取り戻せ最強の座 (白旗)
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プロローグ ―主人公、BW世界へ―
突然だが、僕は主人公だ。
本当に突然何を言ってるんだコイツは、と思うかもしれないが、僕は主人公なのだ。
話は十年以上前に遡る。その日、僕は一度死んだのだ。
さっきから頭おかしいんじゃねーのコイツと思うかもしれないが、これは紛れもない事実だ。
その日交通事故で死んだ僕は、気がつけば赤ん坊になっていた。
俗に言う転生と言う奴だ。
そして何の因果か転生先が国民的RPGであるポケットモンスターの世界だった。
フタバタウンに生まれた僕は、幼馴染のジュンと共に生長して行き、十歳を過ぎたある日、隣町のマサゴタウンに住むナナカマド博士にポケモンを貰いに行く事になった。
そう、この時点でDPPtをプレイしたことのある人ならお気付きだろう。これ、まんまゲームと同じシナリオなのである。
フタバタウンを出た僕とジュンはそこで偶然ナナカマド博士と出会い、博士のお目に掛かった僕達は三匹のポケモンから一匹貰えることになった。
僕とジュン、お互いにポケモンを手に入れた二人は、博士の助手のヒカリと共にシンオウ地方を巡る冒険の旅に出たのであった。
冒険は一年以上に渡って繰り広げられ、ジムリーダーとの戦いや、襲い来るギンガ団とそのボスアカギとの死闘。
四天王との決戦や、道中友人となったシロナさんとのチャンピオンの座を賭けたバトルを乗り越え、僕は見事チャンピオンとなった。
チャンピオンとなったその後も、僕達の冒険は続いた。
ファイトエリアを旅し、バトルフロンティアでブレーン達と戦った僕は、名実共にシンオウ最強の座を手にすることが出来た。
こうして前世で覚えている限りのことをやり尽くした僕は、ある疑問にぶつかった。
――この世界はゲームの中の世界なのか。それとも、ゲームとよく似た異世界なのか。
そんなの別にどっちでもいいじゃないか、と思うだろうが、これはかなり重要な問題なのだ。
ここまで僕はゲームのシナリオと殆ど同じ道を歩んで来た。ジュンやヒカリとの会話など、道中多少の差異はあったが、それも誤差レベル。大まかな話の流れは同じだった。
――果たしてそれは偶然なのか、それともゲームのシナリオをなぞっていただけなのか。
もしこの世界がゲームに良く似た異世界だったら、それはそれでいい。シンオウでやることを終えたら別の地方に行くとか、ジムリーダーになってみるのもいいかもしれない。
しかし、もしこの世界がゲームの世界だったら。ひょっとしたらシナリオを終えた途端にこの世界がぷつりと消えてしまうかもしれない。
最悪の展開は、シナリオをクリアした後は、永遠に未来に進むことなく育成や戦闘を永遠に繰り返すだけになるかもしれない。
つまり、死ぬこともなく永遠にこの世界で同じ時を生き続けなければならないのだ。そうなってしまえば地獄だ。
そして現在、ほぼ全てのシナリオを終えた僕が残すイベントは唯一つ。テンガン山の山頂で、ディアルガとパルキアを捕獲するのみ。
何年か待って時が進むのか確かめるのが一番なのだが、二体の伝説に興味津々なシロナさんと、僕の持つ金剛玉と対になる白玉を持ったヒカリが急かして来るので、あまり時間を稼げそうにもない。
こうして覚悟を決めた僕は、ヒカリと共にテンガン山の山頂で、二体の伝説との最後の戦いに挑むのであった。
僕はディアルガを、ヒカリはパルキアを。
伝説相手にダブルバトルなんて前代未聞のことをしていた僕達は、終始圧倒的な力を持つ二体の伝説の強さに押され気味だったが、苦労してなんとかパルキアを捕まえることに成功した。
あとはディアルガだけ、そう思うと同時に不安が一瞬過ぎる。
――本当に捕まえてもいいのだろうか? ひょっとしたらこの世界が終わってしまうかも知れないのに。
「コウキっ!?」
一瞬過ぎった不安によって生まれた、一瞬の隙。
目の前にいるポケモンは、そんな決定的な隙を見逃すような存在ではなかった。
気付いた頃には既にディアルガの攻撃は間近に迫っており、とても回避出来そうにない。
――ああ、なんと言うことだろう。伝説の恐ろしさは痛いほど理解していたハズなのに……。
前世で交通事故に遭った時と同じ、強烈な死の感覚を味わいながら、僕はディアルガの攻撃に飲み込まれていく。
最後に見たヒカリの表情から、ああ、この後悲鳴を上げるんだろうなー、なんて、どうでもいいことを考えながら、僕の意識は暗く深い闇の中へと落ちていった。
