独立先導者の成り上がり~盾の勇者は、ここからだ!!!~ (やいさほー)
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プロローグ

注意とかはタグやあらすじの最後にある通りなので、
ご自衛の程よろしくお願いします。
楽しんでいただければ幸いです。
後、この話はあくまで何故召喚される事に
なったかの話なので、本編に直接
関わっては無いです。


これは、ジュン・ゲバルという男が

異世界召喚される前の日の話である。

 

 

その日は、青空のよく見える

晴れた日であった。

 

 

「ボス!起きてくださいよ、ボスゥッ!」

 

 

島の民が、慌てて長を起こしに来る。

その島の民は、彼の寝場所であるロッカーを

強く何度も叩く。

 

 

その島の長であるジュン・ゲバルという男は

「横になって寝るのは死んでから

好きなだけ楽しめば良い」という変わった

自論を持っている為、立てるロッカーに

入って眠るのである。

 

 

しかしまぁ、起きて起きてとロッカーを叩くのは

なんとも異様な光景だ。

 

 

その必死の呼び掛けに、

ゲバルはゆっくりとロッカーの扉を開けた。

 

 

「…ン?オウ、もう朝か……オハヨウ。

どしたんだそんな慌てて?」

 

 

ゲバルは少し眠そうな顔で、

欠伸をしながら島民に質問をする。

 

「ドウシタもコウシタもありませんよッッ、

朝っぱらから、自家用ジェット機が

ここに飛んできて 島中大騒ぎなんですよッ!?」

 

 

「……ジェットォ!?」

 

 

流石にこれにはゲバルも驚きを隠せなかった。

この島独立して以来の珍事である。

 

 

「…なんだ?とうとう痺れを切らした

ボッシュの奴が島に攻めてきたか?」

 

 

ゲバルは厳しい目付きで、

なるだけ考えたくない可能性を口にした。

もしそうならば、これから各地に潜んだ

ゲバル軍団とアメリカの戦争になるだろう。

しかし、それは彼の杞憂であった。

 

 

「いやそれが……中に乗ってるのは

日本人でして。それも老人の。」

 

 

ますます訳が分からない。

もしや日本の政権者だろうか。

ゲバルは国を担う人として、

政治には敏感なのである。

 

 

「日本人?しかもお年寄りィ?

……日本人だけなら、ミスター勇次郎か

ミスター刃牙かって見切りをつけれたんだけど…

誰だろうな、そいつ?」

 

 

「…とりあえず行って下さい、ボス。

まだ待ってるみたいですから…」

 

 

そうして彼に言われるがまま、

ゲバルはその老人の元へと向かった。

 

 

すると、本当にジェット機の傍に

老人が待っていた。その男を

警戒しつつ、彼は近づいた。

 

 

「……おッ!おおおッ!!1目でわかったぞ、

アンタがジュン・ゲバルじゃな!?」

 

 

その老人は、まるで旧友でも見つけたかのように

ゲバルを見てはしゃいだ。

 

 

「……そうだよ、貴方は?」

 

 

「おぉ、これは失礼。

突然来て名乗りも挙げぬなど、無礼も

甚だしいことじゃな。儂の名前は

徳川光成、よろしゅうな。」

 

 

そう言って、その老人は

ニコリと笑い握手を求めた。

ゲバルは半信半疑な顔ながらも

それにしっかりと応える。

 

 

「トクガワ……って確か大昔は

幕府のトップで、今は世界クラスでも

スゲェ財閥の、あの徳川かい?」

 

 

そう、この島に来れる者の数は

かなり限られている。

その中で日本人となると更にだ。

 

 

そうなると、徳川という名前は

ただの見栄や嘘には見えなかったのだ。

 

 

「ほおぉ、知っておられたか。

こりゃ光栄じゃのう。」

 

 

「知ってるも何も………ア、とりあえず

お話しに来たんなら、上がっていく?」

 

 

ゲバルは、その男が権力絡みではなさそうな

話をしに来たのを察し、この島に上げる

判断を下した。険しい顔も解き、

いつもの柔らかい表情に戻す。

 

 

「おお、いいのかね?別に儂は

場所を変えて構わんぞ?」

 

「いや、別にまァ…せっかくですし、

上がってって下さいよ。」

 

 

「ハハハ…有難いのう、それでは

お言葉に甘えよう……」

 

 

それを一瞬、光成の付き人が止めかけるが、

光成は行く気満々のようで

止める事は出来なかった。

 

 

ゲバルはいつもの調子に戻り、

その老人を自宅へと連れていく。

 

 

彼を尋ねてくる客人とは珍しいらしく、

途中で島民に色々と話しかけられた。

 

 

「コンニチワお爺様、ボスのお知り合い?

観光なら、私も教えてあげれるケド……」

 

 

「あ、いや、観光をしに来た訳じゃ

ないから大丈夫ですぞ……

ただの世間話じゃ。カッカッカッ」

 

 

「ボスゥ!お客なんて珍しいッスね!

外交ッすかァ!?」

 

 

「世間話しに来たんだってさ、

この人。ハハハ……」

 

 

そんな調子で島民のいる場所を抜け、

ゲバルの家へと辿り着いた。

 

 

「……ここが、お主の家か?」

 

 

「あぁ。そうさ。……ご不満がおありで?

ミスター徳川。」

 

 

「いや、なんというか…良い意味で

簡素な家じゃな。山小屋のようで……」

 

 

「ハハハ…無理に褒めなくて大丈夫だよ、

徳川サン。なんせ俺の国の奴らですら、

ボロ屋って気軽に言いやがるんだから…

今更気にしませんよ。

…さ、どうぞ上がって。」

 

 

「う、うむ。では失礼するぞ……」

 

 

そうしてゲバルの家へ入ると、

別段中が豪華な内装なわけでも無く、

本当に山小屋のような部屋だった。

 

 

これが小国とはいえ、

一国の大統領の部屋なのだろうか。

 

 

光成は、ゲバルに言われるがまま

1つの椅子に座った。

そして、ゲバルが机を挟み、

その反対側に座り込む。

 

 

「さて…ミスター徳川、早速本題に行こう。

貴方、何しに来たんで?」

 

 

ゲバルは単刀直入にそう聞いた。

あえて遠回りに聞くのは、

彼はあまり好きではない。

 

 

「おお、そうじゃったな。実はな、

アンタに頼みがあってここに来たんじゃ。」

 

 

「俺に頼みィ??……俺の隊員を

貸してほしいとか、そんなとこかな?」

 

 

普段来る頼みといえば、その位しか

彼には思いつかなかった。

 

 

しかし相手は徳川光成。

そんな依頼の為に

こんな場所にはわざわざ来ない。

 

 

「イヤイヤイヤ、確かにあんたの軍は

普通の軍と比べて明らかに融通が効き

強いだろうが……そうでは無い。

むしろ用事があるのはゲバル、

アンタ自身じゃよ。」

 

 

ゲバルにとってこれは意外であった。

興味深そうな顔で彼は聞き返す。

 

 

「ヘェ、是非聞きたいな。」

 

 

「それはな……ゲバルよ、アンタに異界に

行ってもらいたいのじゃ。」

 

 

あまりに唐突な事で、その場の時が

数瞬止まった。お互い何も言葉を発さぬまま

10秒ほどたった頃、ゲバルがやっと発声した。

 

 

「……ん??」

 

「いや待ってくれ!言わんでも分かるぞ!

そりゃ怪しいよな!?こんな爺が

いきなり島に来て言った言葉がこれ!

……でもそれは説明するから、

ちょっと、待ってくれんかの?」

 

 

普通なら即「帰れ」と言うだろう。

しかしゲバルは物分りがよく懐も深い。

金持ちがわざわざここにからかいには

来ないだろうと、真面目に光成の話を

聞くことにした。

 

 

「……わかった、その話、聞かせてくれ。」

 

 

ゲバルが話す事を許すと、

光成は嬉しそうに手を摩った。

 

 

「おお、聞いてくれるか。やはりお主、

懐が深いのう。……これはごく最近の事じゃ。

面白いものが古書店で発見されたんじゃよ。

実はな、異界に通じておる本が

見つかったのじゃ。その本が……これ」

 

彼は話しながら箱を取り出し、

それを開けた。その中には

少し古びた本が入っている。

 

 

「……雰囲気は凄いなァ、たしかに。」

 

 

素直にゲバルは頷いた。

普通なら一笑に付す所だが

彼はそういう事はしない。

それに、霊気や超常現象の類は

感じられないとしても、

その本に力がある事が彼には少し分かった。

 

 

風が吹くタイミングが秒単位で分かるように。

乱暴に脱がれ立ったままのタキシードが

いつヘタるかが理解できるように。

 

「お主にも何となく分かるか。

しかし儂は保証や根拠も無しに、

何となくで言っとる訳じゃないぞ。

その保証をしたのはな……

胡散臭くはあるが正真正銘本物の霊媒師……

儂の姉が宣言したのじゃ。」

 

 

ゲバルは、彼が姉、と言った瞬間

目を見開いた。その人物の名を、

彼は耳にした事がある。

 

 

「……ミスター徳川の姉で、霊媒師……

確かミス寒子、でしたっけ?」

 

 

「……!?し、知っておったのか!?」

 

 

「情報網って、広い程面白い話が

飛び込んできて良いですよ、徳川サン♪」

 

 

彼の右腕、カモミール・レッセンや、

その他の色んな場所に派遣されている

武器無きゲバル軍隊。所属する場所が

多ければ、当然拾う情報も多くなるのが

当たり前である。

 

 

「す、すごいの……流石衛星で監視されるだけは

あるわい……しかし、それなら話は早いの。

まぁそんな姉が見つけた本なんじゃが、

開いたらすぐに開いた人物を引き込む位には

力が強力だと言っておった。」

 

 

「……それなら、誰も開けないように

封印とかしなきゃダメじゃないか、徳川サン。」

 

 

至極真っ当な意見だった。しかし、

それは光成にとってもよく分かっている。

そう上手くいく話ではなかったのだ。

 

 

「……そう、問題はそこなんじゃよ。

どうやらこれと異界を繋いだ者、

異界に相当来て欲しいらしくてな……

それも強者を求めておる。

つまり、この本の力は強い。

もしかすると、この本が求めるあまり

放置しすぎると危険かもしれん、

と姉が言ったのじゃ。」

 

 

要するにそれは、開くのは危険なのに

いつか誰かが開かなくてはならない、

まるで時限爆弾のような本だったのだ。

 

 

「……ははァ、読めたぞミスター徳川。

それで、そこに行くのに白羽の矢が

俺に立ったって訳かい?」

 

 

何もかもお見通し、そんな口調で

ゲバルは光成に質問を投げかける。

 

 

「……そう、その通りじゃ。

アンタがそれに相応しいと判断されたのじゃ。」

 

 

光成は真っ直ぐにゲバルを見つめた。

ふざけている訳では無い、

真剣にお前を選んだのだと。

 

 

「いやァまぁ……嬉しいけど…

俺より強いオリバとか、悔しいけど

そっちの方が適任じゃない?」

 

 

正直ゲバルも興味はある。

異界が強者を求めている。

何か強いヤツを求める理由が

そちら側の世界にあるのだろうか、と。

 

 

しかし、やはりそれを加味しても

自分が選ばれた事に彼自身が

あまり納得いかないようだった。

 

 

「それは……確かにあのオーガこと勇次郎、

お前さんがさっき例に挙げたオリバ。

上げていけばまだまだ居るかもしれんが……

姉が言う、本が求めている条件にはな、

ジュン・ゲバル…アンタが1番あっておった。」

 

 

そう、ゲバルが選ばれた最大の点はここだ。

徳川寒子が言った、本に求められている者。

それ即ち、行く資格がある者なのだ。

 

 

「……条件ってのは?まさか

良い顔である事、とか?」

 

彼は軽い冗談を口にした。

刃牙に言った「恋人になってはナシだぜ」

のレベルではあるが。

 

 

光成は少し言葉に詰まらせた後、

ゲバルにこう答えた。

 

「……それはな、勇気ある者である事、

そして、強く、優しく、賢く、

リーダーシップのある人物である事じゃ。」

 

 

ゲバルは少し困惑した。

これが条件、そしてそれに選ばれたのが俺。

……なんで?と、なるだろう。

いきなり褒められたようなモノだ。

彼は理解が得たく、再び光成に質問をした。

 

 

「……オーウ、それが俺なの??嬉しいけど…

なんでなのか、聞かせてもらって良い?」

 

 

光成は、困惑するのも当然といった

表情で、彼が選ばれた理由を語り出した。

 

 

「実はな、戦いのプロで、

顔も広い男に儂が聞いたんじゃ。

そしたらソイツはお主の事だと答えよった。

……刃牙、刃牙じゃよ。お主も会ったろう?

その男からの推薦じゃ。」

 

 

「……ミスター刃牙のかい?

そりゃあまた、凄い話だ……」

 

 

そう、事もあろうか、あの刃牙の推薦である。

割と負けず嫌いで自分が行くと

言いかねない様な、彼からの推薦だ。

その時彼は、こう語ったという……

 

 

~刃牙の話~

 

 

『エ?勇気があって、強く優しく賢く、

リーダーシップのある男?

