そうだ、先生になろう。 (鳩胸な鴨)
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設定集

要望があったので、まとめさせていただきました。
ネタバレになるので、そういうのがダメな人は本編を読んでから読むことをお勧めします。
足りない部分もあるかもしれません。お手数をおかけしますが、ご指摘願えると幸いです。

補足…一等星のメンバーには、名前の前に☆をつけています。
年齢は誕生日の把握が甘いため、来年度(本編時空)の3月31日時の年齢を書いています。


☆名前:水奈瀬コウ ♂

年齢…32

職業…教師

 

備考…本作の主人公。とにかく性格が悪い。

転生者であり、ヒキニートだった前世の反省から、死に物狂いで勉強し、人脈を広げた。

そのため、性格の悪さに反して意外と人脈が広い。

割と多才。株投資(実態は企業全体に教育を施して株価を爆上げして株を売り捌いてる)をしており、死ぬほど贅沢できるだけの生活費を稼いでいる。

道徳の授業で生徒達に絶大な影響を与え、未来の有力者を多数育ててしまってどうしようと悩むことになる予定の人。

既婚者。

 

 

☆名前:東北きりたん ♀

年齢…11

職業…小学生

 

備考…先生の生徒。転生者。前世はいろんな重圧に苦しんだ女子高生。

そのためか今世では自由に振る舞っている。というより振る舞いすぎてクソガキと化してる。クソガキ筆頭。

年上を何度か説教するが、そのどれもが最初にビンタするというもの。

寝相がめちゃくちゃ悪い。

 

 

☆名前:京町セイカ ♀

年齢…23

職業…時空監視員→スーパーのパート

 

備考…ポンコツな未来人。とにかくポンコツ。最近は出番が少ないが、割と何かをやらかしている。

重要そうな情報ほど後になって吐く。

紆余曲折あって、先生の家に居候してる。

 

 

☆名前:紲星あかり ♀

年齢…戸籍上は13

職業…生物兵器→中学生

 

備考…『人工個性』を用いた新生物。

未来から逃げ、紆余曲折あって緑谷家にお世話になっている。

緑谷出久にべったりな甘えん坊であり、大飯食らい。

 

 

☆名前:鳴花ヒメ ♀

年齢…戸籍上は11

職業…梅の精霊→小学生

 

備考…『人工個性』の原型である『万年開花』という梅の木の頭脳部。

頭脳部とは言うが、ただ単に意識を切り離した、個別の生命体。

基本的にアホであり、テストも一桁台が当たり前と言う体たらく。

轟焦凍にべったりしてる甘えん坊。

 

 

☆名前:鳴花ミコト ♀

年齢…戸籍上は11

職業…梅の精霊→小学生

 

備考…『人工個性』の原型である『万年開花』という梅の木の頭脳部。

頭脳部とはいうが、ただ単に意識を切り離した、個別の生命体。

人見知りであり、初対面の人間には必ずビビる。数少ない常識人。

轟焦凍にべったりしてる甘えん坊。

 

 

☆名前:音街ウナ ♀

年齢…11

職業…小学生 子役アイドル

 

備考…人気の子役アイドル。親の都合で折寺小学校に転校してきた。

テレビでは明るい女の子を演じてるが、本来は大人しい女の子。

富豪の娘だが、働かざるもの食うべからず精神でアイドルになった。

紆余曲折あって、爆豪勝己に猛烈アタックを仕掛けてる。かっちゃんの外堀は埋められつつある。

 

 

名前:如月ついな ♀

年齢…12

職業…小学生

個性…『鬼神』

 

備考…異能解放軍に利用されかけていた女の子。家族思い。

長年にわたる虐待生活で疲弊しきっていたが、現在は解放されて活き活きしてる。

現在は片鱗も見せてないが、本来は勝ち気な大阪のおばちゃんタイプの女の子。

 

 

名前:伊織弓鶴 ♂

年齢…25

職業…旅館の経営者

 

備考…子供思いのリアリスト。麗日お茶子の親戚であり、兄のような存在。

大阪で旅館を切り盛りしており、経営者としてはかなり優秀。

 

 

名前:東北イタコ ♀

年齢…19

職業…イタコ(ガチ)

 

備考…実家の都合で折寺に引っ越してきた東北家の長女。割とポンコツ。

かっちゃんドストライクのドスケベボディ。

 

 

名前:東北純子 ♀

年齢…17

職業…高校生(雄英普通科)

 

備考…みんなお馴染みずん子さん。ずんだが絡むとアホになる。

弓道関連の才能か、手先が死ぬほど器用。

 

 

☆名前:琴葉葵 ♀

年齢…32

職業…生物工学者

 

備考…苦労人。部下が蒸発し、姉が世界に喧嘩を売りまくる脱獄囚というストレスでカリカリしまくってる。

姉をこんなにした元凶である先生を「バカコウ」と罵っている。

アメリカにて働いてるが、その苦労気質から彼女を知るすべての人々に同情の視線を向けられている。

 

 

☆名前:琴葉茜 ♀

年齢…32

職業…電子工学者 脱獄囚

 

備考…暇つぶしでタルタロスの脱獄を図り、幾度となく成功させてきた前科200犯。

電子工学者としても優秀で、イズクメタルの原型とジェネレーターの論文を書いていた。しかし、技術不足により断念。

出久の師匠のようなポジション。

現在はアメリカでメリッサ・シールドと自由な研究ライフを送っている。

 

 

名前:鈴木つづみ ♀

年齢…26

職業…傭兵→主婦

 

備考…先生の妻。十年で十を超える敵性国家を滅ぼした張本人。

戦闘から暗殺まで、なんでもござれな殺害特化型の人間。

その気になれば飛んでる航空機を、切った爪を投げるだけで墜落させることができる。

峰田…未登場…以上の性欲の権化。

三日以上お預けされると暴走する。

先生の先生にも、先生本人にもメロメロ。

 

 

☆名前:緑谷出久 ♂

年齢…13

職業…中学生 ヴィジランテ

ヴィジランテネーム…『SAVER』

 

備考…本作の主人公。

先生の言葉により、オールマイトから力を受け取るルートを外れに外れまくった。

頑張ろうと決めたら、脳がブッ壊れるんじゃないかってくらい頑張れる超人。

アホほど知識を詰め込んだだけあって、普通に永久機関とかを作っちゃった。

その出鱈目な科学技術で作ったスーツで、ヴィジランテをやっている。

ヴィジランテとしての名前は『SAVER』。

あかりへの返答は決まってるが、もう少し歳を食ってから言おうと決めている。

 

 

☆名前:爆豪勝己 ♂

年齢…13

職業…中学生 ヴィジランテ

個性『爆破』

 

備考…轟焦凍と東北きりたんのお叱りによって矯正されたクソ煮込み。

勝つことにも重きを置くが、なんのために戦うのかも心に刻んでいる綺麗な爆豪。

ただし口は悪い。

一等星の中でもいじられ役であり、事あるごとに黒歴史やらなんやらを晒される。

未来のトップヒーローを目指して、死にものぐるいで修行中の身。

 

 

☆名前:轟焦凍 ♂

年齢…13

職業…中学生 ヴィジランテ

個性『半冷半熱』

 

備考…優しいヒーローを目指す中学生。

プロヒーローのNo.2である父親のことをまっっっっ…たく尊敬しておらず、めちゃくちゃ嫌っている。

地味な嫌がらせを毎日欠かさず続けるくらいには大嫌いである。

先生と出会ってから、潜在的な性格の悪さが目覚め、中学生組の中ではトップクラスに性格が悪い。

卑怯な手段も平気で使うくらいには。

 

 

☆名前:麗日お茶子 ♀

年齢…13

職業…中学生 ヴィジランテ

個性『無重力』

 

備考…ヒーローを目指す女の子。天然。

現実に打ちのめされていたが、なんとか立ち上がって頑張っている。

どこか能天気な部分もあるが、目敏い部分もある発展途上な娘。

出久のことはあかりと付き合っていると思っており、早々に恋愛対象から外してる。

 

 

☆名前:メリッサ・シールド ♀

年齢…15

職業…中学生 電子工学者

 

備考…琴葉茜の助手であり、恋人。琴葉茜の影響でレズ趣味。

そのお膝元はあらゆる存在をバブらせ、そのおっぱいはあらゆる存在をおぎゃらせる。

ようするに、ママ属性を持ってる。

 

 

名前:八木 俊典 ♂

年齢…不祥

職業…プロヒーロー

ヒーローネーム…オールマイト

個性『ワン・フォー・オール』

 

備考…本作の振り回され役。与えられる情報が少なすぎて、間違った答えしか導き出せない苦労人。

怪我が完治してるおかげで、更に体を鍛え始めた。彼のお眼鏡に叶う後継は現れるのだろうか…。

原作で惚れ込んだ緑谷くんは、確実に「結構です」と新聞勧誘を断るノリで拒否するくらい、オールマイト離れしてるぞ!

がんばれオールマイト!

 

 

名前:??? ???

年齢…不祥

職業…ヴィラン

敵ネーム…『フィクサー』

 

備考…チート。チートを持っても勝てないくらいのドチート。

あらゆる技術を身につけており、ある目的のために奔放に暗躍してる。

座右の銘は「誰に対しても悪であれ」。

 

 

名前:??? ???

年齢…不祥

職業…生物工学者 ヴィラン

敵ネーム…『ブラックボックス』

 

備考…フィクサーに振り回されてる人。

同一人物に近い存在らしい。人工個性の製作者でもある。

 

 

名前:ルーカス・ベル ♂

年齢…秘密だ!HAHAHAHA!

職業…アメリカ大統領

個性『毛根ステータス』

 

備考…自身の毛根の死滅具合がわかる個性という、なんとも微妙な個性で大統領にまで上り詰めた人。ツルッパゲ。

オールマイトほどではないが、犯罪率を5%も落とせるくらいには優秀。

本格的な登場はまだだが、本作屈指の自由人である琴葉茜が言うことを聞くくらいにはカリスマ性に溢れている。

 

 

名前:ローガン・サリバン ♂

年齢…45

職業…アメリカ国防長官

 

備考…無個性でここまで上り詰めたやり手。

国連が設けた、各国トップ3のヒーローの集会でも、全く怖気付く事なく淡々と業務をこなしていた。

 

 

名前…マイケル・クラーク ♂

享年…31

職業…生物工学者

個性『顕微鏡』

 

備考…葵ちゃんの元部下。フィクサーに散々振り回されて殺された人。殺したフィクサーですらも殺した理由をほぼ覚えてないほどの小物。登場予定はもうない。

 

 

 

 

登場ワード

 

『正義の秘密結社「一等星」』

 

備考…緑谷出久が立ち上げた秘密結社。

完全に趣味で人助けをする集団であり、報酬などは無論なし。

法を完全に無視していることを、全員がしっかりと自覚している。

先生が消費に困ったお金を消費するための集まりでもある。

本部は先生の自宅から、緑谷出久が作った浮遊大陸へと移動した。

 

 

『イズクナンバーズ』

 

備考…緑谷出久が作った機械の名称。現在はNo.20まで存在している。

緑谷出久のヒーロースーツも、これにカウントされている。

現在もまだまだ作り続けて、何処かで爆発が起きている。

 

 

『人工個性』

 

備考…ブラックボックスが作った、文字通りの存在。未来での名称は「セルフギフト」。

個性因子の作りを熟知していれば、思い通りの個性を作ることができる。

副作用として、細胞を食い潰され、結合が無くなることによって、液状化して死ぬ。

 

 

『万年開花』

 

備考…人工個性の原型である梅の木。それしか判明していない。

割と重要な謎を握っている。

 

 

『異能解放軍』

 

備考…原作でも出てきた敵集団。投獄されたので二度と出番はない。

先生曰く「個性を自由に使えるようにしろ、とアホみたいな主張するアホな集団」。

 

 

『敵性国家』

 

備考…読みは『ヴィランせいこっか』。通常の意味とは違い、世界に仇為す思想を持った国の総称。現時点では40近い国家がこれにカウントされている。各国が対処してるものの、殲滅したのは十前後が手一杯だった。尚、殲滅を成功させているのは鈴木つづみのみ。

 

 

『ノーギフト』

 

備考…個性を超越した無個性。

判明(異能解放軍調べ)してるだけで、琴葉茜、鈴木つづみ、フィクサーがこれに当てはまっている。

今作の緑谷出久も該当している。先生は人脈が武器なので対象外。




イズクナンバーズについては、気が向いたらまとめます。


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水奈瀬コウは先生。異論は認めん。
思いつきで先生やってます


水奈瀬コウ少ないなー…。
そうだ!自分で作ろう!

となってこうなりました。
続きません。


早速言おう。

僕…『水奈瀬コウ』は、所謂、『転生系主人公』というヤツらしい。

生まれ変わる前の僕は、自慢にもならないのだが、高学歴自宅警備員とフリーターの間をブラブラしてるような人間だった。

 

 

 

 

 

ただ一つ。ボイスロイドというソフトを使った動画が一時期バズった程度の、探せばそこらに居そうな凡人。

 

 

 

 

 

 

 

そんな僕が死んだ理由は、トラックに轢かれそうな子供やら猫を助けようとしたって訳じゃない。

ほんの偶然。

僕がバズった動画をエゴサして、これまた気持ち悪い顔でニヤニヤしていた所に、風で煽られた植木鉢が激突しただけだ。

であるからして、僕はこれといって徳は積んでいなかったと言える。

 

記憶が戻った…というより、何故か蘇ってしまったのは、幾年も前だ。

当時、僕は3歳児だった。

舌足らずな声を出すのがやっとな口で、両親へと駆けていた時だ。

たまたま転んで軽く頭をぶつけ、前世を思い出した。

 

我ながら、恥だらけの人生を思い出して、酷く辟易したのは、言うまでもない。

友人から引くほどに聞かされた、判を押したように決まった『チート転生主人公』なのでは、と思ったこともある。

 

 

 

 

だが、そんな期待は見事に打ち砕かれた。

 

 

 

 

僕が新たに生きることとなったのは、『個性』という特殊能力が人々に芽生え、『ヒーロー』と『敵』が戦う世界だった。

僕自身は、自他共に認める活字バカだったため、漫画のことはあまり明るくない。

確か、友人がよく語っていた『僕のヒーローアカデミア』という漫画の世界と酷似している。

 

話がそれた。

まぁ、僕も一般的な子供たちに漏れず、『個性』とやらが目覚めるのを楽しみにしていた。

 

 

 

 

結果は、お察しだ。

『無個性』と呼ばれる、障害児としての人生がスタートした。

 

 

 

 

 

そこからは苦労の連続だった。

前世であれほど「人種差別、良くないよ!」と語ってきた我が国の教育は、個性が世に出た瞬間に消え失せたらしい。

 

 

 

 

 

 

今や「強い個性?偉いね!弱い個性?がんばれ!無個性?どっかいけ!」の三拍子。

 

 

 

 

 

 

虐げられましたよ、ええ。

でも、この歳で大人として物事を考えられるというのは、大きなアドバンテージのようで。

不思議と僕は、挫けることなく、極めて真面目な生徒として小、中学校生活を送った。

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

中学三年生の頃。

僕はふと、鏡の前に立ってみた。

前々から薄々思ってはいたが、こうやって鏡の前に立つことで、それは確信に変わる。

 

 

 

 

どうやら僕は、『水奈瀬コウ』として転生を果たしたようなのだ。

 

 

 

 

名前もそのまんま。

声だって、ボイスロイドの水奈瀬コウから機械音らしいノイズを抜いたものだ。

僕は歓喜した。そりゃもう、気持ち悪いくらいに喜んだ。

実は僕、愛用しているボイスロイドは、この水奈瀬コウだった。

琴葉姉妹も、東北姉妹も、結月ゆかりや弦巻マキも確かに好きだ。

でも、その中でも群を抜いて、水奈瀬コウというキャラクターに惹かれていた。

 

 

そんな喜びも束の間。

地獄の進路相談がやってきました。

以前は無茶な目標ばかり立てて、それをクリアしていって。

最後の最後で大きく躓いて、自宅警備員とフリーターの間を彷徨う毎日。

またそれを繰り返す気にもなれず、僕は無難な高校を受験しようとした。

 

 

 

…あれ?待てよ。

 

 

ふと。僕の脳裏に、ある設定が甦る。

 

 

 

 

 

ーーーー水奈瀬コウって、教師じゃん。

 

 

 

 

 

 

そう。

水奈瀬コウを水奈瀬コウたらしめる要素の一つとして、『教師』があった。

この世界に、ボイスロイドは存在しない。

であれば、僕が『水奈瀬コウ』としての人生を歩んでもいいはずだ。

 

 

寧ろ、歩んでみたい。

 

 

ボイスロイドを使った動画だって、僕が『こういう人生を送れたら』という願望が形になったものなのだから。

 

 

だから、僕はこう言った。

 

「先生になりたいです」

 

 

目の前に座る教師は、さほど興味もなさそうにプリントに文字を走らせる。

記入要項に「理由」の欄があったのか、彼は面倒そうに「理由は?」と聞いてきた。

 

「僕が僕らしく在ることができるから、ですかね」

 

身の桁に合わない、キザな台詞で答える。

先生は「面倒くさっ」と言いたげな表情を隠そうともしなかった。

最後に、志望校は何処だと聞かれた。

だから、僕は無難にこう言った。

 

「近場で、それなりに偏差値ある所で」

 

 

 

まぁ、特に特筆することもなく、行事中だろうがなんだろうが、死に物狂いで勉学に励んだ高校、大学を経て。

僕はめでたく教師になった。

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

「緑谷くん。君はどんな大人になりたいですか?」

 

 

僕が初めて受け持った生徒の一人。

緑谷出久という、僕と同じ無個性の少年に問いかける。

 

 

「僕は…ヒーローになりたいです」

 

 

彼は少し吃りながら、それでも断固として意思を曲げぬよう、真っ直ぐな瞳で言った。

 

 

「でしたら、これからのプランを、先生と考えていきましょう」

 

一見、無茶で無謀な夢。

それでも、僕が水奈瀬コウで在りたいと思うように。

緑谷くんにも、彼が「緑谷出久で在りたい」という要素として、「ヒーローになる」というのが根付いているのだろう。

 

 

教師としては、「叶わない夢は見るな」と言わなければならないのだろう。

でも、僕の思う水奈瀬コウならばきっと、こういうのだろう。

 

 

「嫌でしたか?」

 

 

「えっ、あの…。諦めろ、とかは…?」

 

 

「言いませんよ。君が君で在る理由が、ヒーローになることなのでしょう?であれば、僕は応援するだけです。

 

今のように、諦めきれないからではなく。

夢を掴むために、死に物狂いで足掻きましょう。死に物狂いで進みましょう。

 

 

足掻くことない人間に、道が拓けることなどありません。

それは、歴史が証明してます」

 

 

 

「っ…、ぅ、ぅぁっ…」

 

 

「先生が『学歴』という武器を使ったように。

 

無個性というハンデを帳消しにするほどの武器を、その身さえも犠牲にして研ぎましょう。

 

結果を出すために、ただ前だけを見て、がむしゃらに。

 

 

君もまた、何か武器を見つけて磨きなさい」

 

 

 

 

ーーーーーーその武器で、その体で戦いましょう。君の夢を叶うことを是としない、この世界と。

 

 

 

 

 

 

僕が思い描いた水奈瀬コウのような、理想の教師になれているかはわからない。

でも、僕は。この個性社会で、教師として在り続けようと思う。




後に、緑谷くんは引くほど強くなったので、水奈瀬コウ先生から一言。

「…いや、武器を研げとは言ったけど。



言ったけども、まさかパワードスーツ作るとは思わなかった」




パワードスーツってすごいね。byみなせこう


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僕は性格が悪いらしい。自覚はある。

続いた。

水奈瀬コウ先生流行れ。結月ゆかりとか、琴葉姉妹もいいけれど、水奈瀬コウ先生も同じくらい流行っておくれ。


突然だが、言わせてほしい。

 

 

僕、緑谷出久は無個性だ。

 

 

全世界の内の二割。

全世界共通のいじめられっ子であり、夢を見ることでさえも奪われた、凡人以下の存在。

そのことを自覚したのは、齢4歳。

誰しもが平等ではないことを、僕は痛感した。

 

 

仲のいい友達がいた。

個性が無いだけで離れていった。

 

 

頼れる兄貴分がいた。

個性が無いだけで敵になった。

 

日々、叶わない夢を見続けることに押しつぶされそうになりながら、僕はひたすらに夢を追いかけていた。

 

 

 

小学校の一年目が終わり、二年目に向けた準備をしていたある日だった。

僕の住むマンションの隣に、新しい住人が越してきたのは。

 

 

 

「初めまして、隣に越してきた水奈瀬と申します。

今年から、折寺小学校の教師としてやってきました」

 

 

すらりとした、細くて長い体躯。

細い目つきを少しでも大きく見せるためのメガネ。

ニッコリと笑う口の隙間から見える、少しばかり鋭い歯。

そこから漏れ出す、美しい声色。

お母さんが引っ越しそばを受け取る後ろで、僕はその人のことを見つめていた。

 

「おや、初めまして。

この子は、小学生ですか?」

「ええ。折寺小の、二年生です」

「であれば、僕が担任として、彼の前に立つかも知れませんね」

 

その人は言うと、僕の前と目線を合わせた。

 

 

「初めまして、水奈瀬コウです。

君の通う小学校の先生をします」

 

 

「…み、緑谷、出久…です」

 

 

 

「緑谷くんですか。よろしく」

 

 

 

これが、僕が人生で最も尊敬する教師との出会いだった。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

道徳の授業は、あんまり好きじゃない。

 

 

小学校二年生ながらにして、僕は早速苦手教科という壁にブチ当たった。

特に成績には関係なさそうな、それこそ、授業のほとんどをすっぽかす生徒も出てくるつまらない教科。

それが、世間一般で言う道徳の授業。

でも、僕にとっては、「僕は差別される側なのだ」と酷く自覚させられる教科。

 

今日は、二年生初めての道徳の授業。

担任の先生は、水奈瀬先生。

先生は教壇に立つと、開口一番にこう言った。

 

 

 

「初めての道徳の授業ですが、僕は何もしません。

教室からも出ますので、自由に過ごしてください」

 

 

目が点になった。

他の授業は普通にこなしていたからこそ、僕を含めた全員の口が開いた。

生徒たちが引き止めるのを待たず、先生は本当に教室から出ていってしまった。

 

 

「自由にしろってことは、何してもいいんだよな!」

「ちょ、ちょっと…」

 

 

皆が困惑する中、一人が掃除用具入れに登って遊び始める。

 

「いぇーい!」

「や、やめなって…」

「むこせー菌がうつるぞー!にげろー!」

「いや、だから…!」

 

僕が止めようとするも、また一人、また一人と遊び始め、教室は混沌と化した。

 

「むこせー菌はあっちいけー!」

「いっ…!?」

 

 

そんな中、始まった遊び。

個性を使って、僕に攻撃を当てるゲーム。

無個性という、反撃される要素が皆無な的への、容赦ない攻撃。

 

 

 

結局、反抗する力もない僕は、こっ酷くボコボコにされた。

 

 

 

トドメに「チクったらころすぞ!」と言われ、授業の終わりが訪れる。

それと共に、今の今まで教室から出ていた先生が戻ってきた。

 

 

「…やはり、予想通りと言うべきですかね」

 

 

ぞくり。

 

入ってきた先生の瞳は、殺されるんじゃないかと思うほどに、怒りで満ちていた。

だと言うのに、いつものような口調で、ただ冷静に告げる。

 

 

「これからの道徳は…この教科書を使いません」

 

 

先生は言うと、教科書を放り捨てた。

「代わりに」と付け足すと、どこから引っ張り出してきたのか、旧式のテレビを教壇に置き、そこにパソコンを繋げた。

 

 

「毎時間、この映像を見てもらいます」

 

 

そこに映ったのは、先ほどの光景。

僕に爆破が直撃する傍ら、その姿を嘲笑う皆の姿が、そこにはあった。

 

『むこせー菌はおれがたおしたぞー!』

『すっげー!』

『かっけー!』

 

皆が気まずそうに目を逸らす。

 

 

その姿を確認した先生は、ばんっ、と机を叩いた。

 

 

「目を逸らすな」

 

 

静かな声。

背筋さえも凍りそうな冷たい声に、何人かが涙ぐむ声が聞こえた。

 

 

 

「自分のことをよく見ましょう。それが、今年一年の道徳です」

 

 

その日、先生の好感度は地に落ちた。

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

うん。やりすぎた。

人の振り見て我が振りなおせってことわざがあるけど、録画でもイケるんだな。

そんなことを思いながら、僕は始末書を書いていた。

別に、生活に困窮するほどの減給を食らったわけではないけれど。

 

 

それでも、僕の道徳の授業は、モンスターペアレンツやら、モンスターティーチャーには理解不能だったらしい。

 

 

聞くに耐えない罵詈雑言を聞かされ、僕は始末書を書かされてる。

そういう甘い教育もどきが、ああいう差別を平気でする子供を量産してることに気づかないのだろうか。

個人の考えは確かに尊重されなくてはならないが、それで他人を虐げるのを是非とするのは違うだろう。

そういう理想論を正論のように振りかざしても、その子のためにはならないはずだ。

 

 

なんて反論できたら、どれだけ楽だろう。

 

 

でも、僕はあくまで雇われ。

もし下手に反論しようものなら、モンスターどもの逆鱗に触れて教員免許剥奪…なんてこともあり得る。

だからと言って、この教育を変える気は、さらさらないが。

 

 

 

理想を実現するというのは、いつだって現実との戦いだ。

 

 

そんな粋った思考にハマる自分に酔っていると、僕の住むマンションの玄関を、こんこん、と誰かがノックした。

 

「はい?」

 

がちゃり、とドアを開ける。

が。そこに人影はない。

一体なんだと思って辺りを見渡すと、「あの!」と下から声が聞こえた。

僕が目線を下に向けると、隣に住む緑谷くんが居た。

 

…うむ。私服がダサい。

イカツイおっさん…確か、オールマイトだったか…がプリントされたシャツを着てる。

街を歩くと5人に一人はイカツイおっさんシャツを着ていた。

僕の知らないうちに、世界は美的センスまで変わってしまったのだろうか。

 

「おや、緑谷くん。

ヒーローになるためのプラン、考えに来ましたか?」

 

 

「いや、そっちじゃなくて…。

その、今日の、道徳の授業について…」

 

 

 

 

へぇ。他の子ならまだしも、特に問題のないこの子が、あの授業について、ねぇ。

「入ってもいいよ」と許可を出し、彼を僕の家にあげる。

参考書やら学術誌くらいしか並んでいない、子供にとっては娯楽のカケラもない部屋に案内した。

 

 

「これっ、大学教授とプロヒーローの二足の草鞋、『Mr.インテリジェンス』が出した唯一の論文集!!

今や超プレミア価格で、値段高騰しまくりの品!!先生、これどうやって…」

 

 

興奮気味に一冊の参考書を手に取って、僕に迫る緑谷くん。

彼、ヒーローが絡むと途端にオタク全開になるな。

小学生ながらにして、オタクとして完成されてる。

なぜ分かるって?…察して欲しい。

 

 

「出身大学の教授だったので、参考程度に一冊譲り受けました。

…前々から思ってましたけど、小学二年生にしては成熟してますね、君」

「た、たくさん、本を読みましたから…」

 

 

たくさん本を読んでそうなるもんなの?

僕、たくさん本を読んでても、そこらのクソガキと同じだったよ?

 

もしかしたら、本人の素養もあるのかもしれない。

無個性という劣悪環境にブチ込まれて、真っ先に覚える世渡りスキルは「謙る」って、論文でも書かれてたからなぁ。

 

 

…書いたの僕だけど。

 

 

勘違いしないで欲しい。

ちゃんと参考文献も参考資料も、データだって、被験者の許可をとってきちんと書いた。

マッドなことはしてない。してたら、教壇に立ってない。

 

 

え?評価されたのかって?むしろ学会から総バッシング受けましたけど?

 

 

ちょっと盛り上がり過ぎた。

ここいらで閑話休題とさせていただこう。

兎にも角にも、教師として、僕はこの子の疑問に応えなくてはならない。

 

 

「では、本題に入りましょうか。あの授業になにか疑問でも?」

 

 

「…その、どうして、あんなことしたのかなって…」

 

 

 

ただの思いつきなんですが。

 

 

 

そんなこと言えば、ただでさえ低い僕の好感度が埋もれてしまう。

ここはもっともらしい理由を述べよう。

僕を基準として言えばいいのかわからないけど、うまく誤魔化すのは文系の得意分野だ。

 

 

「自分がどんな人間か。それを知ってもらうためです」

「え?」

「『自由にしていい』は、魔法の言葉。

 

子供の本質を、簡単に見極めるために使うものです。

 

その醜い本質を幼い頃から見続けてこそ、人は大きく成長できる」

 

 

うむ。我ながら苦しい言い訳が出てきた。

正月から一ヶ月経った餅並みに硬い頭持ちの教育委員会のクソジジイどもなら、これで納得してくれるんだけど。

そんな心配も杞憂に終わったようで、緑谷くんは、子供が浮かべることのできない表情を作った。

 

「先生は、優しいとか言われませんよね。

むしろ、性格が悪いって言われてそう」

 

「君、この1週間で僕に遠慮しなくなりましたね」

 

 

うっわ、教え子に性格悪いって言われた。

事実だからなんにも言えねぇ。

 

 

「そりゃあ君の夢だって、教師という立場なら『絶対に殉職するからやめろ』って言う人が殆どでしょう。

僕が君に言ったことは、第三者から見れば、『せいぜい頑張って殉職しろ』ってのと同義かもしれません」

 

 

僕が言うと、緑谷くんは「そんなことありません!」と声を張り上げた。

 

「先生は、優しくないです。

 

でも、生徒に対して、すごく真剣な人です!」

 

 

「…別に、そんなことありませんよ。

僕は理想の教師であろうとしてる、性格の悪い凡人です」

 

 

 

生徒に対して真剣という評価は、僕には過ぎたものだ。

僕は僕の思う水奈瀬コウを、全力で演じてるに過ぎない。

 

 

「さて。先生は今、始末書とかいう反省文に、それっぽく長ったらしい大嘘書いてるんで、君はプランの続きを考えなさい。

それが出来たら、先生に提出。添削して後日返却します」

 

「大嘘って…。先生がそんなことしていいんですか?」

 

「いいんですよ。嘘は人間社会を生き抜くための、最大の武器です。

誰しもに与えられたソレを振るわないほうが愚かです」

 

 

プロヒーローとかはこぞってバカみたいに「嘘はダメ」と言いますが、と付け足した。

ソレを聞いた緑谷くんの顔は、少しばかりキラキラしてた。




水奈瀬先生の評価

緑谷くん「先生のこと、尊敬してます!」

他の子「無個性のくせに!調子のんなカス!死ね!」

緑谷くんの好感度だけ稼いでいくタイプ。

水奈瀬先生は本質的に少数に入れ込んでしまって、大半にめちゃくちゃ嫌われるタイプの先生です。


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悲報。僕が知らん間にチートが育ってた

評価バーに初めて色がつきました。評価して下さった方、ありがとうございます。

今回で少しばかり時が飛びました。

出久くんが別ベクトルに頑張った結果です。

無個性で普通の人間を超えるには、このくらいしないとダメかなと思いました。反省してます。


僕が折寺小に赴任してきてから、早くも四年が経った。

 

僕が担当したクラスは、こぞって僕のことを酷く嫌っていたが、少なくとも、嫌がらせとかは無かった。

あのビデオ、効果あったんだな。

 

そんな、順風満帆…とは言い難くも、極々平穏な教師人生を送っていた僕に、少しばかり悩みができた。

 

 

 

「どうですか先生!

 

僕のヒーロースーツ第一号、『イズク1号』!

 

どんな個性にも対応できるオールマイティな装備に、すぐに現場に駆けつけることができる加速装置!

 

更には隕石をモロにくらってもビクともしない、超特殊合金『イズクメタル』使用のアーマーフレーム!!

 

極め付けに僕特製永久機関、『イズクジェネレーター』が無限にエネルギーを供給し続けます!!

 

コレで僕も最高のヒーローを目指せます!!」

 

 

 

 

 

「とりあえず没収ね、ソレ」

 

 

 

 

 

「なんでェ!?」

 

 

 

緑谷くんが、向こう見ず過ぎた。

 

 

遊び半分で渡した、僕と仲の良い同級生の科学論文。

片や柔軟性と硬度を兼ね備えた金属を人工的に生み出すという、夢物語。

片や小型でありながら、一文明を支えることのできるであろう永久機関。

 

僕にとってはちんぷんかんぷんだったそれを、この子は脳が燃え尽きるんじゃないかってほど考察して、三年。

トライアンドエラーを繰り返して、兵器として実現してしまった。

 

 

同級生に言うと、「ま?」と目を点にしていた。

証拠として、緑谷くんの作ったソレ…通称『イズクメタル』と『イズクジェネレーター』を見せた。

それを目の当たりにして、彼女は「ウチの大学、アメリカ!飛び級歓迎!小卒にして連れてきちゃって!」と興奮してた。

丁重にお断りしといたけど。

 

「…で。このパワードスーツ?どうするんです?

こんなモン世に出たら、大パニックですよ?」

 

現在、僕は彼を尋問していた。

文系の僕でも、流石にわかる。

 

 

目の前にあるこのパワードスーツは、オーバーテクノロジーの塊だ。

 

 

前世のULTRAMANという漫画…僕は小説版を読んだ程度だが…よりもサイバーファンタジーしてる。

こんなモンが世に出たらどうなるか。

怖くて想像もしたくない。

 

 

「せめてもう二、三段階グレードダウンしましょう?

誤魔化し効きますし…」

「だいぶ削ったんですよ、これでも」

 

「これで!?ウソでしょ君!?」

 

 

 

「先生の大声ってレアですね」

 

 

 

「大声にもなりますよ!!」

 

 

本当、どうしてこうなった。

 

 

 

体を鍛えても、無個性の普通の人間では、どうしても普通の人間を超えられない。

 

そのことを緑谷くんが痛感したのは、彼が鍛え始めて一年目だった。

 

「だったら、コスチュームとかサポートアイテムを充実させれば!」という結論に彼一人で行き着いた時は、生徒の成長に涙をこぼしたものだ。

 

 

 

 

 

 

そこからおかしくなり始めた。

 

 

 

 

 

 

 

いつのまにか、僕の頭のおかしい理系の知り合いと、片っ端から仲良くなり。

 

ガッツリ悪影響受けた彼は、開花して欲しくない才能を開花させ。

 

極め付けには、今回のこのパワードスーツ。

 

理系ども。お前ら僕の生徒になんちゅう悪影響もたらしとんじゃ。

 

 

「せめてグレードダウン。イズクメタルとジェネレーターは取っ替えなさい」

「いや、無理です。

 

イズクメタルは形状記憶合金でして、エネルギーさえあれば自己修復するんです。

 

イズクジェネレーターの供給速度のせいで、解体してる途中に元に戻っちゃいます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チートじゃねーかァ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

悲報。僕がチート主人公を育てる役だった。

意図してない。意図してないよ。

周りが勝手に知識植え付けてただけだよ。

なんだよ、このパワードスーツ!

アイアンマンでもここまでいかねーよ!!

 

…失敬。キャラがブレた。

兎にも角にも、彼は本気でこのパワードスーツを使ってヒーローになろうとしてるらしい。

取り敢えず、機能だけでも聞いておこう。

 

 

「で、機能は?」

「僕の脳内計算速度を遥かに超える人工知能、『MESSIAH』が搭載されてます!」

「救世主ですか。他ネーミングに割いて欲しいネーミングセンスですね」

「MESSIAHに『僕の考えた名前は嫌だ』って言われました!」

「AIが自我持つほどダサかったのか…」

 

 

この子の幼馴染みの爆豪くんと言い、この周辺はネーミングセンスのおかしい人間ばかりなのか?

まぁ、この人工知能程度ならまだ問題ない。

 

 

「他は?」

「アーマーには、至る所に『イズクサポーター』っていうナノマシンが詰まってます!

この計80億のナノマシンが集合することによって、どんな災害時でも人を助け出せます!」

「ふむ。それはいいですね」

 

 

おお。この子の本質はやっぱり変わってなかった。

そんな戦いにも…というより、戦闘に特化してるようにしか捉えることが出来ないだろう機能を、救助用に回すとは。

 

 

…ん?80億?

 

 

どう考えてもそんな量入りそうに無いんだけど。

もしかしてだけど、四次元ポケット再現しちゃったの?

 

 

「他は?」

「『エレメンタルシステム』です!

この『エレメンタルカセット』をイズクジェネレーターに装填することによって、アーマーを変化させるシステムです!」

 

「…他には?」

「個性遮断プログラム!

個性による干渉を阻止する超音波と電磁波を同時に発してます!」

 

 

 

 

「オーバーテクノロジーにも程があるだろォ!!!」

 

 

 

 

 

結局。僕はこのアーマーを没収できなかった。

 

一応、弁明しておこう。

アレ、僕が見てる間はこれっぽっちも動かなかったけど、自立してんだもん。

緑谷くんと一緒に帰ったんだもん。後ろ姿見たもん。

 

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

あれから数日。

 

 

僕、水奈瀬コウの悩みのタネは、卒業した教え子となった。

 

 

名前を緑谷出久。

普段はオドオドしてて、自己表現が下手で、卑屈そうな印象を受ける少年。

 

 

だが、そんな小動物の皮を一枚めくれば、狂人が居る。

 

 

卒業式のあの日、僕にアーマーを見せてから数日経つか経たないかくらいの日だった。

たまたま、ふとつけたテレビに、先日見たアーマーが映っていた。

 

 

『な、なんということでしょう!

謎の鎧が事件現場飛び込んだかと思いきや、一瞬で人質を助け出してしまいました!』

 

 

そんな、どっかの安っぽい小説の一幕を見せられているかのようなナレーション。

それをかき消すように、僕は飲んでた水を吹き出した。

 

ナノマシンで人々を助け出した彼…緑谷くんが、小学生時代に研鑽を積んだ中国拳法の構えを取る。

そこに現れたのは、これまた典型的な敵だった。

何やら罵詈雑言を吐き捨てる敵に対し、緑谷くんはアーマーを隠すように巻いていた外套を脱ぎ捨てた。

 

 

 

『我の拳が悪を砕く!!』

 

 

あっ、あの構え。

僕、漫画で読んだことあるなぁ。動画でも見たなぁ。

そんなことを考えながら、アーマー越しに敵の腹に拳を撃つ緑谷くんを、遠い目で見ていた。

 

『ひっさぁぁぁあああつっ!!

 

ジャスティィィィイスッ!!

ブゥゥロォォォォォォオオオオオッッッ!!!!』

 

『がばぁっ!?!?』

 

 

 

形意拳って、あんな漫画みたいな威力ないんだけどなぁ…。

 

 

 

あっ、この世界、元は漫画か。

 

 

 

 

どこか遠い思考でそんなことを考えながら、僕は外科病院での診察を予約した。




今回のまとめ

緑谷くん「めっちゃ勉強して凄いヒーロースーツ作りました!凄いでしょ先生!」

先生「うん凄いね!でも、オバテクだから世に出さないで!」

緑谷くん「これで人々を助けるぞー!!」(ガン無視)

世間『バカなヴィジランテキタコレ』

先生「胃が痛い」

イズク1号…緑谷出久のヒーロースーツ第一号。悪を挫き、人を助け、先生の胃に穴を開ける超兵器。

緑谷出久が真の意味で勝ち取った力であり、先生の悩みのタネ。

先生が何とかしてお蔵入りにしようとするも失敗した。


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東北きりたん(転生者)の疑問

お気に入り登録者が100人を突破しました。登録してくださった皆様、ありがとうございます。

タイトルでバレてますが、東北きりたん(転生者)が出ます。

先生曰く、教師人生で初めて会ったクソガキです。

読みにくいとメッセージがあったので、改行を控えた形にしました。
今まで読みにくいと感じていた読者様に、深くお詫び申し上げます。


「先生。最近噂のヴィジランテ、知ってます?」

 

 

 

何言ってんだこのクソガキ。

 

 

 

緑谷出久が卒業して早二ヶ月。

五年生の担任を任された僕は、目の前の同類に、軽くデコピンをかました。

 

 

同類…というのは、まぁ、勘の良い人ならば分かってるだろう。

 

 

僕の目の前に座る彼女は、その歳では着ることも難しそうな着物に身を包み。

どこで売ってるかも分からない包丁のアクセサリーを、角のように飾った少女。

 

 

そう。東北きりたんが、そこにいた。

 

 

 

一応、彼女について説明しておこう。

このクソガキ、あろうことか前世で僕と知り合いだった。

知り合い…と言っても、オフ会で数回顔を合わせた程度で、彼女のことをよく知っていたかと言えば、迷わずノーと答える。

 

 

踏み込んで語っておくと、彼女にも個性は無かった。

 

 

特段、それに興味も無かったらしいが。

僕の道徳の授業では、クラス中が騒ぎ、自分を虐める中で無表情だった。

前世も同じようだったらしく、もはや何も感じてないらしい。

 

 

闇深っ。

どっかの溺れ死にそうな子供が「ふっかい!!」と叫びそうだ。

 

 

おっと、話が盛大に逸れた。

彼女の人生なんて、僕の語る物語では不要なものだ。

何故か僕の家に入り浸り、菓子を貪り食うクソガキに、僕はカップに入れたアイスティーを渡す。

 

 

「いいから早く宿題しなさい。

君が提出遅れると、僕が困るんですよ」

 

「えぇー…。読書感想文とか、前世で散々やりましたよ。

金賞だって取ったし、今世はもう少しのんべんだらりと生きたいんですぅー」

 

「ただでさえ、無個性は生きにくいんです。

少しは生きやすくしようと努力した方が、幾分かマシになりますよ」

 

 

僕が言うと、そのクソガキは「ちぇーっ」と言って、原稿用紙に向き直った。

 

 

「先生って、夢も希望も見せてくれる代わりに、現実も直視させますよね」

「そう言う仕事ですよ、先生というのは」

 

 

僕が言うと、しばらく部屋に沈黙が漂う。

ちびちびとアイスティーを飲んでいた彼女が、悪戯っぽく笑った。

 

 

「…人生使った水奈瀬コウロールプレイ、楽しいですか?」

「人生使った東北きりたんロールプレイ、楽しいでしょう?」

「…まぁ」

 

 

 

ああ。やっぱり。

彼女は僕と同類だ。

 

 

 

僕が『水奈瀬コウ』であることに執着するように、彼女もまた『東北きりたん』であることに執着している。

となれば、今現在の彼女は、今が最高に楽しい時だろう。

小学五年生という、一度きりの一年。

『東北きりたん』を『東北きりたん』たらしめる要素を実現できる、唯一の1年間。

僕のように、年齢不詳のキャラクターでは味わえない高揚感。

彼女はその喜びを抑えきれず、僕にぶちまけるのだ。

 

 

「自分は今、こんなに楽しいぞ」と。

 

 

大好きなキャラクターが歩む人生を、なんの特徴も持たなかった凡人の僕たちが歩む。

楽しくないわけがない。

 

 

「とまぁ、おしゃべりはそこまでにして。

先生。最近噂のヴィジランテ、知ってるんですか?」

 

 

コイツ、意地でも宿題しない気だ。

そっちが本題のように語るな。

僕に「宿題分からないんで、見てください」って言ってきたのはなんだったんだ。

 

 

「いいから宿題しなさい。

そっちが本題のように語らない」

「気になって宿題出来ませーん」

「このクソガキ…」

「クソガキでーす」

 

 

ああ言えばこう言うの究極系だな。

 

 

 

全部知ってます、なんて言えるわけもなく。

僕は生徒に何度目かも分からない嘘をつくことにする。

 

 

「少なくとも、ニュースで見る程度しか知りませんよ。

 

ヴィジランテ、『SAVER』…一部地域で主への侮辱にあたるとして、救世主としてのスペルは使われていない。

 

世間の評価は『調子に乗ったヴィジランテ』。

個性、年齢、性別など、あらゆる情報が欠落した謎の存在。

決め台詞は『我の拳が悪を砕く』」

 

「…それだけ?」

「知ってるのはそれだけです」

 

 

あの決め台詞はどうかと思ったが、世間はノータッチだった。

アメリカだろうがアフリカだろうが、何処だろうと颯爽と空から現れ、人を助けて悪を挫くヴィジランテ。

組まれた特集には、『オールマイトに匹敵するパワー!?』と科学研究までされてた。

パワードスーツって凄い。

 

 

それでもやってることは違法行為だから、評価は最低なのだが。

 

 

「先生って、時事問題とか結構出す癖して、あんまり突っ込んだ内容教えませんよね。

あのヴィジランテについても、ご高説垂れると思ったんですけど」

 

「そういうのは大学教員とかの専門家の役目です。履いて捨てるほどいる小学校教員がやるモンじゃないですよ」

 

 

小学校教員になるのは、別に難しいことではない。

寧ろ、かなり敷居は低い方だ。

 

その代わりに、高校、中学の教員と比べ、死ぬほど忙しい。

 

そのくせして、子供たちが最も多感な時期に付き添わなければならない。

彼らの性格を作るのは、僕たちと言っても過言ではないのだ。

僕のひねくれた世間への反抗を、子供たちに教えたらどうなるだろうか。

少なくとも、マシな方向には向かわないだろう。

だから僕は、最低限を伝えるだけに留めてる。

 

 

「…先生って、本当の意味で自分の考えを押し付けませんよね。珍しいタイプです」

 

「押し付けたら、それが当たり前として育ちますから。

言われたことをやるだけの、自主性のない子供を育てるわけにはいきません」

 

 

「ありすぎるのも問題ですが」と付け足し、僕はアイスティーを飲み干した、そんな時だった。

 

 

 

「先生!新しい装備出来ました!」

 

 

 

 

最悪なタイミングで悩みのタネが来たのは。

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

私、東北きりたんは転生者だ。

 

 

前世は冴えない女子高生。

特に可愛い見た目をしていたわけでもなく、特に優れた部分があったわけでもない凡人。

学校に良くいる、いじめられっ子が私だった。

 

死んだ理由だって、パッとしない。

何もないところで転んだ挙句、荷物の重さで坂道転がってって、そこを通りかかった電車によってフライアウェイ。

私はそんな不運の重なりで死んだ。

 

 

「タコ姉様!この子今、私のおてて、握ってくれました!」

「あらあら、先越されちゃいましたわね」

 

 

 

死から目覚めると、目の前には、フィクションのキャラクターであるはずの『東北ずん子』の顔があった。

 

オタク趣味だった私が『東北きりたん』として転生したことに気付くのに、そう時間はかからなかった。

蝶よ花よと育てられ、3歳を迎えた。

そんなある日、テレビを見ている内に、新たな真実に気づいた。

 

 

ここ、ヒロアカの世界じゃん。

 

 

ずん子…いや、ずん姉様もタコ姉様も無個性だから知らなかったけど、どうやら私はヒロアカの世界に転生したっぽい。

あの画風が違うイカツイおっさんは、間違いなくオールマイトだった。

 

やった!チート無双だ!…なんて思った時期もあった。

まぁ、ずん姉様とタコ姉様が無個性の時点で薄々察してはいた。

 

 

 

ええそうですよ無個性ですよちくしょうめ。

 

 

 

 

タコ姉様は個性として霊能力を使ってるようだけど、「他の人にも出来る、なんてことない技術の一つですわ」と言われた。

どうやら、霊能力は個性とは関係ないらしい。

ならそれを鍛えればいいかな、なんて思ったけど、私のクソ雑魚メンタルでは悪霊に飲み込まれてお終いだとタコ姉様に止められた。

前世のクソ雑魚なめくじなメンタルが、ここに来て足を引っ張った。

 

 

結局、私はこの世界でも、ヒーローにも敵にもなれない凡人として暮らすことになった。

 

 

前世と変わらず、いじめられる小学校生活を送ること五年。

東北きりたんとして正しい年齢に至ったその年、私に驚くべき出会いがあった。

 

 

「今年一年、君たちの担任を務める水奈瀬コウです。よろしく」

 

 

猫背気味で、目つきが悪くて、いかにも不健康そうな『水奈瀬コウ』が、そこに居た。

 

 

「1時間目は道徳ですが、私は何もしません。

教室からも出ていくので、皆さんご自由に」

 

 

水奈瀬コウという先生は、一見普通のようで居て、普通の先生ではなかった。

国語などの授業は、すごく真面目に教えてくれる。

だけど、道徳の授業になった途端、彼はそう言って教室から出て行ってしまった。

 

 

「自由にしていいってことは…遊んでいいってことだな!」

 

 

子供特有の超理論を振りかざし、暴れ始める子供たち。

私にはあまり関係ないことだが、何にせよ、この状況は他の教室に迷惑だ。

私は追いかけっこをして遊ぶ同級生たちに、声を張り上げる。

 

 

「いや、違うでしょ。自習してなさいって意味なんじゃ…」

「むこせーは黙ってろ!」

「あでっ」

 

 

個性で飛ばされた消しゴムが、私のおでこに直撃した。

 

まぁ、そこからは割愛する。

いじめられっ子が虐められてる姿なんて、見てもつまらないだろうから。

 

何が言いたいのかと言うと、私はこれでもかとボッコボコにされた。

ご丁寧に、服の下にアザができるように。

他の子たちが嘲笑う最中、隣の子が「ちくったら分かってるな?」と凄んできた。

別に、言いつける気なんてさらさらないのだが。

 

 

その時だった。

 

 

「授業は終わりです」

 

 

がらっ。

扉が開くと共に、旧式のモニターとパソコンを抱えた先生が現れる。

先生はその二つを教壇に置くと、道徳の教科書を取り出した。

 

 

「道徳の授業で、この教科書は使いません」

 

 

先生は、それをこれ見よがしに投げ捨てた。

「代わりに」と付け足すと、パソコンをモニターに繋げ、ある映像を流す。

 

『ゔぃらん、むこせーだ!』

『やっつけろー!』

『ゃ、ゃめっ…ぅあっ!?』

 

 

それは、先ほどの光景だった。

生徒たちの目が点になる中で、先生は淡々と告げる。

 

 

「…なにか感想は?鞭崎くん」

「…そ、そのっ、ご、ごめっ…」

「謝罪じゃありません。感想を聞いてるんです」

 

 

先生の気迫に押され、隣に座る子供が泣き始める。

が。先生はそれを許さぬように、教壇をばんっ、と鳴らした。

 

 

「泣いてもダメですよ。感想は?」

「………」

「…言えませんか。では、鯨田さんは?」

「あっ、あのっ、ごめっ…」

「聞いてませんでしたか?感想を聞いてるんです」

 

 

そこから先は、同じ光景が続いた。

私を除く全員が、先生の質問に俯いて、泣き出す。

 

 

「では、最後の一人。東北さん。

感想を述べてください」

 

 

 

一人だけ残った私を、先生が指名する。

感想。別に、あの映像に対して、大したことは思わなかった。

私は口を開き、はっきりとそれを言葉にする。

 

 

「私は…当たり前の光景だと思いました。

 

無個性っていう抵抗する力のない的に、自分の武器を当てる的当てゲーム。

ニュースとかでも、よく見るものです。

 

私からすれば、何とも思いませんでした」

 

 

私が言うと、先生は首を傾げた。

 

 

「それだけですか?」

「…それだけです」

 

私が言うと、先生は教壇を離れ、私の席の前に立つ。

首が痛くなるほどに見上げなければ見えない位置に、先生の顔が来る。

先生はしゃがんで、私と目線を合わせた。

 

 

「もっと正直に述べてもらっても結構ですよ。

『痛かった』、『辛かった』、『許さない』、『お前らも同じ目に遭えばいい』、『お前らなんか死んじまえ』、何でも結構です」

 

 

おおよそ、教師のものとは思えない言葉。

皆が泣きべそかきながら首を傾げる中、先生は私の頭を撫でた。

 

 

「先生はそれを否定しません。さぁ、思いっきりぶちまけなさい。

無個性という、生まれながらにしてのいじめられっ子の心の叫びを。

例え誰に怒られようと、誰に蔑まれようと、先生はそれを認めましょう」

 

 

 

ぼろっ。

 

 

 

私の目から、熱い何かが溢れだす。

じんじんと、今になって傷痕が疼き始めた。

痛い。辛い。苦しい。悲しい。悔しい。許さない。絶対に許さない。

そんな暗い感情が、心の底から湧き上がってくる。

 

 

「…個性で炎を当てられた。

すごく熱かった。病院で診てもらったら、火傷はもう消えないって言われた」

 

 

びくり。誰かの肩が震える。

 

 

「個性で殴られた。

すごく痛くて、病院に行ったら『骨にひびがはいってますね。もう少しズレてたら、半身不随…二度と歩けなくなってたところですよ』って言われた」

 

びくり。

また数人、肩が震える。

 

 

「個性で溺れさせられた。

肺に水が入って、誤嚥性肺炎になった。

もう少しで死ぬとこだったって言われた」

 

 

また数人の肩が一気に震えた。

気づけば私は机の上に立ち、大声を上げていた。

 

「許すもんか…。

 

 

 

絶対に許すもんか!!

 

 

 

私が普段、死ぬほど苦しい思いして学校来てんのに、ヘラヘラヘラヘラ笑ってんじゃねーよ!!

 

 

 

そこのお前も、そこのお前も、そこのお前も、そこのお前も、そこのお前も!!!

 

 

 

お前らのせいで、私は死ぬとこだった!!!

 

 

 

 

私はいつ死んでもおかしくなかった!!!!

 

 

 

 

なのに皆、無個性無個性無個性無個性ってヘラヘラ笑って、誰も助けてなんかくれなかった!!!!

 

 

 

なにが『ヒーローになる』だ!!!!!

 

 

 

お前らなんか、敵以下の殺人犯になって刑務所ぶち込まれちまえばいいんだぁああっ!!!!!!」

 

 

全部ぶちまけた。

我慢してたもの、全部。

爽快感なんてこれっぽっちもない、ぐちゃぐちゃになった感覚が胸に巣食う。

 

 

「うぁぁああ……っ!!」

 

 

その感覚を吐き出すように、私はぼろほろ泣いた。

 

 

「よく言ってくれました」

 

 

先生は私の頭を撫でると、教壇へと戻った。

 

 

「聞きましたか?コレが、無個性たちの本音です。

そのことを忘れないためにも、今年一年の道徳は、この映像を見続けましょう」

 

 

生徒たちが、絶望を顔に浮かべた。

 

 

「泣けばまた最初から見せます。目を逸らせば、教室中にモニターを用意します。

 

目を覆ったり瞑ったりしたら、直視するまで授業を終わりません。

 

親御さんに言っても結構ですよ。教育委員会からの許可はしっかり得てますので、親からのクレームなど痛くも痒くもない」

 

 

先生は言うと、「以上です。次の時間の用意をしてください」と教室を出て行った。

 

 

 

その日、先生はクラス中から嫌われた。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

そんな先生との関係が始まったのは、ゴールデンウィークの時。

ずん姉様が部活、タコ姉様がお仕事で暇を持て余し、近場のチェーン店に来た時だった。

 

 

「おや、東北さん。君も間食ですか?」

「あっ…」

 

 

仕事をしながら、間食を楽しんでいる先生を見つけたのは。

 

机の上には、デニッシュパンの上に飾り付けられたソフトクリームとさくらんぼ。

更にはそこにシロップをかけた、犯罪的な代物。

 

有名チェーン店名物のそれを見た途端、私のお腹が、くぅ、と鳴った。

財布を確認するも、入ってたのは200円。

コーヒーくらいしか頼めない。

 

 

「…相席にしましょうか。

すみません、この子、僕の連れなんですが」

「はい。かしこまりました」

 

 

私の表情で全てを察したのだろう。

いつものような無表情で先生が言うと、空いた向かい側の席に私を招く。

私は、とてとてと小さな歩幅でその席へと近づき、少しばかり高い椅子に座った。

 

 

「これ。頼んでみたはいいものの、あまり甘いものが得意ではないことを忘れてて。

残り、食べてくれますか?」

 

 

先生は言うと、私にデザートを差し出した。

乙女心的には控えたいのだけれど、このうるさい小腹を鎮めるにはちょうど良さそうな品。

私は一瞬で迷いを切り捨て、ソフトクリームとデニッシュパンを頬張った。

 

 

「…先生。コーヒーが欲しいです」

「奢りましょう。どれですか?」

「あっ、スペシャルブレンドのブラックで。

これだけ甘いと、甘くする気になれません」

 

 

ことん。

数分後、頼まれたスペシャルブレンドが、空の皿と引き換えに置かれる。

私はその苦味で、口の中に残る甘みを洗い流した。

 

 

「……」

「……」

 

 

しばらくの間、沈黙が続く。

それを破ったのは、先生だった。

 

 

 

「東北さん。ボイスロイドは、知ってますか?」

 

 

 

ボイスロイド。

 

 

 

知らないわけがない。

私たちが今使っている体が、そのボイスロイドのものなのだから。

一瞬だけ頭が理解を放棄するも、すぐに私は頷いた。

 

 

「…ああ、僕と同類でしたか。

どうも、初めまして。ニートとフリーターの間をぶらぶらしてた、自称動画クリエイターの前世持ちです」

 

「…それ、言っちゃうんですね。

…私は、なんの特徴もない女子高生でした」

 

 

互いに軽く自己紹介を済ませる。

 

暫く話し合うと、私と彼は知り合いだと言うことに気がついた。

私と彼はなんの偶然か、同じサークルのファンクラブに属していて、そのオフ会で何度か顔を合わせてたという。

 

…そう言えば居たなぁ。如何にも「冴えない男」ってタイプの人。

漫画のように実はイケメンってこともない、本当の凡人。

 

私と彼は、今世でもそんな凡人として生まれてしまったようだった。

 

 

「僕の場合は、生まれ変わったことに気付いて真っ先に、『教師になること』を目標にしましたね。

小、中、高の教員免許を取得してます」

 

「どうやったんですか?」

 

「一つ目の大学で馬鹿みたいに単位を取得して卒業後、二つ目の大学に通いました。

受験勉強やらレポートやらは地獄でしたが」

 

 

エグっ。

先生はやる気がなさそうに見えて、凄くアグレッシブに物事に取り組んでいるらしい。

持ってる教員免許は、小学校のものを除けば、国語関連のものなのだとか。

私は国語が大の苦手だったので、別世界の生物のように思えた。

 

 

「…先生は、ヒロアカの世界をどうこうしよう…なんて考えてませんよね?」

 

 

なんとなく、そう聞いてみた。

先生は誰かの宿題にペンを走らせながら、こくり、と頷いた。

 

 

「ええ。考えてません。というより、世界をどうこうする力なんて、僕にはありません。

せいぜい、道徳教育のなってない子供を泣かすくらいですよ」

 

 

先生はそう自嘲すると、カフェオレを一口啜った。

 

 

「…先生。また、ちょくちょく会いに来てもいいですか?」

 

 

この先生は、私の描く『理想の教師』には程遠い。

でも、私はこの先生のことは、嫌いではなかった。

皆はこぞって嫌っているけれど、先生はそれでも、先生であろうとするんだろう。

 

私はまだ、先生のことを知らない。

だから、私はこの先生のことを、もっと知りたかった。

 

 

「構いませんよ。変な噂が流れそうですが」

 

 

先生の言葉に、私は笑みを返した。

 

 

「大丈夫です。先生だったら、なんとかするんでしょう?」

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

そして、話は現在に戻る。

 

 

絶賛、すんごく遅れてゴールデンウィークの宿題をやっている途中。

先生と他愛ない会話を交わしていた時、それは突然訪れた。

 

 

「先生!見てください!

 

 

名付けて『イズク2号』!!

 

 

イズク1号と合体して、さらなるパワーとスピードを出せる、バイク型ガジェットです!!

 

 

エンジンには僕特性の『イズクエンジン』が搭載されていて、瞬間最高速度は、なんと驚きのマッハ50!!

 

 

空も飛べるから、交通事故もなく!!

 

 

空を飛んでる間は、交通ルールなんて適用されません!!

 

更には粒子化させて、この小型デバイス、『イズクテレフォン』に収納できます!!

 

 

駐輪場を占拠することない、夢のマシンですよ!!!」

 

 

 

「うん。没収」

 

 

 

「なんでェ!?」

 

 

 

原作主人公をさらに残念にしたようなのが、そこに居た。

 

 

何気に凄いこと口走ってなかったか、この人、と思う傍ら、アングリと口を開けて驚く彼の体を見る。

原作ではお世辞にも、よく鍛えられてるとは言えなかった体だが、バランスよく鍛えられてるのが素人目でもわかる。

 

 

「…あれっ?先生、その子は?」

 

 

ふと、私は彼と目があった。

 

 

緑谷出久。

前世で「自己犠牲の擬人化」として認知していた、私が憧れていた主人公。

 

 

 

先生は私の肩に手を置いて、彼の前に私を出した。

 

 

「君のせいで宿題を滞納したクソガキです」

「えっ?なんで僕?」

 

 

 

「君のこと気になって仕方がないそうですよ、ヴィジランテ『SAVER』」

 

 

 

 

……………は?

 

 

 

 

先生の部屋に、私の絶叫が響いた。




秋田のクソガキが静岡あたりに住んでる理由は、お家の事情です。

先生の「泣けばまた最初から見せます」あたりは、ちょっと古いですけど、何処ぞの性格悪い弁護士みたいな早口だと思ってください。


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先生の家を勝手に秘密基地にするんじゃありません!

サブタイトル通りです。

秋田のクソガキとこの作品における世界一の努力家が、先生の家を秘密基地にします。

なんか寝てる間に評価がとんでもないことになってました。

始めてことで、ひっくり返りそうになりました。読んでくださった皆さま、ありがとうございます。
これを機に、水奈瀬コウをはじめとしたボイスロイドに興味を持っていただけると幸いです。


僕、緑谷出久には尊敬する恩師がいる。

名前を水奈瀬コウ。

僕が中学生になっても、小学校の教員である彼との関係は続いていた。

 

 

「先生!今、帰りですか?」

「おや、緑谷くん。そういう君も、随分と汗だくですね」

「はい!今日も『活動』したんで!」

 

 

僕が笑顔でそういうと、先生もぎこちない笑顔を返した。

 

 

「…僕は黙認したわけじゃないですよ。

黙ってるだけです。

できることなら、ルールの中で戦って欲しいのですが」

「やめませんよ、僕は!

そのルールで救えない命が沢山あるので!」

 

 

 

 

 

そう。

何を隠そう、僕は『ヴィジランテ』と呼ばれるイリーガルなヒーロー…つまりは、許可もないのにヒーロー活動をしている人間だ。

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

 

少し、自分語りをさせて欲しい。

 

 

 

 

 

僕には、生まれつき備わっているはずの個性がなかった。

少し昔で言うならば、生まれつき手がないことと同じ意味を持っている。

要するに、僕は障害児として生まれてきたわけだ。

お母さんはそのことを酷く気に病んで、ストレス太りしてしまった。

 

僕自身も、昔ほど自分を出さなくなった。

無個性。それはまだ別に良かった。

 

 

僕が一番辛かったのは、『夢を見ることでさえも許されなかった』ことだった。

 

 

トップヒーロー。

誰もが憧れるその世界に、僕が同じように憧れを持つことでさえも許されない。

 

現実ばかりを見なければならない人生に、僕は酷く摩耗していた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーその武器で、その体で戦いましょう。君の夢を叶うことを是としない、この世界と。

 

 

 

 

 

小学二年生の春。

水奈瀬先生に出会って、僕の人生は大きく変わった。

僕は死に物狂いで足掻き始めた。

個性に変わる、僕だけの武器を生み出すために。

 

体を鍛え始めた。一年で「個性を超えられない」と悟った。

 

勉強を始めた。「個性を超えられない」と悟るには、一ヶ月もかからなかった。

 

 

 

 

「個性を超える武器を作ればいい」という結論に至ったのは、小学三年生の時だった。

 

 

 

その日から、僕は先生のコネを使って、片っ端から理系のお偉いさんに話を聞きに行った。

現代の技術では、到底再現できないという永久機関と特殊金属に関する論文を貰った。

 

僕はそれを3年間、寝ることも食べることも忘れて考察し、研究した。

 

二日に一回、知恵熱でぶっ倒れた。それでもノートを書く手を止めなかった。

 

七孔墳血…目から、耳から、口から、鼻から血を吹き出すこと…を何回も起こした。

 

山奥で、とんでもない爆発を起こしたことだってある。

 

それでも諦めずに、僕は子供の脳に詰められない程の情報を、無理やりに詰め。

 

子供が出来ないだろう研究を、お小遣いでやりくりしながら進めた。

 

勉強したノートも、ヒーローを研究したノートも、永久機関と特殊金属を現実にするためのノートも、もはや数えきれない。

 

僕の部屋は、オールマイトグッズとノートに埋もれていた。

 

 

そして、去年。

僕だけの武器は、三年の時を経て完成した。

 

 

 

白色の金属を、金色の装飾が彩る、シンプルなパワードスーツ。

僕はそれに、『イズク1号』という名前を付けて、先生に見せた。

 

 

 

 

先生は「やめろ」とは言わなかった。

ただ、僕に降りかかるだろう不利益を懇切丁寧に説明して、僕の作ったイズク1号の持つ価値を説かれた。

だから、グレードダウンしたものを使えと言われた。

 

 

 

 

その約束は、その日のうちに破った。

 

 

 

 

弁明だけはさせて欲しい。

実は、先生に見せた段階では、イズク1号の機能テストがまだ不充分だった。

デッドコピーを作るにも、不確定要素は、出来るだけ早く無くした方がいい。

そう思った僕は、おばあちゃんの私有地である山…僕が数えきれないほど爆発起こしたせいで若干はげてる…に向かっていた。

 

 

 

 

そんな時だった。たまたま通りかかったデパートが、激しく燃え盛ったのは。

 

 

 

 

「っ…!?」

 

たちまち阿鼻叫喚の地獄絵図と化した日常の一幕に、僕は唾を飲み込む。

中からは、ひどい火傷を負いながらも、なんとか逃げてきた人々が出てきた。

 

 

「バックドラフト、現場到着!」

 

 

バックドラフト。

折寺に住むヒーローの一人が駆けつけ、消火活動に当たる。

救急車や消防車が来る音が聞こえる。

そんな中、ポケットサイズにして収納していたイズク1号から、声が響いた。

 

 

『あと二分で建造物が倒壊します』

「っ…!」

 

 

あと二分?

 

 

 

僕はバックドラフトを始めとしたヒーローに目を向ける。

だが、目に見える被害を抑える程度で、誰も中に入っての救助活動を行おうとする人は居ない。

あと二分。あと二分が刻一刻と迫る。

 

 

「…イズク1号。僕に力を貸して」

『力を貸して、と言う表現は不適切です。

私はあなたの物。あなたの力です』

「…そうだったね」

 

 

僕のナノマシンを打ち込んだ腕に、イズク1号をかざす。

瞬間、僕の体はイズク1号に覆われた。

大丈夫。大丈夫。

心臓が胸を強く叩く。

 

 

「ブーストユニット、展開」

 

 

背中に、足に、腕に。

イズク1号の体から、エネルギーを放出するためのマフラーが大量に突き出る。

まだ、足りない。

 

 

「空気抵抗削減装置、起動。

救助システム『ヘカトンケイル』、起動」

 

 

僕の体から、何千もの腕が形成される。

これで充分だ。

 

 

「行こう、MESSIAH」

『了解。ナビゲーションを開始します』

 

 

アスファルトを踏み砕き、僕は燃え盛るデパートへと侵入した。

 

 

 

 

これが、僕のオリジン。

 

 

 

 

ここからは、実によくある話なので、後日談だけをお送りさせていただく。

 

 

あの火事で、幸いにも死者は居なかった、と報道された。

僕が助けた人たちは、僕のことを視認できていなかったようで、『気づいたら助かってた』と発言。

結局、全てがバックドラフトのお手柄になったらしい。

 

次の日。僕の母校…と言うべきかは分からないけど、僕の通っていた幼稚園で立てこもりが発生。

たまたま通りかかった僕は、衝動的に人質になっていた人たちを助け、敵を倒してしまった。

 

 

まぁ、ここは皆も知っていると思うので、割愛させていただく。

兎にも角にも、僕はヴィジランテとして、世界中をイズク1号で飛び回っていると覚えてくれたらいい。

 

 

 

そんな僕にも、つい最近、この活動を支援する人が現れた。

 

 

 

「今日もウチに来ますか?」

「はい。あの子が待ってるので」

 

 

先生の問いに、僕は肯いた。

 

 

ああ、四話目にして言い忘れていた。

 

 

これは、僕が最高のヒーローになるまでの物語じゃない。

 

これは、僕が最高の恩師と出会い、最高の仲間たちに支えられ、僕の思う最高のヒーローを演じる物語だ。

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

 

僕、水奈瀬コウの家は、「つまらない家」という評価が下されるような、そんな家だ。

存在する本といえば、学術誌やらビジネス書などの参考資料程度。

娯楽の類は一切なく、あるとすれば食事くらい。

そんな家に、毎日のように、二人の来客が訪れる。

 

 

「扉は開いてますよ。

東北さんが勝手に出入りしてるんで」

「では、お邪魔します!」

 

 

緑谷くんが扉を開けると、それなりに大きいゲーム音声が聞こえてきた。

奥へと進むと、勝手に僕のパソコンを開いて、勝手に作ったアカウントで、これまた勝手にダウンロードしたゲームを遊んでいる東北きりたんが、そこには居た。

 

 

「クソガキ。僕のパソコンで遊ぶんじゃありません」

「テスト問題と宿題とプリントと論文しか書かないだけのパソコンとか、存在意義あります?」

「大いにあります。っていうか、君が述べたのが本来の使い道です。

ゲーム用のパソコンなら、自分で小遣い貯めて買いなさい」

「先生のやつ、無駄にスペック良いですし、使ってあげないと可愛そうですよ」

 

 

このクソガキ、来るたびにクソガキ度合いが増してきてる。

一度、アポなし家庭訪問してやろうか。

 

 

「こらっ、勝手に人のパソコン使っちゃダメでしょ!」

 

 

と、緑谷くんが叱る。

おお、いいぞ。

努力が変な方向に行ってるけど、良識溢れる性格の緑谷くんのお叱り攻撃。

これはクソガキ相手にも効果が期待できる。

 

 

「あっ、緑谷先輩。新しいユニットの設計図できましたよ。

流石は無駄にスペック高いパソコン」

 

「勝手に使うことを許可してください!」

 

「手のひらモーター式なんですか、君?」

 

 

悲報。僕の教え子、僕の味方じゃなかった。

厄介なコンビが誕生してしまった。

そう心の中で愚痴りながら、僕は仕方なく、彼女が使っているパソコンとは別のパソコンを立ち上げた。

 

東北さんも東北さんで、あの頭のネジが全部吹き飛んだみたいな理系共に汚染された。

って言うか、緑谷くんに汚染された。

前世があっても、汚染されるときは汚染されるんだなぁ。

 

 

「緑谷先輩が作った粒子化システムを使って、大量に武器を収納。

状況にあった武器を自在に取り出せるように、斡旋プログラムまで付けてます」

「名前は?」

「『ヘーパイストスの武器庫』です。

武装の一つ一つにはまだ名称を設定してませんので、ご自由にどうぞ」

 

 

うっわ。僕の知らない間に、また超兵器が開発されてる。

この二人だけで、個性社会崩壊するんじゃないか?

その片棒担がされるとか、嫌だよ僕。

普通に教師として死にたい。

 

 

「イズク1号の名前も変えちゃいましょうか。

流石にこのままだと、名前で正体バレとかありそうですし」

「名残惜しいけど、変えるしかないか…」

「どうでもいいですが、ここ僕の自宅なんですけど」

 

 

一介の小学校教員の自宅を、自室のように扱うんじゃありません。

そんな願いも虚しく、二人の議論はヒートアップし始めた。

 

 

「イズク2号がバイクですから、『仮面ライダー』とかどうです?」

「それ、昔の特撮ヒーローでしょ?

参考にしたのは、昔ハリウッドで撮影された『アイアンマン』だからなぁ…。

ビブラニウムを再現したいんだけど、エネルギーはどうしても外付けになっちゃうんだよね…」

「別にいいじゃないですか。

イズクメタルとイズクジェネレーターで軽く超えられるんですから。

名前の件ですが、アイアンマン初期名称の『メタルマン』とかはどうです?」

「なんか、違うなぁ…。

なんていうか、こう、僕だけのオリジナリティが欲しい」

「君たち聞いてます?

ここ僕の自宅。マイホームなんですけど?」

 

 

僕が割と大きめな声で抗議するも、二人は完全に聞いてなかった。

ダメだこいつら、話にならない。

ぶぶ漬けでも作っておくべきだったか。

 

 

「先生はなにかいい案ありますか?

イズク1号の新しい名前」

 

 

…いや。作っても無駄だな、これは。

僕は来週の授業資料の整頓をこなしながら、イズク1号を指差す。

 

 

「MESSIAHに聞けばいいでしょう。

本人のことは本人で決めさせなさい」

「あっ、そっか!MESSIAH!」

『なんでしょう、イズク様』

 

 

さてと。これで仕事に集中できる。

…あれっ?

なんで僕、作業効率向上のためにハイスペックPC買ったのに、旧式PC使ってんだ?

 

 

「…そろそろ返してくれませんか?

来週の君のテスト作れないんですけど」

「一生作らないでください」

「それは僕に職を失えと言ってるんですか?」

「旧式PCでもできるでしょ、そのくらい」

「出来ますけど、処理に時間がかかるんですよ。いい加減、僕の仕事道具返しなさい」

 

 

僕がそう要求するも、クソガキは心底ムカつく顔で首を横に振った。

 

 

「正義の秘密結社の仕事道具ですし、渡せませんねぇ」

 

「成績全部『もっと頑張りましょう』にしますよ」

 

「すみませんでした」

 

 

クソガキからハイスペPCを取り戻した。

正義の秘密結社の仕事道具に、小学校教員の自宅にあるハイスペPCを選ぶな。

僕は東北さんを退かし、ハイスペPCの自分のアカウントを開く。

 

 

「…そこで私たちのアカウントを消さないあたり、本当甘いですよね」

「君たちは消してもまた作るでしょう」

 

 

僕が言うと、二人は目を丸くした。

 

 

「緑谷くん。君の活動を僕は認めはしませんし、否定もしません。

僕が使わない時に限り、このパソコンを自由に使いなさい。

僕がやるのは、場所とパソコンの提供くらいです」

 

 

東北さんは教え子だが、緑谷くんは僕の手を離れた卒業生だ。

僕はあくまで、困った時に指針をだしたり、場所と物を提供するくらいの協力しかしない。

あとは自分で考えるべきだ。

僕は彼の保護者ではないのだから。

 

 

 

「ですが、東北さん。

君のその自主性と行動力は素晴らしいですが、そればかりを大事にして宿題の期日を守らないのは論外です。

 

次、期日に間に合わないのであれば、成績表が『もっと頑張りましょう』で埋め尽くされることになりますよ」

 

 

「そんな殺生なぁ!?」




主人公は水奈瀬コウだけだと思った?

残念、緑谷出久も主人公だ。


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正義の秘密結社『一等星』の結成を先生の家で祝うんじゃありません!

サブタイトル通りです。

いつも通りですね。

評価バーが真っ赤に染まってました。
目ん玉飛び出るくらい驚きました。
読者の皆様に感謝の証を形として送ることが出来ないことを、非常に惜しく感じます。

ありふれてはいますが、感謝の言葉を送らせていただきます。
この拙い作品を読んでいただき、ありがとうございます。
これからもどうぞ、よろしくお願いします。


「というわけで!正義の秘密結社、『一等星』の結成を記念して、乾杯です!」

 

「かんぱーい!」

 

「宴会だったらよそでやってくれません?」

 

 

少し遅くなって帰ってきた僕の家が、何故かデコレーションされてた。

 

どこで買ってきたのだろうか、謎の垂れ幕やら星やらハートやらの形をした風船。

 

そして、無駄に達筆な『一等星』の三文字。

 

家主が知らない間にパーティ開かれてる家ってなんだ。

秘密結社、二人しかいないし。

 

 

「えー?好きに入っていいって言ったの、先生でしょう?」

「言いましたけども、限度覚えましょう?

もはや君らの自宅ですよ、コレ。

緑谷くんも、なんで止めなかったんです?」

 

「え?許可取ってなかったんですか?」

 

「…東北さん?」

「先生言ってましたよね?

『嘘は武器だ。振るわない方がおかしい』って。なら私が『許可を取った』という嘘を武器として振るっても…」

「成績」

「すみませんでした」

 

 

水奈瀬コウは、教え子相手にのみ使える魔法の呪文、「成績」を覚えた。

職権濫用になるから、実際にはやらないけれど。

まぁ、根がいい子のこの子には、この一言だけで十分だ。

 

 

「宴会はよそでやれって気持ちはありますが、ここまで準備してしまったなら仕方ありません。

ただし、暗くなる前には帰りなさい」

「ひゃっほう!先生太っ腹!」

「僕の体脂肪率は10%以下です」

 

 

言うと、僕はこのどんちゃん騒ぎに参加することを表明するように、冷蔵庫に予め入れておいたジュースや菓子を持ってきた。

流石にいい大人だから、思いっきり羽目を外したりはしないが、一緒に楽しむくらいはやってやろう。

…お酒?強いけど、アルコールの風味が生理的に合わない。

 

 

「えっ…?こっ、これっ、超お高いブランドのチョコじゃあ…」

「このケーキ、こないだテレビでやってましたけど、1ホール数万はしますよね…?」

「余ったお金に使い道もないので、思い切って買っておいて良かったです」

 

 

人生が趣味な人間の貯蓄、なめないでいただきたい。

例えハイスペPCを二台購入しようが、ちょっとした贅沢ができるくらいにお金はある。

 

小学校教員の給料が高いってわけではない…むしろ安い。

 

ただ単に、僕が生活費以外で殆ど使ってなかっただけだ。

配偶者に使われることもないので、自由に使える。

 

 

「本当にいいんですか?

