ペルソナEvolution1 ツキバネカオルの仮面 (創作魔文書鷹剣)
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キャラクター設定《月羽薫》

《基本情報》

 

[名前]月羽 薫(ツキバネ カオル)

[年齢]16歳(1話時点)

[性別]女性 [身長]161cm [体重]51kg

[スリーサイズ]B85 W61H79

[生年月日] 200?年10月18日[星座]天秤座

[血液型]B型 [アルカナ]刑死者

[好きなもの]友達(予定)[嫌いなもの]水泳

 

《概要》 とある事情から東尽町に引っ越して来た、どこにでもい・・・はしない少女。翠蓮学園に登校した際に謎の存在に契約を持ちかけられ、真実を掴み取るためにペルソナ能力に目覚めた。裏世界で偶然出会ったクリフォトと共同戦線を張り、バベルスを探索する日々を送る。

 

《外見》 無表情&無口のダブルコンボに隠れてしまいがちだが、その外見は中々の美少女。ポニーテールに纏めた茶色の髪は何故か前髪の中央部分が一度上に昇ってから垂れ下がっている。また外見に拘りが無いからか寝癖や制服のシワを直さずに登校する事も多い。制服のサイズをミスったせいで胸が若干キツイが、本人はあまり気にしていない様子。体型の特徴から大半の男子生徒に下品な視線を送られ、女子生徒からも嫉妬から評判は良くないせいで陰口が絶えないらしい。

 

《性格》 10年間ずっとひとりぼっちだった為、性格は後ろ向きでネガティヴ気味。特に人と話す事は大の苦手であり、何を話せばいいのかわからずにずっと黙ってしまう悪い癖がある。ただ偶に素の性格が垣間見える事がある。

 頼れる人がいない環境で育った影響か、他人に甘え馴れておらず自分の悩みや苦悩を抱え込んでしまいがち。その上誰かが救いの手を差し伸べてもつい強がって突っぱねてしまい、後で泣きながらその事を悔やむ。

 

《ペルソナ》 裏世界に迷いこんだ末に獲得した「エヘイエー」。アルカナは「刑死者」であり氷結属性を得意とする。本来ならペルソナ能力を行使している最中のみ眼が金色になるはずだが、薫は何故か元々金色である。クリフォト曰く「ペルソナ能力に目覚める前から金色な人間は見た事がない」らしい。

 その影響なのかエヘイエーを発現した瞬間から並外れた出力の攻撃を繰り出し、人間の体では到底耐えられないような冷気をも操る技術を得ている。

 

《裏話》 初期案での設定は今よりもよく喋って、すぐ癇癪を起こすキレ芸が得意だった。でもいつの間にか今のコミュ障な薫になっていた。非常に豊満な体をしているが作者にとってこれ以上の胸囲はJK辞めちゃうラインなので、実質的に最大値を叩き出した。




 因みに薫の立ち絵を描いたのでこの話に載せようとしたら、何故か載せられなくて諦めました。


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キャラクター設定《クリフォト》

 遅すぎると思ったろ?忘れてたのさ・・・


《名前》クリフォト

《年齢》?歳

《性別》女性《身長》165cm《体重》49kg

《スリーサイズ》B91 W58 H84 《生年月日》不明

《血液型》A型《アルカナ》悪魔

《好きなもの》タロット占い《嫌いなもの》特になし

 

《概要》裏世界に迷いこんだ薫が偶然出会った謎の女性。成り行きで薫の家に住む事になり彼女の記憶と過去が映し出す運命の戦いに加わった。人間らしからぬ名前と容姿に加え、裏世界やペルソナ、シャドウにやたらと詳しいがその正体は・・・?

 

《外見》全身黒と白のモノトーンカラーに統一された服装。素晴らしきプロポーションと晒された谷間や短いスカートに加え、後ろから見るとマントで衣服が完全に隠れるため余計ニッチなニーズに応えてる感が強い。こんな格好で飛んだり跳ねたりするから丸見えである。何がとは言わないけど。一応彼女も自分の服装がやらしい自覚があるのだが、それでも頑なに服装を変えようとはしない。

 

《性格》全体的に遠回しで回りくどい発言が目立ち、大丈夫な話の時も同じ語彙力で話す。裏世界の薫はその辺りがウザいと思っているらしい。何故か薫だけは下の名前で呼ぶ馴れ馴れしさや年齢の表現もだいぶ・・・いや、かなりウザい。それでも家に置いてもらおうと土下座までする姿はいっそ清々しい。薫を下の名前で呼ぶのは彼女なりの理由があっての事である。決して一方的な友情があるわけじゃない。

 

《ペルソナ》白と黒のペルソナ「エロヒム」の能力者。火炎と闇の力を得意とし、薫とは正反対の戦闘力を有する。武器として扱う杖は先端に刃を仕込んだ特殊な代物であり、エロヒムから流れる火炎の力が刃を伝ってシャドウに牙を剥く。ただし薫とは相性が悪い模様。氷結属性だしね。

 それでもなんとか彼女と力を合わせて戦う。ペルソナ同士の相性が悪いという事はそれぞれが別の相手に強いって意味だし。

 

《裏話》本作に登場するペルソナ能力者達はみんな初期原案から大きな改変を経て本編に登場したのだが、クリフォトに関しては髪の色が銀髪から金髪に変わったぐらい。元々は人形の見た目だった設定も作中でちょっとだけ使うし、服装もたいして変わらないし・・・。因みに彼氏がいた事は無いらしい。そもそも友達すらまともにいないため薫の事をバカにできる立場ではない。

 あまりにも現時点で語れる要素が少なすぎるせいでこんなに内容の薄い話になってしまった。まあ残りの要素は話の核心を突く物だから仕方ないけど。



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始まりの始まり

 創作魔文書鷹剣、また自分の作品をリブートするの巻


 

 遥か遠い景色、見覚えのある街並みと桜舞い散る海。慣れ親しんだいつもの光景だった。

 

「お父さんお母さん!お洋服買いに行こうよ!」

 

 少女が両親に新しい服を強請っている。なんて事はない普通の光景だった・・・炎に包まれるまでは。

 

《4月15日(日)曇り》

 

(ん・・・?)

 

 少女が1人、電車に揺られていた。

 

(夢、か・・・)

 

 酷く嫌な夢だった気がするが、何を見たのかは思い出せなかった。

 

(いいや、そんな事は・・・)

 

 思い出せない事は忘れよう、それよりも今は重要な事がある。

 

『東仁駅〜、東仁駅でございます。』

 

(・・・やっとついた。)

 

 電車を降りて駅のホームに立つと、この町の景色がよく見える。「東仁町」それが彼女 「月羽 薫」のやって来た新天地だった。決して大きな町とは言えない町だが、この静けさは都会の喧騒に疲れた彼女にはぴったりだった。

 

《月羽宅》

 

(ここか・・・私の新しい家。)

 

 大通りから1本離れたところにある小さな家、薫の新居は1人で暮らすには充分な大きさだった。こじんまりとしたリビングとキッチン、寝室や風呂がある辺りむしろ広い部類かもしれない。

 

(疲れた・・・お風呂入って寝よ。)

 

 初めての長旅で疲れ果て、漸く落ち着ける場所についた彼女の行動は早かった。

 

「・・・はぁ…」

 

 湯船に浸かっていると自然に溜息が溢れる。今日まで色々ありすぎて疲れていたのもそうだが、何よりも家にいても1人というのは薫にとって楽ではあるが楽しいものではなかった。「何処にいても自分は1人ぼっち」という現実が、彼女に重くのしかかる。

 

《深夜・・・》

 

(眠れない・・・)

 

 風呂を上がってパジャマに着替え、寝室でベッドに転がっても寝付けなかった。彼女は元々不眠症気味だったが、だとしてもこれ程寝付けないのは初めてだった。

 

(そう言えば、明日学校か・・・)

 

 明日の予定を思い出して憂鬱になるが、すぐにその気持ちは霧散した。

 

 

 

(ん・・・?今何か聞こえた気が・・・)

 

 どうせ空耳だろうと気にも留めなかったが、すぐに眠りに落ちていった。まるで夢の世界へ導かれるように・・・

 

《4月16日(月)晴れ》

 

(ん、もう朝・・・?)

 

 窓の外から差し込む陽光と目覚まし時計の騒音で目が覚めた。午前7時、寝ぼけた目で時間を確認する。ちょっと早いが学校に行く支度の時間を含めればちょうどいい時間だろう。適当に朝食を摂り、事前に届いていた制服(・・)に袖を通す。

 

(・・・これで、いいの?)

 

 黒いブレザーと灰色のスカート、胸元のリボンがちょっと恥ずかしいが学校指定だから従うしかない。必要な物を突っ込んだカバンを持ち、家の玄関をくぐった。

 

《東仁町 大通り》

 

(・・・眠い。)

 

 やはり薫に7時起床は早すぎたようで、登校が歩きながら睡魔と格闘する時間になってしまった。

 

(あ、ケーキ屋さん・・・)

 

 通りの店舗群に目を奪われながら歩き、すぐに学校は見えてきた。翠蓮学園高校、それが彼女の転校先だ。だが、門をくぐって直ぐに違和感を覚えた。

 

(・・・誰もいない?)

 

 学校という場所はいつも騒がしくて嫌な場所、というのが薫の学校に対して抱く感情だった。だというのに、ここはあまりにも静かで、何よりも人の気配がなかった。

 

(・・・あ、誰かいる。)

 

 校舎入り口の横、何故か机と椅子が設置されているそこに誰かがいた。

 

「お前、月羽薫だな?」

 

「・・・え?」

 

 いきなり話しかけられ、しかも名前を言い当てられた彼女はつい反応が鈍った。だが目の前の「誰か」はそんな事は気にせず話し出す。

 

「契約ならこれに。」

 

「・・・・・・・・・・」

 

 「誰か」が差し出したのは、一枚の契約書だった。

 

汝、運命と契約を交わすならばこの書にその名を

 

長き苦悶と苦痛の果てに答えを得るか

 

全てを諦め死を得るか

 

汝の名記される時、真実を探す旅が始まる

 

選べ、汝の行く末。記せ、汝の決意を。

 

「これ、は・・・?」

 

「お前の運命、奪われた過去・・・全てと戦い答えを見つけるのか、全てを諦めて安らかな眠りにつくか。選べ、お前が決めるんだ。」

 

「私が・・・ッ!?」

 

 一瞬、ほんの一瞬だった。何かがちらりと見えた気がした。紅と黒、それしかない景色・・・そして、その直後に襲ってきた激しい頭痛。今の景色が何で、何故頭が痛いのか、この契約書とやらに何の意味があるのかはサッパリだが、ただ一つ直感的にわかったのは、この契約書にサインせねば未来は無い事だ。

 

「月、羽・・・薫。」

 

「・・・いいぜ、ほとんど無意識みたいだが契約は契約だ。」

 

 既に薫の思考はぐちゃぐちゃだった。意識が朦朧として何も聞こえない・・・視界に映る景色も歪んで見える。脚もフラフラで真っ直ぐ立てない。しばらく持ち堪えたがやがて力つき、地面に倒れ込んだ・・・

 

 

 

「・・・・・・・・・・ん?」

 

 気がついた時、薫は翠蓮学園の入り口に立っていた。周りには彼女と同じ制服を着た生徒が大勢おり、先程の静けさとは程遠い騒がしさがそこにあった。

 

「頭痛い・・・早く行こ。」

 

 変な夢(?)を見たせいで気分が悪い。この場に留まりたくない一心から早歩きで校舎内に突入する。しかし急いで歩いていると注意力が散漫になってしまうのが世の常だ。

 

「・・・ッ!?」

 