「……生きて、る?」
地面に仰向けに寝ていた僕が目にしたのは、青い空と鬱蒼と生い茂る草木の緑だった。
「あのー……大丈夫ですか?」
真上から声が聞こえたので視線を動かしてそちらを見ると、こちらを覗き込む少女の姿があった。
「…………トウコ?」
「…………え?」
前世で非常に見覚えのある姿を見た僕は、思わずその名前を呼んでしまう。
そんな僕の言葉に目の前に立つ少女が疑問の声を上げるのは、まあ、当然だろう
初登校……じゃなくて初投稿。
小説晒すの自体初めてなんで作者は感想や批評やアドバイスを貰う度に喜びで狂い悶えます。
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第一話 ―現状確認―
「へー、そんなに私に良く似た人が居るんだ……名前も同じだなんて、すっごい偶然! 一度会ってみたいなあ……」
ごめん、そんな人間は存在しないんだ。だから、君がその人に会う可能性は0だと思う。
嘘を吐いてしまったことに罪悪感を感じながらも、無事に誤魔化すことが出来てよかった、と思う。
トウコ曰く、僕は一番道路のど真ん中に倒れていたらしい。
テンガン山の山頂にいたハズなのに、気付けばイッシュの一番道路。
何をどうすれば一瞬で別の地方に行けるのかと悩んだが、ひょっとしたら僕はディアルガの攻撃を受けて死んだのかもしれないと言う答えに辿り着いた。
しかし、前とは違い赤ん坊になってないし、見た目もコウキのままだし。
兎に角この謎を解くべく、べくトウコにポケモンセンターまで案内をして貰うことにした。
トウコの案内によって無事ポケモンセンターに着いた僕は、早速設置されているパソコンにトレーナーカードをスキャンする。
すると、ピッ、という機械音と共にパソコンの画面に僕の情報が表示された。
「……良かった。トレーナーカード、ちゃんと使えるみたいだ」
この結果に僕は心底ほっとした。もし使用不可だった場合、僕は路頭に迷っていたかもしれないのだ。
トレーナーカードはただのカードではない。身分証や電子マネーなど、トレーナーにとって必要な物を殆ど兼ね備えている超重要アイテムなのだ。
これがなければポケモンリーグに出場することは愚か、ポケモンセンターやパソコンの利用、買い物、他のトレーナーとのバトルなどが一切出来なくなってしまう。
使用不可だった場合どれだけ恐ろしいことになっていたことか。
そしてトレーナーカードが使用可能だったことで、もう一つ判明したことがある。
このパソコンで僕のトレーナーカードが使用可能だと言うことは、この世界は僕がここに飛ばされる前にいた世界と同じ世界である可能性が高いということだ。
目の前のパソコンには僕が殿堂入りした時の記録がしっかりと残っており、この世界に僕が存在していたことがハッキリとわかる。
しかし、殿堂入りした日付が画面の右下に表示されている現在の日付の数年前となっており、おそらく僕は未来へと飛ばされたのだろう。
原因はおそらく、僕の受けたディアルガの攻撃。
おそらくあれは時の咆哮。
時間を歪める程のエネルギーを発射するあの技う受けた僕は、歪んだ時の中に放り込まれたのだと推測できる。
それが原因で僕は未来へと送られてしまったと言う訳だ。
なんともSFでファンタジーでオカルトな話だが、僕がこの世界に転生している時点で色々とありえないので、ありえない話ではないハズだ。
なんだ、蓋を開けてみれば大したことが無い。
時間は数年経過しているが、結局は同じ世界な訳だし、シンオウにさえ戻れば皆にもう一度会えると言う事だ。
そうと決まれば早速シンオウに戻るプランを立てよう。
僕はパソコンを終了し、とりあえず歩きながらシンオウを目指すプランを立てようとポケモンセンターを後に――
ぐう
――しようとした所で、僕の腹が喋った。
幸い音が小さかったので他の人には聞こえていない様子。
そう言えば朝から何も食べていないんだった。
腹が減ってはなんとやらと言うし、一先ず腹ごしらえをする為に食堂を目指す。
「ち、ちょっとコウキ!? パソコンとにらめっこしていたと思ったら何処に行くの!?」
トウコが何かを言っている気がするが、話を聞くのは飯を食ってからだと決め、無視する僕だった。
短いけどキリがいいので投稿
続きは明日以降上げます
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第二話 ―最初のバトル、そして―