コレ、僕たちのお腹に入れても」

「ええ。買ったはいいですけど、口に合わなかったので」

「…先生って、損な味覚してますよね」

「貧乏舌なので」

 

 

この子たちは物の価値をよく分かりながら、味わって食べることのできる人間だ。

僕みたいな、「好みじゃない」ってだけで全てを決めるような人間より、よっぽど美味しく食べてくれるだろう。

菓子に舌鼓を打つ彼らに、少しばかり笑みを浮かべながら、僕はコーヒーを啜った。

 

 

「…秘密結社の名前は『一等星』ですか。

何か理由でも?」

 

 

僕が問うと、緑谷くんが立ち上がり、声を張り上げた。

 

 

「はいっ!暗闇に大きく輝く一等星のように、眩しいヒーローでありたいって意味を込めて名付けました!」

「おお。珍しく良いネーミングですね」

 

「原案はMESSIAHですけどね」

「…あぁ、やっぱり」

 

 

どうせ壊滅的な名前だったんだろうな。

東北さんの言葉にそう思いながら、僕は安物のクッキーを口に入れた。

 

 

「イズクいちご…いえっ、『シリウス』もグレードアップを重ね、遂にバージョン10を超えましたよ!」

「魔改造っていうか、魔開発ですよね」

 

 

多分、気になっている人も多そうだから、語っておこう。

 

イズク1号…改め『シリウス』は、総合評価で言えば「オールマイト?とっくに超えてる」だ。

 

 

パワーはオールマイトを超え、月並み…大きさという意味で…の隕石すら、一撃で粉砕するという。

 

スピードは、同じく魔開発されたバイクと合体することにより、音速どころか光速にも迫る勢いだ。

 

救助機能も充実しており、例え僕らの住む星が粉々に粉砕されようが、九割の生物を助け出せるという。

 

更には治療用ナノマシン。よほどの重症、もとい重傷じゃなければ、大抵は数分もしないうちに治せるらしい。

 

盗難防止のために、彼は自分に埋め込んだナノマシンの信号がなければ絶対に起動できない、ただの重いスーツと化すプログラムまで積み込んだ。

 

 

評価すべきは、彼の努力。

 

 

個性も、それに代わる不思議パワーもなく、ずば抜けて優秀でもない、更には経済力でさえも月並みな家庭に生まれた彼が、ただの努力だけでここまでやってのけたのだ。

 

その努力が積み重なってできた山は、僕が死に物狂いになったって、麓から抜け出せないほどに高い。

科学ってすごい。努力ってすごい。

 

 

「惜しむらくは、この素晴らしさを理解しないし、更には緑谷先輩のことを『弾圧されるべき犯罪者』っていう輩が多くいるってことですね」

「え?そうなの?」

「…君、本当にニュース見ませんよね。

本当、なんで評価を気にしてないんだか」

 

 

緑谷くんがヴィジランテとして活動する報酬は、ないに等しい。

 

例え災害時に人を助けたとしても、その手柄と向けられる感謝は全てプロヒーローの物になり。

 

敵を倒せば、『ヒーロー気取りの犯罪者と犯罪者同士が潰し合った結果』と報道される。

 

まさに孤独なヒーロー。

にも関わらず、彼はそのことに全く動じてなかった。

 

 

「いりませんよ、そんなの。

僕は僕の思う最高のヒーローを、全力で演じてるだけです」

「…うぅっ…」

 

 

やばい。涙が滲んできた。

卒業生とは言え、教え子の成長ってのは、なんでこんなに涙腺に響くんだ。

 

 

「僕が赴任してきた頃は、周りの目ばっかり気にして…。

自己否定の塊だった君が、ここまで…」

「水奈瀬先生の泣き顔!レアですよコレ!」

「成績下げますよ」

「すみませんでした」

 

 

僕の泣き顔を撮ろうとするクソガキを制し、僕は涙と共にコーヒーを飲み干した。

 

 

「志望校は決めてるんですか?」

「アメリカに渡って飛び級しようかなって思ってます。

幸い、琴葉博士のお誘いもあるので」

 

 

「うーわ、原作崩壊した」と呟く東北さん。

東北さんから、原作のあらかたは聞いてる。

本来であれば、「雄英高校」と呼ばれる国立校にあるヒーロー科で、彼がヒーローを目指す物語だと言うことを。

 

 

だが、目の前の彼は、『オールマイトと出会い、力を渡される』という幸運を『与えられた』人間ではない。

 

何も持たない状態から死に物狂いで学び、死に物狂いで探し、死に物狂いで作り上げてきた、『この世界一の努力家』だ。

 

 

彼と『原作の彼』は、全くもって別の存在である。

 

 

「博士に伝えておきましょうか?

なんなら、来年から通えますが」

「いえ!中学校はちゃんと通うって、お母さんと約束してるので!」

 

 

本来あるはずの未来を変えてしまったのは、間違いなく僕だ。

でも、それを後悔しているかと問われれば、否と答えよう。

 

 

「緑谷くん」

「なんですか?」

 

 

「成長しましたね」

 

 

僕は、彼の歩んできた道を見てきたのだから。




次回からは新章が始まります。

予告風に書くと、「未来からの来訪者」です。大体の人は察してくれたと思います。


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こんにちは、未来人
未来人はポンコツ。これテストに出ますよ。


サブタイトル通りです(何度目?)

この章ではボイロを二人出す予定です。
もう一人は誰か、予想してみてね。


夏休み。

教師にとっても一幕の休養期間。

僕は太陽が照りつける中、いつもの二人と散歩していた。

 

 

「梅雨の時期って、土砂災害多いですよね。

取り敢えず、行方不明者とか、助けた人に漏れがなくてよかった」

 

 

ようやく梅雨があけ、緑谷くんはスーツで動き回った身体をほぐすように伸びをする。

この間は、歴史的な大雨が降り注ぎ、大勢の人が死にかけた。

だが、ヒーローの尽力で死者や行方不明者はゼロだと報道された。

 

 

「緑谷先輩の活躍ですよ!もっと誇って!」

 

 

その報道は虚偽である。

真実は、今僕の隣に居る緑谷くんが、シリウスを駆使して救助活動に励んだのだ。

80億から25兆に増えたナノマシンのおかげだ、と彼は語っていた。

 

 

「世間的には、プロヒーローたちのお手柄ですがね」

 

 

兎にも角にも、僕らが談笑していたその時。

僕は足元に違和感を感じた。

 

 

「…ん?」

 

 

僕はその違和感を確かめるべく、視線を下に向ける。

そこには、黄緑の服にヘッドホンを付けた、一度見たら忘れなさそうな見た目の女性がぶっ倒れてた。

 

 

「熱中症かもしれませんね。

日陰に運びましょうか?」

 

「ええ、そうしてください。

生憎と僕、君ほど腕力があるわけではないので」

 

 

緑谷くんは慣れた手つきで女性の体を起こし、背中に背負う。

その果実が背中に押しつけられようが、彼は眉一つ動かさなかった。

 

 

『…イズク様。背中に背負う彼女は、熱中症ではありません』

「え?そうなの?」

 

 

緑谷くんが使う携帯…バイクやらパワードスーツやらを仕舞ってる『イズクテレフォン』…から、MESSIAHの声が響く。

瞬間。イズクテレフォンは、液晶画面から立体映像を映し出した。

緑谷くんはまじまじと、その内容を確認する。

 

 

「………は?」

「深刻な病気でもありましたか?」

 

 

緑谷くんが、目を丸くする。

僕がその理由を問うたその時だった。

 

 

ぐぎゅるるるるるるる

 

 

女性の腹から、とんでもない音量の腹の虫が鳴ったのは。

 

 

「お腹すいた…」

「…テンプレきたこれ」

「思ってても言わないの」

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「いやぁ、助かりましたぁ!!」

「飯食った途端、露骨に元気ですね」

 

近場のファミレスにて。

声を張り上げることで、生を喜ぶ女性。

他の客が何事だと、公共の場で騒ぐ彼女を見ていた。

彼女の目の前には漫画のように、コレでもかというほどに皿が重なってる。

燃費の悪そうな身体だ。

 

「この時代に来て早一年…。

目的の特異生命体は見つからないし、この時代の金は尽きるし、連絡機器が風に飛ばされてどっか行くし、その罰で元の時代に帰れなくなるしで散々でしたが、あなたたちみたいないい人に出会えて、私は幸せ者ですね!」

 

「うっわ、ヤバい人だ」

「ヤバい人だ」

「ヤバい人ですね」

 

 

助けた彼女は、頭のネジをどっかに全力投球したような設定を垂れ流す。

ごくごくとお冷やを飲み干し、彼女はかなりヘンテコなポーズを決める。

 

 

「自己紹介が遅れましたね!

私、時空監視員をしてます!

西暦3020年からやってきました、京町セイカです!」

 

 

ヤバい人だ。

それが第一印象だったが、すぐにそれは掻き消えることになる。

 

 

 

京町セイカ。ボイスロイドの中の一人。

 

 

 

設定としては、自称未来人で時空監視員をしているという。

この子も転生者なのだろうかと思ったが、緑谷くんの存在に興味を示さないあたり、転生したという可能性は低そうだ。

東北さんの姉二人も、転生者ではなかった訳だし。

 

 

「…え?嘘だろ…?」

 

 

そんなことを考えてると、緑谷くんが声を漏らす。

僕が「どうしました?」と聞くと、彼は神妙な面持ちで答えた。

 

 

 

ーーーーーー彼女のヘッドホン、イズクメタル製です。

 

 

 

緑谷くんの言葉に、僕と東北さんが大きく目を剥く。

 

イズクメタル。

エネルギーさえ注ぎ込めば自己修復し、雨風にさらされても永劫に劣化することなく、人の手で曲げられるほどに柔軟性抜群で、隕石が直撃しても傷一つつかない硬度を誇る、史上最強の人工金属。

 

地球上でその金属を所有しているのは、緑谷くんと東北さんの二人のみ。

そもそも製法を知っていて、それを実行できるのが緑谷くんしか居ないのだ。

第三者の手に渡るわけがない。

 

 

「…そのヘッドホン、何処で?」

「コレですか?コレは未来で一般販売してる安物ヘッドホンです!」

 

 

確信した。

この子は本当に未来人だ。

僕たちがそう戦慄した、まさにその時だった。

 

 

 

「こんにちは」

 

 

 

形容し難いバケモノが、ファミレスの窓を破壊したのは。

 

 

「っ、逃げて!!」

 

 

それを視認するや否や、緑谷くんはバケモノにタックルをかまし、外へと飛び出す。

バケモノの重量でアスファルトが削れ、土埃が舞う。

それによって緑谷くんの姿が隠された。

僕は東北さんと京町セイカを引き連れ、閉鎖空間であった店を出る。

と共に、シリウスを装着した緑谷くんが、ヒーロー着地を決めたようなポージングをすることで、『今ここにきた』と通行人たちに誤認させる。

 

「我の拳が悪を砕く」

 

緑谷くんが呟くように言うと、目の前のバケモノは、うぞうぞと蠢き、その顎門を開いた。

 

 

「時空監視員、見つけましたよ。死ね」

 

 

バケモノが咆哮すると共に、その口腔に眩い光を溜め込む。

どう考えても口からビームを放つ気だ。

対する緑谷くんは、拳を握り、いつものように構えをとった。

 

 

「ジャスティスカノン」

 

 

放たれた二つの光線がぶつかり合う。

否、ぶつかり合いと言うのは正しくない。

緑谷くんの放ったエネルギーの膨大さに耐えきれなかったのか、バケモノの口腔から放たれた光線は、一瞬で消えた。

が。緑谷くんはバケモノの頭を吹き飛ばすことなく、そのエネルギーを霧散させる。

 

 

「…?手加減ですか?」

「……」

 

 

彼は答えない。

ただ真っ直ぐに目の前の敵を睨み、近づく。

 

 

「ちょっ、ちょっとあの人!

危ないですって!アレ、特異生命体っていって、島国なんてすぐ消し飛ばせるくらいの、すんごいヤバいバケモンですよ!?」

「君の言う『あの人』は、とっくの昔にそれを超えてます」

 

 

「ジャスティスブロウ」

 

 

僕が言うと共に、轟音が響く。

バケモノの頭が地に減り込み、アスファルトに亀裂を走らせる。

数秒遅れて、凄まじい風が、僕たちの頬を撫でた。

 

 

「…やっぱ強すぎません?」

「私の悪ふざけと、緑谷先輩のひらめきのせいですね」

「半分君じゃないですかクソガキ」

 

 

僕たちが言葉を交わしたその時。

 

 

「うがぁぁぁぁあああああああアアアアアAAAAAAA!!!」

 

 

バケモノが天を衝くほどの咆哮で、街を揺らした。

肉片と血液を巻き散らし、おぞましい体が削ぎ落ちていく。

僕たちはその光景の異様さに目を剥き、唾を飲み込む。

肉が根こそぎ削ぎ落とされて残ったのは、人型のバケモノだった。

 

 

「……」

「……」

 

 

緑谷くんが再び戦闘態勢に入る。

が、バケモノはそれから目を逸らした。

軽く膝を曲げると、バケモノは何処かへと跳躍する。

あっという間にビル街の奥に消えたバケモノに、僕は小さく呟いた。

 

 

「……こりゃあ、面倒な夏休みになりそうですね」

「ですね」

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

『本日未明、ヴィジランテ「SAVER」と、謎の敵との戦闘がありました。

謎の敵はSAVERに敗れ、逃走。

SAVERもすぐさま姿を消し、現在警察及びプロヒーローがその行方を…』

 

 

そんなニュースが、安物のテレビのスピーカーから響く。

僕はこの直視したくない現実と向き合うために、普段は決して飲まないエナジードリンクを呷った。

 

 

「…で。さっきの…特異生命体?について、教えていただけますか?

未来人、京町セイカさん」

 

 

えぷっ、と溢れそうになるゲップを抑え、目の前の未来人に問い詰める。

僕の家には今現在、僕と緑谷くんと東北さん、そして京町セイカがいる。

京町セイカはというと、その能天気なツラのまま、つらつらと話し始めた。

 

 

「特異生命体というのは文字通り、同種の生命体とは違う細胞を持つ生命体の総称です!

個性社会で最も初めに産まれた『光る赤子』が、人間初の『特異生命体』として知られてます!」

 

「要するに、突然変異のキッカケとなった生物のことですか?」

「ざっくりいうと!」

 

 

すっごい元気に、すっごいとんでもないこと口走ってるぞ、この人。

つまり、さっきのバケモノは、なにかが突然変異した個体だった?

あんなバイオハザードワールドに住んでそうなバケモノが自然発生するのか?

人工でもなければ、皮膚と筋繊維が剥き出しなんて、生物として不完全すぎやしないだろうか。

…まぁ、それよりも驚いたのは…。

 

 

「マジで未来人なんですね…。

うっわ。スマホもアクセサリーも、ぜーんぶイズクメタルで構成されてますよ」

「こ、こんなに使われてると、なんか照れる…」

「そこ。真面目な話の方を聞きなさい」

 

 

彼女が本当に未来人だったという点だ。

 

 

先程、原作にこのような展開があったのかと東北さんに問うと、「あるわけないでしょ」と呆れられた。

そもそも、「緑谷出久が個性を使わず、不思議な力も使わず、科学で戦うこと」自体が想定外だという。

東北さん曰く、原作知識を使って無双する…という二次創作も多くあるらしいが、この世界ではまず通用しないと思った方がいいとのことだ。

 

 

「で。アレはなんの突然変異なんですか?

戦闘能力はどのようなものなのですか?」

 

「知りません!私、全然勉強してこなかったので!」

 

「悲報。この未来人、思ったより役立たずでポンコツだった」

「「同感」」

 

「過去の人たちって辛辣ゥ!!」

 

 

緑谷くんが他人の罵倒に同意するなんて、相当ダメな証だぞ。

京町セイカは半泣きで言うも、すぐさま涙を拭い、頭を下げた。

 

 

「約束通り、情報は話しましたよ!

私のお願い、聞いてくれるんですよね!?」

「まぁ、出来る限りのことは聞きましょう」

 

 

実は、この情報と引き換えに、彼女の言うことを一つ聞くという約束を交わしていた。

 

どんなことであれ、情報は大きなアドバンテージになる。

相手の脅威を知っておくに越したことはない…と思ったのだが、情報を引き出せる相手が悪かった。

 

僕が担当してきた生徒の中でも、こういう見るからに残念な子は居なかったぞ。

…まぁ、約束してしまったものは仕方ない。

約束を反故する不義理を、生徒の前でするわけにはいかない。

 

 

「私の『特異生命体捕獲任務』、手伝ってください!」

「僕じゃ無理です」

「そんなぁ!!」

 

 

一介の教師になんちゅう要求しとんじゃ、このポンコツ未来人。

 

 

「代わりに、一ヶ月の食費くらいなら賄ってあげますよ。それで十分でしょう?」

「それも魅力的ではありますけど、任務終わらせないと帰れないんですぅ!!

見てるドラマ、新シリーズ始まっちゃいますぅ!!」

「仕事に私情を持ち込むな」

 

 

まぁ、人生を趣味って言ってる僕が言えた口じゃないけれど。

 

 

「僕が手伝いましょうか?その任務」

「本当ですかぁ!?」

 

 

緑谷くんの言葉に素早く反応した彼女は、情けない体勢で彼に縋る。

ダメな大人の典型だ。

僕の前世もこれだったかと思うと、ちょっとショックだ。

 

 

『速報です!

 

先ほどの謎の敵が、プロヒーロー…ヒーロービルボードチャートJP18位のクライシスオーガを一撃で倒しました!!

 

クライシスオーガは全身粉砕骨折の重傷!!今は集中治療室で手術を…』

 

 

「…協力しないと危険なのも事実ですか」

「ですね」

 

 

全く、面倒なことになったものだ。

普通に教師をしていただけなのに、どうしてこうなった。

僕は心底、そう思わずにはいられなかった。




クライシスオーガはオリジナルヒーローです。
個性は鬼。オールマイトに迫るタフネスで、敵の拳を受け止めます。

特異生命体は…まぁ、個性を利用し、尚且つ緑谷くんの関係のある存在であるとだけ言っておきます。


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仙台でずんだは基本!

サブタイトル通りです。

謎の生命体を追いながら、観光を楽しみます。

少し修正しました。


「オーガくん、大丈夫か!?」

 

 

ばぁん。

スライディングがてら、私は慌てて病室に駆け込む。

ベッドに眠る彼の姿は、いつものような頼もしさなどこれっぽっちもない。

 

私と何度かチームアップを組んだ時も、持ち前のタフネスで、幾度となく私をサポートしてくれた。

人々に寄り添い、敵を倒すのではなく、ただサンドバッグになりながらも説得する、新しい形のヒーロー。

 

若手の中で、私が最も期待していたと言っても過言ではないヒーローが、たった一撃で負けた。

そのことが信じられなかった。

 

 

「鬼山くん!!」

「…オール、マイ、ト…?」

 

 

術後二日目。

息をも絶え絶えに、彼は掠れた声で私の名前を呼んだ。

 

 

「…ははっ。すみません…。あなたとの、チームアップ…。俺のおっかさんも…楽しみに、してたのに…」

「いいんだ…。無理するな…。

今は、ゆっくり休んでくれ…」

 

 

彼の手を取って、いつものように笑みを浮かべる。

ちくしょう。

彼が倒れた時、私がそばに居なかったことを、酷く呪った。

いくらあの戦いの傷が癒えないとはいえ、それを理由に、目の前の素晴らしき若人の未来を奪いかけたのだ。

悔やんでも、悔やみきれなかった。

 

 

「君を倒した敵は、どんな敵だった…?」

「…皮膚が、有りませんでした。

筋繊維の塊で出来たような、人間かどうかもわからない敵…。

少なくとも、貴方のSMASHを、超える一撃を…ノーモーションで撃ってくる…。

俺が出会った…いや、世界中のどの敵よりも…強い…」

 

 

その言葉に、私は血の気が引いていくのを感じた。

自惚れではないが、絶対的な事実として、私のSMASHは、たった一撃でも上昇気流を起こし、雨を降らせる程の超パワーがある。

それを超える一撃を、ノーモーションで撃ってくる敵がいるなど、考えたくもなかった。

 

 

「…そいつは、なんと名乗っていた?」

「…たしか、『キズナ』と…」

 

 

私はそれを聞くと、彼の手を握った。

 

 

「必ずや、そのキズナを倒して見せる。

そしてまた、ヒーローとしての君を、私に見せてくれ」

「…勿論です。まだ、ヒーロー、やりきってないんで…!

あなたも、平和の象徴として、ブレないでくださいよぉ…!!」

 

 

オーガくんの激励を受け、私は力強く頷く。

あの時よりも、激しい戦いになるかも知れない。

私は無いはずの胃が縮こまるような感覚を覚えた。

 

 

「…ああ。私は負けんよ」

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「というわけで、目撃情報のあった仙台にやってきましたー!」

「いぇーい!」

「…女は元気ですね」

「ですね」

 

 

中古で買った軽自動車で、高速を走らせること数時間。

僕たちは仙台に訪れていた。

 

 

「おお!牛タン!牛タンですよ!

一度は食べなきゃ損ですよ!」

「伊達政宗!伊達政宗観にいきましょう!」

 

「観光じゃ無いって、真剣な顔して言ってたクソガキとポンコツ未来人は、どこの誰ですかね」

 

 

卒業生と生徒と未来人に、足として使われる日が来るとは。

この自称未来人は、免許も無かった。無い無い尽くしで意地もない。

じゃあ何があるんだというと、プライドを捨てる速さだと言われた。

なんだこの悲しい生き物は。

 

イズク2号…改名して『ペルセウス』で向かえば、速攻職質されるので、僕の軽自動車に白羽の矢が立ったわけだ。

…こうして考えると、僕が参加していないつもりなだけで、彼らの中では僕も『一等星』のメンバーなのだろう。

悪い気はしないが。

 

「…にしても、人少ないですね」

「まぁ、プロヒーローがぶっ飛ばされて、アレの目撃情報が頻発した街ですしねぇ」

 

テレビで見るような華やかさはなく、仙台は現在、閑散としていた。

それでもちらほら人はいるので、情報収集はできるかも知れない。

…いや、待てよ。

僕が情報収集について考えてると、東北さんと京町セイカが僕に問うた。

 

「どうします?早速、情報集めますか?」

「聞き込みでもします?」

「一人、不安要素がいるので却下です」

 

「え?そうなんですか?」

 

「「「お前だよポンコツ未来人」」」

 

 

僕たち3人のツッコミに、未来人は「はへ?」と素っ頓狂な声を出した。

 

 

「わ、私のどこが不安要素なんですか!?」

「見ず知らずの人間に、機密情報ベラベラ喋った挙句、秘密の任務に他人を巻き込むあたり割と」

「反論できなぁーいっ!!」

 

緑谷くんの言葉に、京町セイカは涙目になりながら、両手を上げた。

これを監視しながら聞き込みなんぞしてたら、黄色い救急車を呼ばれてしまうだろう。

 

「じゃあ、張り込み!」

 

「却下。コレが大人しくできるとでも?」

 

「「思いません!!」」

 

「うぅっ、やっぱ辛辣ゥウ!!」

 

 

まずい。思ったよりも未来人がお荷物すぎるぞ。

さっさと終わらせて、こんな危険地帯から帰りたいのに、一番情報を持ってそうな京町セイカは使い物にならない。

僕がこの未来人を連れ回して観光する間、二人に情報収集を任せようかと思ったその時。

緑谷くんがイズクテレフォンを取り出し、そこからボールを生み出した。

 

 

「そんな時のために!

 

てってれてっててーてって〜!!

『イズク6号・ガニメデ』〜!!」

 

「その言い方はやめなさい」

 

 

僕の忠告も聞かず、緑谷くんは興奮気味にそのボールを僕たちに見せる。

 

 

「僕特製の魚眼レンズ!撮影可能範囲は宮城がすっぽりハマっちゃうほど!

動力、容量ともにイズクジェネレーターを使用したことで、何億年間も撮影できちゃう!

更には欲しい情報を、十分にまとめて斡旋してくれる編集機能付き!」

 

「世の動画クリエイターに喧嘩売ってますね、ソレ」

 

 

僕がツッコミを入れるのを気にせず、緑谷くんはイズクテレフォンを操作する。

すると、ガニメデはふよふよと浮遊し、仙台の上空へと飛んでいった。

 

 

「あとは情報が入るまで待つだけです!

さ、牛タン食べましょう!」

「笹かまー!タンシチュー!」

「あっ、ビールいいですか?」

「君ら完全に旅行気分ですよね」

 

 

僕らはそんな談笑を交わしながら、牛タンが最も旨いと評判の店へと向かった。

 

 

「くそっ、全然見つからない…。

いったい何処に…?」

 

 

僕らの背後には、骸骨のような細身の男が、ぶつぶつと何事かを呟いていた。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「…せめて、遊んでる間は、忘れさせて欲しかった」

「仙台なんだから、仕方ないでしょう」

 

 

東北さんがうんざりした顔で呟く。

僕たちの目の前には、空になったずんだシェイクのボトル。

仙台名物といえば、ずんだは欠かせない。

緑谷くんたちは美味しく完食していたが、東北さんは格闘でもしてるのかってくらい険しい表情で飲んでいた。

 

 

「たまに飲むくらいならいいんですよ…。

でも、ウチは毎日出るんですよ…」

「文句垂れるくらいなら、自分でお菓子作ればいいでしょうに」

「気づいたら量産されてんですよ…。

 

タコ姉様なんて、この間ずんだの悪夢見てましたからね」

 

「「「ずんだの悪夢」」」

 

 

なんだそのパワーワード。

聞いたこともないような言葉に、僕たちは愚か未来人までもが目を点にする。

 

 

「美味しいから別にいいんです。

でも、たまにはもっと、こう、別のものが食べたいです」

「わかる。

僕とかっちゃんも、母さんたちがずん子さんに影響されて、一時期すっごい量のずんだ来たもん」

 

「あ、あの性格最悪ヒーロー志望とまだ付き合いあったんですね」

「例え腐れてても縁は縁。その縁は大事にすべき…って、先生の受け売り。

僕が考えて、かっちゃんと向き合うことも正しいなって思ったから。

かっちゃんは、『こっちくんなデク』って逃げてくけど」

 

 

なんでこの子は、こうも僕の涙腺に響くこと言うんだ!!

 

 

「うっわ…。珍し…。

水奈瀬先生、すっごい泣いてる…」

「すみません。緑谷くんがあまりに立派に育ったので、ちょっと泣いてしまいました」

「『ちょっと』とはいったい…」

 

 

僕は溢れ出す涙を乱暴に拭う。

この子はもう、誰に何を言われても立派に自分の道を歩んでいくんだろうなぁ。

いや、まぁ、ヴィジランテ活動は褒められたことじゃないけど。

 

 

「水奈瀬さんは教師なんですか?」

「ええ。小学校の教員をやってます。

この子たち除く子供たちにこぞって嫌われてるので、あそこら辺じゃ有名ですよ」

 

 

無論、悪い意味で。

僕がそう付け足すと、京町セイカは首を傾げた。

 

 

「…虚しくないんですか?

嫌われてる教師って」

「嫌われる覚悟なしに何かを成し遂げることなど、到底できませんよ。

それが人を育てることであれば、尚更ね」

 

 

「母親からの受け売りです」とだけ言うと、僕は空になったボトル四つを抱え、ゴミ箱へと向かう。

踵を返して数秒もしないうちに、僕は柔らかくも硬い壁にぶつかった。

 

 

「あっ…!?」

「…うわっ、マジですか」

 

 

緑谷くんと東北さんの少し狼狽した声が聞こえる。

まさか、敵だろうか。

僕が恐る恐る顔を上げると、そこには。

 

 

「おっと、すまないね!追っている敵っぽい影を見かけて、ちょっとよそ見しちゃってたよ!!」

 

 

「HAHAHAHAHA!!」と、白い歯を見せて笑う彼。

テレビでも、緑谷くんが昔着ていたシャツでもよく見た顔が、僕の頭上にあった。

 

 

「…あー…。緑谷くん、ここ代わります?」

「是非!!」

 

 

特段、彼の熱烈なファンというわけでもないため、ヒーローオタクの緑谷くんに譲る。

目の前の彼は「おっ!元気の良さそうな少年だなぁ!」とカムバック姿勢を見せていた。

 

 

緑谷くんが今現在、力強い握手を交わす男。

僕はその名を知っている。

 

 

「…先生。超有名なアイドルグループのトップとぶつかったようなもんですよ」

「イカツイおっさんに興奮する趣味はないので」

 

 

僕とぶつかったその男は、別名『平和の象徴』。

オールマイトが、そこにいた。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「ふひ、ふひひひ……」

「うっわ。緑谷先輩のこのモード、久々に見た気がする」

「気持ち悪いですねぇ」

「同感です」

 

 

トップヒーローのファンサービスを存分に受け取った緑谷くんが、これまた気持ち悪い笑顔を浮かべる。

持ち歩いてたグッズへのサイン、色紙五十枚分のサインなどに頬擦りするその姿は、気持ち悪いオタクそのものだ。

前世の僕はここまでひどく無かったが、似たようなものだったので、なんか恥ずかしい。

 

あの後、オールマイトは騒ぎになる前に、とっとと去ってしまった。

走るだけで風圧が巻き起こり、緑谷くんの癖毛がすんごいことになってた。

その後、「HOLY SHIT!!ネコだったー!!!」と聞こえた。

それでいいのか、No. 1ヒーロー。

まぁ、あんなバケモノ相手に神経過敏になるなと言う方が難しいか。

 

取り敢えず、本題に入るとしよう。

 

 

「緑谷くん。サインを喜ぶのはいいですが、今は偵察結果を見ましょう。

目的を忘れてはいけませんよ」

「あっ、すみません!

今出しますね。ちょっと、運転席開けてもらえます?」

 

 

緑谷くんに言われるがままに、僕は車から降り、彼に運転席を渡す。

イズクテレフォンからコードを伸ばした彼は、そのコードを車に差し込んだ。

 

 

「まず、偵察結果を確認する前に、ちょっと車いじってます。

すぐに元に戻しますので、ご安心を」

 

 

緑谷くんがそう断りを入れた瞬間。

僕の軽自動車の中は、異世界と化した。

事前に聞いてはいたが、やっぱりオーバーテクノロジーだよなぁ。

スタークインダストリーとかでも、ここまで行かないだろ。

それに慣れてきてる自分が一番怖い。

 

 

「緑谷さんって何者ですか…!?

このプロジェクター技術といい、あのアーマーと言い、未来でも最先端技術とされてるものばかりですよ…!?

この生体スキャニング装置で見ても、極々平凡な普通の無個性の人間ですよ!?」

「世界一の努力家…ですかね?」

 

 

作り変わっていく車の内装に、京町セイカが困惑気味に問うた。

東北さんの評価は、的を射ている。

天才というものは存在しない。ただの幻想。

知恵熱で倒れ、顔中から血を吹き出し、何度も何度も爆発…実験の失敗によるもの…をモロにくらって。

でも、しっかりと前を見据えて、一歩一歩着実に、それでいて駆け足で。

「天才」という頂きが存在する山を、緑谷くんが全力で登った結果だ。

 

 

「出ました。映像数…28件。

全てに特異生命体が映ってます。

そこから行動パターンを推測して、現時点での居場所を突き止めます。

先生、ノートパソコンお借りしても?」

「ほぼ君らの物でしょう。

好きに使いなさい」

 

 

緑谷くんに言うと、彼は僕のバッグからノートパソコンを取り出し、自分のバッグからも同型のパソコンを取り出す。

彼はその二つのキーボードを両手で弾き、車の中に作り出される異世界を、凄まじい速度で編集した。

 

 

「…?あれっ?どういうことだ…?」

「どうかしました?」

 

 

緑谷くんの声に、東北さんが後部座席から身を乗り出して問う。

緑谷くんは困惑気味にエンターキーを押し、車の中の異世界を作り替える。

 

 

「クライシスオーガを倒した後からずっと…なんでしょうか?

鎌倉山付近をウロウロしてます」

 

 

映し出されたのは、鎌倉山。

通称『ゴリラ山』とも呼ばれている。

 

 

「…仕草からして、なにかが来るのを今か今かと待ってるように見えます」

「じゃあ、そこに行けば…!」

「確実に遭遇できるかと」

「ここからだと遠いですね…。よし。

戦闘が控えてる緑谷くんは、ゆっくり休んで。あとは先生の仕事です」

 

 

僕は運転席に戻ると、パーキングブレーキを解除し、ギアを入れ、ハンドルを握った。

 

「日付が変わる頃に着きますので、その間、護衛を」

「わかりました!防衛用小型ドローン『イズク4号・カロン』を起動します!」

 

 

こういうのはガラじゃないんだけどなぁ。

でも、やらなきゃ盛り上がらない。

 

 

「秘密結社『一等星』の初陣です。

覚悟は出来てますか?」

「勿論です!」

「小学五年生に聞くことじゃないですよね。

ま、出来てますよ」

「私も役に立てるかはわかりませんが、頑張らせていただきます!」

 

 

一介の教師であるはずが、とんでもないことに首を突っ込んだものだ。

僕は笑みを浮かべると、アクセルを踏んだ。




仙台のイメージは、ペルソナ5スクランブルから取り入れてます。実際に行ったことがないので。

行きたいとは常々思ってるんですけどね。


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鎌倉山がダンジョンみたいになってんだけど、どゆこと?

恒例のサブタイトル通りです。

それでは、どうぞ。


午後11:45。

駐車場に車を置き、僕たちは特異生命体の居る鎌倉山へと向かう。

 

…ああ、ごめん。僕っていうのは、緑谷出久の方だ。

 

先生と東北さんは、車の中でお留守番だ。

彼らは個性があるわけでも、僕みたいにシリウスのような武器があるわけでもない。

最悪死んでしまうかもしれない場所に、可愛い後輩と恩師を連れていくほど、僕は愚かじゃない。

 

シリウスが使えない時の代わり…高速機動特化型のイズク3号・カノープス、潜入捜査特化型のイズク5号・アルデバランが先生たちを守っている。

 

 

「京町さん、別について来なくても良かったんですよ?」

「いえ!流石にお仕事を任せっきりにはしませんよ!」

 

 

言うと、彼女はバッグから小型のデバイスを取り出し、ボタンを押す。

すると、そのデバイスから、映画の中でしか見たことのないような重火器が飛び出した。

 

 

「この『セイカキャノン』を装備してる間、私はほぼ無敵ですから!」

「…なんだろう。すごく心配だ」

「なんでェ!?」

 

 

言っちゃ悪いけど、彼女が戦力として機能するかと問われれば、僕は答えを濁す。

彼女の底が見えてないからこそ言うのだけれど。

 

相手は加減したとはいえ、シリウスの攻撃を耐えうるような存在だ。

しかもまだ、本気を出してない。

最悪、シリウスが破壊されるかも知れない。

 

たとえ粉々になっても時間をかけて自己修復するからいいけれど、それに変わる武装は、今はない。

 

僕自身は極々普通の人間だ。

ヒーロー界の中でもトップクラスのタフさを誇るクライシスオーガを、たった一撃で倒した存在相手に敵うわけがない。

なんにせよ、気を引き締めておかなくては。

 

 

『…イズク様。前方、生体反応が二つあります。警戒を』

「わかった」

 

 

あれ?二つ…?

僕がそれを疑問に思っていると、その存在が全貌を表す。

そこに居たのは、熊と狼だった。

それだけなら、まだ「野生の生物か」と納得できた。

だが、目の前にいた熊と狼は、どう考えても歪だった。

 

 

「特異細胞に侵食されてますね。ああいう生命体は、超強いですよ」

 

 

肉塊やら筋繊維が剥き出しになり、骨が歪に蠢く動物。

直視すれば吐き気を催すような存在が、僕たちの目の前に立っていた。

どのくらいの強さかは分からないが、とにかく殺さないようにしないと。

僕の力は、倒すためじゃない。救うためにあるのだから。

 

 

「妙なことは、考えない方が良いですよ。

狼と熊に超ヤバいネームドヴィランとか、No.10くらいのヒーローの個性と技術がくっついたと思ってください」

「…なるほど。ありがとう」

 

 

まずはジェネレーターを温める傍ら、この子たちを助けよう。

さっさと気絶させて、特異細胞とやらを引き剥がしてあげないと。

 

 

「京町さんは手を出さないで。

僕がなんとかするから」

「え?」

 

 

そういえば、ヘーパイストスの武器庫を試したことがなかった。

相手が獣だから、弓矢とかでいいかな。

 

「MESSIAH、弓矢はある?」

『はい。麻酔用兵器「アルテミス」を起動します』

 

 

僕が言うと、手のひらから粒子が放たれ、それが弓矢の形となった。

僕がそれを構えると共に、二匹の獣が僕へと迫ってきた。

 

 

「ちょっ、危ないですよ!!」

「大丈夫だよ。

 

 

僕はヒーローだ」

 

 

 

僕の中の、だけどね。

心の中でそう呟くと、僕は二匹の獣の顎を蹴り、脳を揺らす。

身体中に巡らせておいて良かった、治療用ナノマシン。

体が固いせいで、確実に股関節外れたけど、すぐに治った。

気を失いそうになりながらも向かってくる獣に、僕は手に持った弓からエネルギーを放つ。

 

 

「ごめんね」

「キャウン!?」

 

 

僕が放ったエネルギーが、狼に着弾する。

貫きはしない。

ただ、神経電流を一時的にイカレさせる信号を電気信号にして打ち込んだ。

僕が治療しない限り、1日は動けない。

 

 

「グァァアっ!!」

「君も、寝ててくれ」

 

 

その爪を僕に振り下ろそうとする熊に、零距離でエネルギーを放つ。

熊と狼が同時に地面に崩れ落ちる。

僕は手のひらから治療用ナノマシンを出すと、二匹の獣に侵入させた。

 

 

「何してんですか?」

「変異した原因の細胞とかを根こそぎ取り除いて、侵食された部分を元の細胞そっくりのものに置き換えてるんだ。

あと三十秒くらいで元に戻るよ」

 

 

このナノマシン、量産を簡単にするための設備を揃えるのに随分と苦労した。

ジャンク品からどんどん発展させた僕のラボは、自慢になってしまうが、世界一の研究施設なのではないだろうか。

 

 

「よし。治った。…っとと、焼却っと。

さぁ、行っといで!」

 

 

剥がれ落ちた肉片をレーザーで焼き、元に戻った熊と狼をそれぞれ別の方向に逃す。

 

 

「強く生きるんだよー!」

「……すごっ」

 

 

よし。気を引き締めて、特異生命体の居るであろう奥へと進もう。

狼と熊を見送った僕たちは、舗装された道を通り、山頂を目指す。

 

 

「し、SHIT…!もうあとは、ここだけ…!

ここに居なければ、また明日、1から探し直しだ…!!」

 

 

僕もMESSIAHも、麓から離れていたから気づかなかった。

あるヒーローが、間の悪いことにこの山に訪れていたことに。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「先生、先生」

「んむ…。どうかしましたか、東北さん」

 

 

東北さんの声に、仮眠を取っていた僕はアイマスクをあげる。

何か緊急事態が起きたのか、それとも下らない話なのか。

寝起きのせいで霞む視界で見える彼女の顔は、よくわからなかった。

 

 

「ヤバいです。

ガイコツみたいな不審者…ってか、オールマイトが今さっき、この山に入りました」

「はぁっ!?」

 

 

投下された爆弾に、僕は一気に目が覚めるのを感じた。

寝耳に水というより、熱湯かけられたみたいだ。

 

 

「いや、あの人確か、大怪我してて力衰えてんでしょう?

計算上では、軽く大陸を砕くくらい強いアレ相手に勝てるんですか?」

「いや。全盛期のオールマイトどころか、ラスボス枠のオールフォーワンだろうと、負けると思います」

 

 

…厄介な状況になった。

いくらプロヒーローのトップとはいえ、拳の風圧で上昇気流を起こし、雨を降らせるだけのパワーしか持たない怪我人。

それだけでも十分だと思うが、流石に相手が悪すぎる。

 

止めようにも、僕たちは無個性。

さらに言えば、緑谷くんのシリウスのような、大した力を持っていない。

 

 

「どうします?カノープスとアルデバランを向かわせますか?」

「緑谷先輩の命令しか聞きませんよ。

私はフレームの開発に携わった程度で、大部分は緑谷先輩の管轄でしたから」

「…ですよね」

 

 

全く、僕も見通しが甘かった。

トップヒーローが、トップヒーローに近い若人を潰した相手を、虱潰しに探し回らない筈がなかったのだ。

…いや、待てよ。

 

 

「そもそも、なんでアイツはクライシスオーガと京町セイカを襲っただけで、この山に引き篭もったんでしょう?」

 

「え?」

 

緑谷くんとの戦いの時に見せた、一瞬でビルの奥へと消えた、あの機動力。

計算が苦手な僕でも、流石にわかる。

アレはその気になれば、日本中を駆け回り、大量殺戮を為し得ていたに違いない。

 

だというのに、アレがやったことと言えば、京町セイカを守った緑谷くんとの交戦と、クライシスオーガの撃破のみ。

それに…。

 

 

ーーーーーー見つけましたよ、時空監視員。

 

 

あれは最初、京町セイカを狙っていたはずだ。

だと言うのに、京町セイカを探し回るという行為すらしていない。

傷を癒す必要があるかもと考えた。

しかし、シリウスに殴られて、あれだけ動けるのだ。

緑谷くんに対して再戦を臨むわけでもないのなら、その必要もないだろう。

 

 

「…アレにも、何か別の目的が存在するのかもしれません。

東北さん、緑谷くんに連絡は出来ますか?」

「はい。私専用のイズクテレフォンでなんとか…」

「では、二つ。『相手にはその場所に目的がある』、『あなたたちの後ろにオールマイトが居る』と伝えて…」

 

 

その時だった。

鎌倉山の頂点付近の雲が、一気に吹き飛んだのは。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「……来ましたか。

ここで待っていて正解でした。侵入者も、思ったより少なかったですし」

 

山の頂上。

『私』はようやく出来た肌を馴染ませるように、ぐっ、と拳を握る。

 

「待ち焦がれていましたよ。

我ながら、恋する乙女のようです」

 

あの肉壁は便利だが、壊されるか抜け落ちるまで皮膚が戻らないのがネックだ。

 

ーーーーーー死ねよ、バケモノ。

 

ーーーーーーこいよ、バケモノ!

 

くくっ、と声を漏らし、私は溢れる感情を溢すかのように笑う。

 

 

「早く来てくださいね。ヒーロー」

 

 

ああ。楽しみだ。

漸く私は救われる。




カノープスとアルデバランは、シリウスのような超火力は積んでません。


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紲星あかりって、こんな強かったっけ?

サブタイトル通りです。


頂上に着いた。

ここに来るまで、幾度か戦闘を繰り返したが、消耗する必要のない相手で良かった。

 

 

「京町さん、お疲れ様。

結構、戦えたんだね」

 

 

僕は京町さんに労いの言葉をかける。

彼女は褒め言葉に反応してか、その恵まれた体で胸を張り、えっへんと口に出す。

 

 

「そりゃそうですよ!

時空監視員の募集要項には『戦闘技術』の項目もあって、私、トップだったんですから!

筆記は最下位でしたけど!」

「……」

 

 

それ、なんの自慢にもならないんじゃ?

聞けば、戦闘能力の高さだけで、今の職に就いてるらしい。

残念な人だとは思ってたけど、ここまで残念だとは…。

 

 

『イズク様。防御を』

 

 

MESSIAHの指示に従い、ナノマシンを集結させて防壁を作る。

その間わずかコンマ1秒。

1秒後には、その防壁が轟音と共に凹んでいた。

 

 

「きゃあ!?」

『イズク様、狙いはあなたです。

京町セイカを、あなたのそばから離れさせることを推奨します』

「京町さん、ごめん!」

「ちょっ、なぁああっ!?」

 

 

ナノマシンを放出し、彼女を先生のいる麓へと戻す。

と同時に、防壁が粉々に砕け散った。

イズクメタル製のそれを砕いた影を見て、僕は目を見開く。

 

 

「先日ぶりですね、ヒーロー」

 

 

この間の、皮膚が全て無かったはずのバケモノは、そこにはいなかった。

シワひとつないきめ細かでいて、しっとりとした麗しい肌。

活発そうな印象を受ける、淡麗な顔立ち。

腰まで伸びた白い髪を二つ結びの三つ編みにして、ぷらぷらと遊ばせている。

だが、放つ気配はこの間のものと全く同じ少女が、そこにはいた。

 

 

 

何故か全裸で。

 

 

 

「…とりあえず、服着たら?」

「…?ああ、そうでした。

肉壁は難しいんですよね…。

まだ調整が荒っぽいせいで、皮膚ごと服が弾け飛ぶ」

 

 

全く不便な、と愚痴を零しながら、彼女は目を瞑る。

瞬間。彼女の髪の毛の一部が解け、彼女の体を彩る服と化した。

そういう個性かとも思ったが、違う。

 

 

シリウスが示すこの結果は、個性ではない。

 

 

個性因子の働きを無効化する超音波と電磁波の最中、個性が使える訳がないのだ。

彼女のソレは、ただの『生態』だ。

抜け落ちた体の一部を別の形で再構築するという、僕たちとは根本的に違う生物。

 

 

「どうです、ヒーロー?

中々に良いデザインでしょう?」

「ごめん。僕、女の子の服の趣味とか分からないんだ」

「うーわ。モテないタイプでした…か!!」

 

 

彼女の拳が、僕に迫る。

威力は計算して、オールマイトのフルパワーの1.5倍。

全くの予備動作無しで放たれたソレに、僕は驚く暇もなかった。

 

 

「っ、ジャスティスブロウ!!」

 

 

それを迎え撃つべく、僕はその拳を打ち消すように、拳を放った。

 

瞬間。轟音と共に、空の雲が吹き飛んだ。

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「…コレ、紲星あかりですよね?」

「…ですね」

 

 

ノートパソコンに映る、シリウスのメインカメラの映像。

緑谷くんと戦うその存在は、僕と東北さんにとっては既知の存在だった。

 

6人目のボイスロイド。

 

それが、僕たちの追っていた特異生命体の正体だった。

東北三姉妹はまだだが、水奈瀬コウ、京町セイカ、そして紲星あかり。

ここまで重なれば、いやでも悟ってしまう。

 

 

 

僕たちボイスロイドは、望む望まないに関わらず、この世界を大きく変えてしまう存在だ。

 

 

 

「…紲星あかりに、こんな設定ありましたっけ?精々、大食いくらいでしたよね?

なんでこんなアイアンマンの三作目みたいなことになってんですか?」

「なんにせよ、この世界で、とんでもないことが起きてるのは確かですね」

 

 

未来含めて。

僕が言うと、東北さんは「あ」と声を漏らした。

 

 

「どうかしましたか?」

「戦いと考察に夢中になって、完全に忘れてました。

オールマイト、どうするんですか?」

「あ」

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「……OH、MY…GOD…」

 

私は今、信じられないものを見ている。

世間を騒がせているヴィジランテの一人、『SAVER』。

あの無機質な存在が、ただの少女と戦っている姿。

側から見れば、ヴィジランテの一人が、女の子に襲いかかってるようにしか見えない。

だが、長年培ってきた勘は、ひどく煩く私に叫ぶ。

彼女が、彼女こそが、オーガの仇なのだと。

 

 

「凄い!凄いですよ、ヒーロー!

私の攻撃で倒れないって、初めてです!」

「そりゃ、どう…も!!」

 

 

一撃一撃が、私の全力を超えている。

私の伸びた髪が、彼らの放つ拳が激突したことにより発生した風で揺れる。

目の前に広がる光景は、世界の終わりかと見まごうほどの破壊の嵐。

 

 

「ジャスティスラッシュ!!」

「おお!連打ですか!なら私も!!」

 

 

私が真っ先に感じたのは、危険。

SAVERも少女も、この社会を簡単に崩壊させることの出来る力を持っている。

今、ここで止めなくては危険だ。

だが、あの拳の嵐に私が入ってどうなる?

久しく感じていなかった命の危機に、心臓がバクバクと動く。

 

 

…ん?待てよ?

 

 

ふと、私は違和感を感じ、周りを見る。

そこには、私が先ほど通ってきた道が、そのまま変わらず佇んでいる。

周りを見ると、景色が全く変わっていないことに気づいた。

 

 

「…どういう、ことだ…?

あれだけ激しく戦っているにもかかわらず、破壊の跡が一切ないぞ…!?」

 

 

私は思わず、彼らの戦いに目を向け、そして見た。

彼らの攻撃が、「互角の力」によって打ち消されることで、風圧のみを発する結果になっていることに。

私に迫るタフさを誇るクライシスオーガを、一撃で倒した少女の拳。

その攻撃を、彼は打ち返すのではなく、ただ打ち消していたのだ。

 

 

「とっくに気づいてますよ。手加減なんてしてたら、すぐ死んじゃいます…よ!!」

「ぐぅっ…!?」

 

 

びしり。

彼の拳に亀裂が走った。

少女の拳が…それもノーモーションではない、本気で踏み込んだ拳が、彼へと迫る。

 

 

「MESSIAH!エネルギーの供給速度と計算速度を3倍に上昇!

エレメンタルカセット『BURST』を装填!

全力でぇ…、迎えぇ、撃ぅうつっ!!」

『了解』

 

 

瞬間。彼の拳の亀裂が瞬く間に消え、拳と拳が激突する。

凄まじい風圧が私に襲いかかる最中、SAVERの体が変化していくのを見た。

人としての形は保っている。

だが、丸みを帯びていたスマートなボディは何処へやら、やけに刺々しい装い。

 

 

「シリウス…BURST STYLE…!」

 

 

身体中にある噴出口から、凄まじい蒸気が溢れ出す。

いや、蒸気だけではない。

何かのエネルギーなのか、緑の炎がゆらゆらと彼の体に纏わりついていた。

 

 

「ジャスティスゥ、バーストォ…ブゥウロォォォォォォオオオオオッッッ!!!」

 

「きゃはっ!その調子ですよぉ、ヒーローォオ!!」

 

 

一瞬の静寂。

数秒遅れてやってきた衝撃波は、痩せ細った私の状態では耐えられない。

 

 

「ぐ、ぬぅ…!?」

 

 

踏ん張る暇も無いほどの、凄まじい風の暴力。

風圧で目蓋が落ちそうになる中、私は必死に彼らの隙を窺っていた。

 

「よっと…。おー、痛い痛い。

流石だ…と褒めておきましょう。

 

 

 

人工的に生み出された個性因子と、人工的に生み出された自己修復細胞の結合によって生まれた私ですらも超えますか」

 

 

 

 

「「……は?」」

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「京町セイカ。聞いた情報と全く違うんですが、どういうことですか?」

 

 

ナノマシンで麓に帰ってきた京町セイカに、先ほどの映像を見せる。

何が突然変異だ。

彼女の言葉から察するに、紲星あかりは、『人工的に作られた生命体』だ。

虚偽の情報を教えたのか、と問うと、京町セイカはぶんぶんと首を横に振った。

 

 

「いや、私も知りませんでしたよ!?

ただ、『ヤバい特異生命体が居るから捕獲しろ』って言われただけで!!」

「…所詮は組織の末端。ロクな情報を持ってるとは限りませんでしたか」

 

 

僕は言うと、シリウスのメインカメラに映る彼女の顔に向き直る。

 

 

「彼女は君と同じ時代から来た。

それは間違いありませんね?」

「は、はい。私が通ったタイムゲートは、アレが装置で起動したヤツだったんで、同じ時代出身ですよ。

あっ、でもっ、人工的に個性を作るとか、そういう技術なんてないですよ!?」

「君が知らないだけで、存在するんでしょう。

こちとら、世間に隠したオーバーテクノロジーには慣れっこなんでね」

 

 

慣れたくなかったけど。

あれだけの超兵器を、極々平凡な家庭に生まれ、死に物狂いで学んだだけの中学生が作れるような世界だ。

未来であれば、電子工学系専門の彼とは別分野のオーバーテクノロジーが存在していても、なんら不思議じゃ無い。

 

 

「…あれ?」

「東北さん、どうかしましたか?」

 

 

ーーーーーーなんで、個性を人工的に作る必要があったんでしょう?

 

 

僕が首を傾げると、東北さんは続けた。

 

 

「いや、今の時代で強個性持ちって、出生率が増えてますよね?」

「…まぁ、超常黎明期から結構経ってますからね」

 

「逆に、無個性の出生率って、年々減ってきてますよね?

 

私の代で、全体の僅か8%。

セイカさんの生きてる時代じゃ、淘汰されてる可能性が高いです。

 

逆に、強個性は出生率が増えていて、尚且つより強大になってきている…。

それこそ、あるだけで世界が崩壊するような個性があってもおかしくない。

だというのに、人工的に個性を作る必要がある…?」

 

 

はて、妙だ。

東北さんの言う通り、年々無個性の出生率は減ってきている。

無個性同士の親から生まれた子供でさえも、個性を持って生まれるような時代だ。

それから数百年経ち、文明が衰えていない京町セイカの時代に、個性を求める必要はないはず。

 

 

「セイカさん。あえて聴きます。

あなた、個性ありますか?」

 

 

 

「あ、はい。ありましたよ。発現して、すぐ消されましたけど」

 

 

 

消された?

一体どう言うことだ…?

僕たちが首を傾げると、彼女は不確かな記憶を探るように、ポツポツと語り始める。

 

 

「ある英雄が『個性は危険物だ』と世に知らしめたのが、五百年前でして。

それから、人間全員に『個性因子を消す』ことが義務付けられたんです。

 

因子を消す機械…ナノマシンでしたっけ?なんか、ソレがかなり昔の遺跡から見つかって、普及して。

その詳細は、私の生きる時代でも不明だっていう話は有名ですよ」

 

 

……あ。

 

ふと、先ほどの光景が甦る。

…成る程。そういうことか。

 

 

「……緑谷くんにメッセージを送信してください」

 

 

 

おそらくだが、緑谷くんも結論にたどり着いたことだろう。

僕のこの言葉が、彼に届きますように。

そう願いながら、東北さんが送信ボタンを押す音を聞いていた。




答えの一つ。「京町セイカに与えられた情報が正しいとは限らない」でした。組織の末端ですからね。


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緑谷出久こそがヒーローなのである。

サブタイトル通りです。
彼がずっと「自分がヒーローだ」と言っていたのは、ある種のオマージュと戒めです。

先生は本当に出番が少ないです。

先生「キレそう」


人工的に個性を作る。

僕が思いつかなかった道であり、僕が選ばなかった道。

その道の成れの果てが、僕の目の前に立つ女の子。

 

 

「西暦3015年。人工的に、尚且つ科学的に作り出された個性因子…『セルフギフト』。

それを医療用の自己修復細胞に結合させ、生まれたのが私です」

「セルフ、ギフト…?」

 

 

彼女がそう語ると共に、僕の腹に蹴りを繰り出す。

ナノマシンを密集させ、使い捨ての防壁を作り出し、それを受け止める。

彼女は僕の追撃を嫌ってか、すぐに距離を取った。

 

 

「つまり、私の存在自体が『個性』であり、『生物』なのです。

個性因子の働きを打ち消しても無駄ですよ。

私の細胞ひとつひとつが、個性因子が結合し、性質が変化した特殊細胞ですから」

 

 

瞬間。彼女の指から、熱線が放たれた。

まずい。避ければ麓の街が消し飛ぶ。

ナノマシンで防壁を作り、その熱線の軌道を空へと逸らす。

防壁が消えた先には、融解したアスファルトがあった。

 

 

「…っ!?いったい、どういう…!?」

「セルフギフトは、自然発生した個性の規定には当てはまりません。

セルフギフトは『個性因子そのものに置き換わる存在』。

 

 

要するに、『想像した個性を自由に扱える』んですよ」

 

 

「っ、ンなデタラメな…っ!?」

 

 

個性の強大さは、無個性の僕が一番よく知っている。

世間一般で言う、弱個性の一つでも厄介だというのに。

未来の人間は、どういう意図でこんな物騒な物を作ったんだ!?

 

 

「こんなのは、どうですか?

『国ひとつ焼き尽くせる炎の個性』と、『火がそばにあるだけで、核爆発並みの大爆発を起こす個性』」

 

 

 

いくらなんでも、デタラメが過ぎるだろ!!

 

 

 

まずい。

シリウスの耐久度なら痛くも痒くもないけど、このままじゃここら一帯が消し飛ぶ。

彼女の放つ炎と光が合わさる前に、僕は声を張り上げた。

 

 

「MESSIAH!!隔離フィールド展開!!」

『了解。範囲設定は?』

「半径十メートル!!他の生物を押し出す形で展開して!!」

 

 

大規模な被害を阻止するためのフィールド。

遮断性のバリアによって構築されたそれが、僕と彼女を覆う。

瞬間。メインカメラが爆炎に覆われた。

 

 

「…おぉ。すごい。これで融解してないとは、流石は隕石もへっちゃらな特殊合金。

じゃ、この『想像した破壊兵器を生み出す個性』でお相手しましょう」

「っ、フィールド拡大プラス硬度最大まで強化!!半径五百メートル!!」

 

 

フィールドを最大まで拡大し、迎え撃つ準備をする。

何か「どわぁ!?」って悲鳴と激突音が聞こえた気もするが、気にしてる余裕がない。

彼女が武装を生み出すと共に、僕もヘーパイストスの武器庫から武器を召喚する。

さらにイズク2号…ペルセウスを分解し、シリウスに装着させた。

…正直、これを出す事態にはなって欲しくなかった。

 

 

「武装、『オーディン』…。

…BURST STYLEと、ペルセウスが合わさった状態でのこの武装…。

使う機会なんて無いと思ってたけど…」

「へぇ…。これなら、イケそうですね」

 

 

彼女が言うと、禍々しい装飾の鎌が、手のひらから形成される。

MESSIAHの計算によれば、一振りで大地に亀裂が走るほどのエネルギーを秘めている。

あの馬鹿力で振り下ろされたソレをモロにくらえば、最悪シリウスが破壊される。

イズクジェネレーターのエネルギー供給速度をさらに引き上げ、槍を構える。

 

 

「行きますよ、ヒーロー!!」

 

「……来い。僕が、ヒーローだ!!」

 

 

鎌と槍が激突する。

エネルギーとエネルギーのぶつかり合いで放たれた雷が、地面を抉りとる。

力のぶつかり合いを制したのは、僕だった。

 

 

「ジャスティス…グン…グニル!!」

「そのダサい技名、なんとかなりません?」

 

 

が。僕の刺突は、空ぶった。

 

 

「この時代の週刊誌なら、『噂のヴィジランテ、謎の生命体に敗れる』…とでも書かれそうですね」

「かっ……!?」

 

 

彼女の蹴りが、防壁なしの僕の腹に突き刺さる。

僕が吹き飛ぶのを待たず、地面が融解するほどのエネルギーを放出しながら、彼女が僕に迫る。

 

 

 

「これで、救われる」

 

 

 

彼女がそう言って、鎌を振り下ろそうとしたその時。

 

 

「勉強、不足だったね…。

グングニル、はァ…、相手をォ…っ、必ずゥ…、射抜ぅうううくっ!!!」

「なっ!?」

 

 

僕の手が、勝手に動いた。

槍が彼女の掌を貫く。

これが武装『オーディン』の機能の一つ、『グングニルシステム』。

相手に確実に当たる時に、骨が折れていようが、無理やり僕の体を動かすシステム。

怪我はナノマシンで即座に治せる。

 

 

「…ちっ。素直に死んでくださいよ…。

でないと、私は…」

「…さっきから、何を言ってる…?」

 

 

ポタポタと滴が滴り落ちる。

彼女の掌が、不快な音を立てて元に戻った。

 

 

「ああ、言ってませんでした?

私、この時代で救われに来たんです」

 

 

救われに…?

僕が疑問に思ったのを悟ったのか、彼女はにっこりと笑って答える。

 

 

 

ーーーーーー私、死にに来たんです。

 

 

 

………は?

 

彼女の言葉に、目を丸くする。

言葉すら出ず、僕の舌がちろちろと前歯を舐めているのがわかった。

彼女は鎌をその場で振り下ろし、斬撃をエネルギーとして飛ばす。

僕は咄嗟に、槍でそのエネルギーを打ち消した。

 

 

「最初は、死ぬつもりなんてありませんでした」

 

 

僕のその隙を突き、鎌を振りかぶる。

僕は咄嗟にヘカトンケイルを起動させ、その柄を掴み、投げ飛ばした。

 

 

「『強個性』も、『弱個性』も、『無個性』もありふれていて、平穏に生きている。

そんな歪な時代で、『普通』に生きてみたかった」

 

 

先ほどよりも高威力の熱線が、僕へと迫る。

バリアを生み出すことでなんとか逸らすも、ガラ空きになった脇腹に蹴りが放たれた。

 

 

「個性そのものである私を、『普通』として扱ってくれる世界。

この時代はそういう時代だと思って、脱走してきたんです。

 

最初にあなたを襲ったのも、あの京町セイカとかいう時空監視員を追い帰すためでした。

まぁ、あなたに肉壁をぶっ壊されて逃げたわけですが」

 

 

彼女の言葉に区切りが付くとともに、僕の体に衝撃が走る。

 

 

「『個性撤廃社会』の負の遺産…。

個性型軍事生体兵器『紲星あかり』が、普通に生きられる世界…だと思ったのに。

あのクライシスオーガ…でしたっけ?

アイツ、私とばったり遭遇した時、なんて言ったと思います?」

 

 

 

ーーーーーーバケモノって言ったんですよ。

 

 

 

 

ぞっ。

 

あの目。先生が道徳の授業で怒った時と似ている。

個性…セルフギフトとやらを使ってるわけじゃない。

ただの殺意だけで、こんなにも大きく感じてしまうのか。

 

 

「怒りで前がぐちゃぐちゃになって。もう、どうでも良くなって。

自殺しようかなって思ってた、その時でした」

 

 

 

ーーーーーーヴィジランテ『SAVER』のニュースを見たのは。

 

 

 

濃密な殺意が、僕に襲い掛かった。

 

 

「いやぁ、最初に会ったときは、京町セイカに夢中で気付きませんでしたよ。

まさか、この時代に『個性撤廃社会の礎を築いた人間』が居たなんて…。

あなたにまた会いたくて、私はこの分かりやすくて、尚且つ人を払いやすい場所で、あなたを待つことにしたんです」

 

「なんの話だ?」

「惚けないでください。

治療用ナノマシン…これを知らないなんて言わせませんよ」

 

 

イズクメタルと同じパターンか。

なんにせよ、僕が築いたもの全てが、彼女の時代においては普及しているのだろう。

でも、なぜここで治療用のナノマシンが出てくるのだろうか。

 

 

「あのナノマシン…細胞の一つ一つの除去が可能なそうですね?

その気になれば、『個性因子の切除』も可能だとか。

実はそのマシン、未来じゃ超重要になってるんですよ」

「………まさか」

 

 

いや、待て。

考えるな。僕がやってたことが、こんな…。

 

 

「未来では、個性因子の切除が義務付けられています。

でも、個性の強大さを知った人類が素直に従うでしょうか?」

 

 

こんな…。こんな…!

 

 

 

ーーーーーーあなたのせいなんですよ。私が生まれたの。

 

 

 

 

こんな、残酷な未来に繋がってるなんて…!

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

「…バイタルから見て、緑谷先輩の心が折れました。

折れることはないって思ってましたけど…」

 

 

東北さんが、絞り出すように言う。

彼の心は強靭だ。それこそ、ちょっとやそっとじゃビクともしない。

だが、自分が「悪を生み出した」という事実を目の前にすれば、話は別。

ヒーローである彼にとっては、辛い事実だったろう。

 

 

「…彼はまだ中学一年生。折れることだってあります」

「だ、大丈夫なんですか…?助けに行った方がいいんじゃ…」

 

 

京町セイカがおろおろとした調子で、僕に問いかける。

東北さんも同じ思いなのか、僕をただ、じっと見つめていた。

 

 

「先ほど送ったメッセージを、強制的に開かせるだけで十分です」

「…それだけ?」

「大丈夫ですよ」

 

 

 

ーーーーーー彼は君たちが心配するような、立ち上がれない人間じゃない。

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

絶望のあまり、全身から力が抜ける。

僕がヒーローを目指すことが、彼女を生み出した。

しかも、生体兵器?

冗談じゃない。僕の科学は、僕の努力は、そんなことのために積み重ねたわけじゃない。

 

 

「だから、あなたを殺して歴史を変えます。

個性という兵器に生まれ、なにもかもに縛られた私が生まれない…そんな素晴らしい未来に」

 

 

そうか。

彼女もまた、自分らしく在ることが許されなかった人間なのか。

彼女が鎌を振りかぶる。

 

 

 

ーーーーーーぼ、僕だってヒーローを目指してもっ…!

 

 

 

ーーーーーーあぁん!?クソデク!!いい加減夢見るのやめろよ、むこせーが!!そういう態度が一番ムカつくんだよ!!

 

 

 

僕が、僕のような人間を生み出していたなんて、笑えてくる。

 

 

 

ーーーーーーこの力で、僕も最高のヒーローを目指せます!

 

 

 

なにが、なにが「最高のヒーロー」だ。

彼女が鎌を振り下ろそうとする。

そうだ。抵抗するな。僕がやってたことの責任は、ちゃんと…。

 

 

 

 

『君は誰ですか?』

 

 

 

 

ふと。シリウスのディスプレイにメッセージが浮かぶ。

届いた時間からして、僕が戦いにMESSIAHの機能を回していたから、見る暇もなかった。

僕が誰かって…?

 

 

「…しっかりしろよ、僕…!!」

 

 

ああ、そうだ。忘れちゃいけない。

言ってたじゃないか。

 

 

「さようなら、偉大なる男」

 

 

彼女の鎌を、右手で受け止める。

ざくり。

シリウスの防壁を抜けて、僕の右手が切り裂かれる。

まだ千切れてないだけマシだ。

痛みで泣くな。未来の絶望に屈するな。

自分に言い聞かせるように、僕は口を開く。

 

 

「前をっ、見ろォ!緑谷出久ゥウっ!!」

 

「…諦めると思ってたんですがね」

 

しっかり、彼女の顔を見ろ。

あの悲しそうな顔。あの苦しそうな顔。あの悔しそうな顔。あの辛そうな顔。あの絶望し切った顔。

良く見ろ。彼女を、しっかりと。

 

 

 

「目を、逸らすっ、なァ…!!

僕が助けるっ、人間をォ…しっかりとォ…、見ぃ、ろォォオ…!!」

 

 

「……は?」

 

 

彼女がぽかん、と口を開ける。

その隙を突き、僕はその鎌を握りつぶした。

 

 

「…っ、一体、どういう…?」

「もう、我慢しなくていい」

 

 

カセットを『BURST』から、『TANK』に。

『オーディン』の槍を分解して、僕の全身に纏わせる。

攻撃は捨てろ。今は、彼女を受け止めろ…!

 

 

「存分に泣いていい。存分に怒っていい。

大丈夫。僕が、全て受け止める…!」

 

 

 

 

 

ーーーーーー僕がヒーローだ。

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

なんだ、コイツは。

目の前に立つ、私を生み出した原因とも言える男の姿が変化していく。

 

なにがヒーローだ。

怒りが膨れ上がるのがわかる。

お前のその遊びが、私を生み出したんだぞ。

その反省もせず、なにがヒーローだ!!

 

私の考えうる限り、最大最強の個性を作り出す。

 

 

「…『宇宙創生並みの爆炎を起こす個性』」

 

 

もういい。この星ごと焼き尽くして、歴史を終わらせる。

私の掌で、炎が燃え盛る。

これを放てば、この世界が終わる。

私は怒りのままに、その炎をヒーローを名乗るクソ野郎に向けて放った。

 

 

「最終防衛プログラム、起動!!」

 

 

無駄だ。私のこの炎は、この星を塵一つ残さず焼き尽くす。

すぐに消炭になるだろう。そう思っていた、その時だった。

 

 

「………は?」

 

 

私の炎が消えたのは。

あまりの驚きに、私は目を擦り、もう一度ヤツを見る。

ゴツゴツとした無骨な鎧に、背から形成された、幾千もの腕。

その掌の一つ一つには、彼の胸にある物と同じ光が宿っている。

 

 

「イズクジェネレーター最大出力を一万個。

どれほど大きな怒りだろうと、受け止めてみせる」

 

「…っ、どこまでも私をイラつかせますね、貴方はァ!!」

 

 

叫ぶと共に、拳を握る。

 

 

「『拳だけで全てを破壊する個性』!!」

 

 

殺す。この人間だけは、この男だけは、私が殺さないといけない。

 

 

 

ーーーーーーやった!勝ったぞ!流石は個性兵器!!彼女は我らのヒーローだ!!

 

 

 

ーーーーーーうるさいなぁ。頭がお花畑な君にも分かりやすいように言ってやる。

要するに、君は用済みなんだ。安心して死ねよ、バケモノ。

 

 

 

あんな悲しい世界を作り出したコイツは、絶対に殺さなきゃ。

私が拳を振るう。彼の腕の一つがそれを受け止める。

 

 

 

「…出せよ、声。

僕が全部受け止めるって言ってるんだ」

 

 

 

がちゃり。

彼の仮面が脱げる。そこには、そばかすが目立つ地味目の男の子が居た。

 

 

 

「辛いとか、苦しいとか、全部を受け止めて、認めてやる…!

だから…っ、全力で叫べよ…!!」

 

「なにも、何も知らないくせに!!」

 

 

 

くそっ。なんで。なんで笑ってるんだ。

 

 

 

「こんな体に生まれたくなかった…!!

 

普通に可愛いお洋服やお化粧で、目一杯お洒落して!!

 

普通に美味しいご飯をお腹いっぱい食べて!!

 

普通にぐっすり寝て、普通に起きて!!

 

普通に好きな人と恋して、結婚して、子供産んで!!

 

普通にお母さんになって、普通に孫の顔を見て!!

 

普通な人生を送って死にたかった!!」

 

 

 

許さない。許さない!!

私を普通に産まなかった世界を作ったお前を、私は絶対に許さない!!

 

 

 

「なにがヒーローだ!!

 

私を拒絶する奴らが、そう言われて称賛されてるのが心底ムカつく!!

 

お前もそうだ!!私をこんな体に産んだ世界を作ったのに、なにがヒーローだ!!」

 

 

拳を何度も振り下ろす。

もう個性なんて関係ない、ただの私の拳。

それだけでもバケモノと言われた私の拳を、彼はただ受け止めた。

 

 

 

「…君。本当は生きたいんだろ」

 

 

 

…………は?

 

拳が止まる。

コイツ、今、なんと言った?

体が震える。じわじわとヤツの言葉を理解するたび、気持ち悪い感覚が、私の胸をざわめかせた。

 

 

「君は、死ににきたんじゃない。

受け止めてくれる人を探しにきたんだろ。

ヒーロー飽和社会のこの時代に」

 

 

「……うるさい」

 

黙れ。それ以上言うな。

 

 

 

「僕のスーツ…シリウスを、個性でハッキングすることもできたはずだ。

そうしないってことは、期待してたんだろ」

 

 

 

「…………うるさい」

 

もう、何も言わないで。

 

 

 

「でも、君は兵器という境遇から、こう思ってたんじゃないのかい?

『私を助けてくれるわけがない』って」

 

 

 

 

「……………うるさい」

 

うるさい。くそっ。なんで。なんで…。

 

 

 

 

「だから、歴史を変えて死ぬことを『救い』だと思った」

 

 

 

 

「………………もう、やめて」

 

なんで、コイツは…。

 

 

 

「大きな声で言ってみてよ。

『助けて』って。

僕が、君の全部を受け止める」

 

 

 

 

この人は、私の渇望したものが分かるんだ。

 

 

 

 

「…助けてよ…。

 

助けてよぉ!!

 

 

人殺ししかさせてもらえなかった世界から、私を連れ出してよ!!

 

私に、普通を教えてよぉ!!!

 

なんで、なんで誰も助けてくれないの!!!

 

こんなに苦しいのに、こんなに悲しいのに、こんなに辛いのに!!!!

 

誰も私を助けてくれなかったぁ!!!!!」

 

 

 

ぼろぼろと、熱いものが流れる。

人生でただの一度も流したことのなかったそれが、涙であることに気づかなかった。

彼はしゃがみ込むと、スーツを脱ぎ、その小さな体で私を抱きしめた。

 

 

 

「大丈夫だよ。僕が、助けに来たから」

 

 

「……っ、うあ、ぁぁあ……っ!!」

 

 

 

私は大声で泣いた。

私を抱きしめる彼は、私に今まで居なかった存在。

 

 

 

ーーーーーーあかり。辛いときは、大きな声で助けを呼べ。

きっと、ヒーローが来てくれるさ。

 

 

 

 

この人が、私のヒーロー。




この章はまだ終わりではありません。
あと少しだけ続きます。


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未来人が殺しに来た

サブタイトル通りです。


戦いは終わった。

泣き疲れて眠った彼女をおぶり、僕は踵を返す。

 

 

「……今日…あ、もう日付変わってるのか。

昨日は疲れたなぁ」

 

 

僕が世界を大きく変えてしまうなんて、思いもしなかった。

個性を作り出さなきゃいけない世界。

そんな未来になるなんて、これっぽっちも思わなかった。

 

 

「……ま。僕が変わる必要はないか」

 

 

それでも、苦しいって言っていたこの子を救えた。

僕が変わることで、世界は大きく変わってしまうのかも知れない。

だけど、僕はそれでも、最高のヒーローであることをやめないだろう。

 

 

「…あ、そうだ。ちゃんとお礼言わなきゃ」

 

 

先生にありがとうって言わなきゃ。

あの短い言葉で、僕は立ち上がることができて、彼女を救えた。

 

 

 

 

……あれ?いや、待てよ?

 

 

 

 

彼女を京町さんに引き渡すと、また彼女は辛い世界で生きなきゃいけなくなる。

そうなれば、彼女はもっと苛烈な方法で、歴史を変えようとするかも知れない。

このまま彼女を取り逃したという体で、どこか遠くへ逃すのも…。

 

 

「緑谷せんぱーい!!」

 

 

 

 

…あれ?これ詰んでない?

 

 

 

 

きりちゃんの声を聞いた時、僕はだらだら冷や汗を流していた。

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

 

「お、おおっ、お、おおおおおおおオールマイトぉ!?

このガリガリガイコツが!?」

 

 

「仮にも憧れの人にだいぶ失礼ですね、君」

 

 

現在、鎌倉山頂上にて。

車の問題と社会的な問題で、倒れた人間をホテルにも、戸籍のない人間を病院に連れて行くことも出来ない状態。

 

軽自動車の中はぎゅうぎゅう詰めで、ガリガリのオッサンが後部座席を。

目元が腫れた、胸が…ああ、まぁ、隠さず言うと「おっぱい」が大きい女の子が、前の座席を占拠していた。

 

 

「…いや、マジだ。生体スキャニングでようやくわかったけど、この人マジにオールマイトだ。この姿とこの腹の傷は一体なんだ?確認すると三年前くらいについた傷だ。毒毒チェーンソーの戦闘でついたものとは思えない。じゃあ何か強大な存在がオールマイトを襲ったんだろうか。報道されていない敵のパターンは大きく分けて二つ。一つは取るに足らないやつ、もう一つはマジでヤバい敵…。取るに足らない敵にオールマイトがこんな傷をつけられるわけが…」

 

 

「緑谷くん。そこまで」

 

 

 

このぶつぶつ、久々に聞いた。

緑谷くんの持つデバイスを覗き込む京町セイカが、感嘆の声を漏らす。

 

 

「はへぇ…。呼吸器傷ついて胃袋無くて、よくここまで活動してますね。

未来でも珍しいですよ、こんなの」

 

 

一応、オールマイトの事の顛末を語っておこう。

 

 

彼は緑谷くんが展開したフィールドにはじき飛ばされ、さらには運の悪い事に、木の束に後頭部をぶつけ、脳震盪で気絶。

いつものような筋骨隆々とした状態に変身する前に弾き飛ばされたようで、完全にのびてた。

 

 

今はナノマシンで、損壊した呼吸器やら胃袋やらと共に治療中だ。

万が一にも起きないように、後遺症も副作用もない象用の麻酔薬まで打ってるらしい。

 

 

「…にしても、未来はどういう世界なんでしょうね。

個性による兵器を必要とするってことは、戦争でも起こってるんでしょうか」

 

 

「あ、はい。第三次世界大戦勃発中です」

 

「「「は?」」」

 

 

 

今、なんと言った?

第三次世界大戦。アインシュタインが「人の文明の終わり」とまで暗喩した戦争。

3000年代にもなって勃発してるのか。

 

 

「そんな中、京町さんはなんで徴兵されてないんですか?

あれだけ戦えるのに?」

 

「大事な兵器にコーヒー溢しちゃって大爆発起こしたからです!」

 

「「「ポンコツにも程があるでしょ」」」

 

 

戦時中にそんな大惨事を起こすな。

下手すりゃ死刑だぞ、それ。

 

 

「よくそれで無事でしたね」

「はい!尻拭いとして、『時空監視員になって、過去の世界に行った特異生命体を捕まえてこい』と言われたので!

試験は難しかったけど、なんとか合格しましたよ!」

「………ん?」

 

 

思考の海に潜り、状況を考える。

その特異生命体という存在の本当の正体は、個性を再現した生体兵器。

ということは…。

 

 

「脱走兵だと思います。

『脱走した』と自己申告したので、間違い無いかと…」

「あー…。強すぎて追うに追えなくて、『捕まえられればいーや』みたいな感じで、厄介払いメインで送られてきた可能性ありますね、コレ」

 

 

ただの人間に制御し切れる兵器じゃなかったんだな、この子。

それこそ、緑谷くんのチートの代名詞とも呼べる永久機関を1万個も用意しなければ、防げないほどの攻撃。

それをなんの副作用もなしで放てるブッ壊れ人間を抑えろ、というのも無理な話か。

 

 

「厄介払い!?私がですか!?」

「「「妥当な判断でしょ」」」

 

 

この未来人、どこまで自惚れれば気が済むんだ。

そんな「青天の霹靂!」とばかりに驚くな。

晴天の太陽並みに普通の判断だろ。

僕が心の中でツッコミを入れていると、東北さんが、ふと声を上げた。

 

 

「そういえば、捕まえた時のことって聞いてます?」

「すぐにこの時代に駆けつけるって!」

 

 

 

……………あれ?これ、ピンチなのでは?

 

 

 

 

と、僕が思ったその時。

空から赤い一条の光が落ちてくるのが分かった。

 

 

 

「緑谷先輩!!今すぐオールマイトとその子を外に!!

それでいて、なるべく遠くに!!」

「ペルセウス!!」

 

 

 

僕たちの体が浮遊感と共に、流れる景色の中へと突入する。

瞬間。落ちてきた光が車に着弾し、爆発を起こした。

 

 

「あァァァーーーーッッ!!