 つい急ぎ過ぎた結果曲がり角で見知らぬ男子生徒とぶつかってしまった。

 

「おっと、悪かったな。」

 

 男子生徒は軽く謝罪し、薫に道を譲るとすぐに立ち去って行った。

 

(・・・・・・・・・・まあいいや。)

 

 譲ってもらった道を進み、事前に聞いたとおり職員室を目指す。転校生である彼女はまず担任の先生に会ってから教室に行くんだが・・・見所も書く価値も無いから割愛しよう。

 

《翠蓮学園高校 2-A》

 

 2-Aは現在非常に沸き立っている。この教室に転校生が来るというだけでも十分ビッグニュースだというのに、加えてその転校生が女子だと知った野郎共は狂喜乱舞していた。まあ中にはどうせブスだなんだと期待していない輩もいたが、彼らの予想は大きく外れる事となる。

 

「・・・・・・・・・・」ガラガラガラ

 

 無言で入ってきたソレは、一同の想像を遥かに上回ってきた。

 

「・・・月羽、薫・・・よろしく・・・」

 

 ブスどころか想像以上の美少女が現れ、教室内は度肝を抜かれた野郎共の無言の絶叫が響いた(?)無愛想でちゃんと喋らないところは減点かもしれないが、むしろソレがいいとのたまう強者までいる始末。もうわけがわからないよ。

 

(・・・やっぱり嫌。学校。)

 

 やっぱり学校は嫌いだ。と彼女が再確認したところで、空席になっている窓際の1番後ろの席に座らされた。

 

「・・・はぁ。」

 

 また口から溜息が溢れた。薫にとっては無意識に出る癖みたいなものだが、何故かこういうのに反応が良い輩が近くにいるものだ。

 

「ねえねえ、溜息ついてどうしたの?」

 

 薫の前の席にいる女子生徒が急に話しかけてきた。こういう時薫は面倒だから適当にあしらって躱すのだが・・・

 

「・・・・・・うっs「溜息ついてたら幸せが逃げちゃうよ〜?」うs「またお話ししようね〜?じゃあ後でね〜。」・・・・・・・・・・。」

 

 薫はまともに喋る事さえ叶わず、ただ一方的な会話以下の独り言を聞かされただけだった。元々人と話す事を億劫に感じる彼女だが、今の会話っぽい何かは心底堪えたみたいで机に伏して寝ようとする。まあ、すぐに授業が始まって起こされる事になるのだが。

 

《放課後・・・》

 

 酷い1日だった。いくらなんでもコレはないだろう。あの後起きるや否やつまらない授業を延々と聞かされたうえに、休み時間になると転校初日特有の質問責めの嵐に襲われる。

 おかげですっかり不機嫌になった薫はさっさと帰ろうと早足で帰路についた。因みに先程「後で話そう」と言ってた奴はついぞ話しかけてこなかった。自分で言ったくせに忘れたようだ。

 

「・・・・・・・・・・はぁ。」

 

 また溜息が出てしまった。これから毎日あんな場所に行かなきゃいけないのかと思うと嫌になってくるが、幸いにも変化の時はすぐそばに・・・

 

(・・・何アレ?)

 

 偶然見つけたそれは、一言で例えるなら「歪み」だった。路地裏の壁に僅かな歪みを見つけ、考える前に歩みよってしまった。

 

「・・・・・・・・・・。」

 

 自分でも何でこの歪みがそんなに気になるのかサッパリだった。だが、少なくとも何か惹かれるものがある気がした。まるで光に引き寄せられる虫のように、ゆっくりとその歪みに歩みより・・・

 

「・・・きゃっ!?」

 

 その姿は、完全に消えてしまった。

 




 2回のリブートを経てわかった事は「計画を立てる事は大事」という事。


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覚醒

 ペルソナ能力に目覚める瞬間は書くのが大変なのだ。


《???》

 

「いったぁ・・・」

 

 謎の歪みに落っこちて、薫が着いた先は見慣れない小屋の中だった。小屋の中と言っても部屋の見た目からここは小さな家の中だと思っただけだが。

 

「ここどこ・・・?」

 

 この部屋は明らかにおかしい。窓の類は一つも無く、ただ扉が一つあるだけだった。さっきの歪みがあればそこから帰れたかもしれないが、それが無い以上出口になりそうな物はあの扉しかない。

 

「ホント勘弁してよ全く・・・」

 

 嫌々ながら扉に手をかけ、ゆっくりと開いた。

 

「・・・え?」

 

 視界に飛び込んできたのは、どこまでも広がる紅い空と高くそびえる黒い塔。そしてその根本を覆い隠す黒い建造物群。先程の部屋よりも更に異常な光景に開いた口が閉じなかった。

 

「う、そ・・・何で(・・)?」

 

 こんな光景を見るのは初めてのはずだ。なのに、何故か薫はこの光景に見覚えがある気がした。いや、むしろ故郷の地に戻って来たかのような安心感を感じた気がする。何故自分がこの場所にそんな感情を抱くのか、それは全くわからないが・・・それ以外にももう一つ、感じるものがある。

 

「・・・呼んでる?」

 

 ハッキリとはわからない。だが、誰かが彼女を呼んでいる気がした。まるで吸い寄せられるように足が動き、一歩づつ黒い建造物群に向けて歩き出した。

 

「暗い・・・」

 

 中は予想通り暗く、僅かな明かりさえない暗闇に進む足が止まる。風も音も何も感じない独特の空気感を恐れながらも、それでも一歩づつ進んでいく。やがて少し明るくなると、足元に何か気配を感じた。

 

「ッ!?・・・・・・・・・・誰?」

 

「まさかこの地で人に出会うとは・・・案外わたくしも捨てたものじゃないようですね。」

 

 足元に転がっていた謎の女性、床に倒れてる割には結構元気そうな様子だ。誰かと聞いたのに答えてくれない辺りちょっと自己中かもしれないが、この状況で人に出会えるのは薫にとっても幸運だ。

 

「だから・・・アンタ誰って聞いてんの。」

 

「申し遅れました・・・わたくし、色々あってこの地にやってきたあk・・・『クリフォト』と申します。以後お見知り置きを。」

 

「クリフォトね・・・で?アンタはなんで此処にいるの?ていうか此処どこ?私早く帰りたいんだけど帰り道知ってる?」

 

「それらは順を追って説明いたします・・・今はとにかく『アレら』から逃れねばなりません。」

 

 「アレら」とは何かを聞く前に、そこら中から悍しい息遣いが聞こえてきた。やがて姿を現したのは、見た事も無い化け物達だった。

 

「何アレ!?」

 

「人の心を喰らう怪物、シャドウでございます!今はとにかく逃げますよ!!」

 

 1人と1体の周囲を囲う化け物の群れ、その隙間を縫って走り抜けるしかこの窮地を乗り切る策は無い。途中追いかけてくる化け物達に何度も捕まりそうになるが、スレスレのところで全て避けていく。

 

「はぁはぁ・・・行き止まり!?」

 

「こんな所で行き止まりとは!かくなる上は・・・」

 

 前に壁、後ろにシャドウ。絶望的な状況を前に、クリフォトは賭けの一手に出た。

 

「・・・切り裂け。」

 

 薫を背後に置いての、迎撃戦闘であった。

 

「出来れば戦闘は避けたかったのですが・・・こと此処に至っては止む無し!!」

 

 いつのまにかその手には杖が握られ、その柄は細身の刃が添え付けられていた。その細く鋭い刃でシャドウの群れを切り裂き、杖の一振りで数体のシャドウが呆気なく消滅していく様はいっそ見ていて気持ちいい程だ。呆気にとられる薫を他所に、クリフォトの斬撃でバッタバッタとシャドウが消えていく。

 

「しばしご辛抱を!今この群勢を切り裂いて活路を見出しますので!!」

 

 だが、こんな時に限って予想外はやって来る。

 

「ッ!こんな時に大型ですか・・・ッ!!」

 

 さっきまで蹂躙していた雑魚とは明らかに違う、巨大な異形の怪物が姿を現した。瞬間空気感が変わり、錆びた鉄のような匂いを漂わせるそれは巨大な肉体を揺らしながら1人と1体に牙を向いた。

 

「・・・・・・・・・・シャドウ、か・・・」

 

 薫の足が、一歩一歩大型シャドウに向かっていく。金色の瞳は光を無くし、口からは冷たい吐息が溢れ出る。

 

「逃げなさい!今あれに襲われれば命は・・・」

 

『いいよ、私がやるし。』

 

 言葉が重なった。薫と、薫ではない「誰か」の言葉が。

 

『運命は動きだした・・・』

 

『汝、破滅の運命を持つ者よ』

 

『運命への挑戦を誓うならば、汝に力を授けよう・・・』

 

 頭に声が響く。一つ一つの音が強烈な痛みを伴って聴こえてくる。だが意識が途切れる事は無く、むしろ頭は冴えわたっていた。

 

「私は・・・誓うよ。運命に挑戦する。だから、お願い・・・力を貸して!!」

 

『ならば契約を・・・』

 

『我は汝、汝は我・・・』

 

『長き苦痛と苦難の果てに・・・』

 

『必ずや、その手に真実を・・・』

 

 契約は完了し、薫は力を手に入れた。破滅の運命に抗い、真実を掴み取る力を・・・

 

「ペ・ル・ソ・ナ!!『エヘイエー』!!」

 

 自らを呼ぶ声に応え、冷気を纏う白き天使が姿を現した。冷たく、刺すような威圧感がシャドウに降り注ぐ。まさしく、絶対零度。逃げる事など不可能である。

 

「・・・消えろ。」

 

 薫の意思に呼応するように、エヘイエーがシャドウを蹂躙する。大型も小型も区別なく、極寒地獄によって粉砕されてゆく。その姿を前にクリフォトは黙って眺める事しか出来ず、同時に戦慄した。

 

(ペルソナ能力に目覚めた瞬間からこれだけの強さ・・・!恐らく半ば無自覚で力を行使しているのでしょうが・・・だとしたら、あまりにも・・・・・!)

 

 残酷過ぎる。クリフォトの胸中を支配するのは、嘆きと慚愧の念。しかし今はそれどころではない。薫の手を引き、急いでこの空間から脱出する他ない。

 

「今です!今のうちに逃げますよ!!」

 

「・・・え?ちょ、ちょっと待って!?今私何やってたの!?なんで此処こんなに冷えてるの!?」

 

(やはり無自覚での能力行使・・・ッ!これ程残酷だというのですか!?)

