真祖の眷族 (賢者神)
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物語はまだ終わらない
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 色々と書き漁ってすまぬ。これは某投稿サイトでよく見られたテンプレメアリー・スーになると思うんだ。

 それでもいいなら作者のリハビリとワガママに付き合ってくれい。




 度々注意。最強、チート、ゲスい主人公、メアリー・スー。メアリー・スーかどうかはわからんがそんな感じ。苦手な方は( ゚д゚)、ペッでもしてくれい。後は性犯罪者? っぽい。エヴァンジェリンぺろぺろ。







 

 

 

 

 

 ―― これでッ! ボクの物語も! アンタの企みもここで終わるッ!!

 

 

「うわ。恥ず」

 

 

 目が覚めると顔から火が噴き出しそうだった。こんなのボクのキャラじゃないし。何であんな事を叫んだんだ。テンションが昂ぶり過ぎて死を悟ったからかボク。しかも死んでないから余計に恥ずかしいぞ。

 

 

「……ん? やっと目が覚めたか戯け。寝坊にもほどがある」

 

「ああ? んん? あ、エヴァンジェリン?」

 

 

 真っ赤な顔を隠しているとすぐ側に人がいる事に気付いた。一応、相棒で奇妙な関係の間柄で付き合いも長いのに気配に気付けなかった。

 金髪ロリ……かと思いきや少しだけ背が伸びてる気がする。成長してるのかと首を傾けるが何が何だか。未熟なボクではあの一撃は命を削るものだと思うのだが。

 

 

「チッ。お前にすぐわかるという事はまだ見違える成長はしていないか」

 

「あ。やっぱり成長してるんだ。おめでと。少し顔立ちが大人びているからわかんなかったのは間違いないよ」

 

「ふふふん。どうだ。少しは惚れたか」

 

「全く」

 

 

 思いっきり首を絞められた。取り敢えずすぐ手が出るのは変わっていない事は実感できたわけだが妙に抵抗する自分の力が弱くなっているように感じる。

 疑問をエヴァンジェリン、金髪の女の子にぶつけてみた。寝坊にもほどがあると言っていた事に嫌な予感がする。

 

 

「む。そうか。お前、ずっと寝ていたんだ。魔力の枯渇と生命力の枯渇で死の境を彷徨っていた。目覚めたならもう自由に活動できる程度には回復しているんだろう。魔力や気は回復していても肉体はそうはいかん。動かしにくいはずだ」

 

「……聞いたら後悔するかもだけどどれくらい寝てた?」

 

「百年ほどだ」

 

 

 百年寝太郎ですか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、ええぇぇぇ……何で死んでない上に寝てんだよボク」

 

「生きようと足掻いていた時の心構えを死を覚悟していても忘れなかったからだろう。魔法使いの才能はなくとも死を避ける才能はピカイチだからな。どうだ?」

 

「んっ、少しまだ痛いかな。できればもう少しゆっくり」

 

「わかった」

 

 

 体の骨が軋む。百年も寝ていたのは嘘ではないようでベッドから立ち上がろうとしても膝から崩れて動けない老人の体たらくだった。

 今はエヴァンジェリンが丁寧に体を解しながら関節の具合をマッサージしてくれている。リハビリテーションもこんな感じだったのかと昔を振り返った。女の子に足をマッサージさせるのは少し犯罪臭がするがエヴァンジェリンとの仲だ。もう気にしていない。

 

 

「全く。お前は阿呆だな。誰があそこまで自分の体を粉にしてまで戦えと言った。魔力の才能の一遍もないのに無茶をしおって」

 

「あー、ははは。未来を壊すって言われたら我慢ならなくてね。謝るよ」

 

「ふん。目覚めてくれただけでも負担は減る。今までお前を抱えて守りながら逃げ続けるのは大変だったんだぞ? 奴を殺した見返りが懸賞金の倍加だ。めでたくお前も賞金首の仲間入りだ」

 

 

 クックックと笑うエヴァンジェリン。マッサージ中なので威厳の欠片もない。

 というかとうとう犯罪者の仲間入りかぁ。未来に帰ろうと頑張ったのにこれはないよ。神様はいつだって理不尽だ。目立たずに帰る事も難しくなったじゃないか。

 

 

「賞金首かぁ」

 

「喜べ。お前は初めての額でなんと七百万だ」

 

「……え。マジ?」

 

「ああ。仮にも奴は正義の魔法使いの総本山のボスだ。殺した事を考えればまだまだ金額は跳ね上がる」

 

「嬉しくねー」

 

「クックック。いいじゃないか。お前も奴等を嫌っているだろう? 啖呵を切って悪でいいと言ったじゃないか」

 

 

 正確にはこんなのが正義なら悪に堕ちる、だけど。言葉通り、自分とエヴァンジェリンはおとぎ話で言う悪い魔法使い。恥ずかしい言葉を吐いた相手は正義を代行する勇者の仲間の魔法使い。

 本来勝つべき者が負け、負けるべき者が勝った。それが結末。相討ちになったと思えば死んでなかったからそうなる。

 

 

「あっ、あだだだ!」

 

「我慢しろ。ここ三年は碌にマッサージできなかったんだ。これぐらいの痛みである事を喜べ」

 

「守って、くれて、感謝はするっけど! 痛すぎるぞ!」

 

「我慢しろ。そもそもなりそこない(クォーターヴァンパイア)のお前が生き永らえ、覚醒に至るまで回復した事自体が異常なんだ。丁寧にやらんとショック死するぞ。徐々に私の血と体液で変異している肉体が安定をして私に近付いているから骨がより強固に育とうともしているかもな」

 

「どっちだ! あぎゃー!」

 

 

 絶対にマッサージじゃない。足のツボの激痛と同じものだコレ。少し嬉々としてやっているから仕返しの意図もあるかもしれない。今までお荷物だったようだから。

 

 

「そのままでいいから聞け。これが終わったらすぐに検証に入るからな」

 

「わ、わかった」

 

「詳しい事まではまだわからんが今のお前は死闘を経験した事で後天的に魔法使いの才能が目覚め始めている。要は魔力を前よりもコントロールできるかもしれない。夢が叶うのは喜ばしいが、眠っているお前の回復を早める為に逃げている合間にお前の体に闇の魔法(マギア・エレベア)の術式を刻んでいおいた」

 

「何をしてくれてんの!?」

 

「う、五月蝿い! ずっと寝ていたお前が起きる可能性が出てきて舞い上がったんだ! 手助けをしたんだから寧ろ感謝はしてもらいたいものだ!」

 

「人間に毒だと言ったのはどこの誰ですかねぇ!?」

 

「もうお前は人間じゃないだろう!」

 

「……だよね」

 

 

 皆にも言われて。我武者羅に頑張っただけなのにいつの間にか化け物呼ばわりされると落ち込む。化け物よりも化け物しているエヴァンジェリンとか死闘をしたエヴァンジェリンの言う奴、正義の魔法使いとか。勝てたのは神様の気紛れだと思う。うん。

 

 

「す、すまん。少し言い過ぎた」

 

「いいよ。化け物を倒したならもう人ではないだろうし。未来に帰るにしても力は必要だと思うから割り切るよ。エヴァンジェリン、ボクを見捨てないでくれてありがとう」

 

 

 百年なら捨てた方が何かと楽だったろうに、エヴァンジェリンは見捨てずに守ってくれた。何よりも先にお礼を言うのが普通なのに言っていなかった。

 吸血鬼の真祖の体力と実力でもお荷物の自分を抱えてくれた苦労は計り知れない。誰よりも彼女は恩人だ。マッサージされながらもお礼を言った。

 

 

「ふん。お前がいなくてはつまらんからな」

 

 

 そんな声が聞こえるが、股の間から見えた彼女の顔は少し嬉しそうで赤かった。

 ちょっと意地っ張りで寂しがり屋で。誰よりも強いのが彼女、エヴァンジェリン。吸血鬼の少女だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――時間超越、もしくはタイムトラベル。タイムスリップ、タイムワープ、タイムリープ、タイムトリップとも言う時間を飛び越える現象。

 自分は人類初のタイムトラベラーかもしれない。映画やフィクションの世界だとよく描かれているが現実では何人いるだろうか。知らないだけで誰かが時間の壁を飛び越えて未来や過去へ渡っているのかもしれないし、そうではないかもしれない。

 ボクは過去へ来た。それもよく知らないヨーロッパの十五世紀だか十六世紀だか。言葉も通じない、服装も周りには奇怪に写り、文化の違いから最初はもう苦労した。魔女とか言われて処刑されそうにもなった。

 一気に省けばなんやかんやで世界最悪の犯罪者、賞金首のエヴァンジェリンと面識を持って現在に至るわけだ。

 

 最初は犯罪者と面識を持ちたくないと思っていた。言語も通じない、話もわからないのに自分の事でいっぱいいっぱいだった。

 どの時代にも酒の酔う陽気なオヤジがいたのは後にも先にも多分一番幸運な事だと思う。自分を奴隷だと勘違いしたのはいただけないが英語というか言葉を教えてもらったのだ。文字の書き方から話し方まで。あのオヤジは教えるのが上手だった。

 そのオヤジからわらしべ長者の如く仕事を転々としていると件のエヴァンジェリンの噂を盗み聞きしたのだ。使用人は必ず盗み聞きをしなければならない暗黙のルールが今の時代にはあるのだろうか。

 曰く、吸血鬼の血を飲めば魔法なるものが使えるだとか。ただの与太話だと普段なら撥ね退けるが過去に来た時の不安や魔法を使えば未来に帰れると何故か当時は思った。

 

 

「お前、徐々にチート化してるな」

 

「エヴァンジェリンにだけは言われたくなかった」

 

「ふん。初めて会った時と比べれば見違えるようだぞ。せこい事をしていた時と比べれば」

 

「まだ根に持ってんの? 謝って実験にも協力したじゃない」

 

 

 仕事をして少なからずの金を持っていた時、全てを使って吸血鬼に有効的な胡散臭い聖水を裏ルートを使って手に入れた。元々せこせことしていた性格で罠を仕掛ける事も人と比べれば得意だった自分は吸血鬼、エヴァンジェリンを罠に嵌められた。

 何で話を聞かなかったのだろうと今は思う。犯罪者とか賞金首とかって先入観があったと言い訳をする。

 

 念入りに丁寧にマッサージをされた後は現状確認をしていた。タンクトップってこの時代にもあるのかと感心しながら変わり果てた肩から腕の部分を見る。

 タトゥーなんてレベルじゃねえ! 刺青なんてレベルじゃねえ! 本職の人も真っ青な禍々しさだよ!

 

 

「状態は良好。これならもう少し魔力を使えるはずだ」

 

「おー」

 

「言っておくが時間に干渉する魔法は知らんぞ。それも未来へ行く魔法になると大魔法レベル、儀式も必要な規模になる。未来に行くだけならダラダラと生きればいいだろう」

 

「それは最後の手段にしとく。折角マトモに魔法が使えるようになったんだからもう少し足掻いてみる。未来にできたばかりの彼女さんいるもん」

 

「別に見栄を張らなくともよかろうのに」

 

 

 日本語でおkと頭に浮かんだが話してる言語はあくまでも英語だから意訳すればこんな感じだろうって思っているだけだ。

 どうも彼女がいると言うのにエヴァンジェリンは信じない。ボクの過去を見れるくせにすぐに話を逸らすなんて……隣のお姉さんに恋してるチビッ子がお姉さんに恋人がいるはずがないと意地になる感じで可愛い。

 

 

「おい。不愉快な事を考えていないか」

 

「全然」

 

 

 マギア・エレベアと読んで闇の魔法と書く。英語ならダークネスマジックと呼ぶのかと思ったんだが。呪文詠唱も教わった通りのまま唱えているので何語とか気にしてない。

 不満を言えるのなら噛む。最初は噛みまくった。もう少し楽に簡単に唱えられる魔法はないものだろうか。

 

 

「魔法の詠唱の言語って何なん?」

 

「さあな。バラバラだからこれだと言えんが今のお前が話しているものそのものだ。魔法の発動は始動キーから始まり、詠唱を唱える事で精霊と契約をして発動するもの……だと考えられているがお前の場合はわけわからん理論で魔法を無理矢理使ってる。どうすればできるんだあんなの」

 

「だからこう、イメージだよイメージ」

 

 

 火の魔法ならライターでイメージはできる。現代にはゲームもファンタジー映画もイメージを得るには役に立つものばかりあるのでイメージは他の魔法使いよりも豊富だと思う。イメージぐらいで使えるのも異常そのものだけど。

 ファイアとかファイラとか。メラとかメラミとか。まさに魔法の宝庫と言わざるを得ない環境だった。

 今ならバーン様のようにこれは燃える天空ではない、紅き焔だ。とかできそうで困る。遊びに走らずに真面目に時間を越える方法を探さねば。

 

 

「さて。闇の魔法(マギア・エレベア)の調子も確かめられた。これからどうするつもりだ? お前は」

 

「ボク?」

 

「私は今まで通りだ。もう悪の魔法使いのイメージが定着してしまったから逃げる日々を続ける。未来に帰る方法を研究するなら離れるかもしれん。今のお前の姿を見れば賞金首と同じ人物だとは誰も思わんだろ」

 

「まあ、ねー。こんなに髭も生えて髪の毛も長いしね」

 

「早く切れ。鬱陶しい上に見苦しい」

 

 

 百年も過ぎてこの程度なのだから許して欲しい。髪の毛はエヴァンジェリンよりも長いし髭も股間に届くか届かないかの長さだけど百年ならもう少し長いと思う。

 

 

「散髪できん。髭もナイフだと怖い」

 

「軟弱者めが」

 

 

 この時代には髭剃りも散髪用のハサミもない。無駄な才能には散髪スキルは含まれていないので上手に纏められる自信がない。髭剃りもナイフがあるけど大きな刃で髭を剃ると思うと怖いです。

 ナイフは怖いのに魔法は不思議と怖くない。命を容易く刈り取る西洋剣も今は怖くないのに小さなナイフは髭を剃る限定で恐怖の対象だ。本当に笑い者だよこれ。

 

 

「髪型は私が決める。それでいいなら身嗜みを整えてやるがどうする? 答えは聞かんでもわかっていた事か」

 

 

 景色が一変。相も変わらずエヴァンジェリンは魔法使いのカテゴリではチートそのものの存在だ。転移魔法を瞬時に構築、発動させられるのだから。この早さだとできる者は何人いるだろうか。

 エヴァンジェリンに床に座らされると真正面にしゃがみこんで顔を近い距離で覗きながら吸血鬼の長く鋭い爪でバッサリと髭を切り落とした。少しヒヤッとした。

 大部分を切り落とした後は肌を傷付けずに丁寧に爪で髭を剃り落とす。床屋のような変なクリームを使っていないのに綺麗に剃れてるのは素直に凄い。美容院を開いても儲かるのではないか。

 

 

「あつっ」

 

「これはお駄賃だ」

 

 

 あっという間に髭を剃るとわざと頬に傷をつけて血を舐め取られた。見た目少女なのにこんなにエロく感じるのは魔性の吸血鬼女だからか。髭も一緒に飲んでいるのではないかと不安になった。

 吸血鬼は血を好む。種族によっては血で魔法使いとしての才能を伸ばせる者もいるそうでエヴァンジェリンはそれには含まれないが血で魔力を回復し、傷を癒す事に置いては誰よりも長けている。食事も含んでいるので前はよく吸われていたものである。

 

 

「終わりだ」

 

「早っ」

 

「ほら。お気に召したか?」

 

「おっおっおー。流石エヴァにゃん。元貴族の令嬢なだけはありますな」

 

「エヴァにゃん言うな」

 

 

 いつの間にか散髪も終わっていてエヴァンジェリンは切った髪の毛と髭を綺麗に集めて纏めていた。氷の鏡で姿見を代用してくれ、綺麗さっぱりになった自分の姿を見る事ができた。

 髪型は勿論のこと、何よりも嬉しい事があった。

 

 

「に、に、ニキビが消えてるだと!?」

 

「吸血鬼化の影響だ。肉体が活性化して回復魔法の効果を高めてると思う。というかまずそこに喜ぶのかお前は。もう少し髪型を褒めろ髪型を」

 

 

 過去にニキビを潰し過ぎてデコボコになった顔が綺麗になっている事がわかれば何よりもそこに喜ぶだろう。今まで色々と台無しになっていた要素が消えたのだ。まっさらな自分の顔に惚れ惚れしてまう。意外と美形で驚いた。

 イケメンと言うよりは美人寄り。格好良いではなく綺麗。もし昔の自分に会えるのならニキビを潰すなと殴ってまで忠告しているだろう容姿である。嬉しいぜヒャッホーイ。

 

 

「意外と良い顔じゃないか。段々と吸血鬼らしい顔をしているな」

 

「吸血鬼の基準は何なんだよ基準。綺麗なら吸血鬼を名乗れるのか?」

 

「吸血鬼たる者、優雅であれ美しくあれ。私の考えた名言だ」

 

「自画自賛と言うのだよ、それは」

 

 

 エヴァンジェリンには見劣りはするものの、本当に美しいお顔である自分。肖像画でも書いてもらいたい気分だ。絶対に教科書に載れる自信がある。美術の。

 身嗜みも終えたが大問題とも言える事が一つだけあった。今はタンクトップを着ているが服装がない。勝負服とも言える未来の服装が燃やされて無いのだ。あの決戦の時に服は布切れになっていたからしょうがないのか。

 エヴァンジェリンに服はないのかと問えば色々と変な事になった。

 

 

「寝ているお前を計って作っておいた」

 

「何でゴスロリ風味なんだよ! ボク男! ノット女!」

 

「知らないのか? 美形は何を着ても似合うものだぞ。寝ているお前を着せ替えするのは楽しかったぞ……あっ」

 

「何をしてんのエヴァンジェリン!?」

 

 

 寝ている間に変な事があったようだ。百年も経てばこんな風にならないはずはないかと諦めようと思っても寝ている間に変な事とか睡○だと思うんだよ、ボク。

 百年経って目覚めればまた物語は始まるみたいだ。もうおとぎ話みたいに勇者が悪いドラゴンを倒してお姫様と結婚してめでたしめでたし、の後のお話なのにアニメの二部のように何かが始まりそうな予感を感じていた。

 

 

 

 

 







 適当にストーリーも繋がっているかわからない勢いだけなので文字数は変動する。絶対に。後は他作品のオマージュメタ発言が多い。ベジータさんのグミ撃ちだけはノーサンキュー。

 簡単な設定は次回の中身とあとがきで。


 ※チラ裏でやれと思うがいきなり表でやる事も再現しているのでそれ関連の非難は勘弁してくれい。




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勝利する

 

 

 

 

 突然だが、人は何か夢中になれるものがあればそれを学ぶ力は長けていると根拠のない理論を持っている。他人には理解してもらえない趣味、オタク趣味がその内に入っている。特定のアニメ等、二次元の作品の知識を豊富に持つ事が良い例かもしれない。

 別にオタクが悪いわけではない。今ではオタク趣味と周りに言われていた事を感謝すらしている自分がいる。少しゲームに夢中になって繰り返しやっていると自ずと覚える事もあり、好きなアニメを録画して何度も見ていれば覚えられる。

 生憎、それは周りに認められずに一線を引かれて同じ趣味を持つ人と仲良くなれない事はなかったが自分は真っ当だと勘違いする輩には困らせられたものだ。オタクはカツアゲをしても許されるなんて考えるアホに。

 

 つまり、何が言いたいのか。

 

 

「初白星ゲットォォ!!」

 

「馬鹿なッ、この私が敗れるだと……!?」

 

 

 信じられないといった様子のエヴァンジェリンを見下ろして叫ぶ自分。もし未来なら一瞬で国家権力の代行者にしょっぴかれるだろう。

 ロリ少女を見下して高笑いする光景は犯罪臭どころではない。完全に婦女暴行やポルノに引っ掛かりそうだ。法律には詳しくないので何に当て嵌るかわからないけど。

 

 

「ふざけるな! 何だあのデタラメな戦法は! 貴様魔法使いを嘗めているのか!」

 

「ゴメン。何だか今はエヴァンジェリンの小言も負け犬の遠吠えにしか聞こえないんだ」

 

「調子に乗るなー!」

 

 

 つまりはそのオタク趣味のおかげでエヴァンジェリンやこの時代にいる魔法使いが非常識と非難される魔法を作り出す、もしくは思い出して再現する事ができるのだ。

 特にファンタジーゲーム。クソゲーとネットで叩かれようともレビューが散々であろうとも自分の趣味に合うものは何でもやっていて正解だったわけだ。現代の世界観を交えたファンタジーゲームは特に。

 身近にあるものが幻想に堕ちる。そんな設定が気に入っていたのかそういった類の魔法や超能力、超次元のパワーを扱う力をうろ覚えする事なくしっかりと記憶の中に留まっていたのだ。

 自分でも記憶力がここまであるとは思わなんだ。学校で学んだ知識は忘れるくせにそんなどうでもいい事を覚えているなんて。

 

 

「何なんだあの闇の魔法(マギア・エレベア)の戦法は! 考えた私でも思い付かないようなデタラメな使い方をしおって! 最早バグだお前は!」

 

「百年も寝てたからじゃね。よく寝る子は育つって婆ちゃんが言ってた気がする」

 

「育つどころか別の生命体になってるぞ!」

 

 

 酷い言われ様である。バグも何も先駆者(元ネタ)がいるというのに彼等まで侮辱する気なのか、エヴァンジェリンは。世界のアニメオタクを敵に回すような発言だ。今はまだいないけど。

 

 

「氷は私の血と体液で適性を得られただろうが何で火まで使えるんだ!」

 

「あー、それはほら。寝たきりの原因となった正義の魔法使いさんだろうと思うよ」

 

 

 炭になるまで焼かれて灼かれました。耐性ができれば自ずと適正も生まれると何かの二次元作品で読んだ気がする。

 ブゴーと炎の化身のようになっている自分を指差して文句を言うエヴァンジェリンは凍えるような冷気を辺りに撒き散らしながら怒鳴っている。

 相反する力がぶつかっているからかマグマの中に水を入れて足場を作った時と似た現象が起きている。段々と壁がそびえ立ち始めているからマギア・エレベアを介して発動しているマギア・エレベア最大の特徴である術式兵装というロマン溢れる魔法を解除する。

 

 一瞬で体が凍りついた。

 

 エヴァンジェリンの冷気が熱気という障害を失い、自分の体を凍らせてしまったのだ。氷の中からエヴァンジェリンに怒られ、叱られる声を聞くハメになった。

 

 

「急に解除したらそうなるわ馬鹿者がー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……つまりは何か? 闇の魔法(マギア・エレベア)の術式と眠る前の持ち前の魔力を掻き集める能力をフルに活用した結果がこれか?」

 

「生身だと雑魚だからさ。術式兵装を使えば瞬殺される事はないと思うから何よりもそれを極めてみました」

 

「極め過ぎだ阿呆!」

 

 

 氷から解放された後もこっ酷く説教を受けた上にバグだと言われた戦法を認められなかった。

 何を言うか。この戦法はスーパーサイヤ人になる前のカカロットさんが周りを驚かせた画期的なものだぞ。ナメック星のギニュー特戦隊すら驚いていたんだぞ。ベジータさんも舌打ちしてたんだぞ。

 

 

「そもそも古代呪文をどうやってストックしてたんだお前は。闇の魔法(マギア・エレベア)の恩恵で遅延詠唱は容易いだろうがあれだけの数をどこに貯めていた」

 

「手って指が五本あるから凄いと思わない?」

 

「指にストックしとるか己はー!」

 

「親指は火、人差し指は雷、中指は氷、薬指は風、小指は水ってイメージで。片手だけでも事足りるし、もう片方は石とか学んだ古代語呪文を瞬時に発動できるようにしといた。マギア・エレベアは闇の系統だから手の甲の文様から発動できるっぽいよ」

 

「お前は……いや、もういい。弱かったお前は遥か彼方へ消えたのだな……」

 

 

 失礼な。イメージが豊富で教材が豊富だったからできた事だ。もしエヴァンジェリンが未来のアニメを見れば凡人の自分よりももっと凄い魔法は生み出せると思う。

 応用が効く便利な魔法だ。このマギア・エレベアは。魔法を発動する為に必要な魔力の操作を手伝うマギア・エレベアの隠れた特典を含めてイメージが焼き付いている二次元作品の魔法や超能力を再現する事もできるようだ。

 

 マギア・エレベアさんマジチート。それを生み出したエヴァンジェリンさんマジ神。

 

 戯言は置いておいて。眠る前のニキビのあった時の自分と比べればエヴァンジェリンの言うように別の生命体かと見間違うほど格段に強くなっている。

 手も足も出なかったエヴァンジェリンに初白星をあげる事もできた事を踏まえれば誰だってその変化はわかると思う。

 

 

「はぁ。だが気を付けろ。安定しているとはいえ、使い過ぎは闇に食われる原因になるぞ」

 

「そう言うと思って短い時間しか使ってないよ」

 

 

 一秒未満に術式兵装で変身、ぶん殴る事をしているからエヴァンジェリンのように常時発動時と比べれば闇に食われるという事はないと思いたい。

 

 

「大概チートだな」

 

「今は嬉しいその台詞」

 

 

 できればもう少し極めたい。音速の壁(?)越えを目指して一秒の間に指にストックした魔法を術式兵装として使えるようになれるまでが理想だと思われる。カカロットさんは一瞬で戦闘力を高められるからね。

 マギア・エレベアの魔法固定からの掌握、エヴァンジェリンは格好良くスタグネットからコンプレクシオーと言っているが、その過程と方法を俺流というかボク流に変えてエヴァンジェリン曰くバグ戦法に活用している。

 時間を越える魔法は何がある? と問われれば幾つか覚えているものがある。越えるのではなく操作できる魔法の幾つかは。

 時空魔法とか。行動を早める魔法や攻撃速度を上げる魔法ならすぐにイメージできる。ヘイストさんにはどれだけお世話になった事か。あれも時間に影響する魔法なので研究材料にはもってこいだと思われる。

 

 仕組みがわからないので実現どころか再現すらも難しそうであるという大きな壁があるが広い世界に一つはあると思いたい。切実に。

 

 

「散髪の後の誘いだけど一人は寂しいから一緒に行ってもいい? まだマギア・エレベアの使い方をマスターしてないからもう少し教授してもらいたいんだけど」

 

「そ、そうか……ふ、ふんっ。そこまで頼むなら聞いてやらんでもないぞ」

 

 

 エヴァンジェリンさんマジツンデレ。だけど可愛いと思うのはエヴァンジェリンの性格ゆえと悪ぶる姿が子供っぽいからだろうか。

 本当はボクと一緒に行きたいのに吸血鬼としてのプライドが邪魔しているのか。勘違いかもしれないけど彼女と一緒にいる時間を考えればそんな感じがしてならない。典型的なツンデレさんみたいなヒロインさんである。

 

 マギア・エレベア、闇の魔法のエヴァンジェリンが術と共に考えた戦い方はまだ理論のみ説明を受けていない。本来の戦い方とは違うそれにエヴァンジェリンももやもやしていると思うので聞こうと思っている次第だ。

 殆ど根性理論で魔法を無理矢理使っている身としてはマギア・エレベアの影響で普通に魔法が使える事は嬉しかった。エヴァンジェリンと契約して魔力を借りてたものだし。魔法もお粗末そのものだった。

 

 ……よく勝てたな、ボク。

 

 

「あー、まだ出れんから今からでも教えてくれる?」

 

「ふははは。構わんぞ! やはりこういう事は私の方が優秀だしな!」

 

「あんま言いたくないけどその知識を全部覚えたらエヴァンジェリンって用済みじゃねーの? あっ」

 

 

 機嫌取りに授業の時間を大幅に取られるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「veniant spiritus aeriales fulgurientes……」

 

 

 やべっ。舌噛んだ。

 

 

「相変わらずだな、お前は。呪文の詠唱くらい噛まずに言えるようになれんのか?」

 

「すみませんねぇ」

 

 

 い、イメージだけで魔法が使えるからいいし(震え声)

 

 呆れた様子で隣を並んで歩いているエヴァンジェリンは舌を噛んだ“俺”を見てくる。舌を出しながら謝れば心底呆れ果てたように溜め息を吐いて首を振る。芝居掛かっているので少し腹が立つ。

 エヴァンジェリンの“別荘”こと聞いた事はある瓶の中に船のミニチュアを入れるコレクタブルアイテムに酷似したボトルハウス? というのだろうか。時間の経過で出られる別名『持ち歩けるリゾート地』を仕舞いながら開いている片手で呪文の書かれた手帳を読み上げる。

 この時代に社会人が使うような手帳があるのかと聞かれたらあれだが、未来から持ち込めた数少ない物品の一つだ。結構、重宝している。

 

 計七冊。商店街のくじ引き大会で貰った文房具店の余り物だが忘れてはならないものを忘れずに覚えるには記憶力よりも大いに使えるひみつ道具だ。どうせならパソコンも持ち込めればよかったのに。電池などはともかくとして。

 マル秘手帳の中身は主に家族構成に自分のこと。これだけで丸々一冊は使っているので家族孝行な息子だと思う。

 残る六冊の内の三冊は埋まっている。四冊目を使用していてエヴァンジェリンの呪文の発音をルビを振ってしっかりとメモもしているが舌が回らない自分は噛み噛みである。

 

 

「無詠唱が得意とはどういう事だ。私の魔法を見ただけで完全にコピーをしおって」

 

「それはちょっと違う。エヴァンジェリンの魔法に近い魔法のイメージを最も再現できる魔法を選択して発動しているだけだ」

 

 

 エヴァンジェリン十八番の最強魔法『おわるせかい』の劣化版『こおるせかい』もフリーズやらインブレイズエンドを参考にさせてもらっております。詠唱とか覚えてないけどシリーズを通して何度も見ていればイメージは固まるというものだ。

 白い魔王の無慈悲な砲撃(ディバインバスター)とかもトラウマと共に消し飛ばせますと説明を加えれば次元を超えて消されそうで怖いのでこの話題はここまでにしておこう。

 

 

「うーむ」

 

「? 何を唸っている」

 

「それだそれ。演技とはいえ違和感が凄まじいぞ。ヘタレなお前を知っているとどうも慣れんな」

 

「演技をしろと言ったのはエヴァンジェリンだろう。俺の一人称はあの時に叫んだものがあいつが敗れた光景と共に焼き付かれているはずだ。少しでも存在を隠す為に演技をする必要があると言ったのはどこの誰だ? ……俺っての、威張ってるみたいで嫌いなんだけど」

 

「威厳あるだろ」

 

 

 己は威厳があれば何でもいいのか。

 

 

「まあ、少しずつ慣れていけばいい。演じ分けができるようになればこの先何かの役には立つだろ」

 

「うむ。悪の魔法使いたる者、こうではなくてはな」

 

 

 悪の魔法使いかどうかは置いておいて。密かにいかにも悪く見えるゲス顔を練習しているのでお披露目しておく。

 

 何故かヒィと悪の魔法使いさんが威圧されていた。最早悪の魔法使い(笑)である。

 

 

「お、お、お前のその顔は怖すぎるんだ! 二度とするな!」

 

「……えー」

 

 

 お気に召してくれるほど好評だったようだ。この調子で顔芸さん並のゲス顔で相手を脅す脅迫術を身に付けるとしよう。

 するなと言われればやりたくなるのが人の性。完全にフリであると人は嫌でもわかるものだと改めて思い知らされた。

 

 エヴァンジェリンの理不尽な命令はこれで対抗するとしよう。

 

 泣きそうになるエヴァンジェリンをゲス顔で睨んでは遊ぶ旅の始まりは締まらないものだった。

 

 

 

 

 

 

 






 タイムトラベラー兼いつの間にかチートになる天然野郎。エヴァと会う前はニキビを潰し過ぎてブラマヨのトレンディー担当の方みたいな顔をしてた。今は美人顔でモテそうな顔してる。吸血鬼化の影響。

 凡人のオリ主が最強になる矛盾、あるある。





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企む

 

 

 

 

 

来たれ氷精(ウェニアント・スピーリトゥス)闇の精(グラキアーレス・オブスクーランテース)

  闇を従え(クム・オブスクラティオーニ)吹雪け(フレット・テンペスタース)常夜の氷雪(ニウァーリス)!」

 

 

 噛み噛みになる詠唱を一息で言い切るエヴァンジェリンに尊敬の意を抱きながら頭の中のイメージを引き起こし、燃え盛る炎の魔法を描く。

 エヴァンジェリンの得意技である『闇の吹雪』であるのは詠唱からすぐにわかる。無詠唱魔法は相手にギリギリの駆け引きで使用する魔法を隠せるからこそ普段はエヴァンジェリンも無詠唱で行使する。

 

 

「闇の――」

 

 

 詠唱を完成させられる前に右手を揃え、手刀の形にして空間を斬るように薙ぎ払う。これがエヴァンジェリンといった普通の魔法使いとは違う自分だけのオリジナルの魔法の撃鉄。

 何も無いはずの空間から灼熱の燃え盛る炎がイメージ通りに噴き出して視界をあっという間に赤に染め上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「相変わらずのチートめ」

 

 

 戦闘を終えれば褒めてるのか貶しているのかわからぬ魔法の師匠の言葉。エヴァンジェリンと戦っているように見えたが、相手にしたのは賞金首狩りで飯を食っているフリーランスだといいなー的な魔法使いだ。

 一人で来たからそれなりに吸血鬼を狩るだけの力がある実力者かと思えばランク的にはファイラの炎の一撃で炭になってしまった。様子見か相殺するつもりだったのに親子かめはめ波で消えたアナゴさんみたいに消し飛ぶとは。

 

 

「燃える天空でも使ったのか?」

 

「寧ろ紅き焔みたいに弱い部類なんだけど。あれ弱くね?」

 

 

 演じ分けのキャラを崩すほどの呆気なさ。百年の眠りから覚めた初実戦は不完全燃焼の結果になった。

 

 

「お前が強くなり過ぎなんだ。火の適性がずば抜けていれば下位でも下手すれば上位の呪文になると前に教えただろうが」

 

「マジですか」

 

「氷と火、今はこの二つの適性が他よりも高いんだ。今のように不完全燃焼になりたくなければ苦手な方を敢えて使え」

 

 

 ぶっちゃけ適正とか関係ないと思われるのだが。イメージで発動するらしい魔法はイメージがしっかりとしていればできる。威力は本物と比べなければわからずだがそれは一生叶わないだろう。

 マギア・エレベアの文様に闇の魔法、エヴァンジェリンの眷属兼闇の眷族というアドバンテージがなければここまでは無理だ。イメージ通りといってもエヴァンジェリンの知る魔法と近い魔法でなければできないっぽいから見方によっては便利とも言い難い。

 ギガブレイク等、武器に雷を纏わせるのは論外だ。雷を剣のように形状を変化させて使うのは大丈夫らしいがそこら辺の基準はまだまだ要研究である。

 

 

「あー、殺してしまったから新しく手配書がばら蒔かれるかね? もう演技するのも疲れたからやめていい?」

 

「まだひと月も経っていないだろうが!」

 

 

 自分達が知らない間に発信機でも仕込まれているのではないかと今、思う。以前はエヴァンジェリンが寝ている間に撃退をしてくれていたので襲撃回数は正確な数は把握しきれていない。

 エヴァンジェリンにエヴァンジェリン以上の賞金首を持つボク。六百万と七百万の高賞金首コンビは宝の山に見えるだろうよ。自分の実力に過信して襲う者も結構いると教えてもらったような気もする。

 

 目覚めてエヴァンジェリンの言うようにひと月が過ぎている。以前なら髭が生えているだろうに、髪の長さも髭も変化はない。吸血鬼化の影響らしい。

 なりそこないの吸血鬼、エヴァンジェリン曰くクォーターのヴァンパイア、何を基準にか四分の一だけ吸血鬼(ヴァンパイア)と呼んでいるので実際には変化がないというよりは変化が緩やかなのだと思う。どこかのヴァンパイアさんもそんな感じだった。

 吸血鬼になれば頼りきりだった他人の魔力を使わずに自分で使える。マギア・エレベアも凡人の自分を強くしているので早く慣れれば戦術の幅は広まる。魔法を取り込む点は並の魔法使いにはチートそのものらしいし。

 

 

「というかひと月も過ぎてるのに研究すらしていないのは何故だ。闇の魔法(マギア・エレベア)の講義だけで時空間に干渉する魔法は探さないのか?」

 

「――偉大なる先人は言いました。時間を越えたければ空間を殴って突破せよと」

 

「できるかぁ!」

 

「冗談だよ冗談。ほら、魔法の英知を全て知れば自ずとそんな魔法も生み出せるっぽいじゃない。偉い賢者が言ってた」

 

「どこにそんな賢者がいるんだ! お前の世界観を私に押し付けるんじゃない!」

 

 

 でもなぁ。実際に理不尽な理由で最強の座にいるボスとかいるから何でもできそうな気もするんだよ。特定の戦法とか武器が無ければ問答無用で殺されるボスも。

 そんな化け物に共通するのが世界を滅ぼそうとして主人公に倒されるか封印されるか改心されるかなんだよね。あの終わり方はご都合主義乙とも言ってしまうが最低のラインがタイムトラベルができるっぽいんだよ。

 人類の敵に相応しい力を手に入れれば閃いた! とかでタイムトラベルできそうで困る。

 

 

「魔法と魔法の組み合わせで新しい魔法が生まれる事も考えられるじゃん?」

 

 

 メドローアとか。相反する力をぶつけて消滅魔法を生み出す例があるから探せばあると思うんだがなぁ。

 

 

「エヴァンジェリンのマギア・エレベアも起爆剤になると思う。光速で動けばできない事もないはず。多分」

 

「世界の理を変えるほどのスピードを出す気かお前は」

 

 

 気合でなんとかなるでしょ。デロリアンも仕組みはわからないのにタイムトラベルはできるいかにも摩訶不思議設定が通じると思えば不可能はないと思うんだ。

 

 

「そうと決まれば1.21ジゴワットの電力を引き起こすんだ」

 

「1.21ジゴワットは稲妻の電力だろうが! 千の雷でも本物の稲妻と同じ電力を起こせる保証はないんだぞ!?」

 

「大丈夫大丈夫。ギガデインさんならやってくれる。駄目なら時計塔に電線を引っ張って物干し竿で――」

 

「死ぬ気か貴様!」

 

 

 冗談だよ冗談。物干し竿なんてどこに差せばいいんだよってなるから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一息置いて腹の底に力を入れる。名付けて、『炎帝(Honootei)』。マギア・エレベアの術式兵装で最も得意、回数も多い形態。

 轟々と炎が猛り、自分の体が人ならざるものに変わった。押さえ付けても尚、漏れ出す灼熱の炎が自分の立つ場所と周りの空間を歪める。

 

 

「ふんぬっ」

 

 

 パッパッパッと炎の化身から氷の化身、雷の化身と形態が変わる。姿見で変わるのがハッキリとわかり、状態も安定しているようである。

 

 

「どう?」

 

 

 術式兵装を解いて首を鳴らす。目覚めてからはよく骨がコキリと鳴る事が多くなっている。魔法の少なからずの後遺症だと思えばこれくらいは平気だが、一番の理由は魔法を解除してコキコキと首を鳴らすのが格好良いと思うところ。

 エヴァンジェリンに首を向ければ難しそうな顔をして考え込んでいるようだった。

 

 ――きっかけはエヴァンジェリンの好奇心から。

 

 マギア・エレベアの瞬時換装、ボク流のマギア・エレベア戦術最大の利点である術式兵装の換装スピードの秘密を探ろうと正義の魔法使いを名乗る魔法使いから逃れながら研究をしている。

 こっちが時空間に関する研究だとすれば、エヴァンジェリンは自分が開発したマギア・エレベアの更なる改良の研究。

 何かを調べる時によく使われる解析魔法陣を至る場所に。休憩に使われている“別荘”の中にある塔の一室で休む度に調べられている。

 

 

「よくわからん。私でさえ呪文詠唱がまだ必要なのにどうやって呪文詠唱のプロセスを省いて発動しているんだお前は」

 

 

 変なものを見る目で見られる事も毎度のこと。羽ペンで大きな本に文字を書き続ける彼女は研究が難航しているようだ。

 エヴァンジェリンの反応はともかくとして使い切った分を補填する為に精神を集中させて指に魔法を補充する。指の指紋の渦の中心に吸い込まれるのを見届けながら親指、中指、薬指へと。

 

 

「前提としてはイメージで無理矢理魔法を使うからこそこれができるのか? 系統も私オリジナルだからまだまだ研究が必要だな……」

 

「良い暇潰しにはなるんじゃない?」

 

「ふんっ。退屈はせんだろうな」

 

 

 嬉しそうで何よりです。

 魔法を補充した指がポキポキと鳴りながら動くのを見ながらしっかりと魔法が指の中にある事を確認する。

 エヴァンジェリンに言わせれば暴発する危険があるのによくコントロールできるな、だそうだ。極大呪文を留められるのは腕一本なのにクソ野郎らしい。流石に言い過ぎか。

 

 

「これからの予定はどうする」

 

「今の時代じゃ見たいモンは無いなぁ。エヴァンジェリンが吸血鬼になった百年戦争辺りだったらジャンヌ・ダルクに会いたかったんだけど」

 

「ほう」

 

「聖処女って聞かれるとエロく感じるじゃない」

 

「この変態め!」

 

 

 言っておくが処女厨ではない。同人誌のネタにはそんなのがありそうだから好みのジャンルのオカズなだけだ。

 

 畜生。ジャンヌ・ダルクみたいな女騎士に【息子】になんか負けない! 【息子】には勝てなかったよ……をやらせてみたかった。

 どこかにクールなお姉さんタイプの騎士はいないのだろうか。従者としても欲しいし夜のお供にも欲しいのだが。

 

 

「……ふむ。そんなに騎士が見たいなら見に行くか?」

 

「え。今の時代にいんの?」

 

 

 ぶっちゃけたら維新志士ぐらいなんじゃないの? とエヴァンジェリンに問う。騎士道よりも侍道に近いものだと思うんだけど。

 

 

「アリアドネーなら魔法騎士団があったはずだ。華のある隊もあるそうだぞ。美人も多いと聞いているぞ」

 

「気の強い子を誘拐して調教……おっと」

 

「寧ろ処女がいいな。血をワインに混ぜると絶品なんだ」

 

 

 エヴァンジェリンが処女厨だった(驚愕)

 

 まあ、どちらにしてもボク等ゲスだよなぁ……闇の福音と悪い魔法使いなだけはあるよ。会話がもう外道そのものだもの。

 女の味を知らない童貞ではないんだが非童貞だからこそオカズにしてたシチュエーションに憧れるのだろうか? どちらにせよ一度だけでもいいから言わせてみたい。

 今の自分、どうせ賞金首で悪の魔法使いだから倫理とかどうでもいいんだよねー。これも吸血鬼化の影響なのか。元々の欲望が表に出ただけかもしれんが。

 

 

「アリアドネーって……魔法世界にあるんだっけ? 犯罪者のボク等、通行許可出ないんじゃないの?」

 

「偽造できるぞ」

 

「エヴァにゃん愛してるー!」

 

 

 大体こんなノリである。自分より背の低いエヴァンジェリンの体に抱き着いて頬と頬を擦り合わせる。プニプニなほっぺが癒しである。

 嫌そうな顔をするかと思えば意外と満更でもない顔をしてやれやれと背中を叩いてきた。まるで自分の方が年上なのだから好きにやらせるべきなのだと暗に言っているようで少し情けなく感じた。

 謝罪も含めて魔法で体温を上げてほっぺを暖かくしてあげた。もがき始めるけど逃がす事はしない、させない。

 

 

「熱いんだお前はー!」

 

「冷え性だから気遣ってあげてるんだよ」

 

「人肌で十分だろうが! 火の魔法を使って熱くするんじゃない!」

 

 

 えーと非難がましい声を出せば割と本気で足を踏み潰そうと何度も踏んできた。それを避けられる自分も自分だが。まさか足だけで龍玉戦闘のようにできるとは。

 暫くエヴァンジェリンと戯れ、目的を忘れる寸前まで遊び続けた。

 

 

 

 

 

 

 







 オープンなゲス野郎。ちなみに作者はロリコンです。エヴァにゃんぺろぺろ。

 ぶっちゃけなぁ。エロゲーとかで抜いてる経験でもあれば転生後は自分の欲望に従うと思うんだ。性欲のないオリヌーシはぼっちがオフ会に出るほどありえない(確信)

 エロをオープンに欲望を抑えないオリ主、いいと思います。ヒロイン=犠牲者になるけど多分エヴァだけがヒロイン。モブさんは色々犠牲者が多くなると思うよ。

 レイプ魔っぽいけど許せる人だけ進んでくれい。






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移ろう

 

 

 

 

 

 

「……はい。確認しました。ポートへどうぞ」

 

「ホ。ありがとうございますじゃ」

 

「そちらのお嬢さんもお気を付けて」

 

「ありがとうございます。では行きましょうおじい様」

 

「そうじゃのぉ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ザル過ぎワロス」

 

 

 草まで生やしたい気分だ。信じていないわけではなかったが彼女の偽装技術が凄いのか警備がアホなのか。

 

 

「おじい様? ……少しは演技しろ。どこで誰に見られているのかわからんのだぞ」

 

 

 オマエモナーと思ったが正論なので素直に言う事を聞く。ここでバレたら逃亡が面倒臭くなる上に警戒が強まって魔法世界に行くのも難しくなるかもしれない。

 魔法世界は今いる地球とは別の魔法が当たり前の世界。エヴァンジェリンに聞いただけなので詳しい事も知らないが、ファンタジー要素が濃い世界であるのは理解している。女騎士様ぺろぺろ!

 

 生憎、ボクとエヴァンジェリンはお尋ね者だ。こういう公共の場では警備の者が顔を知っているかもしれない。

 その前提を覆す為にエヴァンジェリン特製の変装術を使って警備を摺り抜け、魔法世界に行こうと考えた。エヴァンジェリン自身は何度もそれを使って魔法世界に渡っているのでそこは彼女に任せている。

 設定は幸先短い老人と孫のお淑やか孫。元々エヴァンジェリンはお嬢様なので口調もそれらしく、簡単に騙されているようである。おじい様とか呼ばれるのは少し癪だが。年齢はジジイでも心はまだ少年のままだもの。

 転送ポート、魔法世界に渡る唯一の方法である転送術もしくは転移術の効果がある魔法陣の上で少し待つ。空間固定をしているそうでここ、旧世界と魔法世界の転送ポートを繋げる作業に時間が必要なのだそう。

 

 ついでなので転移術の研究に使わせてもらおう。時間移動には空間を越える必要もあるので空間移動にはもってこいな技術のはずだ。

 

 

「おじい様。そろそろですので私に掴まってくださいませ」

 

「フォフォフォ。すまんのぉ」

 

 

(おい。何だそのヘンテコな笑い方は)

 

(ファファファがよかった?)

 

(怪しまれる事だけはするなとあれだけ……)

 

(ふざけてもバレないようにはするから安心してよ)

 

(安心できる要素がないわっ)

 

 

 コイツ、直接脳内に……!? もできる魔法マジパネェ。残念ながらまだファミチキは売られていないのでそこだけは残念である。

 中世時代だからメシマズだし現代の日本には必ずあって有名なものは美味しい料理とは言えないマズさだ。これを考えると未来って舌が肥えるんだなと変なところで納得してしまった。

 米はある。だが炊飯器がない。キャンプで炊飯はした事がないので試行錯誤をしてエヴァンジェリンと顔を顰めて飯を食らった事も何度あった事か。今ではカレーライスを作れるようになっているので丼もののレパートリーを増やそうと頑張っている次第だ。

 自分よりも長く生きているエヴァンジェリンも料理のレパートリーはあるので当番制で変わる変わるで料理をしている。エヴァンジェリンの場合は美味くて舌が肥えるんだよなぁ。

 

 

(あちらに着いたら解除魔法が使える奴等がいる。影の転移術で姿を消す。いいな?)

 

(こういうのはプロに任せるよ。信じてる)

 

(任せておけ)

 

 

 視界に光が広がる。瞳の色を誤魔化すメガネを使っているので某大佐のようにはならなかったが言い様のない気分の悪さというか方向感覚を狂わされている事に嫌になり始めた。

 

 

(エヴァンジェリンさんエヴァさん。気分悪いんだけど)

 

(我慢しろ。すぐに終わる)

 

 

 時々、ワープをする時は気分が悪くなる描写があったが自分が体験する事になるとは。自分に耐性がないのだろうか。

 あっちに着いたらゲロでも吐きそうだと思いながら浮遊感でなるべく吐き気を抑えられる事を祈る。

 

 

(動くなよ)

 

 

 エヴァンジェリンの脳裏に響く声を聞いてフリですかと返そうとしたが気分が悪いのでそんな余裕はなかった。

 エヴァンジェリンの肩に手を置いていたはずなのにいつの間にか逆に手と手が繋がっていて影の中に引き摺り込まれる。影の転移術もまた違った気味悪さがあるのは仕様なのだろうか。

 魔法世界の転送ポートを去るようにボク等は光で目が眩んでいる間に姿を消す。後には他の利用者のみだった……かな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら。これを舐めてろ」

 

「ああ、ありがと」

 

「すまんな。ここまで耐性がないとは思わなかった。影の転移術は大丈夫だから転送ポートも大丈夫かと思ったんだが」

 

「慣れるよ」

 

 

 原因は多分、エヴァンジェリンの変装魔法のはずだから練習をしようと思う。どう練習するかは後で考えるとしよう。

 エヴァンジェリンから貰った飴を口の中で転がしつつも幻想的な光景を目に焼き付ける。画面の中、本の中の描写でしか見た事がない景色に少し感動した。

 

 

「あれが魔法世界最大の都市、メセンブリーナ連合のメガロメセンブリアだ。初めて見た感想はどうだ?」

 

「凄い、かな? 軒並みの言葉だけどとにかく凄いとしか言えない。世界にはあんな景色もあるんだなって感動したよ。カメラでもあれば撮りたいほど凄い」

 

 

 思わず飴を舐めながら両手で四角を作って覗きたくなるほどに。携帯電話やらがあれば写真に興味がなくとも撮ってしまうだろう。

 気分を整える効果があるので徐々に気分の悪さが元に戻り始めているので景色を眺める余裕も出てきた。変装を解いて眺めていればエヴァンジェリンも隣で偉そうにふんぞり返りながら腕を組みながら立っていた。

 何故かお嬢様のままの姿でやっているので違和感しかないのだが。金髪から紫の髪へ、赤の瞳は緑の瞳へ。身長は変わらないままで別人に変装している彼女は魔法世界では有名なので変装は解けないそうだ。

 ボクは黒髪赤目のまま。吸血鬼のなりそこないだから黒から赤に瞳の色が変わっているので変装はしていない。

 というか不細工から美麗に変わった自分をボクだと判断できるはずがないと思ったからそのままにしている。ニキビの跡だらけの顔から女性受けする綺麗系の顔になるなんて誰が思うだろうか。

 

 

「偽名を忘れるなよ。本名はあまり知られていないだろうが万が一という事もある。別人になりきるように努力をしろ。いいな?」

 

「わかった。耄碌したジジイでも演じるよ。笑い方はファファファでいいよね?」

 

「怪しいだろうが!」

 

「冗談だよ冗談」

 

 

 コイツは全く、と頭を抱えるエヴァンジェリンは冗談は通じないようだ。今までも冗談を言っているが冗談にはならないらしい。地味に罰として飯抜きにされるのは痛い。自重するようにしよう。

 

 

「アリアドネーに行くんだっけ?」

 

「別行動をしたかったのだがお前は地理がないからな。道案内のついでに道を覚えてもらう」

 

「……ボク、子供じゃないんだけど」

 

「子供だろうが。好奇心に負けて捕まった事があるのは忘れたのか? ん?」

 

「すんませんでした」

 

 

 ボクの物語のそもそもの原因は自分自身なんだけど。魔法に触れて浮かれていたのが大きな原因だとわかっている。

 最終決戦のアイツと会う原因にもなっているから所謂、物語で言うフラグだったのだろう。

 分岐点でもあったから好奇心が旺盛でなければ魔法の普通の力は手に入れられなかったと思う。マギア・エレベアの術式もエヴァンジェリンに刻まれなかったかもしれない。

 

 

「ふん。まあ、好奇心がなれけば魔法の研究はするべきではないがな。何かを知りたい、何かを起こしたいという欲求がないとやる気も出ないだろ?」

 

「ボクの場合はタイムトラベルをしたい点だろうね」

 

 

 後はフィクションの魔法を再現したいのだろうか。人一倍の好奇心はあると自負している自分はエヴァンジェリンよりもあるのではないだろうか。

 

 

「アリアドネーで騎士を見つけたら処女の血を確保しておけ。和姦に持ち掛ける事くらい容易いだろ」

 

「ボクを性犯罪者か何かだと思ってんの?」

 

「……貴様、私にした事を忘れたのか」

 

 

 それを言われると弱い。エヴァンジェリンには謝っても一生許されない事をしているのでそこだけは茶化せないし自分が下僕である事を再認識する。

 それがあるから彼女の下僕、眷族として仮契約をした。それも物語上の重要なフラグであった。あれが無ければ絶対に負けて死んでいた自信がある。魔法を完全に使えないズブの素人のままだったはずだ。

 

 

「あー、ごめん。どうしたら許してもらえる?」

 

「処女の血を三十人分集めてこい。言っておくが奪う前に取っておけよ。お前の使用済みの女の血は飲みたくない」

 

「でもボクの血は結構欲しがるよね?」

 

「……」

 

 

 無言で蹴ってきた。痛い痛い。

 

 

「三十人も処女いるの? 勝手なイメージだけど戦いで発散してそうなんだけど。ストレートに言えばヤリマン?」

 

「ストレート過ぎだ」

 

 

 できるならヤリマンじゃない騎士が多いといいなと淡い期待を持つ。最悪なパターンが既に調教済な騎士多いこと。もしいればご主人様とか呼ばせてる奴ぶっ殺してやる。

 

 

「安心しろ。女騎士は処女であれば非処女と比べると魔力は多い事が多い。逆の場合なら体が柔らかくなる、痛みに強くなると特徴があるな」

 

 

 破瓜は痛いらしいからねー。痛みに強くなると聞けば少し納得できる。

 エヴァンジェリンの場合は五十年使わなければ膜が復活するそうな。吸血鬼の超速再生で傷と一緒に治る事もあると前に聞いた事がある。

 痛いのが嫌なので性行為をその周期の間に行って発散もするらしい。寝ている間に息子を使われたと知って男として情けなくなったのもつい最近の事だ。

 

 

「それとな。強い部類の騎士は締まりがいいらしいぞ」

 

「何かエヴァンジェリン、オヤジ臭いよ。普通は中年のオッサンが言う言葉じゃないの?」

 

「別にいいだろ。長く生きていればこうなる」

 

 

 なりたくねーと思ったのは内緒だ。

 

 できるならもう少し紳士的でありたい。エヴァンジェリンに対しては自分でもクズだと思うが女性には優しくありたい。

 今から強姦紛いな事をしようとしている人間の言う台詞じゃないけど。

 

 

「ほら」

 

 

 エヴァンジェリンから注射器らしき物を渡される。昔のうろ覚えな知識からエヴァンジェリンが作ったもので主に血を保存する用途で使っているわけだが。

 文字通り三十本、三十人分渡された。血を抜いた後に血が貯まる細長い容器を器用に指で挟みながら。小さく見えるのであまり量は必要ないのだろう。

 

 

「じゃ、頼んだ」

 

「というかさぁ。ボクが他人の女性と性行為するの抵抗ないの? 嫉妬したりとかさ」

 

「嫉妬? ふん。それは人間だからだろう。人は何時か死ぬ。永遠に近い命で私の眷族であるお前が取られる事を何故嫉妬しなければならん? ……お、お前はもう私の物なんだからな!」

 

 

 お嬢さん、可愛いですね。

 

 

「お前とは肉欲に溺れる毎日よりも家族のように過ごしたいんだよ。ムラムラするなら他の極上の女を抱けばいい。私は特に気にせんよ」

 

 

 ヤリチンだけは勘弁な。陵辱系の主人公だけは嫌だ。

 

 それにしても三十人の処女の血ですかい。別にセックスをしろというわけでもあるまいし殺して血だけを抜き取る事もできるが女子供は殺さない契約をエヴァンジェリンと交わしているからなぁ。

 殺すのだけは駄目。致命傷を与えるのは正当防衛なら可。容器を満たす血の量といえばちょっとの傷では無理そうだ。

 首筋に噛み付いてペッ以外は不可能そうだ。ダバーと唾を入れるように血を満たす方法が考えられるが、ウチのご主人様はそれを許すかどうか。

 

 

「ふむ。構わんぞ。お前の血液も一緒なら更に美味くなりそうだ」

 

 

 吸血鬼って皆変なフェチでもあるのだろうか。エヴァンジェリンの趣味が異常なのではないかと心配になってきた。

 というかセックスした後の女の血は駄目で血と混ざったボクの唾液は大丈夫なのだろうか。変にこだわっているというかもうフェチの領域だよねこれ。

 

 

「アリアドネーを一通り案内したら私は前に隠したワインを回収する。熟成しているはずだから絶品になっているはずだしな」

 

「酒かぁ。どうもアルコールは苦手なんだけど。炭酸の飲料とかも」

 

 

 子供の頃に間違って飲んだビールの味というかパチパチシュワシュワする感じ? あれはコーラとか炭酸飲料も同じだけど苦手で嫌いなんだよね。

 酔いやすい体質は変化しているかどうかわからんが変わらないならエヴァンジェリンを襲う以前に飲まない選択をするよ。

 

 

「食材も揃えておく。というわけで金をくれ」

 

「余計なの、買わないでよ」

 

「買わん」

 

「そう言いながら前にクソ高いシャンデリア買ってたじゃん。別荘があるからいいけど旅の邪魔だよアレ。本当にいる物で保存ができる食材だけにしてよ?」

 

「わかってるわかってる」

 

 

 不安を拭いきれないまま管理している財布を取り出す。必要だと思う分だけの金額の金をエヴァンジェリンの持つ財布に移した。

 ……ホクホク顔をしているのが余計に不安を駆り立てるんだが。

 

 

 

 

 







 そうそうこんな感じこんな感じ(適当)

 直接的には書いていないけどこのオリ主はエヴァンジェリンをレイープしております。後でも何故レイプ犯と化したのか理由は書くけど絶対に死ねとしか反応しないと思われる。

 死ね(嫉妬)

 UQホルダーもいいけどロリのエヴァ様の足を舐めt(ry






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交わる

 

 

 

 

 

 

「これでアリアドネーの大方の案内は済んだな。騎士の多くはアリアドネー騎士養成学校か騎士団本部にいる。遠征をしている者もいるようだが探すならそこだ」

 

「おー。理解した」

 

「問題だけは起こすなよ。吸血鬼殺しに特化した騎士団の隊もいるんだ。目を付けられたら逃げるのにも苦労するからな」

 

 

 どちらかといえば喧嘩を売ってどこまで今の自分の力が通じるか試してみたいものだ。マギア・エレベアの力でできなかった事ができるようになっているので色々使えるものがないかを探したい。

 実戦に勝る訓練はないと誰かが言っていた気もするし、吸血鬼殺しに特化しているなら極度の緊張感を持ちながら戦える。

 生きるか死ぬかの瀬戸際であれば生きる為に足掻き、生き残る為に本能と脳が最善の方法を導き出して更に洗練された実力を生み出せる……はず。あくまでも勝手な思いと根性論に自己論だもの。

 

 

「異性を堕とす吸血鬼の誘惑も体で覚えておけ」

 

「え。そんな素敵特典があるの?」

 

「そもそもお前も以前に引っ掛かっていただろうが。流し目に吸血鬼の魔力をほんの少しだけ漏れさせて誘惑する事は簡単にできる。練習して習得すれば後々、役に立つかもしれんだろ」

 

 

 モテモテハーレムでも作れるわけだ! だが催眠である。

 

 

「それを使えば女はお前の虜。ついでに従者でも探したらどうだ?」

 

「普通の人間だったら死ぬんじゃないですかねぇ」

 

 

 普通の吸血鬼なら探せばいるだろうが吸血鬼の真祖となれば数は少ない上にエヴァンジェリンだけというオチになるかもしれない。

 従者がいれば戦術の幅は広まるし長い時間を一緒に過ごせるかもしれない。だが普通でない自分達は同じ普通ではない者を見つけなければならないのだ。非常に面倒臭い。それに今はどうしても欲しいというわけでもないし。

 

 

「お前専用の娼婦を見つけると思えば……」

 

「表現が生々しい」

 

 

 生々しいかどうかは置いとくとして手付きが妙にエロいエヴァンジェリン。見た目は少女でも中身は汚いオッサンのようだ。具体的に言えば援交する中年太りしたオッサン。

 同人誌の定番ネタだろうが現実でやるとどうもなぁ。幼気な女の子を調教して自分だけの物にするとかされたら許せん。

 

 似たような事をしようとしているボクが言う事じゃないけどねー。

 

 

「エヴァンジェリンも男婦でもいんの?」

 

「昔は奴隷がいた。言っとくが悪魔以上にクズな奴だけで囮に使ったくらいだ。血は不味いし五月蝿いし臭いし」

 

「……ボク、臭う?」

 

 

 もしかしたら加齢臭でも出ているのか? と着替えた服の匂いを嗅いでみた。これでも臭いには気遣って湯浴みとかしてんだけどと思う。

 昔の人はお湯を贅沢に使わない習慣があるので一杯に満たした浴槽のようなものに浸かる事もないため、初めはエヴァンジェリンにも変な目で見られた。ドラム缶風呂、慣れれば開放感があって気持ち良いと思うんだけどさ。

 石鹸もわざわざ自作して洗ってるんだけど臭ったらショックだ。そこんところどうなのだろうか。

 

 

「臭う事はないが……寧ろ私は好きな匂いだぞ」

 

「……う、うわぁ」

 

「おい。何でドン引きをしてるんだお前は」

 

「だ、だってさ。男の匂いが好きって言うと暗に匂いも全てが好きだと言ってるようなもんだよ」

 

 

 特にヤンデレさん。自分だけを見てくれる点以外は生理的に受け入れない部分が多い。最後に勘違いで殺されるのは絶対に嫌だ。

 共にある時間が長ければ長いほどヤンデレになる確率が高いと俺氏からの報告がある。エヴァンジェリンがそうならない事を祈るしかない。もしそうなれば世界を股に大逃亡劇が始まるぞ。

 

 その言葉に何を勘違いしたのかわからないがエヴァンジェリンは顔を真っ赤にして違うと弁明を始めた。可愛い。

 別に好きである事は否定しないが匂い云々はそういう意味じゃないとのこと。必死に弁明する姿がとてもチャーミーでラブリーでした。

 まあ、時々寒いからといって一緒に添い寝しながら寝るもんな。もう洗脳の領域で匂いも覚えてるんじゃないかと思うんだが。エヴァンジェリン、氷に適性があるからか寒い時は寒いらしいからねぇ。

 逆に氷の適正以上に火の適性があるボクは冬は快適だけど夏は死にたくなるもの。火に適性があれば逆に夏に強くなると思ったのだが、今までのフィクション知識は変な場所で役に立たなかったようだ。

 

 

「ほ、ほら! いいからさっさと仕事をしてこい!」

 

「了解」

 

 

 遊びは終わりのようだ。プンスカと怒る可愛いエヴァンジェリンの変装している姿の髪の毛をサラサラと撫でるように触れた。照れ隠しに蹴られた。

 

 

「演技するなら乱暴な真似せずにお淑やかにしてれば?」

 

「五月蝿い五月蝿い五月蝿いうるさーい! 黙っていればいい気になりおって! 三十人じゃなくて五十人集めてこい!」

 

「げっ。マジ?」

 

 

 賄賂にお小遣いを増やすからと言ってみたがお怒りのようで聞き入れてくれず。ノルマが三十人から五十人に増えてしまった。

 三十人も集めるのは大変なのに五十人って何日かかるんだよ。一日に何人ナンパできるのだろうか。

 

 

「待て。小遣いだけは貰う」

 

「最低だねー相変わらず……三十人で勘弁してくれない?」

 

「駄目だ」

 

 

 追加で容器を二十本貰う事になった。不幸すぎて泣けてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もしよければボクとお茶でもしませんか?」

 

 

 ナンパなんかした事がないからありきたりな言葉しか吐けない。多分、笑顔も引き攣っていると思われる。

 だってナンパしている相手の女の人、少し引いている感じがするもん。クソ、こうなる前に彼女でナンパの練習していれば……それも怒られるか。

 

 

「申し訳ありません。騎士の身なので忙しいので。お誘い、ありがとうございます」

 

 

 無論、振られた。畜生。

 

 好みのクールな女騎士をナンパしたものの、一瞬で振られた。催眠も使わずに顔とナンパテクだけで勝負したのは間違いだったか。

 これで二人目だ。一人目はナンパ成功したものの、清楚を被ったビッチだった。処女ビッチならまだしもヤリマンビッチという最悪なパターン。死ねばいいのに。

 

 アリアドネー魔法騎士団の女はこうもガードが固いのだろうか。薄い本ネタ的に性な目覚めた騎士様に最適なキャラクターはおらぬのかっ。

 エヴァンジェリンは血が欲しい。ボクは女の子とえっちしたい。セックスしたい。どちらも正常な人間なら外道、異常な行動に見えるだろうがボク等は悪い魔法使いだし(悟り)

 今は騎士団養成学校でテストがあるらしく、外を出歩く者は少ない。更に女性限定なので更に厳しくなる。ナンパをした数は二人、女性を見たのは五人のみ。省いた三人は好みではなかったので。

 ファンタジー要素が詰まった魔法世界は流石だ。色とりどりの髪色やら瞳の色やら。現代の日本なら無理であろう女性が多くいるのでファンタジーフェチには堪らない世界だ。ケモ耳フェチやらケモナーも大歓喜のはず。

 

 エヴァンジェリンは時間には厳しい。朝は弱くて寝坊は多いのに何かと時間にルーズな部分がある。

 ケータイデンワーに似た通信機と同じ性能を持つマジックアイテム、魔法具とも呼べるものでエヴァンジェリンと会話と相談ができるものがある。見た目はタロットカードのようなものなのに魔法ってスゲーと改めて思う。

 

 

「ナンパ師はおらぬのか」

 

 

 自分で口説き落とすよりも誰かから助言を頂こうと作戦変更をした。ナンパが仕事なチャラ男がいれば首を掴んで脅せばいいだろうし。ゲス顔を披露すれば誰でもポロリと喋りそうな気もした。

 無駄に凄みあるし。変身して脅せば悪役も真っ青だと思うよ? 火と氷とバリエーションも豊富だもの。

 

 ファンタジー要素に溢れる魔法世界さんはボクを飽きさせないようだ。行く人、すれ違う人の中には亜人と呼ばれる人間とは違う姿を象る生物がいる。

 犬と混じる亜人、猫と混じる亜人、蜥蜴と混じる亜人。リザードマンとか生で見れて感動ものだ。もっと凄いのと一緒にいるけどまた違った感動に胸を打たれざるを得ない。ファンタジー万歳。

 取り敢えず騎士団に猫耳少女とかいないかなぁ。

 

 ナンパはすれども釣れるのはビッチのみ。もうビッチでエヴァンジェリンを騙そうかなと邪な考えが過ぎるが逆に自分が貧血になるまで吸われるので努力はせねば。機嫌の善し悪しで量が変わるんだ。

 今頃エヴァンジェリンは欲望の赴くままに衝動買いとかしているんだろうなと暢気な彼女に恨み言を綴った。

 自分で血を集めろよとナンパをする度に思ったが手配されている彼女は簡単に動けないだろうし弱みを握られているから逆らえんし。

 一人よりもゼロを借りればよかった。中身は残念だが見た目だけはいいのでナンパにも役立ちそうだったのに。

 

 ボクも従者に人形を持とうかね?

 

 

「ええっと……お茶くらいなら」

 

「本当ですか? ありがとうございます。アリアドネーには観光できたんですが地理もよく知らないので地元の人に美味しいお茶が飲める場所を聞きたかったのですが」

 

 

 今まで振られましたと。

 

 

「あ、あー。それは……騎士団には不純異性行為禁止というルールがあるので皆断ったんだと思います」

 

 

 マジでか。ガチガチの教頭でもいるのか養成学校。

 

 

「そうでしたか。いやはや、騎士団の女性の方は冷たいものだと」

 

「あはは。ナンパされたんだと思いますよ? 貞操理念に厳しい人もいますから」

 

 

 ……何だろう。少し胸が痛む。

 

 通算二十人目でナンパに成功した。優しそうな性格をしてそうな可愛い顔、赤い髪の女の子なのだがどうもエロゲーのヒロインでいそうな感じの子なんだよね。

 レイプ目が似合いそうな……いや、何でもない。

 

 

「あの。時間は大丈夫でしょうか? アリアドネーは広いので案内するにしても時間が必要なんですが」

 

「観光名所は一通り見ました。できればお洒落なテラスに案内してくれると嬉しいです」

 

「あ。それならいい場所があります。同業者、アリアドネー騎士団の皆も利用しているんですよ」

 

 

 あ。この子チョロイわ。そう思ったボクは死ねばいいと思う。

 それにしても騎士団がよく利用する店なら普通にナンパするよりもそこで撒き餌をすれば効率は良さそうな気がしてきた。

 ここでこそ吸血鬼の魔性の誘惑を使うべき場所だろう。女性を惹きつけるフェロモンでも出せば誰かしらホイホイ釣れるかもしれない。マジチョロイわと草を生やしたくなるが完全にクズ野郎になるので黙っておく。

 一度だけ誰かと寝れば噂大好きな女性はあの人凄いよマジ。って股を開いてくれるかもしれない……ふへへ。

 

 

「じゃあ行きましょうか。空は飛べますか?」

 

「大丈夫です。少し早くても追い付けますんで」

 

「すいません。ここからは遠い場所にあるので飛んだ方が早いんです。飛行禁止区域はありますけど少し複雑に行きます」

 

 

 そこは素直に最短じゃなくても安全なルートでもいいんじゃね?

 

 

「はい。構いませんよ。アナタと少しお話もしたいので」

 

「あはは。口が上手ですね」

 

 

 吸血鬼になってもニコポナデポはないようだ。あれがあれば話ももう少し容易く持ち込む事もできただろうに。

 吸血鬼の誘惑の魔法は効能は期待できるが下手すれば眷族化するリスクがある。要はモテすぎてヤンデレ化するかもしれないし、依存し過ぎて崇拝するかもしれないとエヴァさんが言ってた。

 少し練習しておけという言葉の意味がようやく理解できた気がする。説明は受けたのに忘れるのはアホだけど。

 

 

「へー。騎士見習いなんですか」

 

「はい。念願の騎士になれたんですが仕事仕事大変で。今日も見習いになって以来初めての休みなんですよ」

 

「では今日はボクの為に時間を取らせてしまったようで。よければ今日はご馳走させてもらえませんか?」

 

「えっ!? でも申し訳ないですよ!」

 

「構いません。少し多めに給料を貰いましたので余裕はあります」

 

 

 エヴァンジェリンのムダ遣いから財布を守っていると自然に貯まったし。浪費家ではなかった自分を褒めてやりたいところだ。

 ナンパした女の子騎士と並んで飛びながら会話を交わす。女の子と会話で吃る事はしなかったものの、彼女ができてすぐに今の時間に来たのでやはり女性と会話するのは未知の次元である。可愛い笑顔に逆に堕とされそうだ。

 今からこの子に血をくださいとか言うのかボク。ただのカニバリズムならぬ血液中毒じゃないか。

 

 吸血鬼だけどね。ボク。

 

 

 

 

 

 

 







 はいはいエロゲエロゲ。

初めはこんなかんじのキャラです。後で誰だコイツ!? って突っ込まれるキャラにはしたいけどノリとかで正常なのが病気とか言われそうなんだよなぁ。

 あ。別にエロゲのキャラとか参考にしてないのであしからず。しいて言えばレイプ目は似合う。





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学習する

 

 

 

 

 

 

 

 

 うむ。えかった。何がえかったかは内緒だ。

 

 

「あの、気持ち良かったです」

 

「ボクもです」

 

 

 イケメソはこう簡単にラブホ直行できるのか。顔が良いだけで簡単にヤれるとは生まれついての顔がここまでの差があるとは。

 恥ずかしそうにシーツで裸体を隠す女の子がここまでエロティックだとは。頬が赤っぽいというかピンク色に近い事は新しい発見ですな。今までの女性の仕草で一番好みな表情である。

 うむ。気持ち良かった。何がというかナニが気持ち良かった。女の子がよがる声も最高でした。この発言だけを切り抜けばただの変態にしかならんけどな!

 

 

「こんなにも気持ち良いなんて思わなかったです。男の人は怖いと思ってたんですけど」

 

「乱暴な馬鹿が多いのは事実です。でもボクは紳士なので優しくしますよ」

 

「はい。もう溺れてしまいそうでした」

 

 

 照れた顔が見られたくないのだろうか、シーツの中に潜って隠し始めた。もう野郎のボクも胸がキュンキュンしてます。可愛すぎて汚い自分の心が痛いです。

 女の子とえっちできたのはいいのだが汚い心が洗われるようで浄化されそうだ。

 吸血鬼になった影響だと信じたいが、外道思考になっていた少し前の自分を殴り飛ばしたい。何が【息子】には勝てなかったよをやらせたいだ馬鹿野郎。

 

 初めて会った女の子とイチャイチャするのは楽しいものだ。互いに裸体で抱き合ったり軽いちゅーをしたり。非童貞が羨むような事を平然としてますな。リア充爆発しろとか言われてもしょうがない。

 えっちする前に血は貰ったけどダラーとかしなくても指先を切るだけで簡単に容器を満たせるのはラッキーであった。エヴァンジェリンはノーとか言いそうだけど。

 

 

「あの。もしよければお名前を」

 

 

 名前を聞かれた。名前をまだ知られていないけど万が一、身バレした時に追跡を難しくする為に伏せときたいんだけどねー。

 呼ばれるにしても小僧やら雑種やらお前やら。目覚めた後は悪の魔法使いだもんなぁ。エヴァンジェリン以上の悪い魔法使いとして見られているらしい。

 正義の総本山のボス倒したからそう見られるけど悪の魔法使いはないだろ悪の魔法使いは。エヴァンジェリンみたいにダーク・エヴァンジェルとか呼ばれたいんだけど。

 名前。名前。名前ねぇ。偽名を名乗るにしても大丈夫な名前はないだろうか。

 

 エヴァンジェリンはEvangelineの綴りを少し変えてイヴを名乗る事が多い。没落貴族だからファミリーネームはないと誤魔化せるとも聞いた。

 手帳に名前は書いてあるのでアナグラムで偽名は作れるけどすぐには無理かね?