……ン~………いやァ、定義が難しいケド、

ゲバルさんじゃないかなぁ。』

 

 

『ミスターアンチェインこと

オリバさんと戦ってから、朱沢グループに頼んで

ゲバルさんの島に行ってみたんです。』

 

『そしたら島の皆さんが暖かく迎えてくれて。

しかも彼ら、ゲバルさんの話バッカリで……』

 

 

『大蛇に丸呑みにされた子供を助ける為に、

大蛇の中に入って腹をぶち破って

出てきた、みたいな話から

独立を起こす時の武勇伝まで…』

 

 

『しかも全部カッコイイんだなァ、

その話の中のゲバルさん。

それを誇張しているようにも聞こえなくて。』

 

 

『小さい島の長が大国という強大な力に

腕っ節1つで立ち向かう誇り高きその勇気。

 

そんな精神的意味でも、

肉体的意味でも十分な強さ。

 

 

自国の民や、弱き人への優しさ。

 

 

そしてその2万人の国民を引っ張りあげた

リーダーシップ。

 

 

…悔しいですけど、

喧嘩ではあの人に勝てても、

そういう所じゃ俺、なんなら父親の

勇次郎でも負けるんじゃないかなぁって…』

 

 

『いやァ、あの人だってやろうと思えば

出来ると思いますよ?貧民を救っての、

勇次郎国の立ち上げ…でも、彼はそういうの

きっと嫌いでしょうから……』ハハ

 

_______________________________________

 

 

「……とまぁ、こんな具合で

お主を絶賛しとったんじゃ、あの範馬刃牙が。」

 

 

全てを聞き理解した彼は、

少し恥ずかしそうに顔を歪めた。

 

 

「カァ~……アイツらいつの間に

俺の噂を…なんか照れちゃうね」

 

 

「何を恥じることがあるやら。

寧ろ誇るべきことじゃよ。」

 

 

光成は腕を組み、フンと鼻を鳴らす。

まるでそれが自分の事であるかのように。

 

 

「さて、話を戻そうかの。

……君には責任がある。この島の

大統領としての責任がな。

それを加味するならば、

これはあまりに酷な依頼であろう。

 

何故ならは向こうに行けば長く戻って来れない。

最悪、儂の姉に頼めば、

何とか戻ってこれるかもしれぬが……

異界に言ってみてくれなどと

ハッキリ言って滅茶苦茶じゃ。

 

もし無理であれば今からでも

断って貰って全く構わんぞ。」

 

 

本心ではないだろうが、真っ当な意見だ。

本当は、ミスター2と言われる彼が異界に

行ったなら、どのようなことが起こるのか。

そして、どんな経験をするのだろうか。

それが徳川老は気になっているだろう。

 

 

しかし、それは単なる興味に過ぎない。

大統領の仕事が大事と言うなら、

それは当然の判断である。

 

 

それに、本が暴走する件についても、

最悪ゲバルの変わりは居る、

光成はそう考えている。

 

 

光成の言い分を最後まで聞き終えた

ゲバルは、顎に手を当て悩むポーズを見せた。

 

 

ゲバルとしては正直、

仕事は大切だがそれに興味がない訳ではない。

オリバの噂だけで刑務所に収監されに

行った男だ、ロマンを求める心は十分にある。

 

 

そこで彼は、他の者に意見を求める事にした。

 

 

「…ン~……そうだな……

ちょっと、皆と話してきて良いかな?」

 

 

「ああ、もちろん。その権利はゲバル、

お前さんにあるのだからな。」

 

 

アリガトウ、と一言だけ残し、

彼はサッと出ていった。光成は

この場所で待つことを決めた。

 

 

どれくらいかかっただろうか。

ゲバルは小走りで戻ってきた。

 

 

「お、早かったの……で、

結果的にどうじゃ?」

 

 

「いやァ……皆広場に集合させて

ミスター徳川の言った事、

そのまんま言ったらさ~……

『ロマンあるじゃん!行ってきなよボス!

俺らなら大丈夫だからさ』

……だって。頼もしい民衆だよ、マッタク」

 

 

ゲバルが半分呆れ、しかし半分楽しそうに

そう答えたのを見て光成は大笑いした。

 

 

「カッカッカッッ、そうかそうか。

ゲバルよ……お主は、それで良いんじゃな?」

 

 

「…オリバの事聞いてさ、

直ぐに刑務所に収監されに行くくらいには

好奇心まみれの男だよ、俺ってね♪」

 

 

彼は爽やかに笑った。

 

その最後の返事を聞いて、

光成はにぃっと白い歯を見せた。

 

 

「よォし、決まりじゃあ!

ミスター2、ジュンゲバルの新しい船出ッッ!!

いやァ、断られてもおかしくないと

思っとったが、受けてくれて嬉しいぞ!!」

 

 

彼はゲバルの手を出会った時のように取り、

出会った時以上に振り回した。

 

「お、落ち着いてくれミスター徳川……」

 

 

そうして光成の興奮が覚めたあと、

2人は本を机に置き、その目の前に立った。

 

 

「……これを開けた瞬間、お前さんは

この世界から居なくなる。

……それは、承知の上なんじゃな?」

 

 

「さっきも言ったでしょ徳川サン。

俺はもう決めたんだ。皆も応援してくれた。

行ってくるよ。……出航の刻だ。」

 

 

ゲバルはニコリと光成に微笑み返し、

本を開いた。すると、その本は

瞬く間に輝き始めた。

 

 

そしてゲバルを、異世界へと誘った……

 

 

人を誘い満足したのか、その本は

パタリと独りでに閉じた。

光も収まり、力は消え失せたように見えた。

 

 

「………行って、しもうたのぉ~……

達者でな、ジュン・ゲバル……

もし帰ってきた時に、お前さんが

望むこと、なんでも叶えてやるからのぉ~……」

 

 

……画して、ジュン・ゲバルという男は

異世界へ誘われた。彼はその世界で

何を行うのだろうか。それはまだ、

誰にも分からない話である………

 

 

 




もし、誤字やご意見があれば教えて下さい。
作品へのご意見だけでなく、追加した方が良いタグ等でも
是非お願いします。次の話からは、
盾の勇者の成り上がりの本編と同じように繋がります。


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異世界という新しい港

流石にあのプロローグからは早めに次に行かないと何の話か分からなくなると思うので書きましたがこれからはペースは落ちると思います。ここからは本編と似たような流れがしばらく続くと思いますのでよろしくお願いします。


光に包まれた後、彼が目を開けると

そこは明らかに雰囲気が違っていた。

 

 

ジュン・ゲバル。彼は、

異世界へと召喚されたのだ。

 

 

あの島の緑生い茂る自然に囲まれた、

山小屋のような雰囲気はもはや欠片も無く

そこは聖堂のような場所に変わっていた。

 

 

((…なんだ、これ……スっっゲェ……))

 

 

幼い頃から鍛え上げられ、様々な事に

洗練されたゲバルでも、さすがに

このような事態には慣れていなかった。

 

 

ふと横を見ると、同じように呆然と

立ち尽くしている者が三人。

同じように選ばれたのだろうか。

もしかして、戦うことになる?

 

 

ゲバルがそんな事を考えていると、

目の前の男達は歓喜の声を上げ、

4人に向かって懇願を始めた。

 

 

「おお、勇者様…!どうか、

この世界をお救い下さい!」

 

 

「…ん?」

「は?」

「…え?」

「はい?」

 

 

それぞれが思い思いに困惑の意志を見せた後、

しばらくの静寂が訪れる。

 

 

「…いやァその…そりゃあどういう事で?」

 

 

しかし黙りっぱなしで話は始まらない。

ゲバルはその静寂を打ち破った。

 

 

「色々と込み合った事情がありますが……

簡単に言わせて頂くと、勇者様達を

古の儀式で召喚させて頂きました。

どうか是非、お力をお貸しください……!」

 

 

召喚…勇者…その言葉を聞き、彼はピンと来た。

なるほど、道理で強いヤツを

召喚したかった訳だ。

 

 

勇者を召喚するということは、

何かしら強い助っ人を期待している、

ということだ。

それならば、呼ばれる者が強ければ

召喚した側もありがたいだろう。

 

 

あの本が強い者を欲していたのは、

そういう事だったのだ。

 

 

色々合致したゲバルは少し笑い、

OKに近い返事を出そうとした。

 

 

 

「…ン~…ナルホドね…そうだなァ

とりあえず話だけでも」

 

 

ゲバルがそこまで言いかけた時

それを遮るように3人が返事を返した。

 

 

「断る。」

「そうですね。」

「元の世界に帰れるのか?話はそれからだ。」

 

 

彼らは明らかな拒絶反応を示した。

まぁ良く考えればいきなり連れてこられた訳だ、こうもなるかとゲバルは思った。

 

 

しかしその後彼らは口揃いに金を受け取る

権利の主張を始めたので

なんだカネかよ、と少し呆れた。

すると、それをせがまれた相手は

少し困り顔でこういった。

 

 

「と、とりあえず貴方方には我が国、

メルロマルクの王に拝謁して頂いて、

ソレから交渉金のお話を……」

 

 

「しょうがないな。」

「考える余地はありますね。」

「ま、誰が相手でも言う事は変わんないけど。」

 

 

結局これでここでの話は纏まった。

薄暗い部屋から出て、石造りの階段を上ると

風が外から入ってくる。

 

 

海に囲まれたゲバルの島の潮風とも、

ボッシュ大統領の領地に吹き抜けていたような

心地いい風ともまた少し違ったそれに、

ゲバルは異世界へと来た実感を味わった。

 

 

そしてそのまま進んでいくと

王の居る間へと辿り着いた。

 

 

「ほう、このもの達が四聖勇者か。

ワシがこの国の王、

オルトクレイ=メルロマルク32世だ。

…さて勇者達、名を聞こう。」

 

 

「俺の名前は天木練。年は16、高校生だ。」

 

 

彼は剣の勇者。

16歳の高校生でクールな印象の少年。

プライドが高く、他人を見下しがちである。

 

 

「次は俺か。俺の名前は北村元康、

年齢は21歳、大学生だ。」

 

 

槍の勇者で、金髪を

ポニーテールにしている。

見た目こそそこまで変ではないが、

いわゆるチャラい様に見受けられる。

 

 

「次は僕ですね。川澄樹。17歳、高校生です。」

 

 

弓の勇者で、物腰は柔らか。

勇者の中で最も小柄であるが、

他の者に負けない程プライドはありそうだ。

 

 

「最後は俺か、俺はジュン・ゲバル。

…そうだなァ、一応一国の大統領、かな。」

 

 

盾の勇者である彼は、気さくで明るいが

本気を出せば恐ろしい一面もある。

 

 

実際に、彼の技である

地球拳や髪での神経切断、それに加え

無隠流忍術など多才な技を持ち合わせている。

 

 

「大統領…!?す、凄い肩書きですね…」

 

 

川澄が思わず素っ頓狂な声を上げた。

それを聞いていやいやそれ程でも、と

ゲバルは軽くそれを流した。

 

 

しかし、どうやら王の目付き的に

あまりゲバルは気に入られてないらしい。

 

 

「なるほど、レンにモトヤスにイツキだな。」

 

 

「…俺の名前が抜けてますよ、オーサマ♥」

 

 

自分の名前が呼ばれないのがわかるとすぐに

ゲバルはニコリと笑って爽やかに訂正を入れた。

 

 

「ああ、すまん、ゲバル殿。

…さて、では話をしよう。」

 

 

その王の話を要約するとこうなる。

 

 

まず、この世には終末の予言が存在するそうだ。

その予言によれば、波というものが幾重にも

繰り広げられ、その波が引き起こす災害を

取り除かなければ世界が滅ぶという。

 

 

その予言が指したのは今年であり、予言の通り、古くより存在する龍刻の砂時計という道具の

砂が落ち始めたのだ。

この砂時計というのは波を予知し、

1ヶ月前から警告するという機能を持っている。

 

 

伝承によると、1つの波が終わる度に

1ヶ月の猶予が生まれ、

そこからまた波が襲いくるらしい。

 

 

当初、この国の民は予言をそこまで

信用していなかったが、

予言通りに厄災が起こってしまったようだ。

 

 

次元の亀裂がメルロマルクに発生し、凶悪な

魔物達が大量に亀裂から這い出してきたのだ。

その時は国の騎士や冒険者の甲斐あり、

何とか乗り切ることが出来たが

次の波は更に強力になるという。

 

 

このままでは無理だと考えた国のお上の方々は、伝承に則り勇者を召喚した……

というのが一連の流れだそうだ。

 

 

ちなみに、言葉が通じているのも、

各々の伝説の武器の能力によるものらしい。

 

 

「へぇ、スっゲ……」

 

 

まるで御伽噺のようなそれが、

現実である事が彼には少し嬉しかった。

しかし、他の者は特に興味は無いようだ。

 

 

「なるほど、話は分かったが、それで

報酬無しで働けと言うのか?」

 

 

天木がキツくそう言うと、王の付き人らしい者が

安心して下さい、といった。

 

 

「もちろん波を見事退けていただければ

多くの報酬をご用意させていただきます。」

 

 

「へぇ、まぁちゃんとその報酬を

払ってくれるならイイか。」

 

 

「敵にならなければ協力はする。

しかし飼い慣らそうとは思うな。」

 

 

「そうですね、舐めてかかってもらっては

困ります。その辺しっかりお願いしますよ。」

 

 

「…みんな、ガメツいなァ。」

 

 

ゲバルが他の者の反応に呆れ笑いをしていると

王が発言した。

 

 

「では勇者達よ、自分のステータスを

見てもらいたい。」

 

 

ゲバルはその言葉を聞いて、ポリポリと

頭を掻きながら少し顔を歪ませた。

彼の島は自然豊かで、なおかつ狭い。

ましてゲーム機などほとんど

触れた事は無いだろう。

 

 

王の言うステータスというものが

彼には聞きなれない言葉だったのだ。

 

 

「…ねェ君、どう見るか分かる?」

 

 

練の方を向き、首を横に降り

分からないような素振りを

ゲバルは見せた。

 

 

「何だ、この世界に来て直ぐに

気が付かなかったのか?…何となく、

視界の端にアイコンがないか?

