蒼き飛翔のイクシロン (赤羽ころろ)
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Depth1 出会い

お初にお目にかかります、赤羽ころろと申します。こころじゃないですころろです。ろが二つで覚えてネ。さて、もともとは色々なところで活動してましたが今回すべての作品をこちらに移管いたしました。ここならオリジナルも二次創作もできますしね。というわけで今回はオリジナルSFロボット戦記「蒼き飛翔のイクシロン」をお送りします。もう四年前で10代の時に書いたものなので文も拙いですが何卒よろしくお願いします。


その日は突如として訪れた。

 世界的テロリスト集団「リ・デザイア」は今まで小規模のテロを行ってはいたが世界規模のテロは行ってはいなかった。

 そしてそれは起きた。

 西暦2055年、世界とリ・デザイアは正面からぶつかり合った。リ・デザイアの本拠地はロシア西部を中心としてヨーロッパ全土に構成員が散らばっていた。

 3月、ヨーロッパの小国アザリアへの大規模テロを皮切りに世界中でテロが起き始めた。

 4月、中東リセンディスタンにて一発のミサイルが首都に向けて発射された。

 5月、日本のトウキョウにミサイルが発射された。着弾はせず自衛隊による迎撃が行われたがその破片は市街地にふりそそいだ。二次災害の被害は大きく数か月インフラがマヒすることとなった。

 これにより日本政府は政府としての機能を維持できなくなった。各地で抗議活動が起きた。が、そんなもの世界にとっては小鳥のさえずりにしか聞こえない。

 リ・デザイアのテロは終わりを告げることなくその年の12月まで続いた。そう12月まで。テロが終わりを告げたのではない。世界が終わったのだ。

 12月31日、2055年最後の日。世界中の人々がこの混迷の世が変わることを望み明日を、もう一度陽が昇るのを待った。

 そして2056年1月1日、夜が明け人々が今日という日を歓迎した時、世界が終わった。

 南極、北極、地球の両極端を総べる氷の大地が謎の大爆発により融解した。さらに爆発の衝撃波により超大な津波が各地で発生。リ・デザイアなど関係なく世界は蒼の底へと沈んだ。

 例外の国はほぼなかった。助かったのは高度が高い国と地域のみだった。日本も例から漏れることなく東京はおろか中部や東北の一部と北海道の一部を除き沈んだ。

 世界の約8割の大地が海の底に沈み、自給すら困難になった生き残りの人々は何とか生きようと物資を集め少しずつ海に出始めた。使えるものは何でも使った。

 やがて安定し始めた人々は大地を捨て海に縦円筒状のコロニーを立て始めた。はじめは2桁にも満たなかった数は数十年で50、100、500と数を増やしていき世界中にコロニーが建っていった。

 そして海を今までの太平洋や大西洋ではなく、本初子午線と日付変更線を基準とし、本初子午線とその周囲数千キロを中央の海(セントラル・シー)、中央の海東側から日付変更線までを東の海(イースト・シー)、中央の海西側から日付変更線までを西の海(ウエスタン・シー)、南極とその周囲が南の海(サウス・シー)、北極とロシア、アラスカなど北の海(ノース・シー)と5つの海に分けた。さらにその中でコロニー群を分けてその群の中で政治などを仕切るのがセントラルコロニーで周りに少し小さい各方角のコロニーが集まり、さらにその中でも同じようにセントラルコロニーがありいわばこちらは市役所のようなものとして機能する。つまり一つのコロニー群は大体21個で成り立っており各コロニーにもその中で住む人たちのゆかりの名前が与えられているが基本的に英語で名づけられている。

 こうして破壊された世界から再生しはじめた時代を人は海洋暦と呼んだ。

 そして物語はあの事件からあと数年で250年がたつ海洋暦2304年に動く。

 

 漁師は朝が仕事の職だ。でも俺は朝が嫌いだ。何故なら、

「お兄ぃー! 朝だぞー! 仕事の時間だろぉー!」

 妹のうるさい声が俺の脳内にこだまする。昨日も夜遅くまでゲー・・・・・・じゃなかった、課題をやっていて寝たのは九時ごろだ。え?遅くないだろって?いやいやうちら漁師はそのぐらいでも遅いくらいさ。

 いい加減妹の声も聞き飽きたので俺はタオルケットを蹴り飛ばしリビングに向かった。

「おはー・・・・・・」「もう、遅いよ!? 3分43秒卵焼きが冷めた!」

 うるさいなーと不満を漏らす俺、|神薙《かんなぎ)アオイ。イーストサイドコロニージパングのヨコスカバンチに妹と住んでる。母親は三年前、ノースサイドコロニーのアラスカに旅行中にハリケーンに巻き込まれてコロニーごと消えた。親父も台風がきてるのに無茶して漁に出て海の底へと消えた。

 今年で15になる妹、ヨーコと17になる俺は毎日漁で稼ぎ学校で学ぶというこの時代ではまぁ普通の生活だった。

 海洋暦になってもうすぐ250年、人口も西暦時代ほどではないがその4分の1ほどまでは言ったのではないだろうか。そんなことを頭の片隅で考えながらアオイは朝食のヨーコ特製卵焼きとパンを頬張る。

「あ、ヨーコ今日ちょい帰り遅くなるから。 帰りにおやっさんとこいってコロニーの修繕してくる」

「ん、りょうかーい。 そっかぁこないだの台風でちょっと欠けたんだっけ?」

 うんと相槌をうちながら先週あったことを思い返す。

 直径6km海面から300メートルほど高く建設された高床式のコロニーはざっと6階建てで1階が漁協や農協などのコロニーを仕切る施設が入っていて2階は商業施設が並ぶ。3~6階は居住区となっている。

 このコロニーは漁業が盛んで隣のアタミバンチは観光客に人気である。それにこのヨコスカバンチと残りの4つのコロニーを仕切るこのヨコスカより少し大きな450m級コロニー、セントラルヨコハマはかなりの都会らしい。そしてさらにそれよりも上の600m級コロニー、ジパングコロニーの首都にあたるトウキョウはそれこそ最先端が集まる未来都市だ。

 最先端と言っても西暦時代よりかははるかに技術力が衰退している。昔、西暦2050年代にはホログラムヴィジョンが実用化されていたらしい。

「・・・・・・」

 コロニーは割ともろいのだ。高波がきても防波シールドで防いでいるため問題ないが台風は別である。強大な台風はそれこそコロニーを破壊する。アオイにとっては苦い経験でもある。母の死がこのコロニーを守る決意をさせてくれたのだが、

「皮肉なもんだな」

「? 何か言った?」

 ううんなんでもと言いこんな朝早くから朝飯を作ってくれた妹に感謝の気持ちを込めて「ごちそう様」と一言。

「じゃあ私はまた寝るから。 食器洗ってね」

「ああ、学校遅れんなよ」

 ふああーとあくびをしながらヨーコは自分の部屋へ戻っていった。

 洗い物を済ませ支度をしてアオイは家を出た。

 

 ゴゴンッと重く軋むような音がした後エレベーターの扉が開き数人の大人と共にアオイはエレベーターから降りた。

「よう、アオイ! また眠そうだな」

 朝から元気にアオイの名を呼ぶのは同年代で漁師仲間の楠ミハネだ。彼女の父がこのコロニーの漁業組合長なのだ。そのため彼女自身もこうして港で仕事をしている。

「ああ、これはまた涼しそうな格好で・・・・・・」

 ミハネはつなぎにタンクトップという格好だったがつなぎの袖を腰に巻いていた。

「いいのよ、アタシ今日無いから」

「あ、あっちか」

 漁師として働いているミハネだが非番の時は船の修理なども承っている「工房」で働いている。アオイが今日帰りに寄るのもそこだ。

「こないだの台風で座礁した馬鹿がいてさぁ。 そいつの引き上げと修理が大変でさ・・・・・・」

「あー、分かるわぁ」

 ここの漁業組合では捕った分の3割を自分のものにできる。そのためその日収穫する量が食に直結するのである。だからこないだの台風の日、貧しい家のひとたちは無茶をしてでも取りに行ったのである。まあ座礁した分の修理代金は自分で払わなければいけないが。

「じゃあ、アタシ行くわ。 大漁を!」

「おう、お前も修理頑張れよ」

 と数分の会話を交わしアオイはミハネと別れて自分の船がある場所に行った。ゲートの男にIDカードを見せて自分の船「碧雲丸」に乗り込んだ。

 この船は2年前に父が行方不明になった時沖で見つかったいわば父の遺品である。それをミハネが修復し今アオイに受け継がれている。

「・・・・・・」

(あの日、親父は無理をしてでも俺たちのために船を出した・・・・・・。あんたはどこに行ったんだ?まだこの海にいるのか?)

 いつもそんな疑問を抱きエンジンをかけいつもの「領域」へと向かった。

 

「おやっさん! おやっさーん?」

 漁が終わり戻ってきたアオイは今日の仕事場、コロニーの外壁パートの6階層へ来ていた。ここは居住区と外壁の間にあるメンテナンススペースである。

「居ないの? おーい」「こっちだアオイ」

 上からスパナが降ってきた。それを軽くキャッチする。いつものことだ。見上げるとおやっさんは10メートルほど上にいた。

「まったく打ち所が悪かったら最悪死んでますよオレ」

「おお、それは困るなお前便利だもん」

 あのねえと飽きれつつスパナを返す。

 おやっさんこと秋坂コースケ確か48とかだっけ?まあいいか、「工房アキ」の長でこのコロニー全体の修理などを行っている。

「そこのプラスドライバーとってくれ」「はい」

 コロニーの外壁修理と言ってはいるものの実際は簡単なチェックだけである。頑丈ではあるが万一があるからとおやっさんは言う。前に一度「万一のために新しくしたら?」と言ったことがあった。が「そんな金どこにあんだよ」と一蹴された。確かに他のコロニーと比べうちは貧乏な部類に入る。

「まあこんなこと黙々とやってる方が性に合っていいわな」

「ああ・・・・・・」

 おやっさんがいつも持ち歩いているラジオからは他の海の情勢などが流れてくる。ノースでは「雪」が降ったとか南極でペンギンの子供が生まれたとか。

 地球温暖化のせいでアオイは本物の雪を見たことが無い。コロニーの中で四季は再現されているが人工雪なのだ。南極は全ての氷が融けたがその下にある大地が顔をだしペンギンたちなどはそこに住んでいるという。

 かの事件でほぼすべての動物が消えたが標高の高い場所で暮らしている動物や動物園にいた動物などは無事でありコロニーに保護されている。

 その時ラジオから少し気になるニュースが流れた。

「一昨日、リヴェイア軍が隣のオブネスコロニーを襲撃し多数の犠牲者が出ています。 リヴェイア軍はここ数か月で各コロニーを攻撃、占領して回っています。 各コロニーの方は厳重に注意し・・・・・・」

 そこまで言ったときラジオの通信が切れた。

「他のコロニーを襲うってどういうことなんでしょう?」

「さあなセントラルの方の話だろ? セントラルの方じゃ技術はかなり発展したって聞いてるしな。 小競り合いなんてしょっちゅうだろ。 ウエスタンやイーストの奴らも巻き込まれたとかってな。 まあこんな極東の貧乏コロニーにゃ関係ねえだろうさ」

 そうしてまた親方は手を動かし始める。

「アオイ今日はもういいぞ。 あとは俺一人でやる。 さっさと家帰って学校行けよ」

 アオイは腕時計を見るともう9時を回っていた。学校の始業はとっくに過ぎていた。

 お先に失礼しますと軽く会釈してアオイは学校に向かった。

 

「やあ、アオイお疲れかい?」

 アオイが見上げるとそこにはメガネをかけた美少女、じゃなくて少年が立っていた。楠レン、ミハネの双子の弟である。ミハネをショートカットにしてメガネをかけた美少女、じゃなかった美少年だ。学年一の秀才にしてゲームの天才。まさかの勉強せずに学年一位まで上り詰めた天才である。

 アオイ達が通う学校「ヨコスカ海洋学園」は幼保小中高大一貫校で横須賀の子供たちはみんなここに通う。

「ああ、レンか。 当たり前だろ、お前朝四時半に起きたことあるか?

「ん、起きたことはないが起きていたことはあるぞ」

 こいつ・・・・・・とアオイは苦笑した。つまり四時半までずっとゲームをしてたということだろう。

 その時「お兄ぃ〜」と元気な声が聞こえた。そこにはヨーコが立っていた。

「帰りに夕飯の食材買いにスーパー寄るから付き合って!」

「おう!」

「いいねー。 俺もあんなに可愛い兄妹が欲しいよ」

「お前ミハネにスパナ投げられるぞ」

 ははっと笑いながら「そりゃそうだ」とレンは笑った。

 そしてレンは教室から出ようとしたとき

「あ、レンさん今日家でご飯食べない? ミハネさんも誘ってさ!」

 そしてレンは

「待ってました!」とダッシュで戻ってきた。

「お前、最初から狙ってたろ」「当たり前だろ」

 

 スーパーに寄った帰りヨーコが「浜に降りたい」というので3人は浜に降りることにした。

 このコロニーは旧小笠原諸島の小島の上に立っており長年蓄積された土や砂が集まって砂浜が出来上がった。無論、台風の時はその面積はゼロに近くなる。

「私、ここ好きなんだ。」

 その空は紅く染まり海はそれを鏡のように映し出していた。

「俺は将来絶対このコロニーから出て世界をこの目で見て回るんだ」

「オレは今の生活がもう少し裕福になればいいかな」

 アオイがそこまで言ったところで場がシーンとなった。

「お兄、夢無さすぎ」「全くだ」

 二人はジト目でアオイを見てくる。

「べ、別にいいだろ! 現実主義っていうんだよ!」

 その後三人は沈みゆく太陽を静かに見送った。数分後ヨーコが「そろそろいこっか」といい三人は砂浜を後にしようとした。

 そこでアオイは何やら輝く物を砂浜で見つけた。貝殻や真珠の類ではなさそうだった。拾ってみると盾のような意匠をしたペンダントだった。真ん中には蒼く輝く水晶がはめ込まれていた。

「いいもん見っけっと」

 アオイはそれをパーカーのフードに入れ、砂浜を後にした。

 

 その日の夜、ミハネとミハネの父、アズマも合流し楽しい夜となった。10時を回った時アズマは仕事があるといい家に帰りレンとミハネはアオイの家に泊まることになった。そして、アオイの部屋ではアオイとレンそれぞれが読書に勤しんでいた。

「・・・・・・なあ、レンお前何読んでるの?」

「ん? ああパックワーカー大佐の戦術指南書」

 せんじゅつしなんしょとまあこのご時世にあまり聞きなれないワードが出てきた。

「そんなもんよんでどうするのさ? 別にお前世界回るって言ったって戦うわけじゃあるまいし」

「もしもの時のためだよ。 セントラルに行ったときに戦闘に巻き込まれたらの話。 何があるかなんて誰もわからんだろ」

 さすが天才。いつ何時も準備を欠かさない。ちなみにアオイは西暦時代に書かれたとされる小説を読んでいる。どうやら自伝のようだが「常識が非常識」だの「神隠し」だのわけのわからないことが書いてあるがアオイは割と好きである。

「何があるかわからない、か」

 その言葉はアオイの胸に深く残った。

 

 神薙家の浴室、現在はヨーコとミハネが使用中。「ふぅ」と吐息を漏らしながらヨーコは湯船につかった。

「いやーこういうの久しぶりでいいねェ。 たまには悪くないかも」

 ミハネは体についた泡をシャワーで落としながら言った。

「えー私はたまにじゃなくてもいいなぁ。 やっぱりミハ姉は男っぽいなぁ」

 ヨーコは少しにやついて言った。その言葉にミハネは

「なっ! 何を言ってるのさ! アタシだって女っぽいし! ほらスタイルとか!」

「確かにモデル体型ではあるけど胸は私の方があるよ?」

「っ! たった3㎝だろうが!」

 ミハネは顔を真っ赤にしていった。無論、シャワーのせいでは無いのは目に見えている。

 

 アオイの家はコロニーの三階で一番防壁に近い。夜は星が良く見える。アオイはそこにいた。眠れないときはよく来るのだ。

 そこへ「眠れないの?」と声をかけてくる少女がいた。

「ああ、ミハネか」

 二人は幼馴染であり仕事仲間。互いに良き相談相手となっている。二人の間には恋愛感情は無い。むしろ家族に近いのだ。三年前、母を、二年前に父を亡くしたアオイ達兄妹をアズマは面倒を見てやるといいアオイに漁師という職を与えてくれた。幼少期からの付き合いは大切だとそのとき改めて感じた。

「眠れないというかたまにこうやって物思いにふける時があるんだ。 世界の一部では戦いに巻き込まれている人たちがいるのに自分はこんなところでのうのうと生きていていいのかって。 ヨーコやレンは夢があってオレは夢どころか生きる意味さえ見いだせない。何もできない自分に苛立つんだ」

「・・・・・・そんなことないでしょ。 両親が亡くなって今、生活を支えてるのはアオイでしょ? もうすでにアオイは何人もの人たちを食という意味で支えてるんだよ? 何もできてないなんて思っちゃだめだよ」

 ミハネは時として姉のように、そしてたまに妹のように支えてくれる。だから心からこう思う。

「ありがとう」

「え?」

 不意を突かれたミハネはきょとんとしていた。

「さあ、もう遅いし俺らの朝は早い。 寝ようぜ」

「うん・・・・・・」

 アオイはそう言うと梯子を下りて行った。ミハネもたまにある。今のこの環境が壊されたら自分がどうなってしまうか、アオイが、「家族」が居なくなったらどうなってしまうだろうかと。

「・・・・・・そんなこと考えても仕方ないよね」

 そう自分に言い聞かせてミハネも梯子を下りた。

 

「アオイさんちょっといい?」

 翌日、アオイはとある少女に呼ばれて席を立った。

「ああ、委員長。 何かな?」

 委員長、そう呼ばれた少女は艶やかな黒色の長髪の少女だった。名は森宮ツバキ。アオイのクラスの学級委員長である。アオイが思うに普通に美人だ。

「これ頼まれてくれないかな? 私ちょっと他の用があって」

 アオイはツバキから書類の束を渡された。おそらく帰りのHRで配るものだろう。

「いいよ。 やっとくよ」

 ありがとう、と一言言ってツバキは教室を出て行った。

「委員長も大変だな」

 おそらく操艦科の宿題だろう。彼女はトップクラスの成績だと聞いている。ここヨコスカ海洋学院は単位制かつ海に関する選択科目がたくさんある。まあ地球の8割がたが海なのでしょうがないが。

 そのなかでも総合戦術科と操艦科は難関らしい。彼女はどちらでの科目でも二位とトップクラスである。ちなみに一位はレンである。アオイは船の操縦やその他の重機などを操作する操練科と整備科、ミハネは整備科と機関科にそれぞれ通っている。

「神薙手伝うよ」

「ん? ああ、ありがとう」

 声を掛けてきた少年は中学生かと見間違えるほどの背丈の少年だった。仙道コウキ、中等部からの同級生でなにかと世話を焼いてくれる。

「じゃあ仙道はソッチよろしく」

「了解」

 二人は8列ある席を半分に分けて担当することにした。

「えっとここは6人か・・・・・・!?」

 アオイは自らが配ったプリントに驚愕した。

「台風19号接近のお知らせ!?」

 ただ台風が来るだけではそこまで驚かない。こんなことザラにあるからだ。だが今日のアオイは違った。今日はまだ漁に出ていなかったのだ。朝から研修があってまだ出れていないのだ。

 アオイはパーカーからスマホを取り出し台風の進路を調べる。技術力の衰退はいまだ完全回復とは言えなかった。現在はなんとか2010年あたりまで回復したと聞いている。

「2時間後にはコロニーに直撃ってことは・・・・・・もう沖はギリギリだ・・・・・・クソっ」

「? 神薙?」

「悪い仙道急用思い出したから帰る! これ頼むわ!」

 アオイは残りの書類を仙道に預け鞄をもって教室を出た。

 

 エレベータがのろのろと動くのも煩わしいので階段を数段跳んで手すりを滑って降りた。IDカードをぱっと見せてアオイは碧雲丸へと急いだ。エンジンを手慣れた手つきでぱぱっとかけ、出向させた。アオイの前方、数十キロ先の雲は曇天の空であった。

「頑張れよポンコツ!」

 数分後ポイントに到着したアオイは今日の分の網を揚げはじめる。

(早く早く・・・・・・)

 三分後網を揚げ終わり、「よし、戻ろう!」と船をコロニー方面に向けた時アオイはあることに気付いた。

「マズイ、予想より台風が早い!」

 すでに周りは波が高くなり始めていた。さらに、

「!? センサーが聞かない!? しまった・・・・・・」

 これではコロニーに戻れない。勘で行けなくはないが今見えているコロニーは目分量ではすぐそこにあるが実際はまだ数十キロある。今の残りの燃料を無駄に消費してしまう。

「とにかくコロニー方面へ・・・・・・!?」

 その瞬間アオイは高波にのまれた。船から放り出されて海底へ沈んでいく中アオイは自分のパーカーのポケットが光るのを見た。

 

 アオイが波にのまれてから数時間後ヨコスカコロニーに碧雲丸が流されてきた。最初にそれを見つけたのはミハネだった。その後ヨーコとレン、アズマもやってきた。

「うそ!? お兄は乗ってないの!?」「ええ・・・・・・」

 うそよ!と涙を必死にこらえるヨーコにミハネは声を掛けることもできなかった。

「でもよ、見てみろよこれ多分アイツが捕ったんじゃないか?」

 レンが指差すもの、船の数メートル離れたところに網と魚が入ったカゴが流れ着いていた。幸い網とカゴが絡まって魚は外に出ていなかった。

「まだアイツが死んだって決まったわけじゃあない。 どこかのコロニーに流れ着いてるかもな」

「! おやっさん!」

「こいつは俺のところで直す。 運ぶの手伝ってくれ」

 はい、とミハネは返事を返すもすの顔には暗い影を落としていた。

 二時間ほどが経ち工房アキではコースケが一人、碧雲丸を直していた。

「お前の息子は必ず帰ってくるよな? なあソウスケ」

 船の側面に力強く書かれた碧雲の文字を撫でてコースケは亡きアオイの父で友人であるソウスケに問いかけた。当然返事は帰ってこないが、

「ああ、アイツはこの数年で変わったよ。 強くな。 だから帰ってくるさ。 アイツは絶対に妹を一人置いてなんか行かない。 そういうやつだからな」

 誰もいなくなった工房で一人そっとつぶやいた、

「なあアオイ? 早く帰ってきてやれ。 お前の妹は本当は泣き虫なんだからよ」

 シャッターを降し鍵を閉めた。

 その言葉はアオイに届いたかどうかは定かではない。

 

 キーンコーンカーンコーンとよくあるチャイムが鳴り生徒たちは席を立ち各々昼食を取り始めた。レンもその一人である。

「おーいアオイ、昼飯行こうぜ・・・・・・・」

 一つ後ろの席、そのたった一つ空いた席がレンに虚無感を与えた。レンは頬をポリポリと掻き、

「仙道、一緒に飯どうだ?」

「ん、いいよ。 ツレも一緒でいいか?」

「お、いいぜジュン行こうぜ!」

 ジュンと呼ばれた生徒は「おう!」と答えた。(アララギ)ジュン、水雷・砲撃科に所属する男子。身長は割と高い方である。

「で、購買か食堂、どっちにする?」

 ジュンは二人に聞いた。

「今日は購買メロンパン特売だから混むだろうから食堂行こうぜ、なあレン」

 コウキはレンに聞いてみたが反応はない。何かとレンの方を向いてみるとレンはアオイの机を見つめていた。

「・・・・・・気になるよな」「ああ、でもアイツは死んでねえよ」

 そうか、と一言だけ言って「で、食堂でいいか?」とコウキは続けた。

「ああそうしよう」「よっしゃ、今日は確かB定食安かったよな」「うーんオレはとんこつラーメンにしようかな」

 レンはもう一度アオイの机を見つめて「早く帰ってこい」とつぶやきどのメニューにするかの論議に華を咲かせている二人の後を追った。

 