 

 

「あー、ごめんね。今はあまり騒がれたくないから大っぴらに名前は明かせないんだ。ボクだとわかるアダ名を付けてもらってもいいかな?」

 

「それならパパはどうでしょうか?」

 

 

 援交か。

 

 この子、少し天然ではないだろうかと振った自分でも思った。顔も雰囲気もそれっぽい感じがするもん。

 年齢はパパではなくジジイなんだが。年齢はいくつなんだろう、自分。

 鼻が曲がりそうな臭いをイチャイチャしながらシャワーを浴びて流し、部屋は同じまま互いの着替えをしながら会話をする。えっちすれば男女関係はここまで近付いてオープンになれるものかと感心した。

 割れ目やら谷を着替え途中に見るのもムラムラできるもんだねー。またヤりたくなってムラムラしてきた。誘ってんだろ? ん? と言いたい。

 ケツを振りやがってメs(ry

 

 

「普通にお兄さんにしてくれ」

 

「老けてると言われてませんか?」

 

 

 天然というよりも空気が読めてないだけじゃね? 彼女の認識を改めなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 もっと気持ち良くなりたければ誰か生贄に捧げよ的なニュアンスを言ってみた。この子を撒き餌にするのもいいかもしれない。

 性の喜びを知った……寧ろ悦び? 歓び? を知った彼女は最初ぐらいなら言う事は聞いてくれるだろう。ストレートに言えば道具になってくれる。

 キャラクター的に撒き餌にさせるのはデメリットしかなさそうだがいざという時は洗脳しとこう。

 

 

「ありがとうございます! また会いましょう!」

 

 

 ブンブンと手を振ってくれる女の子。アホの子っぽいが可愛いので許す。幻視で犬の尻尾が見えるのは気のせいだと思いたい。本当に見えるとは思わなかった。

 誰か可愛い子を紹介してと言えば快く受けてくれた。嫌な予感がするがあの子に任せてみよう。えっちしてあげると言えばワーイと喜んでいたし。アホ可愛かった。チョロくてワロス。

 

 えっちした後はアリアドネーについて色々教わった。アリアドネーには魔法騎士団があるのは周知、具体的に言えば普通の騎士と魔法騎士で養成学校のコースが変わるらしい。

 魔法騎士は普通の魔法使いと同じものだと考えてもいいらしい。騎士団に支給される剣を使うから魔法騎士と呼ばれているだけで後方支援が主だそうだ。槍を使うのが多い事は聞かなかったこ事にした。

 それなら魔法騎士の部類かあるいは普通の騎士か、自分に当て嵌るアリアドネーの基準はないだろうと思う。エヴァンジェリン同様、枠にハマらない究極の一だから。

 マギア・エレベアだけでもチートなんだけどねぇ。

 

 

「あ、もしもしイヴ?」

 

『む。何だ』

 

「報告だけどまだ一人しか貰えなかった。少し時間がかかるから別の場所に行ってもいいよ」

 

『ほう。早いな。もう少しかかるかと思えば意外と女たらしなんじゃないのか?』

 

 

 クックックと向こうからイヴもといエヴァンジェリンの声が聞こえる。人の多い場所にいるのか雑音が多い気がする。何をしてるんだ。

 

 

「冗談はやめてくれ。最初はビッチしか釣れなかったんだぞ? ビッチの血は嫌じゃないの?」

 

『イカ臭い。まずい。泥の食感』

 

 

 ボロクソすぎる。

 

 まあ、この時代はコンドームなんかないから避妊対策はできんらしいし男と交わりまくる女の血はさぞ最悪な事だろう。自分も飲みたくない。

 吸血鬼化してからは血を飲んだ回数はまだ少ない。というよりも人間であった頃の名残で抵抗があるのだ。

 エヴァンジェリンは無理矢理吸血鬼にされてからは道徳とかは投げ捨てて血を飲み始めているそうで今ではグルメになっているんだよな。処女の血が美味いとか男ならただの処女厨でロリコンじゃねーかと突っ込みたい。

 

 

「逆に処女の血は?」

 

『美味』

 

「シンプルすぎて逆に味が予想できんのだけど」

 

『飲めばいいだろ』

 

 

 それができないってんだろーが。

 

 

『それでどれくらい時間がいるんだ?』

 

「うーん。少し発散したいから一週間」

 

『発情期の猿かお前は。ほどほどにしないと吸血鬼から淫魔に堕ちるぞ。ランクも下がるし吸血鬼と比べればデメリットも多いし腰を振るだけの存在になるぞ』

 

「それは嫌だ」

 

 

 要はソープ嬢の男版か。ヴァンパイアからインキュバスになるのは嫌だな。腰を振るだけってところが凄まじく格好悪い。

 吸血鬼の真祖であるエヴァンジェリンの血だから真祖の特徴を受け継いだ吸血鬼ってのが現状だけど不安定だから何になるかわからないそうだから気を付けたいね。マーラとかになったら間違いなく自殺する。

 

 

『一週間なら私は先に旧世界に戻るぞ。ここにいるとバレる可能性が高くなるからな』

 

「え。転送ポートはどうすんの?」

 

『調べたがお前の顔はバレてなかった』

 

 

 曰く、前の不細工面だったとのこと。今のイケメソ面ではないので普通に利用しても大丈夫だそう。

 それは旧世界から魔法世界に来る時に教えて欲しかったなぁ……。転送ポート、酔うんだもの。まだ知らない段階だったけど。

 

 

『一週間と言わずに一月でも構わんぞ。アリアドネーには騎士養成学校以外にも魔法使いが留学に来る事が多いから大図書館がある。説明をしていなかったが禁書に分類される魔導書やら魔法書があったはずだ。調べれば時間操作魔法の情報があるんじゃないか?』

 

「許可とか要りそうだなオイ」

 

『いるだろうな』

 

 

 他人事のように言いおって。自分は関わらないから考えなくてもいいってか。

 

 

『上位許可証を持つ女を堕とせばいいだろ。頭がお固い連中の中には処女の守りも固い奴もいるはずだ』

 

「ボクにできると思ってんの?」

 

『吸血鬼の誘惑を使えとあれほど……』

 

「やり方わからん」

 

 

 ハッキリとエヴァンジェリンの溜め息が聞こえた。何だそのコイツ馬鹿だな的なニュアンスは。ボクはのび太君じゃねーぞ。

 

 

『催眠術の一種だ。吸血鬼には誘惑の魔眼がある』

 

 

 吸血鬼には魔眼があるなんて初耳なんですが。死の線とか点は見えますか先生!

 直死の魔眼とかじゃなくて魅惑の魔眼という表現が正しいようである。格好悪そうだが異性限定なら無敵らしい。どれだけお固い女でもメロメロらしい。何というか表現がな……。

 アナタとえっちしたいという気持ちを視線に乗せて無理矢理従わせる外道魔法だそうだ。うん。はしょりすぎているけど大体こんな感じだ。エヴァンジェリンの説明は時々わかる者しかわからない説明だから端折るのも難しいんだ。

 

 

『だから練習しろと釘を差したのに』

 

「えっ」

 

 

 釘を差すほど言ってたっけ? と思ったがツッコミを入れると話が進まなくなるので黙っておく。

 本格的な訓練はエヴァンジェリンと合流してからということで今回は触り程度の魔眼の練習をしてから基本を独学で学べと言う。スパルタってレベルじゃねーぞ。

 

 エヴァンジェリンは旧世界でのんびりと過ごす反面、魔法世界にいる自分は女をナンパしつつも処女の血を集めて大図書館に行く目的ができた。ボクだけ仕事が多い気もするけどこういう時だけ弱いので素直に従う。

 そうか。アリアドネーにも図書館はあるのか。それも禁術指定された魔法の記された本も。

 そこに大きな手掛かりがありそうなので大図書館の司書かアリアドネーでも地位のある処女を狙って毒牙にかけるわけか。おまわりさん、俺です。

 結局俺を一人称にした口調もすぐに諦めたな。俺と言えば偉そうだからボクにしているんだけどこの時代だと私やら我とかだもんな。ボクとか俺とかだと違和感しかないのかもしれない。

 

 適度にナンパをしつつもアリアドネー大図書館に足を向ける。一応体は清めたので臭いはないと思うが女性は臭いに敏感と言うし亜人で鼻が良さそうな人には気を付けないと。魔法で臭いを消せるけどね。

 魔法便利過ぎて元の世界に帰ったら色々と不便になるのではないかと時々思う。まあ、帰れるようになってから考えよう。

 帰りたいけど魔法という夢が叶えられる期間が過去にいる間なら天秤はこの世界に傾いてしまいそうだ。色々応用ができる魔法の数々で楽しいから。

 だが元の世界には付き合い始めの彼女が……あっ。

 

 他の女性とえっちしてたら浮気じゃないか。

 

 やっちまったーと頭を抱える事になるわけだが。いや、これは帰る為に必要な事なのだ。ボクは悪くないし彼女も絶対に許してくれるはずだ。アッチのテクニックで許してもらえるはずなのだ……許してくれるかなぁ?

 

 

「大図書館へようこそ。案内は必要でしょうか」

 

 

 アリアドネー大図書館にやって来た。窓口で司書に声をかけたら営業スマイルで対応してきた。ご丁寧に手を横にヨウコソをやっている。あれは約束事か何かなのだろうか。

 司書は司書さんと呼びたくなるお姉さんタイプ。ババアとか言ってはいけない。ナンパに成功した子と比べれば年は食ってるだろうがテクニックは凄そうだと思う大人のお姉さん。

 どうせ経験豊富なんだろうと割り切り、大図書館の配置の説明を受けた。広すぎるので迷子になるかもしれないと。流石はファンタジー。

 

 

「こちらは許可がある方しか入れません。なお、貸し出し厳禁です。アリアドネー滞在許可証、アリアドネー住民証、学生証があれば貸し出しは可能ですが」

 

「観光ついでですので」

 

「かしこまりました。窃盗は犯罪になります。写本は先程申し上げた証明できるものがあれば無料ですがお客様の場合は有料です。100ドラクマより始まります」

 

 

 ゲッ。100もか。高すぎないか?

 1ドラクマで6ドルちょっとだから円に直せば六万円かよ!? ぼったくりもいいトコだぞこれ!

 

 

「ここ、アリアドネー大図書館には大変貴重な本もございますので」

 

 

 ニッコリと言われた。暗に盗んだら殺すぞゴラァとか言ってるように聞こえる。

 

 

「自分で写すのは駄目でしょうか」

 

「駄目です。お客様は観光で来ているのでしょう? 写す必要もないと思われますが」

 

 

 あ。融通効かないわこの人。絶対に許可してくれないな。

 うむむ。しょうがない。魔法の射手、サギタ・マギカの簡単な仕組みだけを覚えて一旦は帰ろう。禁書エリアも厳重に警備をしているらしいし。

 あー、次はこの人を堕とすべきか? 内緒で案内してくれるような仲になれば手間は色々省けそうだがどうしようか。

 

 取り敢えず、本を読んで覚えようとしたが記憶力のない自分には半分も覚えられなかった。吸血鬼になっても頭は良くならないようである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







 吸血すれば堕とせる(確信)

 首筋に噛み付いて吸血している場面で女性が発情するのが多い気がするんだよ。だけど失禁するのもあった。雅ィィィィ!

 吸血鬼としてはエヴァンジェリンは大先輩。エロオリ主こと悪い魔法使いはまだ駆け出し。知ってるか? まだ目覚めて一年も経ってないんだぜ? それならのにエヴァンジェリンに勝てるんだぜ?

 彼には大先輩がいます。既存キャラ、元ネタという天啓が。1+1が5にも9にもなっている感じですかね。よくあるテンプレパゥワー。あるある。





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逃げる



 ついにお気に入りが100を越えました! ありがとうございます!


























 見ればわかる事をいちいち書く。あるある。








 

 

 

 

 

「ねーん。今日は早上がりだから少し早く始めなーい?」

 

 

 若干脚色しているが意訳すればこんな感じだ。クリムゾン展開的に悔しいでもビクンビクンを見事に見せてくれた司書のお姉さんはメロメロになっている。

 まさか処女だとは。遊んでそうだったけどこれが処女ビッチか。処女のくせにビッチみたいに振舞ってんじゃねーよと罵倒したボクは悪くない。悪くないはずだ。完全にプレイになってるよ。

 

 というわけで司書を陥落させたら禁書エリアはいとも簡単に入る事ができたわけだが。色々偽造しているからバレたらどうなるんだろうとベタベタしてくるメロメロになっているお姉さんを見て思う。

 当ててんのよ。も初めての体験だ。エヴァンジェリンの場合は絶壁だし当てるのは爪だし。おっぱいってこんなに柔らかいんですねと思いました(賢者)

 

 

「ねえ。ボクが頼んでおいてなんだけど本当に大丈夫なの?」

 

「大丈夫大丈夫。パパに頼んだら何とかしてくれるわ」

 

 

 うーんと禁書エリアにある本を捲っている最中に頬を擦りつけてくる。もうこのお姉さん、オレの女なんだぜ? と犯罪臭しかしない台詞が浮かんだボクはやはりゲスなのだろう。

 女性を陥落させて支配すると男は変わるのは既に同人誌以下、薄い本で証明されているようである。気弱なクラスメイトが最終的にはおねだりしてみろ! とか叫ぶんだぜ。信じられるか?

 どうやらこのお姉さんのパパはアリアドネー、もしくはアリアドネーに意見できるほど地位の高い人なのだろうと仮定する。やべぇ。選択肢を誤ったか?

 

 昨日は写したら駄目と言っていたのに今は手帳に写すのを見ても怒らない。寧ろ協力的で何冊かの本を持って来ては抱き着いてくる。

 禁書というからにはどんなにヤバイ情報があるのだろうかと思えば、エヴァンジェリンからすれば別に禁術でも何でもない魔法が書かれてあるだけだった。

 この魔法とか同じく未来から来た者がいるの? としか思えない名前や魔法の詳細があるんだけど大丈夫なのか? 色々な意味で。

 

 

「はい。これで全部ね。空間に作用する魔法が書かれている記述があるのは」

 

「うん。ありがとう」

 

「お礼は体で」

 

 

 アグレッシブだなぁと他人事のように積み重ねられた本の最も上にあるものを手に取る。分厚くて重いので開けるのも前の自分なら苦労したはずだ。

 吸血鬼の筋力、魔法発動の最適化による身体強化魔法の発動の容易さ。普通の本よりも重いのは盗難防止なんだろう。重力魔法なんてものもあるのでそれに分類される魔法がかけられていると感じた。

 

 空間とは即ち、時空間である。お姉さんの言う事を要約すればこうだと思いたい。

 空間に関係する記述がある本をお姉さんは覚えていたので手当たり次第に持ってきてもらった。司書の仕事を放り出して一緒に来ているのでダラダラとここで読んでいるわけにもいかない。

 司書は一人ではないし禁書エリアには監視をする人も付き添うのが決まりなのでおかしいところはないがあまり長くても怪しまれる。

 

 

「えっと、これは?」

 

「こうですね」

 

 

 というかこのお姉さんマジ有能。何で古代語呪文読めるんだよ。ハイ・エンシェントって言われるほど難しいんだぞ。

 

 

「読むだけなら。難しいのはその魔法を遺憾無く威力を発揮させて発動する事よ」

 

「ア、ハイ」

 

 

 ドヤ顔で言われると腹が立つかと思えば美人だと不思議と可愛げもあるんだねぇ。自分がやればドヤゲス顔になると思われ。

 外国語をマスターしたといっても読み方次第で意味も変わる……と思う。日本語に直すだけでも大変なんだぞ! 何でも読めるようになるこんにゃくはないのかっ!

 字もお姉さんの方が綺麗だし。男は汚い、女は可憐とか誰かが言ってた気がする。雰囲気もファンタジーの魔導書に書かれているような字そのものだからちょっと羨ましい。

 

 ああ、とにもかくにも。この大図書館では色々と収穫を得れた。空間に関する情報は一通りまとめられたのでよかったとしよう。後でゆっくりと解読して色々組み合わせてタイムマシンを作るんだ。

 名残惜しそうなお姉さんから情熱的なちゅーをもらって一旦別れる。どうせ夜は禁書エリアを案内してくれたお礼を体で払う必要があるんだ。ウェヘヘヘ。

 

 いかんいかん。折角顔が良くなったんだからキリッとしておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『馬鹿かお前はー!』

 

 

 あまりの声量に耳を突き抜けて脳まで揺さぶられている気がする。電話、この場合は念話の相手はそうとうお怒りのようだ。

 開幕一言目がこれなのだからよっぽどの事をしたのだと思うわけだが心当たりが全然ないのだが。

 

 

『貴様……その様子だとわからんと惚けるようだな? ん? この戯けッ!!』

 

「え。ボク、何かヤバイ事でもした?」

 

『寧ろ国際問題にでも発展しそうなヤバイ事だ馬鹿者! 確かに頼み事をした私も悪いが貴様はやりすぎだ!』

 

「あ。頼み事といえば血、集まったよ。五十本じゃ納まらなかったから小さな瓶に入れたものが後十四本あるよ」

 

『おぉ! でかした……じゃないっ! “頑張りすぎたのが”問題なんだ!』

 

「……どゆこと?」

 

 

 頑張りすぎたのが何が悪いのだろうか。血が多ければ多いならエヴァンジェリンも喜ぶはずなんだが。

 確かに約束の一月を通り越して一ヶ月半もアリアドネーにいたのはちょっと悪いと思っているけどそこまで怒る必要はないと思う。

 禁書エリアの本が思いの外、面白いのがあったから熱中してしまったんだよ。そのせいで血を集めるのをそっちのけにしたせいで半月伸びるハメになったのが経緯だ。後は司書のお姉さんとグチョグチョネチョネチョしてたからだな、ウン。気持ち良かった。

 

 

『貴様、アリアドネーの男性騎士を敵に回してるんだよ! 好きだったあの子を奪われた鬱憤を晴らすとか言って戦争の準備をしてるんだ!』

 

 

 一瞬、脳裏を朗らかに笑う猫が浮かんだ。またまたご冗談を。

 

 

『それにメガロメセンブリアの重役の娘とも交わっただろ! アリアドネーとメセンブリーナ連合との間に国際問題になりそうなんだぞ!? あれだけ問題を起こすなと言ったのに!』

 

「え」

 

 

 すぐにメガロメセンブリアの重役の娘と聞いて思い当たる人が浮かんだ。

 

 あのお姉さんかよ……!

 

 ナンテコッタイと頭を抱えて落ち込んだ。たった一つの過ちが全てを台無しにするのは本当だったようだ。ぶっちゃけピンチ過ぎて思考が止まりそう。

 メガロメセンブリア、メセンブリーナ連合にいつの間にか喧嘩売ってるよボク……。

 

 

「マジか」

 

『いいから早く逃げろ。こっちで準備はしてあるから、な?』

 

 

 エヴァンジェリンが優しくて泣きそうです。完全にボクが悪いのに気遣ってくれるエヴァンジェリンだけがボクのジャスティス。やはりナンパをした女の子がいいかと思ったけどそんな事はなかったぜ!

 うん。完全に外道だボク。

 

 取り敢えず逃げる準備をする。だらしないエヴァンジェリンの荷物を纏める事に慣れていたおかげで散らかっていないが服も洗濯している物が多いので魔法で乾かす時間が必要だった。濡れたままだと後始末が面倒だもの。

 うーむ。女の子と寝たりする事が多かったけどテクニックは磨けたのが唯一の収穫にも思えてならない。

 一ヶ月半の調べ物の結果がエヴァンジェリンの魔法の基本的な理論をしっかりと理解しただけだった。わけのわからない例を出せば昔の作曲家の楽譜の裏に隠された当時の気持ちを何とやらみたいな。

 魔法の射手の応用法も更に広がったので戦闘力は変身した第一形態のフリーザ様より第二形態寄りにパワーアップしたと思う。ふふ。まだ私の変身は残されてますよ。

 マギア・エレベアなら千変万化とも言える変身はできるんだけど敢えてそこは伏せておこう。

 

 

『転送ポートは封鎖されるかもしれん。別れた場所に転送魔法陣を描いておくから急いで来い。言っとくが今まで寝た女に別れを言う時間はないぞ?』

 

「あっちは本気でもボクは半分お遊びだからね。ヤる前にどうなのかは一応聞いたと思うんだけど偶に本気になる子もいるからねぇ。スッパリとキッパリと諦めてくれると嬉しいんだけど対処はどうしよう」

 

『どうせいなくなる。ほっとけ』

 

 

 これはネタ振りなのか? 言え! 何でそんな事を言った!

 

 とはいいつつもエヴァンジェリンは寂しがり屋だからねぇ。諦めの感情も含まった言い方をしていると思う。

 吸血鬼になりたては心を許せる者がいたらしいが死んでどうせ人は死ぬのだと悟りを開いたんだと思うよ。幼気な少女に味方した奴はロリコンやペドフィリアかと思ったのは内緒だ。良い人は一応、いるんだね。

 

 心が汚れていてごめんなさい。

 

 

『あー、何だ。闇の魔法で雷の術式兵装があっただろ。それか光が』

 

 

 ありますね。雷帝と光帝が。シンプルで中二ネーミングだが割と素早く動くなら雷か光だと理科で習った気がするので使っているだけだ。

 雷と光は同じものに思っていたが稲妻の速さと光の速さは別物なのだとマギア・エレベアの術式兵装で実験して初めてわかった。取り敢えず光速は捉えるのは無理ゲー。

 エヴァンジェリンほどの実力者でも一秒の間に何度ボコれるだろうか。逆に速すぎて思考が追い付いていないから光は使い物にならんけどな。雷は恩恵なのかは不明だが生体電流? に作用するから思考速度も上がる。それでようやく暴れ馬を御せる事ができるのが現在の最強戦法。

 一瞬しか使わないから相手は何をしるのかされてるのかわからんだろう。ポルナレフコピペさん、出番です。

 

 

『おい聞いてるのか? とにかくその術式兵装で一気に離脱しろ。囲まれたら今のお前の顔もバレて面倒になるぞ』

 

「お面でも使うよ。雷なんか使ったらカバン燃えそう。ボク、エヴァンジェリンみたいに影に荷物を仕舞うのはまだ無理だよ? 手帳も燃やしたくないしお気に入りの服も」

 

『私が作ったのを大事にしてくれるのは嬉しいが捨てるべき時は捨てろ。燃やして手帳と血の入った容器だけ持って帰って来い』

 

「血だけは譲らないのがエヴァンジェリンらしいよね」

 

 

 言われずともと既にその二つだけはエヴァンジェリンの裁縫技術を頼りにして作ってもらったカバンに入れてある。センスのいいエヴァンジェリンだからこそ抵抗もなく使えるが素材を知れば絶対に嫌がる。間違いなく。

 切った髪の毛や髭に体の垢がどうなっているか知れば誰だってうわぁと思うはずよ。昔の人が生贄とかで悪魔を呼び出したりとか妖刀を作ったりとかの概念に似ている気がする。

 

 

『というかお前、普通に私の名前を呼ぶなよ。もしこれが盗み聞きでもされていたらどうするんだ』

 

「携帯念話を持っているのボク等だけだと思うよ?」

 

 

 そもそもの発想が未来のものだから同郷の人間がいなかったら盗聴も思い付かないと思うんだが。携帯電話の概念はないはず。きっと。

 元々ある念話システムを現代の携帯電話のシステムを付け加えてわからないようにしてあるはずだから携帯電話を知らないと絶対に仕組みがわからない。盗聴も考えられないと思うんだが。

 

 荷物をまとめて準備を済ませた。エヴァンジェリンとの会話もある程度で切り上げて指にストックしている雷の魔法を発動させる。雷だからパチッと電流が指にまとわりつくのが視界の端に見える。

 うわ。やっぱりだけど雷を使うと変な感触だ。ビリビリパチパチと体の底から湧き上がるように感じる。静電気よりも強い静電気が体の中を走っているイメージだ。

 

 ―― 解放 白き雷

 

 術式兵装の名前はない。命名の義務もないし雷帝よりも一回り弱い術式兵装だから使う機会も多いしエヴァンジェリンのように後の世に残そうとも思っていないので名無しの雷の術式兵装と呼んでいる。

 威力次第で性能も違う。名前を付けるのも億劫だし。

 電気を纏いながら外に飛び出す。飛ぶ事が苦手でも建物から建物へ飛び移れる事ができれば雷の速さで飛び移る事が可能だ。誰かに見られないように遅くないようにするのも苦労しそうだが案外できるものだ。

 残念だがどこぞのテンプレのように足を踏み外したり敵に囲まれるなんて事はなかったので無事にエヴァンジェリンの魔法陣に辿り着く事ができた。

 

 もうローチは許してやれよ。

 

 

 

 

 

 

 







 ただの嫉妬で指名手配。だが娘を取られた親は大激怒。一度の快楽で大問題になるのは割とあること。だが許されない。

 普通ならこの後に捕まってなんちゃらかんちゃらでヘラスのじゃじゃ馬に会ったりナギの嫁に会って寝取る展開になるのも割とあること。だがこのオリ主は逃げる。ローチはもう許してやれよ。



 ここで一つ。マギア・エレベアの扱いは最終決戦のネギ以上です。しかし総合戦闘力はネギが上。英雄と王家のハイブリッドだからしょうがない。元のスペックが違うだけでここまで差が出るのはあるんだもの。

 まあ、ネギの肝を抜く戦い方をするので互角かね? 元ネタをたくさん知る事はネギに似た戦い方をする者の天敵も知ってるわけですから。



 報告を一つ。題名を変えたのはただの釣りです。察しのいい人はまさかこの後……とか思ってる人は多分正解です。やる気が続けばやりますが適当に書き殴るとこうもスラスラできるとは思わなかった。もうこのスタイルでやろう。






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触れ合う

 

 

 

 

 

 

「まずい」

 

「24、まずいっと」

 

 

 バツ印を容器にマジックで書いた。顰めっ面のエヴァンジェリンにはお気に召さないようなので没ボックスに投入。

 残ったワインを捨てるとエヴァンジェリンは新しく注いでこちらに出してくる。半ば作業と化した動作を繰り返し行う。ワインの入ったグラスに25と数字が書かれた容器の中の血を少量だけ入れる。

 貴族らしく優雅に血の混ざったワインを飲む。コクリとエヴァンジェリンの喉が動くのを見届けて反応を待つ。

 

 

「美味い。Bだ」

 

「Bっと」

 

 

 B、取り敢えず美味い。アルファベット順に言えば二番目に美味いよとの意味。Aすらない現状からエヴァンジェリンはやはりこだわりがあるのだと改めて思った。

 Bは二つ目。他はクソまずいとまではいかんが処女の血の中ではまずい分類らしい。まずいというかマズイというか。ニュアンスもまた違うっぽい。

 

 

「ほら次だ」

 

「かしこまりー」

 

「……プククッ。似合うぞその格好。二週間はまだそのままでいろよ」

 

「罰ゲームだから受け入れますけどねー」

 

 

 ムカつくよ死ねとは思わん。エヴァンジェリンの罰ゲームの中ではまだ軽い方なのだから。どちらにせよ堅苦しい事この上ない。特に首は窮屈だ。

 

 

「何で魔法まで禁止なの? 体が重くて堪らんのだけど」

 

「罰ゲームにならんだろ。魔法あってこそお前の化け物スペックだからな」

 

「しかも執事とか」

 

「似合うぞ燕尾服」

 

 

 どうせなら羊のコスプレがよかった。角を装着してハリケーンミキサーをしたいんだ(錯乱)

 

 エヴァンジェリンの言うように罰ゲームの一環としてエヴァンジェリンに仕える執事として服装まで正してるんだ。作法無視の執事失格だけど。

 どんな形であれ執事として仕えさせて遊ぶのがエヴァンジェリンの目的。あれをしろこれをしろと様々な命令をしては食事当番は全部ボク。アリアドネーの一件を怒っているので逆らえない。

 アリアドネーの騎士を食いまくるクソ野郎=悪い魔法使いとはなっていないものの国際問題まで発展した今回の事件でアリアドネーはかなりピリピリしているらしい。完全にやり過ぎた。もとい、ヤり過ぎた。

 

 

「今日はどうする? まだ飲む?」

 

「いや、いい」

 

「わかった」

 

 

 エヴァンジェリンは一日に飲むワインの量は大体決まっている。ある範囲を越えれば可愛らしくケフッとゲップらしきものをするので見極める事は容易い。ゲップの匂いまで嗅ぎたい変態じゃないよボクは。

 

 

「さて。足を舐めろ」

 

「お嬢様。頭がイカれているようですので雷を落としましょうか? それに汚いから舐めたくない」

 

「汚いからお前の舌で清めるんだろう」

 

 

 ホラホラとエヴァンジェリンに足蹴りにされる。裸足のままで顔の頬を蹴ってくるので青筋が立つのが自分でもわかる。

 

 やっぱりエヴァンジェリンは処女厨だけじゃなくてマニアックな変態女王様なんだ。

 

 というか涎で余計に汚れるんじゃないの? 自分の舌は別にローションを生むとかボディソープ代用可能とかじゃないんだけど。エヴァンジェリンは基本的に裸足で別荘内を歩くから埃とかで汚いんだよ。

 人様の足を舐められる根性も無論、ない。背中と腹に胸とかは大丈夫だけどね!

 

 

「ならば湯浴みを手伝え。私の体を綺麗にしろ。今のお前は執事であると同時に私の奴隷でもあるんだからな」

 

 

 フハハハハと今にも言い出しそうだ。まあ、実質奴隷なんだけど。期間限定でエヴァンジェリンの奴隷に成り下がっている。

 エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルが命じる! とか言うと思ったけど普通に血を取られて一枚の紙に垂らされて名前を書かされただけで奴隷になったもんなぁ。魔法は不思議としか言えん。

 風呂を一緒にしろとの命令も拒む事ができないわけだ。別にボクは望んでいるわけじゃないよ、本当だよ。アリアドネーで何人の裸体を見たと思う!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エヴァンジェリンってさ。肌がスベスベだね」

 

「ふふん。そうだろそうだろ」

 

「うん。アリアドネーの女の子よりも綺麗だし」

 

「……」

 

 

 すると唇を尖らせて拗ねるエヴァンジェリン。他の女の子の話題は何とやらという法則がエヴァンジェリンにも適用されているのだろうか。素っ裸だけど服を着ていれば抱きしめてたね、きっと。

 エヴァンジェリンの代名詞でもある綺麗な金髪はまるで絹糸の如く。変な表現しかできないがサラサラしている。指も髪の毛に引っ掛からないので洗うのも楽である。長いので手間は掛かるが飽きない。

 

 

「背も伸びたね。もう少しすれば大人の体になれるんじゃない?」

 

「お前以上の身長を目指してるからな」

 

 

 暗にチビと言いたいのかコラ。これでも170以上はあるんだぞ。できれば180は欲しかったけど無い物強請りをするのも親に悪いのでそこはもう諦めよう。オカンにオトン、元気にしてるかなぁ?

 エヴァンジェリンはモデルロリなので将来は高身長モデルになると思われる。妬ましい。

 シャンプーはこの時代にないが手帳と一緒に商店街の景品の中にあったメ○ット一式があってよかった。コピーするというか複製できてよかったわ。魔法万能説。

 できるならツ○キの方がエヴァンジェリンを更に映えさせる事もできたかもしれないのに。

 

 

「相変わらず未来の道具は凄いな。これ以外にもあるんだろ?」

 

「うん。知ってるだけでも10以上はあると思うよ。女性ならシャンプーやらリンスとか髪の毛は大事にする習慣があるから」

 

 

 特にモデルは。コマーシャルでも出演する女性って髪の毛がエヴァンジェリンみたいだ。だけどエヴァンジェリンには勝てないと思うかねぇ。吸血鬼の恩恵と相まって絶世の美少女って感じだもの。

 シャワーがないのは不便かと思ったがまたもや魔法万能説。水の魔法と火の魔法を組み合わせればお湯は作れるし何かの漫画で見た水が球体を作って浮いているのも再現できる。二つの魔法を組み合わせる練習も兼ねられる。意外と42度のお湯を作るの難しいんだよ。

 少しでも熱かったり冷たかったりするとエヴァンジェリン、怒るし。一番上手な魔法がお湯生成って情けない気もする。

 

 

「流すよー」

 

「ああ」

 

 

 目を閉じるエヴァンジェリン。そういえば最初はシャンプーを流す時にお湯と一緒に目に入ってムスカ状態になってたなぁ。やべ。思い出し笑いしてきた。

 ギュッとプルプルと瞼が震えながら閉じていれば萌え得点は満点以上だったんだけどね。昔は……じゃなくて今も可愛いなエヴァンジェリン。こんな可愛い子はビッチにはならないで欲しいものだ。

 執事専用衣装、燕尾服を折って素っ裸のエヴァンジェリンを洗う姿は犯罪真っ只中に見えるが主人が言うのだから仕方ないね。

 変な指の立て方、人差し指と薬指だけを立てるのは疲れるが火と水のストックはここなのでしょうがない。適度に引き出しつつ魔法と魔力を混ぜ合わせて浮かべさせる。指を突っ込んで温度を確かめた……ぬるい。少しアップ。

 

 

「纏めるよ」

 

 

 泡を洗い流した後は邪魔にならないように髪の毛を上げてポニテにしてからお団子に。あーっとアップスタイルだっけ? 手帳は読めないから思い出そうとした。

 

 ……さて。問題はここからだ。エヴァンジェリンのロリボデーを洗う事になるのだがロリコン紳士諸君に殺されそうだ。スポンジも洗う用はない上、エヴァンジェリンが嫌うので当然素手で洗う事になる。

 アリアドネーで女性の神秘には触れまくったのにエヴァンジェリンの場合は未だに肌を洗う時はドキドキする。もしや魅惑の魔法でも使っているのか?

 メ○ットさんは万能だなぁ。頭に体も洗えるんだもの。手に垂らして少し泡を立ててから腕から洗い始める。首とか性感帯を擦るとぶっちゃけ我慢がならん。逆に襲われる事もあった。

 

 

「ほら」

 

「股を開くな股を」

 

 

 うむ。少し生えてたな。意外な場所で成長が見られたものだ。いや、やっぱり何でもない。

 

 

「ああ、まだ話していなかったがお前の留守の間に客人が来てな」

 

「また正義馬鹿?」

 

「いや、のらりくらりとしていた掴めん奴だ。名前は確か……アル、アルベ?」

 

「……もしかしてアルビレオ?」

 

「そんな名前だった」

 

 

 ワオ。アリアドネーで知った名前が早速ここで聞けるとは。

 地の属性の亜種、重力魔法の使い手で過去最高と謳われている魔法使いだ。消息不明で死んだとも噂されている人物がエヴァンジェリンに接触した? 何か怪しい気がする。そのアルビレオの残したと言われている本の題名もヤバイし。

 確か……ネクロペドフィリア? 変態としか思えない名前だった印象がある。

 

 

「何でエヴァンジェリンに?」

 

「知るか。私の顔を見るなり落胆した顔をしてたのは気に食わん」

 

 

 もしかするとロリコンなのか? それともペドフィリア? 天才と変態は紙一重と言うしあながち嘘じゃないかもしれない。読み方のニュアンスも似ている。

 ……嫌な予感がする。変態は見境がないらしいからな。気が付くとホモになってる事も有り得る……わけがないか。

 

 

「ところでアリアドネーでの成果はいつ教えてくれるんだ? ……んっ」

 

「羊皮紙にまとめて提出するつもりだから完成していないだけ。終われば見せるからもうちょい待って」

 

「収穫はあるんだろうな? あふっ」

 

「勿論。タメになる魔法がいっぱいでお腹もいっぱいです」

 

「一体何を目指しているんだお前は」

 

 

 大賢者です。今も少し賢者モードですが。アリアドネーでの経験は女性慣れしてテクニックも磨きましたから。もう指だけでイかせられるぜ! だけどわざわざボクの手を股に導こうとするのはやめてくれないかな?

 レポート提出のようになっているがこの魔法がボクの知る魔法と似たようなものがないかを調べるのにも時間は必要なんだ。たくさんあるから思い出すのにも大変なんだよ。

 忘れている事はあれど、脳には記憶という形で絶対に覚えている。エヴァンジェリン直伝の記憶を覗き見る魔法で思い出す作業をしている。ホームシックになりそう。オカンのカレーが食べたい。

 

 

「終わったよ」

 

「ご苦労。どうだ? お前も一緒に湯に入るか?」

 

「命令?」

 

「……うむ。なら湯の中で私を膝に乗せて抱き締めろ」

 

 

 おいギアス行使すんな。

 

 ギアスと読んで強制執行と書く。契約にある規定をどれだけ嫌がろうとも絶対に従わなければならない。幸いなのは期間限定。

 死ねとは言わんが死ねと言われたら死ぬと思う。どこぞの皇子みたいに死ねとかエヴァンジェリンには言われたくない。

 

 

「え、エヴァンジェリンエヴァンジェリン! せめて服を脱がさせて!」

 

「んん? どれ。私が脱がせてやろうか?」

 

 

 これも罰ゲームだと羞恥プレイをさせられる事になった。やる人とやられる人が逆だよ。普通は野郎が涙目の女の子を押し倒して脱がせるもんだろ? わがまま坊ちゃんがグヘヘとか言いながら。

 素っ裸で何もかもが丸見えのエヴァンジェリンに馬乗りになられて。服が濡れるのも構わずに首筋に牙を立てられて吸血されて。貴族のエロビデオか何かかよクソったれ。抜けそうで抜けないシチュエーションになりおって。

 吸血鬼式マーキングなのはわかるが酷い時は発情するからやめてほしいとあれほど言ったのに……。

 

 嫉妬とかしてないと言うが帰って来た時のエヴァンジェリンの一言目が嫌そうな顔をした上で鼻を摘んで臭いだもんな。気にしないと言ってもセックスしまくって臭いをプンプンさせられるのは嫌だったのだろう。

 自分では臭わなくても同じ女性には鼻が曲がるほど臭いらしい。香水でも振り掛ければよかった。

 

 

「お前は私のモノお前は私のモノお前は私のモノお前は私のモノお前は私のモノお前は私のモノお前は私のモノ」

 

 

 わかってるわかってる。わざわざ洗脳までしなくとも契約をしたからエヴァンジェリンの奴隷である事は変わらないのに。

 少し離れていて寂しい思いでもしたのかね?

 

 取り敢えず滅茶苦茶イチャイチャした。肌がスベスベで触っているだけで飽きなかった。

 

 

 

 

 

 







 エロ(くない)回。大体暇な時はこんな感じの二人。

 ここで更に報告を。原作基準で言う、大分列戦争までは一日一更新しますが本格的に介入するとなるとストックもしたいので二日か三日に一回の更新になります(嘘だと思う?)

 まだ終わらないは原作ブレイクしますんで。





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悶える


 評価が五人を越え(ry


 いちいち報告したがるのは何故だろう。







 

 

 

 

 

「ふむ。わかりやすくできてる。私も参考にさせてもらおう」

 

「徹夜した甲斐があったよ。その言葉だけで」

 

 

 大学生でもないのにレポート提出とか変に感じるがレポートは小学生の宿題の自発バージョンみたいなものなので似たようなものかもしれない。

 エヴァンジェリンが羊皮紙の内容を読んで満足そうにしていれば眠たくとも頑張った甲斐があったというもの。取り敢えず評価はA+くらい下さい。

 

 

「面白い発想もある。時間を制御するのは何も世界だけではないのか」

 

「自分だけなら負担も世界の理を歪めるよりも遥かに軽減できるからね。自分の速さだけを強化するのが時間を操る事じゃないと思うんだ」

 

 

 これを固有時制御と名付ける。魔術師殺しさんありがとう。

 こう名前を付ければワルサーとかキャリコが欲しくなる。魔法が使えるから開発されたらすぐに盗みますか。バレなきゃ犯罪じゃないんですよ、多分。横流しの品限定にしよう。

 拳銃を使った魔法もいくつか思い付いているのでシングルアクションの拳銃が手に入れば改造してみよう。今の時代だと自分で考えて思い出して作れるほど器用ではないもの。

 

 

「これと雷の術式兵装を併用すれば神速の戦闘に思考が追い付くと思うんだ。速すぎて頭が追い付かないって贅沢な悩みを解決できると思うんだよね」

 

「考え方は素晴らしい。だがこんなのを思い付くのはお前だけで使いこなせるのもお前だけだ。私はこういった適性はないに等しいからな」

 

 

 一番の問題点は特別な思考能力必須なこと。言うなればなのはさんの魔導士御用達のマルチタスクっぽいものがなければ脳に甚大なダメージを受ける。鼻血が止まらなくなるのも地味に嫌な副作用である。

 吸血鬼特有の不死身体質がなければ即死だった。涎だけを出す人形になっていただろう。

 タキオン粒子でもあれば変身ツールでアレが使えるのだがそもそもタキオン粒子の仕組みなんぞ知らん。

 

 

「練習する為にもコツコツと小さな事から始めようと思う。思考が無理なら軽減するように分割すればいいじゃないって事で」

 

「柔軟な発想だな。普通なら思い浮かべた時点で対策ができん事が多いんだぞ?」

 

 

 まあ、こっちは元ネタを知っていますから。その差だろう。

 

 

「他にもあるんだけどまとめてるから読んで」

 

「暇が潰せるからな。重宝している。内容もそそられるものが多いから私としてもインスピレーションが得られる」

 

「だけどねぇ。アリアドネーの教師をやっている人に見せたら意味がわからんって怒られたんだけど」

 

「凡人はその程度だ」

 

 

 ありがとう。それはボクが凡人ではないと言ってくれるんだね。オカンとかオトンに彼女以外にストレートに褒められたのは初めてな気がするよ。

 オタク趣味って何で引かれるんだろう。趣味は人それぞれなのに教師にも笑い者にされるって何でなん?

 

 愚痴はここまでにしておいて。

 

 吸血鬼の不死身体質なら外道錬金術師のように実験台を用意して実験する事はしなくても済む。自分が実験台になればいいのだから。

 死ぬ事でも不死身体質なら復活はできる。エヴァンジェリンほどの超速再生には届かなくても手足を失っても再生は可能だ。違いといえばそのスピードのみ。

 代償のある固有時制御も最初は躊躇いもなくできた。死ぬ事に対する恐怖心も麻痺しているのか、死ぬ危険性も何それ美味しいの? 状態だ。ぶっちゃけ眠る原因にもなった時に死を覚悟した影響なんだろうなぁ。帰れても異常者として見られそうだ。

 

 

「おかわり」

 

「わかった」

 

 

 一拍置いたのか、エヴァンジェリンが紅茶の無くなったカップを差し出してきた。皿の上に置いて指で催促してくる辺り、おかわりを要求してるのだとわかる。

 ボク、下手糞なんだけど。紅茶の入れ方も素人だし味もイマイチだし。

 

 

「マズイ。もう少し練習をするんだな」

 

「苦手な事を強要するのはいい加減にやめてくんない? 上達するのもあればしない事もあるんだからさ。飯はあれだけど紅茶までは本当に無理なんだって」

 

「努力をしろ努力を」

 

 

 己はボクを過労死させる気か。どれだけ仕事をさせる気なんだホントに。

 ただでさえ魔法応用調査やらに熱を入れてるのに更に労働させる気なのか。まだ執事だから扱き使おうというのか。ブラック企業エヴァンジェルの爆誕なのか。

 

 

「これ、いつまでやるの? エヴァンジェリンの抱き枕やら腹枕をされて寝不足なんだけど。貧血もあるんだけど?」

 

「私の血のコレクションをやろう」

 

 

 いらねーお。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―― 固有時制御 二倍(ダブル)

 

 

 

 ―― ものみな焼き尽くす浄化の焔――

 

 ―― 闇夜切り裂く一条の光――

 

 

 あ。駄目だこりゃ。

 

 ちゅどーん。爆発が起きて吹き飛んだ。肌が焼けている感覚に脳が痛いと叫んでいる。

 

 

「うわちゃちゃちゃちゃ!」

 

 

 頭がファイアーになっているのもわかる。頭が超熱い。

 言わずもがな実験は失敗である。固有時制御を発案したのはいいが実戦に使うにはまだ無理がありそうだ。というよりも方向性が違う。

 マルチタスクを目指しても魔術師殺しの能力を真似た技法は思考を加速させるだけで分割思考はまた別で無理のようだ。こうなればなのはさん御用達のデバイスを作るしかないのだろうか。レイジングハートはどこだ。

 

 ―― クーラ

 

 治癒魔法を発動して吸血鬼の治癒能力と併合して傷を癒す。頭は燃えるし肌は焼けるし災難だ。実験も楽ではない。

 

 

「何をしてるんだお前は」

 

「失敗した。固有時制御を考えたのはいいがこれは方向性が違う」

 

 

 物事を分けて考えると思われる分割思考があるのとないのでは戦闘も随分と変わるはずだ。

 何かを分ける事ができれば魔法を発動する、魔法を充填する二つの事を同時にこなせるだろうと思われる。術式兵装を発動、指にすぐさまストックができると思うんだ。戦い方を見抜かれてもこれで騙せるだろうし。

 

 エヴァンジェリンにも治癒魔法を使ってもらい、傷を一気に癒してもらう。火傷まで治せるから魔法は便利だ。吸血鬼化が一番ニキビが消えるのに貢献しているが細かいのは治癒魔法で治せてるからな。

 

 

「分割思考……分割思考……誰かいたっけ?」

 

 

 なのはさんは違う。デバイスがあってこその面がいくらかあるからデバイスが無ければ無理というオチに至るかもしれない。素で分割思考が可能な先駆者様はおらぬのか。

 肝心なところで覚えていないパターンが最近多い。また記憶を覗き見る魔法を使わなければならないのか。欝になりそうだ。

 

 

「あまり他の者に頼るのも良くないぞ。少しは頼らずに自分の力で力を探してみたらどうだ?」

 

「無理」

 

「諦めるなよそこで」

 

 

 いつからエヴァンジェリンは熱血系になった。ラケットを持たせたらべ様になるからやめようぜ。

 

 

「うーん。あんま覚えていないけどマルチタスクの練習っぽい事してみるわ」

 

 

 そもそもの分割思考とマルチタスクは同意義じゃないかもしれんけど。専門じゃないし大学生でもないので無駄知識があるとは言えないのだ。残念。

 昔に読んだアニメの世界に主人公よりも主人公しているオリジナルキャラのように何でも知っているわけじゃないのだ。何でも知ってるわけじゃないよ、覚えている事と知っている事だけしか知らないの。

 魔法を使えば過去に見た光景をそのまま思い出しながら見る事はできるが逆に見ていないものはわからない。知らないアニメや漫画にゲームの知識は記憶されていないので覚えていないのは当たり前だ。

 もしかするとその中に分割思考かそれに似た能力を持っているキャラがいたかもしれない。これならもう少しオタク趣味に没頭すればよかった。

 

 うろ覚えだが左手と右手で違う文字を書くのもそういった練習になりそうだ。左手で丸を書いて右手でバツを書くとかどっかにあったような。

 うむ。新しい暇潰しと課題ができた。

 

 

「これ以上鍛えてどうするんだ」

 

「最終的には世界の敵になろうっかなーと」

 

「馬鹿かお前は。馬鹿か」

 

「何で二回言ったの?」

 

 

 最低でも人類の敵に。絶望の淵に陥れば絶望に身を任せて何かを思い付けそうだ。物語のラスボスもそんな境遇が多かった気もする。

 ドラゴンにでも目指してみるか? 吸血鬼だから吸血鬼の王と書いてヴァンパイアロードにでもなってやろうか。一枚のカードを墓地に送ってやろう。

 

 

「よし。ヴァンパイアを探そう。屈服させて王になってやるんだ。やったね! 部下が増えるよエヴァンジェリン!」

 

「おいやめろ」

 

 

 ネタに走った感が否めない。今の時代だと洒落にならないのでこの台詞だけはやめておこう。

 

 

「まあ冗談は置いておいて。前に話してた吸血鬼は実在するの? エヴァンジェリンは突然変異だとするなら純血の吸血鬼もいるって事を聞いたけど」

 

 

 エヴァンジェリンは十歳の誕生日に吸血鬼にされたそうだが。術による影響なので純粋な吸血鬼とは言えんらしい。ピュアヴァンパイアなる者が存在しているそうだ。

 吸血鬼、ヴァンパイアのイメージを挙げれば偉そうとか誇り高いとかチートとか。今の時代ならスタンド使いそうな奴がいそうだ。生で会えるならあの叫びの発音はどうなるのだろうと期待してたりする。

 

 

「ん。いるにはいるらしいな。まだ会った事はないが存在はしている。吸血鬼殺しを生み出せるのは私だけの対策じゃないだろう?」

 

「言われればそうだ」

 

「私より前に存在する吸血鬼が吸血鬼の弱点を持っている。聖水やらニンニクやらな」

 

「銀の弾丸で吸血鬼を殺すのもあったっけ?」

 

「弱点ではあるが殺せん。寧ろ銀の弾丸は狼男を殺める」

 

 

 詳しいなエヴァンジェリン。吸血鬼になってから自分の弱点はキチンと把握しているようで頼もしい。クォーターヴァンパイアのボクはマギア・エレベアがあるといってもマギア・エレベアがなければ雑魚かもしれない。

 あー、頭もあまりよくないし身体能力もエヴァンジェリンよりも低いと思う。身のこなしもエヴァンジェリンには敵わない。純粋な身体能力での戦闘力はエヴァンジェリンのが上でマギア・エレベアによるデタラメ戦法だからこそ勝てている印象がある。

 頭を鍛えるのと一緒に体も鍛えた方がいいのだろうか。尊敬するバーン様も体を別けて力を温存していたしラスボスを目指すのであればあのようにする必要がある、のか?

 

 

「吸血鬼には最強の一族がいる。人間階級で言うなら貴族と呼ばれる傲慢で誇り高いヴァンパイア、おそらく私達と同じレベルだ」

 

「……ほう?」

 

 

 それは是非とも喧嘩を売らねば。

 

 

「隠れてるから多分見つからんぞ。旅をしていても会った事がない」

 

 

 奴等はツチノコか何かか。

 残念だ。もしいれば文字通り血肉にして吸血鬼化を進めようと思ったのに。力を得て人類の敵に本気でなろうと思ったのに。

 

 

「私達は永遠だ。生きていればどこかで会えるだろ」

 

「……というかエヴァンジェリンって真祖だから会ったら祭り上げられるんじゃないの? 真祖姫とか言われそう」

 

 

 空想具現化するなよ? するんじゃないぞ!?

 ……あ。そういえば元ネタでいえば分割思考、シオンだかシエルだかがいたじゃん。アレはやった事があるはずだから記憶を覗き見るか。憂鬱になるわぁ。

 

 

「エヴァー今日は抱き枕になってー」

 

「何を言ってるんだお前は。まだ奴隷のままだろ」

 

 

 オカンにオトンを思い出せば欝になるから人肌が恋しくなる。エヴァ、エヴァンジェリンは冷たい印象に反して抱き枕にすれば肌のスベスベ感と暖かさで安らぐ。もうエヴァンジェリンに依存してるなぁ。

 真祖の眷族。エヴァンジェリンの眷族である事には永遠の不変。エヴァンジェリンに依存するようになっているかもしれんが自覚があるようでないのでどうかわからない。

 

 以前にも記憶を覗いてホームシックになってエヴァンジェリンに慰められた時からエヴァンジェリンの方も欝になる兆候を感じ取れば何も言わずに慰めてくれる。

 今は罰ゲーム奴隷の時間なので呆れた目で見てくる。もう少し後の奴隷期間が終わった後に頼んでみよう。

 

 

「……ふむ。今日はお前を子供にして寝よう」

 

「ショタコンですか?」

 

「母としてお前を癒してやろう! 素のままでも身長は伸びてきたからな。この喜びを今からでも実感したいわけだ!」

 

「やめるんだ。今のエヴァンジェリンは優越感に惑わされているだけなんだ! 小さな少年と今のエヴァンジェリンだとおねショタになるだろうが! 薄い本を厚くしてどうするんだ!」

 

 

 もうおねショタという思考に行き着く時点で頭が病んでいる。どんだけ性欲に塗れているんだボクの思考と頭は。

 

 

「? 流石に子供に手は出さんぞ」

 

「え、エヴァンジェリンがマトモだと!?」

 

「お前が普段の私をどう見ているのかよくわかる一言だよ。ほらさっさと食え」

 

 

 エヴァンジェリンの細い指が丸い球体と共に口の中に侵入してきた。飴玉のような食感がその正体を告げているようだった。

 

 

「ちくしょう」

 

「ふははははっ! 似合うぞ。その服はいただけんが」

 

「おめえ、なめんなよ。このふくはみらいだとぼくみたいなねんれいのこどもはみんなつかうんだぞ。ばかにすんなー」

 

「うむっ。可愛い可愛い。今までとは逆の立場だな。ん?」

 

 

 うるせえ。てやんでい。自分よりも高い位置にあるエヴァンジェリンの頭が見える。彼女の手が優しく僕の頭を撫でてくる。本当に前と逆の立場じゃないか。

 ポンと煙も出ない変化からエヴァンジェリンは小さくなる薬をさらに改良したようだ。今まで実験台になっているからその効果はしっかりと確認できる。不思議の国のアリスか何かのオマージュなのか? この薬。

 

 

「ふむふむ。効果は上々。変化を見極められる事もないように改良も成功している。名付けて年齢詐称薬改だ」

 

「そのまんまじゃん」

 

「ふっ。まだまだ改良の余地はあるからな。ほれ、試作薬」

 

 

 年齢詐称薬と名付けられた薬は見た目の年齢と中身をそのまま幼くしたり老けさせたりする事ができる夢の薬。効果はそのまま見た物通り。幼稚園児になったボクが良い具体例だ。

 前よりも小型化してるじゃまいか。なのにその効果は前よりも上がっているようにも感じる。副作用らしい副作用の煙が出る現象が無くなって目をちょっと目を離した隙に小さくなっている? と錯覚を起こさせる事もできるっぽい。

 

 デザインはともかく。まんま正○丸だなこれ。バファ○ンにも見える瓶を投げ渡された。

 おいやめろ。幼稚園児になって筋力が弱くなってんだぞ。魔力は封印されているし素の身体能力は雑魚なんだぞ。骨が折れてしまうではないか。

 

 

「あれ。でっかくなるほうは?」

 

「もう少しそのままだ。契約期間を終えるまでそのままな」

 

「ちね! ちんじゃえ!」

 

 

 や。流石にこの言い方はわざとだけど。

 もう罰ゲームを通り越して羞恥プレイだよこれ。ボクの幼稚園児姿って誰得だよ。

 

 

 

 

 

 

 







 ここで解説を一つ。魔術師殺しこと衛宮切嗣さんの固有時制御とは名前が同じだけで中身は違います。思考を加速、体感速度を加速、反射神経を加速させる名目でオリ主が考案した対超高速戦闘に対応するための手段です。

 マルチタスクとはまた別。そこら辺は適当に考えているので解説してと言われてもできんでござる。





 エヴァンジェリンはショタコン(年齢的な意味で)






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決まる

 

 

 

 

 

「おーいエヴァンジェリンエヴァンジェリン」

 

「朝から五月蝿い奴だなお前は。朝は苦手じゃなかったのか?」

 

「気合で何とかなるんじゃない? 元々朝は強いタチだったし吸血鬼特有の低血圧を克服したと思うよ……というかそれよりだ。これ見ろよこれ!」

 

「……贅肉が削げてるな」

 

「え、そこ? 寧ろ腹筋が割れてる事を褒めてよ」

 

「割とどうでもいい」

 

 

 止まっていた体の成長と一緒に心はドライになってないかと心配になる。体は成長しても心は退化か劣化してる気がする。

 腹筋が六個の区域に分かれると何とも言えない喜びが。そこまで太っていなかったけど中年太りみたいなビール腹だった事を思い出せば大きな進歩。

 アリアドネーでも人気だった息子と体に磨きが掛かったな。これでラスボスである為に必要な絶世の美貌(笑)も手に入れられた。あんまり不細工なラスボスは見ない気もする。最終形態になればハァ? としか思えない質量保存の法則を無視した変身をして外見が台無しになる事を考えれば案外容姿はどうでもよかったかもしれん。

 

 腹筋を自慢したいのはあったがもっと大事な事を報告しなければ。腹筋が割れるだけの時間を作れた事に貢献したある事を。

 

 

「あ、そだ。エヴァンジェリン」

 

「何だ。もう少し寝かせろ」

 

「別荘内の時間操作、できたよ。一時間で別荘内、一日は過ごせるようになった」

 

「何ィ!?」

 

 

 報告に驚きすぎて飛び起きた低血圧吸血鬼。

 まあ、ずっと望んでいた事でもあったから喜びを感じているのかもしれない。使い方次第で惰眠を貪れるようになるからね。

 

 

「これ以上弄ると空間に異常が生まれて場所を知らせる事になってしまうからこの設定にしてるから。設定を変えるのならエヴァンジェリンの城の時計で変えられるから。これ渡しとく」

 

「む。懐中時計を使うのか?」

 

「説明するから」

 

 

 気持ちが早るエヴァンジェリン。見るからにそわそわしていて楽しみにしているのがよくわかる。

 

 まだまだ未来へ帰る早期の手段を模索している今。その過程で別空間にあるエヴァンジェリンの別荘を借りて今いる外の空間と中の空間の時間の流れを変える事はできないかと研究するとエヴァンジェリンに報告している結果が生まれたのだ。

 最大で外の一時間、中の一日。エヴァンジェリンの年齢詐称薬と同じようにまだ改良の余地はありそうだ。というよりもないと困る。

 この研究の最終着点は未来に帰る事なのだから。

 

 

「ふむ。これをこうすればいいのか」

 

「まだ研究途中だけど最終的には逃走途中で十分な睡眠時間とか休息時間を確保する為に外の時間を固定して中の時間だけを動かそうと思ってる。けどまだ無理だし無闇に出たり入ったりすると人体に影響が出そうなんだよ。ウサちゃんを使おうかと思ったけどあのつぶらな瞳を見たら……」

 

 

 躊躇しちゃうもんです。

 

 

「わかるわかる。私も薬を使う時に時々他の生物を使う。元々が可愛い生き物だと躊躇ってしまうな」

 

「自分に使っても大丈夫だけど万が一があるからなぁ」

 

 

 不死身体質の大元、超速再生を止められた場合とか。普通の人間にも効くようにする必要も出てくるので様々な場面で使えるようにしないといけない。

 薬ならまだしも、時間制御は異空間に飛ばされる危険もあるのであんまり自分を実験台にはできない。空間に閉じ込められるなんてどっかのボスの倒し方とか封印の仕方じゃないか。

 

 

「もし今の設定なら中で一日いないと普通の人間なら体に悪影響が出るかも。あくまでも予想だけど一気に老化したりとか若返りする」

 

 

 その若返りは下手すると受精卵まで。老化はお墓まで。十歳前後ならまだ軽い副作用だと思える結果だ。あくまでも予想だが多分こうなると思われる。

 

 

「真祖であっても再生能力の時間が止まるかもしれないから注意ね。そうなれば時間を操れる輩しか対応できない上に下手したエヴァンジェリン、死ぬから。割とマジで」

 

「わ、わかった。わかったからそんなに顔を近付けるな」

 

 

 エヴァンジェリンの肩に手を置いて忠告を押しての忠告をしておいた。好奇心旺盛な方なのでボクの言った事を守らずにやりかねんからそれはもう。

 

 

「と、いうわけで説明と注意点は以上。一日はここで過ごす必要があるからのんびりしていいよ。ゼロも直したら?」

 

「む。そうだな」

 

「ボクを庇って壊れてから直してないじゃない。時々話すけど動きたいって愚痴を漏らしてたよ」

 

「わかった……そういえば一日以上はここにいて大丈夫なのか?」

 

「そこら辺は大丈夫だと思う。一日を下回る時間だと死ぬ確率は上がるけど一ヶ月位は大丈夫じゃない? 急に空間が動いたらアウトだけどゆっくりと固定させて脱出するのには問題はない。ないはず」

 

「オイ」

 

 

 要実験だなこれは。短時間は調べたが長時間はまだ調べてなかった。

 まあ、エヴァンジェリンは喜んでいるからよしとしよう。早速とばかりに城の中を歩き始めて元自分の部屋へ向かっているようだ。十歳になるまで住んでいた城を持ち運びできるようにしたので勝手は誰よりも知っている。

 少し寂しそうな顔をするのも。エヴァンジェリンの父らしき部屋で寂しそうにワインを飲んでいるのも何度か見ている。やっぱりまだ悲しみを感じているのだろうか。

 いや。エヴァンジェリンは自分で乗り越えると言っていたんだ。余計な口出しはしない。エヴァンジェリンが助けて欲しい時だけ助けよう。

 

 ……さて。こうなると暇になってくる。外へはまだ出られないし、やる事もやったので休憩したいし。

 うーん。エヴァンジェリンのリゾート地があるからそこで少し泳ごうか。

 

 

「エヴァンジェリン! ちょっと海で泳ぐから!」

 

 

 構わんぞーと声が聞こえた。城の中は意外と音が反響するのだろうか。

 

 吸血鬼古来の弱点の一つに流水があるが、そんなもんはお構いなしだ。真祖ともなれば水は弱点にならず太陽の下に出ても灰になったりはしない。

 エヴァンジェリンはカナヅチらしい。逆にこっちは魔力を使えば未来永劫誰にも破られない水泳記録が生み出せる比喩ができるスイマーだ。元々水泳は練習の甲斐があって人よりも得意だった。

 魔法の適正にも氷、炎とあるが合わせれば水になる。わけのわからない掛け算だが概ねそんな感じで水にはエヴァンジェリンよりは強いと思う。

 

 

「ほーう、ほわー!」

 

 

 水着には着替えずに素っ裸になって魔法を使う。魔法使いならではの水の遊び方があるようで(ボクだけ)こんな事もできる。

 遊びなので気楽に。然れどふざける。魔法を行使して目前に広がる海の一部を操る。

 何気にこの遊びは自然を操る大魔法、古代語呪文という古代の最強の呪文を操る為の練習にもってこいだったりする。千の雷、キーリプル・アストラペーは雨の日時々雷。1.21ジゴワットは引き起こせないものの魔力を込めればそれ以上を引き出せる。といいな。

 要は自然に接して普通の魔法よりも強い魔法を使う為にはそれを操る必要があるという感じだろうか。エヴァンジェリンの説明もアリアドネー大図書館の本も的を射ない曖昧な表現だった。

 なのにエヴァンジェリンは氷河期と間違う氷の古代語呪文を簡単に操る。あれか。取り敢えず何かできたってやつなのか。

 

 海の一部を引き上げ、巨大な水の球体を作り出す。形を保つのにも球体から水が漏れないようにするのも大変である。

 こんだけでかかったら城のエヴァンジェリンにも見えるだろうなぁ。またデタラメなとか言って呆れられそうだ。

 

 

「とうっ!」

 

 

 ジャンプする時のお約束。ホウッ! とかポウッ! でもいいがやはりジャンプはヒーローらしく。

 今回の水玉作りにはアリアドネーで覚えた魔法をミックス。重力魔法を用いて中心に重力が掛かるように設定。するとどうなるか。

 

 水の中に飛び込んだ感覚が足から伝わって宙に浮いた水の中に“沈む”のだ。浮いた水の中に重力に逆らって登るのだからまた面白い。

 地球のある程度の仕組みを知っていればこの考えもできる。水玉を地球と考え、自分は地球に立つ人間。当たり前の事を魔法で再現すればありえないと驚かれるのは今までの魔法に関わった人生で一番不思議だ。

 

 ―― 水の精霊 一柱 集い来りて

 

 魔法の射手、サギタ・マギカという魔法使い基礎の攻撃魔法がある。その呪文の一節を唱えれば精霊は呼び掛けに応える。

 精霊に愛されているやら精霊に嫌われているなどはない。異常な力を生み出す事も。適性は普通だし、精霊は魔力を対価にしてその場限りの契約を交わして力を貸してくれるのが魔法の大きな基本。

 水の精霊を呼ぶ事で普通ではできない水の中での呼吸ができる。エラが耳の後ろにできるとか魚人に変化するとかも考えたが大きな理由は精霊に媚を売る事だ。

 

 精霊を召喚して戦う人がいた。その精霊の種類には時空を司る精霊もいたと記憶がある。

 真っ先に時間に関連する元ネタは手帳に書いてあるので未来に帰る方法、手段の中には精霊とのコンタクトが含まれている。

 今は時空精霊なる存在は確認できていないが。精霊には謎が多すぎる。

 

 

「ががぼぼっ……あっあー、ありがと。よかったら一緒に遊ばない?」

 

 

 精霊の特徴かはわからないが悪戯好きで子供のように好奇心旺盛で遊ぶのが大好き。あくまでも予想だが大体のイメージはそんな感じだと思う。

 うむ。まるで上司の親の子供から攻めて媚びる平サラリーマンの子供のようだ。外堀から埋めるが如く精霊に媚びて時空精霊らしき存在の情報を開示して欲しいものだ。もう帰るのを諦めて未来までエヴァンジェリンと過ごすしかないのだろうか。

 

 脳内に子供の笑い声が響いた。魔力、魔法を介して形を持たない精霊が語り掛けてくるのだ。念話はもう魔法の代名詞なのか?

 水の精霊と会話するのも久し振りだ。精霊自体とは滅多に喋らないが媚びる感情を感じさせるのも精霊の心証を持たせないわけにもいかないので慎重にする必要がある。嫌われると魔法も使えなくなりそうだし。

 もう中身は真っ黒だなぁ、ボク。オタクだからイジメられた時の鬱憤が爆発してゲスになったのだろうかと思う。この調子だと完全犯罪的にイジメてた奴等を殺してしまいそうで困る。

 うーん。精神統一もした方がいいのだろうか。このままだと本当に真の意味で悪い魔法使いになりそうじゃないか。

 

 

「少し大きめに作ったから鬼ごっこでもする?」

 

 

 お気に召したようだ。精霊の声が嬉しそうに笑っているから。

 

 

「じゃあボクが鬼になるね。君が鬼だとボクは逃げられないと思うから」

 

 

 水の中だと無敵だし。水の精霊なので水の中はお手の物だから逃げる側になれば間違いなく逃げ切れん。それだと精霊が不機嫌になるかもしれない。

 偶に水の中を泳ぐキャラクターが一回の動作で凄まじい前進を見せる時がある。まあアニメだからで済まされるのもあれだ。平泳ぎの動作であれ位になればいいなと思いながら水の中で優雅に泳ぐ人間を象った精霊を見る。

 えー。どうやって泳いでんだよあれ。人間の形でできているからボクもできそうなんだがどういう原理なんだ。

 

 

「んっんー……始めよか」

 

 

 まずは何も考えずに捕まえてみよう。

 楽しそうにする精霊に手を伸ばして追い掛け始めた。すぐに捕まるはずもなく、ヒラリと避ける。精霊と鬼ごっこするのもボクも含めて結構珍しい事ではないだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「何をやってるんだお前は」

 

 

 もうこの言葉がお決まりではないだろうか。

 呆れた感じなのはわかる。だが見る余裕もない。

 

 

「こ、子供と遊ぶのって意外と重労働なんだね……」

 

 

 もう無理ポ。

 

 

「何を言っているんだ。というか何をしてたんだ何を」

 

「ちょ、ちょっと精霊と鬼ごっこ……」

 

「アホか」

 

「ね、労っても……」

 

「私は指示していないしお前が勝手にやった事だろうが。罵倒はすれども労うわけないだろアホ」

 

「ケケケ。本当ダナ。オ前ガ悪イ」

 

 

 自然に話し掛けてくるエヴァンジェリンの肩に乗る人形。普通の人間の形をしているのを見れば修理されているようだ。笑顔のまま固定されているのは未だにホラーに感じるのはしょうがないと思う。

 

 

「あー、よかったねゼロ。直してもらったんだ」

 

「アア。ゴ主人ガイツマデモ直シテクレナカッタノハアレダガ、今ハ機嫌ガイイゼ」

 

「それは結構。エヴァンジェリンもお疲れ」

 

「ふん。久し振りに人形に触れたが腕は衰えてなかった。今度お前の腕とか足を吹き飛ばされたら直してやろうか?」

 

「それは無機物相手だろ。ボク人間。有機物」

 

 

 義手とかは勘弁な。鋼の錬金術師に憧れてた節はあったけど手入れとか痛いのは嫌なので普通でありたい。

 

 

「で?」

 

「ん。捕まえられなかったけど精霊は喜んでくれたよ。もうちょい媚びれば秘法を教えてくれるんじゃない?」

 

「そうかそうか……時間がないのならダイオラマを使えばいいんじゃないか? 時間の設定はできるんだからお前のいた時間が来る前に未来に帰れるんじゃないか?」

 

「考えなかったと思う?」

 

 

 初めはそうしようと考えたがエヴァンジェリンの別荘の時間を変えられるだけで研究は止まってしまっているので精霊に頼ろうとしているわけだ。

 ぶっちゃけ研究も精霊も成功する確率は低すぎるんだが藁をも縋る思いで捜し求めているんだ。もう百年以上も行方不明になっているからあちらではどうなっているのか心配なのだ。オカンもオトンも心配していないだろうか。

 早く帰らないと折角初恋の彼女が寝取られてしまう。こっちの時間があっちの時間にどのように影響しているかもわからないので早く帰りたい。

 いなくなった時間までいれば消えた瞬間の自分と入れ替えればいいかもしれないがタイムパラドックスがなんちゃらかんちゃら。

 

 

「まあ、何だ」

 

 

 考え事をしているとエヴァンジェリンが気まずそうに声を掛けてきた。研究者っぽく振る舞い始めてから考え事の没頭する事が多くなった気がする。

 

 

「今更それを言うのもあれだが。もう何度も見て見慣れているから構わんが……裸を隠したらどうだ」

 

「股間は隠れてるでしょ」

 

「マタデカクナッテンジャネーカ。ドレダケノ女ヲ泣カスツモリダ」

 

「人聞きの悪い事を言わないでよ。女の人を喜ばせるのにはちょうどいいサイズなんだよ?」

 

「ケケケケケケ。変態メ」

 

 

 私の戦闘力は53万です(震え声)

 

 男なら大きさではなくテクニックで勝負するべきだ。アリアドネーのヤリマンビッチもテクよテクってスパーとタバコ吸いながら言ってたし。高い授業料を支払う事になったが何もなかった、いいね?

 息子がでかくなってお世話になるの意味合いが変わる事になるな。オカズは必要なくなりました。女の子もすぐに口説けるぜ! だけどあんまり束縛するのは勘弁な!

 

 

「言っておくが子供には使うなよ。ただの苦痛だ」

 

「ロリコンじゃないけど……今は」

 

 

 ボクも悪いけど綺麗なエヴァンジェリンも悪いと思うんだ。年齢的にもロリコン認定にはならないはず。絶対にだ。見た目は犯罪だけど中身はババアとうら若き少年のえっちなのだから。

 だけどレイプして本当にごめんね。今でもそれはボクの中で大きな後悔だよ。ロリコンロリコンと馬鹿にして結局自分がロリコンになってしまってるもん。

 

 

「ふっ、気にするな。見返りは大きかったから気にしてない」

 

「やだなんてイケメン……」

 

 

 まあ、見返りは偶然そのものだった。吸血鬼化の影響で十歳のロリボディのまま固定されていたエヴァンジェリンが成長できるようになった事が。成長は普通の人間よりも緩やかではあるが。

 今ではもう高校生の背丈があるのではないだろうか。ボクと目線の高さが同じだから素直に喜べはしないが。

 まだ高校生なのに成長するとなれば簡単に抜かれるな。そうなれば太ももッパーンをお見舞いしてやろう。

 

 腕を組んで珍しく威厳を見せるエヴァンジェリンに惚れ直しながら取り敢えず着替える事にした。熱風を操り、大型ドライヤーのように体を乾かすのも忘れずに。

 うむむ。そろそろ服装をチェンジしてイメージもチェンジしようか。美形になっているから何でも似合いそうだがイメージに合うのを選ぶのもいいかもしれない。

 

 

「今からどうするの? 予定通りに別荘の中で惰眠を貪る?」

 

「それもいいが少しやりたい事ができた。日本(ジャパン)へ向かう」

 

「……え。何で今更?」

 

「アイキドウ、というものを学ぶつもりだ。後は噂の麻帆良学園を見に行く。世界樹と呼ばれる場所も見てみたい」

 

「合気道ですか」

 

「ああ。小よく大を制する、お前も役立つ事があるんじゃないか? 私は闇の魔法(マギア・エレベア)の真髄に触れる為にアイキドウを学び、お前を超えようと思ってな」

 

 

 寧ろ太極拳がうってつけじゃないの? 武術とかあんまり知らないから口に出せん。エヴァンジェリンが言うなら正しいものだと思うけど。

 それにしても日本かぁ。久々の帰郷になりそうだ。

 

 というか世界樹って何よ? マナとか生み出す神秘的なの日本にあったっけ?

 

 

 

 

 

 







 精霊云々は作者の妄想とオリジナル。古代語呪文、千の雷やらおわるせかいとかあそこら辺は自然を操るものと解釈しております。

 普通の魔法は精霊を行使し、自分の魔力を糧に精霊を介して魔法という概念を発動するのに対して
 古代語呪文、広域に渡る殲滅の意味合いを含める最大呪文は精霊を介して更に自分の魔力を介して自然に干渉、大気を魔法で歪めて発動するのが古代語呪文だと考えています。

 本当は違うかもですがここではそんな扱いをさせてもらいます。



 そして(十話だけだけど)待ちに待った帰郷。アイキドウを習い、エヴァンジェリンは更に強くなれるのか!? そして世界樹とは何の事なのだろうか!? そして少年はついに……【】になる!

 【】はお任せします。今までの印象だと……変態? え? 元から?






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帰郷する


 インジャパァン(巻き舌)







 

 

 

 

 

 

 

「ふぉふぉふぉ。えばちゃんはかわええのぉ」

 

「可愛いのは認めるが年齢を考えろクソジジイ。だから女性はオメーを避けるんだよ」

 

「ふぉふぉふぉ。コゾー、あんまりそんな態度をしているとワシ、教えんよ?」

 

「安心しろ。エヴァンジェリンがマスターすれば教わるから。見取り稽古でも覚えられるから無駄だぜ? にしてもボク等を簡単にいなせるなんて何者だよジジイ」

 

 

 ふぉふぉふぉと笑う髭を生やしたジジイ。白い道着を着て高らかに笑いながら下心丸出しで襲いかかる野郎共を投げまくるエヴァンジェリンを一緒に見ている。

 ロリに白い道着は似合うものだ。シャツがなければはだけてポッチが見えるだろうが対策で着させておいた。ジジイにも門下生にも睨まれたがどうということはない。

 

 

「小よく大を制する。合気道はそこが原点、全ての基じゃ。合気柔術も理念はそこの一点のみに集中しており、小さな力で大きな敵を制御して流す事こそが合気道の真髄。それを忘れてはならんぞ、えばちゃん」

 

 

 少女贔屓ワロス。門下生も同意せずに反論しろよ。

 

 にしても飲み込み早いなぁ。エヴァンジェリンは元々武術の才能はあった方なのでこの成長も当たり前と言えば当たり前だろうけど。

 今のボクの目なら見切れるッ! エヴァンジェリンが最小限の動きで門下生をぶん投げているのをッ! それはまさに芸術ッ! 彼女の動きは見事としか言えないッ!

 うーん。ジョジョのにわかファンだとボキャブラリーが乏しいな。というよりも少しだけでもよく覚えていたな。

 

 

「師範、終わったぞ」

 

「お疲れさんじゃいえばちゃん」

 

「おー、お疲れ。見事な投げ技だったよ」

 

「私ならではだな」

 

 

 相変わらずの自画自賛だな。だけどその自信は実力に裏付けされたものなのだろう。エヴァンジェリンは体術ならボクよりも遥かに上だし上達も早いのだと思われる。

 カメラがあれば道着姿のエヴァンジェリンを激写したのに。クソ、こういうところは未来の方が良かったのに。一眼レフでもあればプロカメラマンを目指す一環にエヴァンジェリンを……駄目だ。もうハメ撮りとしか言葉が出ん。

 もう腐ってるなボク。帰っても薬中のように非常識に飢えるかもしれんでマジで困る。

 

 

「師範。アイキドウは奥が深いな」

 

「そうじゃろそうじゃろ。もしえばちゃんがよければこのまま門下生にならんかの? ワシが手とり足とり教えるぞい?」

 

「死ねエロジジイ」

 

「ふぉっ!?」

 

 

 おっと。つい足が出てしまったよハッハッハ。

 簡単に人を殺せるはずなのにジジイは簡単にそれを受け流して命拾いした。もう合気道の道では最強じゃないの?

 小よく大を制する。まさに至言だな。エヴァンジェリンの言う通り、合気道は習得次第では戦いの役に立つのかもしれない。

 

 例えば、魔法を最小限の消費だけで回避できるのならそれだけ防御の魔力を攻撃に回せるはずだ。魔力の使用を制限できるのは魔法使いタイプにはうってつけだからね。

 ……うっわ。受け流すのとマギア・エレベアの特性でえげつないのを思い付いたよ。まるでドレイン戦法だドレイン。攻撃魔法を吸収してゲットできるのなら半永久的に戦い続ける事も可能ではないか? 我ながら恐ろしい考えだ。

 まさかエヴァンジェリン、ここまで? もう怖いよエヴァンジェリン。

 

 

「や、やめんか! お主の力はアホみたいに強いんじゃい! 流すだけでもどれだけ苦労すると思うとる!」

 

「ハッハッハ。そんなまさか……死ねばいいのに」

 

「聞こえとるぞバカモン!」

 

 

 エロジジイはギャグには必要だが日常には要らん。エヴァンジェリンを狙うのも愚直だがセクハラは普通にしそうだ。したら殺す。

 

 

(というわけでエヴァンジェリン、殺していい?)

 

(やめとけ。このジジイは殺しても死なんよ。それにまだジジイの奥義とやらもまだ教えてもらっていない)

 

(その後は殺しても?)

 

(やめんか)

 

 

 ボクには教えないのにエヴァンジェリンだけに教えて贔屓するのはクソだと思うんだ。誰かに教える立場としては最悪だとも思う。

 合気道の極意を持つ指導者なのに何で指導しないんだよホント。

 

 

「えばさん! 相手をオナシャス!」

 

「いや、俺だ!」

 

「僕からお願いします!」

 

 

(モテモテだねぇ)

 

(面倒臭いからお前が相手をしろ)

 

(あー、無理無理。殴る事しかできませんし)

 

 

 レベルを上げて物理で殴るタイプなので。寧ろ魔力を上げてゴリ押し? 大呪文連発して力にものを言わせるタイプなのかもしれない。

 手加減は上手でも手が滑ってグモッチュイーンするかもしれん。頭がパーンとか目の前でされたら賞金首が更に上がりそうだ。

 どこぞの海賊王でもあるまいし。賞金首が上がって誰が喜ぶよそれ。七百万も過去最大で歴代最高らしいし、これ以上上がって更に目を付けられるのはゴメンだ。未来に帰って似てるだけで逮捕されるのも嫌だ。

 

 

「ふむ。えばちゃんは上がってええぞい。コゾーは百人抜きじゃ」

 

「オイクソジジイ」

 

「野郎共。えばちゃんと組手をしたければコゾーを殺すんじゃい」

 

「言葉もおかしいぞ。というか完全に私怨だろそれ……」

 

 

 するとヤローブッコロシテヤラーと辺りから声があがる。何でこんなに殺気立ってんだよテメー等。

 

 

(まあ頑張れ)

 

(見捨てないでエヴァンジェリン! 気持ち良くしてあげるから助けて!)

 

(そこまで欲求不満じゃない。それに毎日アレを味わっているとアホになるから程々でいいんだよ程々で。じゃあ頑張れ。先に宿で休んでるよ)

 

(薄情者!)

 

 

「ヤローテメーシニヤガレー」

 

 

 メゴシャッ。つい反射的に殴り飛ばしてしまった。手の骨が軋むような感触が手に伝わる。というよりも顔の骨とぶつかったものか。

 一人を殴ればそれを合図に門下生が我先にと向かってきた。鬼のような形相に怯むどころかもう呆れしか出なかった。

 こんなギャグコメディーを自分が体験する事になるなんて誰が予測できるんだよ全く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうさ、あそこ嫌なんだけど」

 

「我慢しろ。色欲に惑わされて教わる事ができるだけでいいだろうが。他はお堅いから教えてくれるだけでもかなり融通できる」

 

「ただのエロジジイでしょあれ。嫉妬してボクを殺そうともしてたんだよ?」

 

「お遊びだろうが」

 

 

 何であんなに頑丈なんだよアイツ等。殺そうとしても死なないなんてボク等よりもアンデットしてんじゃないの?

