邪龍ノ終着 (超ローマ人)
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大聖杯と邪龍とカルデアの魔術師

どうも超ローマ人です。
2ヶ月も投稿出来ず待っていた皆さんには申し訳ございません。
教習所等で忙しかったので中々手がつけられませんでした。
それでは新作をお楽しみください


人類史を救うことを掲げた最後のマスター・藤丸立香は赤く染まった手を水で洗っていた。

そして、赤い滴が付いた黒い服を洗いシャワーを浴びた。

「……なぁ。何暗い顔してんだよ?」

「………悪いな、アークさん。沢山の血を浴びてから意識 が遠退いていてな。」

「お前──」

藤丸の相棒の一人であるアークミネルバは舌打ちを挟みながら、魔術師について話した。

「魔術師ってのはそもそも、血に濡れて濡れまくってるような道を辿るモンだ。余計なお節介は捨てろ!」

「………」

藤丸は俯いていたが、起き上がってはガラスを拳で割った。

「……あぁ。俺がやるしかねぇんだ……こんなことも分からないなんてな………。」

「その硝子…魔術使って直しておけよ?でないと、職員たちが五月蝿いからよ。」

 

 

藤丸は修復作業を終わらせ、就寝するとすぐに深い眠りへ落ちた。

そして藤丸の精神は鳥のように空を飛び、大きな球体に吸い込まれた。

「おい…!起きろ!!起きてくれ!!人類最後のマスター!!」

「!ファブニール!!オルレアンでジークフリートが撃破したはずじゃ!!?」

「待て!そうじゃない!!」

「……落ち着け、立香。ファブニールならもっと粗暴な喋り方だ。こいつはちょっと違うな。」

藤丸の中にいる魔王の位を冠する龍・アワリティアが藤丸を諭すと黒い龍の体から制服を着た青年が藤丸の前に現れた。

 

 

青年の肌は透き通るほどに明るく輝いていた。

そして儚げな物を背負ってるような顔付きをしていた。

「………」

「……アンタ、誰だ?私は藤丸立香。君と同じように竜の力を得た魔術師だ。」

儚げな青年も名を名乗る。

「俺はジーク。ある聖杯を守る使命を負ったホムンクルスだ。」

「ホムンクルス…?俺たちがロンドン等で見たのより、人間寄りに近いんだが?」

「あぁ、アレか?アレはアインツベルンもといユグドミレニア家のとは違うからな。それに、カルデアにいるアイリやイリヤもホムンクルスだろ?」

藤丸はアワリティアのセリフでホムンクルスについて思い出した。

「それより、俺の話を聞いてくれ。時間がない!」

ジークは藤丸たちに大聖杯たる者に何が起きたのかを話した。

大聖杯は冬木における聖杯戦争で用意された願いを叶える魔法の産物。

しかし、ユグドミレニア家の者が持ち出した。その結果、聖杯大戦が行われ7対7の陣営同士の闘いが始まった。

「大聖杯は最終的に俺がこの世界に封印したんだが。聖杯内で戦争シミュレーションが行われている。」

「なんだとっ!?何故そんなことが!」

「俺にも原因は分からない。だが、何者かが関与している可能性がある。」

「………。」

藤丸は黙ってジークを見る。

「協力してくれ。」

「良いぜ。代わりに一つだけ条件がある。……そいつがクリプターまたはクリプター並みに邪悪な存在か。それを見させてもらおう。それまでは存分力になる。」

ジークは何かを察した顔をしながら礼を述べた後で藤丸に話しかけた。

「入るぞ。準備は良いな?」

「あぁ。いつでもOKだ」

藤丸はジークと共に大きな光の球に手を触れた。

そして文字通り迎え入れられた。

 

 

 

藤丸は黒い竜の背中で目を覚まし、黒い竜と化したジークから偵察係を任された。

偵察及び探索に役立つガーディアンメイガスモードへ変身した。

その時、地上から青い光が二人目掛けて飛んできた。

絶体絶命の中、藤丸たちを助けたのは─

次回・Fate/Grand Order 邪竜ノ終着 「賢者の導き」

 

 



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賢者の導き

藤丸の視点は光に入った途端に、辺りが暗闇に包まれた。

下には無数の鱗が散らばっていた。

「リツカ、この世界にはサーヴァントの再現体がいる。俺の体の上から偵察出来るか?」

「………アークさん。頼むぜ」

藤丸は胸にぶら下げた魔導書に話しかけると、その身を銀色の鎧と赤い外套で包み込んだ。

「その姿は?」

「この姿なら、偵察および射撃援護が可能でな。……!」

藤丸は怪しげな騎士との目が合った。

「左へ避けろ!ジーク!!竜殺しだ!!!」

「いきなりだと!?」

藤丸は黒い背中を踏みしめながら、竜殺しに矢を向けようとしたが魔力の反応がもう1つ現れたことに気付いた。

「最悪だ!挟み撃ちにされた!!今度は太陽の槍だ!!!」

黒い竜に向けて青い光と赤い熱線が放たれた。

「大聖杯とリンクしてるせいか、宝具スパンが短い!」

「竜殺しの攻撃は俺が抑える!!」

藤丸は紫色の盾を召喚し、青い光に向けて放った。

「織天覆う七つの天環『ロー・アイアス』!!」

赤い熱線が片翼を焼き焦がし、黒い巨体は森の中へ落ちた。

 

 

「予想よりも包囲が強固だったな……。」

「立香!逃げろ!サーヴァントだ!」

「いえ、逃げることはありません。」

暗闇から緑色の眼光が現れ、丁寧な言葉ではなす。

眼光の持ち主は上半身は人、下半身は馬という容姿をしていた。

「さぁ、二人とも背中に乗って頂けると助かります。」

「おい!ジーク!ホムンクルスとしての姿に!」

黒い竜が光となって消えると、スーツ姿の青年が現れ藤丸とともに人馬に乗った。

光と光が散りながら森を駆け抜けると、一つの城へ入ることに成功した。

「助かった……。」

「ありがとう、黒のアーチャー。」

「……またはケイローンとお呼びください。真名は本来伏せるべきなのですが、今は例外と言うことで。」

 

 

城へ通ずる扉を閉めたことを確認した一行が話していると、一つの風が小さく舞った。

「先生!どうにか撃退したぜ!」

「どうも、ライダー。」

「そうか、アキレウスもここで闘っていたのか。」

藤丸が状況を分析している様子にアキレウスは目を配った。

「アンタがカルデアのマスターか……?ふーん……なるほどな。」

「なんだ?私の顔に何かついてるか?」

「あぁ。鉄の臭いがするぜ?」

アキレウスは遠慮などせずにそう言った。

「あぁ、再現体にも血があるんだろ?」

ジークらは藤丸の返し言葉と表情に氷のような物を感じた。

 

 

ケイローンがその場をどうにか和ませ、就寝を促した。

「何か俺、マズイこと言ったか?」

「あぁ、冷酷になりかけな魔術師って顔だったぜ?」

アークミネルバにそう言われた藤丸は取れにくい汚れを落とすように念入りに自身の身体を洗った。

そして、外へ出て一本の煙草を吸った。

「俺がサーヴァントを…?まさか??」

「……ここにいたか。」

隣にスーツ姿の青年が座る。

「さっきは悪かったな。少し虫の居どころが悪くてな。」

「……貴方に何があった?俺が大聖杯を通じて聞いたカルデアのマスターと……『貴方』は違い過ぎる。」

「なら、一つだけ言おう………俺はサーヴァントだけじゃない。そのマスターも殺した男だ。」

「!?」

黒いものを背負った男は語る──

 

 

 



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忠告

数週間ぶりです。
今日は9月最後なので掲載することにしました。


青年はその身に赤い邪龍と人類を守る抑止の力を宿しながら闘った。

長い闘いの末に人理を焼却しようと目論む者たちの計画を食い止めた──。

しかし、新たに自ら人類史を上書きしようとする者たちが現れた───

現在彼が全滅させようと試みている「クリプター」だ。

 

 

クリプターは青年が人理焼却の首謀者との闘いにおける基地=カルデアを壊滅させ、職員たちも殺した。

蛇のように変貌した眼に憎しみを込めながら青年はカルデアの最期を見送った。

それから彼はクリプターが造り出した7つのロストベルトのうち4つを破壊したのだ。

「それは順調なのか?」

「……いや、五つ目はクリプターのリーダーが管理している。中々油断出来ない。それに……」

「それに?」

黒いスーツを着たホムンクルス=ジークが聞くと藤丸は自分を嘲笑するように答えた。

「俺は───世界を取り戻すためとはいえ、人間を殺した味を覚えてしまった獣だよ。」

「なっ」

 