 それは過去を見ているようで夢を見ているようでもあった。この家に生まれ、育った。両親と妹、幼馴染にも恵まれて確かに充実していたはずだった。でもそれは刹那のうちに過ぎ去った。否、時間は短くなかった。ただその充実した生活が一瞬で消え去るようなそのくらいの出来事だった。母は旅行が好きだった。友達と共に幾多のコロニーを旅していっていた。そんな母と共に旅をするのが夢であった。

 そしてあの日、母はいつものように旅行に出かけて行った。が、母は戻らなかった。遺品も遺体もすべてあの強大な台風に持ち去られた。幼かった自分は何が何だかわからなかったが妹は何かを感じて数日間泣きっぱなしだった。それから落ち着きやっと心の整理がついたとき今度は父が行方不明だった。今まで唯一頼れる父という存在が消えたおかげで俺の心の決心がついた。妹のために働くという道を選んだ。そして母のような人をもう出すまいと工房に弟子入りしてコロニー修復の仕事も始めた。でも父が行方不明になってから夢を見る。目の前に父がいるのにいくら手を伸ばしても届かない。そしてしばらくすると父は強大な波にのまれどこかに消えてしまうという夢。今日も同じ夢を見ている。いくら手を伸ばしても届かない。やがて波が近づいてきて父がこちらを振り向いた。その顔は紛れもなく俺自身だった。

「ッ・・・・・・!っはぁっはあ・・・・・・」

 目を覚ました瞬間と同時に呼吸が行われた。見上げたは見知らぬ天井。

「オレは・・・・・・生きているのか」

 記憶が途中で途切れていた。波にさらわれ海に落ちパーカーのポケットが光ったところまでは覚えている。あの時ポケットに入っていたものは海岸で拾ったあのペンダント。急いでパーカーのポケットを探すがペンダントは入っていない。それどころかポケットが無い。しばらくしてアオイは自分が上半身全裸なことに気付いた。

「おわっ! 服! オレの服!」

 ベッドから降りてみると少しふらついた。物干し用と思われるロープにTシャツがかかっていた。それを取りアオイは着た。少し洗剤の香りが残っていた。

「洗ってくれたのか。 御礼しなきゃだな。 それよりここどこだ?」

 スマホはいくら防水と言ってもさすがに画面は黒のまま電源が入らない。電池が切れたか壊れたかだろう。今は後者の方が大きい。

 アオイは最寄のドアは開けた。光が目に入り目の前が白一色になった。数秒経って目が慣れるとそこに広がっていたのは蒼。一面に海が広がっていた。海に囲まれているのはいつもと変わらないがここはコロニーではなかった。

「コロニーじゃない・・・・・・なんだここ」

 あたりを見渡してみると砂浜に一人の少女が居た。自分と同じくらいの年だろうか、蒼がかかった銀髪の髪が風でなびいていた。その瞳は翡翠のごとく澄んでいた。アオイは話しかけてみることにした。

「あの、オレを助けてくれたのってキミかな・・・・・・?」

 コクンと頷き少女は、

「砂浜に流れ着いていた。 私以外の人間をここで見たのは初めてだったから少し戸惑った」

 淡々と喋る少女にアオイは少しリアクションに戸惑っていた。

「ん? ってことはここにはキミ以外の人はいないってこと?」

「うん。 居たのかもしれない(・・・・・・)が少なくとも私は見ていない」

 そっか、と返事をしたがにわかには信じがたかった。この時代に一人で生きていくなんて不可能に近いからだ。そして一番気になることをアオイは聞いた。

「あのさ、ここってどこかな?」

 少女は振り返り一言こういった。

「ニッポン」

 その瞬間、漣と風が吹き少女の髪を大きくなびかせた。

 

 ニッポン、250年前に海の底に沈みアオイ達が住むコロニーの名前の由来にもなった国。そう、アオイ達は失われた極東の人々の末裔であった。

「文献によればもうだれも住んでいないはずだった。 ここは標高が高かった場所なのか?」

 アオイは家(というより小屋に戻りさっきの少女は何かとってくると言って出かけて行った。その間アオイは今自分が置かれている状況を再確認することにした。

 まずアオイは波にのまれニッポンまで流されてきたということ。流れ着いたのはアオイだけで船は流れ着いていない。

 ガチャっとドアが開き少女が入ってきた。その手には多数のリンゴを持っていた。

「ん、食べて。 貴方三日も寝てたのだから。 ほら」

 少女は無愛想にリンゴを差し出す。「ありがとう」と一言お礼を言ってアオイはそれを頬張った。

「そういえばキミの名前聞いてなかったね。 名前は?」

 それを聞いた途端、場が静まり返った。

(あちゃーいきなりすぎたか?)

 アオイが自問自答をしていると、

「東雲、東雲ミズキ・・・・・・」

 ぼそっと小さな声で少女は答えた。その瞬間アオイは少しこの娘を可愛いと思ってしまった。

「えっとミズキさんはいくつ?」

 女性に年齢を聞くのは本来失礼なことであるが今のアオイにはとにかく情報が必要だった。

「16だと記憶している」

「そっかじゃあ年下か。 よろろしくミズキちゃん(・・)

 むっ、と顔を膨らませて、

「気安く呼ぶな!」

「ほぶぉぉ!?」

 顔面にリンゴをぶち込まれたアオイは数分の間立つことが出来なかった。

 

「ねえミズキ、この家ってこの部屋だけなの?」

「遂に呼び捨てか、まあいい。 いや裏にキッチンと風呂場があることを確認した」

「ふーんじゃあ設備が整っているんだね。 見せてもらってもいい?」

「ああ古いがな」

 家の裏に回りキッチンとシャワールームの設備を確認した。だがアオイは疑問に思ったことがあった。確かミズキは「古い」と言っていたがここにあるものは今の時代では最新式でしかもお高い代物である。これを古いということは彼女はどこかのお嬢様ということである。それならばあの淡白な性格も辻褄が合う。

 家の中に戻るとミズキは寝ていた。おそらくアオイを三日間ぶっ通しで看病してくれていたのだろう。すやすやと心地よい寝息を立てているその寝顔はどこかヨーコに似ていた。

「早く帰らないと・・・・・・」

 そっとミズキの頬に触れた時、

「行かないで・・・・・・・」

 そうミズキがつぶやいた。寝言ではあるがその言葉はアオイを引き留めているようだった。

「大丈夫、オレが帰るときは君も一緒だ」

 時計を見るともう10時を回っていた。

「俺も寝よう。 帰る方法を探すのはまた明日だ」

 アオイはミズキにタオルをかけてあげ、自分はソファで横になることにした。

 何時間か経ちアオイの目に薄く青白い光が差し込んできた。アオイは薄く目を開き時計を見たまだ五時半だった。いやいつもなら起きていた。いつもの癖で起きてしまった。ヨーコに起こされてはいるが実際のところアオイは自分で起きている。ヨーコの呼びかけとほぼ同時に起きているだけである。

 ベッドを見るとミズキの姿はなかった。アオイは家のドアを開け海に出た。まだ陽は出ていない。

 ミズキは一人砂浜に立っていた。その後ろ姿は少しさびしそうな、そんな気を帯びていた。

「どうしたんだい? こんな早くおきて」

 ミズキはそっとつぶやいた。

「来る・・・・・・」

「え? 何が来るって?」

 初めて会った時から少し不思議な雰囲気の少女だったがその瞬間、出会ったときと同じような風と漣が起こった。

「私を狙っている人達」

 刹那、地平線上から光が見えた。否、太陽ではない。その光は1から5に増えた。

「あれはリヴェイア軍のCAH(コンバット・アサルト・ヒューマノイド)!!?」

 戦闘用人型攻撃兵器CAH、リヴェイアが開発した兵器。セントラルでは他のコロニーが自衛用に開発しているとも聞いたことがある。元は工業用のロボティクス・アーマーから発展した物。アオイも操練科で実機訓練をしたことがある。リヴェイアは数年前、汎用機の開発に成功しその領地を一気に拡大させたのだ。

「だからってなんでキミが!?」

 ただの少女を軍が狙うなど考えられない。やはりどこかのお嬢様だったのか。

「くそ、逃げよう!」

 アオイはミズキの手を引き森の奥へと逃げようとする。が、逆方向に引っ張られバランスを崩した。

「ちょっと!? どこ行くのさ!」「こっち・・・・・・」

 ミズキはアオイの手を引き家の方向へと向かう。CAHはみるみる迫ってきていた。家の隣、鬱蒼と生い茂る蔦をかぎ分けた先に一つの穴があった。

「降りて」「はいぃぃ!?」

 アオイの返事を聞く間もなくミズキはアオイを突き落とし自分は梯子を滑り降りた。

「おわッ!とぉっ」

 何とか空中で姿勢を制御して足から着地した。どれくらい地下に降りたのだろうか。ざっと5、6mってところか。

「ここは・・・・・・?」

 梯子がある部分のみ光が漏れていてあとは真っ暗だった。カシャンと音がして暗黒に包まれていた空間は「白」に包まれた。光が急に入ってきたのでアオイは目をとっさに閉じた。数秒後アオイが目を開けるとそこには20メートルほどの蒼色の巨人が横たわっていた。

「!? CAH? でもなんか違うような・・・・・・」

「これは私が寝ていたモノよ」

「寝ていた? どういう・・・・・・?」

 ミズキは巨人を見上げて行った。

「私が覚醒したのはつい二週間前よ」

「覚醒? 二週間前? 何を言っている!?」

 アオイはそのワードを必死に頭の中でつなげようとしていた。やがて一つの答えにたどり着く。最新の家電が「古い」、250年前に8割が海の底へと日本、その日本に住む16歳の少女。導き出される結論は、

冷凍睡眠(コールドスリープ)・・・・・・!?」

 とあるSFモノで見たことがある。肉体を保持したまま未来に行ける一方通行のタイムマシン、成長を緩やかにし老化を防ぐマシンなど呼び方や用途は多岐にわたる。アレは長時間、重力下で冷凍保存し続けると凍った細胞が擦れて細胞が壊死する場合もある。それにこの時代の技術ではそれを作成すること自体が困難である。

 だが先ほど述べたとおり「一方通行のタイムマシン」ならば話は通る。それを作成できる時代があったのだから。

「ミズキ、君の生年月日は・・・・・・?」

 アオイは自分のその仮説を立証すべき一つの質問をミズキに問いかけた。

「私は現在16歳だと記憶していると言ったはずだ。 生まれは2040年1月1日」

「やっぱりか・・・・・・」

 これですべてつながった。彼女が今の最新鋭家電を古いと言ったことも。それにリヴェイアがこの娘を狙うわけ、それはおそらく、

失われた技術(ロスト・テクノロジー)か」

 こんな普通の女の子でも西暦時代の人間だと分かればおそらく扱いは変わるはずだ。過去の技術を出すだけ出されてその後はどうなるかわからない。だからアオイは一つの決心を決めた。

「何をすればいい?」

「え?」

 ふいにアオイに問われ少し戸惑っていた。

「君がオレをここに連れてきたのには訳があるだろ? だから何をすればいいか聞いてるんだ」

 ミズキはアオイが本気の目をしていることに気が付いた。

「・・・・・・これに乗って戦う」

 見上げるは蒼きCAH。指差すはそのコックピット。

「貴方のそれが必要なの」

 そしてアオイのポケットを指差した。アオイはそれをポケットから取り出す。砂浜で拾ったペンダント。

「これがいるのか?」

「そう、だからそれを私に渡して」

「君がこれを操縦する気か?」

 ミズキは小さな声で「そうよ」と言った。差し出されたその手は震えていた。アオイは彼女が恐怖していることに気づいていた。おそらく誰かを失うのが極端に苦手なのだろう。だからアオイではなく自分がこれを動かすと言っている。だが女の子にそんなことをさせるアオイではない。

「いや、オレが乗る。 これはオレが拾ったんだ。 それに君が戦う必要なんてない」

「でも・・・・・・!」

 アオイはミズキの肩にポンっと手を置いて、「大丈夫」と一言言ってコックピットに入った。コックピットの中はかなり広かった。ミズキがここで冷凍睡眠していたということはこのコックピットにその機能があるんだろう。

「よし・・・・・・!?」

 上からどっすっと何か落ちてきた。

「ちょ!? ミズキ!?」「私も乗る」

 そういってアオイの座るシートの脇へと掴まった。

「・・・・・・ちゃんと掴まってろよ。 ところでこいつをどうやったら動くんだ?」

「知らない。 私は名前と日常生活の仕方と生年月日以外覚えていない。 これについても起動にはそのペンダントがいるぐらいしか知らない」

 来ました。ここでいきなり衝撃事実。

「おい、じゃあどうすんだよ!」

「そこにあててみたら?」

 ミズキが指差す場所にはセンサーのようなものがあった。アオイはそこにペンダントをかざす。するとコックピットハッチが自動でしまり各コンソールにも光が灯りはじめた。そしてメインコンソールパネルの中央に文字が表示された。超高深度海洋探索用人型兵器と表示された下に小さくex-Yと表示された。

「? ex-Y? これの番号か何かか?」

「知らない。 この機体の名前すらも」

「そっか、でも名前がわからないのは不便だな・・・・・・」

 そこでアオイはこの機体に名前を付けることにした。

「ex、イーエックス、Y、ワイ? ガンマ? あ!」

 その時いい名前が思いついた。昔、古い本を読んでいるときに見つけた。それは、

「イクシロン。 ex-Y、イクシロンだ!」

「イクシロン・・・・・・」

 覚悟は決まった。操縦桿を強く握りしめる。するとさきほどまで右も左もわからなかったこのロボットの動かし方が自然と頭に入ってきた。

(なんだ・・・・・・これ・・・・・・?)

不思議な感覚だった。まるで最初からすべて知っているような、そんな感覚だ。

操縦桿を握った手をじっと見つめるアオイを不思議に感じたのかミズキがその手に触れてきた。ミズキに名前を呼ばれアオイは我に返る。

「アオイ・・・・・・?」

「ああ、大丈夫だ」

深呼吸をする。そして少女を守るために少年は叫ぶ。

「行くぞ。イクシロン!」

 それに呼応するように蒼き双眼の巨人はその双眼を煌めかせ立ち上がる―――――――。




いかがでしたか?ラストで主人公機起動は王道ですよね!!こちら五話まで出来上がっていて六話は執筆中となっています。基本的にできてる分は徐々に投稿していきます。ほかのシリーズもあるのでそちらも読んでいただけると幸いです。それではまた次の作品で!


次回予告

起動するイクシロン、覚醒した蒼き巨人の咆哮が蒼穹にこだまする。一方リヴェイア軍少尉カナト・ルベルが見る戦場とは?
次回、蒼き飛翔のイクシロン
「蒼きツバサ」


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Depth2 蒼きツバサ

僕が今見ている光景は何なんだろう・・・・・・。聞こえるのは隊長の怒号と中尉の機体から発せられる救難信号の音だけ。一瞬だった。

 

 僕が軍に入ったのは二年前のこと。父も軍人でちょうど二年前に戦死した。それにより僕が家族を養わなければならなくなった。二歳年下の妹、レイナと母親のために。軍の幼年学校にもともと入れられていた為、父が戦死した後僕は幼年学校を飛び級して士官学校に入りついこないだ首席で卒業した。

 そしてこの第11独立機械化試験班、通称「機械験」に配属された。リヴェイア軍はCAHの開発に成功したがやはりまだ戦術上では航空機や魚雷艇が有効であったためCAHの戦術理論の構築、データー採取、新機体などの開発を目的として「機械験」を設立した。現在12班ありそれぞれが各海でデーターを採集している。僕、カナト・ルベルが所属する11班は主に極東近海で活動している。そして今日、遂に僕の初陣が決まった。

 数時間前、UXENON級11番艦潜水艦「ユーリシャス」格納庫

格納庫に連立する5機の16m程の巨人。RV-03M「オーディ」の腹の中、操作するためのコックピットに僕は居た。初陣で醜態は晒したくない。くさっても首席で卒業したのだから。機体各部をチェックする。モニターには「異常なし」が表示される。メカニックの人達は優秀だ。次はメインカメラとサブカメラの調節、マニュピレータを握ったり指を一本ずつ動かしたりする。CAHにも準備体操は必要だ。

 

「おーいカナトぉ」

 

ふいに名前を呼ばれた。名前を呼んだ彼はタラップを昇りコックピットに入ってきた。

 

「お前さんは念入りだねェ。 まだ使ったことない新品なんだから不具合はねェって」

 

「でも何があるかわからないしやっておいて損は無いよ。 それより君はいいのかいリデット君?」

 

はははっと苦笑して彼はドリンクを渡した。

 

「別に俺はいいさ。 首席君が守ってくれるしな!」

 

「自分の身は自分で守れよリデットぉ・・・・・・」

 

彼、リデット・ビングは士官学校での友人でカナトと一緒に飛び級、学年二位で卒業しカナトと同じ機械験第11班に配属された。

「いやいや上官は部下を守るもんだぞカナト少尉殿?」

 

「茶化すなよ・・・・・・それに一つしか変わらないだろ?」

 

「そうか上官は部下を守るものか」

 

二人の会話に突如別の声が割って入った。

 

「た、隊長殿!? これは失礼しました!」

 

リデットの横から屈強な男が覗いていた。機械験11班の隊長、アズルフ・コーゴン大尉だ。

「よい、さて今日は君たちの初陣だ。 我々がフォローしてやるから安心するがよい」

 

二人の肩をガシっと掴んでいった。

 

「隊長俺らもですかい?」

 

「勘弁してくださいよガキのお守なんて」

 

タラップの下から若い男の声と女の声がした。

 

「まあそういうなレビン、アイズ。 お前らの方が先輩なのだからちゃんと面倒を見てやれ」

 

レビン・スターライズ特務中尉とアイズ・スルーズ中尉、この機械験11班の副隊長と隊員。階級が上のレビンが副隊長かと思いきや人間性の問題でアイズが副隊長である。

 

「へいへいじゃあアイズお姉さまよろしく」

 

「おいレビン、お前ボコボコにしてやろうか?」

 

ひぃーっとレビンの悲鳴が聞こえたところでブーブーと内線が鳴った。

 

「はい、格納庫。 コーゴンだ」

 

「む? 大尉か? 私だ」

 

声の主はこのユーリシャスの艦長、アズエル・サブナック艦長だった。

 

「そろそろ作戦時間だ大尉。 出撃準備願いたい」

 

「ハッ! 了解であります」

 

受話器を元に戻しコーゴンはカナトのオーディ―の前に戻り召集を掛けた。

 

「さて諸君出撃である。 総員準備に掛かれ! 10分後に出撃するぞ」

 

「「「「サーイエッサー」」」」

 

全員が足をピシッと揃え敬礼する。そして素早く解散し各々が準備に入った。カナトはまずパイロットスーツに着替えるためロッカーへ向かった。先にリデットが到着していた。その顔にはやはり落ち着きがなかった。

 

「とうとう初陣だな・・・・・・。 緊張するぜぇ~」

 

「僕には緊張しているようにはみえないけどね。 緊張するのはわかるけど極東地域にはまだCAHを所有しているコロニーは少ないしリヴェイアと敵対しているところは無いから戦闘は無いよ」

 

ロッカーを開けジャケットを脱ぎブーツをロッカーに入れてパイロットスーツを取り出す。脚から入れて全身にぴったりとフィットするサイズ。真ん中のジッパーを首まで上げてブーツを履きヘルメットを手にしロッカーから出ようとした。

 

「ちょっと待ってくれカナト・・・・・・。 これ止まらないんだ・・・・・・」

 

かなり緊張しているのだろう。パイロットスーツの首元を固定するアクセサリーをカチカチとしてなかなか止められないリデット。カナトは仕方なくそれをカチッと止めてあげる。

「まったく本当に緊張しすぎだよ」

 

「首席のお前とは違うんだよ」

 

そして二人は格納庫へと向かった。そこにはすでに他の三人が集まっていた。

 

「すみません遅れました」

 

「うむ問題ない」

 

コーゴンは全員を見渡して言った。

 

「さて全員そろったな。 では作戦概要を説明するぞ。 我々の目的は極東地域のデーター採取とCAHの運用データー収集だ。 作戦時間は約二時間、作戦行動中はフォーメーションを崩さぬよう心掛けろ。 では出撃する。 各員登場せよ!」

 

「了解!!」

 

コーゴンの掛け声とともに全員がCAHに乗り込む。カナトはまずコックピットハッチを閉める。そして各計器が正常なことを確認し体を固定するシートベルトを締め、ヘルメットをかぶる。コックピットはしっかりしまってないと水が入ってくる。潜水艦はCAHを発進させるため一時的に浮上する。正面のハッチが空きCAHは体の半分ほどが水に浸かった状態で射出される。

 

「よしA・コーゴン、オーディ出るぞ」

 

バシュっと風を切るような音がして隊長機が発進していった。続いてレビン機とアイズ機が発進した。

 

「ええっと・・・・・・リデット・ビング准尉、出撃しますっ!!」

 

リデットが出撃し、残るはカナトのみとなった。深く深呼吸し、

 

「カナト・ルベル少尉、オーディ行きます!!」

 

機体の両サイドをレールに固定されたオーディは勢いよく射出された。その勢いでカナトはシートに押し付けられる。学校で対G訓練はこなしていたがやはり本物は違う。目を開けるとそこには一面、蒼が広がっていた。軍に入ってよかったと思ったことはコロニーの外の世界が見れるというところもあった。だがすぐに我に返り機体のホバースイッチをオンにする。軽くペダルを踏み脚のバーニアを使い減速し水面に着地した。

 

「ふぅ・・・・・・危ない危ない」

 

『よしお前らまずは百点だ。 ちゃんとついてこいよ!』

 

「は、はい!」

 

作戦通りカナトはオーディにマルチランチャーを構えさせマガジンを切り替え発射する。デコイは海面に着水し沈んでいく。デコイのセンサーをオンにしデーターを録りはじめる。

 

『こちらレビン、スキャン開始しました』

 

『こちらアイズ、スキャン開始』

 

『えっと・・・・・・リデット、スキャンはじめました』

 

「こちらカナト、スキャン開始しました」

 

『うむ、各員移動開始するぞ』

 

報告が終わると前を行く隊長機が前進を始める。カナトもペダルを緩く踏み込みついていく。水上をスケートして5機のCAHは海上を進む。10分ほどしてアイズが『あれ?』と声を漏らした。

 

『どうした中尉?』

 

『いえ、西の方角に生体反応が出て・・・・・・』

 

西といえば旧日本の方向。今は誰もいないはずだ。

 

『おいおいアイズ、動物とかじゃねぇのかよ?』

 

『違うわよ、これは明らかに人間の反応よ! 男と女が一人ずつ。 隊長どうします?』

 

コーゴンは一分ほど考えて、

 

『うむ中尉、保護してこい。 もしかしたら漂流したのかもしれん』

 

『了解』

 

アイズは一人隊列を離れ西へ向かった。その後少し間をおいてコーゴンが、

 

『・・・・・・我々も追うぞ。 もしかしたら敵対勢力がいるかもしれん』

 

「了解です」

 

アイズの後を追い残りの4人も西へと向かった。この時まだカナトはわかっていなかった。この後に起きる「運命」に。

********************************************

旧日本海域、現在横須賀市の上を通過したところ。生体反応はまだ先だった。

 

『あ、陽が出てきましたね』

 

リデットの声がインカムから聞こえた。時刻は5時に差し掛かっていた。すでに東の方は明るい。

 

「こらリデット気を抜いちゃだめだよ」

 

『へいへい』

 

三十分ほどして生体反応が出た近海へとやってきた。

 

『こちらアイズ、二名確認。 これより保護に向かいます』

 

『了解』

 

アイズ機が先行していく。このまま何も起こらないと思っていた。だがアイズの一言で状況は一変する。

『ッ!? この子達逃げて!? くそ、追いかけます!』

 

「逃げた? 怖がってるのか?」

 

アイズ機は森の奥へと行く。そして、

 

『っきゃぁぁぁぁぁぁ!?』

 

アイズの悲鳴と共に轟音が鳴った。

 

「何!?」

 

『アイズ!? 応答しろ!』

 

アイズ機からは救難信号が発せられていた。

 

『た、隊長レーダーに反応・・・・・・未確認機体(アンノウン)です!!』

 

『なんんだと!? く、各機アイズの救出を最優先だ!』

 

