Betrayal Squadron (胡金音)
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本編
一話 トラック泊地第55号大隊


※注意!(始めにお読み下さい)
・この作品には原作のゲーム設定が崩壊しかねないオリジナル設定を大量に含みます。
・また、キャラクター崩壊も含みます。予めご了承下さい。
・後で「この作品を呼んだせいで【艦これ】が楽しめなくなった!」や「こんなの俺の嫁じゃねぇ!」等のクレームについて作者は責任を負いかねます。自己責任でお願いします。
・少しでも皆様の暇つぶしになれば作者は幸せです。

[誤字は発見し次第訂正してます]


 午前中にも関わらず燦々と降り注ぐ強い日差しを鮮やかな緑色の木々が照り返している。そんな木々に覆われた小高い山の山頂付近に赤茶色の煉瓦で飾られたトラック泊地所属第55号大隊司令部はあった。そして今、海に面した窓から白い海軍制服を着た将校が泊地沖の海面を双眼鏡で眺めていた。身長170cmほどの男でやや痩せ型の体格に短く刈上げた髪を持ち黒淵で楕円形の眼鏡を掛けている、齢は30ほどに見える。彼の執務室であるその部屋は机と椅子、本棚それとソファーが置いてあるだけのシンプルな部屋だった。

 ノックの音がして双眼鏡を下ろした将校が振り向いた。

「赤城です、泊地長からの封書と艦娘宛ての私信をお持ちしました。今よろしいでしょうか?」

将校は返事を返す。

「どうぞ」

失礼します、とドアの向こうから声がして窓から南国特有の蒸した空気が部屋に流れ込む。弓道着姿の赤城が姿を現した。

「こちらです」

「ありがとう」

将校は渡された書類を机に丁寧に置いてから改めて窓の外へ目を向けた。

「提督、何か見えるのですか?」

そう尋ねながら赤城は彼の隣に並んだ。

「ん。赤城さんも観ますか?」

双眼鏡を受け取り将校が見ていた方向に向けると、沖合いで艦娘達が向かい合って砲塔を構えていた。一人が発砲したのを皮切りに激しい砲撃戦が始まり、艦娘に命中した砲弾は炸裂・・・せず、代わりに緑色の染料を撒き散らした。

「模擬戦ですか・・・どおりで寮が静かだった訳です。でも、どうして急に?」

「青葉さん、衣笠さんが52号大隊に移籍してから少し元気が無さそうだったので、気晴らしにでもならないかと思いました」

「・・・!そうだったんですか!?表向きはいつもの彼女なので気付きませんでした・・・。ところで、ペイント弾なんて支給されていましたっけ?」

模擬戦中の艦娘達がペイント弾をばこばこ撃ってどんどん緑に染まっていくのを見て赤城が尋ねた。

「昨日晩から艤装班に作ってもらいました。後で北間(きたま)大佐に怒られましたが」

「そうですか(あれだけ撃ってるということは艤装班の皆さんは徹夜ですかね、可哀想に)。それにしてもみんな必死ですね」

「まあ、賞品が間宮の達磨アイス引換券ですからね」

「あ、ずるい。今から私も参加してきてもいいですか?」

赤城が口を尖らせた。

「秘書の分は別で取ってあるから安心してください」

「じゃあいいです。あと、最初から気になっていたのですが・・・アレって加賀さんですよね?すっごく不機嫌そうですけど・・・」

「加賀さんでしょうね。やはり不機嫌そうですか・・・」

執務室に沈黙が流れた。

 

 

「ぶっ・・・くくくくくっ・・・ぶはっ」

「ちょ、加古!?・・・加賀さん、ごめんなさい。気にしないで下さい」

「ぷっ、加賀さん写真とってもいいですか?」

「青葉まで!?加賀さん、本当に気にしないで!?」

演習を始める直前に加賀の姿を見た加古、古鷹、青葉の感想である。

 

 

時間は少し前に遡る。

「昨晩、司令から聞いていると思うが、今朝は朝礼の時間を使って演習を行う。通商破壊班と輸送船護衛班に分かれて紅白戦の形式を採る。点呼と同時に班も伝えるのでよく聞くように。睦月、如月・・・・・・」

朝で任務前の演習ということもあり司令棟1F、執務室の真下にある講堂に集まった艦娘の士気は低く威勢の無い声が続いた。

「・・・・・・加賀は訓練標的を装備して輸送艦役を頼む。・・・よし、全員居るな?勝った班には来月来航する間宮のアイス券を贈与する。質問がある者は居るか?・・・では艤装をペイント弾及び訓練用魚雷に換装後、作戦海域に出航!」

鳳翔の号令による敬礼に見送られて将校が退室し、艦娘達はおしゃべりを始めた。

「毎回毎回アイス券じゃねぇ。ま、いいけどさー」

「そうだな、ボクもたまには違うのがほしいかな」

「でも間宮さんのアイス、いつも美味しいじゃないですか」

少々不満げな望月と皐月を三日月が宥めた。

「まあ・・・姉貴の言い分も分からなくも無いがな」

「そうよね~たまにはアイスより、もっとあま~い物がほしいわよね~」

「アイスより甘いものってなに~?」

「ふふぅ~ん。それはねぇ~・・・」

「如月姉!文月姉に変なこと吹き込むんじゃない!」

すぐさま怪しい空気を感じ取った長月が如月を制止する。

「そういえばみんなは雪ダルマアイスって知ってますかー?」

睦月は妹たちが否定するのを確認してから続けた。

「なんでも雪ダルマみたいに二段になったアイスで、軍票が幾らあっても引換券がないと注文出来ないそうです。しかも!肝心のアイスも雪ダルマアイス特製の砂糖をたっぷり使っていていつものアイスよりも甘いの!って赤城さんに教えてもらったのです!」

満足気な顔で語り終えた。

「それは・・・食べてみたいな・・・」

「それも・・・おいしそうですね」

「その引換券ってうち等みたいな輸送部隊でも貰えんの?」

「・・・・・・」

「「「・・・・・・」」」

「・・・演習、行くか」

「うん・・・」

一喜一憂した一行が演習に向かうため講堂を出ようとしたところ、さっき説明を終えたばかりの将校が扉から顔を出した。

「まだ居るか?さっき言い忘れていたんが、今日の賞品のアイスはいつもと違うレア物の二段アイス券だ。頑張って勝って来いよ?」

「「「!!!」」」

「・・・菊月、出る!」

「あっ!ボクも行くよっ」

「私だって!!」

それを聞いた菊月が真っ先に駆け出して皐月と三日月が続く。

「では、行って来る」

「さ~やっちゃうわよ~」

「じゃ、本気出しますかぁーっ」

「あたし忘れ物したから取ってくるね~」

「遅れちゃだめですよー?ではでは、副司令。行ってきまーす」

残りの駆逐艦娘たちがぞろぞろと出て行き静かになった講堂に将校が残された。

「俺も仕事するか。それにしても若者は元気だねぇ・・・」

今年で45歳になる副基地司令、北間大佐はつぶやいた。

 

 

「加賀さ~ん、待って~!」

司令部から海へ続く坂道の中程で加賀は名前を呼ばれた。振り返ると文月が駆けて来て、まもなく追い付いた。

「何かしら?あなたの姉妹なら先に駆けて行ったわ」

加賀は屈んで目線を合わせながら伝えた。

「あのね、忘れ物しちゃったから少し待ってて欲しいの・・・」

上目遣いで頼まれ、手まで合わせられた。

「・・・分かった。ここでいいかしら?」

「うん!ありがと~、すぐ戻ってくるね~!」

それから加賀は寮の方へ向かって行った嬉しげな文月の背中を見送った。

(私も少しは懐いて貰えたのかしら・・・)

数分後、文月を待っていた加賀が目にしたのはダンボールで出来た大きな人形を抱えた黒いセーラー服だった。人形が大きすぎて前は見えていそうに無い。ご丁寧に肩の部分には輸送艦・・・と描きたかったのだろう。”輪送艦”と書いてある。

「これね~、次の演習の時に輸送艦役の人に『着て』もらおうと思ったの~。輸送艦役の人は的を持たなきゃいけないし、みんなから狙われるから大変でしょ~?だからね~訓練弾が当たっても痛くないように昨日の夜作ったんだよ~」

無邪気に話す文月を相手に、加賀は固辞する術を持たなかった。

 

 

「ふふっ、それで加賀さんはそんな格好をしていたのね」

今日の演習で審判を勤める鳳翔大尉は軽やかに微笑んだ。

南洋庁最大級を誇るトラック泊地を囲う環礁は周囲200kmを誇り、外洋の波から船舶を守るのに役立つと同時に、泊地内で波に影響されずに演習が出来る環境を作り出している。今、彼女達が集まっているのは55号大隊司令部のある春島東部5km程の地点である。

「加古、そろそろ笑うの止めなよ・・・」

「だってさ、輪送艦って・・・しかもあの加賀さっぐふっ、くくくぅ・・・」

「もうっ!」

現在、加賀は着ぐるみを着て頭の被り物を脇で抱えている様な格好でダンボール装甲を身に纏っている。集合場所で出会って早々に加古に大爆笑された。漢字の間違いを笑われて文月は涙目になっている。

「・・・鳳翔さん、早く演習を始めましょう」

加古を横目で睨みながら加賀が言った。それから加賀が頭の被り物を被って加古がまた吹き出した。

「そうね。さあ皆さん!」

鳳翔が手を叩いて注目を集めた。

「ここから南北にそれぞれ約5kmの地点にブイを浮かべておきました。破壊班は北、護衛班は南のブイ附近に集まってください。開始は今から5分後に私の電文で伝えます。では、班に分かれて移動してください」

鳳翔を残して艦娘達が2つに分かれて行った。

「加古、青葉!行くよっ!」通商破壊班=旗艦:古鷹・僚艦:加古,青葉(全員、上等兵曹)

「貴方達・・・・・・勝つわよ」輸送艦護衛班=旗艦:加賀(中尉)・僚艦:睦月,如月,皐月,文月,長月,菊月,三日月,望月(睦月型駆逐艦全員、二等兵曹)

やがて鳳翔は演習開始を告げるモールス信号を打った。

 

 

沈黙の中、司令棟2Fの執務室で演習を観戦していると不意に将校が窓辺から離れた。

「どうされました?」

「コーヒーでも飲もうかと。赤城さんも飲みますか?」

本棚の一部を占領しているポットとコーヒーカップを取り出しながら将校が答えた。

「言ってくださればご用意しますのに」

「では熱湯を用意して下さい」

赤城は快諾しポットを片手に給湯室に向かった。

その後、入れ違いになるように執務室のドアがノックされた。

「金沢(かねさわ)少将、少しお話があります」

 

 

赤城が執務室に戻ると白いスカートの軍服に身を包んだ女性将校が金沢と話していた。

「あら、赤城さんおはようございます」

「おはようございます、大端(おおばた)中佐。提督、お湯をお持ちしました」

「ご苦労様です。ではカップをもう一つ準備して貰えますか?」

将校、もとい金沢少将は赤城から熱湯の入ったポットを受け取りながら言って、赤城が返答する前に大端が答えた。

「いえ、お構いなく。私は職務がありますので。うちの千歳からの電文の確認お願いしますね。じゃ、赤城さんもがんばってっ」

そういって金沢に敬礼を、赤城にはウィンクして退室した。

「じゃあ、冷めない内に淹れてしまいましょう」

金沢がポットを傾けた時、窓の外・・・模擬戦をしている方向から大きな爆音が聞こえた。直ぐにポットを机に置き、双眼鏡を手に窓から身を乗り出した金沢が言った。何事か、と赤城も窓辺に向かう。沖合いで黒煙が細く昇っていた。

「すみませんがコーヒーはまたの機会に・・・」

双眼鏡を渡され赤城も同じように煙の麓を確認する。二度目の爆音が続いた。

「えっ?・・・ああ・・・入渠用意の連絡をしておきますね・・・・・・」

まだ口から湯気の立つポットを尻目に赤城は執務室を後にした。

 

 

輸送艦護衛班の中心で明らかに訓練弾のそれとは違う黒煙が上がっていた。不意な至近爆発に駆逐艦たちが戸惑っている。

「あら、大変」

鳳翔が艦娘達に演習の一時中止を伝え金沢に連絡を取りに行った。

「やばっ・・・魚雷の換装忘れてた」

加古の呟きに古鷹が絶句して固まっている。加古が撃った魚雷の射線は真っ直ぐに加賀に繋がっていた。足元には焦げたダンボールが水に浮いてる。

「・・・・・・頭にきました」

加賀が淡々とした動作で九九艦爆の矢を放った。放たれた矢は一旦空高くに飛び上がり放物線の頂上で九十九式艦載爆撃機に変化した。艦爆は弧を描きながら徐々にスピードを上げて加古に向かう。

「げっ・・・たっ助けて、古鷹!」

「え?えぇ!?」

「わっ!なんでこっちに来るんですか!?」

加古が古鷹に向かって逃げ青葉も巻き添えを食らう形になり3人が単縦陣で走り出した。

 

 

「・・・・・・以上です。最後に損傷状況を報告します。古鷹は中破、加古と青葉は小破、加賀は軽微です。古鷹は入渠させておきました。なお、全員艤装の損傷は軽微でしたので古鷹も明日には復帰可能かと思われます」

「ご苦労さまです。状況は分かりました。さて、何をしてるんですか?」

執務室には加古、加賀、そして秘書である赤城が集められていた。ポットの口からはもう湯気は立っていない。

「調子に乗りました、すいませんでした」

「・・・申し訳ありません」

組んだ指の上に顎を乗せた金沢に2人は謝った。ちなみに青葉は古鷹の代理で出撃する任務に供えて小休息を取っている。

「二度とこんな事は無いように。加古、駆逐艦に直撃していたら損傷では済みませんよ?それと演習とはいえ旗艦の損傷の方が大きいのは非常に問題です。加賀も旧型機とはいえ実戦と公式の演習以外で飛ばさないように。」

金沢は一息吐いてから続ける。

「では、加古さんは青葉さんに同行、加賀さんは予定通り51大隊との公式演習に向かってください。」

2人は敬礼と掛け声で返答した。

「赤城さんは予定通り加賀さんと演習に行って下さい。では解散っ」

3人を見送り、金沢は隣の指揮室に移動した。

 

 

55号大隊司令部の指揮室は有事の際、内地の司令長官が前線で指揮を取れるように基地の規模に比べてかなり大きく造られている。海に面した大窓から雛壇状に机が設けられ各席にモールス信号を打つ為の機械類、ヘッドホン、ペン立て等が用意されている。最上段にのみ基地内放送用のマイクが設置されていた。金沢はすでに待機していた部下達と挨拶を交わして最上段の席に向かいマイクのスイッチを押した。

「各隊、本日の任務を開始してください!」

トラック泊地の一日が始まった。

 

 

「古鷹、大丈夫ですか?」

「ああ、司令。わざわざすみませんな」

昼休み、古鷹が入渠している部屋に金沢が入ると、先客が居た。

「栗崎(くりさき)大佐、お疲れ様です」

部屋には簡素な造りのベットと長さ2メートル直径1メートル程の無骨なカプセルが置いてある。年相応の皺を日に焼けた顔に刻んだ栗崎はベットの対面の丸椅子に腰掛けていて読んでいた本から顔を上げた。

「今朝はうちの加古が面倒を掛けて申し訳ない」

「終った事です。それより古鷹の容態は?」

金沢は声を小さくして尋ねた。古鷹がベットの上で眠っていた。

「そんな心配そうな顔をせんで下さい。治癒力増強の為に睡眠薬で眠っているだけです。中破とはいえ高速修復液を使わずとも明日には復活出来るそうですよ」

「それは良かった。・・・それにしても、娘達の治癒力には毎度驚かされますね。いくら戦闘用に『作られた』と言っても」

「私も初めて艦娘を中破させて翌日元気な姿を見た時は驚きましたよ。何度も整備員に確認して呆れられたものです」

「日本の技術も向上したものですね。尤も、本来海軍に在るべき巨大な鉄の艦船を造るだけの資源が枯渇して人間を強化せざるを得なくなっただけかもしれませんが。しかし海戦の為に人体に手を加えるとは・・・」

「まあ・・・今や昔と変わらない船は、材料を選ばない輸送艦や客船ばかりですからなぁ」

「こんな事言っても仕方ありませんね。・・・さて、僕は昼食を取って来ます」

「ああ、どうぞごゆっくり」

「あ、あと加古への説教は済ませておきました。帰って来たらどうかいつも通り迎えてあげて下さい」

「了解です」

栗崎に見送られて金沢は部屋を後にした。

 

 

トラック泊地本部が置かれ街が開発されている夏島や夜間発着用の照明が航空機の滑走路に設置されている春島東部と比べ、春島西部に在る司令部からは比較的と言った程度だが星を眺める事ができる。空が紺青に染まる頃日光の熱が残る執務室には明かりが灯っていた。

「あら、皐月さんに睦月さん。どうしたの?」

司令棟の前で赤城は2人の駆逐艦に会った。

「提督から手紙が来たって呼ばれたんだ」

「ブルネイからだからきっと弥生ちゃんと卯月ちゃんからですねー」

「そうなの、よかったわね。一緒に行きましょうか、私も提督に用があるの」

3人は執務室に向かった。

 

 

 「提督!皐月、来たよ!」

「睦月も来ましたー!」

「提督、失礼します」

開けっ放しになっていたドアを叩きながら3人は執務室に入った。

「おや、3人共一緒でしたか」

金沢は読んでいた今朝の封書を裏向きに置いて、引き出しを開けた。

「この中です。すみません、朝渡せたら良かったんですが遅くなってしまいました」

金沢は封筒を渡しながら言った。

「明日の朝礼の時で良いのでまた報告書をお願いします」

「「了解!」」

  駆逐艦の2人が部屋を出るのを見送ってから赤城は尋ねた。

「提督、今日も検閲されなかったんですか?」

「まあ、後で書いてあった事を簡単に報告して貰ってますから上への報告は大丈夫ですよ」

「そんな事では何かあった時に即座に対応できませんよ?」

「駆逐艦達の手紙を検閲しないからってそんな大変なことにはなりませんよ。それとも・・・赤城さん達はクーデターでも起こす算段を立てているんですか?」

冗談っぽく金沢が言った。

「まさか。もう、後で本部の方に怒られても知りませんよ?」

金沢と赤城は笑いあった。

「それで赤城さんは何か用があったのでは?」

「あ、はい。帰還した青葉さんと加古さんの入渠を開始しました。明日の朝には復帰できるとの事です」

「分かりました。でも、その位の連絡なら基地内電話で済ませてもらっても構いませんよ。わざわざここまで来てくれなくても」

「いえ、気にしないで下さい。それより、今から2人でコーヒーでも飲みませんか?ほら、今朝飲み損ねた事ですし」

「あー、すみません。夕飯もまだなので、また次の機会にしましょう。代わりと言っては何ですが・・・」

「・・・はいっ!」

「少し早いですけど今日はもう休んで貰って良いですよ」

 

 

赤城が執務室を出た後、金沢は今朝届いた泊地長からの封書を再び開いた。金沢の眉間に皺が寄る。

「これは・・・どうしたものか・・・」

 

【・・・ベク、南太平洋護衛艦隊ノ更新ヲ行フ二当タリ、以下ノ人型艦船ノ破棄ヲ決定ス。・・・】

 

 執務室の明かりが消えた時、空の色は紺青から漆黒の闇へと変わっていた。

 

Continue>>>【二話 間宮来航】

 




拙い作品を最後まで読んでいただきありがとうございました。
続きます。投稿ペースは遅いとは思いますが、全10話ほどに成ると思います。
もし、よろしければ最後までお付き合い頂けると幸いです。

2014/3/15                           胡金音


【追記】
文月ちゃんが持って来たアレは、あずまき○ひこ先生の作品「よつば○!」に登場する「ダン○ー」を想像して頂けると分かりやすいかと思います。


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二話 間宮来航

※注意!(始めにお読み下さい)
・この作品には原作のゲーム設定が崩壊しかねないオリジナル設定を大量に含みます。
・また、キャラクター崩壊も含みます。予めご了承下さい。
・後で「この作品を呼んだせいで【艦これ】が楽しめなくなった!」や「こんなの俺の嫁じゃねぇ!」等のクレームについて作者は責任を負いかねます。自己責任でお願いします。
・少しでも皆様の暇つぶしになれば作者は幸せです。

[追記]サブタイトル変更しました



 重厚な色合いの机で一人の将校が書類に向かっていた。太っている、とは言い切れないものふくよかな印象を受ける彼の額には薄らと汗が滲んでいる。大きく頑丈な造りの窓からは南国らしく色合い豊かな屋根が並んでいる景色を映し、痛いぐらいの日差しが差し込んでいた。この時代では高価なエアコンが日差しに対抗しているものの効果は薄く、部屋の空気は蒸していた。将校が一息吐こうとペンを置いた時、部屋の扉がノックされた。

「富山(とみやま)連隊長、55号大隊の金沢少将がお越しです」

案内の係が来訪者を知らせた。

将校は一息吐く代わりに溜息を吐いて入室を許可した。

「また君か」

「はっ。55号大隊司令、金沢護人(かねさわもりと)です。お願いがあってまいりました」

短く刈上げた髪に黒縁の眼鏡を掛けた将校が姿を現した。

 

 

 トラック泊地本部はチューク環礁東部にある夏島に構えられている。夏島は泊地本部を中心に日本人街を形成しており、日本語で書かれた看板や軽便鉄道まで見る事が出来た。

「・・・・・。ですから何度も申し上げている通り、彼女達は輸送艦護衛に必要な能力は十分に・・・・・・」

3週間前、連隊長からの指令封書を受け取った翌日以来、金沢は時間が許す限り本部の泊地長を訪ねていた。

「君の言うことは理解出来るがこれは大本営の決定なのだ。君がどうこう言って変わるものではない」

「そこを泊地長からも大本営に訴えて下されば、決定が覆る事も考えられるではありませんか!」

「しかしだな・・・・・・」

3週間ほぼ毎日、哨戒の水上機に便乗してやってくる金沢に富山は辟易していた。

「・・・・・・、睦月型の彼女達に至ってはまだ3年も経っていないのですよ!」

そして富山はいつもと同じ台詞を言ってしまう。

「君の言い分は分かったから今日は一旦帰れ」

いつもこの一言でもう一悶着起こしてしまうのだった。富山はあわてて付け足す。

「今日は君の所の空母が遠征から帰還する日だろう。一月ぶりなのだし基地で出迎えてやりたまえ。長期遠征の労いだと言って給糧隊のトラック来航を延期までさせたのだから」

「・・・分かりました。この件はよくご考慮の上でお返事をお願い致します」

今日は運良く金沢配下の軽空母が遠征から帰還することもあり、金沢があっさり引き下がったことに富山は安堵した。

「また来ます。失礼しました」

一礼して金沢は退室した。

(・・・もう来るなっ!)

 

 

 夏島から東に10km程の場所にトラック泊地の外縁たるチューク環礁はある。ぐるりと泊地を囲う環礁は所々途切れていて、船舶はそこを水道として港と外海を行き来していた。

「やっと到着ね~。ああ、長かった」

「一ヶ月ぶりね。あ、お姉!水偵が飛んでるっ」

「そうね、うちの提督が乗ってたりして。さ、基地はもう目と鼻の先よ。行きましょう」

ちょうど金沢が春島に帰る途中、2人の軽空母が水道の一つを通過して行った。

 

 

 太陽が真上を過ぎる頃、一機の水上機が波を掻き分けて着水した。

「少将、到着致しました」

「ありがとう。いつもすみませんね」

春島の桟橋に到着した零式水上偵察機は金沢を下ろして直ぐに傾斜路から引き上げられ西に向かって運ばれて行った。春島西部に拠点を構える54号大隊は多数の航空機を保有する航空隊で泊地近辺の哨戒から前線の航空支援まで幅広く担当しており、金沢が乗ってきた水上機とそのパイロットもそこに所属している。

「明日の朝の哨戒にも同行させて貰えますか?」

「一介の操縦士が少将とも在ろう方のお願いを無碍に出来る訳ないじゃないですか。それに金沢少将は断ってもいらっしゃいます」

「そうですね。では明日もお願いします。司令によろしくお伝え下さい」

「・・・はい、了解しました」

苦笑いで答えたパイロットに別れを告げ金沢は司令部に向かった。

 

 

 「提督!お疲れ様です、今日は早かったんですね」

司令部に戻る途中、金沢は艤装を装備した赤城に声を掛けられた。赤城の隣では同じ姿の加賀が軽く会釈していた。

「今日は千歳と千代田が帰ってきますからね。2人共午前の訓練はご苦労様でした。空母は簡単な発艦訓練でも一々海に出ないといけないから大変ですね」

「まあ・・・私たちの艦載機は海上で運用する前提で造られていますから。・・・陸で飛ばしては山に艦載機が刺さってしまいます」

「ははっ。そうでした」

加賀の返答に金沢は笑って相槌を打った。

「ところでお昼ご飯はもう食べられましたか?昼の休憩時間で加賀さんと外の食堂に食べに行こうって話していたんですが、提督もいらっしゃいませんか?」

「そうですね。ではご同伴に・・・」

「赤城さん、提督は最近夏島で外食続きですからたまには基地の食堂で食べた方が良いわ」

金沢が賛同しようとしたところに、加賀が声を被せた。

「・・・いや、そうですが、あまり加賀さんと食事を取る事もあまりありませんし、たまには・・・」

金沢が慌てて説得を試みる。

「ご自身の健康ぐらいご自身で維持して下さい」

「いいじゃない。たまには3人での外食も」

「赤城さんは提督に甘すぎます。さ、行きますよ。提督、失礼します」

「え・・・?ちょっと加賀さん!?あっ、提督!また後ほど・・・」

加賀に引っ張られて赤城は去っていった。赤城の援護の甲斐も無く一人取り残された金沢は基地内の食堂に向かった。

「はぁ・・・」

金沢が溜息を吐いて基地へ続く坂道に目を向ける。食堂に至る坂道は日差しを白く照り返していた。

 

 

トラック諸島では夏島に次いで発展している春島だが発展しているのは空港のある島の西部ばかりで、後から追加された55号大隊の使用する春島東港から休憩時間中に歩いて行ける食堂といえば1つしかない。それも現地の漁師が集まる集会場と言った場所で名前も決まっていないような店だが、基地の食堂では扱っていない料理や甘味目当ての艦娘や軍人達からは『外の食堂』として親しまれている。

「イラッシャイ!いつもどーりたくさん食べてけっ!」

常連客である赤城と加賀は、褐色の顔に満面の笑みを浮かべた店主兼、料理長兼、ウエイトレスの女性に歓迎された後、カウンターの席に着いて注文を済ませた。艤装は矢筒のみ外して壁に立て掛けた。胸当ては紐を緩めて前掛けはそのまま。

「もう。提督にも来て貰えば奢って貰えたかも知れないのに」

「・・・お財布だけが目当てじゃないでしょう?」

「さあ?どうかしら」

「まあ、いいわ。それより・・・」

加賀が顔だけ赤城に向けて言った。

「・・・いよいよね」

「ええ。間宮さんの分、お腹空けて置かないとね」

赤城も顔を向けて頷く。

「その件なのだけど・・・お願いがあるの・・・」

「なにかしら?」

そして加賀は赤城の目を見て言った。

「・・・例の二段アイス。半分貰えないかしら・・・」

 

 

「駄目です。」

ちょうどその頃、司令棟と寮の間に建つ基地の食堂では加古が金沢に泣き付いていた。

「提督ぅ・・・今月の給料半分で良いからさぁー・・・」

「そんなこと言っても駄目ですよ。あの件は喧嘩両成敗です」

金沢は加古を軽くあしらいながら今日の食事、焼き魚定食を盆に載せ空いている席を探す。加古は自分の配膳も受け取らずに金沢に付いて行った。

「・・・古鷹と青葉はアイスの引換券貰ってんじゃん」

「青葉はあの後の小破出撃手当、古鷹は復帰後にヲ級を沈めていますから。って2人を巻き込んでおいて何言ってるんですか」

「いえ、提督。私は大丈夫ですから・・・」

「そうですよ。加賀さん怒らせた原因は青葉にもあります」

近くの席で先に昼食を取っていた古鷹と青葉が加古の援護に入った。2人の了承を得てから金沢は青葉の隣、古鷹の斜め向かいに座った。食事を始める時の挨拶を済ませて料理に手を付ける。

「では2人に分けて貰って下さい」

「提督のケチ」

「ケチで結構です」

そう言って加古は自分の配膳を取りに行った。入れ違いに一人の将校がやって来た。

「加古!提督になんてことを!・・・いつもすみませんな、司令」

「構いませんよ。お疲れ様です、大佐」

「そこの席、いいですかな?」

「どうぞ」

古鷹、加古の直属の上官である栗崎(くりさき)が金沢の向かいに座り食事を取り出した。

「私からも注意はしとるんですが・・・最近あの娘にどう接すれば良いのか・・・」

「年頃の娘を持つ父親みたいですね」

「内地に16になる娘がおります」

「そうでしたか。・・・まあ、あれでも直ぐに古鷹や青葉を説得しない辺り、加古は反省していると思いますよ。」

「そうだと良いんですが・・・」

「ところで、先ほど内地に娘さんが居ると仰いましたが・・・」

「ああ、もう6年も会っておりません。手紙で元気にしている事は知っとるのですが・・・」

「・・・この戦争が終ったら内地勤務になるように人事部に掛けあっておきます」

「忝い」

そこへ食事を載せた盆を持った加古が戻ってきて青葉の左に座った。

「ねえ!古鷹、青葉!今日の雪ダルマアイスの話なんだけどさー・・・え?何?」

金沢が加古をジト目で見据え、栗崎が頭を抱えていた。

「あー。ほら、早く食べよう!」

「そうですよ!味噌汁冷めちゃいますよ!」

古鷹、青葉が2人の間で仲介に入ってその場は不発に終った。

 

 

昼休みも終る頃、金沢の執務室に2人の来客が居た。

「航空母艦千歳、遠征より帰還しました」

「同じく航空母艦千代田、帰還よ」

「2人とも遠方の航空支援、ご苦労様でした。無事で何よりです。大端(おおばた)提督への報告は済ませましたか?」

「はい」

「ええ」

ショートランド方面への航空支援に出撃していた2人が報告に来室していた。千歳型特有の箱型の艤装は今は基地の整備部で点検されている。そうでなくとも平時において任務中以外は艤装庫にしまっておく決まりだ。

「そうですか。何はともあれ間に合って良かった。今日は間宮の来航日です。2人にはこれを贈呈します。長期遠征の手当てだと思って酒保で使って下さい」

そういって金沢は封筒を渡した。中身は例のアイス券である。

「「ありがとうございます!」」

「酒保開始にはまだ時間がありますからそれまでは休んでいて下さい」

2人は敬礼をして退室した。

「さて、早く仕上げなければ」

そして金沢は机の引き出しから封筒を取り出した。封筒には『大本営 意見書』の文字。金沢は万年筆を走らせ始めた。

 

 

 昼下がりの気温が最も高くなる頃。未舗装の道は白い砂利で覆われ見ているだけで目が痛くなる。55号大隊基地の門番は大隊所属の陸戦隊員が持ち回りで担当していて、門の横にある円柱形のコンクリートに穴を開けたような見た目の門番詰所が番兵の職場になる。中には単純な造りの椅子が三つと上げ蓋の木箱が一つ。コンクリート製の詰所は通気性とは無縁な構造をしていたが、古臭い扇風機が空気をかき回していた。そして直射日光から番兵を守っていた。

今詰所では、同僚との賭けに負けて比較的涼しい夜勤から昼番交代させられた二等兵曹が第三ボタンまで戦闘服を肌蹴させて受付台に突っ伏していた。脇にある水筒には昼休みに入れた冷たい湧水が入っていたが1時間もしないうちに温くなっている。

 番兵がのろのろと起き上がって水筒を仰ぐついでに壁にかかっている粗末なカレンダーに目をやった。8月を示すカレンダーの今日の日付には素っ気無い鉛筆の文字で『間宮 14:00』と書いてある。暇なことに定評のあるこの職務にとって来訪者は一大イベントではあるが壁掛けの時計が指す時刻は来訪予定の30分程前を指していた。

(暇だ・・・)

いつもなら彼はこの時間を読書に充てているが、今日は肝心の本を寮においてきてしまった。もちろん勤務中の読書は規則違反である。

 番兵がもう一度台に突っ伏そうとして・・・受付から顔が覗いているのを見つけた。

「・・・なんだ、用か?」

「・・・暇そうだな」

「暇だからな・・・。えっと、皐月・・・だったか?」

「菊月だ」

「・・・悪い」

菊月は名前を間違えられても顔色一つ変えなかったが、番兵はばつが悪そうに目を逸らした。

「・・・で、どうした?」

「間宮を出迎えに来た」

「まだ30分前だぞ?」

「・・・知ってる」

「そうか」

「うむ」

折角現れた暇潰しだったが会話が続かない。

「そこ、暑くないか?」

「暑い」

「・・・入るか?」

菊月は頷くと長方形の穴が開いただけの入り口に回って来きた。

「・・・礼は言わぬ」

「・・・いや、言えよ」

 それから番兵は何度か菊月に話しかけたが何れも長くは続かなかった。

「間宮、楽しみなのか?」

「うむ」

「そうか・・・何買うんだ?」

「アイス」

「間宮の美味いよな」

「うむ」

「・・・」

間が持たずに水筒を仰いだせいで水筒が軽くなってきた。

「・・・あー、その話し方は流行ってるのか?」

「・・・・・・うるさい」

「・・・すまん」

静かになった時入り口の影から声が聞こえた。

 「あれ?望月、そんなところで何してるんですか?」

「あー、みか姉か・・・暑いから詰所に居ようかと思ったんだけどさー、入るタイミングがねー。あー、あっつー」

「日射病になりますよ?そんなこと言ってないで入れて貰いましょう・・・すみません、番兵さん。間宮さんが来るまで中で待たせて貰っても良いですか?あっ菊姉さんも居たんですか」

入り口から三日月と望月が現れた。

「おう、いいぞ」

「ん」

菊月が軽く手を上げて応えた。

「おー、助かるよー」

真っ先に望月が扇風機の前に陣取って空いている椅子が無くなった。

「ありがとうございます」

三日月がお礼を言った際、番兵は横目で菊月を見て、菊月はそっぽを向いた。三日月は望月の横に立っていた。

「あー・・・ここ座るか?」

「いえ、お構いなく」

三日月はにこやかに答えた。

「そうか・・・悪いな」

番兵はそう言って今度は暑さから水を飲んで水筒を空にした。

「お水なくなったんですか?汲んできますね」

「いやいいよ」

「いえ、中で待たせて貰ってるお礼です」

そういって三日月は番兵の水筒を片手に炎天下を駆けて行った。

「なあ、お前等も少しは見習ったらどうだ?」

三日月を見送った番兵が振り返ると、受付に突っ伏す菊月と望月がいた。

 

 

「あっ、姉さん達も来たんですか」

三日月が番兵の水筒に冷水を汲みに行く途中、坂を下ってくる睦月達と出会った。

「そうにゃのですー。それにしても今日は暑いねー」

「番兵さんに頼んだら詰所で扇風機に当たらせて貰えましたよ」

そして二言程話した姉妹達はそれぞれ目的地に向かった。

 

 

 まもなく給糧隊が到着しようかという頃、基地副指令で陸戦隊隊長でもある北間(きたま)大佐は金沢の代理として間宮を出迎えに来ていた。番兵が炎天下の詰所脇で座り込んでいた。手には少し結露した水筒を持っている。

「門番!そんなところで何をしている」

「はつ!申し訳ありません!隊長、それが・・・」

慌てて立ち上がった番兵は直立姿勢で敬礼して言いよどむ。

北間が詰所を覗くと扇風機の前で並んでまどろむ駆逐艦達が居た。

「なるほど・・・占領部隊は手強いか」

「はあ・・・」

苦笑いをしながら言った北間に番兵が情けない返事を返した。

「ほら!お前達、起きろ!給糧隊が来たぞ!」

北間が手を叩いて駆逐艦達を起こした。

門から続く道の先には甘味等の嗜好品を積んだ給糧隊の輸送車が見えていた。

 

 

「やっぱり赤城さんは提督の事・・・」

「わーっ!分かったってば、半分あげますから、その・・・皆には内緒ですよ!?」

大声で注目を集めた赤城が尻すぼみになりながら加賀に言った。

「ええ、もちろんです」

 司令棟1Fの講堂前の廊下では酒保が開くのを待つ艦娘や陸戦隊員が集まっていた。中には給糧隊を門まで出迎えに行った駆逐艦達も居た。廊下には給糧隊旗艦の間宮とその隊員が酒保の準備をしている講堂から菓子の甘い香りが漂っている。基地に帰った赤城と加賀は艤装を仕舞って弓道着姿で並んでいた。

 「まったく、加賀さんはおやつの事となると強引なんだから・・・」

「本当に赤城さんは提督の事が好・・・」

「加賀さんっ!」

加賀の言葉を止めたのは真っ赤になって口を開きかけていた赤城ではなく加古だった。

「あたしら仲間だよねー、アイス貰えないもんねー」

加古が加賀の肩を掴んで揺すりながら言った。後ろでは加古の行動にあたふたする古鷹もいた。

「私は、赤城さ、んに貰、いますか、ら・・・」

加賀がされるがままに揺らされながら言った。

「加賀さん、ごめんなさい!加古、やめなよ・・・」

古鷹が加古を加賀から引き剥がし始めた。

「だって~」

「ほら、私の一口あげるから・・・」

「・・・マジ?・・・よっしゃぁ!ラッキィ~」

加古が加賀の肩から手を放して両手でガッツポーズをした。

開放された加賀が少し着崩れた弓道着を正しながら言う。

「古鷹・・・あなたも大変ね」

加賀の一言に古鷹は苦笑いで返した。

 しばらく経ってブザーが鳴り放送が流れた。

[・・・給糧隊、酒保開け!]

扉が開け放たれ、艦娘や陸戦隊員が吸い込まれるように講堂に入って行った。

「ほら、加賀さん!開きましたよっ」

そう言って赤城は楽しそうに扉に向かって行った。

「ええ・・・」

少し遅れて加賀も歩き出す

「・・・赤城さんが幸せなら、私はそれで・・・」

加賀の零した声は講堂に向かう人々の楽しげな声に掻き消された。

 

 

 講堂で開かれた酒保は屋台形式で展開されており各々が軍票と商品を交換する仕組みになっている。会議用の机や椅子も引き出され、室内ではあるものちょっとした縁日と言った賑わいを見せていた。講堂の中央に集めて並べられた机と椅子の一角に赤城と加賀の姿はあった。

「加賀さん。噂の雪達磨アイスの半分ですよ」

赤城が約束通り対面に座る加賀にアイスを差し出した。赤城の隣には2人で買い漁った羊羹やカステラ、饅頭が積み上げられている。コーヒー豆の缶まであった。

「ありがとう・・・」

赤城から口型に少し溶け達磨の胴体だけになったアイスを受け取った加賀は、アイスを見つめたまま固まった。

「・・・加賀さん、どうかした?」

「あっ・・・いえ、なんでもないわ」

そう言って加賀はアイスの溶けた部分を舌先で少し掬った。

 

 

 書類書きに一区切りをつけた金沢はその様子を講堂の廊下側の壁に寄りかかって見ていた。

「提督の片思いの相手は誰かしら?」

突然の声に我に返った金沢が目を遣ると鳳翔がいたずらっぽく笑っていた。

「鳳翔さんは誰だと思いますか?」

にっ、と笑って金沢が尋ね返した。

「ふふっ、艦娘との色恋沙汰は軍規違反ですよ?まあ、その話はさておき。給糧隊の方への差し入れにさっきそこで採ってきたのですが、少し如何ですか?」

そう言った鳳翔の手には輪切りのパイナップルを数枚載せた小皿が載せられていた。

「ありがとうございます。本国から随分離れた島ですが切り立てのパイナップルが食べられるのは嬉しいですね」

金沢はパイナップルを一切れ摘まんで言った。

「そうですね」

「コーヒー豆とパイナップルが簡単に手に入るのは本当にありがたいです」

 金沢が食べ終わるのを待って鳳翔は話し始めた。

「・・・ところで、どこであんなに沢山の引換券を手にされたのですか?あの娘達の分が足りなかったとは言ってもそんなに手に入るものではありませんよね」

鳳翔が目で示した先にはアイスに集中する加賀と、古鷹のアイスに大口で噛り付いて頭が痛くなっている加古がいた。

「・・・。気づかれてましたか。最終的には娘達全員に配る予定だったんですが間に合いませんでした。引換券は本部の有志で行われている競りで。しかし2人には可哀想な事をしました」

「あら、それで夏島に通われていたのですか?」

「まあそれだけが理由ではありませんが・・・」

「資金も沢山掛かったでしょうに・・・」

「鳳翔さんの分も用意出来ればよかったのですが」

「私は睦月ちゃん達が一口ずつくれましたから大丈夫ですよ」

「そうでしたか」

「はい。・・・では私は給糧隊の方を手伝って来ますね」

「お疲れ様です」

そして鳳翔は酒保の賑わいの中に入って行った。

酒保の中心部に向かった鳳翔は給糧隊員の中から間宮を探した。そして割烹着姿で艤装を背負う彼女は直ぐに見つかった。

「間宮さん。お久しぶりね」

「あら~鳳翔さん。お元気でしたか~?」

ほんわかとした笑みを浮かべて間宮は振り向いた。

「はい。ちょっとお話があるのだけど、今良いかしら?」

 

 

「お姉!あれ買って!」

千代田が指した先には焼きたてのカステラがあった。

「千代田の軍票、まだあるんでしょ?」

「・・・もうほとんど無い・・・。ね?いいでしょ?」

「皐月ちゃん達が見てるわよ?」

「・・・っ!」

時間は瞬く間に過ぎていった。

 

 

 酒保が開かれている講堂の裏手、司令棟の北側の壁に面した空き地に鳳翔と間宮は来ていた。立ちはだかる木々が日光を遮り、5m以上ある窓の無い壁が場の空気を外界から切り離していた。

「・・・そう。そんな話が・・・」

鳳翔は顎に指を当てて呟いた。

「まあ、大本営は娘達を動揺させない為に『破棄処分』も『解体』で統一しているみたいだけれどね。要は新型艤装に換装できない娘に貴重な国防予算は使えないってとこかしら」

そう話す間宮の顔に酒保でのやわらかさは見られない。間宮は続けた。

「でも、これが事実なら・・・あなたも他人事では居られないわね」

そう言って間宮は司令棟の壁を仰いだ。鳳翔が何かに気づいて顔を上げた。

「まさか・・・じゃあ、あの時『解体』された娘達も・・・?」

「あくまで噂よ。今のところ」

「・・・間宮さん、『特務艦』として一つ頼まれてくれないかしら?」

「あら・・・な~に?」

 

 

 夕暮れ時、紅くなった空が木々の黒い影に切り取られていた。酒保が閉じられた講堂で給糧隊が撤収準備を進めていた。

「間宮隊長、撤収用意完了いたしました」

間宮が隊員から報告を受けた。

「ご苦労様~。じゃあ行きましょうか」

「・・・隊長、少しお疲れですか?」

「あら?そう見えた?」

「はい。少し、ですが」

「大丈夫よ~。でも、ちょっとだけ疲れが溜まってるのかも。今日は早めに休むわ~」

伸びをしながら間宮は給糧隊の輸送車に向かった。

(まったく、噂の真偽を確かめろ。だなんて相変わらず簡単に言ってくれるわ。旧友がいるのも大変ね~。・・・しょうがない、出来る範囲でやりますか)

やがて給糧隊の一行は基地の人々に見送られて春島を後にした。

 

 

 酒保が開かれた日の夜、夕食後のまだ早い時間に金沢はいつも通り執務室で一日の報告書を書いていた。この報告書は翌朝、伝令文の封書や私信を運んだ後の連絡便で本部へ運ばれる。

「提督、まだいらっしゃいますか?」

ドアの向こうでノックの音と声が聞こえた。

「いますよ。どうぞ」

その声を聞いて赤城は執務室に入った。

「お疲れ様です、提督。これ今日の酒保で買ったんですが一緒に飲みませんか?」

赤城は持っていた袋からコーヒー豆の缶を取り出した。

「いいですね。もう少しで書き終わるので少し待ってください」

「じゃあ、お湯の用意をして来ますね」

本棚からポットを取り出して赤城は給湯室に向かった。

 

 

  赤城が執務室に戻ると書類を片付けた金沢がコーヒー豆の缶を手に取っていた。

「ベトナム産のコーヒー豆ですか・・・」

「はい、いつも南洋群島の物ですからたまには良いかと思って」

「そうですね。本来ベトナムコーヒーは決まった淹れ方がありますが・・・専用の器具も無いですしいつもの方法で淹れてしまいますか」

 金沢が濾紙をセットしカップに熱湯を注ぐと香ばしい香りが湯気と共に立ち昇った。

 

 

「ん、美味い」

「良かった」

淹れたてのコーヒーを一口飲んで金沢が言い、赤城が微笑んで其れに倣った。

赤城はソファーで、金沢は執務机の椅子をソファーの近くまで運んで座っている。

資料が片付けられた執務机ではポットから立つ湯気が、窓から入る心地良い風に流れていた。

「・・・コーヒーを飲む約束、随分遅くなってしまいましたね」

「・・・憶えて頂けていたんですか?」

赤城は努めて冷静に言った。

「優秀な秘書との約束を忘れたりしませんよ」

「・・・忘れられていると思ってた」

膝の上辺りで手に持つカップに視線を落として赤城は呟いた。彼女の表情は前髪に隠れ執務椅子に座る金沢からは見えない。

「・・・本当に憶えていましたよ?」

「分かっています。あれからほとんど毎日、本部と基地を往復されていたのだから仕方ありませんよ」

赤城が顔を上げて言った。それから、ふと真面目な顔になって赤城は続けた。

「提督、何かあったんですか?」

「・・・会議が立て込んでいるだけです」

「本当に?外泊しないといけないほど?」

「酒の付き合いもありますから・・・」

「でも私が秘書に就任してから2年間、こんなこと一度も無かったじゃな・・・」

その時、ドアを叩く音が鳴って赤城は話を止めた。

「どうぞ」

「失礼します、本部より電報が届きました」

そういって当直の事務員が電報を届けに来た。

「では、私はこれで・・・」

事務員が退室して赤城が追及を再開しようと口を開き、金沢がそれを手で制した。

「なっ、まだ話は・・・」

「至急、加賀を呼んで来て下さい」

強引に言い切られ赤城が押し黙る。

「・・・電報には何と?」

「・・・『土佐』が沈んだそうです」

 

Continue>>>【三話 赤城と天城】

 




(注釈!:諸事情によりサブタイトルを変更させて頂きました。変更前のサブタイトルは4話のサブタイトルになっている【加賀と土佐】でした。)

2話書くぞー!
あれ?これ結構長くなるな。
うーん、せめて土佐さん登場させないと・・・。
予告しちゃったしなー、がんばろ。
・・・せめて名前だけでも・・・。
やば・・・。
・・・・・・キタ━━━(゚∀゚)━━━!!


 ・・・ごめんなさい。作者の胡金音です。慣れない予告なんてしたらこの様です。タイトル詐欺もいいところ。
 言い訳をさせて頂くと引越しでしばらくネット使えなくなる前に更新したかったんです。全国の土佐ファンの皆様、本当にごめんなさい。次回こそ登場させて頂きます。土佐さんごめんね。

 さて、そんな【Betrayal Squadron】ですが前回なんと閲覧数400越え(2014/3/28現在)を頂きました。作者ビックリです!初投稿なのに!!しかもお気に入りに登録してくれた方までいらっしゃって感激です!!!(2014/3/28現在)余程の事が無い限りは完結させたいと思っておりますので次回の方も・・・2話で初めましての方は前回の方もよろしくお願いしますm(--)m
 もう四日で四月ですね。新年度なので投稿ペースは落ちますが三週間に一回のペースを目標に執筆したいと思っています。いや、やっぱり一月に一回・・・。が、がんばります!


《懲りずに予告!(っぽいもの)》
基地に届いた電報。前回サブタイトルになったのに一回しか名前も出てこなかった彼女の正体とは?そして明かされる40年前の事件。そもそも作者は天城を登場させられるのか。
次回!【Betrayal Squadron-三話 赤城と天城】

今、赤城が自らの過去を語る・・・


2014/3/28                                胡金音


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三話 赤城と天城

※注意!(始めにお読み下さい)
・この作品には原作のゲーム設定が崩壊しかねないオリジナル設定を山ほど含みます。
・また、キャラクター崩壊も含みます。予めご了承下さい。
・後で「この作品を呼んだせいで【艦これ】が楽しめなくなった!」や「こんなの俺の嫁じゃねぇ!」等のクレームについて作者は責任を負いかねます。自己責任でお願いします。
・少しでも皆様の暇つぶしになれば作者は幸せです。

[追記]
脱字の訂正をしました。赤城さん、入渠し忘れててごめんね。
土佐さんの口調を変更しました。どこかで聞いたことあるなーと思ってたら、某お面艦娘さんそのままだったんです。



 少しだけ開いた戸の隙間からうっすらと明るい廊下が見えていた。飾り気の無い木製の枠を持つ硝子が嵌められていない窓からは淡い光が差していた。低い位置から見える風景は春の霞みがかった空が見えるばかりで外の様子は見えない。荒々しい足音が聞こえて少女は慌てて引戸を閉めた。真っ暗になった空間に重なった足音が響く。

「ったく、何所に行ったんだ。こんな事なりかねないから俺はあいつを代替にするのに反対だったんだ」

「今更言っても仕方ないだろう。とにかく今は彼女を探すことが先決だ」

足音と共に声が聞こえて直ぐに離れていった。

どれほど時間が経っただろうか。あれから断続的に騒々しい足音が暗い空間に響いた。やがて静かになった暗闇に先程よりも軽く静かな足音が聞こえてきた。その足音は戸の向こう側で止まり少女が息を忍ばせる。そして鋭い音と共に引戸が引かれて光が差し込んできた。少女が身を竦ませる。急に明るくなった物置の中に頭の横で括られた髪型と青い弓道着が照らし出された。

「・・・姉さん」

光の中で声がした。明るさに慣れてきた彼女の目に映ったのは、背中まである黒髪を首筋で1つに纏めた10代半ばに見える大人しそうな少女だった。

「土佐ぁ・・・」

瞳を潤ませて顔を上げる彼女から力強さは全く感じられない。

そして土佐と呼ばれた少女は・・・・・・。

 

 

 夏の朝は早い。といっても北緯7度のトラック諸島は一年を通して夏のようなものであまり季節は感じられない。しかし早朝の心地よさは本土のそれと変わらず執務室には開け放たれたドアから気持ちの良い風が吹いていた。執務机の向こうでは一人の将校が座っている。肘を机に立て組んだ指に額を乗せて俯いていた。部屋の外から足音が聞こえてきて将校が顔を上げた。

 

 

「加賀さんの様子はどうでしたか?」

この部屋の主である金沢(かねさわ)少将は入室した赤城に尋ねた。今の服装は金沢と揃いの白い軍服。赤城は黙ったまま俯き気味に首を振る。

 昨夜、土佐沈没の電報を受けた金沢はその場で一緒にコーヒーを飲んでいた赤城に加賀を呼んでもらい内容を伝えた。

「・・・そうですか」

加賀はそれだけ言うと黙って退室した。そのままコーヒー休憩もお開きになり、寮で加賀と同室である赤城が部屋に入ろうとドアを押したところ・・・ドアは開かなかった。隣室の鳳翔から加賀が自室に駆け込むのを見たと聞いて、心配する鳳翔に電報の事を話した赤城は鳳翔の意見でそのまま彼女の部屋に泊まる事になった。そして今朝、赤城から報告を受けた金沢はもう一度加賀の様子を見てくるように指示して、今に至る。

 

 

「では今日の出撃は無理かもしれませんね。赤城さん、念のため艤装の用意をしておいて下さい。服装は・・・戦闘に影響が出なければなんでもかまいません」

2着あるいつもの弓道着の内、1着は洗濯中、もう一着は加賀が出てこない部屋に置いたままの為、赤城は基地で唯一の女性指揮官である大端(おおばた)中佐の軍服を着ている。女性用の軍服はズボンとスカートの2種類設定されているが赤城が借りたのはズボンの方だった。

「分かりました。では失礼します」

赤城が退室するのを見届けてから金沢は机の一番上の引き出しを開いて中の封筒が納まっているのを確認した。『大本営 意見書』と書かれたそれは少しだけ昨日よりも厚みが増したように見える。

「急いだ方が良いかもしれませんね・・・」

金沢はきちんと引き出しを閉めて執務室を後にした。

 

 

 執務室のある司令棟から見て食堂を挟んだ向こう側に艦娘達が暮らす女子寮は建てられている。そしてその最深部、渡り廊下を通って行くと一番遠くになる場所に女子寮のラウンジはあった。ソファーが向かい合って2つ、その間に膝の高さのテーブル、壁際に急須と茶葉、それにちょっとした菓子が置かれた机が在る。

「大端中佐、やっぱりここでしたか」

青い弓道着に身を包んだ赤城がやってきてソファーで寛ぐ先客に声をかけた。

「あら、赤城さん。制服駄目だったー?」

そう言って顔を上げた大端の手には自分用の湯飲みが握られている。

「いえ、今日出撃することになったのでさすがにお借りした軍服で行く訳には・・・。加賀さんの服が洗濯してあったので借りました。軍服は明日洗濯してお返しします。ありがとうございました」

「了解。それより司令の反応はどうだった?」

にやりとしながら大端が赤城に尋ねる。

「いえ特には。誰に借りたかは聞かれましたけど・・・」

赤城は向かいのソファーに座りながら答えた。

「そっかー、やっぱ軍服だもんねー。せめてスカートの方がよかったんじゃない?あの堅物を落とすならそれくらいはしないと」

「提督の前であのスカートは・・・」

「赤城さんいつもスカートじゃない」

「こんなに短くありませんよ!」

そう言った赤城の前では大端がかなり短いスカートを履き足を組んでいて、かなり際どい所まで腿が見えていた。ちなみに大端はそのスカートを履く時は足を組むなと金沢に釘を刺されている。

「そう?でも普段からあれだけ足出してるんだから、いっその事チラッとパンテ・・・」

「提督は真面目な人ですから・・・」

「ごめん、ごめん。分かったからそんな顔しないでよ。それにしても着る服が無いから貸してくれなんて・・・何かあった?」

「実は・・・」

赤城は昨夜の電報の事、それから加賀が閉じ篭っている事を大端に話した。

「そうだったの。・・・えっと、からかってごめんね?」

「はぁ・・・いいですよ。中佐と話していたら、なんだかちょっと元気になりました」

赤城は盛大な溜息と共に言った。

「よしよし。じゃあそろそろ食堂に行きましょ。今日出撃するかもしれないのに朝食もまだなんでしょ?早くしないと食べ損ねるわよ?」

大端は立ち上がって赤城の頭を撫でながら朝食に誘った。

「・・・はい!今日も食べますよ!」

赤城は立ち上がってドアに向かう。

「そ。その意気よ」

大端は小さく笑って、赤城を追った。静かになったラウンジのテーブルには大端の湯飲みが残された。

 

 

朝食後、赤城は加賀の朝食を持って寮の自室の前にいた。

「加賀さん!朝ご飯持って来ました。提督も心配していらっしゃいましたよ」

赤城はドアを叩くが返事は無い。

「入りますよ」

赤城は朝食後に事務室で借りた予備の鍵を使って部屋に入った。

部屋は入り口で履物を脱ぐタイプの和室で5枚の畳が敷かれている。入って直ぐ左手に下駄箱、その奥には押し入れがある。加賀は窓際に2つ並んだ文机の1つにうつ伏せに凭れ掛かって腕に顔を半分埋めていた。

「加賀さん?」

赤城が部屋に上がり顔を覗き込もうと膝を付くと、加賀は赤城とは反対の方向に顔を向けた。赤城が加賀の隣に座って窓辺に青い袴の弓道着が2着並んだ。

「・・・あの時も加賀さんはそうやって顔を見せてくれませんでしたね・・・」

加賀は何も言わなかった。

「・・・朝ご飯。ちゃんと食べてくださいね」

赤城は少しの間、加賀が話さないかと待ったが彼女が話すことは無かった。赤城は自分の赤い袴を箪笥から取り出すとを部屋を後にした。

 

 

 朝食を取って執務室に帰る途中、金沢は司令棟の廊下で名前を呼ばれて振り返った。

そこに居たのは引き締まった細身に丸刈りの将校、青葉の上官である三ツ屋(みつや)少佐だった。これから出撃する艦隊に青葉は参加している。

「司令、今日の出撃の事で一つ確認したい事が。昨夜の指令書では旗艦は加賀ではありませんでしたか?」

三ツ屋は一枚の紙を突き出して言った。毎朝配布している各艦娘の予定が記された指令書だった。三ツ屋が手に持つ指令書には任務内容の欄に、『旗艦 赤城 の護衛』と記されている。

「そうですね、何か不都合が?」

「急な変更はやめて下さいとお願いしました。それに綿密に指示された本部からの指示は無視されるのですか?司令は艦娘に甘すぎます」

「臨機応変な対応は必要です。僕だって些細な理由で急な変更は認めませんよ」

「1ヵ月前から決まっていた本隊の航空支援に臨機応変な対応が必要ですか。では些細ではない問題があったのならば本部に報告すべきかと存じます」

「加賀から赤城への変更程度の内容は、わざわざ報告する内容ではないと判断しただけです。時に些細な報告は指揮を鈍らせます」

「・・・今日の作戦の旗艦は赤城で間違い無いのですね?」

「そうです。その書類は正確です」

「分かりました。とにかく、混乱を避ける為にも不要な変更はお控え下さい」

三ツ屋が立ち去って金沢は今日の任務をこなす為、執務室に向った。

 

 

 その日の夜。帰還した赤城は金沢の執務室で帰還の報告を済ませていた。出発前に自分の服に着替えたので今はいつもの赤い袴の弓道着を着ている。胸当てと前掛けは外している。

「急な出撃にも関わらず優秀な戦果です。お疲れ様でした。夕食は置いて貰っていますが・・・今からどうしますか?」

金沢は赤城が脚に作った傷を見て尋ねた。

「食事でお願いします」

そう答えた赤城は今日の出撃で艤装を小破させており、早速整備班が修理に取り掛かっている。

「分かりました。では夕食を食べたら必ず入渠するように」

「了解です。あの・・・小破なら小型船用ドックでも良い・・・なんてことは無いですよね」

「無いですね。ちゃんと大型船用ドックで休んでください」

「分かりました。それと加賀さんの様子は・・・」

「昼食と夕食は鳳翔さんに運んで貰いました・・・が、結局昨日から何も食べていないようです」

金沢が沈痛な面持ちで言った。

「そうですか・・・」

「・・・」

重い空気に包まれた執務室で先に口を開いたのは金沢だった。

「・・・赤城さんは土佐さんに会ったことがありますか?」

「はい。顔を知っている程度ですけど・・・横須賀の女学校に居た頃に何度か会った事はあります」

「どんな人でしたか?」

「そうですね・・・。無口な加賀さんを引っ張る妹さん、といった感じの人でしたよ。3人で食事に行った事があるんですけど・・・」

「ちょっとすみません。たしか赤城さんにも姉妹はいましたよね?」

金沢が違和感に気付いて赤城の話を止めた。

「はい、私は天城型2番艦ですから1番艦の姉が・・・」

「お姉さんは一緒じゃなかったんですか?」

艦娘は基本的に姉妹艦揃って同じ基地に配置される。それは育成期間である女学校でも例外ではない。

「・・・そうですね。では土佐さんの話と一緒に・・・姉の話もしますね」

赤城はほんの少し哀しげな笑顔で言った。

「お願いします。・・・あ、疲れていたら今ではなくても良いですよ」

「じゃあお言葉に甘えて、夕食の後でも良いですか?もうお腹が空いて・・・」

「もちろんです。食後のコーヒーを用意して待っています」

金沢は頷いて机の上の基地内電話で主計科に夕食の準備を依頼し、赤城は食堂に向かった。

「赤城が帰還したので取って置いて頂いてた・・・はい、お願いします」

お腹を空かせた赤城が少しでも早く夕食の依頼を終えた金沢は受話器を置いた。そしてもう一度、今度は別の場所へ電話を掛けた。数回の呼び鈴の後に目的の相手が受話器を取った。

「こんばんは、鳳翔さん。夜に申し訳ないのですがもう一仕事お願いしても良いですか?」

 

 

夜が更け始めてきた頃。夕食と入渠から戻って来て金沢の執務室でソファーに座る赤城の手には昨日と同じコーヒーカップが握られていた。中には淹れたてのコーヒーが入っていた。

「さて・・・どこからお話しましょうか・・・」

自分の分のコーヒーを注いでいた金沢が隣に座ってから赤城は話し始めた。

「・・・もう40年以上前の話です」

「赤城さん、今幾つでしたか?」

赤城の前置きをさっそく金沢が止めた。

「・・・酷いですよ。まさか『不老化』の事をご存知無いなんて事はありませんよね?」

「もちろん。細胞を活性化させ老化を極限まで抑える技術の事です。必要とする高度な技術と甚大な代償の為に一般国民には広まっていませんが、殆どの艦娘には施されていますね。赤城さんが落ち込んでいる様だったので冗談のつもりだったんですが・・・慣れない事をするものじゃ無いですね。失礼しました」

「もう、提督ったら。じゃあ続けますね。私がまだ戦艦の教育隊に居た頃の話です・・・・・・」

 

 

 神奈川県横須賀市に所在する鎮守府。7世紀前の近代海軍発祥以来ずっと太平洋戦力の要となって日本を守り続けて来た横須賀鎮守府には当時導入され始めた人型艦船、通称『艦娘』を育成する育成機関の一つが設置されていた。この艦娘の開発は非常に困難を極めた。導入より数年前、英国からの技術導入の成果もあり軍は女性型に限り実用段階まで漕ぎ着けたが、男性型は未だ動物実験の域を突破出来ずにいた。