それに意識を集中する様にしてみろ。」

 

 

練に言われたとおり、

視界の端にあるアイコンに意識を集中する。

 

 

すると、ピコンという音と共に

アイコンが大きく表示された。

 

 

[ジュン・ゲバル

職業:盾の勇者、Lv1

装備:スモールシールド(伝説武器)、異世界の服

スキル:独立の先導者

魔法:無し]

 

 

「Lv1ですか……これは不安ですね」

 

 

「そうだな、これじゃあ

戦えるかどうか分からねぇな」

 

 

「へェ~…こりゃすげぇや、

サンキュー、ミスターレン♪

…で、結局これって何?」

 

 

「勇者殿の世界では存在しないので? 

これはステータス魔法という

この世界の者なら誰でも使える物ですぞ。

早い話強さやスキルがすぐ分かるもの

と言いましょうか。」

 

 

「強さが数字で見えるの?

……すげぇなァ異世界ッ」

 

 

噂に聞くオーガや、筋肉超人のオリバなら

どんなステータスになるんだろうな、

とゲバルは思っていた。

 

 

「で、俺達はどうすれば良いのかな?

レベルが低いなら鍛えれば良いって感じ?」

 

 

「ふむ、そういう事になりますかな。

勇者様方にはこれから冒険の旅に出て、

自らを磨き、伝説の武器を

強化して頂きたいのです。

伝承によりますと、召喚された勇者様が

自らの所持する伝説の武器を育て

強くしていく、だそうです。」

 

 

「伝承、伝承ね。その武器が武器として役に立つまで別の武器とか使えばいいんじゃね?」

 

 

元康が槍をくるくる回しながら意見する。

 

 

「んじゃとりあえず、俺とミスターレン、

ミスターモトヤス、ミスターイツキの4人で

組めばいいのかな。」

 

 

「お待ちください勇者様方」

 

 

「ん?」

 

 

これから冒険の旅に出ようとしていると、

大臣がそれを止めた。

 

 

「勇者様方は別々に仲間を募り

冒険に出る事になります。」

 

 

「それは…何故ですか?」

 

 

「それはですね、伝承によると伝説の武器は

それぞれ反発する性質を持っておりまして、

勇者様たちだけで行動すると

成長が阻害されると記載されております。」

 

 

「そうなのか、つまり俺達が

一緒に行動すると成長しないのか?」

 

 

よく見ると、武器のマニュアルと

ヘルプがあり、それを見てみると

 

 

 

[注意、伝説の武器を所持した者同士で

共闘する場合、反作用が発生します。

なるべく別々に行動しましょう]

と表示された。

 

 

 

「どうやら伝承、ホントみたいだね♪」

 

 

他には武器の使い方などが記されていたが、

それはゲバル含めた4人は

一旦置いておく事にした。

 

 

「って事は仲間が必要なのかな?

仲間って言うと…海賊の頃思い出すなァ~」

 

 

「それは、ワシが用意しておくとしよう。

今日は日も傾いておる。勇者殿、

今日はゆっくりと休み、明日旅立つのが

良いであろう。明日までに仲間になりそうな

逸材を集めておこうではないか。」

 

 

「ありがとうございます。」

 

「サンキュー。」

 

 

それぞれの言葉で感謝を示し、

その日は王様が用意した部屋で

休息を撮ることになった。

 



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出航前の話し合い

読者様から左に寄りすぎというありがたいご意見を頂いたので、
詰めれる所は文字を詰めてみました。前の時とどちらが読みやすいか、もしご意見があれば教えて頂ければ幸いです。


勇者たちは王が用意した来客室の豪華なベッドに座り、

それぞれの武器をマジマジと見つめながら説明を読んでいた。

 

 

そして、その説明に書いてあることをまとめるとこうなる。

 

 

伝説の武器はメンテナンスが不必要の万能武器である。

 

 

持ち主のLvと武器に融合させる素材、倒したモンスターに

よってウェポンブックが埋まっていく。

 

 

ウェポンブックとは、変化出来る

武器の種類を記載している一覧表である。

 

 

武器のアイコンにあるウェポンブックを開くと、

それは瞬時に展開され、壁を越えて長々と記載されていた。

そのどれもがまだ変化不可能と記載されている。

 

 

また、特定の武器に繋がるように

武器を成長させていくこともできる。

スキルを獲得するには、武器に込められた力を

解放させないと駄目なようだ。

 

 

そして、最後に会得していたスキルである、

独立の先導者の説明を見る。

 

 

[スキル説明:これは自分の為でなく、

国の為に己と仲間を鍛え上げた者に

与えられる特別なスキル。

スキル効果は何を鍛えたかによって変化。

 

(例:射撃の訓練をした場合、

命中率等が補正されます)

 

スキル効果:武器を使用しない

技の威力補正(中)、

他人に技を伝授する際、

伝授される側のLvアップ補正(大)]

 

 

「ウーン…よく分かんないなァ、ヤッパリ。親父から教わった

戦闘術の方がまだ分かりやすいよ……」

 

 

ゲバルはそれらを眺めそうボヤいた。

 

 

「っていうかこれ、ゲームじゃね? 

俺は知ってるぞ、こんな感じのゲーム」

 

 

元康が自慢げに言い放つ。

 

 

「え?」

 

 

「というか有名なオンラインゲームじゃないか、

知らないのか?」

 

 

「いや、俺も結構なオタクだけど知らないぞ?」

 

 

「お前知らないのか? 

これはエメラルドオンラインってんだ。」

 

 

「何だそのゲーム、聞いたことも無いぞ…」

 

 

「お前本当にネトゲやったことあるのか?

 有名タイトルじゃねえか。」

 

 

「俺が知ってるのはオーディンオンラインとか

ファンタジームーンオンラインとかだよ、有名じゃないか!」

 

 

「なんだよそのゲーム、初耳だぞ?」

 

 

「え?」

 

 

「え?」

 

 

「皆さん何を言っているんですか、

この世界はネットゲームではなく

コンシューマーゲームの世界ですよ。」

 

 

「違うだろう。VRMMOだろ?」

 

 

「はぁ? 仮にネトゲの世界に入ったとしても

クリックかコントローラーで操作するゲームだろ?」

 

 

ゲームの事をよく知らないゲバルを

置いてきぼりにして、3人は議論した。

 

 

「クリック? コントローラー? お前ら

何そんな骨董品のゲームを言ってるんだ? 

今時ネットゲームと言ったらVRMMOだろ?」

 

 

「VRMMO? 

バーチャルリアリティMMOか?

そんなSFの世界にしかないゲームは科学が

追いついてねえって、寝ぼけてるのか?」

 

 

「はぁ!?」

 

 

「あの……皆さん、この世界はそれぞれなんて名前のゲームだと思っているのですか?」

 

 

話が終わらなさそうなのを察したか、

樹が軽く手を上げて尋ねる。

 

 

「ブレイブスターオンライン。」

 

 

「エメラルドオンライン。」

 

 

「…ン~…俺はよく分からない。

ゲームなんてやった事あったっけなぁ?」

 

 

彼だけ無知のような雰囲気が出てしまっているが、

幼い頃は親からの戦闘教育、少年期は海賊、

青年期は独立するために

ゲバル軍団を鍛え上げる……こんな風に生きてきたゲバルに、

ゲームをしている暇は恐らくなかったと思われる。

 

 

仮に時間があったとしても、ゲバルはゲームより

リアルで闘う方が好きだろう。

 

 

「あ、ちなみに自分は、

ディメンションウェーブという

コンシューマーゲームの世界だと思ってます。」

 

 

「まてまて、情報を整理しよう…」

 

 

元康が額に手を当て、各々が好き勝手に

言う流れを一旦断ち切った。

 

 

「錬、お前の言うVRMMOってのは

そのまんまの意味で良いんだよな?」

 

 

「ああ。」

 

 

「ゲバルは…置いておくとして、

樹、お前も意味は分かるよな?」

 

 

「SFのゲーム物にあった覚えがありますね。」

 

 

「悪いなぁ、俺はサッパリでさ。」

 

「俺も2人に似たようなもんだ。

じゃあ錬、お前の、その……

ブレイブスターオンラインだっけ? 

それはVRMMOなのか?」

 

 

「ああ、俺がやりこんでいたVRMMOは

ブレイブスターオンラインと言う。

この世界はそのシステムに

非常に酷似した世界だ。」

 

 

錬の話によると、VRMMOというものは

錬にとって当たり前のようにある技術で、

脳波を認識して人々はコンピューターの

作り出した世界へ入る事ができる、という話だ。

 

 

 

「それが本当なら…錬、お前のいる世界に俺達が言ったような古いオンラインゲームはあるか?」

 

 

錬はその返答がわりに首を横に降った。

 

 

「これでもゲームの歴史には詳しい方だと

思っているが、お前達が言うようなゲームは

聞いたことが無い。お前達の認識では

有名なタイトルなんだろう?」

 

 

元康がそれに頷く。詳しいのにその知識がないというのも

おかしな話なのだ。

 

 

「じゃあ一般常識の問題だ。

今の首相の名前は言えるよな、

ゲバルも大丈夫そうか?」

 

 

「……俺は俺の国で大統領なんだけど、

これはどうしたら良いかな?」

 

 

少し申し訳なさそうな、しかし半分ジョークのゲバルの言葉に

元康は先程のゲバルの自己紹介を思い出した。

 

 

「あっそうか、ゲバルはそもそも在住日本じゃないんだな。

そりゃそうか……まぁいいや。一斉に言うぞ、せーの!」

 

 

「湯田正人。」 

 

「谷和原剛太郎。」

 

「小高縁一。」

 

「俺!」

 

 

 

「「「「……」」」」

 

 

4人とも全く違う答えになり、全員が沈黙を帯びた。

 

 

自分は小国の大統領と言っていたゲバルは

ともかくとして、他の3人の答えが明らかに一致していない。

 

 

「どうやら、僕達は別々の日本から

来たようですね。彼はともかく」

 

 

奇妙なものを見る目を向けられたゲバルは

「イヤァ申し訳ナイ」と言った表情をした。

 

 

「そのようだ。間違っても同じ

日本から来たとは思えない。」

 

 

「という事は異世界の日本も存在する訳か。

それ所かゲバル大統領なんて聞いた事ないし

世界ごと別なのかもな。」

 

 

「時代がバラバラの可能性もあったが、

幾らなんでもここまで符合しないと

そうなるな…」

 

 

奇妙な集まりとしか言いようがない。

日本国籍ですらない者もこの中にいるのだから

中々よく分からない人選である。

 

 

「このパターンだと色んな理由で

来ちゃった気がするんだけど、どう?」

 

 

「あんまり無駄話をするのは趣味じゃないが、

情報の共有は必要か。」

 

 

練がどことなく上から目線で、

4人の中で最初に語り始めた。

 

 

「俺は学校の下校途中に、

巷を騒がす殺人事件に運悪く遭遇してな」

 

 

「あらら…」

 

 

「一緒に居た幼馴染を助け、犯人を取り押さえた所までは覚えているのだが」

 

 

錬が脇腹を摩りながら事情を説明する。

 

 

きっと助ける為に犯人を取り押さえた所

反撃され、死んでしまったという事だろう。

 

 

「そんな感じで気が付いたらこの世界に居た」

 

 

「そっかァ~…危ないヤツから

ダチ庇うなんて、勇気あるなァ。

男の鑑だ!」

 

 

そんなゲバルの素直な賞賛の言葉に練はクールに笑い返した。

 

 

「じゃあ次は俺だな。」

 

 

軽い感じで元康が自分を指差して話し出した。

 

 

「俺はさ、ガールフレンドが多いんだよね。」

 

 

「確かに君は、良い面してるけど

一途なタイプには見えないな。」

 

 

何となく女好きそうな雰囲気も含め、

ゲバルはそんな言葉を返した。

 

 

「それでちょーっとね……」

 

 

「二股三股でもして刺されたか?」

 

 

錬が小バカにするように尋ねる。

 

 

すると元康は目をパチクリさせて頷いた。

 

 

「いやぁ……女の子って怖いね」

 

 

「ハハ…そうか。」

 

 

ゲバルは苦い笑いを返した。

 

 

あんなにも体が大きくなってしまったマリアを、

心から愛していたビスケット・オリバと比べて

なんと軽い男だろうかと少し軽蔑の心を抱きながら。

 

 

すると次に、樹が胸に手を当てて話し出す。

 

 

 

