【短編】夏の深夜にコンビニ行ったら店先でタムロしてたUMP姉妹にアイス奢るハメになる話 (畑渚)
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夏の深夜にコンビニ行ったら店先でタムロしてたUMP姉妹にアイス奢るハメになる話
まるで水の中を掻き分けるような重い湿気をくぐり抜けて、私はコンビニへと向かっていた。
「熱帯夜ってのにも程があるのでは」
そんなことを呟きながら、信号を待つ。草木も眠る丑三つ時。信号機の光が眩しいくらいだった。
「……」
車通りなんて一切ない。見ている人もいるわけがない。なのに律儀に信号が変わるのを待っている。そんな無駄な時間を過ごしながらふと空を見上げる。残念ながら曇り。星の一つも見えない。
「あっつい……」
先ほどから口に出るのはそういう言葉ばかりだ。事実暑いのはどうしようもない現状ではあるのだが、そう口にするたびに余計に不快指数が上がっていく気がする。
信号機が青へと変わり、私だけがのっそりと動き始める。すでに腹の虫はぐうとうなっており、いち早く帰って飯にしようと訴えかけてきている。
「ん?この時間帯なら誰もいないと思ったんだけどな」
それは経験からの推測だった。何度もこの深夜帯のコンビニに通っているが、田舎であることも相まって基本的に人に会わない。だというのに、今日だけはやけに場違いな人影がコンビニの前に立っていた。
明るいコンビニと暗い外のせいで顔まではよく見分けがつかなかった。しかし、明らかに制服姿の女子高生が二人組みで立っていた。見たことがない制服だし、この時間帯で珍しいこともあって、私はついじっと見つめてしまった。
「……、ねえそこのお兄さん?」
サイドテールの方が、ニタリと笑った。
「じっと見てるけど、私たちに何か用でもあるの?」
ツインテールの方は、悪意のない笑みを浮かべている。
「いいや、何も。失礼……」
迅速にその場から立ち去ろうとした私は、両腕に経験したことのない感触を得る。
「……、何か?」
私は両腕に感じる柔らかい手の感触を噛み締めながら、平静を装って口を開く。
「今日って随分と暑いじゃない?」
「でも私たち今お金持ってなくてさ~」
つまりは奢れということだろう。いいカモが来たからたかってやろうという精神なのだろう。確かに女子高生に絡まれるというこれまた貴重な経験をさせていただいた恩はある。しかし、だからといって私に奢るメリットというものは存在しない。
「残念ながらえんr――」
「ダメ、かしら?」
そういってサイドテールの方が首をかしげる。そして、目線が私から横にそれる。
つられるように私もそちらを目線に向ける。そこにあるのは、こんな深夜にもかわらず赤いランプを点灯させている交番である。
デメリットが存在するなら話は別である。
=*=*=*=*=
入店音とともに、やる気のなさげな店員の声が聞こえる。もはや私は常連だ。私の顔を見たあと作業に戻ろうとして、今回は二度見してきた。まあそれもそうだ。両腕を女子高生にホールドされた常連客など二度見するに決まっている。
「暑いし私アイスがいい!」
「そうね、いいでしょ?」
もう好きにしてくれという感じである。私は財布。ATM。なんとでも呼ぶがよい。
「あら、それならもっといろいろ買ってもらおうかしら?」
「……勘弁してくれ」
残念ながら財布が膨らんでいるタイプの人間ではないのだ。
「さすがに冗談よ」
「私はこれー」
サイドテールの方がクスクスと笑っている間に、ツインテールの方は私の持つかごにアイスをいれてくる。定番のだいふく状のやつだ。
「じゃあ私は……これ」
そういってサイドテールは、これまた定番だが値段のはるカップアイスをかごにいれてくる。まったく……人の金をなんだと思っているのだ。
「お兄さんは他に何を買うの?」
「まあ適当に晩ごはんをね」
少し遅めに昼寝をしたせいで、晩ごはんの時間は過ぎ去ってしまっていた。とりあえず適当に惣菜パンをかごにつめこんで、それから飲むタイプのアイスをいれる。
「もう少し栄養あるものにしたら?」
ツインテールの方がそんなことを言ってくるが無視する。あー何も聞こえない。
「もう、忠告聞かないとひどい目にあうんだからね」
「そのときはまあ、受け入れるさ」
あとは適当に飲み物なんかをかごにいれて、レジに持っていく。顔なじみの店員がさっさと会計をすませてくれた。だが、一瞬カラーボールに目線が泳いだのを見逃してないからな。本当にやめてくれ。
「あっしゃったー」
もはや原型をとどめてない感謝の言葉を背中に受けながら、コンビニを出る。もう早く帰ってベッドに寝転がりたいくらいに疲れていた。
「そういや、何かを待っているのか?」
「うん。迎えが来るはずなんだけどね」
「まだ時間がかかるようだから」
そういって、2人は自分の選んだアイスを私の持つレジ袋の中から強奪していく。
「は~おいしい~!」
「やっぱり暑い日はアイスね」
満足そうなのはなによりである。私はすっからかんになりそうな財布をポケットにしまって、アイスの飲み口を開けた。
それからしばらく、他愛のない話が続いた。最近部屋にこもりがちだったからなんとなく口が乗ったのもある。
コンビニに車が一台入ってくる。コンビニの照明で照らされた運転席には、どこかこの女子高生に似たOLが乗っていた。
「ごめん!遅れた」
「気にしないで!お仕事なんだから仕方ないよ」
「それに、楽しい時間も過ごせたし」
2人の母親、にしては年が近すぎる。姉だろうか。なるほど三姉妹で納得できそうだ。
「ほんと、ありがとうございました!」
「いえいえ、では自分はこれで」
とりあえず成人してるらしい保護者が来たことだ。私はそそくさと退散することにする。
「お兄さん、またね~!」
とりあえずツインテールの子に手をふりかえしておく。多分、私は今、変な顔になってるだろう。夜闇で見えることはないにしても、だ。
=*=*=*=*=
そんな一夜を過ごした私を起こしたのは、わざと大きめに設定してあるインターホンの音だ。そういえばなにか荷物を頼んでいた気もすると、無防備に出た私が愚かだった。
「おはよう、お兄さん。元気?」
玄関の前に立っていたのは、昨晩みたあの三姉妹だった。
令和ちゃんはそろそろ天候操作の舵取りを覚えて
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