 

 出口を目指して突き進む1人と1体、それを包み込む暗闇はまるで2人の心境を表しているようだった。そして外に出た瞬間、クリフォトがあの「歪み」を作り出した。否、今薫に見えているのは歪みよりもハッキリとした「門」だった。

 

「コレをくぐれば貴女が元いた場所に帰れます!!さあ早く!!」

 

「え、ちょっと待ってこの門はなんなのぉあぁぁぁ・・・」

 

 門をくぐった途端に薫は白い光の中に落ちていき、それに続いてクリフォトもくぐると門は消えた。後に残されたのは、静寂と異様な光景だけ・・・

 

 かくして、彼女の運命は始まりを迎えた。だがそれは決して幸福では終わらない。彼女が生きている限り、その側には破滅があるのだから。

 




 薫の立ち絵、誠意製作中・・・


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世界の真実

 あの遭遇を経て、薫はクリフォトと共に東尽町に帰還した。正直急展開に次ぐ急展開で精神と寿命がすり減った気がしてならない薫は今すぐにでもコイツ(クリフォト)を締めあげてやりたい感情に駆られるが、今はそんな事をしている場合じゃないと自分を抑制して冷静に話を進める。

 

「それで・・・?アンタは、なんなの?」

 

「そのあたりも順を追って説明せねばなりませんね、一度貴女のご自宅でみっちりお教えしたいのですが・・・わたくしの格好は目立ちます故・・・これでどうでしょう?」

 

 ボンッ、という音と同時に白煙に包まれたクリフォト。数秒の後に煙が晴れたと思ったら、そこにいたのは彼女をそのままデフォルメしたような外観のぬいぐるみだった。

 

「これなら大丈夫でしょう。さあ、ご自宅に向かいましょうか?」

 

「はぁ・・・。」

 

 面倒くさい輩と知り合ってしまった事に溜息をつきつつも、しょうがないから自宅への帰路を進む。クリフォトの態度次第では手やら足やらが飛んできそうな程に薫は苛立っていたが、そうはならない事を祈るばかりである・・・

 

《月羽宅》

 

「それでは1から説明いたします。先程わたくし達がいたあの空間、あれは『裏世界』と呼称される異空間にございます。裏世界とこの場所・・・『表世界』はコインのように表裏一体の存在であり、互いに影響し合う関係なのです。」

 

「なるほど・・・なるほどね・・・」

 

「そして裏世界に巣喰い、わたくし達を襲った怪物が『シャドウ』・・・人の心を食らって育つ凶悪な存在です。そのシャドウに唯一立ち向かえるのが、貴女が目覚めた『ペルソナ能力』を持つ者なのです・・・ご理解いただけましたか?」

 

「うん、わかった・・・とりあえず・・・」

 

 薫は立ち上がり、クリフォトの懐に潜りこんで・・・

 

「長いわぁぁーーーーーッ!!」

 

「みぎゃあぁぁーーーーーッ!?」

 

 ・・・強烈なアッパーカットをお見舞いした。

 

「さっきから黙って聞いてればッ!!延々と一方的な話をッ!!かれこれ30分ッ!!いい加減にとっとと終わらせろーーーーーッ!!」

 

 続く2発の腹パンと1発の蹴りを受け、とどめの胴回し回転蹴りが脳天を直撃したクリフォトは血反吐を吐いて床に倒れこんだ・・・念のために言っておくが、薫は決して暴力的な側面を持ち合わせているわけではない。ただ溜まりに溜まったストレスが全部クリフォトに降り注いだだけなのだ。

 

「ごふっ・・・っ!!なんて強力な胴回し回転蹴り・・・」

 

《仕切り直し中です、もう暫くお待ちください・・・》

 

 なんか無視できない大事件が起きた気がするが、そんな事は気にしないで話を続けよう。何故かクリフォトがボロ雑巾みたいになってるけど気にしてはいけない。

 

「貴女が目覚めた力・・・ペルソナ能力はシャドウを打ち倒す唯一の手段、裏と表の調和を保つための力なのです・・・お願いします。どうか、わたくしと共に戦っていただけますか?」

 

「ヤダ」

 

「即決ッ!?」

 

「・・・なんでアンタのために戦わなくちゃいけないの?」

 

「うぐっ・・・地味に痛いところを突いてきますね・・・」

 

 というか、そんだけの理由で戦ってくれるのは聖人君子とかそういう部類だけだろう。何故今の言い方で一緒に戦ってくれると思ったのだろうか・・・

 

他はともかく(・・・・・・)・・・貴女は、どのみち戦うしか道は無いと思いますけどね。」

 

「・・・どういう事?」

 

「貴女の・・・『失われた記憶』について。」

 

 クリフォトが何を言っているのか、薫には全くわからなかった。失われた記憶?彼女の記憶には目立った欠落はない。あったとしても大した内容の記憶ではない筈だ。

 

「記憶・・・別に、失ってないけど。」

 

「では覚えていますか?貴女が・・・何故1人なのか。」

 

 何故かと聞かれても大した理由は無い。ただ1人だから1人なのだ。彼女には何もないしその側には誰もいない。友人も、家族も・・・

 

「・・・家族?」

 

 おかしい、人は誰しもが母親から産まれてくるはずだ。なのに、何故自分には家族がいないのか。誰にでも父親と母親がいるはずなのに、自分の親が分からない。顔も名前も知らない。

 

「家族・・・家族って・・・誰なの?」

 

 考えれば考える程疑問符が湧いてくる。理解ができない。

 

「私の・・・家族・・・」

 

 唯一理解できたのは、クリフォトの言う「失われた記憶」とやらがそれであるかもしれない事。

 

「家族・・・」

 

 視界が濡れる。歪んで色彩が抜け落ちていく。今まで考えた事も無かった、自分にだけ家族がいない理由、自分がひとりぼっちな理由・・・

 

「貴女の記憶は欠落しています。それを取り戻す鍵は、裏世界にある筈です。彼の地は人々の精神と記憶の集合体、恐らく貴女の記憶も彼処に・・・」

 

 クリフォトの声が耳に入らない。ただひたすらに、怖かった。

 

『恐ろしいのか?』

 

 ・・・頭の中に声が響いてくる。今朝学校にいた「薫」の声だ。

 

『自分の中にいる本当の自分を、お前は自ら閉ざした。幼い自己防衛本能によってな。それが真実だ。』

 

『違う・・・そうじゃない・・・』

 

『否定したいなら好きにすればいい・・・だが、いずれ真実を知る時が来る。その時までにハッキリさせておけ・・・』

 

 ・・・視界が晴れる。ノイズまみれの音が次第に元に戻っていく。クリフォトの声が聞こえる。

 

「どうなさいました?意識があらぬ方向へ飛んで行ったようですが。」

 

「・・・なんでもない。」

 

 なんでもないわけがない。見るからに泣くのを我慢してる時の目だし、顔は俯いたまま上を向かない。明らかに感情が激しく揺れ動いている。だが悲しきかな、クリフォトにそれが伝わる事は無いのだ。

 

「・・・わたくしの言葉に衝撃を覚えたようでしたら、ご協力頂けるか否かお考えください。貴女のご決断が大事ですので・・・」

 



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決意

《4月17日(火)曇り 翠蓮学園2-A》

 

 教室の中は相変わらず騒がしい。騒がしいのが苦手な薫はおかげですっかり憂鬱だが、彼女をそうさせる原因はもう一つある。昨日の出来事・・・裏世界に迷い込み、クリフォトと出会い、ペルソナ能力に目覚めた後・・・一晩経って体の異変に気が付いた。全身が筋肉痛でズキズキいっているのだ。

 

(痛い・・・歩くのも辛い・・・)

 

 クリフォト曰く「ペルソナに目覚めた直後は誰しもこうなるものですよ、翌朝には治っているはずですのでご安心を。」との事だが、それとは関係なしに薫のクリフォトへのヘイトは高まっていく。

 

(こんな体じゃなかったら昨日みたいにしてやったのに・・・)

 

 知らないところでネチネチと恨み言を垂れ流されているクリフォトが哀れすぎる・・・既に言及した気がするが、別に薫はクリフォトの声が嫌いなわけではない。ただ言動がいちいちウザいせいで煽ってんのかなと思ってしまうだけだ。

 

《放課後・・・》

 

 やっと退屈な時間が過ぎ去った。こんな嫌いな場所はさっさと離れて落ち着ける自宅に直行しようとしたのだが、大事な事を薫は忘れていた。

 

「おや、おかえりなさいませ。」

 

「・・・なんでいるの?」

 

「そりゃあ、この家に住まわせてもらっている身ですから。」

 

 クリフォトは昨日壮絶な土下座の末に薫の家に居座る事になっていたのであり、必然的に家に帰ると彼女がいるのである。つまりイマイチ信用ならない同居人がいる家で過ごさなくてはならない薫の心境は、すこぶる最悪なのだ。

 

「・・・・・・・・・・。」

 

「あの、せめて『ただいま』とか仰ってくれません?まさかとは思いますけど、わたくしの声無視してます?」

 

「・・・・・・・・・・うるさい。」

 

「あっハイ。」

 

 こんなやりとりしか出来ないが、一応クリフォトに対して自分から歩み寄ろうという気持ちはある。ただ薫のコミュ力があまりにも低いせいで言う事が見当たらないのだ。しかも最悪な事にクリフォトはいらない一言をつけて話してしまうせいで薫との相性はより一層悪くなっている。

 

()・・・昨日の件、お考えいただけましたか?」

 

「・・・裏世界、行くかって事・・・?」

 

「ええ、もちろんでございますとも。」

 

 クリフォトの出した提案・・・共同戦線を張り、裏世界に乗り込むか否かの決断を薫は迫られていた。

 

(裏世界、か・・・)

 

 正直行きたくない気持ちはある。あんな恐ろしい目に遭うのはもう御免だし、自分に「力」があるという話も理解し難い。そもそもクリフォトが何者なのかさえ知らないのだ。そんな輩のために、命の危険が伴う場所に身を投じる義理は無い・・・無いはずなのに・・・

 

「いいよ、私も行く。」

 

「・・・ッ!左様ですか!」

 

 無いはずなのに、口はいつの間にか答えていた。頭の中では迷っているのに、本心では決意を固めていたのだ。例え己の命が脅かされようが、何処の誰とも知らないクリフォトに加担する筋合いがなかろうと、口では全く説明できないんだろうが薫の決意は固まった。

 

「貴女にご協力頂ける事、『決意』を固めて頂けた事、感謝致します。」

 

「・・・勘違いするのはやめて。」

 

「ええ、やめられるならばやめたいですよ。出来ればわたくしが何処をどう勘違いしているのかご教授頂ければ嬉しいんですが。」

 

「・・・。」

 

 相変わらず言葉足らずなせいでイマイチ伝わっていないのだが、薫はその点を特に指摘したりしないのでその真意が伝わる事は基本的にない。今も勘違いとは何の事に対してなのかを言わないせいですれ違ったまま解消されずに微妙な雰囲気を生んでしまった。しかも本人に悪気が無いのが尚タチが悪い。

 

「・・・何すればいいの?」

 

「今日は簡単な話にございます。裏世界でチャチャっと終わらせてしまいましょう。」

 

「・・・どうやって行くの?」

 

「わたくしには表世界と裏世界を結ぶ転移門(ポータル)を開く力があります。この力を使って両方の世界を行き来すればいつだって好きな時に行けますよ。」

 

「・・・わかった。」

 

 薫が喋る前の若干の間については触れない事にして、2人は早速裏世界に飛び込んだ。翠の光輪を潜った先に見えたのはやはり紅い雲り空と黒い建造物、そしてそれらに囲まれた黒い塔。その塔は見上げるほど高く雲を突き抜けてなお高く聳え立っている。

 

「あれ何?あそこ行けばいいの?」

 

「え、ええ・・・あの塔のてっぺんに行ければ、何かしらの発見はあるはずですよ。」

 

 急に流暢に喋りだした薫に若干戸惑ったが、とりあえず気にしない事にしてクリフォトによる裏世界講座が始まった。この裏世界は人間の精神力が反映される世界である事、偶にあの塔のような建物がある事、その中からシャドウが湧き出ている事・・・そして、湧き出て来たシャドウを倒す唯一の方法が「ペルソナ」である事。

 

「わたくしはあの塔とそれを覆う建造物群を、かつて人類が築きあげたかの有名な塔を重ね『バベルス』と名付けました・・・ちょっとそこ!なんですかその不満そうな顔は!わたくしのネーミングセンスが悪いみたいな反応はやめてくださいまし!!」

 

「ふーん・・・」

 

 正直クリフォトが喚いている事は薫には届いていない。今薫が気になっているのはバベルスに対して感じる謎の感情である。懐かしさのような、親近感のような・・・そんな一言では言い表せないような複雑な感情が彼女の内側から湧き上がっている。