 

青年は第4のロストベルトに赴いた時、カルデアの仇敵であるコヤンスカヤ、クリプターであるペペロンチーノこと妙蓮寺、そのサーヴァントであるアシュヴァッターマンそして異星の神の使いとしての本性を露にしたリンボ・道満の本体を倒した。

「サーヴァント殺しは慣れたよ………だが。俺は人間であるマスターを殺したことでこの手は……仲間を殺した奴らと同じように汚れてしまった。」

続けて藤丸は言った

「俺の仲間を殺したような奴と!相手のこちらに対する心情を聞いても……!この刃のように冷たい手を振り下ろしたんだ……っ!!」

ジークは藤丸の肩を軽く叩いた。

「俺には貴方の抱えているものが何かもよくは分からない。だが、仲間や大切な人を失った苦しみを知っている。だからこそ、一つ忠告させて貰おう。」

「………?」

「一度決めた覚悟を捨てて、自分の仲間やサーヴァントを傷付けるようなマスターにはなるなよ?」

「…………」

藤丸はジークの忠告を利いて狂気の熱が冷めた。

「………ありがとう。」

「大丈夫だ。次の夜を乗り越えよう」

ホムンクルスと一人のマスターは握手を交わした

 

 

作戦は至って単純だが難解で、一人で3騎の敵サーヴァントを抑えるというものだった。

しかし、少ない戦力ではそうするほか無かった。

「結構無茶言うぜ、先生。だが、そーじゃねぇとな」

「よし!マスターと俺、ライダーとアーチャーの二手に別れよう!」

作戦が実行される前に藤丸は二騎のサーヴァントに呼び掛けた。

「……アキレウスにケイローン。その……昨日は悪かったな」

「なんだ?まだ気にしてやがったのか?気にするなって!」

アキレウスの言葉を尻目に小さなチームは二つに分かれた。

 

 

「さて……おや?」

「先生、どうやら。」

「えぇ…分かっています」

アキレウスとケイローンの師弟コンビのところには4体しか敵がいなかった。

「幸い、あちらのほうが多くても──あのマスターなら」

「先生がそーいうなら、信じるしかねぇな!」

二人は4体の敵の群れを掻き乱すように動いた。

 

 

「……!リツカ!」

「あぁ、分かってる。やけに多くの気配を感じる……五…いや6体か」

藤丸たちの前には計六体の敵が現れていた。

「行くぞ!ジーク!アークさん!テーマを実行する!」

「あぁ!令呪を以て我が肉体に命ずる!」

藤丸は腰に小型ドラゴンメカ=メイガスドラゴンを装着すると青と銀の鎧を着こんだ。

ジークの姿はそこに無く灰色に輝く鎧を着こみ胸に青い光を発する紋様が浮かび上がった騎士が藤丸の隣にいた。

「………ジークの魔力が変わった?」

「あぁ、言っておくの忘れてた。俺は黒のセイバー・ジークフリートの姿になれるんだ」

「!?」

「時間が無いから行くぞ!!」

灰色の騎士は青い光線を剣から出し、敵を分散させた。

さらに蒼銀の騎士が赤い剣から斬撃を出して敵を撹乱させた。

しかし、一体の敵は蒼銀の武者の首を取ろうと黒い霧を出しながら虎のように飛び掛かる

「!そう来ると思ってたぜ!」

飛び掛かって来た黒い子虎の爪を白い剣で叩き落とした。

さらに、電撃を放つことで虎を痺れさせた。

声にならない叫びを挙げながら小さな虎は自身の持ち場へ退避しようとするが、カルデアのマスターはそれを逃がさず赤い剣から発生させた鎌鼬でその首を断った。

「リツカ!こっちも手伝ってくれ!」

灰色の騎士・ジークフリートは土色の巨人と闘っていた。

「そいつ、そんなに硬いのか?」

藤丸は試しに巨人に突撃しようとしたが、巨人の体が緑色に輝いた。

まるで人間の生命の始まりであるアダムの誕生を祝うかのように。

「Ahhhhhhh───!!」

「咆哮!?ジークは俺の後ろへ!」

「くっっ!!」

ジークフリートに変身しているジークは藤丸の後ろに回った。

それを確認した藤丸は赤い外套を鎧の上に羽織った。

「七天覆う識天『ローアイアス』──!!」

花弁を模した光の盾がさらに強い光に包まれた──

 

 

「先生!」

「いえ──焦らないでください」

紫色の羽織を着た魔術師は二つの死体があるかを確認するために巨人から降りた。

しかし、その瞬間。魔術師の後ろにいる巨人が崩れ落ち、さらに魔術師の目の前から勢いよく飛び込んだ灰色の騎士が剣を振るったのだ。

その光景を最後に魔術師の身体は消え去った。

巨人から飛び出したもう一人の騎士は巨人の心臓である炉心を貫きながら天に舞った。

「雷龍の牙──!!」

さらに、月を背景に奇抜な格好をした作家を蒼銀の騎士は剣から飛び出した白い鎖で縛った。

「パイシゥー・バインド・『錦蛇』!!」

力強い縛りでサーヴァントの心臓=霊基を絞め潰した。

「他の3体に逃げられたか……チェッ」

「だが敵の戦力は削げた。ありがとう」

「……元に戻った??」

「あぁ、あの力は時間制限付きでね。今なら何度でも使えるのだが」

「なるほど」

夜の闘いが終わったあと、二人のドラゴンの力を扱う者たちは手を組む決意を改にした。

 



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会合

藤丸たちは城へ戻り暁を目にし、一時の勝利を確信した。それから、数時間が経過していた。

カルデアのマスターである藤丸は、寝惚けながら朝食を摂っていると腕を何者かに引っ張られた。

「あ?」

黒い水着のような格好をし、髪は黒い服とは逆に白く輝いた者を持った幼い女がいた。

「おかあさん、おかあさん。」

「お前は──」

すると、制服を来た青年ホムンクルスが駆け寄った。

「リツカ!大変だ!庭にサーヴァントが!………?」

「サーヴァントか、分かった。案内してくれ。」

ホムンクルス・ジークは幼い子どもを肩に乗せる藤丸に面食らい、藤丸を凝視する。

 

 

 

城の中の庭園では。

「よぉ、マスター……!?」

「何を驚いて…おや?」

草色が入った金髪をした好青年サーヴァント・アキレウスと長い金色の髪を持った人馬=ケイローンがカルデアのマスターが子どもに懐かれる様子を見て目を丸くした。

「……何をそんなに驚いている?」

「あぁ、その子ども……」

「なんとこれは興味深い!」

「……君はもう少し落ち着きという物をだな」

藤丸の目の前にはもう二人のサーヴァントがいた。

一人は紫色の衣装と金色の兜を装着している。

もう一人はカラフルなスーツを着たダンディーな見た目な男だ。

「おかあさん……」

「あぁ、隠れてな。あと皆、あまりこの娘を変な目で見ないでやってくれ。」

幼い女子を背に隠した藤丸が場の空気を整える。

「はい、三名のサーヴァントは真名を」

「僕はアヴィケブロン。ゴーレムを造るタイプのサーヴァントだ。」

「そして私は───かの有名な著名人・シェイクスピア」

「を名乗る不審者」

「辛辣ぅ!」

藤丸の毒舌にツッコミが入ると、彼の背にいた幼子が肩にまで登り顔を覗かせる。

「私たちはジャックザリッパー」

彼女が名乗ると、藤丸とジーク以外の皆が豆鉄砲を撃たれた。

そして、再び藤丸を凝視した。

「何故そのような眼で私を見る?」

「いや……なんでもねぇ」

アキレウスは草色の髪を掻き挙げながら頭が白い猫を撫でるカルデアのマスターを笑った。

 

 