 百人抜きとは名ばかりのイジメを切り抜け、エヴァンジェリンと泊まっている宿で休んでいる。今の時代の宿って趣があるというか趣しかないよな。露天風呂の概念もこの時代からあったのかと不思議に思う。

 

 

「ゼロは?」

 

「辻斬り」

 

「まーた弁慶ごっこか。刀とかは頼んだ?」

 

「気に入れば幾つか見繕ってくれるだろ。刃物関係ならチャチャゼロも喜んで収集するだろうしな」

 

 

 今の時代なら虎徹だろ虎徹。近藤勇が持っている事で有名な刀なら名前だけ覚えているのでそれがあるのだと思うんだが。

 チャチャゼロ、ボクはゼロと呼んでいるが言うなれば自律型魔導人形? 魔法なのに魔導人形かよとツッコミを入れたが色々あるので黙っておいた。

 ゼロは辻斬りを好むほど刃物好きで殺人狂。あー、例えるなら古代の切り裂きジャックかな? ジャックザリッパー、人形バージョン? どちらにしても純粋な戦闘能力はエヴァンジェリンの眷族だから恐るべきものだ。

 殺しの技術だけはエヴァンジェリンより上だ。人殺しをさせればゼロの右に出る者はいないとも思う。エヴァンジェリンはエヴァンジェリンで女と子供は殺さないと信念があるので躊躇はするっぽい。

 

 

「あー……それにしてもいい湯だねー」

 

「ああ。未来の人間はこういうのが好きらしいな。人間も娯楽がわかっているじゃないか」

 

「そだねー……というかボク等裸で混浴してるけど抵抗ないの?」

 

「何を今更」

 

 

 だよねー。

 

 ボクはエヴァンジェリンを見てるし、エヴァンジェリンはボクを見てるし。レイプとはいええっちした仲だから今更抵抗なんかないんだろう。

 今もちょくちょく処女膜再生防止に一緒に寝てるし。日々成長するエヴァンジェリンも色々と愉しみたいから成長に合わせて調子を確かめてる。大人になったらもう死ぬか溺れるかどっちかだな、ウン。

 

 

「年齢詐称薬の調子もいいね。ロリ姿の継続時間も長くなってるんじゃない?」

 

「そうだな。念のためにと幾つか用意はしたがこれならあまり使わなくとも大丈夫かもしれんな」

 

「うん。まあ、薬中みたいにならんで済むのはいいんじゃないかな?」

 

 

 薬物乱用っぽい雰囲気があるのは気のせいだと思いたい。

 

 

「うむ。では明日はギンカクジなるものを見ようではないか。金閣寺と同じように銀色に輝いているのだろうな」

 

「あっあー」

 

 

 わかるわかる。名前だけで結構勘違いするんだよね銀閣寺。金閣寺を先に見れば勘違いも加速すると思う。教科書を見て落胆した覚えがある。

 あまり変わらないんだな今も昔も。修理とかされて外見は変わるのかと思ったけどやっぱりそこは日本だった。良い意味で変態技術なんだな……。

 

 

「あー、先に言っとくけど銀閣寺、別に銀色じゃないよ」

 

「何ッ!? だ、だが金閣寺は名の通りに金色に輝いていたぞ!?」

 

「ボクもそこまで覚えていないけど確か銀閣寺は八代目将軍が作ったもので予算が足りていなかったとか銀の箔が足りなかったとかそんな理由で普通の寺になったんだっけ? 外見は普通の寺なのは銀閣寺の醍醐味なんだっけ? ごめんね。あんまり学校の授業は書いて復習して覚えるタイプだったからさ」

 

「何だと……私はギンカクジが銀色に輝いているからと聞いて楽しみにしていたのだぞッ! どうしてくれるんだ!」

 

「いやいや。そこはボクじゃなくて当時の銀閣寺を建てた人を怒ってよ」

 

 

 今更どう言っても仕方がないでしょ。それはそれで楽しみがあるんだから楽しみなさいよエヴァンジェリン。

 もううろ覚えだ。オタク知識はあるのに一般常識は覚えていないボクって日本の恥さらしなのだろうか?

 

 

「あっ、そうそう。他に光の反射具合で銀色に見えるって説もあってだな」

 

「誰が行くか! 別の場所に行くぞ別の!」

 

「まあまあ。京都巡りをするのだと思えばいいじゃない。銀閣寺も未来の日本を代表する建造物なんだよ? 外国からも観光客もいっぱい来ているらしいし一度だけでも見る価値があるんじゃない?」

 

「なら案内しろ!」

 

「わかったわかった。気が済むまで案内するよ」

 

 

 ワガママなお姫様である。ロリモードだと背伸びしたワガママお嬢様になるようで物凄く可愛い子である。

 え。エヴァンジェリンって身長で性格が変化する摩訶不思議体質なの? ボクは子供になってもあんまり変化がないんだけどエヴァンジェリンだけなのか? ハーレムの女の子の性格を全てコンプリートしてんじゃねーのか。

 

 

「話は変わるけど麻帆良学園ってどこにあるの? 未来でも聞いた事がないんだけど」

 

 

 エヴァンジェリンの話によれば学園都市らしいし、学園都市ほどの規模なら大規模のはずだから知っていると思うんだが。

 というか世界樹って何? 図書館島ってファンタジー溢れるネーミングはなんなの? そんなのがあれば知らないはずはないはずなのに。

 

 

「む。確か……そう! ダサイタマだ!」

 

「埼玉な埼玉。埼玉県民が聞いたら殺しに来るぞマジで」

 

 

 ネタとしては愛されているのにあまり本気だと埼玉県のオーバーテクノロジーでぶっ殺されるかもしれない。

 魔法という存在を知ってからは埼玉とか群馬とかが復讐しに来そうで怖いんだ。特にグンマーは魔境の地、魔物を何匹も狩れる強者が一番弱い部類なのだとか……! マジこえぇ。

 

 取り敢えず埼玉と群馬、ごめんなさい。

 

 

「埼玉にある? あれ。埼玉の麻帆良学園なんてモンはなかったと思うんだが」

 

「む、む? 埼玉の麻帆良市にあると聞いたのだが」

 

 

 ……いつも思うんだがエヴァンジェリンはどこでそんな情報を仕入れるんだ? まさか娼婦か娼婦なのか!? お父さん許しませんよ!

 わかってるけど。吸血鬼の魔眼で幻術を使って詳しい奴に聞き出したんだと。情報収集もエヴァンジェリンには敵わないなぁ。強さだけ上回ってもエヴァンジェリンを超えた事にならないしあらゆる点でエヴァンジェリンに勝ちたいものだ。男であるなら、だ。

 女の子に負けて守られる惨めさというか悔しさとはもうお別れだ。今のボクはエヴァンジェリンに守られるのではなく守れる力があるのだから。

 

 やめやめ。シリアスも大事だが今は旅行中だ。気楽な気分で過去の京都を満喫しようではないか。

 

 

「風呂終わったら確認しよう。埼玉の麻帆良市は聞いた事はないしもしかするとエヴァンジェリンが間違っているかもしれないしボクが知らないだけかもしれない。だからこそ確認は必要でしょ?」

 

「そうだな。ちょうどイノウタダタカのオリジナルの地図がある。それで確認しよう」

 

「なんつーレア物を持ってるんだ。くれ」

 

「断る」

 

 

 レアコレクションの中に含まれるだろう。伊能忠敬の地図なんて日本地図の始まりじゃないか。未来の収集家とか歴史研究家にいくらで売れるんだよそんな貴重なモノ。

 この調子だと他にも教科書に載っているような貴重な代物を抱えてそうだ。売れそう……ゲフンゲフン、面白そうな物は何かないだろうか。海賊が使ってた古臭い拳銃とか。

 

 

「よく考えたら伊能忠敬の地図は昔の基準だからボクわかんねーじゃん。都道府県じゃなくて藩とかじゃないの?」

 

「クク。安心しろ。今に対応する地図も用意してある」

 

 

 ロリエヴァはどうも人で遊ぶ癖があるようだ。色々と用意しているのに隠して明かして楽しそうにする。

 取り敢えずほっぺを摘んで遊ぶ事にした。あうーとか言うと思ったがだうーと声を漏らしているようだ。柔らかいし少し涙目になるのも可愛いからもう少し遊ぼう。

 

 

「いやへろーいたいらろー」

 

「アッハッハ。あんまり人を馬鹿にするとこうなる事を教えとかないとね。何で大人とこんなに性格に差があるわけ?」

 

「ひるふぁー」

 

 

 どうやらエヴァンジェリンでさえも知らないようだ。

 

 露天風呂を堪能した後は舌を堪能させる高級料理を食べた。ずっとエヴァンジェリンが不満そうだったがあーんをするとみるみる上機嫌になった。

 うむ。チョロイ。

 

 久々の日本はタイムトラベル前では到底泊まる事もできないような高級宿泊地から始まった。何とも言えない喜びが胸を満たした……ような気がした。

 

 

 

 

 





 合気道、合気柔術習得途中。同時にオリ主がオリ主様に昇華するフラグ?


 合気道は原作でエヴァは1900年代前後に訪れています。その時に京都も訪れ、詳しくなったのだと解釈。日本スキーのエヴァの事だから別の時代にも訪れてそうですが。

 現時点でラカン表のオリ主の強さ比べ。


 タイムトラベル初期 ・・・ 0.5(長谷川千雨で1。つまりはクソ雑魚。もっと言えばにゃーん)

 エヴァと共に正義の魔法使いのボスを討伐 ・・・ 270(エヴァがいたので何とか勝てた。エヴァの眷属としての恩恵の大幅補正値)

 眠りからの覚醒 ・・・ 400(サイヤ根性論。闇の魔法の恩恵もアリ)

 アリアドネーからの帰還後 ・・・ 700(純粋な戦闘力。魔法世界後の新ネギと同等)

 本気モード ・・・ 決めてない(ドヤァ)


 要はネギと違って長い時間を利用して大器晩成するタイプ。寿命も伸びてるし努力を怠らずに人類の敵を目指しているので劣化する事はまずない。合気柔術の極意を学ぶ事でネギの闇の魔法究極の技法、太陰道に似たものが使えるようになる。

 まあ、適正はネギよりも上の設定にしているのでまだまだ強くなります。目指せデューク。我が友の為にとか叫びながらビックバンをぶっぱなすんだ。

 最後に重ね重ね、群馬県民と埼玉県民ごめんなさい。作者は好きだよ!(ステマ)





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怒る


 マジで書くのが楽しいwww って書く人を変な目で見てたけど今ならその気持ちがわかるわ。






 

 

 

 

 フーハハハハと高笑いする同行者に他人のフリを無性にしたくなる。何でこんなにテンションが高いんだコイツは。

 

 

「これがキヨミズデラか! 見事なものだ! フーハハハハハハ!」

 

「連れがすいません。マジですいません」

 

 

 ここで他人のフリをすればエヴァンジェリンの機嫌が下がるのは目に見えているので青筋を立てて怒る清水寺で働いている巫女の男バージョンに謝る。坊主と言えばいいのか?頭がツルツルだし。

 何でこうなった。割と困惑して頭を抱えるしかないのだが。

 

 銀閣寺から始まってうろ覚えをしている有名どころを案内して清水寺に連れて来ればこうなってしまった。例の飛び降りるあれに興奮しているのは見ればわかる。

 前に修学旅行で来た時は少し傾いていたので怖い記憶しかないのだが。飛び降りても死ぬ確率は低い方なので大丈夫なんだろうが怖いものは怖い。つまりは引き摺り下ろす事もできないわけだ。

 もうひたすら謝るしかねえ。気が済むまで見させて待とう。もうどうにでもなれクソ野郎めが。

 

 今度からロリにさせる時はこういうところに気を付けよう。うん、そうしよう。

 傍から見たら手のかかる妹の世話をする兄か娘を放置する駄目親父なんだよねぇ。清水寺が苦手でごめんなさい。

 

 

「あー、イヴ? そろそろ迷惑になるから下りよう? 餡蜜も買ってあげるから」

 

「む。そうだな」

 

「ほんっっっっとうにすいませんでした。この子にはキツく言っておきますので」

 

 

 返事はいいえ大丈夫ですよではなく二度と来んなみたいな顔だった。本当にすいませんでした。

 

 ハイテンションのイヴ、エヴァンジェリンを引き摺りつつ京都の町並みを歩く。前に見た京都の町並みと変わっていないので少し感動した。変わらぬ美しさというものが残っていると不思議とそう思うのだろうか。

 餡蜜やら京都名物のお菓子も見覚えがあるものが多く、エヴァンジェリンが食べたそうに店に走ろうとしているのがよくわかる。お願いだからもう少しお淑やかでいてよ。

 大人なら逆にリードするのに何でロリだとこんなにも手がかかるんだよ……誰かベビーシッターでも呼んでくれ。

 

 

「おい! あれが食べたい! あそこに行くぞ!」

 

「どうどう。美味しい場所は聞いているからまずはそこね」

 

 

(あんまりまずいと凍えるじゃん)

 

(む)

 

 

 機嫌が悪くなり、冷気の魔力がエヴァンジェリンから漏れて大気の温度が急激に下がって寒くなる。そういう事にならないためにも機嫌は上機嫌に留める必要があるのだ。

 

 

「未来だと老舗になっている有名店だったはずなんだ。あんまり記憶がないからそうだとは断言できないけど美味しかった気がする」

 

「お前の舌を疑うわけではないが今と先では味の仕組みは違うから少し不安だ」

 

「何かうん百年の伝統の歴史ってーの? 変わらない味こそが味ってのが京都には多かったような多かったような?」

 

 

 修学旅行だけだもん。行ったの。ハッキリと覚えているわけがないじゃないか。

 八つ橋は何度か友人、オカンの友人のお土産で食べた事がある。味も覚えているがいっぱいある店のどの味なのかよくわからん。これ、お土産ねーとしか言われてないもの。

 

 

「むう。京都の料理は美味しかったが果たしてお菓子はどうなのだろうか」

 

「あー、確か懐石料理だっけ? ゴメン。そこまで詳しくないから正しくないかもしれないよ」

 

「いい。何度も言うがお前の知識はうろ覚えでも面白いものばかりだ。間違ってても構わんから何でも言って教えろ。いいな?」

 

 

 何とも嬉しい言葉か。普通ならちゃんと覚えてろ豚野郎とか言いそうなんだが。何度も罵倒されるのはいつまでも慣れん。

 悪い魔法使いと言われるのも本当は心が痛むんだぞ。悪だの悪だの悪だの。心臓に毛が生えていても傷つくんだぞ。死ねよ馬鹿野郎。ボクだって傷つきやすんだよアホー。次に言った奴はケツを掘られる幻覚でも見せてやろうか。くそみそテクニックという偉大な先人がいるんだぞアッー!

 やめよう。

 

 や ら な い か ?

 

 とか幻覚でも見たくないよホント。女の阿部さんならいいけど男の阿部さんはゴメンだ。阿部高和ならぬ阿部高揚か高揚を紅葉にしてもみじか?

 

 

「や り ま せ ん ? アッー」

 

「……何を言い出すんだお前は」

 

「あ。ごめん」

 

 

 いかんいかん。思考に没頭し過ぎて変な言動になってしまった。

 エヴァンジェリンに変な目で見られた上に掴んでいる手から逃れようと暴れ始めてた。確かにボクが悪かったけどそんなに引かなくてもいいじゃない。

 

 

「離せ。変態と一緒にはいられん」

 

「ハァ? 処女厨で血液中毒のイヴには言われたくないよ。女なのに女好きの同性愛好者でもあるじゃん。そんな変態に変態と言われたくないんだけど」

 

「ぐぬぬ。言い返せないのが悔しい」

 

 

 悔しい。だけど感じちゃうビクンビクン。エヴァンジェリンはそんな事をするとは思えんけどそんな展開はノーだ。

 エヴァンジェリンを相手にするのも疲れてきた。緩やかに伸びる髪の毛をボリボリと掻きながら目的の場所の前に佇んだ。見た事もない店に少し不安を感じた。

 縁のない場所だし高そうな場所だから腰が引ける。どうしてエヴァンジェリンはこんな高そうな場所に慣れてんだよ。ボクは貧乏人根性だしブルジョワにも触れてもブルジョワになるのは未来に影響が出そうだから嫌だ。

 未来に帰ればその金持ちの影響で安い物だと舌が満足しそうにない。エヴァンジェリンは高いものしか食べないんだもんよ。

 

 ……ってあれ? エヴァンジェリンは?

 

 

「ここからここまで全部くれ。この金で買えるだけな」

 

 

 お、おいぃぃぃぃぃぃぃ!? 何威風堂々と商品を指を差しながら注文してんの!?

 

 ちょっと目を離したらエヴァンジェリンは偉そうな、貴族らしい振る舞いで和菓子を注文していた。それも高いのばかり、大量に。

 

 

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 

「畏まりました。少々お待ちください」

 

「金額を計算いたしますのでそちらでお待ちください。お客様がお持ち帰りになりますか? こちらでは指定された場所までお届けできますが」

 

「うむ。宿に届けてくれ」

 

「やめろォォォォォォ!!」

 

 

 先の事を考えていると必ず今の事を考えなければならなくなった。未だかつてないバカ買いをするエヴァンジェリンを止めようと注文を止めようとした。

 が。店の人もノリノリで商品を包んでテキパキと手際良くどんどん準備し始めていた。こんなにも昔の人は仕事が早いのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこ座って」

 

「む。何だ。お前もこれが食いたいのか? たくさんあるから少しは食べたらいい」

 

 

 ふてぶてしく帰還したゼロと共に和菓子を食べるエヴァンジェリン。その態度にもうブチ切れた。もう今日のボクは容赦しない。

 

 

「ハッハッハッハ。もう一度しか言わないよエヴァンジェリン……座れテメーこの野郎」

 

「ケケケケ。コイツオ怒リダゾゴ主人」

 

「テメーもだゼロ。芸術的な正座をしろクソボケ」

 

「? 何でそんなに怒ってるんだお前は……ふぎゅっ!?」

 

「マジで怒るぞテメー等。いいから正座しろってんだよ」

 

 

 ふてぶてしいままのエヴァンジェリンを重力魔法で無理矢理跪かせた。普段ならこんな事は、エヴァンジェリンと同じように女と子供には理由がなければ手はあげない性格だが今はそんな事を考える余裕はない。

 今のボクは笑顔だろう。言うなれば母の笑顔、笑っているだけなのに妙な威圧感を発するのと同じような笑顔をしているに違いない。

 

 突然だがボクは若干のマザコンかもしれない。母の言いつけはできるだけ守るようにしているし、母に迷惑だけはかけまいとする親孝行な息子だと思っている。

 そこまで貧しいわけではないがオカンにオトン、既に働いている社会人の姉。姉は独立しているがオカンは金のやり繰りを毎日しては小さい頃から教わっていた事がある。

 その中に家計簿がある。エヴァンジェリンの浪費癖を解決しようと家計簿を作り始めたわけだが今のボクはオカンと同じ気持ちだろう。ここまで金を使えるなんて呆れを通り越してもう感心するしかない。

 どんだけ使うんだコイツ。子供のアルバイト代をパチンコに費やす駄目親父のような奴じゃないか。

 

 

「ねえ、ねえねえねえねえねえねえ。これボクが作った家計簿だよ? よぉく見て。ここの欄。エヴァンジェリンにもわかるようにわざわざ英語で書いたんだよ? ほら。莫大な金額でしょ?」

 

「う、うむ」

 

「誰がこんなに使ったと思う?」

 

「わ、私だな」

 

「うん。わかってるようだね。もししらばっくれたら媚薬漬けにして別荘に放置してたよ。ボクの良心も痛むからやめときたかったけどやらなくて済んだ済んだ」

 

「(目がマジだった……!)」

 

 

 めくるめくる監禁調教も良かったけど正直な子は大好きだよ。それに初めてだからエヴァンジェリンを壊してしまったかもしれないからやらなくて済んでホッとした。

 正座するエヴァンジェリンは恐怖しており、隣のゼロは正座しつつケケケと笑っていた。鬱陶しいので重力を倍加させておいた。いい気味だふへへへ。

 

 

「ボクさぁ。エヴァンジェリンの知らない間に出稼ぎしてんの。結構エヴァンジェリンの使った金を補充してるんだよ? なのに湯水のように金を使いやがって馬鹿野郎。テメーの金でもないのに何でそんなに使えるの?」

 

「そ、それはだな。貴族たる者、優雅たれとだな……」

 

「自画自賛の自作名言だろ?」

 

 

 沈黙するエヴァンジェリン。言い訳も子供より酷い。

 不思議だ。不思議と今のボクなら何でもできそうだ。時間を越える事はできずとも相手の心くらいは容易く読めそうだ。エヴァンジェリンが何を思っているのかもすぐにわかるように思えてならない。

 ぶっちゃけると今まで自分の賞金首以上に金を使っている。円ではなくドルなのだから凄まじい事だとわかるだろう。というかボクとエヴァンジェリンの賞金首を合わせても届くんじゃないかと思うんだが。

 

 

「用途がわからない分だけでも450万ドル。何にそんなに使えるの? ボクでも高いの、オークションで競り落とした8万ドルぐらいだよ?」

 

 

 800万円ぐらいだぜ。円にしたら。今と昔の金銭価値は違うだろうけどボクの中のイメージはそんな感じだ。

 

 

「8万ドル以上の価値があるんだよ? このお手軽仮契約セット。数に限りがあったけどアリアドネーで作り方も教わったし実物もあったしね……逆にエヴァンジェリンのは何かに役立っているの?」

 

「……か、鑑賞?」

 

「……アハハ。やっぱりエヴァンジェリンはユーモアもあるんだねぇ……というわけでご褒美に重力を七倍に引き上げてあげよう」

 

 

 ぎゃーと心地良いような悪いような声が耳に入る。ニッコリと笑っているだろうな、ボクは。

 

 

「まあ、そんなこんなでここの宿代はあるけど先の事を考えると少し多めに荒稼ぎをする必要が出てきました。働け」

 

「だ、だがな!」

 

「あん?」

 

「わ、わかった」

 

 

 となるとどう稼いだものか。この時代には宝くじもないし一攫千金は狙えない。金をコツコツしか稼げないし賞金首の身だから仕事も自然と狭まるし。

 クソ。エヴァンジェリンのせいで普段なら考えなくてもいい事を考えなければならないなんて。浪費癖がなければ少なくとも三年は持つはずだったのに。何で貴族はこう、金を使いたがるんだ。

 

 

「むむむむ……ぬぅ」

 

「オイゴ主人。スゲー考エコンデルゾ」

 

「わ、悪い事をしたかな?」

 

 

 何かないのか一攫千金。考えろ、思い出せ。記憶の片隅に確かにそれはあるはずなんだ。どうでもいい情報として脳が情報ではなく脳の金庫に入れているはずなんだ。

 引き出せ。引き出せ……人間には誰もがその方法を本能的に覚えているはずなんだ。

 

 んなもん、ボクが人並みにできるわけないだろ。真面目に考えたがすぐに忘却の彼方にぶん投げた。もうなるようになれだ。

 

 

「ふぅ……」

 

「おい、何か賢者もーどになってるぞ」

 

「疲レテンダロ」

 

「もういいよ。解除するから好きにして」

 

 

 何かもう色々と疲れた。重力魔法を解除してエヴァンジェリンとゼロを開放した。

 解除すれば何故だかエヴァンジェリンは不安そうにこちらを見上げていた。まるで迷える子犬のようだ。

 

 

「も、もしかして……嫌いになったのか?」

 

「ん? 別に嫌いにはなってないけど少し残念に感じただけだ」

 

 

 よ。と続けようとしてエヴァンジェリンの意図がわかった。

 ああ、そうかと。不安そうにしているのはボクに愛着が沸いていて捨てられるのが怖いと感じているのがわかった。まさかとは思うがボクにサトリの能力でも芽生えたのだろうか。

 どうやらロリになれば子供らしい一面が大きく表に出ているようだ。見たまんまのエヴァンジェリンで性格に変化もするという新しい事を見い出せたようである。年齢詐称薬は精神までに及ぶのだろうか。

 

 

「ああ、大丈夫だよ。ボクはエヴァンジェリンの眷族である事は変わらないからね。立場は上っぽいけど帰るまではエヴァンジェリンと共にあるよ」

 

「……そ、そうか。ならいいんだ」

 

 

 ホッとしたエヴァンジェリンも可愛い。子供が親に甘えるように痺れた足を我慢して腹に抱き着いてきた。何というか本当に子供っぽい。

 こうなるととことん甘えるだろうから好きにさせる事にした。ゼロはケケケと笑うだけだったが。

 

 ……ハァ。ゼロの後ろの刀の山さえなかったら穏やかだったのになぁ。

 

 

「ねえゼロ。その刀の山は何なの?」

 

 

 今まで黙っていたがもう聞くしかないだろう。

 

 

 

 

 

 

 





 オリ主はエヴァとは仲が良いですが、始まりは最悪なものでした。

 お互いに共通するのは絶対に裏切らない存在。エヴァはレイプ犯だろうと自分だけを見てくれると錯覚し、正義の魔法使いのボスを倒して眠った時にその愛情は更に深まりました。あれだ。看病した相手に恋するナースみたいな?

 反対にオリ主はエヴァは世界最強種で守ってくれ、世界を越える手段に最も近い存在。前は守ってもらった存在ですが今では愛おしくも思えるエヴァを守ろうとしている。ある意味ではエヴァ以上に愛情を感じているのだと思ってください。彼女がいるのに浮気してんぞー。

 まあ悪い言い方をすれば傷の舐め合いをする異性同士ですかね? だけどそういう愛情が一番美しいと思えます。甘えて甘えられ。歪んでいようとも二人がいいのであればそれでいいんです。



 フヒヒヒwww こうなると本編後のオマケの妄想が浮かびますなwww 1.5部をご期待下さいwww(作者がハイテンションで壊れてるだけです)






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教わる


 あと三話で大戦。無論、暗躍無双します。

 一応、大戦終了まで書いたんですがマジでゲスい主人公になっちまった\(^o^)/



 予定としてはネギ君が麻帆良学園に来てからの話は書かず、大戦で話は一旦終了します。二部とかあるから許してちょ。その前に題名『ぱられる☆わーるど』編やります。所謂、逆トリップですねー。

 ふへへへ。楽しみだ。






 

 

 

 

 

 

 実物は意外と重いんだな、と感想を抱く。命を刈り取る武器を持っているからこそ重さは更に増しているとどこかのキャラクターが言っていた気がする。

 

 

「ケケケ。似合ッテイルナ。ソレヲ使イコナセルヨウニナレバモット強クナレルゾ」

 

「やめてくれ。刃物の扱いは苦手なんだ」

 

 

 剣術よりも同じ読み方をする拳術が得意だ。真っ直ぐ行ってぶん殴るのが得意だし魔法使いタイプに近いボクは刃物、剣に刀は使えない。振り方も素人丸出しだし、すぐに使いこなせるような主人公はしていないのだ。

 ゼロが狩った刀の一本を抜いて反り返った刀身を眺める。日本刀と呼ばれるそれは最も美しい刃物と言えるだろう。こんなの使いこなせるわけがない。

 

 

「ボクに何をしろってんだよ」

 

「ケケケ」

 

 

 返事は笑うだけだった。何が言いたいのかわかってしまう自分が恨めしく思える。

 つまり、刀を使いこなせるになって斬り合えって事だろう。殺人狂と同時に刃物での殺し合いが好きなゼロだからこそ辻斬りもするんだろうなと思う。

 犠牲者は何人出たんだ?

 

 

「ソレハヤルヨ。護身用ニ持ットケ」

 

「礼は言わないよ」

 

「ケケケ」

 

 

 大前提に持ち運びはどうしろと。エヴァンジェリンのように影に放り込んで保存する器用な事はできないんだぞ。

 

 スッ、パチン。おー。

 

 本当に日本刀はこんな音を出すんだなと感動した。鍔と鞘がぶつかり合う音が日本刀特有でとても嬉しいんだけど。やっぱりボクも男の子なんだねぇ。

 殺人狂だが刃物が大業物か否かを見極められる能力は誰よりも秀でているゼロ。だからこそどれが一番大業物かがわかって選べる。今、ボクが持つ刀はそのどれよりも上等な物なのだろう。

 

 

「ケケケ。乗ッ取ラレルナヨ」

 

「は? これ妖刀なの?」

 

「ケケケ。サアナ」

 

「え? マジで妖刀なの? マジどうなの?」

 

 

 ちょっとゼロを見直せばこれだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほう。チャチャゼロから貰ったのか」

 

「妖刀かどうかは最後まではぐらかしてたけど。妖刀の類なら闇の精霊が警告するはずだから大丈夫でしょ」

 

「待て待て。お前は意図的に妖刀が作れるのか。絶対にそれだけはするなよ」

 

 

 パシパシパシと音が耳にも骨にも伝わる。エヴァンジェリンの小さな手を防ぐ度に手と肌がぶつかって鳴り響いている。空手でもこんな風になるのだろうかとどうでもいい事を思っていた。

 久し振りに魔法を使わずに体術だけで勝負するとエヴァンジェリンの技術が上なのだと嫌でも実感する。元々高い技術に合気柔術が加わって最強に見えて仕方がない。

 

 

「やっぱり強いねエヴァンジェリン。見極めるだけで精一杯」

 

「ふんっ。全て防ぐ癖に余裕がないとか言うな」

 

「ホントホント」

 

 

 忍ばない忍者を見ていて良かった。特殊な眼を使ってコピーする者がいてその応用で眼に魔力を流し、視力を強化した上で反射神経も底上げする事でようやくエヴァンジェリンと渡り合えている。

 吸血鬼のなりそこないの膂力、吸血鬼の真祖の膂力。どちらが上かは一目瞭然。エヴァンジェリンもこちらが底上げをしているのはわかっているだろう。

 

 

「それにしてもお前の魔力の運用は凄いな。なりそこないと真祖の差を埋めるなんて滅多にない事だぞ」

 

「褒めてくれてありがとう。だけどその余裕、いつか崩してやる」

 

「ほぉう? 合気道を学んだ私に勝とうと思ってるの、かっ!」

 

 

 一瞬の隙を突いたらしく、腕を絡め取られて地面に叩き付けられた。息が詰まり、息が口から吐き出された。というか頭を打ってマジ痛いんだけど。

 また負けたし……純粋な体術じゃエヴァンジェリンには一生勝てないのだろうか。

 

 

「これで私の……」

 

「ボクの78419戦1勝78418敗だよ。あの1勝はマグレだったんだろうなぁ」

 

 

 まさに奇跡の1勝だ。性技も絡めたセクハラでもぎ取った卑怯な戦法だったけど。

 頭と打ち付けた腕を摩りながら腕を組んだエヴァンジェリンを見る。年の功というやつなのだろうか。経験もエヴァンジェリンが完全に上で基本スペックも眷族であるので差はどうしても出てしまう。

 マギア・エレベアだけがその差を埋めているのだろうと思われる。マギア・エレベアの恩恵だけが魔力の運用を助けてくれているからエヴァンジェリンと渡り合えるだけの力を発揮できているのだろう。

 

 

「ふふん。これだけなら私は負けんぞ」

 

「そだね」

 

「まだまだ負けんぞ。純粋な模擬戦闘も何れは絶対的優位を取り戻してみせる。合気柔術の極意で闇の魔法(マギア・エレベア)の新しい運用も思い付いたしな」

 

 

 クックックと笑うエヴァンジェリン。自信に満ち溢れた顔に思わず喝采を差し上げたくなる。

 

 ……まだ強くなるのかこの子。余計な知識を与えない方がよかった。

 

 素性を明かす際に記憶を覗かれたのは痛かったな。エヴァンジェリンにはエヴァンジェリンなりにボクの知識の中にある有効活用できるものを選んだのかね? 何を使ったのかも予想できんが。

 まさかとは思うがエターナルフォースブリザード使わないよね?

 

 

「ふむ。合気柔術の極意は習得したからもう長くいる必要はないな。そろそろ麻帆良学園の世界樹を見に行こう」

 

「……ごめん。何かエヴァンジェリンの事だから何か企みがありそうに思えるんだけど」

 

「まあ、一応な」

 

 

 犯罪を起こして追われるのだけは勘弁ね。

 

 

「バレなきゃいいんだよバレなきゃ」

 

「何をするんだ何を」

 

「なぁに。ちょっと世界樹の枝を切り落として魔法媒介を作るつもりだ。世界樹と呼ばれるからには最高の杖ができるだろうな。フフフフフ」

 

 

 ありそう。世界樹の杖ってのがゲームにもありそう。詠唱時間短縮やらMP消費軽減の効果が期待できそう。取り敢えずボクも欲しいんだけど。

 世界樹のイメージって君と響きあう物語しかないんだが。マナとか生み出して中に世界樹の精霊がいるとかそんなのしか思い浮かばないんだけど。美人だった気もする。

 

 

「マナが満ち溢れる世界樹。別名は神木・蟠桃。一説によれば世界の中心にある魔力の噴き溜めで普通のそれよりも純度が濃すぎて武器が持ち主を選んでいる事になるとも聞いている」

 

「毎度毎度情報集めるの凄いねぇ」

 

「まあな。生き残るために情報は何よりも大事なものだ。強くなる前にまずそこを鍛えた。そこで吸血鬼の魔眼も体得したな。ハハハハ」

 

 

 ……ごめんエヴァンジェリン。君の事を誤解していた。努力はしていたんだ。

 

 

「もしかするとボクが金を集めている間に情報を集めてたの?」

 

「……う、うむ。情報料も含んでいたから……」

 

「……本当にごめんねエヴァンジェリン。昨日はあんなに怒って。君を誤解して怒ってしまってごめんね」

 

「(何か丸く収まっている……? ちょうどいいからこのままにしておこう。りょ、良心が痛むな……)」

 

 

 エヴァンジェリンの小さな体を抱き締めて背中をポンポンした。怒り過ぎてエヴァンジェリンが可哀想になった。

 ボクって最低だな。事情も聞かずに怒るだけ怒って。悪い事をした。

 よくよく冷静に考えればエヴァンジェリンはボクよりも上だ。という事はボクには到底思い付かないような事も考えて実行しているはずなんだ。本当に悪い事をしてしまった。

 

 

「ごめん。これはお詫びだよ。好きに使って?」

 

「お、おう。妙に優しくなったな」

 

「情報が大事なのはわかった。このお金をあげるからどんどん情報を集めて」

 

「ごばっ」

「(心が! 心が痛むっ!)」

 

 

 ボクのヘソクリも含めて大金をエヴァンジェリンに渡す事にした。今までの非礼と無礼への謝罪も込めて。コツコツと貯めた11万ドル、大事に使ってください。

 

 

「さて。麻帆良学園へはどうやって行くの?」

 

 

 京都から埼玉なんてそれこそ新幹線しかないぞ。車もないから歩くしかないのか? 鉄道らしきものは明治維新か何かであったような。だけどボクが知る新幹線は割と最近だった記憶があるからまだないだろう。

 新幹線はない。世界樹があるというならおそらく警備は厳重。魔法を使えば一発でバレてしまうかもしれない。やっぱり歩きか、歩きなのか。

 

 

「ふ、ふふん。実はな、もう用意してあるんだ。少なくとも歩きよりは楽だ」

 

「……あ。もしかして馬車?」

 

「残念。馬車は高かったからジジイから馬をもらっておいた。膝に乗って頭を撫でさせたら意外とチョロかったぞ」

 

 

 もうエロジジイだから驚きはせんぞ。あれは色欲に惑わされる愚者なんだ。

 

 

「ほら。前に馬に乗ってみたいと言ってたろ。私はお父様に教わったがお前は初めてだろう? 教えるから二人で乗るぞ」

 

「え。練習もなしにいきなり? 落ちたりしないの?」

 

「飛行魔法ができるならバランス感覚は優れているはずだ。それも超高速で動けるお前なら闘牛すらも乗りこなせるだろ。吸血鬼の膂力があるからな……チャチャゼロ」

 

「アイヨ」

 

 

 ビックリした。いつの間にかゼロが後ろから馬に乗って現れた。というより人形が馬に乗る光景はシュールだな。

 

 

「ケケケ。コイツ、中々使エルゼ」

 

「人形が馬さんを馬鹿にしてんじゃねーよ」

 

「ケーケケケ! オメーノモ馬並ダロウガ。同類ジャナイノカ?」

 

 

 何でこうもこの子等セクハラ発言するの? ボクの息子は確かにでかいけど馬って表現はないでしょ馬は。黒人さんのには勝てないよジャパニーズは。

 ……この馬、雌か。もし雄なら獣姦モノの薄い本的な展開にエヴァンジェリンが巻き込まれてしまっていただろうか? そうなるなら今夜の飯は馬刺しだ馬刺し。雌でよかったなお馬さん。

 

 ちょ、ちょっと緊張してきた。馬に乗るのは初めてだ。動物園とか阿蘇山の馬に騎乗体験を見た事はあるが乗った事はないんだから。

 鞍? らしきものもあるからエロジジイがそこまで用意していたのだろうか? 干し肉っぽいものも吊るされている。今日は魔王討伐の旅立ちの日なのか。ボク等の立場だと勇者じゃなくて魔王だけどな。

 

 

「手を伸ばせ。引き上げてやる」

 

「えっ。そっちでいるの?」

 

「子供の姿だと難しいんだ。お前が慣れたらすぐに子供に戻るよ」

 

「……ゼロにボクにエヴァンジェリンだと馬さん潰れない?」

 

「意外と乗れるもんなんだよ。ほら早く」

 

 

 まるで女騎士のようだ。馬に跨り、太陽を背にした戦女神のような立ち振る舞い。大人になったエヴァンジェリンにはよくその姿が似合っている。

 実際には馬に乗って手を差し伸べているだけなんだが。それだけでも絵になるのだからエヴァンジェリンは凄いと思う。ボクもヒロインを助ける勇者みたいにあんなになれるかな?

 心配していても仕方がないので差し伸べるエヴァンジェリンの手を掴んだ。グイッと引き上げられ、後ろに乗せられる。前の自分ならおっとととか言いながらバランスを崩しただろうに、今は危なげもなくフワリとエヴァンジェリンの後ろに乗れた。偶然おっぱいを触ったが怒られないのでよしとしよう。役得役得。

 

 

「手綱を握れ。リードしてやる」

 

「お、おう」

 

「前に進むには馬の脇腹を圧迫するんだ。動かないなら軽く蹴るんだ」

 

 

 それはよくゲームとかで見たな。ハイヤッ! とか言いながら馬が駆けるのを何度も見た事がある。格好良い馬の乗り方をマスターすれば流鏑馬とかできるのだろうか。

 エヴァンジェリンの言う事を素直に聞きながら手綱を緊張した手付きで操る。難しいと聞いていたが結構慣れると楽しくできるものだ。

 

 

「おっとと。どうどう」

 

「上手いな。上達が早い」

 

「エヴァンジェリンのアドバイスが的確なんだよ。それに絶妙なタイミングでリードしてくれなかったら暴れて落馬してるよ」

 

 

 エヴァンジェリンにサポートしてもらいながら左と右と。馬をその方向に進めては停止させる。ちゃんと言う事を聞いてくれるのが嬉しく思える。馬ってこんなに素直なんだなと。

 相変わらず笑うゼロが頭に乗って馬の進む方向に合わせて体を傾けている。人形って地味に重いから頭が鞭打ちになりそうだなぁ……包丁みたいなデカ刃物も背負ってるしその分も重くなってるんだろう。

 

 

「ケケケ。ヤッパリ上達スルノモ早イナ。オメー、意外ト武術ノ達人ジャナイノカ? 過去ニ武将ノ家系デモイソウダゾ」

 

「ないない。平々凡々の家系だって」

 

 

 夢中になれる物事なら上達も早いって誰かが言ってた。乗馬って意外と夢中になれるもんなんだなと自分でも驚いた。

 魔法もだけどファンタジー要素があると子供のように楽しめる。マギア・エレベアが闇の魔法である事だけが悔やまれるがそもそも魔法使いの才能がなかったボクが使えるようになるにはこの邪道しかなかったから文句は言えない。

 

 

「……もう私のリードはいらんか。じゃあ頼んだ」

 

「オケー」

 

 

 少しだけ浮くと大人から子供に変わる。スッポリと横抱きするような体勢になり、子供っぽい笑顔を浮かべた。

 

 ……ってあれー? 薬を使っていなのに何で小さくなってんの?

 

 

「ん? ああ、体内に年齢詐称薬が残留していてな。ちょこっと操ればこういう事もできるわけだ。魔力を操る事に長けているお前もできない事はないはずだ。というかもっと他の事ができるだろお前」

 

「逆にありすぎて何をしたらいいかわからん」

 

「贅沢な悩みだな」

 

「刃物ノ扱イヲ頑張レヨ」

 

「しつこいね君も」

 

 

 どうしてもゼロはボクを剣士にしたいらしい。だがごめんだ。

 

 

「じゃあ行こうか。麻帆良へ」

 

「ああ」

 

「ケケケ」

 

 

 積もる話は道中でもできるしね。ゆっくりと乗馬を楽しみながら麻帆良へ向かおう。

 

 

 

 

 

 





 エヴァは元貴族(?)らしいので乗馬も得意と勝手に解釈。この時代だとまだ移動手段は馬か馬車だと思われる。違ってもこの世界独自の設定だと思って受け入れてくれるとありがたい。

 そしてオリ主御用達、ニッポントー。ぼくのかんがえたさいきょうのりゅうはで技を繰り出すオリ主さんマジカッケー。ウチのは剣術はからっきしだからウラヤマシイワー。

 斬るんじゃなく切る。これに限る。後は魔力を乗っけて海波斬やら何やら。飛ぶ斬撃を見た事はあるか?






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得る


 ここで打ち止め。一週間に三回か四回できればいい方かな?





 

 

 

 

 

 フーハハハハハハ! 滾る! 我が力が滾る! 漲るぞォ!

 

 ……ふぅ。

 

 

『な、なんて実力だ! 彗星のごとく現れた謎の男、ストレートで優勝をもぎ取ったぁ! 圧倒的な強さに長年司会を務めた私も驚いているぞ!』

 

 

 何でこうもテンションが高いのかこの司会役の人間。漫画とかにも無駄にテンションが高い司会がいるけど受付の女性の手の仕草のようにそれをやる事は決まっているのだろうか。もしそうなら世界って意外と狭いんだと思う。

 うーむ。伝統ある大会だとは聞いていたが簡単に優勝できた事を考えればレベルは低いのだろうかこの大会。もしくはボクが強すぎるのか。

 

 質素な格好でポケットに手を突っ込みながら倒れ伏す相手を見る。普通の人間なら間違いなく強い部類に入っていると思う。

 それでも世界最強種のエヴァンジェリンに鍛えられたボクには勝てぬのさ。フハハハ……ふぅ。落ち着こう。

 

 

(終わったよ。そっちはどう?)

 

(む。そうか。こっちも終わったぞ。まほら武道大会の警備に人員を割いていたおかげですんなりと行けたぞ)

 

(オケー。賞金を受け取ったら合流するよ)

 

 

 念話で離れているエヴァンジェリンと連絡を取る。あちらもやる事は終えたようで順調に事を運び終えたようである。

 や。何か手加減をするだけで肩が凝ったよ。あまり強くしすぎると殺してしまうから細心の注意が必要だった。一番強い者でもワンパングモッチュイーンだもんな。

 

 馬で麻帆良の学園都市に来た。道中、盗賊に襲われるとかイベントは特になく昼の間に人のいる場所まで行けて宿に泊まる事もできた。意外と宿らしい宿はあるもんだ。

 野宿を覚悟していたが夜の間は睡眠の必要がないゼロを見張り番に立たせて時間の流れを外界と同じにし、エヴァンジェリンの豪邸で休む事をしようとしたが要らん心配だった。各地名所の食べ物も堪能できたのでよし。昔の飯も美味しかった。

 麻帆良に着いてからは麻帆良学園に滞在しようとしたが、学園都市だからなのか外から来た者の宿泊所は中心から離れた場所だったのでどうしようかとも考えている……試合の真っ最中に。余裕だなボク。

 

 

『では優勝者に賞金を』

 

「こちらをどうぞ」

 

「どもー」

 

 

 それにしてもまほら武道大会か。着いて早々、金を稼げてラッキーだった。麻帆良学園名物と噂されていたが結構な武術家やら武道家もいたので実力者の腕試し場所でもあったのだろう。

 主催者から金の入った袋を貰い、中身を確認した。ふへへへ。これでしばらくは持つぜ。

 と、言いたいところだが更なる金稼ぎをするために主催者に提案しよう。お代官様ごっこをするように耳打ちをする。

 

 

「ちょいとまほら武道大会の主催者に会わせてくれませんかね? いい話があるんですが」

 

 

 ふへへへ。金が絡むとゲスっぽくなるぜふへへへ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、いうわけで安定しているっぽい収入を得る機会を得ました。賞金は減ったけど別にいいよね?」

 

 

 ハァ? と言いたそうな顔をされた。酷いな。これでも知識を絞って考えた金策なんだよ? というかそもそもの原因は誰だっけ?

 

 

「何をしたんだお前は」

 

「この学園伝統のまほら武道大会の優勝者は毎回違うらしいんだ。つまり、まほら武道大会の“象徴”があるようでないのが現状なんだ。そこでボク」

 

 

 そう、ボク。圧倒的な実力で優勝したボクはその“象徴”になるのだ。つまりはヒーローになる。

 もっと言えば広告塔。宣伝の意味も含めて自分はまほら武道大会のチャンピオンになって観客を盛り上げる役目を担う事を頼んだ。安定した収入も得る事ができるわけだ。ファイトマネーってやつ?

 主催者側は断ると思ったが乗り気で助かった。どこの馬の骨かもわからない奴を広告塔にするのも危険だと思うんだが人は強くて憧れたい人間を望むからなぁ。人間じゃないけどそこは気にしない方向で。

 

 

「あー、まほら武道大会の優勝者として名を売ったのか」

 

「ほぼ全員ワンパンで沈んだからね。強さの証明はできていただろうからそれも了承してもらえた事の一つなんじゃない? ついでだけど伝書鳩も契約しておいたから。呼ばれたら応じるよ」

 

「まあ構わんが。すまんな、苦労をかけて」

 

「いいよ。情報を集めるのにもお金は必要でしょ? 頑張って稼ぐよ……どしたの? 胸を押さえて。ちっぱいでも気にしないよ?」

 

 

 胸を押さえて苦しそうにするエヴァンジェリンを変に思ったがひんぬーでも構わないよボク。エヴァンジェリンは感度が高いから……えっふん。

 

 

「お、お前は心を抉るのがエグいな」

 

「? 傷つく事を言った?」

 

「て、天然で時々やるから油断できないんだコイツは……!」

 

 

 貶されてる気がするけど何かやったのかね、ボクは。時々エヴァンジェリンに責められる事があるがそれなんだろうか。

 

 

「そっちはどう?」

 

 

 金稼ぎもいいがこっちも気になっていた。職業魔法使いならやっぱり良い杖は持たねば。後はトンデモ効果がある魔法属性耐性ローブかな?

 世界樹の木の枝を形を整えて杖にするのはエヴァンジェリンの麻帆良学園に来た大きな目的の一つ。麻帆良学園の中心にある大きな樹はかなり目立っているしエヴァンジェリンによれば世界樹の力で強力な結界が張られているらしい。

 “認識を狂わせる”のを目的としているとも。すまんがよくわからん。エヴァンジェリンは何でもわかるんだなぁ。

 

 

「七本の枝は取れた。子供用から大人用に合わせるために幾つか繕っておいた。帰ってから作るのが楽しみだ」

 

「楽しそうだね」

 

「まあな。魔法媒介としてはこれ以上にない素材だ」

 

 

 これだけの結界が張れるほどの魔力を秘めた樹だからそりゃそうだろ。世界樹の名に恥じないものなら規格外の効果は期待できる。ある作品だと世界すらも支えてるんだもんな。

 それはそうと、魔法媒介の杖を作る手順も必要となると魔法使いの杖すらもエヴァンジェリンは作れる事になるのだろうか。本当に何でもできるようで尊敬の意しか抱けないよ。魔法を使うための必要な魔法媒介、指輪も自作できるもんなぁ。

 自分の指の大きさに合わせる事もできるから手先は器用だとわかる。小指の太さにもピッタリだし、特殊な金属で成長に合わせる事も可能なオンリーワンの作品だ。

 

 この指輪は形状記憶合金の一種だと思っていいのか? 伝説上の金属らしいから贅沢だよな。ブルジョワなエヴァンジェリンだからこそ贅沢な使い方だ。

 

 

「魔法媒介といえば、だ。それはまだ大丈夫なのか?」

 

「あー、わかっちゃう? 実はもうガタガタし始めているんだ。騙し騙しで使っているけどそろそろ砕けそうなんだ。修理はちょこちょこしてるけど術式兵装と大魔法を同時に使えば持たないかも」

 

「む、むむむ。結構頑丈には作ってあるんだがやはりお前では持たんか」

 

 

 小指にある指輪を見れば所々に罅があるのがわかる。それに少し煤のような黒いのも錆のように付着してもおり、所謂故障寸前なのだと素人のボクが見てもわかる。

 今まで大魔法をホイホイ使って負荷を与えまくっていたから当然か。もう少し大事に使えばよかったと今になって後悔した。物は大事に扱わないとだ。

 

 

「私は杖を作るのに忙しくなる。新しいのを用意してやりたいが神経を使う作業だから同時進行はできんぞ」

 

「迷惑はかけないつもりだよ。作り方を教わりにアリアドネーに行こうと思ってるんだ」

 

「……言っとくがまだ指名手配は解けてないぞ。お前、アリアドネー最悪の性犯罪者と呼ばれているからな? あれだ。ライオンの群れに飛び込む餌だぞ」

 

 

 うぐ。まだボクはレイプ犯のままか。レイプじゃなくて和姦なのに何で強姦魔扱いにされてんの? 僻みなのか? モテない野郎共の。

 くそぅ。何でこんな事になったんだ。元童貞野郎はセックスするなってか。何で僻みだけで指名手配されてんだよ。強姦魔だと広めた奴出てこい。首の骨をへし折っちゃる。

 

 

「ハァ……」

 

「ど、どうした? いきなり溜め息なんか吐いて」

 

「いやぁ。もう本気で世界を滅ぼそうかなーって」

 

「待て待て待て待て待て。何を血迷っている。何故そんな結論に行き着いた」

 

「もうさぁ。世の中の野郎共を殺してボクだけのハーレムを築こうかなって思ってるんだ。僻みや妬みでこんな事になるなら殺そうかなぁって」

 

「あのなぁ。それくらいは我慢しろよ。得をしているのはお前の方なんだぞ? 女を喰いまくって種をバラ撒い……」

 

 

 それ以上はいけない。エヴァンジェリンの口を思わず塞いでしまった。

 

 

「種をバラ撒くって表現はやめよう。吸血鬼になったから繁殖能力はかなり低下してるんでしょ? つまりは種無しとも言っていいんじゃないの? どれだけ出しても妊娠はせんと思うよ」

 

 

 フィニッシュはぶっかけですので。種無しの割には出る量は馬並だから女の子の方がお腹が苦しくなるかもしれないし? ギャルゲとかエロゲの主人公か。隙間から溢れるなんて普通はありえねーよ。

 逆に種として人間よりも上になったから確率は高まると思ったんだけどな。やはり悪魔でなければ駄目なのか。オークとかゴブリンとか。

 

 

「もはっ。た、確かに女を孕ませる確率は低くなっているがそれは女の場合だ。クォーターヴァンパイアのお前は人間の種と絶対的優位種でもあるヴァンパイアと合わさって精子は強力だ。魔力も含まってるし、絶頂しすぎて下手すれば快楽死するぞ、女」

 

「誓います。ボクはもうセックスをしません」

 

「どうせ我慢できんだろ」

 

 

 うぐ。反論できん。女性の数だけ快楽の数もある事を知ってしまうとどうも定期的にセックスはしたくなる事は否定できない。自分で処理をしろと言われてもあの快楽を知ればオカズにすらならんぞ。

 ボテ腹も見てみたい気がするけど女性は大事にしないとね。そこまで堕ちないよ流石に。エイリアンのあれがトラウマだからかねぇ。ボテ腹苦手なの。プレデリアンマジ怖い。

 

 

「まあ、何だ。私が相手をしてもいいが底無しなんだよお前は。負担を軽くするためにも他の女で発散はして欲しいんだが」

 

「もうヤリチンなのかボク」

 

「ヤ、ヤリチン? 節操なしを未来でそう言うのか。どっちにしても私としては壊しても構わんからヤりまくれと言いたいんだが」

 

「えー。エヴァンジェリンの事を反省して女性には優しくってのがボクのモットーにもなっているんだけど」

 

 

 フェイトさんの勝てなかったよをやらせたいとか言ってた昔の自分はクソだ。自分の欲望に忠実とはいえあれは最悪すぎた。アリアドネーの女の子が優しくて気遣う余裕が出たのは不幸中の幸いだった。

 気の弱い少年が逆レイプされると途端に強くなっておねだりしろとかなるパターンじゃなくてホッとした。おねショタも似たようなモンだけど何とか外道レイパーにならずに済んだよ。気合で性欲を抑える手段を会得しといてよかった。

 

 

「……ふむ。久し振りに本気でやるか」

 

「セックスを?」

 

「アホか。物作りをだよ。杖に人形に魔法媒介、研究。お前のダイオラマの時間設定が最大限に発揮されるな」

 

 

 ごめん。今の話の流れからそう思ってしまったんだ。

 

 

「というわけで記憶を覗かせてもらうぞ。人形のデザインをこっちが考えてもいいが未来には素晴らしい人間の形をした人形がいるのだろう? それを参考にさせてもらう。もしよければお前が決めるか? 性欲処理の愛玩人形も作るから慎重にな」

 

「人形にまで欲情するなんて完全に救いようのない変態じゃないか。断固として違うと反論させてもらう」

 

 

 愛玩じゃなくて後方支援に徹底できるほど信頼できる戦闘人形。それも正常、常識、ノット非常識、ノット殺人狂のがいい。人形と聞いて浮かぶのはコスモスさんかなぁ?

 エヴァンジェリンならチャチャゼロがいる。他にも微かな精霊を人形に入れて荷物の整理をやらせる人形っぽいのもいる。元々、エヴァンジェリンは人形好きで人形使いとも言われているから人形を作るのは得意な方なのだろう。

 だが、だ。チャチャゼロはボクの頭に乗れる大きさだ。あまり大きな人形は手間がかかるしメンテナンスも必要になるのでエヴァンジェリンが作るにしても多分時間がかなり必要になるだろう。

 どちらにしても吸血鬼であるとはいえ、負担はかけたくない。

 

 

「そうだな……このローゼンメイデンとやらはどうだ? 水銀橙?」

 

「君はボクをロリコンにしたいわけ?」

 

 

 戦う人形さんってロリばっかりだけど。

 

 

自動人形(オートマトン)と魔法の融合……これは腕が鳴るな」

 

「ねえ。聞いてる? オートマトンと魔法は切っても切り離せない密接な関係があるんじゃ……」

 

「ふむ。愛玩人形、戦闘人形、メイド自動人形にしよう。取り敢えずお前の過去でいいなと思った被検体を選んでモチーフにさせてもらおう」

 

 

 おいやめろ。ボクの性癖が丸裸になるじゃないか。

 確かにおっぱいは好きだしちっぱいも好きだよ? だけど見た目がこういうのが好きとか探られて目の前に現れると微妙な気分になるじゃん。犯してぇ、やらこの子は俺の嫁宣言をしている手前、恥ずかしい思いをするのは目に見えているのだ。

 

 ……にしても愛玩人形か。オナホよりも気持ちゲフゲフ。

 

 いかんいかん。人形であれ女性には優しく。自分本位で交わるのだけは絶対に避けなければ。

 

 

「メイドまでいるの? 一箇所に留まるならまだしも逃亡生活をするようなボク等だと逆に邪魔にならない?」

 

「何を言う。家事を全て任せられるのだぞ。私は楽がしたいから作るんだ」

 

「それには賛同するけど料理は毎回行う事で腕を落とさずに磨けるんだよ? エヴァンジェリンが満足する料理を作れるようにキープするならサボる事だけはしたくないんだけど」

 

「む。それもそうか。私のために?」

 

「そだねー」

 

 

 第一の理由が五月蝿いからだけど。機嫌を損ねると大気が氷点下になって氷河期到来なんて事にはしたくないから必死なんだ。

 

 

「よし。暫くダイオラマに籠る。見張りは任せてもいいか?」

 

「わかった。その間に麻帆良から離れて昔の日本を見てみるよ。やっぱり故郷だから昔がどんなのだったか知りたいんだ」

 

「土産を忘れるなよ」

 

「オケー」

 

 

 暫くエヴァンジェリンと別れる事になった。別荘は持っているから別れるなんて大層な事でもないけど。

 エヴァンジェリンが作業する間は殺人狂のゼロとの二人旅になる。要所要所で常識は弁える方なので大丈夫かと思われる。大丈夫だといいな。

 ゼロのフラストレーションを発散させるために追っ手を狩らせよう。うん。そうしよう。ついでに金も奪うんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「できたぞ」

 

「ご主人様、守る」

 

「マモレナカッタ……じゃねー! ボクはロリコンじゃねー!」

 

 

 別荘で一体の人形が完成した後のお披露目につい叫んでしまった。おいラント領の長男連れて来いよ。

 

 

 

 

 





 ゲットしたもの → 金45万ドル 神木・蟠桃の枝、大小七本 ファイトマネー支給決定権利(?) 麻帆良名物土産

 神木・蟠桃は変装用。大戦時の暗躍で大活躍。金は……わかるな? エヴァへの貢物だ。更にエヴァの良心を痛め付ける事でしょう。



 というわけでして次回より大戦。大分列戦争、ネギ君の父親のナギが活躍する時期ですね。軽く六十年は経過してます。その間はダイジェストで。

 また言われるかもしれないので先に。そもそも何で参加するか、何でこうなるのかとか後で書くので何でエヴァを優先しないの? みたいな事を言われても早漏フヘヘヘwwwと割り切ります。





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出逢う


 フェヘヘヘヘヘヘwww 笑いが止まらんwww ダクソ2にドップリハマっちまったぜwww

 っていうのは嘘でやろうか迷ってる。執筆もあるしレポートもあるし? ゲームばっかりするわけにはいかないので鬱憤を小説にぶつけた結果、ナギがナギ君になっちまったぜwww

 ぶっちゃければ表はナギ君が活躍するけど後になればナギ君は落ち込むであろう暗躍をするわけでして。



 更新は19時に固定。20時まで更新されなかったらその日はないと思ってもらえればいいと思います。






 

 

 

 

 

『さあさあさあ! いよいよ始まります! 世紀の決戦ともいえる決勝戦が! まずは選手のご紹介を!』

 

 

 

『まほら武道大会に飛び入り参加! 彗星のごとく現れた超大型新人、かつての誰かを思い出させる少年! ナギィィィスゥプリングフィィィィルドォォォ!!』

 

「しゃっ!」

 

『そんな少年に対するのは皆様ご存知。このまほら武道大会の代名詞でもあり、この伝統文化が始まった以来のまほら武道大会の伝説! 老いてもなお、まほら武道大会の伝説としての実力は衰えていない! 齢17歳から今までまほら武道大会のチャンピオンとして君臨している89歳の最強ジジイ! 名は明かさない孤高の戦士!』

 

「ふぉふぉふぉ。もう少し頑張るかいのぉ」

 

 

 

「へへへ。アンタ、今までこの大会のチャンピオンだったんだろ? スゲーな」

 

「ふぉふぉふぉ」

 

「だけどさ。その伝説も今日で終わりだ! 今回だけは俺がチャンピオンにならせてもらうぜ!」

 

「ふぉーふぉふぉふぉふぉ! 若いモンはよく吠えるのぉ。だがそんな若者は好きだぞい。ほれ、胸を借りるつもりでかかってきんしゃい」

 

「なら行くぜオラァァァァァァ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空中に吹き飛ぶ少年、ナギ君を皆が見る。観客も司会者も。多分、ある人はああ……とか思っているだろう。老若男女問わずに何度かまほら武道大会に来た人間は見慣れた光景だとも思う。

 

 

「まだまだ終わってねーぞクソがァァァァァ!」

 

「ふぉ?」

 

 

 体が反応して脳で考えるよりも早く少年とは思えない鋭く早い攻撃を防いだ。左のストレートは手首を掴んで、右のキックは肘で受け止めて。そこから流れるように残る手足で攻撃してきた。

 自分の左腕は肘にナギ君の右足、手は右手を受け止めている。更に右腕は手がナギ君の手首を掴み、右足を上げて膝で左足を受け止めているから変な格好になっている。

 

 

「ホ。中々の攻撃じゃの。お前さん、年の割にええ攻撃しとるの?」

 

「へっ。俺は天才だからな」

 

 

 いやいやいや。君、身体能力を魔法でブーストしてるよね? しかも力任せに魔法を使っているから人間ではありえないパワーを発揮している。

 よくよく見れば受け止めている腕や足がプルプルしている。吸血鬼のその膂力に匹敵しているのかこの子。どんだけ魔力を持ってるんだよ。

 

 

「ほむっ。ナギ君、この大会は魔法の使用も許可されているから使っても構わんよ。君は魔法使いじゃろ?」

 

「マジか? 何でわかったんだ?」

 

『ええ! まほら武道大会には魔法の使用も許可されています。ですが観客の皆様に余波がいかないように配慮をお願いします! というわけで私も安全の確保のために退避させていただきますっ!』

 

 

 何でわかったの? 寧ろ何で君がわからないの? そんだけ魔力を込めているから魔法使いなら誰でもわかるぞそれ。身体強化の使われた魔力を探ればどんだけ魔力総量があるかも推測はできる。

 この感知能力を鍛えるのは今までの魔法の訓練の中では最も過酷で難しかったなと過去を振り返る。そもそも、鍛える方法がマゾとしか言えん。

 

 

「じゃあ遠慮なく! 魔法の射手!」

 

「ふぉー」

 

 

 ナギ君の背後からサギタ・マギカがこちらを狙って飛んでくる。様子見なのか、数は少ない。だが込められた魔力は凄まじい。

 平手をするように魔法の射手を弾く。今の自分なら平手で魔法を弾く事もできるようになっているのでそろそろ人外じみて来たなとしみじみと思う。魔法の射手から弱い魔法まで楽にできるので本当に。

 

 今の魔法の射手の属性、光だったな。ナギ君は光の適正があるようだ。適正は人それぞれで違うのでこの子の実力も考えればまだ何かありそうだ。

 ペシペシペシと全てを弾いた後は魔法の射手を囮にしたナギ君が特攻してきた。うむ。若いながら機転も効くようで使い所とタイミングは一流の動きだ。まだ若いのに凄いと感嘆した。

 才能なんかねぇ。急激に成長できるのは。羨ましい。

 

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!」

 

「ふぉふぉふぉ……ふぁふぁふぁふぁふぁ! ふぁーっ!」

 

「ごぺっ!?」

 

『ナギ選手吹き飛ばされたー! 一体何が起きたんだー!?』

 

 

 ジョジョの如く、ラッシュをしてくるナギ君。呼応するように全てのラッシュを同じラッシュで相殺してアッパーでトドメを差した。顎に綺麗に入ったので脳が揺れてると思う。

 チリッ、ガクッ。掠めて膝がガクガクする現象が起きていると思うんだ。なのにナギ君は頭を軽く振るだけですぐに復帰した。えー、どんだけ頑丈なんだよこの子。

 

 

「へ、へへへへ。爺さんつえーな」

 

「ふぉふぉふぉ。ワシと君の間には年の差があるからのぉ。今まで鍛えておったから少年の君よりは技術は洗練されておる。ワシが驚くほど実力はあるよ君は。そこだけは誇ってもよいぞ」

 

「へへへ。メルディアナをわざわざ中退した甲斐があったぜ。アンタのような強えー爺さんと戦えるなんてよ」

 

「ふぉふぉ。光栄じゃの。さあ、もっと来ても構わんぞい」

 

 

 ホイホイついて来たらどうなっても知らんぞ? ワシはノンケでも喰っちまうジジイなんじゃぞい?

 

 ふぅ……落ち着こう。こんな子供をホモにする必要はないんだ。可愛い子だから愛でたいのはわかるけど変態じゃないので自重しろボク。

 

 

絶対(ぜってー)倒す!」

 

「ふぉーっふぉふぉふぉふぉ!」

 

「えっ、えっーと……き、来たれ虚空のか、い、雷!」

 

「隙ありじゃい!」

 

 

 多分目がキラーンと光ったと思う。頭を抱えて呪文を唱えようとするナギ君の懐に入り込んだ。必死に思い出すのは可愛いけどこれも勝負なんだ。非常な気持ちにならねば。笑いが止まらん。

 飛び込んできた事に驚いたナギ君は咄嗟に反応してカウンターをしようとする。だがそんな苦し紛れの一撃は超一流の武道家(自称)には通用せん。絡め取るようにナギ君のパンチをいなして体勢を崩す。

 合気柔術の極意の一歩手前の奥義を応用したまほら武道大会のチャンピオンの必殺カウンター! 体術においての最大の技! 今まで積み重ねた体術の集大成を見せてやる!

 

 

「がぼあっ!?」

 

 

 体に染み付いた動きを身に任せて繰り出す。ナギ君の小さな体を吹き飛ばすように肘を腹に叩きつけた。身長差があったが低く沈んだので何とか当てられた感じだ。

 元々この技は大人を前提に考えた、思い付いたものだ。子供は追っ手の中にはいなかったので流石に想定はしていなかった。更に改良は出来そうだ。

 

 

『な、ナギ選手が再び吹き飛んだー! というか凄い音がしたけど大丈夫かー!』

 

「ふぉふぉふぉ。魔法の呪文はしっかりと覚えんとのぅ。思い出しながら唱えては大きな隙になるし、敵も待ってはくれんぞい。しっかりと覚えて記憶するか無詠唱で発動できるようにするかどちらかをする事をオススメするぞい」

 

「ご、ごばっ。ゲホッゲホッ……クソッ」

 

 

 お、おぉ? まだ喋れる余裕があるのか。無駄に頑丈だなこの子。それとも無意識に魔力を防御に回して威力を軽減したのだろうか。

 いやはや。このナギ君は天才だな。無意識に体が反応する時点で才能は自分よりもある事はすぐにわかる。迂闊な部分とか技術を学んで補えば最強の一角の仲間入りはするんじゃないだろうか。

 

 

「畜生。強すぎんだろ爺さん」

 

「いやいや。君が闘いを知らんだけだ。敵を敵だと思っていない油断、ワシをジジイだと思って侮るその愚かさ。君の全てが敗因の原因なのだよ」

 

 

 まだ子供っぽい感じなのだからしょうがないと言えばしょうがないけど。ここから強くなるのだと思えば楽しみなんだがねぇ。

 

 

「……ハッ! なら手加減はしねぇぜ。爺さんの言うようにどこか油断してたかもしんねぇな。だけど俺はナギ・スプリングフィールドだ! 何れは世界に名を轟かせる最強の魔法使いになる男だ! だからアンタを倒して更に強くならせてもらうぜ!!」

 

「ふぉふぉふぉ。元気がええのぉ」

 

 

 真っ直ぐだ。捻くれた自分と違って諦める事はしないまさに物語の主人公。

 いいなぁ。前の自分は力の差を思い知ると挫折しそうになった事と比べればナギ君はとても輝かしく見える。今までのまほら武道大会で相手にしたどの選手よりも立派で真っ直ぐだ。

 ナギ君の叫びに呼応するように彼の中の魔力が溢れ出す。今まで戦ってきた者の誰よりも凄まじく感じられる魔力で混ざりっ気のない純粋で綺麗な魔力だ。

 

 

「うおォォらァァァァ!!」

 

 

 ! 嘘だろ。呪文の詠唱もなしにこれだけの魔法を発動できるのか!? しかもこんな幼い少年が千の雷を!

 

 ありえない。魔力を我武者羅に込めただけなのに魔法をこんなにも形にして発動できるなんて。精霊とのパスすら接続せずに自然を操れるとは。

 やはりこの子、真の天才だ。魔法使いになるべくして生まれた天啓の子。それも今までに見た事がないほどの才能、まだまだ伸びる余地があるのもわかる。

 

 千の雷らしき魔法を平手で弾く事はできない。これほどの威力を観客に影響のないように軽減した上で打ち破るには。

 雷に優位なのは土。ただの思い込みに過ぎないが両手に魔力の属性を精霊の力を借りながら纏わせる。

 

 

 ―― 地の精霊 ニ柱 集い来りて!

 

 ―― 魔法相殺(マジック・キャンセル)

 

 

 パァァァァンと鋭い音と共に地の属性の魔力の波動が放たれる。音の凄まじさに大会の会場である地面も空気もビリビリと震えるのが誰でもわかる。

 広がる音と魔力の波動がナギ君の魔法を押し返すように動く。スピーカーのように全方位に波動は広がるので完全に相殺はできないが“肉体”で相殺は可能になった。

 前後に足を開き、魔力を足に集中させる。まほら武道大会でここまでの構えをするのは何気に初めてだと思いながら脚の筋肉を総動員させ、ギリギリまで引き付けて力を溜める。ギシギシと筋肉と骨が悲鳴をあげているような音が伝わった。

 カッと極限に目を開いて体を捻る。唯一、被害の行かない場所へ魔法の矛先が向くように魔法に向けて技もへったくれもない一撃を繰り出す。

 

 

「カァァァァァァァァァァッ!!!」

 

 

 そういえばと。前の自分ならここまで180度の開脚はできなかったなと思う。体が柔らかいとか固いとかではなく、挑戦する事すらもしなかった。

 

 足を180度、半円の直径のように開く。足に何かが当たった感覚が残っているのかジンジンと痛む。魔法を蹴り飛ばしたのだから当然と言えば当然か。あれほどの魔力だけを込めたバカ魔法を弾くだけでも難しいのに方向を決めてするのももっと難しい。

 真上。誰もいない障害物もない場所に向けて千の雷モドキ、雷を弾いた。まほら武道大会、麻帆良学園の学園祭で気球らしきものもあるが被害はないはずだ。

 ホッとしたのも束の間、今まで久しく感じていなかった警笛を鳴らす自分の第六感、直感が反応した。死の危険まではいかずとも、危ないと告げている。

 

 

「へっ! お返しだ!」

 

「何だと!?」

 

 

 いつの間にかナギ君が自分の足の横に足を置いて踏み出し、構えていた。

 

 馬鹿な。ナギ君はあそこに……いや、これは風の精霊による分身だと!? 千の雷モドキと同時に分身を囮にして。待て、しまった。

 このボクすらも“油断”させられたのか? 千の雷モドキを弾き、観客を守れた事にホッとする隙を狙うために? なんという。この年頃の少年がそこまで策略を張り巡らせたのか!?

 

 

「これで終わりだ! ジジイ!」

 

 

 やばい。これは負けるかもしれん……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なわけない」

 

「へぷぅっ!」

 

 

 策略はどうとはいえ、外道のボクはそこは読んでいた。というよりも正義の魔法使いを油断させるために前の自分がやった事と同じ事をしているのだ、この子。

 動きの読めた動きこそ楽なものはない。嫌な予感はナギ君が一度だけ見せて食らわせたボクの技をコピーしてぶつけようとした事だったようだ。痛いのは知っているのでごめんこうむる。

 

 踵落としでおしまい。

 

 

「ふぉふぉふぉ。甘いのぉ」

 

『き、決まったー! 大番狂わせがあると思いきややっぱりチャンピオンはチャンピオンだったー! これで通算七十二回目のまほら武道大会の優勝を成し遂げ、更に連続優勝回数を伸ばしたー! というかナギ選手は大丈夫なのかー!?』

 

 

 まあ、手加減はしてあるし死にはしないでしょ。

 何か期待してた人はごめんねー。ボクが負けるのを期待してた人はごめんねー。お金のためには負けるわけにはいかないんだよねー。

 それにこんな年齢のクソガ……ゲフン。子供に負けるほどボクの積み重ねた戦歴は破らせないよ。いくら才能があろうとも人間の一生以上の努力をしている奴に敵うわけがないよ、と。

 

 うむ。今回のまほら武道大会は楽しめた。ナギ・スプリングフィールドという主人公体質な少年にも会えたし。

 まああれだ。負けイベントでパワーアップするのだと思って素直に負けを認めたまえ。悔しさをバネにして強くなってかかってこいって感じ? だがそうはさせん。金も貯まったしもうこのまほら武道大会にはもう用はないな、うん。

 

 あー、取り敢えずこの陥没したナギ君はどうしよう。え? 治療はそっちがしてくれるの? 流石はまほら武道大会。アフターケアもしっかりしているね。

 大体はボクのせいだけど。挑戦者をボコボコにして治療をするスタッフがもう慣れたからなのだろうね。おかげで麻帆良には治療魔法のスペシャリストが何名かいるらしい。

 

 

「ふぉふぉふぉふぉ」

 

 

 演技のジジイの笑い方をしながらまほら武道大会の会場を去る事にした。今回のファイトマネーはいくらかなー?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせ」

 

 

 そう声をかければトテトテと小動物のように長いツインテールを揺らしながら駆け寄ってくる女の子。無表情に見えるが主人であるボクは何となく彼女が喜んでいるのが本当に何となくわかる。

 

 

「じぃじ。お疲れ」

 

「ふぉふぉふぉ。まだ若いのには負けんよ」

 

 

 内心、笑いを堪えるのに必死だ。設定上、どうしても祖父と孫になるので演じているのだが孫役の彼女は棒読みなのでシュール極まりない。シュール過ぎて笑いが漏れるのだが彼女は真剣らしいので褒めつつ褒めつつ笑いを堪える。

 まほら武道大会になればいつも腹が捩れる。エヴァンジェリンはわざとこれを狙ってこの子をモデルにしたのだろうか。おのれ。ボクを笑い殺すつもりなのか。

 

 

「じぃじ。持つ」

 

「ふぉ? 構わんぞい。ワシのボケ防止に付き合ってくれい」

 

「ボケ? じぃじはバカなの?」

 

 

 おんどれエヴァンジェリン。何でアホの子を直せないような設定にしたんだ。いや、モデルになった子もアホの子っぽい部分はあったけど天然毒舌はないだろう。

 そもそも何でボケからバカに繋がるんだ。あれかまさかとは思うがアホにも繋がるのか。

 

 

「?」

 

 

 何故エヴァンジェリンはこの子を選んだのか70年過ぎても理解ができん。そりゃ、この子はこの子が出る作品ではよく使っていたからイメージも強いだろうけど。

 人形というかヒューマノイドだろ? ロボットの方が近いんじゃないのか? だけど人間よりも人間しているってどういう事なの……。

 もうあれだ。エヴァンジェリンの技術力は世界一とか叫ばなきゃいけないのか? 万能ってレベルじゃねーよ今のあの子。いや、あの人? もう大人の女性そのものだからなぁ。

 

 

「うむ。もう行こうかのソフィちゃんや」

 

「うん。じぃじ」

 

 

 ギュッと手を握ってくるソフィと名付けたこの子。もう可愛いからどうでもいいや。可愛いは正義って言葉は真理やったんや。

 はやいとこ麻帆良から離れてまほら武道大会専用の変装、最強ジジイを解きたい。猫背という設定は作ってないけどジジイ口調だと素のままでも移りそうで嫌なんだよ。

 

 ……そして、だ。主人公体質を持つような奴と会い、負かせばどうなるかくらいはすぐにわかるだろうに現役最後のまほら武道大会に出場を終えて浮かれてて気を抜いていたのが悪かったんだ。

 

 

「待ちやがれ!」

 

「ぬ?」

 

「……あ。じぃじに負けた奴」

 

 

 後ろから叫んでくるナギ君にもう嫌な予感しかしないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 ちょっと解説をば。

 この時のナギ・スプリングフィールドはまだ学校を中退したばかり。アホと聞いていたのでアンチョコも読めずに記憶していないと仮定。故にこの呆気なさ。魔法は使えるけど子供だから脳を揺らせば問題はない(?)

 まあ、あれだ。二次によくある原作主人公disりだと思ってくれれば。大丈夫! アリカは寝取らないしちゃんと活躍はするから!




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絡まれる



 淫夢を見たのに何でエヴァじゃねーんだよ(憤怒)

 腹が立つのでナギ君をとことんイジメます。改訂するので時間はかかりそう。





 

 

 

 

 

「だから俺を弟子にしてくれよ爺さん!」

 

 

 えー。

 

 

「むぅ。ワシにゃ、君を弟子にする理由はないと思うのじゃが」

 

「じぃじ、吹っ飛ばす?」

 

 

 構わん。やれ。

 

 なんて言えずにやる気なソフィにげんなりする。本気でやればナギ君死ぬんじゃないのかと思うんだが。人形であっても一撃が重すぎるから骨は容易く砕きそうだ。

 じぃじ守る。ご主人様守る。それを創造主のエヴァンジェリンに創られて人格を作る時に刷り込みをして忠実に守っている。ネタもできやしない。

 

 場所は変わって麻帆良学園内のオープンテラスのオシャレなカフェ。ジジイのボクとその隣にいるソフィ、対面に暑苦しいナギ君。弟子にしろと五月蝿くて鬱陶しい事この上ないんだが。

 何故こうなった。殴り飛ばしたい。吹っ飛ばしたい。

 

 

「なあ。いいだろ? アンタの弟子になればもっと強くなれると思うんだ。爺さんが言うように油断しないように色々教えてくれよ」

 

「やじゃよ」

 

 

 義理もないし。

 

 

「いいだろー! いいだろー! 説教してくれた事を直したいんだから教えてくれよー!」

 

「やじゃって言うとろうが。ワシ、君を鍛える理由も義理もないし」

 

 

 寧ろ誰かに教えてもらえよ。ボクが積み重ねた苦労を好んで教える理由もない。というか教えて完全にマスターされて今まで積み重ねたものを否定されるのが嫌なんだよ。

 この子、天才である事は間違いないんだもん。さっきの試合もカウンター技を再現しそうだったもん。カウンター技の中でもお遊びに近い完成度だけどああも一見だけで真似る事ができるなんてムカつくじゃないか。

 残念ながらボクは自分の技術を教えて後の世に伝えるほどお人好しではないんだ。捻くれ者と言われるがそんな性格なんだよ。

 

 

「それにワシ、魔力は使えても魔法は使えんの。魔法を教えろと言われても無理じゃし」

 

「そんな事よりも俺は爺さんの体術を教わりたいんだよ!」

 

「ふぁー。めんどくさいのー」

 

 

 体術と言ってもこの場合は無駄な動きを削げ落とした結果がこれだからねぇ。年を重ねれば自ずと体術は完成される。ジジイの格闘家が最強である事が多い理由がやっと今になってわかったよ。

 ジジイ以上のジジイの年齢だけどボク。何歳だっけ?