『了解!!』

 

こうして僕の初陣は波乱に満ちたものとなる。

********************************************

「行くぞみんなのところへ帰るため、この子を守るために、イクシロン!!」

 

立ち上がった巨人はアオイの想いに応え目の前の障害を破壊した。真正面にはリヴェイアのCAH。

 

「武器、フィッシャーダガー? これか!」

 

モニターに表示された武器をタッチすると自動で左肩の付け根にマウントされた小型のナイフを展開、右手に装備した。

 

「どけぇぇぇ!」

 

脚と肩のスラスターを吹かしCAHの肩関節に刺した。スラスターの慣性をそのまま威力に変えたダガーはCAHの右腕を軽く破壊した。不利だと分かったのかCAHは退却しようと上昇する。がアオイはそれを逃がさない。

 

「まだだ!」

 

右肩の付け根に装備されているもう一つのフィッシャーダガーを展開、逆手持ちにして二刀流でその両足を叩き斬った。その時機体のどこかがCAHに触れたらしく接触回線が聞こえた。

 

『っきゃぁぁぁぁぁぁ!?』

 

「女!?」

 

アオイはそれ以上追撃しなかった。そのまま敵機は落下していき轟音とともに地面にたたきつけられた。砂浜に降り立つと数百m先にCAHが4機確認できた。

 

「やってやる・・・・・・」

 

それは確かにミズキを守ると誓った自分に対しての暗示であった。

********************************************

「隊長、あれ・・・・・・」

 

『ああ、よしレビンとリデット、先行しろ! 俺とカナトは後方援護だ』

 

『了解!』『りょ、了解』

 

二機のCAHが方にマウントしてあったマシンガンを装備して牽制しながら接近していく。

 

『くっやはり抵抗があって当然か』

 

「え?」

 

今隊長が言ったことに違和感を覚えたがそんな考えは戦場ではすぐに消え去った。

 

『カナト行くぞ!』

 

「は、はい!」

 

コーゴンの怒号にカナトは咄嗟に反応する。カナトはオーディにマルチランチャーを肩にマウントしマシンガンを持たせた。

 

『くそ、こいつ早い!』

 

リヴェイアの最新機であるはずのオーディが水上戦で翻弄されていた。アンノウンは機動力が高く空は飛べないものの、ジャンプなどを組み込んだ軌道によってレビンたちの攻撃を軽々よけていた。

 

「ぐっ避けろ!!」

 

アオイの声にイクシロンは反応する。今、イクシロンはアオイの体の延長線上にある。考えたことがダイレクトに伝わりそれこそ自分の体を動かしているような感覚だ。

 

「アオイ、右」

 

「わかってる!」

 

右からマシンガンを連射しながら迫ってくる。動きの感じからまだ戦闘に慣れていないようだった。それはアオイも同じだが生憎、こちらは反応速度が違った。すぐさま上に跳躍。そして後ろに回り込み着地する。

 

「はやく退いてくれ!」

 

アオイは人殺しだけはしたくない、そのため今はできる限り翻弄して相手が退くのを待っていた。がコーゴン達は退く気などなくむしろ作戦で動こうとしていた。

 

『よしアイツを消耗させるぞ。 レビン、アイツを空中に逃がせるか?』

 

『え? ええまあ』

 

『空中に浮いたら俺とカナト、リデットで撃ち落とす。 いくら機動力が高くとも空を飛べるわけではあるまい。 やるぞ』

 

『了解!』

 

同時にレビンが腰からプラズマダガーを取り出し接近戦に持ち込んだ。

 

「こいつ!」

 

アオイはやはり跳躍した。それを見たコーゴンは、

 

『よし、全員一斉射!』

 

コーゴンの合図とともに三機のCAHがマシンガンを連射する。絶え間ない銃声と弾丸がアオイを襲う。

 

「うわ!? 避ける!」

 

前後左右、上下に逃げるが敵の弾幕はやまない。そしていくらイクシロンと言えども限界が来た。そう、機体内部の余剰熱によるオーバーヒートである。

 

「しまった!?」

 

無論、分かってはいたが回避と両立するという思考が追いつかなかった。空に浮く力を失ったイクシロンは只々海に落ちていく。

 

『よし、今だリデット仕留めろ!』

 

『は、はい!』

 

いくら新兵であろうともただ落ちてくる敵を仕留めるのはたやすいこと。そう思い一番近いリデットに指示を出した。リデット機はプラズマダガーを取り出し急速上昇、真正面から向かっていった。

『うおおおおおおおお!!』

 

(ダメなのか・・・・・・)そう一瞬思ってしまった。だがまだやらねばいけないこと、帰らなければいけないあのコロニーに。そして何より今はミズキを守らねば。自分を奮い立たせるようにアオイは叫ぶ。

 

「イクシロンお前の力を貸せぇぇぇぇぇ!!」

 

想いは通じる。アオイの声に反応しイクシロンの双眼は蒼く煌めく。モニターには「D.C SYSTEM」の文字が浮かぶ。それと同時にバックパックの双翼が息を吹き返した。さらにそこから蒼い粒子を煌めかせながら機体の各部が蒼い光を出し輝き始める。

 

『なんだあれは!?』

 

コーゴンの困惑の声すら今のカナトには届かなかった。完全に見惚れてしまっていた。それはあまりにも綺麗で。

 

「蒼きツバサ・・・・・・」

 

それはまるで蒼き双翼を纏っているようだった。そしてレビンが困惑の声を上げる。

 

『隊長! これ見てください・・・・・・』

 

『これは!?』

 

カナトにもデーターが送られてきた。そこには周辺の空気の成分が細かく示されていた。

 

『あの機体が翼を生やしてから空気中の水分がなくなってます!』

 

「そんなことって・・・・・・!!」

 

『もらったぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁ!』

 

「ダメだリデット!!」

 

「まだ終われないんだぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

アオイの叫びと共にイクシロンの右腕がリデットのオーディの頭部をがっしり掴み放つ。

 

「ボルトファングッ!!」

 

イクシロンの腕から超高速の超電磁パイルバンカーが射出されオーディの頭部を破砕した。そしてゆっくりと引き抜くとオーディは海にまっさかさまに落ちて行った。

 

「リデット!!??」

 

『レビン、撤退する。 お前はリデットを回収。 カナトは俺と一緒にアイズを回収する。 閃光弾で攪乱しろ!』

 

『了解』

 

レビンは腰から閃光弾を取り出し投げつけた。一秒後、起爆したそれはまばゆい光を出しながら海へと沈んでいった。その間にレビンはリデットをキャッチ、カナトとコーゴンは動けなくなったアイズ機を両脇で抱えて撤退した。

 

「う・・・・・・退いてくれたのか?」

 

ゆっくりと目を開けるとそこには波の音しかしない静かな海だけだった。アオイはここになって初めて自分の手が震えていたことを自覚した。そしてとなりにいた少女はいつの間にか気絶していて静かな寝息を立てていた。

神薙アオイはひとまずミズキを守ることに成功した。

********************************************

戦闘が終わった後の島は荒れ果てていた。木々は倒れ燃えていた。ミズキの小屋も少し損傷していた。

 

「君も来るだろ? こんなところで一人じゃあれだし」

 

「・・・・・・そうだな」

 

ミズキは大きな鞄を取り出して支度を始めた。アオイは小屋の中を見渡す。するとミズキの机に写真が置いてあるのに気付いた。真ん中に居るのはミズキだろうか。おそらく父と思われる人物と母親、そして姉と一緒に映っている。250年前のものだろうが色あせていなかった。

 

「これ君の家族?」

 

「多分・・・・・・な」

 

そしてそれをアオイから奪い鞄の中に入れた。

 

「私は準備できたぞ。 お前はどうする?」

 

「ん? ああオレはちょっとガレージ見てくるよ。 先に行っててくれ」

 

アオイはそう言いガレージへと向かった。

つい先ほどまでここにイクシロンが居た。そして250年の時を経てアオイが起動させた。ここに来た理由はまずイクシロンに関するものが無いか調べるため。そしてミズキのことが何かしらないかを調べるため。本棚らしきものはあったが書物などは一切なかった。だが一つだけ少し錆びたジュラルミンケースを見つけた。

鍵は開かなかった。仕方なくアオイはそれをもってミズキの元へ向かった。

 

「なにかあったか?」

 

「これだけ。 さあいこうか」

 

二人はコックピットに乗り込んだ。荷物を積んでも中はまだ広かった。先ほどと同じ手順でイクシロンを起動させる。

 

「ところでどうやってお前のコロニーまで行くつもりだ?」

 

「泳ぐんだよ。 こいつは超高深度海洋探索型人型兵器なんだろ? 泳ぐのは十八番だろ」

 

そして海に入っていった。各スラスターがフィンモードに切り替わり海の中をすいすいと進んでいった。

********************************************

 

お兄がいなくなって四日。いまだ何の続報もないまま学校に行ってお風呂に入り寝てまた学校に行くという日常を繰り返している。

つい三日前にレン兄とお兄と一緒に見た夕焼けを一人で見ている。ミハ姉も元気そうに振舞ってはいたけど心の中じゃ泣いてるんだろう。

 

「お兄早く帰ってきてよ・・・・・・」

 

「呼んだか?」

 

ふと後ろから懐かしい声がした。バッと振り向くとそこには自分の兄が居た。一瞬夢かと思った。幻影かとも思ったがあれは紛れもなく自分の兄だ。

 

「お兄ぃぃ!」

 

そう確信した時にはもうアオイに抱き着いていた。涙なんてお構いなしに。

 

「もう馬鹿じゃないの! 今までどこほっつき歩いてたのさ!」

 

「あー・・・・・・その悪かったな」

 

バカバカと繰り返していて気づく。兄の後ろにいる女の子はだれだと。

 

「えーとぉ・・・・・・お兄? 行方不明の間に何があったのかしら?」

 

「あーそれはだな・・・・・・あとで話すからとりあえずこいつ連れて家に帰っててくれ。 オレおやっさんのとこ寄っていくから!」

 

「え!? ちょっと!」

 

兄はそそくさと行ってしまった。そして砂浜には見知らぬ美少女と二人きりで残されてしまった。

*******************************************

 

「お前いなくなったと思ったらなんか厄介ごと抱えてきやがったな?」

 

「あー分かります?」

 

「あたりめぇだ。 こんなもん預かってって言うんだからな」

 

さきほど海中からクレーンで引っ張り上げて現在は工房の倉庫に入れてあるイクシロンを見上げてコースケはあきれ顔で言った。

 

「こいつはCAHか? でもなんか違う見てぇだな」

 

「うんとりあえず今はこいつが超高深度海洋探索型人型兵器ってことぐらいしかわかってない」

 

「そうか・・・・・・」

 

そこへずかずかと歩み寄ってくる少女がいた。

 

「この馬鹿ヤロウ!」

 

「いってぇぇぇぇぇぇ!?」

 

アオイは頭をおもいっきり殴られた。振り返るとそこにはミハネが居た。

 

「もうどこ行ってたのさ!」

 

「あー悪ぃ・・・・・・ちょっとね」

 

するとミハネは持っていたスパナを降して言った。

 

「本当に心配したんだから・・・・・・」

 

「・・・・・・ゴメン」

 

アオイはただ謝るしかなかった。そして思い出したようにコースケにジュラルミンケースを渡す。

 

「これ鍵が錆びてて開かないんだ。 無理矢理でもいいからあけておいて」

 

「? ああ。 っておまえどこ行くんだ?」

 

「アズマさんとこ。 ちょっと事情説明してこねぇと」

 

「なら俺も行こうかな」

 

上の方から声がした。見上げるとそこにはよく知る少年がいた。

 

「レン? お前どうして」

 

「ああヨーコに聞いた。 親父に会うんならお供するぜ」

 

「ならアタシも行く。 なにがあったか把握したい」

 

はあっとアオイは嘆息して

 

「わかったよ。 行こうぜ」

 

そして三人は工房を出て役所へと向かった。

********************************************

 

「って訳です。 すいません厄介ごと持ちこんじゃって」

 

役所の最上階、組合長室にアオイ達は居た。本来なら予約などの手続きをしていないとダメなのだが事態は急を要したのでレンに言って急遽、面会の時間をもらった。

 

「ふむ、西暦の少女か。 それでアオイ君の顔はバレてるのかね?」

 

「多分バレてます。 リヴェイアなら他のコロニーのサーバーに侵入することなんて造作もないことでしょうから。 全部のコロニーの管理サーバーにアクセスして俺を見つけ出すなんてすぐですよ。 しかも奴らこの近海にいますからすぐ来るかもしれません」

 

「そうか・・・・・・それは困ったな。 だが君の頼みだ。 協力しよう」

 

そしてアズマは腕を組み言った。

 

「そういうわけでこういう方法はどうかな?」

 

********************************************

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

神薙邸。現在とてつもなく気まずい状況であります。とりあえず帰ってお茶は淹れたがそれからは特に会話すらない。

 

(お口に合わなかったかな・・・・・・? なんか育ちがよさそうだもんなぁ・・・・・・)

 

ヨーコがミズキをまじまじと見ていると、

 

「おいしい・・・・・・」

 

「ふぇ?」

 

今美味しいと言ったか?言ったよな? なぜか途端にテンションが上がって今まで聞きたかったけど聞けないことを切り出した。

 

「あなた名前と歳は!?」

 

「え? えぇっと名前は東雲ミズキ・・・・・・。歳は16・・・・・・」

 

突然しゃべりだしたヨーコに戸惑いながらミズキは答えた。

(あ、年上かぁ~・・・・・・)

そしてヨーコは一番聞きたかったことを聞いた。

 

「ミズキさんはお兄と・・・・・・そのどうゆう関係なの・・・・・・?」

 

「お兄・・・・・・ああアオイのことか。 ただたまたま私の家に流れ着いただけだが?」

 

(流れ着いた・・・・・・?)

とにかく頭の中が無茶苦茶になっているヨーコはあることに気付いた。外が何やら騒がしいのだ。ドアを開けて外を見る。するとちょうど目の前を森宮ツバキが通った。

 

「あ、ツバキ姉、どうしたの?」

 

「あ、ヨーちゃん。 よくわからないけどこれから見に行ってみるところなの」

 

「そっか。 私も行く。 ちょっと待ってて」

 

一度家の中に戻り髪型を確認して外に出ようとした。すると、

 

「私も行く」

 

「え!? あ、うん」

 

ミズキもつれて外に出る。家の中からもう一人少女が出てきたことにツバキは驚いていた。

 

「あの・・・・・・誰?」

 

「あーなんかお兄が遭難した先であった人」

 

ふーんと頷くもそこでツバキは気付く。

 

「え!? アオイさん生きてたの!?」

 

「あれ知らなかったの?」

 

アオイのことを説明しながらヨーコたちはコロニーの外が見える場所まで行く。そこにはたくさんの人だかりができていた。

********************************************

 

「そういう訳か。 なら協力してやるよ」

 

イクシロンのコックピットから手を振りながらコースケは言った。

 

「ありがとう、おやっさん」

 

アオイもイクシロンの足を調べながら言った。現在イクシロンは片膝立ち状態でガレージに収容されていた。今二人でこの機体の手掛かりがないが調べているが今のところ何の手がかりもない。そこへミハネが息を切らし走ってきた。

 

「アオイ大変!」

 

「は?」

 

ミハネに連れられてやってきたのは外が見渡せる場所。すでにたくさんの人がいた。

 

「ほらあれって!」

 

「! こないだのCAH!? もう嗅ぎ付けて・・・・・・」

 

一機減ってはいたが紛れもなく旧日本でアオイ達を襲った部隊だった。そしてスピーカーにして何かをしゃべりだした。男の声だった。

 

『コロニー組合長はいるか?』

 

そう繰り返していた。それを10分ほど繰り返したところでアズマが来た。

 

「私がこのコロニーの組合長の楠アズマだ。 なにか用か?」

 

CAHのカメラアイがレンズを絞るように動く。

『このコロニーに神薙アオイという少年が居るはずだ。速やかにこちらに引き渡して頂きたい』

 

「・・・・・・アオイなら四日前に死んだよ。 まだ若かったのに。 それに仮にこの場にいたとしても貴公らのような連中に渡すわけにいかん」

 

数秒の沈黙の後コーゴンは再び口を開いた。

 

『いや、我々は数時間前、神薙アオイを旧日本地区にて確認した。 それに我々は彼と一戦交えた。蒼いCAHと蒼い髪の少女も一緒だったはずだ』

 

「二度も言わせるなアオイは死んだんだ。 これ以上干渉するならばこちらもそれ相応の手段をとるぞ?」

 

『あくまでシラをきるつもりか。 ならばいいだろう。 我々も実力行使しかないようだ』

 

コーゴンは声に力を込めて言った。そして、四機のCAHはそれぞれ手持ちの銃器を構えコーゴンは言った。

 

『あと10分待とう。 それまでに神薙アオイと蒼い髪の少女、そして蒼いCAHをこちらに引き渡せ。 さもなくばこのコロニーを破壊する。 賢明な判断を求む』

 

何故この人たちはアオイの存在を隠すのだろうか?今、兄は生きている、生きて戻ってきたというのに。ヨーコの頭には疑問しか浮かばない。それを掃うため兄に直接聞こうとしたが隣を振り向いたときすでに兄の姿はなく、それどころかミズキまで消えていた。

 

「ちょ!? お兄!?」

 

アオイはすでにコースケの工房にいた。

 

「なぁこれ本当に使えるのかよ?」

 

「規格はあってる。 三年前の骨董品だが問題は無いはずだ」

 

アオイはコックピットに座り正面のモニターを見ていた。イクシロンの右手、そこにはイクシロンの半分ほどの長さの巨大な重火器が握られていた。対CAH用レールガン、三年前リヴェイアが進行をはじめ、各コロニーでは既存のロボティクス・アーマーを武装化しようという案が出た。が、実際この辺境のコロニーには来ないだろうということになりコースケが保管していたのだった。

 

「だが気をつけろよ弾は限られてるからな。 それとお前に頼まれてたやつ、解除できたぞ。 終わったら見せてやる」

 

「ああ、了解。 イクシロン出すぞ!」

 

それと同時にミハネがコロニー外壁の扉を開けた。敵のCAHがいる方向とは逆の位置だ。ミハネは続けてクレーンの昇降用レバーを下におろす。するとイクシロンをぶら下げているクレーンがコロニーの外へと出てイクシロンは宙吊りになった。

アオイはコックピットハッチを閉めた。

 

「じゃあおやっさんあとはよろしく!」

 

「ああ、わかってる」

 

そしてイクシロンは水しぶきを上げ水中へと姿を消した。

********************************************

『さて、十分たった。 答えを聞こうか』

 

「もうわかっているのだろう? もちろんNOだ」

 

コーゴンは「はあ」とため息をついた。そして冷たく言い放つ。

 

『了解した。 では手加減はしない。 全機聞こえていたな? 砲撃準備用意』

 

カナトはトリガーに指を掛ける。そして言い聞かせる。「これは正しい」と

 

「大義のため、平和のために・・・・・・ゴメン!」

 

そしてマシンガンが火を噴いた。が、あたったのはコロニーではなく蒼穹の空だった。確かにコロニーをとらえていたはずの銃口が空をむいていた。

 

「なっ!?」

 

モニターに映ったのは旧日本海域で遭遇したあのCAH。その手がカナトのオーディの右手をがっしりと掴んでいた。

 

『くっ・・・・・・やはり隠れていたか蒼いの!!』

 

『そうか・・・・・・コロニーを守るためか。 だが君はわかっていないぞ? 今自分がどういう状況下にいるか』

 

コーゴン達の銃口はコロニーに向かっていた。それを見た蒼いCAHは一瞬沈黙したがすぐに動く。

 

『なっ!?』

 

カナトが驚愕する。その蒼いCAHは守るべきコロニーに銃口を向けたのだ。

 

(頼むぞおやっさん)

 

アオイは心の中で祈りつつ引き金を引いた。

ドシュッ

甲高い音と共に雷光を発しながら弾丸はコロニーに当たった。カナト達にはそう見えた。だが実際は防波用シールドを応用してアオイがそれを狙って当てただけである。

 

『こいつ! 自分のコロニーを・・・・・・』

 

『カナト応戦しろ!』

 

カナトは全身のバーニアを吹かし振り払おうとするががっしりと組みつかれていて離さない。その時ふいに通信が入った。

 

『そっかお前カナトっていうのか・・・・・・』

 

「何!? お前は!?」

 

その声には聞き覚えがあった。コロニーのデーターベースで見た神薙アオイの声。

 

『さて続きはもう少し離れてしようか!』

 

「ぐっ!! おまえええええ!」

 

イクシロンはバックパックのスラスターを吹かしカナトのオーディ―ごと沖に出た。

 

「貴様、僕たちを騙したのか!」

 

『コロニーのみんなには迷惑を掛けたくなかったんでね。 ああいうことにしてもらったのさ!』

 

「くっみんなグルってことか・・・・・・」

 

ギリっと奥歯をかみしめ感情のまま機体を操作した。

 

「卑怯な! お前らはそんな非道なことをするのか!!」

 

『非道なのはどっちだ! 他のコロニーを侵略して、たくさんの人を殺してるお前らが!』

 

「平和のためだ! それをわからないお前ら等に!!」

 

『犠牲の上に成り立つ平和なんて!!』

 

アオイは照準を合わせレールガンを発射する。それはカナトのオーディの足元を掠め、水しぶきを立てる。カナトはマシンガンを構えさせイクシロンめがけて発射する。イクシロンは空中から水面に着地する。そこへ弾丸の雨が降り注ぐ。

 

「うわ!! っまだだ!」

 

アオイの声に呼応したのかイクシロン両手を前にかざした。すると光の障壁が現れ弾丸を防いだ。

 

『なんだあれは!?』

 

「ホログラフィックシールド?」

 

学校の授業で習った気がする。西暦時代の遺産、まだ残っていた一部の資料から判明した技術。だが現代の技術では再現できなかった。それが再現できるこの機体はやはり西暦時代のCAHということなのだろう。

 

「すごい・・・・・・傷一つない」

 

『くそ、こいつ!!』

 

攻撃を防がれたカナトはムキになってマシンガンを乱射する。気づけば弾数を示すゲージはゼロになっていた。マシンガンをすてプラズマナイフを取り出し切りかかる。

 

「お前、いい加減に!!」

 

『まだ引き下がれない!!』

 

二人の少年の叫びは蒼き蒼穹へとこまだした。

 

 




あとがきって何かいたらいいかわかんないよね。ども、ころろです。第2話、もう一人の主人公カナト・ルベルの登場です。なろうで掲載していたものに現在の設定とは矛盾だったりキャラの性格が現在と違ったりしたので加筆修正してあります。これは一話もかな。第一部が終わるころにはキャラ設定画とかメカとか出したいと思います。それではまた次回であおいしましょう。

次回予告

再びイクシロンにのりカナト達と戦うアオイ。その手に残る殺意の恐怖。そして決意を固めたアオイたちにアズマが託したものとは。
次回、蒼き飛翔のイクシロン
「始まりの箱舟」


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Depth3 始まりの箱舟

『隊長、カナトが蒼い奴と交戦を始めました』

 

「よしカナトを援護する。行くぞ」

 

『了解!』

 

コーゴン達は沖へ向かった。

 

 

 

「この・・・・・・墜ちろよ!!」

 

アオイは操縦桿を左右に倒す。前回の戦いでこの機体での空中戦は自由ではないと知った。だから今回は水上で正面から戦うことにした。

 

レールガンの残弾はそう多くない。

 

「接近できれば・・・・・・」

 

あちらはマシンガン、弾数だけでいえば向こうの方が有利。恐らく旧世紀の遺産であるこの機体がどれだけ向こうの機体のスペックを上回っているかが鍵なのだが、むしろ劣っていれば勝ち目はない。が、前の戦闘で見せたあのシステム「D.Cシステム」が発動すれば勝ちは見えてくる。

 

「なら、やってみるさ!」

 

ペダルを踏み込む。背部のスラスターが勢いよく吹く。Gがアオイをシートに締め付ける。

 

「ぐっ・・・・・・」

 

敵との距離は約500m。レールガン自体の射程は500mはあるがその特性上、確実な距離で撃たないと威力が減衰してしまう。確実にダメージを与えるならばあと200mは近づかなければいけない。

 

(やるなら一瞬で間合いを・・・)

 

そしてアオイがとった行動は

 

「これでぇぇぇ!」

 

 

 

「なっ!?」

 

カナトの目の前で巨大な水しぶきが上がる。

 

「まずい、見失った!?」

 

そして、その瞬間鈍い音と共にコックピットを衝撃が襲う。

 

オーディの装甲に使われている超硬化カーボンが蒼い機体との接触で軋んでいるのがわかる。

 

「くそ・・・・・・水しぶきを!」

 

『くっ意外とやる!』

 

接触回線で相手のパイロットの声が聞こえた。カナトはそのパイロットの名を叫んだ。

 

「カンナギアオイ!!」

 

『カナト熱くなるな!』

 

接触回線とは別の通信回線が開いた。コーゴンだった。

 

『あと90秒でそちらに到達する。それまで持たせろ』

 

「・・・・・・了解です!」

 

今、カナトのオーディと蒼い機体は互いに肩をつかみ合っていた。

 

カナトはペダルを踏んで上昇する。無理やり抜け出そうとしたが蒼い機体の出力には勝てなかった。

 

 

 

「行かせないからな!」

 

近接戦闘に持ち込めばこちらの有利。アオイは両肩のフィッシャーダガーを引き抜く。

 

あちらのオーディも近接武器のプラズマダガーを抜いた。

 

互いにホバーで水上を駆ける。時に交わり切り結ぶ。

 

フィッシャーダガーには何か特別なコーティングがしてあるのかプラズマダガーに切断されずむしろ押していた。

 

オーディはマシンガンを撃ちつつ牽制してくる。

 

やがてアオイは敵の動きに違和感を覚える。

 

「このかんじ・・・時間稼ぎか!?・・・・・・そうかまだ3機居た。増援が来たら余計不利になる。なら今ここでこいつを戦闘不能にするしかないな!」

 

全身のスラスターを最大まで吹かし肉薄する。

 

 

 

「こいつ、僕の動きに気づいたのか!?」

 

蒼い機体は今全速力で正面から突撃してくる。

 

マシンガンで牽制するがこの距離だと威力が減衰して敵のシールドにすべて弾かれてしまう。

 

「なら逃げる!」

 

だがカナトはその判断が自分の立場を危うくするのにすぐ気づく。

 

(しまった!軸があった!?)