藤丸たちが夜に倒した再現体を倒すとそれに応じてサーヴァントが味方として召喚される仕組みを把握した後。

「ねぇねぇ、管理者さん?」

一人の人間のところに小さい体をした殺人鬼は無邪気な声で囁く。

「……なんだ?」

「ねぇ。私たちのこと、避けてるでしょ?」

確信を突かれたジークは「あぁ。俺は……あなた達と殺しあった。」と自白した。

いくら幼子でも誤魔化しは通用しないと彼は考えたからだ。

「でも、それだけじゃ避けないよね?」

「………ご名答。あなた達の過去も見たのもある。」

「どーだった?」

重々しく口を開くジークに対してジャックは紙を拾うよりも軽やかに話す。

「陰惨……だったと思う。」

「他人の記憶ってそんなに大事なのかな?」

幼子から発せられる声は無邪気ものだ。だが、淡々とした口調でジークに詰め寄るようにも聞こえた。

「俺にとっては──大事だった。今でもそうだが。」

「ふーん。そーいえば、管理者さんも私たちも同じ黒側だったんだよね?なんで敵対したのかな?」

「長くなるが良いか?」

「イヤッ!」

ジークは子どものように振る舞うジャックに首を捻った。

「そうだな、では気晴らしに料理の話でも」

 

 

「ゴーレムか……一体どれだけの力があるのか?」

「試してみるか?」

「そうだな、今出来る中で一番強いヤツを頼む」

カルデアのマスター・藤丸は夜になるまでに腕を慣らしたかった。

そこで、新たに仲間になったアヴィケブロンのゴーレムと腕相撲をする提案が思い浮かんだのだ。

「先ずは素の腕力で」

「良いのだな?僕のゴーレムは一筋縄ではいかないぞ?」

土塊の腕と隆々とした肉腕に力が入る。

「では、審判はこのシェイクスピアが。──レディ、ゴー!」

「「ハァァァァッ!!!」」

両者の腕を乗せたスタジアムに皹が入った。

「えぇぇぇ!!?」

「………っ!」

横に倒れた腕は土塊で出来ていた。

「結構タフだったな。」

カルデアのマスターはそれだけ言うと台が無くなっていることに気付いた。

「あれ?もしかして……」

「賠償金を請求しますぞ。」

「………」

シェイクスピアの要求に対して藤丸は背を向けずに素早く離れた。

「いけねぇな」

後ろから掛けられた青年の声に藤丸は体から汗を滝のように吹き出した。

観念した彼は渋々台を直した。

 

 

そして、魔が目覚める夜が来た──

「迎撃準備完了」

「さて、行きますか!?」

「お母さん、一緒に」

「いや、駄目だ。ここだけ我慢してくれ……な?」

藤丸は子どもの駄々に対して諭す親のように振る舞って跳んだ。

「やっぱり俺たちの時と対応違うよな?」

「えぇ、完全に『親』ですね」

 

 

「マスター、お早い出撃で」

「シェイクスピアか……なるほど、俺のほうが面白そうってわけか?」

「Exactly」

「皆!また手伝ってくれ!」

「あぁ、この聖杯を操ってるヤツを倒してくれる仲間を集めるためにも…なっ!」

ジークとアキレウスが藤丸の後に続いて城の西を守るように陣取った。

 

地面から土塊の巨人の軍隊も出現した。

「僕は遠方支援に徹するとしよう」

「パワー系は俺に任せろ!」

藤丸は対峙する灰色の肌を持つ巨漢を見据えて、橙色のナックルに付けられた錠を外す。

「暴食の書庫に接続!力を貸してくれ!朱き邪龍・アワリティア!!」

「令呪を以て我が肉体に命ずる!」

藤丸は体を血よりも朱い鱗で包んだ。

ジークは銀色の鎧を纏った竜殺しへ変化した。

そして、藤丸とジークのチームが動き出す。

 

次回予告

魔と火を散らす夜戦中。

藤丸たちは魔の数が減っていない事実を知る。

そこで、藤丸はある強行策を立てた。

 

 



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荒野に吠えろ

予定してたタイトルから変更


「うぉぉぉ!!」

朱い邪龍=アワリティアの力を身に纏う藤丸は獣のように吼え、灰色の巨漢を地面に叩きつけるように飛び付いた。

そして男の顔を何度も殴り付けた。しかし、男の一蹴により朱い龍戦士は再び地面に放り出された。

「お前が俺を満たしてくれるのかぁぁ!!?上等だぁぁぁ!!!」

 

 

「ッ!バーサーカー相手にただの力押しでは流石にキツいか……!」

銀の騎士=ジークフリートに変身したジークは鉄槌を振るう花嫁と対峙していた。

彼は鉄槌から流れる電撃に見覚えを感じた。

「………ッ!そういうことか。貴女があの時……。」

銀の騎士は対峙する花嫁を真っ直ぐ見据えた。

 

 

「矢か……嫌なことを思い出させるが……。アンタのはそうでもねぇ。」

槍を携えた大英雄=アキレウスは森に生い茂った木を背にしながら敵の様子を伺った。

女狩人の眼は鷹のように鋭く、アキレウスの足でも避けるのが難しい。

「さて、どうするかな?」

 

 

一方で、土塊の巨人を操る魔術師=アヴィケブロンは体に虫が走るような肌触りを感じていた。

「僕はゴーレムで支援しているが……それに似て非なる物を感じる……。……!アレは!?」

彼は自身が召喚した覚えの無い土塊の巨人が丘のほうから走ってくるのを目撃したのだ。

「マスター!聞こえるか?」

彼は藤丸に連絡を入れた

「どうした?!」

「ゴーレムには僕が召喚したヤツ以外のもいる!」

「それはつまり……」

すると人馬の賢者=ケイローンが口を挟む。

「ジャックザリッパーが闘っているところ以外で霧が発生!これは敵側の数が減ってはいないということ!」

「シェイクスピア!無事か!?」

藤丸は昨日倒した敵の顔を思いだし、呼び掛けていると対峙している巨漢の力が増すのを悟った。

「今もう一人の自分と対峙しているところであります!」

「一足遅かったか!リツカ!一気に決着を着けたほうが良さそうだ!!」

「あぁ、じり貧になりかねんっ!!」

 

 

黒い体に炎の鱗を持つ龍戦士は赤い剣を手に取り龍殺しの騎士は銀色に煌めく剣を避雷針のように天に掲げる。

灰色の巨人が龍戦士に覆い被さった。敵を抱き締めて光を発しようとしたその時。

巨人の視界は星空を見た。

「アワリティア・ディスメンバー……!」

頭部だけでなく、腕や足も星空に舞い、カルデアのマスターのみに赤い雨を降らせた。

「さて、偽のシェイクスピアを撃つとするか。」

さらにカルデアのマスターは赤い外套を纏い、城のほうに走った敵を矢を放った。

敵の頭部に矢が刺さり、一つの剥製が出来上がった。

 

 

一方で、花嫁衣装の怪物のところで雷の樹がそびえた。

そこに龍殺しの騎士の姿は無く、立ち込めた煙の中からスーツ姿のホムンクルスが花嫁のところへ突進した。その右手を龍の鍵爪へ変え、青い炎の塊を花嫁の怪物の顔にぶつけた。

 

 

狩人は韋駄天の動きを止めるように無数矢を天から放つ。しかし、鎧を来たはずの韋駄天はそれを馬並みの鋭い感覚とそれ以上の素早さでかわした。それを見た狩人は黒い獣皮を取り出そうとする。

「させねぇよぉぉぉ!!!」

韋駄天はその足の速さをさらに加速させ、矛で狩人を突いた。そして、狩人は黒い砂の城となり崩れた。

「…………」

 

 

漸く朝が明け、影たちは退いた。

「やっと終わったな」

「えぇ、皆さんよくぞ耐えました」

「俺は寝る。中々に激戦だったのでな」

「あぁ、お疲れなら休むと良い」

藤丸はそのまま寝床に倒れた。彼には膨大な魔力と鍛えられた身体があるとはいえ、サーヴァントたち、自身の強化そして敵への攻撃と様々な手段で使えば疲労が溜まるのは必然的である。

だが彼の魔力回復速度は速く、僅か10分で起き上がった。

「目覚めたか、マスター」

「あぁ、どうにかな」

藤丸は珈琲を部屋の棚から取り出しながら首に下げた魔導書に話しかける。

「随分寝てたようで悪いが、また新しい気配がしたぜ?あのホムンクルスもこちらに来るはずだ。」

すると、預言通りにドアを勢い良くジークが開ける。

「大変だ!」

「あぁ、落ち着け。もう行く」

藤丸はコップに淹れた珈琲を一気に飲み干し、庭園まで急行した。

そして庭園まで着くと、大きな龍に向かって唸る人型がいた。

「………なんか猫がいるな」

「……アレに警戒するのも無理は無い、端のところに退けて置こう」

藤丸とジークは黒い邪龍が敵でないことを唸っていた猫……いやフランケンシュタインの名を冠する英霊を説得した。

 