 横須賀の海岸線から内陸までを埋め尽くす色も材料もバラバラな建物郡の中に赤煉瓦の建物が集まっている場所があった。赤煉瓦で建てられた長方形の建物は海岸線に沿って走る通路に並んで整然と、潮風から陸側の建物を守るように建っている。赤煉瓦の建物と建物の間で数人の人間が集まっていた。

一番海側の集団の中心にいる冬服の将校が回りに居る赤い袴の武道着姿の2人に話す。

「これより対艦戦演習を始める。今回の相手は高い砲撃能力を持っているが、諸君の速力を持ってすれば勝利は困難では無いだろう。頑張って来なさい」

「「はいっ!」」

激励された2人は敬礼で将校に応えた。1人は肩までの黒髪に芯の強そうな10代半ばの少女、もう1人は背中までの長い黒髪に明るそうな10代前半の少女。将校は2人が敬礼を終えるのを見届けてから踵を返して立ち去った。

「じゃあ行くか・・・っ」

「うんっ」

指を頭あの上で組んで伸びをしながら歩き出した髪が短い方の少女を、髪が長い方の少女が追いかけた。

 向った先ではすでに先程とは別の将校と、青い袴の武道着に身を包んだ彼女等と歳が近そうな艦娘が2人待っていた。将校は赤い袴の2人が立ち止まるのを待って、2人を青い袴の2人に紹介した。

「本日の演習相手、天城と赤城だ。こちらは加賀と土佐」

将校が手を後ろで組んだまま左右に顔を向けて紹介した。赤い袴の天城と赤城が会釈して、後に紹介された青い袴の加賀と土佐が返した。

「今日はお手柔らかに」

1つに纏めた長い髪を左肩から体の前に下げた方の青袴の少女が大人しそうな顔でゆったりと微笑んで言った。

「演習だからと言って気を抜くな!これは実戦を想定した演習である!各自艤装を整備部に取りに行き作戦開始地点に移動!30分後に始める!」

「「はっ!」」「「はいっ!」」

そう言うと将校は演習を観測する為に指揮所に向かい、艦娘達は敬礼で見送った。将校が建物に入ってすぐ、赤城が口を開いた。

「あなたが加賀さんね?噂は聞いています。随分お強いそうですね。でも今日勝つのは私です!」

強気な顔で土佐に向ってそう言った。

「あら。私は土佐よ?」

「・・・あの・・・えっと・・・。加賀は・・・私です」

ずっと黙っていた青い袴にサイドテールの少女が土佐の斜め後ろで俯き気味に小声で言った。そして赤城に目線を向けられて土佐の後ろに隠れた。

「え?噂の戦艦加賀がそんな弱気そうな訳・・・」

「そう。こっちが姉さんで、私が土佐」

「え・・・なにあれ、情けない!」

赤城は土佐の後ろに隠れる加賀を見て思わず大声を出した。土佐の後ろで加賀が小さくなった。

「そういう事を口に出すんじゃない」

今まで聞いているだけだった天城が赤城の頭を軽く叩いて言った。

「叩く事無いじゃない!」

「まあまあ、2人共今から紅白戦なんだから喧嘩しないで。ほら、姉さんも元気出して・・・」

土佐の仲介で何とかその場は収まり4人は整備部に向った。

 

 赤煉瓦の建物郡の端、『整備部』と書かれた建物には他の赤煉瓦には見られない大きな鉄の引き戸が嵌め込まれていた。また、窓は高い位置に灯り取りの窓があるだけ。4人が到着したその建物の中には、中央に椅子を据えた頑丈そうなコの字型の台が6つ並べられていた。そして軍艦の主砲をそのまま小さくした様な物を4本の腕の先に取り付け背負えるようにした物が3つの台乗せられている。ちょうどその4つ目を若い整備兵が台車で運んで来て数人掛りで台に乗せた。整備兵の1人が折り畳みの椅子に座って監視していた上官に声を報告に向かう。

「訓練弾の装填及び艤装取り付け用意、完了しました!」

「よし、お前ら。ちょうど娘さん方もお出でなすった。10分で取り付けな!いつもの事だが妙な真似はするなよ!」

報告を受けた上官は椅子の脇に寝かせてあった角材を杖の様に体の前に立てて声を張り上げた。作業の邪魔にならないように入り口近くの壁際に避けていた4人は現場監督が取り付けの指示をしたのを聞いてそれぞれの艤装が用意された席に向った。

 

 

 最低限の事務的な会話をしたのみで少女達の艤装の取り付けていた整備兵達は、自分の持ち場の仕事を終えると直ぐに台から離れた。そして場所に整列して遠巻きに同僚の仕事が終るのを待った。天城の席で1人最後まで艤装の調整をしていた若い整備兵が去り際に小声で短く彼女に何かささやいた。その後、彼は現場監督に報告に向かい、取り付け完了が宣言されたところで4人は艤装を難なく担いで入ってきた引き戸から建物の外にでた。

 加賀、土佐と別れて演習の開始地点に向かう途中、赤城は天城に話しかけた。

「さっき何を話してたの?」

「ん?・・・ああ、いつもの整備兵?頑張って、だって」

天城は嬉しそうに妹に話した。

 

 

「・・・・・・その演習で加賀さん、土佐さんと始めて出会いました」

「やっぱりお姉さんも一緒だったんですね。ですが現在までの艦娘の資料に天城型の天城という名は見た事がありません。彼女はどうされたんですか?」

赤城がコーヒーを一口啜ってから答えた。

「これからお話します。その数ヶ月後・・・・・・」

 

 

赤煉瓦の建物郡とコンクリートで固められた海岸の間に設けられた道を天城と赤城はいつも通りの赤い袴姿で歩いていた。太陽はやや東寄りで行き交う人々に踏み固められた土を暖かく照らしていた。

「お姉ちゃん、もう大丈夫?」

「ああ、ごめん。心配かけた。もう大丈夫、これ以上艦種変更ぐらいでへこんでられないわ」

赤城と加賀が初めて会った演習から数週間が経ったが、その間に世界情勢は大きく変わっていた。詳しい内容は彼女達に知らされていなかったが、軍縮条約の影響で彼女等は艦種が変わり、天城姉妹は空母艦娘になっていた。

「よかった。・・・それにしても1回ぐらい勝ちたかったな」

条約締結までに演習で加賀、土佐と戦う事は何度かあったものの、赤城、天城は一度も勝つことは無かった

「火力で負けてた以上『殴り合い』になったら負けるでしょ。赤城は正面から戦いすぎ」

「そんなこと・・・無いわっ!」

「今の間はなに?」

「それは・・・ほら・・・」

天城が言った『殴り合い』は互いに捨て身で主砲を打ち合う状況の事を指す。実際に数週間前の初演習から最後の合同演習となった水雷戦隊の艦娘を含む紅白戦に至るまで多少の違いは有れど、赤城が加賀の作戦に嵌り正面からの殴り合いになった。それを天城が援護している間に土佐が一気に留めを仕掛ける、といった構図が毎回観られた。戦艦加賀は模擬戦になると別人のように果敢に戦った。しかし今の軍縮条約下では加賀は訓練艦、土佐は標的艦になっている。

 2人が話しながら歩いていると脇の建物から1人、作業着のツナギを着た整備兵が出てきて天城と赤城に気付いた。

「天城さんっ!赤城ちゃんも、こんにちは」

「あっ、武ちゃん!元気?」

「武久(たけひさ)、昨日はありがとう。今から昼飯?」

赤城と加賀が出会ったあの日、唯一天城に話しかけた整備兵だった。

 各国の軍備強化による軋轢を防ぐ目的であった軍縮条約ではあったが、大火力艦の数を抑制した条約は小型艦や対象外の空母の数を増やす事になった。よって各基地に配備される艦娘の数が急増した結果、一般兵、整備兵と艦娘間の壁は徐々に薄くなり以前のような気まずさは無くなった。一部では名前で呼び合う仲に成る程に。

「元気だよ。・・・うん、どう致しまして。うん、今食堂に行くとこ」

「じゃあ3人で食べよう」

「ねえ、昨日何があったの?」

変になった武久の返事に気付いた赤城が武久に尋ねた。

「あー、後で天城さんに聞いて」

武久は視線を避ける様に手短に答えた。

「何があったの?」

「別にぃー」

直ぐに赤城は質問をぶつけたが、天城は取り合う事無く流した。赤城はそれぞれの表情を見て少し考えた後、意味有りげな笑みを浮かべた。

 

 

 3人は赤煉瓦の建物郡を抜けて大きな木造の建物の裏にやって来た。横張りの板で覆われた3階建ては見る者に学校を想像させる。実際に建物には座学用の教室、教官室、資料室等、艦娘の教育設備の大半が収められており、2階と3階は艦娘用の寮になっている。当初は数人の艦娘が使用するだけで空き部屋だらけだったこの建物もこの数週間で随分と賑やかになった。

 寮兼学び舎の角を曲がり建物の入口を過ぎると食堂は目と鼻の先だ。昼食前の喧騒の中、道を3人が進んで行く。ちょうど3人が入口を通りすぎる時、それは突然襲いかかった。

 

 

 遠くから響くような低い音に喧騒が収まり3人は足を止めた。辺りでも同じ様に足を止め水兵や作業着の整備兵が周りを見渡していた。中には敵の奇襲を警戒して空に目を凝らす者も居る。やがてその音は地面が震えだすと徐々に地鳴りに変わっていった。建物の窓が次々に割れて道に降り注ぐ。壁を形成していた板は弾けて地上で大きな音を立てた。むき出しになった柱は音を立てて傾いていた。喧騒が悲鳴に変わる中、とっさに道に屈み込んで居た赤城が顔を上げると先程までそこに居た天城の姿は無かった。赤城は慌てて彼女の姿を探す。天城の姿は直ぐに見つかった。大きな揺れの中を建物の入り口に向って、ガラス片で切傷を作りながら転がり込む様に駆ける背中をツナギ姿の整備兵が追いかけようとしてよろける。天城の背を目で追った赤城が建物の玄関で頭を抱えてしゃがみ込む青い袴の少女を見つけた時、少女の頭上で梁が横に動いた。そして入り口の枠がひしゃげて崩れた。天城と青い袴の少女が赤城の視界から消えた。

 

Continue>>>【四話 加賀と土佐】

 




 こんにちは。作者の胡金音です。こんなあとがきまで読んで頂きありがとうございます。引越し、無事完了しました。棚を丸々1棹忘れて来たのでダンボールが片付きません。家具コインを貯めて何か買おうと思います。嘘です。連休中に取りに行きます。

 まず、2014年4月28日までに1話2話を読んで下さった方はお気づきだと思いますが・・・2話の間宮回が予定より長くなったのに、3話でシーンを付け足したりした結果・・・土佐回が4話まで持ち越してしまいました。さすがに不味いので2話のサブタイトル変えようと思います。ごめんなさい。どう考えても「加賀と土佐」は次回に使うべきでした。2話は「間宮来航」に変更します。ややこしい事してごめんなさい。1話を書いてた時はもっとサクサク進むつもりだったんです。

 さて前回の後書きで一月に一回のペースで更新すると書きましたが・・・セーフですね。ちょうど今4月28日23:04です。あと一時間遅かったら嘘吐きとしてブログが荒れるところでした。危ない、危ない。まあ、ブログなんてしてませんが。あ、土佐さんはちゃんと登場させましたよ?天城さんも。

 そして、この【Betrayal Squadron】シリーズ、累計閲覧数1000回を頂きました。ありがとうございます!この話を書くまで自分が書いた物を読んで貰えるのは、せいぜい部活で書いた旅行記70部が最大だったので4桁とか想像が出来ません!なんて貧しい想像力だ。

 こんな作者が書いてる作品ですが最後までお付き合いいただけると幸いです。では次回、こんどこそ加賀と土佐が中心になるであろう【四話 加賀と土佐】の後書きでお会いしましょう!}|ω・)ノシ

2014/4/28                                胡金音

[追記]
艦これ1周年おめでとう!


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四話 加賀と土佐

※注意!(始めにお読み下さい)
・この作品には原作のゲーム設定が崩壊しかねないオリジナル設定を山ほど含みます。
・また、キャラクター崩壊も含みます。予めご了承下さい。
・後で「この作品を呼んだせいで【艦これ】が楽しめなくなった!」や「こんなの俺の嫁じゃねぇ!」等のクレームについて作者は責任を負いかねます。自己責任でお願いします。
・作者は弓道未経験者なので加賀さんや赤城さんの弓の構え方やカメラワークが間違っているかも知れませんが予めご了承ください。あれ?弓道って艦載機を飛ばす武道だっけ・・・?でも2人が着てるのは弓道着って言っちゃったし・・・。
・少しでも皆様の暇つぶしになれば作者は幸せです。



 気が付くと、カーテンさえ閉めていない窓からは星空を背景に木々の影をくっきりと映し出していた。涙が出なくなってからもぼーっと文机に凭れ掛かっていたらいつの間にか眠っていたようだ。枕代わりになっていた腕は痺れて指先の感覚ははっきりしない。それでもたっぷりと睡眠を取った頭は嫌でも冴えて来て、今更ながら土佐が沈んだ訳を提督から聞いていない事に気付いた。一瞬、聞きに行こうかとかとも思ったが体を動かす気力はまだ無く突っ伏したままで居る。熱を持った瞼は明日になっても腫れたままかも知れない・・・そういえば、眠りに落ちる前に赤城さんが言っていたあの時とは何時の事だったのだろう。

 

 

 夜が更けてきた頃。司令棟の一番大きな執務室で金沢(かねさわ)少将と赤城は並んでソファーに腰を掛けていた。2人が持つカップに入ったコーヒーはとっくに冷めている。赤城は気にする様子もなく一口コーヒーを啜って話を続けた。

 「揺れが収まって直ぐに救助活動は始まりました。瓦礫の下から姉が見つけ出された時にはまだ少し意識はあったそうですが、情けない事に私は足が竦んでその場から動けずにいて・・・。姉が軍医の元に担ぎ込まれてやっと駆けつける始末でした。でも、その時にはもう・・・」

「すみません。辛い事を話させてしまって」

「いえ、私が話し始めた事ですから。・・・その後、姉は艦娘としては解体され代わりに加賀さんが空母になりました。土佐さんは標的艦として呉に異動されたのであまり会う機会は無かったんですけれど、横須賀にいらっしゃる度に加賀さんと一緒に食事に行ったりしました。姉の話ばかりになってしまいましたね。すみません、お役に立てず」

 「いえ。しかし・・・そんな事があったなんて一度も聞いた事がありませんでした」

「無理もありませんよ。昔の事ですし、当時は艦娘の存在を公表される前でしたが報道に嗅ぎ付けられていて、軍に対する批判も大きくて私達の事は極秘でしたから。この事は一部の人間しか知りません」

「そうでしたか・・・。ちょっと失礼」

 執務机の上にある電話が鳴って金沢が受話器を取った。

「・・・そうですか。・・・はい、ちょっと待って下さい。赤城さん、鳳翔さんに頼んで加賀さんの様子を見て貰っていたんですが、まだ落ち込んでいるそうです。今日は何処で寝ますか?鳳翔さんは遠慮しなくて良いとの事ですが」

「そうですか。・・・じゃあ加賀さんに一言掛けてから決めても良いですか?」

 

 

 暗い部屋の中で加賀は力無く文机に寄りかかっていた。加賀は赤城の言うあの時とは何時の事だったか思い出そうとしていた。

(ずっと前・・・。たしか、まだ横須賀に居た頃だっただろうか)

 

 

 地震で無事だった病棟のこの階層は個室のみで構成されており、重要人物または機密保持者のみが収容される。加賀はその一室に入渠していた。国に4人しか居ない空母艦娘の処置を施された加賀はもちろん後者である。個室は短い廊下を含めてL字型になっている。部屋に入って左手に専用の御手洗が用意されているが現在水道は止まっていて鍵が掛けられている。

 加賀はベッドに横になって土佐に取り替えて貰ったばかりの頭の包帯に触れた。

「あれ、ずれてた?」

新品の包帯や消毒液を小型の箱に仕舞いながら土佐は尋ねた。

「・・・大丈夫、ありがとう」

加賀は少し微笑んで言った。土佐は手際良く片付け終えるとベッド脇の棚を開けて箱を押し込んだ。

「覚えてる?小さい頃、姉さんはかくれんぼの度にこういう狭い所に潜り込んでたよね」

「・・・そう?」

 あの地震から3日後、天城に庇われた加賀はドックに担ぎ込まれてからずっとこの部屋で怪我の療養に努めていた。致命的な怪我こそ無かったが、両腕と切ったこめかみに包帯を巻いている。妹の土佐は予定通りに標的艦として呉に異動する事が決まっていたが出発ぎりぎりまで看病すると言って付きっ切りで加賀の病室に居た。

 しばらくして閉められた引き戸がノックされた。警備が手薄になっている今は機密保持の為にどの部屋も表札の枠は空のままでだ。そうでなくとも艦娘の入渠する個室に来る来訪者など限られる。

「はい、どちら様ですか?」

土佐が戸を開けに向いながら尋ねた。返ってきた声と名前は2人も何度か話した事がある、赤城姉妹の指揮官の声だった。入室した将校の軍服はここ数日の慌しさからか、手入れされずにしわになっている。将校は部下の艦娘が付いて来ていない事に気付き一度部屋を出た。そして間も無く赤城が姿を現した。

 

 

 「あ・・・赤城、さん・・・」

ベッドの上で身を起こした加賀が話しかけようとしたが赤城に睨まれて加賀は黙って俯いた。赤城は入り口の近くに、将校はベッドの隣、窓側の丸椅子に座っている土佐の向かいに立った。

「椅子、よかったら・・・」

土佐が立ち上がって部屋の隅で重ねられていた丸椅子を2人分持ってきた。

「ああ、すまんな」

将校が礼を言って受け取った。

「赤城さんもどうぞ」

「いえ。わたしは長居するつもり、有りませんから」

「あ・・・でも・・・」

きっぱりと断られて土佐は少し当惑した後、大人しく下がった。

 気まずい空気の中、見舞いに来た相手に話しかける機会を失っていた将校が口を開いた。

「怪我の様子はどうだ?」

「・・・だいぶ、良くなりました」

加賀が短く答えた。

「そうか。それはよかった」

 再び沈黙に包まれた病室で将校が困っていた時、病室の戸が叩かれ20歳ほどの若い整備兵が一人やってきた。彼の着ているツナギは非常時とは言え面会を許した軍医の感覚を疑うほど埃と泥まみれだった。廊下に足跡が残っている。

「失礼しま・・・あつ、お取り込み中でしたか・・・?」

そして自分よりも遥かに階級が高い将校が居る事に驚いて敬礼する。額にも泥が付いた。

「いや、構わん。どうした?」

「はっ、赤城准尉がこちらにいると伺って参りました」

不意に加賀が土佐の弓道着の袖を引っ張った。

「・・・ね、土佐。誰?」

壁が死角になって新たな来訪者の姿が見えない加賀が小声で尋ねた。

「ほら、あま・・・じゃなくて・・・」

「・・・?誰?」

「えっと・・・」

加賀と土佐が話している間に整備兵と将校の会話も進んでいった。

 「・・・ある方から赤城准尉に伝言を頼まれておりまして」

「そうか、では私は退場した方が良いな。赤城、彼の用が済んだら私の執務室に来るように」

「え?いえ、話ができればそれで・・・」

「いや、気を使うな」

将校は整備兵を軽く受け流してそそくさと居心地の悪くなった部屋から退室した。入り口に居た武久が慌てて道を譲り入り口近くの赤城に並んだ。加賀と土佐が佇まいを正してその場で見送った。

 「・・・復旧作業、お疲れ様」

「ありがとう、やっと休憩が貰えたよ。でも直ぐに戻れって言われてて・・・。今良い?」

「うん?」

「天城さんの事なんけど・・・」

 部屋のベッドは敷居に跨っている整備兵からはベットの上の人間は足しか見えない。赤城に続きを促され整備兵はすこし声を潜めて赤城に話す。来訪者の正体を判別しようと耳を済ませていた加賀が会話を聞いていた事など彼には知る由も無かった。

「早めに伝えておきたいし、次の休憩はいつになるか分からないから伝えとくね。天城さんが救助された時・・・最期に赤城ちゃんに伝言を頼まれてて・・・。『私が居なくてもしっかりして、あなたは強い子だから』って伝えてって・・・」

赤城が俯いて震えて出したのに気がついて整備兵は話すのを止めた。話を聞いた加賀が青褪めていた。

 「大丈夫・・・?」

「・・・のっ・・・いだ。・・・あんたのせいでっ、お姉ちゃんはっ・・・!」

「えっ・・・」

赤城が狭い室内をベッドに向って駆け、そして加賀の頬を引っ叩いた。

「やめてっ・・・」

土佐が加賀を庇った。

「あんだがっ・・・!」

赤城が2発目を振り被ったところで呆然としていた整備兵が慌てて赤城を押さえに掛かった。赤城はそれを振り解いて病室から駆け出して行った。

 「待ってっ・・・!」

整備兵が赤城を追いかけて、病室には加賀と土佐が残された。

しばらくの間、加賀はベットの上で背を丸くしたまま土佐に支えられていた。加賀の頬を伝って落ちた雫がシーツに染みを作っていった。

 

 

 「加賀さん?大丈夫?」

戸が軽く叩かれて鳳翔の声がした。電気を点けていない部屋で加賀は我に返る。鳳翔が部屋に入ってくる様子がないので、加賀は出来るだけいつもの声で返事をした。

「・・・ごめんなさい。もう少しの間、放って置いて貰えますか・・・」

丸一日、ほとんど何も口にしていない喉から酷い声がした。

「・・・分かったわ。・・・なにかあったらいつでも言ってね」

 少しの間があって鳳翔が遠ざかっていく足音が聞こえた。そして加賀は思い出した。

(ああ、あの後改めて赤城さんとちゃんと話した時か。・・・あの時の赤城さんも、姉妹を亡くしてこんな気持ちになったのだろうか・・・)

加賀は再び記憶をなぞり出した。

 

 

 震災から3年が経った。国防の要であり地域の復興対策本部も置かれた横須賀鎮守府は、周辺の町よりも一足早く震災前の水準で活動していた。

 「正規空母の加賀さんですね!?佐世保との演習の結果、見ましたよ!1人で戦艦2人を行動不能にしたって凄いじゃないですか!」

数回に渡り改造を受けた加賀は、当初こそ練度、艤装共に使い物にならなかったものの、2年間の訓練の末、空母として申し分の無い艦娘に成長していた。そして今日、正式に艦娘に就任する。

 「あ、ありがとう・・・」

新しく制定された弓道着を着て歩いているだけで、見ず知らずの整備兵に声をかけられた加賀はなんとかそれだけ返した。周りに居た水兵も加賀に気付いて視線を向ける。注目も集めていたことに気が付いた加賀は、すぐにその場を後にして新しく建てられた煉瓦造りの建物に向った。

 

 

 震災の影響を受け、強度の高い鉄筋コンクリート建築が多く造られる中、横須賀鎮守府に新しく立てられた建物の多くは、従来の雰囲気を残そうと赤煉瓦で表面を飾られた。加賀が向ったのもその1つで、まだ新築の匂いが残る綺麗な会議室でロの字型に並べられた机の席に座っていた。加賀の他には赤城、駆逐艦が数名と数人の将校。もまなくして将官が入室して上座に座った。

 

 

 「諸君は今日付けで横須賀海軍女学校を卒業することになる」

上座に当たる席には胸に光る沢山の勲章が、それと嘗ては引き締まった腹筋だったであろうお肉が緩くなってきている壮年の将官が両手を机の上に置き話していた。

「・・・とは言っても今ここに居る諸君の配属先はこの鎮守府である。生活に大きな変化は無いだろう。しかし今日からはいつ何時、実戦に出撃するとも知れ無い。諸君には一層多くの努力を、護国の戦乙女とならんことを期待する。以上」

 将官の話が終わり、将官の斜め前に居た佐官が立ち上がった。

「では、さっそくだが作戦会議を始めたいと思う。本日未明、九十九里浜沖東約1080海里の地点で深海凄艦数隻の出没が確認された。諸君にはこれを迎え撃ってもらう・・・・・・」

突然の出撃命令に数人の艦娘が戸惑う中、正面の壁に海図が張り出され佐官によって作戦の詳細が説明された。

 

 

 「加賀、待ちなさい」

作戦会議が終わり退室しようとした加賀を将官が引き止めた。

「なんでしょうか?」

「明後日、君の妹が横須賀に寄航する事になった」

「土佐が・・・?本当ですかっ!?」

「ああ。君には教えておくが・・・一応は機密事項だから他言無用だ」

加賀の表情の変化に驚いて将官が釘を刺した。

 「・・・分かりました」

それから将官は表情を和らげて言った。

「土佐にいい話が出来るように明日は戦果を挙げて来なさい」

「了解です」

加賀は敬礼を沿えて応えた。

 加賀が会議室から出て行った後、将官は作戦の資料を片付けていた佐官に話しかけた。

「大佐。君の編成だから問題は無いと思うが・・・。加賀は時折集中が途切れると言っていたな?旗艦に起用して良かったのか?」

「はい。ご存知の通り、加賀は演習で連日連勝で、先日は佐世保の実戦経験のある戦艦2隻を大破に追いやりました。この波に乗らない手は無いでしょう。彼女の自信にも繋がる筈です」

佐官は自信満々に答えた。

 「そうか・・・では明日は頼んだぞ。間違っても初陣で娘を沈めんようにな」

将官は佐官に見送られて会議室を後にした。

 

 

 翌日。加賀は僚艦5人を率いて太平洋を東に向っていた。発見された深海凄艦は重巡と軽空母、その僚艦である駆逐艦数隻。本土に向っている事も確認された為、深海凄艦が進軍を止めない場合は本土近海でこれを迎撃、ひいては殲滅する事となった。現在、加賀達はその迎撃地点に向っている。

 「三日月、そろそろ来るんじゃないかしら?」

焦げ茶色の髪を肩の辺りで切りそろえた菊月が、隣の明るい茶色の髪を持つ少女に話しかけた。僚艦の駆逐艦娘に支給された服は黒のセーラー服。

「そうね~」

「緊張するなぁ・・・」

「あれだけ訓練したんだから大丈夫だよ」

波打った黒髪を背中に垂らした弥生が、色素の薄い髪を2つに纏めた卯月を励ます。

 「皆さん、そろそろ会敵が予想されます。おしゃべりは止めて周囲の警戒を。赤城さんは索て・・・」

「分かってます。その位一々指図されなくても出来ます」

最後まで言い終わる前に言い返された加賀は口を噤んで自らの索敵機を矢筒から取り出した。

 

 

 加賀、赤城が索敵機を飛ばし、艦隊は静かに臨戦態勢に入った。風の音と時折大きな波が海面を叩く音以外は何の音もしなかった。

 (やっぱり私と居る時は赤城さん機嫌悪いな・・・。当たり前か。あの時私があんな所でうずくまっていなかったら天城さんは何事も無く艦娘になっていたのだから。この作戦だって旗艦は天城さんだったのだろう。姉の席に他人が我が物顔で座っているのだから不機嫌にもなるか・・・。上層部もせめて土佐を空母にしてくれたらよかったのに。あの子ならもっと上手く・・・)

 

 

 「ちょっと!あなた何してるのよ!?ねえってば」

赤城に正面から肩を掴まれて加賀は我に返った。前方の空では赤城の青灰色の零戦が銀色のカブトガニのような深海凄艦の艦載機に追われていた。

「あっ・・・え?」

「奇襲っ!索敵を潜られたの!それと敵に空母の増援!合計で3隻!一隻は正規空母!司令部に連絡済、増援待ち!」

状況を把握していない加賀に赤城が捲し立てた。それを聞いて加賀は慌てて自分の零戦を増援に向わせた。

 「あなた達は落ち着いて防空弾幕を張って!」

旗艦に代わって駆逐艦に指示を出しつつ赤城自身も飛行甲板の裏に装備した機銃を構え、零戦で落としきれなかった敵機を追い払う。

 そして加賀が最後の戦闘機を飛ばし終え、機銃のマガジンを装着する為に視界を手元に移した。

「加賀さん!正面、魚雷!」

菊月の声に反応して加賀が顔を上げると深海凄艦の艦載機と真ん丸の鉄球が縦に並んでいるのが見えた。機銃の準備の間、加賀は敵の攻撃をかわす為に航行速度を上げていた。急には曲がれない。気付くのが遅すぎた。

「くっ・・・なんであなたが旗艦なのよっ」

加賀が覚悟を決めた時、横から赤城が体当たりで加賀を射線から押し出した。そして、すぐに加賀の目の前で水柱が上がり、銀色のカブトガニが頭上を飛び去った。

 

 

 「話は分かった、後で報告書に纏めなさい。処分はそれを基に判断する」

初陣の日の夕方、加賀は作戦の責任者である佐官に事のあらましを説明しに来ていた。

 今日の戦闘は赤城が加賀を庇って間も無く、零戦が制空権を確保し加賀の艦攻、艦爆による空襲で増援が来る前に深海凄艦を追い払うことには成功した。しかし当初の目的である撃破には及ばなかった為、後日別艦隊による残党狩りが行われることになった。そして加賀を庇った赤城は足回りの艤装を破壊され航行不能となり駆逐艦に曳航されて帰還。現在、艤装の修理及び、足の怪我の手当てを行っている。

 「大佐、そろそろ長官がお呼びになられたお時間です」

執務机の横に控えていた人間の女性秘書が佐官に伝えた。

「よし。俺も今から用があるから今日はここまでだ。お前は赤城の見舞いにでも行ってやれ。お前達の仲が悪いのは知っているが・・・同じ艦隊に配属された以上ずっとこのままで居る訳にはいかないだろう?」

「・・・分かりました。失礼します」

加賀は佐官に一礼した後、部屋を後にした。

 

 

 ドックは大きく分けて2つある。艦娘用と艤装用だ。加賀は艦娘用のドックに来ていた。艦娘と言えど高められた治癒力と施された幾つかの処置以外は人間と同様である為、艦娘用のドックは一般の病院と同じような造りをしている。年々増加する艦娘に対応する為に一昨年建てられた。階段を上がり赤城が治療を受けている階に着くと夕日に照らされて赤く染まった廊下に出た。受付で赤城が治療を受けていると教えられた部屋の前で、加賀が逡巡していると戸を開けたままの部屋から会話が聞こえて来た。

 「いっ・・・武さん、もうちょっと優しく・・・」

「痛いのは生きてる証拠だよ。大人しくして」

「くっ。・・・痛い痛いっ!右はともかく左はもっと丁寧に扱ってってば!」

「十分にそっと巻いてるよ・・・はい、終了」

「うぅ・・・ありがとう。それにしても久しぶりに会ったら軍医になってるとは」

「治療は出来るけど正式な軍医ではないよ。艦娘と艤装を同時に診れる人材が必要なんだってさ」

「ふーん。・・・ところで、あの震災の前日の事って覚えてる?」

「・・・どうしたの?急に」

 「お姉ちゃんが武さんに言った、昨日はありがとうって何の事だったのかなーってずっと気になってて・・・あ、言いたくなかったら言わなくて良いんだけど・・・」

「いや、別にいいよ。あの時の天城さん、自分が空母になってやって行けるのか結構悩んでたみたいでね」

「あー。飛び道具よりも格闘技のほうが似合いそうだもんね」

「まあ、そうだね」

天城と仲が良さそうだったあの整備兵が苦笑いをしながら答える声が聞こえた。

「それで何て言われたの?」

 「あー、その事について相談されたんだけど・・・絶対に赤城には内緒にしてって言われてるから、何て答えたかだけでも良い?」

「えぇ・・・。まあ良いけど」

「だったらその度に俺が修理する。整備も完璧にするから何度でも壊して生きて帰って来い」

「・・・ふっ、何それ」

「今、鼻で笑った?」

「・・・笑ってないよ」

「その間は何?」

「・・・」

 

 

 徐々に薄暗くなっていく廊下で加賀は完全に部屋に入る機会を逃していた。

(大佐には見舞いに行くように言われたがもう寮に戻ってしまおうか)

部屋からは冗談っぽく言い争う整備兵と赤城の声が聞こえていた。

(よし、見舞いは明日にしよう)

入り口の脇で壁に背を預けていた加賀は足を踏み出した。中の2人に悟られない様に部屋の前を通らずに来た道につま先を向ける。

 「・・・武さん、お姉ちゃんの事好きだったでしょ?」

一頻り言い争った後、ふと赤城が整備兵に尋ねた。加賀が歩みを止めた。

「え・・・いつから気付いてた?」

「最初から。傍から見てたら丸分かりよ」

「そんなに?」

「そりゃ、あんなに・・・・・・」

加賀は再び歩き出して2人の会話も直ぐに聴こえなくなった。

 

 

 違う。天城さんは私のせいで死んだんだ・・・。赤城さんはずっと姉の仇と一緒に居たんだ。赤城さんから・・・あの整備兵からも大切な人を奪って、私は生きてきたんだ。だから私は決めたのに。それなのに、またこうやって・・・・・・。

 

 

 少しだけ開いた戸の隙間からうっすらと明るい廊下が見えていた。飾り気の無い木製の枠を持つ硝子が嵌められていない窓からは淡い光が差していた。低い位置から見える風景は春の霞みがかった空が見えるばかりで外の様子は見えない。荒々しい足音が聞こえて少女は慌てて引戸を閉めた。昨夜の点呼で姿を確認できなかった加賀の捜索は夜を徹して行われていた。

 どれほど時間が経ったのか、断続的に暗闇に響く足音は聞こえなくなっていた。静かになった暗闇に先程よりも軽く静かな足音が聞こえて来る。その足音は戸の向こう側で止まり少女が息を忍ばせる。そして鋭い音と共に引戸が引かれて光が差し込んできた。少女が身を竦ませる。急に明るくなった物置の中に頭の横で括られた髪型と青い弓道着が照らし出された。

「・・・姉さん」

光の中で声がした。明るさに慣れてきた彼女の目に映ったのは、背中まである黒髪を首筋で1つに纏めた10代半ばに見える大人しそうな少女だった。

「土佐ぁ・・・」

瞳を潤ませて顔を上げる彼女から力強さは全く感じられない。

 そして土佐と呼ばれた少女はやれやれと言った風に溜息を一つ吐いた。

「・・・久しぶりに横須賀に着いたと思ったら、姉さんは行方不明だって言うし。・・・なにがあったの?」

加賀はゆっくりと今までの事を土佐に話した。

 あの日天城が身代わりになったと知ってずっと自分が生きていて良いのか悩んでいた事、赤城との人間関係が上手くいっていない事、赤城に認めて貰えるように自分なりに頑張っていたこと、だけど自分がしっかりしていなかった所為で赤城に怪我を負わせてしまった事、自分は赤城だけでなくあの整備兵からも大切な人を奪っていた事。

「・・・赤城さんにも、整備兵さんにも。もう誰にも会えない、どんな顔で会えば良いのか、分からない・・・」

そう言ったきり、加賀は抱え込んだ膝に顔を埋めた。そんな姉を見下ろしていた土佐が屈んで頭の高さを加賀に合わせた。

 「姉さん。赤城さんとあの整備兵に会いに行こう」

「無理・・・あんな話聞いた後なのに・・・」

「じゃあ赤城さんだけでもいいから」

「・・・嫌」

「じゃぁ・・・もし、赤城さんから拒絶されるような事になったら、艦娘なんて辞めて一緒にここじゃない何処かに逃げちゃおう?大丈夫、私の方が横須賀の外は知ってるでしょ?」

「・・・」

「ほら行くよ」

土佐が加賀の手を取って立ち上がると、加賀は逆らう事無く土佐に従った。

 

 

 「なんだ、居たの。なんだか騒がしいし、初陣であんな失敗して逃げ出したのかと思ってた」

戸を開けた土佐に促され赤城の入渠先に入った加賀は早々に手痛い一撃を喰らった。

「・・・っ」

加賀は思わず踵を返して戸に向かって駆け出し・・・外から土佐に戸を閉められた。結局、数歩だけ歩いてその場に立ち尽くす。

「何しに来たのよ」

ベッドの中央で足を伸ばして座ったまま、赤城は相変わらずの強い口調で言った。

「・・・怪我。大丈夫?」

加賀は恐る恐る目線だけ赤城に向けて言った。

「これ?・・・ええ、お陰様で絶好調ですよ。そんな事言いに来た訳?」

2、3拍あって今度は顔だけ赤城に向けた。

「・・・私。天城さんに。赤城さんにも、認められるように頑張ります。・・・天城さんに、あの時・・・庇って良かったって。思って貰える様に・・・だから、あの・・・」

普段から小さめの声が更に小さくなり最後は尻すぼみになって話すのを止めてしまった。

 しばらくの間、考え込む様に黙っていた赤城がベッドから降りて、包帯を巻いた左足を引き摺りながら加賀に近づいた。再び顔を出口に向けてしまった加賀の顔を右から覗き込もうとする。加賀は肩を強張らせて赤城の視線を避けた。

「ねぇ加賀」

赤城は加賀の服を引っ張って無理やり向かい合わした。

「そういう事は!体は正面向けて目を見て、大声で言いなさいよっ!大体あなたは元から声が小さいのよ!それから私も庇ったじゃな・・・・・・」

戸の向こうで土佐が立ち去る気配がした。赤城はしばらくの間、加賀に対する不満をまくし立てた。加賀は目を白黒させて赤城の話しを聞いた。

「・・・・・・って言うか怪我人を立たせないでよ!」

最後にそう言うと赤城は足を引き摺ったまま踵を返してベッドに向かった。

「・・・さっき絶好調だって言ったじゃないですか」

加賀がそう言いながら赤城の左に立って脇を支えた。

「うるさいっ!それより・・・私の怪我が治ったらあの凄艦、倒しにに行くわよ」

「・・・はいっ」

 

 

 「加賀さん?」

加賀が座ったまま振り向くと明るい廊下を背に人影が立っていた。

「ノックしたら返事ぐらいして下さいよ」

「・・・赤城さん、ごめんなさい。あの時頑張るって言ったのに・・・」

赤城はしばらくの間、はて?と考え込んだ後、加賀にやさしく微笑んだ。

「それで泣いてたんですか?・・・良いんです、綺麗な顔が台無しですよ」

加賀が黙って目を逸らした。

「・・・今は土佐さんの為に、加賀さんが悲しんであげて下さい」

加賀の頬を雫が伝って顎から床に落ちた。赤城は屈んでそっと加賀を抱き寄せた。

 

 

 翌早朝、金沢はいつもの軍服を着て制帽も被り、封筒を脇に抱えて司令棟を出た。閉じられていない封筒の口からは別の書類用の封筒が入っていた。そのまま真っ直ぐ、正門に向って歩いていると射撃場の近くに手ぬぐいで汗を拭う加賀を見つけた。

 「・・・もう良いんですか?」

「ええ。ご迷惑をおかけしました」

「気にしないで下さい。・・・いつもこの時間から自主練を?」

「はい。昨日は休んでしまいましたが・・・。提督は今からお出かけですか?」

「ちょっと本部に用がありまして。泊り掛けになりそうなので明日までの事は皆さんに伝えておきました。緊急の用があれば北間大佐にお願いします。それから・・・。いや、以上です」

「・・・分かりました。お気を付けて」

 金沢は加賀とすれ違って出発した。加賀は寮に向う。幾ばくも進まないうちに加賀は金沢に呼び止めた。

「・・・何か?」

加賀が振り返り自分を見ていた金沢と目が合うと、金沢は搾り出すように言った。

「・・・部屋に1人で、篭るぐらいなら僕のところに来なさい。肩を貸す位の事は出来ます」

そのまま返事を待たずに金沢は歩き出した。加賀は少しの間の後、その背中に返事を返した。

「・・・      、    」

その返事は金沢の耳には届かなかった。

 

 

 40年程前。横須賀鎮守府のある佐官が自分の執務室での書類仕事の途中で、煙草とライターを取り出そうとポケットに手を伸ばした時。ノックも無しに乱暴に、良く言えば元気良く扉が開いた。

 「提督!赤城、復活しました!負けっぱなしは嫌です!」

「赤城、ノックしろと何度言えば・・・いや、俺達は追撃しない」

「・・・何故ですか、大佐」

ノックしていた分遅れて加賀が入室して言った。

「やかましい、今は中佐だ」

「大佐!特訓もばっちりです!」

「中佐だ。嫌味か」

「どうして追撃しないんですか?」

 「・・・赤城が治療受けて加賀が行方不明になってる間に別艦隊が追撃、及び殲滅に成功した」

「「・・・」」

 騒ぐ赤城と落ち込む加賀を帰して、佐官は改めて煙草に火を点けた。

「やれやれ、随分と仲良くなっちゃって。俺の降格も無駄ではなかったかな?」

佐官が吐いた煙草の煙が天井に届く前に空気に溶け込んだ。

 

 

Continue>>>【五話 古兵の疑心】

 




※この後書きは深夜テンションで書かれております予めご了承の上、読む前にお気に入り登録をクリック&プラウザバック!!!



 言ったよ?知らないよ?【Betrayal Squadron】四話 加賀と土佐。今回は過去回ということでキャラ崩壊率高め、一部を除きモブだけどオリキャラ率も高め、えっと・・・いかがだったでしょうか・・・?オリキャラに関しては他の方の艦これ二次創作読んでると元から多いですね。これからさらに増える予定ですし。これ二次創作か?オリジナルと艦これのクロスオーバーの間違いじゃね?って言うくらい増し増しです。キャラ崩壊に関しては・・・お察しください。あ、でも睦月型ちゃん達の髪形がおかしいのは今後の伏線ですよ?キャラ崩壊かも知れませんがキャラ崩壊ではありませんよ?
 個人的には書いていて加賀姉妹は作者と違って小声でも「サ」行の発音が綺麗そうだなーと思いました。また、過去回前半に当たる3話「赤城と天城」の設定であれをこうしとけばよかったぁぁぁー!それをああすれば書きやすかったぁぁぁ・・・などと頭を抱えました。どうでもいいですね。シチュレーションも使い回してますし、精進が足りませんね。あ、でも武久はほとんど自分そのままで書きやすかったです。違うのは女の子とご縁が無い事ぐらいですねー。けっ。・・・ええ、精進が足りませんね。

 それにしても副題変えまでやったのに土佐さんの出番が少ない気が・・・そして赤城さんと武さんのターンが長い!危うく副題が赤城さんと武久さんになるところだった(嘘)
 赤城さんの登場回数が多いのは仕様です。これでもだいぶ減らしました。加賀さん好きが高じクールな加賀さんを書きたくて書き始めたこの作品ですが書いてるうちに赤城さんの事が加賀さんより好きになってきちゃったからしょうがないね。でも最後の赤城さんの台詞を間違って「・・・良いんです~悲しんであげて下さい」で「~あげて食うださい」ってタイプしてました。赤城さん、あのシーンでそりゃ無いよ。・・・あっ、痛い。加賀さん、止めて。ごめんなさい、はい。私のミスです。蹴らないで。(いっぱい食べる君が好き~)
 そして作者が赤城さんに浮気した影響を加賀さんが思いっきり被っています。振り返るとダンボール被ったり、アイスのお零れ貰ったり、引き篭もったり、戦闘で足引っ張ったり、人の会話盗み聞きし・・・加賀さん艦載機は止めてください、本当に止めてください。私は人間です、ホントごめんなさい。って、あれ?1話から加賀さんのイメージどんどん壊してる?(決して加賀さんが嫌いなわけでは・・・かっこいい加賀さんはたぶん8話くらいで・・・)

 さて、今後の更新について1月1話でやっていけそうなので毎月29日更新にしようと思います。実は今月ギリギリだったから難癖付けて更新日延ばそうなんて考えてませんよ?肉の日ですよ肉の日。ね?覚えやすいでしょ?いっぱい食べる君が好き~。

 最期に、本作では史実ネタは中途半端に採用、創作と史実ネタが混在してます。その上たまに史実を間違って覚てるので、どこが史実でどこが創作なのか作者自身よく分かってなかったり。へ~そういう事があったんだ~とかって言いふらしたら恥じ描きますよ。創作を史実ネタっぽく書いてたりしますがこの作品の中だけの話。This isパラレルワールド。特に階級に対する役職とか、兼任できる役職とか。統率権の範囲とか。あと建物に関しても、それと戦術とかも。全部作者の趣味、捏造、萌えでやってます。ちょっと詳しい方が読んだら「ちょっ・・・これじゃ・・・ありえねぇwぷぷぷっ」とか思われる事と存じます。

 とうとうこんな最深部まで読んでしまう提督が現れたか・・・面白い。生きて四天王の残りの3人に会えると思うなっ・・・!
 次回!【五話 古兵の疑心】お楽しみにっ!


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五話 古兵の疑心

いつから本編に入っていると思っていた?と言わんばかりのオリキャラ紹介回。ここから読んでもたぶん大丈夫。

※注意!(始めにお読み下さい)
・この作品には原作のゲーム設定が崩壊しかねないオリジナル設定を含む事山の如しです。
・やっぱり、キャラクター崩壊も含みます。予めご了承下さい。
・後で「この作品を呼んだせいで【艦これ】が楽しめなくなった!」や「こんなの俺の嫁じゃねぇ!」等のクレームについて作者は責任を負いかねます。自己責任でお願いします。

・少しでも皆様の暇つぶしになれば作者は幸せです。

[追記]
ご質問頂いた点の改善の為、少し台詞を増やしました。2014/6/30



 「よお、大将!・・・いや少将だったな。早かったじゃねぇか」

 夕方、本部の更衣室を借りて着替えた金沢は会社員の様なスーツ姿で夏島のある邸宅の前庭で壮年の男に出迎えられていた。小柄だがしっかりした体つきで白髪、青い目と日に焼けた肌が印象的なその男は島の住人と同じ様なラフなYシャツと短パン姿だった。西洋人らしい高い鼻、東洋人らしい顔の形がちぐはぐな印象を与える。

 「こんばんは、町長。今日もお世話になります」

「良いって事よ。お前さん達、日本軍がトラックに陣を構えてくれたお陰で俺みたいな混血が町長にまでなれたんだからな!それよりこんなに早く来たって事は、仕事は上手くいったのか?」

「はい、お陰さまで。2日掛りの交渉になるかと思っていたのですが思いの他早く受け取って頂けました」

「そうかそうか。よし、じゃあ今夜は飲むぞ。仕事の成功を祝って乾杯だ!」

 夕食にはまだ早い時間だが独身の男に飲酒を咎めるような人間は居ない。夏島日本人町の町長を勤めるフクイに招き入れられて、金沢は邸宅の玄関を潜った。

 

 

 太陽が邸宅の南国らしい白色の壁を紅く染めていた。小高い山の中腹に建てられた邸宅の中庭を囲む三方の渡り廊下に壁は無く海からの風が吹いてる。金沢は中庭に儲けられた東屋のテーブルに案内された。早速飲めと言わんばかりにフクイは給仕にビールとジョッキを用意させる。

 「どうした?遠慮するな」

「乾杯の前に用意して頂いた物を頂けますか?」

「食えない奴め」

「酒が入ってからでは忘れそうなので」

「お前は酒で酔うタチだったか?」

フクイは鼻を鳴らしつつも給仕に命じて“それ”を用意させた。

「では、頂きましょうか」

「ったく、乾杯!」

東屋にジョッキがぶつかる音が響いた。

 

 

 「で、そんなもの用意させてどうすんだ?」

フクイが休んでいるように命じたので給仕は居ない。周りに会話を聞く人間が隠れられるような場所もない。金沢は黙々と出された料理を口に運び続けていた。

「密漁の報告を怠る様な町長に、答える必要は無いってか」

そう言ってフクイはビールを一気に飲み干した。金沢が箸を置いて一息ついた。

「ああ、別にお教えしても構いませんよ。訓練に使う海域を決めるのに役立てるだけですから」

「すぐ分かるような嘘吐くんじゃねぇよ。それならわざわざ一般人に紛れてスーツなんざ着て取りに来なくても、堂々と軍から使いを遣せば良いだけの話だろ」

「まあ本当の理由は秘密です」

 「・・・ほんっとおめぇは分からねぇな。軍のエリートコースまっしぐらの人間が、上にこそこそと密漁船の漁場を調査するなんて。摘発すれば手柄になるだろうに」

「軍に密漁の報告をしない代償に密漁者から利益の一部を受け取っている人に言われることではありませんね」

「けっ、まったくだ。そもそもあの時、おめぇさんなんか酒場に来なけりゃこんな事には・・・おっといけねぇ、もうこんな時間か。今日泊まる事はメイドに伝えてあるからゆっくりしてってくれ」

会話の途中でフクイは腕時計を見て席を立った。

 「お出かけですか?」

「その酒場で女の子と待ち合わせだ」

「・・・そうやって女遊びに励んでいるから結婚出来なかったのでは?」

「うるせぇ。俺もおめぇぐらいの時は余裕ぶってたよ。そんな事言ってられるのも今のうちだ」

フクイは振り返り際に言い放ち、別れを告げて東屋を出て行った。

 

 

 金沢がフクイに出迎えられていた頃。基地の女子寮の一室では青葉がベッドの下段で意気揚々と私服に着替えていた。二段ベッドが2つ、左右の壁に並べられている一般的な寮の部屋、入り口の向かいの壁際に置かれた机に向っていた古鷹がベッドの角から顔を出した。

「青葉ぁ、やっぱり止めようよ。基地司令が居ないからって・・・それに私、そんな自信ないしさぁ・・・」

「大丈夫!古鷹ならやり通せます!」

 着替え終えた青葉はそう言いながら薄手の布団を丸めてタオルケットの下に潜らせた。そして形を整える。ベッドにタオルケットを被って眠っている人間一人分の膨らみが出来た。

「そう言う問題じゃ・・・」

「じゃっ、後はお願いします!」

一日の訓練後。どこにそんな体力があったのか、青葉は寮を後にして何処かに出かけていった。

「・・・」

寮の部屋には途方に暮れる古鷹と、夕食の時間になったら起こしてと言ったっきり眠っている加古が残された。

 

 

 2200。毎晩この時間には就寝前の点呼が行われる。古鷹は寮の自室でベッドの上段に座って本を読んでいた。が、先程から頁は一向に進んでいない。やがてしおりを挟むと本を持ったままベッドに倒れ込んだ。

(駄目だ。集中できない・・・)

 数時間前の演習後、シャワー室で汗を流していると青葉が古鷹に話しかけてきた。

「今日、町に行くので点呼の代返お願いします!」

青葉はたまに基地を抜け出して夏島の繁華街に出掛ける事があった。そしていつもその“誤魔化し”を同室の古鷹が担当していた。

(何度やっても嘘は慣れないなぁ・・・)

 沈んでいく加古を引っ張り上げながらの入浴、船を漕ぐ加古を突きながらの夕食、それと青葉の脱走の手伝いが重なった日には・・・古鷹の疲労はピークに達する。

(だめ・・・このまま寝そう・・・)

古鷹の疲れが心地よさに変わっていく。眠りに落ちていく古鷹をノックの音が現実に引き戻した。

 「全員居るぅ~?」

古鷹が返事をする前に戸が開かれて、一部の人間の間でお局様と呼ばれている大端中佐がショーヘアを揺らしながら現れた。基地で唯一の女性将校ということもあり女子寮での点呼はすべて彼女の仕事となっている。スカートタイプの軍服を好む彼女だが今日はパンツスタイルだった。

「・・・ふぁい」

普段なら返事の前に戸を開けた事について言及する古鷹だったが今日は欠伸をしながら返事をするだけだ。

「あれ?加古と青葉は?」

大端が埋まっているはずの加古のベッドが空である事と青葉の返事が無い事に気付いて古鷹に訊ねた。古鷹の眠気が一気に吹き飛ぶ。

 「っ・・・加古はさっきベッドと壁の隙間に落ちたけど起きませんでした。青葉はー・・・今日は三ツ屋提督の演習メニューが多くて疲れたって言って・・・寝ちゃいました」

古鷹は心の中で大端に謝りながら言われた通りに青葉の言葉をそのまま伝えた。

「そっか、でも頭からタオルケット被ってると暑くない?」

そう言いながら大端は青葉に掛けられた、正確には青葉が用意した“身代わり”に掛けられたタオルケットを正そうと手を延ばした。あわてて古鷹が引き止める。

「あっ、あの!訓練で疲れて、まぶしくて寝られなくてって言ってたんでそっとしておいたほうがっ・・・!」

「あー、今日は少将居ないから、三っちゃん張り切っちゃったかー」

「はは、三ツ屋提督は何と言うか・・・古風な方ですもんね」

なんとか大端を引き止める事に成功した古鷹だったが、微笑ましそうな表情を向ける大端から目を逸らして答えた。

 三っちゃんこと三ツ屋少佐は最近この基地に着任した提督で青葉の指揮官を務めており、海軍大学時代の大端の後輩である。基地司令の金沢が居ない日に加古がいつもより眠たがるのは、普段の金沢の訓練は艦娘に甘すぎると言って彼がいつもより厳しい訓練を課す事に起因する。

 「だよねー、頭固くて厳しいもんねー。昔、うちの爺様から聞いた曾爺様の話そのままだもん。三っちゃんが基地司令になった日にはブラ鎮確定ねー」

大端がブラック企業を捩った隠語で三ツ屋を揶揄した。

「さすがに曾お爺様は可哀想ですよ。三ツ屋提督ってまだ40代ですよね?」

古鷹が大端の冗談に顔を綻ばせながら訊ねた。大端が苦笑いを浮かべながら答える。

「・・・あー、三っちゃんまだ29よ」

「へ?」

「古鷹ちゃんも結構きつい事言うわねー。・・・あ、まだ点呼の途中だった。じゃ、全員居るということでっ、お休み!早く寝なさいよー」

大端は点呼を続ける為に部屋を出て行った。

「はぁ・・・私も寝よ」

古鷹はベッドの上段から身を乗り出して電灯の紐を引いた。明かりが豆電球だけになり薄暗くなる。

「・・・三ツ屋さん、まだ20代だったんだ」

そう独りごちた古鷹はまもなく眠りに落ちた。

 

 

 「鳳翔さーん。居ますかー」

点呼を取る大端にとっては最後の一人、いつも通り大端は返事を待たずに寮長室を兼ねる一人部屋の和室の戸を開けた。

「点呼ですか?お疲れ様です。私で最後ならお茶でも如何です?」

普段の着物と同じ模様の浴衣姿の鳳翔は落ち着き払って大端を迎えた。卓袱台にはすでに湯飲みが2つ用意されている。

「頂きますっ!」

大端は靴を脱いで用意された座布団の上に陣取った。

 「青葉さんは行きました?」

お茶を注ぎながら鳳翔が訊ねた。大端は何度か瞬きをしてから答えた。

「・・・行ったみたいですねぇ。古鷹ちゃんが頑張って嘘ついてて面白かったですよー。あ、冷たいお茶で、氷もお願いします」

「古鷹さんには後で何かお詫びを考えておかないといけませんね。はい、氷入りですね。うーん、古鷹さんが好きな物って何かしら・・・?」

「たぶん青葉ちゃんがおやつでも買ってきてくれますよ」

 氷入りのお茶はすぐに用意された。

「はい、どうぞ。粗茶ですが」

「さっすが鳳翔さん。用意が良い」

大端は礼を言って冷たいお茶が入った湯飲みを受け取った。

 

 

 「それにしても吃驚しましたよ」

一息ついて大端が話し出した。鳳翔も大端の向かいに湯飲みを置いて座った。

「青葉ちゃんが時々基地を抜け出して町に行ってるのは知ってましたけど、わざわざ私に許可を取りに来るなんて・・・。酒保に無い日本酒を買ってくるって事で取引しましたけど」

それを聞いて鳳翔は可笑しそうに笑った。

「そんな事お願いしたのですか?」

「だってー基地司令、提督陣には厳しいんですよー。頼んでも酒保のお酒増やしてくれないし、色仕掛けも効かないし・・・男好きな訳じゃないですよね?」

「金沢提督の下で働いて5年になりますけれど、そんな話は聞いたことありませんよ。変わった方なのは確かですけれどね」

 「まあ、それはそうと早く教えて下さいよー。青葉ちゃんが脱走した理由」

大端が鳳翔の顔を覗き込んで言った。

「何の事ですか?」

「食堂の製氷機まで取りに行かないといけない氷まで用意しておいてとぼけないで下さーい。それに青葉ちゃんが脱走した事知ってたんでしょう?」

「大端中尉が点呼後に喉を渇かせて来るのを見越して氷を取りに行ったら青葉さんと鉢合わせしただけですよ?」

「・・・」

「まだまだですね」

鳳翔が朗らかに笑う。

「・・・まだまだ若輩者ですから」

 「ふふっ・・・まだこちらには伝わっていませんが、内地の艦娘達の間でこんな噂が流れているのをご存知ですか?」

途中から鳳翔の目の色が変わった。

「ご存知の通り、艦娘は内部艤装と呼ばれる艤装の一部を体に埋め込むことで対応した艦種の武装を扱う事が出来ます。ですが兵装が進化するにつれて、いずれは内部艤装との互換性の許容を超えてしまいます。ここまではご存知ですよね?」

「・・・ええ。知ってるわ」

鳳翔の表情の変化に気圧されて大端は姿勢を正して答える。

 「では艦隊の標準装備が互換性を超えてしまった時、私達はどうなると思いますか?」

「それは解体されて一般人として余生を・・・。あれ・・・?」

大端は海大で聞いた話をそのまま答えようとして、途中で首を傾げた。

 「気付かれましたか?内部艤装を取り外すだけならば一応手段はあります。ですがそこで問題になるのが“不老化”です。35年前に発明され世界各国が多少手荒なことをしてでも競って研究している。時にはきな臭い話も耳にする。そんな技術を施された娘が、一般市民として生活出来ると思いますか?」

こんな質問答えは分かりきっている。

「・・・何が言いたいの?」

「軍部はこの技術の流出を防ぐ為に互換性の許容を超えた艦娘を内密に処分しようとしている。これがその噂です」

 「まっさかー・・・そんな噂を真に受けるなんて鳳翔さんらしくもない・・・」

鳳翔は気にせずに話し続ける。

「先日、青葉さんが身分を隠して町へ脱走しているうちに、本土の大本営に繋がる独自の情報網を持つ町の有力者と接触している事が分かりました。そこで彼女にお願いしてその情報網が使えるかどうかを探って貰うことにしたんです」

 いつも控えめな鳳翔の声からは想像も付かない内容の台詞に大端は閉口し切っていた。

「氷、解けちゃいましたか。淹れ直して来ますね」

鳳翔は大端の手元の湯飲みを見て言った。

 

 

 「・・・仮に噂が本当だとしても。不老化処理が艦娘に施されるようになったのは30年前、いくら兵装の進化が早いからと言ってこんなに早く互換性に限界が来る艦娘なんて居ないはずよ。それに内部艤装を新しく取り替えればいくらでも・・・」

「そうですね。不老化処理を施した艦娘には居ません」

鳳翔は大端の話を遮って答えた。

「だったら、どうしてそんな馬鹿げた噂を真に受けて・・・。上層部それも大本営を詮索するなんて反逆罪に問われるような事を・・・?」

鳳翔は目を伏せて答えた。

 「・・・今のは不老処理を施された艦娘の話です。不老化処理を施されていない娘達は・・・」

「ちょっと待って」

今まで話の聞き手に徹していた大端が口を挟んだ。

「・・・何を言ってるの?」

大端は得体の知れない物を見たような顔で訊ねた。

「艦娘は全員不老処理を受けているじゃない・・・」

「・・・は?」

大端のその言葉に鳳翔は目を見開いて大端を見つめた。

 

 

 「では・・・提督は4年前のあの娘達の事を・・・知っていた訳では・・・無かったんですね」

鳳翔は口元を覆ったまま呟いた。

「少なくとも、当時大尉であの子達直属の指揮官だった私にも知らされていなかったわ。・・・准将だった基地司令はどうだか知らないけれど。・・・つまり、すべての艦娘が不老化処理を受けているわけではない。莫大な費用がかかる不老化を施されずに互換性の限度が来てしまった艦娘は極秘で処分される・・・と。なるほど、そう考えたら噂も信憑性がますわね」

「・・・取り乱してしまってすみません。でも・・・これで私も大端提督を少し信用出来そうです」

鳳翔は少し微笑んだ後、直ぐに悲しそうな顔で口を開いた。

 「私は・・・あの子達は機密が露呈するのを恐れた軍部に処分されたと思っています。不老化処理を受けていない娘の場合は治癒力の向上もないので、内部艤装の更新手術に耐え切れません。内部艤装を取り出して解体するにしても同じです。それと・・・これもご存じないかと思うのですが・・・」

大端は話の続きを促した。

 「・・・互換性を超えなくとも、内部艤装を埋め込む処理が身体に負担を与えている為に娘達は短命に・・・余命は処理から5年程になります」

「・・・」

「・・・あの子達は、艦名を持ってから3年しか経っていません。せめて・・・残りの命だけでも全うさせてあげたいんです」

 「・・・全部本当の話なのね?」

鳳翔は大きく頷いた。そして続けた。

「大端中佐、どうか私に協力して頂けませんか?」

「・・・どうして私にその話を?」

「あなたが一番、娘達に信頼されているからですよ」

その後、大端の返事を聞いた鳳翔の顔はいつも周りに向けている穏やかな顔に戻っていた。

 

 

 月が綺麗な夜だった。真夜中を過ぎる頃、大端は普段はあまり吸わない煙草を咥えて渡り廊下の淵に座って遠く木々越しに見える水平線を眺めていた。脇には布製の手提げ鞄が1つ無造作に置かれている。大端は1時間前に聞いた話を振り返りながら点けた2本目の煙草を吸って・・・咳き込んだ。大端が2本目の煙草を吸い切るのを諦めて地面で火を消す。