「シンオウ!? ず、随分と遠い所から来たのね……」
「まあね。こっちに来たのは事故みたいなものだから、早く帰らないといけないんだけど」
ポケモンセンターに併設されている食堂でもぐもぐと食事を摂りながら向かい合って座るトウコにこれまでの経緯を話す。
ポケモンの力で送られたとか、過去から来たとか、余計なことはオブラートに包んでだが。
流石にそんなオカルトみたいな話をしたら狂人に思われてしまうだろう。まあ、純粋なトウコなら信じてくれそうだが、別に言わなくても問題はないので黙っておく。
「事故……? よくわからないけど、とにかく急いで戻らないといけないのね? よーし、何か私に手伝えることがあるなら手伝わせて! 出来ることなら何でもするから!」
見知らぬ相手にここまで優しくしてくれるとは、流石は主人公。
僕みたいなただのイエスマンとは大違いだ。
「……じゃあ、ご好意に甘えさせて貰おうかな。トウコに聞きたいことがあるんだ」
「よしきた! さあさあ! 私に何でも聞いて!」
人の役に立てるのが余程嬉しいのか、トウコは笑顔で言う。
「うん。あのさ、シンオウに戻るにはどうすればいいかな?」
「シンオウでしょ? うーん……ヒウンから船に乗るか、フキヨセで飛行機に乗るのの二択かなあ……」
聞き覚えのある名前が二つ出て来た。
ヒウンは大きな港町で、フキヨセは飛行場のある町。
なるほど、確かにその二つの町ならシンオウに戻れるかもしれない。
「どっちが早く着く?」
「……わかんない」
「えー……」
「し、仕方ないでしょ。……どっちもテレビで見ただけで、実際には行ったことないんだから」
それもそうか。すっかり忘れていたが、トウコはまだ旅を始めて一週間も経っていないのだ。いくら同じ地方に住んでいるとは言え、行ったことがなければ知っていることの方が珍しい。
下手をすれば、前世でゲームをやった僕の方がイッシュについて詳しく知っているかもしれない。
「そっか。わかった、一先ず近いヒウンを目指してみるよ。そこでどっちが早いか聞いてみる」
お皿に残った食べ物を一気に掻き込み、僕は席を立つ。
既に食べ終わっていたトウコの分の食器も一緒に重ねて、返却口へと持っていった。
「うー……結局何も手伝えなかった……」
食事を終えてポケモンセンターを出た僕に、トウコが残念そうな顔で言う。
「気にしなくていいよ。ここまで色々として貰ったから、トウコには感謝してる」
「か、感謝だなんてそんなあ……えへへ、私は当然のことをしたまでで……」
「そうだ、何かお礼をさせてよ。トレーナーカードも使えるし、欲しい物があるならあげる」
「お、お礼だなんて! いいよ、いい! お礼が欲しくて助けたわけじゃないんだから!」
「そう言うと思ってたよ。でも、借りは返さないと僕の気が済まない。欲しい物がないなら、代わりに僕にして欲しいこととかないかな。何でもするよ」
「……えっと、その……して欲しいことなら、その、あるかも……」
もじもじと恥ずかしそうにしながら、ねだるようにちらちらとこちらを見るトウコ。
「なに? 僕に出来ることならなんでもするよ」
「えっとさ、コウキはポケモントレーナーなんだよね……? じゃあ、さ。……私とバトル、してくれない?」
トウコの言葉に思わずぽかんとしてしまった。
「だ、ダメ?」
「……いや、いいけど。そんなことでいいの?」
「そんなことだなんてとんでもない! 実は私、バトルを挑むのがどうにも恥ずかしくって、友人以外とはまだしたことがないの!」
「まあ、トウコがいいって言うならいいけどさ」
「やった! じゃあ早速そこでやろう!」
勢いで何でもするとか言ってしまい、少し後悔していた僕だが、トウコが優しい子で助かった。
――やっぱり、こんな子が主人公であるべきなんだよな。
早く早く、と催促するトウコの後を追いながら、ぼんやりとそんなことを考えてしまう。
駄目だな、さっきから自虐的になり過ぎだ。
軽く首を振って嫌な考えを掻き消した僕は、トウコに追いつく為に歩調を速めた。
「それじゃあ、勝負は一対一のシングルバトル。使用ポケモンはお互い一匹でいい?」
「もちろんオッケー! さ、早く始めよう!」
見知らぬ人と初めてのバトルをするからか、先ほどからテンションの高いトウコ。
ここは先輩として勝負の厳しさを教えるべきか、わざと負けるか。
いや、わざと負けるなんてトウコに失礼だ。ここは全力で行かせて貰おう。
そんなことを考えながら、僕はボールを留めてあるベルトに手をやる。
「……あれ?」