 

そう思い方向転換しようとした瞬間、衝撃が襲い右腕が爆ぜた。

 

「くそ・・・・・・やっぱり」

 

この距離のレールガンの威力は絶大で「超電磁砲」の名に恥じない威力を誇った。右腕は跡形も無く消え去り持っていたマシンガンも消失したため今のカナトのオーディに残された武装は左手のプラズマダガーと背中のマルチランチャーだけであった。

 

ランチャーの弾を二つ魚雷に切り替える。残りの二つは通常のミサイル。

 

射線を合わせトリガーを引く。二種類の弾を同時に発車する。水中と上空、上と下を抑えられた蒼い機体は前後左右しか動けない。三次元的な動きを封じてしまうほど簡単な方法はない。

 

「これなら回避も遅れるはず・・・・・・!」

 

そこを急接近してトドメをさす。

 

そして蒼い機体はカナトの思惑通りに動いた。

 

「いまだっ!!」

 

だが蒼い機体まであと数mの所でカナトの指はトリガーから離れた。

 

(今、僕は人を殺そうとした・・・・・・?しかもまだ僕と同じ位の歳の子を・・・・・・)

 

カナトは家族を養うために軍人になった。けして人を殺すためではない。あくまで養うために首席で卒業もした。学校で戦場では一瞬の迷いが命取りと教えられた。が、今のカナトはそれを完全に忘れていた。その刹那にアオイはイクシロンを跳躍させた。

 

(貰った・・・・・・!)

 

狙うはオーディの頭頂部。串焼きに串を通す要領で倒そうとしたがアオイも気づく。

 

(俺は・・・・・・人を殺めようとした・・・・・・?)

 

その迷いは照準にブレを生じさせオーディのコックピットを掠め機体の左肩から下を抉った。

 

『カナト!』

 

そこへコーゴン達が駆けつける。

 

「隊長・・・・・・」

 

『今は1度退くぞ。ここにターゲットが居ることは分かった。母艦に帰投して作戦を練るぞ』

 

「はい・・・・・・」

 

この人は他人を殺める覚悟があるんだなとカナトは思いつつ返事をした。蒼い機体は追撃してこなかった。あちらも迷ったということだろうか。あの時、もし神薙アオイが迷っていなければ自分は間違いなく死んでいた。そう思った瞬間急に恐怖が襲ってきた。リデットは初陣の時とても緊張していた。それはこういう事だったのか。人を殺す覚悟、それが無ければ家族を養うどころか自分が死ぬ。戦場の常識は少年を恐怖へ誘った。

 

 

 

「で、おやっさん例のものは?」

 

「ああ、これな」

 

強引にロックを解除されたケースの中には多数の書類が入っていた。恐らくイクシロンの資料だと思われた。

 

あれからアオイは自分の力でコロニーまで戻り数分前にこうして落ち着きを取り戻した。

 

死という現実はアオイを震え上がらせた。先程からアオイの手はゆうことを聞かない。ずっと震えている。

 

震える手で書類を1枚1枚確認する。

 

「おい無理するなよ。もう少し休んでもいいんだぞ」

 

「そんなことしてられない。ミズキのために見なくちゃ行けない気がするんだ」

 

手にした資料、表紙にはこう記されていた。

 

「第57回超高深度海洋探索概要?」

 

入っていたケースにはこれと同じような者が57冊あった。

 

「つまり57回でこの調査が終わったってことだ」

 

レンが資料を数えて言った。

 

「いや違うな。これだけ概要だ。他のやつは概要じゃなくて報告書だった。つまり57回目は実行せずに中止された」

 

概要の日付はA.D2055 12/25となっていた。

 

「西暦2055年のクリスマス・・・・・・」

 

「その年って西暦が終わった年よね?」

 

ミハネが口を開く。

 

「正確には2056年1月1日が西暦が終わった日。この資料はその一週間前に作られたものだな」

 

「西暦が終わる一週間前・・・・・・」

 

その日その時代の人たちは何を思っていたのだろうか。来年のクリスマスか友人、恋人との約束や家族との外出や学校など色々考えていたのだろう。そんな時は来なくなると知らずに。

 

概要を読み進めていくと一つの項目が目に止まった。

 

「超高深度探索用機動兵器?ex-Y 03・・・・・・これイクシロンの事か?」

 

「多分な。そしてパイロットは・・・・・・」

 

大方予想はしていた。だがいざ目にすると嫌になる。

 

「やっぱりミズキか・・・・・・」

 

パイロット 東雲ミズキと確かに記されていた。

 

「じゃあ名前は覚えてるってことは間違いじゃないな」

 

「疑ってたの?」

 

「いや、もしかしたら自分の名前じゃなく他人の名前を覚えていたのかもしれないって思ってただけさ」

 

レンらしい見解だ。確かにそうだ。名前とイクシロンの起動方法のみしか覚えていない。

 

「えーと規格は・・・・・・おやっさんこの規格まだ存在してる?」

 

「ああ、あるぞ」

 

先程装備していたレールガンもそうなのだろう。

 

「よし、今日はここまで。それより行かなきゃ行けないとこがあるな」

 

アオイは資料をケースにいれ立ち上がった。

 

「行くってどこに?」

 

「お前の親父のとこ」

 

「親父って・・・・・・何するんだよ?」

 

戸惑うレンをよそにアオイは工房を出た。

 

 

 

「やあアオイ、大丈夫か?疲れているだろう」

 

「いえ、大丈夫です。それより話が」

 

ソファに腰を降ろしてアオイは言った。

 

「このコロニーを出ようと思います。これ以上俺とミズキがここに入ればみんなに迷惑もかかりますし」

 

「ふむ、そうか。それが君の決意だね?」

 

アオイは少し間を開けて「はい」と一言で答えた。

 

「ちょっとアオイどういう事なの?」

 

「そうだよなにもお前まで出ていかなくても」

 

「さっきの戦闘見てただろ?やつらはもうイクシロンがここにいることを知っててパイロットが俺であることも知ってた。第一ミズキを守ると言ったのは俺だ。自分の言ったことには責任を持たなくちゃ」

 

するとアズマはすっと立ち上がった。

 

「ついてき給え」

 

アオイたちは黙ってついていくことにした。

 

 

 

港がある最下層よりさらに下の階層、暗証キーを入力してゲートを開く。

 

「このコロニーにこんな場所があったなんて・・・・・・」

 

「セキュリティレベルSだからな。一般はおろか行政府でも知っているのは俺を含めてごく一部だ」

 

アズマは扉を開けて中に入る。

 

「アオイ、君にはこれを与えよう」

 

「これって・・・・・・」

 

アオイたちの目の前には全長300mほどの戦艦が格納されていた。

 

「我々の先祖がこのエリアに来る時に使ったと思われる潜水艦だ。これだけで小規模のコロニーのようなものになる。始まりの方舟 ビギンズ・ノアだ」

 

「ヒギンズ・ノア・・・・・・」

 

「ちょっと待って!まさかアオイ、ミズキと2人だけでこれに乗っていくつもり?」

 

「ああ、みんなに迷惑はかけたくないしな。なんのかなるだろ」

 

ミハネはまだ納得してないようだった。

 

「まあ、心配すんな親友。俺が一緒に行ってやるよ。お前はパイロットだ。優秀な艦長様が必要だろ?なあ親父、俺も行っていいよな」

 

「ああ、お前の自由だ」

 

「ちょっと父さん!?」

 

まさか父まで賛成するとは思っていなかったようだ。

 

「レン、アンタどういうつもり?」

 

「どういうつもりってこういう事だよ。俺は世界が見たいんだ」

 

「だからそれがどういう事か分かってるの!?戦争に巻き込まれるかもしれないのよ!?とにかく私は行かないから」

 

そう言ってミハネは行ってしまった。

 

「いいのか?」

 

「だって姉貴だぜ?大丈夫だろ。それより他のメンバーも探してくるぜ」

 

「他?他って・・・・・・?」

 

レンはあっと嘆息して

 

「潜水艦1隻動かすんだ。他にもいるだろ」

 

「それって・・・・・・」

 

「まあそういうこと」

 

そして数時間後、格納庫にはコウキ、ジュン、ツバキが集められた。

 

「つーわけで君達には試験航海ってワケで付いてきてもらうよ」

 

「は、はい?あのレンくんそれどういう意味かしらね?」

 

「そのまんまの意味。こいつを動かすには腕のいい操舵担当と火器管制、それに副長がいるだろ?」

 

つまりジュンが操舵、コウキが火器管制、ツバキが副長ということ。なのだが、

 

「ちょっとなんで私が副長なのですか!?」

 

「だって俺の方が成績上じゃん」

 

「ですが!戦術的な組み立ては私の方が上のはずです!」

 

また一つため息をついてレンは

 

「だからそういう事が出来るから副長なの!俺を支えるために」

 

そう言われたツバキは少し頬を赤く染めて

 

「そう、それなら良いですよ・・・・・・」

 

それをみて後ろの方でコウキ達がニヤついていた。

 

「ちょっと?なぜ笑っているのですかね?」

 

「いいや別に??何でもないですからね?うん、なんでもないです」

 

無論ごまかせる訳もなく。コウキとジュンは追いかけ回され始めた。そしてそこへ

 

「何コレ・・・・・・潜水艦・・・・・・!?」

 

「!?ヨーコどうしてここに・・・・・・」

 

「そりゃ・・・・・・気になったから着いてきたんだよ。お兄達こそこそしてたから。それよりコロニーを出るって本当なの?」

 

「・・・・・・ああ本当だ」

 

妹相手に嘘をつく必要も無い。長年一緒に生活していればどうせ後でバレる。

 

ヨーコは少し考えて

 

「私も行く」

 

とつぶやくように言った。

 

「いや、お前は残れ。お前がついてくる理由がないだろ。それに・・・・・・」

 

「いつまでも子供扱いしないで!」

 

ヨーコのその声がアオイの言葉を止めた。

 

「もう私だって15だし。兄妹だし分かってるでしょ?私を止めても無駄だって。それにソナーが居なきゃ潜水艦は機能しなくてよ?」

 

ヨーコのソナーなどの情報解析の成績は適性S。上位中の上位。中等部3年で高等部3年と並ぶ、いやそれよりも良い成績。

 

「分かったよ・・・・・・」

 

アオイははあっとため息を吐きつつそれを承諾した。

 

「じゃあみんな荷物を運び込んでくれ。明日にはコロニーを出よう」

 

「でもよアオイどうするんだ?仮にここから出たとしてどこに行くんだ?」

 

「ああ仙道、それなんだがな。世界を回ろうと思って」

 

「世界を回る?世界旅行って事か?」

 

アオイは首を横に振った。

 

「それもそうかな。でも世界を回ることでミズキの記憶が戻るかもしれない。リヴェイアからずっと身を隠せるとも思えないから。常に動きつつ巡ろうかなって」

 

「そういう事か。納得」

 

「じゃあみんな今が午後6時だ。とりあえず一度家に戻ろう。食事を取って12時までには荷物の搬入して起動シークエンス始めるよ」

 

「了解」

 

「分かった」

 

そしてみんな各々の家へ戻って行った。

 

「ヨーコ、ミズキは?」

 

「疲れて寝ちゃったみたい。あの後・・・・・・多分お兄があのロボットで出撃した後家まで戻ってきて。今私の部屋で寝てるよ」

 

「そっか・・・・・・。ごめんな巻き込んじゃって」

 

するとヨーコはふふっと笑って

 

「さっきも言ったでしょ?兄妹だって。やっとお兄達と肩を並べられるんだから。頑張らなきゃね。さて、今日の夕飯は頑張っちゃうよ!」

 

「ああ。頼むよ」

 

アオイは微笑みを返した。そして、家に戻りヨーコは食事を、アオイは自分の荷物をまとめ始めた。

 

とりあえず一週間分の服があれば問題ないだろう。家電一式は揃ってるみたいだ。食料もアズマさんが「特別教導連隊」として資金を出してくれるそうだ。コロニーは全て同じ通過が用いられているためそのまま使えるそうだ。大昔でいうEUの様なものか。

 

「さて、問題は・・・・・・」

 

弾薬類。あの潜水艦の武装は魚雷発射管が8基。レーザー機銃8基だそうだ。

 

「弾薬の備蓄も確認しなきゃだな」

 

戦いに行く訳では無い。だが戦わなければ行けない時もある。むしろそちらの方がこれからは確実に多くなる。

 

「覚悟を決めないとだな」

 

服を旅行用のバッグに詰め込む。あとは・・・・・・ゲームや本とかの暇つぶしができるもの。

 

「さてこんなものか。多くなったけど」

 

ざっと旅行バッグ2つ。

 

(男の俺でこれだからヨーコはもっと多いんだろうなぁ)

 

そんな事を考えていたら「ご飯できたよー」とヨーコが呼んだ。

 

「はーい今行くよ」

 

リビングに行き椅子に座る。

 

「しばらくはこの家ともおさらばだね」

 

「そうだな・・・・・・次にいつ帰ってこれるかは分からないからな」

 

両親の仏壇もある。花を添えておこう。そんな事を話す。

 

「写真だけでも持っていくか」

 

「そうだね。流石に家に置いていくわけに行かないもんね」

 

そして「ごちそうさま」といつも通り手を合わせ食器を片付ける。

 

「ヨーコ俺が洗い物しておくからお前は準備してこい」

 

「あ、分かった。その前にシャワー浴びてくるね」

 

食器をシンクに置いてヨーコはダッシュで脱衣所に駆け込んで行った。

 

「・・・・・・待てよ食器類も持っていった方がいいのか?」

 

キャンプに行くわけでもないが流石に200年以上前に使った食器を使うのは少し気が引けた。

 

また荷物が増えた。

 

ふと仏壇に向かう。呼ばれた気がした。

 

仏壇の前に正座で座る。

 

「・・・・・・分かってるよ。ヨーコの事は任せて。兄としてしっかり面倒みるからさ。じゃあ行ってくるね。写真だけは持っていくよ」

 

立ち上がり仏壇においてあった父と母の写真を手に取りカバンに入れた。

 

 

 

「よーしお前ら忘れもんないか?しばらくは帰ってこれねぇからな」

 

「大丈夫よ。レンくんみたいに忘れんぼでは無いですからね」

 

「はいはいそうですね。さて副長シークエンス始めてくれ」

 

「あのあくまで支える立場であって貴方の下僕ではないのですけど」

 

レンは面倒くさそうに「はいはい」と返事をして

 

「よし、シークエンス始める。とりあえずメインシステム起動してくれ」

 

「了解しました。メインシステム起動」

 

ツバキはモニターを操作してシステムを起動する。

 

「で、おやっさんいいの?着いてきて」

 

「ガキだけで行かせられるわけねぇだろう?それにメカニックいなきゃ話になんないだろ」

 

「そうだな。ありがとう。じゃあおやっさんメインシステムが起動したら機関の方を頼むよ」

 

「おうよ。じゃ先に機関室に行ってるよ」

 

そして機関室へ向かっていった。

 

「艦長、メインシステム復旧しました」

 

「了解だ。とりあえず最初のプロセスからよろしく頼む」

 

「了解です。って何!?」

 

突然ツバキは何かに驚いた。

 

「えーと貴方達はこのフネの人かな??」

 

メインモニターにはオレンジ色の髪をした少女が映っていた。肩までにかかるくらいの長さをしたレンたちと同じくらいの年の子。

 

「まあそうだけど君は?」

 

「私はこの艦の中枢システムRAVE。レヴって呼んでねえ〜。ところで今何年だい??私かーなーり寝てた気がするのだ」

 

「今は海洋歴2304だけど?」

 

「えーと・・・・・・ざっと250年近く経った?随分と久しぶりの起動だねぇ」

 

「あのレヴ、艦内のシステム全部起動してくれ」

 

「了解了解〜!ビギンズ・ノア起動っ!!」

 

約250年、海洋暦2304年始まりの方舟は再び目を覚ます。




スマブラの新規参戦見てたら投稿遅れた赤羽です。いやーいいっすよねレールガン。某ファフナーのレールガンとかね。いいですよね。本作のレールガンはいきなりレーザーとかビームがビュンビュン飛ぶのは嫌なので出したわけです。まああとは弾数を少なくすることでアオイの焦りとか表現できたらナとかそんなわけがあります。それではまた次回。

次回予告
起動シーケンスに入るビギンズノア。来襲するカナト達リヴェイア第11機械研。迎撃のために出撃するアオイ。シーケンス完了まで残り・・・
次回蒼き飛翔のイクシロン
「巣立ち」


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Depth4 巣立ち

「現在シーケンス48%完了。完全起動まであと41分」

 

「分かった。レヴ、メインエンジンと索敵関係の機器は全起動しておいてくれ」

 

「了解艦長」

 

艦長・・・・・・そう呼ばれるのはどこか心地よかった。いつか自分の船を持ち世界を旅するのが夢だったレンにとって少し違う形ではあるが夢が叶った。

 

「対空レーダー、ソナー関係起動。問題なし。敵影は無し」

 

「了解した。ヨーコそのまま警戒を」

 

「了解」

 

ビギンズノアのメインエンジンは原子力ではなく水である。簡潔にいうと水力発電と同じ原理とおやっさんが言っていた。本当はもっとすごいのだろうが。どのみちエンジンが臨界状態に入れば熱感知でなくともソナーで気づかれる。

 

「エンジン臨界。全システム完全起動まで残り35分だよー」

 

「!!ソナーに反応あり!数は・・・・・・4です!」

 

「やはり待ち伏せしてたか。反応が出た瞬間に向かってきたな」

 

「俺が出る。レヴだいたい何分持たせればいい?」

 

「そうですねぇ・・・防御システムの起動を中断して火器管制システムに演算力を割振れば20分弱という所でしょうか?」

 

モニターには20minuteと表示された。

 

「よしじゃあレヴ演算力を火器管制システムへ。火器管制システム起動後俺達も動く」

 

「了解」

 

アオイはブリッジを出て格納庫へ急ぐ。

 

 

 

「おやっさん準備は!?」

 

「出来てるぞ。前回の戦闘の傷は応急措置程度に修復してある。だがレールガンの弾数は変わんねぇから気を付けろよ」

 

「分かった。イクシロンだすぞ」

 

ハッチを閉めようとした時ミズキがのりこんできた。

 

「ちょっとミズキなにしてんだよ!」

 

「この機体はやっぱり私がいなきゃダメ。まだ貴方に扱い切れてない」

 

「っ・・・・・・分かったよ」

 

実力不足は自分が一番知っている。だが実力不足なりに今はミズキを護らねば。

 

「右舷ハッチ注水完了。イクシロンどうぞ」

 

「了解。イクシロンでる!」

 

ペダルを踏み込みハッチを出る。コロニーの遥か水底、そこは薄暗く冷たかった。

 

「ヨーコ敵の位置は?」

 

「6時の方向距離5000、敵は水上をホバーで移動中」

 

「了解」

 

アオイはメインエンジンのスイッチを切り無音航行に移行した。数ではこちらが圧倒的不利。ならばこちらがとる戦法は一つしかない。

 

「敵がきたら奇襲で一撃離脱だ」

 

攻撃しては潜み1機ずつ倒していくしかない。

 

深淵の海を朝焼けが照らし始める。海は静かであった。今日は台風一家であった。風は強いが晴れている。嵐は去った。だがアオイにとってこの静けさは嵐の前の静けさといえるものであった。

 

心臓が高鳴るのを感じた。その時、レーダーが反応する。反応は4。自然と操縦桿に力が入る。

 

「アオイダメよ。リラックスして。でないと私もあなたもやられる」

 

「あ、ああ・・・・・・」

 

ミズキはアオイの手を握る。とても暖かかった。肩の力が抜け呼吸も整った。

 

敵との距離は既に500mを切っていた。

 

「ミズキしっかり掴まってろよ。・・・・・・いま!」

 

フットペダルを踏み込み急速浮上する。ダガーは展開済み。狙うはメインカメラ。

 

「はあああ!!」

 

その目はしっかりと敵CAHを捉えていた。

 

真横からの奇襲に対応出来ずにシャチに捕えられたアシカのように海に引きずり込まれた。

 

『ぐぁぁぁっ!?』

 

接触回線で敵パイロットの声が聞こえた。

 

「こないだの奴か!!」

 

『神薙アオイ!なぜ抵抗するんだ!!あの娘を引き渡せばお前達は助かるのに』

 

「誰かを犠牲にして助かるくらいなら俺は戦うさ!!」

 

『分からずやっ!!』

 

『カナトしばらくそいつを抑えていろ!反応がそいつではなかったとすれば別の何かがコロニーにある!』

 

『分かりました!』

 

アオイは舌打ちした。カナトと喋りすぎた。これでは奇襲の意味がない。しかもビギンズノアの位置はバレてしまっている。

 

「くっ!行かせるか!!」

 

『 それはこちらのセリフだ!!』

 

進路上をカナトのオーディが塞ぐ。

 

『 その機体、そして銀髪の少女を渡してもらおうか神薙アオイ!!』

 

「そんなこと言われたって渡すわけないだろ!!」

 

アオイはレールガンのロックを解除しすぐさま照準を合わせトリガーを引いた。

 

雷光とともに射出された弾丸をカナトは最小限の動きで回避して見せた。

 

「(動きが読まれている・・・・・・!?)」

 

三度にわたる戦闘によるデータの蓄積。そこからシミュレーションを作成したのだろう。つまりこちらの行動は予測済み。

 

『 (やつは素人だ。戦闘のプロじゃない。だが素人なりに奇抜な戦法をとってくる。油断は禁物。)』

 

行動パターンはほぼ分析済み。まず遠距離武器での牽制、外した場合はフェイントをかけ近接戦闘に移行、近接戦闘は一撃離脱戦法をとる。

 

『 (初撃を外した場合は・・・・・・)』

 

レールガンを避けられたアオイはダガーを逆手持ちにして全身のスラスターを最大で吹かし急速接近する。

 

「ぐっぅぅ・・・・・・!」

 

強烈なGがアオイをシートに縛り付ける。

 

『 (初撃はフェイント・・・!!)』

 

「(間合いは十分・・・・・・!!ここからなら!!)」

 

アオイが繰り出したのは右下から左上への切り上げ。それをカナトは後ろへの回避をとる。

 

「(もらったっ・・・・・・!!)」

 

ダガーを逆手持ちから順手に切り替え突きを繰り出す。

 

『 甘い!!』

 

左方向への回転を伴った回避で突きを回避したカナトはライフルに装備されたバヨネットで斬撃を繰り出す。

 

「まずっ・・・・・・!!」

 

とっさにフィッシャーダガーを空中に放り投げ右手を翳す。

 

六角ヘックス型の光の多重装甲が展開しバヨネットを阻む。

 

『 ホログラフィックシールド・・・・・・くそっ』

 

カナトは即座に距離をとる。

 

「動きが読まれてる・・・・・・このままじゃダメだ・・・・・・」

 

今までにない動きでカナトを翻弄しなければならない。

 

「アオイ悩まないで。貴方は貴方らしい戦い方をすればいいの」

 

「俺らしい・・・・・・?」

 

ミズキのいう「俺らしい」とは一体なんだ・・・・・・?