 「げほっ・・・。とんでもない事知っちゃったなー。とんでもない事引き受けちゃったなー」

大端は月を見上げて呟いた。

「何を引き受けられたんですか?」

「うおっ!?・・・なんだ千歳か・・・」

 大端が振り返ると彼女の秘書艦である千歳が立っていた。秘書艦、とはいっても妹の千代田が姉にべったり引っ付いているので彼女達の執務室の様子を見たではどちらが秘書なのかよく分からないのが実状だが。

 「咳き込む音が聞こえたので誰かと思ったら・・・提督が煙草を吸われるなんて珍しいですね。お疲れですか?」

「いやー別に?・・・それより早く寝なさいよ。夜更かしはお肌の大敵よ?」

「遠征から帰ってから生活リズムが崩れちゃって・・・それにしたってこんな遅くに喫煙されている提督に言われる覚えはありません」

千歳は苦笑いを浮かべて言った。

 「はいはい。私もシャワー浴びたら寝るわ」

大端は立ち上がりながら手をひらひらと振って千歳を寮に帰した。

「分かりました。提督、おやすみなさい」

「はい、おやす・・・ねえ、千歳」

寮の戸に手を掛けた千歳を大端が呼び止めた。

「なんですか?」

「この前の遠征中、内地の・・・たしか宿毛湾の娘に会ってるよね?」

「・・・?会いましたけど。それが何か?」

「・・・いや。やっぱいい。お休み」

大端は寮に消えていく千歳を見送った後、着替えを入れた布鞄を方に引っ掛けてシャワー室に向った。

 

 

 「ふぁ?あ、青葉。・・・お帰りぃー」

翌日。朝の仕度を終えた古鷹に起こされたばかりの加古がベッドと壁の隙間から這い出てきて言った。

「青葉、無事帰還しました!これは口止めりょ・・・えと、お土産です!」

そう言って古鷹と加古に紙袋を差し出す。中身は出来立ての豆大福。朝市で買って帰ったのだろう。普通、基地内では間宮の来航時にしか食べられない。

 「はは・・・ありがとう」

苦笑いを浮かべて古鷹は大福を受け取った。

「ありがとー。また太っちゃうなー」

加古が受け取りながら言った。

「え、気にしてたの!?」

古鷹がぎょっとして、昨夜の夕食直後から爆睡していた加古に訊ねた。

「古鷹酷いよぉ」

加古が頬を膨らます。

 「加古が今起きたという事は朝食には間に合いましたねっ」

「脱走しても朝食に間に合わせる気はあったんだね」

苦労人古鷹がほんの少しだけ嫌味っぽく言った。

「青葉、心外だなー」

「まあまあ。古鷹も疲れが溜まってんだよ」

「そう思うならせめて1人で起きてくれないかなぁ・・・」

青葉を宥める加古に対して古鷹はぼそっと呟いた。

「あんた達ー。早くしないと朝、食べ損ねるわよー」

戸の向こうから大端の声がして3人は、特に起きたばかりの加古は慌てて身支度をして食堂に向った。

 

 

 その日の昼過ぎ。金沢が基地に戻る為にいつもの哨戒の零偵が止まった桟橋に向うと、飛行ツナギ姿の男が2人金沢を待って居た。

「ご苦労様です。今日はお客さんがいらっしゃるんですか?」

金沢がいつもの飛行士に訊ねた。

「少将もお客さんじゃないですか。少将の基地に新しく配属される整備兵ですよ。・・・こちらは55号大隊基地司令の金沢少将です」

「本日付で大隊に配属となりましたっ!北沢二等整備兵です、基地司令と同じ零偵に搭乗出来るとは光栄です」

飛行士に紹介され、まだかなり若い整備兵は敬礼した。

 「初めまして。ご紹介に与りました。金沢護人です。どうぞこれからよろしく、“沢”が付く者同士仲良くしましょう」

「はっ、よろしくお願いいたしますっ」

「では自己紹介も済んだところで出発しますね、座席はどうされます?」

「では僕は中央で。北沢さんは後ろの席でお願いします」

3人が機体に乗り込んで間もなく、三座の零偵は桟橋を離れて哨戒に出発して行った。

 

 

 離陸した零偵はトラック諸島の外礁沿いを時計周りに飛行していた。時計回りで哨戒すればすぐに春島に到着するが、哨戒は敵に勘付かれない様に時間も経路も毎回異なる。そしてそれらは重要機密なので遠回りする事については金沢も承諾済みである。

「良い天気です」

金沢が外洋を気にしながら言った。彼の足元から伸びる操縦桿は前席の飛行士のそれと連動して時折揺れている。

「天気は良いですが雲の位置が悪いですね。空中からだと直前まで敵機に気付けない事があります」

金沢の独り言を聞いた飛行士が前の操縦席から伝えた。

「なるほど。では僕も見張りに加わりましょう」

そういって金沢は鞄から折りたたみの双眼鏡を取り出した。

「助かります。北沢二等兵もなにか見つけたら遠慮なく言って下さい。変に遠慮して敵機の発見が遅れるよりは見間違いで心臓に悪い方が遥かにいいですから」

 「分かりました。・・・あの、トラック諸島周辺に岩が剥き出しの島なんてありましたっけ?」

「・・・岩の島、ですか?」

「さっき一瞬だけ雲間から見えた気がしたので今探しているのですが・・・」

北沢は双眼鏡越しに海上に目を凝らしたままそう言った。

「・・・少将、念のため本部に連絡をお願いします」

険しい表情で飛行士が言った。

「了解」

金沢は手元の通信機でモールス信号を打ち始めた。

「あの、何か問題が・・・?」

予想外に大事になった自分の発言に北沢は恐る恐る前の2人に訊ねた。飛行士が答える。

「・・・実は航空隊の初年兵が未確認の岩礁とよく見間違う物に棲艦の空・・・少し遅かった様です。少将、シートベルトの確認をお願いします!北沢二等兵も!少し手荒く飛ばしますよ」

飛行士が前方を睨んだまま、後部座席まで聞こえる様に言った。

「えっ?何があったんですか・・・?」

1人だけ後ろ向きの座席に座っている北沢が不安げな声を出す。

「棲艦機です。そんなに多くの数ではありませんがこの機体で戦うには不利ですね。・・・新兵はよく棲艦の空母と岩礁は見間違うらしいです」

飛行士を操縦に集中させる為に電文を撃ち終えた金沢が端的に、状況と飛行士が言いかけた話の続きを伝えた。

 銀色で尾の無いカブトガニが10数機、哨戒中の零偵の前方上空に現れていた。場所はトラック諸島北部、春島55号大隊基地まで直線距離でおよそ20kmの地点であった。

 

 

>>>To be contemew【六話 詳しくは後書きで!】




 「艦これ2次創作って銘打ってる訳だし、オリキャラの扱いは空気でいいよね」と思っていた頃が私にもありました。今思えばどうしてそう思ったのか。最初からサブメイン級?のオリキャラが5人以上居ることは決まっていたのに、どうして空気扱いで良いと思ったのか謎です。という訳で普通の小説の1話とか2話、初登場シーン並に紹介文まみれの5話でした。あんた今までも居ただろっ!と突っ込みながら楽しんで頂けたと思います。

 さて、今回はとくに表記していませんが新章突入の導入という事で短めです。いや前回が作者の作品の中では長めだっただけですが・・・。全体的には話がドロドロして来るところです。前話を書き終えた勢いで書いていたら4話投稿後一週間程で下書きが完成しました。今の内に書き溜めようと思います。書き貯めて置けば、『次回、○話、××××!』って安心して予告で来ますからね。余裕が出来れば隔週更新とかしたいなーと思っています。その時はまた後書きでお知らせします。

 そうそう、予告と言えば最近知ったんですが
>>>Contenew
とか毎回格好付けていましたよね。“続く”って正確には
>>>To be contemew
になるそうですね。Contenewだけだと“続け”とか“続き”になるんでしょうか?
誰か詳しい方教えてくださいm(-_-)m辞書で調べてもよう分からん´・ω・`英語の成績辛うじて“2”だったからしょうがないね。


では、次回。第6話 (未定!え・・・そりゃ書き溜めとか隔週更新とか言いましたよ。でもまだ書き溜まっていない訳でして・・・というか6話の“アレ”が地味に面倒で・・・でもだいぶ仕上がってるから次回以降は隔週更新にっ・・・)お楽しみにっ!|・`)ノシ


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六話 泊地襲撃事件“上”

衣笠さんがなかなか出て来てくれません。

それとうちのノートPCがリ級って打つ度に利休って変換してくれました。茶道か。

【追記】
平均文字数9000ぴったしワロタ(2014/7/30)


 暑さと喉の渇きで青葉は朝食後の仮眠から目を覚ました。窓の簾とカーテンは閉め切っていて部屋は薄暗い。今日は丸一日非番の日、青葉が時計を見ると針は昼食前を指していた。向かいの二段ベッドは空。ベッドの主、古鷹と加古は午前の訓練でかいた汗をシャワーで流している頃だろう。

「・・・早めに行って場所取りでもしますか」

昼食の時間にはまだ早いが“昼食始め”の放送の前に着いてしまえば、出来立ての食事を列に並ばずに食べられる。それに眠っている間に飛んだ水分の補給もしなくてはいけない。青葉はベッドから出て食堂に向った。

 

 

 その頃。基地司令の金沢は春島の北西20kmの上空で深海棲艦の奇襲を受けていた。金沢自ら通信機を手に取り本部からの連絡を飛行士に伝える。

「本部より電文。至急応援を向わせる、だそうです」

「了解です。二等兵!頼むから昼食吐くなよ!」

「はっ、はいっ・・・!」

飛行士は零式水偵を真っ直ぐに棲艦機の群れに向けた。

「この数の差で戦うつもりですか!?」

「棲艦機の方が足が速い以上、今背を向けては逃げ切れずに蜂の巣です!」

金沢の言葉に飛行士は緊張した面持ちで答えた。

 零偵は加速して深海凄艦のマルチロール機の銃撃をかわし集団に突っ込んだ。風防の直ぐ向こうを棲艦機が日光を鈍く反射させながら飛び去って行く。すれ違って直ぐ零偵は急旋回をして安全な敵機の後ろに付こうとする。しかし多勢に無勢、数組に分かれた棲艦機はさまざまな方向から零偵に銃撃を与える。飛行士は器用にそれらを避けていくが、どうしても避け切れなかった数発の銃弾が零偵の機体で甲高い音を立てた。零偵が落とされるのも時間の問題だった。操縦に集中する飛行士の代わりに金沢が後部の北沢に伝える。

「二等兵っ、機銃を!無抵抗よりはましです!」

「は、はいっ」

金属が擦れる音とバネの音が聞こえ後方から旋回機銃の音と振動が伝わり出した。それを確認して金沢は零偵の風防を最低限だけ開いて用意していた信号弾を発射する。トラック諸島上空に緊急事態を示す色が輝いた。その間にも棲艦機が迫って来る。棲艦機が銃撃を放ち零偵は急旋回で避けるがその先にも棲艦機は待ち構えていた。遠心力による加重で3人が座席に押し付けられる中、光線が降って風防が割れた。

 

 

 基地副指令の北間大佐は昼食を執務室に持ち込んで、資料に目を通しながら行儀悪く食事に勤しんでいた。副指令としての職務、兼任する陸戦隊隊長の職務、そして金沢が居ない日は基地司令代行も務める北間にゆっくり昼食を食べる時間など無い。

「副司令、お食事中失礼致します」

風が通るように開け放っている戸を義務的に叩いて陸戦隊の小隊長が駆け込んで来た。

「ん・・・どうした」

緑茶を口にしてから北間は応じた。

「見張りの隊員が北西11海里程の地点に緊急信号弾を確認しました」

「どこの部隊のだ?」

北間は漬物を齧りながら訊ねる。忙中、北間が部下の報告を聞きながら食事を取る事は隊内に知れ渡っているので小隊長は気にせず答えた。

「現在確認中ですが、状況から哨戒中の・・・」

「司令代理っ!」

小隊長が報告を終わる前に通信兵が割り込んで来た。

「・・・!貴様っ、まだ話の途中だ!」

小隊長が激昂する。通信兵は息を切らしたままモールス信号の用紙を北間に差し出した。北間が箸を置いてそれを受け取る。そして眉間に皺を寄せた。

「・・・何があった!?」

北間の反応を見た小隊長が通信兵に訊ねた。息を落ち着かせた通信兵は報告する。

「本部よりの電文ですっ!泊地北部に深海凄艦を確認、至急出撃せよとの命です!」

通信兵が話し終えると同時に北間が立ち上がり残っていた緑茶で漬物を流し込んだ。

「陸戦隊は救難艇を用意の上で待機。通信兵は各指揮官に連絡、当直の艦娘に出撃用意の集合をかけよ」

北間は部下達に指示を出すと食べかけの食事を残し指揮室に向った。

 

 

 数分後。3段の雛壇状になった指揮室の一番下、並べられた机の前に外出中の金沢を除いた指揮官が集められた。詳しい状況が纏められた紙を片手に北間は話始める。

「先刻、哨戒中の偵察機が当基地より約11海里の地点に深海凄艦の艦隊を確認した。数は12隻。ヌ級エリート3、リ級重巡1、軽巡3、駆逐5、旗艦はヌ級エリート。敵艦隊は現在も泊地中枢に向い南下中。夏島の泊地本部を撃破することが目的と思われる。金沢少将が不在の為、作戦指揮は俺が取る。また、迎撃は当艦隊を中心に52号艦隊、54号航空隊が応援に来る。ここまでで何か質問は」

 北間は自分を囲った指揮官の顔を順に見て質問が無い事を確認してから続ける。

「当方の布陣は、第一艦隊に赤城、加賀。第二艦隊、古鷹、加古。第三艦隊、千歳、千代田。それぞれの護衛に駆逐隊を付ける。第二艦隊、第一艦隊の航空支援で迎え撃ち、島を迂回した第三艦隊で背後から爆撃を仕掛ける。念のため第一艦隊の艦載機の半数は待機させておく。栗崎大佐は第二艦隊、大端は第三艦隊、三ツ屋は砲台の指揮を執れ、以上」

 大端が手を上げた。

「何だ?」

「第一艦隊の指揮は誰が?」

「俺が兼任する。別働隊が発見されでもしない限り艦載機の運用のみだから問題ない」

続いて栗崎が訊ねた。

 「応援部隊はどういった形で参戦する予定ですかな?」

「52号艦隊は会敵後になる見込みですが第二艦隊に組み込みます。54号の航空隊は爆撃、雷撃で敵艦隊の戦力削りに従事して貰います」

年上の栗崎に対して言葉使いに気をつけて北間は答えた。

「分かりました」

 「他に質問は?」

もう一度、北間は一同を見渡す。最後に三ツ屋が挙手した。

「配下の青葉は本日非番ですが参戦させるべきとかと存じます。エリート軽空母3隻に重巡に対してこちらが重巡2隻と言うのは如何なものかと・・・」

「そう言って貰えると助かる。・・・では青葉は第二艦隊に参加せよ」

「御意」

 「もういいな?では各自執務室で待つ娘達に指示を。駆逐艦隊指揮官も執務室に向わせてある」

 そして北間は艦娘隊伝統の言葉で集会を締めくくる。

「総員、暁の水平線に勝利を刻め!!」

「「「応!!」」」

 指揮官達が指揮室を出てそれぞれの指示を待つ艦娘達のもとに向った。

 

 

 金沢の前席、操縦席の窓枠に残った硝子片に血飛沫が飛ぶ。水偵は旋回を止めてゆっくりと弧を描き出した。たった今直上から機銃を斉射した棲艦機が横を掠めて降下していく。

「ぐぁ・・・」

「っ・・・大丈夫ですかっ!?」

空気が直接機内に入ってきて風が叩きつける音で飛行士の身を案じた金沢の声は掻き消された。

「少しょ・・・う、脱しゅ、パラ・・・ト」

「操縦桿を離しなさい!僕が飛ばします!」

止めを刺そうと別の凄艦機が迫っていた。自らも右肩から血を流しながら金沢が手元の操縦桿を握る。連動して動く前席の操縦桿から飛行士の手が離れた。銃弾が掠めた右肩のシートベルトは金具ごと飛んでいたが気にする間も無く、回避に備える。

「・・・少尉、持ちこたえろよ・・・」

金沢が呟いた。

「後ろ、上方に敵機!」

1人だけ無傷だった整備兵が叫んだ。

「このっ、動けっ・・・」

被弾の影響でいつもより重みの増した操縦桿に金沢は体重を掛けていく。

 

 

 昼食時の食堂の喧騒は緊急時のブザーによって静められた。

『緊急放送、緊急放送。当基地北方において敵艦を確認。当直艦隊は各司令室に集合、指示を仰げ』

古鷹、加古、青葉の3人は席に着いて手を合わせたところだった。

「加古、行くよ」

放送を聞いて直ぐに箸を置いた古鷹が立ち上がりながら言った。

「りょーかい。青葉!肉、見張っててっ!あむっ・・・」

隣の席の加古が急いでステーキ1切を口に押し込んでからそれにならう。

「大変ですねぇ。行ってらっしゃ~い」

非番の青葉が2人を見送った。2人の背中を見送って青葉は改めて手を合わせる。

「鮭入りの味噌汁にステーキですか。今日のご飯は贅沢ですねぇ・・・冷めない内に頂いちゃいましょう」

さっそく青葉が箸に手をつけようとした時、勢い良く食堂の扉が開いて丸刈りの将校が姿を現した。

「青葉っ何をしている!出撃だ、栗崎大佐の指揮下に入れ!」

「えー、今日非番ですよ!?」

「襲撃を受けているのにのんびり飯を食う奴がいるかっ!急げ!」

三ツ屋は半ば強引に青葉を食堂から連れ出して行く。青葉は休日に別れを告げ、長机には3人分の食事が残された。

 

 

 金属同士がぶつかる音と共に操縦桿が嵌まり込む様に倒れた。零偵は時計回りにロールしながら右下方向に落ちて行く。機体の左脇を曳光弾が掠めて空気を切る音を立てた。動きの悪くなった機体と金沢の操縦では次の銃撃はかわせない事は明白だった。銃弾を追う様に棲艦機が間近を通過していく。そしてもう一機、その棲艦機を追う機体があった。見慣れた緑色の日の丸が塗られたプロペラ機が棲艦機を追って行くのが後部座席の北沢には見えた。

 

 

 艦娘達がそれぞれの指揮官の基で作戦の説明を受けている頃、一足早く説明を終えた北間に連絡が届いた。

「大佐、52号大隊より入電です。衣笠、吹雪、白雪以下3名が応援に向ったそうです」

「“元”うちの艦隊唯一の改二重巡が援軍か。有り難い話だ」

通信兵が伝えた連絡に北間は皮肉気味に応えた。

「52号の応援が第二艦隊に合流し次第、第三艦隊艦載機は全機発艦。南北から挟み撃って、一気にけりを付ける!第二艦隊はそれまで棲艦を食い止めよ」

北間は艦隊を鼓舞する。

 

 

 だいぶ高度を落としてやっと水平を取り戻した水偵の中で金沢は上空を見上げた。相変わらず割れた風防からは空気が入り込んでくるが速度は会話できる程度には落ちている。上空では緑色のプロペラ機が飛び回って居て、こちらを追って来ようとする棲艦機に容赦無い攻撃を浴びせている。

「・・・隊には烈風が配備されているんですか?」

「・・・よくさっきのロールに持ちこたえましたね。あれはたぶんお隣、54号航空隊の機体ですね、それより早く基地に降りて少尉の手当てをしなくては。ここも流れ弾が飛んでこないとも限りません」

金沢は座席の隙間から飛行士に最低限の応急処置を施して零偵を春島水上機基地へ向けた。弾痕の残る零偵は戦域を離脱して南に向う。

 

 

 「第二艦隊、会敵!戦闘に入ります」

「第三艦隊、彗星の発艦用意完了!」

金沢が基地に戻り指揮室に入るとすでに艦隊は出動していた。

「司令、お戻りでし・・・どうしたんですか!?その右肩は!」

指揮を執っていた北間が金沢に気付いて大声を出した。金沢は右肩の部分が破けて赤黒い染みの付いた軍服を羽織って居た。肩章は破れて無くなっている。軍服の下の三角巾で腕を吊っている様子が伺えた。

「落ち着いて下さい、応急処置は済みました。今は迎撃優先です」

いつも通りの口調で金沢は返す。北間は目を閉じて気持ちを落ち着かせてから報告する。

「・・・現在、本部の命により北東約11海里の地点に出没したヌ級エリート3隻、リ級1隻を基幹とした12隻の凄艦の駆除に当たっています。凄艦は南下中、現在は春島東部を航行しています。栗崎さんの第二艦隊が南方からT字有利で迎撃中。大端の第三艦隊は島を迂回し北方からの航空攻撃を。第一艦隊は私が半数の艦載機を南方からの航空支援に、残りは備えに港で待機させています。他に52号隊の応援が砲戦に参加予定、54号航空隊が支援準備中です」

「了解。では第一艦隊の采配は僕が執ります、大佐はそのまま作戦指揮を」

「はっ」

 

 

MAP_____________________________________

   ・

   ・       ○第三艦隊・・・・・〈・・・・・・・〈・・・・・・

   ・          __________                ・

   ・         /    /______            ^

   ∨         |□54号大隊第一飛行場/___________  ・

   ・         |          55号大隊基地□      \ ・

   ・         / □春島砲台   春島東港□_________/ ・

   ●深海棲艦    |   [春島]      /・○・・・・〉・・・・・・

   ×        |           / ・ 第一艦隊

    ○第二艦隊   |54号大隊 /  ・

      ・     |□第二飛行場  /  ∨

←地図外    ・    \    __/  ・

  52号隊   ^      \_/    ・

   航行中   ・・・〈・・・・・〈・・・

 

                       |__________|← 3kmぐらい?

________________________________________

※1.上が北

※2.春島から東南東約15kmに52号大隊基地

※3.春島から南約6kmに泊地本部のある夏島

 

55号大隊総指揮:北間

第一艦隊(指揮:金沢):(旗)加賀・赤城・菊月・長月

第二艦隊(指揮:栗崎):(旗)古鷹・加古・青葉・文月・三日月・望月

第三艦隊(指揮:大端):(旗)千歳(軽空)・千代田(軽空)・睦月・如月

 

 

 「戦力的には厳しいが資材の事を考えると赤城さん達の出撃は厳しいか・・・、陽動の可能性もあるし。それにしても領海内にまだこれだけの部隊が居たとは・・・」

雛壇の最上段、全体の指揮を執っている北間の隣で金沢が呟いた。

「海は広いですからねぇ。哨戒網を潜られたか、はたまた未確認の出現地点が発生したか・・・」

「後者でない事を願います」

 そこへ最前列で航空隊との交信を担当していた通信兵が伝令を受けて伝達に来た。

「54号基地より入電!敵機の迎撃に苦戦、雷撃隊、爆撃隊の離陸に支障、支援隊遅れの見込み、大!」

「ただが軽空母3隻にか?」

北間が訝しげに訊ねる。

「それが、哨戒機を奇襲した敵機の追撃に戦闘機を飛ばしていたので敵の爆撃を防ぎ切れなかったそうです」

「・・・少し不味いですな」

「味方の戦闘機が少なかったとはいえ敵機が母艦に対して多すぎます・・・近くに他の空母が来ているのかも知れません」

雛壇の上から2段目でそれぞれの艦隊の指揮を執っていた栗崎と大端が口を挟んだ。

「少し探ってみますか・・・第一艦隊、未確認空母の探索に艦載機を使います」

金沢はそう北間に伝えると受話器を取って待機中の第一艦隊に連絡を取った。

 

 

 小さめのプレハブ小屋に大きなひさしが付いた、砂浜に建っていれば海の家の様なこの建物は砂浜ではなくコンクリートで護岸された港の一角に建っていた。この小屋は提督が演習の視察する際や艦娘が演習中の小休止に使う建物で今は第一艦隊の面々が待機している。

 支援の艦載機を飛ばし終え何をする訳でもなく赤城達が本部からの指示を待っていると壁に掛けられた受話器の呼鈴が鳴った。ここの受話器は基地の指揮室と繋がっているだけなので受話器の向こうは必然的に軍の関係者になる。

「はい。第一艦隊、赤城です」

一番近くにいた赤城が受話器を取って応じる。

『至急、島の北西を中心に索敵を。深海棲艦の妨害が予想されます。待機中の艦載機の半数で偵察隊を編成出来ますか?』

「提督・・・?よかった・・・ご無事でしたか」

『赤城。作戦中です』

「はい・・・。天山と彩雲、護衛に紫電を飛ばします」

 連絡を終えて赤城はその内容を他の3人に伝える。

「じゃあ私達はまだ待機か」

長月がつまらなそうに言った。

「分かりました」

加賀が艦載機の格納筒を持って立ち上がった。赤城も同じく格納筒を背負って小屋を出る。

「赤城、私達は前線に居なくても良いのか?」

海上に出ようとした赤城を菊月が呼び止めた。

「今はいいみたい、でも命令が出た時はお願いね」

「・・・了解」

そして赤城と加賀は偵察隊を発艦させた。

 

 

 「ああー!もうっ・・・固いなぁ」

「加古さん、ちょっと前に出すぎです!」

砲撃の狙いを定めるうちに少しずつ前に突出していた加古の背中に三日月が声をかけた。

「うん、でももうちょっとで当たりそうなんだけどなー」

それでも加古は狙いを定める内に少しずつ深海凄艦に近づいて行く。

「ほらっ、三日月ちゃんを困らせないで下さい」

見かねた青葉が加古の襟首を掴んで引っ張り戻した。

 夏島にあるトラック泊地本部に向う深海凄艦の進攻を妨げ続けている栗崎大佐率いる第2艦隊はリ級とヌ級の連携の前に長期戦を余儀なくされていた。

 

 

 「あっ、本部から連絡!文月ちゃん、望月ちゃん」

古鷹が周りに居た2人に声を掛ける。

「はいよー」

「まかせて~」

駆逐艦の2人は名前を呼ばれただけで訓練通りに古鷹の両脇で対空機銃を構えてヌ級の艦載機を警戒し始めた。古鷹が電文を受信する間に出来る隙を最小限に止める。それを確認して古鷹は三式弾による砲撃を止めて耳に掛けた通信機に手を添えた。砲撃を続けながらではとても信号は聞き取れない。通信機から延びるコードは艤装に繋がっていて体に絡まらない、かつ動きを阻害しない微妙な長さに調節されていた。この無線通信機は艦隊と指令部を繋ぐ唯一の手段なので基本的に旗艦が持つ事になっている。波の音と戦闘音が響く中、古鷹は通信機から発せられる信号音を拾った。

 「・・・衣笠が応援に来るって」

信号音で送られた暗号を解読して古鷹は艦隊の艦娘達に伝えた。青葉の表情が明るくなる。残りの連絡を聞いて古鷹が指示を出す。

「衣笠が到着したら一気に決着を付けるからそれまで踏み留まって!」

海上に戦乙女達のかけ声が響いた。

 

 

 衣笠率いる増援部隊の到着を待つ中、金沢の席で電話機が鳴った。いくつか並んだ半透明のプレートのうち“港・待機所”と書かれたプレートが光る。金沢が受話器を耳に当てた。

「どうぞ」

『赤城です。未確認の棲艦艦隊を発見しました』

「規模は?」

『それが・・・駆逐艦2隻の艦隊が2隊、環礁の内壁に沿って並んでいました。』

「・・・駆逐艦4隻だけ、ですか?」

『はい、2隻の隊が2隊。計4隻だけです』

「念のため聞きますが近くに潜水艦は?」

『泊地内の浅瀬で潜水艦を見落とすなんて有り得ません』

「・・・了解。こちらの被害は?」

『3機が音信不通に』

「では偵察隊から数機を2隊の監視に。残りは引き続き未確認艦隊の索敵を続行せよ」

『了解。数機で2隊の監視を、残りで未確認艦隊の索敵を続けます』

赤城の復唱を聞いて金沢は通信を終えた。

 

 

 通信を終えた古鷹が再び迎撃に加わってて十数分後。

「あっ!衣笠が来ましたよ!」

青葉が遠くの海上に3人分の人影がを見つけた。それらはまだ表情も分からないがこちらに駆け寄ってきている事は何とか分かる距離だった。

「提督に報告する間の援護を・・・あれ?」

「古鷹さ~ん。どうしたの?」

古鷹が言い終わる前に隣に陣取って対空機銃を構えていた文月が訊ねた。

「ちょっと待って、衣笠から電文が・・・。っ・・・!!」

受信の途中で弾かれた様に古鷹が視線を上空に向けた。

「空襲、敵機直上!!」

 

 

 「・・・第二艦隊、奇襲を受けております!幸い衣笠隊とは合流出来た様ですが・・・古鷹の報告では新型機と思しき棲艦機多数との事!」

栗崎が指揮室の隅まで通る声で叫んだ。続いて衣笠が持つ通信機と周波数を合わせて待機していた通信兵が報告する。

「衣笠が発したと思われる伝聞を受信!“我、囮とならん 戦線建て直されたし”!」

「そうか・・・。」

北間が立ち上がって采配を執る。

「全艦載機発艦!第一艦隊偵察隊は至急第二艦隊の支援、残りは衣笠隊の援護へ。第三艦隊は作戦通り敵の背後を叩け!第二艦隊は輪形陣に変形、対空砲火に集中せよ!」

 

 

 「陽動では無かったみたいですね」

赤城に指令を出した後、金沢が席に着いた北間に話しかけた。

「深読みしすぎました。本部撃破が目的で棲艦が来るなら東からだと・・・まさかごり押しして来るとは・・・」

「今からでも本部に応援を要請しましょう」

金沢が提案した。

「いや、狭い海域にこれ以上戦力を投入しては乱戦になるだけです」

「・・・なるほど。では彼女達が欠ける事無く帰ってくるのを祈るぐらいしかできませんか」

 配下の艦娘達に指令を伝えた指揮官達はただ静かに報告を待つ。

 

 

 「ちょっとちょっと・・・いくらなんでもアレはヤバいって」

3人の向う先、遠くに立つ小さな水柱越しに対峙した集団に高高度から近づいてくる沢山の歩行物体があった。それらがやってきた方向は北。衣笠達から見て古鷹達の背景になっているのは泊地北端の基地がある春島で、島より北から来る飛行物体は外海方面からやって来た事になる。

「急いで合流しましょう!」

衣笠の言葉の意味を解して吹雪が言った。直ぐに白雪が声をあげる。

「それでは間に合いません!」

「・・・っ!」

 衣笠は背負った艤装に外付けされた通信機に手を伸ばして電文を送り始めた。手を休める事無く吹雪達に伝える。

「急ぎ55号艦隊の援護に向う!青葉達が体勢を立て直すまで敵艦隊及び艦載機を私達に引きつけて!」

打電し終えた衣笠は海面を蹴った。

「砲雷撃戦、開始よ!」

 

 

 『-・- --- -・-・・ ・・・・ ・-・・ ・・ -・-・-』

『・-・-- ・--・ -・-・・』

『・・-・ -- ・・・- --・-・ ・・ -- ・・-』

『-- -・-- ・-・-』

 

 

 ワレ キヌガサ テッキ チョクジョウ ヨケロ

 

 

>>>To be contemew【七話 泊地襲撃未遂事件“下”】

 




 前作をうpして3日が経った日、誰か読んでくれてるかな~と小説情報を見に行きました。おお!お気に入り3人も増えてる。どんな人だろ?→被お気に入り登録者を確認。なんという事でしょう・・・!自分のハンドルネームがあるではありませんか!なんだ俺だったのか~。そうだ俺だ。誰だよ~、俺のアカウント使って俺の作品お気に入り登録したの。俺だろ。そっか~。といった茶番を1人PCの前で繰り広げていました。

 こんにちは、こんばんは、おはようございます。おはようからおやすみまで、作者の胡金音です。前回の“アレ”とは地図の作成でした。ぶっちゃけ面倒でした。自業自得です。また作ります。

 いきなりですが本編の補足を少し。55号大隊の提督陣は年齢と階級が比例してないので纏めておこうかと・・・。
年齢:[ベテラン] 栗崎(52) 北間(45)  大端(35)  金沢(33) 三ツ屋(29) [若造]
階級:[偉い!] 金沢(少将) 北間(※大佐) 栗崎(※大佐) 大端(中佐) 三ツ屋(少佐) [下端]
   ※北間は士官教育を受けた大佐、栗崎は下士官から上り詰めた大佐。
って感じです。こうしてみると突っ込みどころと違和感満載ですね。一応こんなことになってる理由はあるので後々本編で触れていきます。以上補足でした。

 さて1話の後書きでお伝えした10話完結、についてですが・・・まったく収まりそうにありません。6話まで進みましたが実は話の半分も終っていないのです。このペースだと15話ぐらいには収まると思います。・・・って書いちゃえば20話以内に収まると思います。艦これのサービス中に完結しますように(祈)

 それと次回のサブタイトルの欄について少し。今回は悩まなくて良かったので楽でした。“前半”と来たら“後半”。“上”と来たら“下”です。強いて言うなら“前半戦”“後半戦”と“上”“下”で悩みましたがワールドカップも終ったので“上”“下”にしました。

 そして隔週更新に備えて書き進めていった結果・・・!一話辺りの文章量が少なくなりましたー。書き溜めってなんだったんだろう・・・。増える分の更新日は不定月13日です。更新日決めるに当たって“毎月○日”じゃなくて“毎月第○曜日”更新にしとけばよかったと思いました。毎月13日と29日じゃ隔週更新って言いませんね。なんて言うんですかね?ともかくこれからは書き溜めが有れば13日も更新していきたいと思います。その場合は29日の更新の後書きでお知らせします。

 と言う訳で次回の更新は13日になります13日の水曜日です。そして今回は大したもではありませんが特別巻末付録付き!大したものじゃないなら特別って付けるなよって話なんですけど、「へ~こういう設定なのね」みたいに思っていただけたら幸いです。
 それでは次回、泊地襲撃事件“下”でお会いしましょう!ノシ

【特別巻末付録】
~トラック諸島はるじまっぷ~(一部省略)

     __________
   /    /______
   |□54号大隊第一飛行場/___________
   |  □役場      55号大隊基地□     \
   /□春島民間港   春島東港□_________/
  |   [春島]      /
  |54号大隊     □/
  | 第二飛行場   /基地外の食堂
  |□       /
   \   □__/
    \_/水上機基地


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七話 泊地襲撃事件“下”

書いても出ねぇ。


 プロペラ機とは異なったエンジン音にまじった風切音が頭の上から迫ってくる。艦娘達は砲口を向けて近づいて来るリ級を警戒しながら上空の棲艦艦載機に機銃を連射した。やがて。

 棲艦機の爆撃によって水柱が立ち艦娘達の視界を遮った。

 

 

 「・・・了解」

奇襲の用意を済ませて待機していた千歳は、相手に聞こえる訳ではないがモールス信号に返事をした。電文を聞き終えて千歳は千代田を呼んだ。

「そろそろ発艦?」

「ええ、それも至急ですって。モールスが間違ってたぐらいだから何かよっぽどの事があったのかしら」

「古鷹さん達無事かなぁ・・・」

「この子達ならすぐに着くわ。早く送ってあげましょ」

2人が持つハンドルから伸びる糸はそれぞれの隣に浮かぶ木箱の中に消えている。千歳がハンドルを引くと箱から艦載爆撃機、彗星が転がり出てきた。千代田もそれに習う。

「さあ艦爆隊、出番よ!」

2人がハンドルを引くと彗星のプロペラは回り出した。今度は逆に大きく前に振る。彗星は角度を付けて勢い良く空に飛び上がった。

 

 

 「うゎ、マジで無いって!!」

「古鷹さん早く逃げましょう!!」

自分達に分があると見たのか、リ級と駆逐艦数隻が突撃を仕掛けるのが見えた。空からは艦爆、正面からは重巡とエリート軽空母。第2艦隊の統率が乱れ始める。

「みんなっ!増援も到着しました。まだ避けれるよっ、三ツ屋提督の訓練を思い出して!」

青葉の声で少し落ち着きを取り戻す。

「いい?横に広がって攻撃を分散させて、爆撃を耐えたらリ級に雷撃ね」

すばやく司令部の栗崎へ報告を打電した古鷹は落ち着いて指示を出す。

「駆逐艦の本領発揮だよ!」

駆逐艦の文月も加わって第2艦隊はなんとか落ち着きを取り戻した。

艦娘達が艦載機に向けて銃弾を撃ちながらお互いの間隔を空ける。爆弾が空気を切る音はどんどん大きくなり、やがて周囲で水柱が上がった。

 

 

 

 通常、艦娘や深海棲艦の艦載機は確実に攻撃を当てる為に空中で拡散して広範囲で爆発する親子爆弾など拡散系の爆弾を使用するが今回は対地爆弾だったのが幸いした。

 「よっしゃーっ!加古スペシャルを食らいやがれ!!」

全員が小破以下の被害で爆撃を乗り越えた後、かすり傷を作った加古は水柱が収まると同時に狙いを定めて魚雷を放った。同じく雷撃に参加する文月、三日月、望月、青葉は古鷹を軸に弧を描くような陣形に並んでいる。放たれた魚雷は放射状にリ級に収束して行った。

 

 

 「おおっ、やった?」

沖合いで戦闘の応援に急行していた衣笠は、先程の爆撃とは比べ物にならない轟音と水柱がリ級の居た場所で上がったのを見て歓声を上げる。安堵から自然と航行速度も緩んだ。

「油断大敵ですよ」

気を緩めること無く白雪が言う。

「ちょっと・・・あれ見て下さい」

吹雪に促されて衣笠が顔を向けた。

「えっ、なんで・・・?」

その先には水柱が収まって力無く蹲るリ級の横顔があった。まだ表情が分かる距離では無いがその目は・・・。

 

 

 水柱が収まり、虫の息になったリ級の姿が顕になった。素人目で見ても助かりそうにない重傷を負ってなお、砲身を杖に立ち上がろうとする姿を見て駆逐艦娘3人は立ち竦んでいた。

「・・・楽にしてあげよう」

淡々と言った古鷹はリ級に対する警戒を解いて一度砲口を下げる。彼女の艤装はさき程の爆撃で軽く窪んでいた。ケーブルも数本切れている。ダメージは小破と言ったところだろうか。

「青葉がやります。古鷹は本部に連絡を、きっと提督達が心配してます」

そう言って青葉はゆっくりとリ級に近づき始めた。

 

 

 他の深海凄艦達は何を思っているのか。遠巻きに見守るだけで攻撃を仕掛けてくる様子は無く、果敢に攻撃を仕掛けた戦友の末路に呆然としている様にも見える。青葉が近づいて来るのに気付き、リ級の周りに居た僚艦達は後衛のヌ級達の元に下がってしまった。

先程爆弾を降らせていた新型艦載機はいつの間にか姿を眩ませていて、残ったヌ級の艦載機と赤城、加賀が送った紫電の空戦の音が良く聞こえた。その向こうからは千歳と千代田が応援に送った彗星の近づいて来ている。

「勝負あり、だね。帰ったらいっぱい寝よ~っと」

「・・・・・・」

「古鷹、どうしたの?」

加古は青葉を見送ってから一言も話さない古鷹に声を掛けた。

「んー、無線の調子がね。さっきから雑音ばっかりで」

古鷹は耳の通信機に手を当てたまま答える。

「これ無線の配線じゃないの?」

加古が古鷹の艤装に途切れたケーブルを見つけて摘んで見せた。ケーブルは艤装の影で千切れていた。

「あー・・・ホントだ。どうしよう・・・備品、壊しちゃった」

「どんまい」

加古が古鷹の肩を軽く叩いた。

 

 

 リ級に近づいていく途中で青葉は自分に似た、しかし自分とは別の航行音に気付いて顔を向けた。

「衣笠!遅いよっ」

青葉の左手から衣笠が全力疾走で近づいていた。息も絶え絶えに衣笠は声を出すが海風の音に掻き消された。

「衣笠?どうし」

「・・・まだ、生きてるっ!」

「えっ?・・・でも、あの傷じゃもう・・・」

衣笠が青葉の前に立って押し止める。そのまま青葉にもたれて肩で息をする。

「さっき・・・リ級め・・・だい色に・・・早く・・・」

「・・・リ級?」

余程焦って来たのか、青葉は荒い呼吸の合間の単語を拾って衣笠の肩越しにリ級を見た。すると先程までぼろぼろだったリ級の傷は殆ど塞がっており、いつの間にか砲口は下を向いていても分かるほど強力な黄色い光を放っていた。

「フラグシップ・・・?」

リ級が屈んだまま顔を上げた。その瞳は文字通り橙に燃えている。青葉と目があってリ級は勢い良く上体を起こした。

 

 

 背後で水が跳ねる音がした。魚雷が着水する音だ。衣笠は青葉をリ級から突き離し、砲塔を構えて振り返った。まるでさっき打ち込まれた雷撃を跳ね返したかの様にリ級を中心に魚雷の軌跡が残っている。その内1本はもう彼女の足元まで伸びていた。

 

 

 青葉はたたらを踏んで持ち堪え、目前で高さ数メートルの水柱が上がるのをを見た。直後フラグシップと化したリ級が水柱の中程から現れて、至近距離でリ級が砲口を向けるのを見上げる。彼女の意識はそれを最後に途切れた。

 

 

 

 

 「第一艦隊赤城、帰還いたしま・・・」

報告の途中で赤城は動きを止めた。

「ああ、お疲れ様です」

金沢が席で出迎えて言った。

「・・・提督!!その怪我はどうされたんですか!?」

支援に送っていた艦載機を回収し、作戦終了の報を受け一足早く指揮室に報告に来て部屋の入り口で大声を出した。

「その反応、北間さんそっくりです」

赤城は雛壇状に設計された部屋の段を上って質問に答えない金沢の元に向かう。金沢は可笑しそうに口元を無事な左手で覆っていた。

「・・・笑い事じゃありません!これでも提督が何処かで戦闘に巻き込まれていないか心配してたのに、直通電話でもろくに話してくれないし!なんでそんな怪我してるんですかっ・・・・・・」

赤城は勢いのままに金沢に詰め寄った。

「あーあ。泣かした」

前列で話を聞いていた大端が振り返らずに呟いた。

「あー。いや・・・でも、あれは作戦の途中でしたし・・・」

うろたえる金沢に赤城が更に追い討ちを掛けようとした時、横で傍観に徹していた北間が割り込んで赤城に訊ねた。

「赤城、取り込み中すまんが古鷹達から何か聞いてないか?さっきから連絡が着かない。一応千歳達を向わせては居るのだが・・・」

「・・・いえ。聞いてないです」

赤城は短く答える。

「そうか・・・」

「・・・すみません。少し休ませて下さい」

「あ、ああ・・・」

北間の許可を取って赤城は疲れた様子で指揮室を後にした。

「少将、いくら艦娘との恋愛が禁止されているとはいえ少しぐらい赤城さんの気持ち考えたらどうですか?」

大端が振り返って金沢を嗜めた。

 

 

 「千歳から電文です!第二艦隊の奮戦により棲艦群の撃退を確認。第二艦隊は古鷹の無線が故障して通信が取れなかったようです」

数分後、千歳からの連絡が指揮室に届き、それを聞いた指揮官達から安堵や歓喜の声が上がる。

「やれやれ」

「一段落ですな」

大端はモールス信号を読み上げ続ける。

「被害は古鷹中破、加古小破、青葉中破、駆逐隊に被害は無し、衣笠・・・・・・」

 

 

 

 

 青葉が目を覚ますとそこは見覚えのあるドックの天井だった。隣で規則的に呼吸する音が聞こえるので目をやると皐月が寝息を発てていた。青葉が次に取る行動を決めかねていると皐月も目を覚ました。

「ふぁ・・・、あ?」

「おはようございます」

青葉は微笑んで彼女に声を掛けた。

「おはよ・・・あっ報告行かなきゃ!」

そう言って皐月は部屋を出ようとする。

「皐月ちゃん、待って下さい!衣笠は、衣笠はどうなったんですか?」

皐月は立ち止まって出口に向いたまま答えた。

「うん・・・司令官を呼んでくるね」

 

 

 戦闘から2日後、金沢は皐月の報告を受けドックに来ていた。彼女にはそのまま会議に遅れる旨を北間に連絡するように、と伝えている。肩の負傷は手当てを済ませて三角巾で吊った腕を制服の上着を羽織ることで隠していた。これはこれで目立つような気もするが。

「内灘(うちなだ)さん、お疲れ様です。青葉はどこの部屋を使っていますか?」

金沢は艤装の修理の指揮を執っている白衣の男に声を掛けた。帽子から覗く髪の毛は殆どが白くなっている。清潔そうな白衣の下には不釣合いな青色の作業服を着いた。

「ああ・・・彼女なら古鷹の隣のドックです。入渠ついでに古鷹、加古、青葉の消耗部品も交換しておきました」

「そうですか、ありがとうございます。・・・そういえば、ここで赤城と何かありましたか?」

「・・・いえ?」

「なら良いです。なんとなく赤城がドックを避けているようだったので・・・」

「はて?そうですか」

「いや、気にしないで下さい。あ、それと今月分の資材消費の明細、後で良いのでお願いします」

「分かりました。・・・部下に執務室まで持って行かせます」

 

 

 「青葉さん、具合はどうですか?」

「基地司令、あの後何があったんですか・・・?」

「順を追ってお話します」

 日は傾き始めたがまだまだ暑い時間帯、金沢はグラス2つに水を注いで片方を青葉に渡した。

「ありがとうございます・・・衣笠は無事、なんですか?」

青葉の表情には不安の色が伺える。

 「・・・報告によると、あの後第三艦隊と第一艦隊の応援が到着し深海棲艦の殲滅に成功しました。しかしフラグシップの出現により勢いを取り戻した敵艦隊の進攻は加速し青葉さんが被雷した地点から離れてしまいました。その後艦隊から脱落したあなた達の捜索が行われ脚部艤装が機能して浮いていたあなたは直ぐに発見出来ました。それから、夜を徹して衣笠さんの捜索は続けられましたが見つかったのは潰れた艤装と身体の一部のみ、昨日52号大隊の整備部が衣笠さんの物であると断定し捜索は打ち切られました」

「一部って・・・。まだ異動して日も浅いし見間違えただけじゃないんですか!?」

「衣笠さんの異動の時に艤装の設計図も一緒に52号に送っています。艤装で見間違うことは無いでしょう」

「だからって!潰れていたなら衣笠の艤装かどうかも・・・」

「青葉さん」

「まだ何処かで助けを待ってるかも・・・探さないと・・・」

そう言って青葉はベッドから降りて部屋から出て行こうとした。

「青葉!」

手首を金沢に掴まれて青葉の肩が小さく跳ねる。

 「魚雷をまともに食らった艦娘は多くの場合、遺体の回収もままならない事ぐらい知っていますね?今回は泊地内の戦闘で波の流れが少なかったから“足は”回収出来ましました。外洋だったら欠片も残らず・・・」

「やめてください!」

「・・・すみません。言い過ぎました」

青葉は俯いたまま唇を噛んで震えていた。

「こんな事を伝えてから言うのも何ですが・・・。あまり溜め込まない方がいいですよ」

金沢は軽く青葉の肩を叩いた。青葉の堪えた嗚咽がぽつりと部屋に零す。またぽつりと青葉が嗚咽を零して嗚咽はやがて子供のような泣き声に変わっていった。

 

 

 「衣笠とお揃いで買ったんです」

しばらく経って少し声を枯らした青葉が枕元に置かれていたお守りを手にとって言った。

「これ・・・全然効きませんでしたね」

青葉が頬に残った雫を拭いながら言った。

 

 

 

 

 青葉のドックを出た金沢は隣のドック室に向った。戸を叩きながら呼びかける。

「古鷹さん?金沢で・・・」

「わっ・・・ちょっと待って下さい!」

中で何やら物音がして古鷹の声が聞こえた。

「大丈夫ですか?」

はい、という返事から暫くたって金沢は入室を許された。

「お待たせしました・・・って、あれ?基地司令は会議に出なくて良いんですか?さっき栗崎提督が会議に行くって出て行きましたけど・・・」

「今回は艦載機の指揮を少し執っただけなのでとりあえずは大丈夫です」

「駄目ですよ。ちゃんと出ないと」

「分かってます。それより一つお知らせがあります」

「青葉が気付いたんですか?」

「聞こえてましたか」

「・・・はい」

「目覚めてくれたのは喜ばしい事ですが、青葉には良い知らせが出来なくて残念です」

「そうですね・・・」

 

 

 「ところで怪我の調子はどうですか?」

少し後に金沢が不意に沈黙を破った。

「こう見えて良好です。治療のついでに内部艤装のオイル交換と消耗部品の交換もして貰えました」

古鷹は先のリ級フラグシップとの戦闘でいつかのように加古を庇って中破している。古鷹の右腕には艤装を取り付けるための螺子や管が、換えたばかりの包帯越しに浮き出ていた。古鷹が病衣の袖を引っ張って包帯を隠しながら答えた。

「なら良かったです。早く良くなって下さい」

「提督こそ大丈夫ですか?」

「しばらくは三角巾生活になりそうですが、筆はなんとか持てそうなので大丈夫です」

「もう無茶はしないで下さいよ」

「気をつけます」

「それにしてもどこで水上機の飛ばし方なんて学ばれたんですか?」

衣笠の件はあったものの金沢が自ら零偵を操縦して帰還したという話はいつの間にか伝わっていたらしい。なおその時の飛行士は一命を取り留めて所属する大隊で療養している。

「学んだ、というほどではありませんが海大に入る前は航空隊の飛行士候補だったんです。本の読みすぎで視力が落ちて免職になりましたが」

「そうだったんですか」

「今こうやって指揮官をやっているのも免職になったお陰ですね」

「・・・あはは。そういえば、話は変わるんですけど艦娘艤装の消耗部品ってすごく高価だったんですね、それに艤装の燃料も。ちょっと驚きました」

古鷹は笑うところかどうか少し迷って、愛想程度に笑った。ついでに話題も変える。

「それだけ艦娘が期待されているという事ですよ。・・・ところでどこでそれを?」

無理のある振りにも関わらず金沢の食いつきは良かった。

「昨日怪我の手当てをしてもらっている間に新米の整備兵さんから聞きました」

「そうですか・・・。まあ、高価だからって変に気負う事はありませんよ」

「はい」

古鷹が頷いた。

「さて、古鷹の元気な顔も見れたので少しは出席してきますか。まったく反省会議に顔を出さないなんて基地司令の面目が丸潰れですし」

「会議、休むつもりだったんですか!?・・・でも、わざわざお見舞いに来て頂いてありがとう御座いました」

「いえ。それでは、お大事に」

 金沢は部屋を後にして廊下を会議室に向った。

「新米の整備兵というと北沢君ですかね・・・。ちゃんと彼にも伝えておかなければ・・・」

 

 

 「・・・・・・それらはすべて我々の隊で引き取らせて頂くと言っているだろう。異動手続きもすべて済ませているのだから・・・。おや、総大将が遅刻とはずいぶんなご挨拶だな」

会議室に入るなり金沢はガイゼル髭を生やした正装の将校に声を掛けられた。制服に付けられた勲章の数は55号大隊の指揮官の比ではなかった。

「これは52号基地司令、ようこそ55号基地へお越し下さいました。・・・申し訳ありません、なにぶんご来訪の連絡の一つも頂けなかったので。娘達の様子を見に行っていました」

「君は物事の優先順位を覚え間違えている様だな?先の戦闘での反省を・・・・・・」

 髭の将校が金沢を説教をし始めた。その間、会議室の席に着いた大端が小声で隣の栗崎に声を掛けていた。

「大佐、それであの方はどなたなんですか?」

「会議が終ってからと言ったでしょう」

「中佐、私語は慎んでください。・・・今の少将のお話を聞いていなかったのですか?」

三ツ屋が横目で大端を睨んで言った。

「だからなんであんなに仲が悪そうなのか聞いてるんじゃない」

「そんなこと後で良いですよね」

「もういいさ。・・・2人共知らなんだ様だしな。うちの大隊が本部の支援部隊から分離する時に、新設部隊にする以外にも52号大隊に組み入れる案もあったんだよ」

栗崎が説明を始めて大端は興味深そうに、三ツ屋は複雑そうに聞き始めた。

「今でこそ水雷戦隊は見直されているが、当時水雷屋は完全に飛行機に押されていてな。水雷戦隊が大半を占める52号大隊は成長が見込まれる航空戦力が欲しかったらしい」

「それで自分の基地に支援部隊の空母が欲しかった、と」

「そうだ。結果は新設案が採用された。・・・後にトラックに来る事になった赤城加賀の旧一航戦組みもうちに来る事になったしな。さらに金沢少将は舞鶴海大卒、あの基地司令は呉海大卒だ」

「ああ、あの仲が悪い海軍大学同士ですね」

「そうだ」

「そんなとこに衣ちゃんの事があったからますます険悪になっている、と」

「・・・衣ちゃんとは・・・衣笠の事か?」

 その時、扉が閉まる音がして3人が顔を向けると金沢が振り返った。話している間に52号大隊の基地司令は退室したらしい。

「やっと帰って頂けました」

金沢が待たせていた4人に報告した。

「やれやれ、いずれ会わなくてはいけない相手とは言え急に押しかけるのはやめて欲しいものです。それでどうしますか」

北間が席に着いた金沢に訊ねる。

「どうも何もこちらからは説得し続ける以外にないですよ」

「しかし困りましたな。青葉にはなんと言えば良いか・・・」

指揮官の面々は52号大隊指令の来訪によって反省会議どころでは無くなっていた

「さすがに遺品の引渡しを拒否されては士気に関わりますね・・・」

三ツ屋が腕を組んで不機嫌そうに言う。

 その日の会議は結論の出ないまま後日再開することになった。

 

 

 会議終了後、金沢は偶然廊下で会った赤城に呼び止めていた。

「えっと・・・なんでしょうか?」

金沢は一昨日、指揮室に報告に来て以来なんとなく態度が変わった秘書官に少し気まずそうに答えた。

「先日の戦闘で少し気になっている事があるのでご報告を・・・」

赤城はあくまで事務的に伝えた。

 

 

 日が沈み基地の建物の電灯が灯り始めていた。司令棟2階の基地司令室、金沢の執務室にも明かりは灯り室内には人影が見える。

「・・・たしかにおかしいですね」

金沢は執務机の椅子に座って呟いた。

「ですよね。索敵に出掛けて未帰還だった編隊が何も交信せずに3機纏めて未帰還だなんて」

赤城はソファーに座って言った。

 艦娘の艦載機は大量に発掘された前文明の電子回路を再現して作られた人工知能で飛行している。この人工知能は基本的に敵味方の区別、艦娘が発艦させた方向に居る敵への攻撃、空母艤装から発せられる微弱な電波を辿った帰還、以外にも墜落時もしくは見方機の墜落時には母艦の艦娘に信号を送ることが出来る。

 「墜落の信号は一度切り、味方機墜落の信号も受けていないのに3機喪失していた。つまり3機がまったく同時に落とされたんですね」

「はい。やはりあの駆逐艦以外にも深海棲艦が居たんでしょうか・・・」

 この時代の海対空攻撃は撃墜よりも攻撃に専念させない目的の方が大きく、海上地上からの攻撃で落とされる航空機はそう多くない。つまり敵空母が居て戦闘機による迎撃が行われでもしない限りまったく同時に3機の航空機が落とされるとは考えにくくなる。しかし大規模な索敵にも関わらず深海凄艦の空母は古鷹達と対峙したヌ級しか発見できなかった。

「そうですね・・・。分かりました、この話は本部に報告して調べてみましょう」

「お願いします。では私はこれで」

「・・・赤城さん、まだ何か怒ってます?」

「いえ、別に怒っていません。・・・失礼します」

妙に棘のある話し方でそう伝えると赤城は執務室を去って行った。

 

 

 

 

 高級感のある建物の廊下を2人の人間が歩いていた。淡灰色の壁や柱には単純だが重厚な装飾だけが施されており、娯楽目的ではなく権威を象徴する目的で建てられた建物である事を訪れる者に知らしめていた。大理石の床に軍靴が触れる度に気の引き締まる音が響く中、先立って歩く将校に従って斜め後ろを歩く秘書が抑揚の無い声で話す。

 「閣下、次は15:00から御前会議になります」

「宣戦布告後の初期対応について、だったな。・・・開戦なむなしか」

「はい」

「まったく・・・陸の連中もせめて艤装の更新が終るまで待ってくれれば良いものを」

「仰るとおりです。それと・・・いえ何でもありません」

「何だ?報告があるのならすべて話せ」

「はい・・・先程55号大隊から意見書が届きました。何でも大隊の指令がしつこく詰め寄って来て泊地本部で断れなかったとか・・・。私どもで処理しておく事も出来ますが如何いたしましょう?」

「55号と言うとトラックの支援艦隊か。・・・一応目を通して置く。移動の車に用意しておけ」

「承知いたしました」

 秘書は恭しく一礼すると将校と別れ廊下の角を曲がり早足で階段を上った。彼女は閣下と呼んだ将校の執務室に入ると机の上に置かれた封筒を手に取り中の書類を確認する。そこには“意見書”とそのままの題が付けられた書類が入っていた。秘書はその執筆者の氏名を見て一瞬動きを止めたが直ぐに書類を封筒に収めて利き腕とは逆の小脇に抱えた。執務室を後にして早足で将校の後を追う。

「金沢先輩か・・・海大以来だな」

自分にしか聞こえない声量で発せられた独り言は勿論誰にも聞かれる事はなかった。

 

 

>>>To be contemew【八話 波のまにまに】

 




 さて、作者は物語的に美味しい設定を思いついてから、それっぽい裏事情を付け足していくスタイルで作品を書いてます。そしたら艦娘の艤装は実物が造れるぐらいにめっちゃ高価という裏事情が出来上がりました。たぶん艦娘の艤装にはカリホルニウム252(めっちゃ高価な素材。・・・らしい)とか使ってるんだと思います。もはや原作無視の暴走設定。強いて言うなら解体の時に出る資材の他に“艤装の核”みたいなのがあって大本営に没収されてる。建造でその核を使って偽装を作る、改修は一回溶かして純度を高める・・・とかなら説明がつくでしょうか。まあ“その艦の艦娘はその娘しかいない(※)”設定な時点でドロップのダブりとかスルーしてますが。
(※)一般的な史実艦これの作品とかと同じ扱い。沈んだら同じ船名の艦娘は居ない系(但し赤城姉の天城と雲龍妹の天城は別)

 衣笠の台詞増やしたかったけどゲームの方で手に入れてない為にオリジナルがどんな娘か分からなくて出番が減った話。作者は衣笠が嫌いな訳ではありません。むしろ書いてて好きになったくらい(えっ扱い・・・)です。出来れば登場までにドロップして欲しかった・・・。実況動画とか漁ったら台詞ぐらい聞けるかも知れないけど始めて聞く台詞は自分の鎮守府で聞きたいじゃないですか!(結局ニ・コ動のボイス集で確認しました)結論。ドロップまだか。

 それと不老化処理について。不老機構の埋め込みとかのがかっこよかった気がする(厨二感)。不老化処理って口で言うと不毛化処理に聞こえなくないですか?不毛化処理・・・脱毛か!?無駄毛脱毛か!?
(治癒力上昇、筋肉密度上昇、不老化機構の処理を一回で纏めて行うのでそれらをひっくるめて不老化処理って事で。オリジナル設定について説明する誰得な設定書をそのうち書くかも。艦載機とかの設定もちゃんとしたいし・・・・。自分でもややこしくなってきたとか、先に書いた物に矛盾してないかビクビクしながら書いてるとかじゃないですよ?ホントに。ほ、ほら設定の整理ついでにですよ!うん)

 それと今回も本編の戦闘に関しての補足を少し。
・ヌ級の爆撃、雷撃を切り抜けてもリ級に狙い撃ち
・かといって予想外の抵抗の所為で3人でも同時に突撃出来るほどの隙は無い
・制空権を赤城、加賀の艦載機で取ってしまう予定だったのでちとちよの艦載機は殆どが艦爆。突撃してもボーキがマッハなので結局は練度が一回り高い衣笠待ち。
・赤城、加賀の支援があってなんとか進行を妨げている状況。
・長期戦になれば消耗の激しい戦い方をしている棲艦より艦娘側が有利だが進攻を完全に止められた訳ではないのであまり長期戦に持ち込んでも泊地本部と周辺の市街地が危険。
・・・という状況です。戦闘設定なんて作者の実力では本文中に織り込めんのだよ´・ω・`

 まあ、今作についてはこんなものですかね。さて、次回の更新は29日の予定です。が!皆さんご存知の通り本家艦これでは絶賛イベント中です。おまけに(他の作品書いてて)書き溜め(笑)も尽きてしまいましたのでどうなる事やら。とりあえず何かしら更新するのでそちらの方よろしく出来ると幸いです。では早速イベント攻略に行くとしますか。ノシ


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八話 波のまにまに

すみません。さっき日付が変わりましたoz
13日分の更新ですm--m



 ―国民の皆様方に至急お知らせしなければならない事がございます。昨夜未明、外務省は合衆国首脳部と交渉は決裂した、との旨を公表いたしました。速報、繰り返させていただきます。合衆国との交渉は決裂いたしました。これを受け内閣府は今後の対応を本日正午記者会見で公表するとの・・・・・・―

 

 

 ある日の朝、いつもの様に朝礼で講堂に集まっていた艦娘達は本土から流れる一般のラジオ放送を聞いていた。

「この通り、一般国民にも交渉の決裂が公表されました。宣戦布告の件は未だ公表されていませんが、我々は開戦に備えた用意をしなければなりません。知っての通り本日の午後、横須賀艦娘師団の精鋭が到着します」