「次は僕ですね。僕は塾帰りに横断歩道を

渡っていた所……突然ダンプカーが全力で

カーブを曲がってきまして、その後は……」

 

 

「…っちゃ~…災難だな、そりゃァ……」

 

 

「「……」」

 

 

要するに引かれてしまったということだ。

ただただ災難な話である。

 

 

「あ、次は俺?…俺はなぁ…」

 

 

ここに来た理由は、みな死んだからであった。

しかし、ゲバルだけは、本に選ばれここに飛んできたのだ。

どう言葉を選んだものか、少し悩んでからゲバルは始めた。

 

 

「……えーっとね、信じにくいかも

しれないけど…選ばれて来たんだ、俺。」

 

 

「…選ばれた?もしかして…お前は

勇者に相応しいとか、そんな感じか!?」

 

 

「あー、そうそう!そんな感じ(ワカンナイケド)、

それで俺はここに来たんだ。」

 

 

「……くぅ~、すげぇな、

大統領はスケール違うわ~……」

 

 

そんな元康の言葉にアリガトウ、と笑いながらゲバルは返した。

正直それで良かったのかも分かってはなかったが。

 

 

「そういや皆、さっきの話的に

この世界のルールっていうか…

仕組みは割と熟知してるワケか。」

 

 

「ああ。」

「やりこんでたぜ。」

「それなりにですが。」 

 

 

「そういう意味では俺って遅れてるんだなぁ…

ねェ先輩、色々教えてくれると

嬉しいんだけど…」

 

 

冗談交じりの懇願に、錬は冷酷に、元康と樹は何故か

とても優しい目でゲバルを見つめた。

 

 

「よし、元康お兄さんがある程度、

常識の範囲で教えてあげよう。まず、

俺の知るエメラルドオンラインでの話だけど、シールダー……盾がメインの職業な。」

 

 

偉そうに話す元康の話をゲバルは目を見開いて、

ウンウンと頷いて聞いた。

 

 

「最初の方は防御力が高くて良いのだけど、

後半に行くに従って受けるダメージが

馬鹿にならなくなってな。」

 

 

「ありゃ……」

 

 

「高Lvは全然居ない負け組の職業だ」

 

 

「へぇー…そうなのか。まぁ

受け側に一方的に回っちゃ

不利はなりやすいのは考えれば

当たり前の話だよな。」

 

 

ゲバルは戦闘経験が豊富だ。守りばかりする者がどうなるかは

よく知っている。攻撃防御両者備えてこその戦闘能力なのだ。

 

 

「まぁそういう事だな。ドンマイとしか

俺には言えないかな…」

 

 

憐れむ元康を他所にゲバルは淡々と質問を続ける。

 

 

「そういや、転職とか武器の変化ってあった?」

 

 

元康は静かに首を横に振る。

 

 

「君たちはどうかな?」

 

 

ゲバルが錬と樹に目を向けると、

2人は元康と同じような反応をした。

 

 

「そうか、まぁ別に構わないかな…」

 

 

そんな3人とは対称的に、ゲバルは全くめげていなかった。

むしろゲバルが身につけている格闘術は、

武器を必要とせず、自分の五体を存分に活かす体術なのだ。

槍、剣、弓だったならそれの邪魔になっていた可能性もある。

 

 

俺の武術はこの世界でも通じるのかなぁ、

など1人思いふけっているゲバルを他所に、

3人は話を再開した。

 

 

「そういや、地形とかどうよ?」

 

 

「名前こそ違うが殆ど変わらない。

これなら効率の良い魔物の分布も

同じである可能性が高いな。」

 

 

「武器ごとの狩場が多少異なるので

同じ場所には行かないようにしましょう。」

 

 

「そうだな…効率とかあるだろうし。」

 

 

ゲバル以外の3人も

戦闘の事を考えているようだが、

それは効率であったり場所であったり、

また彼とは違う方向性の話のようだ。

 

 

「勇者様、お食事の用意が出来ました。」

 

 

そんな風に過ごしていると、案内係であろう

召使いが部屋に入ってきた。

 

 

「ああ。」

 

 

4人は扉を開け、案内係に着いていく。

すると、騎士団の食堂に辿り着いた。

 

 

その場所は煌びやかな装飾が施されており

まさしく中世の貴族の食事場、といった

雰囲気の場所であった。

 

 

そのテーブルにはバイキング形式で

食べ物が置いてある。

 

 

「皆様、好きな食べ物を

お召し上がりください。」

 

 

「なんだ。騎士団の連中と

同じ食事をするのか…」

 

 

練がまたもや上から目線でそう呟くと、

ゲバルが少し顔を歪めた。

 

 

「嫌いな物があったならしょうがないけど、

そういう言い方は良くないな、ミスターレン。」

 

 

そう言われた練は黙ってゲバルを見つめる。

すると、争い事になるのを嫌ってか、

召使いが間に入って2人を宥めた。

 

 

「お気遣いは有難いですが、

お気になさらないでください。それに、

こちらにご用意した料理は勇者様が

食べ終わってからの案内と

なっておりますのでご安心ください。」

 

 

どの道優先順位は勇者の方が先のようだ。

それならいいか、と練は引き下がった。

 

 

「ありがたく頂こう。」

 

「ええ。」

 

「そうだな。」

 

 

勇者はそれぞれ好きな料理を手に取り、口にした。

 

 

慣れない食材が多く、食べる度に

ゲバルはオモシロイな、と思っていた。

 

 

全員が食事を終え、部屋に戻ると

3人は寝る準備をいそいそと始めた。

 

 

「そういや、風呂とか無いのかな?」

 

 

「中世っぽい世界だしなぁ……

行水の可能性が高いぜ。」

 

 

「言わなきゃ用意してくれないと思う。」

 

 

「まあ、一日位なら大丈夫か。」

 

 

「そうだろ。眠いし、明日は冒険の始まりだしサッサと寝ちまおう。」

 

 

元康の言葉にみんな頷き、就寝に入る…が、

ゲバルだけはベッドには入らなかった。

 

 

「…ゲバル、何してんだ?まだ寝ないのか?」

 

 

「ん?あぁ、俺の寝場所はロッカーとか

なんだ。この部屋ならクローゼットが

丁度いいかなァ、ってね…♪」

 

 

それを言った瞬間、3人はゲバルの事を

怪訝な目で見つめる。

 

 

「ろ、ロッカー?クローゼット?

普段そんな所で寝てんのか…?

……大統領なのに?」

 

「ハハ…そうだなァ、これは俺の

価値観なんだけど…横になって寝る事なんて、

死んじまってからたっぷり楽しめば良い、

なんてね。戦士はいつでも

起きれるようにしておくモノなのさ…」

 

 

ポカンとしている3人を他所に「オヤスミ」とだけ言い残し、

ゲバルはクローゼットに入った。

 

 

強いヤツと戦えるのかな、なんて希望を抱きながら。

 

 

 

 

 



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旅立ちの時

すみません、意見がなかったので前の書き方に戻してみました。やはりこっちの方が見にくい、等のご意見があればお願いします。


翌朝になり朝食を終えると、案内係が

王から呼び出しがあると4人に伝えた。

 

 

その後10時頃になった辺りに、

4人は王の部屋へと通された。

 

 

 

「勇者様のご来場ッッ!!」

 

 

謁見の間の扉が開くと、そこには

様々な服装をした男女が

12人ほど集まっていた。

 

 

騎士風の身なりの者もいる。

皆腕に覚えがあるような顔つきで

堂々と構えていた。

 

 

4人で礼を終えると、王が発言し始めた。

 

 

「前日の件で、勇者の同行者として

共に進もうという者を募った。

どうやら皆の者も、同行したい

勇者が居るようじゃ。」

 

 

人数だけを見るならば、

一応勇者1人につき3人が着くようになれる。

 

 

「さあ、未来の英雄達よ。

仕えたい勇者と共に旅立つのだ。」

 

 

王の言葉の後に、ぞろぞろと

冒険者達が並んでいく。

そして、全員が並んだ結果は……

 

 

 

錬、5人

 

元康、4人

 

樹、3人

 

ゲバル、0人

 

 

「あらら……俺ってもしかして、人気無い?

…ねェ王様、もうちょっと平等に

してくれても良かったんじゃないかな?」

 

 

半ば笑顔ながらも、その言葉には

確実に疑念が籠っていた。

そんなクレームに王様は冷や汗を流す。

 

 

「う、うぬ。さすがにワシも、このような事態が起こるとは思いもせんかった。」

 

 

「人望がありませんな。」

 

 

呆れ顔で大臣が切り捨てる。

 

 

「これでも2万人の上に立つ指導者

だったんだけど……寂しいね。」

 

 

しかしその大臣の嫌味な目付きも

まるで気にしていないかのように、

ニコりとしながら冗談でゲバルは切り返す。

 

 

そんな爽やかな態度も、大臣には

好かれていないようだった。

 

 

すると、その後、ローブを着た男が

王様に耳打ちを始めた。

 

 

「ふむ、そんな噂が広まっておるのか……」

 

 

「何かあったのですか?」

 

 

元康が微妙な顔をしてそう尋ねた。

 

 

「ふむ、実はの……勇者殿の中で盾の勇者は

この世界の理に疎いという噂が

城内で囁かれているのだそうだ」

 

 

「アー……そうだな、それが何か?」

 

 

「伝承で、勇者とはこの世界の理を

理解していると記されている。

その条件を満たしていないのではないかとな…」

 

 

元康が俺の脇を肘で小突く。

 

 

「昨日の雑談、盗み聞き

されていたんじゃないか?」

 

 

「……ストーカーが趣味かな。はァ~~…

嫌な奴も居たモンだな、ねェ?」

 

 

さっきよりも露骨に、王の事を

じろりと睨みながらゲバルは

大きめの声でそういった。

 

 

「そ、そうだな…それに関しては、

十分に気をつけるとしよう。」

 

 

ゲバルに睨みつけられたからか、

王は少し焦ったような口調で話した。

 

 

「ま!1人でも大丈夫、なんとかなるさ。」

 

 

しかしゲバルは、それすらも気にせず、

切り捨てるかの様にそう言った。

 

 

王にとって、それは都合が良くなさそうだった。

 

 

「ひ、1人か?1人は少し

不安が残るのではないだろうか?」

 

 

「ン~~……いやァ、別に?」

 

 

その返答に王は非常に困ったようだったが、

そこに助け舟を出すように女冒険者の

1人が声を上げた。

 

 

「あ、勇者様、私は盾の勇者様の

下へ行っても良いですよ。」

 

 

元康の後ろに並んでいた

仲間の女性が片手を上げて

その役目に立候補する。

 

 

「ん?良いの?俺一人で行けるけど……

ミスターモトヤスじゃなくて俺?」

 

 

「いえいえ、大丈夫ですよ。」

 

 

「…他に、ゲバル殿の下に

行っても良い者はおらんのか?」

 

 

王が確認を行ったが、他に

ゲバルの元へ来る者は居なかった。

 

 

「仕方あるまい。ゲバル殿は、

これから自身で気に入った仲間をスカウトして

人員を補充せよ。月々の援助金を配布するが、

代価として他の勇者よりも

今回の援助金を増やすとしよう。」

 

 

「おっ、ホント?ラッキーだな……」

 

 

仲間に関しては特に拘りがないゲバルは、

金が多めに貰えることの方が

幸運だったようだ。

 

 

「それでは支度金である。勇者達よ、

しっかりと受け取るのだ。」

 

 

各々に金の入った袋が渡される。

ゲバルのはその中でも少し大きい袋だった。

 

 

「ゲバル殿には銀貨800枚、

他の勇者殿には600枚用意した。

これで装備を整え、旅立つが良い。」

 

 

「「「「は!(Yes sir)」」」」

 

 

勇者一同は礼をしたあと、

直ぐにその場所をあとにした。

 

 

外に出てから、お互いに

自己紹介をすることになる。

 

 

「えっと盾の勇者様、私の名前は

マイン=スフィアと申します。

これからよろしくね。」

 

 

「ウン、こっちこそ、ね。」

 

 

マインは気さくに話しかけてくる。

それに対してゲバルも普通に対応をした。

 

 

「よーし、んじゃあ行くかァ~~…」

 

 

「はーい。」

 

 

こうして2人は、足並みを揃え

街に出かけた。

 

 

城と町を繋ぐ跳ね橋を渡ると、

そこは見事な町並みであった。

 

 

石造りの舗装された町並みに、

家、そこに垂れ下がる看板。

まさに中世の西洋を思わせるものだった。

 

 

「これからどうします?」

 

 

「そうだなァ、まず、戦ってみたいかな。」

 

 

ゲバルは頭を軽く掻きながら

少し笑った。

 

 

「……それも良いですけど、

まず武器の店に寄りません?」

 

 

「良いよ。じゃあ行こうか、ミス マイン。」

 

 

「は、はぁ。それでは、私の

知っている良い店を案内しますね。」

 

 

最初は困惑していたマインも、

スキップするような歩調に戻り、

武器屋を案内し始める。

 

 

 城を出て10分くらい歩いた頃だろうか、

一際大きな剣の看板を掲げた店の前で

マインは歩くのを止めた。

 

 

 

「ここがオススメの店ですよ」

 

 

「ヘェ~、絵に書いたみたいな

武器屋って感じだな……。」

 