 

「薫?センチメンタルに浸るのはおしまいですよ。」

 

「別にセンチメンタルになってないし。」

 

「そうですか?わたくしには故郷の風景を懐かしんでいるようにみえましたが。」

 

「うるさい。それよりも、行くんでしょ?あの中に。」

 

「ええ、ですがその前に一手間です。」

 

 そう言うとクリフォトは、マントの下から一振りの剣を取り出した。一切の装飾も輝きも無い、灰色の剣だった。

 

「こちらを。」

 

 言われるがまま、何も疑わずに剣を手にとった。すると剣は眩い光を放ち、灰色一色だった剣は金の柄と水色の刃を備えた西洋剣に変化した。

 

「これは?」

 

「それが貴女の適性である武器、ペルソナ能力を宿した『ペルソナウェポン』の一つたる『氷結戦姫』にございます。」

 

「氷結戦姫・・・ダサっ

 

「・・・せめてディスりはわたくしに聞こえないようにお願いします。」

 

 クリフォトのネーミングセンスが死んでいるのは置いておいて、薫は手に持つ氷結戦姫をまじまじと眺めた。見た目はいいとしてこの剣は明らかに冷た過ぎるし、何より西洋剣なんて持つのは初めてだから使い勝手がわからない。

 

「使い方がわからない、という顔ですね。」

 

「当たり前でしょ。」

 

「ご安心を、使い方はペルソナ能力者ならば体が理解していますので。では参りましょうか?」

 

「あーハイハイ行けばいいんでしょ?」

 

 1人と1体が立ち入ったバベルスの中、そこは暗く静かな世界だった。光も騒がしさも無い、ただ不気味で異質な空気感があるだけの場所なのだ。そんな場所にこだまする両者の足音がかえって不気味さを増している。

 

「静かすぎ。ちょっと気味悪い。」

 

「裏世界において静は動への布石・・・そらっ!来ますよ!」

 

 薫が気づくのが先かクリフォトが言うのが先か、天井に気配を感じて見上げてみれば頭上には一体のシャドウ。向こうもこちらに気づいたようで天井から落ちるように襲いくる。避けなければ、と薫が思うまでの刹那。本人の意思に反して薫は既に避けていた。

 

(!?)

 

 その事に驚いた瞬間、薫の体は既に次の動きに移っていた。左手に握られた剣の柄に右手を添え、真っ直ぐにシャドウを捉えて直進する。そして彼女の意識が現実に追いついた時、既にシャドウは真っ二つに切断されていた。

 

「・・・素晴らしい。」

 



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イン・ザ・ハート

 ・・・夢を見ているような気がする。まるで冷たい水に浸かっているような、心地よくてどこか寂しい風景。いつか感じた筈の指先の温かさ、心臓の鼓動、吐く息の感触・・・

 

『・・・薫、薫・・・起きろオイコラ。』

 

 自分を呼ぶ声に起こされて薫は飛び起きた。目の前にいたのは自分と似た顔、正真正銘の「カオル」だった。

 

『やっと目が覚めたか、あまりにも寝坊が過ぎるから尻を蹴ってやろうと思ったが・・・』

 

「余計なお世話。アンタが誰だか知らないけど、口出しはさせないからね・・・」

 

 あまりにも自分とそっくり過ぎる顔・・・正確には眼だけが違う。薫が輝きの無い金色であるのに対し、「カオル」は燃えるような紅色。たった一つだけの違いが、より一層カオルの異色さを際立てている。

 

『俺が誰であるか、か・・・それはいずれ理解できるさ、お前が運命に挑み続けるならな。』

 

 視界が薄れる。

 

「運命って・・・ホントにそんなのあるの?」

 

 指先の感覚が無くなる。

 

『あるさ。』

 

 そして、彼女の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

《4月18日(水)晴れ 月羽宅》

 

 布団の上で目が覚めた。時刻は午前5時36分、汗だくでこれまでの事を思い出した。自分と同じ顔の奴がいた事と、そいつが意味深な事を言っていた事。そして「運命はある」って・・・

 

 (ダメだ。全然頭回らない・・・)

 

 せめてパジャマだけでも着替えようと部屋を漁り、制服一式を引っ張りだした。まだ学校に行くには早すぎるが、一回私服を着てから制服に着替えるのも面倒くさいからこれでいい。何より私服のバリエーション少なすぎるし。

 

「・・・・・・。」

 

「おや、お目覚めですか。」

 

 起床してすぐに厄介者(クリフォト)の姿を目に収めねばならない不条理は置いておいて、冷蔵庫の中から引っ張りだした朝食を食べているうちに昨日の事を思い出してきた。

 ペルソナ能力・・・「エヘイエー」が持つ力、そしてシャドウを無意識に倒した事。あの後急に意識が途切れて、気がついたら今朝の「夢らしきもの」を見ていた事も・・・少しずつ記憶がハッキリしていく中で、気になる事が一つだけあった。

 

(何で私、気絶したの・・・?)

 

 ペルソナ能力を使った後の急な気絶、明らかに関係がある。だとしたら自分はあの力を使ってはいけなかったのか、だとしたら何故クリフォトはそれについて言及しないのか・・・

 

「・・・・・・。」

 

「・・・ん、どうかいたしましたか?」

 

「・・・何も。」

 

 ・・・そもそもコイツが包み隠さず話していれば何の問題も無い筈なのだが、何故か重要な情報を小出しにして少しずつ話し出してくるあたり信用できる相手とは言えない。薫にとって有益な情報だろうがお構いなしに秘密主義を貫くんだから反感を買われても文句は言えないだろう。

 

「ハァ・・・」

 

《数時間後・・・翠蓮学園高校2-A》

 

(・・・うるさいなぁ。)

 

 ここでも彼女は1人。正確には心の中にもう1人自分がいるから2人きりなのだが、一般的にそれは2人と言わないため実質1人である。ひとりぼっちで感傷に浸る彼女の耳に入ってくるのは、耳を塞ぎたくなるような言葉の数々。

 

「アイツ今日もボッチだぜ、やっぱ友達いねーんだな。」

 

「ナンパしたらすんなり堕ちるんじゃね?話しかけられた事さえなさそうだぜ。」

 

「きっと泣いて喜ぶぜ、まあ体だけ貰えりゃいいけどよぉ。」

 

 気持ち悪い、汚らしい、虫唾が走るのトリプルコンボ。聞いてて吐き気を催すような汚い会話が聞こえてくる。薫が他人と距離をとるのはあの手の輩が原因・・・ハッキリ言えば、自分の事を怪訝な目で見るような奴と欲望を包み隠さないクズが嫌いなのである。

 

(はぁ・・・ホントやだ。)

 

 因みにボッチだなんだと言われているが薫は相手がいないだけで友達は欲しいのである。ただ他人に話しかける勇気とコミュ力が足りないから友達は1人もいないが・・・え、クリフォト?いや、うん・・・

 

《月羽宅》

 

 漸く帰ってこれた。帰ったところで何も無いどころか面倒くさい輩の相手をしなければならないから別の意味でストレスが溜まる。胃薬が必要にならないかちょっと心配である・・・

 

「おかえりなさいませ、お疲れでしょうから今日はゆっくりしていただいて結構でございます。」

 

「・・・そうする。」

 

 言われなくても分かっている。ペルソナ能力の弊害なのかいつもより疲れた様子の薫は、寝床につくや否や制服を脱ぎ捨てて即座に寝落ちした。華の女子高生が帰宅した直後に半裸で昼寝するのはどうなんだろう・・・

 

《???》

 

 海と桜の景色が美しい街並み、絶え間なくそこに有り続ける人々の雑踏。その中にいた1人の少女、彼女は両手を両親に引かれて街を歩く。小さな彼女には大き過ぎる街、浮かれて両親の手を離れ勝手に走りだす・・・それが永遠の別れだと知らずに。

 

 炎の中、逃げ惑う人々の恐怖に怯えた声が聞こえる。少女はただ座り込んで泣くことしか出来なかった。いなくなった両親を悲しみ、目の前まで迫り来る死に怯え、何もかもが怖くて仕方なかった。

 

「大丈夫ですか!?」

 

 声が聞こえる。女性の声だ。少女が炎に呑まれるより早く現れた女性は、宙を舞い少女を救い出した。だがその顔が後悔の念に悩まされているように見える気がする・・・

 

《月羽宅》

 

(また酷い夢を見た気がする・・・)

 

 今日は厄日かもしれない。朝にもう1人の薫と対話する夢を見たかと思ったら、今度は変な光景を見せられて余計に疲れた。もう普通にしていようと思い、脱ぎっぱなしだった制服を仕舞って私服を引っ張りだした。でも寝室を一歩出れば・・・

 

「おや、お早いお目覚めで。」

 

 当然視界に入るウザい奴、薫はそっとドアを閉めて寝室に引き篭もった・・・




 書き終わったら明日まで待ってから投稿する謎ルール。


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訓練は大事、他2本

 スピード感を意識したい、少なくとも今年は。


《4月19日(木)晴れ》

 

 今日はペルソナ能力を使う練習をするとクリフォトに言われ、特に抵抗も無く裏世界へとやってきた薫。既に裏世界に順応しているのは薫が無関心なだけか、それとも気質的にここの空気感が気に入ったのか・・・

 

「一昨日のようにペルソナ能力を使った途端気絶したのは、まだ貴女の体が力に適応出来ていないからです。準備運動を経て徐々に力に順応していけばあのような現象は起きなくなりますし、何よりいざという時に気絶されては貴女の命が危ういですからね。」

 

「それで?準備運動ってのはどうやるの?」

 

「簡単でございます、ペルソナ能力を行使する時間を伸ばしていくだけです。」

 

 簡単と言われて早速やってみる薫だったが、これが予想以上に難しい。ペルソナ・・・「エヘイエー」が実体を保っていられるのは数分が限界で、しかも数分という時間の間自分は棒立ちしたままだ。更に加えて一度限界まで実体を保ったら疲労困憊で脚がガクガク震え始める。このザマじゃ気絶するのは当然だと自分を卑下してしまいそうになるが、これで諦めるほど薫は弱くなかった。

 

「ハァッ・・・ハァッ・・・もう一度ッ!」

 

 既に満身創痍の体に鞭を打ち、感覚が弱り始めた指先と脚に無理矢理力を込める。強引な力の行使はそれに見合うだけの反動が伴う。数秒程度で限界が来た薫は力無く崩れ落ちた。

 

「うぅ・・・ハァッ・・・」

 

 今すぐにでも立ち上がって練習の続きがしたいのに、脳の命令に対して四肢と本能が拒否反応を起こす。体に力を入れようとしても力が抜けていって立ち上がれない。自分の体と格闘する様を危険と判断してか、クリフォトが止めに入った。

 

「今日はこれまでで構いません。これ以上はただの自殺です。」

 

「・・・。」

 

 薫は何も返す言葉が出ずに地に伏せていた。強すぎる疲労に抗えない姿を見て、クリフォトは彼女に対する認識を少しだけ改めた。

 

(ペルソナ能力に覚醒した直後に披露したあの強さに対して、今の薫は「他」のペルソナ能力者が覚醒した直後と変わらない程度の技量しかない・・・あの時に垣間見た強さが制御のタガが外れた状態なら辻褄は合いますが・・・)

 

 どうしても拭いきれなかった。クリフォトの薫に対する認識が、大きな誤りを孕んでいるような不安感が・・・

 

(そのあたりも含めて経過観察しましょう・・・どの道目を離すわけにはいきませんし。)

 

 クリフォトが一人でアレコレ考えてる間、薫はずっと息を切らせて寝っ転がっていた。力が足りない自分に憤りを覚えながら・・・

 