 しつこいナギ君にとうとう頭が痛み始めた。あんまり中身がジジイの外見ジジイをいじめないでくれよ。血圧が上がったらどうすんだ。

 

 

「爺さんじゃなくてもいいから何かこう、強い奴を紹介してくれよ」

 

「うむぅ。ワシの孫も強いけど人に教えるのは大の苦手でのぉ」

 

「じぃじを困らせるお前、嫌い」

 

「……じゃと。ワシも孫も君に教えるという事はないの」

 

 

 フェヘヘヘヘ。ざまぁみやがれ。

 

 ソフィの好感度はほぼ底辺である。護衛対象のボクが嫌な思いをするとそれに呼応するように眷族人形でもあるソフィに伝わり、好感度が変化するわけだ。つまり、ナギ君の印象は最悪なのである。

 子供だからまだ許せるけど大人なら今頃、ソフィは金玉を潰してるだろうよ。エヴァンジェリン直伝のゴールデンボールクラッシャーはえげつない。

 

 

「もう話は終わりでええかのぉ? ワシ、もうまほら武道大会を引退して隠居生活をしようと思ってるんじゃよ」

 

「何ぃ!?」

 

 

 所謂、勝ち逃げである。もう二度とこの天才少年とやるもんか。技を盗まれまくって挫折する前に逃げるんだよォォーーー!

 もう金も貯まっているし、ジジイの年齢も引退を考えてもいい頃だしね。まほら武道大会の主催者側もいいだろってなって引退は決まった。伝説にすれば客寄せにもなると乗り気なのは救いだった。

 銅像は勘弁な。サタンのように自分の銅像を大会会場に置くのは嫌だわ。

 

 

「ジジイ! 勝ち逃げするつもりか!」

 

「口調が汚いから弟子入りの件はなし」

 

「テメッ!」

 

 

 カフェテラスのテーブルの下から脛を狙って同時に蹴り飛ばす。ソフィと息が合ったので痛みは倍以上のはずだ。殴られる前に殴れという教えだけは忠実に守っているので主人のボクは嬉しいよ。

 痛そうだな。まあ、関係はないか。自業自得みたいなもんだし。

 

 この子の素の口調はこれなんだろうなぁ。子供っぽい乱暴な口調でほっこりした気分になる。ちょっと乱暴な口調にして見栄を張るのと同じような事を自分も経験がある。この子の場合だと将来はイケメンになると思うからこの見栄も女性受けするんだろうな。

 何かイラつく。もう一度脛を蹴っておく。

 

 

「ぽわっ!?」

 

「じぃじ。パフェを頼んでもいい?」

 

「ふぉふぉふぉ」

 

 

 ええよ。構わんよ。

 

 一杯目のパフェを完食した孫が口をクリームで汚しながらもう一杯と要求してくる。服をチョイチョイするのが可愛いので何杯でも許しちゃう。

 というかこんなに可愛いのは何で? この子を娘にするマモレナカッタさん羨ましくない? 爆発しろ。

 

 すっかり温くなった珈琲を飲み干し、悶えるナギ君のケーキの分も支払って退散しようかと考え始めた頃。奢って何も言えないようにしようかと思った時。

 

 

「失礼します。相席をしても?」

 

「む?」

 

 

 何か変なの来た。魔法使いっぽい容姿に胡散臭い笑顔をする男。女泣かせさせるような顔付きだ。とにもかくにも胡散臭い。

 

 

「初めまして。まほら武道大会の伝説と呼ばれた御方をこうしてお話してみたいと思いまして」

 

「ふぉ?」

 

「一応魔法使いです。他人に聞かれないように結界を張れますがどうでしょうか? あと一人が後で合流する予定なのですがそれも含めて相席よろしいでしょうか……お近づきの印にここの支払いはさせてもらいますよ」

 

「ホ。構わんのかの」

 

「ええ」

 

 

 ふむ。それなら言葉に甘えて……じゃなくて胡散臭い奴だなコイツ。

 こう、悪巧みをする事はボクよりも狡猾に思える奴だ。ここで主導権を握られると後々面倒な事になりそうだ。

 相席をしてもいいか? と聞いているのにもう既にナギ君の隣に座っているではないか。凄くふてぶてしい奴だ。許可が得られずとも勝手に座るつもりだったのだろう。

 

 

「ところでそちらの子はお孫さんでしょうか? 可愛いですね」

 

「ワシの娘の忘れ形見でのぉ。ワシが代わりに育てておる。ワシみたいに偏屈にならずに育ってくれて嬉しいわい……何じゃその目は」

 

「いえいえ」

 

 

 ……アウトだこの男。アウトなんてもんじゃない。目を見ればどれだけアウトなのか経験が生きているボクならわかる。

 ロリコンだ。生粋のロリコンじゃないか。少なくとも少女に向けるような目ではないぞ今の目は。

 

 

(着せ替えは何にしましょうかねぇ)

 

 

 とか思ってる目だよこれ。しかも思考がダダ漏れで気持ち悪く思えるのに爽やかな笑顔がそれを相殺している。中の思考を読めるとこうもこの笑顔はドス黒く感じられるものなのだろうか。

 

 

「おっと失礼。自己紹介がまだでしたね。アルビレオ・イマと申します。お気楽にアルとお呼び下さい」

 

「ふぁっ!?」

 

「? 私の名前に何か変な事でも?」

 

 

 ね、ネクロペドフィリアの精霊? 禁書の魔導書に宿る人格。アリアドネーで見つけた重力魔法の第一人者の名前と同じなのは偶然なのだろうか。

 

 

「もしよろしければ貴方のお名前も教えてくれませんか?」

 

「ふぉー……ワシ、あんまり名前は明かしたくないもんじゃが。まほら武道大会でも正体と素性を知られるのが嫌で名無しのチャンピオンとしてやってきたんじゃ。そっちは勘弁してくれんかの?」

 

「では代わりにお孫さんのお名前を」

 

「……もしかするとじゃが、そっちが本当の目的ではないかの?」

 

「…………フフフフフ」

 

 

 せめて否定くらいはしろよ。

 

 

「じゃあアルビレオ。お前さんはこの子と知り合いなのかの?」

 

「知り合いと言えば知り合いですね。まだ浅い関係しかありませんが、まほら武道大会の前で少しだけ会話をしまして。幼いですが才能に溢れた子供でしたので」

 

 

 記憶してました。と。普通ならこんな子を育ててどこまで強くなるのかを知りたいと思うそうだがその普通にこのアルビレオは入っているのだろうか。

 アリアドネーの歴史書では変わり者と書かれていたが結局はどうなのだろうか。それとなく聞こうとしてもアルビレオ・イマを知っている事を知られると厄介な事になりそうなので慎重に。

 大図書館の禁書エリアにあったものだし、知っているとなるとそのエリアに入れる。入った者は記録をしているから調べられるとみばれが下手するとある。アリアドネー史上最悪の性犯罪者の正体がバレるかもしれん。当時に戻れるなら野郎共を殺してやってるのに。

 

 

「まほら武道大会の覇者、それも破れない記録を作った貴方の噂は真実だとわかりました。疑った事を謝るのと一緒に知り合いになれないものかと……ね」

 

 

 何故そこでソフィを見る。グモッチュイーンしてやろうか貴様。

 

 

「後はそうですね。もう一人連れがいるのですが、その連れが貴方のファンらしいんですよ。強い者には誰もが憧れるようで彼も例外ではなかったようですね。それによれば何かの武術の型に似たものがあるそうで」

 

「ほう。見抜ける者がおるとは」

 

 

 意味深な発言。だけど蓋を開けてみればただの嘘で虚仮威しなのだが。

 

 

「古今東西。今までの人生で戦い、学んだ武術の集大成がワシの拳だ。似通ったものがある事を見抜けるのは強者の証よ」

 

 

 言い訳はこれで大体通る。格闘漫画やら格闘ゲームのジジイとかはこんな設定が多かった気がするから嘘よりは大丈夫だと思う。

 東方不敗先生なら堂々とこれがマスターアジアの拳よ! とか言いながら論破はできただろうに。ドモンでもいいからあの妙な説得力のある論破のやり方を教わりたいものだ。ダンガンロンパ!

 

 

「フフフ。格闘家や武術家はこんな説明をするそうですが貴方もその類のようですね」

 

「ふぉふぉふぉ。褒め言葉として受け取っとくよ」

 

「ありがとうございます。フフフフフ」

 

 

(じぃじ。ちょっと怖い)

 

 

 おっと。所謂、腹黒い奴がよくあるウフフフやらアハハハをしていたようだ。少しシチュエーションを変えれば爆発しろと言いたくなるがこの場合は当人から離れようとするだろう。

 念話でソフィに注意をされ、ジジイの顔の髭を撫でる。気持ちを落ち着かせるのにジジイの姿はこの仕草が一番だ。顎を撫でてるようにも見えるので考えてる素振りにも見えている事だと思う。

 

 

「フフフ。こうして話すと腹の探り合いは無意味そうですね。やはりストレートに話せばいいでしょうか」

 

「ふぉふぉふぉ。構わんよ。そちらは正直に話せども、ワシは正直には言わんかもしれんがのう」

 

「大丈夫です。こう見えても人の心を探る事は得意ですので。話さなくても見抜いてみせましょう」

 

 

 帰りたくなってきた。

 

 

「ところでナギ。負けてしまいましたがどうでしょう? 始まる前の提案を今なら冷静に考えられるはずです」

 

 

 アルビレオは興味の対象をこちらから痛みから復帰してすぐのナギ君に移ったようで胡散臭い笑みを崩さないままに言葉を掛けている。

 振られたナギ君といえばバツの悪そうな顔で顔を背け、ポリポリと赤い髪の毛を掻いている。その様子からナギ君とアルビレオの間に何があったのかは大体予想できた。

 

 

「貴方はこう言いました。“俺は最強だから誰かに教わる事はしねぇ”と。更に“教わる相手なら自分でも決められる”。今はどうでしょう? この御方に敗れた上に完敗とも言える屈辱的な負け方をしました。それでもまだ提案を断りますか?」

 

「うっ。それは……悪かったよ。あんな断り方をして」

 

「フフフ。しおらしい貴方もいいものですね」

 

 

 え。アルビレオはロリコンに加えてホモでも……ないか。ただの愉快犯かドSなだけか。

 どうやらナギ君は最初はアルビレオに弟子にならないかと誘われていたようだ。だが断ったようでアルビレオが再び勧誘しているのが現状だろうか。戦う前から自惚れてたのかこの子。

 

 

「魔法の師匠に最適な人材を知っています。私は教えるのが面倒臭いのでそっちに任せようかと」

 

 

 自分から誘っておいて他人に丸投げか!

 

 

魔法世界(ムンドゥス・マギクス)で待たせていますのでできれば返事は早くお願いしたいのですが。もう一人の方も修行にそちらへ行くと言っていますので早めにしたいわけでして。そちらの御二方も如何でしょう?」

 

「じぃじに聞いて」

 

「なら断る」

 

「そうですか? 隠居先に良い場所を知っているのですが。どうでしょう? フフフ」

 

 

 何でこうも興味を持つんだ。正体がバレているわけでもないのにここまでボクを知りたがって親交を作ろうとしているのはどうもおかしい。

 

 

「隠していても不振に思われるようですのでハッキリと私の目的を申し上げましょう。まずは私のアーティファクトの説明を。イノチノシヘン(ト・フュロン・ト・ビオグラフィコン)をご存知でしょうか」

 

 

 ト、ト……何だって? やめてくれよ。アーティファクトの名前なんてわかるわけないし読めるわけもないだろうが。

 

 

「命の紙片、が日本語で合いますね。それならばわかりますか?」

 

「まあの」

 

「私の趣味は他人の人生をイノチノシヘンに記録し、鑑賞する事なのです。趣味が悪いとは言われますが長生きしていると変な趣味を持ってしまうものでして」

 

 

 あー、わかるわかる。アルビレオと比べればまだ軽いがボクの趣味も普通の人間と比べれば悪いらしいし。長生きするとどうも暇なんだよね。

 

 

「ふぉふぉ。人には人の趣味がある。ワシはとやかく言わんよ」

 

「おや。珍しいですね。普通なら受け入れないやら気持ち悪いやらと言われるのですが……フフフ。ますます興味を持ちましたよ。できれば貴方の人生も見てみたいものですね」

 

 

 やだよ。

 

 ボクの人生を見られると正体はバレるしエヴァンジェリンしか知らない秘密も知られてしまう。デメリットが多すぎるので絶対に教えられないのが理由だ。

 性格が悪そうな奴だし、未知なる情報やら技術を教えると碌な事にならないのが目に見えている。生粋のラスボス(?)にもなりそうだ。

 

 

「フフフ」

 

 

 あーも。厄介なのに目を付けられたなぁ。

 

 

「俺は……行くぜ。アンタに弟子入りするのはやめた。今よりも強くなるためにアルの言う魔法の師匠に教わって強くなってアンタを倒すぜ爺さん」

 

 

 え。何だって? ごめん。空気になっていたから何がどうなってそんな結論になったのかがよくわからないんだけど。

 ナギ君が決意を固めた表情で宣戦布告しているのを見て戸惑うしかなかった。内心。流石に表情には出さなかったがもうポルナレフ状態だよ。

 

 

「見てろよ! いつかギッタンギッタンにしてやるからな!」

 

 

 マジかよ……。

 

 

 

 

 

 

 






 ナギに絡まれるの巻。

 ここでもうジャック以外の紅き翼のメンバーはほのめかしております。アルビレオはエヴァと旧友と言ってたので例のショタジジイとも知り合いの可能性が微レ存、いや、かなりある。なのでアルビレオ伝いで師弟関係になると決定。

 もしここでナギがオリ主に絡まなければ。作者の淫夢にエヴァが出ていれば酷い目にはならずに済んだものを……。



 あ。ちなみにソフィですがネギ君の髪の毛のイメージから結び付けて出しました。ほら。暗くしたらパパになるじゃん。




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妨げ返す


 今回からゲス部分が増大。新しい悪の三段活用も考えてみた。



 それと皆が寝取れと言うのでアリカさんは性欲処理用の愛人奴隷になります。エイプリルフールネタかどうかは読者の判断にお任せします。





 

 

 

 

 

 あーあーあー。声よし。

 

 ペタペタペタ。皺なし。

 

 うーん。背伸び。骨が鳴る。寧ろ健康的な音だ。

 

 鏡を確認。綺麗な男の顔だ。惚れ惚れする。

 

 

「じぃじ……マスター」

 

「うんうん……うん? どした?」

 

 

 持ち運びができる手頃な鏡を仕舞いながらどう見ても人間にしか見えない人形に顔を向けて耳を傾ける。

 じぃじ、まほら武道大会の覇者用の老人の変装に合わせて服装を変えた彼女も元の戦闘用の服装に変わっている。その姿は記憶にある彼女のモデルと瓜二つ。そのままのものだ。

 この子を作った創造主は中期の彼女をモデルにしているようで、感情はそこまで大きく変わらず。まだまだ感情も知識も学ばなければならない時期だ。と思う。

 

 

創造主(マイスター)が呼んでる」

 

「エヴァンジェリンが? 何の用かは?」

 

「ん。手掛かりを見つけたって」

 

「流石」

 

 

 優秀過ぎてどうも味方ながら怖い。

 エヴァンジェリンがお呼びのようなので彼女の元に一旦帰らなければ。居場所はわからないが探さないと。

 

 ジジイから老いない全盛期のクォーターヴァンパイアの容姿の自分に戻り、服装もそれに合わせて変える。人目を忍んで動くのに適していると思われる質素な服装に。

 何でか世間だと悪い魔法使いは豪華な召し物をしていると思われているので質素にしていると不思議とバレないものである。昔のように賞金首狩りやら正義を名乗る魔法使いに追われていたのが嘘のようである。

 どこかの海賊のように賞金首の金額が上がる事はないが、時間が経てば経つほどボク等はナマハゲ扱いされてる。エヴァンジェリンは早く寝ないと攫いに来るよと子供を脅す時に使われ、ボクは夜遊びをしようとする20前の生娘に犯されると脅す時に使われる。エヴァンジェリンとの差は何なんだ。

 こうなるともうアリアドネーの性犯罪者と悪い魔法使い、悪の魔法使いの代名詞を持つボクが同一人物である事はバレているな。めんどくせぇ。

 

 

「もうじぃじにはならないの?」

 

「歳を重ねて老いた演技をするのも飽きた。というよりも疲れた」

 

 

 人間が老いるのは当たり前だ。少年から青年へ、青年から中年へ、中年から老人へ。そして老いて死ぬのも。

 まほら武道大会の覇者を始めてから70年近く。ルーキーのチャンピオンから伝説のチャンピオンに至るまで姿を如何にも老いさせて衰えさせずに不動のチャンピオンの座を守る戦士を演じる。これがどれだけ疲れる事か。

 腰曲がりとか皺とか。口調まで老人そのものにするのは大変だった。

 不老不死は果てなき欲望の終着点と言うが碌なモンじゃない。何で金とか女とか名誉を得た悪役にピッタリな奴は不老不死を望んだりするのだろうか。いつまでも生きていたいとは思えないんだが。

 

 今は永遠に生きたいと思っても最終的には死にたいと思うだろう。死にたいと願っても死ねない地獄が死がじわじわと近付く地獄よりも辛く、悲惨なものになると考えている。

 ボクやエヴァンジェリンは生きる目的を見つけているので死にたいとは思わないけど目的を達成すればどうなるのやら。

 

 

「さあ。久し振りに会いに行こうか」

 

「おー」

 

 

 姿から思考に仕草まで。ソフィにそっくりに作れるエヴァンジェリンこそラスボスなんじゃないかと思えてきたこの頃。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然だが時が流れると誰もが成長する。良い点も悪い点も。悪い点だと劣化とも言うが概ねそんな感じだ。

 更に悪化しているとエヴァンジェリンにはよく言われているが進化は悪化と言うのかと怒りよりもその疑問が先に沸いた。そりゃチートにはなっている自覚はあるけど少し言い過ぎではなかろうか。

 

 

「へへへへ。ラッキーだぜ。こんなトコで獲物がいるなんてよぉ」

 

 

 下卑た笑いとはこの事だろう。フヘヘヘヘとかグヘヘヘヘだと満点をあげたのに。

 

 あれだ。テロップ的にはガラのわるいおとこが現れた! かね。ABCD……とアルファベットの文字以上の数が取り囲んで逃げられない状態を作っている。賞金首稼ぎの類なのだろうか。

 見てくれは魔法使いに剣士に戦士? 理想的なパーティーを組んでいると思われ、どいつもこいつもフヘヘヘヘと笑っている。ぶっちゃけ盗賊だろこいつ等。

 

 

「へへへ。兄ちゃんよ。その子を渡してくれたら見逃してやるぜ?」

 

「フヘヘヘ」

 

「フヒヒヒ」

 

 

 奴等が指差すのは自分ではなく隣。無表情に首を傾げ、疑問を感じているソフィ。

 

 あ。そういう事ね。賞金首狩りじゃなくて奴隷商人に近い方か。売買をするのではない支給する荒くれ者のパターンだな。

 魔法世界だと亜人の奴隷が主らしいがエヴァンジェリンのような美しい容姿の人間も奴隷の対象に入っているらしい。人間の姿をしているエルフっぽい奴隷も何人か以前に見て救った事がある。

 

 ……うん。ごめん。嘘だ。逆に自分用の奴隷にしたという表現が正しいかもしれない。今はエヴァンジェリンのメイドとして働いている。嫉妬して殺さしてないといいんだけどねぇ。

 こう、耳が敏感で新しかったんだよ。

 

 

「マスター」

 

 

 クイクイとソフィが服を引っ張って注意を向かせてくる。いかんいかん。また思考に没頭しそうになっていた。

 それを無視されたと取ったのか荒くれ者一同は憤慨していた。荒くれ者は皆短気なのも世界共通なのだろうかね。

 ムシシテンジャネーコラーやッスゾゴラーと辺りから声が上がる。チンピラかオメー等は。

 

 

「やる?」

 

 

 ソフィがやる気満々に気合を入れている。寧ろ殺る気満々にも見える。アーティファクトの一種の篭手も取り出してシャドーをしそうな位に。

 エヴァンジェリンが記憶の中のソフィの技をインストールしているそうでそのままに再現して相手を狩るのだ。後期のソフィなら光翼天翔とか叫びながら雑魚を蹴散らしてそうだ。くわばらくわばら。

 

 ファンタジーの定番の熱血系主人公なら奴隷にするなんてふざけるな! 死ね! とか人はそんな事はしない。とか言いながら良心の呵責に訴えたりとか。

 酷いアホは女の子とか子供とかが追い詰められていると状況の確認すらせずに殺すとか言ってTUEEEE無双するからねぇ。もし追い詰められていた側が悪かったらどうすんだよ。ネジが一本か二本単位じゃなくて十単位で抜けてるよ絶対。

 外道っぽいボクが言う事じゃないけどね。良心の呵責を訴える事なく心をへし折ってから殺すタイプだし。

 

 

「へっへっへっへ。お嬢ちゃん、威勢がいいねぇ。だけど見てごらん? こっちには47人いるんだよ? どうやって倒すのかなぁ?」

 

「あー、悪いんだがよく確認してみ。11人な。36人はもう戦えませんぜ旦那」

 

「ハーッハッハッハ! 何を戯言を……あれ?」

 

 

 お前はもう死んでいる。

 

 ダラダラと話している間に人間の知覚を超えるスピードで一人ずつ最速で最短で最小限の動きで。雷速で首を捩じ切って戦闘不能にした。単純作業で弱い部類だから簡単に済ませられた。

 マギア・エレベアは完成したかと思えばまだ改良の余地はあるようだ。更に馴染んでは術式兵装の熟練度が増しているようにも感じる。最後は月牙になるのかボク。

 

 

「な、何をしやがった!」

 

「スナイパーだよ。旦那の頭を狙ってるぞ」

 

「……スナイパー? い、いつの間に? 音も聞こえなかったぞ!」

 

「そりゃ、超一流のスナイパーだからね。悟られないようにして暗殺するのが超一流のスナイパーというものだ」

 

 

 楽しいぃ。嘘を言って慌てさせて怯えさせるのマジ楽しいんだけど! 奴隷を作るなんて事をする奴だから別に心をへし折るまでやっても構わないよね!

 顔は真っ青。挙動不審。誰が見ても余裕がないと思える男に見せつけるように指を鳴らす。と、同時に雷の術式兵装を発動、一番近い者を処理する。そして戻る。これを見れば指を鳴らす事が合図になり、スナイパーが殺したように見えるだろう。フヘヘヘ。

 

 

「後は10人ですかな? 次は誰にしましょうか?」

 

 

 フヘヘヘ。フーヘヘヘヘ。フェフェフェフェ。

 

 

「わ、悪かった! そのお嬢ちゃんを狙わないから勘弁してくれ!」

 

「え。狙われたら二度と狙われないように始末するのが普通じゃないのですかね? 返り討ちに遭う覚悟でそんな事をしてるんでしょ?」

 

「ふ、ふざけんな!」

 

 

 ふざけてるのはそっちだと思うのだが。撃っていいのは撃たれる覚悟がある者だけだと有名な言葉があるのだから。

 大丈夫大丈夫。こっちの殺す理由は悪の魔法使いらしくムカつくから殺すという事にしておくから良心の呵責は感じなくてもいいよ。

 実は奴隷にするなんて良心はないのか! と説かれるよりもムカつくから殺されるというのは重いものだ。理由なく殺されると憎悪は増すのだと闇の精霊さんが言ってた。快楽殺人狂に殺された被害者家族のような感じかね。

 

 悪いのはあっちなのにいつの間にかこっちが悪者にされているんだが。何でこうも責任転嫁が好きなのかね。人間は。

 

 

「人でなしめ!」

 

「いやいや。人間を攫って奴隷にしようとするそっちはどうなの? ある意味人間らしさを奪うから殺人と同じようなモンだよ? なのに殺人は悪いけど人攫いはいいってわけ? ハハハハ……調子に乗んなクソ。悪を騙るならトコトンまで騙れ。悪なら自分の行う事は全て悪だと思え。畜生に身を堕とせばそこで人間ではなくなるんだよ。正しいとか悪いとか境界線は消失するんだ」

 

 

 小物とか小悪党はこんな感じだ。自分がやる事は良いけど他の人がやれば悪いと非難する事はよくやる。そういった輩はエヴァンジェリンもボクも嫌いだ。

 エヴァンジェリンは一度、そんな輩に騙されて奴隷に身を落とした事がある。それ以来、話す事もせずにすぐに殺す事もしている。女と子供には手を出さないのにはここから理由が生まれているのだと思う。

 奴隷には子供と女が多いから奴隷時代に共に切磋琢磨をしていたのだと思う。

 

 

「ありきたりな言葉だけどテメーに非難した人を許した? 見逃した? 多分だけどそれすらも聞かずに問答無用で奴隷にしたんだろ? 人でなしはどっちかな?」

 

「だ、騙されねぇぞ! 言葉巧みに操ろうたってオレ達にゃ通じねぇ!」

 

「うんうん。言葉が通じないのならしょうがない。死んでいいよ」

 

 

 鈍い音が連続して響いた。指示を受けたソフィが高速で一番立場が上の男を残して全員を吹き飛ばす。弱い男なのでボクが見えたソフィの動きは捉えられていないだろう。何が起こったのかわからない顔をしている。

 エヴァンジェリン特製の人形は流石だ。人形使い、ドールマスターと呼ばれるだけあって人形には右に出る者は……と前にも言った気がする。本当に技術は凄い。

 

 

「え、あ、は?」

 

「言葉が通じないんだろ? なら言葉を交わす意味もない事になるじゃん? あれも殺せソフィ」

 

「あ、あ、あ。ちょっと待て。待ってください!」

 

 

 ほうほうほう。言い訳タイムか。殺す事をやめさせられるような弁明をできるかな?

 グッと構えたソフィに待てを言い、命乞いをする男を見る。まだ混乱しているようで戸惑いやら色々な感情が入り混じった表情を浮かべて必死に静止してきた。うむ。クソをこうさせると楽しいものだ。

 

 

「じゃあどうぞ? ボク等に殺人をやめさせるだけの説得はできるかな? 気に入らなかったらすぐさま惨たらしく殺してあげよう。チャンスは一度だけね」

 

 

 凄まじいほどのゲスだねボク。だがそれがデフォルトだ。

 恐怖心を煽るようにソフィはシャドーをし、自分は手に雷の魔法を宿らせて脅す。あくまでも経験則だが、炎やら氷やらと比べると雷が一番脅迫に向いていると思うんだ。天災に数えられる雷を見れば人間は恐れ慄くと仮定している。

 後は音かな? バチバチッの音が恐怖を煽っているとも思うんだ。炎もいいけど一瞬だけ見える電気はさぞ恐ろしいだろう。

 

 指を擦って少しだけ指と指の間を作ると電気は流れる。雷発生装置を思い出した。未来だと丸い金属の球体の二つの間に雷を発生させるあれ。電気だっけ?

 ソフィもエヴァンジェリン直伝なのかわざわざシュッシュッと音を出しながら煽ること煽ること。もう怖いだろうと思う。

 

 

「ほら早く」

 

「あ、それは、えっと……」

 

「時間制限を設ける外道じゃないからね。ジックリと考えなさい。ボク等を思い留まらせる言葉を考えんしゃい」

 

 

 外道め! それは褒め言葉です。

 

 

「マスター。早く殺せばいいと思う。生きる価値もない」

 

「まあまあ。最後の命乞いなんだから最後まで聞こう」

 

 

(助かると思って安心した途端殺せばいいじゃろ)

 

(……マイスターの言う通り。マスターは凄い?)

 

 

 どこを見て凄いと表現したのか。外道か。ゲスな部分なのか。

 取り敢えずこのまま待ってみよう。どれだけの言い訳ができるか見物だ。人間、追い詰められれば何でもできるって。

 

 

「お、オレ、オレは」

 

「うん?」

 

「あ、いや……」

 

「頑張ってよ。チャンスは一度だけだよ? これに失敗したらごーとぅーへるだぜ? 地獄へまっしぐら」

 

「ひっ。待ってくれお願いだ!」

 

 

 完全に怯えきっている男。更に恐怖させるために電気を使わずに指のパチンパチンだけで音を出してみる。見事に何の害もないのに音がする度にビクビクと体が震える。面白いほどに。やべ。更に楽しくなってきた。

 

 

「……そ、そうだ! 同業者の情報を与える! 奴隷に関係している奴等を売るからそれで勘弁してくれ! いや、ください!」

 

「わ。予想の斜め上だね。仲間を平然と売るなんてクズだな」

 

「……どの口がッ」

 

「ん?」

 

「な、何でもありません!」

 

「そっか。もし反抗的なら問答無用でぶっ殺していたけど気のせいならしょうがないね」

 

 

 真っ青を通り越して真っ白になる。楽しい。

 時々真っ白な顔色という表現があるがまさか本当に見られるとは思わなんだ。今までは無駄に力のある小物やら顔を見られないようにする奴だとかハッキリと顔を見た事はないんだもんな。

 何か言い訳をするのかと思えばまさかの仲間を売る。最低、ゲスだとか言って罵ってやろうか。マゾの扉を開くまで罵ってやろうか。

 

 

「うーん。しょうがないね。嘘偽りなく真実を話せば見逃してあげよう。ボクと彼女は何もしないと約束するよ」

 

「本当か!?」

 

「ホントホント。だから全部情報出せ」

 

 

 助けると言えばそれはもうペラペラと話してくれた。頼んでもないのに情報を羊皮紙に書いて必死に助かろうとしているのは笑うしかない。

 約束はしたから手は出さんけど。ボク等だけは出さない。そう、ボク等はね……クフフフフフ。言葉の裏を読めなかった奴が悪いんだよ。もしそれに気付けば本当に命は助かったのにね。

 

 

「うん。十分だね。もう行ってもいいよ」

 

「や、約束だからな! 手は出すなよ!」

 

 

 腰を抜かしながらも必死に逃げる男。もう笑うしかない。あれだけ威勢のいい事を言っていたのに最後は情けない姿だもんな。小物も皆あんな感じだから世界共通なのはここもなのだろうか。

 小さく笑いながら手を振って見送る。気軽に友人に別れを告げる軽い思いで振っていると少しガッカリした気分を拭えずにいる。

 

 ハァ。ちょっとガッカリ。ここでどん天返しで逆転するかと期待したのに。魔法を封じて薄い本展開が始まると思ったんだが。そうすれば約束を反故にして殺す事もできたのに。ついでに言えば魔法を封じるアイテムが欲しかった。

 秘宝級のアーティファクトレベルだからな。魔法を封じるレベルとなれば。ボクもエヴァンジェリンも指二本で数えられる数しかないからストックだけは欲しい。

 

 

「あーあ」

 

「どうするの?」

 

「ガッカリしたけどまあいいや。今からお仲間さんに会いに行きますか(ころしにいきますか)

 

 

 もう一つの要件も加えておこう。自分達が滅ぼす原因になったのは“情報漏洩”である事も教えてあげよう。ボクってば優しい!

 

 

 

 

 

 





 ハイハイ鬼畜鬼畜。今後の奴隷商人の末路がどうなるかはもうわかる人はわかるでしょう。オリ主とソフィは手は出しませんので(ゲス顔)

 フェフェフェフェ。こんな風に恐怖を感じさせるイジメもいいもんですな。相手はクソだから別に構わないよね?



 後は執筆初心者にあるある。ヒロインとか女性キャラが追い詰められていると殺すとか言って初異世界TUEEEEをする。あるある。テンプレすぎて飽きたよ。

 このオリ主の場合は寧ろ心を追って殺し、蜘蛛の糸に捕まるかの如くジワジワと女性を口説き落とすクソ野郎です。下心満載なのに女性は王子様に見えているでしょう。一番こんなのが始末が悪い。





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引き取る



 書き直すのもめんどくさいので真夜中のテンションのまま書いたのを投稿。

 ほ、ほら! ゲスなのに少し優しい部分を見せて好感度を稼ごうとする汚い戦法だと思ってくれれば!
 あれ? 本音を言ってる?
 あとがきで言い訳させてくれ。






 

 

 

 

 

「ま。そういうわけだから」

 

「お前は話題に尽きん奴だな。退屈せん」

 

「まあね。行く先行く先にトラブルに巻き込まれる体質らしいから解決するのも当たり前になってるんだよ」

 

 

 そして根こそぎ“見舞い品”をもらう。

 

 返り討ちとはいってもただの強盗である。戦利品とも言える品々は大量、だけど役立たずばかり。売り飛ばしたものが多い。

 

 

「……まさかとは思うがウェスペルタティアでの事件は」

 

「耳が早いね。そうだよ」

 

「何をしてるんだ全く……」

 

「ほら。ボク等は悪の魔法使いだからね。悪なら悪らしく汚名を被って事件を起こしてあげたんだ」

 

 

 そうすれば正義の魔法使いはボクを討伐するという名目で力を増せるだろう。そうなれば更に恐怖のドン底に落とせる。まさに天国から地獄へ。前からエヴァンジェリンと相談して決めた事だ。

 戦利品の品々は“奴隷商人”からのものが多い。それだけで悪であると断定はする短絡的な思考の老害ばかりだ。

 

 

「口止めもしてある。ボクが金の欲しさに“彼等”を売り飛ばしたのだという事にしてあるよ。証言をさせて有利にしようとも逆に不利になるように計らってある」

 

「クククク。面白くなってきたな」

 

「対人恐怖症の一部の子は引き取ったよ。ボクの催眠療法で少しずつ人に慣らして社会に参加できるようにしようかと」

 

 

 三人の子供を引き剥がしてエヴァンジェリンの前に出す。エヴァンジェリンが怖いのだろうか、彼女の目から逃れようと服の中に隠れようとしたり後ろに回ろうとしている。

 あ。何かエヴァンジェリンがしょんぼりしている。子供は好きなエヴァンジェリンだからそんな態度をされるとショックだろうね。

 

 

「亜人の中でも特異的な子でね。酷い“教育”を受けたらしいんだ。助けたボクは怖くないようだけど優しい人ですらも怯えるんだ……あ、こら。鼻水をつけるんじゃない」

 

「……む。サトリの気配か? 混ざりもの(ハーフ)なのか」

 

「や。少し違うね」

 

 

 あれだ。魔族大隔世に似た現象だろう。三人に共通するのは何れも先祖に強力な人外やら魔物やら悪魔だったりが存在して遺伝が覚醒したみたいな? 詳しい事はわからずだ。

 

 

「この金眼の子はサトリらしい。こっちは双子、何でも龍種の王族の子孫だとか」

 

 

 あれだ。新しいヒロインを出そうとして超サラブレッドのチートにしかならないような設定だ。こんなあからさまなのは結構好みである。

 

 

「まさかサトリをこの目で見る事ができるとは思わなかった。人に化けられる龍種も珍しいなんてレベルじゃ――」

 

 

 エヴァンジェリンの言葉は途中で切られ、三人の子供はピエーと泣き始めた。もう大泣きなのでエヴァンジェリンはすぐに慌て始める。

 これはエヴァンジェリンが悪い。珍しいという言葉はこの三人には禁句だ。商品にするために珍しいものを集めるのが仕事らしく、三人共珍しいという言葉がトラウマになるくらいトラウマになっているのだ。それこそ大泣きするレベル。

 こうなると止まらん。感情が暴走して本来の姿になって暴れるなんて事にならないだけが救いで一番の被害は服に涙やら鼻水がべっとり付着する事くらい。

 

 

「な、何か悪い事をしたか?」

 

 

 オロオロと泣いている子供を宥めようとして引っ込めるエヴァンジェリンに言葉は伝えずに文字で伝える。

 念話も駄目。サトリの子供は念話なら何でも盗聴できるのでボクとエヴァンジェリンの間の念話パスに割り込んでまた大泣きする言葉を言ってしまいそうなのだ。紙に書いて伝えるだけ。

 

 エヴァンジェリンなら自分の心を閉ざす賢者モードになれるはずだ。

 

 

「うああああああああああん!!」

 

 

 無駄だったようだ。

 

 

「何をしてんのエヴァンジェリン。自分の考えを読ませたら駄目じゃないか」

 

「そんなのできるかぁ!!」

 

「びえええええええええええ!!」

 

「私が悪いのか! 悪くないだろうがああああああああ!!」

 

 

 あーも。滅茶苦茶じゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま。そんなこんなであの子達は暫くボクが治療するから。ボクにしか懐いてないし」

 

「もう嫌だ……」

 

 

 疲れ切ったエヴァンジェリン大人バージョン。子供は好きらしいがこんな風に大泣きされて嫌われると心は痛むだろう。最後まで大泣きしてボクから離れないのは相当堪えるだろうと思う。

 やっと寝たんだがサトリの子はエヴァンジェリンが近付いただけで飛び起きて泣きそうになる。エヴァンジェリンのメイドロボが世話をしているから大丈夫だろうけど彼女はかなりデリケートなので対応には注意をしないと。

 というよりもこの子、どっかで見た覚えがあるんだよねぇ。

 

 

「ウェスペルタティアの奴隷専門孤児院のシスターですらもお手上げらしいから。あの双子は力が強いし彼女は読心で捕まる事から逃れようとして世話は無理だってさ。膂力は互角のボク等、サトリ対策のボクがいるから引き取ったんだ」

 

「相談ぐらいはな。しろよアホ」

 

「アホで悪かったね……それに双子は世話だけじゃなくて実験の協力をさせるつもり」

 

 

 龍種の王族の末裔。ドラゴンの最強種の力を宿している事と同意義だ。研究者や科学者なら人道から外れても欲しいと思う実験材料だろう。悪い言い方をすればだが。

 魔導書の中に火で最強と謳われるドラゴンの吐息、炎の吐息が書かれていた。それも王族のものだ。火の適正を持つ自分としては何よりも欲しい“道具”の一つだ。ドラゴンの炎と人に化けられるドラゴンの子供の血があれば……。

 

 

「どうした?」

 

「いや。邪な考えを逃がそうと……」

 

 

 駄目駄目。相手は子供だ。利用するなんて邪な考え方は絶対に駄目だ。

 

 

「少し聞きたい。サトリの子供は知り合いか? お前のあの子を見る目が少し違っていたからな」

 

「鋭いね、相変わらず」

 

 

 観察力もずば抜けているよな。

 

 いや。見覚えがあるだけで知り合いがどうとかってレベルじゃない。記憶から引っ張り出してもどこで見たのかハッキリと思い出せない。凄い身近なのは確かなんだが。

 顔じゃない。面影でもない。こう、雰囲気が誰かに似ている気がするのだ。サトリ特有の空気なのだろうかと思っているが実際はどうだか。

 

 

「ふん? 雰囲気が似ている?」

 

「うん。身近にいた誰かにそっくりなんだ。残念だけど誰かは覚えていないんだ。もしかしたら未来でのお話かもね。あの時はもう思い出せないんだ」

 

 

 それこそ手帳を見ないとわからないほどに。どんな人柄とかは思い出せるけど顔は覚えていない。記憶を覗く魔法があるけどエヴァンジェリンから禁止命令を出されて見れない。本当に何だっけ?

 ホームシックになる覗く魔法。前に極限の欝になって再起不能になった事もあったから多分それが原因。

 酷いんだぜ? ボクを正気に戻すためにエヴァンジェリンはぬちょぬちょ腹の上で跳ねて搾っては搾ってたんだべ。強烈なショックとセックスを結びつけるエヴァンジェリンは淫乱に違いない。マグロでなければ罵声プレイでもしてやろうかと思ったのに。

 

 

「言っとくがもうあれは使わんぞ。幻術でも精神が壊れるほど脆いんだからな」

 

「あれだ。強烈なチートに対しての些細な小さな弱点? 精神が弱いとマギア・エレベアの制御は難しくなるんじゃなかったの?」

 

「適正が高いお前ではそれはない。寧ろ少しは壊れて自分の置かれている危険な立場を理解しろとな……」

 

「騎乗位はなしね」

 

「ふむ。だいしゅきホールドの腰振りはいいのか?」

 

「対面座位難しいだろ。何でだいしゅきホールド知ってるんだ」

 

 

 記憶を覗いたのは何も自分だけではない。過去にエヴァンジェリンは覗いて自分の正体を知り、様々な知識を吸収している。そこからの知識なのかもしれない。

 エヴァンジェリンはボクよりも記憶力はいいし。何年も経って覚えておらず忘れていた自分と違ってほとんどを記憶して覚えている。興味を持っている事なら覚えていてそれが自分の知りたい情報なら教えてくれる。

 が。残念ながら初めての彼女関連の記憶は無かった事にして記憶から消し去っておるので無理ですな。

 

 

「ふん。彼女なんて画面の中の彼女だろう。見栄を張らずとも私がいるじゃないか」

 

「本当の事なんだけどなぁ……」

 

「そもそもまだ帰るのを諦めていないのか。もう諦めてここにいろ」

 

 

 最近はこれだもんな。いっつもエヴァンジェリンは事ある毎に残るように言ってくる。今になってその頻度は上がっている。

 まあ、ずっと考えられたはずなのに考えられなかった事が本当になったからねぇ。

 

 デロリアンを知っているならあの理論も本当になる。スポーツ年鑑で未来が変わった世界線のようにタイムトラベルをした時にそれが本当に自分のいた過去であるはずもない可能性があったはずなのに。

 ずっとずっと帰れると思っていたのに。と後悔するだろうがそんな事をしている暇があるのなら前を向いて歩く。

 

 って格好良い事を言ってみた。

 

 

「ごめんね。本当はここにいるのもいいんだけどまずあっちでやる事を終えてから決めさせてね? 折角の彼女にもお別れを言うのかそのまま付き合って恋を楽しむのか。もしかしたらエヴァンジェリンを選ぶかもしれないし、この世界から一生お別れするのかもしれないんだけどね。いいかな?」

 

「優柔不断とも言える決断だな。聞くが、共にあり続けた私よりもその彼女を選ぶのか? 私ならお前の望むプレイでも何でもしてやれるんだぞ?」

 

「真面目な話なんだからそっちの話はなしね。確かにエヴァンジェリンは魅力的だし彼女にも嫁さんにもしたいけどやっぱりね」

 

 

 この目的だけは覚えている。家族に会う、彼女に会う。それだけを胸に秘めて未来に帰る方法を探し続けた。

 結果はこの世界は自分の知る世界ではないこと。絶望的になったが元いた時代が近付く度に自分に風向きが来たように帰れそうな手段に利用できそうなものが転がり込んできた。龍種の子孫の双子にしかりだ。

 

 

「やっぱりね。最後はキッパリと別れたいんだ。ボクが生まれて初めて好きになった彼女さんだからね。その思いは異性に対する好意の何よりも大事だと考えている。外道に成り下がったボクが言う事じゃないけど純粋なこの思いは大事にしたいんだ」

 

「……意外とロマンチストなんだな」

 

「でしょ? 自分でも信じられないよ」

 

 

 悪であろうと、畜生に身を堕としてもこの彼女への思い、想いは変わらなかった。家族への愛もだが、初めてできた彼女はこうも愛する事ができるのかと自分でも驚いている。

 ボクの完全な自己解釈かもしれないけど母親や姉以外に女の人を好きになるとこうも愛おしく感じるものなのか。へへ。酷いロマンチストだぜ、ボク。

 

 

「お前が決めたならもう言わん」

 

「ごめん」

 

「いい。お前にはたくさんの幸せを貰った。男を愛すること、成長しない体が成長できるようになったこと、何よりも吸血鬼の私を愛してくれたこと。それだけでも十分だよ。願わくばお前と共に永遠にありたかったが」

 

「それは彼女に全てを明かしてからの反応次第だねぇ……」

 

 

 ……今まで考えなかったが化け物(ヴァンパイア)になったボクを彼女は受け入れてくれるのだろうかとふと怖くなった。

 

 

「あ、ははは。クソ。こんな思いをするなら心も畜生に堕ちてくれればよかったのに」

 

「心まで堕ちたらその彼女もここまで想えなかっただろう。中途半端に変わったせいで中途半端に苦しんでしまう」

 

 

 今だから明かすとエヴァンジェリンは語り出す。大人に成長し、心身共に成熟したエヴァンジェリンはその胸の内を。

 

 度重なる洗脳と誘惑。エヴァンジェリンが暇があればそれを行ったのはボクをエヴァンジェリンだけのものにすること。レイプした男が相手とはいえ、好きになってしまったのだからしょうがないのだとか。

 後はボクを完全に吸血鬼にする事だとか。中途半端に人間のままでいると思考も人格も歪んでしまうのだとか。だからゲスになったのか。ゲスである自分と彼女を想う気持ちが均衡して余計に苦しんでしまうのだとか。

 言われれば心当たりはあるのだが、今だとどうもエヴァンジェリンがボクを帰らせないようにしているようにしか思えない。

 

 

「だからな。真面目に言ってるんだぞ? 私はお前のためにだな」

 

「嬉しいけどまだ人間でありたいんだ。せめて彼女とお別れするまでの間は」

 

「変なところで頑固だなお前は。女なんかそれこそ星の数はいるだろうに。そもそも女と寝まくったクソ野郎のお前がその彼女に好かれると思うのか?」

 

「一番気にしてる事言わないでよ……」

 

「女は他の女の匂いに敏感だからな? 匂いにしかり臭いにしかり。香水やら交わった時の性臭やらな。自分が好きな男ほどその臭いには敏感だぞ。フフフ、フーフフフフ」

 

 

 絶対に楽しんでいるよこの人。というかエヴァンジェリン。

 楽しそう、ではなく愉しそう。愉快そうに笑いながら腕を組むエヴァンジェリンはボクの未来を予知して笑いを堪えずにいるのだろう。

 彼女さん、浮気とか絶対に嫌いなタイプだもんな。もう100人はセックスした浮気者を彼女はどう思うのだろうか。嫌われるなぁ……いや、磨いたテクニックでメロメロに! ただの畜生じゃねぇか! 畜生!

 

 

「ハハハハハ!」

 

「五月蝿いよ! そんなにボクの不幸が嬉しいか!」

 

「まあな。私を選ばなかった囁かな復讐だと思えばいいだろう? 精々苦しめ。フーハハハハハハ!」

 

 

 そんな時、エヴァンジェリンの高笑いに呼応するように遠くから子供の泣き声が聞こえてくる。ピタリと高笑いは止まり、形勢逆転と言わんばかりにエヴァンジェリンは落ち込む姿を見せる。

 

 

「マスター、マスター。子供が泣いておりますがどうしましょうか」

 

「……」

 

「ボクが行くよ」

 

「……ああ。頼んだ」

 

 

 沈黙するエヴァンジェリン。呼びに来たエヴァンジェリンの従者人形、メイドの……メイドの……。

 

 

「チャチャ13です」

 

「サーティーンね」

 

 

 名前はチャチャから始まって数字で呼ばれる。ゼロから始まって何体いるのだろうか。暫く見なかったからまた増えているのかもしれない。

 チャチャサーティーンに案内され、三人の子供が寝る部屋に。大泣きしているのはサトリの子供、もうそれはもう大泣きだった。あれ。子供ってこんなに大泣きするものだっけかと不思議に思う。

 

 

「何で泣いてるの?」

 

「マスターの姿が見えないからでしょう」

 

「ボク? そんなに懐かれてるのか……」

 

 

 子供好きって女性受けするのかはわからないがこんなのだったらごめんだね。

 まいったなーと頭を掻いていると大泣きしていた子供がこちらを見て自分を見つけ、不安な気持ちを打ち消そうと足にしがみついてきた。鼻水がまた――。

 子供に懐かれるのは心が清らかでなければならなかったのではないのか? もしかするとベジータ王子のようにツンデレ純粋なのだろうか、自分も。純粋な悪でも超サイヤ人になれるらしいし。

 中途半端な悪意よりも突き抜けた悪意は善意に変わる……ないない。

 

 

「あー、サーティーン。飯の用意はできる? この子等、マトモな物を食ってないらしいから今日は豪華に」

 

「はいマスター」

 

「世話はこっちが見るからエヴァンジェリンにも伝えておいて」

 

「かしこまりました」

 

 

 トラブルは絶えんなぁ。暫くは研究も情報収集もお休みかね。

 

 

 

 

 

 





 エヴァンジェリンはもう大人になれたようです。UQホルダーの雪姫ではなくネギ君と停電で戦った時の大人の方だね。自然に成長したエヴァンジェリンだと思えばよろし。

 エヴァは年齢詐称薬でロリにも美女にもなれる。甘える時はロリでいる事が多いようです。膝に乗るには小さい方が犯罪臭も姿勢も楽だもんね! あーんをしてもらうのはお気に入り。


 い、言い訳をさせて。今回はゲスな部分を緩和させようと子供の純粋な部分を見せてオリ主を苦しませてやろうと思っているんだ。名前が今まで出ないってどういう事なの……?

 サトリなのは精神面の強化? 龍種は神竜さん? うとうとしながら書いていたのでわかねーお。サトリを出したのは多分、おなかにいっぱい……いや、なんでもない。神竜は時間を越える時にあー、これかーだと思う。ごめんね。

 まあ、オリ主がエヴァよりも未来の事を考えていたのはチェリー独特のおにゃのこ依存でして。初めて好きになってカップルになれた感動を忘れずに別れるにしてもちゃんと話し合わないとというのが原因。最初はネットの環境がないから未来のがいいというのが主だったりする。

 ネットがなければ三日で発狂できる自信がある。それに耐えられたからこそオリ主さんはマギア・エレベアに耐えられる精神力が……よし。そういう事にしよう。行き当たりばったりで設定を決めるのもいいね。

 設定に違和感ないよね? ないと言ってくれバーニィ!





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惑わされる


 こんなエヴァがいればもう死んでもいいです(賢者)






 

 

 

 

 

「世話をすると言ったな。あれは撤回したい」

 

 

 メイトリックス大佐なら子育てもコマンドーだと思うんだ(?)

 

 要は簡単に世話をすると言った自分を殴りたくなる。いや、別に世話が大変とか肉体的に辛いとかではないのだ。

 

 

「……何だろうね。あの子等見てたら胸が痛くならないかい?」

 

「お前がクソだからだろうが」

 

 

 辛辣エヴァンジェリン。ふんっと鼻を鳴らしながら膝の上で特製のトロピカルジュース的なものを飲む。リゾートホテルでよくありそうな南国風のジュースを堪能しておる。

 心が痛むこっちに比べてエヴァンジェリンは元々心を痛めているのか何ともないようだ。ロリモードになっているから大人の辛さを忘れ、子供よりも子供っぽくなっているから大丈夫なんじゃ?

 

 

「オイ。変な事を考えているだろ」

 

「子供だから子供を見ても何ともないんじゃねーかと」

 

「逆だ逆。お前がクソで心が汚れているからそうなるんだ」

 

「ごばっ」

 

 

 吐血しそうな勢いで噴いた。

 

 

「そんなんならお前の彼女も愛想を尽かすだろうよ。今なら子供から大人まで、何でもできる彼女候補が目の前にいるぞ? ん? 花婿にでもなるか?」

 

「や、やめるんだ! そ、そんな誘惑は……!」

 

「更に愛玩人形もセットだぞ。選り取り見取り、数の子天井なるものも実現した者もいるんだぞ? 人形だから激しいプレイもできる。人形にも感情は少しインストールしてあるから可愛く鳴く奴がいるかもなぁ?」

 

「煩悩退散煩悩退散煩悩退散! 目先のエロい誘惑退散ッ!!」

 

 

 おのれエヴァンジェリン。子供の純真な部分とエロの誘惑をして混乱させるつもりか。間を揺れ動いて正常な判断をできないようにするつもりなのか。なんと策士か。

 

 

「それに私は浮気容認だぞ?」

 

「ボクと結婚……ハッ! 騙されないぞ!」

 

 

 今はまだエヴァンジェリンに返事をするわけにはいかないんだ。全てはあの子と会話をしてからだ。

 

 

「ッチ。お堅い奴め。固いのはそれだけでよかろうのに」

 

「ボクねぇ、日常的にセクハラ発言をする女の子は少し苦手なんだ。女の子ならお淑やかにしないとね。その点ならあの子は高嶺の花とも言える可愛い子だったんだよねぇ」

 

「ぐ、ぐぬぬぬ。何だこの言い様のない敗北感は」

 

 

 初めての彼女さんだったからかな? かなり補正があるような気もする。エヴァンジェリンも魅力的だけどあの子ももっと魅力的なんだ。

 

 

「まあ、いい。アドバンテージは私にある。お前の性癖も何もかも知り尽くしているんだぞ? 尤も、レイプされた事を引き合いに出すだけでも勝てると思うぞ?」

 

「ごめんなさいごめんなさいマジでそれは許してください」

 

 

 みっともなく謝る。膝に乗られているので土下座はできないがとにかく必死に謝り倒して誠意を見せる。

 裁判沙汰になったら間違いなくエヴァンジェリンが勝訴するだろう。セクハラ、強姦、性犯罪の全てが適用されて裁かれるかもしれない。ここが過去でエヴァンジェリンが相手でよかったと心から思う。

 悪い言い方だがエヴァンジェリンは世界最悪の犯罪者。訴えようとも訴えられないのが現状で本気で訴えようとしないのが幸いだった。

 

 だけど、だ。エヴァンジェリンはそれを引き合いに出して何かと自分に引き込もうとする事が多くなっている。ボクが未来に帰りたいと思う目的を話してからは。

 誘惑する。媚薬を混ぜて誘惑する。セックスして肉体を誘惑する。とにかく彼女への目が自分に向くように必死になっている。

 

 

「あーんだあーん」

 

「どうぞマスター」

 

「何というコンビネーション。結託してるのか君等」

 

 

 エヴァンジェリンが口を開けて要求し、彼女の従者のチャチャシリーズの一体がアイスクリームの乗ったジュースを渡してきた。これはパフェと呼ぶべきなのだろうか。

 こ、怖いな。本気になった女はここまで怖いものなのか。何であっても口説き落としてみせるという気迫も伝わる。

 

 

「ふぉら」

 

「専用のスプーンです」

 

「用意がいいね。怖すぎるわっ」

 

 

 背景の音楽、子供のはしゃいでいる声が遠くに聞こえる。まるで別空間に放り投げられた気分だ。こうまで空気が違うのか。

 

 

「あ、あーん?」

 

「あー……あむっ。美味い」

 

「恐縮です」

 

「マスターの技術もあってでしょう」

 

 

 どんな技術だよそれ。

 

 チャチャの一体によくわからないお世辞を言われる。傍にチャチャゼロに似た顔のメイドが数体いるが徹底的にメイドであろうとしている。まだ作られて日が浅い子達なのだろうか。

 パフェらしきもののアイスクリームを掬い、エヴァンジェリンに与える。前に大人バージョンにもやった事があるが、子供バージョンだとほっこりした気分になる。何であれとにかく可愛い。

 分け与えて食べさせると変な気分になる。フェ……いや、何でもない。

 

 

「うん。美味い。もっとくれ」

 

「おかわりは用意してあります」

 

「準備万端で恐ろしいよこの子等」

 

「まあな。こいつ等はまだ新人で教育段階だ。何かを教えるよりもこうして実際にやらせて覚えさせるのが空気にも慣れるだろうし、そっちがいいだろう? お前、たどたどしい感じの処女が好み――」

 

「アーアーアーアーアー」

 

 

 さらっと性癖をバラすんじゃありません。

 ニヤニヤと楽しそうなエヴァンジェリンを傍目に間接キッスとか関係なしにエヴァンジェリンの口に侵入したであろうスプーンでアイスクリームを掬って食べる。美味い。

 

 

「あ、お、お、おまっ」

 

「美味しい。誰かさんのスパイスもあるからかな?」

 

「や、やめろ。恥ずかしいだろうが」

 

 

 ふふふ。子供エヴァンジェリンことエヴァはストレートな愛情表現に耐性はなかったりする。仕返しにこんな事をするのもお決まりだ。

 大人と子供だと何が弱いのかは変わる。こう、弱いツボとか性癖も変化するらしい。色々と別人になっているエヴァンジェリンだからこそ自分の持ち味である年齢詐称薬とかで迫るのだろうと思う。

 大人になると色々と凄い。昼も夜も。

 

 

「スプーンは変える?」

 

「……や、や。そのままでいい……」

 

「エヴァンジェリン可愛い」

 

 

 パフェの器を渡し、エヴァンジェリンの小さな体を抱き締める。こんな行為をするんだから恋人に見られてもしょうがないかなぁ。浮気で怒られそうだよ。

 昔は寂しそうにするエヴァンジェリンを人の温もりを伝えるために抱き締める事も多かったので今更恥ずかしがるのも変な話だ。これで恋人じゃないんだから詐欺だよな、ホントに。

 

 

「何だかなぁ」

 

「だよねぇ」

 

 

 同じ事を思っていたようだ。

 

 

「というわけだから付き合え。昔の女なんか忘れて私だけを見ればいいだろ」

 

「いや。だからさ。もう少しだけ待ってほしい。お話をしてから決めたいんだ」

 

「どうせあっちも忘れているって」

 

 

 ネガティブになる発言だけは勘弁してくれ。そりゃ、今まで頼って心の拠り所にしているんじゃないかとは思うけど最近は露骨ってレベルじゃねーぞ。

 抱き着いているとエヴァンジェリンはだいしゅきホールドに変更した。足までしっかりと腰に回して離さないと言わんばかりに締め付けてくる。意外と子供の力は強いから油断ならんよなぁ。

 

 

「さて。飽きないように新しいキャラを作るか……お兄ちゃんだーいしゅき」

 

 

 この後滅茶苦茶(ry

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だいしゅき発言に萌えたのは初めてだ。だいしゅきホールドに加えてあのエヴァンジェリンがだいしゅき発言をするとは思わなかった。あれはやばい。

 

 

「マスター助けて」

 

「のっ!?」

 

 

 わはーやらあはーと無表情少女にしがみつく子供三人。無表情に見えて少し困っている感じが契約パスから伝わる。懐いている感じを見れば、もしかするとボクよりも懐かれているんじゃないか?

 と思ったらターゲットを変えて三人は足にしがみついてよじ登ったり抱き着いたりと忙しくなる。もうさぁ、保父さんにでもなれってか?

 

 エヴァンジェリンズリゾート。別荘と呼んでいるダイオラマ魔法球という商品の中で遊んだり寛いでいる。時間の流れを変えたりする点では通常のダイオラマよりも高性能のものだが。

 昔は貴重で貴族の嗜みというか趣味で集められているので数は少なく、手を出せないでいるほど高価なもの。今はもう魔法世界では普通に売られている。まあ、まだ少し高価かもしれないけど。

 ボクも買おうかと思ったけどエヴァンジェリンからプレゼントされて改造途中だ。中身を好きに変えられるのが利点で色々と土地を開拓したり海を拓いたりと大忙しである。

 エヴァンジェリンの場合だと自分の住んでいた城を中に移してそこから微調整して今のリゾート地に相応しい場所に変えた。転移魔法の応用で物を移したりできるそうで無断で土地を削って移しているのだとか。

 

 ……月を盗んでプレゼントするとかって言葉を思い出した。月を削ってダイオラマ魔法球に入れてやろうかね。

 いや。まさかあのクレーターは……。

 

 

「マスター。タッチ」

 

「お前、面倒を主人に擦り付けるのか」

 

「マイスターはマスターならなんでもできるって」

 

「おんどれクソ野郎」

 

 

 あ。痛い痛い。髪の毛を引っ張らないで。

 

 

「エヴァンジェリンからの調整は終わったの?」

 

「ん。バッチリ。試す?」

 

 

 グッと拳を握り締めるソフィ。可愛いけど終盤の彼女だと恐ろしくて敵わない。リトルクイーンと合体したバージョンだとどれだけになるんだ。ババア声は勘弁な。

 ソフィがバージョンアップすればそれだけ魔力消費は激しくなるだろうと覚悟をしていたが意外と燃費はいいようにできているのだろう。魔法世界でも珍しい魔力を生み出す不思議な石を使っているからかもしれない。

 偶にあるよね。素材アイテムなのにインチキとしか思えないようなネーミング。魔法石アダマンタイトみたいなの。

 

 魔導コアを核とした魔導人形みたいなソフィだな、おい。胸が開いてレーザーでも撃てるようになるのだろうか。

 

 

「それはいいからこの子等の世話を……おい待て。手を振りながら逃げんな」

 

「んっ。その子、マスターが好き。お任せする」

 

「好きだから任せるのはおかしくね!? マジで逃げんじゃねぇ! ボクを守ると言ったのは誰だ!」

 

 

 必死に止めてもうちのソフィは冷たいようである。子供三人を押し付けてどこかへ行ってしまった。

 やめろよ。やめてくれよ。子供の純真さに心が痛むんだよ。エヴァンジェリンには心が汚れているとか言われているのでそれが原因だと思うんだ。クソなのが悪いのか。

 

 サトリの子供、ドラゴンの子供。扱いも難しい。心を封じなければサトリの子供は泣き出すし遊んでやらないとドラゴンの子供は拗ねる。玩具にされて髪の毛を引っ張られるので勘弁してくれ。

 性別はサトリの子供は女の子、ドラゴンの子供は男勝りの女の子……二人。そこは男の子と女の子の双子だろうが。

 えー。えー。えー。子供の扱いはないんだぞ? うちの子供(エヴァンジェリン)は特殊だし、この三人はまた特殊で扱いをどうすればいいのか迷ってしまう。特にサトリの子供は。

 

 前にさ。ちょっとだけ気を抜いて心を覗かれてエヴァンジェリンの情事を見られて何をしてたの? と聞かれて気まずい感じになった事がある。純真な子供の残酷な言葉だよなぁ。子供はどうやってできるの? ってレベル。

 

 

「あ、いや。これは何でもないから。ね?」

 

 

 性教育のタイミングで難しいよね。オカンとかオトンもこんな悩みをしていたのだろうかとしみじみと思う。

 エロ本とか読み始めたタイミングも中学生ぐらいだったかね? 大体はエロに目覚めた同級生の自慢か何かでエロ本とかAVとかを知るよね。ボクだとクラスメイトのエロい奴に教えてもらったかな?

 そこで賢者モードに到れるかどうかでクラスの位置は決まる気がする。早くエロを知る者は人気者になれるとわけのわからない事を言っていたクラスメイトがいた気がする。

 

 

「もう疲れたでしょ。お昼寝の時間だけど眠たくない?」

 

 

 こんな感じだったかね。保育園は。お昼寝の時間なんてものがあったようななかったような。寝クソする子もいたような覚えがある。

 

 今の今までずっと遊んでいたから疲れていると思う。ソフィに絡んだりチャチャシリーズの誰かと海で遊んだり。見渡す限りの海原と砂浜で疲れも吹っ飛びそうだが。

 子供はヤンチャだからねぇ。ドラゴンの双子はまだまだ元気一杯だし。サトリの子は少しウトウトしている気がする。

 一番眠たそうなサトリの子を抱き上げ、ドラゴンの双子を宥める。というか鬱陶しい。

 

 

「チャチャーチャチャー! 寝かせるから誰か手伝えー!」

 

「はいマスター」

 

「……見てただろ君等」

 

「はい。マスターがマスターの困る所を見て楽しめと仰っていましたので」

 

「クソエヴァンジェリンめ!!」

 

「ふぇ……」

 

「ああ、ごめんね。怒ってるわけじゃないから」

 

 

 どうもサトリの子は怒りの感情に敏感で怒鳴るとすぐに怖がるらしい。奴隷商人とかも怒りながら“教育”してたんだろうから怒鳴られるのは怖いのかもしれない。

 クソ野郎共。イエスロリータ、ノータッチだろうが。ボクはロリに手を出したけど愛でなければ男は名乗れないだろうが。死ね。

 

 やっぱり少しだけ残すんじゃなくて皆殺しにすればよかったかもしれない。うむ。次は顧客に“報復”してやろう。

 

 

「エヴァンジェリンに伝言。近い内にこの子等を種族の元に帰すよ。その後に計画を再始動させるって」

 

「かしこまりました」

 

「奴等に……おっと。平常心平常心」

 

 

 このサトリの子と一緒にいると閉心術なるものを嫌でも習得できそうだ。ダンブルドア校長にでもなるつもりかボクは。

 まあ、ボク等の“敵”は誰もが知っているようで知らない相手だ。知れたのも昔の縁というか何というか。ここが別世界だと知った今、最も帰れるであろう手段を持っていると思われる人物だと思われる。

 端の部分から潰して大元を叩き出す。エヴァンジェリンと決めた事でもう前から動いている。

 

 今は三人の女の子の世話で動けないけど何れは再開する。

 

 

「寝かせたら少し世話をお願い。こっちにも準備があるから」

 

 

 この子等の誘拐と奴隷化にも関係しているらしいから、な。

 

 

 

 

 

 

 





 エヴァが可愛い回。オリ主が胸の内を明かした事で必死に引き止めようとしているようです。

 何かねぇ。別に貶してるわけじゃないけどオリ主はアクエリオンの一万と二千年から愛してる的なロマンチストな純粋なゲスさん。何も自分が知っている愛が愛の答えではないと考えてます。

 まあ要は人の愛の形なんて人の数だけあるってこった。もし長年寄り添う方を優先するのであれば夫婦の浮気なんて世界に存在してないと思うんだけどね。好きになったら好きな人を愛するって事ですな。

 長文コメスマソ。






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まみえる


 お ま た せ 。

 今回は閑話。クッキング番組の作ったものがこれになります的な内容。








 空いたのはゲームで色々稼いでいたから。






 

 

 

 

 

 めんどくせぇなぁと誰かなら言うだろう。雑用作業に見える作業を何度も繰り返していると誰もがぼやきそうだ。

 

 

「あー、記録。ヘラス帝国国内の奴隷売買所を強襲、全滅。奴隷は全員開放、職員は一部を除いて殺害。情報収集に拷問する予定……拷問されるのはお好き?」

 

 

 あれだけ威勢が良かったのに立場が逆転すればみっともなく怯える。もう何度も何度も見た事だ。

 同じように怯える者が六人。ボイスレコーダーのマジックアイテム版に声を吹き込みながら少しずつ脅して恐怖を蓄積させる。口の軽そうで何かを知ってそうな奴だけを選んでおいたから後でゲロらせよう。

 

 

「記録を継続。奴隷はいつもの場所へ。家族がいる者は家族の元へ手配は済んでいる。顧客名簿も入手、調査を慎重に行って然るべき処置を行う」

 

 

 記録終了と最後に加えてスイッチを切る。更に脅すように第二次世界大戦で使用されていたリボルバー銃の銃口を突き付ける。

 拳銃の方が刀よりも重く感じるのは間違いはないはずだ。いとも容易く命を奪う人類が作ったであろう最悪の兵器。何も感じないのはボクがゲスになって染まっているからだろうか。

 

 湿っぽい事を思いながら銃口を向けたまま破壊し尽くした部屋の瓦礫に腰を落ち着ける。面白いように怯える六人に愉悦を感じるのはもう終わってるのではないか。悪と言われるならもうと吹っ切ったのが悪いのか。

 

 

「うん。悪いね。本当は君等の商売の邪魔はするつもりはなかったんだけど。今のボクって期限が最悪だからね。ついでに助けるのと一緒に潰させてもらったよ」

 

 

 まあ、虫の居所が悪かったから殺しました。だな。

 別に奴隷商人を見境なく襲っているわけではないよ? ただ、少しの手掛かりを持っている場所なら見境なく襲っているだけ。例え、奴隷を悪く扱わずに使用人としてキチンと扱っている場所でも壊している。

 うーむ。完全に悪者だなボク。

 

 

「あ、悪の魔法使いが何故こんな……」

 

「アハハ。悪の魔法使いだから奴隷制度は賛成だって? 笑える。自分達の悪という定義を押し付けないで欲しいな? ボクにはボクの悪の定義がある。それが他人から悪と呼ばれようともボクから見れば正義にも見えるんだぜ?」

 

「ふ、ふざけるな! 正義の魔法使いはそんな事は……ひっ」

 

「悪いんだけどねぇ。世の中の正義の魔法使いの一部は悪の魔法使いと変わらない行為をしているんだぜ? 性奴隷、強姦、殺害。正義のためだと幼気な少女を犯す奴もいるんだよ。おお、なんと嘆かわしい事か! 立派な魔法使いは大犯罪者の代名詞なのだろうか!」

 

 

 一部は違うだろうけど大部分は正義に盲信するのが多いしね。酷いのは正義だと謳ってレイプを正当化する奴。エヴァンジェリンブチ切れだったなぁ。

 氷の柩に入れて底が深い湖に沈めてたもん。わざわざ動けるように中身に少し空洞だけ作ってまで。あれは生き地獄だっただろう。別に可哀想だとは思わんね。当然の報いだと思うよ。

 

 贅沢を言えば回転式シリンダーの拳銃じゃなくてソードオフショットガンが欲しかったリボルバーもいいけど片手で撃てるショットガンが好きだ。

 おっぱいリロードも懐かしく思えるね。谷間から銃弾弾き出してリロードする斬新さに変なエロさがあったし。男なら股間から出してリロード……うん。キモイ。

 散弾銃は色々と単発銃よりも使えると思う。散弾を強力にすれば広範囲に広がる殺傷武器にもなる。バイオのコイン散弾は色々とエグかった。真似する気にもならないくらいに。エヴァンジェリンも顔が引き攣ってた。

 

 

「まあ、いいけどね。欲望のままに生きるのは構わないけど被害者が助けを求めるなら誰だって殺すよ。悪魔に魂を渡してまで復讐をしたいのは山程いるからね。正義の魔法使いだろうと立派な魔法使いだろうと誰だって恨まれるものなのさ」

 

 

 その点では自分は恨まれているだろうね。今まで何人殺しただろうか。どうせ死ぬからいいか。死ぬ時間が早まっただけだ。

 

 

「というわけで君等も殺してあげようか? 大丈夫。痛みはないよ。ど頭をぶち抜くだけだから。痛みを感じる前に死んでるから」

 

 

 一番近い奴に銃口を突き付けてみる。拷問によく使われるんじゃないかって思える最も単純明快な脅迫だ。

 誰かが脅されるのを見ると自分もそうなるのだろうかと小心者なら思うらしい。他人の経験談と自分の経験に基づいての考えだけど。銃を頭に突き付けられると誰だって怖いわな。

 

 ついでに縛ってあるので手は使えない。銃口から逃げようとしても頭しか動かせない相手は簡単に追い掛けられる。怯えの表情と視線がこちらに向く。

 準備は整った。よくある手だが効果は最もあるのでそれを行う。

 リボルバーの拳銃をクルリと回して銃口を頭から外す。トントンと拳銃を肩に置いて叩いて溜め息を吐いた演技を見せる。まるで悩んでいる様子を見せてみる。

 

 

「うーん。このままぶっ殺してもいいけどボクは情報が欲しいからね……よし。こうしよう」

 

 

 もう面白いほど目が輝くのがわかる。助かるのかと期待している顔ってこんなにも状況によって面白く思った。

 何回も見たけど容易いね。小物だと自分の命が助かるなら何でもする。重要な事もベラベラと話して助かろうとするんだから情報収集にはもってこいだわな。口の軽い奴はさほど重要な情報を与えられていないので五分五分だが。

 

 

「ボクが欲しいって思っている情報を当てて話すのなら助けてもいいよ。ただし、有意義でなければ問答無用で……バーン」

 

 

 拳銃を頭に突き付けて銃口を少し跳ね上げる。ペルソナ召喚のような動作だから頭が狂ってると思われるだろう。別に撃つつもりはないから遊びで見せてやっただけ。

 簡単な動作だけど脅迫の意味合いでは効果的。自分の頭から誰かの頭に。そうすればまた怖いと思う。

 

 

「ふふふ。さあ、悪魔に魅入られる情報を君等は持っているかな? 生きるか死ぬか。それは君等の選択で決まる。何度もない究極の選択が立ちはだかっているぞ?」

 

 

 両手を広げて悪役を演じきる。フハハハ。これでまた情報は得られる。

 最後のトドメに銃を突き付けて笑い掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はいはいお待たせ。どうだった?」

 

「ん。一杯」

 

 

 少し微笑んで紙の束を見せてくれる。両手一杯にそれを見せてくれ、彼女側が上手くいっている事を意味している事を思い、少し嬉しく思った。

 吸血鬼の卓越した嗅覚が独特の臭いを捉える。吸血鬼大好き血の臭いだ。ソフィからほんの微量だが香る。

 

 何人か殺ったのか。こんな少女が人殺しをするなんて世も末だな。

 

 草を生やす語調で思う。スプラッタ表現がないだけでソフィがいた世界ではバシバシ魔物を殺しているもの。人殺しがどうだとか今頃言ってもねぇ。ボクを守る名義で創られたソフィは役目を果たせない方が嫌らしいし。

 戦わなくてもいいと言ってもご主人様守るとしか言わんもんな。

 

 

「マスターは?」

 

「空振り。結局はマトモな情報は得られなかった。下の下の組織だと知っているのは少ないし有意義でもないし。最悪だったよ」

 

 

 必死に命乞いする割にはいい情報はなかったからムカついて撃った。ムカつくから誰かを殺すってのも人間が蟻を踏み潰すのと同じだよねぇ。

 

 

「こっちは少し」

 

「ありがと」

 

 

 ペラペラと紙の束を捲ってみる。メモリースティックやらUSBメモリとかがある未来と比べて不便かな? と思ったけど一番処分が容易いんだよね、紙の束とかは。燃やすだけでカスになるし。

 メモリとかだと中途半端に処分すればデータの復元でわかるもんだし。

 

 ふむ。内容は顧客名簿らしい。名だたる名前の一部が腐敗していると教えてくれる。やっぱ上層部は腐っているのが当たり前なのか。

 メガロメセンブリアの名前が一杯だねぇ。旧世界の住人が魔法世界って場所に来て好き放題していればキレるか。ボク等がいくら悪の魔法使いで強くても個々だと手間が掛かるものだ。

 情報収集はしているが、その情報源の場所を教えてくれるのはその奴隷を全員救いたいと思っている好き者から齎されて助ける。まあ、こんな感じだ。

 

 

「ふーむ。全部黒ってわけじゃないね。ニ、三人は潔白で奴隷制度の規制を強く思っているのがいるみたいだ。亜人だからといって阻害する考えじゃない……のか?」

 

「わからない」

 

「おお、ごめんよ。どっちにしてもエヴァンジェリンに見せないとわからないね」

 

 

 エヴァンジェリンの方が頭は良いし。戦略とか立てるならエヴァンジェリン任せにしているから勝手に動いては計画が破綻する恐れがある。

 諸葛亮孔明に直接会った事はなくてもエヴァンジェリンの戦略や作戦を練る能力はそれだと見間違うほど凄いと思う。天才とも表現できるからこそこんな大層な作戦を実行に移しているのだとも思う。

 

 

「じゃあソフィは先にエヴァンジェリンの所に。ボクは解放した奴隷に話を聞きに行くよ」

 

「マスター、子供大好きだもんね」

 

「好かれるだけじゃね?」

 

 

 これではロリコン認定もしょうがないだろう。ショタコンとも言われるのは嫌だねぇ。悪口、悪戯でよくホモだとか言われるせいで本気で洗脳されそうだ。

 最近はアリアドネーの時のようにおにゃのこと寝たりする事よりもムサイ野郎とか小物野郎ばっかり相手にしてるからホモとか言われても正直否定できん。おにゃのこというよりも幼女とかしか相手にできなかったのは痛い。

 身体年齢は10位じゃないかな? 一番年上っぽい肉付きとか身体とか。ロリコンじゃないか。

 

 娼婦を使おうかとも考えたり、ナンパをして処女さんを喰おうかと思ったのに。その時間もないから溜まっていると思うんだ。発散しないとやばい事になりそうだ。

 エヴァンジェリンに休暇を貰おう。休暇を貰ってエヴァンジェリンに給仕しているメイドさんとねちょねちょするんだ。エルフさん、ケモ耳さん。選り取り見取りで迷いますな。涎も……おっと。

 ソフィはちょっと。性欲の対象ではなく娘とかに向ける親愛のが強い。

 

 そんなソフィといえばクイクイと何かをねだるように服を引っ張ってくる。これはご褒美をねだっているのか。

 

 

「はい」

 

「ありがとう」

 

「一人で帰れる?」

 

「大丈夫」

 

 

 ふんすと気合を入れるソフィ。小さな事でも気合を入れる癖があってやる気を見せてくれるのは嬉しいんだけどもう少し気を抜いてもいいんだと思うんだけど。

 お金を渡してお小遣いをあげる。こうして労うともっと頑張ろうって気持ちが湧き上がるんだとか。魔力をあげても嬉しそうに笑う。癒される。

 トテテテと走り去るソフィに軽く手を振って見送りながらこの先の事を考える。途端、重ーい溜め息が出た。

 

 

「めんどくさいなぁ。数だけは多いし」

 

 

 未だに有力な情報は無い。これだ、という決め手が無いので中々計画を進められない。

 クソ。あのクソ野郎、言うだけ言って煽りやがって。今のボクならテメーなんぞ瞬殺なんだぞしゅんころ。未熟な時と比べてんじゃねーぞ。

 

 そろそろメガロメセンブリアとかに目を付けられる頃だろう。逆に今までよく気付かれずに動けたものだとメガロの連中の無能さに呆れる。

 もし本気で動いていたら二人、ボクとエヴァンジェリンが動いている事くらいは察知できているだろうに。戦争を隠れ蓑にしてる事を含めても、だ。

 ボクもまさか第二次世界大戦以外で戦争に参加するとは思わなかったよ。日本側で暗躍するとかアメリカを負けさせるとかじゃなくて傍観しつつも骨董品を収集したりとか。戦争は悲惨だとか教科書で読んだけどやっぱり実物は違うわとしか言えない。

 人がたくさん死んでいるんだぞ! とか訴えられるほど人間はできていない。訴えて止めようとしてもどこかで綻びは生まれるだろうしね。原爆阻止しても戦争が続行ってなったら正直洒落にならん。

 ゲームとかでも第二次世界大戦の後の冷戦時代を描くものがあったけど蛇さんはいなかった。残念。CQCとか教わろうと思ったのに。

 

 認識障害。具体的には似ているけどやっぱり気のせいか? と思わせる魔法を予め付加させているエヴァンジェリン特製アーティファクトの眼鏡を外してレンズを拭く。伊達眼鏡でもオシャレにはなるので対策としては万全だ……と思う。

 エヴァンジェリンって逃走に回ると本気でエグい効果を持つアーティファクトを作るもんだね。吸血鬼になってからの経験が生かされているのがよくわかる。

 

 

「あ。すみません。ちょっと船の時間を教えてくれないですかね?」

 

 

 さて。考えるよりも行動をしよう。

 

 ウェスペルタティア王国と呼ばれる魔法世界でも古いんじゃないかな? って程度の印象のあるメガロメセンブリアの領域のある国。今、そこにいるわけだが。

 アリアドネーは浅く広く。だったがウェスペルタティアはある部門では深く狭く。専門知識かよと突っ込みたくなる本がたくさんあった。ウェスペルタティアの首都、オスティアのお城の書庫に忍び込んだので内緒にせねば。

 エヴァンジェリンも真の敵はウェスペルタティアに潜んでいると睨んでいるが王族の誰かなのだろう……む。

 

 

「やあ。久し振りだね」

 

「げっ」

 

「そんなに嫌そうな顔をしないで欲しいな。僕は君に会いたかったんだ」

 

 

 キモイ発言をやめてほしい。決して、ホモではない。

 

 

「道を尋ねたのにその反応は酷くないかな? 僕も親切に教えようとしたんだけど」

 

「それはありがたい。ついでに手を離してくれるともっとありがたいんだが?」

 

 

 ギリギリと手の骨が軋むような音が伝わる。こいつ、本気で握り締めて逃げないようにしてやがる……! というかいつ手を取った。

 改めて周りを見ればチラホラと見覚えのある連中がいる。潜んでたのか。

 

 

「それにしてもやってくれたね。君も闇の福音も。僕達の計画が大きく挫折するような事をね……実に腹立たしい」

 

「ざまあ」

 

 

 草を生やしてやる。

 

 

「……苛々するね君。僕にこんな感情を芽生えさせたのは生まれてから君が初めてだ。主は喜んでくださっているが僕としては負の感情を先に覚えたのは許せないものなんだよ」

 

「いいじゃん。人は負の感情を抱くのは当たり前。いくら取り繕っても正の感情よりも多くあるのが普通なんだぜ? 寧ろもっと喜べ……名前なんだっけ?」

 

「はははは……」

 

 

 痛い痛い。ムカつくのはわかるけど静かに怒らなくてもいいじゃないか。

 追い打ちをするように手を握り締めている優男の仲間が囲む。その中の一人が忘れたくても忘れられない奴だ。自分の人生の転換点、物語の転換点と言える奴が。

 

 

「おや。別に初めて会うわけではないのにそんな目で見なくてもいいんじゃないかい? 仮にも君を変えたであろう重要な人間なんだろう?」

 

「ボクの傷を抉るように再生させて強化するのはどうなの?」

 

「フフフ。何事も精神攻撃から、だろう?」

 

 

 ぬんと顔だけが面影があり、体だけが屈強にマッチョに変わっている因縁の相手。元魔法使いで今は静かに暗躍する世界を救うと謳う伝説を生きる者の部下の眷族。

 厭らしいほどに笑顔を浮かべるそいつに顔が自然と顰めてしまう。一度、殺されかけた、殺された相手の顔を見るとこんな反応をしてしまうのが当たり前なのだろうか。少し腰が引ける。

 

 そう。因縁の人物、正義の魔法使いの総本山のボス。名を知らぬ炎を操る当時の最強の魔法使いの一角だった者。

 

 

「久し振りだな小僧」

 

 

 あの時と変わらぬ声と記憶の中の声に少しだけ恐怖を感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 





 最後の人は原作だとマッチョさん。ぶっちゃけ姿は同じだけどオリ主さんにとっては初めての生死をかけて戦ったボス。何度も生き返るゾンビ野郎。確か火の使徒だったっけ? おにゃのこしか覚えてないよ……ウホッ、いい男♂ アッー!