正面に置かれた大型のラジオの横で金沢は言った。

「我々はベイリア領フェリピ群島の占拠を任務とする彼らの支援にあたります。この作戦は今後を左右する重要な作戦の為、連合艦隊が結成され大本営から指揮官が派遣されます。この基地は作戦司令部となるので失礼の無い様に」

それから朝礼は最低限の連絡を伝えて終了した。解散後金沢は北間に訊ねた。

「大佐、合衆国との戦争はどうなると思われますか?」

「我々はすべき事をなすだけです。・・・ところで基地司令は赤城との仲はどうなりました?」

金沢は苦笑いで答える。

「ご心配なく。もう1ヶ月も前の事です」

 

 

 深海棲艦の泊地襲撃からひと月が経った。その間、前々から芳しくなかった日ノ本国とベイリア合衆国の関係は徐々に悪化、日ノ本世論は開戦に傾いた。事態を重く見た両国は外相会談を開いていたが日ノ本交渉団は世論に圧され融和路線を進みかねる。ベイリア交渉団は譲歩する前提として強硬的な試案を提出。しかしどこからか漏洩した試案の内容が日ノ本で大々的に報道され世論の不満は爆発した。内閣は解散に追い込まれ、圧倒的多数で選定された次期首相は強硬主張で有名な人物で彼の選挙公約の筆頭は“対ベイリア戦争の勝利”であった。日ノ本交渉団は本国の指示により強硬姿勢に転じる。その結果、首相の目論見通り交渉は破談。日ノ本政府は宣戦布告の準備を着々と進めていた。

 なお、52号大隊に残された衣笠の遺品受け渡しの交渉は遅々とも進展していない。

 

 

 講堂を後にした睦月達は道すがら談笑しながら廊下を歩いていた。

「ねぇねぇ、基地司令が時々夏島に出かける用事って何だと思いますぅ?」

「それは基地司令が言ってる通り、会議や公用じゃないですか?」

睦月の顔には何か“面白い考え”を期待していますと顔に書いてあったが三日月は真面目に答えた。

「でもここ一ヶ月に固まってるのはおかしいかな」

「でしょ?でしょ?」

「何かやましい事でもあるんじゃないか?」

「・・・浮気してる旦那じゃあるまいし」

皐月や長月が話題について行くのを見て望月が呆れたように言った。

 

 「旦那って事は・・・。提督、私達って夫婦みたいに見えます?」

睦月達一行の後ろを歩く赤城は会話が耳に入り、少し赤くなって金沢に訊ねた。

「望月なりの冗談じゃないですか?」

金沢は特に興味が無さそうに答えた。

「・・・そうですね」

赤城は少し肩を落とす。

 

 「そうですねー、赤城さんも詳しくは知らないみたいだし。やましい理由が無いなら秘書艦にぐらい話してもいい筈ですし?」

「・・・夏島の繁華街には若い女性ばかりが接客する酒場があるらしい」

「なにそれー?」

菊月がボソリと言って文月が興味を持った。如月が直ぐに説明する。

「エスプレイじゃなぁい?エスプレイって言うのは・・・」

「こらっ如月姉さん!」

三日月が止めた。

 

 金沢が苦々しい表情になった。

「まったく。誰がそんな言葉、教えたんだか・・・また大端さんですかね?」

「・・・」

そんな金沢を赤城はジト目で見つめた。

「赤城さん?・・・あっ別にそういう所に行っている訳ではありませんよ!?」

 

 珍しく如月はあっさりと引き下がりにんまりとした笑みを浮かべる。

「それにしても赤城さんも苦労するわねぇ」

「基地司令も罪だね」

「そだねー」

「赤城さんと基地司令がどうしたのー?」

「おやおや?文月は知りませんでしたかー。実は・・・」

睦月が何やら文月に耳打ちする。

「三日月、今度は止めなくて良いのか?」

文月に入れ知恵をする睦月をみて長月が冗談っぽく訊ねた。

「まあ、睦月姉さんなら・・・」

「ちょっと、それどういう意味ぃ?」

如月が頬を膨らませて見せた。その後ろでは睦月の話を聞いた文月が目を丸くしている。

「ふぇ!?・・・じゃあ赤城さんは基地司令の事好きなのぉ!?」

「・・・!声が大きい!」

隣を歩いていた菊月が文月を嗜めた。

 

 「そうなんですか?」

数メートル後ろで金沢が確認を取った。本人に。

「!?そっ・・・そそそそそんな事ないに決まってるじゃないですかっ!!」

赤城の大声に睦月たちがハッとした表情で一斉に振り向いた。どうやら2人がいる事に気付いていなかったらしい。そのまま不味いといった表情で固まっていた。

「・・・済みません。冗談が過ぎました」

豆鉄砲でも喰らった鳩のような様子で金沢が赤城に謝った。

「いえ・・・こちらこそ急に大声を出してしまって、済みませんでした」

ようやく金沢は振り返ったまま固まっている睦月達に気付く。

「おしゃべりも良いですが訓練には遅れないように。そろそろ時間ですよ。」

何事も無かったかのように軽く手を叩きながら金沢は言った。

 

 

 太陽が南中を越えて少し経った頃。来訪者が基地の門を潜った。そのまま門番の詰所を通り過ぎて行く。

「っ!・・・待て待て、勝手に入るなっ」

足を机に載せて思い切りだらけていた番兵が慌てて来訪者を止めた。同時に肌蹴ていた制服のボタンも留める。

「今更身だしなみを整えても遅いんじゃない?」

軍の制服である半袖のYシャツとズボン姿の女性は振り返って言った。やたら大きな背嚢を振って軽々と背負っている姿を見て番兵は訊ねる。

「・・・艦娘か?」

「正解~。じゃあそういう事で」

「いや待てって」

「あ、そっか。許可証よね。ありますよっと・・・はい」

艦娘は背嚢をそっと置いて腰のポーチから葉書程の大きさの紙を取り出す。

「・・・大尉でしたか、失礼しました」

入場許可証に書かれた階級を見て番兵は敬礼した。

 「ところで先程の・・・」

「あー、職務態度の事なら黙っといてあげるわよ」

艦娘は多少面倒くさそうに答えた。

「ありがとうございます。では一応こちらに名前を頂けますか?」

「はいはい」

番兵が出した書類に艦娘は艦名を書き込む。

「伊勢型戦艦一番艦、伊勢・・・っと」

 

 

 海からの温い風が通る執務室に香ばしい湯気が昇っていた。風が吹いている間は心地よいが、風の無い時は日陰でも暑い。屋根や壁からの熱が伝わる南の角部屋なら尚更だった。

「提督は本当に熱いコーヒーがお好きですね。今日みたいな日ぐらい氷を入れては如何ですか?」

「コーヒーは熱いほうが美味しいですよ」

赤城は断ってから執務机の端で金沢のカップに淹れたてのコーヒーを注ぎ、自らのカップにも注いで幾つか氷を入れた。

「グラスもありますよ?」

カップでアイスコーヒーを作った赤城を見て金沢が声をかける。

「いえ、こっちが良いんです」

「そうですか」

金沢は赤城にコーヒーの礼を言った後、万年筆を置いてカップに口を付けた。

「・・・こうしていると、いつ開戦してもおかしく無い事なんて忘れてしまいそうですね」

そして金沢は一服する。赤城は執務机の斜め前にあるソファーに座った。

「そうですね。・・・いっそ宣戦なんてなければ良いのに」

指揮官は秘書の弱気ともとれる言葉を咎めはしなかった。

 「失礼しますっ!!戦艦伊勢、参上しましたっ」

ノックはあったが返事の前の入室だった。金沢と赤城は同時に部屋の入り口に目を向ける。

「伊勢ですか。久し振りですね」

「あれっ?金沢さんじゃない!」

伊勢が金沢の姿を見て驚きの声を上げた。

「お知り合いですか?」

「海大実習の時の秘書艦です」

金沢は赤城の質問に答えると2人を紹介した。伊勢と赤城は簡単に挨拶を交わす。赤城がコーヒーを勧めて伊勢は冷たいものを頼んだ。

 「あの、海大実習って何ですか?」

赤城がコーヒーをグラスに注ぎながら訊ねる。氷が涼しげな音を立てた。赤城の隣に座った伊勢が礼を言ってそれを受け取る。

「卒業前に実際に艦娘を運用して適正を見極める実習です。これと学科の結果が出世に響きます」

「金沢さんは見事これに大成功して将補生に選ばれたのよねー」

「自慢する様な事では無いのだから止めて下さいよ。それに僕以外にも1人選出されています」

「今の私の提督ね。でもそれにしたって簡単に選ばれるものじゃないじゃない」

伊勢が金沢を肘で小突いて冷やかした。

 「そういえばそうでしたね。三崎(みざき)は元気にしてますか?」

「そりゃもう元気よ。この間も他所の提督を病院送りにして」

「あの・・・将補生っていうのは?」

話に置いてけぼりにされた赤城は少し遠慮がちに尋ねる。

「え、知らないの?」

「赤城さんは空母不足でずっと前線に居たから知らないのでは?」

赤城はこくこくと頷いた。なるほど、と前置きして伊勢は説明を始める。

「将官候補生って言うのはー・・・。えーと・・・キャリア中のキャリアって事よ」

「それじゃ分かりませんよ。艦娘の指揮官になるには、最低限佐官になっている事が必要なのは知っていますね?」

「はい。それで提督方は皆さん海大出身なのですよね」

「海大を出て尉官から昇格するか、兵から叩き上げで昇格するかは自由だけどね」

伊勢が補足した。

 「そして海大の成績上位者は佐官候補生と言って卒業後直ぐに少佐になる特殊教育を受けられる制度があります」

「さらに人員不足だけど適当な人材が居ない時なんかは即戦力としてエリート揃いの佐補生の中でも優秀な人を将補生として育てるのよ」

「じゃあその将補生は卒業すると少将に?」

「惜しいっ!20代の若造准将が誕生するって訳」

元若造准将は苦笑いでその説明を聞いていた。

「へぇ。提督がその将官候補生に選ばれたんですか」

「意外でしたか?」

「意外でした」

赤城の即答を聞いて伊勢が爆笑した。

 

 

 「それで他に横須賀からは誰が来ているんですか?」

伊勢が落ち着いたのを見計らって金沢は声をかけた。

「51号大隊基地で長門、陸奥が待機しています」

「ドックの規模的には妥当ですね。長官は?」

「明日、航空機で来られます」

「了解しました」

「それと提督。これは後で長官からもお話があると思うんですけど、今回の作戦に参加する予定だった翔鶴が艤装の不調で出撃出来ませんでした」

「代員の空母をこちらで用意しろという事ですね」

話の意図を察して金沢から言った。

「そうなると思います」

「分かりました。念頭に置いておきましょう」

金沢と伊勢が作戦の打ち合わせをしている間、赤城は大人しくコーヒーを飲んで控えていた。

 それから3人は少しの間雑談に興じた。しばらくして金沢が時計を見て言う。

「長くなってしまいましたね。赤城さん、伊勢を寮の客間に連れて行くついでに基地を簡単に案内して貰えますか?」

「承知致しました」

「それと、伊勢」

金沢は伊勢に向き直る。

「遅くなりましたが・・・ようこそトラック泊地へ。しばらくの間、またよろしく」

 

 

 「だぁーっ!やってられっかぁ!」

赤城が伊勢を連れて基地を案内している頃、大端は自身の執務椅子で大声を上げた。

「あんのぉ~ヒゲ親父め!」

「ヒゲ親父って・・・52号大隊の岩瀬(いわせ)中将の事ですか?」

訓練中に大端に呼び出せれて彼女の執務室に居来た千歳が、水出しの麦茶を3つ用意しながら聞いた。隣では千代田がそれを手伝って居る。

「そうよ!今朝もわざわざ朝から向こうの基地まで出向いてやったって言うのに会いもしないってどういう事よ!」

「提督、疲れてるね」

千代田が湯飲みを渡しながら大端を労った。大端は麦茶を一気に飲み干すと叫んだ。

「ちとちゃん、お酒!お酒、頂戴っ!」

「駄目です」

「ケチ!」

 千歳が断るのを聞くや否や大端は壁際のサイドボードに取り付いて、中の日本酒のビンを取り出そうとする。

「あっ、勤務中は飲ませない!千代田!」

「了解!」

千歳に名前を呼ばれた千代田は直ぐに反応した。背後から大端を羽交い絞めにする。千歳も両手に湯飲みを持った湯飲みを置いて、千代田と協力して大端を椅子に座らせた。

「お酒は夜まで我慢なさい!」

「だってぇ・・・」

千歳と千代田はそれぞれ執務椅子の左右を塞ぐ形で大端の退路を文字通り塞ぐ。大端は机に突っ伏した。

 「そもそも提督はなにしにその中将さんのところに出掛けてるの?」

「・・・色仕掛け」

「違うでしょ」

誤魔化そうとする大端を千歳は問い詰めようとする。

「って、色仕掛けに行って面会も出来ませんでしたって・・・私馬鹿みたいじゃない!」

「ご自分で言っておいて何言ってるんですか!」

 やがて大端は少しずつ千代田に話した。

「・・・・・・そりゃ規則では艦娘が残した遺留品とかの処分はその艦娘が所属する基地に一任されてるわよ。でもずっと近くに居た姉妹にだって受け取る権利はあるはずよ」

「衣笠さんの事?じゃあ青葉さんの為に提督は52号の指令に交渉しに行ってたの?」

「基地司令の指示でね。ここ1ヶ月、私だけじゃなくてここの指揮官が交代で行ってるわ」

大端は気だるげに答える。

 戸がノックされた。

「誰ー?」

「三ツ屋です」

「帰れ」

「失礼します」

三ツ屋少佐は執務室の主の断りも無しに戸を開けた。手には書類の入った封筒を持っている。

「帰れって言ったでしょ」

「理由も無しに追い返されるような事をした覚えはありません」

しれっと言い返して机越しに大端に向いに立った。

「基地司令からこれを・・・その様子だとまた追い返されたようですね」

「理由もなくね」

 「・・・もう止めましょう。規則に添って言えば無理を言っているのは我々です」

三ツ屋はあっさりと言い放った。

「基地司令の指示よ」

「私が言うのも何ですが・・・基地司令はお若い。対して岩瀬中将は海軍でも有数の古参です。さらに戦力における艦娘の割合が増えるに連れて厳格な古参の士官よりも紳士的な若い士官の方が出世しやすい傾向にあります。体面的にも岩瀬少将が指令の説得に折れる事はまず無いでしょう」

「何が言いたいの?」

「私からも進言します。中佐からも指令の説得を」

「あんたねぇ・・・そりゃ他人の管轄に口を出してるのは私達の方よ、でも基本的に艦娘の遺留品はその姉妹に譲渡されてきたじゃない! 」

「規律を前面に持ち出している人間にそんな不文律は通用しませんよ」

「青葉ちゃんの直属の上司であるあんたが最後まで粘らなくてどうするのよ!」

大端は今にも掴み掛からんばかりに怒鳴った。

「・・・中佐は少し頭を冷やして下さい」

そういうと三ツ屋は脇に居た千歳に封筒を押し付けた。

「基地司令から、フェリピ占拠作戦の資料です。中佐が落ち着いたら渡してください」

そう言って三ツ屋は部屋を出た。

「提督、これ以上説得を続けるのはさすがに無理があるんじゃないかな・・・?」

「じゃあ千代田は千歳が異動先で沈んで何も残らなくて言い訳?」

「それは・・・」

大端は額を押さえて指示を出した。

「休憩でも取ってきなさい。書類は置いて行って」

千歳、千代田は上官にかける言葉を見出せなかった。

 

 

 三ツ屋は大端の執務室を出て自らの執務室に向った。執務室は階級順に並んでいて彼の部屋は大端の一つ隣になる。

「三ツ屋少佐」

彼の名前を呼んだのは栗崎。大佐である彼の執務室は大端の部屋を挟んで三ツ屋の2つ隣になる。

「ずいぶん騒がしかったようだが何かあったかね?」

「岩瀬中将との交渉について話し合っていました」

「・・・君はこの交渉に反対かね?」

「開戦前に内輪揉めをしている場合ではないかと存じます。大佐はまだ交渉を続けるおつもりのようで」

「そうだ」

栗崎は短く肯定した。

「水兵からの叩き上げで大佐まで上り詰めた様な方の考えとは思えませんね」

「古鷹や加古、もしくは私に何かあった時の為に恩を売っておきたいだけだ」

「大佐がどうされようと構いませんが基地総出で連合艦隊の足を引っ張る様な真似は」

三ツ屋がここまで話した時、大端の執務室から千歳と千代田が出て来て話を止めた。

「えっと・・・」

「少佐、君の言いたい事は分かった。引き止めて悪かったな。2人もそんなところで立ってないで行きなさい」

状況を呑めていない千歳達を見て栗崎は話を終らせた。

 

 

 大端の執務室の前で栗崎と三ツ屋の会話を小耳に挟んだ千歳と千代田はついさっき沸いて出た休息時間を使って、女子寮のある部屋にやって来ていた。

「鳳翔さーん。居ますかー?」

千代田が戸を叩いた。直ぐに返事が聞こえて鳳翔が顔を出した。

「あら2人とも。こんな時間にどうしたの?」

千歳が真昼間から休憩時間ができた経緯を説明する。

「そう・・・。よかったらお茶にしていかない?」

鳳翔は2人を部屋に招き入れた。

 「散らかっていてごめんなさいね」

鳳翔は座卓と畳の上に広げていた大量の紙束や封筒を手早く片付けて3人が座れる空間を作った。

「これ何の資料ですか?」

「いろいろ、ですよ。提督から資料整理をお願いされていたものだから」

「私で良かったら手伝わせて下さい」

「いいんですよ。これは私の仕事だから。・・・じゃあ棚のお茶菓子を出してくれる?」

千歳が小皿を用意し、千代田があられを盛り付ける間に鳳翔は慣れた手付きで煎茶を注いだ。

「さあ、どうぞ」

「いただきます」

「ありがとうございます」

 3人は湯飲みに口を付けて一息つく。最初に口を開いたのは千代田だった。

 「鳳翔さんはもう弓をとらないんですか?」

「そうねぇ・・・今の私の任務はあくまで貴方達の育成と秘書の子の補助ですから」

「そうですか・・・」

「今朝の事とさっきの事、不安かしら?」

鳳翔は優しく微笑んで千代田を見つめた。

「別にそんな事は・・・無い、です」

千代田は言いよどみながら答えた。

 「鳳翔さんは今までに“深海棲艦以外”と戦った事はありますか?」

そう訊ねたのは千歳。ちなみに艦娘は日ノ本国以外にも居る。鳳翔は表情を硬くした。

「ええ。私が前線に居た頃、巨大な軍艦は海上を駆け回る艦娘達に為す術も無く沈められていったわ。敵も見方も。彼の地の鎮守府に奇襲をしかけた事もあります。でもその頃はまだ艦娘の絶対数が少なかったこともあって艦娘同士の戦闘は無かったわね」

「では今度、戦争が始まったら・・・」

「大丈夫。ここの任務は支援だから誰も欠けたりしないわ」

「そう・・・そうですよね!」

「そうですよ。それにここの指揮官は優秀な人達ばかりだから指揮に私情を挟んだりしないわ。はい、これでこの話はおしまい。・・・このお茶菓子、美味しいですよ」

鳳翔はあられを一粒摘んで見せて2人に勧めた。

「では改めて頂きます」

「・・・あっ!お姉、これ美味しい!」

 

 

 「提督、大本営より小包が届いていましたよ」

夕方、その日の演習を終えた赤城は報告のついでに事務課で預かった金沢宛の郵送物を持ってきた。小包は確認で一度開けられており、保護の包装は中身の手のひらサイズの木箱の下に敷かれていた。

「いつもすみませんね」

「いいえ。これも仕事です」

赤城は金沢の執務机の端に置いた。

「なんですか?これ・・・あっ!もしかして婚約指輪?」

「新型の艤装です」

「なんだ。見ても良いですか?」

「すみません。検められては居ますが一応極秘扱いなので駄目です」

金沢はきっぱりと言い切る。

「むぅ。提督は何も教えてくれませんよね。これでも秘書なのに・・・。しょっちゅう夏島に出かける理由も、提督が隠してる封筒の事も。知っているんですよ?提督が私に隠して何か書いていたの」

「ひと月以上の前の事じゃないですか。それに軍の極秘事項を僕の一存で話す訳にはいきません」

「それはそうですけど・・・」

赤城は頬を膨らませた。

「拗ねないで下さい」

「拗ねてません」

「・・・」

「・・・」

金沢が溜息を吐いて言う。

「・・・分かりましたよ、僕の負けです。でもすべては話しませんよ」

 赤城はソファーに座って話を聞く体勢を整えた。

「加古さんが演習で実弾を撃って問題になった日の朝。赤城さんが持って来てくれた封書の事を憶えてますか?」

「はい。たしか泊地長の富山中将からのものですよね」

「そうです。あの中身は大本営から来た要請書、まあ実質命令ですね。それの写しでしたが肝心の内容は今後の艦娘の扱いに大きく影響が出るようなものでした。僕が書いていたのはそれを撤回して貰う為の資料、本部に何度も顔を出していたのはその説得の為です」

「・・・大本営はその要請を撤回したのですか?」

金沢は横に首を振って言った。

「それが以外と上手く話が進んだようでして・・・こんな事を言っては不謹慎ですが戦争になりそうなお陰です。陣頭指揮のついでにこちらを視察した上で判断する、との返事を頂きました」

「では司令部に選ばれたのは・・・」

「あくまで視察は“ついで”です。この基地が攻略戦の司令部に選ばれたのは設備がそろっていたからでしょう」

「提督。大本営からの要請ってなんだったのですか?」

「そういう訳でこの案件は派遣される指揮官の一存で決まると言っても過言でない以上、今回の作戦は失敗許されません」

「提督・・・」

金沢は答えなかったが赤城はそのまま無言で返事を待った。

「・・・資料で見たんですが赤城さんは初陣の時に睦月型艦娘を僚艦に連れていましたね」

「え?えっと・・・はい。あの子達は憶えていない様でしたが」

「彼女達がヒントです。そろそろ夕食の時間ですよ。行きましょうか」

金沢はそう言って話を切り上げた。

 

 

 機体が旋回して左に傾く。日が高くなり、窓からはトラック諸島の島々が照らされて鳥瞰図と同じように広がっていた。窓の向こう、直ぐ後ろでは発動機が羽を回していて振動が伝わってくる。

「閣下。間も無く到着いたします」

「そうか。到着したら一度春島の作戦司令部を確認する。この作戦、陛下に特別の御期待を賜っているのだ。なんとしても完遂せねばならん」

「畏まりました。移動手段を用意しておきます」

閣下と呼ばれた男は鷹揚に頷くと後ろの座席を振り返った。

「柳参謀も来たまえ」

「はっ・・・ご一緒させていただきます」

その席に座っている将校は軽く頭を下げて答えた。

 

 

>>>To be contemew【九話 三ツ巴】

 




 なんとなーく、話がドロドロしてきましたと思います。こんばんわ。寝不足で眠いです。本編書いてる最中は後書きで書くネタ決めてたのに忘れました。ちくしょう。作者の胡金音でした。
2014/9/14 0:10                        胡金音


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九話 三つ巴

※オリジナル艦娘・・・どころか史実に計画すらない艦娘が名前だけですがちらっと出てきます。え、やだ。って方はご注意を。

※また、作中に出てくるどこかで聞いたことあるような地名は、似たような名前の国があるような位置関係の架空の地名、国名です。この作品に登場する国家、団体、人物は実在のそれらに何の関係もありません。・・・位置関係以外は。



 「鳳翔さん、間宮さんから私信を預かってきましたよ」

番兵に場所を尋ね、特製の背嚢に入れた艤装を整備部に預けた伊勢は鳳翔を訪ねて寮に来た。

「あら、伊勢さん。こちらにいらっしゃる艦娘とは伊勢さんだったのね」

「お久し振りです」

「どうぞ、何も無いけどゆっくりして行って」

「ありがとうございます。でも、ここの司令さんにまだ挨拶していないから・・・」

そう言って伊勢は部屋を出た。鳳翔は伊勢に渡された封筒を開く。中には厚い和紙に書かれた古くからの友人に近況を尋ねる文章が綺麗に整った文字で綴られていた。鳳翔はその文章をじっくりと2度読んで立ち上がった。

「さて、少し勿体無いけれど・・・」

 鳳翔は机の引き出しから小刀を取り出し、部屋に鍵を掛けると和紙の端に切り込みを入れて2枚に剥いでいく。厚い和紙は2枚の和紙になった。鳳翔は一旦その和紙を置いて部屋の隅にある洗面台に薄く水を張った。そして軽くかき混ぜながらインクを垂らして洗面台の栓が見えなくなる直前で準備を終えた。文が書かれていない方の和紙をそれに浸すと、片面に多少読みづらい濃さではあるものの文字が浮かび上がった。

 

 

 妖艶な色の灯りが座敷を薄暗く照らし、畳の上に並べられた膳台と将校を取り巻く和服姿の女性達の影を浮かばせている。

「将校さん。お替りは如何ですか?」

酒瓶を両手で持った女性が先ほどから上機嫌で酒を飲んでいた中年将校に声をかけた。

「おぅ、気が利くじゃねえか!」

将校は意味も無く大声で答えると徳利を突き出した。女性はそれに清酒を注いでいく。

「ん? 」

酒を注ぐ女性の胸元に目をやった将校が何かに気付き不意に声をかけた。

「あんた、たしか昨日もここで・・・」

「まあ!覚えていてくださったんですか!?嬉しい!」

女性は徳利の八分目まで注ぐと酒瓶を起こして大仰に喜んで見せた。

「おめぇも一緒に飲め、ほら」

将校は女性の肩を抱いて強引に隣に座らせ、杯を握らせた。

「まだ若くてこんな別嬪さんなのに酒保で働いてるなんてえれぇじゃねぇか。今晩どうだ?出世できるように掛け合ってやる」

「嫌ですわ、私なんて将校さんには吊り合いませんよ」

明け透けな将校の誘いを女性はやんわりと断る。

「そんな事ねぇ、こんなに綺麗な女はそういねぇさ。飲め飲め」

「では一杯だけ頂きます」

そう言って女性は杯に口を付けた。

 「さて、返事を聞かせてくれるかな?」

女性が杯の半分ほどまで酒を飲み終え、将校は女性を口説き始めた。

「よして下さいな」

「いいじゃねぇか」

将校の手が徐々に女性の肩から下に降りて腰まで来たところで女性はやんわりと手を添えて焦らすように止めた。

「もっと将校さんの事、教えて下さいな。お話しているうちに気が変わるかもしれません」

女性は満面の営業スマイルで言った。

 「へぇ、将校さんは艦娘さんの提督さんなんですか」

「おうよ。艦娘ってぇのは水上を駆け回って何百メートルもある軍艦だって沈めてしまう訳だ。俺はその指揮を毎日執ってるのさ」

「すごいですねぇ。きっと艦娘さんの装備もお高いんでしょうねぇ」

「そりゃぁそうよ、一式揃えると豪邸が建つ。寿命もみじけぇしなぁ」

「えっ!?じゃぁ寿命が来てしまったらどうするんです?」

「今の艦娘は年をとらねぇから寿命はねぇよ」

「じゃあ昔はどうしてたんですか?」

「おっと、それは言えねぇなぁ。なんせ機密扱いの内容だ」

「誰にも話しませんから、ね?教えて下さいな」

女性はあぐらをかく将校の膝に手を乗せ、前かがみになって将校を見上げた。

「そこまで言うなら今夜は来てくれるんだな?」

「その秘密、教えてくださるなら・・・」

そう言って女性は髪をかき上げて耳を将校に向けた。薄暗い中でも分かる白さのうなじが顕になった。

「しょうがねぇなぁ」

将校は後頭部を掻き毟って女性の耳に顔を近づけて話す。

「昔、つっても年をとる艦娘は数年前まで造られててな。古くなった艦娘から順に沈めちまうんだ。最近、外交の雲行きも怪しいってんで新型艤装の研究やらで解体にかける時間も金も無いんでな。機密が漏れちゃあ困るから娘達にはわりぃが犠牲になってもらってる。・・・この事は他言無用だぜ」

 そこまで話すと将校は女性の耳に息を吹きかけた。

「ひゃっ・・・!何するんですかぁ、もうっ!ほらもうお仕舞いですか?夜までにもう一杯如何です?」

「おう!いくらでも来い」

女性が将校の持つ杯に酒を注ぎ終えた時、和服の袖が膳台に引っかかった。膳台の上に置いてあった女性の杯が落ちて彼女の和服を濡らす。

「きゃっ。ごめんなさい、軍服に掛かりませんでした?」

「おお、大丈夫だ」

「ちょっと着替えて来ますね」

「そうか。どれ手伝ってやろう」

「後でゆっくり見せて差し上げますからここで待っていて下さいな」

女性は立ち上がろうとした将校の肩を押さえて座らせると座敷を後にした。

 女性が座敷を出て襖から漏れた笑い声が響いている廊下をしばらく行くと割烹着姿の女性を見つけた。

「間宮さん」

先ほどまで将校の相手をしていた女性が呼びかける。

「お疲れ様~。首尾はどう?」

「余裕ですよ。やっぱり間宮さんの仰った通りだったみたいですね。証言が取れました」

「そう。ありがとうね~、また早めに詳しく聞かせてね」

「それといつもの事なんですけど・・・」

「ん~?」

間宮はわざとらしく首を傾げて見せる。

「今晩あの将校と寝る事になったので助けて下さい」

「はいはい。また廊下で偶然会った振りをして引きとめてあげる~」

大真面目な顔で頼まれて間宮は飲み物でも頼まれたかの様に引き受けた。

「お願いしまーす」

廊下を小走りで駆けて行く女性に手をひらひらと振って応える。女性は今度こそ着替えに廊下を曲がって行った。

「さて、どうやって鳳翔に伝えようかしらね・・・」

間宮は建物の出口に向いながら呟いた。

 

 

 鳳翔は寮の自室で一つ溜息を吐いた。傍の座卓には経った今読み終えた間宮からの報告と、当たり障りの無い内容の手紙が置かれていた。

「さて、こういう物は早めにいらない書類と一緒に処分しないと。ついでに基地司令に頼まれていた書類整理も済ませてしまおうかしら」

鳳翔は早速行動に移し、棚に積んでいたいらない書類に報告が書かれた和紙を紛れ込ませた。

 

 

 伊勢が到着した日の翌日、55号大隊基地の食堂の朝はいつもに増して賑やかだった。食堂の壁には臨時の掃除当番表が貼られている。朝礼で連絡された午前訓練を中止して建物の清掃をする旨は午後の司令長官着任に備えてに他ならない。また、長官着任の際は正装に身を包み出迎えなければならない等の暗黙の了解も手伝って、朝礼直後の食堂は込み合っていた。

 そんな中、訓練が無くなり北間大佐の秘書任務があるという事で掃除も免除された加賀は比較的時間に余裕を持って朝食を取っていた。慌しく食事を終えなければならない艦娘や職員の邪魔にならないようにと一番奥の席に座った彼女の向かいには、同じく秘書任務で掃除を免除された赤城が、隣と斜向かいには空いているテーブルを求めて来ていた金沢と北間が箸をとっていた。加賀はいつものように赤城の話しに耳を傾けながら、相槌を打ったり、時折自分の意見を伝える。

 「やっぱり子供は元気が一番よね。あ。話は変わるけど、私達まだここで正装を支給してもらって無いわね」

加賀との会話の話題が一区切りついたところで赤城は言った。艦娘の正装は所属する基地で発注される事になっており、異動があればその先の基地で改めて用意する事になっている。軍の上層部が少しでも本部の経済的負担を減らそうとした結果の取り決めだった。

「そうね。提督・・・私達の正装はいつになったらいただけるのかしら?」

加賀は赤城の話に同意して北間に視線を投げた。

「加賀。当日朝まで確認しに来なかったのにそういう言い方はどうかと思うぞ?」

北間は渋い顔になって言った。

「まあまあ。加賀さんも悪気があってそう言った訳では無いでしょうし、上官に催促もしにくいでしょう。今日まで正装が必要になる出来事が無かったから渡していませんでしたがちゃんと用意してます。後で主計科に行って受け取って下さい。赤城さんも」

「分かりました・・・」

「むっ!むむむひあひ・・・げほっ」

急に名前を呼ばれて赤城は慌てて応えようとしてむせた。

「ふっ・・・無理しなくていいですよ。では僕はこれで。ゆっくり食べて構わないので9時までに執務室に来てください」

「・・・はい」

金沢は食後の挨拶をすると空の食器が載った長角盆を持って立ち去った。

「加賀も9時頃には来てくれ」

「はい」

「じゃ、ごゆっくり」

続いて北間が。2人だけになって赤城が口を開く。

「提督にあんなところ見られた・・・」

「・・・笑われてたわね」

両手で顔を覆う赤城に加賀が追い討ちをかけた。

 

 

 提督2人が一足先に食事を終えて席をたった後。艦娘2人は列が短くなった配膳口にご飯のお代わりを貰いに来ていた。その後ろを空になった食器を返却して睦月達が駆けて行く。

 「こら、食堂で走るな!」

「ごめんなさーい」

彼女達の上官が注意した。一緒に居た士官が何か思い出したように口を開く。

「あ、そうだ。昼の集合はちゃんと正装で来てよー」

「分かってるよ!」

「昨日の夜、赤城さん達も一緒にクローゼットにあるのを確認したから大丈夫です」

「それと・・・」

「正装に着替えるのは昼ご飯の後ですよねー」

「さっきも聞いたし覚えてるって」

口々に返事をしながら食堂を出て寮に向って行った。

 「・・・あの子達は先に正装、貰ってたのかしら?この基地への配属は同じ時期だったはずだけど・・・」

加賀はご飯が盛られた茶碗を受け取りながら疑問を口にした。

「単に私達の提督達が忘れていただけじゃない?」

赤城も同じ様にご飯が盛られた茶碗を受け取りながら応えた。

 

 

 日が南中を過ぎた頃。55号大隊に所属する艦娘、将校、陸戦隊員が練兵場に集まっていた。普段は艦娘と陸戦隊員が一堂に会する事は有り得ない。艦娘所属基地の責任者は風紀の観点から艦娘と陸戦隊員の生活空間を分離させる事が義務付けられている。号令台から見て右端から左に陸戦隊員1000名、左端に艦娘13名、手前に将校が並ぶ。陸戦隊員とその将校は在り来たりなカーキ色の戦闘服、金沢をはじめとした提督はいつもの白い詰襟、艦娘達も正装で揃えて統一感のある隊列を組んでいた。睦月を始め駆逐艦娘の正装は白を基調としたセーラー服で階級章と所属章は襟に、そしてその襟、袖、スカートの裾を金糸で装飾したもので簡単なデザインながら正式な場に挑むのに相応しい形になっている。古鷹ら重巡艦娘と空母、軽空母艦娘は提督とそろいの白の詰襟を基に、提督のそれにはないグレーのラインや所属章が付けられており見分けがつくようになっている。陸戦隊の数名が物珍しげに艦娘を横目で見ていた。

 番兵からの連絡を通信室で待っていた陸戦隊員が本館から金沢の元に駆けて来た。

「長官がお見えになりました」

「ご苦労さまです。所属する隊の列に戻って下さい」

「はっ」

陸戦隊員が列の後方に収まり門の方角からエンジン音が聞こえてきた。

 1台の乗用車が練兵場に来て号令台の傍に停まった。三ツ屋が駆け寄って運転席側の後部座席のドアを開くと壮年でしっかりした身体つきをした将校が地面に足を付ける。将校の顔付きに刻まれた物々しさに反し、勲章を一つも付けてられていない白の軍服が異様過ぎて逆に将校が只者で無い事が伝わる。彼に続いて秘書といくつかの勲章で軍服を飾った将校が車から降りて来た。

「閣下、お待ちしておりました。第55号大隊基地司令を勤めております。金沢と申します」

号令台の前で彼らを待っていた金沢が敬礼をして口上を述べた。一ヶ月前の襲撃で負った負傷が原因で肩が上がらずにやや不恰好な敬礼になった。

「出迎えご苦労。しばらく世話になるがよろしく頼む。少し彼等に話をしても良いかね?」

「勿論です。どうぞ」

閣下と呼ばれた将校が号令台に登り、もう1人の将校、秘書、金沢は台の脇に控えた。金沢の号令で大隊構成員1000人超が敬礼を揃える。将校は敬礼を返した後、全員が敬礼を下ろすのを確認して将校は話し始めた。

「諸君、出迎えご苦労。横須賀海軍司令部所属、今回の作戦で長官を務める事になった大将の大都(だいと)だ。宣戦の事は皆知っていと思う、開戦時刻は明後日午前0時。我々の勢力下に孤立している敵勢力が目標とは言えど本作戦の失敗は、今後腹に火種を抱えて戦う事に直結する重要な作戦だ。失敗は有り得ないものと思え。出発は明日、陸戦隊は1600、連合艦隊は2300だ。それまでは作戦に備えゆっくり体を休めよ。以上」

短い訓示が終わり再び敬礼の送やり取りがあった後、金沢の指示で集会は解散した。号令台を下りた大都は金沢に言う。

「少将。指揮室を確認したい、案内せよ」

「畏まりました」

金沢は一礼と共に答えた。

 

 

 「紹介がまだだったな」

金沢に指揮室へ案内されている道中、集合が解かれたばかりで人気の無い司令棟の玄関で司令長官の大都はおもむろに口を開いた。

「今作戦で参謀として連れて来た柳(やなぎ)准将、秘書の手宮(てみや)君だ」

基地に同行させた2人を簡単に紹介する。

「本作戦で参謀を務めさせていただきます。柳です、お見知りおきを」

「ご紹介に与りました。秘書の手宮です」

「本基地の司令を務めております。金沢少将です、こちらこそよろしく」

金沢は歩を緩める事無く2人と握手を交わした。

「ん?手宮さんは以前どこかでお会いしましたか?」

「・・・いえ。初対面のはずです」

「そうですか。なんとなく貴女に見覚えがあったのですが・・・。手宮さんのお名前を教えていただけますか?」

金沢は少しの間考え込むしぐさをして手宮に尋ねた。それを見て柳が眉を顰める。

「金沢少将、そういう話は勤務時間外にお願いします」

「柳君は相変わらずお固いところがあるな。もっと肩の力を緩めて置け」

「しかし、このような重要な作戦の用意中に」

大都は有無を言わせぬ口調で言う。

「だからこそだ。艦隊を海に出してから最善の判断を為せるよう今は気を張るな」

「・・・承知しました」

「かと言って。少将も初日から秘書を口説くようでは、艦娘の提督としての素質を疑いかねんな」

「そのようなつもりは・・・申し訳ありませんでした」

金沢は頭を下げた。

 話しを続けながらも、一行は玄関を通り抜け2階に続く階段に差し掛かる。

「ところで、先に来た伊勢から聞いているかも知れんが、連合艦隊に組み込む予定だった二航戦の“翔鶴”が艤装の不調で参戦出来なくなった。今作戦は台港(ダイコウ)に待機する第一戦隊に敵の目を向けさせて手薄になる南部から高速戦艦で奇襲する」

「は、高速戦艦ですか?」

「そうだ。先日試験を終えたばかりだが長門、陸奥を連れて来たのはその為だ。艤装の高速戦艦への改造は公になっていないから少将が知らないのも無理は無い」

「そうですか・・・連合艦隊には加賀を起用しようかと思っていたのですが」

「資料を見たところ加賀は速力に難がありましたね。」

「一航戦を引退したとはいえ足の速さ以外は現一航戦の“鶴龍”や“陽鶴”、改大鳳型の“神鳳”にも劣りませんよ」

「こちらは赤城を使いたいと考えていましたが彼女はどうですか?」

「正規空母を、という事でしたらこちらは構いません。閣下、よろしいですか?」

「よし、明日までに新型艦載機の扱いに慣れさせておけ。烈風改と流星改はここに置いておく」

「承知致ししました。では伊勢は何故?彼女は高速戦艦になった訳ではありませんよね?」

「あれは水上機を使った索敵と陸戦兵輸送の護衛用に起用した。襲撃に成功しても占拠に当たる彼らが深海棲艦にやられては元も子もないからな。詳しくは明日の作戦会議で話す」

「そうでしたか・・・・・・さて到着しました」

話している間に4人は指揮室の扉の前に着いていた。

「こちらが作戦司令部になります。どうぞお入り下さい、設備や通信機の説明をさせていただきます」

金沢は扉を開けて3人を招き入れた。

 

 

 「提督、お呼びでしょうか?」

大都、柳、手宮の3人が基地の視察を終えて泊地本部がある夏島に向った後。赤城は金沢に呼ばれて彼の執務室に来ていた。

「はい。伊勢が来た時に話していた空母に1人代員が要るという話は覚えていますか?」

「ええ。私を呼び出したという事は出撃しろという事ですね。」

「そうです。話が早くて助かります。整備部に行って任務用の新型艦載機を受け取って今日中に慣らしておいて下さい」

「分かりました。この任務受けさせて頂きます。・・・提督、代わりにと言う訳ではありませんが・・・教えて貰えませんか?」

「何を、です?」

「昨日の事です。あれからいろいろ考えましたが納得できません。艦娘の私信も検閲しようとせず、機密事項も直ぐに話してしまうような人が隠すような事ってなんなんですか?」

「・・・職務怠慢と言われても仕方が無いと自覚していますが、それは貴女達を信頼してであって上層部からならともかく貴女から咎められるような覚えはありませんが」

「別に提督のそういうところを咎めるつもりはありません。只・・・提督の言うヒントが気になって昨日の夕食後、睦月ちゃん達にもう一度訊ねてみたんです。そしたら彼女達は口をそろえて始めて配属されたのはこの基地だって言うじゃないですか。じゃあ私の初陣で一緒に出撃したあの子達は誰なんですか?睦月ちゃん達は何者なんですか?」

「・・・僕の口からは言えません」

金沢は呻るようにして答えた。なおも赤城は問い続ける。

「昨日、大本営からの要請は私達艦娘の今後の扱いに関わるって言いましたよね?」

「しかし・・・」

「なにか私達にとって悪い知らせだったんですか?」

「・・・・・・」

「提督。私は人には自分に関わる事について知る権利があると思っています。軍規上で艦娘は兵として扱われたり、備品として扱われたり。場合によってさまざまですが提督には人として接してはいただけませんか?」

「・・・分かりました。すべて話しますから外が明るいうちに新型機に慣れて来て下さい。この事で基地の運営に支障を出すわけには行きません。夕食後の自由時間にここで話しましょう」

 

 

 その日の夕食後。1日を新型艦載機の訓練に充てた赤城は一度荷物を整理しに寮の自室に帰っていた。食事を共にした加賀も一緒で食事中に話さなかった事を口にしていた。

「赤城さん。・・・大丈夫なの?」

「何が?」

赤城は昼間着た正装を丁寧にたたみながら聞き返した。

「明日の出撃の事よ」

「・・・加賀さんらしくないわね。重要な作戦ではあるけど困難な作戦ではないわ」

詰襟を畳む手を止めて振り返ると赤城はあっさりと答えた。

「でも今回の相手は深海棲艦でも軍艦でもない。何があってもおかしく無いわ」

加賀はなおも心配そうに言った。赤城は洋服たたみを再開しつつ答える。

「噂では史上初の艦娘同士の戦闘が予想されているわね」

「赤城さん、貴女の事だから分かっていると思うけれど・・・」

「戦った相手を直接、殺めることになるわ」

赤城は加賀の言葉を先んじて口にした。

「・・・そうよ。・・・軍艦は沈めても乗組員に少しは生き残る可能性があった、深海棲艦は人ではないと言えた。でも今度の相手は私達と同じ艦娘よ。それなのに十分な準備も無しに出て大丈夫なの?」

正装をたたみ終えて赤城はそれを洋服箪笥にしまう。

「これは提督の指示で私達は艦娘。それだけよ」

「・・・そう」

そして赤城は急に悪戯っぽく笑って続けた。

「引退したとはいえ私達は一航戦、鎧袖一触よ」

「・・・・・・」

加賀が3回瞬きする間があった後、赤城は立ち上がった。

「それじゃ。提督と話しがあるから行くわね」

「・・・え、ええ」

赤城は加賀に見送られて自室を後にした。

 

 

 赤城が金沢の執務室の戸を開くと部屋に染み付いた香ばしい香りが鼻を掠めた。金沢はいつものようにコーヒーを片手に作戦の資料に目を通している。

「・・・来ましたか」

「勿論です。出撃する前になるべく心残りは断っておかないと」

「良い心がけですね。・・・赤城さんも飲みますか?」

「あっ、お構いなく。自分で淹れますから」

赤城は立ち上がった金沢を手で制したが彼は尋ねた。

「ご注文は?」

「はい?」

「ご注文はお決まりですか?」

金沢は面白そうに繰り返した。

「どうしたんですか?急に。・・・じゃあ提督と同じものを」

楽しそうに赤城はホットコーヒーを注文した。

 

 

 「前にもこんな事がありましたね」

金沢と赤城はそれぞれカップ一組を手に執務室のソファーに並んで座っていた。赤城のカップからは金沢が淹れたばかりのコーヒーが湯気を立てている。

「そうですね・・・たぶん加賀さんが塞ぎこんだ時以来です」

「もうそんなに前になりますか・・・。あの時は赤城さんに話してもらいましたし今日は僕の番ですかね?」

「そうですね。話してください」

「・・・どうしてもですか?」

「どうしてもです」

金沢はコーヒーを一口飲んでカップを左手に持った受け皿に乗せた。小さく陶器が音を立てた。

「あの要請書には艦娘を破棄せよとの旨が書かれていました。これを認めては今後、上層部は艦娘を道具のように切り捨てるようになるでしょう」

「破棄?解体ではないのですか?」

赤城は隣に座る金沢の顔を覗き込んで訊ねる。金沢は右手をカップに添えたままソファーに軽く凭れ掛かった。

「・・・現在、艦娘はどうやって艤装を動かしていますか?」

「それは、身体に埋め込んだ艤装の一部で脳からの信号を拾って機関部や兵装に伝えていますが・・・。この事と提督の隠し事に何か関係があるのですか?」

金沢は赤城の疑問には答えず質問を繰り返した。

「では艦娘を解体する時はどうしますか?」

「・・・身体に埋め込んだ艤装を取り出します」

「そうです。艦娘の艤装は軍艦の火力と速力を人の大きさに凝縮するが故に莫大なエネルギーの塊でもあります。それは身体に埋め込んだ内部艤装も例外ではありません」

 「提督、本当に話してくれるんでよね?」

「ちゃんと話しますよ・・・」

しびれを切らした赤城を制して金沢は話し続ける。

「内部艤装は艦娘の身体と同調させているので解体の際は不安定になりやすく、安全に解体するには相応の投資が必要になります。ですが今の軍は予算を解体に回す余裕はありません」

「では・・・艦娘を破棄するとはどういう事ですか?」

金沢は観念したように息を吐いて赤城の質問に答えた。

「要請書にあった“艦娘を破棄せよ”とは資金をかけずに艦娘を辞めさせろという事、具体的に言うならば事故死や戦死に偽装して艦娘を処分しろという事です。手を下せ、大本営は僕にそう要請してきました」

 

 

>>>To be contemew【十話 キッカケ】

 




 軍服については第一種が黒、第二種が白、第三種が開襟、って言うぐらいしか分かってないが艦娘にいつもと違う制服を着せたかった。こんばんは作者の胡金音です。そこのあなた!どうせ1日遅刻の更新だと思ったでしょ?前々回は丸1日遅れで前回は日付変わっちゃってたから今回も毎月29日更新(笑)とか思ったでしょー?今回は昨日までにちゃんと書き終えてましたー。ほんとに。3度目の正直って言うじゃないですか。・・・そりゃ確かに2度あることは―――とも言いますけど・・・。
 気が付けばこのBetrayal Squadronも9話目、番外編込みで10話目ですかー。当初の予定ではそろそろクライマックスだったんですけど話は折り返し地点も通過していません。六話の後書き時点では冗談のつもりだったのに本当に20話前後になりそうっていうね。
今回だってフェリピ島攻略作戦編終らせて次回は次の**編への足がかり的な話にしたかったのにまだ出撃もしてませんよ、ここの人たち。おい、金沢。コーヒー飲んでないで出撃早よ。(ネタバレ防止の為、一部伏字)
 まあ、こんな感じの話ではありますがもし気に入っていただければ嬉しいな、せめて時間の無駄だったって思われないぐらいの作品には仕上げたいな、と思って書いてますのでよかったら最期までお付き合いいただけると幸いです。ちょっと良さげな事を書いたところで今回の後書きは終了です。また次回の後書きでお会いしましょう!ノシ


>>>つーべーこんてぬー【十話 後書き】


[追記]
あ。そういえば次回お会いしましょうとか言って、ちゃんと後書き書くの久し振りな気がする・・・。えっと・・・以後ちゃんと書くようにします。


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十話 キッカケ

※オリ主、架空艦娘だけでは飽き足らず架空の地名がザクザク登場します。


 日が沈んで群青に染まるトラック諸島に街灯が灯り始めていた。その灯りの中の一つ、赤レンガ造りの大隊基地司令部の一角で一筋の湯気が頼りなくポットの口から立ち昇っている。

「えっと・・・ご冗談ですよね?」

状況を良く飲み込めていない様子で基地司令秘書艦の赤城がソファーの隣に座る将校に聞いた。

「本当ですよ」

基地司令の金沢はただ事実を答えた。

「いやだって提督の冗談って訳分からないですし」

「直接言われるとちょっと傷つきますね」

金沢は苦笑いで答えつつ立ち上がって、コーヒーを執務机に置くと鍵付きの引出からいつかの封書を取り出した。

「これがその時の書類です。見ますか?」

赤城は頷いてコーヒーを執務机に置いて封筒ごと書類を受け取った

 

 

 「・・・この要請を撤回させようと何度も本部に足を運んでいたんですね。処分の対象になっていた睦月ちゃん達の為に」

赤城はたった今、読み終えた書類から顔を上げた。

「昔ならともかく、今は意見ぐらい出来ますからね。もっとも聞き入れられるかは別ですが」

「そして戦争が始まる事になり、偶然この基地が作戦司令部に選ばれた。ついでに意見も検討され視察される事になったんですね」

「そうです。この攻略戦が終ったら本格的に泊地で演習の視察が行われます。攻略が失敗したら視察の余裕なんて無いでしょうから何としても失敗する訳にはいきません。もう・・戦闘でもないのにこの基地で艦娘を亡くす訳にはいかないんです」

「・・・もうってどう言うことですか?」

赤城が眉を顰めて訝しんだ。

「昼間、赤城さんはここの睦月達が何者かと聞きましたね?その答えもまとめて話します」

 

 

 僕がまだ准将だった頃の話です。第3次軍備増強で大量に艦娘が建造されたものの廃止された大半の鋼鉄船の水兵の多くは陸戦隊に転科し艦娘の指揮官の増員が急がれていた頃ですね。

 当時、僕は将補教育の最終段階、指揮実習でここの司令補をしていました。簡単に言えば現役の将官の下で基地の責任者を経験する、といった物です。たった2、3年だけでしたから経験と言っても将官にしては少なすぎるんですが・・・余程人員不足だったんでしょう。実際、同期に佐官候補生は沢山いましたし士官学校の入学倍率も過去最低で今日までその年を下回った事はありません。でも僕も含めてそういった将校の権限はかなり限定されています。例えばこの基地の陸戦隊関係の指揮権はすべて北間大佐に帰属していますし、この基地を一歩出れば僕の階級なんて飾りもいいところです。すみません、話が逸れました。

 あれは将補教育終了までふた月を切った時の話です。この基地の最高責任者宛に一通の着任連絡が届きました。艦娘が異動する時に予め送付される連絡票です。実習の終了間際という事もあり最高責任者は僕になっていたのですが、その連絡票にはちょうど今この基地に居る睦月型艦娘8名の艦娘の着任する旨が記されていました。何かの間違いかと思いましたよ。何せその時すでにその8人はこの基地に在籍していましたから。そこで僕は当時の基地司令におかしな書類が届いたと報告に向いました。彼はその報告にこう答えました。「知らなかったのか・・・いずれ分かる事だ、君にも知っておいて貰おう」と。

 それから当時の基地司令は話し始めました。まず、艦娘を不老にする艤装にはとても稀少な金属が多く使われており艦娘全員が不老という訳ではなく戦艦、空母、一部の巡洋艦艦娘にしか不老の処置は間に合っていない事。次に、内部艤装からは少しづつ人体に有害な物質が溶け出しており不老の艦娘であれば生存に支障は無いが、そうでない艦娘の場合は数年で死に至る事。最後に指揮への影響を懸念してこれらの事は将官クラスの者と一部の情報部員しか知らず、これらの事が公にならないよう寿命が近付いた艦娘は内密に処分され戦死もしくは事故死扱いされる事。彼が話した事を簡潔に纏めるとこうなりました。

 その話を聞いた後、僕はこの事を当事者の彼女達に話しました、何せ実習とは言え2年間を共に戦った仲間でしたから。・・・勿論、司令に口止めはされていましたよ。上官の指示を無視したのはあの時が始めてです。しかし翌日の出撃命令は彼女達に届いた後で彼女達自信、処分される事には薄々感付いていた様でした。彼女達は“次の子達”なら救う時間があるかも知れないから、どうかその子達を守ってあげて欲しい、と言って次の日の出撃から帰って来る事はありませんでした。

 

 

 「結局その告げ口は誰にも気付かれる事無く実習期間を終えた僕は着任希望先にこの基地を選び、希望は受け入れられました。それから士官学校や海大の同窓生から同志を募ってこの状況を変えようともしましたが・・・その処分要請が届いてしまいました。今となっては学閥争いに拍車を掛けて青葉に迷惑をかけただけになってしまいましたね。最後になりましたが昨日の質問に答えます。今この基地にいる睦月型艦娘は何者か、・・・彼女達は赤城さんが初陣で共に戦った睦月型艦娘から数えて8代目の艦娘です」

「・・・私の知らない所でそんな事が」

 赤城は小さくそう呟くと下唇を噛んで黙り込んで暫くの間小刻みに揺れる書類の角を睨んでいた。

 ポットの中身がすっかりぬるくなった頃、赤城は自らが作った重い沈黙に抗う様に顔を上げた。

「提督。何としてもこの作戦、成功させましょう」

金沢も応じて顔を赤城に向けた。

「赤城さん・・・」

「それと・・・・・・。いえ何でもないです。この要請書に必ず勝ちに行きます!」

赤城の力強い声に金沢は目を細めた。

「・・・ありがとう。期待してますよ」

 

 

 使用した食器をしまい終えて金沢は執務室を後にしようとした赤城に声をかけた。

「では今日は明日に備えてゆっくり休んでください。あ、でも艤装の最終点検だけ整備部に頼んでおいて下さい」

「え・・・。すみません、分かりました」

「・・・やっぱり何かあったんですか?」

一瞬顔を曇らせた赤城に気付いた金沢は訊ねた。

「ははは・・・私、どうもあの整備部長が苦手で・・・。嫌われている気がするというか・・・」

「では今回だけは僕から伝えておきましょう」

「ありがとうございます。・・・では提督、おやすみなさい」

「はい、また明日」

消灯時間が迫る中、赤城は寮に向った。

「さて、今日中にこれだけは目を通しておかないと・・・」

執務室には金沢と明日の作戦資料が取り残されていた。

 

 

 翌朝の朝食前。作戦会議の準備のために早く起きてあまり眠れていない金沢が作戦資料を基地の事務員と一緒になって講堂に運んでいると廊下で栗崎に声を掛けられた。

「基地司令、お早う御座います。お早いですな」

そう言う栗崎自身、朝早くから軍服で身を固めている。

「作戦前ですから仕方ありません」

普段ならどんなに暑くても軍服を着崩したりしない金沢だったが今ばかりは袖を巻くって箱に詰め込んだ作戦資料を運んでいた。

「・・・手伝いましょうか?」

「これで最後ですから大丈夫です。栗崎大佐こそ、こんなに早くからどうしました?」

「自主訓練に行く娘達の見送りです。青葉、加賀と偽装を持って行きました」

「艤装の使用許可なら執務室で書類を書けばすむでしょうに。前にも言いましたが大佐を見ていると本当に古鷹さん達の父親みたいです」

金沢は率直な感想を述べた。

「基地司令がこちらに来られる前から彼女らの提督をやっておりますから。長い事こうしているとそうなってくるのやもしれません」

「なるほど。娘達は訓練へどちらに?」

「・・・前の襲撃戦があった海域です。・・・やはり姉妹艦の戦死はそう簡単に割り切れんのでしょうな」

栗崎は声をやや低くして話した。

 「そうですか・・・せめて遺品だけでも届けば慰めにもなると思うのですが・・・」

「なかなか一筋縄では行きませんな」

「そうですね」

「ところで朝一の連絡便で夏島から司令宛に郵便が届いておりましたよ」

「・・・?こんな時期に郵便ですか。ありがとう御座います、確認してきます」

そう言うと金沢は書類の入った箱を持ち直して講堂に向かった。

 

 

 加賀の目の前では先端に小さな灯台のついた長い防波堤が港と海を切り分けている。

「ふぁ~ぁ・・・ねむ・・・」

「加古、長官の前で欠伸なんてしないようにね」

数時間前、この港を通って自主訓練に出た面々は朝食後に受けた各提督からの指示で、まもなく作戦会議に訪れる司令長官を始めとする将校を乗せた軍用船を港の待機室で待っていた。

 「あの、加賀さん」

加賀が窓枠に頬杖を付いて波を眺めていると青葉に声を掛けられた。

「今朝は自主練に付き合ってもらってありがとう御座いました」

「気にしないで。私が勝手に付いて行っただけだから、それに・・・」

声を掛けられて崩していた頬杖を再度付きながら加賀は顔を逸らして続けた。

「貴女の気が済むまで付き合います」

「・・・あ、えと・・・恐縮ですっ!」

一瞬ぽかんとした表情をした青葉だったが加賀の言葉を理解して頭を下げた。

 

 

 「ねー、古鷹ー。出迎えるったって誰が来るのさ」

「それは、司令長官・・・とか?」

「とか、ってなんですか」

「・・・司令長官と作戦参謀、今回の作戦に参加する艦娘の指揮官に、上陸部隊の関係で陸軍からも将校が何人か来るそうよ」

待機中の3人の会話に加賀が口を挟んだ。

「また、そうそうたる面子ですねぇ」

「・・・あたし帰っても良い?」

「駄目だよっ」

 「こういうの絶対に千歳さんとか三日月の方が向いてるって~・・・て言うか提督じゃ駄目なの?」

「うちの提督の話ですけど、提督陣では華が無いから駄目だそうですよ」

「・・・その話、大端提督に聞かれなくて良かったね」

良い事を思いついたと言わんばかりの表情で自らの意見を提案した加古だったがばっさりと青葉に切られた。その言葉に古鷹が本音をこぼす。

「いえ・・・聞かれていたみたいでその話の後、大端さんに耳引っ張られて連れて行かれてましたよ」

「・・・・・・」

「・・・ちなみに今ここに居ない基地の艦娘は要人警護の為に島の周辺に展開しているわ。赤城さんだけは出撃準備に追われている様だけど・・・。・・・来たようね、行きましょうか」

 やや高めの船の汽笛が海上から聞こえ加賀は話を中断した。

「やれやれ。諦めて加古も行きますよ」

「黙って立ってるだけで良いからね」

「あ、あたしだってやる時はやるよぉ!」

「欠伸は私の後ろに隠れてでお願いします」

「ちょ、加賀さんまで!?・・・あ、もしかして前の模擬戦で魚雷当てちゃった事、やっぱりまだ怒ってます?・・・加賀さん?」

4人が待機室を出た後、加賀が頬杖を着いていた窓からは船首に機銃を取り付けた軍用の高速艇がゆっくりと港に近付いて来るのが見えた。

 

 

 「司令、作戦会議お疲れ様でした。・・・予定通り、今よりフ島攻略作戦終了までの間、出撃する赤城さんに変わって私が秘書艦を勤めさせていただきます」

「しばらくの間よろしくお願いします、加賀さん」

正午前、作戦会議を終えた金沢は各関係基地から呼び寄せられた将校を今朝、加賀達が

出迎えた高速艇まで案内した。現在、その足で高速艇に乗り込み加賀や司令長官らと共に夏島で行われる出発式に向っている。

「金沢さん!」

甲板で名前を呼ばれた金沢が声の方へ顔を向けると巫女服を元に作られた和風の艦娘服を着た伊勢が向って走って来た。

「良かった、出発前に話せて。加賀さんも」

「・・・どうも」

伊勢が加賀にも目をやり、加賀が小さく会釈した。

 「どうしたんですか?そんなに急いで」

「金沢さんが長官方が居る船室に居ないから探したんじゃない。同世代の将校が集まってるとこにも居ないし」

「あんなお偉いさん方が集まっている中にいれたものじゃないですよ。それに同世代と言ったって佐官の中に一人だけ将補上がりが居てはお互い気まずいだけです」

「55号基地の女中佐は長官方と打ち解けてたわよ」

「まあ・・・そうでしょうね」

「あ、今の日向みたい」

「ははは、そうですか?・・・それにしても焦らなくたってまだ出発式までに時間はありますよ」

「何言ってるの。本部に着いて直ぐの昼食は艦娘と指揮官じゃ別だし、食後は出発式の準備で話す時間なんて無いわよ。陸戦の女性部隊に混ざって参加するんだから」

「それもそうでしたね・・・」

 そう言うと金沢はどこか遠い目をして空を仰いだ。

「・・・出発式ですか、正直まだ開戦する実感が湧きませんね」

「・・・司令。この時期にそんな言葉は決して他の人間の前では口になさらないで下さい。士気に関わるわ」

厭戦とも取れる上官の発言を加賀は咎めた。

「分かっています」

「まあ、正確にはまだ始まっていないしそんなものよ。30代の将官なんてまだまだ前代未門だけど、長い間軍に居た将校だって自分の基地を攻撃されるまで実感の無さそうな人もいたからね」