なけなしの給料で初めて買った僕の車ァァァァァァァーーーーッッッ!!!」

 

「先生の大声珍しっ」

 

 

爆散する車に、思わず絶叫をかます僕。

貴重品は持ち出しておいて良かったが、泣きそうになる。

車自体が貴重品だから。

 

 

「あー…。厄介払いってのはマジみたいです。アレ、私ごと殺す気ですね」

「僕ただの教師なのに、なんでこんな目にあってんのマジで!!」

 

 

爆風が僕たちの頬を撫でる中、緑谷くんはターンをかけ、無理やりにバイクを止める。

 

 

「シリウスは処理落ちで、三日間のクールダウンが必要……。

なら、カノープス!」

 

 

緑谷くんがデバイスに軽く触れると共に、ほっそりとした印象を受けるスーツに身を包む。

彼は運転席を離れると、僕の肩を軽く突いた。

 

 

「先生、バイクの運転できますよね。

ペルセウスで逃げて…」

「いや、もう遅いみたいですよ」

 

 

僕が言うと共に、鎌倉山が緑谷くんが張ったものと同じフィールドに覆われる。

ピンチとは、こうも続くものなのだろうか。

爆炎の中、一つの人影が姿を表す。

いかにも「未来人」と主張したような、パツパツスーツに謎のマスク。

手には、京町セイカが使っていたものと似通った兵器が握られている。

 

 

「京町セイカ他諸君。よくぞ制御装置を壊して脱走した個性兵器プロトタイプ『紲星あかり』を捕らえてくれた。

だが、過去の人間が知るには、個性兵器は強大すぎる。

運が悪かったと思って、潔く死んでほしい」

 

「うっわ…。ベタなの来ましたよ」

「そのベタなのに殺されかけてんですよ、僕らは」

 

 

まずい。足手まといが二人、戦力にはなるが肝心なところでミスるポンコツが一人。

起きれば戦力にはなるが、後始末が面倒そうなのが一人。

起きれば確実に戦力にはなってくれるが、その後どうなるか分からないのが一人。

この合計5人を側にして、緑谷くんは戦わなくてはならない。

救助と戦闘を同時にこなしていた彼にとって『防衛』は、初めての形だ。

 

 

「京町セイカ。君の武装は凍結させてもらった。君は戦闘力だけで言えば、なまじ優秀だからね」

 

 

悲報。ポンコツがマジに役立たずになった。

 

 

「あ、あれっ?あれれ?なんでです?展開できませんよ!?」

「…話を聞かないのは相変わらずか。そのポンコツ具合も、もう見飽きたァ!!」

 

 

彼が引き金を引くとともに、レーザーが僕たちに殺到する。

一つの銃口で、なぜここまでの量のレーザーが出せるんだ。

 

 

「きゃあっ!?」

「京町さん!!」

 

 

そのレーザーに対し、緑谷くんは高速でそれらを弾き飛ばす。

 

 

「きゃん!?」

「あっ、京町さんごめん!!」

 

 

風圧で、京町セイカが吹き飛ばされ、運の悪いことに木にぶち当たって気絶する。

緑谷くんは慌てて彼女を抱えると、僕の方へと投げる。

 

 

「先生、頼みます!」

「任されました」

「させるか!!」

 

 

未来人が銃口を、宙を舞う京町セイカへと向ける。

ヤツが引き金を引く前に、緑谷くんは未来人に蹴りを入れた。

が。それを受けた未来人は一切動じず、緑谷くんの足を掴む。

 

 

「イズクメタル製…!?」

「イズクメタルのことを知っているのか。

どうせ京町が漏らしたん…だろっ!!」

 

 

がっ。

未来人の拳が、緑谷くんの脇腹に突き刺さる。

同じ金属同士がかち合う音と共に、緑谷くんは勢いよく吹き飛ばされた。

 

 

「くっ…!?」

「今のうちに、雑魚を殺す!」

 

 

緑谷くんが体勢を立て直すのを待たず、未来人は僕たちに向けてレーザーを放った。

やばい。ペルセウスのエンジンを入れても間に合わない。

僕が焦ったその時、緑谷くんが無理やりにエネルギーを噴出し、肉壁となった。

 

 

「させ、るか…!!そんな、こと…!!」

「しつこいな、お前!!」

 

 

未来人の拳が、緑谷くんの顔面に突き刺さる。

吹き飛ばされた緑谷くんが、僕の前にまで転がった。

 

 

「ぐぅっ……!?」

 

 

これは、まずいな。

シリウスのような超火力を積んだスーツは、今現在この場にはない。

同じイズクメタル同士、打ち合えば必ず綻ぶ。

だが、以前聞いた性能では…。

 

 

「機動力に極振りしてるんで、装甲は他と比べてかなり薄いです。

下手すりゃ、自己修復が追いつかない。

アルデバランなんて、装甲はカノープス以下だし、なんなら戦闘用の装備なんて微々たるものです。

最もアレ相手の防衛に向いてない装備しか、この場にはありません。

最悪全滅エンドもあり得るかも…」

「……東北さん、彼女たちをよろしくお願いします」

 

 

淡々と語る東北さんの頭を軽く撫で、ペルセウスの前に立つ。

 

 

「せ、先生…?なにを…?」

「ガキボコるのって、楽しいですかね」

 

 

全く。前世も今世も保身的な僕は、絶対にやらないと思ってたのに。

 

 

「…なんだ、お前は?」

「この子の先生です」

 

 

 

どうやら僕は、先生になり切るあまり、気が狂ってしまったらしい。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

先生が、僕の前に立つ。

だめだ。先生は極々普通の人間。

彼曰く、格闘技術を鍛えたわけでも、個性があるわけでもない、学歴しか取り柄がない本当の凡人。

 

 

「先生?じゃあ言ってやれよ。

『さっさと諦めろ』って。お前たちが死ぬことで、我が国の未来は救われる。個性兵器のことを知る人間も過去からいなくなり、世界が守られる。ハッピーエンドだ」

「おかしいですねぇ。

歴史の教科書に、『ガキ殺したおかげで国が救えた』なんて書かれてませんけど?」

 

 

先生が煽る。

ダメだ。先生、逃げてくれ。

声を出そうとするも、先生があらかじめ決めておいた、『一等星』専用のハンドサインを出す。

 

 

「それはこの時代の教科書だろう?」

「歴史の教科書は紀元前までも書かれてんですよ。国によっては、全然違う内容が書かれてる。

青春投げ捨てて50近い国の歴史の教科書全部覚えた僕に、歴史の言い合いで勝てると思うなよ、低脳未来人」

 

 

『時間稼ぐ。なんとかしろ』。

先生が言うと、未来人はその銃器を先生に向けた。

 

 

「この先の時代、何が起きるかもわかっていない過去の人間が、歴史を語るのはやめたほうがいい。

この兵器は我々のもので、本来ならば秘匿すべきもの。

それに関わった君たちは、今ここで死ぬべきなんだ」

「こんな子供を兵器呼ばわりとは、未来人はモラルのかけらも無いようだ」

「正確には兵器ではないよ。そのプロトタイプだ」

 

 

プロトタイプ…?

僕らが疑問に思ったことがわかったのか、未来人が「中途半端に知ってるのも未練だろう。冥土の土産だ」と言葉を続けた。

 

 

「紲星あかりは、個性因子に代わる働きを持つ特殊細胞の『工場』として作り出された。

 

どんな個性でも作り出せることが確認でき次第、脳の自我を司る部分を修復不可能なほどに破壊して思考を排除。

 

要するに、『生きたまま死んでもらう』。

 

彼女の体を掻っ捌き、細胞を軍人に移植することで、我々は世界唯一の『個性軍隊』として、世界に君臨するのだ!!」

 

 

 

今、なんと言った?

 

 

 

僕たちが驚愕に目を剥く暇もなく、未来人の持つ銃器から、レーザーが先生に向けて放たれる。

先生は咄嗟に身を翻して避け、愛用のパーカーの一部が焦げた。

 

 

「ちっ…。車といい服といい、慰謝料請求モンですよ、これ!

道徳教育もなってないヤツが軍人なんかすんな!!胎児からやり直せ!!」

「すまないなぁ。私達の時代の通貨は、この世界では無価値なんだよ。

あと、言っておく。私はお前のような口の悪い人間が大嫌いだ!!」

 

 

レーザーが先生に向けられっぱなしだ。

かっちゃん並みに煽り耐性ゼロだったんだな、あの未来人。

でも、このままじゃ先生が…。

 

 

「緑谷先輩、ちょっと」

「きりちゃん…?」

 

 

先生が攻撃を避けてる最中、きりちゃんが僕に駆け寄る。

……って、おい。ちょっと。

 

 

「なんでその子引きずってんの!?」

「この子に協力してもらうんですよ。

イズクメタルを砕けない以上、オールマイトはハッキリ言って役立たず。

さらにいうなら麻酔が効き過ぎて、叩き起こせません。

セイカさんはのびてて、起こしても戦力にならない。

となると、フッツーに寝てるだけの超人起こした方がいいでしょ」

 

 

平和の象徴を役立たず呼ばわりする小学生が、目の前にいた。

いや、まぁアンチってわけじゃなくて、本当にそう言う状況だから仕方ないけど。

でも、戦いたくなくて逃げてきたこの子を、また戦わせてしまうのは…。

 

 

「いや、でもこの子はもう戦いたくないわけで…」

「誰が戦わせるって言いました?」

 

 

彼女は言うと、何処からか何かの実を取り出す。

その実を彼女の口の中に突っ込むと、即座に耳を塞いだ。

 

 

「みっっっっっ、ぎゃああああああああ!?!?!?

辛っ、なにこっ、かっらぁぁぁぁぁぁああああああああアアアアア!?!?!?」

 

 

「ジョロキアです。先生の目覚ましドッキリ用に買っといて良かった」

「先生がきりちゃんのことクソガキって言い続けるの、なんとなく分かった気がする」

 

 

辛さに悶え、げほげほと咳き込む少女。

彼女は涙目できりちゃんの胸ぐらを掴み、迫った。

 

 

「なにすんですかいきなりぃぃぃ……!」

「アレ見なさい」

 

 

きりちゃんが指を向ける方向には、ほうほうの体でレーザーを避ける先生の姿。

そもそも体育の授業でも、生徒たちより先にバテるような人だ。

 

 

「クソエイムにも程がありませんか!?え?なに?素人!?まだFPSゲームプレイヤーの方がマシなんじゃないんですかねぇ!?それで軍人やってるなら、即座にやめて転職サイトでも覗いたらどうですかー!?」

 

「くそっ…!無駄に素早い!!」

 

「あとさっきからボイチェン通して話してるんでしょうけど、隠し切れないほどに不細工な声ですね!!スーツ越しにも分かるくらい腹はでっぷりしてるし、股間についてるソレもお粗末だ!!デベソで短足!しかもパツパツスーツだからスネ毛の処理もしてないこと丸わかり!!身嗜み最底辺の自覚ありますか!?わかったらとっとと未来帰って、無駄毛処理とダイエットと整形と、その短小治すのに勤しみやがれぶわァァァァァァァあああああああーーーーーーーーかァァァァァァァーーーーーーッッッッッッッ!!!」

 

 

「うごァァァァァァァあああっ!!!!」

 

 

めちゃくちゃ必死に煽ってる。

僕たちの方に、注意を寄せ付けないようにしてるのか。

もう体力も切れてるはずなのに。

 

 

「アンタとそこののびてる未来人助けるために、パワードスーツも個性も持たない凡人が身体はってんですよ。

戦えとは言いません。力貸せ」

 

 

きりちゃんが気迫を纏って、少女に迫る。

無個性で筋力もない、ただ頭がいいだけの女の子。

そんなきりちゃんが、僕が苦戦した相手を、ただ睨むだけで圧倒していた。

彼女は暫し沈黙し、きりちゃんの手を掴んだ。

 

 

 

「……何すればいいですか?」

 

 

「最高のヒーローの再臨を、ちょっとばかし早めてください」

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

僕の罵倒ボキャブラリーが枯渇する…!

やべっ、喉潰れそう…!

もう嫌だ走るのやめたい…!

いや、やめるな!!やめたら死ぬし、生徒も死ぬぞ水奈瀬コウ!!

全力で生徒を守るため、全力で煽れ!!

 

 

「その短小なら付き合った女も『あ、うん。す、すごいね…?』って反応だったんだろうなァ!!

あらぁごっめんなさぁーい!!

それとも童貞でしたかぁぁあ!?!?」

 

「あァァァァァァァっ!!!てめっ、俺の禁句を連発しやがってェェェェェ!!!」

 

 

クソったれ!!もう下ネタしか思い浮かばんぞ、ちくしょう!!

足がもつれそうになる。

だめだ、転ぶな。レーザーを避けることに集中しろ。

あの子たちの準備が終わるまで、僕が耐える必要がある。

 

 

「避けんな、このクソ教師!!」

「この程度煽られただけで癇癪起こすあたり、ガキっぽさが抜けてませんねェ軍人!」

 

 

あー、くそっ。

なんで僕がこんな目にあってんだ。

ただ、フッツーに教師するだけの人生送る気だったのに。

 

 

「いい加減死ねぇ!!」

 

 

流石に煽りすぎたのか、避けようのない極太レーザーが僕へと迫る。

よし。間に合った。

 

 

「ジャスティィィィィィイイイイイス!!!

カっ…ノォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオンッッッ!!!」

 

 

緑谷くんが、裂帛の気合いと共にレーザーをレーザーで吹き飛ばす。

僕の前には、刺々しいデザインのシリウスが立っていた。

 

 

「…は?」

「先生、時間稼ぎ、お疲れ様です。

彼女のセルフギフトで、クールダウンの時間をスキップしてもらいました」

 

「だーっ!!相手の煽り耐性がなさ過ぎて、逆に苦労したぁ!!」

 

 

勝ちが確定した。

筋繊維がズタボロになった影響か、ガックガクの足が崩れ落ちるように、僕は尻餅をつく。

 

 

「くそったれっ、未来にゃロクな人間いねーのかパソコンの右クリックのし過ぎでくたばりやがれ死ねっ!!」

 

「先生…。かっちゃん並みに口悪くなってますよ。あと、パソコンの右クリックのし過ぎじゃ人は死にません」

「死にかけりゃ口も悪くなりますよ」

 

 

呆然としている未来人に、緑谷くんが歩み寄る。

背後からでは見えないが、付き合いが長いため、歩き方一つでだいたいわかる。

小股でいて、それでいてゆらゆらと揺れている。

怒り過ぎて、逆に頭が冷えているのだ。

 

 

「僕は戦いが大嫌いだけど、やらなきゃ助けられない命があることも知ってる。

僕は先生も、きりちゃんも、京町さんも、オールマイトも、あの子も助ける。

そのために、お前を殴る」

 

 

緑谷くんは言うと、拳を握る。

いつものような、技名を言う前の息を吸う音は、聞こえない。

未来人はというと、更に大きな兵器を作動させ、緑谷くんに向けていた。

 

 

「この兵器は、海の向こうにある大陸さえも粉々にできる…!!

お前らが死んでも、個性兵器が生きられるギリギリの威力だ!!」

「……」

 

 

緑谷くんが、軽く息を吸う。

未来人が兵器の引き金を引こうとした、その時だった。

 

 

「正義の拳ィッ!!」

 

 

兵器が、その銃口に放たれた拳の風圧によって、あっけなく破壊されたのは。

 

 

 

「へ?」

 

 

 

いや、待て。

風圧だけで、あんなに威力高いの?

 

 

 

 

「ば、バカな…。イズクメタル製の、最先端兵器だぞ…?ロストテクノロジーを復活させた、最強の兵器が…」

 

 

あれだけ硬度を自慢してたイズクメタルを、ただの風圧で吹っ飛ばしたのか。

からん、からん。

吹っ飛ばされた兵器の破片が、雨のように降り注ぐ。

緑谷くんはその中を歩き、未来人の前に立った。

 

 

「お前が最強の兵器を使うなら、僕はそれすらも超える」

「なっ、なんだよっ…!?

なんなんだ、コイツは…!?過去に、こんな威力のある兵器が…!?」

 

 

 

 

ーーーーーー僕は『最高のヒーロー』だ。

 

 

 

狼狽を露わにする未来人の顔に、拳が突き刺さった。

緑谷くんは、そのまま拳を地面に向けて振り下ろし、未来人を地面に叩きつける。

 

 

 

瞬間。鎌倉山に大きな亀裂が走った。

 

 

 

 

「………………や、やっちゃった」

 

最高のヒーローを名乗った男の、情けない声が響いた。




未来人編は次回でおしまいです。お楽しみに。

ちなみに言うと、未来人は死んでません。
イズクメタル製のヘルメット破壊した直後に力を抜いて、プロボクサーのパンチ喰らった程度のダメージしか負ってません。


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確実にニュースになるなコレ

サブタイトル通りです。

今回で未来人編はおしまいです。

指摘があったので、クルマの種類をぼやけさせました。


結論から言おう。

 

鎌倉山頂点付近が、ものの見事に割れた。

 

幸いにも人的被害は無かったが、初めて活動による周囲への被害が発生したことにより、緑谷くんはひどく落ち込んでいた。

まぁ、すぐに立ち直ったが。

…状況が状況なだけに、今回ばっかりは怒る気にもなれない。

 

 

「……」

「京町セイカ、大丈夫ですか?」

「あっ、水奈瀬さん…」

 

 

そんな彼らを放って、僕は京町セイカの肩を叩く。

流石に、厄介払いで追い出された挙句、殺されかけたのだ。

心が磨耗しているのは、見て取れた。

 

 

「…その。本当にごめんなさい。

私のために、緑谷さんたちと体を張ってくださったんですね」

「自惚れも大概にしたらどうです?

『緑谷くんが負ける=僕ら死ぬ』でしたので、自分のためにやったんですよ」

 

 

僕が言うと、京町セイカは笑みを浮かべた。

 

 

「…やっぱりあなた、きりたんが言ってたみたいに、性格悪いですね」

「自覚はあります。治す気はないですが」

 

 

よっこらせ、と呟きながら、彼女のすぐ側に腰掛ける。

目の前に広がるのは、修復していく破壊の痕跡。

緑谷くんのナノマシンと、紲星あかりのセルフギフトとやらで、山を癒しているのだ。

気絶した未来人は、起きて暴れないように『重力を強化する個性』で縛り付けているため、問題はないという。

 

 

「…自分が厄介者扱いされてるのなんて、とっくに知ってたんです」

「ええ。まぁ、あれで自覚して無かったら、流石に馬鹿が過ぎてます」

「前々から思ってましたけど、そんなはっきり言います!?」

「僕は嘘つきですが、他人への評価に関しては嘘をつきませんので」

 

 

評価というのは、薬だ。

人や種類によって効果は違うし、劇薬にも良薬にも変わる。

小学生の人格を形成する上で、重要な部分だと言える。

だから僕は、頭ごなしに褒めることも、貶すこともしない。

無論、度が過ぎれば批判するし、ちゃんと成果を出せば褒める。

 

 

「…でも、緑谷さんが倒した…私の上司は、凄く良い人だったんです。

私のミスを、いつだって笑って、『お前はミスから立ち上がれるヤツだ』って褒めてくれるんです」

 

「そうは見えませんでしたが」

「…多分、ずっと我慢してたんだと思います。そうですよね…。

こんなポンコツの尻拭いばっかさせられて、殺したくないわけないですよね…」

 

 

言うと、彼女はぽろぽろと涙をこぼす。

それなりに年齢を重ねてる影響か、緑谷くんや東北さんのように、大声で泣き叫ぶことはない。

…教え子にはあまり言わないようにしているが、彼女の年齢であれば大丈夫か。

 

 

「これは先生やってる人間からのアドバイスです。

受け入れる評価は、選んだ方が良いですよ。

中には、評価という名の薬に紛れて、毒物がありますからね」

 

 

子供の中には、この言葉を曲解する奴が必ず現れる。

だから僕は、この言葉を生徒に送ったことはない。

 

 

「…ちゃんと、付け足した方がいいですよ。

『称賛ばかりを受け入れろって意味じゃない』って」

 

 

ポンコツのくせに、こう言うところは鋭いのか。

 

 

「なんでも答えを出し示す職じゃないんですよ、先生というのは。

 

痛い目を見ずに育った人間なんて居ません。

間違いに気づかずに生きてきた人間なんて居ません。

誰にも批判されずに生きてきた人間なんて居ません。

 

そういうことを学ばない輩を、『バカ』って言うんですよ」

 

 

ま、限度がありますが、とだけ付け加え、僕はぼりぼりと頭を掻いた。

 

 

「…車、紲星さんのセルフギフトでなんとかなりますかねぇ」

 

「いい話の余韻台無しですよ!?」

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「車は、これでいいですか?

『直す個性』で手当たり次第の破片から、車を作り出しました!」

 

「違う違う違う違う!!

 

車の種類も…なんなら道具の用途までも、なにもかもが違う!!」

 

 

直った車を前に、僕…緑谷出久である…は、ツッコミを入れた。

彼女、紲星あかり…本人の希望であかりさんと呼ぶ…の隣にある、謎のオブジェ。

どう見ても、マリオカートで出てきそうなモンスターマシンだ。

 

 

「先生のは普通の軽自動車!!

使い古されたフッツーの中古車なの!!

イズクメタル使用してないの!!」

「…?このくらいの装甲がないと、生き残れませんよ?」

「それは!!君の時代が戦時中だからでしょ!?

この時代は少なくとも、そんな物騒…いや、物騒か…?

とにかく!!未来に比べりゃ平穏な時代なの!!」

 

 

この子、抜けてる。

兵器として暮らしていた彼女に、僕らの普通は難しそうだ。

こてんと首を傾げる彼女に、「とりあえず、破片に戻して」と指示する。

が。その指示の仕方が悪かったのか、彼女は車をぶん殴ってスクラップにした。

 

 

「……あれ?もしかして、普通じゃありませんでした?」

「あ、うん。ハッキリ言うと、だいぶズレてる」

 

 

僕が指摘すると、彼女は少しばかり落ち込んだ様子を見せた。

やばい。

普通に固執してた彼女に『普通じゃない』という言葉は、もうちょっとオブラートに包むべきだったかも。

 

 

「あ、あのっ!その、仕方ないことだから!

カルチャーショック!日本から見た食虫文化とか、そう言う類と同じだから!」

 

 

慌てて僕が励ますと、あかりさんは笑みを浮かべた。

 

 

「大丈夫ですよ。そういう人じゃないって、ちゃんと分かってますから」

 

 

良かった。ちゃんと伝わってた。

…それはそうとして。

 

 

「ちゃんと車は直してね。

バッラバラになった状態じゃ、僕も直しようがないから」

「分かってますよ。えい!」

 

 

彼女が声をあげるとともに、バラバラになった破片が元に戻っていく。

そこには、僕らのよく知る車…ではなく。

ドラマの中でしか見たことがないような戦車が完成した。

 

 

「違う!!これ戦車じゃん!!!」

「普通の車って言ってませんでした?」

「だから戦闘機能要らないんだって!!」

 

 

彼女に普通を教えるのは、ちょっと骨が折れそうだ。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

未来人の目が覚める。

彼を威嚇するように、シリウスを纏った緑谷くんと紲星あかりが彼の目の前に立った。

 

 

「ようやく起きたか」

「ひっ、ひぃぃぃぃぃぃぃ!?!?」

 

 

未来人は屁っ放り腰で、彼らから離れようとする。

が。その背後に回った京町セイカが、緑谷くんがチューニングした銃器を構えた。

 

 

「逃げないでくださいよ。

戦闘に関しては、ポンコツじゃない。

それは、あなたがよく分かってますよね?」

「き、京町セイカぁぁぁぁああ……!!」

 

 

囲まれた未来人に、緑谷くんがその胸ぐらを掴み、顔を寄せる。

 

 

「元の時代に帰れ。

お前たちの時代の地球がこうなって欲しくないなら、二度と僕たちに手を出すな…!!」

 

 

緑谷くんは言うと、月に向けて手を向ける。

瞬間。一条の光とともに、月が爆散した。

 

 

「ひっ…、ひぁっ……。ひゃあああああああ!?!?」

 

 

未来人が謎の穴を作り出し、その奥へと消える。

謎の穴が消えて無くなるのを確認し、緑谷くんが指を鳴らす。

瞬間、爆散したはずの月が元に戻った。

 

 

「うーわっ。今の完全に敵ロールプレイでしたよ…。

僕がやってんの、最高のヒーローのロールプレイじゃなかったですかね?」

「アイアンマンもキャプテン・アメリカも通った道ですよ」

 

 

タネを明かせば、なんてことはない。

車の中を異世界に変えたプロジェクタープログラムをイズク6号・ガニメデに搭載。

空に月が爆散するという映像を映し出しただけだ。

……山での戦いといい、割れた山が戻ったことといい、確実にニュースになるな、コレ。

 

 

「緑谷先輩。うだうだ言うのはやめなさい。

この子とセイカさん、助けられなくても良かったんですか?」

「よくない。良くないけども…」

「どのみち、ああいうインパクトあって『確実にヤバい』って思わせるような方法を取らなきゃ、効果はないんです。

機密情報ベラベラ話すあたり、それなりに地位はありそうですから、『あかりさんに手ェ出したらヤバいセコムが来る』ってことが分かってる分、管理に血眼になると思いますよ」

 

 

東北さんのお叱りを受けながら、緑谷くんが恐縮する。

僕は、地面に寝転がった一人の男の側に立っていた。

 

 

「……で。この人マジでどうします?

麻酔効きすぎて起きませんよ?」

 

「「「「あ」」」」

 

 

こうして、僕たちの未来人と謎の生命体を追う物語は終わった。

 

 

後日、同居人が僕の家に一人増え、緑谷くんの家に一人増えた。




未来人編が終わり、次の章は推薦入学した彼が、「めっちゃ夏休み満喫してるぜ!」スタイルで出てきます。

次回のキーワードは、「人工個性」と「梅」です。お楽しみに。


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梅の精霊とクールド天然
先生の自宅でラブコメするんじゃありません!


サブタイトル通りです。

今回から新章「梅の精霊とクールド天然」が始まります。
どうぞ。


母さんがまだ普通で、元気だった頃。

俺…轟焦凍が思い出せる、朧げでいて、それでいて「楽しかった」と思い出せる光景。

 

そこに至るまでの経緯を語っておこう。

冬姉と夏兄が友人と遊びに行って、クソ親父は仕事。

母さんとテレビを見ていた俺は、酷く退屈していた。

 

 

「焦凍。お母さんとお出かけしましょうか」

「…うん」

 

 

そのことを悟った母さんが、俺を助手席の子供用シートに乗せて、車を運転した。

暫くの間、母さんと話しながら、目的地への到着を待つ。

 

 

「着いたわ。ここからちょっと歩くけど、大丈夫?」

「…うん」

 

 

着いた場所は、梅の花が綺麗な場所だった。

舞い散る花弁は、桜の花びらに勝るとも劣らない美しさがある。

幼い俺の心は、すっかり梅の花に釘付けになっていた。

梅の花に見惚れながら、歩くこと十分。

途中でお母さんに抱っこしてもらった俺が見たのは、二本の梅の木だった。

 

 

「母さん、この木なに?」

「この木はね、『万年開花』っていう、不思議な梅の木なのよ」

 

 

曰く、超常黎明期以前からここにあった。

曰く、双子の梅の精霊がいる。

曰く、一度も枯れたことがない。

曰く、万年、花を咲かせている。

 

 

聞けば鼻で笑うような、そんな与太話。

俺はその話を夢中で聞いていた。

 

 

「この梅の木はね、お母さんのお友達なの」

 

 

お父さんは知らないけれど、と付け足し、母さんは梅に目を向けた。

 

 

「焦凍。あなたも、この子たちの友達になってくれる?」

「…うん」

 

 

その日の母さんの顔は、忘れられなかった。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

未来人を撃退した後の話を、少ししておこう。

 

 

平和の象徴は、ぐっすりと寝てたので、貧血で倒れた病人として病院に押し付けてきた。

緑谷くん曰く、「治ったらまた筋肉ムキムキになるかと」らしい。

治った途端にマッスルになった気がしたけど、無視した。

有り体に言えば、面倒そうだから逃げた。

 

 

結局、僕の車は直らなかった。

『巻き戻す個性』で戻せ、と提案はしたものの、あかりさん曰く、時間関連の個性は細かい調整が難しいらしい。

ただ高火力をブッパする個性は、構成が楽でいいとのこと。

それでビッグバン並みの爆炎を生み出すあたり、個性ってのは本当にデタラメだ。

 

 

 

「…で。この消し炭、なんですか?」

「フレンチトーストです!」

 

「白米炊いてんのにフレンチトースト作るバカがここに居た」

「罵倒が直球!!!」

 

 

最後に。

彼女らの戸籍を東北さんのハッキングやらクラッキングやらでなんとかでっち上げ、京町セイカは僕の親戚、そして同居人となった。

 

あかりさんは「イズクくんの側じゃなきゃ嫌です」と駄々を捏ね、緑谷家で暮らしている。

彼と同じクラスに編入するそうだ。

 

 

「…で。受かりましたか?」

「はい!水奈瀬さん考案のドジっ子の矯正、やって良かったです!」

 

 

流石に無職を養う気はなかったので、京町セイカ…セイカさんは、スーパーのパートに入ってもらうことになった。

ポンコツ故にとんでもない失敗をしないよう、一週間をかけ、寝る間も惜しんで彼女のポンコツ具合を緩和させた。

何故、夏休みにこんなに疲れなければいけないんだ。

明けたら、「読書感想文地獄」が待ち受けているというのに。

 

 

「ほんっと…。なんで僕はコレとの同居を許可したんでしょう…」

「水奈瀬さんって、内弁慶ですよね」

「パワハラとかセクハラとか殺伐要素が無いだけマシでしょ」

「まぁ、確かに」

 

 

僕が言うと、セイカさんは消し炭になったフレンチトーストをばりぼりとむさぼる。

柔らかい食べ物のはずのフレンチトーストが、バリボリ言ってる時点でもう異常だ。

コレに家事はさせないでおこう。

戦時中に兵器一つをおシャカにしたポンコツだ。

家の物が破壊されそうだ。

 

 

「…なんか壊したりしました?」

「いえ、まだ!」

「まだってことは、壊すことは確定してんですね」

 

 

ほんっと、なんでコレ引き取ったんだろう。

そんなことを思いながら、何気なしにテレビをつけてみる。

 

 

『鎌倉山の超常現象から1週間が経ちました。

痕跡を調べるも、いまだに原因は不明。

宮城県知事は「新しい観光地として展開することを計画している」と…』

 

 

 

うっわ。まだやってた。

 

 

 

あの時の光景やら、あかりさん…ただし皮膚なしバージョン…の出現は、「超常現象」として片付けられた。

超常社会で「超常現象」ってのもおかしな話だ。

 

だが、あかりさんを倒しに行ったオールマイトが、いつのまにか、病院前でぐっすり寝てたこと。

それに相まって、鎌倉山に火柱が上がり、亀裂が走り、放たれた光によって一度月が消し飛び復活し、あっという間に元どおりになったこと。

 

 

個性のせいだと片付けるには、少し無理がありすぎる光景。

それを理由として、そう言う現象として片付けられたらしい。

 

 

『オールマイトさん、この超常現象を実際に体験した身として、どう思いますか?』

『うーむ、狐に摘まれた気分だよ!

クライシスオーガも、粉砕骨折が数日寝ただけで完治したらしいからね!

まぁ、怪我がないのが一番なんだけどさ!』

 

 

クライシスオーガの怪我は、あかりさんが治した。

彼女が彼に襲い掛かった理由は、彼の煽り言葉である『こいよ、バケモノ』が琴線に触れたから。

 

自分の見た目がどれだけおそろしかったか、人にとって見た目がどれだけ重要かを僕が必死に説き、渋々ながら納得してもらった。

その結果、彼女はこっそりと、クライシスオーガの傷を治したのだ。

 

 

「まさか、未来人とただの中学生が戦ってたー…なーんて、誰も信じませんね」

「ターミネーターもびっくりですね」

 

 

僕らのあの戦い、藤子作品でありそう。

そんなことを思っていると、インターホンが鳴り響いた。

 

 

「あ、僕が出ますんで、余計なことしないように」

「わかりましたー!」

 

 

一抹の不安を抱えながら、僕は玄関へと向かい、その扉を開く。

そこには、黒こげになったあかりさんと緑谷くんがいた。

 

 

「失敗作の爆発で汚れて、お風呂入ろうと思ったら壊れてたんで、貸してください」

「同じくです」

「…そこで銭湯って選択肢出さないあたり、だいぶ馴染んできましたよね」

 

 

取り敢えず、彼らを家に上げ、「好きに使え」と許可を出す。

彼らは元気よく返事すると、共に風呂場へと歩いていった。

 

 

 

「…ん!?」

 

 

 

いや、ちょっと待て。今、なんかおかしかったぞ。

 

 

 

 

慌てて更衣室の扉を開くと、そこには人は居なかった。

代わりに、地面に服が散乱している。

おそらく、脱ぎ捨てられたのであろう服は二人分。

片方は緑谷くん愛用のツナギ、もう片方は女の子用の可愛いらしいフリルのワンピース。

風呂場には二人分の人影。

 

 

「君ら何やってんですか!?」

 

 

「え?一緒にお風呂に入ってるんですよ?」

「何かおかしいですか?」

 

 

緑谷くんが毒されてる!!

ってか、慣れてる!!

扉一枚隔て、僕は声を張り上げてツッコミを入れる。

 

 

「いや、中学生同士が混浴ってまずいでしょう!!君ら絶対余計な知識ついたときに、歯止めが効きませんよ!?」

「セッ○スのことですか?

私は、イズクくんが相手だったら、いつでもばっちこいですよ?」

 

「世間はばっちこいじゃないんですよ!!」

 

 

既に余計な知識ひっついてた。

なんだこのラブコメの一幕。

 

 

僕が心の中でそう叫ぶ最中、向こうの影が一つに重なる。

シルエットから見るに、緑谷くんの背中に、あかりさんが抱きついているのだろう。

ごめん。なんてエロ漫画?

 

 

「あかりさん。そういうのは、もう少し待ってほしいな。

君に普通の恋を知ってもらいたいから」

「…?イズクくんに持ってるこの気持ちが、普通の恋なんじゃないですか?」

 

 

緑谷くんはその問いに、楽しそうにこう答えた。

 

 

「僕も、恋なんて経験がないからわかんないや。

でも、一つアドバイス。

普通の恋が知りたいんだったら、そんなに急がなくてもいいんだよ。

告白とか、デートとか。そういうのを目一杯楽しんでからでも、遅くはないと思う」

「……わかりました」

 

 

緑谷くん、大人!!

大人よりも大人な対応してる!!

 

 

結局、それ以降何事もなく、彼らは普通に風呂から出てきた。

一応確認したが、それっぽい匂いは無かった。

なんだ?僕がおかしかったりするのか?

 

 

「先生って大変ですねぇ。…あ」

「そんな『これもどうぞ!』っておまけ感覚で皿割るんじゃありません」

 

 

これだけは言っておきたい。

僕の日常は、以前にも増して混沌度合いが増し、プライベートなど無くなった。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

「だ、大丈夫ですか、サー?」

 

珍しく仕事をオフにした日。

私…こと、『サー・ナイトアイ』は、椅子から転げ落ちていた。

別に座り損ねた…という、よくありそうな間抜けな話ではない。

椅子から転げ落ちるほど、驚きの光景が見えたのだ。

 

 

「バブルガール…!今すぐ!政府に連絡を取れ…!」

「さ、サー?政府に連絡って、一体…」

「くそっ…。こんな形で、私が見ていた未来が変わるとは…」

「えっ!?サーの見た未来が、変わったんですか!?」

 

 

良かったじゃないですか!、と私に詰め寄るバブルガールを、私は睨みつけた。

 

 

「良いものか…。寧ろ、最悪な方向に変わったぞ…!!」

「へ?」

 

 

私がモットーとするユーモアをかなぐり捨て、バブルガールの顔に目線を近づけた。

 

 

「政府に連絡しろ…!

 

 

 

『この世界は、保ってあと二、三年の間だ』と!!」

 

 

私が見た未来。

それは、以前見た、オールマイトが殺される未来ではなかった。

だが、確実に悪い方向には向かっている。

予知の感覚で言えば、二、三年…下手すれば今年に訪れてもおかしくない光景。

予知が外れる…ないし、予知が変わることは、私がひどく望んでいたことだ。

だが、こんな形で変わるなど、私は望んではない。

 

 

「さ、サー!?一体何を見たんですか!?」

「私の考え得る限り…いや。

私の想像力など足元にも及ばないほどの、最悪の未来だ…!!」




オールマイトがおまけ感覚で復活してしまった。何故こうなった?(書いたの自分だけど)


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緑谷出久、墜落(物理)

サブタイトル通りです。


じりじりと日が照りつける。

クソ親父は仕事で留守、夏兄は彼女さんとデート、冬姉は教員資格を取るための勉強。

暇を持て余していた俺は、とある場所に来ていた。

 

 

「…ヒメ、ミコト。いるか?」

 

 

目の前には、真夏日だというのに満開の、二本の梅の樹木。

俺が口を開くと共に、その梅の木の上から、二人の女の子…本当は性別が分からないのだが、スカートを履いてるので女の子ってことにしておく…が降りてきた。

 

 

「ショートぉぉぉおおおお!!

おっひさぁぁぁぁぁぁあああああ!!」

 

「ぐっふぅっ!?」

 

 

女の子の一人が、俺の腹に弾丸のように頭突きをかます。

それを受け止め切れるほど鍛えられていない俺の体は、無様に仰向けに倒れた。

 

 

「こらっ、ヒメ。ごめんね、ショート。

ヒメ、『ショートまだかな?まだかな!?』って毎日楽しみにしてて…」

 

 

ハゲるんじゃないかってくらい、俺の腹に頭を擦り付ける女の子。

その女の子に半目を向ける女の子が、俺に申し訳なさそうに頭を下げた。

 

 

「ミコトだって、楽しみにしてたじゃん!」

「今日は目一杯遊んでやるから、喧嘩はやめろ」

「「はーい!」」

 

 

元気に返事する彼女たちについて、少し語っておこう。

 

 

彼女たち…『鳴花ヒメ』と『鳴花ミコト』は、『万年開花』と呼ばれる二本の梅の精霊…らしい。

底抜けに明るく、活発で元気で、それこそ彼女から元気という要素が無くなることは無いんじゃないかという女の子がヒメ。

ヒメとは対照的に、クールで大人びていて、たまに子供らしさを見せるのがミコト。

 

 

俺と彼女らの付き合いは、もう五年になる。

 

 

クソ親父に嫌気がさして、逃げ出したのが小学二年生の時。

母さんが家から居なくなって、辛さの吐口がなくなって、疲弊していた時。

 

ふと、母さんと撮った写真が目に映った。

 

『万年開花』。母さんとの、1番の思い出。

俺は写真を握りしめ、記憶を頼りに、必死でその梅の木を探した。

探さないといけないと思った。

梅の木が、俺を呼んでいる気がした。

 

 

 

そんな理由をつけて、俺は親父から逃げた。

 

 

 

たどり着いたときには、2回も日が登った。

腹がすいて、喉もカラカラで。

母さんのご飯が食べたい、と心から思って、ボロボロ泣いていた。

 

 

「大丈夫?お腹すいてない?」

「よかったら、これ食べて」

 

 

そんな俺に、木の実…種類は分からない…と、木製のコップに注がれた水をくれたのが、彼女らだった。

酸っぱいだけの木の実を貪り、雨水が溜まっただろうその水を勢いよく飲み干した。

酸っぱい上に、どっちもしょっぱかった。

 

 

彼女たちと仲良くなるのに、時間はかからなかった。

たくさん遊んだ。

初めて出来た友達に、俺は久々に、心から笑えた気がした。

 

 

俺が此処まで来る経緯を語ると、彼女らに「家族は心配してないの?」と聞かれた。

 

 

 

「あんなクソ親父が、俺を本当の意味で心配するもんか…」

 

 

俺が言うと、彼女らは俺に問いかけた。

 

 

「君の家族って、お父さんだけなの?」

「…っ」

 

「君のお父さんがどうかは分からないけど、帰った方がいいんじゃない?

本当に心配してる家族の人が、かわいそうだよ」

 

 

ヒメとミコトに言われ、俺は三日ぶりに家に帰った。

捜索届を出されてたらしく、帰ってきて冬姉に引っ叩かれ、抱きしめられた。

そのビンタは痛くて、冬姉の体は、温かった。

 

 

それから、俺は暇が見つかれば、彼女らのもとに訪れた。

同年代が遊ぶような、ゲームとか漫画とかは互いに一切持ってなかったけれど、それでも彼女らと遊ぶのは楽しかった。

 

 

俺が異常に気づいたのは、彼女らと会って二年だった。

その頃は男子と女子とに発育の差が出ていて、女子の方が背が高いなんてザラだった。

だと言うのに、彼女らは二年も経っているのに、全然成長していなかった。

 

 

俺はふと、彼女らに「歳取らねーよな」と聞いたことがある。

彼女らは「そりゃ、梅の精霊だし?」と何気ないように答えた。

 

 

まぁ、兎に角。

彼女らは梅の精霊であって、俺たちの理解を超えてる存在って思ってくれたらいい。

 

 

そんなのは彼女らを構成する要素の一つ。

特段、彼女らの人格に作用しているものは一つもない。

 

 

「ショート!今日はなにするの?」

「暑いからな。かき氷機と皿持ってきた」

 

 

鞄から、手動のかき氷機と小さめの皿を取り出す。

電動のかき氷機は、安めのものでも中学生には高かった。

氷は自前で用意できるので、持ってきていない。

早速作ろうとかき氷機を箱から取り出し、組み立てようとしたその時。

ミコトがふと、声をあげた。

 

 

 

「……ショート。シロップは?」

「あ」

 

 

 

やべっ。普通に忘れた。

 

 

 

 

「珍しい。ショートが忘れ物するなんて」

「すまねぇ。すぐ買いに…行こうにも、ちょっと離れてるな…」

 

 

と、俺が腰を上げたその時だった。

 

 

「………ぁぁぁ」

 

 

「ヒメ、ミコト。なんか言ったか?」

「ううん」

「なんにも…」

 

 

空耳だろうか。

謎の声が聞こえ、きょろきょろと辺りを見渡す。

 

 

「ぁぁぁぁぁああ」

 

 

声が近づいてくる。

一体なんだ、と発生源…空を見上げた時、俺たちは大きく口を開けた。

 

 

 

「ぁああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!?!?!?!?」

 

 

ずがぁん!!

 

 

 

昔見た、アイアンマンみたいなスーツが、俺たちの目の前に落下してきた。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「じゃあ、イズクメタルって、発見されたのはかなり昔なんですねぇ。

いや、未来…?まぁ、どっちでもいいか」

 

「どうでもいいですけど、先生のパソコン爆破しといてなんか申し開きないんですか?」

 

 

 

けほっ、と煙を吹くように咳き込む僕。

家具はめちゃくちゃ、持ってた本も散乱し、足の踏み場も無いほどだ。

 

その原因は、目の前のクソガキと未来人。

 

「情報を自動で抜き取るUSBメモリ作ってみました!」と、あろうことか僕のパソコンで実践。

それだけでも叱るつもりでいたが、クソガキと談笑していた未来人が、転んで麦茶をパソコンとUSBにぶっかけ、結果ドカン。

 

火薬なんて入ってないのに、爆発するパソコンとUSBってなんだ。

それを爆発させるポンコツ具合もなんだ。

 

 

「……科学に犠牲はつきものです!」

 

「おーし、クソガキ。お前のこれから成績全部『死ぬほど頑張れ』にするわ」

 

「なんですかその評価!?」

 

「中学生で言うマイナス5と同義です」

 

「マイナス!?そんなのあるの!?」

 

「作ります。教育委員会の弱みは、なんでも言うこと聞いてもらえるほど握ってるんで」

「この人あくどっ!!本当に教師!?」

「教師ですよ」

 

 

撃沈するクソガキを尻目に、今度は吹っ飛ばされて気絶してる未来人をスリッパで引っ叩く。

ぱこぉん、と破裂音が響き、ギャグみたいなタンコブが出来た。

流石は漫画の世界。

 

 

「なにすんですか!?」

「こっちのセリフです。

これ、今すぐ直せ。でないとほっぽり出しますよ」

「そんな殺生なぁ!?」

 

 

撃沈する二人を背に、僕は玄関へと向かう。

 

 

「今から昼飯買ってくるんで、僕が帰るまでにもとに戻しておきなさい」

「「ふぁぁぁああっ!?

いやっ、無理無理無理無理絶対無理確実に無理かたつむり!!」」

「無理じゃありません。

やったことの責任は取れ」

 

 

僕は二人の断末魔を背に、空を見上げた。

 

 

「…管理人さんになんて説明しよう」

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

「……なんのギャグだい、こりゃあ…?」

 

私の恩師の一人…リカバリーガールが、驚嘆の声と共に、私のカルテに釘付けになる。

普通ならば『呼吸器を損傷し、胃袋を摘出し、本来であれば、病院で寝るべき体である』という結果が書かれているべきもの。

だというのに、そのカルテには、『私がいたって健康体である』という結果が映っていた。

 

 

「オールマイト…。

あんた、そういう個性を持った子に治してもらった…なんてことはないかい?」

 

「間違ってもありません。

それに、医療系個性で最も強力とされている貴女の個性…。

それですらも治せなかった怪我です。

私を治せる人間がいるなど、到底考えられない」

 

 

私の痩身形態…私がトゥルーフォームと呼んでいた姿は、既にない。

多少老いてはいるが、全盛期に近い状態の、呼吸も苦しいことはなく、空腹感を感じ取れる、筋骨隆々とした体。

もう二度と味わうことはないと思っていた、健康な体。

 

 

「手術したにせよ、縫合の痕がないってのも奇妙だよ…。

本当に、『超常現象』としか言えない」

「…ええ。本当に」

 

 

私の腹にあったはずの傷痕は、綺麗さっぱり消えていた。

…思い当たるのは、一つだけ。

あの日、気を失う前。

私が最後に見て、私が知ったとある存在。

 

 

「…リカバリーガール。

『未来人』が居る…といえば、貴女は信じますか?」

「何バカなこと言ってんだい。

頭ぶつけておかしくなったのかい?」

 

 

リカバリーガールがその目を開き、私を睨む。

確かに、聞くだけならばおかしな話だ。

だが、私はあの時聞いたのだ。

 

 

 

ーーーーーー西暦3015年。

 

 

 

未来で人工的に作られたという、あの少女の言葉。

私も夢物語かと思ったが、実際に見てしまえば信じざるを得ない。

 

「いえ。私は本気です。

人工的に個性を作ることも、それこそ自己修復する細胞を医学で生み出せる…卓越した科学力を持つ未来人…。

私は、その存在と邂逅している」

「……アンタがそこまで言うんなら、本当なんだろうね」

 

 

おそらくだが、ヴィジランテ『SAVER』も、同じ未来人なのだろう。

私を超える技術が生み出されていても、なんら不思議ではない。

 

 

「その未来人とやらを、アンタは知ってるのかい?」

「…はい。クライシスオーガから聴いた話では、名前は『キズナ』。

実際に見た姿は、白い髪を三つ編みにした、青い目の少女です」

 

 

彼女の存在が幻だった…と世間では報道されているが、私はそうは思わない。

あの時感じた風圧と殺気は、思い出すだけで肌を焦がすように感じる。

 

 

「クライシスオーガの名前が出る…ということは、先日の?」

 

「ええ。世間は鎌倉山の異変を『超常現象』などと報道しています。

 

…私は最終局面までは見ていません。

しかし、未来人『キズナ』と、『SAVER』のぶつかり合いの結果だということは、私が最も理解しています。

 

それが露見することを恐れた、どちらかの隠蔽工作かと。

『SAVER』の力の源はいまだに不明ですが、少なくとも、未来人は卓越した科学力を持っています。

それこそ、人の認識を変えてしまう力があっても不思議では…むぐっ!?」

 

 

私が話を続けようとすると、リカバリーガールは私の口に、一掴み分のハリボーを突っ込んだ。

 

 

「未来人なんて、底の知れない相手の底を考えるのはやめときな。

水面ばかり見たって、海の深さは分かんないだろうに」

 

 

ごくり、と味が混ざったせいで、甘ったるいだけのハリボーを飲み込む。

リカバリーガールに反論しようとした、その時だった。

 

 

「オールマイト!やっぱりここにいた!!」

 

 

私の居る…雄英高校の保健室の扉を、知り合いが勢いよく開けたのは。

 

 

「ようやく見つけたよ、オールマイト…!」

「つ、塚内くん、どうしたんだい?」

 

 

友人である警察官…塚内くんが息を切らしながら、私へと近づく。

私が何事かと問うと、彼は一枚の紙を私に見せた。

 

 

「各国トップ3のヒーローに向けた、国連第一委員会からの通達…招集命令書だ!!

急いでそこに着陸してる飛行機に乗れ、オールマイト!!

だいぶ遅刻してるんだぞ!?

メールも見ずに何やってたんだ!?」

 

「………………へっ?」

 

 

塚内くんの剣幕に、私は間抜けな声を出した。

 

 

「こ、ここここ、ここっ、こ、国連んんんッッッッ!?!?!?!?」

 

 




出久くんが墜落した理由は、次回判明します。


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先生に出番がないって本当ですか?

サブタイトル通りです。

先生は管理人さん相手に爆発の理由を説明してる最中のため、出番はありません。

先生「キレそう」


墜落したことの弁明をさせて欲しい。

 

 

僕、緑谷出久は、新型のスーツ…記念すべきイズク10号『リゲル』のテストをしていた。

先日のことを考えて、防衛戦特化の装備。

最終防衛プログラムに匹敵する防御力と、小型防衛衛星…イズク9号『テティス』を搭載している。

コンセプトは『動く要塞』。イズクメタルを使用した敵が大軍で来ようとも、この防御は破れないだろう。

今日は、その飛行テスト。

もう何度も作った飛行機巧を失敗するわけがない。そう思っていた。

 

 

 

が。その自惚れは木っ端微塵に打ち砕かれた。

 

 

 

そう。調子に乗って、展開したテティスの数をアホほど増やした結果、そっちに演算処理機能が割かれ、飛ぶ余裕が無くなったのだ。

要するに、僕自身のポカである。

結果、僕は盛大に落下した。

そんなわけで現在、犬神家っぽいことになってるわけだ。

 

 

「…てなわけで、引っ張ってくれる?」

「いや、引っ張ってんだけど、重すぎなのとすっぽりハマってるせいで、びくともしねーぞ」

「ショート!これ、前に言ってたあいあんまん?」

「いや、アイアンマンは…少なくとも犬神家にはならねーな」

 

 

墜落はするけど、と付け足したショートくん…顔は見えない…が、再び僕の足を持って踏ん張る。

ちょっと隙間が出来るだけで、後はなんとかなるんだけど、どうにもスーツが重すぎたらしい。

イズクメタルの軽量化も視野に入れないと。

 

 

「ショート、ちょっとどいてー」

「ヒメ、お前じゃ無理だと思うぞ」

「大丈夫だよ。ショートは、僕らをなんだと思ってるんだい?」

「え?なに?なにするの?」

 

 

瞬間。

僕の足に何かが巻きつき、僕の体が引っこ抜かれた。

 

 

「抜けた!って、梅?」

 

 

逆さになった視界には、二本の梅の木が映る。

こんな真夏日だというのに、満開の状態で薄桃色の花びらが散っている。

よく見ると、そのうちの一本から僕の足に向けて、ツタが伸びていた。

植物を操る系統の個性なんだろうか。

 

 

「おお。流石は梅の精霊」

「えっへん!ショート、もっと褒めてー!」

「ちょっ、ヒメっ…!力緩めたら…」

 

「へぶっ!?」

 

「あー…。言わんこっちゃない…」

 

 

瞬間。僕の体は地に叩きつけられた。

 

 

「おい。大丈夫か、お前」

「ああ。うん。大丈夫。

勢いでびっくりしただけだから」

 

 

差し伸べられた手を掴み、立ち上がる。

僕に手を差し伸べた彼が、先ほどのショートくんなのだろう。

僕と同じ歳くらいの男の子だ。

後ろにいるのが、先ほど話していたヒメちゃんとミコトちゃんだろうか。

きりちゃんより少し歳上くらいの女の子…双子なのか、かなり似ている…だ。

 

 

「お空から降ってきたお兄さん…なのかな?

お兄さんは天使さん?」

「いや、少なくとも普通の人間だけど…」

「普通の人間はンなスーツ着て空飛ばねーだろ」

 

 

反論できない。

 

天使ではないことを伝えると、ヒメちゃんは「でも、お空から来たよ?」と首を傾げた。

 

 

 

「お空にいるのは鳥さんとか、飛行機も一緒だろ」

「あ、そっか!じゃ、ヒコーキさん?」

「飛行機がこんな小さいわけないでしょ、ヒメ」

「そっか。人をたくさん乗せれるくらい大きいんだもんね」

 

 

この子、今まで見たことのないタイプだ。

…まぁ、僕が知っている年下の子って、どうしてもきりちゃんしか思い浮かばないけど。

きりちゃんが大人ぶった…先生曰く「マセたクソガキ」…子供なら、この子は子供らしい子供と言うべきだろうか。

…なんで一番ありそうなパターンを知らないんだ僕。

 

 

交友関係が特殊すぎる自覚はある。

 

 

先生…教育委員会の弱みを握るほど性格が悪いし、思いつきで行動する悪い方向でのアグレッシブ。普通の教師とは言えない。

 

きりちゃん…僕の技術を少し受け継いだ。シンプルに性格が悪い。普通の小学生とは言えない。

 

セイカさん…未来人。超がつくポンコツ。普通とは言えない。

 

あかりさん…個性そのものと言える存在。普通を学んでる最中。かなりの大飯食らい。かなりズレてる。

 

かっちゃん…幼馴染み。口を開けば暴言ばかりだが、僕が近づくと決まって「来んな」と避ける。上記の四人に比べれば…まぁ、普通寄りではある。微々たる物ではあるが。

 

お母さん…僕のやってることは知らない。普通の人。

 

 

 

どうしよう。普通の人、お母さんくらいしかいない。

 

 

 

「どうした、ンなボーッとして」

「いや、なんでもない…」

 

 

涙を拭い…スーツ内では分泌された体液を拭いてくれる。痒いところもケアしてくれる…なんとか取り繕った。

 

 

「…そういやそのスーツ、お前アレだろ。

最近話題のヴィジランテ」

 

 

やばっ。

 

 

「さ、さよーならー!!助けてくれてありがとー!!」

 

「うっわ、反応が露骨!!」

 

 

ここでバレるわけにはいかない。

機動性をかなぐり捨てたリゲルの背に、無理やり取っ付けたブースターで空を飛ぶ。

 

 

思えば、この奇妙な出会いが始まりだったのかもしれない。

まさか中学生の青春を全てかけた、大きな戦いが幕を開くなんて、この時の僕は考えもしなかった。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「日本代表、オールマイト、エンデヴァー、ベストジーニスト。半日遅刻だ」

 

 

国連第一委員会が用意した会場にて。

アメリカのとある会議室に連れられた私は、白い目を向けられる中、用意された席に座った。

 

 

「すまない。オールマイトが音信不通だったものでね」

「こいつが所在を明らかにしなかったからだ。俺とベストジーニストは、離陸時間の1時間前に飛行機に乗っていた」

「………ごめんなさい」

 

 

ぐうの音も出ない。

言い訳するつもりはないが、事実として言っておこう。

未来人について考えていたせいで、メールに気づかなかった。

無論、そんなことをこの場で言えばどうなるか、分かったもんじゃないので黙っておくが。

 

 

「その追求は、今はやめておこう。

事は一刻を争う。

今回、この会議を仕切らせていただく。

国防長官のローガン・サリバンだ。

皆も知っての通り、無個性の政治家だが、平和を望む気持ちは、各国トップ3ヒーローの君たちと同じだと思っている」

 

 

ローガンと名乗った彼…私もテレビで見たことがある程度の認識…が、英語で軽く自己紹介を済ませた。

 

 

「早速だが本題だ。

世界には、どんな形であれ、『予知』する個性がある。

実際、アメリカで予知系の個性を使って商売してるヤツは、万を超えている」

 

 

予知。

ふと、私のサイドキックを務めていた彼を思い出した。

ある理由から疎遠になっていたが、こうして健康体になったのだから、一度会いに行くのもいいかもしれない。

私が頭の片隅でそんなことを思っていると、ローガンが一枚の資料を、プロジェクター用の機械に乗せた。

 

 

「この資料を見てもらうと分かるように、予知の個性を持つ人間が、同時に小さいながらも怪我を負っている。

調べたところ、我が国のみではなく、世界各地で…しかも、同時に起きていたことが判明した」

 

 

ざわめきは起こらない。

ただし、皆が気を引き締め、戦慄していた。

無論、私もその一人だ。

その中で、カナダのトップヒーローが同じく英語で声をあげる。

 

 

「話を遮るようで失礼。

つまりは、『予知系の個性を同時に襲った組織が居る』とでも言いたいのか?」

 

 

彼女が問うと、ローガンは淡々と続けた。

 

 

「怪我の理由は襲われたとか、そういう物騒なものではない。

非常にアホらしい話だが、椅子から転げ落ちたというのがほとんどだ。

中には階段から転げ落ちた者もいるが」

 

「馬鹿馬鹿しい!!そんなことのために我々を呼んだのか!?」

 

 

と、イギリスのNo.2が声を張り上げた。

が。ローガンは動じることなく、続けた。

 

 

「転げ落ちた理由が重要なんだ。

彼らが転げ落ちた理由。それは、今年含む3年間を予知した結果、皆が驚きと恐怖のあまりに気が動転したからだ。

百戦錬磨のプロヒーローでさえも、な」

 

 

プロヒーローでさえも。

ローガンは確かに、私に視線を向けてそう言った。

まさか、彼が…?

私の死を予知し、驚きこそすれ、椅子から転げ落ちることもなかった彼が?

私が思考の海に潜るのを待たずに、ローガンが別の資料をプロジェクター用の機械に乗せた。

 

 

「これが、彼らが一律に予知した未来。

あの中で、最も信用に足る予知の個性を持った人間が書いたメモだ。

…彼は筆談しか出来ないシャイでネガティブな性格のため、その時に書いていたメモを写真に撮ってきた」

 

 

 

ーーーーーー『いィやァァァァァぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!

 

誰か助けてェェェェェぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッッ!!!!!

 

世界滅ぶゥゥゥゥゥゥぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッッッッッッ!!!!!』

 

 

 

英語で書かれたその言葉は、現実味に欠けるものだった。

ひどく焦って書いたのだろう、その文字はガタガタで、とても筆談に慣れている人間のものとは思えない。

メモ用紙には汗が滲んだのか、どことなく湿っているのがわかった。

 

 

「常任理事国はこれを重く捉え、世界中の手だれ…各国のプロヒーロートップ3に、正式に命令を下すことにした。

トップ3未満は、実力が不足しているとして、勝手ながら切らせてもらった。

協力を仰いでもいいが、自分が殺したという事実を背負いたくなければ、やめることをオススメする」

 

 

異常事態。

一言にするならば、それに尽きた。

先程「馬鹿馬鹿しい」と声を上げたヒーローでさえも、さらに戦慄する。

トップ3以下が弱いとは、決して言わない。

だが、それでも「実力不足」扱いされる。

それ程までに切羽詰まった事態なのだ。

 

 

「…具体的な内容は?」

「中心となるのは、日本。

早ければ明日にでも、それ程の事件が起きるらしいが、一律して詳しい内容は不明。

ただ、焼け野原になった大地が見えたというだけで、十分に異常だと判断した」

 

 

 

マジかよ。

 

 

 

 

帰ったら久々に、グラントリノとサー・ナイトアイに会おう。

お師匠の墓にもお参りしておこう。

あ、そうだ。アメリカにいるんだから、デイブにも挨拶しておこうかな。

私はどこか遠い思考でそんなことを考えながら、会議の締めの挨拶を聞いていた。

 




日本語で書いてますが、会議室での会話はすべて英語だと思ってください。


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真夏に梅の花は咲きません

サブタイトル通りです。

先生は文系なので、花にはそこそこ詳しいです。


「真夏に咲いてる梅の木?」

 

 

ちゅるん。

皆で素麺を啜る中、緑谷くんから出た情報に、僕は首を傾げた。

 

 

「違う品種の木を見間違えたんじゃないんですか?

品種にもよりますが、梅の木が花を咲かせるのは、大体2月ごろです」

「いやっ、それは知ってるんですけど…。

アレは確かに、梅です。品種は南高です」

 

 

ふむ…。南高か。

それこそ、そこらへんにありそうな品種だ。

南高も一般的には2月に花を咲かせる。

8月初めの今の時期に花が咲くなど、本来ならばあり得ないのだが…。

 

 

「『梅の精霊』とか呼ばれてた、ヒメとミコトって子の個性じゃないですか?」

 

 

普通に考えれば、あかりさんが言う、その線が濃厚だろう。

……ん?ヒメとミコト?

僕がそのことを疑問に思っていると、東北さんがこっそりとメッセージを僕の携帯に送る。

 

 

『確実にボイスロイドです。正確には、ガイノイドtalkですけど』

『細かい区分は、僕は知りません』

『出してる会社の違いです。用途は一緒なので、気にしなくていいです』

 

 

ボイスロイドに加えて、ガイノイドか。

まぁ、あんまり重要そうな情報ではないので、そこは追求しないでおこう。

 

 

「そう考えたんだけど、個性遮断フィールドを展開してたし…」

「あー…。じゃあ、即散ってなきゃおかしいですね」

 

 

東北さんが言うと、「いただき!」と僕の分のトマトを奪う。

魔法の呪文『成績』でそれを奪い返し、僕は甘酸っぱいというには味が薄く、みずみずしいという表現が多用される割には砂っぽい食感のソレを咀嚼した。

 

 

「むむぅ…。麺類は『あーん』が難しいです。断固改善を要求します」

 

「それだけ勢いよく食ってほかに分け与える精神があることに先生びっくりしてます」

 

「殴りますよ」

 

 

やめてくれ、普通に死ぬ。

子供の癇癪で殺されるのはごめんだ、と語ると、「冗談ですよ」と返された。

 

 

冗談なのは分かってるが、仮にも戦時中に猛威を振るった兵器が「殴る」なんて言わないでほしい。

心臓がダイヤモンド製の緑谷くんたちと比べると、炭くらいの強度の僕の心臓は脅されただけでも止まる自信がある。

 

 

にしてもまぁ、よく食べること。

あかりさんが食べてる素麺の量は、僕たちの合計量の10倍。

しかもまだ余裕そうだ。

食費に関しては、緑谷くんのお母さんは「出久はそんなに食べないから、作りがいがある」と笑っていた。

この親在ってこの子在りの家庭だなぁ。

 

 

「イズクくん、トマトです。あーん」

「んっ。ありがとう、あかりさん」

 

 

字面だけ見れば、誤解されそうな光景だ。

だが断っておく。

紲星あかりは、恋を知らない。

緑谷くんに抱いている感情は、愛情というよりは『安心』とでも言うべきものだ。

依存しているわけではないが、彼以外に心を開けるかと問われれば、否であろう。

 

 

「…アレですよね。

カップルっていうか、子供がお母さんに『あーん』してるみたいなモンですよね」

 

 

関係としては、セイカさんの言う通り、親子に近い。

緑谷くんもあかりさんも、そもそも互いを異性として見ていない。

相手を庇護対象として見ている緑谷くんと、相手を自身を背中から撃たない者と安心しているあかりさん。

歪ではあるが、相性だけ見れば良好だと言える。

 

 

「見た目はカップルですけどね。

ほんと、見た目と中身って伴いませんよね」

「にべもなく爆発しろって言わないあたり、君も人を見る目は育ったようですね」

 

 

二ヶ月前であれば、街行くカップルに「爆発すりゃいいのに」と、聞こえないように、小さく罵声を浴びせていたクソガキとは思えない。

僕が成長を褒めると、彼女はその小さな体で精一杯胸を張った。

 

 

「えっへん。成長期ブーストですよ」

「その他が問題過ぎてマイナス評価は拭えてませんよ」

「うぐっ」

 

 

あの爆発今でも覚えてるからな。

 

 

科学に犠牲がつきものなのは知ってるが、だからと言って無断で使ってる他人のパソコンを壊すな。

このクソガキのクソガキぶりは、僕にしか向けられないってのも問題だ。

僕以上の内弁慶だぞ。

 

 

そんなことを考えていると、皆が一斉に「ごちそうさま」と手を合わせる。

昼食を食べたとは言え、流石は育ち盛りというべきか、セイカさん以外はまだ少し物足りなさそうだった。

 

 

「…デザートです。実家からスイカが送られてきたんで、取ってきますよ」

「先生の実家って農家なんですか?」

「ええ。家の収入全てそれに依存できるくらいには、大きいトコです」

 

 

テレビで取り上げられるような場所ではありませんが、と付け足し、冷蔵庫から切って冷やしておいたスイカを出す。

お好みで塩も用意しておいた。

 

 

「…夏ですねぇ」

「それ食べたら、宿題しなさいよ。

次忘れたら成績最低評価ってのは、卒業まで有効ですからね」

 

「そんな殺生なぁ!?」

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「Ms.コトノハ!どうしてこの研究の素晴らしさが分からないんだ!!」

 

「…だから言ってるじゃないか。

人工的に個性を作るのは不可能だ」

 

 

ある有名大学の一室。

生体工学を専門とする私が、大学から「好きに使ってもいい」と許可が出てる部屋に、私…琴葉葵の助手の怒鳴り声が響く。

彼が私に見せたのは、「個性因子を人工的に作るプラン」。

はっきり言って、夢物語だ。

現代の生体工学では、どの研究機関でも「個性因子を作り出す」のは不可能だ。

今月に私が学術誌の記事として証明したばかりだと言うのに。

 

 

「時代は1秒毎に進歩する…!

そう言ったのは貴女たちではないか!」

「そこで私と姉さんの教えを持ち出すあたり、君はダメなんだ」

 

 

私は言うと、彼の資料を押し付けようとする手を振り払った。

 

 

「いいか。適切な速度での進歩というのが重要なんだ。

じっくりと、その時代に合った研究をする。

でなければ、世界は崩壊する。

それは個性発現時に証明されているだろう。

功を成したい、名声が欲しいなどと言った私利私欲のために、時代を無理に進めるな」

 

 

…その分別もつかない子供が、時代を揺るがすほどの発明をしてしまったのだが。

秘匿している真実を胸にしまい、私は助手に「それはやめておけ」とだけ言って、部屋を出ようとする。

 

 

「…っ、貴女はいつもそうだ!

時代を進めるような研究を進んでやらない!

貴女ほどの頭脳と技術があれば、人工個性程度…」

 

「黙れ。研究生命を断たれたくなければ、それ以上、私を怒らせないほうがいいぞ」

 

 

帰ったらチョコミントアイスを食べよう。

カー○ルの、おっきいヤツ。

私は苛立ちを抑え込むように、ミント味のガムをひと粒噛んだ。

 

 

「人工個性…か」

 

 

個性は、時代を終わらせる。

それが人の手によるものならば尚更だ。

そんなことを考えながら、私は研究室を後にした。




葵ちゃんは生体工学、茜ちゃんは電子工学専門です。


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きりたん「緑谷先輩の間抜けェ!」

サブタイトル通り、彼女が先輩に対して罵倒します。

ホークスはデビューして半年ほどしか経ってません。


「世界の危機…ですか」

「ああ。次期No.3に最も近いとされている君には、先に話しておこうと思ってね」

 

 

19にもならない坊やに何言ってんですかね、この人。

そんなことを思いながら、俺…ヒーロー名で言えばホークス。自慢じゃないが、十代でNo.10の座が約束されてる…はベストジーニストの話に耳を傾ける。

 

 

「国連からの依頼だが…恐らく、私では力不足だ。相手は大地を焦がす程の強敵。

戦闘能力の高いオールマイトとエンデヴァーならばいざ知らず。

拘束力に優れてはいるが、こと単純な戦闘に関しては、どうしても他に劣ってしまう私では、力不足だと判断した」

 

「…まぁ、妥当な判断じゃないですかね」

 

 

大地を焦がすってンな馬鹿な。

そう言おうとしたが、やめた。

ベストジーニストの目が、「これは冗談ではない」と、俺に語りかけてくるようだった。

 

 

「俺も速さが取り柄なだけで、そこまで戦闘能力高いわけじゃないですよ?

むしろ、ベテランのベストジーニストさんのほうが優れてる可能性だってある。

別にルーキーに頼むことじゃ…」

「頼む」

 

 

…マジか。面倒なことになったな。

 

 

いつもの「何もなかった!今日も平和だなぁ」と床に着く日常が崩れ去るのを感じていた。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「で。これが、その梅の木ですか。

確かに南高ですね」

「でしょう?」

 

 

驚いた。

こんな真夏日に、満開の梅が観れるとは。

周りの景色は、夏の青の葉で埋め尽くされているというのに。

 

 

「あー。万年開花ですか。こんな時代からあったんですねぇ」

 

「「「は?」」」

 

この未来人、今なんと言った?

 

 

「万年開花ってなんですか?」

「その名の通り、何万年も咲いたままの梅ですよ。

第三次世界大戦が起きる…そうですねぇ。

大体十年くらい前に、遺跡から見つかったそうで、未だにその詳細が明らかにされてない梅の木なんですよ」

「そういう情報は先に言いなさいポンコツ」

 

 

成る程。未来でも、手に余すほどのオーバーテクノロジーが搭載されてるのだろうか。

…いや、目の前に居るな。そのオバテク使いこなしてるのが二人。

 

 

「私も初めて見ました。

イズクくんときりちゃんは、何か知らないんですか?」

「んー…。僕、電子工学は兎に角、生体工学は専門外だからなぁ…。

昔、琴葉博士の妹さんの論文で齧った程度で…」

「私に至っては、完全に専門外です。これっぽっちも分かりません」

 

 

…現代文学研究者に古代文学のこと聞いてるようなモンか。

 

 

 

「おい。ここ私有地だぞ」

 

 

 

と。そこへ一人の少年が訪れた。

…何故か夏全開の格好で。

 

 

 

「…中学生ですよね、アレ。虫網虫かご麦わら半袖短パン…。スタイル古っ」

「少年誌でしか見たことないですね」

 

 

あかりさんと東北さんの言うように、漫画から飛び出たみたいな格好してる。

今日日見ない、いかにも「夏休み満喫してるぜ!」って格好だ。

僕たちがそんな視線を向けるも、彼はどこ吹く風で告げた。

 

 

「夏って言ったら虫取りだろ。

私有地でやるのはよくないが、よかったら、ばあちゃんに掛け合ってやるぞ。

虫かごとか虫網…女も居るし、日焼け止めとかも用意してやろうか?」

 

「「「「菩薩?」」」」

 

 

何この子、めっちゃいい子なんだけど。

クソガキと交換してほしい。

 

 

「顔に出てますよ、クソ教師」

「こりゃ失礼。わざと出しました」

「だから性格悪いって言われんですよ」

「大丈夫ですよ。ここの所有者に予め了承は得てます」

「うわっ、話逸らした」

 

 

僕が少年に向けて言うと、彼は「そっか」とだけ返し、踵を返した。

流石に公務員が不法侵入をやらかすわけにはいかないので、一応許可を取っておいて良かった。

あのおばあさんの孫か、と一人頷いていると、緑谷くんがだらだらと冷や汗を流していた。

 

 

「…もしかして、さっきの子が犬神家してた君を引っ張り出した?」

「あ、はい。苗字はわかりませんけど、ショート君です。

ボイチェン無しの声聞かれてるんで、黙ってました」

 

 

よかったー、バレてなかったー、と汗を拭う緑谷くん。

 

 

 

「聞いちゃったー!あの時のお兄ぃさん!

ミドリヤイズクっていうんだね!」

 

 

 

が。なんとも間の悪いことに、僕たちの背後には少女が二人いた。

双子なのだろうか、二人とも似たような容姿で、片方が興味深そうに緑谷くんを見つめ、もう片方が警戒心をマックスにして僕たちを睨んでいた。

 

 

「ヒメ、その人危ないって、ショート言ってたでしょ。ショート呼んでこないと…」

 

「緑谷先輩の間抜けェ!!」

 

「ごめんなさい」

 

 

東北さんの罵倒に思わず頷いてしまった。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「俊典。珍しいじゃないか、お前さんから儂らに連絡するなんて」

「………」

 

 

私の目の前には、ここ数年顔も合わせなかった顔ぶれが揃っている。

サイドキックだったナイトアイ、教師として私をしごいてくれた…もとい拷問してた…グラントリノ。

グラントリノは再会を喜んでくれているが、ナイトアイの顔はいつものような嬉しそうな顔…ただし表情筋は動かない…ではなく、神妙な面持ちだった。

 

 

「今回のこと。国連から正式に命令が下されたよ、ナイトアイ」

「でしょうね」

「…ほんと、大丈夫?驚きすぎて転げ落ちた挙句、顎外れたって聞いたけど…」

「顎は治りました」

 

 

治ったんだ。良かった。

世界の終わりを予知してそれだけで済んでいるあたり、本当打たれ強いなぁ。

中には階段から転げ落ちて、全治半年の大怪我を負った人も居るってのに。

老婆心の如くそんなことを思っていると、グラントリノが口を開く。

 

 

「…で。儂はまだ何も聞かされとらんのだが、何かあったのか?」

「はい。実は…」

 

 

未来人云々を抜きにして、世界の危機への対処を国連から依頼されたこと、何故か私の傷が完治していたことを話す。

グラントリノは少しばかり目を細め、私を睨みつけた。

 

 

「世界の終わり…か。

オール・フォー・ワンなら、簡単にできるやも知れんかったが…倒しちまったからな」

 

 

実際にトドメを刺してはいないが、少なくとも後数年のうちは大人しくせざるを得ない怪我を負わせた。

まず、ヤツは候補から外れると考えた方がいい。

 

 

「有力候補は、ヤツ以外にも居ます」

「…聴かせろ」

 

 

私が言うと、グラントリノ、ナイトアイの両名の目が細まる。

私自身、あまりに馬鹿馬鹿しいとは思う。

だが、候補ではあることを話しておかなければ。

 

 

「今回の件…。私が先日体験した、超常現象…いや。とある事件に関係しています」

「…お前さんが『キズナ』という敵を倒しに向かったが、気づけば病院の前でがーすか寝てて、怪我が完治してたっつーアレか?

会ったら言おうと思ってたが、情けないにも程があるぞ」

 

 

うぐぅっ。

事実だから反論できない…!

 

 

「寝ていた理由は…我ながら情けないことではありますが、凄まじい風圧に吹き飛ばされ、後頭部に木が激突し、脳震盪を起こしてしまい…」

 

「もっぺん鍛え直すか、俊典?」

 

「けけけけっ、結構です!!」

 

 

おっそろしいっ!!

 

 

あの地獄のしごきが脳裏をよぎり、必死で首を振る。

アレで吹き飛ばされるなというのが無理だ。

 

 

「…その風圧が起きた原因は?」

「『SAVER』と『キズナ』の戦闘だ」

 

 

ナイトアイの質問に答えると、2人は目を剥いた。

 

 

「ただのヴィジランテと敵の戦闘で、お前さんが吹っ飛ばされたってのか?」

「…その時、キズナはこう言っていました」

 

 

 

ーーーーーー西暦3015年。人工的に、尚且つ科学的に作り出された個性因子…『セルフギフト』。

それを医療用の自己修復細胞に結合させ、生まれたのが私です。

 

 

 

その言葉に、2人が訝しげな表情を作る。

本当に意味がわからない、というような表情ではない。

むしろ、言葉の意味がわかっているからこそ、疑問に思っているのだろう。

 

 

「…つまり、なんだってんだ?

あろうことか未来から、ヤバい存在が訪れてるってのか?」

「…通りで、私の予知が変わるはずだ」

 

 

反応は似たようなものだった。

私はグラントリノに頷くと、いつもの笑顔を消した。

 

 

 

「ええ。恐らく、『SAVER』も同様の存在かと。

個性社会全体を揺るがすほどの存在が、この世界に牙を剥く時が来る…ということです」

 

 




緑谷くんは新たにドジっ子属性を獲得した!


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性格が悪いって?それがどうした

サブタイトル通りです。

先生の性格の悪さが露呈します。


「……つまりは、こうか?

『無個性が科学で個性超えた』っつー事実が世に出たら、とんでもねーことになる。

でも人助けはしたい。

じゃあ、正体不明のヴィジランテやろう!…っつーことか?」

 

「まぁ、大雑把にいうと…」

 

 

バレた。よりにもよって、初対面の緑谷くんの同級生に。

融通が効かなさそうな相手だから、下手に隠せば普通に通報されて終わりだろう。

 

 

 

なら、巻き込んじまおう。

 

 

 

僕の胃痛を味わうがいい。僕クラスになると慣れすぎて最早穴も開かないけどな!!

 

 

「…アンタ、教師のくせに相当性格悪いな。

こんなん聞かされて、誰にも言えるわけねーだろ」

「性格が悪いヤツ世界ランキングがあったら、トップ5には入ってると自負してる」

「ンなことで胸を張るな」

 

 

知らない子にまで性格が悪いと言われた。

生憎と直す気はない。

 

 

「…こんなのが小学生教師してるなんて、冬姉が知ったらどうなるか…」

「おや、ご親族に教師がいましたか?」

「いや、教育学部受かって、9月に教育実習受けるって」

「あー…。うちの学校でも募集してましたね」

 

 

そんな会話を交わしながら、ふと目線を緑谷くんの方に向ける。

シリウスに身を包み、ポージングする緑谷くんの姿は、どう見てもトニー・スタークだ。

カラーリングが白と金で、中身がもじゃもじゃ頭の中学生っていう点を除けば。

 

 

「おー、あいあんまんっぽい!

略してあっぽい!」

「あ、あっぽい?」

「アホっぽいって聞こえますね」

「アホっぽい!?ヒメちゃんそんなにアホっぽいの!?」

「言ってないけど、自覚あるんですねぇ」

「うん。自覚はあるんだよ。全然治そうとしないけど」

「これがヒメちゃんスタイルなのだ!」

 

 

言っちゃ悪いが言わせてくれ。アホが1人増えてた。

京町セイカという飛びっきりのポンコツがいるんだから、アホの子枠は要らんって思ってた自分がバカだったパターンだこれ。

 

 

「…あのヒメって子、いつもあんなのなんですか?」

「まぁ、概ね」

「担任の先生に同情します」

「担任?あの子たち、学校行ってねーぞ」

「え?」

 

 

学校に行ってない?不登校なのか?

僕がそう思っていたことが伝わったのか、彼は首を横に振った。

 

 

「いや、不登校ってわけじゃなくて。

…言っても笑わねーか?」

「梅の精霊ってヤツですかね?」

 

 

先日聞いた情報を出すと、轟くんは無表情を崩し、少しばかり目を剥いた。

 

 

「知ってたのか?」

「緑谷くんが言ってました」

 

話半分に聞いた程度ですが、と付け足し、梅の木に目を向ける。

花を咲かせている以外は、至って普通の南高。

こうしてマジマジと木を見るのは、大学の時に、論文を書くための題材を探していた時以来だろうか。

 

 

「こんな、どこにでもありそうな木に精霊…ねぇ」

「いや、年中花が咲いてる木とか、珍しいにも程があるだろ」

「それ以外が普通だって言ってんですよ」

 

 

流石に細胞単位ではわからないが、特段変わったところはない。

同級生にこの木の花弁を送って、研究してもらおうか。

 

 

「しかし…失礼ではありますが、こうして見ると風情もクソもありませんね。

季節が合っていないから、至極当たり前なんですが」

「そういうモンか?」

「そういうモンです」

 

 

本来、自然というのは流れ行くままが最も美しいとされている物だ。

花に美しさを見出すのも、たった数日で散ってしまう儚さを嘆いた物が殆ど。

自然に逆らった物に美しさを見出せ、と言われれば、文系の僕には厳しいものがある。

 

 

「ねぇねぇ!難しい顔してどーしたの?」

 

「いだぁあっ!?!?」

 

 

ぶすり。

考え事をして無防備だった僕の腰に、突起物が激突した。

めっちゃ痛い。

痛む腰をさすりながらそちらの方を見ると、僕に抱きつくヒメさんがいた。

 

 

「…ヒメさん。その頭のモン、結構痛いんで、頭突きはやめてくれます?」

「へ?」

「ダメだこれ分かってなさそう」

 

 

本気で「何言ってんのか分かんない」って顔してる。

 

 

「で、何してたのー?」

「…轟くんと世間話をしてただけですよ」

「世間話ってか、脅しだろ」

「人聞きの悪い。誰にも話さなければ、ただの世間話です」

 

 

…詐欺師とかできるかも。

いや、やらないけど。

無職のゴミ屑だった前世だったら考えたかもだけど、今世は教師だから絶対にやらない。

清いまま教師をしたい。

教育委員会の弱み握ってる時点で、清いもクソもないけど。

 

 

「んー…。分かんないからいーや!

ねぇねぇ、あなたって先生なんでしょ?」

「話の飛び方エグいですね」

「意味がわからん話はさっさと飛ばすからな、コイツ」

「詐欺に絶対引っかからないタイプですね」

 

 

グイグイ来るヒメさんに、「小学校の先生やってますよ」と答える。

すると彼女は、とてとてとミコトさんの方に駆け寄り、その手を引っ張って僕の前に連れてきた。

 

 

「私たちにべんきょー教えて!」

「…その、勉強…やってみたいなって…」

「…君たちのような学ぶ意欲のある子供は好きですよ。

意欲がありすぎて、僕に迷惑かけるクソガキと、向こう見ずすぎてオバテク作り出す中学生は微妙なラインですが」

「「え!?」」

 

 

好かれてると思ってたのか、コイツら。

実際、嫌いではないし、むしろ好ましくは思ってるが、その被害が僕に向けられるなら話は別だ。

 

 

「で。どんな勉強がしたいんですか?」

「その、ボク達…。ずーっと昔…何万年も前から、何も知らなくて。

ショートに足し算とかを教えてもらったり、絵本を読んでもらったくらいで、漢字なんて全然読めなくて…」

「とにかく、いろんなことが知りたいの!

先生だったら、いろんなことを知ってるんでしょ?

どんなことが起きてるとか、どんなものがあるとか!」

 

 

…ん?何万年?

 

 

………えっ?万!?

 

 

 

その膨大な年月に気づき、慄いたのは、数秒経った後だった。

人の文明が始まったのは、せいぜい1万年ほど前だ。

個性が世に出て、百数年経つか経たないかくらいの時代。

個性という不思議パワー無しに、万単位の年月を生きている…?

