、アスナ」

「何? キリト君」

「明日、レイジも誘っちゃダメか?」

「別にいいけど……どうしたの?」

「いや、何やら嫌な予感がしなくもないって感じでさ……まぁ、明日はよろしく頼む。74層主街区、転移門前に集合な」

「わかった。それじゃあね」

「あぁ、また明日」

 

 そうして、キリトはホームに戻った。

 

「にしても、4Mコルかぁ。レイジはどんくらい稼いでんだろなぁ……。あいつ、武器売りまくって稼いでるみたいだし」

「しかも、なんか面白い武器能力手に入れたって言ってたな……。明日にでも聞こうかな……」

 

 レイジの本当の力がどれくらいの物なのか、キリトは知らない。一対一で戦えば、間違いなくキリトは負けるだろう。何より、このゲームが全損決着できるようなものなら、確実に負ける。

 

「詳しくは明日、だな……」




はい、ご飯回ですね。
ちなみに、私の十八番も牛丼です(聞いてない)。
今回もありがとうございました!


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15話:壊れスキルと護衛さん

一応、週一にはなってる、よね?


 2024年10月19日。俺は、キリトに呼ばれて74層の主街区、カームデットに来ている。もちろん、キリトも一緒だ。アスナはいない。それもそのはずだ。なぜなら……

 

「なんでこんな1時間も前に俺を呼び出したんだ?」

「まぁまぁ、いいから、剣を一旦貸せ」

「はぁ? なんで今……」

「良いから。この前も言ったろ? 面白いものが手に入ったって」

「そういや、そうだったな。どんなやつだ?」

「これは、元々双斧(デュアルアックス)についてたやつなんだけどな。丁度いいから能力だけ貰って捨てた」

「捨てた? でもなんでそんな……。別に、普通に街に出回ってるようなやつなんだろ?」

「いや? 誰もそんなこと言ってないぞ?」

 

 キリトが怪訝そうな顔をする。まぁ、こんなこと言ったところでわかるのはあんまり居ないだろう。似たようなのを持ってるのは、俺とキリト、あとはヒースクリフ位じゃないだろうか? 

 

「お前、もしかしてだけど……」

「ご想像通りだ。ユニークウェポンだよ」

「お前、そんなのをまたいつの間に……」

「単なるフィールドボスのドロップだよ。この前、ドロップ無くてワーワー騒いでたろ? あの中、俺だけドロップしてたんだよ。まぁ、喋ったらオークションにかかるレベルの武器特性だからな」

「そんなものをコピーしてたのか……。一体どんな能力だ?」

 

 まぁ、気になるのも仕方ない。でも、これはあくまでも切り札だ。使うことは最後までない。明かすのは、キリトだけにしないといけない。

 

「……スキルリンク」

「えっ?」

「だから、スキルリンクって言ったんだ。能力は……まぁ、言葉の通りって訳だ」

「んなっ!? おい、お前! こんなのを誰かが知ったら、何が起こるかわからないぞ!」

「分かってる。別に、これはいざって時のためだ。お前は何かとトラブルに巻き込まれやすいからな。つけておいて損は無い」

「でも!」「いいか、キリト」

 

 一呼吸おいて、俺は言う。周りには誰もいないから、聞くヤツはいない。

「二刀流は、それは絶大な能力だ。俺が保証する。だが、いずれ限界が来る。その時に、使える手数は多い方がいい」

 

 キリトが押し黙る。だが、気にせず続ける。

 

「その時が来ないのが1番だ。だから、これは2人での秘密だ。そして、これを使うのは、万が一が来た時のみだ。その時に使えるのは俺しかいない。だから、今話してる。いいか?」

 

「……あぁ、わかった。だけど、スキルリンクと言ってたが、実際どんな代物なんだ?」

「LとRに別れてる。Rを装備しているプレイヤーのスキルは、全部Lと共有される。その逆も然り。キリトみたいに二刀流だったら、パッシブとかで上昇するものも2倍になる。そんなものだ」

「LとRってことは、『心』も2つに別れてるのか?」

「ご名答。だから、お前のふたつの剣、どちらにも片方ずつ付ける。エリュシデータにR、ダークリパルサーにLを付けるから、出してくれ」

 

 そう言うと、キリトは文句無しに剣を出してきた。なので、ちゃちゃっと能力付与して、待ち合わせ場所に戻った。アスナが来るまで……。

 

 ━━━━━━━━━━━━━━━

 

「……」「……」「なぁ、レイジ」「キリト」

「「流石に遅くないか?」」

 

 遅い。俺達が話し終わって転移門前に来ても、15分が経ってるのに、未だに来る気配がない。まぁ、どうせあのヤローに追いかけ回されてんだろうが……。

 

 

「そこ、どいて──!!!」

「へぇっ!? のわっ!!」

 

 アスナの声がしたと思ったら、転移門からドーンとアスナが飛び出してきた。そして、反応が遅れたキリトに当たって、そのままキリトが下、アスナが上の状態で倒れる。

 

「……うわぁ。アスナがキリトを押し倒した」

「痛たた……。ん? 何これ」ムニュッ

 

 キリトの手が、アスナのチェストプレートと服の間に入る。そして、そのままキリトが手を掴んだりして、計3回。

 