「妙に現実味のある話ですね。さすが先人の話には説得力があります」

「こんな若い女の子に先人なんて言わないでよ。この中じゃ金沢さんが一番年上でおっさんじゃない」

「年を取らない貴女に言われたくないですね・・・では“軍の先輩”という事で。それと・・・」

金沢は真面目な顔で続けた。

「まだ33です。おっさんって呼ばないで下さい」

「あはははっ・・・金沢さんもまだまだ若いわね」

「ふふっ・・・伊勢さん、それではどちらが年上か分からないわ」

波を切って走る高速艇の甲板で、提督1人と艦娘2人の楽しげな声が誰にも聞こえる事なく風に流されて行った。

 

 

 もうすぐ夏島の港に入港しようかという頃、不意に金沢が口を開いた。

「たしか・・・伊勢はフ島攻略後、直ぐに台港の第一戦隊と合流するんでしたね。台港から本土に瑞雲を連絡に飛ばせますか?」

「所属してる横須賀宛なら飛ばせるけど・・・あ、三崎提督に何か連絡?」

「はい・・・これを。軍の検閲を通していたら折角の季節の挨拶も時期遅れになってしまいますから」

金沢は軍服のポケットから1通の郵便封筒を伊勢に手渡した。

「相変わらず金沢さんはそういうのまめね。ここじゃ年中夏みたいなものじゃない」

呆れたと言わんばかりの微笑で伊勢は言った。

「だからこそ、ですよ。季節が感じられないからこそこういった事で季節の移ろいを感じたいんです」

「分かりましたよ。この封筒を提督に届ければいいのね?」

「はい、お願いします」

「やれやれ。茶封筒一通とはいえお願いされたら、うかうかと沈められる訳には行かないわね」

伊勢が少し冗談っぽく言った。

「はい。またいつか会いましょう」

「・・・御武運をお祈りします」

「2人とも・・・。ありがとう」

 やがて高速艇はゆっくりと接弦しタラップが陸上に下ろされた。一行は泊地本部での昼食の後に大題的に行われる出発式に赴く。

 

 

 日が傾き始めた頃、トラック諸島最大規模を誇る夏島市街地の広場から港までの大通りを使って行われた出発式は観艦式かと見紛う程に賑やかなものだった。もっとも“出発する側”の艦娘は陸上戦闘員の数と比べるとごく一部で“船”より“兵”が主役といった内容であったが・・・。

「すごい数・・・こればかりは艦娘の指揮では味わえませんね」

「海軍の艦娘を一箇所に集めてもこの人数の1割にもなりませんからね・・・」

大通り脇に用意されたテント下の将校席で行進する陸軍、海軍陸戦隊、混成の上陸部隊5万名を前にした金沢と大端が話していた。将校席には司令長官はもちろんの事多数の将校が集められている中には通常の軍服を着た艦娘の姿も見え、代理の秘書艦になっている加賀もその1人で金沢の隣に座っている。兵の行進には時折、細かく裁断した薄桃色の布を桜の花弁の様に舞わせて見物に来た一般人の目を楽しませている集団、一足早く慰問に訪れた曲芸集団も混ざっていた。

 「それはそうと基地司令はどこの指揮を執られるんです?」

不意に話題が変わって金沢が大端の方に顔を向けた。

「いえ、今日の作戦会議で司令の名前が挙がらなかったのが気になっただけなので・・・」

「ああ、大丈夫です。・・・僕はまだまだ未熟者ですから。少将なんて言っても僕の場合は飾りみたいなものですからね。こういった重要任務には充てて貰えないんです。経験量的には陽動隊の指揮ぐらいは執らせてもらえると思うのですが・・・将官が佐官の下で指揮を執る、といった事を体面的に軍は嫌いますからね」

金沢は自嘲気味に答えた。

「なんだかすみません。ただ岩瀬中将が本作戦の副長官になったと聞いて良からぬ事を考えているのではないかと・・・」

その名前を聞いて加賀は少し表情を曇らせた。

「・・・いくらなんでも大本営から指揮官が送られてくるそうな作戦に基地間の軋轢や学閥を持ち込むほど愚かではありませんよ。仮にも岩瀬中将は歴戦の水雷隊指揮官ですし、実際に動く吹雪さん達にこの件は直接関わっていません。何より貴女達は作戦に集中してくれると信じています」

金沢は安心させるように軽く微笑んだ。

 やがて行進の最後尾にいた歩兵が通りを過ぎ港で陸戦部隊輸送に乗り込むと、フ島攻略戦の先鋒部隊は大勢の歓声と軍楽隊の演奏に見送られて出撃して行った。赤城、長門達の主力艦娘隊は今夜航空機で後を追う。

 

 

 出発式が一段落し、将校一行が港にある軍の建物で一服している頃、金沢は手持ち無沙汰にその廊下を散策していた。

「どこかお探しですか?金沢少将」

窓からの景色を眺めながら人気の無い廊下を歩いていた金沢は声のした前方に目線を戻した。

「あなたは長官の秘書の・・・」

「はい、手宮です」

長官付きの女性秘書の姿がそこにあった。

「・・・先日は失礼しました」

「それは構いませんが・・・こんなところでどうされました?」

手宮は改めて義務的に尋ねた。

 「いえ、将校同士の集まりはどうも肌に合わなくて・・・こうして時間を潰しているだけです」

金沢は頭を掻きながら答えた。

「なるほど。まあ、少将らしいですね」

「・・・どういう事ですか?」

会って日の浅い人間に得意げに話された金沢はすこしむっとして聞き返す。

「今、少しだけお時間を頂いてもよろしいでしょうか?」

「・・・何です?」

「ちょっとこちらへ」

そんな金沢に気付いてか気付かずか。手宮は廊下の曲がり角、突き当りには倉庫しかない方へ手で金沢を招いた。

「いったい何ですか・・・」

金沢が歩を進めて手宮に近付き、その姿が奥から続く廊下の死角に入ると手宮は身を翻して細身ではあるものの体格差のある金沢を容易く壁に押し付けた。

「やれやれ、何年ぶりですかね・・・」

「えっと・・・やっぱりどこかでお会いしていました・・・?」

壁に背中を押し付けられて目を白黒させながら金沢はなんとかそれだけを尋ねた。

「はい。お久しぶりです」

手宮はそれまでの無表情を崩して楽しそうに答えた。

「・・・・・・」

「まだ分からないんですか?“僕”は都辺です。海大ではお世話になりました」

「・・・ああ!道理で見覚えがあると思いました」

納得したといった表情で金沢が言った。

「在学中、情報部に目を付けられてから以来ですね」

そう言いながら手宮改め都辺は金沢を押さえつける手を緩めて通路の倉庫側に移動した。

「あの時の噂は本当だったんですか。しかし、それならそうともっと早く言ってくれれば良かったものを・・・」

「すみません。僕も任務中だったもので」

その言葉を聴いて金沢は気を引き締め直した。

 「それにしてもどうして貴方が身分を隠してまでこんな用心棒の真似事みたいな真似を?」

金沢は“手宮”の事を尋ねた。

「実際ボディーガードも兼ねていますよ。内地では最近物騒な事件も多いですし。まあ実際のところは・・・」

都辺は声を潜めて金沢に耳打ちする。

「補給の間宮大尉が大本営に探りを入れていてこちらの鳳翔大尉と内通している様なんです。もちろん当局は関与していません。攻略戦後の演習視察はその解明が目的で情報部が口添えして決定したんです」

「まさか・・・。彼女には隠すような事はありません。ただの私用では?」

「さあ?僕はそれを調べに来たので・・・。あ、この事は55号基地の将校には話してはいけない事になっているので内密に願います」

「分かっています。それと・・・情報の漏洩、感謝します」

 「もうちょっと言葉を選んでくださいよ。・・・それにしてもこの変装、性別まで変わってるのに昔からの知り合いでも分からないものなんですねぇ。中性的な見た目を買われて引き抜かれましたけど女装も慣れるまでは大変でしたよ」

「良かったじゃないですか。もう小柄な身長に悩まされる事もなくて。女性なら普通に見えますよ」

金沢は学生時代の後輩をからかった。

「ずっとこの格好でいる訳ではないですよ。先輩こそ将補上がりの少将ですか。先輩も偉くなったものですね」

対する都辺も軽口を返した。

「情報部に引き抜かれた後輩程では・・・」

都辺が表情を引き締めて手振りで静かにするように伝えるのを見て金沢は黙った。その理由は直ぐに分かった。

 廊下を歩く音がし始めてやがて金沢の背後で止まった。金沢が振り返ると呆れたような表情で加賀が居た。

「司令、そろそろ基地に戻る予定の時刻ですが・・・。お取り込み中だったようね?」

「ああ、加賀さんですか道を聞かれたので」

「こんな人目に付かない袋小路で?・・・確か長官の秘書の方でしたね?」

「いえっ・・・本当に、本当になんでもないんですっ」

都辺は急に悲鳴にも似た声を出して両手で顔を覆いながら加賀の脇をすり抜けて文字通りに逃げて行った。なお加賀は現時点で手宮の正体は知らない。彼女にとって都辺は長官の女性秘書である手宮だ。手宮を見送った加賀が金沢に向き直る。

「司令はそういった方ではないと思っていたのですが・・・どういう事です?」

加賀は細めた眼で有無を言わさずにいつもの声で尋ねた。

 

 

 こうして始まったフ島上陸作戦は計画通りに、深海棲艦による妨害も無く順調に進んだ。翌日早朝、宣戦文書が届いた旨を各基地に伝える通信を日ノ本皇国軍通信部が傍受、先鋒部隊と合流した主力艦隊は日の出と共に攻略戦を開始した。正午前、連合艦隊はフェリピ群島及びその地の合衆国海軍泊地を占拠。華々しい戦果は瞬く間に国内は勿論の事、各国に知れ渡る。開戦初日の夕刻、赤城を始めトラック泊地に所属する艦娘は帰途に着く。

 

 

 不明瞭な音声通信の後、艦隊司令部はその電文を受信した。

 

 

>>>To be contemew

 




 7話の最後から引きに引き伸ばした前置きの反動で今回の攻略戦は後半で走っている気がしてなりません。なんだこのダイジェスト小説。筆者の胡金音です。いやはや、こちらの本作では暗い話が続いていたり壁ドンがあったりしましたが本家ゲームではイベント真っ盛りですね。イベントは新しい海域が出たり新艦娘が登場して楽しい限りです。筆者はE-2を削り終わったところです。イベント終了までに1度くらいE-3のボスも撃破したいなーと考えています。だから長門さん・・・2回も連続でボス支援間に合わないのは勘弁してください。
 ところで筆者はドロップで被った艦娘はサクッと近代化改修に回せるのですが初ドロップの娘はどうしても手放せません。そういう訳でイベントの度に母港を拡張しています。したがって今回も筆者が勝手にイベント参加代と呼んでいる野口さんをそろそろコンビにで見送らなければならないのですが、よく2次元縛りのカラオケに行く面々が毎月福沢さんズをサクッとコンビニでドナドナしているのを見ていると野口さんをケチる筆者が貧乏症に見えてきます。皆さん、野口さん2人ぐらいは普通ですよね・・・?まあゲーム目的で3人目の野口さんをコンビニで見送る日も近いんですが。
 それはそうと、このBetrayal Squadronですがキリ番の10話です!そして閲覧者数も5000を越える事が出来て有難い限りです。そこで重大発表があります。そんなめでたい時に言うのも何なんですけど実は・・・。って言うか非常に言い辛いのですが、このBetrayal Squadron・・・。




 筆者がなんて読むのか分からないんです(涙)正確に言うと発音の仕方が分からないんですが・・・えっと・・・。べっつらやる、すくぁどぅろん?ですかね。先に日本語で題名考えたら話の流れが簡単に分かってしまうような題名になったんで、とりあえずパッと見分かんない様にGooglさんに翻訳して貰ったんですが。そしたら作者が題名を読めなくなってしまいました。(てへ)

 そんなBetrayal Squadronですがようやく折り返し地点(予定)に着きました。このペースだと20話辺りで完結になるかと思います。所詮自己満足作品ではありますが最後までお付き合いいただけると幸いです。それではまた次回の後書きでお会いしましょう。寒くなって来たので風邪等にはお気をつけて。ノシ


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十一話 始まりの第一歩

~前回までのあらすじ~
 誤字脱字の確認も済ませ後は投稿設定を済ませるだけ―――――本家艦これのイベントに夢中になって気付けば早22日。うっかり毎月更新などと大口叩いてしまったが為に7日間の使える時間をすべて使い書き上げた小説を保存し、風呂に入った胡金音。しかし脱稿による開放感に身を任せた胡金音が長風呂から上がると時計は23時30分を指していた。日付が変わるまでに10話の投稿作業を済ませ一息ついたのも束の間、彼は次話のサブタイトルを考えるのをすっかり忘れて空白のままだった事に気付く。

>>>To be contemew【**話 ********】

思い出(黒歴史)のあるこの1文。しかしこの1文は必要なのか。思い悩む胡金音に時間は無情にも牙をむく。迫る年越し、11話の投稿日が訪れようとしてい――――
AD「本編のあらすじじゃねぇのかよっ!!!」 (゜Д゜((ヾ(ーー )
(※AD君について気になったは補足編の“B.S.放送局”をご閲覧下さい)



 「そう・・・。ごめんなさい、私はてっきり司令が“彼女”に不埒な事を・・・」

「ともかく“彼”は海大時代の後輩で任務の合間を縫って話しに来てくれただけです。誤解した事はもう良いですから忘れてください」

ここは港の一角に建てられた泊地本部の海軍官舎・・・の人目に付き難い倉庫前の廊下。長官の女性秘書“手宮”、改め海大時代の金沢の後輩で海軍情報部員の男“都辺”が先ほど加賀に残した誤解を55号基地司令の金沢は解いていた。

「しかし学生時代の先輩に挨拶するだけでこんなところに連れ込むなんて・・・。あっ、そういう・・・大丈夫、心配要らないわ。司令と彼の事は誰にも話さないので・・・。それと私は同性同士に偏見は無いので安心してください」

「ちょっと待って下さい」

加賀の誤解は終らない。

 

 

 「では、この攻略戦後に情報部の調査が・・・?」

結局、都辺の正体まで話して誤解を解いた金沢は疲れた顔で頷いた。そんな金沢にはお構いなしに加賀は顎に手を当てて考え込む。

「何を調べに来たのかしら?」

「さあ。いくら旧知の人間とは言え彼も情報部の人間ですから調査対象にそこまでは教えてくれませんよ」

「司令、貴方まだ何か隠してない?」

「何も。彼はただやましい物があるなら今のうちに隠しておけと伝えたかったんだと思いますよ。まあ見られて困るようなものはありませんけどね」

「・・・なら良いのだけど」

「金沢少将ー?もう直ぐ帰りの船が出ますよー」

金沢が白を切ったところに角から大端が現れた。

「あら、加賀さんまで。2人共・・・お取り込み中だったかしら?」

「違います」

面白いものを見つけたと言わんばかりに目を輝かせる大端に加賀は即答した。

 

 

 その日の夜、鳳翔が1日の仕事を終え自室で一服していると戸をノックされた。

「はい、どちら様かしら?」

「ほーしょーさーん。夏島のお土産ですよー。はい、これ」

鳳翔が戸を開くと同時に箱の入った紙袋が目の前に突き出された。

「あら、大端提督。出発式は如何でしたか?・・・これって有名百貨店のお菓子じゃないですか!日本人街に出張店舗でも来ていたんですか?」

「ふふーん、本土から来たお偉いさんの機嫌とってたら貰っちゃった。夕食後の甘味に一緒にどう?」

大端は自慢げに話すと鳳翔をお茶に誘った。

 「ところで今、良い?」

鳳翔がいつもの様にお茶の準備をする後ろで座布団の上でくつろいだ大端が部屋の入り口を指して言った。鳳翔は大端の意図を察して一度、茶葉を入れたきゅうすを置き戸越しに外の様子を伺う。

「ちょっと待って下さい、誰か来たようです」

廊下の木材が軋む音を聞き小声で大端に伝えると、鳳翔はその間にきゅうすに熱湯を注いでお茶の用意を再開した。

 「それで向こうで何かあったんですか?」

足音が遠ざかった後、鳳翔は淹れたばかりのお茶と大端がもってきた羊羹を盛り付けた小皿をお盆に載せて大端の待つ卓袱台向った。

「あ、頂きます。うん、なんか鳳翔さんの言ってた事が現実味を帯びてきたなーって」

大端は用意された楊枝を羊羹に刺しながら言った。

「あら、まだ疑っていらしたのですか?」

「疑っちゃいないけどあんな話、はいそうですかと飲み込めないわよ。海大時代から今まで上から聞いてた話と違いすぎるもの・・・。今日ね、少将が怪しい動きをしてたからその場にいた加賀さんに帰りの船で話を聞いたのよ。少将が本国の人間と密談していたから後ろめたい事がないなら止めるように忠告してたんですって。何か不味い話でもしてたのかしらね」

「なるほど・・・やはり基地司令には話が通っているとみて良さそうですね」

鳳翔は大端の話に相槌を打ちながら応える。

「まあ・・・少将のここ数ヶ月で急に増えた本部への出張と、貴女達艦娘に閲覧許可を出せない基地の過去資料から考えられる次の“処分”日時が重なったりしたら信じざるを得なくもなるわ。極めつけは長官から聞いた今回の作戦後にある演習の話!何でわざわざ本土から来た長官が旧型艤装を使った艦娘の演習を見て帰らなきゃならないのよ。まるで“不慮の事故”でも見に来るみたいじゃない」

「そうならないように大端提督に私の計画を手伝って欲しいのですよ」

鳳翔は両手を湯飲みに添え、改めて大端に協力を促す。

「それは分かったけど・・・いくらなんでも無茶すぎない?あの子達を連れて本土に身を隠すなんて。ここから相当な距離よ?」

大端は諭すように以前鳳翔から聞いた話を確認した。

「そうですね。でも、もう見送るだけは嫌なんです」

一瞬、鳳翔の湯飲みを持つ手に力が込められ、そのまま程好く冷めたお茶を喉に流し込んで話を続けた。

「・・・とにかく一度加賀さんには詳しく話を聞いた方が良さそうですね」

「そう。・・・もし本気で睦月ちゃん達を連れ出す気なら私には一声掛けて頂戴。あの日、始めての部下を奪った海戦が出来合いだったって言うのなら、私だって弔い合戦の1つや2つ厭わないわ」

大端は鳳翔の目を見て言った。

「・・・分かりました。でも提督は・・・一番に千歳さんと千代田さんの事を考えて下さい」

「分かってるわよ。明日、あの子たちには上手く陽動して貰わないとね。はい、この話は一端お仕舞い。羊羹、食べないなら貰うわよ?」

急に砕けた表情になって言った大端が鳳翔の羊羹に伸ばした右手は・・・。

「提督、はしたないですよ」

鳳翔の左手に撃墜された。

 

 

 「提督、出撃準備と艤装、艦載機の最終調整が終了しました」

鳳翔が行儀良く羊羹を頬張るのを大端が名残惜しそうに眺めている頃、新型艦載機と艤装の同期を終えた赤城は金沢の執務室に報告に来ていた。

「お疲れ様です。休みを減らしてしまってすみませんね。出発までまだ少し時間はありますから、せめてそれまでどこかでくつろいでいてもらって構いませんよ」

作戦に直接関わっていない金沢は手持ち無沙汰に目を通していた書類から顔を上げた。

「ではお言葉に甘えて・・・。もし、出発までここに居てもお邪魔になりませんか?」

「・・・どうぞ」

金沢は書類を脇に置きながら答えた。

 「少しお話しても良いですか?」

金沢が手を休めるのを見て赤城はソファーに腰を下ろした。乱れた服の裾を直して訊ねた。

「構いませんよ」

「今回の作戦、長門さん達以外にはどなたが出撃されるのですか?」

「ん?・・・ああ、赤城さんは急な出撃でしたから調整で作戦会議に来ていませんでしたね」

金沢は組んだ指を机の上に置いて話し始める。

「赤城さんはどこまでご存知でしたか?」

「今回の作戦の目標がフ島の攻略戦で、急遽私が翔鶴さんの代理で主力艦隊に呼ばれたと言うとところまでは聞いています」

 頷いた金沢は、部屋の隅に置かれている棚の本が入っている段から1冊の地図を取り出してソファーに座ると赤城にも見えるように膝の上に広げて見せた。世界地図のやや右よりの大部分を占める大洋の北西に“日ノ本”と書かれ紅色に塗られた列島が見られる。大洋から見て列島の奥にある大陸の一部とこの泊地のあるトラック諸島(※要確認。群島?)を含む島々、そして大陸の南から伸びる東西に長い島々の半分程が同じ紅色で塗られていた。そしてその中に紅色に囲まれるようにして緑に塗られた島が周囲の島から浮いていた。

「この緑のフ島が今回の攻略目標です。見ての通り合衆国領フ島は先の大戦で日ノ本のものとなった石油基地と本土の間に位置しており、開戦後の大きな脅威となりえます。今作戦はその地の敵勢力の無力化と該当地の占拠を目的にしたものです。主力には本土から派遣された長門、陸奥の他には富山中将指揮下の妙高姉妹が、飛行艇で伊勢のいる上陸隊に追いつく形で参戦します。赤城さんもそうなりますね。主力艦隊の主な任務は上陸支援と敵艦娘への対応、可能であれば鹵獲です。赤城さんの役割は前者と周囲の哨戒です。他にうちからは千歳と千代田、古鷹、加古、青葉が陽動に南方に向ってもらっています。あと上陸支援中の護衛には岩瀬中将の52号艦隊の水雷隊が当たります」

 「52号艦隊と言うと・・・」

何か思うところがあったのか、呟いた赤城に気付き金沢が補足を入れた。

「はい。衣笠さんが居た艦隊です」

「艦娘が口を挿むような事ではないかもしれませんけど、岩瀬中将との諍いは収められたのですか?」

赤城は遠慮がちに尋ねたが金沢は表情を硬くした。

「・・・いいえ。艦娘の遺品を引き渡さないなんて嫌がらせじみた事をするのも、相次ぐ不祥事で岩瀬中将の母校である呉海大出身者の発言力が弱まって本国から圧力がかかっているのだと思います。早期の解決は難しいでしょう。・・・すみませんね、司令官同士の学閥争いなんかで部下に心配を掛けて。青葉さんに至っては完全に巻き込んでしまいました・・・提督失格です」

「そんな事・・・」

 「せめて僕にも出来る事があれば良いんですが・・・。赤城さんも何かあれば遠慮なく言ってください」

金沢は悲しげに笑いながら言った。

「じゃあ、出撃前に一つだけ。我侭を言っても構いませんか?」

「どうぞ」

「提督の名前、何と仰いましたっけ・・・?」

「えっと・・・金沢、ですが。・・・知りませんでしたか?」

「違います!“氏”じゃなくて“名”の方です!」

「ああ、護人と言います」

「あの・・・一度だけ、提督の事」

 その時、執務机上の通信機からブザーが鳴って赤城は噛み締めて言おうとした言葉を飲み込んだ。金沢は直ぐに反応して受話器をとる。連絡を聞いた彼は赤城に向き直る。

「出撃時刻を1時間早めるそうです。すみません、もう一度言ってもらえますか?」

「あ・・・いえ。・・・やっぱりいいです」

「そうですか?では艤装の装備に向ってください。僕も一応指揮室に居なければいけません」

襟の階級章を指で正しながら金沢は言った。

 「そうだ、赤城さん」

金沢は棚に広げていた地図をしまいながら声を掛けた。

「なんですか?」

「今までに帰還しなかった艦娘が人として民間に保護された事例って、聞いた事はありませんか?」

「・・・どういう事ですか?」

赤城は話の意図を汲めずに聞き返した。

「実は今朝届いた手紙に気になる事が・・・すみません時間でしたね。行きましょうか」

金沢は話を切り上げた。

 

 

 東に頂点の一つを向けた三角形の様な形の春島西海岸には、航空機を中心に編成されたトラック泊地54号大隊の所有する2つの空港がある。そのうちの一つ、第一空港では大型の水陸両用飛行艇が5機、4基のエンジンを呻らせて出発の時を待っていた。少し離れたところでは出撃する艦娘と飛行艇から現地で指揮をとる指揮官が待機している。

「富山中将!大艇の離陸用意が完了いたしましたっ。いつでも出発出来ます」

飛行艇から駆け寄って来た54号大隊の整備員が照明に照らされた滑走路に響く排気音に負けじと声を張り上げて言った。

「御苦労。全員居るな?5分後に出発する、各自割り当てられた機体に搭乗せよ」

現地指揮官のトップ、自ら前線に立つ泊地長の富山は部下にそう声を掛けると飛行艇に近付いて行った。

 「・・・出発ね」

急遽、主力艦隊の空母枠に抜粋された赤城を見送りに来た加賀は声を掛けた。

「ええ。・・・そうだ、加賀さん。私分かっちゃった事があるの」

赤城は不意に加賀に話を振った。

「・・・何ですか?」

「この間、睦月ちゃん達の正装は部屋にあったのに私達のは渡されてもいなかったじゃない?あれはきっと“前の子”達が置いていったのがそのままだったから配る必要がなかったのよ」

「・・・?まあ・・・その可能性は高いでしょうね。私達がここに来る前の事ですから確証は取れませんが」

「そうね。・・・それじゃ、加賀さん。行って来ます」

そう言うと赤城はつま先を飛行艇に向けて足を踏み出した。

「はい。・・・気をつけて」

加賀は飛び立った機体が夜闇に紛れて見えなくなるまで見送り続けていた。

 

 

 

連合艦隊司令長官:大都

 参謀:柳

 副長官:岩瀬

艦隊同行指揮官

 主力艦隊(富山):(旗)長門・陸奥・妙高・那智・足柄・羽黒・赤城

 輸送艦隊(51号基地大佐):(旗)伊勢・深雪・磯風・他輸送艦数隻

 護衛水雷戦隊(52号基地大佐):(旗)天龍・龍田・吹雪・白雪・初雪・叢雲

上陸部隊指揮(輸送艦乗船):陸軍少将、陸軍大佐、北間、陸軍中佐、53号基地大佐、

 陽動艦隊指揮官:栗崎、大端、他数名

 

 

 

 塗装されていない骨格がむき出しのままで無骨な印象を受ける内壁に設けられた窓の遮光幕を少しずらして赤城は外の様子を伺った。風景の変わりに彼女自身の顔が写る。赤城は窓に顔を近づけてみたが時折雲間から差す月明かりが海面で反射するばかりでさほど高い高度で飛んでいる訳ではないという事しか分からなかった。

 「順調ならもう直ぐ伊勢の艦隊が見える頃だな」

声を掛けられて赤城が視線をやると彼女の艦隊の旗艦である長門が顔を向けていた。彼女の座る座席の後ろには大きな袋が括り付けられた長門型の艤装が直ぐに背負える状態で固定されている。主力艦隊は空港で飛行艇に分乗し、54号大隊の烈風に護衛されながら先行艦隊の後を追っていた。

「何か見えたか?」

「いいえ、何も」

赤城は首を横に振った。

「思ったより高い高度ではないわね」

「それはそうだろう。夜明け前に輸送艦隊を見つけて合流しないといけないからな。それにしても・・・」

長門は懐かしそうに目を細めた。

「こうして同じ任務に就くのも久し振りだな」

「ええ。私が横須賀を離れて以来だもの。ずっと深海棲艦相手に前線で戦っていたのでしょう?さすがは長門さんね」

赤城の感心の声に長門は苦笑いを返した。

「艤装の改造で何とかやっているようなものさ。それにさすがと言うなら赤城の方だろう。一航戦の座を後輩に譲ったとは言え、こうして急な代役が務まるのだから。航空機の進化は凄まじいのし大したものだよ。・・・だが今回は棲艦相手じゃないんだ。馴れない新型機で大丈夫か?」

「上陸の援護と周囲の監視には十分よ。上陸の支援には伊勢さんや妙高さん達も就くのでしょう?」

「あとは陸奥もだな」

「長門さんは?」

「那智、足柄と共に向こうの艦娘への対応だ」

事も無げに話す長門に赤城は閉口した。

「必要であるなら私が手を下す。なに、覚悟は出来ているさ。長年の間、連合艦隊旗艦を務めた経歴は伊達ではないよ」

「そう。・・・ではお互いに自分の任務を全うしましょう。この作戦、成功させて次に繋げないと」

 「もちろんだ。大切な初戦だしな」

長門はしっかりと頷いた。

「初戦・・・?ええ、そうね」

「なんだ?他に・・・何かあったか・・・?」

一瞬きょとんとした表情を見せた赤城に長門が首を傾げる。

「いえ、気にしないで」

赤城が手を振って答えた時、機内の壁から張り出たスピーカーから注意を引くブザー音が鳴った。

『各艦娘に告ぐ』

 少し雑音の混じった声は赤城達が乗る飛行艇の少し前を飛行している同型機から送られてくる。現地で指揮を執る富山ら指揮官が搭乗している機体で最新の通信機を装備しており、上空から海面の艦娘へ音声で指示を出したり、司令部から送られる電文や艦娘同士の音声通信を中継する役割を果たしている。

『ただ今、先行の輸送艦隊を視認。随時、落下傘にて海上へ降下。これと合流せよ』

「追いついたか」

長門がスピーカーを見上げて呟いた。

「そのようね」

「よし・・・」

長門は安全ベルトを外して立ち上がると艤装を身体に固定して天井から垂れるロープを引く。艤装と飛行艇を固定していた金具が外れて長門はしっかりと床を踏みしめる。そして艤装から伸びるコードに繋がったマイクを首に巻き、イアホンを耳に掛けた。これでマイクの音は艤装と飛行艇の通信機を通して連合艦隊全員に伝わる。赤城も手早く艤装を身に付けると同じようにマイクとイアホンを準備する。

 赤城達が飛行艇の尾部に向うと飛行艇の乗り組み員が搭乗口を開いて待っていた。

「ご武運を」

2人の姿を確認して乗り組み員が言った。長門はそれに頷くと左手で手すりを掴んで半身を機外へ乗り出し、右手でマイクのスイッチを押した。

「こちら長門だ。連合艦隊抜錨する、全員我に続けっ!」

長門は言い終わると同時に宙に飛び出した。

 

 

 夕方、日の出前に始まった上陸作戦の状況を報告する電文が司令部に届いた。

「敵泊地本部を制圧!現在、内陸の敵守備部隊と交戦中、攻略は時間の問題です!沿岸の飛行場を使用できます!」

いつもより多くの通信設備が持ち込まれた55号大隊基地の指揮室で、いつもより多い通信士の1人が声を上げた。広い指揮室に歓声が零れた。

「台港航空隊に飛行場の占拠を連絡せよ」

雛壇状の指揮室の最上段で長官の大都は指示を出す。

「敵艦娘はどうした?」

「報告によると艤装整備機器や燃料タンクに長距離航行に出航した形跡有りだそうで。我々の襲撃を予測し、予め別基地に移動していた線が有力かと思われます」

長官の横で参謀の柳は答える。さらに後ろでは基地の責任者という事で金沢も呼ばれているが、特に指揮を任されていない彼は口を挟む事無く控えていた。大都は軽く目を伏せていたがやがて口を開いた。

「そうか・・・。友軍航空隊の現地到着次第、連合艦隊の任務を終了とする。予定通りに長門、陸奥は呉へ帰投。伊勢は台港の第一戦隊に合流、赤城はトラック所属の艦娘を率いて帰投せよ。各艦隊の指揮官、通信員を残し解散とする」

今後の指示をすると大都は指揮室を後にした。

 

 

 翌朝、赤城の帰りを待つ加賀は金沢の指揮室を訪れた。すでに仕事を始めていた金沢と朝の挨拶を交わして加賀は丁寧に頭を下げる。

「昨日のフ島攻略作戦、お疲れ様でした」

「・・・僕は後ろで見ていただけですよ」

「まあ・・・形式的なものです」

金沢の苦笑いに彼女はしれっと答えた。

 「さて、これで赤城さんが帰ればこの作戦も一段落と言った所かしら・・・?」

金沢に勧められて加賀はソファーに座った。

「そうですね。北間大佐を始め陸戦隊の方々は向こうの混乱が落ち着くまで戻れませんが、この作戦における艦娘の仕事は一段落です」

「赤城さんは何時ごろこちらに戻る予定?」

「早ければ今夜には」

演習を見に来る指揮官に配る資料を作りながら金沢は答えた。

「そう。後は長官方が本土に帰還されたらこの基地も静かになるわね」

「あー・・・すみません、まだしばらくは落ち着かないと思います。長官には睦月達の演習を視察して頂き彼女達が戦力になる事を確認していただかないといけませんから」

その話を聞いて加賀は不機嫌そうに無表情を金沢に向けた。それに気付いた金沢が手を休めて顔を上げた。

「・・・聞いていません」

「すみません。忙しかったもので」

金沢は目を逸らしながら答える。

 「そういえば・・・ここに来る途中、指揮室が騒がしかったのだけれど。艦隊指揮は昨日のうちに終ったのではなくて?」

「はて?おかしいですね・・・」

資料の作成を再開しようとしていた金沢の手が止まった。

「今は当直の通信士しかいないはずですが・・・見てきましょう」

万年筆を机に置いて立ち上がり部屋の戸に向う。ついて行こうと腰を浮かせた加賀を手で制し、金沢はドアノブに手を伸ばした。が、金沢の手が届く前に戸が開いた。

「基地司令っ!」

「鳳翔さん!?・・・どうしたんですか?」

膝に手をついて鳳翔が戸を開けて立っていた。

「フ島より帰還中の飛行艇との通信が断絶したと・・・。すでに大都長官も指揮室にお越しですっ」

鳳翔は息を切らせながら報告した。

 

 

 金沢が指揮室に駆けつけると、通信機や海図に向っていた指揮官が視線を向けた。勢い良く開けた扉が金沢の後ろで軋みながらゆっくりと止まる。指揮官達が自分の仕事に戻り、金沢が段の最上段に顔を向けると大都はそこにいた。一瞬、最後まで金沢を遠巻きに眺めていた若い通信士が気まずそうに顔を背けて仕事に戻る。大都の隣では参謀の柳が冷たい目で金沢を見下ろしていた。

「・・・少将か、ちょうど君を呼ぼうと思っていた所だ」

大都は眉間に皺を寄せて言った。

 「何があったんですかっ!?」

金沢は壁沿いの階段を上りながら声を張り上げる。大都の表情を窺っていた柳が頷いた大都を見て話し始めた。

「・・・30分程前、不明瞭な通信を最後に帰投中の艦隊との通信が途絶えました」

状況を簡潔に説明する柳の言葉には少し棘があった。柳は続ける。

「通信士の報告から深海棲艦の襲撃を受けたと推測されます。そして先程・・・」

柳が言い淀んだので、大都が手元にあったモールス信号の打電用紙を摘み上げて話を引き継いだ。

「ついさっき赤城の艤装から直接送られた電文がこれだ。これはどういう事かね?」

 打電用紙を受け取り目を通して金沢は息を飲んだ。

「随分仲が良かった様だな?残念だが君は提督の立場を誤解していたようだ」

「・・・っ、これは・・・。何かの間違いです、身に覚えはありません」

「そうかね、君の艦娘への接し方や言動を見ているとその話し方のように大人しい訳では無さそうだが?まあいい、フ島攻略戦は一段落着いたのだしゆっくり話を聞こうじゃないか」

「待って下さい!では演習視察の件はっ?」

金沢は顔を青くして詰め寄る。

「言い出した本人が参加出来ないのでは中止せざるをえんな。衛兵!少将を別室に連れて行け!」

 

 

 「・・・鳳翔さん、どういう事ですか?赤城さんは無事なんですかっ?」

「私も詳しくは・・・」

加賀と鳳翔が遅れて指揮室前に到着し、鳳翔が内部の様子を窺う。加賀も鳳翔の頭の上から指揮室の内部を覗き込んだが金沢の姿は既に無かった。代わりに通信士の一人が叫ぶ声が聞こえる。

「通信、復活しましたっ!司令機より電文。赤城、信号に返答無しっ・・・最終視認点に多数の鱶、及び下級深海凄艦を確認っ!」

「詳しい状況を報告させろ!」

続いて大都の声が響く。

「・・・赤城さん?」

頭上で加賀の声がして鳳翔が振り向くと直ぐ傍で加賀が表情を強張らせていた。

「・・・少し話を聞いてきます」

「・・・加賀さん?」

加賀は鳳翔の静止も聞かずに指揮室に入っていった。

 「この戦時に浮かれおって・・・」

大都は舌打すると電文が打たれた紙を破きながら言った。

「大都長官、赤城さんに何かあったのですか!?」

加賀は大都に詰め寄った。

「なんだ君は!」

「今は関係者以外立ち入り禁止だ!」

大都は破いた紙を手で丸めて机の上に投げ捨てる。皺になった切れ端で紙の正体に気付いた加賀は破れた打電用紙に手を伸ばした。

「君は・・・加賀か。今は出て行きたまえ」

衛兵に取り押さえられる加賀を見下ろして大都は言った。

「待って下さい、それは赤城さんからなの!?」

加賀が肩を掴む衛兵の手を振り解こうともがき、ぶつかった大都をよろめかせる。

「・・・連れ出せ」

大都は襟を正しながら衛兵に命じた。

 「急ぎ無事な者は帰投せよ、護衛に54号隊の戦闘機を追加で向わせるんだ・・・!」

衛兵に連れ出されながら加賀は大都が指揮を執る声を聞いていた。加賀の目には大都がよろめいた拍子に床に落ちた、しわくちゃになった電文が焼きついていた。

 

 

>>>To be contemew【12話 罪か罰か】

 




 前回の引き際といい今回といい、加賀さんのキャラ崩壊が酷いです。感情むき出しで暴走してますね。当クールでカッコいい加賀さんを書きたいという当初の目標はどこへ行ったのやら・・・。まあ無表情なクーデレ娘が感情曝け出してるのは見てて楽しいですから仕方ないですね(ゲス顔)ほら、歌にもあるじゃないですか。♪いつもならー、クールーでー感情、表に出ーないそんな加賀だから、剥きだしのー苛立ーち可愛い(確信)どうも加賀さんをからかいたい作者の胡金音です。いきなりですが問題です。今どこまで歌ってたでしょうか?

 それはそうと本当は今回の最後のシーンが10話の最後に来るぐらいで書きたかったんですけど1話分伸びてるんですよ。書置きしたシーンがどんどん先延ばしになる無計画っぷりです。この調子で伸びて行ったら最終話なんて5個ぐらいに分割されるんじゃないですかね?“上”“中”“下”“下続”“下続々”“下(その3)”みたいにいつまで経っても終らなくなりそう。
AD「なんでだよ」
無計画に出してない設定はコロコロ変えて自分自身設定を把握し切れてないからじゃないカナー?
AD「ああ、それで前話で盛大にやらかしてたのか」
うん、鳳翔さんの部屋がタイムマシンになってたね。伊勢さんが30分ぐらい時間遡行してた。
AD「なあ、胡金音。前書きでも言ってたけどそんなミスまでして毎月更新に拘る必要あるの?そんなとこまで気にするほどこの作品気に掛けてくれる閲覧者が居るとでも思っ」
それ以上はやめて!

 さて。長々と蛇足書くのもどうかと思うので、年末特番見ながら書いていた11話及びその後書きもそろそろ終りましょうか。
AD「ん・・・?ちょっと待て“及び”って事は本編も“ながら作業”だったのかよっ!」
だって・・・万引きGメンのドキュメントが・・・、チーターズが・・・。
AD「世界○見えかっ!?ついさっきじゃねぇか!また更新前に慌てて書いたのか?・・・あっ、逃げたっ!・・・あー、年の瀬にも関わらず締まらない終わり方になりましたが、ここまで読んで頂きありがとうございました。今、筆者が落として行ったカンペに書いてあったのですが次話のサブタイトルは試作品で変更の可能性が在るそうです。インスタント麺のパッケージかっての。それでは皆様、良い新年をお過ごし下さい。さよなら~」


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十二話 すれ違い

R-12Gぐらいの欠損描写注意!アイスモナカ食べたい!


 「各艦娘に告ぐ。我軍の上陸部隊が敵泊地本部の制圧に成功した。台港より航空隊が到着し次第本作戦における連合艦隊の任務は終了とする」

赤城が急遽参加することになったフ島攻略作戦はそんな無線連絡と共にあっさりと終結を告げた。

「赤城、聞いたか?」

赤城が艦載機を収納していると近くで手持ち無沙汰になっていた長門が声をかけに来た。

「ええ、連合艦隊まで組んで来た割にはあっけなかったわ」

「ああ・・・向こうの艦娘を見かける事も無かったから結局私も上陸支援に参加していたよ」

戦争相手とはいえ同じ立場の艦娘を手に掛けずに済んだものの啖呵を切った手前、長門は気まずそうに言った。

「お互いになんだか拍子抜けね」

未だ島の内陸からは時折発砲音が聞こえている。司令部陥落の報が届いていない合衆国部隊との交戦が続いているのだろうか。プロペラ音が聞こえ2人が空を見上げると艦娘部隊を収容すべく、トラックから連合艦隊を乗せて来た飛行艇が着水しようとしていた。

 

 

 日没前、行きと同じく5機の飛行艇は艦娘達を乗せて離水した。ただし本土から派遣された艦娘はそのまま本来の持ち場に帰投する事になっている。と言う訳で、長門と別れた赤城は同じくトラック泊地所属の吹雪、白雪、そして攻略した泊地で接収した資材に同乗して南に向っていた。吹雪、白雪は作戦の疲れから出発後早々に眠ってしまい、最後まで起きていた赤城も窓から見える真っ暗な海を眺めているうちに眠りに着いた。

 「なんだ・・・?」

「ん?あれは・・・棲艦だ。進路上に敵機っ、棲艦機多数接近!」

「この辺りの制海権は取っているんじゃなかったのか!」

「会敵!散開しますっ・・・、2番機がやられました!司令部との通信断絶・・・状況が届いたか確認できません!」

「増援は?」

「この場所だと早くとも2時間内外です!」

「直衛機は何をやってるんだ・・・!」

 翌明朝、泊地まで行程の3分の1といったところで赤城は操縦室に続く扉越しの騒動と急旋回による重力、続いて始まった機銃音に目を覚ました。

「どうしてこんなに沢山の棲艦機が急に・・・」

既に目覚めていたらしい白雪の言葉に赤城は反射的に窓の外を窺う。航空機特有の狭い窓から見えるだけで近くの棲艦機の数は3機。飛行艇が旋回を続ける中、遠くには十数機程の棲艦機が向っているのがちらりと見えた。対する護衛の烈風は全部で15機。窓から見えない位置を飛ぶ棲艦機も居る事を考えると全体数で圧倒的に不利な事は想像に難くない。彼女の視線の先で飛行艇が煙を上げ始めた。

「駄目・・・これじゃもたない」

赤城は状況を認識すると直ぐに行動に移った。

「あ・・・赤城さん!?」

いつの間にか起きて顔を青くしていた吹雪の声を振り切って赤城は機体前方の扉の向こう、操縦室に乗り込んだ。

 赤城の予想通り、操縦室の大きな窓からは1機の烈風が3機の棲艦機を相手に奮闘しているのが見えた。烈風は性能では勝っているが鈍足の飛行艇を護衛しながら戦っている為戦況は芳しくない。

「機長さん!私が予備の落下傘で降りて棲艦機を叩きます!その間に離脱してください!」

「ああ?」

赤城の提案に飛行服を着た中尉は一瞬迷惑そうに振り返り、直ぐに正面に向き直る。

「・・・馬鹿を言うな!今降りたら敵の良い的だ」

中尉は操縦幹を握って棲艦機の銃撃に備えながら言った。

「しかし、この数の差では全滅も時間の問題です!」

「機内からの迎撃は出来ないのか!?」

「私の艤装は航空機で使う事を想定していません!最悪、艦載機がこの機体にめり込みます」

「では海の娘は大人しくしていろ!俺の一存では・・・つかまれっ!」

 左方向から曳光弾の雨が一列に近付いて来るのに気付いた中尉が叫び、そのまま操縦幹を思い切り捻って銃撃を避けようとする。しかし銃撃が一旦止んだ隙に機体後方の機銃手から主翼の端が欠けたとの通信が入った。

「・・・そんな事、言ってる場合ですか!?状況を見てください!」

手摺に掴まって回避の間なんとかその場に踏みとどまった赤城が激昂する。

「・・・分かった、もう好きにしろっ!」

中尉はそう赤城に伝えると部下にこの事を司令機へ連絡するように命じた。

 

 

 操縦室を出た赤城は元居た座席の脇を通り過ぎると、そのまま座席の後ろに固定されている自身の艤装を用意し始めた。

「赤城さんっ、本気ですか!?」

操縦室での一連の話を聞いていたらしい吹雪が赤城の後を追って来て言った。その後ろでは白雪も心配そうに見守っている。

「ええ、他に方法は思いつかないわ」

赤城は手早く艤装を装着しながら言った。

「じゃあ私も行きます!」

「駄目よ。それより白雪さんと降下中の援護をお願い、対空機銃ぐらいなら反動で機体が壊れる事も無いから。今からする事は降下中が1番危険なの」

「・・・分かりました」

吹雪は素直に赤城の言葉に従った。

「お気をつけて・・・」

「ありがとう。・・・あまり身を乗り出して落ちない様にね」

白雪の言葉にそう応え、艤装を用意し終えた赤城は2人の頭を軽く撫でると乗降口の引き戸を開けて機外に身を投げ出した。

 

 

 「げっ、ほんとに降りやがった・・・」

操縦室では傾けた機体の窓から下方で開いた赤城の落下傘を中尉が見つけていた。落下傘から曳光弾が光って飛んでいく。上空からは傘の影になって見えないが赤城は対空機銃を使って寄って来る棲艦機を追い払っていた。それでも彼女を射程内に納めた棲艦機には飛行艇後方からの射撃が襲い掛かり攻撃を妨害している。中尉が窓を開けて射線を辿ると吹雪と白雪が片手で登場口の手摺に掴まって棲艦機を狙っていた。

「・・・無茶しやがる」

「機長!司令機より各機火急速やかに戦闘空域を離脱せよと指示が下りました!」

「了解・・・当機は全速力でこの空域を離脱する。機銃手は敵機の追従を許すなっ!」

中尉はスロットルを押し込んで機首をトラック諸島へ向けた。

 

 

 数分間の降下の末、赤城は海上に着水した。海水を感知した艤装が直ぐに起動して赤城の身体を守り始める。

「痛っ・・・さすがに空戦中の降下は無理があったか」

降下中ずっと撃ち続けていた為、機銃が熱を帯びている。銃身を海水で冷やそうと前かがみになった際、赤城は少し呻き声を上げた。押さえた脇腹に血が滲んでいたが艤装の効果で出血は既に収まり始めていた。

「それにしてもあの艦影は・・・」

 降下中に凄艦機を放ち続ける母艦の姿を確認していた赤城は銃身を冷やすと直ぐに立ち直り矢筒に手を伸ばす、がその前に上空での爆音に宙を仰いだ。赤城の鋭い視力が黒煙の中に翼端だけになった緑色の機体を捕らえる。艦娘の艦載機は人工知能による半自動操縦で飛ぶが、地面や海面に降りる為に降下地点が動いて微調整する事が出来ない陸上機や飛行艇等は人間が乗り込んで操縦する事になる。飛行艇の空路を護衛する為にトラックの滑走路から飛び立った烈風の落下傘は開かなかった。

 一瞬、赤城の指が矢筒の流星と烈風の間で迷う。赤城が深海凄艦の方へ視線を戻すと正面から彼女に向って急降下する棲艦機の群れが目に入った。

「・・・こっち」

赤城は3本まとめて艦載機を抜き取ると2本を中指から小指で挟んで1本を射た。残りも続けざま弓に構えて射る、その間数秒。3本の矢は9機の烈風になって迫り来る棲艦機を次々に爆ぜさせる。数機の棲艦機が墜ちる直前に落とした魚雷はあさっての方向に走っていった。烈風は1機も欠ける事無く曲芸の様な急上昇を見せて上空で戦域を離脱する飛行艇とその直衛機にしつこく纏わり付く棲艦機に向って行った。

「加賀さんも提督も居ないのだからしっかりしないと」

赤城は自分に言い聞かせながら次の手を打つ。赤城の放った流星は一直線に対峙する小柄な深海凄艦に向う。無邪気な笑みを顔に浮かべのその相手は自分に向ってくる攻撃機を落とすべくさらに棲艦機を展開させた。

 

 

 赤城と深海棲艦の海戦はまさに消耗戦の様を成していた。棲艦機の攻撃は激しく、最初の流星を放った赤城はさらに9機を飛行艇護衛の増援に向かわせた。そして残りの烈風すべてを自身の護衛に当たらせている。それでも時折迎撃し損ねた棲艦機が雷撃や爆撃を仕掛けて来るのをかわしながら赤城は流星を深海棲艦のもとに送り込み続けているが、未だ艦載機の発艦を止める程の被害を与える事は叶わなかった。そして赤城が背中に伸ばした指は矢筒に残った最後の羽に触れる。

「くっ」

歯軋りしつつ残った流星を温存する事にした赤城は矢をそのままに数十メートル後退した。

「・・・また?」

魚雷や爆弾で狙ってくる艦載機に気を配りながらも赤城は深海棲艦の動きに疑問を抱いていた。深海棲艦は赤城が後退した距離よりも数メートル長めに詰める。赤城が海上に降下した時と比べて両者の距離はかなり縮まっていた。

 遠距離攻撃を基本とする空母同士が戦闘になった時は互いに距離を保ちながら艦載機で戦うのがこの世界では定石で相手の空母が近距離にいると互いに戦いにくいだけになる。近距離戦が得意な駆逐艦や軽巡洋艦が随伴しているなら話は別だがその姿は見当たらない。同じく近距離戦が得意な潜水艦を連れているのなら赤城が棲艦機の攻撃を避けている間にいくらでも攻撃の機会はあったはずだ。そして深海棲艦の動き以前に赤城が今まで相手にした棲艦の空母とは外見が異なり過ぎていた。

 赤城が深海棲艦の考えを読めずにいると、棲艦はその隙を突いて一気に赤城に接近した。それに応じて赤城は再び距離をおこうとする。脚部艤装が呻りを上げて波を掻くが間合いの縮まった一瞬は、相手を純粋な空母だと思い込んでいた赤城の意表を突くには十分な時間だった。けたたましく嗤う深海棲艦の砲口から5本の魚雷が飛び出す。

「なっ!?」

駆逐艦娘なら初めての実射訓練で魚雷の的があるような近距離から放たれた雷撃に対して赤城は身を翻す。しかし対艦娘用に作られた魚雷の信管が脚部艤装を掠めていく。一瞬の間を空けて魚雷は炸裂した。

 

 

 数十分後、そこには海面に仰向けになって浮く赤城の姿があった。周囲に深海棲艦の姿は見えない。

「くっ・・・これじゃ、もう帰れないわね」

意識を取り戻した赤城は自身の足元も見て呟いた。その視線の先では脛から先が千切れていた。

 艦娘は一定以上の出欠を伴う傷を負うと体内の艤装が作動し痛覚が遮断されるようになっている。少しでも長く戦闘に集中させる為だ。しかし今の赤城には残った流星に深海棲艦を追撃させる事はおろか、いつの間にか艦載機諸共いなくなった深海棲艦を探す事もままならなかった。

「ああ、こんな事になるなら・・・。あの時無理にでも伝えておくんだった・・・」

赤城は震える指でゆっくりと、艤装の通信機から55号基地の金沢に電文を打ち始めた。

 しかしこの電文は後に金沢よりも先に大都に届けられる事となる。

 

 

 

 「やっぱり・・・ここの最中は最高ねっ!サックサクの皮の吸い付くような食感とこの特製粒あん!」

まずは一つ、最中を食べ終えて赤城は満面の笑顔を見せた。

「小豆の粒の変わりに入ってるパイナップルの欠片を噛んだ時に出てくる果汁とあんこの意外な組み合わせが良いのよ。パイナップルの欠片が大きかったり入れすぎたら果汁の酸味があんこの甘みを駄目にしちゃうの。一度、食堂の設備を借りて作ってみたけど・・・」

 演習での夏島出張中、赤城と加賀は市街地のある喫茶店を訪れていた。

「赤城さんはまたそんなに注文して・・・」

向かいの席に座った赤城の姿が半分見えない程に大皿いっぱいに積み上げられた最中の山

を見て加賀は呟いた。

「・・・半分頂きます」

そう言って加賀は最中の山に手を伸ばす。

「むむん・・・!」

加賀の手が最中に触れる寸前、最中でいっぱいの口の変わりに伸びて来た赤城の手が講義した。

 「どれだけ食い意地張ってるんですか・・・」

加賀は呆れた表情を見せたが直ぐに少し笑って言った。

「冗談よ、今日は赤城さんの大尉昇進祝いなのだから・・・思う存分食べて下さい」

それから店員を呼ぶと加賀は言った。

「すみません・・・これと同じものをもう一皿お願いします」

「は?・・・これと同じ量をですか?南国最中の特盛りを?取り分け用の小皿ではなく?・・・はあ、畏まりました」

店員は何度か確認すると伝票を書き換えて厨房に注文を伝えに向った。

「まーた、加賀さんもそんなに注文して」

赤城が楽しそうな声で言い返す。加賀はそんな赤城に向き直ろうとして・・・

 布団の上で目を覚ました。

 

 

 夕べ障子を閉め忘れた窓から青紫の空が覗いていた。加賀は日の出前の暗闇に慣れきった目を右隣に向ける。いつもならそこに居る筈の彼女は居ない。しばらくの間、加賀は何も無い畳の上を見つめていた。

 昨夜、消灯後。加賀は昼間の騒ぎが嘘だったかのように静まり返った指揮室を訪れた。窓の形に切り取られた月明かりがぼんやりと照らす誰も居ない指揮室の段を上っていくと、大都が破り捨てた打電用紙だった紙屑はそのまま放置されていた。加賀はそれらを一つ残らず拾い上げると手近な机に広げて並べ直す。打電用紙は元の形になって打ち込まれた点と線が再び一直線に並んだ。

 

“カネサワモリトサマズットオシタイシテイマシタ”

 

「そう・・・赤城さんは・・・最期に提督へ想いを打ち明けたのね」

加賀は用紙を愛おしそうに撫でながら語りかけた。皺になった紙の一欠けらが指に押さえられて言葉に応えるかのように小さく跳ねた。

 やがて、彼女はそっと電文をまとめて懐に仕舞うとその場を後にした。

 

 

 秘書艦代理になってからというもの始業前には金沢の執務室に赴くのが加賀の日課になっていた。しかし一昨日赤城からの電文が届いて以来、部屋の主は泊地本部で大都長官率いる派遣指揮団に取り調べや身辺調査を受けているとかで一度も帰ってきていない。本来の上司である北間大佐は未だ攻略先から帰っておらず代理の上司も居ない今の彼女の仕事といえば朝、金沢宛の郵便物が届いていれば彼の執務机に置いて周囲を簡単に掃除をする程度になっており、日中は自主的に事務部や整備部の仕事を手伝っていた。起床した加賀は身支度を済ませ朝食を取るといつもの様に郵便物の確認に向っていた。

「・・・・・・まったく、どうなってるんですか?この基地は!司令官は不祥事を起こすし、艦娘は指揮中に怒鳴り込んでくるし」

加賀が廊下を歩いているとある一室からそんな声が彼女の耳に入った。そこは大都長官が連れて来た部下がトラックに滞在する間の控え室としてあてがわれた部屋だ。

「それにしも見に覚えの無い事、ですか。酷いものですね」

「全く相手の艦娘も可哀想になぁ。最期の間際に送った告白をあんな風に言われるなんて思わなかったろうに・・・まあ司令官は金持ちの一人息子だから仕方ないとして、艦娘の方は姉妹が居なくなった矢先に長年の相棒まで失って荒れてたのかもな・・・」

「そういえばここの加賀って先月事故で沈んだ土佐の姉でしたっけ?」

加賀は眉間に皺を寄せてその場をその場を後にしようとした。

「ああ。土佐っていえばこの間妙な話を聞いたんだけどな」

「なんですか?」

が、妙な話という言葉が気になって立ち止まる。

「土佐が沈んだ事故って軍が仕組んだって話でよ。使わない艦娘の維持費と解体費を削って新造艦に回す為に使える艤装だけ取っ払って沈めたんだと」

「はぁ?・・・それどこで聞いたんですか?」

「横須賀で整備員が話してた」

「何かの聞き間違いじゃないですか?そんな事より早く本国に戻りたいですよ、いくらジメジメしてないとは言っても本土の暑さ方がまだ・・・・・・」

話の内容が変わったところで加賀は改めて歩みを進めた。結局、通信士達の噂話の続きは眉間の皺を深くしただけの様だった。

 

 

 55号基地には連絡用の掲示板が食堂や寮の玄関など数箇所設置されているが、その中のひとつは事務室前の廊下に掛けられている。そこには赤城が昨日の深海棲艦に寄る奇襲で戦没した事も掲示されていた。その隣には木製の棚。棚の枠にはそれぞれ基地に勤める職員の名前を書いた札が釘で付けられていて、基地に届く配達物は毎朝一番若い事務員によってここで各職員宛に仕分けされる。

「あっ、加賀さん」

加賀が金沢宛の郵便物が届いていない事を確認していると大端に呼び止められた。

「・・・何ですか?」

「ちょっと話があるんだけど、今から鳳翔さんのとこまで来てもらえないかしら?」

 

 

 大端に連れられて加賀が鳳翔の部屋に着くと鳳翔は申し訳なさそうに迎え入れた。

「私に何か・・・?」

「ごめんなさい、こんな時に。どうしても聞いておきたい事があったの」

加賀は小さく首を横に振る。

「いえ、私は構いません。・・・何かしている方が気が紛れて楽なのは土佐の時に学びましたから」

「・・・そう」

「・・・じゃあ、早速だけど本題に入りましょう。」

そのまま話を止めてしまった鳳翔にかわって大端は加賀に問いかける。

「単刀直入に聞くわ。今回の作戦前に本部で少将と長官の秘書が話していた事、もっと詳しく話してくれない?」

 加賀は改めて、以前大端に話したように長官秘書の正体は話さずに“表向きの事実”だけを告げた。

「んー、やっぱりそれだけ?でもあんな人目の付かないところで話し込むなんて何かあると思うのだけど?」

「いえ、私は基地司令が長官の秘書の方と話しているのを見ただけなので詳しい事は・・・」

「・・・加賀さん、何か隠している事があるなら教えてくれないかしら?」

「私は何も・・・」

ここまで聞かれる事に淡々と答えていた加賀だったが少しずつ怪訝そうな顔色を見せ始める。聞き手に徹していた鳳翔は意を決して口を開いた。

 「加賀さん、今までに貴女の周りで艦娘が不自然に沈没したり、事故死したりする事は無かったかしら?」

「鳳翔さんっ・・・!」

加賀より先に話の意図を察した大端が鳳翔を咎めた。鳳翔は静かに首を横に振る。

「・・・何故そんな事を?」

鳳翔は、艦娘が奇襲や事故と偽って不当に処分されていた事、もう直ぐ睦月達がその対象になる恐れがある事。それを阻止しようと動いているが、次回の演習が処分の舞台になる可能性があり時間が無く少しでも情報が欲しい事を話した。そして万一の時は鳳翔が睦月達を連れて基地から逃げ出すつもりでいる事も。

 「確かに・・・この基地に来るまでに同じ鎮守府所属の艦娘が奇襲や事故で沈む事は何度かありましたし、ついさっきもそんな噂話を耳にしたところです。しかしどれも憶測に過ぎないのでは?」

「つい最近、この基地でもあったんです。艦娘の処分が」

「・・・貴女達がここに来る少し前、私の部下に出撃指令が出たの」

鳳翔に促されて話を引き継いだ大端は続けた。

「当時、私が受け持ってたのは睦月型駆逐艦娘・・・今居る子達が貴女と一緒に来る前に居た睦月達でね。作戦担当指揮官は当時の基地司令だったから私が指揮を執る事は無かったのだけれど、輸送艦2、3隻を護衛するだけの筈が棲艦の奇襲だとかで全滅。その時は辛かったけれど、なんだかんだ言っても戦闘職だもの。そういう事もあるわ。」

「・・・その奇襲がいわゆる処分だった、と?」

「そのようね。ちなみに今の基地司令は実習として当時の基地司令直属で働いていて実質ここの責任者だったから、この事を知っていても何らおかしくは無いわ」

「・・・そんな事が」

加賀は顎に手を当てて考え込む。

「ええ。加賀さんがここに来る前の話ですけどね」

 「なるほど・・・それで・・・」

「どうかした?」

「・・・赤城さんが攻略に出発する前、睦月型艦娘の正装だけ先に用意されていたのが話題になった事があったんです」

「ああ。そういえばあの子達のお古がそのままだったわね・・・」

「・・・この事、赤城さんにも話したんですか?」

加賀はふと2人に訊ねた。

「ん?」

「え?」

鳳翔と大端が顔を見合わせる。

「提督は話されました?」

「ううん、鳳翔さんは?」

「いえ、私からは・・・」

「・・・他に話しそうな方は?」

「そもそもこの件を知っている人間が殆ど居ないわ」

訝しげに尋ねる加賀に大端が答えた。

「・・・赤城さんが何か言っていたの?」

鳳翔に尋ねられて加賀は出撃直前に飛行場で赤城と話した内容を伝えた。

「分かっちゃった事、前の子達が置いていった・・・ね。確かにこの事とも取れなくはないけど・・・」

「では・・・赤城さんはどこでこの事を?」

加賀の問いかけに答える者は居ない。始業時刻が迫って、この日は結論の出ないままお開きになった。

 

 