 

 

「…教える前に一つ、質問します。

生まれた経緯とかは、覚えてますか?」

「んー…。わかんない。

気付いたら、この梅と、ミコトと一緒に居て、何万年も経ってたから」

「ボクも同じかな」

 

 

……こんないかにも「謎ありますよ!解いて!」って言いたげな地雷満載な子を前にして、生徒達がギラギラと目つき変えてる。

「よっしゃ!今からお前らの謎、すっ裸にしてやるぜ!覚悟しなァ!」って言いたげな目で見てる。

頼むから、世界は巻き込んでも、僕だけは巻き込まないでくれ。

 

 

「…すげぇ目つきだな」

「気にしないでください。ああいう子達なので」

 

 

轟くん。出来れば、純粋なままの君で居て。

 

 

正義の秘密結社『一等星』が疫病神ではないこと、轟くんたちがそれに毒されないことを祈らずには居られなかった。

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

「くそっ…。どうして彼女は分かってくれないんだ…!」

 

 

ばんっ。

 

 

アメリカのとある酒屋にて、1人の男が自棄になって酒を呷る。

その男は、先日「人工的に個性を作る」という論文を上司に見せ、酷評どころか「手を出すな」と言われた研究員だった。

向かい側に座るのは、同じく研究員の1人。

 

 

「あの人は『時代を無理に進めるような研究をしない』がモットーの、前時代的な頭固いクソアマだからな。

なんで人工個性なんてモンが通ると思ったんだ、マイケル」

 

「彼女は…彼女達は、無個性だろう?

その弱みにつけ込めると思って…」

 

「そういう思考がもうダメだ。

アレらの人を見る目は、そこらの精神系の個性持ちよりも優れてる。

そういう下心も丸見えだったと思うぞ」

 

 

どっかの誰かの受け売りらしいが、と付け足し、酒を呷る研究員。

マイケルと呼ばれた彼もまた、ツマミのチーズを口に放り込み、その量に見合わぬ酒をがぶがぶ飲んだ。

 

 

「ぶはっ…。

そのどっかの誰か、本気で恨もうか…」

「やめとけやめとけ。顔も知らねーヤツを恨んでも仕方ねーだろ。

また別の研究を考えようぜ」

 

 

と、2人して笑ったその時だった。

 

 

 

「やぁ、こんにちは」

 

 

 

全てが機械で覆われた、歪な存在が彼らの隣に座ったのは。

 

 

「あんた、酒飲む気があんのか?そのマスクとか外しなよ」

 

 

研究員が言うと、その存在は「くくっ」と喉を鳴らす。

声質からして男なのだろうか。いや、それとも女なのだろうか。

どちらとも判別のつかない声が、より一層、その存在の不気味さを際立たせる。

 

 

「すまない。今日はプライベートで楽しみに来たんじゃないんだ」

「じゃあ、なんだってんだ?」

 

 

 

ーーーーーー『人工個性』のことについて興味があってね。

 

 

 

 

ぞくり。

 

機械の中から覗く目が、彼らを見つめる。

それだけで、全身の神経に針が通されるような、不気味な感覚が襲った。

 

 

 

「マイケル・クラーク…。個性『顕微鏡』。

ミクロン単位の物も肉眼で視認できる…」

「なっ…」

「ボブ・ジョンソン…。個性『精密操作』。

細かい作業も超感覚で正確にこなすことができる…」

「っ…!?」

 

 

 

自らの本名、個性を暴かれた2人は、全身の毛穴が閉じるのを感じた。

その様子を知ってか知らずか、その存在は「心配しなくていい」と、無害な存在であると示すように、大袈裟に振る舞う。

 

 

「大丈夫。ボクは敵ではなく、科学者だ。

『ブラックボックス』…。そう言えば分かるかい?」

「……!?個性研究の、第一人者…!?」

 

 

ブラックボックス。

その名を知らぬ者は、この世界に居ない。

個性因子を発見した研究者の元助手であり、個性関係の医学の基盤を作った人間。

この時代における個性研究において、右に出る者の居ない研究者。

 

 

「マイケルくん。私は君と同じことを考えているんだ」

「えっ…?」

「個性を人工的に作る…。

なんと素晴らしい研究だろうか!

その研究は確実に、人類の立つステージを上げる…。

それこそ、ただの人が神の如き力を作り出せるのだよ!!

それだけ大きいんだ、君の研究は!!」

 

 

引き込まれそうな感覚が、マイケルの心を掴む。

機械の奥にある瞳が、笑っていた。

 

 

「だが、あの生体工学のホープ…、Ms.コトノハはそれを良しとしない。

なんと愚かしいことだろうか。

人は神になれる…。その証明を、私としてみないかい?」

 

 

マイケルは、彼の手を取った。




ブラックボックスは…オリキャラというべきか分からない立場にあります。正体が明かされる時まで、お楽しみに。


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万年開花に触れてはいけなかったのだ

サブタイトル通りです。


「…なーんで僕、夏休みにもなって授業やってんですかね」

「水奈瀬先生、意外と面倒見いいな。

面倒くさがりなクセして」

 

 

三日後。

ふと、僕は持ち運び可能な黒板を前に、疑問を口にした。

担当している五年生のものじゃなくて、三年生に行うような簡単な授業。

 

それ自体は別にいい。いいんだ。

 

本気で何もかもを知らない生徒に、知識とその使い方を教えるというのは、先生の仕事の一つだ。

極たまーに、「答えだけ教えろよ!」とか吐かすクソガキも居るが。

問題なのは、今は夏休みということだ。

本来ならば休みの時期に、僕は何故一銭にもならない仕事をしているんだ。

 

 

「せんせー、この漢字分かんなーい」

「『れいめい』です。夜明けとか、物事の始まりなどを指す言葉です」

「せんせー、黎明期の個性についての記述は…」

「僕は専門外です。専門家に知り合いがいるので、今度連れてきましょう」

 

 

…楽しいからか。

クソみたいな自問自答を繰り返す僕に、ひそひそと轟くんが緑谷くんに話しかける。

 

 

「どういう人脈持ってんだ…?

アメリカの生体工学のホープ、電子工学の天才、歴史学者、エトセトラ、エトセトラ…」

「少なくとも、学問関連ならかなりの人脈持ってるよ。

青春を…っていうか、大学卒業までの人生を学問に極振りしたような人だし」

 

 

失礼な…と言いたいところだが、全く持って反論できない。

友人なんて、他の学問をかじる、もしくはその学問に精通してる人間と繋がりを持っていたいがために関わりを持ったのが殆どだ。

ゲーセンとかカラオケとかの娯楽施設なんて、中学生以来行ったことがない。

 

 

 

それだけ人生を削っても、僕の価値は、個性持ち一人分の価値にも届かないのだけれど。

 

 

 

「せんせー、できた!」

「ぼ、ボクも…」

「じゃあ採点して明日渡すんで、今日はもう東北さんと遊んできなさい。

彼女、運動不足気味なので、容赦なく」

 

 

彼女らからノートを受け取り、梅の木の下でゲームを満喫する東北さんを指差す。

寝耳に水とばかりに目を見開く彼女に、2人が元気よく駆けていく。

 

 

「「きりちゃーん!あーそーぼー!」」

 

「ちょっ、まっ、このクソ教師ィ!!」

 

「僕を恨まないでくださいよ。

ずん子さんから『リングフィットもしないレベルの運動嫌いなので、運動させてください』って頼まれてますんで」

 

「ずん姉様ァァァァァーーーーッッッ!?」

 

 

体育の授業でもほぼ動かないんだ。

せめて、今だけは筋繊維がブッチブチになるまで動くと良い。

僕はノートをリュックにしまうと、カタカタとタイピングを続ける緑谷くんに近づく。

 

 

「で、なんか分かりました?」

「万年開花と彼女たちの遺伝子情報を解析したんですが…全く同じ存在なんですよね…。

今、琴葉博士…ああ、妹さんの方と並行して解析してます」

 

 

緑谷くんは言うと、僕にパソコンのディスプレイを見せる。

…僕が専門的なことを理解できるわけないだろうに。

 

 

「…この時点で俺にはさっぱり分からん」

「中学一年生が学ぶ範囲超えてますからね。

習いたいっていうなら教えますが、習ってもまずコレは分からないですよ」

 

 

つくづく、科学者というのは僕の理解を超えている。

まぁ、僕と積み上げてきた知識の種類が違うから、当たり前なのだが。

そんなことを考えていると、僕の携帯から着信音が響く。

液晶画面に映る名前は、僕の同級生のものだった。

 

 

「ああ、失礼。…もしもし?」

『おい、バカコウ。今すぐ緑谷くん出せ』

「…葵さん、開口一番にバカはないでしょ。

緑谷くん。お呼びですよ」

 

 

僕が携帯を緑谷くんに放り投げると、彼は危なげなくそれを受け取った。

 

 

「もしもし、緑谷です。

…あ、はい…。…はい、すみません。

え?何処だって…?僕の地元の近くです。

 

…はい。……はいぃ!?

 

えっ、いや…っ、絶対に公にしちゃダメでしょそんなの!!

 

…はい。はい…。わかりました」

 

 

「何故でしょう。すんごく嫌な予感がする」

「奇遇だな、先生。俺もだ」

 

 

僕たち2人がそう呟くと、緑谷くんが震える声で告げた。

 

 

 

ーーーーーーこの木とあの子たち、人工個性の原型らしいです。

 

 

 

知りたくなかった事実が判明した。

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「へっぷし」

「あら、あかりちゃん。風邪?」

 

 

その頃、緑谷家にて。

山盛りの炒飯を平らげたあかりが、可愛らしいくしゃみを漏らした。

 

 

「いや、なんかムズムズして。

おかあさん、おかわり!」

「はいはい。本当によく食べるわねぇ。

作るのも上手で、好き嫌いもなくて、残さず食べる!食べ物に関しては言う事なしね!」

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「…なんで、こんなものが」

 

 

携帯の通話を切り、私は再びディスプレイに映し出されるソレに向き直る。

緑谷くんが作った転送装置で送られてきた、梅の花弁と、2人の少女の髪。

夢物語だと否定したのは、他でもない私自身。

だが、こうして現実に存在している以上、認めざるを得ない。

 

 

「私たちより以前に、個性を備えた知的生命体が存在した…?」

 

 

そう考えるのが自然だろう。

緑谷くんの友達…轟くんと言ったか。

彼が持っていた、「母方の家族のみが、万年開花を知っている証拠」と渡してきた資料。

万年開花のある森は、厳重に立ち入りが禁止されている私有地。

それこそ、万年開花のことを予め知っていないと、出入りが禁止されている程だ。

空中写真からでも、木々が邪魔をして映らないようになっている。

知られていないのも無理はない。

今回、情報を手に入れられたのも、轟くんがこの情報の重大さを知らなかったという部分が大きいだろう。

 

 

「…何がなんでも、マイケルには知られるわけにはいかないな」

 

 

この時、私はすぐにでもこのデータを破棄しておくべきだった。

…いや、もしかしたら、もう遅かったのかもしれない。

この時には、とっくの昔に取り返しがつかないところまで来ていたのだから。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「焦凍は毎日、何処へ行っている?」

 

 

 

資格取得のための勉強を終え、食事の用意をしていた時のことだった。

先日、国連に呼ばれたとかでアメリカに渡り、帰国したお父さんが口を開いた。

私相手には、滅多に口を聞かないお父さんが、だ。

 

 

「…友達の所…としか、聞いてない」

「…ちっ」

 

 

聞こえるように舌打ちをされた。

恥ずかしい話ではあるが、私は焦凍の友人に会ったことがない。

というより、私は焦凍のことを、あまり知らない。

知ってることといえば、五年前に一度、行方不明になってから。

「友達のところに行く」と、楽しそうに語るようになったことだけ。

好物も趣味も、これっぽっちも知らない。

そんな私が、焦凍がどこに行っているのかなんて、知るはずもない。

 

 

「焦凍め…。自らの鍛錬すら忘れ、遊び呆けているだと…?

より厳しく鍛える必要があるな…!!」

 

 

お父さんの眉間のシワが、五百円硬貨を潰せそうなほどに深くなる。

帰ってきた焦凍がどうなるか。

そんなことは、簡単に想像できた。

私がお父さんを落ち着かせる言葉を出そうとしても、口から出るのは空気だけ。

何もできない自分が、恨めしかった。

 

 

「いや、それでは反省しないか。

明日は留守を頼む。

俺は明日、焦凍の友人とやらと話してくる」

「っ、それはっ…!!」

 

 

まずい。

初めてできた焦凍の友達の身になにがあるか、分かったものじゃない。

ただ、これだけは言える。

焦凍は、確実に友人を失う。

私がお父さんを止めようと声をあげると、お父さんはその鋭い目を私に向けた。

 

 

「焦凍とお前は住む世界が違う。軽々しく口を出さないでもらおうか…!!」

 

 

私は、屈服した。

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

「人工個性が、こんな昔から存在していたなんて…」

「言っただろう?『君は間違ってない』。

世に在るということは、『公にしてください』って言ってるのと同義なんだよ」

 

 

琴葉葵の知らぬ場所にて。

先程、彼女が秘匿することを決めた資料を前に、マイケルの口から感嘆の息が漏れる。

どうやって手に入れたのか。

そのような疑問はすぐに消え、マイケルの脳は、「自分は正しかった」という言葉だけが埋め尽くす。

 

 

「私は、正しい」

「そう、正しいんだ。個性は人の手に余る?

違う。今の世界は、正しい管理ができていないだけなんだ。

僕たちがその管理者になろうじゃないか。

人工個性という、新たな方法で」

 

 

女とも男とも判別つかない声が、気持ち悪く聞こえることはない。

まるで、スポンジが水を吸い込むように、脳に言葉が染みつく。

 

 

「すべての個性は、人々が望むままのものに置き換わる。

君が目指すべき未来が、そこに在るんだ」

「私の、未来…」

 

 

譫言のように、マイケルが呟く。

機械から放たれる吐息が、彼の耳を撫でた。

 

 

「そう。君がすべての基準となるんだ」

 

 

脳髄…否。全身の血液に染み込むような言葉が、マイケルを蝕む。

その瞳に、ブラックボックスの顔が映る。

変わりもしない機械の顔が、笑っていた。

 

 

「さあ、行こうじゃないか。

始まりの人工個性…『万年開花』を拝みに」

 

 

世界を揺るがす大事件の幕開けは、近い。




人工個性が未来の産物だと思った?答えは『過去の遺産』でした。


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脅威が目覚める

サブタイトル通りです。


「…株ってやってみるもんですね」

 

 

翌日。

車の代金稼ぎを目的として、株投資を始めて数日が経った。

ゲームソフトどころか、弁当すら買えない料金だった株価が、馬鹿みたいに上がってた。

ちょっと焚きつけただけなのに、ここまで利益が上がると怖くなってくる。

 

誤解のないように言っておく。

 

株投資は、規定で禁止されている副業には含まれない。

だから、後ろめたいことなど何もない。

え?洗脳教育?

洗脳はしてない。ただ、やる気をそれとなく刺激しただけだ。

 

 

「先生って、黒幕みたいな人ですよね」

「緑谷くん、卒業してから失礼度合いが増してきてません?」

 

 

字面だけ見ると悪の帝王じゃないか。

 

 

そんなことを思いながら、即座に株の売却を決める。

家が建つくらいの金が手に入った。

…どうしようコレ。正直、軽自動車一台買えたら十分なんだが。

散歩に出てるポンコツと、緑谷家、東北家…あと轟くんたちに夕飯でもご馳走しようか。

 

 

「…ファミリーカーでも買います?」

「なんで東北さんが決めてるんですか」

「いや、法的でいて足がつきにくい移動手段としては、先生の車が一番ですし」

「確かに」

「僕が足ってことは共通認識なんですね」

 

 

運転免許なんて取るんじゃなかった。

そんなことを思いながら、金の使い方を思案していると、携帯が鳴った。

画面に映るのは、つい先日、番号を交換した轟くんの名前。

僕は通話ボタンをタッチし、携帯を耳にあてる。

 

 

「もしもし?」

 

『先生!!今どこだ!?』

 

 

いつものような平坦な声ではなく、焦り散らした声が響く。

彼の声に混ざって、爆発音やら何かが崩れる轟音が響いた。

 

 

「っ、そっちで何が?」

 

『落ち着け、ヒメ、ミコト!!

どうしちまったんだ、くそっ!!説明してる余裕がねぇ!!

早くこっちに来てくれ!!万年開花の前!!早』

 

 

ぶつっ。

音声が途切れる。

どう考えても、異常なことが起きているとしか思えなかった。

 

 

「…と、轟くんは、なんて?」

「今すぐ万年開花の前に来いと。

恐らく、戦闘が起きてます。

緑谷くんだけでも、急いだほうがいいかと」

「分かりました!」

 

 

緑谷くんは即座に、僕の家を飛び出して行った。

暫くして、轟音が響いたあたり、スーツを纏って飛び立ったのだろう。

残された僕は、東北さんをハイスペPCの前に座らせた。

 

 

「パソコンを貸します」

「えっと、マジで何が起きてんですか?」

「とにかく、万年開花に向けて、ドローンを飛ばしてください。

葵さんに中継も頼みます」

 

 

願わくば、敵をぶっ倒せばいいというような、単純な状況であって欲しいものだ。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

時は少し遡る。

今日は妙に親父の機嫌が良かった。

自分じゃ隠してるみたいだが、アレは分かりやすい。

ちょっと視線を外すだけで、かなり苛立った様子を見せた。

俺が修行から逃げて、ヒメとミコトの相手をしてることに腹が立っているようだ。

俺の携帯にGPSが付いてることも分かっていたため、緊急時の連絡用にと電源を落とし、今日もまた万年開花へと向かっていた。

 

 

「……なんだ、ありゃあ?」

 

 

森に入る前。

唯一の入り口と呼べる、電子型のセキュリティロックがかかった扉の前で、怪しい人影が見えた。

 

1人はアメリカ人。

本当にインタビューの映像でしか見ないような、パッとしない特徴の顔。

 

それは別にいい。問題は、その隣。

 

緑谷のスーツのようなシンプルさなど、かけらもない無骨な機械が、人の形を取って、そこに立っていた。

遠目で見ても、機械の塊が放つ気配は、神経に針が通されるような、ゾッとするものだった。

 

 

「ここに、始まりの人工個性があるんだ。

法の壁など関係ないよ。

君が新たな法になるのだから」

「…私が、新たな法…」

 

 

英語だが、断片的に理解できた。

親父曰く「英才教育」として、普通の勉強も人並み以上にやって良かったと始めて思った。

 

その言動は、完全に『敵』のソレだ。

 

しかも、人工個性…?

まさか、万年開花とヒメたちを狙っているのだろうか。

なんにせよ、緑谷たちに連絡を入れなければ。

そう思い、携帯の電源を入れようとして、やめた。

ここでスーツを着た緑谷と、あのクソ親父が鉢合わせたらどうなるか。

想像には難くなかった。

 

 

「頼む、ヒメ、ミコト…!ヤツらに見つからないでくれよ…!」

 

 

いつも使っている入り口とは違い、注意しなくては気づかない秘密口の戸を開ける。

先回りして、ヒメとミコトに知らせなければ。

彼女らの身に危険が迫っていることに、俺の胸は焦燥感で張り裂けそうだった。

 

 

この時、俺は緑谷たちを呼んでおくべきだった。

後悔したが、もう遅い。

こんな状況になってしまってから、俺は自身の短慮を酷く呪った。

 

 

 

何があったのかも、今、語っておこう。

 

 

 

俺は途中で転げながらも、必死で森の中を走った。

クマにも出会した。

軽く氷漬けにして、そのまま通り過ぎた。

走ってる最中で、蜂の巣を壊してしまい、雀蜂に襲われかけた。

襲われる前に氷漬けにした。

そうやって何度も何度もつまづき、俺は一直線に万年開花へと向かった。

 

 

ようやく着く頃には、着ていた服はボロボロで穴が空いていて。

身体中には擦り傷と打撲が出来ていた。

二人の姿が見えると同時に、俺は声を張り上げた。

 

 

「ヒメぇ!ミコトぉ!」

「ショート…っ、どうしたのその怪我!?」

「と、取り敢えず、治癒しなきゃ…!」

 

 

二人が慌てふためきながら、俺に駆け寄る。

違う。何とかすべきなのは俺じゃない。

お前たちを狙う奴がいるんだ。

今すぐに逃げないと、ダメなんだ。

そのことを伝えようと、俺は肺いっぱいに空気を吸い込んだ。

 

 

「俺のことはどうでもいい!お前らと万年開花を狙ってるヤツらが…」

 

 

が。それを吐き終わる前に、俺の声は途切れた。

最短ルートを駆け抜けたはずなのに、俺たちの目の前に、あの機械の塊が立っていた。

目の前にして感じる、圧倒的なまでの恐怖。

全ての神経を引っこ抜かれるような感覚に、ごくり、と生唾を飲んだ。

 

 

「おや、見つかってしまったね。

キミたちは、ここの所有者の関係者かい?」

 

 

男でも女でもない、不快な音が言葉の形を為して、俺の鼓膜を揺さぶる。

だらだらと嫌な汗と共に血液が滴るのを感じ取りながら、俺は声を絞り出した。

 

 

「…それを答えて、どうなる?」

 

 

ぎゅっ、とヒメとミコトを強く抱き寄せる。

目の前のコイツと、まともに取り合うな。

脳の奥から、恐怖と戦慄が湧き出てくる。

吐く息を出来るだけ整えて、ヤツの機械の目を見据えた。

 

 

「答えない、か。別にいいよ。

…轟焦凍。エンデヴァーの息子。

個性は『半冷半熱』。エンデヴァーが望んだ『自分の完全なる上位互換』」

 

 

 

ぞっ。

 

 

本名どころか、俺の家族でしか知り得ない情報まで、目の前の機械はベラベラと話す。

なんだ、コイツは。

恐怖が俺の心臓を強く叩き、戦慄が俺の肺から空気を絞り出す。

手が彼女らから離れようとするのを抑えるだけで、俺はその場から動けなかった。

 

 

「ああ、警戒しなくてもいい。

君たちには手を出さない…。

ボクはただ、人工個性の力を、彼に見せにきただけなんだ」

 

 

機械は言うと、手から二本の管を伸ばし、万年開花に突き刺す。

そこから怪しい色の液体が注がれると、管は機械の体へと戻った。

 

 

「個性強制発動薬。

なかなか個性が発現しない子供に投与するための検査薬だが…。

人工個性でも効果があるのだろうかね?」

 

 

瞬間。

 

 

「くぁ、い、ゃ、ぁあああぁあああアアアアアアアアッッッ!?!?!?」

 

「や、ぁ、ぁああ、ぁあああぁあああアアアアアアアッッッ!?!?!?」

 

ヒメとミコトが、もがき苦しみ出した。

その綺麗な声を濁らせ、喉奥から絞り出すような声が、天を衝く。

それと共に、万年開花がうぞうぞと蠢き、ヒメとミコトへと根を伸ばしていた。

 

 

「な、なにが…、起きてる…?」

「し…ょぅ…、と…。おね、がっ…」

「と、めっ…、た、す…」

 

 

ヒメとミコトが、息も絶え絶えに俺に言う。

彼女らの言葉に答える直前になって、その体からだらりと力が抜ける。

万年開花の根が、彼女らに触れたその時。

 

彼女らの目が開く。

 

その瞳は、いつも見るような、可愛らしさなどかけらもない。

光沢がなく、どこまでも深い、闇の色が彼女らの目に沈殿していた。

 

 

「「『防衛システム・鳴花』、起動シークエンス…完了」」

 

 

「ひ、ヒメ…?ミコト…?」

 

 

抑揚のない声が、彼女らの口腔から吐き出される。

万年開花の花弁が、生き物のように蠢き、彼女らの周りを漂った。

 

 

 

「「リミッターを解除。個性生成…『殲滅』」

 

 

 

瞬間。

 

 

花弁が森を崩した。

 

これが、俺が先生に連絡するまでに見た、全ての出来事。

そして、世界を巻き込んだ「人工個性事件」の幕開けであった。




脅威は「梅の木そのもの」でした。


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先生の語彙が死んだ

サブタイトル通りです。

語彙が死ぬくらいヤバい状況になりつつあります。


森が崩れた。

あまりに馬鹿げた光景に、パソコンに映った映像を前に、僕たちは口を開ける。

ところどころに梅の花弁が確認され、その一枚一枚からビームやら炎やら電撃やらetc…まぁ、とにかくいろいろ放たれている。

何も知らぬ者も、ひと目見ただけで、その光景のデタラメさが理解できるだろう。

 

 

「…いやいやいやいやあり得ないでしょ!?

これ、花弁一枚ずつに『個性』があるってのと同義ですよ!?

古代人は一体何考えてこんなモン作ったんですかァ!?」

 

 

東北さんが、僕の考えていたことを代弁してくれた。

あかりさん以上のデタラメが、あの梅の精霊だったのか。

なんてバトル漫画だ。ドラゴンボール並みのインフレじゃないか、コレ。

 

 

「行かなくてよかったですね。

まず、戦闘技能どころか自己防衛手段もない僕たちが行けば、確実に死んでますよ」

「バリア用のドローン使ったところで、展開前に吹っ飛ばされるのが関の山ですね…」

 

 

普段であれば、現場にいないからこそ、他人事のように見ているのだが…。

あそこには、轟くんが居る。

それだけで焦り散らすのには十分だ。

 

 

「おぅふ…っ!」

 

 

僕が東北さんに指示を出そうとした、まさにその時。

彼女は天を仰ぎ見て、その目元を思いっきり掌で叩くように覆った。

 

 

「どうかしました?」

 

 

僕は東北さんを押し退け、パソコンの画面に向かう。

と同時に、同じく天を仰ぎ見て、目元を勢いよく覆った。

 

 

「…うっわ、マジヤバ」

 

「事のヤバさのあまりに国語教師の語彙が死んだァァァァァーーーーッッッ!!!」

 

パソコンの画面には、空を飛ぶNo.2ヒーロー、『エンデヴァー』の背中と、シリウスを纏う緑谷くんの姿があった。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「ヴィジランテ『SAVER』…。

こんなところでお目にかかれるとは、俺もつくづく幸運だな」

 

 

どうしてこうなった。

 

 

目の前にした憧れの一人、エンデヴァーを前に、僕の背中から冷や汗が吹き出るのがわかる。

取り敢えず、バレないように、音声変換も兼ねて読み上げ用ソフトを起動。

先生ときりちゃんの声を複合した声で、僕はエンデヴァーに言葉を返す。

 

 

『助けを求めている人が、すぐそこに居るんだ。構わないでもらえるだろうか』

「そうはいかん。

貴様は個性を振るい、ヒーロー活動を邪魔し、その役目を横から掠め取っている…!

その所業、敵となんら変わりない!

ヒーローの面目を潰す気か、敵!!」

 

 

敵呼ばわりされた。

過激派ヒーローってのは知ってたけど、ヴィジランテ=敵って、ちょっと傷つく。

横から掠め取って…って言うけど、僕のやった活動の手柄はだいたいその場にいたヒーローのものになってるんだから、実質プラマイゼロじゃないか。

 

ヒーローの面目を潰す気かって?

そんなつもり、微塵もない。

ただ、人助けをするのに知識と力は必要でも、資格は要らないだろ。

そんな反論をしたとして、エンデヴァーが聞く耳を持たないことはわかっているが。

 

 

『我よりも、下の方に行った方がいいんじゃないか?森一つが消し飛んでるんだ』

「心配無用。サイドキックを向かわせている。あの程度を解決できないほど、俺の部下はヤワじゃない」

『…成る程』

 

 

知らないってのは、逆に厄介だな…。

 

もちろん、エンデヴァーとその部下が弱いとは、口が裂けても言わない。

No.2に上り詰めるまで、どれだけ険しい道を登ってきたか。

また、その男に信頼されるべく、どれだけの汗を飲んできたか。

それは想像に難くない。

 

ただ、今回は相手が悪すぎる。

 

きりちゃんから届いた情報に合わせて、偵察用のドローンから得た情報から推測するに、あの梅の木は「細胞の一つ一つが意志を持ち、個性を持っている」。

その意志を統合して切り離したのが、あの二人だったのだろう。

通りで、全く同じ遺伝子情報が出てくるわけだ。

 

 

『悪いことは言わない。今すぐ引き上げさせた方がいい』

「他人の心配より、まずは自分の心配をしたらどうなんだ?

この俺に叩きのめされる覚悟は出来てるんだろうなァ…!!」

 

 

どうしよう。言っても聞かない。

どんな形であれ、応戦すれば、まず確実に敵認定される。

 

 

…詰んでないか、コレ?

 

 

僕がそう思う最中、エンデヴァーが必殺技の『プロミネンスバーン』を僕に放とうとした、まさにその時だった。

 

 

「がはぁ!?」

 

 

エンデヴァーを、梅の花弁があっさりと吹き飛ばしたのは。

 

 

『あー…。結構飛ぶなぁ。よっと』

 

 

あまりのデタラメさに、もうあんまり驚かなくなった。

ヘカトンケイルで腕を二本だけ作り出し、ノックアウトしたエンデヴァーをキャッチする。

…ロストテクノロジーで、あのエンデヴァーが一撃で気絶って…。

未来人よりもデタラメな古代人ってなんだ。僕はエンデヴァーを、森から離れた病院の方へと腕を伸ばして運ぶ。

 

今思うと、先生の家で見た新劇場版エヴァンゲリオンに出てきた、第九の使徒みたいだ。

デザイン、もうちょい改良しとくかなぁ。

そんなことを考えることで、僕は軽く現実から目を背けた。

 

 

『っとと…。もうボイチェンも必要ないか」

 

 

そっちに演算処理機能が割かれても困る。

まずは轟くんとヒメちゃん、ミコトちゃんの救出。

そのためにはまず、万年開花に向かう必要がある。

 

 

「MESSIAH、リゲルに着替えさせて」

『了解しました』

 

 

早着替えプログラムは上手く作動するか?

一抹の不安とともにMESSIAHに指示を出す。

瞬間、ナノテクで装着していたシリウスが分解され、新たにリゲルが僕の体を覆った。

 

 

「おお、上手く行った!

あとは…テティスを十機展開して、落下、ァァァァァぁああああっ!?!?!?」

 

 

僕は二度目の墜落を味わうこととなった。

心的に余裕あったろ。

焦り散らしてもないのに、なんであんな雑な指示出したんだ、僕のバカ。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「っ…、ヒメぇ!ミコトぉ!

聞こえてねーのか、なァ!?」

 

 

轟々と破壊の音が、森だった土地に響く。

ばあちゃんたちは、コレを知ってて隠していたのだろうか。

梅の花弁が、全てを壊していく。

あのアメリカ人と機械は、いつのまにか姿を消していた。

残されたのは、俺と、暴走するヒメとミコトだけ。

 

 

「「座標数、膨大。脅威レベル、測定不能。

全生命のリセット…不可能。

 

最終手段…星の破壊を実行する!」」

 

 

「っ、ヒメ!!ミコト!!」

 

 

その言葉を理解する前に、俺は崩れゆく地面を踏みしめ、彼女らへと手を伸ばす。

が。それは花弁によって阻まれ、俺は無様にも吹き飛ばされた。

 

 

「ぅあっ…、ああ!?」

 

 

彼女らに手を伸ばすも、もう遅い。

その姿が、花弁に隠れる。

地面に落下する衝撃を受け止めるべく、親父から無理やり学ばされた受け身を取る。

泥だらけになったが、気にしてられない。

今は、ヒメとミコトをなんとかして止めなければ。

 

 

「先生には連絡した…。

連絡手段はぶっ壊された…。

緑谷がどれだけ頼りになるか…果てはいつ来るかも分かんねー以上、俺がなんとかするしかねーか」

 

 

こんだけ騒ぎになれば、あのクソ親父も動くはず。

親父に限らず、プロヒーローがここに駆けつければ、ヒメとミコトを敵として、最悪殺してしまうかもしれない。

焦る時こそ頭を冷やせ。

迅速に、かつ的確に。慌てず、冷静に。

…クソ親父の教えも、結構役に立つな。

 

 

「花弁が散弾銃の如く、いろいろ放ってきやがる…。ああもバラけりゃ、一気に全部凍らすのは無理だ。

やってるうちに炎とレーザーに溶かされる。

燃やすのも無理。燃やしてる間にレーザーに貫かれてお陀仏…」

 

 

ダメだ。普通の中学生の頭じゃ、わかり切った結果だけしか思い浮かばない。

生憎、俺はちょっと地頭と血筋と個性がいいだけの凡人。

考えろ…。そのシワの少ねェ脳みそ搾り出す勢いで回せ…!

ブッ壊れるくらい考えろ、轟焦凍!!

 

 

「こんなところになんで焦凍くん…って、怪我だらけじゃん!?」

 

 

つぅ、と使い慣れない脳みそを回したことで、鼻血が垂れるのが分かる。

何が聞こえるが、それどころじゃない。

考えろ。今、俺に何ができる?

 

 

「避難するよ、焦凍くん!聞いてる!?」

 

「うっせぇ!!

 

今、考えてんだよ…!

ヒメとミコトを助けんだ…!!」

 

 

目が霞んで誰かは見えなかったが、邪魔だったから怒鳴った。

俺を揺さぶる手を振り払い、梅の花弁舞い散る竜巻を見上げる。

あそこに少しでも穴を作れば、ヒメとミコトに…。

いや、それでも花弁で攻撃され…。

 

 

「……ん?」

 

 

いや、待て。妙だ。

ここにも花弁が舞っているのに、俺の周りになにも飛んでこない。

…まさか。

 

 

「…どんだけ俺大好きなんだよ、アイツら」

 

 

なんだ。

考える必要なんて無かったじゃないか。

いつものように、ヒメとミコトを遊びに誘うような感覚で、俺は一歩を踏み出す。

 

 

「ちょっ、焦凍くん!?

危ないって、ちょっと!?」

 

 

今になって、はっきりと周りの状況が見えてきた。

焼け野原になった森に、吹っ飛ばされる見覚えのある…というより、見覚えしかないプロヒーロー。

地面へと突き刺さる花弁の波に、俺の腕を掴むバーニン。

 

…バーニンに「うっせぇ!!」って言ってしまった。

やったことはないし、成功率も皆無と分かるが、「あれ?居たんですか?」作戦でいこう。

 

 

「…あっ、居たんですか?」

「居たよ!!えっ、なに!?エンデヴァーさんに比べて、そんな影薄いのわたし!?」

 

そう叫ぶ彼女の手が緩んだ隙に、氷でダミーを精製して、拘束を抜け出す。

 

 

「焦凍くん!!」

「悪ぃ。友だちが、あそこで待ってるんだ」

 

 

これで俺も犯罪者、か。

どう叱られるか分かったモンじゃないが、アイツらに手を差し伸べられないよりかは、断然いい。

大丈夫。俺ならできる。

人生全てを賭けて、アイツらを助ける。

 

 

「…ったく。終わったら、二人とも全力高い高いの刑だ」

 

 

氷の道を作り、炎をブースターとして超スピードを生み出す。

瞬間。景色が線となった。




エンデヴァーさんは気絶しましたが、この戦闘中にすぐに復活する予定です。お楽しみに。


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緑谷「何回僕の背に地球が乗るんだよ…!!」

サブタイトル通りです。

正確に言えば、緑谷くんと轟くんに全てがかかってます。
原作の緑谷くんはこんな弱音吐かないと思いますが、まだ中学生なのと立ち向かう危機の規模が違いすぎるので吐きました。


「…やっばいですよ。

あの子たち…ってか、あの梅の木、地球をマジでぶっ壊す気です」

 

 

東北さんがだらだらと冷や汗を流し、今にも泣きそうな声で、僕と帰ってきた二人に告げる。

セイカさんはその意味が分からず呆けており、あかりさんは価値観の違いか、「ふぅん」程度の反応だった。

 

 

「えぇ!?未来でもそんな超兵器ありませんでしたよ!?」

「セイカさんみたいな下っ端に知らされてないだけで、星が壊れる可能性がある兵器は大量にありましたよ」

「そんな時代で兵器爆発させたのこのポンコツ!?」

 

 

本当、よく極刑にならなかったな!?

 

 

いや。今は、全貌のわからない未来に同情してる暇はない。

梅の花弁がドリルのように、地面を掘削していく光景。

コレでなにをしようというのかを、東北さんに聞かなくては。

 

 

「彼女らは一体なにを?」

「今さっき、私特製ドローン『見えるくん』で地球をスキャンしました。

地面に埋め込まれた梅の花弁たちが、凄まじい勢いで地球からエネルギーを吸い取ってます。

あと三十分で地球の寿命が尽きて、超新星爆発が起きます…!」

 

 

最早、ため息しか出なかった。

前回よりも小規模ではあるが、確実に地球は吹っ飛ぶ。

下手な敵よりも脅威だ。

…いや、最早脅威というより、天災だ。

古代人が作ったのだから、人災にカウントされるのだろうけど。

 

 

「…で、どうします?

唯一思い浮かぶ作戦としては、地球にエネルギーを供給するってことくらいですが…」

「私どころか、緑谷先輩でも無理ですね。

そういうアイテムを作ってません。あかりさんは?」

「私も無理です。

ただ放出するだけなら兎に角、注ぎ込む個性を作るってなると…1時間はかかりますよ」

 

 

僕たちが思考を巡らせていると、携帯から着信音が響く。

画面を見ると、そこには「琴葉葵」の三文字があった。

中継を繋いでからかなり経つが、今の今までなにをしていたんだと思いつつ、通話ボタンを押す。

 

 

「はい、もしもし」

『おい、バカコウ!!

一体全体なんなんだあの世界の終わりみたいな光景は!?』

 

 

僕の鼓膜を突き破るような、つんざく声。

それが葵さんのものだと分かるのに、数秒もかからなかった。

焦り散らす彼女をさらに狼狽させてしまうが、隠していても仕方ない。

 

 

「僕らにもわかりません。

ただ、アレをなんとかしないと、あと三十分で超新星爆発が起きて地球がドォン!!…らしいです」

『…うそ、だろ…?』

 

 

葵さんの到底信じられないとでも言いたげな、弱々しい声。

僕の性格を理解する人間としては、嘘を言っていないこともわかり切っているはず。

そういう前情報を込みにしても、この光景をひと目見れば、まず「ありえない」が口から飛び出すだろう。

 

 

『っ、どうするんだ、バカコウ!

緑谷くんたちが動いてるのか!?

というより、彼らでなんとかなるのか!?』

「…わかりませんよ。

僕らにできるのは、せいぜい祈ることと、ちょっぴり背中を押すくらいです」

 

 

なんの力もない外野がなにを考えても、何かができるわけではない。

僕がなにを考えても、あの場での助けにはならないだろう。

であれば、助けになる人間に代理を頼むだけだ。

 

 

「あかりさんにセイカさん。

一つ、頼みがあります」

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

落下はしたが、逆噴射機能で犬神家にはならずに済んだ。

しかし、いかんせん状況は良くない。

いや、むしろ最悪と言えるだろう。

あかりさんの時よりも激しい波状攻撃を捌くのに手一杯で、全然彼女たちに近づけない。

 

 

「…っ、きりちゃんから、メッセージ…?」

 

 

攻撃を捌く最中、メッセージが視界の端に開かれる。

集中力を少し割いて断片的に読む。

『あと三十分』、『地球の寿命』、『吸い取』、『超新』、『発が起き』…。

…マジか。

あと三十分で止めないと超新星爆発?

あかりさんの時といい、個性ってのはほんっとうにデタラメだな!!

 

 

「何回僕の背に地球が乗るんだよ…!!」

 

 

この波状攻撃の中では、最高火力を誇るシリウスの再生が追いつかない。

硬めに作ったリゲルでさえも、数秒の間欠けてしまうのだ。

シリウスに換装した瞬間、僕は蜂の巣になる。

とてもじゃないが、難しい。

 

 

「…難しいってだけで、出来ないって訳じゃない。MESSIAH、リゲルを『タンクモード』に移行」

『了解。変形シークエンスを開始します』

 

 

念には念を入れて、より硬く、より重く、リゲルの形が変化する。

テティスを展開する余裕がないため、その分のエネルギーをバリアによる装甲強化にまわす。

タンクモード。

地盤のゆるい場所だと、自重で沈むが、ここ最近雨が降ってなかったから好都合だ。

 

 

「難点は、進むスピードが遅くなることだけど…今の状況じゃ、こっちのが速い」

 

 

散弾銃のように放たれる攻撃を、腕を薙ぐことで弾く。

ヒメちゃんとミコトちゃんがいる場所まで、あと五百メートル。

このペースで行けば、5分後には着くだろう。

 

 

「頼むから来ないでよ、プロヒーロー…!」

 

 

人生で初めて、そんな願いを口にした。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

花弁の織りなすトンネルを駆け抜け、竜巻の中へと入る。

やはりというべきか、俺は攻撃の対象外として扱われている。

竜巻の中は混沌としているのにも関わらず、俺の半径五メートル以内は穴が空いたようになっていた。

 

 

「バーニン、ついてきてねーよな…?

来てたら死ぬぞ、コレ…」

 

 

ぴったりひっつきでもしない限りは、花弁に容赦なく蜂の巣にされて終わりだ。

親父のサイドキックがあの場にいたのだ。

最悪、親父が来ている可能性もある。

というより、絶対に来ている。

容赦のなさ『だけ』は日本トップのあの親父と、そのサイドキックだ。

ヒメとミコトを止められたとして、事情を知らない親父たちは容赦しないだろう。

 

 

「いや、そういうのは、後で考えろ…。

今、決心を鈍らせんな…!」

 

 

俺が心配したところで、今なにか出来るわけでもない。

竜巻の範囲はザッと見て、半径2キロ。

普通に走っていたら、プロヒーローに犠牲者が出るかも知れない。

先ほどと同じように、氷の道と炎のブースターで進む。

 

暫くすると、電撃やレーザー、その他諸々が織りなすトンネルの向こうに、二人の姿が見えて来る。

満開だった花弁は全て散り、果ては木そのものがボロボロと樹皮を崩壊させている。

その中で、彼女たちはただ無表情で、そこに佇んでいた。

 

 

「ヒメぇ!!ミコトぉ!!」

 

 

声を張り上げ、二人の名を呼ぶ。

表情は、ぴくりとも動かない。

返事がわりにと、凄まじい風圧が俺を阻む。

氷で体を地面に縫い付け、意識ごと吹き飛ばされそうな中、なんとか踏ん張る。

攻撃されないだけ、まだマシだ。

風圧で、目蓋が閉じそうになったが、気合で無理やりにこじ開けた。

 

 

「…っ、そぉ…!」

 

 

氷で重石を作り、無理やりに暴風の中を進む。

あの細い手に向けて、手を伸ばす。

 

 

「…ょ、と……?」

「……し………」

 

 

微かだが、声が聞こえた。

さっきのような、無機質に放たれた、あの声じゃない。

俺の声が届いているのだろうか。

そんなこと、分かりはしない。

 

 

「来い…!」

 

 

手を伸ばす。届かない。

前に進む。風に押されて、全然進まない。

それでも、俺はひたすらに手を伸ばした。

 

 

「いつもみたいに、ヒメがバカなこと言って、ミコトが呆れて、俺も頓珍漢なこと言って、皆で笑って…!」

 

 

口から言葉が溢れ出す。

この手が、この声が、二人に届けと願う。

 

 

「しょ…と…」

「しょう……」

「っ、つかめ!」

 

 

二人の目に、光が戻っていく。

必死に手を伸ばす。

彼女の掌に、俺の指先が触れようとしたその時。

 

 

「「あ、くぅ!?」」

 

 

二人の悲鳴が響く。

びくん、と強く痙攣したかと思うと、つぅ、と二人の口の端から唾液が垂れる。

彼女らはそれを拭くこともせず、淡々と告げた。

 

 

「「防衛システムに異常発生。

原因検索…発見。個体名『半冷半熱』。

脅威レベル10。対象の抹殺を優先する」」

 

 

気づいてしまった。

俺の声が、必死に戦っていた彼女らの気をそらしてしまったことに。

 

 

気づいてしまった。

闇に支配された瞳が、彼女らの意識がないことを物語っていることに。

 

 

気づいてしまった。

俺の伸ばした手が、彼女たちを闇に突き落としたことに。

 

 

気づいてしまった。

周りから、俺に目掛けて、人工個性が向けられていたことに。

 

 

「………ごめんな、二人とも」

 

 

口からこぼれたのは、後悔だった。

迫りくる死に抗う術を持たない俺は、せめてもの抵抗として、氷と炎を全力で放つ。

やはりというべきか、それは一瞬にしてかき消され、弾幕が俺へと襲い掛かる。

反射的に目を瞑り、来るべき衝撃に身構えた。

 

 

「……ん?」

 

 

おかしい。数秒経っても、俺の体に駆け巡るべき痛覚が来ない。

ゆっくりと、目を開ける。

 

 

「『フォートレスモード』!」

 

 

俺を守るように、謎の『膜』が、ドーム状に張られていた。

その前には、傷だらけのスーツの後ろ姿。

 

 

「漸く着いたァ!!

 

タイミングドンピシャ!?」

 

 

テレビで見るような、プロヒーローみたいなカッコ良さなど、これっぽっちも無い。

ヤケ気味の声が、俺の鼓膜を揺らす。

その声が友達のものだと気づくとともに、俺の口角が上がっていくのを感じた。

 

 

「…それ、ヒーローのセリフかよ。

カッコ悪ィ」

 

 

吹き荒れる暴力の嵐の中、緑谷がサムズアップを俺に向けた。




次回、梅の木編が終わります。
次のお盆編では、待望のかっちゃんが登場します。
どうぞお楽しみに。


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地球は梅色だった

サブタイトル通りです。


残り二十分。

刻一刻とその時が迫る中、僕は轟音をかき消すように声を張り上げた。

 

 

「なるほどー!!つまり、二人の意識は押さえ込まれてるってわけー!?」

「ああ!!攻撃が激し過ぎて、情報交換に五分かかったが、大丈夫なのか!?」

 

 

連絡手段を作っておくべきだったか。

 

 

攻撃が激しいあまり、音が声をかき消す。

リゲルの装甲の再生が追いついていない。

演算処理的にも物理的にも、フォートレスモードはあと十分が限界。

轟くんが持ってた情報は、不確かな情報ばかり。

…まぁ、あかりさんと初めて会った時みたいに、なにも無いよりはマシだ。

 

 

「で、作戦は!?」

「確実に超新星爆発を止められる策は二つ!

二人を正気に戻して、梅の木をコントロールしてもらう!!

あるいは、梅の木を細胞の一片すら残らないくらいに破壊する!!」

 

「できんのか!?」

「後者は無理!地球の表面が消し飛ぶ!!」

 

 

地面に潜った花弁が広がり過ぎて、地球を表面ごと焼き尽くす必要がある。

正直、このまま超新星爆発を待つのも、解決しようと動いても結果は変わらない。

せいぜい、地球丸ごと吹っ飛ぶか、僕たちが全生命を殺した業を背負いながらディストピアを生きるかくらいの違いだ。

 

 

「じゃあダメだ!!

二人を正気に戻すぞ!!」

 

 

消去法で、この方法しかないわけだ。

だが、その方法になるとかなり問題がある。

 

 

「正気に戻すって、僕は無理だよ!?

脳波を操る周波数とかは熟知してるけど、この状況じゃ確実に無理!!」

「大丈夫!!俺とアイツらをこの膜に閉じ込めろ!!俺がなんとかする!!」

 

 

…説得となると、轟くんが一番効果がありそうだ。

でも、それでも問題がある。

 

 

「切り替え時に轟くんが蜂の巣になるよ!?いいの!?」

 

「さっきからこっちだけ心配しやがって!!

あんまなめんじゃねぇぞ!!

 

こちとら不本意ながら!!

ひっっっ…じょぉぉおおおおお〜…にィっ!!不本意ながらァ!!

 

幼少期からトップヒーローになるべく英才教育受けてるプロヒーローの実子だぞ!!」

 

「不本意すぎない!?」

 

 

プロヒーローの実子?

炎を使うプロヒーローはかなり居るけど、いったい誰のことだろう。

一瞬だけそんなことを考えたが、今はどうでもいい。

見たところ、二人の体は人間並みの強度しかないのか、攻撃があまり飛んできていない。

これなら、轟くんの個性でもなんとか対応できるかもしれない。

 

 

「轟くん!地球を救う覚悟、出来た!?」

「アイツらを助ける覚悟なら!!」

 

 

充分。

 

フォートレスモードで作ったバリアを浮かせ、彼女らへと走る。

正面の装甲がかなり剥がされたが、エネルギーの供給速度を引き上げ、再生を早める。

その間、三十秒。

 

 

『イズク様。五秒後が、最も安全に切り替えることが可能なタイミングです』

 

 

バリアを展開できる範囲内に来て、尚且つ比較的安全に切り替えることができるタイミングを、MESSIAHが支持する。

あと四秒。三、二、一…。

 

 

「轟くん!!攻撃は防いで!!」

「応!!」

 

 

バリアを切り替え、3人を閉じ込める。

少しばかりレーザーと電撃が侵入したが、轟くんの氷によって阻まれた。

 

 

「成功ォ!!」

「緑谷!!今すぐ竜巻ン中から離れろ!!」

 

 

轟くんに言われた通り、竜巻の中から脱出すべく、ブースターを展開する。

願わくば、プロヒーローが全員気絶してますように!!

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

『…おい、バカコウ』

「なんですか?」

『気のせいか?オールマイトがエンデヴァー連れて現場に居たんだが』

「ははははは現実ですよちきしょうめ」

 

 

今日ほど胃痛がひどい日を、僕は知らない。

明日になったら穴空いてそうだ。

明日が来るかどうかすら、まず怪しい状況なんだが。

リゲルのメインカメラで、緑谷くんたちの作戦が上手く行ったのは分かった。

あの場からの脱出も成功するだろう。

だが、一つだけ問題があった。

 

 

「あかりさんたちもまだ現場に着いてないってのに、どうしてこう面倒なのばっか集まるんですかねぇ…」

「トップヒーローとNo.2…あとその他諸々なサイドキックさんたちを『面倒なの』呼ばわりするの、私らだけですよ」

 

 

竜巻をプロヒーローが囲んでる。

一方で緑谷くんは現在、竜巻から出ようとしている。

東北さんから得た位置情報によれば、進行方向には気絶から復活したエンデヴァーと、オールマイトがいる。

 

 

「…あかりさんに『全力で急げ』って連絡してくれません?」

「『あと十秒で着くから黙ってろクソ教師』…って来てましたよ」

 

 

素麺の時といい、僕、嫌われすぎてない?

 

そんなことを考えながら、僕はアイスコーヒーを啜った。

 

 

「汚れ役は彼女らに任せました。

あとは、君たちがなんとかしなさい」

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「ありがとう、エンデヴァー。

おかげで早く着いた」

「…これで起こされた借りは返したぞ」

 

 

このチームアップが実現するとは、私自身思ってもなかった。

鈍ってた分をしっかりと『しごかれ』、調子の戻った体。

老いの分は流石に衰えたが、全盛期と比較してもあまり遜色はないだろう。

そこにエンデヴァーの事務所が全員加わるとなれば、鬼に金棒だ。

…流石に自惚れが過ぎるか。

 

 

「で、作戦は?」

「バーニンによれば、あの花弁、どうやら耐火性は皆無のようだ。

…焦凍…俺の子が、その友人を助けにあの中に入ったと聞いた。

ならば、俺が休んではいられん…!!」

 

 

ごう、と炎が燃え盛る。

エンデヴァーの眉間のシワが、さらに深くなっているのが分かった。

 

 

「オールマイト。少し離れていろ。

…プロミネンスゥゥ…、バァァァァァアアアンッッッ!!!」

 

 

太陽のような光があたりを包み込む。

放たれた炎が、氷、炎、レーザーさえも、あらゆるものを薙ぎ払い、花弁を焼く。

軈てその放出が終わると、竜巻の勢いが少し弱まっていた。

 

 

「…ちっ。しぶとい。最大火力でも焼き切れんとは…」

「では、私がいこう」

 

 

あの程度なら、今の私が放つDETROIT・SMASH一発で吹き飛ばせる。

私が拳を振りかぶった、その時だった。

 

 

『邪魔です、雑魚』

 

 

謎の二つの人影が、私たちの目の前に現れたのは。

 

 

『うっわ、めっちゃ睨まれてますよ?

あ…キズナさん。これ、マジに大丈夫なんですか?』

『落ち着いてください。私たちは言われたことをやるだけです。

あと、余計なことを話さないようにマイクは遮断しときなさい』

『りょーかい!』

 

 

若い男と幼い子供が混じったような声で、会話を交わす二人。

片方が少し喉元をいじる最中、もう片方が丁寧にお辞儀をした。

 

 

『どうもはじめまして、キズナです。

プロヒーローを前にするのは、クライシスオーガ以来ですかね?』

 

 

その瞬間。

私は彼女に殴りかかっていた。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「ようやく会えたな、キズナァ!!」

『やれやれ。血の気が多いトップですねぇ。

まぁ、名誉に思ってくださいよ。

私が本来の姿で遊ぶなんて、そうそうないんですから』

 

 

オールマイトの拳を片手で受け止め、仮面の下で笑う。

本来の姿っていうのは嘘っぱちだ。

あの時、恐らくだが私とイズクくんの戦いを見られていた。

このままでは、私の描いた『普通の生活』が送れなくなってしまう。

そのため、この姿を『本来の姿』と称すことにしたのだ。

 

 

「それが、本来の姿だと?」

『ええ。あなたが見た少女の姿は、そこらの女の子をコピーしただけです。

ああ、向こうのは私を元にしたデザインのスーツです。イカすでしょ?』

 

 

ンなわけないでしょ。

 

 

ついた嘘にツッコミを入れながら、個性を作り出す。

この場で、十分に時間稼ぎが出来そうな個性は…『超速思考』。

私自身、あまり頭が良くないけれど、これで複数人の対処が出来るようになる。

 

 

『来なさい、トップにNo.2。無様に地べた這わせてやりますよ』

 

 

時間稼ぎはやっときます。

あとは頼みましたよ、イズクくん。

 

 

『あ、すみません。マイク切るのってどうやればいいですか?』

 

『あァァァァァあああもおおぉォォォォォォおおおおおッッッ!!!!

せっかくカッコつけたのに台無しですよセっ…あなたァァァァァあああッッッ!!!!

私がやりますから、出来るだけ黙ってなさァァァァァァァいッッッ!!!!!』

 

 

…かなり相方に不安が残るけど、私頑張りますから!

 

泣きそうなのを堪えながら、私はオールマイトに殴りかかった。

ポンコツのお守りって、辛い。

帰ったら、たくさんたこ焼き食べよう。

お母さん、今日タコパするって言ってたし。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「…まっさらになっちまったな。

大好きなカブトムシ、捕れなくなっちまったぞ、ヒメ」

「……」

 

「あそこのアケビ、もう少しで実んじゃなかったっけか、ミコト。

皆で食べようって言ってたじゃねーか」

「……」

 

 

…やっぱり、ダメか。

かれこれ十分間、絶えず話しかけているが、反応がない。

ただ、さっきみたいな無機質な声も、もう発していない。

多分、必死に争ってるんだろう。

俺には、そう願って、話し続けることしか出来ない。

 

 

「…なぁ。ヒメ、ミコト。お前らに、俺の夢の話、したことなかったよな」

「……ゅ…?」

「………め…?」

 

 

微かだが、声が聞こえた。

まだだ。ぬか喜びするな。

声をかけ続けろ。手を伸ばせ。

救い切るまで、絶対に気を緩ませるな。

 

 

「覚えてるか?初めて会った日のこと」

 

 

ぴくり。

俺が握った二人の手が動く。まだだ。

喜ぶな。やり終わるまで、その喜びを取っとけ。

 

 

「腹ペコで、喉もカラカラで、母さんがいない寂しさと、あのクソ親父への怨恨でぐちゃぐちゃになってた俺に、『大丈夫?』って手を差し伸べてくれて…。

果物と水をくれて、俺の話を親身になって聞いてくれて…。

あんとき、凄い気が楽になったんだ」

 

 

あの日、あの木の下で助けられたように。

誰かを助けるなら、ちゃんと助けろ。

 

 

「俺をあの苦しい怨嗟と孤独の海から救い上げてくれたのは、お前らなんだ」

 

 

それが、俺のなりたいヒーローだろうが。

 

 

「俺は、お前らみたいな…優しいヒーローになりたいんだ」

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

インクをぶちまけたような、黒の中。

ヒメとミコトは、焦凍の言うように、抗っていた。

自分が塗り潰されように、もがき、手を払い、まとわりつく黒を払っていた。

 

 

『…あーあ。やっぱり、強制起動したのが失敗だったか』

 

 

男とも、女とも聞き取れない声。

けれど、聞き覚えのある声が、黒の海に波打つように響く。

その波が二人を飲み込み、意識を飲み込もうとする。

 

 

「…っ、ショートぉ…!!」

「ショート…、ごめん、ショート…!!」

 

 

口から出る名前は、家族も同然の友の名。

黒が侵食する最中、彼女らは幾度となく声を上げ続けた。

 

 

『風前の灯火が、意外にしつこい。

…一時のくだらない感情で自我を持たせたのは失敗だった!!』

 

 

声が強くなる。

膨大な黒が、彼女らを容赦なく塗り潰す。

小さく残った自我さえも、砕け散ろうとしたその時だった。

 

 

『ヒメ!!ミコト!!大丈夫!!

俺がここに居る!!』

 

 

待ち望んでいた声が。手が。

彼女らの鼓膜を揺らす。手を握る。

瞬間。炎と氷が、黒を吹き飛ばした。

 

 

『…くくくっ…。あー、そうだったァ。

ボクが一番理解していたじゃないか』

 

 

全ての黒が、氷で、炎で消されていく。

不快な笑い声が、黒と共にかき消される。

 

 

「助けに来た。遅くなっちまって、ごめんな」

 

 

氷と炎に包まれて、影すら見えない。

それでも、ヒメとミコトはその姿を見たと言うだろう。

 

 

自らの、最高のヒーローを。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「……んっ…、ショート?」

「…んぅ…、ショート…?」

「っ、緑谷!!二人が起きた!!」

 

 

轟くんの声が響く。

僕たちは現在、光のない地中に居た。

なんてことはない。竜巻から抜け出す直前、きりちゃんから「今、竜巻から出たら確実に攻撃される」と連絡を受けた。

であれば、出なければいいと判断し、轟くんを覆うバリアごと地中に潜ったのだ。

 

 

「ショート。ありがとう」

「カッコよかったよ。ヒーロー」

 

 

彼女らのヒーローは、紛れもなく轟くんだ。

 

 

僕の目に映る轟くんは、オールマイトのようにキラキラはしていないと言える。

だが、それは決して嫌な意味じゃない。

泥臭くて、ひたむきで、必死に救おうとする姿は、オールマイトよりもかっこいいと思える。

…人の好みが、先生に似てきたかも。

 

 

「轟くん。あと二分で地球の寿命が尽きる」

「褒め言葉に笑ってる場合じゃねーな」

 

 

時間がないことを轟くんに告げる。

轟くんは彼女らの肩に手を置き、その目を見つめた。

 

 

「次は、お前らがヒーローになる番だ」

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「な、なんだあれ!?」

 

 

プロヒーローの一人が、声を張り上げる。

私たちがそちらを見ると、枯れきった梅の木が浮かび上がっていた。

それを彩るように、地中に埋め込まれていた花弁が凄まじい勢いで飛び出し、梅の木を包み込む。

 

 

『…成功したみたいですね』

『流石は、最高のヒーロー…ですね!』

 

 

私たちが言葉を交わすと共に、花弁が空一杯に広がる。

梅色の空が、梅色の雨を降らせる。

太陽のように、満開の梅の木が空を照らす。

吸い取られた分のエネルギーが、カラカラになった地球に注がれているのだろう。

たった数秒で草木が芽吹き、樹木へと変貌を遂げる。

森が元どおりどころではなく、更に青く、美しい生態系を作り出す。

 

 

「…綺麗」

 

 

プロヒーローの一人が、声を溢す。

 

 

その日、世界の空が梅色に染まった。

 




今回で梅の木編はお終いです。
次回からは日常回「肝試しってお盆にやるモン?」です。お楽しみに。


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肝試しってお盆にやるモン?
爆豪「内臓全部飛び出るかと思ったわ!!」


サブタイトル通りです。


「お盆に肝試し?」

「町内会が開催する出し物です。

うちの学校からは、見た目が病人っぽい僕が参加することになりました」

 

 

あの戦いから2週間。

夏休みもいよいよお終いとなる時期にやってくる『お盆』に、僕らは全員が僕の家に集まっていた。

 

 

「肝試しって?」

「ひ、ヒメは…嫌いなんじゃないかな…?」

「ミコトの方がダメだろ。ホラーマンで泡吹くくらいなんだから」

 

 

ホラーマンって、あのアンパンマンのホラーマン!?

アレで泡吹くとか、どれだけホラーに耐性が無いんだろうか。

皆でアイスキャンディを舐める中、東北さんが「そういえば」と声を上げる。

 

 

「タコ姉様も参加するって言ってました。

オバケ役で」

「オバケ!?オバケに会えるの!?」

「ヒメちゃん、近いしうるさいです」

 

 

むぎゅう、と擬音が聞こえそうなほどに密着するヒメちゃんを、東北さんが押し退ける。

手に持ったゲーム機からは、謎の呻き声と悲鳴が響き渡っていた。

湿っぽい音も聞こえるし、英語も聞き取れる。

 

 

「ソレ、さっきから何してんだ?」

「百年くらい前に流行った海外のホラゲーです。轟先輩、やってみます?」

「…まぁ、参考程度に」

 

 

差し出されたゲーム機を手に取り、轟くんが東北さんの隣に座る。

その膝に吸い寄せられるように、ヒメちゃんがちょこんと座り、ミコトちゃんが恐る恐るソファの奥から覗き込む。

 

 

「ショート、ホントに大丈夫…?」

「大丈夫だっての。ミコトみたいに怖がりじゃねぇし」

「あ、そこは…」

 

 

瞬間。ミコトちゃんが悲鳴もあげず、その場でぶっ倒れた。

 

 

「うぉっ。…なんだこのドロドロの怪物」

「腹パンマンです。捕まったら腹パンされて死ぬんで、そこ右に逃げてください」

「お口は可愛いよ?」

 

 

三人が仲睦まじくゲームに熱中する最中、ミコトちゃんを抱え、セイカさんが布団に寝かせる。

腹パンマン…腹パンされて死ぬ…ホラーゲーム …って、アレか。

携帯ゲーム機版は海外限定じゃなかったか。

だから勝手に僕名義の通販使ったのか、このクソガキ。

アイアンマンやらの有名作品といい、前世の産物は結構在るんだな。

 

 

「で、緑谷くん。自由研究終わりました?」

 

「はい!『ナノテクの可能性』という、数万字の論文ができました!

琴葉博士から『ノーベル賞イケるで!』ってお墨付きの、会心の出来ですよ!」

 

「宿題用の自由研究ですよこのバカ!!」

 

 

小学校の頃よりも悪化してる。

天才とバカは紙一重と言うけれど、ただ単に基準が自分だと思ってるだけだと思う。

ひたむきに頑張ってきた弊害が、ここに来て出てしまったか。

 

 

「こういうのは、そこらの生態調査をソレっぽくやるだけでいいんですよ。

見つけた動物の写真貼って、『こういう生態ですよー』的なの書けばいいんです。

いいですか?」

 

「え?それじゃ学会で通用しないですよ?」

 

「学会に出すモンじゃないんですよ自由研究ってのは!!」

 

 

これだから科学者脳は!!

 

 

一応説明しておこう。

何故、僕が緑谷くんの自由研究の添削をしているかというと…これで分からない方がおかしいか。

どう考えても、中学生の自由研究の域を超越してるのだ。

小学校時代からひしひしと「おかしいな」とは感じていた。

中学生になってからは、よりそれが顕著に現れているように思える。

どこで教育を間違ったんだろう。

 

 

「で。その肝試しって何をするんですか?」

 

 

三本目のアイスキャンディを舐めながら、あかりさんが問うた。

僕は緑谷くんに「やり直し」と告げ、彼の「なんでェ!?」という断末魔を背に、彼女に答える。

 

 

「そこのホラゲーみたいに、心霊現象舐め腐った輩を死ぬほど驚かせる遊びです」

「言い方悪ィし趣旨違うぞ先生」

「わざとです」

「余計タチ悪ィわ」

 

 

僕以外にツッコミがいると楽だ。

将来、エンタメ番組に引っ張りだこなヒーローになりそうだ。

 

 

「水奈瀬さんはオバケ役ですか?」

「いえ、設定とセッティング係です。

あと恐怖を煽るアナウンス係。

大体のこと押し付けられたんで、思いっきりやってやろうと」

 

 

町内会の老害どもめ。

実家への墓参りは済ませたから別にいいが、あと四日とかいう土壇場で僕に押し付けやがって。

それでいて「なんもできてないから頼んだ」だって?

ふざけるのも大概にしろよ、腰抜かすほどビビらせてやるからな。

 

 

「轟くんたちも参加してみます?」

「ヒメはこういうの強い…ってか、アホだからなにが起きてんのかさっぱり理解しねーんだが、ミコトはなぁ…」

「ショート酷い!!」

 

 

確かに、ゲームを覗き込むだけでアレなら、ミコトちゃんは驚かす側でもキツそうだ。

 

 

「緑谷くんたちはどうします?」

「僕はセッティングのお手伝いと機材の提供だけして、あかりさんと普通に回ってみようと思います」

「私はずん姉様と驚かす側やりますね。

頼まれた衣装はずん姉様が作ってます」

「私は水奈瀬先生のお手伝い…はさせてもらえないので、普通に回ります!」

 

 

セイカさんには僕が「頼むから仕掛け側に参加するな」と念押ししたため、普通に回ることにしたようだ。

機材は、普通に売ってそうなものを用意してもらった。…それでも若干オバテクだが。

その代わり、手先が器用なずん子さんに無理を頼み、とびっきり恐ろしい衣装を作ってもらっている。

たとえ日中で出会しても、腰を抜かすくらいには怖い見た目だ。

 

 

「ショートー!おーねーがーいー!」

「…ヒメと回る。ミコトは…緑谷のお母さんと留守番で」

 

 

…言い忘れていた。

 

 

結局、あの事件は以前と同じように「超常現象」として片付けられた。

あかりさんに「犯人は私ですよー」的な振る舞いをしてもらったが、報道されていないあたり、機密情報扱いされたらしい。

 

 

梅の雨が降り注いだ後、梅の木は緑谷くんのラボへと運び込まれた。

緑谷くん曰く、「細胞単位で分解して、ラボの中で再構築しました」とのこと。

ヒメちゃんとミコトちゃんは、戸籍をでっち上げ、僕が養子として引き取った。

無個性として登録したため、「面倒な爆弾は嫌だ」という理由で、親族は担任できないという規定を破ってまで僕のクラスに押し付けられた。

 

 

株投資がやめられなくなってしまった。

中毒じゃなくて、生活費が枯渇するという意味で。

 

 

轟くんは、個性の不正使用で前科がつくかと思いきや、状況が状況だったため見逃されたらしい。

その後、エンデヴァーに「勝手な外出を禁ずる」と監視がつけられることになりかけた。

 

が。轟くんはそのエンデヴァーに対し、「家族への仕打ちを俺の名前と身分証付きでメディアに垂れ流すぞ?いいのか?」と脅し、ことなきを得たという。

 

表に出たらまずい、という自覚はあったらしい。

…生徒たちが僕の性格の悪さを引き継いでる気がする。

 

 

とまぁ、それはさておき。

本題に入るとしよう。

 

 

「さてと…。クソガキ。夏休みの宿題の進捗どうですか?」

「…………な、なんのことでしょう?」

「言っときますけど、成績の件、本気の本気ですからね」

 

「そんな殺生なァ!?」

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

「勝己ー!町内会の出し物、興味ない?」

「あぁ?」

 

 

ぼりぼりと頭をかきながら、寝起きで霞む目でババアを睨む。

町内会の出し物っつーと、毎年やってる肝試し。

メンバーがやる気が最底辺のクソジジイどもしか居ないから、出し物の一つ一つが退屈なんだが。

その中でも群を抜いて、この肝試しは退屈だと記憶している。

 

 

「ほざけ」と参加しない旨を伝え、朝食のコーンフレークをがっついた。

…おかしい。いつもはスパスパ俺の頭をぶっ叩くババアが、手を出さねェ。

訝しげに眉を潜めていると、ババアは何処からか衣装を取り出した。

 

 

「今年の肝試し、結構本格的なのよ!」

「うぎゃァァァァァああああァァァァァアアアアアアアアッッッ!?!!?!?」

 

 

その衣装を見た途端、俺は無様に悲鳴を上げ、椅子とコーンフレークごとすっ転んだ。

言葉にするのも憚られる、あらゆるものを冒涜的するような見た目の化け物。

ネームドヴィランでもチビって逃げそうな程に恐ろしい見た目のソレが、衣装を着た俺の母親だと気づくのに、数秒かかった。

 

 

「ばっ…、バッッッバア!!ふっっっざけんじゃねェぞォ!!実の息子殺す気か!?」

 

「あーはっはっはっはっ!!

ひー、ひーっ…。あ、アンタ、そんな声出るんだ…、あはははっっ!!」

 

「笑うなァ!!」

 

 

内臓全部飛び出るかと思ったわ!!

 

 

衣装を脱がせ、笑うババアに詰め寄る。

が。ババアは腹がねじ切れるんじゃねーかって程、爆笑したままだった。

 

 

「ひーっ…。ひー…っ。水奈瀬先生凄いわねェ。こんな怖いの、町内会の出し物でデザインするなんて」

「は?」

 

 

水奈瀬先生…?

 

 

俺が一番嫌いな人間の名前が、ババアの口から出た。

水奈瀬コウ。俺が人生で出会った人間の中で、これからも出会わないであろうレベルの性格の悪い教師。

すぐにクビになると思っていたのに、もう六年近くもこの街に住んで、教師をしてやがる。

 

それが、肝試しに関わってる…?

俺は怒鳴りたい気持ちを押さえつけ、ババアに問うた。

 

 

「一体どういうこった?」

「あれ?聞いてない?

今年の肝試し、水奈瀬先生が計画してくれてるんだって!

出久くんも協力してて、ポスターには『オムツを着用の上、ご参加ください』って書いてるほどの怖さらしいよ〜?」

 

 

デクと、あのクソ教師が…?

 

 

ババアの答えに、ふつふつと怒りが湧き上がるのがわかる。

次の瞬間、俺は声を張り上げていた。

 

 

「上等ォだゴラァァァァァァアアッッッ!!

誰がテメェらのくだらねェ出し物にビビるかッッッソがァァァァァアアッッッ!!!!

逆にテメェらの心臓握り潰して殺したるわクソどもがァァァァァァァァァァああああッッッ!!!!!」

 

「うっさい!!」

 

二日後、俺はこの時の宣言を死ぬほど後悔した。




かっちゃんは朝はコーンフレーク派です。

???「朝食はパン派ですか!?ご飯派ですか!?」

???「コーンフレーク」


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公民館魔改造計画

サブタイトル通りです。


「…本格的過ぎません?

公民館貸し切りはわかりますけど、ここまで魔改造します?」

 

「照明はセピア色で。…そうそう。ちょっと明るいくらいが一番怖いですからね」

 

「先生、聞いてます?」

 

 

キーボードを叩きながら、私はハッスルする先生に声をかける。

ここまで生き生きしてる先生、初めて見た。

 

肝試しの前日、午前十一時。

公民館は、異様な雰囲気に包まれていた。

 

外壁は緑谷先輩が開発した特殊な塗料で、何年も放置されたようなボロボロの物に。

中身は公民館というよりは、最早タダのボロ屋敷。

セットされた電線からは、特殊な効果を使って火花が散っているように見せかけている。

生活感が存在したように、乱雑にゴミが撒かれ、壁にはあまり口に出したくない言葉が羅列していた。

 

 

「そこ、木の板が落ちてくる仕組みにしてください。…そうそう。

あと、匂い付けした血糊と、肉片っぽく作った紙粘土も…違います、もう少し後のタイミングで…はい」

 

 

この肝試し…というより、お化け屋敷の設定を、僭越ながらこの私、東北きりたんから語っておこう。

 

 

名前は「コSEえ、TIょうdie?」。

タイトルから分かる通り、無個性であることを呪って自殺した少年の亡霊が、参加者に迫るという内容になっている。

この街の無個性の人は、ほぼ全員が驚かせる側に参加、ないし協力している。

というより、私たち以外に無個性の人間がいないため、驚かせる側の人数はかなり少ない。

 

 

「ちゅわっ!?

私、驚かす側じゃないんですの!?」

「前半の受付を頼みたいんですよ。

ずん子さんと交代です」

 

 

タコ姉様とずん姉様は、見た目の可憐さと優しい雰囲気からか、受付嬢に抜擢された。

タコ姉様に至っては完全に本職の人だし、いい感じに演出してくれると思う。

 

 

「勝己ねぇ、衣装見ただけでコーンフレークぶちまけてすっ転んだのよ!

出久くんは動じてないのにねぇ!」

「きりちゃんの家でマジモン見てから、大体のことに驚かなくなっただけですよ」

「あははっ!冗談も言えるようになったんだねぇ!」

 

 

ボンバーマンのお母さんと緑谷先輩の話の内容に、ビクッ、と肩が震える。

ボンバーマンのお母さん…長いんでボンママと呼ぶ…は冗談だと思ってるらしいが、本当なんですよねぇ。

あの時は二人揃って抱きついて、叫び散らかしましたっけ。

タコ姉様が除霊も修得してるイタコで良かった。

 

 

「個性持ちっぽい見た目の死体って、こんな感じですかー?」

 

 

道中で落ちているという設定のレコードの音声を、私が編集していた時のことだった。

ずん姉様の声が、物騒な言葉を発してることに気づいたのは。

 

 

「おお…。注文通り、磔にして、内臓掻っ捌いてるみたいですね。

照明の光加減で、詳細が見えないような位置に設置しましょう。

バミテは既に貼ってあるんで」

 

「ずん姉様!?気づいて!?

ソレは肝試しのセッティングにしてはおかしいことに気付いて!?」

 

 

私がそちらを見ると、ずん姉様と先生の隣に、夥しい数のオブジェが見えた。

その一つ一つが見た目の違う磔死体…勿論偽物…で、どれも共通して、バラバラに分解されたような痕跡があった。

道中にどんだけ置くつもりなんだ。

ざっと二十はあるぞ。

 

 

「きりちゃん、レコードの音声は出来た?」

「はい。既に小道具と予備も作ってますし、レコードの音声自体は、放送で流れるようにしてます」

 

 

…にしても、エグい台本考えたなぁ。

新学期。クラスがお通夜みたいな雰囲気になる光景が、ありありと目に浮かぶ。

なんでこんな、ホラゲー作れそうな台本を書いた。

…まぁ、最近ストレスが酷そうだったから、丁度いい発散なのかも。

 

 

「とりあえず、デモとして流してみます?」

「うん。放送で流してみて、反応見ようか」

 

 

正直、恥ずかしいんだが。

 

 

声の仕事は、東北きりたん本来の役目だ。

それは理解してるが、自分の声が放送で流れるとなると流石に恥ずかしい。

まぁ、古い録音っぽく加工してるから、正確には私の声じゃないんだが。

そんなことを考えながら、私は放送を流した。

 

 

『…お母さん。苦しいよ…。なんで、なんで僕は無個性なの…?なんで?

あの子は、凄い個性を持ってるよ…?なんで?ねぇ?人は平等だって、皆言ってたよ?ねぇ?なんで?

なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなん』

 

 

ぶつっ。

放送のミスとかじゃなく、意図的に音声を途切れさせた。

我ながら会心の出来。

緑谷先輩は苦笑いを浮かべ、ボンママ含む大人のほとんどがなんとも言えない表情を浮かべていた。

 

 

「…先生の性格の悪さが滲み出てますね」

「ノリノリでやってる君も君です。

この肝試しで、思う存分伝えてやろうじゃないですか。

持たない奴の苦しみってヤツをね」

 

 

…果たしてそれは、肝試しで思い知らせる物なんだろうか。




ずん姉様は手先が器用なので、本物っぽい死体人形も作れます。


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轟くんと爆豪くんの悲鳴、聞いたことあります?

サブタイトル通りです。二人が叫び散らします。


「ぎゃあああああああァァァァァアアアアアッッッッ!?!?」

 

「たすっ、たすたすっ、助けて、っぇぇぇぇぇえああああァァァァァアアアアアッッッッ!?!?」

 

 

阿鼻叫喚。

今の状況を一言で表すならば、その一言に尽きた。

その元凶は、並ぶ行列にアトラクションの世界観説明をこなす教師。

そう。私…東北きりたんの担任、水奈瀬コウである。

あのあかりさんの悲鳴までも響き渡り、その中の恐ろしさを物語っている。

 

 

「…凄い悲鳴ですね、ずん姉様」

「作った甲斐がありました。きりたんも、お手伝いありがとう」

「まぁ、やることないんで」

 

 

嘘だ。

本当は、中に入るのが恐ろしすぎて、受付の手伝いをしてるだけである。

異形系の個性が溢れている世界で、「めっちゃ怖い」って珍しいんだぞ。

 

それでも大盛況なのには、訳がある。

 

最初に実験台として入ったプロヒーロー、「シンリンカムイ」が泣きながら「蛆虫でごめんなさい」と凹んだ様子で出てきたのだ。

無個性たちの訴えかけは、辛い過去を送ったとされるシンリンカムイの涙腺でさえも打ち砕いたようだ。

 

 

「それでも、怖いのは何とかして欲しいような気もする…」

「きりたん、どうかした?」

「いえ、なんでも」

 

 

どうして肝試しで道徳教育をしようとしてるんだ、あの教師は。

…多分、ただの思いつきなんだろうなぁ。

そんなことを考えていると、見覚えのある爆発頭が参加券を机に叩きつけた。

 

 

「一名ェ」

「あっ、勝己くん!大っきくなったねぇ!

挑戦するの?」

「もォ中学生だわ。テメェなんざとっくの昔に超えてるわ枝豆」

「枝豆じゃなくてずんだね。

はい、懐中電灯」

 

 

ずん姉様からひったくるように懐中電灯を受け取り、ずんずんと歩いていく爆発頭。

ボンママによると、衣装を見た時点で盛大にすっ転んでるらしいが、大丈夫なんだろうか。

 

 

「ひぎゃぁあああああァァァァァアアアアアァァァァァアアアアアっっっ!?!?」

 

「おわァァァァァああァァァァァアアアアアァァァァァアアアアアっっっ!?!?」

 

 

…にしても、断末魔みたいな悲鳴だ。

プロヒーローまで腰抜かす怖さって、どんだけですか。

近隣のマスコミまで集まってきたし。

 

 

「…途中で気絶した場合、どうなるんでしょうかねぇ」

「詳しい仕組みはわからないけど、出久くんがなんとかしてくれてるみたいだよ。

懐中電灯に超音波?か何かを使って、気絶しないようになってるんだって。

その代わり、出口まで行かないと帰れない仕組みになってるらしいけど!」

 

 

…リアルホラーゲーム?

 

 

そんなことを思いながら、私はボンバーマンの後ろ姿を見送った。

声にならない悲鳴が聞こえたような気がするけど、気のせいだろう。多分。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「…凝りすぎだろ」

 

 

渡された懐中電灯を着け、薄暗い…というには少し明るいセピア色の照明の中を進む。

一寸先も見えない、ということはなく、精々廊下の奥が見えないくらいで、あとはただの汚ねェ廊下だった。

 

 

「当て付けかよ、クソが」

 

 

先ほど聞いた放送によると、設定としては『無個性であることを呪って自殺した少年の亡霊がそこに居る』…だったか。

枝豆をはじめ、デク、クソ教師など、主催側に無個性どもが集まってやがる。

個性持ち相手に勝てねェからって、こんな出し物用意しやがって。

 

 

「…ぁン?」

 

 

かつん。

爪先に何かがぶつかった音が響く。

一体なんだとそちらを見ると、古いタイプのレコーダーがあった。

第二次世界大戦後ぐらいに使われてた、かなり古いヤツだったか。

雑学系の番組で見たソレを拾い上げると、カチッ、と音が響いた。

 

 

『お母さん!僕、どんな個性出るかなぁ?