 

 

店の扉から店内をのぞき見ると、

壁に武器が掛けられていて、

ゲバルの言う通りまさしく武器屋、

といった面持ちである。

 

 

他にも様々な武器を取りそろえており、

彼女がこの店を推すのも納得であった。

 

 

「いらっしゃい。」

 

 

店に入ると店主が元気良く話しかけてくる。

筋骨隆々で、坊主頭の店主だった。

 

 

「お、お客さん初めてだね。

当店に入るたぁ目の付け所が違うねぇ。」

 

 

「あぁ、ミス マインに紹介されたモンで。」

ゲバルがマインを指さすと、

軽く手を振って答えた。

 

 

「ありがとうよ、お嬢ちゃん。」

 

 

「いえいえ~、この辺りじゃ

親父さんの店って有名だし。」

 

「嬉しいこと言ってくれるねぇ。

所でその変わった服装の彼氏は何者だい?」

 

 

そう、今ゲバルは頭にバンダナを巻き、

白いポロシャツを羽織るように来ている。

あまり異世界では見られない

ファッションだろう。

 

 

「親父さんも分かるでしょ?」

 

 

「となるとアンタは勇者様か! へー!」

 

 

 まじまじと店主はゲバルを凝視する。

 

 

「…なんて言うか…見た目は普通だが、

中にスゲェもんを秘めてそうだな。

意外に筋肉もデケェしな。」

 

 

「あ、分かりますそれ。」

 

 

「でもやっぱり、どんな実力者だろうと

良いものを装備しなきゃ舐められるぜ。」

 

 

「ハハハ……戦うのは嫌いじゃないから

挑んでくるならいつでも構わないけどね。

…とりあえずご挨拶を…俺は

ジュン・ゲバルだ。よろしく、ミスター。」

 

 

「ゲバルねえ。まあお得意様に

なってくれるなら良い話だ。よろしく!」

 

 

店主が嬉しそうにそう言うと、

ゲバルは申し訳なさそうに頭を掻いた。

 

 

「あー…それなんだけど……申し訳ないけどさ、

俺って武器、使わないんだ。」

 

 

「……え?」

 

そこで、ゲバルは話し始めた。

自分は指の力を初めとした

色んな体の部位を鍛え上げ、

武器を使わぬ戦闘術を身に着けたことを。

つまり、彼に武器は必要ないのだ。

 

 

「なんだよ、じゃあお前さん

冷やかしに来たのか?とんでもねぇ

勇者がいたもんだぜ、全く…」

 

 

「いやァ、こんな所俺のいた世界には

無かったから興味が湧いてね……

ゴメンねミスター、悪気はなかったんだ。」

 

 

両手を合わせ目をつぶり、

『ゴメンナサイ』のポーズを取る

ゲバルを見て、マインは

心配そうにしていた。

 

 

「ちょっと、勇者様……?

そうは言いますが、本当に

武器無しで大丈夫なんですか?」

 

 

「ウーン……不安はあるけど…

多分大丈夫だよ。異世界に来たけど、

自分の元の力も信用してみたい、ってね…

て事で、俺の装備代はマインさんのに

当てたら良いんじゃない?」

 

 

おおよそ投げやりに、しかし確固たる意志を

持って彼はそう答えた。

 

 

「おっ、装備代は彼女に、って事は

結局ウチで何か買ってくれるのかい?」

 

 

「そうしたい所ですが……私は

勇者様の実力を見てから判断するので、

今はいらないです。すみませんね、親父さん。」

 

 

「そうか、まぁまた気が変わったら

来てくれりゃ良いよ。それじゃあ

頑張ってな。」

 

 

「ありがとうございます。それじゃまたー…」

 

 

気さくな店主に別れを告げ、

2人は店を後にした。

 

 

「それじゃあ…そろそろ戦いに

行きましょうか、勇者様。」

 

 

「おっ!待ってました、だな。

っし、やるかァ~~……」

 

 

こうして2人は街の出口の関所を

通り、外に出る。

 

 

ついにゲバルも待ち侘びた

戦闘の始まりである。

 

 

 



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順風満帆?

今回は少し文字数少ないと思います。






街から出ると、見渡す限り草原が続いていた。

 

 

ゲバルの島にも似たような自然が

あったが、ここまで木々もなく

広々とした草原はあまり目にかかれないと

言うものだ。

 

 

「では勇者様、このあたりに生息する弱い魔物を相手にウォーミングアップを測りましょうか。」

 

 

「よし、ついにメインイベントだ……」

 

 

「頑張ってくださいね。」

 

 

マインの応援の言葉に

ゲバルはにっ、と歯を見せて笑った。

 

 

しばらく草原を歩いていると、

目立つオレンジ色の風船のような

何かが見えてくる。

 

 

「勇者様、居ました。あそこに居るのは

オレンジバルーン……

とても弱い魔物ですが好戦的です。」

 

 

変わった名前をしているが、

好戦的な様子と鋭い目付きをした

その魔物に対し、

ゲバルが油断する事は無かった。

 

 

先程までのニコニコ顔は何処へやら、

顔をきりりと引き締め

まるで睨みつけるかのように魔物を見る。

 

 

「ガア!」

 

 

鳴き声を上げながら

突っ込んでくるその魔物に対し

ゲバルは突っ立ったまま……

 

 

「えっ、勇者様、何して……」

 

 

マインが最後まで、言い終わる暇すら無かった。

 

 

ゲバルは瞬時に足を振り上げ

オレンジバルーンに蹴りを入れる。

 

 

その天高く上がる足は雲すらも

吹き飛ばしそうで、その蹴りの

速さたるやまさに竜巻と言った所だろうか。

 

 

それが当たった瞬間、

その魔物は粉微塵に破裂する。

 

 

「えっ……??嘘……!?」

 

 

「ありゃ?思ったより柔いな……」

 

 

不満足そうなゲバルに

彼女はすぐさまツッコミを入れる。

 

 

「いやいや、柔いなって……

なんなんですか、今の?」

 

 

マインは驚きのあまり

大声すら出せずにゲバルに質問した。

 

 

「何って……ン~……スモウ?」

 

 

「……はい?」

 

 

「ああ、このジョークは通じないか、ハハ…

今のはただのキックだよ。

俺の格闘術は無隠流忍術とオリジナルで

出来てるから名前は特に無いよ。」

 

 

「あ、あれが普通の蹴り、ですか…

凄いですね、勇者様。」

 

 

 すると、ピコンと音がして

EXP1という数字が表示される。

 

 

「…ン?……ねェ、ミス マイン。EXPって何?」

 

 

「あ、ああ、それは経験値の事です。

一定数集めるとレベルが上がって

ステータスも上昇します。」

 

 

「ンなるほど、俺でも理解出来た、

アリガトウ、ミス マイン。」

 

 

2人でそんな会話をしていると、

スタスタと足音が聞こえてくる。

 

 振り返ると錬とその仲間が

小走りで走って来ていた。

 

 

その仲間達の前に、

オレンジバルーンが三匹現れる。

 

 

練が剣で一閃すると、オレンジバルーンは

音を立てて割れてしまった。

 

 

「ヒュー、so cool。振り方さえ成ってれば

完璧なのになァ。そう思わない?ミス マイン。」

 

 

「そ、そうですね……」

 

 

本心なのか皮肉なのかよく分からない

ゲバルの言葉に、マインは空返事をする。

 

 

 戦利品のオレンジバルーンの残骸を拾うと、

盾が音を鳴らした。そのまま縦に近づけると

光になって吸い込まれる。

 

 

 

[GET、オレンジバルーン風船]

 

 

 そんな文字が浮かび上がり、

ウェポンブックが点灯する。

 

 中を確認するとオレンジスモールシールド、

というアイコンが出ていた。

 

 

 まだ変化させるには足りないが、

必要材料であるらしい。

 

 

「これが、伝説武器の力なんですね。」

 

 

「どうやらそうみたいだ。…まぁ

集めりゃ強くなるって事で良いのかな?

……手塩にかけて育てていく感じ、

植物を育てる時と似てるな……」

 

 

大真面目な顔でそんな事を言う彼を、

マインは若干呆れの目で見た。

 

 

「……な、なるほど。そうですか。」

 

 

「……あ、ちなみにさっきのヤツ、

どれくらいのお値打ちで?」

 

 

マインは渋そうな顔で値段を告げる。

 

 

「銅貨1枚行ったら良い方でしょうか。」

 

そう言われ、ゲバルはどことなく

残念そうな顔になった。

 

 

「ヘェ、やっぱそんなモンなのかァ…

ちなみに両替はどうなってるのかな?」

 

 

「ええと、銅貨100枚で銀貨1枚、

銀貨100枚で金貨1枚ですね。」

 

 

「オーケイ、覚えておくよ。

それじゃあ次は、ミス マインの出番かな?」

 

 

「そうですね、頑張ります。」

 

 

そんな話をしていると、早速

オレンジバルーンが二匹

近づいてきてくる。

 

 

マインは腰から抜いた剣を構えて二振りすると、オレンジバルーンは弾けた。

 

 

「……ここじゃちょっと物足りないね、

敵のレベル上げても

良いんじゃないかな?」

 

 

「そうですね、進めばいい狩場が

あるので行きましょう。」

 

 

 その後、結局2人はオレンジバルーンや、

色違いのイエロー、レッドバルーン、

エグッグなどのモンスターを倒した。

 

 

「さらに進むと強いモンスターが

いるのですが……そろそろ日暮れですし

戻りませんか?」

 

 

「うーん。あんまり強いのがいなかったのが

心残りかな……ま、良いか。

さ、帰ろう、ミス マイン。」

 

 

3、4程レベルも上がり、素材もそれなりに

手に入れた。ゲバルは不満足そうだったが

十分な方であろう。

 

 

流石にこんな事じゃ終わらないよなぁ、

むしろもっと強いヤツと戦いたいな、

などと考えながら、ゲバルは

マインと城下町へ戻るのだった。

 

 

 

 



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怪しい風

夕方、城下町に戻った彼らは、

再び武器屋に訪れていた。

 

 

 

「お、盾のあんちゃんじゃないか。

他の勇者たちも顔を出してたぜ。

何だ、相方さんの武器でも

選びに来てくれたかい?」

 

 

他の勇者もここで買っていったらしい。

店主の嬉しそうな表情から察するに

良く売れたのだろう。

 

 

「オー、よく分かったね。

……さてはテレパシーかな?」

 

 

「いやいや、テレパシーも何も

あんちゃん武器は使わねぇって

自分で言ってたじゃねぇか。」

 

 

そりゃそうだ、とゲバルが笑うと

店主も「陽気なヤツだな」と笑い出した。

 

 

「…あ、そういやミスター、

コレってどこで売れるの?」

 

 

 オレンジバルーン風船を店主に見せると

彼は外を指さした。

 

 

「魔物の素材買取の店がある。

そこへ持ち込めば大抵の物は

買い取ってくれるぜ。」

 

 

「サンキュー、ミスター。」

 

 

「で、彼女の装備を買いに来たんだろ?

予算はどんなご予定で?」

 

 

「ンー……ミス マイン、ご予算は

どれくらいのつもりかな?」

 

 

ゲバルがそう聞いても全く反応せず、

彼女は黙々と装備を選んでいた。

 

 

「……アララ、ミス マインってば、

武器にお熱みたいだね。

…ミスターはどう思う?」

 

 

少し寂しそうにゲバルは肩を竦めた。

 

 

「お連れさんの装備ねぇ……

確かに良いものを着させた方が

強くなれるだろうさ。」

 

 

「まぁそうだろうね。

……ねェミスター、ミス マインが

あの調子だと値段高く着きそうなんだけど、

大丈夫かな?」

 

 

「ハッハッハ、勇者様、金欠が不安かい?

なんなら値引こうか?」

 

 

今日は機嫌がいいのか、

店主自らが値引きの提案をした。

 

 

「おっ、ホント?

じゃあ遠慮なく行くよ、八割引!」

 

 

「幾らなんでも酷すぎる! 2割増。」

 

 

「ミスター、それ増えてるよ!

……んじゃあ分かった。お互い謙虚で行こう。」

 

 

「商品を見せてねぇで値切る野郎には

倍額でも惜しいんだがな、まぁそうだな……

謙虚に行くなら許可してやろう。」

 

 

「おっ、流石!物分りが早いね♪

それじゃあ……7割9分!」

 

 

「何が謙虚だふざけてんのか!!2割1分増!」

 

 

「そこを何とか~……7割8分でいいからさ~…」

 

 

「何が良いからだ!せめて1割は下げろ!!