 鳳翔の部屋を後にした加賀が主の居ない部屋の掃除をするつもりで金沢の執務室に来ると、そこには2日ぶりに自身の席に戻ってきた金沢の姿があった。

「・・・お疲れ様です」

加賀は少し眉を上げて意外そうに言った。金沢が疲れた顔で笑みを向ける。

「毎日連絡物を届けてくれていたんですか?」

「秘書代理ですので・・・今日は何も届いていませんでした」

「そうですか、ありがとうございます」

「提督、お話があります」

加賀はおもむろに金沢の前に立つ。

「なんですか?」

「赤城さんの決別電報の件です」

「ああ。昨日まで散々尋問されましたよ。艦娘に色目を使って風紀を乱していたのか、って。お陰で大変な事になりました・・・要件は?」

「・・・赤城さんの気持ちを聞いてどうお考えになって?」

憮然とした面持ちで加賀は尋ねた。

「・・・彼女は優秀な秘書艦であり、掛替えの無い友人でした。彼女の想いには薄々気付いていましたがその気持ちは変わりません。」

「知っていた・・・?」

「はい」

「・・・いつ、から・・・?」

加賀は言葉に詰りながらなんとかそれだけの言葉を発した。

「いつだったか、噂になっていたのを話題にした時と出発直前の態度で。いくら僕でも気付きますよ」

その直後、加賀は金沢の胸倉を掴んでいた。

「・・・どうして!赤城さんの気持ちが分かっていたのならっ・・・どうして、赤城さんが面倒事を引き起こしたみたいな言い方・・・」

「すべき事がありました。しかし、あの電文で・・・すべて水の泡になってしまった!」

金沢は加賀から目を背けて言い放った。そして胸倉を掴む加賀の手を制服の襟から引き離させる。

「・・・すみません、ここ数日で溜まっている仕事があります。加賀さんは暫く休んでいてください」

金沢は強い口調で告げると加賀に背を向けて執務の準備し始めた。

「このままでは赤城さんが、あまりにも・・・。基地司令・・・見損ないました」

「もう用が済んだのなら出て行って貰えますか?」

声色を荒げて金沢は言った。

「・・・失礼します」

加賀は俯いて部屋を後にした。

 

 

 加賀が下唇を噛んで部屋を後にして直ぐ、金沢は左拳で思い切り執務机を叩いた。

「くそっ・・・彼女に当たってどうするんだ・・・。早く何か手を打たないと・・・」

 

 

 派遣指揮団の通信士達が撤収準備をする廊下を宛ても無く重い足取りで進む加賀にある仮説が浮かんだ。その足で事務室前へ向い廊下の掲示板に目的の物を見つける。

「まさか・・・だとしたら赤城さんは・・・」

 

 

 その翌日、事務室前を始めとした連絡板に金沢の身辺調査の結果と辞令が新たに掲示された。内容は艦娘と不適当な関係を持ったとして降格及び左遷を告げていた。金沢は後任の司令官が到着し次第、対深海棲艦の前線へ異動する事となった。

 後任の基地司令が乗る飛行機は今日撤収した指揮団と入れ違いに、5日後到着する。

 

 

 「鳳翔さん、前の事でお話があるのですが・・・大端提督にもご一緒していただけますか?」

加賀が鳳翔にそう声を掛けたのは金沢の左遷が発表されてから2日後、金沢が基地を去る3日前の夕食後の事だった。加賀の申し出を承諾した鳳翔は残業で夕食が未だだった大端に声を掛け、彼女と共に寮の部屋で大端を待っていた。

 30分後、2人が待つ部屋に来た大端は開口一番こう言った。

「加賀さん、貴女まさか基地司令に話したりしてないわよね?」

「ご心配なく。今日は一つ提案に来ました。」

「提案?」

「ええ。・・・脱走なんてせずにここで立て篭もってはどうかしら?」

 

 

 「・・・今ならフ島攻略作戦用に運び込まれた資材が残っています」

提案の内容を長々と話し終えた加賀はそう言って話を纏めた。

「それでも精々ひと月・・・いえ、艦娘の決起なんて前例が無いから分からないわね。仮にそこまで上手くいったとしていつまでここに立て篭もるつもり?」

大端は冷静に尋ねた。

「戦時の今だからこそ泊地での反抗は短期でも交渉材料になるのではないかしら?この方法ならば失敗しても混乱に乗じた脱出の機会はあります」

「でも、だからと言ってそんな事・・・」

提案に戸惑う鳳翔を手で制して加賀は言った。

「それに・・・もしかすると提督と鳳翔さんと提督が何か企んでいる事に基地司令はもう気付いているかも知れません」

「・・・何ですって!?」

大端が声を荒げる。

「実は・・・例の長官秘書の方は海軍情報部員で基地司令にこの基地の内部調査がある事を事前に漏らしていたそうなんです」

「憲兵隊や情報部員が将官の護身を受け持つ事があるのは知っていたけれど・・・」

鳳翔が少し驚いて言葉を零した。

「・・・その内部調査は少将が受けていた事情聴取の事じゃないの?」

「事情聴取は赤城さんの件で急遽行われた事かと・・・。長官秘書の調査対象が基地司令なのだとしたら当の調査対象に情報を零して得られる利益が無いですし、長官秘書に情報を零して基地司令を擁護するような接点があるとしたら情報部はそのような人選をしないと思います。あえて基地司令に近い人物を起用し情報を零す事で基地の調査をしやすくした、といった事は考えられるのではないでしょうか。基地司令は詳しい調査内容までは聞いていないと仰っていましたが、調査対象が鳳翔さんや大端提督であるなら艦娘である私のからの情報漏洩を恐れた基地司令が話の一部を伝えて重要な部分で嘘をついたと考えれば自然です。実態までは掴めていないにしてもこの基地で何か企んでいる、くらいまでは知っていてもおかしくありません」

 

 

 数分後、大端は随分重くなった口を開いた。

「・・・私は加賀さんの案に賛成よ」

「提督!?」

鳳翔がその内容に驚いて声を挙げる。

「基地司令が5年前の処分の件を知っていて従っていた、そして今この事に気付いているのなら泊地から脱出する時に何等かの形で妨害してくるでしょうし、本国に通報されたら海岸への接近も難しくなるんじゃないかしら?」

「でも・・・」

「鳳翔さん。脱出出来たとしても、このまま処分が通例になってしまったら人知れず艦娘が沈められ続ける事になります。それは鳳翔さんも望んでいないはずです」

それに処分の件は殆ど知られていないのですよね?」

加賀が2人に確認する。

「・・・ええ、私が知る限り佐官や艦娘には極秘扱いみたいです」

鳳翔が狼狽しながら答えた。加賀は話を続ける。

「・・・赤城さんが口封じの為に沈められたのだとしたら既に私達も危険です」

「どういう事ですか!?」

鳳翔は顔を青くして言った。

「赤城さんは基地司令の秘書艦でした。私達と違い、何かの拍子に司令が隠しているであろう処分に関する資料を目にしてしまう事は考えられます。」

「待ってください!司令は青葉さんの為に目上の司令官にも意見される様な方です。たしかに基地司令に話は通っていると見て良さそうとは言いましたが・・・基地司令がそこまでされるとは思えません!」

鳳翔は言い返したがその言葉に応えたのは大端だった。

「・・・衣笠の件ね。でも少将は指示しただけで実際に52号まで出向いていたのは私や栗崎さんよ。・・・あまり考えたくは無いけど、今となっては処分の件で本部に何度も出向く間、私達の目を外に向けておきたかったとも考えられるわ」

「では提督は衣笠さんの沈没にも基地司令が関わっていたと仰られるのですか?」

「そこまでは言って居ないわ。第一、衣笠の時は何人もの艦娘が深海棲艦に沈められるところを見ているじゃない」

大端はいなす様に答える。

「奇襲で沈んだとしか知らされていない・・・赤城と違って不自然な事があれば誰かが気付くはずよ」

途中、彼女は加賀の様子を横目で窺いつつも最期まで言い切った。

 「それで、鳳翔さんはどうされますか?」

加賀は全く表情を変えずに尋ねた。

「少し・・・少し考えさせて下さい」

鳳翔は額を押さえて言った。

「分かりました。では・・・基地司令がここを去る前日までに決めて下さい。準備の事を考えるとそれ以上は待てません」

 

 

 そして5日後・・・。

 

 

>>>To be contemew【13話 彼女の報復】

 




 今回かなりの量の伏線を回収しましたが・・・伏線を張り忘れたのに回収だけしたとか、回収し忘れていないか心配になっています。どうも、筆者の胡金音です。
「それにしても早速変更したな。サブタイトル」(※前回の後書き参照)
おやADさん。今回は登場早いね。ぶっちゃけ本編はまだ書いてる途中なのにサブタイトルだけ付けるなんて胡金音には早かったんよ。
「早かったと言いつつちゃっかり本編の最後に例の一文書いてるじゃねーか」
1話を書いていた頃に予定していた展開を何度もがらっと変更しつつ書いているこの作品ですが、ここは殆ど変わっていないシーンなので展開に変更は無いと思います。だからサブタイトルの変更も多分ないかなーって・・・。
「言ったな?」
お、ぉぅ。
「声が小さいな!?」
まあ、今回のサブタイトルは割と分かり安いし?2話みたいに、サブタイトル回収のところまで話し進まなくてもどっかで言い争わせれば良いし?
「こら、ヤメロ。・・・って、ん?最近サブタイトルちゃんと回収してた?」
あー、最近は抽象的なサブタイトルが続いたからねー。
「八話辺りから?」
うん、九話以外はそう。ちなみに八話の“波まに”は流されてく感じ。
「感じ?・・・じゃあ十話は?」
そう、今思えばあれが“キッカケ”だったのだ。しかし私がその事に気づくのはもう少し後の事だった。的な。
「十一話。これは似たようなタイトルの有名漫画があったな・・・パクった?」
そう、今思えばあれが“始まりの第一歩”だったのだ。しかし私がその事に気づくのはもう少し後の事・・・。
「同じじゃねーか!!」
パクってないし。
「全く・・・適当にサブタイトルつけやがって。今に読者に愛想付かされるぞ?」
失踪とかはせずに頑張るので最終話までゆっくりしていってね♪
「やれやれ・・・それでは次回、【13話 彼女の復讐】もしよろしければ気長にお待ち頂けると幸いです」
復讐じゃなくて報復な。
「ぐっ・・・」


>>>To be contemew【13話の後書き】


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十三話 彼女の報復

こがね は ―――(ダッシュ) を つかった ひょうげん を おぼえた !
こがね は とりあえず こまったら ―――(ダッシュ) で ごまかそう と している !

※話の展開上、今回からしばらくの間、艦娘のキャラ崩壊が特に酷いです。予めご了承下さい。



 「・・・本当に良いのですね?」

「ええ・・・致し方ありません」

「そう。事を起こす以上は全力でぶつかるわよ」

 

 

 新提督着任の日の朝が来た。換気の為に開かれた執務室の窓からは基地に設けられた食堂の賑わいが喧騒となって小さく聞こえている。今日この基地を去る彼と入れ替わりに着任する提督の到着まで数時間を切っていた。“艦娘との不適当な交際”を理由に降格となった基地司令、金沢准将は腕時計から顔を上げると机の上に纏められた始末書の束を手帳や数冊の本と一緒に黒い光沢を放つ革の抱鞄――ブリーフケースに詰めた。机の上には1封の封筒が残された。

「さて・・・後はこれを誰かに託して・・・」

そう独り言ちた金沢の顔には疲労の色が浮かんでいた。

 封筒を空になった引き出しに仕舞うと、金沢は廊下に出て用具箱の雑巾をきつく絞って帰ってきた。くつろぐ事を殆ど考えていない執務室だが、数少ない私物も取り払った今は備え付けの家具と基地所有の書籍ぐらいしか残されていない。雑巾の通り道を邪魔する物が無い部屋で金沢は順調に拭き掃除を始めた。休憩用にと、給湯室から持ち出したカップや茶葉を仕舞っていた棚に取り掛かり、溝に溜まった埃を拭き取ろうと引き戸を開く。

「・・・・・・」

金沢は目に留めたコーヒー豆の缶を手に取ると“ベトナム産 検疫済”と印刷されたシールが貼られたままのそれをいつでも発てるように用意した抱鞄の隙間に詰め込んだ。

 

 

 「おはよう御座います、基地司令」

金沢が掃除一通り終えた頃、いつものように加賀が執務室を訪れた。

「ああ、おはようござ・・・」

顔を向けて加賀の姿を見た金沢は雑巾を持つ手が止めた。

「・・・加賀さん、その格好は一体どう言うつもりですか?」

加賀はまるで出撃準備が出来たと報告に来たかのように艤装を装備して弓まで携えていた。

「私の顔に何か付いていて?」

明らかにとぼけた様子で加賀が言った。

「・・・その艤装はどういうつもりですか?」

金沢が繰り返し尋ねる。

「何かおかしい事でも?基地司令を見送るのですから艦娘が艤装に身を包むのは当然の事でしょう?」

「先日支給した正装があるでしょう。そちらに着替えて来てください」

「あれは儀礼用の物です。外部からの指揮官ならともかく、司令を見送るにはこちらが適当かと」

「せめて武装は解除して来て下さい」

「もう間に合いません。今頃全員に装備が行き渡っている頃でしょう」

「・・・しかし、」

「女の身支度には時間が掛かります。誰にも見送られずに出発するおつもり・・・?」

加賀は丁寧ながら、有無を言わさぬ口調でそう答えた。

 

 

 郵便物の有無を伝えに来た加賀が部屋を出た後、金沢はやってきた睦月達の自主訓練で洋上へ出たいという要望に許可を出した。

 やがて基地を去る時間が迫り、金沢が加賀の言動に不安を抱きつつも鞄を手に基地の入り口に着くと、そこは現指揮官に対する惜別と次の指揮官に対する期待と不安が入り混じって独特の雰囲気に包まれて――――居なかった。基地に所属する艦娘が門へと続く道沿いに一列に並んでいて一見、見送りの体勢になってはいる。しかし加賀を先頭に並んだ艦娘達の姿はただ見送るにしては重装備で表情も硬い。続く指揮官も見送るだけ、といった様子ではなかった。あまり評判が良くない憲兵が門外から物珍しそうにこちらを窺っている。その向こうでは彼らが乗ってきたであろう飛行艇が桟橋に浮いていた。

「基地司令。これは貴方の差し金ですか?」

階級順に並んでいて金沢に一番近い位置に居た三ツ屋が尋ねる。

「まさか。この後に実線訓練の予定でもあるんですか?」

「いえ。そんな予定はありませんが・・・。今、駆逐艦隊が洋上訓練に出ているくらいです」

金沢の誰にとも無しに向けた問いかけに、この場に居て基地に残る中では一番階級の高い栗崎が代表して答えた。

「そうですか?まあ、とにかく・・・あなた方にはお世話になりました。まだ北間大佐は出張中ですが帰って来られましたらよろしくお伝え下さい」

金沢は短く別れを告げる。

 「あ、それと大端中佐。ちょっと・・・」

それから金沢は門外で彼の出発を待っている憲兵に横目をやりながら大端に手招きして耳打ちした。

「この後、僕の机の引き出しに入っている手紙を読んで下さい。後任の方に見つかる前に・・・恥ずかしながら僕の力では及ばなかった。後は頼みます」

「は・・・?」

大端が意味を理解できずに発した一言を金沢は了承の意と取って大端から距離を置いた。

「金沢准将!本部で次期基地司令が引き継ぎをお待ちです。お急ぎ下さい」

憲兵の粗野な声が門外から入れた横槍に金沢は一旦すると艦娘が並ぶ沿道に身体を向けた。

「それでは・・・皆さんもお世話になりました」

金沢は手前から順に顔を見て先頭の加賀で視線を止めた。

「お元気で」

その言葉を最後に金沢は後任の司令官が待つ本部へと向う。加賀の前を過ぎ番兵の敬礼に見送られて金沢は基地の外へ足を踏み出した。

 

 

 金沢の背中を見送っていた大端が加賀へ視線を送った。それに気付いた鳳翔が不安げに眉根を寄せる。加賀は金沢の視界から外れたと同時に艤装を持ち上げる。

 銃声が基地に鳴り響いた。

 

 

 話は5日前に遡る。

「提案?」

「ええ。・・・脱走なんてせずにここで立て篭もってはどうかしら?」

訝しげな表情の大端に対して加賀はしれっと言った。

「はい・・・?」

鳳翔が突飛な提案に呆気に取られている。加賀は続けた。

「艦娘の待遇改善を求めて離反しましょう」

「・・・何か考えがあるのね。聞かせてくれる?」

大端が顔を向けて訊ねた。

 「鳳翔さんは間も無く艤装の耐用年数を迎える艦娘が処分されないように基地から連れ出したいのですよね?」

「ええ」

加賀は自分の考えを話す前に鳳翔に確認を取った。

「ですが専門の技師による体内艤装の保守が無ければ艦娘は長くは生きられません」

鳳翔の返答に加賀は事実を突きつける。

「それは覚悟の上です。でも、艦娘という制約の中で外の世界を、戦いしか知らずにあの子達が処分されるのは・・・もう、耐えれません」

鳳翔は即座に言い返したが後半は尻すぼみになった。

「そこで離反です。泊地を封鎖して全艦娘の不老化を、最低でも無理な艦娘運用の撤廃を軍から引き出します」

「封鎖なんてどうするの?」

大端が身を乗り出して話に割り込む。

「この基地や泊地の艦娘に協力を仰ぎます」

「そんな・・・関係の無い娘達まで巻き込む訳には参りません」

難色を示した鳳翔に加賀は答える。

「人知れず同胞が処分されていたと知ったら艦娘も他人事ではいられないはずです。・・・まあ、睦月さん達は未だ精神的にも幼いですから席を外してもらう事も考えますが」

鳳翔は今一つ納得していない様子だったが加賀は説明を続ける。

「・・・まず、5日後の基地司令の出発で出来る隙を狙って基地を占拠します。本来であれば基地司令の引継ぎ中は北間副司令が代理を務めますが大佐は陸戦隊の指揮で不在です。この間は書類上、金沢“准将”が引き継ぎ終了までこの基地の最高責任者という事になりますが基地で連絡を執れない以上、泊地本部に離反を知られるまでの時間を稼げます」

「ずいぶん急ね。用意は間に合うの?それに基地司令の護衛に憲兵が就く事を考えていないんじゃない?」

加賀はまず前者の疑問に答えた。

「今後、戦線が拡大して主力艦隊がこの泊地を拠点にした場合、決起は困難になります。戦況が落ち着くまで待っていては処分が決行されるかも知れません」

そして後者にも。

「それに私達艦娘からすれば憲兵など物の数では無いかと・・・」

「少々の手荒な事は想定内、という事ね」

大端はやや引きつった苦笑いで言った。

「私達はともかく、生身の提督方はどうするのですか?」

当の提督が苦笑いで済まそうとしているのを見かねて鳳翔が説明を求める。

「銃撃戦になったら早急に基地の内部に避難していただきます」

「基地司令は?基地を出る途中で私達と憲兵の間に居てもおかしくありません。もし銃撃戦にでもなったら・・・」

おや、と言った風に加賀が意外そうな顔をしたのを見て鳳翔は話を止めた。

「部下の艦娘を見捨てた基地司令なんて気にしなくても良いじゃないですか」

「・・・・・・」

加賀の言葉に鳳翔は絶句した。

 「あー・・・仮に立てこもるとして食料は陸戦隊の備蓄分があるから良いとして弾薬や燃料はどうするの?」

しばらくして大端が気まずそうに声をあげた。

「普段の備蓄量を考えると戦闘になったら数日分しかないわ」

「今ならフ島攻略作戦用に運び込まれた資材があります」

提案の内容を長々と話し終えた加賀はそう言って話を纏めた。

 この後、金沢が彼女らの企みに気付いているかも知れない事を加賀は話し大端は―――。

 

 

 銃声が基地に鳴り響いた。

 白い制服に赤い染みが広がり始める。加賀が向けた対空機銃は金沢に近づいた憲兵の足元に向けられて数発分の空薬莢が地面に転がっていた。放たれた銃弾のうち1発は金沢の脛の肉を抉って、残りは地面にめり込んで地表を数センチ押し上げている。自らの体重を支えきれずに上体を傾けて金沢が膝を付いた。鞄が地面に落ちてぱたりと倒れた。

「何のつもりだっ!!」

慌てて数歩下がった憲兵が吼える。

「金沢司令、“合図”が遅いので独断で撃たせて頂きました」

加賀の一言に憲兵の怒りの矛先が数歩前で呻きを堪える金沢に移った。

「・・・そうですか。何事も無く出発出来るとは思ってはいませんでしたが、最初からそのつもりで・・・」

金沢は俯いたまま小声で呟いた。目の前で憲兵が機銃を構える音が聞こえた。金沢は大きく息を吸った。

「総員、砲塔構えっ!!加賀っ、機銃の撃ち方を忘れたかっ!」

その場の全員に聞こえる大声で叫んだ。まるで示し合わせていたかの様にその場に居る、加害外の艦娘が各々の兵装を手に身構えた。驚きで目を見開いている加賀を背に金沢は自分達に機銃を向ける憲兵達に続けた。

「彼女達は深海棲艦を相手にする事を想定した訓練を日々行っています。そんな豆鉄砲でうちの艦隊が破れるとでも思って居るんですか?」

「貴様・・・何をしているのか分かって居るのか?」

憲兵が苦い表情で金沢を睨む。金沢は低い位置から睨み返す。

「・・・勿論です。我々55号大隊は皇国軍を離反します」

 

 

 憲兵隊が実に不満気に撤退して行く。その姿が飛行艇の中に消えてようやく加賀は警戒を解いた。膝立ちになった金沢がよろけたのでそれまで茫然と事のあらましを見ていた番兵が駆け寄った。事情を知る者は緊張した面持ちで、事情を知らない者は起こった事を反芻し、それでも信じられないといった様子で固唾を呑んだ。金沢はそんな彼らに見送られながら番兵に支えられて来た道を引き返した。

 

 

 「・・・なんて迷惑なの!?」

一昨日の晩の事。千代田は酷く憤慨しながら姉の背中を追った。消灯前の自由時間を寮でのんびりと過ごしていた千歳姉妹に大端が召集令をかけたのはつい先ほどの事だ。集合場所は鳳翔の生活部屋。

「そんな事言わないの。たまには鳳翔さんと飲むお酒も良いじゃない」

「提督もお姉も普段から呑み過ぎなのよ!・・・鳳翔さんも提督に毒されちゃったのかしら」

 大端が就寝前に千歳に声をかける時は決まって酒盛りになる。職業柄、この基地に着任する前から飲酒する事はいくらでもあったが・・・。

「千代田も一緒に飲めば良いじゃない」

「うっ・・・だってお姉のペースに合わせると次の日が・・・」

場が盛り上がると翌日の予定に関係無く無理な量を飲ませる者も多く、その度に一眠りですっきり酔いの醒めた千歳が2日酔いの千代田を介抱していた。

「そんなに飲まなきゃ良いじゃない」

「そうじゃなくてぇー」

 千歳はもちろんの事、大端もどんなに酔っても無理強いをする事は無いので飲み過ぎで体調を崩す事は無くなったが今度は別の問題が出てきた。

「2人共盛り上がり過ぎなんだよー、付いて行けない!」

千代田に酔っ払い2人の相手は困難だったようだ。

「提督も無理に来なくて良いって言ってくれてるわよ」

「そうだけど・・・」

 そんな事を話していると2人は鳳翔の部屋の前に着いた。

「まあ、今日は鳳翔さんが話し相手になってくれるわよ。・・・お邪魔します!」

千歳は妹を宥めながらノックをして戸を開いた。

 

 

 「2人共いらっしゃい」

「これで揃ったかしら」

はたして2人を出迎えたのは鳳翔と大端だけでは無かった。

「ずいぶん遅かったわね」

そう言った加賀を始め、青葉、古鷹、加古・・・睦月達駆逐艦艦娘を除いた55号大隊の艦娘が揃っていた。

「あら?皆さんお揃いで・・・」

「提督、今日はお酒呑まないの?」

きょとんとしている千歳に変わって千代田が大端に尋ねた。

「それは・・・またいつかね」

大端はどこか誤魔化すように答えた。

「さて・・・今から重要な話をします」

寮で一番大きいとはいえ嘗て無い人数が揃い手狭になった部屋で加賀は一拍して注目を集めた。

 「今まで隠していましたが基地司令から許可が下りたのでお話します。皆さん・・・今までに艦娘が秘密裏に処分されるといった噂を聞いた事はありませんか?」

 今から数十分前、離反を実行する決意をした鳳翔と共に加賀の計画を細部まで聞いていた大端は加賀が平然と語る話を内心どん引きしながら聞いていた。

 要約すると計画の冒頭はこうなる。金沢が基地を去る際に本土までの護衛を命じられた憲兵隊が基地に来るので彼らの前で加賀が大隊の離反を宣言する。ここで金沢は制圧に取り掛かるであろう憲兵隊に連行されるか銃撃戦に巻き込まれる事が予想されるが、彼については一先ず置いておく。最高司令官不在の基地を占拠した後に泊地本部へ無線通信で金沢の名の基に基地の占拠を宣言、及び艦娘処分に関する情報の公開と予定されている処分の中止を要求する。“必要であれば”今後対外戦争で重要な役割を担う事になる泊地を占拠し、大本営が戦争継続の為に要求を飲まざるを得ない状況を作り出す。

 なお金沢に関しては連行された場合、何も知らない彼の言い分が通ったとしても部下の離反を許した事の責任を追及される事になり基地への影響力は無くなる。銃撃戦に巻き込まれた場合・・・丸腰の金沢がどうなるかは言うまでも無い。

 そして離反するにあたった戦力をどうするかというと・・・。

「艦娘処分の命を下す長官に逆らう為に抗う決断をされた基地司令は今日まで私、鳳翔さん、大端提督と協力して水面下で離反の用意を進めてきました。今まで話さなかったのは万が一、離反の決行前に情報が漏れて皆さんに危害が及ばないようにする為です。・・・皆さん、どうか力を貸して下さい!」

 普段なら決して長話をする事の無い加賀の弁舌に大端は人知れず鼻で溜息を吐いた。

 

 

 「えっとー、もしかして夏島の様子を調べて欲しいって言うのはこの準備の一環だったんですか?」

しばらくして青葉が遠慮がちに手を挙げて鳳翔に尋ねた。鳳翔は困った風な笑顔で応える。

「ああ、それで・・・」

大端が呟いた。

 「あのー。この事、私たちの提督には・・・?」

青葉に続いて古鷹がおずおずと声を上げた。

「・・・栗崎大佐や三ツ屋少佐には知らせていないわ。実は栗崎さんとは個人的な接点が無くてね」

「そう、ですか・・・」

「もし、貴女達が話したいのなら止めはしないけれどね」

「えっ?いいの?」

加古がぱっと顔を上げる。

「本音を言うと嫌よ」

大端は苦笑いと共に答えた。

「あの人はこういう事には反対するだろうから、でも私は口止めしようとは思わない。良く考えて身内の事は身内で決めなさい」

 他にも幾つか質問が挙がった後に加賀はまとめに入った。

「直ぐに返答は求めません。決行は明後日です。それまでに皆さんの考えを・・・私か鳳翔さん、大端提督に聞かせて下さい」

その台詞を最後にその集まりは解散となった。

 

 

 基地の門は閉ざされ、最低限の基地の護衛として僅かに残っていた陸戦隊員により厳戒態勢の警備が布かれた。その門から続く道の突き当たり、金沢は基地の中心となる建物の一角に設けられた医務室の丸椅子に座って簡単な応急処置を受けていた。

 無骨だが清潔感のある棚に薬品や傷口を保護する為の布がぎっしり詰められており、そこから取り出された消毒液の瓶は机の上で血を拭いた布に囲まれていた。Yシャツの袖を巻くって慣れない手付きで金沢の手当てをしている事務員が額の汗を拭う。本来ならここに居る基地の軍医は陸戦隊と共に攻略戦に向っている。基地を去ったはずの金沢が負傷して帰ってきたことに余程慌てたのか戸はきちんと閉められずに半開きになっていた。

「ありがとう、取りあえずこれで大丈夫です」

「しかし、一度ちゃんとした所で治療されたほうが・・・泊地本部には軍医が残っているはずです、今から派遣してもらいましょう」

「いえ、それより装艦部の加賀を呼んで頂けますか?急ぎ、話さねばいけない事があります」

事情を知らない事務員の提案をそっち除けにして金沢は頼む。

「・・・その必要は無いわ」

 いつの間にか艤装をつけたままの加賀が医務室の入り口に立っていた。何が起こっているのか分からずに呆然とする事務員に金沢はもう一度声を掛けた。

「では、少し席を外していただけますか?それと・・・本部には何も連絡しないように」

「えっ!?しかしあの傷は・・・」

事務員は止血したばかりの足の銃傷を見て言った。

「構いません。後で自分で連絡しますから余計なことはしないように」

「・・・承知しました」

金沢に釘を刺された事務員は一礼すると納得しない表情を浮かべながら医務室の外に出た。

 

 

 事務員の姿が戸に消えて、入れ替わりに入った加賀が金沢の正面に立って見下ろした。金沢はおもむろに口を開く。

「貴女方の艤装による装甲は海上でなければ稼働しないのは知っていますよね?運良く憲兵隊に艦娘の艤装に詳しい者が居なくて、あんなハッタリが通じたから良かったものの・・・加賀さん、何故あんな事を?」

「何故?」

加賀は眼光を鋭くして言った。

「それは貴方が一番お分かりでしょう?」

「・・・何の事ですか?」

「赤城さんが最期に送った電文に、貴方はなんて言ったの?」

金沢は加賀の問いかけに表情を硬くした。

「・・・知っていたのですか。だからと言って、これでは誰も」

「ふざけないで!赤城さんの気持ちをあんな風に踏み躙っておいて!」

加賀は首を振って激昂した自分を落ち着かせた。

「・・・司令こそ、どうしてあんな事を言ったのかしら?」

「・・・・・・」

金沢は黙り込んで視線を逸らせる。

「・・・まあいいでしょう。とにかく今後しばらくは私の監視下に居ていただきます」

加賀は険しい表情のまま伝えた。

「あの、一つお願いして良いですか?」

「貴方ね・・・自分の立場が分かっていて?私はここで貴方の口を封じる事も出来るのだけれど」

追求を逃れた途端、顔を上げて言った金沢に加賀は呆れた様子を見せた。金沢は加賀の言葉を無視して言った。

「このまま本当に私が首謀者であるかの様な体で皆さんに会わせて下さい。それに・・・どうするにしても加賀さんは僕の口を封じる事は出来ない」

「・・・は!?」

加賀の反応に金沢は一瞬だけ満足したような表情を浮かべたが直ぐに淡々とした様子で話し始めた。

「僕が皆さんの前で無実を訴える事が心配なら加賀さんも一緒にどうぞ。・・・加賀さんはわざわざ憲兵隊の居るあの場で事を起こしました。つまり本部には確実に僕が起こした反乱だと思わせたかったのではないですか?基地からの電文で離反を宣言したのでは誰が打電したのか分かったものではありませんからね」

ここで一度言葉を話を区切ると金沢は加賀の表情を見やった。

「さらに言うとその時の貴女の台詞と皆さんが僕の指示に従った事から察するにこの反逆の首謀者は僕という事になっています。つまり何か皆さんが賛同出来る目標があって僕はそのトップに担ぎ上げられた。この離反は貴女の私怨だけで起こっているとは考えにくいです。僕の口を封じてしまうと―――首謀者が一度も顔を出さ無い事になり皆さんに怪しまれますよ?離反前からの流れで加賀さんが秘書艦という事にしておけば日中行動を共にしても怪しまれませんから“監視”出来ますし、加賀さんが吐いた嘘を見抜かれる事も無い。一石二鳥です」

「・・・・・・」

今度は加賀が黙り込んで静かに金沢を睨む。それに構わず金沢は話し続けた。

「離反の本当の理由は教えて頂けないようですが、加賀さんの事ですから余程の事があったのでしょう。話によっては・・・」

金沢はそう言いかけて口を噤んだ。ドアの向こう、廊下から2人分の足音が近付いて医務室の前で止まった。

 

 

 「金沢准将はこちらか?」

「はい。ですが今は・・・少佐?・・・お待ち下さいっ!」

引き止める事務員の声を無視して医務室の戸を開いたのは三ツ屋だった。

「司令、どういう事ですか!?」

医務室に入り金沢の姿を見つけるなり大声を出した。その後ろでは三ツ屋を追って来たらしい栗崎が複雑な表情で会釈をした。

「・・・大都長官から話を聞いたときはまさかと思いましたが、赤城の次は加賀ですか?」

「冗談じゃありません」

声を張らなくても会話の出来る距離で立ち止まった三ツ屋に加賀は即座に言い返した。

「基地司令というのはいいご身分の様ですね・・・。ですが今言いたいのはそのことではありません、何故あのような事をされたのですか!軍において上に逆らう事がどういう事か貴方は分かっておられるのか!?」

「承知の上です。そういう少佐こそ分かっているんですか、これは上官の決定ですよ?」

珍しく嫌味に聞こえる言い回しで金沢は言った。

「そんな決定に従える筈が無い!」

「でしたら基地を離れる方の為に船を用意するので本部の富山中将に指示を仰いで下さい」

あっさりと金沢は言った。

「・・・このような事になり非常に残念です」

 まだ言い残す事があるような、かつあまり残念そうに見えない表情で三ツ屋はそう言い残して医務室を去って行った。それを見送って金沢は会話の様子を見ていた栗崎にも話しかけた。

「栗崎大佐も。彼に同行して本部へ向かって下さい」

「しかし・・・私はこれでも2人の艦娘を配下に持つ提督です。自ら言う事でも無いかも知れませんが、私は彼女等に信頼されていると自負しております。信頼を得ているうちはその期待に応えるべきであると考えます」

静かになった医務室に少ししゃがれた栗崎の声はよく聞こえた。

「内地の娘さんの事が気懸かりでしょう。無理に付き合う事はありません」

少し驚いた様子を見せた栗崎だったが直ぐにどこか表情を暗くして言った。

「・・・あの子らの提督になったのは娘が産まれた後の事です。ですが職業柄、実の娘と過ごした時間よりもあの子らと過ごした時間の方が圧倒的に長い。私にとっては古鷹も加古も実の娘のようなものです。情が移ってしまったんでしょうな、こんな事を言っては三行半を書かれても仕方ありませんが・・・娘には妻が付いております。娘とあの子ら、どちらかを選ぶような事は出来ません・・・」

「・・・そうですか。船の出港は2000(フタマルマルマル)、ゆっくり考える時間はあります」

金沢はそれ以上は何も言わなかった。

「・・・・・・失礼します」

 彼が一礼して部屋を出た後。

「痛っ・・・」

ずっと隣に控えていた加賀が金沢の足をつま先で小突いた。呆れた様子で金沢に話しかける。

「司令。あなた、本当に首謀者になる気なんてあるの?」

「・・・この件に殆どの人員は直接関係しません」

金沢は両手で足を庇いながら言った。

「事務の方も本部に送りましょう。巻き込むのは最低限にしなくては」

加賀は少し意表を突かれた様子で黙った。金沢が何も言わない加賀を見上げた。

「・・・甘いわね」

「そうかもしれませんね」

ばっさりと切り捨てるような加賀の言葉に金沢は自嘲気味にそう答えた。

 

 

 金沢が医務室で応急処置を受けている頃。無人になった彼の執務室を訪れる人影があった。その人物は金沢が持っていた鞄を机に置くと椅子の側に回って引き出しを開けた。

「この封筒・・・か」

引き出しを開けた人物。大端は封を開けて中身の便箋を手に取った。鳳翔を始め事情を知っている艦娘には基地防衛のローテ組みを任せており、結局事情を知らされていない睦月達駆逐艦娘は洋上訓練から無事帰投して休憩中なので誰かがこの執務室を訪れる事は考えにくい。空になった封筒を机の上に投げ捨てて数枚に渡って書かれた文章を読み始めた。

 「ちょっと、これは・・・」

一分とかからずに手紙を読み終えた大端は少し表情を強張らせて独り言ちた。

「鳳翔さん、加賀さん。私達とんでもない勘違いをしてたみたいよ・・・」

 

 

>>>To be contemew【14話 娘と娘】

 




 本家様のイベントやっててこういう轟沈ネタは書き辛かったです。うっかり大破進軍して轟沈出さないかひやひやでした。どうも筆者は胡金音です。だって今回のイベント舞台がトラックなんやもん。あ、このマップ、ネットで調べたのと同じだ、とか。
 それはそうとイベント中に建造してたら胡金音艦隊に衣笠さんが来てくれました。
『はーいっ!衣笠さんの登場よ!』
・・・うん、なんかごめん。この作品での扱い酷くてごめん。画面の前ですっごく気まずかったです。
 さて、今回は読者様にお知らせがあります。現在、毎月29日+aのペースで更新している本作、えーと“べっつりゃる。すくゎっどなんとか”(※Betrayal Squadron)ですが4月から筆者が無駄に忙しくなるので3月29日の更新以降は更新間隔が広がる事が予想されます。楽しみにして下さる方がいらっしゃいましたらすみません。どのぐらいの更新ペースになるかは4月になってみないと分からないのですが、隔月更新にする、1話あたりの文章量を減らす、等の形に切り替えて続けていこうと思っています。ご意見等頂けると参考になり非常に助かります。

 以上、真面目な後書きでした(当社比)。


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十四話 娘

例の如くサブタイトル詐欺です。すみません。
それから次話はいつもより間が空きそうです。すみません。



 「たまには頑張って一人で起きてくださいねー」

睦月がそう言ったのは、望月が同室の長月から明日は早起きをして駆逐隊で自主練をするといった話を聞いた矢先だった。

「あぁ?・・・今、なんて?」

「今朝思ったんですけど、いつまでも起こしに来ていたら望月の為にならないのです。長月も起こしちゃ駄目ですよ?」

「姉さん・・・それは結局、起きずに来ない事になるんじゃないのか?」

念を押された長月が苦笑いで言う。

「失礼だなー、あたしだってちゃんと起きられるし・・・」

望月は頬を膨らませた。

 

 

 そして次の日。つい強がってしまった望月は一人遅れて寮を出た。

「全く・・・あたしは朝弱いんだって。何も朝一から洋上訓練なんてしなくてもさぁ・・・ふぁ・・・」

そうぼやいたものの、言った通りになったじゃないかとドヤ顔で話す長月の顔が脳裏に浮かび望月は集合場所に向かう足を速めた。寮から基地の門に通じる坂道へ・・・とは向かわずに寮の裏手へ、そこは寮を建てる際に林が切り開かれたままになっていて雑草が蔓延っている。そんな中途半端な空き地と残った林の境界で足を止めた。知らなければ気付かずに通り過ぎてしまいそうな、道と言って良いのかどうかがかなり怪しい道が林の奥に見え隠れしていた。

「面倒だけど近道するか・・・」

望月の言った近道、獣道のようなそれは誰がいつ作ったのか、門の脇にある番兵詰所の裏を遠目に通って壊れたフェンスを潜るとそこは直接基地の外へと繋がっている。望月は気を引き締めて林の中へ入って行った。

 

 

 林の中はまだ午前中だというのに生ぬるく湿気た空気が充満していた。差す木漏れ日は下り坂を照らすには程遠い明るさで、お世辞にも歩きやすいとは言えないが苦にする様子は望月に見られない。

「・・・ん?」

足元に気を配りながら望月が近道を進んでいると数人の話し声が聞こえた気がして足を止めた。声のした方を見るとちょうど詰所の裏手に当たる位置で木々の間から無骨なコンクリートの円柱が遠目に見える。詰所の右手、門の外では憲兵が、詰所の左手、つまり基地の中では基地の指揮官達と艦娘が集まっている。憲兵が何か言うと指揮官の影から金沢が歩み出た。

「・・・なんか修羅場ってる?」

望月がそんな感想を漏らしたのも束の間。

「望月?みんな待ってますよー!」

風で草木が擦れる音に混じって小さくではあるがはっきりと声が聞こえた。望月が見ると近道の先、茂みに隠れてフェンスが壊れているところで睦月と三日月が手を振っていた。

「はいよー、今行くー」

望月はその場を後にして2人のもとに進んだ。

 

 

 睦月達と合流した望月は港の待機所で艤装の準備を済ませると早速、海に出て水面を駆け出した。向かっている先は艦隊基地の直ぐ近く。艦娘の訓練用に一般船舶の航行が禁じられている海域だ。基本的に空き時間の自主訓練での使用は先着順なので先に皐月達が場所取りに向かっていた。望月は港で待っていた如月、長月と合流して後を追っていた。

「あのさー、なんかさっき機銃の音しなかった?」

「えっ?私は聞こえませんでしたが・・・機銃って発砲音ですか?」

望月の発言に三日月が聞き返した。

「まだ寝ぼけているのか?」

からかい口調で長月が言う。

「む・・・いや、マジで聞こえなかった?これの準備中に」

少しむきになって長月は手に取った砲塔艤装を持ち上げながら言い返す。

「隣の基地でも訓練してるのでは?」

「んー、それにしては近かった気がするけど・・・まーいっか」

三日月に真面目に取り合ってもらい望月は話を打ち切る事にした。

「もー、しっかりしないと駄目ですよ?この間の訓練で加賀さんにも注意されましたし」

「ああ、それで急に自主訓練だなんて言い出したのか」

納得したと言わんばかりに長月が言った。

「そ、そんな事ないですよー」

「あら~、その事気にして提督に相談しに行ってたのは誰だったかしら~」

慌てる睦月を見た如月が話しに乗って面白そうに肘で小突く。

「・・・もう!その事はほっといて下さい!ほらっ早く行きますよ!」

睦月は顔を赤くすると如月の背中を押して歩みを速めた。

 

 

 基地から憲兵を追い払った後、古鷹と加古は鳳翔に呼ばれ千歳姉妹と一緒に今後について話し合っていた。その後、昼食を取った2人は事務員から聞いた言伝を聞き栗崎の執務室の前に居た。

「・・・じゃあ行くよ?」

「うん」

古鷹は加古が頷くのを確認して執務室の戸を叩いた。

「誰だ?」

中から少しだけしゃがれた声が聞こえる。

「古鷹と加古です。参りました」

「・・・入ってくれ」

いつもより送れて聞こえた返事を聞いて古鷹は戸を押した。

「失礼します」

 

 

 「何故呼び出したかは分かるな?」

開口一番、古鷹の後で加古が戸を閉めると同時に栗崎は言った。

「・・・はい」

古鷹はいつもの様に執務椅子に座る栗崎の険しい表情に真摯に答えた。

「2人は今回の事を知っていたんだな?」

質問と言うよりも念を押すといった風に2人に尋ねた。

「っ・・・」

言葉に詰った古鷹の沈黙を肯定と受け取った栗崎が静かに溜息をついた。

「どうして話してくれなかった?」

「あー、それは・・・」

追及を続ける栗崎に何も答える事が出来ずにいる古鷹に代わって、加古が口を開いたがそこから先の言葉は出なかった。

「私は―――」

栗崎は立ち上がると2人に背を向けて窓辺に立った。

「君等の指揮官に着任してずっと、良い信頼関係を築こうと尽力して来たつもりだ。新設されたこの基地に着てからもそれは変わらん。そしてただ上司、部下と言う以上に互いに信頼出来る相手になったと思っていた。それは思い違いだったか?」

「・・・違います!」

古鷹は慌てて栗崎の懸念を拭おうとした。当の栗崎は半身で振り返って2人を見つめた。

「では何故教えてくれなかった?言ったら俺が怒るような安易な理由で君等はあんな事に加担したと言うのか!?」

「そんな事ありませんっ・・・!」

古鷹は首を横に振る。

「では、」

栗崎は2人から視線を外した。

「・・・私はそんな重要な事を話す相手にはならないと、そう思ったんだな?」

「違っ・・・そんな・・・!」

古鷹の声が震えて言葉にならなくなり出した時、今まで黙っていた加古が口を開いた。

「提督には分からないよ」

 栗崎と古鷹が顔を上げた。

「・・・加古?」

少し落ち着きを取り戻した古鷹が声をかける。加古は口を開くと一気に吐き出す様に言った。

「人間の提督には私達が考えてた事なんて分かる訳ないよ!艦娘の事なんて何にも知らないくせにいろいろと気を使われて迷惑なんだよっ!」

栗崎の呆然とした顔を見た途端、加古は駆け出した。

「あっ・・・こら、待ちなさい!」

栗崎が声を上げた時には既に加古は部屋を後にしていた。

急な出来事に見送るだけしか出来なかった古鷹が視線を空きっぱななしの戸から栗崎に向ける。

「・・・好きにしなさい」

意図を察した栗崎にそう言われ、古鷹はその場で大きく一礼すると何も言わず部屋を後にした。

「私には分からない・・・か」

古鷹も部屋を後にして一人になった栗崎は椅子に倒れる様に座り込んで呟いた。

 

 

 栗崎の執務室から出た後、加古を探し回っていた古鷹は寮の裏手にその姿を見つけた。今朝、望月が通ったその場所は日が高くなったのと寮と林に囲まれて風通しの悪い閉鎖的な環境も相まって、この時間に訪れる者はまず居ない。

「古鷹?」

加古は古鷹に気付くと何処か諦観した顔で言った。

「ねぇ、あれで良かったのかなぁ・・・?」

「うん。・・・言わせちゃってごめんね」

「言い、過ぎちゃった・・・かな?」

申し訳なさそうに言った古鷹に加古はまた尋ねる。

古鷹は右手で加古の頭を撫でると抱き寄せて、子供をあやす様に背中を擦った。

「提督は優しいからあれ位言わないと出て行ってくれないよ」

「そっ、か・・・」

その返事を噛み締める様に加古は言った。

「・・・そだね」

 

 

 日が傾き始めた頃。ようやく執務室を後にして食堂に来た栗崎は先客を見止めた。

「少佐か?」

「・・・?栗崎大佐でしたか。こんなところでどうされました?」

階級で呼ばれた三ツ屋は振り返ると立ち上がろうとしたので栗崎はそれを手で制した。

「いや、ちょっと遅めの昼食をな」

疲れた笑顔を見せた栗崎だったが三ツ屋の隣の席を見て表情を硬くした。

「・・・やはり少佐は基地を去る様だな?」

隣の席には三ツ屋の衣類やノートを詰めた大きな鞄が置いてあった。通常の任地異動であれば先に輸送されるので、本来なら仕官自らが運ぶ必要は無いものだ。

「去る、と言うのは心外です。離反を鎮圧しようにも艦を味方に付けられたのでは手の出しようがありませんし、陸上だからと言って基地に残った陸戦の有志を率いたところで艦娘には敵わないだけです」

三ツ屋も栗崎の視線を辿って鞄を見ながら心外だと言わんばかりに言った。

「そうか・・・」

栗崎の反応を見て三ツ屋はある質問をした。

「・・・まさか残られるのですか?」

「・・・」

答えない栗崎に三ツ屋は追い討ちをかける。

「本国の御家族は大佐が離反に加担したと知ったらどう思われるのでしょうね?」

栗崎は口を開いた。

「だが、あの基地司令が何もなく離反など思えんのだ。それに・・・異動だというのであればともかく、今更2人を置いて行く訳には・・・」

「艦娘と実の家族を天秤に掛けるのですか?」

責めるような調子で三ツ屋は栗崎を見上げて言った。

「・・・君は青葉を置いていく事に抵抗は無いのかね?」

少し哀れむ様な口調で尋ねる。

「何故抵抗を感じる必要が?」

三ツ屋は淡々と尋ね返した。

「強いて思う事があるとすれば部下の離反を防げず友軍に迷惑事を増やしてしまった負い目だけです。大佐はその点に関しては何も思われないのですか?」

迷惑、という単語は加古が駆け出す後姿を栗崎に連想させた。そして三ツ屋は栗崎の返事を待たずに付け加える。

「尤も、今更負い目を感じてもどうしようもありませんが」

三ツ屋は自嘲する様に呟いた。

 

 

 重要拠点のトラック泊地とは言えど本国から見れば偏狭の地、ましてや大きな街も無い民間港ともなればこの時代に十分な機材が行き渡るわけも無い。人工1万に満たない春島から泊地本部がある夏島へ向かう小柄な連絡船用の民間港には、船が夜間出入する為の照明は設置されておらず日中のみの稼動となる。したがってようやく照り付ける日差しから解放される夜間に出航する連絡線の最終便だけは、夜間照明があり艦娘や軍の高速艇、最近では憲兵が乗ってきた飛行艇が往来する東港を間借りして運航していた。

 出航10分前、基地を後にした三ツ屋はデッキに上ると彼にとっては意外な人物を目にした。

「栗崎大佐、基地に残られるのではなかったのですか?」

栗崎は三ツ屋に気付くと軽く視線をやってまた基地の方角へと戻した。

「いや。私がしてきた事は余計なお節介だったらしい」

連絡線の乗組員がどこかで出航の鐘を鳴らし始めて、乗客が急いで渡し板の上を通る音が波の音に混ざって聞こえた。

「・・・誰に何を言われたかは存じ上げませんが船室に入られては如何ですか?」

「ああ、ここをもう少し見納めてからそうするとしよう」

栗崎は名残惜しそうに島を見上げて答えた。

 

 

 やがて船の後方からくぐもった排気音が響き始めて眼前の暗闇はゆっくりと流れ出す。少しづつ離れていく島にぽつりぽつりと灯る街灯に混じって規則的に点滅を繰り返す光に栗崎は気付いた。長短を繰り返すその点滅に栗崎は魅せられた様に目を奪われた。

「・・・加古?」

同じ文面を繰り返し瞬かせ続ける光を栗崎は読み解いて行く。

 

meiwaku nante itte gomen

kikan no sinrai ni kansya su

furutaka kako

“迷惑なんて言ってごめん 貴官の信頼に感謝す 古鷹 加古”

 

「・・・信頼に感謝す。古鷹、加古・・・か。・・・何故気付けなかったんだ」

栗崎は信号の内容を反芻するとある場所へ走り出した。

 

 

 「お引取り下さい!ここは職員以外立ち入り禁止です!」

その日、南洋海運が運航する連絡船でちょっとした騒ぎがあった。

「操舵室はどこだっ!今すぐ船を港に戻せ!」

「お客様一人の為だけにそのような事は致しかねます!」

乗客の軍人が一人、錯乱状態で船を戻せと操舵室の前で騒いでいた。乗務員が男を宥めるのに辟易していた時、船内の見回りをしていた船長が姿を現した。

「騒がしいな、何事だ」

「船長。先ほどから海軍の方が・・・」

船長が騒ぎに気付いたのを見てすかさず助けを求める。

「貴殿が船長か。頼むっ、今すぐ船を港に戻してくれ」

下っ端の乗務員よりも船長を説得した方が良いと判断したのか、騒いでいた将校も船長に詰め寄った。

「それは出来ません。私共は貴方、軍から一刻も早く春島の周辺海域から離脱するよう命じられています」

船長は軍人相手にも動じる事無く落ち着き払って答えた。

「少しの間だけで良い!私は彼女達に何も告げずに来てしまった!」

しかし将校は船長の肩を掴むと無理な頼みごとを続けた。

 「私は海軍大佐だ!責任は私が取る!頼む、この通りだ!」

頭を下げる将校に対して船長は静かに溜息を吐くと横に首を振った。

「大佐・・・。あなたが栗崎さんですね?」

将校がはっと顔を上げた。船長は続ける。

「実は海軍の金沢という方から“栗崎さんという海軍大佐が船を戻せと言われるかも知れないが絶対に戻してはいけない”と連絡を受けています」

「そん、な・・・」

「それから名前は教えていただけませんでしたが出航の直前に貴方の娘だと言う方からも。“提督が貴方で本当に良かった、お世話になりました”と」

その言伝を聞いて将校は船長の肩から手を離すと糸の切れた操り人形の様に膝を着いて両手で頭を抱えた。

 

 

 海軍基地から直ぐの海岸沿いの道に連絡船を見送る人影が2つ並んでいた。手にはそれぞれ大きな懐中電灯のような物が握られている。

「行っちゃったね」

人影の片方が呟いた。

「うん。・・・提督は気付いてくれたかな?」

もう片方の人影が答える。

「・・・きっと気付いてくれるよ」

先に口を開いた方の影が宥めるように言った。

 

 

 栗崎、三ツ屋が乗る連絡船が港を後にした頃。鳳翔と大端は例の如く寮の一室で膝を突き合わせて話をしていた。鳳翔が手に取っているのは、大端が金沢の執務机から取り出して来た便箋で金沢が少将に昇格して以来、水面下で続けて来た旧式艤装の睦月型艦娘の待遇改善に向けて行ってきた活動記録とその失敗、大端に後を任せたいという事が綴られて異いた。

 「これは・・・」

ひと通り手紙を読み終えた鳳翔が顔を上げて、今日はズボンタイプの軍服を穿いているのを良い事にあぐらをかいている大端を見つめた。

「つまりそれをそのまま信じるなら少しょ、じゃ無くて准将・・・」

そこで大端はどこか苛立ちを抑えた様子で一瞬だけ考える素振りを見せる。

「ああもう、とにかく金沢司令は手段は違えど私達と似たような事をしようとしてたのよ!」

結局、降格したばかりの金沢を階級で呼ぶのに違和感を拭えずに名前で呼んだ。

 「・・・基地司令はあの子達を見捨てた訳ではなかったのですね」

大端があまり重要で無い事を考えている間に手紙の内容を飲み込んだ鳳翔はホッとした様子を見せた。

「それでは今すぐ司令とも話し合って今後の行動を・・・」

「それは・・・未だ早いわ」

鳳翔から目を逸らせて大端は言葉を遮った。

「何故ですか!?」

「分からないのよ・・・」

大端は片手で前髪を掻き揚げて自らの考えを纏める様に言葉を選びながら話し始める。

「確かに司令と私達の目的は同じだった。ただこの手紙では私達の計画について一言も触れていない、つまり加賀さんに話を合わせた時点で私達の離反の目的を知らないの。足を撃たれてまで話を合わせる理由が無いのよ」

「それは私達も睦月さん達を救おうとしていると知っていたからではないですか?加賀さんが計画の事を司令は気づいているかもしれないと話していたではありませんか」

「だったらこんな置手紙なんてまどろっこしい事をしないで直接話せば良いじゃない。何かこの手紙には書かれていない事があるのかも知れない」

「だったら尚更、直接会って話をすればいいわ!」

頑なに意見を変えない大端に鳳翔は思わず声を張った。大端はそれでも首を縦には振らない。

「もし金沢司令が上層部と繋がっていて、何か感付かれたら計画が失敗した時にあの子達を逃がす機会が失われてしまうかも知れない・・・そうなったら最悪だわ。こちらの手の内を見せるのは早いわよ」

まだ不満が残る様子だがとりあえずは納得した様子の鳳翔に大端は言った。

「司令の事は今、加賀さんが見張っているし少し様子を見ましょう。話はそれからよ」

 そう言って大端は立ち上がった。

「あ、今日はお休みになられます?」

「人手不足なのにそんな暇は無いわ」

大端は伸びをしながら答える。

「そろそろ司令の見張りを交代してもらわないとね。加賀さんは貴重な戦力なんだから昼間に起きていて貰わないと」

そう言って大端は鳳翔に見送られて部屋を後にした。

 

 

 栗崎、三ツ屋が医務室を去った後、金沢は高熱で寝込んでいた。離反を聞き付けた基地の各部署への説明は司令代理として大端が済ませていた。大端から離反の理由を聞いて基地に留まる事を決めた人員は、事務部から数名、基地守衛の為に遠征に行かなかった陸戦隊の5分の1、艤装整備部から10名弱。要するに大半は離反に反対し基地を去った事になる。憲兵から報告を受けた泊地本部の富山中将独断の説得があった以外は海軍からの通達も無く離反初日が終ろうとしていた。

 「失礼します・・・」

相変わらずノックの返事を待たずにだったが彼女なりに気を使ってか、大端は小声で静かに戸を開けて医務室に来た。明かりは灯っているがベッドを区切るカーテンが半分だけ閉じられていて光が直接顔に当たらないように配慮されている。

「あら?加賀さんが看病を?」

高熱で苦しげな寝息を立てる金沢の額に乗せられている手拭と脇の机に置かれた水桶を見て大端は意外そうに尋ねた。何か考え込む素振りで丸椅子に座っていた加賀がようやく顔を上げた。

「・・・提督でしたか。誰か入らした時に薄情だと思われるのも癪なので。それに・・・まだ司令が本心で何を考えているのか分からない今の状態で万が一の事があっては不本意です」

「ふうん。それで着替えまで?」

大端は椅子の上に放置されている血で汚れた軍服を目で示した。その上には金沢の眼鏡が中途半端に開いたまま置かれていた。

「・・・起きている間にここにあった浴衣に自力で着替えていただきました。大端提督、怒りますよ?」

「ちょっとした冗談よ」

 睨んで来る加賀に軽く返答して大端は本題を持ちかけた。

「そんな事より今のうちに休んだら?いざって時に司令が逃げ出して人質に取れなくなったら困るとか言うなら誰か陸戦の人に見張っててもらうから」

「それこそ心配ね。私達以外の人間はこの司令が離反の先頭に立っていると思っているのよ?」

加賀はカーテン越しに金沢が眠っている辺りを目で示した。。

「こんな離反にまでついて来る愚直な彼らは司令の指示に従って大端提督や鳳翔さんの計画を崩しかねないわ。離反どころか睦月さん達を逃がす機会も無くなったら困るのは提督よ?」

淡々とした口調で加賀は言った。

「じゃあ私が居るから。それで良い?空母艦娘の加賀が寝不足で日中に本領を発揮出来ないなんて事があっても困るわ」

「・・・分かりました」

一先ず納得した様子を見せた加賀は後の事を大端に任せて医務室を後にした。

 

 

 高熱で意識がはっきりとしない中、金沢はようやく目を覚まし屋外が暗い事から既に夜らしいという事は認識した。そして加賀の話しに合わせ離反を宣言した事を思い出し上半身を起こそうとするが、その際足に力を掛けてしまい喉から空気が漏れた。額の手拭が枕の横にずり落ちた。

 「基地司令、お目覚めですか?」

物音に気付き大端はカーテンを開けた。

「・・・大端中佐ですか?今は何時です?」

結局、横たわったままの姿勢で金沢は尋ねる。そして大端の返事を待たずに言った。

「既に、ご存知かも知れませんが。この艦隊は軍から離反する、事になりました。貴女は・・・泊地本部の指揮下に、入って下さい」

「そうは行きませんよ」

大端は加賀が部屋を後にしてから使っていた丸椅子をベッド脇に運んで座った。

 「何故、ですか・・・?貴女まで、巻き込むわけには、いかない・・・」

顔色の良くない虚ろな表情のまま話し続けようとする金沢を制して大端は話し始めた。

「巻き込むなんて今更じゃないですか?司令の手紙、読ませていただきました」

「・・・ああ、・・・そうでした」

つい今まで忘れていたかの様に金沢は答える。

「あのお手紙、どこまで事実なんでしょうか?」

大端は何も知らない素振りで金沢の本心を探り始める。

「どこまでって、・・・全部です。以前に赤城さんにも、同じ話をしました」

「・・・4年前、私の艦娘が処分されるのを前から知っていたと言う事も?」

金沢の返事を聞いた大端は表情を強張らせて尋ね続けた。

「はい」

「・・・っ」

大端は犬歯が見える程、歯を食いしばって息を凝らした。

 「では・・・あの手紙を書いたという事は基地司令は加賀さんに撃たれていなければ黙って基地を出て行くつもりだったと?」

怒りを抑えるかの様に話を進めた大端の問いかけにに金沢は何も答え無かった。

「・・・何故、撃たれてまで加賀さんに話を合わせたの?」

なるべくいつもの声になるよう意識して大端は質問を変えた。

「・・・大端中佐なら、気付きそうな物です・・・が、分かりませんでしたか?」

「・・・?」

金沢の返答に大端は内心で首を傾げた。

「それってどう言う・・・」

大端が尋ね返そうとした時、時間帯を全く気にした様子も無く喧しい足音が聞こえてきた。ノックもそこそこに戸が開かれる。

「基地司令!大変です!」

姿を現したのは基地に残った数少ない陸戦隊員の一人だった。

「どうしたの?」

「ちょうど良かった・・・大端中佐もこちらでしたか」

息を切らせてその隊員は報告を始めた。

「早々にどこかの部隊が我々の鎮圧に動き出した摸様。上陸も時間の問題です!」

 

 

>>>To be contemew【15話 大義と軍規】

 




 今回の執筆中にもっと栗崎と古鷹加古の絡みを書いておくんだったとものすごく後悔しました。動画なら半透明で風景に、漫画なら横長コマのカットイン等で再現する(?)別れ際の回想シーンで書ける事が妄想で完結していたものばかりで書いていませんでしたoz
 どうも筆者の筆者の胡金音です。今回は55号基地最高齢の提督、栗崎提督とその艦娘古鷹、加古に焦点を当てた話でした。この3人の付き合いがかなり長いという事はこれまでにそれとなく漂わせて来たつもりですが・・・作中に登場しないシーンを回想で思い出されたって感動もへったくれもねぇってものでして、今後こういうシーンを書く機会があればそちらに反映させたいものです。完結したら反省を踏まえて1話から改訂していくのもいいかも知れませんね。

 そして今回またサブタイトルでやらかしました。予告では“実の娘と部下の艦娘、どちらを取るか葛藤する栗崎”といった意味合いで“娘と娘”というサブタイトルにしましたが実の娘の方は全然出てこなかったのでこうなりました。安定のサブタイトル詐欺と変更です。
 はたしてその結果どう仕上がったかと言うと・・・うん。まあ、子供どころか結婚なんてはるか未来の話に感じる筆者が、仕事の関係上何年も家に帰っていない男の、長い間手紙ばかりの家族に対する想いと毎日顔を合わせる部下への想いの葛藤を書こうだなんて土台無茶な話でありまして。遠方の家族からの手紙を見てにやけるおっさんとか、部下の艦娘と実の娘に重ねるおっさんとか、無茶して怪我をした艦娘に心配からのマジ切れするおっさんとか、木陰で昼寝する加古に上着かけてあげるおっさんとか書いておくんだったと後悔しています。木陰で昼寝はあえて古鷹でもいいかも知れませんね。いや、いっそ木陰で読書をしていたら隣でまどろんでいた加古に寄りかかられて起こさないように動かないでいるうちに古鷹も眠ってしまえば、それはもう栗崎大佐でなくとも風邪引かないように上着かけてあげるでしょ?