《4月20日(金)雨》

 

 ただでさえ今日は雨のせいでいつもより気分が暗いのに、昨日の疲れを引きずっているせいで薫のテンションは尋常じゃなく低下している。見た目には何の変化も無いが心の中ではいつもよりネガティブな感情が3割増しなのだ。

 

「昨日はお疲れ様でした。まだ慣れない体であれほどペルソナを使っては体もガタガタでしょうから、本日はお休みです。」

 

 休みと言われて嬉しいといえば嬉しいが、早くペルソナ能力を制御できるようになりたい薫はあまりゆっくりしていられなかった。そもそも娯楽と呼べる物が無さすぎるこの家では携帯を弄る事ぐらいしか暇をつぶす手段が無い。引っ越してきた当初は気にならなかったが、改めて考えてみればこれは大きな問題だった。

 

(何か置いた方がいいのかな、でも何置けばいいんだろ・・・よく考えたら何か置いたところで使うのは私よりもアイツ(クリフォト)か。)

 

 冷静になって考えてみれば学校に行っている間家にいない薫と違って、ニーt・・・この家に居座っているクリフォトの方が暇な時間は長いのだ。だとしたら自分の暇をつぶすために用意した物がクリフォトの暇つぶし用になってしまうという訳で・・・

 

(いいや、後で。)

 

「薫〜?今ちょっとだけわたくしの事下に見てましたよね〜?」

 

「・・・・・・・・・・。」

 

「なにか言ってくださいよッ!?」

 

《4月21日(土)曇り》

 

 漸く体の疲れも癒えてきた。ガタガタだった体が治った側からペルソナ能力の練習を始める。今日はどういう訳か一昨日よりもペルソナを実体化できる時間が伸び、更に疲労で動けなくなる現象も改善されて限界までペルソナ能力を行使しても倒れたりする事はなくなった。

 

「ペルソナ能力の強化は筋肉と同じ・・・限界まで酷使した事による疲労を回復する際の反動で以前よりも強くなるのです。貴女の場合伸び代がたっぷりですから、成長度合いも大きいという訳です。」

 

「なるほどねー・・・」

 

「この分なら明日にはシャドウと戦える状態になりますね、今日はほどほどに練習した後はお休みしましょう。」

 

 シャドウと戦うと言われて、正直薫はその事を好意的に受け止めてきれてはいなかった。また気絶してしまうんじゃないかと不安でならなかったが、その反面今の自分には小さな自信と確かに感じる「力」があった。今ならば、結果は違うかもしれない。

 

「力は使いよう・・・適切な訓練を施したペルソナ能力者ならば、手にした武器を十全に使いこなせましょう。」

 

「つまりこの剣も上手く使えるようになるって事?全然実感湧かないけど・・・」

 

 剣を握ったところで実感の欠片も湧かない薫だが、クリフォト曰く以前よりも強くはなっているらしい。含みのある言い方なのが不安だが。

 

「まあいいや、実際にやってみればわかるでしょ。」

 

「ポジティブですねぇ・・・」

 

 薫の練習はまだまだ続く・・・




 3日同時消化しなきゃやってられない。


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実戦、即改善

《4月22日(日)晴れ》

 

 今日は日曜日。世間一般では日曜日は休みになりがちなのだが、薫にはその概念は無いようだ。

 

「今日からは実戦に移りましょうか。漸く貴女の体も戦えるぐらいにさ慣れたみたいですし。」

 

「実戦ねぇ・・・」

 

 小さくボヤきながら左手の剣を見る。水色の刃が光るこの剣は薫も結構気に入っているのだが、だからと言ってこれを使って戦いたいと思えるかは別問題だ。

 

(私、戦えるのかなぁ・・・)

 

 つい先週までは普通・・・いや、外見だけ普通に見えて中身は普通じゃない女子高生だったのに、いきなり剣を握って戦えと言う方がおかしいはずだ。なのに目の前にいるクリフォトはそれをやれと言ってくる。倫理観だか社会的常識だかが欠如しているのだろうか。

 

「そもそも私って戦えるの?なんか騙してない?」

 

「少なくとも以前のように気絶したりはしないはずですよ、大幅にレベルアップしているでしょうから。」

 

「レベルアップねぇ・・・なんかメタい感じ。」

 

「それは言っちゃいけない約束でしょう・・・」

 

 いつかの誰かはレベルアップがどうとか言っていたが、少なくとも触れている話じゃないのでこの話は終わりにしよう。そして1人と1体は、バベルスの中へと足を踏み入れた・・・

 

「・・・わたくしは以前からこのバベルスに足を運んでこの地を観察してきましたが、それでも判明している事は僅かです。シャドウを生み出す機能を有している事、稀に大型のシャドウが産み落とされる事、そして・・・人々の感情が、この地を形成している事。」

 

「結構わかってんじゃん。」

 

「これで『結構』ならいいんですけどね・・・いかんせんこの地に関する疑問は湯水のように沸いて出てきますので、いくら調査を重ねても無駄な気がしますけどね。」

 

 若干自虐ネタ風の会話を交えながら1人と1体は歩みを進めていく、冷たい空気を肌で感じながら暗い道のりを先へ先へと進んだその時、頭上から気配を感じた。

 

「ッ!上ですッ!!」

 

 奇襲を仕掛けるシャドウに対して、薫がとった行動は一切の無駄が無い完璧な回避行動だった。奇襲攻撃を紙一重で避け、空振りして隙だらけなシャドウを剣撃で捌いていく。ペルソナを使わなくとも既に凍りついている剣による斬撃は雑魚シャドウが耐えられる威力ではなく、僅か3回の斬撃でシャドウは切り捨てられた。

 

「お見事・・・素晴らしい実力でございますね。」

 

「ん・・・今私何かしてた?体の違和感がすごいんだけど。」

 

「ええ、貴女がその手でシャドウを粉砕しておりました。」

 

「粉砕ねぇ・・・」

 

 薫は自分の剣をまじまじと眺めた。血飛沫のような物は何も無いが確かに何かを切ったような感じが残っている。知らない間に自分の体が勝手に動いている感覚を理解する事はできなかったが、それでも自分が戦っているという事に変わりはない。

 

「何も覚えてないんだけど・・・」

 

「それで正しいのです。ペルソナ能力者は十分な練習を積むまで無意識下で戦うのが常であり、人間の体でペルソナ能力を行使するための「適切な処置」なのですよ。」

 

「適切な処置って言われても・・・」

 

 そもそも適切じゃない処置という物が分からんから適切な処置とか言われても理解はできない。というかクリフォトに関しては口から出る言葉の一つ一つが胡散臭い、薫に信用されていないのも納得である。

 

「貴女の力は他の能力者と比べて強力な代物のようですね。練習量以上の力を引き出せる可能性を有しているものの、逆にその力が貴女自身に牙を剥く可能性もある・・・決してコントロールを誤ってはなりませんよ?」

 

「フラグ?」

 

「おやめなさい、どこぞの芸人みたいな手口は。」

 

「ていうかアンタ色々わけ分かんない事言ってるけどさ、アンタが言ってる事ちっとも理解できないんだけど。」

 

「相変わらず裏世界(こっち)では饒舌ですね・・・」

 

 薫は何故か裏世界に来るとよく喋る。でもそれは一回置いておいて、まずは説明からだ。

 

「つまりペルソナ能力は〜・・・《省略》・・・以上になります。これで理解できたかと・・・」

 

「・・・・・・・・・・。」zzz...

 

「起きなさーーーい!!」

 

「・・・ふにゃあ。」

 

 説明を求めた相手に一から説明して結果、長話が過ぎてあっさり居眠りされてしまった。まるで授業がつまらん先生だ。

 

「説明を要求しておいて勝手に眠るとはどういう了見ですかーッ!?早く起きなさーーーい!!」

 

「・・・だってぇ、話つまんないし長いし・・・」

 

「ああハイハイ分かりました!後でちょっとずつ教えますから、せめてこんな場所で居眠りはやめてください!何かの拍子に永眠しても知りませんからね!!」

 

「はーい。」

 

 不服そうながらも眠気を振り払って意識を覚醒させ、またバベルス探索を開始した。相変わらず行手は暗くて冷たい空気が流れてくる。少々着込んでる薫はともかく薄着でやたら肌が露出しているクリフォトが心配になってくるぐらい冷たい。

 

「・・・寒くないの?」

 

「え?」

 

「いや、アンタ明らかに寒そうなんだけど。」

 

 実際誰がどう見ても寒そうだった。そもそもクリフォトの服装は谷間(・・)やら膝やら肩やらが見せつけるように剥き出しになっている。いくらマントがあるとはいえ、そんな小細工でどうにかなっているとは到底思えない。

 

「絶対寒いでしょ。」

 

「いえいえお構いなく、まあ気にかけていただけるのは有り難い事ですが。

 

「見てるこっちが寒くなるんだけど。」

 

 しかも道を奥に行けば行くほどより一層寒さは酷くなっていく。薫は少々着込んでるとはいえ流石に指先が寒くなってきた。ていうか隣にいるクリフォトが見るからに震え出してるのが気になって仕方がない。

 

「ホントに大丈夫、なんなら・・・」

 

 もう一度同じくだりをやろうとした時、前方から僅かに気配を察知した。両者共武器を構えて臨戦体制をとる。前方から現れたシャドウは口から冷気を発し、鋭い爪を煌めかせて両者に襲いかかろうとしている。

 

「・・・ッ!?」

 

 また薫の体は勝手に動き出した。本人の意思による制御から離れた体は剣を強く握り、シャドウの脳天(らしき場所)に一撃を加えた。冷気を纏わせた剣に脳天を斬り裂かれよう物ならシャドウも致命傷は免れない・・・だが、このシャドウは少々勝手が違った。薫の一撃を受けても倒れず、逆に彼女を振り払って投げ飛ばす強さを見せたのだ。

 

「おや、恐らくあのシャドウは冷気と斬撃に耐性を持っているようですね・・・」

 

 クリフォトが呟いた事は正しかった。このシャドウは薫のペルソナ「エヘイエー」が得意とする「氷結属性により発生する冷気」と、彼女が左手に握る剣による「斬撃」に耐性を持っていたのだ。薫にとっては相性が悪い事この上ない。

 

「仕方ないですねぇ、ここは一つ・・・」

 

 クリフォトは手にした杖を掲げ、更にその先端にある宝玉をシャドウに向けた。その瞬間、辺り一帯は灼熱地獄となった。

 

「わたくしがお相手いたします。薫、貴女は下がってください。」

 

「はいはい・・・後、この炎そこら中で燃えてるけど大丈夫なの?さっきからスカート燃えそうで気が気じゃないんだけど。」

 

「ご安心を、わたくしの炎はシャドウの身だけを焼く炎ですので・・・さてと、そちらのシャドウは冷気と斬撃に耐性があるようですが・・・」

 

 クリフォトは不敵な笑みを浮かべ、横向きに持った杖に自分の尻を乗せると・・・何故かクリフォトの体が浮かび上がった。

 

「果たして、わたくしの炎に耐えられますか?」

 



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運命・・・?

《5月2日(水)晴れ 月羽宅》

 

 昨日の会話(?)から1日が経ち、まだ薫はその事ばっかり考えていた。元々コミュ症過ぎて他人と会話が出来ない彼女にとって「向こうから話しかけて来た」というのは大きなチャンスだった。即ち「友達1人目」になってくれるかもしれない可能性が出てきたのだ。だが問題が一つ。

 

(友達になるには話さなきゃいけない。でも、何をどうやって・・・?)