 

「圧政の臭いがするぅ」

「確かに、この特異点は胡散臭いな」

反逆の巨漢・スパルタクスが青空を睨む。藤丸も相手に同調するように空を見上げた。

すると、スパルタクスは庭園の一部を寝床にした。

「おやすみ」

「なんで!?」

家宝は寝て待てと言うが、バーサーカークラスの彼に藤丸は軽く振り回されてしまった。

「マスター、こいつに関わるよりもう一人……いや、一匹?の気配を探れ。そうじゃねぇと落ち着かねぇ」

「分かってる。」

 

 

「…………」

「…………何だ、アキレウス。私の顔に何か付いているのか?」

藤丸はもう一騎のサーヴァントの気配を探り部屋に入ろうとしたが、二人の間に入ってはいけない気がした。

「………何を為さってるんですか、マスター?」

「ケイローン先生、少しここを離れましょう」

「あの、作戦の話が……」

「それはもう少し待って頂けると助かるのですが。」

藤丸はこの状況を打開しようと対策を練った。そして、ある案が浮かんだ。

「そうだ、ケイローン先生。少し身体を動かしたいので、修行相手お願い出来ますかね?」

ケイローンは少し考えたが教師としての精神を刺激されたかのように承諾した。

 

 

次回予告

「この特異点を造っている魔力の元は、天空に聳え立つあの城か」

「セイバー2体だと!?」

「!!!」

 



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魔境

「夜になったか……」

「では、作戦通りに動いてください。」

人馬の賢者・ケイローンが指揮を取ると皆各々散った。

「今度は竜牙兵か、こいつらだけなら素でも楽勝なんだけどな。」

「油断するな!サーヴァントが出現する可能性も高い!」

「分かっている、その時は本気でやる」

藤丸はジークに窘められたが直ぐに気持ちを切り替えるように竜牙兵の軍へ突っ込んだ。

竜牙兵とは字の如く竜の牙から造らられた兵隊だ。

「大層な玩具の兵隊並べやがってよぉ!!」

生身で青年は一度の殴打で数体の兵隊を粉砕する。

その敵を取ろうと仲間が集まる。

「後ろを取るのは良いが、その足音を失くすことからやり直せ!!」

藤丸は独楽のように身体を回しながら、鋭い刃を振りかざすように竜牙兵の群れを蹴り飛ばした。

「生身であそこまで闘うことが出来るとは」

聖杯戦争に参加経験のあるホムンクルスやサーヴァントたちを驚かせる動きを人類最後のマスターは見せ付けた。

「我々も負けていられないなっ!」

女狩人は弓を引き絞り天へ向かって矢を放った。

少し経つと矢が豪雨のように敵に降り注いだ。

さらには白い雪だるまのような怪物も現れたが、人類最後のマスター、邪龍の心臓を持つホムンクルスそしてサーヴァントたちの敵ではなかった。

 

 

一方、天空に聳える巨大な城内では一人の魔術師が台座に座っていた。

「強いな、藤丸リツカ。だが……これならどうだ?」

男は左手に赤い光を発した。すると、城の塔から光の玉が発せられ地に落ちた。その速度は隕石にも匹敵する。

 

 

「作戦通りだな……」

「えぇ、ですがここからです。」

ゴーレムの巨匠が人馬の賢者と話していると、幾つかの光が地面に衝突したのを見た。

1つは森に落ちた

「圧政者を粉砕する!!」

「うわぁい!」

「アタランテ!」

「分かってる!!」

 

 

 

「敵性ゴーレムの軍団……またコレか」

「うぅぅぅ……っ!!」

「くれぐれも油断しないでくださいね!?」

敵が作り出した虚像に震えることなく、サーヴァントたちは対峙していた。

 

 

「まだ遊び足りないんだが?」

「藤丸!何か来るぞ!?」

青い光と赤い光が戦場に落ちた。

青い光は藤丸に対して猪の如く衝突した。

「この感じ……あぁ、そういうことか。」

藤丸は片腕で飛び込んできた剣を受け止めると、首にぶら下げた魔導書に命令する。

「アークさんっ!抑止の力を使う!!」

「OK!Start your theme!」

魔導書は金属で出来たベルトに変化し、藤丸は詠唱を叫んだ

「暴食『グラ』のアーカイブに接続!テーマを実行する!!」

赤い錬鉄の焔が二つの光を掻き消す。

「!!!!」

ジークは光の正体を知り固唾を飲む。

「セイバーが二体だと!?」

藤丸は何も無いように対処する。

「二人とも確かに強力なセイバーだな。だが、俺たちなら対処可能だ。反逆の騎士はそっちに任せた!!」

 

 

「あうっ!!」

「ったくこれだからバーサーカーは!!」

灰色の巨人が花嫁姿の怪物と理性蒸発騎士に翻弄されていた。

いくら腕が立つ女狩人とはいえど、味方が乱闘状態で矢を放つのは誤射しかねない。

すると霧が花嫁の怪物のところだけに立ち込めた

「こよりは地獄……」

怪物は四肢をもがれながら塵と消えた。

「今だ!」

矢が騎士の動きを封じ、その隙を巨人が突いて撃破した。

 

 

荒野に火花が散る。一つの影は大剣をもうひとつは白黒の双剣を振るい金の音を鳴らした。

「流石ニーベルゲンの大英雄。太刀筋は並外れそのものだ。それに魔力もかなり残していると見た。」

龍殺しの騎士は黙って敵マスターを見据える。暫くすると両者の纏う空気は徐々に激しさを増した。まるで、二つのジェット機が対峙しながら飛行してるような空気が流れた。

地面なら埃が舞い、動物たちは遠征を行う。

「さぁ、来い!ジークフリートぉぉ!!!」

赤い剣を藤丸が取り出し、矢の形に変えた。

対峙する英雄・ジークフリートは剣に青い光の筋を纏わせる。

その光は竜を殺す程の威力を発する。しかし、藤丸の剣───否、矢は全ての血を穿つ。

そしてその火蓋は斬られた

「喰らえっ!!赤邪竜の矢『アワリティアアロー』!!!」

青い光の嵐と赤い闇の矢がぶつかる。

嵐は矢を掠め取ったように見えたが、矢に回転が加わったことで威力が増した。

矢は標的の左胸を貫いた。

「結構魔力を使ったな?マスター?」

「あぁ、熱くなってしまった。今おかわりいけるとしたらアサシンとキャスターぐらいかな?」

 

 

一方で反逆の騎士と対峙したホムンクルスは、以前の聖杯戦争の知識を使いながら闘っていた。

「流石赤のセイバー。以前の俺ならここまでだっただろう。だが!ここで負けるわけには!!いかないんだっ!!!」

竜の爪が反逆の騎士の鎧に傷を残した。さらに激流の如く力強い太刀筋もジークは静流のような太刀筋で対抗し、さらに電気の魔力を流す。

反逆の騎士も雷の魔力を纏うことでダメージを緩和しようとするが立て続けに青い炎が彼女を包む。

「この身体にも慣れてきたな。止めだ!!」

ジークは竜殺しの騎士・ジークフリートへ転身すると、剣を敵の心臓部分にまで食い込ませた。

「バルムンク!!!」

反逆の騎士・モードレッドは消し飛んだ。

 

 

敵側の計3体のサーヴァントが消滅したタイミングで終戦の合図が挙がった。

「あぁ、キツかった。」

「だから言っただろう?油断するなと」

藤丸は敵が召喚したジークフリートを倒したが直後に黒のアサシンと赤のライダーに狙われ窮地に陥っていたかま、ジークに助けられたのだ。

「悪かった……悪かったな………」

藤丸は一人では動けないほど魔力を使ったのか、ジークに肩を貸して貰っている状態である。

「ケイローンたちが闘っているところで爆発が起きていたが、無事なのだろうか?」

「それなら心配無い、皆の魔力をハッキリ感じれる。」

 

 

城のところへ藤丸らは集まった。

「昨日の爆発だが、何があった?」

「空から攻撃されまして」

「それって……あの空に浮かぶ城か?」

 