 失礼しました。本編の話に戻しますが、モールス信号の表現には毎度悩まされます。以前、実際に点と線で書いた事がありましたが今回は英字にしてみました。普通の通話?であれば括弧の種類を変えるだけでいいと思うのですがああいうシーンで使うと物足りない気がします。赤城さんの電文の時はすでに通信員の手書きでカタカナに直されているつもりなのでそのままにしましたが・・・。本職の方からすれば訳なんて無くても即理解出来るのでしょうが文章だと全部“・”とか“―”で済ませるのは難しそうですし・・・。
 難しいと言えば、ここ数話で“誰が何を知っているか、何に気付いているか”を、ややこしくしすぎて筆者自身分からなくなりつつあります。今回もかなり無理をしたところがありましたので次回に向けて(筆者自身の整理も兼ねて)14話までの主要登場人物と大本営を振り返ってみました。今までの話の中で“ここ、おかしいだろ!”と思っても太平洋のような心の広さで“ああ、ドジっ子なんだな。仕方ないな”と思ってごらん下さい。改めてキャラ崩壊注意!


・金沢
 4年前に艦娘の処分を目の当たりにして水面下で処分の対象になる使い捨ての旧型艤装のを持つ艦娘の艤装更新を大本営と交渉していたが失敗。重要機密である艦娘の処分を大端に手紙で明かし大本営への抵抗を試みるが好意を寄せていた加賀に撃たれる。鳳翔が何か企んでいるらしいと言う以外、何も知らない状態で加賀の話に合わせて離反。離反の理由によっては協力する事も厭わない姿勢を示していたが・・・。
 14話終了時点(以下、現在)では加賀に撃たれて出来た傷から菌が入り高熱で寝込んでる。14話までに2度も被弾しているが基地司令。
(筆者コメント)
 これでも本作の主人公。そもそも管理職に向かないタイプの人間かもしれない。書き始めた当初はそんな事無かったのにどんどんクズになってる気がする。何を考えているのか分からない。筆者も分からない。筆者的に一番書き辛い。


・加賀
 土佐と赤城を短期間で失い傷心中。鳳翔、大端から不要な艦娘の処分が行われている事を聞き土佐はその犠牲に、赤城は口封じの為に金沢に処分されたのではないかと疑念を持ち始める。金沢から赤城について話を聞くが大本営との交渉決裂に苛立つ金沢の言葉に失望し、彼女の中で金沢に対する疑いは事実に変わる。赤城の復讐を果たす為に鳳翔、大端に離反を持ちかけた。後に私情から鳳翔、大端の目的に離反を持ちかけた事で対して負い目感じを自分の口から2人の離反理由を金沢に明かすことは無かった。金沢の離反に協力するという発言に戸惑いつつある。
 とは言えど離反後の現在、金沢の手紙を読んでいない加賀の彼に対する不信は変わらず、彼を警戒し監視目的で金沢と行動を共にしている。
(筆者コメ)
 筆者的に赤城さんの出番を掻っ攫う形で登場回数が増えた気がする。結構な悪役を押し付けちゃってる感があるので・・・うん、ごめん。


・大端
 4年前に処分された艦娘の提督だった人物。鳳翔から処分の話を聞き半信半疑であったが独自の調査から徐々に信じ始めると同時に大本営、金沢への不信感を募らせる。鳳翔の計画には賛成していたが、より確実に睦月達を処分させない為に加賀の離反に賛同する。その後、金沢の手紙を読むが不信を拭いきる事が出来ずに今に至る。
 現在、金沢の本心を探り始めているが・・・。
(筆者米)
 狂い始めた運命の歯車は崩れ始めるのを待ってはくれない。言ってみたかっただけである。筆者的には一番書きやすいキャラ。何故ってオリジナルだからキャラ崩壊気にしなくても良いし、2枚舌だから度重なる設定変更で言ってる事支離滅裂でも後で辻褄合わせやすいから。こんな事していてこの作品最後まで完走出来るのか・・・。


・鳳翔
 4年前以前から艦娘の処分に気付き始めるも確証は無かった。以前から面識のある明石を頼りに大本営を探り、処分の対象である睦月達を守る決意を固める。睦月達を連れての逃亡を画策する中で艦娘に慕われる大端に協力を求める。しかし逃亡計画作成に当たっての情報収集中、加賀に処分の話をした事が切欠で離反を持ちかけられる。鳳翔自身は乗り気ではなかったが協力者の大端の賛同もあり離反を止める事は無かった。金沢の手紙を読み、金沢と協力関係を築く事を大端に持ちかけるも大端の賛同は得る事が出来ず今に至る。
 現在は離反により激減した陸戦隊員を補う形で艦載機を用いて基地周辺の哨戒に勤めている。
(筆者ry)
 作中では出していないが4年前に新設されたばかりの55号基地に特別顧問的な役割で配属されているという設定がある。以前いただいた感想に処分される艦娘は指揮官や指導役にした方が大本営からしても良いのでは?とあったが実は鳳翔さんがまさにその人だったりする。
 ついでに言ってしまうと、作中では触れていないが鳳翔さんは不老だが適性とかの問題で艤装の更新をせずに旧性能の艤装のまま指導に徹している数少ない艦娘である、ざ・いれぎゅらー。作中で全く書いてなかったけど。
 もうちょっと踏み込んで言うと殆どの艦娘が不老という関係上、不要になった艦娘を全員指導役にすると、指導役ばかり増える一方で人事部が困る。指導役+不老で留まる事を知らない実績≒高階級、高軍歴でほっといたら海軍の上層部が若い婦女子(しかも美少女美女ぞろい)になりそうだけど風紀的にどうなのさ、やだーって言う大本営が艦娘の不老化を渋ったり不用な艦娘をぽかぽか切り捨てていくのに歯向かう人達を書きたいのがこの作品。


・大本営
 対外戦争による資金不足が原因で全艦娘の艤装更新(作中で言う不老化)を渋っている。金沢の交渉が実を結ぶ形で処分の是非を問う演習(結果が良好であれば艤装の更新に使用する予算を議論、それまで処分は保留。)を企画するが、赤城の電文が軍規違反に当たるとして金沢を降格処分した。この作品で艦娘との恋愛はご法度、鳳翔さんもなんか最初の方で言ってた。それに伴い金沢の希望で企画した演習も中止となり実質的に艦娘の処分は秒読みとなった。金沢が離反宣言してから出てこないけど何やってるの?って疑問に関しては15話が軍部サイドのお話になる予定なのでお待ちを・・・。
(筆ry)
特にいう事は無いけど、大本営から派遣されてきた大都長官は海軍で1,2を争う権力者。ここだけの話、親の七光りに寄る出世。こう言っておくだけでものすごい無能臭がするけど実力的には割と優秀な方。親の七光りって言われるのを結構気にしてるのであまり触れないであげて。戦国武将で言うなら武田勝頼。


・魚雷
 うん、この間の話しなんですがね。もうこの作品書き始めて1年かーと思ってちょっと振り返ってたんですよ。そこで気付いたんだけど1話で加古さんがうっかり雷撃した時に加賀さんは損傷軽微で済んでるんですよね。で、7話で金沢が魚雷まともに喰らったら跡形も残らず1パンって言ってるんですよね。・・・この矛盾にお気づきだろうか。片やほぼ無傷で片や轟沈である。えっと・・・訓練弾のそれとは違うって書いたけど、実は実戦用では無くなんか威嚇用の弱めの魚雷でした!
AD「な、なんだってー(棒)」
・・・ゴメンナサイ。そういう事にしといて下さい。
(ひry)
これでも結構気にしてるのであまり触れないであげて。


 と、まあこんな感じですね。一応補足説明としてB.S.ラジオなんて物も書いてますが14話まで進むのがいつになるか分かったもんじゃないので一旦まとめて置きました。


 さて、次回の更新ですが前々から後書きに書いていた通り未定となります。少なくとも毎月29日更新は絶望的です。が、ハーメルンさんのサイトでは3ヶ月以上放置すると未完作品扱いになるみたいなので最低でも5月29日までには仕上げたいと思っています。今までの文字数に仕上がらず小分けにしてでも投稿しますので、もしよろしければ気長にお待ち頂けると幸いです。
 それでは次回、いつになるかは未定ですが後書きでお会いしましょう。長々とした後書きまで読んで頂きありがとうございました。15話の後書きまでさよなら!(・ω・)ノシ


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十五話 大義と軍規

前回の後書きで15話は軍部サイドの話だと言ったな?・・・あれは嘘だ。


 ここは夏島、トラック泊地本部。那智は数ヶ月前から決まっていた実弾演習に出ようとしていたところを呼び戻され、詳しい説明もそこそこに出撃命令を下した直属の上官である富山の肩を掴んで振り向かせた。

「提督!これはどういう事だ!?」

那智は富山から受け取ったばかりの指令書を彼の目前に突きつける。

「指令書の通りだ。敵性艦隊を無力化せよ、準備が整ったら執務室に来なさい」

富山は那智の行動を咎める事も無く彼女の手を払うとその場を後にしようとした。が、那智に制服の袖をガッチリ掴まれて引き戻された。

「その敵性艦隊が友軍基地にいると言うのはどういう事だと聞いているのだ!」

「・・・春島に拠点を置く55号両基地は今や敵勢力下にある。数日以内にそれらを沈黙させよ」

 それだけ言って富山は一旦その場を去ろうとするが、直ぐに富山の行く手に回り込んでいた別の艦娘に噛み付かんばかりの勢いで詰め寄られた。

「馬鹿を言わないで下さい!泊地内を占拠されるような戦闘に私達が気付かないとでも?それとも春島の提督は敵に基地を明け渡したとでも言うつもり?大体、その敵って一体どこの誰よ!?」

同じく富山直属の艦娘、足柄に退路を塞がれていた。

 「あの、提督さん・・・。向こうの艦娘さん達は・・・どうなったんですか?」

答えかねている富山に遠慮しつつも尋ねる事はしっかりと尋ねる声の主は羽黒。その後ろには張り詰めた表情でその様子を見守る妙高の姿もあり、富山直属の艦娘4人が一堂に会していた。

「・・・分かった、先に話してやるからとにかく場所を移そう」

富山は4人を見渡すと諦めた様子で首を振ると4人を連れて長い廊下を自身の執務室へと戻って行った。

 

 

 「・・・今朝方、55号艦隊は離反し所属基地を占拠した」

泊地長と言う役職もあり一般的な艦娘提督のそれよりもかなり広めに造られた執務室に戻った富山は、部屋の中央窓寄りに設けられた仕事机の席に着くとようやく重い口を開いた。

「ちょっと!離反って一体どう言う事!?規律違反どころの騒ぎじゃないじゃない!」

机を囲む様に並んだ4人のうちの1人、足柄が気色ばんで机を掌で叩く。

「それについても説明願おう」

腕を組んだまま那智もそれに加勢する。

「2人共、今は提督の話を聞きましょう」

丁寧で落ち着いた声の妙高に有無を言わせない口調で窘められて2人は言葉を噤む。富山は目線を上げ彼女が続きを促すのを見ると話を続けた。

 「離反の理由については今のところ向こうの艦隊からの表明はない。が55号基地司令より本日2000以降、当泊地内を航行する船は攻撃するとの声明を受け民間連絡船の運航取り止めも決定した。すでに離反に加担する気の無い守備隊がこちらの傘下に下り始めている。そして本来なら金沢准将を風紀違反で連行するはずだった憲兵が本国に報告書を送った。その返答が先ほど大都大将より届いたその指令書だ、我々に離反制圧の命が下った。本国にしては随分早い対応だな。それにしても・・・お前達に味方の艦娘を沈めろと命令する日が来るとはな」

一気に話し終えると富山は大きな溜息をついた。

 「では・・・」

終始聞き手に徹していた妙高がゆっくりと口を開いた。

「この指令書は提督にとって不服な物ですね?」

富山の頬が少し動いた。気の乗らない指示を下す時は溜息交じりに話す富山の癖を彼の秘書艦になって久しい妙高は知っている。

「彼らを説得する事が叶えばこの指令書にある敵性艦隊の無力化は達成されるのでは無いですか?」

返答を待たずに妙高は話を続けた。

「・・・そうだな」

前者後者、どちらにとも言えない答え方で富山は返答する。

 「だが、こちらからの電文に返答は一切無い。55号大隊は交渉する気は無い様だがどう交渉に向かう気だ?」

「一つ考えがあります。作戦案を纏めて来ますので、私に任せてはいただけないでしょうか?」

「作戦を見てからだ」

富山は即答した。

「はい、承――」

「それから」

妙高は富山の発言に遮られて言葉を飲み込む。

 「もう使いこなせるなら改良型艤装を使う事を考慮に入れても構わん。本来は前線への出撃用に配備されたものだがその指令書があれば訓練以外でも使える筈だ。ただし、作戦考案は仕上がり次第直ぐに持ってくるように」

「・・・・・・」

「どうした?」

「いえ、承知致しました」

きょとんとして固まった妙高は微笑んで答えた。

「それでは作戦準備に取り掛からせていただきますので失礼します。・・・貴女達も行きますよ」

妙高に連れられて不満や不安を顔に浮かべる4人が執務室を出て行く。

「やれやれ、参ったな」

戸が閉まった後、首を振って呟いた富山の顔には苦笑いが浮かんでいた。

 

 

 富山の執務室を後にした妙高は3人を連れて先ほど通った廊下の来た道を戻っていた。

「姉上、説得なんて言ってどうするつもりだ?」

妙高は那智の声に立ち止まって振り返る。

「貴女も友軍に砲を向けたい訳ではないでしょう?大丈夫、ちゃんと考えていますよ」

「だからと言ってだな・・・。姉上が何も考えていないと思ってはいないが・・・」

そう言って那智は言い足りなそうに妙高の顔を覗き込んだ。

 「ところで・・・空母艦娘の方々はどのように艦載機を飛ばすかをご存知ですか?」

「知らないわよ!!」

妙高がそんな事を3人に尋ねるので見えない展開に耐えかねた足柄が声を張り上げた。

「姉さん、今その話必要?」

「・・・えっと、専用の弓艤装で発艦して艦載機から内部艤装に送られてくる位置座標と目視を元に操縦、着艦させる、でしたよね?」

妙高の質問に羽黒は律儀に答える。。

「操縦の方法が私達の水上機とは違うからどんな感覚なのかは分かりませんけど・・・」

勢い余って妙高に掴み掛かろうとしていた足柄が少し不満そうな視線を向けて羽黒はそう付け足した。

「羽黒の言った通りです」

掌を向けて足柄を宥めながら妙高は頷いて言った。

「空母艦娘が夜間戦闘に参加しないのは夜間、艦載機を視認しにくくなりたとえ歴戦の艦娘でも操縦と着艦が格段に難しくなるからだそうです。そして55号艦隊の主力は旧一航戦を始め空母艦娘の方々・・・」

「夜の間なら近付きやすくなると言うのだな」

続きを察した那智が話を引き継ぐ。

 「だからってあの基地には青葉や古鷹みたいな重巡もいるじゃない。それに駆逐艦達はどうするのよ」

「とりあえず続きは作戦会議室で話しましょう。その後で提督にお願いしなければいけない事もあります。・・・これから忙しくなりますよ」

足柄の話しにもしっかり頷いた妙高は付いて来る様に3人を促して再び歩き出した。

 

 

 そして4人は泊地本部のある部屋に向かった。部屋の中央には3人掛けの長机が4台、内側に空間がある長方形になるように並べられている。部屋の大きさは特別広くは無いが机の外周を人が通るのに困らない程度に椅子の背もたれと壁の距離が確保出来ている。廊下と反対方向の壁には建物の中庭に面した縦長の格子窓が3つ設けられており、建物の影が短く出来ていた。電灯を点けなくとも十分に明るい部屋で、まず4人は窓を開けた。部屋に篭っていた熱気が抜けていく間、4人は机を動かして机に囲まれていた空間を無くしにかかる。“ロ”の形に並んでいた机を“エ”の形に並ばせると、妙高は部屋に来る途中、資料室から持ち出したトラック諸島近海の海図を全員が見えるように机の中央に広げた。

 「さて、さっき話したから分かると思いますが・・・今夜にでも夜襲をかけようと思います」

妙高はそれぞれが海図を見やすい位置に移動し終えてから口を開いた。

「話し合うんじゃなかったの?」

「言葉の綾ですよ」

足柄の指摘に妙高は軽く微笑んだ。

 「まず私達が離反の武力制圧に向かったと見せる為の船団を用意します。本部の陸戦隊が持つ揚陸艇や52号基地の艦娘に協力を仰ぎますが・・・これは泊地長である提督に準備していただきましょう。私達の中からも2人参加してもらいますが、あくまで気を引く為です」

「残りの2人はどうするんですか?」

「春島を東西から大きく迂回して北側海岸から上陸、基地に侵入し55号艦隊の金沢少将と直接交渉を目指します」

妙高は海図を指で示しながら考えた計画を説明を続ける。

「そんなに簡単に事が進むとは思えないが・・・。何故、今夜なんだ?船団になる程の船舶や艦娘を動員するには時間に余裕が無いだろう?」

「そうです。対話で解決するには時間に余裕はありません」

「無理に対話に向かわなくても良いんじゃない?こんな泊地で離反したって配給が来る訳無いんだしひと月もせずに食料不足で挫折するわよ」

「・・・平時だったらそうですね。でも今の55号基地にはフ島攻略作戦時の支給品が余っているはずです。それに今、ひと月どころか半月でも泊地の情勢が不安定になることは軍にとって大きな痛手となるはずです」

妙高は少し表情を曇らせて言った。

 「あっ・・・!」

羽黒が声を上げて3人の注目を集める。

「前線に補給が届かない・・・」

その後の羽黒の呟きに那智と足柄が示し合わせた様に顔を見合わせる。

「そうです」

妙高は羽黒の発言を補足し始める。

「深海棲艦どころか他国とも交戦中の今、数日経っても離反が続くのなら本国は前線に送る部隊をこちらに回してでも制圧に向かうでしょう」

「では、何が目的でこんな時に離反をしたんだ?たとえ平時であっても首謀者は極刑を免れないだろう?」

那智は難しい顔で首を傾げた。

「ええ、ですからその理由を尋ねに参りましょう」

妙高は3人の不安を拭い去る様に力強く言った。

 

 

 

 廊下の時計は日付が変って間もない事を示していた。明るくなるまでまだ数時間あるという時間もさる事ながら、55号大隊基地は宿直の職員や大勢いた陸戦隊の面々が居なくなり静まり返っていた。節電の為に真っ暗な廊下の静寂に2人分の足音が響いている。灯りは頼りなく足元を照らす手持ちライトだけと言う状況にも関わらず慌しく走る大端は斜め後ろを付いて来る陸戦隊員に訊ねた。

 「状況は?」

「はい、本日00:10当直の監視手が哨戒の電探に艦娘を含む船団の反応を確認しました」

「電探の誤認という事は?」

大端はライトを手に歩調を緩める事無く慎重に状況の確認を続けた。

「見張りが目視でも確認しており間違いという事は無いと思われます。戦力は陸戦隊揚陸艇4隻、艦娘は偽装の形から重巡級2隻駆逐級6隻と報告を受けております」

 「そう・・・随分早い対応ね。分かった、陸戦隊の小隊長クラスと目撃した見張りを講堂に集めておいて。加賀を起こしたら鳳翔と一緒に私も向かうから。それから島の地図を用意して」

「地図?海図では無くですか?」

「そうよ」

そう答えると大端はライトを陸戦隊員に返した。

「・・・承知しました」

大端は小さく手を振って応えると暗闇を艦娘寮に向かう通り慣れた通路に曲がって陸戦隊員と別れた。

 

 

 

 「ん・・・大端提督?」

寮の自室で仮眠を取っていた加賀は肩を揺さぶられて目を覚ました。

「・・・基地司令はどうしたの?」

「それどころじゃないわ」

上体を起こして目を擦る加賀に大端はやきもきして言った。

「では・・・?」

「軍が動き出したみたい。直ぐに講堂まで来て頂戴」

大端の話に加賀の眠気は一気に吹き飛んだ。

 最低限の身支度で自室を後にした加賀は大端に連れられて合流した鳳翔と共に深夜の暗い廊下を灯りの燈る講堂に向かっていた。

「こんなに直ぐ軍が動くだなんて・・・」

「やっぱり私達は目を付けられていたのかも知れないわね」

鳳翔の呟きに大端は自嘲気味に付け足した。

 「それでは・・・私は直ぐに睦月さん達を起こして泊地から逃げる準備を・・・!」

「鳳翔さん、落ち着いて下さい・・・もし目を付けられていたのなら今、海上に出るのはむしろ危険です」

冷静な加賀の声に大端は頷いて言った。

「それに見張りの目が確かなら鳳翔さんの手も必要よ」

「・・・何か策はあるの?」

「ええ。これでも提督だもの」

講堂の入り口に到着すると大端は扉に手を掛けて振り返る。

「さあ、こうなったら徹底的に。軍部に一泡吹かせてやりましょう」

そう言って不敵な表情を浮かべた大端は講堂の戸を開いた。

 

 

 「3人、か・・・」

講堂に集まった陸戦隊小隊長の顔触れを見て大端は少し肩を落とした。

「はっ、総勢18名が残りました」

「そう、残ってくれたのはどこの小隊?」

気を取り直して大端は最初に報告に来た隊員、改め小隊長に尋ねる。

「いえ、各小隊から数名づつ基地警備に残留していましたので・・・」

「陸戦要員は寄せ集め状態なのね?」

「はい」

「まあ、これだけ残ったのなら上出来か・・・」

 「あの・・・金沢基地司令はどうなされたのですか?」

制圧に来た艦隊目撃した隊員が事情を知らずに尋ねる。

「司令は、憲兵を追い返した際に被弾して療養中よ」

大端は被弾させた本人を背に答える。

「では指揮は中佐が?」

同じく詳しくは事情を知らない、報告に来たのとは別の隊長が訊ねた。

「ええ。・・・皆よく聞いて、時間が無いわ」

用意された島の地図を広げると大端は戸惑いを見せる小隊長達を纏め上げようと低くした。

 「早速、本部から離反制圧の部隊が送られて来たみたいね」

話を切り出すと大端は見張りの隊員を視線で促した。

「はい、現在泊地本部のものと思われる艦隊は当春島南方に停泊中です」

そして改めてこの基地に向かっている艦隊について報告をさせた大端は温めていた作戦を伝え始める。

「おそらくこちらの出方を見ているのでしょうね。鳳翔さんは青葉、古鷹、加古を連れて海岸沿いに展開し彼らの上陸に備えて下さい。加賀さんは千歳、千代田と基地の周囲を哨戒してもらいます」

「それは・・・目視で、と言う事?」

「まさか」

加賀の質問に大端は首を振る。

「艦載機を使って上空からよ。もし戦闘になったら鳳翔さんも夜偵代わりに艦載機を使って良いわ」

「・・・」

当たり前の様に言い切った大端と対象的に加賀と鳳翔は開いた口が塞がらない。

 「中佐」

2人の言葉を代弁した訳では無かったが隊長が口を挟んだ。

「夜間に空母艦娘の艦載機は飛ばせなかったのではありませんでしたか?」

「ええ、私は艦娘じゃないから知らないけど暗闇で艦載機を捕まえるなんて正気じゃないでしょうね」

澄ました顔で大端は答える。

「でしたらこの作戦には無理が・・・」

隊長は白い制服から伸びる手に遮られて話を止めた。掌の向こうで、どこか楽しそうな大端が口を開いた。

「そこで貴方達、陸戦隊には―――」

陸戦隊員4人と艦娘2人に不信の目を向けられながら、大端は加賀達の配置と陸戦隊員の任務を伝えた。

 

 

 

 お世辞にも広いとは言えないガス灯が天井の中央にぶら下がった長方形の部屋で、兵隊が立ったまま無骨な金属製のコップに注いだ飲料水を一気に飲んでいた。部屋の四方には大小の窓が1ヵ所づつ、1番小さい窓には内外両方にカウンターの様な張り出しが設けられている。そしてあまり目立たない特徴ではあるが長方形の長い方の壁に2つの扉が対になるように儲けられていた。窓の外は真っ暗ではあるが、軍基地とその他の境目を示しているだけの低い背の木材で出来た簡単な柵が延びているのが開いた窓からの光で分かる。閉められた門の番兵詰所では2人の兵隊が任務に就いていた。

 兵隊は空になったコップを部屋の中央にあるテーブルに置いて椅子に座ると向かいに座る兵隊、彼のそれよりも一つ線の多い階級章を付けた兵隊に声を掛けた。

「先輩、隣の基地が離反して立て篭もっていると聞きましたがうちの基地からは何もしなくてよろしいのですか?」

「そんなのは上が決める事だ」

尋ねられた兵隊は退屈そうにカードをきりながら答えた。

「何も言ってこないところから察するに取り戻した後の事を考えて航空攻撃は避けているんだろ。あの基地は最新機器の塊みたいなところがあるからな・・・隣が離反したなんて冗談言ってないで一戦やろうぜ」

 カードをきっていた階級の高い方の兵隊は返事も待たずに配り始めた。

「冗談なんて言っていませんよ。・・・またですか?さっき負けて夜間の門番する破目になったの忘れたんですか?」

配られたカードを手に取りながらも呆れた様子で階級の低い方の兵隊は言った。

「だからこそだろう。お前だって負けたからここにいる訳なんだから少しでも練習をだな・・・」

「練習は結構ですが、そもそも夜間任務を賭けなければ良いのでは?俺はあの時、先輩に強引に呼びかけられて居なければ今頃寮で寝ています。・・・ところで」

そう言って天井を仰いだ兵隊の視界の端で、遠く窓越しに車両のライトが近付いていた。

 「こんな時間に来客の予定なんてありましたっけ?」

「ある訳無いだろ。もう直ぐ夜中の1時だぞ」

立ち上がって窓から様子を窺う兵隊を他所にカードを配り終えた階級の高い方の兵隊が自分のカードを捲って顔を顰める。

「しかしあの軍用トラック、こっちに向かって来てるんですが・・・」

近付いてくる車両の正体が分かる距離になってようやく階級の高い方の兵隊も立ち上がって窓辺に向かった。

「んんー?離反の件で何かあったのかー?」

相変わらず冗談だと思っている様な調子で階級の高い方の兵隊は呟きながら外の様子を窺った。

「ですから冗談では無いですって。基地司令が通信室で話しているのを・・・」

言い返す途中、階級の低い方の兵隊は口を噤んだ。

 トラックはかなり近付いていたが閉ざされた門の前で止まる気配は無い。むしろ排気音が一段と高くなっていた。

「おいおい、度胸試しじゃあるまいし・・・」

危機感の無い呟きを零す兵隊の隣で階級が低い方の番兵がある可能性に気付いて顔色を変えた。

「まさか・・・」

「おい、止まれ!何事だ!!」

どう考えても止まれない距離になって階級の高い方の兵隊はようやく焦りを見せた。しかしトラックは直ぐに詰所から運転する“陸戦隊員”の姿が見える程の距離まで差し迫る。盛大な打撃音と共に門を構成する金属がねじ切れて2人の番兵の横を疾走する鉄の塊が走り去っていった。遅れて何かの金具が地面で転がる音とひしゃげた鉄格子の門が発てる情けない音が重なり合う。

 55号艦隊離反2日目、陸上からの攻撃を全く想定せずに建てられていた54号基地の春島第一飛行場はあっさりと“敵”の侵入を許していた。それは同じような造りの春島第二飛行場も同様だった。前線から程遠い深夜の両飛行場は見事に混乱し、54基地が受けた襲撃が泊地本部に伝わるのは数時間後の事だった。

 

 

>>>To be contemew【16話 使者との対話】

 




 主人公ってなんだっけ?ご無沙汰しております。筆者の胡金音です。今回はかなりコンパクトに仕上がっています。(当社比)
 さて、いきなりですがこの作品は結構な頻度で地理系の話が登場していますが距離関係はかなり適当だったりします。特に8話から11話にかけてのフ島(フィリピン辺りにある架空の島)攻略戦で敵軍の背後を突くために2000km以上の海を横断する辺りに、筆者のいい加減な距離感覚が現れています。一応グーグルマップでの現地調査?でここに基地があってここに寮があってとか考えては居ますが、徒歩で10分ぐらいかなと思って出かけたら30分掛かって遅刻する人が書いているので雑です。気になる方もいらっしゃるとは思いますがその辺も目を粒っていただけたらなと思います。(そもそもトラック諸島って環礁内で艦隊戦が出来るほど広いのか・・・?)
 と、いきなり言い訳から始ままりましたがなんとか5/29までに更新できて良かったです。筆者の活動範囲が広がった事もあり更新ペースは遅くなりますが何とか完結までは書き進めますので良かったらお付き合い下さい。次回は2015/8/13の更新を予定しております。
 それでは今回はこの辺で。暑くなってきましたが皆様、お体にはくれぐれもお気をつけて!!

>>>つーべー、こんてぬー。【アト・ガーキー=XVI】


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十六話 邂逅“上”

コロコロ代わるサブタイトル。過去の自分に言ってやりたい。「次回予告しなきゃいいのに・・・」
(次回9月29日更新予定)

・*重要*
前話にて話の展開に不可解な点がありましたので訂正しました。

・先に呼んでおくと分かりやすくなるかも知れない補足。
51号基地(もしくは大隊)・・・トラック泊地本部に拠点を構え、陸戦隊と妙高型艦娘を擁する。つまりは本部の直轄部隊。「本部の~」だと、たいていここを指す。
52号基地(もしくは大隊)・・・トラック諸島西部に拠点を構える。艦娘の水雷戦隊を擁する。
54号基地(略)・・・トラック諸島春島西部に拠点を構える航空特化部隊。構成員が殆ど航空関係者。
55号基地(ry)・・・トラック諸島春島東部に拠点を構える支援艦隊及び増援部隊。陸戦隊とこの世界では後続の出現により旧式になった艦娘部隊と政治的なアレで51号基地から分離した陸戦隊を持っていた。諸事情につき現在の陸戦隊員は18人。本作の主な舞台で離反中。



 海上で腕を組んで仁王立ちする那智が見つめる先には泊地を構成する島の一つ、54号大隊が持つ2つの航空基地と55号大隊の拠点を擁する春島。前線から遠く離れたこの諸島では灯火規制は布かれておらず、ぽつぽつと灯りが灯っている。55号基地離反による海上封鎖の影響で漁船の姿も見られない。月齢の幼い月が時折反射する海に春島はぼんやりとしたその影を横たえていた。

 那智の背後には51号大隊が所有する小型揚陸艇が4隻、さらにその後ろには海上指揮所兼艦娘の待機所代わりに持ち出された砲艦が1隻浮いている。その砲艦から軌跡を引きながら1人の艦娘が向かって来ていた。

 「姉さん、提督が一度砲艦に戻って来いって言ってるわよ」

「ああ、分かった」

足柄は動く気配の無い那智の横に並んで視線を前方に向けた。

「・・・妙高姉さんと羽黒の事が心配?」

「そうだな。作戦をきいた時に姉さんは自分で交渉に向かう気だとは思ったが、もう1人が羽黒になるとは思わなかったからな」

「あの子も変わったわね」

那智は少し表情を和らげて軽く頷いた。

 「・・・なあ足柄。どうして55号基地は離反なんて真似に走ったんだと思う?」

不意に顔を足柄の方へ向けた那智はそんな質問をした。

「それを今2人が調べに行ってるんじゃない」

そう答えつつも足柄は考える素振りを見せる。

「まあ普通に考えたら何か要求あるにしても、離反なんて上の姿勢を硬直させるだけよね・・・」

「お偉い方が言うように若い将官や佐官を増やす方針は失策だったのかもしれんな」

「単に若気の至りで離反に踏み切ったか、あるいは・・・」

「あるいは、なんだ?」

「余程、自信のある秘策でもあるのかしら?」

「秘策、か・・・」

「姉さん、そろそろ行かないと」

さらに考え込もうとする那智に足柄は言う。

「提督に怒られても知らないわよ?」

「・・・ああ、そうだな」

そういって那智はようやく足柄と共に富山が待つ砲艦に向かった。

 

 

 「・・・提督、本気ですか?」

「ええ、数で劣る私達が勝機を掴むには先手を仕掛けるしかないわ。」

そして大端は広げた地図の一点を指差した。

「54号大隊第一飛行場。陸戦隊にはここを襲撃及び奪取してもらいます」

「しかし・・・我々はたった18人です。一大隊を相手に攻め込むなど無茶が過ぎます」

「そうですよ、提督。それに私達の目的はあの子達の身の保障を得る事です。飛行場の襲撃なんてしなくても・・・」

陸戦隊員の意見を鳳翔が後押しする。

「順に答えるわね。まず18人で奪取可能かどうかと言う点だけど、54号基地が持つ陸戦兵力は門の警備兵程度よ。前線なら守備隊がガッチリ固めているだろうけどね。有事の際に54号基地の守備に当たる泊地本部の陸戦隊、今は沖合いの揚陸艇に居るわ。門の警備兵数人と寝起きの飛行機乗り相手なら装備が揃った18人の陸戦隊員で十分、突入したら真っ先に54号の基地司令を抑えなさい」

次に大端は鳳翔に顔を向ける。

 「飛行場の奪取は必要よ。確かに関係の無い人達を巻き込んでしまう面はあるけれど・・・これから夜が明ける前に本部の妙高型が4人揃って強行上陸を展開したら青葉達だけで防げる?本部に居ない駆逐艦娘の報告があるという事は恐らく52号からも出撃してるわ。一隻でも揚陸艇を取りこぼしたらここは保てないし、離反は失敗して睦月達の身の保障も出来なくなる。睦月達に理由を話して出撃してもらっても戦力は向こうが上、それに実戦を殆ど経験していないあの子達がいきなり艦娘相手に実弾を撃てると思う?向こうの陸戦隊の上陸を阻止するにはうちの主力である空母艦娘、貴女達の参戦は必須よ。夜間の航空火力が加わる事で本部が攻勢にでる抑止にもなる。その為に飛行場を奪取し、夜間着陸用の照明を使って艦載機を回収する。明るければ出来るわね?」

「やったことはありませんが」

「他に打てる手はある?」

鳳翔は少しの間押し黙って口を開いた。

 「・・・提督のお考えは分かりました。でも、あと一つだけ教えて下さい。あの子達の身の保障と引き換える為に泊地の中継基地としての機能に影響が出るまで基地に立て篭もらなければいけない、その為にここで本部に制圧される訳には行かないというのは分かります。しかし幾らフ島攻略作戦の時に支給された資源が残っているとは言えこのまま包囲され続ければ直ぐに底を付くでしょう。私が離反に反対したのはその点が解決出来ていなかったからです。もし提督がそこまでお考えでないなら私はこの離反を降りて本部の艦隊が基地に気を取られている間にあの子達を連れて逃げ延びます」

 「どうして鳳翔さんがそんなに無茶な出奔に拘るのかは分からないけれど・・・」

頑なな姿勢をとる鳳翔に大端はそう前置きして話し続けた。

「いいわ。もう本当に時間が無いから手短になるけど、この際みんなにも教えておくわ。私がこの離反に踏み切った理由はこの基地に最新の通信機器が配備されているからよ。具体的にどうするかと言うと本来は通信用の機器を少し組み替えて民間船の交信波長やラジオの波長に音声を流せる様にする。ここの機器なら泊地外の周辺諸島まで電波を飛ばせるわ。そして艦娘の処分が行われている事を電波に乗せる。軍にとって都合の悪い極秘事項がラジオに流れだしたらさぞ上層部は慌てる事でしょうね。上手くいけばメディアに拾われてスキャンダルになるわ。そしたら軍も何か手を打たない訳にはいかなくなる。以上がこの離反に踏み切った理由よ。54号基地の飛行場を押さえるのは空襲による通信機器の破壊を防ぐ目的もあるわね。・・・これで良いかしら?他には何かある?」

 大端は周囲に目を配ったが発言する者は居ない。

「よし。では――各自尽力を尽くせ。出撃するっ!」

 

 

 春島から東に10数キロ。そこには珊瑚が隆起して出来た環礁が不揃いな大きさの点線となってトラック泊地の外郭を形成している。艦娘の誕生以前は一部の限られた途切れ目しか船舶の航行は出来なかった為、数箇所の主だった水路を塞ぐ事でトラック泊地は外敵の進入を許さない海上に浮かぶ広大な堅城となった。しかし深海棲艦や艦娘が登場し僅か数メートルの切れ目でさえ外的の進入経路となり泊地は不可侵の領域ではなくなってしまった。もちろん軍部も手を拱いていた訳ではない。水路の埋め立てや監視塔の整備を進めたが何せ200kmもの環礁のあちこちに点在する水路である。埋め立て作業は難航し、現在は応急処置として侵入防止の電気網が張られ時折泊地本部の陸戦隊員が巡視に訪れる程度に止められていた。春島沖合で那智と足柄が話していた頃、潮の満ち引きの影響で環礁が一部細くなったところに水中から這い上がる人影があった。その人影は殻で覆われたような半身を引き摺ってゆっくりと陸上を移動すると環礁の内側に、すべり落ちるようにして海中に潜り込んで行った。時間にして僅か10分足らずの出来事。泊地への侵入者の存在を知るものは空に小さな弧を描く月以外には居なかった。

 

 

 真っ暗闇の中、波が時折作る泡の音が響いている。目で得られる情報が限られる中では音に寄る情報の重要度が高くなるが、自然の作り出す波の音は定期的な様で不規則だ。波の音に別の音が混じっていないかと聴覚を研ぎ澄ませていた羽黒は何かが弾ける音を聞いた気がして後方を振り返った。見えたのは細い月が僅かに照らす海面に残った自身の軌跡と少し遠くなった春島西海岸の町並みだけ。海岸沿いには54号基地の飛行場があるが、飛行場に近い市街地の一般人を巻き込まない為に作戦には参加しないと彼女は富山から聞いている。羽黒は先を急いだ。

 数時間前、トラック泊地本部の会議室で妙高が中心となって立てた作戦は彼女に信頼を置く富山中将の手で実行に移された。富山が大本営の指示や各部隊の要望をすり合わせて用意した戦力は泊地内の浮き砲台として使われている装甲砲艦1隻、小型揚陸艇4席とそれに分乗する51号基地の守備隊員500名、さらに52号基地から応援に駆けつけた駆逐艦娘6人と発案者の妙高達。10数名の陸上部隊と支援艦隊の艦娘、運用上の問題で夜間の活動が制限される空母艦娘に対抗するには十分な戦力だった。

 航空戦力に関しては飛行場が離反基地に近く無防備になりやすい離着陸時に攻撃を受ける可能性が在る事と、夜間はどうしても精密攻撃が難しい空襲で55号基地にある最新鋭通信機器の損壊避けるよう大本営の指示があった事、最後にこれも本国の指示でなるべく秘密裏に離反を鎮圧する為に目立つ攻撃は避ける必要があった事から、航空隊を擁する54号基地の司令官に作戦概要が通達されるに留まった。実行の目処が立ち、富山が民間船の航行を訓練名目で禁止する旨を泊地内と外洋からトラック諸島に向かう船舶に通達した時には既に日は沈みきっていた。

 そうして離反制圧部隊が海上に展開したのを見届けると妙高と羽黒は予定通りに、万が一離反部隊に遭遇した事を考え2手に別れて春島に向かった。羽黒が通った経路は春島の西方を大きく迂回して北から春島の基地に侵入するルートで、制圧部隊と対峙する離反部隊の背後を突く形となる。対して妙高は春島を東に迂回して北東から春島に侵入する経路を取る事になった。

 羽黒は春島の北海岸まで回りこむと予め地図で確認した上陸出来そうな場所を探し始めた。海岸から近すぎず遠すぎずの距離を保って羽黒は航路を東に取る。那智と足柄の本隊が55号大隊を引きつけているとはいえ、万が一見張りに見つかってしまえば計画は破綻してしまう。

 予定していた海岸を見つけると羽黒は慎重に近づいた。木々のざわめきで集めにくくなった分の情報を目を凝らす事で補う。とりあえず人影が見当たらない事を確認すると羽黒は背負った艤装に手を伸ばして装備した電探を取り出した。本来は水上電探だが念の為起動させる。そして反応は直ぐにあった。

「えっ・・・!?」

 思わず声を零して電探に反応があった西南、つまり羽黒が今来た方向を見上げると一瞬だけ低空に光る物が見えた。さほど高くない位置を飛んで来るそれに慌てて羽黒は海岸から上陸して木の陰に隠れる。飛来したそれは直ぐにプロペラ音を発しながら目視できる距離まで近付いて飛行機の形を作ると羽黒の頭上を通り過ぎて行った。作戦では春島上空を飛ぶ筈のない飛行機の存在に動揺しつつも羽黒はその飛行機の所属を確認出来なかった事を悔やんだ。飛行機が飛び去った東方向には島の反対側から迂回した妙高が居る筈だ。しかし探知される事を考えると無線を使って知らせる訳にはいかない。羽黒は姉の無事を祈りつつ先を進んだ。

 

 

 羽黒が見た飛行機が妙高の附近を通る頃、妙高は既に上陸して55号基地に向かって茂みの中を進み始めていた。プロペラ音を聞いた妙高は木々の隙間から自分の姿が見つからないように細心の注意を払いながら空を仰ぐ。ある程度余裕を持ってその飛行機の姿を観察し、塗装パターンから所属を確認する事が出来た妙高は自分の読みが外れた事を悟った。

「元一航戦を甘く見ていましたね」

飛行機こと、加賀達が哨戒の為に飛ばした天山の後ろ姿を見ながら妙高は小さく呟いた。羽黒の身を案じつつ妙高は自分の役割に戻る。

「見つかっていなければ良いのですが・・・」

普段、彼女達が活動する海とは違って木が生い茂った空間が目の広がる。加えて作戦が読まれた可能性を考え、妙高はさらに気を引き締めた。目的は離反した基地の司令官と合ってその目的を聞き出し、可能であれば投降するよう説得する事。妙高はふと思った。この離反は本当に無謀なのか、と。

 平時であっても重罪になる離反をよりよって他国との開戦直後に起こしたのだ。下手をすると敵国と内通していると思われてもおかしく無い。しかし内通しているならこんな中継泊地の一角で立て篭もるよりも、突発的に泊地本部を攻撃して指揮系統を乱した方が余程効果的だ。内通でないのなら交渉の余地があるのではないかと、本国の指示を受ける形で無理な離反に踏み切った理由を聞き出すべくこうして直接交渉に向かっているが、もし離反の理由がもっと純粋な何かで勝算あっての離反だとしたらどうだ?そんな目的を持つ司令官が艦載機回収の見込みの無い偵察を指示するだろうか?・・・飛行場!54号基地の飛行場を取ってしまえば夜間着陸用の照明が使える、理論上は艦載機の回収が可能だ。そうなると飛行場が危ない。何とかして富山に知らせなければ・・・。

 

ガサッ

 

 近いところで自分が立てた物とは違う音がして妙高は身を硬くした。周囲の警戒が散漫になっていた事を後悔する間も無くその物音はさらに近付いてくる。妙高は静かに身を低くして対空機銃を構える。陸上では艤装による身体の保護も期待出来ない。妙高は身を屈めて静かに息を飲んだ。

 

 

>>>To be contemew【17話 邂逅“下”】

 




 なんと言うか10話ぐらいで終わると思ってたのもあるけど、荒削りな設定に出てくる不備を誤魔化しながら(しかも間が空くから設定忘れる)話進めるのも大変ですね。現にここ最近大きなミスが続いていますし・・・。どうも、反面教師の胡金音です。後付設定サクサクです。下手すると後付しすぎで1話から読むより途中から読んだほうが分かりやすいんじゃないかと思ったりしています。


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十七話 邂逅“下”

後書きがくっそ長いです。
(次回12月29日更新予定)
↑間に合いそうに無い件(12月25日)


 茂みを掻き分ける音はいよいよ傍までやって来て、音を起てていた影が木の向こうから姿を現した。妙高はその姿を認めると向けていた機銃を下ろした。

「羽黒!無事でしたか?」

声を掛けられた影が驚いて動くのが音と空気の動きで分かる。

「姉さん!?大丈夫だった?」

羽黒の声を聞いて無事を確認した妙高は緊張した面持ちを少し和らげた。

 

 

 妙高は別行動中に飛来した偵察機が55号大隊のものであった事と、そこから飛行場の襲撃が予想される事を羽黒に伝える

「それなら早く提督に連絡しないと」

「駄目です」

無線機に手を伸ばした羽黒を静止しながら妙高は言った。

「無線を使っては55号基地がこちらの陸戦隊の動きに気付いてしまいます。飛行場近くに住む一般住民を巻き込む事になりかねません。なんとかして武力衝突が起こる前にあちらの基地司令に会ってを止めていただかなくては・・・」

「それなら早く行きましょう!」

「待って・・・」

妙高は少し考えて羽黒に向き直る。

「羽黒。あなたは急いで提督の下に戻って陸戦隊の方々を飛行場に送ってもらう準備をしていただくよう伝えて下さい」

「姉さんはどうするの?」

「私は予定通り55号大隊の司令官に会いに行きます。・・・大丈夫、指揮官の殆どが不在のまま指揮を執っているのならそれが出来る場所は限られます。基地の構造も出撃前に確認済みですよ」

「・・・分かりました。では、気をつけて」

「ええ、羽黒もね」

そして2人はそれぞれの目的地は自分の役割を果たす為に向かった。

 

 

 「そう。分かったわ、引き続き警戒を続けて」

10日ほど前には本国から来た指揮官が集まっていた55号艦隊基地の指揮所、通称指揮室では今や実質的な離反軍の指揮官となった大端が加賀からの報告を受け終えて通話機を台座に戻した。数十人の指揮官や通信係を収容するこの指揮室だが大端以外に人の姿は無い。電灯が節電の為に一部しか点けていない所為で半分暗い指揮室に閑散とした印象を与えたいた。

「この月齢じゃ哨戒の効果も薄そうか・・・でも、一端は南海岸沖の艦隊が本隊と見て良さそうね」

大端は一人呟くと、卓上に広げた泊地の地図が丸まらない様に角にと置いた木箱の中から敵艦隊を示す船形の駒を手に取った。

 春島の南海岸線沿いに展開するのは鳳翔を旗艦とし周囲を古鷹ら重巡艦娘で固めた主力艦隊、それにに向かい合うように本部艦隊を並べる。地図上には他に艦隊ごと移動しながら哨戒を続ける加賀を始めとした空母部隊に、飛行場奪取に向かった陸戦部隊を示す駒が並んでいる。

 「それにしても・・・」

大端は先程の金沢との会話を思い出した。

「司令が処分に反対していた・・・?そもそも司令が撃たれてまで離反の汚名を着るような事を?」

自分なら気付きそうという金沢の言葉を信じてみたものの全く予想がつずに大端は頭を抱えた。それに“前の睦月達”、大端が初めて指揮を任された艦娘の処分に当時から司令であった金沢が関わっていた事には変わらない。大端の疑問は増えるばかりだった。

 そんな時、大端の背後でドアノブが回った。離反中の、それも本部の艦娘と一触即発の状況にある今、ノックもせずにここを訪れる人間は限られる。音に気付いた大端は思わず護身用に身につけたホルスターに手を添えながら半身を向け、思いもしなかった人物の姿に釘付けになった。

 

 

 「こんばんわ。離反を宣言された金沢基地司令を伺って参りました」

無断で入室した人物は大端に気付くとその双瞳を向けて用件を彼女に伝えた。

「金沢司令はいらっしゃいますか?」

大端が殆どの人手を飛行場の制圧に向けた為、殆ど無人になっていた55号基地への侵入を容易く果たした妙高は丁寧な言葉遣いで大端に尋ねる。

「・・・司令は仮眠中よ」

まさか負傷による発熱で寝込んでいるとは言えず、咄嗟に答えてから大端は口を噤んだ。

「同じ国に属する艦娘同士がにらみ合っている様な非常時に司令が仮眠中、ですか」

大端は表情を苦くして押し黙る。

「では今、そちらの艦隊を指揮しているのは貴女ですね?」

「・・・本部の艦娘であるあなたが何の用かしら?」

 質問を無視された事を気にした様子も無く妙高は大端の疑問に答えた。

「憲兵隊の方からの報告で離反の際に金沢司令が艦娘に撃たれた事は知っています。貴女方は一枚岩という訳では無いようですね。もし、貴女が今の状況を望まないのであれば本部には対話する用意があります」

「少なくとも私は大人しく従うつもりは無いわよ」

妙高の話には聞く耳を持たずに大端は答える。

「正直なところ、夜間に艦娘が艦載機を飛ばすのは盲点でした。しかし航空戦力で夜襲を掛ければ勝ち目があるとお考えですか?目的は存じませんが仮に今の状況を打破出来たとしても本国に貴女方の居場所は無くなります。それでは貴女の目的は果たせるのですか?今ならまだ引き返せます」

「そういう訳には・・・いかない」

大端は半ば自分に言い聞かせて言った。

「そんなに頑なに、お味方に銃口を向ける道を選ぶのは何故なのです?」

 少しの静寂の後に大端は口を開いた。

「・・・泊地長の秘書艦のあなたなら、全く心当たりが無いという事はないんじゃない?」

「・・・どう言う事でしょう?」

妙高は大端の話を全く理解できずに本心から尋ね返す。

「知らないのなら教えてあげる。泊地長はあなたの知らないところで私の艦娘を沈めたって事よ」

「それは、深海棲艦との戦闘で、という事ですか?」

「まさか。艦娘の解体の手間を省く為に水面下で戦闘に見せかけて処分したのよ」

 

 

 「そんな事・・・提督に限って、有り得ません!」

大端から事のあらましを聞いた妙高は始めて口調を強めた。

「別に無理に信じろとは言わないけれどね。でもこんな重大な事、泊地長が全く知らないって言うのはかなり無理があるんじゃないかしら?」

「それは・・・」

「あなたは艦娘になって長いわよね?今までに一度も、奇襲や事故で呆気なく艦隊が全滅した知らせを聞いた事は無かった?本国の基地ではちょっとした噂になっているみたいだけど?」

 「・・・・・・一度、提督に確認させていただけます」

妙高はかなり狼狽して呟くように言うと自身の無線機を手に取った。

「こっちの通話機、使っていいわよ。モールス信号越しだと話しにくいでしょう?」

大端は妙高が頷くのを見て席を譲り、本部の通信室経由で泊地長の富山と通話をする手筈を整えた。間も無く通信機にある本部と記されたランプが点灯する。大端が本部の通信室に富山と直接会話を繋ぐよう依頼して待つ事数秒、妙高の目の前にある通話機は富山の乗る砲艦の指揮所へと繋がった。

 

 

 「泊地長。別行動中の艦娘、妙高から通信が繋がっています。通信室までお越し下さい」

本部艦隊の海上指揮所となっている旧式砲艦の艦橋で状況を見守っていた富山は部下に呼ばれて砲艦の通信室に向かった。

「こちら富山だ。妙高、進歩はどうだ?」

機器が所狭しと並べられた艦内の狭い通信室に着いた富山は人払いをして通話機を手に取った。

『提督・・・』

「・・・どうした?何か不具合があったのか?」

富山は妙高の思い詰めた声を聞いて思わず声を潜めて尋ねた。

『いえ、55号基地への潜入、及び離反艦隊の指揮官との接触は成功しました』

 「そうか!では投降の目処がたったか!」

一先ずの安堵とその後に続く妙高の報告を予想して富山は明るい声で話した、が妙高の報告は彼の予想に反するものだった。

『今・・・私は55号基地の通信設備をお借りしています』

「ん?・・・ではこの会話は他の船舶からも傍受出来るという事か?」

55号艦隊の離反は公式に民間へ発表されていない。富山の表情に雲が差した。

『海底ケーブルと本部の通信室を介しているのでその心配はありません』

「では何があった?」

『提督、一つだけ確認したい事があります』

 「今、か?構わんが・・・」

疑問を浮かべながら富山は応じる。

『提督が、艦娘の処分を黙認されたというのは本当ですか?』

富山はすぐには答えなかった。そして数秒の沈黙の後。

「・・・処分?何か大きな失敗があった場合の降格の事か?」

『違います!通常行うべき解体の手順を踏まずに艦娘―――、』

 富山の直ぐ近くでかなり大きな爆発音がして振動が砲艦を襲った。旧式の砲艦が軋む金属音を発てて富山は近くの手摺に掴まった。数秒遅れてけたたましい警報音が砲艦中に鳴り響く。ブザーが鳴り、富山は衝撃で途絶えた通話機から耳を離した。

[緊急警報、緊急警報。春島方面より発射されたと思しき雷撃により被害発生。総員、第一種臨戦態勢へ移行せよ。繰り返す、春島方面―――]

一通り放送を聞いた富山が通話機に耳を戻すと回線は復活していた。

『提督!?今の音は何です!?』

「悪いが続きは後だ。お前も直ぐにこちらに戻れ」

『提督!一体何が・・・』

 富山は通話を終える操作をして通信室を後にし、廊下で待機していた通信士に部屋を出た事を伝えると詳しい状況を確認する為に艦橋へと急いだ。

 

 

 55号基地の指揮室で通話が途絶えた事を示す低い電子音を聞いて妙高は通話機に繋がるヘッドホンを机の置いた。

「どうだった?」

横で通話の様子を見守っていた大端が妙高に尋ねる。

「いえ、それが・・・良く聞こえませんでしたが爆発音がして、通話どころではなくなってしまったようです」

「爆発音?」

「・・・攻撃の指示をされたのですか?」

「うちの艦娘には本部が仕掛けて来ないのなら一切攻撃しないように伝えているわ」

「では、どなたかが独断で攻撃を始めた可能性はありませんか?」

「・・・あなたね。私達の目的は話したでしょう?どうして攻撃を仕掛けてこない本部艦隊を相手に・・・!」

妙高と話している最中、通信機の着信と書かれたランプが灯り、大端は直ぐに回線を繋げた。

 「こちら大端。どうぞ」

片耳にだけ手で押さえたヘッドホンを正しく付け直しながら大端は言った。

『鳳翔です。本部艦隊より砲撃を受けています、応戦続行の許可を!』

「本部からの砲撃?それは確か?」

大端が確認するのを聞いて、妙高は驚きつつも通信機の前の席を譲った。

『はい、既に被害が出ています』

「・・・了解、応戦を許可する。健闘を祈る」

それだけ伝えると大端は通話を終了した。

 「ああ・・・始まってしまったわね」

大端は諦観した様子で妙高に告げた。

 

 

>>>To be continue【18話 砲火】

 




 コンティニューのスペルミスにようやく気付きましたoz
あれだけ話題にしてたのに今まで全く気付かなかったという・・・いや、だって“コンテニュー”って“ニュー”って付いてるんだから“new”だと思うじゃないですか!?・・・思わないですか、そうですか。

 どうも、ご無沙汰しております。英語の成績が1だったB.S.の筆者、胡金音です。気付けばB.S.も17話です。話数なんて話の区切り方次第で変動するものなんですがね。
 さて、今回はお知らせしなければならない事があります。それはこの作品はあと数話を持ちまして終了とさせていただく事です。終了するに至った理由をここに書き残して置こうかと思います。

 まず、この作品は筆者にとって始めての2次創作作品という事もあって以前から話していた通り10話程で終える予定で、1話を投降する時点で全体のあらすじを決めてから書き始めた。しかし程なくしてその内容が10話分で収まる内容ではないという事に気付きました。初の作品でいきなり長編を書く予定が無かった筆者はその焦りから殆ど何の前置きもなしに艦娘を沈めてしまうという、2次創作にあるまじき失態を犯してしまいました。その後、艦娘が沈む際に改善を試みましたが結果としてキャラクターの扱いに大きな差が生まれてしまいました。今後執筆を続けるに当たり一部のキャラクターに益々不遇されている印象を与える事になり、延いては読者の方々に不快感を与え続けるのではないかと考えました。

 次にこちらも以前お話していましたが、この作品の書き終えた後に執筆する予定でいる作品の完成が当初の予定より大幅に遅れている、といった理由が挙げられます。取り繕っても仕方ないので簡潔に言ってしまうと、この作品は自身も楽しませていただいている艦隊これくしょんの設定を使って執筆の練習をしよう、というものでした。そんな作品が予想よりも多くの方に読んでいただき、一人で舞い上がった筆者はここまで作品を進める事が出来ました。
 それでもこの作品を終了するのは、実に身勝手な理由ではありますが次に予定している作品が出版社の賞に応募しようと考えているものだからです。今後この作品を書き続けていると筆者が社会人になり応募作品の制作に打ち込む事が出来る時間が短くなってしまうのではないかという考えがこの作品を終了する決定の一端を担う事になりました。筆者が一つの事に集中出来ない性分である為“小説執筆”においては出版社への応募作品に集中したいという我侭でもあります。

 最後にこの作品が1次2次を問わずに自分にとって実質的に初の執筆だった為に設定が荒く、当初のあらすじも後々読み返した際に分かりにくい書き方であった、上記にあるキャラクターの扱いに関して改善を試みた際に当初の設定を多数変更した、等の為に作品内で致命的な矛盾が発覚し、その綻びの修正に限界を感じ始めたという事が理由に挙げられます。

 以上の理由からこの度あと数話を持ちましてBetrayal Squadronを終了させていただく事と致します。今までのご愛読ありがとうございました。そして大きな区切りとなる終話までお付き合いしていただけると幸いです。あと少しの間とはなりますがBetrayal Squadronをよろしくお願い致します。

2015/09/29
胡金音


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十八話 砲火

1話だけでよくまあ10000文字も書いたもんだと思う今日この頃。


 その魚雷は尾を引いて背後の揚陸艇に突き刺さった。轟音に思わず振り返った那智は即座に揚陸艇の被雷面と僅かに残った軌跡から雷撃が発射された方向を割り出し索敵に集中する。そして敵を発見する前に次の雷撃が迫っているのを見つけた。

「足柄!」

那智は砲塔を構えながら呼びかけた。

「分かってるっ」

同じく近付いてくる魚雷の存在に気付いた足柄は片手で砲塔を構えつつ空いた手で無線のボタンを押し富山が式を執る砲艦へと連絡を取った。

 

 

 「で、これからどうするつもり?」

鳳翔との連絡を終えた大端は自分を見降ろす妙高へと問いかけた。遠くからは時折、薄いガラス越しに砲撃音が聞こえる。

「泊地長からは聞きたかった答えは得られなかったんでしょう?」

妙高は直ぐには答えなかった。そして聞かれた事とは別の話を始める。

「ここに来る途中、55号大隊の艦載機を見ました。そしてさっき話されたように貴女は、信憑性はともかく艦娘を救うという明確な目的を持っています。ですがそれは容易に実現できる事ではありません。ならば孤立した勢力である貴女方が夜間に回収出来ない艦載機を使い捨てするとは思えません。大端元中佐、貴女は同調した陸戦隊員を使って54号基地の飛行場を占拠しようと考えましたね?あの基地ならば夜間照明を使って艦載機も回収出来るでしょう」

「・・・気付いてたのね」

「今頃、羽黒が提督に知らせているでしょう。飛行場に本部の陸戦隊が展開したら貴女方に勝機はありません。・・・もう降参して下さい。貴女だって無用に血を流す事を望んでいる訳ではないのでしょう?」

「そうね、じゃあ私がここで降伏したらどうなるのかしら?上層部のお偉いさん達の艦娘を見る目は変わる?誰があの子達の仇を取ってくれるの?」

「あの子達、ですか?」

 通信機のランプが点灯し、少し遅れて着信を伝えるブザーが鳴った。

「失礼」

大端は少しの間、通話機の向こうとやり取りし通信を終えた。

「・・・ごめんなさい、さっきの事は忘れて。それに気付くのが少し遅かったみたいね」

「どういう・・・」

妙高は言い終わる前に表情を変えた。大端が頷く。

 「ええ。たった今、飛行場制圧が済んでこっちの艦載機が泊地長のもとに飛び立ったわ。本部艦隊との決着をつけに」

それを聞いた妙高は大端を押し退けると通話機に手を伸ばした。連絡先を手早く切り替えて富山へと繋がるのを待つ。大端は止めなかった。

 

 

 羽黒が富山の元に辿り着いた時、艦隊は既に戦闘状態に入っていた。本部艦隊が被雷下のを受け実力行使による55号艦隊の制圧を決めた富山は那智、足柄を中核とした本部艦隊による強行揚陸に向け進軍を開始した。55号大隊側が砲撃と雷撃で抵抗しているものの物量で勝る本部艦隊の進軍は止まる事無く本部陸戦隊の上陸も時間の問題だった。

 「提督、これは・・・一体・・・?」

砲艦の艦橋に入った羽黒はそこで指揮を執る富山に尋ねる。

「ああ、戻ったか。見ての通りだ。向こうからの雷撃で被害が発生し、実力行使に及ばざるを得なくなった。お前達の交渉の結果を待てなくなったのは・・・すまない」

「そう、ですか・・・」

落胆した羽黒だったが直ぐに帰投した目的を思い出し気を取り直した。

「提督、54号基地の飛行場へ陸戦隊を向かわせてください!時間がありません」

羽黒は交渉に向かうまでの事を手短に説明した。

 「話は分かった。揚陸艇を1つ回そう。羽黒はここに残って那智、足柄と揚陸艇の護衛に当るよう・・・」

「司令!電探に航空機反応!こちらに向かってきています!」

富山が言い終わる前に近くに居た指揮官が割り込んできた。

「照明弾、放てっ!対空戦闘用意!・・・飛行場が堕ちたか」

搭乗艦に支持を出すと富山は通信機に飛びついて艦隊の各艦に声を飛ばした。

「全艦、対空戦闘用意っ!」

程なくしてプロペラ音が船内に届き始める。ガリガリ鳴る機銃音と共に鋭光弾が列を成して夜闇に消えて行く。鋭光弾の発砲の度に艦橋の窓が薄く反射した。弾幕を潜り抜けてきた数機が富山の砲艦に向かってくる。放たれた照明弾で甲板に影を作りながら機体から円筒形の金属が切り離される。そのうちの1つが艦橋の窓を突き破った。

 

 

 爆音に紛れる事も無くエンジン音が遠退いていき、最後の一機が射程外に出るまで掃射を続けていた揚陸艇もやがて静かになった。空襲に気を取られている間に55号大隊からの砲撃も止んでいる事に気付き砲手も手を止めた。

 富山が目を開けるとガラスの破片が飛び散っているものの爆弾が炸裂した様子は無い。爆炎が艦橋を焼く代わりに、壁と床、ついでに天井までが緑色に染まっている。金属の筒からこぼれた緑色の塗料が床に粘性のある水溜りを作っていた。

「失礼しま・・・!?」

たった今艦橋へ入って来た通信兵が艦橋に広がった塗料の臭いと部屋を覆う緑色に一瞬だけ唖然として固まる。それでも重傷者がいない事に気付くとすぐさま報告に移った。

「・・・55号艦隊からの通信です」

「ああ、ご苦労。・・・今行く」

そうして富山は艦橋の部下に警戒を続けるよう、そして手の空いている者は掃除を開始するよう指示を出して通信室に向かった。

 

 

 「提督、ご無事ですか!?」

『ああ、妙高か。どうやらお前の作戦は失敗したようだな』

「・・・申し訳ありません」

待つ事数分、ようやく繋がった通話に安堵する反面、妙高は失敗を詫びた。

『いや、過ぎた事だ。・・・そっちの責任者は近くにいるか?』

「はい、聞いてますよ」

妙高の横に居る大端の声をマイクが拾った。

『その声は・・・金沢司令ではないな?誰だ?』

「55号基地所属の大端です」

『どういうことだ。今回の件は金沢司令が画策したものではないのか?』

「こちらも立て込んでいまして。それよりも、せっかっくこうやって通話に応じているんです。他に話すことがあるのでは?」

『あの爆撃、いや模擬弾はどういうつもりだ?』

その言葉を聞いた妙高が驚いて大端の顔を凝視する。

「以前、こちらの訓練で使わなかった余りです。さっきは模擬弾でしたが次は本物をお持ちしましょう。地上からしか迎撃できない以上、そちらが不利ですよ」

『・・・何が目的だ?』

「武装解除して下さい。こらから先、何時制圧されるかも分からないような状況はこちらとしては避けたいので」

『・・・分かった。とにかくここは一度引こう』

 

 

>>>To be continue【19話 愚将の懼れ】

 




次話、50%くらいの進捗。更新日未定。


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十九話 愚将の懼れ

 「中佐、54号基地の司令官をお連れ致しました」

小皺が出来始めているがまだまだ髪は黒い、普通にしていれば人が良さそうだが今はしかめっ面をした男が基地司令室に居る大端に呼ばれて陸戦隊員に連れられてきたのは日が高くなってからだった。

「・・・ひと月はもつ様に、分量は任せるわ。・・・では後はよろしく」

大端は卓上の通話機を置くと広げていたファイルを閉じて顔を上げた。陸戦隊員に答える。

 「そう、ご苦労様。持ち場に戻って良いわよ」

「はっ、しかし仮にも戦闘状態にあった部隊の指揮官を前に護衛も無しと言うのは・・・」

「心配してくれてありがとう。でも護身用の武器は持っているし身体検査も済ませたでしょ?人出が足りてないのに私に人員を割く事は出来ないわ」

そう言って大端は腰の辺り、Yシャツの裾越しに拳銃のホルスターを軽く叩いて見せた。

 陸戦隊員が部屋を後にし、54号基地の司令官は口を開いた。

「君は確か・・・大端中佐、だったな?」

「はい、憶えていただけた様で光栄です」

「何が目的だ」

大端の愛想笑いににこりともせずに54号基地司令の男は尋ねる。

 「まあ、私共にも色々と事情はあるもので・・・。それより聞きたい事があったので足を運んでいただいたのですがお答えしていただけますね?」

男は険しい表情を向けたまま答えなかったが大端は気にせず尋ねた。

「正直なところ、飛行場襲撃に関してはここまで思惑通りに事が進むとは思いませんでした。本部からは何か情報は無かったのですか?」

「・・・・・・」

「それと今後の54号基地の方々の食事に関してですが、備蓄の食糧はこちらで管理させていただこうと思っています。ですがお答えしていただけない事にはその手配が出来ません」

大端は口を閉ざしたままの男を見てそう付け足した。

 「・・・航空機は船舶より足が速い。相手が国でも棲艦だろうとここから前線までは目と鼻の先だ。いつ前線に送られるとも知れない兵を内輪揉めで動揺させるのは得策では無い。あれだけ陸上兵力に差があれば鎮圧も時間の問題だと思ったが・・・とんだ誤算だったな」

「なる程、ではもう一つ。艦娘に関する機密で何かご存知の事があれば話して下さい」

「艦娘に関する機密?何故、兵学校から航空一筋の私がそんな物を知っていると思う?」

しかめっ面に疑問を浮かべながら男は大端に問いかけた。

 「・・・そうですか、参考になります。お答えいただきありがとうございました。ちょうど司令がいらっしゃる前に部下に指示を出しましたので、貴方の基地では食事の準備を進めている頃合いだと思います。基地に戻って食事になさって下さい」

しれっと大端が言い放った言葉を男が理解するまで一瞬の間が空いた。

「・・・もう一度尋ねるが、君たちの目的は一体何なんだ?」

「事情はいろいろ、ですよ。人間のみで構成されるあなた方の部隊に協力していただく覚えはありません」

そう言って大端は54号基地の司令官を送る陸戦隊員を呼ぶ為に通話機を手に取った。

 

 

 「では・・・昨晩、僕が倒れている間に本部艦隊を撃破したんですね?」

医務室の寝台で上体を起した金沢は自身を見下ろす大端へ確認した。

「撃破はしていません。不利になった本国が一時的にこちらの要求を飲んだだけです。それより――次は司令の番です。どうして艦娘の待遇改善を私達に隠して長官と交渉しようとしていたんです?それも結局は手紙なんて回りくどいやり方で私に教えるなんて」

「・・・ここまで巻き込んでしまってはもう誤魔化す訳には行きませんね」

 金沢は手紙に書いた事、以前赤城に話した自分の過去を話した。そして。

「怖かったのです。彼女達が処分される事を知っていながら何もしなかったと責められるのが。それでも彼女達との約束を反故にする事は出来なかった」

呆れて言葉が出ない大端とこれ以上の弁解をしない金沢、先に痺れを切らしたのはやはり大端だった。

「この甘ったれ」

「基地司令なんてペーパーテストだけで就任するものではありませんね」

歯に衣着せずに言い放った大端に対して金沢は自嘲した。

 「それでこれからの話ですが・・・分かっていますよね。もう後戻りは出来ません。どうします?離反軍の一員に加わるか、このまま軟禁されながら本国の助けを待つか」

「それでは・・・」

 

 

 トラック泊地から本国に向けて艦娘の決起を呼びかける電文が発信されたこの日は後に、トラック泊地反乱事件としてこの世界の海軍史に名前を刻む事になる。その名前から分かる様に彼らの計画は失敗に終わり、そしてまた彼らにとっての本国も引き摺られるように敗戦への道を辿った。占領下の本国でこの事件の調査報告書が発見されるのはまた別の話である。

 

 

>>>Not completed

 




打ち切り未完です。万が一続きを気にしていた方がいらっしゃいましたら、ご期待に応える事が出来ずごめんなさい。


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本編の補足解説に茶番を添えて
B.S.放送局 第一回 この作品は衛星放送とはなんら関係ありません


1日遅れで更新したと思ったら本編じゃないのかよっ!?