お母さんみたいに、空飛べるかなぁ?

それとも、お父さんみたいに筋肉ムキムキになるカッコイイのかなぁ?』

 

 

その声に、神経が逆撫でされるのがわかる。

昔のデクみてェなこと言いやがって。

今すぐにでも爆破で破壊したいが、ここでデカい音出してアレに追われるのは避けたい。

俺は当て付けにとばかりにレコーダーを投げ捨て、順路を進む。

と。廊下の奥に進もうとしたその時だった。

 

 

貼り付けになった死体が、吊るされるような形で落下してきたのは。

 

 

「うぉっ」

 

 

こっ…、この程度でビビるかよ…!

昨日、ウォーミングアップとしてホラー映画を見まくった俺に、死角はない。

あらゆるありきたりを網羅した俺は、次に何も起きないことを知っている。

俺はそのセットを押し退けようとして、その手が止まった。

 

 

「ひっ」

 

 

小さく声が漏れる。

腹を掻っ捌かされたソレが、ぼたぼたと血液…多分血糊だろう…を流し、肉片…作り物なんだろうが、やけに柔らかい…を地面にぶちまけていた。

 

 

「ぎっ……!!」

 

 

悲鳴をあげようとして、無理やりに口を押さえた。

どんだけ凝ってんだよ…!!

俺がそんなことを思っていると、すぐ隣の壁に文字があるのが分かった。

 

 

 

ーーーーーー個性、ちょうだい?

 

 

 

瞬間。俺の足を誰かが掴み、勢いよく引っ張った。

 

 

「なん」

 

 

引っ張られる感触と、流れる風景。

足を見ると、ババアが着てたのとは違う形のバケモノが、その手で俺を掴んでいた。

 

 

「は、はなっ、離せクソが!!死ねっ!!」

 

 

爆破しようとすると、バケモノの手が俺を掴む。

一つや二つじゃない。

異形系の個性でもありえないほどの数の手が、俺の体を抑え込むように引っ張った。

 

 

「もががっ!!もがぁぁぁぁぁあああーーーーーーーーっっ!!!」

 

 

得体の知れない恐ろしさに叫ぼうとするも、口を押さえられ、思うように叫べない。

その先にある無数の目玉に、俺は心に恐怖が刻まれるのが分かった。

 

 

 

行くなんて言うんじゃなかった。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「ショート、大丈夫?」

「いっつつ…。先生も緑谷も、本気で怖がらせに来てるな…」

 

 

咄嗟にヒメを庇った判断が功を成した。

さっきの『個性、ちょうだい』という文字もそうだが、あの作り物の死体にはビビった。

東北の家でマジモン見てなかったら、普通に叫んでた自信がある。

ヒメはというと、特に怖いとは感じてないらしい。

なぜかと聞くと、「ショートが居るから!」と答えられた。

…なんか照れる。

 

 

「にしても、教育熱心だな。

ここ、無個性差別の矯正施設みてェなモンだろ」

 

 

引っ張られた先にあった部屋を見渡す。

さっきの通路は塞がっていて使えない。

あたりには、さっきぶら下がっていた磔死体がそこら中に飾られている。

磔台のプレートには、個性の名前と内容が書かれていた。

…実在しそうな個性ばかり書かれてる。

というより、十中八九実在してたのを書いてるな、コレ。

 

 

「しっかし、実際に切ったみてェな傷口として完成されてるな…。

東北の姉さん、手先が器用だってのは聞いたが、1日でコレ全部作ったのか…?」

 

 

個性持ちでも、こんなに早く作ることは出来なさそうだ。

そんなことを考えられるあたり、結構心に余裕あるな。

そんなことを考えていると、俺たちが出てきた場所から、俺たちと同い年くらいの少年が出てきた。

 

 

「よっと」

 

 

勢いよく地面に打ち付けられる前に受け止める。

…この爆発したみてぇな頭、緑谷が言ってた「かっちゃん」ってヤツか。

傍若無人の権化でプライドが無駄に高い…東北談…って言われてたわりに、泣きそうな顔してる。

 

 

「大丈夫か?」

「離せやクソが!!テメェの助けなんかいらねーわ半分野郎!!」

「轟焦凍だ。半分じゃねー」

「知らねーわ!!」

 

 

耳痛ェ。

ぎゃーぎゃーと耳元で騒がれたので、言われた通りにその場に立たせる。

 

にしても、緑谷が言ってた通りの人相だな。

ボンバーヘッドに、人を2、3人殺してそうな目つき。

東北によれば、口を開けば怒鳴り声が響き、常時不機嫌。

ヒメにまで怒鳴り散らされたら堪んねーな。

 

 

そんなことを思っていると、ザザ、とノイズ音が響いた。

 

 

『無個性…。僕、無個性なんだ…。

お母さん…。僕ね、ヒーローになりたい…。

なりたいけど、個性がないんだよ…。

ねぇ、お母さん…』

 

 

 

ーーーーーーどオして、無個性に産ンだノ?

 

 

 

瞬間。

ばんっ、と音が響いたかと思うと、ぼたぼたと水滴が落ちる音が響く。

俺たちがそちらを見ると、形容し難い容貌のバケモノが、俺たちを涙を流す目で見つめていた。

 

 

『み、ツツ、けけたたたたァァァ…。

おか、さン、コせぇ、みツけけけけけけけけっ、けけたたたぁぁぁあはははははは!!』

 

「「「うぎゃああああァァァァァアアアアアァァァァァッッッ!?!?!?」」」

 

 

瞬間。俺たちは出会って間もないというのに、互いに抱きついて叫んでいた。

 

 

目の前に居るのは、どう考えても人知を超えた謎のバケモン。

しかも、所々髪の毛とか鼻とか、人の一部があるあたり、元が人間だってわかる。

挙動もなんかガタガタしてておかしい。

それをリアルで目の前にして、叫ばない自信があるか?

俺はない。気を失わないだけまだマシだ。

気づけば、俺はヒメを脇に抱え、ボンバーマンと走り出していた。

 

 

「っ、てめっ、俺の前走ってンじゃねぇぞ半分野郎ォ!!」

「お前がわざと後ろ走ってんだろーがボンバーヘッドォ!!」

「イヤアアアアアアアアアアッッッ!?!?

今、おしりっ、おしりに息がァァァァァアアアアアアアアアアッッッ!?!?」

「言うなクソガキィ!!」

「ヒメ!!絶対振り向くなよ!?フリじゃないからな!?」

 

『こセE、ちょうdie?』

 

 

 

「「「アアアアアァァァァァアアアアアァァァァァアアアアアアアアアアッッッッッッ!?!?!?」」」

 

 

 

過去最高速度と言っても過言ではない速さで、部屋を抜け出す。

落とし物は後で届けてくれるらしいから、何を落としててもいい。

今はただ、逃げることだけ考えていた。

 

 

 

「…ちゅわぁ…。ずんちゃん、怖く作り過ぎですの…」




あの二人が叫び散らすくらいには怖い肝試しです。


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轟焦凍、ガチギレ

サブタイトル通りです。


「かっちゃんと轟くんから、あんな悲鳴出るんだ…」

「二人とも、悲鳴あげる性格じゃないですからね。

シチュエーションとセリフ、更には衣装までもこだわった甲斐がありました」

 

「こだわりすぎて、あかりさんがさっきから離れないんですけど」

「ふぐぅ…。ひぐぅ…。怖かったぁぁぁぁ…」

 

 

兵器やってた女の子までもが「怖い」って言うレベルか。

 

 

すごく生き生きしてる先生に、僕…緑谷出久は半目を向ける。

まぁ、この評判のおかげで、シンリンカムイを始めとして、ここいらで活動してるプロヒーローのサインをもらえた。

それだけは感謝する。

 

 

けれど、どう考えてもやり過ぎだ。

一緒に回ったセイカさんなんて、出て来れた安堵で気絶してる。

あかりさんは完全に腰が抜けて、僕に抱きつくことで漸く立ち上がっているような状態だった。

 

 

アニマトロニクス…ジュラシック・パークなど、動物の表現で使われるロボット…とか、ただの町内会の出し物で使うのか…?

それをノリノリで作ってた僕も僕だけど。

 

 

「マジモン見たことのある僕でもキツかったですよ、アレ」

「デザインはイタコさんに協力していただきました」

 

 

だからか!!

 

 

脳髄にまで恐怖を植え付けるような見た目してる、とは思っていた。

まさか、マジモンをよく知っている人にデザインを頼んでたとは。

通りで、プログラミングの時、ああも細かい動きまでも要求してくるわけだ。

そんなことを考えていると、轟くんとかっちゃんの悲鳴が聞こえてきた。

 

 

「半分野郎ォォォォォオオッッッ!!

てめこらっ、気づいたんなら先言えやァァァァァアアアアアッッッ!!!」

 

「無茶言うなボンバーヘッドォ!!

いきなり来たんだから、ァァァァァアアアアア無理無理無理無理無理近い近い近い近い近いィィィィィイイイッッッ!?!?」

 

「あんぎゃあァァァァァアアアアアァァァァァアアアアアッッッ!?!?

耳元っ、声っ、声ェェェェェェェェェェエエエエエッッッ!?!?」

 

 

…あの二人がこんなに大声出すって、やっぱり怖かったんだな、ここ。

本職の人と手を組んだお化け屋敷って、絶対注目集まるよなぁ。

 

 

そんなことを思いながら、僕はコーラを飲み干した。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「…見つけたぞ。レコーダー…。これで、先っ、進める…」

「声小せェぞ…」

「あんだけ叫べば枯れるっての…」

 

 

エンカウントし、逃げ回るのを繰り返して、どれだけ時間が経ったかは、もうわからない。

東北がやってたホラーゲームの主人公も、こんな気分だったんだろうか。

ガラガラになった声で、レコーダーの発見を報告する。

ボンバーヘッドも疲労困憊で、互いに大の字に寝転びたい気持ちで一杯だった。

 

 

「ショート、ここは大丈夫そう。レコーダー流そ!」

「…元気だな、あのガキ」

「元気だけが取り柄のアホだ…。俺らより怖がってねェ…。

怖い理由を理解してねーからな…」

「酷い!」

 

 

暫く腰掛けて体力を回復し、覚悟を決めてレコーダーのボタンを押す。

カメラで確認したのだろう。

何処からか流れた放送が、聞き慣れたノイズ音を発した。

 

 

『この個性もいいなぁ…。あの個性もいいなぁ…。みんないらないいらないって言うけど、僕にないんだよ?

いらないなら僕にくれよ。くれよ。くれよ。

くれって!よこせ!よこせェェェェェぁあハハハはは』

 

 

ぶつっ。

 

 

東北の声だってのに、アニメでしか聞かねーような狂気に満ち溢れてやがる…。

ノリノリで録音したんだろうな、コレ。

 

 

「…個性がないって、こんなに辛いの?」

 

 

ふと、ヒメが俺の裾を引っ張りながら問いかける。

…俺は良くも悪くも個性を持って生まれたから、その苦しみはわからない。

それでも、緑谷たちが味わってきた苦しみは、少しだけ理解しているつもりだ。

 

 

「けっ。くだらねェ逆恨みでこんなモン作りやがって…。

あンのクソナード、ぜってェ殺す…!」

 

 

このボンバーヘッド、先生とは別ベクトルで性格悪ィな。

 

先生と緑谷が、逆恨みでこんな大がかりなものを作るわけがない。

作るとしたら、思いつき程度のものだろう。

…にしても、口が悪い。

ヒメにその口調がうつったら、どうするつもりだ。

 

 

「おい。子供の前だぞ」

「うっせェ」

 

 

俺が注意すると、ボンバーヘッドは施錠の外れた扉を開く。

磔死体が並ぶ通路の奥には、「死」と書かれた扉があった。

 

 

「…Bendyのパクリじゃねーか」

「あ?ンだソレ?」

「百年くらい前の海外のホラゲー」

 

 

まぁ、俺は他のホラゲーを知らないから、アレが普通なのかも分からないが。

…「死」の文字の最後あたりが、とんでもなく変な方向に伸びてるのが不穏だ。

 

 

「…ここで待ってても仕方ないな」

 

 

俺たちは嫌々ながら、一歩を踏み出した。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

最後の部屋に足を踏み入れる。

手術室のような部屋に、乾いた血液の跡。

中心には、古いタイプの映写機が、壁に映像を映し出していた。

 

 

「…なんかいるのかと思ったが、なんも居ねェな」

「出口を探そう。構図的に見て、そろそろ公民館の裏口あたりだ」

「命令すんな」

 

 

半分野郎に怒鳴り散らす元気もない今、俺は部屋を見渡そうとする。

 

 

 

 

『むこせー菌は、おれがやっつけたぞー!』

 

 

 

……は?

 

 

 

聞こえた声。

思い出したくない過去が、何処からか聞こえてくる。

反射的に、視線を映写機が映し出すソレに向ける。

 

 

 

『やめっ、やめてよっ…、かっちゃん…!』

 

 

 

そこには、俺の忘れたい過去があった。

No. 1ヒーローになるためには、大きすぎる障害となる映像。

それが、俺の目の前に流れていた。

 

 

「…っっっ、ぁンの、クソナードどもがァァァァァアアアアアッッッッッッ!!!!」

 

 

 

ボンッ!!

 

衝動が任せるままに、叩きつけるように、爆破で映写機をブッ壊す。

 

 

さっきから俺への当て付けか?

陰湿なことばっかしやがって…!!

 

 

壊れた映写機を蹴り飛ばす。

がしゃん、と壁に激突し、完全に壊れても、映像は壁に流れたままだった。

 

 

「どれだけ俺の足を引っ張ったら気が済むんだ、クソどもが!!

俺のオールマイトを超えるヒーローへの道の邪魔ばっかしやがってェ!!!」

 

 

感情のままに怒鳴り散らし、暴れた。

アイツらはこう言いたいんだろう。

俺の将来なんて、自分たちの掌の上だと。

ふざけるな。ふざけるな!!

俺の輝かしい未来が、テメェらの匙加減で潰されてたまるか!!

 

 

「…おい」

「触んなァ!!」

 

 

半分野郎が、俺を止めようと手を掴む。

ばっ、と手を振り払う。

すると、半分野郎は凄まじい形相で俺の胸ぐらを掴んだ。

 

 

「んの、馬鹿野郎がァ!!」

 

「がっ!?」

 

 

ごちん。

頭骨同士がぶつかる音が響く。

つぅ、と肉が裂けて血が流れる中、それを拭くことも許さず、半分野郎が続ける。

 

 

「テメェ、さっきから気に入らねーからって暴れて、恥ずかしくねェのか!!

嫌いなモンだから、自分より下のヤツだからって怒鳴り散らして!!

小さな子に、『大丈夫?』って聞くこともしねェで、なにがヒーローだ!?」

 

「…、ヒーローは、勝つモンだろォが…!

一番上って称号だろォが…!!」

 

「っの野郎ォ…!!歯ァ食いしばれェ!!」

 

 

俺が言うと、半分野郎は俺の頬に拳を突き刺した。

 

 

「テメェも、あのクソ親父みてェなこと言いやがって!!

いいか!?テメェのその超絶めでてぇお花畑頭に教えてやる!!

 

 

勝つだけなら…一番上になるだけなら、敵でもできる!!

 

 

アメリカのヴィラン史どころか、世界さえも震撼させたNo. 1ヴィラン…『世界最強の天才肌』と呼ばれた『フィクサー』は、誰にも討ち取られることはなかった!!

若き日のオールマイトも、傷一つ負わせることも出来ず、見逃されたって話だ!!

最後にはテレビをジャックして、生中継で自分より下だったヤツらを嘲笑いながら寿命で死んだ!!

 

フランスの最大級敵の『ディアブロ』に勝てたヒーローは、いまだに一人も居ねェ!!

それどころか、フランストップでさえ赤子扱いされるレベルだ!!

ソイツも、ヴィジランテの『SAVER』に国際中継の真っ只中、一撃でブチのめされた!!

 

そいつらがヒーローって呼ばれねェのはなんでだ!?」

 

 

半分野郎の言葉に、俺は言葉を詰まらせた。

その態度に、半分野郎は更に声を張り上げる。

 

 

「答えろォオオッッ!!!!!

勝ってるやつが…一番上のヤツがヒーローって呼ばれねェのはなんでだァアァァァァァアアアアアアッッッ!!!!?」

 

 

 

俺は、その答えがわからなかった。

 

 

 

呆然とする最中、どうして良いかわからないのだろう、バケモノがオロオロと半分野郎の肩を叩く。

 

 

「ちょっ、君!やめなさい!」

「離せ!!お前が答えるまで、俺はお前を殴り続けるぞバカ野郎ォ!!」

 

 

半分野郎が喚く最中、この施設から連れ出される。

俺とガキも同じように、外へと案内された。

 

 

意地張って、行かなきゃよかったんだ。

半分野郎と出会ったせいで、俺はこの答えに悩むことになってしまった。




次回から「ボンバーマン、アイドルに懐かれる」が始まります。かっちゃんメインです。お楽しみに。


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ボンバーマン、アイドルに懐かれる
かっちゃんが子供を助ける(結果)


サブタイトル通りです。


「かっちゃん。おはよう」

「……来んな、デク」

 

 

あの色濃い夏休みが明けた。

願わくば、暫くは大きな事件が起きませんように。

そんなことを思いながら、かっちゃんにいつもの挨拶を交わす。

 

おばさんによると、肝試しからずっと大人しいらしい。

轟くんが「喧嘩した」って言ってたし、それが理由なのだろうか。

そんなことを考えていると、やる気のなさそうな担任教師が入ってくる。

 

 

「えー、お前ら。新学期早々だが、転校生を紹介する。入ってこい」

 

 

がらっ、と、扉が開く。

そこに居たのは、毎日顔を合わせる彼女…紲星あかりだった。

 

 

「お名前は…どう読むの、コレ?」

「キズナです。紲だけ読んで、星は読まないんです。灯は、あかり。

初めまして、皆さん。紲星灯です。

緑谷出久くんの親戚で、ちょっとした都合で一緒に暮らしてます」

 

 

ぺこり、と頭を下げ、愛想笑いを浮かべるあかりさん。

先生が、愛想笑いを練習させた甲斐があったなぁ。

させてなかったら、ほぼ100%の確率で「お前らと仲良くする気ありません」って言いそうだったし。

 

 

「緑谷の親戚…?」

「あんな可愛い子が親戚…?」

 

 

…なんか、不穏な空気が。

 

 

予想通りというべきか、休み時間に、僕とあかりさんの周りに人が殺到した。

街に一つのテレビが来たみたいな反応だな。

無個性…そう言うことにしてる…でも、見た目がいいと便利なんだなぁ。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「今日は転校生を『三人』、紹介します」

 

 

宿題の回収、始業式を終え、先生が教壇に立つ。

三人…?二人は知ってるけれど、もう一人は誰だろう。

私…東北きりたんが首を傾げていると、教室の扉が開いた。

そこから現れたのは、三人の女の子。

二人は、私もよく知る鳴花の双子。

 

もう一人は、初対面。だけど、知っているかどうかと問われれば、首を縦に振るだろう。

 

 

「では、自己紹介をどうぞ」

「鳴花ヒメです!よろしくお願いします!」

「鳴花ミコト…です。よ、よろしく…」

 

 

チョークに名前と…少し読みが特殊なため、振り仮名を書く二人。

ミコトちゃんは綺麗な字だけど、ヒメちゃんはガッタガタの汚い字だった。

その隣に、最後の一人がチョークで黒板にサインじみた名前を書く。

 

 

「ぉ…、音街、ウナ…です。よ、よろしく…」

 

 

引っ込み思案そうな態度だ。

もじもじしながら自己紹介をこなす彼女に、私や先生、鳴花の双子を除く全員が雄叫びを上げる。

 

 

音街ウナ。

前世で言えば、ボーカロイドとボイスロイドの二足の草鞋を履いていた存在。

 

 

今世で言えば、現在休業に入ったばかりの、有名子役アイドル。

無個性というマイナス点を、同情票として上手く扱えた人間。

叫ぶな、という方が難しいか。

 

 

「東北さんの左隣…あの包丁の髪飾りの子です。そちらの方が空いてるので、音街さんはその席に。

二人は…あそこの席に座ってください」

 

 

…こりゃあ、一波乱ありそうだ。

 

そんなことを思いながら、隣に座る音街さんに「よろしく」と手を差し伸べた。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「あ、勝己。おかえりー」

「ん」

 

 

デクから逃げるように帰った俺は、ババアに軽く会釈して、自分の部屋へと向かう。

カバンを無造作に放り投げ、ベッドに背から飛び込む。

じん、と響く頬の痛み、その熱さが、まだ消えていなかった。

 

 

「…勝ったやつが、ヒーローって呼ばれねェ理由…」

 

 

わからねェ。

 

 

俺はずっと、「ヒーローになる=敵をブチのめして勝つ」ことだと思ってきた。

アイツの言ってたことは、デタラメだったんじゃないか。

そう思って、ネットで検索したこともある。

半分野郎の言ってたことは真実だ、と自分で証明しただけだった。

足元が全部、崩されたみたいだった。

 

 

ここ最近、まともに寝られない。

夜更かししてる、とかじゃない。

ただ、この答えを出さなきゃ、俺はあの野郎に殴り返すこともできないと思ったからだ。

 

 

…癪だが、デクなら、なんか知ってるのかも知れない。

そう思ってアイツの家に行こうとして、やめた。

 

 

ーーーーーーなんでもかんでも、誰かが教えてくれる、助けてくれると思ってたら大間違いです。

時には、自分自身で答えを見つけ、自分自身で助からないといけません。

 

ーーーーーー助けなんざ要らねェよ!!

 

 

あのクソ教師の言葉が、脳裏にフラッシュバックした。

助けなんざいらない。

そう言って、デクに答えを求めるっていうのはどうなんだ?

 

 

「…あぁ、クソっ」

 

 

本当にイライラする。

財布と携帯をポーチに突っ込み、ラフな格好で外に出る。

あのまま家に居れば、苛立ちでおかしくなりそうだった。

 

 

「ぁン?」

 

 

家から出ると、道に人が集まってるのが見えた。中には、マスコミまで混じってる。

プロヒーローでも来てるんだろうか。

遠巻きにそれを見ていると、枝豆が人混みをかき分けるのが見えた。

 

「こんな子供に寄ってたかって、良い大人が何してるんですか!?

いくらアイドルとは言っても、プライベートは尊重されるべきでしょう!?」

 

「報道の自由を行使してるだけだ!!

君に何かを言われる筋合いはない!!」

 

 

枝豆の怒鳴り声が響く。

だが、マスコミどもはそれを意に介さず、野次馬どももヒートアップする。

 

胸糞悪ィ。

 

…あのクソ教師の真似をするわけじゃねーが、その一部始終をスマホで撮影する。

数秒程度で十分だろ。

録画を止め、声を張り上げた。

 

 

「人ン家の前でぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーうっせェぞォ!!

映像ォ撮ったからなァ!!ネットに晒されたくなかったらさっさと失せろォ!!」

 

 

さっきの映像を流しながら脅すだけで、蜘蛛の子を散らしたみたいに逃げていく。

残されたのは、枝豆と妹のきりたんぽ、やけに見覚えのあるガキの三人だった。

 

 

「ちっ…。苛立ってんのに騒いでんじゃねーぞクソが…。ぶっ殺してやろうか…」

「…ぁ、あのっ!」

 

 

とっととその場から去ろうとした時、俺の服の裾をガキが掴む。

 

 

「あ、ぁりがとう…ござい、ます…」

「離せ。歩けねェだろ」

 

 

ぺこり、と頭を下げるガキが、俺の言葉に反応し、手を離す。

すると、枝豆が俺の元へと駆け寄った。

 

 

「ありがとう、勝己くん!

私じゃどうしようもなかったから…」

「礼とかいいから退けや枝豆。

今から散歩すンだよ」

 

 

枝豆を押し退け、このイライラを抑えるために、バッティングセンターへと向かう。

引き留めようとする枝豆を振り切るように、俺は走り出した。

…くそっ。枝豆を見ると、あの時のこと、半分野郎の言葉を思い出しちまった。

 

 

結局、バッティングセンターでも俺の気は紛れることはなかった。

 

 




かっちゃんも確実に先生から影響を受けてます。
物事はまず証拠から。何かあったら写真撮るようにしてます。


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かっちゃんがお兄ちゃんと呼ばれる

サブタイトル通りです。


新学期が始まって、最初の一週間が過ぎた。

俺は、あいも変わらず苛立ちが消えない日常を送っていた。

 

 

「…っソが。休みの日に買いモン頼むなや」

 

 

商店街を回りながら、口から愚痴を溢す。

いつもなら「自分で行けやクソババア!」、と怒鳴り散らしていただろう。

嫌でも外に出てねェと、あのことばかり考えてしまう。

 

結局、答えはまだ見つからない。

腐るほどヒーローのインタビュー動画を見たが、どれもこれも抽象的で、全然分からなかった。

オールマイトのインタビューでさえも、俺にはいまいちピンと来なかった。

 

…また考えちまった。

苛立ちを鎮めるように、かつん、と転がった空き缶を蹴り飛ばし、ゴミ箱へ入れた。

周りのヤツらは「すげぇ」と言うが、俺にとっては普通のことだった。

そんなことを考えてると、足に何かが勢いよくぶつかる感触がした。

 

 

「お兄ちゃん!」

「あァ?」

 

 

疑問に思い、足元を見る。

そこには、昨日のガキが泣きそうな目でこちらを見ていた。

俺がガキの延長線上を見ると、クソ怪しいガリガリが、鼻息荒くして俺に近づいた。

…ンのガキ。面倒なことばっか持ってきやがって。

 

 

「あ、おぉ、お兄さん…。ウナちゃんを、僕に、僕にくださ…」

 

「唾飛んだキメェしクセェし不審者全開だクソガリポリ公呼ぶぞテメェエ!!」

 

「ひっ、ひいぃいっっ!?!?」

 

デクとは違う気持ち悪さに、嫌悪感を丸出しにして怒鳴りつける。

慌てて逃げ出すガリガリを写真に収め、次突っかかって来たらポリ公に突き出せるようにする。

…ちっ。あのクソ教師の真似事しか出来ねェのか、俺は。

 

「ンで、クソガキィ…!

テメェ何が『お兄ちゃん』だゴラァ!!俺にンなデケェ妹なんざいねェんだよクソが!!

面倒ごとを体良く押し付けやがって!!」

「ご、ごめんなさい…。こないだ、助けて、もらったから…。

でも、助けてくれて、ありがとう…、ござい、ます…!」

 

 

…なんだ、コイツ。

 

 

「離せ」とだけ言って、買い物の続きに戻ろうとする。

が。何故か、ガキが雛鳥みたいに、俺の後ろを歩いていた。

 

 

「…離れろテメェ。邪魔だクソガキ」

「その、お兄さんと一緒にいないと、いろんな人が寄ってくるから…」

「そのいろんな人っつーのが面倒だっつってんだボケェ!!」

「ひぅっ」

 

 

掌を爆発させながら、ガキを威嚇する。

が、ガキは怯えながらも、俺の裾を掴んでいた。

 

 

「今日、東北さん…あ、お友達の、包丁の髪飾りの子なんだけど、ちょっと用事があるらしくて…。

一人で帰ってたら、あの人が…『お家に来ない?』って、しつこくて…。

今までは、東北さんが…、なんとか、してくれてたんだけど…。私じゃ、どうしようもできなくて…」

「もっとハキハキ喋れやだから襲われんだろがクソガキィ!!」

「ひぅっ」

 

 

俺が怒鳴るも、ガキは俺の裾を掴んで離さなかった。

離せと言っても、効果がなさそうだ。

バリバリと頭をかき、「しゃーなしだ」とだけ付け足す。

 

 

「離れたらぶっ殺すぞ、クソガキ」

「…う、うんっ!」

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「アイドルやってる友達が、性格クソ煮込みなボンバーマンに懐いてた件について」

 

「「「ぶっふぅ!?」」」

 

 

僕、轟くん、緑谷くんが三人揃って、口に含んだお茶を吹き出した。

げほっ、げほっ、と僕と緑谷くんがむせる最中、轟くんが声を出す。

 

 

「一体どーいう経緯で、ンなことになってんだ…?」

「あの先生よりも嫌な方向に性格がクソ悪いかっちゃんが子供に!?」

「それ、爆豪くんに言ってませんよね?」

 

 

緑谷くん、日が経つ度に口が悪くなる。

性格も僕に似て来たような気がするし、僕が悪影響与えてるんだろうか。

 

 

「六年生の時、『かっちゃん、その水奈瀬先生よりもクソ悪い性格どうにかしたほうがいいよ』って言ったら、とんでもない顔と声量で怒鳴られました!」

「見えてる地雷踏んでどうするんですか」

 

 

とっくの昔に指摘してたかぁ。

 

あの子の他を見下す性格の矯正は、僕では出来なかった。

二人きりの進路相談の時も、「あの映像消せ」としか言わなかったし。

…ちなみに言うと、映像を消す気はない。

卒業後になって「自分を見つめ直すために欲しい」という子が続出しているのだ。

 

肝試しの時の映像も、かなりぼかしていたため、当人でもほぼほぼ分からないようになっていた。

爆豪くん以外の子は、ただの演出として見ていた。

 

だが、よりによって爆豪くんは、これっぽっちも反省することなく、この肝試しを「無個性の逆恨み」と捉えていたみたいだ。

その態度を何度も目の当たりにした轟くんが、心の底からブチ切れて、頭突きと拳のコンボを決めた…というわけである。

 

 

「…あんな怒鳴り声がデフォの子に、引っ込み思案な音街さんが懐くなんて、到底考えられませんけどねぇ」

「結果的に、あの態度がウナちゃんを助けてますからね。

あの子、立場的な問題で、妙な輩につけ狙われることが多いそうです」

 

 

成る程。

確かに、あの近づき難いオーラの庇護下に居れば、面倒なのは近づいてこないだろう。

懐いている、というよりは、避難場所にしていると言った方が正しいかも知れない。

 

 

「…にしても、アイドルって大変ですね。

プライベートも関係なしだなんて」

「他人事のように言ってますが、ヒーローも同じですよ。

超が付くほどのアングラ系のイレイザーヘッドでさえも、私生活を一部メディアに無許可で取り上げられてます。

アイドルなんて、ヒーローよりも風通しがいいんですから。

そりゃあこぞって集まるでしょうよ」

 

 

僕は言うと、コンビニのどら焼きを頬張った。

 

 

「願わくば、面倒ごとが起きないことを祈りたいですね」

「先生のそれ、でっかいフラグなんですから、言わない方がいいと思いますよ」

「確かに…」

「フラグってのは分かんねーが、漫才でいうフリみてェ」

「…そんなに?」

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「か、完成した…!こんな、こんなに簡単に出来てしまうなんて…!

古代人の技術とは、素晴らしいものだな!」

 

 

マイケルの声が震える。

手の中には、小さなカプセル型の注射器。

赤い液体の中に、ぷかぷかと浮かぶ小さな細胞。

夢にまでみた『人工個性』の完成に、マイケルは震えていた。

 

 

『喜ぶのは早いよ』

 

 

かつん。

機械の足が、床を叩く音が響いた。

 

 

『まずは実験といこうじゃないか。

安全性を確認してから、世界に公表しよう』

 

 

彼は言うと、マイケルからサンプルを取り上げる。

それを厳重に箱にしまうと、彼は踵を返した。

 

 

『丁度、それが欲しいって言う人が連絡をくれてね。実験がてら、試してみようか』




緑谷くんが怖がらずズバズバ物事を言うせいで、かっちゃんは原作より二割マシで不機嫌です。


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緑谷くんと爆豪くんが一緒に帰宅してんの?ウソでしょ?

サブタイトル通りです。


「バクゴーさーん!」

「学校、終わったか」

 

飛びついてくるガキ…音松だか、音街だか…を受け止め、隣を歩かせる。

コイツの面倒を見るようになって、二週間が過ぎた。

どーいうわけだか、コイツは面倒ごとが起きると真っ先に俺のトコに来やがる。

最近じゃコイツの親にまで感謝され、ババア共にまで「これからも面倒みてやれ」と言われた。

面倒ごとが起きてから来られるのも面倒なので、俺は嫌々ながら、コイツの帰宅に付き添うことにした。

 

 

…ったく。まだ答えも見つかってねェってのに。

 

 

未だに俺の体を縛りつけるような、あの言葉の感触がする。

勝っても…一番でも、ヒーローって呼ばれねェ理由。

法的資格がないと言えば、話はそれで終わるだろう。

 

 

だが、それで行けば、ヒーローのくせに負けてる奴らはどうなる?

 

 

ヒーローの敗北なんざ、ネットを調べれば腐るほど出てくる。

あの若き日のオールマイトでさえ、『フィクサー』に傷一つ負わせることも叶わず、勝ち逃げされたことも知った。

「あの敗北があったから、平和の象徴になれた」ってインタビューも聞いた。

 

 

ヒーローは必ずしも、最後に勝つわけじゃない。

敵に勝ち逃げされることだってある。

敵に殺されることだってある。

そのことを知った俺の頭の中では、あの時の問いが思考の全てを支配していた。

 

 

「バクゴーさん、どうかした?」

「…なんでもねーよ」

 

 

そう悪態をつくと、ガキは面白そうに笑った。

 

…なんか、調子狂う。

 

最初に会ったときに比べれば、かなりまともに話すようになった。

警戒する必要がないって思われてるらしい。

最近は、手を繋ぐことを要求されるようになった。

断ればぎゃあぎゃあ泣いて面倒だから、仕方なく許可してる。

ガキの手は、ちょっと力を入れれば握り潰せそうなほど、細く小さかった。

 

 

ーーーーーーかっちゃん、大丈夫?

 

 

…嫌なことを思い出した。

 

虐めてたデクは、ある日から変わった。

あの教師がやって来てから、おかしくなったと言えばいいだろうか。

 

休み時間だろうが、授業中だろうが、どう考えても異常な勢いでノートに何かを書き殴っていた。

たまに意識無くして机に頭ぶつけても、数秒もすれば起きて。

顔中の穴から血を出そうが、その手を止めなかった。

 

無駄な努力だって何度言おうが、アイツはノートに釘付けで、俺のことなんか眼中に無いって言いたげだった。

 

なんでかは分からない。

机に向かってるデクを見てると、胸にざわめきが走るようになった。

だから俺は、アイツを…デクを避けた。

それは、今でも続いてる。

 

だと言うのに、今日はタイミングが悪かった。

 

 

「あ、きりちゃん!」

「ウナちゃんも帰りですか」

「かっちゃん、奇遇だね。そっちも帰り?」

 

 

デクが、きりたんぽを連れて駆け寄る。

そうだった。

デクと枝豆ンとこは、家族ぐるみで仲がいいんだった。

枝豆の妹は、このガキと仲がいい。

校門前に突っ立ってたら近寄ってくるのは、当然の帰結だろう。

「関係ねェ」とだけ返し、ガキに「行くぞ」と手を引いた。

 

 

「一緒に帰った方が楽しいよ?」

「俺は楽しくねェ」

 

 

そう返すと、ガキは泣きそうな顔で俺を見つめる。

泣かれたら面倒だ。

親衛隊とか言う訳わからん不審者どもが、寄ってたかって襲いかかってくるのだから。

コイツはそれを自覚してないから、怖かったり、嫌だったりするととにかく泣く。

ワガママが強い方じゃないだけ、まだマシか。

 

 

「…話しかけんなよ、デク」

「僕のこと避けてるのなんで?意地?」

「知るか」

 

 

ズバズバ要らねェこと言うのも腹立つ。

 

俺は苛立ちを抑えるように、拳を握りしめた。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「…緑谷すげェな」

 

 

学校が終わり、先生の家にて。

緑谷が用意した検査キットのディスプレイに映し出された結果に、感嘆の声を漏らす。

 

 

俺が持っているタブレットは、単純に言うと、『個性の原理』を調べる検査キットだ。

個性に関する部位を写真に移すだけで、粒子単位までスキャンをかけてくれるらしく、その原理を解明してくれるという。

世に出たら、個性研究してる研究者が揃ってひっくり返りそうだ。

 

 

「…分子運動を操作して、炎と氷を作り出す個性。

体から放出しているのではなく、肌に触れた空気中の分子運動を操ってるだけ…か。

…こう考えると、俺も十分デタラメなのか」

 

 

炎も氷も、『生み出す』って感覚だったが、実際には違ったのか。

先生に化学の教授を紹介してもらおうか。

 

東北の持ってた漫画で読んだ、『メドローア』。

炎と氷をぶつけても熱膨張が起きる程度だったが、個性の仕組みを知ってしまえば再現できるかも知れない。

 

知るってすげェな。出来ることが増えてくって、こういう感じか。

緑谷はこういう感覚がクセになって、科学にのめり込んでるんだろうな。

 

 

「ショート、何してるのー?」

「分子運動…?操作…?」

「おお。ヒメ、ミコト。

帰って来たんなら手ェ洗っとけ」

 

 

帰って来た…俺の自宅じゃないが…二人に言うと、その奥から現れた先生に声をかける。

 

 

「…いや、まぁ…、面倒だから合鍵渡しましたけども。

けれども、そんなプライベートルームみたいな散らかりようになります?」

「高そうな羊羹あったんで、一人でいただいといた」

「君も馴染みましたね。悪い方向に」

 

 

自宅のように使えって言ったのはそっちじゃないか。

申し訳なさ…ただしミクロン単位…で謝り、羊羹を頬張る俺と二人。

先生は「慣れたからいいですけど」と言い、インスタントコーヒーを淹れた。

 

 

「先生、化学者の知り合いっているか?」

「居ますよ。三十年前くらいにノーベル賞取った教授が、大学の夏休み期間で暇そうにしてます。

超絶飲兵衛で飲みの誘いがしつこいので、君を当て馬にしますね」

 

 

そりゃ、都合がいい。

 

 

「ぜひ頼む。いつになる?」

「明後日の夜です。金曜なんで、僕の付き添いで相手しなさい」

「おう。冬姉に連絡しとく」

 

 

…こうして見ると、俺って結構先生たちに毒されてるのかも知れない。

 

 

最近、夏兄と久しぶりに話した。

親父を脅して好き勝手してることを言うと、「あの親父のせいで性格歪んだのか!?」と心配された。

それは親父というより、先生の影響だ。

 

ちなみに言うと、親父には私生活に何も言わせないように脅しまくった。

でっち上げの証拠さえも、先生経由で脚本家やら写真家やらの技術の学んで作った。

「ネットにばら撒くぞ。消しても増えるぞ」と言うと、効果覿面だった。

アイツは俺のことを「最高傑作」って言ってるから、脅迫罪で訴えることもしないだろ。

 

 

…そう考えると、俺たちって正義の秘密結社って言う割には、メンバーは悪の秘密結社っぽいよな。

 

 

そんなことを考えていると、パートから戻ったセイカさんがソファに寝転んだ。

 

 

「だぁあ…。疲れたぁあ…」

「生活費の調達、ご苦労様です」

「今日、お給料日なんで…。家賃、払いますぅう…」

「2万。確かに受け取りましたよ」

 

 

社会の摂理を見た。

子供の前で現金のやり取りをするな。

複雑な気分になる。

 

 

「セイカさんは、お家に住むのにお金を払わないといけないのー?」

「ぼ、ボクたち、払ってないよ…!?払ってないと、追い出されるの…!?」

「そうですね。

君たちも働けるようになったら、お家に住むためにお金を入れなきゃいけません。

今はまだ働ける年齢ではないので、今のうちに死ぬ気で頑張って、学歴積み重ねて、稼げて楽しい職業に就くといいですよ」

 

 

ヒメとミコトが「じゃあ頑張る!」と、ランドセルからノートやら教科書を取り出して机に向かう。

言ってることは正しいんだが、いかんせん言い方が悪い。

 

 

「言い方どうにかなんねーのか?」

「キツめの言葉の方が、記憶に残ります。

現実を早めに見た人間だけが、好きなことできるんですよ」

 

 

やり過ぎるのも問題ですが、と遠い目をする先生。

 

 

その「好きなことをやり過ぎた奴」が、俺たちに牙を剥くとは、この時は思ってもいなかった。

 

 




かっちゃんは原作よりも徹底的に緑谷くんを避けてます。それこそ、ほぼ会話もしないレベルです。突っかかることもありませんが、気に食わないとは常々思ってます。


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かっちゃん、デクのもう一つの顔を知る

サブタイトル通りです。


ガキの家にて。

ガキの両親に「あがってゆっくりしてけ」と言われ、よりによってデク共々客室に連れてかれた。

よほどの金持ちなのか、客室一つがアホほど広い。

メイドやら執事やら、空想だけのモンかと思ってたが、実在してたことに驚いた。

 

 

「珍しい。かっちゃんが机に足乗っけてない。明日、天変地異でも起きるの?」

「そりゃどう言う意味だクソナードォ!!

アホでも分かるくれェに高価なモンだから、損害賠償請求されねェよォにしてるだけだわボケ!!」

 

「不良ぶるなら、その世界トップクラスのみみっちさ捨てた方がいいですよ、ボンバーマン。略してボンマン」

「ンだときりたんぽォ!!ボンマンってなんだゴラ死ねや!!」

「『ぽ』はいりませんし、あと百年は死ぬ予定ないです」

 

 

コイツら、マジでぶっ殺す…!!

 

 

怒りを抑えるように掌を爆破させるも、右隣に座るコイツらはこれっぽっちも動じない。

特にデク。昔はビビり散らしてたのに。

小学4年あたりから「チラチラ光ってウザい」としか言わなくなった。

 

 

…石っコロが、調子に乗るんじゃねェよ…!

 

 

そんなことを思っていると、ランドセルを片付けたガキが、俺に飛びついてきた。

 

 

「バクゴーさーん!」

「ぐぶっ!?」

 

 

重さ約40キロが俺の腹に突き刺さる。

鍛えてはいるが、圧縮された内臓と衝撃の痛みから、情けない声が出た。

 

 

「魚雷みてェに突っ込んでくんな痛ェだろクソガキィ!!」

「バクゴーさんは避けないでしょ?」

「避けるかアホ!!

テメェなんざあと5倍デカくなっても簡単に受け止めたるわクソが!!」

 

「痛いのに?」

「痛くねェ!!」

「言うことの統一くらいしたらどうですかね。アホっぽく見えます」

「ンだとクソガきりたんぽォォォォォォォオオオオオッッッ!!!!」

 

 

俺が怒鳴ると、ガキが笑う。

くそっ。今日は厄日だ。

 

…久々に、デクとマトモ…かはどうか分かんねーが、会話をした気がする。

逃げてたということを突きつけられたようで、また腹が立った。

 

 

 

その時だった。

 

 

 

「ウナちゃぁぁああん!!迎えに来たよぉお、おおおお!!」

「っ、緑谷ァ!!ソイツら守れェ!!」

 

 

半分野郎とこないだのガリガリが、ぶっ壊れた壁の瓦礫とともに部屋に入ってきたのは。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「…俺専用スーツ…ねぇ」

 

 

時は数分前に遡る。

先生の家に寄った帰りで、緑谷から貰った『轟焦凍専用スーツ1号』の入ったカプセルを手で遊ばせる。

 

要らねェ、って断ろうとも思った。

だが、これがないと、あの機械野郎に勝てる確率がないことも事実だった。

 

あの梅色事件。俺は戦闘面で役に立ったとは言えない。

むしろ、ただのお荷物だった。

緑谷から聞いた話じゃ、「人工個性は既存の個性とは一線を画すどころじゃない差がある」らしい。

ソレは俺も目の当たりにしてる。

腐っても。腐ってもNo.2の男を、軽々しく吹き飛ばす個性さえも作り出せるのだ。

俺が生身で相手した所で、ものの数秒で殺されるのがオチだ。

 

 

「…俺の個性も…応用しねェ限りは、通用しねェ確率が高い、か」

 

 

右指でマッチ一本ほどの火を、左指で爪くらいの大きさの氷を同時に生み出す。

あの時、ヒメとミコトを助けるために、がむしゃらになってやった同時発動。

このくらいだったら大丈夫だが、より大きい力になると、脳を酷使し過ぎて鼻血が出るんだよな。

それでただぶっ放す、もしくは熱膨張で吹き飛ばすくらいしか出来ないんじゃ、割りに合わない。

 

 

「メドローア習得しねェと」

 

 

現実であれだけ威力が出るかは分からないが、やってみる価値はある。

少なくとも、ただ氷と炎を放つよりはマシだろう。

そんなことを考えていると、豪華な家の前で何事かぶつぶつ言ってる男を見つける。

 

 

「くそっ…。あのガキ、僕のウナちゃんから離れろよ…。ウナちゃんは僕のなんだぞ…」

 

 

…通報するか。

 

逃げられても見つけられるように写真を撮り、警察に連絡を入れようとする。

 

 

 

その時。男は首筋に何かを打ち込んだ。

 

 

 

「ぉ、おお?おおお!

わかる!わかるぞ!ぼ、僕にも、強い個性ががががあ、ぁぁ…!!」

 

 

挙動がおかしい。

カラカラと転がってきた筒が、俺の爪先に当たる。

 

俺がそちらの方をちらり、と見ると、『人工個性試作品』と書かれたラベルがあった。

 

 

人工個性を量産する準備をしている…?

ぞっ、と首筋に冷たいものが走るのがわかる。

あんな危険なモンが、あんないかにも危険そうなヤツの手に渡ってる。

 

 

「っ、アンタ!」

「ウナちゃぁぁああん!!今、会いに行くからねぇぇぇぇぇええ!!」

 

 

俺が男の前に飛び出した時には、すでに遅かった。

拳から放たれた風圧で、俺は無様に吹き飛ばされた。

豪華絢爛な家の壁にぶつかるも、氷でなんとか受け身をとる。

が。続け様に衝撃が走ると、壁が砕けた。

砕けた壁の奥を見ると、目を開く緑谷が真っ先に目に入る。

 

 

「ウナちゃぁぁああん!!迎えに来たよぉお、おおおお!!」

「っ、緑谷ァ!!ソイツら守れェ!!」

 

 

俺が声を張り上げると共に、緑谷がシリウスを纏い、デカイ盾を作り出す。

人工個性相手に、出し惜しみはしてられない。

カプセルのボタンを押し、貰った腕輪に認証させる。

瞬間。俺の体は、水色がかった白と赤の鎧に包まれた。

 

 

「状況は!?」

「人工個性の試作品!!ウナって子を狙ってる!!以上!!」

 

がしゃん。

高級そうな机が、俺の足で砕け散る。

仮面越しに映る男の姿が、ボコボコと音を立てて変わる。

 

 

「ウナちゃんから離れろよぉおお、爆発頭のクソガキぃぃぃいいいい、いい、イイイイイィィィッッッ!!!」

 

 

アンバランスな体型のソイツは、怪しい光を灯した瞳をボンバーヘッドと、音街ウナへと向ける。

 

さっきの言動と言い、個性社会のアイドルの追っかけって過激だなァ!!

 

 

「…デクに、半分野郎…?

テメェ、そのカッコ…SAVER…?」

「かっちゃん、説明は後!早くこの場から離れて!」

 

 

東北が小さな機械を取り出し、この間、俺を守っていたあの膜を張る。

振り下ろされた拳が膜に激突するとともに、凄まじい風圧が、家の一角をめちゃくちゃに破壊する。

 

 

「緑谷先輩、時間稼ぎ頼みます!

私は自立リゲルと救助に向かいます!」

「分かった!気をつけて!」

「むーーーっ!!むぅーーーーーっ!!!」

「ウナちゃんんんん!!ソイツらはダメだよぉおお!!ボクと一緒にいきよよよぉおお、よぉおお!!」

 

 

何か言いたげなボンバーヘッドを、縄でぐるぐる巻きにして引きずってく東北と音街。

彼女らが部屋から去るのを待たず、男がそれを追いかけようとする。

 

 

「ジャスティスゥゥ…」

「ヘルズスキル…」

 

 

分子の遠隔操作をスーツの機能によって可能とし、停止させる。

触れてなきゃ強く、瞬時に冷却出来ないという弱点を消した、このスーツありきの技。

 

 

「ブロォォォオオオオオォォォオオオオオオオオオオッッッ!!!」

「コキュートスバインド!!!」

 

 

本当だったら漢字のほうが良いんだが、正体バレは防ぎたい。

緑谷作のスーツはなんでもありだし、個性の特定はされないだろう。

氷によって磔にされた男に、緑谷の拳が叩き込まれる。

不純物ゼロの純氷だ。そう簡単にヒビは入らないし、身動きも取れないだろう。

人工個性相手だ。手加減も油断もしてられない。

 

 

「僕とウナちゃんの邪魔するなぁぁあ!!」

「いっ…!?」

「んなっ…!?」

 

 

これっぽっちも効いてない…!?

冗談だろ…!!隕石砕く拳だぞ!?

 

純氷をあっさりと破壊し、男は緑谷に殴りかかる。

緑谷はそれを咄嗟に避けることなく、両腕でそれを受け止めた。

 

 

「轟くぅうん!!今のっ…ぎぎっ…、うちにぃ……、攻撃をぉ!!」

 

緑谷の余裕の無さそうな声が響く。

左側の炎でジェネレーターから放出されるエネルギーを燃やし、更に威力を増大させたものを指先に集中させる。

 

 

「ヘルズスキル・インフェルノレイ!!」

 

 

指先から放たれた熱線が、男に襲いかかる。

だが、その一撃は謎のバリアによって阻まれてしまった。

 

 

「…は?」

「流石は人工個性いい!!僕の思った通りに変わってくれるうぅう!!

この力があれば、ウナちゃんとあんなことも、こんなこともおおぉおふふふふ!!」

 

 

その笑い方、あの肝試しを思い出すから今すぐやめろ!!

 

口から出ようとした言葉を飲み込み、緑谷を投げ飛ばした男を氷結と全身で食い止める。

それでも、東北が逃げた方向へと無理に進もうとする男に、俺は声を張り上げた。

 

 

「っ、テメェ、あの子の何が目的だ!?」

「そんなのぉ、体に決まってるじゃないかぁぁあ!!」

「あァ!?あんな子の体に、人工個性に関するモンがあるってのか!?」

「関係ないよぉ!あの子を僕のお嫁さんにするんだからぁぁあ!!」

 

 

イカれてやがる!!

あの子がまだ結婚できる歳じゃないって、正常な判断も出来ねェのかよコイツ!!

 

火に油を注ぐことはせず、純氷の壁を幾重にも重ねた箱で閉じ込める。

飛ばされた緑谷が駆け寄り、その箱にバリアを張った。

 

 

「これで閉じ込めた!出る前に催眠音波を流すから、耳栓を…」

「っ、緑谷!!すぐに離れろ!!」

 

 

びしり。

氷に、バリアに、ヒビが走る。

俺は咄嗟に氷を緑谷の前に作り、彼を傍に抱えて一歩下がる。

次の瞬間には、そこには大きな穴が開いていた。

 

 

「邪魔だぁぁぁああ!!僕とウナちゃんの邪魔ををををォォォオオオオオ!!」

 

 

奇声を上げながら、竜巻を発生させる男。

スーツに切り傷がついたあたり、触れたものを斬る竜巻を起こしてるんだろう。

人工個性ってのは、本当にデタラメだ。

攻撃は兎に角、アホみたいにタフな相手だ。

なら、そのタフさを捻じ伏せる攻撃でブチのめすしかない。

 

 

「コイツ、慣れてねェし興奮してっからバカみてェな火力の個性しか作らねェ!!

緑谷!!紲星ン時に使ったっつー装備に替えろ!!」

「え!?下手したら殺しちゃうかも…」

 

 

緑谷はそう躊躇うが、相手をただの人間と見ない方がいい。

梅の一件と、紲星の存在で、そのデタラメさはよく知ってるだろ。

俺は緑谷に語りかけるように言うと、声を張り上げ、熱線と氷の散弾銃を放った。

 

 

「いいから早く替えろ!!街一つ簡単に吹っ飛ばす奴が相手なんだぞ!!

安心しろ!!相手はこんだけ殺す気で攻撃しても死んでねェんだ!!

簡単にはくたばらねェ…がぁっ!?」

「うるさぁぁあああい!!」

 

 

俺の腹に拳が突き刺さる。

俺がそれを言い終わる前に、景色が線になる。

拳によって吹き飛ばされたと悟るのに、数秒にかからなかった。

 

 

「緑谷ァああっっ!!!

後で戻る!!それまで絶対ェ音街ンとこ行かすんじゃねェぞ!!」

 

 

遠のいていく緑谷に、声を張り上げる。

通信で拾っていたのだろう。

緑谷は少し頭を抑えるそぶりを見せながら、サムズアップしていた。




お待たせしました。次回、かっちゃん覚醒(ただし口の悪さは変わらない)


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爆豪「答え合わせの時間だ」

サブタイトル通りです。


「ンだとォ!?アイツが、クソデクが俺より上だとォォォ!?!?」

 

「そりゃそうでしょ、ボンマン。

アンタ、オールマイトを一撃で倒せて、地球一つ簡単に吹っ飛ばすヤツ相手に、何もさせずに勝つ自信ありますか?」

 

「……ぬがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああっっっ!!っそが、あるわけねェだろ!!」

 

 

告げられた真実は、俺にとって受け入れがたいものだった。

デクが、あの何も出来なかった木偶の坊が。

世界中を騒がせ、プロヒーローでさえも手を焼いたヴィランを鎧袖一触でブチのめすヴィジランテ。

 

過去に二度、人知れず世界を救った英雄。

一度目は、鎌倉山の超常現象。

未来から来たっつー個性兵器…あの転校生を、未来人から救った話を聞いた。

二度目は、梅ノ空事件。

古代に存在したっつー梅の木が、星をぶっ壊そうとしたのを、半分野郎と食い止めた話を聞いた。

 

 

認めたくない。たが、認めざるを得ない。

俺は、デクよりも下だ。

世界を救うなんて偉業を成し遂げたこともないし、成し遂げられるとも思わない。

 

 

今、デクと顔を合わせるたびに感じる胸のざわめきの理由がわかった。

アイツが死ぬ気で頑張ってるのに、焦っていたんだ。

それを見ねェフリして、絶対に超えられることは無いってあぐらをかいて。

気づけば、俺とデクの間には、埋められない差が出来ていた。

それを、「もし俺より上だったら怖ェから」って理由で、避けていた。

 

 

そんなの、認められるか。認められるか!!

 

 

認めたくない。認めたくないが、認めるしかない。

俺じゃ、今のあのガリガリに勝てる気がしねェ。

 

 

「……っっ、ソがァぁぁあ!!!!!」

 

 

くそっ。くそっ…。

なんで、なんで。

悔しさのあまり、声が漏れる。

ボロボロと、いつぶりかに涙を流す。

その涙の意味は、悔しさなんかじゃない。

自分でも訳がわからない感情が、ぐちゃぐちゃになっていた。

 

 

「なんで、なんでアイツらは、俺より先に行ってんだよ…!

なんで、俺の分かんねェ答えが、あのデクに分かンだよォおっっ!!!

俺の…俺の憧れ方が間違いだってか…!?

くそっ、くそぉ…!!なんで、なんで俺は、分かんねェんだよ…。

なんで、俺は、勝てねェんだよ…!!」

 

 

俺がそう溢すと、きりたんぽが俺の胸ぐらを掴む。

オロオロするガキに「目を瞑ってください」と言うと、俺の頬を引っ叩いた。

 

 

「何もしてないし何も知ろうとしないアンタより先に行ってるのは当然でしょ!!

 

緑谷先輩は無個性に生まれて、この世の不利益全部その小さな体に受けて!!

 

それでも『やってやる』って歯ァ食いしばって、限界を超え続けた結果がアレですよ!!

 

アンタは一度でも知恵熱でぶっ倒れたことはありますか!?集中しすぎて顔中から血ィ吹き出したことは!?正しいって思ってた式が間違ってて、山の一部ハゲさせる大爆発に巻き込まれたことは!?」

 

 

きりたんぽの言葉に、頷くことが出来なかった。

そんな苦労、今まで一度もしたことがない。

何でもやればできた。

周りがすごいって言うから、俺はすごいって思ってた。

出来ない奴らの気持ちが、これっぽっちも分からなかった。

 

 

「緑谷先輩に勝てないだなんだと宣うのは、あの人よりもぶっ壊れるほど全力でやってからにしなさいよ!!

分からねェって喚くなら、しっかりと周りを…、分かってる人間を見なさいよ!!

 

本気で頑張ったことのない人間が…。

 

本気で他人の気持ちになったことのない人間が……!

 

本気で罵倒されたことない人間が!!

 

本気でつまづいたことのない人間が!!

 

そうやって悩んでるフリをしてることに心っっ底腹が立つ!!!!

 

だからっ!!私はァ!!アンタがっ!!心のっ!!底からっ!!世界でェっっ!!一番ンっっっ!!大っ、大っ、大っ、大っ、大っっっっ嫌いなんですよォ!!!!!」

 

 

…くそっ。クソっ。

悩んだフリしてた?他人の気持ちになったことがねェ?

俺の考えも、悩みも、悔しさも、なんも分からねェくせに…!

そう反論しようとしたが、口から言葉が出ない。

俺の胸ぐらを掴むコイツの目に、背筋がゾッとするのを感じた。

 

 

「き、きりちゃん…。なにも、そこまで言わなくても…」

「コレの今までのツケです。

死ぬ気で頑張って、アイドルという称号を手に入れたウナちゃんとは違うんです」

 

 

きりたんぽは吐き捨てるように言うと、「逃げますよ」と俺を引っ張る。

抵抗する気も起きなかった俺は、流されるようにきりたんぽの後ろに立つ。

 

 

その時だった。半分野郎とデクが吹き飛ばされてきたのは。

 

 

「がぁっ!?」

「うぐぅ…!?」

「っ、轟先輩に緑谷先輩!?」

「僕らはいい!早くここから離れ…」

 

 

瞬間。俺の体に衝撃が走った。

 

 

「ごぼっ…!?」

「死死死死ねねねねぇぇへへへへっ!!」

「かっちゃあぁんッッッ!!」

 

 

あばらがへし折れ、口から血の塊が吐き出される。

無様に吹っ飛ばされた俺を、デクが受け止めた。

 

 

「っ…」

「かっちゃん、大丈夫?」

「…ッソがぁ…!」

 

 

どこで差がついた、とは言わない。

わかり切っている。

俺は、コイツがノートに向き合って、何度もぶっ倒れてるのを実際に見た。

それで分からねェって方がアホだ。

 

 

「ウナちゃぁあああん…。待っててねぇえ…。今、悪い奴をぶっ殺すからぁぁあ、ァァァァァアアアア!!!」

 

「ヘルズスキルゥゥ…!!

インフェルノォォォッ!!アァァァァァアアアアックスッッッ!!!」

 

 

炎を纏い、高速回転の勢いを乗せたかかと落としが、ガリガリ男の脳天に叩き込まれる。

ネームドヴィラン相手なら、「決まった」と思える一撃。

だと言うのに、そのガリガリは半分野郎の足を掴み、地面に叩きつけた。

 

 

「ぐふぅっ!?」

「お前は邪魔だよぉぉおおっっ!!」

 

 

コレが、デクの戦ってきた相手。

 

 

誰が見ても分かる。

俺どころか、プロヒーローですら怖気付いてしまうであろう程の、圧倒的存在感。

人工個性という、どんな個性にも変化するというデタラメを手に入れた人間相手に、俺が勝てるなんて自惚れはない。

デクに何かを注射され、痛みが消えていく。

だというのに、俺の胸は未だに痛みを訴えていた。

 

 

「がはっ…!?」

「ぐぅうう…っ、容赦、ない…!!」

 

 

俺から離れ、デクが応戦する。

頬を撫でる風が、鼓膜を揺らす音が、目に映る光景が語る。

俺じゃ、敵わない。

見せられた現実と理想のギャップに、胃酸が逆流するのを感じた。

 

 

「もう…。もう、やめてよぉおっっ!!」

 

 

それを吐き出そうとした時。

ガキが声を張り上げ、デクたちの前に出る。

ガタガタ足が震えて、目尻に溢れんばかりに涙を溜めてるのに。

アイツの目は、しっかりと現実を見据えていた。

 

 

「私が目的なんでしょ…?だったら、私を連れてっていいからぁ!!

だから、もうやめてよ…!

バクゴーさんを殺そうとするのも、デクさんを殴るのも、ショートさんを蹴るのも、もうやめてよ…っ!!」

 

 

ーーーーーー勝つ理由がそこにある。負けてしまえばどうなるか、痛いほどわかっている。

だから、私は褌締めて、敵に向けてもこう言ってやるんです。

『私が来た』ってね!

 

 

ヒーローでもねェのに。個性もねェのに。

怖くて怖くて堪らねェって、アレだけ言ってたのに。

 

 

「やっと正気になったんだねぇええ!

さぁ、お家に帰ろろろろぉぉおおおっ!!」

 

 

ガリガリの手が、ガキに迫る。

 

 

ーーーーーーかっちゃん、大丈夫?

 

 

ーーーーーーやめろよ、かっちゃん…!

 

 

ーーーーーー屈するのも、負けるのも簡単だ。だが、それで失われてしまうものがある。だから、私は平和の象徴として立ち上がってこれたのです。

 

 

ーーーーーーおれはいっちゃんすげぇ!だから、なんもなくさねぇくれぇ、いっちゃんすげぇヒーローになる!

 

 

 

薄れに薄れた記憶が甦る。

 

 

 

気づけば、俺の体が弾かれるように、ガキの体を抱き寄せていた。

 

 

 

「かっちゃ…!?」

 

 

「最ッッ大ッッ、火力ゥゥゥウウウウウウゥゥウウウウウウッッッッ!!!」

 

 

ボォンッ!

 

爆炎が掌から放たれる。

掌の汗からニトロのようなモンを分泌し、爆破する個性。

咄嗟とはいえ、今まで出したこともない爆破に汗腺と皮膚が耐えきれなかった。

熱で皮がデロデロに溶け、剥き出しになった真皮から血が滲み出す。

 

 

「…半分野郎ォ。答え合わせの時間だ」

 

 

情けねェ。

俺よりも弱ェガキが、ビビりながら立ち上がってんのに、俺が泣いてんじゃねェ。

 

目尻に流れる涙を拭う。

腫れた目元で、口の端の切り傷が開くのも構わず、口角を上げる。

格好良くなんて、決してない。そんなの、自分でもわかってる。

だけど、憧れのトップヒーローのように。

俺は、その顔に笑みを浮かべた。

 

 

 

「『誰かのために立ち上がる』のが、ヒーローだろ」

 

 

 

焼け爛れた掌をもう一度、影に向ける。

勝てる気はこれっぽっちもない。

それでも、負けてやる気もない。




答えは、既に在った。


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爆豪「いーから早よやれ俺が死ぬ!!」

サブタイトル通りです


「かっちゃん…」

 

「ボサッとすんなデク!!

テメェらと違って、俺は障子紙程度の強度があればいいところだ!!

とっととソイツぶっ殺せ!!

俺が死んでガキ連れてかれたら、あの世から這い上がってきてブッ殺すからなァ!!」

 

「言ってること無茶苦茶なんだけど!?」

「いーから早よやれ俺が死ぬ!!」

「かっちゃんから一生出ないような台詞出た!!」

「いちいち驚いてんじゃねェぞあとでぶっ殺すから覚えてろォ!!」

 

 

かっちゃんと久々に大声で会話した。

 

 

いつもならすんごい顔つきで怒るのに、今は少し笑ってるように見える。

口の悪さは相変わらずだけど。

拳を握り、かっちゃんに迫る男の腹に叩き込む。

あかりさんの時に使った装備は、火力が高すぎて使い難い。

そう思っていたが、相手が硬すぎる場合はこれが丁度いいらしい。

隕石より硬い個性ってなんだ。もう何度も言ってるが言わせて欲しい。

人工個性デタラメすぎだろ!!

 

 

「さっきからららぁ…、ウナちゃんと僕の邪魔するなって、言ってててるるるるだろろろぉぉおおおっっ!!」

 

「するだろ!!子供泣いてんだから!!」

 

「一般常識も身についてねェ大人に子供がホイホイついてくかそのシワの少ねェ脳みそに知識詰めてこい馬鹿野郎!!」

 

「理想と現実の区別つかないロリコン中年とか、惚れる要素ゼロじゃないですか。

女性全員が恋愛対象外って言いますよ」

 

「テメェみてェなアブねェ妄想男にこのガキ懐くか!!俺が言うのもなんだがなァ、現実見つめ直してから来いやクソガリィ!!」

 

「後半三人、火に油注いでどうするんですか!?」

 

 

音街さんのツッコミが響く。

 

でも、その甲斐あってか相手のこめかみがピクピクしてる。

年中キレて高血圧で死にそうなかっちゃんみたいに、キレてても冷静さを失わないタイプじゃない。

キレて冷静さを失うタイプだ。

 

 

「ぉお前らぁぁああっ!!ぶっ殺ぉぉおおおすっっ!!」

 

「「「やってみろォ!!こっちがお前をブッ飛ばァすッッッ!!!」」」

 

 

僕たち三人の声が響いた。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

『ポンコツゥゥゥ……っ!!

私の食べ歩きを邪魔するとは、万死に値するぅぅうう…!!』

『あ…キズナさん、まだソレ根に持ってるんですか…』

 

 

あかりさんが地獄の底から響くような声で、私への恨み節を放つ。

最近はここいらの商店街を回って、おばちゃんからコロッケを買うのが日課とか言ってたっけ。

現在、私たちはというと。

専用機となったカノープスとアルデバランを身に纏い、プロヒーローと交戦していた。

理由は…察して欲しい。

緑谷くんたちが交戦してる=私たちは囮役ってことになってるんですから。

 

 

「キズナ!オールマイトから逃げ切れたその実力、確かに認めよう!!

だが!俺は力を持たない人を守るために、ここに立っている!!

お前がここに現れるだけで、どれだけの人が恐れてしまうと思っている!?

このシンリンカムイ、例え貴様の足元にも及ばずとも、貴様を死ぬ気で食い止める!!」

 

 

あの肝試しからカッコよくなりましたよね、シンリンカムイ。

 

 

実力も少しは向上したのか、テレビで見るよりも樹木の伸びが早く、複雑だ。

しかも、まだまだ余力を残してそうである。

手加減してるとは言え、あかりさんが釘付けになっている。

私はその他のプロヒーローを相手にしているが、全体的に実力が向上している気がする。

エンデヴァーの事務所の人たちよりは流石に厳しくないが、それに迫る勢いで、波状攻撃が放たれる。

 

 

『むぅうう…。タイミングバラバラだから、予測立てるのが難しいですぅ…』

「キズナの協力者はこちらに任せろ!!

カムイ、キズナに何もさせるなァ!!」

「有難い…!」

 

 

私には、息もつかせぬ波状攻撃。

あかりさんには、下手に身動きが取れない樹木の牢獄。

あくまで緑谷くんたちのサポートの私たちは、攻撃を捌くことくらいしかできない。

あかりさんはその気になれば、樹木の牢獄程度、一撃で吹っ飛ばせる。

しかし、シンリンカムイの腕からそれが伸びているとなると、話は別。

腕丸ごと吹っ飛ばす可能性がある。

 

 

『こういうタイプの時間稼ぎが、一番大変なんですねぇ…』

 

 

私がそう呟いたその時だった。

 

 

「ウナちゃんはァああっ!!

僕のお嫁さんなんだぞォォォォォォぉぉおおおォォォォォォオッッッ!!!!」

 

 

街に影を落とす、巨大な化物が現れたのは。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「閃光弾って知ってるかァ!?

スタングレネードォ!!」

 

 

かっちゃんの目眩しで敵が怯む。

轟くんがその隙に敵を凍らせ、氷を壊される前に熱線を放った。

 

 

「ナイスだボンバーヘッド!!」

「爆豪勝己だ半分や…轟ィ!!」

「そりゃ悪かったな、爆豪ォ!!」

 

 

かっちゃんと轟くん、実は結構相性が良かったりするのだろうか。

そんなことを考えるが、首を横に振って要らない思考を霧散させる。

 

 

「くそぉ…!炎が邪魔で…!」

 

 

爆炎、熱線による2連目眩しで敵が怯む。

僕は地面がひび割れるほどに踏みしめ、拳を強く握った。

 

 

「正義のォっ!!昇ォッ!竜ゥゥッ!!けェェぇぇえええんッッッ!!!」

 

「がべっ!?」

 

 

要するに、ただのアッパーだ。

僕のアッパーカットが、敵の顎を捉える。

ずずぅん、とその体が沈むのを確認し、僕は手の埃を払った。

昇竜拳という名称にしたのは、正確ではなかったかも。

アッパーカットを日本語に訳すと、如何してもダサくなるから、きりちゃんの案を取り入れたんだけど。

 

 

「アッパーにしたのは、鎌倉山割った時の反省ですか?」

「あ、うん。街、割っちゃうし…」

「話半分に聞いてたんですけど、本当だったんだ…」

「ンなモン作れるくらい頭いいなら加減しろや」

 

「いや、あの時は頭に血が昇ってて…」

「爆豪みてェな状態だったわけか」

「ソレ俺が年中キレてるってことかァ!?」

「「「「うん」」」」

「…ッソがァ!!反論できねェエ!!」

 

 

こうやって、かっちゃんと楽しく会話ができる日が来るなんて。

かっちゃんと協力して、敵に立ち向かう日が来るなんて、思いもしなかった。

そう考えると、おかしくなって。

かっちゃんからは見えてないけれど、僕は笑みを浮かべた。

 

 

「…バクゴーさん。カッコ良かったです」

「………そうかよ」

 

 

音街さんの言葉に、かっちゃんが少し笑って、彼女の頭を撫でた。

 

 

その時だった。

 

 

「ダメだよぉ…。だめなんだよよよよぉおおおおっっ!!その男は、ダメなんだァァァアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!」

 

 

敵が奇声と共に起き上がる。

僕らが戦闘態勢を取ったその瞬間。

 

 

彼の体が、一瞬にして膨張した。

 

 

僕らは知っていたはずなんだ。

人工個性が、人の手に余るものだって。

僕らは知っていたはずなんだ。

『人工個性が人間に埋め込まれていた例がない』ことに。

 

 

「ウナちゃんはァああっ!!

僕のお嫁さんなんだぞォォォォォォぉぉおおおォォォォォォオッッッ!!!!」

 

 

人工個性に飲み込まれた敵…いや。

細胞単位で人とは呼べない怪物が、そのアギトを開いた。




次回でかっちゃんメインは終わります。

ちょっとした一幕

爆豪「デ…出久!!」
緑谷「ごめんまって気持ち悪い吐きそう。デクでお願い」
轟「すまん、気持ち悪い。俺でも吐きそうだ」
東北「おえっ」
爆豪「テメェらァァア!!」


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爆豪「あばよ、爆豪勝己」

サブタイトル通りです。


「…何やらかしたらあんなバケモン呼び出せんですか、あの子たちは」

 

 

近所が大騒ぎになる中、夕陽を背にたたずむ巨影を見上げる。

さっきから音街さんの屋敷がある街の外れで、敵が出たと騒がれていた。

プロヒーローが現行すると、それを阻むようにキズナが現れたという。

 

 

…ああ、面倒ごとが始まった。

 

 

あの子がプロヒーローと交戦するということは、人工個性関連の事件が起きているということ。

最初は東北さんもいないし、足手まといの僕がなにを指示しても意味を為さないと放っていた。

僕の家に被害が出なきゃいいけれど、なーんて思っていたらコレだ。

まったく。あの子たちと居ると、悪い意味で退屈する暇がない。

 

 

「…ま、僕にできるのは、避難誘導の手伝いくらいですかね」

 

 

僕はいうと、印鑑と通帳だけ持って、家の外に出た。

と。そこへ緑谷くんのお母さんが、僕とまったく同じタイミングで扉を開けた。

 

 

「…先生」

「緑谷くんのお母さん。早く逃げましょう。

あのデカさなら、ここも戦闘区域になりますよ」

「はい。…少し待ってください」

 

 

彼女は言うと、廊下の手すりにつかまって、声を張り上げた。

 

 

「ヒーローォォォォォォおおおっっ!!頑張ってぇぇぇえええっっ!!!」

 

 

そのメッセージを誰に向けたかは、すぐにわかった。

彼女は既に、全てを知って、黙認してるのだから。

 

 

「こんな時にしか、応援できませんからね。

先生。私も避難誘導、手伝います」

「ありがとうございます。僕以外の教師は、すごくやる気がないもので」

 

 

理解のある母親に恵まれるって、そうそうないですよ、緑谷くん。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「ウナちゃァああァああんっっ!!」

「超火力ッ、炸裂っ、だァんッッッ!!」

 

 

うぞうぞと蠢く触手に、デクのナノマシンで回復した掌を向け、限界を超えて二発爆破を放つ。

掌の真皮がデロデロに溶けるが、ナノマシンで回復する。

それと同じように、爆炎で燃える触手と肉壁が即座に再生した。

 

 

「かなり興奮して、だんだんと個性が攻撃一辺倒になってきてる…!

さっきより倒すのは楽だろうけど、いかんせん攻撃が激しっ…!」

「爆豪!!お前ンとこに流れ弾行かないようにするだけで手一杯だ!

お前がなんとかしろ!!」

 

 

簡単に言うな。こっちももう汗腺と皮膚が限界なんだ。

ずきずき、じんじんと痛みを主張してくる掌を再びバケモノに向け、爆破を放つ。

触手の表面が焼け爛れるが、数秒もしないうちに再生した。

攻撃一辺倒って言ったやつ誰だ。厄介な個性作られてンじゃねェか!!

 

 

「ば、バクゴー…さん…」

「ンな目で見んな…!!」

 

 

声を絞り出す。

あの人はいつだって、笑顔と背中で安心させてきただろォが…!!

 

 

「死んでも負けねェ…。死んでも音街を渡さねェ…!!

第一、あんなキモいのが初戦で負けて死んだら、死んでも死に切れねェわ!!」

「トップヒーローになる男、爆豪勝己!!

享年13歳!!死因、重度の妄想癖を患った中年に殺される!!」

「うっわっ!!たいそうな前置とのギャップすごいね!!」

「まだ死んでねェわテメェらコイツの後でブッ殺すぞ!!」

 

 

テメェらまだ余裕あンだろォ!!

 

 

声を張り上げながら、爆破で迫りくる触手から音街を守る。

軽口を叩いて、無理やりに余裕を保ったんだろう。

俺の頭上では、俺めがけて降り注ぐ攻撃をデクと轟が防いでいた。

 

 

「三人とも、五分…とは言いません!せめて三分!時間稼いでください!

コイツの弱点を暴きます!!」

 

 

きりたんぽが叫ぶと、スカートの下から何やら妙な球体を大量に出した。

すると、その一つ一つが浮遊し、デカブツの周りを飛び交った。

 

 

「解析用ドローンです!イズクメタル使ってるんで、簡単には壊れません!!

ただ、操作範囲の都合上、ここから動けません!!

意地は一級品でしょ!!

死ぬ気で私ら守ってみせなさいよ!!」

 

 

その言葉は、デクたちには向けられてねェことは、すぐに分かった。

少し視線を移すだけで、アイツが俺の背中を見てることがわかる。

迫りくる触手に、より大きな爆発を起こし、声を張り上げた。

 

 

「テメェら、よく聞けェ!!」

 

 

もう、口だけじゃねェ。

心の底に、この言葉を刻め。

俺が、ヒーローであるために。

 

 

「テメェら追い越してやる!!

俺はァ!!全部助けて!!全部守ってェ!!なにも失わねェ!!完膚なきまでに勝ち続ける、俺ン中で一番すげェヒーローになってやる!!」

 

 

まだ、俺はその域にはいない。

だから、叫べ。俺の心に焼き付けるために、言葉を重ねろ。

 

 

「俺がァっ!!最高のォっ、ヒーローだァァァアアアアアアアッッッ!!!!」

 

 

デクの真似だが、それでいい。

俺が思い描くソレは、アイツとは違う。

だから、俺が俺の思うヒーローを演じてやろう。

アイツを超える、最高のヒーローを。

 

 

「良い啖呵ですよ、ヒーロー!!」

 

 

再生が追いつかないほどに爆破を繰り返し、再生しようとする細胞を炭化させる。

こちらの再生も追いつかず、最早指先からしか爆破が行えない。

一分も待てば、すぐに再生するだろう。

だが、そんなに待ってたら、すぐに殺される。

指先に集中しろ。最大火力の爆破を、十連続で放て。

 

 

「十壊滅殺ゥ…!!獄ッ!!爆砕ィィィィィィィィィイイイイイイイイイイイイイッッッ!!!」

 

 

放たれた十連続の爆炎が、触手を肉壁ごと吹っ飛ばす。

咄嗟に名前を付けたが、爆破の細かいコントロールを取得するまで、二度とやれねェ。

大きな風穴の空いたバケモンは、その口から声を発した。

 

 

「やっぱりお前ぇええ…!!

僕とウナちゃんを引き裂く悪魔だなァァァアアアアッッッ!!!」

 

 

…心の底から認めたくないが、認める。

目の前のバケモンは、さっきまでの俺だ。

自分の思いどおりにことが進む世界が正しいって思い続けた、哀れな自分。

俺は、きりたんぽに現実を突きつけられて、一度は折れた。

だったら、同じように現実をぶつけてやれば良い。

 

 

「音街、言ってやれ。

変わりようのねェ、飛びっ切り残酷な現実を、な」

「…っ、はいっ!」

 

 

穴は塞がらず、そことは別の箇所から触手が襲いかかる。

完全に壊死したんだろう。

痛むそぶりをみせてないあたり、体がそのまま膨張した訳じゃなさそうだ。

指が再生するたびに、先程の「十壊滅殺・獄爆砕」を放つ。

その背後で、音街が声を張り上げた。

 

 

「私はてめーのお嫁さんじゃねェェェェェェェエエエエエェェェェェエエッッッ!!!!

てめーなんか全ッッッ然タイプじゃねェんだからァァァァァアアアアッッッ!!!!!」

 

 

「……ぽへっ?」

 

 

「ぶっっ…はははははっっ!!

良いぞ音街ィ!そっちの方が、なめられねェぞ!!」

 

 

音街の声を聞きながら、笑い声を上げる。

あの言い方、完全に俺を真似てたな。

デク。テメェの訳のわからんかった部分、全部分かった気がする。

 

 

ああ。今日はなんで、こんな笑いが止まらねェんだろう。

こんなん、らしくもねェ。

 

 

 

「はははははっ!ぶぁっはっはっはっ!

あー…。今日は、よく寝れそうだ」

 

 

「……うそだ。うぞだぁあ…。ウナちゃんが、こんな、こんなぁあ…」

 

 

バケモンが現実を受け止めきれず、棒立ちになってる。

今がチャンスだ。

 

 

「東北ゥ!!弱点分かったか!?」

「はい!!口の中に本体がいます!!

そいつを引きずり出せば、このデカブツは機能を停止します!!」

 

「ソレ以外はぶっ飛ばしても大丈夫なんだなァ!?」

「はい!!初の大仕事ですよ、爆豪先輩!!

邪魔する触手、全部ぶっ殺せェ!!」

「上等ォ!!」

 

 

焼け爛れて真っ黒な手を、奴の頭部を除く全てに向ける。

 

 

 

「あばよ、爆豪勝己。

妄想ばっかの中学生」

 

 

 

限界を超えて、指の先から何度も、何度も、「十壊滅殺・獄爆砕」を繰り出す。

いや。この技の名前は正しくない。

 

 

 

「十ノ惨状ォ…!!千壊滅殺ゥゥ!!