 

一瞬の思考の中でアオイは答えにたどり着く。

 

「なら、こうする!!」

 

繰り出したのはレールガンによる目くらまし。カナトのオーディの足元に撃ち込まれた弾丸の衝撃で激しい水しぶきがあがる。

 

『同じ手はくわないっ!! 』

 

カナトは構わず突っ込む。

 

『 貰った!!』

 

「それはこっちの台詞だ!!」

 

そこにはイクシロンはいなかった。レーダーが指す位置は現在カナトのオーディがいる位置。すなわち

 

『 上!?』

 

レールガンを背中にマウントし両手にフイッシャーダガーを装備したイクシロンは勢いよく振り落とす。狙いはオーディの両肩。

 

「はぁあぁぁぁ!!」

 

『 このっ!!』

 

カナトはライフルを上に向けて連射する。だがホログラフィックシールドによる自動崩御システムに阻まれてしまう。

 

カナトは機体を左にひねりつつギリギリで回避する。間髪入れずにくる着地からの横薙に派生する一瞬の間をカナトは見逃さなかった。

 

『 はあっ!!』

 

左脚を軸にして放つ右回し蹴り。それはイクシロンのマニピュレーターに直撃しダガーを蹴り落とした。

 

「なっ!?」

 

アオイはとっさに後ろへと跳躍し距離をとる。

 

『 新しい動きには少し驚いたけど所詮素人の動き・・・・・・!』

 

「言うねぇ・・・・・・けどお前は目の前の戦闘にしか気が回ってなさそうだな。周りが見えてないぜ!」

 

『 何を言って・・・・・・!!??』

 

カナトはそこで気づく。自分とイクシロンの位置。そう戦闘開始時の位置と比べてカナトを中心として真逆になっていた。つまり今の位置ではカナトが外側、アオイが内側。アオイの方がコロニーに近くなってしまっていた。

 

「目先の勝利じゃなくて次を見据える。俺はお前と戦うのではなくお前の仲間をおうことを選んだってわけだ」

 

『 しまった・・・・・・!!』

 

「それじゃぁな!!」

 

アオイはレールガンを右手に装備し全速力で後退する。

 

『 待て!!』

 

「そういわれて待つ奴がいるかよ!!」

 

照準を定め撃つ。その弾はオーディのマルチプルランチャーを掠めた。

 

『 ぐうっ!!このっ!!』

 

カナトはライフルを連射するがイクシロンのスピードにはなかなかロックオン出来ずにいた。当たったとしても遠距離武器はホログラフィックシールドに阻まれ本体には届かない。

 

『 こうも重武装では・・・・・・!!』

 

あちらは水陸両用。たいしてこちらは汎用性を換装によって補完している機体。水上で戦うにはそれなりの重武装になってしまう。

 

「シールド・・・・・・持つのか!?」

 

ホログラフィックシールドには自動で遠距離の攻撃を防いでくれる利点があるが自動で防御するためその為に熱量が蓄積しやすい。

 

「のこり5%・・・・・・」

 

このスピードで後退しているため並のパイロットでは掠めすらしない筈だがカナトの弾丸は本体に当たることさえないがそれでもしっかりと的を捉えていた。

 

その時一際大きなアラートが鳴り響く。真正面から凄まじい速さの弾丸が飛んできてイクシロンに直撃した。ホログラフィックシールドが作動してほとんどのダメージは吸収したがそれでも防ぎきれなかった。

 

カナトはライフルのアタッチメントを変形させバヨネット装備からロングライフルに変更。それを水上という安定しない場所での狙撃を成功させた。

 

「シールド0%・・・・・・!?まずい・・・・・・オーバーヒートだ!!」

 

バックパックから白い煙がたちこめ機体のスピードはぐんぐん落ちていく。

 

「アオイ・・・・・・今なら・・・・・・!」

 

「ああ。システムチェック完了・・・・・・D.C System、ブースト!!」

 

ダ・カーポ、その名の通りイクシロンは「冒頭」に戻る。白煙を吐いていたバックパックは息を吹き返し蒼い粒子を散布し始める。

 

「いいぞ・・・・・・このままやつを引き離してビギンズノアに向かった奴らを叩く!」

 

アオイはペダルを踏みしめ全速力でビギンズノアへと向かった。

 

 

 

「敵3機こちらに向かってきます!」

 

「やはり1人をイクシロンに対応させたか」

 

冷静に状況を分析するレン。その口元はにやけていた。

 

「読んでいたの?艦長」

 

「だいたいな。敵の目的はイクシロンとアオイ、ミズキの回収。敵はこちらの手の内は知らないはずだ。こんな艦があることもな。だからミズキとアオイをバラバラにせず一緒に乗せた」

 

「つまりそれって・・・・・・」

 

「そういう事だよ森宮。現在において囮はアオイじゃない。俺達だ。アイツらはここにミズキがいると思ってる。普通CAH対艦船の戦闘では近づいてしまえばCAHの圧倒的有利。艦船は取りつかれてからの迎撃手段はない。だが今回の場合で考えてみろ。護るのはどうだ?今の自分たちにゃ解析できないであろうオーバーテクノロジーの塊だぜ?イクシロン1機に手こずるヤツらだ。イクシロンの数倍でかい俺らを初見で撃破は無理だろうさ。そういう訳だ。レヴ、魚雷関係だけ優先で起動させろ。あとは後回しにしてもいい。魚雷関係の次は防御システムだ。その他の兵装と機関は全部あとだ!」

 

『 了解、艦長』

 

起動までの時間は5分を切っていた。

 

「敵の射程圏内まであと1200を切りました!接触まであと180second!」

 

『火器管制システム魚雷のみに絞り起動完了。1番から8番に通常弾頭装填開始』

 

「よしコウキ準備しろ!記念すべき初弾だ!!外すなよ!」

 

「オーライ!!」

 

「弾道は右から迂回させろ!今撃てばあいつらが射程に入る頃には着弾するはずだ!」

 

「弾道はマニュアル、3時方向から」

 

『 装填と注水完了。トリガーをコウキに譲渡』

 

魚雷発射管のロックが外れる。画面にはALL GREENの文字。

 

「艦長いけるぜ!」

 

「よし、撃て!!」

 

「オーライ、ファイア!!」

 

船体前方から8つの魚雷が尾を引いて進んでいく。

 

「よしこれで少しは足しになる。レヴ、防御システムの起動率は?」

 

『 現在48%です。並行して微力ながら機関も始動中』

 

「よしいいぞ・・・・・・あとは敵の動きによるな・・・・・・」

 

レンは艦長用のシートに座り直す。戦闘経験もろくにない素人が戦術指南書ひとつで本職の軍人に勝とうというのだ。やはり緊張はする。

 

「敵の射程まであと30sec、こちらの魚雷も敵陣へと進行開始。29、28、27、・・・・・・」

 

「さてどう動く・・・・・・?」

 

気づかないことはあるまい。迎撃か回避か。既にレーダーに捉えているが敵は察知されたとは気づいてあるまい。安全な選択は回避だが。

 

「10、9、8、7、・・・・・・!!反応喪失!撃墜されました」

 

「撃墜・・・・・・さては敵に新兵がいるな」

 

 

 

「何やってるリデット!!」

 

「す、すいません!!」

 

今ので恐らく敵はこちらの位置を掴んだ。敵の司令官はやり手だな。魚雷は恐らくこちらの注意を引くためのデコイ。ならば

 

「このまま直進する」

 

「え!?でも魚雷は左舷から・・・・・・」

 

「敵も阿呆ではない。わざわざ自分の位置を知らせると思うか?」

 

「確かに・・・・・・」

 

よし、と一息つきコーゴンは残りのふたりに指示を出した。

 

「フォーメーションデルタだ。左右から挟み込む」

 

『 了解』

 

『了解です 』

 

その時だった。レーダーに反応しアラートが鳴り響く。

 

「後ろ!?」

 

コーゴンが振り向いたと同時に機体の右腕が吹き飛んだ。

 

「ぐっ・・・・・・カナト足止めに失敗したか」

 

『 隊長あれは!』

 

水平線の向こう水しぶきを上げ高速にこちらへ突っ込んでくる機体。その背には翼が生えていた。

 

「初遭遇時のあの力か・・・・・・総員警戒しろ!やつの戦力は未知数だ!」

 

『 了解』

 

コーゴンは背部のミサイルランチャーを左腕に装備させる。

 

「(東雲ミズキ・・・・・・お前だけは必ず・・・・・・)」

 

コーゴンは唇をぎゅっと噛み締めた。

 

 

 

「間に合った・・・・・・さあここからが第2ラウンドだ・・・・・・!!」

 

システムの残り時間は200secを切っていた。

 

アオイはレールガンを構え放つ。その弾丸は雷光とともに水面を切り裂く。

 

 

 




こんにちは作者です。再投稿に際して現在の設定と矛盾が生じるところは書き換えたり削除したりしてます。なにせ四年前に書き始めたので当然といえば当然なんですが・・・今は固まってるのでそうそう変わらないとは思いますが・・・。発想が若かったなとか思いますね。ハイ。ではまた次回。

次回予告

DCシステムが発動し形勢逆転したアオイ。しかしそれでもコーゴンは性能差を物ともせずイクシロンに食らいつく。そして一人迷い悩むミハネ。苦悩の末導き出した答えとは。
次回蒼き飛翔のイクシロン

Deprivation


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Depth5 Deprivation

「さあここからは第2ラウンドだ!!」

 

アオイは構えたレールガンのトリガーを引く。雷光とともに発射された弾丸は水面を切り裂く。それはまるで第2ラウンド開始の狼煙とも言えるものだった。

 

数では不利。だがこちらはDCシステムのおかげで性能では有利だ。残り200sec、そのあいだにできるだけ敵の行動択を減らす。それが1番の理想。

 

その時通信が入った。ビギンズノアからだった。

 

『 アオイ聞こえるか?よく戻ってきたな。あとこちらは5分ほどで機関が始動できる。それまで持たせられるか?』

 

「レールガンの残弾があまりない。こいつの固定武器じゃなかなかキツいが・・・・・・なんとかしてみせる!」

 

『 頼んだぞ。こっちもできるだけ急ぐ』

 

レンは通信を切り呼吸を整えた。ここまではある程度自分の予測通り。敵はこちらを本命と見据え狙ってきた。 まだしばらくはデコイはこちらだと気づかないだろう。

 

「コウキ、イクシロンを援護する。魚雷通常弾頭装填、近接信管にしておけ。目標はさっきの新兵だと思われる機体」

 

「了解。ナビ子、装填頼む。弾道はこっちで設定するわ」

 

『 わっかりましたー!!・・・・・・って誰がナビ子ですか!!私にはちゃんとレヴって名前があるじゃないですか!!』

 

「うるっさい!!どっちでもいいわ!!さっさと装填しろ!!」

 

『 はあ!?そんな頼み方ってないじゃないですかぁ?一応私このフネの全部を演算処理してるてぇんさいAIなんですけどぉ!?』

 

コンソールと睨み合うコウキとレヴを怒号が襲った。

 

「二人共!!今は戦闘配備中ですよ!!喧嘩ならあとにしてくださる?」

 

ツバキは呆れながら言った。その顔はかなり怖かった。さすがのレヴもビビったのかすんなりとコウキの言うことを聞き始めた。

 

「装填完了!!注水も終わってる!!」

 

コウキの報告を待ってからレンはモニターにオールグリーンが表示されるのを確認する。

 

「よし、1番から8番撃て!!」

 

「1番から8番発射!!」

 

前方の射出口から8基の近接信管ミサイルが発射されそれぞれ尾を引いてあみだくじのような起動を描き進んでいく。

 

「隊長!!魚雷が!!」

 

『 !!気をつけろお前が狙われている!!』

 

「え!?」

 

不意打ちをくらったリデットは直撃は回避したもののバランスを崩し手に持っていたマシンガンとライトレッグを失いその場に倒れ込んだ。

 

『 リデット大丈夫か!?』

 

「生きてはいます・・・・・・ですが戦闘は出来ないです・・・・・・」

 

コックピットは問題はなかったが爆発による衝撃でバランサーと火器管制システムがイカれていた。離脱もできない。

 

『 よし・・・・・・生きているなら後で回収してやる!!待っていろ!』

 

コーゴンはスラスターをふかしイクシロンに肉薄する。

 

「レビンお前は本命を抑えろ!!!俺はこいつを仕留める!!」

 

「分かりました!!」

 

「しまった!!レン!1機抜けた!!」

 

『 大丈夫だ!もう発進できる!!スペシャリストが来たんでな』

 

レンの口元はにやけていた。何かあったのだろうか。

 

「スペシャリストって・・・・・・?」

 

『 あたしよ!!』

 

声の主はミハネであった。

 

 

 

10分ほど前、ミハネはコロニーの外を見つめていた。爆発音が聞こえ時々コロニーも戦闘の激しさを恐れているかのように震えるように揺れていた。

 

ミハネは考えていた。友達があそこで戦っているのに自分はただ眺めているだけで良いのかと。だが、それは自分が選んだ道でもあった。今更行っていいのか。

 

「でも迷ってらんないよね・・・・・・」

 

その手にはしっかり荷物がぎっしり詰まったカバンを手にしていた。

 

もう誰かを失いたくない。そう胸に誓いミハネは走り出した。

 

 

 

5分前ビギンズノアではトラブルが発生していた。

 

「どういう事だレヴ!?エンジンが始動しないって」

 

『 それが私にも何が何だか・・・・・・多分長年起動来てなかったせい・・・・・・かも?』

 

「くそ・・・・・・おやっさん何とかできないのか!?」

 

「そんなこと言ってもなあ・・・・・・機関系は完全に専門外だから俺にはなんとも」

 

おやっさんは通信越しに困り気味にいう。その時突然ブリッジのドアが開いた。

 

「そういうのは私に任せてくれないかしらね。スペシャリストにおまかせありってね」

 

「な、お前なんで!?乗らないんじゃ?」

 

レンは予想外の出来事にかなり慌てていた。ミハネはドッと重い荷物を下ろし工具箱を手に機関室へと走っていった。

 

「さすが我が姉貴。ジュン出航準備しろ!」

 

「OK!!こっちはもう、大丈夫さ!あとはあいつがどうにかしてくれたら」

 

『 こちら機関室!終わったよ!!どうやらしばらく起動してなかったせいでイグニッションキーが作動してなかったみたいだ。あとは好き勝手やってどうぞ!!』

 

これで全ての条件は整った。レンは勝ちを確信した。

 

 

 

そして現在。

 

 

 

アオイは困惑する。

 

「お前乗らないって言ってたじゃないか・・・・・・?」

 

『 アホな弟を放っておけるわけないでしょ!?それに1人で残されるのもやだしその娘のこともあるしね』

 

ミハネもミハネなりにミズキのことを考えていたようだ。

 

『 いい?出航したら全速力で潜行しつつ戦闘域を離脱するわよ!遅れないでね!』

 

それだけをいうとミハネは通信を切ってしまった。

 

「だそうだ!!ミズキ、ここを切り抜けるぞ!」

 

「任せる。私はあなたを信じている」

 

ふとミズキが発したその言葉にアオイは少し嬉しかった。信じていると言われた男がここを乗り切らないわけには行かない。だが、システムももうすぐ終了、レールガンの残弾も少なくこの距離ではどのみち当たっても自分にもダメージが入る。ダガーを取り出そうにも両腕が掴まれ塞がれているこの状態では・・・・・・。

 

そこへ突然通信チャンネルが開いた。そこにはアズマが居た。

 

『 アオイくん!これからそちらに武器を射出する!!ビギンズノアに搭載されていたものを解析のためにコロニーに保管していたものだ!!座標は君の真上を通過するように設定した!!あとは君次第だ!!』

 

「アズマさん!!よし!!」

 

「アオイ6時方向からくる・・・・・・!!」

 

モニタに拡大されて表示される。射出されたのは三叉槍であった。ここさえ切り抜ければチャンスはある。

 

「なら、多少の無理はしないとな!!ミズキちゃんと掴まってろ!」

 

「うん・・・・・・」

 

ミズキはアオイの腕をしっかりと掴む。

 

「うおおおおお!!」

 

「なに!?」

 

アオイはフットペダルを踏み込み跳躍した。

 

DC.システムを発動したイクシロンの推力は並のCAHの推力をはるかに超えていた。

 

あまりの推力にコーゴンは振り落とされる。コーゴンを振り払ったアオイはそのまま上昇する。

 

「軸合わせ、相対速度合わせ・・・・・・いけるか!?」

 

軸の上に機体をあわせる。膨大な推力と言ってもそれほど長く滞空できる訳では無い。モニターには到達まで5secと表示されていた。

 

「させんぞ!!」

 

振り払われたコーゴンは体勢を整えて1度着地しマシンガンを撃ちつつ上昇する。

 

「ぐっ!!お前は少し黙ってろォォォォ!!!」

 

三叉槍をキャッチした勢いを乗せ期待を思いっきり捻り投擲する。D.Cモードの大出力から繰り出されるその攻撃はレールガン並みの弾速でコーゴンのオーディの左肩と胸の間の関節に突き刺さった。その衝撃はとてつもなく重く長年戦ってきたコーゴンでも気を失いかけた。

 

「ぐぉぉぉ!?」

 

危険を知らせるアラートが鳴っていた。今の攻撃で左腕が使えなくなったことを報せていた。それをアオイは見逃さない。

 

「うおおおおぉ!!!」

 

落下するオーディの上に着地し三叉槍を掴む。衝撃と落下してきた勢いによって突き刺さっていた槍が貫通する。左肩から先が崩れ落ちアオイは槍を引き抜く。

 

「グレイブモード!!!」

 

三つに分かれていた鋭い先端が1つの両刃の刃になる。

 

「だぁぁぁぁ!!」

 

手首を回転させた勢いでオーディの首を撥ね蹴り飛ばす。

 

「ぐぉぉおぉぉ!??」

 

蹴り飛ばされたコーゴンのオーディは水面に叩きつけられ激しい水しぶきとともに沈黙した。

 

残るは2機。一機は先程引き離したからまだ追いつかないはず。

 

「次!」

 

ビギンズノアに向かった一機をアオイは全速力で追いかける。

 

「後ろから!?隊長が抜かれたというのか!?・・・・・・しかし!」

 

レビンは方向を変えアオイを迎え撃つことを選択した。

 

「俺だってな、伊達にこの階級なわけじゃないのさ!」

 

射程内に入ったイクシロンをロックオンしマシンガンを連射する。

 

「そんなもの!!」

 

アオイは軽く避けてみせる。

 

「ほぉ・・・・・・しかし!!」

 

レビンはロックオンを外しマニュアルで照準をつける。

 

「お前の癖は理解した。やはり素人!!」

 

アオイの行動パターンはこうだった。攻撃が来た場合まず右に避けさらに攻撃が来た場合上昇、そして緩く左に下降しつつ直進して接近してくる。

 

レビンはマシンガンの銃口を正面、マルチプルランチャーの照準を右、榴弾砲の照準を上昇する位置に設定した。

 

「さあ、避けてみろ!」

 

トリガーを引く。マシンガンの銃口が火を噴く。そして少し間をあけマルチプルランチャー、榴弾砲の順番で発射する。

 

「またマシンガン!?同じ攻撃なんて!!」

 

アオイはスロットルを右に倒す。そしてそこへミサイルが飛んでくる。

 

「何!?」

 

咄嗟にホロシールドを展開。なんとかダメージは防げたが熱の蓄積率が上がった。DCモードもあとすこし。熱が蓄積されるのは痛手だった。

 

「くそっ」

 

アオイはペダルを踏み込み上昇する。そこへ吸い込まれるように榴弾が飛んでくる。

 

「しまっ・・・・・・!?」

 

シールドを展開するのすら間に合わない。いくらイクシロンとは言えども榴弾の直撃を受ければ確実に損傷する。しかしそれは命中することなく撃ち落とされた。

 

「なんだ!?」

 

コロニーの上の方、作業用の工作機がレールガンを構えていた。

 

「アオイくん大丈夫か!」

 

「アズマさん!?」

 

「残り少ないがあと3発はある。今から君を援護・・・・・・」

 

『 2度もさせると思ったか?』

 

工作機に先程片腕と頭部を失ったコーゴンのオーディが接近していく。

 

「アズマさん逃げて!」

 

『 リヴェイアに歯向かうとは馬鹿なことをするものだ。貴様を連行する』

 

工作機のコックピットを潰しアズマを引きずり出す。

 

「ぐっ・・・・・・」

 

『 カナト、リデットを回収しろ。レビン後退だ』

 

『 了解です』

 

レビンは残っていたミサイルを撃つと反転して急速離脱した。

 

「待て!!」

 

アオイはシールドを展開しつつミサイルを受けきり、最大出力でレビンを追いかける。しかし、D.Cシステムのタイムオーバーと同時に機体の負荷が限界値を超えシステムがダウンする。

 

「アズマさぁぁぁぁぁぁん!!!!!」

 

レーダーからは既に機影が消えレールガンは射程外を示していた。

 

「ちくしょう・・・・・・!!あああぁぁぁ!!」

 

アオイは握りしめた拳をコンソールに叩きつけた。

 

「アオイ・・・・・・」

 

ミズキはそんなアオイにかけられる言葉もなくきゅっと自分の手を握りしめた。

 

鮮やかな夕陽がイクシロンを照らしていた。

 

 

 

数分後再起動したイクシロンはビギンズノアまでたどり着き回収された。コックピットを降りるとミハネがいた。

 

「ミハネ・・・・・・その・・・・・・」

 

「いいんだ。アオイが悪いわけじゃない。父さんが自分でやったことだ。それに死んだわけじゃない。だからそんな顔しないで」

 

ミハネの目には涙が滲んでいた。それでも笑うミハネにアオイは強く罪悪感を感じた。

 

「・・・・・・この後どうする?」

 

全員が揃ったブリッジは少し狭く感じたがそんなことは今は二の次だ。

 

「本来の通りミズキをリヴェイアから守るために逃げるか親父を助けに行くためにリヴェイアに飛び込んでいくかだ」

 

レンはコーヒーを飲みながら言った。出撃する前にみた資料、それに書いてあったことをもしリヴェイアが知っているとしたらミズキが狙われる理由もつく。リヴェイアのデータベースは超膨大な情報を記録していると聞く。イクシロンを狙うのもミズキを狙うのもイクシロンを戦力として使うためだろう。オーバーテクノロジーの結晶であるイクシロンがリヴェイアに渡り技術がコピーされ優秀なパイロットがいた場合最悪な結果となる。そしてイクシロンを起動するためにはミズキが不可欠。

 

「俺はミズキを護るために親父を捨てる」

 

「お前・・・・・・本気か?」

 

あっさりと自分の親を捨てる選択をしたレンをアオイは睨む。

 

「もちろん本気だ。そもそも親父だってわかっててやった事だ。ミズキを護ることを自分の命より優先したんだ。俺らはそれを尊重すべきだ」

 

「アタシも賛成。父さんには悪いけどね」

 

「ミハネまで・・・・・・」

 

答えは簡単なはずだ。イクシロンがリヴェイアに渡り量産された場合を考えれば。今より戦争は悪化しリヴェイアに占領されるだろう。でもアオイは決められずにいた。その時だった。ミズキが口を開く。

 

「私は助けに行って欲しい」

 

「ミズキ・・・・・・」

 

「ミズキ、君は自分の価値を分かってるか?この混迷した時代にとって旧世紀の人間はその人自体がロストテクノロジーの塊みたいなものだ。ましてや君は旧世代の技術の結晶であるイクシロンを動かせる。さらになにやら特殊案件の中心人物だ。君一人で世界がひっくり返るかもしれないんだぞ」

 

レンは鋭い目つきでミズキを睨むがミズキは既に覚悟を決めている目をしていた。

 

「ああ、分かっている。でも私の事はアオイが護ってくれる。そう信じている」

 

「ミズキ・・・・・・」

 

「だとさアオイ、お前はどうなんだ」

 

「・・・・・・俺はミズキを護ると誓った。だからその約束は果たす。けどアズマさんも助ける。それが答えだ」

 

レンははあ、とため息をつくと「ははは・・・・・・!!」と笑いだした。

 

「やっぱりな。お前ならそう言うと思ってさ。で、親父を助ける理由は?」

 

「人を助けるのに理由なんか要らないだろ?