「……えっ!! イヤァァァ!」バシーン

「ボヘェェッ!!?」

 

 揉まれてたことに気付いたアスナが思いっきり張り手をする。ものすごく乾いたいい音が鳴って、町の壁の方にキリトが吹っ飛ぶ。そして、破壊不能オブジェクトを示す表示の所まで飛んで、そのままその場にポテンと落ちた。

 

「痛いって……。俺が一体何を……」

「キリト、ちゃんとアスナを見ろ」

「なんでアスナを……。……あっ」

 

 キリトが促されて見た先には、胸の方を両手で守るようにして抱き抱えているアスナの姿があった。そして、それを見たキリトが手でさっきの感触を確かめてると、ハッと気づいて

 

「ごごごごっ、ごめん!」

 

 と謝った。そして、それと同時に、転移門が光り出す。それを見たアスナは、トタタタとキリトの背後に隠れるように動いた。一悶着ありそうなので、俺も一応キリトの横に立つ。そうして、門から出てきたのは

 

「アスナ様! 勝手なことをされては困ります!」

 

 クラディールだった。ここまで追っかけてきたってことは

 

「本部に戻りますよ!」

「嫌よ! 第1、なんで貴方が家の前に居るのよ!」

「私の任務はアスナ様の護衛です! それにはご自宅の警備も……」

「ふっ、含まれないわよ! バカ!」

 

 ストーカーでした。クラディールには困ったもんだ。まぁ、どーせアスナの名声と体目当てなんだろうってのは分かる。アスナに言い寄ったり、何かにつけて近付こうとするやつは、大体そんなやつだ。

 

「ハァ、人の恋路を邪魔するなんてな」ボソッ

「これは灰の冷剣様。すみませんが、そこを避けていただけないでしょうか? 任務の最中ですので」

「すまないけど、それは無理だ。なんせ、今からこの横のキリトさんに誘われて、今から迷宮区のマッピング行くからな」

 

 そう言うと、クラディールは激しく顔をしかめた。やはり、キリトの事が気に入らないらしい。

 

「なら、私がそこのビーター風情とどちらが護衛に向いてるか示して見せようではないですか! あいつが誘ったなら、私以上に護衛が務まると言っているわけでしょう! そんなことはないと、ここで証明してやります!」

「えっ!? 俺!?」

「それでいいんじゃないか? アスナは別にいいだろ?」

「まぁ、1連のことは団長に後処理として報告するけど……」

「だそうだ。護衛さんもそれでいいよな?」

 

 クラディールが了承したことにより、キリトとクラディールのデュエルが行われることとなった。わらわらとガヤが集まり、一種のイベントのようになっている。

 

 そして、結果は……言うまでもないか。

 クラディールの放った『アバランシュ』に対して『ソニックリープ』を見舞い、当たる部分を調節して見事に武器破壊(アームブラスト)を成功させて勝負あり。

 

 

「クッソ!」

「これで終わり、かな? なんなら、武器を変えてもう1戦するか?」

 

 そう、キリトが言っている間に、クラディールはシステムメニューを操作している。そうしてオブジェクトされたのは……

 

「このぉぉぉ!」

 

 短剣でした。ソードスキルも乗ってない、ただの突進攻撃。いくらデュエルの時間決着がついてないとはいえ、そんなんで普通攻撃するか? なんて思ってたら、アスナがパリィではじき飛ばした。

 

「あぁ、アスナ様。これは何かの間違いです! 私がこんな奴に負けるはずありません! さっきの武器破壊だって、何か細工があったに違いありません!」

「……クラディール。本日をもって、護衛役を解任。別命があるまで、ギルド本部にて待機。以上」

「なぁっ!? ……クソッ!」

 

 実質クビ宣告されたクラディールは、キリトの方を睨み、55層の方に戻って行った。

 それが終わってから、アスナはキリトに申し訳なさそうに謝った。

 

「ごめんね、キリト君。私が規律を重要視しすぎたせいで……」

「いや、そんな事ないよ。逆に、アスナがいなければ、攻略だってもっと遅れてただろうし……」

「キリト君……」

「だからさ、たまにはこんな感じで俺みたいなやつと気楽にやってもいいと思う。まぁ、俺が言えた義理じゃないけど」

「キリト君……!」パァァ

 

 ……いいムードが出来上がってしまった。全く。俺を空気扱いしないで欲しいのだが……。

 

「コホン」

「うわぁ!」「きゃっ!」

「あのさ、そろそろ行かね?」

「あぁ、そうだな」「えぇ、そうね」

「それじゃ、向かうぞ」

「分かったわ。それじゃ、レイジくんには少し迷惑かけたから、お休みしてもらって、さっきのキリト君のこともあるし……前衛お願いね!」

「そうだな。そうさせてもらおう」

「ちょっ! 前衛は交代ずつだろ!」




ひー、クラさん書くの難しー!
これで、やっと次がグリームアイズだ!調節できたぁ!
また、新しい武器効果出ましたね。いつか設定集でまとめないとなぁ。
主の受験が忙しくなってきたので、週一守れるかどうかも怪しい!もしそうなったらごめんなさい!許して!


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