 

 会話というものが極端に苦手な薫にとって「何を話せばいいか」、「どうやって話しかければいいか」が全くわからないのだ。よって件の男子生徒と会話をするどころか、話しかけることさえ出来ない。つまり詰みである。

 

(どうしよ・・・?)

 

「なんだかお困りのようですねぇ、よろしければお悩み相談の方をわたくしが・・・」

 

 そう言われて一回振り返った後、クリフォトを視界に収めた途端首を正面に戻し・・・

 

(どうしよ・・・?)

 

「藁にも縋らない上に見なかったふりをされるのは辛すぎるんですが?」

 

 どうやら自分が藁のようなレベルである自覚はあるようだ。

 

「・・・何も知らないくせに・・・。」

 

「貴女に話しかけてきたという男子生徒の話でしょう?どう話しかけたらいいか分からないとかで・・・」

 

「・・・ッ!?」

 

 自分が抱えてる悩みをズバリ言い当てられて露骨に動揺する。

 

「何で、知って・・・ッ?」

 

「だって貴女、昨日からずっとその事ブツブツ言ってるじゃないですか。」

 

 確かに薫は昨日からその事ばっかり考えていたが、あろうことか声に出ていたようだ。そう告げられた薫はクリフォトに背を向けたっきり動かなくなったが、髪の隙間から覗く耳は真っ赤だった。

 

「・・・・・・・・・・///」

 

「貴女のお好きなように・・・とはどう考えてもいきませんので、わたくしから一つ。『取り敢えず、話しかけてから考える。』です。」

 

(それが出来ないんだって・・・)

 

 何気に難しい事をやらせようとするあたりクリフォトは鬼畜かもしれない。或いは裏世界でぞんざいに扱われてるから、表の方でやり返そうとしているのかも。テンパった時の薫はリアクションが激しいし。

 

(ど、どうしよう・・・?)

 

《5月3日(木)曇り 翠蓮学園2-1教室》

 

 結局昨日は有効な作戦が思いつかないまま1日が経ってしまった。

 

「・・・はぁ」

 

 ついつい件の男子生徒を目で追ってしまうが、これは向こうから話しかけてくるかもと期待半分もしそうなったらどうしようという不安半分の眼差しなので恋ではない・・・ハズ。

 

(・・・来ない、か。)

 

 期待とは裏腹に、男子生徒は薫に話しかけては来なかった。その代わりといってはなんだが、たまに目が合う事はあるが薫の方がすぐ目線を逸らしてるから意味は無い。無念。

 

(うーん・・・話しかけて来ないのか・・・)

 

 薫的には対応に困るから来なくて助かった反面、話しかけてほしい願望もある。つまり、どっちにしろそこそこ困るのだ。結局今日1日男子生徒は話しかけてこず、薫を多少ヤキモキさせるだけに終わった。思い通りにいかなかった薫の足取りは思い。

 

「ただいま・・・何コレ?」

 

 家に帰った彼女を待っていたのは、白装束に身を包み頭に蝋燭を括り付けたクリフォトが水晶玉に向かって念じている姿だった。

 

「ハァァァアァァ・・・おや、おかえりなさいませ。」

 

「・・・そんな急に変えないで、意識。」

 

 謎過ぎる景色とクリフォトの態度に一瞬思考が停止しかけるが、コイツの奇行は今に始まった事じゃないとスルーする。

 

「フゥゥゥウゥゥ・・・」

 

「・・・何やってるの?」

 

 だが再び始まった奇行を前にスルースキルの限界が来た。

 

「見てわかるとおり、呪術です。」

 

「・・・何で?」

 

「わたくしこのタイプの呪術でしか裏世界を覗き見できませんので。」

 

 なんて面倒くさいんだろう、そう薫は思ってしまった。ちょっと裏世界を覗くためにあんな奇声を発したら誰だって面倒くさいと思うだろう。

 

「・・・見て何がわかるの?」

 

「まあちょっとした偵察程度しか見えませんし、何か異変が起きてないかチェックするぐらいですね。裏世界は何が起きても不思議じゃありませんし。」

 

「・・・そう。」

 

「ふっふーん、さてさて裏世界の様子は・・・バベルスの外観に変化は無し、中身は・・・ッ!?人間!?」

 

「え、人間!?」

 

 裏世界にいるはずが無い人間の姿が見えたと聞き薫も慌てて水晶玉を覗きこむ。そこにはバベルスを彷徨い歩く例の男子生徒が映し出されていた。

 

「・・・あの時の!」

 

「例のお相手ですか・・・助けに行きますよ!!」

 

 クリフォトは急いでポータルを開いて飛び込み、薫もすぐに飛び込む。飛び込んだ先ではシャドウの気配を強く感じるが、だからといって助けるのを止める事は無い。

 

「人間の気配は・・・こっちです!!」

 

「わかった!」

 

 武器を手にひた走る1人と1体。全ては手の届くところにいる、顔見知りの彼を助けるために。



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火焔

 大分時間がかかったなぁ、と1人思う


 それは凍える冷気を跳ね除け、灼熱地獄を作り出す程の焔だった。薫の冷気と斬撃を寄せ付けなかったシャドウを相手にクリフォトは不敵に笑い、その背中に広がるマントをたなびかせて浮かび上がった。

 

「さあ、受けてみなさい!」

 

 杖から焔が放たれてシャドウを襲う。その数は10や20では終わらず、幾つもの火球が灼熱の伊吹となって猛威を振るう。

 

「やはり冷気に耐性がある分、わたくしの『火炎』には耐えられませぬようで。まあ耐えられたら困りますが・・・」

 

 シャドウは悲鳴をあげる事もない。ただ黙して火に焼かれ、その体が焦げて砕けた。

 

「この程度ではわたくしのペルソナを使うまでもない・・・ケダモノの死には相応しい終わり方ですねぇ?」

 

「あーハイハイそーいうのいいから。」

 

 戦闘が終了したと同時にクリフォトが出した焔は全て鎮火した。ホントに都合の良い能力である。

 

「・・・アンタ強すぎない?」

 

「そんな事は・・・あるかもですね。」

 

「蹴られるならお尻とお腹とどっちがいい?」

 

「ハイすいません、調子こきました。」

 

 せっかくカッコ良く決まったかと思ったらこれである。クリフォトがいかに力を見せつけようとも月羽宅での力関係は変わらないらしい。

 

「やっぱりアンタもペルソナ使えるんだ。」

 

「ええ、でなければあんな偉そうな事言いませんよ。」

 

「しかも炎。」

 

(しかも・・・?)

 

 何がしかもなのかは置いておいて、ひとまず今の一戦で薫は一つ学んだ。ペルソナ能力とシャドウの耐性、相手の弱点を的確に突く事の必要性を。

 

「相性かぁ・・・なんかゲームってやつみたい。」

 

「ええ、ゲームってやつです。原作的に・・・

 

「でも冷気も剣も効かない奴とか、今後また出たら私お荷物なんだけど。」

 

「その分効くシャドウ相手に暴れればいいじゃないですか。」

 

「そっか。」

 

 裏世界の薫は饒舌なうえに思考パターンも前向きでありがたい。表世界の薫はあんなにネガティブなコミュ障だというのに・・・

 

「しっかし相性かぁ・・・私とアンタだけで人数足りるの?」

 

「・・・いいえ、恐らくわたくし達だけでは人数が足りません。ですが・・・」

 

 クリフォトは「谷間」からタロットカードを取り出し、適当にシャッフルした後1番上のカードを引いた。

 

「『運命』のカード・・・恐らく貴女を取り巻く世界は、数奇な運命に満ちている事でしょう・・・」

 

「・・・テキトー過ぎない?」

 

「占いなんてそんなもんでしょう。」

 

 1人と1体は慣らし終わった体で前に進む。暫く進んでいるうちに冷たい空気は消えていき、徐々に静かで薄暗いバベルスに戻った。通路の脇にある小さな部屋に寄り道し、クリフォトが細工を仕掛けた。

 

「ちょうどいい感じのスペースを見つけましたし、ここらで中断(セーブ)しましょう。」

 

「・・・セーブ?」

 

「ええ。ここでセーブしておけば、次裏世界に来た時はここから探索を始められます。いちいち入り口から探索始めたら一生進めませんし。」

 

「まあ、それはわかるけどさ・・・セーブとか言って大丈夫なの?」

 

「言わなきゃいいだけなんですけどね・・・」

 

 あーだこーだ言いながら1人と1体は家に戻る。翌日からも日々バベルスの探索に時間を費やす生活を続け、しばらく時は経ち・・・

 

《5月1日(火)晴れ》

 

 月が変わろうが薫がやる事は変わらない。適当に学校生活を送りながらバベルスに通うだけだ。今日もそのはずだったのだが、少しだけ違う出来事が待っていた。

 

「なあお前さ、今ちょっと時間ある?」

 

 休み時間、自分の机でボーっとしてた薫は不意に話しかけられた。声が聞こえる右を見たら、妙に見覚えのある男子生徒がそこに立っていた。

 

「・・・。」コクリ

 

「よかったー、今暇過ぎて死にそうだったからさ。ちょっと暇潰しに駄弁ろうぜ。」

 

 急に絡んできた男子生徒は薫を相手にひたすら話し続けた。特に返事が返ってくるわけではないが自分が喋れればそれで満足なのか、置物と化した薫に向かって喋りつづけた。

 

「あーっと・・・、お前さ、これって面白い?」

 

「・・・?」

 

「いやさ、普通人の話聞いてるだけってつまらなくね?」

 

「・・・。」

 

 言われてみればそうなのかもしれない。だが薫は極めて特殊なのである。口が錆び付いたように動かないレベルのコミュ症である彼女にとって自分から何か話すのはハードルが高い。だから自然と彼女は聞く側に回るのであり「聞いてるだけ」がつまらないという発想がそもそも無い。

 

(・・・聞いてるだけ、話しかけたいけど・・・)

 

 薫だって別に友達がいらないわけじゃない。なんなら1人ぐらい欲しいのだが、それが原因で日々煩わしい思いをするかもしれないと考えてしまう・・・ネガティヴにも程がある。

 

「まあ聞いてるだけでも楽しいならいいぜ、こっちから勝手に話しかけてる身で言う事じゃないけどさ。」

 

「・・・・・・。」

 

「おっと、もう授業始まるじゃん。じゃな。」

 

 男子生徒は風のように吹き込み、風のように去って行った。

 

(・・・なんだろ、この感じ。)

 

 いつもは他人との関わりを持たず(持てないだけだが)、ぼっち一直線な体質だった薫。しかしそんな彼女だからこそ人に話しかけられた時は人一倍嬉しいのである・・・まあ、本人は「嬉しい」という感情をイマイチ自覚出来ていないのだが。

 

(もう一回、話しかけてくれるかな・・・?)