 

 

「その通りだ。そういう事だ他のみんなはいいか?」

 

ツバキ、コウキ、ジュン、ヨーコ、ミハネはもちろんと答えた。おやっさんも「俺はあくまで保護者だから」と特に何を言うわけでもなかった。

 

「じゃあ、決まりだな」

 

レンはそういうとキャプテンシートに座り直す。

 

「よし、メインエンジン始動。微速前進、ビギンズノア発進!!」

 

ゴゴゴゴ・・・と音を立てエンジンが始動する。

 

「微速前進!!」

 

ジュンが復唱しビギンズノアは進み始める。小さくも大きな1歩。大いなる旅路の始まりである。

 

 

 

冷たい監獄の中アズマは静かに座っていた。特に手足を固定されるわけでもなかったので意外と快適である。恐らく手錠などかけなくともこの海の中だ。脱走はしないと考えたのだろう。

 

コツンコツンと誰かが近づいてくる音がした。配給は先程来たばかりだった。意外としっかりしたものを食べさせてもらえた。腐ってもコロニーの長だからだろうか。相手が誰かわからなかったのでとりあえず顔を下に向けて少し悪態をついてみた。

 

「こんな時間に何の用かな?私はそろそろ寝ようと思っていたのだが」

 

「その癖、昔から変わってないな」

 

その声ですぐに誰かわかった。アズマは少し笑いながら顔を上げた。

 

「よお、久しぶりだな、コーゴン」

 

顔を上げたその先にはかつて共に世界の平和を目指した友がいた。

 

 

 

 




どうも作者です。今回でイクシロンは貯蔵分終了です。次回からは新編を公開していきます。これすなわち定期更新終了なのです。いろいろ工夫して早めに更新できるようにしますのでどうぞお楽しみに。

次回予告
久しぶりだな、その言葉は友の再会を意味する言葉。アズマとコーゴン二人の別れは数十年前、聖戦と呼ばれた戦いにあった.
次回蒼き飛翔のイクシロン
過去と記憶と


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Depth6 過去と記憶と

「よお、久しぶりだなコーゴン」

聞き覚えのある声がしてアズマは悪態をつきながら顔を上げた。その先にはかつての友がいた。最後に会ったのはあの日以来か。

「23年振りだな」

「ああ、カムラン沖の聖戦以来だな」

 

聖戦、そう呼ばれた戦いがあった。アーサー王の伝説になぞらえカムラン沖と呼ばれた海域での戦い。東のリヴェイア、西のシリコンバレー、北のアイルランド連合、南の南アフリカ連合が領土を争った戦い。CAHの雛形とも言えるPR(パワーレイヴ)が各陣営で数機ずつ開発され戦いはいかに優秀なPRを短期間でつくれるかだった。そんな中、広大な国力と工業力を持つリヴェイアと超先進的な技術力を持っていたシリコンバレーの2国がそれぞれアイルランド連合と南アフリカ連合を取り込み戦いは二極化した。決戦の地カムラン海域。コーゴン、アズマ、そしてコースケとアオイの父、神薙ソウスケも士官学校を卒業しリヴェイア側の当時最新鋭の試作PR「ヴリィズ」で参戦していた。コーゴン、アズマ、ソウスケのスリーマンセル。コースケはメカニック。リヴェイア特別騎甲隊第5小隊は完璧なコンビネーションプレーでシリコンバレーをなぎ倒して行った。しかし敵にも手練はいた。稲妻のようなイエローに身を包んだ機体が閃光と共に戦場を駆け抜けていく。コーゴン達も交戦した。しかし、攻撃を防ぐのがやっとで撤退を強いられた。そしてその直後暴走した南アフリカ連合の一部が持ち出した禁止兵器の「スーパーノヴァ」を使い周辺のコロニーをも巻き込み敵味方多数の犠牲を出した。戦場は当然混乱。コロニーの救助に向かうやつもいれば逃げる奴もいた。そしてそれを狩る輩も。第5小隊も当然決断を迫られた。コロニーの救援に向かうか敵を狩るか、それとも逃げるか。当時の小隊長はコーゴンだった。

「どうする・・・・・・救援に・・・・・・しかしこちらも損害が軽微ではない。帰投すべきか・・・・・・!?」

『 どうするコーゴン?』

『 救援に決まってるだろう!』

アズマの怒号が無線に響く。

「分かっている!だが、このまま行けば無抵抗のまま撃墜だぞ!」

『 知るか!そこで助けを求めている人たちがいるんだ!俺は1人でも行くぞ!』

アズマはヴリィズのブースターを最大展開しコロニーに向かっていく。

「待てアズマ!勝手な行動は! 」

追いかけようとしたその時だった。コーゴンたちの目の前を爆炎が覆う。アズマは一瞬で見えなくなり信号も消滅した。

「ッ!アズマァァァァ!!!!」

南アフリカ連合が2発目のスーパーノヴァを発射したのだ。被害はさらに拡大しコーゴン達は撤退を余儀なくされた。

アズマはMIA認定されたが敵、味方及び周辺コロニーへの被害が大きく捜索は後回しにされた。

スーパーノヴァ発射に関わったとされる8名は戦犯として処刑。リヴェイアとSVとの間には終戦協定が結ばれた。両国は手を取り合い復興に尽力していた。

コーゴン達も当然現地での復興作業に従軍していた。そして3年がたった日だった。休憩用のテントで休憩中にふとソウスケが口を開いた。

「なあ3年前の聖戦、あのスーパーノヴァ発射の件、不審な点がないか?」

「なんだ急に」

ソウスケは持っていたコーヒーをデスクに置き手元のパソコンを操作してとあるソフトを起動した。

「こいつは俺が組んだあの戦いのシミュレーションソフトだ。スーパーノヴァの着弾地点はここ、俺達はここにいる。そして第5小隊の母艦のスレイプニルがここだ」

マップの真ん中にはlanding pointと表示されていた。そしてそこから20kmほど北にピンが三本、hugin01〜03と表示されていた。さらにその後ろにSleipnirと表示された大きなピンがひとつ。

その他にも多数のピンが配置されていた。

「スーパーノヴァ自体は対拠点制圧用超大型クラスターミサイルだ。親から子のミサイルが30本、そこから500基ほどのミサイルを発射する。砲塔用のPRと観測用PR、そして射撃手用のPRでやっと発射出来る。大掛かりな分制圧範囲は大きいが20kmもの制圧力はない。今の技術力じゃ不可能だ。スーパーノヴァ自体の制圧範囲はせいぜい6kmだ」

ソウスケは慣れた手つきでマウスを操作する。

「これが本来の着弾範囲だ。着弾まで3秒」

再生ボタンを押すと当時の状況が再現される。南西から発射されたスーパーノヴァは3秒後分裂、さらに2秒後に最終分離し着弾した。着弾地点から4-5kmの範囲に着弾した。

「本来なら当たらないはずの味方にも当たったということは知らされていなかったのだろう。そしてこれが聖戦で起きた20kmが焦土化したものだ」

もう一度再生ボタンを押し最終分離を起こしたあと半径20kmの範囲の味方、敵問わずピンが消滅した。

「・・・・・・なあコースケ、半径20kmを焦土化する事なんて改造でどうにかなるものか?」

ソウスケとコーゴンはコースケの方を見る。

「メカニックの観点からいえば範囲を広げることは出来なくはない。しかし20kmは無理だ。20kmにするには単純計算で一度に約4発、別々の地点に着弾させなければいけない。互いを爆破しないようにな。そんな面倒なことを戦場ではしてられない」

「だよな。さてここで問題だ。なぜスーパーノヴァが禁止兵器に指定されたか分かるか?」

「それは大量殺戮兵器だからじゃないのか?」

「優等生みたいな回答だな。半分正解ってところだ」

「じゃあ、その半分というのは何なのだ?」

ソウスケは別のファイルを開く。

「こいつはカムラン沖の海底の性質の分布図だ。そして・・・・・・」

さらにそこからとある物質だけに絞る。

「これは・・・・・・!」

「そうだ。こいつが半径20kmの謎だ」

「メタンハイドレート・・・・・・!」

燃える氷とも呼ばれるもの。旧世紀では石油や石炭に較べCO2の排出量が少なく次世代のエネルギーとして期待されていたもの。見た目は氷に似ていて火をつけると燃える。

「旧世紀が終わった時、この地球のほぼ全てが水の中に沈んだ。そしてそれらの有機物がメタンハイドレートになって世界中に埋まってる。それも旧世紀では考えられないほど広く、多くな」

さらに別のファイルを開く。

「これは当時の各陣営のPRの損傷状況だ。ほとんどの機体はミサイルではなくメタンハイドレートによる爆発によって下半身がやられてる。そして海底が爆発してコロニーの土台の支柱が破壊され倒壊。最悪だな」

民間人の死者は22万人に登った。

「それで?これで20kmの謎は解けたがお前の言っていた不審な点というのは?」

「簡単な話しさ。単純に奴らにはスーパーノヴァを撃つ理由がない」

ソウスケは先程のシミュレーション画面に視線を戻す。

「これを見ればわかるが戦況は俺達リヴェイアの圧倒的劣勢だった」

それは戦場にいたソウスケ達が身をもって知っていた。自分たちはそれなりに善戦していたが数で挑んだリヴェイアは一騎当千の活躍を見せるSVのPR、特に黄色いPRのパイロットには多数の味方がやられた。大局的に見ればリヴェイアは負けていた。

「確かにそうだ。追い込まれて撃つならわかるがあのタイミングで撃てばむしろ味方に不利な状況に陥る。南アフリカにメリットはない」

だとすれば

「!仕組まれていたと?」

「正解だ。軍上層部で極秘の取引が行われた痕跡があった。そもそも南アフリカがスーパーノヴァを持ってるところからおかしかった。恐らくウチが譲渡したんだろう」

「理由は?」

「戦いの早期集結、国土拡大、なんとでもある。あのまま戦闘が続いていればリヴェイアの敗戦は秒読みだ。そうなる前に休戦に持ち込み対等で交渉したかったんだろうなウチの上層部は」

リヴェイアは国力や軍事力は世界で1番であったが技術に関してはSVに遅れを取っていた。さらに遅れをとる前に国力の安定化を図るために様々な国を取り込んでいた。南アフリカ連合を取り込もうとしたのもそうした背景があるのだろう。南アフリカ連合はそれなりに対等にリヴェイアやアイルランド連合と戦えたがPRに関しては遅れをとり連合国という体制のため国内もアイルランド連合ほどは安定しておらずとりあえずリヴェイアに恩を売りかわりに国の安全を保証する約束をした。つまり実質的なリヴェイアの支配下となる。

「それで?お前はその情報をどこから?」

「3年間調べ続けてとある高官がゲロってくれた」

「お前・・・・・・そんなことバレたらただじゃすまされないぞ」

「もうバレてるさ」

ソウスケはパソコンをシャットダウンし画面を閉じた。

「どのみち俺はもうリヴェイアに居るつもりはない。お前らはどうする?」

「俺は残るに決まっている。皇帝に忠誠を誓っているからな。お前達だってそうじゃないのか?」

「俺は別にメカを弄りたくてここに入ったからな。忠誠なんてはなっからないさ」

コースケは移動用のホバーバイクを弄りながら答えた。

「俺も生憎そういうのは持ち合わせていない。というか3年前に民間人を巻き込んだ時点でとっくに忠誠なんぞ失せてるさ」

「大義のために犠牲は必要だ!」

「じゃあその大義とはなんだ!!皇帝が掲げる大義とは、世界の恒久的な平和とは結局はリヴェイアだけの平和じゃないのか?共生という道も・・・・・・」

「他の国のことなんぞ考えているほど余裕は無いだろう?俺達が今まで守ってきたのはなんだ?他でもないリヴェイアだろう?お前は共生といいながら結局は他国を侵略してきたじゃないか!」

「俺はあくまでも抵抗してきた奴らだけを倒してきたつもりだ。無抵抗の民間人を殺す虐殺者になったつもりなどない!」

確かにコーゴンの言うことは正論だ。何も間違っていない。それでもソウスケは矛盾を抱えてでも共生という道を目指すと決めていた。

「これでお別れだな」

「何処に行くつもりだ?」

「アズマのところだ」

予想していなかった人物の名前が飛び出しコーゴンは困惑する。

「3ヶ月前連絡が来た。奴は今ジパングにいる」

「生きていたのか・・・・・・」

「奴はそこでジパングから世界の平和を模索している。俺達もそこに行って考えてみるさ」

「ジパング・・・・・・極東か」

極東のコロニー「ジパング」。イーストサイドのコロニーでかつて日本と呼ばれていた場所。リヴェイアの戦争とは全く無縁の場所。あくまでも中立を保ちどこにも加担していない。厳密に言えばリヴェイアから離れているため事実上そうなっていると言えるが。

大昔、旧世紀には黄金の国とも呼ばれたそこで何をしようと言うのだ。戦争とは全く無縁の場所で平和について考えるなど。

「止めないのか?」

「止めたところで行くのだろうお前達は」

ホバーバイクに跨ったソウスケはヘルメットを付けながら答えた。

「まあそうだな。俺にはこのまま歩み続ければリヴェイアはいずれ破滅するように思える。そして今までそれを正そうとしてきた。内部からはたらきかけようともした。しかし無理だった。この国は性根から腐ってた。だから俺は外から変える。この国を」

「いくぞソウスケ捕まっとけ」

「ああ」

コースケに促されレバーを掴む。コースケがアクセルを捻ると勢いよく飛び出した。

「じゃあな。達者でな」

「余計なお世話だ」

そうしてリヴェイア軍から脱走したコースケとソウスケは1ヶ月をかけジパングにたどり着いた。追っ手などはなかった。それどころではないのだろう。

コロニーに着くとアズマはそこでコロニーの行政を任せられていた。まだ発展途中のこのコロニーでは人手も足りなかったそうだ。

「ここのコロニーはいいぞ。風が心地いい。そして人々も暖かい。元リヴェイアと知っても変わらず俺を受け入れてくれた。お前らも時期に慣れるさ」

アズマはコースケとソウスケに住居と職を与えた。コースケはメカニックとしての能力を活かしコロニーの建設作業、ソウスケは漁業とコロニー周辺の調査を与えられた。それからアズマとソウスケは結婚し子供も生まれ新しい生活に慣れていた。アズマはコロニーを治める長となりソウスケはいっそう調査に力を入れた。そしてある日コロニーの海底地下深くに巨大な反応があった。発掘してみると巨大な潜水艦であった。どうやら旧世紀時代の遺産のようで中は今の時代からは失われた技術ばかりだった。とりあえずは発掘し地下に保管することになった。

それからしばらくしてソウスケとアズマの妻は旅行先でハリケーンに巻き込まれ行方不明になる。悲しみに暮れていた中ソウスケはアズマだけにそっと話した。

「アズマ、俺はしばらくコロニーを出る」

「!?何を言ってる?母親がいなくなったばかりなのに子供たちを置いていくのか!?」

アズマはソウスケの肩を掴み迫るが振り返ったソウスケの瞳を見てその手を離した。その瞳は苦渋の決断というような目だった。

「行かなければいけない。俺は・・・・・・」

「ソウスケ・・・・・・」

友人の決意が揺るがぬことを知ったアズマは

「生きるんだぞ」

そう一言だけ声をかけた。

その一週間後、ソウスケは子供たちに漁に出ると言って船を出し行方不明となった。それからアズマはアオイとヨーコ、2人の親代わりとしてミハネ、レンと共に育てた。

そして時は過ぎ昨日、アズマは元戦友と再会する。敵同士という形で。

『このコロニーに神薙アオイという少年が居るはずだ。速やかにこちらに引き渡して頂きたい』

その聞き覚えのある声にアズマは顔を顰めた。

(コーゴン・・・・・・)

相手は油断できなかった。とにかく今は時間を稼ぐ必要があった。

「・・・・・・アオイなら四日前に死んだよ。 まだ若かったのに。 それに仮にこの場にいたとしても貴公らのような連中に渡すわけにいかん」

コロニー全体でアオイを守ると決断したのはコロニー組合長たる自分だ。これは自分で責任をとるべきだと判断していた。だから連れ去られた。特に抵抗もせずに。武器は届けた。ならば彼らは戦えるはずだ。楠アズマとしてはもちろん彼らに生き残って欲しい、だから自分の事は追いかけないで欲しい、そう思っている。しかし、育ててきたからこそわかる。彼らは来る。来てしまう。ならば少しでも生き残れる力を渡したかった。あの潜水艦も生き残るために渡した。

他にも目的はあった。アオイが連れてきた青銀髪の少女、東雲ミズキ。彼女は旧世紀の生き残りだと言っていた。ならばソウスケが調べていたことにも繋がるかもしれない。そう思った。だからそれを含めて護れる力、それがあのビギンズノアだ。

そして、ソウスケの居場所だ。リヴェイアに行ければソウスケの手がかりがなにか掴めるかもしれない。そしてここからのルートなら恐らくあの勢力の圏内に入る。上手く行けばアオイ達の味方をしてくれるかもしれない。それに賭けたのだ。

「お前は変わってないんだ。何も。未だにリヴェイアに居続けてる」

「お前は変わったな。どこで違えたのだろうな。同じ未来を見ていたはずなのに」

アズマはハハハ……と笑った。

「訂正する、お前は変わっていた。とっくの昔にな。23年前からお前は変わっちゃいない。でもそれより前にお前は変わってしまった。俺が変わったんじゃなくお前が変わっちまっただけさ」

その言葉にコーゴンは顔を顰める。

「何故俺を捕まえた?一介のコロニーの組合長だぞ?攫ってなんの意味がある?」

「・・・・・・」

「秘密主義も変わらないんだな。まあアオイ達を捕まえるための餌というところか」

図星だったようでコーゴンは口を開いた。

「我々の目的はあの少女だ」

「東雲ミズキ、彼女が狙いか」

やはり。たとえ技術者ではなくてもその時代にあったものの情報は貴重だ。どこも欲しがるだろう。アズマはそこに気づいていた。だが、

「お前は彼女がただ旧世紀の少女だから狙われていると思っているのか?」

予想外の答えだった。てっきりそうだと思っていた。

「違うのか……!?なら何故……」

「答える義理はない」

そうしてコーゴンは独房をあとにして行った。

「東雲ミズキ……」

そう名乗った記憶喪失の少女は何かを握っている。だから狙われた。

「一体何を知っているのだ彼女が……」

アズマは誰もいなくなった独房の壁にもたれかかって1人呟いた。

 

コロニーを出発してから一日が経とうとしていた。追われる側から追う側となったが油断していてはミズキまで奪われてしまう。幸い艦のAIシステム「REVE」のおかげで自動航行や索敵までしてくれるため各々休憩をとったりしているのでそれほどストレスが溜まる感じもなかった。

改めて艦内を回ってみたが大人ひとりに子供7人で使うにはかなり広かった。個人用の部屋や四人部屋など部屋もかなり多い。ただの潜水艦ではないという事だ。

「なあレヴ、なんでこの船こんなにでかいんだ?」

「アオイさんいい質問ですね。それはこの船が移民船として使われたからです」

「移民船……?だからノア?ノアの方舟か」

約250年前、生き残った人々を乗せコロニー建造までの間の居住施設として機能したとレヴはいう。ならばこれを作った人々は「あの日」が来ることを予期していたのだろうか?万が一の時に作っていたとしても用意周到すぎる……。そんな事をアオイは考えていた。

だがなんにせよ今アオイたちの役に立っていることには変わりない。

ブリッジに戻るとレンが手元のモニターと睨めっこしていた。他には索敵手のヨーコがソナーを食うようにみていた。

「どうしたんだレン、そんな怖い顔して」

「いや今後の補給の話しさ。今俺達はリヴェイアのあの部隊と睨めっこだ。ある程度の距離を保ちつつジリジリ追っかけてる。正直このままの状態で膠着したら食料がなくなる。幸い水には困らないがな」

「補給……それもそうだな」

コロニーを出る時アズマ曰く架空の運送業者を装って食料を確保出来たそうだがそれでも四日分が限界だったそうだ。そもそもただの運送ならば最高速を出してノンストップで飛ばせば世界中どこでも2日とかからない。途中で補給などもすれば十分持つと判断されたのだろう。

一応コロニーから特権パスを得ているので補給はしてもらえる。が、補給できる場所に立ち寄れるかが問題なのである。

ジパングのコロニー群から東に行くとアメリカエリアまで出るまで途中にはコロニーがほぼない。極小規模のコロニー群が存在するが他所のコロニーの船に補給などしてあげられる余裕はないだろう。

「それとさっきから奴らの船、止まってるんだ」

「気づかれたのか?いや、とっくに見つかってるもんな」

「ああ。あいつらはこちらが追ってきていることを知っている。しかしまあこちらもステルス性はピカイチだ。さっきからメインエンジンは切って潜行してるしパッシブデコイもそれなりにまいてある」

現在敵艦は20km前方に停泊。こちらはそれより後ろについてアンカーで固定。

「何もアクションを起こしてこないのが気になるんだ」

「そういう事か。でも特に何も無いんだろ?」

「ソナーには特に……。何かが発進した感じもないし」

ヨーコはヘッドセットを外し大きく背伸びをする。

「ヨーコちゃんそろそろ寝てきな索敵ならレヴが変わってくれるから」

「うん、そうする。レヴ頼むね」

『了解です!レヴちゃん頑張っちゃいます!』

「うん、じゃあよろしく。仮眠とってきますね〜」

ヨーコは大きなあくびをしながらブリッジから出ていった。

「気は抜けないな」

「ああ、若干名まだ慣れてないやつも混じってるが相手はプロだ。学生の俺らがどこまで通用するか」

そうだ。どれだけレンの成績が優秀であろうと所詮は学生。戦場に出ればそんなものは関係なくなるだろう。

「俺達は戦場という大海原に出るための船を得た。ビギンズノアという船をな。ただ舵が定まってないからな」

「でも自信はあるんだろ?」

「まあな」

レンはニヤニヤしていた。レンをつき動かしているのは外の世界への興味だろう。レンは所謂天才だった。だから張り合う相手もいなかった。昔から誰かと張り合いたいと言っていた。それは多分一種の承認欲求だったのだろう。

「今まで積んできた自分の経験がどこまで通じるか試してみたいんだ」

「ま、俺たちが死なないくらいに頼むさ」

「もちろん。お前達を生かす戦術でな」

レンは自信ありげに答えた。その言葉だけで大丈夫だと確信が持てる信頼がアオイとレンにはあった。

 

私は誰なのだろう。ただ一つ、遠い記憶の中で誰かが名前を呼んだ。

『ミズキ、ミズキ……』

私の名前を呼ぶ人、分からない。思い出せない。ただとても温かい声だった。

『君は……通に……きるんだ……。いずれ君を見つけた人を護る人が……一族の使命に縛られることなく……』

モニター越しにその人は優しく触れた。自然と涙が溢れる。何故私は泣いているのだろうか。

その人は何かを決心するとすっと立ち上がった。

『私は行かなければならない……蒼の……使命を果たすために……私で終わりにするよ……あ……しているよミズキ』

「……!!!!」

声が出なかった。いやでていたのかもしれない。でも耳に聞こえていたのは言葉ではなくただただ嗚咽と叫喚だけだった。何故かと聞かれても答えられないだろう。しかしその人は紛れもなく自分の中でとても大切な人だったのだろう。