…仕方ねぇ5分引きだ。」

 

 

「5分引きィ~?んじゃあ俺は10割5分引きで!」

 

 

「無料(タダ)超えてんじゃねぇよ!!」

 

 

本気にしない2人の値下げ問答、

久々に冗談を言い合えている

ゲバルはとても楽しそうな表情だった。

 

 

しかしそれも終わりを告げることとなる。

マインが武器を選び終わったのだ。

 

 

彼女は、デザインが可愛らしい鎧と

妙に高そうな装飾用の金属が

使われている剣を持ってきた。

 

 

「勇者様、私はこのあたりが良いです。」

 

 

「ミスター、これで合計どれくらいの品なの?」

 

 

「オマケして銀貨480枚でさぁ、

これ以上は負けられねえ、5割9分だ。」

 

 

かなり良心的な値引きをして貰ったのにも

関わらずにこの値段、これを買えば

残り銀貨は320枚になる。

 

 

 

「…ミス マイン、ホントにこんなに必要?」

 

 

「はい、私勇者様の足を

引っ張りたくないので!」

 

 

彼女はゲバルに胸を押し付けながら

そう言った。

 

 

「……そう。まぁ良いか。面白い

ミスターに払ったと思えば、ね?」

 

 

ゲバルは店主に笑顔を向けながら、

銀貨480枚を渡した。

 

 

「値引きしといて何が面白いミスターに、だ。

全く…ヤッパリあんたはとんでもねぇ勇者様だ。

……ありがとうございやした。」

 

 

「はは、今日はアリガトウ。

値引きしてくれなきゃ野宿だったよ。」

 

 

「ありがとう、勇者様!」

 

 

彼女は気を良くしたようだ。

ゲバルの手にキスをしようとする…が、

彼はそれを静止させた。

 

 

「……それはイケナイよ、ミス マイン。

そういうのはね、本当に心から愛している者に

すべきなんだ。軽く扱っていいモノじゃない。」

 

 

「…は、はぁ。ごめんなさい。」

 

 

こうして2人は店を後にし、

街の宿屋へと入った。

 

 

そこの宿屋は一泊一人銅貨30枚で

泊まれるようだった。

 

 

「二部屋で。」

 

 

マインがそう言うと、ゲバルは黙って

2人分の部屋代を出した。

 

 

「はいはい。ごひいきにお願いしますね」

 

 

 宿屋の店主が揉み手をしながら

ゲバル達が泊まる部屋へと案内した。

 

 

そしてその後、ゲバル達は

宿屋に並列している酒場で晩食を取る事にし、

そこで別料金の食事を注文した。

 

 

 

「そういえば今日はこの辺で戦ったっけ?」

 

 

帰りがけに購入した地図を広げ、

ゲバルは彼女に質問する。

 

 

「はい。そうですね。明日行くなら

草原からもう少し進んで、ラファン村を

抜けた所にあるダンジョンに行くのが

いいと思いますよ。」

 

 

ゲバルは頷きながら、その地図をじっと眺めた。

出来るだけ頭に入れて置いた方が

これからの移動に良いだろうと。

 

 

 

「ところでで勇者様、

ワインは飲まないのですか?」

 

 

「アー……酒は特別な時しか

飲まないって決めてるんだ。ゴメンね。」

 

 

「そうなんですか、でも一杯くらい

いいんじゃないですか?」

 

 

「……後、今日は単純に気分じゃない、かな。」

 

 

「でも……」

 

 

「……悪いね、今日はダメだ。」

 

 

「そう、ですか。」

 

 

残念そうにマインはワインを引っ込める。

 

 

「もう今日は寝るよ。おやすみ。」

 

 

「はい、おやすみなさい。また明日。」

 

 

ゲバルはその時、顔からいつもの笑みは

消えていた。何故なら、彼女に嫌悪感を

抱いていたからだ。

 

 

((ミスターの店の時と、酒場での

あの目……ソックリだ。

俺や、島の民達を踏みつけにしようとした

あのボッシュの目に。少なくとも……

俺の事は、嫌いなんだろう。))

 

 

だが、それを敢えて彼は言わなかった。

自分の思い過ごしかもしれない。

それに、本当にそうだとしても

言う必要まではないだろう。

 

 

彼はマインの事を警戒しつつ、

寝床(クローゼット)に着いた。

 

 

しかし結局、朝まで特に変わった事象はなく

そのまま時は経った。

 

 

何事も無かったとはいえ、ゲバルは

まだ警戒を解かない。一応マインの

部屋に向かい、ノックしようとした

ちょうどその時だった。

 

 

何やら足音が騒々しく近づいてくる。

その正体は、王に仕える騎士の足音であった。

 

 

「盾の勇者だな!」

 

「そうだけど……何か用?」

 

 

「王様から貴様二召集命令が下ったのだ。

さぁ、ご同行願おうか。」

 

 

「ヘェ~……オーケイ、わかったよ。」

 

 

「さぁ、分かったならさっさと来い!」

 

 

騎士の1人が腕づくで連れて行こうと

ゲバルの腕を掴んだ瞬間、

彼は目にも止まらぬ速さでそれを振り払った。

 

 

「うおっ!?」

 

 

2代目ミスターアンチェインの名は伊達ではない。

警官が銃という強力な武器を持ってしてなお、

彼が好き勝手するのを止められないのだ。

鎧を着た騎士程度が彼を操れないのは

当然の事である。

 

 

「……俺は1人で歩けない

ガキじゃないよ、兵隊サン。

さぁ、行こうか。」

 

 

「…よ、よし、わかった。」

 

 

そのまま外に出ると馬車が待ち構えていた。

 

 

これで城に行く、という事だろう。

馬車は余裕ある顔のゲバルを乗せて、

駆けていくのであった。

 

 

 

 

 

 



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裏切りの逆風

ゲバルは馬車にしばらく揺られ、

王城に着いた。

 

 

降りると騎士たちが拘束しようとするが、

ゲバルが不機嫌気味に脅しをかける。

 

 

「投げ飛ばされたいならお好きにどうぞ、

王に仕える勇敢なソルジャーさん。」

 

 

先程凄まじい勢いで腕が払われたのを

見ていた彼らは、その言葉に警戒し

距離を置いた。そしてそのまま、

王の謁見の間へと通される。

 

 

其処にはなにやら不機嫌そうな王様と大臣、

そして錬と元康に樹、

その他の仲間が集まっていた。

そして、マインが元康の後ろに隠れ、

ゲバルの事を睨み付けていた。

 

 

「アララ、皆さんお揃いで……

それにどしたんだい、そんなに睨んでさ。

急に俺の事嫌いになっちゃった?」

 

 

 

「……本当に身に覚えが無いのか?」

 

 

 

元康が仁王立ちでゲバルに問い詰める。

 

 

「ン~……悪いけど、あったらこんなに

堂々と出来ないよ。」

 

 

「ふざけんな!何が堂々と出来ないだ、

白々しい!まさかお前、そんなに外道だとは

思わなかったぞ!」

 

 

「マイッタな、外道か……

あんまりに身に覚えがないんだけどね。」

 

 

ゲバルの軽い返答とは逆に、

重たい空気が周りを流れている。

 

 

「して、盾の勇者の罪状は?」

 

 

「罪状ォ?なになに、昨日の

武器屋のミスターとの値切り交渉が

ダメだったとかそんなトコ?」

 

 

「うぐ……ひぐ……盾の勇者様はお酒に酔った

勢いで突然、私の部屋に入ってきたかと

思ったら無理やり押し倒してきて……」

 

 

「………ふーん……」

 

 

「盾の勇者様は、

『まだ夜は明けてねえぜ』と言って私に迫り、

無理やり服を脱がそうとして……」

 

 

彼女が喋る度に、

ゲバルの顔からどんどん柔らかさが消えていく。

 

 

「私、怖くなって……叫び声を上げながら、

命からがら部屋を出て

モトヤス様に助けを求めたんです。」

 

 

「……ナルホド、良く出来たシナリオだ……」

 

 

ゲバルは大きくため息を着いた。

予感はまさに的中したと。

 

 

「俺は飯食った後はなんにもしてないよ。

酒も飲んでないしね。なんなら俺の部屋には

人さえ来なかった。」

 

 

「嘘を吐きやがって、じゃあなんで

マインはこんなに泣いてるんだよ!?」

 

 

「ウソ泣き、かな。俺の事をよく思ってない

目をしてたから嵌めようとする気持ちは

よく分かるよ。」

 

ゲバルの鋭い観察眼は、彼女が心の奥底に

隠していた気持ちを見抜いていた。

 

 

「……さて、王様。俺は彼女が

俺の事が嫌いだから嵌めようとした、

と思ってるんだけど、王様はどうなの?」

 

 

「黙れ外道!」

 

 

余裕のありそうな表情でゲバルが

意見を求めると、それを蹴り捨てるかのように

王は怒鳴った。

 

 

「嫌がる我が国民に性行為を強要するとは

許されざる蛮行、勇者でなければ

即刻処刑物だ!」

 

 

「……好き放題言うなァ、まぁイイけど。

そこまで自信タップリに言うんだ、

証拠品も出てくるんだろうね。」

 

 

すると、それを待っていたかのように

王の騎士の1人が声を上げた。

 

 

「王様!盾の勇者の部屋から

これが発見されました!」

 

 

そう言って彼が掲げたのは、

綺麗な女性の下着だった。

 

 

「……さて外道よ、これが何よりの

証拠では無いのか?言いたい事はあるか?」

 

 

証拠品を出した瞬間下を向いたゲバルを見て、

勝利を確信したのか王は更にゲバルに

詰め寄った。

 

しかし、ゲバルが下を向いたのは

状況が不味くなったからではなかった。

 

 

「……フフフ、イヤ失礼。

あんまり面白くてね……

彼女は『無理やり服を脱がされた』って

証言してるのに、綺麗な下着持ってくるから

……プッ、ハハハ……!」

 

 

矛盾し過ぎている証拠品に

笑いが止まらない、それを抑えるために

彼は下を向いたのだ。

 

 

「…だ、黙れ!何がおかしいのだ!!

誤魔化すのはやめろ!!」

 

 

どこまで犯人扱いをしたいのだろうか、

王は怒りながら誤魔化した。

 

 

しかし、樹と練は先入観からか、

ゲバルを犯人と決めつけていた。

 

 

「異世界に来てまで仲間に

そんな事をするなんてクズだな。」

 

 

「そうですね。僕も同情の

余地は無いと思います。」

 

 

2人が意見を言い終えた所で

ゲバルは笑うのを終え、

王に質問を返した。

 

 

「皆からの嫌われちゃったね……で、王様は俺に

どうして欲しいんだい?」

 

 

その問いに答えたのは、王ではなく

3人の勇者達だった。

 

 

「…決まっているだろう、 お前の様なやつと

波で戦いたくはない。すぐに責任をとった後

別の勇者に変わって貰おう。」

 

「全く同意見ですね。」

 

 

「そうだそうだ!お前なんざ勇者辞めちまえ!」

 

 

「……だってさ王様。」

 

 

すると、王は渋そうな顔で、

言いたくなかった事実を話し始めた。

 

 

「そうしたい所なのだが……

強制送還は出来ん。方法がないのだ。

勇者の再召喚も、全ての勇者が

死亡してからと研究者が語っておる。」

 

 

「…なん、だと…」

 

 

「そんな……」

 

 

「う、嘘だろ……!?」

 

 

3人は王の発言に愕然としていた。

しかし、ゲバルだけは特になんとも

思ってなさそうな顔つきだった。

 

 

「アララ……そりゃ不味いね。

……で、結局どうするの?

死刑にするって言うなら流石に

逃げようかなって思うけど。」

 

 

「……今の所、波の対抗手段が

勇者なのだ。どんな者だろうと

極刑には出来ん。だが、罰として

マインに罰金は支払ってもらう。」

 

 

「……オーケイ、分かった。

早く出たいし払うよ。」

 

 

王が提案した罰に、ゲバルは軽く答えた。

そして王から貰った袋を取り出し、

その中から銀貨を取り出す。

 

 

そしてそれを…投げつけることも、

潰す事もゲバルはしなかった。

かと言って普通に手渡した訳でもない。

 

 

まるで王の間に誰も存在しないかのように、

銀貨を色んな向きで重ね始めたのだ。

それも口笛を拭きながら、遊ぶように。

 

 

横に置き、縦に置き、その小さい

面積の上に更に積み重ねる。

何故かそんなアンバランスな状態でも

銀貨のタワーは崩れることは無かった。

 

 

あまりに奇怪なゲバルの行動に皆が

見とれている。

ゲバルが手を伸ばせる限界まで積み上げた後、

彼は満足そうに出口まで向かった。

 

 

彼はドアを開け、それと同時に

指をバチン、と鳴らす。

するとその瞬間、先程作った

銀貨のタワーはものの数瞬で崩れ去った。

 

 

「それじゃあ皆さん、さよなら。

王様はこうならないように、ね。」

 

 

ゲバルは王に嫌味をぶつけ、外に出た。

 

 

そのまま城をぬけ城下町へ向かうと

道を歩く人間が皆ゲバルを避け、

声を潜めて噂話をしていた。

 

 

「ア~ア、すっかり不人気者か……」

 

 

悲しいのか、どうでもいいのか

よく分からない表情をゲバルは浮かべながら

そんな町中を歩く。

 

 

そして、偶然武器屋の前を通りがかった。

 

 

「おい、盾のあんちゃん!」

 

 

「…武器屋のミスター。

…どうしたんだい、なんて聞かなくて

良さそうかな。」

 

 

「……噂で聞いたぜ、

仲間を強姦したんだってな。

…1発殴りてぇが、どうも引っかかる。」

 

 

武器屋の店主は、怒ってはいるが、

完全に怒りきれていない表情をしていた。

 

 

「あんちゃん、俺は覚えてる。

相方と店を出る前に、相方の嬢ちゃんが

手にキスをしようとしたよな。」

 

 

握られた拳が震えている。

 

「そしたら、あんちゃんは

それを止めてこう言った。

『本当に心から愛している者にしか

そんな事しちゃダメだ』……ってな。

立派な奴だって俺はそう思ってた。

だが……噂ではお前は強姦魔だ!