色々と修正するかもしれません。


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告白

「あの爆発を見ただけで良く分かったな?」

「あぁ、昨夜闘ったサーヴァントがいるだろ?アレがどうも統制が取れた動きしかしないんだ。まるで、将棋やチェスの駒のようにな。そして、あることに気付いた」

藤丸は会議に使うホワイトボードに絵を描いた。それは人形の絵だ

「この人形<マリオネット>をサーヴァントと捉えてくれ。そして、俺には対峙したサーヴァントがこうなっているように見えたわけだ。」

藤丸はその人形の上に釣糸を付け足した。さらにその上に雲を付け足す。

「天上から吊るされながら動いているように見えたんだ!」

「なるほど」

「そして、目に魔力をこめて空を見上げると」

「城があった!」

途中途中でサーヴァントと息を合わせながら藤丸は説明を終えた。

 

 

「……で、また中庭から三つの反応か。」

「昨日の闘いを思い出すと、二体はどんな見た目か分かるが。」

藤丸は首にぶら下げた魔導書の問い掛けに耳を傾けながら中庭に走った。

「たどり着けば分かる。ただ、アタランテの話によるとライダークラスの英霊らしい」

「ライダークラスか、たくさん宝具持ってるってヤツだろ?」

魔導書=アークミネルバの言う通り、ライダークラスの大抵は複数の宝具で戦場を駆け巡るサーヴァントが多い。

「着いたぞ」

藤丸たちが目にしたのは、銀色の騎士と赤い女剣士と中性的な見た目をしている騎士だ。

「ヤッホー!ねぇねぇ、君がマスター?」

「おい、コイツまさか」

「……新たに仲間になるサーヴァントだよ」

「……俺の苦手なタイプかよ!!」

アークミネルバの絶叫が城中に鳴り響いた

 

 

「失礼だなぁ!もうっ!!」

「ハッハッハッ!早速嫌われてやんの!」

「ライダー、その魔導書と仲良くすることは諦めろ」

藤丸は慌ててライダーのサーヴァントに謝る。

「申し訳ない、こちらのアークさんが」

「カルデアのマスターは良いとして、魔導書のほうの君ぃ!謝ってよぉ!」

「確かに英霊は偉大な存在だ。それに恥をかかせるのは良くないことだ。だが、断る」

その言葉を聞いたライダーのサーヴァントは子どものように駄々をこねながらまた怒った。

それを見て銀色の騎士はため息をつき、赤い剣士は大声で笑う。

 

 

他の皆も集まり、賑やかになってきた。

「カルデアも多いが、この世界の聖杯戦争の参戦サーヴァントも多いな?」

「あぁ、なんせ7対7だったからな」

「どういうこと?」

アキレウスの言っていることに藤丸は首を傾げる

「なんだ、聞いてなかったのか。まぁ、アンタも最初ここに来た頃は色々重かったからなぁ」

「アレは本当にすまない」と藤丸は謝りながらアキレウスの話を聞いた。

「飽くまで俺のは記録だが、このルーマニアでは赤陣営7騎と黒陣営7騎の方式で行われた聖杯戦争───いや、正式には聖杯大戦ってのが行われたわけだ。」

「今回のサーヴァントがそれに参加していることはさっき言っていたな?そうなると、あと何人足りない?」

藤丸の質問にアキレウスは答える。

「黒陣営1人に赤陣営2人だ。他にも一騎サーヴァントがいたらしいが……」

アキレウスの言葉はそこで途切れ、視線はジークのほうへ注がれた

「後はアイツに聞け」

「…分かった」

リツカはジークが一人になったところで彼を呼び掛けた

「ちょっといいか?」

「どうした?」

「ここで繰り広げられた聖杯戦争…いや聖杯大戦についてだ」

 

 

ジークは自らの出自を話した。

彼はユグドミレニア家の動力源として道具扱いされていたホムンクルスのうちの一体であった。

しかし、彼は「人間として生きたい」という渇望を活力に変えて一度脱走し自由の身となった。

「そして、知り合って間もないホムンクルスのために聖杯大戦に参加したってわけか?」

「あぁ。」

「ったく、誰かのためなんて面倒だ」

「と言って俺を手伝ってるのは何故だ?」

「さぁ、何のことだか」

リツカは苦笑しながら煙草を吸った。

「なんだ?吸いたいか?」

「……戴こう」

二人の『人間』が互いの夢と経歴について話し合った。

「リツカ、その力はいつから授かった?」

「……大切なサーヴァントを一度失くした時だ。」

 

リツカは思い出しながら話した。

アメリカを横断し、ローマで惹かれあった皇帝を狂王に殺され憤怒した時の自分を。

修行を重ねた結果として見事死の刺を操る王とそれを生んだ聖杯をもった女王を力のかぎり打ち破ったことを。

 

 

「……リツカ……」

「そのサーヴァントは戻ってきたが、ずっと空虚が俺を支配していた。月に赴いたことで彼女とオレの本当の記憶が戻るまでは。ジーク……お前はどうなんだ?」

藤丸が疑問を投げ掛けるとジークはそれに答えた。

「聖杯大戦には俺が会った14騎以外に二騎のサーヴァントがいた。」

「二騎も…?」

「二騎のサーヴァントはどちらもルーラーのサーヴァントだ。片方は聖杯大戦の首謀者でもう一人は───」

藤丸はジークの話を聴いて彼に共感した。

「そうか……お前も。そして、この大聖杯は──」

「あぁ、彼女から託された物だ。」

「───分かった。じゃあ、こうしよう。俺たちで今回の黒幕を倒すぞ!そして、叶えろよ。その聖女との約束とやらをな。」

藤丸は拳を軽く突き出した。それにジークはそれに自身の拳を合わせた。

「あぁ、ありがとう。」

 

彼らは城に戻り、夜になった。

「あの空に浮かぶ城に攻め込みましょう。皆さん、良いですね?」

「分かってる」

藤丸は赤い竜戦士となりながらジャックを背中に抱える。

「汝か、子どもに甘いマスターというのは」

「甘い?俺が?」

黒い獣人の姿となったアタランテが藤丸の態度に反応する。

「その子どもは……。いや、私が貴様のことを言う筋合い無いな。」

「何のことか知らないが、この子は大丈夫だ。殺気を感じるどころか。」

藤丸の肩から顔を覗かせたジャックが宣言する

「私たちがお母さん守るから大丈夫」

「……そうか、なら良いだろう。」

「皆を待たせるわけにはいかない…行くぞ。」

黒い邪竜が劇場作家と竜の騎士を乗せて羽ばたくとそれに続くようにサーヴァントたちが続く。

 

一方で地上に残った者たちもいた。

「ったく、ここで待機なんざ御免だ!って言いたいが」

「圧政の臭いがするぅ!」

「ウゥゥッ!」

地上と空を骨の軍隊が覆い尽くす。

「行くぞ!」

「あぁ、分かっている。」

赤と黒の両陣営と二人の人間は共通の敵を屠るため、手を取り合いそれぞれの目前の敵を屠る行動に取りかかった。

 

 



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突入

「先陣を切ります!」

「頼んだぜ!ケイローン!」

空を飛ぶ石の巨人に乗りながら弓を引き絞る賢者・ケイローンは高速の矢を

放った。

すると、剣を持った骨の兵隊とそれを乗せた魔鳥を矢が貫いた。

それに続いて様々な骨の兵たちが地に落ちる。

「続くぜ!先生!!」

ギリシャの大英雄・アキレウスが号令の口笛を吹くと、戦車を引く馬が光を纏いながら敵軍に突進した。

「クサントス! バリオス! ペーダソス! 行くぞ! 命懸けで突っ走れ! 我が命は流星の如く!『疾風怒濤の不死戦車(トロイアス・トラゴーイディア)』!! 」

高速で動く戦車に轢かれた骨の兵隊は無惨に塵となって消えた。

 

「圧政ッ!!」

灰色の巨体が矢や槍を受けながら突進していく。彼にとって痛みとは自らを強くする良薬そのものだ。赤陣営のバーサーカー・スパルタクスはその巨体と剣を武器にしながら骨の敵を文字通りに砕いた。

「てめぇばっかりにカッコつけさせるかよっ!」

鎧を着た赤のセイバー・モードレッドはその剣やケンカに使うような手荒い体術で相手の骨を断ち、兵を砕いた。

一方で森から二騎のサーヴァントに奇襲わ掛けようとした集団は雷の樹の下敷きとなった。

 

 