「……? どうしたの、コウキ? 早く始めようよ!」
「……うん」
気になることがあるが、今はバトルの最中だ。背を向けることは許されない。
「じゃあ、行くよ」
「うん!」
開始の合図をすると同時にお互いにボールを投げる。
投げられたボールは空中で開き、お互いのポケモンが繰り出された。
「……ツタージャ、か」
トウコが繰り出したポケモンはツタージャ。草タイプのポケモンで、BWで最初に博士から貰える三匹の内の一匹だ。
対する僕が繰り出したのは……
「……なに、そのポケモン?」
「……シンオウのポケモンだよ。名前はグレイシア」
「か、かわいい……」
でしょ……じゃなくて、僕が繰り出したポケモンはグレイシア。氷タイプのポケモンだ。
第四世代……つまりDPPtから追加されたイーブイの進化系の一つである。
Ptではヨスガシティの民家でイーブイが貰えるので、手持ちに入れていた人は結構多いのではないだろうか。
僕も例に漏れずミズキさんから貰い、217番道路で進化させた。
「あっ、そうだ! タイプを調べないと……」
しばらくグレイシアに見惚れていたトウコだったが、我に帰ると慌てて図鑑を取り出しグレイシアへと向けた。
ポケモン図鑑はただの図鑑ではなく、様々な便利機能が搭載されている。
例えば今のトウコのようにポケモンに向けると、そのポケモンのタイプが表示されるのだ。
「氷タイプ……? えっと、草は氷に有利何だっけ……?」
逆だと教えようと考えたが、今は勝負の最中だ。余計なことは言わなくてもいいだろう。
しかし、僕が偶然出したポケモンが偶然相性が良いとは、トウコも運がない。
「……もうバトルは始まってる。余所見はよくないよ。グレイシア、れいとうビーム」
「え? わ、わわっ! よ、避けてツタージャ!」
トウコの指示を受け、飛んできたビームを慌ててかわすツタージャ。
「……避けられた?」
おかしい。今のれいとうビームは様子見で手を抜いていたとは言え当てる気で撃ったハズだ。避けろの一言で避けられるような代物じゃない。
「……グレイシア、もう一度れいとうビームだ」
もう一度、今度は外さない為に指示を出す。
「えーっと、えーっと……ツタージャ! 避けてたいあたり!」
トウコが指示を出すと、ツタージャはあっさりとれいとうビームを回避し、グレイシアの懐に迫る。
再び避けられたことに戸惑っていた僕は、思わず指示を出すのを忘れてしまっていた。
「キュッ!」
きゅうしょにあたった。そんな言葉が脳裏を過る。
ツタージャのたいあたりを直撃したグレイシアは鳴き声を上げ、その場に倒れ込みそうになる。
「……っ! 頼むグレイシア、耐えてくれ……!」
僕の指示を受けてくれたグレイシアは、なんとかその場に踏みとどまる。
「そのままこおりのつぶて!」
指示を受けたグレイシアはこおりのつぶてを放ち、それがツタージャに当たる。
「ツタージャ!?」
こおりのつぶてをくらったツタージャはその場で倒れ込み、戦闘不能になった。
「ま、負けちゃった……」
ツタージャへと駆け寄りへなへなとその場に座り込んだトウコに、僕はバッグから取り出したものを渡す。
「……? これは……?」
「……げんきのかけら。使うと瀕死から回復する。ツタージャに使って」
「あ、ありがとう!」
げんきのかけらを受け取ったトウコがそれをツタージャに食べさせると、ツタージャは瀕死から回復して元気になった。
「わ、本当に元気になった」
げんきのかけらを使うのは初めてらしく、トウコはその効果に驚く。
僕にもあんな頃があったな、と懐かしく思うも、僕の頭は別のことで一杯だった。
「あーあ、負けちゃった……コウキって強いんだね」
バトルが終わり、ポケモンセンターを目指す途中、トウコが言った。
「……でしょ?」
「あはは、自分で言わないでよ」
僕の言葉を冗談だと受け取ったのか、トウコは笑って受け流す。
――冗談じゃなく、僕は、強い。
僕は強い。そう、僕は強いハズなんだ。
旅に出て一年でバッジを全て集め、チャンピオンになった。
バトルフロンティアも制覇し、伝説のポケモンやギンガ団のボスとも戦って勝った。
でも、たった今。
たった今、僕は負ける寸前だった。それも、旅を始めて僅か一週間やそこらの子に、だ。
「……僕は、強いんだよね?」
抱きかかえているグレイシアを撫でながら呟いた僕の言葉は、誰にも聞こえることはなかった。
物を書くのって難しい……
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