真実を教えてくれ!」

 

 

必死に怒りを堪える店主を見て、

ゲバルはとても優しい目になった。

 

 

「アリガトウ、優しいミスター。

噂を疑ってくれて。……ミスター、

俺は絶対に『やってない』。

俺の目を見てくれないかな。

…それでも信じるに足らないのなら、

俺はその程度の男だ。思う存分殴ってくれ。」

 

 

ゲバルは優しい目をしていた。

自分を信じてくれる者に向ける、

感謝の眼差しだった。

 

 

「……そうか。俺はあんちゃんの事を

信じてみるよ…これは餞別だ、取っておきな。」

 

 

そう言って彼は体を包むマントの様な

ものをゲバルに手渡した。

 

 

「……感謝するよ。」

 

 

ゲバルは店主の手を固く握った。そして、

武器屋を後にし、昨日倒し集めた

魔物の素材を売りに向かった。

 

 

その買取屋であろう、

小太りの商人がゲバルを見るなり

へらへらと笑う。

 

 

舐められている、というのは

彼でなくても分かったであろう。

 

 

先客が色々と売っていく中、

その中にはバルーン風船があった。

 

 

「そうですねぇ……

こちらの品は2個で銅貨1枚でどうでしょう?

エグッグの殻は一体分で銅貨5枚ということで…」

 

 

「頼む。」

 

 

「どうも、ありがとうございました。」

 

 

客が去り、ゲバルの番が回ってくる。

 

 

「どうもコンチワ。」

 

 

「ようこそいらっしゃいました…」

 

 

その男が怪しく笑ったのを、ゲバルは

聞き逃さなかった。

 

 

「そうですねぇ、バルーンは10個で

銅貨1枚、その殻は2つで3ゴールドと

言った所でしょうか。」

 

 

「ん?さっきより安いね?」

 

 

「いえいえ、これが普通ですよ。」

 

 

誤魔化す事すらせず、堂々と嘘をつく商人。

 

 

「ふーん……あ、ちょっと

よーく目を見開いてみて。」

 

「…は?こ、こうですか。」

 

 

その商人が困惑気味に目を見開いたその時、

ゲバルは目潰しを繰り出した。

それも寸止めで。

 

 

「………ッッ!!?」

 

 

「ハハハ、後、2cmって所かな?」

 

 

汗をダラダラと流す商人に、

ゲバルはさらに続ける。

 

 

「普通の値段でいいんだ。

買い取ってくれないかな?」

 

 

「…こ、こんな事をして……」

 

 

「さて、どうなるのかな。」

 

 

ゲバルの目付きは一気に厳しくなり、

商人の恐怖で閉じかけている目玉の前には

瞼ごと貫いてやる、と言わんばかりの

指が構えていた。

 

 

「……っっ、わ、分かりました……」

 

 

商人が怯えながら承諾すると

ゲバルはゆっくりと腕を下ろした。

 

 

「オーケイ。それに、

値引きたいなら最初から言ってくれれば

良いからさ。俺としても、まだここは

使わせてもらいたいんだ。」

 

 

「…正直断りたいですが、買取品と金には

罪はありません。良いでしょう。」

 

 

「アリガトウ。ついでに

噂でも撒いといてよ。次もまた

これするのもイヤだからね。」

 

 

「ハイハイ、全くとんだ客だよチクショウ!」

 

 

商談は何とか成立し、

無事に換金が終わったのだった。

 

 

 

 

 



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弱き民の為に

今回は、少し原作の流れからズレるので、注意願います。








あのマインの裏切り行為以降、ゲバルは

1人でモンスターを倒して日銭を稼いでいた。

 

飯時以外は森の中で過ごしていたが、

元々ジャングルの様な島で育った為、

ゲバルが特に問題視する点は無かった。

 

 

チンピラの様な輩に絡まれることもあったが、

ゲバルが少し脅しをかけるだけで

彼らは怯え逃げていった。

 

 

そして、森の中で薬草を見つけた時には

それを採取もした。

 

 

そしてある時草を摘んでいると、盾が反応した。

それに驚いたゲバルは、試しにと

採取した薬草を盾に吸わせる。

すると、更に盾から反応が帰ってきた。

 

 

[リーフシールドの条件が解放されました。]

 

 

これを見てもピンと来なかったゲバルは

とりあえずウェポンブックを開いた。

 

 

[スモールシールド

能力解放! 防御力3上昇しました!

 

 

オレンジスモールシールド

能力未解放……装備ボーナス、防御力2

 

 

 

イエロースモールシールド

能力未解放……装備ボーナス、防御力2

 

 

 

リーフシールド

能力未解放……装備ボーナス、採取技能1]

 

 

「……?なんだこりゃ、わかんないな…」

 

 

まるで初めてゲームを与えられた

子供のように、ゲバルは項目を

ポチポチと選んでいく。

 

 

[『武器の変化と能力解放』

 

 武器の変化とは今、装備している

伝説武器を別の形状へ変える事を指します。

 

 

 変え方は武器に手をかざし、

心の中で変えたい武器名を思えば

変化させることが出来ます。

 

 

 能力解放とはその武器を使用し、

一定の熟練を積む事によって所持者に

永続的な技能を授ける事です。

 

 

『装備ボーナス』

 

 

 装備ボーナスとはその武器に変化している間に使うことの出来る付与能力です。

 

例えばエアストバッシュが装備ボーナスに

付与されている武器を装備している間は、

エアストバッシュを使用する事が出来ます。

 

攻撃3と付いている武器の場合は装備している

武器に3の追加付与が付いている物です。]

 

 

「……とりあえずリーフシールドに

すれば強いのかな?」

 

 

ゲバルはリーフシールドを選択する。

すると、風を切るかのような音が起こり

植物の盾に変化した。

 

 

しかし、結局どうしていいか分からずじまいで、仕方なく薬草取りの続きを始めようとした時、

偶然にも盾の効果とマッチ。

薬草が淡く光り始めた。

 

 

[採取技能1

 

アエロー 品質 普通→良質 

傷薬の材料になる薬草]

 

 

簡易的な説明と共に、薬草の質が

上がったことを告げられる。

 

 

この手に疎いゲバルも流石に理解したようで、

その辺に生えていた薬草を可能な限り採取した。

 

 

その後、街の薬屋へとそれを持ち込む。

 

 

「ほう、中々の品ですな。これはどこで?」

 

 

「城を出たトコの草原で取れたんだ。

そんなにいいモノなの?」

 

 

「ふむ……そうですな。あそこで

これ程の物が採れるというのは珍しい。

もう少し質が低いと思っておりましたが…

十分高品質ですぞ。」

 

 

そう言って、彼はゲバルに銀貨1枚と

銅貨50枚を渡した。

 

 

こうして、ゲバルは明くる日も明くる日も

魔物を狩り、薬草を刈り、それらを

売って暮らしていた。

 

 

時間に余裕がある為、それらの単純作業でも

割と稼ぐ事が出来た。今手元には

銀貨200枚ほどがあった。

 

 

しかし彼は、この生活を不満に感じていた。

特にやることが見つからない。これなら

この世界には来ない方が良かったかもしれない、

そう思っていたゲバルに、ある日転機が訪れた。

 

 

「何やら、お困りの様子ですな?」

 

 

「…ん?」

 

 

シルクハットの燕尾服、そして肥満気味の

男がゲバルに路地裏で声をかける。

 

 

「俺に何か御用で?」

 

 

「フフ……むしろ貴方の方が

私を欲しているかと思いますよ。」

 

 

不気味にその男が笑うと、こう続ける。

 

 

「貴方のその顔……どう見ても欲求が

満たされていない顔です。

例えば。楽しくない、

人手が足りない、仲間が欲しい……

こんな所でしょうか。」

 

 

「えっと…完全に間違ってはないかな。」

 

 

ゲバルが素直に認めると

その不気味な紳士はニタリと笑った。

 

 

「やはりそうでしょう。

私ならその問題、解決できますよ。

特に仲間の問題はね。」

 

 

「ヘェー、どう解決してくれるんだい?」

 

 

「……裏切らない仲間を私は

ご提供できます。『奴隷』ですよ。

私に付いてきて下さればすぐにでも。」

 

 

その男は更に口角を上げ交渉を

持ちかけようとした。

 

 

ゲバルは、その男が発した一言で

表情を激変させた。

 

 

「……奴隷?」

 

 

「そうですが…如何なされました?」

 

 

彼は今、驚き、困惑した。

奴隷、それは弱き者の地位を更に確固な物へと

変える、最悪のステータスである。

異世界にも存在しているのか。

 

 

しかし、ゲバルは困惑の気持ちを押し殺し、

商人に案内を求める。

 

 

「…連れて行ってくれないかな、

その、君が言う場所に。」

 

 

こうしてその奴隷商人はゲバルを案内した。

そこには、まるでサーカスのテントのような

小屋が路地の一角に存在していた。

 

 

「こちらですよ、勇者様。」

 

 

その案内の声にすらゲバルは

反応出来なかった。

 

 

奴隷商はそれを気にしてか気にせずか、

軽いステップでテント内を案内する。

 

 

「しかしお客様、

さっきから如何なさりました?

ずっとお話をされませんが…」

 

 

丸眼鏡を少し持ち上げながら、

心配そうに商人は尋ねた。

 

 

「すまないね、どうしても気分が悪いから…」

 

 

「おや、これは失礼。もしや奴隷は

お嫌いですかな?」

 

 

「……ウン、嫌いだよ。大嫌いさ……」

 

 

それを聞いた商人は、

少し気まずそうに髭を伸ばす。

 

 

「左様でございましたか。どうやら貴方、

噂とは少し違う方のようだ。どうします、

今からでも出ていただいて構いませんが?」

 

 

「……いや、最後まで案内してくれ。」

 

 

「そうですか、分かりました。」

 

 

少し変わったモノを見る眼差しで

ゲバルを見つめながら、彼は引き続き

テント内を案内する。

 

 

「さて、こちらが当店でオススメの奴隷です。」

 

 

商人が勧める檻に近づき

覗き込んで中を確認する。

 

 

「グウウウウ……ガア!」

 

 

「……奴隷って、これ?」

 

 

鍛えられた肉体を毛皮で覆った様な外見の、

奴隷が檻の中で暴れ回っている。

 

 

 

「ええ、獣人といって、

一応は人間の部類です。」

 

 

 

「……そうなんだ、思ってたのとは

チョット違う、かな?」

 

 

一応人間の部類ではあると言うものの、

ほとんどそれは獣だった。

 

 

「……ねェ、奴隷商サン。色々

この獣人とかに着いて、教えて欲しいな。」

 

 

まだ誰が悪いと決めつけるべきではないし、

奴隷と言っても動物に近い者を扱うのならば

問題は薄いかもしれない。

ゲバルはその考えの元彼にそう尋ねる。

 

 

 

「メルロマルク王国は人間種至上主義

ですからな。亜人や獣人には

住みづらい場所でしてね。」

 

 

「……ふーん…」

 

 

確かに、城下町で見かけたのは大部分が人間で、

それらしき者はほとんど見かけなかった。

 

 

「その2つって、どういうモノなの?」

 

 

「亜人とは人間に似た外見であるが、

人とは異なる部位を持つ人種の総称。

獣人とは亜人の獣度合いが

強いものの呼び名です。」

 

 

「……そうなんだね。」

 

 

 

「ええ、そして亜人種は魔物に近いと

思われている為に、この国では生活が困難、

故に奴隷として扱われているのです。」

 

 

何処の世界にでも闇はある。

弱い者や、変わった者は差別され

追い込まれる運命に陥りやすい。

それを運命と諦めなかったのが

ゲバルという男なのだが。

 

 

「そしてですね。奴隷には......」

 

 

奴隷商が指を鳴らすと奴隷商の腕に

陣が浮かび上がり、檻の中に居る

奴隷の胸に刻まれている陣が光り輝いた。

 

 

「ガアアア! キャインキャイン!」

 

 

胸を押さえて苦しみだしたかと思うと、

悶絶して転げまわる。

 

 

もう一度、奴隷商が指を鳴らすと

胸に輝く陣は輝きを弱めて消えた。

 

 

 

「このように指示一つで罰を与えることが

可能なのですよ。」

 

 

「……惨い、なァ。」

 

 

仰向けに倒れる狼のような奴隷を眺め、

ゲバルは嘆くようにそう言った。

 

 

「私としても罰を与えて楽しみたい訳では

無いのですが、如何せん言う事を聞かせないと。

これでしか私は食っていけないものでしてね…」

 

 

 

「……そうなんだね。」

 

 

「ちなみにコイツは戦闘において有能な

部類でして。お値段は金貨15枚、

と言った所ですかな。いかがです?」

 

 

「…今は無理だ。そんなに金は持っていない。」

 

 

「左様でございますか。あ、参考までに

この奴隷のステータスはコレでございますよ。」

 

 

 

小さな水晶を奴隷商はゲバルに見せる。

するとアイコンが光り、文字が浮かび上がる。

 

 

[戦闘奴隷Lv75 種族 狼人]

 

 