「マスターに管理者よ、汝らは動けるな?」

「一匹の獣と二匹の竜のコンビネーションか。悪くない。」

「よし、行くぞ!」

「私たちは隙を作るね!」

藤丸の背中に張っていた小さな殺人鬼が霧となってその姿を消した。

複数の弓兵は銀の矢を取りながら藤丸に狙いを定めた。

「なるほど、幻獣に銀を使うのは常識的だな……だが。」

弓兵の前に霧が立ち込め、放たれた矢は空のみを射った

さらに、霧は弓兵の腕を噛み砕き攻撃の手段を奪った。

黒い狼と赤い竜がさらにその命を頂く。

「一気に畳み掛ける!!」

藤丸が赤い炎をジークが邪竜の姿で青い炎をそしてアタランテが黒い炎を敵軍の上空に集めていく。

高速で作られた炎の塊は骨の兵隊を塵へと変えた。

「ほう……」

「こういう光景も良いですなっ!」

「皆、今のうちにあの城に突っ込むぞ!地上班!アレを出せっ!!!」

 

 

天空からの号令を元に赤のセイバーと黒のバーサーカー・フランケンシュタインが拳を合わせる。

二人の雷の魔力が溜まり混んでいるのが誰の目からも明らかだ。

骨の兵隊は魔力を纏った槍や剣を持って突撃しようとするが

突如空から銀色の騎士が降りてくる。

「黒のセイバーかっ!」

「集中しろ、赤のセイバーっ!!」

さらに巨体も敵を蹴散らしていく。

「フハハハっ!!圧政は滅ぼされるべしっ!!」

その筋肉は膨れ上がり、体は小さな山のように聳えていた。

「ウゥゥゥゥッッ!!!」

「貯まったぜ!!」

「よし!!」

黒のセイバー・ジークフリートが剣に魔力を貯める。

「邪竜は失墜し世界は落陽に至らんっ!バルムンクっ!!」

「愛は爆発するっ!!」

「クラレントっ!!!」

「ツリーッッ!!!」

雷の柱と炎の柱が敵を包み込んで消し炭にした。

「良くやった!!」

四騎のサーヴァントは気付くと天に聳える城塞の中にいた。

カルデアのマスターの拳が赤く光っていた。

「カルデアのマスター!」

「なぁに、6画の令呪のうち1つだけ使ったんだ。これぐらい軽い。」

「よっしゃ!マスター!はいタッチしよーぜ!」

「あぁ。」

バチーンっと良い音が城塞に鳴り響いた。

 

 

「さぁ、行こうリツカ」

「あぁ。この聖杯騒動の黒幕を……殺りたいところだが」

「そう上手くはいかない……か」

金色の鎧を着こんだ男と黒服の女帝そして槍を持ち髭を生やした男が何処からともなく現れた。

「赤と黒のランサー!それに……っ!」

「赤のアサシン……いや、カメムシ女ぁっ!!」

二体のセイバーが立ち向かうも、三体の敵はパワーが上がっていたため攻めあぐねた。

「マスターたちは先行したほうが身のためだと」

「シェイクスピア……」

「少年よ、大志を抱け!」

文豪に背中を押されたマスターと黒い邪竜の因子を持つ者は城塞の入り口に入ろうとしたが二体のサーヴァントが邪魔してきた。

「アキレウスとケイローンのコピー!?」

「くっ!」

二人が顔をしかめていると、二つの影が敵を食い止めた。

「こいつらはっ!」

「私たちに任せなさいっ!!」

夢を追いかけるように、二人の人間は走った。英雄たちに後を託されながら。

 

 

 




宝具祭りやな()


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邪悪な魔術師─前編─

「ちっ!侵入を許したか。だが、私の願いはそう簡単には打ち砕けれないぞ…?」

「あぁ、ここまで俺たちに足を運ばせやがって。」

黒い影が愚痴と決意を混ぜた言葉を発すると、それを挑発する男がいた。

男は抑止の力を纏いながら矢を射る。

「貴様がカルデアのマスターかっ!人の身を纏った化け物め」

「すばしっこい魔術師様だっ!」

「そこだっ!」

暗闇を照らす電撃の鍵爪が魔術師に迫る。

「貴様は…っ!」

「!!」

魔術師は鍵爪をかわすと鍵爪の持ち主を背を蹴り飛ばした。

「図に乗るなっ!!」

仲間を傷つけられて堪忍袋の緒が切れたカルデアのマスターは白と黒の夫婦剣をブーメランのように投げつけた。

「リツカ、そいつにそんな小手調べは通用しないぞっ!」

「そこのホムンクルスの言う通りだ!」

剣は魔術師の後ろへ飛んだかのように思われたが、直ぐに戻るような軌道を表した。

「その程度か?」

魔術師が抑止の男を挑発するが

「貴様の力量を見誤るとでも?」

男の姿は魔術師の目の前から消えた

「!?」

魔術師は後方からの剣をかわしたが、それには魔術式が組まれていた。

白と黒の鎖が魔術師を捕らえる。

四肢と首そして胴体をも縛り上げ男とホムンクルスは漸く敵の顔を拝めることが出来る。

「お前は……!」

 

 

「クソがぁぁぁ!!」

赤い騎士が黒い衣を纏った女王に向かって真っ直ぐ突進した。

しかし、魔術式から現れた巨大な蛇の頭から吐かれた毒の海が騎士・モードレッドを襲う。

「チィッ!!」

「うーあーっ!!」

蛇の頭目掛けて雷を宿した鉄槌が命中し、毒の海をなんとかかわしたモードレッドは赤い電気を剣に纏わせながら女王目掛けて再び斬りかかった。

「クラレント……っ!!」

女王は結界を張りながら何かを唱えた。

すると、モードレッドは吐き気を催し始めた。どうにかそれを飲み込んだが、炎の熱線が彼女の鎧を貫通し体を吹き飛ばした。

鉄槌の持ち主であるフランは叫びながら黒い液を嘔吐してしまった。

「赤のセイバーっ!黒のバーサーカーっ!!」

熱線の持ち主でやある金色の槍使いは対峙する黒のセイバーことジークフリートの一瞬の隙を見逃すことなくかつ女王を援護するために目から熱線を放ったのだ。

「どう見てもヤバいよね?今の状況!」と黒のライダーことアストルフォが槍で応戦しながら言う。

「あぁ、想像以上に手強いぞ!」

一方で黒い君主は長物の槍や地面から生える赤い串で黒い獣戦士とゴーレムの軍団そして灰色の巨体を持つ兵士を抑える。

「ぬぅ!なんたる圧政!」

「当たれば即死する危険性があるぞ!」

「あぁ、僕のゴーレムが次々と破壊されている。マスターからの魔力があってもこのままではじり貧は免れない。」

 

 

一方で韋駄天とその師匠たる賢者は敵にコピーされた自分たちに苦戦を強いられていた。

「先生っ!こいつらっ!!」

「えぇ……これは中々に厄介でしょう」

コピーとしての敵は同じ動きしかしないために、闘っても相手に明確なダメージを与えられずにいた。

「長引くぜ……コレはよっ!!」

「その件なんですが……私に良い考えがあります。動きながら説明します。」

賢者・ケイローンの提案は一見とんでもなく無茶だが状況的には間違っていない。

敵を目の前にしてゆっくりしている暇など無いからだ。

「ったく、また無茶な要求しやがるよ…なぁっ!!」

韋駄天・アキレウスは承諾を意味する親指を挙げるとそれが合図かのように両者は激突した。

 

 

「お前は……!ダーニック・ユグドミレニア!!」

「知ってるのか?」

抑止の力を纏ったカルデアのマスター・藤丸はホムンクルスであるジークが魔術師の名を口にした途端に驚いた。

「ユグドミレニア」。その名はゴルドルフ・ムジーク所長の名前にも付いていたからだ。

「ユグドミレニアの生き残りか…?」と藤丸が問うとジークは「そうじゃない」と答えた。

「この男は聖杯大戦の時に戦死した。そして明確な理由は分からないが、復活したのだ。推測としてはこの聖杯の中に侵入することで。」

「ふんっ、ホムンクルスにしては察しが良いな。」

「……で、ダーニックとやら。何が目的だ?」

藤丸はいつでも魔術師を痛め付けれるように剣を向けながら質問する。

「ハハ……ハハハハッ!!目的が何か?魔術師ならば決まっておろう!!根元に達することだよっ!!!」

狂った笑いを浮かべるダーニックを見た藤丸はある意思を固めた。

「そうか……じゃあ、根源に至るまで好き勝手にしろ。………無限の輪廻の中でなっ!!」

そう言うと彼は剣を脳天に目掛けて振り下ろした。

すると、ダーニックの周りが黒い魔力で溢れていった。

さらに赤い霧のような物までもダーニックを包み混んだ。

「この魔力はっ!!」

「リツカ!離れろ!!」

赤い霧が藤丸の首に飛び掛かろうとしたが、藤丸はこれをかわした。

「サンキューな、ジーク。今のでアイツの正体は分かった。」

「なんだ?話してみろ。」

「それはな……吸血鬼だ。」

 