 

 

 

 

 

《一方その頃・・・》

 

(アイツ・・・変わった奴だけど、少なくとも悪い奴じゃなさそうだな・・・)

 

 自分の席に戻った男子生徒は窓際の1番後ろの席をチラッと見る。変わらずそこには無表情の薫が座っている。

 

(多分あんな事(・・・・)はしないだろうけどさ、一応気をつけておくか・・・)




 やっと5月か・・・


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疾風

《裏世界 バベルス内部》

 

 薄暗い通路に響く足音。その主である少年は見慣れぬ風景に戸惑いながらも前に進んでいく。全てはこの場所を脱出するために。

 

「一体なんだってんだ此処は?暗いし寒いしおまけに意味わかんねえぐらい道がなげぇ。なんで俺はこんな所に来ちまったんだ?」

 

 全ての発端は下校中、路地裏の一角が妙に気になって触れてみたところ謎の歪みに飲み込まれて今に至る。正直何がどうしてそんな珍現象が起きたのか少年は理解していないが、今は理解よりも脱出が先だと思考を中断する。

 

「しっかし・・・コレ本当に脱出できんのか?さっきから歩けど歩けど同じ景色がぐるぐる回ってるだけのような気が・・・」

 

 バベルスの景色は変わり映えがしなさ過ぎて歩いている気がしない。少年が歩みを進めたその先で、奇妙な何かが蠢いていた。

 

「なんだありゃ・・・」

 

 少年が目にしたのは紛れもなくシャドウであった。異形の怪物であるシャドウはバベルス内を徘徊し、目につく物に襲いかかるケダモノである。それを知ってか知らずか少年はすぐに逃げ出した。だがシャドウは人間の気配に敏感なものである。動いている人影を察知した瞬間、シャドウは走り出した。

 

「やっべ!!あの化け物追ってきてんじゃん!!」

 

 歩いて来た道を逆走し、必死になって逃げ出す少年。しかし現実は中々非常なものである。遂に少年の行く先は行き止まり、背後にはシャドウ。絶対絶命である。

 

「畜生が・・・」

 

 シャドウは人間の精神を残酷に貪り喰らうケダモノ、少年に容赦などせず襲いかかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこまで、です!!」

 

 シャドウの脳天に突き刺さる杖、それを握るのはやはりクリフォト。間一髪で少年は助かった。

 

「弾けて・・・砕けなさい!!」

 

 杖の先から紅い光が溢れ出し、その光を一身に受けたシャドウは消滅した。

 

「うそん・・・」

 

「なんとか間に合いましたか・・・お怪我はありませんか?」

 

「いやー・・・まあ、うん。」

 

 少年の答えが歯切れの悪いものだったのは気にしないとして、クリフォトがポータルを開いて彼を表世界に送ろうとした時遠くから足音が聞こえてきた。

 

「私を!置いて!先行くなーーーッ!!」

 

「あ、薫・・・よく追いつきましたね。」

 

「何が『よく追いつきましたね』なの!?アンタが私の事置いてったせいでシャドウが大勢来るし!その相手した後でアンタ追っかけて走ったせいで滅茶苦茶疲れたし!!いい加減にしろーーーッ!!」

 

 渾身のシャウトと共にクリフォトを思いっきり蹴っ飛ばす。目の前に第3者がいる事さえお構いなしだ。

 

「お、おい。お前って・・・」

 

「え?あ・・・」

 

 漸く少年の姿が視界に入った薫は今の行為が人に見られてた事に気づき、急に激しく取り乱しはじめた。

 

「あ、あの・・・いや、これはその・・・えっと・・・」

 

「ぐふっ・・・か、薫・・・近くにシャドウ、が・・・」

 

「え?じゃ、じゃあ私行かなきゃだから・・・」

 

 今しがた自分が蹴っ飛ばしたクリフォトの報告を受けて薫は臨戦態勢に移行する。さっきまであんなに取り乱してたくせに直ぐ切り替えられるあたり、裏世界の薫は切り替えが早くていい。

 

「薫、なんでこんなに猛攻を加える必要が・・・?」

 

「うっさい。」

 

「ええ・・・?」

 

「な、なあ・・・お前誰?」

 

「それは、また後で・・・」

 

 そんな話をしている間にシャドウが姿を現した。見上げる程の巨体を有するシャドウの肉体が迫り来る。

 

「・・・あれを倒せって事?」

 

「ええ、単純な話ですよ。」

 

「単純だけどさ・・・簡単じゃないよね。」

 

 シャドウの先制攻撃で戦いの幕は上がった。シャドウの攻撃は大きく2種類に分類される。「物理」と「魔法」である。このシャドウは物理に特化しており厄介な技は持ち合わせていないが、なんならその肉体こそが厄介の塊である。薫の剣と冷気、クリフォトの杖と炎を弾き返し逆に追い詰めていく。

 

「あいつら・・・マジかよ、あんなデカいの相手に・・・」

 

 その戦いを離れて見ている事しかできない少年の心中は穏やかではない。いつ自分に飛び火するかわからないのに逃げる事さえ出来ない現状を恐れると同時に、彼の思考は僅かに余計な事を考えた。

 

(もし俺に、あいつらと同じ事ができたら・・・)

 

 その余計な思考が、少年の運命を変えた。鋭く刺すような旋風がシャドウの肉体を貫いた。

 

「え・・・?」

 

「貴方、まさか・・・」

 

 振り返る薫とクリフォト、振り返った先にいるのは少年1人。

 

『運命は開かれた・・・』

 

 少年の頭に響く声、バベルスに風が吹く。

 

『契約の盃をここに・・・我は力を与え、汝は名と未来を賭ける・・・契約を交わすならば、汝の名を・・・』

 

「俺は・・・天地、亮だ。」

 

『ならば契約を・・・契約。我は汝、汝は我・・・吹き抜ける風の如く、その手で新たな未来を導くがいい!!』

 

 少年・・・亮は頭痛に苦しみ苦悶の声を上げる。その声が消えた時、少年の瞳は金色に輝いていた。

 

「来いよ・・・『ラツィエル』!!




 漸く私のお気に入り、天地くん投入。


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ラツィエル

 バベルスを吹き抜ける風、陽も射さず雨も降らない裏世界にあるはずがない風。その風を発するのはペルソナの力、天地 亮が目覚めたペルソナ能力「ラツィエル」がバベルスに旋風を吹かしていた。

 

「不思議なモンだな・・・今初めてやったはずなのに、ずっと前から慣れてる物みたいに感じるぜ。」

 

 吹き上がる風が亮の髪をかき上げる。

 

「ラツィエル・・・この力、使わせてもらうぜ。」

 

 亮は己の拳に風を纏わせ、その拳をシャドウに向けて降った。その瞬間シャドウの巨体を暴風が穿ち、文字通り風穴をこじ開けた。

 

「なんという・・・このタイミングでペルソナ能力に目覚めるとは・・・」

 

「すごい・・・」

 

 1人と1体が戦う術を失いかけていた相手を一撃で貫き、容易く消滅させてみせた亮。金色に輝くその両眼が元の色に戻った時、彼は薫達に声をかけた。

 

「・・・で?何がどうなってんだよ?」

 

「ですよね・・・」

 

 とりあえず彼に色々説明するべく、一同は表世界に戻った・・・

 

《月羽宅》

 

「なーるほど・・・裏世界にバベルスにシャドウにペルソナね・・・」

 

 クリフォトの長く難解な説明をひとしきり聞いた後、亮はとりあえず若干だが理解した。彼の理解力が高くて助かった、これが低かったらもう・・・

 

「そうですそういう事です。と、いうわけで・・・天地様も我々と一緒に戦っていただけませんか?」

 

「・・・拒否権は?」

 

「あるような・・・無いような・・・?」

 

「いや、今のはちょっとイタズラしただけだ。やるよ、やるから。」

 

 思っていたよりもあっさり首を縦に振る。普通の人間ならば戦いの場に身を置く事など躊躇して当たり前なのだが、彼は何故かその決断を簡単に下してしまえた。流石にちょっと怖い。

 

「俺とお前らにしか出来ないんだろ?じゃあやるしかねえよ。」

 

「おぉ・・・正直そんな簡単に協力していただけると思っていなかったんですが・・・ホラ、いつまで隅っこでじっとしてるんですか薫。」

 

 クリフォトに引き摺られる型で亮と対面した薫。今この対面は薫が心の内で待ち望んでいた瞬間のはずだが、いざその時が来ると何をどうすればいいかやっぱり分からない。いや来る前もわかってなかったけど。

 

「えっと、その・・・あの・・・」

 

「・・・なあ、お前ってこの前話した事あるよな?」

 

「え?いや・・・うん・・・」

 

「・・・マジで?」

 

 裏世界云々の説明を受け入れた彼にもこれは衝撃だったようだ。目の前にいる内気で無口な少女は自分がいるクラスに現れた転校生で、今もこの前も同じ様な雰囲気でロクに喋らなかった。だが裏世界においてはクリフォトを実力行使で黙らせるようなヤバい奴・・・いくらなんでもキャラが違いすぎる。

 

「・・・お前って、ホントはあんな感じなの?」

 

「いや・・・あれは、違くて・・・」

 

「あ、違うんだ。」

 

「あの・・・わたくしを蚊帳の外にするのはやめていただけます?」

 

「うるさいちょっと静かにしろ。」

 

「・・・ハイ。」

 

 哀れ、クリフォトはさっき薫がいた部屋の隅っこで蹲るのであった。

 

「正直俺は裏世界やペルソナがどうとかよりも、お前のキャラ変が気になって仕方ないんだけど。」

 

「え、え・・・えっと・・・」

 

「・・・まあお前がよくわかってないなら別にいいや。それより「線」やってる?」

 

「・・・線?」

 

「そ、俺も一緒に戦うんだから連絡しやすい方がいいだろ?メールよりも普通に楽だしな。」

 

 因みに「線」とはいま日本中で使われている大人気のコミュニケーションツールである。電話やメールよりも使いやすいと評判で、使っていない奴を探す方が難しいぐらいである。断じてL○NEではない。

 

「ちょっとケータイ貸してみ?」

 

「ん。」

 

「ここをこうして・・・ホラできた。」

 

 薫のケータイに追加された「線」のアプリ。その中に搭載された「友達通信」なる機能に亮の名前が登録されている。今のところただ登録されているだけなのだが「友達」というワードが薫の心に刺さる。

 

「友達・・・」

 

「そ、俺たちもう友達みたいなものだろ?」

 

「・・・うん。」

 

 若干素っ気ない態度だが内心では滅茶苦茶喜んでいる。欲しい欲しいと前から思っていた「友達」が遂にできたのだ。なんならちょっとだけ表情にも出てる。見た目の変化が微妙すぎるけど。

 

「じゃあ、これからもよろしくな、えーっと・・・月羽、でいいか?」

 

「・・・うん。」

 

 薫にとって初めての友達、この出会いが何をもたらすのか・・・今はまだ、誰も知らない。




 都合の良いところで切ってしまった。本当に私の構成力はカスですね。


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風の斧

 頑張って薫の一枚絵描いたからこの回に載せようとしたけどダメでした。


《5月2日(水) 晴れ 2-A教室》

 

 今日も教室内は賑やかなものである。この喧騒が嫌いな人間もいるにはいるが、大半の人間は好きな部類である。だが窓際の席でボーっとしてる薫は大嫌いな部類の人間である。元々人と話すのが苦手な上に友達すらいない彼女にとってこの騒ぎは喧しいだけであり、耳障りにさえ思えるものだった。過去形なのは「彼」が原因である。

 

「あっ・・・」

 

「よっ、月羽。」

 

「お、おはよ・・・天地、くん・・・」

 

 薫にとって初めての友達、天地 亮がやって来た。「線」を登録して以来ちょっとだけコミュニケーションをとったり、こうして直接会って話せる日々が待っているのは分かっていたが現実になると余所余所しい態度しかとれない。

 

(むぅ・・・)

 

 そしてそんな自分に自己嫌悪。だがそんな気配を察知して彼はやって来る。

 

「なあ・・・『くん』は無くていいって言ったろ?いや別に付けたいならそれで良いんだけどさ。」

 

「だ、だって・・・その・・・えっと・・・」

 

 友達の1人でも出来れば薫のコミュ障も改善されると思いきや、そんな簡単に治るはずもなくむしろ悪化したような気さえある。

 

「うぅ・・・」

 

「あー、わかったわかった。好きなようにしろよ。」

 

「ご、ごめん・・・」

 

「謝るような事じゃねえっての。」

 