 「Ladies and gentlemen!!!」

暗闇の中でスピーカーを通した時のノイズ交じりの声が響いて、鮮やかで色とりどりの光がサーチライトのように舞台セットを照らし出した。

「Wellcome to B.S.station!」

その声を合図に音楽が鳴り出し、徐々に明るくなっていく空間に色とりどりのサーチライトは溶け込んでいった。

 

 

 (変態)紳士、(変態)淑女の皆様。こんにちは。B.S.放送局の時間がやってまいりました。今日から始まるこちらの番組(という設定)では、Betrayal Squadronの後書きでかねてから言っておりました「設定書作りたい!」を実現したものになります。これまでも本編の後書きの方で補足説明を入れていたので、要は最初から最期まで後書きみたいな作品になりますね。もしくは本編が後書き。従ってBetrayal Squadron一話のネタバレを含みます。別に本家様のイベントに夢中になっていたある日、おにぎりせ○べいを食べながら(あー、そろそろ肉の日だわー。更新日だけど、まだ8話書けてないわー)とか思ってお茶を濁そうとしたわけじゃないんだからね?、ね!・・・と言う訳で司会は“Betrayal Squadron”の作者の胡金音です。それにしてもおに○りせんべい美味しいですよね。(ばりぼり

 

 

 では早速、本編を振り返りながら補足や誰得な制作秘話などを白昼の下に曝していきましょー!・・・あ、忘れるところでした。本日はゲストとしてトラック泊地より本編主役の金沢少将とヒロインの加賀さんにお越し頂きました!どうぞ拍手でお迎え下さい!

 ぱちぱちぱちー。

「よかった。内地まで呼び出さたのに、このまま話が進むのかと思いましたよ」

「・・・失念されるなんて勘弁して欲しいものね」

失礼しました。

 では改めて。本編を振り返りながら補足や誰得な制作秘話などを白昼の下に曝していきましょー!

 

 

 照明が落とされてブザーが鳴る。3人の背後に下りて来たスクリーンに画像が映され始めた。時折縦に黒い筋が写る映像に数字が映った。

びー・・・カタ、カタ、カタ・・・・・・参・弐・壱・零―――パッ

 

Betrayal Squadron

一話 トラック泊地第55大隊

(Betrayal Squadron一話より抜粋)

 

 

 早速突っ込み所が来ましたね。海軍なのに大隊とかって言う。加賀さん、説明お願いします。

「・・・そのために呼んだの?」

まあまあ。

「・・・そもそも“大隊”は陸軍の単位です」

「海軍名乗っておいて“大隊”なんて言っていたらそれだけで読むの止める人いそうですね」

えーと、言い訳させてさせて頂くと一応“大隊”が陸軍さん云々って言うのは“にわか”なりに察していました。

「そう・・・確信犯だったの」

人聞きの悪い事言わないで下さい。

「艦娘が配備されるようになってから海軍でも大隊、連隊、等の単位が使われるようになったんでしたね?」

その通り!さすが少将!作中では艦娘が実戦に配備されるまでは普通の艦艇を使っていましたが艦娘が配備される事になり・・・

海軍のお偉いさんA「今度来る艦娘の所属とかってどうするよ?」

海軍のお偉いさんB「艦娘の砲戦って水上で銃撃戦やるようなものだし陸さんとこの使えばよくね?」

・・・という高度(笑)な政治的やり取りがあった。という設定を基に作中では海軍なのに“大隊!”“連隊!”等を使うようになりました。作中では上層部の陸さんと海さんは史実ほど仲が悪いという事はありません。作中の“艦隊”とか“連合艦隊”等の単位との兼ね合いはこんな感じです。史実や実在する団体の構成と被っていてもそれは偶然です。

 

 師団→○○鎮守府に所属する艦娘、艦艇全体。

 連隊→○○警備府、○○泊地に所属する艦娘、艦艇全体。

 大隊→○○基地に所属する艦娘、艦艇全体。

 中隊→本家ゲームで4つまで編成できる艦隊とほぼ同意。ただし作中で1艦隊は最大6隻の縛りは無い。ただ単に“艦隊”と呼ぶ時はこれと同意。ぶっちゃけ中隊より艦隊の方が良く使う。

 小隊→中隊をさらに小分けにする際に編成される。最大6隻とは限らないので9隻の艦隊を4隻と5隻に分けたりとか。

 連合艦隊→上記の師団間をまたいで臨時に編成される艦隊。

 

 あと指揮官の指揮官の名前を冠する艦隊名の場合はその配下の艦娘、艦艇を指します。これは史実と同じですかね。基本的に師団の傘下には直轄の大隊いくつかと連隊、連隊の傘下にはいくつかの大隊、大隊の傘下にはいくつかの中隊(艦隊)、そして中隊の傘下には小隊が編成される時もある、といった具合です。

「うちの場合だと、横須賀師団トラック連隊の55号大隊になりますね」

そうっす。

「どうしてサブタイトルは“トラック連隊”じゃなく“トラック泊地”にしたの?」

トラック連隊とか言われても (°Д°)ハァ?連隊?ってなるじゃないですか。

「まあ大隊って銘打ってる時点で (°Д°)ハァ?ですけどね」

「・・・では第55号っていうのは?トラック泊地だけで55も大隊があるっていうのは多すぎではなくて?」

55号っていうのはトラック泊地だけじゃなくて他の鎮守府直轄や警備府の基地や大隊と通しの番号なんです。たとえば横須賀鎮守府直轄の艦娘大隊なら一桁、呉なら10番台、佐世保なら20番台、って感じに。トラック泊地は50番台です。・・・実は作品の構想中に提督100万人にするならトラックだけで提督人口10万ぐらいは居るよね、じゃあ基地は100ぐらい要るよね。というのが基になってたりしますが(笑)って加賀さん、ヒロインやってたのにそんな事も知らなかったんですか(´゜艸゜)?

「・・・話を進めやすいように、知らないふりをしてあげた事があなたには分からないようね?」

ん?どうしたんですか急に艦載機なんて取り出して?・・・危ないからこっち向けないで下さいよ?

 

 

(ぶぅぅぅーん)・・・・・・・少々お待ち下さい・・・・・・・(どぎゃーん)

 

 

「・・・お待たせしました」

「では次の話題に進みましょう」

 

 

 

 

「・・・鳳翔さん、早く演習を始めましょう」

加古を横目で睨みながら加賀が言った。それから加賀が頭の被り物を被って加古がまた吹き出した。

「そうね。さあ皆さん!」

鳳翔が手を叩いて注目を集めた。

 「ここから南北にそれぞれ約5kmの地点にブイを浮かべておきました。破壊班は北、護衛班は南のブイ附近に集まってください。開始は今から5分後に私の電文で伝えます。では、班に分かれて移動してください」

鳳翔を残して艦娘達が2つに分かれて行った。

「加古、青葉!行くよっ!」通商破壊班=旗艦:古鷹・僚艦:加古,青葉(全員、上等兵曹)

「貴方達・・・・・・勝つわよ」輸送艦護衛班=旗艦:加賀(中尉)・僚艦:睦月,如月,皐月,文月,長月,菊月,三日月,望月(睦月型駆逐艦全員、二等兵曹)

やがて鳳翔は演習開始を告げるモールス信号を打った。

(Betrayal Squadron一話より抜粋)

 

 

 きゃーっ!過去の作品読み返すの恥かしっ!

「自分で書いたのでしょう?」

「それでこのシーンのどこに補足が?」

そりゃぁ加古,青葉(全員、上等兵曹)とか、加賀(注意)とか、(睦月型駆逐艦全員、二等兵曹)とか突っ込み処満載じゃないですか!私がほとんど2時創作読まないだけかもしれないですけどこんな事やってるのBetrayal Squadronだけですよっ( ・´ー・`)

「どや、じゃないですよ。なに専売特許みたく言ってるんですか」

「・・・加賀(注意)って、猛獣じゃあるまいし・・・どういう事か説明して頂けるかしら?」

 さて。なんで艦娘に階級付けようなんて思い立ったか、ですが・・・。

「「(あ、無視しやがった)」」

 艦娘も日常生活においては人間な訳ですよ。と言う事で平時は普通に軍の敷地内をうろうろしている訳で、階級が無いと艦娘でない人員(陸戦隊のおっさん方とか)との上下関係がややこしくなりそうだなー。と思ったのと、通信を介して戦う以上は通信不可になった時に現場の指揮を執る艦娘、さらにその艦娘が戦闘不能になった時の代理が直ぐに決まるような縛りが必要だろうなー、と思ったからです。もう一つは本家ゲームをプレイしていて、少佐スタートかー、艦これの世界で大尉以下の階級はどうなってるんだろう?と考えたのも大きいです。あ、あと階級は浪漫。よって艦隊の旗艦になるような大型の艦娘になるにつれて階級は高くなってます。年齢的な事に関してはまた今度“不老化”と一緒に解説しましょう。説明面倒くさいから後回しにした訳じゃないよ?

 

 

 

 

55号大隊司令部の指揮室は有事の際、内地の司令長官が前線で指揮を取れるように基地の規模に比べてかなり大きく造られている。海に面した大窓から雛壇状に机が設けられ各席にモールス信号を打つ為の機械類、ヘッドホン、ペン立て等が用意されている。最上段にのみ基地内放送用のマイクが設置されていた。金沢はすでに待機していた部下達と挨拶を交わして最上段の席に向かいマイクのスイッチを押した。

(Betrayal Squadron一話より抜粋)

 

 

 七話までに何度か出てくる指揮室です。えーっと・・・これでどんな場所か分かります?

「登場人物に聞くのはよして下さる?」

「僕は仕事場ですから知ってますが、知らない方には分からないかも知れませんね」

例えるならだいぶアナログでレトロになったエヴ○ンゲリオンの管制室?だと思って頂ければいいかと・・・。壁は煉瓦で床は板張り、机は木製です。

「映像を写したりは出来ませんが天井のフックに大きな海図を掛けて大人数に対して作戦説明も出来ます」

あと正面にどーんと海がよく見える大窓があって、地上2階にあるので昼間は電灯を点けなくても明るいです。

「海がよく見えるという事は深海凄艦からも良く見えると言う事ね」

そこは泊地の環礁内だからいいかな、と。

「六話であっさりと進攻されていますが?」

きっとイ級とかロ級が頑張ったんだよ。あとメタ発言やめて貰えません?

「・・・早く進めましょう」

 ・・・で、雛壇状に固定された机にはそれぞれの指揮官が艦娘と通信する為のモールス信号の打電機、波長調整の回す摘み、消しカスが溜まってそうなペン立て代わりの穴があります。また、○ヴァで言うところのゲン○ウ席にはそれらに加えて有線電話が置かれ、基地内の各部署や近隣の基地との連絡だ取れるようになっています。作戦中の総司令席ですが、七話までの時点で基地司令の金沢がここに座っているシーンは一度もありませんw椅子を引かずに立ったままマイクで話したり別の席に座っています。

「年上でベテランの部下が2人も居るんだから仕方ないじゃないですか・・・」

 

 

 

 

「古鷹、大丈夫ですか?」

「ああ、司令。わざわざすみませんな」

昼休み、古鷹が入渠している部屋に金沢が入ると、先客が居た。

「栗崎(くりさき)大佐、お疲れ様です」

 部屋には簡素な造りのベットと長さ2メートル直径1メートル程の無骨なカプセルが置いてある。年相応の皺を日に焼けた顔に刻んだ栗崎はベットの対面の丸椅子に腰掛けていて読んでいた本から顔を上げた。

「今朝はうちの加古が面倒を掛けて申し訳ない」

「終った事です。それより古鷹の容態は?」

金沢は声を小さくして尋ねた。古鷹がベットの上で眠っていた。

(Betrayal Squadron一話より抜粋)

 

 

 貴重な古鷹のベッドシーンです。

「・・・誤解を生む様な言い方は止めなさい」

はい・・・(°Д°)ハァ?第二弾です。カプセルってなんだよ!っていう。

「たしかに本家ゲームにはドックのカプセルなんて出てきませんね」

よく2次創作で高速修復材って頭からバケツの水を被ってるじゃないですか。流行のチャリティーみたいに。バケツ被って怪我が治るか、そもそも服が破れるような攻撃受けて無傷で済む訳ねぇ!って事です。

「今さらっと本家に喧嘩売ったわね」

とりあえずあのバケツの絵から怪我の治りが早まる様子を想像した結果、酸素カプセルみたいな容器にバケツの中身を注いでる様子が浮かびました。まず艦娘がカプセルの中に入って上の注水口からバケツの中のなんか細胞が活性化しそうな薬品流し込む感じです。書き忘れていましたが金属製です。脇にある手のひらサイズの小窓から以外は中の様子が分かりません。やってる事はSFでよくある培養液漬けにした人間と似てますね。

「他の例えは思いつかなかったんですか?」

 

 

 

 

 赤城が執務室を出た後、金沢は裏返しに置いた今朝の泊地長からの封書を再び読み始めた。金沢の眉間に皺が寄る。

「これは・・・どうしたものか・・・」

 

【・・・ベク、南太平洋護衛艦隊ノ更新ヲ行フ二当タリ、以下ノ人型艦船ノ破棄ヲ決定ス。・・・】

 

 執務室の明かりが消えた時、空の色は紺青から漆黒の闇へと変わっていた。

(Betrayal Squadron一話より抜粋)

 

 

 「ここで補足ですか!?」

「寄りによって初回の最後に補足が必要だなんて・・・」

だってこの話の始まりとも言うべき要請文がこれじゃ意味不明じゃないですか!

「これ書いたのあんただろっ!」

わー。金沢少将の敬語が崩れたー。

「貴方達・・・さっきからそこのディレクターが“時間、押してます。急いで!”って書いたホワイトボード持って困っているのが見えない?」

真面目かっ!

「誰も覚えて無さそうな“番組”って設定をここで出しますか」

「いいから早く進めなさいっ!」

・・・えー、ここの話のミソは解体、じゃなくて破棄ってところです。要は生かしておくなって事ですね。この作品で解体は艤装外して一般社会復帰って事になりますから。なんでこんな要請が来たかについては七話の最後のシーンに出て来た人たちが活躍する頃に公になる!・・・予定です。

「相変わらず気弱ね」

 

 

 さて、そろそろお別れの時間が近づいて参りました。

「・・・疲れました」

お疲れ様ですっ!

「ちょっとお時間頂いてもよろしいですか?」

何ですか?少将。

「来月、9月13日に我々が登場するBetrayal Squadron第八話がこちらのサイト、ハーメルン様とpixiv様に投稿されます!」

「宣伝・・・!?」

あー、少将・・・“B.S.放送局”自体が半分宣伝みたいな物ですから・・・。

「残りの半分は?」

補足説明。

「そうでしたか」

「何だと思っていたの?」

 次回はBetrayal Squadron第二話【加賀と土s・・・

「違うでしょう?」

・・・そうでした。(詳しくは第二話【間宮来航】参照!)次回、第二回B.S.放送局はBetrayal Squadron第二話の解説をしようと思います。

「次回はいつですか?」

すみません、こっちは不定期です。ときどきBetrayal Squadron更新日にこんな感じで投稿しようかと思います。それではまたBetrayal Squadronの後書きでお会いしま・・・

 [こんばんは。○時になりました、ニュースの時間です。本日未明、ジャガバタ共和国で行われた世界水泳犬掻き2000メートルの部にてネギマグロ国の九条選手が・・・]

 

fin

 




Betrayal Squadron 1話で訓練で使った訓練弾は55号泊地の整備兵お手製です。そこらへんの雑草から色素をとりました。これ艦娘には内緒です。


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B.S.放送局 第二回 この作品は(本家の)艦隊これくしょんとはなんら関係ありません

最近“鎮守府は今日も平和です”タグの付いた作品の艦娘さんを見るたびにちょっと心が痛みます。そんな作者が送る艦これ2次創作の番外編風の解説。


 「Ladies and gentlemen!!!」

暗闇の中でスピーカーを通した時のノイズ交じりの声が響いて、鮮やかで色とりどりの光がサーチライトのように舞台セットを照らし出した。

「Wellcome to B.S.station!」

その声を合図に音楽が鳴り出し、徐々に明るくなっていく空間に色とりどりのサーチライトは溶け込んでいった。

 

 

 (変態)紳士、(変態)淑女の皆様。お久し振りです、胡金音です。B.S.放送局の時間がやってまいりました。こちらの番組(という設定)では、Betrayal Squadronの後書きでかねてから言っておりました「設定書作りたい!」を実現したものになります。これまでも本編の後書きの方で補足説明を入れていたので、要は最初から最期まで後書きみたいな作品になりますね。もしくは本編が後書き。今回はBetrayal Squadron九話までのネタバレを含みます。あ、あとこの作中において得に記述が無い場合は“本家”もしくは“本家様”はDMM様のゲーム、“本編”、“作中”はBetrayal Squadronの事とします。

 

 さて。本日のゲストは前回と同じくトラック泊地より、副基地司令という立場にありながら出番の少ない気がする北間大佐と加賀さんと双璧を成すヒロインの赤城さんにお越し頂きましたー!ぱちぱちー。

「出番が少ないって書いてる人が言う?」

まあ、陸戦隊隊長も兼務してる関係で艦娘との絡みが減ってます。おかげでキャラが安定しません。

「楽屋のお弁当美味しかったです!」

それはよかった。お土産に幾つか用意しましょう。今回は前回の反省を活かして台本を用意しました。AD君が。(茶番)

「また放送局の文章量の割に分厚い台本だな」

話の流れによって分岐するようにしました。

「性格診断じゃないんですから・・・」

 

 (スクリーンが出て来て照明が消えてかーらーのー)びー・・・カタ、カタ、カタ・・・・・・参・弐・壱・零―――パッ

 

 

 

 

Betrayal Squadron

二話 間宮来航

(Betrayal Squadron二話より抜粋)

 

 

 今回もサブタイトルから突っ込んでいくスタイルです。

「酷いスタイルだ」

「そもそも二話のサブタイトルって変更になりましたよね」

(グサッ)・・・まあそれについてなんですけどねー。後書きでも何度か触れていますが投稿時のサブタイトルは四話で使用した“加賀と土佐”でした。手元に残っているデーターではそのままなので投稿作品をうっかり消去して再うpなんてことになったらそのままうpしてるかもしれません。

「ちょんと直しとけよ」

「土佐って言うと加賀さんの妹さんですね」

そうですね。モデルはもちろん史実の戦艦“土佐”です。式典でくず球が割れなかったり

、軍縮で廃艦になったり。関係者は“土佐がドザ(水死体)になった”と語ったとか。

「なんとも切ない話だ」

 歴史創作では加賀と共に戦艦になってたり、チート級空母になってたりします。

本編での外見は、赤城さんの表情を加賀さんに置き換えてもらって服装は加賀さん準拠。髪の長さは手のひら分髪を切った赤城さんが加賀さんと逆側のうなじ附近で髪を1本にまとめて前に流しているしばふ艦です。

「最後の絵描きさんは作者の妄想な」

ちなみに利き腕は左。えっと・・・弓の弦と矢の羽を摘む方が利き手でいいんですよね?

(※弓道では利き腕関係なく左手で弓掴んで右手で弦を引くようです。・・・あれ?この髪型だと髪すごく邪魔にならないか・・・?)

「絵が描けないから言葉で表したんでしょうけどちょっと無理がある気がします」

雰囲気、性格は(加賀×2+赤城)÷3=土佐。って感じのイメージです。

「うーん・・・分かりやすいような分かりにくいような」

 話は逸れましたが、本当は赤城さんの回想談を前半の間宮さんが来てるうちに済ませて後半で加賀さんの回想への下地にしたかったんですけど、そうなると後々のゴタゴタ(五話参照)で鳳翔さんが急に存在感を発揮して不自然になりそうだったので、急遽裏でこんなやり取りがありましたってシーンを挿入しました。結果、加賀さんの回想シーンが後回しになって―――サブタイトルに名前が出てくるのに本編では最後に一瞬名前が出てくるだけになりました。

「作者の計画性の無さは昔から直りませんね」/(茶番注意)

えー、そんな事ないですよー。

「中学の頃、自作映画を作るぞーって言って同級生集めたはいいけどたった2回の打ち合わせで破談になったり・・・」

ぐっ・・・。

「計画だけ立てて資金倒れした旅行は数知れず」

ぐはっ・・・。

「デートに誘った女の子との待ち合わせに新宿駅の喫茶店を指定したはいいけど場所が分からずに遅刻したり・・・」

えっ?最後のは不可抗力じゃない?新宿駅だよ?ダンジョン新宿だよ?

「ちゃんと調べておいたら行けるはずですよ?」

「駅ビルの最上階から順に虱潰しに店探してたけど後で確認したらちゃんと地下って書いてたよな?」

あべしっ・・・。酷いよー、登場人物が作者を苛めるよー。

「台本に書いてあるんだからしょうがないじゃないですか」

えぇー・・・(茶番。完)

 

 

 

 

 太陽が真上を過ぎる頃、一機の水上機が波を掻き分けて着水した。

「少将、到着致しました」

「ありがとう。いつもすみませんね」

春島の桟橋に到着した零式水上偵察機は金沢を下ろして直ぐに傾斜路から引き上げられ西に向かって運ばれて行った。春島西部に拠点を構える54号大隊は多数の航空機を保有する航空隊で泊地近辺の哨戒から前線の航空支援まで幅広く担当しており、金沢が乗ってきた水上機とそのパイロットもそこに所属している。

「明日の朝の哨戒にも同行させて貰えますか?」

「一介の操縦士が少将とも在ろう方のお願いを無碍に出来る訳ないじゃないですか。それに金沢少将は断ってもいらっしゃいます」

「そうですね、明日もお願いします。では司令によろしくお伝え下さい」

「・・・はい、了解しました」

苦笑いで答えたパイロットに別れを告げ金沢は司令部に向かった。

(Betrayal Squadron二話より抜粋)

 

 

 今更こんなこと言うのもアレですけど・・・ネタバレしないように解説するって難しいですねぇ。

「じゃあなんで始めたんですか?」

だってフラグの立て忘れとか説明不足が投稿後にいろいろと・・・。なるべく次の投稿で挽回してますけど、どんどん話が長く・・・。

「はよやれ」

 えっと、このシーンは金沢が泊地の最高責任者である富山連隊長に要請の撤回を求める交渉から帰って来たシーンですが放送局第1回でお話した通り、1話の最後のシーンが簡潔過ぎて金沢さんが上官の命令にケチ付けに行ったようにも見えます。前のシーンから話の舞台が急に夏島(泊地本部がある)から春島(55号大隊基地のある島)に変わっていて分かりにくいですが、泊地本部を後にした金沢は哨戒中の零式水上偵察機に便乗して基地に帰ってます。千歳達が見上げている零偵がその機体だったってところです。交渉の度に便乗しているので操縦士とも顔馴染みです。

「55号大隊の基地司令である少将が他所の零偵に便乗しているのは、そもそも搭乗用の零偵が基地に配備されていないからです」

 これについて説明するには、まず艦これ2次創作を書く人の前に立ちはだかる三大問題の一つ(と作者は思っている)にも数えられている“空母の艦載機における解釈問題”について話さねばなりません。

「お、おう」

では早速ですがここで問題です!“艦これ”において最も多くの2次創作で空母艦載機の操縦を行うのは次のうち誰でしょうか?(作者の体感調べ)

 

A.母艦となる艦娘さん

B.妖精さん

C.人間の搭乗員さん

D.ル○デルさん

 

「Bとか?」

正解!(作者の体感です)

「ですがこの作品には一度も妖精さんって出てこないですよね」

登場させないつもりは無いですけど艦娘の間で伝わるジンクス的な存在になりますかねー。

「あっ、ネタバレにならないんですか?それ」

まあこのくらいならセーフって事で。

「で、本編では?」

カチカチカチ(クリック音)・・・あれ?今までちゃんと書いてなかった?

「おい、筆者」

あー・・・はっきりとは書いてなかったかも・・・。九話の最後の方で兵装って一括して書いてるケド・・・。

「・・・作者ならちゃんとそういうところ把握しといて下さい」

す、すみません。艦載機は九話の兵装に含む、とだけ言っておきます。未投稿(11月13日現在)のどこかのシーンではっきり書いておきます。

「じゃあ艦娘が艦載機を動かしているという解釈で良いんだな?」

おっしゃる通りです。ですので本編では遠隔操作で動かす艦娘の艦載機と人間が操縦する航空機は別物扱いになります。

「同じ“零戦”でも“艦娘の艦載機用の零戦”は“人間が操縦する零戦”の代用にはならないという事ですね」

はい。逆もまたしかりです。つまり何が言いたいかというと55号大隊には空母艦娘が4人もいて艦載機は沢山あるけど人間が乗れる航空機は配備されていないという事です。

「だから少将は他の基地の零偵に便乗した訳だ」

「ちなみに三大問題の残り2つって何ですか?」

艦娘の戦闘方法。と、深海棲艦のサイズ。

 

 

 

 

 「提督!お疲れ様です、今日は早かったんですね」

司令部に戻る途中、金沢は艤装を装備した赤城に声を掛けられた。赤城の隣では同じ姿の加賀が軽く会釈していた。

「今日は千歳と千代田が帰ってきますからね。2人共午前の訓練はご苦労様でした。空母は簡単な発艦訓練でも一々海に出ないといけないから大変ですね」

「まあ・・・私たちの艦載機は海上で運用する前提で造られていますから。・・・陸で飛ばしては山に艦載機が刺さってしまいます」

(Betrayal Squadron二話より抜粋)

 

 ・・・・・・。

「・・・・・・」

「・・・艦載機が刺さるってどう言う事かな?」

えっとですねー、これは単に艦娘の艦載機は水面を基準に自動操縦するけど陸地を認識出来ないんよーっていう裏設定から出た発言です。

さっき艦載機は艦娘が動かすと言ったところじゃねーか!って思った人、はい正直に挙手ー。

「たしか自動操縦と艦娘の遠隔操作を切り替え出来るんだったよな?」

「はい。いくら脳の信号を直接拾って操縦出来るとは言え何十機もの艦載機を同時に操れる訳ではありません。そこで自動操縦に切り替える訳ですが・・・残念ながらこの自動操縦があまり優秀ではありません。」

放っておくと勝手に作戦海域外に出て行きます

「ですが、全部の艦載機を操る訳には行かないので作戦海域外に飛んで行きそうな機体だけ遠隔操作に切り替えて作戦海域に連れ戻す事が基本的な動作になります」

ちなみに開発段階で見方に対する誤射だけは避けようとしたらこうなった、という設定です。

「AIの知能を見方機と敵機の分類に割いたらこうなったとも言うな」

まあそれでも人間が誤射する確率より多少マシと言った具合ですが・・・これでもAIが一般的ではない本編の時代設定では優秀な方です。

「さっきからAIとかって言ってますけどエアコンが高価な時代じゃなかったんですか?」(Betrayal Squadron二話冒頭参照)

 今(20世紀初頭)より進んだ文明が一度滅んでからまた繁栄してきて19世紀中期レベルまで復活した世界という裏設定があるので問題無しです。滅んだって言ってもほんの一握りの技術は残ったので19世紀初頭レベルの科学力、技術力でも簡単なAIや脳の信号を読み取る技術があったりします。これは完全に裏設定なので知らなくても大丈夫だと思いますが、AIある技術があってエアコンが高価な訳があるかーって気になって仕方ない方の為に一応ね。

 

 

 

 

 酒保が開かれている講堂の裏手、司令棟の北側の壁に面した空き地に鳳翔と間宮は来ていた。立ちはだかる木々が日光を遮り、5m以上ある窓の無い壁が場の空気を外界から切り離していた。

「・・・そう。そんな話が・・・」

鳳翔は顎に指を当てて呟いた。

「まあ、大本営は娘達を動揺させない為に『破棄処分』も『解体』で統一しているみたいだけれどね。要は新型艤装に換装できない娘に貴重な国防予算は使えないってとこかしら」

そう話す間宮の顔に酒保でのやわらかさは見られない。間宮は続けた。

「でも、これが事実なら・・・あなたも他人事では居られないわね」

そう言って間宮は司令棟の壁を仰いだ。鳳翔が何かに気づいて顔を上げた。

「まさか・・・じゃあ、あの時『解体』された娘達も・・・?」

「あくまで噂よ。今のところ」

「・・・間宮さん、『特務艦』として一つ頼まれてくれないかしら?」

「あら・・・な~に?」

(Betrayal Squadron二話より抜粋)

 

 

 「急に後半に飛んだな」

あくまで補足なんでこういう事もあります。平和なほのぼのシーンに説明なんて要らないのさっ・・・。

「なに無駄に格好付けてるんですか・・・それでこのシーンの補足というのは?」

本編での間宮さんの立場についてちょっとだけ・・・。

 このシーンは読んでもらえば分かる通り、この放送の最初に話した鳳翔さんが不自然キャラにならないようにする為の裏でこんな事がありましたー、のシーンです。要は伏線を張りました。数々の艦これ2次創作の例に漏れずおかんキャラの2人ですが作中ではいろいろと裏でこそこそ活動しています。その活動については五話、九話辺りから白日の下に晒されていく訳ですが・・・それはまた後日。今回は鳳翔さんの台詞にもある“特務艦”について。だいぶ前ファミ通さんのところのイラストコラムでもちょっと話に上がっていましたが史実の間宮は通信設備が非常に高性能だったとか。

 高性能な通信設備→盗聴→スパイといった1人連想ゲームを経て、作中での間宮さんは補給任務であちこち動き回れる点を活かして軍内の情報屋的な活動もしている事になっています。表向きはほんわか系補給部隊指揮官なので裏での活動は恩恵を受けているごく一部のお偉いさんと一部の艦娘しか知りません。鳳翔さんは古参艦娘なので裏の顔も熟知している、と言ったところです。“特務艦”は正式な艦種としては作中では存在しないのであだ名とか二つ名といったところですね。PCに詳しい友人をハカーって呼ぶようなものですよ、うん。

「おや、どうしたんですか?急に真面目になっちゃって」

いや、メタいんですけど、この時期から春先にかけて日が沈んでからは冷え性が酷くて指先の動きが鈍くなってタイピングしにくくってふざける気力が・・・。

「・・・・・・」

 

 

さて今回のB.S.放送局の内容は以上となります。

「この放送局では感想欄にて作品に関する質問を受け付けていますー。ネタバレにならない範囲で作者がこちらで取り上げていくそうなのでどしどし送ってくださいねー」

わー、赤城さん見事な棒読み。

「露骨な感想稼ぎだな・・・」

それにしてもおっかしいなー、あれー?本当に艦載機について何も書いてなかったっけー?やっぱり書いた気がするんだけど間違ってカットした?

「知らんがな」

「まだ探してたんですか?」

うーん・・・まあ、これで終了となりますが・・・ゲストのおふた方は何か感想とかってあります?

「はい、前回の収録後に帰ってきた加賀さんの言っていた事が良く分かりました」

んー?加賀さんなんて言ってたんだろ。気になるナー。

「作者の無計画っぷりが良く分かった」

あ、またその話持ち出します?

 まあ、何はともあれお疲れ様でしたー。赤城さんのお弁当用意できたそうなので貰っていって下さい。

「ご馳走様ですっ!」

おお、今日一番の笑顔。次回はBetrayal Squadron第三話【天城と赤・・・

「【赤城と天城】の解説をやっていくそうです」

大佐、ナイスフォロー。北間大佐のファインプレーが見れたところでお別れです。また次回、Betrayal Squadronの後書きでお会いしましょー、バイバ

 [こんばんは。○時になりました、ニュースの時間です。小説投稿サイト、ハーメルンで艦隊これくしょんの2次創作をしている胡金音氏が先ほど13日更新に滑り込みました。13日の投稿は前回の遅刻を数えても2ヶ月振りで、今後の・・・・・・]

 

fin

 




ま・・・マズイ、指先の冷えがマウスのクリックにまで影響し始めた・・・。頼むこの投稿だけはなんとし(ここで後書きは途絶えている)


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B.S.放送局 第三回 この作品はア艦これとはなんら関係ありません

 ちまちま書いていたのが出来たのでうp。そろそろ怒られそう。

※作中の横須賀の海大は大津海大とは関係ないです。

【追記】執筆中のメモが残ったままだったのを消しました。お恥ずかしい。


 「Ladies and gentlemen!!!」

暗闇の中でスピーカーを通した時のノイズ交じりの声が響いて、鮮やかで色とりどりの光がサーチライトのように舞台セットを照らし出した。

「Wellcome to B.S.station!」

その声を合図に音楽が鳴り出し、徐々に明るくなっていく空間に色とりどりのサーチライトは溶け込んでいった。

 

 

 お久し振りです、胡金音です。B.S.放送局の時間がやってまいりました。こちらの番組(という設定)では、Betrayal Squadronの後書きでかねてから言っておりました「設定書作りたい!」を実現したものになります。これまでも本編の後書きの方で補足説明を入れていたので、要は最初から最期まで後書きみたいな作品になりますね。もしくは本編が後書き。今回はBetrayal Squadron十二話辺りまでのネタバレを含みます。あ、あとこの作中において得に記述が無い場合は“本家”もしくは“本家様”はDMM様のゲーム、“本編”、“作中”はBetrayal Squadronの事とします。そして例の如くキャラ崩壊厳戒!

 

 

 今回のゲスト、もとい突っ込み役はこちら。55号基地の女帝こと大端提督と、裏の基地司令こと鳳翔さんですー。

「誰が女帝よ」

「よろしくお願いいたします(ペコリ)」

 さて、今回も本編の解説、補足説明をやっていきましょう・・・と、言いたいところなんですが・・・。

「どうかされたのですか?」

いや、こっち書くの久し振り過ぎでどんなノリで書いてたっけ?って思って前回までのを読み返してみたんですよ。

「はい」

なんと言うか・・・よくもまあこれを艦これ二次創作に投稿したなーと思いまして。

「それ、すっごい今更ね」

「まあ、二次創作の作者本人による三次創作みたいな物ですからその分本家様の面影は薄くなりますね」

「それどころかサブタイトルに艦隊これくしょんって銘打ってるのに本家から登場しているキャラクターが鳳翔さんしか居ないものね。登場人物の1人が艦娘で、1人が創作提督である私、1人が完全部外者だなんて艦これ要素3分の1しかないじゃない」

おお、メタいメタい・・・って筆者は部外者ですか?ちょっと酷くない?

「何言ってるんですか。部外者はさっきから1人でカメラからマイクまで動かしていらっしゃるADさんの事ですよ?」

もはや筆者は登場人物にすら入っていなかった。

「ほら、少しでも艦これ要素の割合を増やす為にあまりしゃべらないで」

えっ・・・。∑(゜Д゜)

「鳳翔さん、進行をお願い」

「はい。それでは今回は3話からの解説、補足をさせていただきますね」

 

 

 

 

どれほど時間が経っただろうか。あれから断続的に騒々しい足音が暗い空間に響いた。やがて静かになった暗闇に先程よりも軽く静かな足音が聞こえてきた。その足音は戸の向こう側で止まり少女が息を忍ばせる。そして鋭い音と共に引戸が引かれて光が差し込んできた。少女が身を竦ませる。急に明るくなった物置の中に頭の横で括られた髪型と青い弓道着が照らし出された。

「・・・姉さん」

光の中で声がした。明るさに慣れてきた彼女の目に映ったのは、背中まである黒髪を首筋で1つに纏めた10代半ばに見える大人しそうな少女だった。

「土佐ぁ・・・」

瞳を潤ませて顔を上げる彼女から力強さは全く感じられない。

そして土佐と呼ばれた少女は・・・・・・。

(Betrayal Squadron三話より抜粋)

 

 

 「三話の冒頭シーンね」

「はい。このシーンは加賀さんの回想になります。所謂過去回ですね。二話は土佐さんの件で電報が届いたところで終っていましたので、特に説明文を入れなくとも閲覧者の方は過去の話だと分かってくれるだろう、と筆者は考えたようです」

「なんて投やりな・・・」

「と、いう訳で3話の後半あたりからは赤城さんと加賀さんの過去のお話になります」

 

 

 

 

 執務室のある司令棟から見て食堂を挟んだ向こう側に艦娘達が暮らす女子寮は建てられている。そしてその最深部、渡り廊下を通って行くと一番遠くになる場所に女子寮のラウンジはあった。ソファーが向かい合って2つ、その間に膝の高さのテーブル、壁際に急須と茶葉、それにちょっとした菓子が置かれた机が在る。

「大端中佐、やっぱりここでしたか」

青い弓道着に身を包んだ赤城がやってきてソファーで寛ぐ先客に声をかけた。

(Betrayal Squadron三話より抜粋)

 

 

 「前半はいつもの基地のお話ですね」

ですね。出撃する事になったものの、赤城さんの赤い袴は加賀さんが部屋に引き篭もった関係で洗濯出来ていないので、洗濯済みの加賀さんのを勝手に借りて大端提督に借りていた制服を赤城が返しに来たシーンです。

「ややこしっ」

と言う訳でしばらく青い赤城が登場しますがミスではありません。

「なんでそんな事したんです?」

たしか・・・執筆当時、制服交換にはまっていたので赤城さんと加賀さんの袴交換したかったんだと・・・思いますけどうろ覚えです。ちなみに赤い加賀さんは登場させ損ねました。

「取りあえずそのインスタント麺みたいな言い方辞めなさいよ」

♪あーかい赤城と、あおーの加賀・・・大端さん、語呂悪いっす。

「それにしても・・・」

無視!?

「この前のシーンでは私の制服を着ていた事だし、赤城さんの服装がころころ変わって分かりにくいわね」

あ、それは・・・。

「九話で“正装”といった物が登場しますが、この時点ではその予定は無かったので艦娘に軍服を着せたかったそうですよ」

「あ、只の筆者の趣味だったの」

ちなみに赤い加賀は・・・今はまだ内緒です。

 

 

 

 朝食を取って執務室に帰る途中、金沢は司令棟の廊下で名前を呼ばれて振り返った。

そこに居たのは引き締まった細身に丸刈りの将校、青葉の上官である三ツ屋(みつや)少佐だった。これから出撃する艦隊に青葉は参加している。

「司令、今日の出撃の事で一つ確認したい事が。昨夜の指令書では旗艦は加賀ではありませんでしたか?」

三ツ屋は一枚の紙を突き出して言った。毎朝配布している各艦娘の予定が記された指令書だった。三ツ屋が手に持つ指令書には任務内容の欄に、『旗艦 赤城 の護衛』と記されている。

(Betrayal Squadron三話より抜粋)

 

 

 当初は伏線だったのですが話の展開を見直して変更した際にあまり重要なシーンでは無くなってしまいました。精々金沢と三ツ屋があんまり仲良くないよ、ってぐらいになってしまいました。

「コロコロと話の流れを変えるからそうなるんじゃない」

へい、反省してます。

「次からは気をつけて下さいね?」

「鳳翔さん、筆者は甘やかすと付け上がるわ。もっと、びしっと言わないと」

 

 

 

夜が更け始めてきた頃。夕食と入渠から戻って来て金沢の執務室でソファーに座る赤城の手には昨日と同じコーヒーカップが握られていた。中には淹れたてのコーヒーが入っていた。

「さて・・・どこからお話しましょうか・・・」

自分の分のコーヒーを注いでいた金沢が隣に座ってから赤城は話し始めた。

「・・・もう40年以上前の話です」

「赤城さん、今幾つでしたか?」

(Betrayal Squadron三話より抜粋)

 

 

 ここも度重なる展開の変更で赤城さんが昔の話をするにあたってかなーり無理があったと思います。反省してます。

「これでは解説というよりも筆者の反省会ですね」

「こんなの公開しないで一人でやりなさいよ」

まって、ここはまだ補足があって・・・!

「では、どうぞ」

まだ若く見える赤城さんがいきなり40年も前の話をしだした事に違和感を感じた方もいるかと思いますが、これは所謂艦娘年を取らない説ですね。戦闘に出ても服が破れるだけ、という事から艦娘とはアンドロイドやサイボーグ的な何かではないかという説です。艦これ2次創作では割とメジャー(だと筆者は思ってます)な設定ですが、この作品もそれに募って艦娘は基本的に年を取らない事になっています。

「不老化とか言ってたあれね」

そうっすね。作中で言う“不老化を施された艦娘”が年を取らない艦娘という事になります。ここ数十年で実用化された技術という事になっていますね。なんかこう・・・ものっそいレアで“自然には純度の低い鉱石しかないなにかを何度も精製して作ったなにか”が必要で莫大な資金が必要な代物です。でかい軍艦が作れるぐらい。

「これだけの文章で“なにか”を2回も使いましたね」

作中では士官学校とかで全艦娘に実装済みと教えられていますが実際は・・・ry。

 轟沈しなければ何時までも戦えるなんて都合の良い物発明されたって直ぐに全艦娘が使える筈が無い。戦艦艦娘とか空母艦娘とかの1隻でも戦況を左右する可能性の高い艦娘から順に装備していったら旧型の艦娘は後回しになる筈だ!これだ!

「・・・と捻くれた思考回路の筆者は考えたそうですー(棒)」

捻くれただなんて酷いナー。

 

 

 

 向った先ではすでに先程とは別の将校と、青い袴の武道着に身を包んだ彼女等と歳が近そうな艦娘が2人待っていた。将校は赤い袴の2人が立ち止まるのを待って、2人を青い袴の2人に紹介した。

「本日の演習相手、天城と赤城だ。こちらは加賀と土佐」

将校が手を後ろで組んだまま左右に顔を向けて紹介した。赤い袴の天城と赤城が会釈して、後に紹介された青い袴の加賀と土佐が返した。

「今日はお手柔らかに」

1つに纏めた長い髪を左肩から体の前に下げた方の青袴の少女が大人しそうな顔でゆったりと微笑んで言った。

「演習だからと言って気を抜くな!これは実戦を想定した演習である!各自艤装を整備部に取りに行き作戦開始地点に移動!30分後に始める!」

「「はっ!」」「「はいっ!」」

(Betrayal Squadron三話よりry)

 

 

 はい、ここからしばらくは過去のお話になります。史実で言うと八八艦隊建造からワシントン軍縮条約で、赤城、加賀が戦艦艦娘として訓練期間を過ごしているという設定です。

「天城さんと土佐さんが登場しますね」

「天城は雲龍の妹ではなく赤城の姉の方よ」

作中では詳しく説明していませんが個人的には(多くの二次創作に影響を受けておりますが・・・)天城さんはサバサバ系乙女、土佐さんはガタイの良いおっとり天然系長身女子だと思っています。

「心なしか二次創作に登場する赤城さんのお姉さんは決断が早そうな性格に描かれる事が多い気がします」

そしてこの時代の赤城さんは姉に負けない元気なロリっ子、加賀さんは実力はあるのに実践にものすごく弱い系の女の子をイメージして書きました。

「ただし筆者のイメージがちゃんと作中に反映されているとは限らないのであしからず」

年齢で並べるのなら(メモ要確認)加賀>土佐>天城>赤城。

身長順なら真逆の土佐>加賀>赤城>天城、です。個人的にいつか設定書でも描いてみたい4人ですね。

「書いてみたい、では無く描いてみたいですか?」

「漫画が描けなくて小説書き始めた筆者が?」

1枚に1年ぐらいかければ描けると・・・思うかも知れない。

「予定は未定ですね」

 

 

 

 震災から3年が経った。国防の要であり地域の復興対策本部も置かれた横須賀鎮守府は、周辺の町よりも一足早く震災前の水準で活動していた。

 「正規空母の加賀さんですね!?佐世保との演習の結果、見ましたよ!1人で戦艦2人を行動不能にしたって凄いじゃないですか!」

数回に渡り改造を受けた加賀は、当初こそ練度、艤装共に使い物にならなかったものの、2年間の訓練の末、空母として申し分の無い艦娘に成長していた。そして今日、正式に艦娘に就任する。

 「あ、ありがとう・・・」

新しく制定された弓道着を着て歩いているだけで、見ず知らずの整備兵に声をかけられた加賀はなんとかそれだけ返した。周りに居た水兵も加賀に気付いて視線を向ける。注目も集めていたことに気が付いた加賀は、すぐにその場を後にして新しく建てられた煉瓦造りの建物に向った。

(Betrayal Squadron四話より抜粋)

 

 

 はい、ここからは4話に入ります。3話に引き続き過去回です。

「赤城の回想と加賀の回想が筆者でも把握出来ていないくらいごちゃ混ぜになっているわね」

作中の赤城、加賀の過去に何があったかが分かれば良いやとでも言うような荒削り仕様でした。本編でかなり略しましたが史実のような軍縮条約があった事になっています。

「先ほど、加賀さんは実践に弱いと言っていましたがこのシーンを見る限り演習でもしっかり活躍出来ているようですね」

はい。引用はしていませんが、天城さんが地震で倒壊する建物から加賀さんを庇って亡くなっているので、責任を感じて加賀さんなりに努力したのでしょう。時間が経って赤城さんも加賀さんもだいぶ落ち着いていますが、まだまだお互いに気まずい間柄です。なお加賀さんと土佐さんが標的艦になるはずだったのに、加賀さんが天城さんの代わりに空母艦娘になってしまったので1人で標的艦艦娘の任務を勤めるはめになった土佐は一足先に訓練生を卒業して鎮守府を離れています。

「便宜上、標的艦とは呼んでいるけれど作中での職務は実験段階の艤装の性能試験だったりするわ」

「史実でも標的艦になった戦艦土佐が新型砲弾の実験データを取っていましたね」

(※筆者はニワカなので詳しい事は知りません、悪しからず)

 

 

 

 加賀が会議室から出て行った後、将官は作戦の資料を片付けていた佐官に話しかけた。

「大佐。君の編成だから問題は無いと思うが・・・。加賀は時折集中が途切れると言っていたな?旗艦に起用して良かったのか?」

「はい。ご存知の通り、加賀は演習で連日連勝で、先日は佐世保の実戦経験のある戦艦2隻を大破に追いやりました。この波に乗らない手は無いでしょう。彼女の自信にも繋がる筈です」

佐官は自信満々に答えた。

 「そうか・・・では明日は頼んだぞ。間違っても初陣で娘を沈めんようにな」

将官は佐官に見送られて会議室を後にした。

(Betrayal Squadron四話より抜粋)

 

 

 「これは赤城さんと加賀さんの初出撃の話ですね」

佐官、佐官と言っていますが当時の2人の提督です。この世界では艦娘は訓練期間を終えると先ず鎮守府に振り分けられ、次に各基地に、そして各提督の配下に振り分けられます。作中の赤城さんと加賀さんの場合は横須賀の海軍学校を卒業してそのまま横須賀所属の艦娘に、訓練期間中の監督官がそのまま提督になった事になっています。

「佐官提督の台詞に加賀さんが実戦経験がある戦艦を大破させたってあるけど・・・?」

え?もちろん演習での話しですよ。ちゃんと読んでます?

「う・・・うっさいわね。大体アンタが・・・」

アンタって誰に向かって言ってるんですか。筆者ですよ?今、平行して14話を書いてますけど提督の出番減らしても良いんですよ?

「うわっ、サイテー!登場人物だからって・・・・・・・」

 「提督と筆者が言い争っている時間が勿体無いので先に進めておきますね。将官の心配を他所に自信に満ち溢れている佐官ですが、後にその心配は赤城さんの負傷という形で現れてしまうのでした」

 

 

 

 「なんだ、居たの。なんだか騒がしいし、初陣であんな失敗して逃げ出したのかと思ってた」

戸を開けた土佐に促され赤城の入渠先に入った加賀は早々に手痛い一撃を喰らった。

「・・・っ」

加賀は思わず踵を返して戸に向かって駆け出し・・・外から土佐に戸を閉められた。結局、数歩だけ歩いてその場に立ち尽くす。

「何しに来たのよ」

ベッドの中央で足を伸ばして座ったまま、赤城は相変わらずの強い口調で言った。

「・・・怪我。大丈夫?」

加賀は恐る恐る目線だけ赤城に向けて言った。

「これ?・・・ええ、お陰様で絶好調ですよ。そんな事言いに来た訳?」

2、3拍あって今度は顔だけ赤城に向けた。

「・・・私。天城さんに。赤城さんにも、認められるように頑張ります。・・・天城さんに、あの時・・・庇って良かったって。思って貰える様に・・・だから、あの・・・」

普段から小さめの声が更に小さくなり最後は尻すぼみになって話すのを止めてしまった。

(Betrayal Squadron四話より抜粋)

 

 

 さて、気付いた方も居るかとは思いますが作中のこの時代の加賀さんはとんでもなくヘタレです。

「気付く気付かないの問題じゃないんじゃない?」

要約すると、本番に弱い加賀さんのミスをカバーした赤城さんが負傷してしまい、その事で自分を責めた加賀さんの中で何かがボッキリ折れてしまい、引き篭もった加賀さんが横須賀に偶然帰ってきていた土佐さんに連れられて仲直りしに行くシーンです。

「もう少し簡潔にお願いします」

本編における赤城さんと加賀さんが仲良くなるきっかけになるシーンです。とんでもなくヘタレな加賀さんが良い意味で吹っ切れるきっかけになるシーンでもあります。一人称視点無しでこういうシーンを書くの難しいです。

「括弧つかって無理やり心象書いてたりしましたものね」

もう半ばやけくそでした。

 

 

 

 「提督!赤城、復活しました!負けっぱなしは嫌です!」

「赤城、ノックしろと何度言えば・・・いや、俺達は追撃しない」

「・・・何故ですか、大佐」

ノックしていた分遅れて加賀が入室して言った。

「やかましい、今は中佐だ」

「大佐!特訓もばっちりです!」

「中佐だ。嫌味か」

「どうして追撃しないんですか?」

 「・・・赤城が治療受けて加賀が行方不明になってる間に別艦隊が追撃、及び殲滅に成功した」

「「・・・」」

 騒ぐ赤城と落ち込む加賀を帰して、佐官は改めて煙草に火を点けた。

「やれやれ、随分と仲良くなっちゃって。俺の降格も無駄ではなかったかな?」

佐官が吐いた煙草の煙が天井に届く前に空気に溶け込んだ。

(Betrayal Squadron四話より抜粋)

 

 

 この頃は台本かっていうくらい台詞が並んでいますね。

「今も変わらないわね」

え?

「え?」

「えっと・・・ここで2人の提督が降格しているのは新人艦娘を危険に晒しかねない采配の責任を取った形になります」

加賀さんが当時の提督に報告に行った時に彼の秘書が“長官が待っている”と言っていましたが、その事についてのお説教&降格通知だったり。

「一応言っておくとここでの長官は出撃前に佐官と話していた将官よ」

 「ところでここまで殆ど本編の現代についての記述が無かったけれど、どうなってたの?」

ぶっちゃけ心象的には回想のシーンとあまり変わりません。へこむ加賀さんが過去と言葉は違えど赤城さんの励ましで復活しています。

 

 

Continue>>>【五話 タイトル未定。同じ過ちを繰り返すものか】

(Betrayal Squadron四話より抜粋)

 

 

 懐かしいですね。Continueの前にto beが無いと“続く”の意にならないのを知らなかった時代です。

「突っ込みどころしかないわね」

「“タイトル未定。”について説明して頂けますね?」

えっとー・・・。後書きでも触れましたが四話のサブタイトル“加賀と土佐”は当初一話の次回予告で使っていました。

「二話のサブタイトルになる予定だったのですね」

はい。ですがいざ書いていくとこの回想シーンがどんどん先延ばしになっていって3話までずれ込んでしました。

 

 

 「それはそうと引用がなかったけど・・・」

あ、他にも何か気になったところありました?

「ほら、武久とかって整備士が天城を励ました時の・・・」

・・・ん?(・ω・;;;)

「“だったらその度に俺が修理する。整備も完璧にするから何度でも壊して生きて帰って来い”でしたか?」

あー!あー!あぁぁー!

「あれってどうなのよ」

あー!あー!聞ーこーえーなーい!

「深夜帯に思いついた口説き文句が上手く仕上がる訳無いではありませんか」

「ああ・・・深夜テンションってやつね。・・・鳳翔さん、それフォローになってない」

あーーー。

「それ以前にいきなり“だったら”から切り出されてもねぇ・・・」

それは・・・まあ・・・。もう良いでしょ!?

「そうですね。そろそろお終いにしましょうか」

「そうね。今回は3話、4話の補足説明でした。前回、感想稼ぎしてたけど見事な結果だったわね」

・・・か、乾燥しきってましたね。新着の感想。

「そうねー、カリッカリだったわねー」

カリッカリちゃうし・・・。

「まあまあ。提督もそのくらいで。筆者もそう簡単に沢山感想を頂ける様な作品が書けるとも思っていないでしょうし・・・」

お。さすが鳳翔さん、お優しい。

「それに筆者が折れたら誰が引き継いでくれるんですか?」

あっ、そっちね。

「私は他の方が書かれた作品でも登場出来ますけど、大端提督はここだけではありませんか」

「そ、そんな事無いもん。いつかスピンオフとか出るもん」

「そうなると良いですね()。それではこの辺りでお終いにさせて頂きます。ここまで読んで頂きありがとうございました」

「ましたー」

「次回はBetrayal Squadron第五話、古兵の疑心から解説を続けて行くそうです。良かったら気長にお待ち下さい」

「それでは皆さん。ごきげんよう!」

 

 

fin

 




 「お疲れ様したー」
「お疲れ様ですー」
「あ~、疲れたぁ」
お2人共遠方からのご来訪お疲れ様でした
「ほんっと冗談じゃないわ。なんで私がこんなのに出演しなきゃなんない訳?」
あれっ?鳳翔さん!?
「素の鳳翔さんってこんな感じですよ~」
ぬ!?
「それじゃ。私、次の収録があるから大端さんは先帰ってて」
「おつかれさまで~す」
あー・・・お疲れ様っしたー。

※この鳳翔さんはフィクションです。本家艦これ、他の艦これ関連作品とは何等関係はありません。


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