 

藤丸が答えると、赤い霧の中からドラキュラを思わせる怪物が現れた。

「我が悲願っ!今度こそ叶えてやろうぞっ!!大聖杯は我の物だぁぁ!!!」

「なんて魔術師だ……」

「ジーク!後ろだっ!!」

後ろから黄色いレーザーがジーク目掛けて飛んだが藤丸は七識の花弁でこれを防いだ。

「ならこちらもだ!」

ジークは黒のセイバー・ジークフリートへ変身し、吸血鬼となったダーニックへ立ち向かった。

「おいおい、君たちは後ろを見なくて良いのか?」

「お前の後ろに何があるか教えてやるからっ!ほんの少しの間だけダーニックを頼むぞ!ホムンクルス……いや、『一人の人間』・ジーク!!!」

藤丸はダーニックではなく大聖杯と似たような球体と対峙した。

「信念無き偽物が……俺の前に立つなっ!!」

藤丸は赤い剣を振り、聖杯の偽物に赤い太刀筋を浮かび上がらせた。

偽聖杯は波に拐われた砂の城のように崩れ落ちた。

「アワリティアデイスメンバー…!」

「偽物でも聖杯の魔力は旨いな。」

「そんなお前に朗報だ……あと13個あるみたいだな。」

「マスター、イケるのか?」

「一人じゃキツいな……」

そう言うと藤丸は魔力を高め自らの分身を4体も作った。

「ここは分身に任せたいが…その前に一体だけ斬るか。」

 

 

「紛い物風情がっ!」

「この大聖杯を守ることを誓った身として!貴様を倒す!!」

姿は黒のセイバーの偽物であっても、信念は本物の一人の人間そのものだ。

「私は貴様とは違って!完全なる融合なのだっ!!」

竜殺しの剣が心臓に刺さってもなお吸血鬼はその動きを止めないどころか、爪と牙でセイバーとしての身を傷付けた。

「くっ!」

「喰らえ!!」

赤い霧でジークの体を包むと霧から無数の槍を出し串刺しにした。

「ホムンクルスが魔術師に勝てるとでも!?」

不敵な笑みを浮かべていると竜殺しの姿が無くなっていた。

「なに!?どこだ!?」

すると、上から緑色の電撃が落ちてくる。そしてその電撃を纏った白い剣が吸血鬼の脳天を刺し、吸血鬼の体を地に伏させた。

「ぐ、おぉぉぉ!?」

「…よし!」

竜殺しから元の姿に戻ったジークはそのまま吸血鬼の動きを封じたのだ。

 

 

 




再来週で最終回


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夢の終わりと始まり(前編)

黒い君主は無数の赤い槍でサーヴァントを食い尽くそうとする。

灰色の巨人・スパルタクスは赤い槍をゴーレムを踏み台にすることによる跳躍でかわし、

飛びかかる。

槍と剣がぶつかり、火花を散らせた。

「今のうちに畳み掛けるぞ!」

「あぁ。」

アヴィケブロンとアタランテがゴーレムと弓矢を以て攻撃を仕掛ける。

「自爆しろ!」

「うぉおおおっ!!」

黒い炎の矢がゴーレムの炉心に引火し、爆発を生んだ。

黒い君主は炎に包まれたが、霧となってアタランテとアヴィケブロンに斬りかかった。

しかし、彼の槍が刺さったのは両者とは異なるスパルタクスであった。

「痛みこそ快感っ!汝を抱擁するぅっ!!」

それを合図に両者は離れた。するとスパルタクスの体は光り数体のサーヴァントの霊基を壊すほどの爆発を挙げた。

「魔力が消えた……どうやら片付いたようだ。」

「そのようだ。」

「一つの圧政を滅ぼしたぁ……次だ!」

 

 

「しっかりしろ、黒のバーサーカー!赤のセイバーっ!」

「くそっ!」

「うぅああーっ!!」

毒に冒され、モードレッドとフランが敵の毒に苦しんでいた

「あの女王・セミラミスが出したのは神を苦しめる毒だっ!それよりこのランサーに集中っ!」

「済まないな、ライダー。だが、俺たちとあのランサーとじゃ実力は天と地の差だっ!悠長に構えてはいられないぞ!」

 

 

一方──

「なんだ?この偽物聖杯たち、クラスが別れているじゃないか……?さては……」

藤丸はそのうちの一つの聖杯を切り落とし、後を分身に託した。

また、分身も偽物の聖杯を素早く処理した。

何体かは鎖に縛られその魔力を全て吸われることで消滅し、また別の何体かは白い剣を使った雷の地獄突きや赤い剣によって切り落としによって倒された。

「さて、後はジークのところへ行くとするか……やはり、敵の魔力が落ち込んでいるな。

藤丸は走りながらその気配を察知し味方サーヴァントが助かることに安堵した。

 

 

「流石は赤のランサー……相変わらずの強さだ。」

「どうすんのさ?!」

「むっ、待て。様子がおかしいぞ?」

ランサーがその体を浮かばせて槍を展開していたその時。

途端にランサーの体が蒸発しかけのように粒子を放出していた。

体から力が抜けていっているのが明確だ。

一方で女王も同じように力を失っていた。

「今だっ!!!」

青い光が剣を包み、ピポグリフが風を纏って現れる。

「邪悪なる竜は失墜し、世界は今、落陽に至る。撃ち落とす!『幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)』!!」

「『この世ならざる幻馬(ヒポグリフ)』!!」

さらに文豪が立ち上がった彼らに魔力を分け与える。

「さぁ、進みなさい!」

ランサーは強化された両者が挙げた光によって倒された。

 

「ここが動きの隙間かっ!」

「そうです!さっきよりも動きが鈍りましたねっ!今だ!!」

 

 

「ジーク!」

「リツカ!ダーニックは封じたぞ!」

藤丸はジークの報告を聞くとダーニックの顔を拝見しに行き彼の頭上から蔑むように話す。

「なぁ、今どんな気持ちだ?『化け物』さんよ……」

「ぐががが……」

ダーニックは頭部に刺さった剣に苦しんでいるようだったが…

「……おい、貴様。何魔力を貯めている。」

「カルデアのマスターにはバレたが、もう遅いっ!貴様らと対峙したほうの14体の魔力が今溜まったのだっ!!!」

電気に対する耐性を持った『化け物』は脳天に刺さった剣を引き抜く。

「サーヴァント14騎分だと!?」

「いや……それ以上の魔力を感じる!!マスターっ!この魔力は放っておくとあの快楽尼級に到達するぞっ!!」

藤丸の首にぶら下がった魔導書・アークミネルバがダーニックの危険度をマスターに知らせる

「覚悟は決まったか、ジーク?」

「勿論だっ!!」

ジークはそのままの姿で空かさず床に落ちた剣を拾い、魔力を高め銀色の騎士となった。

藤丸は赤い龍の戦士となって体色と同じ色彩の剣を構えた。

「はぁっ!!」

銀色の騎士・ジークフリートとなったジークは青い炎の光線を剣から放った。

「クックックッ!今の私からすれば温い火だっ!」

「そうかよ……」

赤い邪龍・アワリティアの力を纏った藤丸は赤い剣で何も無いところからかまいたちを発生させた。

炎が一瞬消えたように見えたが、それは間違いである。青い炎はかまいたちと同化し吸血鬼・ダーニックの体を内部から侵食させたのだ。

「リツカとの初のコンビネーションだが上手く……」

「いや、まだアイツは余力を残しているっ!」

ダーニックは傷を瞬時に回復させて炎をかきけしたのだ。

「カルデアのマスター。貴様は沢山の旅をし、戦闘経験を積んでいるのであろうな……。だが、貴様の旅もここで終わりだ。」

ダーニックは巨大な槍を地面に突き刺した。

「ジーク!上へ飛べっ!!」

「無駄だっ!」

ダーニックは魔術のドームで二人を囲った。

「まずいっ!!」

「耐えるしかねぇのか!?……いや、攻めるのみっ!!」

ジークのほうへ赤い槍が地面から走る。

「うおおぉっ!!」

藤丸はその槍に対して地面を伝うような巨大な炎の波を発生させる。

拳が叩き付けられた地面から溶岩がその姿を現し、ダーニックが発生させたドームを焼き尽くした。

しかし、この技は藤丸にとっては大技であるため連発は不可能である。

「くっ……!」

「勝算が見えないまま時間切れか…っ!」

藤丸はなんとか赤い戦士としての姿を保てたがジークは元の制服姿に戻ってしまった。

「動けないようだな?終わりだっ!!」

ダーニックは魔術式から空間をも焼き尽くすと思われるほどの巨大な光を藤丸とジークに向けて放った。

 