地獄ッ、爆粉砕ィィィィィィィイイイイイィイイイイイイイイイイッッッ!!!!」

 

 

 

爆炎が、奴の体を焼き尽くす。

ぶすぶすと煙を上げる指を動かし、俺は拳を空に突き上げた。

 

 

「デクゥ!!轟ィ!!しくじったらぶっ殺すからなァ!!」

「「言われなくても!!」」

 

 

轟が頭部を凍らせ、デクがソレを砕く。

気を失った男を、デクが受け止めた。

 

 

 

爆煙が止んだ空から差し込む夕日が、俺たちを照らす。

ナノマシンで手が回復するのを待たず、音街が俺に飛びついた。

 

はじめての戦いは、終わった。

チュートリアルにしちゃキツかったが、その結果は判を押したように決まってる。

 

 

「俺たちのォ!!完全勝利だァァァアアアアァァァァァアアアアッッッ!!!!!」




ショックで放心していたため、防御と再生を怠ったため、爆豪くんでもなんとか倒せました。
代償はカッターシャツと腕二本真っ黒コゲ(1日あればナノマシンで治せる)です。

次回から「旅行は性癖暴露大会」です。先生たちが関西の地で性癖暴露します


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旅行は性癖暴露大会
新参者までクソガキってどういうことだ。


サブタイトル通りです。


「デクって呼び方、変えないんですね」

「それがね、きりちゃん。

変えたら『気持ち悪いからやめろ』って真顔で言われてたの」

 

「緑谷の気持ちも分かる。

お前が緑谷のこと普通に『出久』って言ってるとこ見て吐きそうになった」

「ボクも、初めて会ったけど、ちょっと気持ち悪かった…」

「私もー」

 

「当人の僕なんかトイレに二十分篭ったからね?ほんっと気持ち悪かったァ…」

「確かに。吐き気しましたね」

「私は外でリバースしちゃいました!拭くのに時間かかりました!」

 

「テメェら人が真剣に悩んだ時間返せやァ!!あとポンコツ!!テメェはただ単に飲み過ぎで吐いたんだろォがなに俺のせいにしとんじゃゴラァ!!!」

 

 

「どうでも良いですけど、君ら僕が取り寄せた焼肉用高級肉で勝手に焼肉するのはどうなんですか?」

 

 

家の中の人口密度がかつてないほどに高い。

焼肉の煙が充満する中、換気扇がガンガン回ってる音すらも聞こえない喧騒に、僕がツッコミを入れる。

 

 

あの後のことを語っておこう。

正義の秘密結社『一等星』に、入るとは微塵も考えてなかった爆豪くんと、音街さんが加入した。

正確に言うと、「音街家」がバックについた。

かなりの資産家で、「娘を命懸けで助けてくれた爆豪くんに恩返しをしたい!」ということで、爆豪くんが「俺らのサポートしろや」と要求したのだ。

 

 

サポートと言っても、場所の提供、警察が秘匿してる情報の横流しくらいである。

秘匿情報は法的に大丈夫か、と聞くと、「秘匿される前に手に入れてる」らしい。

元々がやり手の実業家なだけあって、僕よりも多芸だ。

 

 

場所の提供の方は、緑谷くんが「ちょっと大きい施設が欲しい」と要求した。

何を作るのかと聞くと、「秘密です!」と返された。

かなり大掛かりなものを作っているようだ。

先日までは、何徹したか分からないくらいに疲弊していた。

学校でも、半分寝て半分ノートに何かを書き殴ってる状態が続いていたらしい。

あの爆豪くんが心配するくらいだった。

いや、結構性格が矯正されたから、普通に他人の心配もするようになったんだが。

 

 

爆豪くんはと言うと、少し前の仁侠みたいなことになった。

まずは自分の母親に自分のやってきたことを、馬鹿正直に話した。

その上で「殴られてくる」と今まで迷惑をかけてきた人間一人一人に、頭を下げに行ったという。

謝り終わる…僕で最後だった…頃には、体はアザだらけでボロボロだった。

ナノマシンで緑谷くんが慌てて治したけど。

 

 

残していた過去の映像も、最後の一つを爆豪くんは受け取った。

曰く、「間違ってた過去は消せねェ。だから、引きずって歩いてく」とのこと。

その一環で、緑谷くんの蔑称をやめようとしたところ、本人に「気持ち悪いからやめろ」と言われてしまったのだとか。

結果、蔑称ではなく、愛称として呼ぶこととなった。

 

 

あの時のバケモノはというと、倒したのはSAVERということになった。

本当は装備もない爆豪くんが倒したらしいのだが、バレたら個性の無断使用で捕まってしまう。

「なら隠そう!」と満場一致で決め、あかりさんと協力して「キズナがまたなんかやらかした!だけどSAVERが食い止めたぞ!」的な茶番を演じたという。

 

 

バケモノとなった男は、音街さんのストーカーだったらしく、所有していたノートパソコンと携帯に、彼女のあられもない写真が多く保存されていた。

緑谷くんたちが帰りに、警察署の前にふんじばってパソコンと携帯共々放置してきた。

ひっそりと新聞記事で「元政界のドンの息子、アイドルのストーカー容疑で逮捕!」と書かれてた。

 

 

街に大した被害は出ず、爆豪くんのカッターシャツが消し飛んだくらいだった。

あかりさんが逃げると、プロヒーローは後を追うグループと安全確認のグループに分かれ、テキパキと動いていた。

前までの「敵が出たら動こう!」という風潮はなく、毎日毎日パトロール、ゴミ拾い、迷子案内、etc…と、何かに励む姿が見られているあたり、あの肝試しで何かが変わったのだろう。

 

 

…モノローグはここまでにして。

現在、焼肉の煙で真っ白に染まったメガネを拭きながら、僕は情け程度に用意された僕の席に座る。

 

 

「…美味っ。コレ、結構するヤツだろ」

「小学校教員が、ンな贅沢できンのか…?」

 

 

どうだ。一頭丸々で新車よりも高い肉だぞ。

ただの牛一頭だけでも、百万から二百万くらいする中で、最高級だぞ。

…株投資で儲けすぎて、浪費したかったから買ったんだけど。

 

 

「先生、株投資もやってるから、結構お金持ちだよ」

「株投資って言い方は正しくない気がします。だって、すんごい安い株買って、その会社の社員のやる気を刺激して、結果的にすんごい高くしたのを売ってますからね」

「やってること敵の親玉みてェ」

「コレまでの関係がウソみたいに仲良いですよね君ら!!」

 

 

前までの関係は、爆豪くんが徹底的に緑谷くんを拒絶していたから起こった歪みとでも言うべきなんだろうか。

それがなくなった今、口は悪いが、仲は良好と言った関係を築けているのだろう。

…外向きの面を覚えさせる必要はあるが。

 

 

「…にしても、せんせー。コレはちょっと買いすぎなんじゃ…」

「牛一頭分です」

「牛さんってこんなにお肉あるの!?」

「あと一頭分は欲しいです」

「あかりさん、それ本気で言ってます…?」

 

 

約一人、焼く量も食う量も異次元なのがいる。

爆豪くんが肉の値段に気付いて食べるスピードが落ちてるのに、他は変わらずガッツリ食べてる。

みみっちさは治らなかったのか。

 

 

「おい、大食い女。もうちょい味わえや肉もったいねェだろ」

「どうせなら、たくさん食べたいじゃないですか」

「だったら一枚ずつ食えや白米と一緒に。

無駄に高ェ水で炊いた無駄に高ェコ○ヒカリあるぞ」

「家主の僕になんの相談もなく炊くあたり、君らだいぶ仲良いでしょ」

 

 

新参者までクソガキってどういうことだ。

僕にのみ向けられるクソガキっぷりに、最早ため息も出てこなかった。

 

 

「出世払いだ。未来のトップヒーローへの投資って思えば安いだろ」

「君が出世するには、外向けの面を習得する他ないと思いますけど」

「ンだとォ!?普段の俺に問題があったわクソがァ!!」

「怒鳴った後で自分で気づけるあたり、この一週間で成長しましたよね」

 

 

爆豪くんが面白いことになってる。

 

もう完全にボケとツッコミを両立できる人材になってる。

我ら一等星に足りなかったピースが揃った気がする。

 

 

「僕の高校時代の友人に、君みたいに口悪いのがデフォの生物工学者居るんで、外面の作り方学びます?」

「………ッソが頼むわァ!!」

 

 

すごい嫌そうな顔で頼まれた。

前々から僕のこと嫌ってたし、誰かに頼ることも嫌ってたような子だから、だいぶ考えて折れたんだろう。

顔中がしわくちゃになる程嫌か。

 

 

「かっちゃんって、表現豊かだよね。

顔と頼み方から『嫌だ』って気持ちが伝わってくる」

「オッサンみてェな顔して、ブルブル震えながら頭下げてたな」

「テメェら後で殺す…っ!!」

 

 

まずはその「殺す」とか「死ね」とかを直す必要があるな。

戯れ合いなら、いくら言ってもいいだろう。

だが、流石に公共の場でその暴言はまずい。

ヒーローなんて、嫌でも子供の目に留まる職業だ。

その職についてる人間が、「死ね」はまずいだろう。

 

 

「…どうやってあの『死ね』とか『殺す』を直しましょう…?」

「無理だと思うよ?

バクゴーさんの殺すとか死ねとかって、ワンちゃんでいう『ワンワン』だから」

「ンだと音街ブッ殺すぞォ!!」

「ほら。バクゴーさん、反論できる?」

「…ッソがァ!!できねェェエ!!!」

 

 

確かに今のは反論の余地がない。

あの事件で一皮剥けてから、罵倒したのちに悪い癖を突かれて「反論できねェ」と叫ぶのが黄金パターンになってるなぁ。

 

 

「ヒーローとかアイドルとかに関わらず、社会に出る以上、外面って大事だよ?

私だって、打ち合わせとかでも積極的な子を演じてるし…」

「ほら。私たちよりも説得力のあるアイドルのお言葉ですよ、爆豪先輩」

 

 

音街さんのいうことに乗っかって、1番のクソガキがニマニマとウザったらしい笑みを浮かべる。

無論、そんな顔が爆豪くんの琴線に触れないわけもなく。

爆豪くんは凄まじい顔つきで怒鳴った。

 

 

「うるせェわ東北ソガキィ!!

誰にでも好かれるよォな外面身につけたるわ待ってろやクソがァ!!」

「やる気はすごいけど、この時点で好かれなさそう」

「今のツラ、誰からも嫌われる嫌われ役の方が似合ってたぞ」

 

 

空気が凍りついた。

プルプルと震えたのち、爆豪くんが更にとんでもない顔つきで、緑谷くんと轟くんを怒鳴りつけた。

 

 

「デクゥ!!半分野郎ォ!!テメェら毎度毎度一言余計だァ!!」

「なんで君らはそう、見え透いた地雷踏むんですかねェ…」

 

 

食卓が混沌とする中、ピリリ、と携帯が鳴り響く。

僕は「ちょっと失礼」と部屋から出て、携帯を取り出す。

その画面には、現在投資している会社の「麗日建設」の文字があった。

 

 

「もしもし?」

『麗日建設株式会社社長の麗日です。

筆頭株主の水奈瀬さんで間違い無いでしょうか?』

「はい。間違い無いですよ」

 

 

標準語だが、ちょっと関西なまりが入っている。

三重や滋賀のあたりの近畿と中部の中間あたりは、方言が入り乱れているからなぁ。

前世はその辺りの出身の僕は、イントネーションに若干の懐かしさを感じながら、要件を問うた。

 

 

「要件はなんでしょうか?」

『いえ、その…。会社の業績が上がったことのお礼を言おうと…。

言葉だけというのも失礼かと思い、皆で相談して、水奈瀬さんの家に、あるものを送らせてもらったんです。

郵送会社に知り合いがいて、ご友人が多いと聞いてたので、大人数でも大丈夫なものを』

 

 

…友人が多いってのは嘘なんだがなぁ。

 

そんなことを思っていると、ぴんぽん、とインターホンの音が鳴った。

 

 

「すみません、来客が…」

『ああ、こちらこそすみません。

では、今後ともよろしくお願いします』

 

 

ぽろん、と通話が切れる効果音が響く。

僕はインターホンが二度押される前に、玄関を開けた。

扉の奥には、ガタイのいい配達員が立っていた。

 

 

「水奈瀬さんのお宅でしょうか?」

「はい」

「お届け物です。印鑑かサインを」

 

 

僕はポケットに入れていたボールペンで、綺麗とは言えない文字でサインを書く。

配達員はそれを受け取ると、薄く大きいプレート状の物を僕に渡した。

 

 

「それでは」

「お疲れ様です」

 

 

配達員が去っていくのを確認し、僕は包装紙を少し破り、中身を見る。

 

 

「……………マジですか」

 

 

そこには、『二泊三日!大阪温泉旅行券!』と書かれたプレートがあった。




方言が入り乱れてるっていうのは、ネットの知人から聞きました。


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爆豪勝己がケツバットされるだけの話

サブタイトル通りです。


「弓鶴兄ちゃん、ほんま大丈夫?

此処入ったらあかん場所ちゃうん?」

 

 

感受性溢れる小学校三年生の頃。

私…こと、麗日お茶子が思い出せる、鮮明な記憶。

その日は、祝日。夏の熱気も抜けきらない、うだるほど暑い日だった。

大阪に住む親戚のお兄さんに連れられ、彼の家の向かいにある神社…その本殿の裏に来ていた。

 

確か、追儺…だっけか。

そういう行事を行なっていた人が、その儀式の普及に向けて作った、真新しい神社。

祀られてるのも、あまりいい神様じゃないってことも聞いた。

こんなところに、何の用なんだろうか。

 

 

「大丈夫だよ。…そろそろかな?」

 

 

「おとんのあほーーーーっっっ!!」

 

 

親戚のお兄さんが言うと、大泣きした女の子がこちらに走ってきた。

丸まった石ころが敷き詰められた足場のせいで、途中でつまづき、勢いよく転ぶ。

その痛みでまた涙をこぼし、その場で泣き叫ぶ女の子。

お兄さんは彼女に近づくと、何のために持ってきたのかと思っていた救急箱を開けた。

 

 

「よく我慢したね、ついなちゃん」

「伊織のあんちゃぁあああん……!

おとんが、おとんがぁぁああ……!!」

「よしよし」

 

 

ボロボロと泣く彼女の頭を撫で、慣れた手つきで怪我の治療をするお兄さん。

 

その日が、私と『如月ついな』…もとい『役ついな』ちゃんとの出会いだった。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「というわけで。連休を利用して温泉旅行に行こうかと」

「それはいいですね。是非いきましょう」

 

 

爆豪勝己は呪文『外面』を覚えた。

 

 

ハッキリいうと気持ち悪い。

普段とのギャップで、口角を上げないように耐えるのがやっとだ。

表情筋トレーニングやってて良かった。

 

葵さんと爆豪くんの相性は、割と良かった。

葵さんの「口が悪かったから損した話」を聞かされて、更に意欲が湧いたらしい。

あの焼肉から3日経っただけで、ここまで外面を良くできたことに驚いた。

 

 

「ぶっ…。くくくっ…。だめ、笑っちゃだめなのは分かるけど、かっちゃんが…」

「愛想笑い似合わなっ…。くくっ…」

 

 

緑谷くんにクソガキ。笑うんじゃない。

 

ついに耐えきれず、二人が思いっきり吹き出し、床に転がり落ちる。

横隔膜ネジ切れるんじゃないかってほど笑う二人に、爆豪くんのこめかみに青筋が走った。

 

 

「おいテメェたちあとで可及的速やかにぶっ殺して差し上げやがるから覚悟しろやクソどもがァ!!!」

 

「はいアウトー」

「あ」

 

 

年末お馴染みのあの音と共に、轟くんが軟質バットで爆豪くんのケツをぶっ叩く。

ずぱぁん、という乾いた音が、部屋中に響いた。

 

 

「轟ィい…!!てめっ、ちったあ加減しろやァ…!!ケツ吹っ飛ばす気かァ…!!」

「思いっきりやれっつったのお前だろ。

あと、今のでまたアウトな」

「あ」

 

 

悲鳴と共に、二度目の破裂音が響く。

ただでさえ我慢が出来ない性格なのに、何故こんな罰ゲームをつけたんだ。

 

現在、爆豪くんは「外面が剥がれたら罰ゲーム」という名目で、長い間愛想笑いと敬語で過ごすという訓練をしている。

尚、家でも同じように訓練してるらしく、ケツバット役の母親に「アンタが大人しくて敬語で愛想笑いとか、気持ち悪いの擬人化だね」と言われたらしい。

全くもって同感だ。

 

 

「わっ!お尻真っ赤!」

「爆豪さん、大丈夫…?お尻痛くない…?」

「ひん剥かないで欲しいですゥゥゥゥゥウウウウ……ッッッ!!!!」

 

 

ウチの双子にズボン下ろされて、鬼みたいな顔してる。

血涙流しそうな勢いだ。

ミコトちゃんが氷のうを患部に押し当て、爆豪くんのケツを冷やす。

「無難にケツバットで」って罰ゲームを決めたことを後悔してる顔だ、アレ。

 

 

「お前、普段どんだけ口悪かったんだ?

三時間だけでもう二百いってるぞ?」

「あまり喋らせっ、ないっ、でェ、欲しいっ、ぃい、ですゥゥゥ……!!」

 

「アウトー」

 

「判断基準どォなってんだ罰ゲームのキツさに対して厳しすぎるわぶっ殺すぞォ!!!」

 

「二連続アウトー」

 

「死ねッッッ!!!」

 

「三連続アウトー。3回やるの面倒なんで、このめちゃくちゃ痛ェと評判の巨大ハリセンでしばきまーす」

 

「ーーーーーーーーーーッッッ!!!!!」

 

 

体を張ったボケ役かぁ。

 

声にならない怒声を響かせる爆豪くんのケツに、何度目かもわからないスイングが叩き込まれた。

 

 

「お邪魔しまーす。爆豪くん、相変わらずストレスでハゲそうなことしてますね」

「あかりさん、いらっしゃい」

 

 

爆豪くんがストレスでハゲそうなのは、昔からだろう。

年がら年中キレてるような子なんだから。

 

 

「おぉ…紲星さん、こんにちは…。

本日はお日柄もよく…」

 

「ぶっふぉ!!」

「こっちは必死にやっとんのじゃテメェら毎度毎度笑うなァ!!」

 

「アウトー」

「………っ、……っ…!!!」

 

 

…まぁ、コレだけしないと治らないっことも、本人も分かってるんだろう。

自分のことを客観的に見る目をこの時期に持てるというのは、大きな一歩になる。

一ヶ月もすれば、外面も良くなって、ケツの皮も分厚くなっていることだろう。

 

 

聞けば、轟くんと一緒に個性の訓練もしているらしい。

以前、街を覆う巨大な化物を吹き飛ばした、指先からの連続爆破。

今後同じ規模の敵が出て来ないとも限らないため、毎日調節の練習をしているとのこと。

 

 

緑谷くん作のスーツは、「俺が弱ェのはわかってるから、貰っとく」とすんなり受け取ったらしい。

スーツでできることを生身でも出来る様に、と轟くんと切磋琢磨しているようだ。

 

 

ライバルの出来た緑谷くんはというと、新しいスーツ…初の『超攻撃特化型』、イズク20号を作ったという。

例の如く僕に見せにきたが、あまりの物騒さに「出来る限り使うな」と指示しておいた。

久々に椅子からひっくり返ったぞ。

 

 

「ところで、大阪の旅館ってどこだ?

有名なトコか?」

 

 

ケツを叩かれすぎて撃沈している爆豪くんに腰掛け、轟くんが問うた。

痛みでそれどころじゃないのか、爆豪くんはケツを押さえるばかりで、「降りろ」とも言わなかった。

気のせいだろうか、ケツから湯気が出ている気がする。

 

 

「会員制の温泉旅館ですから、有名とはあまり言えませんね。

ですが、一度は泊まるべき旅館として、テレビで二度紹介されたことがあって、中々に評判はいいようですよ。

立地的にも、大阪観光が十分に出来ますし、食い倒れの街を回るのもいいですね」

「食い倒れの街!?」

 

 

約一名、めっちゃ食いついた。

三度の飯より飯が好きとでも言いそうな…いや、実際に言っていた子だ。

大阪に行けば、桃源郷に来たみたいな反応をしそうだ。

 

 

「昔から着倒れの京都、食い倒れの大阪と言って、京都は衣服によって、大阪は食べ物によって、気がつけば財を失ってしまうほどの魅力があるんですよ」

「行きましょう!!」

「連休にね」

 

 

今までにないくらいに喜ぶあかりさんに、皆が微笑む。

痛みが落ち着いたのだろう。

爆豪くんは、絞り出すような声で「降りてほしいのですがァァァァァ…!!」と轟くんを睨んでいた。

 

 

「ただいまー…って、なんですかこのカオス」

 

 

帰ってきたセイカさんにつっこまれてしまった。




大人のかっちゃんはタイキックを受けてもビクともしないでしょう。
ケツの皮が厚いから。


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絶対悪は滅びない

サブタイトル通りです。


「ええっ!?旅行経験ないの!?」

「おう。今回が初めて」

 

 

行きの新幹線の中にて。

ガチガチに固まったアイスを、無理やりスプーンで削りながら食べていると、緑谷くんの素っ頓狂な声が響く。

当人である轟くんは、ヒメちゃんとミコトちゃんに囲まれ、同じようにアイスに悪戦苦闘していた。

 

 

「親父が変に厳しかったからな。

修学旅行とかも行ったことねェ。

今回のことも、めちゃくちゃキレて『許さんぞ焦凍ォ!!』…つって。

いつもみてェに脅しても聞かねェし、家にある鍛錬場連れてかれて」

「……で?」

 

「ボコボコにされて倒れると、いつも俺の顔面掴んで『こんなものかァ!!』って腹パンしてくる。

俺がマジで立てねェって分かってる分、油断してやがったからな。

 

目潰しに粉末カプサイシンぶちまけて、悶えたところで金玉殴って顎蹴り砕く勢いで蹴って勝った」

 

「君、先生に似てきたよね。容赦のなさと性格の悪さとずぶとさが」

 

 

だからこの間、僕の家で粉末カプサイシンなんて取り寄せたのか。

下手したら失明だぞ、それ。

あと緑谷くん。それ、僕が性格悪くてずぶとくて容赦ないって言ってます?

その通りですがなにか?

 

 

「ってか、エンデヴァーに目潰しって効いたの?No.2でしょ?」

「効くわけねェって分かってるっての。

年中目元燃やしてるアホだぞ」

 

 

自分の親のことを『アホ』っていうあたり、本当に嫌ってるんだなぁ。

アイスを掬って、ヒメちゃんとミコトちゃんに食べさせる轟くん。

以前会ったようないい子さはなく、何故か中学生三人組の中で、ダントツで性格が悪くなってしまった。

勝つために手段を選ばないあたり、本当に。

 

 

「テメェ、目潰しとか言っときながら、顔面にぶっかけたろ。

しかも息吸うタイミングで」

「爆豪、正解」

 

 

音街さんとトランプをしている爆豪くんが、予想を語る。

すると、轟くんは指を鳴らして笑みを浮かべた。

うっわ。性格悪そうな笑み。

 

 

「俺らン中でダントツで性格悪ィなテメェ。

先公に近ェわ」

「流石にアレとお前よりはマシだろ」

「ンだとゴラァ!!俺も流石にアレよりはマシだわ!!」

「君ら本当に失礼ですよね」

 

 

何気に僕が一番性格悪いことにされてる。

失礼な。その通りだ、生徒たち。

 

 

「イズクくん!見えてきましたよ!」

 

 

そんなことを思っていると、あかりさんが興奮気味に窓にへばりつく。

緑谷くんはその隙間を覗き込むように、窓の外を見た。

 

 

「食い倒れの街、大阪が!」

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

今回の旅行での保護者は、僕とセイカさんということになっている。

緑谷くんたちのお母さんも誘ったのだが、断られた。

 

爆豪くんの両親は「こっちは二人組の北海道旅行当たって、勝己も居るし、誰かにあげようかなって思ってたところだったので、ちょうど良かったです」とのこと。

 

緑谷くんのお母さんは、「旦那が心配なので、そちらの方に様子を見に行く予定をたてていたんですが、予算の都合で一人が限界でして。今回のことはちょうど良かったです」と断られた。

 

轟くんのところは論外で、東北さんの所は、「大会が近いので」、「イタコ協会で旅行があるので」と。

 

音街さんのところは「行き飽きてるからいい」…などなど。

様々な理由で断られた。

結局のところ、僕は連休中の子供たちの面倒を体良く押し付けられた、ということになる。

保護者は僕とセイカさんだと言ったが、セイカさんは多少はマシになったとはいえ、かなりのポンコツ。

任せられるとは微塵も思わない。

 

 

「旅館でっけェな…」

「大部屋貸切だろ…?会社の人、すげェ無理したんじゃねェのか?」

 

 

爆豪くんが他人の心配してる。

金銭面になると余計にだ。

みみっちさが先行して、金銭面の心配を優先してするようになったんだろうなぁ。

誰かを心配するようになったと言うだけでも、大きな進歩か。

 

 

「いえ。だいぶ業績が伸びてるので、そこまで無理はしていないそうです。

あと、娘さんがお手伝いに行っているらしいので、仲良くしてくれと」

「あの、早く荷物置きに行きませんか?

か弱い私の腕が限界迎えてるんですけど…」

 

 

東北さんの荷物を持つ手がプルプルしてる。

小学生で運動不足なら、無理もないか。

 

 

「テメェをか弱いっつったら誰をか弱いって言えばいいんだクソガキ」

「なんですってボンバーマンもう一度泣かせてやりましょうか?あ?」

「上等だ今度こそテメェを泣かしてやるから覚悟しろや」

 

 

なんでそんな喧嘩腰なんだ。

 

爆豪くんと東北さんは、良いとも悪いとも言えない、微妙な関係だ。

どちらかが喧嘩を売り、どちらかがそれを買って馬鹿騒ぎする。

暴力沙汰ではなく、必ずゲームなどを設けて、東北さんが勝つ。

それがお決まり。

 

爆豪くんにとって数少ない出来事だったはずの「敗北」が、山のように積み上がっていくというのに。

爆豪くんはそれでも「次は勝つぞ」と笑っている。

つまづいた時の立ち上がり方を習得するのに、そう時間はかからなかったようだ。

相変わらず、口は悪いけれど。

 

 

「とにかく、一度荷物を置きに行きましょう。そこから大阪をまわりましょうか」

 

 

僕は二人の喧嘩を無理やり止め、旅館の入り口を開ける。

そこには、見覚えのある男性が着物姿で立っていた。

 

 

「いらっしゃいませ。ご予約の水奈瀬様ご一行でしょうか?」

 

 

ネームプレートに並ぶ『伊織 弓鶴』の文字。

こんなところにも、ボイスロイドが居たのか。

昔見た絵では、ちょっと女っぽい印象だったけれど、目の前にいる彼はまごうことなき男だ。

どこか儚げな雰囲気を纏う青年。

僕が見た彼は、そのような印象だった。

僕は鞄から旅券と免許証を取り出し、彼に渡した。

 

 

「はい。これ、旅券と身分証です」

「確認します…はい。確認させていただきました。では、お部屋にご案内します」

 

 

彼に案内され、僕らは通路を進む。

その途中、着物を着た女の子がどたどたと伊織さんに駆け寄った。

 

 

「弓鶴兄ちゃん!向こうで酔いすぎて倒れたお客さんおるんや!介抱してくれん?

お客さんの案内はウチがやるから!」

「いいけど、お茶子ちゃん部屋わかる?

大部屋の虎の部屋だからね?」

「わかっとるって!ウチ、もう中一やで?」

 

 

…このノリ、なんか聞いたことあるなぁ。

チラッ、と皆がセイカさんに目を向ける。

当人はまったくもって察していないのか、こてん、と首を傾げていた。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「オールマイト、こちらです」

「案内ありがとう」

 

 

静岡にある、通常刑務所の一つ。

私はそこに訪れ、一人の男との面会に臨んでいた。

私とソイツには、なんの関係もない。

だが、私の追っている、「愉快犯敵…『キズナ』に迫る情報を握っている可能性がある」と聞いて、無理やりにこの面会を許可してもらったのだ。

 

 

用意された椅子に腰掛け、ガラス越しにぶつぶつと何事かを呟く男に話しかける。

 

 

「はじめまして、甥影 回くん。私のことは知っているかな?」

「…オールマイト」

「そう!今日は君に聞きたいことがあって、君に会いに来たんだ!」

「…もう、どうでもいい…。ウナちゃん…。ウナちゃああん…」

 

 

…やはりか。

 

 

精神的にかなり問題のある人間だとは聞いていたが、これほどまでとは。

ウナというと、以前バラエティ番組で共演した、音街ウナ少女のことだろう。

聞けば、罪状は彼女へのストーカー容疑。

逮捕された後は、訳のわからないことを繰り返すばかりだそうだ。

 

この状態では、情報を引き出すのは難しいだろう。

しかし、諦めるわけにはいかない。

世界の未来がかかっているのだから。

 

 

「人工個性、という言葉に覚えはないか?」

 

 

私が問うと、ぴくり、と肩を震わせた。

 

 

「……っ。そうだ。なにが『神になれる細胞』だ!!全然思い通りの個性にならないじゃないか!!」

「っ、知っているのか!?」

 

 

知識の有無を問うも、彼は私の言うことなど聞かず、激情のままに喚き散らす。

 

 

「ウナちゃんは全然言うこと聞かないし!あのクソガキは殺せないし!一番強い個性を作っても、クソガキとSAVERに吹っ飛ばされたぁ!!ちくしょう!!『フィクサー』め!!金返せぇ!!!」

 

 

 

………………は?

 

 

 

フィクサー。アメリカを根城として活動していた、過去最強の敵。

寿命で死んだはずの存在の名前が、なぜ、今になって出てくるんだ…?

 

 

 

ーーーーーーオールマイト。未来の平和の象徴。僕はあなたを殺さない。あなたは平和の象徴となるのだから。

 

 

 

あの時。地べたを這いつくばり、自分の最後を覚悟したことを思い出した。

耳元で、ヤツが囁く。

 

 

 

ーーーーーー言ったでしょう?僕は『絶対悪』だって。

 

 

 

ぞくり。

 

冷や汗を噴き出しながら、背後を振り返る。

視線の先には、鉄の扉があるだけで、誰もいなかった。

 

 

「今のは…?」

 

 

疑問に思いながらも、ガラスの奥にいる男に向き直ろうとしたその時だった。

 

 

「もっとだ!もっと強い個性をつくって、こんなところ抜け出して、ウナちゃんを僕のおよよよよょよょよよよよよよよぉおおおおおおぉおお」

 

 

 

でろり。

 

 

 

 

まるでアイスが溶けるように、男の体の皮膚が、骨が溶けていく。

液状化の個性化と思ったが、違う。

男が苦しんでいるのだ。

 

 

 

「…………は?

 

 

なんでっ、どうしてっ!!やだっ!!やだよぉ!!死にたくない!!!いやだァァァァァああああああっっ!!!

助けてっ!!オールマイトっ!!助けてよぉっっ!!!まだ死にたくないっっっ!!

死にたくあばぁあ。

 

あひゃひゃひゃひゃひゃうなちゃっ、うなち、うぅうううううひはふへへへへへへ」

 

 

デロデロに溶けていく男の姿に、戻ってきた胃から、胃酸が込み上げてくるのがわかる。

こんなにも凄惨な死を、私は見たことがなかった。

全ての命を冒涜するかのような、こんな死に様を、私は知らなかった。

オール・フォー・ワンですらも凌駕する恐怖が、そこにはあった。

 

 

「ぽひゅっ」

 

 

男の最後の言葉は、なんの意味も持たない、ただの音だった。

こんな、こんな死が、この世にあってたまるものか。

怒りと無力感に苛まれる中、私の耳元に声が響く。

 

 

ーーーーーーありゃ。食われちゃったか。まぁいいや。狙い通り。

 

「…っ、フィクサー!!貴様っ、どこにいる!?」

 

 

私が声を張り上げると、その声の主人はクスクスと笑った。

 

 

ーーーーーーさぁ?僕でもわかんないです。何故なら、『絶対悪』だから。

 

「…っ」

 

 

また、その言葉か。

私は臨戦態勢を取りながら、フィクサーに問うた。

 

 

「さっきのは貴様の仕業か!!」

 

ーーーーーー心外だなぁ。違いますよ。彼自身が望んだことです。『人工個性が欲しい。自分はどうなってもいい』って。

その言葉の恐ろしさも理解しないまま、彼自身が選んだ。だから、食われた。

 

「『食われた』とはなんだ!?どういう意味だ!?」

 

ーーーーーーそのままの意味ですよ。人工個性は『人を食べる』んです。

 

 

その言葉の意味を理解した途端、私の脳はフリーズした。

私の反応を待たず、フィクサーは言葉を続ける。

 

 

ーーーーーー正確にいうと、細胞を食い潰してくんですよ。

それを言うなら、本来ないはずの細胞になってしまう、または元ある細胞の居場所を奪う個性も一緒なんですがねぇ。

 

 

デイブですら解明できていない個性の謎を知っている…?

驚愕と恐怖に、体が震えるのを感じた。

 

 

ーーーーーーでも、人工個性はその傾向が強すぎて、今みたいなことになっちゃうんですよ。

だから、それに耐え得る細胞と結合させて新しい生命体を生み出して、その細胞を移植するくらいしか安全に使えない…ってワケです。

使えても、バカには高火力をブッパしたり、デッカくなるだけの単純個性しか作れないんですけどね。

 

 

「あ、これ言っちゃダメなんだった」、と付け足すフィクサー。

私は息を整え、震える体を奮い立たせる。

以前は、手も足も出なかった存在。

だが、今なら勝てる。大丈夫。平和の象徴なのだから。

それを心の支えにし、私は口を開いた。

 

 

「貴様の目的はなんだ?キズナとの関係は!?」

 

ーーーーーーキズナぁ?…ああ、プロトタイプの中で一番出来の良かった子か。

本当はもっと複雑ですけど、生みの親ってだけですよ。

もっとも、切り刻んで人工個性の完成品として体を売り出す前に、逃げ出されたんですけどね。

あの無能ども…ああ、部下なんですけどね。散々あの子をバカにして、ショージキに何もかも話しちゃって、それが原因で泣きながら逃げたそうなんですよ。

責任とって死んでもらいました。今みたいな感じで。

 

 

生みの親…?

切り刻んで、体を売り出す…?

 

理解するには、到底無理のある言葉が耳に入ってくる。

私は声を絞り出すように、彼に問うた。

 

 

「……貴様は、未来人なのか……?」

 

ーーーーーーさぁ?お答えできかねます。

ただ言えるとしたら、僕は時間さえも凌駕する『絶対悪』ってことだけです。

 

 

彼はそう言うと、「では、良い休日を」と言葉を残す。

次の瞬間には、威圧感は消え失せていた。

 

 

「…ならば、私はその『絶対悪』を捻じ伏せてやろう…!!

私は、『平和の象徴』なのだから………!!」

 




フィクサーはオリジナルかどうか微妙な立ち位置のキャラ二人目です。
この章でようやくボスキャラがその邪悪さの片鱗を見せます。

彼が未完成品の人工個性をばら撒くのはわざとです。

フィクサーはAFOとも対立してる敵です。


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究極の自由人:茜ちゃん

サブタイトル通りです。


「フィクサーが生きていただと!?トシ、それは本当か!?」

『……信じ難いが、真実だ』

 

 

私…デヴィット・シールドは、電話の向こうに居る相手に告げられた言葉に、地面が崩れ落ちていくような感覚を覚えた。

フィクサー。アメリカどころか、世界のヴィラン史に残る、世界最悪の敵。

 

彼のことは、あまり思い出したくない。

だが、その恐ろしさの一片も知らなくては、この脅威を理解はできないだろう。

 

 

フィクサー。本名不明、年齢不詳、出身地不明、etc…と、何もかもが判明していない敵。

常に仮面で素顔を隠し、露出した口元はいつも笑っていた。まるで、トシ…オールマイトのように。

セリフもトシの「もう大丈夫!何故かって?私が来た!」に限りなく近い。

 

 

 

ーーーーーー恐れ慄け。僕が来た。

 

 

 

彼の恐ろしさは、『無個性』であること。

 

 

なんの異能も持たずに、一国を一夜にして崩壊させたのが始まりだった。

発展途上国で、穏やかで、『平和の国』とまで呼ばれた国を、たった一夜で壊滅させたのだ。

 

 

その方法は、物理的なものではない。

ただの、なんの変哲もない『話術』。

 

 

ただ一人の人間と話しただけで、国の思想を変え、一国まるごと『敵』として加工する。

最初は誰しもが『洗脳系の個性を持っているのだ』と思った。

そう思わなければ、理解できなかった。

 

 

 

だが、その期待は木っ端微塵に粉砕された。

 

 

 

ーーーーーー未来の平和の象徴も、科学の前には無力ですね。

 

 

私が作った中で、今までも…そしてこれからも作れるとは思えない、最高傑作とも呼べるスーツ。

そのスーツを、ただ一つ、工具を取り出してその場で作り上げた小さな機械で粉砕した。

 

 

ーーーーーー僕は無個性なので、あらゆる知識とスキルを磨きました。

どうです?オールマイト。親友が扱う科学が、僕が積み上げてきた圧倒的な科学力に粉砕される気分は?

 

 

スーツなど付属品に過ぎないトシが、破れたスーツで奮戦した。

だが、拳は尽く逸らされ、風圧で吹き飛ばそうとしてもかわされ、ただただ殴られるだけのサンドバッグと化していた。

 

 

ーーーーーー人の話聞いてましたか?

古今東西、あらゆるスキルを取得したんですって。

拳の予測と行動パターン。あなたのあらゆる全てが、僕の掌の上ってことです。

 

 

どう倒せばいいんだ。

トシですらも足元にも届かなかった規格外。

合計五十ヶ国を崩壊させた敵。

無個性たちの暴動を恐れ、国連はフィクサーの個性情報を無理やりにでっち上げた。

そうでなくては、フィクサーが存在するだけで、抑圧された無個性たちの不満、怒りが爆発する危険性があったのだ。

陳腐な表現ではあるが、彼が生きている間、世界は絶望に包まれた。

 

 

彼が寿命で死ぬまで、私とトシは、オール・フォー・ワンよりもフィクサーの打倒を優先して見据えていた。

と同時に、彼を酷く恐れていた。

 

 

 

そのフィクサーが、生きていた…?

 

 

 

「冗談は…言ってなさそうだな」

『私がこんなことを冗談や酔狂で語ると思うかい?』

「…いや。そういう不謹慎なやつじゃないことは、十分に知っている」

 

 

悪夢ならば醒めてくれ。

私がそう思っていると、仕事用のパソコンにノイズが走った。

それを訝しげに思っていると、ばつん、とパソコンの画面が変化する。

そこに映っていたのは、見たくもない、茜色の髪だった。

 

 

『やっほー!しーちゃん、お元気ー?』

 

 

「はぁぁぁああ……。アカネ。しーちゃんはやめろとアレ程言ってるだろう。

私の娘はメリちゃんと呼ぶくせに…」

 

『そりゃそうやろー。

あないなめんこい子に「しーちゃん」なんちゅうあだ名つけたら、普通に可愛いだけやんけ!

せやからな、ちょうどダンディな魅力が溢れて色気ムンムンのしーちゃんを、親しみ込めてしーちゃんって呼んどるんやで』

 

 

なまりのひどい英語で軽口を叩く少女。

 

彼女は、私が唯一と言っていいほどに苦手意識を持っている電子工学者…『琴葉茜』。

『形状記憶合金アカネメタルの発見、普及』、『新エネルギー「アカネルギー」の開発』と、齢20にして、多大な功績を残している。

 

 

 

ただ、一つだけ問題がある。

 

とにかく。とにかく『自由』なのだ。

 

 

 

興味のあることしかしない、大統領の絶滅頭…おっといけない…お世辞にも豊かとは言えない頭をペチペチ叩いて「おとんの頭みたいや!」とスピーチ中に壇上に上がって宣う、etc…と。

 

よく極刑に処されないな、と思えるほどに自由なのだ。いや、例外的に許されている、と言った方が正しい。

無論、そんな彼女に「他人を敬う」などという常識が身についている訳がない。

 

何より嫌なのは、その無茶に大抵私の娘を巻き込むのだ。

娘が同じように育たないか、親としてはすごく心配だ。

 

 

「で、なぜ私のパソコンをわざわざこのクソ忙しいタイミングでハッキングした…?

答えようによってはポリスに突き出すぞ」

『いや、メリちゃんが話したい言うて電話したんやけど、繋がらんくてな。

監視カメラ見たら、誰かと電話してんの見えてん。

やから、ちょいちょいーっ…て』

 

 

監視カメラまでハッキングされてた。

タルタロス並みの防犯セキュリティは一体どうした。

ちょいちょいってなんだ。

これでもかって用意したファイアーウォールを突破したのか?

声を大にしてツッコミを入れたいが、ツッコミたいことが多すぎて、言葉にならない。

 

 

『その声…茜少女か?』

『おお、オールマイトさんおひさー。

怪我治ったんやってな。良かったなー』

「…トシ。彼女にバレたら面倒だと言っていたろう」

 

 

私はトシに向けて半目を向ける。

が。トシは「話したことないんだが」と冷や汗をかいていた。

 

 

『そりゃそうやろ。定期検診覗いとっただけやしな。

すんごい怪我やなぁ、移植とかで治さんのかなぁ思うとったし』

『普通に犯罪な、ソレ!』

『ウチは許されとるもーん』

 

 

トシが叱るのに対して、アカネは悪びれる様子もなくカラカラと笑う。

許されている、という言い方には語弊がある。

 

 

「君の場合、功績と脱獄経歴が異常すぎるから監視に留まってるだけだろ」

『タルタロスやっけ?あれも大したことなかったなぁ』

「そんなことを言えるのは君だけだ」

 

 

 

そう。彼女は研究者であると同時に、受刑者でもあるのだ。

 

 

 

犯した犯罪はどれも軽犯罪。その数は200。

どれも興味本位でのハッキングという、個性を用いたものではない。

というより、そもそも彼女は個性を持っていない。

だが、その件数の多さから再犯の可能性が高く、史上初、無個性で…且つ、十代でタルタロスに送り込まれた。

 

 

収監されて三十分後には、友達の家から帰るみたいなノリで脱獄して、チェーン店でチーズバーガーを食べていた。

 

 

彼女の趣味は、『電子工学』と『脱獄』。

いくらセキュリティを強化しようが、三十分以内には必ず脱獄してしまう。

メイデンに押し込めて海中に投げ捨てようが、地中に埋めようが、物理法則を無視したんじゃないかって早さで脱出する。

そして小馬鹿にするように、監視カメラのあるチェーン店で変装もせず、普通に買い物をする。

「もうこいつ罰しても意味ないし、害もないからほっとけ」と、各国の法務大臣が盛大にサジを投げた程だ。

 

 

付いた名が、『自由の権化』。

敵に近い生き方をしているというのにもかかわらず、そのデタラメさから、無理やりに自分を世に認めさせた無個性。

幸いなことに、最低限の倫理観は備わっているらしく、大きな犯罪を起こすような危険思想が無いことも判明している。

国連の命令に対して、最低限…ほんっっっっ…とうに最低限、渋々、嫌々従うことを条件に、元いた大学にこれまた普通に在籍している状態だ。

 

 

娘よ。なぜそんな彼女に憧れた?

なぜ、「彼女のラボで助手をしたい」って言い出した?

パパに憧れてるって言ってたじゃないか。

パパの方で学んだ方が安全じゃないか?

 

 

『パパー!久しぶりー!

そちらは元気ー!?』

「元気だよ、メリッサ…。大丈夫かい?毒されてないかい?」

『しーちゃんウチをフグかなんかやと思っとるん?』

「フグより酷いだろ君は」

 

 

フグどころじゃないだろ。劇毒だろ。

心の中でそう付け足すと、彼女は目を隠し、メソメソと泣き始めた。

十中八九、いや、確実に嘘泣きだ。

 

 

『ひっっど!!ウチ傷ついたわぁ…。メリちゃんその歳でたわわでぽよんぽよんなおっぱいで慰めて〜…』

 

「君よくもまあ私の前で堂々とメリッサにセクハラ出来たな!?」

 

 

15歳にセクハラするな、二十代!!

 

そうツッコミを入れるのを待たず、メリッサがぽん、と手で膝を叩いた。

 

 

『ママのお膝でおねんねもしますか?』

『するぅ〜…』

 

「メリッサ!?」

 

ダメだ、遅かった。結構毒されてた。

熱くなった目を抑え、天を仰ぐ。

15になったばかりの可愛い愛娘に何吹き込んでやがるんだ、この自由人は。

妻に託された子供だというのに、このザマでは合わせる顔がない。

 

 

『……なんというか、意外な方向に育ったな、メリッサは…』

「それ以上なにか言うなよトシ…!

それ以上言ったら今度送るプレゼントがドクター○ッパー500箱になるぞ…!!」

『なんで!?普通に嫌なチョイスだソレ!』

 

 

トシを無理やり黙らせ、私は娘の膝枕を堪能する変態に声を張り上げた。

 

 

「で、結局のところ、本当の用件はなんだ?

こんなくだらない茶番劇を見せるためではないだろう?

君がそんなにユーモア溢れる性格じゃないことは、私がよく知っている」

『あ。バレた?』

 

 

彼女はあっけらかんと言うと、メリッサの膝枕から頭を離した。

 

 

 

『…人工個性と最近の変死事件。知っとるやろな?』

 

 

 

人工個性。変死事件。

どちらも記憶に新しい言葉だ。

前者はトシが追っている『未来人』…本当かどうかは分からない…とやらの産物。

後者は最近多発している、人が液状化して死ぬという事件。

私たちがその言葉に「ああ」と答えると、彼女は神妙な面持ちとなった。

 

 

『悪いことは言わん。手ェ引いとけ』

「『断る』」

 

 

彼女の要求を聞いた瞬間、私たちはそれを蹴っていた。

 

 

『ようやく掴んだ尻尾だ。平和の象徴が、悪の尻尾を離すと思うかい?』

『オールマイト。あんたがなんかを掴んでも意味はないで』

 

 

彼女は言うと、飴の包み紙を開け、口に放り込んだ。

 

 

 

『闇を照らすんは、いつだって「星々」だけや。あの底なしの闇に、ウチら人間が敵うわけないやろ』




茜ちゃんはレズ趣味です。
さらに言うならメリッサのような子がタイプです。

彼女の言う星々は、既に輝き始めてます。今はまだ六等星程の明るさですが、いずれは一等星のように、強く輝きます。


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事件名「かっちゃん性癖暴露事件」

サブタイトル通りです。
お待たせしました。


「…おい、丸顔」

「は、はひっ…」

 

「どォいうこった案内に三十分もかけてんじゃねェぞこんなホテルぐれェ広くもねェ旅館でェエ!!!」

 

「申し訳ありませぇぇーーーーんっっ!!」

 

 

旅館の一室にて。

爆豪くんの怒号…というより、ツッコミが部屋を揺らす。

掌を爆発させないし、最後に「死ね」とか「殺す」とか言わないあたり、本当に成長したなぁ。

あのケツバットの成果をしみじみと感じながら、頭が取れるんじゃないかってほど頭を下げる少女に目を向ける。

 

 

「あなたが、麗日建設社長さんの娘さんですかね?」

「あ、はい。ウチ…あ、いやっ、私です」

「方言で結構ですよ」

 

 

気を遣ってくれたのだろう。

方言が飛び出そうになるが、すぐに標準語に戻した彼女に、優しく語りかける。

国語が得意な教師をなめるな。

前世は古文大っ嫌いで苦労したけどな!!

 

 

「不安な仕事は、誰かに頼むことを覚えた方がいいですよ。

無論、ただ頼むのではなく、自分でもできるように学びましょう。それが仕事です」

「…先生っぽい言い回し…。全然先生っぽくないチャラチャラしたカッコなのに」

 

 

うぐぅっ。

教壇に立たないからって、普段着で来たのがまずかったのだろうか。

泣きそう。水奈瀬コウとしての正装なのに。

これだから、このチャラチャラした格好の良さがわからない子供は…。

 

 

「お茶子ちゃーん。そろそろ昼休憩だよー。そこらへんで食べてきてー」

「あ、ほんま?じゃあ、お言葉に甘えとくわー!」

 

 

そんなことを話していると、伊織さんがひょこっ、と顔を出し、麗日さんに話しかける。

確かに、そろそろ本格的に空腹を感じる時間帯だ。

失礼します、と頭を下げ、彼女は慌ただしく去ってしまった。

僕たちは荷物をひとまとめにし、財布等の軽い荷物だけをまとめたポーチを身につけた。

 

 

「それじゃ、決めた班通りに回りましょう。

集合は5時で。トラブルが起きたら…法に触れない程度で解決しなさい」

 

『今更だろ』

 

 

総ツッコミを喰らった。僕もそう思う。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

現在、俺は湧き上がる複雑な感情に、肩を震わせていた。

原因は、目の前に突きつけられた現実。

お好み焼きを一人で四人分も作らされてる俺は、その感情を口に吐き出した。

 

 

一班…緑谷、紲星、ヒメ

二班…轟、ミコト、水奈瀬

三班…爆豪、音街、東北、京町

 

 

俺の班のメンバー世紀末じゃねェか!!

 

 

「ッッッッ……ソがァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアッッッッ!!!!」

 

 

二人はほっといたら危ないガキ。

一人はほっといたらさらに危ないポンコツ。

自分のくじ運をこれ程に呪ったことはない。

 

このお好み焼き屋に来るまでも、三十分はかかった。

コイツら、揃いも揃って容姿だけはいいから、めちゃくちゃナンパされた。

音街は変装してるが、それでも容姿がいいのは変わらないため、気持ち半分少なめだった。

まあ、ガキ二人は気の小さい変態か、老婆心で話しかけてくる奴ばっかだったから楽だ。

 

 

 

だがポンコツ。テメェは別だマジでぶっ殺すぞ。

 

 

 

二秒目を離しただけでナンパとか詐欺師とかにポンポン引っかかりやがって。

尚、詐欺師やらナンパやらは、俺の顔面を見ただけで逃げてった。

クソガキに聞くと、「明王みたいな顔してました」と言われた。

 

 

…自分で言うのもなんだが、俺の表情筋どうなってんだ。

 

 

話を戻す。

兎に角ポンコツが、いかにもなヤツらに引っかかりまくって、あまりにもそこらをフラフラするから、襟首掴んで引きずってきた。

既に精神が限界を迎えてんのに、お好み焼きを四人分も作らされる俺の身になれ。

 

 

「…爆豪先輩が一番保護者してるってどう言うことですかねぇ…」

「セイカさん、お世辞にもしっかりしてるって言えないし…」

 

 

したくてやってるわけじゃねぇわ。

 

あの教師のもとに住んでて、なんでこんなポンコツになった。

聞けば、「前よりはマシ」と言われた。

…これは俺の感覚を疑えばいいのか?

 

 

「わぁ、爆豪くん上手ですね!」

「上手もクソもあるか慣れりゃ誰でも出来るわってことで手伝えって言いてェけどテメェは絶対ェ手ェ出すなよ!?食うことだけ考えとけや!!」

 

 

先日の焼肉のこと、絶対忘れないからな。

焼いた肉を普通に箸で摘んだだけなのに、油で滑って落ち、奇跡的な角度で弾かれまくって、挙句俺の顔面にぶち当たったこと、俺は忘れないからな。

コイツにお好み焼きを焼かせたら、半生のお好み焼きが俺の顔面にぶち当たる可能性がある。

そういう理由で、俺は四人分のお好み焼きを焼いているわけだ。

 

 

「出来たぞさっさと食え!次の焼くぞ!」

「…爆豪先輩、全然好きじゃない…ってよりむしろ大ッッッッ嫌いですけど、将来的に結婚して養ってください」

「お断りじゃクソガキィ!!!」

 

 

テメェと結婚するくらいなら独身貫くわ!!

 

色気もムードのかけらもねェプロポーズにツッコミを入れ、ソース、マヨネーズ、鰹節、青のりを塗す。

一切れを皿に移し、箸で削って口に入れる。

 

 

「はふっ、はつっ…。焼き加減もちょうど良いです。美味いですよ、爆豪先輩。

養ってください」

「養う必要ねェだろテメェ」

「はっきり言うと働きたくないです」

 

 

全国の労働者たちに唾を吐き捨てるような宣言に、俺は手刀を振り下ろした。

 

 

「あでっ!?」

「隣に座るダチは、その歳できちんと働いて、立派な功績残してンだろォが。

テメェもソイツに恥ねェくれェ、立派な職に就きやがれ」

 

 

ま、俺にゃ負けることになるがな、と付け足し、次の一切れを皿に移す。

東北はぽかん、と口を開けて、俺のことを見つめていた。

 

 

「…なんですか、他人を褒めるなんて。気持ち悪い」

「ンだとゴラぶっ殺すぞォ!!」

「バクゴーさん…。そんなこと言われても、ウナ、準備できてない…♡」

「なんて声出してんだテメェは!?

人をロリコンみてェに言うんじゃねェぞ俺のストライクゾーンは十六から四十だ!!」

「「「え?」」」

「あ」

 

 

やっぱ厄日だ。

 

思わぬところで自爆した俺は、クソガキにネタにされることになった。

熟女寄りだってこともバレた。死にたい。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「これとこれ、あと二つくれます?」

「…イズク。私、お山みたいなお皿初めて見たなぁ」

「うん。僕も初めて見た」

 

 

二軒目の料理店にて。

一軒目のたこ焼き屋で、1日の売り上げの半分以上の量を全て平らげたあかりさんの勢いは、その程度では止まらなかった。

串カツ屋で凄まじい勢いで皿を空にし、その山を積み上げていくあかりさんに、僕たちは冷や汗を流していた。

 

 

「…ウチ、夢見とるんかな…?あの子、ほんな食うん…?嘘やろ…?」

「底知らずです」

 

 

たまたま同じ店に入っていたさっきの女の子…麗日お茶子さんも、目を丸くしてあかりさんの食事風景を見る。

信じられる?これでまだ腹八分も行ってないんだよ…?

本人曰く、「今まで人工個性を使った分のエネルギーを補給してるだけ。満タンになると食欲は通常になる」らしい。

そんなところ見たことないんだけど。

…多分、未来で散々戦った影響なんだろうなぁ。

 

 

「イズクが持ってきた漫画でしか見たことないや。砂糖水14リットル渡さないとダメなんだよね?」

「弱った範馬刃牙じゃないんだから…」

 

 

こんな気持ち100倍くらい大食らいの範馬刃牙だったら、烈海王あの時点で過労死するぞ。

 

慌ただしい厨房に目を向け、合掌する。

多分、あの冷蔵庫に入ってる分は食べ尽くしただろうなぁ。

やる気のない琴葉博士に頼まれて、論文のゴーストライターしといて良かった。

今年の夏の臨時収入が吹っ飛んだけど。

 

 

「お、お会計…百三万二千十八円です…」

「……はい」

 

 

死んだ目でカードを渡し、僕の口座から引き落とす。

飲食店で百三万とか初めて見たぞ。

トリコの世界じゃないんだから。

…視線が痛い。ボンボンだとか思われてるんだろうなぁ…。

くじで班を決めるべきじゃなかった気がする。

あかりさんは先生とセットで良かったんじゃないんだろうか。

麗日さんの方を見ると、目に見えて戦慄してる。

夜は旅館で食べるつもりをしている、と言ったため、自分もあの仕事量をこなさなければいけないと思っているようだ。

 

 

「次、海鮮が食べたいです!」

「まだ食うん!?嘘やろ!?」

 

 

麗日さんの素っ頓狂な声に、その場にいた皆が「よく言った」とばかりに頷いた。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「へーわってすばらしい」

「…この表情はなんていうんだ?」

「えーっと…顔面が溶けてる?」

「溶けてはねぇけど…そうとしか言えないな」

 

 

先生が見たことない顔してた。

人類で出来るのか、その顔。

そう思う程に蕩けに蕩け、腑抜けに腑抜け切った表情だ。

表情筋の力抜きすぎだろ。

悩みのタネ…特に紲星とセイカさん…のお守りをしなくてもいいという解放感が、こんな顔を作ってるのだろうか。

 

 

「おい。その顔なんとかしろよ」

「…おっと。すみません。比較的問題児ではない君たちの世話が非常に楽だったので」

「その問題児の世話を中学生に押し付けたのどなたですか?」

「僕ですが?」

 

 

悪びれる様子もない先生に半目を向ける。

と。その時。何処からか叫び声が響いた。

 

 

「なんやいったい?」

「なんや知らんけど、えらいべっぴんな子ぉが、とんでもない量食っとんのやと」

「向こうは?」

「えらいべっぴんさん連れた明王がナンパやら詐欺師やら追い返しとんのやと」

 

 

…すみません、多分それ俺たちの連れです。

 

明王って、爆豪か。アイツの班は、ナンパされやすい見た目のやつばかり集まってるから仕方なくはあるが…。

一体全体、どんな表情してたら明王なんて呼ばれるんだ。

紲星は…牛一頭分の肉を大半平らげて、「もう二頭は欲しい」なんて宣ったブラックホールだ。

騒ぎになるのも無理はないか。

 

 

「ミコト。まんまんちゃん、あんしような」

「お墓ないよ?」

 

 

俺は問題児のお守りをしてる同級生に向けて合掌した。

ミコトは首を傾げながらも、俺の真似をして合掌した。

短い付き合いだったが、いい奴らだった。

 




ネタバレ…先生がくじを細工しました。どうやってもこの班になります。最初の一回しかくじをやらなかったので、確率論的におかしいことに気づかれることなくやり過ごせました。


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緑谷出久の手加減練習

サブタイトル通りです。


「…あそこであしたのジョーみたいなことになってるの、緑谷と爆豪だよな…?」

「顔の彫りが違いすぎて一瞬分かりませんけど、本人ですね」

 

 

互いに寄りかかって真っ白に燃え尽きてる。

画風違うぞ。ちばて○や先生の描いた顔みたいになってる。

僕の苦労の一割でも伝わったのだろうか、蚊の鳴くような声で「今まですんませんでした」と謝ってきた。

 

 

「爆豪先輩は特に大変でしたよ。表情筋が明王で固定されるくらいに。

ウナちゃんがやった表情筋マッサージで、ようやく元に戻ったくらいですし」

「イズクはお金持ちって思われて、詐欺師とか不良とかにすごい狙われてた」

 

 

どうやら、かなり苦労したらしい。

東北さんはとにかく、ヒメちゃんの顔にも、少しばかり疲弊した様子が見て取れた。

爆豪くんは近寄りがたい見た目と顔してるからまだいいが、緑谷くんは完全に小動物だからなぁ。

小動物って言っても、ラーテルくらい危険だけど。

 

 

「爆豪はわかるが、緑谷はどうやって対応してたんだ?」

「ショート…。聞かないほうがいい…」

「何したんだマジで!?」

 

 

底抜けに明るくアホなヒメちゃんが、真顔で首を横に振ってる。

何したんだ、本当に。

あかりさんの方を見ると、満足そうにお腹をさすっている。

セイカさんたちも、大阪を満喫できたようで、満足しているようだ。

満足してない…というより、満喫できなかったのは緑谷くんと爆豪くんだけらしい。

 

 

「…明日は自由に回りなさい。僕が問題児二人の面倒見ますんで」

「お願いします…。死ぬ…」

「最初からやれや…。死ね…」

 

 

かつてないほどに元気がない。

悪いことしたなぁ。くじに細工した分、余計に罪悪感ある。

誰も気付いていないし、正直に言ったら本当に殺されそうだ。

 

 

「あかりさん、晩ご飯は入りそうですか?」

「余裕です!」

「余裕ですかぁ…」

 

「ンなアホなァ!?」

 

 

極端に燃費が悪い体してるなぁ、と思っていると、素っ頓狂な声と共に激突音が響く。

一体なんだと扉を開けると、ずっこけた状態の麗日さんがいた。

盛大にコケてるせいで、乙女のパンツ…柄は言わない。失礼だから…を大公開してる。

彼女の名誉のために、ここはミコトちゃんに対応してもらおう。

 

 

「…せ、せんせー?なんでボクを盾にするんですか?」

「下見りゃわかるでしょ」

「あっ」

 

 

察しのいい子で良かった。

不可抗力だってこともわかってくれてるようで、僕に同情を込めた視線を向けてくれた。

 

 

え?パンツに対してなんも思わないのか?欲情してるんじゃないのかって?

 

 

僕のストライクゾーンは前世も今世も二十代後半から三十代後半未婚だ。

ぶっちゃけるが、僕はガキや経産婦に欲情するような性癖は持ってない。

茜さんからは「弄りがいのない性癖」とバカにされた。なんでだ。

 

 

「大丈夫ですか?」

「ああ、うん、ごめん…。ちょっと、ビックリして…」

 

 

昼間の惨劇…飲食店の方から見て…を見てるんだ。ひっくり返るのも無理はない。

よろよろと立ち上がった彼女は、青い顔して「失礼しましたぁ…」と消えそうな声で去っていった。

これから嫌々死地に行く兵士のような儚さと悲しみが、そこにあった。

 

 

「…あかりさん。ちなみに、どれくらい腹膨れてます?」

「腹一部ですね!

今までの消費エネルギーが膨大過ぎたので、たっくさん食べれますよ!」

 

 

………………いや、マジ?

 

 

かつてないほど生き生きしたあかりさんを前に、全員の表情筋が死んだ。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

凄まじい光景だった。

僕…緑谷出久は、旅館の外にて、先ほどの食卓でたった一人の少女が作り出した地獄絵図を思い出し、頭を抱えた。

あれでようやく小腹が膨れたくらいなの…?

今までどれだけ空腹だったんだ、あの子は。

…未来では扱い悪かったらしいし、そもそもろくに食事を摂ってなかったんだろうなぁ。

 

 

「…水飲もう。胸焼けする…」

 

 

見てるだけで胸焼けした。

胸の違和感を腹の奥に飲み込むようなイメージで、僕は自販機からペットボトルを取り出し、中身を呷る。

頭痛を抑えるために外に出たはいいが、流石は大阪と言うべきか。

夜中でも、電気の光で街は明るくて、目がチカチカする。

余計に頭痛が酷くなった。

 

 

「さっさと部屋に戻ろ…」

 

 

僕が踵を返そうとすると、イズクテレフォンから通知音が響いた。

 

『イズク様。半径50m以内に敵を発見しました。狙いは貴方の持つ金銭です』

「あー…。さっきからつけてきてるなぁとは思ったけど」

 

丁度いい。新しい装備のテストをしようか。

かっちゃんに言われたっけ。

 

 

ーーーーーー加減がヘタ!!やられ慣れてるバイキンマンも真顔で『殺す気か』ってキレるレベルで加減がヘタ!!いつになりゃ覚えンだ覚える前に殺す気か!?さっさっと覚えやがれさもないと今ここでテメェをブッ殺すぞォ!!!

 

 

ーーーーーーアホかァ!!力加減をしろって言ってんだ格闘面で加減すんなやボケェ!!さっきまでできてたこと1ミリもできてねェぞクソが!!だから前みたいなキモガリにいいようにボコられたんだろォがいっぺん殺すから死んで覚えろクソデクゥ!!!

 

 

腰が引けてるせいで、ガンガン攻めてくタイプのかっちゃん…スーツを着てる…に、いいようにボコボコにされたっけ。

尚、スーツを着てる状態じゃ、普通の格闘術でも普通にボコボコにされた。

着てないと勝てるのに…。

 

 

そもそも、僕の作ってきた装備は、リゲル以外は戦闘を前提としてない。

戦闘というよりは、対象の無力化がオマケ程度についてるくらいで、救助にその機能を使うことを前提にしてる。

マトモに戦闘に特化させてるのは、轟くんの装備くらいだ。

だから、今回は攻撃をメインとした装備を作った。

 

 

「フォーマルハウトで」

『了解。モードは?』

「格闘特化」

 

 

僕が指示を出すとともに、デバイスから粒子が放たれ、僕の体を覆う。

四肢のみの装甲を超強化し、それ以外を薄く作った格闘特化。

相手によって様々な戦闘スタイルを形成できる『超攻撃特化型スーツ』…イズク20号『フォーマルハウト』。

 

 

「あ、あーあー…。よし』

 

 

ボイチェンもちゃんと起動する。

ちゃんと手加減…。力を抜くだけで、格闘術は容赦なく…。

 

 

「そこのお兄さん。しがない貧乏人の俺ちゃんに金くれぺいっ」

 

 

『金』あたりで顎を弾いて脳を揺らす。

人差し指を軽く当てるだけで、軽い脳震盪程度は起こせるだろう。

狙い通り、気絶した。顎は砕いてない…。

よしっ。力加減成功。

 

 

あとは処置をして、所有品チェック。

少し気は引けるが、携帯のパスワードを入力し、その中身を確認する。

個人情報がこうも簡単に手に入れられる時代って、恐ろしい。

やはりと言うべきか、目覆いたくなる写真や連絡のやり取りが散見できた。

 

きりちゃんやセイカさんの写真とか、あかりさんの写真…旅館で働く麗日さんの写真まである。写真にメモまであるけど、これは読まなくていい。

麻薬売買にまで手を出してて、指定敵団体、違法風俗、人身売買組織に繋がり…データ上の友人とのやりとりを見る限り、天性だったっぽい。

 

 

テンプレやられ役の要素を一人で網羅してる。ここまで来るといっそ清々しい。

 

 

パスワードロックをオフにして、あとはふんじばって警察署前に置いて行こう。

加減の練習と活動を兼ねて、繋がってた団体も潰しておこうかな。

 

 

この後、指定敵団体と違法風俗、そして人身売買組織の構成員全員が揃って警察署前に放置されていたため、逮捕された。

手柄は、その日に潜入調査をしていたファットガムのものになった。

取材で複雑そうな顔して、質疑応答に答えていた。

ところどころカンペ見てたあたり、多分、メディア部門のサポートしてる人に「正直に言うなよ!?絶対だぞ!?」と念押しされたんだろうなぁ。

 

 

因みに、僕は出迎えてくれたかっちゃんに「旅館閉まる時間考えろや!!」とゲンコツをかまされた。

普通に痛かった。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「ブラックボックス。注文入ったよ」

「…フィクサー」

 

 

かつん。

革靴がタイルを叩く音が響く。

ブラックボックスがそちらを見ると、見覚えのある仮面が宙に浮かんでいた。

いや。宙に浮かぶ、という言い方は正しくないだろう。

明かりが仮面のみを照らし出しているのだ。

フィクサーが一歩、ブラックボックスに歩み寄ると、その全貌が明らかになる。

 

 

黒一色で統一された軍服に、裏面のみが赤地のマント。

赤の手袋と、唯一露出した笑みを浮かべる口。

彼を構成する全てが、同性であるブラックボックスさえも飲み込むような、妖艶な魅力を発していた。

 

 

「数」

「一つ。子供の教育に使うんだって」

「用途は聞いてない」

 

ブラックボックスは言うと、カプセルを一つ取り出し、フィクサーへと投げる。

彼はそれを受け取ると、口元の笑みをより歪ませた。

 

 

「全く。『僕』は僕に厳しいね」

「…それは、君が一番分かってることじゃないか?『ボク』」

 

 

ブラックボックスが問うと、フィクサーはゲラゲラと笑い声をあげた。

 

 

「あはははははっ!いやぁ、全くもってその通りだよ!!」

「…毎度言ってるけど、受け取ったらさっさと帰ってくれるかな?

ボクは君と違って忙しいんだ」

 

 

邪険な態度を隠そうともしないブラックボックスの肩にもたれかかる形で、フィクサーが顔を近づける。

甘い香りのする吐息が、機械の肌にかかった。

 

 

「そんな言い方ないだろ。こう見えて、僕も忙しいんだよ?えーっと…い…、いぎ……んんぅ……。なんていったっけ?」

「異形排斥主義集団のことか?」

「ああ、それだ!印象うッすい名前だなぁ!

もうちょいなんかあっただろうに!」

 

 

異形排斥主義集団。通称CRC。

巨大でいて、ヒーローが手を焼いている敵集団の一つ。

在り方としては宗教のようなもので、結成当初はデモ活動が主であったが、近年テロ活動に手を出した集団『だった』。

ただ、一人の人間…否。『絶対悪』に目をつけられたのが、まずかった。

 

 

「素体的にはかなり粒揃いだったから、『改造』してんだよね。

ほら、そこにも一人改造中なのが」

 

 

フィクサーが人差し指を闇へと向ける。

同時に照明が点灯し、そこに在る存在を映し出す。

そこに居たのは、普通に見たのならば、見目麗しい女性だった。

 

 

 

だが、今は違う。

 

 

 

身体中からあらゆる体液を吹き出し、ぎゅるぎゅると目玉を動かす。

口はだらしなく開き、舌先が何かを探すように、ちろちろと動く。

手入れを怠っていなかったのだろう。

美しく、さらさらと絹のように流れる髪が覆う頭には、いくつかの異物が突き刺さっている。

よく見れば、それはなんの変哲もない針だった。

フィクサーはその一つを持って、ぐちゅぐちゅと穴をほじくる。

 

 

「どうだい?じわじわと自分が掻き消されてく感覚。誕生日は思い出せる?両親の顔は?君、結婚して子供いるんだよね?子供の顔はわかる?夫との出会いは?初体験は?ときめいた時とか、その他もろもろ。

僕に君の人生を聞かせてよ?」

「あっ、あぅっ、やっ、きっ、ぇ、やだっ、おっ、ね…、あなっ、たっ、たすっ…きえっ、りゅっ、ぅ」

 

 

嬌声とも、悲鳴とも呼べない声が、部屋中に響く。

彼女は、異形排斥主義集団の若き指導者。

その若さでトップに立ち、着実に主義者を増やしていった、やり手の思想家。

しかし、それも過去の話。

彼女と言う存在は、フィクサーという『絶対悪』の前に、消えようとしていた。

 

 

「答えろって言ったよね?と言うわけで罰ゲーム♪消ぃ〜えろっ♪」

「ごぽっ」

 

 

彼女の最後の言葉は、口から溢れ出た水音だった。

だらり、と彼女の全身から力が抜ける。

 

 

「さーてと。どんな人格作ろっかなー?

超サイコ?指導者?どっちにしても、僕の『絶対悪思想』は確定だけどね。

個性はなんだっけか…」

 

 

フィクサーが楽しそうにブラックボックスに視線を向ける。

そう。彼女はフィクサーの言う通り、死んだと言うわけではない。

ただ、『記憶含むすべてがリセットされた』のだ。

個性ではなく、ただの技術で。

 

 

「『拒絶』…。干渉を拒絶できる個性かぁ。

よし決めた!超メンヘラな偏愛家!

それも、理想のヒーローしか認めないし欲情しないタイプ!

愛する家族もこれで殺しちゃうかもだけど、関係ないよね?君はもう居ないんだから。

せいぜい頑張って僕の思想を広めてくれよ、新たな『悪役』さん」

 

「…ボクのラボで好き勝手するんじゃない。

マイケルも、結局君のおもちゃになったじゃないか。

彼は僕の助手の予定だったんだぞ」

 

 

それを目の当たりにしても、ブラックボックスは特に動揺することなく、フィクサーに注意する。

マイケル。

元は琴葉葵の助手で、退職届を叩きつけ、ブラックボックスの助手となった男。

彼は現在、ブラックボックスの手を離れ、人工個性を売りまわっていた。

その原因は他でもない、目の前にいる『絶対悪』である。

 

 

「廃人も同然だったろ?君が唆したヤツは総じてそうじゃないか。

だったら、ああいう積極的な売人の方が有効活用出来るだろ?」

「あっちの方がなんでも言うこと聞いてくれるし、余計なこともしないし、楽なんだよ。

ただでさえ、君のせいで余計な仕事量増えてんだから」

 

 

ブラックボックスは言うと、深いため息を吐いた。

機械の下にある目元は、フィクサーからは見えないが、クマが幾重にも重なっていた。

フィクサーが散々振り回し、五徹しているのだから当たり前なのだが。

 

 

「万年開花の時もそうだ。

やめた方が良いって言ってんのに、ボクに変装してマイケル唆して…。

寿命で死んだフリなんて真似も…。

今回だって、完成された人工個性なら、いつでも作れるだろ?

なんで未完成品ばかりを売り歩くんだ?

そもそも、星を壊すような真似を平然とする理由はなんだ?

君の行動には無意味なものが多すぎる。理由を聞いて良いかい?」

 

 

ブラックボックスの問いに、フィクサーはその笑みを歪ませた。

 

 

ーーーーーー闇が深ければ、星はより強く輝くだろう?




フィクサーが『改造』を施すのは、強い思想を持っている人間だけです。基本的に面倒なので、よほど気が乗らないとやりません。


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深夜のデートは蜜の味?

サブタイトル通りです。あかりちゃんとイズクくんがデートします


深夜0時。

僕…緑谷出久は、全く寝付くことが出来なかった。

その理由は、僕のすぐ横で寝息を立てる少女にある。

 

 

「きりちゃん、寝相悪っ…」

 

 

なんでそう的確にレバーを入れてくるんだ。

寝てるんだよな?寝てるんだよなコレ?

どうしよう。きりちゃんの寝相が悪過ぎて、これっぽっちも寝れる気がしない。

 

 

痛い。痛いって。痛いから、レバーに拳叩き込むのはやめてほしい。

 

 

そう言いたいけれど、信じられないことに完全に寝てる。

布団から離れたいけど、あかりさんが僕の腕を抱き枕にしてるし、どうしようか。

そんなことを思っていると、誰かに肩を叩かれた。

 

 

「えっ…?」

「イズクくん。やっぱり起きてた」

 

 

僕がそちらを見ると、あかりさんが目を爛々とさせて僕を見ていた。

寝たフリをしていたんだろうか。それとも、今起床したのだろうか。

僕が疑問に思っていると、彼女は少しばかり笑みを浮かべた。

 

 

 

「正義の味方に頼むのもどうかと思いますけど…。ちょっと、悪いことしませんか?」

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

「夜中の散歩かぁ。確かに悪いことだね」

「でも、とっても楽しいでしょう?」

 

 

僕たちはアルデバランの機能を駆使して旅館を抜け出し、その周辺を歩いていた。

夜中の散歩なんて、初めての経験だ。

いつもはラボに篭るか、ノートやらパソコンやらに向き合って朝まで過ごすか、普通に寝るかの三択だったのに。

 

 

「否定しきれないのが歯痒い」

「イズクくん、ヴィジランテですもんね。

悪いことは許せなくても、自分も悪いってわかってるでしょう?」

 

 

痛いところ突くなぁ。

僕がやってることは、例え誰かにとって正しくても、違法であることには変わらない。

それが間違ってるとは、口が裂けても言わない。

僕自身、間違ったことをしているという自覚はあるから。

 

 

「…まぁ、ね。

でも、ルールで救えない命があるなら、僕は躊躇いなくそのルールを破る。

今までそうしてきた。多分、これからも」

「だから大好きですよ、私のヒーロー」

 

 

あかりさんは言うと、ニッコリと笑って僕の腕を握った。

…好意を向けられて、それに答えないのはどうかとは思う。

だけど、僕はまだ中学一年生。

恋愛や性に対して相応な知識もないのに、軽率に発言するのはやめた方が良いだろう。

 

 

「そういう言葉は、もうちょっと僕が歳食ってからにしてよ。

ちゃんと君のことを考えて、ちゃんと君の好意に答えたいから」

 

 

僕が言うと、彼女は少しばかり残念そうに、「わかりました」と呟く。

その代わりにとばかりに、僕の腕に抱きついた。

 

 

「ちゃんと答えてくださいよ?」

「…うん。…少ししたら戻ろう。この時間帯は、よくない輩も多そうだし」

「そうですね」

 

その時だった。

 

 

「逃げるなついなァァアアア!!!

そんなことで方相氏が務まるんかぁぁぁぁアアアアアッッッッ!!!!!?」

 

「何が方相氏や!!時代錯誤にも程があるわ!!!おとんのあほっ!!ばかっ!!!

ウチは、ウチはっ…!!家出するからなぁぁぁぁーーーーーーっっっ!!!!!!」

 

「待てコラついなぁぁぁぁァァァァァァァァァァアアアアアアッッッ!!!!」

 

 

巨大な扉の奥から、怒鳴り声が響いたのは。

僕らがポカンとしていると、着物を着た女の子が、扉を開く。

そのままの勢いでボロボロと涙を流しながら、僕らの横を走り抜けていった。

足速いなぁ。個性無しの記録なら、新記録レベルじゃないか?

呆けた頭でそんなことを思っていると、ガタイのいい男性が続けてこちらにやってくる。

 

 

「そこの君ら!!こんな夜中に出歩いとるのはなんでじゃ!?

さっさとウチに帰らんか!!」

 

 

めっちゃ怒られた。

いや、まぁ、悪いことしてるから当たり前なんだけど。

 

 

「おっと、こんなことしとる場合やない!

さっさとお家帰りやーっ!!」

 

 

男性は言うと、そのまま去って行った。

思えば、この向かい側にある旅館は、至るところに防音材が使用されてたし、日常茶飯事なんだろうか。

…あれ?待てよ?

 

 

「この扉…、塀も壁も、結構良質な防音素材が使われてる…」

 

 

なるほど。たまたま僕らが近くを通ったから、二人の会話が聞こえただけなのか。

方相氏ってなんだろうか。

僕は科学方面に知識は長けているけど、歴史とか文系関連は高校までの知識までしか詰めてないからなぁ。

先生だったら詳しく知っているのだろうか。

 

 

「…あの子、逃げるの上手いですね。

角曲がった直後に、ゴミ箱を踏み台にして、旅館の塀越えていきました」

「え?見えたの?」

「夜目が効かないと、死ぬ環境でしたから」

 

 

…やっぱり、隠してても、戦場にいた時のことを思い出すんだろうな。

どこか遠くを見つめるあかりさんは、「さ、旅館に戻りましょう」と手を引く。

 

 

「…あの子と鉢合わせない?」

「その時はその時です。上手い言い訳、考えてくださいね?」

「……この旅行で、とことんあかりさんに振り回されてるなぁ」

「イズクくんと何かするのが楽しいんですよ。私はいつも囮役ですから」

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

僕らはこっそりと旅館の中へと戻り、廊下を歩く。

言い訳は、喉が乾いたから自販機を探してる、と言う名目でいいだろう。

見つかった時の言い訳にしては些か弱い気もするが、中学生が思いつく精一杯の言い訳として、笑って許してくれることを祈ろう。

 

 

が。そんな祈りは神には届かなかったようで。

 

 

「ついなちゃん、今日はここに泊まってき?

弓鶴兄ちゃんから許可貰っとるし…」

「お茶子の姉ちゃん…。いつもほんまごめんな…」

「ええのええの!変に遠慮することあらへんから、ゆっくりしてき」

 

 

向こう側から、麗日さんとさっきの女の子が歩いてきた。

 

どうしてよりによってこのタイミングで鉢合わせる!?

 

まずい。麗日さん一人ならまだいいけど、さっき外ですれ違った彼女は話は別だ。

無断で外に出たことがバレてしまう。

僕の祈りも、先生の願いと同じ効果を持っているのだろうか。

アルデバランの装備…間に合いそうにない。

光学迷彩…いや、ぶつかって終わる。

……ここは、彼女が僕らの姿を見ていないことに賭けるしかない。

 

 

「あれ?お客さん?

ついなちゃん、ちょっと待ってぇな…。

すみませんけど、この時間帯で、廊下を歩くのはご遠慮ください」

 

 

良かった。外に抜け出したことはバレていないようだ。

僕は以前習ったように、愛想笑いを浮かべ、なんでもないように嘘をつく。

…皆は僕が嘘をつけない性格だって言うけれど、それは違う。

必要のない嘘をつかないだけだ。

 

 

「あ、いや…。喉が渇いちゃって。部屋に飲み物がないから、二人して自販機探してたんです」

「…自販機でしたら案内しますので、早めに戻ってくださいね」

「ありがとうございます」

 

 

嘘は使いどころさえしっかりしていれば、人間社会において比類なき強さを持つ。

先生が嘘、真実、理想、現実、etc…と、あらゆる『言葉』を巧みに使って、僕たちを教育してきたのを知っている。

この場合も、僕はその武器であっさりとこの状況を打破できた。

 

かに思えた。

 

 

 

 

「…見間違いやないんなら…。兄ちゃんら、さっき、外おらんかったか?」

 

 

 

ふぁーーーっっっっ!?!?!?