 こんなに根気強く会話を続けようとしてくれる亮は聖人君子の類ではなかろうか。並大抵の人間ならこの時点で嫌気が刺してしまうのだが、彼の場合は規格外すぎる優しさでそれを乗り越えている。なんという優しさの化身。

 

「で?今日も行くのか?あのバベルスとかいう場所。」

 

「う、うん・・・」

 

「よっしゃ、じゃあ学校終わったらそのままお前ん家行くわ。俺ん家帰ってから行くのダルいし。」

 

「!?」

 

 昨日は考えもしなかったが、華のJKたる薫の家に男が行くなど冷静に考えれば「そういう仲」にしか見えない。彼女はこの辺に関して特に詳しくないのだが、それでもこの行為がアウトスレスレな事はわかる。精神年齢的に純情気味な彼女には刺激が強いのだ。

 

「え、えっと・・・その・・・」

 

 だが悲しきかな、彼女の口からその言葉が出て来る事は無かった。亮は授業が始まる直前まで薫の話を聞いていてくれたのだが、それでもコミュ障全開な彼女はまともに言葉すら出せなかった。

 

 

 

《月羽宅》

 

「・・・そう言えばお前って1人で暮らしてるんだよな。」

 

「わたくしも居ま「うん・・・」薫、せめてわたくしが話し終わってから口を開いて貰えますか?」

 

 改めて考えてみれば不自然極まりないものだ。16歳の少女が1人暮らしなどあまり一般的な状況ではないし、その家に人間っぽい謎の生き物が居候(?)しているのはどう考えてもおかしい。亮はその辺りについて一回詳しく聞いてみたいのだが、薫が何やら悲しげな雰囲気を醸し出すために自重してきた。

 

(聞きたい事は山程あるけどよ・・・今アレコレ聞いても答え返せそうにないしな。あれじゃ。)

 

「・・・コホン、それでは御二方にお話が御座いますので。行きましょうか、バベルスに。」

 

「あいよ。」

 

「・・・。」コクンッ!

 

 一同はポータルを潜り、裏世界へと向かった。

 

「・・・ホント趣味悪い。」

 

 薫が唐突に口を開いた。

 

「・・・ん?」

 

「空は赤いし、バベルスは真っ黒だし、シャドウは山程いるし・・・」

 

「・・・お前、こっちだと普通に喋れるのな。」

 

 相変わらず薫は裏世界だと普通に喋れる。表と裏でどっちが正しい人格なのかは判りかねるが、少なくとも表よりかは裏の方が相手しやすいのは確かだろう。今のところは。

 

「さて・・・先ずは天地様に武器の方をご用意致しました。こちらを。」

 

 クリフォトが取り出したのは一本の斧、翠色に輝くその姿は武器というよりも芸術品のような美しさを醸し出している。

 

「名を『龍風神斧』、貴方のペルソナに適した形が反映されてこの姿になっているのです。」

 

(・・・えっ?ダサくね?)

 

(・・・・・・・・・・)ジト~

 

「なんなんですか本当に!!そんなにわたくしのネーミングセンスが気に食わないんですか!?」

 

「「うん。」」

 

 クリフォトのメンタルはブレイク寸前まで追い込まれた。薫が自分のネーミングセンスを気に入っていない事は知っていたが、加えて亮までも同意見となるとそのストレスは計り知れない。精神力が鍵となるペルソナ能力に影響を及ぼさないかが心配である。

 

「・・・ま、まあいいでしょう。それで、その斧は貴方のペルソナが有する疾風属性の力を引き出して行使する事が出来るのです。ホラ、試しに振ってみて下さい。」

 

「よっ・・・と!?」

 

 ただ軽く振り回しただけで、風の吹かない裏世界に旋風が生まれた。もし更に強く振ったならどんな威力になるのかと亮が考えていた矢先、クリフォトがツツツ〜と寄って来て耳元で囁いた。

 

「天地様〜?いくら疾風属性だからって、薫のスカート捲ったりしたらダメですよ〜?」

 

「五月蝿い、黙れ。」

 

「はい、すいません・・・」

 

 この阿呆はまたやった。亮が考え込んでいたのを悪巧みの兆候だと思ったのだろうが、彼はそんな事をするような男ではないのだ。むしろクリフォトのがやりそう。

 

「・・・とにかく、貴方のペルソナが強い事は先の戦闘で理解できましたので。ここからはその斧で実戦あるのみですね。」

 

「わかったよ。そんじゃ行きますか・・・月羽も行きたそうにしてるし。」

 

「別に行きたいわけじゃないから、ただ暇なだけだし。」

 

 どう見ても背中からウズウズ感が溢れ出てた気もするが、あんまり深く追求するといつものクリフォトみたいに蹴り飛ばされそうなものだから黙っておこう。

 

「薫って本当にツンデレですよねー・・・」

 

「うるさい。」

 

「えびゃッ!?」

 

「なーんでこうなるって分からないんだよ・・・」

 

 強烈なハイキックを受けて沈黙したクリフォトに呆れながら、一行はバベルスに向かうのだった。



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風と雪と闇と光

 裏世界は風も吹かず、陽の光も刺さず、僅かな命が芽吹く事も無い。まさしく「異界」なのである。だがそんな暗く無機質な世界にも、一陣の風が吹き抜ける事がある。それはペルソナの風、疾風属性を司る天地亮のペルソナ「ラツィエルの力。

 

「斧に風を纏わせんのと、右手から直接風吹かすのと・・・武器経由しただけで随分違うんだな。」

 

「ペルソナウェポンはペルソナ能力の属性を増幅する事に特化していますし、特に疾風属性は武器があった方がやりやすいと思いますよ?」

 

「私も剣使った方が出しやすいよ、手から氷出してると冷たいし。」

 

「まあ、お2人の属性は広範囲に拡散する性質がありますからね。一点に集中させるも最大まで拡散するも武器を媒体にした方がパワーコントロールもしやすいですし。」

 

 漸くまともな話をしだしたクリフォト、それでも若干白い目で見られてる気がするのは気の所為だろうか。薫も亮もイマイチ彼女の事を信用できていない様子だが「正体不明の人間っぽい何か」としか言いようが無い上に、居候の身で幾らか偉そうなのが余計にイラッとさせる。

 

「なんだか視線が痛いような気がしますが・・・まぁそれよりも、シャドウのお出ましですよ。」

 

 シャドウは3体、天井から垂れ下がるように一行を睨みつけている。対して薫達も2人と1体、即ちタイマンである。

 

「来ましたよっ!!」

 

 滴り落ちる3体のシャドウ、それが地に降り立つ前から戦闘は始まっている。敵が臨戦態勢になってから戦う馬鹿はいない。

 

「うわなんだコイツスライムかよ!!全身ドロドロじゃねーか!」

 

「ドロドロ過ぎて物理攻撃が効かない。だったら・・・」

 

 氷結戦姫の柄に結ばれた1束の糸。その先端を掴んで剣を丸ごと振り回し、剣から生じる冷気の渦を作り出す。

 

「凍れ!」

 

 冷気の渦は剣を中心に拡散し「大吹雪」となってシャドウを襲う。如何にドロドロの体を有していても凍ってしまえばお終い、そのまま全身砕いてトドメだ。

 

「月羽やるなぁ〜、俺もやったるか!」

 

 液状のシャドウ、疾風属性を使う亮の「ラツィエル」とは相性の悪い相手である。しかし、それは無策に力をぶつければの話。考え方次第でその相性は覆る。

 

「液状の体でもッ!強風で吹き飛ぶ事に違いはねえだろうよッ!!」

 

 亮の斧にも氷結戦姫と同じ糸束が付いている。つまりこちらも振り回して使う事が可能なのだ。剣から生じる風が渦を作り「竜巻」となった風を更に一点に集中させる。

 

「貫け!」

 

 ただでさえ一点に集中した風の貫通力は圧倒的、加えてその風が竜巻なら・・・如何に液状の体だろうと、貫通して吹き飛ばされればお終いである。

 

「即興で貫通力高めたけど、以外と上手くいくモンだな・・・クリフォトが言ってた『武器の使い方をインストールする』ってのは結構融通が効きそうだな。」

 

 そんな事を言っているうちにクリフォトもシャドウを倒していた。

 

「御二方、素晴らしい才覚に御座いますね。」

 

 その背後には、真っ暗な「闇」に覆われて分解されるシャドウの姿があった。

 

「ねえ、あれ何?」

 

「よくぞ聞いてくれました・・・あれは『闇属性』に分類される力、6つある属性の中でもっとも強力で・・・凶悪な力です。」

 

「俺らにも使えたりしねーの?」

 

「それはペルソナの適性次第ですね。使える属性は適性によって決まるので、御二方のペルソナが闇属性に適性があれば使えますよ。」

 

「「ふーん。」」

 

 ペルソナ能力は以外と奥深い・・・そんな事を思いながら一同は前に進む。道中でクリフォトから闇属性と対を成す「光属性」についての話を聞いた。彼女が言うには闇属性の力と似て非なる属性であり、異なるプロセスを踏みながら「分解されて消滅する」という結果は変わらないのだとか。

 

「なにも2属性使える方が強いって話ではないんですよ。1属性に特化した方がスペックに余裕があって高火力の技を出しやすいですからね。」

 

「クリフォト、あれ見て。シャドウいるよ。」

 

 暗くて狭い通路を抜けた先には、今までとは対照的な純白の装飾が施された大部屋があった。そして一同の目の前に現れたシャドウは1対の翼を蓄え、今にも飛び立たんと羽ばたいている。

 

「シャドウって飛べる奴いるんだな。」

 

「まあ種類によりますよっ!」

 

 飛べるシャドウもいるにはいる。だがこのシャドウは少々事情が違った。翼から抜け落ちた羽が意思を持っているかのように飛び回り、2人と1体を撹乱して暴れ回る。こう数が多くては対処も簡単じゃない。

 

「こんなに細かくちゃ俺の風を集中させても当たんねぇ!しかも拡散させたところでちょっと散らかるだけだ!何か別の手段が必要だ!」

 

「そうは言ってもですね!この羽燃やしても効果無し、闇属性は動きが速すぎて捉えられません!」

 

「ああもう、ちょこまかしてて・・・」

 

 案の定と言うべきか、この羽は薫の冷気でも凍らなかった。視界を埋め尽くさんばかり勢いで増える、燃やしても凍っても吹き飛ばして効き目が無い無数の羽。その鬱陶しさに薫の堪忍袋が限界突破した。

 

「腹立つなあっ!!」

 

 その叫びと同時に薫の手から小さな光が溢れ出し、その光は何もかも飲み込むほどに強くなった。亮もクリフォトも強すぎる光に目を開けられず、ようやく目が開けた頃にはシャドウが消滅していた。

 

「あー・・・スッキリした。」

 

「か、薫!?貴女のエヘイエーに光属性の適性が!?」

 

「スゲーな月羽!こんなタイミングよく使えるようになるのかよ!?」

 

「・・・え?いや、ちょっとイライラしたからペルソナ使おうとしただけなんだけど・・・」

 

 今のは明らかに光属性の力である。それはつまり、薫のエヘイエーが光属性の適性を持っていた事になる。だが本人は無自覚に放ったモノのようであり、エヘイエーに適性があった事さえ知らない様子だった。

 

「ペルソナ能力者は自分のペルソナに何属性の適性があるか、勘でわかる場合もあるみたいですが・・・これだけ強い適性があるのに、無自覚なままなんて・・・」

 

「月羽・・・お前、もしかして天才?」

 

「うーん・・・よくわかんないけど、多分エヘイエーって凄いペルソナなんでしょ?」




 随分久しぶりに投稿したなぁ


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