そしてその人は画面から消え、もう戻らなかった。否、戻れなかったのだろう。いなくなってからミズキは重たい睡魔に襲われ眠った。夢など見ないとても深い眠り、仮死とも取れるほどの永い眠りだった。そして目覚めればそこは蒼穹のごとき青空だった。250年という月日は緩くも激しいものだった。ミズキの記憶すら奪う程に。

時々記憶がフラッシュバックする。それは今のミズキが知らない自分。

自分とよく似た蒼みがかった銀髪の少女、銀髪の壮年の男に青髪の女性。他にも白衣を着た男や女が多数いた。みな笑顔で何かの研究に没頭していた。

切り替わる記憶、炎に包まれる『家』。爆発音が響き渡り爆ぜる。やがて大量の水が入り込み呑まれる。

『私』はコンテナに押し込まれた。そして銀髪の男性に蒼い巨人の胸の位置にあるコックピットに入れられた。

そしてその男が消えるとこで目が覚める。

「また……」

自分に与えられた部屋でミズキは虚空に手を伸ばしていた。いくら伸ばしても届かない手を。

蒼い巨人、アオイがイクシロンと名付けたその機体の中で目を覚ましてからそろそろ3週間経とうとしていた。それから寝る度同じ夢を見ている。そしてその夢は睡眠を重ねる毎に結末へと近づいていた。最初はみんなと幸せにしている所だけだった。しかし最近は一言で言えば破滅。それを繰り返しみている。

服は寝汗でびっしょりだった。ミズキは着ていたワンピースを脱ぐとカバンの中からTシャツを取り出してそれを着た。コロニーを出る時にアオイの妹、ヨーコが買ってきてくれた。とりあえず下着類まで全て揃えてくれたのでしばらくそれを着ることにしている。

「三笠魂……?」

ヨーコが買ってきたTシャツにデカデカと書いてあった。

よく分からないが今の時代にはこういうのが流行っているのだろう。

さらにショートパンツを履く。サイズはちょうどよかった。

コンコンとドアをノックする音が聞こえた。

「アオイだけど」

「入っていいぞ」

プシュッと自動ドアが開く。

「あ、その服……」

アオイの指さした服、ミズキが着ている三笠魂のTシャツだ。

「ああ。ヨーコに買ってきて貰ったものだ。どうだ?似合っているだろうか」

「う、うん。いいと思うよミズキが気に入っているなら」

「ところで何故三笠魂なのだ?」

「ああそれは……」

アオイは近くにあった椅子に腰を下ろし話し始める。

「俺たちの生まれたコロニー、ヨコスカは元々日本にあった場所なんだそこには大昔の戦争で使われた三笠っていう戦艦が公園として現存してたんだよ。今はもう海の底だけど。俺も大昔の本で読んだことがあるくらいだから詳しくは知らないけどヨコスカに住む人の魂を忘れないようにってことなんだと思うよ」

「忘れないように……か」

自分もそんなふうに何か残せば忘れないだろうか。そんな事を思った。

「何か思い出したの?」

「いや……ただ最近夢を見る。家族……だと思う人達が出てきて……そして破滅する……」

「破滅……」

アオイはしばらく黙り込み頭の中で思考をめぐらせる。

「もしかしてそれってさ……」

アオイが話始めようとしたその時だった。突然アラートが鳴り響く。

「なんだ!?」

アオイは椅子から立ち上がり内線に手をかける。

「ブリッジ!どうした!?」

『アオイか?奴らだ。奴らが来た』

レンの声。

それは紛れもない攻撃のサインだった。




どうも作者です。最新話更新は二年ぶりですね。お待たせしました。今回はアズマとコーゴンの関係、そしてミズキの記憶も少しだけ・・・という回。少し唐突な入りでしたが今後のカギでもあります。お楽しみに。

次回予告

出航したアオイたち。カナト達は逃げつつも迎撃に出撃しイクシロンとミズキを奪取しようと試みる。四度目の交戦、その数を重ねるたびレンの中の自信があふれていく・・・
次回蒼き飛翔のイクシロン
交戦


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Depth7 交戦

「もう大丈夫なんですかアイズさん」

カーテンの向こう、病人用のベッドで着替えているアイズにそう尋ねた。

「ああ、まあな。私だけいつまでも寝てるわけにいかないしな」

カーテンを開けアイズがジャケットを羽織りつつ出てくる。頭や腕にはまだ包帯が巻かれていた。

「ほら腕もこの通りさ」

アイズは肩をぐるぐると回してみせる。

「援護射撃くらいなら出来るさ」

「別にお前が居なくても何とかなるぜ?」

「何とかなってないだろうが。可愛い後輩まで撃墜されて。なあレビン」

「うっ……」

レビンは痛いところを突かれたといったところでハハハ……と言って頭をポリポリとか掻く。

「それで?状況は?」

「ああそれがですね、ヨコスカコロニーの組合長であるアズマ・楠を捕まえて……」

「一介の組合長を?何故?」

「それは……」

「私が説明しよう」

ドアが開きコーゴンが病室に入ってきた。

「中立を謳っているコロニーがコロニー組合長の独断で我々に抵抗してきたからだ。やむを得ん」

「……分かりました。アイズ・スルーズ中尉現時刻をもって戦線に復帰致します」

「うむ貴官の復帰を歓迎する。ではこれから作戦を説明する」

コーゴンは病室にあるモニターにUSBメモリを差し込みファイルを開く。

「現在我々はこの地点で停止中だ。そして敵母艦はここで一定の距離を保ちつ進行、現在はロストしているが海底の形状からこの辺りにいると思われる」

画面にはさまざまな情報が表示されていく。海底の温度や成分、気候などなど。

「そして今回の我々の目的は敵母艦の進行停止、そして敵CAHとそのパイロット、青髪の少女の奪取だ」

「奪取?ですか?」

「そうだ。我々が交戦したあの機体は前時代のロストテクノロジーで造られた可能性が高い。皇帝はそれを欲している。そして青髪の少女はそれについて何かを知っている」

「だから少女を奪取しろと?ほかの乗組員は?」

「ほかの者も一緒に奪取しても構わない。しかしやむを得ない場合は射殺だ」

その言葉を聞いた時その場にいた者がみな顔を顰めた。

「……了解しました」

アイズやレビンは両足を揃え敬礼する。

「カナトもいいな?」

「……はい了解です」

「よし、では編成について説明する。現在我々の部隊のCAHは5機中3機が小破、残り2機が中破だ。稼働できるのは予備パーツで修復して3機。しかし中破しているアイズ機と俺の機体を組合わければ1機修復できるそうだ。そのあとはもう補給待ちというところだ」

モニターには機体の状況などが表示される。

「装備はマルチランチャー装備、カナト機は狙撃仕様で出撃する」

コーゴンのその言葉にカナトは少々驚いた。

「ぼ、僕ですか?」

「ああ、そうだ。過去2回の戦闘から3機が前衛、1機が後方支援にあたる戦法が効果的だと判断した」

「しかし僕は狙撃経験なんて無いですよ?」

「本来ならアイズが適任なのだがまだ万全ではないからな。それにお前のシミュレーターの成績はA+だ。問題ない」

「は、はぁ……。分かりました」

カナトは多少不安はあるが命令ならばと割り切って承諾した。

「では作戦は08:00より開始する。それまで各員休息をとれ」

「了解!」

作戦会議が終了しアイズ、レビン、コーゴンが病室かは出ていったあとカナトはもう1つのベッドでまだ目を覚まさないリデッドを覗く。戦闘の後リデッドを回収し帰投した。なかなかリデッドがコックピットから出てこないのでもしやと思いコックピットを強制解放すると中のリデッドは気を失っていた。頭部から出血していた。どうやら打ちどころがわるかったようだ。メディックのララ・ターナー曰く1日もすれば目を覚ますと。

「やっぱり心配?」

「それはそうです」

「まあそうねぇ。そんなに大怪我ではないから問題は無いはずよ」

「は、はあ……」

「傷もそんなに深くないから大丈夫よ。あなたは任務に集中しなさい」

「……わかりました。失礼します」

ターナーに一礼して医務室から出る。まだ作戦開始時刻まで時間があった。とりあえず自室に戻り仮眠をとる事にした。

リデッドが居ないため部屋には誰もいなかった。ベッドに寝そべり天井を見つめる。改めて振り返れば激動の1週間だった。20数年前の戦争中ならともかく今は表面上では平和だ。自分の父たちのような戦いは起こらない。それでも軍人としてリヴェイアを護ろうと思っていた。しかし心のどこかで戦争に参加しないとホッとしている自分もいた。だが蓋を開ければ初陣で未知の戦力と遭遇、圧倒的な力と共に恐怖した。これが戦場、撃墜されれば死ぬ。たとえ士官学校を首席で卒業しようとも戦場での命の価値は等価だ。運の悪い奴が死ぬ、それが戦場の真理だと。それはとてもわかる気がした。

母は、妹はどうしているだろうか。妹は僕の後に続いて士官学校に入ったと聞いた。正直妹には戦って欲しくはないが本人が決めたのなら仕方ないと割り切った。母は相変わらず花を育てながら過ごしているそうだ。

本国は平和だということだろう。調査のためにリヴェイアからでて世界を見て平和なのはリヴェイアだけだなと感じていた。コロニー間の経済格差は激しかった。リヴェイアのように裕福なコロニーはコロニーの防衛隊を組織したりしている。そしてそういう連中がリヴェイアに侵攻してくるのだ。

カナトは人殺しをしに軍に入った訳では無い。この国を、リヴェイアを護るためだ。護るためと言いながら人殺しの理由にしていることも分かっている。しかし、侵攻してくるのならば戦わなければいけない。戦わなければ守るものも守れない。大きな破滅を経験し1度は手を取りあった人類は復興し当時と同じ技術水準、人口まで到達すると過去とおなじ愚を犯そうとしている。人が増えれば思想も増える。やはり仕方の無いことなのか。そんなことを考えていたら自然と瞼が重くなってカナトは夢の世界へと落ちていった。

 

数時間後。作戦開始時刻1時間前を知らせるアラートが全艦に鳴り響く。目覚めたカナトはロッカールームへと急ぎパイロットスーツに着替える。

「よっカナトよく寝れたか?」

後ろから声をかけられた。レビンだった。

「ええ、まあ一応」

「連戦だったしな休める時に休んでおくのがベストだぜ」

そういうとカナトの背中を叩く。

「まっ、背中は任せたぜ後輩!」

「えぇ……自信ないですけど頑張ってみます」

「狙撃なんて簡単だぞ。照準合わせてトリガー引くだけだ」

反対側のロッカーから声がした。アイズである。

「姐さんそれ狙撃だけに限らないだろ」

「覗くなアホ!」

サイドから頭を出したレビンに向けてヘルメットを投げつける。それは見事にレビンに直撃する。

「ツ〜〜!!!!」

声にならない悲鳴を出してレビンは頭を抱えて悶絶する。

「ほら集合だ。行くぞ」

「は、はい……」

そんなレビンをよそに2人はロッカールームをあとにした。

 

 

 

「よし、全員揃ったな」

ゴーゴンは隊員それぞれの顔を確認して言う。

「これより最終確認を行う。最優先目標あの蒼い機体と銀髪の少女だ。余裕があればあの潜水艦ごと捕らえるが油断は禁物だ。では、各自搭乗にて待機!」

「「了解!!」」

それぞれ解散し自機にて待機する。カナトも自分のオーディのケージを駆け上がりコックピットに乗り込む。シートに座るとモニターと計器類が上部から降りてくる。計器類の電源を入れシステムチェックを始める。

「?これ……」

いつもと違うパラメーターが設定されていた。疑問に思っていると整備長が顔を出してきた。

「あー少尉、OSな、ちと狙撃専用に少しいじっておいたからな。火器管制システムとHUDの情報表示優先度とか調整しておいた」

「あっありがとうございます」

「あと一応このタイプは近接戦闘用の武装は持ってるがそもそも得意レンジが違うから近接戦闘は本当に迎撃だけだと思っておいてくれ。くれぐれも自ら仕掛けに行くなよ。HUDの情報処理とか敵の行動予測とか追いつかないぞ」

「だいたいどのくらい変わります……?」

カナトのその質問に整備長は呆れつつ

「あのなぁ今やるなって言ったよなぁ?……まあ仕方ない。戦場じゃ何が起こるかわからないしな。遠距離なら予測から確定まで1.2秒ほど猶予があるが一般的な機体相手なら近距離でせいぜいコンマ5秒ってとこだな」

「コンマ5秒……分かりました。覚えておきます」

「まあ、最悪の場合だからな。それだけは忘れるな」

「了解しました。使わなくて済むといいですけど」

その時だ。コクピットに通信が入る。通信士のクリスティーナ・べーテルの声だ。

『敵潜水艦がいると思われる海溝の探知終了しました。これよりターゲットに対して魚雷による攻撃を行いあぶりだします。魚雷攻撃と同時にCAH隊は出撃してください』

「4番機了解。待機します」

「よし、じゃあ健闘を祈る」

カナトはサムズアップで返すと整備長はコクピットの外へと出ていった。ハッチを閉じて最終確認を行う。

「4番機出撃準備完了しました」

するとそれに続くようにアイズ、レビンが

「こちら3番機同じく」

「2番機も同じくだ」

「よし、では出撃する!!!」

ゴーゴンの声と共にユーリシャスは浮上、ハッチが展開する。ゴーゴンの一番機、レビンの2番機に続きアイズとカナトの3番機、4番機も出撃する。

レーダ上には先程ユーリシャスが発射した魚雷の軌跡が表示されていた。そして数秒の後全てが着弾の表示に切り替わる。通常弾の他にソナー弾も混ぜてあった為レーダ上にソナー反応が広がる。すると

「!!!ありました。大きい反応、恐らくあの潜水艦です!!!」

アイズの報告を聞いたゴーゴンは

「よし、各機、作戦通りに展開せよ。カナトは後方から援護を」

「了解しました」

カナトは進行を停止しその場でホバリングをしてスナイパーライフルを展開、狙撃用のHUDを起動しスコープを下ろす。

「(今度こそ逃がさない……神薙アオイ……)」

1度深呼吸をする。すると余計な緊張感は自然と抜けていく。残ったのは戦闘に対する緊張だけ。その目は確かに獲物を狙う獣のようだった。

 

 

「レヴ、エンジン始動、しかる後急速潜航だ!!!」

『了解しました!!!』

「ホロシールド、後どのくらい持つ?」

『うーんこの程度の攻撃ならエンジン始動まで余裕で持ちますしそのまま戦闘も可能ですね』

「よし、ならいい」

その言葉を聞いてひとまず胸をなでおろした。レンはひとまず落ち着くことにした。焦りが1番判断を鈍らせる。程なくしてヨーコ、コウキ、ジュン、ツバキが戻ってきた。

「よし、全員揃ったな。エンジンは始動済みだ。ソナー、警戒を。レヴは防御に集中して火器管制システムと操舵は仙道と櫟に任せろ」

『あいあいさー!!!』

「海面を移動する反応が4つ、いや3つです!!!後は遠方にスクリュー音と……その間に海面で停止してる音がする……」

「わかった。ヨーコ、もう少し探ってみてくれ」

レンの言葉にヨーコは無言で頷き耳を澄ます。その時ブリッジにアオイが駆け込んできた。ミズキも一緒だ。レンはミズキの服を見て一瞬吹きかけたが咳払いをして持ち直した。アオイも一瞬不思議そうな顔をしたがすぐに察したようで苦笑した。しかし直ぐに切り替えた。

「レン、状況は?」

「ん……第一種戦闘配置ってとこだな。敵は3機と母艦、それと海面にいる何かだ。気をつけろよ。ミズキはそこの空いている席に。揺れるからな」

「了解した」

「それじゃ出撃する」

そういうとアオイはダッシュでブリッジを後にしようとした。が、

「待ってアオイ私も」

アオイの手を引っ張ってミズキが呼び止めた。アオイはその手をそっと握って

「いや、大丈夫だ。ビギンズノアが起動した今ならここの方が絶対安全だ」

「でも機体が……」

「大丈夫。イクシロンも頑丈だ。ここの方が安全だけど……とにかく大丈夫だから!」

そういうとアオイはブリッジを出ていった。その背中にミズキは一抹の不安を覚えながらも大人しくシートに座った。

「よし、イクシロンを出したら潜航しつつ援護する。向こうのCAHは攻撃オプションはあっても潜航するための装備は持ってないはずだ」

「なるほど。上部発射管に魚雷装填しておく」

「頼む」

コウキは手早くコンソールを操作する。ヨーコはソナーに耳を澄ませていた。未だに海上に一つだけある反応が何をしているのか掴めないでいた。

 

 

「おやっさん!!」

「アオイ、準備は出きてるぞ」

「了解!!」

コックピットに飛び込みコンソールにペンダントをかざす。ex-Yの表示のあとシステムが順に起動していく。

「ああそれとレールガンだがな、前回お前が帰って来る間にアズマが使ってた奴がたまたまビギンズノアの近くに落下してきたんでな。回収しておいた」

「それって……まさか」

「……ああ多分アズマは分かって落としたんだろう。どこまでも計算してるやつだ。あれに入ってた弾も補充してある。それでも7発しかない。大事に使え。まあ死にそうになったら盛大にぶっぱなしゃいい」

おやっさんのその言葉にアオイは安堵した。

「わかった。生きて帰ってくるよ、おやっさん!」

「おう。……よしミハネ、カタパルト動かせ!!!」

そういうとコースケはコクピットハッチから頭をひっこめ昇降用クレーンで降りていった。

「あいよ!!!ちゃんと生きて帰ってこいよアオイ!!」

「もちろんだ!!!」

激励するミハネにアオイはサムズアップで答える。

 

「艦長、格納庫から準備完了の連絡が」

「了解した。発進しろと伝えろ副長」

「了解、ミハネちゃんOK出たわ」

ツバキは手元の画面に映るミハネにOKを出す。

『うっし、了解した』

通信が切れ画面がブラックアウトする。すると今度はレヴが割り込んできた。その顔はかなり不満そうだ。

「どうしたの?」

『むぅ……私のお仕事少ないですぅ……』

確かに現状レヴがやってるのは艦内の生命維持だけではあるのだが攻撃システムや防御システム、機関に関してもツバキ達がやりやすいようにシステムの処理を数段レヴが省いてやってくれている。それだけでも充分なのだが彼女は不満だそうだ。その顔を見たレンは素っ気なく

「じゃあミハネと一緒にCAHのナビゲートでもすればいいんじゃねえか?」

『……おおっ!!ロボットアニメでよくある"アレ"ですね!!!行ってきます!!!』

そういうとハイテンションで通信を切っていった。

「アレって……妙に人間臭いよなナビ子……」

「そんなこと言ってるとまた怒られますよ。それより状況、動くんじゃないですか?」

すぐに気持ちを切り替えて先頭に集中する。だがレンは1人だけ割り切れない顔をしてる奴を見つけた。ミズキだ。

「心配か?」

「ああ」

既に3回目とはいえそうすぐに戦闘に慣れるわけが無い。それにアオイは人を殺しかけた恐怖も知ってしまった。まだ17の少年がもう3度も命の危険がある戦場に出ている。それも全て自分のせいだ。無理をさせているのではないか、そう思ったら不安が頭を覆い尽くしていた。

「お前よりはアイツと付き合いが長いから分かるけどな」

ふう、と一息ついて

「アイツは自分がやるといったからイクシロンに乗ってるんだ。別に誰のせいでもねぇ。強いて言うなら……まあ男の覚悟ってやつだ」

「覚悟……」

その言葉を聞いた時自分の中にあったはずの過去の記憶と重なった気がした。覚悟、そう言われれば自分がすることはひとつ。

「信じる」

「え?」

「アオイの覚悟を信じることにする」

いつも怒っているのかと思うほど感情が表に出ないミズキだがそのときの顔は心做しか柔らかくなったような気がレンはした。

「よし、なら俺たちの操艦も信じてもらおう」

そういったレンの横顔には笑みが現れていた。彼がこういう時に笑うのは緊張が解けた時だ。そしてこの時の彼は本当に強いとツバキは知っている。だが同時に危うくもあると。

「艦長指示を」

「ああ、アオイの出撃後潜るぞ!!!総員準備しろ!!!」

「了解!!!」

その笑みは確かな自信であった。

 

ビギンズノア右舷格納庫、イクシロンを電磁柵が覆いながらカタパルトへと移送されていく。3重に作られた扉が開きカタパルトに固定される。

すると両脇から膨大な量の水が注水される。

「右舷注水完了」

『スーパーキャビテーションモードでイクシロン固定完了です!』

唐突にミハネが映るモニターの横に別のウインドウでレヴが割り込んでくる。

「うぉっレヴ!?」

『艦長がやることないって言うならイクシロンの出撃シーケンスの手伝いでもしてこいというので来ました!!!というわけでスーパーキャビテーション式カタパルト出力上昇、ユーハブコントロールです!』

「おお……アイハブコントロール……?」

レヴのテンションの高さにアオイが困惑していると

『もう分かってないなぁ!!!さあ、かっこよく出撃してください!!!』

「あーもうわかったから!神薙アオイ、イクシロン、ブースト!!!」

操縦桿を前に倒しフットペダルを踏む。電磁柵が解放され機体の前面を大量の泡が包み込む。機体が水の抵抗を受けなくなりカタパルトの勢いを殺すことなく飛び出す。

船体のバランスが悪くなるので注水した水を抜いているとレヴが鼻息を荒く……いや画面の中での話なので実際は鼻息などないとは思うのだがそれは置いておいて。何か感慨深いと言った表情で腕組みをして首をずっとたてにふっていた。

『いやぁやっぱりいいですねぇこういうの。まあアオイさんはまだまだですけどねぇ』

そんなレヴに呆れつつも作業を完了させたミハネは

「はいはい、ここも終わったからレヴは艦の情報処理に集中してください」

『はっそうだった!!行ってきます!!!』

ミハネに指摘されズボシだったようでレヴはぶつんとモニターを真っ黒にして去っていた。

「本当に人間臭いよねあの子……」

「ああ、300年前のAIてぇのはあんな表情豊かなもんなんだなあ。さて、俺たちも機関室に行って待機だ」

「了解おやっさん」

そうして2人はカタパルト横の制御室を後にした。

 

「隊長、レーダーに反応。これ、あの機体です!」

「よし、戦闘行動に入る。やつを行動不能にするぞ。全機フォーメーションアルファ3!!!」

コーゴンの通信を音頭にアイズ、コーゴン、レビンが三角形に広がる。フォーメーションデルタと違い突撃陣形ではなく目標に対して前に2機、後ろに1機の防御フォーム。なのだが……。

 

「レーダーに反応、3機……!!!」

海中を高速で進むイクシロン。あと40秒程で接敵する。さて、どうでるか。

向こうのレーダーにもおそらく捕捉されている。正面から突っ込むのは得策ではない。向こうにはアオイが渡り合えるレベルの兵士が2人ほどいる。とはいえ残りはこれまで生き抜いてきた戦士だ。こちらも戦闘については素人。油断はできない。イクシロンの化け物じみた性能がなければ何度かアオイは死んでいた。

『アオイ、敵は防御陣形だ。1機ずつ確実にいけ』

「わかった」

レンから通信が入る。レンの判断は適切だ。アオイよりはまだ状況が分析できる。

レーダー上の敵機を示すマーカーが徐々に近づいてくる。接近を示すアラートがコックピットに鳴り響く。

アオイは呼吸を整える。ふぅと大きく息を吐いたと同時にマーカーが自機の直上に重なる。

「いまぁ!!!」

巡航中だったイクシロンを上昇させ大量の水しぶきと共に海の中から巨人が現れる。

目の前に居たのは2番機、アイズの機体だ。無論それをアオイは知らない。

「隊長、かかりました!!!」

「よし、レビン、アイズ、手筈通りにな!!!」

「「了解!!!」」

「カナトも集中しておけ」

『了解しました……』

交戦するコーゴンたちのはるか後方、狙撃仕様のオーディが停滞しライフルを構えている。カナトはトリガーから指を離すことなく状況を見極める。緊張からか手は震えていたがなんとか呼吸をして抑えようとする。これは重大な役割だ。失敗はできない。新たな狩人が産声をあげるにはまだ舞台が整っていなかった。