 

「くそっ!!」

「ここでっ!!こんなところでっ!!!諦めるかぁぁぁっ!!!」

藤丸は白い剣でダーニックの魔術攻撃を無効化しようと前に出る。

その様子を敵は嘲笑う。

「無駄だ無駄だっ!藤丸リツカ!!貴様はもう動けないし、その姿を保つので精一杯の筈だっ!!貴様にこれ以上何が出来よう!?えぇっ!!?」

狂った笑いで戦場の軍配を掴み取ろうととするダーニックだが、藤丸の怒声がそれを遮る。

「ふざけやがってっ!!!根源に至るためなら周りの人間を駒のように使う自分に酔いしれてる貴様にっ!負けて溜まるかよぉお!!」

「他人のために頑張るというのか!?それは弱者の戯れ言だぁぁ!!!」 

そう言われた瞬間、藤丸の中の琴が切れた。

「うおおぉっ!!アァァアアァァア!!!」

白い短剣が銀色に輝いた。その瞬間、ダーニックの光線はその光を乱射させ消滅したのだ。

「なっ!?」

それだけでは無かった。藤丸の目の前には一本の白い長剣があったのだ。その剣は藤丸が先程その手に握っていたものとは違い、曲線を描きながらも美しく地面に突き刺さっていた。

そして藤丸〈岸波〉にとってその剣は見覚えしかなかった。

「ありがとう、ネロ……いや、セイバー。」

さらにジークの目の前にも。

「これは……そうか……俺に貴女との約束を守れと言うんだな?」

持ち手が十字架であしらわれている細剣をジークは右手に握り、過去の聖杯大戦で自身のサーヴァントが所持していた剣をもう片方の手に握り締めた。

「なんだ…?その剣は!?そして、何処からその魔力を引き出した??!」

「ハッキリ言ってやろう、ダーニック」

藤丸に続いてジークが言う。

「これは……貴様が捨てた『人としての思い』の力だっ!」

藤丸が赤い剣と白い剣を両手に携えたのを合図に二人の男は魔物と化した魔術師に立ち向かった。

 




「藤丸<岸波>」となってるのは何故か?
ハーメルンで掲載している「SERAPH Memory」をご参照ください


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夢の終わりと始まり(後編)

これでFate/Grand Order 第一部 異聞消滅-邪龍ノ終着(Apocrypha)編が完成


ある魔術師がいた──

魔術師は一族の悲願である根源への到達を目指していた。

しかし、彼の評判は良くなく周りは彼を追い詰めた。

「魔術協会などくだらん。聖杯で我が悲願を叶えてくれる」

そう思っていた矢先に聖杯戦争の火種が舞っていることを知った彼は準備にとりかかった。

鮭に縁のある槍使いを召喚した彼は様々な強敵を倒し、聖杯を奪った。

彼は魔術協会に対して宣戦布告をしたのだ。

「この大戦に勝てば願いが……」

しかし、あるサーヴァントが許さなかった。

そのサーヴァントの策略と大戦における両陣営の攻撃を受け倒れた。

そこには中立を守るルーラーのサーヴァントの姿もあった。

そして現在──大聖杯に忍び込むことに成功した彼だが、そのルーラーが携えていた剣を持つホムンクルスと対峙することになった。

 

 

「たぁっ!!」

「雷撃魔術など効かんっ!!」

ホムンクルスでもあり一人の人間でもあるジークが黒のライダーの剣を突き刺す。

しかしそれだけで仕留めれないことはジークにとって承知の事実だ。

「ならこっちはどうだ!?」

ジークは聖女が握っていた剣で吸血鬼となった魔術師を斬った。

本来は敵を斬るための剣では無いが、今回は聖印で強化されているため魔性を斬ることが可能となったのだ。

「やめろぉぉ!!」

「効いているっ!!」

空かさず藤丸も炎を纏った白い剣を振るい、突進する。そしてすれ違いざまに炎を纏った剣で一閃する。

さらに赤い剣で魔性の体内の血を半分以上抜き取った。

聖印が混じった火柱が上がる。

「「セイント・カエリスティス!!」」

「ぐわぁぁぉっ!!まだ根源に至るまでは死ねないぃぃっ!!」

そこでジークは胸から青い光を発した。

「なら止めだ!」

ジークの姿は一瞬にして黒い邪龍となった。

「なぁ、アワリティア。あんな感じに俺たちもなれるか?」

その姿に変化する魔術から藤丸は龍化を思い付いた。

「あぁ、今のワシらなら出来ないことも無い。」

「よしっ!」

藤丸は高まった魔力をさらに高めていき、一気に放出した。

すると、火の玉となりその玉を卵のようにして一匹の巨大な赤い龍が現れた。

「ギャオオオオッ!!」

「リツカ……っ!ダーニックを倒すぞっ!」

ジークは驚く様子も無く、ダーニックを挟むように飛ぶ。

赤い龍は言葉は喋れないようだが、人間の言葉を理解出来るようだ。

「我は天の杯を掲げて飛ぶ邪龍なり──万物融解!!」

「キシャアアア!!!」

二匹の龍はそれぞれ青い炎と赤い炎を口内に溜めている。そしてそれを一気に吸血鬼に向けて放射した。

「灼熱竜息・万地融解!!」

「グギャオオオンっ!!」

「ヌゥワアアアっ!!!アァァァァァ!!!」

吸血鬼はダーニックの姿に戻るほどのダメージを負って倒れた。

「よし!」

 

 

「……!」

「まだ……私には……願いがあるっ!こうなったら聖杯本体に触れて……っ!」

「カズィクルベイ」

ダーニックは聖杯にかける願いを母親を求める赤ん坊のように這いつくばりながら近づこうとする。

しかし、彼の体には無数の赤い槍が生えていた。

「ラン……サー……っ!」

「ダーニック・ユグドミレニア。悲しい男よ。だからこそ貴様の元サーヴァントであるこのヴラド三世は討ち取ることを決意したのだ。」

ヴラド三世を名乗る黒い君主はダーニックに止めを刺して光となって消えた。

光となって消えたのは他のサーヴァントたちもだった。

「そうか、勝ったのだな。カルデアのマスター。」

「彼らも良い生徒でしたね」

「あぁ、先生。」

「お母さん、じゃあね」

「ふむ、たまにはハッピーエンドも良いですな」

聖杯によって役目が終えたことを告げられた戦士たちは安らかに還った。

 

 

「ここは……最初に俺たちがあった……」

「あぁ。ここで俺たちはお別れだ。」

「……そうか。淋しくなるな。……最後に言いたいことがある。」

藤丸はジークに礼を述べた。

「お前のお陰で自分の辿る道を選ぶことに対する躊躇いは消えた。……礼を言う。」

「いいんだ、リツカ。」

「おっと、約束を交わした相手がいるんだろ?早いがここで失礼するぜ?」

そういうと、藤丸は大聖杯のある場所から赤い龍となって飛んでいった。

 

 

「行ってしまったか……さてここからどうやって彼女のところへ行こうか?」

ジークは黒い邪龍となって聖杯を運ぼうとする。

「待って!」

不意に女性の声が聞こえた。

邪龍はちらりと声のほうを見た。声の主は金の長い髪に白いワンピースが特徴な女性だ。

「……!」

「……」

女性は邪龍の爪に手を伸ばすと邪龍の爪は人間の手へと変わった。

そして二つの手は互いを離さず体を引き寄せ合う。

すると女性は語った。

「一つ告白したいことがあります──ジーク君。私は──貴方を愛しています。」

こうして邪龍ノ力を持った人間は、夢ノ終着へと辿り着いたのだ。

 

 



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