 一応補足。オリ主は第二次世界大戦を第三者の立場で傍観。参加したりはしてないけど色々としてたらしい。リボルバーの拳銃とかこっそりと盗んだようです……訴えられないよね? そんな時にはこれが便利。

 ※これはフィクションです。実在する(ry


 もうエヴァと彼はナギよりも先に完全なる世界と激突。外堀を埋めるように崩し始めてます。一番目とは既に面識アリ。






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 お 前 が 言 う な 。 回 。

 スマンな。スパロボやるから更新遅れるわ。固いように感じるのは再世編をやりすぎて強化したからだと思いたい。





 

 

 

 

 

「ふむ。美味しいね」

 

「そうかい」

 

 

 紅茶と珈琲をわざわざ飲み分けて楽しむ白髪の優男に少しだけ怒りが沸いた。一対一ならまだマシだっただろうがこれではまるで借金の取り立てをするヤクザ一同ではないかと呆れも出てきた。

 よくもまあ、これだけの人材を集めたものだと感心した。大男から長身の男、女、少女、選り取り見取りとも言えるパーティー。全員が睨むように見てくるからもうやだ。

 よくよく見ればボク等の周りのテラスの席には誰も近付こうとしていない。異常とも言えるこの光景に誰も関わりたいとは思わないだろうな。

 

 

「さて」

 

 

 カタンと珈琲のカップを置いて優男が口火を切る。軽薄そうな雰囲気、悪い言い方だが珈琲と紅茶を楽しむ雰囲気から真面目な雰囲気へと変わるのがわかる。

 

 

「今回、僕達が君に接触したのは他でもない。僕達が争う時間は勿体無いと思ってね。君にも僕達にも有意義であろう取引をしたいんだ」

 

「はあ?」

 

「君も闇の福音もここまで手強いとは思わなかった。主もここまで抵抗して外堀を埋めるとは思わなかったよ。特に君は彼の言うような実力を遥かに超えていてめざましい成長をしていると逆に感心した」

 

「……まるで君の方が上みたいな言い方だ。言っとくけど今までの戦績はわかっている? 7戦4勝3引き分けだよ、ボクの。奇襲をしても勝てない君等が主導権を握った取引ができると思っている?」

 

 

 ザワッと背中の毛が立つような気配がする。気が付けば誰もがが殺気をこっちに向けて魔法を発動しようとしているのがわかる。

 

 

「やめるんだ。彼はもしかしたら一番の同志になるかもしれない。機嫌を損ねると後々が面倒になるからね」

 

「それを本人の前で言うこと?」

 

「気にしてないだろう? 悪い魔法使いさん」

 

「やめろ。ボクはその呼ばれ方は嫌いなんだ」

 

 

 ストレートに褒めるような口調は苦手だ。優男は別に悪の魔法使いでも誇ればいいじゃないかと言わんばかりの口調なので少し腹が立つ。

 一度だけ名前は聞いた事はある。自慢気に僕は主の唯一の人形なんだと言っていたからそのドヤ顔と一緒に印象になっているはずだ。舌を噛みそうなのでわかりやすい呼び方を決めたはずなんだ。

 

 

「それは失礼。では何と呼べばいいかな?」

 

「テメーみたいな優男に名前を教えると思っているの? 死ね」

 

「貴様ッ」

 

「やめないか」

 

 

 今にも掴みかかりそうな少女を優男が止める。

 あ。思い出した。一郎君だ一郎君。イチローって言ったら隕石が落ちてきそうだから一郎君って親しみを込めたんだった。無論、本人には内緒で。

 

 

「困ったね。名前がわからないと不便だと思わないかい?」

 

「別に」

 

「つれないね。しょうがないから君と呼ばせてもらうよ……話は逸れたけど取引を持ち掛けたい。まずはこちらの条件を聞いてくれるかな?」

 

 

 一郎君が指を鳴らすと控えていた女が何を差し出してくる。一目で本だとわかり、見た事もない本である事もわかった。

 

 

「さて。これはまずお近付きの印で今回の停戦の貢物だよ。内容は時空間に影響する魔法の種類。昔の狂った科学者が記したものだけど今の君ならそんなものも欲しいんじゃないかな?」

 

「オカルト的なのはごめん」

 

「フフフ。安心していいよ。この中身は僕達の主が認めている研究もある。つまり、本当に実在してそれを有効に使える手段もある事になる。もう一度言うけどこれで今回は許して欲しい」

 

「ふーん?」

 

 

 パラパラと適当にページを捲る。タイプされたものではなく、自筆のようだ。

 おい。ふざけんな。自筆の英語ほど読みにくいのはないんだぞ。ボクの英語の理解力を嘗めんなよ。喋れるけど聞き取れるけど文字を読み取るのは難しいんだよ。

 捲る手を止め、本の上に手を置いて一郎君を見る。非難がましい目線も加えて。

 

 

「おやおや。噂は本当だったようだね」

 

「わざとかテメー」

 

「失礼。どんな些細な噂でも君の弱点になるものは掴んでおきたいからね。少しでも取引を有利にするには普通の事だろう?」

 

「下手すれば取引は破綻するのに度胸があるね。ただの馬鹿かもしれないけど……で? この弱点を知ってテメーはどうするんだ?」

 

「そうだね。かつて、旧世界全体を巻き込んだ戦争に少なからず関わった君なら知っているかもしれないけどアメリカと呼ばれる国家の秘密組織がやっていたであろう画期的な拷問をね。情報を引き出す尋問の中で生み出された――」

 

 

 うげ。あれかよ。C○AだなC○A。大袈裟に描写されていたが色々と緩く規制されていたんだな、尋問とか拷問とか。

 景色と文字を交互に見せて頭を馬鹿にさせて情報を催眠状態にしてから引き出す。上層部に化けて見学させてもらったがエグいってレベルじゃない。だから妙に昔の事で嫌われているのかと納得してしまった。

 

 

「それをやるにしても大前提のボクを捕まえるのはどうするの?」

 

「フフフ。無理だね。今は」

 

 

 後になればボクに勝てる見込みがあるみたいな言い方だ。戦力をもっと増やす気かこの一郎君は。

 周りの部下も結構な強さなのにこれ以上増えると苦戦しそうで嫌なんだけど。このオッサンを三度殺しても生き返るしトラウマを的確に抉る一郎君も嫌いだ。一郎君の主、ご主人様とやらも。

 というか不死身なの? 何で殺しても生き返ってるの? 教えてくれ。俺はあと何度オッサンを殺せばいい?

 

 

「ボクが殺したのに何で生き返ってるわけ? それ」

 

「企業秘密ってやつさ。まあ、種明かしをすれば彼は元々僕達の同志でね。恩恵も与えられているからこうして生き長らえる事ができているわけさ」

 

「勘弁してくれよ……」

 

 

 これはアカン。精神を攻撃する気満々じゃないか一郎君は。トラウマを抉って何が楽しいのだろうか。

 

 

「君と闇の福音が彼と戦っていた時代では主の壮大な計画を成し遂げる準備をしていたんだ」

 

「種明かしが過ぎるんじゃないか?」

 

「別にいいよ。君なら何れはこの事実も知られると思うしね。僕達の計画の重要さを知れば力を貸してくれるだろうと思ってね。それを考えればこれくらいは安いよ。反感を隠して買うよりも今話して秘密をないにするに越した事はないのさ」

 

「絶対に失敗するな」

 

「ハハハ。それでもやらないとね。もう大幅に計画の修正をしなければならないし、君と闇の福音を止められるのなら殺されても本望さ。どうせ僕には継承者、コピーがいる」

 

 

 少し待て。それなら一郎君の弟や妹に次郎君とか出てくるのか? 流石に一郎君が一杯いると負けるぞ。

 吸血鬼の本領を発揮しないエヴァンジェリン、マギア・エレベアを使わないエヴァンジェリン、搦手を使わないボク、本気を出さないボクに並ぶ一郎君が増えると数の暴力で負けるだろう。

 魔法を使うのに大きなアドバンテージを持つボクだけど無詠唱となるとエヴァンジェリンは本領を発揮できない恐れがある。役割分担されると少々厄介な事この上ない。

 

 

「君にこっ酷くやられてから何が問題かは主は理解しておられる。少しずつ修正を加え、更に体のスペアを用意できているからここで無茶はできるのさ。死んでも君の切り札を切らせれば僕達の勝ちだ」

 

「それは嫌だな……わかったわかった。今日だけは戦わない。約束する」

 

 

 その言葉を待っていたとニッコリ笑う一郎君。今度は一郎君自身が何かを手渡してきた。本ではないようだが。

 

 

「感謝の印にもう一つ。この情報を君にあげるよ」

 

「あん? ……おいおい。ボクとしてはこれは嬉しいけどそっちはいいのか?」

 

「できないようにした君の言う事じゃないね」

 

 

 魔法世界の地図のようで、一般的に売られているような地図とは違うのは目的地を打っているような点が点在している事くらいか。

 一目で見てはわからないが、場所には見覚えがある。一郎君の言葉からも察するにボクの考えている事で合っているようだ。

 

 

「悪いけどもう彼等は用済みだ。邪魔になってきたからね。君に渡せばついでに処理はしてくれるだろうと思ったんだ……おっと。気を悪くしたかな?」

 

「いや。これは感謝する」

 

 

 早速これを最も欲するであろうエヴァンジェリンに渡さねば。

 

 

「フフフ。計画を潰されたのに主は喜んでおられる。闇の福音もだけど今は君に夢中らしいんだ。妬けるよ。関心を向けられるだけで」

 

「あん?」

 

「彼と戦った時と比べれば志も胸に秘め、その志に見合う力を付けている。闇の福音と並ぶ賞金首であっても魔法世界と旧世界を含んだ者の中でも歴代最強とも言える実力。悪を名乗っても奴隷を救うその献身さ。元が普通の人間とは思えないよ」

 

「さあね。ボクはそこまで立派じゃない。奴隷も一部は性欲処理に使っているし? 逆に褒められても褒められた気分にはならないね」

 

「……ふむ。じゃあ取引の内容に加えようか。彼女達も含めて絶世の美女に美少女を用意しようかい?」

 

 

 ……いやいやいや。よくよく見てみろ。一郎君の眷族の女と少女、ビックリしてんぞ。まるで想定していなかった発言だと言わんばかりに顔が驚いてんぞ。

 え。何? 一郎君は寝取られとかイケる性癖なの? 真面目なクソ野郎の彼女を寝取るのは好きだけど人外さんはちょっと……。

 無意識に正義だと盲信するのは嫌いだ。大きなお世話という言葉があるようにいらないお節介を押し付けるのはボクは嫌いだ。奴隷を助けるのは天からの使命だと勘違いするアホは後で処分するとして。

 

 時々、勇者が奴隷を助けて奴隷が恋に落ちるというのがあるわけだが。ボクに言わせれば吊り橋効果を狙ったクソとも言える求愛だね。やるなら真正面から口説けと……前のボクなら言わない事を言うだろう。

 うむ。そんな心の中で勇者を気取るアホから彼女を身も心も寝取るのが快感になったボクはゲスだけど。

 

 

「あ、アーウェルンクス様。私はこんな男は嫌です! 前にアリアドネーで何も知らない女性を、その、あの、チョメチョメしてたじゃありませんか!」

 

「ぶふぉあっ!」

 

「何で笑うんですか!」

 

「アダドー、やめないか」

 

「ちょ、チョメチョメ……腹が、捩れる……!」

 

「アーウェルンクス様、殺してもいいですか!?」

 

 

 は、腹が痛い。その言い方をするのは処女だなこのアダドー。

 テーブルをバンバンと叩いているとアダドーが顔を真っ赤にして殴りかかろうとしてくる。後ろであのオッサンが止めているがスマン。少し笑いが止まらん。

 

 

「小僧。遊ぶのはやめておけ」

 

「あー、笑える。チョメチョメを使う女性、初めて見たよ。この人処女だろオッサン」

 

「今はアートゥルを名乗っている。以前のいざこざは忘れて今はアーウェルンクス様の話を聞いてくれぬか」

 

「ありがとうアートゥル」

 

 

 あくまでも主人を立たせる。武人の鑑とも言えるオッサン、もといアートゥル。改名してから妙に格好良くなったなオッサン。

 

 

「長引かせるのは僕にも君にもメリットはない。もう先にこちらの取引の条件を提示しよう。主を含んで僕達は計画の邪魔をしないのが最低限、できれば協力体制を築きたい。そしてそっちには望むものは何でも与えよう。情報でも何でも。どうかな?」

 

「何でもの範囲次第かね」

 

「文字通り、何でもだよ。魔法の真髄、今の魔法のシステムの原型。フフフ。主は何でもできるのさ。頼めば何でもできるんじゃないかい?」

 

「……じゃあ聞くけど世界間を移動するだけの手段はある? 代償を払わない最善の方法」

 

 

 元の世界に帰る方法があれば考えてやろう。

 

 

「? 魔法世界から旧世界はできるだろう?」

 

「や。そうじゃなくて時空を越える感じでだな」

 

「世界をじゃなくて時空をかい? それは少し難しいかな。主でもできない事はあるから聞かない事にはすぐに返事はできないね」

 

 

 む。そりゃそうか。百年単位で調べたのに一つも文献はなかったのを考えれば寧ろ情報があった方が大魔法使いだろう。それに近い存在ではあるが果たして。

 後で答えを聞く事にして取引は保留になる流れになった。一郎君が少し嬉しそうに立ち去る。なんだがオッサンだけは残ってるのは何故だ。

 

 

「……変わったな小僧。我が最後に見た貴様と比べると雲泥の差だ」

 

 

 最後に強くなったなと加える。ニヒルに見えるフッと笑うオッサン兼アートゥル。大分慣れてきたがまだ少し体が強張る。

 殺した事でトラウマは消えたと思ったんだが何度も何度も生き返られて強化されてるのが現状だ。くそぅ。今のボクは無敵だと思ったのに意外な弱点がここで曝け出されるとは。一郎君も精神攻撃でオッサンを使うのは目に見えている。

 今まで真正面から何度も負かせて奇襲とか普通に使うようになったからな。精神攻撃はデフォルト、外道にはお馴染みのスキルです。

 

 アートゥルは火の魔法が得意な人工生命体なんだそう。オッサンはそのアートゥルを襲名して新生初代アートゥルになっている。自慢気に話されると忘れたくとも忘れられない。

 元々火の魔法は得意だったしアートゥルになってから更に強くなっている気がする。他のの火の魔法は大丈夫でもオッサンの場合は体が竦む。煉獄の炎とも間違うような特殊な炎だからしょうがないと思いたい。

 エヴァンジェリンでさえもあれは特別だ、と言っている。

 

 

「こうして合間見え、言葉を交えるのは楽しいものだ。小童から小僧へ成長し、一人前になった事でその楽しみも深まる――」

 

「相変わらず詩人だねぇ」

 

「ククク。無駄口も成長している。前は吃るだけで黙っていただろうに。それと比べれば……フフフフフフ」

 

 

 何故だろう。ケツがキュッてなったよオトン。

 意味深な目線を向けるオッサンはホモなのだろうか。ガチムチな肉体に引っ張られてホモ化したのだろうか。ボクのケツを昔の縁からヤンホモみたいになって狙っているのだろうか。

 やっぱり殺した方がいい。うん。殺そう。

 

 

「ではな。アーウェルンクス様もお待ちだ」

 

 

 よし。帰れ。帰っちまえ。

 

 

「小僧。次に会う時は同志である事を願う。貴様の事は気に入っているのでな」

 

「ボクは違う。寧ろ死んで生き返んな。死ね」

 

 

 嫌われたかと残念そうにするアートゥル。オッサンと呼んでいるとトラウマがぶり返すんだ。それなら他の言い方をして別人だと考えるんだ。ジョースター父を思い出すんだ。

 

 

「さらばだ」

 

「死ね!」

 

 

 子供かボクは。

 

 アートゥルが消えるのを子供のように中指を立てながら見送る。嫌いな奴をとことん嫌うのも子供っぽいと感じる。

 ……もうやだ。おうちかえる。

 幼児退化するのは許してくれ。もう二度とアートゥル、オッサンの顔は見たくない。次に会ったら真っ先に殺して……ころちてやるー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エヴァンジェリン慰めてー! ……は?」

 

 

 精神的に辛くなったので頼まれた事を放棄してエヴァンジェリンの元に戻ったらそこには仰天唖然光景が。

 

 

「な、何で帰るのがそんなに早いんだ!?」

 

「」

 

 

 絶句した。どう絶句したかと問われれば妻を目の前で会社の部下に寝取られた夫みたいに絶句した。

 アタフタとするエヴァンジェリン。ベッドの上で半裸になり、その周りにはシーツで身を隠す、腕で恥部を隠す様々な女の子が。え。お楽しみ中なの?

 

 ……。……。……。

 

 

「何、これ」

 

「こ、これはだな……そ、そう! マッサージだ!」

 

 

 言い訳乙と言わんばかりの薄っぺらな言い訳。もうこれで心は決まった。

 自分でも清々しく思える笑顔ができていると思う。人は何か極限状態になると壊れて笑い出すというが今のボクもそんな感じだ。アートゥルと会い、心が傷ついて参っていたからこそこんな決断をしたのだと思う。

 

 

「うん。もう決めたよ……彼女を選ぶ。女の子とイチャイチャするような趣味があるエヴァンジェリンさんはボクはどうでもよかったんだろう?」

 

「ち、違う! 違うんだこれはっ!」

 

 

 性欲処理するにしても頑張って溜めながらも奮闘したのに勝手に一人だけ発散するのも見せられて腹が立たないのはいないと思う。

 

 エヴァンジェリンとずっと旅をしていてボク等は決裂寸前までの大喧嘩をする事になった。もう修復できそうにない。

 家出してやるー! 場所がわからないように逃げてやるー! エヴァンジェリンの浮気者ー!

 

 

 

 

 

 

 





 一郎君もとい一番目、プリームム。彼との対話と取引でした。え、取引なんてしてるように見えない?

 最後の辺りで時空間の件が二回ありますがこれはわざとです。後の展開で説明します……というかオリ主は時空間=別の世界線、プリームムは時空間=過去とか未来とかって認識が違うので食い違ってたり。

 うん。スマン。また真夜中のテンションで書いたんだ。意味不明なのはわかってるよ。


 そしてついにエヴァンジェリンが浮気をしたようです。これだけを見れば浮気をオリ主はするくせにエヴァンジェリンだけは許さないとかクソ野郎に見えますけど元々クソだからいいよね? 百合エヴァは原作でも大体合ってる。

 家出をした彼は捕捉されないように何も持ち出していないようです。ソフィさんはお留守番。

 ところで聞きたいんだけどヤンデルエヴァはお好きですか? レイプ目のエヴァでムラムラしたらアートゥルの勇姿を見て萎えさせるんだ。

 うっ……ふぅ・。




 スパロボやるのはマジなので一周するまでは書くかわかんないです。





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逃げ逢う


 スパロボのIFルートやってました(テヘペロ☆

 久し振りなんで内容はクソです。






 

 

 

 

 

「やっちまった」

 

 

 おい兄ちゃんどうしたんだと周りから声が聞こえる。

 頭を抱えて俯く人間を見れば大体半々の反応をすると思う。半分は心配そうにして気遣う。もう半分は関わるのはゴメンだと無視する。どうやらここの人間は前者が多いようで何人も声をかけてくる。

 まあ、居酒屋だしね。酒に酔ってるのが多いし、その場のテンションに身を任せるのがほとんどだろう。

 

 

「ボクちゃんねぇ。大事な女の子を浮気者とか言ってしまったんだよぉ」

 

「何をやってんだアンちゃん。女には優しくするのが男ってモンだろうがよ」

 

「俺もなぁ。母ちゃんを怒らせたりはするけど浮気者とか言わんし言えんぞ? 後で母ちゃんに怒られると怖いしな」

 

 

 何が面白いのか、豪快に笑うオッサン一同。これだから酔っ払いはと嘆く人間がいる事が自然と理解できた。この場所では笑い上戸が多いようである。

 

 

「うぅ……ごめんよ。一方的に言うだけで言って逃げてごめんよぉ」

 

 

 どうやらボクは泣き上戸のようだ。泣いているのに中身は冷静なのはどうも気持ち悪く思える。エヴァンジェリン。ああ、エヴァンジェリン。ごめんよぉ。

 

 

「こりゃ重症だな。慰めるよりも酒を浴びるように飲ませた方がええ。明日は頭が痛くなろうけど酒は忘れたいのを忘れさせてくれるし」

 

「おいマスター。このアンちゃんに酒を。オラの奢りだべ」

 

「ごめんよぉ……ごめんよぉ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「超頭痛い」

 

 

 ガンガンガンガンと頭の奥から鈍痛が響く。ついでに何か生臭い。

 

 

「――って、ここゴミ捨て場じゃねーか。何でテンプレ二次酔いみたいな展開になってんだボク」

 

 

 吐き気はないようだ。よし。服も大丈夫。ゲロを吐くという事態にはならないと思う。

 よーしよしよし。だんだん思い出してきたぞ。昨日はしこたま飲んだんだったな。ウォッカやらかなりキツい酒をそれこそ浴びるように。

 今までは洒落た感じで飲んでいたがアルコール中毒のように飲んだのは初めてだな。何かに酔うのはエヴァンジェリンだけ……はっ。

 

 

「ごめんよぉエヴァンジェリンんんん……」

 

 

 自己嫌悪に陥る。生半可に冷静だったせいで落ち込んだ時の感情がハッキリと覚えているから気分が沈む。ここまで落ち込むのも初めてだ。

 あの時、エヴァンジェリンが一人で勝手に性欲発散をしている上におにゃのことにゃんにゃんしているのを見ていたら正気を失ってしまった。浮気者とかも叫んでしまった事をちゃんとしっかりと覚えている。

 クソ。クソめが。ボクはエヴァンジェリンに浮気を許されている立場にいるのに浮気者と罵るのはお門違いもいいところではないか。

 

 ……いや、少し待て。策略家のエヴァンジェリンの事だ。

 

 

「まさかとは思うがあれはボクを騙すために……!?」

 

 

 浮気者と言った罪悪感を利用して結婚しろとか普通に言いそうだ。

 ふむ。それなら別にいいか。後でひょっこりと顔を出せばいいでしょ。

 

 今までずっとエヴァンジェリンと一緒にいたから偶には連絡も取らずに別れてどこかへ行くのもいいかもしれない。計画はもう佳境に入っているし、後は出てくるのを待って待ち続けるだけだ。

 あー、冗談だけどもしここではなく元の世界を選ぶのならエヴァンジェリンとは間違いなく永遠のお別れになる。

 悪いんだがエヴァンジェリンが寂しがり屋だとしても今は彼女を選ぶ確率は高いと思うんだ。永遠の別れになったらエヴァンジェリンは悲しんで……。

 

 

「……」

 

 

 無理だ。悲しむよりももう一度会うために何でもしそうなエヴァンジェリンしか浮かばない。

 吸血鬼の真祖だから永遠の命と時間を利用して時間とか世界を飛び越える魔法とか生み出しそうで……ボクの知恵を渡した事を激しく後悔しているよ、今は。

 いや。まあ。知恵を渡さなかったら今の自分はいないんだけどね。

 

 機嫌を損ねたら何をしでかすかわからないのがエヴァンジェリンだって事をあれを見て正気を失って罵倒したのは早まったかもしれん。

 か、帰れん。帰った途端に監禁エンドとかにならんよね。帰るための道具とか全部エヴァンジェリンのトコにあるんだぞ!?

 ど、どどどど、どうすんだよ!? 殺してでも、愛する。とか新しい名言を生む原因になりそうであがががががが。

 

 

 ―― 愛してる。

 

 ―― 大好き。

 

 

 イチャイチャしてる時のエヴァンジェリンの言葉が今では別の意味を含んでいるように思える。子供の時も大人の時も甘える時は甘えてくるから毎度、このセリフを言う。

 依存しすぎじゃねーか?

 

 

 ―― どこにいる? 会いたい。

 

 

 ……ゾッ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「新入りぃ! 13番!」

 

「わかりましたぁ!」

 

 

 元気がいいなぁ。若いってやっぱりいいわ。見た目こそ若くても中身がジジイのボクはあんな元気に返事はできそうにない。

 

 

「くおらぁ! 新入りその2! サボってないで運べ!」

 

「あいさー」

 

 

 新入りその2ことボク。姿を隠すために変装してアルバイトをしている。フッフッフッフッフ。これでも面接一発合格だぜ。就職は難しいぞとオトンに脅されていたのが嘘のようだ。

 だが経歴詐称という前歴者。残念ながらボクは手配中の大犯罪者、世界最悪の化け物なので経歴は詐称しなければ面接なんてやってられない。どこぞのヅラさんのように手配書を見せて会員カードを作るなんて度胸はありはせぬ。

 

 両手の掌の上に二枚。その更に上、肘を折った場所でも二枚。器用に支えながらウェイターをしつつも料理を運ぶ。

 ガヤガヤと騒がしい店内を人とぶつからないように避けながら。クルリと回りながらも落とさないように運んだ。飯が美味いとの評判でアルバイトしているので人は多いため、ぶつかる回数が一番少ないのはボクだったりする。

 軽業師とも誰かに言われたからねぇ。体はエヴァンジェリンに殴られて肉が柔らかくなるように、度重なる戦闘と吸血鬼の特性でキモイほどグニャリと膝やらを曲げる事はできる。でなければマギア・エレベアには耐えられん。

 

 

「おまたせしましたー」

 

 

 営業スマイルと一緒に料理を置いた。営業スマイルとはいえ、笑顔をあんまり他人には見せたくないと思うのは昔に写真に撮られるのが嫌いだったからだろうかとどうでもいい事を内心思う。

 心のこもっていない笑顔でも騙される異性はいる。そんな異性に対応するのがめんどくさいから見せるのに抵抗があるんだが。

 所謂、メルヘンな、騙されやすい女がそれに当て嵌る。結婚詐欺で騙されるとかテレビの特集があったなーと昔を思い出して溜め息を吐いた。

 

 

「新入りその2! 終わったなら早く次を運べ!」

 

 

 五月蝿い店主である。この口調がなければもっとこの店は繁盛すると思うんだがね。愛想の悪い店主と美味いラーメン屋みたいだ。作るのは外国の定食屋の定番みたいにナンとかカレーがセットのメニューだけど。

 ラーメンかー。食べたくなった。今の時代だとラーメンやら炒飯に餃子はないからな。そういった食べ物こそ恋しくなる。今は第二次世界大戦が終わって少しくらいだと思うから三十年も待てば食えるのか。

 ぶっちゃけ元の世界に帰れるか食べられるか競う事になりそうだ。くだらない目標だが意外と前向きになれるので立てておこう。オーウ、じゃぱにーずフジヤーマテンプーラ。天ぷらは食えるけどね。

 

 ふむ。一人だと中々会話が長続きしないな。誰か知り合いでも見つけられないだろうか。

 

 

「おや。精が出ますね。ウェイターの真似事でしょうか」

 

 

 い た 。

 

 

「素晴らしい変装術です。初め、見た時から惚れ惚れするような変装で私、胸がときめきそうです」

 

「野郎、お客様。注文をどうぞ」

 

「では貴方のおすすめを」

 

 

 店員に、それもアルバイトの店員に注文を決めさせる。罰ゲームか何かかよと突っ込みたいが青筋が立つ営業スマイルを浮かべながら注文を取る。

 腹が立つ胡散臭い笑顔を浮かべる優男。一郎君ではなく、まほら武道大会で会ったアルビレオ・イマが全てを見抜いているかのように話す。ニコニコしている面をぶん殴りたいと思ったのはこいつくらいじゃないかな?

 ……今まで突っ込まなかったけどアルビレオの隣にいる一郎君みたいな子供は誰かな? 隠し子?

 

 

「そういえばまだ紹介していませんでしたね」

 

「隠し子?」

 

「フフフ。冗談もお上手で」

 

「この性悪の子供に勝手に認定されると腹が立つのぉ」

 

 

 ……えっ。耳が腐ったのかな?

 

 

「ねえねえ。子供は背伸びをしたがるけどこれは年の行き過ぎじゃないかな?」

 

 

 ロリババアならぬショタジジイだな、これは。ロリババアならエヴァンジェリンがいるけど男バージョンは初めてだ。

 

 

「失礼な奴じゃ。悪い魔法使いというのは性格も悪いものなのかの?」

 

「初めて会えば誰でもそんな反応はすると思いますよ?」

 

「待て待て。何でわかるんだ」

 

 

 エヴァンジェリンのお墨付きの変装術を一発で見抜かれたのは初めてだ。アルビレオはバケモンだと印象があるけど噂通りの変態かつ変態なのか。

 アルビレオというよりもこの爺口調のチビ一郎君が先に看破している。アルビレオは前から正体を知ってそうだ。素晴らしい変装術ですね、と笑顔で言っていたし。

 

 

「完璧過ぎて逆に粗が出とるんじゃ。完璧なるが故の欠点という事じゃな」

 

「私の場合は人伝ですね。キティという可愛い子からです……子供の姿では」

 

 

 え、え、え、エヴァンジェリンんんんんんんん!?

 

 声を出さなかったのは年の功というやつか。絶対に教えたのはエヴァンジェリンだろ。ボクの事を知るのは彼女だけだ。名前にもキティってあるからアルビレオに教えてのは間違いなさそうだ。

 アルビレオとは面識はあるらしいし、連絡手段も確保していると見ても確実だと思われる。

 

 

「お、おおおお、お待ちくださいませ」

 

 

 駄目だった。吃って動揺がすぐにバレそうなほど声が震えてしまった。どんだけエヴァンジェリンに恐怖を抱いているんだ。

 

 

「お、お、お、オヤジさん。お、オヌヌメ定食をふ、ふふ二つ」

 

「お、おう。何でそんなに動揺してるんだ?」

 

 

 だ、大丈夫だ(震え声) 問題ない(虚勢)

 

 どうやら案外ボクの精神は豆腐だったようだ。誰だ。ボクの精神は鋼の精神だとか言ったのは。自画自賛したボクだな。

 カタカタカタと水の入れたコップも震える。チビ一郎君とアルビレオに持っていく用に入れたんだが他の誰かに任せたい。だけど気難しい店主の影響で最小限のアルバイトと店員しかいないので手が空いているのはボクだけ。畜生。

 クソ。死神アルビレオが笑顔で手招きしてやがる。はよ来いってか。

 

 

「水でででです」

 

「おや。声が震えてますよ」

 

 

 誰のせいだ誰の。

 

 

「ところでお時間はありますか? 仕事の後にあるのなら私達の話を聞いて欲しいんですが。無論、貴方にも悪い話ではないと思われますよ」

 

「ワシ等のが寧ろメリットはあるがの。主を釣るためにもう少し良い条件を出そう。ワシが知る魔法の真髄を明かすつもりじゃ」

 

「このゼクトは貴方と同類です。長い時を生きた大魔法使いと思っても構いません」

 

 

 ……!? 吸血鬼なのか!? エヴァンジェリンの言う貴族の類かも知れないのか!? 仲間だ仲間。ナカーマ。

 魔法の真髄に触れればその真髄に触れ続けるために体の時間が止まると記述があったはずだ。伝説の魔法使いとして名が残るほどの魔法使いなら誰もがそんな風になるとも与太話のように記されているのを覚えている。

 体の時間が止まる点で時を越えられるか否かを研究したのでハッキリと覚えている。全くわからなかったのですぐにこの情報は放置したけど。

 

 

「どうでしょうか」

 

 

 デメリットと言えるのはないかな。もう正体がバレているんだから他にデメリットがあってもデメリットとは言えないデメリットだろうし、逃げるだけなら全部の力を使えば逃げ切れる。

 何の話かは知らないがエヴァンジェリンと接触したアルビレオにはエヴァンジェリンの様子を聞いておきたい。病んでるなら逃げる。全力で逃げる。次元を超えて逃げてやる。

 クソ亭主かこの思考。

 

 

「いいよ。場所は?」

 

「私が迎えに上がります。できればょぅι゙ょの姿をリクエストさせて――」

 

「料理ができるまでお待ちくださいクソ野郎」

 

 

 やっぱり会うのやめよかな。変態の相手をするだけデメリットだ。

 ネクロロリコンとかでも通じるんじゃないかな。ペドフィリアって名詞は過去にないと仮定してネクロペドフィリアは何かの隠語かと思ったけどコイツが語源だろ絶対。

 

 アルビレオとチビ一郎君ことゼクト君? だけ構っていられないので仕事を再開する。顔だけは良くして変装しているので女には声をかけられる。それで更に忙しくなる。

 自分は貴族なのですわよ的にオーホホホと勧誘する頭の痛いアバズ……コホン。オバサンがいたが店主の気難しい性格に助けられた。なんだかんだでツンデレだもんな、このオヤジさん。好きだぜ。

 懐かしいなぁ。英語とか教えてもらったのもこんな感じのオッサンだったからもういない恩人を思い出すよ。天国で会えるなら閻魔様を蹴り飛ばしてまで美味い酒を渡しに行こう。

 

 

「おう。今日はもう上がっていいぞ」

 

 

 お疲れ様ですと言う者もいれば滑舌の悪いのはオツカレッシターと言うのも。一日の多い客を捌ききった疲れを癒すためにアルバイト君や前から働いている先輩は疲れたーと言いながら退散する。

 体を鍛え、体力も魔力もあるボクは余力は残っているのでアルビレオが迎えに来るまで片付けと明日の仕込みをする店主のオヤジの手伝いをする。

 前に人気を妬んで襲撃されたとも聞いているので用心棒としても雇われた身だ。美味いメシ、残飯というか余り物がバイト代になるから兼用してる。昼間はウェイター、夜間は用心棒。忙しい忙しい。

 

 

「おやっさん。ちょいとソルトの効き過ぎ。少し減らしてもいいと思うよ」

 

「おう」

 

「こっちは少し茹でる時間を長くした方がいいかも」

 

「おう」

 

「……というかいいの? こんな若造の助言なんか鵜呑みにしても」

 

「構わねえ。お前さんは確かな舌を持っているしな。儂としても何が悪いかを知りたい。それだとお前さんは的確なアドバイスをしてくれとるわい。他のボンクラとは違う」

 

 

 ボンクラは言い過ぎだろ。

 

 思わず苦笑する。味に文句はないけどエヴァンジェリンに鍛えられたブルジョワベロだとどうも満足せんらしい。しかも的確に味を更に美味にさせるアドバイスはできているらしい。

 何だか漢字の画数の多い幼稚園児のようだ。いやぁ、また漫画が読みたくなるな。

 そうだ。今の時期ならそろそろ連載開始じゃないか? ジャンプとかまた読めるかと思えば胸が熱くなる。連載開始時の週刊誌ってマニアには高く売れるんじゃないか? 宝の山だぜウハハハ!

 

 

「おやっさんおかわり」

 

「よく食うなお前さん」

 

 

 働き詰めで昼も食ってないからね。腹が減るのは生き物である証だよ。化け物になっても腹は減るんだねぇ。性欲もあるし睡眠欲もある。

 空にした皿を突き出すと今度は作る側が苦笑していた。綺麗にペロリと食べたので心なしか少し嬉しそうにしている。愛嬌のあるツンデレオッサンだなぁ。

 

 おかわりを貰い、咀嚼する音とアドバイスする声、それに返事する声が店の中に響く。ほぼ毎晩こんな会話が交わされるようになったのは店主に信頼されている証拠だろう。

 ふむ。老若男女問わずに打ち解けられるようになるなんて昔の自分だと思いもしなかったと思う。趣味の合う人間と家族、子供の頃から仲が良かった親戚としか普通に話せなかったあの頃とは大違いだな、ホント。

 

 

「……ん?」

 

「どうした」

 

「や。少し外から変な音が」

 

 

 だけどモグモグは止まらない。麺に似た飯も美味で手が止まらないでござる。

 

 

「お迎えに上がりました」

 

「ついでだから喧嘩を売った外のアホ共は片付けておいた」

 

「あ。君等がノシた音だったのね。誰かが倒れたから心配しようと思ったけど心配無用だったね」

 

 

 ドサッて聞こえてたけど別に問題はなかったようだ。食べながらは行儀が悪いけどモグモグしながら外を覗いてみればギャグコメディーのようにチンピラが積み重なって捨てられていた。

 よくよく見ればその内の三人は前にもいたじゃないか。懲りないなぁ。

 

 

「なんかありがとねー。コレ、ボコボコにするのは雇ってもらう条件の中にあったんだけど代わりにやってもらってさ」

 

「構いません。ほとんどゼクトがやりましたし」

 

 

 人任せかい! アルビレオは何もしていないのに何でそんなにえばってるんだ!

 

 

「あーっと、ゼクト君でいいの?」

 

「うむ。フィリウス・ゼクトじゃ。よろしく頼む」

 

「ゼクトが麻帆良で言っていたナギの魔法の師匠です。これでも私よりも強いんですよ?」

 

「へー。ナギ君の。指導もさぞ大変じゃない? 魔法を使うのなら強いのがいいとかってごねてると思うんだけど」

 

「……わかっとるなら何故あの馬鹿弟子の体術を教えんかった」

 

「めんどくさい」

 

 

 キラッと星が付くほどウィンクをしてみた。白髪子供の額に青筋が立つのがよくわかる。笑顔で青筋は何をされるかわからないから怖いんだよね。

 もう初対面でめんどくさい子なのは経験上わかるもんでしょ。我の強い子でもあるし基礎を怠りそうな気もする。魔法を魔力で押して発動させる事も普通にやりそうだ、ナギ君の場合は。

 

 

「わかった。主、他人に自分の極意が盗まれるのを嫌うタイプじゃろ。馬鹿でも才能だけはピカイチじゃからのぉ。アンチョコを見なければ魔法も唱えられんが体術なら一見で真似するからの、彼奴は」

 

「そうそう。ボクの技もいきなりコピーされたからね。その時点で弟子入りはぶん投げておいた」

 

「クソじゃのぉ」

 

 

 いきなりクソ呼ばわりするとは。このショタジジイは辛辣のようである。

 まあ、押し付け感が凄まじいからしょうがないけどね。ナギ君、面倒そうな性格してるもんね。ゼクト君からすれば押し付けられたと思うだろう。

 ボクが最初にナギ君の師匠役を引き受けていればゼクト君は要らぬ苦労はせずに済んだのにと思っているだろう。どんだけナギ君はめんどくさいんだ。

 

 

「店主さん。この方をお借りします。長くなりそうなのでちょっかいを出している方々の根城や組織は潰させていただきました。当分は安心して営業はできると思います」

 

「え。早くね?」

 

 

 信じられないといった目で見ればアルビレオはゼクト君を見る。ゼクト君は可愛いドヤァをしてくれた。ムカつく気分よりもほっこりした気分になる。

 

 

「ゼクトは感知能力はずば抜けていますからね。怪しい所を片っ端から潰させてもらいました」

 

「マジでか。イイナー。ボクは感知能力は素人以下だから少し羨ましいよ」

 

 

 言い方を変えれば他の魔力を感じられない? この気配……貴様、見ているなッ的な事は不可能に近いわけだ。

 エヴァンジェリンにも矛盾の塊だと言われた事がある。魔力は使えるくせに他者の気配と魔力は感じられないのはおかしいと。元々魔法が使えるようになった過程も人と違いますからねぇ。しょうがないね。

 

 

「おやっさん。悪いんだけどちょいと休みを頂戴」

 

「お前さんの枠は空けておく。いつでも帰ってこい」

 

「おー。太っ腹。事が済んだら顔出すよ」

 

「おう。怪我だけはすんなよ」

 

 

 油で汚れた手で背中を叩いてきた店主、おやっさん。汚れるが純粋な好意は久し振りなのでちょっと嬉しかったりするので構いません。

 

 僅か三ヶ月しか働いていないがやめる事になった店を後に、アルビレオとゼクト君と共に場所を移す事にした。

 ょぅι゙ょ……幼女リスペクト厨のアルビレオがウザくて堪りませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 





 エヴァンジェリンに恐怖。だけど策略家と勝手に思う乙女心がわからないクソ野郎認定。まあ、どうかは後でわかりますけどね? どっちだと思いますか?

 オヤジさんからおやっさんはただの言い方の問題。別に間違えたわけではない。いらっしゃいませーとらっしゃせーと同じ。

 というわけで初登場のゼクト。彼にはショタジジイと毒舌のポジションに勤めてもらいます。どうやらナギ君にストレスが溜まっているようです。

 ナギ嫁が犠牲になるのは大体ロリコンのせい。紹介さえしなければああはならなかっただろうに……。


 ところで関係はないんですが今回の時獄編のラストは催促っぽいと思ったのは作者だけでしょうか。天獄編とか。カヲル君とシンジ君の絡みが見たかったのに(錯乱)

 ぶっちゃけヒビキ=アサキムとか言われても驚かないよ。





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密談す


 密談すと書いてはなすと呼ぶ文字を作るオレカッケー。

 ついにアルビレオがやらかしたようです。原作崩壊はこれからだ!






 

 

 

 

 

 ショタと胡散臭い男に攻められるホモの薄い本は需要があるのだろうか。超腹黒がショタを雁字搦めするボーイズラブはありそうだけど。

 

 

「では改めまして。アルビレオ・イマと申します」

 

「フィリウス・ゼクトじゃ」

 

「どーも」

 

 

 自分の名前は明かせないので会釈するだけ。寧ろ悪の魔法使いとか悪い魔法使いのが有名なので誰も名前を知りたいとは思わないだろう。皆適当に悪い魔法使いめ! とか言うし。

 

 

「悪いんだけどこっちは名乗るつもりはないから」

 

「構いませんよ」

 

「心が広いねぇ。前に面談すると名前を明かせないなんて言語道断! とか言って門前払いとかされたんだよ?」

 

「それは普通じゃろ。ただでさえ身元不明な奴が名前も言わないなんてワシなら拒否する」

 

 

 ですよねーと思った。そりゃそうよとも。

 

 オレンジジュースに似た果物ジュースをストローで啜りながらうんうんと頷いた。辛辣なゼクト君は意外と常識持ちのようである。隣のアルビレオは見た感じだと常識をぶち破って非常識を訴える感じに思えるんだが。笑顔がとても胡散臭い。

 夜中は大人の時間でウィスキーを飲むイメージがあるがゼクト君の見た目のせいで酒場は全部無理だった。子供料金で誤魔化せるかと思ったのだがこんなところで駄目な部分があったようだ。

 ボクと同じジュースを仏頂面で飲むゼクト君は酒が飲みたかったようにも見える。中身はジジイらしいから酒の味は知っているんだろう。人によってはその味にどハマリしてアル中になるからそのパターンだと思われる。

 

 

「それにしてものぉ」

 

「ん?」

 

「見れば見るほど見事じゃ。ここまで見事に化けられるとは感嘆に値する。見破れたのはアルに予め教えてもらったからが大きいじゃろ」

 

「バラしちゃいました」

 

「死ね」

 

 

 洒落たバーにはチラホラと人がいる中で堂々と中指を立ててアルビレオに向けた。テヘペロ的に言うのでムカついたから。別に後悔はしていない。

 

 

「キティから探してくれと頼まれた手前、ゼクトにも協力してくれました。悪い魔法使いとはいっても世界最強とも謳われる最強種の一人ですからね」

 

「興味津々だったと」

 

「噂以上だった」

 

 

 あー、そんな感じになってるんだ。昔はエヴァンジェリンに吸血鬼にされた哀れな人間から吸血鬼の雑種に印象が変わってアートゥルを殺して以来賞金首になった経歴を知るのはいないんだね。

 多分だが正義の魔法使い連中には吸血鬼にされた事を隠しておきたいんじゃないかと最近になって思う。動物保護団体みたいに凄いイチャモンを言う組織みたいなのが出ると面倒だと思うんだ。真実はわからないままだけど。

 

 ゼクト君にベタ褒めされているけどゼクト君ってレベルはどこら辺なんだろう。エヴァンジェリンレベル? 魔法使いは年を重ねるだけで強さの証明になると誰かが言っていたし、年齢だけなら大魔法使いなのかもしれない。

 ……500歳近いボクが言うのもだけどこの子何歳なの?

 

 

「できれば魔法講座で一晩を明かしてみたいもんじゃ」

 

「あ。それは面白そう。自分の知らない魔法とか知れると楽しいよね」

 

「おやおや。もう意気投合していますね。私、少し感激です。もしよければ私も参加させてもらえると嬉しいです」

 

 

 重力魔法の使い手なら地球の重力を操れる魔法もございますとか言いそうで怖い。

 そういえば次元に穴を開ける時に地球の環境が大いに乱れるという話があってだな。重力を捻じ曲げるとかすれば本気で次元に穴を開けられそうだ。次元の狭間に住む化け物は来なくてもいいです。ダモンって名前のはスーパーロボットが必要になっちゃう。

 全ての魔法を本に記さない場合もあるのでアルビレオはまだ何か隠し玉を持っていそうだ。

 

 

「だけど教えて欲しいのは噛まない呪文な」

 

「はい?」

 

「何じゃ?」

 

「いやいや。こっちの話」

 

 

 もうベロは噛みたくない。噛み噛みで舌が血塗れになる事態でエヴァンジェリンですら呪文の教授は諦めたほどだ。無詠唱というかイメージで発動できるボクに死角はない。

 

 

「談笑はここまでにして、本題に入りましょうか。今回、貴方に会ったのは少々頼み事がございまして」

 

「言っとくけどナギ君の師匠とか先生は引き受けないからね。大金でも」

 

「チッ」

 

 

 舌打ちしてるよショタジジイ。そんなに嫌ならナギ君の先生をやめたらいいじゃないか。

 やめたらいいとは言うけどあれほどの才能の塊は勿体無いか。逆恨みされて襲われるのも嫌だし、途中で投げ出すのは大魔法使いとしてのプライドが許さないのかもね。

 

 

「おや。残念ですね。ゼクトのためにもそっちも頼もうかと思ってたんですが」

 

「やんないから」

 

 

 言う事を聞かないのもプラス。ゼクト君が苦労しているのを見ると自分の考えた計画が順調に進んでいないのだとわかる。ドンマイ。

 千の雷を使われた時ってまさかとは思うけど知らない状態で使ってないよねとまほら武道大会の時から思ってる。適当に魔力を込めれば白き雷を千の雷に見せる事はできるからそうかとずっと感じている。

 後でゼクト君とかに聞いてみよう。今はアルビレオの頼み事を聞かなければ。

 

 

「では。少しだけ協力をしてくれませんか?」

 

「いやいやいや。だからその協力の内容をだな。そんな曖昧にされても引っ掛からないからね? 適当に言って何でもやらせるのはナシ。具体的に何をしろって事をだな」

 

「ほらの。引っ掛からん」

 

「想定内です。いいよと引き受けてくれれば馬車馬のように働かせようかと思っていました。流石に経験は積んでおられるようで」

 

「馬鹿にしてるよね? 馬鹿にしてる発言をしてるよね? 協力をしてくれって頼む態度じゃないよね!?」

 

「フフフ」

 

 

 ゼクト君を見る。なんかこの子も苦労してるんだねぇ。

 

 

「協力してほしい内容というのはある人物に会ってほしい事です。さる御方なのでこうして秘密裏にアポを取ろうかと思いまして」

 

「ちなみにウェスペルタティアじゃ」

 

「少し前までキティと奴隷解放活動していましたよね? その事でお話をしたいと申していまして。我等、紅き翼(アラルブラ)に依頼して迎えに行くようにと」

 

「えー」

 

 

 めんどくさい事になるのが見え見えだ。さる御方とか絶対に地位が高い偉い人だろ。お話という部分が違うイントネーションで聞こえるんだが。高町家式お話っぽい感じに。

 

 

「ってアラルブラ? そんな組織でもあるの?」

 

「ええ。以前に少し」

 

「馬鹿弟子が作ったものじゃ。これでも結構有名なんじゃがのぉ」

 

「知らぬ」

 

 

 ぶっちゃけ他人はどうでもいいんです。エヴァンジェリンの事で頭が一杯だったからという理由もあるが今まで似たような名前の団体とか組織があったから聞いても気を留めないと思う。

 紅き翼と書いてアラルブラ。格好良いと思うが子供らしいナギ君のネーミングセンスっぽいとほっこりする。白い翼とか黒い翼は中学生の憧れです。堕天使っぽい白黒の翼が特にツボだと思います。

 

 

「そのアラルブラさんはそのさる御方の道具か何か?」

 

「その言い方はどうかと思う」

 

「似たようなものではありますけど。しいて言うのであれば騎士の剣と盾でしょうか」

 

「どんだけ美化しても道具みたいなもんっしょ。ボクは誰かの下で働くのは嫌だな……あ、だけどエヴァンジェリンは別ね。眷族みたいなもんだし苦にもならない」

 

「ヘタレが何を言うとる。今は逃げてるくせに」

 

「ぐべらっ」

 

 

 それを言われると痛い。ジトッと見てくるゼクト君に言われると更に痛い。ショタに罵倒されて悦ぶとか変態ではないので別に何ともないけどね。

 ヘタレ……ヘタレか。決してヘタレではない。これはあくまでも勇気ある撤退なのだ。逃走では決して、ない。

 

 

「眷族という事は血による契約か」

 

「あんまり話したくはないけど血の契約であるのは間違いないよ。瀕死の時に輸血されて生き延びたら吸血鬼になってた。今は吸血鬼らしい吸血鬼になってるっぽいけど紛い物であるのは間違いない」

 

「? それなら被害者としてある程度身は守られるはずですが」

 

 

 しゃーない。正義の魔法使いのボスを殺したから復讐も兼ねてるから被害者認定は一生されないだろうし。

 指名手配をして冤罪を生み出して開き直る警察のように、いやいや。例えはどうでもいいとして、自分達の組織の始まりがこんな不祥事があったら誰でも隠して隠し通すだろう。こっちも慣れたから暴こうとは思わない……今は。そう、今は。

 エヴァンジェリンの計画もまだあるので手を出すつもりはない。つーかはよ出てこい一郎君のボス。

 

 

「身は守られようともボクは性犯罪者でもあるらしいからね。吸血鬼としての手配が消えてもそっちでつなぎ止めて賞金首にさせるつもりっしょ」

 

「ああ、レイプ魔なのは本当なのか。取り敢えずイチモツを切り落とせばどうじゃ?」

 

「やだよ。短小だからって僻んでんじゃないよ」

 

「むっ。短小だろうと魔法で大きさは変えられ……」

 

 

 デカチンショタとかおねショタ大歓喜じゃないか。そんな魔法があるなんてどれだけ魔法の幅が広いんだ。まだ知らない魔法がある事の証明にもなるのでちょっとだけ喜んでおこう。

 

 

「わかったわかった。夜の時間だけどもう少し真面目な大人の話をしようよ」

 

「レイプ魔のお前さんが悪いんだろうが」

 

「ちなみにその中に――」

 

「幼女はいません」

 

 

 ロリコン死ね。

 

 残念そうにするアルビレオの表情にやっぱりかとげんなりする。続く言葉が簡単に想像できて嫌に思う。変態の思考を読めても嬉しい事はない。

 いても合法ロリだけだ。別に、年齢がロリの子とはヤってない。ロリババアやら大人のロリやら。

 

 

「話を戻すけどそのさる御方と会わなければならないという必要はあるの? ボクは大犯罪者。さる御方は地位の高い人か何かだろ? 会うだけで政治生命とかに影響が出たりするんじゃ?」

 

「はい。ぶっちゃければウェスペルタティアの王族がさる御方です。政治生命以前にもう崖っぷちの状態ですので悪の魔法使いを使ってでも自分の国を守りたいと思っておられます。できるならお力をお貸し願えないでしょうか?」

 

 

 おうぞく? 王族? 王様? しかもウェスペルタティアの? え。何で?

 戸惑うばかりだ。何で王様がボクの存在、所在を知ってるんだと思ったがエヴァンジェリンからアルビレオへ、そこから更に誰かに情報を漏らしてるんだろうなと悟った。もう皆にボクのプライバシーをバラされているんじゃなかろうか。

 気分はアイドルのプライバシーをバラされた感じだ。百年単位で逃げられたのを幸運だと思うべきなのだろうか。

 

 

「正確には王女です」

 

「ウェスペルタティアの王女って黄昏の?」

 

「何でウェスペルタティアの最高機密を知っとんじゃ」

 

「当時のウェスペルタティアで観光をしてたから。ボク等と同じように無理矢理寿命を伸ばして魔導兵器にされてるって聞いたけど。黄昏のは全ての魔法を無効化(オールキャンセル)する特別な体質だとか」

 

「詳しいですね」

 

 

 当時は黄昏の御子で有名なのは覚えている。今は御子が姫御子に変わっているはず。エヴァンジェリンが稀に見る特異点(とくべつ)だと珍しく褒めていたのも覚えている。

 黄昏のと呼んでいる彼女に魔法をぶつける実験もしたいと子供に対して外道な思考をしていた。あの時は色々魔法を研究してたからね。マッドサイエンティストの如く思考が狂ってたんだ。

 エヴァンジェリンだけはその噂の黄昏のに会ったようだけどボクは顔は知らない。ボク好みだと聞いているけどロリコンじゃないから。何度も言うけど。

 

 

「旅をしてたからそれなりに知識はね。もしかしたらその王女よりも黄昏のの事を知ってるんじゃない? 兵器化しているらしいからそんなに人柄とかも気にしてないと思うよ」

 

「それは本人には言うなよ。気にしているようだったから言えば殴られると思うぞ。馬鹿弟子も初対面はもう酷いものだった」

 

「無礼者ッとか言われながら張り手でぶっ飛ばされました」

 

 

 ぼ、暴力系ヒロインですか。ヒロインかどうかはわからないがまあ、ナギ君だもんね。不敬罪でぶん殴られてもしょうがないか。

 女の人に殴られる事は……うん。エヴァンジェリンだけだな。告白されて振っても殴られずに泣かれるだけ。あれはなんだかんだで心が痛むんだ。最後にはお別れのえっちをするとか言われるのも日常的だったりもする。

 女の人とかおにゃのことかに絡むと最終的にエロ方向に向くのはギャルゲとかエロゲの主人公体質がこの身に備わっているかと間違うほどだ。

 

 

「黄昏の姫御子……黄昏のか。攫ってもいいかな?」

 

 

 自然と口から出てきた。助けようとかじゃなくて攫おう。だから性格が浮き彫りになっているよな。クソだと実感できるよ本当に。

 

 

「クソか貴様」

 

「おやおや」

 

「その言い方は酷くね? 助けるとか言っても側面的には攫うのと同意義だろ。人は見方で解釈は変わるものだと思うけど?」

 

 

 ストレートに言えば攫う。オブラートに包めば助ける。勇者は人攫いだったんだよ。お姫様を魔王から誘拐してるとも言えるわけだよ!

 

 

「反対はせん。だが言い方を変えてほしかったもんじゃ」

 

「私も反対はしませんね。ナギもいつかは助けると豪語してますし。悪い魔法使いさんが誘拐すれば連中も諦めると思われますので」

 

「ゼクト君ならまだしもアルビレオ、貴様はボクを利用する気満々じゃないか」

 

「手助け、ですよ」

 

 

 言い方を変えればそうなるけど言い返しなのか。ニッコリと笑いながら人差し指を口に置くアルビレオの様子を見れば意図返しにも見える。

 そうか。アルビレオやゼクト君は黄昏のの誘拐は賛成なのか。どれだけ彼女が酷い扱いを受けているのかを伺える。そりゃ、魔法を完全に無効化するなら最終兵器にもなるだろうが殺すだけなら他にも良い方法があるのに。

 超電磁砲、レールガンもその手段の一つ。実験をすれば並の魔法使いは拳銃は防げないのはわかってるし。

 

 

「では黄昏の姫君の事も説明していただけないでしょうか。さる御方、アリカ様もそれを望んでおられますゆえ」

 

「行くのは決定かい」

 

「構わんじゃろ。そもそもお前さんに決定権があると思うのか? 犯罪者として突き出しても構わんのだぞ」

 

「鬼かテメー。姿を眩ますぞ。言っとくけどボクの逃走はパネェぞ?」

 

 

 全力で逃げるのなら右に出るのはいないだろう。と自負している。吸血鬼になる前の経験を嘗めんなよ。あのエヴァンジェリンも罠に掛けられて最終的にレイプもできたんだぞ。

 つまり、狡い行動なら負けない自信がある。何とも情けない男なのだろうか。人間はそんなもんだから非難する事もないと思いたい。

 

 

「400年も逃げてる彼が逃げれば捕まらないかもしれませんね。ゼクト、ここは素直に彼の言う事を呑んでアリカ様の元に」

 

「あ、別に会ってもいいよ」

 

「……何で無性に嫌な予感がするんじゃ。碌でもない事を考えておらんか?」

 

 

 イヤーベツニー。ナニモカンガエテナイヨー。

 王女様はまだヤった事がないからどんな感じかなーとかオモッテナイヨー。フフヘヘヘ。涎が止まりませんな状態だ。

 

 

「でもほら。悪の魔法使いに協力を要請するんだから何かを捧げる覚悟はできてるんでしょ? 昔からそんな事をするのが悪の魔法使い、悪い魔法使いなんじゃない?」

 

「おいアル。此奴を紹介しても大丈夫なのか? 不安で堪らんぞワシは」

 

「まあまあ。アリカ様もそこは覚悟してるでしょう。彼女に手を出せばナギのようになりますよ」

 

「無礼者バチコーンか。馬鹿弟子と並んで名物になりそうじゃ」

 

 

 ツンデレ王女かクーデレ王女か。どんな王女っかなー。

 

 

 

 

 





 アリカ様と接点を作るアルビレオは後の戦犯。まあ、アリカ側から接触を求めてきているので半々、自業自得っぽいとこもあるけどね。

 ネギ君は生まれるのか生まれないのか。さあ、みんなの逞しい想像力で後の展開を考えるんだ! ってのを前書きで書いてたメアリー・スーがあってだな。あの頃は混沌としてたよ。アンチ物が面白い時代だった。

 だってよー。みーんな、神様転生で好きな作品をリクエストしては借り物の力で我が物顔してよー。今読んだらゲロるね。ナギは儂が育てた的なオリ主が多かった覚えもあるよ。



 愚痴はここまでにして。ここから辺でちょっと言いたい解説を。

 今の時期は紅き翼とアリカが接触して間もない頃。1982年の五月位じゃないかな? 詳しい時間は書いてなかったから適当にしたけど。

 割とすぐに反逆者として指名手配される事になるわけだけど、元々反逆者のオリ主は更なる暴走をします。ニタァと笑いながら画策するのが書かなくても目に見えるぜ……!

 紅き翼と違って完全なる世界の情報を得ているオリ主、エヴァサイドはもう潰しにかかってたり。目的はそのトップにいる最強の魔法使いの神様?

 まあ、驚く程に大分列戦争は短いんだよ。五年ちょっとでナギ君が参加した時期が終わる。もう既にオリ主とエヴァが動いていた頃は戦争は始めてたっぽい曖昧な設定をしときます。



 予告――1985年。それがナギ君の命日だ。社会的にも英雄的にも。





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邂逅す


 副題 「 や っ ち ま っ た 。 」

 もしもアリカがこいつを誘わなければ……クッ。



 進む度に投げやりになる文章。あるある。






 

 

 

 

 

 変わっていないなとまず感想を抱く。メガロメセンブリア、メセンブリーナ連合の支配領域内でも最も美しく儚いと自分の中で思うこのウェスペルタティアの王都オスティア。滅びに少しずつ向かっているこの国に来るつもりはなかったのに。

 王女様を口説き落とすために来たと言っても過言ではない目的を持ってアルビレオとゼクト君と共に訪れているわけだが。

 

 

「あー、やっぱ変わんないね。少し位デザインは変わってもいいだろうに」

 

「一気に変わる光景はそれはそれであれじゃろ。変わらぬ景色にこそ美しさはあると思わんか?」

 

「一理あるけど変化を一番恐れているって見方もあるんじゃないかな? いくら王国だからって今時王政なんか流行らんだろ」

 

 

 王国はこのウェスペルタティアだけだ。知る限りでは。小さいのもいくつかあるようだけど今、大きな王国といえばウェスペルタティア王国だけだと思う。

 

 

「いつまでも王様が支配できるわけではない。滅びた王国も知ってるしローマ帝国みたいにすぐに滅びる事もある。魔法があるからウェスペルタティア王国は長続きしているんだと思う。初代国王、女王のアマテルが有名だからこそ続いてる」

 

仮契約(パクティオー)システムも生み出しましたしね。様々な伝説を持っておられるアマテル様ならあながち嘘ではないかもしれません」

 

「一説だとそのアマテルは不老不死を成し遂げてると噂がある。もしかしたらボク等、正確にはエヴァンジェリンを吸血鬼にした秘法も彼女が考案したものかもしれない」

 

 

 研究の過程、エヴァンジェリンを元に戻す研究をする最中にそのアマテル様とやらが影をひょっこり出しては消えてる。

 ウェスペルタティア初代女王アマテル。様々な魔法の原点を生み出した偉大なる魔法使いというのが世間での印象だ。更に今の最先端の魔法でもアマテルはその上を行くとも言われている。

 不老不死の秘法も彼女が知っているとも仮定している。もしかするとエヴァンジェリンを吸血鬼にしたのもアマテルじゃないだろうかとちょっと怖い。

 

 断言する。今のボクとエヴァンジェリンが本気を出してもそのアマテルには勝てないだろう。まるで次元が違う。調べれば調べるほどにその事実を叩き込まれるようだ。

 

 

「誰でも悪を持つ。それがボクの持論、アマテルの中にも魔法を悪用する悪い心を持っているんじゃないかって思っているんだ」

 

「無意識な悪意ほど厄介なモンはないからのぉ」

 

 

 おお。これだけの台詞でよくわかってくれたな。やっぱりゼクト君は人間の感情を経験で分かっているようだ。

 無意識な悪意は過信する正義と同意義だと考えている。自分にとっては正義でも他人にとっては悪意。そんなパターンはエヴァンジェリンと共に何度も見てきた。正義の魔法使いと名乗るアホ共が良い例だ。

 

 ウェスペルタティアの街並みを久々に堪能しながらアルビレオに案内をされ、ゼクト君と話す。同じ経験をしているとこうも話は弾むのかと少し嬉しく思う。

 中世時代の王城の景色のそれと同じウェスペルタティアの王都、オスティア。幻想的な景色ではあるが戦争で立場は危うくなっている上にメガロメセンブリアとヘラス帝国の戦争のど真ん中だからピリピリした空気が張り詰めている感じもする。

 エヴァンジェリンなら百年戦争かと呆れそうだ。似たり寄ったりな雰囲気だから見てない自分でもそう思える。

 

 

「それで、どこまで行くの?」

 

「あそこです……おや。もうお待ちのようですよ」

 

「……!?」

 

 

 ウホッ。いいオトコ。いやいや。なんつーガチムチだよあの褐色大男。身長どれだけあるんだ。

 

 アルビレオが示した場所には異様な光景とも言える集団が待っている。特に目立つのは褐色肌の大男。他に立っている者と比べても背が高いってレベルじゃない。

 そして、だ。見覚えがある赤い髪の子供も見えるのは幻覚ではないだろうかと淡い期待を持つ。多分、顔が凄い顰めてるかもしれない。

 

 

「オイ。王女様だけじゃねーのか」

 

「護衛は必要でしょう?」

 

「アレが護衛に向いてると思うのなら脳みそ腐ってると思う」

 

 

 逆に考えるんだ。護るんじゃなくて向かってくる奴を殲滅すればいい、と……って単純思考の猪系男子だよ。あの子。護衛に向いていると言うのなら人を見る目があるかってレベルじゃない。

 見方を広げれば護衛にはうってつけだけど危害は少しあるんじゃないかな? かすり傷とか負いそう。

 

 

「何でナギ君がいるんだよ……!」

 

「主がいると知ったら仕事を全部放り投げて来ておる。悪いが構ってやってくれ」

 

「野郎のかまってちゃんはノーサンキュー。何でボクの事を知ってるん……」

 

 

 そういえばとアルビレオを見る。こいつが全部バラしたのかと思い出してげんなりした。エヴァンジェリン伝手で情報が行き渡っていたとしても何故ここまで広げる必要があるのだろうか。

 まあ、自分の愉悦感を満たすためだろうね。自分も似たようなものなのであまり責められない。

 

 

「もういい。あれがナギ君なのはわかるけどあれとあれは?」

 

 

 褐色肌の大男と隣にいる眼鏡をかけた堅物そうな男。他にも何人かいるが魔力を感じられないボクでも二人の気が凄まじい事は感知できる。褐色肌の方は何かヤバイ。ホモ的にも。

 

 

「大きい方はジャック・ラカン、眼鏡の方は青山詠春」

 

「ジャック・ラカン? もしかして奴隷剣闘士の英雄?」

 

「もう驚かんぞ。何で知ってるのかも聞かん」

 

「まあ、情報は命だし。魔法世界にいれば自然と耳に入る情報は頭に入ってる。ジャック・ラカンは傭兵としても戦士としても使える男だから尚更ね」

 

 

 金を出せば頼りになる男はいないとまで持て囃されていたからも付け加える。遊びとしか思えない異名を持つからかなりのインパクトもあった。剣が刺さらないんだけどあの男、とかおふざけだろ。

 それに、ジャック・ラカンは伝説の奴隷剣闘士であると共に典型的な成り上がりでもあるので少し気に入っている。こういうのこそ王道主人公なのだと思うんだ。

 

 

「青山詠春は知らないけど京都の青山家に関連しているのかな? 退魔一族の中にそんな名前は聞いた事がある」

 

「詳し過ぎじゃろ」

 

「情報が命とはよく言ったものです。後で弱みとか教えてくれませんか? 誰でもいいので」

 

「情報料ガ発生シマス」

 

 

 やっぱアルビレオは性格が悪い。はっきりわかんだね。

 弱みって出るところで性格の悪さがにじみ出ている。弱みを握るなんて薄い本になってしまうじゃないか……歓喜。今まで何度もやったので今更感があるけど。

 

 

「よし。じゃあ当ててやる……次にナギ君は覚悟しろ、と叫ぶ」

 

 

 ビシッとナギ君を指差す。それを合図にしてか赤髪の子供が地面を蹴って飛び上がってきた。一回飛び上がるだけであそこまでの飛距離を叩き出すのは何というか魔法なんだなと感心してしまう。

 ボクでも軽く蹴り上げるだけでフワッと浮けるがあんなに闘争心を剥き出しにしてがおーはやらんわ。恥ずかしい。

 

 

「覚悟しろー!」

 

「な?」

 

「馬鹿弟子ほど思考が簡単に読める奴はそうおらん」

 

「ですが戦闘となると奇抜な戦い方をするんですよね。天才というか奇才というか」

 

「いるいる。普段はアホでも戦いになると軍師顔負けになる奴が。孔明も真っ青なのが――おっと」

 

 

 パシィンといい音が手から響く。ナギ君のパンチを防ぐとパンチだけでナギ君の腕が上達しているのがよくわかる。魔力の込め方といい、パンチ一つだけで殴り方を知っているだけでこうも変わるのは自分がよく知っている。

 ナギ君の台詞を言い当てた後は防いだ拳を絡め取って肩を極める。腕ひしぎというなまえかわからないが地面に倒れてナギ君の腕を引きちぎるように引っ張ると面白い顔をしてナギ君が暴れ始める。

 フフフ。まだ手加減しているから暴れられるだろうが本当に痛くなるとそんな余裕も消えるだろう。さあ、苦しむがいい。いきなり殴りかかる君が悪いのだと告げてやる。

 

 

「――――!?」

 

「そーれ」

 

 

 ゴキゴキと骨が鳴る音が手を伝って聞こえる。まだ子供だからと手加減はするのは最強の魔法使いを目指すナギ君に失礼だ。かっこわらい。

 

 

「人に挨拶もせずに殴るなんて馬鹿か君は。これは躾だ」

 

「……いいぞもっとやれ」

 

「ゼクト?」

 

「いてぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

「叫ぶ余裕があるので更に伸ばしてあげよう」

 

 

 グイと引っ張れば言葉のない叫びを放つ。こうするとパンチの距離が少し伸びたりするんじゃないかなと実験してみる。

 ゼクト君が何を言っているか聞こえてしまうのは吸血鬼の卓越した聴力ゆえか。アルビレオはやれやれと言いたいような感じをして肩を竦めている。

 

 

「アルビレオ・イマ。此奴がそうなのか?」

 

「ええ。ご要望通りに連れて参りました」

 

「ん?」

 

 

 ナギ君がタップするのを無視しつつ、声が降り掛かる方へ顔を向ける。女性の声であるのは聞いてわかるが、誰だろうと首を捻る。

 まあ、件のアリカ様なのは丸分かりなのだが聞いていた黄昏のの容姿と異なる事に疑問を覚えずにはいられなかった。王族である事に変わりはないはずだからこの王女様も黄昏の彼女と同じなのかと思ったのに。

 

 

「こんな格好で失礼。君がアリカ様?」

 

「うむ。アリカ、アリカ・アナルキア・エンテオフュシアじゃ。よろしく頼む」

 

「エンテオフュシア……本家の直系の末裔か」

 

 

 エンテオフュシア家。ウェスペルタティア王家の数ある家系の最もアマテルの血筋に近い一族だと歴史研究家、考察家が考えている。その末裔なのか。

 黄昏のもエンテオフュシア。という事は時代的に姉妹の孫? になるのだろうか。

 

 

「何を言った?」

 

「あ。いえいえ。こっちの話ですこっちの」

 

「ふむ……貴君の名前も聞きたいのだが」

 

「そっちは勘弁してくれ。お尋ね者なんだからできるだけ秘密にしておきたい……と言いたいところだけどこいつが適当に言い触らしたせいで秘密もへったくれもないか」

 

 

 名前……名前。偽名でいいか。契約次第ではすぐに終わる関係になるかもしれないし。

 

 

「好きに呼んでくれ。誰かさん等は悪い魔法使いとか悪の魔法使いとかしか言わないから誰も名前を気にしないでしょ」

 

「耳が痛い話だな」

 

「その誰かさんの一員のくせに他人面するの?」

 

 

 正確にはメガロメセンブリアに支配された地域の住人のくせに。である。クソ野郎共の上層部よかは随分マシだろうけど上が腐っていると下も腐ってるんじゃないかと思うのが性分である。

 やりたい放題してるからね。自分の非を認めるならまだしも正義のためと言うのだけは我慢ならん。

 

 

「それは失礼した。だが、妾はその誰かさんとは違う事はウェスペルタティア王国の王女として断言し、保証しよう」

 

「肩書きで保証するのは誰でもできる」

 

 

 正義の魔法使いだ! と叫ぶのと同じだと思う。知らない王女様に自分の肩書きを名乗られてもハァ? としか思えない。王女様だから皆が偉いってわけじゃないんだ。

 勝手な自論で勝手に失望したけど取り敢えずこの王女様、アリカ様の評価は一番下だ。正義の魔法使いよりかは上に位置するけど容姿をプラスして中の下位かな。美人さんは少しだけ上位補正するのが野郎の悲しい性だ。

 

 

「む。アルビレオ・イマよりも捻くれておらんか」

 

「捻くれ者としても有名らしいからの。この悪い魔法使いは」

 

「ゼクト君、喧嘩を売ってる? 悪い魔法使いだからって捻くれてるわけじゃ……あれ?」

 

 

 よくよく考えてみればボクもエヴァンジェリンも捻くれてるじゃないかと思い付いた。悪い魔法使いだからって皆が皆、捻くれてる持論は正しいのか?