 

「アオイが動いた。潜るぞ!!!」

「了解した!!!」

ジュンは操縦桿を握りしめて船体を潜行させる。

「敵の母艦、あれから動きませんね」

ツバキは手元のモニターに映った周辺の分布図をみて呟いた。確実にこちらの位置はバレている。はずなのだがあの魚雷攻撃から動きが全くない。ソナーにもスクリュー音と大きな影が反響している。

「どうせバレてるんだ。藪をつついてみよう。コウキ、通常弾頭で魚雷4発装填、ターゲットの周りで爆散するようセットしろ」

「直撃させなくてもいいのか?」

「牽制だからな。そんなもんでいい」

「了解。発射」

コウキがトリガーを弾くとレーダー上に魚雷のピンが4本大型反応に向かっていく。そして数秒後自爆し消失する。

「ヨーコ、今のデータ取れたか?」

「はい、あらかたシルエットまでは」

「よし、レヴ、リヴェイアのデータベース漁って敵さんのスペックとかもろもろ引っこ抜いてきてくれ」

『えっ!?私!?』

レヴは突然のことにモニターの中でびっくりして変な声をあげる。レンは頭を抱えてかなりでかいため息をつく。

「暇だから仕事欲しいって言ったのはどこのドイツだ……?」

『ヨーロッパの私ですね……。でもこの太平洋のど真ん中でサーバーまで繋ぐなんて通信衛星が飛んでる時代ならともかくこの時代ざっとサーチしましたけどそういう類の見当たらないんですけど』

「この時代は基本的にコロニーに通信機器乗っかってるんだよ。まあ確かにビギンズノアの有効範囲にコロニーはないけど、ちょうど目の前に中継に使えるのがいるだろ」

レヴはうーん……と頭を抱えて悩みこんでいる。レンはまた大きなため息をついて

「敵母艦中継してリヴェイアのサーバーにアクセスできるだろ……」

『あっそっか!!!敵母艦経由してさらにほかのコロニー伝いにリヴェイアサーバーまで行けます!!!よし!やりますよ〜!!!』

少し戻ればジバングコロニー郡に入って通信できるがそんなことはしてられない。逆に敵母艦がいる位置ならばアメリカのコロニー群が少し範囲に入る。そこからさらにコロニーを伝っていけばリヴェイアのサーバーにアクセスできるはずだ。

『よし、リヴェイアまで到達……アクセス開始っと〜。ふむふむやっぱりこのくらいのセキュリティですか。250年前とは違いますねぇ。えへえへ』

「静かにやれ……」

『あっありました!!!』

すると正面の大型モニターに次々とデータが表示されていく。

『えーとリヴェイアの最新式の潜水艦ですね。UXENON級11番艦ユーリシャス。所属は第11独立機械化試験班。配属人数は船員74名、CAH5機とパイロットも5人、2304年5月月22にリヴェイアを出港しイースト方面の調査をしつつ5月31日に極東エリア旧ジパングの調査を開始。全長250m、全高25m、全幅12m……全重量が……』

「よし、もう大丈夫だ」

『武装は魚雷発射管15、設置型魚雷発射管5、防御システムは鱗型装甲で〜』

「もういい……」

レンはモニターの音量をオフにする。レヴは気づかず目を輝かせながら未だにモニターの中でデータを読み漁っている。

「このAI作ったやつはなんでここまで人間臭くしたんだほんと……」

「それで、何が知りたかったの?」

「いやな、向こうも補給が必要なんじゃないかなと思ってな」

レンは手元のモニターをスワイプするとツバキの手元のモニターに先程レヴが提示したデータの抜粋が送られてくる。そこには出港日と立ち寄った場所が載っていた。

「これ通りなら最後に補給を受けたのは5月29日、今日は6月4日」

「3日以内には補給しないといけませんね。ここの最寄りの拠点は……」

ツバキは手元のモニターを操作する。すると周辺地図の抜粋が表示され周辺のコロニーの位置がピンで示される。

「南アメリカ戦線……」

現在主にリヴェイアが争っている地域はリヴェイアの東、旧ルーマニア付近を境にアラブコロニー群や旧ロシアのソレスティアなどの連合国と未だに戦っている。

そしてもうひとつの大きな戦線、それが南アメリカ戦線。現在の地球にて数少ない大地が残る地域。強国SVプラントへの進軍への拠点にしたいリヴェイアとそれを阻止したい南アメリカと支援するSVプラントによって長期にわたって戦い続けている。リヴェイアは戦闘の裏で旧フォークランド諸島海域に移動基地「フォークランド」を建設。南アメリカ地域を占領した暁にはこの基地を大地に隣接させ速やかに要塞化するためらしい。

「リヴェイアは各地に拠点があるし補給にそこまで困ることがないから貯蓄はせいぜい1週間。向こうはあともう少しでその貯蓄がなくなる」

「でも南アメリカ戦線に突っ込むなんてこと私たちには無理でしょう。戦力はイクシロン一機で母艦の乗組員もほぼ学生。潜水艦1隻相手にするのとはわけが違います」

ツバキの意見は最もだ。だがこのまま追いかけ回してもいずれフォークランドにはいはれてしまう。そうなればもう手出しはできない。アズマの行方もどうなるか分からない。どこかで行動を起こさなければ。レンの中で焦りが募る。無意識のうちにシートの肘置きに指を置いてトントンとリズムを奏でていた。それに気づいて胸の前で腕を組む。焦っている時に出てしまう悪い癖だ。

(せめて潜水艦だけが相手なら……)

敵の護衛がおらずイクシロンも使えて、と考えれば所詮甘い考えである。

「アオイの状況は?」

「依然交戦中。戦況は……あまり芳しくないかも」

「……森宮、仕掛けて見てなんとかなると思うか?」

レンの問いにしばしの沈黙のあとツバキは口を開いた。

「……ならない。仮に攻撃が成功してもそれで貴方のお父さんが無事でいられるか保証はない。目的、忘れちゃダメよ。あの船に勝つことじゃない。ミズキさんを守りお父さんを助けるんでしょう」

「……ああ。そうだな」

やはりこの女を副長において置いて正解だった。恐らくこの女以外では反対はしてもレンを納得させるのは難しかっただろう。副長というのは艦長を支えるもの。業務的なことはもちろんではあるが賛同だけする副長ではダメだ。しっかり自分の意見をいい艦長の命令に異を唱える事が出来るもの。それが副長としての最善だとレンは考える。そしてかのパックワーカーも自著で述べていた。それらの知識がレンに自信を与えてくれている。そしてビギンズノアという力もある。それを動かす人間もAIもいる。だからこそこれを使うなという方が酷である。確かに勝つことは目的ではない。だがそれはアオイの目的だ。レンの目的は世界を回ること、そして自分の力を試すことにある。確かにアオイは親友だ。しかし親友だからと言うだけで着いてきた訳では無い。いわば利害の一致というやつである。だがツバキの言うことも事実。だからレンはツバキの意見も踏まえた上で次の行動を決めた。

「よし、敵母艦にカチコミに行くぞ」

「は!?」

ツバキは驚愕の声をあげ立ち上がった。当然だ。人の話を聞いていなかったのか、が第一声だろうとレンは思った。しかしツバキはレンの顔から何かを悟ったのかレンの予想を裏切り落ち着いた口調で

「この状況でCAA無しに突っ込むのは無謀でしかありません。賛同しかねます」

と返してきた。まあその返答も予想の範囲内であった。

「狙うのは撃沈じゃない。あくまで陽動だ」

「陽動……」

「そうだ。これを見てくれ。この一帯の分布図だ。もう少し行くと海溝がある。そこを通って近づく」

レンはコンソールを操作し作戦を説明する。

敵艦は先程から動きを見せていない。こちらがちょっかいを引っ掛けて敵艦を引きつける、さらにアオイと戦闘しているCAHがひきつけられたらなおよし、と言ったところ。

「それに、近づけばソナーの異音も何か分かるかもしれないしな」

敵艦に仕掛ける上での不確定要素はそれだった。何がそこにあるのか。それをはっきりさせることも出来る。

「分かりました。それも含めてなら同意します」

渋々納得したのか彼女はシートに座り直す。渋々と言ったのは彼女の目が分かりやすく不満を語っていたからだ。これはあとからお叱りが来るぞとレンは内心苦笑した。自分の判断のせいとはいえ彼女に怒られるのは怖い。いつだって委員長タイプと言うやつは怒ると怖いのだ。

そんな事を心の片隅に思いながら息を整えシートに座り直す。

「よし、ジュン海溝に沿って準戦闘速度で進んでくれ」

「了解っと」

ジュンはスロットルを前に倒し船を進める。船体は潜航をやめ海溝を進んでいく。

「ヨーコ、敵艦との距離は?」

「ざっと3800……いや、待って向こうも動いた!!」

「こっちの喧嘩を買ったか……さて、どう動く」

自身の可能性が絶え間なく試されていく海という教室は少年の心を昂らせると同時に世界の広さをその身に理解させていく……。

 

 

 




どうも作者です。先日蒼き鋼のアルペジオの原画展に行ってまいりましてArk先生のネームのすごさにいたく感動したところであります。さて僕はそこまで戦艦やら潜水艦に詳しいわけではありません。好きではありますが。そのため今回とかにもあった潜水艦同士の戦闘描写はとても苦手です・・・。僕の頭の中ではこう動いてここでこういう仕掛けが!とかはあるんですがそれが皆さんに伝わっているかどうか・・・精進します!ではまた次回。

次回予告
動き出した戦場、アオイとレンそれぞれの戦いをする中海に魅入られたレンがある行動を起こす・・・
次回蒼き飛翔のイクシロン
渦巻く海


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Depth8 渦巻く海

少し前、UXENON級ユーリシャスブリッジ。

この船を束ねる艦長たるジャン・レボルトはその無精髭を先程からずっと手で撫でている。彼の考える時の癖である。

数日前からずっと考えている。この任務のことだ。機械研の任務であることは変わらないが今回に関してはイレギュラーばかりだ。最初の調査で訪れた極東でunknownに遭遇してからそれらをおってばかり。しまいにはコロニーの組合長まで攫ってきた。明らかに本来の任務から逸脱している。今回の任務については艦長たるレボルトまであまり情報が降りてきていない。確かにこの船の艦長はレボルトだが隊全体の指揮はコーゴンなのだ。レボルトも彼からの命令で動いている。彼は聖戦時代から戦場に身を置いてきた軍人だ。レボルトも聖戦において一乗組員として戦場にいた。その頃から知っている相手だから信用はしている。だが今回の任務はやはりどこかキナ臭さを感じる。

極東地域の調査は二の次、あの青い機体と少女を捕まえることが第1優先になっている現状だ。乗組員たちも疑問に思い始めている。それに度重なる戦闘で乗組員たちに疲労も見え始めている。それが迎撃ならば仕方ないがこちらからの攻撃なわけで。しかも本来の任務から外れている物だから乗組員たちもなんのためなのか分からなくなっているのだろう。早めにリフレッシュさせてあげたいと思うし補給も必要なので最寄りであるフォークランドに早めに入港したいところである。

「オペレーター、状況は?」

レボルトは自分から見て右手のオペレーター席に座っている女仕官 クリスティーナ・べーテル少尉に向かって聞いた。

軍人になってから3年が経つ彼女だが元々秀才だったのに加え実践も経験した事でとても優秀な軍人に成長した。最初にここに配属された時から現場の流れを読んで的確に物事を伝達し艦内の指示を統一してくれている。3年もここにいると阿吽の呼吸とも言うべきものを発揮してくれる。この船の副長とも言える存在だ。

「コーゴン隊、交戦開始から420秒経過。こちらが優勢のまま推移しています。敵母艦は最後に240秒前に潜航してからはロストしています。恐らくパッシブステルス機能と思われます」

「ふむ。報告ありがとう。さて、貴官からみてこの状況、どう思う?」

「先に潜航した敵母艦ですがまず間違いなくこちらに攻めてくると思われます。こちらがあまり動きを見せないので陽動目的で攻撃してくる可能性もあります。敵の青いCAHに関してはこちらは未だ例の青い翼を生やす状態に移行していないことを考えると移行される前に鹵獲できるか出来ないかによると思われます。カナト少尉の狙撃に関しては未知数なので移行されたあとの状況は推察しかねます」

「いい分析だ。じゃあ先程の海域図出せるか?」

「はい。……こちらが先程の分析図です。そして例の物の設置位置がここです。そして敵艦が潜航した位置から考えられる予定航路がこちらです」

クリスティーナはテキパキと前方のモニターに情報を重ねていく。まず表示されたのはこの周辺の海域図、そしてさらにそこには現在のユーリシャスの位置、設置した"例の物"の位置、そして赤い表示で敵艦の消失ポイントとそこから予想される推定航路が表示されていく。

「よし、ではこちらも動くとしようか」

「了解しました。全艦に通達、これより本艦は敵艦との戦闘に入ります。非戦闘員は待避、戦闘員たちは持ち場にて待機」

「よーしブリッジの諸君、久方ぶりの対艦戦闘だ。気合い入れてけよ!」

レボルトの言葉に艦橋全体の空気が変わる。今回の任務では初の対艦戦闘だ。当然といえば当然だ。ここで足を抑えておけばフォークランドまで入港するのも容易いだろう。

レボルトも気持ちを切り替える意味も込め1度咳払いをした。

「ン……では微速前進、しかる後戦闘速へ移行」

椅子に座り直し手を胸の前で組む。こうすると落ち着いて戦況が見れる。なかなか抜けないこれまた癖のようなものだ。

「さて、どう攻めてくるかな青い鯨くん?」

この大海原で何度も戦ってきた歴戦の男であるレボルトでさえも戦の時は胸が高鳴る。それは確かにこの海に魅せられた証ということだろう。

 

「敵艦、距離詰めてきます約3000!」

「よし、ソナーそのまま警戒、こちらも詰めるぞ。ジュン、速度上げ20」

「了解。速度上げ20」

ユーリシャスとビギンズノア、2つの船のチキンレースが始まった。向こうが減速した時スキができる。その時が攻撃のチャンス。

先程のレヴの解析でアズマが囚われているであろう独房はわかった。幸い船のバイタルパートに含まれていたので多少の攻撃では影響は無いはずだ。

ならば機関停止を狙い人質の解放を突きつける、そうすればアズマは取り戻せる、そう踏んだ。そのためにはできるだけ近づく必要がある。この読み合いの場面、先に好きを見せた方が負ける。こちらは装甲にも余裕がある。単純な戦闘力なら勝てる。

その余裕が顔に出ていたのかレンの隣ではツバキが怪訝な顔でレンを見ていた。ツバキにも当然実戦経験はない。先輩やほかのコロニーとの模擬戦に勝利したことはあったが。その模擬戦での勝利がレンに余裕と自信を与えているのだろうと思うとどこか複雑な気持ちになる。たとえ先輩たちと言っても所詮は素人。新人混じりとはいえ本物の軍人相手とは訳が違うだろう。そういう事を思いながらも戦闘に集中しなければと姿勢を正した。艦橋を見渡すとヨーコはソナーと音紋解析に集中しているしジュンも操舵に集中している。コウキは戦闘に備え各種火器管制システムのチェックと魚雷の装填をホログラムキーボードで操作していた。

視線を移し右斜め前。ミズキはまっすぐ正面のモニターを見つめていた。戦況が気になるのだろう。CAH同士の戦闘は先程からあまり状況は変わらず一進一退を繰り返している。3機いるうちの1機でも引き付けられれば良いのだがこちらに向かってくるような様子もない。陽動として動いているこちらとしては現状あまり良くないということか。

視線を手元に戻す。モニターの中でレヴは未だに色々と漁っている。あちらの音声は先程レンがカットしたので聞こえていない。銀髪ツーサイドアップの少女がヨダレを垂らしながら書籍型のデータを読み漁る姿はなかなかにシュールである。まあ確かに200年以上眠りについていてその間に世界の様相は180度変わっているわけで。当然色々なものに興味が出るのはわかる。わかるが、戦闘中なのだが……とも思うわけだ。

呆れて少し緊張がゆるんだ自分を律するようにシートに座りなおす。自然とため息が出た。それが何に対してかはわからない。しいて言えばこの状況すべてに、だろう。皆それぞれ自分の役割で手いっぱいだ。もしレンが何かやらかそうとしたら止められるのは副長である自分だけである。そうならないように祈りつつもまたなるんだろうなとどこか諦めてしまっている自分がいる。その事実に二度目のため息を吐いたのと状況の流れが変わったのはほぼ同時だった。まるでツバキの苦悩を嘲笑うかのような警報は敵からの攻撃が来るという合図だった。

「ヨーコ、どこからだ!?」

思わず立ち上がったレンの顔には確かに焦りが見えた。

「80m先、発射音5つ確認!……直下です!このままだと直撃コース!」

「……!!やられた……!」

ツバキは手元の端末を素早く操作する。さきほどレヴが読み上げた敵艦のスペック、その中に設置型魚雷発射管が含まれていたのを思い出した。間違いなくこれだ。

「レンどうするんだ!!回避できないぞ!?」

ジュンの叫びがレンの焦りを加速させる。が、人には不思議とこういう時にふと冷静になる瞬間がある。他に策はなかった。やるしかない。

「ジュン、限界まで船首を上げて船体を縦にしろ!!」

「はぁ!?間に合うわけ……!!」

と言いつつも文句を言っている暇はないため操縦桿をめいいっぱい手前に引いて船体を縦にしようとする。加速しようとしていたところで縦になろうとしているためとてつもなく操縦桿は重く思ったようにならない。

「ダメだ!!間に合わない……!!」

「くっ……レヴ!!強引にでもいい!!船体を縦にして被弾面積を減らすんだ!!」

唐突に呼ばれたレヴは本の山の中から慌てて顔を出し

「はぁいっ!!」

と同時に艦全体が一気に縦になっていく。

さらにアラートが鳴り響きヨーコが叫ぶ

「敵艦接近、30秒後に直上!!」

下からは魚雷、真上には敵艦が迫り恐らく向こうも魚雷を射出してくるだろう。こうなれば多少の無茶は仕方がない

「こうなったら……レヴ!!シールド前方に集中!!それと同時に魚雷発射しろ!!」

「一度にイロイロイワナイデクダサイ!!」

急なことで処理が追いつかなくなったのかレヴのヴィジュアルは粗く8bitのドット絵になっていた。

 

ユーリシャス、ブリッジ。

「敵艦、船体を縦にして上昇してきます!!」

「なんだと!?くっ……回避だ!!」

レボルトはクリスティーナの報告に焦る。

互いに加速したこの状態。突然曲がったり止まれる訳もなく(AIに強引にさせるという手はあったが)巨大な船体同士が激しく激突した。激震に必死にシートにしがみつく。やがて収まった時には船中に警報が鳴り響いていた。モニターにはDangerの文字。ちょうど敵の潜水艦がぶつかったあたり、かすった程度で済んだようだがそれでも鱗型装甲を貫通し一部浸水していた。

「該当ブロックを注水してバランスを取れ……!!敵艦は?」

「...ッ本艦と激突後さらに上昇していきましたが設置型発射管から射出された魚雷の着弾を確認しました。おそらく機関に損傷をおっている模様……です」

クリスティーナは頭を抑えながら答える。激しい揺れのせいでどこかにぶつけたようだった。

「よし、ひとまずだ敵艦から離れる。全艦に通達。ゴーゴン隊長にも状況を知らせておけ……」

「はい……」

同ユーリシャス、独房ブロック

「ったく、激しい揺れだったな……攻撃に当たったのか」

アズマは手錠で繋がれ不自由な腕を何とか使い身体を起こす。まだ節々が痛むが衝突した時咄嗟に床に突っ伏していなかったらもっと大変なことになっていたかもしれない。そう思えばこれくらいは軽かった。

「……あいつら、無茶するなぁ。全く、誰に似たんだか」

壁に背をつけ、ふぅと一息付き自分の血を分けた少年のことを思った。

「レン、無茶と無理は違うからな」

その言葉が届くことは無いがもし伝わっていたならば彼の選択は変わっていたかもしれない。

 

「レヴ、船の状況は……?」

レンはシートに座り直して手元の端末の中にいるレヴに聞いた。当たりどころが悪かったようでシートから放り出され身体の下敷きになった右腕が少し痛む。

「バイタルパートの損傷はないです……航行は可能。しかし機関が一部損傷したため速力は20%ほど落ちます!シールドも戦闘には耐えられないです……」

先程のドットから復活した元のレヴは画面上の船体のデータ上を右往左往しながら答えた。

「機関室の状況は?おやっさんとミハネは無事か?」

「詳細はわかりませんが生体反応ふたつ確認。簡易メディカルチェックの結果健康に問題はありません」

「そうか……」

2人の無事に安堵するのと同時に後悔が襲う。これは自分の慢心が招いた結果だ。もっと上手くいくと思っていたが咄嗟に繰り出したのは特攻まがいの体当たり。艦長として最悪の手を切ってしまった。他に手はあったはずだ。一気に増速すれば魚雷は避けられたかもしれない。縦になって急制動をかければ敵艦にぶつからなくても魚雷を撃ち込めたかもしれない。様々な手があったと終わってから気づく。あの時もっと冷静になって判断していれば……。あれやこれやと頭の中でグルグル周り心拍数と体温が上がっていくのがわかった。呼吸が荒くなる。もう仲間たちを直視する自信はなかった。ツバキが何か言っているようだったが耳に入ってかなかった。

憔悴して顔を伏せたままのレンの手に何かが触れた。自分と同じ人間の「手」だ。白くしなやかな手。温かかった。顔を上げるとツバキがいた。

「森宮……」

目をずっと合わせていられる自信はなくすぐに顔を逸らした。怒っているのだろう。少しだけ見えた彼女の顔はいつもよりも怖かった。ああ、怒られるだろうなと思った。だが、

「言いたいことは沢山ありますが、それはあとにします。だから後悔も悩むのも後にしてください」

その言葉はレンを現実に戻すには十分だった。

「まだ彼は戦っています。貴方の指示で。彼を戦場に送ったのは艦長で指揮官の貴方だ。ならばその責務を果たしてください」

そうだ。今、アイツは1人で戦っている。俺の指示で。俺に大切なものを預けて。

彼女はレンの手を握り彼の前にしゃがみこみ顔を覗いた。ああ、今更だがコンタクトにしたんだなと思った。綺麗な鷲色の瞳がこちらを覗く。

「怒ることも後悔することも死んだら出来ないですよ。だから、まずはここを生き残らなきゃいけない。そして私達を生き残らせることが出来るのは貴方だけなんですよ、艦長」

ああ、そうだ。みんなの命を預かっているのは俺だ。やらなければいけない。後悔の続きは後だ。

ツバキの手を握り返し深く深呼吸をする。身体中に酸素が行き渡り呼吸が落ち着く。

顔を上げてブリッジを見渡す。皆こちらを見ていた。ミズキも含めてだ。その目は確かにレンに対しての信頼があった。やらなければいけない。この目はもう二度と裏切れない。もう一度深呼吸をする。腹は決まった。

「よし、敵艦も恐らくすぐには戦闘を再開するのは無理だろう。謎の反応を解析しつつアオイの援護に向かう!!」

「了解!!」

流れが変わったとツバキは感じた。しかし、彼女が思っているよりも遥かに海という生命の母はそう簡単に彼らを離したりはしない。

 

 

 

 




どうも作者です。本当は原稿上がってたんですけどね、あげわすれてまぢたてへぺろ。対潜水艦の描写難しいですよねえ。某美少女と潜水艦の漫画が愛読書ですが文字に起こすのは難しい・・・ではまた。

次回予告
レンたちが立て直したころアオイは一人コーゴンたちと戦っていた。しかしアオイはまだカナトに気づいていない。勝利を確信するカナトの前にとある船が迫る。
次回蒼き飛翔のイクシロン
SVプラント


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