 

 

 

口から飛び出そうになる声を抑え、必死に口を閉じる。

麗日さんも、会話の内容から、それなりに付き合いのある彼女の言葉に耳を傾けてる。

 

 

ーーーーーー君は嘘の使い方が下手ですね。

東北さんは元々捻くれてるので上手ですけど、元が純朴な君は、慣れないうちは自分のついた嘘に振り回されますね。

 

 

なんで今になって思い出すんだ僕は!

「確実に騙せる」って分かってる時に嘘を使えって学んだろ、僕のバカァ!!

自分を軽く呪いながら、これ以上ボロを出さないように、なんでもないように笑みを浮かべた。

 

 

「気のせいじゃない?僕が部屋から出たのって数分前だ…」

「クソデク。テメェ、クソガキ押し付けて1時間も何処行ってやがった?三十分も歩かせやがって…」

 

 

びくっ。

 

声の圧に恐る恐る後ろを振り返る。

そこには、明王顔のかっちゃんが、パキパキと手を鳴らして僕を睨んでいた。

なんとタイミングの悪い。

 

 

「え、えーっとですね、あかりさんが…」

「デートです♡」

「ほォ…?そいつァたのしそうなこって…」

 

 

顔面がとんでもないことになってる。

あかりさんが火に油を注いだせいで、下手なネームドヴィランが裸足で逃げ出すくらいには怖い顔してる。

いつもなら怒鳴り散らしてるのに、静かな分余計に怖い。

 

 

「か、かっちゃん…?君が怒鳴らないと怖いんだけど…」

「今何時だと思ってんだ怒鳴るわけねェだろクソデク。あのクソガキ、俺の肝臓を的確に殴ってきやがるし起こしても起きねェんだなんとかしやがれ」

「いや、僕もそれが嫌で逃げてきたフシあるんだけど…」

「あ?」

「……はい。なんとかします」

 

 

かっちゃん、静かだとめっちゃ怖い。

怒鳴り声がデフォだから、余計に。

かっちゃんが怒り終わると、フリーズしていた麗日さんが僕の肩を叩いた。

 

 

「……あの、外出てた件について話があるんですけど」

「………………はい」

「そ、それじゃあ私はお先に失礼して…」

「そこの大食いちゃんもやで」

「はにゃっ!?」

「おォ、こってり絞って…」

「出歩いたらあかんって張り紙見んかった?アンタもやで」

「はァ!?いやっ、俺は…」

「問答無用」

 

 

かっちゃん風に言うなら、厄日だ。

いや、まだ1日が始まって1時間くらいしか経ってないけど。




イズクくんは隠し事は上手ですが、嘘をつくのはド下手クソです。


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緑谷出久が雄英を目指さない理由

サブタイトル通りです。


「お叱りは以上っ。もう部屋に戻りなさい」

 

 

結局。僕たちは、旅館の人…伊織さんに、しこたま叱られた。

あかりさんは慣れてるのか、終始無表情だったけど、僕としては結構効いた。

かっちゃんはとんでもない顔を、更にとんでもないことにして僕を睨んでる。

悪いことは考えるモンじゃないな。

ヴィジランテやってる僕が言うのも、なんだけど。

 

 

「クソデクテメェ覚えてやがれ絶対ェに殺すゥゥウウゥ…ッッッ………!!!!」

「だから、ごめんって…」

「ごめんで済ますワケあるか組み手5時間じゃボケェ……!!」

 

 

いつものに戻った。

怒鳴り声を抑えてんだろうけど、割と声が大きい。

組み手5時間って、本気で怒ってるなコレ。

前みたいに、時間関係なく怒鳴り散らしたりしないあたり、ケツバットの効果はあったらしい。

 

 

「…伊織の兄ちゃん、終わった…?」

 

 

かっちゃんをなんとか落ち着かせていると、ひょこり、と先ほどの女の子が姿を現す。

長い髪を下ろし、泣きすぎて腫れた目元で伊織さんを見つめていた。

伊織さんはその姿を確認すると、優しい笑みを浮かべて彼女に歩み寄る。

 

 

「ついなちゃん、ごめんね。どうかした?」

「ぁ、あの…お昼も晩も、出来るまで飯無し言われて、水だけで、朝ご飯食べただけで…なんも食ってへんくて…」

「お茶子ちゃんは?」

 

 

伊織さんがそう問いかけた時。

どんがらがっしゃん、と破壊音が鳴り響いた。

 

 

「料理なんて慣れへんことするから…」

「……今の時間で業者呼べないよ…」

 

 

何が起きたのかを察したのだろう。

伊織さんが頭痛を抑えるように、頭を抱える。

その様子を見ていると、かっちゃんが僕を肘でついた。

 

 

「テメェなら台所程度、粉微塵になろォが直せるだろォが。

夜中に抜け出した罰と思ってやれ」

「言われなくても」

 

 

僕は伊織さんに何か言われる前に、破壊音の発生源へと向かい、その扉を開く。

案の定と言うべきか、コンロが悲惨なことになっていた。

幸いなことに火事にはなってないけど、もう二度と使えない程度には壊れてる。

IHに換えてないあたり、前時代的だなぁ。

 

 

「びっくりしたぁ…。

あっ!?あかんわァ!!コンロが世紀末になっとる!!」

 

 

吹っ飛ばされた麗日さんも無事そうだ。

このまま直すのも簡単だけど、ガス漏れとかしてないだろうか。

イズクテレフォンで、部屋全体をスキャンして、ガス漏れがないか確認する。

…良かった。ガス管は無事だったらしい。

どうやら鍋やら調理器具やらが激突して、コンロのみが壊れたみたいだ。

経年劣化も激しかったみたいだし、しかたないのかも。

 

…それにしても、すごい清潔だ。

チリ一つないって、僕も見習わないと。

僕のラボは、失敗作の残骸とノートで埋まってるからなぁ…。

 

僕がそんなことを思っていると、伊織さんが部屋に入り、目を覆った。

 

 

「かつてないほどに壊れてる…。

やっぱり、IHに換えとくんだった…」

「換えましょうか?」

「うん、頼むよ…って、え?」

 

 

お風呂は温泉だし、ガスを使ってるのはキッチンだけってのは、旅館を歩き回ってれば嫌でもわかる。

なら、改装も楽だ。

勝手に人の家を改装するのもアレかと思ったけど、かっちゃんがきちんと言質を録音してる。

大義名分は得た。ストレス発散だ。

 

 

「交換条件です。夜中に出てたこと、先生に言わないでくださいよ?」

 

 

僕は言うと、簡易型のヘカトンケイルを起動し、改装に取り掛かる。

素手よりも手早く動いてくれるし、僕の脳波で動いてるから、正確に組み立てられる。

結構重宝してるんだよね、コレ。

数分もすれば、あら不思議。

ボロボロになったガスコンロが、あっという間にIHコンロに早変わり。

ガス関連の契約解除はしてないので、ガス管関連は手はつけてない。

ただ、ガス管としての意味はもはや為さないけれど。

僕はヘカトンケイルを仕舞うと、呆然としてる伊織さんに声をかけた。

 

 

「ガス管もう必要ないんで、契約解除して業者に廃棄を頼んでください。

僕は契約関連の権限持ってないんで。

使い方の説明書とやるべきこととか、いろいろまとめておきますので」

 

 

「「「………………え?」」」

 

 

鳩が豆鉄砲食らった顔とはよく言うけど、こう言う顔のことを言うんだろうなぁ。

そんなことを思っていると、かっちゃんが引きつった顔で口を開く。

 

 

「ウチの洗濯機もそォだが、バケモンみてェな速さで組み立てんな、テメェ」

「いや、この背中のやつ無かったら余裕で朝までかかってるから」

 

 

僕自身の組み立てるスピードは、なめくじ並みに遅い。

人の手だから当たり前なんだけど。

つい最近、音街さんの家に場所を提供してもらって完成した『アレ』も、ヘカトンケイルがなかったら余裕で一生かかってたからなぁ。

イズクテレフォンをポッケに入れると、伊織さんが恐る恐ると言ったように僕に問うた。

 

 

「…あの、そう言う個性の子?」

「いや、僕はむっ」

「そんなとこです!」

 

 

無個性です、と答えようとしたその時。

僕の口を抑え、かっちゃんが誤魔化した。

 

 

「おいコラデクゥゥ…!!

簡単にホイホイ喋ってんじゃねェぞテメェがこの世界簡単にブッ壊せるっつーこともっと自覚しろや殺すぞ……?」

 

 

目が据わってらっしゃる…。

つい、いつもの癖で話そうとしてしまったが、個性のせいにしないと面倒か。

…それにしても、息が苦しい。

かっちゃん。口を抑える力、強すぎない?

 

 

「わかった…!わかったから、手ェ離してよ…!」

 

 

僕が小声で言うと、かっちゃんは「余計なこと言ったら殺す」と言いたげな目を向けた。

 

 

「本当は、大人としては個性の無断使用を怒らなきゃいけないんだけど…。

助かったよ。この時間じゃ、どこの業者も空いてないし…。

お客さんの朝ごはんも作れなかったから」

「元々劣化が酷かったので、近いうちに換えておいた方が良かったですよ」

 

 

僕が言うと、彼は目をぱちくりと丸くした。

…あっ、やばっ。

「ただの中学生が、一目でガスコンロの状態を把握出来た」と知らせてどうする。

個性はヘカトンケイルってことになってんのに。

うぅむ…。『普通の中学生』って難しい。

 

 

「さっきの個性、ただ腕が多く出せるくらいでしょ?」

「……ま、まぁ」

 

 

案の定バレた。

まぁ、ヘカトンケイルの方がよっぽど個性っぽいよな。

頭がいい個性…なんて個性は、この世界にいくらでも溢れてる。

が。いくら個性が複合するとは言っても、増強系と頭脳系は合わさることは、基本ないって論文出てるからなぁ。

 

そういう個性でも、下地となる知識がないと、無個性も同然だけれど。

そうなると、僕も個性持ちも変わらない…という結論に至る。

アレだけ必死に詰め込んで、僕はようやく人並みになれたってことだ。

…もう何度目になるかは忘れたけど、言わせてほしい。

個性ってのはつくづくデタラメだ。

 

 

「君、頭良いね。お茶子ちゃんと同い年くらいなのに」

「それ、ウチが頭悪い言うてへん?」

 

 

麗日さんが半目で伊織さんを睨む。

伊織さんは悪びれる様子もなく、続けた。

 

 

「雄英目指してるんなら、もう少しがんばった方がいいよ?

国語と数学はすごく良いのに、英語が15点で、社会なんて6点…」

「あーあー聞こえなーい…。現実なんて見えてませーん…」

 

 

……『悲惨』って言葉をそのまま形にしたような結果だなぁ。

麗日さんは僕と同い年らしいし、この時点での英語はそこまで難しくない。

普通に授業受けてたら、勉強してなくても50はとれる。

英語圏で言えば、喃語の域なのに。

社会なんて、中学生のは提出物だけやってても、それなりに点数を稼げる程度のはず。

なのに、どうやったらそんな悲惨なことになるんだ。

 

 

「ん…?雄英…?」

 

 

国立雄英高等学校。

平均偏差値は70を超える、超名門校。

ヒーローの育成に力を入れており、トップ3のヒーローがその学校で青春を過ごしたという、輝かしい功績を残してる高校。

…ヒーローの育成するなら、日本よりも、犯罪率の高い海外にブチ込むだけで、バリバリ育つと思うけど。

ヒーローとしてのスキルを死ぬ気で磨かないと死ぬ…って、現地のヒーローたちは語ってるくらいだし。

 

 

「い、一応…ヒーロー科志望…です」

 

 

その功績にあやかりたい、という人は少なくはない。

国立である分、私立よりも手厚いサポートを受けれるし、なにより学費も安い。

普通科に入るだけでも、ヒーロー科への転科も、体育祭の成績によっては可能。

そうでなくとも、普通科を卒業すれば、有名企業への就職は勿論のこと、進学にも良い方向に働くという。

…目指さない理由はないかぁ。毎年毎年、倍率がおかしなことになってるけど。

 

 

「雄英のヒーロー科志望かぁ。轟くんとかっちゃんのライバルってことだね」

「そうなんや!よろしく、爆発頭くん!」

「誰が爆発頭じゃゴラァァァァァアアアア……!!爆豪勝己だ丸顔ォ…!!」

「丸顔やなくて、麗日お茶子!よろしく!」

 

 

グイグイいくなぁ、麗日さん。

…かっちゃんも轟くんも、雄英志望ではあるけれど、在学中にアメリカに留学する予定らしい。

オールマイトがいなくなった反動で、犯罪率が30%超えてるからなぁ。

……琴葉博士も要因の一つだけど。

とにかく、ヒーローとして成長したいのなら、海外留学は最適な道なのかも。

 

 

「兄ちゃんらも、ヒーロー目指しとるん?」

 

 

僕がしみじみとそんなことを思っていると、先ほどの女の子が僕たちに問うた。

かっちゃんたちは目指しているが、僕に対しては、「目指している」という言い方は正しくない。

最高のヒーローを演じてるのだ。

…まぁ、口が裂けても言えないけど。

 

 

「目指してるけど、僕の進路は違うかな…?

かっちゃんと、もう一人の友達は、麗日さんと同じ雄英のヒーロー科志望だよ」

 

 

僕は言うと、必死に微妙な表情を浮かべそうになる表情筋を抑えつける。

僕が雄英を選択肢から外したのには、理由がある。

端的に言おう。

 

 

確実にサポート科にブチ込まれる。

そこで一生をスーツ量産機として過ごすなんて、死んでも嫌だ。

 

 

先生曰く、「十中八九、特待生とか言う響きの良い言葉で言いくるめようとしてきます。国立ってことは、国の刺客みたいなモンですからね。『お国のためだけに働く奴隷になれ』ってのと同義ですよ」と言われた。

それなら、琴葉博士のラボに行った方が遥かにマシだ。

 

 

…別に、雄英に憧れてないとか、雄英が嫌いだと言うわけではない。

寧ろすごく憧れたし、出来ることなら通いたいとも思ってる。

 

 

ただ、僕の望まない現実になってしまうのが理解できただけだ。

 

 

実際にあった過去の出来事を話そう。

十年前。無個性で普通科に居た少女は、あの雄英体育祭で圧倒的な実力差を見せつけ、優勝を収めた。

だが、その力を危惧した何処ぞのお偉いさん…当時は誰も逆らえないほどの権力者…が、アレやこれやと画策し、退学処分にしたという。

 

 

…なんでこんな醜聞を知ってるかって?

音街さんの家で調べた。

その少女が今はどうなってるのかは分からないが…まぁ、気分の良い結果ではないことは確かだろう。

 

 

「兄ちゃん、難しい顔してどうしたん?」

 

 

顔に出てしまった。

雄英と聞くと、どうしても複雑な心境を隠せなくなる。

 

 

「…いや。なんでもない。

君…えぇっと、お名前は…」

「如月ついな。…おとんは『役ついな』って名乗れってうるさいねんけど…」

「じゃあ、ついなちゃん。君は何になりたいの?」

 

 

僕が彼女に問うと、彼女はぱぁ、と明るい表情を浮かべた。

 

 

「あ、あんな。ウチ、お菓子屋さんになりたいねん。

ここら辺、お菓子のお店少ないやろ?

やから、ここらへんにお菓子の店出して、甘いモンも楽しんでほしいな〜思うてるん」

 

 

…きりちゃんじゃ、今後絶対見られないあどけなさだ。

僕が一種の感動を覚えてると、彼女の表情がふと暗くなる。

それを見かねてか、伊織さんが口を開いた。

 

 

「ついなちゃんはいつもの席で待ってて。

君たちはもう遅いし、今日は部屋に帰りなさい。水奈瀬さんには黙っておくから。

お茶子ちゃん。もう部屋の場所は教えたよね?案内よろしく」

 

 

ついなちゃんは少し名残惜しそうに、「ほな、また今度」と僕から離れていく。

その背中は、何処か寂しそうだった。




出久くんの思考は茜ちゃんと先生をミックスしたような感じです。
自分のやりたいことのために必要な嫌なことはやりますが、やる必要のない嫌なことは死んでもやりません。


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作文の朗読とかいう地獄

サブタイトル通りです。


「おい、麗日」

「どしたん?」

 

 

部屋に戻っている途中。

ある程度ついなちゃんの居る部屋から離れると、かっちゃんが麗日さんに声をかける。

 

 

「あのガキ、身体中怪我してるだろ。歩き方も動き方も妙だった」

 

 

かっちゃんは、怪我に対して異常なほどに反応するようになった。

いや、何処に傷があるかを判断できる技術が身についていた、と言った方が正しい。

…そのルーツは、かっちゃんが主犯となってやってた幼少期のイジメっていう、微妙な物だけど。

本人もそのことは自覚してるらしい。

たまに、過去のことを思い出しては、僕に謝る時があった。

「胃袋ごと出てきそうなくらい気持ち悪いからやめろ」と真顔で言ってしまったが。

 

…まぁ、かっちゃんでなくても分かるくらい、彼女の挙動はおかしかった。

傷を庇うような動き方をしない限りは、あんな動き方にならないのも事実だ。

 

 

「…分かるん?」

「早く治療した方がいいと思いますよ。

結構アザが残ってます。消えないのもありますね」

「そんなに詳しく分かるん!?」

「…そういう個性ってだけです」

 

 

あかりさんは言うと、目を逸らした。

個性作ってないな、アレ。

あかりさん、僕が勉強の面倒を見てるけど、人並み程度の知識しか有してないからなぁ。

怪我のことは、経験から語ってるんだろう。

 

 

「そこの大飯食らいが言うよォに、ただの怪我にしちゃ酷すぎだ。

夜中に家抜け出してこんなトコ来てるくれェだ。

ドラマやらネットやら見ただけで世間知ってるような気になってる歳の中学生が言うのもなんだが、予想はつく。

確認も深入りもしねェが、このままだとアイツ、確実に潰れるぞ」

 

 

少し前のかっちゃんじゃ考えられないセリフが飛び出た。

流石に笑うところではないので、笑いはしないが。

転んだだけで消えないアザが出来るなんて、確かに考えにくい。

 

 

「テメェといい、あの旅館のニイちゃんといい、少しは気付かなかったか?」

「……ついなちゃんが、『やめて』って言ったから…」

「そォいう無駄な気遣いはやめろ。

あのガキを崖から突き飛ばすのと同義だ」

 

 

一皮剥けた今のかっちゃんだから、こういうことが言えるんだろうな。

前だったら「自分でなんとかしろや」って怒鳴ってたんだろうけど。

 

 

「今からでも遅くはねェ。救急車呼ぶぞ。

警察もだ。児童虐待防止法違反で、あのガキの親、社会的にブッ殺す」

「そ、それはだめっ!」

 

 

かっちゃんが慣れた手つきで携帯に番号を打ち込み、通話ボタンを押そうとする。

が。麗日さんが慌ててかっちゃんの携帯を弾き飛ばし、それを防いだ。

時間帯のせいで怒鳴りはしなかったが、かっちゃんは目つきを鋭くして、麗日さんに詰め寄った。

以前だったら確実にどこかを引っ掴んでるから、マシにはなった。

 

 

「随分とまァ薄情なヒーロー志望がいたモンだ。俺が轟じゃなくてよかったな。

アイツだったら女だろォが夜中だろォが、テメェを怒鳴りながら殴ってたぞ」

 

 

ま、昼だったら俺も殴ってたが、と付け足すかっちゃん。

…個性無しの組み手の時、男女関係なく顔面狙ったりするもんなぁ、僕ら。

イズクメタルで作ったファールカップなかったら、僕ら男は種無しになってるだろうな。

それ程までに、スーツを着た僕を除いた全員が容赦ない。

 

 

「…薄情なのは、わかっとる。でも、あかんのや…。訴えても、無意味なんや…。病院に運んでも、危ないんや…」

「…どーいうこった?」

 

 

かっちゃんが訝しげな表情を浮かべる。

こういうところの予測が出来ないあたり、まだまだ新参者だなぁ。

 

 

「爆豪くんは経験が足りませんね。

訴えても無意味且つ、こちらが不利。

尚且つ病院も危険ってことは、私たちの想像もつかないほど地位のある主犯格が居て、其奴にもメリットがあるわけですよ」

 

「おーし出番だデク。

捏造するも良し、真実を暴くも良し、今すぐに全員仲良く失脚させろォ」

 

 

すごく簡単に言ってくれる。

やろうと思えば出来るけれど、僕はそういうのにノリノリにならないタイプだ。

轟くんとかは嬉々としてやるんだろうけど。

個人的な理由だけど、かっちゃんの要望には答えられない。

他の人だったら喜んでやってくれるだろう。

 

 

「証拠捏造は轟くんが自然な写真を作れて、ハッキングやらはきりちゃんの方がバレずに出来る。

シナリオは先生が一番それっぽく書ける」

「今すぐ叩き起こしに行くぞ」

 

 

かっちゃんは言うと、僕らの手を取って部屋へと向かう。

『僕は出来ない』なんて、これっぽっちも言ってない。

先生たちも巻き込んじゃうけど、いつものことだから別に良いか。

そんなことを思いながら、僕らはかっちゃんのなすがままに部屋へと引っ張られた。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「深夜二時に叩き起こしたことの制裁は、この程度にしましょうか」

 

 

撃沈した二人を前に、僕はこほん、と咳払いする。

制裁と言っても物理的なことではない。

 

 

ただ少し、彼らの「じゅぎょうさんかんびのさくぶん」の録音を流しただけだ。

 

 

三十分くらい、みっちりと。

爆豪くんは羞恥のあまり、一人ジャーマンスープレックスみたいな体勢になってるし、緑谷くんは中学生とは思えない哀愁を漂わせている。

 

 

「…爆豪。普通に考えろよ。この程度なら緑谷一人でどうにか出来ただろ。

気が乗らねェって理由で、寝てた俺らに押し付けたって丸わかりだろ」

「……俺がアホだったわ。コイツのクソ教師譲りの性格の悪さナメてた」

「あだぁっ!?」

 

 

轟くんの言葉に、爆豪くんが息も絶え絶えに呟き、緑谷くんをハリセンでしばく。

確かに、僕であっても他人に押し付けるな。

例え、なんとか出来るスキルがあったとしても、だ。

…緑谷くんは何故、そんなショックを受けた顔をしてるんだ。

 

 

「嘘でしょ…?性格の悪さまでも先生に似てきたの…?」

 

「次はこの『一週間の終わりに書く作文』を朗読しましょう。二年生の初めのですね」

 

「やめてくださいおねがいします」

 

 

水奈瀬コウは呪文『作文の朗読』を覚えた。

小学校の作文は、黒歴史がたっぷりだ。

二人とも、バリエーションが「オールマイトすげぇ!」くらいしかなかったなぁ。

褒め言葉も、爆豪くんは覚えたての言葉を間違って使ってたなぁ。

緑谷くんは、褒め言葉が陳腐で、他人に読まれるのは恥ずかしいらしい。

 

 

「ふぁああ……。クソ眠いんで、緑谷先輩に投げていいですか…?」

「ごめん…。今、恥ずかしさでしょーもないポカしそう…」

「ゲームソフト五つ分」

 

 

こら、そこ。

夢と希望あふれる小学生と中学生が、汚いやりとりするんじゃない。

…そうだった。現実見せたの僕か。

眉間を抑えながら、僕は万札4枚を東北さんに渡す緑谷くんを放置した。

もうツッコミを入れる気力もない。

それに、夜中に叩き起こされたせいか、思考がちょっとおかしくなってる。

吸血鬼が夜行性なのって、こういう不健康テンションが作用してるんだろうか。

 

 

「…協力はします。東北さん、関係者は洗い出せましたか?」

「政治家が多くて…あと、警察とメディア関連の結構なお偉いさんが。共通して、皇室とかなり密着してますね」

「……児童虐待の隠蔽に、そんな大物が大それたことしますかね?」

 

 

東北さんに告げられた真実は、不可解極まりないものだった。

皇室と密着してる政治家とか、警察、メディア関係者って、大物にも程があるだろ。

ただのスキャンダル程度なら、世間への印象操作でどうにか出来てしまうぞ。

半沢直樹並みのことやらないと、失脚なんて無理だろ。

 

 

「国絡みでの虐待…ですか」

「しかも、ご丁寧に割と重要そうな情報は書いてません。

暗号か、それとも隠してるのか…。

なんにせよ、経験の浅い私じゃ、バレずに抜き取るのも魚拓取るのも無理です」

「…次は国が敵…か」

 

 

世界を一人で滅ぼせる存在の相手ならしてきたが、まさか暮らす国そのものが敵だなんて思いもしなかった。

おかしいなぁ。この世界のヒーローって公務員なんだよね?

その公務員が守るべき存在が悪に染まってるってどういうことだ。

…そういや僕も公務員だったわ。前世ニートだったから完全に忘れてた。

国に牙剥いてるわけか、僕。バレたらクビで済むかなぁ?

…まぁ、この無敵の布陣でバレる可能性は万に一つもないか。

五秒にわたる自分への心配終了。

 

 

「……ほな、助けられんやん…」

 

 

どさり。

自分への心配を終えるのとほぼ同時に、麗日さんが膝から崩れ落ちる。

僕らが救おうとしてる人間が、僕らでは救えないことが分かってしまったから。

それどころか、誰にも救えないことを悟ってしまったから。

 

 

「ついなちゃん……っ。ごめんっ…。

ごめんなぁっ…!ごめんっ、ほんま、ごめんなぁ…っ!」

 

 

ボロボロとその目から涙を零す彼女。

崖っぷちに落ちそうなところを、一回手を掴まれて、その直後に突き落とされたらそうなるか。

一回喝を入れるか、と僕が動こうとしたその時だった。

緑谷くんが、彼女の頭に軽く手刀を振り下ろしたのは。

 

 

「な、なに…?」

「勝手に諦めないでよ。僕たちはまだ、動いてすらないんだから」

 

 

緑谷くんは言うと、イズクテレフォンを取り出した。

瞬間。そのポケットサイズのデバイスが、想像もつかないほどに広がり、幾つもの画面とキーボードを作り出す。

 

 

「…その携帯、そんなベイ○ックスの冒頭みたいな拡張機能ありましたっけ?」

「一昨日付け足した。

MESSIAH。ヘカトンケイル起動と『マルチプルダイブ』の開始準備」

 

 

あかりさんの質問に端的に答えるとともに、緑谷くんが謎のヘッドギアと、幾つもの腕を作り出す。

次の瞬間には、凄まじい勢いでキーボードを叩いていた。

 

 

「マルチプルダイブ…って、珍しい。

こっち方面で緑谷先輩が本気出すって」

「そのマルチプルダイブってなんだ?」

 

 

キーボードを叩く音が響く最中、証拠集めを終えた…収穫はあれど使えない…東北さんが、目を丸くする。

緑谷くんのあんな状態、僕でも見たことないぞ。

…いや。緑谷くんのラボ自体、見たことがないんだが。

 

 

「文字のまんまです。思考力を外付けの人工知能のサポート付きで底上げしてんですよ。

緑谷先輩の脳味噌は、スパコンが何台重なろうが足元にも及ばないバケモンですから、それがざっと数億倍」

 

 

…つくづく思う。生き急ぎ過ぎた人間って、恐ろしい。

彼の場合、師事する人間…僕じゃない方…が滅茶苦茶だっただけあって、余計に。

 

 

「…コンロの時といい、あり得へんやろ……。

個性は、その手なんやろ…?」

「おかしなこと言いますね。

緑谷先輩は正真正銘、なーんの個性もない無個性ですよ?」

「は?」

 

 

麗日さんの疑問に、東北さんがあっけらかんと答える。

同時に、タイピングを終えた腕と画面、キーボードが収束し、一つの携帯に戻った。

 

 

 

「ただし。その頭に、『世界一の努力家』が付け足されますけどね」




次回は原作既読の方ならご存知のあの組織が絡んできます。


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緑谷「この国どうなってやがんだ!!」

サブタイトル通りです。


「この国どうなってやがんだァァァアアァァァァァアアアアアアッッッ!!!!

何が『異能解放軍』じゃブッ殺すぞミーハーキチ野蛮人どもォォォオオォォォォォォォォォォオオオオオッッッ!!!!

やってることまるっきり敵じゃねェかクソがァァァァァアアアアアアッッッ!!!!」

 

「爆豪先輩みたいな怒鳴り方だ…」

 

 

午前五時。

空が白みを帯びる時間帯に、緑谷くんの怒号が部屋の一部に響く。

緑谷くんが無言で設置した音声遮断バリアによって、声は外に響かないが、うるさいことには変わりない。

…緑谷くんの気遣いで、寝ているメンバーの耳に届いてないことも幸いした。

一通り叫びたいことを叫んだのか、彼は一呼吸おくと、僕たちに向き直った。

 

 

「相手は異能解放軍。10万近い勢力ですね。

プロヒーロー、政治家、報道会社、出版社、有名企業、その他大勢の一般市民サマ。

日本の街一つ乗っ取ってますねコレ」

「声帯どうなってんですか?」

 

 

あれだけ叫んだ後に、そんな普通に喋れるものなのか?

声がガラガラにならないのだろうか。

…にしても、異能解放軍とは、これまた懐かしい名前が出たものだ。

僕は生まれてなかったが、デストロとかいうほっそいオッサンが主軸となって、暴動起こしてたっていうのだけは覚えてる。

詳しいことは学んだが、忘れた。

そもそも、小学校の教師が犯罪史を善悪の区別もつかないガキに教えてどうする。

洗脳教育もいいところだ。

 

 

「ついなちゃんの虐待は洗脳教育の一環ですね。頻繁に逃げ出せる精神を保ってるということは、汚染されてないようです」

「…その洗脳教育、理由あんですか?」

 

 

東北さんが呆れ気味に問うと、緑谷くんも同じように、呆れ気味に返した。

 

 

「『追儺』の復活を目的とした活動だって」

「…………なんだそれ?」

 

 

馴染み薄い名前に、轟くんが首を傾げる。

追儺。個性社会になると同時に、風化していった祭典の一つ。

悪い存在に『鬼』という名前を与え、それを『神』という良き存在が排他する。

如何にも人間が考えそうな、シンプルな内容の催し。

 

 

だが、それも以前の話。

そういう「異形の者を払う儀式」は、個性が社会に浸透するに連れて、軒並み排斥。

理由なんて、もはや分かり切ってるだろう。

同じ理由で、宗教なんてほとんどが廃れた。

なんとか形を保ているのは、信者の多かった三大宗教くらいなものだ。

 

 

話が逸れた。

でも、そうなると妙だ。

 

 

「個性の使用を良しとする集団が、個性を否定するような催しを良しとしてるって、おかしくねーか?」

 

 

僕に変わって、爆豪くんが疑問を口にした。

実にその通りだ。破綻している。

個性の使用を禁じている法を撤廃したいのならば、そのメリットを見せるべきだ。

だというのに、今回のコレは無意味にも程があるのではないだろうか。

 

 

「催しとしての在り方を変えて、法の象徴たる皇室さえも取り込もうとしてる…とか?」

 

 

あかりさんが言うと、緑谷くんはうなだれるように頷いた。

 

 

「正解…。追儺自体を復活させるんじゃなくて、似たような儀式にすり替えるだけ…。

『神や人々が鬼の在り方を肯定して、共に歩んでく』…っていう安いハートフルストーリーに変えるんだって。

その実態はまぁ酷いモンだね。

脳医学とかそういう個性とか…とにかく諸々取り寄せて、軽い洗脳映像をその場で作り出す気満々。

そして、じわじわと『個性はいいんだ』って思考に変えてく…。

その基盤を担うのが、洗脳に誂え向きな個性を持ってるついなちゃん…」

 

「方向性真逆ですね」

 

 

僕でもわかるくらいストーリーの作りが甘いし、やり方が爆豪くんよりみみっちい。

この子たちであれば、躊躇いなく全国ネット乗っ取って洗脳電波垂れ流すんだろうなぁ。

まぁ、「人道に背くことはしない」って決めてるし、絶対にやらないが。

 

 

…そう考えると僕の教え子、総じて物騒すぎやしないか?

 

 

それはいいとして。伝統行事にその退廃的な洗脳を持ち込むのはどうなのだ?

個性社会になった影響で、追儺が廃れに廃れたからまだいいが、前世の時代であれば確実にキレる人間が出てくるぞ。

 

 

「個性の在り方を肯定すると同時に、『良くないもの』まで肯定してるっつーのは、この社会特有の皮肉…ってわけか」

 

 

…轟くんの言う通りだな。

本当、この世界は僕に退屈する暇を与えてくれない。

それ程までに良くないものが多いのと、教え子たちがそれを見つけて潰すことに全力を出し過ぎている。

 

 

「で、どォすんだ?その『異能解放軍』とやら、ブッ殺すか?」

「いや。今まで通り倒しても、しょっ引かれはしないと思う。

文章の端々にある癖からして、変にポジティブ思考だから反省もしない。

奴ら、証拠の処分だけは完璧だから、揉み消して被害者としてアピールするだろうね」

「捏造しても消される可能性がある…か」

 

 

…さっきから当事者と信頼関係を持ってる麗日さんが完全に置いてかれてる。

「えっ?えっ?……えっ?」と話が進むごとに、授業の途中まで寝てた学生みたいな反応をしてた。

…事情の説明面倒だなぁ。

 

 

「先生は例の通り、基本的に役に立たないので、麗日先輩への説明に回ってくださいね」

「…そこまでハッキリ言われると傷つきますね。事実ですが」

 

 

未来永劫、そういう方面で役に立つ気もないが。

 

そんなことを思いながら、僕は麗日さんへの説明を始めた。

終わる頃には、日は上りきっていた。

…僕が起こされた意味なかったのでは?

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

夢を見ていた。

私がそう自覚することは、頻繁だった。

死んだはずの母親が、自分を抱きしめてくれているのだ。

夢だと気づかないほど、私は現実が見えていないとは言わない。

 

 

私の母親は、女の私から見ても綺麗だと言えるほどに、容姿に恵まれた人だった。

性格もおおらかで、優しくて、厳しくて。

私は多分、母親をひどく神聖視していたに違いない…と思う。

今の今まで、私は個性を使ったことがないのだから。

 

 

「ええか?絶対に個性は使ったらあかんで。

…この個性は、使わんほうが幸せや」

 

 

母親に言われた、たった一度の言いつけを、私は今でも守っている。

私の個性。…正確には、私と母親の個性。

使えば修羅の如き力を得、見たものを畏怖させ、屈服させ、自身を崇拝させる個性。

お医者さんは、私たちの個性を「鬼神」と名付けたらしい。

 

父親は母親が生きていた頃はまともだった。

神社に婿入りした、普通の男性。

普通に働いて、普通に稼いで、普通に私たちを愛してくれた、何処にでもいるような、普通の優しいお父さん。

 

 

だけど、それは母親が死んでから変わってしまった。

 

 

母親が死んだ理由は、分からない。

いつものように家に帰ったら、凄惨な死体になって、部屋に転がってた。

思い出の部屋が、真っ赤に染まってた。

真っ赤な箱の中身みたいだ、と、間抜けな感想しか出てこなかった。

父親に聞いても、「知らなくていい」と聞かされ続けた。

 

 

「ついな!さっさと立て!

そんなことで、この間違った世界が変えられると思うなァ!!」

 

 

おかしくなった父親に耐えきれず、逃げ出したのは、母親が死んで3日後だった。

向かい側に住んでいた弓鶴の兄ちゃんに助けられて、警察に行った。

 

 

でも、私を助けてはくれなかった。

 

 

後で弓鶴の兄ちゃんに聞いたら、「揉み消された」と聞かされた。

世界が崩れたような気がした。

 

その日、家に帰ったら、父親が男の人と話していた。

何故かは分からなかった。

ただ、その男の人が、とてつもなく気持ち悪く思えた。

 

「リ・デストロ…。申し訳ありません、あの子はまだ我々の思想を理解せず…」

「いいですよ、そう焦らずとも。

彼女は我々にとって、大きな存在だ。

何年かかろうが、焦らず、ゆっくりと、その考え方を染み込ませればいい…。

この街の病院も、我々の傘下。あまりにも従わないのであれば、薬漬けにしてもいい。

そうそう。彼女、誕生日がもうすぐだったでしょう?これ、プレゼントに」

 

 

怖かった。

その日から、『練習』の日以外は、父が恐ろしいほど優しくなった。

夜も寝れないほどに怖かった。

逃げて、逃げて。必死で逃げた。

プレゼントは、全て本やビデオだった。

一度だけ、父親に強制的に見させられたことがある。

 

 

『解放』。『解放』。『解放』。

 

 

その言葉が、他の何よりも怖かった。

お茶子の姉ちゃんが優しく抱きしめてくれたから、弓鶴の兄ちゃんが、温かいご飯を作ってくれたから、私は正気を保てた。

世界そのものが敵に回っていることを知ったのは、これより少し後だった。

父が時折連れてくる大人たちは、『異能解放軍』と呼ばれる集団のリーダー格らしい。

 

 

綺麗な女の人が居た。

出版社のお偉いさんだと名乗った。

頭がおかしくなりそうな話ばかりしてきた。

 

サラサラな髪の男の人がいた。

IT会社のお偉いさんだと名乗った。

私のことを馬鹿にしながら、頭をぐちゃぐちゃにかき混ぜるような話をしてきた。

 

テレビでよく見る政治家さんも居た。

大きな声でハキハキと、心を釘で固定するような話をされた。

 

 

今日は、あの細い男の人が来る予定だった。

 

 

だから、私は練習の途中で、全力で逃げ出した。

今までの鬱憤を吐き出すように、罵詈雑言と一緒に。

 

 

家に帰りたい、とは思わない。

帰れば必ず、あの細い男が笑っているから。

だけど、帰らなければ、弓鶴の兄ちゃんにどんな迷惑が降りかかるかわからない。

相手は、法すらも味方につけている存在。

ただの小学生が立ち向かうには、強大すぎる存在。

 

 

夢ですらも、変わりようのない現実を見せてくる。

逃げ場などどこにもないのに、私は夢から逃げ出した。




出久くんはあまりの驚愕と怒りにかっちゃんみたいな怒り方をしてしまいました。


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僕たちの宣戦布告

サブタイトル通りです。


「いや、日本崩壊待った無しちゃうん!?」

 

 

説明を終え、全ての事情…多分ちょっとくらいしか理解してない…を知った麗日さんが、素っ頓狂な声をあげる。

告げられた作戦は、下手すれば日本という国の信用が地に落ちるものだった。

…いや、下手しなくても落ちるんだが。

 

 

「芯まで腐りかけてる時点で、いつかは崩壊する。敵性国家って言われないだけマシだ」

 

 

轟くんが麗日さんに言い聞かせるも、彼女はあまり乗り気ではないようだ。

…まぁ、自分たちが国の信用を地に落とすって言われたら、躊躇うのも無理はない。

だが、ここで放置すれば、事態はより深刻になっていくだろう。

 

ここでの『敵性国家』は、意味合いが違う。

 

世界に害を振りまくような思想が、国中に蔓延した国家の総称である。

現在、50近い国がこの『敵性国家』にカウントされており、世界に牙を剥いている。

この一つにカウントされるということは、『国が丸ごとヴィランである』と宣告されるようなものだ。

どんな国であろうが、絶対に避けなければならない事態である。

 

 

「せやけど…。ううう……」

「良くも悪くも、平和の象徴がいるからな。

日本は平和ボケにボケを重ねまくってる。

『この国に敵が癒着してる』…なーんて、一昔前の子供でも考えそうなことすら考えねェだろうよ。

能天気でいて無能でいて無駄に腰の重いアホ政府なら尚更だ」

 

 

以前はオールマイトを理想像として絶対視してたのに、緑谷くんも爆豪くんも、今や一人のヒーローとして見ている。

子供たちはこうやって成長していくのか。

いけない。三十路になるとどうしても涙腺が脆くなる。

 

 

「とにかく。国に問題があることを、一般市民である僕たちがどう知らせるかが重要になってくる」

 

 

ーーーーーーということで、世界中のネットをちょっとの間だけ乗っ取ります。

 

 

…どうしよう。

『テロ起こします』にしか聞こえない。

やってることがもう完全に、悪の秘密結社みたいなことになってる。

僕がそんなことを思っていると、緑谷くんが続けた。

 

 

「世界レベルでそんな大痴態の証拠を晒せば、いやでも排除する。

敵に癒着されかけてる時点で、敵性国家予備軍入ってるし」

「基本的に他国に頼りに頼りまくってるお国サマだァ。そのレッテルを貼られるのだけは勘弁だろォな」

 

 

その末路を知らないほど、日本の政府はバカで揃ってるとは考えにくい。

皮肉なものだ。

オールマイトという絶対的な正義の膝下で、隠れて悪が育っていたなどと、笑い話にもならないだろう。

 

…そもそも、異能解放戦線などという本の出版を検閲しなかったのが悪いだろ。

癒着されてるから仕方ないのかもしれないが、古本屋で普通に犯罪思想本を見かけるってどういうことだ。

あの本、デストロだかネギトロだかが被害者ヅラしてつらつらと「皆好き勝手していいんだ!」って言ってるだけだぞ。

ミーハーやら十代やらが影響されやすいような言葉を選んではいたが。

 

 

「証拠を垂れ流すにしても、日本政府の腰は想像の500倍は重いですよ?

対処されない可能性が高い。

どうやってケツ蹴り上げるんですか?」

 

「おかしなこと言いますね。別に、日本政府を動かす必要はないですよ?」

 

ーーーーーー敵って認めさせればいいだけですから。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「ついなちゃん、おはよう。

ゆっくり寝れ…るわけないか」

 

 

寝ぼけ眼を擦りながら、ついなちゃんが用意された席に着く。

不眠症…というべきか。

刻み込まれたトラウマのせいで、彼女がぐっすり寝たのを、僕は見たことがない。

今日も、彼女は僕の部屋にある布団で、ひどくうなされていた。

ついなちゃんは朝食を前に手を合わせ、小さく「いただきます」と呟く。

と。違和感を感じたのか、きょろきょろとあたりを見渡した。

 

 

「お茶子の姉ちゃん、今日は仕事ないん?」

「今日は最終日だから、お休みだよ」

 

 

どこで寝たのかはわからないが、夜中に叱ったあの子たちの部屋に行っているんだろう。

同じヒーロー志望だ。

悩みを共有したりもしているのだろうか。

そんなことを考えながら、僕はなんとなく、テレビをつけた。

 

 

『世界の人々よ。皆の時間を奪うことを、心より詫びる』

 

 

テレビには、世間を騒がせるヴィジランテが映し出されていた。

チャンネルを変えようが、テレビの画面は変わることなく、そのヴィジランテを映し出す。

 

 

『我は貴殿らが「SAVER」と呼ぶ存在。

今日は訳あって、このような形で貴殿らの前に姿を現した』

 

 

ヴィジランテ…SAVERは言うと、画面にある表を映し出す。

 

 

『嘆かわしいことに、日本という平和の象徴が守る国に、悪の芽が根付いていることがわかった。

彼らは「異能解放軍」と名乗り、日本の中枢たる政府にまでその勢力を侵食させている』

 

 

異能解放軍。

ついなちゃんを長い間苦しめてきた、すべての元凶。

その勢力が日本を侵食していることを、彼はアッサリと言い放った。

 

 

『隠そうとしても無駄だ。

この放送は現在、世界各地にて配信中だ。

貴様らが散々揉み消した罪。

貴様らのせいで狂わされた人生。

貴様らの身勝手で流れた血と涙の数々…。

その全てを今、ここで我が白日の下に晒す』

 

 

そこからは、ダイジェスト方式だった。

延々と、吐き気のする内容の映像やら文章やらが流れる。

そんな中、僕はただ、呆然とそれを眺めていた。

 

 

『これはほんの一部だ。

貴様らの犯してきた罪のデータは、全てが世界中のコンピュータ内に保存されている。

今更もみ消せると思うなよ…?』

 

 

映像を遮ったSAVERの瞳が、強く煌めく。

あまりの出来事に放心してるのか、ついなちゃんの手から、箸が落ちた。

 

 

『今回、すぐにヤツらを倒さなかったのには訳がある。

この悪行の数々…。我としては看過できぬ事態だ。許せない、悪を砕かねば。

そう思い、この拳が何度震えたことか…』

 

 

仰々しく語る彼の拳が震える。

本来ならば仕事をこなさなければいけないはずの僕の体は、完全にフリーズしていた。

ついなちゃんの苦しみは、痛みは、よく知っていた。

ここいらの病院や警察に、異能解放軍の息がかかっていることも。

彼女を縛っていた鎖がすべて、千切れていくのを感じた。

 

 

『だが。敵と認知されていないものを打倒し、敵と呼ばれるのも腹立たしい。

…つまり、何が言いたいのかというと』

 

 

ーーーーーー我は、正義を為す大義名分を得るために、この放送を計画した。

 

 

ついなちゃんが崩れ落ちるように、脱力する。

彼女は無表情のまま、ぼろぼろと涙を流していた。

 

 

『我の拳が、悪を砕く。

もう嘆くことはない。もう枕を濡らす必要はない!もう理不尽に怒り、咽び、叫ぶ必要は、ない!!』

 

 

瞬間。SAVERの背後にあった映像…正確にはプロジェクターだったのだろう…が燃え盛り、奥にいた人物たちが姿を表す。

人間というには無骨でいて、無機質なシルエット。

その瞳がずらりと並ぶと、SAVERが声を張り上げた。

 

 

『我々こそが、ヒーローだ!!!』




次回から戦闘回です。異能解放軍…果てはフィクサーさん対一等星を書きます。お楽しみに。


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麗日お茶子、現実を知る

サブタイトル通りです。


「やぁ。お買い上げどうも。

早速使いどころ来ちゃったね」

「……っ、フィクサー………!!」

 

 

かつん。

革靴が床を叩く音が響く。

『敵性都市』愛知県泥花市に聳え立つタワーにて、異能解放軍最高指導者たる『四ツ橋力也』が、苦虫を噛み潰したような顔を見せた。

 

 

「おぉ、怖っ。メンタルコントロール出来るんじゃなかったっけ?」

「君はもう少し利口だと思ったよ…。

こんな状況で上手く出来るわけがないだろう…?」

 

 

歪に膨れ上がる四ツ橋…リ・デストロに、フィクサーはケラケラと笑い声を上げる。

異能解放軍において、フィクサーは恐怖の象徴と言えた。

 

 

世界に数える程度だけ存在する『異能を持たぬ異能者』。

抑圧された環境に抗った結果生まれた、『歪な人間の進化』。

 

 

判明しているのは、ほんの四人。

 

 

世界を翻弄し、卓越した脱獄技術と電子工学技術を持つ『脱獄者』…琴葉茜。

十年で十を超える敵性国家を、一人残らず殺し尽くした戦場の英雄…『殺戮者』。

その格闘技術で、ネームドヴィラン数百人を、たったの3日で倒した『格闘王』。

そして、あらゆる技術を極め、世界に君臨した『絶対悪』…フィクサー。

 

 

異能解放軍は、彼らのことを『ノーギフト』と呼び、恐怖の象徴として恐れた。

その最たる例であるフィクサーは、手に持った注射器を遊ばせる。

 

 

「いやぁ、遅れてごめんよ。

マイケルくん、ポカやらかしてさ。

あまりにも腹が立って、『分解』してきちゃったんだよね。

数は一つで良かったよね?間違って追加分も持ってきちゃったけど!」

「貴様っ…!!こうなることがわかって、我々の人数分用意したのだな……!!」

 

 

フィクサーの背後には、夥しい数の注射器が転がっていた。

その数、ざっと十万。

ちょうど、異能解放軍の人数に当てはまる数が、床に乱雑にばら撒かれていたのだ。

どう考えても、異能解放軍の悪事が日の下に晒されることが分かっていたとしか考えられないタイミングだ。

四ツ橋が彼につかみかかるも、その手は虚しく空を切る。

 

 

「えーっと…ブリトロだっけ?」

「デストロだァ!!!」

「そうそう。あのほっそいオッサンといい、なぁんで個性に脳みそ喰われたヤツは、揃ってこうも単細胞なんだよ」

 

 

フィクサーは馬鹿にするように言うと、襲いかかる四ツ橋の手を軽く弾く。

四ツ橋としては、本気で殺す気で放った拳。

彼はそれを、ただ指で弾いただけで軌道を逸らした。

 

 

「君たちの持つ『異能』は、SAVER相手には役に立たないんだから。

その君たちに『異能を超える異能』…いや、『神の力』を与えようって言ってのに、つれないねぇ」

 

 

フィクサーが肩を竦めると、四ツ橋はさらに怒り狂った。

 

 

「異能は生まれもってこそだ!!

人に与えられた異能など要らん!!!」

「の割には、ひとつ買ってるじゃないか」

「それはヤツが独断で買ったものだろう!!」

 

 

四ツ橋は言うと、これ見よがしに注射器のいくつかを破壊した。

その光景を見て、フィクサーは仮面の奥にある目を細める。

 

ここで、これから起きる現象についての前知識をおさらいをしておく。

注射器に入ってるのは言わずもがな、人工個性である。

人工個性は細胞単位で自立しているが、そこまで優れた知能を有していない。

また、細胞を食いつぶし、人間を液状化するほどまで食い尽くす習性がある。

 

 

ここで二つ、新たな知識を出そう。

ひとつ。人工個性は、空気中では短い時間しか生息できない。

二つ。空気中にでた瞬間、最も乗っ取りやすい生命体を狙う。

 

 

人工個性が選んだのは、フィクサーだった。

赤の流動体が、フィクサーへと向かう。

が。フィクサーはそれに対して一歩も動かず、ただ睨みつけた。

 

 

「あ?」

 

 

びたっ。

赤の流動体が止まる。

なんてことはない。

彼の発した声の周波数が、人工個性が恐怖を覚えるものだっただけである。

 

 

「売り物が勝手するなよ」

 

 

フィクサーが瞬時に割れた注射器を戻すと、赤の流動体を全てその中へと入れる。

何をしたのか、四ツ橋には見えなかった。

ただ分かることと言えば、目の前の光景が異常だと言うことだけ。

彼はその仮面の奥にある瞳で、四ツ橋を覗き込んだ。

そこにあるのは、光と闇をそのままぐちゃぐちゃに混ぜたような、怪しい光だった。

 

 

「さっさと決めてよ。

あんな小物じゃなくて、君みたいに個性因子のことを理解している人間が使ったところが『見たい』んだ。

データを取りたいとかじゃなくて、純粋な好奇心って意味で」

 

 

分かりやすく要約すると、『気になるから使って死ね』である。

倫理観の抜け落ちた願いと、人間味のない笑顔が、四ツ橋の持つ恐怖を掻き立てる。

 

 

「選択権を与えてるのは、君が特別だからだよ。なにも、君が使う必要はないんだ。

あの…なんて言ったっけ?出版社の…」

「……キュリオス」

 

 

キュリオス。

本名『気月置歳』。出版社『集瑛社』の専務であり、インタビュワーの経歴を持つ女性。

恵まれた容姿、築き上げた地位。

そのどれをとっても一級品と呼べる存在。

異能解放軍の中でも、幹部として相応しい力を有している。

 

彼女が一体どうしたのだ。

まさか、彼女に誇りを捨てろと言うのか。

四ツ橋は怒りのあまり、全身をドス黒く染め、その体を膨れ上がらせた。

 

 

「そうそう解放コードだっけ?『好奇心』!

似合ってるねぇ、マスゴミに相応しいレッテルじゃないか!

…話逸れた。彼女ねぇ、後数年で死ぬよ」

 

 

フィクサーは『物が壊れる』と告げるように、あっけらかんと告げた。

 

 

「空から落っこちて、ぐしゃっ!…だったっけ?ああ、薄すぎてもう覚えてないや。

とにかくまぁ酷い死に方するんだよ!

どうせ死んじゃうなら、今ここで有効活用してやろうっていう僕の親切心!

びっくりだよ!僕にそんな余計なものがくっついてたなんて!」

 

 

四ツ橋は放心しながら、フィクサーの並べる言葉を聞いていた。

一瞬にして散乱した注射器を回収すると、フィクサーはタワーの窓ガラスを割った。

 

 

「ああ、そうだそうだ!そうだった!

うっかりしてたよ!感情のままに生きてると、効率悪い動きしか出来ないなぁ…。

ま、そっちの方がいいか。善…ああ、いや、『悪は急げ』だね。

じゃ、キュリオスさんにコレ『全部ぶっ刺してくる』から、あとはお好きにー」

 

 

フィクサーは言うと、割れた窓から飛び降りた。

残された四ツ橋は、街へと消えていくフィクサーを見下ろし、舌打ちした。

 

 

「…悪魔め……!!」

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

旅館にて。

最早なりふり構ってられないのか、異能解放軍の一部がついなちゃんを狙って暴動を起こしていた。

どうやら、異能解放軍全体で重要なプロジェクトであったらしい。

その要となる『他者を煽動できる個性』を持つついなちゃんを狙うのは、当然の帰結か。

 

 

「…プロヒーローと警察が、なんとか食い止めてる状況ですね」

 

いまだ遠くに居る暴動の波を見つめ、状況を伝える。

緑谷くん、爆豪くん、轟くんは、既に異能解放軍の温床である「愛知県泥花市」へと向かった。

全員がそちらに逃げていると踏んで向かわせたが、どうやら見通しが甘かったようだ。

巧妙なのはトップだけで、他はミーハーなアホと一般人の集まりだったのだろう。

 

 

「…あの人…。去年一緒に出演した人だ」

 

 

音街さんがぽつり、と呟く。

東北さんが「どれですか?」と問うと、一人のプロヒーローを指差した。

 

 

「…ヒーローになって、テレビにも出て、人気者だったのに…。

何が不満だったんだろう…」

 

 

彼女はこの歳で、プロヒーロー蔓延る芸能社会を勝ち抜いてきた猛者だ。

彼女…アイドル『音街ウナ』にとって、ヒーローは液晶を隔てた存在ではない。

仕事を奪い合うライバルであり、仕事を共にする仲間だ。

その中の一人が、こんな暴挙に参加してることに、思うところがあるのだろう。

 

 

「立派な人だった。活動は地道だけど、パトロールをサボったりしないで、事件が起きた時も、対処が早かったり…」

「どれだけ立派でも、裏が腐りきってたらこうなります。

…ウナちゃんは、腐らないでくださいよ」

「大丈夫だよ。

未来のトップヒーローに見合うようなトップアイドルになるって、決めてるんだから!」

 

 

…爆豪くんに似て、強かな子だ。

自ら茨の道を進もうとするあたり、余計に。

それにしても、大阪のプロヒーローは仕事が早い。

比較的若手のファットガムや防壁系の個性を持つプロヒーローが、防壁として働いているのだろう。

旅館に近づこうとする者こそ居れど、隙間から通り抜ける人間は居なかった。

 

 

「本当なら逃げたいとこですけど…。

緑谷先輩の作った『アレ』は、完成はしたけど、まだ組み立て終わってないし…。

座標転移システムも、緑谷先輩の精密な計算が無きゃ無理だし…」

「陸路なら逃げても無駄ですね。

完全に囲まれてますし、発明品の利用も控えた方がいいでしょう」

 

 

僕がいうと、ミコトちゃんは「籠城?」と問うた。

消去法で言えば、それぐらいしかない。

発明品を使えば何とかなるが、それが世に出れば、個性社会は崩壊する。

日本だけで言えば、もう崩壊してるようなものだが。

だが、世界情勢からしたら、そうも言ってられない。

緑谷くんの発明品を狙って戦争…とはいかないものの、争い事になることは確実だ。

 

 

「…一つ最悪なお知らせがあります」

 

 

これからどうするかを思案していると、東北さんが青い顔して告げた。

最悪なお知らせと言うからには、僕たちの選択肢が減る類の情報だろうか。

ヒメちゃんが恐る恐る、東北さんに問いかける。

 

 

「きりちゃん。最悪なお知らせって…?」

「…バリア張る衛星がありまして。

私のはチューニング中なので、使えません。

今使えるのは、緑谷先輩が持って行っちゃったやつだけです。

緑谷先輩はコレを知りません…ってか、知らせてません」

「……つまり?」

「バリアでの籠城は不可能です」

 

 

…一番安全なものが使えなくなったわけか。

いざとなれば、「無個性だけど個性が出た!やった!」的なノリで乗り切れる唯一のパターンが消え失せた。

 

 

「手っ取り早く、私が倒せば済む話じゃないですか?」

「そうもいかないんじゃないですか?

私とあかりさんって、世間的には敵ですよ?

あの場に現れたら大混乱まったなしですよ」

 

 

あかりさんが立ち上がろうとするも、セイカさんが制止する。

どうやら、戦況を見る目だけは育ったようだ。

かなりのポンコツに諭された本人はと言うと、露骨に嫌そうな顔をしていた。

 

 

「…………ポンコツに指摘された。屈辱です」

「そんな嫌ですか!?」

 

 

…まぁ、嫌だろうなぁ。

それにしても、困った。取れる手段が本格的に無くなってきた。

 

 

「……あのー。言いにくいんだけどさ」

 

 

と。ここでミコトちゃんがおずおずと手をあげた。

 

 

「前々から『言おう』、『言おう』って思ってたんだけど…。

 

 

ボクたち、別に万年開花が近くにないと個性を使えないってわけじゃないよ?

 

 

寧ろ、あかりさんよりもレパートリーは豊富だと思う」

 

 

 

………はい?

 

目が点になる僕たちに、ヒメちゃん。

いや、なんで君まで驚いてんの?

 

 

 

「なんでヒメちゃんまで驚いてんですか?」

「ずば抜けたアホだから自覚してなかっただけだよ」

「酷い!!」

 

 

東北さんのツッコミに、ミコトちゃんが呆れ気味に答える。

自分のできることを自覚してないって、確かに重症だ。

…まぁ、彼女らの場合、出来ることが多すぎて自覚できないと言う方が正しいのかもしれない。

 

 

「簡単にだけど、バリアを張るよ。

せんせーは、あとで個性届けに出しといて。

『突然変異的なアレで出た』ってデタラメ情報の登録、よろしく」

「……わかりました」

 

 

ミコトちゃんはヒメちゃんの手を握ると、目を瞑る。

瞬間。何処からか梅の花弁が飛んできて、防壁を作った。

 

 

「よしっ。出来るだけ頑丈に作ったから、後は籠城するだけだよ。

外の様子は、衛星カメラで見てほしいな。

…流石に、あかりさん並みのバカみたいな火力だと吹っ飛ぶけど」

「相手が人工個性を持ち出さないことを祈るばかりですね…」

 

 

前回のことで理解しているが、人工個性は既存の個性の数倍はデタラメだ。

あかりさん並みの火力も、慣れれば普通に出せることだろう。

後は祈るだけ…か。

 

 

「ちゃっちゃとブッ飛ばして、戻ってきてくれることを祈りましょうか」

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「…なんで」

 

 

私には分からなかった。

目の前に繰り広げられる、おぞましい光景のこと…ではなく。

理想を壊されても、全く動じなかった彼らの姿が、理解できなかった。

 

 

ーーーーーープロヒーローもいますね。…なーんでこんなことに加担してんだか…。

 

 

ボサボサの髪にそばかすがある…デクくんだったっけか。

彼はヒーローに憧れていると言った。

確かに、彼の持ち物の殆どはオールマイト関連のグッズだった。

記憶が正しければ、くじで当てるようなレアアイテムも多くあった。

 

他のヒーローのことも、聞けばスラスラと教えてくれた。

私の好きな13号の活動歴、その成り立ちから信条まで全て。

 

だというのに。プロヒーローという夢を壊された彼は、これっぽっちも動じてなかった。

 

 

「…なんで……」

 

 

爆豪くんも同じだった。

彼は「オールマイトを超える。これだけは曲げねェ」と豪語する人だった。

ただ夢を語るだけじゃない。

その道の険しさを、その道を歩む上での苦しみさえも受け止めた、強い瞳だった。

彼もまた、理想を壊された子だったはずなのに。

 

 

ーーーーーー職業である以上は、こーゆーヤツは出てくる。社会の膿ってヤツだ。

 

 

彼は、全く失望を見せなかった。

最初から期待していなかったように。

 

 

「……なんで」

 

 

轟くんという子も、同じだった。

二人のような情熱は見せないけれど、彼は「優しいヒーローになる」という目標を持っていた。

どれだけ優しさを持っていても、汚れたヒーローが居るって、現実を突きつけられたはずなのに。

 

 

ーーーーーー何が不満なんだか。こういうことをするメリットなんざねーはずだろ。

 

 

それでも、膝をつかなかった。

その目は、どこまでも、目の前だけを映していた。

 

 

「……ウチと、どこが違うんやろ…」

 

 

ヒーローを目指してるのは同じなのに。

どうしてなのだろうか。

彼らがこの光景に挫けないのは。

どうしようもなく残酷でいて、容赦のない現実を受け止めているのは。

そんな、どうしようもない現実を変えようと争うのは。

 

 

「……ついなちゃん。ウチは……」

 

 

私には分からなかった。

彼らが眩しく見える理由も、自分がここから動けない理由も。

ついなちゃんを助けたい。

その気持ちは同じはずなのに。

どうして、私には力が無いのだろう。

 

 

 

私は、これ以上この景色を、見ていられなかった。




憧れのプロヒーローが敵に加担してたって、相当ショックじゃないですかね?


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轟「人ってすげェな」

サブタイトル通りです。


「うわっ…。マジで十万居るよ」

 

 

かっちゃんたちが体をほぐす傍、僕は衛星で撮った映像を見て辟易した。

細かい数までいちいち覚えちゃ居ないが、たしかに十万はくだらない。

これだけの人間が敵…。

軽犯罪どころか、殺人等の重犯罪も平気で犯すようなのが、だ。

よくもまあ、バレずにここまで勢力を伸ばしたものだ。

日本政府のザルさを嘆けばいいのか、それとも死後も尚、影響を与えるデストロのカリスマ性に感心すればいいのか…。

 

 

「…中には子供もいるな。俺たちとそう差がねェヤツ、ヒメとミコトと同じくれェの歳のヤツ、幼稚園に通ってるくれェのヤツ…。

漏れなく全員、目がヤベェ。

ウォーミングアップで出してる個性からして、危険な個性が多いな」

 

 

轟くんが言うように、映像には確かに子供も映っていた。

しかも、揃いも揃って目が血走ってる。

…洗脳教育に汚染された子供かぁ。

相手するには気が引けるが、相手にとってはお構いなしだろう。

治療する暇も与えてくれないだろうし、無力化に気を使う。

気絶させる音波やらは開発中だし。

 

 

「情に訴えかける作戦…ってトコかァ?

最前列、ガキかジジババしかいねェ。

個性縛っても、かなりキツイぞ」

 

 

かっちゃんは胸糞悪ィ、と付け足すと、調子を確認するように、指先を小さく爆破させた。

超圧縮した爆破を、指先から放つ技。

かっちゃんは飛んだ爆炎を見上げ、満足そうに笑みを浮かべる。

煙が立ち昇る指をガンマン風にふっ、と息を吹きかけた。

 

 

「下手すりゃ、これだけでお陀仏だぞ?」

「出来る様になったからってカッコつけんな気持ち悪ィ」

「ンだと半分野郎ォ!!」

「怒鳴らないでよ。バレたらどうすんの?」

 

 

とても戦闘前とは思えない緊張感だ。

…まぁ、相手は「生まれ持っての個性」に拘った人間たち。

人工個性を持ち出してくる危険性もないから、無理もないか。

そんなことを思っていると、パソコンの画面に通知が映る。

その通知の内容を確認すると共に、僕は笑みを浮かべた。

 

 

「二人とも出る準備しといて」

「子供と老人の対策は?」

「大丈夫。ジョセフ・ジョースターも言ってたでしょ?

『戦いは始まる前から既に結果が決まってる』…ってね」

 

 

僕は言うと、通知情報欄に表示された『OK!』にカーソルを合わせ、クリックする。

 

 

瞬間。子供と老人だけが一瞬にして消え失せた。

 

 

「よしっ。残りは容赦しなくてもオッケーな人たちばかりだ」

 

「「待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て何した今ァアッッッ!?!?」」

 

 

素っ頓狂な声をあげ、パソコンを仕舞う僕にツッコミを入れる二人。

説明もなく人が急に消えたら、そんな反応にもなるか。

僕は仕舞いかけたパソコンを開き、ある映像を映し出す。

そこには、殺風景な部屋に閉じ込められ、すぅすぅと寝息を立てる子供と老人の姿があった。

 

 

「座標指定型転移システム使って、特製のメイデンに閉じ込めただけだよ。

無害どころか健康的な成分がたっぷり詰まった催眠ガスのおまけつき。

ガス作るのに時間かかるし、そんなに広くないし、まだ数も作ってないから、子供と老人だけでぎゅうぎゅう詰めだけど」

 

 

言うと、かっちゃんたちは呆れた顔を見せた。

ハッキリ言うと、こう言う戦闘に於いては、催眠ガスをばら撒いて拘束しようと思っていたのだ。

だが、この街を覆い尽くす催眠ガスを作るのに、軽く二年はかかる。

僕の腕の問題ではなく、ガスが出来るまでの期間が長すぎるのだ。

 

メイデンを作るのにはコストがかかるし、そもそも置いておく場所がない。

今は『アレ』の中にあるからまだいいが、苦労して作った『アレ』が、監獄だらけになるのは避けたい。

 

 

「…なんか、もう慣れたわ」

「人ってすげェな。理解不能な現実も二ヶ月で慣れるんだな」

 

 

すごく失礼なことを言われた。

かっちゃんたちの個性も、僕からしたら十分デタラメなんだけど…。

そんなことを思いながら、僕はフォーマルハウトを身に纏う。

 

 

「そういう感想は後で言ってよ。

さっさと何処やるか決めよう」

 

 

僕が問うと共に、二人がスーツを纏う。

ウォーミングアップは終わったようだ。

相手もパニックになってるし、ちょうど良いタイミングだ。

 

 

「えーっと…、こっちから左は俺な。

データで見た『外典』ってのが見えた」

 

 

轟くんは言うと、僕たちから見て左側へと向かう。

飛び上がった勢いで、アスファルトが捲れて民家に激突した。

犯罪都市って分かったから容赦ないなぁ…。

…そんなとこの民家だからか、崩れた壁の奥に危険物がかなり見えた。

…本当、どうなってんだこの国。

目に見える被害だけ調べてたから、こう言う隠蔽された犯罪は頭から抜け落ちてた。

 

 

「右っ側。妙に数が多い。

『キュリオス』と『トランペット』が指揮してンだろォな」

 

 

かっちゃんは言うと、掌を爆破させ、ロケットのように飛び上がった。

遠慮する必要がないって分かった途端、だいぶ容赦なかったな。

アスファルトがハゲたぞ。

 

 

「じゃ、僕は…『スケプティック』と『リ・デストロ』の居るだろう真ん中…って、僕の方も人数多いじゃん…」

 

 

うまく加減できるかなぁ、と呟きながら、僕は駆け出した。

 

 

このとき、僕らは集団行動をしていた方が良かったのかも知れない。

…いや。多分、この時点ではもう遅かったんだろう。

僕たちはとっくの昔に、『絶対悪』に目をつけられていたのだから。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「…結構いますね」

「ついなちゃんの個性って、そんな強力なモンなんですかね?」

 

 

僕は映像に広がる光景に、口元をひくつかせた。

警察とプロヒーローが、一般市民とプロヒーローと殴り合う光景。

ミコトちゃんが作り出したバリアが無ければ、旅館はあっという間に瓦礫と山と化してただろう。

伊織さんはというと、僕たちが事情を説明して、旅館に泊まっている人たちを集めている途中だ。

ついなちゃんと麗日さんは、僕らの膝下が安全だろうということで、僕たちの部屋に居る。

二人とも部屋の隅で蹲ってる状態だ。

 

 

「クロスカウンター決まった!距離をとってぇ…、な、なんとっ!!

丸々したファットガムのドロップキックが、異能解放軍のプロヒーロー、えーっと、名前なんだっけ?!とにかくなんか変なやつのの顎に決まったアア!!!」

「きりちゃん、楽しんでない…?」

「ヤケクソです。ウナちゃんはBGMお願いしまぁだぁっ!?」

 

 

小学生一人が汚い現実に耐えきれず、ヤケを起こしてる。

何処からか取り出したカラオケセットを音街さんに差し出すクソガキに、音街さんのツッコミが炸裂した。

 

 

「そこのヤケ起こしてる小学生はさておき…麗日さん」

「な、なんですか…?」

 

 

窓から離れ、彼女に声をかける。

麗日さんの体は、小さく震えている。

こういう争い事に慣れていないのだろう。

普通ならば、安心させるような言葉をかけるのが大人だ。

 

 

だが。僕は麗日さんの顔を覗き込んで、こう告げた。

 

 

「映像を見なさい」

「……っ、や、嫌や…っ」

 

 

僕の言葉の意味を理解し、拒絶を顔に浮かべる麗日さん。

確かに、旅館の前で繰り広げられる光景は、子供にとっては酷な光景だろう。

しかし、ヒーローを目指すのであれば、知らなければいけない現実であることも事実だ。

後で現実を知って後悔させるくらいなら、先に現実を見せて恐れさせる道を選ぶ。

 

 

「ヒーローがどういう仕事で、どういう人間を相手にするか。

ぼんやりとではなく、きちんと知った上で目指すかどうか決めなさい」

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「…ぶっ飛んだお客様案内しちゃったなぁ」

 

 

お客様を全員、頑丈にできた一室へと移動できた。

一室と言ってもキッチンなのだが、ほぼ木造の旅館の中で頑丈な場所といえば、あそこくらいなものだ。

…こんなことなら、リフォームを頼んでおくんだった。

 

 

「…ヒーロー」

 

 

あの子たちは、プロヒーローと呼ばれる人間たちとは違った。

どこまでも現実を見ていて、どこまでも理想を描いていた。

…僕は、現実を見過ぎて、この職業に落ち着いた。

 

小さい頃は、プロヒーローに憧れた。

それはそれはもう、テンプレを踏みに踏み抜いた憧れ方だった。

誰かの人生のコピペみたいな憧れ方だった。

 

そんな憧れなど、無個性という現実に木っ端微塵に打ち砕かれた。

 

後は絵に描いたような転落…はしてないか。

とにかくまぁ、なんの捻りもないような、普通の人生だった。

祖母の切り盛りしていた旅館の跡を継ぐという形で、職を手に入れた僕は、今の今まで目の前の現実ばかり見てきた。

 

ついなちゃんと出会ったのは、本当にたまたまだった。

彼女の境遇を知るほどに、義憤に駆られた。

助けようと思ったのも、多分、あの日の憧れが薄れながらも僕の中に燻っていたから。

 

 

ーーーーーー証拠がない。これが現実です。

 

 

だけど。憧れは、再び現実にかき消された。

歪められど、それは現実なんだ。

そのことを自覚した僕は、もう抗うことはしなかった。

 

 

ーーーーーーウチ、ヒーローになりたい!

 

 

お茶子ちゃんの夢のことも聞いた。

彼女の個性…『無重力』は、ヒーローをやる上では強力なものだろう。

だけど、この子は現実に打ち勝てるんだろうか。

 

 

ーーーーーー…ウチじゃ、助けられんのやな…。

 

 

知っての通り、彼女は負けた。

現実という化け物は、僕たちが歯向かうには大きすぎて。

仕方がない。そう、下を向いて生きてきた。

 

 

今日。現実がひっくり返るまでは。

 

 

ーーーーーーというわけで!異能解放軍の悪事はさらしたので、ブッ飛ばして来まーす!

 

 

ひっくり返した本人は、旅館から妙なバイクで飛び立って行った。

まるで、彗星のように煌めきながら。

 

聞けば、僕と同じ無個性だった。

あの手は個性でもなんでもなく、科学で生み出したものなんだとか。

正直、嫉妬した。

彼のそれが、誰かの人生を何倍にも濃縮した苦労で成り立っているということは、小さな女の子が語ってくれた。

それだけ現実を見ながらも、本気で理想を目指せる人間に、僕は嫉妬していた。

 

 

「……あったあった」

 

 

そんな下らない考え事をしながら、僕は旅館、土地の権利書等を取り出す。

印鑑と通帳は既にリュックの中に入れた。

 

 

「旅館に被害が出る前に収まってほしいな」

 

 

本気で望んだ職場…というわけではなかったが、愛着がないわけではない。

むしろ、こういう「意外な出会い」を、僕は楽しんでいる。

…今回のは、ちょっと意外過ぎたけれど。

 

 

「……お茶子ちゃんに、影響を与えてくれるといい…かな?」

 

 

嫉妬はしている。

だけど、それ以上に。

現実も理想も見据えた彼らが、理想を見て、現実に打ちのめされたお茶子ちゃんを奮い立たせて欲しかった。

僕のように、無個性という恵まれない子供ではないのだから。

たった一度、現実に負けたことで挫けないで欲しかった。

 

 

「頑張れ、ヒーロー…ってね」

 

 

僕は、輝く星を見上げるように呟いた。




きりたんはあまりに汚い現実を見ると、ヤケクソになる癖があります。


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現実はいつだって理想を砕く

サブタイトル通りです。


『次ィ!!その腐った根性叩き直すからさっさとブッ殺されやがりなさい!!』

 

 

俺の拳が、『トランペット』の個性で強化された異能解放軍の連中の意識を刈り取る。

あのアホみてェに強い女にボコボコにされた甲斐があった。

デクとは別ベクトルでやべェ無個性。

 

 

ーーーーーー個性使ってもいいよー。ボコボコにするのに変わりはないからー。

 

 

間延びした喋り方からは、とても予想のつかない容赦ない拳。

吐いたし、あばらも何回かやった。

ナノマシンが無かったら、普通に5、6回は病院送りにされてる。

そのおかげか、スーツというサポート付きで相手を捌けていた。

 

 

「……っ、相手の動きを読む異能か…!?」

「異能が使えない…!?まさか、イレイザー・ヘッドと同じ異能をも…!?」

 

 

どれも不正解だ。

そう思いながら、何事か喚く奴らの顎を、軽く指で弾く。

スーツの機能と合わされば、これでも十分なくらいだ。

個性遮断プログラムも順調に作動しており、トランペットに身体能力を強化されただけの相手であれば、簡単に対処できた。

…トランペット自身はどっかに隠れてるのか、個性遮断プログラムの範囲外だったが。

 

 

「キュリオス様の異能なら…!!」

「つっこめ!我らが犠牲になることで、ヤツを倒すのだ!」

『やめろや』

 

 

キュリオスとやらの個性で、人間地雷と化した人間にかかった個性を解除し、気絶させる。

『個性遮断プログラム』と双璧を成す…らしい。詳しいことは知らん…『個性解除プログラム』のテストも兼ねていると聞いた。

相手は普通に自爆特攻かます命知らずだ。

自爆するタイミングは、キュリオス次第。

この機能がなければ、確実に死人が出来てただろう。

…これが、俺の超えなければならない人間が作ったもの。

俺が使ってる格闘術も、超えなければならない人間から教わったもの。

 

 

「ひるむなァ!!この数の差で負けるワケがないんだ!!

その身さえも犠牲にして、この腐った世界を変えろォ!!」

『腐ってんのはそっちです』

 

 

超えなければならない。

なら、超えるだけだ。

同じ分野ではない、ヒーローという分野でもない。

俺だけにしか出来ない『何か』を、極める。

襲いかかる個性を払い除け、キュリオスの個性がかかってるのか、がむしゃらに突っ込んでくるヤツらの腹に蹴りを入れる。

俺のカバー範囲が甘いのか、一部の人間が掴みかかってくるが、その手を掴んで武器として振るう。

 

 

「ぐぅ…!?」

「かかれ、かかれェ!必ず綻びがあるぞ!

我々はこんなところでつまづく存在ではないのだ!!」

『…つまづき方は、自分じゃ選べねェよ』

 

 

…キャラ付け忘れた。

かかってくるヤツを軽く弾き飛ばし、異形系のヤツの頭を引っ掴んでアスファルトに叩きつける。

常時発動型の異形系には、少し動きが鈍くなるくらいしか効果がないようだ。

敵の無力化を続けてるうちに、どうやらトランペットとやらの場所を突き止められたらしい。

変なマスクをしたスーツ男が、俺を一瞥すると共に喚き立てた。

 

 

「なぜ我らの理想がわからない!!

貴様らも力を好きに行使してる存在!!我々となんら変わりない存在!!

それが、なぜ我らの邪魔を…」

 

『ガキが泣いてた』

 

 

力を好き勝手に使ってる。

それに対しての反論はない。

俺もデクも轟も、許可なくヒーローとして活動している。

日本の法で言えば、俺たちも同じ犯罪者…同じ穴の狢だ。

それでも。泣いてるガキ一人を突き飛ばすようなヒーローにだけは、なりたくねェ。

助けたガキに、音街に、東北に誇れるようなトップヒーローになる。

そのためにも、この場に来ないという選択肢はなかった。

 

 

「………たった、それだけのことか?」

『だから、ブッ飛ばしに来た』

 

 

口ぱくぱくしてらァ。

金魚みたいだな、と思いながら、拳を握る。

相手は、直接的な戦闘を好まない。

異能解放軍の幹部たちは、リ・デストロ以外は他者が、果ては物体があって初めて成り立つ個性ばかり。

本人はそこまで強くない。

 

 

「っ、巫山戯るなァア!!!それだけのことで、我らの長年の計画を…」

『テメェらとお話するためじゃなくて、ふんじばるために来たんだ。

覚悟決めて歯ァ食いしばれや』

 

 

瞬間。トランペットのマスクを突き抜け、俺の拳がヤツの顔面をとらえた。

 

 

『もう二度と人前に出れねェな。

そのひっっでェ顔面じゃ』

 

 

鼻は折れ、歯が数本抜けたくらいだ。

この時代で言えば、比較的軽傷だろう。

刑務所病院で治してもらうといい。

 

 

「……っ、怯むな、怯むなァ!!

トランペット様は、身をもって我らに教えてくれたのだ!!奴の傲慢さを!!

ならば、我らはそれを罰しなければ…」

『自覚してる。あと、そこから降りろ』

 

 

自分らが上っていう考え方から降りろ。

前の自分を見てるようで、痛々しい。

屋根に乗ったヤツへと距離を詰め、胸ぐらを掴んで投げ飛ばす。

このままだと落下死間違いなしだろう。

なので、地面に体が叩きつけられる直前で受け止める。

 

 

『ようこそ。傲慢な人間の世界へ』

「は、ぐぅっ!?」

 

 

きょとんとしたところを、一撃。

全く。どいつもこいつも、昔の俺みたいなやつばかりだ。

轟あたりが「お前そっくりなやつばっかだったわ」と馬鹿にしてきそうだ。

 

 

「キュリオス様を守れェーー!!」

「トランペット様は諦めろ!!幹部が数人揃ってさえいればこの状況は立て直せる!!」

『大声で言うなよ』

 

 

アホ丸出しだ。

やはり、ミーハーとアホの集まりとクソ教師が馬鹿にするだけある。

中には個性を鍛えるばかりで、学校にすら通ってないヤツもいると聞いた。

そんなに集まってちゃ、「ここに居ますよ」って目印つけるようなものだ。

実際、スキャンでそっちにいるって出てる。

アホにアホ重ねてどうする。

 

 

『キュリオス様とやらはあっちか』

 

 

…RPGでもアクションでも、キレてコントローラー投げてる数だ。

十万の一部と思っても、やはり多い。

 

 

『ちゃっちゃとブッ飛ばして、大阪観光だ』

 

 

俺は小さく呟くと共に、地面を蹴った。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

『み…SAVERのヤツ、こんなとこまで飛ばしてくんなよ…』

 

 

びっくりした。

スケプティックとやらの個性で作った人形…本当はただの電波受信機…が、こんなところまで吹っ飛んできた。

心臓飛び出るかと思った。

思わず「ひゃっほう!?」って悲鳴出ちゃったぞ。

 

 

「す、スケプティック様の人形が…」

「怯むな!こちらには外典様が居る!