その他色々と取得技能やら

スキルやらが記載されている。

 

 

「コロシアムで戦っていた奴隷なのですがね。

足と腕を悪くしてしまい、

処分された者を拾い上げたのですよ。」

 

 

「コロシアムか…。」

 

 

強き者でもいつかは堕ちるのだろうか。

闘牛のような扱いとはいえ、少し頂けないが。

 

 

「さて、一番の商品は見てもらいました。

…次は、どこを案内致しましょう?」

 

 

「…最後まで見せて欲しい。」

 

 

((…ここの奴隷制がどこまでのものなのか、

見ておきたいしね。))

 

 

その言葉どおり、商人はゲバルを案内し続けた。

先程の奴隷よりは劣るが怪我の少ない獣人、

珍しい色付きをしている鳥の獣人など

様々な奴隷を収監しているのがよく分かる。

 

 

そのまま、檻がずっと続く

小屋の中を案内される。

 

 

暴れる様な声がしていた区域を抜けると、

今度は泣き喚いたり、

啜り泣く様な声がする区域に入る。

 

 

「一通り紹介させて頂きましたが……

ここが勇者様に提供できる

最低ラインの奴隷です。」

 

 

そうして商人が指を差したのは三つの檻だった。

 

 

一つ目は片腕が変な方向に曲がっている

ウサギのような耳を生やした男。

見た限りの年齢は20歳前後。

 

 

二つ目はガリガリにやせ細り、

怯えた目で震えながら咳をする、

犬にしては丸みを帯びた耳を生やし、

妙に太い尻尾を生やした10歳くらいの女の子。

 

 

三つ目は妙に殺気を放つ、

目が逝っているリザードマン。

 

 

その3人を見たゲバルは、

居た堪れない表情になった。

 

 

「左から遺伝病のラビット種、パニックと病を患ったラクーン種、雑種のリザードマンです。」

 

 

「…そう、なのか。」

 

 

悲哀とはよく言った物だろう。

胸が張り裂けそうになる程の悲しみに、

口を抑えたくなるほどの哀しみ。

そんな感情が、彼の中で沸き起こる。

島の民を導こうと決めた、あの時のように。

 

 

「コンニチハ。俺はジュン・ゲバルって

言うんだ、よろしく。君たちの名前も

教えてくれないかな?」

 

 

いつものような優しい笑顔で、

しかしどこか哀しそうな目で

ゲバルは3人を見つめた。

 

 

しかし、ウサギの男と少女は怯えて声を出さず、

リザードマンの男はギロリとこちらを

睨み返すだけだった。

 

 

「…奴隷紋を使いましょうか?」

 

 

商人が言う事を無理やり聞かそうと

すると、ゲバルは直ぐにそれを制止させた。

 

「それはダメだ。そんなモノで

人を操った所で何にもならない。

……さて、もう一度聞くよ。君の名前は?」

 

 

「…すみません、ちょっと言えない、です……」

 

 

しどろもどろとしながら答える

彼にゲバルはニコリと笑った。

 

 

「そうか、仕方ないさ。…君は?」

 

 

「…ラ、ラフタリア…コホ、コホ……」

 

 

咳が辛そうに彼女は名乗りを上げた。

この絶望的な場所で奴隷として扱われて、

なお目に光が宿っている彼女に

ゲバルは可能性を見いだしていた。

 

 

「いい名前だね。最後に、君は?」

 

 

そのリザードマンは寡黙だった。

睨むだけで、何も返さない。

 

 

「ハハ……それもまたひとつの答えだ。」

 

 

世には雄弁は銀、沈黙は金という言葉もある。

もっとも、この場合当てはまるかは別だが。

 

 

「……さて、そんな3人に聞いて欲しい。

俺は君達に道を用意できる。

そう言ったら、皆はついて来てくれるかい?」

 

 

「「「…!!」」」

 

 

ゲバルの問いかけに、

3人が目を見開いた。

 

 

「…勿論無理にとは言わないよ。

来ないとしても、絶対に君達は助け出す。

それを信じるも信じないも、君達の自由だ。」

 

 

ゲバルがそう言いながら、

1人目の檻に手を差し伸べると

彼はまともな方の片腕でゲバルの手を握った。

 

 

「俺……行きます……」

 

 

絶望しかなかったこの生活に、

終止符を打ちたかったのだろう。

そのウサギの男はゲバルの手を握った。

 

 

「よく言ってくれたね、これからよろしく。」

 

 

ゲバルはそんな彼に握られた手を握り返した。

そして、次の檻に手を差し伸べる。

 

 

「ゴホゴホ……私も、良いの…?」

 

 

不安そうに怯えながらも宣言する彼女に

ゲバルは力強く答える。

 

 

「ああ、勿論だ。もう奴隷扱いも差別も、

どこの誰にもさせない。」

 

 

ハッキリとそう告げると、彼女は

差し伸べられた手をそっと優しく握った。

 

 

優しく包まれたその手を、

ゲバルは大事そうに見つめた。

 

 

最後にリザードマンに手を差し伸べると、

彼は無言で手を握った。

 

 

「…来てくれるんだね、嬉しいよ。」

 

 

ゲバルがそう言うと、リザードマンは

黙ったままゲバルを見つめた。

 

 

そして、その一連を静かに見守っていた商人が

ようやく口を開いた。

 

 

「……奴隷紋をお付けするかどうか、

聞くのは流石に野暮でしょうな。

奴隷が嫌いとはそういうことでしたか。」

 

 

流石にある程度察したのか、

奴隷商人は先程と打って変わり

静かな口調でゲバルに語りかける。

 

 

「……そうだよ、俺は奴隷が嫌いだ。

ヒトの尊厳を全て真っ向から否定するような

奴隷という身分はね。」

 

 

(……奴隷という存在は間違っている…

誰だって権利は持っている。

それをあまつさえ弱き者から奪い

彼らを鎖で縛り付ける……

それを俺は、許すことが出来ないッッ!)

 

 

密かに心の中で、怒りの炎を燃やすゲバル。

 

 

「なるほど、どうやら貴方様は

本当に噂とは違う方のようだ。

……それに、私のような人間を恐らく

嫌っているでしょう。」

 

 

商人の顔に怪しい笑みはもうなかった。

真顔でゲバルを見つめている。

 

 

「流石に奴隷商人を好きにはなれないかな。

……でも、君には危害は加えるつもりは無いよ。

1番悪いのは奴隷制度を許している王政だ。

それにアンタ、この仕事をしないと

生活出来ないんだろ?それなら仕方ないさ。」

 

 

「…左様でございますか。」

 

 

「ま、いつか転職はしてもらうけどね♡

ン~……アンタは、宝石商辺りが

似合うんじゃないかな?」

 

 

「フフ、これはまた随分面白い事を仰る…

しかも、冗談のつもりではありませんな。」

 

 

商人は、もはやどんな顔をしていいか

分からなかった。

こんな人間は見た事がなかったのだ。

 

 

一方ゲバルは、この国を変えたい、

変えてみせると決意していた。

 

 

自分の為でも、この世界の為でもない。

この世界にも存在していた弱き民の為に。

 

 

 

 

 








ラフタリア以外の2人の名前、調べて見ても全く出なかったんですがどうすればいいでしょうか?ご意見あればよろしくお願いいたします。


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これからの進路

最近すごく忙しくてupするのが遅くなりました。まだ忙しいので亀更新になりそうですが暖かい目で見守ってくださると幸いです。






3人が檻から出ると、ゲバルは

暖かく3人を迎え入れた。

 

 

「……さて、代金だ。受け取ってくれ。」

 

 

ゲバルは代金の90枚の銀貨を

奴隷商人に渡す。

 

 

「……お代金、ですか。良いのですかな?

私に金を払って……」

 

 

少し自虐気味に笑う奴隷商人に

ゲバルは肩をすくめる。

 

 

「君に罪がない、という訳じゃないけど

奴隷商人をしないと生活出来ないなら、

それまで奪う気は無いよ。

……その代わりこれから俺が来た時には、

また他の人達を外に解放して欲しい。

勿論、その時も金は払う。」

 

 

 

「貴方様は不思議な方ですなぁ。

そこまで奴隷という身分が嫌いならば

私を殺してでも皆を解放すれば

良いでしょうに、お優しいというか

甘いというか…」

 

 

「俺があくまで許せないのは

この制度を黙って見過ごしている

1番上のお偉い方だ。椅子にドカッと座って、

権力も持っているのに何もしない…

そんなお偉い方がね。

……長く話しすぎたね、さぁ、行こう。」

 

 

ゲバルは3人の肩をポンポンと叩き、

そのテントの外に出た。

 

 

「あの…ありがとうございます。

命令があれば、なんとでも……」

 

 

ウサギの男が口を開くと、ゲバルは

それを停めさせた。

 

 

「命令は無いよ、仲間なんだからね。

もう君は奴隷じゃないんだ、勿論2人も。」

 

 

リザードマンとラフタリアの方にも向けて、

ゲバルはそう言った。

 

 

「…さて、改めてもう一度言っておこう。

君達には自由がある。

戦わずに普通に暮らす事も出来るんだ。

暖かい場所でゆっくりと

家族のように過ごすことも許される。

それを望むなら、俺は全力で叶えよう。

…それでも戦いたいのなら、そう言ってくれ。

それもまた、全力で叶える。」

 

 

彼がこだわったのには訳がある。

 

 

親からの厳しい戦闘教育、

海賊になって強奪までしないと

支えられなかった貧しい民達の生活、

そして最後は犠牲者を出しての軍隊の結成……

 

 

ゲバルに選択肢は、用意されてなかった。

ひとつしか道がなかったのだ。

 

 

だが、彼らは違う。自分が辿った厳しい道を

わざわざ往かせる必要は無いのだ。

選択肢を与えられる。

 

 

「…その、ゲバル様、俺は……

強くなりたいです……ダメ、ですか?」

 

 

 

「俺はそれを全力で支えるよ。

それで後悔がないならね。」

 

 

ゲバルが含みある笑顔でそう言うと、

ウサギの男は嬉しそうにした。

 

 

「良いんですか!ありがとうございます…!」

 

 

「…あの!私も、そうしたい…ゴホ、ゴホ……」

 

 

そこに割って入るようにラフタリアが

同じ道を歩むことを決めた。

 

 

「そうか…大変だよ、本当に後悔はない?」

 

 

「は、はい!」

 

 

ラフタリアが精一杯元気よく返事をすると

ゲバルはニコリと笑った。

 

 

「良し!…んじゃあ、君はどうする?」

 

 

リザードマンの方にゲバルが声をかけると、

彼は無言で頷いた。

 

 

「そういう事、だね?」

 

 

そう言うと、彼は少しだけ頷いた。

戦いに連れて行ってくれ、という返事なのは

言うまでもなかっただろう。

 

 

「じゃ、じゃあよろしくお願いしますッ!」

 

「わ、私も……!」

 

 

「そうだね、それじゃあ…おっとその前に、

ひとつ言って置くことがある。」

 

 

急に3人に対し険しい顔をしたゲバル。

彼らが身を固めると、ゲバルはこう言った。

 

 

「様付けはしないでね♪堅苦しいよ、仲間なのに…あだ名でも良いくらいだけど、

呼びにくいならボスって呼んでくれ。」

 

 

ウサギ男とラフタリアは、

豆鉄砲を食らった鳩のような顔をした。

リザードマンはなおも寡黙だったが、

少し可笑しそうに口の端を上げた。

 

 

そして各々が決意表明を終えたあと、

ゲバルは彼等の服を変える為に武器屋に寄った。

 

 

「……アンタ……」

 

 

ゲバルと連れの3人を見て、

店主は何を言うべきか

分からなさそうな顔をした。

 

 

「3人の服と防具が欲しいんだ。

これからずっとこれで過ごすなんて

酷な話だからね。」

 

 

「…まぁ、何があったのかは聞かない。

そうだな、防具はすぐ用意できるが…

服は流石に売ってねぇ。店を紹介するから

そこに行ってくれ。」

 

 

「…ありがとう。じゃあ、動きやすい

防具を3人分お願いするよ。」

 

 

「3人とも……って、リザードマンと

ウサギ耳の兄ちゃん2人組はともかく、

その子供にまで戦わせるのか?」

 

 

「ウン、強くなりたい、戦いたいって

言ったからね……俺はその意志を無視しない。」

 

 

ラフタリアは小さく頷いた。

 

 

「……そうか。とりあえず、

3人分の防具を用意するぞ。」

 

 

そう言って、店主は奥に入っていく。

しばらく経ったあと、

彼は防具をいくつか持ってきた。

 

 

「値段だってあるからな。色々あるから

考えて買ってくれ。少しなら値引きもするぜ。」

 

 

「アリガトウ、ミスター。

…さて、じゃあ買おうか。」

 

 

「…感謝します。」

 

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 

リザードマンも深深と頭を下げる。

 

 

そのまま3人に合う防具を選び、

装備させる。代金は銀貨50枚程度だった。

 

 

「皆良い格好だ。ミスター、

お代を受け取ってくれ。」

 

 

ゲバルは店主に金を手渡し、

そのまま店を出る。

 

 

そして3人で服を買い、体を清潔にした後

街に向かい、そのまま飯屋に寄る。

飯を終えたあとは、3人で

泊まれる様な準備をして草原に向かった。

 



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