 

 この間、ナギ君の腕を極めたままだ。アリカ様の周りにはまた見ない顔がいる。子供が多いのは気のせいだろうか。

 ジャック・ラカン、青山詠春? アリカ様にナギ君。知っているのはこれだけか。他はよくわからない。別に有名でも知り合いでもないのは明白だ。

 

 

「そろそろナギを離してくれませんか。王族の方と会話するにしてもその態度は好ましくありません」

 

「手綱はきちんと握っててよ。次に殴ってくるのなら本気で腕を引きちぎるよ」

 

 

 吸血鬼の膂力と魔力による筋力強化で人間程度ならブチッと取れると思う。前にドラゴンの翼を取れたから大丈夫だろう。

 

 

「お、おう」

 

 

 その脅しは効いたのかナギ君が吃りながら肩を回しては調子を確かめていた。少し距離を置いて顰めっ面もしているのがよくわかる。何だか恐れ慄いている感じがする。

 服の埃を払いながら立ち上がる。久しぶりにサブミッションを極めたが、絶好調のようだ。見様見真似。被害者の立場を経験した事でどうすれば極められるかわかる。エヴァンジェリンの場合は肉付きがよかったんだよ、プニプニ。

 戦わずして勝つ。その手段の一つを考えるとどうしてもそのサブミッションが必須になる事があったので実体験を含めて練習したわけで。

 

 

「では少し話をしよう。お主が悪の魔法使いだろうと色目で見るつもりはない。契約の話を進めたいのだ――妾達に力を貸してほしい」

 

 

 随分ストレートだ。回りくどい事は嫌いなタイプ、とまではいかないまでも要所要所で攻め方を変えるタイプなのだろうか。

 さっきまでのやりとりでそれを探っていたのだとしたら綺麗な容姿をしてえげつない考え方をする王女様なんだな。所謂、腹黒姫様。

 もしも。と考えればキリがない。考えたらそれだけで考察は無限にできる。考えた事が実際にそうだと言えるわけでもないので悪い癖になりつつあるこの思考を何とか直さないと人間不信になるな。

 

 

「契約次第。会談の人数は最小限で邪魔はなし」

 

 

 チラッと邪魔になりそうなのを見てみる。肩を回している、興味深そうにこっちを見ている、ビクビクしながら見ている。様々な反応だ。

 

 

「わかっておる。誰にも悟られない場所を用意しておいた……アルビレオ・イマ、フィリウス殿。妾と共に」

 

「ワシもか?」

 

「いえ、ゼクトは外させてもらいます。代わりに詠春とガトウを参加させていただきたい。ゼクトにはやってもらう事があるので」

 

 

 いちいち話を遮られたらストレス溜まるもんね。アリカ様もそこをわかっていらっしゃるようで助かる。一応、有能なんだな。王族だから当然だろうな。

 

 積もる話はまだあるものの、一旦切り上げて案内される事になった。軽い雑談は好きなように見えても切羽詰まった状況下になるせいか、早く話をまとめたいという気持ちがありありと見える。

 

 

 

 

 

 

 

 





 空気になってるけど紅き翼フルメンバー勢揃い。だけど転生オリー主はおらぬ。

 あくまでも自分の考えだけど踏み台転生者を用意すれば悪いのは全部踏み台って核爆弾級の地雷が最近広がってると思うんだ。え、前から? あいつは悪い事をしてるから俺は何でもしてもいいんだぜwww とか思うのは自分が捻くれているからだろうか。

 そんなのは嫌なんで踏み台さんは皆無。



 次回は会談。お転婆ロリ皇女も早くも登場。時期的には誘拐される前なんで大丈夫大丈夫。

 ドラマのTOUCHが面白そうなのでTSUTAYAで借りてきます 三┌(^o^)┘ サザーランドの高所恐怖症に萌えた。





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明かす


 お久しぶりです。完全に会話だけなので読まなくても大丈夫だと……いいなぁ。

 すいませんね。ユニコーンのEP7を見てたらマキブでフルコーン使いたくなって色々やってますた。映画終わったんだからPS3のユニコーン二作目はよ。だけどネオ・ジオングだけは勘弁な!



 新作にマブラヴ書きたい。





 

 

 

 

「ひ、ひぃ。な、何で悪い魔法使いがいるんじゃあ!」

 

 

 ……場が白けた。帰ろう。

 

 そんな考えを読んでか、アリカ様がガシッと腕を掴んでくる。逃がさないと言わんばかりの力の込もり具合に白ける事からげんなりする事に変化する。こうなる事を読んでいたのか。

 ボクの反応を読んでいなければここまですぐに反応はできないだろう。つまり、最初からこのチビ助と会わせる事を決めていた事になる。

 

 

「アルビレオ。このガキ、ヘラスの皇女だろう。何でいる?」

 

「テオドラ様とアリカ様は戦争を止めるために動いていますから。前々から内密に連絡を取っていまして、貴方との接触を機にこうして顔を合わせる事を決めたようです。どうやらお気に召さないようですね」

 

「こんなちんちくりんを見せられて喜ぶのはお前だけだよクソロリコン」

 

 

 こうも怯えられると逆にイライラが募るというもの。どうやらこの皇女はあの噂に惑わされているようだ。レイプ魔とかレイプ魔とか悪い魔法使いとか。

 大体が本当なので否定も肯定もしない。

 

 

「お飾りの皇女は役立たずだろ。この場にいても邪魔になるだけだと思うんだが……ね。おじょーちゃん?」

 

「ぴっ!?」

 

「あんまり子供は虐めるもんじゃない」

 

 

 そこに挟み込んだのは煙草を咥えた髭男。ガトウとアルビレオが呼んだ男で、皇女を守るように間に立った。煙草の煙が煙い。

 酒は好きだが煙草は嫌いだ。煙が目に入って痛い上に臭いも好きになれない。酒以上に大人ぶっているようにも感じるのでどうも。

 

 

「ガトウって名前だっけ?」

 

「ガトウ・カグラだ。それよりもこんな子供を責めるような言い方は感心しないな。アリカ様と契約を結ぶ立場とはいえ、少しその態度はないんじゃないか?」

 

「悪いね。ボクには人間の優しさってモンはないんだ。悪い魔法使いだからねぇ」

 

 

 若干、不貞腐れる。八つ当たりのようにガトウの咥える煙草を強奪すると火を煙草諸共消し去る。燃えた時に煙草の臭いが辺りに漂うので自然と顔が顰め、ガトウに対しての印象というか評価が下がる。

 こうならば、こう。ああならば、ああ。ガトウの言う事は正しくもあり、間違いでもある。それは一般常識ではあるものの、一般ではないアウトローの場合はそれで推し量るのは危険が伴う。

 お願いする側はガトウ、アリカ側。こっちはお願いされる側。対等の関係、取引の会話にはそれなりの敬意を持って望むべきだとは思うがこれは契約だ。彼等と自分の間の大きな差を知りつつもお願いをするのだから敬意なんぞ知るか。

 

 

「さてアリカ様。段々とボクは不機嫌になってきたよ。機嫌を損ねるのが契約内容にあるなら大した策士だと思わない?」

 

「む、む。それはスマン。だがこちらにはこちらなりの考えを持つ事だけはわかってくれ。妾は一応、王族なのでな。どうも王族なら誰もが平伏して敬意を払わなければならないと考える者が多いのだ。其方ではそういった事は関係ないのだろう」

 

 

 まあ、なりそこないとはいえ、吸血鬼ですから。人間様と同じにされてもエヴァンジェリンはいい顔しないだろう。何で王様とか地位が高いのはあんなに偉そうなのだろうか。

 その点ではアリカ様は偉そうというよりも誇り高きというイメージがある。あーっと、ノブリスオブリージュ? だっけ? ノブレスオブリージュ?

 貴族が義務を背負うのなら王族はもっと義務を背負わなければならない、だっただろうか。エヴァンジェリンのコレクションの中に名言が記された手紙があったような気もする。アリカ様はまさにそれが似合う雰囲気を漂わせている。

 

 

「彼等の非は妾が詫びる。だからもう少し話を聞いてはくれぬか」

 

「それほど事態に切羽詰まっているんだ。まあ、削ってもどこからか生まれてくるような輩だし寧ろ持っているのが褒められるよ」

 

「やはり彼等の正体を掴んでいるようですアリカ様」

 

「うむ」

 

 

 期待通りと言った顔をするアルビレオとアリカ様。内緒話ならよそでやれ。

 

 

「確認をします。貴方はこの戦争の裏側で暗躍する組織の正体を掴んでいますか?」

 

「肯定と言っておく」

 

「それを踏まえた上で奴等の情報を提供する契約をしたい。そちらの望みはできるだけ叶える。有利になる契約もする。だから教えてはくれぬか」

 

 

 切実な様子のアリカ様。空気の読めないボクは自分で探した方が回り道になっても確実ではないだろうかと思ってしまう。仮にも悪の魔法使いに情報を求めるなんてデメリットを考えていないのか。

 裏を返せばそれほど切羽詰まっているのだとわかるのだが。時間がないのか情報を得られる自信がないのだろうか。

 

 

「んー?」

 

 

 そうなると返事はどうしようか。別に引き受けても構わないのだが役に立ってくれてありがとうターンとか裏切りはやだしなぁ。油断しないようにしても油断するのがボクらしいから。

 何を見返りに求めるかを考える。ウェスペルタティアの魔法はアマテルの研究の途中で色々と学んだから必要ない。流石にいきなり女の子の体をくれだのは……悪い魔法使いだから構わないか!

 

 

「じゃあまずは王国のお抱え宝物庫のお宝。珍品なら尚良し」

 

「手配しよう。無理だと言われても押し通して其方を宝物庫に入れる手配をする」

 

「次に黄昏の姫御子の身柄」

 

「ッ! ……考える」

 

 

 おや。流石に黄昏のは反対するかと思ったのだが割と早く肯定の意を見せてくれたな。一応、おばとか祖母に当たるのでは?

 彼女の特殊能力は新しい魔法の発動に役に立つかもしれない。非人道的な儀式はやらんが彼女の体質は調べてみたい。

 

 黄昏のが欲しいと言えば周りが殺気立つ。というよりもガトウ一人が納得できないとばかりに睨んでくる。特別な思い入れでもあるのかこのスモーキーは。

 

 

「後は……そうだなぁ」

 

 

 ちょっと悪戯で嘗め回すような目線でアリカ様を見てみる。気分は脅迫して性交を求めるゲス。同人誌定番のシチュエーションでもあり、その前戯の一部でもある行為をしてみる。

 案の定、見られている事を感付いたアリカ様は少したじろいだ様子で、体を隠そうとした手はピクリと動いたが我慢して体を少し震わせる。見ても構わないとのメッセージなのだがこうなると少し罪悪感が沸く。悪戯なのにここまで覚悟を決められるとどうも……。

 それに過剰に反応したガトウがポケットに手を突っ込んでアリカ様の前に出てくる。どうもしゃしゃり出るのが好きなようである。アリカ様も頼んでいるわけでもあるまいし。

 その更にアリカ様とガトウの間に子供がアリカ様を守るように移動する。かなり怯えた顔をしているがそんなに怖いのだろうか。

 

 

「ま。冗談だよ冗談。先に二つの条件を飲めば情報は全部あげる」

 

「お前のような外道が嘘じゃないと証明できるのか?」

 

「ヴァンデンバーグ捜査官!」

 

 

 うーむ。ガトウの発言で不機嫌になって契約を白紙にしようと考えたが思いの外、アリカ様は交渉を知っているようだ。

 立ち塞がるガトウを押し退け、堂々と、されど少し体を震わせながら目前に立つアリカ様。何というか肝が座っているというかいい度胸をしているよな、この王女。

 というかこのガトウ、ヴァンデンバーグって名前なんかい。偽名でも使ってるのかこのスモーキーは。捜査官と呼ばれているから身バレ防止なんだろうが。

 

 

「その条件は飲もう。だがアスナはウェスペルタティア王国の傀儡で今は渡せない」

 

「大丈夫。ついでに喧嘩を売る為に黄昏のを助けるから。というよりも彼女、奴等の計画の一部だから救助はどうせ必要なんだけどね」

 

「何……? それは一体どういう?」

 

「おーっとっと。これ以上は契約を結んでからね。更に条件を加えるとアリカ様、君を好きにしてもいいなら情報だけじゃなくてボクも力を貸してもいいよ。具体的に言えば互いの利益になる等価交換制の共同戦線。名立たる悪い魔法使いの力を得られるから助かるんじゃない? 君の体で世界を救えると言っても過言じゃない」

 

 

 完全にゲスである。だが楽しい。同人誌定番のシチュエーションの裏にはロマンがあるのだよロマン。

 

 

「ぐっ……! アリカ様……」

 

「……聞くが其方は本当に実力はあるのだろうな」

 

「なければ過去最大の賞金首にはならないし二つ名でもない悪の魔法使いとも呼ばれないと思うけど? エヴァンジェリンと同等と考えてもいい」

 

 

 まあ、別に条件がなくても力は貸すつもりだけど。弱くても人手は必要だしナギ君やらアルビレオがいるなら面倒事も減る。好感度を上げといて賞金首を消す事も考えているので気に入ったとか言って懐も広いよアピールをしておこう。

 暴れる事ならナギ君にお任せ。策略ならアルビレオにお任せ。他は適当。といった感じに考えている。

 

 

「わかった。妾の身一つで世界が救えるのならば喜んで差し出そう。その代わり、其方には世界を絶対に救ってもらう」

 

「うんうん。契約成立……と言いたいけど流石に女の子に股を開けとか言うのは嫌だから今回はサービス。体を売らなくても力は貸すよ」

 

「だが、それでは等価交換の天秤が釣り合わないのではないか?」

 

「まあまあ。代わりにそこのちんちくりんの国からも珍品を要求するから」

 

「はえっ!? な、なんでいきなりこっちに振るんじゃ!?」

 

 

 空気になろうと隠れていたちんちくりんを指差して無理矢理にでも存在感を表に出させる。ヘラスの皇女という立場にあるのだからアリカ様のように貢いでゴマすりをしなければ未来はないのだぞと悪役思考。

 別に滅ぼすつもりは一切ないのだが脅せばしなやす思考でレアな物まで貢いでくれるだろうと画策する。ヘラスは魔法世界でも古くからある皇国だから今は伝説となったアイテムも抱えてるだろう。

 ロリはエヴァンジェリンだけでいいのでアリカ様のように内緒にして欲しかったらフヘヘヘはしない。決して。

 

 

「そりゃ、お前さんはアリカ様だけに負担をさせる気なの? 合同会議らしい事をするつもりでここにいるんだから役に立てちんちくりん」

 

「だ、だがの。いくらなんでもヘラスの宝物庫はおいそれと……」

 

「じゃあ戦争が終わったらエヴァンジェリンと一緒にヘラスを滅ぼすわ。余計な手間を掛けさせた罰で奴隷にして売り払うぞチビ助」

 

「ぴいいいいいいい!?」

 

「あまり女の子は苛めるものじゃないと思いますが……イエスロリータ、ノータッチ。幼女は愛でるものですよ」

 

 

 触ってる触ってる。愛でる時点で幼女に触れてる。

 アルビレオが横からしゃしゃり出てヘラスのちんちくりんを庇う。お前は幼女なら誰でもいいのか。

 苛めたくなるような声で叫ぶちんちくりんはよりにもよってアリカ様の後ろに隠れる。アリカ様の呆れた表情かと思いきや、どう反応すればいいか戸惑う表情だった。あれ?

 

 

「ではウェスペルタティア、ヘラス両国の代表の合意の上に契約を交わしましょう。アリカ様、テオドラ様、異論はありますか?」

 

「彼が二つの条件でよいと言うのなら」

 

「わ、妾は体は売らんぞ!」

 

 

 誰がいるかアホ。アルビレオに売れアルビレオに。泣いて喜ぶだろう。

 

 

「契約書にサインを。ギアス執行の特別製なので契約に反すれば悪魔に魂を食われてしまいますがよろしいでしょうか?」

 

「……」

 

 

 どうしよう。前に約束を破って召喚された悪魔を消し飛ばした事は話した方がいいのだろうか。

 いつの間にか仕切り役をしているアルビレオを微妙な表情で見ながら即効で契約書にサインするアリカ様と渋々と迷いながらもサインするちんちくりんことテオドラ。これまた微妙な気分になる。

 吸血鬼の眷族、闇の眷族でもあるボクは悪魔に好かれるというか普通の魔法使いよりも色々と便宜を計ってくれるので契約の内容を改竄する事も可能なわけで。実際、こんな契約書は無意味に等しいのだが。

 

 ボクの順番になる。いつの間にやら契約内容まで提案した取引内容が書かれている。あの短い時間でどうやってできた。あ、精霊か。

 一応、確認をする。ウェスペルタティア、ヘラス両国はボクにアーティファクトを提供する。ウェスペルタティアは黄昏の姫御子の身柄を引き渡す。見返りにボクは黒幕の情報を渡し、ウェスペルタティアとヘラスの依頼を引き受ける。依頼って形にしたのか。

 まあ、不備はない。だが改竄をしよう。依頼を受ける時は気分次第で。強制は不可って事にしておく。いやー、この悪魔さんと精霊さんは話がわかるね。

 ガリッと親指を噛む。強く噛んだせいで血が滲み出てテオドラがギョッとした顔をする。他は吸血鬼の逸話を知っているのかテオドラほどではない驚愕を見せている。彼等の視線を浴びながらもポタポタと滴る血をもう片手の掌を皿に見立てて受け止めながら操作する。

 その血を契約書に四滴垂らすと血が一人でに動き出して文字を象る。奇っ怪な様子が珍しいのかテオドラが乗り出してその様子を観察する。すぐ近くにボクがいてすぐにアリカ様の後ろに隠れたが。

 

 

「ほら」

 

「わざわざ血で書かなくてもいいんですがね」

 

「血で書くという事は信頼してるとも取れるだろうアルビレオ。妾は其方に感謝の意を示したい」

 

 

 契約の改竄に血を使っただけなのに何か勘違いされているし。血を使って署名する事は普通の契約と違って魂をも捧げる契約と同意義であると考えられるのでその反応はある意味当然と言えば当然か。

 どうもアリカ様は物事を良い方に考えようとするようだ。ネガティブよりもポジティブが人生生きるにはいいがあんまり楽観的だと苦労するぞ。まあ、楽観的じゃないと絶望から心が砕けないようにするのは難しいか。

 

 

「……アルビレオ、読めるか?」

 

「すいません。これは何の文字でしょうか」

 

 

 アリカ様を見ながら考察していると二人から何だこれはと契約書を見せてくる。ああ、そういえばそうか。

 

 

「古代文字。高貴なる貴族と王族の文字」

 

「嘘でしょう?」

 

「嘘です。本当は生命が生まれた時に授かる真名に近い名前、らしい。血で文字を書くと魂の情報を刻み込むって噂。ボクの場合は――」

 

 

 ――おーっとっと。喋りすぎたか。

 

 手で口を隠して発言を止める。血で名前を書いても読めないようになっているのは人間としてのボク、吸血鬼としてのボク、エヴァンジェリンの眷属としてのボク。それらが混ざり過ぎて継ぎ接ぎだらけの名前に見えているだけ。

 吸血鬼としての名前があるのは予想外だった。眷属にもなると名前があるのね、とこの方法を初めてした時は驚くよりも呆れた。

 

 

「場合は?」

 

「内緒。契約には完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)の情報のみでボクの情報を与える必要はないよ?」

 

「コズモ……?」

 

「コズモ・エンテレケイア。完全なる世界を目指す今回の戦争の黒幕の組織の名前さ」

 

 

 と、言ったら一気に空気が張り詰める。何でいきなりシリアスモードになってるのだろうか。名前だけでそれは早漏だろうとどうでもいい事を考えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 完全なる世界はまだアリカ様一行はぼんやりと掴んでますが、ここでハッキリ。地道にヴァンデンバーグさんの役目を奪ってね? 何かdisってるけど動かしやすいのはガトウさんなんだよなぁ。

 捜査官ってポジションだから犯罪者には風当たりが強いと思ってこうしたらヤバイ事になっちまった。ナギ君以上に不幸になるんじゃないか?



 というわけで紅き翼一行と共同戦線。共同と言っても目的を共にして戦うだけで最終決戦くらいしかナギ君達と一緒に戦わないかもね。オリ主、単騎無双型だし。

 四十話以内に終われるとイイナー。






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教える


 今回から本格的に介入。段々と書くのが飽きてきた。


 これはひどい? ハッ、悪いが褒め言葉だ(キリッ






 

 

 

 

 

「む、魔法世界の再生……?」

 

「らしいよ」

 

 

 早漏なアリカ様一行に奴等の目的を告げれば何故か絶句した。そこは喜ぶところじゃないのだろうか。魔法世界を滅びから救おうとしているんだぞ。

 

 

「もう奴等の組織のメンバーとは何度も激突してる。レベルで言えばナギ君レベル。旧世界と魔法世界を含む魔法使いの英雄を使徒化して能力の底上げをしているからナギ君よりも強いかも?」

 

「ですが貴方は彼等に打ち勝っている」

 

「でなきゃもう死んでる。吸血鬼の再生能力があると言っても痛いんだぞ」

 

 

 肉の部分は大丈夫だが骨が再生するとゴキゴキして痛いんだよ。再生すると痛みが伴うのは唯一の欠点だよな、とずっと思っている。エヴァンジェリンは無いに等しいらしい。羨ましい。

 最後に一郎君に会ったのはカフェだったか。あれから接触はない。どこかで暗躍しているのだけは当たってそうだ。魔法世界の再生、一郎君の上にいるボスの為なら何でもすると豪語する一郎君だからこそそう思えるのだろう。

 

 

「アー、アーアー……そうそうアーウェルンクス。アーウェルンクスと名乗るのが幹部になる、のか? 負けた事がないから幹部なのかもよくわからん。けどその組織のボスは魔法世界なら無敵。旧世界でも勝てるのはいないんじゃないかね? ボクとエヴァンジェリンなら何とかってレベル」

 

「わ、悪い魔法使いよりも悪い魔法使いがおるのか!?」

 

「悪い魔法使いよりも正義の魔法使い寄りだな。なんたって魔法世界の神様だもの」

 

「かっ……!?」

 

「もしや、造物主ですか」

 

「お。知っているだけで凄いな。長寿なのは伊達じゃないなアルビレオ」

 

 

 伝説に埋もれに埋もれて。と知る人間も少なくなって知っている方が珍しいなんてものじゃない知名度なのだが。魔法世界が自分達の物だと勘違いするアホが増えたせいで創った神様を忘れるから天罰を受けたのだとも解釈できる。

 それでもあくまでも生かす再生を志すのだから根は優しい神様なんだろう。ボクの知る神様は問答無用で殺してから命を再生パターンがあるのに。

 

 

「噂程度ですが。それよりもそちらが詳しそうですが」

 

「まあ、普通よりは。一時期探したらとんでもない計画を知ってしまったのが経緯なわけでな。それからはチマチマと下から潰してる」

 

「成程。それが奴隷解放の真実か。其方は悪い魔法使いではないように思えてならないのだが。もしや、本当は優しい正義の魔法使いなのか?」

 

「アッハッハッハ。それは人の見方で正義と悪は変わるもんだから正義だのは定義できんよ。それに奴隷を開放しても一部は性奴隷扱いだから正義にはほど遠いがな」

 

 

 優しい正義の魔法使いぃ? ないない。マジワロス。立派な魔法使いよりもマジないわレベルである。名乗るなら普通の魔法使いでいいだろうと思うのだが。普通の魔法使いって名乗ればこいつ、普通じゃないぞ……!? ごっこができる。そんな矛盾が大好物な男の子もいるのは確かなのである。

 そんな発言をすれば女性陣から冷たい目線が……何でテメーなんだヴァンデンバーグさんよ。そこは女性陣の冷たい目線のご褒美がお約束だろうが。

 どうもヴァンデンバーグは空気の読めない事をするようだ。自分の事が嫌いなのは見るだけでよくわかる。気に入らないとばかりに睨んでくるのでどう対応すればいいのやら。

 

 まあ、取り敢えずこの人選は間違いであるという事は間違いない。チラリとアルビレオを見れば笑みを崩さないが少し別の感情が混ざっているのが経験則でわかった。

 青山詠春は外で警戒しているから性格などはまだ詳しくないがアルビレオの人選は正確な方なのでガトウよりかはマシだと……思いたい。生真面目だと仲間内で評価されている彼は果たして。

 

 

「大丈夫大丈夫。一応、エヴァンジェリンは慈悲深いから酷い扱いはせんよ。また攫われそうな稀有な種族の血筋とかは保護して鍛えてる。自分だけで生きていけるようにしてる。終わればポイするけど」

 

 

 ある程度、雑魚奴隷商人からは逃げられるように。ってエヴァンジェリンが始めて今に至る。血まで貰うんだからギブアンドテイクだ。そこから人脈を築こうっていうんだからエヴァンジェリンは人脈広すぎると思う。

 処女の血プリーズとか言われなくなって少し寂しく思う。エヴァンジェリンから離れているとちょっと寂しいな。

 

 

「おーっとっと。ボクをとやかく言う前に止められない自分を責めろよ。ボク等はボク等なりに良かれと思って動いているんだ。そもそも賞金首にされて行動を制限されているせいで無理なものが多いんだよ? アンタの上司の国がな、ガトウ」

 

「だがそんな風になったのは貴様の行いが――」

 

「――正当防衛なんだが? ボク等はひっそりと暮らしたいだけなのにそっちが邪魔をするんだろう。何もしなければこっちは何もしない。一度、昔に言ったけどそりゃもう改竄のオンパレードで宣戦布告した事になってんだよ?」

 

 

 魔女裁判ってのはあんな感じなんだなと貴重な人生経験をした。昔の裁判も石を着けて水に沈めて浮かばなければとかキチガイ思考だと感じるのは現代人だからか。昔の人間は過激思考でそれが間違いではないのだと錯覚してると思われる。怖いよねぇ。

 長年の伝統がどうたらこうたらってのが一番嫌いだ。良き伝統もあれば悪しき伝統もある。ボクの場合は後者で更に脚色するんだから始末が悪い。言い逃れはできない部分は認めるけど犯罪の一部を擦り付けるのはよくない。

 

 

「ほら。ボクは悪い魔法使いでしょ? 我関せず状態なのに悪事を重ねてその悪事をボクに擦り付けるんだぜ? 取り敢えず悪い事をしたらボクとかエヴァンジェリンに擦り付けるのだけはやめてほしいよ全く。立派な魔法使いの中にはそんな輩が沢山いるだろうし? 調べればそれこそゴミの如く出てくるぞ」

 

 

 ね。ヴァンデンバーグ君。

 

 

「其方は……」

 

「アーアーアー。終わり終わり。この話はもうなし。今はコズモ・エンテレケイアの情報が欲しいだろ?」

 

 

 アリカ様に哀れみを含んだ視線を送られ、背中がむず痒くなる。誰かにそんな風に見られるのはどうも苦手だ。

 ヴァンデンバーグ君は相変わらず敵意を含んだ視線なのが救いか。ずっとあの視線に晒されていたからそれに慣れてしまってそれが当たり前になった。それだけを聞くとただのマゾじゃないか。

 悪意に慣れると善意がわからなくなるといったところだろうか。褒められない人が褒められて戸惑うのと同じイメージだ。

 

 

「まずこれだけは言っておく。コズモ・エンテレケイアは魔法世界最大の組織といっても過言じゃない。各国のトップの殆どは戦争を長引かせるように動いている事がある。純粋に戦争を止めようとするのは少数。まだ生きているのがいるから今の内に確保して協力を求めた方がいい」

 

「マクギル議員とは協力体制を築いている。まだ他にもおるのか?」

 

「んー、まあ。いるにはいるけど協力できるかどうかはわからんよ。監視されているのが多数、人質にされてるのが多数。動くにしても慎重に」

 

 

 ゴソゴソと服の内側に手を突っ込んで探し物を探す。またまたヴァンデンバーグ君が警戒して構えるがもう無視しよう。

 手に触れた感触が目的の物だと気付くと一回引っ張り出す。違うので戻してまた同じ行動を繰り返す。むむむ。これならもう少し整理すればよかったな。ごちゃごちゃしすぎてどれがどれなのかわからない。

 どれだったっけ? 雑にまとめていたツケがここで来てしまったか。情報量が膨大だからまとめるのがめんどくさいと放り出していたのが間違いだったか。

 

 

「何をしておるのだ」

 

「服の内側にゲートですか。転移魔法まで使いこなしておられるようで」

 

「要は魔法なんざ発想次第でどこまでも広がるものさ。ゼクト君のナニ増大魔法も短小の魔法使いが女を鳴かせる為に発明したもんだし」

 

「セクハラじゃぞ!」

 

 

 ガキのくせにこの発言の意味を理解できるとはマセてるな。皇族だから性教育も受けているのだと考えれば納得もいくか。実際はどうなのかね。王族の跡継ぎを作る為に子供を設ける行為を教えるのも普通か。

 ちんちくりんが憤慨するのを見つつお目当ての物を探す。紙を探しているからどれも同じように感じる。いちいち中身を確認するのも億劫で、便箋を用意しておけばよかったと頭を悩ませる。

 

 

「想像豊かなら自分の思うがままに魔法は作れる。まさに無限大、可能性はどこまでも広がる。これはできない、不可能だと思わなければ誰でも最強になれる」

 

 

 お。あったあった。手探りで目的の物を引っ張り出して中身を見つける事ができるとアリカ様に渡す。アルビレオでもよかったが有効活用できるのはアリカ様の方だろうから彼女に任せる。

 

 

「これは?」

 

「見りゃわかる。これからに役立ててくれると渡した甲斐があるから頑張って」

 

 

 コズモ・エンテレケイアの調査の段階で得られた情報の一部、純粋に戦争を止めようとしている物語の勇者の仲間の名前が書かれた名簿。彼女なら役立てられると信じている。

 他にも戦争を止める材料なら大量にあるが一気に計画を阻止すると激昂してなりふり構わずに暴れまくられるとそれこそエヴァンジェリンと立てた計画が台無しになる。今も危ない橋を渡っているが慎重にやりたい。

 造物主と呼ばれる最強の魔法使いの神様相手では神殺しに特化しているわけでもないボク等がぶつかれば殺される。挑むなら挑むで用意はしてあるが帰れる手段を持っているのだと確信すれば取引に持ち込みたい。

 機嫌を損ねて魔力が満ちる魔法世界の概念を捻じ曲げられると大魔法の魔力が足りなくなる。なんて事も考えられる。媚を売りに売りまくる必要があるわけだ。

 

 

「こっちの望みは造物主の機嫌を損ねないこと。あんまり大っぴらに動いて交渉の余地を消す事だけは避けて欲しい」

 

「交渉をするのか? 仮にも神が相手じゃ。其方の言う事を容易く聞くとは思えんが」

 

「交渉のテーブルだけは用意されてる。まあ、そこに行けるにはやる事があるけどね。一郎君の頼まれ事を先に済ませないと」

 

「頼み事とは?」

 

「スマンが内緒。契約の内には入らないから拒否はできる」

 

 

 一郎君からの指示、交換条件も忘れてはならない。まあ、何とも仕事が多いこと多いこと。

 

 

「これで今日はここまで。そろそろ姿を眩まさないとウェスペルタティアの兵士に追われそうだ。いや、正確にはメガロメセンブリアの忠犬かね?」

 

「! まさかガトウ、貴方!」

 

 

 魔力を感じられないが音は聞こえる。後は殺意と敵意。どうにもウェスペルタティアの兵士のレベルではない感じがする。

 

 

「……情報だけで十分だ。そもそも犯罪者相手に取引する事が間違ってる。悪い魔法使いを逮捕すれば市民も安心するだろう」

 

「んー。その反応が普通だから別に気に病む必要はない……と言いたいけど君が釣ったのはただの稚魚じゃなくてかなりの大物みたいだ」

 

 

 これは。とボク以外の実力者が構える。ヴァンデンバーグはアリカ様の隣で守るように立つだけで事態がおかしい事に気付いていないようだった。

 ローブの怪しい集団があっという間にボク等を囲む。ウェスペルタティアの兵士なら鎧を着込むとかするだろうに、ヴァンデンバーグも眉を顰めておかしい事に気付いたようだ。

 

 

「ウェスペルタティアの兵士か?」

 

「ストップ。残念ながら兵士じゃないね。多分、奴等の超下の使いっぱしり共だろう。狙いは多分アリカ様とちんちくりんか?」

 

 

 その声に返事はない。ジリジリとこちらを追い詰めるように包囲網が狭まるように動くだけ。

 うーん。誘拐のプロでも雇ったのだろうか。手馴れた動きを見ればそんな感じがしてならない。アリカ様にちんちくりんを攫うのが目的だとしたら戦争阻止を阻止しようとする事と考えられる。他にもあるが一番はこれだろう。

 契約してすぐに反故にするのは誇り高き吸血鬼のプライドに関わる。エヴァンジェリンに聞かれたら殺されそうだ。

 

 ザッと一際大きな力を持つ者の前に出る。ガリガリと髪の毛を掻きながら出れば不機嫌な雰囲気が伝わってくる。

 

 

「邪魔をするか」

 

「まあね。アリカ様とは契約したからみすみすとはい、どきますは無いだろう。そろそろ一郎君達の情報を更新したいんでな」

 

「彼等は貴様と友好的だ。だが邪魔をするのであれば殺しても構わないとの事だ」

 

「殺せんの?」

 

「殺せなければわざわざ貴様がいる場面で出てこない。最終通告だ。どかなければ実力を持って排除する」

 

「うん。決定。お前らは敵認定」

 

 

 会話のキャッチボールが成立しているようでしていない会話をすると舌打ちされた。何だよ。腹が立つのはこっちなんだぞ。仮にも悪い魔法使いとして名を馳せたボクを倒せるとでも思ってんのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うむ。楽勝」

 

 

 死屍累々。悪役とかライバルとかがニタァと笑って次のコマに飛べば襲い掛かる敵を叩きのめすシーンがある。まさにそんな感じだ。

 馬鹿な、早過ぎる!? やら凄まじい練度の魔法だと!? と言われるのもいいが一瞬で全滅させるのが好きだ。パンパンと手の埃を払う仕草がアクセントにもなる。

 

 

「あー、アリカ様。コイツ等は情報も碌に与えられていない雑魚共だ。どうする?」

 

「い、いや……これが最強種の魔法使いの強さか。噂に違わぬ」

 

「いやいやこんな雑魚で強さを推し量れるのもおかしいだろう。アルビレオもナギ君もこの程度はできる。ガトウ君も近い事はできるんじゃない?」

 

 

 また返事は睨みだった。そんなに嫌いか。

 

 

「取り敢えずボクは一旦ここで別れるよ。何かあればこっちから接触するから。何かガトウ君が突っかかるようなら契約も考えないとだけど」

 

 

 会議の邪魔をしない人物と言ったが完全に偏見邪魔者だ。アリカ様もこれは予想していなかったのか、アルビレオも予想できなかったのか。ヴァンデンバーグ君の人相を把握しきれてなかっただけなのかもしれない。

 偏見的なのはよっぽどだよなぁ。警察の人間が犯罪者の家族との交際に婚約を許さないのと同じ感じだ。家族を殺されたとか恨みでもあるのだろうか。

 うむ。何か理由があっても歯向かわれるのはムカつくからヴァンデンバーグ君の素性を調べてみようか。ついでに邪魔されないように脅迫とかしておこう。

 

 

「できるなら妾達の側にいて協力してほしんじゃが……しょうがないか」

 

 

 ……こういうのを逆ナンと言うのだろうか。口説かれているのか?

 

 

「ゴメンよ。ボク、悪い魔法使いだから君等が良くても周りが駄目って言うと思うし。最近はボクを殺す為に奴等が色々な不死殺しのアーティファクトをばら蒔いてるからね。まだ死にたくないから念には念を入れておきたいんだ」

 

 

 特に元の世界に帰るまでは。その後は寿命なり事故なりで死んでも文句はできるだけ言わないようにする。

 力を貸して欲しいとお誘いを断ったから殺す。ってのは短絡的過ぎじゃないだろうか。死なないと期待されていると思えば試練的な解釈になるがどうも納得できない。試練とは死を伴うものだが古臭い。

 

 

「今まで突っ込まなかったけどそのガキ二人は何? その釣り目が無性に腹立つから殴っていい?」

 

 

 悪の誇り? んなもん知るか。エヴァンジェリンは何があっても女子供のは手を出さないと掲げているがイジメる相手次第では喜々としてやる。特にベッドの上では。

 ヴァンデンバーグ君と同じ匂いがする釣り目の子供。邪魔にならない分、ヴァンデンバーグ君よりかはマシだが睨まれて受け流すよりもやり返すのが好きなボクだから見逃さずにやってやろう。

 

 

「子供には手を出さんのが大人だろう。子供とは未来、我等が守るべき尊い存在なのだ」

 

「躾けるのも大人の仕事です」

 

 

 取り敢えず挨拶変わりに子供のホッペをペチペチと叩いてみる。無駄に速く動いて後ろに回る無駄な技術を披露しながら。

 あー、あったあった。と思い出す。昔はよくエヴァンジェリンに瞬間移動されて後ろから首筋を噛まれて血を吸われた事がよくあったものだ。いきなり後ろに来られると無駄に恐怖を感じるのだ。

 

 まあ、そんな事は置いておいて。釣り目の子供のホッペを叩きつつ、今度は餅を捏ねるように引っ張ってみる。やる事は子供だが子供相手なら大丈夫。

 

 

「おー。流石はガキ。柔らかい」

 

「あんまりイジメるのはよしてくれんか。そんなナリでも妾の可愛いボディガードの一人なんじゃ」

 

 

 離れ(ryとか聞こえた気がしたが気のせいだ。

 それにしてもこんな子供がボディガードね。見た目によらぬ実力の持ち主なのだろうか。ナギ君やらロリババアにショタジジイまでいるのだから十分に有り得る。

 姿を欺くのが最も恐ろしい武器だと考えるボクが最も知っている。見た目の弱さが釣り合うとは限らないのが一番怖い。良い例が妖怪とかだ。美しい女性の中身が化け物とかザラにある。

 馬鹿な……ここまで巧妙に気配を隠せるのだろうか。この子供、実は化け物なのか!? である。

 

 

「此奴はヴァンデンバーグ捜査官の弟子に当たる子だ。戦災孤児でヴァンデンバーグ捜査官が保護責任者として彼を育てている。青山殿の弟子に近い立場じゃ」

 

「あー、あの眼鏡退魔師ね。警備しているはずだけどどこにいるの?」

 

 

 表立って警備を引き受けたマジメガネ君はさっきから見えないのだが。戦うのも彼に任せようかと思ったのに。

 

 

「詠春は残党狩りをしています」

 

 

 通信用のアーティファクトで連絡を取るアルビレオ。相手は青山詠春らしい。

 ちょっと集中して耳を澄ませてみれば遠くから物音、轟音やらが聞こえてくる。青山詠春が暴れているのだとしたらその音の発生源だろう。まだ残党がいるのか。

 少し協力しよう。京都好きのエヴァンジェリンのご機嫌を取る為に青山詠春に橋渡しをしてもらおう。

 

 

「それじゃあね」

 

 

 これ以上引き伸ばしても時間の無駄になる。ヴァンデンバーグ君以下ウザったい連中と同じ場所にいるのも嫌だ。空高く浮かぶ会談場所から飛び降りて立ち去る事にした。

 下で戦っている青山詠春を見つけるとそのまま参戦するのだった。

 

 

 

 

 

 





 えーしゅんはチラチラ、裏方。裏で賊を片付けるイケメン。

 色々と独自設定暴露。アルビレオが造物主を知るのは長生きしてるからと大暴論。魔法世界の神様なんだから知っておいても不思議じゃないよね。




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起きる


 イベント多発。ついでにお久しぶりです。

 ガンダムDX取れたので初心者脱退でよろしいか?


 だけどごめんな。来週はいっぱいゲームが出るからまた遅れるんだ。クソ。発売前に終わらせようとしたのに……え? 今から毎日更新?






 

 

 

 

 

 チッ。シケてやがる。

 

 想像していたものよりも悪い出来に思わず悪態を付くが本当に最悪としか言えない。目標の数にも達していない事に舌打ちしてしまった。

 皮袋に小さな球体を入れる。丸薬とも言えるアイテムなのだがこれだけの数だと大きな不安が残る。ポーション等の回復アイテムだけは多くても困る事はない。ロールプレイングゲームでも常にストックだけは確保してる派でエリクサーも惜しみなく使う派閥だ。

 

 

「ごめんな。これも自然の摂理ってモンだ。まあ、先にボクを餌として見て襲い掛かったのが悪い。だからボクは悪くない」

 

 

 キリッ。キメ顔で言ってみる。実際に正当防衛なので犯罪にはならぬ。

 返り討ちにはしたものの、殺してはいない。血の気の多い奴や英雄志望は問答無用で殺るだろうが殺れば勿体無く感じる。ただでさえ数が少ないのに減らすと補給源を失う。

 多分、魔法世界と旧世界のどこを探してもこれが最高の回復アイテムだと思うんだが。偶然人外同士で気が合って同種からその情報を得たから知っているだけで運が良かった。

 

 秘密裏に契約を交わした後はボクも彼女等も姿を消している。風の噂だと前の会談から追っ手が増えたらしく、アラルブラの連中と共に逃走しているそうだ。捕まる寸前だったと聞いている。

 あれから一度も彼女等と接触していないからか、彼女等はボクを探しながらコズモ・エンテレケイアの支部というか末端組織の基地やら拠点を潰しているらしい。何も知らない人が見るとただのテロリストじゃねーか。

 アラルブラはテロリスト認定されてメガロに手配されてるそうだ。コズモ・エンテレケイアの秘密を教えてしまったから危険分子(・・・・)と見なされているからだろうと考えられる。何かボクのせいでごめんなさい。

 

 まあ、教えてくれって言われたから悪くない。うん。

 

 

「ひーふーみーの……18か」

 

 

 できれば30とか99が良かったが効能を考えれば普通の人間なら2でもいいんだがボクとしてはまだ足りない。相手が相手だからねぇ。

 そろそろ最後に備えてエヴァンジェリンの家にある装備も取りに行かないと。最強装備のない勇者が魔王に戦いを挑むのはマゾではないボクは嫌だ。タイムアタックをする猛者でもあるまいし。

 造物主の存在を知ってから長い時を使って用意したものがほとんどだ。腐らせるのは勿体無い。

 

 自分の服の中にそのアイテムを放り投げる。アルビレオに言われたように服の内部の布の裏に転移魔法の魔法陣を刻み込んである。そうすれば服の中身に小型ブラックホールを作れ、別の場所に繋がるホワイトホールを作って別空間の倉庫というロマンの完成だ。

 エヴァンジェリンの元に行くのもあれば自分専用の空間もある。エヴァンジェリンの方は取り出せば居所を掴まれてそうなので怖いから最近は触れていない。

 最強装備は全部別の空間でその(魔法陣)はエヴァンジェリンの別荘の中。浮気現場を見た時に取っておけば良かった。今はもう病んでるだろあの子。怖過ぎて会いに行けない。

 だが、帰るとしてもエヴァンジェリンの力は絶対に必要になるので必ず会いに行く必要が出てくるので会わなければならないんだが恐怖を克服しなければ。

 

 

「うあー」

 

 

 あー、生かさず殺さずは骨が折れる。力が強すぎると逆に手加減が難しくなるので慎重にしないと、を心掛けているので手間が更に増える。

 背伸びをすればゴキゴキと背骨が軋む。思う存分に力を振るえないと逆に疲れが募って変な疲労感が身体に貯まる。まるで日曜日のパパのようだと感じたが、曾曾曾曾祖父さんってレベルじゃない年齢の自分だと当たり前か。

 嗚呼、まだまだアイテム稼ぎという収集は終わらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ぬ」

 

 

 ブブブブと携帯のマナーモードのような振動が服に伝わる。人ゴミの中にいるので少し離れた場所へ行き、人気のない場所で振動している物を取り出した。服の内から引っ張り出すようにニュルと飛び出す。

 手に取れば仕舞っていた時よりも振動が更に手に伝わる。ハンマーで固い物を殴ってビリビリする感じの振動に手が痺れそうだ。

 おうわ。振動し過ぎてブレてるじゃないか。

 

 

「これ……まさか共鳴しているのか?」

 

 

 振動と一緒に淡い光を放っている。ファンタジーの回復魔法の緑色の粒子っぽい感じでかなり毒々しい。

 この杖が振動しているとなると原因は元の樹か。世界樹に何か異変が起きていると考えるのが正しい。わざわざ白く塗ってあるからか緑の色が綺麗に映える。

 

 それにしてもこれはマズイ。共鳴しているかどうかはともかくとして杖自体の魔力が溢れ出しているではないか。これでは魔法使いには即バレする。

 ほぼ反射的に咄嗟に。白い杖に手を翳して魔力を行使。溢れ出た魔力も再利用するように魔法陣を編む。魔力が溢れ出ないように蓋を作る魔法を発動させる。

 世界樹の枝を無断で拝借して作り上げたエヴァンジェリン命名マスターロッド。合計七本存在しているが、内六本はエヴァンジェリンの別荘にあるので所謂切り札や奥の手は使えない。

 精々、魔法強化の恩恵しか得られない気がする。魔力が膨大なボクだからこそ言える事で普通の魔法使いなら国宝級のマジックアイテムになるのは間違いない。最強種の吸血鬼の内包魔力と比べると烏滸がましいとしか言えない。

 

 

「ちょいと調べてみるか」

 

 

 何故マスターロッドが共鳴しているのか。世界樹に何があったのか。帰る手段の大きな要因だから万全を期したい。

 何か不具合があるのなら直さなければ。世界樹のある麻帆良学園はメガロメセンブリアの傘下にある事を考えると世界樹を軍事利用しているのではないかと考えてしまう。世界樹のマナ、魔力は人間のそれとは別次元だから戦いに使えるのならばこれ以上ない戦力になるだろう。

 ほんっっっっとに碌な事をせんなあの馬鹿共は。魔法世界も勝手に進出して勝手に占拠しているのに何であんな大きな顔ができるんだろうかって毎回不思議に思うよ。自分は選ばれているのだと勘違いしているのかと思えば頭が痛い連中だ。

 悪役の小物に相応しい奴等なんだが殺してもなぁ。後始末が面倒だ。

 

 うむ。やっぱり皆殺しにしてアリカ様に放り投げよう。今の内に媚を売っておけば恩赦で無罪放免してくれるだろう。

 

 取り敢えず世界樹のある麻帆良学園に行くとしよう。どこを経由するかが問題だが戦時中は数箇所の転送ポートが封鎖されているので慎重にしなければ。

 転送ポートを跨いで奇襲は過去にあったらしいのでそこを警戒して警備がいる可能性は大だ。

 かといって旧世界に繋がるゲートを使えばエヴァンジェリンにバレる。八方塞がりというかなんというか。

 

 

「さーて……も゛っ!?」

 

 

 エヴァンジェリンに感知されるゲートを使うよりも共鳴する杖と世界樹を橋渡しにして転移する事ができたので面倒なルートを通らずに済んだ。

 いきなり目の前に現れるのは予想できたので驚かないぞと思った矢先にこれである。変な声が出てしまった。

 

 真っ先の感想を言えばナニコレ。だ。世界樹がお怒りになっているのだろうか。

 

 大きな樹から杖と同じ粒子が溢れ、幻想的な景色を作り出しているが緑が毒々しくて世界樹が毒を撒き散らしているのではないかと心配になる。

 麻帆良学園に訪れると同時にマスターロッドが更に共鳴率を上げて凄まじい振動をしている。女の子に当てればすぐに昇天ゲフゲフ。

 あー、最近は戦争だのなんだので娼婦ちゃんは皆“戦う英雄さん”に取られたから少々溜まってるからなぁ。娼婦ちゃんとヤる為にわざわざ志願した兵士までいる位だからな。無料でヤるんだからクソだよな。

 娼婦ちゃんも嫌がっているって噂を聞いてる。戦争中だからどんなプレイもお咎めなしってアホもいるからね。やはり戦争は早急に止めるべきか。エヴァンジェリンはまだ怖いから無理。

 

 

「……あ。あっあー! そうかそうか“排出期間”か! 忘れてた忘れてた!」

 

 

 言い方があれだが世界樹の内部に貯まるマナを一気に放出するタイミングが今回と重なったのだ。麻帆良学園はその事を世界樹の発光と言うらしいが詳しい事は知らなさそうだ。

 マナを放出するという事は辺り一帯を“浄化”する事と同じだ。しかも高密度の魔力を身に受ける事と同意義だから魔力を持つ者は魔力酔いをし、持たぬ者は体に障害を抱える可能性を孕む。

 後ろを振り向けばお祭り気分の麻帆良学園一同。一般学生もいるのは知っているから危険性は承知ではないようだ。世界樹だからって知名度だけで人寄せをするなんてなぁ。何と言えばいいのやら。

 

 フフフ。だがフフフ。思わぬ収穫である。ラッキーである。

 実は世界樹のマナというのは吹き溜まりがある場所だと結晶化するのだ。結晶というよりも飴玉に近い形状の回復アイテムになる期間限定のレアアイテムになるのだ! チマチマと集めていた物よりも高性能な物が!

 世界樹の葉。もしくは世界樹のマナ。人間の魔法使いが持つ魔力の上位補正であるマナがあれば限界値を越えて魔力が回復する効果が見込まれる。まだ研究段階なので詳しい事はわからずだが、期待はできる。

 格好良い名前を付けるのならユグドラシルの秘薬といったところか。世界樹の葉っぱを磨り潰して丸薬にすれば飲みやすいし回復手段にもなる。味は我慢すればメリットは大きいだろう。

 

 

「世界樹サマ世界樹サマ。貴方様のお恵みをボクにお与えくださいませ……なーんてな」

 

 

 世界樹には世界樹が生まれた事で生まれる自我が成長して精霊になるとよく設定上あるがこの麻帆良の世界樹は精霊がいるのかどうかは微妙なところだ。

 いるのならいるで教えてくれたら嬉しいんだが。膨大な魔力を内包する世界樹の精霊の事だ。時間を超える魔法に必要な魔力も知識も蓄えていそうだ。会えるんなら会いたいもんだよ全く。

 

 パンパンと手を鳴らして拝む。お仏様だかわかんないけど罰当たりにならないように拝んでおく。

 マナの光を浴びて杖は充電する。電気ではなく魔力を回復させているがマスターロッドが世界樹から生み出されたとはいえ、回復量にスピードが凄まじい。回復機能アリのセーブポイントか何かか世界樹は。

 悔やまれるのは一本だけだということか。全てに活性化した世界樹のマナを充電できれば造物主と戦わずとも家に帰れるだけの魔力は溜められたはずなんだが。アリカ様との約束もあるから世界を見捨てるわけにもいかんか。後を追い掛けられて魔力とか資源を奪われるSF展開も嫌だし。

 エヴァンジェリンとボクの他世界、異世界理論はどこかに通じる穴が存在する。この場合はこの世界とボクのいた世界の通り道の事だ。ただ通るだけなら考えられるだけの魔力より少ないもので大丈夫なんだが、ある事も考慮すれば更に必要になる。

 トンネルを想像すれば説明も容易い。帰還する魔法はトンネルと同じ構想を使って通り道を作るように設計してあり、更にトンネルの片側に“蓋”を設置するか魔法を使った後はトンネルを自壊させるか。どちらにせよその労力に魔力を奪われる。だからこそ膨大、無限とも言える魔力が必要なのだ。

 

 造物主に会うのはその魔法の効率化の助言もしくは膨大な魔力の確保手段を問うため。エヴァンジェリンやボクも頑張ってそれを考えたけど行き詰まったから造物主に頼る事になったわけだ。

 エヴァンジェリンは反対するけど媚を売れば危険性はないと思う。敵対行為はしていないだろうし。今は微妙だが。

 

 

「……うぷっ」

 

 

 というかはよ溜まれ。魔力酔いする。マナだから濃度もヤバイんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コホン。“炎、焔、焰。踊り狂いたまへ。憎しみたる狂宴の原初――”……めんど。燃え盛れ」

 

 

 杖で地面を叩けば足元を中心に炎の渦が舞い上がる。来ている服と短く切り揃えた髪の毛が煽られて揺らぐ。取り敢えず暑苦しい。

 もう一度杖で地面を叩くと炎の渦が消え去る。軽い気持ちで実験してみれば予想以上の威力が出て驚いた。世界樹のマナを受けたマスターロッドの媒体は更に強化されているようである。もうマスターロッドではなく神杖ユグドラシルでいいんじゃないかな?

 世界樹にはユグドラシルの別名があるからな。別に不思議でも何でもないだろう。

 

 

「こりゃ凄いねぇ。大魔王様ごっこを越えてるよ」

 

 

 まさに燃える天空ではない……紅き焔だ。が杖だけでできるわけだ。自分だけでもできるけどね。

 

 

「で。何でいるわけ?」

 

「気合だ」

 

 

 キラーンと鬱陶しい歯の白さに反射する光。あまりにも爽やかな笑顔に殴りたくなる気分になるが堪える。

 褐色肌の大男。半裸とも言える奇抜的な原始人ファッション。ジャック・ラカンが何故か隣にいる。

 

 

「よくわかったね。細心の注意を払ったのに」

 

「本当の事を言えば偶然だ。俺様にできない事はねえと言いたいがお前さんは俺様以上だから見つけにくい」

 

「偶然って怖いよねー」

 

 

 いや、本当に。運も実力の内とか言うが流石は奴隷剣闘士の英雄。関係ないかもしれないが幸運としか言い様のない偶然だ。

 百年以上も逃げれて隠れられているボクを見つけるのだからかなりの運の持ち主なんだと決めつけておく。け、決してマスターロッドが強化されて浮かれて油断したわけじゃないんだからな!

 

 

「そういえば王女と皇女誘拐疑惑のテロリストさんは最近どう?」

 

「絶好調だぜ。ナギの野郎と競える材料ができて満足だ」

 

「ふーん。アリカ様は元気? こっちはこっちで準備していたから会いに行けなかったけど調子はどう?」

 

「じゃじゃ馬姫さんなら相変わらずナギを引っぱたいてるよ。何かとお前さんを引き合いに出すから恨まれてるぞ」

 

「何でそんな事になってんの!?」

 

 

 本当になんでだよ。評価してくれるのは嬉しいが恨みを買うのはどうなのだろうか。アリアドネーの童貞諸君ならまだしも厄介なナギ君の恨みを買ってるとはどういう事なのだ。

 

 

「やー。あの坊主、子供ながら姫さんに恋してるんだよ。まあ、大人の余裕で大目に見てやれ」

 

「ゲイの君なら気にしてないだろうけどあんなヤンチャなクソガキを相手にするのはアリカ様でも釣り合わん。そもそも体だけの関係ならまだしもウェスペルタティアの王女って時点で地雷物件だぞ彼女」

 

「おいおいアンちゃん。俺様はゲイじゃねぇ。まだケツも貫かれてねーよ」

 

 

 ホモにウケがありそうな体をしてるくせに。というかまだってなんだまだって。ゲイの気があるのか貴様は。

 ジャック・ラカン、まあラカンと呼ばせてもらおう。ラカンにも言ったようにお姫様とヤるのはいいが結婚とかになればすぐに逃げるぞボク。セフレならいいが彼女とか深い関係はノーセンキューってこった。これならまだ犯罪者のエヴァンジェリンがマシだ。

 エヴァンジェリンは恩人だし、何だかんだで色々許してくれるから好きだ。前はどこかの貴族の令嬢で立場的ならアリカ様が上だが滅びる運命のウェスペルタティアだからねぇ。そこが一番の理由だ。

 

 

「というかお前、それをナギには言うなよ。ブチ切れるぞ多分」

 

「はいはい口止め料口止め料」

 

「オッホ。この業界長いから経験あるな。フヘヘヘヘ。ありがたくもらっておくぜ」

 

「大事に飲んでよ」

 

 

 中身は普通のワインを献上した。どうせ言うと思うが腐りかけのワインの処分ができるからいいだろう。ワインが腐らないように魔法をかけているが失敗作だもんなこれ。エヴァンジェリンのワガママでワイン作りにも手を出したがイマイチといったところだ。

 人には得手不得手があるのに何でもできると思い込んでいるエヴァンジェリンには参った参った。執事たる初歩はマスターしてるボクが言うのもだけどね。

 

 ゲスい笑いとゲスい笑顔でワインボトルを持つラカン。完全に悪役のような振る舞いだ。もっと言えば悪徳お代官様? 時代劇の越後屋とお代官様みたいなやり取りする時の笑い方してるよコイツ。

 貢いで黙らせるけど酔えば口を滑らせそうだな。見た目的に。そうなるとナギ君を相手にせにゃならんのか。

 

 

「ところでだ」

 

「ん?」

 

「お前さん、暇か?」

 

「んー、暇と問われれば微妙。万全に万全を期すならまだ動く必要があるけど」

 

「少しは休んだらどうだ? 体をぶっ壊すぞ」

 

「……何か嫌な予感がするんだけど聞かない方がいい?」

 

 

 ぬふふふと笑うラカンに馴れ馴れしく肩に手を回され、地平線の彼方を指差す。何ぞこれ。どこかの熱血漫画のワンシーンか?

 

 

「ならば俺様達が目指すのは桃源郷! おねーちゃん達の楽園だ!!」

 

 

 ……要は大人のお店ですか。

 

 唐突に出たその言葉に呆れて表情が消え失せる。多分、クソを見る目をしてるだろう。ラカンを見る目線が自分でもわかる。

 

 

「え。何でそんな結論に至ったの?」

 

「伝説の性技の魔法使いが目の前にいるんだ。それなら女の口説き落とし方を教わるのが筋ってモンだろうが!」

 

「オイ待てコラ。正義の呼び方が別のニュアンスだっただろ」

 

「ブワハハハハ! アリアドネーのお堅い騎士を喰いに喰いまくった伝説の男は巷では性技の魔法使いだなんて言われてんだよ! えーしゅんとかお堅い奴等とはお前さんの方が美味い酒の肴にできて飲めるってモンだ!」

 

 

 あ。この人は変態ですね(察し)

 

 仲間扱いされるのは嫌だが似たような感じだからしょうがないか。変態仲間ができて何よりです。ホモかと思えば普通の女大好き変態さんで安心した。ケツを狙われる心配もないのでなお安心である。

 性技か。寝技とも呼べるニュアンスの方ですか。エロ技を使う魔法使いとかエロゲかよ。ボクはエロゲの主人公じゃないぞ。

 

 ……いや。案外エロゲの主人公してるな。うん。

 

 

「さーて! そうと決まればどっかの酒場で飲み交わすか! エロ雑談で盛り上がるぜ!」

 

「指名手配の身で戯言をほざけるな己は」

 

「追っ手が来りゃ返り討ちにすりゃいいんだよ。なんならどっちが多く倒せるか勝負するか? ん?」

 

 

 うわー。めんどくさい奴だなコイツ。

 

 

 

 

 

 

 

 





 時系列的にはアリカとテオドラは捕まってるけど捕獲部隊を詠春とボコしたのでアラルブラと同行中。その最中に22年前の世界樹の発光が起きているっぽいので挟んでみた。要は武器強化フラグ。

 テイルズで言う魔装備が真の力を発揮した! 的な。殺した数とか倒した数はカンストしているので最強状態。デザインはまだ内緒。参考にしているのがあるので後々に。

 そして変態連盟結成。ラカンは元々オープンスケベな性格なのでこんな感じ。実際は油断させる為かもしれないけどね。織田信長かコイツは。


 ちょいと閑話を挟んで最終決戦まで持ち込み。それからはアリカ様を女王に仕立て上げて後日談。






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盛る


 お待たせ。お待たせ。お待たせ。パソコン壊れて思うように執筆できんかった。すまんの。

 ちょっと見ぬ内にまたハーメルン内の小説が混沌化してるじゃまいか。







 

 

 

 

 

 

「いらっしゃい。何を飲むんだ?」

 

 

 いかにもと酒場のマスター風の男が厳つい声で話し掛けてくる。ピクリと眉が動くのを確認できたが隣の褐色エロは酒のボトルに気を取られて些細な変化に気付かない。

 

 

「旅で疲れてるんだ。“ダブルボンバー”と“トリプルブレンド”を頼みたい。そうだな、後はマスターの今日のオススメをお願いできるかな? ちなみに彼はツレ」

 

「おっ? いきなり強いのを飲むのか。中々冒険するな」

 

「注文は以上か?」

 

「あ。後は少し摘める物を」

 

「了解だ。奥の部屋を使え」

 

「感謝するよマスター」

 

 

 酒を飲もうと待ち構えるラカンを引き摺って奥の部屋、カーテンで仕切られた間に行く。大男を下回る男が引き摺るのを見て驚いたのがいるがここは魔法の世界だろうが。別に不思議でも何ともないはずだが?

 シャッとカーテンを横にズラし、中の様子を伺う。少し洒落た感じの部屋に自分で歩き始めたラカンがヒューと口笛を吹いて中の様子に感動を感じているようだ。

 

 

「ホッホー。中々いい場所知ってんじゃねーか。もしかして常連か? ダブルとかトリプルとか普通は頼まんだろ」

 

「あー、まあ。酒豪とかは普通に飲むけど。魔力を回復するのに気分を落ち着かせる事が多いからね。オッサンとかはそれで回復する事もあるよ」

 

 

 魔法世界らしく酒に魔力が回復する作用のある小物を入れる場合も多い。炭酸割りやら水割りのアクセントにそれを入れるのが習わしと認識している。

 ボンバーは中量の魔力回復にブレンドは気の回復と思ってもらえれば。とラカンに説明をしたがそんな事より酒を寄越せと宣う。クソめ。折角の説明をそんな事呼ばわりか。

 

 

「実はここ、犯罪者御用達のバーだったりすんのよ」

 

「マジか」

 

「完全に悪いのは極僅かだけどメガロメセンブリアの連中に睨まれてるのはここを知っているのが多いかな? 冤罪とか多いからここに逃げ込むのは多いよ。特に亜人奴隷は。お、来た来た。噂をすれば」

 

 

 亜人の人間寄りの女性が飲み物を持ってくる。ボクを見るとキャーと嬉しそうに抱き着いてくるもんだから話の雰囲気をぶった斬られた気分だ。

 ケッとやさぐれるラカンが酒を持つのを見て抱き着いてくる女性を膝に座らせつつもラカンに彼女を向き合わせる。背中の空いたデザインの制服とかエロ過ぎてムラムラしてきた。

 

 

「紹介するよ。今は絶滅した種族の最後の生き残りの子だ。色々とあってボクが保護してここのバーで働かせている」

 

「ケッ。流石は性技の魔法使い様ですこと。女を侍らせるのは得意ってか? アアン?」

 

「羨ましい? 大丈夫大丈夫。ここにはラカンみたいな逞しい男が好きって子もいるから。後で指名して相手してもらいなよ。ボクの奢り」

 

「ハーッハッハッハ! 流石は俺様の盟友!」

 

 

 うわ。ドン引きだよこの手の平返し。目先の利益があれば誰でも飛び付くんだねぇ。特にエロは野郎は逆らえんな。エロは偉大なりって自論はやはり正しかったか。

 傾国美女って存在はやはり最強か。エヴァンジェリンもそれに入るだろうしエロに釣られたボクもそんな思春期中学生のお子ちゃまだ。野郎の性はいつまでも直せないモンなのさ。

 エロい笑いをするラカンをどうしても冷めた目で見てしまうのはチョロ過ぎる思考に呆れたからだろうか。

 

 

「助かったぜ。今まで溜まってたんだがお子ちゃまはいるわ姫さんもいるわで発散する機会がなかったんだわ。えーしゅんもえーしゅんでお堅いからな。行けんかった」

 

「ぶっちゃけ世界が危機に瀕してるのに女を抱く方が異常だと思う」

 

 

 すると気が触れたのかバンバンバンとテーブルを叩き始めるラカン。

 

 

「バカ野郎! スッキリしなければ全力が出せないだろうが! 下手に溜まれば股間から攻撃ができてしまうだろうが!」

 

「ぶっかけか」

 

 

 見るだけ見るならダイナミック射○だろそれ。口からビームを吐く人間よりも酷いぞその光景は。

 ラカンの言う事もわからなくはないが発散するだけなら他の方法もあるだろうに。女を抱くよりも気に入らないアホを攻めるとか責めるとか。言葉責めをするのが楽しい発散方法だと思います。

 

 

「同性愛好者なんかおのれは。オカマもいるけどそっちにしようか? 喜んで掘られるし掘ってくれるよ?」

 

「ぶっ殺すぞ!」

 

 

 見た目のせいでイメージが固定される。ガチムチホモって最もらしいイメージが。

 

 

「取り敢えずここはボクの奢り。マスターにはもう言ってあるから暫しの休息を楽しんだら? じゃあ手が空いてる子カモーン」

 

 

 昔の戦国武将のように手を叩いて呼び込む。これだけでわかるのだから訓練されている人は凄いと感動する。昔は色々と理不尽だから学べない事も学べるんだろうな、と人間の強さも捨てたもんじゃないと思う。

 元人間のボクが言うと嫌味に聞こえるけど。

 

 

「前に保護した多種多様の子がいるから。マスターはあのマスターだけど経営者的ポジションはボクね」

 

「旦那様スキー」

「ステキーダイテー」

 

「タラシめが!!」

 

 

 再びラカンに怒鳴られた。はて、何故だろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「礼を言うよマスター」

 

「気になさらず。ここで経営できるのもあなたのお陰ですから。これぐらいの事は喜んで引き受けます」

 

 

 前には銀弾貰って火傷した事があるドジは忘れているんかマスター。

 シリンダーに弾を入れ、テーブルに弾が立つように取り出す。ズレないように慎重に持ち上げてその並びを固定する。魔法という便利なものがあるので小道具を使わなくともその並びを記憶させる事も可能だ。

 並びを固定させると別空間に入れて保存する。リロードの手間を省く事を考えるとこの作業に行き着く。いやー、魔法って超便利。

 

 

「売り上げとかは問題ない? 資金不足なら援助するけど」

 

「問題ありません。クレームを引っ掛ける客からいくらか慰謝料をいただいておりますので余裕もあります。ですが、銃弾の密輸は大変です」

 

「勘弁してよ。旧世界にも渡れない現状に銃弾の確保も難しいの。最近は追っ手も増えてるから」

 

 

 どうやってボクを見つけてるんだって毎回不思議に思ってる。おかげさまで物資だけを減らす毎日だよ全く。

 愚痴りながらも手を止めないのは何度も繰り返した事で染み付いた慣れの影響だ。朝起きて歯を磨くレベルに日常になってるよ。やる事は非日常レベルだが。銃弾を込める作業が日常なのは戦時中とか映画の中だけでいいんだよ。

 マスターと会話をしながらシリンダーに銃弾を入れる作業がまだ終わらないお。近況を聞く事があるから時間を有効的に使えるから五分五分だ。一介のバーのマスターの枠に収まらない超エリート情報屋だから今の状況をしっかりと把握できる。

 

 

「彼、ジャック・ラカンですよね。紅き翼(アラルブラ)がまだ追われてるのに呑気なものです」

 

「まあまあ。野郎には発散しなければならない時があるんだよ。一時の休息だと思えば良い響きに聞こえるじゃん? 多分ナニもでけーからあの子等も満足するでしょ」

 

「娼婦じゃないんですがね」

 

「セックス中毒だからしょうがないね。精液採取すれば元気になるから逞しい野郎と楽しむのが人生さ」

 

 

 こんな時代だからセックスに対する常識が違う。現代だと捕まる発言をしつつ、タバコを咥えて喫煙をする。色々駄目人間に成り果ててるなぁ、ボク。完全にエロゲ悪役ポジションじゃないか。

 奴隷とか娼婦とかが一番儲かるんだから世も末だ。やはりエロは世界を動かすか……!

 吸血鬼の聴力でちょいちょい下衆いラカンの声と女の喘ぎ声が聞こえてくるには我慢するしかないのか。随分楽しんでいるようで何よりだが、いつまでヤるつもりだあの筋肉ダルマは。

 

 

「まだ終わんねぇなアレ。防音しておくから暫く放置しておいてくれ」

 

「出禁にしますか」

 

「やめとけ。ああいうのは搾り取る道具にするのが効率がいいんだよ。騙しておくからラカンの対応は任せて」

 

 

 ガリガリと頭を掻くしかない。どんだけ溜まってるんだか、と呆れるしかない。ボクも我慢していた時期があったがあれではサカる猿ではないか。後でお願い事を聞いておこう。不憫っぽく感じる。

 軽く咥えたままプフーとタバコの紫煙を吐く。吸殻を灰皿に捨てながら酒を飲む行為をすると、ギャング映画のようだと思う。マフィアやギャングがいそうなバーの景色も相まって秘密の会談をしているようではないか。

 ふむ。どんだけボッたくろうか。

 仕事があるので、とマスターがいなくなると一人だけになる。残った酒を飲んだりタバコを吸ったりとラカンとは別に一時の休息を楽しむ。

 

 ああ^~落ち着くんじゃあ~。

 

 だるーん。と木製のテーブルに腕を伸ばしてだらける。最近は本当に落ち着ける時間がなかったからなー。今の内に休んでおこう。

 タバコを吸い切ると新しいのをとはならない。吸殻を灰皿に捨て切ると余った一発の銃弾を立ててクルクル回しながら遊ぶ。指で弾いたらどれだけのスピードが出るのだろうかとどうでもいい事も考えながら。

 

 

「ああー、久々にスッキリしたぜ」

 

「あ。終わった? おい貴様。ここはヌードバーじゃねーんだぞ。後臭いからシャワー浴びて来い。んで着替えろ」

 

「フヘヘヘ。気持ちいもんだぜおねーちゃんはよ。別嬪さんだから余計にな!」

 

 

 ビキビキと青筋が立つのがわかる。素っ裸丸出しの褐色筋肉ダルマが隠す事もなくヌラヌラと光るイチモツを揺らしながら立っているラカンに苛立ちを感じる。洗えよ、汚い。吸血鬼の嗅覚もあって、交わった他人の臭いが気分を更に悪くさせる。

 やりきった感を出すから余計に。テメー、そのグロいイチモツを切り取ってやろうか。

 

 

「いいから体を洗えアホ。このバーの評判を下げる気か」

 

「俺様はよ。シャワーじゃなくて滝で豪快に浴びなければ気が済まん……ふおおおっ!?」

 

 

 ラカンの悲鳴と同時にガウンと甲高い音が響く。必死に避けるラカンの後ろの壁には煙を上げながら穴がある。ボクの手にはその原因である拳銃が握られている。

 いっけね。ついぶっぱしちまったぜ。なかった事にするように懐に拳銃を隠してラカンを指差した。

 

 

「いいから体を洗えアホ。このバーの評判を下げる気か」

 

「なかった事にしやがった!」

 

 

 戦慄するように叫ぶラカンだった。そこは流せよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 あー、少し寒くなったなーとウォッカを飲みながら思う。まあ、裸に下半身シーツ隠しだと余計に寒くなるんだけどね。

 

 

「やっぱり旦那様上手ー」

 

「ありがとねー」

 

 

 甘えてくる子を撫でて宥める。あー、やっぱりおっぱいはええわ。柔らかいし。

 ラカンの相手をご苦労様と言えば普通の自然な流れでセックスになったのはよくわからないが、相手をした子は嬉しそうなので置いておく。後は発散できてボクもスッキリ。エヴァンジェリンが怒りそうだ。

 ラカンはもう帰った。スッキリしたから次は暴れてスッキリするわと脳筋発言をして。何というかただのスケベ親父だったな、アイツ。

 

 ラカンは帰ったが、戦争はまだ終わらない。こちらも上手く立ち回らないといけないが暫くはまだアラルブラの、ナギ君やアリカ様に暴れてもらおう。

 順当に行けばアリカ様は団結力を増やす為に自分の国をクーデターで乗っ取るだろう。あくまでも予想だが、一番確率は高い。アホなボクでもそうするからだ。ぶっちゃけ王様になる方が戦力は簡単に手に入れられるし。

 問題はそのクーデターをいつ起こすか、そのタイミングだ。まだ犯罪者のアラルブラがウェスペルタティアに戻れば殺されるのがオチだ。もう少しコズモ・エンテレケイアの拠点を潰してからか? そのタイミングで参戦しますか。

 大方の準備は済んでいるから休息を取って一気に攻めるのがいいだろう。今はおっぱいに埋もれて寝るんだ。

 

 

「やんっ。旦那様甘えんぼー」

 

「おっぱい嫌いな男はいない。眠たいから暫くはこうさせて」

 

「はーい」

 

 

 ぎゅーっとおっぱいに顔を埋めるように抱き寄せると、目を閉じて眠る態勢を取る。

 夢を見る事はよくある。今も昔も恋しいボクの時代の夢を。オカンとオトンに彼女。幸せで平和な世界での暮らしが恋しいようだ。エヴァンジェリンを選ばなかった、選べなかった原因がそれだ。

 まだエヴァンジェリンとは喧嘩別れしたままだ。喧嘩したまま別れるのは後味が悪い。時期を見て仲直りする努力をしよう。結婚を迫られたりしたら全力で逃げるけど。

 

 

「……ん? ねえ、何か変な臭いがするんだけど君?」

 

「え? 私じゃないと思います」

 

 

 スンスンと鼻を動かしてみれば妙な臭いがするのがわかる。これは、残り香か?

 名残惜しいが彼女から離れるとスンスンと鼻を動かして臭いが感じる場所を探す。犬みたいだと思いながらも吸血鬼の並外れた嗅覚には何度も驚かされる。

 えーっと……ここか。

 

 

「ここ、触った?」

 

「いえ。だけどあの男の人がコソコソしているのは見ました」

 

 

 臭いが残っている。一番強い場所で変な臭いも混ざっている。だが、こんな場所にラカンの臭いが残っているのはどうも解せぬ。

 その場所はボクが所持品を纏めて置いてある場所だからだ。そこから導かれる答えにまさかと思い、徹底的に調べようと引っ繰り返す勢いで調べ始める。引き出しを引き、棚に置いてある物品の数を確認したりと。

 

 ……!? ないっ! あれが、ないっ!

 

 拳銃はある。予備のマガジンの銃弾もある。その他にも常備しているものはあるのだが、どうもあれだけがない。

 マズイ。盗まれたとしたら一大事だ。特にコズモ・エンテレケイアの手に渡ると、厄介以上に厄介な事になる。そこから齎されるのはパンドラの絶望に勝るとも限らない。

 ないないないないない。あの手帳が! しかも魔法の真髄の巻が! 適当な名前だが中身は今までの吸血鬼の歴史と共に築き上げたものだから知られるわけにはいかないのにっ!

 

 

「あんのクソ筋肉ダルマめぇぇぇぇぇ!!」

 

 

 きゃあ、と彼女が驚く。思わず壁を蹴って穴を開けてしまう。ラカンの勝ち誇ったような、やりきった顔が浮かんで媚びり付いてくるのでイライラ感は更に倍増になる。

 マスター以下、全員が止めに来るまで暴れる事になるのであった。

 

 

「クソダルマ! 死ね死ね死ねぇ!」

 

「旦那様落ち着いてー」

「壊れちゃうよー」

「よーしよしよし」

 

「だ、旦那。落ち着いてくだせぇ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 え? ホモネタ? ラカンの裸姦を見れたからセーフ。アウトじゃないもん。ヌラヌラと光る聳え立つバベルの塔なんてセーフセーフ。

 これが終わったら別の変態オリ主の小説書くんだ……。次はドMな。





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助ける


 スマンスマン。書いてて投稿するのを忘れてた。では、おやすみなさい。

 …φ(:3」∠)_





 

 

 

 

 

 

 

 ぶっころリストにジャック・ラカンの名前を加えた後はサーチする。そしてデストロイ。ぶっころぶっころ!

 お尋ね者になっているが本気を出して探し出して殺してやる。イチモツを切り落として角にしてやる。ホモ楽園に放り投げてやる。オカマバーに放り投げてやるぅ。

 

 

「だからって邪魔するのはよくないと思うんだが」

 

 

 ダダダダ、ガガガガ。喧しい音が耳を叩く中、背中にも衝撃が伝わってくる。壁に寄り掛かって座り込んでいるが、未だにそれは止みそうにない。

 こんな経験は第二次世界大戦に冷戦以来の経験だ。銃弾が飛び交う戦場に身を置くのも久し振りだが、何度も経験すると実在の兵士が精神を病む事になりそうだ。吸血鬼になってからはそういった事に耐性ができているが慣れたくない。

 回転式拳銃(リボルバー)のシリンダーをズラして銃弾の数を調べる。フルの六発で問題はない。ソードオフショットガンも確認すれば問題はない。アサルトライフルでもあれば楽にできたのだが、倉庫は使えないからこれだけだ。

 

 何でこうなったのか。まあ、わかっているが狙われ過ぎにも程がある。しかも攫われているとはどういう事だあやつ等。仕事くらいはしっかりしろよ。

 ピンと音がしたので少しだけ身を乗り出して音の発生源を撃ち抜く。手榴弾を使おうとする奴がいたので暴発させてあげた。ハリウッドのスーパースパイでもこれはできぬだろう。

 素知らぬ顔で阿鼻叫喚の敵の声を聞きながら発砲の音を聞き、敵の居所を掴む。普通の人間にはできないだろうが、聴力と嗅覚を駆使すればこれぐらいは容易い。音波を発してイルカとか蝙蝠のように反響ソナー方法はできない事はないが気が散る。後はこの場所だと魔力が使いにくい。

 

 いくらなんでも銃撃が魔法使いに有効的とはいえ、弾幕をここまで張らなくともいいだろうに。戦争中でも鳴り止まない銃撃はあんまりないんだぞ。音が継続するとは何たる事か。

 いつ仕掛けるべきか。あんまり早過ぎると蜂の巣になる。死なんけど。

 

 

「悪しき吸血鬼に死を!」

 

 

 また悪者扱いか。吸血鬼イコール悪って考えはどこまで浸透しているんだか。あー、歯向かったから殺される運命が決まってしまうなんて。

 

 殺そうとするからには殺され(ry

 

 大方の位置は掴めた。攻勢に出ますか――!

 床を蹴り、壁を蹴り。縦横無尽に駆け抜ける感じで飛び出すと映画の如くスロー演出を心掛けるように引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふん。遅いでは――む」

 

「おお! 助けが――ぴぃ!」

 

「案外余裕だなアンタ等。何で捕まってんだ」

 

 

 熱を持つ銃身のリボルバーのシリンダーを出して空の銃弾を落として新しく補填する。意外と多かったな、敵。

 リロードしながら捕まっているアリカ様とテオドラの部屋に入ると案外余裕そうな二人がいる。別に助けに来なくてもよかったんじゃないか?