幼少期から鍛えた異能さえあれば…」

『学習したらどうでござるか?』

 

 

…なんで俺、侍口調にしろって言われたんだろうか。

いくら家が和風で、好みが和風料理だからって、もう少し何かあったろ。

確かに、一時期は夏兄がこっそり見せてくれた『るろうに剣心』に憧れたし、一通りマネしたが。

口調の違和感に耐えながら、襲いかかる敵の頭を揺らし、気絶させる。

 

 

ーーーーーー君はいろいろ甘いねぇ。肉弾戦でいえば、ダントツで弱いよぉ。個性が強い分、油断が多いんだねぇ。

 

 

……トラウマが甦った。

あの人も連れてこれば良かった気がするが、「今日は近所の子とスイパラいくから〜」と断られた。

日本の運命とスイパラを天秤にかけてスイパラが勝つってなんだ。

先生の周りは、あいも変わらず魔境だ。

 

 

「リ・デストロの邪魔をするな!!」

 

 

俺たちと、ちょっとしか変わらないくらいの歳の男だろうか。

その声が響くと共に、地面が隆起する。

…なるほど。水管に流れる水を凍らせて、操ったのか。

馬鹿正直にデータを残してくれたお陰で、相手が何をしたのかすぐにわかる。

声の発生源を見ると、氷でできた床に立ち、息を荒げる男が居た。

 

 

「もう少しだった…。もう少しで、世界は正しい形に変わったはずだったんだ!!

それをお前らのエゴで邪魔するなァ!!!」

『街一つを簡単にどうこうできる時点で、個性が人の手に余って危険だってことに、どうして気づかないんですかね?』

 

 

未来では危険な芽を摘むために、個性を人から切り離すのが普通だという。

実際に、個性で文明が終わりかけたこともあるらしい。

バカでもちょっと考えれば分かることに、どうして気づかないんだ。

 

 

「異能は人の権利だ!!人に扱いきれない!?違う!!権利に選ばれなかっただけのことだろう!!」

『学校にも行ってねェアホ丸出しのセリフ…でござるな』

 

 

あっぶね。素が出かけた。

緑谷はほぼ毎日、こんな慣れないキャラ作りやってるのか。

俺の罵倒にキレたのか、肌寒いくらいの時期にコートのフードを被ったアホ…もとい外典がふるふると震える。

 

 

「ブッッ……殺ォすッッッ!!」

『図星突かれてキレるあたりがアホなんだ…でござる』

 

 

隆起する氷が、龍の形を取って襲いかかる。

東北の持ってたレトロゲーム…ロクゼロのレヴィアタンみたいな攻撃だ。

あっちは水中だったが。

 

 

『捻りなさすぎだろ』

 

 

どっちにしろ、捻りはない。

操作の難しさはなんとなく分かるが、ただ突っ込ませるならただの氷塊で十分だ。

この程度なら、これで破壊できるだろう。

 

 

『ヘルズスキル…。ヘルズフィスト!!』

 

 

ただ殴るだけ。

ただし、スーツを着た全力だ。

隕石をも破壊する衝撃に耐えきれず、隆起した氷ごと龍が吹き飛ばされる。

角度を調節したため、雲がちょっと吹っ飛んだだけの被害で済んだ。

 

 

「「「………は?」」」

『良かった…でござるな。まだ加減がうまい拙者が相手で』

 

 

…緑谷が鎌倉山を叩き割った理由が、なんとなく分かった気がする。

確かに、コレは迂闊に本気になれない。

へたり込む外典に近づき、その胸ぐらを掴む。

力を追い求めた末路…ってヤツだろうか。

外典は果敢にも、再び氷の散弾銃を俺に浴びせた。

が。緑谷の作ったスーツがそんなことで傷付くはずもなく。

俺は顔を寄せ、外典を睨んだ。

 

 

「……、リ・デストロは言った!!この世界は間違ってる!!

だからこそ、力を持つ我々がこの世界をあるべき形に…」

『何様のつもりだお前』

 

 

前の爆豪といい、周りを見下して、自分が正しいっていう言い方が腹が立つ。

俺が正義とは言わないし、俺がやってることは犯罪だってこともわかってるが、言わせて欲しい。

 

 

『お前の正しさはお前のものだ。

俺はお前の正しさなんざ知らんし、世界はお前らの正しさなんざ見向きもしねェ。

同じように、俺の正しさも他のやつにとっちゃ「知ったこっちゃない」で片付けられる。

俺の正しさは、世界にとっちゃ「ヴィジランテ」っていう「間違い」って見られてる。

それは正しいことだ。本人である俺も、それは理解してる。

お前らの正しさも、世間じゃ「敵」って間違いって見られてるだろ』

 

 

襲いくる人間たちを捌きながら、懇切丁寧に説明する。

現実が見えてない…というよりは、『自分たちが歪める現実』だけを見つめている。

ならば、無理やり顔を掴んで、こっちに向かせるだけだ。

先生が、毎日のようにやってるみたいに。

 

 

『人にはその人が、世界には世界が決めた「正しさ」があンだよ』

 

 

コレで反省したかは分からんが、ちょっとは現実の方を向いたろ。

顎を弾いて、同じように気絶させる。

…淡麗な顔してる。この顔なら、タレントでもやっとけばよかったのに。

 

 

「げ、外典様がやられた!!」

「ヤツの暴論に怯むな!!我らの正しさを証明するのだ!!」

 

 

確かに暴論だろう。

でも、俺にとってはこの世界の真理だ。

 

 

『お前ら、弱肉強食大好きだろ?

喜べよ。潰され消え行くのはお前らだ…でござる』

「「「さっきからなんだその取ってつけたみたいな喋り方は!!」」」

 

 

……うん。俺もそう思うわ。

そんなことを思いながら、俺は襲いくる敵の顎を弾いた。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

『我の拳が悪を砕く…。って、久々に言ったなコレ』

 

 

襲いくる人形と人を蹴散らし、奥へ、奥へと進む。

さっき人形一体を轟くんの方に吹っ飛ばしちゃったけど、問題ないだろう。

…にしても、やっぱり多い。

倒した数を数えても、軽く3万はいた。

人形1万、人間2万と言った数だ。

兵力だけで見れば、どの敵集団よりも随一だろう。

流石、何十年も隠れてきただけはある。

 

 

「来たぞぉ!!SAVERだぁ!!」

「近づけば異能が使えなくなるぞ!!

遠距離攻撃で対応しろぉ!!」

 

 

石飛礫の如く、ビームやらなんやら…いちいち描写するとキリがない…が飛び交う。

…この武器、数回見たことあるぞ。

アホな敵…多分解放思想だったんだろう…が何人か使ってた。

その時は急いでたから全然気にしてなかったけど、コレ、デトラネット社製か。

個性に沿った品物を作る会社として有名だが、こんなことしてたとは。

日本のネットを掌握してる『Feel Good Int』の取締役も居たし、本当に掌握される直前だったんだな、この国。

 

 

『そんな攻撃では、防御力最低値のフォーマルハウトも傷つけられない』

 

 

フォーマルハウトは攻撃と速度に重きを置いた装備だ。

ハッキリ言うと、全装備中最低の防御力。

攻撃と素早さに極振りしたってヤツだ。

防御力と両立できなかったのかと問われれば、無理と答える。

オールマイティな機体コンセプトのシリウスと被ってしまう。

 

 

『レーザーモード』

 

 

両手と両足に付いた『攻撃強化用ビット』を取り外し、宙に浮かせる。

火力は抑えてる。直撃しても、ちょっとの火傷とショックで気絶するくらいだ。

脳に命令を与えるタイプの音波等は、今回は使わない。

アレは僕がきちんとアフターケアをするからやってるのであって、今回みたいな数いる相手にアフターケアができるとは限らない。

そんなことを考えながら、発射口を向ける僕に、周囲がざわめく。

 

 

「な、なんだ…?」

「防御班!早く防御しろ!!」

「まかせろ!!」

「我ら異能解放軍の防護壁は、計算上ではあのオールマイトの一撃も耐えるようになっている!!フハハハハ!!手も足も」

 

 

ちゅどん。

 

文字通り、防壁ごと吹っ飛んだ。

オールマイトの一撃も耐えるって聞いて、ちょっと出力を上げた。

オールマイトを超える火力って、世界を探せば割とあるんだよなぁ。

別ベクトルでの破壊力ではあるが。

 

 

『説明してる暇があるなら、とっとと誰かを逃せよ』

 

 

なんにせよ、賢い集団ではなかったわけだ。

バレたならバレにくい敵性国家へと高飛びすれば良いだけなのに、なんで普通に拠点にたむろしてるんだ。

そんなことを思いながら、歩みを進める。

集団で襲いくる人形をつかんでは投げ、つかんでは投げ…。

…人間は全員気絶したな。スケプティックの人形しか襲ってこなくなった。

だいぶ焦ってるのか、操作が甘い。

 

 

『電波の送信元は…あっちか』

 

 

独自の回線で通信してるんだろうが、電波で送ってるんなら問題ない。

ちょっと憧れてたことをやってみよう。

コナンくんがやってた、サッカーボールシュート。

一回やってみたかったんだよね。

障害物と空気抵抗を計算して、意識を持ってくくらいの強さで蹴る。

 

 

『蹴るものは…これで良いか』

 

 

丁度、誂え向きにバレーボールがあった。

授業中に蹴ったら怒号が飛んでくるヤツだ。

今は遠慮なく蹴らせてもらうが。

 

 

『サッカーは未経験なんだよなぁ…。

まぁいいや。普通に蹴ろう』

 

 

僕は言うと、ボールに蹴りを入れた。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「あり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ない…。

あり得てたまるか、こんな現実!!!」

 

 

スケプティック…本名『近属友保』は、血走った目で液晶画面に映る現実を睨んでいた。

任された同胞と人形が、一人残らず返り討ちにされた光景。

たった一人の人間によって、何十年にも渡り、研いできた牙を引っこ抜かれた。

到底信じられる結果ではない。

 

 

「失敗じゃない、失敗じゃない…!まだ巻き戻せるはず、まだ巻き返せるはず…!!」

 

 

必死になって新たな人形を動員させる。

もうストックはほぼ無くなるが、どうでもいいことだ。

今はこの状況を巻き返さなければ。

完璧主義たる彼にとって、今回の件は大きな『失敗』と認めるのは屈辱だった。

 

 

が。そんなこと知ったこっちゃないと言わんばかりに、現実が迫ってくる。

 

 

「私は一度しか失敗したことがないんだ…。

これまでも、そしてこれからも!!」

 

 

歪めた現実ばかり見てきたツケが、風切音と共にやってくる。

もし、この場に他の解放軍が意識を保てていれば、結果は違ったのかもしれない。

もしくは変わらなかったのかもしれない。

ただ一つ分かることといえば。

 

 

「世界は、解放軍が変えるぶらっぱぁっっっ!?!?」

 

 

現実という名のバレーボールが、彼の理想を描く頭に激突したということだけだ。




次回、フィクサーがその牙を剥きます。


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爆豪勝己、絶対悪と対峙する

サブタイトル通りです。


「……っ、どうして、私たちの理想が…たった三人に……!?」

 

 

キュリオス…本名『気月置歳』は、ひどく焦っていた。

理由は他でもない。連絡を取り合っていた幹部、果ては部下たちが次々と倒れていったからだ。

思いつく限りで残っている人間といえば、目の前の部下たちとリ・デストロだけ。

十万いた軍勢はすでに、千人規模の集まりに減っていた。

そして、その現実は今もなお、こちらへと向かってきている。

 

 

「やっほー」

 

 

その焦りを自ら解消すべく、装備を整えたその時だった。

彼女の目の前に、見たくもない仮面が姿を現したのは。

 

 

「フィクサー…?」

 

 

そこに居たのは、マスコミとしても、解放軍としても、自らが最も恐れた存在だった。

以前、フィクサーの思想を持ち上げた特集を組んだ出版社があった。

だが。その出版社はフィクサーの逆鱗に触れてしまった。

静かに怒り狂ったフィクサーは、常人であれば思いつかないような、凄惨な公開処刑を全国のお茶の間に放送した。

三日間に渡るソレの終わりに、彼は告げた。

 

 

 

ーーーーーー僕は絶対悪だ。誰に対しても悪である存在。肯定される謂われなんて、どこにも無いんだよ。

 

 

 

スケールも価値観もイカれてる。

無個性でありながら、国を簡単に崩壊へと導くスキルを有した敵。

解放軍としても、マスコミとしても。

目の前で笑顔を浮かべる男以上の恐怖を、キュリオスは知らなかった。

 

 

「あーそっか。生きてるの知らないのか。

そりゃそうだね。あの〜、り、り…。リーマンショック?いや、違った。オオトロっぽい名前なのは覚えてるんだけど…」

「リ・デストロのことかしら…?」

「ああ、そうそう!いやぁ、どーでもいいことはすぐ忘れちゃうんだよね!

ソイツには予め挨拶したんだけどさ!」

 

 

フィクサーがカラカラと笑う。

キュリオスは彼に対する警戒心を、最大限にまで引き上げた。

が。それは無意味だった。

 

 

「ソイツを恨めよ。

さっさと答えを出さなかったアイツが悪いんだからさ」

 

 

どすっ。

目にも留まらぬ速さと、優しい感触。

キュリオスが視線を上に向けると、自らの脳に注射器が突き刺さってるのがわかった。

悲鳴をあげようとして、気づく。

全く痛くない。

それどころか、頭への異物感すら感じない。

 

 

「頭がイカレるのは避けたいからさ。

脳の隙間に注射器を刺したよ。

あと九万くらいかな?身体中にぶっ刺して注入するから」

 

 

瞬間。

キュリオスの体は、無数の注射器で埋め尽くされた。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

『あ、終わったー?』

『おーう。…頼むから、ござる口調に変化するプログラムとか作ってくれ。

敵にも喋り方を馬鹿にされた』

 

 

スケプティックをバレーボールで気絶させ、同じ要領でリ・デストロも倒した後。

僕たちは大体の解放軍…その数七万を、縄でふんじばっていた。

かっちゃんの方はまだ喧騒が包んでいるあたり、数が多いのだろう。

なんにせよ、後数分で決着は着くか。

 

 

『その細いハゲ、デトラネットの社長か?

んで、根暗そうなオカッパはFGIの取締じゃなかったっけか?』

『そっち方面に興味ないと思ってた。意外と詳しいね』

『まぁ、ちょっとはな。知ったのは最近だ』

 

 

細いハゲ…って言うには、ちょっと早いんじゃないだろうか。

リ・デストロの薄れ始めた頭を見ながら、そんなことを思っていると。

ふと、轟が声を上げた。

 

 

『…アメリカのルーカス大統領もハゲだよな。コレと違って、カッコいいが』

『支持率絶大だもんね。個性がちょーっと…その、アレなだけで』

 

 

この解放思想は、アメリカにとってもまずかった気がする。

ルーカス大統領の『自分の頭部の毛根の残りがわかる』という、思わず顔をしかめてしまいそうな個性でどうやって勝ち上がれって言うんだ。

あの人の奇跡的な手腕で犯罪率が35%から30%に減ったんだぞ。

…つくづく、オールマイトの存在って大きかったんだなと思う。

 

 

『ってか、ボイチェン切らねェか?

もうこっちは終わったんだし』

『それもそっか』

 

 

いつまでも同じ声で話してちゃ、訳わかんなくなるか。

そう思い、喉元のスイッチをオフにしようとしたその時だった。

 

 

街が吹っ飛んだのは。

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

『…なんだアレ。サボテンか?』

 

 

大体のヤツを倒し、キュリオスを探している途中。

ふと、街の一角に異様なオブジェがあることに気づき、足を止める。

街中にはあまりにも不似合いなソレ。

異形系の個性でも、なかなか無いような風貌に目を引かれた。

これ以上、特に探す場所もないため、罠だろうなと思いスキャンする。

 

 

『……………は?』

 

 

俺の視界に出された結果は、予想外のものだった。

マスクに搭載されたカメラ。

写る物体をスキャンし、調べた結果を映し出す機能を持っている。

そのことは分かっている。

だが、唯一わからないのは…。

 

 

「ぁ…、ぺっ………?」

 

 

そこにあるサボテンが、『キュリオス本人である』という結果だけ。

 

 

『…………いや、どういう状況だ?』

 

 

突き刺さったのは注射器だろうか。

身体中を埋め尽くすソレは、ご丁寧に針の長さもバラバラで、全身にその中身を注ぎ込んでいる。

あまりに理解不能な状況に、一周回って頭が冷静になった。

冷静になると同時に、恐怖が背中を撫でる。

殺されてるわけではない。まだキュリオスは生きている。

 

 

『…誰がやったんだ、コレ』

 

 

どんな個性を使えば、こんな神業を為せる?

それとも、デクたちの同類の仕業だろうか。

そんなことを思っていると、注射器が一斉に引き抜かれた。

 

 

「初めまして」

 

 

瞬間。

この世の悪を全て煮詰めたような、余りにも禍々しい声が俺の鼓膜を撫でた。

慌てて人差し指を声の方向へ向け、爆破する。

超圧縮爆破。軽く人が死ぬ威力だが、反射的に放ってしまっていた。

それ程までに、そこに居るソイツは、邪悪としか言えなかった。

 

 

「…っとと。いいねぇ、凄くいい!!

判断力が優れてるよ、君!記憶の中の君よりもずっと強くてずっと凄い!!」

『…イカレてんのか、テメェ…』

 

 

興奮気味に俺を褒め称えるソイツは、これでもかと拍手を送る。

記憶の中の俺?こんなヤツ、一度も会ったことがないと言うのに?

特徴的な仮面、露出した口元。

…その顔に見覚えがあることに気づいたのは、数秒見つめてからだった。

現在でも、ネット上に死亡の瞬間の動画を上げられている敵。

 

 

『…いや、死んだろ…?そう言う個性か?』

「残念。マジの無個性だよ。

僕は死なないんだよ。絶対悪だから」

 

 

フィクサー。個性不明の世界的な敵として知られている存在。

随分前に死んだはずの存在が今、俺の前に立っていた。

 

 

『テメェ、キュリオスに何した?』

「別に?一万くらいの『人工個性』を注入しただけだよ。

個性に耐性のないヤツならすぐ食われるけど、コレなら適合するかなーって」

 

 

子供が自由研究するような感覚で、おぞましいことを口にするフィクサー。

…待て。人工個性だと…?

 

 

『テメェが、人工個性関連の黒幕か?』

「当たり。作ってんのは別人…って言うのかな?まぁ、僕ではないんだけど…って、やばっ」

 

 

その言葉を聞いた瞬間。

キュリオスの体が破裂し、俺ごと街を吹き飛ばした。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「…ブローカーがわりに来たけど、この状況になってだいぶ必死だね」

 

 

とある神社にて。

フィクサーに連れ回された挙句、6徹目の頭を回転させながら、ブラックボックスが言い放つ。

目の前には、如月ついな…もとい、『役ついな』の父親が映る。

異能解放軍とやらの思想に染めたのは、他でも無い、フィクサーであった。

 

 

「…あいつの洗脳もツメが甘いって言うか。

どうでもいいやつ相手にはトコトン中途半端なんだよなぁ」

「ブラックボックスさん、例のアレは!?

早よ出してえな、早よせんと…」

 

 

醜い。

言葉にするなら、この一言に尽きた。

普通の父親だった男でさえも、ただ少し会話を交わすだけで醜悪な敵に加工する。

その手腕に呆れと感心が混じったため息を吐き、ブラックボックスは注射器を投げ捨てる。

 

 

「これで、解放軍が再興できる…!」

「……夢見すぎだろ」

 

 

ああ。この男はもうダメだ。

フィクサーによって、完全に『加工』され切っている。

こんな状況でも解放軍に盲信してしまうほどに、どうしようもなく汚染されている。

何人目かもわからないソレに、ブラックボックスはなんの感情も向けなかった。

 

 

「…揃いも揃ってバカだな」

 

 

人工個性を受け入れた時点で、早期の死は確定している。

既に『人工個性』という生命体として孤立している『万年開花』や『紲星あかり』ならまだしも、人間が耐え切れるはずがない。

 

 

「ま、短い人生で頑張ってよ。

上手くいくとも思えない夢物語を描くのに、さ」




フィクサーの信条は「すべてにおいて平等な悪であれ」です。
自分自身であるブラックボックスは味方というより、道具感覚で見てます。


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絶対悪対緑谷出久、開戦

サブタイトル通りです。


街が吹っ飛んだ。

その認識が間違いだったことに気づくのは、数秒経ってからだった。

街が吹っ飛んだというよりは、押し出されていたのだ。

電磁浮遊機能で、崩れた街並みを蹂躙するソレを空から見つめる。

 

 

「コレ、人工個性だろ」

「持ち出してこないって思ってたけど、考えが甘かったみたい。

…僕らもアホだったわけか」

 

 

街を埋め尽くす肉塊。

繊維のように細かく、液体のように流動するソレ。

ふんじばったヤツらさえも巻き込んで、その肉塊は獲物を探すが如く蠢く。

かっちゃんが居た地区あたりは、肉塊が一つの塔を作り、そこに一人の人間が立っていた。

 

 

「…か、か、かか、カい、ほほほ、ホぉ、おおおおおおおおっ!!!」

 

 

焦点の合ってない目。

口から垂れる唾液に、口腔から放たれる壊れたラジオのような咆哮。

データにあった端麗な姿さえも捨てたキュリオスが、獣のように喚いていた。

肉塊が泥花市より外へと向かう。

その質量の暴力が為す破壊を反射的に理解した僕は、咄嗟に叫んでいた。

 

 

「MESSIAH、隔離システム起動!!」

『了解』

 

 

その質量が他へと襲い掛かる前に、バリアが街を隔離する。

プロヒーローが現行していたけど、この状況に飛び込むのはどう考えてもまずい。

何故か、こっちに電磁式の網袋に包まれて投げ飛ばされてきたトランペットたち含むふんじばった人間は、引っ張って空中に連れてきた。

仕方ないけれど、アレにブチ込んで放置するしかないか。

本当なら移動拠点のはずだったのに、まさか監獄がわりに使う羽目になろうとは。

 

 

「『北斗七星』第一から第五地区に満遍なく飛ばしといて。シャッター閉めて」

『かしこまりました』

 

 

予め設置したビーコンに向けて、この連中を転送する。

『北斗七星』。地区ごとに設計して、上空1万メートルを漂う浮遊大陸…っていうか、僕が作った国とも呼ぶべき要塞。

 

まだ組み合わせてはいないが、十万くらいだったらこのくらいで十分だろう。

まさか案内するのがメンバーじゃなくて、悪党が先だなんて思わなかった。

運命って残酷。

 

 

「ほほほっ、かかかかかかぁぁああ、いぃ、うう、かかほぉおおっ!!!!」

 

 

そんなことを考えていると、声とも呼べない声と共に、肉塊が迫る。

その先端から冷気やら炎やら雷やら、思いつく限り「強い個性」という称号が似合いそうな個性が発動されていた。

個性のことをわかってる分、同時発動とか簡単にしてくるわけか!

 

 

「スラッシュモード!」

 

 

ビットから高温のブレードを出し、肉塊を根元から切り裂く。

瞬間。その切り口から光が放たれた。

ブースターからエネルギーを噴射し、身を翻してソレを避け、次の肉塊を焼き切る。

はっきり言ってキリがなかった。

あかりさんが居れば、炎か何かで簡単に街ごと吹っ飛ばしたんだろう。

僕も出来るっちゃ出来るが、エネルギーを溜めるのに時間がかかる。

隙さえ与えてくれない肉塊に、その切り札を放てるとは思わなかった。

 

 

「爆炎車ァ!!」

 

 

僕たちが肉塊に悪戦苦闘していると、その塊を融解させながら、燃え上がった球体が僕たちに近づく。

球体がその炎を払うと、スーツを着たかっちゃんが姿を現した。

 

 

「かっちゃん!どういう経緯でこんなことなってんの!?」

「要点が多すぎて纏められる余裕が…っ、デク!!今すぐそっから離れろォ!!」

 

 

かっちゃんの声が響いた瞬間。

僕は反射的に身を翻す。

機械の頬に工具が掠めるのを感じながら、僕はその存在に拳を突き出した。

が。ソイツはひらり、とソレを避けると、フォーマルハウトの腕に工具を差し込む。

瞬間。僕の腕の一部が、一瞬だけ空気に触れた。

 

 

「…あれっ?なんで再生してんの?」

 

 

子供が「わからない」とでも言うような軽口なのだろう。

しかし、その声は。

僕たちを引き摺り込んですり潰すような、酷く悪意に満ちた声だった。

一瞬で再生したスーツに興味を持ったのだろうか。

爛々としたその瞳は、真っ直ぐに僕へと向けられていた。

 

 

「射撃モード!」

「危なっ」

 

 

飄々と佇むソイツの背後にあった肉塊ごと、高出力レーザーで焼き払う。

流石に町全体は焼けないが、背後にあった肉塊は消し飛んだ。

予想通りと言うべきか、ヤツはちょっと身を翻しただけで躱した。

目の前に立つソレと僕は、面識はない。

しかし、互いに知識はあっただろう。

 

 

「はじめまして、SAVER。世界を股にかけるヴィジランテ」

「…はじめまして、フィクサー。世界を弄ぶ絶対悪」

 

 

迫る肉塊に、それぞれが一撃を叩き込む。

僕はフィクサーの背後にレーザーを放ち、フィクサーは僕の背後に即席の爆弾を放り投げる。

互いの背に爆炎が舞う最中、浮遊装置でも仕込んだのか、空中に立つフィクサーが口を開いた。

 

 

「恐れ慄け。僕が来た」

「悪よ、退け。僕がヒーローだ」

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「ぎっ、いぃ…!!」

「ぅぎゅううぅ……!!」

 

 

ヒメちゃんとミコトちゃんの呻き声が響く。

映像には、思いつく限りの強個性を叩きつける男の姿が映る。

麗日さんは、その光景を見てられないとばかりに目を瞑ろうとするが、なんとか耐えていた。

 

 

「ヒメちゃん、ミコトちゃん!あとどれくらい保ちますか!?」

「あと二分ってところ…!

結構焦ってる、ぐぅっ!?…からっ、バカ、みたいに、強いっ……!!」

「ミコト、しっかりぃ…!!気をっ、抜く、とぉ…、破られちゃうぅ……!!」

 

 

必死に堪えることで、なんとかギリギリ耐え切れるくらいの強度にしているのだろう。

砕けそうなほどに歯を食いしばり、彼女らは僕らを守っていた。

…悲しいことに、僕は彼女らの力になることはできない。

 

 

「僕は最悪、肉壁ですね。

老衰以外で死にたくないので、僕が肉壁にならないよう、頑張って守ってください」

「こんな時にっ、そんな、やる気っ、削がれるっ、言い方、する!?!?」

 

 

そうは言われても、死にたくないのは事実なのだ。仕方ないだろう。

…にしても、映像に映る男から、知性というものを感じない。

まるで、何か一つの目標に向かって突き進む…猪突猛進の獣のように思える。

こういうタイプになると、煽りが通用しないからタチが悪い。

 

 

「東北さん、この状況からなんとか出来ますかね?」

「もう手の打ちようがないんで、あかりさんにぶん投げたらいいんじゃないんですかね」

 

 

…一番手っ取り早いのはソレだよなぁ。

でも、あかりさんが旅館から出てきたら出てきたで、面倒なことになるのは間違いない。

土埃と共に現れる…ってシチュだったら、まだ押し通せるかなぁ。

そんなことを考えてる暇もないんだが。

 

 

「あかりさん。

思いっきり土埃起こして、スーパーヒーロー着地みたいなのやってください。

それで誤魔化しましょう」

「…そんな適当でいいんですか?」

「内部の腐敗に気づかないくらいド間抜けな国相手ならコレで十分です」

「公務員にすらバカにされる国ってどうなんですかね?」

 

 

哲学関連の大学教員よりかはマシだろう。

あの人種は余計な事言った挙句、良くも悪くもマイペースで反省もしないから、他人の逆鱗をペット並みに撫でまくってるぞ。

そんなことを思っていると、バリアにヒビが入る。

あかりさんが飛び出そうとした、まさにその時だった。

 

 

「……ウチが、捕まればええんやろ?」

 

 

ついなちゃんが、そんなことを言い出したのは。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

この状況を作り出したのは、多分、私なんだろう。

私と言う存在が、世界にどんな影響をもたらすかなんて、これっぽっちもわからない。

だけど、この人たちは。

私を助けようとして、国一つの信頼を瓦解させた。

 

 

「…う、ウチが今捕まれば、全部丸く収まるんちゃうかな…?

ほら、だって…、あいつら、ウチの個性を狙っとるだけやし…。

その、えとっ…、ウチが捕まっても、殺しはせんと思うんや……」

 

 

嬉しかった。

 

 

ずっと、誰にも助けてもらえなかった私を、助けようとしてくれた。

ちゃんと、私の手を掴んでくれた。

でも、それ以上に。

 

 

「だ、大丈夫やから…。慣れとるから…。

やから…、もう……」

 

 

嫌だった。

 

 

助けられるのが嫌なわけじゃない。

寧ろ、母親が死んでからずっと『助けて』と泣いて、叫んでいた。

こんな危険を冒してまで、私を助けようとしてくれている。

 

 

だからこそ、嫌だった。

 

 

命の危機がそこまで迫ってるのに、自分の命など関係ないかのように振る舞うそぶりが。

先生と呼ばれる人の言葉も、自分の命に無関心としか思えなかった。

それ程までに、さっきの言葉に重みがなかったから。

 

 

「…だって、知っとるもん…。

ウチ、知っとるんやもん……」

 

 

母親も、そう言う人だった。

 

ーーーーーー……ついな。ウチ、もうすぐ死んでまうかも知れんのよ。

大丈夫。ついなが嫌いやから、とかちゃうんよ。大好きやから、ついなを守るんよ。

 

死ぬ前日になって、狸寝入りしていた私にかけた言葉。

それだけで、母親が死んだあの日、何があったか、大体理解できる。

母親は、私を守ろうとして、死んでしまった。

 

 

「大丈夫やから。平気、やから」

 

 

死んで欲しくない。

夢を持ってるこの人たちが、その道半ばで死んでしまうのが、嫌だった。

震える体を抑え付け、慣れた笑みを浮かべる。

 

 

その時だった。

 

「歯ァ食いしばりなさい」

 

 

『お茶子の姉ちゃん』が、ウチと変わらんくらいの女の子に殴られたのは。




次回。東北きりたんの説教、再び。


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東北きりたんの説教、再び

サブタイトル通りです。


ぱちん。

 

 

乾いた音が、旅館の一室に響く。

バリアの亀裂が大きくなるのも気に留めず、私の頬を叩いた女の子は、私の胸ぐらを掴んだ。

 

 

「ちょっ、きりちゃ…」

「外野は黙ってなさい。今は私が、この人と話してるんです」

 

 

ヘッドフォンを着けた女の人が止めようとするも、女の子の気迫に押され、口を噤む。

女の人だけじゃない。他の人たちも、その気迫に押されて黙っていた。

 

 

「あなた、ヒーロー志望なんですって?」

「……、そ、そやけど…」

「じゃ、そこにいる女の子は誰ですか?」

 

 

彼女の指差す方向に沿うように、視線をそちらに向ける。

視線の先には、私を見つめるついなちゃんの姿があった。

誰、と問われれば、ついなちゃんである、としか答えられない。

 

 

「…つ、ついなちゃ…」

「助けを求める人だ。アンタがヒーローなら、彼女をどうするべきですか?」

 

 

凛、とその言葉が響く。

助けるべき人間。それは、分かりきっていたことだった。

それでも、私には。

 

 

「ウチには、ないもん…。ついなちゃんを助けられる力なんて、これっぽっちも…」

「聞き飽きたし、私も散々言いました。

『自分じゃ無理』って。

…その言葉を使う資格があるのは、私たちみたいな諦め癖のあるヤツじゃないんですよ」

 

 

彼女は言うと、おでことおでこをくっつけて、私が目を逸らせないようにした。

 

 

「アンタには出来ることがあるでしょう?

ちっちゃい女の子が、泣きそうなの我慢して、震えるのを必死で堪えて。

それでも、大丈夫って言って、自分の身を悪に捧げようとしてんですよ。

それが怖くないわけないでしょう?

悪に望んで身を捧げるような子じゃないってのは、アンタが一番分かってるでしょう?

それさえもわからないって、アンタの脳味噌は腐ってんですか?」

 

 

ついなちゃんがどれだけ怖い思いをしたか。

それは分からないけれど。

悪いことを、きちんと「悪い」と言える子だっていうのは、よく分かってる。

それでも、私には分からない。自分が、何が出来るかなんて。

 

 

「…それすらも分からないなんて、随分と臆病なヒーローが居たモンですね」

 

 

仕方ないじゃないか。

デクくんみたいに、凄まじい技術があるわけじゃない。

爆豪くんみたいに、轟くんみたいに、現実を見据えてたわけでもない。

ただの中学生に、何かが出来るわけがない。

 

 

「どうせ『普通の中学生だから仕方ない』なんて思ってんでしょうけどね…。

いつまでそうやって言い訳してんですか?

アンタがその『普通』から抜け出すのはいつなんですか?

あと何十年待てばいいですか?」

 

 

ふつふつと、怒りが湧くのがわかる。

なんで、力があるアンタに、そんなことを言われなきゃいけないんだ。

何にもできない私の気持ちも分からない、アンタらに。

 

 

「なんで、そこまで言われなあかんのよ…。

なんでも出来る、アンタらに…!」

 

 

私が言うと、彼女はその形相を鬼のようにして、私の頬に拳を突き刺した。

 

 

「……なんでも出来る?

 

私たちがなんでも出来るですって!?

違いますよ!!全くの見当違いです!!!

何にもできなかったから、何かが出来るように頑張ったんですよ!!!

無個性なんですよ…!ここにいる人間の大半は無個性です!!!

自分に何にもできないってことが分かってるから、なにかを成し遂げようと必死になって頑張ってんですよ!!!!

アンタはなにかを死ぬほど頑張ったことはあるんですか!?

いつまでそうやって『でもでもだって』と甘えてるつもり!?!?!?」

 

 

女の子が叫ぶも、私は答えなかった。

死ぬほど頑張ったことなんてないけれど。

無駄と分かってる努力をして、何になるって言うんだろう。

相手は、現実さえも歪めてしまう巨悪なんだから。

私の声なんて、揉み消されるに決まってる。

 

 

「ついなァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアッッッ!!!!」

 

 

私が口を開こうとした時だった。

窓の外に見える防壁が、音を立てて砕け散ったのは。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

フィクサー。

僕が生まれる前には、既に没後数年が経過していた敵。

本来ならば存在しないはずの人間が、僕と対峙していた。

いつものような余裕は出せない。

はっきり言えば、人工個性を相手にするより、遥かに骨が折れる。

 

 

「やっぱ動きは型にハマってる感拭えないなぁ。でも、オールマイトのものとは違って、効率的に人を無力化するような構えだ。…彼以外の誰かから習ったのか?」

「さっきからごちゃごちゃと、随分と余裕そうだな」

 

 

ブツブツと何事かを呟くフィクサーに、幾つもの砲門を展開して、一斉に放つ。

分解の手つきは速いけれど、移動のスピードはそこまで脅威じゃない。

ただ、気配を消すスキルが異常だ。

気がつけば接近されてる。

視界に居るはずなのに、集中して見ているのに。

何故かは分からないが、彼を『視界に留めて置けない』。

 

 

「まぁ、誰に習ったかなんて、この際どーでもいいや。

想像以下ばっかだったから、嬉しいよ。

想像以上に想像を絶してるよ、君の磨き上げられた、他の追随を許さぬ『科学力』!!」

 

 

僕の得意分野を理解してる…?

個性だと言って誤魔化すことすら、目の前の存在の威圧感が許さない。

せめてもの抵抗として、絞り出すように惚けたような声を出した。

 

 

「…なんのことだ?」

「誤魔化さなくていいよ!

君の胸のソレ、『永久機関』だろ!?

あらゆるスキルを極めた僕でさえも、設計さえ出来なかった『超常の頂上』…!!

『永遠はない』と言う常識が壊されてる!!

そんなちっちゃい物体一つに!!!」

 

 

イズクジェネレーターのことまでバレてる。

分解して取り出そうとしてるんだろうけど、マッハを超える速度で分解しなければ、ジェネレーターは取り出せない。

ジェネレーターに近ければ近いほど、再生が速いのだから。

 

 

「いい!!凄くいいよ、君たち!!

志し、強さ、決断力、執念!!

僕が出会ってきた『ヒーロー』の中で、最上級と言ってもいい!!」

 

 

…まさか敵にヒーロー扱いされるとは。

いつもなら「お前も俺と同じだよ!ナカーマ!」みたいな同族勧誘ばっかなんだが…。

それに喜んでる暇もなければ、喜ぶつもりもない。

絶対悪と呼ばれ、自称している敵の強さを知っているから。

 

 

「そう考えると、今までのはゴミだね。

大きい粒を見つけては喜んでたけど、君ほどじゃない」

「オールマイト…は…?」

 

 

平和の象徴とまで呼ばれるに至った、世界の誰からも認められたヒーロー。

それさえもゴミと言えるのだろうか。

…多分、この男は普通に言うのだろう。

口元に浮かべる笑みを崩すことなく、フィクサーはぶつぶつと何事かを呟く。

 

 

「絶対的な正義って思ってたんだけど、君は盲目的に信じてないんだよな…。

なにが違うんだ…?今まで会ったのと違い過ぎて、ちょっと困惑するなぁ…」

 

 

モードチェンジも含めた連撃でも、意識を刈り取るには至らない。

小言を呟きながらも、余裕を崩さないフィクサー。

…寝不足と全力を使ったせいで、思考力が低下して予測が出来ない。

コンディションが万全であれば違ったんだろうけど、文句は言ってられない。

こんなことなら、仮眠取るんだった。

 

 

「君はコレまでどんな努力をしてきたんだろう?才能なんて幻想。積み上げてきた努力の質と量に比例して、天才は作られる。

その歳でこんなの作れるってことは、多分、冗談抜きで脳みそ焼き切れるくらい酷使したんじゃないかな?」

「随分と正論垂れ流すんだ、な!!」

 

 

…気持ち悪い。

僕の全てを知っているかのような、そんな振る舞い。

コレに対して『嫌悪感を覚えるな』と言うのが無理な話だ。

その嫌悪感を吐き出すように、射撃モードでフィクサーを狙い、撃つ。

やはりと言うべきか、避けられた。

 

 

「でも、格上との戦闘は慣れてないっぽいね。…そりゃそっか。こんだけバカみたいな火力をポンポン撃てるんだ。

その速度といい、撒いてる電磁波、超音波もかな…?個性因子が動かなくなる数値だね。

装備さえ整ってれば、大抵の敵はなんとか出来るか…」

 

 

個性遮断プログラムまでバレてた。

機械もなにも用いていないのに、電磁波と超音波の二つを感じ取れるのか。

…コイツ、琴葉博士たちと同類なのか…?

 

 

「惜しむらくは君のコンディションだね。

ちょっとフラついてる。寝不足と…もう一つは分かんないけど、だいぶ疲れてるんだろ?

全力の君と闘いたいけれど…我儘は言わないや。今日は『試合』だからね」

 

 

試合。

その言葉に疑問を持つ暇もなく、フィクサーの蹴りが、分解されて一瞬薄くなった脇腹に突き刺さった。

この程度なら、喰らい慣れてる。あの人の蹴りよりはマシだ。

 

 

「『絶対悪』が胸を貸すよ。『ヒーロー』」

「そりゃ、どう…も!!」

 

 

絶対悪に立ち向かうヒーロー…か。

僕のは『人生かけたごっこ遊び』だから、そう言うのが正しいのか怪しいけれど。

そんなことを思いながら、フィクサーに殴りかかった。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

フィクサーと緑谷が闘う傍ら。

俺たちは街を蹂躙するキュリオス…とは呼べない何かと戦闘していた。

あの手この手で肉塊を取り除こうにも、ある時は再生し、ある時は致命的なダメージを喰らった箇所を切り落とし…。

要するに、いたちごっこが続いてた。

 

 

「流動してやがるから、完全に炭化するまで焼けねェな…。

この街ごと凍らせろ。ブチ割ってブッ殺す」

 

 

無茶なこと言うな、爆豪。

街ごと凍らせるのは簡単だが、ここまで広いと表面だけが精一杯だ。

どう考えても、凍らせた直後に肉塊が中から叩き割るだろう。

そう考えると、広範囲を凍らせることが出来る青キジすげェな。超憧れる。

 

 

「無理だ。凍らせるだけの隙がねェ。

凍らせた途端、トカゲの尻尾みたいに切り落として消しとばしたの見たろ。

キュリオスを叩こうにも、あの防壁だ。相当苦労する。

火力持ってる緑谷は、厄介そうなのと戦ってるから頼りに出来ねェ」

「火力系の個性持った俺らが火力不足って、笑えねェ…。

終わったら死ぬ気で鍛えるか」

 

爆豪の言う通りだ。

プロヒーローで言えば、オールマイトの次に位置する程度には実力のあるクソ親父が、トップクラスの火力持ちだ。

その親父を超える火力でも、普通に火力不足扱いされる。

…敵を倒すヒーローってのも、楽じゃない。

 

 

「あの爆炎車ってので突っ込むか?」

「無理に決まってんだろブッ殺すぞ。途中で勢いが死ぬ」

「……じゃ、アレやるか」

 

 

まだ威力の調節が出来てないが、照準をちょっとズラせばいいだろ。

精々、ちょっと地表を削るくらいで終わる。

 

 

「正直言うとお前に貸し作るのは死ぬほど嫌だが、ちっとの間、俺を守ってくれ」

「後でブッ殺す。…で、勝算は?」

「バッチリだ」

「…半殺しで済ましてやらァ」

 

 

迫りくる肉塊を、爆豪が焼き尽くす。

その背後で、俺は掌を重ね合わせ、感覚を研ぎ澄ませた。

 

 

「…マトリフとか、ベジータもこう言う感覚だったのな」

 

 

確かにおっかねェわ、コレ。

そんなことを思いながら、エネルギーの生成に集中した。




次回、お茶子覚醒


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女の子は、男の子よりもずっと強かである

サブタイトル通りです。

スランプの脱却…とまではいきませんでしたが、多少の気力の回復はできました。ありがとうございます。


ーーーーーー君はヒーローになれる!

 

 

そんな言葉からだった。

『………』という人間が、ヒーローを目指すようになったのは。

憧れのヒーローの力を受け継いで、数多の苦難を乗り越えて、ヒーローとして成熟していく。

それが、『………』だった。

 

 

ーーーーーー大丈夫。僕がいる。

 

 

日本を支配する巨悪が差し伸べた手を、彼は握った。

それが、『………』が悪の道に進むきっかけだった。

憧れのヒーローを、より輝かせるための悪に染まる。それが『………』だった。

 

 

 

ーーーーーーヒーローには、なりたい。でも、個性がない…。

だったら、どんなヒーローよりすごくなる。

 

 

 

そして、『………』。

 

彼は、誰にも出会わなかった。

巨悪にも、最高のヒーローにも。

ただ一つだけ、『………』の目には映ってたものがあった。

 

 

ーーーーーー個性が無ければ、何にもできない…なんてことは、無いと思うんです。

無個性に希望を与える、そんなヒーローに、僕はなりたい…です。

 

 

力がなければ、誰も助けられない。

個性がない彼は、虐げられる最中でその真実にたどり着いた。

 

ならば、力を手に入れよう。

彼はそう決めてから、あらゆる人脈を使ってあらゆる物事を学んだ。

誰かを助けるために、個性を超えた。

 

 

ーーーーーー大丈夫。僕が助ける。

 

 

最初はあらゆる命を救う医学。

いくつもの屍を乗り越え、その数十倍の命を救ってきた。

いくつもの命を救うヒーローを助け、助けられども死に逝く運命だった人間を助ける。

そんな日常に終わりが来ることを、彼は最も理解していた。

憧れでさえ、老いには勝てなかった。

 

 

ーーーーーー…次の、技術…。磨かないと…。

 

 

人知を超えた延命技術を作り出すのに、生涯を費やした。

死ぬ間際になって、漸くそれが完成した。

自分にその延命を施すことで、彼は若返り、次の技術を学んだ。

永遠を生き、誰かの希望になり続ける。

そんなヒーローになりたかった。

その延命を施したのは、後にも先にも自分だけだった。

永遠の命を求めた人間は、彼が助けた中には一人も存在しなかった。

その延命を知るのは、彼一人となった。

 

 

ーーーーーーこれなら、建造物が倒壊しないな…。よしっ。

 

 

次は工学だった。

特殊金属を作るのに、二度目の人生を費やした。

この発明で、人々が生活する建造物をより強固なものにした。

彼の永遠は、学びと救助に費やされた。

 

 

ーーーーーーここら辺、明日地震が起きて地盤崩れます。避難先の準備、お願いします。

 

 

ーーーーーー大丈夫。どんなに敵向けって言われても、君がヒーローになりたいって思うなら、ちゃんとヒーローになれるから。

 

 

ーーーーーー……手術、成功。三日後には起きますよ。十年間、よく頑張りましたね。

 

 

次は自然現象。未曾有の大地震の被害を、最低限にまで抑えた。少なくとも、死者は確認されなかった。

次は言葉。その言葉で、心に憧れを抱く人間の背中を押した。

次は脳医学。十年間、脳死状態のヒーローを治療し、完治させた。

 

 

それからも彼は、技術を磨き続けた。

元々、才能も何もなかった『………』は、取り柄である集中力と思考力を駆使し、多くのことを学んだ。

何度も、何度も…、気が遠くなるほどの年月を、『………』として歩み続けた。

 

 

全ては、人を救うために。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

防壁が破られて数分。

取り敢えず、あの教師に言われた通りに登場し、男の注意を引きつけたはいい。

イズクくん特製のスモークマシンで煙幕を張ってるから、こっちの様子も見えないだろう。

そこから先はノープラン…っていうか、完全に私に押し付けられた。

あの男、通常生活を送る分には優秀なスキルを持ってるのに、戦闘面ではやわらか戦車並みに役に立たない。

いや、元から期待はしてないけれど。

 

 

「退けぇええっっ!!ワシの目的はついななんじゃアア!!!!」

『退くかァアッッッ!!!』

 

 

スーツを身に纏った腕で、鞭のように振り下ろされる腕を受け止める。

至る所から個性による産物が噴射され、スーツの表面を削る。

あの時代なら火力で街ごと焼き払ったが、この時代でそんなことは出来ない。

そもそも殺すこと自体がアウト。

 

 

「死ねやアァッッッ!!!」

『なぁあああっっ!!いい加減しつこい!!こンの、デッドコピーッ!!!』

 

 

こういうことになるなら、個性因子に関する論文、もっと読んどくんだった。

未来じゃそんなの残ってなかったし、この時代のものは難解すぎて読めない。

…そもそも、私自身が頭が悪くて、更に救いようのないレベルで勉強嫌いっていうのも一因なのだけど。

心に無理やり余裕を持たせるように、私はそんなことを頭に思い浮かべる。

しかし、現実は非情だった。

 

 

「お前は…っ、お呼びじゃあらへんのや!」

『っ、なぁ…!?』

 

 

切り裂く個性。私が過去に多用していたソレが、私の腕を切り落とす。

激痛が走るが、再生の個性を作って無理やりに腕を再生させた。

この程度、未来で慣れてる。

半身が吹き飛ぶよりはまだマシだ。

 

 

「早よ死ねやァアッッッ!!!」

『うるっ…、さいっ!!』

「がぺっ!?」

 

 

切り落とされた腕を掴み、スーツが装着されたままのソレを鈍器として振り下ろす。

イズクメタル製のハンマーみたいなものだ。

普通に頭蓋骨が陥没するだろうが、人工個性を摂取してるなら平気だろう。

吸い込まれるようにその脳天に直撃し、頭がアスファルトに突き刺さった。

 

 

『あーもう…。説明大変じゃないですか』

 

 

わー…。千切れた腕がプラプラしてるー…。

現実逃避、終了。

処分しよう。流石に「千切れた腕です!」ってノリで持ってたら気持ち悪い。

『塵にする個性』で、千切れた腕を丸ごと処分する。

くっつけるのは無理だ。私の頭が足りない。

…本当、この個性で服ごと再生しないだろうか。

服の袖がバッサリ切れたから、腕切れたことバレる。

 

 

『…で。狸寝入りはやめてくれません?

脳が退化しつつある割には、まだ理知的なんですね』

 

 

私が言うと、先ほどの切り裂く個性が旅館に向けて放たれる。

ソレを打ち消す個性は、幾つか知ってる。

さっきは咄嗟の判断を要求されたため、対処しきれなかったが、今度はそうはいかない。

 

 

『「握りつぶす個性」』

 

 

これは構築が楽だし、個性を使う本人の力が反映される。

私の全力なら、切り裂く個性の斬撃程度、簡単に握りつぶせる。

…反動で握ったものの持つ衝撃も来るから、手がだいぶ裂けた。

痛みには慣れてるつもりだけど、やっぱり痛い。

ここ最近は、こう言う大怪我を負わないから余計に。

 

 

「出てこいついなァアアアッッッ!!!」

『出すわけあるかって言ってんですよ!!』

 

 

絶叫をあげる男が、再び鞭のようにしならせた肉塊を振るう。

私はそれを掴み、切り裂く個性を『固定する個性』で、裂かれた私の手の中に固定させた。

いくらなんでも、ノーモーションで切り裂けはしないはず。

そんな個性になると、個性学の権威レベルじゃないと構築できない。

でも。今はそんなの、必要ない。

 

 

『きりちゃんが言うなら…「歯ァ食いしばりなさい」…ってトコです…ねっ!!』

「がぱべっ!?!?」

 

 

引っ張って、ストレートを叩き込む。

男の歯どころか、鼻が折れた感触が手に伝わった。

首ごと飛ばさないか心配だったけど、加減は上手くいったみたいだ。

後は腕を切り落として、再生した手で追撃し、意識を刈り取ろうとする。

が。ここで誤算が起きた。

血で拳が滑り、衝撃を浸透させられなかった。

 

 

「づ、ついなァアぁぁぁぁァアアア!!!」

『さっきからそれしか言えないんですか、アンタ…はっ!!』

 

 

体から肉塊が突き出る男を蹴り飛ばし、無理やりに距離を取らせる。

向かい側の神社が悲惨なことになったが、許して欲しい。

無論、この程度で相手が気絶するわけがない。

人工個性を摂取した人間の強度は、私自身がよく知っている。

 

 

『…やっぱ、この程度じゃ無理ですよね』

「解放せよぉぉぉぉあああああああっ!!」

 

 

絶叫と共に放たれる光線を、『殴り飛ばす個性』で吹き飛ばす。

街に被害が及ばないように加減するだけで、正直精一杯だ。

意識を刈り取るだけの攻撃をするなら、周りに何もない場所が理想なんだけど…。

 

 

『…無理ですね。プロヒーローとか野次馬が邪魔です』

 

 

こっちが被害を出すことを嫌ってる。

相手はたぶん、そのことを理解している。

さっきから延長線上に人がいる場所にしか行かない。

こっちが迂闊に手を出せないようにしてる。

 

 

『それがどうした…ってね』

 

 

これは、私が任されたことだから。

拳を握りしめ、私は襲い来る男に拳をたたき込んだ。

まだ、戦いは終わらない。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

静寂。その言葉が相応しいほどに、静まり返った街に降り立つ。

デクとフィクサーも戦いを止め、あまりの光景に目を丸くしてる。

キュリオスは衝撃をまともには受けなかったものの、気を失っている。

泥花市という街は、もはや形を成していない。

張ったバリアも、粉々に砕け散った。

俺は呆然と、その凄惨な光景を見ていた。

 

 

「…………とっ」

 

 

震える声で、声を絞り出す。

この光景を作り出した本人は、何事もないかのように手の埃を払った。

 

 

「轟テメェ俺らごと殺す気かァァァァァァアアアアアアアアァァァァァァアアアアッッッッッ!!!!!」

 

「うぉっ、びっくりした。急にデケェ声出すなよ」

 

 

顛末を説明しておこう。

轟がメドローア擬き撃ったらこうなった。

五分間時間を稼いだ結果、放たれた光線が肉塊を消し飛ばし、雲をも吹き飛ばした。

死ぬかと思った。ってか、死を覚悟した。

仲間どころか街丸ごと消し飛ばす技ってなんだブッ殺すぞ!!

 

 

「迂闊に撃てねェなコレ。完成度高いのに、それだけが惜しい」

「当たり前だ!!ンなもんぽんぽん撃たれる味方の身になれや!!」

 

 

反省してなさそうだ。

むしろ、ちょっと満足げに思える。

確かに、俺が同じ立場だったら、躊躇いなくやってただろうが。

それに、これ以外に決着をつける方法があるかと問われれば、否だった。

 

 

「……何はともあれ、俺らの勝ち、か」

 

 

正直、喜ぶ気にはなれない。

街一つ犠牲にして得た勝利。

もっと強ければ。もっと正確な攻撃が出来ていれば。もっと突破力があれば。

ヒーローに強さが求められる理由が、少し分かった気がする。

まったく。スーツがあってもなくても、足りない物だらけだ。

 

 

「…反省は後にしよう。今は、苦戦してる緑谷の援護に回るぞ」

「……アイツが人工個性関連の諸悪の根源だ。絶対ェここでブッ殺す」

 

 

俺は気持ちを切り替えて、その場から飛び立った。

 

この時。誰かが少しでもキュリオスに目を向けるべきだった。

誰かが気付いていれば、まだマシだったかもしれない。

 

 

淡麗な容姿など関係なく、跡形もなく溶けていくキュリオスの姿を、このとき見ていれば。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「あかりさん一人で良かったんですか?」

「彼女の戦闘技術って、基本的にワンマン前提で鍛えられてんですよ。

変に連携を取らせるよりは多少マシです。

緑谷先輩より加減が下手なんで、だいぶ力を抜いてもらってますが」

 

 

二人の攻防を見守りながら、そんな会話を交わす女の子と先生。

映像の中で繰り広げられる戦闘は、圧巻という他なかった。

飛び交う血潮、容赦なく切り落とされる腕、躊躇いのない自己犠牲。

どれもが異常で、どれもが眩しかった。

 

 

「ああなれ、とは言いませんけど。

ヒーローになるって言うなら、あの激痛を味わう危険が付き纏うって、覚悟はしといたほうがいいですよ」

 

 

想像してしまった。私の腕が、敵に切り落とされる光景を。

私の個性は、手で触れたものを浮かせる『無重力』。

もし敵が私の無力化を図るんだったら、真っ先に狙われるのも…。

流れ出る冷や汗の滴る先。

現実から目を背けるように、そちらに視線を向け、固まった。

私の腕の中には、怯えて入ってきたついなちゃんがいる。

無論、汗は下に落ちて、私はそれを目で追っていたわけで。

つまり、何が言いたいのかというと。

ついなちゃんのその目が、映像を見てしまったのに気づいてしまった。

 

 

「………お茶子の、姉ちゃん」

 

 

震える声で、彼女が私の名を呼ぶ。

どんな罵り声が響くのだろうか。

そんなことを何処か遠くで思った矢先。

 

 

ついなちゃんの手が、私の手を抱きしめた。

 

 

「…………たすけて」

 

 

 

瞬間。脳裏に、両腕が千切れたついなちゃんの姿が連想された。

妄想かもしれない。だけど、外にいるバケモノは、確実にソレを現実にする。

いや。腕だけじゃないかも知れない。

もしかしたら、もしかしたら。

言葉には出来ないような、そんなことも、平気でやるかも…。

いや。やる。あの存在は、確実にやる。

 

 

「………っ」

 

 

言葉が喉元を通るのを、必死で抑える。

無責任な「大丈夫」なんて、言っちゃダメ。

「私が助ける」なんて、言えないんだ。

私は、誰かを助けるだけの力がない。

…ない、けれど。だけど。

 

 

ーーーーーー大丈夫ですよ。必ず助けます。

 

 

憧れのヒーローは、何度その言葉を投げかけたのだろう。

きっと、助けられなかった人もいる。

守れなかった人もいる。それも、たくさん。

だけど、それでも笑顔で言い続けてる。

辛いと分かってる戦いを、辞めずにいる。

それに憧れるなら、私も立ち上がらないといけない。

失うのは怖いけれど。助けられないことは、もっと怖いけれど。

 

 

「……っ、つ、ついな、ちゃん…!」

 

 

それでも、言わなきゃ。

ここで言わなきゃ、私はもう、ヒーローになれない。

 

 

「大丈夫…!ウチが、守るから…っ!

もう、離さへんから……っ!もう、突き飛ばさんから………っ!!」

 

 

彼女を強く抱きしめる。

現実は大きくて怖いけど、容赦なく牙を剥いてくるんだ。

だったら、憧れのように少しでも。

『負けてたまるか』って歯を食いしばれ。

きっとそれは、どんな人でもやってることだから。

 

脅威が、旅館の壁を削ぎ落とす。

剥き出しになった部屋で、私は現実を強く睨みつけた。

 

 

「見つけたァア……!!ソイツ、をぉ、よこここっ、せせせせェェェェェェエエエエエエエェェェェェェッッッッッ!!!!!」

 

 

バケモノが吠える。

目から溢れそうになる涙を堪え、私は無理やりに笑顔を作った。

 

 

「渡すか、ドアホォオオオッッッ!!!!

ウチは…、ウチはァア!!!!どんなに怖くても、どんなに辛くてもォオッッッ!!!

ヒーローになるんやからァァァァァァアアアアッッッッッ!!!!!!!」

 

 

弱々しく、情けなく、みっともなく吠えた。

目に映る光景の全てが、清々しく感じる。

 

 

「大丈夫…。ちゃんと、守るから」

 

 

潰れた喉から、声を絞り出す。

こぼれ落ちる涙を、乱暴に拭う。

着物も邪魔。勢いよく破いて、動きやすい格好になる。

もう、目を背けない。ちゃんと向き合って、辛くても笑ってやる。

だって、私は。

 

 

「ウチが、ヒーローや…!!」

 

 

ヒーローだから。




これから連載を続けていくにあたり、このようにスランプにつまづくこともあるかも知れません。
その度に「またスランプだよ」的なノリで、気長に待ってもらえると幸いです。


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あかり「いっぺん死ね」

サブタイトル通りです。


「麗日先輩、右に避けて!!次来ます!二秒間、ちょっと飛んで!!」

 

 

狙いはついなちゃんだけのようで、鞭がついなちゃんを抱きしめる私を狙う。

個性の影響で、三半規管がイカれそうだ。

こみ上げる吐き気を無理やりに飲み込み、女の子の指示通りに鞭を避ける。

弱音も恐怖も胃の中身も、吐き出すのは全部後だ。

 

 

「鬼さんこーちらーっっ!!ほらほらどうしたへっぴり鞭ィイ!!

女子中学生一人殺せへんとか、異能解放軍とやらも大したことあらへんなァア!!!!」

 

 

嘘ですめっちゃ怖いです。

胃の中身の代わりに、ありったけの語彙力を振り絞って罵声を絞り出す。

喉元に酸っぱくて熱い何かが込み上げたが、なんとか飲み込んだ。

 

 

「ナイスです!そのまま注意を引き付けてください!!ハードなの来ますよ!!」

「わかっ…んぐっ、だぁああっっっ!!!」

 

 

ちょっと出かけた。

ちょっとでも気を緩めると込み上げてくる胃酸を飲み込み、声を張り上げる。

伸ばしていた髪が切り裂かれ、破いた着物もさらにズタボロにされる。

下着も切られ、私のおっぱいが天下に晒された。

 

 

「恥ずかしさで隠しちゃダメですよ!!

その隙を突かれて殺されます!!」

「殺されてたまるかぁああああっっ!!!

この子だけは絶対離さへんからなぁああっっっ!!!!」

 

 

ビシバシ揺れて痛い。

そんな痛みも羞恥も気にならないほどに、攻撃の激しさが増す。

身体中に切り傷が出来て、血が抜けていく。

脱力感にたたらを踏みそうになるのを堪え、必死に避けるのに集中する。

 

 

「あかりさん、個性の用意は!?」

『あと二分!!ごめんですけど、それまで耐えてください!!』

「が、ぉおぇっ…、がっ…、でぇん、しょぉぢぃ…!!」

 

 

吐き気を我慢しすぎて目眩がしてきた。

チラッとあかりちゃんの方を見ると、身体中から紫電を駆け巡らせている。

今作ってる個性は、『武器を作る個性』。

…というのは、少し間違いだ。

正確には、『武器を作る個性で武器を作っている最中』なのだ。

なんの武器かは知らないけど、「一撃で沈められて、かつ殺さない武器」らしい。

こうして計八分間、私は死ぬ気で鞭を避けてるわけだ。

 

 

「捕らえる個性は…、難しくて作れない…って、言ってた…!

あとは、時間を稼ぐだけ…!」

 

 

ここで自惚れを出すな。

あわよくば一撃、なんて考えるな。

一瞬の自惚れが、死を招く。

あの鞭にかかれば、私の頭と体なんて、簡単にサヨナラするんだ。

 

 

「…お茶子の、姉ちゃん…」

 

 

ついなちゃんが、私に視線を向ける。

私は攻撃を避ける最中、彼女を抱く手に、力を入れた。

 

 

「安心しぃ。アンタは、ちゃんと助けてって言ってくれた。

…ウチは、それに応えなあかん」

 

 

武器の完成まで、あと一分。

目の前の脅威がより怪しく蠢いた。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「死ィイねェエッッ!!!!」

「っ、らぁああっっ!!!!」

 

 

爆炎と熱線が飛び交い、空を、大地を彩る。

跡形も無くなった街並みにクレーターが出来るたび、僕たちの喉奥から声が飛び出た。

僕たちとフィクサーの戦いは、かなり長引いていた。

膠着状態、ということはない。

攻撃も、僅かにだが当たり始めた。

 

 

「…クソが…!カス当たりで、殆どダメージがねェ…。どんなバケモンだよ……!!」

「生身の人間…って思わねェ方がいい。

殺す気で行っても死なねェぞ、コイツ」

 

 

既に加減はしてない。

ここら一帯の雲は残らず吹っ飛ばした。

プロヒーローが入らないように、破れたバリアも張り直した。

だというのに、フィクサー相手にかすり傷程度しかつけられていない現状。

脳を酷使し過ぎて、顔の穴という穴から血が吹き出てる。

マスク内に体液を拭き取る機能をつけてて良かった。

 

 

「…その調子じゃ、七孔墳血…ってとこ?

本当に、万全の状態で戦いたかった」

「俺らは眼中にナシか?

ヘルズスキル…コキュートスバインド」

 

 

轟くんが、フィクサーから半径数百メートルの大気を一気に凍結させる。

先程までは、局所的に凍らせようとした瞬間に避けられていた。

ならば、広範囲を凍結させればいいと言うわけだ。

 

 

「ナイス、轟くん!『正義の拳』!!」

「インフェルノレイ!!」

「十ノ惨状ォ…!千壊滅殺ゥ!!

地獄ッ、爆粉砕!!!」

 

 

拳が、光線が、爆炎が。

氷に包まれたフィクサーを穿つ。

これで倒せていれば御の字なのだが。

そんな祈りが口から出るのを堪え、崩壊する氷塊を見守る。

 

 

「ちょっとズラしたけど…。

あーあ…。右腕なくなっちゃったよ」

 

 

僕たちの期待を裏切るように、氷塊の影になったフィクサーが笑みを浮かべる。

その右腕だけがあり得ない方向にひん曲がり、焼かれに焼かれ、炭化していた。

避けられることは、覚悟していた。

だが、ダメージを負わせたにもかかわらず、威圧感はこれっぽっちも薄れない。

 

 

「いやぁ、助かったよ。

真っ先に拳で氷を叩き割ってくれたから、炎の軌道から逃れられた。

右腕はこんなんなっちゃったけど、ちょーっとした誤差だよ、誤差」

 

 

…コイツ、本当に人間なのか…?

叩き割ったとはいうが、それは骨を折って、もし外れたとしても炎の通りを良くするためだ。

実際に、ヤツの右腕は折れてる。

そのあと、一秒もない内に爆炎と熱線が押し寄せたはずだ。

軌道から逃れるなんて、強度的な意味でも、速度的な意味でも、人間の限界を超えた速さを要したはずだ。

僕が思考を巡らせていると、フィクサーがそれを悟ったように語り出した。

 

 

「僕は君ほどじゃないけど、電子工学を極め…ああ、いや…。

君を前に極めたって言い方はおかしいか。

そこそこかじってるんだけどさ、ブースターと空気抵抗防止用のバリアくらいなら、そこしかしこに仕込んでるのさ」

 

 

そういうわけか!!

どんなバケモノスペックだ、コイツ!!

あらゆるスキルを極めてる…というのは、間違いではなさそうだ。

…勝ち筋はあるけれど、条件が揃ってない。

僕の寝不足と、脳の酷使による思考力の低下さえなかったら。

自立したスーツに相手させる、という戦法も取れるが、それも無理だ。

生憎とリゲルはメンテナンス中だし、シリウスなんて機能拡張とグレードアップの最中で使えない。

本当に、自分のタイミングの悪さが嫌になってくる。

 

 

「…殺す気でやって、腕一本か…」

「……っ、ソが…!!

寝不足と消耗が祟ってデクはあのザマ、こっちも目眩がしてきやがった…!!」

 

 

かっちゃんの動きにも、僕ほどではないものの、多少のふらつきが見えた。

そんな僕たちを嘲笑うように、フィクサーが使い物にならなくなった右腕を掲げる。

 

 

「いや。ノーダメージだよ」

 

 

瞬間。フィクサーの腕が再生した。

 

 

「「「…………は?」」」

「君もオールマイトに使ってたじゃないか。治療用のナノマシン。

君のに比べたら、デッドコピーも良いところだけどさ」

 

 

ふざけるな、と叫びたかった。

ゲームで言う『負けイベボスを倒せ』って言われてるようなものだ。

頑張ればイケるかもしれないが、目の前の敵は自己再生持ちで、しかも攻撃がほぼ当たらない。

対するこっちは、状態異常のせいでロクに動けないようなモノだ。

クソゲーにも程がある。

 

 

「…だから、どォした」

 

 

かっちゃんが呟くように言い、指先をフィクサーに向ける。

僕たちもそれに続いて、掌や拳をヤツに向けた。

 

 

「あれ以上のチート、経験済みだろォが。

アイツは真っ当に生きてる人様に大迷惑吹っかけるクソ野郎だ。

いずれ俺らがぶっ殺すことにゃ変わりねェ」

「…俺らも迷惑側だと思うぞ。ヴィジランテなんだし」

「僕なんてこんなの作ってるし、バレたら世間がとんでもないことになるって先生が…」

「知ってらァ。人を助けるための迷惑なら、いつかその責任取ったらいいだろ」

 

 

そんな軽口を叩いて、後ろ向きな思考を断ち切る。

責任を取る…か。

どうやって責任取るべきかは分からないけど、今のうちに考えておこうかな。

そんなことを思いながら、ジェネレーターの出力を上げた。

 

 

「…へぇ」

 

 

感心したように、ヤツが目を細める。

それを合図に、再びフィクサーに攻撃しようとした、まさにその時だった。

 

 

 

轟音と共に、空が白く染まったのは。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「…ぉ、えぇっ…」

 

 

口いっぱいに広がった、酸っぱくて鉄臭い物を吐き出す。

ついなちゃんを咄嗟に突き飛ばしたのは、英断だったのだろう。

さっきまでついなちゃんを抱いていた箇所に、肉塊が突き刺さっていた。

多分、内臓削られた。

詳しい箇所は知らないけど、喪失感と血液が流れ出る感触が伝う。

 

 

「麗日先輩!!絶対引き抜かせないでください!!死にますよ!!」

「…!?や、嫌やっ!!死なんっ…!!死なんもんっ…!!」

「わ、かっ…とる……っ!!だい、じょうぶ……、やから…っ!!」

 

 

漫画で読んだけど、この傷になれば抜かれれば余裕で失血死する。

私は力の限り肉塊を掴み、何がなんでも引き抜かせないようにしていた。

でも、それも限界だ。

正直、私は鍛えてるのかと聞かれれば、否と答える。

本当に、単純な筋トレしかやらなかった。

要するに、私の体から肉塊を引き抜くのは、たこ焼きに刺さった爪楊枝を引き抜くかの如く容易いということだ。

 

 

「あ、あぁっ、血がっ!!血がぁ!!

おとん、やめて!!やめてぇな!!ウチが捕まるから!!なんでも言うこときくから!!、なんでもやるから、やから!!!

お願いやから、お茶子の姉ちゃん殺すの、やめてぇなぁ!!!」

 

 

ごめん。ついなちゃん、ごめんなさい。

痛みを堪え、死が近づく恐怖を堪え、時間を稼いだのに。

力の抜けていく体、薄れていく意識。

彼女を守りきれないことの悔しさだけが、私を支えていた。

 

 

「よくも手こずらせたな…。死ね」

 

 

死の宣告と共に、私の腹部から肉塊が引き抜かれる。

本来であれば、引き抜かれたと同時に、血が大量に噴き出し、私の命を終わらせる。

 

そう思った矢先。

いつ間にか女の子が私に駆け寄り、何かをスプレー缶から吹きかけた。

結果、傷口から血は吹き出さなかった。

代わりというべきか、何かが傷口に蠢いていた。

 

 

「よく頑張りましたね。ナノマシンで止血しました。今は治療してる途中です」

 

 

女の子が私に称賛の声をかける。

そして、気づいた。

彼女の側に、般若のような顔をしたシルエットがあることを。

 

 

『…アンタ、この子の父親なんですってね』

 

 

シルエットとは言ったが、その風貌はまさしく、先ほどまで戦闘を行なっていた彼女だった。

しかし、どう考えても様子がおかしい。

駆け巡る電流が光源となり、辺りを白く染め上げている。

笑っているはずのマスクは、光で歪んで見えるのか、牙を剥いた般若のようだ。

極め付けには、手に握られた武器。

豪華絢爛な装飾と裏腹に、殺意溢れる大槌が鎮座している。

だけど、そんなことが気にもならないほどに、その声は怒りで満ちていた。

 

 

「それがどうした?」

 

 

火に油を注ぐが如く、ついなちゃんのお父さんがなんの反省も見せない。

彼女の槌を握る手から、金属同士が擦れ合う音が響いた。

 

 

『この子が、アンタの非道で泣いてるんですよ。アンタの行いを知っててなお、アンタのことを父親って慕っているんですよ。

何も思わないのか、この外道』

 

 

揺らめく雷が、マスクをさらに変貌させる。

怒り狂う仏様のようだ。

どこか遠い思考でそんなことを考えていると、ついなちゃんのお父さんは鼻を鳴らした。

 

 

「はっ。子が親の役に立つ。ほんなもん、当たり前やろが」

 

 

油に火ではない。ニトロに衝撃を与えるかの如き愚行。

彼女の怒りが頂点に達するどころか、爆発するのが感覚で分かった。

それを反映するかのような轟音。

それと共に、空がペンキをぶちまけたかのように、白く染め上げられる。

 

 

『再現「トール」』

 

 

いや。白く染まってるわけじゃない。

雷が、空を覆っているんだ。雷雲も全くないというのに。

それを作り出した本人が、槌を構え、アスファルトを蹴り砕く。

 

 

『いっぺん死ね』

 

 

刹那。空に青白い花火が咲いた。




次回、決着…着かないところもあります。


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ヒーローの敗北

サブタイトル通りです。


「……いい。いいけど…。

本当に、ベストコンディションでなかったことだけが悔やまれるね」

 

 

体が、脳が限界を迎えている。

猛烈な眠気と脱力感に、僕は悔しさだけで対抗してる状態だった。

すでに視界はぼやけ、普通に立つことすらままならない。

 

 

「右腕三回、左腕五回、胴体二回、頭部は…かすり傷で四回、右足一回、左足一回…。

うん。過去最高のスコアだ。おめでとう」

 

 

ヤツが数えたのは、ヤツが再生した箇所とその回数だ。

正直言って、本当に殺す気でかかった。

そうでもしない限りは、勝てないと思ったから。

蓋を開けてみればどうだ。

轟くんは、戦いの終わる一分前に、ただの突きで気絶させられた。

かっちゃんは、耳元で囁かれると同時に、眠りに落ちた。

僕はフィクサーに何もされずとも、意識を保つので限界だ。

 

 

「この調子じゃ続行は無理だね。

おめでとう。今後、僕と対峙する資格を、君たちは得た。

君たちに敬意を評して、元いた場所まで運んであげよう」

「……っ、なんの、つもりだ……?」

 

 

かっちゃんたちを担ぎ上げるフィクサーを睨みつける。

フィクサーはそれを意に介さず、僕の体も担ぎ上げた。

 

 

「だから、敬意だよ。未来の『正義』に対する…ね」

 

 

ソレを最後に、僕は意識を手放した。

 

 

これが、僕が久方ぶりに味わった敗北だった。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

何が起きたのかを語っておこう。

あかりさんが一瞬のうちに相手を空まで蹴り飛ばし、空で槌に込めたエネルギーを叩き込んだ…らしい。

「人工個性持ちだったら耐えられるけど気絶はする」くらいの威力に抑えたとのこと。

どう見たって殺す気満々の一撃だった。

いや、空真っ白だったよ?完全に地球砕くくらいの勢いあったよ?

本当、しぶとさだけはゴキブリ並み…ああいや、随一だな、異能解放軍。

 

 

「…麗日先輩、お腹大丈夫ですか?」

「へ?…あ、ああ、うん。

見ての通り、傷口も塞がっとるし…。

ただ、貧血やろか…。ちょっとえらいわ…」

「えらい?なんで貧血が偉いの?」

「そっちの意味じゃなくて、方言ですよ。

体がだるいことを『えらい』というんです」

 

 

半壊した旅館の前で、そんなやりとりをする。

彼女らが戦っている間に、異能解放軍は全員が捕まったようだ。

流石はプロヒーローに警察。手際がいい。

日本の警察は、吠えていい相手にはトコトン吠えるクチだからなぁ。

その分、吠えられない相手にはトコトン従順だけど。

 

 

「……星が壊れるよりはマシですね」

 

 

ズタボロになった旅館を見上げ、呟く。

避難していた人たちもゾロゾロ出てきて、旅館の有様に同情的な視線を向けた。

避難していた人たちに、傷はこれっぽっちも見当たらなかった。

そのことに安堵するのも束の間、幾人かの男性客が驚いた表情でこちらを見て、目を逸らす。

 

 

「…麗日さん。いい加減、ソレ、隠したらどうですか?」

「はへ?」

 

 

凝視すると何言われるかわからないため、目を背けて彼女の体を指差す。

突風が吹いて、なけなし程度に彼女の秘部を守っていた布が、全て吹き飛ばされた。

その証拠とでも言うように、僕の前に、彼女がまとっていたであろう布切れがひらひらと落ちた。

 

 

「……まぁ、えっか。『終わり良ければ全てよし』やぁああ…ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

 

 

ばたん。

貧血が祟ったのか、脱力して地面に倒れ込む麗日さん。

横目で見たけど、よりによって仰向けで倒れたぞ。

僕はそう言う趣味はないけど、何人か写真撮ろうとしてる。

僕が壁になることで、彼女の痴態が晒されるのをなんとか防ぐ。

 

 

「音街さん、僕のスーツケースからパーカーを出してください。

サイズからして、それなら秘部を隠せます」

「は、はいっ!」

「子供たちは、それまで麗日さんの体を隠してください。

セイカさんは…とにかく動かないでください。アポカリプス起こされたら迷惑です」

「私のドジそこまで酷い!?!?」

 

 

酷いだろ。星砕く兵器一つ、おシャカにしてんだから。

気絶する麗日さんに、音街さんが僕のパーカーを被せる。

 

 

「……バクゴーさんにそっくり」

 

「「「「「「いやいやいやいや!!どこが!?」」」」」」

 

 

音街さんの言葉に、僕たちが総ツッコミを入れた。

性別も違うし、あんな目つき悪くないし、髪は割に整っている方だ。

性格に至っては論外だろう。

そんなことを考えていると、音街さんは慌てて首を横に振った。

 

 

「いや、あのっ…。助けた後に、笑うのが似てるな…って…」

 

 

彼女の言葉に、僕たちは寝息を立てる麗日さんの顔を覗き込む。

だらしなく緩んだ頬に、下がった目尻。

コレを笑顔と呼ばずになんと呼ぶべきか。

 

 

「お茶子の姉ちゃん…。起きたら、ぎょおさん、ありがとうって言わせてぇな…」

 

 

ついなちゃんが彼女の手を握る。

この場面に口を挟むほど、僕は野暮なつもりはない。

プロヒーローたちがこちらに駆け込む最中、僕はふと、気絶したついなちゃんの父親に目を向ける。

 

 

「………………は?」

 

 

そこには、衝撃の光景があった。

 

 

「セイカさん!!あかりさん!!

その子たちの目線を、コッチに向けさせないでください!!」

「え、あ、はい」

「…?は、はい」

 

 

僕が指示を飛ばし、子供たちを無理やりその場から離れさせる。

正直、荒事には慣れているつもりだった。

そういうつもりをしていた。

だが、僕はそれを知らなかった。

前世で味わったソレを、僕は知らないフリをしていた。

 

 

「……前々から、疑問だったんですよ。

どうして、『人工個性』と『自己修復細胞』を結合させたものを、『移植する』必要があるのかって。

『人工個性』を摂取するだけじゃダメなのかって、思ってたんですよ」

 

 

スモークマシンの煙が消え、プロヒーローたちにもその光景が晒される。

子供たちからは見えないが、その光景は、あまりに刺激が強すぎた。

 

 

「あ、ばば、ぱぷっ…」

 

 

まるで、蝋人形を溶かしたかのように、人がドロドロに溶けていく光景。

不思議と僕は、吐き気を催していない自分に気がついた。

人の死を見るのは、これが初めてじゃない。

中学の頃、同級生が敵に殺された光景を見たことがある。

現実感がなさすぎて、驚きもしなかった。

だけど、死は現実にある。

それは、僕が一番知っていた。

 

 

「だとしても、コレは、ないだろ…」

 

 

どんなバカだ、こんなの思いついた奴は。

赤と肌色が混じった水たまりとなっていくその男に、その場の全員が釘付けになる。

伊織さんも状況を把握したのだろう。

急いでこちらに駆け寄り、覗こうとするついなちゃんたちの目を覆い隠した。

 

 

「理解が早くて助かります」

「…こんなの、彼女たちに見せられるもんですか」

 

 

ぐずぐずと溶けていく男に、誰かが嗚咽を飲み込む。

そちらを見ると、まだ新人なのだろうか。

比較的若い風貌のプロヒーローや警察が、そこらに吐瀉物をぶちまけていた。

 

 

「つ、いな、ぁあ……。ご、め、ん…」

 

 

頭骨が溶け、脳さえも溶けていく。

そんな状態になって、初めて彼は、娘へ謝罪を送った。

瞬間。ついなちゃんは腕に赤いオーラを走らせて、僕たちを振り切った。

 

 

「っ、待っ……!!」

 

 

遅かった。

ついなちゃんの視界には、父親だったソレが飛び込む。

幼い少女の心に傷をつけるには、十分すぎる光景。

溶けていく父親を前に、彼女の動きが止まった。

 

 

「ごめ、めめめ…んん…。つ、ぃな……」

「………なんやいな。

外道に相応しい、無様な死に様やんけ…」

 

 

ぽつり。

ついなちゃんが小さく呟く。

ぐずぐずに溶けていく父親に駆け寄り、彼を見下ろした。

 

 

「ごめっ、ごめめ……、めん……。

おか、さ……、まも、なく……。めん……」

「……今更すぎるわ、あほぉ…っ。