 

 風の噂で二人が誘拐されたと聞いたので変な迷宮に助けに来た。アラルブラと行動を共にする二人を助ける方がラカンに近付けるチャンスも増えるというものだ。そしてボコボコにしてやるんだ、あのダルマ。

 懐のホルスターにリボルバーを仕舞うと、二人を拘束している手錠を見つける。一定の場所に留まらせる認識障害系の一種の結界魔法か。

 

 

「ちょいと失礼」

 

 

 バキッと手錠を握り潰して二人を解放させる。特にトラップもないので簡単に破壊できたのはよかった。余計なトラップがあれば破壊した人間を呪う事もありえるのでなくて助かった。

 手錠を外した後に手首を摩る仕草をするアリカ様は少し痩せているように思える。碌に食べ物も与えなかったのか誘拐犯共は。

 馬鹿め。スラッとした体型がいいと言うのは童貞だけだ。非童貞なら少し太って肉付きがいいのが最高の女というものなのだ。食事を抜かすとは言語道断だクソめ。

 

 

「すまん。助かった」

 

「契約したからこれくらいはね。それよか何で捕まったんだ? 優秀なボディガードは仕事を放棄したの?」

 

「ふむ。どうやら幻術に長けた魔法使いがいたようでな。気が付けば捕まっておった」

 

「ゼクト君とかアルビレオはどうしたんだ? あの二人なら見抜けるだけの技量はあるだろうに」

 

「別の仕事をしておらんかった」

 

「あの退魔師は?」

 

「悩殺されておった」

 

「ラカンは?」

 

「外で暴れておったぞ」

 

「……ナギ君は?」

 

「単調故に簡単に騙されおった」

 

「ええぇぇぇぇぇぇ」

 

 

 絶句するしかない。というか呆れるしかない。肝心な場所で役立たずだなアイツ等。

 淡々と話すアリカ様は失望したという感情を醸し出している。そりゃ、世界最強の集団だと思えばこれだもんな。しょうがないね。

 ……え? ガキ? 初めから期待なんかしてませんよ。

 

 

「あー、うん。あー。どうする?」

 

「其方に任せよう」

 

 

 警備は全滅させたから危険はないと思うが、増援が来る事は間違いなさそうだ。ここに放置していると別の場所に移されそうだ。今度はこんなヘマがないように警備も強化するだろうし……連れ出すしか選択肢はないのか。

 むむむ、と唸る。アリカ様とテオドラを連れ出す事で生じるメリットとデメリットを考えてみる。

 

 

「な、なんでこっちを見るんじゃあ!」

 

 

 デメリットその一。テオドラが五月蝿い。毎回これだと心労が溜まるというもの。アリカ様はまだ静かで頭も良いから助けになるが。まだ子供のテオドラだと環境の変化に対応しきれない場合もあり得る。

 メリットその一。アリカ様の王女としての人脈と力。テオドラの皇族としての人脈。後に賞金首手配を解除させるのにも恩を売るのもいいかもしれない。

 

 

「取り敢えずここから出ますか」

 

「うむ」

 

 

 ……何故自然な流れでボクに手を出すのですかアリカ様。すぐに引っ込めてちょっと恥ずかしそうにしているけど癖なの? 王族特有の癖か何かなの? エスコートしろとの御達しなの?

 少し居所が悪そうに手をもじもじさせる彼女はギャップ萌えインパクトをしているが、ほぼ日常的な行為だったようである。反射的に動いてしまったようだ。

 

 

「す、すまない」

 

「んー……どうぞお姫様。エスコートさせていただきます」

 

「うっ……本当にすまない」

 

「いえいえ。王族をエスコートする貴重な経験ができますので」

 

 

 正しいエスコートなんざ知らんが。ドエスコートという名の露出調教ぐらいしか……ゲフンゲフン。

 わからないので適当に肘を曲げて腕を差し出す。花嫁をエスコートする父親みたいだが年齢的にはセーフセーフ。アリカ様がおずおずと手を差し込んできたので多分正解だろう。付き合ってくれただけかもしれないとも考えられる。

 

 

「王族はエスコートした事はないのか?」

 

「そんな経験があれば今の状況にはなってませんね。王族の側近とかだったらここまで悪評は広まらないでしょう……というより、エスコートの仕方はこれでよろしいので?」

 

「エスコートの仕方は人それぞれだ。それに妾達は対等の契約を交わした。もう少し砕けた喋り方で砕けた態度で構わんぞ。妾の口調は染み付いておるのでな。このままで許してくれ」

 

「かしこまりましたアリカ様――ではなく、アリカでよろし?」

 

「うむ」

 

 

 満足したように頷くアリカ様もとい、アリカ。ここまでテオドラは空気である。完全に怯えているので話にならず、アリカに任せようという魂胆なわけで。

 何となくテオドラに手を差し伸べて掴ませようとしてみたが、怖がって後ろに下がるばかり。そんなにボクが怖いのか。ひぃひぃと泣きべそを言ってる。早く逃げないとヤバイんだけどなぁ。

 

 

「彼女を説得してアリカ。早く逃げないと追っ手が来るんだけど」

 

「任された……だが、其方がもう少し良い子でいればこうはならなかったのではないか?」

 

「冤罪だ冤罪。女の子とはヤりまくったけどそこまで残虐じゃないよボク。寧ろ紳士の鑑なんだぞ」

 

 

 身の覚えがない事までボクのせいにするアホはアホで最悪だと思うんだ。エヴァンジェリンよりも残虐最低下劣になっているのは野郎の僻みに決まっているはずだ。

 呆れた目を向けてくるアリカはまるで信じていないようである。それでもテオドラを慰める事はしてくれるようだ。

 スンスン、からクンクン、と鼻を動かして臭いを嗅いでみる。探知能力だけはクソなので臭いと音で探知する事が得意だ。今までも大体の確率で敵は感知できるし、確認の意味合いも含めて警戒してみた。

 が。見た目以上に広い迷宮に迷宮内の臭いだけしか嗅げなかった。外までは調べる事はできず、ふぅと鼻から溜め息を吐いた。

 

 

「待たせたな」

 

「え。はやっ」

 

 

 驚いてはみるものの、腕だけは体だけが動いてアリカに差し出していた。ボクは王族直属の召使いかなんかか。

 腕を組むアリカ、アリカと怯えながらも手を繋ぐテオドラ。デコボコトリオみたいな見てくれだなこれ。親子なら真ん中がテオドラだ。

 

 

「行きましょうか。転移魔法は使えますが、ここだと座標が安定しないので一旦外に出ましょう」

 

「ふむ。まあ、仕方があるまい。ここでは様々なアーティファクトの波動が混ざり合って魔力の操作を困難にさせておるからな。いくら大魔法使いでも難しいからの」

 

 

 いや。発動は楽にできるんだが、転移先の座標が安定しないから使わないだけだ。いしのなかにいるとかってオチだけは勘弁願いたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで何故そんな野蛮な武器を使っておるのだ?」

 

 

 テクテクとエスコートしていると、夜の迷宮の出口付近で慣れたっぽいテオドラが話し掛けてきた。間にアリカがいるが話す気にはなったようだ。

 野蛮な武器というと拳銃か。ちょうどコートの盛り上がっている部分を指差しているので間違いはない。

 

 

「マテバだったか?」

 

 

 え。何で知ってんの? アリカがこれを知っているのは驚いたが世に出ていない試作品なのにマニアでしかわからないと思う。造形でマテバ社の作品だとわかるとは……アリカも目を持っているな。

 ルガーとかも好きだがこの独特的なデザインはマテバのリボルバーが好きだ。威力も高いし殺傷力もあるし。吸血鬼の膂力で反動を抑えられるから魔法使い殺しにはもってこいである。

 

 魔法使い熟練者は剣士タイプの戦士の攻撃を防ぐ為に物理障壁を使う。ファンタジー世界のブロードソードとかミスリルソードの斬撃も熟練次第で簡単に防げる。

 それを魔力無しでぶち抜く為に選んだのは人類最強の兵器である銃器。デザインも多種多様なので好みが人それぞれに出てくる。その中で選んだのがリボルバー銃のマテバ社の作品である。あの独特的なデザインがたまらん。

 今ある銃器で使い慣れているのはこのマテバリボルバーで、もう一丁は片手で持てるショットガンのソードオフショットガン。化け物退治でお馴染みの武器の二丁持ちがボクのスタイルである。

 

 

「魔法を使わないで魔法使いを殺す……いやいや、倒すのに一番いいのはこれ。このデザインを選んだのは趣味と実用性から。拳銃には色々あるけどリボルバーのマグナム弾を使用するタイプが一番ぶっ殺せるんです」

 

「ひぃ!」

 

「え?」

 

「物騒な発言はやめんか」

 

「ん? ……あ、あー。ぶっ殺す発言ね。ゴメンゴメン」

 

 

 涙目になるテオドラをあやすアリカ。もうこの二人って姉妹でいいんじゃないの?

 

 二人に言ったようにマグナム弾は魔法使いの物理障壁を貫くのに最も適している。もっと詳しく言えば一撃で物理障壁を壊せるのが、だが。

 アサルトライフルの弾でも壊せない事はないが、魔法の物理障壁は厄介な性能を持っていて同じ部分への衝撃は緩和する事が多い。弾に弾をぶつけて守りを突破するというトンデモ現象は効果が薄かったりする……というのが見立てだがぶっちゃけ弱点とかよくわからん。性質も魔法使いの物理障壁とか魔力の質で変化するもの。

 衝撃に強かったり、斬撃に強かったりと多種多様だ。魔法障壁というものも存在するが物理障壁と似てるので性能は似たり寄ったりだったりもする。属性防御というものもあるので物理障壁よりも魔法障壁の方が応用性があるのだ。まさにロマン溢れる魔法。

 

 

「このリボルバーは少し改造を施していますんで魔法使い対策にはこれ以上ない選択です。よければ撃ちます?」

 

「い、いらんわ!」

 

「妾は少し興味がある」

 

 

 お馴染みのベレッタ、グロック。海外ドラマとかならどっちかを使いそうなデザインをしている拳銃をホルスター入りで見せてみる。まだ過去だから前の性能なのかね、と思う。

 テオドラは嫌がるが、アリカは意外と乗り気である。ホルスターに入ったままの拳銃を手に取って抜いてみたりとかなり興味津々のようだ。

 

 

「あ。それ、弾は入ってませんので」

 

「む」

 

「素人に持たせたら怖いんで。一度戦争中の新兵が遊び半分で遊んでたらッパーンて事があったんで」

 

 

 これはマジ。戦争に参加して偉い階級になって新兵訓練してたらマジ殺された経歴があるから素人には渡さないように心に決めている。新兵訓練には慣れているから本気で学びたい時だけ教えるつもりだ。

 何か不満そうにしているけど勘弁してくれよ。もう脳みそぶちまける経験なんぞ二度としたくないんだよ。墓穴に埋められて暗闇で怖かったんだぞホントに。

 

 

「何で生きとるんじゃ其方は……」

 

「棺桶に入れられた時に再生した。脳みそが吹っ飛んだから時間が掛かって掛かって。脳みその一部が消えて記憶の一部も消えて取り戻すのにも時間が必要だった。目ぇ、覚めたら戦争が激化して普通の人間としてのスキルを鍛えるのに苦労した」

 

 

 CQBとかを習ったのはこの時期だ。一兵士として戦場を駆け抜けたのもつい最近に思える。あの頃は遊び気分で参加したが、後になるとPTSDになりかけた。FPS戦争ゲーみたいに気軽に殺すと欝になるもんよ。

 吸血鬼としての感覚の鋭さが拾うのか、怨念の声が渦巻いて完全な闇の眷族に引き摺り込もうとしてくるのも懐かしい。問題なく飲み込んだせいでマギア・エレベアの刻印が広がって魔王ファッションみたいになりかけている。隠せないものもあって腹の臍を中心として渦巻いているのが消えない。

 服で上手く隠しているがペロンと捲れば丸見えになる。

 

 

「あっ」

 

「む?」

 

「ぬおっ」

 

「ゴメンゴメン。そこ、トラップ。解除するから二歩下がって」

 

 

 腕組みを解除をしてゴソゴソと服の中、魔法陣に手を突っ込む。アリカとテオドラと会った時に着ていたローブなので何をしているかは二人にもわかるはずだ。

 ど、れ、に、し、よ、う、か、な、っと。こんな時の為に魔法無しで魔法トラップを破壊する手段をいくつか用意してある。型月のルールブレイカーなる短刀やらもあるが、これにしようか。

 ぬっと手を引っこ抜いて目的の物を少し格好良く取り出してみる。多分、映画とかならスロー演出が入る。

 

 

「はいバーン」

 

 

 音としてはプシュと気が抜ける音だが。サイレンサー、サプレッサーと呼ばれる銃声を可能な限り無くす小道具を装着した拳銃を説明もなしにぶっぱした。

 皿を床に落として割れた音が響くとトラップが壊れる。用が済んだので懐の魔法陣に収納して仕舞う。

 

 

「おけ。行きましょうか」

 

「な、何をしたのか教えてくれてもいいんじゃないかの!?」

 

「バーン。パキーン」

 

「わかるか!!」

 

 

 擬音に加えて手振りも見せたのにわからぬとは何たる事か。ウガーと子供らしく怒るテオドラに説明しても無駄そうだ。撃って、壊れましたと教えてやったのに。

 

 

「ふむ。もしやその消音器に何か仕掛けがあるのか?」

 

「……ご名答。サプレッサーにマジックキャンセルの術式を刻んで弾が射出されると魔法として発動し、魔弾となるのだよ――!」

 

「欲しい。くれ」

 

「料金ガ、発生シマス」

 

「布教、実用、鑑賞の三つで言い値で買う」

 

 

 ……このアリカの中身、実は現代人なんじゃないんだろうかと疑り始める。完全にオタクの買い方じゃないか。実用って誰かを撃つつもりかこのお姫様は。

 後はだな。この拳銃は二丁しかないのだよ。某マリモのように三刀流ならぬ三丁持ちなんてできぬぞ。作れと言われても作れるのはもう死んじゃったし。ここまで見事な改造はボクには無理です。

 

 

「せ、戦争が終わればボクのコレクションから少しあげますから勘弁してください」

 

 

 そう言うと凄い嬉しそうな顔をするクールビューティー。はいはい、ギャップ萌えギャップ萌え(震え声)

 夜の迷宮を脱出するのに凄まじく時間が掛かったのは言うまでもない。追っ手がいないだけでまだマシと言うべきなのか何というか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 取り敢えず新しいのを書き始めたこの頃。今回のプロットは変態鬼畜(自称)オリ主さんをお送りしましたが、次は『意中のあの人を射止めるには手段を選ばないヒロイン一同』をテーマに頑張ります。

 ペルソナ4でやります(宣伝)

 大丈夫。溜めといてこのネギまが終わるまではやらんから。終わらせるから安心してね。



 俺、これが書き終わったら人物紹介とどんでん返し後日談を書くんだ……(フラグ)





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動き出す


 書いてたのに投稿を忘れる作者のクソ。

 そろそろ終わりなんで作者のマイページの活動報告で色々報告します。暇な人は見てね。忘れてしまうかもしれんけどな!!

 ぺ、ペルソナ書く時にイエスノーでキャラ設定を決めたいからってわけじゃないからね!






 

 

 

 

 

 料理人たる者、料理を美味しいと言ってもらえる事が幸せだと言う。だがそんな言葉を考えた馬鹿はどこだ。全然嬉しく思えねーぞ。

 無言で皿を差し出す口を汚したアリカ。お気に召したのか、太る勢いで何杯も頼んでくる。隣では上品に味わうように食事をするテオドラが。何でこんなに馴染んでるんだこのお姫様コンビは。

 

 

「おかわり」

 

「空です」

 

 

 寸胴の鍋の中身を見せてみる。ずっと食べるから無くなるのは当たり前だろうに。貴様等王族だからって好きなだけ何でも食べられると思ってんじゃねーぞ。

 塩味のラーメンを参考にしてあっさり系のスープを作ってみたが、お気に召されたようだ。というかボクの分まで食べ尽くすとはどういう事か。

 

 お姫様コンビを助け出してから同居生活を少しだけ過ごした。エヴァンジェリン相手に料理の腕を磨いていたので王族の舌に合う味で満足されたがそのまま料理当番になってしまった。付け加えれば家事担当。

 あの二人は仕事をしていないというかただの読書しかしてない。いや、時には集めたコズモ・エンテレケイアの情報を見て作戦を練ったりしているがニートしてる。

 

 

「お姫さん方。いい加減に食うのをやめて皿を洗え……いや、やめとく。ニートせずに何かして働け」

 

「情報を纏めておるぞ」

 

「もうボクが纏めてるんだけど。勝手に自分の手柄みたいに言わないでくれる?」

 

 

 こうなると全然仕事してないな。皿洗いを任せると割られるし。一人旅用に少ない最低限の食器しかないのに割られると二人の分まで賄うのは難しいんですけど。

 皿洗いも面倒だな、と思いながら二人の綺麗に食べた皿を取り上げて魔法で洗う。水を浮かせて球体を作り、中に放り込んで洗濯機のように洗う。これだけでも高速洗浄で大分綺麗になる。そろそろ洗剤とか出ないかねぇ。過去はこんなところで不便である。

 一拍置いてデザートをくれと宣うテオドラ。己、あれほど怖い怖いと怯えてたくせに胃袋を掴まれるとホイホイ許す売女か。

 

 

「それにしてもまだ動かんのう。あやつ等、妾達の事を忘れておらんか? 特に筋肉バカは遊んでおらんか?」

 

「……え? 無事な事は知らせてないの? ボクと一緒にいる事も伝えてないの?」

 

「夜の迷宮に攫われた時に通信手段を奪われての。連絡したくともできん」

 

「妾も似たようなものじゃ。アルビレオにフィリウス殿には連絡したが出てこん」

 

「だからのんびりしてるのか己等は。もう少し危機感を持って行動しろよ。仮にも王族と皇族の王位継承者だろうに。行方不明なだけでボクの罪状が増えるだろうが」

 

「飯が美味い。無罪」

 

「家事万能。無罪」

 

「ふざけてんのかテメー等」

 

「家来になれば漏れなく無罪判決に加えてVIP待遇。宰相としても迎える事も考えよう」

 

「ウェスペルタティアは好みの女性を与えよう。一夫多妻制だから好きに結婚しても構わんぞ」

 

 

 家来になり――ハッ。危ない危ない。

 

 勧誘を挟んでくる二人。不自然なタイミングのはずなのに自然に思えるのは二人の技術が卓越しているからか。

 もう少し別のシチュエーションなら可能性はあっただろうに。まあ、エヴァンジェリンの誘いを断っているから付き合いの浅い二人の勧誘は肯定として返事はしないけどね。

 

 

「一昨日来やがれ。そもそもボクは一匹狼タイプなんだ。エヴァンジェリンならまだしも君等じゃ、望みはこれっぽっちもないよ」

 

 

 洗った皿を熱風で乾かし、布巾で綺麗に拭きながらそう教える。エヴァンジェリンの熱烈な誘いを断って元の世界に戻る事を選んだんだから。

 

 

「というかほら。これ貸してあげるから連絡を取りなさい。食うだけ食う生活もそろそろ終わり。というか帰れ」

 

「有罪」

 

「有罪」

 

 

 二人揃って有罪判決を下しやがる。先程の無罪はどうなったんだ無罪は。逆転裁判も真っ青な逆転判決だよこれ。

 嗚呼、まだこれは居座る気だなこれ。

 

 肩が落ちそうになるのを堪えながら昔の日本の偉い人が使ってそうな巻物を広げ、洗った食器を全て置く。巻物にはローブにも使われる転移魔法の術式があり、食器を仕舞える仕組みになっている。

 ローブには入れないのかって? 戦闘中にフライパンとか取り出して鈍器にするのか? 血の染み付いたフライパンで料理はしたくない。

 

 

「御馳走様でした。じゃあ仕事をしなさい」

 

「仕事がない」

 

「妾はまだ子供じゃ」

 

「終いには犯すぞ貴様等」

 

「犯されるのはいやじゃあー! 妾は有能な者としか結婚はせん……む。そういえば優秀ではないかの?」

 

 

 え゛。なに急にビッチ発言をしてるの? 金持ちの男ならホイホイ股を開くクソビッチの発言そのものではないかね? ま、まさかの褐色人外ロリビッチ!? 新開拓のネタになりそうだ。

 ブツブツと呟き始めるテオドラに恐々としながら巻物を綺麗に巻いて木箱に入れてから容量的に入りそうにないローブの内側にニュルンと仕舞う。木箱に入れれば手触りで違うとわかるし。

 家事用に空間を分けているから間違う事はないんだけどね。思い描けば欲しい物は取り出せるように魔法を改良してあるもの。

 

 

「ところで其方の“友人”はまだ戻らんのか?」

 

「まあ。あれ、仮にも普通の動物だからね? 動物に好かれるから協力してもらってるのであって下僕でもなんでもないんだぜ? 見つからないようにとは言ってるからまだ時間は必要だよ」

 

 

 あれを普通の動物と言っていいかはまた別だが。魔法世界の動物だから普通とは言い難い部分もある。魔法の恩恵か吸血鬼化の恩恵か、動物とかと何となくそれとなく会話ができるのだ。

 こうなのよーと言えば理解でき、何を伝えたいのか何となくわかる感じ。今回は鷹さんにお手伝いしてもらっているわけなのである。昔も鷹を飼って偵察するのもいたからこの方法は限りなく正解に近い偵察方法、情報収集法だと思うんだ。

 ウェスペルタティア王国、アラルブラの所在。それを中心に調べるように頼んであるから仲間がいたとしてもまだ時間は必要だろう。

 

 

「これ。そろそろ主の所蔵の続きを見せてくれんかの? 暇でしょうがないのじゃ」

 

「はいさようなら」

 

 

 裸で放り出されないだけ慈悲を与えたと思え。隠れている住居から締め出すように蹴り出すと、テオドラは面白いように転がっていった。恐怖がなくなったかと思えばこの態度である。腹が立つにも程がある。

 まあ、テオドラが望んだのはヤバイ書物。所謂、歴史の闇にうもれた歴史の真実とも言える物語をモチーフに時代の反逆者が記した禁書だ。面白い物語が好きらしい。

 あれだ。ガリレオの地動説を参考にした物語に近い。現代の真実を過去の人間が記して囁かな反逆を行ったという感じか。中には現代で真実だと信じられたものが実は当時の人間が捏造した嘘の真実だったりする事が多いのでそれがツボに来るのだ。

 革命を起こそうと魔法使いが介入したパターンがあり、時代の英雄がオンリーワンの魔法を作っていたりするので収集対象にもなる。エヴァンジェリンもかなりの数を集めている。

 

 すまんのじゃーと扉を叩くテオドラは無視して音もシャットする。アリカが入れようとしていたが、眼力で黙らせる。エヴァンジェリンをも恐れさせたゲス顔からのゲス目は悪人真っ青だぜ。

 鍵のついでにチェーンもしておいて。ちなみにここは数多ある隠れ家の一つで現代風のマンションの一室をイメージしております。魔法ってマジ便利。

 ダイオラマ魔法球にも入れられるように設計してあるのでお手頃なお値段で買えるようにしてる。後で似たような物を量産して荒稼ぎしよう。

 

 

「これからどうするつもりじゃ? 其方の計画も一応、聞いておきたい」

 

「あー、そういえばまだ話してないっけ? 鷹が戻るまではちゃんとした道は決められないけど予定としてはアリカの考えるようにクーデターを支援するのは決めてる。その後はコズモ・エンテレケイアの動きに合わせて少しずつ潰して追い詰める……と言えば格好良いんだが本当はコズモ・エンテレケイアのボスの造物主と交渉の場を設けようとしてるんだよね」

 

「裏切るつもりか?」

 

「やるならとっくにやってる。君等を助けた事から裏切りの心配はないよ……とは言い切れないね。悪い魔法使いだもの、簡単に最悪のタイミングで裏切るかもしれん」

 

「むぅ。それは困る。其方は最高の友人で最高の戦力だ。手放したくはない。やはり体で繋ぎ留める必要があるか?」

 

「セックスすんの? 王族セックスがどんなのかは知らないけどボクは抱けるんならいつでもバッチコーイ」

 

 

 バッと手を広げて誘ってみる。アリカと面識を持った甲斐があるというもので、今すぐにでも抱き心地を味わいたいというもの。というかヤらせろ。

 

 

「妾の体は安くない」

 

「っえー。前とは違ってかなり強かになってるね。前なんか嫌そうに体を隠して恥ずかしがってたじゃん」

 

「堂々とする方が確実だろうに。其方は強姦魔と呼ばれているが、こうして付き合ってみれば無理矢理はしない奴だとわかった。ギリギリで交渉すれば大丈夫だと判断した」

 

 

 ね、ネタばらしするほど余裕があるようで。というかボクってそんなに甘ちゃんなのか!?

 

 

「それに約束はしたからな。戦争が終われば妾の体でも何でも捧げよう。妻にでも愛人にでもなってやろう」

 

「言質取りました。妻にはならんでいいけど気が済むまで王女の体を貪らせていただきます」

 

 

 ふ、ふへへ、ふへへへへへ。色んなところを開発してやろうじゃないか。ボクなしでは生きていけない体にしてやる……と言いたいが、世界を越える魔法を開発すると捨てる事になるんだよねぇ。完全にクズ男じゃないか。

 王女様って愚民とは違って美味いものを食らい、美貌を保つ為に高級エステ以上の超高級エステの専属がいるらしい。後は血筋。先祖が綺麗どころが多いから生まれる子孫が綺麗になるのは確率的に高い。

 不細工が生まれる事もあるが、そんなのは性悪悪役令嬢が出るフィクションだけだ。今までの歴史でウェスペルタティアの王女に不細工はいない。

 

 畜生。遠目から見て警戒するよりも捕まるの覚悟でルパンダイブすればよかった。過去の王女にもアリカに並ぶ美女とか美少女がいたのに。寝取るのもよかったかもしれん。そしてこのボクが、ウェスペルタティアの王に成り代わるのだ。的な流れでもよかった。

 ウェスペルタティアの魔法は古代の魔法に分類されてるとはいえ、今の普及している魔法と比べても効率的にも優秀であるのは間違いない。王族の仲間入りをすればそれも簡単に見れるはずだから少し惜しい事をしたか、と思う。

 

 

「ふむ。聞けば噂の真相を知る過去の者は其方に抱かれると天国を感じられると供述しておる。疲れも吹き飛び、魔法を容易く使えるようになるそうだな」

 

「え。それは言い過ぎじゃない?」

 

 

 魔法の契約は性交をすると契約の効果が増すオプションがある。仮契約《パクティオー》もキスでやる暗黙の了解があるのもそれを知ってるから。異性同士での仮契約は婚約の契の始まりだの言われるのもこれが原因だな。時々、同性でキスするのもいるがボクはホモじゃない。百合なら歓迎だが薔薇は勘弁。

 別にキスをする必要もないのだが、仮契約はキスってのが普通になってるし。伝説の始まりのアマテルとその従者が悪いよこうなったのは。

 というか昔にヤった子等は何という事を言っているのだ。ストレスを解消できたから余計な事を考える必要が無くなって精神に作用する魔法が使いやすくなるのは当然だろうに。ラカンもフィーバーしてんじゃん。

 

 ……あ。ラカンといえば。

 

 

「ねえねえ。そういえばラカンの事を聞きたいんだけどさ。こう、これくらいのサイズの手帳を持ってなかった? ボクから盗んだ物なんだけど」

 

「……むぅ。何やらアルビレオとゼクト殿と雑談しておったな。普段はあそこまで盛り上がらないはずなのにやけに盛り上がっておったのはそれかもしれんな。大事な物なのか?」

 

「ボクの魔法の歴史……の、ネタ本」

 

「は?」

 

「いや。こう、魔が差してイタズラする事があるでしょ? 真面目に研究するのが疲れて息抜きに遊びでそんな魔法を作るの。それを全部まとめたの。できるなら早く返してもらいたいんだが」

 

 

 殺してでも うばいとる 。

 

 ラカンは許さん。殺す。

 

 

「? ネタと言うなら早くなくてもよいと思うが」

 

「何を言ってんの。“ネタ”だからヤバイんでしょうが。ネタでは済まないレベルのも含まれてるの」

 

 

 シリアスブレイカーという意味合いでもヤバイ。ネタの範疇に入らない実用性でもヤバイレベルの魔法もあるのだ。エヴァンジェリンも呆れるほどに。

 もし、高位の魔法使いがそれを読んでしまえばネタに隠れた大魔法を知ってしまう。アルビレオとゼクト君がそれを見てるとなれば非常にマズイ。クソ、ラカンめ。

 

 

「大部分は頭に入ってる。だからこそ内容が知られるのは嫌なんだ。戦争の火種になりそうなのもあるから」

 

「確かにの。悪の魔法使い殿が今までに培ったものならそれくらいは可能か……」

 

「呑気に言える君が羨ましいよ」

 

 

 あの盗人が盗まなければこんな悩みはする事はなかったのに。厳重に仕舞わなかったボクも悪いけどいきなり盗むとは誰も思わないだろう。

 他の手帳を取られないだけまだマシなんだが、エヴァンジェリンにも誰かに渡る事だけは避けろと言われたのに許してしまうとは自分を許せん。早急に取り返さないと世界がネタに包み込まれる。

 

 

「そんなわけだからあのアホ見つけたら取り返して欲しいんだけど」

 

「ふむ。それくらいは容易い。任せよ」

 

「愛してるアリカ様」

 

「愛を囁くのであればもう少しシチュエーションを考えるのだな」

 

「お礼の意味合いだよ。本気で口説いてるならもう股を開いてるぜ? ボクのナンパテクなめんなよ?」

 

 

 きっかけがあると記憶は呼び覚まされる。どこかのコピペでこの流れがあったようななかったようなと段々と近付く生まれた時代に思いを馳せた。

 股がグチョグチョと続けようとするがアリカは余裕そうに笑う。やりこまれているなと感じながら取り敢えずプリンセスおっぱいを揉む事にした。

 

 

「あ。手が滑った」

 

 

 バチコーンとビンタを食らうイメージをするが、アリカの反応は予想に反するものだった。

 

 

「ほう? 妾の体は安くないと言ったな? これは是が非とも言う事を聞いてもらわねば。ふっふっふっふ」

 

「許してください。何でもしますから」

 

 

 アリカの悪巧みするような顔に圧倒されてホモ展開になりそうなセリフが自然と口から出てしまった。

 ん? と続くはずのシチュエーションはネタを知らぬはずのアリカは面白いものを見つけたとばかりに目を輝かせるのがわかる。ふ、ふざけんな! ボクは襲う方であって襲われる方ではないんだ!

 襲われるとかいった事はなく、アリカの計画発動に伴って最大限の協力をする事で手を打つ事になった。

 

 ――クーデター。何とも心が躍る単語だろうか。

 

 

 

 

 

 

 





 満更でもない二人。というよりも悪い人かと思えば虚勢を張る小物ワルっぽい性格であると見抜いたので遊んでいるだけです。王女様は高スペック。はっきりわかんだね。

 というわけで盗まれたのはネタ本。真夜中のテンションで書き殴る小説のように狂乱した状態で作った魔法の全てが記されているのでこのオリ主は危惧しております。エヴァンジェリンからの危険指定されるレベルの大魔法もあるので早急に取り戻したいと考えております。シリアスがシリアル()になる危険性も孕んでおります故。

 次回からはクーデターから始まり、烈戦争終結に向ける最終決戦に向けての準備。




 ――そして、遂に後回しにしていた修羅が目覚める(修羅場)





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奮い立つ


 私事ですが、アンケートしております。活動報告にて。時間がある人は協力してもらえるとそれだけ完結が早くなると思います(すぐに終わるとは言ってない)

 地獄の釜が開く――!






 

 

 

 

 

 必要のない殺生はするな――というのがシンプルな願いかつ指示。

 アラルブラと合流する事に成功したボク等は以前から計画していたアリカのクーデター騒ぎに協力する事になり、アラルブラと共同戦線を張る事になった。

 ラカン(バカ)も見つかり、ネタ帳も取り返せた。ガチムチ♂の写真集でも作って社会的に殺してやろうかと考えたが戦争が終わるまで辛抱しろとテオドラの一声があり、大人しくする事にした。テオドラの言う事を聞く理由はないが新しい契約でレア物のアーティファクトを貰う代わりにクーデターの間だけはある程度の命令は聞くようにしている。

 クソ。このレア物が悪いんだ。テオドラのワガママに付き合うのはただの地獄だ。

 

 

「このネタ帳なんですが、少々お聞きしたい事がありまして」

 

「ワシも聞きたい」

 

「オイコラ。どこで手に入れたそれ」

 

「ジャックの持ってきた手帳を写しての。興味深いものもあるが理解ができんものが多い。故に研究しがいがあるというものじゃ」

 

「燃やせ。人の物を勝手に写してるんじゃねーよ」

 

 

 が。更なる不幸が訪れた。ラカンに奪われていた手帳の中身を余す事なく別の手帳に写していたのだ。それも完璧にやってるので誤魔化す部分も誤魔化せない。

 マジかー。よくよく考えたらネタとはいえ魔法の宝庫とも表現できるこれを見たら魔法使いなら誰でも見たがるわな。寧ろこの二人で助かったと考えるべきなのだろうか。

 

 グダグダと余計な事を考えながらウェスペルタティアの首都、オスティアにある王城を見上げる。アラルブラの連中と駄弁りつつ、別働隊のアリカの合図を待つ。あっちにはナギ君やラカンに退魔師の青山がいるからどうとでもなる。頼むから前みたいなヘマだけはしないでくれよと思わずにはいられない。

 こっちの陽動兼制圧部隊はボクを含めて暴れない常識人(?)組。もう少し付け加えれば手加減上手の手段を持つ武闘派が選ばれたわけだ。青山クンは残念ながらバカ二人のストッパーのようです。

 アルビレオだのゼクト君はやらないのかと問えば至極簡単で簡潔な答えをもらった。

 

 

「ワシ、前の当番終わっとるし」

 

「買収して詠春に任せました」

 

 

 お前は相変わらずだなとアルビレオに言う。それほどでも、の反応が腹立つ。

 今回は当番はアルビレオだったが、アルビレオの策略によって青山君が生贄になったのだろう。南無南無ご愁傷様。後でお酒でもあげれば喜ぶかね?

 殺さずに生かす。魔法を使うのも手段の一つに数えられるが今回はオーソドックスにこれで眠らせよう。クーデターが終わればアリカが手配した兵隊が完全鎮圧する予定なので目覚めた頃にはもう終わっている。仕事なしでゴメンネー。

 こちらは第二次世界大戦を生き抜いた兵士の一人だ。一回死んだのはノーカン。暗殺術やら尋問術に拷問術までマスターしてる。殺さずに生かして無力化するのは某諜報機関の方々に教わった身としては今回のミッションはうってつけであろう。

 できるなら偉大なボス蛇さんに教わりたかったがあの人は仮想上の存在なので欲張りはしないよ。

 

 

「あのアホは他の誰かにもそれを見せたの?」

 

「いや、わからんわからんと言いながら読んでおったのをワシが見つけて没収したから多分見ておらんだろ。コッチは狙いすましたように向かってきおったわ」

 

「どうも」

 

 

 そんな照れた様子をしても誤魔化されんぞ。絶対面白そうな気配がしたから来ました的なニュアンスだろ。敏感なのはよくわかっているぞボクは。

 

 

「じゃあ君等を黙らせればあれが世に出る事はないって解釈でいいかね?」

 

 

 ザワザワと空気が一変するのが肌でわかる。にこやかだがにこやかに込められた感情は真反対の物騒なものではあるが。

 殺気が張り詰めた空気に変わると、アルビレオとゼクト君はすぐに反撃できるように態勢を整える。しかし、この一瞬があればもう十分なレベルにいるのがこの場にいるアラルブラだからこその単純な作業。

 

 

「これは渡してもらう」

 

「! いつの間に!」

 

「伊達に世界最強は謳われていないからね……うーわ。ここまでよく見事に写したもんだよ君等は。けど人の物を無断で写すのはよくないと思わない? というわけで焼却」

 

 

 人間、平常から臨戦態勢に移る瞬間に意識をスイッチする。つまりは別の所に意識を移すとか何とやらの人間の脳のどうたらこうたらである。エヴァンジェリンはミスディレクションに近いものであると言っていた。

 僅かな隙を狙い、自分に向いた意識を利用して影の魔法で素早く後ろから模写したであろう手帳やら巻物を奪ったわけだ。中身を流し読みをすればそれはもう、完璧に手帳の中身を書き写している。殴り書きの自分と違って彼等の考察もいくつか書き込まれてある。

 非道なボクは無常にもこれを燃やしてしまいます。魔法で起こした火が跡形もなく焼き尽くして綺麗に消え去る。

 

 

「何という事をしたんじゃお主は」

 

「いやいや。中身を勝手に見た挙句に書き写すのよかはマシだと思うけど? どうせ君等の事だから予備はあるんでしょ? アルビレオはそこまで残念がってないだろ」

 

「わかりますか?」

 

「わからないなら目が腐ってるかお人好しかだ」

 

 

 もーやだ。よりにもよってこの二人なんだから苦労も増えるものだ。クソ筋肉ダルマをもっと嬲ればよかったか。

 心底腹立つ笑みを浮かべるアルビレオ。こういった人種は予備の準備を怠らない。人をおちょくる態度に裏付けされた人を騙せるアルビレオが性悪たる所以、先を読む策士の考えは凡人程度は簡単に欺けるだろう。

 ちょっと思い付いた事を言えば案の定、当たりだったようである。あの長い裾に入れている手で握っているんだろうなと考えられる。

 

 

「フフフ。実はここ以外にも予備は取ってありまして。これを奪って燃やしてもまだまだ蘇ります」

 

「……こいつが敵じゃなくてよかったと思わない?」

 

「それは同感じゃ。よくよくあのバカ弟子に付いて行ったものだと感心する」

 

 

 敵だと容赦なくネタに走って世界を滅ぼす事をしそうだもんな。この野郎は。

 

 始まる前から疲れきった。後日、少しずつ焼却処分をして闇に葬ろう。ボクなき世界にあの技術は必要ない。

 というかそれが原因で混沌化した世界を救えって呼び出されるのも勘弁願いたいしね。憂いはない事が一番良いもんだ。エヴァンジェリンは別として記憶にあっても記録は残さないようにするのが目的。今は脱線しているけど戦争が終結したら本腰を入れて存在を残さないようにせねば。割とマジで。

 

 

「お?」

 

「おや?」

 

「むっ? どうやら合図が来たようじゃぞ」

 

「どうやらプランBのようです」

 

「合流は城内の謁見の間。ほいじゃま、気合を入れてやりますか」

 

 

 ノリの良い二人は差し出した握り拳を軽く握り拳でぶつけてきた。作戦、開始である……しまった。プランBと聞けばあの名言を言うべきだったか……ま、いいか。

 ローブの内側から小道具を取り出し、アルビレオとゼクト君と共にオスティアの王城に突撃するのであった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて。ボク等のチームは潜入チームの存在に気を取られないように暴れる事である。陽動とも言える働きをする為に派手な音を出しながら進撃するように、大爆進をしている。

 

 

「ほらほら邪魔邪魔ァッ!!」

 

 

 ま さ に 無 双 。

 

 殺さないように手加減をしつつ、飛び蹴りで城の中にいる兵士を蹴り飛ばしながら前へ進んで後退する。気を引くように大声を出しながら、出させながら。

 アリカからも少しくらいなら破壊してもいいとの許可があるのでサギタ・マギカで柱を削ったり壁を抉ったり。甲冑を纏う者同士をぶつけると大きな音が響くので魔法を使わない肉弾戦ではこちらを使う事が多い。

 フルに古武術を活用し、投げ飛ばし投げ飛ばし投げ飛ばす。殺すよりも生かすのが難しいと誰かが言っていた気がするが生かす方が楽だと感じるのはボクの本質を表しているからだろうか。悪になりきれない優しい悪さんみたいな。まるで猫を助ける不良のようだ。

 

 

「ワシ等、出番ないのぉ」

 

「まあまあ。仕事がないのが一番ですよ。それよりももう少し引き付けましょう。まだ時間が掛かるそうですし」

 

 

 働け貴様等! と叫びたいが文句を言うよりも手が出た。重甲冑の手頃な兵士を二人確保して傍観する二人に投げ付けていた。非難の声が上がるが無視無視。主導せねばならん奴等が働かんとはどういう事か。

 

 

「ぬ。良い機会だ。ショックウェーブとやらの魔法を実践してくれんかの。そうすればワシはもう二度とあの手帳には触れんと約束しよう」

 

 

 惚れ惚れするようなソバットで意識を刈り取るゼクト君が隣に降り立ってそんな事を言ってきた。小さな体でよくぞまあ、と思ったがこのレベルの魔法使いともなれば強化魔法の一つや二つはお手の物かと納得する。

 無力化するのに小道具を用意していたが、甲冑のせいで肌を傷付けられないのでもう仕舞ってある。第二次世界大戦の時は大いに役立ったのにとファンタジーの理不尽な部分にガッカリする。これなら木刀とかを持って来ればよかったか。

 

 

「嘘くさいんだが」

 

「ふむ。悪いがあれを見れば理解できたのもあればできなかったのもある。ショックウェーブはどういった原理で発動するのかよくわからんでの。ってのは建前で作った本人ならばどのように使うのか知りたいんじゃ」

 

「殴り書きしたのによくわかったね」

 

 

 にしてもショックウェーブか。確かにあれなら黙らせる方法の中では最も有効だろう。

 忘れてた。そんなのも作ってたな、と思い出す。広範囲で攻撃する魔法のイメージの中で最もイメージしやすかったので殴り書きをしたのもついでに思い出す。

 今では広範囲に攻撃するよりも自分で広範囲に動いて攻撃するのが主だからすっかり頭から抜け落ちていた。

 

 向かってくる兵士のの頭の部分、日本の鎧の兜のような曲線を描いた飾りをへし折りつつフルフェイスのそれを手で握り潰すように持ち上げる。悲鳴が聞こえ、兵士が攻め倦ねるのが視界全体に見える。

 殺すのはノーなのでヘルメットだけを奪って兵士は投げ返してやった。ナイスキャッチ。

 

 

「うーん。流石はウェスペルタティアの技術。魔法耐性だけはしっかりとしてんな」

 

 

 コンコンとヘルメットを叩いてゼクト君に渡す。迷惑そうに受け取ればすぐに床に投げ捨てる音がした。それはないだろう。

 触れてわかった事は“魔法の耐性力がどれほどあるのか”という事だ。この感じる力を考慮し、ゼクト君希望のショックウェーブの使用方法(・・・・)を決める。ただ作るだけなら凡人の魔法使いでもできる。一流と呼ばれるのはそれを如何に応用させるのか発展ができる者だけである。

 悪い魔法使い代表のボクはそれは容易い。どのように使うかも選択できる。

 パチパチと鳴り始める手に腕。隣のゼクト君が何をするのか、とワクワクしているような顔をしているのがよくわかる。

 

 

「ゼクト君のレベルなら属性付加はできるよね?」

 

「む。概念付加か。ものによるが一通りの属性は使える」

 

「吹き飛ばすだけであれば属性付加は必要ないけどあれば手っ取り早い無効化と戦略の幅が広がるから覚えていても損はないよ。あ。兵士の諸君。下手に抵抗すると死ねるから抵抗しない事をオススメするよ」

 

 

 腕を纏う雷。徐々に手に集中するように動くと色も少しずつ変化していく。兵士の顔がヘルメットで隠れていてもわかる脅えに何故だか顔が微笑みの形になる。フフフ……楽しくなってきた。

 

 

「これがショックウェーブの基本形」

 

 

 バンと雷の纏う手を床に押し付ける。イメージを構築、解放する。

 

 

「ギャアア!」

「ひぎぃ!」

「あばばば!」

 

「どう? これがショックウェーブの初歩。電気ショックと同じイメージでやると面白いようにできるから」

 

「エグい。まさに外道たる所以ぞ」

 

「敵味方関係なく攻撃するのはいただけませんが」

 

「え? 味方? いるの?」

 

 

 ゼクト君には余波は行かないようにしていたがこの性悪は当たらないように床から十分な距離を離して浮いてる。チッ、当たれば儲けモンだったのに。

 手に残っている雷の魔力を霧散させると追い出すように手をプラプラさせる。取り敢えず感想としては覚えていて良かった。失敗したら自分も感電していたであろうから。

 ショックウェーブの結果、生まれたのは死屍累々という言葉。痺れた兵士があちらこちらそこらに転がっている。聞こえた悲鳴の中に期待した言葉があって満足である。

 

 

「言っとくけど雷が一番安全だから。出力を弱めれば電気ショックになるけど強すぎると灰になる可能性もなしにあらずだから。後は戦闘能力を奪うだけなら氷もいいかも。氷の柩に閉じ込めるのをイメージすると大丈夫。言っとくが炎は使うな? 火もノー。あんだけエグい結果になるのは予想も出来んかった」

 

「心に留めておこう」

 

「約束だからな。もう二度と話題に出すな。絶対に中身を二度と見るな。二度と聞くな」

 

「善処しよう」

 

 

 このショタジジイは政治家か何かか。逃げ道だけは残しおって。だがそこは無言であるべきだったな。アーティファクトコレクターのエヴァンジェリンを知らないお前はたった一つの間違いを犯した。

 適当にあしらうゼクト君に見えぬようにこっそりと発動させたアーティファクトが動いているのを確認した。これでゼクト君は二度と手帳には触れられぬ……フーフフフ。

 

 

「これは……」

 

「おや。詠春。そちらは終わりましたか?」

 

「アリカ様が迎えに行けと言うのでな。来てみれば、殺したのか?」

 

「感電して動けないだけ。時間が経てば動けるようになる。アリカは少しでも戦力が欲しいと言うから生かしてあるだけさ。こうして会話するのは初めてかね?」

 

「お噂は予々。まさかあのご老体があなたであったのは予測できなかった。青山詠春、好きに呼んでください」

 

「彼、ミーハーですよ。それもあなたの」

 

 

 前も聞いた。あのまほら武道大会で。

 握手を求められたので何となく握ったが手の表面に感じるタコの存在に気付いた。タコができるほど剣を握っているのかと感心する。退魔師が剣を使うのかと前にエヴァンジェリンから聞いた時に突っ込んだがそんな退魔師もいるのだろうと納得しておく。

 挨拶もそこそこに、潜入チームは王城の謁見の間を既に制圧したらしい。遊び過ぎたかと思いながら青山詠春こと詠春に案内してもらう事になった。行く先に死屍累々の兵士がいるのかと思ったが意外とすんなりと行けた。あのフロアに殆どが集まっていたのかとボク等の仕事は満足に達成できたようでほっこりする。

 

 謁見の間の大きな扉を潜るとその先には別働隊の潜入チームが待っていた。アリカ、ナギ君、ラカン。あれだけボコボコにしたのに何でピンピンしてるんだラカンは。

 動けないようにやけに装飾の為された刀剣類を王様の周りに配置するのは圧巻だが器用に牢獄ができたのな。

 

 

「おーう。そっちも終わったもげぇ!?」

 

 

 ほぼ反射的に体が動いていた。反省も後悔もせん。

 意味のわからない叫びを上げながら吹き飛ぶラカン。自分でも綺麗なドロップキックができたと満足した。

 周りがポカーンとする中、アリカだけは何をしている的な目で見てきた。軽く背中を殴られてしまった。

 

 

「何をしておる」

 

「ボクは悪くない。盗んで拡散したアレが悪い」

 

「全く……さて。父上。いえ、先代国王よ。我等が何を行うかは理解できておられますな」

 

「……フン。稀代の悪の魔法使いと手を組むとは、我が血を継ぐ者としては恥曝しである」

 

「恥曝しだろうと何だろうと誰かの庇護に入って甘い汁を啜る王様なんざ悪でも何でも手を借りて王であろうとするアリカの方が十分に王様らしいさ。アンタは誰かを上に立たせた時点でもう王である資格は失ってるんだよクズ」

 

 

 神様であろうと。数多の世界の中には神に抗う人間もいれば王様もいる。そういった王に比べれば凡人以下だな。

 というか小物王様ってどうしてこう、縛られているのに自分が優位に立っていると思えるのだろうか。わざわざ威厳を持たせようとしていうのを見ると余計に滑稽に思えるのだが。

 何故だか感動した様子のアリカ。彼女の背中を押してやれば王様以上の王様らしい女王様の威風を纏う。まるで決別を宣言するように、父の栄光を打ち砕くかのように彼女は高らかに彼女の愛剣を大理石の床に叩き付けて鳴らす。

 

 

「――父、先代ウェスペルタティア国王の時代は終わりを告げる! 悪しき者と共謀した罪は何人たりとも許せぬものであり、父が娘、王女であるアリカ・アナルキア・エンテオフュシアが宣言する! 次代ウェスペルタティア国王となり、女王となり、この不毛な戦争を終わらせる事を誓おう!」

 

 

 いや、誰も聞いてませんが。と言いたいがよくよく見れば拡声アーティファクトを使ってる。子供らしい雑用をこなす子供二人に和んだ。

 

 

「立ち上がれ、民よ! 我が兵士よ! 敵は亜人にあらず! ヘラスにあらず! 戦争を扇動する裏で暗躍する者こそが我等の真の敵! 打ち砕け! ウェスペルタティア王国の刃よ! 我等はヘラスの刃と交わす事で折れぬ鋭き刃となろう! 今こそ反撃の時である!!」

 

 

 こういった演説は後の世に残るものなのだろうと思う。何だか安っぽい言葉を並べただけな気がするのは気の迷いのはずだ。覇気とかでゴリ押しすれば幾万の真言になるんじゃないだろうかと王族の宣言を聞いて思う。

 何はともあれ、ウェスペルタティアへのクーデターはここで終わりを告げた。新しいアリカ女王を筆頭に悪の根源たるコズモ・エンテレケイアを討伐する作戦が本格的に行われようとしている。

 同時に、ボクがこの世界に留まる時間のカウントダウンも始まる。

 

 そう思った瞬間、鼻が異物の臭いを捉える。誰か他にこの場にいると気付いた時には既に事は終えていた。

 先王の首が舞っていた。真っ赤な血を撒き散らしながらゴトンゴトンと床を転がる。首を斬られた胴体の首の断面から血が噴き出す。宣言を終えたアリカを避難させるように捕まえて後ろへ飛んだ。

 

 

「全員警戒!」

 

 

 ボクの言葉であっても先王の首が飛ぶ異常事態に警戒してるアラルブラは非力な子供二人とテオドラを守るように動いた。何故か一番安全なアリカの側にナギ君が来たわけだが。

 

 

「オイオイ。まさかコズモなんちゃらが攻めてきたのか?」

 

「いえ、この場合は口封じも考えられます。気配も魔力も悟らせない事を考えるとかなりの手練です。皆さん、警戒は怠らないように」

 

 

 警戒するアラルブラに動く。指をパチンと鳴らして音を響かせる。聴覚で捉えた音の波でいてはならない存在を炙り出す。

 ――いや、待て待て。この音と臭い。記憶を漁ると覚えがあるぞ。

 

 

「お久し振りでございます。マスター」

 

「チャチャシリーズ……うげぇ、エヴァンジェリンのか」

 

「はい。我等に命令をされ、マスターにこの文をと」

 

 

 侵入者は懐かしのチャチャシリーズの面々だった。先王を殺したのはこの中の……あれだ。血の滴る剣を持ってるもの。

 その中の一人から手紙を貰う。達筆な字で書かれた文章の内容に思わず顔が引き攣る。これは何とも由々しき事態だ。下手すればノーマルの難易度がノーホープとかいう鬼畜仕様に変更されてまう。

 

 

「貴様等……! 何故父上を殺した!」

 

「グランドマスターの契約に含まれていましたので」

 

「契約だと? ふざけるな。まだ聞く事は山程あったのに。奴等の本拠地の位置にどこまで王国を腐らせたのかを!」

 

「? マスターは本拠地をご存知ですが、知らないので?」

 

「!?」

 

 

 丁寧に手紙を畳んでいるとアリカに親の敵を睨むかのように見てきた。睨んでいると言ってもいい眼光だがちょっと泣いているので怖くとも何ともない。

 

 

「ほう。グランドマスターはエンテオフュシアの新女王を危惧しておられたようですが体も心も許されていないようで……フッ」

 

「こらこら煽るな煽るな」

 

「マスター。文の内容はご理解いただけましたか?」

 

「今まで逃げてきたツケが回ってきたんだ。お別れも近付いているし、面と向かって話すよ。君等はこれからどうするの?」

 

「グランドマスターの交わした契約はウェスペルタティア国王の殺害と幾人かの殺害で達成されました。これより、マスターのお世話をさせていただきます」

 

 

 膝を付いて頭を下げるチャチャシリーズ。周りは置いてけぼりになっているがそろそろ呼び戻そう。

 

 

「アリカ女王。約束は果たしたからボクは一旦用事を済ませてくる。ああ、奴等の本拠地だけど多分、あそこ。今まで虱潰しに候補を消してきたけど残ったのはあそこだけだ」

 

「……色々聞きたいがまず本拠地だけは聞こう」

 

 

 まさに灯台下暗し。アリカ、ウェスペルタティアの一部である彼女の盲点を突いたとも言える場所。

 チャチャシリーズが転移魔法を準備している最中、アラルブラにも目を配りながらアリカを指差して指をそのまま別の場所を指し示す。

 

 

「――墓守の宮殿。アスナ姫もそこにいるはずだ。だが恐らくタイムリミットは残り少ないはずだ。最短で、二日。明後日が魔法世界の運命を決める瞬間となる」

 

「墓守の――墓守り人の宮殿か! まさかあそこがコズモ・エンテレケイアの本拠地とは!」

 

「間に合わせる。ボクは今から造物主と戦えるだけの装備を整えてくる。明後日まで全ての準備をするんだ、君ならできるだろう? アリカ様」

 

 

 まだ聞きたそうなアリカを挑戦的に挑発しつつ問うた。負けず嫌いの部分もある彼女ならほら、簡単に乗って教えてくれる。嘗めるな、やり遂げてみせる、と。

 フッと笑いを零してチャチャシリーズの転移魔法に身を委ねる。如何にも格好良い別れ方をするが、内心こう思っていた。

 

 ――エヴァンジェリンと会うの、マジ気が重い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 クーデター完了。アリカの演説が安っぽいのは作者のパワーが足りないから。スマン。何気にハブられるガトウェ。

 次回は遂に後回しにしていた浮気騒動に終止符。期待せぬ方がよろしい。







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始まる


 最終決戦……(苦笑) やっぱりオリ主はオリ主でござった。


 色々感想を書いてる人マジありがとう。だけど書かれてから時間が経過するとどう書けばいいかわからないんだ。感想を受け付けないわけじゃないよ。こんな風に思ってるのかとか感じながら読んでます。

 人気作家()の中には対して感想ないのに忙しくて感想返信できません発言から素早い返信をするのもいたりしたけどにじファンはそんな意味でも混沌だったわ、と懐かしく振り返る。


 列戦争終盤。ちょちょいと終わってエンディングを書いて昼寝をするんだ……(フラグ)






 

 

 

 

 

 何回死んだのだろう。死ぬのには慣れているが死んだ途端に死ぬという貴重な経験をしたのは世界を探してもボクだけだろう。

 生き返った途端に殺される。死んだ途端に念入りに殺される。よっぽどの恨みがあるのだろうと甘んじて受けていたが自分の罪の数だけを数えていると自分だけが悪いわけではないと気付いた時には――。

 

 何が始まるんです? 大 惨 事 戦 争 だ 。

 

 氷の対極にあるのは炎。メドローアの如くボク等は暴れに暴れまわった。いつもならもう少し頭の良い(?)口喧嘩をするものだが、この時は子供の喧嘩のように馬鹿丸出しの罵詈雑言の嵐であった。

 不能。クソビッチ。早漏。晩年処女。思い返せばただの悪口で程度のレベルが知れる。兎に角アホだのボケだのクソだのと小学生の悪口を吐きながら殴り合ったり蹴り合ったり魔法を撃ち合ったりとただの喧嘩がハルマゲドン並の大惨事に発展していた。

 エヴァンジェリンの趣味がヤバイ。というか病んでる。メンヘラ。一緒になれないのなら氷像にして鑑賞してやるという発言があった。まあ、その時から甘んじて受けていた折檻から逃げるように反撃したのだが。こう、ゾワワワワって感じ。

 そんなこんなで喧嘩はエヴァンジェリンのダイオラマの中で終結した。多大な犠牲(リゾートビーチ以下壊滅)を払って吐き出した後は――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウィーンガシャンガシャンと大きなロボットらしきものがダイオラマ魔法球の中の大惨事の跡地を綺麗に整える。残骸を取り除き、片付け、元のままではなくリフォームも加えて彼女等は仕事をする。

 

 

「そもそも浮気をしてたのはそっちだろうが。処女厨なのは前から知ってたけどレズとは思わなかったよこの変態」

 

 

 ゴスッ。

 

 

「フン。貴様の浮気は容認したのだから少しくらいはいいだろう。それに私だって偶には発散せんと気が持たんのだ。変態ならそっちだろうがヤリチンめ」

 

 

 ガスッ。

 

 

「あ゛? まだ懲りてないの? さっきはボクの勝ちでしょ?」

 

 

 ゴスゴスゴスッ。

 

 

「どうやら離れている間に脳が劣化したようだな。7対3で私の圧勝だろうが」

 

 

 ガスガスガスッ。

 

 

「……やんのかコラ。次は精神を殺す勢いで殺すぞ」

 

「不能にしてやろうかヤリチン。貴様の精子の遺伝子情報なんか世の為にならんだろう?」

 

 

 ゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴス。ガスガスガスガスガスガスガス。

 

 まだ険悪。素っ裸のエヴァンジェリンと向き合って貶しながら足を蹴っていると蹴り返されて更に蹴り返す事になった。大事な部分が見えているとか勃○とかそんな問題は頭になかった。あるのは浮気をして離婚間際の夫婦のドロドロした喧嘩そのものだけ。

 穴だらけ、傷だらけ。下の肌は見えているし霜は着いているし血痕もファッションの域を越える真っ赤に服を染め上げている。漫画とかアニメの事情で煙とか髪の毛が邪魔する描写が必要なくらいボロボロになっている。

 エヴァンジェリンは単純に炎で服を燃やした。ボクは鋭い氷で刺されて斬られてを繰り返しているとドラゴンボールも真っ青な服の破損になった。

 

 互いの顔には青筋がある。ビキビキと怒りを隠さないそれはまだ怒りが収まっていない事になり、足蹴りに直結して少しでも相手を甚振ろうとしている。

 ギシギシと空間が軋む。殺気と殺気がぶつかり合い、混沌とした空間を形作る。ボク等の周りだけがドロドロとした地獄に変貌してると錯覚しそうだ。

 

 

「んだゴラァ! ボクが仕事している間にネチョネチョしているのが悪いんだろうが! 無能上司かテメーは!」

 

「容認したとはいえ、あれだけの別の女に手を出されると嫉妬もするだろうがヴォケ! あの時は魔が差しただけだと何度言えばわかる!」

 

「魔が差しただけで浮気されると夫は絶望するに決まってんだろうがァ! もう離婚モノだ離婚モノ! それに女の子は世界の数だけいるんだから目も向くだろうがハゲ! おっぱい見事、太ももhshsとか叩きたい尻とか数の子【ピー】とかミ【ピー】匹とかタコ【ピー】とか巾【ピー】とか【ピー】締めとかよォ! 女の子を抱く快感を味わったら更に味わいたくなるのが男ってモンだろうがァ! エヴァンジェリンだってデカチンとか【ズキューン】とか【バキューン】とかがいいダルルォ!?」

 

「よくぞそこまで卑猥な言葉が出るな貴様は! 最初はテクニックもクソもないクソ童貞だったくせに生意気だぞ! 早漏に加えて短小に包茎の童貞三連コンボのくせしてそこまで大きく出れるとは偉い出世したもんだな、えぇ!? 「え、エヴァンジェリン……もう、イク!」とか言ってた軟弱者めが!」

 

「何を言うか! エヴァンジェリンだって「こんな格下の男に組み敷かれて悔しいが……ビクンビクン」とかしてただろうーが!! 己はクリムゾンのヒロインか何かかアホ! 犬のポーズで突かれて感じるエロ変態エヴァンジェリンさんよ!!」

 

「ぐ、ぐぬっ……だ、誰のおかげでそうなれたと思っている!」

 

「ハッハー! 誰のおかげで子供の姿から大人になれたと思ってんだロリヴァさんよ? 大人の姿になりたいって夢を叶えたのは誰なんですかねェ!! 口喧嘩もセックスもエヴァンジェリンが強い時代は昔に終わってんだよォ!!」

 

 

 ズビシッと指差せばプルプルと震え始めるエヴァンジェリン。素っ裸なのでおっぱいが小刻みに揺れているのがよくわかる。

 泣いているようにも見えるが涙は女の武器。同情を誘ってグサッとするつもりなのは見え見えだ。甘いなエヴァンジェリン!

 

 

「ほらほら言い返してみなよエヴァンジェリン。あれれぇ? ダーク・エヴァンジェルさんともあろう者が言い負かされるの?」

 

 

 NDK? NDK? 腹立つあの踊りはしないが煽りに煽ってみる。震えは大きくなり、どんな言葉が飛び出るのかと構える。

 世界が切り離されたように復旧作業する音が遠くに聞こえる。段々と気まずくなる前兆を嗅ぎ取ったので次はどう対応しようかとエヴァンジェリンを見遣る。まだ震えてる。胸も揺れている。大人になれば美巨乳になるんだと昔に抱いた感想を思い出す。

 更に言葉で攻めようとした矢先、後ろから手が伸びて一瞬で首を極められる。ゴキッと鳴ってはならない音が聞こえた。

 

 

「フン。この程度で言い負かされるとは衰えたな。言い負かされたのであれば実力で黙らせるのがエヴァンジェリン・A・K・マグダウェルではないのか?」

 

「ぐえっ……!? え、エヴァンジェリンが二人!?」

 

「久し振りだなこの卑しいクソ豚。今までよくぞ放り出して別の女に熱を入れていたものだな? あ? プリンセスおっぱいだのと盛る猿以下のコメントしかできんのか」

 

 

 大人エヴァンジェリンは前にいる。だがこの後ろのロリヴァンジェリンは何者なのか。影分身でも作ったのだろうか。

 蛇のように絡み、締め付ける。ジャングルで大蛇に首を締められるトラウマが蘇りそうになって抵抗はしようとするものの、締め方が達人の域に入ってるエヴァンジェリンが相手では不可能だ。というか“この”締め方は間違いなくエヴァンジェリンじゃないか! どういう事なんだっ。

 

 

「まあ、オリジナル(・・・・・)は乙女だからな。ただ遊びで作った私とは違って甘ちゃんな部分がある。その点では私は一切容赦はせんぞ。このまま足でしてやろうか?」

 

「……せ、精霊の写身でコピーしたのかっ」

 

「ふむ。腰を振るだけの猿は洞察力と推理力だけはあるようだ。スマンなオリジナル。いっそのことこの豚との間にできた娘だと言えば繋ぎ留められたかもしれん」

 

 

 あ、悪魔かロリヴァは! 子供ができて引き止めるとは何とも悪魔の所業たる事か! このまま帰れば名実ともにクソパパの称号を持ったまま凱旋して後悔で押し潰す作戦なのか!

 恐々としているとエヴァンジェリンの方が動かない事に気付く。まだ裸で震えているのがわかるが何故一言も話そうとしないのだろうかと気になる。

 

 

「えっ?」

 

「こうして久し振りに会えたのに……何で冷たいんだ……ずっと、ずっと会いたかったのにもう私の事は飽きてしまったのか。もう帰るから嫌いになったのか……」

 

 

 泣いていた。しかもガチ泣き。今までに見た事もないエヴァンジェリンの表情に唖然としてしまう。ポロポロと大粒の涙を流し、悲痛な顔で悲しんでいる。

 え、あれ、はい? もっとこう、違う反応を予想したのにあれぇ?

 

 

「クハッ。これは是非ともオシオキが必要だな? 喚くがいいクソ豚」

 

 

 オシオキとは何をするつもりかと聞く前に意識がブラックアウトした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハッと意識が戻る。同時に胸の中心に痛みが走る。認識するように、胸から血が流れる腕と脚にも痛みがある事に気付く。痛みと共に動かない部分があった。手だけは動くが全身が動かない。

 

 

「痛っ」

 

 

 動かない理由がハッキリと戻る意識が理解した。何かが刺さっている。痛みが感じる場所からすると九箇所。そこに肉を食い破るように異物が突き刺さっている。

 鼻に鉄にも似た刺激臭が来る。嗅ぎ慣れた臭い。血の臭いが漂っているのがわかった。問答無用で殺すつもりで刺しているのがよくわかる。ついでに言うと超痛い。

 何があったのかと状況を確認しようとすると、顔面に新しい痛みが突き刺さった。

 

 

「目が覚めたか豚」

 

「ふもごっ。ふもががが」

 

「豚の言葉ではなく人の言葉を話せ豚。今の状況は理解しているか」

 

「もがっ」

 

「素晴らしい事を教えてやろう。まずはこれだ」

 

 

 鋭い痛み。抉られるように与えられた痛みである事が乱れる思考で何となく理解できた。誰かが何かに触れて痛みを与えている。声からするとロリの方のエヴァンジェリンが何かをしている事は何となくわかった。

 

 

「痛いだろう? 不死殺しの一種でな。主に拷問に使われる聖なる杭だそうだ。これは更に改良を重ねられた一品でオリジナルが吸血鬼ハンターから奪ったものだ。九本、それが貴様に突き刺さっている。吸血鬼の不死という概念だけを殺して永遠に痛みだけを与えるようにできているのさ。紛い物の貴様には地獄の痛みだろう?」

 

 

 返事をする余裕がない。痛みに顔を顰めるだけで精一杯だ。

 それでも何とか、と思考に集中する。痛みの原因である聖なる杭の性質を探る事に集中しろ。それだけでも痛みは和らぐ。

 

 ――毒物 ――聖なる力 ――不死殺し ――吸血鬼殺し ――石の魔法

 

 巡る巡る思考。経験が考える余裕を加速させる。まるで痛みに堪える自分と考える自分に分かれたかのように徐々に冷静になる。考えられる事象を割り出していく。

 違う。違う。違う。除外される考えられること。違う。おかしい。こうではない。ああでもない。ではこれか? これだろう。いや、違う。

 ――結果、導き出される回答。

 

 

「ボクで、実験する、つもりか」

 

「ふむ? 大体の察しはできているようだな。研究者肌の貴様なら考察はできよう。まあ、本当ならオリジナルが説明をするんだろうが“呪い”でそれは叶わん。記憶を共有したエヴァンジェル・コピーである私がする」

 

 

 ……待て。今、何と言った? あの(・・)エヴァンジェリンが呪いに掛かっている? ありえない。エヴァンジェリンはボクと同等以上なんだぞ? 誰かに遅れを取る事もないはずだ――。

 エヴァンジェル・コピーと名乗った少女のエヴァンジェリンはふてぶてしい態度で座禅を組んで浮かぶ。エヴァンジェル・コピー、人工精霊であるからエヴァンジェリンの性能をそのまま受け継いでいるから受けるのだろうと考えた。

 

 

「事の顛末は貴様等のアホないざこざから始まる」

 

 

 反省しろよ馬鹿野郎とばかりに踏み付けてくる。グニグニと柔らかい足の裏が頬を陥没させ、足指でグリグリと突かれる。アホないざこざでごめんなさい。マゾじゃなくてごめんなさい。

 

 

「姿を消した原因が自分にあると思い込んだオリジナルは思い悩んだ。心の拠り所の貴様がいなくなった事でそれはもう、落ち込んでいたぞ? 貴様そっくりのドールで慰めたりと痛々しい情事であった」

 

「ダッチ、ワイフ、扱い?」

 

「クハハハハ。愛されているようで何よりではないか。そこで、オリジナルは貴様との関係修復にある手段を取った」

 

 

 

 

 

完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)造物主(ライフメイカー)との接触だ」

 

 

 ――造物主と接触した。そうか。これで一つ謎が解けた。

 

 

「元々敵対している組織との接触は最悪そのものだ。オリジナルは造物主(ライフメイカー)が持つ秘法の技術を求め、対話が破綻した後は実力で奴に挑んで敗れた」

 

 

 エヴァンジェリンが負けた? 魔法世界の神とはいえ、五分五分であると仮定していたのに更に上を行くのか?

 

 

「ある契約を交わした。オリジナルに貴様の居場所と動向を教える代わりに犯罪の片棒を担がされた。完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)にとって邪魔者を消す手助けを率先して行った。それが茶々の暗殺に繋がり、ウェスペルタティア国王殺害の真相。それがまず、当初の契約だ」

 

「当初?」

 

「呪いだ。奴にとってオリジナルの実力は考えていたものよりも上を行っていたようだ。だからこその呪い。不死殺しよりも辛い呪い。エヴァンジェリンを縛る枷として掛けられたものさ」

 

 

 エヴァンジェル・コピーは腕を組むと、重い重い溜め息を吐く。物事の重大さと話す事も憚れるような口調だ。

 ここで問題になるのがどういった類の呪いであるか、といった点に行き着く。こちらから聞く前にエヴァンジェル・コピーが先にその話題を持ち出した。

 

 

「呪いは無理矢理でも破れる。だけどそれはしなかった。何故だと思う? デメリットを恐れたのだよ。オリジナルは。流石の造物主(ライフメイカー)と言うべきか。精神に複雑に作用する呪いを生み出した」

 

 

 勿体ぶるように語る。ヒシヒシと感じる嫌な予感。

 

 

「それはな――貴様との記憶と思い出を奪う呪いだ」

 

 

 ヒュッと喉から空気が漏れるような音が聞こえた。あまりの衝撃に言葉を失う。エヴァンジェル・コピーの言う事が嘘であるようにと願う。今までになかったのではないかと思える程祈ったのも初めてなのかもしれない。

 記憶と思い出が大事なのはボクが何よりも知っている。嘗ての思い出を忘れられずに元の世界に帰る事を願っているのだから。

 

 

「最強の闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)が何よりも恐れたのは愛した者との記憶と思い出だぞ? 何とも滑稽な事だと思わんか? それも自分を捨てるような奴との思い出をだ。恋する乙女といわんばかりの恋愛も向けられた相手が拒否するようではなぁ?」

 

 

 皮肉を言いたいのはよくわかる。自分でも言われる立場なのだとわかっている。

 ショックを隠せない。エヴァンジェリンが呪いを受けた事もだが、何よりも甘んじて受け入れた事の理由がショックだった。エヴァンジェリンなら大丈夫、エヴァンジェリンなら一人でも切り抜けられると思っていた。

 その結果がこれだ。呪いを受け、敗れ、甘んじて受け入れている。

 

 

「今オリジナルは屈辱に耐えている。記憶を失うトリガーは奴が最も警戒している貴様の手助けをする事さ。ボーヤ? 情報を与える、力を貸す。直接的に貸す事は禁じられているが間接的はギリギリ大丈夫だそうだ。呪いの効果が軽いものだ」

 

 

 エヴァンジェル・コピーはエヴァンジェリンが軽い記憶、どうでもいい取り留めのない会話を交わした記憶が消えていると言う。思い出せないだけであそこまで取り乱すのを見ると痛々しいものだったと何度目かになる言葉を並べて語る。

 

 

「さて。本筋を語ろう。オリジナルはどうなっても貴様だけは救うと決めた。元の世界へ帰る手段を持つであろう完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)との対話、拳による対話に備えて貴様を現状、最大限に実力を発揮できるように無理矢理体を改造する。この杭はその為の小道具の一つだ」

 

 

 苦痛を与えるだけの杭がパワーアップアイテムになるのだろうかと疑問に思う。痛覚を無視できるようにする事が目的だと勘ぐるが、それだけならまた別の手段があるだろう。

 再生抑止。何らかの毒物。それを併せた石の杭が今、刺さっている物の正体であると考えている。それも紛い物とはいえ、真祖に効くとんでもない代物だ。真祖の吸血鬼をここまでにするのだから伝説級のアーティファクトだと考えた方がいいか。よくぞまあ、人の手で完成度を叩き出せたものだと感心する。

 

 

「――耐えろよ。オリジナルの無念はコピーである私もよくわかっている。その無念は貴様が奴を止める事で晴らされる。というかボコれ。殺せ。犯せ」

 

「最後の最後に台無しだよ」

 

 

 というか造物主は女なんかいとツッコミをした。いや、男であろうとも犯せというメッセージなのだろか。

 

 

「オリジナルが見た限りでは女だそうだ……言っとくが誘惑されたら殺すからな」

 

「ケッ。逆に誘惑してやるよガッ」

 

「フッ。その意気だ――さあ、覚悟はいいか」

 

 

 ――答えは聞くまでもない。わかってるよ私は、と杭をグリグリと動かすエヴァンジェル・コピーであった。

 多分これ、最終決戦だとかどうとか言う前に死ぬな。げふぅ。

 

 意識と記憶はそこで途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 





 浮気の裏にはエヴァさんの健気な活躍。マジ正妻なのに捨てるオリ主はゴミクズ。ハッキリわかんだね。

 このエヴァンジェル・コピーはネギの闇の魔法習得イベントの彼女。デフォルトで素っ裸だけどこの子の設定はドSょぅι゙ょ。ロリコンにはご褒美です。大人エヴァンジェリンに優しく抱かれる反面、踏まれるご褒美。マジモゲロ。

 気が向いたら外伝的にエヴァンジェリンの軌跡を書こうと思う。期待はしない方が吉であろう。

 ペルソナアンケートはまだ受け付けておりまする。







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遡る



 ゲスオリ主のアイデンティティは崩してはならない(戒め)

 感想でクズっぷりに感動している方がいるようなので更にクズ化させようと思ったけど甘っちょろいクズが売りのオリ主さんはこれぐらいでいいわ(適当)






 

 

 

 

 

 

 

 ――魔法世界救世作戦。別名、完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)撲滅作戦。

 

 魔法世界に住まうあらゆる者が滅びに向かう魔法世界を救う為に集う。ウェスペルタティア新女王アリカ・アナルキア・エンテオフュシアの掲げる旗の元に。

 敵対していたウェスペルタティア王国含むメガロメセンブリア連合、ヘラス帝国が手を取り合う。中立を貫いているアリアドネーも魔法世界の危機に立ち上がる。魔法世界連盟とも言える人種を越えた軍団。奇しくも、それは魔法世界の住人が誰もが願っていた事だった。

 アリカ女王は指揮する。最前線で全体が見渡せる艦のブリッジに立つ。その表情は厳しくも凛々しいもの。だが、その裏には正反対とも言える感情がドロドロと渦巻いていた。

 

 閉じられた瞼の裏にはある男の背中。蜃気楼のように消え行く光景が頭から離れない。人生の転機だと彼女が考える契約はまやかしだったのだろうかと悶々としていた。

 情報は全て開示する。だけど本拠地の場所は教えてはくれなかった。嘘を吐かれたのだろうかとアリカはショックを隠せずにいる。

 信じていたのに。信じていたのに。彼は信じていなかったのか。望むなら守ってきた操さえも捧げる覚悟でいたのに。

 最初は契約を交わすだけの関係。彼と行動して気が付けば気になる存在になっていた。視界の端に赤毛があったのはなかった事にしたらしいアリカ。家事は万能。実力は世界最強。指名手配の身である事以外は最優良物件の彼。名も知らぬ悪い魔法使い。

 

 

「アリカ様。ナギさん達は準備できたそうです」

 

「ご苦労。各部隊の配置はどうだ」

 

「アリアドネー魔法騎士団、配置完了」

 

「正義の魔法使い連合、各位置に配置完了」

 

「各艦の魔導兵器異常なし。目標を墓守り人の宮殿に設定完了」

 

 

 頃合いか、とアリカは思考を端に置いて鼓舞をする事にした。私事で蔑ろにするのは女王としては愚の骨頂。ウェスペルタティアが受け入れた新たな女王としての威厳を纏い、手を勢い良く振る。

 

 

「――これより作戦を開始するッ!」

 

 

 途端、湧き上がる歓声。自分を奮い立たせ、奮い立たせてくれるような一つの音の塊が墓守り人の宮殿宙域に響き渡る。

 それは同時に、相手にも開戦の合図を出す事を意味していた。墓守り人の宮殿から飛び出す異形の生物がアリカの目に入る。横に振るわれた腕が目標を定めるように掌をそこへ向ける。

 

 

「全員、攻撃開始! ある程度一掃した後は各員、自分がやれる事を考えてやれ! だが敵は完全なる世界、コズモ・エンテレケイア! それ以外は味方と考えよ。我等は手を取り合ってこの世界を救うのだ!」

 

 

 轟音。あらゆる攻撃と魔法が異形の生物、人形に向けられる。魔法で形作った悪魔の人形は造物主、ライフメイカーの生み出した独自の作品。それを知る者はこの戦場でどれほどいるのだろうか。

 殆どの者は見た目から悪魔であると思い込み、憎むべき敵だと殺しに掛かっている。あらゆる魔法が殺到し、数体が墜ちる。

 

 ――こうして後の世に語られる魔法世界最大の出来事、大分列戦争最終決戦が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フン。あれではただの労力の無駄使いだな」

 

 

 遠い場所で瞬く光にエヴァンジェル・コピーは鼻を鳴らしながら酷評を下す。彼女が言うまでもなく自分も似たような感想を抱く。

 

 

「ボーヤ。あれが人形だ。オリジナルはガーゴイルと名付けているが、あれは悪魔と同じと考えてもいい存在だ。“鍵”がある限り無限に創り出せるぞ。叩くのであれば大元の奴の魔力供給を止めろ」

 

 

 屈伸、伸び。体を解しながらエヴァンジェル・コピーの話に耳を傾ける。返事はせずとも首の動きだけで返事をしている。彼女もそれはわかっているようで情報を持っているだけ教えてくれる。

 この場にいるのは二人だけではない。ホームに帰った事で最高戦力を準備できた。懐かしの孫娘兼従者のバージョンうpしたソフィがいる。

 スッと握り拳を差し出す。応えるようにコン、とソフィは小さな手で軽く上から叩いてくれた。言葉はいらぬと言わんばかりの意思伝達。

 

 

「いいか。必ず奴を止めろ。止められなければこの世界は消滅(リセット)してしまう。次元が歪む仮説が成り立つ可能性もあるからな。造物主(ライフメイカー)の“鍵”がそのまま帰還する鍵となるかもしれんのだ」

 

 

 わかった、と返事する代わりに親指を立てて返事をする。

 

 

「よし。こちらは後始末の準備をしておく。ソフィ、お前は突撃しろ。ボーヤをガラクタ共の中心まで誘え」

 

「わかった」

 

「無事を祈る……ぶわっ。貴様ッ、気安く頭を撫でるな!」

 

 

 むすっとした顔になるエヴァンジェル・コピー。今までの協力に感謝の気持ちを示しただけなのにそこまで怒らなくとも。

 行ってくると彼女に声を掛けると、準備しているソフィの肩に手を置いた。コクリと頭を振ってやれ、と命じた。

 

 

「行くよ――」

 

 

 ――シャドウ・モーメントッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「! 来たかッ! 全員に通達! あの赤い閃光は味方だ! 彼等を援護しつつ敵陣を突破しろと伝えろ! 紅き翼(アラルブラ)には彼等と合流するようにともだ!」

 

 

 慌ただしい艦内。アリカが頑張って指示を出し、オペレーターからの情報を捌いて的確な指示を出しているようだ。アリカに従うちびっ子二人も巡る巡る変わる戦況にかなり緊張しているようだ。

 何故、子供を戦場に連れて来たのだと言いたいが安全も含めてだろうと勝手に思っておく。ドッキリを仕掛けるようにこっそりとアリカの隣に立つ。

 まず気付いたのがちびっ子二人。叫ぼうとするが人差し指を唇に当ててジェスチャーをすれば面白いように黙ってくれた。

 

 赤い閃光、ピンクの閃光とも表現できるガーゴイルを蹴散らすのはソフィだろう。凄まじいスピードで敵の渦中を突き進むのを見るとこう思う。

 

 

「成長したねぇ」

 

 

 そこでようやく、ちびっ子二人を除いたブリッジにいる者達が自分という存在に気付いた。

 

 

「あ、悪の魔法使い!?」

「伝令! 伝令! 旗艦に悪の魔法使いが侵入した! 手が空いている者はすぐに対処してくれ頼む!」

 

 

 あはは。阿鼻叫喚だ。見てて滑稽で笑える。アリカだけは目をまん丸にして驚いて指揮も放り出しているようだ。

 取り敢えず気楽に手を上げて挨拶をする事にした。

 

 

「や。久し振り。アリカは二日ぶりかな?」

 

「何をしておった。もう少し早ければこうはならなかったと思わんか」

 

「ははは。無理無理。馬鹿な連中は必ずこう言うさ。「コズモ・エンテレケイアの手先となったか悪い魔法使いめ! ここで会ったが運の尽きだ!」ってね。遅れたのは謝るけど色々準備に手古摺ったのは本当さ」

 

「あれは仲間か?」

 

「自慢の従者。エヴァンジェリンがチューニングを施したおかげであんな事ができるようになったってわけ。宮殿への道は彼女が切り開いてくれる」

 

「……また女か」

 

「可愛いちびっ子ならまだしも汗臭いオッサンとかイケメンオーラを放つだけの邪魔者はいらないのさ。おっと、ナギ君達が合流したようだよ。共同戦線をしようとしたけどナギ君がいの一番に拒否したみたいだ」

 

 

 絶句するアリカ。続く言葉があの鳥頭め、であった。協調性ないもんね。ボクが言うのもだけど。

 いや、と違和感を感じたであろうアリカが振り返る。ソフィとアラルブラがいるであろう場所に視線を向けた。そのまま驚きの目でこっちを見る。

 

 

「どういう、事だ? 二人いる、のか?」

 

「ここにいるボクは残りカス。あっちが本物。新生した事で不純物のボクが弾き出され、精霊化したのさ。魔力もないからアリカへの伝言役だけは果たすつもりだ」

 

 

 この艦に乗っているのは精霊、ニセモノ。本物はソフィと共に戦場に突っ込んでいる。その証拠にほら、とブリッジの皆を指差した場所を見るように誘えば。

 ――灼熱の太陽が生まれる。オレンジ色に輝く巨大な炎の塊が太陽のように煌めいてガーゴイルを墜とすように炎弾を辺りに撒き散らす。火、炎が得意な自分だからこそできる広範囲を爆撃する大魔法が戦場を駆け巡っていた。

 

 

「わはは。凄いね。自分ながらよくぞあそこまで強くなれたもんだと思うよ」

 

「で、デタラメな……」

 

『お、おぉぉぉいアリカよ! 今のは何じゃあうえあああああああああ!?』

 

「お。久し振りテオドラ。そっちは二日ぶりかね?」

 

『何をしとったんじゃお前はー!』

 

 

 和気藹々と楽しく話しておこう。アリカが少しでも気分が楽になるように、ってのがオリジナル様の命令ですしねー。バレないように尻を堪能させてもらおっかなー。

 ちびっ子二人に睨まれた。だけど怖くないので触っておく。

 

 殴られました。オリジナル様の手腕は流石やでぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コピーの野郎がエロ思考に染まっている。真面目に戦うのに要らない感情を押し付けておいたがあそこまで酷いのか。

 腕を薙ぐ。無言で発動した魔法がガーゴイルを消し炭に変えた。悪いが、今の自分を止めるなら核兵器でも使わなければ無理だぜ。そんな自信がどこからか湧き上がっている。

 背中を守るようにソフィが回し蹴りでガーゴイルを吹き飛ばす。中には首をチョンパしているのもいる。えげつない。だがそれがウチのソフィさんなのである。

 

 

「マスター。あれ、どうする?」

 

「邪魔しなければ放置でいい。それよりも造物主の元へ急ぐぞ」

 

「うん」

 

「ゴラァ! 無視してんじゃねーぞ!」

 

 

 迷惑そうにしてやろう。実際に迷惑だこのクソガキ。身長が伸びたと思ったら偉そうな態度も増長しているではないか。声を掛けられると邪魔にしかならないのだが。

 しかもナギ・スプリングフィールドは最大の戦力だ。ボクは造物主を叩く役目を担い、ソフィは露ばらいをする。造物主の使徒が邪魔するだろうと仮定すればその戦力は少しでも多い方がソフィの負担も減る。エヴァンジェリンがいれば百人力だったが、無い物ねだりしても仕方のない事だ。

 エヴァンジェル・コピーは別の役目がある。コピーした精霊はアリカの隣で戦況を見極める役目を与えている。戦力になるのはソフィ、魔法世界各地に散らばったチャチャシリーズだけ。彼女等は軍隊がいない隙を狙う輩のカウンターだ。

 アラルブラの連中が邪魔でも“利用せねば”ならぬのだ。我慢するのだ自分。

 

 

「ねえ、何でマスターがわかったの?」

 

「天然の野生児だから勘とかそんなんでわかるんだろうよ」

 

 

 ソフィの言うように何ですぐにバレたのだろうと疑問を感じる。チャチャシリーズも一目見ただけではわからなかったのに。

 少しでも強くなれるようにとエヴァンジェル・コピーが施したのはあらゆる魔法行使の最適化と発動過程の短縮。本当にあらゆる手段を用いていた。

 その恩恵か、見た目は大きく変化していた。美青年(笑)の姿から威厳ある賢者へ。髭も髪の毛も伸び放題。服装も大きく変化して見るだけでは悪の魔法使い、悪い魔法使いへイコールと結び付けないはずなのだが。

 一目だけで見抜けるコイツは何なんだろうか。天才だ、天才肌だとわかっていたがチート過ぎやせんかね。

 

 魔法、魔術において行使する者の体毛は何よりの発動媒介となる場合がある。エヴァンジェリンの場合だとそれを知るからあの美しい金髪を綺麗に挑発に留め、揃えている。吸血鬼になったから髪の毛が伸びなくなっているだけとも言えるが。

 ここから言えるのは髭と髪の毛が伸びるまでの時間が経過している事だ。紛い物のボクはエヴァンジェリン程ではないが伸びる。特殊な魔法により、高純度の魔力が髭と髪の毛に染み込んである。故に、伸ばしている状態であるだけ最高位の上の魔法使いであり続けられるのだ。長期戦は勿論、簡単に大魔法も使える。

 

 

「チャチャゼロも連れて来ればよかったか?」

 

「マイスター(サブ)はマイスターの記憶が消えるから駄目だって」

 

 

 どれだけ呪いの規制が強いのだと突っ込みたい。甘いようで厳しい契約の呪いに造物主の容赦のなさが浮き出ているようだ。最も嫌がるであろう事もする、嫌がる事を見抜く力は本物なんだと感じた。

 対話を望んだがこちらはもう対話(物理)でゴリ押しする。必要な物はエヴァンジェリンが見つけてくれたから後はそれを奪うだけだ。鍵だとエヴァンジェリンもエヴァンジェル・コピーも言うがそんなにすぐにわかるものだろうかと感じるのが唯一の不安だ。

 

 

「どちらにせよボク等しか動けるのはいない」

 

 

 アラルブラに任せては鍵を入手する事が難しくなる。詐欺契約で鍵だけを貰う手もあるが為人を知っているアリカ一同にはすぐにわかる。それに、存在が露見するだけで新たな火種になってしまう可能性もあるのだ。

 伝説は伝説のまま腐らせるのが良い。伝説の大犯罪者も伝説のまま姿を消す。

 

 墓守の宮殿、アリカ達は墓守り人の宮殿と呼ぶ場所の深層部に到達寸前に鼻が異物を捉えた。嗅ぎ覚えのある臭いが幾つか混じっているのがわかる。

 先に造物主にコンタクトすると思ったが、こっちが先か。ソフィに目で油断するなと警告を出した。

 後ろにも手で知らせる。アラルブラの中でも親交が多いアルビレオとゼクト君がそれを理解し、他の者に伝える。最初は今の姿に唖然としていたけどまだ混乱しているご様子。

 ドンドンと突き進んで行くと目的の奴が――。

 

 

「やあ。久し振りだね。悪いけど君との契約はここで終わりだy」

 

 

 話す気はないと意志を見せるようにミニ太陽をぶん投げた。魔力を込め、積み重ねた知識をフルに使った魔法。ファンタジーな術だけではなく、物理法則といったものまで利用したこの魔法は一味違うと声を大にして言ってやろうか。

 まだ喋っているであろう懐かしの一郎君。ミニ太陽に驚いて慌てて避け、仲間らしき者も必死で避けているのが見えた。

 

 

「ちょ、ちょっと。そこは少しでも話を聞く場面じゃないのかい?」

 

「……ソフィ」

 

「敵と語るくらいなら少しでもぶん殴って弱らせる。ふふんっ」

 

 

 自慢気に語るソフィ。可愛い。

 一郎君は思いっきり顔が引き攣っている。いきなり攻撃したから驚いているのか、魔法の威力に目を張っているのか。どちらにしてもどう反応すればいいかわからないようだ。

 

 

「ま、まあいいさ。あの方は君に期待を寄せていたけどこうまで裏切るのならもう用済みって事になるかな? 恨まないでくれると嬉しい」

 

「悪いんだが、今はこっちが一郎君よりも強い。君の兄弟が来ようとも過去の英雄が来ようとも負ける気はしない」

 

「自信がおありのようだ。なら君の為に用意した隠し玉を使わせてもらおう――過去の英雄と呼ばれる魔法使いと戦士、僕のアーウェルンクスシリーズのセクンドゥム達が相手になろう。負ける気がしないのなら頑張ってくれ」

 

 

 キザにパッチンをする一郎君。転移トラップが仕掛けられていたらしく、魔法陣そのものを移動させる(・・・・・)というアホな事をやってのけた。タタン、とソフィと別れるように逃げるように飛び出す。

 

 

「ああ、安心してくれ。紅き翼の面々は僕達が丁重に饗す。お嬢さんもお帰り願うさ」

 

 

 憎たらしいほどの笑顔が最後に見た一郎君の表情だった。転移魔法が発動し切る前にソフィにはある指示を与えておいた。

 

 切り替わった景色。一郎君がそのまま残っているのかと思いきや、微妙に違う一郎君が立っていて満面の笑みで迎えてきた。

 

 

「フハハハハハッ! 貴様の命もここまでだなイレギュラー! このセクンドゥムが、あの御方の為に、貴様の首を献上する!」

 

 

 何ともウザい一郎君だろうか。髪型も違うし顔は同じでもかなり醜悪でキモイ。名前からするに一郎君じゃなくて次郎君か。

 次郎君の他にもまだ同じ顔がいる。一人、二人、三人、四人。合計五人の同じ顔、五つ子ですか。身長で決めるのなら次郎君以外は同じ背丈に見えるので寧ろ四つ子と表現すればいいのだろうか。

 一郎君ファミリー、長男のいないアーウェルンクスファミリーの後ろには他にも人がいた。付き従うように油断なく立っている姿は歴戦の戦士の雰囲気を感じさせる。そして、女の数が上回っているのは狙っているのか。

 

 

 ―― おいコピー。返事しろ。

 

『お、おう。何やねんオリジナル様』

 

 ―― 真面目に戦おうと思ったが計画変更だ。エロ関連の感情を一旦返せ。良い餌が山程いるからな。

 

『わーお。エロを吾輩に流したのにまだエロを考えるだけのエロ思考が残っているたぁ、オリジナル様はよっぽどのエロい人ですな』

 

 ―― 黙れクソ。消すぞ。

 

『イ、イエッサー。で、できたら情事のビジョンを見せ』

 

 

 ブッツンと念話を切る。今になって少し後悔した。あんなのを一時期限定とはいえ、生み出したのは間違いだったかもしれん。同時に、自分の中にあるエロ思考が膨大である事にどう反応すればいいのかと戸惑う。そこまで変態なのかボクは……。

 ギュルンと表現できる感触と共に真面目な思考にエロが混ざる。思わず漏れそうな笑いを髭と手で隠しつつ、まだ得意気に語るセクンドゥムの話を聞き流す。

 ねっとり、べっとり。粘り付くような視線を意識しつつ英雄様の女一同を見る。厭らしい雰囲気を察したのか、女性陣はそれぞれ構えた。

 

 くひっ。魔力を頂きますかねェ。

 

 

 

 

 

 

 






 真面目路線から脱線。選り取り見取りの女の子がいたら誰だって捕まえてくっ殺をしたいでしょう。間違いないはず(確信)

 ちなみにアラルブラチームは原作通り。漫画を読んでアラルブラの勇姿を見るのだ!

 次回でもう造物主と戦います。




 ネタバレ やっぱりいつも通り





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 遂にラスボスさん。オリ主さんがいると何故か強化されるのが地雷系二次小説の鉄板。転生だともらった特典に関する敵の特殊能力が使えたりする謎。そこが地雷所以。

 まあ、この小説も地雷ですけどね!!





 

 

 

 

 

 ここまで世界を救う崇高な主の理想を叶える為に手を尽くした。なのに何だこれは、状態であると推測する。

 

 

「このっ、化け物がっ」

 

「アーハハハハハハハハハハハ!!」

 

 

 どっちが悪役だよ、と自分でも思う。エロの力は偉大なりと誰かが言ってたような気がするがまさにその通りだと言わんばかりに力が溢れる。自然と高笑いが出るのが何よりの証拠だ。

 恐怖に怯えた目をする次郎君。ほらほら、さっきまでの勢いはどうしたよ? ボクを殺す事は容易いだとか言ってただろ?

 

 

「魔法世界でも名を残す奴を蘇らせたんだぞ? 何で負けるんだ。奴を殺せなきゃ蘇らせた意味がないだろうがぁ!」

 

「安心しろよ次郎君。殺しはしねーよ。ボク、エヴァンジェリンの実験体になってもらうだけだからさぁ。造物主の作品の傑作ともあれば最高の土産になるだろうし?」

 

 

 ひっと怯える次郎君。野郎を脅かすのも楽しいものではあるが、殆どは拘束し終えた。残るは次郎君だけなのでさっさと終わらせなければ。

 次郎君だけを生かしたのは気になる物を持っているからだ。エヴァンジェル・コピーが言っていたような“鍵”らしき物が彼の背後に浮いており、その正体を聞く為に最後に残した。

 

 

「さて、次郎君。君に選択肢を二つ与えよう」

 

 

 右手を次郎君に見せながら二本の指を立てる。まずは人差し指を折り曲げて提案の一つを告げる。

 

 

「それが何なのかを教えてくれるのなら生かしてあげよう。無論、実験体なんて物騒な事もしない。完全な自由にしてあげる。そしてもう一つ。そのまま惨めに殺されてエヴァンジェリンに辱められるかどちらか」

 

 

 ボクとしては後者を選ばせてあげたい。エヴァンジェル・コピーに見せられたエヴァンジェリンの記憶の中にこのクソ野郎の下卑た顔を見た覚えがあるからね。どうせなら八つ当たり権利をエヴァンジェリンにプレゼントして仲直りのきっかけにしたいもんだ。

 くっ殺展開になったりはしてないものの、この下衆野郎は生かしてはおけんのだ。もしエヴァンジェリンをエロ同人みたいにしていたらSAN値直送ルートに直行だった。命拾いをしたな。心をズタズタにしていただろう。おまいうと聞こえたが気のせいだ。

 

 まあ、答えは聞くまでもなかったが。命乞いをする次郎君を見れば。

 

 

 

 

 

 

 

 

「マスター」

 

 

 てててーっと可愛い擬音と共に駆け寄るのは少し傷があるソフィ。飛び込むように抱き着いて来たので受け止めてあげる。埃も所々に見え、激戦があったのがわかる。

 元の場所をソフィを辿って戻れば宮殿の廊下らしき場所に穴が乱雑している。耳が戦闘する音を捉えるのを考えればまだ誰かが戦っているのだろう。一番に終わらせたのはソフィか。

 

 

「どうだ」

 

「バラバラになった。ろりこんはあっち、白いのはあっち、でかいやつは上、メガネはあそこ」

 

「ナギ君は?」

 

「奥」

 

 

 外に出たような広い空間を指差す。一郎君とでも戦っているのだろうと推測。人形とはいってもヒューマノイドに近いソフィは魔法が効くように設計されている。要は治癒魔法で傷を治せる。

 致命的になり兼ねない傷だけは癒す。ペタペタと全身に触れて挙動がおかしい場所がないかを調べたが、特に問題がない事がわかると背中を押して前に進む。多分、あの奥が造物主へ到れる道のはずだ。途中にナギ君がいるのだけはいただけないが。一郎君を押し付ければいいだろう。

 

 

「そ、そちらは終わりましたか」

 

 

 さて、と足が動きそうになる前に青山詠春が戦いを終わらせ、こちらに合流して話し掛けてきた。肩を抑え、頭から血が流れている。激戦であったとわかる。敵も必死なようだ。

 

 

「大丈夫か?」

 

「何とか。ですがナギを助けなければ」

 

「まだ戦れる元気はあるらしいね……さて、君に少しお願いがあるんだが聞いてくれるかな?」

 

 

 お願いよりは命令に近い。お願いして拒否されては万が一があるから命令する方がいい。疲れている青山詠春ぐらいなら少し殺気を当てるだけで快く聞いてくれるはずだ。

 

 

「ウチの子、ソフィと共同で雑魚を食い止めてくれない?」

 

「は、は?」

 

「ボクはこれから真のラスボスと戦う。切り札は幾つか用意しているけどその中の幾つかが邪魔されると効果を発揮できなくなるのがある。護衛してくれ、とも言えるね」

 

「……話が見えてこないがあなたを守ればいいのか?」

 

「掠り傷一つ負わせる事がないようにお願いしたいんだ」

 

 

 少し悩む青山詠春。このまま悩まれても時間の無駄と決め、ダメ押しに治療薬を渡した。ポーションとも言う薬があればまだもう一戦はできるはずだ。

 一騎打ちとは違い、今度は防衛戦だ。護衛任務で守るだけ。アラルブラがいれば容易いはず、と彼等の評価は上げている。特にナギ君はまほらの時よりもずっとずっと強くなっている。仲間も強者だらけ。背中を任せるなら彼等だろう。

 

 

「努力はしよう」

 

「うむ」

 

 

 商談成立。こうなれば万が一が起きる確率が低くなるのでこちらとしては万々歳である。

 青山詠春とソフィと共に奥へ走る。ソフィは走り、青山詠春も走り、ボクはホバー移動するように地面から少し浮いて滑るように前へ前へ移動する。真面目モードになると走るよりも魔法を使った方が効率が良かったりする。有り余る元気を放出するような感じだ。

 大廊下から奥の広い空間に出るとそこは宮殿の中庭のような場所だった。中心はクレーターが山程あり、ナギ君が格好良いポーズをしていた。敵の一郎君の首を持って持ち上げ、尋問らしき事をしているようだ。

 

 

「ナギ!」

 

「この距離じゃ聞こえんって。それにしてもナギ君は強くなったな。あの一郎君をボコボコにできるとは恐れ入った」

 

 

 まあ、ボクなら無傷でボコボコにできますがねぇ(ドヤァ

 

 青山詠春がナギ君と一郎君に視線が行っている間、墓守の宮殿の中庭を見渡す。伝承に残された景色そのままっぽい感じはするが、年月も経っているのでもしかすると細部が違う場所がチラホラ存在しているかもしれない。

 ――そして、あれが。あの大きな塔が造物主がいるであろう場所。エヴァンジェリンはこの中庭で造物主と戦ったと言っていた。ここが決戦の場となるかもしれないという事だ。

 更にやらなければならないのが黄昏の姫御子である少女の救出。エヴァンジェリンの持ち出した情報によれば“鍵”は彼女が使う事で最大限の効力を発揮すると言っていた。次郎君の尋問で彼女の居場所はこの宮殿の祭壇にいる事はわかっている。

 

 わかる。見られているのが。どこかで造物主はボク等を見ている。中庭に出た途端に探るような視線が感じられる。

 

 

「ソフィ、いるぞ。警戒しろ」

 

 

 言われずとも、とソフィはとっくに警戒を怠らずに構えている。ナギ君を心配そうにしている青山詠春とは大違いだ。真のラスボスがいる事は言ってあるのに。

 何だかんだで抜けている青山詠春含めるアラルブラ。前にアリカとテオドラが誘拐された時の失態もそれが原因である。強いが故、持て囃されるが故にしてしまう錯覚。自分達は無敵であると思い込むからあんな油断をするのだ。

 あれやこれやと考えつつ、決戦に向けて魔法のブーストを掛けていると動きがあった。

 

 ――ナギ君が貫かれた。一郎君と共に。

 

 

「ナギィィィ!!」

 

 

 青山詠春が飛び出す。よく見ると他のアラルブラのメンバーが倒れるナギ君を救おうと彼の所に集結している。

 ソフィは動かず、前に出てボクを守るように立ち塞がる。そんなソフィを守るように完全開放されたアーティファクトを仕舞う別空間への扉、魔法陣を発動させる。中の物を引っ張り出した。

 

 

「彼等を守れ――」

 

 

 アラルブラのゼクト君とラカンがナギ君、青山詠春、アルビレオを守るように前に出ていた。アルビレオはサポートするように重力の結界を張っているようだ。

 ゼクト君はオリジナルの防御魔法、ラカンは以前に見た気合防御というふざけた名前の防御(物理)をしている。感知能力のないボクでもわかる強大な力の波動に二人のガードだけでは足りないと理解した。理解してしまった。

 だからこそ命令を下す。アラルブラを守れと。頼む代わりに一度だけ救ってやろう。

 

 それは絨毯爆撃とも言えるような暴力と火力の嵐であった。宮殿を破壊せん勢いで放たれる未知の魔法がアラルブラとボク等に向かっていた。

 ソフィを引き寄せ、“それ”を持って更なる命令を下す。視界が光に包まれ、爆音が耳を叩いた。

 

 

「こりゃ凄まじいな」

 

 

 エヴァンジェリンの記憶だともう少し弱い類の威力だったはず……計画が遂行される直前なのだから遊びはなしで殺しに掛かってくるのが普通か。

 ソフィを抱え、“それ”を持ち直して五体満足なアラルブラの元に飛び立つ。

 

 

「無事?」

 

「これ、は……?」

 

 

 青山詠春が戸惑うように声を出す。まあ、杖が何本もフワフワと浮かんでいればそうなるわな。しかもあれだけの魔法を完全に防ぐような物なら尚更だ。

 切り札その二。その一はエヴァンジェル・コピーによる超高密度魔力充満空間で傷を付け、毒のように魔力を体に浸透させてドーピングを施すこと。長い不潔そうな髪の毛と髭はその為に存在している。

 マスターロッド、世界樹の枝から作られた杖を更に世界樹発光による高濃度マナを吸収させた完成品を利用した伝説級のアーティファクトに並ぶ一品。

 

 エヴァンジェリンは複数本、世界樹の枝を確保した。それ等は全部杖に変え、ボクに譲られた。マスターロッドという管制塔を得た事で可能になった、世界樹のマナを宿す杖同士の共鳴反応による遠隔操作がタネだ。

 性能は造物主が放った魔法を完封する魔法を発動できる性能っぷり。チートにも程があるが、造物主の実力がインフレしている場合、これが鍵となる。

 

 

「青山詠春。さっきの頼み事、お願いするよ――来たみたいだ」

 

 

 ズズンと空気と雰囲気が重くなる。見えない重圧に押し潰されるかのように凄まじい気配を放つ何かが来ているのが感じられる。ソフィまでもが圧倒されている。

 アラルブラにソフィは重力魔法を受けたように地面に沈んでいる。立っているのは自分だけという異常な状況。それだけ実力の差があると証明になってしまうから緊張しそうだ。

 ピリピリではなくビリビリ。肌を刺すプレッシャーと共に現れたのは黒いローブの第三者。

 

 

「ようやく会えたって感じかね」

 

 ―― そうだな

 

 

 まさか返事をされるとは思わなかった。エコーが掛かるように声が反響している。顔は見えない。ローブのフードを深く被っているようで中身が闇の深淵だけしかないと勘違いしてしまうほどだ。

 前から造物主に会いたいとは思っていたがこんな格好をしているとは。体を覆うローブ以上の大きさは威厳を出す為に使っているのだろうか。

 

 

 ―― 貴様/其方/あなた/お前とこうして会話をするのは初めてだ。よくぞここまで来れたものだと驚くばかりだ

 

「アンタと会う為に努力をしてきたからな。血反吐を吐いて、ボクの望みを叶えられるのはこの世界だと造物主ぐらいだから頑張りもするさ」

 

 ―― 今まで、観察を重ねた。貴様を見ていた。お前を見ていた。努力も人生の軌跡も。我が娘と旅をするところも

 

「娘……?」

 

 ―― 然り。我が娘、エヴァンジェリン。革新を遂げた真の真祖たる存在

 

 

 造物主はここぞとばかりに語る。エコーがあるからか、少し聞き取りにくいが耳に入るよりも頭に響く感じがする造物主の言葉は聞こえずとも理解は出来た。

 

 

「エヴァンジェリンの真祖は従来の真祖とは違うという事か」

 

 ―― そうだ。我が力を持ってしてもオリジナルには程遠い真祖だが、あれは別格だ。劣化しているとはいえ、あれほどの力を有する事ができたのは全くの偶然。我が血族に連なるからこそ起きた事でもある

 

「……ふーん?」

 

 

 その言い方だと真祖は別にいる事になるのではないか? その真祖を参考にしたからこそエヴァンジェリンの真祖の力を得るきっかけになったとも考えられる。

 それもエヴァンジェリン以上の真祖と来た。真祖と聞くとタイプムーンを思い出すのだがまさかいないよね? あれだけ旧世界と魔法世界を旅していたのにまだ調べていない場所があるとかって事じゃないよね?

 

 

「その真祖はどうした? アンタの喋り方からすると自分以上の力を持っていると言ってるようなもんだぞ」

 

 ―― 敢えて肯定する。彼の真祖は我に世界の創り方を授けた。故に我が造物主である始まりは彼にあるのだよ

 

 

 タイプムーンではないようだ。彼女だし、造物主は彼と表現をした。アルクではなく朱い月のブリュンスタッドがいると無理ゲーに成り果てるから存在しないのは大助かりだ。

 

 然りげなく会話を交わしながら攻撃の機会を伺う。それはあちらも同じ考えのようで、僅かに腕を通しているローブの袖が揺らめいている。

 マスターロッドだけで対抗できるかと問われればノーだ。これには並列思考が必要になるわけで最後まで習得できなかったボクでは混乱するだけ。様々な手段を用意しているが準備は必要である上に造物主がその隙を生んでくれるとはどうも思えない。こそこそとしかするしかないのだ。

 

 

 ―― 確認しよう。そちらはこのグランドマスターキーを欲する

 

 

 造物主が手を翳せば奇天烈デザインの鍵、次郎君曰く“造物主の掟”こと『コード・オブ・ザ・ライフメイカー』が浮かぶ。それもグランドマスターキー、造物主の掟という鍵の頂点にあるものか。

 デッドコピー、次郎君が持っていたのは開錠権限がグランドマスターキーよりも下の鍵。オリジナルであるグランドマスターキーがあれば、全ての機能を扱える特権を持てる。この魔法世界を文字通り操作できるトンデモアーティファクト。

 あれだ。ボクはあれが欲しい――!!

 

 

 ―― そして我は貴様/其方/あなた/お前が欲しい

 

「…………え゛」

 

 ―― 最高の素体。永遠の命に加え、多彩な魔法に対する見解と知識。生き抜く為に鍛え上げた強靭な肉体。欲しい。欲しい。我の新しい肉体にこそ相応しきものだ

 

 

 爆弾発言であった。ゾワゾワと背中がざわついたが、後の発言で更に気持ち悪くなった。

 き、寄生タイプの不老不死か。造物主が不死である事は魔法世界創造伝説を考えると今、生きている事が何よりの証拠になる。細胞が老化しない。細胞が死滅せずに再生を繰り返すタイプの不老不死であるボクとは別の系統だ。

 魂だとか精神だとかで他人の体を乗っ取るタイプなのか、体の一部が寄生虫のように取り付いて乗っ取るのか。どっちも嫌である。

 

 

「キンモッ」

 

 

 心の底から思っている言葉を吐き出した。寄生するのだけはいただけない。どうもそのタイプの同類は足蹴りするレベルで拒絶する。

 不老不死のタイプは他にもあるがこの直接的な寄生は大嫌いだ。害虫レベルで。

 

 

「キモイ。マジキモイ。マジ死ねよお前。不老不死なのは知ってるけどまさか寄生タイプだなんて幻滅だよ死ねよ。燃えて死ねよ」

 

 ―― ふむ? 我は死体をいただくのだがな。貴様/其方/あなた/お前のホムンクルスを生み出す事も考えているのだが

 

「死体漁りで更にクソだよアンタ」

 

 ―― 我は魔法世界を創り、世界を守る事を決めた時から畜生である事は受け入れておる。罵倒はされど、心は痛めん

 

 

 ギュルンとコード・オブ・ザ・ライフメイカーのグランドマスターキーが二回転する。暗黙の了解と受け取り、手をバッと造物主に翳した。あちらも同じように攻撃の態勢に入った。

 

 ―― 拡散する燃える天空!

 

 開戦の狼煙が爆発と共に上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 造物主、ライフメイカー。不滅である事は原作でもあるのですが、ここでは所謂寄生タイプの不滅である事に改竄? ナギの顔のライフメイカーがいたのでナギの体を乗っ取る事から寄生タイプなのは間違いないはず。

 故にこのライフメイカーさんはオリ主のルツ……じゃなくてカラダ♂を狙うわけです。顧みればこのオリ主さんは色々素体としては最高の逸材なんだよね、とライフメイカーの不滅を考えたらそう感じた。特に頭にある他の作品の技術は未知だし? もし負ければライフメイカーはあらゆる世界で暴れる事になるでしょう。

 更にもうネタ明かし。このマスターロッドの参考はユニコーンのシールドファンネルだったりします。杖が浮き、魔法を撃つ。意外とそんなの見た事がないのでオリジナリティ(笑)を出しました。



 そろそろ完結します。この小説は大戦までになるので。アリカはナギと結ばれないフラグ乱立してるしエヴァは原作以上の実力あるから登校地獄は受けない。これだけあるのでネギをどうやって生めと麻帆良も色々とあれだから野菜少年物語は生まれないわけでございます。どうあってもネギには絡まん。

 それにクラスの担任になれば発禁になっちまう。エロは書かんよエロは。オープンエロだけどフルオープンは書かんよ。

 ペルソナはまだ受け付けておりまする。アニメが終わる頃には書きたいなーとは思ってます。






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敗れる


 感想返信 → 本当か服部! 何故唐突に出てくるのかわからんが二人ほど服部さんがおられたので。

 私事 → 鎧武最終回なので半裸で見た。腹が出てるから戦極ドライバー巻けずに肉に痕を付けるだけになっちまった。ダイエットします。



 急展開。まあ、これで読者も少しは気が晴れるだろう。オリ主さん負けますし。

 ざまああああああwww エヴァを本妻にしないからこうなるんだwww マジメシウマwww という気持ちで臨むと急展開になって負ける事になってた。

 すまんの。まだ長くなりそう。今回は珍しく九千書いてた。







 

 

 

 

 

多重呪文(マルチ・スペル)!」

 

 

 ―― 紅き焔!

 ―― 紅き焔!

 ―― 燃える天空!

 

 

 ―― 笑止

 

 

 同時に発動した魔法を鼻で笑う奴はローブの長い袖だけで打ち消した。マジかよ、と思う前にカラクリを見抜けた。ローブに魔法を無効化する術式か魔法陣を書いてあるはずだ。

 魔法を打ち消すだけでは止まらず、そのままこちらを貫こうと伸ばしてきた。どういう仕組みをしてるんだあれは。

 世界樹の杖、マスターロッドの配下にある三本の杖に指令を出す。シンプルに防げるだけの障壁を張って前にでろ、と命令を下した。命令を受けた杖はボクを守るように前に立ち塞がり、見える魔法陣が宙に浮かんでその槍を弾いた。

 

 話もそこそこに、戦闘は始まった。話を終えて戦闘をするよりもこの流れは話しながら戦う系な感じか。

 

 

 ―― さあ、もっと力を見せてくれ

 

「言われずとも!」

 

 

 腹に力を入れて飛び込んだ。魔法も発動し、思考速度を上げて高速戦闘モードに。静電気だとかで髭やら髪やらが凄い事になっているが我慢せねば。

 残像を魔力の残滓で作るように移動し、攪乱する。前に後ろに横に上に。だけど見られている感じが消えない。目で追えている。造物主は攪乱に惑わされずに見抜いている。光の速さと言っても過言ではないスピードのはず……これくらいはしてくれなければ用意した意味がないから逆に嬉しかったりする。

 

 

解き放て(エーミッタム)

 

 

 ―― 留まる千の雷

 ―― 留まる雷の斧×3

 

 

 ガカカカンと雷の音が響き渡ると造物主に雷が直撃した。魔力を込め、天災の雷に近付けるように威力を調整してあるから手応えはあるんだろうが、多分これでもダメージないんだろうなと初めから諦めた。

 雷の魔法を留まらせ、雷雲の中で鳴り響く雷のように永続ダメージが入るように魔法のプログラムを弄ってもいるのだが焼け石に水かもしれん。

 

 ほら。ああ。やっぱり。

 

 造物主は健在。掠り傷どころか埃一つもないとは少しだけショック。威風堂々に佇みやがってこのスケコマシ。

 

 

 ―― 素晴らしい。既に存在する魔法をここまで改竄できるとは。似て非なる性能を生み出す事は感嘆に値しよう

 

「お褒めいただき光栄です」

 

 

 静電気を放つボクの体は雷そのものに変質させてある。雷である事もプラスして雷の属性だけ威力を底上げさせているのにどうやって防いだのやら。実力のある魔法使いでも消し炭寸前にまで持っていける威力だぞ。

 まるで触手のように蠢いているローブが要因なのだろうがまだ何かが足りない気がする。お試しに、と髭の先から電撃を出して飛ばす。派手ではなく控えめに。

 案の定、打ち消された。そこで見極めたのが何故打ち消されたのか、ではなく“どのように打ち消されたのか”だ。様々な実験で雷の魔法がどのように消える仕組みなのかを大体は理解しているのでそこから原因を探る事にした。

 

 

 ―― 種明かしをしよう。我が血族の末裔、色濃く引き継がれた黄昏の姫御子の力を流用してる

 

「……あー、マジックキャンセルフィールドか」

 

 ―― 左様。我が言わずとも気付けただろうが今までの褒美である。さあ、これをどのように突破するのかを見せてもらおう

 

 

 余裕坦々だな。余裕だからこそ簡単にネタを明かすのか。

 それにしてもよりにもよって黄昏の姫御子のマジックキャンセル能力を使っているとは。あれだけはまだ仕組みは詳しく知らないし対策もできていないままだ。つまり、超が何個も付く厄介な事だ。

 

 

「ふんぬっ!!」

 

 

 考えている暇があれば投げる。まずは純粋な魔法、雷の槍を投げてみる。パシン、と軽い音と共に完全に無効化されて消滅した。これは当然か。

 

 

 ―― では次は我だ。踊り狂え若きノスフェラトゥ

 

 

 ほげぇ、と口から変な声が漏れる。造物主の後ろに怒る英雄王のように無数の波紋、魔法陣が大量に並んでいる事に驚いた。全てが同じかと思いきや、微妙に術式が違うのがあったり魔法陣のデザインが異なる部分もある。見た事もないのがあり、緊張で体が強張る。

 これではヤバイ、と思う前に造物主の魔法陣が発動して色とりどりの魔法弾が撃ち出されてきた。いつからこの最終決戦は東方になったんだ!

 

 

「ディフェンス!」

 

 

 左手でマスターロッドを持ち、右手を添える。遠隔操作で指示を出して避けられない魔法弾だけを防ぐようにプログラムを与えた。周りを飛ぶ杖は杖が割けるようにその姿を変え、緑色の薄い壁が形成される。

 マスターロッドを背中に回し、手を自由にすると後ろに飛んだ。思考を加速させる魔法を継続させ、一つの思考で冷静に指示を出す。

 

 

 ―― ふむ。奇っ怪なアーティファクトだな。だが面白い

 

「偶然という偶然が重なってできた代物だがな! オフェンス! ダブルフォーメーション!」

 

 

 ―― 雷の斧

 ―― 雷の暴風

 

 心の中で呪文を唱え、イメージで魔法を発動させる。ボクからではなく、空間を縦横無尽に飛び回っている杖から雷が飛んだ。少しだけ頭痛を感じた。

 黒い槍と化した造物主のローブの間を縫い、一気に接近する。雷を纏う拳で一発殴ってやると意気込んで突き出せば薄く幾重にも並んだ魔法陣が造物主の前に現れ、完全に防がれる。バチバチと電気が弾ける現象が発生した。

 何だ、これは。思わずそう思った。見知らぬ模様、高度な防御魔法陣がこうも早く多く展開できるとは、と驚いた。造物主の名は伊達じゃないのは本当か……!

 

 

「マジかよ。ここまで複雑なのは見た事がないぞ」

 

 ―― 貴様/其方/あなた/お前の場合は簡略化させて魔力を込め、強度を上げてるだけに過ぎない。我は複雑化した魔法陣の模様を用いている

 

「ネタをそうそう明かしてもいいのか?」

 

 ―― ハンデだ。貴様/其方/あなた/お前と我には大きな差がある。こうでもしなければ勝負にはならん

 

「言ってくれるなクソ野郎……!」

 

 

 気合一声。体を捻って腰を回転させ、回し蹴りを魔法陣に叩き込んだ。パンチとは違い、キックは魔法陣の何枚かを蹴破った。それでもまだ何枚か残っている。

 にどげりと脳裏に浮かんだ。もう一回転、腰を回すと二回目の回し蹴りを放つ。今度こそ全ての魔法陣は破壊できたはずだ。

 

 

 ―― ! これは予想外だ

 

 

 造物主が驚いているのだから破壊し尽くしたのだろう。手を休めるつもりはないと更に手を造物主の顔に向ける。

 

 ―― 紅き焔!

 

 普通の紅き焔よりも強化された焔が造物主の隠れた頭部を消し飛ばす熱量が直撃した。元々得意な火、人体改造をした今なら更に出力は上がる。それこそ火に強いドラゴンに重度の火傷を負わせられる……といいなぁ。

 だがここで容赦をせぬのがボク。一発から三発と王子のグミ弾の如く紅き焔を連射する。一発だけなら効果が薄くても連打すれば効果はある……あれ? やったかフラグが成り立ってしまったか?

 

 

 ―― 痛いではないかノスフェラトゥ

 

「うあー」

 

 

 頭を抱えたくなるが手は動かさずに足を動かした。蹴り上げの要領で同時に後ろへ退いた。後ろに移動し過ぎに思えるがヒット・アンド・アウェイの戦法をしているのでこれは模範解答に近い行動のはずだ。

 反撃される事も考慮し、杖に指示を出して魔法を撃ち出させる。弾幕で防御に徹底させ、距離を稼ぐように。

 と、ここで妙な違和感を感じる。

 

 魔法が効いている?

 

 おかしい。造物主は確かに黄昏の姫御子のマジックキャンセル能力を用いて魔法を無効化する(フィールド)を張っているはず。なのに紅き焔は痛いと言うほどダメージが通っているのか? だとすれば矛盾が生じる。

 目を細めて弾幕と煙の奥を凝視するように睨んだ。打ち消されている。マジックキャンセルフィールドが働いている証拠になる。しかし、さっきの紅き焔の場合はマジックキャンセルフィールドを貫いていた? それこそありえない。同じ魔法を使っているだけなのだからそこだけが貫いているとはもっと考えられない。

 そこまで考えていると、更なる衝撃が襲う。煙が吹き飛ばされた時と同時に。

 

 

「え、は、ハァ!?」

 

 ―― フフフ。見惚れたか?

「こうすればもっと会話も容易くなろう。若きノスフェラトゥ」

 

 

 エコーの声が消え、女性特有の声に変化する。フードの中の暗闇も消え、美人の女性の顔に変化する。

 

 

「今までも生き長らえる為に肉体を拝借したがやはりこの者が最適である」

 

「いやいやいや。いやいやいやいやいや」

 

 

 ブンブンブンブン……とエンドレスに続きそうなくらい手と首を横に振って思いっきり否定する。ありえんありえんありえん。

 

 

「ほげらっ!?」

 

「先程のお返し、だ」

 

 

 自業自得とも言える油断から生まれた隙を突かれて刺された。ローブの黒い槍で腹を貫かれついでとばかりに造物主自身の拳が顔面に突き刺さった。どこから手が出ているんだというツッコミが出せるのも余裕があるからなのか。

 ズボッと音が聞こえ、何かが引き抜かれる感触を感じると腹の貫かれた部分が熱くなり、一気に再生して穴が塞がる。改造した影響で再生スピードもエヴァンジェリンに引けを取らないはずだといいんだが。

 お返しと言われたので……。

 

 

「倍返しだゴラァ!」

 

 

 半沢さんが乗り移ったのか、何故か浮いていた杖の一本を掴んで鈍器のようにスイングして造物主の頭をぶち抜いた。グシャリと鈍い音が杖から伝わってきた。

 同時に、杖が折れた。ボキリという音が思考を停止させる。

 

 

「こう見えてもこの肉体は真祖の吸血鬼に並ぶ膂力を誇る。体の頑丈さも然り」

 

「弁償しろ。その体でなぁ!!」

 

 

 責任転嫁もいいところだと誰かに突っ込まれそうな発言をしながらありったけの魔力を込めてヤクザキックを繰り出した。トンファーを持ちながらトンファーキックと騙すAAを綺麗に再現したキックだと思う。

 唐突にトンファーAAシリーズを思い出してネタに走りたくなる衝動が訪れた。真面目にやると決めたのにエロが絡むとふざけたくなるのは何故だ。

 

 造物主の腹部に見事なトンファーキックが決まると吹き飛ばずに腹に食い込む。女性は男性よりも肉感が柔らかい感じなのは知っているが足から伝わる感覚がそれであると教えてくれた。

 女顔の野郎かとは思ったが……いや、まだだ。魔法がその境界線をあべこべにしているのはもう承知の上だ。胸の有無か股間の有無か。そこが見抜けるポイントになるわけだがあのローブをどうやって剥げというのだ。

 そこまで考えている時間は僅か、一秒。思考加速にてどうでもいい事を考えたり思ったりする事もできるのだが普通は作戦を立てる時間に使うはずなのにボクは何をしているのだろうと最後の思考はそれで彩った。

 思考の海から引き摺られたのは足の新たな感触。腹を蹴られた造物主が口の端からたらりと血を流しながらも笑い、足をガッシリと掴んでいるのが見え、わかった。

 

 

「去ね」

 

「があっ!」

 

 

 激痛が走った。それもそうだろう。何せ、足を捩じ切られた(・・・・・・)のだから。捻るように腕を回転させ、足を一回転させて文字通り捩ったのだ。このような痛みは初めての経験だ。

 折れた。切れた。骨も肉も。凄まじい力でそれをするとそうなるのか、と別の事を考えていた。どうもボクは冷静に物事を考える癖がある。

 

 

「膂力と魔力の掛け算。足し算が普通ではあるが架け橋として専用の魔法陣を刻めばこの程度は容易きこと。残念ながらこの肉体は膂力は貴様よりも下だから同じ立ち位置にいるのであれば負けるがな」

 

 

 相も変わらずに自慢気にネタばらしをする造物主。経験した事がない痛みには耐性がない肉体だから体が硬直してしまう。捩った片手を離し、そのまま首に伸びてきた。もうほぼ反射的に反応をし、手を弾いた。

 ギリッと歯を食い縛って痛みに堪える準備をする。ままよ、と心の中で叫んで逆の方向(・・・・)に体を回転させる。捩じられた方向とは逆に。無理矢理捩じられた肉を元に戻して再生の手間を省いた。薄い煙を出しながら肉が裂けていた部分が一気に再生し、綺麗な足に戻る。ズボンだけは捩じられて破れている部分があるので無事ではないが。

 

 

「痛そうだな」

 

「こんの……ヌケヌケとこのクソアマァ」

 

「ふむ。我は女のカラダをしてはいるが女ではない。女はカラダを武器にできるから重宝はしておるが小汚い男に犯されるデメリットだけはどうにもならん。昔から男は女と交わる為なら不可能も可能にするからな」

 

「知るかクソボケ!!」

 

 

 多分、痛みに一方的に嬲られる事に憤慨しているのだろうと思う。今までは逆の立場だったのに加え、本気で戦える相手はエヴァンジェリンだけ。しかもエヴァンジェリンは殺す気で来ても何だかんだで再生が容易い攻撃しかしてこない。

 故に、ボクは魔法使いとしての実力がない時以来、本気での命のやり取りをしていない。最後の最後、アートゥルことあのオッサン以来は一度もないわけだ。

 

 怒りに任せて攻撃した。しかし、思考と行動が一致する事があったり不一致になる事があるとエヴァンジェリンが言うくらいのボクは怒りの感情とは別に冷静に的確に弱点を突くように有効的な攻撃を繰り出していた。相手が女性である事だけは忘れて。女性には優しくがポリシーのはずなのに。

 ボゴッと女性の人体では出してはいけない音が響く。後悔よりも先に敵を仕留める思考と体が一致し、更なる追撃を行う。人を殺す技を体得した歴史を吐き出すように一撃一撃が必殺の意思を込められていた。女性の肉体を持つ今の造物主なら通じるはずだと確信を持ったからこそ体が選択をした。

 

 吸血行為という吸血鬼らしい必殺の行動を。

 

 

「クッ、吸血鬼の吸血衝動は嫌うのではなかったのか」

 

 

 あめぇ。だからこそその選択をしたのだ。嫌うからやらないだろう、苦手だからやらないはずだ。そんな先入観があるからこそ一瞬の隙になる。

 さっきまで隙らだけのボクが言える事ではないが意図返しだ。怒りで我を失いそうになっているが立てた計画だけはしっかりと頭の中に残っているようだ。吸血は情報を抜き出すのにも最適な行為であるのは真祖のご主人様でもあるエヴァンジェリンからの助言で知っている。

 我ながら恐ろしい。何も考えずとも最適な方法を選んで戦いを終わらせる事もできるように思えてならないのだ。無意識ってレベルじゃない。

 

 

「そうか。その髪と髭は長き時を経た事だけではないのか。細胞の一つ一つが魔素に侵食されている。人である事を望んでいたはずが、吸血鬼である事を受け入れたのか……フッ、それほど必死であるという意志の顕れでもある。やはり貴様は面白いぞ若きノスフェラトゥ」

 

 

 血を吸い、肉を噛み切る。カニバリズムを初体験した。今までずっと彼女に会う為にその一線だけは越えないようにと努力をしたが、これで吹き飛んだ。

 吸血鬼としての本能が喜ぶ。人の肉の味と血の味に歓喜し、応えるように体が嘶く。魔力が溢れ、エヴァンジェル・コピーが想定した改造がこれでようやく完成に至った。

 

 嬉しそうな女の顔に拳銃を突きつける。もうここからはボクじゃないボクが吸血鬼の本能のままに力を振るう。あのエヴァンジェリンでさえ敗れる相手だ。出し惜しみはしないという思考が持ちうる手札を切る勢いで振るい始めた。

 撃てば銃弾が飛び出す。造物主の顔に到達する前にローブが蠢き、弾かずに受け流して後ろへ飛んでいく。弾倉にある銃弾を全て吐き出させる。トリガーを引く度に炸裂音と共に造物主に向かっては受け流される。拳銃では有効打にはならない……今は。そう判断を下す。

 今度は今まで長くする事ができなかった爪を鋭く尖らせるとクロスさせるように腕を振るって引っ掻いた。魔法陣に防がれたが紙のように容易く切り裂く。

 

 

素晴らしい(エクセレント)

 

 

 嬉しそうに呟く造物主は衝撃波のようなもので一気に距離を空け、自分はローブをはためかせながら後ろへ下がる。

 距離が空いた瞬間、造物主は無数と表現できる魔法陣をボクの周りに配置する。縦横前後上下隙間なく。考える前に体が動き、小さな太陽を手に宿して一気に握り潰す、と同時に魔法弾が連射されて殺到する。

 体の底から湧き上がる熱に浮かされるように思考が乱れる。抑え切れない熱が暴走し、体の中心から噴き出して大爆発を起こす。それに伴う衝撃波が空間を埋め尽くすように広がると魔法弾が消えるのがわかった。

 

 

「お見事」

 

 

 パチパチと手を鳴らす音が聞こえる。たった一言だが、そこに含めたあらゆるメッセージは褒め称えるものしか感じられない。本当に祝福し、褒めているのが嫌でもわかってしまう。

 言動と行動が一致しないのは自分だけではなく彼/彼女も同じようで吹き飛ばした魔法陣とは別の新しい魔法陣が展開され、刻まれた模様も少し変化しているのが記憶と照らし合わせた事で理解できた。

 魔法陣から放たれるのは弾なんて生易しいものではない。敵を貫かんとする戦槍。キリストを貫いたロンギヌスの槍とも錯覚しそうな膨大な魔力が込められた光る槍の矛先が出番を待つように頭だけを魔法陣から出していた。

 ギルガメッシュの王の財宝か、とツッコミを入れたくなる景色に体は勝手に動いていた。順番に隙を与えぬ槍のガトリングが降り注いてくるのを視認するとストックしていた雷の魔法を解放して吸収する。マギア・エレベアの術式兵装を発動させると、螺旋を描く回転をしている光の槍を回転に合わせて回りながら掴み取る。

 ジュッと手が焼ける。ただの光の槍ではなく、吸血鬼殺しの概念と恐らく不死殺しの概念が付加されているのではないか。自分は元ネタという偉大なる版権キャラクターの技術を知っているからこそ概念付加を知っているのに造物主は考えた上に実用性まで昇華させている。魔法使いとしての才能が恐ろしく思えた。あれだけの数を見れば誰でも思うはずだ。

 

 エヴァンジェル・コピーの対策。吸血鬼唯一の弱点とも言える不死殺しを如何にして受け付けないようにするかが勝負の分かれ道だと言っていた。いわば、その概念を“引っ繰り返す”かが勝負の鍵になる。

 概念を引っ繰り返すのは無理だ。もしも、ゲイ・ボルグが存在すれば一撃必殺を防ぐ手立てはボクにはない。ならばどうするのかと杭で刺されながら考えたのは結局は力技。

 

 

「……ほう?」

 

 

 膨大な魔力を更に超える魔力で無理矢理概念を“上書き”する。力技で押し切り、暴発しないように細心の注意を払って概念を書き換える事でそれは不可能をできるのではないかレベルまで引き上げた。

 回転する槍を止めると完全に支配下に置き、演舞を舞うように光る槍を操る。槍の扱いは不得手なので上書きした概念により、槍から一対の二本の光剣へ変化させる。そこから更に魔法を発動。雷の術式兵装に加え、思考加速(タイムアルター)をマックスに引き上げる。それなりに速い槍がスローになり、一瞥して最も被害の少ないルートを計算する。

 一本を失ったが、まだ無事な杖は忠実に出した命令を守る。防御魔法を張り、ルートの計算を更に容易くさせる。剣を振るう。剣を振るう。杖が守る。剣を振るう。杖が守る――そんなループが始まる。

 剣に斬られた槍は消える。消えた光を吸収するように手に握られる光剣の放つ光は強くなる。少しずつ吸収させる事で内包する魔力を増やす。マギア・エレベアを会得しているからこそできる裏ワザだ。何かの漫画にもそんな展開があったは――。

 

 

「邪念が出ておるぞ」

 

 

 だから何なのだと無言で大きく反撃した。光剣をクロスさせて光を伸ばし、広範囲を斬り付ける。よくある剣士のロマン砲と同じ事をしている気分だ。

 前方を薙いで槍を魔法陣諸共破壊した。一気に視界が拓けたのを確認すると、杖が開いた空間を飛翔する。道の安全確保する意味合いでもクルクルと回りながら入り込む隙間を与えぬようにフィールドを展開する。

 唇を舐め、舌なめずりをすると口の中に血の味が広がる。ブルリと歓喜する体が抑え切れないとばかりに動き、ロケットのように前に飛び出した。思考加速を使っていないであろう造物主は雷の術式兵装を見抜いていた事を考えるとどこにいるかはバレバレであろう。

 

 

「おお。言い忘れておった」

 

 

 右の光剣を背中に回して振りかぶる。まさに攻撃をしてやるという一瞬の間でその駆け引きは始まった。どのように攻撃するのか、裏をかいて別の手段を用いるのか、それらを考えて造物主とボクは判断を下す。

 何かを言いかける造物主は敢えて無視する。そこでボクは最も“しないであろう”選択を選んだ。

 

 

「我が娘と相対した事は知っておろう。契約も交わした。故に我はエヴァという真祖を知り尽くしているとも言っても過言ではない……今まで黙っていたが貴様の思考は読めているのだ」

 

 

 ――何をしようとしているかを、な。と続く言葉に息が詰まる。言葉を止められると共に、光剣も杖も二又の槍(・・・・)も止められた。造物主は手を添える事すらもせずに軽く手を上げているだけ。どうやって止められたのかもわからない。

 

 

「フフ。言葉も出んか。エヴァ、エヴァンジェリンを知り尽くしたという事は即ち、契約のパスを乗っ取る事も同じなのだ。故に我は知る。貴様を。貴様の秘密を。貴様の真名を。あらゆる貴様を知る事ができたのだ。無論、この槍の真実の名も力も」

 

 

 指を動かせば槍を奪われる。コード・オブ・ザ・ライフメイカーと同じようにクルリと回転して造物主に付き従う。奴が触れれば槍は一度螺旋状の紙に分解して槍の形状が変化し、矢の矢尻のような槍先の赤い槍になる。

 

 

「カシウスの槍と名付けたか。彼のロンギヌスの槍と似る名。使い方を知らぬ秘宝級のアーティファクトをここまで変化させる事はまさに偉業である。全く、貴様は第二の造物主となるべきかもしれぬ逸材であるな」

 

 

 だが、と造物主は言葉を詰まらせる。まるで残念でならないと頭を振りながら呆然として体が動かない自分を見る。

 硬直じゃない……これは、念力に似た何かで動きを封じられている! 今までの勢いを一気に殺される事になり、借りてきた猫のように大人しくなるボクの体に思わず舌打ちが漏れる。吸血鬼の本能とはこの程度なのか、と。

 

 

「もう少し遊びたいがもう時間が来てしまった。黄昏の姫御子をこれ以上苦しませずに終わらせるには貴様の肉体を儀式に使う」

 

「まだ終わってねーぞこの野郎」

 

「いいや、終わりさ。我の血を吸わせた事でもう勝負は決した」

 

 

 段々と吸血鬼の本能がナリを潜める。それを見計らうように造物主はゾブリと容易く細い指を胸の中心に突き刺す。

 え、と漏らす前に造物主はもう片手で優しく頬に触れてきた。それは嘗てのエヴァンジェリンが愛情を表現する手付きと同じものであった。駄目、だ、やめろ。ボクの中に入ってくる。やめろ。

 

 

「様々な手段を講じているようだが全てが無意味。擬似精霊を用いて訓練をしているようだがそれを行うにはそれ相応の準備が必要なのだろう? 準備さえ潰してしまえば恐るるに足らん」

 

「ボクの中に入ってくる? 見るな。ボクを見ないでくれ!」

 

「安心するといい。初めは辛いだろうがそれが終われば我と共に永遠に生きるのだ。愛してやろう。我の中で永久に生きよう我が息子――」

 

 

 ――その前に死ね。その言葉が最後に聞いた言葉であった。ゆっくりと脱力し、戦う意欲が消えていった。

 エヴァ、エヴァンジェリン……助けて……。

 

 

 

 

 

 

 

 





 大層に動いているように見えて実は動いていない騙し文。

 オリ主が策士していると思ったら造物主が更に上の策士だったでござる。←まとめればこれだといいな。

 ナギを望遠鏡で覗いていた造物主は誰なんだろうか、と考えた結果ウェスペルタティア王族のイケメン王子じゃまいか、とおもた。女性にも見えるけどエンキドゥみたいな性別オカマなのか? ネギまで最も謎なのが造物主の秘密な気がする作者。UQホルダーで謎は解明するのだろうか。
 で、フリーザ様の最後の変身的に造物主は女性にシフトチェンジ。次回くらいにエヴァンジェリンさんが紹介すると思うよ。

 ここでオリ主が敗れるのはオリ主が用意した切り札は全て儀式魔法に分類されるのでそれをやらないと戦うどころか同じ土俵にすら立てない仕様。この造物主はナギやられた造物主ではなくライフメイカーさんだ。さんを必ず付けろデコ野郎。手加減してくれていたライフメイカーさんマジ親切。だが死ね、である。握手を求めながら拳銃を突き付けるキ○ガイだよこれ。

 そしてここでようやくオリ主はオリ主(覚醒)になりました。吸血鬼にはなったものの血しか飲まずにカニバリズムは拒み続けたのに遂に一線を踏み越えました。ギャグならスキップしながら跨ぐんだろうけど。
 単純にベジータが超ベジータ様になった進化っぷり。かませ臭も進化。



 次回も急展開。異次元に飛ぶ展開。オリ主叩きなら今の内にしておくんだな。多分、一番外道が誰なのか議論が始まるはず(震え声)






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外れる



 難産でござった。ナギ・スプリングフィールドの最大の見せ場である造物主との最終決戦を書くかどうかで悩んでは書き直しを繰り返した末に、ナギ君の出番はナシ! 残念ッ!! だけど活躍(悪い意味で)するよ!

 ここで結末の伏線。前から考えていたエンディングをやっと書けるでござる。





 

 

 

 

 

 

 

「フン。お前に少年誌特有の覚醒フラグは似合わん」

 

「…………え?」

 

「何を惚けている。臆病者に支配されて終わり、とでも言うのか?」

 

 

 次の瞬間、景色が一変した。どこか懐かしい雰囲気のある場所と仁王立ちする大人エヴァンジェリン。ポルナレフコピペをするべきなのか。

 

 

「何無駄に格好良く手で顔を覆ってるのだ」

 

「まさにポルナレフ状態でござる」

 

「まあこの状況を受け入れろと言っても難しいがな」

 

「よくある自分を見つめ直して過去を振り切る(キリッ とかなイベントなのか?」

 

 

 然りげ無くキリッの後に草を生やしておく。真面目な(苦笑)最終決戦から凄まじい落差だ。

 どこかで何度も見た気がする景色だ。主人公が新たな力を手に入れるイベントという名のテンプレで何度も。自分に親しい者が現れるパターンが多いがまさにテンプレに沿っている今の状況はどう判断すればいいのだろうか。

 

 

「久々に会えたが今は不届き者を追い出す事を優先しよう」

 

「不届き者ならボクの目の前にいるような」

 

 

 グーパンではなくゲシッであった。もしくはズボッ。顔面が陥没してるぞ。足が顔を菊門みたいにしているよ。このエヴァンジェリンは本物のエヴァンジェリンのようだ。

 どうやって心の中(爆笑)にいるのかわからんがエヴァンジェリンなら仕方がないが通じるからしょうがない。

 

 悶々と考え込んでいるとエヴァンジェリンが仁王立ち腕組みをする。何だそのガイナ立ちとロム立ちを混ぜたような威圧感は。

 

 

「ここはお前の心の中の世界だ……プフッ」

 

 

 笑ってらっしゃるー!? しかもイントネーションが単語ではなく一文字一文字に草を生やしているイントネーションじゃないか!

 

 

「やめだやめ。まあ、ここは格好良い言い方をすれば心象世界だ。マイナス表現をすれば閉鎖空間、もしくはゲイ鎖空間だ」

 

「アッー! じゃなくてそんな事は一にも十にも理解してるから何でエヴァンジェリンがいるかだけを言ってよ。ボクの世界に何でいるの?」

 

「性行為をしていると体も心も繋がるものだ。主従関係の私達の場合は更に関係が深まる効果がある。真祖の私は精霊を作る事も容易いわけだからお前の心の中に分身を作る事もできるわけなのさ。だからこそ私はここにいる」

 

 

 ドヤァ…はいいから。何だか造物主と似たり寄ったりな性質だなこれ。第二のエヴァンジェル・コピーと考えればいいのだろうか。いや、エヴァンジェル・コピーよりもオリジナルのエヴァンジェリンの気配が濃い気がする。

 ……いや、もしかして。いやいや。

 

 

「まさかボクがエヴァンジェリンを想うのは?」

 

「フフフ。大正解」

 

 

 文字通り心の中に住み着いてるから想っていたのか。内から崩すとはエヴァンジェリン恐るべしと言えるレベルではない。

 

 

「お前のだーい好きな彼女と優先度を並べるように私への好意を引き上げておいたのさ。最後の最後に天秤を賭けられるようにいじくるのは楽しかったぞフハハハ」

 

「ボクを外道だの言うけど人の心を弄ぶエヴァンジェリンはそれ以上に外道じゃないか!」

 

「わかっているが何だ? 欲しいものは手に入れる。それがモットーだろうが」

 

 

 偉そうにフフンと鼻を鳴らして自慢気に振舞う。ここまで殴りたくなるような仕草は初めてだ。エヴァンジェリンとはボクにいじられて攻められてナンボじゃないか。エヴァンジェリンはドMであるべきだろうが。

 

 

「ならお前を私以上のドMにすれば私がSになれるな」

 

「変な事を考えてすいませんした」

 

「話を戻すぞ。今のお前はかなり危険だ。私が食い止めているがお前が何とかせねばお前の体は奴のものになる。そうなれば愛しのエナミには会えんぞ」

 

 

 あー、また懐かしい名前を。エヴァンジェリンの前に会っていたボクが元の世界へ帰ろうと決めたきっかけの彼女の名前。エナミ。懐かしく思える。ボクはエッちゃんなんて呼んでいたっけと思い出した。

 

 

「お前にはシリアスは似合わん。自分のペースでゆっくりと巻き込みながら真面目に不真面目に戦うのがお前だ。自分らしくいられる事こそが最強所以なのさ……最後のお前が至った究極の魔法使いをまた見せてくれ」

 

「……痴呆? 何かボケた?」

 

 

 膝蹴りで抗議された。綺麗なシャイニングウィザードだった。膝立ちをしてるボクを見ればネタ振りをしているようにも見えるのでエヴァンジェリンは悪くない。

 というかシャイニングウィザードを教えた事があったっけ、と疑問を感じた。魔法面で強くなるのに他の作品のネタを教えただけでプロレス技と言ったらスタン・ハンセンのラリアットをツッコミとして覚えさせたぐらいだ。記憶の中を覗き見た時に見た事を教えてくれなかっただけかと思う事にした。

 

 痴呆だのを思うのは致し方ない。究極の魔法使いだのなんだのとよくわからない事を言うからこんな反応になる。意味がわからん。

 エヴァンジェリンの言動からすると聞いた事はあっても見た事はない感じ? え、ボクってその究極になってたの? 究極の魔法使いであれば造物主に負けるはずもないだろうし。その矛盾がおかしい。

 

 

「兎に角。最後の枷は私が外す。後はお前の心の赴くままに心に従い、戦え」

 

「あー、うん。あんまりイマイチ理解していないけど頑張る」

 

「……フッ。応援しているぞ」

 

 

 嬉しさを隠し切れないエヴァンジェリンの笑顔に違和感を感じた。ツンデレのエヴァンジェリンであればこんなのは日常茶飯事なのだが何かが食い違う。

 そこからエヴァンジェリンはあーと声を出しつつ、ソワソワし始める。何だからしくない行動だ。

 

 

「あー、その、何だ。抱き締めてもいいか?」

 

「いつもは足まで絡めるじゃん。今更聞かなくともお安い御用だよ。ついでに今まで放り出しておいてゴメン」

 

「う、うむ」

 

 

 初々しいカップルの彼女のように恥ずかしそうに手を伸ばしてくるエヴァンジェリン。おいやめろ。こっちまでドキドキしてくるだろうが。

 首の後ろに手を伸ばし、エヴァンジェリンの顔が急接近するとそのまま横に来て体に圧迫感が来る。何か良い匂いがして更にドキドキする。あ、あれ。エヴァンジェリンってこんなに可愛かったっけ?

 

 

「~~ッ。ハァ……」

 

「おいコラ。艶かしい声を出すんじゃない。流石にこんな場所じゃ盛り上がらんぞ」

 

「す、すまんな。こう、久し振りにお前とこうしていられるからつい、な」

 

「クソ。こっちまで恥ずかしくなってきた。エヴァンジェリンのくせに生意気だぞ。こうしちゃるっ」

 

 

 今度はこちらから抱き締め返してやる。エヴァンジェリンの体の柔らかさとスベスベの肌、胸に潰れる胸の感触。やらなければよかった、と高鳴る心臓に後悔した。エヴァンジェリンがマジ可愛すぎて別人ではないかと思える程だ。

 何だこれ、とかツッコミを入れる状況。男女が抱き合っている状況を見ればリア充爆発しろと祝いの言葉が飛んできそうだ。

 いつもであれば首筋に噛み付いて血を吸うエヴァンジェリンだが抱き合うだけで満足したのか、頬にキスをして離れる。

 

 

「ありがとう。また会えて嬉しいよ」

 

「……ねえ、本当にエヴァンジェリン? 何か様子が違うんだけど」

 

「フッ。それは未来でわかるさ。今は奴をぶっ飛ばせ」

 

 

 エヴァンジェリンが手を翳すとまた別の場所の景色が映し出される。正直、またベタな。という感想しか抱けない。ガラス球みたいな物体はボクの記憶だの記録だのってオチだろ。

 

 

「造物主はあそこにいる。あそこにあるのはお前がお前である事に必要な要素が含まれているんだ。記憶、思い出、名前。存在意義があそこに全てある。造物主はそれらを屈服させ、支配する事で新しい肉体を我が物とする」

 

「それを阻止しろと」

 

「わかってるなら早く行け。絶対に負けるなよ……ああ、言っとくが心を強く持てよ。既に奴はお前の名前だけは知っている。ここに来る前に色々知っていると言っていたが動揺させる為のハッタリだ」

 

 

 名前を知ったという事は名前に関連する事も知られたと考えた方がいい、と言いたいのはわかった。つまりは懐かしきイジメの言葉を吐かれる事にもなり得る事になるのか。一瞬でも気を逸らせば命取りになる手札を手に入れられた、と考えた方がいいか。

 というかうわー。自分の心の中がラストステージみたいになるってちょっと嫌だなー。幸いなのは仲間とかがいない事だろうか。自分の知られざる過去を知られるとヒロインとの距離がグッと縮まるイベントがあったりとか、後々にネタにされたりと碌な事にならない事が起こるのは目に見えている。

 

 

「まあ、あの女王には全部見られているがな」

 

「……みょ?」

 

「お前が取り込まれそうになる時にお前のコピー精霊が呼応するように苦しんだ。存在を消されそうになる前に女王が介抱して接触し、お前の心の一部を覗かれた。やったな。これであの女王の好感度がグンと上がるぞ。死ね」

 

「何で罵倒するの? ボク悪くないじゃん。勝手に惚れた方が悪いんじゃないの?」

 

「無自覚系主人公死ね。ジゴロジゴロクソ死ね」

 

「罵倒のレベルが酷すぎる!?」

 

 

 ボロクソにボロクソを重ねた罵倒で泣きそうになる。いつにも増してエヴァンジェリンの罵倒が酷すぎワロタ。ワロタだの言わなければ本当に涙を流して泣いてしまいそうだ。

 鈍感ではないレベルだが無自覚なのかボクは。テンプレファンタジー主人公が女性嫌いだの何だの言いながらもハーレムを形成するタイプか。考えてみれば食いまくったおにゃのこはいっぱいおられるな。

 エヴァンジェリンが怒るのもしょうがないね。節操なしでごめんねマジ。

 

 

「この罵倒の続きは後だ。兎に角行ってこい――また未来で会おう」

 

「あ、お、おお? 戦いが終わったらまた会えるよ。会いに行くさ」

 

「待ってるぞ」

 

 

 エヴァンジェリンに背中を押されて自分の記憶の中の旅に出る事になった。同時にラストステージの攻略も始まるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「駆け込み乗車はご遠慮くださいお客様!!」

 

 

 駆け込みはしていないが気分的にやってみた。顔を晒し、短くなっているローブを揺らしながら歩いている造物主をドロップキックで邪魔した。

 床がないのに床がある場所を横滑りで滑る造物主。コントのように吹き飛んだ事で一つのガラス球には触れる事を防げたようである。中身が何かは知らないが大事なものなのだろう。自分の事なのにわからないのはどうかと思うが。

 

 

「貴様……何故ここに? 深淵の狭間に閉じ込めたはず」

 

「深淵の狭間? フハハハ。甘いな造物主さんよ。ボ ク だ か ら」

 

「グッ。滅茶苦茶言ってるはずなのに納得できるとは」

 

 

 驚き一色の造物主。演技でもない心から驚いているとわかる。感情の揺らぎが感じられるようになっているのはここが自分の心の中だから、だろう。要はここはボク上位の世界と考えてもいいはずだ。

 

 

「正 座 を お 願 い し ま す」

 

「ぐぬっ」

 

「ブワハハハハハハ! 汚い正座だぜ! ねえねえどんな気持ち? 今どんな気持ち?」

 

 

 故にこんな事もできる。命令を下せばその命令を断る事はできず、従わざるを得なくなる。正座をしろと言えば正座をする。服を脱げと言えば服を脱ぐだろう。今は女性だから脱がせればローブの下にある隠された裸体が見える。夢がひろがりんぐ。

 正座する造物主の周りをお決まりのダンスをして煽る。短い時間に会話をした造物主が見せた事もない悔しそうな顔を見れば、ボクの中に入った事も許せそうだがまだ許さん。

 

 

「ねえねえねえ。こうなるのがわかってるから深淵の狭間(笑)に閉じ込めたんでしょ? 他人の領域に侵入するとすればそれなりのデメリットを背負う覚悟はしているらしいけどこうなるなんて予想できた? で き る わ け な い よ ね ぇ」

 

「クッ」

 

「アンタはボクをイレギュラーだと表現した。まさにその通りさ。ボクは異端者だ。しぶとく生き残っている事が何よりの証明。だからこそこの肉体とここにある知識を欲したんでしょ?」

 

 

 コツコツと自分の頭を叩く。改造し尽くした体もだが、何よりも造物主が欲しいのは未知の情報を抱える脳だ。知恵と知識、そういったものをだ。

 それなら脳だけを取り出せばよかったものの。この乗っ取り憑依は色々不便な事もあるのにそれをしたのは造物主はそれしか方法を知らないからではないかとも考えられる。憑依するにしてもボクは考えられても実行はできないんだけどね。

 

 

「ぬふふふ……あ な た の す べ て を 見 せ て ご ら ん ?」

 

 

 自分で言っておいて寒気が走った。

 

 

「これはマズイ」

 

「って逃げんじゃねー!」

 

 

 ボクの発言にドン引きしたのか、造物主はどこかへ消える。追い掛けるように手を天に伸ばせば、景色が変わって元の場所に戻っていた。墓守の宮殿に。

 前方には造物主がおり、苦しそうに頭を抱えて胸まで押さえていた。様々な準備が必要な他者の肉体への乗っ取り憑依を正しく終えないとあのように大きな負荷が掛かってしまう、と見ればわかるか。

 

 

「ふんっ!!」

 

 

 その隙を逃さぬ。炎の槍の魔法を発動、理科の授業で習った知識を詰め込んで豪腕ピッチャーのように腕を振り下ろして投げた。

 揺らめく火は空気を突き抜けるようにボンボンボンと音を出しながら色を変化させる。オレンジから次第に青へと変わる様は美しいものだが、それに秘めた魔力は凄まじい。

 造物主が防ごうと何度も見た魔法陣を幾重にも重ね、展開する。しかし、面白いように容易く貫いて造物主の肉体をも貫いた。造物主の女性の顔が驚きに染まり、目を限界にまで見開いていた。その結果は予想できていなかったと見える。

 

 驚いているのはボクもだ。何度も反復して練習を重ねたとはいえ、今の炎の槍は今までよりも高い完成度を誇っていた。展開のスピード、込めた魔力の純度。どれもが桁違い。もしや、これがエヴァンジェリンの言っていた――。

 バッと両手を広げる。魔力を血に見立て、血管を通らせて掌へ。通った魔力はインクのようなものになり、掌に綺麗な円と魔法陣が描かれる。

 

 

「死ねぇ!!」

 

 

 バキュン、と銃を撃ったような音が響くとかめはめ波の格好をした掌から純粋な魔力エネルギーが発射されて造物主を消し飛ばさん勢いで通り過ぎる。

 フッ。ここでやったか!? フラグは立てんよボクは。このまま油断せずにいれば消し飛ばせ――あ。

 

 

「やべぇ! 死ぬな造物主!」

 

「死ねと言うたのに何とも言えん気持ちになるわ」

 

 

 復活後、無双タイム。よくある展開のテンプレに流されて思わず必殺の一撃を放ってしまったが、コード・オブ・ザ・ライフメイカーを貰わなければ意味がない!

 

 

「ふ。記憶を抜き出しておいて助かったわ。深淵の奥に眠っていた記憶からこんなものがあったぞ」

 

 

 不敵に笑う造物主。防げるのなら問題はないのだが、何をしでかすつもりなのか。あのエネルギーを全部吸い取ってパワーアップだけは勘弁な。

 そんな予想に反して、それを防いだのは“第三者”であった。どこからか現れ、魔砲を消し飛ばすとそのままボクに蹴りかかってきた。

 当たる前に反応できたので受け流すように足を掴むと、掴んだ足を軸に腕で体を支えて回し蹴りを放つ。反撃も防がれ、更に反撃を重ねてきた第三者は最終的にボクの顔を踏む事で決着が付く。

 

 

「さあ。動けないようにせねば大事な妻が寝取られるぞ――」

 

「ハァ? 何を言っているか知らんけど極力人妻には手は出さない主義なんだけ……」

 

「――ナギ・スプリングフィールド」

 

「ど? え?」

 

 

 第三者の顔が見えた。造物主が何を言っているかわからないが、今見ているのも理解ができない。何故ここにいて造物主の味方をするのだろうか、そこに疑問が集中する。

 その彼はボクの知っている彼よりも大人びて。太陽のような笑顔はゲス顔になっていて。汚く中指を突き出しながら挑発してきて。

 ――大人のナギ君が、そこにいた。

 

 

「…………そうか。これも造物主の幻術なのか」

 

 

 もう現実逃避するしかありませんでした。

 

 

 

 

 

 






 というわけでナギ・スプリングフィールド(正史未来)が呼び出されたようです。多分後では説明しないのでここで。

 ネギ君のラストバトルの際にナギ・スプリングフィールドは造物主となっていました。いわゆる同位体と考え、造物主はオリ主の奥底にある何かを参考に未来の平行世界(正史)のナギ・スプリングフィールドが未来の造物主の器である事を知って呼び出したのが今回のカラクリ。別に活躍はしないんだけどね。

 ただ、嫁さんに悪戯した不届き者を成敗するだけだから。

 アリカにしたこと → πタッチ。たったこれだけでナギ・スプリングフィールドは怒り狂うでしょう。造物主が誤った嘘を吐いている可能性もアリ。



 そしてやっぱり真のヒロインはエヴァ様であった。オリ主の心の中で暗躍しつつオリ主の手助けをするからヒロイン度は天元突破。マジで結婚しろよお前ら。

 あるある。 → 自分の心の中で自分を見つめ直し(爆笑)てパワーアップする。オナ禁してオナ禁解除してパワーアップする展開誰かはよ。






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